『十四人目の男』 (あったりけ)
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プロローグ とある少女の門出

初めまして、あったりけと申します。
ふと思いつきで昔ハマった天外魔境の外伝である青の天外の二次創作を書いてしまいました。
初投稿で至らぬ点もあるでしょうが。温かい目で見守っていただけると幸いです。
どんなに時間が掛かっても完走はしたいと思っています。長い付き合いにはなるかと思いますがどうぞこれからよろしくお願いいたします。

あらすじで書いたオリ主は最初の話ではまだ出てきません…(すでにグダグダじゃないか・・‹呆れ›)
次回から本当のスタートになります…


『どこまでもつづく 青い空と 

  どこまでもつづく 青い海をうつし ここに青の大地がある 

   この地に すむものは たとえ それが小さな命であろうと

    〈青〉のいみを しるものである 

   ここは 青の大地 すべての命が いきる大地』

                   詠み人知らず

 

『此頃都ニハヤル物 マもの 怨霊  虚騒動《そらさわぎ》

 千人きがんノ沙汰モなく 鬼ノ角ニ 胡坐をかくは モウケン将軍』

               【天帝年間記 ロクハラ落書】

 

 

 夢を見ていた。不思議な夢だ。何かに追われていた、何かは分からない。ただ追手が放つ恨み、怨嗟、憎しみ、悲しみと言ったありとあらゆる負の感情が私に突き刺さっているのは分かった。

無我夢中で走った、どこかも分からない大きな路地をただ真っ直ぐと。すると前に大きな朱色な門が見えてきた。門は閉ざされていたが、なぜかそこへ逃げ込めば助かるという直感があった。追手も逃がすまいと速度を上げ、猛火の様に迫ってきた。しかし、追手に捕まることはなかった。あわや捕まる瞬間に門をくぐり抜けたのだ。追手は門にはじかれ霧散していった。奇妙な安心感に包まれた後、意識がなくなっていくのがわかった。

 

 

大都 平安宮 衛士詰所

 

 大都の空を覆う鉛色の雲は厚く、月の光を固く閉ざしている。辺りを照らすのは燃え盛る篝火だけだ。

 「こんな夜に大都の町にでるのか…。まあ、いい。名前と性別を教えてくれ。書類に書かねばならない決まりなんでな。」

夜警の兵士は一度書類に目を落とした後、気だるげな瞳で私に一瞥をくれる。

 「名前は葵、性別は女よ。」

手早く兵士に告げる。確認事項が名前と性別だけなのは警備上問題ないのか疑問だが、そのおかげで今から大都へ出ることが出来るのだから気にしないでおこう。兵士は書類にさらさらと、何かを書き足して丸め、それを懐にしまった。

「よし、もう行っていいぞ。」

ぶっきらぼうにそう言うと兵士はそのまま奥の部屋へと入っていった。私は門番から預けていた剣を受け取り、腰に差して詰所を後にした。詰所を出てところで、先ほどの兵士に呼び止められた。

「待つんだ。…この大都ではマものが人を襲う。気を付けて行くんだぞ。」

やはり兵士なだけあって兵士としての責任感や、使命感があるのだろうか、先は怠そうであった目も今は真剣そのものだった。私は無言で頷いた。それに満足したのか兵士は踵を返して詰所へ戻っていく。私はそんな兵士の後ろ姿を見送りながら平安宮を後にした。

 

 平安宮の門をでると、大都の通りが眼前には広がっている。厚い雲で月は隠れ、大都の通りは暗く、見えるのは大都のへそと呼ばれる大灯篭の明かりだけだ。いきなりマものが出てくれるなと願いながら、私は大灯篭の明かりを目指して歩き始めた。歩いて数十歩、その時だった、頭に刺すような鋭い痛みが走るとともに、脳裏に少女の顔が浮かんだ。真っ直ぐな瞳の少女だ。すぐに痛みは引いた。

