短編集。 (ゆ☆)
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相模南という女

文化祭の一件以来クラス中から視線を感じる。

 

視線だけならまだいいが、たまに俺をネタにしていじりあってる話まで聞こえてくる。

 

ボッチによくある自意識過剰だと自分をそう思いこませるのも最近では些か疲れてきている。

 

 

その中でも特に視線を向けてくる相手がいる。

 

 

相模南だ。

 

 

こいつは視線や悪口だけならまだしも直接嫌がらせをしてくる。

 

 

例えば

 

イヤホンを刺して机に伏せて寝たフリをしていると手が引っかかったフリをしてイヤホンを外してきたり(本人は余程嫌なのか顔を真っ赤にして走り去っていった)

 

 

自分の机を覗いてたらくしゃくしゃでなんと書いてあるかもわからない紙が入っていたり(しかし何故か相模南としっかり名前は書いてある)

 

 

俺が嫌いなトマトをわざわざ買ってまで自転車のカゴに入っていたり(教室で嫌いな物の話を戸塚としていたのを聞かれたらしい)

 

 

と方向性がちょっとぶっ飛んでる。

 

 

 

ここで、俺はある仮説を立てた。

 

 

 

もしかしたら相模南という女はアホなのではないかと。

 

 

 

☆☆☆

 

 

ここで俺はある実験をしてみることにした。

 

トマト事件を見るにこいつは俺が嫌なものを送りつけてくるのかもしれない。

 

そこで俺は教室で唯一話してくれる天使、戸塚との会話の中で好きなものをわざと嫌いと言ってみることにした。

 

 

「おはよ、八幡!」

 

 

「おぉ、おはようさん。」

 

 

「なんだか眠そうだね…。朝ご飯はしっかり食べた?嫌いなトマトでもちゃんと食べないとダメだよ?」

 

 

「おう。トマトもしっかり食べるぞ。なんなら三食毎回食べるまである。」

 

今日も視線を感じて、視線の方向に目を向けると相模が俺たちの会話を聞いていた。

 

 

「しかし嫌いと言えばあれだな、最近好みが変わったのか甘い物が少し苦手になってきたな。」

 

 

「へぇそういうこともあるんだね。八幡は甘い物好きってイメージがあるから意外だよ。」

 

 

「あぁ最近ではもう目にするのもウンザリするな。」

 

 

「そこまでなんだ…。帰りになにか甘い物食べに行かない?って誘おうとしたんだけどな…。」

 

 

と戸塚がションボリしてしまった。

 

悪い、戸塚後でちゃんと説明するからね!!

 

 

 

後日、下駄箱にくしゃくしゃの紙に包まれたチョコが入っていた。(ちなみにまた紙に名前が書いてある)

 

 

視線を感じ後ろを振り返ると柱に隠れているつもりなのだろうけど、バレバレな相模がいた。

 

 

ここで俺は一芝居打つことにした。

 

 

「はぁ、甘い物をわざわざ下駄箱に入れられるとはなんて酷いイタズラなんだ。」

 

 

と少々大きめの声で言った。

 

 

その声が聞こえたのか顔赤くしてニヤニヤ笑っている相模がいた。

 

 

笑いたいのはこっちだ。俺が好きな物をわざわざプレゼントしてくれるんだからな。

 

 

 

これはいいぞと、俺はさらに一芝居打つことにした。

 

 

 

ある日由比ヶ浜に話しかけられた。

 

 

「あれ?ヒッキー今日はあの甘〜いコーヒーじゃないんだ。」

 

 

「あぁマッカンか?実はちょっとあの甘さが嫌いになってしまってな。」

 

 

「えー?ヒッキーがあのコーヒー飲まなくなるなんて大丈夫?病気とかじゃない?」

 

 

「違う違う。別になんとなくだなんとなく。ほら、歳を重ねると味覚が変わるのか苦手だったものが平気になったりするだろ?あれの逆だ。」

 

 

「あー!確かにそれあるよねー。あたしもね…」

 

 

と由比ヶ浜が話している時に横をチラッと見たら案の定こちらを見ている相模。

 

 

ちなみにわかっているとは思うがマッカンは毎日飲んでいる。

 

 

由比ヶ浜には後で説明すればいいか。

 

 

 

後日、下校しようと自分の自転車を見たらカゴの中にマッカンが入っていた。

 

少々ウンザリした顔をしてみる。

 

 

そして視界の片隅にまたもやニヤついてる相模。

 

 

 

やはりあいつはアホみたいだ。

 

 

 

 

☆☆☆

 

あたしには密かに好きな人がいる。

 

 

文化祭で自棄になり、やらかしかけた時助けてくれた比企谷だ。

 

 

最初は誤解して友達と悪口を言い合ったりしていたけど葉山君や結衣ちゃんがあいつの悪口を全く言わないことに疑問を覚え、何日か寝る前にあの時の出来事を思い出すようになりぼんやりとだがもしかしかしたらあいつはウチを助けてくれたのかもしれないと思い始めた。

 

 

そんなある日葉山君があいつを思いつめた表情で見ていた。

 

 

何故だろうか、それを見たら思い過ごしだと思っていた答えは確信に変わったのだった。

 

 

そこから恋するのは早かった。

こんなチョロい女じゃなかったのに…。

 

 

 

そんな時にあいつの席の横を通ったら指があいつのイヤホンに引っかかってしまいイヤホンが抜けてしまった。

 

あいつがこっちを見てる恥ずかしさのあまり何もなかったことを装い素通りしたけど。

 

 

せめて、感謝と謝罪を伝えようと緊張して手が震え、力が入りながらも紙に

 

ごめん、そしてありがとう。相模南

 

って書いた紙をあいつの机に入れておいた。

 

あいつはウチの文字が解読出来なかったのかゴミだと思ったらしい。

 

確かにすっごい緊張して紙がクシャってなったけどそれくらい読めし!!

 

 

 

ある日は戸塚君との会話の中であいつがトマトを嫌いなことがわかった。

 

けどトマトは健康にもいいし健康でいて欲しくてトマトをプレゼントしたりもした。

 

あいつは嫌がらせだと思ったみたいだけど…。

 

 

なんかやることが全て裏目に出てしまった感がある…。

 

 

けどウチは学習する女である。

 

 

ある日また戸塚君と話している姿を見かけた。

 

どうやら甘いものが苦手だという話をしているみたいだ。

 

 

しかし、ウチをなめてもらっては困る。

 

前からあいつを見ているこっちとしてはそんなものは嘘だとバレバレなのだ。

 

罪滅ぼしって訳じゃないけど少しでも喜んでもらおうとあいつの下駄箱にチョコを仕込んだ。

 

 

その反応を見ることにしようと思い柱の陰からあいつを覗いてみた。

 

 

「はぁ、甘い物をわざわざ下駄箱に入れられるとはなんて酷いイタズラなんだ。」

 

 

とバレバレの嘘を吐いてる姿が笑えてきてニヤニヤしてしまった。

 

 

 

またある日は結衣ちゃんと話している姿を見た。

 

今度はいつも飲んでいるあの甘いコーヒーが嫌いだと嘘を吐いてるらしい。

 

 

あれに騙されるほど伊達に毎日あいつを見てはいない。

 

 

あの笑える姿をもう一回見ようと思い今度はあいつのチャリのカゴにコーヒーを入れてみた。

 

 

ププッあいつちょっとウンザリした顔を作ってる。

 

 

その姿にまた笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

あいつのことが好きだなんて人には言えない。

 

けど、あいつの姿を見ていたい。

 

 

あいつはまさかあたしがあいつのことを好きだなんてわからないだろう。

 

けど、今はそれでいい。

 

 

今はまだ許されなくていい。

 

 

今はまだこういう一方的に可愛いイタズラを仕掛けて陰から覗くだけでいいのだ。

 

 

その姿がとても可愛いのだから。

 

 

まだ手のひらで転がされてあげる。

 

それでいつか、あいつにこう言うのだ

 

 

全部知ってたよばーか!って。

 

 




pixivでルーキーランキングと男子に人気ランキングどちらも2位を取ってテンションあがってしまい投稿…。

よかったら、評価、コメント等お待ちしています。


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相模南という女2

まさかの続きです。

意味不明ですがそれでもよかったらどうぞ。


あの好きなものを嫌いだという作戦を実行してからというものここ最近は気付いたら至る所に相模の姿を見る。

 

学校帰りにふらっと寄ったコンビニでたまたま出くわしたり

 

ベストプレイスで昼食をとってる最中にたまたま相模が通りかかったり

 

果ては、数学の時間寝てて次の授業が移動教室なのに誰も起こしてくれなかった時にたまたま通りかかったらしい相模が何故か顔を真っ赤にして怒って、罵倒されながら起こされたりした。

 

 

もはやこれは偶然なのか疑問を覚え始めてくる。

 

 

そこで俺はあることを考えついた。

 

 

それは、、独り言で行き先を言えばそこに相模が現れるんじゃないだろうかと。

そしてもし現れたら、隠れてその姿を目撃してやろうじゃないか。

 

独り言を言うとかちょっと危ないやつに見えるかも知れないから小声でボソッと言うか。

小声でボソッと言うのはボッチには備え付けのスキルだからな。

 

 

☆☆☆

 

 

さぁ、作戦決行しようか。

 

 

まずは本当に現れるのかの実験だな。

 

 

「さてと、もう昼だしいつもの場所に行くか」

 

 

と呟き、ベストプレイスに移動する。

そして現れてもいいようにいつもの場所が見渡せる物陰で昼食をとろう。

 

 

来ないなぁ。なんだか馬鹿らしくなってきた。そろそろいつもの場所に戻るかと立ち上がったその時、相模が現れた。

 

 

マッカンと自分の飲み物片手にキョロキョロしている。

 

 

もしや、これはビンゴなのか?

 

 

いや、しかし1回だけだと偶然の可能性も捨てきれないな。

もはや飲み物を2本持ってるからいつかの由比ヶ浜と一緒で友達との罰ゲームで飲み物を賭けていただけかもしれないしな。

 

 

何回か試すしかないか?

 

 

 

☆☆☆

 

 

何日かかけて試した結果

 

 

来たり来なかったりだった。

 

 

むしろ来ない時の方が多い。

 

やはり偶然なのか?

 

 

最後に1回だけ試して止めるか。

なんだか自意識過剰で恥ずかしくなりそうだしな。

 

 

「んー今日は帰りに図書館に寄って行くかー」

 

といつもとは違い普通に話すくらいのボリュームで独り言を言ってみた。

 

 

視線を感じるが無視だ。

 

 

まぁ今日は図書館開いてないんだけどな。

 

 

☆☆☆

 

 

最近は勇気を出して偶然を装って比企谷の後をつけている。

 

1回目は本当に偶然だったんだけどなんだか隠れて会ってるみたいでドキドキしてしまい癖になってしまった。

 

 

我ながら気持ち悪いとは思うけどあのドキドキは誰にもわからないだろう。

 

 

あいつの行動パターンを見ていると昼食時はどこかに行ってるらしい。

 

それを知るために、いつもは友達と昼食をとっているけどあれこれと理由を付けて校内を探し歩いた結果テニスコートを眺めることができる、非常階段の下で昼食をとっていることがわかった。

 

 

あいつの観察を隠れてするのは本当に面白いけどやっぱり間近で顔を見るとドキドキして何物にも代え難いものがある。

 

 

ある日移動教室なのに寝ている比企谷が居た。

どうやら、結衣ちゃんや戸塚君は先に向かっていて気付かなくて起こしてもらえなかったらしい。

 

周りは既に誰も居なく、ウチだけだった。

 

こ、これ起こした方がいいよね…。

 

 

うわっ近くで寝顔見ると普通にイケメンに見える…。

目意外は案外イケてるじゃんこいつ。

 

なんだかいつもより余計にドキドキする。

 

 

「ね、ねぇ起きなって」

 

身体を少し揺らしてみたが起きなかった。

 

辛抱強く揺らして声をかける。

 

「ちょっと!起きなきゃやばいよ?」

 

 

「おう…。」

 

その甲斐あってか起きたみたいだった。

 

 

「ってなんで相模?」

 

 

「なんでって、たまたま通りかかったらあんたが寝てたし遅刻したら次の授業の先生怒ると恐いから起こしてあげたんじゃん。そんくらいわかれし馬鹿じゃないの?」

 

ついドキドキのせいか早口になってしまう。ついでに余計な一言まで言ってしまい自己嫌悪に陥りそうだった。

 

 

「お、おう。悪いな。サンキュ」

 

 

「別に?あんたのためじゃないけどね」

 

ふいにお礼を言われて安っぽいツンデレ気味になってしまった。

 

 

そんなこんなで最近は勇気を出して比企谷と接触を試みている。

 

まぁまだ話しかけたりは出来てないけど…。

 

 

ある日、あいつがボソッと独り言を言っていた。

 

 

どうやら昼食を食べにあの場所に行くらしい。

 

何を独りで話していたかはわからないけどあいつの行動パターン的にはあそこで間違いないだろう。

 

 

よし、今日は勇気を出してあいつがよく飲んでいるあのコーヒーを差し入れしてあげよう。

 

…そろそろ友達に怪しまれそうで別の意味でドキドキする…。

 

 

適当に理由をつけ自販機に寄った後あの場所へ行ってみたが、居ない。

 

もしかしてウチの読みは外れたんだろうかと思っていると目立たない物陰からあいつのアホ毛が見えた。

 

流石にあの場所まで行ったら怪しまれそうだから今日は断念するしかないようだ。

 

 

 

それからもあいつは何かを言っていて、それをよく聞いてみると行き先を言っているようだった。

 

ウチはそこで感づいてしまった。

 

もしかして、ウチがストーカー紛いのことをしてるのバレてる?と。

 

そういえばこの間からあいつは自分が行き先をつぶやく癖に行ってみると居なかったりする時があったのはそういうことなのだろうか。

 

 

そこからは一種の戦いのように感じた。

 

自分の欲求を抑え、あいつのいるところに行かないように気をつけた。

まぁ、たまにその欲求に負けるけどバレてないよね…?

