九天の王となった操炎者 (【時己之千龍】龍時)
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第1章 大戦編
第01話 九天の王


 龍燕(シエン)は遺跡の中で目を覚ました。

 

 遺跡、と言っても見た目的判断だが。周りは石造りの部屋、……と鎖に縛られた本?

 

「なんだ、この本は」

 

 龍燕は立ち上がり、壁に設けられた台に置いてある本に近づく。

 

 本は紅を基調とした表紙に、黒十字が描かれていた。

 

「これは……遺失物、か」

 

 龍燕がその本の前にたった時、本は輝き、浮きはじめた。

 

『封印を解除します』

 

 本が龍燕より高い位置まで浮いた時、本を留めていた鎖が弾け飛んだ。

 

『解除…終了。起動します』

 

 本は器械音声を発しながら頁が物凄い勢いでめくれていく。

 

『主の名を、教えて下さい』

「主?」

『はい。あなたが、我が主です』

 

 突然の事に龍燕は、頭で理解するのに10秒近く掛かった。

 

「……俺の名は、龍燕。灼煉院(シャクレンイン)龍燕(シエン)だ」

 

 本の頁が全てめくり終わると、初めの頁に戻り、その頁に字が刻まれ本は閉じた。そしてその本から紅に輝く、楕円の光りが飛び出した。

 

「我が主。我らに、名を与えて下さい」

 

 光りから先程の器械音声とは違う、別の声が出だ。

 

「お前の名を?」

「はい。私と、本は名を持っていません。どうか我らに、名をください。そして契約の言葉をお願いします」

 

 龍燕は一度目を閉じ、口を開いた。

 

「我、灼鳳(シャクホウ)羅燕(ラエン)の名の下に、汝に契約と名を贈る。契約の(メイ)は『我が身朽ち果てるまで共にいる事』。名は『天より降り注ぐ九つの輝き』九天(クテン)

 

 龍燕は一区切りして続ける。同時に龍燕は何か、温かなモノが全身を覆うように感じた。

 

「我、灼鳳羅燕の名の下に、汝に名を贈る。我が半身の名を。神威(カムイ)…」

 

 紅に光っていた楕円の光りが粒子となって塵と吹かれた。中から姿を現したのは、簡単な作りの紅の胴着を着た、身長30cm程の少女だった。

 

「契約は交わされました。我が九天の王よ、現れることを長くお待ちしておりました。我がその身は一片に至るまで主のモノです。未来永劫。貴方のためだけに存在します」

「よろしく、九天。神威」

 

 龍燕はよくはわからなかったが、九天と神威の情報が頭に入って来る。精神の一部が繋がっているようだった。

 

「神威」

「はい主」

「ここは何処かはわからないか?」

「私はまだ目覚めたばかりでわかりません。お役に立てず、申し訳ありません」

 

 神威は応えられず、残念そうな顔をする。

 

「そこまで落ち込むな。確かに目覚めたばかりのお前にわからないな」

 

 龍燕はそういい、神威は周辺空域に察知を掛けはじめた。

 

「察知か。何かわかったか」

「はい。詳細な事はわかりませんでしたが、ここから外への道程はわかりました」

「よくやった。神威」

 

 龍燕は神威の頭を撫でて褒めた。神威は顔を少し赤く染めて照れる。

 

「ありがとうございます、主」

 

 龍燕は九天を武己(ブキ)に入れ、神威に案内をしてもらうため自分の肩に乗せて歩いた。

 

 

 

 

 神威の案内のお陰で迷路の様な遺跡を僅か10分足らずで出る事が出来た。

 

「神威のお陰だ。あんな迷路の様な道程、俺一人じゃ時間掛かってたよ。ありがとう」

「いえ、私は主の……我らが九天の王のためだけの騎士ですから」

「そうか」

 

 遺跡の出口は森の中…詳しくいえば地面にあった。その遺跡は龍燕達が出たと同時に消えてしまった。

 

 その後龍燕は森の中を歩きながら九天の書を調べた。調べようとすればすぐに頭の中に九天の書の記録が流れ込んでくる。九天の書の構築は未完成ということに気づいた。

 

 九天の書は、日に日に頁を埋めて行くようだ。その日がどのくらい埋まるかはそれぞれ違いがあるらしい。

 

「ん」

 

 龍燕は誰かの気配を感じた。同時に神威も常時展開している察知に反応があった。

 

「主、何人かがこちらに向かってきます」

「この気配は……魔力か」

 

 高い魔力を持つ者が近づいてくる。

 

「如何致しますか?」

 

 神威が龍燕に聞く。

 

「いや…もう考える暇は無いようだ」

 

 気づけばすぐ後ろに何人か立っていた。

 

 そしてその先頭の男が声を掛けてきた。

 

「おい!そこのお前!」

 

 龍燕はゆっくりと振り返る。

 

「何かな?」

「お前、一体何者だ?」

 

 先頭の茶髪の男が龍燕に聞く。その者達を見るかぎり盗賊や山賊には見えない。

 

「…九天の王、灼煉院龍燕だ」

「王…ですか?」

「まぁなったばかりだがな」

「そんなこたぁどうでもいい!俺と勝負しろ!」

 

 突然茶髪の男は駆け出して来た。

 

「やる気か」

 

 その後に茶髪の男の後ろにいた奴らも動き出した。

 

「…数は四人か」

 

 龍燕は攻撃態勢に移った。

 

 

 

 

 30分後。龍燕は何故襲って来られたかはわからなかったが、襲ってきた四人を能力を使わずに返り討ちにして気絶させた。

 

 龍燕の腹が鳴る。考えてみると、まだ何も食べていなかった事を思い出す。

 

「むぅ…腹が減ったな。神威、近くに食べれそうなモノがあるかどうか見てくるから、そこの奴を見ててくれ」

「はい、わかりました」

 

 龍燕は見張りを頼んで食料探しに出た。

 

 

 

 

 



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第02話 紅き翼

 龍燕(シエン)は下拵えを終えた魚を能力で点けた火で焼きはじめた。段々と魚は焼け、いい匂いが辺りに広がる。

 

「ん……いい匂いが…、あっ!てめぇ!」

 

 匂いに起きた茶髪の男が龍燕(シエン)に気づき、瞬時に飛び掛かった。神威(カムイ)は一瞬慌てていたが、龍燕(シエン)は冷静にその男の額を指突きして転がした。

 

「待て、そう焦るな。もう少しでいいぐらいに焼ける」

 

 龍燕(シエン)はパチパチと焼ける魚を見ながら言う。

 

「痛てっぇ…指突きか?!」

 

 茶髪の男は赤くなった額を手で押さえて言った。

 

「いきなりなにしやがる!」

 

 男は龍燕(シエン)を睨みつけ怒鳴る。龍燕(シエン)は視線を魚から離さずに言った。

 

「いきなり?最初に襲ったのはお前達の方だろ?違うか?」

「……そうだったな」

 

 龍燕(シエン)は男の呟く様な声に忘れてたのか?と思った。

 

「お前、名は?」

「俺はナギ・スプリングフィールドだ。たしか龍燕(シエン)って言ってたな。紅き翼に入んねぇか?」

「紅き翼……か」

 

 龍燕(シエン)はよく焼けたのを確認し、串を掴み取った。

 

神威(シエン)、どうする?」

 

 龍燕(シエン)はどうするかと神威(カムイ)に聞く。

 

「私は主の意向に従います」

 

 そうかと龍燕(シエン)は頷き、もう一つの焼き魚を火から取り、ナギに手渡した。

 

「わかった。とりあえず、協力者となって同行しよう。入るかは後々決める、でいいか?」

 

 ナギは笑って龍燕(シエン)から焼き魚を受け取った。

 

「いいぜ」

 

 ナギと少しばかり話していると、ナギの仲間達が目を覚まし、皆で焼き魚を食べた。

 

 

 

 

 焼き魚を食べ終えた後、龍燕(シエン)九天(クテン)の書を出して(ページ)をめくった。すると何頁(ナンページ)か文字が埋まっていた。いつの間に埋まったのかを調べてみると、戦闘中に埋まっていた事に気づいた。

 

(ページ)、は……8(ページ)か」

 

 さらに九天(クテン)の書を調べると20(ページ)毎に守護騎士(シュゴキシ)が現れる事がわかった。よく見てみると、更新している頁に掛かれているのは九天(クテン)の書の説明のようだった。書かれる以前に比べると詳しくわかる。

 

 龍燕(シエン)は戦いで九天(クテン)の書の(ページ)が埋まるということにに気づいた。

 

 次の日。龍燕(シエン)達は景色よく、空気も美味い森と崖壁に阻まれた広い草原で昼食を食べる事になった。

 

 昼食は詠春(エイシュン)龍燕(シエン)がそれぞれに作った鍋だ。龍燕(シエン)(レン)(アカツキ)も出し、より賑やかになる。汁が出来き、具を入れ始めるのだが、詠春(エイシュン)側の肉と龍燕(シエン)側の肉の種類が異なり、火の通りが龍燕(シエン)側の方の肉は野菜と火の通りが同じなのだ。

 詠春(エイシュン)はそれを見て疑うような顔をしていたが、すぐにそう思っていられなくなった。馬鹿が火の通りが野菜と違う肉を鍋にそれ一方を入れ始めたのだ。詠春(エイシュン)が『この肉は野菜のあとで入れないと駄目だ』と言い聞かした筈だが、ナギは躊躇ゼロ、早く肉が食べたいと適当にどんどん入れていく。

 

 その鍋は仕方なく見て、もう少しで煮えるなと皆が思っていた時、何かが空から二つ落ちてきた。

 

 落ちてきたその二つは勢いよくそれぞれの鍋に当たり、宙を舞った。詠春(エイシュン)龍燕(シエン)が思わず、口を大きく開き、固まった。

 

 鍋は宙を回転しながら舞っているため、肉が飛び散り、重力に従って落ちはじめる。それをナギ、アル、ゼクトの三人は高速で、より多くの肉を捉え、自分の皿へ確保し、その場から退いた。

 

 空を舞っていた鍋はあろう事か、(レン)詠春(エイシュン)に落ち、被った。

 

 (レン)の惨状を見た龍燕(シエン)はすぐに顔を変えた。(レン)は一瞬何が起きたかわからなったが自分の惨状に気づき泣きはじめた。隣にいた(アカツキ)は、(レン)の惨状を見て慌て始める。

 

 その時、何処からか誰かの声が響いた。

 

「食事中失礼~~~~ッ!!」

 

 皆は声を頼りに振り返った。

 