「今のは・・・、一体誰なの。」

頭をさすりながら、既視感のあるような、ないような奇妙な感覚を覚えながら、また歩みを進める。不思議な頭痛に頭をひねり、先ほどよりも明かりが近づいてきた所で今度は道のど真ん中に人が立っていた。顔が隠れるようなフードがついた白い着物を着て、顔を見えなかったが、明らかにその人間は私を見つめていた。そして、フードの陰から見える口元は極端に青白かった。

私はひどく混乱した、いくら明かりの頼りが大灯篭のみとは言え、白頭巾、白の着物の人間を見逃すなんてことはないはずだと思っていたからだ。腰に差した剣の柄に手を掛け静かに近づいていく。妖しげな雰囲気を感じながら後五歩の所にまで迫った時だ

「ゆくがよい・・・、お前が思う通りに・・・。」

頭に直接響くような、透き通った声で、その人間は話しかけてきた。驚いて私は固まってしまった。すると、畳みかけるように今度は右から声がした。

「さがすのだ・・・、お前の目的を・・・。」

私には何が起こっているのか分からなかった。目の前にいる人間と全く同じ様な、いや同じ人間と言って良い人間が右にいるのだから。

「そして見つけるのだ・・・。お前が一体何者なのかを・・・。」

右の次は左から声がし、振り向けばこれもまた同じ人間が立っていた。後ろを除いて三方を囲まれる形となった。緊張で体が強張るのがわかる。私は自分の頭がおかしくなったのか、それとも先の兵士が言ったようにマものの類なのか、とにかく何が何だかわからない。あまりに現実離れした出来事にあっけにとられ、身動きが止まっていると

「さあ、行くのだ・・・。お前の進むべき道へ。」

そう言い残して、三人の人影は煙のように消えていった。これは助かったのだろうか・・・。何だかわからないが夜なので、あまり長居しても良いことはないと思い、さっきよりも速足で大灯篭への道を急いだ。

 

「たすけて。」

再び歩き始めてからとまた頭痛に襲われた。しかも先ほどよりも鋭い痛みで幻聴まで聞こえた。ただ前回よりもぼやけていた脳裏に映る少女の顔ははっきりとしていた。桜色の頬をしたきれいな少女の顔だ。

「次から次と一体何なのよ!」

痛む頭を押さえながら一人、つぶやく。幸いにも痛みは先ほど同様すぐに引いていく。とにかく何か良くないことが私の身に起きていることは明らかだった。さらに歩調を早め、何とか大都のへそと呼ばれる大灯篭が目前の所までたどり着いた。すると、大灯篭のすぐ下に、またしても人の影があった。普通であれば大灯篭の周りに人がいることは不思議ではないが、立て続けに起こっている不思議な出来事の後では嫌でも警戒してしまう。大灯篭に近づいて行くと、その人影はこちらを振り向いた。私は驚きを隠せなかった。なぜなら、その人影の正体は、先ほどから頭痛の度に脳裏に浮かんできた少女の顔と寸分違わなかったからだ。

「助けて・・・。わたし、ずっと待っているの・・・。」

少女の顔は生気がなく、まるで能面のように感情を感じさせないものであった。私はさっきの白い着物の人物のこともあり、躊躇わず剣を抜いた。きっとこれはマものの類に違いない、

そう思った。

「来るなら来てみなさい・・。返り討ちにしてやるんだから!」

私は剣を構え、改めて少女を見た。まさにその瞬間だった、数十歩先の位置に居たはずの少女が、すぐ目の前に居るのだ。

「縮地法⁉」

でたらめだ。私は驚愕と共に焦りを感じた、懐に入られたらもうお終いだ。そう思い後ろ下がり距離を取ろうとするが、今度は地面に縫い付けられたように身体が動かない。少女が更に近づいてくる。身動きの出来ない私は近づいてくる少女をただ見ることしかできなかった。少女が両手を伸ばし、私の頬を掴んだ。私は生気を吸われて死ぬのか・・。そんなことを感じながら、迫ってくる少女の顔、そして淡い桜色の唇を見ていた。