 

 

流石に自分でもこれ以上はやばいと思い最後にしようと思った。

 

その日も比企谷は独り言を言うのかと思いきや普通のボリュームで行き先を言っていた。

 

これが自分へのメッセージに感じる辺りだいぶ拗らせているかもしれない。

 

 

☆☆☆

 

 

あいつより早く学校を出て図書館に向かうと、図書館は閉まっているようだった。

 

うぅ…どうしよう。

閉まってることを教えてあげた方がいいんだろうか。

 

ここまで来たからには一言くらい話して終わりたい。

 

そう決めて比企谷が来たら、図書館閉まってるよ。って伝えてあげよう。

 

 

しかし、待てども待てども比企谷は来なかった。

辺りはもう暗い。

 

後10分待って来なかったら帰ろう。

 

と、その前にお花を摘みに行こう…。

 

 

お花を摘み終わり、ベンチに戻るとあの甘いコーヒーと紙が置いてあった。

 

 

「こんな寒いところにずっと居ると風邪引くぞ。比企谷」

 

と書いてあった。

 

 

完全にウチの負けだった。

 

 

しかし、こんな些細な優しさがとても嬉しく感じてしまう。

 

ウチがストーカー紛いのことをしてるのがバレていることなどもうどうでもよくなってしまった。

 

 

バレててもあいつに会いたかっただけなのかもしれない。

 

もしかしたら引かれてるかもしれない。

 

その時はいっぱい謝ろう。

いっぱいいっぱい謝って文化祭のことも謝ろう。

 

 

 

甘いコーヒーを握ると、とても暖かくてそれはどこかあいつの暖かさのように感じた。

 

 




続きを書いてみましたがやっぱり駄文になってしまいました…。


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相模南という女3

このシリーズ久々すぎてらしさを失ってますがよろしければ…。





「南…起……南!」

 

「うるさいなー比企谷、起きるって」

 

「ちがーう!!起きなさい南!!」

 

「はっ!違う。違うからねママ」

 

比企谷に起こされる夢とかどんだけ頭の中お花畑なのよウチ…。

 

「はいはいパパには内緒にしとくわ」

 

「全然わかってなーい!」

 

そんなやり取りをしつつ朝の準備を始める。

今日も学校かー。めんどくさい行きたくない。

そんな気分のまま家を出る。

 

まだ少し眠くて頭がふわふわする。

学校までもう少しというところで頭にアホ毛を跳ねさせてる男子がいた。というか比企谷だった。

 

「おっはよー!」

 

あっ!?またやってしまった。

普段見かけても挨拶なんてしないのに。

あいつもビックリした顔で

「お、おう」

なんて言ってるし、もーー!!

嬉しいけど帰りたいーー。

 

思わず走り去ってしまった…。

 

朝からそんなやらかしをしつつも学校が始まった。

 

うわー今日最悪体育あるじゃん。

それも持久走。

今日はついてないらしい。

 

お昼休み前の体育の授業。

女子と男子で別で走るらしい。

なんだか朝からから身体が重たい気がする。端的に言って体調が悪い。

 

1000mを意地で走り抜けると日陰でグッタリしてしまう。

 

そこに比企谷が近づいてくる。

 

「なに?」

 

また可愛くない言い方をしてしまう。

 

「お前体調悪いんだろ。保健室行くぞ」

 

「は?え?…なんで」

 

「先生にはもう言ってきたから。ほら行くぞ」

 

「…うん。ありがと」

 

「別に。サボれる口実見つけただけだ」

 

こんな嘘バレバレなこと言わなくてもいいのに。

そしてこんなことされたらある意味もっと体調悪くなりそうなウチの身体自重しろ…。

 

「じゃ。後は寝てればいいだろ」

 

「あんたどこ行くわけ?」

 

「どこって、女の子が寝てる空間に入れるわけねーだろ」

 

「…いいから」

 

「は?」

 

「別に居ていいって言ってんの!」

 

ウガー!!ムカつく!!

居ていいって言ってんだから居なさいよね!!

 

「お、おう悪いな」

 

そうしてウチが寝ているベットの横の椅子に座る比企谷。

なんだかこれだけ見ると凄い怪しい…。ウヘヘヘヘ。おっと。

 

外から聞こえる体育の声。ウチ達が居る保健室がまるで違う世界のように感じる。

あー幸せだなぁ。とウトウトしてしまう。

 

 

起きると比企谷は居なかった。

は?って思ったが比企谷が座っていたベンチには代わりにスポーツドリンクが置いてあった。

 

ほーんと不器用なやつ。

 

☆☆☆

 

 

あー学校嫌だよう。帰りたいよう。

などと考えながら登校していると後ろから声がかかる。はいはい友達がいたのはわかるけどもっと小さい声で頼む。

 

その声が足音と共に近づいてくる。

そして背中を叩かれた。俺に挨拶してくるとは、もしや戸塚か!?

 

振り向いた先には相模がいた。

は?なんで?

ビックリしすぎて思わず俺も挨拶しちゃったわ。

さらに挨拶したかと思ったら顔真っ赤にして走り去って行った相模。

なにあいつ体調でも悪いの?

 

授業が始まる。持久走だ。

持久走は割と嫌いじゃない。

1人で走っても怒られないしこの自分との戦い!って感じが結構好きだった。

 

最初は女子が走るらしい。

それをぼーっと眺めているとふらふら走る赤い髪の女子がいた。というか相模だ。

 

なんとか走り終えたらしい相模は日陰で1人休んでいた。

 

はぁ。仕方ねーな。

 

「先生、女子の1人が体調悪そうなんで保健室連れて行っていいですか?」

 

そう言って相模に近づいて行った。

 

「なに?」

 

なんだこいつ。近付いただけでこの言いようだぞ。触るもの傷つけるとか抜き身のナイフかお前は。

 

「お前体調悪いんだろ。保健室行くぞ」

 

ごちゃごちゃ言ってるがサボれるからと理由をつけて連れて行く。

 

 

保健室に着いたし、戻るか。

 

「あんたどこ行くわけ?」

 

「どこって、女の子が寝てる空間に入れるわけねーだろ」

 

こんなとこ見られたら大騒ぎされるに決まってる。

なのにこいつはここにいろと言ってくる。

そんなに犯罪者にしたいんですかねぇ。もしくはビッチなの?

 

まぁ面倒だからここに居てやるか。

 

しばらくするとスーっと静かな寝息が聞こえてくる。

 

こいつ…即寝てんじゃねーか。

 

まぁいい。立ち去るとしますか。

 

 

さて、自販機でも寄って行くか。

 





プロポーズ大作戦の方の文章が重すぎて軽いもの書いた弊害がこれです…。


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不良な眼鏡八幡の喫茶店

不良(見た目だけ)
眼鏡(ほぼ触れない)
喫茶店(場所だけ)
な感じですがよろしくお願いします。


 

それは路地を入っていった目立たない場所にあった。

 

 

「はぁーめんどくせぇ」

 

 

彼の名前は比企谷八幡。

髪の色は綺麗に染まったブラウン。

耳には鈍く光る銀のピアス。

彼は目つきが悪く接客のために黒縁のメガネを愛用している。

その目つきの悪さから見る人が見たら不良と呼ばれてもおかしくはない。

 

 

そんな彼はこう見えて喫茶店 はち の店主だった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

「ひゃっはろー!」

 

「…どうも」

 

「あれあれ?おかしくない?私お客さんだよ?どうもじゃないよね?」

 

「チッ、はぁ、いらっしゃいませ」

 

「うんうん舌打ちは聞かなかったことにしてあげる」

 

「それで、ご注文はどうします?」

 

「んーじゃ比企谷くんのオススメで!」

 

「甘めのブラジルコーヒーですね」

 

「まって嘘!嘘だから!…ブラックで」

 

「かしこまりましたよお客さん」

 

 

この人本当めんどくせえな。

ここ週2回くらい来てんじゃねーか?暇なの?

 

チッやっぱ人に優しくすると良いことねーな。

 

 

 

☆☆☆

 

 

それは突然の夕立の日の出来事。

 

 

「はぁ、最悪。雨の予報なんてなかったじゃないの。都築でも呼ぼうかしら」

 

「すんません。コーヒー淹れたんですけど飲みます?」

 

「なにナンパ?悪いけど他所当たってくれない?お姉さん今虫の居所が悪いの」

 

「いや、この店のオーナーなんだが…。まぁいいや飲まないのな」

 

「え、あ、すみません。頂いていいですか?」

 

「はぁ、中にどうぞ」

 

「とりあえずこれで水分拭いちゃってくれ」

 

 

「…どうも。(ついてないと思いきやこんなこともあるんだね。流石私!)」

 

 

「はい。これコーヒーね」

 

「…暖かい。(でも凄く甘い!!)」

 

「あんた今凄く甘いって思ったろ」

 

「え、声に出てました?」

 

「いや、その猫被ったような顔から滲み出てた」

 

「は?」

 

「すみませんごめんなさい殺さないで」

 

「何よ、人をそんな魔王みたいに」

 

 

なんだこの人猫被ったような顔してたと思ったら急にコロコロ表情変えやがって。

 

 

 

それから2人は色々な話をした。

自己紹介、歳、出身など話題は尽きなかった。

 

その日この店を出る頃には、陽乃はこの店が気に入っていた。

 

通うに連れ自分を出していけて、さらに彼のことを知っていける。

そんなところがこの店に通う理由になっていたのだった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

「でさ比企谷くん、今度妹を連れて来てもいいかな?」

 

「はぁなんでまたこんな店に」

 

「うーん、なんだか比企谷くんなら妹と仲良くなってくれそうだと思って」

 

「いやいや人と仲良くなったことなんて生まれてから一度もない俺には無理ですよ。こんな見た目ですし」

 

「大丈夫大丈夫!うちの妹は私に似て見た目じゃ人を判断しないから!」

 

「いやあんた初対面の時思いっきり見た目で判断してたじゃねーか」

 

「あれ?そだっけ?」

 

「…はぁ。」

 

「あっ!ため息ついたな!コノコノー」

 

「ちょ、やめ、近い近い近い柔らかい近い!」

 

「あはははは、参ったかね比企谷くん」

 

「参りました参りました。あっほら外に迎えが来てますよお嬢様」

 

「あっ本当だ。じゃあまたねー」

 

「はい。ありがとうございました雪ノ下さん」

 

「…陽乃。」

 

「え?」

 

「私のことは陽乃でいいよ」

 

「わかりましたよお嬢様。では、陽乃さんまたのご来店を」

 

「うん。じゃあ今度こそまたねー!」

 

 

 

はぁ、嵐みたいな人だなあの人。

 

最初の頃に比べるとだいぶあの違和感バリバリの態度もなくなったみたいだけど。

 

さーて疲れたなー今日は店閉めちゃおうかなー。…小町にばれませんように。

 

 

 

 

そこは路地を入っていったところにある喫茶店。

 

今日も目立たず細々と喫茶店 はち は閉店していった。

 

 



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不良な眼鏡八幡の喫茶店 2

雪乃編


寒さも大分身を潜め暖かな日が続く中今日も喫茶店 はち は開店する。

 

 

 

「この辺のはずなのだけれど…」

 

「なぁ、お前」

 

「ひっ、ん!んん!なにかしら、ただのナンパなら酷い目にあうわよわたしが」

 

「お前がかよ…。いや、お前雪ノ下雪乃だろ?」

 

「なんで私の名前を知っているのかしら?もしかしてストーカー?」

 

「おいやめろ携帯から手を離せ。お前の姉から聞いてたんだよ…。雪乃ちゃんは方向音痴だから大通りまで見て回ってくれない?ってな」

 

 

この面倒くささやっぱり姉妹なだけあるわ…。

 

 

「そう。お迎えご苦労様比企谷くん」

 

「なっ!お前俺のこと知ってんなら最初のやり取りはなんだよ…」

 

「姉から比企谷くんはからかうと面白いと聞いていたのよ」

 

「やっぱお前ら面倒くせーわ…」

 

「ふふっ。とりあえずお店に案内してもらえるかしら」

 

「あぁ。迷子になんなよ」

 

 

☆☆☆

 

 

「ご注文は?お客さん」

 

「紅茶をもらえるかしら」

 

「茶葉は?定番のアールグレイでいいか?」

 

「えぇ。お願い」

 

 

「ほれ」

 

「あっ美味し…。」

 

「だろ?妹が紅茶好きでな。家でもよく淹れてんだ」

 

「見た目に似合わずとはこのことね」

 

「うるせ」

 

「もっと真面目な格好したらいいのに」

 

「色々あんだよ、色々な…」

 

「そうね、ごめんなさい失言だったわ」

 

「いやいい気にすんな」

 

「それよりあなた高校は?」

 

「総武高校に席はあるな。留年しない程度に行ってる程度だが」

 

「驚いた。一緒なのね。と言っても私国際教養科のクラスだから面識がなくても不思議ではないけれど」

 

「そうか。俺はこの店もあるし学校終わったらすぐこの店開かなきゃだからな」

 

「なるほど、だからこのお店は営業時間が書いてないのね」

 

「あぁそれもある」

 

 

まぁ1番の理由は俺の気分次第なんですけどね。

 

 

「大変なのね。も、もしよかったらこのお店手伝ってあげてもいいのよ?」

 

「やめとけやめとけ。大体この立地のせいで大して忙しくもねーからな」

 

「…そう」

 

「なんでちょっと寂しそうなんですかね…」

 

 

雪乃がこう言うには理由があった。

 

 

☆☆☆

 

 

それはもう1年程前になるだろうか。

私は勉強に使う教材を買うため市内のショッピングモールを訪れていた。

そこで、クラスの子達が不良に絡まれてるのが見えた為仲裁に入っていた。

 

 

「そこまででやめなさい」

 

「あ?なんだお前?」

 

「私はそこの子達のクラスメイトよ。貴方みたいな不良が絡んでいるのが見えて仲裁に入った。ここまで言えばいいかしら?」

 

「お前おちょくってんのか?」

 

 

「おい、やめろ。女相手にムキになってんじゃねーよハゲ」

 

最初、その人は不良の仲間なのかと思ったがどうやら違った様子だった。

 

その人はわざと不良を挑発し、相手をしてくれていた。

 

目があった。手をヒラヒラさせている。あれは立ち去れといったことでいいのかしら…。

 

何か声をかけようとしている時、クラスメイトに手を引かれそれは躊躇われた。

 

あの人のおかげで助かったのかもしれないがそれはまた同時に私の心に強く残った。

 

鷹のように鋭い目。

それが1番印象強かった。

 

 

後日、姉に話したら物凄く怒られたのも記憶に残る一因だったのは私だけの秘密だ。

 

 

 

1年後、姉に勧められた喫茶店に出向いた。

 

声をかけられた時驚きのあまり普段では出さないような声まで上げてしまった。

 

あの時とは違い、目つきを隠すように眼鏡をしていたがよく見るとあの時の人だった。

 

私のことは覚えていないようであの時のことを言い出すのは躊躇われ、つい誤魔化してしまった。

 

 

しかし、姉が言っていたお気に入りの喫茶店の店主がこの人なんてとんだ偶然ね。

 

 

 

☆☆☆

 

 

「ねぇ、あなた前にショッピングモールで喧嘩しなかった?」

 

「喧嘩売られるのなんて結構あるから覚えてねーな。なんでだ?」

 

「いえ、覚えてないのならいいの」

 

「はぁ。陽乃さんといい、お前といい。よくわかんねーやつだな…。」

 

「ちょっと待って。今私の姉のこと陽乃と呼んだ?」

 

「お、おう。お前の姉にそう呼べって言われたからな」

 

「そう。じゃあ私のことは雪乃でいいわ」

 

「は?」

 

なんなの?姉のこと名前で呼んでるのが気にくわないの?負けず嫌いなの?

