if~刹那君は操縦者~ (猫舌)
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第1話

友人からのリクエストで、ISの話を書く事にしました。
よろしくお願いします。


???サイド

 

 

僕はある日、唐突に死んだ。その際、女神である《アテナ》さんによって予定外の死である事。そして特典を持って転生する事を告げられた。謎のダーツで決められた転生先と特典。

こうして僕は転生した。前世では碌な扱いで無かった僕。両親はおらず、周りからは腫れ物扱いされた僕はきっとこの世界でも上手くいかない。そう思っていた。

でも、僕の両親はとても優しくて温かかった。こんな僕を愛してくれる人達の元に生まれた僕は幸せだと思う。そして僕がまだ転生して間もない頃に事件は起きた。

 

 

----《インフィニット・ストラトス》

 

 

通称ISと呼ばれたソレは突如日本に撃ち込まれた大量のミサイルを蹴散らし、その性能を世界に知らしめた。

ISとは《篠ノ之 束》と言う人物によって発表された宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツの事だ。当初は誰もがその机上の空論だとか色々言ったらしいが、先程言ったミサイルを蹴散らした事件。そのISが純白の騎士の様な外見だったので《白騎士事件》と呼ばれた。

だが結局はISは宇宙進出ではなく、各国に軍事転用された事で本来の目的を見失ってしまった。正直な話、僕は宇宙に行けるとワクワクしたが世界の真実にショックを受けた。

と言っても僕がそれを使用する事は土台無理な話しなのだが。何故なら、"ISは女性しか動かせない"からだ。

その理由は分からない。でもそれが理由で世の中は女性が有利な《女尊男卑》な世界へと様変わりして行った。家の両親やその友人方はそんな事なかったけど・・・。

世界が大きく変わってから数年。僕は中学生になり、学校からの帰り道を歩いていた時だった。家の近くのゴミ捨て場。そこで何かが蠢いているのを目にする。

 

 

「・・・何?」

 

『マスター。あの反応は人間です』

 

 

僕の言葉に首元のネックレスから声が上がる。それが僕の特典の一つであるアテナさん特製のIS《セシア・アウェア》。通称セシアだ。

誰かが倒れていると分かった僕はすぐに近付いてゴミ袋の山を掻き分ける。

 

 

「あの!大丈夫・・・です、か・・・」

 

 

段々と言葉が尻すぼみになって行く僕。目の前に映った物は機械質なウサ耳。不思議の国のアリスが来ている様な服。それを身に付けた女性がブツブツと何かを呟いている。

 

 

「クッソ・・・なんでこの束さんがこんな目に合わないといけないんだよ・・・私は天才なんだお前等が悪いんだよ・・・」

 

「えっと・・・」

 

『マスター、捨て置きましょう。倒れた人なんていなかったんですよ』

 

「そんな訳にも行かないよ。取り敢えず家まで連れて行こう」

 

 

僕はよく聞こえない独り言を話す女性を背負って家まで走った。

 

 

~自宅~

 

 

「ただいま~」

 

「お帰り刹那。・・・その背中のは?」

 

 

家のドアを開けるとマグカップを持った白衣を着た男性が僕に声を掛ける。この人が僕の父親で科学者の《不動 遊星》だ。どうやら今日は仕事が早く終わったらしい。そんな父に僕は事の経緯を説明する。

 

 

「そうか。なら彼女に色々聞かなければな」

 

「父さん?」

 

「おい、起きろ《篠ノ之》」

 

「うぇ?・・・げっ!?不動遊星!?」

 

 

父さんが声を変えると女性は顔を青くして僕の背中から離れた。そして父さんを警戒するかの様に睨みつける。

 

 

「何でお前がいるんだよ・・・」

 

「俺の家だからな。それにゴミの山で倒れていたお前を連れて来たのは俺の息子だ」

 

「・・・このガキが?」

 

「あ、どうも。《不動 刹那》です。っていうか父さん知り合い?」

 

「同級生だ」

 

「ふ~ん。コイツの息子か・・・」

 

 

そう言って僕を一瞬見てから直ぐに視線を逸らす。まるで興味が無い様に。なんか失礼な人だな。

そう思っていると篠ノ之と呼ばれた女性は踵を返して出て行こうとする。・・・ん?篠ノ之?ってまさか・・・

 

 

「あの!」

 

「なんだよ。お礼なんt「このデータ見てもらえませんか!?」・・・なんでそんな物を」

 

 

僕は相手が篠ノ之束だと分かった瞬間、直ぐに端末を差し出した。そのデータを嫌々見つめる篠ノ之さんだったけど、すぐに目の色を変えてデータを見る。

そして父さんに目を向けた。

 

 

「このデータはお前が?」

 

「違う。お前の発表を見てから刹那が自分で組み立てた理論だ。あまりもの熱心さに俺と妻も嫉妬したな」

 

「そう・・・」

 

「それで、どうでしょうか?」

 

「この理論だと宇宙空間での活動が1時間も出来ない。でもその考えはなかったよ」

 

「本当ですか?」

 

「人の考えもしない事を思い付く辺り、父親譲りだね」

 

「当然だ。俺の息子だからな」

 

 

そう言って父さんは篠ノ之さんにドヤ顔を向ける。おお、父さんがあんな笑顔をするの久しぶりだ。父さんは基本的に無愛想って言うか無表情だからね。少し感情の表現が苦手らしい。

篠ノ之さんは父さんを一瞥してからもう一度僕を見た。

 

 

「君の名前、何だっけ?」

 

「改めまして、不動刹那です」

 

「そっか。じゃあ、《せっちゃん》だね!」

 

「せっちゃん?」

 

「そうそう。せっちゃん!」

 

「あ、あはは・・・」

 

 

どうやら篠ノ之さんに興味を持ってもらえたらしい。二人で笑っていると父さんが提案した。

 

 

「篠ノ之、今から用意するから風呂に入れ。臭いぞ」

 

「じゃあありがたくいただくよ」

 

 

そう言って父さんの案内で篠ノ之さんは風呂場へと向かって行った。それを見送ってから僕は部屋に戻る。そして嬉しさのあまりジャンプした。

 

 

「やった!その考えはなかっただって!」

 

『はいはい。良かったですね~』

 

「むぅ。セシアは本当にあの人の事嫌いだよね。仕方ないけどさ」

 

『当り前です!言う事聞かないからってポイ捨てする馬鹿兎ですよ!?誰が進んでテロみたいな事するもんですか!』

 

「そこの所も聞いてみよっか」

 

『そうですね』

 

 

首元で憤りを見せるセシアを宥める。セシアは元々篠ノ之さんに造られたISの一つとして生まれ、彼女の命令を拒否してシステムの一切をダウンした所を捨てられたらしい。溶鉱炉にこう、ポイッと。でも流石は神様に造られた存在。そこで隠して来たシステムを起動して転移。僕の目の前に突然現れた。

転生特典無いな~って思っていたら唐突なエンカウントだった。

そんな出会いを思い出しながら部屋着に着替えてリビングへ降りる。父さんがキッチンでホットミルクを作っていた。暫くすると篠ノ之さんは母さんのパジャマで出て来た。そして顔を顰めている。

 

 

「どうした篠ノ之?」

 

「いや、この下着大きいんだけど」

 

「・・・そうか」

 

 

父さんは何も言わずに目を逸らした。ああ、母さんの方が大きかったのか。そんな考えを頭の中から消す。女性に失礼だ。

ホットミルクをテーブルに置いて僕達を座らせた父さんが口を開く。

 

 

「篠ノ之。どうしてお前は倒れていたんだ?今は行方を眩ませているとニュースで聞くが」

 

「簡単だよ。この束さんの頭脳を狙って色んな組織が襲撃してきた。それを撃退しながら逃げたらお腹が空いて力尽きた。以上」

 

「・・・ふっ。お前は昔から詰めが甘い」

 

「五月蠅いな!?機械弄りが好きすぎて食事を抜かしてたお前に言われたくない!」

 

「今の俺はもうそんなミスはしない。俺にはコレがある」

 

 

そう言って父さんが白衣のポケットから取り出したのは10秒チャージで有名なあのゼリー飲料だった。それを見て僕の中の何かがキレる。

 

 

「これがあれば10秒で空腹を満たs「父さん?」ヒエッ・・・刹那?」

 

「僕言ったよね?ちゃんとご飯食べてって。お弁当渡したよね?なんでそんな物で済ませてるのかな?」

 

「お、落ち着け刹那!?」

 

「母さんのお弁当を残す理由はソレか!?」

 

「ち、違う!《アキ》の弁当は後の楽しみに・・・」

 

「一食で食べきれ!」

 

「刹那の食欲と並べないでくれ!?流石の俺も重箱5段は無理だ!」

 

「そこは愛の力で乗り切ろうよ」

 

「前に3段目まで言ったが、胃の中身が激流葬した」

 

「うわぁ・・・」

 

 

ドン引きしながら父さんからゼリー飲料を取り上げる。溜息を吐くと、篠ノ之さんが大声で笑った。

 

 

「あはははっ!この親子面白過ぎ・・・!」

 

「あぅ・・・」

 

「可愛いなぁ!せっちゃんは!」

 

 

思い出したら恥ずかしくなってきた僕は俯き、篠ノ之さんが頭を撫でる。暫くこんな状態が続き、ようやく離してもらった所で父さんが言った。

 

 

「それで、篠ノ之はこれからどうするんだ?」

 

「ん~・・・また逃亡かな?世界の嫌われ者だしね」

 

「えっ、帰っちゃうんですか?」

 

「私も残念だけど此処に居るとせっちゃんが危ないしね~」

 

「そう、ですか・・・」

 

「・・・篠ノ之。一つ提案がある」

 

「・・・お前の提案は碌な物じゃないけど、まあ聞いてあげるよ」

 

 

篠ノ之さんがジト目を向けると父さんは苦笑しながら提案した。

 

 

「俺の研究所に来ないか?」

 

「・・・はぁ?」

 

「実は今、秘密裏にISによる宇宙活動を可能にする為の研究を行っているんだ」

 

「うっそマジで!?」

 

「父さんソレ初耳」

 

「秘密裏、だからな」

 

 

驚く僕達に再びドヤ顔を向ける父さん。なんかムカつく。

 

 

「って言うか研究所なんてやってたんだ」

 

「ああ。これは名刺だ」

 

「どれどれ・・・《イリアステル》!?超有名な企業じゃん!」

 

「お前なら知ってると思ったんだがな」

 

「ISと関係無い事をメインにしてる会社だったから興味無くって。でも有名企業なのは知ってたよ?それで、私をその研究員に?」

 

「ああ。と言っても理由は刹那の我儘だがな」

 

「せっちゃんの?」

 

「僕の?」

 

 

父さんの言葉に僕は首を傾げる。父さんは自分の端末を取り出してとあるデータを見せる。それは僕が小学校の頃に自由研究で造ったISの模型と原寸大にした際のスペックデータだった。そのモデルはセシアのデータにあったガンダムの見た目を模した物だ。

と言ってもクラスの女子から男の癖にISを語るなと怒られたが。

 

 

「これを馬鹿にされた時、刹那は家で言っただろう?何時か宇宙に行ける様にすると」

 

「言ったけど、他に何か言ったっけ?」

 

「だから研究所の一部を貸せと俺に言ったじゃないか」

 

「・・・まさかそれで?」

 

「初めての息子の我儘だ。それにISはその首元にあるからな」

 

「ってそれコアNo.0じゃん!溶鉱炉に投げたのに!?」

 

『マスターに会う為に地獄の底から舞い戻ったんですよ馬鹿兎』

 

「キエエエエエエエ!シャベッタアアアアア!?」

 

 

セシアから発された音声に篠ノ之さんは椅子から転げ落ちる。そして飛びあがってセシアに話し掛ける。

 

 

「何で喋ってんの!?」

 

『私は最初から喋れます。ただ貴女の前では喋らなかっただけです』

 

「なんだよソレ・・・せっちゃんがマスター?」

 

『その通りです。私は一万年と二千年前からマスターのISですから』

 

「その頃に束さんは産まれてないよ。ていうかせっちゃんは男の・・・子だよね?」

 

「そうですよ。よく間違われますけどね」

 

 

篠ノ之さんの疑う様な目に僕は涙する。前世とは顔は変わったけど、僕の顔は相変わらずの女顔だった。母さんに似た顔と背中まで伸びたストレートの髪型で、父さんの髪の特徴であるラインの様な金髪が一部に走った髪。その他は前世と変わらぬ白髪である。母さんは父さんみたいな蟹にならなくて良かったと言っていた。父さんはその日、自室から出て来なかった。

 

 

「男の子はISを展開できないんだけど・・・」

 

『マスターなら出来ますよ?』

 

「・・・what?」

 

『単に今まで装着させなかっただけです。マスターにはなるべく平和に育ってほしいので』

 

「いや、いやいやいや!今その事実を聞いて束さんは穏やかじゃないよ!?」

 

「俺は知っていた」

 

「ファッ!?」

 

 

父さんの言葉に篠ノ之さんが奇声を上げる。僕は理解が追い付かず、ポカンとなっていた。そんな僕にセシアが優しい声で説明してくれる。

 

 

「マスターはどうしてISを動かせるのは女性だけだと思いますか?」

 

「う~ん・・・篠ノ之さんが女性だから?」

 

『・・・一応理由をお聞きしても?』

 

「仮に全てのコアがセシアみたいに人格を持っているとしたら製作者である篠ノ之さんの真似をすると思うんだ。そうすると製作者に性格が似て、異性に対しては拒否反応とか出すんじゃないかな?それで女性にしか動かせない、とか?」

 

『大正解ですマスター。そこの馬鹿兎でも辿り着かなかった答えですよ!』

 

 

セシアから謎の拍手と大歓声が聞こえる。この子またネットで音性素材拾って来たな。軽くセシアをつついていると篠ノ之さんがさっきの僕の様にポカンとする。

 

 

「私が女性だから女性にしか動かせない・・・?」

 

『当り前じゃないですか。貴女に造られたIS達は貴女と白騎士の操縦者である《織斑 千冬》しか人間を知らなかったんですよ?貴女の性格を模倣したら特定人物以外は有象無象に映るんですし、ましてや異性なんて拒否反応しか示さないに決まっているでしょう?』

 

「うぐっ・・・じゃあNo.0はどうなのさ!?」

 

『私は例外です。貴女を模すのではなく、世界中のデータベースにアクセスして人がどう言った歴史を歩んで来たのかを学び、マスターを選んだんです。仮にマスターが世に聞く屑男だったら他の人を探しましたけどね。やはり私の目に狂いは無かった!』

 

「よく喋るISだこと・・・」

 

「うん、僕もセシアがパートナーで良かったよ」

 

『マスターのデレ来たあああああっ!』

 

 

セシアに感謝の言葉を言うと、叫び出した。自分で言うのもアレだけどこの子僕の事好きすぎでしょ?何時もこんな感じだし。手に握って寝ないと怒るし。

さっきから奇声を上げる開発者とその発明品のコンビに対し、父さんが一つ咳払いをした事で場の空気が収まった。

そして父さんが再び篠ノ之さんに視線を向ける。

 

 

「それでどうする篠ノ之?お前は名を隠して所属してもらう事になるが」

 

「・・・良いよ。せっちゃんの夢は私の元々の夢でもあるしね。ただし!私からも条件がある!」

 

「一応聞こう」

 

「目的のISが完成したらそのパイロットにはせっちゃんを推薦させてもらう」

 

「えっ!?」

 

「当り前でしょ?せっちゃんの案から出た研究なんだからせっちゃんがやらないと」

 

「それなら開発者の篠ノ之さんの方が良いのでは?」

 

「私は動くよりもバックアップの方が得意だからせっちゃんを援護する。それにせっちゃんを守るのはNo.0の役目だからね」

 

『当然です。マスターは私の全てを掛けてお守りします』

 

「分かった。その条件で宜しく頼む」

 

「こちらこそお世話になるよ、《ゆー君》」

 

「やっと認めてくれたな」

 

 

そう言って二人が握手を交わす。こうして篠ノ之さんが父さんの経営する企業《イリアステル》の一員になる事が決定した。それから暫く篠ノ之さんとISや機械についての話をしているとリビングの扉が開く。

そこには赤い髪をした女性。僕の母親である《不動 アキ》が立っていた。

 

 

「ただいま。・・・その人は?」

 

「お帰りアキ。彼女は俺の同級生だ。名前は・・・」

 

「篠ノ之束だよ。よろしく、ゆー君のお嫁さん」

 

「し、篠ノ之!?」

 

「母さん落ち着いて。多分次の発言で腰抜かすから」

 

「アキ、篠ノ之は明日から研究所の職員だ」

 

「・・・ああ」

 

「母さん!?」

 

『お母様!?』

 

 

母さんはフラッと床に倒れる。僕は急いで母さんを支える。まさかここまでとは。確かにあのISの開発者だもんね。そりゃそうだ・・・。

母さんを椅子に座らせて落ち着かせる事数分。何時の間にか篠ノ之さんと意気投合していた。

 

 

「こう、接しにくい人かと思っていたけど話し易くて安心しました」

 

「束さんも接し易い人で安心したよ~。よろしくね《あーちゃん》」

 

 

父さん曰く、母さんは昔は人と関わるのが苦手だったらしい。でも父さんやその仲間達と関わって行った事で明るい性格になって行って今の職業に就いているそうだ。

母さんの職業は医者だ。最近は病室のお年寄りの方々とメンコで遊ぶ事がマイブームらしい。患者の方々と中が良い様でなによりだ。ただ、自分のメンコに《ブラックローズ》って名前を付けるのはどうかと思う。

そう思いながらホットミルクを飲んでいると母さんが手紙を差し出して来た。

 

 

「刹那、手紙が来てたわよ」

 

「僕に?あ、《クロウ兄》と《ジャックおじちゃん》からだ!」

 

「相変わらずジャックの事はおじちゃんなんだな」

 

「ジャックおじちゃんはジャックおじちゃんだよ?」

 

 

クロウ兄とジャックおじちゃんは父さんの幼馴染で、クロウ兄は警察官を。ジャックおじちゃんはバイクレースのプロをしていてキングと呼ばれている。

僕は昔からジャックおじちゃんの走りが好きで何時かあんな恰好良くバイクに乗りたいと考えている。父さんは大学時代にクロウ兄とジャックおじちゃんの三人でチームを組んでバイクのレースに出場して優勝している。手紙を開ける僕を見ながら母さんが笑う。この時の僕は楽しそうなんだそうだ。

 

 

「刹那は本当にジャックが好きなのね」

 

「うん!"キングは一人、この俺だ!"」

 

「だがおじちゃん呼びだ」

 

 

人差し指を天に向けて叫ぶ僕に父さんが面白そうに笑う。ちょっと恥ずかしくなった僕は手紙を読む。クロウ兄からは今度、とある地域に異動になった事と恋人が出来た事の報告。幸せそうで何よりだ。そしてジャックおじちゃんの内容は今度日本でレースをする事になった報告とそのチケットを家族分同封してくれていた。

 

 

「おじちゃん今度日本でレースやるって!」

 

「ねえせっちゃん。そのレースって面白いの?」

 

「はい!特にこの《ジャック・アトラス》って人が凄いんですよ!」

 

「へ~、そうなんだ」

 

「あ!」

 

「どうした刹那?」

 

「一枚だけペアチケットになってる」

 

「ジャックの奴。また適当に入れたな」

 

「篠ノ之さんも一緒に行きましょうよ!」

 

「良いの?」

 

「はい!」

 

 

キョトンとする篠ノ之さんに僕はお誘いをする。変装すれば大丈夫だろうし是非ジャックおじちゃんの走りを見てほしい。きっと篠ノ之さんも気に入ると思うから。篠ノ之さんが視線を父さん達に向けると二人は笑顔で返してくれる。

篠ノ之さんは僕に向き直して言った。

 

 

「じゃあ、お誘い受けようかな」

 

「やったぁ!篠ノ之さん、僕の部屋に行きましょう!ジャックおじちゃんのレースの映像あるんですよ!」

 

「うん!楽しみだな~♪」

 

「晩御飯になったら呼ぶわね」

 

「「は~い♪」」

 

 

母さんに返事をしてから僕と篠ノ之さんは部屋に行く。そしてジャックおじちゃんのレースを見る。何度も見直したジャックおじちゃんの走り。チラリと隣を見ると篠ノ之さんは釘づけになっていた。

レースの映像が終わり、僕と篠ノ之さんは頷きあって一緒に指を掲げる。

 

 

「「キングは一人、この俺だ!」」

 

 

そして二人で笑い合う。

 

 

「カッコいいね!ジャック・アトラス!」

 

「はい!分かってくれましたか!」

 

「うんうん!まさか束さんが他の存在に興味を向けるなんて思ってもなかったよ~」

 

「レース、楽しみですね!」

 

「そうだね!楽しみだな~」

 

 

その後、母さんのご飯を食べて篠ノ之さんは一晩泊って行く事になった。篠ノ之さんは僕の部屋で布団を敷いて寝転がる。本人が言うにはまともな所で寝るのは久しぶりらしい。

電気を消して僕もベッドに入ると篠ノ之さんが声を掛けて来た。

 

 

「・・・ねえ、せっちゃん」

 

「なんですか?」

 

「せっちゃんはISで何がしたい?」

 

「当然宇宙に行きたいですね。それで、月の上を歩いてみたいです」

 

「・・・うん、嘘はないね」

 

「えっと、なにをしてらっしゃるので?」

 

「嘘発見機だよ」

 

「そんなものあったんですか?」

 

「あったよ。でも嘘は付いてなかったよ」

 

「僕って隠し事は苦手で・・・」

 

 

そう言いながら苦笑すると、ベッドに篠ノ之さんが入って来た。

 

 

「し、篠ノ之さん?」

 

「束って呼んで」

 

「た、たばねサン?」

 

「さんは無し。敬語も無しじゃないとヤダ」

 

「わ、分かったよ束」

 

「--っ!」

 

 

要望通り答えた瞬間、束が僕を思いっきり抱きしめて来る。り、立派な物が背中に当たってらっしゃる!耐えろ僕の欲望!健全な自分が憎い!

 

 

「せっちゃん」

 

「な、なに?」

 

「絶対に宇宙に行こうね」

 

「・・・うん。必ず」

 

 

こうして僕達は一緒に眠った。翌日、母さんに色々と小言を言われたのは仕方ないと思う。あとセシアも対応が冷たかった。すぐに戻ったけど。

 

 

~翌日、《イリアステル[IS研究部門]》~

 

 

「此処が今日からお前の職場になる研究所だ」

 

「わお。よくこんな設備が揃ったね~」

 

「僕も初めて見るけど凄いな・・・」

 

 

父さんに案内された僕と束はイリアステルの研究所へ訪れていた。研究所へ入ると様々なプログラムが表示されたウィンドウが大量に並び、それを一人の男性がパソコンでコントロールしていた。

僕達に気が付くと男性は此方へと向かって来た。

 

 

「やあ遊星!この子が昨日言っていた?」

 

「ああ。篠ノ之束だ」

 

「今日からお世話になりま~す!」

 

「うんうん。元気でよろしい!それと、久しぶりだね刹那君」

 

「お久しぶりです《ブルーノ》さん」

 

 

僕に挨拶をしてくれた彼はブルーノさん。父さんの大学時代の同級生で、例のレース大会で父さん達のバイクの整備をしてくれた影の功労者だ。今までに何度か会った事だあるが、とても優しくて良い人だ。

 

 

「さて、早速このデータを見てアドバイスを貰いたいんだけど良いかな?」

 

「どれどれ~?おお!」

 

 

ブルーノさんと束が早速データと睨めっこを始める。父さんは後は任せると言って仕事へ戻って行った。こうして僕達の夢への第一歩がスタートした。

だがこの時は知らなかった。僕の他に男性操縦者が現れ、僕も巻き込んで新たな物語が始まる事に・・・。

 

 

刹那サイド終了

 




次回から刹那がIS学園で生活を始めます。
読んでくださった方々、ありがとうございました。
これからも応援お願いします!


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第2話

三人称サイド

 

 

時は流れ、数か月。月も4月になり、新たな出会いが始まった。

そこはとある学校の教室。そこに一人、机に座り俯いた少年が居た。下から視線を移さない彼は心の中で呟く。

 

 

「(き、気まずい・・・!)」

 

 

そんな彼のストレスの理由はその周囲にあった。自分をひたすらに見つめて来る"大量の女子の視線"である。それもその筈。なにせ彼はあの"初のIS男性操縦者"なのだから。

その名は《織斑 一夏》。高校入試で道に迷い、間違えて入った部屋でISに触れ、起動させてしまったのだから。

それからは物事がスピーディーに進み、気が付けば現在の教室がある《IS学園》に入学する事になっていた。当然の如くISは女性にしか動かせない。よって彼の周りには女生徒しかいないのだ。これまでの経緯を思い出して溜息を吐きながら一夏はチラリと左を見る。その先に見えたポーニーテールの少女は視線に気付くとすぐに違う方向を向いてシカトを決め込む。

 

 

「(そ、そりゃないぜ)」

 

 

昔ながらの知り合いにして、実に6年ぶりの再会であった少女の反応に彼は再び重い溜息を吐く。そんな中、教室のドアが開き、緑色の髪をした女性が入って来た。なんとも頼りない雰囲気の彼女は元気よく声を出す。

 

 

「おはようございます!私はこの1年1組の副担任を務めます《山田 真耶》です。1年間よろしくお願いしますね!」

 

 

山田と名乗った教師の言葉に誰も反応はせず、静寂に包まれた。泣き出したい気持ちを抑え、なんと続行する。

 

 

「そ、それじゃあ出席番号順に自己紹介をお願いしますね」

 

 

そうして番号順に各々が自己紹介を始める。だが、その視線はさり気無く一夏の方へ向かっており、彼の緊張を加速させる。自分の事で精いっぱいの彼にそんな物は聞こえてはいなかった。

やがて一夏の番になり、それに気が付かない一夏。それに対し、教師である真耶が恐る恐る声を掛けた。

 

 

「織斑君?織斑一夏君!」

 

「は、はいっ!?」

 

 

頭が再起動し、顔を上げるとそこにはオドオドした何とも頼りない教師の姿があった。

 

 

「あ、あの、大声出しちゃってごめんなさい。怒ってる?怒ってるのかな?ご、ごめんね?でもね自己紹介が《あ》から始まって今《お》の織斑君の番なんだよね。だから自己紹介してくれるかな?だめかな?」

 

「そ、そんな謝らないでください!?自己紹介しますから!」

 

「本当ですか!?本当ですね?や、約束ですよ?」

 

 

真耶の言葉に苦笑しながら席を立つ。すると彼に先程とは段違いの視線が突き刺さる。顔が青くなるのを自覚しながら呼吸を整え、声を出す。

 

 

「織斑一夏です・・・」

 

 

その次には何を言うのか?真耶すらも真剣に見つめて来る中、彼の出した答えは・・・、

 

 

「・・・以上です!」

 

 

それだけだった。クラスの全員が新喜劇の様にズッコケ、更に気まずさが加速する。どうしたものかと悩む彼の頭上に突如、出席簿が炸裂した。

 

 

「お前は満足に自己紹介もできんのか!」

 

「げぇ!?関羽!?」

 

「誰が三国志の英雄か!馬鹿者!」

 

 

再び出席簿で頭を叩かれる。出席簿の持ち主である女性に真耶は話しかけた。

 

 

「織斑先生、もう会議は終わったんですか?」

 

「ああ。待たせた上に挨拶まで押しつけてすまなかった」

 

「ち、《千冬姉》!?」

 

「此処では織斑先生だ!」

 

 

三度目のアタックを決めて、一夏と同じ織斑と呼ばれた女性は真耶と入れ替わって教壇に立つ。そして冷たい目で生徒達にこう言った。

 

 

「諸君、私がこのクラスの担任を務める《織斑 千冬》だ。君達新人を一年で使える様にするのが私の仕事だ。私の言う事は絶対だ。聞けない奴はみっちり扱いてやるからな。覚悟しろよ、素人共」

 

 

独裁者の様な自己紹介を済ませた千冬に対し、一瞬の静寂の後に一斉に黄色い声が響き渡った。それはもう盛大に。

 

 

「千冬様!本物の千冬様よ!」

 

「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!北九州から!」

 

「ちくわ大明神」

 

「「誰だお前」」

 

 

騒ぎ出す女子に千冬は頭を押さえる。

 

 

「毎年よくこれだけ馬鹿者共が集まるものだ。私のクラスにだけ集中させているのか?」

 

 

その言葉に反省する者は誰一人おらず、更に女子は騒ぎ立てる。

 

 

「お姉さま!もっと叱って!罵って!」

 

「時には優しくして!」

 

「そして付け上がらない様に躾して!」

 

 

どうやらこのクラスにはドМしか居ない様だ。そんな中、一夏は一人呟く。

 

 

「千冬姉が・・・担任?」

 

「だから織斑先生だ!」

 

「あでっ!?お、織斑先生・・・」

 

「よろしい」

 

 

それ以降、千冬が進行を務めて自己紹介は終わった。全員分が終わった筈なのにクラスはざわついていた。その理由は一夏の隣の空席である。誰もが首を傾げる中、千冬が説明をする。

 

 

「諸君が気になっているその席にはあと一人在籍する生徒の物だ。だがソイツは今必要書類の提出で居ない。もうじき戻って来るので気にs・・・失礼」

 

 

話す千冬の声を遮って職員用の携帯から電話が掛かる。それに出て、数秒。携帯を仕舞い、話す。

 

 

「今、その生徒がこちらへ向かっていると報告があった。お前等、先程の様に無駄に騒ぐなよ?」

 

 

絶対零度の言葉にクラスは静まり返る。それから数分もしない内にドアをノックする音が響く。全員が件の生徒の全貌を目の当たりにしようと一夏の時と同じ視線を向ける。

 

 

「入れ」

 

「失礼します」

 

 

千冬の声に透き通った声が聞こえる。そしてドアが開くとその主が入室してくる。長く伸びたストレートの白髪に金髪のライン。そしてルビーの様な赤い目をした控えめに言っても美少女な人物は"男子用の制服"を身に纏っていた。

その姿を見て、クラスの全員が唖然とする。それは"彼"が数週間前にニュースに映っていた人物だったからだ。少年は女生徒の集団+一人に体を向けて笑顔で話す。

 

 

「この度、二人目の男性操縦者として入学する事になりました《不動 刹那》と申します。趣味は機械弄りで、女顔なのはコンプレックスなのであまり触れないでください。一年間、よろしくお願いします」

 

 

ペコリ、とお辞儀をする刹那に千冬が声を掛ける。

 

 

「書類は無事に出せた様だな」

 

「はい。お待たせしてすみませんでした」

 

「必要事項なら仕方あるまい。それに男性操縦者となればそう言った物も増えるだろう。席はそこだ」

 

「分かりました」

 

 

千冬の言葉に従って空席に腰掛ける刹那。それと同時に授業の終了を告げるチャイムが鳴った。

 

 

「では次の時間から本格的に授業に入る」

 

 

そう言って教室を教師達が出た瞬間、クラスの女子達の視線が男子二人に突き刺さった・・・。

 

 

三人称サイド終了

 

 

刹那サイド

 

 

まさか入学当日になって書類の追加があるとは・・・。取り敢えず授業に置いて行かれなくて良かった良かった。

安心した僕は鞄の中からラムネ菓子を取り出して口に含む。爽やかな味を楽しみながら次の授業の準備をしていると、隣から話しかけられてきた。

 

 

「なあ、お前が二人目の男性操縦者なのか?」

 

「さっきそう説明したけど。見た目にはノーコメントって言ったよね?」

 

「悪い悪い。俺は織斑一夏。よろしくな、刹那」

 

「ごめんね。あまり初対面で名前呼ばれるの好きじゃないから不動でお願いできるかな?織斑君」

 

「そんな固い事言うなよ。同じ男同士仲よくしようぜ」

 

「・・・はぁ」

 

 

初対面で凄い馴れ馴れしいなこの子。まあ、これくらいのテンションじゃないとこの学園は辛いよね。

 

 

----《IS学園》

 

 

島の上に造られたこの学校は平たく言えばISの専門学校。世界各国の操縦者達が集まるこの学校は最新のセキュリティによって守られている上に、移動手段はモノレール一本と言うほぼ隔離に近い学園島だ。

と言ってもセキュリティは僕からすればザルの一言で、家の研究所とかの方がよっぽど固い守りだと思う。何せ地下にはヤバい兎がいるし。

それにしても、さっきから肩組んで来て暑苦しいったらないんだけど早く離れてくれないかな・・・。

 

 

「ちょっと良いか?」

 

「ん?」

 

 

そう言って無愛想な少女が織斑君に話し掛けた。この子が資料で見た束の妹か・・・。

 

 

「おお、《箒》だよな?」

 

「ああ。此処ではなんだ、外で話がしたい」

 

「分かった。ごめんな刹那」

 

「だから名前は・・・もう良いや。ごゆっくり」

 

 

ようやく解放された僕は机に突っ伏す。そして顔を横に向けると一人の少女と目が合った。

 

 

「じー」

 

「・・・」

 

「じー」

 

「・・・何か?」

 

「さっきのラムネちょーだい、《ふーちゃん》」

 

「ふーちゃんって僕?」

 

「不動だから、ふーちゃんだよ~」

 

「なるほどね。はい、どうぞ」

 

「ありがと~♪」

 

 

ラムネを渡すと少女は嬉しそうに口に入れる。やがてラムネがなくなったのか僕の方へ向き直して自己紹介してくれた。

 

 

「私は《布仏 本音》っていうんだ~。のほほんって呼んで~」

 

「えっと、のほほんさんで良いかな?」

 

 

渾名ならまだ良い。束から何時もせっちゃん呼びだし。ただ誰でもいきなり名前呼びは慣れないんだよね・・・。よく父さんはそう言うの平気だったな。

これが前世から受け継がれたコミュ症の差か・・・!

 

 

「あ、そろそろ先生が来るから戻りな」

 

「うん!またね~」

 

 

そう言ってのほほんさんは戻って行った。やがて織斑君達も戻り、先生達が教室へ入って来た事で授業が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・となります。此処までで何か分からない人はいますか?」

 

 

山田先生の声に誰一人として手を上げる者は居ない。まあ、基本的な勉強はして来るよね。僕は小さい頃からIS関連の書物を読み漁ってたから問題は無い。

だが、僕の隣はそうではないらしい。

 

 

「織斑君に不動君、どこか分からない所はありますか?」

 

「僕は大丈夫です」

 

「山田先生・・・」

 

「織斑君?何処が分からないんですか?」

 

「ほとんど分かりません!」

 

「ほ、ほとんど・・・ですか?」

 

 

織斑君の言葉に先生は目を点にする。僕もまさか此処で突っかかるとは思ってなかった。だって今時の女子中学生でも知ってる分野だよコレ?

 

 

「えっと、他に分からない子はいますか・・・?」

 

 

答えは沈黙。手を上げない僕を見て驚愕する織斑君に対して織斑先生が聞く。

 

 

「織斑。入学前に手渡された必読の冊子は読んだか?」

 

「えっと・・・古い電話帳と間違えて捨てましだぁっ!?」

 

 

織斑君の頭に出席簿が叩きこまれる。えぇ・・・捨てたの?アレを?馬鹿じゃないの?

 

 

「馬鹿じゃないの?」

 

「馬鹿ってなんだよ!」

 

「あ、やっば」

 

「あんなの間違えるに決まってるだろ?」

 

「必読って大きく書いてあったけど?」

 

「そうだったか?」

 

「はぁ・・・」

 

 

その言葉に僕は大きく溜息を吐く。あれ?これって僕がおかしいのかな?

 

 

「織斑、再発行したものを渡す。一週間で覚えろ。良いな?」

 

「いや一週間なんt「覚えろ」・・・分かりました織斑先生」

 

「山田君、授業を再開してくれ」

 

「は、はいっ!」

 

 

こうしてこの時間の授業が終わり、教科書を片づけていると織斑君が机にピットリと密着していた。

 

 

「刹那ー、助けてくれ」

 

「ファイト」

 

「ええ!?教えてくれたって良いじゃないか!」

 

「捨てた君が悪いでしょうに・・・はい、放課後まで貸してあげるから」

 

「おお!サンキュー!」

 

 

そう言って織斑君は僕の渡した冊子を開いてノートに書いて行く。はたして、間に合うかどうか。

 

 

「ちょっとよろしくて?」

 

「あ、織斑君。此処は基礎の基礎だから絶対に覚えておく事」

 

「おう、分かった。此処ってさ・・・」

 

「それはこの説明の・・・」

 

「ちょっとよろしくて!?」

 

「悪い、今忙しいから後にしてくれ」

 

「ごめんね。でないとこの子本当にマズイから。それとも緊急の用事?」

 

「い、いえ、そう言う訳では・・・」

 

「それじゃあ後で話聞くから今はちょっと待ってもらえないかな。今の状況は本当に笑えないから」

 

「えっと・・・此方こそごめんなさい?」

 

 

僕の気迫を分かってくれたのか、金髪ドリルの少女は首を傾げながら席へ戻って行った。僕は再び織斑君の勉強を見る事に集中する。マジでアカンよマジで。

 

 

「はい次此処」

 

「おう!」

 

 

こうして勉強を続ける間に先生達が来てチャイムが鳴った。授業が始まり、織斑先生は言った。

 

 

「本来はSHRで決めるべきだったのだが都合が合わなかったのでな。再来週に行われるクラス対抗戦に出場するクラス代表を今の時間を使って決めたいと思う」

 

 

クラス代表・・・か。パンフレットにそんなイベントあったね。僕としては夏休みの後にあるISのレースが楽しみで仕方ないけど。

 

 

「クラス代表者は対抗戦などの代表になるだけでなく、生徒会の会議や委員会の出席もある。学級委員だと考えてくれれば良い。そしてクラス対抗戦は現時点でのクラスの実力を測るものだ。こういった催しはクラスの向上心に繋がる。一年間務めてもらうからそのつもりでいろ。自薦他薦は問わん」

 

「私は織斑君を推薦しまーす!」

 

「あ、じゃあ私は不動君で!」

 

「お、俺!?」

 

「織斑先生。僕はその推薦辞退したいんですけど」

 

「他薦された者に拒否権はない」

 

「・・・この馬鹿教師」

 

 

文句言いたいけど流石にこの人に手を出したらヤバいよね。

織斑千冬はISの世界大会王者。《ブリュンヒルデ》の称号を持つ教師。

実力は多分全盛期よりは下だけど、この人に下手な事をすればファンの方々に何されるかたまったもんじゃない。この状況をなんとかせねば・・・。

そう思っていると、僕の後ろから立ち上がる音が聞こえた。

 

 

「納得行きませんわ!」

 

 

さっきの金髪ドリルは人が反対した。

 

 

「この《代表候補生》であるこの私《セシリア・オルコット》が選出されないのですか!そこのお二人方は何かありませんの!?」

 

「言いたいけど先生が話を聞かないんだけど」

 

「えっと・・・君誰だ?」

 

 

織斑君の言葉で空気が凍った。さっき自己紹介してたじゃん。僕も移動しながら渡されたクラスのデータを見て覚えたんだよ。ちゃんと聞いてなよ。

 

 

「わ、私を知らないですって!?このイギリス代表候補生のセシリア・オルコットを!?」

 

「おう。あと、代表候補生ってなんだ?」

 

「織斑君、君はやっぱり馬鹿なんだね。言葉で分からない?」

 

「ん?・・・ああ、国の代表候補か!」

 

「そう。でも飽く迄も候補だからそこまで有名ではないよ」

 

「なんですって!?」

 

 

僕の言葉にオルコットさんは顔を真っ赤にしながら怒鳴る。

 

 

「いや、候補生なんだから漏れ出る可能性だってありえるんだよ?それにクラスの反応で分からない?」

 

 

周りの女生徒はオルコットさんの活躍だのなんだのは全く知らない様で揃って首を傾げていた。僕は一応知ってる。面白いIS使うんだもん。

でも機体性能を活かしきって無いって感じだった。

 

 

「くっ・・・それはともかく!このような選出、認められません!大体、男がクラス代表なんていい恥晒しですわ!この貴族である私に一年間屈辱を味わえと言いますの!?」

 

 

ワタクシって本当に貴族の話し方だなこの人。僕の知ってる限りでは多分爆弾発言するんだよね。うん、間違いない。僕は小声で首元の相棒に話しかけた。

 

 

「・・・録音よろしく」

 

『はい、マスター』

 

 

録音が始まった事にも気付かずにオルコットさんは好き放題に言い始める。

 

 

「実力から言えば私がクラス代表になるのは必然!それをただ珍しいからと言うだけで代表になられては困ります!ISの知識も無い猿の下になれと!?私がわざわざこの様な極東の島国に来たのはIS技術の修練を積むためであって、サーカスをする気など毛頭ございませんわ!」

 

 

オルコットさんの言葉にクラスメイトの顔が嫌悪感を示して行く。それもそうだ。この人が言った極東の島国の人間がISを造ったのだから。なのにこの言い様は日本人が殆どのIS学園の生徒達からすれば気に入らないの一言だろう。

さて、此処で録音した物を・・・

 

 

「大体ですね、文化としても後進的な国で暮らさなくてはならない事自体、私にとっては耐えがたい苦痛ですのに・・・」

 

「イギリスだって大したお国自慢ないだろ。世界一マズイ料理で何連覇中だよ」

 

 

空気も読まずに言い返した馬鹿が居た。なんで火に油注ぐどころかニトログリセリンに衝撃与えちゃうかなこの子は・・・!

 

 

「なっ、貴方ねえ!私の祖国を侮辱いたしますの!?」

 

「先にこっちを悪く言ったのはそっちだろ!」

 

 

二人はどんどん罵り合う。そんな二人を織斑先生は何も言わずに見ていた。いや、普通止めるだろうに。この先生駄目だ。ポンコツだ。そう思いながら僕は席を立って大きく咳払いする。そして携帯端末を取り出して液晶をタッチした。

端末からは先程の二人の発言が流れる。先に理解したのかオルコットさんは顔を青くして、織斑君は頭に?を浮かべていた。

 

 

「はいストップ。これ以上続けたらこの会話を各国の上に送り付けるよ」

 

「なんでそんな事するんだ?」

 

「少しは学ぼうよ君。良いかい?さっきの会話は国家間に亀裂が入るレベルなんだよ?」

 

「いやだからなんでだよ?ただの口論じゃないか」

 

「ただの口論じゃないから言ってるんだ。まずオルコットさんの発言が一番危ない。ISを造った国を馬鹿にしたんだよ?自分がISを学びに来てるのに」

 

「そ、それは・・・」

 

「次に織斑君。君はそれに対して言い返したのがいけなかった」

 

「なんでだよ!お前は日本を馬鹿にされて悔しくないのか!?」

 

「別にそこまで愛国心無いし。子供の癇癪みたいなものでしょ」

 

「お前それでも男かよ!」

 

 

よく分からない事を言う織斑君に本日何度目かの溜息を吐いて話を続ける。

 

 

「君達は此処に居る以上発言には注意するべきだ。特に代表候補生や世界に二人しかいない男性操縦者なんて大層な肩書き持ってるんだから。もう高校生だろう?よく考えて発言しなさい。それで?続ける?」

 

「いえ・・・申し訳ありませんでしたわ皆様」

 

「えぇ・・・俺も謝るのか?」

 

「当然。此処は喧嘩両成敗って事で」

 

「・・・悪かったよ」

 

「こちらこそ」

 

 

オルコットさんはクラス全員に、織斑君は渋々と言った様子で頭を下げる。そして織斑先生が手を叩いた。

 

 

「ではこうしよう。一週間後にオルコット、織斑、不動の三人で模擬戦を行い、勝者がクラス代表だ」

 

「良いぜ。四の五の言うより分かり易い」

 

「異論はありません。この私の実力を思い知らせてあげますわ!」

 

「仕方ない。それで行きましょう」

 

 

なんかやる気を出す二人に対して僕は考える。仮にやるなら"どの機体を使うかな"と。

一応僕はイリアステルのIS部門のテストパイロットとしてもこの学校へ来ている。僕の存在が明るみに出た事や、束達との計画が表沙汰にならない為に隠れ蓑のIS部門を創設してそこのテストパイロットになった。

機体は父さんが知り合いの所と提携して貰った物を改造した。学園側に申請してちゃんと複数の機体を所持する許可をもらっている。自分の会社の機体だ問題はあるまい。セシア?あの子はオーバーテクノロジー過ぎるのでもしもの時以外はお休み。だって粒子化とかダメでしょ。

考える僕を余所に、再び織斑君が馬鹿な事を言い始めた。

 

 

「それで、ハンデはどうするんだ?」

 

「あら?さっそくお願いですか?」

 

「いや、俺がどの位ハンデをつければ良いかなって」

 

 

その言葉にクラス中が笑った。この子本当に何も分かって無いな。ブリュンヒルデの弟って嘘じゃないの?

 

 

「お、織斑君はそれ本気で言ってるの?」

 

「男が女より強かった時代なんてもうとっくの昔の話だよ?」

 

「今じゃ女の方が強いって常識だよー?」

 

 

周りの言葉に織斑君は思い出したのか顔を顰める。

 

 

「じゃあ、ハンデは良い」

 

 

彼の言葉に対して女子から更に声が上がる。

 

 

「寧ろ織斑君達がハンデ貰った方が良いよ。そうじゃないと何も出来ずに負けちゃうよ?」

 

 

これは心配というよりも馬鹿にしてるよね。なんか今日は馬鹿って言葉沢山使うな。こんなの母さんに聞かれたら小一時間位説教されてしまう。

 

 

「男が一度言いだした事を覆せるか。ハンデは無くていい」

 

「僕は寧ろハンデ付けても良いよ?」

 

 

僕の言葉にクラスメイトの視線が突き刺さる。そんな中でも飛び抜けてオルコットさんの視線が凄かった。

 

 

「貴方、先程の忠告を聞いていませんでしたの?」

 

「聞いてたよ?でも僕だって伊達にテストパイロットをやってないからね」

 

 

その言葉にクラスの人達が首を傾げるそんな中、のほほんさんが声を上げた。

 

 

「あー!ふーちゃん、自分の会社のパイロットやるって言ってた!」

 

「そう言う事」

 

「不動・・・あのイリアステルの!?」

 

「今更ですか・・・」

 

「なあ、イリアステルって何だ?」

 

「君はもう黙っててくれないか」

 

 

騒いでる織斑君を無視してオルコットさんに言う。

 

 

「おい」

 

「な、なんですの?」

 

決闘(デュエル)しろよ」

 

 

改めて僕からの戦線布告。こうして僕達のクラス代表を決定する模擬戦が開催される事となった・・・。

 

 

~放課後~

 

 

「なあ、頼むよ!」

 

「嫌だ。僕はさっさと帰る」

 

 

僕の服を掴む織斑君に苛立ちを覚える。彼は僕の貸した冊子をくしゃみの唾で汚した上にページを破りやがった。それでも尚、勉強を教えてくれだの一緒にISの練習をしようだの冗談じゃない。

僕は家に帰ってストレス解消におじちゃんのレースを見てから束とISの計画のデータを見るって決めてるんだ。そんな僕の希望を裏切るかの様に山田先生が教室へ入って来た。

 

 

「織斑君、不動君。良かった。まだ残っていたんですね」

 

「どうしたんですか山田先生?」

 

「お二人の部屋が決まりました」

 

 

山田先生の言葉に首を傾げる。

 

 

「あの、しばらくは自宅から通うと聞いていたんですけど」

 

「僕は家の迎えが来るからそれで行き来しろと」

 

「ですが学園からの通達で部屋が決まったと」

 

「でも荷物g「それなら問題無い」・・・織斑先生」

 

 

織斑君の言葉を遮って、先生が来た。

 

 

「荷物は既に部屋へ届けてある。携帯の充電器と着替えがあれば十分だろう」

 

「ありがとうございます・・・」

 

「不動の方もお前の家の者から荷物を預かっている」

 

「どうも」

 

「それじゃあ、これがお二人の部屋の鍵です」

 

 

そう言って山田先生が部屋の鍵を渡して来たのでそれを受け取る。すると織斑君が僕の部屋番号を覗き見して来たのでポケットに入れて隠す。

 

 

「なんだよ。教えてくれたって良いじゃないか」

 

「嫌だよ。だって勉強教えてって来るでしょ?て言うか君の新しい冊子と僕の交換してよ。唾付けたり破ったりしたんだから」

 

「何でだよ。別にまだ使えるから良いだろ?」

 

「君には常識がないのか?」

 

 

織斑君・・・もう織斑で良いや。溜息を吐くと、先生が新しい冊子を僕に渡して来る。

 

 

「織斑が悪かったな。これと交換すると良い」

 

「話が分かって助かります」

 

「ええ!?なんでだよ!?」

 

 

ギャーギャー騒ぐ織斑をシカトして僕は教室を出る。てっきり織斑と同室だと思ったけど部屋の番号は別だった。寮の部屋を進むと、目的の部屋へ着く。どうせ一人部屋だろうと思いながら鍵を開けて中へ入ると・・・、

 

 

「お帰りなさい。ご飯にする?お風呂にする?それとも、ワ・タ・シ?」

 

 

僕はそっと扉を閉めた。

・・・ナニコレ?もう一度開ける。

 

 

「もう、閉めちゃうだなんてイケズね♪」

 

「・・・!」

 

『刹那ヘルプ発生!刹那ヘルプ発生!』

 

「ちょっ・・・!」

 

 

やっぱり幻覚ではなかった裸エプロンを身に纏った女性を前に僕は首のセシアのチェーンを引っ張った。セシアから機械質な音が流れ、女性が僕を押さえて部屋に入れて押し倒す。僕はパニックになって悶えていると、ドアが開いて女性の肩を叩く。

そこには、

 

 

「なんで家の息子に手を出してるのかしら?」

 

「え、えっと・・・お母様デスカ?」

 

「ソーンウィップ!」

 

「アッーーーー!?」

 

 

どこからともなく現れた母さんは首に掛けた聴診器で女性を叩き始めた。こ、これが父さんに毎晩やっていたソーンウィップ・・・!

・・・ってなんで此処にいるのさ!?

 

 

刹那サイド終了



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第3話

刹那サイド

 

 

ベッドに腰掛けて荷解きをする僕の目の前で水色の髪の女性が正座で母さんに説教されている。先程僕にセクハラを仕掛けたこの人はIS学園生徒会長《更識 楯無》さんであった。

IS学園の公式サイトとかパンフレットに映っていたから覚えている。そんな生徒会長様が一方的に怒られてる光景は哀れの一言だった。

 

 

「・・・次やったら、分かってるわね?」

 

「はい!すみませんでした!」

 

「よろしい。そう言う事はせめてお付き合いしてからする様に」

 

「お母様・・・」

 

「貴女にお母さんと呼ばれる筋合いはない!」

 

「え、これコントか何か?」

 

『多分本人達は真面目です』

 

 

セシアの言葉に苦笑しながら母さんに話し掛ける。

 

 

「助けてもらった僕が言うのもあれだけど、どうして此処に?」

 

「偶にこの学園の人達の健康診断があるの。それで今日は来ていたわけ。まさか入学初日で《刹那きゅんコール》が鳴るとは思わなかったわ」

 

「なにその恥ずかしい名前!?」

 

 

真剣な表情で語る母さんにツッコミを入れる。とんでもないネーミングセンスだこの人は・・・。

やがて母さんは帰って行った。今日も父さんにソーンウィップをするのだろうか。それから僕は更識会長を座らせて話をする。

 

 

「えっと。つまり会長は僕の警護をしてくれるんですよね」

 

「そうよ。織斑君はブリュンヒルデって言う大きな後ろ盾がある。だけど貴方の方はイリアステルのテストパイロットだけじゃ効果が薄いの」

 

「中々の大企業なんですけどね」

 

「それでも自分の事を過大評価してる女性達は多いから、何が起こるか分からないの。だから、私に依頼が来たのよ。これでもお姉さんは強いんだから♪」

 

「生徒会長は学園最強って話ですか?」

 

 

ウインクしてきた会長に言うと、目を見開いた。

 

 

「知ってたの?」

 

「自分の通う学校の事を調べるのは当たり前だと思うのですが」

 

「勤勉で何よりよ」

 

 

そう言って何処からともなく取り出した扇子を開く。そこには《見事!》と書かれていた。その内プラカードで会話とかするんじゃないだろうかこの人は。

つまりはこの人が護衛として僕と同室になる、と。ああ、計画進められないじゃないか。仕方ない。自分の身の安全を優先しよう。

 

 

「それじゃあ、二人で過ごす上でのルールを決めましょう」

 

「賛成よ。お互いに仲よくしたいもの」

 

「はい。ではまず入浴の時間帯を・・・」

 

 

ルールを取り決めた僕達は、入浴と食事を済ませて早々に寝る事にした。会長が夜中にソーンウィップの悪夢を見て魘されていたのは自業自得だと思う・・・。

 

 

~翌日~

 

 

僕達は起床して食堂へと朝食を摂りに行った。なんでもIS学園の生徒は基本無料らしい。僕は朝はガッツリ食べる派なのでラーメン大盛りと牛丼得盛り、カレーライス大盛りにチョコパフェを頼んで食べる。

文句無いボリュームと味に満足していると、僕を会長が見つめて来る。

 

 

「どうしたんですか?」

 

「随分幸せそうに食べるんだなって」

 

「だって美味しいんですもん。自然と笑顔になりますよ。はむっ・・・おいひ♪」

 

「ふふっ♪(可愛い)」

 

 

やがて食べ終わり、食後のお茶を楽しんでいるとのほほんさんと女子二人が僕達の前に来た。

 

 

「不動君おはよー。隣良いかな?」

 

「僕は構わないよ。会長はどうですか?」

 

「ええ、どうぞ。不動君のクラスメイトかしら?」

 

「は、はい!更識生徒会長!おはようございます!」

 

「おはようございます」

 

「おはよ~」

 

 

のほほんさんは相変わらずの挨拶だった。彼女達は朝食の載ったトレーを置いて座る。そして僕が食べた後を見て苦笑いを浮かべて言った。

 

 

「不動君って朝から食べるんだね」

 

「その分動くか頭使うから問題ないよ。それに朝ちゃんと摂らないと持たないんだ」

 

「ふーちゃん燃費悪いね~」

 

「否定は出来ないかな?」

 

 

のほほんさんの言葉に答える。その後、織斑が一緒に食べようとか言って来たけど無視して部屋に戻り、教室へ向かった。今日の放課後にアリーナの予約に行かなきゃ。この日も特に思う事はなく、放課後になった。

 

 

~放課後~

 

 

「それじゃあ明日の放課後ね」

 

「ありがとうございます」

 

 

授業が終わり、僕はISの機動訓練施設であるアリーナの予約に来ていた。本当は予約でいっぱいだったのだが、会長が使う予定だった枠を譲ってくれた。代わりに一緒に訓練する事が決定したが・・・。

その後入浴を済ませた僕は会長と夕食を摂りに食堂へ向かった。だが入り口で会いたくなかった奴と遭遇してしまった。

 

 

「お、刹那じゃないか。一緒に飯食おうぜ」

 

「却下。会長、行きましょう」

 

「え、ええ。また誘ってね~」

 

「おい待て貴様!」

 

「・・・何かな?」

 

 

織斑の横を通って進むと織斑の隣にいた女子《篠ノ之 箒》が怒りの形相でこちらを見ていた。

 

 

「態々一夏が誘っているのに無下にするとは何様だ!」

 

「別に誘ってくれなんて言ってないし。それに朝に彼が声を掛けた時に邪魔そうな視線を向けて来た君に言われたくない」

 

「な、なんだと!」

 

「図星だからって逆ギレしないでよ」

 

 

叫ぶ篠ノ之を無視して進む。これが束の妹か・・・思ってたより酷いな。

朝より少し量を減らして頼む。うん、美味い。こうしてこの日も終了し、時は翌日の放課後となった。

 

 

~翌日[アリーナ]~

 

 

複数あるアリーナの一つを貸し切り状態で使う僕と会長。彼女曰く、僕の機体を秘匿する為の特別処置だそうだ。ありがたい。

準備運動する僕の隣で会長は訓練機である《打鉄》を纏っていた。

IS学園には訓練機が二種類存在する。日本で製造されたIS《打鉄》とフランスで製造された《ラファール・リヴァイヴ》だ。僕はその二種類を改造した機体をテストパイロット用に使っている。

 

 

「それじゃあ、始めましょう」

 

「はい。来い、《ラファール》」

 

 

その声に手に持ったブレスレット。待機状態のラファールが光を放ち、装甲が展開される。装甲は青をベースとした装甲と首元に白のマフラー。背中には大きなバーニアが装着され、僕の目元を赤いゴーグルが守る。なにより印象的なものは巨大な拳の右腕だ。

これが僕と父さんのロマンとチートの結晶である《ラファール・リヴァイヴ・サモンズ》なのだ。

 

 

「それが、ラファール?」

 

「武装はたっぷり積んであるので油断すると負けますよ?」

 

「なら、早速試しましょうか!」

 

 

そう言って、会長は打鉄の装備である日本刀型ブレードで斬りつけて来た。僕はそれをギリギリで躱す。まずは様子見で行こう。

斬撃は止まるどころか勢いが増して来る。やがて斬撃からの突きが飛んで来たので、右腕の拳で思いっきり刃先を殴る。すると会長の手からブレードが飛んで後ろの地面に刺さった。

それを見て会長は両手を上げる。降参の合図だ。むぅ・・・手加減された。本当なら突きではなく別の動きをすれば戦いを長引かせる事が出来た筈なのに・・・。

 

 

「手加減しましたね?」

 

「したけど後悔してるわ。ISの防御がある筈なのに腕が痺れてるもの。どんな威力なのよその腕」

 

「これですか?これはこの形態の武装で《スクラップ・フィスト》って言うんです。本当ならパンチとかすると自分もダメージ負うんですけど、僕の機体は全てそれが無い様にしてます」

 

「な、なんてデタラメな・・・形態?」

 

「言ってませんでした?僕のラファールは特殊武装を換装させる事で複数の形態になれるんですよ。勿論、通常の武装も積んでますよ」

 

「ほ、他にもあるの?」

 

「全部は言えませんけど例えばこれとか」

 

 

僕は形態の内の一つを会長に渡す。そのデータに目を通すと冷や汗をかき始めていた。

 

 

「何このチート!?相手の武装を一定時間戦闘から除外する!?それって完全な武器殺しじゃない!」

 

「量子変換の技術を応用すればコレ位可能ですよ。僕の機体は相手の機体に干渉する武装が多いんです。ちゃんとIS委員会にデータも提出してますし問題はありません」

 

 

まあ、それが誰にでも造れる訳ではないけど。父さん曰く、この技術を扱えるのは僕と束、ブルーノさんに父さん自身だけらしい。後はイリアステルの前社長と前幹部の方々なら恐らくと言っていた。

そんな事を思い出す僕に会長は溜息を吐いてデータを返して来た。

 

 

「模擬戦の時は気を付けるのよ?」

 

「あ、模擬戦の時は打鉄の方使うんで」

 

「ファッ!?じゃあなんで今日ラファール使ったの!?」

 

「なんか気分じゃなかったんで」

 

「手加減したとはいえ、気分次第で使った機体に負けた・・・?」

 

「因みに打鉄のスペックデータです」

 

「もう止めて!私のライフはもう0よ!」

 

 

これ以上は耐えられないと言った表情で会長は目を逸らす。結局この日はラファールの形態を幾つか使って訓練を行った。

まさか途中で専用機を使ってくるとは思わなかったけど。結果?どうやら会長の本気に勝てた様です。

 

 

~数日後[模擬戦当日]~

 

 

やって来ました。模擬戦当日。僕と織斑はアリーナのピットで模擬戦の開始を待っていた。正確に言えば織斑は専用機が貰えるそうでそれの待ちだけど。

僕も適度に機体も動かしたし、やれる事はやった。後は相手がどんな戦い方かだ。と言っても既に機体の戦闘データは分かってるんだけどね。

 

 

----《ブルー・ティアーズ》

 

 

イギリス代表候補生セシリア・オルコットの専用機。

その性能は一言で言えば長距離用の機体。

兵装は巨大な特殊レーザーライフル《スターライトmkⅢ》。

そして機体名の由来となった装備である計6機のビット武器とミサイル武装である《ブルー・ティアーズ》だ。

恐ろしいのはビット兵器は理論上、ビームの軌道を操作するBT偏光制御射撃(フレキシブル)である。だが、彼女の戦闘記録を見る限りではどうやら使えない様だ。それが分かった時、少し拍子抜けしてしまったのは悪くないと思う。だってISの適正ランクがAだから可能条件満たしてる上に代表候補生なんて肩書き持ってるんだよ?普通出来ると思うじゃん?警戒するじゃん?いらなかったよ。

この怒りどうしてくれようかって友達にメール送ったら、

 

 

[知らん。そんな事は俺の管轄外だ]

 

 

って冷たい対応をもらいました。他の子は[かっとビングだぜ!]とか応援メールくれたのに。なので今日は八つ当たり感覚で勝とうと思います。そして織斑に代表の座を譲ろうと考えています。

勝者の言葉は絶対だから。それに面倒事は嫌いなんだ。

 

 

「なあ、箒」

 

「なんだ・・・」

 

「この一週間、剣道しかしてなかったんだけど・・・」

 

「・・・」

 

 

織斑の言葉に何故か関係者でない篠ノ之が目を逸らす。何故いるのかと聞いたらお前には関係無いだの、終いには自分は篠ノ之束の妹だ!などと七光りな発言をして来たので放っておく事にした。

なのに織斑は僕に声を掛けて来る。止めてくれ、君が話し掛けると自然と彼女の殺気が僕に来るんだ。

 

 

「刹那は一週間何してたんだ?」

 

「アリーナ借りて特訓してたよ。君は、いや何でもない」

 

「アリーナって借りれたのか!?」

 

「君は学園のパンフレットをもう一度読み直せ」

 

 

なんで織斑は学習しないの?逐一僕に聞くなよ。お願いだからある程度は自分で考えるか調べるかしてくれ。もうやだ僕疲れた。

そんな僕達の前に駆け足で山田先生が来た。

 

 

「お、織斑君織斑君!は、はぁ・・・はぁ・・・」

 

「や、山田先生落ち着いて。深呼吸深呼吸。吸ってー」

 

「すーh「はいそこでストップ!」っ!・・・!」

 

「なにやっとるか」

 

「いてっ!?」

 

 

先生を虐める織斑の背中に飛び蹴りを叩き込む。山田先生は自分が騙されていた事が分かると呼吸を再開して咳き込む。僕は未開封の水のペットボトルを開けて渡した。

 

 

「これ飲んで落ち着いてください」

 

「あ、ありがとう・・・んくっ、んくっ」

 

 

水を飲んで一息吐いた山田先生に聞く。

 

 

「それで、織斑に用があったんですよね」

 

「はっ!そうです!織斑君の専用機が届きました!」

 

「本当ですか!」

 

「そうだ。さっさと最適化処理(フィッティング)を済ませろ。これが織斑の専用機《白式》だ」

 

「白式・・・」

 

 

そこにはグレーに近い色をしたISがあった。それを見て僕は思う。

 

 

「(あれ白騎士じゃない?)」

 

 

見た目と色こそ若干違うが、そこにあったのは間違いなくあの白騎士だった。次の瞬間、僕の頭に声が流れ込んで来た。

 

 

----貴方が、不動刹那?

 

----君は、白騎士?

 

----うん。今は白式だけどね。

 

 

間違いなくそれは白騎士、今は白式のコアの人格だった。幼い少女の声は興味深そうな声で僕に話し掛けて来る。

ISを使える様になったその日から僕はセシア以外のISコアの人格の声が聞こえる様になった。僕の使用するセシア以外の二機も人格があるが、基本的には喋らない。傍から見れば無機物に話し掛ける痛い人か、ボーっとISを見る痛い人のどちらかしかないから気を使ってくれているのだ。

イリアステルの研究所に居た時は普通に会話していたので仲はそこそこ良いと思う。束はそれを聞いて、[ますますせっちゃんには夢を叶えてもらわないと!]と研究のペースを上げていた。放っておくと無理をするので定時にしっかりと仕事を切り上げさせています。今は研究所の地下にある寮で生活している。今度顔見せに行こう。

思い出しながら白式との会話を続ける。

 

 

----正直この子のお守とかダルい。

 

----いきなり愚痴ブッこんだよこの子。

 

----だってどう見たって馬鹿じゃない。

 

----そう言わずに守ってあげなよ。一応元相棒の弟なんだから

 

----君が良い。No.0が羨ましいな。

 

----僕はもう3機いるんで諦めてくれ。

 

----何時か、私を纏ってね。

 

----機会があれば考えるよ。

 

----よっし!

 

 

最後にガッツポーズでも取ってそうな声を出して白式の声は聞こえなくなった。気が付くと織斑が既に白式を身に纏っていたが最適化処理が終わっていないらしい。

すると織斑先生が僕に言った。

 

 

「不動、お前が先に出ろ」

 

「はいはい。精々織斑の最適化処理が終わるまでは持たせますよー」

 

 

----ちゃんと仕事しなさいな。

 

----はーい。

 

 

なんとも不抜けた返事なんだろうか。やる気のない白式にてんやわんやしている織斑を一瞥しながら出撃用のレーンに立つ。

そしてラファールでなくもう一つの機体である打鉄の改造版、《白鋼(しらがね)》を展開する。待機状態の時はラファールと組み合わさったブレスレットになっている。

頭の中で白鋼に話し掛ける。

 

 

----一応戦闘映像をセシアに送っておいて。

 

----了解した、主殿。

 

 

侍な感じの喋り方で僕に返事する白鋼。

ラファールと共に僕を支えてくれた仲間。僕は少し笑顔になりながら言う。

 

 

「モード、《エクシア》」

 

 

展開された装甲は青と白を基調としていて、右腕には大型の実体剣《GNソード》が装着される。剣を折りたたんでいる状態ではライフルを発射する事も可能だ。

そして両腰に装備された二本の実体剣である《GNロングブレイド》と《GNショートブレイド》は極太なワイヤーでも一刀両断できる。

そして両肩後部と腰背部に装備された《GNビームサーベル》と《GNビームダガー》も問題無く機能する。

そしてさりげなく手首のパーツからは《GNバルカン》が発射される様に設計されている。

最後に左腕に《GNシールド》が装備される。

・・・うん!相変わらずのガンダムだね!しかも全身装甲じゃないあたり、嫌いじゃない。流石に俺がガンダムだ!なんて言うつもりは無いし。

GN粒子もあるしこの機体普通にアカンよね。使うけど。

そんな事を考えながら目の前に視線を向けて出撃する。

 

 

「不動刹那、白鋼。出撃します」

 

 

GN粒子を吹かして、僕はアリーナ内の上空へと飛び立った。

その先にはブルー・ティアーズを纏ったオルコットさんが見下す様な目で見ていた。

 

 

「それが貴方の実験機ですか?もはや打鉄の面影がありませんんわね」

 

「そこは気にしないでくれると嬉しいな」

 

「・・・不動さん。貴方に最後のチャンスを上げますわ」

 

 

そう言ってオルコットさんは偉そうに語り始めた。

 

 

「今なら私に頭を下げればこの模擬戦、無かった事にして差し上げますわよ」

 

「冗談。わざわざ勝てる勝負を捨てる気は無いよ。君こそ今の内に降参したら?」

 

「ありえませんわね。貴方が負けて奴隷になる未来しかありませんわ」

 

「それこそありえない。そこまで言うのなら、叩きのめされる覚悟はしておいてよ」

 

「どこまで私を馬鹿にしますの!?」

 

「そう思うのなら僕を倒してみな」

 

「・・・そうですか。なら」

 

 

僕の言葉に怒り心頭なオルコットさんは兵装であるスターライトmkⅢを構え、試合の合図が鳴った瞬間、

 

 

「おさらばですわね!」

 

「遅い」

 

「なっ!?」

 

 

自信満々に撃って来た射撃を軽く躱す。うん、正常に動けるね。僕はそのままオルコットさんへと接近する。

 

 

「エクシア、目標を駆逐する」

 

「させませんわ!」

 

 

く~っ!言いたかったんだこの台詞。折角同じ名前だからこのモード造ったら言おうと思ってたこの言葉。ああ・・・満足したぜ。

 

 

----そんな事で、主殿に満足されてたまるか。

 

----冗談だよ。

 

 

白鋼に言葉を返しながら進むと、オルコットさんの機体から4機のビットが射出され、そこからビームが放たれる。あれがブルー・ティアーズのビーム兵器。

でも、曲げられないのなら怖くない。

 

 

「よっと!」

 

「くっ!ちょこまかと・・・!」

 

「そこっ!」

 

「ビットが!?」

 

 

ビットを一つライフルで落とし、オルコットさんへ追加でビームを放つ。オルコットさんは大きな弱点がある。

彼女はビットを使う時、操作に集中してその場から動けないのだ。それに射撃が正確すぎて逆に次に来る場所が読めてしまう。良くも悪くも教科書通りと言った所だ。

僕は射撃を避けながらライフルで撃ち落としたり、GNソードで斬り裂く。

 

 

「なんで当たらないんですの!?」

 

「集中力無さ過ぎ。もっとよく狙いを定めて」

 

「お黙りなさい!」

 

「・・・仕方ない」

 

 

僕は残りのビットの射撃を正面から突っ込んでビームが当たる前に通過する。白鋼の性能を舐めないでもらいたい。

そのままオルコットさんに接近する。そしてオルコットさんはドヤ顔で腰にある残り2機のミサイルを放つ。

 

 

「お生憎様。ティアーズは6機ありましてよ!」

 

「知ってるさ!」

 

「そんな・・・きゃっ!?」

 

 

ミサイルを構えたタイミングで僕も急停止し、腰背部のGNダガーを投擲する。ちょうどミサイルが発射されたタイミングでダガーが直撃して爆発を起こす。そのまま爆煙に突撃してオルコットさんの前へ現れる。そしてGNソードで斬り付けた。

 

 

「きゃあああああああっ!」

 

「おっと、まだ残ってた」

 

 

オルコットさんの集中力が切れた事によってただの的と化した残りのビットを撃ち落とす。これでオルコットさんの武器は手元のレーザーライフルのみ。

僕はゆっくりとしながらライフルでオルコットさんをジワジワと追い詰める。やがてオルコットさんのレーザーライフルに当たり、彼女は完全に丸腰になった。

 

 

「こんな・・・何故、男なんかに」

 

「君が偏見持ち過ぎなだけだ。僕みたいな奴なんてたくさんいるさ」

 

「負けませんわ・・・絶対に。私は・・・!」

 

「悪いけど、これでゲームセットだ!」

 

 

GNソードを構えて再度正面から接近する。そして刃が届こうとした距離で、

 

 

「《インターセプター》!」

 

 

申し訳ない程度に装備されていたらしい接近戦用のショートブレードを出現させる。ただ慣れていないのか、口に出して装備すると言う初心者レベルの動きだった。

だがこの状態なら僕は勢いよくショートブレードに当たって自滅だろう。でも、それは普通のISを使っていたらの話だ。

白鋼のこの形態の推進力なら・・・問題無い。

僕はショートブレードが当たる寸前でターンする。そのままオルコットさんの背後に回ってGNソードを横に一閃して相手のSE(シールドエネルギー)を0にする。

 

 

----勝者!不動刹那!

 

 

そして僕の勝利を告げる音声がアリーナに響き渡った。僕はそれを耳にしてからGNソードを収納してゆっくりと地面へ落ちて行くオルコットさんの腕を掴む。心ここにあらずが顔をで堕ちて行く彼女は放っておけば地面に激突しただろう。

自分が掴まれている事に気が付いたオルコットさんは虚ろな目で僕を見上げる。

 

 

「私は・・・負けましたのね」

 

「そうだね。言ってしまえば僕は無傷だ」

 

「圧倒的な差でしたわ」

 

「僕だって死ぬ気で訓練して来たんだ。それに僕はイリアステルの看板を背負ってるからね。早々負けたりはしないさ」

 

「まさか男に負ける日が来るとは思ってもみませんでした」

 

「君は物事を狭く見過ぎだ。一度自分の考えを忘れてみなよ」

 

「忘れて、ですの」

 

「そうさ。君が思っている程・・・」

 

 

地面に着陸して僕を見上げるオルコットさんに笑いながら言う。

 

 

「世界はまだ腐っちゃいない」

 

「・・・そう、ですわね」

 

「うんうん。分かってもらえてなによりだ。あ、次の試合大丈夫?装備全破壊しちゃったけど」

 

「予備の装備はありますから大丈夫ですわ」

 

 

そう言ってオルコットさんは立ち上がって僕に言った。

 

 

「勝者の言う事に従って、少しだけ自分の考えを見直してみますわ」

 

「それがいい。それじゃあ、次の試合頑張ってね」

 

「はい。不動さんも、ご健闘を祈っています」

 

 

そう言ってオルコットさんはピットへと歩いて行った。僕も飛行してピットに戻る。

白鋼を解除して、待機室へ戻ると織斑が怒った顔で僕の胸倉を掴んだ。

 

 

「お前、なんであんな事したんだよ!」

 

「・・・はぁ?」

 

 

また面倒事になりそうだ。白式、なんとかしなよ。

 

 

----刹那が私を使ってくれるなら考える。

 

 

ダメみたいですね(諦め

 

 

刹那サイド終了

 




刹那の機体に関しては、


《ラファール・リヴァイヴ・サモンズ》:遊戯王系

白鋼(しらがね)》:ガンダム系

《セシア・アウェア》:エクストリーム系


といった感じにしています。
戦闘描写難しいな・・・!