 初めての口づけが女、しかもマものだなんて、私の人生ついてなかった。そんなことを思い浮かべながら。少女の冷たい唇の感触を最後に私の意識は闇へと沈んでいった。



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第一話 その男イルボン

何も勉強せずに書くのは難しいですね・・・。
これからは加筆修正も兼ねながら、ラーニングを重ねていきたいと思います。

投稿のペースは亀更新なので2週間~1か月に一話のスパンで更新はしていきたいと考えています。


 燦々と降り注ぐ太陽の光を浴びながら、イルボンは依頼主のいるクンミン村への道を歩いていた。

「しかし、暑いな今日は」

そう独り言を漏らす彼の額にはじんわりと汗が滲んでいる。

「久しぶりの依頼だから受けたが、こんな暑い日になるとはままならないもんだな」

またしても独り言をつぶやく。元は子供達が羨む、栄えある天帝の都、大都を警備する衛士だったが、数年前に天帝が崩御され、マ界の出身と噂されている、あの忌まわしいマ法院静とかいう野郎が台頭してから、あっという間に天帝の威光は衰退していってしまった。

 今では大半の貴族や有力者たちはマ法院を恐れて、奴の動きにだんまりを決め込んでいる。そうこうしている内に大都や世界各地に天帝の治世の頃にはいなかったマものが現れるようになりますます世情は、不安定になっていったのだ。

「天帝がまだ生きておられたならなぁ・・・。」

今日はどうにも独り言が多い日らしく、嫌な思い出と一緒にぽろぽろと漏れてくる。

天帝崩御の折、葬儀に参列する大都のロクハラを治める、モウケン将軍護衛の任に着いたときに、マものが現れたが撃退に失敗、将軍はなんとか逃げ果せたものの、それが将軍の逆鱗に触れ、イルボンはめでたく衛士をお役御免となった。とんだ災難である。今では元衛士だったことを活かして、便利屋まがいの傭兵稼業を営んでいる。皮肉にも世情の悪化から食い扶持に困ることはなかった。今から向かうクンミン村での依頼も、村はずれにある畑に出るマもの達の退治であるからだ。

 

垂れる汗を拭きながら歩き続けて、イルボンはクンミン村へとたどり着いた。村の入り口には、クンミン村の村長が数人の村人と共に出迎えてくれた。

「あぁ、イルボン。よく来てくれた、いつも済まんな。悪いが今回も畑に蛇のマものが現れおってのう」

「いつも、村には世話になっていますからね。これぐらいの事はお安い御用ですよ。」

一定の拠点を持たないイルボンにとって、村の宿を格安で使わせてくれる、クンミン村は顧客の中でも大切な存在だ。

「それで今回の被害はどれくらいです?」

「畑はマもの共に荒らされてしもうた・・・、それと村の者が咬まれての・・・。逃げ遅れた村人を庇って咬まれたが傷が深く、先ほど息を引き取ったのじゃ・・・」

そう漏らす村長と周りの村人達の顔には悲しみの影が見て取れた。

「イルボンさん!どうかあいつの仇を取ってくれ」

村長の言葉の後に続いて、村長と一緒に出迎えをしてくれていた青年がイルボンの前に出てきて頭を下げた。顔は見えないが、おそらく泣いているのか、体は小刻みに震えている。

「マものにやられた者は、この者と親しくてな・・、この者を庇ってやられたのだ。」

「俺の貯えから、幾分か多めに払う!だからマもの共を残らず退治してくれ!」

青年は、更に膝をついて悲痛な声で頭を下げてきた。

「わかりました。さっそくマものを片付けてきましょう。時間が空くと逃げられるかもしれませんからね」

イルボンは青年の肩に手を置き、必ず依頼は果たしますよと、声を掛けてマものが出たという村はずれの畑へと向かった。

 

村はずれの畑へたどり着いて見ると、畑はひどく荒らされていた。野菜は踏まれたのかひしゃげ、畝はマものと逃げまどっていただろう村人の足跡で崩れている。ここからは注意していかなくては。イルボンは肩に掛けてあった長筒に弾丸を込めた。畑の辺りを見回していると、調度一番奥のあぜ道に口に収まりきらない程の大きな牙を持った、真っ赤な鱗の蛇が移動しているのが見えた。