 

 

「いや、かしら?」

 

「その言い方はズルいだろ。雪乃」

 

「ふふ、ごめんなさい」

 

「ほれ、もう店閉めるから帰れ帰れ」

 

「もう閉めてしまうの?」

 

「あぁ。今日はあんまり客も来そうにないしな」

 

「…そう。それじゃあまた来るわ。色々と”ありがとう”」

 

「ん?あぁ。ありがとうございましたまたのご来店を」

 

「えぇ、またね比企谷くん」

 

「じゃあな、雪乃」

 

 

 

今日もこうして喫茶店 はち は閉店していく。

 

次はどんなお客様に巡り合うのだろうか。

 

 




次のキャラは決まってないので希望がありましたらコメントまで。
期待に応えられなかったらごめんなさい。


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不良な眼鏡八幡の喫茶店 3

説明回


街も桜色に色づき出会いの季節が始まる。

その中でも変わらず喫茶店 はち は開店する。

 

 

 

「ふんふーん♪」

 

本日のお客様はこの人…

 

 

 

 

「お兄ちゃんやっはろー!!」

 

「おう小町よく来たな。後その挨拶馬鹿っぽいからやめなさい」

 

「お兄ちゃんがサボってないか監視しないとね!この挨拶は小町の知り合いの先輩が使ってるんだ、可愛いでしょ?」

 

「はいはい可愛い可愛い世界1可愛いよー」

 

「うわぁ適当だなこの人…」

 

「はぁ、まぁその辺座ってろ。今紅茶入れてやるから」

 

「わーい!お兄ちゃんの紅茶本当美味しいよねー。それでこそお爺ちゃんがこの店お兄ちゃんに任せただけあるね!」

 

「あぁ爺ちゃんか。この店渡されたのが懐かしいな…」

 

 

 

☆☆☆

 

 

この店の先代の店主の祖父に呼ばれたのはまだ中学生の八幡だった。

 

その頃、八幡は今よりも目が鋭く敵意を周りに振りまきながら過ごしていた。

 

 

小さい頃、暗いという理由だけで八幡は虐められていた。

ある時八幡は思ったのだった。

強ければ、周りから恐れられれば、こんな思いをしなくても済むのかと。

 

八幡は戦った。元々の運動神経や人間観察のおかげか幸いにも八幡は負け知らずだった。

 

そこから、八幡は周りからは不良と恐れられた。

 

 

「なぁ、八幡よ。もう充分じゃないか?」

 

「何がだよ爺ちゃん」

 

「もう充分八幡は強い。その強さを間違ったことに使ってはいけないよ」

 

「そうかな…。でも今こうしてることで上手くいってるから変えるのはこえーよ…」

 

「そうだな怖いな。物事を変えるには勇気が必要だ。しかし八幡、お前のやり方ではいつか大事な人が出来た時そのやり方では本当の意味で助けることは出来ない」

 

「じゃあ、じゃあどうしろってんだよ爺ちゃん!」

 

「まずは人はそんなに悪い人ばかりじゃない。ってことを知ろう。儂の店でも手伝ってみるか?」

 

「手伝うって、俺まだ中学生だよ?受験だってあんのに…」

 

「お前が高校生になるくらいまで爺ちゃんが頑張ってやる。だから、高校生になったらこの店は任せる。そこでゆっくりでもいいから人との繋がりを持ちなさい」

 

「爺ちゃん…。わかったよ、その口車に乗るよ。待っててな爺ちゃん」

 

 

☆☆☆

 

 

「いざ高校生になったらスパルタだったもんなぁ爺ちゃん…。眼鏡までかけさせられるし」

 

「でもお兄ちゃんの眼鏡姿小町は好きだよ?目つきも和らいでカッコよく見えるもん!」

 

「まぁ店にいる時くらいしかかけないけどな」

 

「ダメだよ、人前ではかけなきゃ。それで心が許せる相手には眼鏡を外すの。そのギャップで女の子はイチコロだよ!そしてお姉ちゃん候補を増やすんだよ!」

 

「イチコロって、別に殺さねーよ…。そして別に俺には小町が居ればそれでいい。ふっこれ八幡的にポイント高い」

 

「それは小町的にはポイント微妙だよ…」

 

 

妹さえいればいい。

あれ?なんだか聞いたことあるような…。

 

 

「ま、まぁいいや。んでなにする?帰る?」

 

「本当すぐ帰りたがるんだから…。ダメだよせめて夜遅くならないくらいまでは営業しないと!小町も手伝うからさ」

 

「はいはい、いつもすまないねぇ」

 

「それは言わない約束でしょ♪」

 

 

こうして今日は小町の手によりいつもより長めの営業時間になったのだった。

 

そしてお爺ちゃんはその頃家の縁側に座り喫茶店 はち の情景を思い浮かべるのだった。

 

 

 

次回のお客様は誰になることやら…。

 

 




説明回ということで面白くはないと思いますがよろしくお願いします。

前回、雪乃を助けたのは八幡の優しさということで納得頂ければ幸いです。


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憂鬱はるのん

よかったらどの話でもいいので感想、評価ください。


暖かな陽気が続き夏を思わせるような日差し。かと思えば陽が暮れる頃にはまだ少し肌寒い風が流れてくる。

学校から帰る頃にはまだ辺りは明るいものの僅かな寒さを覚える。

そんな逢魔が時とでも言うだろうか、公園のベンチにその人は居た。

 

「や、今帰りかね少年」

 

「少年って…。まぁ今から帰るとこですが雪ノ下さんはなんでここに?」

 

少し元気が無く、言葉数が少ない雪ノ下さん。

いつもはこっちを見透かしているような視線も今日は鳴りを潜めている。

 

「んーわかんない。なんとなく、かな」

 

「はぁ、雪ノ下さんでもそういうことあるんですね」

 

こういうのは不謹慎なのかもしれないが元気が無い雪ノ下さんもなんだかこうグッとくるものがあるな。

 

「はは、珍しいもの見たって顔してるよ?まぁまぁ立ってないで座りなって」

 

「いやいいですもう帰るんで」

 

「座るよね?お姉さん同じことは二回言わないわよ」

 

「…わかりましたよ」

 

「冗談よ冗談。君は本当に可愛いなぁ」

 

いや明らかに不機嫌そうな顔したじゃないですかー。って脳内で一色風に言うくらいにはガチだった。

そして雪ノ下さんの可愛いは怖い。

構われすぎて壊されたりしないだろうか。まぁ構われすぎる前にそこまで興味持たれないだろうけど。

 

「ねぇ、比企谷くん。肩、借りてもいい?」

 

「え?」

 

どういう意味ですか?と聞く前に俺の肩に頭を置いてくる雪ノ下さん。

これどういう状況だよ…。

 

「…あの」

 

「いいから」

 

「…はい」

 

思わず、はいとか言ってしまった。本当逆らえねぇんだよなぁこの人には。

 

「今日ね特に理由はないんだけど、憂鬱な気分なの。そういう日ってたまにはあるじゃない?だから実はちょっと元気貰おうかと思って比企谷くんのこと待っちゃった」

 

毎日憂鬱だと思ってる俺の経験からするとこういうのは何かパワーを貰えるものが必要なのかもしれない。

だけど、俺で元気もらえるってどういうこと?雪ノ下さんは元気玉か何か?

 

「俺なんかで元気出るんですか?」

 

「うん。なんたって私比企谷くんのこと気になってるし」

 

「はぁこういう時にそういう冗談は勘弁してください…」

 

「ふふ、さぁどうだろうね。まぁ少しこのままで居させてよ」

 

そう言って雪ノ下さんは目を閉じた。

この人にもこういう無性に元気が無い日があるのか。

何故だか親近感が湧く。

 

 

ナデナデ

 

「…んっ」

 

「あっすいませんつい」

 

「んーん。いいよ。続けて」

 

言葉少なげにそう告げられる。

なんか、可愛いなこの人。

 

「…私にもお兄ちゃんが居たらこんな感じなのかな」

 

「どうでしょうね。もし居たら雪ノ下家の長男なんで凄い人そうですよね」

 

「そうかな?でもきっと私や雪乃ちゃんをこうやって甘えさせてくれるんだろうな」

 

「でも、今は俺で我慢してください」

 

「…うん」

 

 

どれくらいの時間が経ったのだろうか辺りはもう暗くなり始めてきている。

 

「んーー!なんか落ち着いちゃった!明日からまた頑張れそうだよ」

 

「そうですか」

 

「本当ありがとね」

 

「いえ、特に何もしてませんし」

 

「そっか、そういうことにしとくね」

 

「はい」

 

「じゃあもう暗くなってきたし帰ろうか」

 

「ですね。それじゃ」

 

そう言って雪ノ下さんに背を向け歩き始めたところで後ろから声がかかる。

 

「じゃあまたね、は ち ま ん!」

 

 

つい顔が赤くなってしまい後ろを振り返らずに進む。

 

 

じゃあな 陽乃。

 

 

…なんてな。

 

 




Twitterで俺ガイルのスロットメーカーなるものをやったら

言葉数の少ない
雪ノ下 陽乃 は
とても可愛い

と出たので思わず執筆。
パッと書いたので短くてすみません。


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プロポーズ大作戦 1

このドラマ好きなので、つい…。


ジリリリリリ

 

目覚ましが鳴っている。

目を覚まし日付けを見る。

 

なんだよ今日、日曜じゃん寝よ。

 

慌てて起きる。違う、今日は結婚式だ…

 

そう、今日は結婚式なのだ”雪ノ下と葉山”の。

 

 

高校、大学と卒業し早数年俺ももう20代半ば。

それまで高校時代からの知り合い、奉仕部の繋がりは途切れなかった。

 

葉山と結婚するという話を聞いたのは1年前。同窓会というか奉仕部の3人だけで開かれた飲み会での席で雪ノ下の口から告げられた。

 

「私、結婚するの」

 

そう告げた雪ノ下の顔は諦めがついた、スッキリした顔だった。

 

「今までも母から何度も縁談の話を持ちかけられたわ。その度断っていたのだけれどもうそれもおしまい。葉山君も悪い人ではないし、ね?」

 

雪ノ下は何を諦めたのだろうか。

母との諍い?それも考えたが今まで断ってこれたのだからそれはないだろう。

考えがまとまることはなかった。

 

ついぞ、もう結婚式の日になってしまった。

 

はぁ行くか。

 

 

☆☆☆

 

 

「久しぶり!ヒッキー」

 

「おぉ久々だな」

 

「…ゆきのん結婚しちゃうんだね」

 

「…そうだな」

 

「ヒッキーはさ後悔してることある?」

 

あるさ、今までずっと後悔ばかりだ。

だがお祝いの席でわざわざそんなこと言うことじゃないだろう。そう思い由比ヶ浜に言葉を返す。

 

「ないよ」

 

「…そっか」

 

会話を終え、会場に入る。

高校の知り合いも僅かに居る。

他に知り合いも居ない俺はその中に混じりつつも会話はしなかった。

 

式が始まる。

県議会議員とその顧問弁護士の子供同士の結婚式なだけあって派手な結婚式だ。

 

ウェンディングドレスを着た雪ノ下は綺麗だった。もし、その言葉を告げたら「当たり前よ」と言いそうだと1人想像し笑ってしまう。

 

披露宴が始まった。

 

小学生、中学生の頃の2人の写真のスライドショーから始まる。

 

高校の写真に差し掛かった。

 

いつ撮ったのか、それは奉仕部3人の写真だった。

 

懐かしいなこの頃に戻ってみたい。

戻って約束した、いつか助けてね。という約束を今なら守れるだろうか。

 

そう考えて居ると周りから会話が無くなった。というか誰も動いていない。

 

は?何が起こった?

