インフィニット・ストラトス~職場体験の事情~ (あるまⅡ)
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プロローグ

移転です



「――というわけで今回は,普通の学園らしく職場体験をしてもらうこととなった」

 朝のSHRが始まり、千冬姉が開口一番に口に出したのはそんなセリフだった。

「職場体験かー」

 俺こと織班一夏がそう独り言のように呟くと、後ろの席から不満が聞こえてきた。

「納得できませんわっ」

 席を立ちそう言ってきた声の主はセシリアである。ここ二ヶ月くらいの生活で知った彼女の生活からすれば、学園で生活していればある程度は予想ができる一声だった。しかしそれは彼女セシリア・オルコットが決してわかりやすい性格だとか、ちょろいだとか、高飛車なお嬢様ってあんなんだよねーというその手のゲームをやってる者ならば、一発でわかる性格という名のキャラ設定だとかそんなのではない。あれは彼女なりの個性でありアイデンティティなのだ。だから問題はないのだ。

「何が納得出来ないんだ、オルコット?」

 千冬姉はある程度予想が出来るのか、口調がいつも以上にそっけなく感じる。そんなことは気付かない様子でセシリアが言い放つ。

「何故ISについて学ぶように祖国から送り出されてきた私がこのような――」

「黙れ、小娘」

 そう千冬姉がピシャリと遮断。

「いいか、オルコット? IS学園と言ってもISばかり扱うのが学校というものでもないんだ。そこまではわかるな?」

 そう言い終わると、それまでとはうってかわってやんわりと言う。妙に呆れた感じの表情が気になる。

「つまりだ、オルコット……例え職場体験がこの学園にきてもおかしくはないということなんだ」

 ……ん? いつも毅然と自分の意見を放つ姉は、何処か違和感のある物言いになっていた。簡単に言えばまるで自分以外の誰かに言えと言われたみたいだ。そしてさらにわかり易く言うなら、あのウサ耳の頭のイカれた(自己規制)人と話している時のような、そんな歯切れの悪さだ。

「つまりだな――」

 そう、言葉を言い終わる前に教室の扉が勢いよく開かれ、

「束さん万を持してとーうじょうッ!」

 と、馬鹿が飛び出してくる。いや馬鹿じゃない馬鹿と天才紙一重とか言うが天才の方だ……と思う。じゃなきゃ説明がつかない。篠ノ之束が馬鹿だったら俺達は大馬鹿になる。

「そのことについては私が説明してあげるよ、ちーちゃん」

 そう言うとクラス中の娘が説明を求める阿鼻叫喚の図の中、束さんは話をし始めた。

「つまりだよ、いつもいつもISの操縦技術だとか順位を競うだとかそういうことばかりするのは、少し高校生らしくないかなー、なんて最近思ったわけですよ」

 では何故この学園が出来たっ! とクラス中が全力でツッコミを入れたくなる中、さらに続けられた。

「そういうことなので皆さんっ!殺しあいをs――」

「調子に乗るな、束!」

 と話が途中で切られ、それとほぼ同時にスパコーンと聞こえる効果音がクラス中を覆った。

「痛いなーちーちゃん、折角私が『なんかちーちゃんの話途中で切っちゃったけど、ツッコミもこないし、これはきっとちーちゃんが私の奇行を許してくれたという事でいいんだよねっ? よっしゃ燃えてきたっ』って内心すごい興奮していたって、いうのにただそのクラス名簿で顔を叩くだけのチャージ時間だったなんてひどい裏切りだよっ、万死に値するっ」

 意味の解らない自己解釈をしていた束さんに対して、千冬姉は続けて言う。

「奇行? そんなものいつものことだろうが、まあしかしお前が不満を現わにするのならば、そうかわかったよ束。すまなかったな」

 千冬は一人納得すると何度か呟き、

「これからお前が私の前で馬鹿をすれば容赦なく貯め無しの一撃必殺を見舞ってやろう」

「それはひどいよっ」

「そうか? 嫌なら思いつきで行動するのはやめることだ」

 千冬がそう言って宥めると、落ち着いたと判断したのかクラスの生徒が一人千冬姉におどおどとした様子で質問をした。

「あ……あの織班先生? そちらにおらっしゃるのはあの世界的に有名な例のあのお方ですよね?」

そう質問された千冬姉は半ば嘆息するような面持ちで口を開いた。

「ああ……その通りだ。 こいつは篠ノ之束、世界的指名手配犯だ。そしてこの謎の行事を言い出し実行しようとしているのもこの篠ノ之束だ」

「やっほーっ! どうも世界的大天才篠ノ之束でーす。別に仲良くしなくていいけど、話だけは聞いて帰ってねっ」

 そう言うと束さんは今回やることになった職場体験をいきなり真面目に説明しだした。千冬姉はというとすでに諦めたという様子で宙を仰いでいる。その様子を漢字一文字で表すとしたら『哀れ』そんな感じだ。

「さて、今回の職場体験なんだけど、実はこのIS学園という高校以外にもIS幼稚園というものがあってね、そこでいわゆる保母さんというものをやって貰おうと考えていますっ」

 と、職場体験の内容が徐々に解っていく中、束さんはさらに言葉を続ける。

「ちなみにさっき私が全員やるような感じで言ったけど、実際に体験してもらうのはいっくんとそこの銀髪ちゃんと金髪ちゃんです。はい、皆さん拍手っぱちぱちー」

 そう言うとクラス全体が虚をつかれる中、金髪ちゃんことシャルロット・デュノアと銀髪ちゃんことラウラ・ボーデヴィッヒが頭の上に?マークと!マークが同時に出そうな勢いで驚いていた。……もちろん俺もである。

「え……なんで私とラウラとその……一夏なんですか?」

 とシャルが質問をする。それに続くようにラウラと俺も口を開く。

「そうだぞ、何故この三人なんだ?」

「俺も同意見ですよ、束さん」

 いつもの五人ならまだ解る。確かに束さん自身と多少の面識があるのはいつものメンバーだからだ。まあ、五人の内一人は二組なので、ここでカウントするのは間違いなのかも知れないが……。

「うん、それについては一応理由があるのだよ」

 束さんはそう言うと何故か得意気な顔で話だした。

「まず最初にメンバーが三人なのは定員が三人なので。そしていっくんは当然としてあとの二人が 何故、銀髪ちゃんと金髪ちゃんなのかというとそれは銀髪ちゃんが元軍人でその辺りの指導が上手そうなのだということ。そして金髪ちゃんはうん笑顔がいいよね。園児に人気が出そうだよ」

 何故俺が当然なのだろうという疑問はまず置いとくとして、今の言葉の中には束さんらしくない言動が含まれていることに俺は気づく。そのことに対して俺は疑問を投げかける。

「そういえば束さん、何故完全身内贔屓で他人に興味を一切抱かない、まるで一種の中二病患者のような貴方が、自分の妹はさしおいて、貴方の嫌いな他人を推薦するんですか?正直俺は今の貴方が気持ち悪いです」

 そうなのだ。この自称、世界が認めた(不本意ながら)大天才篠ノ之束が、他人を上にあげるだなんて非常に気持ちが悪い。何かの前触れなのではないかと勘ぐってしまうほどの驚きなのだ。俺がそのことに対して疑問を言うと、束さんは少し沈んだ感じで答えともいうべきことを言ってきた。