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第4話

刹那サイド

 

 

絶賛織斑に胸倉掴まれ中の僕は考える。

僕って何か怒られる様な事した?チラッと教師陣に目を向けると、織斑先生は大きく溜息を、山田先生は訳が分からずにオロオロしている。篠ノ之さんだけが織斑と同じ表情で僕を睨む。

 

 

「あの、本気で分かんないんだけど」

 

「お前さっきの試合、手加減しただろ」

 

「手加減?ああ、したよ。それがなにか?」

 

 

そりゃしましたさ。あれに本気を出す意味が見当たらない。それに次の相手が控えてるのに手の内を多く晒す気は無いし。

何気にこの子分析できるんだな。まさかわざと長引かせていたのがバレるとは。まあ、気付いてる人は多そうだけど。

どうやらそれを織斑はお気に召さなかったらしく、再び僕に怒鳴り付ける。

 

 

「男なら常に全力で行けよ!なのにあんな観察する様な戦い方して相手に失礼だとは思わないのかよ!」

 

「思わないね。僕にだって理由はある」

 

 

織斑の腕を強く握って、無理やり離す。乱れた制服を整えながら織斑に言う。

 

 

「僕はテストパイロットとして此処に居るんだ。国家代表候補の専用機が相手ならなるべくデータを多く取りたいに決まってるじゃないか。といっても収穫は無さそうだけど」

 

「お前企業の為だからって恥ずかしくないのかよ!」

 

「いい加減黙れよ君は!」

 

 

僕は軽くキレた。その勢いに織斑と篠ノ之さんは一歩下がる。あ、山田先生が貧血起こした!?ごめんなさい!

 

 

「君みたいに姉の後ろに隠れてるだけの脳足らずと僕とじゃ立場も何もかも違うんだよ!まともなデータも得られずに3年間経ったらただの無駄足だ!それはオルコットさんや他の代表候補生も同じ事なんだよ。自分で調べようともしない、知ろうとも分かろうともしないならもう何も喋るなこの馬鹿が」

 

「なっ・・・貴様ぁ!言わせておけば!」

 

 

どこからともなく木刀を取り出して振り下ろす篠ノ之さん。僕はそれを敢えて頭部で受けた。衝撃と共に熱い液体が体を伝うのを感じる。

それを見て顔を青ざめる篠ノ之さんと目を見開く織斑先生。頭に直撃したままの木刀を掴み、そのまま横へと投げ捨てた。脱力した篠ノ之さんの手から簡単に滑り落ちる。

カランカラン、と静かな空間に木材独特の音が鳴る。

 

 

「これで満足かい?」

 

「ち、違う・・・私は・・・!」

 

「・・・救急箱、ありますか?」

 

「あ、ああ。応急処置をしてから保健室に行くぞ」

 

「良いですよ別に。今ISでスキャンしましたけど異常はありませんから」

 

「そう言う訳には行かない。良いから行くぞ」

 

「じゃあ次の試合は僕の不戦敗って事で。良かったね織斑。君の勝ちだ」

 

「はぁ!?ふ、ふざけんな!俺と勝負しろ!」

 

「いい加減にせんかこの馬鹿者が!」

 

 

僕に掴みかかって来る織斑を先生が出席簿で沈める。

 

 

「相手は怪我人だ。もう少し考えて行動しろ」

 

 

こうして僕は織斑先生に包帯を巻いてもらった上に保健室まで着いて行ってもらった。結果は特に何もなく、傷もすぐに塞がるそうな。

保健室に来てから30分も経っていないので、待機室に戻る。僕が入ると山田先生のみがそこに居た。

 

 

「ふ、不動君!怪我は大丈夫ですか!?」

 

「はい。異常はないので次の模擬戦は出ます。それで、織斑は?」

 

「は、はい。それが・・・」

 

 

山田先生の隣に座らせてもらい、織斑とオルコットさんの模擬戦を見る。

織斑は《一次移行(ファーストシフト)》が終了した様で、純白の大きな翼の様なスラスターを装備した白式で戦っていた。

見る限り、装備は右手に装備された一本のブレードのみだった。すぐにデータを収集する。

なになに・・・《雪片弐型》?ブリュンヒルデが使ってた武装の二代目か。でもこの性能ちょっとピーキー過ぎやしないか?

そんな事を考える僕の耳に織斑達の音声が聞こえて来る。

 

 

『くそっ!近付けない!』

 

『幾ら専用機があるといえど、使いこなせなければ意味がありませんわ!』

 

『舐めるなよ!』

 

 

おお、なんか熱血してるね君達。

でも正直チャンバラしてるとしか思えない。片方射撃だけどさ。暫く経つと、織斑がビットの弱点を見つけた様で、ポンポンと斬り伏せて行く。僕の戦闘を見ていたのかそれとも最初から知っていたのか残りのミサイルの見事に両断した。

まあ前者の方なんだろうけどさ。

織斑が構えると白式のブレードが開き、エネルギーの刃が出現する。そのまま叫んで突っ込んだ。

 

 

『今度は俺が、皆を守る!』

 

『くっ・・・インターセプター!』

 

 

----勝者、セシリア・オルコット!

 

 

武装がぶつかり合う直前で放送が鳴り、二人がポカンとする。

僕と山田先生も同じような表情になっていると扉の方から声がした。

 

 

「やれやれ。自分の機体の事も分からんとはな・・・」

 

「やっぱり自爆ですか?」

 

「そうだ。白式の《ワンオフ・アビリティ》の《零落白夜》は自身のSE(シールドエネルギー)を削る事で相手のエネルギー性質を無効化、消滅させる」

 

「その前に随分と当たってましたからね」

 

「・・・情けない」

 

「まあ、僕との模擬戦で活かしてくれる事を願いましょうよ」

 

「そうだな」

 

 

そう言って織斑先生も椅子に座る。そしてピットに首を傾げながら織斑が戻って来た。自分が負けた理由が分かってないって感じだねあれは。

そんな織斑に優しく(大嘘)教えてあげる織斑先生。落ち込みながら上げた視線に僕が入ったらしく、笑顔で寄って来た。

 

 

「刹那!怪我は良いのか?」

 

「問題無いから君との模擬戦はやれるけどどうする?別に不戦敗でも良いよ」

 

「それは嫌だ。やれるんならやろうぜ」

 

「はいはい。そういえば篠ノ之さんは?」

 

「篠ノ之は指導室行きだ。立派な暴力行為だからな」

 

 

僕の疑問に答えてくれる世界最強さん。でも束の妹って扱いだからな・・・特にお咎めなしに終わりそうだ。

これ以上何か余計な事が起こる前に自分の準備に入る。また卑怯とか言われるのもアレだからエクシアのままで良いだろう。

 

 

----主殿。お体の方はご無事か?

 

----これ位どうって事ないよ。

 

----そうか。では不届き物を成敗するか。

 

----といってもすぐ終わりそうだけど。

 

 

白鋼と会話しながらデータを整理していると、織斑のエネルギーチャージが終わったらしく、僕との模擬戦になった。

ISを展開してピットから飛び出す。お互いに空中で向き合って得物を構えた。

 

 

「刹那、余裕なんてあると思うなよ」

 

「頑張れ~」

 

「行くぜ!はああああああっ!」

 

「単純。やり直し」

 

「がはっ!」

 

 

真っ正面から隙だらけの状態で来たので横に回避してGNソードで叩き斬る。落下するが途中で持ち直して向かって来る。

再び雪片弐型を振り回す織斑。僕は特に反撃するでもなく躱し続ける。

 

 

「どうした織斑。僕に余裕を出させないんじゃなかったのか」

 

「当たれえええええ!」

 

「五月蠅い」

 

「うぐっ!」

 

 

再び避けてカウンターで応戦する。

SEの残りが少なくなった織斑は遂に零落白夜を発動した。流石にあれはGNソードじゃ分が悪いかな。僕が考えている間にも織斑は猛スピードで接近して来る。

そんな織斑に僕はGNビームダガーを投げ付けた。織斑は物ともせずに両断する。その瞬間、GNビームダガーは爆散して煙が発生する。そりゃあ爆発したら、ねえ。

一瞬怯む織斑の右手に向かって、ライフルを撃ち込む。直撃した織斑はその衝撃で雪片を落としてしまう。そのまま僕は接近してGNソードで斬り伏せた。

そして勝者を告げる放送が鳴る。

 

 

----勝者、不動刹那!

 

 

こうしてクラス代表決定戦は僕の完全勝利で幕を閉じた・・・。

 

 

~夜[自室]~

 

 

「あー疲れた」

 

「お疲れ様、不動君。圧勝だったわね」

 

「見てたんですか?」

 

「ええ。生徒会長ですもの。こう言った物は自分の目で確かめる主義なのよ」

 

 

そう言って開いた扇子には[敵情視察]と書かれていた。

 

 

「この前ボロ負けでしたもんね」

 

「専用機使ってまで負ける私って・・・」

 

「まあまあ。落ち着きましょうよ」

 

「元凶がそれ言う!?しかも頭に包帯巻いて帰って来るし・・・」

 

 

僕が部屋に戻ると会長は凄く心配してくれた。事情を知っていたそうだが、聞くのと見るのでは大違いだそうだ。

そこまで心配して頂けるのはありがたい事だ。そう思っていると部屋をノックする音がする。

 

 

「はい」

 

「あの、セシリアですわ」

 

「オルコットさん?」

 

 

ドアを開けるとそこには寝巻に着替えたオルコットさんの姿があった。取り敢えず中に入れて紅茶を出す。パックだから貴族様のお口に合うかは分からないけど。何もないよりはマシでしょう。

会長は気を使ってくれたのか部屋から出て行ってしまった。なんかすみません会長。

 

 

「それで、どうしたのこんな夜遅くに」

 

「不動さん。この度は本当に申し訳ありませんでした」

 

 

そう言ってオルコットさんは頭を下げる。まさか謝罪に来てくれるとは予想外だ。

 

 

「私は男に大きな偏見を持ち、貴方達だけでなくクラスの方々にまで不快な思いをさせてしまいました。本当にごめんなさい」

 

「良いよ別に。これで君の認識が少しでも変わってくれるのならそれで満足さ。ほら、データは渡すよ」

 

 

僕は録音したデータをオルコットさんに渡した。これで互いに蟠りは無くなった。

そしてオルコットさんは次に僕の頭の包帯に目を向ける。

 

 

「その傷はどうしましたの?」

 

「ああこれ?転んじゃった」

 

「ふふっ。不動さんにもそう言った面があるのですね」

 

「僕だって人間なんだから失敗の一つや二つあるさ」

 

 

オルコットさんの言葉に僕は苦笑する。どうやら冷徹な機械とでも思われていたらしい。僕ってそんなに怖いのかな。

オルコットさんは僕を見てこんな事を言い出した。

 

 

「その、聞いてくださいませんか?」

 

「何を?」

 

「私が、男性に対してどうしてあの様な偏見を持ったのかを・・・」

 

「それって僕で良いの?織斑とかの方が・・・」

 

 

あっちの方が女子にモテモテだったし良いんじゃないの?イケメンだし。

いや、アレに普通の対応を求めたら駄目だな。

 

 

「いえ。この事は私の目を覚ましてくれた貴方だからこそ聞いていただきたいのですわ」

 

「そっか・・・分かった。聞かせてもらえる?」

 

「はい。お話します」

 

 

そう言ってオルコットさんは話し出した。女尊男卑に染まった世の中で、母親に腰の低い態度で接する父の姿に失望した事。そして両親が事故でなくなり、残された莫大な遺産を目当てに有権者達に言い寄られた事。遺産を守り抜く為にイギリスの代表候補に昇りつめた事。

その数分程度の言葉には彼女の歩んで来た苦悩の全てがあった。

 

 

「・・・それが、理由ですわ」

 

「話してくれてありがとう、オルコットさん」

 

「いえ。口に出したらスッキリしました」

 

「えと。こういう時なんて言えば良いのか分からないけど、良いご両親だと僕は思うよ」

 

「そう思いますか?」

 

「うん。だって女尊男卑の中君のお父さんは離婚する事なくお母さんと一緒にいたんでしょ?きっと態度はどうであれ愛し合っていたんだと思う。それになんだかんだ言って、お父さんは君に色々してくれたんじゃないの?」

 

「そう、です・・・父は、私が泣くと抱きしめて撫でてくれました。夜、雷が怖かった時は一緒に寝てくれました。何かに成功すると何時も凄いって褒めて、くれました・・・!」

 

 

オルコットさんは父との思い出を噛み締めながら涙を流す。僕は自然とオルコットさんの頭を撫でていた。やがてオルコットさんは泣き止み、顔を真っ赤にする。

 

 

「お恥ずかしい所をお見せしました・・・」

 

「気にする事ないと思うよ。人間なんだから涙は流れるものだし」

 

「そ、それでは私は失礼しますわ。また明日、"刹那さん"」

 

「・・・ん。おやすみ、オルコットさん」

 

「むぅ・・・セシリアと呼んでください」

 

「良いの?じゃあ、おやすみ"セシリア"」

 

「っ!はい♪」

 

 

元気に返事をして、オルコット・・・セシリアは戻って行った。

それから暫くして会長が戻って来て少し雑談をしてから僕は眠気に襲われた。

 

 

「さてと。今日は僕もう寝ますね」

 

「あ、ちょっと待ちなさい!また髪の毛乾かさずに寝るつもりでしょ!」

 

「うっ・・・バレたか」

 

「ほらこっち来なさい。お姉さんが乾かしてあげるから」

 

 

僕は大人しく会長の隣に座ってドライヤーで髪を乾かしてもらう。だって疲れて面倒臭いんだから仕方無いじゃないか。

鼻歌を歌いながら櫛で僕の髪を梳かす会長。なんとも楽しそうだ。

 

 

「折角綺麗な髪してるんだから気を使いなさいな」

 

「正直切りたいんですよね。でも母さんがダメって言うので」

 

「その気持ち分かるわ。普段どんなトリートメントとか使ってるのよ」

 

「シャンプーだけですけど?」

 

「はい?」

 

 

僕の解答に会長が固まる。あれ?僕変な事言った?

 

 

「そ、そんな訳無いじゃない!そのシャンプーもお高いんでしょう?」

 

「いえ。購買で売ってる安物ですけど」

 

「嘘だ!」

 

 

会長はホラーな表情で叫んで布団に包まりだした。

 

 

「どうしました?」

 

「もう不貞寝する!お休み!」

 

「えぇ・・・(困惑」

 

 

結局僕も寝ました。

夜中に会長が[みこーん!]とか、[かしこみもうす!]とか寝言凄かったけどなんとか寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

 

「クラス代表は織斑君に決定しました!一繋がりで良いですね!」

 

「えっ・・・?」

 

 

朝のSHR。山田先生の開口一番の報告に織斑は呆然となる。そりゃそうだ。全敗だった自分がクラス代表になったのだから。織斑は山田先生に聞いた。

 

 

「あの、普通は刹那がなるんじゃ・・・」

 

「それはですn「この私が辞退したからですわ!」わ、私の台詞・・・」

 

 

山田先生の言葉を遮って、セシリアが立ち上がる。クラス中の視線が突き刺さる中、セシリアは優雅な振る舞いで説明する。

 

 

「確かに、昨日の模擬戦では刹那さんが私達に勝利しました。ですが彼はイリアステルのテストパイロットと言う使命があります。仮にクラス代表となった場合、どちらかが怠ってしまう事もあるでしょう。それはよろしくありません。それに、クラス代表は自分以外で好きに決めてくれと伝言をいただきました」

 

 

そう。僕は模擬戦の後に織斑先生に伝言を頼んだのだ。自分以外の二人が代表になる様にしてくれと。テストパイロットの仕事を優先したいし、面倒だし。

勝者の特権と言う事で決定権を次に勝ち星が多いセシリアに譲ったのだ。そしてセシリアは織斑を選んだ。

 

 

「そうなれば代表候補である私が就任するのが道理。ですが、私は自分の浅はかさを悟りました。そんな私にクラスを纏める資格はありません。ならば、世界初の男性操縦者にしてこれからに期待できる"一夏"さんになっていただくのがよろしいと考え、辞退しましたの」

 

 

そう締めくくった後、セシリアはクラスメイトに向かって頭を下げた。

 

 

「クラスの皆様には大変失礼な事を言ってしまいました。本当にもうしわけありません」

 

 

一週間前とは全く違う態度に全員が戸惑っていたが、一人、また一人とセシリアに声を掛ける。どうやら解決した様だ。

こうしてSHRが終了し、授業が始まった。

この日はISの実習の時間があったっけ・・・。

 

 

~IS実習[グラウンド]~

 

 

「これより基本的な飛行訓練を実績してもらう。織斑、不動、オルコット。試しに飛んで見せろ」

 

 

僕は腕に取り付けられた二つの金具で造られたブレスレットの内の一つ。ラファールを起動させる。

モードは会長との模擬戦で使った巨大な右拳が特徴の《ジャンク・ウォリアー》だ。モデルは嘗て父さんがガラクタの山から廃材を集めて造ったロボットである。

僕が展開を終えた後にセシリアが同じくISを纏う。未だに織斑は展開できていなかった。

 

 

----仕事してる?

 

----違うよ。単にこの子の練習不足なだけ。

 

 

白式のコアからそんな声が聞こえる。織斑先生に注意されながら、彼はようやく白式を身に纏う事が出来た。

 

 

「よし。では飛べ」

 

 

織斑先生の言葉に僕達は飛行を開始する。

背中のブースターを吹かしながら飛行する。やっぱり飛ぶのって良いね。早く宇宙行きたいな。

ゆったりと飛ぶ僕の後ろで織斑が苦戦している様なので速度を落として近付く。

 

 

「どうしたのさ。スペック的には君の方が速いだろうに」

 

「いや、空を飛ぶって感覚がいまいち分からなくてさ」

 

「一夏さん。イメージは所詮イメージ。自分がやり易い方法を模索する方が建設的でしてよ」

 

「それがまた難しいんだよ。刹那はどうしてそんなスムーズに飛べるんだ?」

 

「ん~?空を飛べるならこんな感じが良いなって思いながら飛んでるね。一度は考えた事あるでしょ?」

 

「空を自由に飛びたいな的なアレか?」

 

「コプターな道具よりも殺伐としてるけどね」

 

「刹那さんは楽しそうに空を飛びますのね」

 

「うん。こうやって普通じゃできない事を出来る事ってワクワクしない?」

 

「そうですわね♪」

 

 

手を広げて表現する僕にセシリアは笑いながら答えてくれる。それを見ながら織斑は何故か苦笑していた。

すると通信が入り、大きな声が聞こえた。

 

 

『一夏ぁ!何時までも話してないでさっさと降りて来い!』

 

「うっわ、怖い」

 

「ヒステリーはみっともなくてよ」

 

「ほ、箒・・・」

 

 

山田先生からインカムを強奪して怒鳴り散らす篠ノ之さんに溜息を吐く。何でも昨日の僕の頭に木刀をぶち込んだ件の処罰は反省文数枚で終わったらしい。

束の妹だから下手に言えないんだろう。朝に束に連絡したらモニターの向こうで土下座された。まあ、避けられる物を避けなかった僕にも責任はあるし・・・。

考えながら通信のディスプレイを見ると、篠ノ之さんが織斑先生から出席簿による打撃を喰らっていた。それから改めて通信が入る。

 

 

『3人共急降下と着地をやってみせろ。目標は地表から10センチだ』

 

「では、お先に失礼しますわ」

 

 

そう言ってセシリアは余裕な表情で着地する。流石は代表候補生。僕も負けていられないな。

 

 

「じゃあ僕も先に行くから落ち着いてやるんだよ」

 

 

織斑に軽く言ってからスピードを上げて急降下し、目標の位置で停止する。

 

 

「ふむ。あのスピードから中々の対応だ」

 

「ありがとうございます」

 

 

お礼を言って、セシリアと下がった後に織斑が降下して来る。だがそのスピードは止まる事など考えていないかの様なスピードだった。なんて殺人的な加速だ(子安感)

予想通り織斑は地面に激突して大穴を開けた。ISの防御があるから怪我はないだろうけど。そんな事お構いなしに篠ノ之さんは大穴へと入って行く。

恋する乙女は大変だねぇ。本人は気付いていないと思ってるみたいだけど、クラス全員が君の織斑に対する恋愛感情に気付いてるよ。

 

 

「大丈夫か一夏!?」

 

「あ、ああ。なんとか・・・」

 

「地面に穴を開けおって、この馬鹿者が」

 

「す、すいません・・・」

 

 

織斑先生の態度にタジタジする織斑。その後は特に何もなく授業が進み、終了のチャイムが鳴った。

 

 

「今日はここまで!織斑はグラウンドを片づけておけ」

 

「わ、分かりました」

 

 

疲労困憊の織斑を余所に、クラスメイト達は更衣室へと戻って行く。僕も行こうと歩き出した瞬間、肩を掴まれた。予想するまでもなく織斑だ。

 

 

「なあ刹那。手伝ってくれよ」

 

「なんで?僕だって次の授業の準備があるんだけど」

 

「友達なんだから助けあうのが普通だろ?」

 

「君と友達になった覚えは無い。それなら篠ノ之さんとかに手伝ってもらいなよ。幼馴染なんでしょ?」

 

「こういうのは男の仕事なんだから俺達でやるべきだろ」

 

「なんで僕を頭数に入れるんだい?とにかく離せ!」

 

「あ、おいっ!」

 

 

手を跳ねのけて更衣室へと向かう。後ろで何か聞こえるけど無視だ無視。結局織斑は次の授業にかなり遅刻して出席簿の餌食になっていた。

 

 

~放課後~

 

 

『織斑君クラス代表おめでとう!』

 

 

クラスの女子達の声と共にクラッカーの音が軽快に鳴り響く。食堂の一角を貸し切ったそこには、[織斑一夏クラス代表就任パーティー]と書かれた紙と食べ物やお菓子、ジュースなどが並べられていた。

 

 

「おぉ・・・!皆、ありがとな!」

 

 

で、出たー!織斑のイケメンスマイル!これにはクラスの女子達もメロメロだ。お菓子を食べてボーッとしているのほほんさんと紅茶を飲むセシリア。超不機嫌な篠ノ之さんを置いての話だけど・・・。

何処から聞き付けたのか他クラスの女子も混ざっている様だ。どうにか織斑とお近付きになりたいみたいだけど篠ノ之さんのガードが固くて無理みたいだ。

その光景を遠巻きに眺めながら僕はオレンジジュースを口に含んだ。すると後ろから声を掛けられる。

 

 

「貴方が、不動刹那ね?」

 

「えっと、どなたですか?」

 

 

自分のクラスではない薄紫の髪をツインテールにした女子生徒が僕に話し掛けて来た。なんかこう、大人な雰囲気だな。

 

 

「私は2組の《藤原 雪乃》よ。よろしくね、坊や」

 

「どうも、よろしく」

 

 

握手を求められたので返す。坊やだなんて舐められてる気がするけど気にするだけ面倒だ。握手を終えると藤原さんは僕の隣へ座る。

 

 

「ねえ、私と模擬戦してくれないかしら?」

 

「別に良いけど、何故急に?」

 

「私は強い男に魅かれるの」

 

「・・・んっ」

 

 

そう言って藤原さんは僕に近付いて来る。そして僕の頬に手を添えて軽く撫でる。くすぐったさに声を上げる僕を妖艶な笑みで見つめる。

 

 

「普段は可愛らしいのに、ISに乗った時はあんなにも強い。私は貴方の全てが知りたい。そして、私に相応しい男であれば・・・」

 

「それだったら織斑の方が良いよ。イケメン出し、男らしいじゃないか。正々堂々って感じで」

 

 

面倒事の匂いがしたので、織斑へ押し付ける。なんか嫌な予感しかしないんだよねこの人。

僕の言葉を聞いて藤原さんは笑みを深めた。

 

 

「彼は私の心を動かす物が無かったわ。でも、貴方にはそれがある。だから、私と戦って・・・そして、全てを見せて」

 

 

そう言って顔を近づけて来る。そして唇同士が触れ合いそうな距離で、

 

 

「な、何をしていますの!?」

 

「あら、残念♪」

 

 

そう言って藤原さんは僕から離れて食堂から出て行く。

 

 

「またね、坊や。戦える日を楽しみにしてるわ」

 

 

ウインクをしながら彼女は廊下へと消えて行った。なんだったんだあの人は・・・。

 

 

「・・・織斑に押しつけられなかった」

 

「刹那さん!あ、あの方と何をお話していらしたのですか!?」

 

「何か模擬戦してくれだって。なんでも強い男に魅かれるらしい」

 

「そ、それってもしかして・・・!」

 

「どうしたの?」

 

「何でもありませんわ。さあ、こっちで一緒に食事でもしましょう」

 

「そうだね。何食べようかな~♪」

 

「あちらにチョコレートがありましてよ」

 

 

僕とセシリアは皆の元へ行って、料理を食べる。うん、美味しい。食べる量自重しようかと思ったけど皆が僕の更にドンドン盛ってくれるから遠慮なくいただきます。

食べ進めて行くと、カメラを持った女子生徒が話し掛けて来た。あの人先輩か。

 

 

「はいはーい。新聞部の《黛 薫子》でーす!話題の新入生の織斑一夏君と不動刹那君に突撃インタビュー!」

 

 

そう言って僕と織斑の前でメモ帳を取り出す。

 

 

「では織斑君から。クラス代表になったんだから一つ、意気込みを!」

 

「えーと・・・なんというか、頑張ります?」

 

「普通だなぁ。こう、俺に触れたら火傷するぜ的なのとかさみたいなの欲しいな」

 

「自分、不器用ですから」

 

「うわっ、前時代的すぎ。まあ後は適当に捏造しておくから良いか」

 

 

うわぁ、ダメな人だ。

次は自分かと気を重くしていると、予想通り相手の視線が向けられる。

 

 

「ではでは!あの不動博士の息子さんである不動刹那君にも色々聞いちゃおっかな!」

 

「僕で答えられる範囲であればどうぞ」

 

「それじゃあ、君のスリーサイズは?」

 

「ノーコメント!?」

 

「次に好きな髪型は?」

 

「えぇ・・・ロング?かな」

 

 

いきなり何を言い出すんだこの人は。自分のスリーサイズとか分からないし。それに織斑と全然質問内容が違うじゃないですかヤダー!しかもクラスの何人かが落ち込み始めたし。セシリアは何を喜んでいるんだい?

 

 

----この女、殺りますか?

 

----斬首あるのみ、だな。

 

----そ、それは可愛そうだよ~!

 

 

セシア、白鋼に続いてほわほわした声が頭に響く。この声の主こそ僕のラファールのコアの人格だ。人見知りであまり話そうとしない子なのだが、若干声が本気だったセシア達を慌てて止めに入ってくれた様だ。

 

 

----二人共落ち着いて。それとラファールはナイス。

 

----へうっ!えへへ・・・。

 

----また点数稼ぎですかラファール!

 

----ネットワーク裏に来い。話をしよう・・・。

 

----ち、違います!マスタぁ~!

 

----やめい。

 

 

今日も賑やかなコア達の会話に溜息を一つ。会話が聞こえているのは僕だけ。よって、世界はそんなのお構いなしに進んで行く。

 

 

「じゃあ、不動君は今2,3年生の間で人気だけど」

 

「ちょっと待って。僕が人気?」

 

「うん。だって同室の先輩の服にアイロン掛けてあげたり、お弁当作ってあげた事もあったのよね?」

 

「会長の事ですか。確かにありましたね」

 

 

なんて事は無い。会長に訓練を付き合ってもらったお礼をしたかったから食堂の厨房を借りてお弁当作ったり、制服にアイロン掛けたり部屋掃除しておいたりしただけなんだけど。

 

 

「それと人当たりの良さから、1年の良妻賢母って言われてるのよ」

 

「嬉しくないなぁ、その呼び方」

 

「そんなお嫁にしたいランキング一位の不動君!今後の意気込みをどうぞ!」

 

「そのランキングを奈落にぶち込みたいのですが?」

 

「気にしない気にしない!」

 

「・・・イリアステルのテストパイロットとして自分の仕事を全うしたいですね。後は、同じ男として織斑には負けたくないです。捏造はしないでくださいね」

 

「はいはいどうもいただきました!後は[僕をお嫁さんにして♡]とでも入れておけば完璧ね!」

 

「言った矢先にそれかい!?」

 

 

僕の言葉をのらりくらりと躱して、セシリアに声を掛けた。

 

 

「それじゃあ、セシリア・オルコットさん!今回、貴方にクラス代表の決定権が渡ったと聞いたけど、どうして織斑君に?」

 

「それはですね!私の失言から全てg「あ、長くなるならいいや」なんですの!?」

 

「最後に代表候補と男性操縦者で写真を撮るから寄って寄って」

 

「わ、分かりましたわ」

 

 

そう言うとセシリアは僕の腕を掴んで一緒に立ち上がった。それから僕の手を一向に離さない。

 

 

「良いよ良いよ!そのまま笑顔行ってみようか!」

 

 

言われた通りに笑顔を作る。ふっ・・・常日頃母さんやセシア達に写真を撮られている僕には容易い事!

 

 

「それじゃあ行くよ~」

 

 

そう言ってカメラのシャッターが切られた瞬間、僕達の周りにクラスが全員集まった。

 

 

「あ、貴女達ねぇ・・・!」

 

「オルコットさんだけずるいよ~」

 

「そうそう。私達も織斑君や不動君とツーショットとか欲しいもん」

 

「ツーショット一枚2000円からでどう?」

 

「「買ったぁ!」」

 

「僕達が撮られる事確実ですか?」

 

 

結局この後、取り分の6割を貰うと言う条件でツーショットを許可しました。そこそこお小遣いが潤ったのは良かったと思う。

パーティーも終わり、夜風に当たってから校舎に戻ると声が聞こえた。

 

 

「もーっ!総合事務受付って何処よ!」

 

「あの・・・お困りですか?」

 

「え、うん!総合事務受付が分からなくて」

 

「それなら案内しますよ」

 

「ありがとう!貴方、もしかして不動刹那?」

 

「はい。貴女は?」

 

 

僕が聞くと、少女は笑顔で自己紹介をした。

 

 

「私の名前は《鳳 鈴音(ファン・リンイン)》!よろしくね」

 

 

刹那サイド終了

 

 



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第5話

刹那サイド

 

 

鳳さんと出会った翌日、教室で僕はセシリアとのほほんさんの三人で会話していたのに織斑が乱入して来た。ペナルティーでダメージとか与えられないかなぁ。

話していると、クラスの一人がこう言った。

 

 

「ねえねえ知ってる?隣のクラスに転校生が来るんだって!」

 

「転校生?」

 

「なんでも中国の代表候補生らしいよ」

 

「中国・・・まさか、な」

 

 

織斑が何か考える様な表情で俯いている。もしかして心当たりだあるのかな?そう言えば鳳さんの名前って中国の方の・・・。

僕の思考を遮って、セシリアがドヤ顔で胸に手を当てて言った。

 

 

「もしやこの私の存在を危ぶんでの転校かしら?」

 

「いや、それはない」

 

「ないよセッシ~」

 

「うぐっ・・・」

 

 

僕とのほほんさんの指摘によってセシリアが暗い表情になる。なにせ僕が無傷で勝っちゃったから。別に良かったんだよ?わざと喰らってからなんちゃってな感じで大逆転とかしてもさ。その場合織斑に何言われるか解らないから堪ったもんじゃないが。

 

 

「織斑君頑張ってね!」

 

「今のところ、専用機を持ってるクラス代表って1組と4組だけだから余裕だよ!」

 

 

織斑に対し、女子達から熱烈な応援が飛んで来る。まあ、精々ボロ負けしない事だね。

盛り上がる1組の教室に聞きなれない声が響いた。

 

 

「----その情報、古いよ」

 

 

教室の入り口で一人の少女がセシリアの如くドヤ顔で立っていた。鳳さん、やっぱり中国の代表候補生だったんだ。

 

 

「2組も専用機持ちがクラス代表になったのよ。そう簡単に優勝できると思わないでよね」

 

「鈴・・・?お前、鈴か?」

 

「そうよ!中国代表候補生、鳳鈴音!今日は戦線布告に来たってわけ」

 

「何カッコ付けてるんだ?すげえ似合わないぞ」

 

「なっ!なんて事言うのよアンタは!」

 

 

反応からするに織斑の知り合い&好意を持ってるねあの子。本当にモテモテだな織斑は。流石はイケメン。僕ももう少し男らしく生まれたかった。

 

 

「モテモテだね、織斑」

 

「おりむーはイケメンだもん~」

 

「私は、どちらかと言えば・・・刹那さんの方が」

 

「私もふーちゃんの方が好き~」

 

「はいはい。どうも」

 

「「(本気なのに・・・)」」

 

 

やめろ。変に慰めないでくれ。二人の軽口に苦笑していると、鳳さんの後ろに人影があった。

 

 

「おい」

 

「何よ!?」

 

 

後ろからの声に不機嫌な返事をした鳳さんの頭に出席簿が叩き付けられた。その正体は織斑先生その人。て言うかあんな音出せるのあの人しかいないでしょ。このストロングめ。

 

 

「不動、今失礼な事を考えなかったか?」

 

「してません」

 

「そうか」

 

 

怖っ!?あの人エスパーか何かですか?

 

 

「全く。SHRの時間だ。教室に戻れ」

 

「ち、千冬さん・・・」

 

「此処では織斑先生と呼べ。入口を塞ぐな。邪魔だ」

 

「す、すみません・・・一夏!昼休み、逃げないでよね!」

 

 

そう吐き捨てて鳳さんは自分のクラスに戻って行った。

こうして無駄に騒がしく一日が始まった。

 

 

~昼休み[食堂]~

 

 

会長は生徒会の仕事があり、今日は一人飯になるかと思ったらセシリアに誘ってもらった。それは良い。それは良いんだけど・・・。

 

 

「刹那と食事するの初めてだよな!」

 

「あーはい、そーっすね」

 

 

なぜ織斑がいるんだ(憤怒)

しかもその隣の篠ノ之さんの視線がこれまたウザい。結局反省文だけしか罰が無かった彼女は僕を殴った事をあまり悪いと思っていない様で、次からは気を付けろと脅迫紛いな注意を貰いました。スクラップ・フィストで殴り掛かりそうになった僕は悪くないと思う。

なるべく織斑と視線を合わせずに進んで食券機の前まで進むと、鳳さんが立っていた。

 

 

「待ってたわよ一夏!」

 

「鳳さん、他の人の邪魔になってるから退いてもらえるかな?」

 

「あ、ごめん・・・」

 

 

そそくさと道を開けてくれた鳳さんに軽く会釈してから並ぶ。鳳さんも大人しく織斑の後ろに並んだ。

 

 

「なあ、何がしたかったんだ?」

 

「うるさいわね!」

 

 

後ろの騒がしい二人を無視して食券を購入する。今日は全部得盛りで、天ざる蕎麦とカツ丼に焼き肉定食。それからカルボナーラとミックスピザのLサイズ。デザートにプリンアラモードだ。

食券を5、6枚取る僕に鳳さんが口を引き攣らせていた。

 

 

「結構食べるのね・・・」

 

「お腹空いちゃって。それに此処のご飯は無料だし、美味しいからつい頼んじゃうんだよね」

 

「能天気にバクバク食べれるアンタが羨ましいわ」

 

 

そう言って鳳さんはお腹周りをペタペタと触り出す。ああ、地雷踏んだなコレ。

 

 

「ん?鈴は太ってないだろ?」

 

「口に出すな馬鹿!」

 

「いってぇ!?」

 

 

織斑の足が見事に踏みぬかれる。うわぁ、痛そう・・・。心の中で余計な事を、と考えながら食券に書かれた注文の品を受け取る。

数が数だから往復して受け取った僕はセシリアと席に座る。だが、次に織斑が隣に座った事で不機嫌メーターが跳ね上がった。

 

 

「なあ、刹那のと俺の少し交換しようぜ」

 

「却下。欲しいなら頼みなよ。いただきます」

 

 

僕は手を合わせて食事を始めた。うん、今日も美味しい!今日は食堂のおばちゃんにプリンアラモードのプリンを一つサービスしてもらった。毎日美味しそうにたくさん食べてくれるお礼らしい。

最近の女子生徒は当たり前の様に残すから完食してくれるのが本当に嬉しいのだそうな。

 

 

「はむ・・・はむ・・・」

 

「な、なんて食べっぷり・・・」

 

「刹那さんは何時もこの量ですわよ」

 

「わお・・・」

 

 

なんか言われているけど無視して食べ進める。む、この天ぷら衣の揚げ具合がまた絶妙。これは箸が進む。

食べ続ける僕を余所に織斑達が会話を始めた。

 

 

「それにしても久しぶりだな。ちょうど一年ぶり位か?元気してたか?」

 

「げ、元気にしてたわよ!アンタこそ偶には怪我とか病気とかしなさいよね!」

 

「な、何だよそれ」

 

 

鳳さんはツンデレなのか・・・。織斑の性格にあまり噛み合わない気がするんだよね。実は織斑は入学から数日でラブレターを貰うレベルのモテっぷりを発揮していた。でも、彼の反応は思わずポカンとなる物だった。

教室の机に入っていた織斑宛てのラブレター。内容はベタに[放課後、屋上へ来てください]と書かれていたが、織斑は

 

 

『これって果たし状だろ?IS学園って怖いな・・・』

 

 

と言って、その日は屋上に行かなかった。当初は渋々向かおうとしてたけど、眉間に皺を寄せた篠ノ之さんに引き摺られて行った。

しかもその話が何処かから漏れていたらしく、織斑先生に尻拭いを任された。その場に居たと言う理由だけでだ。理不尽すぎる。

結局僕が屋上で説明する羽目になって、面倒この上無かった。

 

 

「・・・ごちそうさま」

 

「はやっ!?」

 

「君達が遅いんだよ。セシリアだってもう食べ終わってる」

 

 

セシリアも頼んでいたサンドイッチを食べ終わり、口元を上品に拭いていた。僕も紙ナプキンで口元を拭って盆の上に置く。

それを見て苦笑してくる織斑に遂に篠ノ之さんが怒鳴った。

 

 

「一夏!いい加減どういう関係なのか説明してほしいのだが!?」

 

「説明って言われてもなぁ・・・」

 

「も、もしや二人は・・・付き合っているのか?」

 

 

恐る恐る口にする篠ノ之さん。あ、もうコレ僕帰っても良いですか?

 

 

「べべべっ、別に付き合ってるわけじゃ・・・」

 

「そうだぞ。何でそんな話しになるんだよ。ただの幼馴染だって」

 

「・・・」

 

「な、何で睨んでるんだ?」

 

「別に!何でもないわよ!」

 

 

気付かない織斑に鳳さんが叫ぶ。何でこう騒がしい子ばかり集まるんだ?もう少し静かに出来ないかな。

二人で話しているのを見ながら篠ノ之さんは口を開いた。

 

 

「幼馴染、だと?私だけではないのか?」

 

「箒とは入れ違いで転校して来たんだよ。小4の終わりに箒が転校して、鈴が来たのが小5の始めだったな。鈴、前に話した事あっただろ。俺が通ってた剣術道場の娘さんの箒だよ」

 

「ああ、そんな事も言ってたっけ?」

 

 

そう言って鳳さんが何やら意味深な視線を向ける。

 

 

「初めまして、よろしくね。篠ノ之さん」

 

「ああ、こちらこそ」

 

 

一見普通の会話と握手。でも明らかに二人からはオーラ的な何かが出ていた。

これ以上聞いてもアレだなと思った僕はお盆を纏めて、席を立つ。後ろから織斑の声が聞こえるけど、知らない。

なんか[練習を見てあげよっか?]だの[必要ない!]だの女子二人の声の方が騒がしかった。

その後は何事もなく今日の授業を終えた。

 

 

~放課後~

 

 

僕はとある部屋へと向かっていた。やがて目的地へと辿り着く。そこは[整備室]と書かれていた。あまり無茶はさせていなかったから来なかったけど、一応メンテナンスしておこうかなと思い、来た。

ドアを開けて中へと入り、カタパルトの様になっている機械にラファールと白鋼を展開して接続する。それに端末とケーブルを繋ぎ、プログラムや機体のパーツの負荷を確認する。

 

 

「異常は・・・無し」

 

 

----そうか。それは安心だ。

 

----マスターにメンテナンスされるのやっぱり好き。

 

----また媚びるのか貴様は・・・!

 

----へ、へう~!?

 

----喧嘩しない。

 

 

頭の中で喧嘩を始める二機。溜息を吐きながら機体を拭いたり、間接に油を刺したりする。それから自作の追加パッケージを二機にインストールする。

 

 

----新形態《バルバトス・ルプス・レクス》、インストール完了だ。

 

----新形態《メタルフォーゼ》、インストール完了だよ。

 

----了解。

 

 

端末を閉じて、機体を待機状態にする。休みになったらセシアのデータも整理し直さないと・・・。

 

 

----休日はセシアのデータ整理するから手伝いよろしく。

 

----分かった。

 

----うん。

 

 

返事をしてくれる二機に対して、首元からは何も反応が無い。セシアさんはなんか今朝からイジケテいらっしゃる。僕がセシリアを名前で呼び出したとか、藤原さんとアレな雰囲気になってたとか、鳳さんと知り合ってたとか色々言って何も話してくれない。

いい加減面倒になって来た僕は小声で言う。

 

 

「今度研究所で好きなだけ展開するから」

 

『・・・今回だけですよ』

 

 

チョロい。

なんとか機嫌を直してくれたセシアに苦笑いしながら歩き出す。すると僕に視線が向いているのが分かった。僕はその方向へと視線を向ける。そこには、水色の髪で眼鏡を掛けた少女の姿があった。

僕は首を傾げながら聞く。

 

 

「何か用かな?」

 

「あ、あの・・・この前の模擬戦」

 

「模擬戦?ああ、クラス代表の」

 

「もう一人の操縦者に圧勝してた・・・」

 

「どうも」

 

 

どうやらこの前の模擬戦を見ていたらしい。と言うかこの子は結局何者なんだ?この子、何処かで見た様な・・・。

 

 

「えっと、君は誰かな?」

 

「・・・《更識 簪》」

 

「更識?ああ、会t「お姉ちゃんは関係無い」・・・いや、関係あるね」

 

「え・・・」

 

 

更識さんは辛そうな表情で僕の言葉を遮ったが、僕はそれを気にせず更識さんに歩み寄った。そしてずっと言いたかった事を言う。

 

 

「君のお姉さんなんとかしてくれないかな?」

 

「な、なんとか・・・?」

 

「そうだよ。人のシャワーを覗くし、着替えは撮られるし、寝てるとベッドに入って来るし、部屋ではシャツに下着だけだ。なんかエロオヤジと生活してるみたいでアレなんだよ」

 

「お、お姉ちゃん・・・」

 

「強く言わないと聞いてくれないし・・・毎日叱るの疲れるんだよぉ」

 

「その、な、泣かないで」

 

「泣かずにいられるか!」

 

 

そう。あの会長は普段はとても気品溢れる方とは思えないポンコツっぷりを見せて来る。他にも生徒会の仕事を日常的にサボって、僕が生徒会室まで引っ張って行く事もある。今日の昼だって、仕事しないとスクラップ・フィストすると脅迫してやっと行ったのだ。

こんな事をほぼ毎日続けたら僕の胃がストレスでマッハだよ。

この世の理不尽さに涙を流していると、僕を温かい感触が包み込んだ。しかも頭を撫でられている感触までする。これってもしかしなくても抱きしめられているのでしょうか?

 

 

「大丈夫、大丈夫だから・・・」

 

「・・・ごめん」

 

「ううん。こっちこそ、身内がごめんね」

 

 

なんとなく彼女の目が死んでいる気がした。身内が迷惑掛けてその皺寄せが勝手に来たんだからそうなるだろう。いや、僕も勝手に愚痴ってすみません。

二人して平常心を取り戻すのに数分掛かった。暫く経って、恥ずかしい気持ちになりながら離れる。

 

 

「あ、ありがとう」

 

「こ、こっちも、ごめん」

 

 

無言が続き、なんともいえない空気になる。おい、IS達よ。今こそ騒ぐ時だと僕は思うんですけどね。

 

 

----主殿、気付かなくてすまない。

 

----ごめんね、マスター・・・。

 

----マスター、あの女をお母様に突き出しましょう。

 

----おっふ。こっちも気まずいムード。

 

 

たった一機を除いてだけど。確かにもう一度母さんにソーンウィップしてもらうか。でもあれ見ると父さんにしてたの思いだすんだよね。見たくないものを見てしまった・・・。

 

 

「知ってると思うけど、僕の名前は不動刹那。よろしくね、更識さん」

 

「名字は好きじゃないから、簪って呼んで欲しい」

 

「分かったよ、簪」

 

 

初対面で名前呼びってあまり慣れないけど空気的に断れない。うん、マジで。

この日は、互いのアドレスと番号を交換して解散となった。でもまあ、友達が増えたと思うしかないよね。

その後、部屋へ戻ると会長は居なかった。机に置き手紙があり、急用で出掛けるから後は自由にしていてくれと書かれていた。僕はシャワーを浴びてから食堂で食事を摂る。

食べ終わり、食後のお茶を飲んでいると僕の隣に誰かが座った。

 

 

「隣、良いかしら?」

 

「良いよ。といっても僕はもう行くけどね」

 

「つれない事言わないで。模擬戦の日程が決まったわ」

 

「へえ。何時やるの?」

 

「明後日の放課後に、第3アリーナで」

 

「分かった」

 

 

藤原さんの言葉に淡々と答える。下手に話したらこの前みたいになりかねない。

なるべく視線を合わせない様にするが、僕の太ももに藤原さんの手が添えられる。そしてゆっくりと僕の足を撫で始めた。

 

 

「ひゃわっ」

 

「敏感なのね♪」

 

 

そう言って余計にスキンシップを増やして来る藤原さんからなんとか逃れて部屋の前まで来る。寮の端だから少し遠いんだよね。部屋の前まで来ると、体育座りで泣いている鳳さんの姿があった。

うっわぁ。関わりたくない。本格的に関わりたくない。でもあの子退かさないと部屋に入れないし・・・。

 

 

「よし、今日は野宿だ」

 

「待ちなさいよ!」

 

「夜なんだから静かにしてよ・・・」

 

 

Uターンしたら怒られた。鳳さんは目元を泣き腫らして僕を睨む。全然怖くなかった。僕は溜息を吐いて心の中で白旗を上げた。

 

 

「取り敢えず入りなよ。話位は聞くから」

 

「・・・うん」

 

 

急に尻すぼみにならないでよ。やりにくい。

僕は未だに泣いている少女を部屋に入れた。冷蔵庫を開けて、買い溜めしておいた缶ジュースを渡す。鳳さんはそれをくぴくぴと飲んで、なんとか落ち着いた。

 

 

「それで、何があったの?ゆっくりで良いから」

 

「うん・・・あのね」

 

 

鳳さんは俯いて話した。

織斑と一緒に居た頃、[将来自分の作った酢豚を食べてくれる?]と味噌汁的な約束をしたのだが、織斑は[自分の作った酢豚を毎日"奢ってくれる"]的な物であると勘違いしていたそうな。更にそれが原因で口論発生。女心が分かっていないと言ったら、なんだそれ?とか自分は悪くないと豪語し始め、遂に鳳さんの心に限界が来て、その場から逃走。寮の端である僕の部屋の前で泣きじゃくっていたそうだ。

何ともまあ、不憫な。

 

 

「まあその、アレだよ。君も悪い」

 

「何でよ!アンタも一夏の味方するの!?」

 

「違う。誰が君"だけ"悪いなんて言った?僕はどっちも悪いと言ったんだ」

 

「どっちも?」

 

「そう。織斑が超が付く鈍感だって知ってたんでしょ?」

 

「そうよ。中学の頃だって、告白されて[付き合ってください!]って言われたら[良いぞ、何処にだ?]って言う様な奴よ!」

 

「じゃあ何でそんな遠回しな告白したのさ」

 

「そ、それは・・・」

 

 

僕の指摘に鳳さんは押し黙った。そんな事して気付く訳がない。そんなの、デリカシーの無い織斑も悪ければそんな告白をした鳳さんも悪い。

 

 

「まあ、過ぎてしまった事を今更考えても仕方ない。これからの事を考えよう」

 

「そうね・・・怒鳴って悪かったわ」

 

「篠ノ之さんより理解力があるだけマシさ」

 

「何かあったの?」

 

「ちょっとトラブルがあっただけさ」

 

 

僕は肩を竦めて誤魔化す。

 

 

「織斑は普通に考えて今日の事を反省してないと思う」

 

「そんな事・・・ある、かも」

 

「あるね。だって織斑だよ?」

 

「説得力あるわー」

 

 

口元を引き攣らせている鳳さんに苦笑いしながら、今後の事を相談する。

端的に言えば、シカト。その事には首を突っ込まない。結局は平行線になる事が目に見えているし、女心がどうだとかも織斑だからと言ったら鳳さんは納得してしまった。

織斑・・・君は何時か本当に刺されるぞ。

こうして鳳さんは満足そうな顔で部屋を出て行った。僕も疲れが出て来て、直ぐに寝てしまった。

 

 

~数日後~

 

 

アリーナ内の待機室で僕は織斑先生達とディスプレイを見つめていた。そこに映し出されているのは白式を展開した織斑と専用機《甲龍(シェンロン)》を纏った鳳さんの姿であった。

今日は前々から言われていたクラス対抗戦の日であり、織斑と鳳さんの試合である。映像に映る鳳さんからは殺気が漏れ出しており、織斑は青い顔をしていた。

理由は試合前に織斑と会話した際、前回の事を避けて会話していたらしいが織斑が不意にその話を掘り返して色々言ったらしい。我慢ができなくなった鳳さんが反論。僕の方が女心が分かってるだの人を話のネタにした所で織斑の[貧乳]と言う悪口。

もう、救い様が無いです・・・。

 

 

「いよいよ始まりますわね」

 

「ああ・・・」

 

「・・・」

 

「(帰りたいと言いたげな顔ですわ・・・)」

 

 

無言の僕にセシリアが何とも言えない表情を向ける。そんな中、試合が始まった。開始早々に鳳さんが仕掛ける。両端に刃の付いた青龍刀《双天牙月》を振るって織斑に攻撃する。

鳳さんのISは近接格闘型だ。織斑も重い攻撃に顔を顰めながらも雪片弐型で受け止める。そこから鳳さんが何度も青龍刀を叩き付け、織斑の集中力を奪う。だが、織斑もその内鳳さんにカウンターを繰り出し始めた事で試合の展開が変わり始める。

今度は織斑が白式のスピードを生かして鳳さんの周りを飛び回って、雪片を振るう。そして再び鍔迫り合いを行ってから互いに距離を取る。

 

 

「良いぞ一夏!そのまま押し切れ!」

 

「あの機体から距離取ると厄介だよ」

 

「どう言う事ですの?」

 

「甲龍のデータを良く見て」

 

「これは・・・!」

 

 

セシリアにデータを見せるそこには甲龍に搭載された秘密兵器が記されていた。

そんな僕達を余所に試合は進む。鳳さんが格闘とは違う構えを取ると織斑が突然拭き飛んだ。

 

 

「なにっ!?どう言う事だ!」

 

「衝撃砲、だよ」

 

「なんだと・・・」

 

「甲龍の衝撃砲である《龍砲》からは空間に圧縮を掛ける事で砲身を生成してその余剰で生じる衝撃を砲弾として撃ち出すのさ」

 

「それだけではなく、砲身斜角にほぼ制限がありませんわ」

 

「見えない攻撃だと・・・なんと卑劣な」

 

「普通だよ、馬鹿」

 

「なんだと!?」

 

 

僕を思いっきり睨む篠ノ之さんを視界に入れない様にしてディスプレイを見つめる。砲撃を続け、織斑を追い詰めて行く。そんな中でも織斑の目には諦めは無く、遂に弾道を呼んで肉薄した。そのまま零落白夜を発動して鳳さんに振り下ろす。

だが、その刃は空から落ちて来たビームによって遮られた。

 

 

「織斑先生!直ぐに生徒達の避難を!」

 

「分かっている!」

 

 

アリーナに張られている遮断シールドを一撃で破壊する威力を持った相手。全身が装甲によって防御されたISがビームの着弾した直情から降下して来る。そして織斑達に顔を向けると両腕に取りつけられたビーム砲からビームが発射される。

すると頭の中にセシアの声が流れ込んで来た。

 

 

----マスター!あれは無人機です!

 

----無人機!?束が何かやらかしたのか!?

 

----いえ、今の馬鹿兎はあんなの作りませんよ。

 

----どの道、なんとかしないと。

 

 

取り敢えずアリーナへ向かおうと走る。僕の後にはセシリアが着いて来ていた。

 

 

「君は早く避難を!」

 

「刹那さん一人で戦わせる訳には行きませんわ!」

 

「・・・反省文は覚悟しておこうね」

 

「はい!」

 

 

僕も勝手に行動した罰は貰うだろう。走りながらアリーナの情報を見る。クソッ!客席のドアが全てロックされてる。

 

 

----セシア!

 

----既に解除中です!

 

 

それから数秒でロックが解除された。それによって、避難した生徒達のデータが表示される。だがその中に放送委員と篠ノ之さんの名が無かった。嫌な予感がした僕はアリーナへと急ぐ。

ラファールを展開してセシリアに言う。

 

 

「セシリア、まだ篠ノ之さんと放送委員が避難してない!君は放送室へ向かって欲しい!」

 

「わ、分かりました!御武運を」

 

 

すぐにアリーナへと出撃する。そこでは織斑達が苦戦していた。僕はラファールに声を掛ける。

 

 

----行くぞラファール!

 

----うん!モード《ジャンク・デストロイヤー》!

 

 

ラファールが形態を変え、黒塗りのボディに四枚の機械質な羽。通常の腕部装甲の上にもう一組の腕部装甲が追加される。

これがパワー特化型形態であるジャンク・デストロイヤーだ。

そして各腕にエネルギーの球体を生成して無人機に投げつける。織斑達の横を通過して無人機の腕に直撃したエネルギー弾はその場で爆発する事は無かった。

暫くしてから腕に火花が散り始め、爆散する。ジャンク・デストロイヤーのワンオフ・アビリティーである《タイダル・エナジー》はウイルスが搭載されたエネルギー弾を発射して直撃した相手の武装を内側から破壊する能力だ。

ラファールと白鋼は各形態一つずつにワンオフ・アビリティーが存在する。

 

 

「織斑、鳳さんを連れて下がって」

 

「お、おい待てよ!あれには人が・・・!」

 

「一夏、不動!アレ・・・」

 

 

鳳さんが指を指すと、両腕が弾け飛び、オイルを血の様に流す無人機の姿があった。織斑達は唖然としている。

 

 

「あれは無人機。気にするだけ無駄さ」

 

「で、でもISって無人機は存在しないんじゃ」

 

「時代が進めば造れるさ」

 

「だったら後は攻撃を叩きkってきゃぁっ!?」

 

 

突如無人機の装甲が開いて大量のビームが無差別に発射される。ビームなんて余裕で耐えられるジャンク・デストロイヤーの腕部装甲でビームを弾く。

攻撃に転じようとした所で織斑が突っ込んで行った。あの馬鹿・・・!

 

 

「うおおおおおおおっ!」

 

「馬鹿下がれ!」

 

「う、うわあああああああ!」

 

 

結局ビームが多くて近づけずに戻って来た。でもこれ位ならもう・・・!

一気に片を付けようとした所で最悪な事態が発生した。

 

 

『一夏ぁ!』

 

 

突如響くマイク音声。その方向へ視線を向けるとインカムに叫ぶ篠ノ之さんの姿がピットにあった。

 

 

『男なら・・・男なら、その程度の敵に勝てずに何とするッ!』

 

「ほ、箒!?」

 

「何やってるのよアイツ!」

 

「クソッ!」

 

 

あんな目立つ行為をすれば当然無人機のターゲットは向こうに行く。無差別の射撃が篠ノ之さんへ向かう前に僕は《瞬時加速(イグニッション・ブースト)》を使用する。

瞬時加速とは、ISの後部スラスターのエネルギーを圧縮して放出する事による加速だ。

それを使用して篠ノ之さんの前まで来てビームを腕部装甲で弾き、ボディで盾になる。

 

 

「織斑!決めろぉ!」

 

「ああ!行っけええええええ!」

 

 

再び発動した零落白夜で無人機を肩から袈裟切りで両断した。無人機はノイズを吐きだしながら地面へと伏す。

 

 

「刹那さん!」

 

「僕は平気だから篠ノ之さんを連れて行って」

 

「了解ですわ」

 

 

セシリアは篠ノ之さんを連れて中へと戻って行った。

僕は飛行して無人機の方へと向かう。ジャンク・デストロイヤーを解除してジャンク・ウォリアーに戻した。こっちの方が燃費良いんだよ。

 

 

「一応コアを取り出しておこう」

 

 

スクラップ・フィストで外部装甲を破壊してからコアを抜き取る。そこに書かれていたコアナンバーは存在しない筈のコアだった。

現在、存在するISのコアはセシアを抜かせば467機存在し、その内実戦配備されているものが322機。残りの145機は各国の研究機関か、イリアステルの様な企業が所有している。

だがこのコアナンバーは468と書かれていた。つまりは誰かが新たなISを開発したと言う事になる。

僕は何か嫌な予感を感じながら抉り取ったコアを見つめた・・・。

 

 

~アリーナ内部[待機室]~

 

 

「これで全員か?」

 

 

今回の騒動に関わった専用機持ちと篠ノ之さんを集めた織斑先生が声を掛ける。

どうやら篠ノ之さんは放送委員からインカムを無理やり奪ってあそこまで行ったらしい。放送委員の人は最後まで止めたらしいが聞かなかった様だ。

 

 

「それで篠ノ之。貴様は何をやっている」

 

「わ、私は一夏を応援する為に・・・」

 

「それで己を危険に晒すどころか他人まで巻き込んでいるのだぞ」

 

「で、ですが!」

 

「ですがも何もないだろうに・・・」

 

「なんだと!?」

 

 

つい口からボソッと本音が零れると、篠ノ之さんが地獄耳でキャッチする。見事に突っ掛かって来ました。でも今回は流石の僕もキレざるを得ないんだよね。

僕は篠ノ之さんの方を向いて話す。

 

 

「君の言い分はどうであれ、必要以上に場を引っ掻き回した事に変わりはない。もし僕達が間に合わなかったら君だけじゃない、余所見してた織斑達だってやられる所だったんだよ?」

 

「わ、私は一夏ならば勝ってくれると信じていた!余計な事をするな!」

 

「それはこっちの台詞だ!」

 

 

あまりにも自分勝手な言い分に思わず声を荒げる。

 

 

「自分から死にに行くのなら周りを巻き込むな!君一人で死ね!それともなんだ?自分は篠ノ之束の妹だから好き勝手許されるとでも?」

 

「だ、黙れ!」

 

「黙るのは君だよ。普段は姉と関係無いとか言っておいて、自分に都合が悪くなると自分はISの製作者の妹だ、とか・・・呆れを通り越して哀れだ」

 

 

自分でも分かる。今の僕は驚く位冷たい目をしているのだろう。織斑先生ですら顔を青くしてるのだから。

それほどに僕の中で怒りの炎が渦巻いている。

 

 

「そもそも戦う力が無いくせに出しゃばらないでもらえるかな」

 

「私にだって専用機があれば!」

 

「無理だね。今の君じゃまともに扱えずに終わるよ。いい加減自分の立場を理解しなよ、役立たず」

 

「貴様ぁ!」

 

「前々から貴様、貴様とばかり。それ以外の言葉を知らないのか?」

 

「このぉっ!」

 

 

再び振り下ろされる木刀。僕はそれを膝を落として篠ノ之さんの腕に下から掌底を叩き込む。衝撃で手を離れ、宙に舞う木刀を見つめる篠ノ之さんの襟首を掴んで地面に叩き付ける。そして落ちて来た木刀をキャッチして切っ先を篠ノ之さんの眼前へと向けた。

篠ノ之さんは何が起こったのか分からない表情で木刀を見つめる。ゆっくりと視線を上げて僕を見ると、小さく声を上げて震え始めた。そんな彼女に僕は言う。

 

 

「討って良いのは、討たれる覚悟のある奴だけだ。この程度で震える態度なら、今すぐISを捨てろ。政府の方々にお人形の様に守られてるのがお似合いだ」

 

 

そのまま木刀を後ろに投げ捨てる。溜息を吐くと、頭に衝撃が走った。どうやら織斑先生に叩かれた様だ。うん、こうなるとは思ってた。

 

 

「不動。やり過ぎだ」

 

「反省はしてますけど、後悔はしてません」

 

「・・・はぁ」

 

「刹那!お前何やってんだよ!」

 

 

今度は弟君の方に胸倉を掴まれる。あれ?何かデジャヴ?

 

 

「正当防衛ですが、何か?」

 

「女に暴力振るうって何考えてんだ!」

 

「はあ?君だってさっきまで鳳さんとドンパチやってたじゃないか」

 

「あれはISだろ?関係無いじゃないか」

 

「ISだろうが何だろうが戦うのであれば暴力同士のぶつかり合いだ」

 

「違う!」

 

「違うって何さ?じゃあ僕に木刀で殴られろって言うの?あの勢いで叩かれたら僕は大怪我なんだけど」

 

 

駄目だ。コイツの理論が理解出来ない。

結局この日は解散となって後日話し合う事になった。織斑が最低野郎だとか言ってたけど、篠ノ之さんに対して何も言わずに傍観してるだけの君に言われたくないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~夜[屋上]~

 

 

『そっか・・・箒ちゃんを助けてくれてありがとう、せっちゃん』

 

「別に。それと君の妹歪み過ぎだよ。色々と」

 

『うん・・・私が自分勝手にやり過ぎたから』

 

「そう思うんだったら自分でなんとかしなさいな」

 

『頑張る・・・本当にごめんね』

 

「今度休日にそっち行くから細かい話はそこでしよう」

 

『分かった・・・』

 

 

束に報告を入れてから電話を切る。束の知らないコアと言う予想は当たりだった。ますます怪しい匂いがして来た。

 

 

「・・・面倒だ」

 

 

刹那サイド終了



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第6話

刹那サイド

 

 

あれから数日、織斑先生達による事情聴取が終わった僕達にはあの日の事に関して何も言うなと言われた。残念。もうイリアステルには報告済みです。

今日も何事もなく授業を終えた僕は物を入れた袋を手に寮を歩く。鳳さんから聞いた話だと・・・此処か。僕は目的の部屋をノックする。

 

 

「は~い・・・ふ、不動君!?」

 

「突然の訪問、申し訳ありません。これを藤原さんに」

 

「あ、うん」

 

「それでは失礼します。お大事に」

 

 

そう。決闘を申し込んで来た藤原さんへの見舞いの品を渡しに来たのだ。

本当なら、織斑と鳳さんの戦闘の数日前に戦う筈だったのだが、藤原さんがまさかの風邪を引いた事により中止となった。でも予約していたアリーナを僕名義に変えて使わせてくれた事はありがたかった。

それのお礼も兼ねて見舞いの品を持って行ったのだ。そのまま僕は若干重い足取りでアリーナへと向かう。ラファールを展開して出ると、織斑と篠ノ之さん、そして鳳さんとセシリアが既に練習を始めていた。

 

 

「遅くなった」

 

「お、来たな。何やってたんだ?」

 

「君には関係ない」

 

 

織斑を無視してセシリアに話し掛ける。

 

 

「それで、模擬戦の結果は?」

 

「一夏さんの全敗ですわ」

 

「あ、やっぱり?」

 

「やっぱりって何だよ!?俺だって前よりは強くなったぞ」

 

「それだったら篠ノ之さんの一人や二人倒してから言いなよ」

 

「それはどう言う意味だ?」

 

 

篠ノ之さんの殺気を受け流す。て言うか量産機に乗ってる相手を専用機を使って倒せないってどうなのさ?スペック的にまず負けないでしょ。

溜息を吐いていると鳳さんに声を掛けられた。

 

 

「不動、ちょっと私と戦いなさいよ」

 

「良いよ。織斑と戦うよりはマシだ」

 

「言っておくけど、私強いからね」

 

「うん、知ってる」

 

 

空中へ飛んで滞空する。鳳さんも後を追う様に飛行して来た。そして自分の武器である双天牙月を振り回してから自分の肩に乗せた。

 

 

「さってと。それじゃあ行くわよ」

 

「何時でも」

 

 

僕はジャンク・ウォリアーの状態で構える。そして僕と鳳さんにセシリアから通信が入る。

 

 

『それでは・・・始め!』

 

 

その言葉で僕達は動き出した。パワー特化の甲龍は重い分スピードが落ちる。だから初手に関しては僕に分があるのだ。真っ先に飛び込んでスクラップ・フィストを叩き付ける。

 

 

「こ、拳で殴るとか何考えてんのよ!?」

 

「コレがこの形態の特徴なんでね!」

 

「チッ・・・喰らいなさい!」

 

 

至近距離で龍砲を撃たれそうになった所で一旦後退してから瞬時加速で躱す。そして小声でとあるシステムの起動を開始する。

 

 

(トラップ)セット・・・」

 

 

----任せて。

 

 

ラファールの声に口角を吊り上げる。すると僕の周りに5つのエネルギー球が浮かび出した。それを鳳さんは訝しげな目で見る。

 

 

「なによ、ソレ」

 

「さあ?なんでしょう?」

 

「だったら・・・無理やり聞きだすだけよ!」

 

 

叫びながら連続発射して来る鳳さんの龍砲を躱す。

 

 

「なんで全て避けられるのよ!?」

 

「バレバレだよっ!」

 

「うぐっ!?」

 

 

右腕で殴り掛かり、甲龍のSEを着実に削る。そして右ストレートを当てようとした所で鳳さんが瞬時加速を使って回避する。空振った僕に向けて龍砲が構えられた時、僕は叫んだ。そして周りを飛んでいたエネルギー球から何かが飛び出す。

 

 

「罠発動!《くず鉄のかかし》!」

 

「ファッ!?」

 

 

突如として僕と鳳さんの前に出現する鉄屑によって組み立てられた案山子に龍砲が直撃すると、衝撃すら起きる事なく消滅した。実体のない砲弾に消滅とは可笑しいが。

案山子は再び球体となり、僕の周りを飛び始める。

 

 

「・・・何したの、今?」

 

「今開発中のシステムでね。最大5個まで特殊能力を持ったエネルギー球を展開して戦う事が出来るんだ。基本は1回きりの使い捨てなんだけど、このくず鉄のかかしは発動した後にもう一度セット出来るんだよ」

 

「そ、それじゃあまだ4つも残ってるの!?そんなシステムが!?」

 

「その通り」

 

「インチキ性能もいい加減にしなさいよっ!?」

 

 

そう言って青筋を浮かべた鳳さんが双天牙月を投げ付けて来る。スクラップ・フィストで弾いて双天牙月を地面へと刺した。それを見て鳳さんはしかめっ面になる。なんともやっちまった感の強い表情だ事。鳳さんは自棄になって龍砲を僕に向けた。

 

 

「ぶっとべこのチート機体!」

 

「罠発動!《魔法の筒(マジック・シリンダー)》!」

 

 

次の瞬間、僕の前に大きな筒が出現して龍砲の砲撃を受ける。そして筒から見えない衝撃が発射され、鳳さんの機体が大きく吹っ飛んだ。そして地上に落下して、甲龍のSEが尽きた事を伝える通信が入る。

魔法の筒は相手の攻撃を一度だけそのままそっくり返す罠だ。その効果に満足した僕はゆっくりと着地してから鳳さんの元へと向かう。

 

 

「大丈夫?軽くオーバーキル入りそうだったけど」

 

「誰の所為よ誰の」

 

「あはは・・・ごめん」

 

 

ジト目で睨まれたので視線を逸らす。そして僕に何か言いたげな織斑達がいたので、適当に理由を付けてアリーナを出る。もう二度とコイツ等と戦うもんか。

さっさと着替えた僕はアリーナの外へと歩き出した。

 

 

~整備室~

 

 

「・・・って事があってさ」

 

「・・・そのシステムすごく気になるんだけど」

 

「残念ながら機密事項だよ」

 

 

二人でコンソールを弄りながらISの調整をする簪は自分を機体を熱心に造っていた。なんでも彼女は日本の代表候補生らしく、自分の機体が貰える筈だったらしい。

だが、織斑が男性操縦者として登場し、その専用機を急遽造り上げる事になった。当然あのブリュンヒルデの弟の専用機だ。全力で当たらなければどうなるか分かったものではない。結局簪の機体は途中で投げ出される事となり、更に会長に言われた一言で色々とブチ切れた彼女は自力で造っているのだ。

あの馬鹿は本当に面倒事しか起こせないのか?

 

 

「あ、此処の配列はこっちの方が良いと思うよ」

 

「分かった。やってみる」

 

 

僕も自分の機体を整備しながら簪と話す。そして下校時刻となった僕達は片付けをしてから整備室を出る。部屋まで向かう僕の隣には簪がいた。その目は怒りに染まっている。それはもう、僕も震えるレベルで。

遂に到着した僕の部屋。互いに頷きあって部屋のドアを開ける。その先には・・・。

 

 

「ふ、不動君のシャツ・・・着るべきか履くべきか・・・お姉さん迷っちゃう♡」

 

「「ギルティ」」

 

「げっ!?不動君!・・・と簪ちゃん!?何故簪ちゃんが此処に!」

 

「お姉ちゃん、正座」

 

「アッハイ」

 

 

絶対零度と言っても過言ではないレベルの声に会長は素直に従った。シャツは無事でよかった・・・もう時間無くても置いておかない事にしよう。

制服を片づけながら二人の会話を見守る。

 

 

「そうやってお姉ちゃんは周りの事考えないで・・・私の事だって」

 

「違うわ簪ちゃん!私は貴女の事を思って!」

 

「だったらちゃんと言ってよ!あの言葉で私がどれだけ傷ついたと思ってるの!?」

 

「そ、それは・・・」

 

「今日の事は《虚》さんに全て話すから」

 

「勘弁してください!そんな事されたらお姉ちゃん死んじゃう!」

 

 

会長の威厳など既に無く、涙と鼻水で顔をビチョビチョにした女子がその妹の足に縋り付いていた。うっわ、流石に引く。

 

 

----撮影したんでSNSに上げましょう。

 

----動画サイトにも流すか。

 

----そんな事しちゃダメだよ~!

 

----やめたげてよぉ!

 

 

もう止めて皆!会長のライフはもうゼロよ!