 

周りの状況に混乱していると声がかかる。

 

「青年、過去をやりなおしたいか?」

 

何言ってんだこのおっさん。

 

「はい?というか誰?そしてこの状況は…」

 

「私はこの式場の妖精をしている。で、過去に戻りたいか?」

 

怪しさを覚えつつ返事をする。

 

「はぁ、戻れるなら戻ってみたいですね。戻れるならね」

 

「戻れるさ。強い想いがあれば。求めよさらば与えられん」

 

「…どうやって」

 

「写真にむかって、ハレルヤーチャンスとポーズを決めながら言いたまえ」

 

はぁ?何言ってんだこいつ。

と思いつつも俺はポーズを決めた。

 

 

ハレルヤーチャーンス!!

 

☆☆☆

 

「せーんぱい」

 

「うぉっ」

 

気付いたら目の前に一色がいた。

驚いて思わず尻餅までついてしまう。

 

ここは、奉仕部の部室か?

もしかして本当に戻って来たとでもいうのか?

だが、一色の顔や周りを見るにどうも本当に過去に来たらしい。

それに、雪ノ下もまだ幼さが残っている。

 

「どうかしたの?そんな驚いた顔して。目の前であり得ないことが起きたような顔ね」

 

あり得ないことが起きたんだよ…。

 

「あ、いやちょっとな」

 

携帯の日付を見るに、高校3年の時に戻って来たらしい。

 

「私の話聞いてました?」

 

「は?」

 

「あー!やっぱり聞いてなかった!」

 

「悪い、ぼーっとしてた」

 

「まぁ、いいですけど。それであの前に流れた噂がまた流れてるんですけどあれどうなんですか?」

 

「噂?なんの?っていうかわざわざ耳元で言うなくすぐったい」

 

「あれですよあれ。雪ノ下先輩と葉山先輩がーっていうあれ。こんなこと大きな声で聞けないじゃないですか」

 

そうだった。

この頃、2年の時にも流れていた雪ノ下と葉山が実は付き合ってるという噂が流れていた。

あの頃は雪ノ下が怒って確認を取って来たやつを片っ端から論破して噂は流れたのだ。

 

「あぁあれな。嘘だろ。前と同じだろ。ほっとけ」

 

「ですよねー。まぁわかってましたけど」

 

「なにかしら?」

 

「い、いえなんでもないです!」

 

と手をわちゃわちゃさせながら一色は雪ノ下にビビりつつ答えていた。

 

「比企谷くん?」

 

この比企谷くん?には、ちゃんと説明しないとわかるわよね?という言葉が続くんですねわかります。

 

「いやあれだ、お前と葉山がなんたらっていう噂が…で…すね…」

 

話すに連れて絶対零度の視線を受け言葉が詰まる。

 

「はぁ。またそれね。実は母から縁談の誘いだったのよ。それで葉山君に会って来なさいと言われて仕方なくよ」

 

「え、ゆきのん結婚するの!?」

 

「しないわ。冗談はやめてちょうだい。母には逆らえないから仕方なくよ仕方なく」

 

思えば、この頃から縁談の話があったのか。

その攻防が何回もあった末に未来、つまり俺の時代には結婚だもんな。

だがどうすればいいんだ?

いきなり結婚するなとも言えないし、言ったところで今現在はするつもりもないだろう。

ふむ。

 

「っていうかなんでお前?雪ノ下さんじゃなくて?」

 

「姉さんは将来的には県議会の道に進むらしいわ。だからしばらくはまだ結婚しなくてもそのうち相手から言いよって来るだろうって。その代わり私には会社の方を継いでもらいたいらしくて会社のこともわかっている葉山君のお父さんが葉山君をきちんと教えるから婚約相手にどうだ?って推してるみたい。困った人達だわ」

 

「あー大変だなお前んち」

 

「でもよかったよーゆきのん結婚しちゃうのかと思った」

 

「しないわ。するとしても大学卒業してからじゃないとまともに考えもしないと思うわ。まだ”依頼”が全部終わったわけじゃないですもの」

 

と由比ヶ浜に話してる途中で俺に視線を合わせ微笑んでくる。

依頼か。果たして、俺の依頼は解決したんだろうか。そして雪ノ下の依頼も解決に導けたのか。それは”現在”の俺にもわからなかった。

 

「そういえば由比ヶ浜先輩」

 

と、由比ヶ浜と一色の会話が始まってしまった。

もはや席の移動が始まった…。

珍しく雪ノ下の横だ。まぁ横と言ってもそれなりに距離があるが。

 

「なぁ雪ノ下」

 

本を読む横顔に見惚れながらつい声をかけてしまった。

 

「なにかしら?」

 

「…お前との約束、俺頑張るから。いつになっても絶対助けてやる」

 

柄にもなくそんなことを言ってしまった。羞恥で悶えそうだ。

 

「ふふっ、そうね。頑張って頂戴」

 

と雪ノ下まで頬を染めながら微笑んだ。

 

「あっその笑顔、いただきでーす!」

 

と声がかかり思わず振り向く。

その瞬間、フラッシュが目に入る。

 

そうかあの写真はこの写真か…。

昔はこの会話をしてなくてお互い本読んでて、そのセリフと共に俺の横でピースを決めた由比ヶ浜と本読む2人だったんだが、おそらくこれはピースを決めた由比ヶ浜と頬が赤い2人という写真になるだろう。

 

 

☆☆☆

 

 

ん、戻って来たのか?

周りを見ると過去に行く前と変わらない。

はぁやっぱりダメだよな。あんなんじゃ。

だが、確かに写真は変わっていた。

 

「この時のゆきのんさ、いい笑顔だよね。どんな会話してたの?」

 

「さぁな」

 

これは語らなくていい。語ったら価値を失ってしまうと思った。

 

次の写真に移る。卒業式の写真だ。

卒業式ねぇ。色々と思い出す。やらかしてたなぁ卒業式。戻りてー。戻ってあのやらかしをやりなおしてぇ…。

 

パチン。

 

あの感じだ。まさか?

 

「いやいやいやまさかお前が過去に行って出来たことは写真の表情を変えただけとは…」

 

「俺にしては勇気を出したんですけどね…」

 

「まぁそんな簡単に人の運命は変わらないということだ」

 

と言いながら妖精を名乗る男は唐揚げを頬張っていた。

 

「ちょ、唐揚げ…。っていうかそれ言いに来たんですか?」

 

「まさか!この写真の時に戻りたいという想いを感じてな。この唐揚げに免じてまた戻してやろうかと思ってな」

 

「唐揚げもう一個食べます?というか本当ですか?是非お願いします」

 

「ふん。さて青年よ、求めよさらば与えられん」

 

 

じゃ、じゃあいくぞ?

 

 

ハレルヤーチャンス!

 




1話目ですのでそんなに話は動かしてないです…。


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雪ノ下姉妹と比企谷くん


山なし落ちなし意味なし。




 

大学生になり1人暮らしを始めた。

最初のうちは色々と手こずるものばかりだったが最近はその問題は解消しつつもある。

なぜかというと…。

 

「比企谷くん、おかえりなさい」

 

「ひゃっはろー!お邪魔してるよ」

 

と何故か俺の城に完璧超人2人が通っているから。

いやほんとなんで?

あなた達仲悪くなかった?

 

 

☆☆☆

 

 

事の始まりは雪ノ下さんだった。

何処から嗅ぎつけたのか俺が1人暮らしを始めたという情報を持って電話がかかってきた。

 

「比企谷君1人暮らし始めたんだって?色々と慣れなくて大変でしょ?手伝うよー」

 

と半ば無理矢理我が家に来た。

色々と口実をつけては遊びに来るようになり意外と悪くないかもと思った矢先、雪ノ下が小町から俺の現状を聞いて駆けつけて来たのだった。

 

「…姉さん。私の、ゆ、友人に迷惑をかけないで頂戴」

 

「えー比企谷君は私がここに来てると迷惑?」

 

「い、いえ別にそんなことは…」

 

「はぁ。比企谷くんも姉さんを甘やかさないで。さぁ帰るわよ姉さん」

 

「あっわかった、雪乃ちゃん羨ましいんだー」

 

「そんなこと…ないわ」

 

「んー?今間があったよ?比企谷君、雪乃ちゃんもここにいちゃ駄目?」

 

「いやまぁいいですけど…」

 

と、雪ノ下さんの一声で我が家は雪ノ下ハーレム(仮)が遊びに来るようになった。

 

最近では予定を合わせるのが面倒なので合鍵を置いておくことにしてるくらいよく来る。

 

 

☆☆☆

 

 

「あっ雪ノ下また料理作ってくれたのか悪いな。材料費は後で請求してくれ」

 

「いえ、いいのよ。お邪魔させてもらってるし姉と私のぶんの食事でもあるから」

 

「そうそう、遠慮しなさんな」

 

ってあんたは何もしてないだろ。

とは口が裂けても言えない。

 

「んじゃまぁ遠慮なく。いただきます」

 

「えぇ、どうぞ」

 

 

「んー雪乃ちゃんまた料理上手くなった?」

 

「自分ではわからないのだけれど…」

 

「あっわかった、愛情こもってるからだー」

 

「ね、姉さん!…やめて頂戴」

 

「ごめんごめん。でも本当のことだもんね」

 

そういう会話は俺がいないところでしてほしい…。

 

「あっ比企谷君お風呂借りるね。別に覗いてもいいからねー」

 

「ごめんなさい姉さんが…」

 

「あ?あいやべつに。お前も後で入るんだろ?」

 

最近ではお風呂場に自分用のシャンプーまで置いている雪ノ下さん。

こんな小さいアパートの一室のお風呂でいいんですかね…。

唯一部屋決めるのにユニットバスではなく風呂トイレ別の部屋がいいと希望を出しただけあって1人暮らしの部屋にしてはまぁまぁだと思うが。

 

しばらく雪ノ下と会話を続けていると雪ノ下さんが風呂から出てくる。

湯上りの雪ノ下さんは色気ありすぎて男子大学生には毒なんだよなぁ。

 

「さぁ雪乃ちゃんも入ってきなよ」

 

「全く、姉さんたら。比企谷くんごめんなさいお風呂借りるわね」

 

「あぁ」

 

「さてさてー雪乃ちゃんと何を話してたのかな?」

 

「いや特には…」

 

「ふーん。あっそうだ比企谷君。特別にお姉さんの髪を乾かしていいよ」

 

「え?いいですよ別に」

 

「いいからいいから。はい、ドライヤー」

 

無心でドライヤーをかける。

良い匂いとかちょっと谷間見えてるとかそんなことはない。ほんとだよ?

 

むふーっといった感じで目を閉じマッタリしている雪ノ下さん。

なんだかこの人もちょっと猫みたいだ。

 

ガラッ

 

「比企谷くん?なにしているのかしら?」

 

「いやまて誤解だ。だからその携帯をしまえ」

 

「そうだよ雪乃ちゃん。比企谷君はお姉ちゃんのお願い聞いてくれてるだけなんだから」

 

「はぁ。勘弁して欲しいわねこの2人は…」

 

「雪乃ちゃんもやってもらえばー?なかなか気持ちいいよ比企谷君にしてもらうの」

 

その言い方が違う意味に聞こえてしまうのは仕方ないと思うんですよええ。

 

「わ、私は別に」

 

「じゃあお姉ちゃんがやってあげるからこっち来なさい」

 

と手を引っ張って無理矢理座らせる。

この姉妹実は結構仲良いよな。

 

「こうやってると昔を思い出すねぇ。雪乃ちゃん昔から髪長かったから大変そうでね。よく乾かしてあげたっけ」

 

「…懐かしいわね」

 

「たまにはいいねこういうのも」

 

「悪い気はしないわ」

 

 

「さぁ遅くなっちゃったからもう帰るよ雪乃ちゃん」

 

「ええ。わかっているわ」

 

「あっ、そこまで送りますよ」

 

「んーんいいっていいって。都築よんであるし」

 

「じゃあ比企谷くん、また。あまり夜更かしばかりしてはダメよ」

 

「ばいばーい!またそのうち遊び来るね」

 

「はいはい。じゃあ気をつけてください」

 

 

そうして帰っていった雪ノ下姉妹。

こういう大学生活も悪くはないと思ってしまっている。

いつまで続くかわからないがこの生活が続けばいいなと思っている自分もいた。

 



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幽霊はるのんと比企谷くん



ツッコミどころは多々あると思いますがツッこまないで頂くとありがたいです。

しんみりものです。


 

それは夏前にしては暑く、寝苦しい夜の出来事だった。

大学に入り、ワンルームの部屋で1人暮らしを始めた俺は夜中に何かの気配を感じて起きた。

まだ目は開けていないが何かがそこに確かにいる。

シーンと静まり返っている部屋に突然声が響いた。

 

「……く……ん」

 

うわぁ超こえぇ。非科学的なものは基本的に信じない俺だが実体験したら話は別だ。超怖い。

 

「……きが……ん」

 

なんて言ってんだよこれ…。

 

「比企谷くん!」

 

は?

 

完全に名前を呼ばれた。

意を決して目を開けるとそこには……!

 

「ひゃっはろー!」

 

「…なんで…。…なんであんたが…」

 

「さぁなぜでしょー」

 

「だって、だってあんた、…去年”亡くなった”のに!!」

 

「ふふふーきちゃった♡」

 

「…そんな」

 

と、ここで急に意識が遠ざかっていく。

 

「あら?ビックリしすぎて気絶しちゃった?」

 

 

 

チュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえてきて自然と目がさめる。

なんだか、すげぇ夢を見た気が…。

 

「じゃじゃーん!残念、夢じゃありませんでした!!」

 

「は?」

 

「あれ?見えてるよね?おーーい!」

 

「夢じゃなかっただと…」

 

「おっ見えてるみたいだね、よかったよかった」

 

「…どうして」

 

「んーなんかわかんないけど気がついたら比企谷くんの家に居た!」

 

「…わけわかんねぇ」

 

「だよねー。私もわかんない。別にこの世に未練なんか無いはずなのにね」

 

「死んだことはわかってるんですね」

 

「まぁなんとなく?」

 

そうここに居る雪ノ下陽乃は去年、突然事故で亡くなった。

なんでも街中を歩いてて子供が車にはねられそうになったところを助けたらしいが当たりどころが悪かったらしくあっさりと亡くなってしまった。

もちろん葬儀には俺も参加した。

雪ノ下や由比ヶ浜、参列者はもちろん皆泣いていた。俺もその1人だったしな。

この人のことは苦手ではあったが嫌いではなかったし。

なのに、なのに、なんで…。

 

「あの、本当に雪ノ下さんなんですか?」

 

「多分?まぁ厳密に言うと1回死んじゃったわけだし雪ノ下じゃなくてただの陽乃かな?なんちゃって」

 

「意味わかんねぇ…」

 

っていうかこの人こんなキャラだったか?

