ジャン拳 (ベネしま)
しおりを挟む

1話 運勢

誤字脱字は許してね


 揺れる電車内には様々な声が飛び交っており、元町は憂鬱さを加速させた。しかし、これから始まる学校生活を思えばこの喧騒もどこ吹く風だ。
 
 この男、元町延彦は今日から坂本町に在する月島高校に転校することになっている。元々元町は親の仕事の関係で海外で暮らしていた。たが、仕事の都合上親と過ごせなくなったため、日本に住んでいる親の兄弟のマンションに引き取ってもらい、近くの高校に転校することになったのである。
 
 しかし、転校初日から寝坊したため遅刻気味の登校に元町は憂鬱さを加速させていた。
 
「初日から遅刻は悪目立ちするよなぁ。あぁ、めんどくせぇ。もう、家に帰ろうかなぁ。」
 
 そうこう呟きながら無情にも電車は月島高校の最寄り駅に到着した。人がまばらに降りる光景を見ながら、元町は重い腰を上げ改札口へと向かった。
 
 1年B組
 そう書かれた札が掛かっている教室の前で、元町は気怠げに中の様子伺っていた。どうやら教室は授業中のようだ。このまま扉を開けても良いが、どうも気が乗らない。右往左往していると中から扉が開いた。
 
「さっきから扉の前でなにやってるんだ?」
 
「あ、すいません。今日からこのクラスに転校することになっている元町と言います。」
 
「なる程、君が元町君ね。予定より遅い到着だけどどうしたんだ?」
 
「まぁ、その、寝坊しました。」
 
「……。まあいいや。とりあえず入ってよ。」
 
 どうやらこの男が先生のようだ。先生はそう言うと教室内に戻りこう言った。
 
「今日からこのクラスに新しい仲間が加わる。おいお前、えーと、元町だったか、自己紹介しろ。」
 
 投げやり気味のお膳立てに苦笑いしながら俺は口を開いた。
 
「今日からここでお世話になります。元町延彦です。よろしお願いします。」
 
 そう言って頭を下げると、クラス中からざわざわと話し声が聞こえてきた。チラリと周りを伺うと、歓迎されると言うよりはむしろ敵を見るような目がチラホラと見えた。
 
 あれ、俺歓迎されてないなぁ。なにか気に障るようなことしただろうか。考えてても拉致があかないので先生に指示された席に座り授業の準備をした。
 
 一日の授業が終わり、人がまばらに出て行った。皆これから部活にでも行くのだろうか。まぁ俺はソッコー家に帰ってネットサーフィンでもするがな。そうこう考えていると、前の方から男子生徒が歩いてきた。
 
「えっと、元柱くんだったっけ?」

 誰に話しかけているのだろうか?まぁ俺は元町であり元柱ではない。話しかけているのが俺以外であるのなら、無視して帰るのが最善手だろうよ。よし、かえろう。そう結論づけるとそっと椅子を引き、扉に向かって歩き始めた。しかし、俺が教室の扉に手をかけた瞬間、肩に手が置かれた。
 
「待ってくれよ、元柱君。無視なんて感じ悪いじゃないか。まぁ僕は気にしてないけどね、ハッハッハ。」
 
 転校早々面倒な奴に絡まれたな。どうやら俺はこの男に名前を間違えられてるらしい。まぁそれもそのはず、皆の前で名前を名乗ったのは朝の自己紹介以外まだない。休み時間に誰か話しかけてくるかと思ったが、意外なことに俺の周りは平穏そのものだった。と言うことは、この男がこの学校で俺に話しかけてきた人間第一号と言うことになるのか。そう考えると邪険にするのは可哀想に思えたので応じることにした。
 
「誰だよ元柱って。俺は元町だ。覚えとけ。」
 
「ふぇ?元町?キミ元町って言うのかい?いやぁ、ごめんね。まぁそれは置いといて元柱君、キミはこの学校になにか違和感を感じてないかい?」
 
「次にその名前で呼んだら、お前とは未来永劫話さないからな。」
 
「こいつは失敬。」
 
「はぁー。、まぁいいよ。それで違和感ってなんだよ?」
 
「今日一日過ごして僕以外から話しかけられたかい?」
 
「いや…、話しかけられてないな。なんでだ?」
 
「その様子だとこの学校のことは何にも知らないらしいね。じゃあ僕がざっとだけど教えてあげるよ。」
 
 
 
 
 
 「じゃんけんしませんか?」
 
 
 
 
 