「俺は放浪の傭兵剣士、ジャック・ラカン!!いっちょやろうぜッ」

 

 崖の上で面白そうに笑い、見下ろす男がいた。

 

 龍燕(シエン)はその男がこの惨状をつくりだした張本人であると確認した。

 

「何じゃ?あのバカは」

「帝国の…って訳じゃなさそーだな」

 

 ゼクトとナギは先程取った肉を食べながら、崖の上にいる男を呆れ顔で見る。

 

「……あいつか」

 

 龍燕(シエン)の呟きに皆が気づき、視線を移した時、そこに龍燕(シエン)の姿はなかった。

 

龍燕(シエン)は何処じゃ?」

 

 ゼクトが肉を食べながら龍燕(シエン)を捜す。

 

「あ、もうあそこにいるぜ」

 

 気づけばラカンと言う奴のところに龍燕(シエン)が殴り込みに行っていた。

 

「くっ…行き遅れたか」

 

 鍋を今だに被った詠春(エイシュン)は肩を震わせながらラカンを睨んでいた。

 

「よくも、(レン)を泣かせたなっ!!」

 

 龍燕(シエン)はラカンに向け固打(コダ)を放つ。ラカンは大剣で防ごうとしたが意図も簡単に折れてしまった。

 

「嘘だろ?」

 

 ラカンは折れた大剣を捨て、すぐさま腕をクロスして防御をとるが、その防御ごと龍燕(シエン)はラカンを吹き飛ばした。

 

「なっ?!てめぇ…一体なにモンだ?!」

 

 ラカンは必死に攻撃を試みるが全て流される。または当たってもびくともしない。こんな奴は初めてだとラカンは思った。

 

 

 

 

 戦いはすぐに終わった。時間にして5分もない。結果は龍燕(シエン)の圧勝だった。

 

 服のほとんどが灰になり、腰布のような状態に。身体も傷だらけのボロカスのラカンは今……龍燕(シエン)に鋭い眼光で睨みつけられながら、(レン)の前で必死に土下座になり、額を何度も地面に叩きつけ謝っている。

 

 (レン)は先程龍燕(シエン)に清めの炎を掛けてもらったため綺麗になっている。

 

 近くで見ている神威(カムイ)や紅き翼も凄く震えていた。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…………」

 

 今だに謝り続けるラカン。龍燕(シエン)はラカンの処遇を被害を直接受けた(レン)に任せた。とりあえず思い付くまで謝っててねとラカンに言ったため、ラカンはひたすら謝り続ける。

 

「決まった!」

 

 ラカンが身体をピクッと震わせ、無言でゆっくりと顔を上げ(レン)を見上げる。

 

(レン)、どうするんだ?」

 

 ラカンは顔を青くしながら(レン)を見る。

 

「うん。ラカン……」

 

 (レン)は満遍な笑みを浮かばせてラカンを見据える。ラカンは青を通り越し、顔色が蒼白になる。

 

「私達『煉双暁(レンソウギョウ)』の……騎士(下僕)になって」

 

「………え?」

 

 ラカンは強制的に(レン)の、煉双暁(レンソウギョウ)の騎士(下僕)となった。

 

 

 

 

 



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第03話 戦いの毎日

 

 (レン)がラカンを騎士(下僕)にしてから随分と経った。ラカンはやっと自由になったが長く紅き翼といたため、いつしかその仲間に入っていた。

 

 そしてグレートブリッジ奪還作戦というのがはじまった。

 

 大戦では大規模な戦いで、かなりの大きさの拠点だ。実際のところ、かなりの高さから見ているというのに凄く長い。全長約300キロとふざけ気味な規模を持つ要塞だ。それをヘラス帝国は実験すらも済んでいない大規模転移魔法の実践投入でグレートブリッジを奪い、紅き翼と龍燕(シエン)達はそれを奪還するのだ。

 

 そして紅き翼及び龍燕(シエン)達は楽勝だというのように、戦いはすぐに成功に終わった。

 

 この戦いの後、少ししてガトウという男とタカミチという少年が紅き翼の仲間に加わった。

 

 龍燕(シエン)達の噂も広がり、あだ名がついた。

 

 龍燕(シエン)は『真紅の繰炎』『炎髪灼眼の瞬撃者』『九天の王』など。

 

 (アカツキ)は『重力少女』など。

 

 (レン)は『錬金少女』など。

 

 また、九天(クテン)がこの戦いで50頁を越し、二人の騎士が生まれた。

 

 九天(クテン)の守護騎士、緋李(ヒイリ)朱李(シュリ)だ。二人は双子の様な感じで非常に連携が得意。また能力は二人共炎を操る。

 

九天(クテン)の王よ。我ら九天(クテン)の守護騎士が一人、緋李(ヒイリ)

「同じく、朱李(シュリ)

「「我ら、九天(クテン)の王に尽くします」」

 

 二人は息を合わせて言った。

 

「よろしく。緋李(ヒイリ)朱李(シュリ)

 

 龍燕(シエン)は二人の頭を撫でながら言い返した。

 

 

 

 

 九天(クテン)の書の管制人格は主と融合することができること。融合することで自分の能力を向上させることができる。

 

 九天(クテン)の守護騎士はそれぞれ九人いて、それぞれが色にあった能力を持っていること。また守護騎士達は精神力を自己生成する事ができる。

 

 今回の更新でこれらがわかった。

 

 

 

 

 ある日、紅き翼はガトウにウェスペルタティア王国の首都にまで呼び出された。

 

「ガトウ。わざわざ本国首都にまで呼び出して」

「会って欲しい人が居る。協力者だ」

「ほう。というと、結構な立場の者か」

 

 本国の首都じゃないと来れない人というと、結構な立場の人しかいないだろう。

 

「そうだ」

 

 声のした方を向くと、そこには特徴的な髪型をしたおっさんが居た。

 

「ほう。マクギル元老議員、か」

「いや、会って欲しい方はわしではない。主賓はあちらにおられる、ウェスペルタティア王国……アリカ王女様だ」

 

 その後色々と話しをした。

 

 

 

 

 アリカ王女と会ってから数日後。紅き翼は休暇に入り、ナギやラカンは調査より肉体派なので他の、ガトウや詠春(エイシュン)達が調査をすることになった。

 

 龍燕(シエン)は調査が苦手ではないのだが、九天(クテン)の守護騎士達が調査に向かないためだ。

 

 休暇の間は龍燕(シエン)自ら守護騎士の緋李(ヒイリ)朱李(シュリ)に剣術を教えた。二人の使う武器は剣なので、剣術の使える龍燕が教えているのだ。

 

 鍛練を終え、このあとどうするかと考えながら歩いていると突然地震が発生し、心配になった龍燕は、急いで拠点に戻る。するとナギが詠春(エイシュン)にビシビシと怒られていた。

 

 何でも……一晩中姫様を連れ回して、遊び半分で敵の基地を潰したのだそうだ。どんな危険な夜遊びだと龍燕(シエン)は思った。

 

 

 

 

 

 休暇も残り少しだなと龍燕(シエン)達は部屋でくつろいでいると、いきなり侵入してきた大勢の敵に捕まえられそうになったため、返り討ちにしてやった。

 

「昨日まで英雄だったのが一転して反逆者か……」

「主、我等は最後まで主の傍にいます」

 

 九天(クテン)の守護騎士を代表して神威(カムイ)龍燕(シエン)に言った。

 

「ありがとう」

 

 その後、戦いながら紅き翼と合流しようとすぐに動いた。この移動中に九天(クテン)の守護騎士は皆揃った。

 

 九天(クテン)の王と紅き翼は、アリカ姫の救出のために、夜の迷宮へと襲撃を仕掛けた。

 

 最上部の部屋に捉えられていたのだが、そこまでは入り組んだ階を何度も繰り返し進み、上へ上へと普通なら行くが、そんなゲームのようにまじめに進むはずなく、天井をぶち破り、壁をぶち破りとほとんど直進に進んだ。

 

 アリカ姫を助けた後、九天(クテン)の転移で追跡される事なく紅き翼の秘密基地へ移動した。

 

「なんだ、これが噂の紅き翼の『秘密基地』か。どんなところかと思えば……掘っ立て小屋ではないか」

 

 アリカ姫は秘密基地を見て簡単に感想を述べ、溜め息をついた。

 

「俺ら逃亡者に何期待してんだ、このジャリは」

 

 ラカンが額に青筋を立てながら言う。

 

「何だ貴様!無礼であろう!」

「へっへ~ん!あいにくとヘラスの貴族に貸しはあっても借りはないんでね!」

「何ぃ!?貴様何者だ!」

 

 こいつらはガキかと龍燕(シエン)は二人の言い合いに溜め息をついてしまった。

 

 龍燕(シエン)は二人から視線を外し、ガトウに向けた。

 

「あのやけに元気な少女が……」

「ええ、ヘラス帝国第三皇女ですね。アリカ姫と交渉の為、出向いたところを一緒に敵組織に捕縛されていたのです」

 

 龍燕(シエン)はそうかと言ってアリカ姫を見た。以前見た時とだいぶ違う感じが凄くした。

 

「さーて姫さん。助けてやったはいいけど、こっからは大変だぜ?連合にも帝国にも……あんたの国にも信用できる味方はいねぇ」

「恐れながら事実です、王女殿下。殿下のオスティアも似たような状況で……最新の調査ではオスティアの上層部が最も『黒い』……という可能性さえ上がっています」

 

 ナギの言葉に続き、ガトウが言った。

 

「やはりそうか……我が騎士よ」

「だぁら、その『我が騎士』って何だよ!姫さん!?クラスでいったら俺は魔法使いだぜ?」

「もう連合の兵ではないのじゃろ?ならば主は最早私のものじゃ」

「な……」

 

 アリカ姫は勝手に近い言葉でナギに言う。

 

「連合に帝国…そして我がオスティア。世界全てが我らの敵という訳じゃな」

 

 常識的に考えて勝ち目はない。

 

 相手は数千数万。対するこちらはたったの、紅き翼7人に龍燕(シエン)側は13人。内タカミチには戦闘力はあまりない。九天(クテン)神威(カムイ)も支援程度。実質的な戦闘メンバーは18人。

 

「じゃが…主と主の『紅き翼』は無敵なのじゃろ?それに九天(クテン)の王とその騎士達もいる」

 

 一瞬ナギが呆けたような顔をして、その後ろに居るラカンは無敵という言葉に反応している。九天(クテン)の王、龍燕(シエン)も負ける気はほとんどない。

 