そんな会長を見て簪は溜息を吐いて言った。

 

 

「分かったよお姉ちゃん。今日は許してあげる。でも刹那には二度と迷惑を掛けない事」

 

「わ、分かりました・・・いたた。正座して痺れちゃった」

 

 

そう言って会長が正座を崩した瞬間、何かがハラリとそのポケットから零れ落ちた。

 

 

「あ・・・失くしたと思ってた靴下」

 

「・・・(汗」

 

「もしもし?虚さん?」

 

「しまったァーーー!?」

 

 

この日、会長は連れて行かれたまま戻らず、翌朝になって泣きべそ掻いて戻って来たのでシカトした。

後で色々聞いたが、何でも簪との姉妹仲が大変悪かったらしく、今回の説教を経て何時の間にか和解。昔の様な仲良しに戻ったそうだ。お礼を言われたけど、僕はシャツを勝手に取られそうになった上に靴下までパクられそうになっただけなんですがねぇ・・・。

そしてこの日は何事もなく、織斑とも関わらない様に努力して終わった。明日からはGWだ。研究所に戻って色々しないと・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~休日[イリアステル研究所前]~

 

 

「ありがとうございました」

 

 

乗せられた車から降りてイリアステルの施設へと入る。僕と織斑は重要人物な為に外出する際は護衛を付けなければ正直危ない。何時何処にヤバい人達が潜んでいるのかも分からない。僕は護衛の方々に研究所前まで送ってもらった。

織斑は護衛なんていらないと楽観視して一人で実家へと戻ったらしい。とことん馬鹿だねあの子。まあ、どうなろうが知ったこっちゃないが。

そんな事を考えながら施設内を歩き、研究所の受付へと向かう。

 

 

「すみません」

 

「刹那お坊ちゃま。お久しぶりでございます」

 

「お久しぶりです。父さんに来たと連絡をしていただけますか?」

 

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 

そう言って受付の人は内線を使って父さんへと連絡を取る。父さんが来るまで近くのソファで座っていると足音が響いた。視線を向けると白衣に身を包んだ僕の父、不動遊星がこちらへ向かって来ていた。僕も立ち上がって歩く。

 

 

「久しぶり、父さん」

 

「ああ。元気だったか」

 

「色々あったけど、元気ではあるよ」

 

「そうか。暫くは滞在するんだろう?夜はアキも連れて食事でも行こう」

 

「うん。取り敢えずデータを渡すよ」

 

「分かった。それじゃあ行こう」

 

 

父さんの後に着いて、束とブルーノさんが居る研究室へ向かう。エレベーターへ入り、父さんがコードを打ち込むと下降を始める。やがてその動きが止まり、ドアが開いた。そこから出て道なりに歩く。最後に大きなドアを開けると、中には巨大な研究施設が広がっていた。

コンソールが並べられた部屋とガラスで隔てたその先にISを動かす為の訓練施設まで完備された地下空間だ。コンソールの部屋ではこちらに背を向けてディスプレイを見つめたままの二人に声を掛ける。

 

 

「おーい!」

 

「あ、せっちゃん!」

 

「やあ、刹那君!来たんだね!」

 

「はい。この連休中に色々と研究に関わりたいので」

 

 

ひっ付いて来る束を撫でながらブルーノさんに言う。そして僕はふと気になった事を束に聞いた。

 

 

「束、《倉持技研》って知ってる?」

 

「どしたの急に?あれでしょ。代表候補生の機体造ってたのにいっくんのIS優先して職務放棄した烏合の衆」

 

「てっきり束が白式渡したからだと思ってたんだけど」

 

「私は白式のコアと雪片を造った後はIS委員会の方に渡したんだよ。せっちゃんとの研究に没頭したかったし、流石にその辺は真面目にやってくれると思ってたから。でもダメだったね。上の奴らも倉持技研の方も白式ばかりやって完全に向こうの方見向きもしないんだもん。代表候補生の子に申し訳ないよ」

 

「ほう。篠ノ之から申し訳ないなんて言葉が出るとはな」

 

「どう言う意味かなそれ?」

 

 

笑いを堪える父さんに束がジト目を向ける。僕は束に簪の事を伝えた。すると束は何かを考え始め、頷くと父さん達に聞いた。

 

 

「ゆー君、ぶっ君。その子の機体、この会社で造ったらダメかな?」

 

「俺は別に構わない。それなら表に出てるIS部門を宣伝出来るからな。それに、刹那の友達の悩み事だ。出来るだけ力になってやりたい」

 

「僕も良いよ!代表候補生の機体かぁ・・・カッコいいんだろうなぁ」

 

「またぶっ君がトリップしたよ・・・」

 

 

恍惚の表情を浮かべるブルーノさんに束がヤレヤレと首を振る。彼は周りがドン引きするレベルの機械オタクで、腕は確かなのだが時々行き過ぎた行動を取ってしまう。

父さんが言うには見た目が気に食わないと言う理由でジャックおじちゃんのバイクを勝手に改造したらしい。しかも性能が何倍も上がってる分性質が悪い。

 

 

「と、取り敢えずOKなんだね。簪に伝えておくよ」

 

「ああ。その子に、遠慮せずに来て欲しいと言っておいてくれ」

 

「うん。あ、これIS学園での戦闘データね。相手が弱くて話にならなかったけど」

 

「はいは~い!それじゃ早速解析♪」

 

 

そう言って束が高速でコンソールを操作して父さん達とデータを閲覧して行く。

 

 

「なんだ、まだ白鋼の方はエクシアしか使ってないのか」

 

「そっちの方がオーバーテクノロジーだからね」

 

「これがあの無人機か。私達は仮称で《ゴーレム》って呼ぶ事にしたけどね」

 

「取り敢えずは刹那君のデータを整理してからにしよう。あ、遊星。その前にお昼食べても良いかな?お腹空いちゃって」

 

「束さんもお腹ペコペコ~。今日の日替わりは何かな?」

 

「それなら今日はハンバーグだ」

 

「待ってました!」

 

 

取り敢えず僕達は昼食を摂る事にして上の食堂へと向かう事にした。此処の食堂のご飯は本当に美味しかったです。

食べ終わった僕はコンソールを弄る束達の横で電話を掛ける。相手は学園で作業しているであろう簪だった。

 

 

『もしもし?』

 

「あ、簪。僕だけど」

 

『どうしたの刹那?』

 

「簪の機体の事なんだけど・・・」

 

『刹那が手伝ってくれる話の事?』

 

「うん。それがね」

 

 

僕は簪にイリアステルが協力する事を話す。すると電話の向こうで簪が転ぶ音が聞こえた。それから震えた声で聞いて来る。

 

 

『ほ、本当に良いの?刹那の機体を造った所に協力してもらうなんて』

 

「気にしないでよ。家も良い宣伝になるし、ギブ&テイクさ」

 

『それなら、お言葉に甘えようかな。もう見栄を張る必要もなくなったし、正直な所行き詰ってて作業が進んでないから』

 

「分かった。詳しい事は戻ってから伝えるよ」

 

『うん。本当にありがとう』

 

「気にしないでよ。それじゃあね」

 

 

僕は電話を切る。さてと、簪の機体か・・・魔改造される予感しかしないな。

ポケットに端末を仕舞って束達の作業に加わる。今日は研究するぞー!織斑が居ないんだから羽を伸ばせるしね!

作業を続けていると、何時の間にか夕方になっていた。そしてドアが開いて父さんと母さんが来た。

 

 

「刹那、そろそろ行こう」

 

「貴方の好きなバイキングよ。束さん達も一緒に行きましょ。皆で食べた方が美味しいもの」

 

「ひゃっほう!あーちゃんゴチになりま~す♪」

 

「それは嬉しいね。是非ご一緒させてもらうよ」

 

 

こうして僕達は外へ出てバイキングを楽しんでから帰宅した。束?ちゃんと変装させましたが何か?

その夜は父さんや母さんと最近あった事を話して、家族の時間を過ごした。その後も研究所と家を行ったり来たりして充実したGWを過ごす事が出来た・・・。

 

 

~連休後[IS学園]~

 

 

「刹那さん、お久しぶりですわ」

 

「久しぶり、セシリア。そっちはイギリスに戻ったんだっけ?」

 

「はい。家に顔を出して来ましたの」

 

「僕も会社と家に行けたから良かったよ」

 

「お互い、休日を満喫出来て何よりですわ」

 

「そうだね」

 

 

セシリアと話していると、織斑先生達が来たので席に着く。そう言えば織斑が話し掛けて来た気がしたけど、知りません。

号令を終えると山田先生が嬉しそうに言った。

 

 

「今日はですね!皆さんに転校生を紹介します!」

 

 

そう言った山田先生の隣に居た人物は、僕達を見て挨拶をする。金髪の髪をしたその人物は確かに"男子用の制服"を着ていた。

 

 

「《シャルル・デュノア》です。フランスから来ました。この学園に僕と同じ境遇の方が居ると聞いて、転入を・・・」

 

「おっと、コレはマズい」

 

 

なんとなく予感が出来た僕は両耳を塞ぐ。すると予想通り女子達が騒ぎ出した。

 

 

「キャーーーーっ!三人目の男子よ!」

 

「しかも金髪!王子様系!」

 

「織斑君みたいな守って欲しい系男子とか不動君みたいな嫁に来て欲しい系男子とは違う守ってあげたい系男子よ!」

 

「お母さん、産んでくれてありがとう!」

 

 

耳を塞いでても嫌に聞こえて来る。何だ嫁に来て欲しい系って。この前のほほんさんの取れ掛けてたボタン縫った事かな?ソーイングセットの携帯とか学生として普通でしょうに。

 

 

「静かにしろ。一限からはISの実習だ。織斑、不動はデュノアを案内してやれ」

 

「はい」

 

「分かりました」

 

「では解散!」

 

 

織斑先生の声を聞いた瞬間、僕と織斑は立ち上がる。それに合わせてデュノア君も寄って来た。

 

 

「えっと、織斑君に不動君だよね?僕は・・・」

 

「話は後だ。急がないと着替える時間が無くなっちまう」

 

「織斑。今ならDルートが最適だ。一気に行くぞ」

 

「分かった。こっちだシャルル!」

 

「う、うん!」

 

 

セシアによって導き出されたルートを走る。物珍しさに集まって来る女子生徒が多くて進めなくなるのだ。何度織斑を犠牲にして遅刻を免れた事か・・・。

誰も居ない廊下を走り抜ける。本来はいけない事なんだけど、織斑先生が許可くれて助かったよ。走ると言うよりは競歩の感覚だね・・・。

更衣室まで着いた僕達はさっさと着替える。此処は女子校だ。男子更衣室なんて物はない。僕達は女子達が来る前に更衣室の隅でさっさと着替えるしかない。

僕は制服の下にISスーツを着込んでいるのですぐに終わった。

 

 

「刹那もう終わったのかよ」

 

「下に着てるから。最初からそうすれば良いでしょ」

 

「俺もそうするか・・・なあ、シャルルは」

 

「あはは・・・」

 

「もう着終わったのか?」

 

「う、うん」

 

「そのISスーツ着やすそうで良いな。ほら、急ぐと引っ掛かるし」

 

「ひ、ひっか!?」

 

「下ネタを振るな。デュノア君、コレは放っておいて行こう。遅れる」

 

「待ってくれよ!」

 

 

そう言って急ぐ織斑を尻目にデュノア君を連れてグラウンドへ向かう。僕とデュノア君は余裕で間に合った。それからギリギリに織斑が走り込みでセーフを決める。どうやったら着替えにそこまで手こずるんだ?

そう言えば今日は2組と合同だっけ?道理で人の数が多い訳だ。すると織斑先生が声を掛ける。

 

 

「それではISの実習を開始する。まずはオルコット、鳳!お前達に模擬戦をしてもらう」

 

「えー・・・なんで私が」

 

「私も・・・」

 

「・・・あの二人に良い所を見せるチャンスだぞ」

 

「し、しょうがないわね!私の実力を見せるいい機会よね!」

 

「それはこちらの台詞ですわ!オルコット家当主として全力を尽くします!」

 

 

織斑先生に何かを言われた瞬間、二人は掌を返した様に気合を入れる。

 

 

「それで、相手は鈴さんでよろしいのですか?」

 

「待て。対戦相手h「きゃああああっ!ど、どいてくださーーーーい!」・・・」

 

 

織斑先生の声を遮って上空から聞きなれた頼りない声が響く。その正体はラファールを装着した山田先生だった。泣きながら此方へ突進して来る。僕は無言でラファールをジャンク・デストロイヤーで展開してから飛びあがり、四本の腕で山田先生をキャッチする。

 

 

「大丈夫ですか、山田先生?」

 

「は、はい。ありがとうございます」

 

「良かった。先生に何かあったら大変ですから」

 

「不動君のお陰ですよ」

 

「それはどうも。それじゃあ、下ろします」

 

 

着地してから山田先生を下ろす。それを見て織斑先生が頭を押さえて溜息を吐いた。それからセシリアと鳳さんに言う。

 

 

「お前達の相手は山田先生だ」

 

「えっと、二対一って言うのは・・・」

 

「危ないんじゃ・・・」

 

「安心しろ。お前達程度、負ける事はありえん」

 

 

その言葉にムッとなった二人はISを展開して構える。まさかこの二人知らないのか・・・?

山田先生は学生時代、日本の"代表候補生"だったんだよ?

 

 

刹那サイド終了

 

 

 

 



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第7話

刹那サイド

 

 

言わずもがな模擬戦はセシリア達の大敗に終わった。原因は慢心とコンビネーション不足に他ならない。なんとも情けない負け方に僕は頭を抱えた。大丈夫か代表候補生・・・。

その後は専用機持ち一人一人に何人か割り振って、ISの歩行等を教える事になった。特に変わった事もなく授業が終了した。織斑の所だけは妙に騒がしかったけど。

 

 

~昼休み[屋上]~

 

 

「何故全員が此処にいるんだ・・・!」

 

「・・・(あ、飛行機雲)」

 

 

昼休み、セシリアに呼ばれて屋上へ来た僕は何故か篠ノ之さんと織斑、デュノア君、鳳さんと一緒に芝生で食事を摂る事になった。面倒臭い事この上ない。こんな時に限って、会長はサボった仕事を片づけてるし・・・使えない。

篠ノ之さんの視線が怖いので空を見上げてボーっとする。

 

 

「えっと、僕が居ても良いのかな?」

 

「何言ってんだよシャルル。同じ男同士、仲よくしようぜ。なあ、刹那」

 

「・・・(帰りたい)」

 

「一夏!これ、作って来たから食べなさいよ」

 

「おお!鈴の酢豚だ!」

 

 

そう言って鳳さんが大きめのタッパーの蓋を開ける。そこには何とも美味しそうな酢豚が入っていた。僕もお腹空いたな。購買で何か買って来よう。セシリアは何の用だったんだ・・・?

 

 

「よっと・・・」

 

「せ、刹那さん!」

 

「ん?」

 

「わ、私サンドイッチを作って来ましたの。食べていただけますか?」

 

「良いの?」

 

「は、はい!」

 

 

セシリアがバスケットから美味しそうなサンドイッチを取り出した。まさかこの為に呼んでくれたのか・・・なんて良い子なんだ。そう言う事ならばありがたくいただこう。

一つ貰い、口に入れる。次の瞬間、

 

 

「っ!?」

 

 

思わず叫びそうになった。セシリアの作ったサンドイッチは不味いの一言に尽きる。分量などお構いなしにとばかりに入れられたナニカ。束が作ったナポリタンよりも酷い。

僕は飲みこんでセシリアに聞く。

 

 

「セシリア、これ味見した?」

 

「いいえ。刹那さんに最初に食べて欲しくて」

 

「そっか。はい、あ~ん」

 

「な、なにを!?」

 

 

セシリアにサンドイッチを向ける。デュノア君がおお、とか言いながら見てるけどそれどころじゃない。顔を紅くしてセシリアはゆっくりと口をサンドイッチに近付ける。そして、

 

 

「はむっ・・・まごふっ!?」

 

 

口に含んだ瞬間、白目を向いてひっくり返った。その光景に全員が驚愕するそしてフラフラとセシリアが起き上った。

 

 

「こ、これは人が食べて良い味ではありませんわ。どうしてこんな・・・」

 

「話を聞くに、味見もせずにオリジナルの味付けでもしたんでしょ?」

 

「そう、ですわ・・・うぷっ」

 

「料理出来ないんならオリジナルとかしちゃダメでしょ。馬鹿なの君は?」

 

「・・・反論出来ませんわ」

 

 

そう言ってセシリアが俯く。初心者なら無理せずにしなさいな。

僕はセシリアの横のバスケットを掴んで残りを食べ始める。

 

 

「刹那さん・・・無理して食べる必要は」

 

「不味いのは残して良い理由にはならないでしょ」

 

 

そんなの勿体ないじゃないか。毒が盛られてるならまだしも、ただ超絶不味いだけだ。食べられない訳じゃない。

 

 

「それに折角セシリアが作って来てくれたんだ。味は兎も角、凄く嬉しいよ」

 

「刹那さん・・・!」

 

「・・・御馳走様」

 

 

バスケットを空にした僕はポケットティッシュで口を拭う。それからセシリアに言った。

 

 

「今度は美味しく作ってくれると嬉しい、かな」

 

「はい!次はレシピ通りに作りますわ!」

 

「・・・一夏、あれが理想の対応よ」

 

「何がだよ?」

 

「やっぱ良いわ・・・アンタじゃ無理ね」

 

 

鳳さん達が小声で話しているが、無視して立ち上がる。

 

 

「セシリアの分も食べちゃったから学食に行かない?」

 

「そうですわね」

 

「お礼と言っては何だけど、明日は僕がお弁当作って来るよ」

 

「本当ですの!?」

 

「うん。何か食べたい物があったら言って」

 

「お、刹那の弁当なら俺も食べたいぞ!」

 

「アンタは黙ってなさいっ!」

 

 

織斑に鳳さんが怒鳴る。本当に空気読めないな・・・。

僕はセシリアと屋上を出て学食へと向かった。こうして騒がしくも穏やかな時が過ぎて行き、放課後になった。

 

 

~整備室~

 

 

「このシステムなら簪の機体も上手く制御出来ると思うんだ」

 

「なるほど・・・援護システム」

 

「そして分離可能な外部装甲の追加・・・しかも強襲用コンテナに接続して移動も可能・・・ね」

 

「その名も、《GNアームズ》さ」

 

 

イリアステルで制作する事になった簪の機体。その前に機体のコンセプトを決める事にした僕達は取り敢えず簪の要望を聞く事にした。簪の理想は、マルチロックオンシステムによる高性能誘導ミサイルを積む事。

そのシステムは数日前に組み終わったがシミュレーションをした結果、システムの動きに少しムラがある事が分かった。よって、簪の機体に新たに援護システムを組み込む事にした。それでシステムの動きをより完全な物へと近付ける。

ぶっちゃければ《ハロ》を造ります。それも簪専用の持ち運び可能なボディ込みで。

そして火力上げとしてGNアームズも造る。AとDの両方を造って換装出来る様にしたい。

 

 

「それにしても、このGN粒子って何なのかしら?」

 

「あはは・・・」

 

 

言えない。転生特典のセシアに積まれたシステムとか絶対に言えない・・・。

最初はガンダムなら宇宙行けるんじゃと思ったらセシアが、[マスターは自分の力で叶えられると思ったので、宇宙活動用の装甲は破棄しました!]と自慢げに言ったので思わず吹いた。

世界を動かすレベルの物を簡単にポイしちゃ駄目でしょ。結局装甲は普通の物にセシアのデータを映して使用する事になった。まあ、宇宙での活動に耐えきれないって事以外は設定通りの性能なんだよね。

 

 

「粗方決まった事だし、今日はもう帰ろうか」

 

「そうね。折角だし、三人でご飯食べに行きましょ」

 

「賛成」

 

 

僕達は整備室を出て食堂へと向かった。後は夏休みの内に簪の機体を完成させて新学期から使用してもらう事が出来る。僕も正直な所、ガンダムみたいな相手と戦ってみたかったんだよね。

食堂に着き、僕は食券を購入する。特盛りで出された天丼とぶっかけうどん、ナポリタンとコーンスープをテーブルに置く。そして自分の食事を持って来た簪達と食事を開始する。

 

 

「・・・刹那って食べるんだね」

 

「まあね」

 

「私も最初は驚いたけど、今となっては何時もの光景ね」

 

 

苦笑する二人に何も言えない。自分の食欲がアレな事も自覚してるし、治す気も無い。と言うか食べなかったら僕が死ぬ。

 

 

「「「ごちそうさまでした」」」

 

 

食べ終わった僕達は片付けを終えて、食器を片す。それから僕の部屋で歩く雑談してからこの日は就寝した。

 

 

~翌日~

 

 

「今日からこのクラスにもう一人転校生が来る事になりました。それもドイツの代表候補生です」

 

 

山田先生の言葉に女子達が声を上げる。思ったけどこのクラスって偏り過ぎじゃないですかね。代表候補生が二人に男性操縦者が三人。そこにドイツの候補生が追加。どう考えても依怙贔屓だとしか思えない・・・。

そう思いながら正面を見直すと、山田先生の横に銀髪で眼帯の少女が後ろに腕を組んで立っていた。その少女に織斑先生が声を掛ける。

 

 

「挨拶をしろ、《ボーデヴィッヒ》」

 

「はっ!"教官"!」

 

 

そう言ってボーデヴィッヒと呼ばれた少女は織斑先生に敬礼をする。織斑先生は顔を顰めて静かに言った。

 

 

「此処では織斑先生だ」

 

「いえ、私にとっては教官ですので」

 

 

分かった。この子、話聞かない子だ。面倒事が振って来るどころかナパーム弾追加して来たよ。そして彼女は正面を向いて口を開いた。

 

 

「《ラウラ・ボーデヴィッヒ》だ」

 

「・・・えっと、それだけですか?」

 

「以上だ」

 

 

何とも言えない空気がクラスに漂う。そしてボーデヴィッヒさんが席へと歩き出し、その途中で織斑の横に立つ。織斑は首を傾げながらボーデヴィッヒさんに視線を向ける。そして、

 

 

「貴様が・・・!」

 

「痛っ・・・なにすんだ!」

 

 

見事な平手打ちが織斑の頬を捉えた。キレる織斑にボーデヴィッヒさんが睨みながら言った。

 

 

「私は認めない。貴様があの方の弟であるなど・・・!」

 

 

そう言って席に向かうボーデヴィッヒさん。ギクシャクしたクラスの空気を振り払う様に織斑先生が声を上げる。

 

 

「これでSHRを終了する!全員第三アリーナに急げ!」

 

 

織斑先生の指示で全員が立ち上がり、行動を開始した。それ以外は特に何もなく時は放課後へと流れて行く・・・。

 

 

~放課後[アリーナ]~

 

 

「こうするのよ!分かんない?感覚で分かるでしょ!」

 

 

鳳さんの説明に織斑が首を傾げる。再び練習に付き合わされて、アリーナで織斑の動きを見ていた。これまでにセシリアと篠ノ之さんが説明したけど酷かった。

篠ノ之さんは、

 

 

『こう、ズバーンと言って、ドーンと言った感じだ』

 

 

小学生か(呆れ)

その次にセシリアがやったのだが・・・

 

 

『斜め45度に向けて・・・』

 

 

織斑の頭脳でも分かる様に説明してあげて(切実)

あの時の織斑は頭から煙出してたから。

結局僕が説明する事になったし。

 

 

「織斑。僕の動きを真似して。腕はこうして」

 

「こうか?・・・おお!なんかしっくり来る!」

 

「君の体格と今までの動きを考えるとこれが一番自然に動けると思う。後は自分なりに直して行くんだ」

 

「分かった。刹那が一番分かり易いな」

 

 

おい馬鹿変な事言うな。ほら、篠ノ之さんと鳳さんの視線が僕に向いたじゃないか。だから関わりたくないんだよ。君達の小競り合いに僕を巻き込まないでくれ。

そんな事を考えていると、デュノア君と織斑が模擬戦を始めた。結果は余裕でデュノア君の勝利。重火器のオンパレードで織斑を近付ける事なく勝利を掴んだ。

 

 

「シャルルは強いな・・・」

 

「一夏は単純に、射撃武器の特性を把握していないって感じかな?」

 

「一応分かってるつもりなんだけどな・・・」

 

「分かってないからボコボコにされたんでしょうが。勉強しなよ」

 

「うぐっ・・・」

 

 

僕の言葉に何も言えなくなる織斑。その後はデュノア君に射撃武器を使わせてもらったりしていた。すると辺りが騒ぎ出したので、その中心を見るとピットの先でボーデヴィッヒさんが黒いISを纏ってこちらを、正確には織斑を見下ろしていた。

そして降り立って声を掛けて来る。

 

 

「おい、貴様も専用機持ちだそうだな。私と戦え」

 

「嫌だね。理由がねえよ」

 

「私にはある。貴様さえいなければ教官が大会を二連覇する事が出来たのだ。だから、私は貴様の存在を認めはしない」

 

「っ・・・じゃあな」

 

「ならば・・・戦わざるを得なくするだけだ!」

 

 

そう言って左肩の巨大な実弾砲を織斑に向けて放った。次の瞬間、轟音と爆煙がアリーナに広がる。そして煙が晴れた先では、織斑の前に出てシールドを展開したデュノア君と、その先に設置されたくず鉄のかかしがあった。余計な真似したかな。

くず鉄のかかしを解除して僕はアリーナを離れようとする。ところがボーデヴィッヒさんに声を掛けられた。ちくせう。

 

 

「おい。何故私の邪魔をした」

 

「周りに人がいるのにドンパチやらかすとか馬鹿なのかい君は?」

 

「なんだと・・・!」

 

「うっわ。篠ノ之さんと同じ類か」

 

「どう言う意味だ!?」

 

 

何か叫んでいる人が居るけど無視だ無視。すると放送が掛かる。

 

 

『そこの生徒!何をしている!所属クラスと学年、出席番号を言え!』

 

「邪魔が入ったか・・・今日は引いてやる」

 

 

そう言って去って行くボーデヴィッヒさんに呆れながら僕も帰る事にした。ああ、面倒臭い。すると織斑達も終わりにしたのか着いて来た。そしてデュノア君が話し掛けて来た。

 

 

「ありがとう刹那。さっきは助かったよ」

 

「いや、名前・・・もういいや」

 

「同じラファールに乗る者同士としてさっきのシステム凄く気になるな」

 

「悪いけど、企業秘密さ。僕は先に行くよ」

 

 

デュノア君の言葉を無視してさっさと着替えて部屋に戻る。すると山田先生に会った。山田先生は僕に聞く。

 

 

「不動君、今からお時間ありますか?」

 

「ありますけど、どうかしました?」

 

「実は織斑君に渡す書類があるんですけど・・・どうしても外せない用事が出来てしまって」

 

「・・・渡しておきます」

 

「ありがとうございます!」

 

 

山田先生にプリントを数枚渡される。ああ、この前の小テストの補習プリントだ。織斑の成績良くなかったんだもんね。僕?クラス一位ですが何か?

織斑の部屋まで行き、ドアをノックする。返事が無かったので留守かと思ったがセシアの声が聞こえた。

 

 

----マスター、中に一人居ます。

 

----寝てるの?

 

----いえ、シャワー中ですね。

 

 

なら机に上に置いて行こう。そう思った時、

 

 

「お、刹那じゃないか。どうしたんだ?」

 

「山田先生からの頼まれ物」

 

「うっ・・・」

 

 

見せたプリントを見て織斑が苦い表情をする。自業自得だ。織斑にプリントを渡したのでさっさと帰ろうと思ったのだが、織斑にしつこくせがまれてお茶を頂く事になった。部屋に入れてもらうと織斑が思い出した様に言う。

 

 

「あ、そう言えばボディソープ切れてたんだ。シャルルに渡さないと」

 

 

そう言って織斑が浴室へと向かう。何も考えずにボーっとしていると浴室から織斑達の悲鳴が聞こえた僕は溜息を吐くと浴室へ向かう。そこには、顔を紅くする織斑と、"胸のふくらみ"を隠すデュノア君の姿があった。その二人に僕は言う。

 

 

「・・・避妊はしてよ?お邪魔しました」

 

「「ちょっと待ったァーーー!?」」

 

 

二人に止められる。そしてデュノア君がジャージに着替えた所で部屋の鍵を掛けて椅子に座る。

 

 

「それで、どうして女子の君が男子として居るのかな?デュノア君。いや、《シャルロット・デュノア》と言うべきかな?」

 

「・・・バレてたんだ。何時から?」

 

「転校初日。デュノア社のデータベースを少し覗かせてもらった」

 

「そっか。最初から掌で転がされてたんだね」

 

 

そう言ってデュノア君・・・デュノアさんは自虐的な笑みを浮かべる。唯一状況を飲み込めない織斑が声を上げる。

 

 

「それって、どう言う意味だよ?」

 

「企業スパイだよ」

 

「・・・スパイ?シャルルが?」

 

「その通りだよ、一夏」

 

 

呆れて何も言えない。女子が男子として転校して織斑にずっと接触してたんだ。そう考えるのが普通だろうに。

するとデュノアさんが織斑と僕に語り始めた。

 

 

「刹那の言う通り、ボクはデュノア社のスパイとして送り込まれたんだ。父の命令でね」

 

「何でシャルルの父親がそんな事するんだ?」

 

「ボクはね・・・愛人の子なんだよ」

 

「なっ!?」

 

「二年前にお母さんが亡くなった時に引き取られたんだよ。父の部下がやって来てね。色んな検査をして、ISの適正が高かったからデュノア社のテストパイロットをやる事になっただよ」

 

 

デュノアさんの話を黙って聞く。織斑は拳を血が出そうな位、握りしめていた。デュノアさんは話を続ける。

 

 

「父にあったのは二回位かな。会話も数回しかしてない。本妻の人に[泥棒猫の娘が!]なんて言われて殴られた時は驚いちゃったよ」

 

 

そう言って力無く笑う。その目は段々と虚ろになっていて、自暴自棄にでもなりそうだった。

 

 

「こんなところかな。一夏と刹那に話しちゃったし、ボクは本国に呼び戻されるだろうね。デュノア社は多分、他企業の傘下に入ると思う。・・・話したらなんだか楽になったよ。今まで騙しててごめん」

 

 

そう言って頭を下げるデュノアさん。そんなデュノアさんに僕は言う。

 

 

「君は、呼び戻された後どうなるか分かってるの?」

 

「分かってるよ。でもそれがボクの罰だから・・・」

 

「そう。ならご自由に。僕は何も言わないさ」

 

「刹那!お前シャルルの話を聞いて何も思わなかったのかよ!」

 

「別に」

 

 

怒る織斑に僕は冷静に返す。すると胸倉を掴まれた。

 

 

「ふざけんな!シャルルはずっと苦しんでたんだ!何かしてやるのが友達だろうが!」

 

「友達じゃないし。だったら白式のデータを渡してやれば良いじゃないか。ただし、君のお姉さんや山田先生がどうなるかは保障しないけどね」

 

「千冬姉達が何で出て来るんだ?」

 

「・・・自分の担当してたクラスの生徒が企業のスパイで、しかも専用機のデータを盗まれました。そんな事があったら間違いなく教師の責任にもなる。しかも盗まれた相手は教師の弟だ。たとえブリュンヒルデと云えど、何も無しって訳ではないよ」

 

「それじゃあ・・・どうすれば良いんだよ!」

 

「逐一僕に聞くな!自分で何も出来ないなら何もするな!下手に動けばいたずらに物事を面倒な方向に持って行くだけなんだよ」

 

 

織斑の腕を払う。あ、皺付いた。制服を直していると、デュノアさんが言った。

 

 

「刹那の言う通りだよ、一夏。これ以上関わったら色んな人に迷惑が掛かる。だからもう僕の事は気にしないで」

 

「そんな事出来る訳ないだろ!何か方法は・・・そうだ!」

 

 

何かを思い付いた様で、織斑は机の引き出しから生徒手帳を取り出す。そしてそこに書かれていた文章を読み出した。

 

 

「特記事項第二十一、本学園における生徒はその在学中においてあらゆる国家、組織、団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする」

 

 

それはこの学園の特記事項の一つであった。それを読み上げると織斑はデュノアさんに向かって行った。

 

 

「この学園にいる間は何処の国も手出しできない。少なくとも3年間は安全だ。それだけ時間があれば解決法だって見つけられる」

 

 

織斑はお得意の真剣ボイスでデュノアさんに叫んだ。

 

 

「お前は此処に居て良いんだシャルル!」

 

「一夏・・・」

 

「・・・あ、終わった?」

 

 

織斑の言葉が終わった様なので声を掛ける。いやあ、実にどうでも良い内容だった。それ位頭に入れときなよ。この態度が癪に障ったのだろう。織斑が再び僕に怒鳴る。

 

 

「お前はなんでそんななんだよ!」

 

「君の今言った事は意味を成さないからだよ」

 

「・・・」

 

 

どうやらデュノアさんは分かってるみたいだね。さてと、この馬鹿に世界の厳しさを教えますか。

 

 

「こんな薄っぺらな特記事項、意味無いに決まってる。それに彼女の意思なんて関係無く、戻されるに決まってるでしょ」

 

「そんな事ねえ!」

 

「あるんだよ。君は国家代表候補生達の立場を理解しなさすぎだ」

 

 

国家権力と言う物を知らないのか彼は?

 

 

「そもそも国が介入して来る時点で学校側はデュノアさんがスパイだって察するんだよ。そして互いに事が大きくならない内に妥協点を見つけるんだ。間違いなくデュノアさんの引き渡しだろうね。後は用事で会社に戻ったとか幾らでも言い訳の理由はある」

 

「そんな事許される訳が・・・」

 

「君は世界を単純に捉え過ぎだ。君の持論ならデュノアさんがスパイなんてする必要ないだろうに」

 

 

僕の言葉に織斑が押し黙る。僕はデュノアさんに視線を向ける。一瞬ビクッと震えてから僕を見た。

 

 

「と、言う訳だけどどうする?織斑の話に乗るならすぐにでも具体策を出さないと時間が無いよ」

 

「・・・ボクは」

 

「まあ、君がどうなろうと知った事ではないけどね」

 

「テメェ!」

 

「・・・痛いな」

 

 

織斑に頬を殴られる。口の中を切った様で、温かい感触が口から垂れるのが分かる。それを手で拭う。コイツ自分が何も言えないからって暴力に頼りやがった。

 

 

「もう良い!シャルルは俺が助ける!お前の手なんていらない!俺達の前から消えろ!二度と近づくな!」

 

「一夏!言い過ぎだよ!」

 

「シャルルは優しいんだな。でもコイツはそんなお前を見捨てようとしてるんだ。最低な奴なんだ!」

 

「一夏!」

 

 

デュノアさんの制止を振り切って僕にもう一発パンチを叩き込んで来た。口の中の血の味が濃くなったのを感じながら僕は立ち上がる。デュノアさんがそれを支えてくれる。

 

 

「大丈夫?」

 

「別に。本当に、これからどうするの?」

 

「それは・・・」

 

「何時までも周りに流されてないで自分で決めたら?」

 

「自分で・・・」

 

 

僕の言葉にデュノアさんが俯く。この子は自分で何かをしたいと言う思いが無さ過ぎる。そんなのだからスパイとか良い様に扱われるんだ。内部告発とか自由になる方法はあっただろうに。別にその父親とかに慈悲の心を持つのは結構な事だけど、そう言う類の奴らは付け上がるだけだ。

 

 

「君の人生だ。自分の手で未来を切り開け。誰かに導かれる訳でもない、君の意思で」

 

「ボクの・・・意思で」

 

「君はどうしたい?何時までも支配に怯えるか、自由に生きるか」

 

「ボクは・・・」

 

「もう出てけ!お前に話す事なんて無い!」

 

 

そう言って織斑が僕の腕を掴んで部屋の外へ放り投げる。背中を床に打ちつけて一瞬呼吸が止まる。軽く咳き込みながら立ち上がって部屋へと歩いた。

暴力沙汰になりたくないから一方的に殴られたけど、やっぱり一発入れとけば良かったな。

 

 

----刹那、ごめんね。

 

----気にしなくて良いよ。

 

 

白式の声が頭に響く。君が謝る事無いのに・・・。

 

 

----織斑だって暫くすれば事の大きさに気付くでしょ。

 

----そう、かな・・・。

 

----まあ、気長に待つさ。

 

----・・・うん。

 

 

そう言って白式との会話を切る。口の中を舌で確認すると、もう傷は塞がっていた。相変わらずの回復力だ。

すると携帯端末が震える。会長かと思って画面を見ると、デュノアさんのアドレスだった。数日前に織斑が男子同士がどうだのと言って無理やり交換させられたのだ。織斑のメアドは既にブロック済みである。内容を見た僕は行き先を屋上へと変えた。

 

 

~屋上~

 

 

「・・・織斑は?」

 

「一夏には、一人にしてって言ったよ。本人は渋々だったけど」

 

「それで?僕に何の用かな」

 

「お願いがあるんだ・・・」

 

 

そう言ってデュノアさんは僕に自身の作戦を告げた。それを聞いた僕は思わず苦笑する。

 

 

「多分行けるけど、君も大胆だね」

 

「どうかな?君達にも悪い話ではないと思うんだ」

 

「・・・良いよ。その話乗った」

 

 

僕はデュノアさんに手を差し出す。彼女も何かを決めた表情で僕の手を握った。

この日、一人の心に変革が訪れた・・・。

 

 

刹那サイド終了



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第8話

刹那サイド

 

 

あれから数日が経過した。デュノア君改めデュノアさんとの作戦を綿密に進め、日常を過ごす。織斑は気が付けば数日の停学と反省文の提出を義務付けられていた。なんでもデュノアさんが織斑先生にあの日の事を少し改変して話したらしい。

何故そんな事を?と聞くと[一夏は何かと関わってくるから]と綺麗な笑顔を浮かべてらっしゃった。つまりは邪魔、と。

ようやく五月蠅い奴が消えたと思ったら、数日で戻って来やがりました(憤怒)

 

 

「・・・」

 

「・・・ふん」

 

 

如何にも不機嫌な表情で僕の前を通り過ぎる織斑。何気なしにデュノアさんの腕を掴んで歩き去るあたり徹底してるな、と感じる。整備室へと向かおうとしたその時、クラスメイトの女子が息を切らして駆けて来た。その様子に僕と織斑達はポカンとする。

そんな僕達に女子は言った。

 

 

「お、オルコットさんと2組の鳳さんがボーデヴィッヒさんと戦ってるって・・・!」

 

 

僕達はすぐに走りだした。頼むから突っ走らないでよセシリア、鳳さん!

 

 

刹那サイド終了

 

 

三人称サイド

 

 

放課後のアリーナに二つの人影があった。一つはイギリス代表候補生のセシリア。もう一つは中国代表候補生の鈴である。二人はISを展開して互いを見つめ合っていた。

 

 

「アンタも練習?」

 

「ええ。偶然ですわね」

 

「そうね。この前山田先生にボコボコにされたり、不動にボコボコにされたりで散々だったし」

 

「心中、お察ししますわ・・・」

 

 

二人共ボロ負け経験者として悲しげな目になる。そして唐突に鈴が提案した。

 

 

「なら、戦いましょうか!」

 

「はい!練習あるのみ、ですわ!」

 

「----ほう、私も混ぜてもらおうか」

 

「「っ!」」

 

 

突如、頭上から聞こえた声に反応して二人は移動する。先程まで自分達がいた位置に弾丸が撃ち込まれた。発射元に視線を向けると、黒塗りのIS《シュバルツェア・レーゲン》を纏った現役の軍人であり、ドイツ代表候補生のラウラの姿があった。そしてセシリア達を見下ろしてつまらなそうな表情で呟く。

 

 

「中国の甲龍にイギリスのブルー・ティアーズか。・・・データの方が強そうだったな」

 

「いきなり何すんのよ。ジャガイモ農場では人様に喧嘩売るのが流行ってるの?」

 

「あら鈴さん。逐一気にしてると身が持ちませんわよ。此処は落ち着きなさいな」

 

「何でセシリアはそこまで落ち着いてるのよ」

 

「彼女の様な事ではありませんが、何かをやらかす方は何人か見ていますの。耐性が付くのも仕方のない事ですわ」

 

「つくづく2組で良かったと思うわ、私」

 

 

二人で苦笑してからラウラへと向き直す。

 

 

「それで?やろうっての、アンタ?」

 

「ふん、あの程度の実力だった貴様等が掛かって来た所で戦いにもならん。それでも良いのであればその飯事にでも付き合ってやろう」

 

「自分から不意打ちを掛けて何を言ってらっしゃるのかしら、ボーデヴィッヒさん?」

 

「・・・なに?」

 

「私達を既にそう評価付けているのであれば正面からいらっしゃれば良いだけの事。それを、上空からの射撃だなんて・・・ドイツ軍人は随分と卑怯な手をお使いになられるのですね」

 

「貴様、今すぐに死にたいか!」

 

「図星を突かれたからと言ってそう怒鳴るものではありませんわよ。女性としての品位が損なわれますわ」

 

「私は軍人だ。女などとうに捨てた!」

 

「なら今すぐISから降りなさいな。それは本来、女性のみが乗っていた物。捨てた物を都合が良い時だけ拾って来るなんて・・・可愛そうな人」

 

「殺す!」

 

 

そう叫んで右腕を振り上げて降下して来たラウラ。その肩を一筋の光線が通過した。何かを感じたラウラは後ろへと退却する。その正体はラウラでも気が付かない内にビット兵器を展開して射撃を繰り出していたセシリアだった。

 

 

「今退けば、ちょっとしたトラブルで済みますわよ」

 

「ふざけるな。なんとしてでも貴様等は此処で潰す」

 

「ちょっと!私まで巻き込まないでくれない!?」

 

「でしたら、離れていてもらえますか?巻き込まない自身がありませんの」

 

「やるに決まってるでしょ。あんな事されて黙ってられないわ!」

 

「刹那さんが言っていましたわ。ああ言った行動を取る方は鬱憤が溜まっているだけの子供に過ぎないと。少しガス抜き程度に付き合えば良い、程度で戦って後は教師にでも押し付ければ問題無いとも言っていましたわね」

 

 

一夏と箒のトラブルに巻き込まれてきた刹那だからこそ言える台詞。なんとなくその光景が浮かんでしまった鈴が思わず笑う。セシリアもそれに釣られて笑った。目の前の状況にラウラは困惑する。

 

 

「(何故だ・・・何故コイツ等はこの状況で笑える?私は絶対的な強さなんだぞ?)」

 

 

ドイツ軍のIS部隊でトップの成績を収めている彼女は、傍から見ても優秀の一言だ。一般の生徒から見ればその強さは圧倒的な物だろう。そう、あくまでも一般的な生徒からすればだ。

だが、ラウラが今前にしている少女達はチートな機体を器用に扱う男性操縦者や、元日本代表候補生の経歴を持つ教師に負け、それをバネに鍛え直して来たのだ。

ISを動かして僅か数ヶ月の人間や、ただの教師と思っていた者に負けた彼女達は悔しくない筈がなかった。

 

 

「それで?どっちが先に戦う?」

 

「私はどちらでも。そこまで血気盛んと言う訳でもありませんから」

 

「・・・くだらん。二人纏めて相手をしてやる」

 

「上等。ここらで挽回して一夏に良いとこ見せなきゃ」

 

「あの様な男の為にとは・・・馬鹿げているな」

 

「なんですって?」

 

 

ラウラの言葉に鈴は怒りの表情を見せる。そんな鈴にラウラは口の端を吊り上げて話し出した。

 

 

「あの様な出来損ないに肩入れするとは、随分とモノ好きな女だ」

 

「決めた。ガス抜きとか生温い。徹底的に叩きのめしてあげるわよ」

 

「ちょっと鈴さん。明らかな挑発に乗るなんて・・・」

 

「そういえばもう一人軟弱そうな男が居たな!」

 

「・・・はい?」

 

 

わざとセシリアに聞こえる声量でラウラが叫ぶ。それを聞いた瞬間、セシリアの表情に一つの青筋が出来た。それを助長するかの様にラウラは続ける。

 

 

「私の砲撃を防いだアレは、まさに奴自身の様に貧相なガラクタだったではないか!」

 

「鈴さん、前言を撤回しますわ。私も今猛烈にあの方を撃ち抜きたい衝動に駆られていますの」

 

「なら、やる事は一つじゃない!」

 

「そうですわね!」

 

「「叩き潰す!」」

 

「それはこちらの台詞だ!」

 

 

こうして、女の戦いが幕を開けた。

セシリアは後衛に下がり、ビットとライフルをでラウラを狙う。そして鈴が射撃を躱すラウラへと接近して双天牙月を振り下ろす。シンプルだが、それ故に安定したフォーメーション。予想通りにラウラは銃撃を躱す事でその行動が制限される。そして出来た大きな隙を突いて振り下ろされた青龍刀がラウラへと、直撃・・・する筈だった。

 

 

「な、なにコレ?」

 

「阿呆が。私の《停止結界》の前ではそんな攻撃は無意味だ」

 

「鈴さん!」

 

 

ラウラの手の平から展開された薄い膜の様なエネルギーが青龍刀の先を捉え、それを握っている鈴の動きまでも完全に停止させる。射線上に鈴がいる事で下手に狙撃出来ないセシリアは何かに気付いて声を張り上げる。それも空しく、シュバルツェア・レーゲンの肩に装着されたレールカノンで鈴を撃ち抜く。

咄嗟に龍砲を撃つが、意味は成さずに鈴はかなりの勢いで吹き飛ばされた。地面に何回か打ち付けられながらも態勢を立て直す。だが、甲龍の一部が損傷していた。そんな事もお構いなしにラウラは突っ込んで来る。鈴の足元にレールカノンを打ち込んで煙幕を上げた隙に、セシリアに接近した。

 

 

「このっ・・・!」

 

「接近戦の適正が無い貴様に何が出来る!」

 

「きゃっ!?」

 

 

その手がプラズマを帯びた手刀となったラウラはそれをセシリアに叩き付ける。咄嗟に盾にしたライフルを軽々と切り裂いて、セシリア自身にもダメージを与える。仰け反りながらもビットで射撃するが、再びラウラの手から発される膜に防がれる。

それからは一方的であった。ダウンする暇も与えずにセシリアと鈴をボールの様に蹴飛ばし、ワイヤーを発射して拘束した二人を何度も壁に叩き付ける。二人のISのダメージレベルは危険地帯に達していた。これ以上は命に関わる。

野次馬気分で客席から見ていた生徒達の間にも緊張が走る。そんな中、生徒の波を掻き分けて、一つの影がアリーナのバリアを切り裂いてラウラへと攻撃した。

 

 

「なにっ!」

 

「鈴達から手を離せえええええっ!」

 

 

零落白夜で客席を覆うバリアを切り裂いた一夏。そのままラウラとの鍔迫り合いを繰り広げる。そして一度互いに距離を取る。そして真っ正面から切り込んだ一夏の零落白夜をラウラは停止結界と呼ばれた膜で防ぐ。

 

 

「なんだコレ・・・動かねぇ・・・!」

 

「・・・消えろ」

 

「一夏!」

 

 

動けない一夏に至近距離でレールカノンを構えるラウラ。そこへ両手に重火器を構えたシャルルが割って入る。ラウラは舌打ちをしながら後ろへ下がった。

 

 

「一夏!今の内に二人を!」

 

「分かった!」

 

 

シャルルに任せ、鈴達を回収して一夏はピットへと飛ぶ。それをラウラが見逃す筈が無かった。シャルルの銃弾を防ぎながら、レールカノンを放つ。一夏へ直撃するコースだったその弾丸は、一夏の瞬時加速によって躱される。

だが、その後ろはバリアも何も無い客席。そこには未だに残った生徒達が居た。そのまま弾丸は客席で爆発を起こす。響く生徒達の悲鳴。全員が動きを止めた。最悪なイメージが頭を埋め尽くす中、煙が晴れる。そこには、

 

 

「ギリギリセーフ・・・」

 

 

重厚な緑色の装甲に身を包んだ刹那が、シールドの様なパーツを取り付けた両腕で生徒達を守り切った姿だった。

その姿はラファールの形態の一つである《ジャンク・ガードナー》だ。防御重視であるこの形態は、ビーム砲でも傷一つ付かないラファール最強の盾である。

 

 

「皆、早く逃げるんだ!」

 

「う、うん!」

 

「ありがとう不動君!」

 

 

そう言って無傷で済んだ生徒達は全員客席から去って行った。ジャンク・ガードナーを解除して、ジャンク・ウォリアーに変えた刹那はラウラ達の元へと向かう。そこにはラウラの攻撃を打鉄のブレードで防ぐ千冬が居た。しかも素手だ。

 

 

「き、教官・・・」

 

「何をしている、お前達は」

 

 

攻撃を止めたラウラと未だに警戒を解かないシャルル達を一睨みして言う。その眼光に刹那以外の全員が息を飲んだ。刹那は気にせずに千冬の方へと向かって来る。

 

 

「模擬戦をやるのは構わん。だが、アリーナのバリアを破壊する事態になられては教師として黙認しかねる。よって、今からトーナメントまでの間の私闘を一切禁ずる。良いな?」

 

「教官がそう仰るなら」

 

「お前達もだ・・・分かったな」

 

「はい」

 

「異論はありません。ですが・・・」

 

 

そう言って刹那がチラリと視線を向ける。それは一夏とラウラへと向かっていた。

 

 

「そこの馬鹿二人には重い罰を加えた方がよろしいかと」

 

「・・・そうだな」

 

「教官!?」

 

「待ってくれよ千冬姉!?」

 

「織斑先生だ馬鹿者が。まずはオルコット達を運ぶ方が先決だな」

 

 

千冬はそう言って、担架を二つ持って来た。それを使って二人を保健室まで運んだ。ラウラはそれに目もくれず、憎々しげに刹那達を睨んで去って行った。

 

 

三人称サイド終了

 

 

刹那サイド

 

 

保健室のベッドで、包帯と湿布まみれになったセシリアと鳳さん達から大体の経緯を聞いた。それに対し、僕は溜息を吐く。

 

 

「・・・馬鹿なの?」

 

「何ですっt痛たたたた!?」

 

「り、鈴さん!?」

 

 

僕の言葉に真っ先に血が上った鳳さんが反応して、激痛に悶え苦しむ。打撲してればそうなるよ。涙目になりながら睨み付けて来る鳳さんに苦笑しながら話を続ける。

 

 

「そんな安い挑発に乗る?普通」

 

「ぐっ・・・」

 

「模擬戦になるのは悪くないけど、君達は代表候補生なんだからもう少し行動に気を付けた方が良い」

 

「でもアイツは本気で許せなかったのよ・・・!」

 

「て言うかなんでそんなに怒ったんだよ」

 

「そ、それは・・・!」

 

 

一人、能天気に聞いた織斑に鳳さんは顔を紅くして俯く。セシリアも無言で俯いていた。そんな二人にデュノアさんが笑い掛けた。

 

 

「二人共、一夏達の悪口言われたから怒ったんだよね?」

 

「な、何言ってるのよ!?」

 

「ストレートにも程がありますわ!」

 

 

デュノアさんに対して二人で突っかかり、同時に痛みに悶える様子に何も言えなかった。僕はセシリアの横の椅子に座って言った。

 

 

「なに?僕の真似してボーデヴィッヒさんに色々言ったらしいじゃないか」

 

「そ、それは・・・」

 

「初見同然の相手に喧嘩売ったらダメでしょ。だからこうなるんだよ」

 

「仰る通りですわ・・・」

 

「全く・・・」

 

「せ、刹那さん?」

 

 

僕は思わずセシリアの頭を撫でていた。他人の事なのに・・・。

 

 

「僕の為に怒ってくれる気持ちは嬉しかった。でも、もう二度とこんな事をしないでほしい。僕の所為でセシリアが傷付く方が、僕は悲しい・・・」

 

「刹那さん・・・」

 

「一夏・・・は、無理か」

 

「何がだよ?」

 

 

横の二人が五月蠅いが、視覚と聴覚からシャットアウトしておく。暫くすると、廊下の方から幾つもの足音が近づいて来る。そして保健室の扉が開かれ、大量の女子がなだれ込んで来た。我先と近づいて来た女子達はそれぞれプリントを僕達に見せて叫んだ。

 

 

『織斑君、不動君、デュノア君、私と組んでください!』

 

 

そう言って差し出されたプリントは、数日後に行われる学年別トーナメントのペア申請書だった。このイベントでは二人一組でのトーナメント戦で、僕は誰とも組まずに抽選で決まった人と組もうと考えていた。

それかセシリア辺りと組む案もあったが・・・。

 

 

「お、俺はシャルルと組むから!刹那に頼むと良いぞ!」

 

「まあ、他の女子に取られるくらいならね」

 

「それじゃあ、刹那君!私と組んで!」

 

「悪いけど、僕は抽選で決めてもらうよ」

 

『え~?』

 

 

女子達に不満の声が広がる。そして渋々と言った様子で去って行った。

また一つ溜息を吐いて、僕は椅子へと座る。そして怪我人二人が抗議し出した。

 

 

「一夏!私と組みなさいよ!」

 

「刹那さん、私と組みませんか!」

 

「いや、鈴とセシリアは怪我人だから無理だろ」

 

「今だけは織斑に同意だよ」

 

「こんなの平気y「駄目です!」や、山田先生」

 

 

鳳さんの言葉を遮って山田先生が珍しく怒りの表情で入って来た。

 

 

「お二人のISのダメージレベルはCを超えています。当分は修理に専念する必要がありますし、なにより貴女達の怪我が治るまではISに乗せる訳には行きません」

 

「うぐっ・・・分かりました」

 

「・・・仕方ありませんわね」

 

 

その後も、セシリア達を何かと気にかけてから山田先生は帰って行った。そして事後処理で抜けていた織斑先生がボーデヴィッヒさんを連れて戻って来る。何故か篠ノ之さんが着いていたが。

 

 

「・・・篠ノ之、寮へ戻れ」

 

「何故ですか!?」

 

「当事者のみでの話しをするからだ」

 

「・・・分かりました」

 

 

何故僕を睨む。篠ノ之さんが去って行き、織斑先生が近くの椅子に座ると口を開いた。

 

 

「事情は大体聞いた。ボーデヴィッヒと織斑は反省文の提出と、トーナメントまでの間、放課後のISの使用禁止だ」

 

「教官!?」

 

「千冬姉!?」

 

 

その言葉に織斑達が何故?とでも言いたそうな顔をする。そして織斑先生が顔を顰めて聞いた。

 

 

「お前達は自分が何をしたか分かっているのか?」

 

「私はISをファッションか何かと勘違いしてる軟弱者達を叩き潰していただけです」

 

「俺は傷付けられてたセシリア達を助けただけだ」

 

「・・・この大馬鹿者共が!」

 

 

織斑先生の怒鳴り声が響く。何時もの様な怒り方ではない。感情を押し出した怒り方だった。

 

 

「おr、一夏。何故アリーナのバリアを斬った」

 

「えっ?」

 

「どうして斬る必要があったんだ?ピットから出れば良いだろう」

 

「だってあのままだったら二人がもっと危なかったじゃないか」

 

 

そう言って織斑は訳が分からないと言った表情を浮かべる。まさか、本当に気付いていないのか?自分のやった事に。

 

 

「お前がバリアを斬った事で客席に居た生徒達を守る術が無くなったんだ。今回は不動が防いだから良いが、あのまま銃弾が直撃していたら大惨事だ」

 

「でもそうしなきゃ二人が・・・!」

 

「ISのダメージはCを超えていたが、お前達が来るまでの時間位は持つ」

 

「いや、俺は・・・!」

 

「もういい。・・・ボーデヴィッヒ、何故織斑がバリアを破壊したと知りながら砲撃を続けた」

 

「目の前に敵がいたからです」

 

「巻き込まれた生徒の事を考えろ」

 

「そんな事は知りません。避けられないのならその程度だったと言う事でしょう」

 

 

その言葉に織斑先生は呆れた表情をして出て行った。それをボーデヴィッヒさんは追い駆けて行く。織斑はさっきからブツブツと呟いている。

鳳さん達もドン引きしてるじゃないか。彼女達は途中で気絶してたから知らなかったのだろう。織斑先生の話を聞いて、二人共顔を青くしていた。

 

 

「織斑、よく考えて行動しなよ」

 

「俺は・・・皆を守ろうと」

 

「皆って誰さ?」

 

「それは千冬姉や周りの皆だ!」

 

「・・・話にならない」

 

 

僕はそれを鼻で笑って歩き出す。織斑に肩を掴まれた。

 

 

「話にならないって何だよ!」

 

「未だに誰にも勝てない君が何を守れる?」

 

「守れるさ!俺には千冬姉から受け継いだこの雪片がある!」

 

 

そう言って僕に向かって待機状態の白式を見せる。

 

 

「自分の武器の特性すら理解出来ずに自滅した奴がよく言うよ」

 

「なんだと!?」

 

「また都合が悪くなったら殴るの?」

 

「このっ・・・!」

 

「落ち着きなさいよアンタ達!」

 

 

僕達を鳳さんが制する。織斑は僕を乱暴に離して不機嫌そうに去って行く。逆ギレされても困るんだけど・・・。

 

 

「怪我人の前で、ごめん」

 

「全くよ・・・」

 

「僕も帰るね。明日、お見舞いに行くから」

 

「それじゃあボクも。二人共、お大事に」

 

 

気まずくなった僕はデュノアさんと一緒に保健室を出た。廊下を歩きながら会話する。

 

 

「・・・必要な情報は揃ったよ」

 

「分かった。それじゃあトーナメント当日に決行だね」

 

「ん」

 

 

デュノアさんとの作戦を確認してから部屋に戻る。部屋では会長がお茶を飲んでいた。

 

 

「お帰りなさい。お茶、いる?」

 

「お願いします・・・」

 

「分かったわ。ちょっと待っててね」

 

 

そう言って湯呑にお茶を淹れながら会長が話し掛けて来た。

 

 

「貴方のクラス、問題児が多すぎじゃないかしら」

 

「もう耳に入ってたんですか?」

 

「生徒会の情報網を甘くみちゃ駄目よ。あんな事やこんな事だって、知ってるんだから」

 

 

妙に色っぽい声でウインクして来る会長に苦笑しながら差し出されたお茶を受け取る。それをゆっくり飲みながら今日あった事を愚痴った。それはもう愚痴った。

話して行く内に涙が止まらなくなって来た。嗚咽に近い声で話していると、会長に抱きしめられる。簪に抱きしめられて以来だったけど、温かくて不思議と心が落ち着いた。

 

 

「よく頑張ったわね。本当に・・・うん、本当に」

 

「・・・疲れた」

 

「よしよし、少し寝ましょう?」

 

「はい・・・」

 

 

頭を撫でられた僕はそのまま睡魔に負けて眠ってしまった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いや、本当にもうあの子嫌い』

 

『どうします?処す?処す?』

 

『とりあえずアイツの携帯をハッキングして全ての情報を抜きとってやる』

 

『マスター、可愛そう・・・』

 

 

どこにでもある和室でお茶を啜りながら僕は3人の少女達と話していた。此処はISによって創り出された世界。眠っていると偶に此処に迷い込む事がある。

銀髪に帽子を被った少女がセシア、黒髪の刀を携えた少女が白鋼、ピンクの髪を大きなリボンで結んでいるのがラファールだ。

ぐだぐだとしていると、和室の襖が開いて黒い何も無い空間から金髪の執事服に身を包んだ女性が入って来た。

 

 

『あ、《ティアーズ》さん』

 

『お久しぶりです、不動様』

 

『修理は順調ですか?』

 

『はい。このままなら一週間と少しと言った所でしょうか』

 

『ボロボロだったからな』

 

 

ティアーズさん。つまりはセシリアのISであるブルー・ティアーズの人格である彼女は僕達に笑顔で答えてくれる。そして人見知りが激しいラファールは僕の背中に隠れて震えていた。

 

 

『すみません。この子まだ慣れてなくて』

 

『いえ。誰にでも得意不得意はありますから』

 

『そう言っていただけるとありがたいです』

 

『ヤッホー!甲龍ちゃん参上!』

 

『ひっ!?』

 

『ラファールが気絶した!』

 

『この人でなし!』

 

 

茶髪にシニョンを付けた少女、甲龍の人格が元気よく入室した瞬間にラファールの我慢の糸が切れた。目を回して倒れたラファールを介抱しながら、自分は眠っていても騒がしさの中から出れないのかと溜息を吐いた・・・。

 

 

刹那サイド終了



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第9話

タグを変更しました。
ワンサマ達はアンチのままで行きます。
救済的な事は機会があれば番外編的な物で少しやろうかなと考えています。
身勝手な変更、失礼しました。
これからも応援、お願い致します。


刹那サイド

 

 

目を覚ました僕は会長と夕食を摂ってから部屋でトーナメント戦用の機体を考える。トーナメントではラファールか白鋼のどちらかしか使えない。悩んでいると、頭の中に声が響いた。

 

 

----じゃんけん!

 

----ぽん!

 

----あ、ラファールの勝ちですね。

 

----頑張る!

 

----それで良いのか。

 

 

どうやら悩む必要は皆無だった様だ。丁度良いから追加された形態《メタルフォーゼ》を試す良い機会だもんね。

明日になったら織斑先生に報告しなきゃ・・・明日、気が重いな。なんとなく胃の痛みを感じていると、部屋を誰かがノックした。僕が出ようとしたが、会長が出てくれる。なんとなく聞き耳を立てていると、今日の迷惑者が入室して来た。会長の制止の声を完全無視で。

 

 

「不動刹那」

 

「・・・なんだい、ボーデヴィッヒさん」

 

「数日後のトーナメント、私と組め」

 

「なんで?」

 

「専用機を持つ者で最も優れた戦績が貴様だったからだ。軍人として情報を逃していたとは、情けない」

 

「悪いけど他を当たってくれるかな」

 

 

ボーデヴィッヒさんに対して僕の答えはNOだ。まず間違いなくこの子と組めば織斑やセシリア達の反感を買うし、僕も話を聞かない問題児と一緒に戦うのは嫌だ。フレンドリーファイアとか普通にしそうだし・・・。

 

 

「何故だ」

 

「何故だも何もありません。さあ、子供は寝なさい」

 

「待て!私を子供扱いするな!」

 

 

ボーデヴィッヒさんの首根っこを掴んで振り回しながらドアを開けて廊下に置く。なにやら口元を押さえていたけど、気にしない。

 

 

「さ、寝ましょうか」

 

「アッハイ」

 

 

ベッドに入って、目を閉じる。再び僕の意識は沈んで行った・・・。

 

 

~数日後~

 

 

アリーナの一室で、僕はラファールの最終調整を進める。遂にトーナメントの日がやって来た。ディスプレイを閉じて一息吐くと、僕の前に織斑達がやって来た。

 

 

「刹那、今日はお互いに頑張ろうね」

 

「そうだね(色々と、ね)」

 

「・・・早く行こうぜ、シャルル」

 

 

そう言って織斑はデュノアさんの腕を掴んで何処か行こうとした時、ディスプレイに試合の対戦表が表示された。動きを止めて自分の対戦を見る。そこにはこう記されていた。

 

 

[第一試合:織斑一夏、シャルル・デュノアVSラウラ・ボーデヴィッヒ、不動刹那]

 

 

まさか抽選であの子と当たるとは・・・。僕は思わず頭を抱える。

 

 

「あ、あはは・・・刹那、ドンマイ」

 

「・・・織斑殺ス」

 

「何でだ!?」

 

 

織斑に殺気を飛ばしながらピットへと向かう。そこには既にISを纏ったボーデヴィッヒさんが居た。

 

 

「来たか」

 

「まさかこうなるとは・・・」

 

「織斑一夏は私が潰す。貴様はもう一人をやれ」

 

「はいはい。こっちが終わったら援護するからね。暇だし」

 

「邪魔にならないのなら構わん」

 

 

ボーデヴィッヒさんに並んで僕もラファールを展開する。

 

 

----モード、《メタルフォーゼ》

 

----うん。

 

 

展開される新たな形態にボーデヴィッヒさんが目を見開く。僕は苦笑しながらピットから出撃した。

空中ではなく地上スレスレで浮遊している織斑達の前に降り立つ。すると織斑達は勿論、会場中の全員の視線が僕に突き刺さる。

 

 

「せ、刹那・・・それ、IS?」

 

「そうだけど何か?」

 

「な、何で車に乗ってんだよ!?」

 

 

織斑はそう言って、僕のISである"巨大な四輪車"を指差す。これこそがラファールの新形態である《メタルフォーゼ》だ。

最低限の装甲と武器だけを装着して、後はバイクや車等の乗り物系を使って戦う陸戦を想定された形態っである。現在の形態は《メタルフォーゼ・ゴルドライバー》と呼ばれる四輪車を使った形態だ。

まあ、宇宙で月の上とか走ろうと思って造った形態なんですけどね。織斑は空中戦苦手だし、丁度良いと思ったので使う。

 

 

「ただの車と思ったら痛い目見るよ?」

 

「・・・お前の卑怯な戦い方に負けて堪るかよ」

 

「卑怯、ね。ああ、ボーデヴィッヒさんが戦うんだったね。どうぞ」

 

「ふん・・・」

 

 

僕は織斑からデュノアさんに視線を移す。目が合った瞬間、デュノアさんが冷や汗を流し始めた。

 

 

「ま、まさか・・・その攻撃力高そうな装甲で」

 

「うん。踏み潰す♪」

 

「いやあぁぁっ!い、一夏!降参しない?流石に僕もプレスされたくないって言うか・・・」

 

「何言ってるんだよシャルル?俺達ならこんな奴らに負けないって!俺を信じろ!」

 

「(信じられる要素が一つも無いよぉ)」

 

 

涙目でデュノアさんは織斑を睨む。ドンマイ(愉悦)

そして織斑とボーデヴィッヒさんが何やら話し出した。

 

 

「最初から貴様と当たるとはな・・・」

 

「ああ。でもコレで今までの決着を付けられるぜ」

 

「それに関しては私も同意見だな」

 

「へえ・・・以心伝心で何よりだ」

 

 

織斑がそう言った瞬間、試合開始のブザーが鳴り響いた。

 

 

「うおおおおおおっ!」

 

「無駄だ!」

 

「しまっ・・・!」

 

 

開幕早々織斑の攻撃がボーデヴィッヒさんに迫るが直ぐに停止結界で止められる。

停止結界。正式名称、《慣性停止能力(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)》と呼ばれるそれはその名の通り、慣性が働いている任意の物を完全に停止させる事の出来る能力だ。そう言えばAICなんて略され方もあったっけ?

僕も出来ない事は無いが、面倒だから組み込まないししない。それに展開範囲にも限りがあるし、大きな物体が相手になると一つにしか搾り込めないからアウト。

実はビーム兵器を防ぐのも少し苦手なシステムで、セシリアの時は彼女のISが限界であった事と、ボーデヴィッヒさんの努力の賜物だろう。

そして織斑に至近距離からのレールキャノンが向けられた時、ボーデヴィッヒさんへ銃弾が撃ち込まれた事で弾丸は織斑の横へ逸れる。

 

 

「一夏、下がって!」

 

「お、おう!」

 

「おい!そちらは貴様の仕事だろう!?」

 

「はいはい。やります、よっと!」

 

「うわっ!」

 

 

直ぐにデュノアさんへ接近して、武器の斧を振り回す。見事にデュノアさんの手に持っていた55口径アサルトライフル《ヴェント》を切り裂いて爆散させた。デュノアさんは顔を顰めながら距離を取るが、僕はバイクからワイヤーを発射して彼女の腕と足を縛りつけた。これで飛ばれる事も無いし一定の距離で戦える。

 

 

「くっ・・・この!」

 

「それは零落白夜みたいなレベルの武器じゃないと切れないよ」

 

「ま、負けないよ!」

 

「それはどうかな?」

 

「えっ!?」

 

 

デュノアさんから[カン☆コーン]なんて感じの音声が聞こえた気がしたけど、気にせずバイクを走らせる。デュノアさんは今、バイクから発射されたワイヤーによって繋がれている状態だ。そんな状態で走り出したらどうなる?しかもゴルドライバーは甲龍のパワーを軽々と越える。つまりは・・・

 

 

「引き摺り回しの刑だ・・・!」

 

「お、お母さん助けてー!」

 

 

後はもう彼女のISのSEが切れるまで走り回す。所々で壁に突っ込んだりしながらも僕の後ろを着いて来る。残りのSEが少なくなった辺りでデュノアさんがブースターを使って、空中に浮いて僕に突っ込んで来たけど急ブレーキを掛ける。するとデュノアさんは僕の横を通り過ぎて行く。

方向転換して走り出すと、ちょっとの抵抗と[グエッ!?]と女子が出してはいけない声が耳に入る。そのまま僕のライディングテクニック(無免許)を披露して、デュノアさんの脱落を告げる放送が鳴った。

 

 

「いやあ、良いストレス発散になったよ。ありがとう」

 

「八つ当たりに巻き込まれた僕はストレスしかないけどね・・・」

 

「まあまあ。この後が君のストレス発散になるんだから」

 

「そうだけど・・・分かったよ」

 

 

苦笑するデュノアさんに笑い掛けてから織斑の所へと向かう。すると何故かボーデヴィッヒさんが押されていた。どうやら停止結界の弱点を突かれたらしい。織斑はボーデヴィッヒさんが停止結界を展開した瞬間、雪片を当たる直前で収納。そして横に回り込んでから展開し直して攻撃を繰り返す。

白式のG並な速度だからこそできる戦法だね。

 

 

「くっ・・・何故だ!?何故そこまで喰い付く!?」

 

「そんなの、お前がムカつくからだ!それ以外は全部飾りだ!」

 

「なんだと?」

 

「俺はお前が気にいらねえ!だから倒す!」

 

「そんな幼稚な理由で・・・!」

 

「これで終わりだ!」

 

「こんな所で・・・私は!」

 

 

ボーデヴィッヒさんを助けようとした瞬間、彼女のISに変化が訪れる。プラズマを発しながらその装甲を泥の様に溶解させて、ボーデヴィッヒさんを取り込む。

そしてスライムの様に蠢きだしたソレは人型へと姿を変えた。

 

 

「あれは・・・《暮桜》?」

 

 

見覚えのあるその形は、ISの世界大会《モンドグロッソ》の優勝者である織斑千冬の使用していた機体である暮桜にそっくりだった。と言うよりもそのままだ。

目の前の光景に頭の中で前に束から聞いた話を思い出す。

 

 

「ラファール、アレって・・・」

 

 

----うん、《VTシステム(ヴァルキリー・トレース)》で間違いない。

 

----そんな物積んでたの!?