「ヴァイパーか・・」

イルボンは撃鉄を起こし、マものに狙いを定め、引き金を引いた。パンッと、乾いた音がした後に、マものがイルボンに気付き、接近してくる。

「やっぱり、もう少し距離近くないと当たらないかぁ。」

まだ訓練が足りないなと心の中でぼやきつつ、再度長筒に弾丸を込めてから肩に掛け、刀を抜いた。マものは既に数メートルの所まで迫ってきていた。マものは身体を大きく曲げ、イルボンに向かって跳躍してきた。イルボンは刀を袈裟に振り下ろし、マものを一刀両断する。マものの死体を確認した後、刀を鞘に納め、改めて辺りを見回す。

「畑の後を見るに、マものは一匹だけじゃないはずだが・・・」

畑には複数の痕跡があったが、実際にうろついていたのはコイツだけだったのは妙だ。そう思った矢先に、辺り一面のからを草むらをかき分ける音がした。すると一匹、二匹とイルボンを囲むようにマものの群れが現れた。

「囲まれたか」

イルボンは焦った。こうも囲まれては刀も長筒も使えない、マものはじりじりとイルボンに迫ってくる。冷や汗をかくイルボンは、クンミン村に来る途中で手に入れたマ石の事を思い出した。これならいけるかもしれない、イルボンは腰のポーチに手を伸ばした。

「こいつでも食らえ!」

マもの達が今かと飛び掛かる直前にイルボンはポーチに潜ませていた風のマ石を地面に叩きつけた。マ石が地面に叩きつけられると同時に辺りに鎌鼬の様な突風が吹き荒れ、マもの達を斬り付けていく。シューと、低い断末魔をあげながら。マもの達は息絶えた。

「なんとかなったな。この数ヤれば、しばらくは安心だろう」

風が収まった、畑一面には、バラバラになったマものの死体で埋め尽くされていた。

一応、依頼の確認の為と、死体から頭だけを切り落としていく。頭を落とすと、胴体は灰の様に崩れ、その場にはマものの体内で生成されたマ石のみが残された。頭と共にマ石も回収していく。今回の様にマ石は戦闘においても重宝するものだからだ。一通り戦利品の回収を終えたイルボンは頭を詰めた布袋を担ぎ、村長たちが待つ、村の中央へと向かった。

 




既にもうグダグダな文章ですね(笑)
今後もっといい文章を書けるように精進します・・・。


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第二話 死人の怪

自分の考えている事を文章化するのってすごく難しいですね…
なんとか文章の質を上げていきたいものです。


「うわあぁぁァァ‼!」

 イルボンが村に戻り、最初に聞いたのは村人達の悲鳴であった。ただ事ではない雰囲気を感じ取ったイルボンは、悲鳴のした方に全速力で駆け出した。逃げてきた村人に何事かを尋ねる。すると村人は顔を真っ青にして息せき切らせながら答えた。

 

「マものにやられて息を引き取った奴が突然起き上がって、村のみんなに襲い掛かってきたんだ! 今は村の若い奴らで抑えているから皆は避難しろと村長が!」

そう言うと、村人はイルボンが来た方向に走り去っていった。村人とは逆に彼が逃げてきた方へ行くと、掴みかかる村の若者達を投げ飛ばす死人の姿があった。

「なんちゅう力だ!こんなのどうしようもねえべ!」

村の青年がそう呟く内にも、次々と死人は抑えかかる若者を薙ぎ払っていく。薙ぎ払われた一人は運悪く農具に直撃し、胸を貫かれ絶命していた。

「後は俺がなんとかする!お前らは逃げるんだ!」

イルボンはマものの頭が入った袋を投げ捨て、肩に掛けた長筒に手を掛けたが、こう人が居ては、長筒の使用はあまりにも危険すぎる。そう思い、刀を抜いて死人に肉薄する。

 