「世界全てが敵――――よいではないか。こちらの兵はたったの、合わせ20だが、最強の20人じゃ」

 

 宣言するようにアリカ姫は強い意思を込め、言った。

 

「ならば我等が世界を救おう。我が騎士ナギよ、我が盾となり、剣となれ」

 

 その言葉に、ナギは驚いた表情を浮かべる。

 

「……へっ。だから俺は魔法使いだっつーのに……。やれやれ、相変わらずおっかねぇ姫さんだぜ」

 

 ナギはすぐに勝気で獰猛な笑みを見せた。

 

「いいぜ、俺の杖と翼。あんたに預けよう」

 

 夕焼けの中。ナギは忠誠なる騎士のように、アリカ姫の足元に跪いた。

 

 

 

 

 



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第04話 決戦と黒幕

 

 紅き翼は、頭脳労働担当と肉体労働担当に分かれた。

 

 頭脳労働はタカミチ、アル、姫様二人と偶にガトウ。

 

 肉体労働はナギ、ラカン、ゼクト、そして龍燕(シエン)達だ。

 

 肉体労働の担当は、敵だと判明したやつらを片っ端から倒していく組だ。

 

 そして行動を始めて数日後、遂に頭脳労働者は黒幕の本拠地を突き止めた。

 

 そこは世界最古の都、王都オスティア空中王宮最奥部『墓守り人の宮殿』。

 

「不気味なら位静かだな、奴等」

「なめてんだろ?悪の組織なんてそんなもんだ」

「案外、とっくの昔に尻尾巻いて逃げ出してるのかもね」

「ハッハッハ!そうかもしれねぇなぁ!」

 

 最終決戦だと言うのに…紅き翼に緊張の色は全くない。龍燕(シエン)達も警戒はしているが同様といった感じだった。

 

「ナギ殿。帝国・連合・アリアドネー混合部隊、準備完了しました」

 

 頷いたナギは報告しにきたアリアドネーに雑魚の相手をお願いした。

 

 

 

 

 紅き翼と龍燕(シエン)達は真正面から敵地に突っ込み、敵を倒していく。そして最後の敵をナギは首を掴みあげた。

 

「見事……理不尽なまでの強さだ……」

「黄昏の姫巫女は……どこだ?消える前に吐け」

「フ……フフフ……まさか君は、いまだに僕が全ての黒幕だと思っているのかい?」

「なんだと……?」

 

 一瞬にして膨れ上がった魔力の感覚。それに気づいた龍燕(シエン)は声より先に瞬動で動き、ナギを突き飛ばした。

 

「ぐっ………」

 

 龍燕(シエン)と黒幕と思っていた男の腹を黒い魔力の閃光が貫通していった。

 

「シ、シエン!」

「主!」

 

 傷口を押さえながら距離を置く龍燕(シエン)。そこへ騎士達が駆け寄った。龍燕(シエン)は自分の身体の状態をみる。腹には穴が開き、胃が完璧に消し飛んでるのがわかった。

 

「誰だっ!?」

 

 敵の気配にラカンがいち早く気づく。守護騎士は龍燕(シエン)を見て気が動転し、全く敵の気配に気づいていない。

 

「全、員っ!防御をっ!」

 

 龍燕(シエン)は叫び、右手を前に突き出して自分の今の状態で張れる最大の防御を張

る。そして一コンマ遅れて皆が防御魔法や結界を張った。

 

 しかし全ての防御は破壊され、ラカンの両腕が吹っ飛び、詠春やアルも軽くは無い傷を負ってしまった。守護騎士達は皆被害に耐え切れず、強制的に九天の書に戻ってしまった。再生には時間が掛かる。

 

 だが、龍燕(シエン)が突き飛ばしたナギは先ほどの攻撃で無傷だった。

 

「ぐっ……バカな……!」

「まさか……アレは……」

 

 霞む視界の先、そこには黒く暗い……真の敵が。ライフメイカーが居た。

 

 アレには、絶対に、勝てない……ラカン達に絶望が心を覆いかける。

 

「はっ!」

「え?」

 

 龍燕(シエン)は開いた穴を手で強く抑え、ゆっくりと立ち上がる。

 

「皆は少し下がっていろ」

「シエン!なに言ってやがる!奴はマズイ!奴は別物だ!死ぬぞッ!」

 

 両腕を飛ばされたラカンは顔を恐怖の色に染め、龍燕(シエン)に怒鳴る。

 

「俺が…死ぬ?俺は灼煉院家の血をひく、灼煉院龍燕だ。絶対に死なんっ!」

 

 龍燕は武己から暁と煉を出した。

 

(アカツキ)(レン)。仲間を全力で護れ」

「わかった」「うん」

 

 二人を見て龍燕(シエン)は頷いた。

 

「この状況で……楽しいと思うのはやっぱり龍神(シシン)様の曾孫だからかな」

 

 小さな声で呟き、やつを見た。

 

「行くぞ。眞炎流を超える龍燕(シエン)流をな」

 

 龍燕(シエン)の様子がいつもと違うのを皆は感じた。

 

「……『熾煉之双翼(シレンノソウヨク)』」

 

 龍燕(シエン)の全身から紅の櫻炎(オウエン)が弾けるように溢れ出した。そしてその炎は龍燕(シエン)の身体に纏わり付き、背には大小二対の紅の双翼が形成された。

 

「『熾煉之瞳(シレンノヒトミ)』……」

 

 龍燕(シエン)の髪留めが弾け消え、乱れた髪が炎髪のごとく紅色に燃え盛って広がり、さらに髪や双翼からは桜の花弁状の火花が舞い踊った。開かれた瞳からは燃え盛る炎の様な煌めきに満ちていた。

 

「『熾煉之鎧兜(シレンノヨロイ)』」

 

 身体を覆っていた炎は真紅に煌く甲冑に形を変え、その上にも髪や双翼同様な火花を舞い散らす炎の羽織を生成し辺りを輝かせた。 

 

「さぁ……始めようか」

 

 龍燕(シエン)は笑みを浮かべながら『創造主』の前に立つ。

 

 

 

 

 

 戦いが終わるのは10分後だった。

 

 

 

 

 皆が驚いた。皆が勝てないと思っていた相手を、龍燕(シエン)は僅か10分で倒した。戦いが終わった直後に「シエン……お前…本当に人間なのか?」と皆が言ってしまった。龍燕(シエン)もどうだろうなと思いながらにっと笑い返した。

 

 そして龍燕(シエン)は皆の近くへ降り立ち、同時に龍燕(シエン)に纏っていた炎は消え、髪と瞳も元の黒に戻り、(アカツキ)(レン)も粒子となって武己に戻った。纏っていた胴着も上は消失し、下もところどころ穴が開き肌が露出していた。また体の怪我も酷く血だらけとなっていた。

 

 技が解けた龍燕(シエン)は辛そうに視線を下げたが、力が抜きかけそうになる身体にぐっと堪え、拳を高く突き上げた。

 

「やった、ぞ」

 

 絞り出すように龍燕(シエン)が言い、皆から歓声が湧いた。皆が痛む身体を無理に動かし、龍燕(シエン)に近づいた時……龍燕(シエン)は立ったまま気絶していた。

 

 

 

 

 

 



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第05話 終戦

SIDE 灼煉院(シャクレンイン) 龍燕(シエン)

 

 俺は寝台で目を覚ました。見上げると石造りの天井が見えた。

 

 俺は身体を動かそうとして半身を起こそうと動かす。

 

「んぐっ……」

 

 身体に激痛が走り、再び寝台に戻る。ああ、そうだった。最終奥義を使ったんだな。この痛みは肉体以外に精神体もダメージがきていると龍燕(シエン)は感じた。

 

「ん」

 

 両腕に何かが巻き付いてる感覚に気づいた俺はゆっくりと首を動かし、すぐ目の前に(レン)の顔があった。隣は(アカツキ)だった。

 

(レン)(アカツキ)

 

 二人に声をやって起こす。

 

「ん……」

「…し、えん?龍燕(シエン)!!」

 

 (レン)龍燕(シエン)に強く抱き着き、続いて(アカツキ)も強く抱き着いた。俺は痛みを堪えながら二人の頭を撫でる。

 

「身体は大丈夫?」

「苦しくない?」

 

 二人は心配そうな顔で龍燕(シエン)に言った。俺は首を横に振って答える。

 

「ああ。問題ない。まぁ…全快までは二日程掛かると思うがな」

「あるじッ!」

「目が覚めましたか!」

「お加減は如何ですか?」

龍燕(シエン)!大丈夫?」

 

 九天の守護騎士達が涙目で龍燕(シエン)に寄ってきた。

 

「すいません主。私達、途中で力尽きてしまって……」

「主の身を護れず……申し訳ありません」

 

 白と黒が頭を下げてきた。俺は皆を見て笑った。

 

「皆が無事でよかった」

 

 そういうと守護騎士達は泣きながら龍燕(シエン)に飛びつき、癒えかけの身体に痛みが走り、俺は再び気絶した。

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 気絶から目を覚ました俺は、正座を始めてしまった守護騎士達を見ながら大丈夫だと繰り返し言っていた。

 

「そういえば…ゼクトは知らないか?」

 

 最後の攻撃を受けた際、紅き翼でゼクトが一番重傷だったのを思いだし、皆に聞く。

 

 守護騎士の程は顔を見合わせ首を傾げた。その中で白が目を逸らした。その行動で俺はわかり、短く「そうか……」と返した。

 

 すると廊下が騒がしくなった。

 

「なんだ?」

 

 扉に視線を移した時、一気に扉が開かれた。

 

「「シエンッ!!」」

 

 でかい声で叫ぶナギとラカン。お前等は元気だな、と龍燕(シエン)は自然に笑みを浮かべてしまう。ラカンは両腕をなくして、見た目はズタボロの重傷なのに、動きは元気そうだ。

 

「ナギ、ラカン」

「目が覚めたのか、龍燕(シエン)。大丈夫か?」

「まぁな。肉体も精神体もボロボロにやられたが……意識的にはハッキリしてる」

「むぅ、これから受勲式だってのに。テメェには気合が足りねぇ!気合が!」

 

 ラカンはいきなり龍燕(シエン)へ殴りかかろうとしてきた。さすがの龍燕(シエン)も身体が持たないと騎士達に言う。

 

「騎士達。このバカを放り出せ」

「「「「「「「「了解」」」」」」」」

 

 守護騎士達は一斉にラカンに向け走る。

 

「あ、てめ!何しやがる!」

 