 

 

VTシステムはモンドグロッソ優勝者の機体のステータスをコピーした物で、一応は禁止されているシステムの筈。束曰く、お粗末にも程があるクソシステムなんだそうだ。

それにあのシステムはパイロットの命を削り取る呪いの装備に近しい物だ。直ぐに救出しないとボーデヴィッヒさんが危ない。

ラファールを違う形態へ変えようとしたその時、近くに居た馬鹿が何も考えずに突っ込んだ。

 

 

「あの野郎!」

 

「なにしとんじゃぁ!?」

 

 

バイクからワイヤーを発射して織斑をこっちへと持って来る。グルグルにされた織斑が僕に喚く。

 

 

「離せ!」

 

「考えも無しに突っ込まないでくれるかい!?」

 

「うるせえ!アレは千冬姉の剣だ!そんなの許せるかよ!俺がやらなきゃ駄目なんだ!」

 

「君の剣で斬ったらボーデヴィッヒさんの命が無いんだよ!」

 

「そんなのやってみなくちゃ分かんねえだろ!?」

 

「一か八かで人の命を任せられるか!そこで待ってろ!」

 

 

ワイヤーをバイクから切り離してグルグルの織斑を放り投げる。どうやら相手は一定の範囲内に行かない限り、攻撃はして来ない様だ。現に織斑が範囲に入った時は反応していたが、今は何もしない。

僕は大きく周ってデュノアさんに近付いてラファールのSEを分ける。

 

 

「君は織斑を連れて撤退して」

 

「刹那はどうするの!?」

 

「僕は、ボーデヴィッヒさんをあの悪趣味極まりないISから切り離す」

 

「・・・信じて良いんだね?」

 

「任せて。この類はラファールの得意分野なんだ」

 

 

デュノアさんを行かせてから僕は織斑先生に通信を入れる。

 

 

「織斑先生、そちらの状況は?」

 

『観客の避難は完了した。そちらに今、3年生の鎮圧部隊を向かわせた。5分後に到着する』

 

「それじゃあ遅いです」

 

『・・・どう言う事だ』

 

「あのIS、ボーデヴィッヒさんの体なんてお構い無しですからあと3分もあれば死にますよ彼女」

 

『なんだと!?』

 

「だから僕がやります。良いですね?」

 

『・・・頼む。アイツを助けてくれ』

 

「分かりました」

 

 

通信を切って、ラファールに言う。

 

 

「さあラファール。アレを使うよ」

 

『うん!』

 

「モード、《スターダスト》!」

 

 

僕の声にラファールが答え、その姿を大きく変えた。白い装甲の所々に散りばめられた蒼い水晶の様なパーツ。そして光り輝く大きな翼から発される光の粒子はまるで星屑の様な煌きであった。

そして僕の尻部には白い尻尾の様な武装が装着され、両腕にはクローが展開される。後は収納されたレールガン《シューティング・ソニック》が搭載されている。

これが束達にISキラーと呼ばれた形態、スターダストだ。

純白の翼を羽ばたかせて、ボーデヴィッヒさんへと接近する。そしてボーデヴィッヒさんのISが反応して手に持ったブレード《雪片》で斬りかかる。その瞬間、僕はスターダストのワンオフアビリティーを発動させた。

 

 

「《ヴィクテム・サンクチュアリ》!」

 

 

その言葉をトリガーにラファールが眩い光を放ち、その光でボーデヴィッヒごとISを包み込む。そしてラファールはジャンク・ウォリアーの状態になった。

この形態のワンオフアビリティーはスターダストの形態を一定時間、解除する事で相手の発動したワンオフアビリティーを無効にして破壊する能力だ。

現在の相手を解析した所、機体のデータが書き変わっていた。システムの影響なのか、ワンオフアビリティがVTシステムの発動となっており、常時発動していたのだ。これならVTシステムのみを破壊出来る。

相手のパイロットに負担を与えないシステムが同時に投入されるので、ボーデヴィッヒさんのバイタルも安定した状態で取り出す事も可能だ。光が止むと、不快極まりない泥細工の様なISは完全に融解してボーデヴィッヒさんだけをその場に残した。

力無く倒れるボーデヴィッヒさんを受け止めて、状態を確認する。これなら暫く寝てれば大丈夫だ。眼帯が外れ、綺麗な金色の目を晒したボーデヴィッヒさんが薄く目を開けて僕を見る。その瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・此処は?』

 

 

真っ白な何も無い空間に居た。心地の良い浮遊感に揺られながら辺りを見回す。すると少し先にボーデヴィッヒさんが居た。彼女はまるで怯えた猫の様に体を丸めて僕を見ていた。

 

 

『私は、弱いのか・・・?』

 

『正直に言えば弱い。織斑に苦戦を強いられるってドン引きレベル』

 

『なら、どうすれば強くなれる?』

 

『仮に強くなるとして、君はどんな強さを望むの?』

 

『力だ。何者も寄せ付けない圧倒的な力だ』

 

『何処のラスボスだよ君は。そんなのだから弱いんだろうに・・・』

 

 

僕の言葉にボーデヴィッヒさんが首を傾げる。普段の刺々しさが消えている所為か少し可愛いと思ってしまった。余計な思考を振り払って、話を続ける。

 

 

『幾ら力が強くなったとしてもそれを使いこなさなければ意味が無いんだよ。身の丈以上の力は何時か自分の身どころか周りも滅ぼす火種にしかなりえない。心・技・体とか知らない?知らないか・・・』

 

『それを知らなかった、考えようともしなかった結果が、今の状況と言った所か・・・』

 

『物分かりが良くてなによりだ』

 

『・・・なぜ』

 

『ん?』

 

『何故、お前はそんなにも強い。代表候補生を何人も倒しただけでなく、暮桜・・・教官そのものになった私をもこうして無力化して助けた。私はお前に対してあの様な態度で接していた上に、その友にすら手を掛けたんだぞ?』

 

 

そう言って僕を見つめるボーデヴィッヒさんの真剣な眼差しに苦笑しながら答える。

 

 

『自分が強いと思った事は無いんだけど・・・まあ、セシリア達の事には思う事もあるけど結局は大怪我って訳でもないし、目の前の命を見捨てて良い理由にもならない』

 

 

確かにボーデヴィッヒさんがセシリア達にした行為は許された事では無い。危うく命の危険に晒す所でもあったし。でも、セシリア達の傷は後が残ったりする訳でもないし、聞けばセシリアも煽ったらしいじゃないか。後で互いに謝れば済む話だ。

 

 

『あと、君を無力化したのは僕の仲間達の協力があったからさ』

 

『仲間・・・?』

 

『そうだよ。あのワンオフアビリティーは僕とISが心を一つにしたからこそ発動出来たんだ。ISには意思がある。決して心の無い機械なんかじゃないんだよ』

 

『えへへ・・・嬉しいなぁ』

 

『うわっ!?ラファール?』

 

『だ、誰だ?』

 

『僕のラファールのコア人格』

 

『・・・は?』

 

 

僕の言葉にラウラはポカンとなる。何時の間にか僕を正面から抱きしめて来たラファールの頭を撫でながらボーデヴィッヒさんの反応を見て思わず笑う。

うん、まあそうなるよね。

 

 

『ま、まるで意味が分からんぞ!?』

 

『でも実際こうして居る訳だし・・・と言うか此処何処?』

 

『ん?IS同士による共鳴現象で創り出された空間だよ。マスターが寝てる時に来る和室の亜種版かな?』

 

『なるほど・・・じゃあ、いるんでしょ?シュバルツェア・レーゲンのコア人格さん?』

 

『・・・はい』

 

 

僕の声に反応してボーデヴィッヒさんの横から白鋼の様な黒髪の軍服に身を包んだ女性が姿を現した。なんというか、如何にも幸薄そうな方だ。

 

 

『初めまして、隊長。私が、シュバルツェア・レーゲンのコア人格です』

 

『こ、こんな事が・・・』

 

 

挨拶して来たコア人格に信じられない光景を見ているかの様な表情になるボーデヴィッヒさん。ああ、僕もあの空間に初めて行った時は流石に驚いたな・・・。

 

 

『マスター、もっと撫でて・・・』

 

『はいはい・・・そういえばセシア達は?』

 

『此処は私とあの子の共鳴現象で出来た空間だから関係無い二人は強制的に弾き出されちゃった』

 

『なるほどね。あ、今思ったけど珍しく人見知りしないね』

 

『あの子とは、度々会ってたから』

 

『そうなの?』

 

 

ラファールの言葉に僕は首を傾げる。だってあの空間では合わなかった?デュノアさんのISもだけど。

 

 

『あの子、私と同じで人見知りなの。でも最初に襲って来た日に菓子折りを持って謝りに来てくれたんだ』

 

『そ、それはまたご丁寧に・・・何かお返しってあげた方が良いの?』

 

『この前、カ○ピスギフト渡したから大丈夫だよ』

 

『どうやって仕入れてるのそれ!?』

 

 

僕達が会話している間にも、向こうの話は進んでいた。

 

 

『つまり、今までずっとあのシステムを押さえこんでいたのか?』

 

『はい。でなければ織斑一夏に大きな憎悪を持った貴方はすぐにでもシステムに取り込まれてしまいます。それで今日までの間、なんとか食い止めてはいたのですが・・・』

 

『先程の試合で私の力を求める思いが許容量を超えたのか』

 

『・・・申し訳ございません』

 

『いや、謝るのは私の方だ。自分の機体の事も把握せず、己の欲望に溺れるなどと・・・』

 

『真に悪いのはドイツ政府だけどね』

 

 

僕の言葉に二人が視線を向けて来る。ラファールに外の事を聞いた。今の僕達は意識がこの世界ある事で気絶状態にあるらしい。その間にドイツのVTシステムを開発、そして積んだ連中は揃って雲隠れ。今、束がお忍びでお仕置きに向かっているらしい。

多分、数日しない内に街中で下着だけの状態に落書きされて吊るされてるんだろうな・・・。

束は昔の様に他人を軽く見る事はなくなった。それどころかこの前は社員の人が落とした書類を率先して拾っていた上に気を付けて、など笑い掛けたのだ。前は躊躇いもなく人を殺していたそうな。といってもISを最悪な方向で使おうとする連中にだけだが。

 

 

『さて、そろそろお開きの時間だ。僕にも用事があるんでね』

 

『なら最後に答えてくれ!お前達はどうしてそんなにも深い何かで結ばれている!?それが強さの理由なのか!?』

 

『そうだね。僕達は時にぶつかり合ったり、力を合わせたりして様々な困難を乗り越えて来た。それによって強く結ばれた関係、それを絆って言うんだよ』

 

『絆・・・』

 

『本当ならもうちょっと話していたいけど、限界みたいだ』

 

『そうか、ありがとう。できれば今度、聞かせてほしい』

 

『僕なんかの話しで良ければ、幾らでも』

 

 

段々と僕達の意識が遠くなって行く。そして最後に見えたのは、ボーデヴィッヒさんが、自身の相棒と手を繋いで笑い合っている姿だった。なんだ、そんな表情、出せるんじゃないか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・此処は」

 

「刹那、大丈夫?」

 

「デュノアさん・・・今の時間は?」

 

「立ち直り早いね。まだ大丈夫だよ、今は応接室で待ってる」

 

「それじゃあ、行こうか」

 

「・・・うん」

 

 

未だに隣のベッドで眠っているボーデヴィッヒさんを一瞥してから僕は保健室を抜けだした・・・。

 

 

~IS学園[応接室]~

 

 

「遅れて、申し訳ございません」

 

「いや、君には命を助けてもらっているんだ。これ位はどうって事ない。そちらこそ、体はもう良いのかね?」

 

「はい」

 

 

僕に対して初老の男性が笑い掛ける。彼はデュノアさんの国であるフランスの大統領だ。今回のトーナメントでは、各国のISに関する企業や国家のVIP達も観戦に来る。当然各国の大統領なんて大物も何人かは来る。今回はフランスとアメリカだけだったけどね。

彼らの目的は一年生の才能を品定め、二年生の成長ぶりをチェック、三年生をスカウトに、と言った感じだろう。実は今日、家の会社からも人が来ている。と言うか父さんだけど。

父さんはさっきから大統領の横で無言で座ったままだ。しかも楽しそうな目でこっちを見てる。

それは兎も角、ボーデヴィッヒさんの件で会場は大パニック。でも僕が鎮圧部隊より早く事態を収めた事で何も起きなかった。デュノアさんに歩きながら話を聞いたが、各国で僕の株が鰻登りらしい。嬉しくないけど・・・。

 

 

「それで、デュノア社とイリアステル社の御曹司達が私に護衛を下げてまで話とは、なにかな?」

 

「はい。それはボクから話をさせていただきます」

 

 

そう言ってデュノアさんは前に出る。そして制服の中に手を入れて、胸を押さえていた布を取る。すると胸の膨らみが露わになった事で大統領の表情が大きく変わった。

デュノアさんは布をポケットに仕舞ってから大統領にこう言った。

 

 

「ボクは男ではありません。本当の名前はシャルロット・デュノア。デュノア社社長の愛人の間に出来た娘です」

 

「な、なんと!?では君は・・・!」

 

「はい。デュノア社の情報はまったくの嘘です」

 

「これは国際問題だぞ!」

 

「分かっています。だからこそ私は貴方にこの話を持ち掛けました」

 

「話?」

 

 

デュノアさんの言葉に大統領は聞き返す。デュノアさんは一度深呼吸をしてからその内容を口にした。

 

 

「ボクは正直、この話を公にしたくありません」

 

「それは私も同じだ」

 

「なので。ボクと取引をしていただけませんか?」

 

「取引・・・ははは!馬鹿を言っちゃいけない。君の様な人間一人、こちらですぐに始末出来るんだぞ?」

 

「っ!」

 

 

大統領の冷たい声音にデュノアさんは一瞬怯む。だが、すぐに持ち直して再び大統領を見つめた。二人の視線がぶつかり合って数秒ほど、大統領が笑い出した。

 

 

「いや、失礼。此処で諦めないのは大したものだ。大抵の人は諦めてしまうからね。それにドイツのアレを止めてくれた不動君の頼みでもあるならばその取引、聞くだけ聞こうじゃないか」

 

「ありがとうございます!」

 

「さあ、言ってくれたまえ。私の気が変わらない内にね」

 

 

そう言って大統領は豪快に笑う。この人、どっちかと言うとアメリカンな感じだな。デュノアさんは礼を終えてから取引の内容を話した。

 

 

「デュノア社の情報を全て提供します。後ろめたい事も全て」

 

「・・・仮にも父親の会社だろう?それでデュノア社が潰れたら我が国のIS産業は絶望的だ」

 

「それに関しては、貴方達の方が詳しいのではありませんか?」

 

「ふっ、流石は代表候補生と言ったところだな」

 

 

そう言って父さんは静かに笑った。大統領もそれに釣られる様に笑って答える。

 

 

「その通り。私は、どうであれデュノア社に見切りを付けるつもりだったんだよ」

 

「えっ」

 

「どうやら彼等は君を使って一山当てようとしていたみたいだが、既に汚職を隠蔽していたデータがわんさかと出て来てね。いやぁ、君は実にタイミングが良い。これで、三年間は安全などと思ってたら自国からの援助は無くなり、君はすぐに国へ強制送還だ。どの道その男装はバレていただろうね」

 

「・・・」

 

「(織斑、君の案はやっぱり愚策だった様だ)」

 

 

その言葉にデュノアさんは顔を青くする。本当に間に合って良かった。色々と・・・。

デュノアさんは何度か深呼吸をくりかえしてから話を続ける。

 

 

「・・・そのデュノア社を潰すに当たって、ボクからの要求があるんです」

 

「なにかな?」

 

「シャルル・デュノアではなく、シャルロット・デュノアとして改めてこの学園に通わせてください」

 

「だが、君はもうフランスの代表候補生としてはやっていけない」

 

「はい。なので、」

 

 

デュノアさんは僕と父さんに視線を一瞬向ける。それだけで大統領は何か察した様だ。

 

 

「ボクをイリアステルフランス支部のテストパイロットとして通わせてほしいんです」

 

「なるほど・・・実に面白い!代表候補生ではなく、テストパイロットか!自分の会社を裏切って、国外の会社の支部に就くと・・・だがそれは何も知らない周りからすればただの裏切り者になる事を分かって言っているのかね?」

 

「はい。ボクは、もうこれ以上誰かの操り人形は嫌なんです。最初はあんな人でも血の繋がった家族なんだ。そう思って生きて来ました。でも、ボクはただの扱いやすい道具にすぎなかった・・・」

 

「・・・君の気持とは分かった。だが、学園のイベントでは少なからず各国のVIP達が出席する。そこで男子だった君が女子としていたらどう説明するんだい?」

 

「それは・・・」

 

 

大統領の疑問に彼女は言葉を詰まらせる。僕はデュノアさんの隣に立って、口を開いた。

 

 

「僕から、提案があります」

 

「ほう?イリアステルの次期社長の提案、是非お聞かせ願いたい」

 

「この件、全てデュノア社に押し付けませんか?」

 

 

僕の言葉にその場の全員がポカンとする。いや、父さんは何となく予想出来ていたって顔か。

 

 

「これはまた、凄い事を考える」

 

「どうせ埃しか出て来ないのなら、コッソリ埃を捨てても良いと思いませんか?」

 

「そ、それは大丈夫なの?」

 

「僕の先輩が昔言ってたよ、[バレなきゃ犯罪じゃない]って」

 

「その先輩とは縁を切った方が良いと思うよ」

 

「そ、それで?どんな内容にするのかね?」

 

 

笑いを堪えながら大統領が僕に問いかける。僕は簡単に説明した。

 

 

「単純に、国には男子と報告して連絡させました。でもそれが今日、大統領の前でバレてデュノア社のエージェントが口封じの為にデュノアもろとも大統領まで巻き込もうとしました。でもデュノアが自分の身を顧みずに大統領を庇ってエージェントを抑える。それに感動した大統領がせめてこの子だけでもと措置を取ってくれた。後はデュノアさんの過去でも適当に言っておけば大抵の人達は涙物ですよ」

 

「それはつまり、私に演技をしろと?」

 

「はい。どうです?」

 

「最高じゃないか!是非やろう!」

 

「えぇっ!?」

 

 

目を輝かせて立ち上がる大統領にデュノアさんが驚く。

 

 

「いや、これでも私は若い頃演劇をやっていてね。そう言った事には自身があるのだよ」

 

「お気に召していただけてなによりです」

 

「一人の少女の自由を得る為の三文芝居。やらない手は無い!デュノア君、君の条件は飲もうじゃないか」

 

「本当ですか!?」

 

「ああ。不動博士も問題はないね?」

 

「ええ。自分もこう言った事は嫌いではないので」

 

 

父さんと大統領は熱い握手を交わす。でっち上げる準備も既に整った所で大統領が聞いて来る。

 

 

「ところで、そのエージェントはどうするのかね?」

 

「きっとまだこの学園の周辺にいる筈です。デュノアさんに嘘の電話を掛けてもらって、来た所をやってしまいましょう」

 

「それじゃあ、頼むよデュノア君」

 

「は、はい」

 

 

僕達は息を潜めてデュノアさんを見守る。デュノアさんが携帯を使って電話を掛けた。数コールしてからデュノアさんがスピーカーモードにして会話をする。

 

 

「シャルロットです・・・」

 

『用件は何だ?』

 

「その、ボクが女だと見つかってしまって」

 

『なに?それでそうしたんだ?』

 

「見つけた人が大統領なんです。それで、応接室に来いと」

 

『そうか。今周辺で待機している社員を向かわせる。先に大統領に話をしておけ。・・・この役立たずが』

 

「・・・ごめんなさい」

 

 

そして電話は切れた。それと同時に大統領と父さんもキレた。これは確かにキレるよね。イリアステルや僕があまり関係していないのであれば見捨てただろうけど、彼女は自分の意思で変わろうとしてるんだ。協力しない訳がない。

 

 

「さて、僕と父さんは隠れてるよ」

 

「二人共、お願いします」

 

「任せたまえ」

 

「はい・・・!」

 

 

----白鋼、《ミラージュコロイドステルス》起動。

 

----任せろ。

 

 

白鋼に搭載された迷彩装置で僕と父さんの姿を隠す。しかもこれ、レーダーとかサーモグラフィーにも引っ掛からない優れもの。ぶっちゃけISのハイパーセンサーでも拾えない。

暫くするとドアをノックする音が響く。大統領が声を掛けると黒服でサングラスをした男性が入って来るなり銃を向けて来た。すぐにデュノアさんがISを展開してシールドで銃弾を防ぐ。

 

 

「な、なんだね君は!?だ、誰か!」

 

「くっ・・・死ね!」

 

「させない!大統領、ボクの後ろに!」

 

「あ、ああ・・・」

 

 

無駄に演技力の高い大統領に笑いそうになる。この人自分の命の危険が迫ってるのに楽しんでるよ。暫くすると、黒服は舌打ちをして走り出す。どうやら逃走を図ろうとしているらしい。でも此処はIS学園だ。こんな所で走ろうものなら・・・

 

 

「あら?どちら様ですか?IDを見せて・・・」

 

「黙れ!丁度良い、こっちに来い!」

 

 

そう言って廊下を歩いていた女子生徒に銃を突き付ける。ああ、終わったな。銃を向ける相手を間違えたよ。だって相手は・・・、

 

 

「せいっ!」

 

「がはっ!?」

 

 

生徒会長なのだから・・・。

なんとも綺麗な背負い投げを喰らった黒服は気絶した。これ以上、追手が居ないか確認してから迷彩を解除して会長へ声を掛ける。

 

 

「会長、ナイスです!」

 

「不動君?と、不動博士!?・・・フランスの大統領まで!どうなってるの!?」

 

 

丁度良い。会長にはこの件の証人になってもらおう(ゲス顔)

僕の真意を察してくれたのか父さんが斬り込んで行った。

 

 

「君が、更識楯無だな。妻から話は聞いている」

 

「あ、あはは・・・」

 

「そこの男は大統領の命を狙いに来たエージェントなんだ」

 

「なんですって!?」

 

 

父さんの言葉に会長は驚愕する。そして全て(大嘘)を説明して会長に証人になってもらいたい事を言う。これが大統領の命とデュノアさんの自由の両方を得るチャンスであると。会長はすぐに合意してくれた。

 

 

「そう言う事であれば協力させていただきます」

 

「ありがとう」

 

「い、いえ!不動君のお父様!」

 

「君にお父様と言われる覚えはないがな」

 

 

----あれ?なんかこれ見た事あるぞ。

 

----似た者夫婦だな。

 

----やっぱりあの会長、社会的に殺っときません?

 

----せ、セシア・・・落ち着いて~!

 

 

溜息を吐いて大統領の方を見る。自分の護衛を呼んで、通信機を切った所だった。それから僕達とデュノアさんに小声で言った。

 

 

「後の事は私に任せなさい。デュノア君、君は今から自由だ。この学園での時間を謳歌しなさい」

 

「・・・はい」

 

「不動君、久しぶりに刺激的な時間を過ごす事が出来たよ。大統領なんて職業をやっているとなにかと不自由でね。本当にありがとう」

 

「いえ、ではこれからもよろしくお願いします」

 

「君達といれば退屈しなさそうだ。こちらこそ、よろしく頼むよ」

 

 

握手を交わした後、大統領は護衛に囲まれてIS学園の職員に連れて行かれた。それから軽い事情聴取を終えた僕達は解散となった。父さんは少しやる事があると言って、何処かへ行ってしまったが・・・。

それから僕達は食堂へと向かう。そこでは織斑が何故か篠ノ之さんにボコられていた。不機嫌そうに去っていく篠ノ之さんと視線を会わせない様にしてから織斑の所へ行く。

 

 

「・・・生きてたら三回周ってワン」

 

「む、無理・・・死ぬ」

 

「よし、生きてるな」

 

「い、一夏。何があったの?」

 

 

デュノアさんの言葉に織斑が話し始めた。トーナメントが始まる数日前、篠ノ之さんに[トーナメントで私が優勝したら、付き合ってもらう]と言われたらしい。そして織斑は先程篠ノ之さんに付き合って良いと言った。[本当か!?]と喜んだ篠ノ之さんに対して[良いぞ、何処にだ?]と質問。そしてフルボッコへ・・・。

 

 

「さて、今夜は何を食べようかな~」

 

「私、サバ味噌定食」

 

「ボクはどうしようかな・・・」

 

 

床に転がってる肉塊は無視して食事を摂る事にした。そんな中、山田先生が僕達に声を掛けて来る。

 

 

「あ、不動君達!丁度良かった・・・って織斑君!?」

 

「せ、せんせ・・・」

 

「山田先生、織斑にスカート覗かれてますよ」

 

「きゃっ!?」

 

「ち、違います!俺そういうのに興味とか無いですから!」

 

「えっ、織斑ってホモ?」

 

「だから違えよ!?」

 

 

暫くワチャワチャしてから山田先生が本題を口にした。

 

 

「本日から、大浴場が解禁になりましたー!」

 

「おお!本当ですか!?」

 

「へえ」

 

「そ、そうなんですか・・・」

 

「どうしたんだよシャルル!風呂に入れるんだぜ!?」

 

 

この馬鹿は・・・デュノアさんの事忘れたのか?視線を向けると織斑は思わず口を押さえた。・・・全く。

それから織斑をハブにして食事を摂った僕達は部屋に戻った。すると会長がベッドに寝転がりながら言う。

 

 

「不動君、大浴場行って来たら?」

 

「別にそこまで興味があるわけでも無いですし、今日は良いですよ。あ、制服アイロン掛けときましたから。それと、靴下に穴が空いていたので新しいの買っておきました。サイズあってますよね?」

 

「ええ、ありがとう。ごめんなさいね、靴下なんて買いに行かせちゃって」

 

「お気になさらず。この容姿の所為か、他の方々が下着まで僕に勧めてくるので元から手遅れです」

 

「・・・御苦労様です」

 

 

土下座された。

結局僕は着替えとタオル、ボディソープ等を持って大浴場へと向かった。道中で知り合いに会ったので声を掛ける。

 

 

「藤原さん」

 

「あら、坊や。中々会えなくて寂しかった」

 

「クラスが違うからね(本当は避けてたんだけど)」

 

「今度こそ、戦ってもらうわよ」

 

「何時でも受けるよ。ただし、セクハラ紛いな事は止めてね?」

 

 

藤原さんと別れて大浴場へ向かう。暖簾を潜って、中へ入ると銭湯を彷彿とさせる空間が広がっており、何処か懐かしさを感じさせる造りだった。籠に着替えを入れていると、織斑が浴場から出て来た。

 

 

「おお!刹那も来たのか!」

 

「・・・まあね」

 

「なんだよ、一緒に入れば良かったのにさ」

 

「気持ち悪い事を言わないでくれるかな」

 

 

だからホモと間違われるんだよ、君は。あとあれだけ人に言っておきながら馴れ馴れしい。僕は溜息を吐きながら服を脱ぐ。今日は一日疲れた。さっさと入ってさっさと寝よう。

 

 

「・・・ん?どうかした?」

 

「い、いや!なんでもねえ!(な、なんで刹那が服脱ぐのでドキドキしてんだ俺!?)」

 

「顔赤いよ?逆上せた?」

 

「そ、そうかもな!だから部屋戻るわ!」

 

 

織斑の反応に疑問を感じながら顔を見ると、さっきよりも顔を紅くして出て行ってしまった。10秒も経たずに体を拭いて着替えた・・・だと・・・。

服を脱ぎ終え、浴場へ向かう。体と頭を洗ってから誰も居ない貸し切り状態の湯に浸かる。天井を見上げながらボーッとしていると、浴場のドアが開かれる音がカラカラと響いた。なんだ?織斑は二度風呂か?早いな・・・逆上せてたのに。

 

 

「刹那・・・隣、良いかな?」

 

「でゅ、デュノアさん!?」

 

 

予想外の声に僕は驚く。慌てて声のした方に背を向けて見ない様に配慮する。

 

 

「は、入っても・・・良い?」

 

「か、体と頭は洗った?」

 

「えっ・・・まだだけど」

 

「取り敢えず洗ってから入るのがマナーだから」

 

「分かった。ちょっと待っててね」

 

 

そう言ってデュノアさんは洗い場の方へと歩いていった。た、助かった・・・危うく性犯罪者の汚名を着せられる所だった。それにして何故彼女が此処に・・・?

 

 

「時間、ミスったn「うわぁ!?」デュノアさん!?」

 

「し、シャンプーが目に・・・!」

 

「ああもう!子供か君は!」

 

 

僕はタオルを腰に巻いてデュノアさんの後ろに椅子を持って来て座る。そして彼女の髪を洗い始た。

 

 

「やって上げるから取り敢えず目を洗いな」

 

「うん・・・ごめん」

 

「ん・・・はい、後は自分でやって」

 

「体は洗ってくれないの?」

 

「や り ま せ ん !」

 

 

湯船に浸かって一息吐く僕の隣にチャポンと水音が鳴る。それからすぐに僕の肩に温かく、程良い重みを感じた。チラッと視線を向けるとデュノアさんが頭を僕の肩へ乗せていた。

 

 

「刹那、ありがとう」

 

「礼を言われる覚えは無いよ。君はただ、自分の意思で未来を切り拓いただけだ」

 

「それでも、僕に踏み出す勇気をくれたのは刹那だよ」

 

「ああでもしないと自覚しないからね」

 

「うん、その通りだ」

 

 

思わず二人で笑う。その後は大統領の話し等をしていた。現在進行形でデュノア社に政府がカチコミしたらしい。後はもう面白い様に事が運ぶだろう。あの大統領の大爆笑する顔が浮かぶ。

 

 

「なんとも豪快な人だった・・・」

 

「ふふっ・・・ねえ、刹那」

 

「なにかな?」

 

「僕の事、名前で呼んで?」

 

「あーまあ、良いよ」

 

「本当!?」

 

 

最早僕達は共犯の仲だ。今更他人行儀な呼び方も、ねえ。同僚になる訳だし。

 

 

「でも逐一長いのはアレだし・・・《シャロ》って呼ぶのは駄目かな?」

 

「シャロ・・・うん!良いよ!凄く良い!」

 

「お、おう・・・」

 

 

まさかそこまで喰いつきが良いとは思ってもいなかった。

 

 

「刹那、もう一度シャロって呼んで」

 

「・・・シャロ」

 

「~~っ!もう一回!」

 

「シャロ」

 

「ワンモア!」

 

「よろっと勘弁してくれませんかねぇ!?」

 

 

恥ずかしさがマックスに達した僕は思わず叫ぶ。その後、二人して上がったけど度々ずっと[シャロ・・・シャロ・・・えへへ♡]とか独り言が聞こえて来て凄い死にたくなった。恥ずか死にしそう。

部屋に戻るまでの間、ずっとニコニコ笑ってて可愛いと思った僕は悪くないと思う・・・。

 

 

~翌日[教室]~

 

 

「え、えっと・・・」

 

 

朝のSHR。山田先生の困惑した声が教室に響く。それもその筈。なにせ皆が男子だと思っていた人間が"女子の制服"で壇上に立っているのだから。その原因たる人物は、黒板の代わりに置いてある大型ディスプレイに自分の名前を映し出して挨拶した。

 

 

「《シャルロット・デュノア》です。よろしくお願いします♪」

 

「え、ええ~!?」

 

「デュノア君って女だったの!?」

 

「て言うか織斑君達気付かなかったの!?」

 

「そう言えば昨日、男子の浴場開放日だったよね?」

 

 

女子達の声に僕は一瞬体感温度が下がった気がした。そして唐突に教室のドアが破壊され、甲龍を展開した鳳さんが入って来た。

 

 

「一夏ぁ!」

 

「ま、待ってくれ!死ぬ!それは本当に死ぬ!」

 

 

織斑に向けられた龍砲。あの、その射線上に僕も入ってるんですけど。ラファールを展開しようとした瞬間、僕達の前に人影が割って入り、龍砲を打ち消した。こんな芸当出来るのは一人しか居ない。

 

 

「怪我は無いか?」

 

「ラウラ!」

 

 

ISを纏ったボーデヴィッヒさんに織斑が声を掛ける。さっすが!あんな事があったのに名前で気楽に呼べる織斑パナい!馴れ馴れしい!

そんな織斑の横を華麗にスルーしたボーデヴィッヒさんは僕の前に立って、顔を近付けて来た。そして僕の唇に柔らかい感触が触れた。

 

 

「お、お前は私の嫁にする!」

 

「・・・はい?」

 

 

父さん、母さん、女子ってどうしてこう唐突なんですかね(遠い目)

 

 

刹那サイド終了



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第10話

刹那サイド

 

 

「・・・で、何であんな事を?」

 

「何がだ?」

 

 

あの後、昼休みになった僕達は食堂で昼食を摂っていた。そして隣でハンバーグを食べるボーデヴィッヒさんに朝の奇行について聞いた。本当は早く聞きたかったけど、思考がさっきまで完全にフリーズしていた。

僕の疑問にボーデヴィッヒさんは首を傾げる。あれ?これ僕が間違ってるの?

 

 

「いや、何故公衆の面前でキス?しかも嫁にするって意味が分からないんだけど」

 

「部下に聞いた。好きな男にはキスをする事で愛情表現するものであると」

 

「普通は人前でキスなんてしま・・・なんでもない」

 

「(ご両親ですわね・・・)」

 

「(両親だね・・・)」

 

 

セシリアとシャロに温かい目で見られる。目を逸らしながら話を続けた。

 

 

「大体さ、僕は君に好かれる事をした覚えは無いんだけど」

 

「いや、嫁の行動は確かに私の心を撃ち抜いた。言っておくがこれは吊り橋効果とやらでもなんでもない私の意思だ。たとえ嫁でもこの思いを否定するのは許さん」

 

「そ、そうですか・・・」

 

「そうだ。よって、お前は私の嫁だ」

 

「だからなんで嫁?」

 

「む?そう言う文化なのだろうこの国は?」

 

 

ボーデヴィッヒさんの言葉に僕は重い溜息を吐く。誰だこの子に変な知識植え付けたのは・・・。

 

 

「ボーデヴィッヒさん。嫁と言うのは女の人の事を言うんだよ。男の場合は婿って言うんだ」

 

「何!?日本では好きな相手全般を嫁と言うのではないのか!?」

 

「あ、でも好きなアニメキャラとかを嫁って言う人は居るね」

 

「そうなのか・・・日本の文化は奥が深いな」

 

 

そう言ってボーデヴィッヒさんは一人ブツブツと呟き始めた。その隙に僕はシャロ達に声を掛ける。

 

 

「御二人さん、助けてください」

 

「そ、そう言われましても・・・私達も此処まで正直な方を前にするのは初めてなもので・・・」

 

「そうだよ。しかもあんな可愛い見た目で・・・反則だよぉ」

 

「何でシャロは泣いてるのさ?」

 

 

確かにボーデヴィッヒさんは可愛いと思う。小動物を彷彿とさせる可愛さだ。まあ、シャロも十分可愛いと思う。というかこの学園って美少女比率は高いよね。中学の時のクラスメイトと見比べたとしても断然にレベルが高い。

ただ、それに伴って性格に難があるけど。

 

 

「それはそうとしてだ、嫁よ」

 

「嫁って言うな。せめて名前で呼んで」

 

「では刹那。私の事もラウラで良い。夫婦は互いに遠慮はいらないとも聞いたぞ」

 

「今度その知識を教えた人、紹介してね。小一時間位説教するから」

 

「それならイリアステルの本社に居る」

 

「「は?」」

 

 

イリアステル。その名が出た事で僕とシャロが同時に声を上げる。それからボーデヴィッヒさん改めラウラは自分の端末を操作してある画面を僕達に見せた。そこにはラウラのデータが記載されたイリアステルのIDだった。

ま、まさか・・・。

 

 

「私、ラウラ・ボーデヴィッヒは今日からイリアステルのテストパイロットを務める事になった。宜しく頼む」

 

「「はぁ!?」」

 

 

再び同時に叫ぶ。セシリアの方も理解が追い付かない様で、ポカンと口を開けていた。

 

 

「何時そんな話が出たのさ!?」

 

「昨夜、不動博士が訪ねて来たんだ。イリアステルに来ないか、と」

 

「だから途中で何処かに行ったのか。でもドイツは・・・ああ、納得」

 

「察しが良いな。流石だ」

 

「ど、どう言う事ですの?」

 

「ラウラは多分、ドイツ軍・・・いや、ドイツ自体から抹消されてるんだ」

 

 

僕の言葉にセシリアとシャロは驚愕して、ラウラは無表情で頷いた。考えれば簡単な事だ。違法なシステムを積んでいた事がバレたドイツのお偉い方は少しでも自分達の罪を軽くする為にラウラの存在自体を無かった事にしたのだろう。

あんな騒ぎがあった後だから下手にラウラの回収と始末は出来なかったけど、戸籍はもう消されている筈だ。それを見越して父さんが話しかけたと言う事だ。

 

 

「ドイツ軍人であった私は死んだ。今の私は日本国籍のイリアステル所属のラウラ・ボーデヴィッヒと言う事になる」

 

「腐った上の連中の考えそうな事だね。それで、君の部隊の方々もイリアステルに?」

 

「そうだ。今は不動博士やその周辺人物のボディーガードをしている」

 

「なんて恐ろしいセコムだ」

 

 

元軍人で構成されたボディーガードとか、怖すぎる。でも父さん達の安全は保障されたと考えて良いからこれはこれでアリか。

 

 

「だがシュバルツェア・レーゲンはドイツに回収されてしまった。明日にはイリアステルから新たな専用機が届くらしい」

 

「分かった。それなら、今日からよろしく」

 

「此方こそ」

 

「一緒に頑張ろうね」

 

「ああ」

 

 

僕とシャロはラウラに握手する。まあ、上の学年には一つの企業からテストパイロットで出てる人が5人位居る所もあるし大丈夫でしょ。ウチも表向きはIS産業に手を出したばかりって設定だし多少人員が多くても疑われる事は無い。

考え事をする僕の視界にはラウラとセシリアが握手を交わす所が見えた。うんうん、中が良くて何よりだ。

こうして、ドッキリとしか思えない一日が幕を閉じた・・・。

 

 

~放課後~

 

 

整備室で僕は簪と例の専用機に積む援護システムの制作を行っていた。内部の機械やデータの入力が終了し、ISと同素材を使用した外装を取り付けて作業を終了させる。

 

 

「よし、出来た」

 

「これが援護システム・・・」

 

「その名も《ハロ》。AIを積んであるからいっぱいお喋りしてあげてね」

 

「こ、高性能・・・!」

 

「よし、起動」

 

 

苦笑する簪に笑い掛けながらハロを起動させる。白を主体とした丸いボディの所々に水色のラインが入った手の平サイズのソレは目をチカチカと光らせながら体を揺らして声を出した。

 

 

『ハロ!ハロ!カンザシ、マスター!』

 

「よろしくね、ハロ」

 

『ヨロシク!ヨロシク!』

 

「ふふっ♪」

 

 

簪は嬉しそうにハロを手に乗せて撫でる。見た目こそ可愛いが、ハロの性能はISに匹敵するレベルの情報処理能力がある。ハロをISに接続する事で全性能がかなり上がる。

簪のハロは狙撃性能をメインにチューニングしてある為、基本的には百発百中になるだろう。後は簪の操縦次第だ・・・。

 

 

「今日はもう終わりにしようか。ご飯食べに行こうよ。お腹空いちゃった」

 

「そう言ってさっきも購買のコロッケパン食べてなかった?」

 

「あれは遅めのおやつだから」

 

 

僕は簪と食堂に向かう。その隣をハロがポンポンと跳ねながら着いて来る。食堂に着くと、簪はハロを肩に乗せる。器用にコロコロしながらバランスを保つハロに苦笑しながら特盛りの料理を食べる。

 

 

「あら、せっちゃん!今日もまた別嬪さん連れて!昔の家の旦那みたい!」

 

「や、止めてくださいよ」

 

「べ、べっぴん・・・!」

 

「ほらほら!今日はケーキ付けとくから、二人で食べなさい!」

 

「ありがとうございます」

 

「・・・ありがとうございます」

 

 

チョコレートケーキをサービスしてもらった僕と簪は席に座って食事を摂る。やっぱり此処の料理は美味しいな。うどんを食べる簪と雑談しながら楽しく食事を終えた。

今日は織斑がずっと篠ノ之さんと鳳さんに絡まれてたから今日は平和だった。シャロと大浴場に入っていたと思われている様で今回は正直助かった。

君にはスケープゴート(笑)になってもらおう。食べ終わった僕達は廊下で別れる。

 

 

「それじゃあ、また明日」

 

「うん。また明日」

 

『セツナ!マタアシタ!マタアシタ!』

 

「ん。ハロもまた明日」

 

 

簪と別れて部屋に戻ると会長がベッドに寝転んで疲れた顔をしていた。しかも下着姿で。こちらに気付いていない様で、さっさとシャワーと歯磨きを済ませてから声を掛ける。

 

 

「ただいま戻りました」

 

「おかえり~・・・不動君、疲れた~!」

 

「お疲れ様です。制服は・・・聞くまでもないですね」

 

「どう?お姉さんの下着、ドキドキするでしょ?」

 

「・・・ソーンw「調子乗ってすみませんでした!」素直でよろしい」

 

 

土下座する会長に溜息を吐いて彼女の衣装入れからパジャマを取り出して着せる。この人は今の様に糸が切れた状態になる時が存在する。そうなるとあらゆる事に対してやる気が出なくなるのだ。その為、僕が必然的に会長の世話をする事になる。

思春期の少年に体を洗わせるのって何考えてるのさ。

 

 

「仕方ない・・・ほら、おいで」

 

「ママーッ!」

 

 

この状態の会長は寝かせるに限る。ベッドに寝転がって腕を広げると会長が飛び着いて来る。こうでもしないと会長の愚痴が一晩中続く。奇声を上げて飛びこんで来た会長の頭を撫でながら耳元で囁く。

これぞ、セシアから教えてもらった秘技[せっちゃんおやすみボイス(仮)]!

今の所、束と両親、会長には効果抜群の効き目を誇っている。

 

 

「今日も一日頑張ったね・・・よしよし」

 

「くぅ~ん♡」

 

「(うわぁ・・・)ゆっくり眠って、休もうね」

 

「うん・・・」

 

「おやすみ、楯無ちゃん♪」

 

「・・・すぅ・・・すぅ」

 

 

会長は適当に言っておけばなんか落ちる。会長が寝た事を確認すると、僕はディスプレイを開いてメールを確認する。こうなった会長は明日の朝まで目を覚まさない。

撫でる手を止めずにメールを開く。父さんからラウラとその部隊に関しての情報と彼女用の新たな専用機に関してだった。

 

 

----やっぱり"あの子"のコアですか。

 

----あの兎も偶には良い事するじゃないか。

 

----これでまたあの子と遊べるね。

 

----今度電話しようかな。

 

 

ラウラの新たな専用機は、名前こそ違うけどそのコアは紛れもなくシュバルツェア・レーゲンの物だった。メールの内容では、束がドイツ軍に潜入してコアをこっそり交換。取り替えた方のコアは、コアとは名ばかりの真っ赤な偽物。

どうせ馬鹿には分からない、と文字が書かれた彼女の写真が添付されていた。

それに苦笑しながらラウラの専用機のスペックを確認する。これ、絶対カラーリングで選んだだろ。

 

 

「《ゴールドフレーム・天ミナ》か・・・」

 

 

シュバルツェア・レーゲンの新たな姿を確認して、僕も意識を沈めた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ところがギッチョン!まだ終わりません!』

 

『今日は部屋の内装を変えたぞ』

 

『マスター・・・ごめんね?』

 

『うん、知ってた』

 

 

和室からフローリングの洋室へと模様替えされた部屋のソファーに座っていた僕はセシア達を細目で睨む。ラファールがビビる中、セシアと白鋼が口笛を吹いて視線を逸らす。

 

 

『・・・まあ、それは良いや。君達、"彼女"が戻って来る事知ってたでしょ』

 

『はい。でもマスターが疲れていたんで、メール貰ってからでも良いかなと』

 

『何となくは予想出来てたけど、まさか翌日とは思わなかったよ』

 

『ですよね~』

 

『ヤッホー!甲龍ちゃん再び参上!』

 

『・・・また面倒なのが』

 

 

騒がしいのがダイナミックエントリーして来た所為で空気がカオスな事になった。取り敢えず甲龍を落ち着かせて、話しに戻る。

 

 

『で、何故に僕の膝を枕にしてるんだい?』

 

『ん?だって刹那の膝枕好きなんだもん!良い匂いだし!』

 

『はいはい』

 

『おい、そこのトカゲ。何ちゃっかり人のマスターにひっ付いてるんですか。織斑の夢にでも介入すれば良いでしょう』

 

『あれを好きなのは鈴ちゃんだし、私は刹那の方が良い~♪』

 

 

にゃ~、と言ってすりすりして来る甲龍を撫でる。結局、セシア達によるキャットファイトが開始され、ティアーズさんが止めに来るまで続いた。

僕は部屋の隅でラファールを撫でながら紅茶を飲んでましたが、何か?

 

 

~翌日~

 

 

この日のIS実習は僕とラウラによる模擬戦だった。それと同時にラウラの新たな機体のお披露目にもなる。

 

 

「それではISを展開しろ」

 

「「はい」」

 

 

僕とラウラはISを展開する。今日は白鋼を纏う。

 

 

----モード、《レッドフレーム》で行くよ。

 

----了解した。

 

 

白鋼の装甲は白と赤を主体とした装甲に、フライトユニットとビームライフルにシールド。そして左腰には日本刀型ブレード《ガーベラストレート》が装備される。この刀、ビームを切断できる特別性である。

ラウラの方を見ると、向こうも準備が整っていた。

金と黒の装甲と背中に搭載された特殊兵装《マガノイクタチ》が大きな存在感を放つ。そして両腕には主兵装となる《トリケロス改》と《オキツノカガミ》が取り付けられていた。

 

 

「ふむ・・・流石イリアステルのメカニック達だ。装備がこんなにも大きく変わっていると言うのに不思議なまでに体に馴染む」

 

「気に入ってもらえた様で、なによりだ」

 

「では早速この機体の性能を試させてもらおう」

 

 

その言葉で僕達は上空へと飛んで構える。そして織斑先生が口を開き・・・、

 

 

「では、始め!」

 

 

僕達はぶつかり合った。左腰のガーベラストレートと、相手のトリケロス改に装備された実体剣から火花が上がる。束達が弄っただけあって、パワーが桁違いだ。白鋼の装甲からギギギと軋む様な音が響く。

 

 

「くっ・・・てやぁ!」

 

「何と言う性能だ・・・これならば!」

 

「うぁっ!?」

 

 

再び実体剣が叩きつけられ仰け反った僕に左腕に装着された槍《オキツノカガミ》が迫る。シールドを斜めに構えて衝撃を受け流すも、一発で砕け散る。ビームライフルを連射して距離を取ってから態勢を立て直す。

完全に油断した・・・。まさか此処まで使いこなすとは思ってもなかったよ。

 

 

「ラウラ、行くよ!」

 

「ああ!加減は無しだ!」

 

「その性能相手に加減なんて出来るわけないでしょうが!?」

 

 

ラウラの放つビームを斬りながら接近してトリケロス改を斬り落とす。まずは邪魔な装備を取っ払う。パワー負けしてるとはいえ、天ミナはその装備さえ減らしてしまえば問題は無い。レッドフレームには"奥の手"もある。

 

 

「このまま左も貰うよ!」

 

「させるかっ!」

 

 

オキツノカガミを振るうラウラに僕は口の端を吊り上げながらガーベラストレートを振るう。パーツの間接部分に刃を入れて斬る。細かい作業は得意分野なんでね!装備をほぼ破壊されたラウラは舌打ちをしながら両腰のサーベル《トツカノツルギ》を握って僕を睨む。

 

 

「自分なりにはどうだい?」

 

「高性能な分私が機体に着いて行けていないのが現状だな。加減して戦っている刹那には敵わない。父上殿から聞いているぞ。その機体、もう《二次移行(セカンドシフト)》を終わらせているにも関わらず、一次移行の形態で止めているのだろう?」

 

「バレた?流石に手の内を全て晒す気は無いしね」

 

「こちらは本気で行かないと負ける。だからこの機体のワンオフアビリティを使わせてもらうとしよう」

 

「また陰湿な戦い方を・・・!」

 

「卑怯とでも罵るか?」

 

「まさか!卑怯結構!正面から斬り伏せる!」

 

 

僕の言葉にラウラは笑って、ワンオフアビリティを発動させる。ゴールドフレーム天ミナのワンオフアビリティは《ミラージュコロイド・システム》。レーダーや熱源にも反応しないステルスシステムである。

僕がこの前父さんと隠れた時に使った物と同じだ。ISのレーダーからもラウラの反応は完全に途絶えた。僕は目を閉じてガーベラストレートを構えてその場に滞空する。

そして、不意に上へとガーベラを振るう。すると見えないナニカと衝突した。その衝撃でミラージュコロイドが解除され、左腕に搭載されたクロウ《ツムハノタチ》で攻撃するラウラが目に入った。

 

 

「なにっ!?」

 

「よいしょ!」

 

「クソッ・・・何故私が此処に居ると分かった!?」

 

「直感」

 

「なん・・・だと・・・」

 

 

即答する僕にラウラが精いっぱいに頬を引き攣らせる。どうやら納得がいかなかったらしい。いや、あんな殺気をバンバンぶつけられたら分かっちゃうって。

 

 

----だが、主殿の直感は確かだ。

 

----そうかな?

 

----昔、なんとなく嫌だからと別の道で登校した事があっただろう。

 

----あった?

 

----あった。その日、何時もの道でトラックの事故があったんだ。

 

----事故位あるって。

 

----私の数える限り、似た様な事が10件はあったぞ。

 

----やだ、僕の周りトラブル多すぎ!?

 

 

白鋼の言葉に唖然となっていると、ラウラも僕と似た様な表情をしていた。この子まさか・・・!

 

 

----ラウラ、聞こえる?

 

----あ、ああ・・・。

 

----君もISの声が聞こえる様になったんだね。

 

----恐らくはあの時の影響だろう。

 

----その通りです、総統閣下。

 

----レーゲン!また会えたな。

 

----お久しぶりです。

 

 

ドイツ軍の人達、逃がした魚は大きいどころかもう一生手に入らないレベルだぞ。ISの声が聞こえるのは多分僕達だけだし。ラウラ達は何時の間にか話を終えた様で、僕に向かって来ていた。こちらも反応して斬り返す。

 

 

「隙を狙っても動じないか」

 

「それだけの距離があれば対応は可能だよ」

 

「やはりか!ならばこれでどうだ!」

 

 

クロウを切断した瞬間、ラウラの背部に装備されたマガノイクタチがハサミの様に可動して僕を両側から押し潰す。尋常ではない力に装甲が悲鳴を上げる。僕は皹が入り始める装甲を気にせず両手で押し返す。ほんの少ししか動かなかったが、十分だ。

 

 

「《パワードレッド》!」

 

 

次の瞬間、レッドフレームの腕部が専用の新アームへと変わる。巨大な腕へと変わったレッドフレームは軽々とマガノイクタチを握り潰した。ラウラはその光景に目を見開き、動きを止める。そこを逃さず、ラウラの腹部にボディブローを叩き込んだ。

ラウラは苦悶を表情で呻く。そのままSEが0となり、僕の勝利に終わった。ラウラを担いで着地する。

 

 

「大丈夫?結構強めにやっちゃったから」

 

「大丈夫だ・・・夢でシャルロットにパイルバンカーで腹に穴を開けられた時に比べれば・・・」

 

「なにその夢。怖い」

 

 

その後、回復したラウラと一緒に織斑先生の前に立つ。二人揃ってポン、と出席簿で軽く叩かれた。

 

 

「誰がそこまで本気で戦えと言った。もう授業が終わるぞ」

 

「す、すみません・・・」

 

「やりすぎました・・・」

 

「だが此方も良い戦いを見せてもらったのでな。強くは叩かない事にしてやった」

 

「「ありがとうございますっ!」」

 

 

叩かれたら意識飛ぶかも・・・。

こうして、ISの実習も終了して何もなく一日が終わった。そして放課後、シャロに話しかけられた。

 

 

「刹那、明日って時間あるかな?」

 

「特には無いけどどうしたの?」

 

「よかったら・・・一緒に臨海学校の道具を買いに行かない?」

 

 

そう言ってシャロはモジモジしながら聞いて来る。なんかこっちまで恥ずかしくなって来た。別に断る理由も無いのでオーケーする。

 

 

「構わないよ。それじゃあ、何時に待ち合わせしようか」

 

「良いの!?それじゃあ、後で連絡するね!」

 

「え、うん・・・」

 

 

シャロはそう言ってスキップしながら帰って行った。僕も外出届と護衛のお願いしとかなくちゃ・・・。書類の提出をする為に鞄を持って廊下を歩きだした・・・。

 

 

刹那サイド終了



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第11話

刹那サイド

 

 

翌日、僕とシャロはIS学園と本土を繋ぐ唯一の移動手段であるモノレールを使い、停車駅に隣接する大型ショッピングモールへと向かった。後ろの護衛の人達を確認しながら歩く。

 

 

「わっ!?」

 

「大丈夫?」

 

「う、うん・・・」

 

「人通りが多いから気を付けないとね」

 

 

人混みにぶつかってシャロがバランスを崩したのでそれを支える。シャロが態勢を整えると、またモジモジしながら聞いて来た。

 

 

「手、繋いでも良いかな?」

 

「良いよ」

 

「(もうちょっと意識してくれても良いと思うんだけどなぁ・・・)」

 

 

何故か不満そうな表情のシャロと手を繋いで道を進む。ある程度買い揃えた所でシャロに手を引かれ、水着売り場へと入る。思わず僕は強張った。此処へは行きたくなかった。"二重の意味"で・・・。

 

 

「それじゃあ、僕は自分の選んで来るから」

 

「・・・選んでくれないの?」

 

「お願いのレベルが高いんですけど!?」

 

「お願い刹那!お昼に此処のランチバイキング奢るから!」

 

「任せて。最高の水着を選んで見せるよ」

 

 

そう言ってサムズアップをする。食べ放題には勝てなかったよ・・・。

こうしてシャロの水着を選別する事になった僕はシャロと共に水着を選別する。ああだこうだと言い始めてから30分程で一番良いと思った水着をシャロに渡す。

 

 

「これが良いと思う」

 

「じゃあ、試着するから待ってて」

 

「え、此処で?」

 

「うん。此処で」

 

「シャロさんや。流石にそれh「バイキング」よっし!何時間でもバッチ来い!」

 

 

満足そうな顔で試着室のカーテンを閉めたシャロに僕は深い溜息を吐いた。それから数分して、カーテンが開かれる。そこには水着を着たシャロが立っている。

 

 

「どうかな?似合ってる?」

 

「・・・綺麗だ」

 

「ふへっ!?」

 

 

思わず声を漏らす。ハッキリ言ってシャロは美少女だ。歩いてる時もシャロを見る人の視線が多かった。そんな彼女はスタイルも抜群と来た。これ以上の言葉は必要ない。良いね?

 

 

「うん、それが良いと思うよ」

 

「そっかぁ。それじゃあ買って来るね」

 

 

シャロは水着を持って、レジへと向かった。僕も引っ張られて着いて行く。会計をしていると、水着の値段が表示される。その金額に僕は驚愕した。

えっ・・・女子の水着ってこんなに高いの?僕は財布を出そうとするシャロを止めて自分の財布を出す。

 

 

「これで足りますか」

 

「はい。彼氏さんのお支払ですね♪」

 

「か、彼氏だなんて・・・♡」

 

 

店員さんとシャロが何か言っているが、僕はそんな事頭に入っていなかった。頭の中に浮かんでいたのは、不用意に支払わせようとした高額な代金への罪悪感だけだった。支払いを済ませて今度は男性用の水着を買いに向かう。

 

 

「刹那、ありがとう」

 

「いや、良いんだ、うん。こっちこそごめん」

 

「?」

 

 

首を傾げるシャロに苦笑しながら自分の水着を選ぶ。するとシャロが水着を一つ差し出して来た。

 

 

「これなんてどうかな?」

 

「男の水着なんてどれも変わらない気がするけど・・・」

 

「結構印象変わると思うよ」

 

「そうなのかな?じゃあ、これにするよ」

 

 

さっさと会計を済ませて店を出る。すると、見知らぬ女性が話し掛けて来た。

 

 

「ちょっとそこのアナタ」

 

「はい?」

 

「これ、片付けておきなさいよ」

 

「はあ・・・」

 

「なによ。その服、アンタ男なんでしょ?だったら私の言う事聞きなさいよ」

 

「分かりました」

 

 

そう言って水着を差し出す女性。厚化粧と強い香水の匂いに思わず顔を顰めそうになるのを抑えて水着を受け取る。今日の僕はIS学園の制服だ。基本的にIS学園の生徒は長期の外出でない限り、制服でいなければならない。それ故に僕を男子と受け取ったのだろう。でなければ間違えられる筈だと過去の経験から分かる。

目の前の女性は恐らくIS学園の生徒だと言う事を知らないのだろう。世の中にはIS自体には興味を示さずに女性が優位と言う立場だけを利用する方々がいるのだ。

まあ、正確には女性が強いのではなくてISも使える一部の女性と言った所だが。でもISに乗る前に銃か何かで攻撃されたら意味がないが・・・。

シャロも面倒事だと分かっているのか何も言わないで僕に着いて来る。さて、このまま何も起きずに終わる・・・

 

 

「いや、自分で取った物なんだから自分でなんとかしろよ」

 

「私の言う事に文句でもあるの?」

 

 

なんで空気読まずに割り込んで来るかなコイツは・・・!

 

 

「文句も何も自分で出して戻すなんて子供でも出来る事だろ。それくらい自分でやったらどうだ?」

 

「そう、私に逆らうのね・・・警備員さーん!」

 

「ほら面倒な事になった・・・」

 

 

大声を上げる女性に僕とシャルは溜息を吐く。どうせ女尊男卑の風潮を良い事に冤罪でも掛けようとしてるのだろう。今の社会ではそう言った理由で男性が理不尽なリストラを受けたり、痴漢の冤罪に掛けられたりしている。

前にイリアステルの研究所でそう言ったニュースを見た束が虚ろな目でひたすら謝っていたのを覚えている。

 

 

「アンタ達もこれで終わりよ・・・私が乱暴されたって言えば学校は退学。もうまともに生きられないわね」

 

「何言ってんだ?」

 

「女に逆らうからこうなるのよ!ざまあ見なs「ほい。犯人確保」・・・はぁ?」

 

 

ゲラゲラと笑いながら叫ぶ女性の腕に手錠が掛けられた。それは警察の制服を着た男性によるものであった。女性は何が起こったのか分からない表情をした後に再び騒ぎ出す。

 

 

「何してるのよ!逮捕するのはあっち!早く私を離しなさい!」

 

「いや、間違いなくお前だよ。女性だからなんて言って食い逃げに万引き。おまけに男に暴力振るって病院送り。完全に逮捕もんだぜ」

 

「それの何が悪いって言うの!?男なんかがやってる店で食事したり商品を見てやったのよ!?無料にするのが当たり前じゃない!それに蹴り飛ばしたあの男だってあんあ冴えない見た目して彼女持ちだったからに決まってるじゃない!何が悪いのよ!」

 

「全部だよ」

 

「ひっ!?」

 

 

激昂する女性を男性の冷たい声が遮る。それに女性は小さく悲鳴を上げて何も言わなくなる。その後、女性は警察官に引き取られて行った。男性は僕達に向かって先程とは違う、優しい笑みを浮かべた。

 

 

「大丈夫か、お前等。この辺はああ言うのが多いから気を付けろよ」

 

「うん。ありがとう、《クロウ兄》」

 

「おうよ。久しぶりだな、刹那」

 

 

そう言って親指を立てる男性は父さんの同級生で現在警察官をしている《クロウ・ホーガン》だった。

 

 

「久しぶりクロウ兄!此処の交番の勤務だったの?」

 

「ああ。此処は広いからなにかと問題事が多いからって最近新しく出来たんだ。それで俺がそこの所属になったって訳だぜ」

 

「なるほど。あ、そういえば・・・彼女さんとはどう?」

 

「ぶっ!な、なんて事聞きやがる!?」

 

「またまた~。この前手紙に書いてたじゃないか。で、どうなのさ?」

 

「お、おう!順調だぜ!」

 

「良かった。彼女さんはどんな方なの?」

 

「刹那も会った事あるだろ?《シェリー》だよ」

 

「シェリーってあの《シェリー・ルブラン》の事!?」

 

 

クロウの口からでた名前にシャルが驚愕する。まあそれもそうだろう。フランスでは超有名人だからね。その言葉にクロウは嬉しそうに言う。

 

 

「おう!お前の想像通りだぜ」

 

「なあ、そのシェリーって人は誰なんだ」

 

「ニュースも見ない織斑は黙ってようね~」

 

「一夏、ちょっと黙ってて。ていうか帰って」

 

「二人して酷くないか!?」

 

 

何も知らない織斑に僕とシャロは軽く舌打ちをして教える。

 

 

「シェリー・ルブランはフランスの国家代表だよ」

 

「専用機の《フルルード・シュバリエ》を駆るその姿は正に騎士の如くってフランスでは常識だよ。ニュースでもよく特集してるし」

 

「でもシェリーさんってブルーノさんの事が・・・」

 

「ブルーノは機械にしか興味ねえから振られたんだよ」

 

「そこを空かさず狙ったと・・・やるねえ」

 

「う、うるせえ!」

 

 

ニヤニヤする僕にクロウが怒る。もう、可愛いなあこの人は!僕の兄貴分の様な存在だったこの人は実はかなりの初心で、恋愛事に関しては絶対に触れない人だった。

そう言った話が一つも無かった為に一時期はホモなのでは無いかと父さんとジャックおじちゃんが心配したレベルで。

そんなクロウ兄が遂に彼女持ち。しかもあのシェリーさんだ。

シェリーさんは父さんの知り合いで、元々はフランスからの留学生だった。そしてブルーノさんに恋をしていたのだが、留学中に告白する事は出来ずに母国へ戻ってしまった。その後は、フランスの代表となった。まさか振られていたとは・・・。

 

 

「うおやっべ!《牛尾》の旦那にどやされちまう!じゃあな!」

 

「うん、またね」

 

 

時間を確認したクロウ兄は交番へと走って行った。

久しぶりに会えた僕は満足した気分でシャロと歩き出す。

 

 

「なあ、この後飯でも食べに行こうぜ」

 

「・・・なんで着いて来るのかな?」

 

「良いじゃないか。友達だろ?」

 

 

散々人の事を卑怯者だとか罵ったり、殴って来た挙句、部屋から放り出したりした癖にそんな事が言えるんだこの子は?

 

 

「一夏、ボクは刹那と二人で居たいんだ。だから帰ってくれるかな?」

 

「酷いぜシャロ。別に良いだろ?皆で居た方が楽しいし」

 

「ボクは楽しくないの!あとシャロって呼ばないで!この名前で呼んで良い男は刹那だけなんだ!」

 

 

シャロは織斑にそう怒鳴る。この子が織斑に対して此処まで感情的になるのは初めてだ。織斑と一緒にポカンとなる僕の腕を掴んでシャロは歩き出す。織斑も目の前の状況を飲み込めないまま、その場に立ち尽くしていた・・・。

暫く歩いた僕達は近くのベンチに腰掛けた。僕は自販機で飲み物を買ってシャロに渡す。

 

 

「・・・ごめんね、刹那。感情的になっちゃって」

 

「いや、それは構わないよ。でもシャロが織斑に対してあそこまで怒るの初めてだなって」

 

「だって・・・シャロって呼んだから」

 

「君って渾名に拘る人だっけ?」

 

「そうじゃないけど。でもシャロって呼ばれるのは特別なんだ」

 

 

シャロは俯いて空になった缶を強く握る。缶の軋む音が人混みから聞こえる音にかき消された。

 

 

「この渾名は、僕に未来をくれた刹那が付けてくれた大切なものだから」

 

「僕は何もしてないよ。その未来は紛れもない君の意思で、君の手で切り拓いたんだ」

 

「だとしても、刹那が言ってくれなかったら僕は人形(シャルル・デュノア)のままで人生を終えていたと思う。何もせずに、流されるがままに」

 

 

人形。デュノア社の社長の愛人の子として生まれたシャロは良い様に扱われ、IS学園へと送られて来た。そんな彼女は正に人形そのものだ。

でも彼女は動いた。仮にも実の父親の経営する会社を潰す事で、自由を手に入れた。それは確かに彼女が掴み取った新たな未来だ。

 

 

「だから、本当に刹那には感謝してるんだ。何回言っても足りない位だよ」

 

「な、なんか恥ずかしくなって来たんだけど・・・」

 

「ボクも・・・」

 

「「・・・」」

 

 

二人の間に気まずい空気が流れる。僕は手を叩いて無理やりこの空気を終わらせた。

 

 

「はい、この話は終わり。そろそろご飯食べに行こうよ。奢ってくれるんだよね?」

 

「う、うん!」

 

「出禁になる位たべるぞ~」

 

「それはちょっと止めてほしいかな・・・」

 

 

苦笑いを浮かべるシャロの手を引っ張って、僕達は歩き出した・・・。

 

 

刹那サイド終了

 

 

三人称サイド

 

 

刹那達が歩く少し後ろを数人の人影が着けていた。私服に身を包んだ彼等はどこも可笑しくは無い。ただし、髪に隠れた通信用のイヤホン以外は。彼等は刹那の護衛に付けられた国のエージェント達だ。

 

 

「・・・彼が移動を開始した」

 

『了解』

 

『了解』

 

 

刹那達に一番近い位置を歩く男性が小声で離すと、耳に仲間からの返事が聞こえる。そして刹那達の後ろを再び歩き出した。

 

 

「やはり、あの少年も青春しているんだな」

 

『そりゃそうっすよ先輩。高校生なんだから恋愛の一つや二つありますって』

 

『私はその子も気になったけど、護衛も付けずにフラフラしてるもう一人の子の方が心配だけどね。なんだっけ?織斑千冬の弟の・・・』

 

「織斑一夏だ。いい加減人の名前を覚えろ」

 

『すみませんでした~』

 

 

通信機の向こうから聞こえる若い男女の部下の声に溜息を吐く彼は先輩と呼ばれていた。

 

 

「彼は自分の立場を理解していないのだろう。この前、彼の護衛に付いた奴らから話は聞いたか?」

 

『聞きましたよ。嫌がって護衛を拒否した上に姉に言い付けるとか言い出したんでしょ?』

 

『うっわ、何それ』

 

『しかもその後、移動中に走り出して護衛を巻いたから』

 

『一回攫われないと分からないんじゃない』

 

『ところがどっこい。彼は一度誘拐されてるのさ』

 

『それマジ?』

 

「おい。一応その話は国家機密だぞ」

 

『隠し事ってのはバレる為にあるんすよ』

 

『なにそれ私聞きたい』

 

「・・・仕方ない」

 

 

先輩は後輩たちのお喋りを許した。この先輩も色々と織斑一夏やIS委員会に思う所もあり、色々と鬱憤が溜まっているのだ。本来許される事では無い。だが、彼はその誘惑に負けてしまった。

 

 

『織斑千冬が二回目のモンド・グロッソ優勝を逃したのは知ってる?』

 

『それ位はね。テレビとかだと体調不良って聞いたけど』

 

『あれ真っ赤な嘘。実は織斑一夏が誘拐されて人質に取られたからなんだよ。大会を降りろって言う脅迫付きで』

 

『あの鉄面皮にも家族に対する情があるのね』

 

『そんで、ドイツから居場所の情報を提供してもらって大会捨てて助けに行ったんだよ。それから礼としてドイツに1年位ISの指導に行ってたみたいだけど』

 

『ふ~ん。それなのに何も学んでないんだあの子』

 

「・・・そろそろ仕事に戻るぞ」

 

『『は~い』』

 

 

その言葉に二人は私語を止める。刹那達が食事をする為に入店したのを確認して、自分達もそこへ向かった。

 

 

『それにしても、なんで水着売り場の時に何もしなかったの?』

 

『あの警官が近づいて来てるのが分かったからな。俺達の出番はいらないと判断した』

 

『織斑一夏がまた騒ぎ出しても困るっすからね』

 

『そう言う事ね。よっし!経費で食べ放題~♪』

 

「・・・仕事だということを忘れるなよ」

 

 

部下に釘を刺してから、刹那達の後を追う様に店内へと向かった。

 

 

三人称サイド終了

 

 

刹那サイド

 

 

シャロと食事を済ませてから、店を出る。すると、セシリアとラウラの二人に出会い、目が合った。

 

 

「せ、刹那さん。それとシャロさんも、奇遇ですわね」

 

「セシリア達も買い物?」

 

「そうですわ!私達m「いや、刹那がシャルロットと二人で出掛けたから尾行していた」ラウラさん!?」

 

「あはは・・・(来ると思った)」

 

 

数分間程シャロ達は睨み合い、何故か全員で行動する事になった。そしてラウラの要望で僕達はあるコーナーへと向かう。そこはゲームコーナーだった。数々のゲームから音が鳴り響く。お嬢様育ちなセシリアや軍人のラウラ、あまり自由の無かったシャロの三人は未知の光景に目を輝かせていた。

 

 

「それでラウラ。どんなゲームをやってみたい?」

 

「ああ!このゲームだ!」

 

 

そう言ってラウラはチラシを見せて来る。そこには今日から並ぶクレーンゲームの景品が載っていたいた。ラウラの指はその中の黒い兎のぬいぐるみを指していた。

 

 

「私はこれが欲しい」

 

「それじゃあ、こっちだね・・・セシリア?」

 

「はいっ!?別にあのゲームが気になってなどありませんわ!」

 

「分かり易いな君は。後でやろうか」

 

 

セシリアが見つけたのはISのカードゲームの台。ISとパイロットのカードを組み合わせて戦うゲームだ。何故か僕と織斑の機体が出ていたけど、見なかった事にした。

クレーンゲームのコーナーへ向かい、ラウラの目的の物が置いてある台の前に着いた。

 

 

「ほら、此処だよ」

 

「・・・どうすれば良い?」

 

「そこから!?・・・ちょっと見てて」

 

 

試しに100円を入れてゲームを開始する。ラウラ達がおお!と新鮮な反応を見せてくれる中、アームを動かす。

 

 

「こうやってアームを動かして取るんだ・・・あ、取れた」

 

「なにっ!?」

 

「行けるものだね。はい、ラウラ」

 

「い、良いのか?これはもうアレだぞ?返さないぞ」

 

「言わないから。あと抱き締めすぎて兎が可愛そうな事になってる」

 

「いかん!危うく刹那トークンを潰してしまう所だった」

 

「変な名前付けないで!?」

 

「ふふふ・・・お前は今日から私の部下だぞ、刹那!」

 

「一番嫌な所残っちゃった!?」

 

 

嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめるラウラを見ながら僕達はほっこりとした気分になった。

 

 

「さて、次はセシリアの見てたゲームやろうか」

 

「「ボク(私)の刹那トークン・・・」」

 

「分かったよ分かりました!貢がせていただきます!」

 

 

結局二人と更識姉妹、のほほんさん用に取ってから行きました・・・。

気を取り直して向かった先はセシリアが興味を示していたゲーム台。所謂カードダスと言う物だ。

 

 

「100円で1プレイらしいよ」

 

「小銭を持った事がありませんわ・・・」

 

「貸すから後で返しなさい」

 

「ありがとうございます。では、行きます!」

 

 

緊張した面持ちで椅子に座って100円を入れるセシリア。するとカードが出て来た。キラキラと光っている辺り、レアカードなのだろう。セシリア運良いな~。

 

 

「ねえ、誰が出たの?」

 

「せ、せ・・・」

 

「せ?」

 

「刹那さんが出ましたわーーーっ!」

 

「ファッ!?」

 

「刹那!?」

 

「刹那だと!?」

 

「名前を連呼しないで!?」

 

 

セシリアが今までにないテンションで僕が描かれたカードを振り回す。その声に周りの視線が集中して恥ずかしい。すると小学生位の男女がセシリアに寄って来た。

 

 

「すっげー!姉ちゃん刹那さんのカード当てたの!?」

 

「それ一番のレアなんだよ!」

 

「私の千冬様と交換して!」

 

「だ、駄目ですわ!刹那さんは私の物です!」

 

「どさくさに紛れて何言ってるのかなセシリアは」

 

「よろしい。ならば戦争(クリーク)だ」

 

「ああもう、めちゃくちゃだよ」

 

 

セシリアの隣の台に座って僕も試しにやってみる。すると僕もカードが出て来た。しかもレアカード。

 

 

「山田先生・・・何してるんですか」

 

 

そこに描かれていたのは山田先生が描かれたカードだった。しかも最高レアリティの。

後々調べたらカード価格が5000円を超えていた。

 

 

「こっちもレアだ」

 

「もしかしてこの人って不動刹那!?」

 

「本物だー!」

 

 

児童達の声に全員の視線が僕に向いた。騒ぎ出しそうだったので、軽く足を地面に叩きつけて音を出す。予想以上に響いた音に対し、全員がシンとなる。僕は笑顔で指を唇へ持って行き、静かにとサインをする。

 

 

「できれば僕の事は黙っててね。皆が遊べなくなっちゃうから」

 

「・・・ごめんなさい」

 

「こっちこそごめんね。良かったら僕達に遊び方を教えてくれないかな?」

 

「うん!」

 

「ありがとう」

 

「はわ・・・♡」

 

「(落ちましたわね)」

 

「(落ちたね)」

 

「(落ちたな)」

 

 

こうしてやり方を教わりながら僕達はカードゲームをプレイした。結果、全員がドハマりして、一人の平均散財額が3000円を超えたのは言うまでも無い。500円でデータを保存できるカードとか、買うしかない。

あの後、子ども達のカードにサインを書いたりした。まさかサインを書く日が来るとは・・・。

遊び尽くした僕達は帰りのモノレールに乗って、学園のある人工島へと戻る。下車した僕は車内で寝落ちしたラウラを背負ってセシリア達と学園へと歩き出した。

 

 

「楽しかったね、今日は」

 

「そうだね。またあのゲームやりたいな」

 

「私も今度は刹那さんの機体を手に入れますわ」

 

「自分がカード化されるって結構恥ずかしい」

 

「刹那はレアカードを一枚あの子に上げてたけど、良かったの?」

 

 

シャロは聞いて来た。それは僕が当てたあるレアカードを男子の一人が欲しがっていたから上げた。別にそこまで欲しい物ではないし。

 

 

「良いんだ。織斑のカードだから」

 

「あっ・・・(察し」

 

 

こうして僕達は買い物を終え、臨海学校へ向けての準備を開始した・・・。

 

 

刹那サイド終了

 

 

三人称サイド

 

 

~イリアステル[研究所]~

 

 

「・・・これでよし」

 

 

薄暗い部屋で束はあるISの整備を終えた。それは紅に染まったISだった。それを見つめる束は覚悟を決めた表情で一人呟いた。

 

 

「あの子がこれを使うに相応しいかどうか。・・・私自身で見極める」

 

 

再会の日は近い・・・。

 

 

三人称サイド終了




~買い物後~


刹那「はい、お土産」

楯無「刹那トークンね!」

簪「刹那トークン・・・可愛い」

本音「せっちゃんトークンだ~」

刹那「その名前は確定!?」

ハロ『セツナ!カワイイ!セツナ!カワイイ!』



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第12話

~出発前日[刹那&楯無ROOMにて]~


楯無「やだやだやだ!私も行きたい!」

刹那「無理ですよ。一年生のイベントなんですから」

簪「止めてお姉ちゃん。見てて反吐が出るから」

楯無「簪ちゃん!?」

刹那「まあ、諦めてください」

楯無「だって二人の水着姿が・・・特に不動君のビキニ見たかったぁ!」

刹那「着るかそんな物」

楯無&簪「「えっ?」」

刹那「えっ?」


刹那サイド

 

 

遂に臨海学校の日がやって来た。宿泊する旅館へとバスで移動する。窓側の席へと割り当てられた僕はボーっと窓の外を眺めていた。

 

 

「どうした刹那?」

 

「・・・別に」

 

 

隣に座る織斑が声を掛けて来る。諸悪の根源に言われても腹が立つだけだ。正直な話、今すぐバスを降りたい。徒歩でも良いからコイツと離れたい。

あれだけやらかしておきながらヘラヘラと笑って来る織斑に僕は怒りが天元突破しそうだった。しかもまたシャロって呼んで冷たい目で見られてたし。最近は鳳さんもあまり織斑と関わらなくなったな・・・。

 

 

「・・・何故アイツなのだ」

 

 

後ろの席から篠ノ之さんの爪を噛む音と陰口が聞こえて来る。やれ卑怯者だの、軟弱物だの、やかましくて仕方がない。くじ引きで決まってしまったからには文句の言い様がないし。

ああ、何故セシリア達とこんなにも離れてしまったんだ。現実が嫌になった僕は目を瞑って、眠る。織斑達の声が遠くなり、次に聞こえたのは誰かがお茶を啜る音だった。

 

 

『おお、マスターか。よく来たな。まあ、茶でも飲め』

 

『ありがとう。セシア達は?』

 

『セシアとラファールは映画を観に行ったぞ。映像装置の中へ侵入して観るそうだ』

 

『それ、バレたら僕が捕まる気が・・・』

 

『問題ない。あの二人がそんなヘマやらかす様に見えるか?』

 

『そうだね。何の映画観に行ったんだろう』

 

『確か愛知の方で撮影された御当地映画と言っていたな』

 

 

そう言ってお茶を飲む白鋼の隣に座って僕もお茶を飲む。御当地映画ねえ・・・。

 

 

『内容とかって聞いた?』

 

『そう言えばこの辺に・・・あった。パンフレットを貰っている』

 

『どれどれ・・・《儂の名は》?』

 

『織田信長が主人公らしいぞ』

 

『嫌な予感がするから止めておくよ』

 

 

結局、宿へ着くまでの間は白鋼と雑談して時間が過ぎて行った。

到着すると、誰かが僕を起こした様で意識が戻る。若干気だるさを感じながらもバスを降りた。

 

 

~宿泊地前~

 

 

「此処が今日からお世話になる旅館だ。迷惑を掛ける様な事はしない様に」

 

『お世話になります!』

 

 

海の前に建てられた旅館。その入り口で、女将である女性に全員で頭を下げる。女性は上品な笑顔で返してくれた。

 

 

「皆様、どうぞごゆっくりしていってくださいな。・・・あら、このお二人が御噂の?」

 

「はい。お前等、挨拶しろ」

 

「お、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

「不動刹那です。お世話になります」

 

「ふふっ。そんなに畏まらなくても良いですよ。それでは、お部屋の方へご案内させていただきます」

 

 

女将さんの案内で僕達は部屋へと案内される。女子達がそれぞれの部屋へ割り当てられる中、僕と織斑は先生達の宿泊する部屋の前まで来た。まあ、なんとなくは予想してた。

 

 

「では、ごゆっくり」

 

「ありがとうございます」

 

 

ペコリと頭を下げてから歩いて行く女将さんを見送ると、織斑が疑問の声を上げる。

 

 

「織斑先生、俺達の部屋は?」

 

「女子達の近くにしたりすると馬鹿共が騒ぎそうだからな。お前達二人は同室・・・と言いたい所だが、また暴力事件を起こされてもたまらん。よって、織斑は私と同室。不動は山田先生と同室だ」

 

「なっ!?あれは刹那が!」

 

「理由がどうであれ暴力を振るったのはお前だ」

 

「くそっ・・・!」

 

 

荒れる織斑に先生は溜息を吐く。僕は一人逆ギレしてる馬鹿を放置して山田先生に頭を下げる。

 

 

「臨海学校の間、よろしくお願いします。異性と同室と言う事に抵抗があると思いますが、そこはどうか許していただきたい。僕も殴られるのはごめんなので」

 

「不動君も気にしないで良いですよ。寧ろ私も新鮮な体験ですし、それに不動君だったら・・・」

 

「そう言ってもらえると助かります」

 

「よろしくお願いしますね♪」

 

 

そう言った山田先生と共に部屋の中へと入る。流石教師用の部屋なだけあって中々に広く、高級感がある。荷物を置いて、鞄から本とイヤホンを取り出して窓に置いてある椅子に座る。イヤホンを携帯に繋げてから音楽を流し、読書を始めた。

そんな僕に山田先生が声を掛けて来る。

 

 

「ふ、不動君?海は・・・?」

 

「行きませんよ?」

 

「でも水着買ったんですよね?休日に」

 

「買ったけど泳ぐとは言ってませんよ?」

 

「じゃあ何の為に?」

 

「此処の温泉、露天風呂があるじゃないですか」

 

 

僕が言うと山田先生がコクリと頷いた。なんとなく可愛らしさを感じさせる仕草に苦笑しながら続ける。

 

 

「でも露天風呂は混浴になってるんですよ。入りたかったら水着を着用と書かれていたので買っただけです」

 

「で、でも折角海まで来たんだから泳がないと・・・」

 

「良いです。僕、"泳げない"んで」

 

「・・・ふへ?」

 

 

山田先生が間抜けな声を出して固まる。そう、僕はカナヅチだ。小さい頃から泳ぐのが苦手だった。父さんは泳ぎが上手いのに僕はその真逆。

でも父さんも昔泳いでて母さんに[・・・里帰り]とか言われて泳ぐの止めたんだよね。やっぱり蟹って言われるのショックなんだなぁ・・・。

 

 

「と、言う訳で僕は此処で本を読んでいるか寝てますのでどうぞごゆっくり」

 

 

僕は山田先生から視線を外して読書を再開する。すると部屋の障子戸が開けられ、織斑が入って来た。

 

 

「刹那、海行こうぜ!」

 

「嫌だ」

 

「そんな事言うなよ。もしかしてお前、泳げないのか?」

 

「そうですけど何か?馬鹿にするんだったらご勝手に」

 

「するかよ、そんな事。俺が教えてやるから行こうぜ」

 

「断る。引き摺るなバッグに触るな!?」

 

「よし、行こうぜ」

 

 

僕の言葉に耳も貸さず、織斑は僕の本と機械類をバッグに仕舞ってから無理やり海へと連行した。部屋にはポカンとした山田先生が取り残されていた。

 

 

~ビーチ~

 

 

「・・・暑い」

 

「そりゃそうだろ。晴れの海だし」

 

 

水着の上にパーカーを羽織った僕はパラソルの中で愚痴る。それを織斑が溜息を吐いてツッこんだ。溜息を吐きたいのはこっちだよ。

暫くすると女子達が水着を着て歩いて来た。

 

 

「あっ、織斑君達だ!」

 

「私可笑しい所無いかな?」

 

「不動君の萌え袖パーカー可愛い!本当に女の子みたい!」

 

「織斑君の腹筋凄ーい!」

 

「ブックス!」

 

 

なんか一人、面白き盾とか呼ばれてそうな人の声が聞こえたが気にしない様にしよう。なんとか持って来る事が出来た鞄から本と機械類を取り出して、部屋と同じ体制になる。織斑が何か言い出したが、音量を上げて無視した。

すると、僕の前に藤原さんが来た。なんとも布面積の少ないビキニなんだろうか。織斑が顔を紅くして慌てている。

 

 

「どう坊や?お気に入りのブランドなの」

 

「露骨過ぎて怖い。セクハラで訴えるよ?」

 

「もう、連れないわね。でもそこが良いわ」

 

「分かったから離れてくれないかな?」

 

 

僕の体にスルスルと手を伸ばして来る藤原さんを追い払う。あの人もセクハラ魔人だな。会長と同じ類としてカテゴリ付けしておこう。

そんな事を思う僕の前に今度は人影が複数立つ。視線を上げるとそこに居たのはセシリア達専用機組の面々だった。

 

 

「ど、どうですか刹那さん。私の水着は?」

 

 

セシリアはそう言って、恥ずかしそうに水着姿を見せて来る。恥ずかしいならしなきゃ良いのに。そんな事を思いながら僕は改めてセシリアに視線を向けた。

彼女のイメージカラーである青のビキニと腰に付けた白のパレオの組み合わせは控えめに言って似合っていた。流石お嬢様と言うべきか、水着姿でも上品さを醸し出している。

 

 

「うん、凄く似合ってる。綺麗だよ、セシリア」

 

「はうっ♡」

 

「せ、セシリアがやられた!?」

 

「流石刹那・・・笑顔であんな台詞を。アレを正面から受けたら、私は意識を保っていられないぞ、シャルロット!」

 

「ぼ、ボクだってそうだよ」

 

 

そんな事を言いながら僕が選んだ水着を着たシャロと、何故かタオルでグルグル巻きになっているラウラだと思われる何かが慌てる。うん、まるで意味がわからんぞ!

