ストーカーの変態男に転生しますた (クワルカン)
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プロローグ

 唐突だが、私は所謂転生者というやつだ。

 死んだ記憶はないが、ベッドで眠り目を覚ますと真っ白な空間にいてテンプレよろしく神を名乗る老人に「めんごめんご」と謝られ転生することになった。(死因は神のミスだそうだが詳細は話せないとのことでだ)

 心残りは多々有ったが、こちらの意思はガン無視され話は進んでいった。転生する世界は、神がランダムで選びその世界を壊さない程度のチートを与えるとほざきやがった。私は文句を言う間もなく落とし穴に落ちるように転生を果たした。

 

 そして、その転生先というのが……

 

「……生まれてきてくれてありがとう。あなたの名前はシーモア。シーモア=グアドよ」

 

 ストーカーの変態クソヤローみたいです。(白目)

 

 

 とりあえず、状況を整理してみよう。

 まず私の名前だが、先程の母のものと思われる言葉によるとシーモア=グアドというらしい。……その名前には聞き覚えがある。好きだったゲームに出てくるキャラクターの名だ。シーモア=グアドと言うキャラクターは、かの有名なFINAL FANTASYシリーズでも名作と言われるFINAL FANTASY Xに登場する敵キャラクターだ。

 しかし、この世界がFF10の世界だとすると非常に危険だ。当然、RPGの世界である以上街の外にはモンスターが存在している。そしてなによりFF10の世界に『シン』がいる。『シン』の詳細な説明は省くが、簡単にいうと人が集まっている場所を襲撃する超ド級のモンスターだ。しかも不死身。……うん、無理だな。もしチートが金ピカ王のアレだったら戦ってみよう。私がシーモアであることも更なる危険を呼び寄せる。シーモアは、BOSSとして主人公 ティーダたちと戦う。…4回も。最初に登場した時には既に若干胡散臭いが、共闘の機会もある。だが登場する度に胡散臭くなっていき、遂に敵対! 戦闘! 死亡! そうシーモア=グアド享年28歳である。しかし、死人というよく分からない存在として蘇りヒロイン ユウナ(17)を付け狙い続ける変態ロリコンストーカー、それがシーモアだ。…話がずれたな。私は原作のシーモアと同じ行動をするつもりは毛頭ない。それでも、世界の修正力というものが実在すればシーモア=私はティーダたちに、殺され、吹き飛ばされ、消滅させられ、成仏させられる可能性がある。何としても回避したい。原作シーモアに関しては自業自得だ。むしろ生ぬるいくらいだ。シーモアの悪行は、ざっと挙げるだけでもこれだけある。

 

・グアド族の族長であった実の父、ジスカル=グアドの暗殺。

 

・グアド族と自らの影響力を増す為、ブリッツボールの大会(FF10の世界では唯一の娯楽がブリッツボールであり世界中の人々が注目し、楽しんでいる)で魔物を放ち、それを討伐するというマッチポンプを行う。

 

・ジスカルの死の真相を知った主人公パーティを殺害しようとする。(1回目)※死亡

 

・死人として蘇り、ヒロインであるユウナと無理矢理結婚式を挙げ唇を奪う。(死ねばいいのに……)

 

・自分の意に沿わない主人公パーティを抹殺しようとする。(2回目)

 

・ユウナを手に入れる為、立ち塞がった主人公パーティの一人であるキマリの同族であるロンゾ族を皆殺しにし、主人公たちを殲滅しようとする。(3回目)

 

・『シン』というFF10世界の最大の敵に吸収され主人公たちの前に立ち塞がる。(4回目)※強制成仏

 

 

 原作シーモアがどうしようもないのはもういいが、シーモアとして生きていく上で決まってきたことがいくつかある。

 1つ目は、主人公パーティと敵対しないことだ。主人公パーティ7人 ティーダ ユウナ ワッカ ルールー キマリ アーロン リュック 誰の恨みを買ってもいけない。とは言っても原作が始まらなければ会うこともないので、今は気にしなくて良いだろう。

 2つ目は、チートの確認および魔法の訓練だ。シーモアは魔法使いタイプだったので、無理に接近戦を鍛えるよりも魔法の訓練をした方が良いだろう。チートに関しては、世界を壊さない程度としか分からないので早めに確認しておくべきだ。何らかの危険がせまったとき最後に身を守るのは自身の力である。……強力なチートだったら良いなあ。

 3つ目は、原作シーモアと同じ立ち位置に就くことだ。つまりエボン教の老師に。理由はいくつかあるが、大きな理由としては、ティーダたちにストーリーをクリアしてもらわなければないからだ。色々と説明しなければならないな。FF10の最終目的は『シン』を倒すことだが、『シン』の倒し方は世界中の人が知っている。召喚士が究極召喚を使うことだ。ただし、召喚士は必ず命を落とし、倒された『シン』も10年後に復活する。しかし、FF10のストーリーでは『シン』を完全に倒すことになる。その鍵は、ティーダとその父ジェクトにある。つまりこのタイミングを逃すと『シン』を完全に倒す機会が永遠に失われるかもしれないのだ。『シン』がいる限り本当の平穏は訪れない。まあ、それで何故私が老師になるかというと、原作シーモアの死がきっかけでエボン教の異常な部分に気付くんだよなぁ。本当に死ぬつもりは無いので、証拠を見せるなり説得するなりしてティーダたちに信じてもらうしかない。ただその時に一般人とエボン教の老師、どっちが良いかというと選択肢が無い。

 

 今のところの大まかな行動方針はこれでよしと。

 

 後はシーモアの個人的な部分だな。

 シーモア=グアドは、グアド族の族長ジスカル=グアドと人の間に生まれたハーフだ。

ジスカルは、排他的な部分があるグアド族にエボン教を受け入れさせ他の種族との友好を訴えようと自ら動いたが反発は強く、シーモアと母は迫害され反発を抑えきれなくなったジスカルにより島流しにされてしまう。このことや、後に死期を悟った母がシーモアの召喚獣となったことがシーモアの歪みの原因だな。

 

 精神年齢が30過ぎの私が歪むとは思えないが、何とかする方法は無いのか?

 迫害は…いっそジスカルに辛いと当たり散らしてみるか?最初からグアド族の近くにいなければ問題も起きないような…ああ、ジスカルとしては自分は受け入れていると周りにアピールしたいのか。妻子よりグアド族全体、と父親としては最悪だな。母の体のことは何も分からない以上どうすることもできないし、召喚獣になろうとするのは逆にどうとでもできるな。無論、召喚獣にさせるつもりはないが。

 

 とりあえずできることは、魔法の訓練、チートの確認、母の体調に気を付けるぐらいか。

 

 目指すのは原作での犠牲を減らしつつ生き残る、かな。



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1話

 

 あれから5年経ちシーモア=グアド(5)だ。

 私が今何をしているかというと

 

「…………」ヒソヒソ

「…………」ゴニョゴニョ

「…………」ザワザワ

「…………」ハァハァ

 

 遠巻きにグアド族の大人たちから滅茶苦茶ヒソヒソされている。ん、なんかおかしいのが混じっていたような?まあ、いいか。

 現在は、グアドサラム(グアド族の本拠地)で母様と暮らしている。父ジスカルは、グアド族にエボン教を広めるために、グアドサラムとベベル(エボン教の本拠地)を行ったり来たりしていてあまり会えない。私は、普段から避けられているのでグアドサラムの外に出て魔法の練習をしている。今もその帰りだ。っと家に着いたな。

 

「ただいま帰りました、母様」

「お帰りなさい。シーモア。今日は、どこまで行っていたの?」

 

 今日は、顔色も良く調子が良いようだ。

 

「今日は雷平原までいって、水属性の魔法を練習していました」

「そう、あなたも魔法に慣れてきたようだし、今度私と一緒にマカラーニャ寺院に行ってみましょうか」

 

 マカラーニャ寺院とは、召喚獣シヴァの祈り子様が安置されているエボン教の寺院で、ジスカルの管理下でもある。極寒の地にあり、本来なら護衛もつけずに母子が行ける場所ではないのだが、特に問題はない。

 理由は、私が魔法を使えるから……のはずもなく、

 

「久しぶりにモンスターを殴り飛ばせるわ。腕が鳴るわね」

 

 母様が強いからだ。

 

 

 

 

 そして数日後……

 

「はあっ」ドガッ

「キャインッ」

「やあっ」バキッ

「クルルルッ」

「……ゴホゴホッ」…ペチン 

「ギャアアアッ」

 

 マカラーニャ寺院への道中なんだが、虐殺が行われています。というか、咳き込みながらのビンタで硬い特性のモンスターを一撃っておかしいでしょう!?

