我ら、八ツ橋高校科学研究部! (ぺんたこー)
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金属が交わる高く鋭い音が真夜中の公園に響く。激しい戦いで公園はいくつもの穴があき、遊具は壊れ木々は枯れていた。戦っているうちの一人は服はあちこち破れ皮膚は裂け、白衣を赤黒く染めていた。もう一人の方は全くの無傷で笑みを浮かべていた。

「フフッ、無様だな。今、楽にしてやるよ!」

そう言うと男は手に持っていた剣を勢いよく振り下ろした。

瞬間、剣を持っていた手は力なく地面に落ちた。そこには、先ほどまで手が付いていたであろう身体が肉片と化し鮮血を流していた。

「ふー、大丈夫だったか?」

傷だらけの少年がそう言うと、壊れた遊具の影から紺色のオーバーオールを着た一人の少女がぴょこんと顔を出した。少女の目には涙が浮かんでおり身体は小刻みに震えていた。

「殺したの?」

肉片を見て少女が問うと少年は高らかに答えた。

「おう!そんなことよりあのスキルお前が作ったのか?」

涙をこらえながら少女は無言でうなずいた。

「……えっ!ちょっマジで!?すげぇなぁお前!」

そう言った直後、少女の目から涙がぼろぼろこぼれた。

「ちょっ!泣くなって!もう、終わったんだぞ?」

「だって、だってぇ…うぅ ぐずん…」

「どうしたって言うんだよ」

服の袖で涙を拭き取りながら近づいてきた。

「初めて…私の作ったスキルを認めてもらえたから…」

「?」

理解するのに時間がかかった。

「あの人は…認めてくれなかった…」

肉片を見ながらつぶやいた。

「そうか…めっちゃすげーのにな…お前、学校どこなんだ?」

少女は少しうつむき、寂しげに言った。

「……行ってない」

それを聞くと少年は少し考え、何かを決めたのか一人でうなずいた。

「俺の名前は南古都(なこと) (ゆう)もしよかったら俺の学校に来て、科学研究部に入らないか?俺はそこの部員なんだ」

「…えっ?…いいの?…私なんかが学校行ってもいいの?」

「当たり前だ!だってあのスキルお前が作ったんだろ?俺の学校は入学方法がかなり特殊なんだよ。でも、お前の科学力なら技術科からすぐに入れるさ!どうだ?」

少女の瞳に火が灯ったように明るくなった。

「なら……入りたい!あっ!でも…年齢とかって大丈夫かな…」

「特殊だって言ったろ?能力さえあれば入学できる。絶対にな!」

勇は言い切った。

「これ、俺のメアドだ。いつでも連絡してくれよな!それじゃもう遅いから気をつけて帰るんだぞ!」

「うん!今日はありがとうね!」

別れた後、何かを思い出し勇は少女に向かって叫んだ。

「そういえば、お前の名前ってなんだ?」

遠くから少女の声がする。

「私は水平(みずひら) 奈々(なな)だよ!今日は本当にありがとう!」

「気にすんなって!気をつけてな!」

勇は大きく手を振り奈々と別れ公園を後にした。しばらく歩いていると急に立ち止まり考える。

「なんで奈々はあそこにいたんだ?」

考えた。その時間じつに30秒。それは勇にしては長い時間だった。しかし答えが出なかったのか考えるのをやめ、家に向かって歩き始めた。

「ふー、結構傷が多いなぁ…まっ深くはないし大丈夫か」

傷をなでながら腕時計を見るとすでに2時を過ぎていた。

「今日も一日お疲れさんっと」

真夜中の路地でつぶやく。静かな空間に音が響いた。




こんにちは、ぺんたこーです。
今回初めて小説を投稿させていただきました。題名が気になった方、タグが気になった方、あらすじが気になった方、いろいろいらっしゃると思いますがまずは、読んでいただきありがとうございます。これからも理系ホイホイな感じでがんばって書かせていただきますのでよろしくお願いします。


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ピロリロン!ピロリロン!

ケータイからメールの着信音がする。勇はベッドの上で布団にくるまり、耳を塞いでいた。今は朝の6時だ。多分朝の5時ごろからずっと鳴っている気がする。布団の中で勇は少し後悔していた。

「いやいやいや、確かにいつでも連絡しろとは言ったが普通こんな朝早くからするか?いやしないだろ!ということで俺はまだ寝る!悪く思うな、お昼になったら見てやるよ!」

そう言うと布団に深く潜り込み、もはや2度目ではない2度寝をした。

その後、目覚まし時計の音が鳴り響き、7時50分にようやく起きた。

「眠い…」

そういいながらベッドから起き上がるが転倒する。勇はだるそうにしながら自分の部屋を出た。階段を下りている途中、踏み外し5~6段滑り落ちた。

「いってぇ…今日は朝からひでぇ日だ…クソッ」

ふらふらとした足取りでリビングへ着くと誰かが声をかけてくる。

「あら勇ちゃんおはよう。どうしたの?ふらふらじゃない!」

「大丈夫だよ母さん。いつものことじゃんか。」

キッチンで料理をしている母に向かって返事をしながら食パンをトースターに入れる。

「今日はツイてないしやめとくか……いや、やってやる!」

そう言うと勇はリビングを出て階段を駆け上がった。後ろから母の声がする。

「ちょっと勇ちゃん!今日もこれやるの?いままで成功したことないじゃない!」

しかし勇は気にせず自分の部屋まで戻り、パジャマを脱ぎ捨ててクローゼットから制服を出し、着替えた。そしてベッドの隣にある勉強机にかかったスクールバッグを取ると、急いで部屋を出る。そのときタンスの角に小指をぶつけたが、目に浮かぶ涙をこらえながら急ぎ足でリビングに戻った。

勇は急いでトースターを開けるとそこには見事、真っ黒に焦げた食パンが「ドヤァァ!」と言わんばかりに黒煙をあげていた。

「……今日のは一段と黒いな。」

焦げたパンは勇の口に運ばれた。

「うっっえぇ〜、苦ッ何これ!?過去最大級だわ。」

「もう、パンが無駄だからやめてちょーだい。」

母があきれたという顔で言う。

「ちゃんと食ってるから無駄にはなってないだろ。っとやべぇ遅刻する!」

パンを食べながら時計を見ると針は8時を指していた。それに気づいた勇は残りのパンを胃に納め、顔を洗ってもろもろの準備を済ませ学校へ向かった。

 

電線に止まっている小鳥が鳴く。いつも通りの通学路にいつも通りの日の光が注ぐ。

「おーーーい!ちょっと待てよー!」

無視したいほどの大声でまわりの人の注目を浴びながら俺の数少ないお友達、同級生の元素(もともと) 修樹(しゅうき)が走って近づいてくる。

「おい!聞いてんのか?…お前だよ!おい!勇!聞けって!」

全力で無視したがあまりにもしつこいので一言だけ返事をしてしまった。

「うるさい。」

「なんだよもう、返事するならもっと早くしろよな!そうだ!今日はアレ、どうだった?」

「だまれ。」

「おー?その様子だと、また真っ黒焦げのパン食ってきたんだな?相変わらずだな!」

「うるせーそれが俺の日常だっつーの!それになぁちょーっと本気出せばいつでも最ッ高の焼き加減のパンを食えるっつーの!本気出せば余裕だっつーの!そもそも朝からあんなにメールが届くから全然眠れなくて調子狂っちまったんだよ!」

ついに全力で反論してしまった。今まで修樹に向いていた周りからの視線は勇に切り替わる。しかしこれは、いつもの事だ。

朝の通学路に声が響く。これが南古都 勇の日常が始まる合図だった。

 

勇たちはチャイムが鳴る数分前に門を通った。

ここは八ツ橋高校(やつはしこうこう)。勇たちが通う学校、今日ここに、一人の少女が転校してくる。高校に入るには少し年齢が低いが、八ツ橋高校特有の特殊な方法で入学しようとしている。

「やっと着いた!もう!この地図読みにくすぎるよ〜」

手に持った紙切れを見ながらつぶやいた。

視線を上げるとこの前見たこともある人を見つけ、少女はその場でぴょんぴょん跳ねた。

「あっ!もしかしてあれゆうさんじゃない?」

緑色のオーバーオールを着た少女、水平 奈々はまわりの注目を集めない程度に叫んだ。

その直後学校のチャイムが鳴り、正門が閉じた。

 

今日も一日が始まる。




こんにちは、ぺんたこーです。たこではありません、ぺんたこーです。
今回は南古都 勇の朝、日常の始まりについて書かせていただきました。ちなみにこれは『響』と同じ日です。つまり勇は2時〜5時の3時間しか寝ていません。
まぁ、最高10日間徹夜したことがある彼なら(多分)大丈夫です。
しかし今回は全然、理系ホイホイしてないなぁと自分でも思いました。
次回は書けるようにがんばります!
第2話『鳴』読んでいただきありがとうございました。
また次回のあとがきでお会いしましょう!


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今日も授業が終わり、夢見る放課後が始まる。

勇にとっては部活動こそが学校に行く唯一の意味であった。

この廊下の先に部室がある。勇の歩く速さが上がった。

部室の前につくと、科学研究部と書かれた紙が貼ってあるドアを開けた。

「ちわーっす!」

挨拶をしながら部屋に入る。

部屋の中には様々な機材がところ狭しと並んでいた。そんな部屋の一角で金属が切れるような騒音と共に火花を散らしながら、何かを加工している少年がいた。誰かが来たことに気がつくと作業していた手を止めゴーグルを外し、ドアの方に視線をやる。

「なんだお前か…そうだ、昨日はご苦労だったな。」

そう言うとゴーグルを付け直し作業を再開した。

「おいおい、もうちょい何かねーのかよ?」

しかし勇の声は作業音にかき消されてしまった。

かろうじて空いていた机の上のスペースにスクールバッグを置き、奥にある更衣室へ向かう。

更衣室に着くと南古都勇と書かれた紙が貼ってあるロッカーを開けた。中には色々なものが無造作に入っていたが、勇はその中から迷うことなく一着の白衣を引っ張りだすと学ランを脱いで代わりに投げ入れ、更衣室を後にした。