 

「まぁこうしてなんの因果か化けて出ちゃったわけだし成仏出来るまでよろしくね比企谷くん♡」

 

「えぇ…」

 

「こらこら、そんな嫌な声出さないの。美人なお姉さんと24時間一緒だよ?」

 

「せめて生きてる美人なお姉さん希望なんですが」

 

「あっひどーい!夜枕元に立ってやるからなーこのー!」

 

「いや本当謝るんでそれは勘弁してください」

 

「…まぁよろしくね」

 

「…はい」

 

とこんな感じで雪ノ下陽乃改め、陽乃さんは俺と行動することになった。

 

 

☆☆☆

 

 

「そういえば陽乃さん」

 

「んー?」

 

「陽乃さんのこと見えるのって俺だけっぽくないですか?」

 

「そうだねきっと。よかったね比企谷くん、お姉さん独り占めだよ」

 

「いや、そんなこと言ってる場合では…。っていうか俺大学行きますけど、どうします?」

 

「一緒に行く!」

 

「…おとなしくしててくださいよ」

 

 

大学に着いてから講義を受けてる間、頭の上には陽乃さんが浮いていた。

 

「あっ比企谷くん、そこ間違えてるよ」

 

「え?」

 

急に声を出したからか周りから視線がくる。

そうだよな、周りから見たら独り言だもんな。気をつけなきゃ。

 

上を見るとゲラゲラと大笑いしている。

 

「はぁ比企谷くんは本当面白いなぁ」

 

(この人わかっててやりやがったな)

 

「もちろん」

 

!?

 

「なんか考えてること少し読めるようになっちゃった。多分比企谷くんの意識が私に向いてる時だけだけど」

 

(相変わらず人間離れしてますね)

 

「おっ良い皮肉だねぇ」

 

(とりあえず講義中は静かにお願いしますよ)

 

「うんうん、わかってるわかってる」

 

 

そして大学が終わり家に帰る。

 

風呂に入るときも閉まってるドアから頭だけ出してきたり色々とされたりしたがそこは置いておこう。

 

「さて、じゃあ俺寝ますんで」

 

「はいはーい!おやすみー」

 

と部屋の中をぷかぷか浮かびながら答える陽乃さん。

いやこの人なんで化けて出てきたんだろう。

 

 

 

そんな生活を続けること早数日。

 

大学での休み時間、ある陰気そうな女が近づいてきた。

 

「…あの」

 

「ん?」

 

「あなた、憑かれてますよ」

 

「は?まぁ疲れてますが」

 

「そういうことではなく霊的な意味で。私霊感あるからわかるんです。あなたの背後に強い後悔をしている女の人が見えるんです」

 

後ろを振り返ると陽乃さんの姿。

こちらに気づいたのか呑気に手なんか振っている。

 

「はぁ、そうなんですか」

 

「悪いことは言いません。早くお祓い行った方がいいですよ。このままだとあなた…。いえ、なんでもありません。では、私はこれで」

 

「お、おう。どうも」

 

 

「なになに?あの子見える系?」

 

(自称そうらしいですよ。まぁハッキリは見えてなさそうでしたね)

 

でもあいつは言っていた。

陽乃さんに強い後悔が見えると。

その内容を聞いてもいいのだろうか。

だが、いきなり面と向かって聞く勇気は俺には出なかった。

 

 

☆☆☆

 

 

翌日

 

「あの、陽乃さん」

 

「?」

 

「今日雪ノ下と会うんですけど、どうします?」

 

「あー、そっか。やめとくお留守番してるよ」

 

「そうですか。じゃあ行ってきます」

 

「はい、いってらっしゃい」

 

 

☆☆☆

 

 

待ち合わせ場所に着くと雪ノ下は既に居た。

 

「おう。久々だな」

 

「こんにちわ。ええそうね。どうしたの?急に呼び出したりして」

 

「いやまぁここじゃあれだし場所変えようぜ」

 

と、不思議そうな顔をした雪ノ下を連れ近くのこじんまりとした喫茶店に入った。

 

「じゃあまぁ本題から「待って」なんだよ」

 

「あなた最近ちゃんと寝てる?隈が凄くて生気が薄いわよ」

 

「なんだよ、話を止めてまで罵倒か?」

 

「いえ違うわ。真面目な話よ。どうしたの?」

 

「心辺りはー、あるちゃあるが」

 

「言ってみなさい」

 

「まぁこれは本題に近いんだが、お前って幽霊って信じる?」

 

「は?馬鹿にしているのかしら?」

 

「まてまて、気持ちはわかるが」

 

「まさか幽霊が出るから夜眠れないとか言いたいの?」

 

「いやそういうわけであってそういうわけじゃないんだが…」

 

「はっきりしないわね」

 

「なんか、俺取り憑かれてるっぽいんだが」

 

「…続けて」

 

「でも普通に寝てるし今までと変わらない生活をしてる。それなのになぜ日に日に隈が増えたりするんだろうな」

 

「これは仮説でしかないのだけれど、やっぱりあなたに取り憑いているという霊のせいじゃないかしら」

 

「…だよな」

 

「私から言えるのは、早くお祓いに行きなさいとしか言えないわね」

 

「いやまぁそうなんだが、なんつーか無理矢理成仏させるより何の悔いもなく逝かせてあげたいというか」

 

「…呆れた。お人好しにも程があるわよ?」

 

「あーそう思うよなやっぱり。でもさ、俺に取り憑いてるって人に心当たりがあるっぽくてさ」

 

「…誰?」

 

「それは言えない。でもその人は何か後悔してるらしいんだよ。その後悔を払ってやればいいのかなって」

 

「…そう」

 

と雪ノ下は呟くと、一筋の涙を流した。

 

「お、おい」

 

「ごめんなさい。何でもないの」

 

「何でもってお前」

 

「いいの」

 

「そ、そうか。まぁ相談つーのはこんな感じだ。悪いな変な内容で」

 

「いえいいのよ。こっちも力になれなくてごめんなさい」

 

「いやいい。ただお前に話を聞いてもらいたかっただけだ」

 

それから、これまでの陽乃さんとの生活を陽乃さんの名前は出さず俺は雪ノ下に語った。

雪ノ下は何故か懐かしむような顔を見せたり時折悲しそうな顔をしながら俺の話を聞いてくれた。

 

「じゃ、またな」

 

「ええ、そうね。あっそうだこれを」

 

とどうやら喫茶店のペーパーをメモ用紙代わりに使ったらしいメモと思われる物を渡してきた。

 

「なんだこれ?」

 

「あなたは見ちゃだめよ。強いていうなら、あなたに憑いてる人用のメモかしら」

 

「?まぁよくわからんが受け取っておくわ」

 

その会話を最後に雪ノ下と別れ、帰路についた。

 

 

☆☆☆

 

 

「おっかえりー」

 

「ただいまです」

 

「それで?雪乃ちゃんと何話してきたの?」

 

「えっとですね」

 

と所々隠しながら今日の会話を陽乃さんに話していった。

 

 

「…そっか。比企谷くんに元気がないのは私のせいかもだね」

 

「いえそんな!」

 

「ううん。私は幽霊だもん。誰が考えたってわかるよねこんなこと」

 

「でも俺は、俺は…」

 

「ダメだよ比企谷くん。私はもう存在しちゃいけない存在なの。その続きはダメだよ」

 

「…けど」

 

「でも、比企谷くんからの気持ちは嬉しいなぁ」

 

と陽乃さんは静かに涙を流し始めた。

その涙はとても綺麗だった。

 

「もう、お別れだね比企谷くん」

 

それは突然の別れの宣告だった。

 

 

「…なんで」

 

「このままじゃ比企谷くんはダメになっちゃう。だからお別れ」

 

「最後に1つだけ聞いていいですか?後悔ってありますか?」

 

「…!ない、よ」

 

「そうですか…。これ最後に雪ノ下が渡してきたメモです。陽乃さんの名前は出してないので何が書いてあるかわかりませんが」

 

そういってメモを渡す。

何が書いてあるのかわからないが頼むぜ雪ノ下…!

 

 

そして、それを読んだ陽乃さんはさらに泣き崩れた。

それこそ声を出して泣くくらいの大泣きだった。

 

「ど、どうしたんです?」

 

「ふふ、…雪乃ちゃんに励まされて怒られて勇気をもらっちゃった!」

 

「へ?」

 

「これが、”雪ノ下陽乃”が言えなかった言葉よ」

 

 

比企谷くん、あなたが好きです。

 

 

「え?えっとあの」

 

「やっと、言えた。あっ返事はいらないよ?もう私はダメだから」

 

と寂しげでしっかりとした表情でそれを告げられた。

 

「ん?あっこれが成仏の理由だったんだね」

 

そういうと陽乃さんは足元からゆっくり消えていっていた。

 

「…陽乃さん、俺あなたのこと嫌いじゃなかったです」

 

と最後に俺は嘘をついた。

過去の出来事や最近の生活ですっかり俺は陽乃さんのことが…!

 

「うん。それでいいんだよ」

「比企谷くん好きだよ。捻くれてるところも好き、そのアホ毛が出てる可愛いところも好き、朝寝起きが悪くっていつも以上に鋭い目も好き、あとはやっぱりその優しいところが1番好きでした」

 

 

大好きだったよ八幡!

 

 

最後に満面の笑みを浮かべて陽乃さんは逝ってしまった。

 

 

この数日間の出来事を俺は忘れないだろう。

そしてしばらくはまだ、この心にある感情も忘れられないだろうと思う。

 

けど、ゆっくりでも、進んで行くので見ててください。

 

 

あなたが、好きでした。

 

 

 



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酔っ払い八幡と酔っ払い陽乃


ハメに投稿していなかったなと思い投稿しました。


 

 

 

「陽乃、かまって」

 

 

そう呟くのは私の恋人比企谷八幡。

 

晴れて彼のハートを掴んでからかれこれ数年。

 

私の矯正の末名前で呼ばせること、敬語で話すことを止めさせた。

 

そんな彼も20歳を超えお酒を嗜むようになった。

 

八幡は酔うと甘えてきて凄く可愛くてついつい飲ませてしまう。

 

普段は皮肉交じりで色々と言ってくる彼も酔うと素直になるようだ。

 

冒頭のセリフを言ってきたのは、やっといい感じに酔い始めた八幡だった。

 

 

 

(それにしても可愛いなぁ)

 

 

「ねぇ、陽乃ってば」

 

「わかった、わかったよ八幡。なになにどうしたの?」

 

「さっきから言ってるじゃん。もっと話そ?」

 

「はいはい。全く本当甘えん坊ね八幡は」

 

「ごめん。嫌いになった?」

 

「なんないよ。それより八幡こそ私のこと嫌いにならないでね」

 

「ならないよ。俺陽乃のこと好きだもん」

 

「んー可愛いなぁ。私も好きだよ」

 

ついつい彼につられて私まで素直になってしまう。

 

 

「俺、陽乃と旅行行きたいな。京都行って観光して温泉入って」

 

「じゃあ今度行こっか。でも温泉の前に、今お風呂入っちゃって」

 

「はいはい。もう、なんだか母親みたいだな…」

 

「失礼ね。そ れ と も 私のこと母親にしたいってこと?」

 

「ち、違う!それはもう少し先でというかなんというか…」

 

「ふふ、ありがとね。じゃあいってらっしゃい」

 

私と先のことまで考えてくれる。そんなことでつい嬉しくなってしまう。

 

さぁ彼がお風呂に入ってる間にご飯の支度しておこう。

ツマミばかりじゃダメよね。

 

 

「ただいまー」

 

「あっこら、料理中に抱きつかないの!」

 

「へいへい、ちぇ」

 

「ほらおとなしくしてて。もうちょっとで出来るから」

 

 

もうこれでは素直どころか子供だ。

でもそんなも悪くはない。

 

 

「ん、ごちそうさま。美味かったよ」

 

「はいお粗末様」

 

「さて、じゃあ次はお酒お酒っと」

 

「飲みすぎないでよ。朝起きてお酒臭いなんて嫌だからね」

 

「わかってるわかってる。早く一緒に飲もうよ」

 

「はいはい、まったく…」

 

私は彼と違いお酒には強いから少しくらいならいいか。

 

 

「眠くなってきたから寝るよ。ってもう半分寝てるじゃない…」

 

「……寝てない」

 

「寝るなら先お布団入っちゃってね」

 

「一緒に寝てくれるなら寝る」

 

「もう、そんなことばっかり言って」

 

 

そんなやり取りをしながら布団に入る。

 

たまには甘えてくる彼も良いものだ。

 

こういうところまで好きになるなんて想像もできなかった。

 

そういう自分も嫌いではない。

 

 

「……はる……の」

 

「はいはい。隣にいるよ」

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

俺の彼女こと雪ノ下陽乃は今日平塚先生と飲みに行ってるらしい。

 

あの人酔うと凄いんだよなぁ…。

 

普段はお姉さん振る癖に。まぁそのギャップがry

 

ごほん、先の連絡によるとそろそろ帰ってくるみたいだが…。

 

 

 

「たっだいまー!!」

 

「はいおかえり」

 

「あっ八幡だー」

 

「ちょっと抱きつかないでください」

 

ついでに超酒臭い…。

 

「んー、い や だ!」

 

「とりあえずリビング行きますよ…」

 

「おんぶ!」

 

「はいはい。全くこの人は…」

 

 

 

「それでね、静ちゃんたらね〜」

 

「はぁ」

 

「もう、ちゃんと聞いてよね?」

 

どうやら今日の出来事を教えてくれてるらしい。

 

それはいい。それはいいんだがその話3回目よ?