 ラカンは守護騎士に蹴られたり、殴られたりして後退する。全快だったら逆に守護騎士がやられているだろう。両腕がなくズタボロになったラカンは雑魚い。

 

「ええと、その受勲式までどれくらいなんだ?」

「ん、後六時間ってとこだな。けど、出るなら一時間は前に準備しないと駄目だぜ」

「そうか……」

「…それと、あン時はありがとな」

「あの時?」

「ほら、俺があの白髪を掴みあげた際に庇ったじゃねえか」

 

 その話で龍燕(シエン)はあの時かと思い出す。

 

「俺達は仲間だからな、助け合いだ」

「それでも助けられたからな」

 

 そう言いながらナギが部屋を出て行った。その後、守護騎士達に飯を持って来てもらった。何往復かしてもらって、龍燕(シエン)はいつもの5倍は食べた。

 

 飯の後はすぐに寝た。体力や精神力を回復させるため食べたら寝る、それくらいしか浮かばない。

 

 そして、大体五時間後。受勲式まで一時間はある。体力は大分回復して、歩くのには支障ない。しかし精神力はまだ回復には時間が掛かりそうだった。

 

 龍燕(シエン)は特務機動隊課長用制服を着用し、専用の羽織りを羽織った。

 

 準備を終えた龍燕(シエン)神威(カムイ)を肩に座らせた。龍燕(シエン)は後ろにいる(レン)(アカツキ)、それから九天の守護騎士達を見て言った。

 

「行こうか、皆」

 

 

 

 

 受勲式。何故かアルは参加せず、ナギとラカンと詠春に、龍燕(シエン)とその守護騎士達に(アカツキ)(レン)が赤絨毯の上を歩く。

 

 遠く離れた場所に居る民衆の声が、まるで津波のように押し寄せてくる。戦いは終わったと。喜びの声を、歓喜の歌が洪水のように国に渦巻く。

 

 受勲式後は兵士に混じり、紅き翼の皆で杯を酌み交わす。その時守護騎士達と(アカツキ)(レン)神威(カムイ)は待機させた。

 

 入り口の扉が静かに開き、赤毛をローブで隠した男。ナギ・スプリングフィールドが店に入る。

 

 祝福の声に包まれ、ナギは驚いたような顔を浮かべる。

 

「テメェ!傷はもういいのかよ!」

「テメェこそ両腕ねぇくせに偉そうに!」

 

 ナギが右腕で、ラカンの左腕の断面を殴りつける。

 

 ラカンは右腕でナギの傷で一番酷い左肩を殴りつける。といってもナギは皆の中では龍燕(シエン)に助けられたこともあり、まだ軽い方の怪我だが。

 

「傷をド突き合うな貴様らぁーッ!」

 

 止めを刺し合うような行為をする二人に詠春が怒鳴りつける。

 

「詠春!てめーも一番怪我ひでぇのに、よく式典とか出るぜ!ワハハ!」

 

 ラカンは詠春の肩を自分の肩脇で固定し、傷を膝でド突く。

 

「だから傷をド突くな!!死ぬわ!!」

 

 だが詠春も殴って止めたり、離れようとはしない。それは、ラカンの行動が喜びを表していると分かっているからだ。

 

龍燕(シエン)。さっきより元気そうだな」

 

 ラカンは次に龍燕(シエン)を見て、詠春にしたようにド突いてきた。

 

「ド突いたら傷に良くない。皆で酒を飲もう」

「お前、内臓は大丈夫なのか?」

「内蔵は、先に残った精神力を使って治した。飲みたいからな。終戦祝いの酒だ」

 

 予備の杯に酒を注いだ龍燕(シエン)は、それをラカンへ渡す。しかしラカンを見てあっと思い出した。

 

「あ、すまん。手が使えなかったんだな」

 

 龍燕(シエン)はラカンの二の腕から先がなかった事に今更思い出す。

 

「あー、今回は無理だが……腕が治ってからでも一緒に飲もうぜ」

「そうだな。その時は俺の故郷の酒を皆で飲もう」

 

 笑って言うラカンに龍燕(シエン)も笑って答える。

 

「そうか、楽しみにしてるぜ」

 

 ラカンは苦笑しながら言ってきた。

 

 その後龍燕(シエン)は、皆で大量の酒を飲みあった。

 

 

 

 

 

 



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第06話 旅立ちと出会い

 

 処刑されそうになったアリカ姫を助け出した紅き翼は、その後解散した。

 

 龍燕は皆と別れ旅に出た。放浪するなら一緒に来るかとラカンに誘われたが断った。

 

 

 

 

 旅に出て数日が経ったある日。森で野宿をしていた龍燕は、誰かが襲われているような声が聞こえた。

 

 龍燕は急いで火を消し、近くの木に自分の精神力を含ませた帯を縛ってから辺りを散策した。

 

 

 

 

 散策し始めて約5分。金髪の少女を見つけた。龍燕はその少女を気配で感じ、人でない事に気づいた。

 

「なんだ貴様…」

 

 その少女は睨んできた。

 

 龍燕は少女を見て、妙な気持ちになった。鼓動が高ぶるような、そんな感じだ。

 

「来い」

 

 龍燕は少女の腕を掴み、帯のところで瞬間移動をした。

 

「い、今のは?」

 

 少女はいきなり景色が変わったことに混乱していた。

 

「襲われているようだったから助けた。ここはさっきのところから離れたところだ」

「何故助けた」

 

 少女は龍燕を睨み、怒鳴った。

 

「危ない目に遭っているのを見れば、誰だって助けるだろう?それに…いや」

 

 龍燕の言葉に少女は首を傾げた。

 

「なにを言ってるんだ、お前は……。まぁ私を知らないからそうしていられるんだろうな」

「ん、ああまだ俺は名乗っていなかったな俺は灼煉院龍燕だ。よろしく。君の名は?」

「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ!これでどうだ!」

 

 龍燕の眉間にシワが寄った。

 

「エヴァンジェリン……、あの『闇の福音』か?」

「そうだ。怯えろ、竦め。私が『闇の福音』よ」

 

 エヴアンジェリンは笑いはじめた。

 

「ほう。噂は少しだが聞いた事はある。一度会ってみたいと思っていた」

「なんだど?!私は吸血鬼だぞ」

 

 エヴァは驚きながら言った。

 

「ん?ああ、それなら会ってすぐに気配で気づいたよ」

「…貴様は、吸血鬼の私が怖くないのか?」

「怖い?いや、むしろ……なんていうか、『可愛い』と思ったな」

「私が……可愛い、だと///」

 

 エヴァは顔を赤く染めた。

 

「ふっ、ふざけているんじゃないだろうな」

 

 横目で見ながら龍燕に言う。

 

「嘘などつかん」

「…む……」

 

 エヴァはさらに顔を赤く染めて、そっぽを向いた。

 

「夜は危ないからな、夜が明けるまで一緒にいるといい」

「……そうさせてもらう」

 

 龍燕は焚火を起こし、近くにテントを立て、そこでエヴァを寝かせた。

 

 次の日。朝食を食べ終えた後、エヴァと別れた。龍燕は一人では危険だから一緒に来ないかと言ったがエヴァは私は…「賞金首付きの吸血鬼だから」と言って断ったのだ。

 

「エヴァ」

「なんだ?」

「いつか、迎えに行っていいか?」

 

 エヴァは言葉の意味がわからず、?を浮かばせる。

 

「どういう意味だ?」

「そうだな…次逢った時言いたい」

「そうか」

「あ、あと一つ」

 

 龍燕は武己から袋を出した。

 

「腹が減ったら食べるといい」

「ん…ありがとう」

 

 エヴァはそういって袋を貰った。

 

「じゃまたな」

「ああ、またいつか会おう」

 

 二人は別れた。

 

 別れた後、龍燕は何故鼓動が早くなったのかを歩きながら考えたが、今までそんな事は無かったため、わからなかった。まさか病気かと思い、空間モニターを操作して自分の身体に異常がないかを見たが異常は見当たら無かった。あのエヴァを思い出すとすぐに鼓動が早くなることしかわからなかった。

 

「俺の身体に何がおきたんだろう」

 

 丘になった草原の上で暁や煉、神威や守護騎士達と昼食を食べている時に、龍燕は呟いた。

 

 守護騎士達は顔を見合わせたがすぐに顔を傾げる。

 

 そして暁と煉は顔を見合わせてクスクスと笑った。

 

「ん、どうした?」

「龍燕……」

「鈍感……」

 

 二人は交互に言ってきた。

 

「何?鈍感?……どういう意味だ?」

 

 すると守護騎士達もそうかそうかと声が上がってきた。

 

「わかったのか?」

「ええと、はい。わかりましたよ」

 

 白の言葉に皆が頷く。

 

「教えてくれ。これは未知の病気か何かか?」

「病気?未知のでは無いけど」

「そうね。病気といえば…重度となれば病気になるんじゃない」

「九天の王ならばそれに相応しい方かと…」

「あのエヴァでしょ?昨日の晩に会って、今朝別れた、あの子でしょ?」

「髪も綺麗で…肌も白かった。主龍燕の相手に相応しい方と思うが」

 

 皆は龍燕をおいて話し合い始めた。その内容から龍燕は少しずつだが気づきはじめ

た。

 

「俺は……恋をしたのか?」

 

 その言葉に気づいた白は振り返った。

 

「あ、はい。主龍燕は『恋』をしたようです」

「これからどうするの?」

「今から追い掛けて告白しに行きますか?」

「告白なら場所も考えた方がいいですよ?」

「そうね。景色の良いところで告白」

「夕陽を背景になんていうのは?」

 

 守護騎士達は盛り上がっていくなか、龍燕は悩んだ。

 

「闇の福音…か」

 

 相手が吸血鬼だからとかは龍燕にはどうでもよかった。ただこれは自分の気持ち。エヴァは断る可能性が高い。

 

「もし、この気持ちが届かなくても……何かをしてやりたいな」

 

 龍燕は何をしてらればエヴァンジェリンが喜ぶかを考えはじめた。

 

 

 

 

 



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第07話 時の流れ……

 

 旅を始めてから一年が経った頃、詠春が結婚すると聞き出席することになった。

 

 詠春の結婚相手は結構な気の使い手のようだった。

 

「出席してくれてありがとう、龍燕」

「いやなに、共に戦った仲だ。仲間の結婚式に出席しないわけはないだろう」

「ハハハ、そうか。ところで、龍燕は結婚しないのか?」

「……以前、旅を始めてすぐの頃に気になる女性…いや、少女にはあった」

「ほう。どんな人なんだ?」

 