慣れた手つきで白衣を羽織るとまだ作業をしている少年に声をかけた。

「そうだ!昨日の報酬はどこだ?」

作業をしている手を止める様子はなかった。

勇は察した。

「…まさか、また部費になったのか?おい!ウソだよな?」

勇は全力で自問自答を繰り返す。

「嫌だよぉ…なんで毎回部費になるんだよぉ」

壁に頭を何度もぶつける。ガンガンと鈍い音が鳴っているが勇は気にしない。

ガンガン…ガンガン…

「ゔゔ…おい!駆我ぁー!聞いくれよー!」

「お前はどうすれば静かになるのだ?」

駆我と呼ばれた少年は、作業していた手を止めゴーグルを外した。

「いい加減ムカつくぞ、全く…これでも食らってろ。」

駆我が銃のような形をしたモノを勇に向けた。

ギュイィィィィン

起動音がすると、勇が『何か』に押さえられたように壁に張り付く。

「ごぉお!?おぉおぉあぉあぉぉぁあ!」

もはや何を言っているのか分からない。

駆我が作業を再開しようとゴーグルを付けると勢いよくドアが開いた。

「しつれいしまーす!」

そこには緑色のオーバーオールを着た少女が腕を組んでいた。

「ここがゆうさんの言ってた科学研究部?なんか思ってたより…」

壁に張り付いた勇を見つけた少女、奈々は言葉を詰まらせる。

「…ゆうさん何してるの?」

「お前は誰だ?なぜドアを開けてから挨拶をする!」

勇は思った。ー つっこむところそこかよ! ーと。

奈々は駆我を見る。

「…!…もしかしてあなたが駆我(くが) かかりさん?」

「…ああ、そうだが?」

「すっごーーい!目の下にくまがあって、すっごく猫背で、えーっと…そう!アホ毛がぴょんってしてるー!ゆうさんの言ってた通りだー!」

奈々が言い終わった瞬間、勇がさらに強く『何か』押されて苦しそうにもがいている。

それを見た奈々が目を光らせた。

「すっごーーい!それってもしかして重力の向き変えるやつ?初めて見た!」

喜んでいる奈々を見て、駆我が呆然としている。

「お前…!これのすごさが分かるのか!」

「うん!だって地球の力をねじ曲げてるんでしょ?こんなのお金と時間と技術がすごくかかるに決まってるじゃん!」

「そうだろう!時間すごくかかるに決まっている!…しかーし!私は違う!」

奈々は首を傾げる。そのとき勇の方向に向いていた重力が元に戻り、身体が壁から床へ滑り落ちるが二人は気づかない。

「そう!私はこれを一日で作ったのだ!たった一日だ!どうだ、すごいだろう?」

「…!?うそでしょ、すごい!」

二人の会話は盛り上がる。

「あのー…俺のこと忘れてません?」

「おっと…もう電池が切れたか……チッ」

駆我は明らかに不機嫌な顔をしながら手に持っていた銃のような形をしたモノをコードにつなぐ。

「それ充電式なの?」

「そうだ…重力をねじ曲げるくらいだからな…一日充電して使えるのは40秒くらいだ。この効率の悪さから実戦での使用はキケンだとみなされボツになった。今思うともったいないな。」

「……それ、もう使わないの?」

「…?多分使わないと思うが…どうした?」

「もらってもいい?」

「こんなモノがほしいのか?お前も物好きだな…いいぞ、くれてやる!どうせ量産できるしな」

「やったぁ」

「だが悪用するんじゃないぞ。もし悪用したら…」

「殺されちゃうーなんてね!」

にっしっしとイタズラな笑みを浮かべる奈々を横目に駆我は驚いた。奈々の口から予想外の言葉が飛び出したからだ。

「お前…なにものだ?」

「私?…私は水平奈々!この学校に転校してきたの!まだ手続きが残ってるけど明日からみんなと一緒に勉強するよ?」

床でのびていた勇は思った。ー 昼休みに見たメールはこういう意味だったのか… ーと。

「あと、この科学研究部に入部するつもりだよ!」

駆我の頭の上に「!?」が浮かんだ。




こんにちは、ぺんたこーです。
読んでいただきありがとうございます。
今回は、一つ科学道具が出てきました。それはなんと重力の向きを変えしまうのです!勇は押されるだけで済みましたが、もっと出力を上げれば人を潰すことだって出来てしまうとても危ない道具です。奈々はこれをどうするのでしょうか?今後の活躍に期待して下さい!
それではまた、次のあとがきで会いましょう!


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「みんなぁ!おっはよぉ!」

 高らかな挨拶とともにドアが開き、ロングストレートな髪の少女が入ってくる。

「部長、おはようございまーす。」

「…!?…部長!なぜ昼に朝の挨拶をするのですか!」

「ぶちょー?」

 部長と呼ばれた少女は聞き慣れない声に違和感を感じる。

「…えぇとぉ…あなた誰?」

「俺か?」

「勇じゃない。そこの…緑色のオーバーオール着てる子。」

 きょろきょろ辺りを見回した後、自分の服を見てようやく気づく。

「あっ!私か。私は水平奈々!」

「なぜここにいるの?」

 部長がすかさず問い返す。

「え?…あっ…入部希望です!」

 部長の頭の上に「!」が浮かぶ。

「ちなみに俺の推薦です。」

 部長の頭の上に「?」が浮かぶ。

「な…な…なっ!?」

 部長の思考回路が停止して[ERROR]を示す。

「部長。大丈夫ですか?」

 駆我の呼びかけでやっと脳が再起動する。

「部長。こいつ、見た目はただのちびすけですが能力は相当のものですよ。今すぐ入部試験をするべきです。」

「にゅーぶしけん?」

「駆我がそんなこと言うなんて…こんな幼女相手に入部試験が成り立つの?」

「心配しなくても大丈夫ですって。奈々が作ったスキルめっちゃすごかったんですから!」

 部長は腕を組み、考えはじめた。考えながら更衣室へと向かう。数分して部長が戻ってくるが、先ほどまでの部長とはかなり雰囲気が違った。

 服はセーラー服から白衣に変わり、顔には変な化面をつけていた。そして喋り方に特徴がある。

「よし!よいであろう。ではこれより、入部試験を行う!」

 勇と駆我が拍手や口笛で盛り上げる。

 奈々は思った。ー この部活、大丈夫かな… ーと。

「内容は簡単だ。今から言うお題を明日までにクリアする。それだけじゃ。」

 不思議そうな顔をしている奈々の耳元で勇がささやく。

「簡単って言ってるけどだいたいの入部希望者はここで落ちるぞ〜。さらにこれの後、面接まであるからなんか考えとけよ!」

「それではお題を発表する。」

 部長が合図をすると駆我がPCを操作し、ドラムロールの音を流す。

「お題は……明日までに、スキルを一つ作ってくる!」

 今までノリノリだった勇と駆我の顔が冷水をかけられたかのように凍り付く。

「部長…ちょっと難しすぎませんか?」

「あぁ…俺もそう思う。」

「どうした?諸君。こやつはスゴいのあろう?資金はいくらでも出す。まぁ、せいぜいがんばるのじゃ!」

 二人は言葉を失う。

「ちなみに『スキル』とは何か知っておるか?」

「それぐらい知ってるよ!スキルは科学武器の『隠語』でしょ!」

「ほぉ、さすがに知っておったか。」

「そんなことより、お金はいくらでも出してくれるんでしょ?」

「うむ、そうじゃが?」

「どんなスキルを作ってもいいんでしょ?」

「そうじゃが…あえて言うなら人間一人を余裕で殺せるくらいの威力は欲しいのぅ」

 その返事を聞いて奈々は左手を腰にあて、右手で部長を指差した。

「材料調達に2時間。道具収集に1時間。スキル作成に2時間。これで充分よ!」

 場にいた三人が目を見開いて奈々を見る。

「あれ?聞こえなかった?」

 そう言うと奈々は右手の指をすべて開いた。

「合計5時間で充分よ!」

 

 5時間後、奈々は本当に作ってきた。背中には奈々の体に対しては少し大きめのリュックサックを背負っている。

「さぁ!みんな集まった?」

 時刻は21時、さすがに学校は使えないそうなのでこの前の公園に来た。

「っと、その前に…ねぇゆうさん!昨日の夜の死体はどうしたの?」

「アレなら駆我に頼んで片付けてもらったぞ?」

「そう…」

 奈々はどこか寂しげに答える。

「夜中に電話がかかってくるんだぞ?本当にうっとおしい」

 駆我が愚痴を言い始める。しかしあることに気づき、真剣な顔で奈々を見た。

「…?!お前……見てたのか?」

 奈々がうなずく。

 駆我はあのときなぜ、自分が言おうとしていたことが奈々に言い当てられたのか理解した。

「そうか…どうりでお前が傷だらけだったわけだ…」

 駆我の勇を見る目が変わる。

「とーにーかーく!私の作ったスキル、見てよね!」

 そう言うと奈々は背負っていたリュックサックからサイズの機械を取り出す。

「なんだそれ?あれか?握力計るやつか?」

「ちっがーーーう」

「ではそれはなんなのだ?」

「よくぞ聞いてくれました!見ててね!」

 奈々は機械を持つとレバーを引く。すると先端についている、4本のツメのようなものが風を裂いて勢いよく閉じる。

「どう?」

 みんな、何と言えばいいのか分からない。

「…えーっと これ何?」

「名付けて!『びりりん』だよ!」

 ますます何と言えばいいのか分からない。

「ところで、これのどこに殺傷能力があるのじゃ?」

ー部長!喋ってくれたのはうれしいけどスゴくヒドイ事言ってる!ー

 奈々は、待ってました!と言わんばかりに胸を張る。

「いくよ?」

 持っている機械、命名びりりんの側面についたボタンを押す。

ー バヂバヂッ ー

 すると4本のツメが付け根の辺りから熱が伝わるように激しく光る。

「これで掴んででバチバチっとすれば、だいたいのものは真っ黒焦げだよ!」

 部長は思う。

ー こやつ、思っとる以上にやりおるのぅ ー

 駆我は思う。

ー このチビすけ、やはりスゴい ー

 勇は思う。

ー 俺の朝ご飯と同レベルだ! ー

「ねっ?スゴいでしょ〜」

 奈々は手に持っているスキルを見せつけるように構えて、空いている左手を腰に当てて胸を張る。

「うむ、確かにスゴいが…ちとネーミングセンスに欠けておるのぅ」

「…えっ!?部長!つっこむところそこですか?」

「やはりそうですよね。ちびすけ。漢字で『雷牙(らいが)』というのはどうだ?」

「いやいや、もっとこう英語でかっこ良く『グラブショッカー』とかどうじゃ?」

 名前を決める話し合いの中、勇はひとりこう思う。

ー みんなネーミングセンスが無さすぎる ーと。

「まぁ、とりあえず合格じゃな。」

 3人の会話が弾む中、どさくさにまぎれて部長が言った。

ー 今サラッと重要なことを言った気がする。 ー

 勇はもう、話に入れなかった。




こんにちは。ぺんたこーです。
読んでいただきありがとうございます。
今回は奈々の入部試験です。まぁ、余裕でクリアしましたね(汗。
そんな奈々にこれからも期待してください!
それでは、また次のあとがきでお会いしましょう!