「……いっくん。束さんは悲しいよ、まさか妹の大好きな人にそこまでボロカスに言われるなんて、憔悴という言葉の極みだよ。確かにさ、他人は嫌いさ、大嫌いさ。でも時と場所も考えずに嫌いだとかいう人間は社会的にどうなのさ。私は一応そのへん考えてるんだよ?」

「そうなんですか、正直見直しましたよ束さん、別に社会不適合者というわけではなかったんですね」

「うわーん、いっくんが虐めるよちーちゃーん!」

 泣きじゃくり千冬姉に飛びつく。千冬姉はよしよしと子供をあやすように束さんの頭を撫でると俺に対して諭すように言ってきた。

「一夏……さすがに言い過ぎだぞ。正論をいうのは簡単だ。しかしその正論というものは一種の言葉の刃なんだ、凶器なんだよ。だからな一夏? ほどほどに虐めろ」

「わかったよ、千冬姉」

「……なんか二人ともホント姉弟だよね」

 束さんはそう呆れたとも放心しているとも受け取れるような表情で一言そう呟いた。

 そしてその一時の間を縫うように俺の席の左隅の生徒、篠ノ之束の妹である篠ノ之箒が先程の人選のことに対して席を立ち今更ともいうべきことを言ってきた。

「先程、姉さんが私が一夏を大好きという少し聞き流せない発言をしたのは、まあ置いておきます。蒸し返すのはなんだか自分の首を締めるような気がしますので」

 もう自分で言っちゃってるよ! というまたしても起こる篠ノ之の家系特有かとも思われるクラス全体でのツッコミは、皆の胸の内で行われた。

「それより姉さんっ! 何故私がその三人の中にいないのですか! 正直私は裏切られた気分ですよ。いつもは私が必要としていない時は贔屓するくせに、こういう時はこれですよ! なんなんですか!」

「ごめん、箒ちゃん少し戸惑ってるなーというのは理解できたから、少し落ちつこうか」

 そう束さんは箒を悟すように言い話を続ける。

「当初はもちろん箒ちゃんをメンバーに入れるつもりだったんだよ?でもね……」

 束さんは一度言葉をそこで切ると、沈痛な面持ちで続きを喋りだした。

「どうしても……どうしてもだよ? 箒ちゃんが園児達と笑いあってる姿が想像できなくてね……本当に……」

 もう一度言葉を切り今度は悲痛な面持ちで一言言った。

「……ごめんね」

「そう……ですか」

 箒は最後にそう言うと放心したという様子で席に着く。

その様子を見ていた千冬姉が事態の収集をつけるべく、質疑応答の有無を確かめようとした。

「で……では他に質問がある者はいるか?」

 多少言い淀むように言うと、後ろの席からガタッという音がしたが質問は聞こえてこなかったので、次の瞬間クラスは静寂に包まれた。

「では質問がないようなので、この話はここで切るぞ、そして先程の三名はあとで職員室に来い。詳しい話はもう一度そこでする」

 そういうと朝のSHRは終わりを迎えた。

 

 

 

「そういえば織斑先生?」

「なんだ?」

「職場体験なんですけど、私達は本当に何も無いんですか?」

 クラスの一人が休み時間の廊下で、千冬に聞いた。

「ああ、ない。出番もここで終了だ」

「……そうなんですか」

 

「本当に悪いとは思っているが、あの束が決めてしまったことだ。」

 そして一息つき、千冬は再び口を開いた。

「……諦めてくれ」

 その一言は休み時間の騒がしい廊下を荒野のように変化させた。

「ですね。私達はメインではないですもんね」

 そう言った女子生徒の顔は力なく笑い、荒野に希望がないことを悟らせた。



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移転です


「先生っ! 遊ぼ? ねえ、遊ぼっ!」

 そう園児達に言われ、俺は遊具のある運動場まで連行される。

 自己紹介をしたのはつい3分程前、いきなり束さんにIS幼稚園に連れてこられたのはそれよりも約10分前。合計約13分間の出来事だった。その13分程の間に説明もなしに、いきなりエプロンに着せ変えられ園児達のいる部屋へと誘導された。もちろんシャルやラウラもそうである。

「わかった! 遊ぶっ、遊ぶから手だけ放してくれ、頼む!」

 園児達に引かれる俺の姿を例えるとするならば、それは崖から落ちそうになった人間そのものだ。身長差で言えば二倍以上は離れている。その身長差で斜線状に手を引かれればおのずとそうなると……思う。正直、全寮制の学園生活を普通に送っていれば子供に手を引かれるという事自体そうそうないのであくまでも予想だ。

「わかった!」

 園児達は話したこと解ってくれたのか、そう言うと皆して一斉に手を離した。

「え? うわっ!」

 手を放された瞬間、俺は前のめるように倒れこんだ。園児達に伸し掛ってないか一瞬心配になり、受身を極限まで取らずにいたら、園児達は俺が倒れ込むのを予想していたのか、全員俺から離れていた。そのせいで受身は取れず、頭から床に激突することになった。

「ぐぁっ」

 口が反射的に痛みの声を発する。

「一夏先生が倒れたぞ~!」

 そして一人の園児が叫ぶ。まるで木こりのようだ。

「よし、じゃあ皆で縄跳び持ってきてガリヴァーごっこしようぜ!」

 続いてもう一人の園児が続くように言う。

「なんで、ガリヴァーわかるんだよ……」

 俺は痛みを堪えるように、小さくそう呟いた。

 あまりにも園児達の扱いが大変だったのでシャルとラウラがどうなっているのか心配になり、そちらの方に目を向けた。そうすると、

「先生、髪きれー」

「先生、花壇に行こうよ~。私たちが育てたお花があるの」

 と、周りを囲まれてるシャルの姿があった。しかし、シャルはそういった園児達の言葉を一言ずつ受け止めながら喋る。

「うん、ありがとう。じゃあ、皆のお花見に行こっかっ」

 シャルは笑顔でそう言うと、皆で外へと移動しようとした。ある程度まで園児達と遠くまで行くと、多少困った感じの顔でこちらを向いた。声は聞こえなかったが、その時シャルが「がんばって」と口を開いた気がした。

「……」

 相手にする子供のジャンルが違くないか? とか思ったがそれは恐らくシャルの仁徳のなせる技だ。俺では無理だろう。……とはいえ先生始めて恐らく数分しか経っていない状態で園児の特性から性格まで見抜いて対応しろなど、シャルにしか出来ないことだと思うのだが……。

 しかし、俺は気を取り戻すかのようにラウラの方へと視線を向ける。だが、さっきまであったと思われるラウラの姿はどこにもなかった。どこに行ったのか気になり、おもむろに外へと目を向けるとそこには、ジャングルジムの頂で腕を組みながら仁王立ちしているラウラの姿があった。その姿はさながらガキ大将、いや……獅子だ。千尋の谷に我が子を突き落とした獅子そのものだ。なるほど、ラウラは自分なりのやり方で先生をやろうとしているのか、と尊敬しかけたが、その俺との考えとは裏腹に、園児達はというと、ラウラを追うかのようにジャングルジムを攻略していた。よく見ると、ラウラが「ここまで上がってこい」と言っているような様だった。だがラウラ……いや高校生と違い、園児はまだ身体が未発達であり、中々スムーズには登れていない。そのせいか園児達の表情は険しい。そんな園児達を見下ろしつつ、ラウラの表情はどこか誇らしげであり優越感に浸っている。