 実は、原作を考えるとそれほど違和感はない。原作でシーモアの母は、シーモアを連れユーナレスカの元、つまりFF10で終盤のダンジョン エボン=ドームにたどり着いている。ティーダたちが7人で到達した場所に、死が迫っている状態の上子連れでだ。その戦闘力は計り知れない。また、母様が召喚獣となった姿のアニマの必殺技は、なんというかオラオラだ。ゲームである以上どこへ行っても、魔法に強い敵、

物理攻撃に強い敵と様々いるが、この様子では、すべて殴って突破していそうだ。

 

「ふう。大丈夫?シーモア?」

「え、ええ。大丈夫です」

「そう。あともう少しよ。頑張りましょう」

「はい」

 

 母様…返り血を付けたまま微笑まないで下さい。怖いです。

 

 

 

 そんなこんなでマカラーニャ寺院に到着。なお、私は道中一発の魔法も撃たず、一体の魔物も倒していない。

 

「さあ、シーモア。ここがマカラーニャ寺院よ」

「綺麗な景色ですね。母様」

「そうね。この光景も寺院自体もシヴァ様のお力で成り立っているのよ。さあ、入りましょう」

 

 中に入るとそこには、ジスカルがいた。何故いる!?

 

「やあ、よく来たな。おまえ。シーモア」

「あなた。どうしてここに?」

「なに。トワメルから今日、ここにおまえたちが来ると聞いていてな。驚かせようようと待っていたのだ」

 

……やっていることはおかしくないはずなんだが、どことなくストーカー臭がする。結婚前から同じことをやっていそうだ。原作シーモアのストーカー癖は遺伝説!

 

「普段からあまり時間を取れないこと申し訳なく思っている。寂しい思いをさせてしまっているな。不満があれば言ってくれ」

「そんな、不満だなんて…。あなたは、グアド族のため、エボンのため、そして世界の未来のため頑張っているではありませんか」

「だが、そのためにおまえやシーモアをないがしろにして良いはずがない!」

「わたしは、そのようには思っておりません。あなたは今日、こうして来て下さった。それだけで十分です」

「おまえ」

「あなた」

 

 安っぽいメロドラマしているところ悪いが場所を思い出して欲しい。ここは寺院の中である。寺院には歴代の第召喚士様の像が、中央を囲むように祀られており、周りにはエボン教の僧官やジスカルが連れてきたと思われるグアド族の護衛達がいる。そのど真ん中でコレである。家でやれ!!

 

「さあ、シーモアもおいで」

 

 呼ぶな阿呆!恥ずかしすぎる。原作シーモアはどうしていたんだろうか?とりあえずここは空気に徹する。

 

「あら?どうしたのかしら?」

「なに、少し早い気もするが難しい年頃なんだろうさ」

「そうね。あなたの子供だもの。きっと早熟なのよ」

 

 少しは疑問に思え。まだ5歳児だぞ。ていうか抱き合ってキスを始めるな!こっちまで恥ずかしくなってくる。一部の人たちが目の光を失っていく……。

 

 ああ、消えてしまいたい。…んん?どうなっているんだこれ?

 



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2話

 

 ええっと、公衆の面前で両親がイチャイチャし始めいたたまれなくなったシーモアだ。

 消えてしまいたいと思ったら、なんと体が半透明になってしまった…。いや、中途半端すぎないか?と周りを見ると、誰も私に気づいていない。目の前で人間が、半透明になれば驚くと思うのだがこれはどうなっているんだ?

 こんな現象を引き起こすのは、未だ詳細不明のチートのはずだ。そう5歳になった私だが、依然チートは分かっていない。少なくとも、ゲート・オブ・バビロンや無限の剣製などではない。あまりにも何も分からないため半ば諦めていたのだが、これがそうなのか?半透明になって人に認識されない能力?まあ、便利だと思うが……。しょぼいな。

 

「ぼ、坊ちゃま?」

 

って、おい。認識されてるじゃないか。今、話しかけてきたのはトワメル。原作でシーモアに仕えていたグアド族の老人だ。現在はジスカルに仕えている。ジスカルの護衛に加わっていたようだな。

 

「坊ちゃま?大丈夫ですか?」

「え、ええ。大丈夫ですよ。トワメルには私は今、どんな風に見えていますか?」

「そ、それが…坊ちゃまが、半透明になっているように見えます。このトワメルの目がおかしくなったのでしょうか?」

「正常だと思いますよ。私自身も半透明に見えますから。ただ、それにしては妙なんですよね。トワメル以外は、誰も騒いでいない。それどころか気づいてすらいないようです」

「……そのようですな。これは一体?坊ちゃま、こうなったのはいつから?」

「先程からです。とりあえず危険は無いようですので、大きな騒ぎになる前に一度人の少ない所に、寺院の外にでましょう。護衛をお願いします」

「その方が良さそうですな」

 

 

 と、いうわけで外に出たんだが……

 

「戻りましたね……」

「戻りましたな……」

 

 正確な時間は、分からないが1分ほどと。短いな。それ以前にトワメルに認識されたのは一体?

 

「ふむ。坊ちゃま、先程の現象に心当たりは?」

「全くありませんね。今までに、同じことが起こったことも無いです」

「では何かきっかけは?」

「まあ、ちょっと姿を消したいと思いました」

「同じことをもう一度できますかな?」

「やってみましょう」

 

 どうせチートであれば、トワメルには完全には理解できないだろうから、検証を手伝ってもらうとしよう。

 

「……どうですか?」

「そうですな。確かに半透明になっていますが、それ以上になんと言うか、気を抜くと見失ってしまいそうですな」

「そうですか。……これは!」

「如何なさいました?」

「いえ、ほんの少しですが魔力が減っています」

「なんと、ではこれは魔法だと?」

「かもしれません」

 

 実際にはどうだろうな。魔法なのか、それともチートの代償が魔力なのか。まあ、周囲には魔法と説明する他ないんだ、好都合だと思っておこう。

 

「むう。姿を消したい思えば消せる。それならば」

「どうしました?トワメル?」

「いえ、中途半端だと思いましてな。姿を消したいではなく、より強く相手に見るな、と思えば完全に透明になれるのでは?と」

「……試してみましょう」

 

 相手といってもトワメルしかいないし大事にはならないだろう。"見るな"

 

「ぬ、ぬおおぉぉ!こ、これは"暗闇"状態!」

「落ち着いて下さい。今、治します。"エスナ"」

「ありがとうございます。それにしてもこんなことになるとは」

「……そうですね」

 

 トワメルには分からないだろうが、私は気づいたあれは"ブライン"だ。"ブライン"は、FFの魔法ではあるがFF10には存在しない魔法だ。今にして思えば、姿が半透明になったのも恐らく敵に見つかりにくくなる"バニッシュ"だったのだろう。"バニッシュ"は、あくまで見つかりにくくなるだけだ。トワメルが気づいたのは偶然か、他の人は両親に注目していたんだろうな。

 チートの内容に大体の見当はついた。実験してみたいが、そろそろ戻った方が良いな。

 

「坊ちゃまの魔法は、今までにないものですな」

「そうですが、魔法と分かれば自分で制御できます。一旦、父様と母様のところへ戻りましょう。いないことわかれば、心配させてしまいます」

「……そうですな」

 

 

 

 で、戻ってきてんだが……

 

「おまえ……」

「あなた……」

 

 状況はなにも好転していなかった。寧ろベタベタして悪化しているぐらいだ。周囲の皆さんも、僧官たちは逃げ出し、護衛達の目は完全に死んでいる。

 現実に戻ってもらわねば。

 

「んんっ。父様、母様、それぐらいでいいのでは?」

「ん?そうだな。本来の目的を忘れるところだった。私は、いずれシーモアに跡を継ぎこの寺院を管理してもらいたいと思っている。勿論、ずっと先のことだが、今のうちに寺院を案内しようと思ってな」

「まあ、それは素晴らしいですね。シーモア。しっかり学ぶのよ」

「では行こう」

「はい」

 