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「こんにちわー!」

 奈々が部室に入る。

「おーっす。」

「何だ、ちびすけか。」

「あれ?ぶちょーは?」

「奥で着替えてるぞー」

 そう言われると、おっけーとだけ返事をして奥にある更衣室へと向かった。

「部長こんにちわー!」

 奈々は挨拶をすると同時に更衣室のドアを開けた。結構勢いよく。

「ひぃい!って、奈々ちゃんかぁ…ビックリした〜」

 その言葉に違和感を感じ取りしばらく沈黙が続く。それを打ち破ったのは部長だった。

「ど…どうしたの?」

「いや、昨日と喋り方が違うなぁって思って…」

 部長の顔が真っ赤に染まる。手に持っていた白衣で顔を隠してしまう。

「それは…その……」

 これほど緊張する必要があるか。しかもこんな年下に。

「じゃあ、昨日つけてたやつは?」

「あ…コレ?」

 部長は奈々が指差した、ロッカーの中に入っていた変な仮面を取り出した。

「そう、それ。」

「コレは…そのぉ…」

 ますます、しどろもどろになる。

「お〜い!ちびすけ、ちょっと手伝ってくれ!」

「あっ!駆我さんが呼んでる。ごめん部長、ちょっと行ってくる。」

 

「すまんな、ちびすけ。ちょっとここの溶接を頼む。」

 頼まれた作業はとても簡単で、それこそ奈々にも余裕で出来ることだった。奈々で余裕なら駆我さんは秒でやってみせるはずだ。

「もう!そんなの自分でやればいいじゃん!」

「あれを見てもそう思うか?」

 駆我が指差した方に目を向けると燃え盛る炎が部屋の角を淡いオレンジ色に変えながら大きさを増していた。

「何かが何かに引火して、何かしらの化学反応が起きたらしい。今、冷却装置を作っているのだが作業が間に合わな…」

「勇のやつははどこ行ったんや!」

 言葉を遮るようにして奥から部長が飛び出しながら言う。

「さっき、仕事に行きました。」

「……後で詳しく聞くわ。」

 部長は関西弁でそう言うと三人は冷却装置を作り始めた。

 

「できた!」

 作業開始から3分もかからずに冷却装置が完成した。つまり3分間部室の角っこは酸素を使ってメラメラと燃えていたのだ。火は大きくならないが小さくもならない。

「えーっと、これの名前は……ひやりん!」

「いや、そこは漢字で『氷刻(ひょうこく)』というのはどうや!」

「英語で『アイスフォーメーション』とかどうや?」

 誰が見ても、今するべきではない会話の中、突然ドアが開き勇が焦った顔で入ってくる。

「ぅおおぉぃ!なにやってんだ!部屋燃えてるじゃねーか!」

「あ、忘れてた。」「忘れとった。」「忘れてた。」

 三人顔を見合わせる

「消せよ!」

「何を?」

「火だよ!ちょっとどけ!」

 勇は持っていた鞄を乱暴に投げ、積上った機材の山をかき分けて赤い円柱形のものに黒いチューブがついたものを引っ張りだす。

 それの上方部分についた黄色い部品を引き抜き、チューブを炎に向けてグリップを握る。

 するとチューブの先端から桃色の煙が吹き出し、炎を徐々に小さくしていった。やがて火は消え、勇は疲れきった顔でため息をついた。

「ふぅ、危なかった…」

「お前それ何だ?」「そんなスキル作ってたの?」「すごいやん…」

 三人の反応に勇は肩を落とす。

「これ知らないの?」

 三人は口をそろえて、知りませんと言う。

「これ…消化器だぞ?」

 それを聞いた三人は雷に撃たれたように衝撃を受け、口をあんぐりと開けたまま硬直した。

「これが消化器…」

「まさかこんなところで出会えるなんて…」

「そんなことより、何が燃えてたんだ?」

 勇が今は真っ黒に焦げている部分に近づく。

「何だこれ?」

 灰の中に埋もれている溶けた瓶をつまみ上げ、ラベリングされている文字を読み上げる。

「U…」

 勇は三秒間、脳をフル回転させて考える。

「まさか、ウランか?」

 その問いに駆我が答える。

「そうだが?」

「瓶のふたは開いていたか?」

「あぁ、多分開けっ放しだった。それがどうした?」

「やっぱりか…あのなぁ、ウランは自然発火性物質だから湿度が高いと火がつくんだよ。」

「…!そうだったのか、気をつける。」

 反省する駆我を横目に奈々が口を開く。

「そういえばゆうさんどこ行ってたの?」

 少しの間、沈黙が続いた。部長がそれを打ち破る。

「うちが説明するわ。」

「あ…その前に部長の喋り方の件を…」

「これか?これはうちのコミュ症を改善するためのもんや。」

 奈々の頭に?が浮かぶ。それを見て部長は言葉を付け足す。

「この仮面型のスキルをつけて、喋り方を変えることで自我を保てないようにして、意図的にもう一人の自分を作る。まぁ、あくまで話してるのはうち自身やから記憶とかは全部引き継いでる。まぁこれを化学武器と呼んでええかは分からんけどな」

「ようするに、強制厨二病製造マシーンだ。」

勇が横からささやくと部長が「うるさいわ!」と言ってポカッと頭をたたいた。

「そうなんだ。じゃぁ、ゆうさんの仕事は?」

 言い終わる前に学校のチャイムが鳴り響く。気づけばもう外は夕日に照らされ真っ赤に染まっていた。

「もうこんな時間か…勇の仕事いや、うちらの仕事のことはまた明日話すわ。そんじゃぁ解散!」

 

 夕日が照らす帰り道、奈々は一人こう思う。

 やっと、あの部活の本当の姿が知れる…かも。あぁ、明日が楽しみだなぁ。

 家へと歩く足はいつしか、スキップになっていた。




こんにちは、ぺんたこーです。
読んでいただきありがとうございます。
今回は勇以外の三人がどれだけ常識知らずかを知っていただきました。
そして次回からバトルシーンが豊富になると思います。
ついに科学研究部の本業が明らかに!
それではまた次のあとがきで会いましょう!


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「単刀直入に言うよぉ。」

 部長の言葉に私、奈々は息をのむ。部長は仮面をつけていなくても変な喋り方だ。なんと言うか…声がだんだん小さくなりながら母音をのばしている。

「私たちの本業はぁ」

 駆我さんもゆうさんも静かに部長を見ている……あっ、ゆうさんは後ろでこっそりナイフ型のスキルを研いでる。

「アサシンだよぉ。」

……?

 私は「アサシン」の意味が分からなかったが、そんなこと言えるはずがなく変わりに「うそーすごーい」と超棒読みで返した。

 そんな私を見て駆我さんはパソコンの画面を私に向けた。そこには「アサシン 意味」の検索結果が表示されていた。

「えーっと…アサシン (Assassin) は、暗殺者、暗殺団、刺客という意味を指す英単語。」

 アサシンは暗殺者っていう意味だったのか……」

 え?

 えぇ!?

 

 はっ!ここどこ?

 あれ?部室だ……周りには部長も勇さんも駆我さんもいた。

「あれ?私……」

 全然状況が分からない私に部長がいつもの変な喋り方で答える。

「えーっと…私たちの本業の話をしたらぁ、突然倒れて1時間後だよぉ。」

「え?1時間も!?」

 みんな揃ってうなずく。外を見ると日が沈みかけていた。どうやら本当に倒れてしまったようだ。本業は確か…そうだアサシンだ!

「本当にアサシンなの?」

「あぁ、依頼を受けて目標を狩り報酬を貰う。それだけだ。」

 坦々と話す。その顔にはいつもの光はなかった。

 しかし私が求めていたのはこの人たちなのだ。長年ーといっても6年くらいだけどー探してやっと見つけた。この人たちに頼めば………

「私の…」

 この時を待っていたはずなのになぜか声が出ない。恐怖ではない。しかしそれに近いもの。

「どうした?ちびすけ?」

 パソコンを閉じながら駆我さんが言う。声はなかなか出なかった。みんなが私を見つめること数秒、静寂を破ったのは部長だった。

「どんな依頼なのぉ?怖がらないで言ってみなよぉ。」

 喋り方は相変わらずだが私は驚くことしかできなかった。さっき私は「私の依頼を受けてくれる?」と言おうとしたからだ。

「まぁ、分かってるけどねぇ。誰を殺して欲しいの?」

 私は何も言えなかった。さっきまでとは違う何かが私の声をのど元で止めている。

「まぁ、それも分かってるけどねぇ。水平(みずひら) ひかりでしょぉ?」

 もうなにも言うことはない。それほどまでに部長は私の言おうとしていたことを当ててしまったのだ。理由は分からない。何か脳内思考を読み取るスキルがあるのかと思ったがこの部屋には機械が多すぎてどれが思考を読むスキルなのか分からなかった。今回ばかりは声が出そうだ。私は思い切って部長に聞いてみる。「なぜ分かったの?」と。

 しかし声が発せられたのは奈々の口からではなく部長の口からだった。

「なぜ分かったのぉ?そんなこと言われてもぉ、知ってた(・・・・)としか言えないよぉ。」

「どういうこと?」

 今度は部長に言い当てられる前に話すことができた。何となく、勝った!と思ったが知っていたとはどういうことなのかは気になる。

「例えばぁあと8秒後に奈々ちゃんの目標(ターゲット)が来るよぉ……3…2…1…」

 部長が0と言うのと同時に、部室の窓を突き破って轟音をたてながら何かが突っ込んできた。

 その何かは奈々を驚愕させるものだった。

 奈々と同じ黒色の髪は肩の少し下までの長さで、赤縁のメガネの下で見開く瞳は奈々と同じ緑色、身にまとっているのは白衣。間違いなく水平 奈々の母、水平 ひかりだった。

「あら、奈々こんなところにいたのね。さぁ、帰ろ?」

 手を伸ばしてくるひかりを奈々はただ見つめることしかできなかった。

 数秒後、勇が部室のドアに触れた瞬間、轟音と閃光で部屋の中が満たされた。轟音と閃光、これは間違いなくスキルだ。しかも奈々が作った中でもかなり周りからほめられたもの。

 確かこのスキルは視覚と聴覚を麻痺させることができる。これは攻撃ではなく援護なので、次は攻撃がくる。

そう考えた奈々は危険を知らせるべく叫ぼうとした。しかし声が出なかった。いや、正確には空気を吸えなかった。奈々はまた考える。

 今度は、考え終わるより先に何かが身体にあたった。それは次々と流れて来て、奈々の体を押しやろうとあたってくる。痛みはないが気を抜くと飛んでいってしまいそうだ。これは風だ。でも奈々は風を起こすスキルを家で見たことはない。つまり……

「勇さん!」

 奈々の叫びが伝わったように風がやみ、代わりに上から何かが押し付けてくる。このスキルは知っている。以前駆我さんに見せてもらったものだ。

「駆我さん!」

 奈々がまた叫ぶと駆我は重力操作装置の対象をひかり一人に向けた。

「さぁ、観念しなさぁーぃ」

 やはり部長の喋り方はおかしいと思う。

「奈々、こいつどうする?」

 勇の問いに奈々は迷わず答えた。

「殺して」

「報酬は?」

 今度は駆我さんだ。一瞬迷ったが覚悟を決める。

「私がこの部活に貢献する」

 最後に部長が言う。

「そういうことでぇ〜サヨナラBAIBAI!!」

 今までの部長とは違う喋り方だ。これはもうローマ字表記にするしかないほどの迫力だ。

 部長の言葉とともに水平 ひかりの首は胴体とはなれて部室の床を赤黒く染めた。




こんにちはぺんたこーです。
いろいろごちゃごちゃになりましたね。
次回はなぜ奈々が母を殺してほしかったのか、その動機に迫ります。
ではまた次のあとがきで。


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地面には水平 奈々の母、水平 ひかりの首が転がっていた。