「あいつはあいつで何をしているんだ……」

 期待をした分、呆れるように呟くと、俺はそろそろ立ち上がろうと腕に力を入れる。しかし腕は動かない。

「あれ? 動かないぞ」

 そう言うと園児が俺に言う。

「一夏先生、なんかシャルロット先生とラウラ先生見てたみたいだから、その隙に結んじゃった」 

 悪魔とも天使とも取れる笑みで園児は喋りかける。しかしなんだというのだろうか? 園児達にからかわれたり、手足を縛られるといった事をされても怒りといった感情は不思議と湧いてこない。これが子供が持つ特有の能力か何かだとしたら、世界は平和になるんじゃないか、そんなことを思ったりもした。……一応、俺がMの人だとか、そういうことではないことだけは弁解しておくが。

「お前ら……」

 しかし、いつまでもやられっぱなしというわけにもいかないので俺は言葉を貯め、怒るように園児達に言う。

「いい加減にしろー!」

 一言、言い放つと園児達はまるで蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。

「うわー、一夏先生が怒ったぞー」

「さっき、シャルロット先生とラウラ先生の方見てたって俺達が言ったから気にしてるんだぜ!」

「だとしたら……気が小さいな」

「ははっ……哀れ」

 と、後半だけは妙に子供っぽくない言葉を発している。何て余分な言葉なのだろう。しかし、言われた言葉が言葉なので、少し全力で追いかけてやろうと今度は足に力を入れる。足さえ動けばあいつらを追うことが出来る。しかし、さっきと同じパターンだよ、とトリックスターがいたとしたら思わず言ってしまうだろうと予想を出来るように、両足も縛られていた。

「なるほど……ガリヴァーとはよく言ったものだな」

 芋虫にも例えられるような自分の姿に呆れるように呟いた。実際とは違うだろうが、確かにニュアンスは近い。

 これが子供か……これがIS幼稚園かっ! と内心で落ち着きながらも不満を言うと、これは本当に大変そうだな、と何故か人事のように思った。

「これからどうなるんだ? 俺達は」

 すでに誰もいなくなった空間に呟くと、今日、千冬姉に詳しい説明で呼び出された事を走馬灯のように思い出した。

 

 

 

  俺達が謎のウサミミ天才科学者……もとい篠ノ之束にいきなり職場体験を言い渡された日の放課後、俺達は職員室で職場体験の説明を受けていた。

「よし、三人とも揃っているな」

 千冬姉は全員が揃っていることを確認すると、一呼吸をおいてから説明を始めた。

「とりあえず、お前達はあの馬鹿……もとい束に選ばれた3人ということになる」

 選ばれたという言葉に若干の疑問があるものの、そんな疑問とは裏腹に話は続けられる。

「場所はIS学園よりそう遠くない施設、IS幼稚園。まあ、最近出来た施設でな、人手が足りないという理由からお前達を一時的な先生として使うことになった」

 間髪入れずに話は続けられる。

「とりあえずは……今から行ってもらうことになる。今すぐ自室に戻り準備してこい」

「「「へ?」」」

 今、俺達三人の声はシンクロした。

「聞こえなかったのか? すぐに準備してくるんだ。ああ、一応お前たちの単位は期間中だけは自動的に取得できるようにしておいたから感謝しろよ」

「そんなことよりも急すぎるわっ」

 俺はそう驚きながらも声を上げるとシャルとラウラもぶんぶんと首を縦に振っていた。

「一夏、確かに急過ぎると思うし、悪いとは思っている。だがなこれが私に出来る唯一の施しなんだ……解ってくれ」

 千冬姉は困ったような顔をしながら言う。千冬姉が困った顔をするときは決まってあの人が現れる。だから俺は反射的に身構えた。

 その直後、束さんがまたしてもガラガラっと勢い良くドアを開けて入ってきた。

「束さん再び参上ー!」

「あんたは台風かっ!」

 俺はすぐさまツッコミを入れた。毎度毎度、なんなんだこのパターンは? 千冬姉が困った顔をする=束さん登場、これは一種の数式なのか? 数学なのか? こんな事を学ぶ学科があったとしたらその学科の生徒皆が、トラブルメーカー(厄介者)という資格を持っているのだろう。俺だったら絶対に学びたくはない。千冬姉はというと、やっぱり来たか……といった表情で呆れていた。思えば千冬姉の言った『施し』とはこういった事なんだ、と理解した。まあ、理解はしたが実行に移せなかったので、今はただただ束さんを恨むしかないが。

「まあまあ、落ち着きなよいっくん、そんな目で見られたら惚れちゃうよ? いっくんもドロドロの姉妹昼ドラは嫌でしょ?」

 俺はその言葉にに対して一言、言い返す。

「冗談は存在だけにしてください」

「ちーちゃんー、いっくんがまた虐めるー」

 束さんは朝のSHRと同じように千冬姉に飛びつく。

「一夏……」

 千冬姉は一呼吸おいてから続きの言葉を発する。

「よくやった」

 千冬姉は何処か満足そうな顔していた。その証拠に親指をグッと立てている。やはり友達としてはいいが、こんな人が天才という現実は受け入れたくはなかったのだろう。そう思い、一言返す。

「任せてよ、千冬姉」

 何故だかはわからないが、このやり取りが日常化してきていた。

「束さんは、深く傷つきました」

 さすがに今日で二回目となると落ち込むのか、束さんはしょげていた。

 ……だが、今回の束さんは少し違ったらしい。

「でも、束さんは負けません。勝つまでは欲しがりませんよ、ええ、勝つまでは!」

 何に勝つつもりなのか? そして一体何が欲しかったのか? そんな一瞬の疑問は束さんだから、という事実だけで説明がつくので、疑問はすぐに空気となり消えた。

「とりあえず、いっくんに金髪ちゃん、銀髪ちゃん行くよ!」

 束さんはそういうと俺の手を引き、外に出ようとする。

 そうするとシャルやラウラもつられるようにして外に出ようとする。よく見れば後ろで千冬姉が二人の背中を押している。目が語っていた、もうこれ以上私を巻き込むなと。

 二人は困惑しながらも前に押し出され廊下へと出される。そうすると廊下の窓の外には近未来的な車が浮いていた。フォルムだけを見ると昔映画で見たゴミをエネルギーに時を超える車に酷似していた。

「束さん、なんですか? あれ」

 俺は驚きながらも疑問を口にした。そうすると束さんは一言答えた。

「ああ、デロ○アンだよ」

 その一言が言い終わると同時に俺の身体は束さんにより、その車へと身体を投げ出されていた。

 シャルとラウラも同じように千冬姉に投げ出されていた。

 そして束さん自身は安全に運転席へと飛び乗った。納得いかない。

「さあさあ、皆さん行きますよっ。あの町へ、あの空へ、雄大な大地を駆けましょう!」

 そういうとすぐに発進した。

 俺達は振り落とされないように車の中に入るので精一杯だった。

 そんな状況の中、俺が思った事は何故かたった一つだった。

「大地……駆けてねえじゃん」

 そんな無意味なツッコミも虚しく、その車は空中を滑空して行く。

 これから向かう場所がとてつもない場所だったとは、あの時の俺達はまだ知らずにいた。

 