「うあああ・・・おうこふぬ」

言葉にならない声を上げ、イルボンに向かってくる死人を横に一閃する。

「うご・・」

相手は少しよろめいたが、刀を振りぬいたイルボンを死人の前蹴りが襲う。もろに前蹴りを食らい、左半身に鈍い痛みが走る。

「死んでるからなのか、加減が無いねぇ・・・。それにしても一体どこからそんなパワーが生まれてくるやら」

そう呟くイルボンの額には脂汗が噴き出ていた。振りぬきにもろに食らったそのダメージは大きいものだった。死人はゆらりと歩みを進めてくる。

「できればやりたくなかったが、こういう状況ならしょうがないな」

イルボンは死人が振り上げた拳をかわし、その腕を切り落とす、刀身を通して、肉の繊維を斬り、骨を切断する感覚が体に伝わってくる。

 

「ゲぇぇえェ――」

死人は叫び声を上げたが、すかさず左腕を振ってくる。今度は上手く勢いを殺し、受け流して距離を取ることが出来たが、それでも痺れが残るほどの重さだ。

「腕一本切っても意に介さないか。死んでるってのは意外に厄介なもんだな」

とは言え、こうして確実に相手の力をそいで行けば、勝てない相手ではないと算段を建てていると、予想外のことが起こった。死人に殺された、村民が突然起き上がったのだ。さらには自身に刺さった農具を抜き、構えてこちらに向かってくる。一対一ならともかく、たとえ片方が手負いでも複数体相手では、非常に厳しい。頭の中で考えていても状況は好転するわけもなく、イルボンはじりじりと死人に挟まれる形になる。どちらの死人が先に来るか、或いは両方襲い掛かってくるのか見極めようとしていると。農具を持った死人が突然倒れこんだ。

 

「誰だか知らないけど、助太刀するわよ!」

そう言って死人を後ろから切り伏せたのは、さらさらとした茶色の長髪を赤いリボンで結い、透き通るような青い瞳をした少女だった。

「ゲベァぅグあぁ」

腕を失った方の死人がイルボンに迫る。イルボンは少女が作ってくれたこのチャンスを逃すまいと刀を振るう。横に振られた死人の拳を寸での所でかわし、死人の懐に踏み込み肘鉄砲を食らわせる。

「グウェあが」

そして堪らずくの字に折れた死人の隙を見逃さず突き出た頭に向かって刀を振った。鈍い斬撃の音がしてから、死人の頸が転がり、今度こそ死人(しびと)は本当に死人(しにん)となった。流石に頭を落とせば死人でも死ぬようだ。そうすると先ほどの少女が倒した死人はまだ生きているのではないか。イルボンは振り返り、少女に声を掛ける。

 

「頭を落とせば倒せるぞ!」

だが、振り向いたときには既に頭が落とされた死人と先ほどの少女が横たわっていた。

「おい! おい大丈夫か!」

少女に呼びかけるが起きる気配はない。パッと少女を見るに特に大きな傷は見当たらない。気を失っただけなのだろうか。イルボンは胸をなでおろした。

「とにかく、この場が収まったことを伝えないとな」

少女を抱えて民家の軒下に寝かせた後、イルボンは村中を回り、騒動が収まったこと、そして死体の安置と少女を運ぶように村長に伝えた。少女は村長のご厚意から村長の自宅に一時的に保護されることになった。イルボンは少女が運ばれた後、死人と戦った場所に妙に古臭い巻物が落ちていることに気付いた。

「あの娘の持ち物かも知れんな。一応預かっておくか」

イルボンは巻物を懐に入れ、少女が保護されている村長の家へと向かった。

 

 