 

 

 案内の最中も、暇さえあればイチャつきムカついたが無事に終わった。

 ジスカルも忙しい筈、漸く解放されるな。

 

「さて、グアドサラムに帰るとするか」

「あなた?まさか?」

「ああ。一緒に帰ろう」

 

 護衛達と私の表情は……死んだ。

 

 



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3話

 

 今日は、実験の為に幻光河北岸に来ている。要はグアドサラムのすぐ近くだ。

 私が現在使える魔法は、四属性(火、雷、水、氷)のラ系までの攻撃魔法、属性攻撃を防ぐバ系の補助魔法、下級の回復魔法、状態異常回復魔法だ。

 先日、本来この世界には存在しないはずの魔法を発動できた。恐らくこれが与えられたチートなんだろう。という訳で色々試そう。

 

「ふむ。まずは分かりやすいものから。"エアロ"」

 

 "エアロ"は、風属性。そもそも存在しない属性だが、

 

「……成功しましたね。他の属性に有利かは分かりませんが」

 

 

 

 あの後、様々な記憶にある限りの魔法を試してみて分かったことは多い。

 まず、使えるのはFFの呪文。"メラ"など、他のゲームの魔法は使えない。全てのゲームの魔法を知っているわけではないが無理だろう。ああ、召喚魔法も使えない。

 次に、FF10にあり、私がまだ修得していない魔法は使えない。例えば、FFシリーズによく登場する魔法"ヘイスト" これは、時間の流れを速め、動きを速くする魔法でFF10にもある。だが、使えなかった。他にも使えない魔法がいくつかあり、共通点はこの世界に存在し私が修得していないことだった。

 最後に、消費MPに関してだ。同じ位の威力の"ファイア"と"エアロ"を比べると、後者の消費MPは圧倒的に少ない。チートとしての補助だろう。だが、ジャ系という最上級の攻撃魔法のみ変わってくる。MPが全て消費され発動しなかったのだ。恐らく大規模な破壊はできないようになっている。

 

 まあ、制約はあるが便利なチートだ。

 

 

 

 暗くなってきたので、グアドサラムに帰ってきたんだが家に入りづらい。というのも、今は父ジスカルが帰ってきているんだ。無邪気にバカップルに割り込む度胸は無い。仕方がない、入るか。

 

「ただいま帰りました」

「ふむ。お帰り」

 

 珍しくジスカルが迎えてくれる。そして母様がいない。

 

「シーモア。少し話がある」

「何でしょうか?」

「母さんの体が弱いのは、知っているな?」

「……ええ」

 

 確かに原作では、若くして死期を悟っているような描写があり、普段から咳き込んだり顔色が悪かったりするからな。何とかしたいと思っているがどうすればいいのか。

 

「母さんが倒れた」

「……!」

「心配しなくても直に回復する。だが持病でな。長生きはできないと言われている」

「母様の病気とは?」

「詳しくはわからないが、不治の病といわれていて徐々に体力がなくなっていくものだ」

 

 あれ?それって……

 

「珍しい病気でな。母さんは昔、未知の魔物と戦ったときに罹ったそうだ。呪いじゃないかとも言われていてな、母さんは周りの人から避けられるようになった」

「母様のところへ行っても?」

「ああ、行ってこい」

 

 可能性は、あるっ。

 

 

 

「あら、お帰りなさい。シーモア」

「ただいま。母様」

「また魔法の練習?いつも熱心ね」

「はい。それで、母様、新しく白魔法を修得したのですが使ってみても良いですか?」

「ふふ。どんどん成長していくわね。流石、私たちの子。ええ、いいわ。見せて頂戴」

 

 母様は、どんな魔法でも楽になったふりをするつもりだろう。

 

「"リブート"」

「こ、これはっ。…………体が、楽に!本当に楽に!?」

 

 はぁ~。良かった。上手くいった。

 

「父様を呼んできますね」

「え、ええ。どうなっているの?」

「ま、まあ、それはまた後で」

 

 で、呼んできた。

 

「おまええぇぇぇ」ガシッ

「あなたあぁぁぁ」ヒシッ

 

 予想通りの光景が広がっている。

 

 私の使った魔法"リブート"は、"ウイルス"状態を解除する魔法だ。"ウイルス"状態とは、HPが減る際、最大HPが減少するという恐ろしい状態異常だ。ただ、本来FF10には存在しない。母様が、本当に"ウイルス"状態だったかは分からない。もしかしたら、未知のウイルスか、体力が最大HPと認識され、それが減り続けるという状態を回復したのかもしれないが、効果があったのは事実だ。

 

「なに?シーモアが白魔法で?」

「ええ。今日、修得したと言っていたわ」

「そうか。シーモア、どういうことなんだ?」

 

 さて、どうしよう。

 

「ええ。"リブート"という魔法です」

「"リブート"今までにない魔法だな。どういう効果なんだ?」

「漠然とですが特殊な状態異常を治すもののようです」

「状態異常?毒のような?つまり特殊な毒を受けていたということか。それこそ呪いのような」

「やっぱり、あの時の魔物かしらね」

「だろうな。しかし、どうやってシーモアはそんな魔法を?」

 

誤魔化すしかないな。

 

「私自身よくわかっていませんが、エボンの賜物かと」

 

 ようは神様のおかげっていってみる。チートくれたからあながち間違っていないし。

 

「ははは。そうだな。きっとエボンの賜物だ」

「そうね。後でみんなでお祈りをしましょう」

「その前に母様、一度お医者様に確認をしてもらいましょう」

「大丈夫よ」

「そうもいかないだろう。待っていなさい。直ぐに連れてくる」

 

 

 

 その後、母様は医者に健康体だとお墨付きを貰った。

 完全にチート頼りではあったがなんとかなったな。それとこの調子だと、世界の修正力というのはないのかもしれない。勿論気は抜けないが、母様が召喚獣になることはないだろう。

 




作者の都合上FF12の魔法が多く登場する予定です。


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4話

修行パート(強制)


 

 母様が完治してから、2年。私は7歳になった。

 そして今、家庭崩壊の危機を迎えている。

 

「本気で言っているんですね?」

「すまない」

「謝って下さいと、言ってるんじゃありません。本気かと聞いているんです」

「…………ああ」

「はっきり言って下さい」

「…………本気……だ」

 

 こんなことになっているのは、ジスカルがグアド族の反発を抑えきれなくなってきたのが原因だ。原作での時期は不明だが、正直よく持たせた方だと思う。擁護する気は全くないが。

 

「本気で、わたしと、7歳のシーモアを、島流しにすると言うんですね?」

「……ううぅっ」

「答えて下さい!!」

 

 と、私は島流しされる側だ。特に罪があるでもなしに。あくまでも島流しする側のジスカルを擁護しようとは思えない。

 

「シーモアとわたしに何の罪があるというのですか!?」

「……罪は無い」

「なら何故!?」

「……そうでもしないと皆が納得しないのだ」

「納得!?なにに納得しないと!?」

「……私の妻がおまえで、子がシーモアということにだ」

「わたしたちが島流しにされれば納得するとでも!?」

「必ず、させてみせる。2人が島流しにされたとなれば、反発は一時的にでも収まる。その隙にエボンの教えを広め、人を受け入れる下地を作る」

「……それにどれほどの時間が掛かるとお思いで?」

「……分からん」

 

 2人はヒートアップ中。私は、こうなると知っていて行動を起こせなかった事実が罪悪感となり、黙って話を聞いている。

 

「シーモアにそんな生活をさせるぐらいなら、あなたと縁を切り2人で生きます」

「待ってくれ!私はおまえもシーモアも失いたくない!」

「だったら皆を抑えて下さい!」

「それは……」

 

 おおう。話が厄介な方向へ進んでいる。私としては、心情的には母様に同意したいのだが、原作の為、より正確には『シン』を完全に倒す為にグアド族の族長とエボンの老師という立場には欲しい。仕方がないか。

 

「シーモアも何か言ってやってちょうだい」

「……シーモア……」

「……父様。母様は前に、父様は世界の未来のために頑張っていると言いました」

「……そうか」

「私たちが島流しされることは、そのためには必要なことですか?」

 

 これで「そうだ」と言ってくれれば母様を丸め込める。

 

「……嘘をつきたくないから、正確に言おう。もしも私が、さらに努力していれば、甘い見通しなど立てていなければ、必要なかったかもしれない。だが、今となっては他に手はない。すまない、シーモア」

「あなた……」

「ああ、はっきりした。所詮、私の力不足が原因だ。すまない、おまえ。2人には迷惑をかけたくない。縁を切ってくれ。必ず生活に困らんよう援助する」

「そんな、わたしは……」

 

 あれぇ?