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どうあがいても移転。


夕日も今日という役目を終え、海の底へと消えようとしている午後五時を回る頃、保育士体験学習メンバーはある一室に呼び出されていた。

 メンバーに言うことがあったらしい。それにしても今日という日は非常によく人に呼び出される日だ。これが下駄箱に入っていた一通の可愛らしい手紙に可愛らしい文字で『今日、放課後校舎裏で待っています。てへっ(はぁと)』という手紙(ラブレター)だったのならばどれだけ良かっただろう。

 普段考えないことを考えて軽くトリップしてしまうくらいに話を理解するのには困難を極めた。

 それほどまでに困難を極めた。

 単語は理解していた。

 意味も理解していた。

 しかし、情報の処理が追いついてこない。こんな経験をしたのはいつぶりだろうか……。そう、あれはこのIS学園に採用されるきっかけになったあの事件(アクシデント)以来ではないのだろうか? 意味の解らないまま世界から注目を受け、期待をされる……いや、期待というのは自分で感じる周りからの視線であり、実際は何らかの実験なのだろう。そんな周りからの半強制的な圧力によりIS学園へと入学をさせらた。まるで遠隔操作をされ基盤が狂わされる機械のように、村人Aがいつのまにか無敵の勇者になってしまうような……例えありえたとしても選択されない現実。それが今、俺の前には存在している。出来ることならばこの現実を破壊してしまいたい。今、俺から理性を取ってしまったとしたら、頭の中に浮かんだ言葉を縦横無尽に選択し、叫ぶだろう。それほどまでにこの現実は受け入れがたい……そもそもこの世界で存在するISという兵器はなんなのだろうか。俺が思うにISとは――

「いっくんっ!」

 園内に響き渡る束さんの声。俺は我に還るかのように反応をした。

「何ですか、束さん?」

「何ですか、束さん? じゃないでしょうっ? いっくんっ。私の話が終わった途端に、無言になって難しい顔しちゃって……そんなに私に心配して欲しかった? ねえ、ねえ~」

 と、視線を微妙にずらすようにして、少しだけ艶やかに俺の顔をつつく。……とてつもなくウザイ。  

 しかしこれで真相は解った。どうやら、俺は束さんの話を聞いてすぐに思案に耽ってしまったようだ。無意識の行動というものであろう。

「心配して欲しいわけではないです。ただ、ヒーローアニメや漫画でよく見る正義が悪に染まる……そんな心理状態をリアルタイムで味わっていただけです。すみませんが、白式を黒式辺りにコンバートしてくれませんか?」

 こんなを体験させてくれた束さんには多少はありがとうと言ってもいいのかもしれない。……まあ、絶対に言うことはないし、そもそも望んでいたわけではないので、そんなものは闇に消えるわけだが。ははは。

「意味がわからないよっ、そんなに私がこの幼稚園の園長だって事実を受け入れたくないの?」

「ええ、大分受け入れがたいです。うっかり雪片を部分展開して突き刺してしまうくらいにはきついですね」

「何に!? 何に突き刺すつもりなのっ」

「そうですね、一言で表すとするならば『兎狩り』ですね」

「私だ……それ絶対、私だよ。だっていっくん私見てるもん、雪片が刺さらなくてもすでに視線が突きささってるもの」

 妙にうまいこと言った束さんは地面に腕を着く状態でうなだれる。ネットスラングで言うところのorzである。

「まあ、束さん元気出してくださいよ。貴方が落ち込んでる姿なんて見たくないですよ」

 そう言い、俺は束さんに手を差し述べる。

「……いっくん」

 束さんは顔に光が射したような顔で手を取ろうとした。

「そうですよ、貴方はキング・オブ・バカ、馬鹿の象徴なんですから、もっと何も考えずに笑ってませんと」

 なにせ束さんには笑顔が似合う。それが馬鹿だからなのか、人柄なのかはわからないがとにかく笑顔が似合う。個人的に言わせてもらえば、前者7の後者3の割合だとは思うのだが。

「いっくんの――」

 俺が笑顔の定理を考えていると、束さんが反応した。

「ばかぁー!!」

 一喝、声が響き渡る。

「ばかばかばかばかばか、ばかぁー!」

 馬鹿の六連撃である。

「兎はね、寂しいと死んじゃうとか言われてるけどね、あれは心が弱いだけなのっ! ガラスのハートなの! ガラスの十代なの! 丁重に扱わないといけないんだから!」

 そう言う束さんにはうっすらと涙目になっていた。後半はすでに教育であり、混乱していることは言葉と目を見れば簡単にわかった。

「ま、まあ束さん落ち着きましょう」

 提案とも言えることを言う。

「いっくんのばかぁー! とにかく私が園長! 篠ノ之束学園長ー! 異論も認めなければ、酢豚のパイナップルも梨も認めないんだからね! うわぁ~ん!」

 しかし、その提案もあっけなく束さんの力押しの言葉により弾圧された。そしてやはり後半だけは混乱していた。そしてその姿は母親にお菓子を買ってもらうまでにお菓子のゾーンを離れない子供そのものだ。へたりこんで上空に顔を向け泣いている。それにしても酢豚は関係ないのだと思うのだが……。まあ、これがある一名の存在をどうか頭の片隅にでも置いてやってください、お願いします、という遠まわしの言葉なのだとしたら、俺はこの人のことは侮れない。そう思った。

「解りました、解りました! 認めます、認めますから!」

 俺は多少大げさにランゲージしながら言う。

「本当に、認めてくれる?」

 束さんは涙目の状態で少し上目使いでそう聞いてくる。

 女性のそういった仕草というものは絶対的なもので避けられる者はそういないと思う。

「は、はい」

 照れるように言う。……やはり反則だ。

「ねえ、一夏?」

 照れて若干火照っている俺に対し、それを冷ますかのように、妙に冷ややかな声音が耳を吹き抜ける。

「な、なんだ? シャル」

 動揺し、多少震える声で声の主であるシャルに対し、応対をする。

「あれさー、なんでそんなデレデレしてるのかなー? ちょっとわからないかなー」

 そういうシャルの顔は例えるのならば表情と顔が相反する生き物のようになっていた。笑顔なのだがどこか影が差しているようなそんな……般若。この顔を見ていると背筋の汗が止まらない。人間の極限状態ってこんな簡単に味わえるものなんですね。

「これは……アレだ。男としての本能だ。可愛い子がいたらデレなさいという本能だ」

 正直、混乱している。意味の解らないことを口走ってしまった。まさかの極限状態の二段階目。ここまでくるともはや一種の病的症状に近い。

「……可愛い?」

 シャルの目はもはや据わっている。……というより深淵に沈んでいる。表し方として適切かどうか? と問われれば意見が分かれるだろうが、確かに俺は今、感じた。ニュアンスが本当に近い。いや、近すぎる。

「いや……そのだな」

 これは怖い。意味もわからなく怖い。これが修羅場というものだろう。しかし、別にシャルと付き合っているという事実もない状態で、何故こんな状態になっているのか俺でも疑問でしょうがない。