 透き通った声が教室に木霊した。声の主を振り返るとそこには形容しがたい美少女がいた。大きな瞳は見る人を振り返らせ、肉厚な唇は魅惑的に輝き、長い髪は夕焼けに反射して黄金色に輝いていた。いや、よく見ると彼女の髪の色は金色なのだ。しばらく見とれていると、彼女は俺の方に近づきこう言った。
 
「じゃんけん…しないんですか?」
 
 明らかにおかしな状況だが、俺の中のジェントルマン精神が彼女の問に疑問を持たず答えるように警鐘を鳴らした。否、鳴らしてしまった。
 
「いいですよ、じゃんけんしましょう。」
 
「ありがとうございます。では審判はそこの男の方、お願いできますか?」
 
「え、僕ですか?いや、ちょっと待ってくださいよ。元柱君は今日転校してきたばっかで、じゃんけんなんてとても出来たもんじゃありませんよ。」
 
「うふふ、確かにそうかもしれませんね。しかし、私は感じるのです。この方とじゃんけんをしなければならないと。」
 
「困ったなぁ。まぁ、習うより慣れようって言うしね。それにあの東堂さんなら手加減しながら戦えるよね?」
 
 なにやら外野がうるさいが、これはチャンスだ。いきなり美少女と親睦を深める機会が巡ってきたのだから。ここは男らしく勝つべきか、いや彼女に花を持たせるために負けるのもありだな。ん、じゃんけん?そっか、じゃんけんなんて運勝負だから勝ち負けを事前に決めることなんて出来ないな。ハッハッハ。ん、じゃんけん?いろいろ疑問が湧き上がってきたが横の男が「構えて」と言ったので拳を前に出した。そう言えばまだこいつの名前聞いてないや。あ、彼女の名前も聞いてない。じゃんけん終わったら聞くとするか。
 
「最初はグー、じゃんけん…」
 
俺は負けた。そして意識を失った。
 

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話 理解

次の投稿は来月になります。多分


 頭痛が痛い。おかしな日本語だが、おかしな状況下にあるならそんな日本語も使って構わないだろう。兎に角、頭が痛い。それもそのはず、俺の頭は教室の地面に激しく打ち付けられたのだから。なぜそんな事になったのだろうか?たしか俺はじゃんけんをしていたはず。そうだ、あの美少女に話かけられて、じゃんけんしたんだ。そしてなぜか吹っ飛ばされて今に至るわけか。おかしい。じゃんけんはまだ分かる。いや、じゃんけんも分からないよ。ああ、頭がこんがらがってきた。つまり俺が言いたいのは、いきなりじゃんけんをするのはおかしいし、いきなり殴られるのもおかしいしということだ。
 
 そこまで考えると、扉の開く音がして白衣姿の女性が入ってきた。
 
「目が覚めたかしら?」
 
 そう言うと女性は俺が運ばれてきたときの状況や体の状態、そして「じゃんけん」なるもののことを話し始めた。
 
 彼女が言うには、この学校は日本政府によって作られた『運の重要視』に重点を置いた学校らしい。普通に勉学に励む場所としては他の学校と大差はない。もちろん成績が悪ければ退学もありえる。しかし、この学校が他の学校と大きく違う点は、自身の運の有無による退学もありえるということだ。
 
 一通り話は聞いたが、それでも元町は納得がいかない点が一つあった。それが彼の頭痛の原因をつくったものであるのは言うまでもない。
 
「先生、俺は今日じゃんけんをしたんですけどなぜか殴られましたよ。俺がチョキを出して彼女がグーを出したのは良かったんですが、なにをとち狂ったのかそのまま殴り抜けてきました。」
 
「先生じゃありません。佐伯です。さっちゃんって呼んでね。」
 
「……先生は「さっちゃん」さっちゃんですねわかりました。ハァ、そんな事はどうでもよくて説明してくださいよ。」
 
「ん、そうね。大まかに説明すると、元町君はじゃんけんに負けた。だから殴られた。単純な話よ。」
 
「俺が海外で暮らしてる間に日本のじゃんけん文化はとんでもない変化を遂げたんですね。これがカルチャーショックですか。」
 
「そうではなくね、なんて言うのかしら、この学校内のみ、じゃんけんを行う場合ある条件が与えられるの。」
 
「ある条件とは?」
 
「その条件とはね、つまり“勝った方は負けた方に攻める権利を与える”ということなのよ。」
 
 
 
 
 
 夕焼けに染まる帰り道は、心の中を示すように暗く沈んでいた。歩くたびに頭痛が酷くなっているのは、恐らく気のせいだろう。そんな帰り道で元町は今日の先生の話を振り返っていた。
 