 

「わたしは、ジスカル様が未来のため今まで弛まぬ努力を続けてきたことを知っています。どうか、もう少しお手伝いさせてください」

「だが、おまえの言う通りだ。シーモアはどうなる?」

「ああ、シーモア。どうか愚かな母を憎んで」

「いや、シーモア。この不甲斐無い父を憎め」

「い、いえ。私も協力します」

「おおっ」「まあっ」

「シーモアは優しい子に育ちました。流石、あなたの子ですね」

「いや、シーモアは強く育った。流石、おまえの子だ」

「……あなた」

「……おまえ」

 

 誰がイチャつけと言ったぁ!まあ何はともあれ、シーモア=グアド、島流し、決定。

 

 

 

 バージ=エボン寺院生活1年目。

 

「ジスカル様のように立派になってね」

 

 母様により原作シーモアと同じ髪型にされる。左右で固定され、前には触覚が飛び出ている。

 ジスカル許すまじ。

 

 絶海の孤島生活2年目。

 

「ジスカル様は、シーモアが強く育ってくれたのを喜んでいたわ。シーモアは魔法にばかり偏っているようだし、わたしが稽古をつけてあげましょう」

 

 母様により肉体的な訓練をさせられる。私は魔法使いタイプです、母様。つらい。

 覚えていろっ、ジスカルっ!!

 

 別居生活3年目。

 

「ふう。こんなところに長くいると流石に気分が沈んで来るわね。というわけで気分転換を兼ねて武者修行の旅にでましょう。ルートは、ガガゼト山を超えてザナルカンドにあるエボン=ドームを目指すわ」

 

 母様により武者修行の旅に連行される。ガガゼト山もザナルカンドもFF10終盤の地域で、敵は相応に強く厄介だ。エボン=ドームや強い魔物のいる地域を教えてのはジスカルらしい。

 やはり貴様かっ!ジスカルっ!

 

 以下、旅の風景抜粋

 

「無茶です!母様!そのダークプリンは魔法でしか……」

「為せば成るわ!はああっ」バスバスバス

プ「…………」ブシャアアア

「ええぇ」

「さあ、あなたの番よ」

「あ、あの魔法を使っていいんですよね?」

「そうね。今回は使っていいわ」

「今回は!?」

 

 

「あのゼロ式護法戦士は魔法が通じ難いんですが……」

「あら。なら簡単じゃない」

「いえ、物理攻撃してもカウンターしてくるんですが……」

「反撃を許さず、圧殺しなさい」

「本気ですか?」

「立派な杖を持っているでしょう」

 

 

 流刑地から簡単に出られるのは島流しとして成立しているのか生活4年目

 

 無事に帰って来られた。今になって思うが、髪型の件といい、エボン=ドームへの旅のことといい、もしかしたら世界の修正力は存在するのか?いやでも、母様元気だし、当然召喚獣にはなっていないし。私のジスカルへの憎しみは正当なものだから関係ないよな。

 

「あら、シーモア。わたし、良いこと思いついたの。ジスカル様が言ってたんだけどね、世の中には水中で戦える人たちがいるらしいの。ここは幸い周りは海だし、特訓してみないかしら」

 

 ジスカル、貴様の罪を数えろ!

 

 原作に倣い父の暗殺計画を練る生活5年目 

 

「聞いて。シーモア。もう少しでジスカル様が迎えに来てくれるわ。また、みんなで一緒に暮らせるのよ!あら?ふふ、笑顔になってるわよ。やっぱり嬉しいわよね」

 

 ああ。勿論、ウレシイとも。どれほど待ち望んだことか。

 

「ここも、修行の場としては悪くなかったわね。そうだわ。あと少しの間の修行だけど原点に帰って組み手を中心にしましょう。きっと強くなったシーモアをジスカル様も喜んでくれるわ」

 

 うぼあぁぁ 




近接格闘戦と水中戦闘が可能になりました。


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5話

 

 グアドサラムに帰って来てから3年が経った。

 

 母様との地獄の組み手が始まって数週間後、迎えに来たジスカルに連れられ、私と母様は無事にグアドサラムに帰って来られた。どんな手段を使ったのか知らないが、エボンの教えはしっかりと広がっていて私たちはグアド族に受け入れられた。

 しかしジスカルへの憎しみが薄れることはなく、復讐はきっちりと果たさせて貰った。具体的には、ジスカルと母様が夜にアレなピンクの雰囲気になった日の深夜に突撃してやった。当然、毎回邪魔したわけではないが、数回に1回の割合で用事を作り妨害したので慌てていることも多かった。ざまあみろ。

 

 グアドサラムに帰って来てからは、ジスカルの手伝いを少しずつさせられるようになった。グアド族の族長としての仕事も、エボンの老師としての仕事もだ。まあ、見学しているだけのことも多かったが。それに関係して、エボン教の総本山 ベベルにも何度か行っている。

 

 そして、私は今日で15歳になる。この世界(スピラ)では15歳で成人と認められるようだ。特別な日のはずなんだが……

 

「おめでとう。シーモア」

「おめでとう。シーモア。立派になったわね」

「ありがとうございます。父上。母上」

「シーモア。お前も成人したことだし、そろそろマイカ総老師と顔合わせしておくべきだ」

 

 マイカ総老師は、エボン教のトップの老人で原作でも総老師を務めている。原作時、つまり13年後に在位50年だったか。原作では死人だったが、今はどうなのだろう?どちらにしても合わなくてはいけないな。

 

「分かりました。ではベベルへ?」

「そう焦るな。予定は組んである」

「そうよ。それに成人したお祝いとして、新しい正装を用意したの。これよ」

 

 ああ。さっきから視界の隅に映っていた。だが認めたくなかったんだ。今、私の目の前には原作シーモアの服装がある。くそっ、どうせ族長か老師を継いだときだろうと油断していた。

 

「どう?素敵でしょう?ジスカル様がデザインしたのよ」

「シーモア。お前ならきっと似合う。複数用意してあるんだ。遠慮なく着てくれ」

「……アリガトウゴザイマス」

 

 私、『ジスカル』を倒します。必ず、倒します。

 

 

 

 あれから数日後、マイカ総老師との面会のため、私はベベルに来ている。もはや見た目は、原作シーモアとほとんど変わらない。……お腹が冷えます。

 

 ベベルに来るのは久しぶりだが、相変わらずだな。自分たちの都合の良いように機械の許可・不許可を決め、陰で平然と教えを破る。まあ、原作を知っている身としては当然かとも思うが。

 

「……ほほう。この者が其方の息子か?ジスカル?」

「はい。マイカ総老師様。シーモアと言います。シーモア、挨拶を」

「お初にお目にかかります。ジスカル=グアドが息子、シーモア=グアドと申します」

「ふむ。時にシーモアよ」

「何でしょうか?」

「お主は、エボン教や究極召喚をどう思っておる?」

「それは……」

「隠さずとも良い。お主が母と共にエボン=ドームを訪ねたことは知っておる。ジスカルに聞かされているのだろう?」

 

 やっぱり原作で、腹の中真っ黒だった爺と話していても面白くないな。どうせ自分と反発するようなことを言えば、影響力を削ぎ、同調するようなことを言えば 取り立てるのだろう。

 

「確かに父より聞かされております。その上で、エボンの教えも究極召喚もスピラには必要かと」

「そうかそうか。うむ。ジスカル。よくできた息子だな」

「ありがとうございます」

 

 ちょろすぎるだろう。

 

 

 ジスカルは、他にも用事があるがそれはまだ、私に見せられない部分だそうだ。暇になってしまったな。その辺をうろつくとしよう。

 暫くすると、人気がなくなってきたがなにやら声が聞こえてきた。しかもこれは……子供の泣き声じゃないか!?