次回の更新は2月7日あたりになります。


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第三話 旅の少女葵

主人公の口調がブレブレや・・・
自分が青の天外をプレイしてた時は葵ちゃんは元気な感じをいつも想像してました


「おーい! 村長さん居るかい?」

少女が落としたであろう巻物を懐に、イルボンは村長の屋敷にたどりついた。玄関の引き戸を叩き、村長を呼び出す。しばらくすると奥から、物音がして戸が開かれた。

「おお、イルボンか。此度は本当に助かったぞ、取りあえず上がってくれ。お前と共に戦った少女の様子も見てやっておくれ」

そう言われてイルボンは村長の屋敷に入った。玄関から入ってすぐの居間に通される。イルボンは座布団の上に腰かけると、村長は茶を用意してくると、すぐに引っ込んだ。しばらく屋への調度品などを見て時間が経つのを待っていると、村長が盆に乗せたお茶と、餅を持ち部屋に入ってきた。普段は貴重な餅であるが、今回の出来事で大いに助かったので労いにということらしい。イルボンはありがたく餅を頂戴し、腹を満たした。お互いに一息ついたところで村長が切り出した。

「しかし、今回は恐ろしい事件じゃったの・・・。マものもそうじゃが死者が動き出すなんぞとんでもないことじゃ。先の天帝が亡くなり、マ法院なるものが世を治めてからというもの、時世は乱れるばかりじゃ」

村長は頭を抱えながらぽつりとつぶやく。

「まさか死んだ者が動き出すなんて、誰も想像できやしませんよ。手足を切り落としてもなお、敵に向かって行く姿には姿かたちは人でも、もはやマものでしたから」

イルボンも村長の言葉には心底同意するように返した。しばらくは他愛もない会話が続いた所で、イルボンは懐の巻物が感触で村長の屋敷に来た、当初の目的を思い出した。

「ところで、村長さん。俺と一緒に死人と戦った例の少女の様子はどうなんだい?」

「おお、あの娘なら、今寝室で休ませておる。わしの家内と孫娘が看ておるよ。気絶していただけのようじゃし、しばらくすれば目も覚めよう。しかし、死人が二体になった所で助太刀し、更には死人一体をそのまま倒すとはの・・・。」