・この学校では度々じゃんけんが行われる
・そして勝ったら殴り、負けたら殴られる
・なお殴れる時間は約10秒と決まっておりそこら辺の判断は第三者、つまり審判がくだす
・じゃんけんを繰り返し先に倒れる、ギブアップをする、もしくは3回連続で負けた方が負けらしい
・あいこの場合はお互いが殴る権利を得る

 ざっとこんなところだろうか。なぜこんなルールが作られたのかというと、日本政府の「運を持つものは、それを適切に使える瞬時の判断力が必要である。故にそう言うことである。」との伝言から作られたらしい。どういうことてある?まぁこのじゃんけんは強制ではなく断れるらしいので、卒業まで断り続ければ良いだろう。退学がなんとか言っ てたけど、まぁ大丈夫だろう。
 
 
 
 それから数日間、元町はなんのトラブルもなく学校生活を迎えていた。しかし、彼に話しかけてくるのは転校初日に話しかけてきた男だけであった。

「なぁ錦、なんで皆俺に話しかけないんだ?」
 
「それは君に魅力がないからじゃないかな?」
 
「それがマジなら俺は死ねる。」 
 
 そんな俺の発言を聞いてかどうかは知らないが、目の前の男、錦洋はヘラヘラと笑ってこう言った。
 
「まぁここに入学した人は勉学と運が全てだからね。友達は余計なものみたいに考えてる人が沢山いるんだよ。」
 
 そう言えば、この学校で良い成績を取った卒業生には将来が約束されていると言っていたな。だから友達なんかをつくっているよりも自分の将来のために時間を割いた方が良いと言うわけか。
 
「まぁ良い成績をとるだけで将来が約束されるってんなら悪い話ではないな。よし、俺もお前と話す時間を削って勉強するとするか。」
 
「まったく元柱君は冗談きついねぇ。でも勉強だけしてると退学になっちゃうよ。」
 
 そこまで話すと教室の扉が開き工藤先生が入ってきた。因みに工藤先生はこのクラスの担任でフルネームは工藤翔真、36歳独身らしい。俺に自己紹介を促したのもこの先生だ。
 
「おい、恵。お前今日の放課後、職員室来い。あとえーと、元町だ。お前も来い。」
 
 そう言うと工藤先生は、駆け足で廊下に戻っていった。恵と言われた生徒は興味なさげに扉に目をやると、すぐさま勉強を再開しだした。かく言う俺は、先生に呼び出しをくらう覚えが全くないので、何のことだろうかと頭を巡らせていた。まぁ大したことではあるまいと結論付け、次の授業の準備を始めるのであった。
 
 
 
 
 
 放課後
 俺は帰宅の準備を終えると、席を立ち職員室に向かって歩き始めた。しかし、転校してからろくに校内を回っていないので職員室の場所を見つけることができず、結局教室に戻ってくることになった。そこで俺は次に錦に聞こうと思ったがアイツは今日部活であることを思い出した。なにやら錦はドッチボール部なるもので活動しているらしいのだが、この学校はもともと部活に入っている生徒が少なく、さらにドッチボールというマイナーなスポーツのため部員は錦を含め3人と部の存続すら怪しいレベルだった。俺も先日勧誘されたが、丁重にお断りさせていただいた。まぁ家に帰っても暇だから気が向いたら今度見学にでも向かってみようかな。そんな事を考えていると、目の前に黒髪おかっぱで黒縁眼鏡の女性が現れた。
 
「……」
 
「……」
 
 お互い数秒睨み合ったあと彼女が口を開いた。
 
「邪魔。」

 そう言うと彼女は俺に肩をぶつけながら脇を通り抜けた。
 
「最近の女性はトゲトゲしてるな。と、そんな事いってる場合じゃない。あの恵とかいう人のあとをついて行けば職員室に行けるはずだ。」
 
 そう、先程の女性は先生が呼び出した女性、野呂恵である。錦によれば彼女の勉学の成績はクラスどころか月島高校でトップであり、その言動や態度故に他人を寄せ付けないと言っていた。まぁこの学校自体友好的な奴は少ないのでそんなに気になりはしないが、それを引いても彼女は明らかに浮いていた。休み時間は参考書片手にペンを走らせ、昼休みには弁当を食べ終わると図書室に籠もりっぱなしである。俺は転校してから彼女が人と話しているのを見たことがない。

 そんな事を考えながら彼女の後をついて歩いていると、突然彼女は振り返り俺を睨み始めた。よくよく見ると彼女は、印象こそ暗いが顔立ちは整っており美少女の部類に入っていると思えた。もうちょっと態度が柔らかかったら俺は一目惚れしてたのかなぁみたいなことを考えていると、彼女は口を開いた。