 そしてシャル越しにラウラの視線を感じたのでそちらの方にも目を向ける。

「……むぅ~」

 ラウラはラウラで、こちらを見て唸っている。そして小さく聞こえる『嫁が浮気をした……嫁が浮気をした……』という言葉は一種の呪詛のように部屋に蔓延していた。

「……怖すぎる」

 ゴリ押しという言葉はよくゲームの攻略として聞くが、これが現実におけるゴリ押しというものだろう。

事実のないまま、俺が二股をしたという状況に陥っている。それを遠目で見ている束さんの顔はしたり顔で笑い転げている。まさしくしてやったりといった感じだ。

「はははっ! いっくん面白いっ! その困り顔すっごく良いっ! はは、ざまぁみろー!」

 屈辱的な笑い声が辺りに響く。この兎、捕獲して世界に売ってやろうか。

「それくらいにしなよ、束」

 俺がそんな世界規模の決意をしようとしたところで、束さんの後ろから見慣れない人が現れる。年は20代前半だろうか、長い髪を後ろで束ねている。性別は女だろう。

「一夏君が殺意の表情で見ているよ」

「いいんだよ~だ。今までのお返しだいっ」

 束さんはそう親しそうに応対をする。

 その束さんの反応に、先程まで唸っていたシャルとラウラの動きが一瞬固まる。確かに固まる気持ちも解る。あの束さんが身内以外の人とまともに会話している。それだけで固まるには充分すぎる理由だ。

「すみませんが、束さん? そちらのお方はどなたですか? 私、織班一夏は非常に困惑しています」

 俺はある種、無意識の状態で束さんに疑問を投げかける。

「どしたの、いっくん? 言葉遣いが本気でおかしいよ?」

 その質問に若干引く感じで束さんが答える。

「いやいや、だってですよ、束さん? シャルとラウラに人並みの会話をしただけでもある種の奇跡だっていうのに、親しげに誰かと話すだなんて貴方から非常識がなくなるようなものですよっ! 何ですかそれはっ!」

「それは……いいことなんじゃないかな? それより、非常識は訂正願うよっ!」

「訂正はできませんよ。絶対に。」

「言い切ったよっ!」

 まったく、自分のことくらい理解してもらいたいものだ。

「まぁ、話が進まないからそろそろ紹介してくれてもいいんじゃないかな、束?」

 謎の人物はそういうと自身の紹介を促した。

「そうだね。これ以上、自身に不安は覚えたくないからね」

 そう束さんは言うと謎の人物の紹介を始めた。

「この人は私と『同期』の……誰だっけ?」

「ボケるな」

 そういうと束さんの方を向き、頭を軽くこずく。

「あうっ」

「まったく……この娘は」

 その人物はこちらに向き直る。

「とりあえず束に紹介されかかったみーちゃん先生です。言葉の通りにこの施設で先生やらせてもらってます。本名は……あー、嫌いなので気軽にみーちゃん先生、もしくはみっちゃんとよんでください」

 そういう人物。みーちゃん先生は柔和な笑顔をこちらに送る。まさしくシャイニング。恐らくシャルに匹敵するであろうその笑顔は、この仕事のプロという雰囲気を充分に醸し出していた。

「あー、えっと、よろしくお願いします。みっちゃん先生」

 プロの雰囲気というのか、若干かしこまり会釈をする。シャルとラウラを横目で見てみれば二人とも俺とほぼ同じ状態だ。

「いいね! その呼び名も!」

 俺の呼び方が気に入ったのか、何度も小さく『みっちゃん先生』と呟いてうなずいている。その顔は仕草からも推測できるように満足気だ。

 そしてみっちゃん先生は呟くのをやめ、再び口を開いた。

「さて、とりあえずは来て早々、園児達の遊び相手ご苦労様です。やってみてどんな感じだったかな?」

「かなり大変でした。個性というのかそういうのが一人一人爆発しているといった感じで」

 そう爆発していた。園児達もそうだがあの二人もだ。

「そっかぁー。まぁ、初めてじゃあ仕方ないかー。でも早く慣れてね、君達は今日の園児達よりもう少し手ごわい特別教室の娘達の相手をしてもらうから」

「とっ、特別教室……ですか?」

「そっ、特別教室」

 みーちゃん先生はお茶目にもウインクをしながらそう言ってくる。そのウインクに若干ときめきかけた俺だったが、ふと視線を逸らした先には先程の衝撃も緩和されてきたのか、再び般若になりつつあるシャルと呪詛師のように言葉をブツブツと言い続けるラウラの姿があった。

「節操ないよねー、一夏は」

「縛る、嫁を縛る、それしかない、大丈夫。私なら出来る――縛r」

 この時、俺は言わずにはいられなかった。

「あのウサミミに関わるとロクなことがない」

 そう最後に言い残した俺は再びみっちゃん先生の話を聞くまでに、小一時間の時間を消費するのだった。

 理由は聞かないで欲しい。

 貴方に良心というものが残っているのならば。



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なろうでは書いてないです。
つまりここから初です。


 既に時刻は午後六時を回り、'支度の早い家ではすでに夕飯を家族で囲っている時間、俺達は『特別教室』と呼ばれる所まで束さんとみっちゃん先生に案内されていた。

「しかし、さっきの痴話喧嘩は凄まじかったなぁ、いつもあんな状態なの? 一夏君?」

 先程の修羅場のことを言っているのだろう。みっちゃん先生は不思議そうに聞いてくる。

「そうです……ね。まぁ……大体そんな感じ……です」

 俺は歯切れ悪くそう答える。それもそうだろう。今ここで『いつも、こんな感じだね。いやぁー、モテる男はつらいね、ははは!』なんてことを言ってしまえば修羅場がまた再来する。そもそも、俺は言える度胸がなければ事実もない。そんなことをさらりと言ってしまえる人間がいたとしたら、そいつは相当の遊び人だろう。言い淀むのはある意味当然だ。

「そうかー、いつも続くのか、苦労してるね。まさに女難の相がフルスペだね」

「正直、こんなフルスペはいらないですけどね。本音を言えば、俺は静かに暮らしたいですよ」

「なるほど、静かにとは具体的にどのように?」

「そうですね、普通に授業受けて、友達と騒いだりですかね?」

「……あー、うん、なるほどねー、理解したよ。これは手こずるわ」

 みっちゃん先生は一人納得したような顔付きになり、シャルとラウラに視線を向ける。その視線に対しシャルとラウラはため息をつくと大きく頷いた。ため息の成分を推測するとしたら恐らく諦め、呆れ、悲しみ、6;3;1の割合だろう。

「まったく、これじゃ箒ちゃんも大変だよ、うん」

 ふいに会話に参加した束さんもそんなことを言い出す。

「何故、ここで箒の名前が出てくるんですか?」

「さすが、いっくんっ。さすがは鈍感王! いやー、束さんは憎い! その性格が憎いよー!