 詠春が興味深そうに聞いてくる。

 

「輝くような金髪で、肌は純白のように白かった。名はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。闇の福音だ」

「やっ、闇の福音!?そうか…」

 

 一瞬驚いたような声を出す詠春。しかし何か納得したようだ。

 

 

 

 

 

 龍燕は時に身を置く事はしないで旧世界を旅をして回った。

 

 そんな時不幸な知らせが飛んできた。

 

 ガトウが死んだと聞き、急いでタカミチのところへ向かった。

 

「記憶を消すだと?どういうつもりだ、タカミチ!」

「そうするしか平和に暮らす方法がないんだ!」

「平和に暮らす方法?平和に暮らせれば、アスナの意思は無視するのか?そんな独善的な行為、俺は認めん!」

「それが師匠の意思だからです!」

「師匠の意思、か。アスナの人生を師匠の意思で変えるのか?アスナの記憶はアスナのモノ。消すか、消さないかはアスナが決めることだ」

「けど…!」

「お前が紅き翼に入ったのは誰の意思だ?他人に言われて入ったのか?それとも、自分で決意し入ったのか?」

 

 タカミチは頭を抱えた。

 

「最後に。本当の『幸せ』とは誰が決める?『幸せ』とはどうやってできる?」

 

 タカミチは泣きながら両膝を着いた。

 

「幸せとは、自分の選択から得られるものだ」

「……分かりました……僕も、少しばかり気が立ってたみたいです……」

「いや、俺も少し熱くなっていた。悪かったな……」

「いえ、僕も悪かったんです。わかりました。さ、行きましょう」

 

 タカミチに促され、龍燕はアスナが居る部屋へと入る。アスナは相変わらずの無表情だった。いや、少しばかり表情が暗い。ガトウが死んだ場所を見ていたか……。

 

「久しぶり、だな。アスナ」

「シエン…?」

「覚えていたか。突然だが君に聞きたい事があるんだ」

「なに?」

 

 アスナは首を傾げた。

 

「君には今、二つの選択肢がある。一つ、戦いの記憶を全て消し、平和に生きる道。二つ、記憶を消さずにこのまま魔法に関わり抜く。どちらを選んでもいい。記憶を消しても消さなくてもいい。俺達は君を軽蔑したりはしない」

 

 龍燕はそういうとアスナの目から涙が流れた。

 

「消さないっ!忘れたくない!皆のこと!忘れたくない!」

 

 龍燕は目を閉じて頷いた。

 

「わかった」

 

 龍燕は目を開け、アスナの目を見て言った。

 

「アスナは記憶を消したくない、か。俺達は君の記憶を消さない。それでいいな、タカミチ」

「えぇ……それが本人の意思なら……」

 

 タカミチは頷いて言った。

 

 その後、アスナはどうするかと話しをした。

 

 結果、アスナは自分の意思で龍燕の一時的な養子となる事になった。アスナは灼煉院

明日奈と言う名前になった。明日奈の字は龍燕が決めた。

 

 

 

 

 

 



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第08話 ナギの息子、ネギ

 

 明日奈を引き取って数年が経ち、タカミチがいる麻帆良学園へ通わせた。それから龍燕は再び旅を始めた。

 

「そういえば、ナギの息子がその故郷にいるとか言ったな」

 

「あ、そうですね。確か…イギリスの、ウェールズとか言っていましたね」

 

 白が答え、龍燕は転移魔法を試しながら行ってみるのも良いなと思った。

 

「そうだな。見に行ってみるか」

 

 転移魔法の座標を合わした龍燕はナギの故郷ウェールズへ飛んだ。

 

 

 

 

─ウェールズ

 

 龍燕達が着いた時、そこは火の海だった。

 

「なんだこれは、……祭か何かか?」

 

 いや、良く考えなくても火の海になるような祭があるわけが無い。

 

「主、あれを!」

 

 何かに気づいた黒が指を指した。龍燕はその指差す先を見た。

 

「あれは…悪魔か?」

 

「そうみたいです」

 

 龍燕は町を見渡し、逃げ遅れた人を何人も見えた。

 

「俺と白、黒、神威の四人で悪魔を討つ。他守護騎士と煉、暁は町人を護衛しながら安全なところを見つけて避難誘導!行くぞ!」

 

 皆はおうと声を上げ飛んだ。

 

 

 

 

 龍燕は悪魔達を見据えた。

 

「結構いるな」

 

 大小様々な悪魔が目算で百を上回っている。数だけなら百鬼火獣等の分け身の技で攻撃できるが、基本体術のみしか攻撃できないため悪魔相手では無駄な消費になってしまう。

 

 龍燕は悪魔を倒しながら押し進み、ネギを捜した。ナギの息子なら、もしかしたら魔力が多く狙われるかもしれないと思ったからだ。

 

 ふと、龍燕は周りより大きい悪魔を見つけた。そこに雷の暴風が撃たれたのが見えた。

 

「あれは……ナギか?」

 

 急接近した龍燕はネギを発見したが、ネギは龍燕に気づかず走っていってしまった。

 

「っ、待て」

 

 するとネギの前に悪魔が現れ、そいつは何かを放ってきた。瞬動で龍燕は動き、ネギを守るため前で左手突き出して咄嗟に炎壁を張る。

 

「ぐぅ……これは」

 

 炎壁が一瞬で石化し、ひび割れた隙間から二の腕に攻撃が当たってしまい、直撃した二の腕から肘辺りまで広まって石化していた。その後もじわじわと広がり続けるのを見

て、龍燕は籠手を待機状態の首飾りの変える。

 

「石化……厄介だな」

 

 石化を放った悪魔は、遅れてネギを助けに来た老人が封印した。

 

「お主…大丈夫か?」

 

 封印を終えた老人は膝をついた龍燕に近寄る。その老人も石化の魔法を受けたようで龍燕よりも酷かった。

 

 龍燕は石化の進行を止められないとわかり、左肩の付け根を武己から小太刀を出して切り落とした。

 

「ぐっ…ぅ……」

 

 切り落とした左肩から先に炎を放って焼却し、血の流れる断面は癒し火を掛けて応急処置を施す。

 

「…とりあえず問題ない。ナギ」

 

 龍燕は下りてきたナギに顔を向けた。

 

「すまん。龍燕」

 

 龍燕はにやりと笑いながら立ち上がる。

 

「この程度なら問題ない。久しぶりだな」

 

「ああ、久しぶり」

 

 それからナギはゆっくりとネギの前に歩いて行き、しゃがんだ。

 

「お前…、そうか……お前がネギか……。大きくなったな」

 

 ナギはネギの頭に手を載せると少し乱暴に頭を撫でた。相変わらず不器用だなと龍燕は苦笑してしまった。

 

「そうだ……お前にこの杖をやろう。俺の形見だ」

 

「お…父さん……?」

 

 渡された長い杖は、ナギが戦乱を駆け抜けた頃から愛用していた杖。

 

「もう時間が無い……わりぃな、お前には何にもしてやれなくて……」

 

 そう言うと、ナギは浮遊術?で浮き上がる。それでもネギは名残惜しそうに、手を伸ばす。

 

「こんなこと言えた義理じゃねぇが……元気に育て!幸せにな!」

 

 走り出したネギは転び、その間にはナギは消えていた。

 

 龍燕はナギが消えるところをしっかりと見ていた。空間転移?いや、ナギが得意とする雷系統のモノでもない。ただ、漠然と消滅……。分身という訳でもなさそうだ。まさか精神体か?と考えたがわからなかった。

 

「お父さあ――――ん!!!」

 

 ネギの悲痛な声が遠く、空へと木霊する。静かに涙するその姿は、本当にただの子供だった。

 

 龍燕はそんなネギに何も言えなかった。

 

 

 

 

 龍燕は腕が治るまでネギの家に厄介になった。数日で腕が元に戻った時には皆が驚いていた。

 

 腕が戻った後、ネギ達に別れを告げ、また旅に戻った。

 

 

 

 

 

 

 



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第09話 時の流れは意外にも早い

 

 約十年と長く旅をした龍燕は目的をいくつか達成したため、一度足を止めることを考えた。

 

 今まで龍燕が旅をしてきたのには目的というのは、

 

 一つ、魔法世界の村々を回って、討伐等の依頼を受けて報酬をもらい、得たお金の一部を明日奈の学費等にあて、残りは貯める。

 

 二つ、政府側の弱みを見つける事。

 

 三つ、元の世界へ帰る手がかりを見つけ出す事。

 

 大きく言ってその三つである。

 

 また、ずっと旅に出ていると明日奈が寂しくなるので魔法世界の珍しい食べ物等を土産に持って二、三ヶ月に一度明日奈に会いに行く。その時一週間程過ごし、旅の話しを聞かしたりしていた。

 

 

 

 

 明日奈は中等部二年に上がる前日。

 

 龍燕は中等部に上がった明日奈に土産を持ってタカミチに会いに待ち合わせの場所へ向かった。

 

「久しぶりだな、タカミチ」

 

「久しぶり龍燕」

 

 久しぶりに会ったタカミチと喫茶店に入って話しを交わす。

 

「タカミチ。今日は頼みが会って来たんだ」

 

「僕に?」

 

 珍しいなとタカミチは思った。

 

「帰って急になんだが……麻帆良学園中等部に明日奈が上がっただろう?俺はもうそろそろ旅をやめて、その学園で……できれば働きたいと思っていてな」

 

「麻帆良に?そうか。じぁ僕が学園長に聞いてみるよ」

 

「いいのか?」

 

「龍燕は僕の先輩だからね。学園長に聞くくらいはしてあげるよ。具体的には何の仕事がいいんだい?」

 

「そうだな」

 

 少し龍燕は考え、口を開く。

 

「副教員か、警備関係かな」

 

「うん…そういえば夜間警備の人手が足りないとか言っていたな。わかった、学園長に聞いてみるよ」

 

「ありがとう」

 

 勘定を払い、龍燕はまっすぐ明日奈に会いに行った。

 

 待ち合わせの場所に着いた龍燕は、明日奈と会って一日、楽しく話しをした。

 

 

 

 

 次の日、タカミチの案内で学院長室へ向かう龍燕。

 

 タカミチが大きな扉の前で足を止めた。

 

「ここが学園長室だよ」

 

「わかった」

 

 タカミチは扉を開けた。

 

 学園長は椅子に座り、待っていた。

 

「うむ。君が灼煉院龍燕か。高畑先生から話しは聞いとる」

 