 

「んーいっぱいお喋りして満足!」

 

「さいですか…」

 

「じゃお風呂入ってくるから待っててねー」

 

「はいはい」

 

 

 

「八幡!髪乾かして!」

 

「わかりましたよ、こっち来てください」

 

やべぇ超いい匂いする。

 

 

「ふんふーん♪」

 

「ご機嫌ですね」

 

「まぁねー。あっ八幡膝枕して!」

 

「わかりましたよお嬢様。もう好きにしてください…」

 

「あっめんどくさがったなー!このー!」

 

「痛い痛い!」

 

なんでこの人酔ってるのに寸分の狂いもなくツボつけるんだよ…。

 

「八幡のことならなんでもわかるよー?」

 

「ナチュラルに考え読むのやめてね?」

 

 

 

「じゃあ電気消しますよ」

 

「はーい。ん、腕貸してね」

 

「はいはいおやすみなさい」

 

「おやすみー」

 

 

しばらくすると聞こえてくる寝息。

 

本当この人酔うと凄いわ…。

 

 

 

何が凄いかって?

 

そりゃあこの酔った時の可愛いさだよ。

 





☆が大量のところで分けて読んで頂ければ幸いです。

世界観は繋がっててもいいし繋がってなくてもいい。
読者の皆様の好きなように受け取ってください。


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小町誕生祭



Pixivで短編のストックが結構溜まったので適当に放り投げときます。





 

 

2月某日。部室から見る外の景色は曇天模様に覆われていた。

雪が降らないことで有名な千葉だが流石に真冬ともなると数回は降る。

未だ溶けきっていない雪と曇天が外に出なくとも寒いことを知らせている。

そんなある寒い日、2月も終わりなのに何故か俺たちは相変わらず奉仕部の部室に居た。

 

「小町さんの元気がない?」

 

「ああ。多分受験が終わった疲れだと思うんだけどな」

 

だが家に帰ると今までより明らかに元気がない。

話しかけても、うん。とか、わかった。とか一言で返されることも多々ある。

嫌われてるわけじゃない。決して嫌われてはいない!…はず。

 

「先輩の妹さんって総武受かったんですよね?」

 

「そうだが」

 

「うちって割と偏差値高いっちゃ高いから勉強も大変だったろうし、その疲れですかねー」

 

一応進学校(仮)だしなぁ。

そういえば最近ガールフレンド達に会えていないな。おっと(仮)の方な。まぁそんな仮を強調しなくてもガールフレンドなんていないけども!

というか、カタカナを見るだけで海浜総合の某会長を思い出す。

いや本当思い出したくないわ。

 

「私も勉強大変だったなぁ」

 

「小町には由比ヶ浜が受かるレベルだから余裕だったろ?とは言ったがな」

 

「どういう意味だし!」

 

「まぁそれは置いといて、何か困っているの?」

 

「置いとかれちゃうんだ!?」

 

実際、小町が合格できるかはギリギリだったと思う。

兄の目線から見ると、あんなに頑張っていたのだからその努力が報われてよかったと素直に思う。

 

「何か、元気づける方法ないか?」

 

「そうね、考えましょう。未来の後輩のためよ」

 

「そろそろ小町ちゃん誕生日だし、プレゼントは?」

 

うーん。と気の無い返事を返しながら思考する。

小町が欲しがるもの…なんだろうな。あの子意外と変なところでリアリストというか…。白物家電が欲しいとか言っちゃうような子ですし。

 

「小町ちゃんの欲しいものはわかってるのー?」

 

「全くわからん」

 

「それはあなたがそれとなく聞くしかないんじゃないかしら」

 

「だよなぁ。それとなくそれとなく…」

 

「あっこれダメなやつですね」

 

だって小町ちゃん勘が鋭いというかそんなこと聞いたら色々とバレバレになるし…。

流石小町。勘も鋭いとか、うちの妹欠点なさすぎぃ!

ちょっとアホっぽいところも可愛い!

やだ!ただの妹自慢みたいになっちゃった!

 

「では、今日のやることは決まったみたいだし帰りましょうか」

 

「ではでは先輩達、お疲れさまでーす!」

 

「ばいばい、みんな!」

思い思いの別れの挨拶をして部室を出る。

暖かい部屋から寒いところに出た為か、ぶるっと身震いをした後に白い息を出しながら雪ノ下に別れの挨拶を告げた。

 

☆ ☆ ☆

 

家の近くまで来ると、我が家から明かりが漏れている。

小町は既に家にいるのか。

最近は少しばかり小町の方が俺より早く帰っていて誰もいない家で家族の帰りを待っている。

ふと、昔のことを思い出して申し訳なくなる。あの時の約束を守れていないことを小町は気付いてしまっているだろうか。

 

「ただいま」

 

「おかえり。今もうすぐご飯出来るよ」

 

リビングに入ると炬燵から顔だけ出している猫、かまくらがいた。

…こいつふてぶてしい顔しやがって。

わざとかまくらの横に座ると、ふんす!と言った感じで炬燵から出て自分の餌の方にむかっていった。

あいつ家に誰も居ないと俺の腹の上とか乗ってくるくせに…。

 

「お兄ちゃん、制服から着替えてきなよ」

 

「おう」

 

外が寒かったから炬燵に直行してしまったがそういえばまだ制服のままだった。

部屋に行った後適当な服に着替えてリビングに戻る。

ふむ、今日はカレーかな。

 

小町が俺の前に座り、いただきますの声に合わせ二人での晩飯を食べ始める。

何か欲しいものがあるのか聞くのはこのタイミングでいいんだろうか…。

 

「な、なぁ小町」

 

「ん?」

 

「お前、なんか欲しいものあるか?」

 

「誕生日プレゼントならお兄ちゃんがちゃんと小町のことを思って選んでくれたやつなら何でもいいよ」

 

ですよねーバレバレですよねー!!

でも小町ちゃんってばちゃんと選んだら何でもいいなんて出来た子!…でも去年必死に選んだプレゼントを使ってるところ見たことないのは気のせいかな?

 

「そうは言っても何か候補とかをだな」

 

「じゃあお姉ちゃんで。もちろんお兄ちゃんのお嫁って意味で。この際、雪乃さんでも結衣さんでも可〜」

 

「無理難題なんだよなぁ…」

 

☆ ☆ ☆

 

次の日、部室にて昨日の報告をすることに。

 

「それで?何かわかったの?」

 

「いや何も。お姉ちゃんが欲しいとか抜かしやがったくらいだな」

 

あの、雪ノ下由比ヶ浜一色さん?なんでそんなに勢いよく僕の方をむくんだい?

 

「え、えっと、つまり何もわかってない?」

 

「まぁそうだな」

 

「ダメじゃん!」

 

そう言ってもなぁ。あいつ欲しいものないんじゃないか?

言われてみたら小町は本当に欲しいものは自分で買うか上手いこと親父に頼って手に入れるだろうしなぁ。

 

「まぁでもプレゼントは気持ちですし、先輩が一生懸命選べば妹さんも喜びますよきっと!」

 

「何かプレゼント以外にも出来ることないか?」

 

「あっ!じゃあ誕生日パーティーとか?」

 

「お前本当パーティー好きね…」

 

パーティー好きって言うとどこかのセレブみたいだな。あぁそういえばパーティーやるようなセレブはうちの部活にも居たわ。

 

「でも誕生日パーティーは良いと思うわ。誕生日を人から祝って貰うのはやはり特別なことよ」

 

そういや1月誕生日だったもんな雪ノ下は。

 

「じゃあその感じで企画しましょうか!」

 

「おう」

 

「先輩の家は使えるんですか?」

 

「あーどうだろうな。21時か22時くらいには親が帰ってきそうなところだが」

 

「じゃあ私の家を使うといいわ」

 

「雪ノ下、平気なのか?」

 

いくら一人暮らしだとしてもあまり散らかされたりするのは嫌だろ、やっぱり。

って、今こいつの家魔王城と化してなかった?

 

「ええ。姉さんなら旅行に行くと言って出て行ったから後1週間は戻らないんじゃないかしら」

 

「あっなら当日色々と手伝いに行ったりしても大丈夫ですか?」

 

「私も手伝うよ!」

 

「そうね、では頼めるかしら」

 

着々と進んで行く計画。

小町は喜んでくれるだろうか、疲れを吹き飛ばしてくれるだろうか。少しでも楽しく感じてくれるならいいが…。

 

☆ ☆ ☆

 

そして誕生日会当日。

 

由比ヶ浜からの連絡が来た。

どうやら雪ノ下の家に一色と由比ヶ浜が到着したらしい。

由比ヶ浜も少しは料理が上達したのだろうか…いやしてくれてないと困るぞ今日は。

 

「小町、今日暇か?」

 

「んにゃ?別に何もないけど」

 

なんだその返事可愛すぎか!…おっとあまりの可愛さにトリップするところだった。セーフセーフ。

 

「ちょっと買い物行こうぜ」

 

「あっそうだ晩御飯の材料なかったところだしいいよー」

 

これで小町を連れ出すことが出来る。

あれ、これちょっとデートしてから行っても問題ないよなぁ!?

妹とデートって言い方はおかしいか。いやおかしくない!(反語)

まぁ普通に雪ノ下の家行くんですけど!

 

☆ ☆ ☆

 

「ちょっとお兄ちゃん?どこなのここ。いいから付いて来いって…それはお姉ちゃん候補に言いなよ」

 

「まぁまぁもう少しだから」

 

怪しいナンパみたいな言い方をして小町と歩く。

ちょっとだけだから、すぐ済むから!とか言い出したら多分完璧。

 

「ここだ」

 

「マンション?…お兄ちゃん小町に何する気!?」

 

「…あほか。ここは雪ノ下んちだよ」

 

「なにそれ!?ちょっとどういうこと?」

 

後ろでごちゃごちゃとうるさい小町を尻目に雪ノ下の家のチャイムを鳴らす。オートロックだからね開けてもらわなきゃ入れないんですよ。セキュリティは大事だからね仕方ないね。

 

無言でオートロックを開けてもらってエレベーターに乗る。

確か…15階だよな。一回しか来たことないから確信はないけど。

雪ノ下の家と思わしき部屋の前に着いてチャイムを押した。

ピンポーンと音が鳴り、雪ノ下が出てくるのを待つ。

 

「…お兄ちゃん後で説明してもらうからね」

 

「はいはい」

 

そんな会話をしているうちに雪ノ下が出てきたみたいだった。

 

「小町さんいらっしゃい。どうぞ上がって」

 

「雪乃さん!?はわわわわお兄ちゃん、家着雪乃さん可愛すぎるよ!!」

 

「お、おう。とりあえず入ろうぜ」

 

下駄箱を抜けてリビングのドアを開ける。

雪ノ下はさりげなく消えており、小町を先頭にリビングに入った。

 

パン、パン、パン!!とけたたましい音の後に紙吹雪が舞う。

…これ雪ノ下後で大変そうだな。

 

「小町ちゃん誕生日おめでとー!」

「おめでとうございますー!!」

「おめでとう、小町さん」

 

「…え?」

 

という言葉の後にすぐさまこちらを振り返る小町。

なかなか良い表情をしている。うん、可愛い。

 

「みなさん、ありがとうございますぅ!!小町こんなこと聞いてなかったから凄いビックリです!…どうりでお兄ちゃんが怪しかったんだ」

 

「ぐっ、お前な怪しいとかいうなよ」

 

「だってどこ行くの?って聞いても、後ちょっとだからとかいいからいいからとか変なナンパみたいだったよ?」

 

「比企谷くん、後でその辺聞かせてもらうわ」

 

あのちょっと?そんな怖い顔して聞くような話でもないからね?

 

「さぁ小町さん座って。今料理を持ってくるわ」

「小町ちゃん、私達も作ったんだよ!」

 

「結衣さんそれ大丈夫ですよね!?」

 

そう言いたくなる気持ちはめちゃくちゃわかるが雪ノ下と一色の監修だし平気だと思うぞ。

 

こうして、小町の誕生日会が幕を開けた。

 

☆ ☆ ☆

 

ダイジェストで今までの流れを言おう。

 

まず、料理を食べた。

「ふぉー!お兄ちゃん!見て!フランス料理だよこれ!」

「イタリアンなのだけれど…」

 

その後に雪ノ下と一色が作ったケーキが登場。

「お兄ちゃんケーキの上にパンさん!雪乃さん凄い!」

「それは私が作ったんだよ小町ちゃん」

「あっどうも」

「こんにちわ一色いろはです。私は先輩の…先輩のなんだろ?」

「お嫁さん候補追加の予感!?」

「ちょっと黙ろうな小町」

 

からのみんなからのプレゼント。

まぁここは小町が貰ったものだし俺が紹介することじゃないので省略。

ついでに俺からのプレゼントもあげた。中身は学校生活で使えるものとだけ言っておく。

 

夕方を過ぎた頃、辺りはすっかり真っ暗で雪ノ下の家から見える夜景と夜空に輝く星のコラボは綺麗だった。

 

「さて、そろそろ帰るか小町」

 

「そうだね」

 

「帰り、気をつけてね二人とも!」

「4月からは学校でね小町ちゃん」

「比企谷くん、くれぐれも気をつけるのよ」

 

「ではでは、みなさんありがとうございました!すみません雪乃さんお片付けもせずに…」

 

楽しかった時間は過ぎるのが早いという。

この時間は小町にとってはどうだったのだろうか。

 

二人で夜道を歩く。左手には小町の右手。

 

「なんだ小町珍しいな」

 

「まぁたまにはね?」

 

「楽しかったか?」

 

「今年1番だよ!びっくりしちゃった」

 

「…最近、帰り遅くてごめんな」

 

「ううん平気。なんて、嘘。やっぱりお兄ちゃんなんかでも迎えてくれると嬉しいものなんだよね。小町が逆に迎えるようになって改めて思った」

 

「…小町。まぁまだしばらくは俺がお前を迎えてやるし、お前が俺を迎えてくれ」

 

「小町的には早く結婚して出てってくれてもいいんだけどなぁー?」

 

「ばーか、俺は小町が居れば充分だっつーの。これ八幡的にポイント高い」

 

あー!パクられた!なんて言うツッコミを受けながら二人で手を繋いで帰る。

 

暗い道、夜空を見れば一番星が輝いていた。

まだ3月、気温はまだまだ寒いけど繋いだ左手は暖かかった。

 

 

お わ り



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尽くす彼女 ゆきのん

 

 大学生になって早数年。

 雪ノ下雪乃と交際を始めて数ヶ月。

 

 なにがどうなって付き合い始めたかは大体想像がつくとは思うので省略。

 

 週に何度か一人暮らしを始めた俺のワンルームの安アパートに泊まりにくるお嬢様。

 なんでも、俺の家っていうのがポイント高いらしい。

 俺は雪ノ下の家がいいんだが…。

 あと、ポイント制度を流行らせた小町は後で叱る。

 

☆ ☆ ☆

 

『比企谷くん、今日行かせてもらうわ』

『了解』

 

 と連絡のやりとりをした今日の朝。

 そろそろ来るはずなんだが…。

 迷ってないよね?大丈夫だよね?