 そういうと束さんは脇をつついてくる。何度やられてもうざい。この人のコミュニケーションは人をおちょくることから始まるのだろうか? それともボケることから始まるのだろうか? 理解に苦しむ。……いや、理解は出来ない。理解出来たとしたらそれは束道(馬鹿の王道)を歩んでいる証拠だ。後には引き返せない。

「前回のキング・オブ・バカの仕返しのつもりですか? 束さん?」

「そうだね、仕返しだよ。いいねっ、胸がすっきりとするね!。まあ、私の胸はむしろ豊満なのだけど!」

 束さんはある胸を強調し、余分な一言を発した。この一言は世界の女性の何割かを敵に回し、さらにIS学園の鈴……いや、あるお方を局地的に激怒させることだろう。世界を既に敵に回しているというのにこのうえさらに増やそうとするとは。さすがは……

「ドMですね」

「何がっ!?」

「いや、すみません。本音がこぼれました」

「私はいっくんの心の中が覗きたいよ……」

 束さんは若干落ち込むように言った。

「束さんならそんなモノが作れるんじゃないですか?」

「ま、まぁね、作れると言えば……作れるかな、うん。よゆーだね、うん、よゆー」

 明らかに嘘が混っていると思われる言葉で束さんは言う。

「こらこら、見栄を張るな、見栄を」

 ここですかさずみっちゃん先生のツッコミが飛ぶ。

「いやいや、何を言ってるんのですか、みーちゃん? 私は何だって作r」

「……束」

 束さんの見栄にみっちゃん先生の有無を言わさぬ念押しが入る。

「すみません、作れません」

 束さんは念押しに折れ、正直に言った。

「何故、そんなくだらない嘘をいうんですか、束さん?」

「いやー、だってさ、世間的に私って天才じゃん? 大天才じゃん? 大大天才じゃん? そんな私に作れないものがあるなんて思われたくないじゃん?」

 妙に天才を強調して言ってくる。そんなに天才だということを褒めて欲しいのだろうか? だとしたら喜んで欲しい。貴方はまず間違いなく天災だ。

「天災か天才じゃないことはまず置いとくとして、本当に作れないんですか? IS何ていうトンデモ兵器を作っておいて」 

 これは本当に疑問である。あれが作れてこちらが作れない。そんなことがあるのだろうか? 作れないにしても近いモノは作れてもおかしくないと思うのだが。

「ああ、何故かこの子はそう言ったモノが作れないんだ、不思議なことにね」

 みっちゃん先生は束さんの変わりにそう言った。そしてその言葉の次にものすごく説得力のある一言を発した。

「もし作れていたとしたらこいつのこの性格は生まれないでしょ?」

 ああ、納得だ。すごく説得力がある。説得力というよりは既に一周回って確定的に近い。

「なんかすっごい失礼な言葉が聞こえたんですけど、みーちゃん……。 というか、いっくん!? 天才か天災って何!? なんか片方、自然現象になってない!?」

「だが事実でしょ?」

「事実ですね」

「いっくんまでひどいっ、完全にアウェイ! この場に味方はいないのですか!?」

 束さんはそう叫ぶとふと目が合ったのか、シャルとラウラに視線を送った。

「そこの金髪ちゃん、そして銀髪ちゃん! 二人は私の味方だよね!?」

 突然、束さんがシャルとラウラに話を振る。

「えと……あの」

 シャルは突然の話の振りについていけないのか、それとも束さんの発言に否定的なのか言葉を濁す。

「……味方ではないな」

 ラウラに至っては多少考える素振りはしたのだが、結局はバッサリと切ってしまった。

「あぅ、束さんは孤独ですよ。まさに、孤立無援っ!」

 束さんはやはりオーバーリアクションで反応する。しかし、相変わらず気持ちが悪い。あの束さんが俺と千冬姉、そして箒以外と会話をしている。慣れるには時間が掛かりそうだ。

「あ、そういえば忘れてたよ」

 いきなり素に戻り、束さんは一言言うと、シャルとラウラに歩きながら向き直り笑顔で言った。

「なんか二人とも私の扱いに戸惑うのは解るけど、いいんだよ、普通にしてくれて」

 そんなことを言った。

「い、いいんですか?」

 シャルは戸惑いながらも答える。

「いや、いいのだよ。普通にしてもらわないと空気が楽しくならないからねっ」

 束さんはそんならしくないことを言う。

「銀髪ちゃんもいいかな?」

「……わかった」

 ラウラも戸惑うように言葉を返す。当たり前だ。

「で、どうしたの、いっくん? なんか不思議そうな顔して」

 鋭い。 

「いや、相変わらず気持ちが悪いな、と」

「ひどいなー、いっくん……。だから朝も言ったでしょ、私は一応一般常識ならあるよって」

「その一般常識が一番引っかかるんですけどね」

「ひどっ」

 そう言うと束さんは空中にのの字を書き始めた。落ち込んでいる、というのは顔を見れば解るのだが、空中でのの字を書くという行為は端から見れば奇行だ。一種の魔術的な行為を疑ってしまう。

「さて、着いたよ」

 みっちゃん先生はそう言うと、一つの教室の前で立ち止まる。

「ここですか、俺たちの本当の担当教室って」

 俺は一言そう漏らす。

「そうだよ、この教室」

 みっちゃん先生は答える。

「なんだか俺たちがさっきまでいた教室とは全然違いますね」

 一見すればこの教室は普通に見える。しかし、この教室だけが孤立していた。辺りには部屋という部屋はない。そしてこころなしかドア等が頑丈に作られている感じがした。

「まあ、特別だからね」

 意味深な一言。

「じゃあ、中入ろっか」

 そうみっちゃん先生が皆を促すと引き戸を開け、中へと入る。

 引き戸を開け入った先は、外見の重厚感とは違い普通の教室だった。机があり、ホワイトボードがある。

そして花瓶。特別な教室だとは思えないくらい一般的な教室だった。

「特別というよりは普通ですね」

「中身はね」

 再び、意味深にみっちゃん先生は発言する。

 その直後、俺の腹に物理的な衝撃が走る。

「ぐおっ!」

 思わず、呻き衝撃の先に目線を泳がす。

「先生! 新しい先生! わあー、嬉しいな~」

 目線の先には幼い少女が俺の体に抱きついている。

「すみません、この子は誰ですか?」

「誰ってこの教室の子だよ」

 そういうと先程抱きついてきた少女は俺から離れ自己紹介を始める。

「すみません、なんかはしゃいじゃって……私、名前はオリヴィアって言います。よろしくね、先生っ」

 そして再び抱きついてくる。オリヴィアと名乗る少女は幼くもしっかりとした印象を受ける子だった。肌の色は褐色で、髪肩まで伸びるセミロング。色は白髪で肌の色と相反する幻想的な出で立ちをしていた。

「俺の名前は織班一夏、こちらこそよろしくな」

 俺が自己紹介をするとシャルとラウラもオリヴィアに自己紹介を始める。中々良い子だ。特別教室というくらいだからもっと性格などに難がある子が集まっているかと思ったらそうでもない。案外、そこまで大変ではないのかも知れない。まったく、みっちゃん先生は人を緊張させるのが上z……

「新しい先生がいるー!」

 直後再び身体に衝撃が走る。

「がぁっ!」

 今度は腹ではなく背中だ。

「背中がおっきいなぁー男の先生かな? 珍しいなー」

 声の主は幼い少女の声をしている。

「そういう君はこの……教室の子……かな?」

 背中に強い衝撃が加わったため、息が吸いずらい。俺は息を整えるようにして口を開いた。そうすると後ろにいた少女が眼前に現れ、オリヴィアと同様に自己紹介を始める。

「そうだよ、アンネって呼んでねっ」

 アンネという子は先程のオリヴィアとはうってかわって白い肌に綺麗な長い黒髪をしている。見た目はとても清楚なイメージを抱く。しかし先程の『衝撃』のせいだろうか……清楚というよりは活発という印象の方が強くなった。