 声のする方向へ進むとうずくまって泣いている子供がいた。

 

「どうかしたのかい?怪我をしているなら見せてみなさい。私は白魔法が使えるから治してあげよう」

 

 声を掛けると、子供は泣いたままだが顔を上げた。オッドアイで茶髪の女の子のようだ。

 

「……ぐすっ…………ううん。ケガしてない。……ひぐっ」

「じゃあ、どうしたのかな?お父さんかお母さんとはぐれてしまったのかな?」

「…………お母さん……う、うわあああぁぁぁん」

 

 やばい。滅茶苦茶泣き出した。とりあえず、「お母さん」がNGワードだったらしい。ちょっとどうしていいか分からない。頭をなでるくらいはしてみる。

 

 数分間、頭をなで続けていると次第に落ち着いてきたらしい。ポツリポツリと自分のことを話してくれた。要約すると、お母さんが一度故郷へ帰るために船に乗り、その船が『シン』に襲われお母さんは亡くなったらしい。

 スピラではよくある話だ。だけど、流石に目の前で小さな女の子が泣いていると心にくるな。

 

「……そうか。辛かったね。でもこんなところに一人でいてはいけない。お父さんは?」

「……おしごと」

「じゃあ、お友達は?」

「……いない。お母さんが『あるべど』だから、わたしとはあそばないって」

 

 ん?母親がアルベド族?まさか……

 

「い、今更だけど自己紹介しようか。私はシーモア。君は?」

「……わたしはユウナ」

 

 あ~。確定した。この子、原作ヒロインだ。そうだよな。シーモアとユウナは11歳差だから、ユウナは今4歳だよな。しかし、原作シーモアよ、いくら13年後とはいえこの子と結婚式挙げてキスしたのか。事案だよ、事案。

 それはともかく……

 

「ではユウナちゃん。私と友達になろう」

「……いいの?わたしのお母さんは『あるべど』で……」

「ああ。ユウナちゃんは、アルベド族と人間とハーフなんだろう。だが、安心して欲しい。私もグアド族と人間のハーフだ」

「……わたしといっしょ?」

「ああ。一緒だ」

「わたしのともだちになってくれるの?」

「ああ。勿論だ」

「うう、うわあああぁぁぁん」

 

 また泣き出してしまったので頭をなでる。

 

 勘違いして欲しくないのだが、私はあくまでも子供を元気づけただけで疚しいところは無い。確かに将来、敵対しないでくれれば良いなとは思っている。光源氏計画などは無い。そもそも私は基本的に原作カプ派だし、FF10で個人的に好きな女性キャラクターはルールーだ。

 



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6話

 ユウナちゃんが泣き止んだ後、2人ともまだ時間があるので一緒に遊ぶことになった。

 泣き止んでくれたことも、原作ヒロインと仲良くなれたことも嬉しいのだが少し驚いている。

 ユウナちゃんは、想像以上にお転婆だった。

 

「わぁ~い。シーモアさん。こっちこっち!」

 

 目の前のユウナちゃんは、体の周りに赤、青、黄、白、の四色の光の玉を浮かべ、子供とは思えない速さで走り回っている。原因は私だが。

 そもそも私の中には、子供は突然走り出し転ぶというイメージがあった。回復魔法を使えばすむ話だが、わざわざ痛い思いをさせることもないだろうと思い、"プロテス"を使った。"プロテス"は物理防御力を上げる魔法で、転んでも平気になると考えた。だが、ユウナちゃんは魔法が発動するときの、目の前に光の壁が現れるのが気に入ったらしい。もっともっととせがまれた。

 そう言われて調子に乗った私は、属性攻撃を防ぐ"バファイ""バウォタ""バサンダ""バコルド"魔法防御力を上げる"シェル"動きを速くする"ヘイスト"を次々に使った。結果として突然今までより速く走れるようになったユウナちゃんは、はしゃいでいる。

 

「……あれ?消えちゃった……。シーモアさん、もう一回!」

「ああ。いいとも」

 

 チートの方も使えば更に色々なことができるが、流石に自重している。

 

 

「……んん~。シーモアさん、おんぶぅ」

「はいはい。そろそろ、ユウナちゃんのお父さんの所に行こうか?」

「うん。あっちだよ」

 

 走り回って疲れたらしく、少し眠そうだ。眠ってしまう前に送り届けなくては。

 

 

 

「ユウナ!何をしていたんだい?」

「シーモアさんと遊んでたの。シーモアさん、すごいんだよ。こう、光るたまがくるくる~って!」

 

 この人がユウナちゃんのお父さんか。まあ、原作知識で知ってはいた。後の"大召喚士"ブラスカ。『シン』を究極召喚により打ち倒し、命を落とす人。

 

「はじめまして。シーモア=グアドと申します。ユウナちゃんが泣いているところに出くわしたので、少しの間一緒にいました」

「ああ。はじめまして。ブラスカです。その……グアドということは」

「ええ。ご想像の通りかと。ジスカル=グアドの息子に当たります。また、ご存知かもしれませんがグアド族と人のハーフでもあります。そういった事情もありまして、見過ごせませんでした」

「……なるほど」

「ねえ、お父さん。わたし、ねむくなってきちゃった……」

「うん?そうだね。少し眠るかい?」

「……ううん。シーモアさんともう少しお話したい……」

「だったら、ユウナちゃん。私はブラスカさんと話をしているから、その間お昼寝したらどうかな?後で起こしてあげるから」

「……おひるねしてるあいだにいなくなったりしない?」

「勿論」

「やくそくだよ?」

「ああ。約束だ」

 

 ……限界だったらしい。ユウナちゃんは直ぐに眠ってしまった。

 

「ユウナが、大分お世話になったみたいですね」

「いえ。放っては置けなかったので」

「……君にも似たような経験が?」

「……そうですね。グアド族には排他的な部分もありますから、幼い頃に少し」

「……ユウナは、泣いていたんですよね?」

「ええ。ですが泣いていた理由は、母親を失ったことであり、それを完全には共感できないであろう私は、ユウナちゃんを慰めるのではなく、目を背けさせることしかできませんでした」

「いえ。それだけでも十分です。ありがとうございました」

 

 ……この人は。自分も妻を亡くしたばかりだろうに。知ってはいたが、優しすぎるし真面目すぎる。いずれスピラの未来のために命を落とす人だ。そして、私はそれを知っていて、直接話して、良い人なのだと理解してなお、止めようとは思えない。

 止めようとして止まるはずもないが、その時がくれば、私はこの人の犠牲を許容するだろう。未来のためだと、無駄死にでは無いのだと自分に言い聞かせて。……反吐が出る。

 

「シーモア君は、ユウナと友達になってくれるのですか?」

「既に友達になりました」

「同情ですか?」

「……否定は、できません」

「そうですか……。これからもユウナをよろしくお願いします」

「良いのですか?」

「ええ。ベベルに住んでいますから、いつでも遊んであげて下さい」

「ベベルを訪れた際は、必ず」

「ありがとう。…………実は私は、召喚士となるための修行をしているんだ」

「……!」

「驚いたようだね。勘違いして欲しくないんだが、『シン』に復讐したいわけじゃないんだ」

「…………」

「ユウナが、君たちが生きる未来が平和なものであって欲しい。妻のような悲劇がなくなって欲しい。それが私の望みだよ」

 

 違う。あなたじゃ『シン』を滅ぼせない。そしてユウナちゃんは召喚士になる。……あなたじゃなくても良いのかもしれない。必要なのは「ジェクト」と「ティーダ」だ。召喚士は別人でも良いかもしれない。

 マダ、カエラレル。

 

「ユウナちゃんはどうするのですか?」

「……それが気掛かりだった。けれど君がいてくれるならば」

「無茶苦茶です!今日、会ったばかりの他人を信用するなど!」

「そうかな?私の目に狂いはないと思うけどね」

「召喚士など他の誰かが……」

「その誰かにも大切な人がいて、その誰かを大切に思う人がいる」

「それは……」

「それに私は、あの子に胸を張れる父親でありたいという願望もあるんだ。例えば、グアド族に君の居場所を作ったジスカル老師のように」

「っ、父は賭けに勝っただけです!それも負けても命を失うことはなかった!だが、あなたのそれは賭けにもならない!」

「そんなことはないよ。私も賭けてみるさ。っと、ユウナが起きてしまいそうだ。この話はここまでにしよう」

 

 私には、何も変えられない。なにも、変えられなかったんだ。この人はもう、覚悟を決めている。ああ。知っているさ。もう、揺らがない。

 

 

「……んん。あっ、シーモアさん。やくそく、まもってくれたんだ」

「……意外と信用がないな」

「ははは。そうでもないさ。おはよう、ユウナ」

「おはよう、お父さん。そうだ!シーモアさん、またあの光るたまだして!」

「光る玉?そういえば、そんなことを言っていたね。どんなものだい?」

「いえ、そう特別なものでもないですよ。"バファイ""バウォタ""バサンダ""バコルド"」

「わぁ~い」

「……こんなことに魔法を使っていたとは」

「問題は無いでしょう?」

「そうだけど……」

「ねえねえ、すごいでしょ?お父さん?」

「むっ。ユウナ。お父さんにも同じ魔法が使えるからね。いつでも言うんだよ」

「やったぁ」

「ブラスカ殿……」

「…………」

 

 そろそろ時間だな。

 

「では、ブラスカ殿。私はそろそろ。ユウナちゃん、またね」

「そうか。今日はありがとう」

「ううぅ。シーモアさん、またね。ぜったいだよ。やくそくだからね」

「ああ。友達との約束だ。絶対守るさ」

「うんっ」

 

 予定外の出会いはあったが、今回ベベルに来たのは正解だろう。今後、ベベルに来る回数は増えそうだな。

 

 原作まであと13年。私に何ができるのか?