「初めまして。俺は灼煉院龍燕です、よろしくお願いします」

 

 龍燕は丁寧に頭を下げた。

 

「うむ、君を採用する事に決めた」

 

「ん?面接…等はしないんですか?」

 

「人手が足りないのは事実じゃからの。それに君の事は色々とわしの耳に入っとる。戦後は旅に出て、村々で依頼を受けて回ってたとか」

 

 噂になっていたのかと龍燕は思った。

 

「そうですか」

 

「で、君にだが。明日から2‐Aの副担任と夜間警備をしてもらいたいのじゃが。よいか

の?」

 

「はい」

 

 龍燕は再び学園長を見る。

 

「明日、イギリスのウェールズから新しい教員が来る。その教員がそのクラスの担任となるので、副担任として支援してほしい。また、何かあればわしか、高畑先生に聞くといい」

 

「わかりました」

 

「では、明日の七時頃に来るのじゃ」

 

 龍燕は頭を下げて学園長室を出た。

 

 

 

 

 

 



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第2章 学園編
第10話 エヴァとの再会


 

 翌日の早朝。龍燕(シエン)は服装に悩んだ結果、普段着ていた特務機動隊課長用制服を纏って学園長室を訪れた。特務機動隊課長用といってもこの世界では胴着に羽織を羽織っている感じのだ。

 

「おはよう、龍燕先生」

「おはようございます」

「?お主は着物…というか胴着のようなものしか持っておらんかったのかの?」

 

 龍燕の格好を見て学園長は聞いた。

 

「ええと、はい。俺のいた国にはこういうものしかなく、今も持ち合わせてはいません」

「ん。わかった。周りに影響がでなければ、特別にそれで良しとしよう」

「ありがとうございます」

「ほっほっほっ。それにわしじゃって似たようなモノだしのぉ」

 

 学園長は自分の服装を見ながら行った。

 

 そこへタカミチ先生と明日奈、このか。あともう一人……。

 

「まさか、ネギか?」

「龍燕さん?」

「大きくなったな」

 

 龍燕はネギの頭を撫でた。

 

「あれ?知り合いかい?」

 

 タカミチは龍燕とネギを交互に見ながら言った。

 

「ああ。ん?って事は……」

 

 龍燕は学園長を見る。

 

「うむ。ネギ先生は今日から2‐Aの担任じゃ」

「ほう、ネギが」

 

 再び視線をネギに向けると明日奈が何故か嫌そうな顔をしていた。

 

「ん、どうしたんだ、明日奈」

「私は嫌よっ!さっき登校中に酷い事言われたし、酷い事されたんだから!」

「え、でもあれはほんと」

 

 ギロッと明日奈はネギを睨んだ。ネギは黙り込んでしまった。龍燕は随分変わったなと明日奈を見て笑ってしまう。

 

「ま、まぁ教育実習とゆーことになるかのう。今日から3月までじゃ。と。ところで…」

 

 学園長の視線がゆっくりと龍燕に向け、人差し指を立てた。

 

「龍燕君には彼女はおるかの?どーじゃな?うちの孫娘(このか)なぞ」

「ややわじいちゃん」

 

 学園長の突然の発言にいつの間にかその隣に移動していたこのかがトンカチでガスッとツッコミをいれた。学園長の頭からどくどくと赤い血が流れる、が学園長は平然とフォフォフォと笑っている。

 

「学園長。俺には心に思う人がいるので丁重にお断りいたします」

「む…そんなふうに言われたのは初めてじゃ。よし、次は正式に話し合いで」

 

 再びこのかのトンカチが振るわれた。

 

 

 

 

 明日奈達を先に教室へ行かせた後、龍燕とネギはタカミチに教室へ案内してもらった。

 

「何かあれば、僕は職員室にいますから言って下さいね。あ、あとコレ」

 

 タカミチは本をネギへ手渡した。

 

「出席簿だよ。じゃ僕はこれで」

 

 タカミチは職員室へ向かった。

 

「さて入るか」

「はい」

 

 龍燕は教室の引き戸に手を触れた時、違和感を感じた。よく見ると、戸と柱の間に隙間が空いていた。それを辿り、視線を上に向けると黒板消しが挟まっていた。その罠になんとバレバレなと思いながら、戸を引くと同時に落ちてきた黒板消しを掴み、足元の引っ掛け棒を跨ぎ、さらに天井から落ちてきた水入りバケツを右手の人差し指の先で底の中心を支え、飛んできた玩具の矢を左手の指の間で挟んだ。

 

 そして教卓の前に立った龍燕は、上に水入りバケツと玩具の矢を置き、口を開く。

 

「うむ、まぁまぁの罠だったな」

 

 教室内は何故か白けたが、龍燕の後を追う様に引っ掛け棒を跨ぎネギも教室へトコトコと入って来る。

 

「えー、今日よりこの組の副担任をすることになった、灼煉院龍燕だ。担当教科は特にない。よろしく」

 

 龍燕は簡単な自己紹介をして礼をし、ネギと場所を交代する。

 

「僕はこのクラスの担任になりました、ネギ・スプリングフィールドです。皆さん、よろしくおぬがっ?!」

「え?」

 

 ネギは礼の時に頭をおもいっきり教卓にぶつけてしまい、龍燕が驚いて声を漏らしながら振り返る。

 

「…大丈夫か?」

「はい…」

 

 赤くなった額を抑え、涙目になるネギ。

 

「か……」

 

 龍燕はどうしたんだ?と生徒達へ視線を向ける。

 

「「「可愛いーーっ!!」」」

 

 生徒達は突然声を上げ、龍燕は思わず耳を手で塞いだ。そして龍燕とネギを取り囲む様に生徒が押し寄せてきた。

 

「出身は何処ですか?」

「ウェールズの山奥で…」

「龍燕先生は?」

「ええと……すまないが答えられない、と言うより皆下がれ!」

 

 皆はえぇと不満そうに声を漏らしながら、それぞれの自分の席へ戻った。

 

「一度に言われても困るからな。誰か代表して、質問をしてくれ」

 

 龍燕がそう言うと、一人が手を上げた。

 

「うむ、名前を教えてくれるか?」

「私は朝倉和美。よろしくね。まず担任のネギ先生から聞きますね」

 

 朝倉はネギに質問をし始めた。

 

 

 

 

「はい、ありがとうございますネギ先生。じゃ、次に副担任の龍燕先生に質問します」

「ああ、答えられる範囲でな」

「では出身は?」

「出身地か、すまないが答えられない」

「そうですか、では!」

 

 朝倉は声を上げ、真剣な顔で龍燕を見る。次はそんな真剣になるものか?と思いながら真剣な顔で朝倉を見据える。

 

「龍燕先生!ずばり、彼女はいますか?」

「……」

 

 予想外な質問に口が開かなかった。龍燕は教室内を軽く見回す、……エヴァンジェリン?(龍燕は今気づいた)と目があったがすぐに逸らした。

 

「ずばり、彼女はいますか?」

 

 さらに朝倉はおして言ってくる。

 

「……いないな」

「ではっ!この教室内に好みの方はいますか?」

「好みか…」

 

 龍燕は教室内を見渡す。エヴァに顔に再び目線を止めてしまったがすぐに視線を逸らした。

 

「…さて、どうだろうな」

 

 視線を逸らしたのを逃さずに見ていた朝倉は目を光らせて言った。

 

「今、逸らしましたね?いたんですか?」

「……どう、だろう…な」

「そうですか。質問は以上です」

 

 朝倉はニヤリと笑いながら席に着いた。龍燕はネギより質問数が少ない感じがしたがまぁいいかと次に移った。

 

 

 

 

 その後龍燕は職員室に戻りネギの初授業となったが、生徒内で喧嘩が起こりまともな授業にはならなかったらしく、職員室へ戻ってきたネギは溜め息を着いていた。

 

「大丈夫か?ネギ」

「はい、大丈夫です」

 

 龍燕はネギを心配そうにみる。

 

「まぁ最初は誰だって上手くいかないものさ。俺だって最初は難しいと思った事はある」

「龍燕は教師をやったことがあったの?」

「正確には『戦技教導官』だがな。俺は自分の国にいた頃、戦い方や体作りを中心に教えてたんだ」

「戦い方…と体作り、ですか」

 

 ネギは?を顔に浮かばせた。

 

「まぁ内容は随分と離れているが、何かを教えるという点では同じだろう。日に日に経験を積んでいくといい」

「はい」

 

 ネギは笑った。龍燕は励ますことが出来たなと思いながら笑い返した。

 

 

 

 

 放課後。龍燕は学園長にエヴァの住んでいる家を教えてもらい、向かっていた。

 

「この辺り……だろうか」

 

 龍燕は学園長に貰った地図を見る。そして周りを見る。龍燕は溜め息を着いた。

 別に龍燕が地図を読めない訳ではない。また日本語は羅暁語とほとんど同じだったから読むことにも問題はない。問題があるとすれば学園長の地図の方にあるのだ。

 

「何故線と丸しか書いてないんだ……」

 

 広い学園内を歩いていると、目の前に独特な耳いや、アンテナを着けた生徒が歩いていた。

 

「あの子は…俺の受け持つ組の、茶々丸と言っていたな」

 

 龍燕は茶々丸に近づいた。気づいた茶々丸が振り返る。

 

「あ、龍燕先生こんにちは。これからお帰りですか」

「こんにちは。これからエヴァの家に行きたいんだが知らないか?学園長から貰った地図があるんだが……線数本と丸しか書いてなくてな。全くわからんのだ」

 

 そう言って例の紙を見せた。

 

「……確かに…これだけではわかりませんね。では、私が案内します」

「ありがとう。茶々丸、だったな」

「はい。茶々丸です。これから丁度マスターのところへ向かうところでしたので。気にしなくても構いません」

 

 龍燕は茶々丸のいうマスターというのに気になったが案内してもらい、エヴァの家に着いた。

 エヴァの家は森の中に建てられていた。

 

「茶々丸に会えてよかった。こんなところじゃ明日か、それ以上掛かったかも知れない」

「いえ」

 

 茶々丸にお礼を言いつつ、龍燕は茶々丸の後を歩き家に入った。家の中は大量の手製と思われる異様な人形が沢山飾られ、他にも魔法薬の様な物も並べられていた。

 

「では、マスターをお呼びしますので少々お待ち下さい」

「了解」

 

 茶々丸はペこりと頭を下げ、階段を上り二階へ行った。その数秒後、ゴトンと物音がしたかと思ったら、足音が響き、エヴァが下りてきた。

 