「何はともあれ、目が覚めた時には礼を言わきゃなりませんねぇ」

そうイルボンが言いやいなや、部屋の戸が大きな音とともに開けられ、村長の孫娘が大きな声で叫びながら入ってきた。

「おじいちゃん‼ あの子が目を覚ましたよ‼!」

村長の孫娘の報告を聞き、イルボンと村長は腰を上げ、少女が眠る寝室へと向かった。部屋へ着くと、少女は状態を起こし、村長の奥さんから貰ったであろう白湯を飲んでいた。

「どなたか存じ上げませんが、この度は村の為に戦って下さり感謝の極みです。村を代表してお礼を言わせていただきます」

村長が深々とお辞儀をしたのち、イルボンも後に続く

「俺からも礼を言わせてくれ。お前さんが居なかったら、俺も死人の仲間入りするところだった」

「気にすることはないわ、こんなご時世だし、困っているときはお互い様でしょ」

少女はそういうと。軽やかに起き上がり、少し動いて体の調子を確認し始めた。

「私は葵、今は旅をしているの、と言っても実際はあなたみたいに傭兵まがいな事をやってる流れ者よ」

そう葵は、イルボンを見ながら自己紹介をした。

「なるほどねぇ、道理で腕が多少は立つわけだ。俺はイルボン、元大都の衛士で今は見ての通り傭兵まがいの便利屋さ」

そうイルボンが返すと、便利屋の方がしっくりくるわねと葵はケラケラ笑ったので少し恥ずかしくなった。

「ねえ、村長さん。一つお願いがあるのだけれどいいかしら」

葵は受け取った装備一式を着込み村長に尋ねていた。

「ほう、頼みとは? 出来る範囲でなら何とかするぞ。お主は村の恩人じゃからな」

「私が・・・、私たちが倒した死人を見せて貰えないかしら」

そう言われた村長は一瞬驚いた表情になった。

「まあ、お主たちが倒したわけじゃからのう・・・、よろしい、死人は隣の納屋においておる。付いてきなさい」

村長は回れ右をして葵を納屋に案内していく。イルボンもなんとなくではあったが、それに付いく。屋敷の納屋の前には扉を固める、村の青年たちの姿があった。

「落とした頸は桶に入れておる。体の方も縄でぐるぐるに縛っておるから、万が一動き出して大丈夫じゃろうが、念には念を入れて納屋に運び込んだんじゃ」

村長は納屋の鍵を外し、戸を開けた。中には板に縛り付けられた死人の姿があった。縛りの気合の入り様はすごく、イルボンはまるで芋虫みたいだと心中で思っていた。一方葵は死人を気味悪がる様子も見せず、縛り付けられた死人をつぶさに観察していた。特に見る点なんてないだろうに、物好きなものだと考えていたのはどうやら、イルボンだけでは無いようで、村長や村の青年たちは死人を見ている、葵の事を驚いた表情で見ていたのだった。

「死人(コイツら)はどうするつもりなの? いつまでも此処に置いておく訳じゃないんでしょう?」

死人の死体を見終わったのか、イルボンと、村長の方に振り向いていた葵は尋ねてきた。

「うむ、そのことはイルボンさんにまた依頼をしたいと思っておってな」

「自分にですか? 依頼とは一体・・」

確かにイルボンも死人の処理に関しては気になっていたものの、依頼と聞いて、まさか処理を自分に依頼しようというのではと嫌でも心の中で勘ぐってしまう。

「そんな顔をせんでも大丈夫ですよ、イルボン殿。これらの処理は流石に我々の手に負えるものではないからのぅ。知り合いの先生に引き取って貰おうと考えおる、その依頼の手紙を先生に届けて欲しいという依頼じゃ」

思っていたことが顔に出ていたのか、村長は苦笑いをしながら、イルボンに依頼の内容を話した。

「それは、良かった。こいつらをバラバラにして埋めてこいなんて言われた日にはどうしようかと思っていましたよ」

安堵で顔の表情が緩んだイルボンを見て、村長は苦笑いを意地の悪い笑いに変えて、イルボンをからかった。

「で、その先生って人はどこにいるの?」

村長とイルボンの掛け合いに葵が割り込んでくる。村長は葵の問いに促されるように答える。

「上海(しゃんはい)は九(クー)龍(ロン)島に住んで居る恋(れん)先生じゃよ、彼女であれば、喜んで死人をサンプルとして持っていくじゃろうからな」

死人を喜んで持っていくのか、イルボンは背筋が寒くなるのを感じた。自分もまさか何かされるのではないか。イルボンは頭の中で怪しく高笑いする白衣の先生を思い浮かべていた。

「その依頼、私にもやらせて貰えないかしら」

「おいおい、葵さんよ、さっきは助けて貰って確かに助かったが、仕事の横取りはいくらなんでも見逃せないぜ」

葵の申し出をイルボンは即座に批判する。助けて貰ったとはいえ、せっかくの食い扶持の案件をみすみす逃すわけにはいかない。

「まあまあ、イルボン殿、そう目くじらを立てずとも、きちんとお支払はするでのぅ。一応葵さんにも救われたんじゃ。ここはひとつ儂に免じて一緒に仕事を引き受けてもらえんか」

あいかわらず、女子供には弱いことだと、心中で愚痴りながらも、報酬がちゃんともらえるならとイルボンは自身を納得させる。

「そうまで言うなら、わかりました。一緒に手紙を届けてきます。道中が安全とも限りませんしね」

「ありがとう! 村長さん」

葵は村長に頭を下げ、笑顔を見せていた。イルボンは少し面白くなかったが、道中の安全の為と割り切ることにした。

「葵嬢には起きたところで申し訳ないが、決まったからにはすぐに発って貰おう。いつまた動き出すかわからんからのう。なるべく早く引き渡したいんでの」

「なるべく早く戻ってくるから待っててね村長さん」

そう言われた、葵は村長から依頼の手紙を受け取り。一人で先に行ってしまう。呆気に取られたイルボンは少し間をおいて葵を追いかけていく。その様子を見た村長は、納屋を見張っていた青年たちと一緒に笑っていたという。

 




次回は2月21日投稿予定です。


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