 俺たちは再び自己紹介をするとみっちゃん先生に向き直る。

「で、みっちゃん先生? この子達が特別教室の子供達ですか。何だか少なくないですか?」

「いや、あともう一人いるはずなんだけどな。どこ行ったのかな?」 

 みっちゃん先生がそういうと、どうやら見つけたそうだ。

「あー多分あれじゃないかな」

 そう言って教室の後の方へ指を指す。その先には山なりに膨らんでいるカーテンと思われる布があった。

「あれですか?」

「多分ね」

 みっちゃん先生はそう言うとカーテンの方へ歩きだした。そして繭のようになっているカーテンを持つとこちらまで持ってくる。

「起きて、エイミー」

 エイミーと呼ばれる少女は繭のようになっているカーテンからグググッと顔を出すと一言言った。

「おはよう、皆さん。そしておやすみなさい」

 再び、エイミーと呼ばれる少女はカーテンで顔をくるませ眠りについてしまった。

「困ったね、無理やり起こそっかな……」

 みっちゃん先生は再び起こそうとカーテンに手をやる。

「ダメだよ、みーちゃん。エイミー一度眠ったら起きないもん」

 しかし、それはオリヴィアの言葉によって中断される。

「そうだよ、この子ほんとにマイペースだからね」

 今度はアンネからも言葉が入る。

「解ったよ、二人とも」

 みっちゃん先生は二人にそういうと繭と化しているカーテンを優しく床に置いた。

「じゃあ、布団持ってくるから皆はここにいてね」

 そう言い、みっちゃん先生は教室を出る。

 そして俺はシャルにぼそっと言う。

「なあシャル、うまくやってけそうかな」

 俺が今後どうなるのかシャルに聞くとシャルは笑顔だけど笑ってはいないあの笑顔で言ってきた。

「どうかな? ただ一つだけ解ったことがあるよ……」

 一言区切ると、笑顔なのにどす黒いオーラを纏っているシャルは次の言葉を発した。

「どうやらこの教室は危険みたいだね……」

 何が危険なのかはまったく理解は出来なかった(したくなかった)。……がシャルが恐ろしいということだけは理解できた。

 そのシャルの反応を見ていたラウラは不思議そうに首をかしげる。

「一夏、何故シャルロットはあんなに怖いのだ?」

「それが分かれば苦労しないな……」

 俺はうなだれるようにして言う。ラウラは俺の言葉を聞き、さらに首をかしげていた。

「……むぅ、不思議だな」

 ラウラが言うと束さんはまとめ的なことを俺たち二人に言ってきた。

「うーん、結構二人とも鈍感なんだね。まあ、いっくんは当たり前だとして」

 まったく納得はできない。しかしそれはラウラも同じようで軽く放心状態になっていた。

「一夏だけでなく、私も鈍感……だと」

 一部、聞き取りたくないことを言っているのだけが、気になった。



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5ー1

「今日はもう遅いね、よし泊まろう」

 みっちゃん先生が布団を持ってきた直後、現時刻を知った束さんの発言は教室に静寂と喧騒を同時に巻き起こした。

「いきなり何を言ってるんですか、束さん!」

「いや、だって遅いじゃん? 束さんもう疲れちゃったよ、運転したくないー」

 運転? そうだ、曲がりなりにもこの人の運転でここに来たことを失念していた。成程、この人の意向によって全てが決まるというのか、最初からこの人の計算の中、さすがは篠ノ之束。天災という言葉は嘘ではないのか……いや天才か。それにしてもどうやって免許を取ったのか疑問だ。この人なら実技の最初から溝落ちカーブくらいなら決め講習所を追い出されていてもおかしくはないだろう。……別に技術とかそういうんではなくただ単純に馬鹿さ加減からして。さらに馬鹿を追求するならば『溝がない? 無いなら掘るまでよ!』とかも言ってそうだ。

「成程、泊まりか……」

 そう、俺が思考を無駄に巡らせているとラウラの呟きが耳に入った。

「どうした、ラウラ? そんな難しい顔して」

 ラウラは右手を顎にあてるようにして何かを考えていた。

「いや……な」

 若干言葉に詰まるように次の言葉を発する。

「泊まる場合の部屋割りは、どうなるのかと思ってな」

 瞬間、場に緊張が走った……ような気がした。

「た、束さん! そういう時は無理しなくていいですよ。疲れているなら休む。それが人間です。真実です。ですから泊まりましょう。一夏なら任せてください」

 ラウラの発言の後、シャルが怒涛の勢いで束さんに詰め寄る。人間の反射を超えているんじゃないか? という錯覚さえ覚える。

「びっくりした、すごくびっくりした。金髪ちゃん落ち着こう、ホントに落ち着こう。大丈夫、私は逃げない。ここにいる」

 束さんも完全に虚をつかれたという様子で発言がしどろもどろになっている。追記でいうのならば周りもである。

「そうですね、深呼吸させてもらいます」

 そう言うとスーハー、スーハーと息を大きく吸う。

「では、言わせてもらいます。ボクは一夏と同じ部屋でいいんですよね?」

「ごめん、お姉さん、君の言っていることが何一つ理解できないよ」

 シャルは混乱していた。束さんも理解が追いつかない程に。

「シャルロット、いきなり何を言い出しているんだ? もう一回落ち着こう。それと一夏は私の嫁なので部屋は私と一緒だ」

 ラウラもラウラで混乱していた。

「まあ、落ち着こうよ二人共。大丈夫、部屋は皆一緒」

 束さんは落ち着くように二人に言いきかすと爆弾発言する。

「いやいや、束さん? それはまずいですよ!」

 俺は必死になり反対する。それも当然だ、こんなに美少女だらけの部屋で一緒に寝るなんて自殺行為にも等しい。確実に理性との戦争が勃発する。使う兵力は睡眠時間だ。シャレにならない。

しかも誤解を生む何らかの行動一つで理性の前に命が飛びかける。これはただの拷問だ。

「まずいって大丈夫だよ」

 束さんは必死な俺とは対象的に涼しい顔で言う。

「だってこの子達と一緒なんだよ? そんないっくんの日常生活みたいにはならないよ」

 俺の日常生活という部分にだけは引っかかりを覚えたが、確かにこの子達と同じ部屋というのなら安心だ。それならばISを出しての命のやりとりもないだろうし、危険な物(銃や剣)を出されることもない。