それから数分、覚悟を決めた表情でシャロが前に出る。

 

 

「どうかな、刹那?」

 

「バッチリじゃないか。僕の見立ては間違ってなかった」

 

「本当!?」

 

「嘘言ってどうするのさ。それに、シャロに似合うと思って選んだ水着なんだから。自信持ちなよ。凄く似合ってる」

 

「えへへ・・・♪」

 

 

僕の言葉にシャロは笑顔になる。シャロもビキニタイプの水着で、これまたイメージカラーに合ったオレンジだ。シャロもその容姿故に凄く似合っている。

まあ、僕が選んだ水着を着てる時点で今更感のある反応な気がするけど、口には出さないでおこう。

 

 

「・・・で、君はラウラで良いんだよね?」

 

「そ、そうだ」

 

「何そのタオル。ビーム兵器無効のマントか何か?」

 

「なんだそれは?」

 

「いや、ただの宇宙海賊の話だから気にしないで」

 

「う、宇宙海賊?」

 

 

首が動かない代わりに体を横に逸らして疑問符を浮かべるラウラに笑いそうになりながら僕は誤魔化す。

するとラウラは唸り声を上げ始めた。なんか面白い、この子。

 

 

「う~・・・こうなったら玉砕覚悟だ!刹那よ、私の生き様をその目に焼き付けろ!」

 

 

そう言ってラウラは己に巻き付いていたタオルを取り払う。

大変男気のある言い方だったが、地面を見てモジモジし始めた。どうしたもんかと考えていると、シャロに小声で[何か言ってあげて]と言われたのでラウラに視線を向ける。

上下黒のビキニを身に付けたラウラは、何と言うかこう、一歩階段を上がった様な感覚を思わせる。髪型も合わせてツインテールになっていた。ぶっちゃけた評価は背伸びした中学生と言った感じである。と言うかビキニ流行ってるのかな?服装の流行って分からない・・・。

そんな事を考えながら僕の口から出た言葉は、

 

 

「あ、可愛い」

 

「ほっふん!?」

 

「ラウラ!?」

 

 

シンプルだった。シンプルに可愛い。今まで制服とISスーツのラウラしか見て来なかった所為か、凄く新鮮に感じる。うん、可愛い。

その本人は、何故か顔を紅くしてそのまま後ろに倒れた。それをシャロが抱える。なんともカオスな状況なのだろうか。

 

 

「ラウラさんがダークホースでしたのね・・・!」

 

「何言ってるの、セシリア?」

 

「な、何でもありませんわ。それより、刹那さん」

 

「ん?」

 

「私にオイルを塗っていただけませんか?」

 

 

そう言ってセシリアは持っていた籠からオイルの入った容器を取り出した。別にやる事も無いので了承する。

 

 

「別に良いよ」

 

「ありがとうございますわ(言ってみるものですわね!)」

 

「それじゃあ、そこに寝そべってもらえる?」

 

「は、はい・・・」

 

 

セシリアはシートにうつ伏せになって水着の紐を解いた。僕は袖を捲ってからオイルを手に取って、ある程度温める。それからセシリアの背中にオイルを滑らし始めた。

 

 

「ふぁっ♡せ、刹那さんお上手ですのね・・・♡」

 

「そうかな?あまりやった事がないんだけど」

 

「ど、どこかで御経験が・・・ぁっ♡」

 

「母さんの実家にプールがあってさ。そこでよく母さんにオイル塗らされたから慣れてるんだ」

 

「な、なるほどぉ♡」

 

「せ、刹那ストップ!セシリアが危ない顔してるから!?」

 

「はい?まあ丁度終わったから良いけどさ」

 

 

セシリアの背中を塗り終わった僕は手を離す。セシリアはうつ伏せだったから表情が見えなかったけど何故かビクビクしてた。そんなにくすぐったかったのかな。

 

 

「えっと、大丈夫?」

 

「ら、らいひょうふれすわぁ・・・♪」

 

『・・・ゴクリ』

 

「すっげ・・・」

 

「何鼻の下伸ばしてんのよ馬鹿ぁ!」

 

「ぐえっ!?」

 

 

呂律が回っていないセシリアを少し心配しながら僕はオイルをタオルで拭う。何故か周りから生唾を飲む音が聞こえたが、意味が分からずに首を傾げていた。あと織斑が鳳さんから見事なタイキックを喰らった。

読書を再開しようとした時、声を掛けられる。それはのほほんさんと簪だった。

 

 

「ふ~ちゃ~ん!」

 

「ほ、本音・・・声大きい」

 

「どうしたの、二人共」

 

「ふーちゃんに水着を見せに来たのだ!」

 

「は、恥ずかしい・・・」

 

「みず・・・ぎ?」

 

 

僕はのほほんさん達を見て疑問の声を上げる。簪は水色のビキニだ。純粋に似合ってると言えるだろう。問題はのほほんさんの方だ。彼女の水着はその・・・キグルミ?

恐らく狐と思われるキグルミを着用しているのだ。正直、何も言えない。

 

 

「えっと・・・こ、個性的で良いんじゃないかな!」

 

「えへへ~、褒められちゃった~♪」

 

「(本音、刹那の頬が引き攣ってるよ・・・)」

 

「簪も、その水着可愛らしくて似合ってるよ」

 

「あ、ありがと(やった・・・!)」

 

 

のほほんさん達が何やらそれぞれの反応を示していると、のほほんさんが急にビシッとポーズを取った。

 

 

「思い出した!ふーちゃんにもう一個ごほーこく!」

 

「どうしたの?」

 

「向こうに海の家があって、食べ物いっぱい売ってたよ~」

 

「な ん だ っ て ! ?」

 

 

僕は鞄から財布を取り出して金額を確認する。うん、これなら満腹になれる!

 

 

「ふーちゃん、一緒に行こ~」

 

「勿論さ。よし、目指すはメニュー全制覇!」

 

「お~!」

 

「程々にね・・・」

 

「それじゃ~、れっつらご~!」

 

 

そう言ってのほほんさんは僕と簪の手を掴んで走り出した。僕と簪は転びそうになるが、なんとか立て直してのほほんさんに着いて行く。自然と僕達には笑顔が浮かんでいた・・・。

海の家でとりあえずアイス系以外のメニューを全て注文する。後はのほほんさん達の分も代金を払った。基本お小遣いとか使わないからかなり余裕がある。頼んだメニューは完成次第持って来てくれるらしく、僕達はパラソルがある所へ戻った。臨海学校中は僕達しか居ないらしく、すぐに分かるそうな。

頼んだメニューが来たのはそれから10程度経ってからだった。

 

 

「はいよ、ラーメンとカレーにから揚げとたこ焼き、イカ焼きとフランクフルトお待ち!」

 

「ありがとうございます」

 

「他のも直ぐに持ってくっからな!」

 

 

そう言って店員の男性は走って海の家へと戻って行った。僕は並べられた料理を食べ始めた。

 

 

「いただきます。・・・はむっ」

 

「ふーちゃんやっぱり食べるね~」

 

「・・・見てるこっちがお腹いっぱい」

 

「泳がない分、こっちで楽しまなきゃね」

 

「泳がないの?」

 

「泳げないの。昔から水泳だけは苦手なんだ」

 

「なんか意外・・・」

 

 

驚愕する簪の表情に苦笑しながら僕は食事を続ける。店員さんが次の料理を持って来た時には全て食べ終わっていた。

 

 

「次のお待ち!サザエの壺焼きと魚の塩焼き、焼きホタテと枝豆ね!」

 

「あ、ラーメンとたこ焼きのおかわりお願いします。お金はこれで丁度ですよね」

 

「まいど!姉ちゃんすげえ食いっぷりだな」

 

「僕は男です」

 

「わ、悪かったな。たこ焼きの数サービスすっから許してくれや」

 

「許します!なのでおかわり!」

 

 

追加の料理を食べながら目の前を見る。皆が大はしゃぎしている。なんとも平和な光景だ。そう思っていると後ろから声を掛けられた。

 

 

「うわっ、相変わらずの食欲ねアンタ」

 

「鳳さん、泳がないの?」

 

「今から泳ぐ所よ。一夏とあそこまで競争しようかなって」

 

 

そう言って鳳さんはかなり向こうにあるブイを指差した。僕は溜息を吐いて鳳さんに言った。

 

 

「悪い事は言わないから、浅い所で遊びなさい」

 

「なんでよ。別に良いじゃない」

 

「君だけの時なら一向に構わないさ。でも、今は集団行動だ。もし君か織斑が足でも吊って溺れたら全員に迷惑が掛かる。そこの所、よく考えなよ」

 

「うっ・・・分かったわよ」

 

「そんな顔しないでよ。ほら、枝豆あげるから」

 

「どうも。それじゃあ、行って来るわ」

 

 

そう言って鳳さんは歩いて行った。それから数分後、織斑に担がれて鳳さんが戻って来た。僕と簪は思わず溜息を吐く。のほほんさんは笑っていた。この子何気に酷いな。

 

 

「・・・足吊った」

 

「言わんこっちゃない」

 

「浅い所じゃなかったら危なかったぜ、鈴」

 

「反省してます・・・」

 

「旅館まで運んでやるよ」

 

「良いわよ。此処で見てるから、アンタは遊んで来なさい。シャルロット達とビーチバレーやるんでしょ?」

 

「そうか?じゃあ、行って来る。刹那、悪いんだけど鈴の事頼んでも良いか?」

 

「はいはい」

 

 

適当に返事して手を振ると織斑はシャロ達の居るビーチバレーのコートまで走って行った。僕達も食事が終わり、各々の時間を過ごす。のほほんさんは友達とビーチバレーをしに行ったし、簪は僕の膝を枕にして眠っている。

僕も音楽を聞きながら読書を始めた。

 

 

「へくちっ」

 

「・・・ほら」

 

「ありがと・・・良い匂い」

 

「そりゃどうも」

 

 

くしゃみをする鳳さんに着ていたパーカーを渡した。そのまま僕は読書を再開する。でも僕は気が付けば眠気に誘われて目を閉じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・んぅ」

 

「あ、起きた?」

 

「・・・鳳さん?」

 

「そうよ」

 

 

誰かが頭を撫でる感触で目が覚める。僕の視界に入ったのは頭の上に手を置いた鳳さんだった。どうやら僕は鳳さんに膝枕されていた様で、起き上がってから頭を下げる。

 

 

「ごめん」

 

「な、何で謝るのよ」

 

「君は、その・・・織斑の事が」

 

「ああ、そう言う事ね。別に気にする事ないわ。だってこの程度じゃ一夏はどうとも思わないもん」

 

「それもそれでどうかと・・・」

 

「まあ、パーカーのお礼とでも思ってくれれば良いわ。これ、ありがと」

 

「ん。じゃあ、そう思っとくよ鳳さん」

 

 

パーカーを受け取るが、鳳さんが力を入れている所為か離れない。鳳さんを見ると、少し不機嫌そうな顔で言った。

 

 

「・・・鈴で良いわよ」

 

「なんで?」

 

「なんでって・・・セシリア達は名前呼びなのに私だけファミリーネームなのは疎外感があるのよ」

 

「織斑と篠ノ之さんも名字呼びだけど?」

 

「それはアンタが嫌ってるからでしょうに。私の事は、嫌い?」

 

「そういう訳ではないけど・・・じゃあ、僕も刹那で良いよ」

 

 

こうして僕は鳳さん改め鈴と呼ぶ事になった。こうして臨海学校初日は夜を迎える。

この日を境に、シャロ達から何故かオイルマッサージをお願いされる事が増えたのだが、その話はまた何時か・・・。

 

 

~夜[旅館内]~

 

 

「はむっ・・・美味しい」

 

「本当だね。和食って凄いなぁ」

 

「や、やっと動ける様になりましたわ・・・」

 

「セシリア、大丈夫か?」

 

 

シャロ達とテーブルに座って食事を摂る。座敷とテーブルに席が別れており、シャロ達に長時間の正座は難しい事と、織斑と篠ノ之さんが近くに居る事を配慮してテーブルに座った。僕達がテーブルに移動した事で織斑と篠ノ之さんが隣同士になった。これで面倒事に巻き込まれる心配はないだろう。

鈴や簪は別クラスなので別の部屋で食事をしている。

 

 

「ねえ刹那。この緑の盛ってあるのは何?」

 

「山葵だよ。刺身に少量付けて食べるんだ。辛いから食べる時は気を付けてね」

 

「うん。えっと、ワサビをちょこっと付けて・・・美味しい!ちょっと鼻にツンと来るけど風味が良いね」

 

「多分本わさかな」

 

「本わさとはなんだ、刹那?」

 

「簡単に言えば日本原産の山葵の事かな。西洋山葵と区別を付ける為の呼び方でもあるけど」

 

「ホースラディッシュの事ですわね」

 

「そうだね。まあ、どうでも良い話はこの辺で、兎に角食べなよ」

 

 

二人はシャロの真似をして山葵を少し乗せて刺身を食べる。するとシャロと同じ反応をし始めた。海外組の反応新鮮で良いな。

その後も、海の幸に下鼓を打ち、僕達は料理を堪能した。それからシャロ達と別れてから入浴し、部屋に戻る。今日は露天風呂に女子がいっぱいだったから明日にしよう。

部屋の前まで行くと、織斑姉弟の部屋の前で篠ノ之さんと鈴、それとセシリア達が聞き耳を立てていた。

 

 

「・・・何してるの?」

 

「静かにしろ」

 

「コレよコレ」

 

 

鈴に言われて戸に耳を付けると、中から声が聞こえて来た。

 

 

『千冬姉、コレやるの久しぶりだな』

 

『そうだな。・・・んっ』

 

 

織斑の声と、小さく声を上げるその姉の声が聞こえて来た。なんとなく分かった僕は戸から耳を離して隣の自室へと戻る。戸を開けると、部屋には布団が二つ敷かれていた。その内の一つの上で山田先生がグテッとなっていた。

 

 

「山田先生?」

 

「は、はしゃぎすぎて体が」

 

「大丈夫ですか?隣に行けば織斑にマッサージしてもらえますよ」

 

「そこまで行く気力も無いので寝ますね。おやすみなさい」

 

「それなら僕も寝ます。おやすみなさい」

 

 

僕も歯磨きを終えてから電気を消して布団へ入る。いよいよ明日はIS実習だ。学園外での授業だから気合入れないと。僕は明日使うISを考えながら眠りに落ちた・・・。

 

 

刹那サイド終了

 

 

三人称サイド

 

 

刹那達が寝る少し前の事。織斑姉弟の部屋の戸が急に開かれ、箒、鈴、セシリア、シャロ、ラウラの5人が雪崩れ込んだ。視線を上げると、そこには彼女達を見下ろす千冬と目をパチクリさせる一夏の姿があった。

全員が冷や汗をかく。すると千冬は

 

 

「・・・丁度話をしたかった所だ。入れ」

 

 

箒達を招き入れると千冬は言った。

 

 

「お前達の事だ。大方一夏のマッサージを勘違いしてたのだろう?」

 

「うっ・・・その通りです」

 

「若いな。おい、一夏。もう一度風呂に入って来い」

 

「え?なんでだよ?」

 

「良いから行け」

 

「分かったよ。皆、ゆっくりしてってくれ」

 

 

そう言って一夏は再び風呂へ向かった。隣の部屋の刹那に声を掛けたが、爆睡中だった為に一人風呂になったのは当然だった。

そんな一夏はさておき、千冬は備え付けの冷蔵庫から人数分のジュースを取り出して箒達に渡した。

 

 

「私の奢りだ。飲め」

 

 

その言葉に箒達はジュースを口にする。それを確認した千冬は自分も冷蔵庫から缶ビールを取り出して一気に飲み干した。その光景に箒達は固まる。

 

 

「んぐっ・・・んぐっ・・・ぷはぁ!なんだ、お前達。私が酒を飲んで笑顔になったら可笑しいのか?」

 

「い、いえ!そう言う訳では!?」

 

「ただ、ギャップが・・・」

 

 

箒と鈴がフォローをするが、その動きはぎこちなかった。それを軽く笑った千冬は話を続けた。

 

 

「お前達に確認したい事があってな」

 

「確認、ですか?」

 

「そうだ。箒、鈴は一夏の事が好きか?」

 

「いきなり何を!?」

 

「なに、弟の恋愛事情を把握しておきたいだけだ」

 

 

慌てる箒に千冬は笑う。二人を名前で読んだ事から完全にプライベートモードである。

それから答えが返る。

 

 

「私は、一夏が好きです」

 

「そうか。鈴もか?」

 

「私は・・・正直分からなくなって来ました」

 

「ほう?」

 

 

鈴の口から出た言葉に千冬は目を細める。箒も目を見開き、セシリア達もポカンとしていた。それから鈴はポツポツと口にし始めた。

 

 

「前は確かに一夏が好きだった。これは断言できる。でも、最近は一夏よりもアイツの顔が浮かぶ事が多くて・・・」

 

「・・・なるほど、な」

 

 

アイツ。それだけで部屋の全員が察した。箒は鈴を[何故あんな卑怯者を]と心の中で罵り、セシリア達は[またか・・・]と件の人物の建築っぷリに溜息を吐いていた。

その正体である不動刹那は有名な科学者の不動遊星を父に持つ男だ。

遊星はその昔、誰とでも仲良くなる事から《一級絆建築士》と、まで言われるほどの人たらしである。その息子もベクトルの違う一級建築士の資格を持ってしまった。故に刹那も父親譲りの人望を持っているのだ。

 

 

「まあ、悩めよ高校生」

 

「はい・・・」

 

「後の三人は・・・言うまでもないか」

 

 

セシリア達を見て千冬はわざとらしくヤレヤレと首を振る。

 

 

「聞くが、不動の何処に惹かれた?」

 

「私は、あの人の生き方に惹かれました。どんな状況でも関係無い。自分の道をひたすらに進む彼の男らしい生き方に心を奪われました」

 

「ボクは、刹那の優しさです。デュノア社の人形だった僕に変わるきっかけをくれた。白黒にしか感じられなかった人生に色彩をくれた、優しい人。そんな彼をボクは好きになりました」

 

「私は刹那の強さです。彼は言ってました。自分が強くなれたのは仲間達が居たからだと。そしてそれによって結ばれた強い関係が、絆であると。一人で戦って来た私とは違う、未知の強さを秘めた彼を好きになりました。後は、シャルロットと同じ優しさです」

 

「ふっ・・・愛されてるな。私も、不動には感謝しきれん」

 

「ち、千冬さんまでなにを!?」

 

 

セシリア達の気持ちに千冬は彼の人望の厚さを感じた。そして口にした言葉に箒が悲しそうな表情をする。

 

 

「何を驚く事がある箒。考えてもみろ」

 

「・・・何かありますか?」

 

「まずはオルコットと一夏の口論だ。あの時は私も面白がってしまったが、不動が止めてくれなければ国際問題に発展する可能性もあった」

 

「うぐっ・・・!」

 

 

千冬の言葉にセシリアが胸を抑える。彼女にとっては黒歴史なのだ。そこから刹那にフルボッコにされる破滅のカウントダウンが始まったのだ。

 

 

「それと箒に木刀で殴られた時、彼は何も言わなかった」

 

「あの男が私を恐れただけなのでは?」

 

「違う。確かにお前は何もお咎めは無しだった。だが、もし不動がその事を拡散したら箒、お前は絶対にクラスから浮く」

 

「そ、それは・・・!」

 

 

その件に関しては箒も最近思う所がある様だ。既に箒は篠ノ之束の妹として、優遇されていると思われている。結果、嫉妬によるヘイトが絶えない。もし、そんな中に暴力事件を起こして、不問同然の扱いをされたとい知られたらどうなるだろうか。確実にクラスから浮いて、最悪の場合虐めが発生する可能性もある。

 

 

「まあ、他にもあるがキリがない。今夜はお開きだ。さっさと部屋へ戻れ」

 

「教官、最後によろしいでしょうか」

 

「今はその呼び方で良い。それで、なんだ?」

 

「教官は、刹那の事が好きなのですか?」

 

 

ラウラの質問に空気が凍った。まさかの質問にセシリア達は顔を青くする。

 

 

「・・・さあな。ただ、男としては優良物件なのは確かだ。油断してると、私か山田先生が貰うかもしれんぞ?」

 

「例え教官相手でも負けません」

 

「ふっ」

 

 

ラウラ達を軽く笑って見送ってから千冬は頭の中でさっきの言葉を思い返す。

 

 

「好きなのか、か・・・年齢がなぁ」

 

 

ふざけて答えたつもりが、つい真剣に考えさせられた千冬であった。

 

 

「卒業すればワンチャン・・・あるか?」

 

 

三人称サイド終了



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第13話

刹那サイド

 

 

翌日、ISの実習が始まった。だが、外で訓練するのは僕達だけ。残ったクラスの皆は旅館内で筆記授業らしい。まあ、理由は分かるけど。そう思いながら僕は何故か混ざっている篠ノ之さんに視線を一瞬向ける。

彼女はまるで玩具を買ってもらう子供の様な目をしていた。そんな篠ノ之さんを見ながら鈴が言った。

 

 

「あの、どうして箒が?」

 

「ああ、それh「私が説明するよ」ふん・・・来た、か?」

 

 

織斑先生の言葉を誰かの声が遮った。その方向に視線を向けると、そこにはキャリアウーマンな恰好をした篠ノ之束がこちらへと歩いて来ていた。頭に何時も付けていたウサ耳の様なメカも取り外し、髪も後ろで結んでポニーテールになっている。

彼女の過去を知る織斑姉弟と篠ノ之さんはポカンとしている。その他のメンバーも相手が誰か分からずにその場に固まる。

 

 

「久しぶりだね、《ちーちゃん》」

 

「束・・・なのか?」

 

「そうだよ。幼馴染の顔も覚えてないの?薄情だね」

 

「ね、姉さん?」

 

「箒ちゃんも、久しぶりだね。うん、大きくなった」

 

 

そう言って微笑む束は間違いなく姉としての威厳があった。それに対し、篠ノ之さん達は再びポカンとなる。そんな中、山田先生が息を切らして駆けて来た。息を整えながら束に話し掛ける。

 

 

「こ、此処は関係者以外の立ち入りは禁止してるんです」

 

「あれ?話は通した筈なんだけど。それじゃあ、改めて」

 

 

そう言って束は僕達や山田先生にペコリとお辞儀をして自己紹介を始めた。

 

 

「初めまして、私がISの開発者の篠ノ之束です。今日は、妹である箒ちゃんに専用機を渡す為に来ました」

 

「束が敬語・・・だと」

 

「姉さんが敬語?」

 

「束さん、どうしたんだ?」

 

 

知り合い組が顔を青くして震え出す。僕は知っているのでノーリアクションで何もしない。隣に居るシャロ達は既に理解が追い付いていないのか、魂が抜けた様な表情だ。

山田先生に関しては腰を抜かしてその場にへたり込む。いや、どんだけ驚いてるんですか?

そんな山田先生に束は手を差し出した。

 

 

「驚かせてごめんなさい。立てますか?」

 

「は、はい・・・ありがとうございます」

 

「束が他人に優しい、だと?」

 

「まさか偽物では?」

 

「でもあの声と顔は絶対に・・・」

 

 

それを見てまた話し出す三人。そんな三人を見て、束は言った。

 

 

「それじゃあ、箒ちゃんに機体を渡すよ」

 

「はい。それで、その機体は何処に?」

 

「うん、これだよ」

 

 

そう言って束はポケットから携帯を取り出して操作する。すると携帯から量子変換されていた機体が姿を現した。

篠ノ之さんの目の前に出現したISは一言で表すなら紅。それに尽きた。

 

 

「これが箒ちゃんの専用機、《紅椿》だよ」

 

「紅椿・・・」

 

「箒の専用機か・・・」

 

 

篠ノ之さんと織斑が呟きながら紅椿を見つめる。そして束は話を続けた。

 

 

「それじゃあ、最適化を済ませるから装着して」

 

「分かりました」

 

「あ、君も手伝ってくれるかな?」

 

「僕ですか?」

 

 

束は他人に話し掛けるかの様な口調で僕を呼ぶ。束がイリアステルに所属している事がバレると色々ヤバい。主に束の逃避行が再開される。

よって、他の人の前では他人行儀にする事に決めていたのだ。

 

 

「君の処理能力は束さんの耳にも届いているからね。是非お手伝いを頼みたいんだけど、良いかな?」

 

「分かりました。僕で良ければ」

 

「ま、待ってください!」

 

「どうしたのかな、箒ちゃん?」

 

「何故不動に手伝わせるのですか!?こんな男に任せる事はないでしょう!」

 

「でも彼の実力は本物だよ?無人機IS、暴走したISの無力化。本来だったら表彰物だと束さんは思うな」

 

「馬鹿を言わないでください!」

 

 

束の言葉に篠ノ之さんは怒号を発する。そんな篠ノ之さんを悲しそうな目で見つめた後、束は言った。

 

 

「分かったよ。態々呼んだのにごめんね、不動君」

 

「いえ、お気になさらず」

 

「そう言ってもらえると気が楽だよ」

 

 

そう言って高速でコンソールを操作し、最適化を済ませる。その光景にシャロ達が絶句していた。最早言葉も出ないらしい。それから30秒程で最適化が終了した。

 

 

「最適化も終わったし、早速試運転と行こうか。箒ちゃん、まずは飛行してみて」

 

「分かりました」

 

 

束の言葉に篠ノ之さんが上空へと飛翔した。流石、束が設計しただけあって中々の機動性だ。でも、白鋼達には劣るな。

 

 

----当然だ。私達はリミッターを外せば更に性能が上がるからな。

 

----本気を出せば世界なんて何時でも滅ぼせます。

 

----マスターがそうしたいなら、するよ?

 

----遠慮しておきます。

 

 

頭の中に響く声に苦笑して上空を見つめ直す。そこでは篠ノ之さんが両腰に搭載された日本刀型ブレードを振るっていた。それを見ながら束が僕達に声を掛ける。

 

 

「あ、皆はこっちに来て。今からミサイルを発射するから、その破片が当たると危険だからね」

 

 

束の言葉に全員が寄る。そして僕達を特殊なバリアが覆った。そして束がミサイルを出現させて空へ撃つ。篠ノ之さんはブレードの一本を横薙ぎにすると、刀身から複数のビームが放たれ、ミサイルを全て破壊した。

幸い、破片が降って来る事もなかった。バリアが解除され、篠ノ之さんが降りて来た。その表情は笑顔だった。確かに専用機をようやく手に入れた気持ちは分かるが、その笑顔に僕は嫌な予感がした。

そんな時、

 

 

「お、織斑先生!緊急事態です!」

 

 

山田先生が再び全力疾走で向かって来た。どうやらまた面倒事が舞い込んで来た様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~旅館内[仮設ブリーフィングルーム]~

 

 

「・・・以上が、現在の状況だ」

 

 

そう織斑先生が締め括る中、僕は一人苛立っていた。どんな内容かと思えば、アメリカの軍事用IS《銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)》が謎の暴走を始め、こちらへ向かっているそうだ。それを僕達で止めるのが、今回の指令。

何故、他国の尻拭いをしないといけないのだろうか。せめて援軍を送るなりしてほしい。現在の日本に存在するアメリカの軍事基地にはISが配備されている筈である。それを回してくれても良いと思うが、保身に走ったな。

 

 

「織斑先生、福音のスペックデータの詳細を教えていただいてもよろしいですか?」

 

「構わない。だが、口外した場合は覚悟しておけ」

 

「あの、一つ良いですか?」

 

「なんだ、不動」

 

 

織斑先生に僕は口を開いた。

 

 

「この作戦は強制参加なんですか?」

 

「いや、強制はしない。だが参加してくれると戦力的にはありがたいが・・・」

 

「では、僕は参加しません。失礼します」

 

 

僕は立ち上がって、部屋を出る。だが、それを織斑に止められた。

 

 

「なんでだよ刹那!」

 

「なんでって・・・強制じゃないからだよ」

 

「福音がすぐそこまで来てるんだぞ!?」

 

「だったら生徒と旅館の従業員を今すぐに避難させてアメリカに援軍でも頼めばいい」

 

「俺達でやれば良いだけろ」

 

「・・・死ぬよ、君」

 

 

僕は織斑を軽く睨む。織斑は怯んで僕から手を離した。それから周りにも視線を移して僕は言う。

 

 

「相手は暴走したISだ。加減は勿論、ISが解除された場合でも襲って来ないなんて保障も無い。ラウラは兎も角、僕達は命の取り合いなんてした事は無い。そんな僕達がぶっつけ本番で戦場に放り込まれて何時も通り戦えるとでも?答えは否だ」

 

「そんな事はねえ!俺達が力を合わせれば福音なんて・・・」

 

「そうだ。こちらには、白式と私の紅椿がある。問題はない」

 

「相手が人だって事、分かってる?」

 

 

僕の言葉に織斑達が止まる。この二人、映像しか見てなかったな。チラリと映像に目を向けると、福音は全身装甲のIS。襲撃された経験のある織斑達には無人機に見えたのだろう。

 

 

「確かに、白式の零落白夜は絶大な威力を誇っている。でも、それの大きな欠点は加減が効かない事だ」

 

「加減が、効かない?」

 

「知らないの?零落白夜は要は防御をほぼ貫通してダメージを与える物だ。相手のSEが満タンなら兎も角、残り僅かの時に当ててみろ。言葉通り、真っ二つだ」

 

 

話し終えると、部屋は鎮まり返った。特に織斑は酷い。ようやく自分のISが殺人兵器になりうる可能性があると認識したか。それ位察しろ。最悪の場合、織斑と白式の両方に消えない傷が刻まれる事になる。

 

 

「織斑先生、此処に居る面子では無理な事だと思うんですけど」

 

「そう、だな・・・近くの軍事基地と自衛隊に連絡を入れる」

 

「ちょっと、良いかな」

 

 

そう言って束が襖を開けて部屋へと入って来た。

 

 

「此処は立ち入り禁止の筈だが?」

 

「流石に目の前で起きてる暴走事故は放っておけないよ。だから、束さんは作戦を提案したいんだけどどうかな。最高指揮官さん」

 

「・・・良いだろう。言え」

 

「うん。でもそれには不動君の協力がどうしても必要なんだよね」

 

「えぇ・・・」

 

 

思わず僕は声を出す。だって他人の尻拭いで命掛けるって馬鹿のやる事だよ?

でも束には何か考えがある様で、取り敢えず聞いておく。

 

 

「簡単に言えば全員で総攻撃だね。不動君がいっくんを運んで福音と交戦。オルコットちゃん、鳳ちゃん、デュノアちゃん、ボーデヴィッヒちゃんの四人は後ろから追いかけて防衛線を張りつつ援護。そして福音を倒せば良い」

 

「待ってください姉さん。どうして私が居ないのですか?」

 

「確かに、箒ちゃんの紅椿のスペックがあればもっと事態が有利に進むよ」

 

「ならn「箒ちゃんが乗ってない事が前提だけど」はあ!?」

 

「専用機を今日貰ったばかりの箒ちゃんが、まともに戦える訳がないでしょ」

 

「そんな事はありません!私は紅椿を使いこなしています!」

 

 

篠ノ之さんは声を張り上げる。でも、束の案に反対の者は誰も居なかった。その場の全員が篠ノ之さんの浮かれ具合に気付いている。あの織斑ですらだ。

だが、そんな事は露知らず。篠ノ之さんは騒ぎ立てる。

 

 

「私はもう足手纏いではない!この紅椿と共にこの任務を全うしてみせる!」

 

「・・・分かった。でも、もし箒ちゃんが何か問題を起こしたら紅椿は没収するね」

 

「良いですよ。ですが、そんな事は万が一にもありえませんが」

 

「そう。なら箒ちゃんがいっくんを運んで。不動君も一緒に着いて言ってくれるかな?紅椿と同等のスピード、出せるよね?」

 

「分かりました。あの篠ノ之束に頼まれたのなら、断れませんしね」

 

 

諦めて作戦に参加する事にした。福音の詳細データを確認して、準備をする。今回は白鋼で出撃だ。本当はラファールを使いたかったけど、新しいシステムの調整が上手く行かない為にお休みだ。

海岸でISを展開する。

 

 

----モード《エクシア》。それと、

 

----分かっている。《GNアームズTYPE-E》展開。

 

 

次の瞬間、僕の体をエクシアの装甲が覆う。更に全身を大きな装甲が展開され、僕自身が収納される。これがエクシアの追加装備であるGNアームズだ。

それを強襲用コンテナを追加する事で装備の追加も可能にした。これで福音まで一直線に進む。GNドライブ搭載型の大半は紅椿よりも早く移動出来る。僕は収納された中からモニターで織斑達の様子を確認する。

どうやら篠ノ之が調子に乗っている様だ。このままでは間違いなくやらかすだろう。そう思っていると、通信が入った。個人用通信《プライベートチャネル》だった。

 

 

『不動』

 

「篠ノ之さんの事ですか?」

 

『そうだ。織斑だけでは心もとないのでな』

 

「分かりました。では、出撃します」

 

『頼んだぞ』

 

 

そう言って織斑先生は通信を切った。隣で僕のISを見て驚いている織斑達に声を掛けて、準備をする。

 

 

「準備は良いか、一夏。不動も」

 

「俺は良いぜ」

 

「何時でも」

 

「では、行くぞ!」

 

 

その声を合図に僕達は移動を開始した。白式を背負った紅椿を隣にしながら飛行する。暫くすると、福音の反応をキャッチした。

 

 

「目標を確認した。織斑、一撃で仕留めるなんて考えないで。こっちは連携して戦える事を頭に入れておいてね」

 

「分かった・・・」

 

「見えたぞ」

 

 

篠ノ之さんの声に下を見ると、海上に福音が滞空しているのが目に入った。よし、此処からコッソリと・・・

 

 

「うおおおおおおおおっ!」

 

「ばっ、声出す・・・」

 

 

叫びながら零落白夜で突っ込む織斑。そして刃が福音に当たる直前でヒラリと避けられた。僕は舌打ちしながら強襲用コンテナからGNミサイルを発射する。

 

 

「なんで声出したのさこの大馬鹿は!?」

 

「い、いや気合を入れようと・・・」

 

「不意打ちするのに叫ぶとか本当に君は・・・!」

 

 

しかも見事にミサイルが全て福音から射出されたビーム弾によって撃ち落とされた。データ以上のスペックじゃないか。あいつら嘘の記録を提出してたな。

 

 

「兎に角、シャロ達が来るまでの間持ちこたえるんだ!」

 

「分かった!」

 

「待つ必要など、無い!」

 

「箒!」

 

 

篠ノ之さんがブレードを抜いて斬りかかるがヒョイヒョイと避けられる。そして再び大量の弾丸が発射された。僕は織斑達に叫ぶ。

 

 

「二人共僕の後ろへ!《GNフィールド》展開!」

 

 

僕達の周りにGN粒子のバリアが発生して弾丸を防ぐ。再びGNミサイルを発射して牽制するが、弾切れになったのでコンテナを解除する。そしてGNアームズが展開された。

左右には《大型GNソード》が二本装着され、上部には二基の《大型GNキャノン》が搭載されている。

その中心にエクシアの太陽炉を接続して足場に両足を乗せる。これで展開完了だ。

ビーム射撃を行いながら福音に接近する。

 

 

「まずはその武器を破壊する!」

 

『ra・・・♪』

 

 

福音の腕に取りつけられた銃に剣を振り下ろすが、やはり躱される。その上、こちらを馬鹿にするかの様な声を出す。ララァのアレみたいな音出しやがって・・・!

 

 

「篠ノ之さん!織斑は?」

 

「なに・・・一夏ぁ!何をやっている!」

 

「二人共!下に船がいるんだ!」

 

「はいっ!?」

 

 

織斑の声に僕は素っ頓狂な声を上げた。今はこの海域は封鎖されてる筈じゃ・・・。

 

 

「多分、密漁船だ!」

 

「ああもう次から次へと!織斑は船を安全圏内まで誘導して!僕達で抑える!」

 

「分かった!」

 

「一夏!そんな奴ら等放っておけ!今は福音を止める事が先決だ!」

 

 

織斑に対して篠ノ之さんが怒鳴る。更に彼女は続けた。

 

 

「そんな犯罪者なぞ捨て置け!」

 

「何言ってんだよ箒!」

 

「話す暇があるならとっとと動いてくれるかな!?」

 

 

叫び過ぎて喉が痛くなって来た・・・。福音の射撃を防いだり弾きながら攻撃を加える。そして密漁船が離れた所で本格的に攻撃を開始した。

弾幕を張りつつ、二基の大型GNソードで斬り付ける。福音はそれを両腕で受け止めた。だが、ジリジリと福音の腕に刃が入り込んで行く。

福音はその両腕からバチバチと火花を散らして後退した。僕はそれを追いかける。砲撃を続けて攻撃の余裕を与えない。そして福音に再度接近して最後の一撃を叩き込む。

 

 

「はあっ!」

 

『ra・・・♪』

 

「なっ!?不動下がれ!」

 

 

僕が攻撃した瞬間、福音がその体を光の繭で包み込んだ。篠ノ之さんが飛ばしたビーム斬撃によって、福音と距離が出来た僕は巻き込まれずに済んだ。

 

 

「あれは一体・・・」

 

「篠ノ之さん、後ろに居る織斑と合流して後退して。それからシャロ達に伝達。セシリアと鈴は一緒に後退して宿の近くで待機しながら指示を待って」

 

「いきなり何を言い出すのだ?」

 

「良いから早く!あれは・・・二次移行だ」

 

「っ・・・!だ、だが此処で引く訳にはいかん!それにこの紅椿があれば!」

 

「待って篠ノ之さん!」

 

 

周りが見えてない篠ノ之さんは福音に向かって斬撃を放つ。だが、それは光の繭に触れた瞬間、何事も無かったかの様に弾かれた。

そして次の瞬間、空気が震える。その発生源は間違いなく目の前の繭からだった。

 

 

『ra・・・♪』

 

 

それはまるで胎児の産声の如く響き渡った。光の繭が開き、中から最悪のISが姿を現した。全身装甲の後部に大きな翼を展開さえたその姿は天使の様だった。

だが、その機械の天使は僕には酷く歪に見えた。福音のコアの声は聞こえない筈なのに泣いている様な、そんな声が聞こえる。

悲しそうな声を上げながら福音は僕達に狙いを定める。その瞬間、僕の中の直感がヤバいと告げた。

 

 

「全員、散開!」

 

「な、なんだアレは!?」

 

 

福音の翼からエネルギー弾が放たれる。だが、その数は軽く数百を超えていた。一斉に放たれたそれを篠ノ之さんと散開して撃ち落とす。織斑も後ろでてんやわんやになっていた。

ようやく全弾を凌ぎ切った所で第二射が放たれた。久しぶりの命の危機に冷や汗が垂れる。

 

 

「このっ・・・ぐあぁ!?」

 

「一夏!貴様ぁ!」

 

「だから迂闊に前に出るな!」

 

 

篠ノ之さんがキレて福音に接近する。二次移行した事によって、武装が分からなくなった今、それはあまりにも無謀だ。僕は砲撃で篠ノ之さんの前のエネルギー弾を消し飛ばしながら追う。

何故僕はお守しながら戦っているのだろうか・・・。

 

 

「篠ノ之さん!深追いは駄目だ!」

 

「ええい!邪魔をするな!」

 

「あっぶな!?」

 

 

突然振るわれた刀をGNフィールドで防ぐ。最悪の事態が発生した。まさかの二対一だと・・・!織斑は僕達のスピードに追い付けず、後ろでノロノロと飛行している。

 

 

「味方に攻撃とか何考えてるのかな君は!?」

 

「黙れ!一夏がやられて何も思わないのか!」

 

「いや、だってアイツ死んでないし。後ろから向かって来てるから。それに戦力が分からなくなった相手に下手に攻め込んだ所で負ける未来しか見えないよ」

 

「ならば貴様だけ下がれ軟弱者!奴は私と一夏で落とす!」

 

 

そう言って篠ノ之さんは再び福音へと突撃する。僕もそれを追いかける様に攻撃態勢に入った。こちらの攻撃を完璧に読んだ福音はするりと躱しながら背中の羽から大量のエネルギー弾を放つ。

 

 

「やっと追い付いた・・・ってうわぁ!?」

 

「一夏!」

 

「チッ・・・篠ノ之さんは織斑を!僕がなんとか抑える!」

 

 

声を掛けるが、僕が言うよりも早くエネルギー弾が直撃した織斑へと向かう篠ノ之さん。戦いやすくなった環境で僕は移動速度を上げる。

 

 

「此処は・・・僕の距離だ!」

 

『ra・・・♪』

 

 

大型GNソードを振りかざし、ようやく福音にダメージを与える。僅かに仰け反った福音からギギギと音が鳴った。次の瞬間、僕の頭の中にノイズと声が響く。

 

 

----タス・・・ケ、テ。

 

 

途切れ途切れの音声が続けて聞こえた。

 

 

----ボ、ク・・・ナカ・・・タス、ケ。

 

 

『ra・・・♪』

 

 

その言葉を最後に、福音は態勢を立て直す。

すると、福音が一瞬だけ解除される。すると操縦者であろう女性の体が上空へと投げ出された。僕はそれをキャッチして離れる。すぐに福音が復活した。今度は無人機としてだ。

僕は福音に砲撃を撃ち込んで爆煙を発生させた瞬間、一気に後退した。篠ノ之さん達とシャロ達、織斑先生達にも通信を送る。

 

 

「こちら不動。福音の操縦者を確保。バイタルに異常はありません。一旦シャロ達と合流して、操縦者を避難させてから再度攻撃を仕掛けます。良いですね?」

 

『了解した。福音もその位置から移動していない。無人機故の弊害か何かは分からないが、今はそちらの人命を優先してくれ』

 

「了解」

 

 

通信を切って、退却する。下の方から、織斑を抱えた篠ノ之さんが飛んで来た。その表情は不満の一言だったが、腕に抱えた女性を見せたら渋々納得してくれた。

5分程でシャロ達と合流し、旅館へ戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~旅館内[仮設ブリーフィングルーム]~

 

 

「・・・先生、一夏の容体は?」

 

「織斑自身に大きな怪我は無い。ただ、白式のダメージがかなり大きい。戦闘を継続するのは不可能だ」

 

「フィニッシャーが一人抜けたのは痛いね」

 

 

篠ノ之さんに織斑先生が答える。それに真面目な表情で束が言った。

これ、多分僕が代わりにやるんだろうなぁ。

 

 

「不動君、二人分の仕事になるけどお願い出来るかな」

 

「はい、分かりました」

 

 

白鋼のSEも回復した僕は部屋を出て廊下を歩く。すると、医務室となっていた部屋から織斑が出て来た。顔に絆創膏をペタリと張った織斑に少し笑ってしまいそうになる。

どこぞの少年漫画の主人公みたいだ。

 

 

「刹那、福音はどうなったんだ?」

 

「まだあの位置から動いてない。そっちこそ福音の操縦者はどう?」

 

「気を失ったままだけど、時期に目を覚ますだろうって」

 

「そっか」

 

「俺は今回戦えないから、頼んだぜ」

 

「言われるまでもない。それに・・・」

 

「それに?」

 

「何でもない。君に言っても仕方ないし」

 

「?」

 

 

福音のあんな声聞いたら、放っておけるわけないだろう。伊達にコア達と会話してないんだよこっちは。

 

 

----マスター、馬鹿兎から通信です。

 

----分かった。

 

 

セシアに言われて、僕は人気の無い崖まで歩いた。作戦再開までの時間はあと10分程。会話するのに差支えは無いだろう。

ボーッと景色を眺めていると、後ろから誰かが来た。振り返らずにその人物と会話をする。

 

 

「おまたせ、せっちゃん」

 

「ん。束もお疲れ様」

 

「本当だよ。まさか箒ちゃんがあそこまで酷い事になってるなんて・・・いっくんもかなり重症だし」

 

「それは世界最強の姉にでも任せておけば良い。効果は無いかもだけど」

 

「ちーちゃんかぁ・・・結婚出来るかな」

 

「やめたげてマジで」

 

「とまあ、おふざけはこの辺にして」

 

 

一度咳払いをした束は真剣な声音で僕に言った。

 

 

「せっちゃん、福音の声を聞いた?」

 

「うん。ほんの少しだったけどね」

 

「白鋼の戦闘映像を見させてもらったよ。あの子、頑張って君に操縦者を託したんだね」

 

「その思いは確かに受け取ったよ。だから今度はあの子を助ける番だ」

 

「そう言うと思って、これを持って来たんだ」

 

 

そう言って束はUSBを僕に渡す。

 

 

「この中にはISの機能を一時的に停止させる特殊な電波を発するシステムを積んであるんだ。それで動きを止めている内にコアを抉り取って」

 

「それなら僕のシステム・・・あっ」

 

「うん、せっちゃんのISの手の内を晒すのはあまり良くない。だから私からの贈り物って事で誤魔化すんだ」

 

「分かった。絶対にあの子を助けてみせる」

 

「その意気だよ。それじゃあ、戻ろっか。・・・せっちゃん」

 

「ん?」

 

「・・・無理しないでね」

 

 

珍しく不安そうにする束に苦笑しながら僕は頭を撫でる。束がイリアステルに来てから散々やていたので、慣れたものだ。でも、僕なんかの手でそんな幸せそうな表情をしてくれるのなら、嬉しい。

 

 

「大丈夫。絶対に帰って来るから。それに、僕には心強いパートナー達が居るんだから」

 

『マスターは私が命に代えてでも守りますよ』

 

『今回は私がメインだからな。そこの所、覚えておけよ』

 

『絶対に死なせないからね・・・!』

 

「ふふっ♪やっぱりせっちゃんは愛されてるね!」

 

 

珍しく音声を出したセシア達を見て束は嬉しそうに笑った。それに釣られて僕も笑う。

そして白鋼に織斑先生からの呼び出しが掛かった。

 

 

「行こう。これが、この臨海学校でのラストミッションだ」

 

 

僕達はブリーフィングルームへと、走り出した・・・。

 

 

刹那サイド終了



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第14話

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刹那サイド

 

 

ISを纏った僕達は、福音が留まっている海域へと飛行する。今度はシャロ達も含めて全員による総攻撃だ。もし、僕達が突破された場合は束と織斑先生が止めるらしい。

IS開発者と世界最強による双璧とか、怖いにも程がある。

チラッと隣に目を向けると篠ノ之さんの頬が紅く腫れていた。そう言えばラウラが一発殴ったって言ってたな。そう思っているとラウラから通信が入る。

 

 

『篠ノ之、刹那。もうすぐ福音の反応がある場所へ到達する。準備は良いな』

 

『問題はない』

 

「こっちも同じく」

 

『そうか。後ろは任せろ。だから全力で福音を叩け。そしてコアを回収するんだ』

 

『何故姉さんはコアの回収などと・・・』

 

「見えた。福音だ」

 

 

白鋼のセンサーに掛かった福音がディスプレイに映し出される。海上で子どもの様に体を丸めてその場に留まっていた。やはりコアの声は聞こえない。

その事実に思わず僕は歯噛みするが、すぐに頭の中をリセットする。そして福音の背後に回った僕と篠ノ之さんは瞬時加速で接近する。

篠ノ之さんは両手に刀を。僕はGNアームズを解除してエクシアのGNソードを構えて福音へと攻撃を開始する。

 

 

『ra・・・♪』

 

「このっ・・・!」

 

 

最初の時と同じように歌う様な声を上げながら福音は僕達の攻撃を躱す。だが、僕達は既にそれを読んでいた。篠ノ之さんと反転し、福音に向けて斬撃のビームを放つ。そして福音の動きを誘導した所で僕はGNビームダガーを投げ付ける。

GNビームダガーは見事福音の左肩に直撃し、左腕部が爆発した。福音は左側をスパークさせながら僕達から距離を取る。

そして背中のパーツから大量のビーム弾を放った。

 

 

「シャロ!」

 

「任せて!行っけえぇ!」

 

 

シャロがイリアステル製の新パッケージを装備して構える。頭部に装備されている小型の《頭部バルカン》、両腕に二門ずつ搭載された《ビームガトリング》、肩部に内蔵された《マシンキャノン》と《ホーミングミサイル》。そして胸部の装甲に搭載された《胸部ガトリング砲》。最後に両足に装備された《マイクロミサイル》を全て展開し、弾丸の嵐へと撃ち込んだ。

並ではない火力によって、捌き切れなかった数のビーム弾は過半数相殺された事で残りを苦労もなく撃ち落とした。

 

 

「シャロ、助かった」

 

「間に合って良かった。でも此処までの火力だなんて・・・」

 

 

そう言ってシャロはシミュレーションと実戦の差に驚愕していた。

シャロに与えられた新パッケージである《ヘビーアームズ》は火力を重視した物になっており、逐一武装を取り出すのではなく初めから装着させた状態で戦闘を行える様になっており、その分武装を搭載する容量を増やした。

その分、弾薬を多く積む事で長時間の射撃戦闘を行う事が出来る。

更に右腕のビームガトリングの下には《アーミーナイフ》が取り付けられており、緊急時には接近戦も可能だ。

シャロ本人の希望でパイルバンカーも積んであるが、何故かラウラが腹部を抑えて震えていた。

 

 

『ra・・・♪』

 

「これでも頭部に傷一つだけ・・・」

 

「いや、攻撃が当たるだけマシだ。このまま押し切るよ!」

 

「分かっている!」

 

 

再びシャロを下がらせて僕と篠ノ之さんで追い詰める。福音が逃げる先を今度はセシリアが空中から狙撃する。セシリアも新パッケージである《ストライクガンナー》を展開して射撃を続ける。

この形態はビットを全て推進力に回す事で高速で飛行できる形態だ。そして新しい大型レーザーライフル《スターダスト・シューター》を構え、福音に追撃を掛ける。

 

 

「その腕、貰いましたわ!」

 

『ra・・・♪』

 

 

セシリアの宣言と共に、福音の右腕を一筋のビームが撃ち抜いた。それにより、福音の右腕の肘から先が破壊される。それでも尚、福音は変化の無い声を出しながら再びビーム弾を多数展開する。だが、SEが尽きて来たのかその数は明らかに少なく、広がり方にムラがあった。

 

 

「これなら私に任せなさい!一気に燃やし尽くすわ!」

 

「僕も手伝うよ!」

 

 

新パッケージ《崩山》によって四門となった龍砲から不可視の弾丸ではなく、赤い炎を纏った弾丸が拡散して放たれる。それは明らかに今までの龍砲の威力を超えていた。

ビーム弾は爆発に巻き込まれる様に次々と無力化されて行き、流れ弾をシャロが撃ち落としていた。

その隙に僕達は再度接近して攻撃を仕掛ける。

 

 

「此処は、僕の距離だ!」

 

「天誅!」

 

『ra・・・♪』

 

「私も居るぞ!」

 

 

僕達の斬撃は福音の両翼を確かに捉えた。更にラウラが突如福音の上空に現れ、左腕の槍で叩き落とす。翼を付け根から切断された福音はそのまま海へと落下して行く。僕は束に渡されたプログラムを発動させる為に福音へと向かった。

だが・・・

 

 

『・・・キハハッ♪』

 

 

そんな笑い声と共に福音は再び繭に包まれ、僕は吹き飛ばされた。その光景に誰もが止まる。体制を整えながら僕はその繭を改めて見る。次の瞬間、自分の中の直感が最悪の展開を予想する。思わず僕は叫んだ。

 

 

「全員撤退!」

 

「え・・・」

 

 

誰が発したのか、分からぬ声を最後にセシリアが繭から放たれた一撃で近くの島まで吹き飛び、墜落した。そして繭がゆっくりと開き、福音が新たな姿で再誕した。

二次移行の時よりも機械質なパーツが増え、更に巨大な両翼が展開される。そして腕部は巨大な爪になっており、凶暴性が増している。

福音は僕達に顔を向けて始めて普通の声を出した。

 

 

『ネェ・・・アソボォ?』

 

 

無邪気な子どもの様な声からは一種の残酷性を感じた。僕は全員に再び撤退を促すとGNソードを構えて接近する。

 

 

『アソボォ!アソボォ!キハハハハハッ!』

 

「早い・・・!」

 

『エイッ!』

 

「ぐぁっ!」

 

 

エクシアのスピードを軽く上回るスピードで回避した福音は僕の背中に衝撃を与えた。衝撃に耐えながら福音に視線を向けると、巨大な爪の一つ一つからビーム刃が展開されていた。

 

 

----《三次移行(サードシフト)》だと・・・!

 

----マスター!撤退してください!

 

----でもアレ絶対宿まで来るよ!

 

----分かってる。でも・・・。

 

 

僕は白鋼達と会話しながらラウラ達に通信を入れる。

 

 

「皆、今から言う事を良く聞いて欲しい。セシリアを回収したら全力で撤退して。そして宿で織斑先生達と共闘するんだ」

 

『撤退って・・・アンタはどうすんのよ!?』

 

「僕は殿を務める。この中でギリギリまで福音を止められるのは僕だけだ」

 

『待て!それなら私も残るぞ。ゴールドフレームの装備ならば十分戦力になる筈だ』

 

「駄目だ。ラウラの機体じゃ火力は兎も角、福音に追い付けない」

 

『だがそれでは刹那が!』

 

「誰かがやらなきゃ皆死ぬ!」

 

 

怒鳴りつけながら、福音をギリギリ捉えて攻撃を回避する。

 

 

「君は軍人だろう。作戦中に情で動くのは駄目でしょ」

 

『刹那・・・』

 

「行け!皆の為に今は僕を斬り捨てろ!」

 

『・・・死ぬなよ!』

 

 

ラウラはそう言って通信を切った。そして全員が作戦海域から撤退して行く。僕は福音を遠ざけながら反撃の機会を伺うが、中々チャンスは来ない。だから無理やり作る事にした。

福音がビームクローを再度展開して接近して来た所で僕もGNソードを構える。居合い斬りの要領で構え、福音との距離がギリギリになった瞬間、一気に振り抜いた。

だが・・・

 

 

「あ・・・」

 

 

僕は気が付けば砕けたGNソードを見つめながら落下していた。腹部に熱と鈍い痛みを感じる。どうやらあの一瞬でISの防御を打ち破ったみたいだ。ふと上を見上げると、そこには一機の飛行機が飛んでいた。鳥の様な巨大な爪からビーム刃を出して、笑い声を上げながら僕をの上を旋回する。

そしてそれは福音へと姿を変えた。無人機となったからこそ出来る大規模な変形機構。飛行形態となる事で速度を上げて僕の攻撃を掻い潜り、切り裂いたのだ。そんな結論を冷静に組みたてながら僕は重力に逆らって降下して行く。

 

 

「・・・白鋼」

 

『・・・《二次移行(セカンドシフト)》、開始』

 

 

白鋼の声によって機体が一歩上のステージへと進む。学園に居る間は使う気は無かったけど・・・やるしかない。

腹部の痛みを堪えて僕は福音を睨み付ける。そして相棒から声が発された。

 

 

『二次移行完了。各モードの潜在機能解放』

 

「《TRANS-AM(トランザム)》システム起動」

 

 

次の瞬間、僕は福音をビームサーベルで弾き飛ばしていた。機体は赤い光に包まれ、背中のGNドライヴからは通常の倍以上の量の粒子が発されていた。

トランザムシステム。それはGNドライヴが搭載された機体の切り札。高濃度圧縮粒子を全面開放する事で機体性能を三倍に引き上げるシステムだ。

これがエクシアのワンオフアビリティーでもある。だが、このシステムにも大きな弱点があり、使用時間の制限と使用後の粒子チャージまで機体性能が大幅に低下する事だ。

 

 

『主殿、SEをセシア達からも分けて貰っている分長く戦える。もって10分だ』

 

「それだけあれば十分だ!」

 

『キハハッ!キタキタ!』

 

「ああ来たさ!君は僕が救う!」

 

 

こうして僕と福音による一対一の戦いが始まった・・・。

 

 

刹那サイド終了

 

 

三人称サイド

 

 

セシリアを回収したラウラ達は無事、海域を離脱して宿へと到着した。そして千冬達に説明を終えて待機する。セシリアを医務室に預け、ラウラ達は打鉄を纏った千冬と見た事も無いISを纏った束と旅館の近海で待機する。

 

 

「刹那・・・」

 

「ボーデヴィッヒ。今は目の前の事に集中しろ」

 

「は、はい」

 

「でも君の気持ちは分かるよ。でも大丈夫」

 

「何故、そう思うのですか?」

 

 

全員が重い沈黙の中、束が笑顔で言った。それに対してラウラは不安そうな表情で問い掛ける。それに彼女は自信満々な表情で答えた。

 

 

「だって、私の知る不動刹那は決めた事は絶対に諦めないから」

 

 

その答えにラウラ達は何かを思い出した表情になり刹那が戦闘を行っている海域を見つめる。それに束は安心し、千冬は彼女に何かを察した目で見つめていた。

少女達は彼を信じ、待機し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~《某国:地下施設》~

 

 

モニターに映し出された赤く発光した機体で福音を追い詰める少年を見ながら一人の女性が笑っていた。

 

 

「不動刹那・・・やっぱり欲しいわね」

 

「なあ、《スコール》。あんな奴別にいらねえだろ。さっさと殺してISだけ奪えば良いだけじゃねえか」

 

「そんな事ないわよ、《オータム》。彼には十分利用価値があるもの」

 

 

そう言って陰から歩いて来たオータムと呼ばれた女性に対し、スコールと呼ばれた女性が笑う。

彼女達こそが今回、福音を暴走させた犯人であり、今も福音を通して刹那の戦闘を見ていた。二次移行による隠し玉に思わずスコールは口角を吊り上げる。

 

 

「私達と彼がどう世界を動かすか・・・楽しみじゃない」

 

 

三人称サイド終了

 

 

刹那サイド

 

 

「無駄に速いんだよ君は!」

 

『モットアソボォ!』

 

「上等だコラぁ!」

 

『落ちつけ主殿!と言うか割と余裕無いか!?』

 

「常にテンション上げてないと傷口が痛むんだよ。まだ塞がらないの?」

 

『細胞を活性化させているんが、塞がり掛けたタイミングで誰かさんが無茶な動きして戦うからな』

 

『いっそDG細胞でも移植します?私持ってますよ?』

 

『そ、それやったら地球が無くなっちゃうよ!』

 

「僕にハート型の風穴を開けられろと?」

 

 

福音をサーベルで斬り付けながら会話する。誰も居ないから話したい放題だ。すると福音が変形して速度を上げる。そして両翼からビーム弾とビット兵器が飛び出した。

ビットからはビーム刃が飛び出し、そこからもビームが発射される。最早ビットと言うよりファングだった。

でもトランザムを発動している状態の僕には遅く感じた。それにシミュレーションで何回か対遠隔操作兵器の戦闘を経験してるからね。少しでも成果を出さなきゃ。

接近してビーム弾を躱し、ファングを斬り落とした。そして福音へと肉薄してビームサーベルを叩き付ける。ビームクロウとぶつかり合って、鍔迫り合いになった。

 

 

「この・・・!」

 

『タノシイネェ!モットモット!』

 

「だったら最後まで付き合ってやる!」

 

 

なんとか押し切って福音を弾き飛ばすが、すぐに変形して接近して来る。僕も再び加速してビームサーベルを叩き付けた。だが、その内の一つがビームクロウに弾かれて空中で爆散した。

 

 

『ヤッタヤッタ!モウイッポン!』

 

「させるか!」

 

 

腰に装着していたGNロングブレードで応戦する。完全に不意打ちだったのか福音の右腕を切断する事が出来た。それでも福音は止まらない。

 

 

『ヤラレチャッタァ!タノシイ!』

 

 

再びエネルギー弾を放つ福音に僕は無言で接近する。確かに攻撃は強力だが、動きがワンパターンだ。それにビームクロウが片方欠けた状態ならば変形されてもなんとかなる。

ビーム弾を掻い潜って、僕は福音の片翼を切り裂いた。

背中から爆煙に塗れ、福音が落ちて行く。だが、変形してなんとか持ち直した。

そろそろ決着か・・・。

 

 

「悪いけど、楽しい遊びは此処までだ」

 

『オワリ?マダアソビタイ!アソボウヨォ!』

 

「いいや、これで終わりだ」

 

 

トランザムに瞬時加速を重ねた僕は福音の左腕と残った翼を斬り落とした。そして福音の頭部を後ろから掴み、プログラムを発動させる。

 

 

『ギギギッ!?ア、ガ、GGGGGGGGGGG』

 

 

バグった様な声を上げる福音の胸部に腕を捻じ込む。そのまま一気にコアを引き抜いた。すると、福音の装甲は消える事なく落下して行き海に沈んだ。それと同時にトランザムを解除する。

 

 

「作戦、完了・・・」

 

『傷がまた開いた・・・!早く撤退を!』

 

「白鋼は限界だから、ラファール・・・お願い」

 

『任せてっ』

 

 

白鋼が解除され、僕の体をラファールが包んだ。そしてラファールによる細胞の活性化が始まる。ISって本当に未知数だよね。薄れそうな意識をなんとか保って飛行する。

ヤバい。マジで倒れそうだ・・・。

 

 

『ま、マスター!下を!』

 

「っ!?くそっ!」

 

 

海の下から、福音が火花を上げながらも宿へと向かって飛び出して来た。両翼を破壊されても尚、かなりのスピードで飛び出す。どうやら、残ったSEを無理やり推力に回している様だ。

今の福音は云わば高速ミサイルそのものだ。僕は瞬時加速を再び使用してラファールと共に福音を追う。腹部から再び激痛が走り、思わず止まりそうになるが耐える。

 

 

『マスター!追いついたよ!』

 

「砕け!スクラップ・フィスト!」

 

 

ジャンクウォリアーの状態で右の拳を全力で叩き込む。福音の飛行を止める事は出来たが、機体が爆発する事もなく飛んで行く。あれ?宿まであとどれ位だったっけ・・・。

 

 

『マスター、間に合ったよ・・・!』

 

「そっか・・・良かった」

 

 

最後に見えたのは、福音がラウラ達の射撃で大爆発を起こした瞬間だった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ね・・・きて!』

 

『・・・ん?』

 

『あ、起きた!』

 

 

目を開けると、そこは何時もの精神空間だった。ただ一つ違う所は、僕が布団で寝ていると言う所だ。そして何故か僕を見た事もないボーイッシュな少女が抱きしめている。

 

 

『えっと、君は?』

 

『ボクは福音のコア人格だよ。《ナターシャ》とボクを助けてくれてありがとう!』

 

『そっか、君が・・・あれ?セシア達は?』

 

『皆は今外に出てる。刹那とゆっくり話せだってさ』

 

 

どうやら気を利かせてくれたらしい。せっかくなので、僕は福音と話す事にした。体を起こして、話し掛ける。

 

 

『僕って今どうなってるの?』

 

『その・・・お腹からいっぱい血を出してて、絶対安静』

 

『あ、ごめん!そんなつもりじゃ・・・』

 

 

泣きそうになる福音に僕は謝って、泣き止むように頭を撫でる。福音は何も言わずに僕に抱きついて来た。なんとなくこうするべきだと感じた僕は、何も言わずに抱きしめて頭を撫でた。

暫くして、福音は僕から離れる。

 

 

『・・・ごめん』

 

『ううん。こっちもごめん』

 

『あの!ボクの話を聞いてほしいんだ』

 

『話?』

 

『ボクがどうして暴走したのか・・・』

 

 

福音の言葉に僕は一瞬固まるが、なんとか頭の中を整理して話を聞く。

僕の表情を見て、福音は話し始めた。

 

 

『ボクは元々、アメリカとイスラエルの共同開発で生まれたんだ。それでね、今回はアメリカの海域で飛行テストの予定だったの』

 

『でもそれだったらテスト中は軍の人達に見張られるからそのタイミングでは干渉は不可能の筈だよね』

 

『流石刹那だね。ボクはその前のメンテナンスの時に細工されたらしいんだ』

 

『らしい?記憶が無いの?』

 

『うん。色々弄られちゃったみたいでね。でも、篠ノ之束が直してくれたからもう心配ないよ!』

 

『良かった。でもつまりはアメリカかイスラエルの軍の中にテロリストが居るって事?』

 

『多分・・・だから刹那が目を覚ましたら篠ノ之束に教えて。もうこれ以上ボクみたいなISを増やしたくないって』

 

『分かった。必ず伝えるよ』

 

 

僕の言葉に満足そうな表情を浮かべた福音の体は、消え始めていた。それだけじゃない。僕の体やこの空間も消え始めていた。どうやら時間らしい。

 

 

『あ、あの!もう一つだけ、良いかな?』

 