 



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7話

 

 あれから何度もベベルを訪れ、ユウナちゃんと遊んだりブラスカ殿と話したりした。

 

「わたし、大人になったらシーモアさんのおよめさんになってあげる」

 

 などと、ユウナちゃんからありがちで、しかしシャレにならないことを言われたりもした。

 

 

 その他にも重要な人たちと出会った。

 

「君がシーモアか。ブラスカ様から話は聞いている。俺はアーロン。僧兵だ。いずれはブラスカ様のガードを務めるつもりでいる」

「はっはっは、やっぱりおまえさんは固いな。アーロン。っと、オレはウェン=キノック。ま、うだつの上がらない僧兵だよ」

 

 アーロン殿とキノック殿。どちらも原作キャラクターであり、アーロン殿はブラスカ殿だけでなくユウナちゃんのガードも務めることになる。そして、キノック殿はいずれ老師となり、権力に毒され、最後はシーモアに殺される。

 私はキノック殿を殺害するつもりはないが、この人の好さそうな彼が原作のように歪んでしまったならば、利用するつもりだ。 

 

「はじめまして。シーモア=グアドです。ブラスカ殿から話を聞いているとのことですが、何かご用件でも?」

「ああ、いや。そういう訳じゃないんだが……」

「なあに、ブラスカさんがユウナちゃんのことを頼んだ相手がどんな奴か、確かめに来ただけさ」

「キノック!お前!」

「なるほど……。まあ、不安に思われても仕方がないでしょう。それで?私は合格ですか?」

「……すまんが、分からん。悪い奴ではないと思うが。今はブラスカ様の人を見る目を信じる」

「おいおい、アーロン。ベベル勤務でもないオレを巻き込んでおいて、情けないこと言うなよ。直ぐに判断出来ないなら、もう少し話してみろって」

「……そうだな。結論を急ぎすぎたか。シーモア、もう少し付き合ってくれ」

「ええ。構いませんよ」

 

 それから、2人と自身の境遇やジスカルの手伝いをしていることなどを話し、打ち解けることができた。2人からも僧兵の実情などを聞けたのは、今後役に立つかもしれない。

 ついでだから、少しからかってみよう。

 

「アーロン殿は、いつもその格好なのですか?」

「うん?そうだな。俺は大剣を扱うんだが、着崩していないと振り辛くてな。非常時の為に、いつも着崩している」

「オレは、普段からは着崩さなくても良いだろう、と言ってるんだがな。頑固な奴で聞いちゃくれないんだ」

「そうですか。つまりいつも腰にはとっくりを付けている、と?」

「……ああ」

「ちなみに、中身は?」

「…………いつもは、水だ」

「ぷっ。諦めろ、アーロン」

「キノック!」

「僧兵としてどうなのでしょうか?」

「シーモアも、あんま追い詰めてやんな。酒は消毒にも気付けにも使える。皆、多少は持ってるもんさ。寺院にも黙認されてる。ま、アーロンのとっくりはちとでかいがな」

「問題はなさそうですね」

「……何故だ。俺が見定められている気分になってくる」

 

 

 

 そうして2年半がすぎた。

 私は相変わらずジスカルの手伝いをしながらベベルとグアドサラムを行き来し、次第にジスカルの後継者として認識されるようになった。ブラスカ殿は、召喚士となるための修行を続けている。もうすぐバハムートを召喚できるようになるだろう。ユウナちゃんは、私によく懐いてくれている。私以外にも、アーロン殿と仲良くなれたようだが、やはりベベルでは避けられることが多い。アーロン殿は、ブラスカ殿のガードになることが決まっているが、今は一僧兵として各地で魔物と戦っている。キノック殿も各地を転々としており、こちらはユウナちゃんと会う機会もないそうだ。

 そんな日々の中、ジスカルからある話を聞いた。

 

「そうだ。シーモア。ベベルでの噂を聞いたか?」

「……心当たりがありませんね。どんな噂でしょうか?」

「うむ。なんでもザナルカンドから来たとか言う男が現れたらしい。それも大昔の機械の街、ザナルカンドからな」

「っ!本当ですか?」

「むう、こちらに伝わってきているのはあくまで噂だからな。詳細は、ベベルに行ったときに確かめるしかあるまい」

「そうですか……」

「珍しく気にしているな。近くに『シン』がいたという情報もある。『シン』の毒気にやられた者の妄言の可能性も高い」

「……そうですね」

 

 間違いない。「ジェクト」だ。

 

 

 

 「ジェクト」に会って、どうするわけでもない。何かできるわけでもない。むしろ「ジェクト」に関しては、私の目的のために原作のままでいてほしい。「ジェクト」を犠牲にすることに、心が痛んでも止めようとは思わない。他の手段など何も思いつかないのだから。イレギュラーな存在の私は接触するべきではないかもしれない。会わない方が良いだろうと、思っていた。

 

 まあ、現実が私の思い通りになるはずもなく……

 

「シーモアってのはお前か?なんでぇ、ヒョロヒョロじゃねえか」

 

 私の予想以上に、状況は進んでいるようだ。

 

「確かに、私がシーモアですが…。あなたは?」

「シーモアさん。この人はジェクトさん。召喚士になったお父さんのガードになってくるんだって!」

「そういうこった。ま、よろしくな。安心しろよ、ユウナちゃん。ブラスカの奴は絶対、オレとアーロンが守ってやっからな」

「うん!」

 

 ブラスカ殿が召喚士になった、か。ならもうじき、ブラスカ殿たちは旅に出るのか。

 

「つまり、あなたが噂の"ザナルカンドから来た男"ですか……」

「なんだよ。信じてなさそうだなぁ。けど本当だぜ。遺跡なんぞじゃあなくて、夜も眠らねぇ機械の街だ。オレぁ、そこでブリッツボールのスーパースターだったんだ!……だってのにどいつもこいつも、『シン』の毒気だなんだと言いやがって」

「そうだ!ジェクトさん。シーモアさんにアレ、見せてあげたらどうかな?シーモアさんなら、きっと信じてくれるよ!」

「アレ?」

「ははっ!ユウナちゃんには敵わねぇな。良ぉーし。特別に見せてやるとすっか!」

 

 「ジェクト」……ジェクト殿で良いか。とにかくジェクト殿は、ブリッツボールを用意し、壁から十分な距離を離してセットした。そして、勢い良くボールシュートし、跳ね返ってきたボールをパンチで、最初に当てた所へ正確に当てた。どんな回転が掛かっていたのか、ボールは今度はジェクト殿の頭上、数メートルの高さに跳ね返り、それに合わせジェクト殿もジャンプ、空中で自身の体に回転を加え、先程よりも強烈なシュートを放つ。放たれたボールは、やはり正確に同じ場所を捉えた。着地したジェクト殿はどや顔である。

 

「ざっとこんなもんよ!」

「ね?ね?すごいでしょ!ジェクトシュートっていうんだよ」

「……これは、すごいですね」

「正式には、ジェクト様シュート3号だ」

 

 知ってはいたが、実際に見てみると凄いな。

 