「本当にこれで良かったのか?」

勇の問いに奈々は答える。

「うん、どれだけ強いスキルを作っても、ほめてくれるだけで認めてくれなかったから」

うつむく奈々を横目に勇は、部室の掃除を再開する。

 黙々と掃除を続けていると、奈々が語りだす。

「この前、勇さんが殺した人……私のパパなの」

その発言に部室にいた奈々以外の3人が驚く。

「パパもママもずっと化学武器(スキル)開発のことばかり考えてて、私もそれを手伝わされた。すごいスキルを作って、闇市で売って、大金を手に入れて、また作っての繰り返しだった。普通の家族でいたいのに夫婦そろって研究に突っ走るから、私が説得したって意味が無かった。だから暗殺を依頼した。」

「それが俺たちってわけか…」

「うん。二人に内緒でスキル作って、それを売ってできたお金で依頼を出した。一応名前は伏せたんだけど、すぐばれちゃったね」

「私が奈々ちゃんの言いたいことをぉ、当てれた理由が分かったのねぇ?」

「うん。初めての暗殺依頼だったから、資料送りすぎちゃった」

 いつの間にか、部室はーさっきよりーきれいになっていた。みんなが掃除道具を片付ける中、部屋の隅に置いてある生ゴミの入った袋を持って駆我が言った。

「これは私が処分しておく」

「おう、助かる」

勇が答えると駆我は袋を持って部室を出ていった。

「さてとぉ、これからどうするぅ?」

この特徴のある喋り方はもちろん部長だ。

「あ、俺次の仕事行ってきます」

「わたったぁ、そうだ奈々ちゃんもついていったらぁ?」

部長の急な提案に私は体が少し硬直した。まだ入部してすぐなのにもう実戦を見学するのか…普通に考えればだいぶ異常なのだがまぁ、実質小学6年生の奈々が高校にいる時点でこの学校は異常だ。

「うん、わかった」

「え!ちょ、まじすか部長!!今回はタルタロスに行くんですよ?」

タルタロス?また、知らない単語が出てきた。これは後で聞くとしてそんなに危ない場所なのだろうか。

「ねぇねぇタルタロスってどんなところなの?」

結局気になって今、聞いてしまった。

「えっとだな……とりあえず、歩きながら話そう。じゃ、行ってきます部長」

「いってきま〜す!」

「いってらっしゃぃ」

部長に見送られ私とゆうさんは部室を後にした

 

ゆうさんが走らせている車は、銀色のボディのスマートな形をしていた。後部座席には資料が散らばっているがそれ以外は意外と綺麗だった。

「タルタロスっていうのは自慢の化学武器(スキル)を競い合わせる大会なんだ」

「おおーなんか面白そう!」

「いや、そのルールが無法すぎて面倒なんだよ…ってしまった!信号間違えた!」

車のハンドルを回してアクセルを踏みなおすゆうさんを横目に私は質問した。

「どんなルールなの?」

「いや、ほぼルールなんてないぞ?制限時間30分の間でスキルを使って殺しあう。それだけだ。死んでも自己責任、観客席に被害が及んでも自己責任、観客席での揉め事も自己責任、タイムアップ後に手を出した場合のみ、その場で処刑っていう超外道なルールだ。」

「そんな場所に何しに行くの?」

そういえば聞いてなかったのだ。今回の目的を。そんな物騒なところにどんな用があるのだろうか。運転しながらゆうさんは答える。

「えーっと…今回は回収かな?後ろに資料あるだろ?そこのファイリングしてるやつ」

車の後部座席に無造作に置かれた紙の束からファイルを引っ張り出して、開いてみる。要約すると、貴重な素材を使っているスキルを使う人が出場するから、その素材をスキルごと入手してほしいとのこと。

「そういえば負けて死んじゃった人はどうなるの?」

「基本的に遺体は運営側が処理して所持品は勝者のものになるが、仲間がいるならそいつらが遺体と所持品を一緒に回収するだろ」

「じゃぁ、ゆうさんはこの人を殺さないといけないの?」

「そうだな、あー考えただけで面倒だ。試合前に説得してみるか」

それからしばらくは車のエンジン音だけが車内に響いた。

 

「着いたぞ」

車を降りると目の前にはいかにも違法な感じの廃ビルが連なっていた。車を降りたゆうさんはいつの間にかいくつかのスキルで武装されていた。といっても一辺10センチ程度の四角形を腰やら腕やら手の甲やらにつけているだけだった。

「こっちだ」

武装したゆうさんは迷いなく進んでいった。

跡を追うと地下室への扉へたどりついた。それを躊躇なく開けるとエレベーターに乗り込んだ。

エレベーターが下に行くにつれて、歓声のような音がどんどん大きくなっていった。扉が開いた瞬間、その音はより大きな音の弾丸となって奈々の鼓膜を襲った。

エレベーターを出てすぐ右に受付のような場所があった。ゆうさんは受付の女性と話を済ませると奈々に向かって言った。

「何か困ったことがあったらこれ使え」

投げてきたのはまだ見たことのないスキルだった。手に収まるくらい小さい鎌のようなものだ。多分、刃の部分に何かの細工があるのだろう。私はそれをポケットに突っ込んだ。

「待ち時間がなかったのは運が良かった…そんじゃ、サクッと片付けてくる」

ゆうさんがだるそうに言うときれいなクラウチングスタートを決めて走り去って行った。




こんにちは、ぺんたこーです。
やっとバトルの舞台が登場しました。タルタロスです!
由来はギリシア神話の魔城から
さて、ひかりさんの存在が忘れられてますが、水平夫婦はかなり強いスキル使いですよ?つまり、勇たちが強すぎるというわけであって、タルタロスは余裕なわけです。しかし、そこに思わぬ罠が!?
それではまた、次のあとがきで!


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 ゆうさんがバトルリングに現れると、会場は盛り上がった。かなり有名人らしい。一応仮面で顔を隠しているが全身の装備と比べると、かなり(もろ)そうで少し間違えば砕けてしまいそうだ。

「第八回戦はァァ!!乱入参戦で惜しくもシード権を使えなかったァ!双剣使い!ブレイドォォ!!対するは、今回も圧勝を見せるのかァ?不敗の英雄!謎の仮面の男ォ!!グレイモアァ!!」

 とてつもなく熱い実況が始まった。グレイモアというのがゆうさんだろう。あのゆうさんが不敗の英雄なんて呼ばれてると笑いが止まらない。それにしても、対戦相手の方も剣を使うからブレイドって正直かっこ悪い。

 

「秒で終わらせる」

 仮面をつけた勇はブレイドに向かって言い放つ。

「お前とは一度戦ってみたかったんだ」

 ブレイドの口調はどこか好奇心と歓喜を含んでいた。

「いいのか?ここで戦ったら二度目はないぞ?」

「優勝候補と戦って死ねるなら光栄さ!さぁ、始めよう!」

 ブレイドは言葉とともに両腰の剣を腕を交差させて抜くと、少し前かがみになって勇ことグレイモアに向かって走った。

「すまないな、今回の目的はお前じゃないんだ」

 勇は静かに言うと右腰に手を当て、四角形のコンパクトな化学武器(スキル)の起動ボタンを押した。すると四角形は滑らかに展開し、やがてまとまって剣のような形になった。

 そのスキルを外して持つと走ってくるブレイドめがけて軽く一振りした。

 走ってくるブレイドは腰のあたりを境に少しずつずれ、それでも下半身は上半身を置いて動き続け、やがて膝をつき、完全に動かなくなった。

 

 遠くから見ていた奈々にも何が起こったのかすぐにわかった。

 ゆうさんが剣型スキルを振ると、走っていた対戦相手が上下真っ二つになったのだ。体のあちこちについている四角形のスキルは全て十分な殺傷能力があるに違いない。そう考えると、あの部活の裏の姿を知ってしまった自分が、まだ生きていることが奇跡のようだ。きっと入部試験で認められたのだろう、そう思うことにした。

 実況がグレイモアの勝利をハイテンションで知らせているのを確認すると、私はゆうさんの次の相手を確認するためにリーグ表なるものを探しに行った。

 

「ふぅ、お疲れさんっと」

 初戦を終えた俺はリングを出て、奈々を探しに行った。

 剣の達人を剣で倒してしまったが、まぁ盛り上がっただろう。

 この無法地帯、タルタロスにはいくつかの隠された賞が存在する。その一つが『会場を一番盛り上げた者には景品が貰える』というものだ。決勝が終わると係員に声をかけられて、日時と場所を書いたメモを渡される。その場所に行けば特別賞が貰えるのだ。

 他にもいくつかの特別賞があるのだろうが、俺が見つけたのは今のところ4つだ。前に特別賞を受け取った時、大会主催者にそれとなく聞いてみたら、かるく10個以上はあるそうだ。

 全てが良い景品である保証はないが、情報屋に売るとなかなかいい値段になるので依頼のついでに探している。

 とりあえず俺は、次の対戦相手を確認するために受付横のリーグ表を見に行った。

 

 奈々は受付横で口を開いて立っていた。目線の先にはリーグ表がある。恐怖に満ちた顔で奈々は表に記載されている名前の一つを読んだ。

久保(くぼ) (らく)……」




こんにちわ、ぺんたこーです!
今回は勇が圧倒的な力を見せる話でした。はい、ブレイドさんはお気の毒です。
できれば挿絵とかも入れたいと思っております。
それではまた、次のあとがきで!