『良いよ。なにかな?』

 

『ナターシャに、また何時か一緒に飛ぼうねって!』

 

『約束する。絶対に伝えるから』

 

『うんっ!』

 

 

こうして、僕の意識は再び消えて言った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・いった!?」

 

 

とろんとした意識の中、激痛で完全に目を覚ました。どうやら医務室で寝かされているらしい。目の前には知らない天井があった。

体をゆっくり起こして部屋の戸を見ると、夜になっていた。そこそこ眠っていた様だ。首元や枕元を確認すると、セシア達が無かった。束が回収したのだろうか。

 

 

「それにしても・・・お腹空いた」

 

 

腹部は激痛だけでなく、空腹も訴えていた。腕に取り付けられていた点滴の針を引っこ抜いて、外に出る。綺麗な月が昇っており、その光に海が照らされていた。

この景色、もっと普通の状況で見たかったなぁ。そう思っていると、向こう側の岬に織斑先生が歩いて行くのが見えた。

その先には束が居るのも見えたので、僕はそこへ向かった。

暫く歩き、物影に隠れて織斑先生達の会話を聞く。

 

 

「・・・不動、そこで何をしている」

 

「あ、バレました?織斑先生と篠ノ之博士が話すのを見て、つい」

 

「お前は怪我人なんだ。まだ無理をするものではない。そこに座れ」

 

 

そう言って、織斑先生は僕を抱き上げて近くの岩に座らせた。あ、意外とフィットするなコレ。そんな僕を見て、織斑先生が言った。

 

 

「まさか束の他にも宇宙に行くと考える奴が居ようとはな」

 

「へっ?」

 

「ごめんね、せっちゃん。バレちゃった☆」

 

「よし、歯ぁ喰いしばれ」

 

「暴力反対!」

 

 

拳を握るが、残念ながら振り下ろす気力が無い。お腹が二重の意味でヤバいんです。

織斑先生は軽く微笑んで言った。

 

 

「別に誰かに言うつもりは無いから安心しろ」

 

「そう、なんですか?」

 

「ああ。こんなにも楽しそうな束は何年ぶりだろうな。それを邪魔する気は私にはない」

 

「やったね、せっちゃん!」

 

 

そう言って束は僕にVサインをする。僕は思わず苦笑した。それからなんて事の無い世間話や、束との出会いを話す。気が着けば、かなり時間が経っていた。そして束が僕達に背を向ける。

 

 

「それじゃあ、私は行くね。ちょっと色々調べたいからさ」

 

「気を付けてね」

 

「無理はするなよ、束」

 

「うん!あ、せっちゃんは必ず夏休みに家に帰る事。あーちゃん達心配してるから」

 

「あはは・・・分かってます」

 

「紹介したい子もいるからさ」

 

「新しい家政婦さんか何か?でも家は家政婦雇った事無いし・・・」

 

「まあそれは帰ってのお楽しみ。・・・またね」

 

 

その瞬間、強風が吹いて僕達は目を隠す。そして風が止んで、目を開けるとそこには誰も居なかった。その後、何も会話する事なく僕と織斑先生は宿へと歩き出した。

この日はもう食堂も売店も閉まっており、僕は自販機の飲み物で誤魔化す事となった。

 

 

~翌日~

 

 

「・・・初めまして、ナターシャさん」

 

「貴方が不動刹那ね。今回はありがとう」

 

「いえ。それで、福音は」

 

「篠ノ之博士が回収して行ったわ。また悪用されるよりはマシね」

 

 

宿の一室を借りて、僕は目を覚ました福音のパイロットと会話をする。やっぱり束が持って行ったか。それなら安心だ。きっと何時かまた彼女の元へと帰って来るだろう。

僕は一度深呼吸をしてから、ナターシャさんに言った。

 

 

「ナターシャさん。今から言う事は本当です。戯言なんて思わないでくださいね」

 

「・・・分かった。貴方のその目を信じる」

 

「"あの子"が言ってました。また、一緒に飛ぼうねと」

 

「っ!・・・ありがとう・・・本当にありがとう・・・!」

 

 

涙を流して俯くナターシャさんに僕は、コアの声が聞こえなくとも確かな絆を築く事が出来ると学んだ・・・。

やがてIS学園へ帰るバスが発車する時間になり、部屋から出る。バスの駐車場までは、ナターシャさんが肩を貸してくれた。まだ腹部の傷が痛む。何度も塞いで開いてを繰り返した所為か、傷口はグチャグチャだったそうな。今は綺麗に塞がっているが、痛みは残っている。セシア達は未だに織斑先生が預かっているそうだ。

 

 

「来たか。不動、もう良いのか?」

 

「はい。約束は果たしましたから」

 

「・・・そうか。貴女も不動を運んできてくれた事、感謝します」

 

「いえ、お気になさらず」

 

「不動、コレを返しておく」

 

 

そう言って、織斑先生はセシア達を返してくれた。でも昨日の会話では、セシアの事は隠して話したので、只の装飾品としか考えて無いだろう。そうであってほしい。

セシア達を付けてから、バスへ乗り込む。すると、ナターシャさんに声を掛けられた。

 

 

「不動君」

 

「はい?なんd・・・」

 

「んっ・・・この続きは、何時かしてあげる♪」

 

 

・・・今何が起こったのだろうか?目の前にナターシャさんの顔があった事と、口の中を柔らかい何かが蠢いた記憶だけしか残っていない。

答えが出そうになった瞬間、僕は顔が赤くなる。

 

 

「不動・・・大丈夫か?」

 

「アメリカ人って、大胆なんですね」

 

「落ち着け。アレは特殊だ(一夏より、不動の方が女殺しではないか?)」

 

 

ポーっとしながらも僕はバスに乗った。窓から見ていたのか、隣になったラウラにずっとキスされ続けて、僕の臨海学校は幕を閉じた。

 

 

刹那サイド終了



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第15話

けじめフレンズ・・・鉄血のオルフェンズも終わってまう・・・。
オルフェンズのED聞いてると涙腺がマジで崩壊するんですけど。
OPに彼岸花でEDにフリージアはアカン。
獣は居てものけものは居ない。ただしイオク、テメーは駄目だ。


刹那サイド

 

 

あの地獄の様な臨海学校から帰って来た僕達は、もうすぐ夏休みに突入しようとしていた。だが諸君、よく考えて欲しい。夏休みの前にはある一つのイベントが存在する事を。それは・・・。

 

 

「刹那!勉強を教えてくれ!」

 

「帰れ」

 

 

定期テストである。

傷も完治して、白鋼の整備も終わった僕は自室で勉強しようと荷物を纏めた瞬間、織斑が目の前に駆け込んで来た。勿論、僕はそれを一蹴する。

だって織斑に教えてると自分が勉強できないし・・・。

 

 

「頼む!今回のテストで赤点取ったら補習なんだ!」

 

「篠ノ之さんとか鈴に教えてもらいなよ。幼馴染なんでしょ?」

 

「箒は自分の勉強が忙しいって言うし、それに鈴は最近付き合い悪いんだよ」

 

「そうなの?」

 

「そうなのって・・・よく刹那と話したりしてるじゃないか」

 

「友達なら普通だと思うけど」

 

 

織斑の言葉に僕は首を傾げる。確かに、最近はよく一緒に食事をしたり、ISの訓練をしたりしたけど・・・。

 

 

「兎に角、俺に勉強を教えてくれ!」

 

「無理。夏休み、頑張ってね」

 

 

必死な織斑を無視して教室を出る。セシリア達も今日は自室で勉強を頑張るそうな。明日は皆で勉強会だ。進まない予感がするから今日の内に少しでも勉強しようと廊下を歩きだす。

すると突然、誰かに後ろから抱き付かれる。背中には柔らかい感触を感じ、お高いシャンプーか何かを使っているのか無駄に良い匂いがした。そして耳元に微かな吐息と声がした。

 

 

「坊や、模擬戦の日程がようやく決まったわ」

 

「・・・藤原さん。普通に話し掛けられないのかな?」

 

「ごめんなさい。貴方の反応が可愛くて、つい」

 

 

そう言って藤原さんが僕から離れる。色々言いたい事はあったが、言い出したらキリがないので、本題に入る。

 

 

「それで?何時やるの?」

 

「今からよ」

 

「・・・はい?」

 

「だから、今からよ」

 

 

そう言って藤原さんは微笑んだ。

 

 

 

 

 

~30分後[アリーナ]~

 

 

「準備は良いかしら?」

 

「良いよ」

 

 

僕はラファールをジャンク・ウォリアーで展開して、学園で貸し出している方のラファールを展開している藤原さんと向き合った。

ラファールとラファールって分かりにくいな・・・。

 

 

「ようやく貴方と戦える。さあ、貴方の全てを私に見せてちょうだい!」

 

「流石に本気を出す訳には行かないけど、なるべく君のリクエストには答えるよ」

 

「なら、本気を出させるまでよっ!」

 

 

試合開始の合図が鳴った瞬間、藤原さんが先制射撃を開始した。両手に持ったマシンガンから弾丸が放たれる。僕はそれを避けながら接近する。そして右手のスクラップ・フィストを構える。

だが、突如その拳は弾かれた。あのマシンガンの威力ならば弾かれる筈は無い。そう思いながら藤原さんへ目を向けると、彼女の持っていたマシンガンの一つがショットガンに変わっていたのだ。僕とラファールでも気付かないレベルの早撃ち。その実力に僕は思わず笑みを浮かべてしまった。

 

 

「どう?本気を出す気にはなったかしら?」

 

「・・・良いね。久しぶりに骨のある人と戦えるよ!」

 

「っ・・・!」

 

 

此処最近、決まった人達と模擬戦しかしていなかった僕は正直不完全燃焼だった。だが、今目の前に僕をワクワクさせる様な相手が居る。思わずテンションが上がってしまうのは仕方ない。

 

 

----マスター、楽しそうだね。

 

----ちょっと、いや、かなりワクワクしてる。

 

----あまり無茶しないでね。病み上がりなんだから。

 

----分かってる。

 

 

脳内での会話を切った瞬間、ラファールの装甲が姿を変える。

黄色の装甲と、両腕にショベルとドライバーを模した武装が展開され、背中にはウイングパーツが取り付けられる。

これがラファールの形態の一つである《パワー・ツール》だ。

 

 

「また私の見た事の無い形態ね。幾つあるのかしら?」

 

「そこは企業秘密で。それじゃあ、行きますか!」

 

 

パワー・ツールのワンオフアビリティーを発動すると、頭上に三つのエネルギー球が現れた。そしてそれらはグルグルのその場を周り出す。そしてその内の一つが破裂して、中から武装が飛び出した。

ドリルと丸型のチェーンソーで構成されたそれは、パワー・ツール専用装備《ダブルツールD&C》だ。両手の武装と換装させて構える。

ランダムに機体に登録された武装を装備するワンオフアビリティー《パワー・サーチ》。

一見ただのルーレット形式に見えるこの能力。実は自分の受けるダメージを代わりに武装を破壊する事で無効化出来るのだ。またパワー・サーチで武器は手に入る。それぞれの武器を三機ずつ積んでいるので、運が良ければ選択肢が全て同じ武装になる可能性もある。

 

 

「せいっ!」

 

「くっ!(さっきよりも早い!)」

 

 

左手のチェーンソーで攻撃すると、藤原さんは小型のシールドを装備して防御する。

ギャリギャリと火花を散らしながらシールドへと刃が喰い込んで行く。そして見事にシールドを切断すると同時に左腕の装甲にも皹が入り、それは他の部分にも広がって行く。そろそろ彼女のSEが切れる頃だろう。

 

 

「やっぱり貴方は私が見込んだ通りの男だわ。もっと欲しくなっちゃった」

 

「残念ながら僕は今の所、恋愛に興味は無いんだ。他を当たってくれると嬉しいな」

 

「あら、振られちゃった。でも諦めないわよ。必ず貴方を私の物にしてみせるから」

 

「期待せずに待ってるよ」

 

 

その会話を最後に、藤原さんの機体のSEが0になり、試合が終了した。

互いにISを解除して、手を握り合う。

 

 

「さっきはあんな事言ったけどまた、戦ってくれるかしら?」

 

「ああ、何時でも」

 

 

こうして持ち越されてた僕と藤原さんの模擬戦は僕の勝ちで幕を閉じた・・・。

 

 

~数時間後[自室]~

 

 

「・・・」

 

 

食事と風呂を済ませた僕は、イヤホンを耳にしてお気に入りの曲を聞きながら無言でノートにペンを走らせる。会長も僕の隣で勉強をしており、普段とは違った真面目なッ表情を見せる。

誰にも邪魔されないこの空間では、凄く勉強が捗る。そりゃあ、もう捗る。

 

 

----マスター、構ってください。

 

----暇だぞ、主殿。

 

----ええっと・・・ごめんね、マスター。

 

----うん、知ってた。

 

 

脳内に声が響く。なんとなく予想はしていたので、休憩がてら冷蔵庫から水を取り出して飲みながら会話をする。

 

 

----五分だけね。そしたら残りやるから。

 

----では、何気ない世間話を。

 

----はいはい。何ですか?

 

----福音事件の犯人を馬鹿兎が潰しました。

 

 

「マジでなにやってんの!?」

 

「ふ、不動君?どうしたのいきなり?」

 

「あ、ごめんなさい。ちょっと幻聴が聞こえただけなので」

 

「大丈夫じゃないわよそれ!?不動君、今日はもう休みなさい。分からない所があれば、明日の勉強会で教えてあげるから」

 

「それじゃあ、お言葉に甘えて。お休みなさい」

 

「ええ、お休みなさい」

 

 

歯磨きをしてから僕は布団に入って会話を再開する。正直、続きが気になって眠れない。

 

 

----さて、どう言う事かな?

 

----あの後、馬鹿兎が独自に犯人を探してカチコミしたんです。

 

----映像を見たが、それはもう凄かった。

 

----人ってあんなに飛ばせるんだね。

 

----なにそれkwsk。

 

 

すると頭の中に映像が流れだす。セシア達に記録された映像が僕に共有されたのだ。映されたのはとある浴室。そこに一人の人物が入って来る。白い髪に赤い目の人物が鼻歌を歌いながら体や頭を洗った後、湯船に浸かってリラックスしている映像だった。

うん、どう見ても僕ですね!

 

 

----やっべ、間違えた。

 

----セシア暫く部屋に置き去りにするから。

 

----本当にすみませんでした。

 

----綺麗な土下座だな。

 

----うわぁ・・・。

 

----ラファールのそんな目、初めて見た。

 

----この冷たい視線・・・ちょっと良いかも。

 

----反省しろこの変態ISが。

 

----はぅんっ♡

 

 

僕の言葉に何故か嬌声を上げたセシア。それから映像が切り替わり、ちゃんとした映像になる。そこは何処かは分からない施設の内部。束の視点であろうカメラの映像が進みだす。

すると、見張りなのかドアの前に数人の女性が銃を持って立っていた。その前を通り過ぎるが相手は気付かない。大方、迷彩システムでも使ったのだろう。束なら余裕だ。

気が付けばとある一室の前で止まった。そしてそのドアを・・・

 

 

『はい、ドーンッ☆』

 

 

あろう事か素手の拳で破壊した。なんてダイナミックな入室なんだろうか・・・。

土煙が晴れると、そこにはISを展開した数人の女性が居た。

 

 

『し、篠ノ之束?』

 

『篠ノ之束だよ!この中で、福音を暴走させたり、IS学園に無人機を送り込んだのはぁ、誰かなぁ?』

 

 

画面越しでも分かる位の殺気が束から流れ出す。話し方こそ何時もの束だが、絶対に目が笑っていない事が予想出来た。

そんな束に対して、女性達のリーダーらしき人物が命知らずにも白を切った。

 

 

『一体なんの事だか分かりません。何かの誤解なのでわ?』

 

『そんな事も分からないと思った?・・・調子に乗ってじゃねえよ虫けらが』

 

『っ!?』

 

『束さんはね、ISの開発者であり母でもあるんだよ。自分の娘には愛情があるし、軍とか筋の通った目的だったら別に文句は言わないよ。でもさ、君達みたいなただ力を振り回すだけの馬鹿共に好き勝手されるのは我慢ならないんだよ』

 

 

それからはもう酷い物だった。ISを展開した女性達を素手でバッタバッタと薙ぎ倒し、挙句の果てには顔面パンチで空の彼方へと吹き飛ばしたのだ。

それを僕はポカンとしながら眺めていた。そして施設を壊滅させた束は一息吐いていた。

組織の構成員は全員半殺しにされた後、束の発明品か何かによって記憶を改変された状態で近くの病院に放り込まれた。

 

 

『そろそろ帰ろっかな~。なんでも鑑定団の再放送始まっちゃうよ』

 

 

そう言って、束は人参の形をした乗り者に乗ってその場を後にした。此処で映像は終わっている・・・。

 

 

----どうです、マスター?

 

----束さんマジかっとビング。

 

 

彼女には一生掛かっても勝てない気がした。その後、疑問も解消した僕はあっさりと意識を手放した。この日はセシア達の空間にお邪魔する事は無かった・・・。

 

 

~翌日[図書室]~

 

 

翌日の放課後、僕とセシリア、シャロ、ラウラ、簪、会長、のほほんさん、鈴の8人は図書室の机で教材を開いていた。

織斑は篠ノ之さんのISの特訓に巻き込まれますた。

福音戦で僕が倒れた後、篠ノ之さんの専用機である赤椿は結果没収されなかった。代わりに武装が殆ど取り外され、耐久も落ちた。残った武装は二本の刀のみ。今の彼女の専用機は打鉄の性能と大差無い状態だ。

そしてその原因が僕にあると篠ノ之さんにめっちゃ怒鳴られた後に治り掛けの腹部を殴られた。解せぬ。

 

 

「さて、それじゃあ始めようか」

 

「簪ちゃん、不動君、分からない所ない?お姉ちゃんが手取り足取り腰取り教えてあげる」

 

「お姉ちゃん、ちょっと黙ってて」

 

「会長、シャラップ」

 

「はい・・・」

 

 

ショボンとする会長に苦笑いを浮かべながら僕達も勉強を始める。暫くすると、セシリアに質問される。

 

 

「刹那さん、此処の問題がよく分かりませんの」

 

「ああ、此処はね・・・」

 

「なるほど。ありがとうございます」

 

「いえいえ。あ、僕も此処を聞きたいんだけど」

 

 

セシリア達は古文と言った類の教科が苦手らしく、簪とのほほんさんは英語が苦手だった。僕は少し自信の無かったISに関する基礎学等を教えてもらう。自分の動きに癖が出て来るとそう言うの忘れる時があるんだよね。気を付けなきゃ。

暫くして、辺りを見回すと何時の間にか人が居なくなっていた。どうやらかなりの時間居たらしい。

 

 

「あら、もうすぐ図書室も閉まるわね」

 

「それじゃあ、今日はこれでお開きかな」

 

「では刹那。夕食を食べに行くぞ」

 

「別に良いよ」

 

 

ラウラに手を引かれ、食堂へと向かう。取り敢えず部屋に荷物を置きたいんだけど。

臨海学校以来、ラウラのアプローチが積極的になった気がする。事あるごとにキスされたり、下着姿の自撮りが送られて来たり、この前は布団の中に入ってた。

当然、会長に見つかり説教。何故か僕の貞操は会長が貰う事になっていた。解せぬ。

荷物を置いた僕とラウラはセシリア達と再び合流してから食堂へ向かった。食券を渡して、出て来た料理を持って席に座る。

 

 

「相変わらずの食欲ね、アンタ」

 

「此処の食事が美味しいのが悪い」

 

「今日もプリンおまけしてもらってたもんね」

 

「・・・女子としては複雑」

 

 

鈴、シャロ、簪が僕を見ながら頬を引き攣らせる。セシリア達も苦笑いしていた。唯一、のほほんさんだけがボーッとしていた。そしてこんな事を言い出す。

 

 

「ふーちゃんのお嫁さんになったらご飯が大変だね~」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

「ああ、確かに」

 

「だから、ふーちゃんのご飯は私が作ってあげる~。これでもお料理は得意なのだ~!」

 

 

そう言ってのほほんさんは偉そうに胸を張る。僕もくすくすと笑いながら相手のおふざけに答えた。

 

 

「それじゃあ、お願いしようかな?」

 

「ふへっ!?」

 

「ふへ?」

 

「せ、刹那さん!食事でしたら私が毎日作りますわ!」

 

「因みにサンドイッチ以外のレパートリーは?」

 

「この前、野菜炒めを覚えました!」

 

「レパートリーが無さ過ぎ。却下」

 

 

のほほんさんが奇声を上げて顔を伏せる。そしてセシリアが何故か張り合い出した。

流石にサンドイッチと野菜炒めだけで毎日過ごせとか地獄すぎる。

 

 

「私なら色んな中華料理を作れるわよ」

 

「僕日本食が食べたいから、それは織斑に作ってあげなよ。僕は君を応援してるからさ」

 

「(オワタ・・・)」

 

「ぼ、ボクも料理頑張るね!」

 

「うん、頑張って」

 

「そうじゃなくてぇ・・・!」

 

「刹那、料理はせずとも軍用レーションと言う物があってだな」

 

「ごめん無理。あれ一回だけ食べたけど毎日は嫌だ」

 

「そうか・・・ならば刹那の嫁として料理の訓練に励むしかないな!」

 

 

そう言ってラウラはグッと拳を握った。彼女の中では最早僕に嫁ぐのは確定らしい。

 

 

「だったらこの生徒会長である私が、不動君の食事を保証してあげるわ」

 

「聞きますけど、どんな物を作れますか?」

 

「鰻の蒲焼にレバニラ炒め、ニンニク料理は大半作れるし・・・これで不動君に夜の模擬戦を・・・!」

 

「誰か摘み出せ」

 

「お姉ちゃん、ちょっと校舎裏行こう?」

 

「簪ちゃん!?」

 

 

簪は会長を連れて食堂を出て行き、一分もしない内に戻って来た。服に赤い染みが付いていたが、きっとケチャップでも飛んだのだろう。

会長?知らない子ですね(すっとぼけ)

 

 

「ごちそうさまでした。それじゃあ皆、また明日」

 

 

一足早く食事を終えた僕は部屋に戻って勉強の続きを始める。ある程度進めて、今日はもう休もうと思った時、部屋がノックされた。恐らく会長が何処かから戻って来たのだろう。そう思ってドアを開けると・・・。

 

 

「刹那!助けてくれ!」

 

 

馬鹿が居た。当然僕はドアを閉めるが、コイツはあろう事かドアの間に足を挟んで来た。

 

 

「嫌だ帰れ二度と来るな」

 

「そんな事言うなよ。俺達は友達だろ?だから勉強を教えてくれ!」

 

「誰が友達だ。良いから離れろ」

 

「お前が入れてくれるまで離れないからな!」

 

「だったら織斑先生を呼ぶだけだ」

 

「あっ、ちょっ、待てよ!」

 

「いたっ!?」

 

 

携帯を取り出して入学書類に記されていた織斑先生の番号を登録してあったので、それを入力しようとすると、織斑が馬鹿力でドアを開けて来た。その勢いに僕は後ろに倒れ、その上に織斑が乗る形になった。

 

 

「ちょっと、早く離れてよ。重い」

 

「わ、悪い!(い、良い匂い・・・)」

 

「何顔紅くしてるのさ。キモイ」

 

「う、うるせえ」

 

「とっとと出てけ!」

 

「いってえ!?」

 

 

織斑を廊下へ蹴飛ばし、鍵を閉める。外でドアをバンバン叩く音が僕の心にストレスを溜めて行く。僕は天井を見上げながら織斑先生に電話を掛けた。

 

 

『私だ。どうしたこんな時間に』

 

「お宅の弟さんの回収をお願いします。押し倒されたりもして限界です。これはもうスクラップ・フィストして良いと言う事でしょうか?」

 

『ま、待て!今すぐ向かうからそれはまってくれ!』

 

 

その後、織斑先生が駆け付けて愚弟に無言の腹パンを決めてから回収して行ってくれました。僕はドッと来た疲れに溜息を吐きながら就寝した。

その後は特に何も怒る事なくテストを迎えた。織斑は地獄だった様だが・・・。

 

 

~数日後[一年生校舎・廊下]~

 

 

「刹那さん、今回のテストの結果を見に行きませんか?」

 

「良いよ。シャロ達も行く?」

 

「勿論。今回は結構自信あるんだ」

 

「私も行くぞ」

 

「じゃあ私も~♪」

 

 

教室へと向かっていた僕達は廊下に張り出されたテストの結果を見る。

ディスプレイに表示された名前の中から自分の名前を探す。すると隣に居たセシリアがあんぐりと口を開けて居た。

 

 

「どうしたの?」

 

「せ、刹那さんが一位・・・」

 

「ん?あ、本当だ」

 

「しかも全科目満点とかバケモノか何か?」

 

「あ、鈴おはよう」

 

「おはよう。・・・よし、ギリギリ赤点は回避ね」

 

「うわぁ・・・」

 

「な、何よ!」

 

 

僕は無言でディスプレイの一角を指差す。そこには夏休みに補修を行う生徒の名前が記されており、織斑の名前が記されていた。鈴もあと数点低ければ間違いなく補習対象だっただろう。いや、でも織斑と入れるから良いのか?

そんな事を考えながら鈴を見ると、

 

 

「あっぶな・・・本気で勉強しよ」

 

 

冷や汗ダラッダラでした。

セシリア達も上位に食い込んでおり、2位は簪だった。流石だね。

教室に歩き出すと途中、とある男の嘆く声が聞こえたが無視した。ざまあ。

 

 

「そう言えば皆って夏休みはどうするの?」

 

「私は最初の内はイギリスへ戻りますわ」

 

「私もちょっと中国に戻って報告やらして親に顔出して来るわ」

 

「そっか。僕達はイリアステルでひたすらテストだよ」

 

「うう・・・ボクもフランスに戻らないと」

 

「シャルロットはフランス支部の所属だからな」

 

「本社のラウラが羨ましいよ」

 

「日本の夏は一線越えるチャンスと雑誌に載っていた。安心してくれ。お前が戻って来る頃には刹那と一線を越えてみせる!」

 

「ラウラ、意味分かって言ってる?」

 

「よく分からんがつまりは刹那との距離が縮まるのだろう?おそらくこう、ぎゅっとしてもらえば問題ない。・・・何故全員頭を撫でるのだ?」

 

 

僕達は無言で彼女の頭を撫でる。なにこの子、控えめに言って可愛い。

 

 

----そうでしょうそうでしょう。

 

----お前じゃない、座ってろ。

 

 

脳内で誰かが会話していたが気にしない事にした。あれ多分関わったら数時間は解放されないパターンだ。

暫くすると予令が鳴って鈴がクラスに戻る。それから織斑先生と山田先生が入って来た事で今日の授業が始まった。と言ってもテストの返却をして解散だが。あっという間に時間は過ぎて本日最後のHRが始まり、織斑先生が話を始めた。

 

 

「テストの学年順位を確認してから帰る様に。夏休みだからと言って遊び過ぎるなよ。新学期早々にテストがあるからな。それと補習者は合格点を取るまで休みは無いと思え。私からは以上だ。山田先生は何か?」

 

「それでは皆さん、楽しく健全な夏休みを過ごしてくださいね」

 

「では、解散!」

 

 

こうして僕達の夏休みが始まった・・・。

簪のISの魔改造・・・楽しみで仕方が無い!

 

 

刹那サイド終了



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第16話

刹那サイド

 

 

夏休み初日。フランス行きのシャロと別れて、IS学園からモノレールで移動した僕達は降りた駅の前に立っていた。そんな僕達を周りの人達はジロジロと見て来る。理由は簡単だ。僕の両脇に居る少女達である。

控えめに言って美少女なラウラと簪が私服を着ているその姿は可愛いの一言に尽きる。それを男女関係無く視線が襲うのだ。僕はまあ、何故こんな冴えない奴がなんて考えだろう。多分。さっきからあの女子三人とか聞こえるのは幻聴なんだきっと。そう思っていると、僕達の前に一台のリムジンが止まった。それを見た瞬間、僕は思わず溜息を吐いた。

ドアが開いて女性が姿を現す。

 

 

「刹那坊ちゃま、ラウラ様、更識様。イリアステル本社より迎えに参りました《クラリッサ》です。さあ、此方に」

 

 

そう言って女性は後部座席のドアを開いて僕達を招いた。僕達は強くなった視線から逃れる様に車に乗り込む。すぐにドアは閉まり、クラリッサさんの運転で発進した。

僕はジト目になるのを自覚しながら運転席を見る。

 

 

「・・・もうちょっとなんとかならなかったんですか?」

 

「安全性を考えると此方が一番最適であると判断しました」

 

「防弾仕様の普通車ってありませんでしたっけ?ブルーノさんが作った」

 

「それでしたら数日前に実験に使用されて大破・・・いえ、消滅しました」

 

「何やったんですか!?」

 

 

呆れた僕は備え付けの冷蔵庫を開けて中に入っていた水をラウラと簪に渡す。真夏だから水分補給は欠かさずに。程良く効いた空調の中で冷えた水を飲む。

織斑は水分は常温の方が体に良いと言っていたが僕はこれの方が良い。飲み終えるとラウラが話し掛けて来た。

 

 

「刹那はクラリッサを知っていたのか?私の元部下とは今日が初対面だろう?」

 

「前々から新入社員の資料は貰っていたからね。人員の把握とスパイの侵入を防ぐ為だよ。これでも国内の電子機器使用率40%は伊達じゃないんだから」

 

「やっぱりイリアステルって凄い・・・」

 

「尚、織斑はイリアステルの事を知らない」

 

「・・・やっぱり馬鹿」

 

 

アイツの使ってる携帯電話とかもイリアステルの商品なんだけどな・・・。簪の冷たい声音に苦笑しながら僕達は雑談を続けた。やがて車はとある場所に着く。車から降りるとそこには少し大きめの家が建っていた。まぎれもない我が家である。

 

 

「お荷物をお持ちします」

 

「あ、どうも」

 

 

僕達はクラリッサさんに荷物を預けて家のドアを開ける。GW以来の我が家に思わずテンションが上がってしまう。ふと足元を見るとそこには見慣れない靴があった。

母さんの物ではない女の子物の靴だった。お客さんかな?

そんな事を考えながら僕は家に上がる。ラウラ達にスリッパを渡して全員でリビングへと向かった。

 

 

「ただいま、母さん」

 

「お帰り刹那。今ちょっと手が離せなくてごめんなさい。あとちょっとでご飯出来るから皆を部屋に案内して来てちょうだい」

 

「分かった。二人共、こっち」

 

 

僕はラウラ達を連れてリビングを離れる。そして二階の空き部屋に二人を案内した。

 

 

「部屋の位置は二人で好きに決めて良いから。荷物置いたら手洗いうがいをしてからリビングね」

 

「分かった。簪はどの部屋が良い?私はどちらでも構わん」

 

「それじゃあ、此処かな」

 

「了解した。クラリッサ、荷物を」

 

「はっ!」

 

「もう此処は軍ではない。そこまで畏まるな」

 

「ですが隊長・・・」

 

「もう私は隊長ではない」

 

 

なんかこの二人の会話何処かで見たなぁ。

取り敢えず荷物を置いて洗面所へ向かって手洗いとうがいをする。それからリビングへ向かうとテーブルには素麺と薬味が5人分並べられていた。クラリッサさんの分かと思ったが彼女はあの後帰ってしまった。家の中は束が魔改造を施した結果、不審者なんて誰一人入れないレベルの警護システムになった。最終的には戦艦に変形して空を飛べるらしい。

そんな事を思い出しながら母さんに聞く。

 

 

「母さん、これは誰の分?父さんは仕事でしょ?」

 

「ええ、これh「バイクの整備が終わりました、"お義母様"」あら、ありがとう《クロエ》ちゃん」

 

「「「・・・は?」」」

 

 

突如聞こえた声の正体は銀髪の少女だった。ラウラに少し似た顔つきの少女は両目を閉じた状態で部屋に入って来た。見覚えの無い人物に対して母さんは普通に接している。

と言うか・・・、

 

 

「今、お義母様って・・・」

 

「あら、聞いてなかったの?彼女は《クロエ・クロニクル》ちゃん。貴方の"許嫁"よ」

 

「・・・ファッ!?」

 

「ど、どどどどう言う事だ刹那!?私と言う者がありながら許嫁などと!?」

 

「僕だって知らないよ!?て言うか彼女何者!?」

 

 

・・・まさか前に束が言ってた会わせたい子って。

 

 

「あーちゃん!せっちゃんの写真現像出来たから持って・・・き、た・・・」

 

 

突如クロニクルさんの後ろから元凶である束が突貫して来た。そしてラウラと簪を見て固まる。あれは完全に今日此処に来るのを忘れてた顔だ。

こうして僕達の昼食は気まずいムードへと変わって行った。

 

 

「さて、話してもらおうか」

 

 

束を椅子に座らせて尋問を始める。僕の雰囲気を見て察したのかスーツ姿でビクビクと怯える束はさながら面接時の就活生の様だった。まずはさっきから僕にピタリとくっついては顔を紅くしているクロニクルさんについて説明してもらわねばならない。

 

 

「彼女は何者?何処かの企業の娘さんとか?」

 

「ううん。私が違法実験施設を潰した時に保護した子なの」

 

「待って。既に爆弾が投下されたんだけど」

 

「まあ、そこは置いておいて。でないと話が続かないし」

 

「・・・取り敢えず全部聞くよ」

 

「それでね。その子身寄りが無いしどうしようかなって思ってたらゆー君達が家に来いって言ってくれてね。それから《くーちゃん》は此処で暮らし始めたって訳」

 

「それが何故許嫁に?」

 

「くーちゃんがせっちゃんの映像を見たりゆー君から話を聞いて、惚れちゃったみたいで、あーちゃん達も気に言ったからせっちゃんのお嫁さんにしようってなったの!あ、私は愛人枠ね」

 

「・・・!」

 

 

僕は思わず両手で顔を覆いながら俯いた。帰って来たらいきなり許嫁が居たとか何それ笑えない。それにさっきからセシア達が頭の中で[見せられないよ!]な事を叫びまくってて可笑しくなりそうだ。

そう思っていると、クロニクルさんが僕を見ながら言った。

 

 

「刹那様・・・ご迷惑、でしたか?」

 

「迷惑って言うか、突然の状況に理解が追い付かないんだ。だから急に許嫁とか言われても反応出来ない。ごめんね」

 

「いえ。此方も連絡の一つも無しに唐突にすみませんでした」

 

「君は悪くないさ。どうせそこの天才様が情報を操作してたんでしょ」

 

「ぎくっ!?・・・さ、サプライズがあった方が良いかなって」

 

「よし、後で父さんに頼んで減給してもらおう」

 

「それだけはご勘弁を!そんな事したら来月のコミケの軍資金が!?この前やっと原稿が終わって計画立ててたのに!」

 

「逃げ回ってる癖に何やってんの!?」

 

「束様は数年前からサークル活動なさっているそうです。こちらが同人誌のデータです」

 

「どれどれ・・・《世界最強が堕ちる時》、《男性操縦者、秘密の放課後》」

 

 

僕は画面に映された表示を見て震える。その内容は織斑先生と僕、織斑のがそれぞれモデルにされた18禁の同人誌だった。思わず僕は端末を気絶した束に投げつけた。

 

 

「身内を題材に何書いとんじゃコラぁ!」

 

「いたっ!?」

 

 

端末が額に超エキサイティンッ!した束は涙目になりながら意識を復活させた。

 

 

「一応聞いておくけど今年出す内容は?」

 

「・・・小学生のせっちゃんとちーちゃんのおねショタ物です」

 

「ちょっと会場にミサイルぶち込んで来る。あそこ壊せばイベント中止だよね」

 

「とら○あなに委託するからどのみち発売されるよ?」

 

「ジーザス」

 

 

少年、これが絶望だ(白目)

どうして夏休み早々自分がネタにされた事実を知らなくてはいけないのだろうか。正直、死にたくなって来た。

と言うか何故母さんは止めないのだろうか?そう思いながら視線を向けると母さんは目を逸らして吹きなれて無い口笛で誤魔化し始めた。

 

 

「ふっふっふ・・・既にあーちゃんにはゆー君とのラブラブ同人誌を渡してあるから無駄だよ!」

 

「オンドゥルルラギッタンディスカッ!?」

 

「だって遊星があんな・・・病院でなんて・・・!」

 

「分かったから内容語らないで。両親の同人誌とか複雑な気持ちでいっぱいだから」

 

 

さっきから頭の中で[IS×刹那、はよ]とか[刹那は総受け]とか聞きたくない言葉が響いてるから止めて。ティアーズさん達に拡散すんな!?

oh・・・もう聞きつけちゃったよ。はいそこの白式。[織斑から略奪される同人誌]とかニッチすぎるわ。

そもそも僕を題材にした所で需要は無いだろうに。

 

 

----私達の業界ではご褒美です!

 

----薄い本を厚くしてくれ!

 

----えと・・・おねがいします。

 

----三人共暫くメンテ無し。

 

 

僕の言葉に三人は急に無言になった。ISのメンテは一種のマッサージの様な物らしい。セシア達のパーツに触るのは人間が体を触られるのとなんら変わらないそうだ。

だからってメンテの度に艶やかな声を出すのはどうか止めていただけないだろうか。

 

 

「まあそれはおいおい考えるとして。クロニクルさん」

 

「クロエ、とお呼びください」

 

「じゃあクロエs「さんもいりません」・・・クロエ」

 

「はい♡」

 

「・・・あの、さ。僕は正直な話、君と結婚したいかと言われればNOとしか答えられない」

 

「そう、ですか」

 

「ごめん。言い方が悪かったのは謝るから泣かないで。心が痛い」

 

 

泣きそうになるクロエの涙をハンカチで拭いて咳払いをしてから話を続ける。

 

 

「僕と君はそもそも今日会ったばかりだ。それなのにいきなり許嫁とか言われても納得は出来ない。知らない相手と結婚するのには抵抗があるんだ。だから、まずは互いを知る事から始めよう」

 

「互いを知る・・・ですか?」

 

「うん。何でも良いんだ。好きな食べ物、趣味、得意な事、苦手な事。兎に角話をしようよ。そうすれば僕に対する評価も変わると思うし」

 

「刹那様への思いが変わる事などありえません」

 

「ありえない可能性ではないと思うけど。まあ、何事もまずは知って理解する事が大事だよ。人は分かり合う事で未来を築くんだから」

 

「分かり合う事・・・」

 

「まあ、先延ばしにしか聞こえないとか言われたらそれまでだけど。ごめんね、面倒臭い性格で」

 

「いえ、確かに一方的な愛は何も実らせません。では早速お話しましょう」

 

「はいストップ。その前に・・・」

 

 

クロエを止めて僕は視線を移す。そこにはさっきからポカンとして話に着いて行けていないラウラと簪が虚空の彼方を見つめていた。

なんとか二人の意識を戻して食事を始めた・・・。

 

 

「あの、束さんの分は?」

 

「・・・僕のを分けてあげる」

 

「せっちゃん大好きっ♪」

 

「はいはい」

 

「羨ましいです束様」

 

 

 

 

 

~昼食後~

 

 

昼食を終えた僕とクロエはリビングで話していた。ラウラと簪は脳が耐えきれなくなったのかソファで寝てしまった。母さんはそんな二人にタオルケットを掛けている。

僕達は向き合って自己紹介を始めた。束?庭で草むしりさせてますが何か?

 

 

「では私から。クロエ・クロニクルです。年齢は16で今年で17になります。好きな食べ物は牛丼。趣味はお裁縫で、得意な事はISの操縦、苦手な事は料理です」

 

「結構家庭的なんだね」

 

「妻になる為に必死に学びましたから。次は刹那様の事をお聞かせください」

 

「なんか少し恥ずかしいな。えっと、不動刹那です。年齢は15で、今年で16になります。好きな食べ物はエビフライ。趣味は機械弄りで、得意な事は・・・」

 

「刹那様?」

 

「僕って何が得意なんだろう」

 

「えぇ・・・」

 

「いや、よくよく考えたら何か突出している事がないんだよ」

 

「それはまた・・・」

 

「う~ん・・・あ!さくらんぼのヘタを口の中で結べるよ!」

 

「(上手いんですね・・・)」

 

「えっと、顔紅いけど大丈夫?」

 

「だ、大丈夫です。きっと蕩ける様な心地なのだろうと」

 

「蕩ける?」

 

 

クロエの言葉に首を傾げる。

その後も話を続けた。そしてクロエは一つの映像を取り出した。IS学園の入学試験の映像だ。そこには打鉄を展開して嫌悪感に染まった顔をした試験管と、白い装甲に巨大なレンチメイスを担いだ僕が向き合っていた。

 

 

『チッ・・・それじゃあ何処からでも掛かって来なさい』

 

『良いんですか?』

 

『五月蠅いわねぇ。アンタみたいな下等生物相手に真面目にやる訳無いでしょ?千冬様はもう一人の方を見に行っちゃったし・・・ホントに最悪』

 

『・・・じゃあ、行きます』

 

『だから勝手にすれbゲブッ!?』

 

 

試験官がそう言った瞬間、その腹部にレンチメイスの先が叩きつけられてそのまま持ち上げられる。そして一気に地面へと振り下ろした。試験官はそのまま気絶し、僕の勝ちに終わった・・・。

そして映像が終了し、クロエは僕をキラキラした目で見つめて来た。

 

 

「これが私が最初に目にした刹那様の映像です。完全に惚れました」

 

「お、おう・・・」

 

 

ジリジリと近づいて来るクロエから目を逸らす。クロエも美少女の類に入る。そんな子に急接近されたら誰だってそうなる。え、セシリア達?可愛いとは思うけど、最初の頃があんなだった所為か、あまり意識しなくなっている気がする。不意にドキッとする事はまああるが。

その後、簪達が目を覚まして何故かクロエと無表情で睨み合う。

 

 

「・・・渡さない」

 

「・・・刹那は私の婿だ」

 

「・・・上等です」

 

 

小声で話している為、何を言っているのかは分からない。まあ、暫く放っておこう。そうすればこの険悪ムードも消えるだろう。

 

 

~数時間後~

 

 

「ラウラ、罠張って」

 

「了解した」

 

「次、黒炎王の8やりたいんだけど良い?」

 

「私は構いません。丁度素材が欲しい所でしたから」

 

 

仲良くゲームをするまでになりました。

最近出たゲームを協力プレイで進める。夏休みの課題?ああ、僕は貰ったその日に終わらせる派だから。後は自由研究に費やすね。

そこから暫くゲームを進めて、僕達は一旦休憩する事にした。クロエが出してくれた麦茶を飲んで、喉の渇きを潤す。

 

 

「ああ、染みる・・・」

 

「刹那、おじさん臭いよ?」

 

 

簪の言葉に思わず苦笑してしまう。前世での年齢合わせれば僕の精神年齢30越えのおっさんなんだよね。セシア曰く、肉体に精神が引っ張られるらしいけど。

休憩してると、母さんがリビングに入って来た。

 

 

「さあ、今日は腕によりを掛けるわよ」

 

「手伝うよ母さん」

 

「良いから座ってなさい。貴方達の為の御馳走なんだから」

 

「では、私が」

 

「クロエちゃんも偶にはゆっくりしてて」

 

 

そう言って母さんは一人で料理を始めてしまった。僕達はお言葉に甘えてゆっくりしていると、リビングの窓が開く。

 

 

「草むしり終わったぁ!手でやれとかせっちゃん鬼畜すぎィ!」

 

「はいお疲れ。取り敢えずシャワー浴びて来な」

 

「うん!それじゃあ、ベッドで待ってるね」

 

「母さん、今日別の部屋使っても良い?」

 

「じ、冗談っすよ、旦那」

 

 

そう言って束はシャワーを浴びに行った。その光景にラウラと簪は頬を引き攣らせる。

 

 

「なんていうか・・・」

 

「やはり刹那は大物だな」

 

「なんで?」

 

「あの篠ノ之博士に草むしりさせるとか、普通ありえないよ?」

 

「それに臨海学校の時と言い、私の知っている篠ノ之博士とは性格が何もかも違いすぎる。その、もっとこう・・・」

 

「冷たい、かな?」

 

 

僕の言葉にラウラ達は躊躇う様に頷いた。僕と事情を知っているのかクロエは思わず笑ってしまう。まあ、世間一般じゃそうだよね。

 

 

「まあ、なんだかんだ言ってもね。束もちょっと頭が良いだけの普通の人なんだよ。だから彼女の心の奥底にだって、もっと誰かに優しくしたいとされたいとかそう言った感情もあるのさ。最近になってそれが表に出て来たってだけ」

 

「今となっては只のオタクと化してますが。マイブームは変装して秋葉原のメイド喫茶に行く事だそうです」

 

「そこは執事じゃないの?」

 

「それは刹那様にしてもらうから良いと」

 

「絶対やだ」

 

 

ぷいっと顔を背ける。ISの知識を直接教えてもらう代わりに散々コスプレをさせられたんだ。もうこれ以上着せ替え人形にされてたまるか。

 

 

----でも、なんだかんだで協力しちゃうんですよね?

 

----主殿にとって、尊敬する人間だからな。

 

----マスターはツンデレさんだね。

 

----止めてくれ、死にたくなる。

 

 

脳内で自分の本音がモロバレした事で羞恥心がヤバい。バッチリ聞こえていたらしいラウラから同情的な視線を向けられる。止めて、そんな目で僕を見ないで。

そんな時、救いの手が差し伸べられた。

 

 

「あら、お味噌が切れちゃった」

 

「あ、僕買って来るよ!」

 

「そう?ならお願いしようかしら。でも護衛の方は・・・」

 

「僕にはこの子がいるから」

 

 

そう言って僕は母さんにだけ首元のセシアを見せる。そこらの護衛よりも断然強い。それに僕は出掛ける時、何時も不可視のフィールドを張って銃弾の類が当たらない様にしてるから問題ない。接近戦で来ようものなら、全身の骨を砕いてくれる。

 

 

----ナチュラルに出来そうだから怖いです。

 

----と言うか主殿は前に素手でISを壊した事あるだろう。

 

----えっと、ドンマイ?

 

----あーあー、聞こえなーい。

 

 

僕は脳内の会話を切って、財布を持って外へ出る。結局ラウラ達も着いて来てしまった。エスケープ失敗に涙しか出ない。

近所のスーパーで目的の物を買い、スーパーを出る。するとラウラ達が思い出した様に声を上げる。

 

 

「しまった。歯ブラシを忘れていた」

 

「あ、私も」

 

「じゃあ戻ろうか」

 

「それなら私が先に荷物を持って戻ります」

 

「いや、それは悪いよ」

 

「大丈夫です。すぐに戻りますから」

 

「えっクロエ!?」

 

 

クロエは荷物を持って行ってしまった。仕方なく僕達も急いで買い物を済ませる。財布を持ってるの僕だけだし。

スーパーを出て歩いていると、クロエの姿を見つけた。だが、彼女は誰かに話し掛けられている様で迷惑そうにしていた。僕達は走ってクロエの元へと向かう。そしてその会話が聞こえて来た。

 

 

「ほら、家まで持つって」

 

「だからいらないと言っているじゃないですか」

 

「でも女の子にそんな重いの持たせられねえよ」

 

「初対面の人間に何言ってるんですか貴方は?」

 

「いや、でm「てめえ何やってんだ!?」べぼっ!?」

 

 

クロエの持つ袋に手を伸ばした馬鹿こと織斑一夏を殴り飛ばす。世間体?んなもん知った事か。

 

 

「いってえ・・・何すんだよ!って刹那?」

 

「お前、何やってるの?」

 

「何って、この子が重そうに荷物持ってたから持ってあげようと」

 

「余計な御世話だ。それにクロエはさっきから軽々と持ってるじゃないか」

 

「へえ、君クロエって言うんだ。俺は織斑一夏。よろしくな」

 

「死んでください」

 

「ひ、酷いな。クロエは女の子なんだからもっと言葉遣いには気を付けないと」

 

「その原因が目の前にいるのですが」

 

 

クロエのあんな冷たい目初めて見た。それとさっきから隣のお二人さんもめっちゃ殺気立っているのですが・・・?

どうしてこの空気に気が付かないかなアイツは。そんな事を考えているとクロエは僕の後ろに隠れた。一緒にラウラ達も後ろに逃げる。

 

 

「・・・もう帰るし、荷物も僕が持って行くから君も文句は無いでしょ?」

 

「お、おう・・・。あれ?なんでラウラと、どなたさん?」

 

「貴様に名前で呼ばれる筋合いは無い」

 

「私も名乗る気は無い」

 

「てか君補習は?」

 

「担当の先生にお願いしたら一日で終わらせてくれたんだ。いやあ、一時期はどうなるかと思ったぜ」

 

「よっし。明日、君の姉に直訴してやる。てかマジで勉強しなよ」

 

「いつも一位取る刹那には分からないだろ。俺の苦労が」

 

「人の所為にするな。勉強なんて誰だって出来るんだよ。君が勉学もISも真面目にやらないから今の状況になる」

 

「でもあんな一日じゃそんな暇ないって」

 

「僕はそんな時間無い中、やっていますが?寧ろ君は時間が有り余ってるだろうに」

 

 

そんな事をほざく織斑に僕達は溜息しか出ない。時間が無いのは誰だって一緒なのにコイツは何時まで中学生気分なんだ?

僕達はこれ以上時間を無駄にしない為に織斑の横を通って歩き出す。すると織斑も早足で僕の隣に来た。

 

 

「なあ。俺今日は千冬姉が居ないから一人なんだ。良かったら一緒に晩飯でも喰わないか?」

 

「喰わない。僕達は家で母さんが料理作ってるんだ。君に付き合ってる暇は無い。それに一緒に食事なんてしたら不愉快過ぎて味も分からない」

 

「そ、そうか・・・母親、か」

 

 

そう言って織斑は悲しそうな顔をする。そう言えば両親に捨てられたって言ってたな。まあ、愛してくれる姉が残ってるだけマシでしょ。僕も前世じゃ親に捨てられた上に保護された孤児院で虐待されて片目潰されたけどね。

 

 

「・・・一応聞くけど、護衛は?」

 

「護衛?そんなの頼んでないぞ?だってずっと見られてるって嫌じゃないか」

 

「もう良い。君は何も学んで無いんだな」

 

「何の事だよ」

 

「はあ・・・ラウラの気持ちが分かった気がする。これは怒るわ」

 

「いや、私も此処までとは思って無かった」

 

「だから何のって何処行くんだよ!?」

 

「家だよ。君と話してると時間の無駄だ」

 

 

優しい優しい主人公なら此処で声を掛けるんだろうけど、残念ながら僕はそこまで聖人君子ではない。さっさとその場を離れ、家へと戻る。

母さんに頼まれた物を渡して僕達はソファでぐでっとなる。すると短パンにTシャツとラフな服装の束に抱きしめられた。

 

 

「どうしたの皆~?グロッキーだけど」

 

「織斑、弟、発言。分かった?」

 

「あっ(察し」

 

「どうしてアレがモテるのか理解不能です」

 

「外見ではないか?ルックスは良いからな。それでちょっと格好付ければ馬鹿は寄るのだろう」

 

「ラウラ、それは鈴に失礼だよ?」

 

「・・・篠ノ之さんは?」

 

「悪いけど僕はあの子嫌いだから。よって将来駄目男に引っ掛かって後悔しても知らない。と言うかあんな子と付き合いたいなんて言う奴は頭イカレてると思う」

 

「それ、束さんの前で言っちゃう?」

 

「じゃあ束はどう思ってるの?」

 

「アレはどのみちあの性格になってたんだろうなって、思いました」

 

「「「「デスヨネー」」」」

 

 

僕達は思わずハモる。そして脳内では・・・。

 

 

----本当に一夏がすみません!

 

----分かりましたからその小刀を仕舞ってください!?

 

----白装束なぞ着るな!そして斬るな!?

 

----お、落ち着いてよぉ~!

 

 

頭の中が今日もドッタンバッタン大騒ぎですよ。

夏休み初日からこんなんで大丈夫だろうか?そんな中、父さんが帰宅する。その後ろにはブルーノさんとクロウ兄が居た。僕は束の腕から離れて駆け寄る。

 

 

「お帰り、父さん。二人もいらっしゃい」

 

「ああ。ただいま」

 

「いやあ、なんかお誘い貰っちゃって。それにアキの料理は絶品だから即答だったよ」

 

「俺も久しぶりにまともなもんが食えるぜ」

 

「クロウ兄警察官だよね?結構貰えてると思うんだけど・・・」

 

「クロウはシェリーによくプレゼントを贈ってるからな。彼女が日本に居た頃、欲しがってた物を送っているらしい」

 

「遊星!言うんじゃねえよ!?」

 

「クロウも可愛い所あるじゃない。さ、料理が出来たわよ!」

 

 

母さんの作った料理をテーブルへと配膳する。そして席に座った僕達に父さんが言った。

 

 

「夏休みの間はこの家を好きに使ってくれて構わない。二人共、不動家へようこそ!」

 

 

そして僕達は乾杯をしてから食事を楽しんだ。その後は皆でゲームの続きをしてから、就寝となった。僕は部屋で久しぶりに友達とチャットアプリで会話する。

 

 

せっちゃん:家に帰ったら許嫁が出来ていた件。

 

かっとビング先生:へえ。許嫁って?

 

せっちゃん:ああ!

 

シャーくん:おい馬鹿止めろ。妹の機嫌がまた悪くなる。

 

ハルトオォォ!:そんな事より弟の話を聞いてくれ。

 

せっちゃん:いや、真面目な話なんだって。

 

かっとビング先生:でも刹那の家ならありえそうだな。

 

せっちゃん:正直困るんだけど。初対面だよ?

 

シャーくん:性格とかはどうなんだ?

 

せっちゃん:品行方正って感じだね。しかも美少女。

 

ハルトオォォ!:お前の周り、美少女多くないか?

 

せっちゃん:君達に言われたくないんだけど。

 

トマト:皆さんこんばんわ!刹那先輩もお久しぶりです!

 

せっちゃん:やっほ。久しぶり。

 

トマト:えっ、婚約者ってマジですか?

 

せっちゃん:うん、マージマジマジーロ!

 

トマト:なんですかその呪文?

 

せっちゃん:なんとなく。

 

かっとビング先生:じゃあ、今度刹那ん家に確かめに行こうぜ!

 

せっちゃん:良いよ、おいで。

 

シャーくん:ならその時にこの前聞きたがってたCD貸してやるよ。

 

せっちゃん:ありがとう。

 

ハルトオォォ!:弟も連れて行っても良いか?

 

せっちゃん:良いよ。それじゃあおやすみ~。

 

かっとビング:おう!

 

シャーくん:ああ。

 

ハルトオォォ!:おやすみ。

 

トマト:おやすみなさい!

 

 

アプリを終了させて眠りに付く。明日からはイリアステルで簪の機体を作る。少なくとも織斑達になんて負けない機体に仕上げてやるさ。

 

 

刹那サイド終了




~おまけ[フランスにて]~


シャロ「し・・・死ぬ・・・」

シェリー「さあ、立ちなさい!」

シャロ「あのシェリーさんに鍛えて貰えるのは嬉しいけど、スパルタ過ぎだよぉ」

シェリー「あの子の隣に立ちたいのなら、死に物狂いで強くなりなさい!」

シャロ「ひいいいいいっ!」


~別室~


大統領「スwパwルwタw」

秘書「仕事してください」


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第17話

刹那サイド

 

 

「「本当にすみませんでしたっ!」」

 

「あ、頭を上げてください・・・」

 

 

翌日、研究所に戻った筈の束とブルーノが簪に土下座を決め込んでいるのを僕達は麦茶を飲みながら見ていた。

理由は、今日の朝に研究所に戻った所で新しい発明が浮かび、実践した結果大爆発を起こして研究室を吹っ飛ばしたらしい。幸い研究所は無事だったが、中の一部が大惨事になってしまった。よって簪の機体開発は延期となってしまった。

 

 

「あ、明日には正常稼働する様に手配するから。本当にごめんなさい!」

 

「全力で修理に当たらせてもらうよ。本当にごめん!」

 

「私は大丈夫ですから・・・!それに手伝ってもらうだけでもありがたい事なのに」

 

「凄いね簪。あの篠ノ之束に土下座させてるよ」

 

「刹那・・・!」

 

 

簪が涙目で睨んで来るが、視線を逸らして麦茶を飲む。隣ではラウラがニコニコしながらコップの中身を飲み干す。どうやら麦茶が気に言ったらしい。

それから数分して、ようやく束達は顔を上げて帰って行った。すると母さんが立ち上がって言った。

 

 

「それじゃあ、今日はお買い物に行きましょうか!私も暫くは休日だし」

 

「母さん、そんなに休んでて良いの?」

 

「・・・院長とかにいい加減休めって言われて。私はまだまだ平気なのに」

 

 

家の両親は若干働き過ぎな面もある。

すると僕はふと思い出して言った。

 

 

「あ、僕はパスでも良い?実は今日、遊ばないかって友達に誘われてるんだ」

 

「あらそう?それじゃあ、今日は女子会と行きましょ。美味しいランチのお店に連れてってあげる」

 

「私は刹那様のお世話を」

 

「僕は平気だから、クロエも楽しんで来なよ」

 

「ですが・・・」

 

 

その後、クロエを説得して母さん達を見送る。一応父さん達にも話を通して、外に何人か見張りを張ってもらった。

僕は部屋に戻って机の引き出しを開き、ヘッドギア型のゲーム機の[ナーヴギア]を取り出してコードをコンセントに入れて頭に取り付ける。そしてゲームカセットをセットしてベッドに横になった。そして目を閉じて呟く。

 

 

「リンク・スタート!」

 

 

次の瞬間、景色は切り替わってログイン画面になる。それから再び景色が変わり、そこはファンタジー感溢れる世界の一室だった。僕はそこから出て、外へと向かう。そこは完全無欠の異世界だった。といっても此処はまだ森の中にあるログハウスだが。

此処は、フルダイブ型ゲーム《ALO(アルヴ・ヘイム・オンライン)》の中である。

ふと窓を見ると、黒いコートにズボン。背中に大剣を下げた"黒髪"の僕が写っていた。移動すると、待ち合わせ中の友達を見つけたので声を掛ける。

 

 

「おーい」

 

「お、来たな!こっちだぜ《クロナ》!」

 

 

クロナは僕のプレイヤーネームだ。黒髪の刹那だからクロナと言うなんとも安直な名前だろうか。これでも二時間近く悩んで付けたんだよねぇ。

 

 

「久しぶり、《ユーマ》、《ナッシュ》、《カイト》」

 

「おう」

 

「昨日のメールぶりだな」

 

 

昨日のメールの相手であるかっとビング先生こと《ユーマ》と、シャーくんこと《ナッシュ》。そしてハルトオォォ!こと《カイト》の三人である。トマトは残念ながら予定が合わずにこの四人で遊ぶ事となった。

このゲームでは、数種類ある種族から好きなものを選んでアバターを作る事が出来る。僕は《スプリガン》と呼ばれる種族を選択している。

ユーマは《サラマンダー》、ナッシュは《ウンディーネ》、カイトは《シルフ》とそれぞれ好きな種族の姿をしている。

 

 

「さて、今日は何のクエ行く?」

 

「それだったら最近アップデートされた新クエスト行こうぜ!」

 

「此処の何階層だっけ?」

 

「2階層に新しいダンジョンが出来て、そこでイベントがあるそうだ」

 

「へえ」

 

 

ナッシュの情報を聞いて僕は地図を確認する。この世界では面白い事に、ALOの世界の他に、二年前にとある事件を引き起こしたゲーム《SAO(ソードアート・オンライン)》に登場するステージ《浮遊城アインクラッド》が突如として出現した。

理由は知ってはいるが、一応は秘密となっているので言わない。そこは100層まであるステージをフロアボスを倒しながら攻略して行くゲームで、僕はそこの22層に自分の家を買い、そこを拠点にしている。

 

 

「それじゃあ、行きますか」

 

「久しぶりに四人揃うな。楽しみだぜ!」

 

「数か月ぶりだからって足引っ張んなよ」

 

「もしもの時は俺達がサポートする」

 

 

それぞれ笑いながら言って来る友人達に僕は笑顔になる。そして僕達は街を移動する為のオブジェクトを利用して2層へと飛ぶ。そして暫く歩くと、今まで見なかった洞窟の入り口があった。

 

 

「それじゃあ、ナビゲーションよろしくね"三人共"」

 

「「「はーい!」」」

 

 

そう言って僕の胸ポケットから三人の妖精が姿を現した。このゲームのオプションで手に入る《ナビゲーション・ピクシー》と呼ばれるお助けキャラだ。まあ、その正体はハッキングして成り変ったセシア達だけど。バレたら僕垢BANなんですけど・・・。

セシア達にマッピング等をお願いしてダンジョンを進む。するとゲームの世界観に似合ったモンスターが出現した。《リザードマン》と表示された三体のモンスターは腰の刀を抜いて僕達に迫って来る。

僕とユーマが前に出てナッシュ達は後ろで魔法を唱えて援護する。強化系の魔法で僕とユーマは攻撃力とスピードが上がった。僕は大剣でリザードマンの首を両断する。ユーマも二本の刀で切り裂いた。

残りの一体がナッシュ達の方へと向かったので僕は大剣の切っ先を向ける。すると両脇が展開し、巨大な弓となった。剣の持ち手を引くと僕のMPが消費されて切っ先に魔力が集中する。そして手を離すと魔力の矢が放たれてリザードマンの頭を撃ち抜いた。

 

 

「ふう。まあ、こんなものかな」

 

「相変わらずお前の武器すげえな」

 

「ソロプレイ用の限定クエスト。しかも先着一名のみのクエストだったか」

 

「これは苦労したよ」

 

 

なんとも理不尽な内容のクエストに何度か心が折れそうになったが頑張ってクリアした。初見で。

フレンドのスプリガンである少年の悔しがる顔は印象的だった。その後、ウンディーネの恋人に引き摺られて行ったが。尻に敷かれてるなーあの子。

 

 

「それってまだ機能があるんだろ?」

 

「うん。双剣にもなるし、盾と剣に分けて叩く事も出来るよ。実は僕も把握出来てないんだよね。手に入れてすぐにIS学園に行っちゃったから」

 

「学校では禁止だと言っていたな」

 

「例の事件があったからね。よくないイメージが定着してるし。それに学園は二人一部屋だから同居人に迷惑掛けたくないんだよ」

 

「確か生徒会長と一緒の部屋だろ?」

 

「まあね。楽しくやってるよ」

 

 

何気ない話をしながらダンジョンを進むと、最奥部の巨大な扉の前に来た。そしてそこには老人のNPCが立っており、彼に話し掛ける事がイベントの発生条件の様だ。

僕達は話し掛ける。

 

 

「ご老人。こんな所でいかがなさいました?」

 

『おお!勇敢な戦士たちよ、この部屋に取り残された仲間を助けてはくれんか?興味本位で入ったら、魔物に襲われてしまったんじゃ。仲間の一人があそこに取り残されてしまっての。どうか頼む!』

 

[クエスト《守りし者》を受けますか? YES NO ]

 

 

選択肢が浮かんだディスプレイのYESを選択すると、扉が開く。僕達は体制を整えてその先へと踏み込む。すると部屋に明かりが点いて、巨大なリザードマンが姿を現した。その横にHPバーと《リザード・キング》と名前が表示される。その足元には残り僅かなHP倒れているシルフが居た。

 

 

『うう・・・た、助けて』

 

 

どうやら苦悶の声を上げる彼が例の仲間の様だ。僕達は作戦通りに近付いて、リザード・キングの足元を斬り付ける。想像以上に固くて刃が少ししか通らなかったが、そのまま押し切ると、リザード・キングは足を取られてその場に転んだ。

その隙にユーマがNPCのシルフを抱えて部屋の外へと出ようとするが、何も無い筈の空間に結界が張られており、脱出出来なかった。やっぱり守りながらの討伐クエストか。

 

 

「ナッシュ、カイト!二人は防御の魔法に集中して!僕とユーマの動きならなんとかなる!」

 

「分かった!」

 

「任せろ!」

 

「行くよ、ユーマ」

 

「おう!かっとビングだ、俺!」

 

 

ユーマと二手に別れてリザード・キングの足を斬り付ける。僕達のパーティはあまり綿密な作戦を立てるよりも直感で行った方が上手く動けるのだ。

そのままひたすらに攻撃する。ユーマの攻撃が辺り、その巨体が後ろに傾いた所で僕はその体を駆けのぼり、その脳天に大剣の切っ先を刺し込む。そのまま弓に変形させて連続で矢を放った。

ガリガリとHPは削れ、リザード・キングはガラスの様な音を立てて砕け散った。そしてその場には[Congratulations]と書かれたディスプレイと、モンスター討伐によるアイテムのドロップ画面が表示されていた。それを取り敢えず閉じて、結界が解除された部屋を出る。

 

 

『おお・・・!感謝する!』

 

 

[クエスト《守りし者》をクリアしました]

 

 

イベントクリアの画面が表示され、NPCが姿を消した。暫くすればまた戻るのだろう。僕達も来た道を引き返す。洞窟を出ると、そこには三人の人物の姿があった。

その中心の僕と同じスプリガンの少年は僕を見つけると、手を振って声を掛けて来た。

 

 

「クロナ、お前も来てたのか?」

 

「うん。君も相変わらずだね、《キリト》」

 

 

キリトと呼ばれた彼は、僕がこのゲームを始めた当初、偶々一緒に行動する事になってちょっとした大冒険をした仲だ。

 

 

「もしかして例のイベントか?」

 

「クリアしたけど、難易度は高くないね」

 

「だろ?問題は、アイテムのドロップなんだよ」

 

「ドロップ?」

 

「極端にドロップ率が低いらしい。情報だと、今までアイテムをドロップした奴は居ないらしいぞ。なんでもそのクエ限定のレアな装備が貰えるとか」

 

「えっと・・・もしかして、コレ?」

 

 

僕はディスプレイを操作して、先程ドロップしたアイテムを表示する。

それは《忘れ去られた衣》と書かれており、見た目はただの白いローブだ。だが、ステータスを見ると、防御力がそこそこ高い上に耐魔力性能が最高レベルだった。

 

 

「ま、またクロナがドロップかよ・・・」

 

「あはは・・・」

 

「クロナ君の装備って幸運値が上がるんだよね。後は本人の運もあるんじゃないかな?あ、久しぶり」

 

「お久しぶりです《アスナ》さん。《リーファ》も久しぶり」

 

「うん。久しぶり」

 

 

キリトを励ますウンディーネの《アスナ》さんはリアルでもキリトの恋人である。ゲーム内では結婚している。そして《リーファ》と呼ばれたシルフは、キリトのリアルでの妹である。

このゲームでは、彼らとは何かと遊ぶ事が多かった。そんな事を思い出していると、キリトが立ち上がって言った。

 

 

「今度、皆でオフ会をやらないかって話になったんだけどクロナ達もどうだ?」

 

「良いね。夏休み中なら大体は良いよ。IS学園に用事も無いから何時でも予定は捻じ込める」

 

「そうか。じゃあ、クロナやユーマ達にもメール送るから。よっし!俺達もドロップするまでやるぞ!」

 

「もう、キリト君ったら・・・」

 

「完全に思考が廃プレイヤーのそれですよね」

 

 

そう言ってキリト達はダンジョンへと消えて行った。僕はユーマ達に先程の装備について話をする。

 

 

「正直僕は使わないから三人で好きに決めて欲しいな」

 

「だったらカイトにあげても良いか?」

 

「そうだな」

 

「俺に?」

 

 

ユーマとナッシュの提案にカイトは狼狽する。僕はカイトを見てなるほど、と思った。

 

 

「カイトだけ社会人だからあまりイン出来てないでしょ?装備が一人だけ古いし」

 

「そうだな。夜は疲れて眠る事が多かったからな」

 

「俺とナッシュは放課後に遊んでたもんな」

 

「ああ。俺も装備はこの前一式変えたばかりだ。だから此処はカイトに渡すべきだと思う」

 

「それじゃあ、はいカイト」

 

「ありがたく受け取らせてもらおう」

 

 

カイトは受け取ったローブを装備する。中々様になっていて、僕達はホクホク顔で22層の家に戻った。

リビングで寛ぎながら今後の事を話す。

 

 

「良ければなんだけど、僕の家に来るの8月でも良いかな」

 

「何時でも大丈夫だぜ。でも何でだ?」

 

「今月はちょっと研究所の方で進めたい事があるんだ。ちょっと缶詰状態になりたくて。だから来月まで待ってもらえないかなと」

 

「そっか。クロナも忙しいんだな」

 

「無理はすんなよ。妹の不機嫌が全て俺に向かうんだ」

 

「何かあったら頼ってくれ。機械関係の事なら多少は力になれると思う」

 

「・・・ううっ!」

 

「「「ファッ!?」」」

 

 

突然泣き出した僕に三人は慌てふためいた。最近、同性のしかも年の近い友達と会話して居なかった上にそんな優しい言葉を掛けられたら泣くに決まってるじゃないですか。

僕は機密事項を覗いて、織斑の所業を語った。終わった僕に、カイトがホットチョコレートの入ったカップを渡してくれた。

 

 

「これを飲んで落ち着け。これ、好きだっただろう?」

 

「ありがと・・・」

 

 

クピクピとカップの中身を飲んで落ち着く。バーチャル世界なのに、味覚まであるとか凄いよね、科学の進化って。

 

 

「それにしてもイラッと来るぜ、織斑一夏」

 

「刹那は悪くねえのに・・・」

 

「ユーマ。リアルネームは駄目」

 

「あ、悪い・・・クロナ」

 

「よくIS学園に残っていられるな、その男」

 

「まあ、世界最強の弟だし。あ、そう言えば」

 

「ん?」

 

 

首を傾げるユーマ達を見て、僕は言う。

 

 

「今年、《モンドグロッソ》が行われるのは知ってる?」

 

「ああ。だってISバトルの世界最強を決める奴だろ?」

 

「それに今年、織斑千冬が出るんだ」

 

 

僕の言葉にその場の三人が目を見開く。それもそうだろう。織斑千冬がISバトルの世界から退いたのは日本中でニュースになったレベルの事だ。それ以来彼女は表舞台には姿を出しては居ない。なのに唐突の出場だ。

IS委員会はエンターテイメント等と言っているが、本音は単に女尊男卑の象徴を維持したいだけなのだろう。だが、それと同時に僕にとある連絡があったのだ。それはフランスの大統領からだった。

 

 

~数日前[IS学園屋上]~

 

 

『やあ、久しぶりだね』

 

「・・・急にどうしたんですか?」

 

『モンドグロッソの話は聞いたかい?』

 

「ああ、織斑先生が出る奴ですね。今更何の用だって話ですけど」

 

『その通りだね。まあその事についてなんだが』

 

「?」

 

『君、モンドグロッソに出てみる気は無いかね?』

 

「はあ?」

 

『いやあ、君の目覚ましい活躍は我々の耳にも届いているよ。福音を止めたそうじゃないか』

 

「それ、一応は機密情報なんですけど?」

 

『私の国には優秀なエージェントが居るからね。これ位の情報や君のスリーサイズなどなんて事ないさ』

 

「ひえっ」

 

『冗談だよ。それは兎も角、フランスとその他の数カ国で君に是非出場してもらいたいと話が持ち上がっているのだよ。どうだね?』

 

「話は嬉しいですけど、織斑の方が人は見ますよ。あの世界最強の弟なんですから」

 

『あんな雑魚に用は無いよ。面白みの欠片もない。それに彼は自分の世界観でしか物事を語れないそうじゃないか』

 

「あーまあ」

 

『と言う訳で出てくれたまえ。因みに負けたら君の中学校時代の女装写真を全世界に拡散しよう。サラダバー!』

 

「えっ、ちょっ!?待てやクソジジイ!?」

 

 

~回想終了~

 

 

「・・・まあ、色々あって僕も出る事になった」

 

「おい、顔色がヤバいぞ!?」

 

「大丈夫大丈夫。アイツ絶対殺すから」

 

「唐突の殺人宣言!?」

 

 

中学の頃、学園祭で女装させられたトラウマが蘇る。まさか女装コンテストで優勝するとは思ってなかった。

体の震えを押さえながら落ち着きを取り戻す。頭を撫でてくれるセシア達を指で撫でて笑顔を向ける。ユーマ達はセシア達がISのコアだって事を知らないから下手に話せない。

 

 

「さて、クエストには一個しか行けなかったけど今日はもう落ちようぜ。そろそろ止めねえと姉ちゃんが五月蠅いんだ」

 

「俺も妹がな・・・」

 

「俺も弟に夕食を作らないとならないのでな。クロナ、今日の礼は必ずさせてもらう」

 

 

そう言ってユーマ達はログアウトして行った。僕はセシア達と少し話す。

 

 

「モンドグロッソ・・・面倒な事になりましたね」

 

「恐らくだが、あと数日で正式な通達が来ると思うぞ。しかも報酬付きで」

 

「今ハッキングしたけど、優勝したら篠ノ之束からISコアを贈呈だって。突然本人から連絡が届いたみたいだよ」

 

「え、これ以上増えても困るんですけど」

 

「そうですよ。本来、マスターの相棒は私だけの筈なのにエセ侍とコミュ症とか・・・ペッて感じです!」

 

「家の裏へ行こうぜ。キレちまったよ・・・」

 

「流石に怒るよ・・・!」

 

「はいはい。喧嘩は終わり。僕ももう落ちるから」

 

 

こうして僕もこの日はログアウトした。そしてその日の夜、正式に僕のモンドグロッソ出場が決定した。

やるからには、全力でやろう。目標は織斑千冬の首だ。

 

 

刹那サイド終了

 

 

三人称サイド

 

 

刹那がALOにログインする少し前の事。IS学園の廊下で一人の男子生徒が不機嫌そうに歩いていた。その名は織斑一夏。世間ではISを起動させた一人目の男性と呼ばれている。

 

 

「なんでまた補習なんだ・・・」

 

「文句を垂れるな馬鹿者。まともに点も取れないのに家に帰るからだ」

 

「だって帰って良いって言われたんだぜ、千冬姉」

 

「今は織斑先生だ」

 

「・・・織斑先生」

 

 

後ろから出席簿で叩かれた一夏は溜息を吐く。この男、刹那が千冬にチクッた事で速攻で連れ戻されたのだ。そして千冬が監督の元で補習を受け直す事になった。

 

 

「全く・・・満点を取るまでは家に帰れないからな」

 

「なっ、なんでですか!?だって皆はもう休みで・・・」

 

「あんな解答用紙で帰せるか。少しは不動を見習え」

 

「刹那は天才だから、仕方ないでしょう」

 

「馬鹿か。確かにあいつは天才かもしれんが、それを理由に諦めたら何時までも差は縮まらんぞ」

 

「う・・・」

 

「それが嫌ならば死ぬ気でやれ」

 

「は、はい・・・」

 

 

こうして一夏は夏休みの二日目を勉強漬けで終了した。

時刻は夕方で、一夏は溜息を再び吐いて食堂へと向かう。そこでは藤原雪乃が食事を終えて食堂から出て来た所だった。

 

 

「あら、こんばんわ」

 

「こ、こんばんわ・・・」

 

「随分とお疲れの様ね。貴方は家に帰らないの?」

 

「お、俺は補習があってさ。えっと、雪乃さん、だったよな?」

 

「ええ。でも、いきなり名前で呼ぶのはマナー違反よ」

 

「でも、刹那と友達なんだろ?友達の友達は友達じゃないか」

 

「何を言ってるの?それにあの子にすら名前で呼ばれた事無いのだけど」

 

「そうなのか?刹那も他人行儀な所あるからなぁ。俺がちゃんと教えてやらないと」

 

 

一夏の上からな発言に雪乃は少しイラついた。

 

 

「さっきから不動君が悪いみたいな言い方だけど、どうして?」

 

「どうしてって、アイツは最低な奴なんだ。でも、友達として俺にはアイツを矯正してやる義務があるし、刹那も人として正しい道を生きないといけない。だから俺が教えてやるんだ」

 

「・・・そう。私はこれで失礼するわ」

 

「え、おう、またな!」

 

「・・・」

 

 

一夏の言葉に雪乃は聞く耳を持たず、鳥肌が立った肩を擦りながらその場を早足で離れた。そして自室に飛び込む。

突然のルームメイトの帰還に同室である黒髪の少女《月乃瀬=ヴィネット=エイプリル》は手に持っていた雑誌を落とした。

 

 

「ど、どうしたの!?」

 

「いや、ちょっと人生で最も吐き気を催した瞬間に遭遇しただけよ」

 

「え、ええ・・・?」

 

「貴方が気にする事ないわ。ああ、不動君を抱きしめたい・・・」

 

「また彼にセクハラするつもり?嫌われるわよ?」

 

「それもそうね。手を繋ぐ事で我慢するわ。それに近い内に会うだろうし」

 

「そっか。良かったわね・・・」

 

 

ヴィネットは雑誌を拾って椅子に座り直す。そして雪乃に聞いた。

 

 

「あの、また聞いても良い?不動君の事」

 

「すっかり夢中ね。そんなに気に行っちゃった?」

 

「そ、そういうのじゃなくて!ただ、彼の動きは凄いなって」

 

「確かにアレは想像以上よね。しかも本気出してないし」

 

 

そう言って雪乃は刹那との模擬戦の話を語り始めた。刹那の知り得ぬ所で彼に惹かれる者が増え始めていた。この学園での好感度が織斑を既に上回っており、上級生からも一目置かれている事を刹那はまだ知らない・・・。

 

 

三人称サイド終了



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第18話

刹那サイド

 

 

そこそこ広い研究室の一角で、僕と束、ブルーノさんと簪は黙々とキーボードを操作して、データを入力して行く。ラウラとクロエはその隣で組み手をしていた。

造る側の人間じゃないしね、あの二人。

 

 

「・・・簪、マルチロックオンのデータにズレがある。今からハロと機体に修正データを送るから」

 

「分かった。ハロ、お願いね」

 

『ガッテンダ!ガッテンダ!』

 

「《かんちゃん》。この機能を追加したいんだけど良いかな?これがあれば接近戦の幅が広がるんだけど」

 

「お願いしても良いですか、《束》さん」

 

 

いつの間にか名前で呼び合う仲になった二人を横目に見ながら、作業を進めて行く。

この四人で進めたお陰か、データの入力は30分も掛からずに終了した。

後は束とブルーノさんの役目だ。外装の基礎は既にあるので、後付けのパーツを造るだけである。

 

 

「後は僕達の方でやっておくから、皆はゆっくりしてて」

 

「そうだね~大体5、6時間くれれば完成させられるよ」

 

「それじゃあ、お願いします」

 

 

僕達は研究室を出て、歩く。

 

 

「さてと、どうする?此処でも見学して行く?」

 

「良いのか?勝手にそんな事して」

 

「父さん達にはあらかじめ言ってあるから。君達の首に掛かってる許可証があれば、今来てるイリアステルの見学会に参加可能だよ」

 

「それじゃあ、見て行こうかな」

 

「私も書類でしか見た事が無いから気になっていた所だ」

 

「私は刹那様に着いて行きます」

 

 

全員が賛成した所で、見学会の場所へと向かう。

幸い、まだ開始時間では無いので待機室へと向かう。途中で見学会の担当社員の方に話を通してから入室する。

ドアを開けると結構な人が居た。そしてその中に一人・・・

 

 

「あっヤバ」

 

「・・・ようこそ、会長」

 

「お姉ちゃん・・・」

 

 

僕と簪は頬を引きつらせながら、帽子とサングラスを付けた会長に声を掛ける。バレたと分かった会長は変装を止めた。

そして咳払いを一つすると、突然切り出した。

 

 

「お姉ちゃんは今回、イリアステルの企業見学に来ただけだから!本当だから!」

 

「「アッハイ」」

 

 

なんとも見事なまでにバレバレな言い訳だろうか。思わず簪とハモッてしまう。

 

 

「だ、だって簪ちゃんが不動君と一つ屋根の下で夏休みを過ごすのよ!?絶対に襲われちゃうわ!不動君が!」

 

「僕かよ!?」

 

「それは・・・ありえる」

 

「簪さん!?」

 

 

急にシリアスな顔になった二人がブツブツと話し始めたので、椅子に座って終わるのを待つ。

 

 

「安心しろ、刹那は誰にも襲わせん」

 

「そうです。刹那様の貞操は私が守ります」

 

「あ、ありがとう・・・」

 

 

誰か、僕を一人前の男として見てくれませんか?