「ねぇ、シーモアさん。ジェクトさんがザナルカンドから来たって、信じてくれるよね」

「……そうですね。あんなシュートを撃てる人が、今まで無名だったなど有り得ない。もしかしたら、本当なのかもしれませんね」

「だ~から、そうだって言ってんだろうが」

 

 それが正しいことは知っているが、シュートだけでザナルカンドと結び付けるのもおかしいだろう。

 

「ところでジェクトさん、どうして3号なの?」

「あ~、そりゃ、まあ、ザナルカンドでは、試合の度に今日こそは1号や2号が見れるかもしれない、って観客がきてくれるもんだからよ」

「ふむ。つまり、1号と2号は……」

「ねぇよ。……なんだ?なんか文句あっか!?」

「いいえ」

「あ~。シーモアさん、笑ってる」

「……ちっ」

「ではジェクト殿、4号は?」

「……面倒なガキだな。開発中だよ!」

 

 いつまでもこんな風に過ごせたらなあ。

 でも、ブラスカ殿は召喚士になった。もうすぐ旅が始まる。10年後に繋がる旅が。

 



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8話

会話文が多くなってしまった……


 今日、ブラスカ殿たちから話があった。

 

「私たちは、今日の深夜に旅に出ようと思う。見送りには来なくて良いよ」

「……そうですか」

「ユウナとは、これから話す。……ユウナのこと、頼むよ」

「……はい」

「シーモア。俺からも頼む」

「ったく、辛気臭ぇ奴らだなぁ。アーロン、オレたちがブラスカを守る。ブラスカは無事に旅を終えて、『シン』をぶっ倒す。楽勝だろ」

 

 そうか。ジェクト殿はまだ、召喚士の運命を知らないのか……。

 

「旅のご無事を祈っております」

「……ありがとう」

「任せてくれ」

「へっ、安心しな。オレにも、ザナルカンドにユウナちゃんと同じくれえのガキがいるんでな。ユウナちゃんのためにも、ブラスカを守りきってやらぁ」

 

 このとき私は、これがブラスカ殿との最後の会話になるだろうと思っていた。

 しかし、私の存在はやはり物語を捻じ曲げてしまっていたらしい。

 

 ベベルに泊まる予定だった私を、夕方にユウナちゃんが訪ねてきた。

 

「シーモアさん。今日の夜中にお父さんが、召喚士として旅に出るって……」

「ああ。私もブラスカ殿から聞いたよ。ブラスカ殿と一緒にいなくていいのかい?」

「……すぐに戻るよ。でも、どうしてもシーモアさんにお願いしたいことがあって……」

「なんだい?」

「わたし、お父さんのお見送りがしたい! お父さんは、しなくていいって言ってたけど……わたし、どうしても……」

 

 ……原作でブラスカ殿は誰も見送りがいないことを、決意が鈍らなくて良いとしていた。もしかしたら、ユウナちゃんに見送りをしなくて良いと言ったのも同じ理由かもしれない。だが、私は見送ってはいけないとまでは言われていない。その程度で鈍る決意でもないだろう。

 

「分かったよ、ユウナちゃん。じゃあ、夜に迎えに行くよ」

「うん! ありがとう! 約束だよ?」

「約束だ。それじゃ、今はブラスカ殿のところに戻るんだ」

「分かった! また後でね!」

 

 

 夜も更けてきた。そろそろだろう。ユウナちゃんを起こして、ベベルにあるマカラーニャ湖へ向かうための橋、グレート=ブリッジに行く。

 

「ユウナちゃん。起きてくれ。さあ、ブラスカ殿を見送り行こう」

「……んぅ? ……うん」

 

 ユウナちゃんはまだ寝ぼけているみたいだが、途中で目も覚めるだろう。

 グレート=ブリッジに着くと、丁度ブラスカ殿が出発しようとしているところだった。

 

「しっかし、ブラスカよう。『シン』と戦うショーカンシ様の出発だってのに……。侘しいなあ、おい」

「これで良いさ。見送りが多いと、かえって決意が鈍りかねない」

 

 ……なんだか私が空気の読めない奴のようだ。そんな私とは関係なくユウナちゃんは、ブラスカ殿の元へ走っていく。

 

「お父さん!」

「ユウナ!?」

「なに?」

「おぉう。こうでなくっちゃな」

 

 アーロン殿が私を睨み、ジェクト殿は笑っている。

 

「シーモア! お前、どういうつもりだ!?」

「ユウナちゃんに頼まれただけですよ。見送りに来るなとまでは言われてませんから」

「屁理屈を! ブラスカ様はなあ!」

「これぐらいで揺らぐ覚悟ならば、旅になど出なければいい」

「貴様!」

「落ち着けよ、アーロン。あっち見てみな」

 

 ジェクト殿が示した方では、ブラスカ殿とユウナちゃんが話している。

 

「ユウナ、どうしてここに?」

「シーモアさんに頼んだの。今日いっぱいお話したけど、やっぱりいってらっしゃいって言いたくて……」

「ありがとう。安心しなさい。怒ってなどいないよ」

「……お父さん。行っちゃっうの?」

「ああ。私は行かなくはならない」

「……そっか。 いってらっしゃい、お父さん」

 

 ユウナちゃんは、精一杯の笑顔を浮かべていた。

 

「ははっ! 最高の見送りだな」

「……すまん、シーモア。お前が正しかったようだ。ブラスカ様も、より一層決意を固められたようだ」

「結果論に過ぎないでしょう。私は、本当にブラスカ殿が揺らいでも構わなかった」

 

 ……実際に揺らいでしまったら取り返しがつかないが。その場合には色々諦めてしまうが、全く違うハッピーエンドではなくても小さな幸せがある世界になったかもしれない。

 ここまでは、想定内だった。ユウナちゃんが、爆弾を投下するまでは。

 

「いってきます。ユウナ、元気でな」

「うん! シーモアさんとグアドサラムで待ってるね!」

「うん?」

「は?」

「なんだぁ?」

「はい?」

 

 空気が、凍った。

 そしてアーロン殿が、再び私を睨む。ブラスカ殿も睨んではいないがこちらを見ている。ジェクト殿はよく分かっていないらしい。

 

「オイ。シーモア、ドウイウコトダ?」

「いえ、私にも何がなんだか……」

「シーモア君。流石に説明してもらいたいのだが?」

「?おめえらが、何を気にしてんのかは知らねえけどよ、ユウナちゃんに聞いてみたらどうだ?」

「そうですね。ユウナちゃん、私とグアドサラムで待つというのは?」

 

 ユウナちゃんは、しっかりと答えてくれた。

 

「うん! シーモアさんは、もうすぐグアドサラムに帰るんでしょ?」

「ああ。そうだね」

「その時にわたしも一緒に連れていって欲しいの」

「どうしてかな? ベベルからグアドサラムまではそれなりに遠いし、危ないんだよ」

「だって、お父さんが旅の途中でグアドサラムを通るって、でもシーモアさんの方が早く着くだろうって。だから、シーモアさんと一緒にグアドサラムに行けば、そこでお父さんに会えると思って」

 

 間違ってはいない。確かに私はもうすぐグアドサラムに帰るし、海路を通れば勿論、『シン』を警戒して陸路で行っても、マカラーニャ寺院によらなければならないブラスカ殿たちよりは早く着く。

 

「ブラスカ殿が原因じゃないですか」

「……」「……」「……」「?」

 

 やはりジェクト殿はよく分かっていないようだが、今生の別れを娘に告げたつもりでこれではいたたまれないだろう。というか、旅の途中でユウナちゃんと会うことになったら、流石にブラスカ殿の決意も揺らぐんじゃないだろうか?