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 どうしよう、リーグ表を前に私は目を疑った。そこには名前がある。しかし、たかが文字だ。もしかすると名前が同じだけで全くの別人なのかもしれない。されど文字だ。現に今、私の体は恐怖で軽く硬直している。

「お〜奈々、ここにいたのか」

 緊張状態でいきなり話しかけられたので心臓が飛び出るかと思うくらい驚いた。でもこの声はゆうさんのものだ。私は安心して振り返るとそこにあったのは、

「……ゆうさんなに食べてるの?」

「なにって…干し芋だが?」

干し芋を食べているゆうさんだった。

「そうだ、リーグ表見たのか?次の相手は誰だ?」

 その光景に苦笑いをするしかなかったが、干し芋の件をきれいに流してくれたので私は答える。

「えーっと……」

そういえば違うところを見ていたので、ゆうさんの対戦相手は確認していなかった。

「……おっ、次の相手が目的のスキルを持ってるやつか」

固まっている私を通り越してリーグ表を見たゆうさんは、干し芋をかじりながら言った。

「パーツ回収したすぐに帰るぞ」

 予想外の言葉に私は驚愕を隠せなかった。

「え?なんで?最後までやらないの?」

「今回の目的はパーツ回収だけだ。この大会で優勝することじゃない。それに、無駄に人を殺したくないし、俺だって命かけてまでやりたくねぇよ」

 これまた予想外だ。てっきりゆうさんは『強敵はどこだぁ!』とか言ってる人なのだと思っていた。それに人の命を案じていることも意外だ。まぁ、自分の命を大切にすることは普通だ。

「そうだ奈々。これ持っとけ」

そう言うとゆうさんは、私に新しいスキルを渡した。そのスキルはとても小さく、カプセルの錠剤に似ていた。色は黒く、見かけより重かった。

首をかしげる私にゆうさんは、スキルの説明をしてくれた。

「それは小型カメラだ。カプセルの両端を持ってひねるとフタが開くだろ?」

 ゆうさんに言われた通りにひねってみると、フタが開いて片方にはレンズが、もう片方にはボタンのようなものがついていた。

「そっちのレンズがカメラの本体だ。そっちのボタンを押すと写真、長押しで動画が撮れる。普通は眼鏡とかにつけるんだが、他にも仕込むところはあるだろ。まぁ、便利だから持っとけ」

 多分、このとき興奮のあまり笑みが溢れていただろう。

「データは部室にあるパソコンに直接保存される。容量は気にしなくていいぞ」

 説明を終えたゆうさんは「じゃ行ってくる」と言って人混みの中に消えていった。

 しまった、リーグ表に書いてあった名前の人物について話すことを忘れていた。少し考えた後、ゆうさんの対戦相手じゃないからいいか。と自分の中で勝手に決めた。

 

「あんたが優勝候補のグレイモアか?」

「あぁ、そうだ」

 今回の目標の持ち主に対して勇は答える。相手の名前はルート、服装は普通のスーツだ。右手にはスキルらしき鉄塊を持っている。それはガトリングガンのような形をしている。その他の装備は何もない。

「すまないが、俺の目的はあんたのスキルだ。それ置いていってくれないか?俺だって無意味に命を奪いたくない」

 その問いにルートは微笑しながら答える。

「私はここに戦いに来たんだよ?それをスキルを置いて帰れってか?きみはバカか!ハハッ」

「別に降参してやってもいいぞ。俺の目的はあくまでもスキルだ。命じゃない」

「それじゃきみに勝ったってスキルがないなら戦えないじゃないか、矛盾してるよ!」

 勇は少し考え、それもそうだな、と呟いた。

「交渉決裂ってワケだ。さぁ、始めようぜ?優勝候補くん」

「あぁ、終わらせよう」

 数分間の話し合いの末、二人は戦うことになった。

「みたところ、きみのスキルは接近系ばっかりだ!ならば近づかないまでだ!」

 ルートは開戦と共に右手に持っているスキルを勇に向けて構えトリガーを引いた。会場中に爆音を響かせて放たれた弾丸は、勇の額めがけて一直線に飛んでいった。

「甘い」

 勇が呟く。弾丸が当たるギリギリでしゃがんで左足についている正方形のスキルを取り、ボタンを押す。正方形は展開し、やがて閉じ新たな形を作っていた。それは誰が見ても分かるほど普通の形をした片手銃だった。

 勇は躊躇(ちゅうちょ)なくルートに向けて引き金を引いた。

 飛んでくる弾丸をルートはスキルの側面で受け、自分を守る。金属と金属が衝突し、耳障りな金属音が響く。

「遠距離系があったとは……予想通りだな」

「さっさとスキル置いて行ったほうが身のためだって言ったのに、お気の毒だ」

 勇は銃口をルートに向けて構える。

「あんたのそのスキル接近戦にも()けているだろ?一つで二つはいいアイデアだが、重すぎると振り回せなくなるぞ?」

 勇は引き金を引き、弾丸はルートに向かって飛ぶ。ルートはスキルを横に向け、さっきと同じように防ぐ。再び音が鳴り響く。

「そんなオモチャじゃこの私には勝てないぞ?あんた勝つ気はあるのか?もっと本気出してもいいんだぜ?」

 自信ありげに言った言葉に、勇の表情が変わった。

 勇は笑った。正確には口角を五ミリほど上げただけだが、それでも会場にいる常連さん達には分かった。

 この戦いの勝者がどちらなのか

 勇は素早く弾丸をリロードすると、この試合三発の弾丸を放った。どう見ても普通の銃から放たれた弾丸は、前の二発と同様にルートの持つガトリングガン型スキルの側面に当たった。しかし前の二発よりも大きな音が生み出された。それは金属音ではなく爆発音だった。バトルリングの中央で、小さいながらも十分な殺傷能力を持った爆発が眩い光と共に広がった。

 勇が放ったのは爆裂弾だった。

「教えてやるよ!」

 爆発に巻き込まれた者が真っ黒になりながらも息をしていることを確認した勇は、新たな弾を装填しながら近く。

「教えてやる、さっき撃った弾は先端にエタノールを染み込ませた綿を入れて、後方には火薬を詰め込んだものだ。あんたのスキルと接触した時の火花が綿に着火して潰れた弾の中で火と火薬が反応する。それだけだ。火薬の威力はいじってあるけどな」

勇は銃口をルートに向けて、

「じゃ、人生お疲れさんっと」

四発目の弾で脳天を貫いた。

 

ー彼は勇を笑わせてしまったのだー




こんにちは、ぺんたこーです。
皆さん、最近笑っていますか?
笑うことはいいことですよ。それがたとえ、愛想笑いでも、苦笑いでも、余裕の笑みでも、怒りの上位互換でも、笑い泣きでも……
それではまた、次のあとがきでお会いしましょう。


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 私はゆうさんが勝ったのを確認すると、リングへ向かって走った。ゆうさんが発砲したと思ったら急に爆発が起きたのだ。煙が引くと発砲音がもう一度聞こえてルートさんが動かなくなっていた。私がリングを登るとゆうさんは対戦相手の遺品を担いでリングを降りるところだった。

「お、奈々、どうした?」

「どうした?じゃないよゆうさん!大丈夫なの?」

揚がった息を整えながらゆうさんの後ろをついていく。方向からして多分受付へ向かっているのだろう。

「大丈夫なの?って言われても…無傷なんだから大丈夫だろ」

人混みをかき分けながら歩いていく。ゆうさんは回収したスキルのパーツを肩に乗せて担いでいる。かなり大きく、結構重そうだがゆうさんの顔は全然辛そうに見えない。きっと見た目のわりに質量は無いのかもしれない。

受付に着くとゆうさんは手っ取り早くリタイアして、私達は狂気の戦場タルタロスを後にした。車の後ろの荷台にゆうさんが担いでいたスキルを置く時、車が傾いた気がしたが気のせいだろう。

依頼の物を部室へ帰る途中ゆうさんが部活について話してくれた。

「八ツ橋高校化学研究部は依頼を受けて、それを遂行する。依頼は3種類あって、目標を仕留める『討伐』、頼まれた物を調達する『回収』、それ以外の『特殊』、だ。だいたいは化学武器(スキル)絡みの依頼だ。命が賭かっている分、報酬も弾むんだ。」

「今回は回収だったってこと?」

私が聞くとゆうさんは、そうだと答えた。

「じゃあ、その『特殊』ってなんなの?」

ゆうさんはすぐには答えなかった。深呼吸をしてから答えた。

「『特殊』はさらに細かく種類分けされる」

ゆうさんは静かにハンドルをきる。

「まずは『安全』、スキルの改造や買取なんかをするんだ。他の依頼に比べて安全度がかなり高い。次に『危険』、取引や偵察をする。あくまでもこちらからは仕掛けないから討伐とは別物だ。最後に『極限』だ。」

説明を終えるとゆうさんは黙ってしまった。

それからしばらくエンジン音のみが聞こえるだけだったので、私は窓から外の景色を見ていた。何も考えずに流れ行く景色を見つめる。

湯豆腐、うどん、ハンバーガー、ショートケーキ……

何故か食べ物ばかりが認識してしまう。そんな自分が嫌になったのか私は目線を上げ、空を見た。どれだけ地上が色褪せても、いつも変わらず青い空を、ただぼーっと見つめる。

「ねぇゆうさん、空が青くなくなったら、それはこの世の終わりってことなのかな?」

「急になに言い出すんだ。フラグが立つぞ」

私は、そうだねと言って運転席の方を見るとそこには、

「……ゆうさんなに食べてるの?」

「なにって…ぬれ煎餅だが?」

ぬれ煎餅を食べているゆうさんがいた。

 

しばらくして学校に着くと駐車場に車を停める。学校に車を停めても大丈夫なのかと思ったが、免許も持ってるし部活動の一環だと言って学校側も納得しているとゆうさんが言っていた。

部室に着くと部長がいた。

「おかえりぃ、大丈夫だったぁ?」

相変わらず変な喋り方だ。

「ええ、何もありませんでしたよ。これが今回の依頼品です」

そう言うとゆうさんは肩に担いでいたスキルを部長の前に降ろす。スキルが地面と接触する時に、ドスンッという音がした。やはり相当重いようだ。

「そういえば部長、どうして今日はお面つけてないんですか?」

私がそう言うと部長は急に頰を赤らめて目を回し始めた。

「あのねぇ…作った人格で喋ってる間はいいんだけどねぇ、仮面をとった後にねぇ…とっても恥ずかしくなるのぉ。強制的に人格を作っても、記憶は維持してるからぁ…だからそれだったら、頑張って喋った方がいいと思うのぉ」

「そうだったんだね…」

切ない理由に自然に苦笑いが漏れる。

「それはそうと部長!今回の報酬はどうなったんですか?」

ゆうさんの問いかけに答えた人はいなかった。強いていうならゆうさん自身が答えた。

「また部費になったんですね…」

その声はとても小さかった。そしてその次に発せられた言葉は、今のゆうさんの心から漏れた本音だったのかもしれない。

「頼みますから…そろそろお小遣いを下さい……」




こんにちは、ぺんたこーです。
一応ここで一章は終わります。次からは二章ということになりますね。
あと化学武器図鑑的なものを作ろうと思います。ですがこれは別小説ということで投稿することになりそうです。週一回の更新が目標です。挿絵も挿れるつもりです。
それではまた次のあとがきで!