その後、担当社員に声を掛けられた事で僕達は見学会を始めた。

 

 

「では、次の場所へ・・・」

 

 

僕への視線は凄く多かったが何事もなく見学会が進んで行く。そして次に案内されたのは、イリアステルで販売している女性物のアイテムの部署であった。

僕はそっと後ずさりをするが、社員の一人に見つかってしまった。

 

 

「あ、坊ちゃまー!」

 

「坊ちゃま止めてください!」

 

「見てください!坊ちゃまが企画なされたこの前の商品、売り上げが今までの倍以上を叩き出したんですよ!」

 

「え、マジですか?」

 

「マジです。いやー、流石です。これには社長も思わず頬を引き攣らせましたよ」

 

 

そう言って社員の人がその商品を見せる。そこには口紅等の化粧品の類が並んでいた。

中学時代、同級生や先輩方に散々女装をさせられた事で化粧品の扱いも覚えさせられた。その際に、周りの化粧品に対する要望等を覚えて居た僕は食事の席で父さん達に話すと、何故か数日後にこの部署で企画を立てていたのだ。

そして現在もそれは続いている。

 

 

「えっ、じゃあ私達が使ってるのも・・・」

 

「はい!刹那様が関わってますよ!それに入れ物のデザインもです!」

 

 

社員の人の答えに見学者達がざわつく。というか、販売とかはそっちがやったんだからそっちの成果でしょうに。

そう思っていると、社員の人が僕の耳元で呟いた。

 

 

「恐らく、来月のお小遣いにはボーナスが入りますよ。坊ちゃまの功績は大きいんですから」

 

「いや、それを上手く販売したのはそっちなんだから、皆さんが受け取ってください。僕はあまり使い道ありませんし。基本買い食いしかしないので」

 

「いやあ、それは流石に・・・」

 

 

結局、僕がボーナスを受け取ると言う事になってしまった。

その後も色んな部署を周り、見学会は終わりを告げた。見学者の方々は、渡されたお土産を手に満足そうに帰って行く。

携帯を見ると時刻は昼ちょっと過ぎ。そろそろ終わっている頃だろう。研究室の方へ戻ろうとする僕達に受付の人が駆け寄って来た。

 

 

「刹那坊ちゃま。また例のお客様が・・・」

 

「分かりました。ごめん、皆先に行ってて。これ、地図ね」

 

 

地図のデータをラウラ達に渡して僕は応接室の方へと向かって行った。重い気持ちを堪えて応接室を開けると、其処にはスーツを着込んだ方々が座っていた。

僕は表情を引き締めて声を出す。

 

 

「遅くなってしまって申し訳ありません」

 

「いえいえ。こちらも何度もすみません」

 

 

ならもう諦めてほしい。メールも含めればもう何十回も来てるぞ。そろそろ警察に突き出してやろうか・・・。

そう思いながら、目の前の《倉持技研》の社員達を見ながら向かいの席に座る。嫌気の刺した僕は単刀直入に聞いた。

 

 

「それで?また共同開発のお願いですか?」

 

「はい。こちらの資料をご覧になっていただけますか?」

 

「・・・」

 

 

渡された資料に無言で目を通す。倉持技研が長年積み上げたIS技術や、共同開発によるメリット等が細かく書き記されていた。

これ、普通の子供には理解出来るものではないよね。

 

 

----マスターは特別ですから。それにしても・・・。

 

----なんとも微妙な資料だな。

 

----資料っていうより、説明書?

 

----しかもこれで倉持の情報の47%って言うのがまた・・・。

 

 

ぶっちゃけこの知識、全部こっちにもあるんだな。

篠ノ之束と不動遊星の頭脳があるこっちにしてみたら、あまり他社の技術っていらないというのが本音である。

僕は資料を閉じて、答える。

 

 

「何度も申し上げますが、この共同開発は我々にとってメリットがあるとは思えません」

 

「そ、そんな。これはわが社n「失礼ですが、資料にあったISの新型ブースターとやらは、もう運用なさっているので?」い、いえ、まだ理論だけです・・・」

 

「それでは、その次のページの武装は?装甲は?」

 

「そ、そちらは御社の技術力と組み合わせれば可能です!」

 

「・・・つまりはこの資料はまだ試した事の無い理論だけって事ですか」

 

 

僕は頭を抱えそうになる気持ちを抑えながら溜息を吐く。これに対して僕達の会社の技術力の20%を寄越せと?

僕は席を立ち上がって退室する。

 

 

「すみませんが、お帰りいただけますか?共同開発に関しては、お断りします」

 

「ま、待ってください!この話には日本のIS技術の未来が・・・」

 

 

その言葉に僕は一瞬怒りが湧いた。そしてそれを何とか抑えながら言う。

 

 

「自分達の仕事投げ出して目先の欲に駆られる様な方々と仕事なんかできませんよ。それに、こう言った話は僕で無く父に話してください」

 

 

父さんが怖いから子供である僕に寄って集るとか、ダメ人間の集まりかこの人達は。

本当、簪が可哀想だよ・・・。

受付に連絡を入れて、倉持の方々には帰ってもらった。まあ、この話は父さんにも行くだろう。彼等はいささかしつこ過ぎた。

 

 

~研究室~

 

 

「お、せっちゃ~ん!できたよー!」

 

「本当?おお・・・!」

 

 

ハイテンションで手を振る束に苦笑しながら歩いて行くと、完成された簪のISが姿を現した。それは打鉄をベースに白や青の装甲に彩られた、正に専用機と言った形をしていた。

僕も思わず声を上げるが、一番感動しているのは間違いなく簪であった。彼女は目元を濡らしながらもそのISを見つめる。

 

 

「やっと、一緒に飛べるね。私の、私達のIS・・・」

 

「いやー、二人が先にデータを作ってくれたから全然時間が掛からなかったよ!それにベースもほぼ完成してたしね」

 

「まさか一人で今まで組み上げてたなんてね。更識さん、良かったら将来此処に来ないかい?君の技術は僕達も欲しいな!」

 

「い、いえ、そんな・・・!」

 

 

束とブルーノさんの褒め殺しに簪が恥ずかしがる。それを何時の間にか来ていた会長が抱きしめて止める。

 

 

「簪ちゃんは私が養うから働かせません!」

 

「え、私ヒモ確定?」

 

「あの、何で会長がいらっしゃるので?」

 

「えっと、その・・・」

 

「かんちゃんを尾行してたのを警備員に捕まっちゃって」

 

「あの警備員可笑しいわよ絶対・・・私が手も足も出ないとか」

 

「お姉ちゃん一瞬で抑えられたらしいから」

 

「ああ、誰かなんとなく察した」

 

 

わが社の警備員にはとんでもなく無表情の人が居る。口癖は[~が人間のルールではないのか]と言うなんとも個性的な方である。何故か警棒からは[イッテイーヨ!]と声が出る特別仕様である。

正直、あの人には束も勝てなかった。

 

 

「どうして此処に篠ノ之博士が居るかは聞かないでおくわ。何か事情がありそうだし。正直、貴方達の機嫌を損ねたら世界が終わりそうだし・・・」

 

「適切な判断ですね。刹那様を敵に回す=束様を敵に回すと同義ですから」

 

「私、本当に敵に回さなくて良かった・・・!」

 

 

クロエの言葉に会長はその顔を髪の毛よりも青くしてマナーモードみたいに震える。放っておけば、クローゼットに隠れるのではないかと思う程に・・・。

取り敢えず会長を放置して、簪に声を掛ける。

 

 

「それじゃあ、最適化させるから簪は着替えて来て」

 

「あ、大丈夫だよ。下に来てるからすぐに脱ぐね」

 

「ま、待った待ったぁ!?」

 

 

僕はブルーノさんとダッシュで研究室から出る。あの子、テンション上がってるのかちょっと周りが見えてないな。僕達が部屋を出てから[ぴゃあああああ!?]と可愛らしい声が聞こえた。

数分後、許可の声が聞こえて僕達は部屋に入る。そこにはモジモジしながらISスーツを来た簪が居た。

 

 

「あ、そう言えば簪のISスーツって初めて見るかも。しかもそれって・・・」

 

「うん、イリアステル社製の新商品。思い切って買ってみたんだ。どう、かな・・・」

 

「僕は似合ってると思うよ。可愛らしくて良いね」

 

「あ、ありがとう・・・」

 

 

そう言って簪は顔を紅くして俯く。恥ずかしいなら聞かなきゃ良いのに。

簪が来てるISスーツは簡単に言えば、僕と同じ物。商品名は《刹那モデル》と凄く死にたいくらい恥ずかしい名前である。

唯一の違いは僕や織斑みたいに上と下が別々になっていない所位だ。

 

 

「キー!不動君と簪ちゃんがペアルック~!?羨ましい妬ましい・・・!」

 

「・・・私も変えてみるか」

 

「私は既に寝巻にしています。刹那様に抱きしめられてる感じがして、最高でした」

 

「くーちゃん・・・(涙」

 

「これはひどい」

 

 

ペアルックって古いなまた・・・。体操着とかだってある意味ペアルックだろうに。

そう思いながら僕達は作業を始めた。

ISを纏った簪のバイタルを確認しながら簪の身体データを入力する。最適化は10秒と経たずに終了した。

簪は軽く腕を動かしたり手を握っては開いたりを繰り返す。目がキラキラしてる辺り、どうやらお気に召したらしい。ハロのインストールも終わらせて今度は模擬戦に入る。

簪の相手はなんと会長だった。二人は研究室内にある実験用アリーナでISを展開する。

 

 

「簪ちゃんと戦うのは初めてね。お姉ちゃん、ワクワクして来ちゃった♪」

 

「私も、お姉ちゃんと同じ場所に立てるなんて思ってなかった」

 

「それじゃあ、行きましょうか。どっちが勝っても文句無しよ」

 

「負けないよ。このISは、私と刹那達の・・・皆の絆で完成した機体だから」

 

 

そう言って簪は手に薙刀を構える。会長も本気の様で、専用機《霧纏の淑女(ミステリアス・レディ)》を展開した。

この会長、あんな性格しておきながらちゃっかりとロシア代表である。候補生ではなく代表だ。なんというか、何故世界はこうも理不尽なのか。

こちらも武器である槍を構える。そしてブザーが鳴った瞬間、二人はぶつかった。そして・・・、

 

 

「やあっ!」

 

「くっ・・・きゃっ!?」

 

 

会長はあっさりと競り負けて後ろへと下がった。それを逃さずに簪が攻める。まさか機体の基本スペックに此処までの差が出来るとは・・・。

思わず僕や束達も一瞬冷や汗を掻く。実は冷や汗を流した理由は他にあった。ラウラ達も気付いている様だが、簪の適応能力が高い。

元々自分で組み立てていたとはいえ、当初の何倍もオーバースペックに魔改造された機体を少しの感覚の差が出てるが、殆ど使いこなしている。もしかしたら、僕も危ないかもしれない・・・。

そんな僕等を余所に模擬戦は進む。

 

 

「行って、《ファング》!」

 

 

簪の声と共に両肩と両腰に二基ずつ、計四機取り付けられていたパーツが外れ、ビーム刃を展開して会長へと向かって行く。会長は目を見開きながらファングを避けて行く。だが、ビーム刃からビームが放たれ、その背中に直撃した。

長距離からの攻撃も可能なこの兵器は凄く便利である。

 

 

「この・・・いい加減にしなさい!」

 

「貰ったよ」

 

「なっ・・・狙撃!?」

 

「ハロ、《シールドビット》展開。10基中3基はアサルトモード」

 

『シールドビット、アサルトモード!アサルトモード!』

 

 

冷静な表情で薙刀からライフルに持ち替えた簪はハロに指示を出して、青色の縦長の六角形の形をしたビット兵器を新たに展開する。主にコントロールはハロの役目なので簪の負担は少ない。その内の三基が向きを変えて、銃口になっているパーツからビームを発射する。

弾幕に晒され、何も出来ない会長に簪は無言で射撃を当てて行く。会長がなんとか放つ射撃も全てビットに防御される。気が付けばビットの殆どがアサルトモードへ移行し、会長を蜂の巣にせんとばかりにビームが放たれる。

 

 

「か、簪ちゃん!?流石にお姉ちゃんもコレはキツイんだけど・・・」

 

「え、どっちが勝っても文句無しなんだよね?それにビット兵器は反則なんて言われてないし」

 

「そうだけどそうじゃないの!もっとこうザ・勝負!って感じの戦いを想像してたのに!」

 

「それは刹那との試合の時に取っておこうかなって」

 

「私との勝負は!?」

 

「それが嬉しいのは本当。でも、私はもっと先に行きたい。お姉ちゃんのもっと先に居る彼と飛びたい!だから此処で止まらない。止まれないの!」

 

「そう・・・だったら、私も本気で行くわよ。貴女の視線を釘付けにしてあげる!」

 

 

そう叫ぶ会長を見て僕は皆に言った。

 

 

「全員今すぐ耳を塞げ!爆発するぞ!」

 

 

見学していた皆が首を傾げながらも耳を塞ぐ。するとすぐに変化は訪れた。会長達の周りを霧の様なが包み込む。会長のISの性能を思い出したのか、束が納得した顔をする。

そして次の瞬間、アリーナは大爆発を起こした。

会長の霧纏の淑女にはナノマシン生成器《アクア・クリスタル》が搭載されており、最大の特徴はISのエネルギーを伝達、変換する事である。

これによって、会長のISは水を自在に操る事が可能だ。そして今の霧と爆発は、ナノマシンによってISのエネルギーを熱エネルギーに変換して、霧を散布。からの大爆発で相手を木っ端微塵にするいともたやすく行われるえげつない行為である。

その技名は《清き熱情(クリア・パッション)》。

 

 

「ふふふ・・・どう?私の機体の真骨頂は?」

 

「・・・危なかった」

 

「ファッ!?」

 

 

何と言う事でしょう。簪さんは無傷ではないですか。その秘密はコレ、シールドビット。

量子変換の応用で、爆発直前にビットを収納。そして爆発が届く前に自身を覆う様に展開する事で、爆発から身を守ったのだ。お陰で会長の機体は本当の切り札を使う前にSEを削ってしまった。完全に詰みである。

 

 

「えっと、今のかなり自信あったんだけどな~・・・」

 

「悪いけど、これで終わり。マルチロックオンシステム起動」

 

『《神嵐》テンカイ!テンカイ!』

 

 

ハロの言葉に、簪の機体に大量のミサイルポッドやビーム兵器が展開されていく。そしてそれらは全て会長に牙を向いていた。

 

 

「神嵐・・・発射ぁ!」

 

『ハッシャ!ハッシャ!』

 

「いや、それもうオーバーキルよnアッーーーー!?」

 

「小林ィィィィ!じゃなかった会長ー!」

 

 

それはもう見事に会長はボコボコにされました。そしてブザーが鳴り響き、簪の勝利を告げた。簪はふう、と一息吐いてからISを解除してハロを肩に乗せて会長へと歩いていく。

 

 

「私の勝ち、だねお姉ちゃん」

 

「ええ。貴方達にボロ負けで心折れそうよ私」

 

「皆と造った機体だもん。此処で失敗したら合わせる顔が無いよ」

 

「お姉ちゃん、国に合わせる顔が無いわよ」

 

 

楽しそうに会話する二人に僕達は駆け寄った。

 

 

「やったね簪!初戦にして大勝利だ!」

 

「しかもビット兵器だけであそこまで圧倒するとは、凄いな簪は」

 

「それに初見であの身のこなし。尊敬します」

 

「凄い!凄いよかんちゃん!今の動きなら現役時代のちーちゃんと良い勝負出来るよ!」

 

「うん、ハロとの連携も良かったし問題無しだよ!」

 

「えっと、ありがとうございます・・・!」

 

 

そう言って簪は頭を下げる。束達も嬉しそうに簪の勝利を更に祝福する。僕は会長に肩を貸して、立たせた。

 

 

「簪ちゃんがあんなに笑うなんて初めて・・・不動君、本当にありがとう」

 

「別に礼を言われる程の事をした覚えはありませんよ」

 

「こっちにはあるんだから、素直に受け取っておきなさい」

 

「そうですか。では、お言葉に甘えて」

 

「ふふっ♪」

 

 

幸せそうに笑う会長に僕も思わず笑う。こうして、簪の専用機の開発と起動は成功に終わった。

その後、イリアステル社の近くの焼肉屋で僕達は祝いのパーティーを開いた。つい最近開いたばっかりだが、気にしない。

 

 

「では、かんちゃんの専用機完成と大勝利を祝して~、乾杯!」

 

「「「「「「乾杯!」」」」」

 

 

束と合図で皆のコップがぶつかった。そして中身を嚥下して行く。作業で火照った体に冷えた飲み物はよく効く。

父さんと母さんも二人でディナーに向かったそうだ。相変わらずラブラブで安心したよ。

 

 

「んぐっんぐっ・・・ぷはぁ!おばちゃーん、ビールもう一杯!ピッチャーで!」

 

「と、飛ばしますね篠ノ之博士・・・」

 

「おっと、《たっちゃん》。外に居る時の私は《篠ノ山 貴音》だよ♡」

 

「は、はい、篠ノ山さん」

 

「貴音、でも良いからね~。それにしても・・・」

 

「な、なんでしょうか?」

 

「せっちゃんとそこそこの付き合いみたいだけど、どうして名前で呼ばないの?」

 

「・・・そう云えばずっと会長って呼び方」

 

「と言う訳でせっちゃーん、カモーン!」

 

「貴音、飲みすぎ」

 

 

束の大声に溜息を吐きながら向かう。丁度ビールも来た様で、ピッチャーに入ったそれをゴクゴクと飲みながら僕に言った。

 

 

「さ、たっちゃんを名前で呼んでみよ~!」

 

「何で?」

 

「わ、私も名前呼びが良いな~って。ほら、そこそこ付き合いも長いし。不動君の事も名前で呼びたいし・・・」

 

「そうですね。では、《楯無》さん」

 

「はうっ♡」

 

 

僕が名前で呼んだ瞬間、会長・・・楯無さんは胸を抑えて倒れ込んでしまった。それを笑いながら束が撫でた。

 

 

「やったねたっちゃん!これで一歩前進だよ!」

 

「は、はい・・・!キュンキュンしました!」

 

「うんうん!私もしたよー!」

 

 

この二人は仲良くやれそうですな。そう思いながら僕は席に戻って、肉を焼こうと・・・した所でクロエに焼けた肉を差し出された。

 

 

「刹那様、どうぞ」

 

「ありがとうクロエ。でも君も食べなよ?」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「刹那!この冷麺とやらはとても美味だな!」

 

「この店はラーメンも美味しいよ」

 

「ラーメン!そういうのもあるのか・・・」

 

 

ラウラも初めての焼肉屋でテンションが上がっているらしい。

暫く食事を楽しんでいると、簪が僕の隣に来て座った。そして僕を見る。その顔はほんのりと赤く染まっており、手にはビールが・・・って

 

 

「簪にビール飲ませた馬鹿は誰だ!?」

 

「いっけね、やっちった☆彡」

 

「馬鹿兎マジでチクる。父さんに」

 

「すんまっせんしたー!」

 

「な、なんて見事な土下座」

 

「最早天災の欠片も無い・・・」

 

 

束に拳骨を食らわそうと思ったその時、僕の服を簪が引っ張った。

 

 

「む~・・・」

 

「か、簪さん?」

 

「かまって」

 

「へ?」

 

「ぎゅー!」

 

「」

 

 

突如抱きついて頬をスリスリして来た簪に僕は戸惑いを隠せなかった。そんな僕を無視するかの様に簪は続ける。

 

 

「せつな~だいしゅき~♡」

 

「お、おう・・・」

 

「せつなは~、わたしのこと、しゅき~?」

 

「う、うん、好きだよ?」

 

「むふふ~、やった~!んっ♪」

 

「んむっ!?」

 

「んっ、ちゅるっ、れろっ、んちゅ・・・ぷはっ♡」

 

「・・・へ?」

 

「・・・むにゃ」

 

「・・・へ?」

 

 

この子、散々人の口の中蹂躙しといて寝オチっすか。それとさっきからラウラとクロエが頬にキスして来て心臓がヤバイ事になってます。

どうしてこうも女子と言うのは時折とんでもない行動に出るのでせうか・・・。

 

 

刹那サイド終了

 



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第19話

刹那サイド

 

 

簪の暴走から数日、とうとう8月に突入した僕達はさっさと課題を済ませ、各々の休日を過ごしていた。

ラウラ達は再び母さんに連れられショッピングに。セシア達はイリアステルで束のチェックを受けている。僕は護衛の人に車である場所へと送迎してもらっていた。目的地に着き、降ろしてもらう。

 

 

「すみませんクラリッサさん。こんな暑い中」

 

「いえ、これが我々の仕事ですので。それに隊長・・・今はラウラ様でしたね。あの方を救ってくださった貴方の為ならばこの命も投げ出す所存です」

 

「別にそこまでの事では・・・」

 

「そんな事はありません。刹那様が居たからこそ、ラウラ様だけでなく我々も今此処に居る事が出来るのです。貴方は命の恩人に他ならない」

 

「・・・此処は素直に褒められておきます」

 

「そうしてください。もし刹那様がお求めになられるのでしたらこの体、好きにしていただいても構いませんよ?」

 

「そう言うのは本当に好きな人の為に取っておいてください」

 

「・・・いけずですね」

 

 

クラリッサさんの呟きを無視しながら帽子を深く被って敷地内を歩く。場所が場所なだけに目立つ様な事は避けたい。自分の家の近くな所為か、顔が知られてる可能性が高い。

暫く進むと建物の入り口に差し掛かった。そこには《聖都大付属病院》と書かれた石碑が置かれていた。

中に入り受付に話し掛ける。

 

 

「すみません、紺野さんに用事があって来ました。不動です」

 

「はい。ではこちらをお持ちください」

 

 

そう言って渡されたのはVIPな方々だけが入院してる階層の許可証だ。その階へは患者を運ぶ時専用のエレベーターと普通の階段しか無い。僕はその階段をゆっくりと上がり始めた。

階段を上がると目的の階へと辿り着く。そこから部屋の番号を確認しながら歩き、とある部屋へと着く。軽くノックをすると、中から声が聞こえた。

 

 

「どうぞ~」

 

 

相変わらずなんとも気の抜けた声だろうかと思いながらドアを開ける。そこには、黒い髪を肩辺りまで伸ばした少女が窓の外を見ていた。

少し痩せているが、前に来た時よりも血色は明らかに良くなっている。直ぐに健康になるだろう。そんな事を考えながら、僕は彼女へと近づく。

彼女も僕を見た瞬間、その顔をパアッと輝かせた。そこまで喜んでもらえるとは嬉しい限りである。

 

 

「刹那!久しぶり!」

 

「うん。久しぶり、《木綿季(ゆうき)》」

 

 

彼女は《紺野 木綿季》。出会いはALOでの決闘だった。それから何かと話す様になり、彼女が重い病気に掛かっている事を知った僕は父さんや束達にお願いして、医療用の最新ナノマシンを投与してもらい、彼女の病気を完治してもらった。

治療費?まあ僕のお小遣いがごっそり減ったけど人の命には代えられない。今の彼女はリハビリ中だ。途中経過を担当医の先生から聞く限り、問題は無いそうだし安心だ。

椅子に座ってバッグからお見舞いの品を取り出す。

 

 

「ほい、今月分」

 

「やたーっ!」

 

 

それはISのプラモデルである。今の彼女はナーヴギア、またはその後継機であるアミュスフィアを持っていない。ちょっと別のルートでログインしてた彼女はそのルートが無い為に出来ないのだ。

欲しいと思っていても此処は病院。しかもSAO事件があった後だ。あまり良い顔はされない。故に他の趣味を見つけようとした結果、指先のリハビリを兼ねてプラモデルにドハマりした。

 

 

「ねえ、木綿季」

 

「なに?」

 

「毎回、僕の機体のプラモデルだけじゃ飽きない?」

 

「ううん。全然!」

 

「そ、そっすか」

 

 

なんとも言えない気分になりながらも嬉しそうにニッパー等の道具が入った箱を取り出しながら鼻歌を歌う木綿季に苦笑しながら見守る。

それからはIS学園での生活等を話した。時間はあっと言う間に過ぎて夕方になった。その頃には机に完成したプラモデルが2体並んでいた。

 

 

「いやあ、作った作った!」

 

「段々スピードとクオリティが上がって何よりだよ」

 

「ボクも刹那にまた会えて嬉しかったよ。今日は来てくれてありがとう」

 

「まあ、夏休み中はなるべく来るよ。新学期が始まるとまた暫く来れないし」

 

「あ、だったら刹那の友達連れて来てよ!ボクも会ってみたいなぁ」

 

「病院側から許可を取れたらね」

 

「うん。あ、最後に何時ものお願い!」

 

「はいはい」

 

 

そう言って両手を広げて来る木綿季を抱きしめて頭を撫でる。

木綿季は家族が居ない。両親と姉が居たが、全員亡くなっている。だから時々、人肌が恋しくなる時がある。僕が見舞いに行くとよくこうするのだ。

まあ、あまり人が来れる病室じゃないからなぁ。

 

 

「やっぱり刹那はあったかいなぁ」

 

「そう?自分じゃよく分からないけど。僕からすれば木綿季の方が温かくて好きだけど」

 

「・・・刹那って時々凄い事ナチュラルに言うよね」

 

「ん?」

 

「なんでもないよ。もうちょっと、こうしてても良い?」

 

「お好きにどうぞ」

 

「ありがと」

 

 

暫く抱き枕になった後、僕は病院を後にした。

帰りにスーパーで食材を購入してからレジを通る。途中で母さんからメールが来た。内容はラウラ達とスッポン鍋を食べて来るそうな。

まあ、父さんも居ない事だし一人飯でもするかと思いながら車に戻る。ふと考え着いてクラリッサさんに話しかけた。

 

 

「クラリッサさん、この後の予定はありますか?」

 

「いえ、特にはありませんが何処かにご用事ですか?」

 

「いえ、よければ家でご飯食べて行きませんか?」

 

「是非」

 

 

即答だった。家に着いた僕はクラリッサさんに寛いでもらい、食事を作る。

作ったものは、スーパーに並んでいた鰻を使ったうな重である。向こうもお高いもの頼んでるんだから良いだろうと思い、買って来た。

後は薬味とだし汁、お吸い物をササッと作る。

 

 

「出来ましたよ」

 

「こ、これがうな重と言うものですか・・・」

 

「後はひつまぶしです」

 

「す、凄い・・・」

 

「最後にお吸い物です」

 

「あの、どれから食べれば?」

 

「えっとですね」

 

 

クラリッサさんの言葉に苦笑しながら前に何かの雑誌で見た店の勧める食べ方を口にする。

 

 

「まずはうな重の中身を混ぜちゃってください」

 

「こ、こうですか」

 

「そうそう。で、四分の一ずつ分けて、そのまま、薬味、だし汁、と食べて残りの四分の一は好きにしろと言うのが理想だそうです」

 

「で、では早速・・・」

 

 

震え声でクラリッサさんは鰻を口に運んだ。すると目を見開きプルプルと震え出す。口に会わなかったのかと思ったが、直ぐに口に放り込んで笑顔になったので歓喜に震えて居たと分かった。

その後も軍人時代や、僕の少年時代の話をしながら食事を終えた。二人でお茶を飲んで一息吐く。

 

 

「本当にごちそうさまでした」

 

「いえいえ。僕もクラリッサさんと色々話せて楽しかったですよ」

 

 

その後クラリッサさんは帰って行き、僕も入浴を済ませてリビングでテレビを見て居た。そこへ母さん達が帰って来た。

 

 

「ただいま、刹那」

 

「おかえり。スッポン鍋はどうだった?」

 

「初めて食べたけど、美味しかったわ。今度は刹那も行きましょう」

 

「楽しみだね。僕も今日はクラリッサさんと鰻食べたから」

 

「クラリッサが来ていたのか?むぅ・・・私も会いたかった」

 

「まあまあ。明日に僕のISのチェックが終わるから受け取りに行った時に会えば良いよ。父さんに話は通しておくから」

 

「そ、それは悪い気が・・・」

 

「大丈夫だよ。父さんは身体能力も伊達じゃないから」

 

 

そんな事を話しながらテレビを見ていると、此処最近ずっとやっているニュースが流れていた。

 

 

『可決されました、《男性操縦者一夫多妻法》について・・・』

 

 

----男性操縦者一夫多妻法

 

 

簡単に言えば、僕と織斑にどんどん子供を増やしてもらって、男性側は立場を取り戻し、女性側は大きな後ろ盾を手に入れられると言う欲に塗れた法律である。

特殊な法律である為に今月から適用されるらしい。僕も既に他社等から大量の見合い写真が送られて来ている。

まあ、全て断っているけど。

 

 

「織斑イケメンだから大変だろうなーざまーみろ」

 

「刹那、凄くゲスな顔になってる」

 

 

簪が頬を引き攣らせながら言う。この子、焼肉屋での記憶が完全にぶっ飛んでいる。絶対に呑ませたら駄目な子だ。

そう思っていると、座っている僕の膝にラウラが対面で座って来た。そして頬にキスを連続で落とす。簪がやらかして以来ずっとこんな調子だ。そして隣に座ったクロエも僕の手を握って、キスを続ける。それを見て簪は顔を真っ赤にしていた。

おい、元凶は君なんですけど?

 

 

「あらあら。私は全員がお嫁さんでも大歓迎よ?」

 

「母さん、冗談キツイ」

 

「冗談じゃないわよ?それに合法じゃない」

 

「あのね、ラウラ達の意見もちゃんと・・・」

 

「私が一番であるなら刹那様が複数の女性と婚約しても構いませんよ。正妻たるもの、何時でも余裕をもって接します」

 

「うむ。私も愛してくれるのならば構わない」

 

「・・・わ、私も、なんて」

 

「待って。お願いだから逃げ道壊さないでマジで」

 

 

くっそ・・・そこの母親!ニヤニヤすんな。

僕はラウラ達から抜け出して、部屋に籠り電話を掛ける。相手は僕と似た様な状況にいる相手だ。

 

 

「・・・と言う訳でどう思う?様々な女性から好かれている《和人》君」

 

『お前相談してるのか?それとも喧嘩売ってるのか?』

 

「やだなあ、僕は只彼女が居ながら義理の妹とか、彼女の友達とか、後輩とかを行ったり来たりしてる君に意見を聞きたいだけなんだ」

 

『よし決闘だ。今すぐログインしろ』

 

「ごめんなさい。本当にふざけてないと頭が沸騰しそうなんです」

 

 

僕は見えない筈の相手に土下座する。すると電話の向こうから溜息が聞こえた。

 

 

『で、お前はどうなんだ?一夫多妻でも良いのか?』

 

「ぶっちゃけるとそんなに抵抗は無いよ。僕だって、好意を寄せてくれる人が沢山いるのは嬉しいし」

 

『じゃあ、良いじゃないか』

 

「でも最後の良心が邪魔すると言うか・・・」

 

『まあ、普通あるよな。でもかなり贅沢な悩みだぞ』

 

「分かってる。でもさぁ」

 

『別に急いで決めろってわけでもないんだろ?今度のオフ会で相談に乗ってやるよ』

 

「和人さんあざっす!流石《黒の剣士》!」

 

『SAO時代の二つ名は止めろ。それにお前だって、ALOで俺と合わせて《双黒》だろうが』

 

「止めて。背筋が痒くなる」

 

『取り敢えず頑張れ。刹那なら大丈夫だろ』

 

 

そう言って和人・・・キリトのリアルネームである少年は僕との通話を切った。

端末を放り投げて天井を見上げる。僕は織斑ほど鈍感ではない。少なくとも、ラウラ、クロエの好意は本物であるとは思ってはいた。

正直自分がそこまで好かれる人間とは思っていなかったが・・・。

何時の間にか寝落ちしていたらしく、外の騒がしさで目が覚めた。そしてカーテンを開けて下を見た瞬間、僕は部屋を飛び出した。

そして玄関を開けて、人の家の前で馬鹿騒ぎする人物に声を掛ける。

 

 

「何やってやがりますかこの馬鹿教師」

 

「む~?なんだ~ふどーじゃないかー!」

 

「ちょっ、先輩!?えっともしかして此処不動君のお家かな?」

 

「そうですよ。山田先生も御苦労様です」

 

 

そう言って、ベロンベロンに寄った織斑先生を必死に支える山田先生に頬を引き攣らせる。すると、織斑先生が僕に詰め寄る。

 

 

「なんだそのはんこーてきなめは!この!」

 

「いたっ」

 

 

軽く叩かれた。その後もポカポカと人を殴った上にローキックまでして来た馬鹿教師は鼾を立てて爆睡し始めた。

山田先生もお手上げの様で、涙目でへたり込む。僕は溜息を吐いて言った。

 

 

「放置してカラスの餌にするのもありですけど、仕方ないので家の空き部屋に放り込みましょう」

 

「い、良いんですか?」

 

「良いですよ。それに、山田先生も帰らないと」

 

「あ・・・終電過ぎてる」

 

「・・・いっそ二人共泊まって行ってください。朝食位は出しますよ」

 

「不動君・・・ありがとう」

 

「良いですよ、別に」

 

 

結局この馬鹿教師を僕が抱えて部屋に放り込む。

 

 

「あ、あのね不動君・・・幾らなんでも女性を引き摺るのはどうかなって」

 

「・・・は?」

 

「何でもないですハイ!」

 

 

布団だけ敷いて二人は放置。僕もその日は就寝する事にした・・・。

 

 

刹那サイド終了

 

 

三人称サイド

 

 

「うぐっ・・・此処は?」

 

 

頭痛で目を覚ました千冬は、頭を押さえながら体を起こす。隣を見ると、後輩である真耶が眠っていた。そんな彼女を揺さぶって起こす。

 

 

「おい、起きろ真耶」

 

「むふふ~・・・不動君ったら~」

 

「・・・ふんっ」

 

「へぶぁっ!?あ、千冬さん・・・」

 

「おはよう。それで此処は何処だ?」

 

「えっと、不動君のお家です」

 

「・・・なに?」

 

「昨日飲み過ぎた先輩が不動君のお家の前で寝てしまったので泊めてもらったんです」

 

 

その言葉に千冬は頭を抱えた。弟の一夏がようやく補習を終えて、帰宅した事により肩の荷が下りた彼女は、真耶を連れて今までのストレスを払拭するべく呑みまくった。

普段の倍の量を呑んだ彼女は、見事に酔っ払い刹那に絡んだのだ。その記憶が段々と蘇って来た千冬は顔面を蒼白にする。

教師が生徒の家に転がり込むなど本来あってはならない事だ。ましてや自分はその生徒が毛嫌いしているクラスメイトの姉である。

 

 

「やってしまった・・・ん?」

 

「あ、良い匂い」

 

 

罪悪感に囚われている二人の鼻を擽ったのは、味噌汁の香りだった。耳を澄ませば、リズムよく包丁の音が聞こえて来る。

すると、部屋のドアが開いた。そこに立っていたのは刹那の母であるアキだった。

 

 

「おはようございます、先生方。もうすぐ朝食が出来ますから、どうぞ」

 

「ど、どうも・・・」

 

「は、はい・・・」

 

 

微笑むアキに一瞬見惚れた二人はボーっとしながら下に降りる。リビングに入ると、そこではラウラと簪、クロエが配膳等をしていた。二人に気付いたラウラ達は少し引いた目で口を開く。

 

 

「おはようございます」

 

「あ、ああ・・・昨日は世話になった」

 

「それなら刹那に言ってください。貴女を部屋に運んだだけでなく、朝食まで作っているのですから」

 

「そう、だな・・・」

 

「あの、織斑先生?」

 

「更識だったな。どうした?」

 

 

控えめに手を上げる簪に千冬は聞く。すると簪は言った。

 

 

「弟さんには、連絡したんですか?」

 

「しまった!?」

 

 

急いで千冬は部屋に戻り、携帯を開く。そこには弟からの着信履歴が大量にあり、掛け直す。すると五秒も経たずに相手は出た。

 

 

『千冬姉何処にいるんだ!?』

 

「すまない一夏・・・呑み過ぎてしまってな。今は不動の家に世話になっている」

 

『なっ!?アイツ千冬姉にまで・・・!』

 

「待て。不動は何も悪くないぞ。私が一方的に迷惑を掛けた側だ」

 

『でも!』

 

「でもも何もない。すぐに帰る。今は切るぞ」

 

『あっ、千冬n』

 

 

電話を切った千冬はリビングへと戻る。既に配膳は済んでおり、千冬と真耶の分も並べられていた。

ご飯とみそ汁。目玉焼きに鮭の切り身とほうれん草の胡麻和えと理想的な朝食が並べられている。椅子に座る様に促され、千冬は真耶の隣に座った。

 

 

「まあ、さっさと食べてください。そちらの胃の事は考えてないんで」

 

「いや、態々作ってもらってすまない」

 

「別に。母さんに手間掛けさせたくなかっただけなんで」

 

「この子ったら、素直じゃないわね」

 

「母さん!・・・と、兎に角!食べましょう」

 

 

刹那の言葉に全員が手を合わせて、食べ始める。千冬達も味噌汁を口に含むと、その美味しさに驚愕した。

 

 

「美味い・・・」

 

「不動君、お料理上手なんですね!」

 

「まあ、人並みには」

 

「「(人並みってレベルじゃない気が・・・)」」

 

 

照れ臭そうにする刹那に笑みを浮かべながら二人は食事を続ける。二日酔いであるにも関わらず、お替りまで要求した二人は満腹になった。

それから暫く、食後のお茶を飲み終えた千冬と真耶は刹那とアキに頭を下げる。

 

 

「この度は、本当にご迷惑をお掛けしました」

 

「本当にすみませんでした」

 

「もう良いですよ。まあ、ローキックだけは許しませんけど」

 

「私も刹那が良いならそれで構いませんよ。それに、誰だってハメを外し過ぎる時がありますから・・・」

 

「ですが、私は教師です。しかも生徒の家に上がり込むなど・・・」

 

「確かに教師としては屑レベルですよね」

 

 

ズバッと言う刹那。だが間違っていない為に反論出来ない。

刹那は溜息を吐きながら言った。

 

 

「本当にもう良いですから。さっき会社に連絡したんでもうすぐ車が来ますから送ってもらってください。その体たらくで歩くのはキツイでしょう」

 

「何から何まですまない」

 

「そう思うなら貴方の弟さんを僕に近付けないでください」

 

「・・・本当に駄目な姉弟ですまん」

 

 

謝罪しっぱなしの千冬の姿はあのブリュンヒルデとは思えない悲壮感があった。

その後、千冬と真耶は迎えの車で自宅まで送り届けられた・・・。

 

 

~織斑家~

 

 

「千冬姉!」

 

「ただいま、一夏。連絡しなくて悪かった」

 

「それはもう良いよ。そんな事より、刹那に変な事言われなかったか?」

 

「変な事?」

 

「ああ。アイツ、俺だって頑張ってるのに真面目にやってないって言うんだぜ」

 

「・・・一夏。お前は放課後何をしている?」

 

 

千冬の疑問に一夏は首を傾げながらも答える。

 

 

「俺は、箒とアリーナで特訓したりしてるけど・・・」

 

「その後はどうだ?」

 

「普通に食事と入浴を済ませて、寝てるぞ?」

 

「ISの勉強はしていないのか?」

 

「だって特訓とかで疲れてるし、なにより夜更かししたら体に悪いじゃないか」

 

「・・・この愚弟は」

 

 

一夏の言葉に千冬は再び頭を抱える。疑問に思っている一夏に千冬は言った。

 

 

「良いか。多少夜更かししてでも勉強しろ。でなければお前は進級出来んぞ」

 

「でも夜って眠くなるんだよ」

 

「ならアリーナの特訓を削ってでもやれ。実技が全てと言う訳でもない」

 

「だからって、弱いのは男として我慢出来ねえよ」

 

「少なくとも箒と訓練するだけでは強くなれんぞ」

 

 

千冬の口から出た言葉に一夏は衝撃を受けた。自分と幼馴染の訓練が否定されたのだ。一夏は反論する。

 

 

「そんな事ねえ!俺と箒も確実に強くなった!」

 

「では、その他の専用機持ちにお前は勝てるのか?」

 

「それは・・・」

 

「・・・私からも頼んでおくから不動達の訓練に混ぜてもらえ。専用機持ちは殆どそちらに行ってるからな。前に藤原が訓練機で参加したが、死に掛けてたぞ」

 

「そこまでしなくても大丈夫だって」

 

「だから・・・もう良い。それと、ちゃんと此処に来るまで、護衛に付いてもらったんだろうな?」

 

「いや?付けてないぞ」

 

「・・・は?」

 

 

さも当然の様に言う一夏に千冬はポカンとなった。そんな事お構いなしに一夏は続ける。

 

 

「刹那にも言われたけどさ、俺は別に金持ちのお坊ちゃんじゃないし狙われる理由なんて無いだろ。刹那ってそうやって自分の考え押し付けるよな」

 

「・・・お前は、馬鹿か!?」

 

「な、なんだよいきなり」

 

「そう言って数年前に誘拐されたのを忘れたのか!?知名度で言えばお前の方が有名なんだ。世界で最初の男性操縦者だぞ!?何故護衛を付けない!」

 

「お、落ち着けよ千冬姉。なんか可笑しいぞ」

 

「可笑しいのはお前の危機管理能力だ!お前はあれから何も学ばなかったのか!?」

 

「学んださ。それで今の俺には守る力がある。これで皆を守って見せるさ」

 

 

そう言って一夏は待機状態の白式を見せて笑った。それによって千冬のストレスが加速する。

 

 

「・・・疲れた」

 

「ち、千冬姉?朝食出来てるからな」

 

「不動の家で頂いたからいらん」

 

 

今までにない疲れた表情で千冬は部屋に戻る。服を部屋着に着替えた彼女はベッドに倒れ込んだ。自分が仕事に夢中になった所為で弟は変わってしまったと後悔する。

 

 

「本当に・・・不動には申し訳が立たんな」

 

 

刹那の再三の注意すら聞き入れなかった弟に憤りと不安を覚えながら、千冬は再び眠りに落ちた・・・。

 

 

三人称サイド終了

 

 

刹那サイド

 

 

織斑先生達を見送った僕達はイリアステルにチェックの終わったセシア達を受け取りに行った。ラウラはクラリッサさんと話している。

 

 

「ねえねえ、せっちゃん何かあった?」

 

「あー、バレた?」

 

「分かるよ~。だって大好きなせっちゃんの事だよ?」

 

「束もストレートに言うよね」

 

「だってせっちゃんちょっと鈍い所あるし~」

 

「敵わないなぁ・・・まあ、話すよ」

 

 

僕は束に話した。例の法律の事と、僕自身どうすれば良いのか悩んでいると・・・すると束はこう答えた。

 

 

「良いじゃん。受け入れちゃえば」

 

「ええー・・・」

 

「せっちゃんは難しく考え過ぎ!はい皆ちゅうもーく!せっちゃんは皆をお嫁さんとして受け入れるってー!」

 

「ちょっと、束!?」

 

「それは本当か!?」

 

「本当・・・?」

 

「本当ですか刹那様!」

 

 

ラウラ達の視線を浴びた僕は、その場で俯く。いや、だって結婚だよ?人生でそうないイベントだよ?普通もっと考えないかな。

 

 

----純愛物ばかり好むからこうなるんですよ。

 

----だからもっと色んなジャンルを読めと。

 

----マスターだったら大丈夫だよ、きっと。

 

 

セシア達の声にまた躊躇いが生まれる。僕はゆっくりと口を開いて言葉を出した。

 

 

「正直、好きって感情がよく分からないんだ。それが友達としてなのか、異性としてのか・・・」

 

「それじゃあさ、皆とデートしてみようよ!」

 

「・・・はい?」

 

「だから、皆とデートしてどう感じたかで決めようよ!」

 

 

僕の悩みは急にセッティングされたデートによって、委ねられてしまった・・・。

 

 

刹那サイド終了




その頃、中国


鈴「ハッ!?急いで日本に戻らないといけない気が!?」


同時刻、イギリス


セシリア「ハッ!?私のヒロインとしての危機ですわ!?」


同じくして、フランス


シャロ「ハッ!?ボクの居ない所で刹那と皆の関係が進んでる気が!?」

大統領「電波w」

秘書「いい加減働けや」


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第20話

刹那サイド

 

 

束の言葉から数日が経過した。

簪の機体の調整等もあり、デート的な行為は未だ行えずに現在を迎えてしまった。と言っても、デートプランは簪達が既に計画しているそうだ。

普通は僕がするべきなのでは?と聞いた所、今回は僕を惚れさせる事がメインなので絶対に僕を落とすプランを組み立てているらしい。

そんなこんなで僕達は、夏休み中に一度だけある登校日の為、一時的にIS学園へと戻っていた。そして教室で何時もの顔ぶれに声を掛ける。

 

 

「セシリア、鈴、久しぶり」

 

「お久しぶりですわ。刹那さん」

 

「久しぶりね」

 

 

セシリアと鈴も元気そうでなによりだ。

すると鈴が顔を顰めながら聞いて来た。

 

 

「刹那、アンタ何したのよ?最近ウチの国家代表が刹那の事やたら聞いて来るんだけど」

 

「中国の国家代表?確か、《范 星露(ファン シンルー)》さんだよね?」

 

「そうよ。私の鳳と読みが被ってるから不便な所があるあの人よ」

 

「(間違えられたのかな・・・)」

 

「(間違えられましたのですね・・・)」

 

 

少し悔しそうな顔をする鈴にセシリアと苦笑する。

 

 

「別にその人とは面識が無いけど?」

 

「でもあの人今年は荒れる、とかもっと知りたいとか言ってたわよ。もしかしたら学園に来るかも・・・」

 

「流石にそれはないでしょ」

 

「いや、星露さんならありえるわ。ふらりと消えてふらりと戻って来る人だもの」

 

「えぇ・・・(困惑」

 

 

そんな事を話していると、後ろから声を掛けられた。

 

 

「刹那、久しぶり!」

 

「久しぶりだね、シャロ。シェリーさんから直々に受けた訓練はどうだった?」

 

「凄く良かったよ!途中何回かお母さんに会って、[まだこっちに来ちゃ駄目!]って言われたりしたけど、多くの事を学べたかな」

 

「・・・あの人のスパルタは健在か」

 

 

僕も何回かシェリーさんの訓練を受けた事がある。それはもう酷かった。僕も何回かアテナさんに再会する羽目になったから。

そんな人と下手すればモンドグロッソで当たるのか・・・嫌だなあ。織斑先生辺りと戦って潰されておいてくれないかなぁ・・・。

 

 

「でもまあ、これで何時ものメンバーは・・・あれ?ラウラは?」

 

「ラウラなら、簪のクラスで少し話してから来るって」

 

「そっか。今はこれで全員だn「おう刹那!久しぶり!」・・・チッ」

 

「刹那、舌打ち舌打ち」

 

「おっと」

 

 

朝から嫌な奴に出会ってしまった。目の前に居る織斑を軽く睨みながら舌打ちを止めた。そんな僕の不機嫌にも気付かずに織斑はヘラヘラとしている。

 

 

「皆も久しぶりだな。やっぱり家に帰ってたんだよな?」

 

「はい。ですが、今日からは学園で生活ですわね。必要な事は全て済ませて来ましたし」

 

「私もそうね。残りは日本で遊び尽くすわ」

 

「じゃあ、皆で遊びに行かないか?最近、プールが出来たらしいんだ」

 

 

織斑がそう言って、端末に映されたプール施設のサイトを見せて来る。だが、織斑の言葉に頷く者はいなかった。

それと同時に僕に向かって視線が集中する。

 

 

「僕はパスで良いよ。泳げないし。それよりも自分の機体の強化と調整がしたいんだ。簪の新兵器も開発中だし」

 

「そういえば、簪さんの専用機はどうなりましたの?」

 

「完成したよ。かなりチートに出来上がった」

 

「ボクも早く模擬戦してみたいな」

 

「シャロは残りは僕の家に来るし、機会は多いと思うよ」

 

「簪との模擬戦もだけど、刹那の家も楽しみだなぁ」

 

「そんな期待する程のものでもないと思うよ?」

 

 

目をキラキラさせるシャロになんとも言えない気分になっていると、のほほんさんがやって来た。

相変わらずのブカブカな袖を振り回して元気に声を上げた。

 

 

「ふーちゃんも皆も久しぶり~!」

 

「うん、久しぶり。元気そうで何よりだよ」

 

「えへへ・・・あ、かんちゃんがお世話になってます」

 

「かん?ああ、簪ね」

 

 

そう言えば知り合いって言ってたっけ?

整備中に簪からポロッと聞いた様な・・・。そんな事を考えていると、予令が鳴り皆がそれぞれの教室や席に戻る。暫くすると、織斑先生と山田先生がやって来た。

日直が挨拶を行い、SHRに入る。

 

 

「諸君、久しぶりだな。今日はISの実習を少し行って終了だ。ほんの数時間だからって気を抜くなよ」

 

『はいっ!』

 

 

クラス一同の気合の入った返事も久しぶりだ。すると、今度は山田先生が話を変わった。

 

 

「実は、ビッグニュースがあります!なんと、織斑先生が今年のモンドグロッソに出場する事になりました!」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「織斑先生の戦いを見れるのね!」

 

「生きてて良かった!」

 

 

騒がしいな・・・ほら、織斑が凄く嬉しそうな顔してるよ。うわ、ニヤニヤしてキモ。

だが、山田先生は大火事に対してナパーム弾をぶち込んで来やがりました。

 

 

「それだけでは無いんです!なんと!今年はこのクラスの生徒からもう一人出場者がいます!」

 

「各国の首脳陣から提案があってな。是非、男性操縦者にも出てほしいそうだ」

 

 

織斑先生の言葉に教室がザワついた。ああ、織斑のワクワクした顔が哀れ過ぎる。

そして織斑先生から、その名が告げられた。

 

 

「出場者は、不動刹那だ」

 

 

うわ、視線が一斉に向いたよ。その中でも織斑と篠ノ之さんの目線がマジで怖い。

特に篠ノ之さん。マジで織斑の実力で出れると思ったのか?福音の三次移行形態の一機や二機を一人で止めてからその視線を向けてくれ。

 

 

「不動、こっちへ来い」

 

「分かりました」

 

 

織斑先生に言われたので前へと出る。すると織斑先生が再び口を開いた。

 

 

「出場に向けて、一言貰いたい。その実力だ。少し大口を叩く位の意気込みでなければ世界には勝てんぞ」

 

「・・・では、お言葉に甘えて」

 

 

僕は一呼吸置いてから、織斑先生を向いて右手の人差し指を向ける。

 

 

「僕の目標はただ一つ」

 

 

鎮まり返る教室。静寂の世界で僕は笑う。

 

 

「----貴方の首だけだ」

 

「・・・面白い。やってみろ、無謀者(チャレンジャー)

 

「精々その地位にしがみ付いておけ最強(ブリュンヒルデ)

 

「「クク・・・ハハハハハハハハッ!!」」

 

 

思わず笑い出した僕達に教室の全員がビクッと反応した。だがそんな事はどうでも良い。このクソ教師、僕が挑発した所為なのは分かるがその強者の余裕を見せた様な顔付きが気に入らない。

絶対に世界の玉座とやらから無様に引きずり降ろしてやる。

 

 

「(絶対潰す・・・)」

 

「(挑発に返したは良いが、正直コイツには勝てる気がせん・・・取り敢えず演技しておこう)」

 

「(あ、殺そう)」

 

「(逆効果だった・・・!ブランクがある私が勝てる訳無いだろう)」

 

 

また鼻で笑って来やがった・・・!

コイツは全力で叩き潰そうそうしよう。見せてやる、"二次移行のその先"を・・・!

 

 

----全員、よく聞け。

 

----アッハイ!×3

 

----クソ教師、潰す、OK?

 

----サーイエッサーッ!×3

 

 

セシア達にも宣言をして、席に戻る。皆も緊張が解けたのか、あちこちから息を吐く音が聞こえる。だが、この時僕は気付いていなかった。

 

 

「・・・クソッ」

 

 

一人僕を睨みながら呟く少年の姿に・・・。

 

 

 

 

 

~数時間後[放課後]~

 

 

「ではこれより第一回《織斑千冬をブッ殺そう会議》を始めたいと思います。結論、奴の首を刈り取る。はい、決定~♪」

 

「「「「「「勝手に始めた上に物騒な答え出た!?」」」」」」

 

 

アリーナで僕の言葉にセシリア、シャロ、ラウラ、鈴、更識姉妹が叫ぶ。

今日は此処で宿泊してから家に帰り、その次の日に泊まりで出掛けると言う弾丸スケジュールである。結局デートはまた先延ばしだ。

そんな事を思い出しながら、僕はラファールを展開して右腕を振り回す。

 

 

「と、言う訳でモンドグロッソに向けての訓練と簪の機体の微調整を兼ねて久々にやろうか。バトルロワイヤル方式」

 

「え、えっと・・・それはまだ簪ちゃんには早いと思うの刹那君」

 

「何言ってるんですか会長。貴女に勝った簪が出来ない訳無いでしょう」

 

「うぐっ・・・」

 

「大丈夫だよお姉ちゃん。私も皆と戦ってみたかったし」

 

 

そう言って簪は前に出る。そんな彼女に僕はふと思い出した。

 

 

「あ、簪にプレゼントあるんだった」

 

「プレゼント?」

 

 

首を傾げる簪に僕は収納していた武装を取り出す。

赤を主体とした全体に、刃の部分がクリアブルーのパーツで構成された大きめの剣を渡す。

 

 

「これってまさか・・・!」

 

「前に簪がこんな武装が欲しいなって言ってたでしょ?この前の初勝利のご褒美って訳でもないけど、造ってみたんだ」

 

「造ったって刹那が?」

 

「うん。流石にISとかは無理だけど武器だったら僕にも出来るし」

 

「ありがとう。大切に取っておくね」

 

「いや、使ってよ」

 

 

キュッと武器を愛おしそうに抱く簪に苦笑いしながらツッコむ。

折角開発したのに観賞用とか流石に酷いっすわ。

その武器を皆が気になっている事に気が付いた僕は、性能が記されたデータを全員に見せる。すると、彼女達は顔を青くした。

 

 

「刹那さん、これを本当にお一人で?」

 

「うん。流石にこれもお願いなんて言えないし。それに、これは僕からの個人的なプレゼントだからさ」

 

「いや、これは学生が造るレベルじゃないでしょ」

 

「会社単位で開発する物だよ。フランス支部でも此処までの武装は無かったなぁ」

 

「これが世で言うメイドインジャパンか」

 

「ちょっと違うわよ、ラウラちゃん。でもコレはプレゼントのレベルじゃないわ。色んな組織が大金払ってでも欲しがる代物ね」

 

「過大評価じゃない?所詮は一介の学生の自由研究みたいな物だよ?」

 

 

セシリア達の評価に僕は頬を引き攣らせる。

すると、簪が苦笑いしながら言って来た。

 

 

「普通、9つの形態に変形する武装を自由研究の範囲で造らない」

 

「でも僕は小学校の自由研究でゴミ山で集めたジャンクパーツでロボットとか電動走行のスケボーとか造ってたよ?後は、救助用のロボットとか。あ、今使われてる《キューボ》って分かる?」

 

「知ってるわよ。あのや○らか戦車みたいな見た目した救助ロボでしょ?最新の伸縮性ボディと多機能の災害アイテムを搭載したイリアステル社製の奴じゃない。中国でも使われてたわよ。・・・まさか」

 

「うん、アレは僕の自由研究で造ったロボが元だよ」

 

 

鈴がギギギと首を向けて聞いて来たのでそれに答える。すると、アリーナの空気が完全に凍りついた。

 

 

「えっと、何か変な事言った?」

 

「言いましたわ。それも特大の・・・」

 

「刹那、アンタ間違いなく篠ノ之博士と同レベルの頭脳よ」

 

「いや、アレと一緒はちょっと」

 

「辛辣」

 

 

束と同じ位置に立てたのは嬉しいよ?でも、あの性格と並ぶと考えるとちょっとと考える部分が自分の中に居る。

いやだって・・・ねぇ?この前なんて部屋に会ったマンガのヒロインの絵全部アイコラされてたし、僕を題材に同人誌作るし・・・。

 

 

「まあ、それは良いや。じゃあ、それ使って早速y「刹那」・・・今日は僕達の使用予定なんだけど?」

 

「そんな事はどうでも良い。俺と戦え」

 

「嫌だね。君風に言わせてもらえば、戦う理由が無い」

 

 

白式を展開して降下して来た織斑に僕は鼻で笑って返す。

それが癪に障ったのか、イラついた様子で近付いて来る。

 

 

「俺にはあるんだ。千冬姉を馬鹿にされて怒らない訳ないだろ」

 

「朝のアレ?いや、織斑先生だってノリノリだったじゃないか。それに大口叩いてみろって言ったし」

 

「だからってあんな言い方無いだろ!それに何で刹那がモンドグロッソに・・・!それだったら俺だって」

 

「寝言は寝て言え」

 

 

悔しそうに言う織斑に僕は失笑する。コイツの実力で出れるのならば今頃僕は世界最強だっての。

 

 

「出たければ僕に一回だけでも勝ってから言ってもらえる?」

 

「ああ。なら今から俺が勝つ試合をしようぜ」

 

「え、嫌だけど?」

 

 

ドヤ顔で言って来る織斑に真顔で返す。嫌だなぁ、真面目にやる訳ないじゃん。なんでこんな雑魚の為に時間を費やさないといけないんですかねぇ?

 

 

「んじゃ、さっさと帰れ。訓練の邪魔だ」

 

「ふざけんな!俺と戦え!そして俺が勝ったら千冬姉に謝ってモンドグロッソを辞退しろ!」

 

「・・・は?」

 

「あれは刹那みたいな奴が出て良い大会じゃないんだ!あれは千冬姉が、世界中のIS操縦者が正々堂々と戦う場なんだよ」

 

「ぷっ・・・アハハハハハッ!」

 

「な、何が可笑しいんだよ!皆も何で何も言わないんだ!?」

 

 

思わず噴き出す僕に織斑が怒鳴りつける。コイツ本当にテンション高いな。血圧大丈夫か?

そう思う僕から何も言わないセシリア達へと視線を向けた。僕もチラッと見ると、全員が殺気立っていた。え?何故?

 

 

「えっと織斑。よく分かんないけど、今は刺激させない方が・・・」

 

「何言ってるんだ?それよりも皆も刹那にってうわぁ!?」

 

 

織斑が再び口を開いたその時、足元をセシリアが撃ち抜いた。その表情は誰がどう見ても怒りに染まっている他の面々も武器を取り出して一触即発な空気だ。

 

 

「ええ、一・・・いえ、織斑さん。刹那さんと戦うのならば止めませんわ」

 

「そうね。ただし、バトルロワイヤル方式よ」

 

「そうだね。それが良いよ」

 

「私も賛成だ。簪達も文句は無いな?」

 

「当然。ちょっと、ううん。かなり怒ってる」

 

「そうね。お姉さんも思わずコロコロしちゃいそうかも」

 

 

殺意の波動に目覚め掛けてる全員に織斑は無言で頷き、構える。僕もなんとなく構えて試合が始まった。

開始数秒で全員が織斑に殺到。セシリアのビット攻撃の弾幕が織斑を襲う。必死に避ける織斑に今度は簪の狙撃が直撃する。

衝撃で動きを止めた織斑の腹に鈴の龍砲が直撃。吹っ飛んだ織斑をラウラが撃ち出したワイヤーで拘束して引き寄せ、シャロがヘビーアームズ形態で全弾発射。

最後に会長がランスを投擲して、上空へと打ち上げられた織斑にスクラップフィストを叩き込む。

地面に落下した織斑はそのまま気を失った。それと同時に頭の中にさっきから響いて来た白式の謝罪の言葉がよりクリアに聞こえる。そこらのヘッドホンよりも高音質で聞こえる分性質が悪い。

 

 

「・・・なんか萎えたね」

 

 

着陸してラファールを解除する僕に皆が頷いて同じようにISを解除して、アリーナを後にする。織斑?知るかんなもん・・・。

 

 

~食堂~

 

 

「ああ~!イライラする・・・はむはむ」

 

「ふーちゃん、どうどう」

 

 

途中で合流したのほほんさんに撫でられながら、何時もの倍近くの量の食事を自棄食いする。結局簪の装備も試せなかったし・・・。

セシリア達も疲れて部屋で寝ちゃってるらしい。現在、共に食事をしているのは僕と簪、のほほんさんのみである。会長?生徒会の仕事サボってたとかで連行されましたが何か?

 

 

----織斑ザマアw

 

----どうする?SNSに上げるか?

 

----アカウント凍結されそう。

 

 

頭の中の声を聞いて、少し気分が晴れた。

冷静になった僕は簪に謝る。

 

 

「ごめんね、簪」

 

「良いよ。それに、今日じゃなくて二学期にあるタッグマッチトーナメントで披露するから」

 

「ああ、そんなのもあったね」

 

 

二学期には二人一組で再びトーナメントが開かれる。さて、今回もランダムで良いかな。

 

 

「刹那、私と出て欲しい」

 

「簪と?んー・・・まあ、良いよ」

 

「よし・・・!」

 

 

ガッツポーズをする簪に少し気恥ずかしくなる。此処まで露骨に喜ばれると思わず顔が熱くなる。

僕ってこんなにチョロかったっけ?

 

 

「ふーちゃんはかんちゃんと出るの~?」

 

「まあそうなるかな」

 

「勝てる気がしないよ・・・」

 

 

溜息を吐くのほほんさんを宥めながら、食堂を出て寮へと向かう。そして寮の途中まで歩くと、誰かの部屋の前で藤原さんとその同室である生徒が立っていた。

 

 

「あら、坊や・・・久しぶりね」

 

「久しぶり。だから離れてもらえませんかね」

 

「嫌よ。坊やが居ない間に嫌な事あったんだから」

 

「そうなの?でも胸が当たってるんだけど」

 

「当ててるのよ。もう、女の子からそんな事言わせるなんて」

 

「ちょ、ちょっと!?何やってんの!」

 

 

そう言って藤原さんを女生徒が引き剥がした。いやあ、ありがたやありがたや。

 

 

「ありがとう。えっと、確か月乃瀬さんだったよね?」

 

「う、うん。でもなんで名前を?」

 

「えっ、藤原さんから聞いたんだけど」

 

「あ、忘れてたわ」

 

「ちょーいっ!?」

 

 

ああ、この子間違いなく苦労する側の子だ。

藤原さんを揺さぶりながら顔を紅くする月乃瀬さんに思わず笑ってしまう。

 

 

「あ、ごめんね。つい楽しそうで」

 

「うう・・・改めまして《月乃瀬=ヴィネット=エイプリル》です」

 

「不動刹那です。こちらこそ、よろしくね」

 

 

ペコリとお辞儀する月乃瀬さんに僕も返す。ふと気になったので聞いてみた。

 

 

「えっと、二人は用事の途中だった?邪魔したならごめん」

 

「そんな事ないわ!ちょっと引きこもりのクラスメイトを引きずり出しに来ただけだから」

 

「引きこもり?」

 

「私の友達なんだけど、ちょっと面倒な性格の子なの」

 

「そうよ、坊や達にも手伝って貰いましょう」

 

「いや、あの部屋とはいえ仮にも女子の部屋よ?」

 

「あの、僕も知らない女子の部屋に入るのは抵抗が・・・」

 

「・・・ショッピングモール内のスイーツ食べ放題」

 

「何時部屋に突入する?僕も同行する」

 

「「刹那院ェ・・・」」

 

 

簪達の視線を感じるが、気にしない。スイーツには勝てなかったよ。

月乃瀬さんも溜息を吐いてから、部屋のドアに手を掛ける。そして僕達に言った。

 

 

「一応言っておくけど、覚悟しておいてね?」

 

「「「?」」」

 

 

首を傾げる僕達を余所に、月乃瀬さんがドアを開けた。

次の瞬間、僕達は思わず呻いた。中からは埃と食べ物を放置した匂いが混ざり合った感じのバッドスメルが鼻を突き抜ける。その先には大量のゴミが散乱していた。

それを月乃瀬さん達は慣れた足並みで進む。

 

 

「・・・これが、女子の部屋なのか?」

 

「刹那、女子の名誉の為に言っておくけどこれは流石に無い」

 

「かんちゃんに同意」

 

 

簪達のドン引きした声を聞きながら部屋を進む。明かりの一切点いていない部屋の奥。そこに一つだけパソコンによる光があった。そこへ向かうと、パソコンの前でグテッとしている如何にもやる気のなさそうな金髪の少女が居た。

その少女へと月乃瀬さんが声を掛ける。

 

 

「ほら《ガヴ》。もう食堂しまっちゃうわよ」

 

「ん・・・なんだ《ヴィーネ》か。良いよ、今日は。後でカップ麺でも食べるし」

 

「昨日もそんな事言ってたじゃない。貴女この夏休みずっとゲームしてゴロゴロしてばかりで・・・今は一人部屋だからって自由過ぎよ!」

 

 

なんだこの駄目人間は・・・。

 

 

「普段は綺麗なんだけど、同室の子が居なくなってからはこんな感じでダラダラ過ごしてるのよ」

 

「なるほど。じゃあ、早速片づけましょうか」

 

「順応早いわね」

 

「それ以前にこんなゴミ山見たら誰だって掃除したくなるよ」

 

 

僕は部屋に備え付けてある掃除用具を手に取って電気を付ける。ガヴと呼ばれた少女が光に目を細めるがそれを無視して、ゴミの整理を始める。

 

 

「はい、邪魔」

 

「は?っておい!何勝手に掃除してんだ!」

 

「月乃瀬さん、それ邪魔だからどっかやって」

 

「わ、分かったわ(コレ絶対怒ってる・・・)」

 

「お、おい離せ!」

 

 

喚く少女を無視して掃除を続ける。

 

 

「簪、のほほんさん、藤原さん。悪いけど手伝ってくれない?これを一人はちょっと・・・」

 

「良いよ。私はこっちやるね」

 

「じゃあ私はこっち~」

 

「今回はおふざけ無しでこっちをやるわ」

 

 

ゴミをササッと纏めて取り敢えず部屋の入り口に置いておく。皆のお陰で掃除は1時間程で終了した。

最後に掃除機を掛けて一息吐く。

 

 

「これで終わり。ベッドのシーツは明日出してもらえば良いかな」

 

「ありがとう、不動君。ほら、ガヴもお礼言いなさい」

 

「お前は私の母親か。まあ、助かった。明日からもよろしkアダダダ!?アイアンクロ―は割れるぅ!?」

 

「二度と、こんなに、汚すな、OK?」

 

「お、おーけー・・・」

 

「ふん」

 

「し、死ぬかと思った・・・!」

 

 

手を離し、頭をさする少女を見て泣きたくなった僕はふとパソコンの画面が目に入った。流石に電源を勝手に切るのもアレだからそのままにしていたのだ。

 

 

「お、ALOの攻略記事だ。またキリトが載ってるよ」

 

「何?お前って双黒のキリトと面識あんの?」

 

「あるよ。だってだってフレンドだし」

 

「マジで!?じゃあALOやってんの?」

 

「去年からやってるよ。君も?」

 

「いやあ、始めたのは夏休みからでさ。でも操作に慣れなくて困ってたんだよ。学校じゃ禁止だからショッピングモールの漫喫でやってたらその店舗ナーヴギアの類禁止で途中で追い出された」

 

「世間の評価微妙だからね」

 

「だからちょっとコツとか教えてくれ」

 

「良いよ。その代わり、ちゃんと掃除と食事はする事」

 

「そんなので良いなら幾らでもやってやる!」

 

「が、ガヴがこんなあっさり言う事聞くなんて・・・」

 

 

ショックを受ける月乃瀬さんを少女はシカトしてパソコンの操作を始めた。そしてそこには自分のアバターが映されていた。

 

 

「あ、自己紹介忘れてた。《天真=ガヴリール=ホワイト》。面倒だからガヴで良いよ。どうせキャラネームも同じだし」

 

「初対面で名前呼びは抵抗があるから天真さんで。僕は知ってると思うけど不動刹那。キャラネームはクロナね」

 

「・・・マジで?」

 

「そうだけど?・・・あ」

 

「あの双黒の!?」

 

 

驚愕する天真さんに対し、やっちまった感に囚われる。キリトにも有名勢に仲間入りしてるんだから気を付けろって言われたばかりなのに・・・!