 

「あの、シーモアさん……ダメ?」

 

 上目遣いでユウナちゃんに見られ、断れなくなった私はブラスカ殿に丸投げする。スピラではどこに行くにしても危険が付きまとうしな。

 

「ブラスカ殿が許可してくれたら構わないよ」

「……お父さん……」

「……」

「ブラスカ様! グアドサラムには寺院があるわけでもなく、通過するだけです! 移動中の危険を考えれば、ベベルで待っていて貰った方がいい! ビサイド島に行った後、ガガゼト山に向かう前にベベルにも寄れます!」

「お父さんが話してくれた……今日が最後かもしれないって……。わたし、そんなのやだ……」

「アーロン。おめぇ、何をそうカッカッしてやがるんだ? シーモアと一緒なら護衛もいんだろ」

「あんたは黙っていろ!」

 

 ブラスカ殿の答えが出たようだ。

 

「分かったよ。ユウナ、グアドサラムで待っていてくれ。そこでまた話をしよう」

「! うん!」

「ブラスカ様!?」

「大丈夫だよ、アーロン。私の決意は変わらない」

「けっ、心配しすぎなんだよ」

「ははは。そういうな、ジェクト。シーモア君、よろしく頼む」

「分かりました」

 

「では今度こそ、行ってきます」

「いってらっしゃい」

「お気をつけて」

「はあ、先が思いやられる……」

「なにブツブツ言ってやがる」

 

 締まらない旅立ちになってしまったな。少し申し訳なく思う。

 

 

 十数日後、私はユウナちゃんを連れてグアドサラムに帰って来ていた。一応ジスカルもいる。海路を通った際、ユウナちゃんは初めて船に乗ったらしく、はしゃいでいた。

 さて、グアドサラムを一通り案内した後家に来たんだが……

 

「あなたがユウナちゃんね? シーモアから色々聞いているわ。安心して生活してね」

「はい。よろしくお願いします、シーモアさんのお母さん」

「まあ、礼儀正しい子ね! それでは呼び難いでしょうから、お姉さんでいいわよ」

「はい! お姉さん!」

「ああ、本当にいい子だわ。家のシーモアは、年々可愛げがなくなって……」

 

 ……母上も歳を気にするようになったか。っ!! 物凄い睨まれている。「ペイン」を放ちそうな勢いだ。

 

「……ユウナちゃん。後で、シーモアに何でも言うことを聞かせられるような弱みを教えてあげるわ」

「本当ですか!?」

 

 喜ばないでくれ、ユウナちゃん。私になにをさせるつもりだ?

 ああ。なんだろう、この2人が出会っただけで嫌な予感がする。

 

 

 

 

 




「ペイン」は即死効果のある睨み付けです。

明日と明後日の更新はありません。


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9話

 

 帰って来て数日経った。ブラスカ殿がグアドサラムを通るまで、まだしばらく日があるだろう。

 ユウナちゃんは、グアドサラムに慣れてきている。グアド族は、エボンの教えを受け入れてからまだ数年でしかない。他の街ほど教えを深く理解しておらず、アルベド族に対する偏見も少ないはずだ。そもそも念には念を入れて、一般人にはユウナちゃんは旅に出ている召喚士の娘としか説明していないが。

 

 ユウナちゃんと最も仲良くなったのは母上だ。現在もユウナちゃんに余計なことを吹き込んでいる。

 

「シーモアったら昔ね、ガガゼト山で魔物に眠らされちゃって雪だるまみたいになっちゃったこともあるのよ」

「そうなんですか!?」

 

 記憶にございません。というか母上、息子の失敗談を笑い話にしないで欲しい。

 ユウナちゃんは心配そうに私を見ているが、まあそれほど危険ではなかったはずだ。本当に危険な状態だったなら、母上がビンタでもして起こしただろうから。……実際に食らったことが何度かある。

 ユウナちゃんと母上はリビングに当たる場所で談笑している。私とジスカルもいるが、空気でしかない。私は会話の内容が内容のため混ざるつもりはなく、ジスカルは混ざったところで話すことがないのだろう。

 

 

 一週間ほどが過ぎ、ブラスカ殿たちがグアドサラムに来た。まあ、各地で召喚獣を得る旅としてはまだまだ序盤だが。

 本来、グアドサラムには寺院も祈り子様の像も無いので召喚士たちは通りすぎるだけだ。ブラスカ殿たちも、長居はしないのだろう。グアドサラムに来て、早々にジスカルといくつか話をすると、ブラスカ殿とユウナちゃんは私たちの家の一室で話し始めた。流石に親子の会話に首を突っ込む気は無く、私はアーロン殿たちと話をする。

 

「お久しぶりです。アーロン殿。ジェクト殿」

「ああ。久しぶりだな、シーモア」

「……おう。そうだな」

 

 ……ジェクト殿の様子が少しおかしい?

 

「ジェクト殿はどうかされたのですか?」

「ん? ああ。……なに、召喚士の運命を知っただけだ」

「……そうでしたか」

「はっ! 心配なんぞするんじゃねえぞ。オレも、もう覚悟を決めてんだ」

 

 覚悟っていうのは、ザナルカンドに帰れないことか? 私も、すでに原作の細かい部分は思い出せないな。

 

「それは、ザナルカンドに帰れないかもしれないということですか? それは諦観に近いのでは……」

「本っ当に面倒なガキだな! ちげぇよ。オレも、ブラスカ為に、スピラの為に命かけようって覚悟だ。ああ、言葉にするとムズムズしやがる」

「こいつにしては、良い覚悟だろう?」

「それはそうですが、なぜそこまで……」

「……ガキと女房に胸張れる男でいてぇからな」

 

 ……そうだな。ジェクト殿はこういう人だった。

 

「あ~。それでだな、少し頼みてえことがあるんだが」

「? 何でしょうか?」

「ガキに見せる為に、録画したスフィアがあるんだ。1つ預かっておいてよ、オレのガキ、ティーダってんだがそいつがスピラに来ちまったら渡してやって欲しい」

「シーモア、聞いてやってくれ。こいつも真剣なんだ」

「構いませんが、1つでいいんですか?」

「ああ。おめぇを信用しちゃいるが、あいつがスピラのどこに来るか、分かんねえからな。これからの旅の最中にも色々撮って、バラバラに置いといてやろうと思ってんだ」

「は、はあ……」

 

 探すにしてもヒントも無いんじゃ探せないだろう。どうしたものか。

 

「そんなことをして、どうやって見つけさせるんですか?」

「なあに、ほんとに来ちまったら俺に泣きつくだろうからな。ヒントぐらいくれてやるさ。ま、あいつなら世界中にばらまいときゃ、1個くらい自力で見つけそうだがな。渡した分はオレが……な」

 

 ……当然の話か。ジェクト殿は命を賭ける覚悟はある。命を落としてしまった時のことを考えている。だが生き残った時のことも考えているんだ。始めから死ぬつもりのはずが無い。

 

「ふん。そんなに弱気では、旅について来れそうもないな」

「んだと! アーロン!」

 

 私は、原作と同じ状況にするためこの人たちが原作と同じ状態になることを望んでいる。無理に原作と同じ流れを強要するつもりはないが、このままなら私が知っている通りになる。今更、変える勇気はない。罪悪感に押しつぶされるのも、自己嫌悪するのも『シン』を滅ぼした後でいい。

 

 

 ブラスカ殿とユウナちゃんの話は、長い時間が掛かったが2人はお互いに納得はできたのだろうか?

 

 夜にブラスカ殿と話すことになった。

 

「シーモア君。全ての寺院を巡り終えることができたなら、ガガゼト山に向かう前にもう一度グアドサラムに寄らせて欲しい」

「勿論、構いませんよ」

「そのときには……。いや、今言うべきことではないね」

「……」

「それまでユウナもここにいさせてくれないかな?」

「よろしいのですか? ユウナちゃんをベベルに送り届けることもできますよ?」

「……旅が順調に進めば、次で最後になってしまうだろう。シーモア君にも話しておきたいんだ」

「……分かりました」

 

 ブラスカ殿が次にグアドサラムを訪れたときが、最後、か。 

 

 やはり召喚士の旅は先を急ぐものらしく、翌日には出発するようだ。

 そして、出発の時間が来た。

 

「いってらっしゃい、お父さん」

「いってきます、ユウナ」

 

 2人はグアドサラムでもう一度会える予定だからか、普通の親子の、普通の会話に見えた。本心は分からないが、無理をしているようには見えない。

 

 私はジスカルと共にいくらかの物資を用意した。

 召喚士はスピラの希望だ。その召喚士の旅を援助することはおかしなことではない。お酒を渡しても不思議はない。

 

「ほう。良い酒だな」

「へぇ。気が利くじゃねぇか」

 

 暫くして、幻光河の河渡しをしている「シパーフ」という巨大な生き物に、とある召喚士のガードが酔っ払って斬りかかったという噂を聞いたが、私には関係ないはずだ。

 

 

 2か月後、ブラスカ殿たちは再びグアドサラムにやって来た。別れを、告げるために。 

 

 

 

 



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