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ごちゃごちゃな部室の中で、ほんの一部分だけ綺麗に片付けてある場所があった。依頼を受ける用のPCが置いてある机だ。逆に言うとそこ以外は全く綺麗ではない。私はPCの受信トレイを確認する。

「ゆうさーん!次の依頼来てるよ〜」

自分の机で黙々と作業をしていたゆうさんは手を止めて椅子の向きを変える。回転するやつなので無駄に一回転してからこちらを向く。

「まとめて印刷してファイリングしてくれ。後で読む」

私は、わかった〜と返して言われた通り、依頼をまとめて印刷する。ファイリングしても未だに読んでいない依頼の方が多いが気にしない。きっと、駆我さんか部長が読んでいる。

しばらくはコピー機の印刷音とゆうさんの作業音だけが流れる。

そこに突然部室のドアが開いて、黒髪ロングストレートコミュ障の部長が入ってくる。悪口ではない。

「みんなぁ、おっはよぉ」

いつもの喋り方で挨拶をすると部長は奥の更衣室へと消えていった。すぐに出てきたが服装が制服からこれもいつもの白衣に変わっていた。部長は部室を見渡してから私の方に歩いてくる。

「奈々ちゃんは何してるのぉ?」

「きてた依頼をまとめて印刷してるんだけど…すごい量だね」

コピー機からは未だに絶え間なく紙が入っては出ている。もう五十枚はある。

「そうだねぇ、いろんなところからいろんな依頼を受け付けてるからねぇ。それでもちゃんと受けるのは一割くらいだよぉ」

部長はコピー機から出てきた紙を一枚取って読み始めた。一枚、また一枚と読んでいく。そして十枚を過ぎたあたりで手を止めた。

「ねぇ奈々ちゃん。この人たちぃ知ってるぅ?」

小さい文字をカタカナにして、後ろに『!』を付ければ迫力があるのに、実際はとても弱々しい喋り方の部長が私に問う。

私は渡された紙に目を通す。『HARD』という化学武器(スキル)集団がいて、その人たちを『討伐』して、ついでに化学武器(スキル)を『回収』する依頼だ。

「知らないよ?この人がどうかしたの?」

「いゃ、この依頼受けようと思うんだけどぉ、もし奈々ちゃんのお友達がいたらやめとこうかなぁって思ったのぉ。でもぉ大丈夫そうだからぁ、受けるねぇ」

ゆうさんの机に向かって行く部長を眺めながら、そんな決め方でいいのかと心配していたが、まあ大丈夫としか思えなかった。先日見たゆうさんの戦いは、どの相手もかなり強いスキルを持っていたにもかかわらず、瞬殺したのだ。不安になる要素が一つもない。あるとすればトーナメント表にあった名前だが、関係はないはずだ。

気がつくとお面を付けた部長がこちらに来ていた。部長が付けているお面といえば、強制中二病マシーンとか言われてた気もするが、あれは恥ずかしいのでやめたはずだ。

「あれ?部長そのお面なに?」

部長が一瞬固まる。お面越しでも分かるくらいに照れている。いや、恥ずかしがっている。

「こっ…これはぁただのぉお面だよ!今からお仕事に行ってくるからぁ付けてなきゃバレちゃうのぉ」

かなり焦って発音がめちゃくちゃだが、部長はそう言って自分の机に向かった。

コピー機の音は続いている。

部長は机から様々なスキルを取り出し、身体のあちこちに装着する。

そういえばゆうさん以外のことは未だに何も知らない。駆我さんが普段何をするのかも、部長がどんな戦い方をするのかも知らない。

スキルで武装し終えた部長はハッとしたようにこちらを向いて言った。

「そうだぁ!奈々ちゃんも一緒に来るぅ?」

私は大きく頷いた。




こんにちはぺんたこーです。
第2章スタートです!
今回は化学研究部がどれだけの依頼を受けているのか、また部長はどんな戦いをするのかというお話でした。
前回のあとがきで言っていた図鑑的なものは、主に私の画力のなさのせいで早くも心が折れてしまいました。気が向いたら始めようと思います。
それではまた、次のあとがきで!


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私は部長の依頼を見学するために、車に乗っていた。学校の駐車場に停まっていたものだ。しかしこれは前にゆうさんと狂気の戦場タルタロスへ行ったときの車とは違った。黒の混じった青色、ダークブルーみたいなカラーだ。内装は皮のシートで車内には様々な色のドリンクホルダーが沢山、それはもう沢山、スーパーの安売りでドリンクを大量に買ってもドリンクホルダーの方が余るくらいあった。

「ねぇ部長…このドリンクホルダーなんなの?」

助手席から隣の運転席を見る。慣れた手つきでハンドルを切る姿はどこか美しさを感じる。

「…奈々ちゃん、どれか一つ取ってみてぇ?」

「これとか?」

私は何も考えずに目の前にあった黒色のドリンクホルダーを一つ手に取った。触れてみて初めて分かったことは、飲み物は入っていないはずなのに重いということだ。片手で持てないことはないが見かけ以上に重い。私がまだ小さいとはいえ、ドリンクホルダーはそれなりの質量がある。

「部長!ほんとに…なんなのコレ!」

焦る私をどこか微笑ましそうに見る部長は変わらぬ口調で言う。

「そのままだとドリンクホルダーだけどぉ、変形すれば科学武器(スキル)だよぉ」

これがスキルだと言われても、ただの鈍器としか考えられない。重いこと以外は普通のドリンクホルダーと同じだ。

「これのどこがスキルなの?」

「それは失敗作の鈍器だよぉ」

鈍器で正解だった。

「そっちの青色ならぁ結構自信あるよぉ?」

ドアに掛かっていたうちの一つを手に取る。失敗作の赤色よりは軽いが、それでも普通のドリンクホルダーではありえない重さだった。

「ホルダーの底面をひねってみてぇ?」

言われた通り底面をひねる。かちっと心地良い音がしてスキルが起動する。光と音と共にドリンクホルダーの形が崩れ、新たな形を作りだす。ドリンクホルダーが真ん中から真っ二つに割れ、双方に倒れる。元の高さを2倍して縦に真っ二つに割ったような形だ。そして中から導線らしきものが飛び出す。

「変形ってロマンよねぇ」

「……ちょっとよく分かんないけど、これってどんなスキルなの?」

明らかな落胆の表情を隠しながら、部長は説明を始める。視線は前だ。運転中だから当たり前。安全運転。安全第一。

「えーっとねぇ?今持ってるところを強く握ってみてぇ?」

ドリンクホルダーの本体だった部分を強く握る。少し待っていると導線が両端から橙色に染まり始め、やがて全体に均等に色がついた。手をかざすと導線は熱を持っているらしく、ほのかに暖かかった。

「触っちゃだめだよぉ?触れた所から落ちちゃうからぁ」

私は直ぐに手を引っ込めた。どうやら発砲スチロールカッターと同じ仕組みのようだ。だがゆうさんがそうであったように、人を殺すのに躊躇いがない人だから、火力、このスキルの場合熱量は並ではないはずだ。こんな物いつ使うのだろう。

「電源切る時はぁ底面をさっきと逆方向に回すだけだよぉ」

逆回転。底面を回した途端左右に広がっていた半円の円柱が閉じて円柱に戻り、気がつけば手の中には元の青色のドリンクホルダーがあった。

ドリンクホルダーを元あった場所へ掛け、しばらく車が走るのを見守った。部長はまだまだ未知の存在なので、いつカーチェイスを始めるか分からない。ただ安全に無傷で目的地に着くのが今の願いだ。

「着いたよぉ。降りてぇ奈々ちゃん」

危惧していた事態は一切起こらず、無事目的地に到着した。

車を降りて辺りを見回す。

都市。私の知識ではこの単語しか浮かばなかった。ごく普通の市街だ。

「あれぇ?そういえばぁ奈々ちゃんって防具型のスキル持ってないのぉ?」

部長が車のトランクからスキルを取り出して身体のあちこちに装備しながら私に問う。

「そういえばそうだね。パパとママを殺してもらってから一回も研究所に戻ってないから、今持ってるのはえーっと……びりりんとカプセルと…あとこの鎌の三つだよ」

『びりりん』は入部試験で作ったスキル。

『カプセル』はタルタロスでゆうさんに貰った小型カメラのスキル。

『鎌』もタルタロスでゆうさんに貰ったスキルだが使い方が全く分からない。それに『鎌』は正式名称ではなく、私がそう呼んでいるだけだ。そしてびりりんと(たぶん)鎌が攻撃型、カプセルが援護型だ。防具系のスキルはもといた研究所で作ったことは何回かあるが、今は持っていない。

「その鎌って勇から貰ったのぉ?」

「そうだよ。どうかしたの?」

「スキルにはぁ、必ずスキル名と作者名を書かないといけないんだよぉ。ほらぁここ見てぇ?」

部長は鎌の柄の部分をぱかっと開いた。そこにはスキルの情報が記されていた。

スキル名・テンペストキー

作成者・南古都(なこと) (ゆう)

この鎌型のスキルは『テンペストキー』という名前で、どうやらゆうさんが作ったらしい。

「さてぇ、奈々ちゃん。これ着てみてぇ?」

部長は車のトランクからなにか(・・・)を取り出して私に向かって投げてきた。私は慌てて受け取ろうとするが、先程所持スキルの確認をしていたので、手にはスキルを三つ持っている。そんな状態で、しかもいきなり投げられたものを受け取るなどほぼ不可能である。

「ひゃぁいぃ!!」

私は部長が投げたものの着地点から飛び退いた。直後、どすんと鈍い音をたてて、先程まで私がいた位置になにか(・・・)が着地する。

「あぁっご…ご、ごごっごめんね奈々ちゃん!!」

部長は慌てて駆け寄ってくる。

「私は大丈夫だけど…これもスキルなの?」

「うん、そうだよぉ…」

本当に申し訳なさそうに呟く。私は地面に放置されているなにか(・・・)を拾い上げる。防弾チョッキのようだが形はスマートで厚さがない。つまり薄い。

「防具系のスキル?どんな能力なの?」

「極薄の高濃度金属を何重にも重ねたプレートを敷き詰めただけだよぉ。能力っていうほど大袈裟なものじゃないけどぉ普通の弾丸ならほとんど通さないよぉ。私が小さいころに使ってたからぁもう私は使えないしぃ奈々ちゃんにあげるぅ!」

私は強化鎧を着てみる。思ってた以上に軽く、簡単に装着することができた。試しに跳ねてみるが、鎧は身体にぴったりとくっついてずれる様子がない。かといって痛かったり苦しかったりもしない。

私は部長を見ると銃口がこちらに向いていた。正しくは鎧を着た胴体を狙っていた。そして私が逃げるよりも早く弾丸は射出され、私の胴体に直撃した。鉄と鉄が衝突する高い音が鳴る。しかし痛みは一切ない。恐る恐る目を開けるが血も出てない。私は全くの無傷だった。

「部長!すごいよこれ!急に攻撃食らっても平気だよ!」

撃たれたことより鎧に傷ひとつ付いていないことに衝撃を受けた。しかしこの後、更なる衝撃を受ける。

「でしょ…」

言葉を最後まで言い終えるよりも先に銃声が鳴り、部長は頭の右側から血を吹き出した。一瞬だけ、噴水のように吹き出た血液はその後勢いを落としたが、どくどくと頭から流れ続けている。

そのまま力なく倒れ、部長は動かなくなった。




こんにちはぺんたこーです。
今回言えるのは、八ツ橋の科学研究部を舐めてはいけないということだけです。
それでは、また次のあとがきで!