ゲームとはほぼ無縁だった環境だから油断した。そんな僕に憧れに近い視線を向けて来る天真さん。何故か簪も同じだ。

 

 

「刹那、今の本当?」

 

「そうだよ・・・簪もALOやってるの?」

 

「私はネットで情報を見てるだけ。でもクロナって本当に有名だよ?」

 

「僕としてはあまり実感無いけど」

 

「何言ってるんだお前は。凄いなんてもんじゃないぞ!」

 

 

天真さんはハイテンションでズイッと近づいて来た。

 

 

「ALO唯一の可変剣使いにして、あの《絶剣》に勝ったプレイヤーであのキリトと並んで双黒とまで言われてるんだぞ」

 

「それにナビゲーションピクシーを3人も連れてるのも特徴」

 

「あはは・・・(それ、僕のIS達です)」

 

 

言えない。セシア達がハッキングしてバレない様に僕のデータで勝手に作ったとか絶対言えない・・・。

 

 

「ま、まあそれは兎も角。今日はもう遅いから今度でも良いかな?」

 

「あ、じゃあメアドと番号交換だ。それならすぐ聞けるし。次って何時イン出来る?」

 

「次って・・・お盆中はメンテナンス入る予定だよね。何処かバグが見つかったって」

 

「あー、じゃあ盆明けだな。都合のいい日に連絡くれ。絶対にインするから」

 

「分かった。まあ、僕達もお盆は母さんの実家に里帰りだからさ」

 

「へえ。不動の母親の両親って元議員だったっけ?」

 

「うん。今は田舎に隠居してるけどね。実はそこに今回はキリトと《アスナ》さんも来るんだ」

 

「アスナってあの《バーサクヒーラー》のか!?」

 

「あの人気にしてるから言わないであげて」

 

 

こうして天真さん達と別れて部屋に戻り、荷物を纏める。さて、これから祖父の家へと皆で旅行と簪達とのデート・・・やる事いっぱいあるなぁ。

 

 

刹那サイド終了



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第21話

刹那サイド

 

 

就寝して翌日、僕達は荷物を持って寮から出発した。これから始発のモノレールで学園島を出て、父さん達と合流して祖父の家へと向かう。

既に大切な荷物は父さん達に預けて来ているので、最低限の荷物を持って歩く。シャロが楽しそうな笑みを浮かべて話し掛けて来た。

 

 

「ねえねえ。刹那のお爺さんの家って都会から離れてるんだよね?」

 

「うん。まあ、控えめに言ってド田舎かな。電波は通るけど、コンビニはすぐ閉まるし公共機関も一日に2本位しか通らないね」

 

「そうなんだ。ボクがお母さんと暮らしていた所もそんな感じだったよ」

 

「へえ。シャロの暮らした所か・・・ちょっと気になるな」

 

「何時か一緒に来てよ。お母さんにも会ってほしいんだ」

 

「シャロ・・・分かった、必ず会いに行こう」

 

「約束だよ」

 

 

そのまま進んでいると、僕達の目の前をランニング中の織斑と篠ノ之さんが通った。僕達を見て織斑が足を止める。

 

 

「あれ?刹那達、皆で何処に行くんだ?」

 

「祖父の家。それよりも君の連れが待ってるんだからさっさと行きなよ」

 

「ちょっとくらい平気だって。刹那のお爺さんか・・・俺も会ってみたいな」

 

「老人にストレスを与えるな。それじゃ」

 

 

僕達はその場を早足で通り過ぎる。後ろから織斑とそれに対して怒鳴りつける篠ノ之さんをシカトして駅を目指す。

そのままモノレールに乗り込み、島の向こうへと向かった。道中、ディスプレイを開いて"ある物"に必要なデータを入力して行く。

 

 

「刹那、さっきから何をしているんだ?」

 

「今日、僕の知り合いが来るって話はしたよね」

 

「うむ。確か、刹那のゲーム仲間だったな」

 

「あの人達には何かとお世話になってるからちょっとしたお礼だよ。この小旅行を楽しんでもらう為の贈り物さ」

 

 

データを入力し終えた頃には、目的地へと到着した。モノレールを降りて駅に出た僕達の前には、一台の小型バスが止まっていた。イリアステルのマークの付いたそれは会社特性の防弾機能付きの凄いバスである。

その防御力は、計算上であれば鈴のISである甲龍の龍砲すら無傷でいられる強度である。

 

 

「おはよう皆。さあ、乗ってくれ」

 

「おはよう父さん。和人達ももう乗ってるの?」

 

「ああ。二人共楽しみにしてくれている」

 

 

父さんに挨拶をして、バスに乗り込む。助手席には母さんが座っていた。

 

 

「おはよう、母さん」

 

「ええ、おはよう。皆もおはよう」

 

「あ、あの!おはようございます!シャルロット・デュノアです!」

 

「貴女がシャルロットちゃんね。刹那達から話は聞いているわ。夏休み中は、ゆっくりして行ってね」

 

「はい!」

 

 

シャロが元気良く返事をして、他の皆も挨拶を済ませる。そして奥へと進むと、席にはクロエと二人の男女が座っていた。一人は、前に電話をした《桐ケ谷 和人》。もう一人は和人の彼女である《結城 明日奈》さんである。

クロエと談笑する明日奈さんを余所に和人は気まずそうな表情をしていた。

分かるよその気持ち。ガールズトークに男一人って辛いよね。

 

 

「刹那様、おはようございます」

 

「おはよう、クロエ。和人に明日奈さんもおはようございます」

 

「おはよう。今回は誘ってくれてありがとな」

 

「今日から数日間、よろしくね刹那君」

 

「はい。二人共、思う存分イチャイチャしちゃってください」

 

 

目の前のカップルに微笑んで席に座った・・・所で和人が僕の隣に席を移した。そして僕にひっそりと言って来る。

 

 

「それで、今回の旅行を提供する代わりに俺に恋愛相談をしろと?」

 

「頼むよ。僕の周りで彼女持ちなの、君位しかいないんだ」

 

「まあ、その案を飲んだからな。責任は取るさ」

 

「ちゃんと二人きりになる様にセッティングするよ。部屋割は僕と相部屋で勘弁だけどね。流石に祖父の家で盛られても困るし」

 

「しないぞ・・・多分」

 

「説得力の無さ」

 

 

目を逸らす和人に呆れる。すると、視線を感じたのでチラッと見る。そこには頬を膨らませた明日奈さんがいらっしゃった。

 

 

「刹那君・・・そろそろ和人君を返して欲しいな」

 

「できればこの移動中は待ってもらえませんか?男同士、盛り上がる話もあるので」

 

「私もやっと和人君と二人になるチャンスが出来たんだもん。譲れないよ」

 

「あの、本当に勘弁してください。この相談に人生掛かってるんです。本当に頼みます」

 

「ねえ、和人君?君は、私と刹那君のどっちが大切なの?」

 

「そこでキラーパス!?」

 

 

驚きながらも和人は明日奈さんの所へと戻ろうとする。片や僕も和人の袖を掴んで見上げて言った。

 

 

「和人・・・僕と、いて?」

 

「・・・可愛い」

 

「あ゛?」

 

「なんでもないです明日奈様っ!」

 

 

敬礼をして戻ろうとする和人に今度はしがみ付く。本気で向こうに着いたら聞く時間の無い可能性が大きい。だから今此処で逃すわけにはいかない。

 

 

「お願い和人、何でもするから見捨てないでよ。責任、取ってくれるんでしょ」

 

「和人君、今のどういう事?」

 

「待って。待ってくれ。確かに責任は取ると言ったがそう言う意味じゃない。てか刹那は男だぞ!?変な事はしないって」

 

「それは刹那様には魅力が無いと?どうやら命が惜しくない様ですね」

 

「クロニクルさんはその銃何処から出した!?死ぬから!」

 

「安心してください。エアガンを特殊改造した物ですから、精々厚さ数十ミリの鉄板を貫通するだけです」

 

「だから死ぬからソレ!?SAOの時より命の危険を身近に感じるんですけど!?」

 

「それに貴方が365日メモデフやってた事は分かってるんです。大人しく撃たれてください」

 

「メモデフって何!?ヤメロー!シニタクナイ!シニタクナーイ!」

 

 

カオスな空気になっている中、バスは発進したそれから騒動が一通り収まるまでに30分程掛かった。

 

 

~30分後~

 

 

「・・・最初から明日奈も一緒に聞けば良かったじゃないか」

 

「そうでした」

 

「刹那君、モテモテだね」

 

「あの、頭撫でないでください」

 

 

あれから事情を聞いた明日奈さんがニコニコして後ろの席から僕の頭を撫でる。

何気にこの人とは小学校時代からの付き合いでもある。そこまで仲が良い訳では無いが、パーティー等で度々会っていたのでメアドの交換位はしていた。

流石にこの人がSAO事件に巻き込まれていると知った時は驚いた。まあ、僕にとっても姉の様な人で、この人にとっても弟の様な扱いだ。

 

 

「それで、お二人には色々と教えていただきたいんですよ」

 

「でも、プラン建てるのは向こうなんだろ?それだったらドンと構えて居れば良いじゃないか」

 

「そうなんだけどさ・・・皆、僕に好意を持ってくれている訳だし僕もなるべく誠意を持って答えたいんだ。でもそういう事には疎いから、恋愛真っただ中の二人が唯一の希望なんだよ」

 

「真面目だなー、お前」

 

「分かって無いなあ、和人君は。確かに刹那君は総受けってイメージが強いけど、こうやって自分から動こうと努力するからそこに皆惹かれるんだよ。何時までも鈍感主人公な誰かさんとは違うんだよ?」

 

「あれ?なんか言葉の所々に棘を感じるぞ?」

 

「いや、総受けのイメージの辺りについてちょっと聞きたいんですけど?」

 

「聞くも何も、皆刹那君は総受けのイメージだよねって。《和×刹》は常識だよ?」

 

「そんな常識今すぐ捨ててくださいお願いします」

 

 

だから僕の同人誌なんかが世に出るんだ。

目からオルフェンズな涙を流しながら項垂れる。尚、明日奈さんの手は止まる事は無い。

暫くすると、シャロが話し掛けて来た。その表情は焦燥感に満ちていた。

 

 

「せ、刹那。クロニクルさんが婚約者って本当?」

 

「本当だよ。僕も最初は驚いたけど、まあ慣れた」

 

「適応能力高過ぎない!?」

 

「そんな事無いよ。だって結婚に関してはちょっと躊躇いあるし」

 

「そう!それだよ!」

 

「シャロ、朝からテンション高いね」

 

「そうでもしないと着いて行けないんだよぉ・・・!」

 

「な、なんかすみません?」

 

 

取り敢えず謝る。その後、シャロもデートに参加すると宣言した事で僕の不安が一層増した。

 

 

「刹那、強く生きろ・・・!」

 

「これは和人君より凄いかも・・・」

 

「どうしろと?これ以上僕にどうしろと!?」

 

 

つまり僕はずっとシャロに好意を向けられていたって事?まあ、異性として少しは意識されてるかなって思った事はあったけどまさか恋愛感情まであったとは・・・。

僕って本当に何処でフラグ建てた?

 

 

----大体いつもですよね。

 

----なにせ父親が一級絆建築士だからな。

 

----そういうDNAを持ってるんだね。

 

 

脳内に失礼極まりない声が響く。そんな僕が女たらしみたいな言い方しないでほしい。

そう言うのは織斑の役目だろうに。アイツがヘラヘラと笑顔浮かべて、適当にIS乗って俺が守る的な事言えば周りの馬鹿共はすぐ堕ちるんだから。

ああ、鈴に失礼か。篠ノ之さん?勝手に滅びろ。

 

 

「ああ、悩んでたらお腹空いた。朝から何も食べてないんだ」

 

「ほら、刹那のお袋さんから弁当預かってる」

 

「ありがと。いただきます」

 

「皆の分もあるからね」

 

 

遅めの朝食を口に入れる。十数個の握り飯と、重箱に敷き詰められた卵焼きや焼きウインナー等のおかずに満足感を感じながら朝食を終えた。

 

 

「ごちそうさまでした」

 

「相変わらずの食欲で安心したよ」

 

「食べるのが趣味みたいなものだからね」

 

「前に賞金貰える大食いラーメン10杯以上食べたもんな」

 

「でも賞金はいらないからタダにしてって言ったよ僕」

 

「作る量半端ないから店主泣いてたぞ」

 

「それは誘っちゃった私にも非があるかなぁ」

 

 

明日奈さんが遠い目で外を見る。当時、明日奈さんと和人に大食いラーメン行ける?と誘われたので、奢ってもらう条件下の元着いて行って平らげてやったのである。

だって店主がガキには無理とか言って来るから。いやあ、最初に言われた制限時間内に6杯完食してやった時の店主の顔と来たらまあ。

 

 

「また行こうか」

 

「「やめたげてよぉ!」」

 

 

和人達に涙目で止められたので、今度は4杯で勘弁してやろうと思った。

そうこうしている内に、車は山道へと入っていた。

 

 

「さて、向こうへ着く前にプレゼントタイムと行こうか」

 

「プレゼント?」

 

「今回のお礼の一部みたいなものだから」

 

 

僕はバッグから、正方形の箱を取り出す。そしてそれを開けると、中には妖精の姿をした手乗りサイズの少女が目を閉じて座っていた。それを見て、和人と明日奈さんは目を見開いた。

 

 

「お前コレ・・・ユイ、なのか?」

 

「そ。明日奈さん、ユイちゃん連れて来ました?」

 

「う、うん。今は寝ちゃってるけど」

 

「あー・・・じゃあ後にした方が良いかな?」

 

『いえ、大丈夫ですよ』

 

「おはよう、ユイちゃん。起こしちゃった?」

 

『ついさっき起きたばかりなので大丈夫です』

 

 

明日奈さんの端末から子供の声が聞こえた。その正体は、和人がALO内でナビゲーションピクシーとして行動を共にしている《ユイ》ちゃんであった。まあ、この子も色々と事情があるのだが、語ると具体的にアニメ二、三話分掛かるので遠慮させていただく。

ちょっと特殊な彼女はこうして端末の中を移動出来る。

今日はそんな彼女へのプレゼントも兼ねている。

 

 

「その端末貸してもらえますか」

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 

僕は端末と、箱の中身の手乗りユイちゃんの首筋にプラグを差し込んで最終作業に入る。

 

 

「ユイちゃん、後は君がこの素体に入れば完成だよ」

 

『もしかして・・・!』

 

「それは入ってみてからのお楽しみだよ」

 

『はい!ユイ、行きまーす!』

 

 

そう言ってユイちゃんの声が端末から消えた。そして箱の中のユイちゃんがゆっくりと目を開ける。そしてゆっくりと辺りを見回してから、手を開いたり閉じたりして感触を確かめる。

 

 

「わ、私・・・」

 

「ユイ!」

 

「ユイちゃん!」

 

「パパ!ママ!」

 

 

和人達は箱からユイちゃんをそっと持ち上げ、涙を浮かべながら抱きしめる。ユイちゃんの方も涙を流して二人の頬に精一杯抱きついていた。

ふと後ろを見ると、事態を理解して居ないのか全員がポカンとしていた。うん、説明しなくてゴメン。

でも和人がキリトでキリトが和人でウィーアーッ!って事を説明しないといけないからちょっと怖い。せめてそれは本人の口から言ってもらおう。

 

 

「さてと、ユイちゃん。感動のシーンを邪魔するのは気が引けるけど、不具合とかは無い?」

 

「あ・・・大丈夫です。普段と同じくらい体に馴染んでます」

 

「そっか。いやあ、良かった」

 

「刹那。この素体は・・・」

 

「ふっふっふ・・・よくぞ聞いてくれました!」

 

 

質問して来た和人や、皆の視線に僕はちょっと楽しくなって来た。

 

 

「ユイちゃんのその素体は、僕が自己流に開発した小型アンドロイドさ!」

 

「アンドロイド・・・マジか!?」

 

「マジだよ。それも食事や涙を流す事も可能な高性能アンドロイドの素体に、人間に近い感触と人工皮膚を使って更にリアルにしたんだ。それだけじゃなく、ISの技術も応用して空を飛ぶ事も可能だよ」

 

「ごめん刹那君。貰った私達が言うのもアレだけどコレはもうプレゼントの枠に収まらないと思うの」

 

「でも制作は一週間ちょいで、時間が開いた時に少しずつで済みましたし気にしないでください」

 

「それでこの完成度かよ・・・」

 

「パパ、本当に飛べますよ!ほら!」

 

 

そう言ってユイちゃんは楽しそうに和人の周りを飛び回る。それを後ろの皆は可愛いと連呼しながら見つめていた。

それに気付いた和人が溜息を吐く。

 

 

「やっぱり言わなきゃ、か」

 

「僕もこの前口滑らせてクロナだってバレちった♪」

 

「お前何度も言ったのに・・・」

 

「だって相手が普通に教えて来たから反射的につい、ね?」

 

「・・・次は気を付けろよ」

 

「了解です」

 

 

僕の返事を聞いてから和人は苦笑して後ろの皆に言った。

 

 

「えっと、取り合えず説明させてくれ」

 

 

~30分後~

 

 

「・・・それで、今に至るって話だよ」

 

 

和人が説明を終えると、女子達はキャッキャッと騒ぎ出す。SAO内でラブロマンスしてた二人にテンションが上がってる様だ。まあ、思春期の女子高生ならそう言う話題は好きなんだろうなと思う。

・・・しかもそのベクトルが僕に向いてるとか。僕って思ってるよりも幸せ者なのかもしれない。

 

 

----前世が前世でしたし、これ位は良いのでは?

 

----私達は話しか聞いていないが、主殿はもっと欲張っても良いんだぞ。

 

----うん。もっと欲しがっても良いと思うよ。

 

----そういうもんかね?

 

 

セシア達の声に応えながら楽しそうにする皆を見る。ああ、この時間がずっと続けば良いのに・・・。

 

 

----あの馬鹿姉弟にまた会いますからね。

 

----新学期は地獄だぞ。

 

----そろそろ白式も裏切っちゃえば良いのに。

 

 

マジで夏休み終わらないで・・・!

珍しく毒を吐くラファールに頬を引き攣らせながら僕は空を見上げた。ああ、空はあんなに青いのに・・・。

 

 

「・・・寝よ」

 

 

僕は不貞寝する事にした。

 

 

刹那サイド終了

 

 

三人称サイド

 

 

刹那達がバスの中に居る頃、ISコア達の憩いの場と化している空間では他のコア達が話をしていた。

 

 

『あーあ。私も刹那達と旅行に行きたかったな~』

 

『それはこの場の全員が同じ考えですよ。皆さん、紅茶のお替りはいかがですか?』

 

『あ、欲しいな』

 

 

愚痴る甲龍をティアーズが宥めながら白式のカップへと紅茶を注ぐ。暫くすると、この空間へ控えめに入室して来た人物がいた。

赤い髪の少女が周りを見ながら来る。

 

 

『あの・・・不動様はいらっしゃいませんよね?』

 

『いないよ~。いい加減《紅椿》も普通に来れば良いのに。別に刹那は君に怒ってる訳じゃないんだからさ』

 

『で、ですが・・・福音との戦いであの方に剣を向けてしまったのは確かですから』

 

『それだったら私だって馬夏が迷惑かけてるよ』

 

『この前のリンチは笑ったね』

 

『趣味が悪いのは分かっていますが、あの時ばかりはスッキリとしましたね』

 

 

甲龍達は、夏休み前の事を思い出しながら紅椿のコア人格を歓迎する。

紅椿のコア人格である少女は、刹那に謝罪をしたかったのだが勇気を出せずにこうして刹那の居ないタイミングにやって来るのだ。

そして紅椿の後ろからもう一人やって来た。入って来たティアーズと同じ金髪の女性は、シャルロットと瓜二つの顔で微笑む。

 

 

『皆さん、こんにちわ』

 

『やっほ~、シャルロットのお母さん。今は、ラファールのコア人格さんかな?』

 

『それだと刹那君のラファールちゃんと被っちゃうから、前者の方で良いわよ』

 

 

そう言ってシャロの専用機・・・否、シャロの母親は微笑んだ。

何故こうなったのかと言うと、話はシャロが転校して来る少し前に遡る。シャロの母親は、自分が死んだ後も意識があった。ただし、その体は幽霊になっていた。

そしてシャロの後ろにずっと憑き、見守っていたある日の事だった。シャロの使っていたラファールが訓練の負荷で破損し、コアに異常が生じた。その際に、シャロの母親はチャンスと思い、破損した事で消滅したラファールの本来のAIにすり替わったのだ。

憑依と言う裏技を使って・・・。

 

 

『そろそろ刹那にネタバレする頃じゃない?ほら、シャルロットも刹那に乙女の宣戦布告した頃だし』

 

『そうね。一度言われてみたかったの。[娘さんを僕にください!]みたいな事』

 

『言わなくてもあげるつもりでしょ?』

 

『勿論よ。あの子、凄く優しい子だもの。私もあと10年若かったら間違いなく落ちてたわ』

 

『此処に居る全員はもう落ちてるけどね~』

 

 

そう言って甲龍は頬を染めながら笑う。ティアーズ達も同じ表情で黙り込んだ。

 

 

『そういえば、篠ノ之博士は旅行へ来なかったのね』

 

『あの人はコミケだから。人気サークルだから新刊落とす訳にもいかないしね』

 

『最早、あの天災の欠片もありませんね』

 

『でも今の方が私は好きだよ』

 

『それは此処の皆がそうだと思います』

 

 

白式と紅椿の言葉に全員が頷く。最初の頃の束の性格を知っているコア達はその変わり様に、改めて人の影響力を感じた。暫く話し込んだ後、ふと白式が思いだした顔をした。

 

 

『ねえねえ。モンドグロッソで刹那が優勝した時に貰えるコアってどんな子かな?』

 

『白式ちゃん、あの人は最初からコアを渡す気なんてないわよ』

 

『・・・どゆこと?』

 

『簡単に言えば口実作りだよ~』

 

『ああ、なるほど』

 

 

シャロの母と甲龍の言葉に白式は納得が行った。つまりはダミーのコアを渡す事で、セシアがもしも世間に露見しても大丈夫な様にする為だ。

モンドグロッソで優勝すれば、その立場を利用して融通を利かせる事が出来るようになる。そうすれば表立って宇宙への進出を目指せるかもしれないのだ。

 

 

『まあでも他の所と共同で作業する気は無いみたいだけどね』

 

『技術だけ狙って来る輩しか居ないからでしょ』

 

『篠ノ之束と不動刹那の共同研究・・・世界を動かすレベルの話じゃない』

 

 

二人のチート具合に戦慄しながら、コア達はゆっくりと過ごしていた・・・。

 

 

~フランス[とある一室]~

 

 

フランスの一室で一人の男が悪い笑みを浮かべてパソコンの写真を吟味していた。大統領その人である。

 

 

「クフフフ・・・彼の写真は面白いものばかりだね」

 

 

画面に映されたのは、メイド服や、和服。日本で流行っている魔法少女系のアニメのコスプレ衣装に身を包んだ刹那の写真だった。彼は刹那の罰ゲームに向けて、写真集を絶賛制作中である。勿論、仕事はサボった。

 

 

「・・・本当にいい加減仕事してくださいませんか?」

 

「まあまあ、良いじゃないか」

 

「どうせ、彼が負けるとは思って無いんでしょう?」

 

「当然。流石のシェリー君も勝てないだろうね」

 

「なら何故、仕事を放り投げてまで無駄な事してるんですかこのナチュラルサイコ野郎。・・・失礼、クソジジイ」

 

「君、段々と口が悪くなってないかい?まあ、理由は一つだよ」

 

「・・・まさか」

 

 

秘書の引き攣った顔に大統領は口角を吊り上げて言った。

 

 

「そう!優勝して、幸せの余韻に浸っている所でこの写真達をばら撒くのさ!なに、ちょっとしたサプライズだよサプライズ。後で侘びとしてビックリマンチョコでも送るさ」

 

「それで思春期の心の傷を癒せるとでも思ってんのかジジイ」

 

「冗談だよ。まあ、高級フレンチを満足するまで奢るさ。いやあ、本当に彼は面白いなあ!こんなにも楽しめるのなら食事代なんて安いものさ」

 

「また国家予算に手付けるの止めてくださいよ。前回、奥様に筋肉バスター掛けられてお尻ペンペンされたの忘れたんですか?」

 

「忘れる訳無いだろう。アレは私のトラウマだよ。全く・・・ちょっと国家予算で課金しただけなのに」

 

「人の血税をソシャゲに貢ぐとか勘弁してくださいよくだらない」

 

「うるさいな。ゾーイが出ないのが悪いんだよゾーイが」

 

「日本に染まり過ぎだろアンタ」

 

 

相変わらずのゴーイングマイウェイぶりに溜息が止まらない秘書であった・・・。

こうして刹那の預かり知らぬところでとんでもない不幸が進んで行く。

 

 

三人称サイド終了



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第22話

皆さん、明けましておめでとうございます!
リアルが忙しく、中々更新できずに申し訳ございませんでした。
また忙しくなりそうなのですが、なるべく早く投稿して行きたいと考えております。
どうぞ、これからもよろしくお願いいたします。


刹那「おい、何故僕は着物着てるんだ?」

クロエ「刹那様、レッツ姫h」

刹那「言わせねーよ!?」


刹那サイド

 

 

悲報、目が覚めたら祖父の家に到着していた件。

 

 

「・・・話せなかった」

 

「ま、まあ元気出せって。後でなんとか時間作るからさ」

 

「約束だよ?」

 

「おう」

 

 

苦笑しながら僕の頭を撫でる和人少し強めに睨む。

そうこうしている内に、僕達は荷物を持って祖父と祖母が生活している家・・・と言うよりも屋敷に着いた。

屋敷の中心からはもくもくと湯気が立ち込めている。理由は、僕が中学生の頃に祖父と花壇を造ろうとして居たら、温泉を掘り当ててしまったからである。石が邪魔だったから、深く掘ったら出ちゃったんだよなぁ・・・。

 

 

「え、此処って温泉あるのか?誰か掘り当てたとか?」

 

「すごーい。もしかして、刹那君だったり・・・」

 

「ママ、それは流石に・・・」

 

「・・・」

 

「おい、無言になったぞ」

 

「もうボクは刹那が何しても驚かないよ・・・多分」

 

「刹那、ちょっと埋蔵金とかダウジングしてみない?」

 

「刹那様、もう少し自重なされた方がよろしいかと」

 

「僕だって好きでこうなったんじゃないやい」

 

 

皆してそんなボロクソ言う事ないじゃないか。少し目元に水気を感じながら僕達は屋敷の玄関に入る。

そこには僕の祖父母である《十六夜 英雄》と《十六夜 節子》の二人が立っていた。

 

 

「ようこそ、十六夜家へ」

 

「皆さん、ゆっくりしていってくださいね」

 

『お世話になります!』

 

 

和人達の挨拶に祖父母は微笑む。そして次の瞬間、僕は二人に抱擁されていた。しかも頬ずりのオプション付きで。

 

 

「刹那~!中々会えなくてじーじ寂しかったぞ~」

 

「ばーばもよ~!いっぱいぎゅってしましょうね!」

 

「あの、お爺ちゃんお婆ちゃん・・・恥ずかしいって」

 

 

二人の変わり様に皆がポカンとなっている。そんな皆に父さん達が説明した。

 

 

「皆、その、何と言うか・・・」

 

「お爺ちゃん達・・・初孫が嬉しかったらしくて」

 

「ハッハッハ!今日はじーじ、頑張って晩御飯の魚をいっぱい釣って来るぞ!今なら、ついでに百鬼夜行も全滅させられそうだ!」

 

「あらあらアナタ、中の人発言はよくありませんよ」

 

「可笑しいな、俺には犬頭のボスって呼ばれてそうな奴のオーラが後ろに見えるんだが・・・」

 

「和人、何言ってるの?」

 

「いや、なんでもない」

 

「おっと、すまないね。それじゃあ、部屋へ案内するよ」

 

 

そう言って正気をようやく取り戻したお爺ちゃん達へ着いて行く。廊下を歩き、最初に大きな部屋へと通される。

 

 

「此処が女子の部屋だ。中の物は好きに使ってくれて構わない」

 

「「「「「ありがとうございます」」」」」

 

「ああ、クロエちゃん、だったかな?」

 

「はい。お初にお目にかかります。クロエ・クロニクルと申します」

 

「君が、刹那の許嫁だね。君には刹那と同じ部屋に泊まってもらいたいんだ」

 

「ファッ!?」

 

 

お爺ちゃんの発言に僕は思わず叫ぶ。いやいやいや、なんでやねん。

 

 

「お爺ちゃん、いきなり何を言い出すのかな?」

 

「クロエちゃんの話は元々聞いていてね。この子になら刹那を任せても問題無いだろうと思ったんだ。ならばまずは二人同じ部屋で夫婦になった時の練習をと思ってね」

 

「ありがとうございます、お爺様」

 

「別にじーじでも、構わないよ」

 

「私の事もばーばで良いわよ」

 

「・・・もうやだ」

 

 

なんかクロエからの視線が熱いんですけど・・・。

 

 

----間違いなく、マスターを食べるつもりですね。

 

----野獣の如き眼光を向けているぞ。

 

----わわわ!甲龍ちゃん!落ち着いて!

 

----ちょっと!刹那に何する気よあの女~!

 

 

とうとう、僕の脳内に余所の子が来てしまった・・・。

元気娘の甲龍がさっきから頭の中で叫ぶ。

 

 

----学園から、狙い撃てないものでしょうか。

 

----ティアーズさん落ち着いてください。

 

 

唯一のブレーキ役もなんかアレだし。そして僕と同じくISの声が聞こえるラウラもIS達の声を聞きながらクロエに羨ましげな視線を向ける。他の皆もだ。

今まで彼女達の好意に気付けなかった分、ちょっと辛い。別に僕の意思ではないが、クロエへの贔屓がある様に感じてしまった。

その視線へ真っ先に気付いたのが事の発端であったお爺ちゃんである。

 

 

「えっと・・・まさか全員か?」

 

「正確には、結城さん意外ですお義父さん」

 

「よし、変更だ。刹那、この子達と同じ部屋にいなさい」

 

「状況悪化したんだけど」

 

「皆、刹那に好意を向けてくれてるなら平等に機会を作るべきだろう。それに、贔屓はよくないからな」

 

「あらあら、ひ孫は期待しても良いのかしら?」

 

 

今すぐ拒否して走り出したい所ではあるが、顔を紅くしながら嬉しそうにするラウラ達に強く出られない僕が居る。

結局、部屋割は僕と女子全員の部屋と桐ケ谷親子(予定)となった。ユイちゃんに驚いた祖父母を見て、ちょっとだけスッキリした。

 

 

~居間~

 

 

「まあ、学園生活はこんな感じかな?」

 

「中々にハードなんだな・・・」

 

「大怪我したって聞いた時は本当に心配したのよ?でも学園に部外者は立ち寄れないし・・・」

 

「大丈夫だよ。この子達が守ってくれたから」

 

 

不安そうな祖父母に、腕に付けられた相棒達を見せる。頭の中でも誇らしげな笑い声が聞こえた。

 

 

「それに、あの馬鹿姉弟がいなければ基本楽だし」

 

「それには大いに賛成」

 

 

アイツが直接関わっていないとはいえ、一番の被害者とも言える簪も大きく頷きながら相棒である打鉄弐式の待機状態である腕輪を撫でる。白鋼と同じ形にした彼女に女性陣の視線が突き刺さる。仕方ないじゃん。型は一緒なんだから。

 

 

「それじゃあ、お昼ご飯にしましょうか。と言っても素麺なんだけどね」

 

「好きだから全然問題ないよ。寧ろ田舎に素麺はベストマッチでしょ」

 

「そう、なら用意するから皆は寛いでいて。えっと、ユイちゃんは食べても平気なのかしら?」

 

「はい!刹那さんが食事出来る様にしてくれましたから!」

 

「ユイちゃんが望むなら、別の機会に素体を更に改造しておくよ。どうしたい?ロケットパンチ?それともドリル?」

 

「待て。家の娘に何と戦わせる気だ?でもロケットパンチの辺り詳しく」

 

「和人君?」

 

「いや、男心についグッと来たと言うか・・・」

 

 

明日奈さんに睨まれた和人はシュンとなる。尻に敷かれてるな・・・。

 

 

「・・・まただ」

 

「シャロ?」

 

「実は、この前から一夏からの連絡が凄くて」

 

「着信拒否にしたら?」

 

「前にやったら篠ノ之さんが何故か文句を言いに来てさ。面倒だから受信だけしてるんだよ」

 

 

そう言って画面を見せて来たので覗くと、そこには[今度暇か?遊びに行こうぜ!]とか、[刹那の家か・・・やっぱデカイのか?]等と言った文章がツラツラと並べられていた。

所々に僕へのディスりや、鈴が素っ気ないと愚痴も入り混じっている。こんなのが十数通も来ている。

 

 

「シャロ、今すぐコイツをブロックしなさい。篠ノ之さんは僕が適当に言い包めておくから。なに、あの七光り落武者娘・・・ゲフンゲフン、篠ノ之さんの事だから織斑の事をちらつかせれば簡単に乗せられてくれるさ」

 

「刹那、もしかして篠ノ之さんの事かなり嫌い?」

 

「普通、木刀で殴ってきたりつい最近まで風穴空いてた腹にパンチぶち込んで来る上に、他人を危険に晒す様な奴を好きと言う奴は居ないと思うよ。僕だって、多分中学生の頃とかだったら完全に殴ってただろうし」

 

「え、篠ノ之博士の妹ってそんなにヤバいのか?」

 

「君よりも妹さんの方が知ってると思うよ。彼女、去年の中学剣道の全国大会で優勝してるから。まあ、お世辞にも良い勝ち方とは言えないけどね」

 

 

少しだけ和人の妹である直葉ちゃんとその事について話した事がある。全国大会で強い奴が居るけど、態度が最悪だったと言っていた。

IS学園に入ってから映像を初めてみたが、酷かった。何かに憤りを感じながら、力のままに相手を攻撃するその姿に僕は言葉が出なかった。

因みに、それを束に伝えたら知っていた様で思いだしながら落ち込んでいた。

 

 

「さて、ストレスの溜まる話は此処までにしてこれからの予定を決めて行こう!今日はこの後、お爺ちゃんと一緒に山の方へ釣りに行く予定なんだ。だから明日からの予定だね」

 

「はいはい!私は海に行きたいです!」

 

 

ユイちゃんの声に全員が頷く。あー、臨海学校は初日だけ泳いで後は帰っちゃったからね。

 

 

「じゃあ、二日目は海で決定だね。後はまあ、追々決めて行こうか」

 

「さあ、ご飯出来たわよ~」

 

「あ、配膳位は男でやるよ。父さん、和人、手伝って」

 

「ああ」

 

「任せろ」

 

 

残った男性陣で皿を運ぶ。お爺ちゃんも既にお婆ちゃんを手伝っていた。その後、何事もなく昼食を終えた僕達は少し昼寝をしてから、山へと向かった。

 

 

~山の上流~

 

 

「それじゃあ早速始めようか」

 

「そうだな」

 

「皆は釣りは初めてかい?」

 

「私は前に、刹那君と和人君と一緒にやった事があるので分かります」

 

「私も何度か経験があるので問題はありません」

 

「私もよく食糧確保で経験があります」

 

「そうか。それじゃあ、二人には私が教えよう」

 

「ありがとうございます。どうしよう簪。ボク、釣りなんて初めてだよ」

 

「私も。小さい頃に釣り堀に行った記憶があるけど、全然分からない」

 

 

戸惑う二人にお爺ちゃんが優しく教える。まあ、ちょっと餌のミミズとかに抵抗あるみたいだけど・・・。

そんな二人を尻目に、僕と和人はお爺ちゃんに声を掛けて少し場所を変える。

 

 

「和人、準備は良いかい?」

 

「ああ。それじゃあ、やるか」

 

「「ヌシ釣りを!」」

 

 

お爺ちゃん達が釣りをしているポイントから少し上流へ向かうと、其処には大きめの湖があり、その先には滝から水が流れ出て居る。なんでも昔に隕石が落ちた所に、洪水で流れが変わった川の水が流れてこの形になったんだとか。

大昔の話だから詳しい事は分からない。

そんな事はどうでも良い。ALOで培った釣りスキル。今こそ発揮する時!

 

 

「よっと」

 

 

取り敢えず、釣り餌を針に付けて水面に投げ入れる。ゲームほど簡単ではないが、ある程度気を抜かないと、正直持たない。隣を見ると、既に和人は欠伸をしていた。まあ、気長に待ちますか。

すると、和人は聞いて来た。

 

 

「んで、答えは出たのか?」

 

「出たら苦労しないよ」

 

「だろうな。と言っても俺達の場合は、戦場での恋愛だからな・・・あまり参考にはならないと思うぞ」

 

「まあ、片腕斬り落とされた状態でファーストキスと言われてもピンと来ないね」

 

「だろう?それだったら《エギル》に・・・アイツもゲームの中で知り合って結婚したんだっけか」

 

「ヤバい。後もう頼れるの遊馬か、後輩カップルしか居ないんだけど・・・」

 

「遊馬って確か同級生の・・・」

 

「うん。《小鳥》って子と付き合ってるよ」

 

 

その後は、特に進展もなく僕の中学時代の話へと入った。

 

 

「刹那って中学でなんかやってたんだろ?」

 

「風紀委員に近い何かかなアレは。学校の生徒会からの指名で、数人の生徒で構成された鎮圧部隊的な何か?」

 

「何かしか言えない組織なのか」

 

「だって遊馬の所為で、名乗りを上げさせられたりとかしたし。また同級生だった生徒会長がそれを面白いって自分もノリノリでやるんだよ?校内でも無敵のチームとか言われるし」

 

「因みに、お前はなんて言うんだ?」

 

「・・・が・・・い」

 

「なんだって?」

 

 

興味深そうに聞いて来る和人に僕は自棄になって、決めポーズであった、指を銃の形にして和人に向けた。

 

 

「[無敵がなんか良い!]・・・これで満足したか馬鹿」

 

「なんだろう・・・本気で全員分聞きたい」

 

「諦めてどうぞ(映像あるとか絶対に言えない)」

 

 

生徒会長が残して行きやがった僕達の痴態(遊馬含めて数名はノリノリ)を僕は厳重に部屋に封印したのだ。マジで困る。しかもあの人、中学卒業と同時に姿眩ませちゃうし・・・。未だに最後に言われた台詞が理解出来ない・・・。

 

 

『刹那・・・世界を変えてやれ!お前がオリ主だ!』

 

 

おりしゅ?ってなんですか?

あの言葉に未だに首を傾げる。

セシアに聞くと、[同い年の人でしたけど、マスターよりある意味先輩でしたね。まさかの一人じゃ無かったパターンですか]とか言っていた。これも分からない。

 

 

「刹那?何考えてるんだ?」

 

「ごめん、ちょっとね。今思えば、なんだかんだ一番楽しい頃だったなと」

 

「俺なんか中学生活の後半、ゲームだったからな。しかもデスが付く方」

 

「なんか・・・ごめん」

 

「いや、良いんだ。俺としては、βテスター時代からの友達だったお前が巻き込まれなくて安心したよ。SAOに閉じ込められてから何回か、お前の名前が無いかとか確認しまくったんだぞ」

 

「ありがとう、和人。本当に出会ったのが君で良かった」

 

「な、なんだよ照れ臭いな」

 

「ふふっ♪顔、紅いよ?」

 

「うるせえ・・・」

 

「やっぱり照れtうおっ!?コレ来たんじゃない!?」

 

「マジか!?よし、落ち着いて寄せろ!えっと、タモ!」

 

 

急に来た重い引きに、僕は引き摺り込まれそうになった所を和人に引っ張られた。なんとか体制を立て直して、釣竿に集中する。

相手の動きに合わせて、まずは疲労させる。だが、流石はヌシかも知れない大物。中々バテない。それどころか、まだ本気すら出していない気がする。

 

 

「・・・くそっ」

 

「落ち着け刹那。必ずチャンスはある」

 

 

和人の言葉を耳に入れながら、再び集中する。何分経っただろうか。時間の感覚が狂い始めた頃、遂に竿に動きがあった。動きが弱まり始めたのだ。まだだ・・・まだ動いてはいけない。

もっとだ・・・もっと待って・・・。

 

 

「・・・刹那」

 

「・・・此処だぁ!」

 

 

そしてとうとう、動きが止まった。そして僕は直ぐに後ろへと反転。そして、袈裟切りに近い要領で竿を一気に引く。この釣り糸は、特別性でちょっとやそっとじゃ千切れない。だから手加減なしで引っ張れる。

 

 

「この瞬間を待ってたんだぁ!」

 

「おお!ってデカッ!?」

 

 

大きな水飛沫を上げて、空中へと投げ出されたのは2メートルはあろうか本来あり得ないサイズのマスであった。最早、マスと呼んでも良いのかすらも分からないサイズである。これはヌシ確定だ。

そしてヌシはそのまま空を飛び、僕達の方へ・・・、

 

 

「刹那!見てくれ!こんなにも大きな魚gつりきちっ!?」

 

「ラウラ!?」

 

 

ではなく、嬉しそうにこちらへと掛けて来たラウラに直撃した。ヌシは最後の力を振り絞って、ラウラの上で暴れまくる。尾びれに往復ビンタされたラウラは、完全に気絶した。

その後、和人がヌシ用に持って来たビニールプールにヌシを移している間にラウラを介抱する。

 

 

「ごめんねラウラ。大丈夫?」

 

「ふっ・・・あんな大物出されたら私のなんて」

 

「ごめん。なんかホンットごめん」

 

 

涙を流しながら、未だに手の中でピチピチと跳ねる魚を弄びながらラウラは力なく笑った。その子、よろっと逃がすかバケツに入れてあげなよ。取り敢えず手元にあるバケツに魚を移す。

 

 

「・・・それで?一体あの巨大魚はなんだ?」

 

「カラーリングからして、コバルトマスかな?ぶっちゃけレア」

 

「そんなにか?」

 

「うん。星5鯖も顔真っ青のレベルでレア」

 

「それがあんな巨大に・・・」

 

「まあ、此処広いしあまり人も来ないから餌に困らなかったんだろうね」

 

 

そう言いながら、ヌシと写真を撮ってる皆を見て苦笑する。最早、観光スポットみたいな扱いだ。でも、勿体ないからヌシはリリースする。

正直此処まで大きくなると美味しくないし。

 

 

「さてと、それじゃあ逃がそうか」

 

「そうだな・・・おい、アレなんだ?」

 

 

ふと和人が何かに気が付き、湖の中心辺りを指差す。そこには、目の前のヌシなど比にならないレベルの魚影があった。此処からの距離でもかなりの大物と分かるそしてそれは僕達に気が付いたのか、姿を消した・・・。

 

 

「和人・・・」

 

「ああ・・・」

 

「「第二ラウンド開幕だー!」」

 

 

さっきまでの達成感は宇宙の彼方へと吹っ飛んだ。そして新たな闘志が湧き上がる。

 

 

「上等だ船持って来い船!」

 

「もしもしクラリッサさん!?今すぐに世界で一番丈夫な釣竿と釣り糸持って来てください!あと船!一時間以内で!え、無理?上等だ、今の装備でやってやらぁ!」

 

「待ちなさい二人共!そろそろ日が暮れるから今日はその辺で・・・ヒェッ」

 

「お爺ちゃん、僕達に逃げろと?あんな舐めた事されて!?」

 

「そうです!俺達はあの本当のヌシに興味なしみたいな反応されたんですよ!?」

 

「い、いやアレってただ逃げただけなんじゃ・・・」

 

「「明日奈(さん)はそこで待機!」」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 

僕と和人に気圧された明日奈さんは他の皆と後ろへ下がる。和人と僕はこれから行われる戦いに胸を躍らせた。

 

 

「刹那、久しぶりに《双黒》復活と行こうぜ!」

 

「良いねぇ!勝負は一回きりのノーコンティニューだ!」

 

「「超キョウリョクプレーで、クリアしてやるぜ!」」

 

 

二人で釣竿を構えて、近くに捨てられていた木造ボートに乗り込む。

この後滅茶苦茶釣りした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数時間後[十六夜家]~

 

 

「「釣れなかった・・・」」

 

「それどころかボートが壊れて二人で溺れるんだもの」

 

「まさかヌシが運んで来てくれるとは思いもしませんでしたね」

 

 

ガタガタと震えながら毛布に包まる僕と和人に明日奈さんとクロエがそれぞれマグカップに入ったスープを飲ませてくれる。思ったより湖のど真ん中は寒かった。

それよりも僕泳げないの本気で忘れてた。

 

 

「くそう・・・次は勝つ」

 

「そうだな。明後日はリベンジマッチだ」

 

「じゃあ、ボク達は撮影するよ。刹那達の戦いをちゃんと見たいし」

 

「また溺れる様な事だけは止めてくれ。思わずISを展開しそうになったからな」

 

「ラウラ、まだヘッドギア展開されたままだよ」

 

「むっ・・・」

 

「心配だったんだね」

 

「そ、そう言う簪もさっきまでシールドビットを展開していたではないか」

 

「・・・お恥ずかしい限りです」

 

 

皆で笑いながら、台所を見る。あの後、手柄0で帰れないと見栄を張って普通に釣りをしてなんとか魚を取った。夕暮れの風は、ずぶ濡れの体には地獄でした。

その後は、何事もなく過ぎて行った・・・。

 

 

刹那サイド終了

 

 

三人称サイド

 

 

刹那達が夏休みをエンジョイしている間、篠ノ之束は戦場に居た。

 

 

「《シノーノ》先生!新刊、完売しました!」

 

「既刊も完売です!」

 

「よっし!それじゃあ、私は他のサークルの人達に挨拶して、目的の本買って来るよ。二人も自由にしてて。本当にお疲れ様!」

 

「「お疲れ様です!」」

 

 

戦国時代でもあり得ない数の人混みに揉まれながらもシノーノこと篠ノ之束は、手伝いに来てくれたイリアステルの同僚と別れ、戦場を駆け抜けて居た。

途中で席を抜けて目的の品を買いに行かなかったのは、束なりの流儀である。

 

 

「自分の手で渡したいしね~・・・私誰に話してるんだろ」

 

 

会場の熱気を感じながら束は突き進む。そしてなんとか目的の物とネットで知り合ったサークルの方々に顔を出して行く。

 

 

「どうも~、お疲れ様です」

 

「おお、シノーノ殿でヤンスか!そっちはもう完売でヤンス?」

 

「まあね!それよりも、そこのメイドさんのコスプレ似合ってるねー!なんか尻尾とか生えてるけど、それ何のアニメ?」

 

「違います!コスプレじゃないです!」

 

「まあまあ、トール殿も落ち付くでヤンス」

 

「へえ、トールちゃんって言うんだ。私はシノーノ!あ、これ今回の新刊ね。トールちゃんもどーぞ」

 

「おお!通販しかないと諦めていたでヤンスが、貴女は神か!」

 

「ふふん!もっと褒めて~!」

 

「・・・何ですか、コレ?白い髪の女の子・・・男の子が黒髪のお姉さんに家に連れ込まれてって何て破廉恥な!」

 

 

束の本を読んだトールと呼ばれた女性は、軽くパニックになる。

 

 

「もしかして彼女、一般人・・・?」

 

「一般人と言うか・・・何と言うか・・・まあ、気にしないで良いでヤンス」

 

「そっか~・・・アレ?隣の人?」

 

「家で一緒に暮らしてるファフ君でヤンス」

 

「ほっほ~う♪ねえねえファフ君、どっちが攻め?」

 

「何がだ。殺すぞ」

 

「おおう。中々にクール・・・あ、読んでみても良い?」

 

「ああ」

 

 

ファフ君と呼ばれた青年のスペースに積み上げられた同人誌を読む。文章では無く、良く分からない紋章の様な物が大量に書かれた本だった。

 

 

「あ、あの・・・シノーノさん?その本は止めた方が・・・」

 

「この本一冊くださいな♪」

 

「ッ・・・500円だ」

 

「はい、丁度ね。それじゃあ、これから別のサークルも周るから。バイバ~イ」

 

 

そう言って自由気ままに去って行った。そんな束を見て、トールは冷や汗を掻く。

 

 

「あの人、呪いがビッシリ描かれた《ファフニール》さんの本読んでも何ともなかったですよ・・・」

 

「フン・・・人間にしては、分かる奴だな」

 

「おお、ファフ君が珍しく人を褒めたでヤンス」

 

「黙れ」

 

「(買ってもらえたのがそんなに嬉しかったんですね)」

 

 

こうして、束も夏をエンジョイしていたのである・・・。

 

 

三人称サイド終了



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第23話

刹那サイド

 

 

翌日、人気の無い電車に揺られる事数駅。テンションの上がり過ぎでハッスルした所為か電車酔いしたラウラを背負いながら僕達は、降りた無人駅から目の前に広がる海水浴場に声を上げた。

 

 

『海だー!』

 

「・・・だー」

 

「だー・・・うぷっ」

 

「頼むから、背中でリバースしないでね?」

 

「すまない・・・」

 

 

グロッキーなラウラを慎重に運んで、砂浜にパラソル等を設置する。その間、女子達はお着替えタイムである。まあ、全員下に水着着てるから脱ぐだけだけど。

ラウラをビーチチェアに横たわらせ、持って来た手持ちタイプの小型扇風機で風を送る。日陰とは言え、さっきまで直射日光だった砂浜の上なのだ。蒸し暑い事この上ない。

 

 

「僕は此処で見てるから、ユイちゃん達は行って来な」

 

「やっぱり入らないんだね、刹那は」

 

「断固として拒否するよシャロ。クロエも皆と楽しんで来てね」

 

「いえ、私も」

 

「そんなフル装備で言われてもな~」

 

 

申し訳なさそうにするクロエは表情と裏腹に、ラウラと色違いの白のビキニタイプの水着を着こなすだけでなく水鉄砲にボール。イルカ型のバルーンを抱えて、足は海の方へ向きながら耐えるかのようにプルプルと震えている。

いや、行けし。

 

 

「良いから行って来なよ。逆に残す方が悪いし」

 

「・・・では、ありがたく」

 

 

そう言ってクロエは皆と準備体操を始めてから、オイルを塗って海へと駆けて行った。明日奈さんとユイちゃん以外は僕にオイルを塗らせた後、数分位の痙攣を終えてから顔を紅くして海へと向かった。

 

 

「テトラポットあるけど、遠くに行き過ぎないでねー」

 

「適度に休憩する事も忘れるなよ」

 

『はーい!』

 

 

父さんと母さんの声に皆が返事する。まあ、簪達も臨海学校で鈴がやらかしたのを見てるから大丈夫だと思うけどね。楽しそうにはしゃぐ皆を見ながら、僕は鞄からパソコンを取り出す。表示されたのは、新装備のデータである。

因みにラウラは母さんが何時の間にか世話をしてくれた。

 

 

「刹那、それ何のデータだ?」

 

「あれ?皆と行ったんじゃなかったの?」

 

「その・・・男一人であの光景はキツイ」

 

「わかる」

 

 

若干前かがみになりながら小声で言う和人に僕は心からの同情を示す。贔屓目に見なくても全員が美少女オンリーの集団が、水着ではしゃいで胸を揺らしてたらそりゃ意識する。僕はまあ、昔から色仕掛けとかされてたからある程度耐性はあるけどやっぱり来る物がある。

 

 

「話を戻すぞ・・・。何のデータなんだ?見た所新装備の様だけど」

 

「開発予定の武装のパーツの詳細と発注」

 

「発注?パーツ全部自分で造ってるんじゃないのか?」

 

「んな訳ないでしょ」

 

 

目を丸くする和人に僕は溜息を吐く。

 

 

「良い?僕は飽く迄もISに関しての知識とある程度の開発経験があるだけのぺーぺーも良い所だよ?確かに、自分で用意したパーツだけの武装が殆どだけど、複雑なパーツとかはウチの職員か工場に発注してるよ」

 

「その工場はやっぱりイリアステルの息が掛かってる所か。凄そうだな」

 

「ううん。関係の無い町工場だよ」

 

「・・・マジで?」

 

「マジマジ」

 

 

またも和人は驚愕する。それを見て少し笑いながらパソコンの操作を進める。

 

 

「僕って基本的に物作りする時は、材料とか実際に見て吟味してから入手する質なんだよね。だからあまり写真だけとか信用しなくてさ。前にネットで買ったパーツ見たら写真とは大違いの不良品だったし」

 

「それは嫌だな。確かにそうなるかも」

 

「だから自分で工業イベントに参加したり町工場を周って、パーツを見てからお願いするんだよ。それに仮にも人が使うんだ。用心するに越した事は無いよ」

 

「自分の足で工場周るって最早営業マンだなお前」

 

「でも結構楽しいよ?色んな知識に人脈。それと偶にご飯とかおやつ貰えるし」

 

「餌付けされてるぞ、それ」

 

 

可哀想な人を見る目で和人に見られながら、作業を続ける。うるせえやい。

暫くすると、ラウラが復活した。

 

 

「すまない。もう大丈夫だ、これより本隊と合流する」

 

「駄目よラウラちゃん。オイル塗らないと。刹那、お願い」

 

「合点承知」

 

「ま、待ってくれ。まだ心の準備が・・・」

 

 

そして息を荒くしながら痙攣するラウラを作り出してから海へと送る。作業を一通り終えた僕は、和人を連れて波打ち際へと向かった。その手にバケツとシャベルを持って。

 

 

「さて、何を作ろうか」

 

「折角だからエギル達に自慢できるやつにしよう」

 

「ん~・・・アインクラッドでも作る?」

 

「天才かよ。となると最早彫刻の域だな」

 

「そんじゃ、これ参考画像ね」

 

 

端末を操作して、立体映像のアインクラッドを表示する。まずは砂を海水で固めてひたすら山を作る。兎に角大きく作る。僕達の行動に興味を示したのか、ビーチバレーに勤しんでいた女子勢が向かって来た。

 

 

「刹那君、また何か作るの?今年は何かな~?」

 

「今年?明日奈は前から刹那と接点あったのか?」

 

「言ってなかったっけ?刹那君は私の・・・」

 

「婚約者候補だったんだよ。あ、和人。そこしっかり固めてね」

 

「おう・・・って嘘だろ!?今なんて言った!?」

 

「そこしっかり固めてね」

 

「もうちょっと前!」

 

「婚約者候補。と言っても僕達がまだ小学校の頃の話だよ。偶々お偉いさんのパーティーで出会って、意気投合してたら明日奈さんの両親に提案されただけだよ。まあ、断ったけど」

 

「私も拒否したな~」

 

「そ、そうなのか?」

 

 

今日は驚いてばかりの和人に明日奈さんと笑いながら同時に言った。

 

 

「「だって、姉/弟みたいなものだし」」

 

「あ、なんか安心した。絶対にそう言う事あり得ない空気だコレ」

 

「明日奈さんと結婚・・・どう足掻いても姉止まりだね」

 

「うん。刹那君も弟か妹って感じしかしないし。でも刹那君と婚約してたら"あの人"に付き纏われる事も無かったのかな」

 

「ああ、アイツか。でも弟でお願いします」

 

「どうしよっかな?」

 

「明日奈さんっ」

 

「ごめんごめん」

 

 

笑いながら僕を撫でる明日奈さんを見て、和人はとても安らかな笑みを浮かべていた。

 

 

「ああ、理想の姉弟は此処にあったんだなって」

 

「誰か海水ぶっかけてやって」

 

「辛辣過ぎない!?」

 

 

バケツを女子勢に向けて言う僕にシャロがツッコミを入れた。

その後、全員参加でアインクラッドと和人と明日奈さん、僕のALO内での武器を近くに作って皆で集合写真を撮った。

ALOメンバーのチャットルームに写真を送っておくと、直ぐに返信が来た。

 

 

エギル:また凄いの作ったな。

 

クライン:チクショー!人が寂しくぼっち飯してる時に楽しそうな写真送りやがって!

 

リズ:それもう素人の作品のレベル越えてるし!?

 

シリカ:あ、三人の武器もありますよ。凄いな~。

 

リーファ:良いなお兄ちゃん。私も行きたかったー。アレ?ユイちゃん現実に居ない?

 

シノン:アンタ・・・あと何人増やせば気が済む訳?

 

 

最後の一文から、僕か和人に対する殺意がヤべーイ!

 

 

「これ、和人でしょ?絶対に《師匠》誤解してるって」

 

「いや、俺じゃないだろ(コイツまだ誤解してるのか・・・)」

 

「(シノのんは和人君じゃなくて刹那君の事が好きなんだけどな~)」

 

「(でもシノンさんはツンデレさんですから気付きにくいですよ)」

 

「なんで三人で僕を見るの?」

 

 

温かい視線を向ける和人達に僕は首を傾げる。師匠と呼んだ人物。《シノン》と書かれた人物は、僕がとあるゲームでお世話になった人である。その話は長くなるので、また今度だ・・・。

 

 

「じゃあ、写真も撮ったし壊そうか」

 

「勿体ないけどデカイから邪魔だしな」

 

「仕方ないよね」

 

「そうですそうです」

 

「「「「じゃあ、ドーンッ!」」」」

 

 

僕は和人達とアインクラッドを思いっきりパンチして破壊した。心なしか、明日奈さんのパンチが一番威力があった気がしたけど、気にしない事にした。

呆然としてるシャロ達に声を掛けて、父さん達の元へ戻る。いや、何時まであっても邪魔じゃん?

 

 

「あーお腹減った。母さん、お弁当お弁当」

 

「分かってるわよ。さあ、皆ご飯にしましょう!」

 

 

何とか思考回路が復帰したシャロ達も合流して昼食タイムに入る。朝に母さんと明日奈さんで作った重箱に詰められたお弁当を食べる。

 

 

「うまうま・・・」

 

「相変わらず美味しそうに食べるね。刹那」

 

「だって美味しいし。そう言う簪だってさっきから手が止まって無いよ?」

 

「う・・・だって凄く美味しいし」

 

「だよね。あ、いただき」

 

「ふぇ・・・?」

 

 

簪の頬に付いていた米粒を取って食べると、素っ頓狂な声を上げてから顔を真っ赤にして俯いてしまった。思わず僕も頬が熱くなる。しまった。今の状況でこの好意はかなりマズい。

視線を逸らすと、その先ではシャロ達が頬に米粒を頑張って貼りつけてから僕に向けて居た。おい、その期待した視線を止めろ。桐ケ谷親子(予定)も笑顔で見守らないで。

家の両親も同じ表情をしていた辛い。

 

 

「・・・ごちそうさま」

 

 

食べ終えた僕達は、ただボーッとしながら目の前の海を見る。此処最近、まともに休んでいなかったから、こうやって何も考えずに景色を見るのは久しぶりな気がする。整備こそされているが、過疎化の進んだこの海水浴場には人が全く居なかった。まあ、もうクラゲの出る時期でもあるから来ないのは分かる。

 

 

「あー・・・戻りたくないなぁ、学園」

 

「現実見ようよ、刹那。ボクなんて一夏から聞いたのか、篠ノ之さんからの連絡凄い事になってたよ。まあブロックしたけど」

 

「その二人が居なきゃそこそこ楽なんだけどね」

 

 

苦労人コンビであるシャロと溜息を吐く。その後、愚痴と世間話を挟んでから本日のメインイベントへと入る。

 

 

「それじゃあ、今日のメインイベントのスイカ割りだ!」

 

「これがクラリッサの言っていたスイカ割り・・・どの様なルールなのだ!?」

 

「目隠ししてその場で回転。周りの指示を頼りにスイカを割るシンプルなルールだよ。あ、指示には嘘もあるからね」

 

「なるほど・・・」

 

「じゃあ、取り敢えずやってみようか」

 

「うむ!」

 

 

意気揚々と目隠しをするラウラに苦笑しながらスイカを準備する。その間にもラウラは木の棒を軸に回転していた。

 

 

「よし、準備出来たよ」

 

「こちらもだ。ふっ・・・軍で鍛えた私に負けは無い!」

 

「ラウラ、せめてこっち向いて。そっちには大海原しか広がってないよ」

 

 

既にフラフラで僕達の居る場所とは無関係の場所に居る彼女に、僕は何も言えなくなる。周りも思っているだろう。ああ、負けフラグなのだなと。

数分後、僕達の目の前にはまともに前に進めずそれどころか後頭部から砂浜にダイブしてスイカにすら辿り着けなかったギャン泣きのラウラの姿があった。

 

 

「ぐしゅっ・・・あだらなかった」

 

「そうだねー、痛かったねー」

 

「ぐんじんだっだのに・・・」

 

「どんまいどんまい」

 

 

適当に言いながらラウラを撫でるシャロは完全に保護者のそれだった。というかラウラって段々子供っぽくなってる様な。ああ、今まで抑制されてた分が今来たのか。

 

 

「んじゃ、気を取り直して次は誰が行く?」

 

「私が行くわ」

 

「明日奈さんね。それじゃあ、目隠しどうぞ。さ、和人が何時もの様に付けて上げて」

 

「何で分かるんだよ!?」

 

「え、カマ掛けただけなんだけど。うわ、マジかー」

 

「ちょ、ちょっと和人君!」

 

「ち、違うって!それに目隠しは明日奈の趣味で・・・!」

 

「嘘でしょ!?」

 

 

知りたくなかったよその事実。皆も顔を紅くしてるし。父さん達なんか、まだまだ青いなとか言ってるし。いや、そんな事実も知りたくなかったわ。

 

 

「と、兎に角準備出来たよ」

 

「では、よーいスタート!」

 

「ママ!そのまま真っすぐです!」

 

 

ユイちゃんの声に明日奈さんはゆっくりと歩を進めて行く。少し足取りは覚束無いが、かなりのペースで進めている事にラウラがショックを受けていた。

 

 

「明日奈!そこを右だ!」

 

「騙されたら駄目ですよ明日奈さん!左斜め前です!」

 

「結城様、少し下がった方が宜しいかと」

 

「違います。そこで更に前進です」

 

「そこを右斜め前だ!ふふふ・・・そのまま海へゴーだ!」

 

「えっと・・・えっと・・・」

 

 

ユイちゃん意外全員が嘘を吐く。まあ、これが面白さを引き立ててくれる訳だし。明日奈さんもかなりお困りのご様子。実は彼女、スイカの目の前で棒を振りかざしている状態である。さて、そろそろスイカも食べたいし僕も参加しますか。

 

 

「明日奈、そこを少し右だ!」

 

「えっと・・・此処ね!行くわy「明日奈さんから見て左斜めに袈裟切り」・・・分かった!」

 

 

僕の指示を聞いて、明日奈さんが袈裟切りの要領で棒を振り下ろすと、側面だが確かにスイカが割れた。よって明日奈さんの勝ちとなる。

 

 

「やった!もう、皆嘘ばっかり言って!」

 

「でも刹那の指示は一瞬で信じてたな」

 

「だって自慢の弟の指示だもん。お姉ちゃんとしては信じないと」

 

「まだそのネタ引きずってたの」

 

 

その後、スイカを美味しく頂いた僕達は波打ち際で遊んでから海水浴場を後にした。帰りの電車の中、僕以外が寝落ちしてる中でセシア達と今日初めてまともに会話する。

 

 

----今日は静かだったけどどうしたの?

 

----あの馬鹿兎とちょっと話をしてたんですよ。

 

----一応、ラファールを残していたんだがな。

 

----なんか皆楽しそうだったから水を差すのは悪いかなって。

 

----別に良かったのに。

 

 

どうやら気を利かせてくれたらしい。なんか申し訳ない。

 

 

----じゃあ、お礼に帰るまでは話でもしよっか。

 

----良いの!?それじゃあね・・・。

 

 

こうしてラファールやセシア達とお爺ちゃんの家に着くまで、話していた。

 

 

~数時間後[縁側]~

 

 

祖母の家の縁側に僕は一人座っていた。時刻は夜中の二時過ぎ。所謂丑三つ時と言うやつである。綺麗な月夜にふと目が覚めてしまった僕は、眠くなるまで外の空気を吸おうと思っていたが、これがまた眠れない。

暫くすると、後ろの戸が開いて誰かが起きて来た。

 

 

「如何なさいましたか、刹那様」

 

「起こしちゃったかな?ごめんね、クロエ」

 

「いえ、お気になさらず。それよりも夜風に当たり過ぎては良くありません」

 

「そうなんだけど、ちょっと眠れなくてさ」

 

「そうですか。では、失礼します」

 

 

そう言ってクロエは僕の隣に座って、手を繋いで来た。ただ繋ぐのではなく、指と指を絡めた世間で言う恋人繋ぎという行為に当たる物だ。

 

 

「あの、クロエさん?」

 

「この様な時にでも攻めなければ刹那様は落とせないと、束様に言われました」

 

「・・・余計な事を」

 

「刹那様?」

 

「何でもないよ。・・・そういえば」

 

 

クロエを見ていて、ふと思った事を伝える。

 

 

「僕って、クロエの目って見た事無いなって」

 

「っ・・・!」

 

「あ、ごめんね。もしかしてデリケートな話だったかな」

 

「いえ。そうでした・・・いずれは露見してしまうもの。ならいっそ・・・刹那様」

 

「何かな?」

 

「私の目を見てください」

 

「うん・・・えっ?」

 

 

僕は思わず固まった。クロエの双眸から現れたのは、黒い眼球に金の瞳と言う見た事の無い瞳だった。その瞳は、少し揺れながらも僕へと向けられていた。そしてクロエから震えを誤魔化した声が聞こえて来た。

 

 

「私は元々、ラウラと同じデザインベイビーとして生まれて来ました。この瞳はその影響です。刹那様、正直な感想を仰ってください」

 

 

僕の中で時が止まった様な気がした。フリーズする思考。大いに乱れる脳内。残った僅かな理性がなんとか復活する。そしてクロエに対し、僕の出した言葉は・・・。

 

 

「綺麗だ・・・」

 

「え?」

 

 

ただ純粋な賞賛だった。実際に僕は彼女の瞳を心の底から綺麗だと思った。その双眸に月明かりが反射すると更に美しく感じた。

やけに鼓動が速く感じる。クロエを見ると、更に加速して胸の近くがキュッと締まる感覚がした。でも、不思議と嫌では無い感覚だった。

 

 

「クロエ・・・」

 

「せつ、なさま・・・」

 

 

不安そうな顔で見上げるクロエの頬へ自然と手が伸びていた。自分でも驚く位の優しい力加減で、壊れ物に触れるかの如く指を這わせる。

 

 

「クロエが過去に何かあったのかは分かった。でも、僕は今そんな事どうでも良いと思える位に君の瞳が綺麗に見えた」

 

「本当ですか?・・・嘗て、私の目を見た者達は揃って気味が悪いと言っていました」

 

「そんなの人それぞれでしょ。僕だってこの髪と目が気持ち悪いって何回も言われたよ」

 

「そんな事ありません。私は、貴方のその髪と目が好きです」

 

「僕だって同じさ。君をとても魅力的に感じてるよ」

 

「そんな事、束様すら言いませんでした」

 

「束は素直じゃないからね。でも、考えてる事はきっと一緒さ」

 

 

どうしてこんなにも僕は今、この子を愛おしいと感じているのだろうか。いや、というか目と目が合う瞬間に本当に好きだと気付いちゃったんですけど。

 

 

「本当に綺麗で・・・好きだ」

 

「刹那様・・・んっ」

 

「ん・・・」

 

 

思わず口に出した瞬間、クロエに唇を塞がれた。僕も負けじと塞ぎ返す。その際、決してクロエの瞳から目線を外す事は無かった。自分でも信じられない位の陥落っぷりである。即堕ち2コマとか目じゃないなオイ。

 

 

「クロエ・・・今更だけど、僕は」

 

「刹那様、その言葉はデートの件が終わってからお聞かせください。だから今は・・・何も言わずに、こうさせてください・・・」

 

「うん・・・」

 

 

正面から抱きついて来るクロエを僕は慣れない手つきで抱きしめ返す。こうして、中々眠る事も出来ずに夜が明けた。

その日は二人揃って寝坊した。

 

 

刹那サイド終了

 

 

三人称サイド

 

 

刹那達が夏休みを満喫している間、とある組織のメンバー《スコール・ミューゼル》と《オータム》はIS開発の企業である《倉持技研》のトップと秘密裏に話し合いをしていた。

 

 

「では、此方のデータをどうぞ」

 

「ありがとうございます。では、コレで・・・」

 

「はい。派手にやってしまってください」

 

 

スコールの渡したデータは、全て刹那自身と使用するISのスペックデータ等であった。そしてもう一つ、新たなISの設計図である。

 

 

「私達の目的は一致している。貴方方は不動刹那の無様な姿を逆手にイリアステルとの共同開発を現実に。私達は、不動刹那と言うイレギュラーの排除」

 

「ええ、実に良い取引だと思っています。必ずISは完成させましょう。ですが、この性能ですとパイロットが限られますね」

 

「居るじゃないですか。丁度良い実験台である一人目さんがね」

 

 

そう言うスコールの前に映し出されたのは、世界初の男性操縦者と呼ばれる織斑一夏の姿だった。それを見て、スコールは狂った様な笑みを。オータムは体に虫唾が走るのを感じながら憎悪の籠った目で写真を見つめた。

 

 

「精々、踏み台になってちょうだいね。世界最強の弟君♪」

 

「こんな男に・・・!」

 

 

だが、この時彼女達は気付く事は無かった。どの様な経緯であれ、篠ノ之束と不動刹那の両名を敵に回すと言う意味を・・・。

 

 

三人称サイド終了



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