「そうですね……なら大丈夫なのかもしれません」

 渋々了承する。

「よし、解決! 喜べ、子供達よ! 今日はお兄さんとお姉さん達と朝まで遊べるぞ!」

 束さんがそう言うと、子供達は喜々として声を上げる。

「やたー、一夏先生と一緒だ! わー」

 オリヴィアはこちらが嬉しくなってくるように好意を向けて喜んでくれている。その証拠とでもいうのにぎゅーと抱きついてくる。

「ありがとうね。えーと、オリヴィア」

「うん!」

 なんだろうか、この感覚は? 最初に抱きつかれた時は戸惑っていたのであまり感じなかったのだが今なら解る。子供可愛い。親の気持ちが解りかけてくる。

「一夏先生ー、オリヴィアばっかりでずるいー」

 そう聞こえる方に目を向ければそこにはアンネの姿があった。

「どうしたのアンネ?」

「二人共凄く仲いいんだもん、なんか飛び込みにくい」

 アンネはそう言うと後ろに手を組み、石でも蹴るように足を前へ出している。ついでに口も尖らせている。拗ねている動作だ。

「おいで」

 俺はそういうと手を差し出す。

「でもぉ」

 アンネは多少渋るような顔をする。

「俺は……アンネとも仲良くしたいな」

「一夏先生ー!」

 アンネは叫ぶようにいうとオリヴィアと同じように俺に抱きついてきた。これはいけない。やはり子供、可愛すぎる。

「なあ、シャル」

 俺はシャルに意見の同意を求めるように言う。

「子供、可愛すぎる……天職かもしれない」

 真面目にそう思ってしまった。最初ここに来たときは、どうなるのかと思った。地雷原かとも思った。しかしここに気がつく布石だったというのならばそれも良かった。ここは良い。我、聖地を見つけた也。

「ねえ、一夏ってもしかしてロリコン?」

 ロリコン? それは俗に言う幼女性愛者というやつだろうか。それはない。この気持ちはまさしくプア。

「多分これは違う。父性というやつだと思う。そんな気持ちで見れる奴がいたとしたら俺は全身全霊をもって雪片で対峙する」

「そっかー、真面目に言われるとなんか怒る気もなくなっちゃうな」

 シャルはそういうと呆れるように手をランゲージする。……何故、呆れるのか。

「まあ……いっくんもロリコンへの第一歩を踏み出したところでご飯の準備をしようね」

 束さんはいきなり話に割り、そんなことをいう。

「そうですね、束さん。ご飯食べて今の一夏を忘れましょう」

 この時の二人の息は驚く程ぴったしだった。何がそうさせたのか。この疑問は生涯解けることはないだろう。

「じゃあ、お弁当買ってきたから、皆で食堂に行こう」

 今まで、傍観していたみっちゃん先生は話がまとまるな颯爽と弁当を掲げ皆を誘導する。

「あれ、みっちゃん? いつのまにお弁当買ってきてくれたの?」

 道中、束さんが素直に質問をする。確かにこれは疑問である。いつのまに買ってきてくれたのか……恐らく皆も同じ意見だろう。

「ああ、束が泊まるって言い出した辺りからかな」

「さすが、みっちゃん! やるねー」

 束さんはグッと親指を立てて笑顔をみっちゃん先生に送る。

「まあ、このくらい出来ないとこの娘とは付き合っていけないからね」

 すごすぎる。さすがは束さんと長いこと付き合ってきたお方だ。人間のレベルが違う。

「着いたよ」

 そうみっちゃん先生が言うとそこは教室の隣の何もない壁だった。

「みっちゃん先生? ここ壁ですよね」

「そうだね、壁。今はね」

 そうみっちゃん先生は言い、束さんに目配せをする。そうすると、束さんは『ほいさー!』と言う締まらない声と共に何もない壁に手を触れる。

 次の瞬間、壁は幾つものサイコロ状に別れ、集まり、今度は一つの手のひら大のブロックになる。そのブロックを束さんは手に取るとみっちゃん先生に変わり皆を誘導する。そして誘導し、皆が部屋に入ったことを確認すると、今度はブロックを空いた入口にかざすと再びその空間は壁になった。

「ささ、ここが食堂だよー」

 そう通された空間はどこにでもあるありふれた食堂そのものだった。しかし……

「食堂なのはいいですけど、何ですか今のギミックは!」

 俺は驚き、当然とも言える反応をする。

「面白いでしょー! コンセプトは持ち運べるドア! 誰も想像できない、うん、やっぱ私は天才だ」

 束さんは壁がひとつに収まったとも言えるブロックを俺に見せながらそう言う。確かに想像は出来ない。常人ならまず作ろうとも思わないだろう。確かに凄いには凄い。しかし俺はそんなことよりも言いたい事があった。

「でも、意味がないですよね」

「……え?」

 束さんはきょとんと小首をかしげる。

「だから意味なくないですか、そんなもの? めんどくさいだけで」

「めんどくさくないよっ」

「いや、確かに誰も想像できないところに隠れられる、ということは良いんですが、食堂にやる意味はないですし、そもそもそのブロックを無くしたらどうするんですか?」

「え、それは……考えてもいなかった」

「さすがすぎます」

 俺は一言そう洩らす。

「まあ、その辺はまた直しとくとして、私はお茶を入れるね。出しちゃうよー、飛び切りの茶葉を!」

 束さんは話をごまかすかのように、厨房に消える。

「なんなんですか、あの人は」

 一言、呟く。

「まあ、あの娘はほぼ思いつきて行動するから、仕方がないんだ」

 みっちゃん先生が悟るように言う。

「そうですね」

 俺は納得し、頷く。

「といいますか、束さんってお茶とかって入れられるんですか?」

 そしてふと、気になったことを聞く。

「無理なんじゃないかな……少なくとも入れているところは見たことがないな」

 予想通りであった。

「じゃあ、私は束の様子を見てくるから、皆はそこのテーブルに座ってて」

 そういうとみっちゃん先生はテーブルにお弁当を置くと束さんを追い、厨房に消えていった。

「さて、弁当並べて俺たちは待ってようぜ」

 特にすることもなさそうだったので二人を待とうと椅子に座る。すると……

「じゃあ、私はここー」

 と、アンネが俺の右隣に座る。

「あー!、ず、ずるい!」

 今度はオリヴィアが左に座る。

 困ったなー、と全く困ってない笑みを俺は浮かべる。しかしその笑みとは対照的にシャルとラウラの目は拗ねるように俺を見ていた。

「わかってはいるけど、やっぱり嫉妬しちゃう」

「まったくだ」

「二人共どうしたんだ? ずっと立って」

 何故、二人共その場から動かないのか疑問に思い、声をかける。

『……鈍感』

 二人から同時に鈍感と呟かれる。

「?」

 二人の言葉に疑問を持ったところで、二人が厨房から帰ってくる。

「皆、お茶ですよー。しかも玉露!」

「ちょっと待たせてしまったかな? いやー束が……」

 みっちゃん先生は何かに気付いたのか言葉を途中で切る。

 そして新たに言葉を発する。

「まさか、また修羅場?」 

「違いますよ!」

 俺は修羅場を否定する。そう何度も修羅場になっていたらたまらない。

「みっちゃん、修羅場であってるよー」

 アンネがイタズラっぽくそう言う。

「ア、アンネちゃん!?」

 オリヴィアが驚きの声をあげる。

「うむ、修羅場か……」

「だから、違いますって」

 もうこうなってしまっては……と、半ば諦めるように否定する。

「さあ、ご飯食べましょう! 皆さん、ねえ!」

 間違いを正すことは諦めるしかない。

 ならば、話を変えることにしようと俺は強引に話の切り替えを計る。

 先程の束さんが話をごまかした理由が少し解った気がした。

 



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