 

 外に出ようかと思ったところでガチャっとドアが開いた。

 

「どこに行くの?」

 

「あ、あーっとコンビニ?」

 

「嘘ね。お財布、あそこに置いてあるわよ?」

 

「…お前が迷ってるかと思って迎えに行こうとした」

 

「あら、じゃあその辺で待っていればよかったわ」

 

「お前な…」

 

 こういう茶目っ気が雪ノ下にはある。昔ではあまり見れなかった部分かもしれない。

 

「ご飯は?」

 

「食べた」

 

「もしかしてそれのことを言ってるのかしら」

 

 雪ノ下が指を指す方向にはカップラーメンと菓子パンのゴミ達。

 片付けるの忘れてた…。

 

「はぁ、あなたもう少しちゃんとした食生活をしなさい」

 

「はいゆきのママ!」

 

「ふ、ふざけないの!!」

 

「へいへい。まぁゆっくりしてけよ」

 

 雪ノ下の頬は赤く、外の寒さを物語っている。

 俺が家にいる時は大体コタツ付いてるからまずコタツに案内しよう。

 まぁワンルームだからコタツしかないんだが。

 

「出来合いで悪いのだけれどおでん買ってきたわ」

 

「おぉサンキュ。大根大根…っと」

 

「ふふ、どうぞ食べて」

 

 肘をつき頬に手を当てて微笑む姿。

 うちの彼女天使か何か?

 

「あっそうだ、風呂沸いてんぞ」

 

「じゃあ頂こうかしら」

 

 うちはワンルームだが、ユニットバスが嫌で仕方なく風呂とトイレは別だし風呂はまぁ一般住宅くらいの大きさはある。本当このこだわりだけは捨てれなかった捨てなくてよかった。

 

 雪ノ下が風呂に入ってる間にソシャゲをプレイ。ログインくらいはしなきゃね…。あの子といる時にソシャゲやると怒るから…。

 

「比企谷くん着替え、ないかしら?」

 

 スマホに集中しながら返事だけ返す。あとこれだけだから待ってください。

 

「そこの押入れから適当に取れよ」

 

「…じゃあこれで」

 

「お前それ俺の高校のジャージなんですけど」

 

「懐かしくていいじゃない。…ほらこの名前も」

 

「…お前さ恥ずかしいなら言うなよ。後、恥ずかしさに巻き込むな」

 

「…比企谷雪乃」

 

「お前な…」

 

 比企谷雪乃。その名前を想像したのはもう数回を超えてるぞ俺は。

 だが、まだ学生だし、その、な?

 

「俺も風呂入って来るわ」

 

 いかん。ちょっと1人の空間で落ち着こう。

 …この風呂雪ノ下が入った後なんだよな。

 

「顔真っ赤よ?」

 

「気にするな。ちょっとあれがあれなだけだから」

 

「え、ええ。そこまで言うなら…」

 

 よし寝よう。時計の短針は11の数字を示していることだし!

 

「んじゃ、歯磨いたし寝るか?」

 

「そうね」

 

「…雪ノ下さんや?なんでこんなに詰めてくるのかな?」

 

「これを忘れていたわ」ちゅ

 

「…ばっか、顔真っ赤だぞお前」

 

「あなたも同じよ」

 

 ほんと、恥ずかしいならよせばいいのに。

 でも俺があんまり自分から行けてないから雪ノ下がしてくれるのかもな。

 

 

 雪ノ下は俺に背を向けて寝ている。

 ふむ。なるほど。

 

「きゃ」

 

「…抱き枕ゆきのん」

 

「…はぁ」

 

「いて!抓るなよ」

 

「ちゃんと私に許可を得てからにしなさい」

 

 

 …うちの雪ノ下さんは俺からのアプローチに厳しかったのだった。

 

 



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保健教師はるのん

 

 

 俺が通う総武高校には2人の美人教師が居る。

 

 1人は平塚静先生。言わずと知れた生活指導も担当している教諭で俺もお世話になっている。

 

 もう1人は雪ノ下陽乃先生。

 俺が入部している奉仕部の部長雪ノ下雪乃の姉である。担当は保健だが、大体は保健室に常駐している。

 

 その後者、雪ノ下先生が曲者なんだよなぁ…。

 

 ちなみに余談だが2人の共通点は白衣である。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 昼休み、いつも俺はベストプレイスである非常階段の下で昼食を取っていたんだが…。

 

「あれ?君は確か比企谷八幡くんだよね?こんなところでお昼食べるなら保健室来ていいよ。というか来なさい」

 

 の一言で何日か前から保健室で雪ノ下先生と昼食を取っている。

 って保健室って飲食無しなんじゃないの…。

 

「ん?どうしたの?」

 

「いや、保健室って飲食ありなんですか?」

 

「さぁ?いいんじゃない?保健室の先生私なんだし」

 

「さぁ?って…大丈夫ですかね本当に」

 

「生徒は細かいこと気にしないでいいの」

 

「まぁ怒られるのは俺じゃないんで…」

 

「それより君、雪乃ちゃんと部活一緒でしょ?話聞かせてよ」

 

 絶対この人シスコンでしょ。妹好きすぎて俺に話しかけて来たやつでしょ。

 

☆ ☆ ☆

 

 雪ノ下先生の噂話をしている男子生徒は多い。

 綺麗、可愛い、白衣姿がエロい、怪我してないけど保健室行っちゃう?なんて声もある。

 いやいや君たち騙されてるよと言いたい。絶対言わないが。

 

 あの人は裏の顔が怖いタイプの人だろう。部長、雪ノ下にもこれは確認が取れているからまず間違いない。

 

 その日の昼。

 

「雪ノ下先生って大変そうですね」

 

「んーそうでもないよ。授業もないしね」

 

「いや、そのニコニコした顔いつも貼り付けてて」

 

「…ふーん。君はわかるんだ。流石静ちゃんと雪乃ちゃんのお気に入りだね」

 

 スッ…と表情が消える。

 控えめに言って超怖い。

 

「嘘です何もわかりませんごめんなさいそれでは!!」

 

「まぁまぁゆっくりしていきなって」

 

 と去ろうとした俺の腕を掴む雪ノ下先生。

 いやちょっと?腕に力入れようとしても全然力入らないんだけど?なにこれ。

 

「あっごめんごめん。合気道嗜んでるだよね私」

 

「保健室で怪我するところでした…」

 

「お詫びにお弁当のハンバーグあ げ る」

 

「いや流石にそんなんで誤魔化されないです」

 

「君って中々面白いね」

 

 人生でそんなことを言われたのは初めてだが全然嬉しくないんですが。

 

「少し、君に興味湧いてきたかも。これからもお昼は保健室集合ね」

 

「いやもう来ません絶対に!」

 

「ふーん。じゃあ間違えて校内放送とかしたらゴメンね?」

 

「勘弁して…」

 

 と、俺の毎日の昼の予定が決まってしまった瞬間だった。

 

☆ ☆ ☆

 

「そういうわけで雪ノ下、どうにかしてくれ」

 

「無理ね」

 

「ヒッキーお昼居ないと思ってたらそんな感じになってたんだ!」

 

 ちっ、妹である雪ノ下に頼めばなんとかなるかと思ったんだが…。

 

「姉さんは興味がある玩具は壊れるほど遊ぶし興味が無いものには見向きもしないわ。比企谷くん、ご愁傷様」

 

「不吉なこと言わないでね…」

 

「けど、実際私にはどうにも出来ないわよ?ましてや相手は教員なのだし」

 

「ヒッキーとゆきのんのお姉さんが2人きりってなんか嫌かも」

 

「奇遇だな、俺も嫌だよ」

 

「まぁ姉さんも姉さんで大変なのだろうし、姉さんを頼むわ」

 

「へいへい」

 

☆ ☆ ☆

 

 そして今日も雪ノ下先生の元へ向かう俺…。苦痛ではないから良いけど、なんだかなぁ。

 

「おっ来たね」

 

「うっす」

 

 挨拶を交わした後はまず昼食をとる。

 

「雪ノ下先生って弁当手作りなんすか?」

 

「そうだよ。雪乃ちゃんとは少し歳が離れてるから小さい頃はよく料理してあげたなぁ」

 

「あーなるほど」

 

「小さい時の雪乃ちゃん本当可愛かったんだよ?どこ行くにもついて来たりね」

 

「はぁ」

 

 と突然始まってしまった妹談義に気の抜けた返事をするしかない。

 

「でも、雪乃ちゃんには苦労かけるなぁ」

 

 と少し真面目な顔を見せる雪ノ下先生。

 

「苦労とは?」

 

「私、両親に大反対されながら教師になったから家の仕事を継ぐのは雪乃ちゃんなのよ」

 

「両親って確か…」

 

「建設会社の社長で県議会委員よ」

 

「スーパーエリートっすね…」

 

 改めて考えると凄い上流階級に感じる肩書きだな。

 その令嬢達と昼飯食ったり部活一緒なのかよ俺。

 

「まぁそんな家だし私はこんなだし雪乃ちゃんの道を狭めちゃったかなーって思ったりもね…」

 

「でも雪ノ下は嫌なら嫌って言いますよきっと。あいつも誰かに依存して進む道は嫌なはずです」

 

「そうだといいなぁ。って生徒に話すことじゃないね」

 

 思わぬ形で雪ノ下家の話を聞いてしまった気がする…。

 

「まぁだからって訳じゃないんだけど会社も継がないし、私って結婚相手は好きに決められるんだよねぇ」

 

「あー相手の立場気にしなくて済むと」

 

「そ。極端な話、君とだって結婚出来るわけだよ」

 

「いや生徒はダメでしょ」

 

 何を言いだすんだこの人…。

 俺じゃなかったら本気にして告白して振られちゃうところだったぞ。

 

「先生と生徒の関係なんて燃えると思わない?」

 

「いえ全く」

 

「問題はバレなきゃ問題じゃないんだよ?」

 

「教師のセリフじゃないんですけど…」

 

「今は教師と生徒じゃなくて男と女ですもの。違う?」

 

「屁理屈ですよそれ…」

 

 適当に屁理屈を捏ねるのは俺の専売特許なのに今は雪ノ下先生に押されて屁理屈も出てこない。

 

「ねぇ君ってめんどくさいってよく言われない?」

 

「よく知ってますね。結構言われます」

 

 主に小町にめちゃくちゃ言われてる。

 

 

「あーもうめんどくさい!」

 

「え?」

 

 

 

「ねぇ、比企谷くん。保健室ってベットあるんだよ?」

 

 

お わ り

 

 



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歳上二人に可愛いがられる八幡

 

 

 雪ノ下陽乃、城廻めぐり。

 俺はこの2人が苦手だ。

 

 なぜなら…。

 

「あっ比企谷くん、お菓子食べる?」

 

「ちょっとはるさん!今比企谷くんは私と話してたんですよ」

 

「えーだって比企谷くん可愛いんだもん」

 

「それはわかりますけど…」

 

「ごめんごめん。ほらめぐりにもあげる」

 

「あの、ちょ、何でもいいんで帰っていいですか?」

 

「「だーめ」」

 

 こんな感じにやたらと可愛がるというかそんな風に絡んでくるのだ。

 

 俺のパーソナルスペースにナチュラルに入り込んでくる城廻先輩と強引に入り込んでくる雪ノ下さんのコンビはなんというか…強力だ。

 

「あっカラオケ行こ!」

 

「はるさんそれ最高です!」

 

「いってらっしゃい。じゃあまた…」

 

「え、比企谷くん行かないの?」

 

「比企谷くん…だめ?」

 

「だめ!…じゃないかもですはい」

 

 城廻先輩の上目遣いでのお願いを頷けない人はいない(断言)

 もしそれを断れても後ろには雪ノ下さんが構えてるという最強の布陣。

 あれ?これ詰んでない?