「ストーカー、ついてこないで。」
 
「いや、酷い言いようだな。まぁそれは置いといて、お前これから職員室行くんだろ?俺まだ職員室の場所わからないんだよね。だがらお前の後をついて行けば着くと思ったんだが。」
 
「私は職員室に行くつもりはないわ。」
 
「なんでだよ?」
 
「そんなの私の勝手でしょ。わかったらさっさと離れてよ、このストーカー。」
 
 そう言うと彼女は小走りでどこかへ行ってしまった。廊下は走っちゃいかんというのに、最近の若者ときたら。それにしても困ったな。職員室の場所は分からないし、いきなり女性にストーカー呼ばわりされるし。そうこうしていると後ろから声がした。
 
「元町じゃねぇか。俺放課後職員室来いって言っただろ。こんな所でなにしてるんだよ?」
 
「あ、すんません。その、なんというか、職員室の場所がわからなくて…。」
 
「そんなん人に聞きゃいいだろ。」
 
「ついさっき人に聞こうとしたらストーカー呼ばわりされまして。」
 
 そんな事を言いながら俺は工藤先生に連れられて職員室に向かった。

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話 初陣

来月と言ったな  あれは嘘だ
思ったより早く書けたので投稿します
え、誰も待ってないって?ハッハッハ
今度こそ来月投稿します


 職員室に連れてこられた俺は開口一番工藤先生にトンでもないことを言われた。
 
「お前、来月までにじゃんけんで一勝しないと退学だからな。」

 一体なにを言ってるんだろうか。半ば放心状態で俺は返答をした。
 
「先生、冗談はよしてくださいよ。」
 
「冗談も糞もあるか。まさかお前聞いてないのか?あぁそっか、そう言やお前、転校初日に遅刻したんだったな。それのせいで説明するのを完全に忘れてたわ。」
 
 そう言うと、工藤先生は俺のまだ知らない学校のルールを話し始めた。

・じゃんけんには公式戦と非公式がある
・審判が生徒のじゃんけんは非公式戦
・審判が教師のじゃんけんは公式戦
・非公式戦では勝った生徒が負けた生徒に命令をする権利が与えられる
・この学校では、月に一回公式戦じゃんけんで勝利しなかった者は退学となる
・なお公式戦じゃんけんの相手は先生がランダムで選ぶ
 
「まぁざっとこんな感じだな。あ、そうそう、さっき来月と言ったがよく見たら3日後だったわ。いやぁ、すまんな。」
 
 そう言うと工藤はカラカラと笑い、机に座って事務作業を始めた。おっと先生を付け忘れたな。まぁこんな大事なことを生徒に言い忘れる奴に、先生を付ける義理はないだろう。なあ、そうだろ工藤。そんな現実逃避をしていると後ろから声がした。
 
「あら、元町君じゃない。」
 
「あ、佐伯先生こんにち「さっちゃん」…さっちゃん先生こんにちは。はぁ。」
 
「どうしたのよ、ため息なんかついて?あ、わかった!工藤先生にいじめられたんでしょ。」
 
「いやいや、なにを申しますか佐伯先生。私が可愛い生徒をいじめるはずがないでしょ。何かの間違いですよ。ハッハッハ。」
 
 こいつは許さん、絶対に。
 
「そうですね、工藤先生。俺があと3日で退学になるなんて何かの間違いであってほしいものですね。」
 
 皮肉気味にそう言うと、佐伯先生が怪訝そうな顔で聞き返してきた。
 
「3日で退学?どういうこと?」
 
「まぁつまりかくかくしかじかで。」
 
「なる程、それは工藤先生が悪いわね。なんとか今月はじゃんけん免除にならないんですか?」
 
「いやまぁ、そうしたいのは山々なんですが、それをすると俺の首が…」
 
「可愛い生徒とか言ってたのに、結局は自分の保身に入るんですか?ねぇ先生?」
 

 
 
 
 結論から言えば、俺はあと3日以内にじゃんけんをしなければならない。しかし勝敗は問わず、おこなったという事実があればいいらしい。じゃんけんは工藤の監修のもと明日に執り行われると言っていた。俺としては勝敗が関わらないのなら適当終わらせたい。しかし、対戦相手を聞いて俺は困り果ててしまった。俺の対戦相手は野呂恵。実は彼女も退学の危機に瀕していたのだった。それもそのはず彼女は入学して数ヶ月間、1回もじゃんけんをしていないのだった。本人曰わく殴られるくらいなら退学になった方がましだということだ。彼女の勉強における実力は天才的であったのでこれまでじゃんけんは特別免除されていたのだが、流石にそう何回も免除するのはまずいと言うことになったらしい。学校側としては当然彼女には退学になってほしくない。
 