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 驚く間もなく、悲しみを上回る衝撃が私に襲いかかる。

 私は思わず叫ぶ。

 倒れた部長に駆け寄るが、その身体はまるで死んでいるかのように動かない。

「部長!部長!!ねぇ!起きてよ!!ねぇ!!ねぇ……」

 身体を大きく揺さぶるが一向に返事は返ってこない。目を開いたまま力なく横たわる部長は、儚く、美しく、切なく、静かだった。

 押し潰されそうな心をなんとか保ちながら私は考える。

 まずするべきことは何か。思いついたのは三つ。部長の身体を安全な場所、つまり車に運ぶこと。誰かに状況を伝えること。自分の身を守ること。だ。

 私は部長をおんぶしようとする。しかし、いくら部長が高校生のわりには身長が低いからって、身長差がありすぎる奈々に持ち上げることはできない。私は仕方なく部長の足を持って、力まかせに引っ張る。部長の頭から流れる血がコンクリートの道に赤い道を描いていく。

 車まであと数メートルのところで二発目の弾丸が降る。奈々は先程部長に貰った防具をつけている。それでも頭を狙われれば意味のないことだ。私は恐怖を押し殺して車を目指す。

 車の中に入る寸前、三発目が射出される。弾丸は風の抵抗を受けながら奈々に向かって飛んでいく。

 動かない部長を奈々が運転席側から車内に押し込むのと、弾丸が奈々に当たるのは同時だった。

 弾丸は奈々の左横腹に着弾する。

「うげぇ…」

 防具のおかけで貫通こそしなかったものの、防具の鉄板ごと奈々の横腹にめり込んで不快な感触を味わう。冷や汗が溢れ出し、首元を伝う。

 私はどうにか車の後部座席へ飛び込み、一時的な安全を得る。ドアを閉めて車内を見回す。通話機器などは見当たらない。次に私は運転席に無理矢理ねじ込んだ部長の白衣のポケットを探る。すると携帯電話を発見した。震える手ですぐさま起動する。

「………パスワード」

 私は再び考える。4ケタの暗証番号を、部長が設定しそうな数字を考える。しかし私は部長のことが全く分からない。知らないのだ。

 可能性。数字が10個(0〜9)を4ケタ、つまり10×10×10×10。10の4乗。10000通りを片っ端から試すという方法もなくはない。だがそれは普通に考えて無謀だ。何者かが奇襲を仕掛けてきた今、次に何が起こるか分からない。

「くぅぅ…」

 もう殆ど諦めていた時、ふと思いた数字列を入力する。

「…8()2()8()4()

 結果、ロックは解除された。部長のパスワードを当ててしまった。してはいけないことをしたような気持ちになるが、というかパスワードが高校の名前って簡単すぎる気もするが、今はそんなこと言ってられない。私は携帯電話を操作して電話帳を開く。そして登録されている電話番号の中からゆうさんの名前を探す。そしてゆうさんに向けて電話をかける。

 待機音が5回なってもゆうさんが出る気配はない。私は諦めて駆我(くが)さんの名前を探し電話をかける再び待機音が流れる。ゆうさんとは違って1回目がなり終わる前に応答する。

「-どうしましたか?部長-」

 この携帯電話が部長のものだと再確認する。

「くっくくく駆我さァァん!!」

 舌が回らない。

「部長がぁあ!あぁあああぁぁあぁ!!」

 張り詰めていたものが、知り合いと通じたことで溢れ出し、自分でも何を言っているか分からなくなった。

「-ん?ああ、ちびすけか。落ち着け!状況を説明しろ-」

 私はぐちゃぐちゃの顔を服の袖で乱暴に拭きながら今陥っている状況を端的に伝える。

「-…分かった。ちびすけ、運転席側のドアにボタンがついているだろ?その中の『SHELL(シェル)』と書いてあるボタンを押せ-」

 私は後部座席から身を乗り出し、運転席を覗く。急いで詰め込んだが為にありえない形でそこにいる部長を押しのけながらドアへと近づく。そしていくつもあるボタンの中から駆我さんの言ったボタンを押す。

「-今からそっちに向かうから携帯電話の電源は切らずに…-」

 駆我さんはそう言って通話を切った。少ししてから、不自然に会話が途切れたことに気づく。私は手に持っている端末の起動ボタンを押す。しかし画面はつかない。電源は切っていないはずだが、機体は一切動かない。再起動を試みるが私が使っている携帯電話。つまり部長の携帯電話の電池が切れていた。

「もう無理だよ…」

 私は車内で一人つぶやいた。




こんにちわぺんたこーです。
念のため表記しておきますが、この小説に主人公は存在しません。いるとするなら八ツ橋高校化学研究部の人たちです。
そしてこの小説は科学武器(スキル)を紹介するためのお話です。
以上、念のための表記でした。
それではまた、次のあとがきで!


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「今からそっちに向かうから携帯電話の電源は切らずに置いておけ!」

 応答がない。部長の携帯電話で奈々が話していたということは、何かは分からないが結構ヤバい状態にあるということだろう。部長がいればどんな状況にいても命を落とすことはないはずだ。しかし部長がいなければ話は別だろう。

 私はパソコン隣に置いてある電話の親機の隣に子機を置き、部室内の更衣室へ向かう、(ゆう)のロッカーの隣の『駆我(くが) かかり』と書かれた紙が貼ってあるロッカーを開ける。

「今回は…四部作を二つ試してみるか」

 そう言うと私はロッカーの中から二つの科学武器(スキル)を取り出して、部屋の隅に立て掛けてあるゴルフクラブケースに入れる。

「さて…行くか」

 ゴルフクラブケースを背負って更衣室から出てデスクの上に置いてある救急箱とカロリーメイトを鞄に入れる。そして鞄を肩に背負う。引出しの中からバイクの鍵と黒色の鉛筆を一本取り出して鞄に入れ部室を後にする。

 八ッ橋高校の駐車場。勇の車の隣に駐めてあるバイクに鍵をさし、エンジンをかける。スキルが入っているゴルフクラブケースをバイクの側面に固定する。バイクに鍵を挿してエンジンをかける。

 そして私はハンドルを握ってスタンドを上げる。ヘルメットは被ってない。そのまま数回クラッチをきる。エンジンが唸る音と共にマフラーから黒いガスが上がる。

「………またか」

 バイクはエンストした。

「いつになったら乗れるんだ?まったく…」

 私はバイクから降りてスタンドを立て直し、ゴルフクラブケースを取り外す。そしてバイクの隣に駐めてあるセグウェイに乗った。ハンドルにゴルフクラブケースを立てかけて、前に体重をかける。静かな電動音と発しながら二輪のタイヤが回って進む。

「どう考えてもこっちの方が簡単に乗れるんだが、なぜ勇のやつはバイクに乗れと言うのだ?」

 私は疑問に思いながらもセグウェイを操作して学校を出た。

 

 10分くらいだろうか。周りの景色は徐々に普通の都市になってくる。さらに少し進んだところに見覚えのある車が駐まっていた。しかしその車には窓がなかった。いや窓が覆い隠されていた。

「ここか…」

 私はゴルフクラブケースを持ってセグウェイから降り、車の後ろ側に近づく。ゴルフクラブケースからスキルを一つ取り出し、ボタンを押す。スキルは形を変えて、非常に殴るのに適した形になる。私はスキルを頭上に構えて、本来ならガラスである部分、覆い隠されている窓に向かって大きくスキルを振り落とす。

 スキルが車に接触した瞬間、大きくはないが小さいともいえない衝撃波が空気中を翔けた。車の窓は覆っていた装甲ごと粉々になり、ガラスと混じりながら散った。

「うぅ……」

 今にも泣き出しそうな瞳で私を見る少女が、割った窓の奥に見える。

「来たぞ、ちびすけ」

「ぐがざぁあぁあん!!」

 涙と鼻水で大惨事になっている顔を服の袖で拭きながら、奈々がガラスが割れてフレームだけが残った車の窓からひょこっと出て来て私に抱きつく。

「おい!やめろちびすけ!私の服で顔を拭くな!」

「そんなことより!ぶちょーがぁ!!」

「心配するな。部長はそう簡単に死なない」

「でもぉ!でもぉお!!頭撃たれたんだよ!!血がぶしゃーってぇ!!」

 必死に訴える奈々の頭を私は右手でくしゃくしゃ撫でて車に入った。

 運転席でありえない形で詰め込まれている部長を乗り越えて、『SHELL』と書かれたボタンを押す。すると車を覆っていた装甲が瞬く間に収納されて、元どおりの車になった。後部の窓が割れているのは気にしてはいけない。

「さて…部長!部長!!朝ですよ!部長!!…駄目か」

 呼んでも起きない。頰をぺちぺちしても起きない。寝ているわけではなさそうだ。私は部長の首筋に指を押し付ける。静かながらも、しっかりと脈はある。死んではいないようだ。逆に死んでいたら怖い。

「ちびすけ!撃たれたのは頭だけか?」

「うん…多分そうだと思う。逃げるのに必死であんまり覚えてないけど、銃声は聞こえなかったよ」

 私は部長の首筋から指を離して頭を探る。髪の毛をかき分けると固まった血がこびりついた小さい穴が空いていた。その穴の奥には銀色に光る小さな物体がある。

 私は肩から掛けていた鞄から救急箱を取り出して開ける。無数にある道具の中からピンセットを取り出す。そして部長の頭に空いた穴にピンセットで弾丸をつまみ出す。

「ふぅ…おい、ちびすけ!部長は軽い脳震盪(のうしんとう)だ。心配いらん。それより敵はどこから撃ってきた?」

「えっと…あっちのビルの上かな」

 私は奈々の指差す方向を見た。そこにはこちらを向いた銃口が車を狙っていた。

「……!!て、展開!!」

 私は叫んだ。当時は無駄だと思っていたが、今になって音声認識機能を搭載しておいて本当に良かったと思う。ゴルフクラブケースを引き裂いて中にあったスキルが広がる。言葉の通り、展開する。広がったスキルは私たちを守る盾となり、銃弾を弾いていく。

「ちびすけ!部長を頼む!!起きたらこれを渡してくれ!あとこれも持っておけ!」

 私は鞄からカロリーメイトと黒色の鉛筆を取り出して奈々に渡す。車から出て射撃を続ける狙撃手を見る。銃は見たことのない形をしている。多分スキルだろう。降り注ぐ銃弾を盾型スキルで防ぎながら奈々の方を振り向く。

「ちびすけ!お前は賭けに勝った。誇れ!」

 私はそれだけ告げると盾型スキルと破れたゴルフクラブケースに入っているもう一つのスキルを持って、敵がいるビルの屋上へと向かった。




こんにちはぺんたこーです。
次回には科学武器(スキル)を沢山出せそうです。
それではまた、次回のあとがきで!