 

☆ ☆ ☆

 

 

「比企谷くんは何歌う?」

 

「いや聴いてるんで先どうぞ」

 

「はい!私、比企谷くんの歌が聴きたいです」

 

「ほら、めぐりもそう言ってるし」

 

「で、でも1番最初は嫌です」

 

「じゃあめぐり、あれ歌うよ」

 

「任せてください!」

 

 デンモクを弄ったあとに曲が始まる。

 少し前に流行ったラブソングだ。

 

 愛してるとか好きの部分でチラチラこっち見てくるとか反応に困るからやめてほしいんですけど。

 

「じゃあはい比企谷くん曲入れてね」

 

「はぁ…」

 

 とりあえず無難にバラードを歌う俺。

 別に歌声に自信があるわけでもないのにそんなに注目されても…。

 

「〜♫」

 

「…ねぇねぇめぐり」

 

「はい?」

 

「歌ってる時の真剣な表情の横顔よくない?」

 

「あっそれ凄いわかります!キリッとした表情がキュンってきます!」

 

「だよね。この低めの声もまたそそる…」

 

 そして無事?一曲歌い終わった。

 なにこの緊張感。

 というか歌ってる時にヒソヒソ話されると下手だったかな?って勘ぐるからやめてね。

 

「比企谷くんってバラード好きなの?」

 

「好きというか明るい歌もキャラじゃないですし比較的聴く歌がバラード系なんですよね。聴くだけならアニソンの方が聴きますけど」

 

「比企谷くんこの歌知ってる?」

 

「…知ってますけど。雪ノ下さんこういう歌も知ってるんですか?」

 

「まぁねー。さっじゃあ歌って歌って!」

 

「い、いやいや順番が…」

 

「いいのいいの!ねっめぐり」

 

 と押し切られた。そしてすぐに曲が始まった。

 城廻先輩曲入れる準備はやっ…。

 

「こんなに素敵な言葉がある 短いけど聴いておくれ 愛してるー♩」

 

「どうしようはるさん!私愛してるの時、目合っちゃった」

 

「はいはい。気のせい気のせい」

 

 この歌を歌い終え、雪ノ下さんが歌い始めた頃に城廻先輩が俺の耳に顔を近づけ声をかけてくる。

 

「比企谷くん、歌上手なんだね」

 

「いやそんなことないと思いますけど」

 

「ううん、格好良かったよ」

 

「ど、どうも」

 

 それだけ言うとスーッと甘めの匂いが遠ざかった。

 雪ノ下さん俺城廻先輩 の順で並んでるから良い匂いしかしないんだよなぁこの部屋。

 この匂いだけ持ち帰りたい。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「はぁ歌ったねー」

 

「ですねー」

 

 待って。おかしい。

 順番がおかしすぎた。俺が2曲歌った後に2人のどちらかが歌ってまた俺が2曲の繰り返しだったんですけど。

 普通こういうの1人一曲で回るものじゃないの?いや普通を知らんけど。

 

「ねっ比企谷くんは今日楽しかった?」

 

「まぁそこそこ…」

 

「えー私はとっても楽しかったよー?ねっはるさん!」

 

「だね!でも比企谷くんはそこそこだったんだってー」

 

「ああもうずるいなぁ…。楽しかったですよ!」

 

「ふふ、それならよかった」

 

 太陽みたいに笑う2人。

 まぁこの笑顔が見れたなら多少の疲れくらい良いかと感じてしまう俺も大概甘い。

 

「今度はどこ行く?」

 

「あっ私、次行きたいところあるんですよー」

 

「か、勘弁してー」

 

「ははは、やっぱり君は最低だね♫」

 

 

 やはり俺が歳上2人に可愛がられるのはまちがっている…。

 

 

お わ り

 

 



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添い寝フレンド はるのん

 

 

 一人暮らしの男臭い部屋に今日は良い匂いがする。清潔感がありながらも甘い匂い。

 その匂いは隣の女性から漂ってきていた。

 

 たまに家に来ては知らぬ間に消えている人。

 最初の時なんかは夢なのかと思ったが寝具に微かに残った残り香がそれを否定した。

 

「比企谷くん寝ないの?」

 

「あっいや寝ます。じゃあ失礼して…」

 

 そして今日もまた、俺は雪ノ下陽乃と眠りにつく。

 

 別に付き合っているとかいう訳ではない。と、思う。

 たまに今から行くねと連絡が来て一緒に寝るだけの関係。言うならば添い寝フレンドだ。

 もちろんやましいことはない。あったら未だに童貞なんて肩書きはとうに捨てている。

 まぁ、色んなところ触れてしまってるはいるけどわざとじゃないんだからね!

 

「今日は腕枕してくれる?」

 

「えーあれ起きたら腕の感覚ないんですよね…」

 

「役得でしょ?それに比企谷くんが起きてもその頃には私居ないし」

 

「毎回言ってますけど、家出る時起こしてくださいよ」

 

「…もしかして寂しいの?」

 

「寂しいというか、喪失感みたいなものがあるんですよ」

 

「ありゃ、可愛いこと言うね今日は」

 

「とにかく、そういうことですんで。おやすみなさい」

 

「ふふ、おやすみ比企谷くん」

 

 

 俺のその言葉はまたしても破られた。

 起きた時に残っているのは微かな腕の痺れ。まだ出て行ってそんなに時間は経っていないようだった。

 まるで猫のような人だ。

 

 

 俺達がこういう関係になった経緯、それはわからないの一言だ。

 

 家の場所を何故か知っていて俺の連絡先も何故か知っていた雪ノ下さんはいきなり遊び行くねと連絡をしてきて家に来た。十中八九教えた犯人は我が妹だろうが。

 

 わかっているのは家に来るときは何か訳ありの時だけ。

 多分母と折り合いが悪いとか家に居たくないとかだと思っている。

 深くは聞かない。俺に出来るのは話を聞くことではなくて一緒に居ることだけだから。

 

 一緒に寝ることになったキッカケは覚えている。

 初めて遊びに来た日に終電を逃したらしい雪ノ下さんは泊まることになった。モチロン拒否した俺だが、そんなものあの人が聞いてくれるわけがない。

 

 布団は1組だけ。俺は床に雑魚寝すると言ったんだがなぁ…。

 

「今日だけ特別に一緒に寝てあげる」

 

「いや、ちょっとガード甘すぎませんかね」

 

「まぁ比企谷くんだし?」

 

「俺も男なんですけど…」

 

「本当に襲われて困る人にこんな事言わないよ」

 

「…聞かなかったことにします」

 

「つれないんだから」

 

 とのやり取りもあった。もちろんその日、何もなかった。それどころか起きたら居なかった。

 起きたら居ないのは最初からだ。

 理由はわからないけど、どこか あの人らしい。

 

 この日から時たま、我が家に遊びに来るようになったのだった。

 

 すっかりと一緒に寝ることに慣れてしまってることに危機を感じる。

 女性としての魅力がないとかではない。そんなもの溢れ出る彼女だ。

 抵抗しない自分になってしまったことがやばいのだ。

 

 そんな彼女は今日もやってくるらしい。

 

 優しい言葉などかけてもあの人には響かない。同情をするなんて以ての外だ。だから何も聞かないくらいがちょうどいい。

 

 夜、寝る前のゆったりとした時間。

 

「比企谷くんは何も聞かないんだね」

 

「聞いてほしいですか?」

 

「ううん。でも、ちょっと嫌なことがあったら一緒にいてほしい。寝て起きたらいつもの雪ノ下陽乃にちゃんと戻るから…」

 

「役得ですし、喜んで…」

 

「はは、やっとお姉さんの魅力に気づいたんだ」

 

「いえ気づかないふりをしてるんです。これまでも、これからも」

 

 きっと、明日の朝も起きたらこの人は居ないのだろう。

 

 でもそれは、いつもの雪ノ下さんに戻れたってことだから。

 

 俺にくらいは弱い姿を見せてもいい。どうせ言う人もいないしな。

 

「おやすみ、比企谷くん」

 

「おやすみ、雪ノ下さん」

 

 

お わ り

 

 



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二股八幡と雪ノ下姉妹

 

 

 突然だが、俺には彼女がいる。

 いや、彼女達がいる。

 

 キッカケはここで語るにはあまりに多く、時間が足りない。

 時間が足りない理由、それは…。

 

 これから事の顛末を彼女達に語るからだ。

 

 

 いらっしゃいませー。と店員の声が聞こえ2人の美女が案内され、やってくる。

 

「ひゃっはろー!」

「こんにちわ、待たせてしまったかしら」

 

 2人の美女こと、雪ノ下姉妹。

 かたや美少女、かたや美女。

 それに加えて頭も良い才色兼備の彼女達。

 

「それで?今日は大事な話があると聞いているけれど?」

「うんうん。私もそう聞いたよ?」

 

(比企谷君と私との関係を姉さんに打ち明けるのね!)

(私と比企谷くんの関係を雪乃ちゃんに打ち明けるんだね!)

 

 やばいどうしよう。

 実は二股かけてましたとか言えるわけがない雰囲気なんだが…。

 

「じ、実はですね。俺付き合ってる人がいるんです」

 

 勇気を振り絞り2人にそう告げた。

 

「主語が抜けてるよ?誰が誰と付き合ってるか雪乃ちゃんに教えてあげて?」

 

「姉さんが何を言っているのかわからないのだけれど…。さぁ比企谷君、誰と付き合っているのか姉さんに教えてあげなさい」

 

「ん?」

 

「え?」

 

 やばい。俺の彼女と彼女が最高に修羅場っている件。

 と、ライトノベルのタイトル風に言って軽い現実逃避を挟んでも状況は変わらない。

 

 だが、この状況を打破しなきゃここから進めそうにないしなぁ…。

 

「まず、雪乃。俺はこちらの雪ノ下陽乃さんと付き合っている」

「そして陽乃さん。俺はこちらの雪ノ下雪乃と付き合っています」

 

「「は?」」

 

 やめてそこハモらないで!

 その冷たい2人の視線がビクンビクン…なんて冗談が挟まる空気ならよかったのに…。

 

「つまり、比企谷くんは二股してたってこと?」

 

「…端的に言えば」

 

 はぁーと深い息を吐き、2人は目を閉じて思案の表情を浮かべていた。

 

「じゃあ今日の話はどちらかと別れたいということでいいのよね?」

 

「あーあ可哀想に雪乃ちゃん。雪乃ちゃんはまた選ばれないんだね」

 

「あら?比企谷君が別れたいのは姉さんの方かもしれないわよ?」

 

「「……」」

 

 そうして2人がお互いに釘を刺しあっていた。

 それどころか多少睨み合いまでしているんですが…。

 お互いの顔が近くてチューでもするのかと八幡ドキドキしちゃう!いやこのドキドキは全く別のものですねはい。

 

「それで比企谷くんはどうするの?」

 

「えーっとですね…」

 

「比企谷くんも男の子だもんね。多少の火遊びくらいは許してあげる。だから私を選びなさい」

 

「比企谷君はもちろん私を選んでくれるわよね?というか選びなさい。浮気相手が姉さんというのも少し思うところがあるのだけれど、それはいいわ。2人でやり直しましょう?」

 

 2人には2人の良いところが山ほどある。

 

 陽乃さんはどんな時も一緒にずっと居て、俺が馬鹿をやっても笑ってくれて俺を陽に当て続けてくれる。

 

 雪乃はだらしがない俺を甘やかさず叱咤しながらも一緒に色々と成し遂げてくれる、一見冷たいだけのように見えて実は雪の様に俺の周りに優しさを降りそそいでくれている。

 

「俺にはどちらか片方なんて選べない」

 

「…ダメよ比企谷君。決めて頂戴」

「そうだよ。私達はもうどっちが選ばれようともその覚悟はしているんだから」

 

 

「俺は2人ともが好きなんです。好きな人と好きな人が一緒に居たら素敵だなって、欲張りだろうけどそうは思わないか?」

 

「…なんでそれで通せると思ったのかしら。全く思わないのだけれど」

「良いこと言ってなぁなぁにしようとしてる魂胆が丸見えで嫌」

 

 ですよねぇ!!

 言ったことは本心だけどそっちの狙いも見逃すはずがないですよねぇ!!

 

「…はぁ。仕方ないね。ここは雪乃ちゃんに譲ってあげる。お幸せにね」

 

「嫌よ。私はそんな与えられるような形で幸せを手にしたくはないわ。姉さん、ちゃんと話しましょ」

 

「…雪乃ちゃん」

 

 このやり取りを見て俺はまたどちらか片方を選ぶという選択肢を捨てた。

 

「じ、じゃあ1つと1つの関係ではなくて3人で1つの形というのはダメか?」

 

「姉さんと私で比企谷君を共有するってことかしら…」

 

「私達きっと独占欲強いよ?君がちゃんと満たせるの?」

 

「それにそれには色々と問題もあるしルールも決めるようよ?」

 

 俺が変わるのはここだと思う。

 2人の女性を好きになってしまった禁忌。

 その禁忌には俺の頑張りで応えなきゃ男じゃないぜ比企谷八幡!

 

「2人にも多少の不満は生まれるかもしれない。でも寂しい思いはさせないから。…多分」

 

「あっ最後ヘタレたね。まぁそこが比企谷くんらしいんだけど。私は雪乃ちゃんも可愛い可愛い妹だし大好きだからそれでいいけど、雪乃ちゃんは?それでいいの?」

 

「遺憾ながら、みんなが幸せになるのはそれがベターよね…。まぁ私も昔と違って姉さんはそれ程嫌いじゃないし」

 

「雪乃ちゃーん!」ダキ

 

「ちょ、ちょっと姉さん離れて…」

 

 よきかなよきかな。

 俺が見たかった光景、好きな人と好きな人が仲良くてその中に俺も混ざる。まさに夢にまで見た光景だ。

 

「まぁ詳しいルールは後で決めるとして…。姉さん」

 

「うんそうだね。とりあえず比企谷くんの罰を決めようか?」

 

「ちょっと?今いい流れじゃなかった?」

 

「それはそれこれはこれよ。私達を傷付けたのだから報いを受けるべきよ」

 

「当然当然。さーてどうしてあげようかなぁ」

 

「お、お手柔らかに…」

 

「うん、無理」

「無理ね」

 

 

 こうして俺達、1つと1つは1つになり再出発することになった。

 

 

 …ちなみに罰は何を受けたかは俺だけの秘密だ。

 

 

 

 



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