「遅い!何をしておった!」

 

 エヴァは下りて来るなり龍燕に怒鳴りつく。

 

「……何の事だ?」

 

 龍燕は訳がわからず?を浮かべた。直後龍燕はエヴァの拳を顔面へもろに受けてしまった。

 

「っ?!」

 

 しかし、自ら拳を当てたエヴァ側が痛かったらしく半歩下がってから再び怒鳴った。

 

「き、貴様っ!どれだけ頑丈な顔をして……いやそれより、約束の三年を無視して私の前にのこのこと現れるとはいい度胸だ!」

「三年……?」

 

 龍燕は考えるが約束した覚えは全く無かった。

 

「何の事だ?」

「呪いだ!登校地獄の呪い!貴様が解くはずだったのだろうが!」

「呪いって何の事だ?何故俺が解く筈と?説明してくれ」

「しらばっくれるつもりか!ナギから貴様が呪いを解きに来ると聞いていたぞ!?」

 

 ナギが?と龍燕が驚いた。

 

「そんな事全く聞いて…、まさか……ナギの奴、伝えたつもりで忘れたのか?!」

 

 そう言って龍燕はあいつならありそうだなと額に手を置いた。

 

「ナギめ……いい度胸だ……おい!私の呪いを今すぐ解け!それから奴を追いかけてしばき倒してやる!」

「すまないが……俺が解ける前提で言っている様だが、正直解けるかわからんぞ」

「なんだと?!貴様は魔法使いではないのか?」

 

 エヴァの問いに龍燕は首を振って答える。

 

「全く違う。俺は剣術と体術と能力中心だ。そっちの魔法に関しては全く、専門外だ」

「そっち?そっちとはなんだ!」

 

 エヴァは訳がわからず、龍燕に怒鳴る。

 

「まぁとりあえず魔法はそんなに詳しくはない」

「そ、そんな……馬鹿な………」

 

 エヴァは力が抜けた様にへなへなとその場に崩れた。

 

「くぅぅうぅ!」

「ん……」

 

 そして次にエヴァと目が合った瞬間……龍燕は気がつくと荒野に立っていた。

 

「ここは…精神世界か」

「貴様……本当に『灼煉院龍燕』なのか?貴様が本物か……確かめてやろう!氷神の戦槌!」

 

 エヴァの真上に軽く二十メートルを越える氷塊が形成された。

 それはまるで、満月のように丸い氷塊だった。

 

「待っぅぎぇ?!」

 

 不意の攻撃に龍燕は咄嗟に防御の体勢をとるが、それをまともに喰らってしまい、地面に減り込んでしまった。

 

 

 

 

 



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第11話 戦闘と告白

 

 龍燕はエヴァの『氷神の戦槌』をまともに喰らってしまい、氷塊が荒野の地に減り込む。

 

「なんだ、随分と呆気なかったな。まぁ偽物なら…ん」

 

 エヴァは自分の放った氷塊の異変に気づいた。

 

 氷塊から湯気が上がった。そしてその氷塊は縦に皹が割れ、真っ二つになった。その真ん中、龍燕はゆっくりと立ち上がる。

 

「いきなり氷塊を落とすとはな、さすがにこれは効いたぞ」

 

 龍燕はエヴァに言った。また龍燕の左の肘辺りが折れたようでぶらんと妙な方向を向いてしまっている。

 

「貴様が本物か確かめると……言っただろう!」

 

 エヴァは今度は氷の矢を無数に展開し、龍燕に向けて飛ばす。

 

「仕方ない、な」

 

 無数に飛んでくる氷の矢を、龍燕は右手だけで弾かして防いでいく。

 

「くっ…闇の吹雪!」

 

 エヴァは龍燕に向け、広範囲に魔法を放った。龍燕のいたところの一帯は、龍燕ごと凍りつき、氷の柱がいくつもできた。

 

「ハハハハハッ!偽物の貴様など、所詮その程度だ!」

 

 荒野にエヴァの笑い声が響き渡る。

 

「偽物、か」

「ハハ…ハ、へ?」

 

 エヴァの後ろで、龍燕は苦笑しながら宙に浮いていた。

 

「い、いつの間に移動した?!確かにあそこには氷柱になった貴様が……?」

 

 地上に出来た龍燕の輪郭のある氷の像。しかしよく見るとその中身は何もなくなっていた。

 

「ん?ああ、簡単だ。眞炎流歩法術(マエンリュウホホウジュツ)の瞬間移動で跳んだんだ」

「くっ…はっ!う?!」

 

 龍燕は一瞬でエヴァとの距離を縮め、エヴァの生成し展開した氷の矢を飛ばす前に炎を纏わせた右腕の一振りで蒸発させた。

 

「あの時を覚えているか?」

「あの時?」

「俺が森でお前を助けた時の事だ」

「助けた時だと?……そうか、やはりお前は本物だったか」

 

 エヴァはやっと龍燕を本物と認め、戦闘は終わったと龍燕は安心した。

 

「あの時……その、何だ……」

「どうしたんだ?」

 

 歯切れの悪い龍燕の言葉にエヴァは顔に?を浮かべる。

 

「これを見てくれ」

 

 龍燕は武己から何かの書類を取り出し、それをエヴァに見せた。

 

「ん……これは!」

「これを俺の署名入りで提出すれば、お前の賞金首は完全に失効となる。 それでもう追われる事もなくなる」

 

 その話に自分の耳を疑うような顔をするエヴァ。そして龍燕を鋭い目で見た。

 

「何故だ……?」

「そうだな、お前の意思を無視して賞金首を取り消していいか分からなかったからなぁ……」

「そうではない!何故私の為にそこまでする!?その書状を発行させるのも一筋縄では行かなかったはずだ!下手をすれば英雄といえども命の危険だってあったはずだ!何故だ、何故貴様は私の為にそこまでするんだ!私には貴様の事が理解できない!」

 

 エヴァは龍燕に怒鳴りつける。龍燕は一度目を閉じ、一呼吸してから真剣な目でエヴァを見た。

 

「そうだな、はっきりと言おう」

 

 龍燕は武己に書類の束を戻し、『スクロール』を出した。

 

 このスクロールは最上級で、記された内容は魂にまで刻み込まれ、約定を違える事は出来なくなる。約定を破らざるを得なくなったとき、その時は死を持って対価を払う事となると言うものだ。

 

「俺はあの時、お前に惚れてしまった。エヴァンジェリン、お前のことが好きだ」

「私に…惚れた、だと?私は……私は吸血鬼だぞ?お前は吸血鬼に惚れたのか?」

「言葉に嘘、偽りはない。俺はお前を、一人の女性として好きになった。お前が吸血鬼であろうとなかろうと、この気持ちは変わらん。それに、たとえ俺がこの告白で拒否をされ片思いに終わったとしても、お前に掛かってるその呪いは俺が必ず解いてやる!」

 

 龍燕はエヴァの目を見て自分の気持ちを訴えた。エヴァは目を見開く。そしてすぐに下を向いた。

 

「……お前は馬鹿のようだな」

「ああ、確かに俺は馬鹿かも知れない。次いつ会えるかもわからなかったお前を、15年も片思いを続けてきたからな」

 

 龍燕は手に持ったスクロールを開いた。

 

「この『スクロール』と言うのに、俺は誓いの言葉を書き記し、手配書をすぐにでも消せる様にまでして、長く…持ち続けていたからな。もし嫌ならスクロールに署名しなくてもいい。だが、お前に掛けられたその呪いは必ず解くと約束する」

 

 エヴァは笑みを浮かべた。

 

「やはりお前は……本当の馬鹿だ」

「ああ、俺は確かに武闘派に傾い「私が言っているのはそういう事じゃない。私が言いたいのは『鈍感』だ」」

 

 声を上げ遮って言い出したエヴァの言葉に、龍燕は驚きの表情を浮かべる。

 

「実は私も……お前と同じく『片思い』を15年間続けてたんだ」

「そういう事は…」

「そう。私はお前に出会い、私が吸血鬼であると言っても態度を変えず、それがどうしたと言わんばかりにお前はいたからな。初めてだったよ……私が吸血鬼と明かして、純粋に可愛いと言う言葉が返って来たのは。私は、あの日からお前の事を忘れたことがない。忘れられなかった。いくら『吸血鬼と人は結ばれない』と、そう考えて気持ちを抑えようとしても、私はまた龍燕に会いたいと考えてしまう程に」

 

 エヴァは一区切りして話しを続ける。

 

「私はお前の仲間である、ナギ・スプリングフィールドを偶然にも見つけ、お前の行方をなんども聞いた事があった。それが原因でここに縛られてしまったが……。それでも15年間、私もお前を想い続けた。私の事を忘れているんじゃないのか、あの時の言葉は嘘だったんじゃないのか、あれは…幻だったのか。そう想う度に胸が張り裂けそうだった」

 

 エヴァは顔を上げた。その目からは涙が流れていた。

 

「つまりそれは……」

「鈍いにも程があるぞ。私はお前の事が好きだと言ってるんだ。それを貸せ」

 

 エヴァは龍燕からスクロールを取り上げて、誓いの言葉を見た。

 

 

 

 

 

『灼煉院龍燕はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルを裏切らない。

 死が二人を別つその時まで、二人は互いを裏切らず、二人は約定を違えない。

 灼煉院龍燕はその命の灯火が消え去るまで、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルを護り続ける』

 

 

 

 

 

 エヴァは小さく笑い、自分の指先を噛み千切る。魔力が込められた自分の血で、自分の誓いを書き加えた。

 

 

 

 

 

『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは灼煉院龍燕を裏切らない。

 死が二人を別つその時まで、二人は互いを裏切らず、二人は約定を違えない。

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは、その命在るまで灼煉院龍燕を支え続ける』

 

 

 

 

 

「さぁ、署名したぞ。刻め」

「いいのか?呪いを解いてからじゃなくて」

「愚問だ。この気持ちは変わらないし、なりより『裏切らない』と、それに書いたからな。何年掛かろうとこの呪い、解いてもらうぞ」

 

 エヴァはスクロールを龍燕へ渡した。

 

「そうだな」

 

 受け取った龍燕は頷き返し、スクロールを放って解放した。スクロールは二つに解け、光となると二人の身体へ入り、二人の魂に刻まれる。その際、龍燕の九天の書の防衛機能が働こうとしたが、龍燕は管理者権限で黙らせた。

 

「これで、お前は私を裏切れなくなった」

「あぁ、俺はお前を裏切れなくなった」

 

 一拍起き、再び口を開く。

 