「で、私をわざと勝たせるために八百長試合をしろという訳なのね。」
 
 目の前の女性、野呂恵はゴミを見るような目で俺を見たが誤解しないでほしい。
 
「俺だってお前に好き好んで負けたくねえよ。ただ工藤が俺に野呂を勝たせるよう画策してくれと言ったんだ。あのクズめ。」
 
「担任をクズ呼ばわりするのもどうかと思うけども…。まあでも私はその話には乗らないわ。私は私のやり方を貫くだけよ。」 
 
 そう言うと彼女は、踵を返し廊下を歩いていった。元町も半ば諦め下駄箱に向かおうとしていたが、その時廊下の奥で声がした。
 
「あれぇ~、恵ちゃんじゃ~ん。こんな所でなにしてるの?俺と遊ばない?」
 
 男の声がした。振り返ると、手首を金髪の男に掴まれた恵がいた。恵は嫌そうにしていたが、男はにやけ面でどんどん接近していた。俺はすかさず2人の方に歩みを進めた。もちろん彼女を助けたいという思いもある。しかしだ、俺の中にはある妙案が思い付いたのだ。
 
「おいパツキン、恵から手を離しな。」
 
「あん?なんだおめぇ、殴られてぇのか?」
 
 俺と金髪は互いに睨み合った。恵が後ろから小声で話かけてきたので俺も小声で返した。
 
「ちょっと、なに余計なことしてるのよ。」
 
「あぁ、そうだった。言質はとっておかないとな。俺はお前を助ける。だからお前は明日勝て。わかったな?」 
 
「え、いや。」
 
「わかったな?」
 
「え、はい。」
 
 よし、これで言質はとれた。後は勝だけだ。
 
「よしパツキン、お前今から俺とじゃんけんしろ。俺が勝ったらもう恵とは関わるな。その代わりお前が勝ったら俺はここからいなくなるよ。」
 
「俺はパツキンじゃねぇ。はっ、まぁいいだろう。その話乗ったぜ。でもいいのか?お前最近この学校来たんだろ。じゃあじゃんけんもしたことないんじゃねえの?」
 
 図星である。しかし俺はケンカには自信がある。海外に住んでいた頃ケンカ三昧だったからなぁ。
 
「よし、じゃあ審判は…恵。頼んだ
ぜ。」
 
 これが初陣。されどじゃんけんだ。それに校内で行われる殴り合いなど、あの頃に比べれば児戯に等しい。まぁこの前金髪の女から貰った一発はそれなりに痛かったが。
 
「じゃあ構えて。」
 
 パツキンが拳を前に出したので俺もそれに習う。
 
「最初はグー、じゃんけん…ポン」
 
 そしてお決まりの言葉を発しつつ俺はチョキを出した。
 
 あ、負けた。相手はグーだ。いやぁ、参ったなぁ。そんな感想を頭の中で考えていたらパツキンはそのまま殴り抜けてきた。もちろんそのパンチを俺が防げるはずもなく、顔面にもらい後方に吹っ飛ぶ。一瞬意識が途切れかけたが、すんでのところで踏ん張り俺は持ち直した。
 
「そこまで、次。」
 
 恵がいきなりそう言ったので、これが次のじゃんけんの合図なのだと理解した。しかし状況は俺の不利。1敗と1発のパンチを食らったのはなかなかまずい状況だ。
 
「じゃんけん…ポン」
 
 俺は連続でチョキを出した。パツキンもチョキを出したのであいこだ。俺はチョキを出した勢いで腕を折り曲げ、肘うちに繋げた。肘はパツキンの顎にクリーンヒットした。しかし、パツキンはふらつく足を支えてなんとか立っていた。もう一度肘を入れようかと思ったが恵が「そこまで」と言ったので次にお預けだ。
 
「じゃんけん…ポン」
 
 次もあいこだった。俺はパーを出した手で相手の手首をつかみグイと引き寄せた。そして頭突きを相手の額にかました。さっきのダメージが貯まっていたのかパツキンは2、3歩よろめくと膝から崩れ落ちた。
 
 勝った、勝ったぞ。俺が恵の方を向くのと彼女が口を開くのはほぼ同時だった。
 
「そこまで、勝者元町。」

目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 5~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。