「そして、お前は俺を裏切れなくなった」

「あぁ、私はお前を裏切れなくなった」

 

 二人は近寄り、龍燕は少ししゃがみ、唇を重ね合った。

 

 

 

 

 

 



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第12話 学園地獄の呪い

 

 エヴァが結界を解いた後、龍燕はエヴァを寝台に寝かせた。

 

「これでいいか」

「ああ、少しじっとしていてくれ」

 

 そういうと龍燕は空間モニターを目の前に出して操作を始める。

 

「よし、読み取り開始」

 

 エヴァの身体を輪が現れ、それが頭から足の指先までを行き来する。

 

「こ、これでわかるのか?」

 

 以前の設定では難しかったが、魔法や魔力等の関連のを記録に加えたため大体のことはわかるようになった。

 

「ああ、その呪いのところを………今読み取れた」

「早いな……。それで?」

 

 龍燕の顔が険しくなる。

 

「あいつ……随分と出鱈目な…」

「どうしたんだ?」

「適当に、出鱈目に呪いの術式を構築して、さらに出鱈目な程の膨大な魔力で組まれてる。術式の構築の核自体はそんな大きくないと思うが、その上に余分に押し込まれた魔力は核をぼかしてるから逆算するのに時間が掛かる」

「……結果的には?」

 

 エヴァはじっと龍燕を見る。龍燕は輪を消してから答える。

 

「俺の隊舎を最高値で稼働させて計算し、出来る限り早く最短で解く」

「そうか」

 

 エヴァは半身を起こした。

 

「そういえば…隊舎ってなんだ?」

「ん、ああまだ教えてないな。俺の隊舎は装置の中にあるんだ。その装置には空間設定というのがあって、設定次第で外と内との時間差を作ることが出来るんだ。例えば、外での一時間を内では一週間にすることができる。しかし老化は外の時間で、老化を多くとることは、初期設定上ない」

「初期?」

「老化の時間を内に設定変更すれば老化する。が設定変更は色々と難しいからほとんどが初期設定にしてる」

「そうか。それで、それはすぐに使えるのか?」

「すぐとは言えないな。随分と使ってなかったから、起動後すぐに異常ないか見るから……1分くらいだな」

「1分?十分早いな」

 

 龍燕はすぐに別の空間モニターを操作し始め、装置を見始めた。

 

「……よし、終わった。ええと、装置は何処に置いていい?」

 

 エヴァはそれならと龍燕を使っていない部屋へ案内する。

 

「この部屋に置くといい。それに確か、住む場所が決まって無いんだったか?だったらここを使うといい」

「いいのか?ありがとう」

 

 龍燕はお礼を言って部屋に入ると装置を部屋の隅の小棚の上に置く。

 

「よし、今の時間は…」

「ん、?時間か、ええと…6時過ぎだな」

「わかった」

 

 龍燕は空間モニターを出し、設定を始めた。

 

「エヴァは来るか?」

「当然だ。私も見てみたいからな」

「わかった」

 

 装置を起動させ、龍燕とエヴァの足元に八方式魔方陣が展開され、光に包まれた。

 

 

 

 

 光りが治まると目の前に大きな門があった。

 

「この和風の門が入り口か」

「和風?…いや、羅暁国という俺の祖国の造りだが……似ているか?」

 

 エヴァは頷いた。

 

「そうか。まぁ開けるぞ」

 

 龍燕は両手をそれぞれの門の扉に触れ、力を入れた。門はギィィ…と音を立てて開く。二人は門をくぐり、広い中庭を通って城の入り口へ向かった。

 

「おー広くて高いな」

 

 入り口を見上げながらエヴァは言った。

 

「俺の家系は長身で3mを越す人もいるんだ」

「3m!?ということはお前も越えるのか?」

「……わからん。俺もそんなに高くなりたくないな」

 

 まずこの国等で長身となれば建物等で常に屈んでいないと駄目になるだろう。

 

 その後エヴァを連れて隊舎案内をした。エヴァはあまりの広さに驚いていた。

 

「さて、外へ戻るか」

「ああ、そうしよう」

 

 エヴァは少し疲れたような声で言った。

 

 

 

 

 戻ると調度食事の支度が終わっていた。エヴァと龍燕は食事をして、その後隊舎内にある風呂に入り、部屋へ行く。

 

「龍燕」

「ん」

 

 龍燕が取っ手に手を掛けた時エヴァに声を掛けられ振り返る。

 

「あの、だな。布団がなかっただろ?だから私のベッドで一緒で寝るといい」

「布団?布団なら隊舎から出すが」

「なに?!……なら言い方を変えよう。龍燕、一緒に寝ろ」

 

 エヴァは少しばかり顔を赤く染めて言う。龍燕は頷いて取っ手から手を離した。

 

「わかった。一緒に寝ようか」

 

 龍燕の言葉にエヴァはうっすら嬉しそうな顔をしていた。

 

「は、早く来るんだ!」

 

 エヴァは早歩きで自室に向かう。龍燕はエヴァを見ながら後を追った。

 

 

 

 

 

 



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第13話 歓迎の宴

 龍燕は教員であるため、朝の5時頃に起床する。その後軽く朝の鍛練、朝食、着替えをすませて向かう。

 

 

─学園長室

 

「おはようございます」

「うむ、おはよう龍燕君」

 

 龍燕は学園長と挨拶を交わし入る。

 

「龍燕君、今日の夕刻頃に世界樹の前に来てくれるかの」

「世界樹…はあの大きな木の事でしたね?」

 

 学園長はうむと頷く。

 

「わかりました。時間は大体5時頃でいいですか?」

「構わぬ。今日は夜の警備員達と顔合わせくらいだからの」

「わかりました」

 

 龍燕は一礼し、学園長室を出た。

 

「ええと、今は…8時過ぎか」

 

 龍燕は教室へ向かった。教室に着いた龍燕は時間を再度確認する。

 

「うむ、丁度よい時間だな」

 

 時間は8時26分を指し、朝の号令にも丁度よい時間だろう。

 

 教室に入ると、生徒は皆揃っていたがネギがいなかった。

 

「あれ?ネギがいないな」

「あ、龍燕先生!おはようございます!」

 

 気づいた生徒が龍燕に挨拶し、続き皆が挨拶をしてきた。

 

「おはよう。ネギはまだのようだな。ん、雪広と明日菜と近衛がまだか」

 

 龍燕は気配と目で確認しながら窓辺に移動する。

 

「「龍燕先生!」」

「ん、鳴滝姉妹か。どうした」

 

 鳴滝姉妹は交互に言ってきた。

 

「龍燕先生は」

「飲み物は何が好きですか?」

「飲み物?お茶が好きだが」

 

 二人はそうですかと席に戻って行った。

 

 すると教室の引き戸が開き、雪広と明日菜と近衛が急いで入り、席に着いた。その後にネギが教室へ入ってきた。

 

「おはようございます」

「おはよう」

 

 その後簡単な号令をすませ、授業が始まった。

 

 

 

 

 

 放課後。授業が全て終わり、エヴァの家に帰る途中に龍燕は茶々丸とエヴァに声を掛けられた。

 

「エヴァか」

「ああ。あのクラスの連中に頼まれてな、お前を迎えにきた」

「迎え?」

 

 龍燕は首を傾げる。

 

「話しによれば、お前とネギの歓迎会だそうだ」

「歓迎会?そうか。そういうのは初めてだ。わかった」

 

 龍燕はエヴァに案内された。

 

 

 

 

「ようこそ!」

「「「「「龍燕先生」」」」」

「「「「「ネギ先生」」」」」

 

 ネギと合流した龍燕が戸を開くと同時に歓迎された。

 

 机を合わせ長方形に伸ばし、上には飲み物やお菓子が沢山載せられていた。

 

 生徒の他にも高畑先生も席に座っていた。

 

 龍燕とネギは中央の席に案内された。

 

「龍燕先生」

「どうぞ」

 

 鳴滝姉妹からお茶を渡され、龍燕は受け取った。

 

「有難う」

「あのね。お茶っていろいろと」

「種類があるから飲み比べてね」

 

 見ると色々な種類のお茶が龍燕の前に置かれていた。

 

「凄いですね」

 

 ネギ先生が色々なお茶を見て驚く。

 

「色々あるな」

 

 暫くすると2―Aにいる部活所属の生徒が順に動いた。その中でも龍燕は超と古菲の組み手に興味を惹かれた。

 

「それは何だ」

「中国武術ネ」

「ほう。武術か」

 

 二人は組み手が終わると一礼した。皆から拍手されると、古菲は龍燕に言った。

 

「龍燕先生は何か武術をやっているアルカ」

 

 龍燕は頷く。

 

「ああ。俺の家系に代々伝わる流儀で、眞炎流って言うんだ。眞炎流は色々な種類があるが、俺はその内剣術と体術を曾祖父に学んだ」

「強いアルカ」

 

 古菲は目を輝かせて言う。皆も興味があるのか、皆の視線が龍燕に向けられる。

 

「そうだな。比べるものがあれば…」

「なら先生、勝負アル!」

 

 その言葉に高畑先生は驚いたが、生徒側は盛り上がった。エヴァも興味ありそうに龍燕を見ている。

 

「しょ、勝負?……ええと、高畑先生?」

 

 龍燕は高畑先生の方を見る。

 

「室内ではやめてくれよ」

 

 止めに入ると思いきや室内ではするなと言われ、龍燕は予想外な返答に思考が遅れた。

 

「高畑先生の許しが出たから広場行こ」

「そうね。皆!急遽場所移動するよ!」

 

 会場を変える為、簡単に掃除をし始めた。

 

 龍燕は今更先程言った自分の返答に誤ったなと思った。

 

「どうするの」

 

 明日菜がコソッと龍燕に言う。

 

「返答を確実に誤ったな。まぁ加減してやるよ」

「…そう」

 

 ちなみに、明日菜が龍燕の養子なのは秘密にしている。といっても家名が同じなのだが全くその質問等がない。確実に学園内で知っているのは高畑先生と学院長くらいだ。

 

 あらかた掃除が終わると中国武術研究会の組み手用の広場に行く事になった。その広場を見ると、以外にも広く、動きやすい広場だった。

 

 龍燕と古菲は広場の中央、少し距離を持って立った。生徒達は応援席で見ている。

 

「よろしくお願いしますアル!」

「よろしくお願いします」

 

 お互い礼をして構え、超の合図を待つ。

 

「じゃ………始め!」

 

 古菲は龍燕に向け、走り出した。

 

 

 

 

 

 



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