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奈々(ちびすけ)のもとを後にした駆我()は、敵のスナイパーがいたビルを探索していた。もうすでに逃げたかもしれないがその可能性は低いだろう。さっきの狙撃はこのビルに誘い込むための煽りだと思っていい。

綺麗だが人の気配を全く感じない建物内には私の足音だけが響いている。

部長とちびすけが出発する前に話していた標的の『HARD(ハード)』というグループは4人組の暗殺部隊で、主に裏社会で依頼を受けて活動しているらしい。調べたところメンバーは、近距離が三人、遠距離が一人と案外バランスのいい構成だ。使っている科学武器(スキル)もかなりの業物だろう。

考え事をしながら暗い廊下を歩いていると、一枚の貼り紙を見つけた。真っ白な壁にセロテープ一枚で貼られた紙は風になびいて独特の音をたてていた。私は少ししゃがんで、肩に掛けているゴルフクラブケースからスキルを一つ取り出して脇に抱える。細長く黒い武器は先端に近づくに連れて、さらに細く鋭くなっている。一見槍のようにも見えるそれはライフルだ。しかし槍としても十分に役目を果たす。私はライフル型スキルに取り付けてあるスコープを覗き込む。敵の奇襲が怖いところだが、気配は一切ないので構わないと思いスコープ越しに貼り紙を見る。ぼやけている視界をピント調節で鮮明にすると、書かれた文字がはっきりと見えた。

『屋上で待っている』

どうやらあのスナイパーはまだ屋上にいるようだ。自ら居場所を教えるなどありえないので罠の可能性が高いが、他にすることもないので私は屋上へ向かうことにする。

スキルをゴルフクラブケースに戻している途中私は異変に気付く。あの貼り紙は“風になびいていた”のだ。今は昼間で、しかもここは日陰街ではなく普通の都市街なので、人がいないのならば戸締りはしているはずだ。ーでは、私はどうやって閉鎖されているビルに入ったかというと、単純に窓を叩き割って中へ入ってきただけだ。帰りにガラスを回収して新しいものをはめれば侵入した形跡も方法も残らない。ー

私は貼り紙のある壁の向かいの窓を見た。鍵は壊れていないが解錠されており、冷たい風が遠慮なく廊下へと入ってきていた。敵の作戦としては、貼り紙を確認しようと近づいたところを、開いた窓から狙撃するといった感じだろう。そんな幼稚な作戦に引っかかるのか、と言われれば大体の人は罠に気づくと言うだろう。しかし撃たれてから気づいても遅いのだ。一度開いた窓におびき寄せればあとは引き金を引くだけだ。スナイパーライフルなどで狙われていたら考える間もなく頭をぶち抜かれる。部長は車から出た瞬間を狙われたのだろう。それに、敵戦力に遠距離は一人しかいないはずで、先程までこのビルの屋上にいた人物がスナイパーだとすると空いた窓を狙っているのは誰なのだろうか。情報が間違っている可能性もあるので私は開いた窓の前を通らないように迂回して階段を探した。

六階建てのビルには各階に階段が一つづつあり、よく見ると各階に一箇所づつ『屋上で待っている』という貼り紙の罠がある。敵が狙うとすれば入り口や階段など必ず通らなけれればならない場所の方が効率がいいはずだ。少しの疑問を残しながら私は最上階へたどり着いた。鉄の扉を開ければそこは屋上だ。

私はポケットから出したゴム製手袋を右手にはめ、ドアノブを回してドアを開ける。

「……来たぞ」

冷たい風が一気に飛び込んでくる。屋上には二つの人影がある。遠くて顔は見えないが二人とも手になにか持っているのが分かる。どんなものかは分からないがおそらくスキルだ。

私はゆっくりと後ろ向きのまま元来た道へ戻る。遠距離系の武器を持っていれば撃たれる可能性が少なからずあるので、一旦扉まで戻ってこちらから先に銃で仕留めようという魂胆だ。

「悪いが一方通行だ」

後ろからの声によりその望みは断たれた。不意に現れた三人目の敵は、私の首元に刃物を押し当てている。少し動けば肌が裂ける絶妙な位置でとめてある。

「こいつが目標か?」

刃を当てたまま敵の男が私に問う。

「いや、私に聞かれても知らないんだが…」

「お前に言ってねぇよ!仲間に言ったんだよ!通信機で!」

敵はあっさり情報を吐いた。こいつらは通信機で繋がっている。私が有利になることはないが、たったこれだけで勝算がぐっと上がる。

例えば私が言ったことが他の二人にまで伝わってしまうことがなくなった。逆に誤情報を伝えることもできる。まあ今の状況ではどうにもできないし作戦も思いつかない。今頭の中にある勝算は、車にいる部長が目覚めて助けてくれるというものだ。

「はぁ?!生け捕りィ?」

私がどうにか討伐、脱出方法を考えている間も私を捕まえている男は仲間と通信しているらしい。首に当てた刃は相変わらず切れるギリギリで止まっていて、少し動いただけでも皮膚を裂いて動脈を切るだろう。相当な手練れだ。

「あんたたちってHARDっていう科学武器(スキル)集団でいいのか?」

「そうだよ!お前ちょっと黙ってろ!ああ…もう何だよ!死体でも報酬出るだろ?」

あっさり同意を得た。この人は色々とゆるすぎる。そのおかげでこいつらは討伐対象ということが分かった。さらに今私を生かすか殺すかで揉めているらしい。

ついに通信機で話すのをやめ、向こう側から低い声で罵声が飛んできた。もちろん私ではなく、私の動きを封じている口の軽い男に向かってだ。

「あーもう!分かってないのか?科学武器(スキル)のパーツと『テクノ』のパーツ、どっちがレア度高いと思ってんだばか!!」

「そ…そりゃぁ『テクノ』だけどよ!ん〜…」

『テクノ』という聞き慣れない言葉に私の脳が反応する。

「おいHARD!『テクノ』っていったいなんだ?」

「あ?テクノっていうのはな…」

「ちょっ!ばっかじゃないの!!あんたちょっと黙りなさい!!」

私の問いに答えようとした口軽男をさっき罵声を浴びせてきた方とは違う方の人影が叫びながら、こぎはじめの自転車くらいの速さで近づいてくる。

高い声で叫んだ彼女は思ったより幼く、右手にはカバン、左手には日傘、頭にはカチューシャ、赤と白が特徴的なロリータ服に身を包んでいた。ふりふりのスカートがとてつもなく邪魔そうだが、本人は気にする様子もない。少女は迷いなく日傘を、私の動きを拘束している男の脳天に突きつけて言い放つ。おそらくその日傘が科学武器(スキル)なのだろう。

「あんまりばかだとここで消すわよ!」

容赦ない行動に私も内心驚きつつ、それとなく聞く。

「ところで『テクノ』ってなんだ?」

私が言い終える前に、ふろふり少女はくりくりの目で鋭く睨みつけてくる。一瞬怯んだが、相手は特に攻撃をしてこなかった。

「まあいいわ、冥土の土産に教えてあげる」

突き刺さるような視線が引くとロリ少女もといロリータ少女は、気分よさげに語り始めた。

「テクノって言うのはテク……」

まだ何も語っていないが、少女の声はそこで途切れた。それと同時に奥の方、つまりもう一人の人影がいる方で金属音が聞こえてきた。HARDの方々も少し距離を置いて警戒する。一定の間隔で鳴る音は屋上の柵を何者かの手が掴んだことにより途切れる。柵をよじ登り屋上へ上がってきた人影は、風になびいて綺麗な黒髪が揺れている。

「な…何よあいつ!!」

ロリータが驚いた。

「ここ…六階建てビルの屋上だぞ?!」

ばかが冷静に分析した。

さすがに奥にいる人影の声は聞こえなかったが、ビルの壁をよじ登ってきた人物は誰か分かる。

「ハァ……私を撃ったのは誰よぉ…」

いつもより低く、怒りを(まと)っているが、あの声は間違いなく部長のものだ。先程まで脳震盪(のうしんとう)で意識を失っていたが、流石の回復力だ。それに不意打ちを喰らったことによる怒りが謎のオーラを放っている。

「な、ななな…なによぉぉ!!てっ撤退〜!!」

格の違いを瞬時に見極めたのか、ロリータ少女がそう叫ぶと、HARDの皆様は背中に背負っていた装置からコードのついた銃を取り出し、隣のビルに向けて引き金を引いた。躊躇いなく屋上から飛び降りてさながら立体機動装置のように弧を(えが)き、走りながら地面に降りるとそのまま走り去っていった。

「待てぇ!!」

怒りが収まらない部長は背負っていた科学武器(スキル)を手に取り、形を変形させて構えてライフル状にし、HARDのメンバーの一人、ロリータ服の少女の左足、ふともも辺りに一発弾丸をお見舞いした。部長が次の弾を装填している間に、他のメンバーの男二人が倒れていたロリータ少女の肩を持ち、ビルの影に隠れた。

「ちっ」

綺麗な舌打ちをした部長はライフルを元の形に戻して背負った。私は今までの光景を、ただ立ち尽くして眺めていることしかできなかった。

動く標的を、スコープなしで構えとほぼ同時に撃ち抜く。しかも逃走を妨げる脚に命中させた。こんなことできる人物を私は部長の他に一人しか知らない。まあ、あの(ばか)なのだが…

鋭い眼光を、今もHARDが去った場所を睨んでいる。しばらくすると、完全に逃げたことを確認すると、怒って鋭くなってもなお変わらない独特の喋り方で、部長は退却命令を出した。

「かかりぃ!帰るよぉ!」

そういえば、結局『テクノ」が何なのか聞きそびれた。




こんにちはぺんたこーです。
今回はめっちゃ長くなりました。※八ツ橋のみ
次回、やっと科学研究部の目的が決まります!
ではまた、次のあとがきで!


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科学武器(スキル)集団HARDの討伐は失敗に終わった。暗殺を狙っていたはずなのに見事に待ち伏せされており、奇襲を受けてしまったのだ。部長の粘り強さで敵を負傷させることはできたが、敵味方共に死者は出なかった。

今回の依頼、『HARDの討伐』は元より受けなかったものとするらしい。

しかしそれでは部長の気はおさまらないようで、私と部長と駆我さんを乗せた車は今にも事故を起こしそうな勢いで走っていた。感情が完全に表に出てしまっている。

「く…駆我さぁん!これどこに向かってるの?!」

「この道は多分情報屋だ!」

しばらくの間部長提供のスリリングドライブを満喫した。

 

車が止まったのは、町外れのコンビニだった。私たち3人は車から降りるとコンビニへ入店した。部長は店に入ってすぐレジカウンターまで一直線に進む。

「情報屋をお願ぃ!」

店員に向かって部長が怒鳴る。(実際はお使いに来た子どもみたいだ)

店員は、少々お待ちください、と言って奥にあるスタッフルームへと姿を消した。しばらくして店員が戻って来た。

「こちらへどうぞ」

店員はそう言って私たちをレジカウンターの向こう側、さらにその奥の『すたっふおんりー』と書かれている扉の中へと案内してくれた。

スタッフルームでまず目に入ったのは大きな机だった。というか部屋にはその机しか無かった。そしてその机の向こう側には情報屋と思われる人物が座っていた。その人の顔には、いつか部長が使っていたものに良く似たお面が着けられていた。

「おーっす八ツ橋の方々、久方ぶりですな」

お面のせいで顔は見えないが、声からして三十代の男性だろう。お面を被った男性は陽気な態度で私たちに椅子に座るよう促した。

「おや?君は見ない顔だけど新しい部員さんかな?」

「あ、はい!新入部員の…!」

私の口を部長が手で抑えつけた。

「あっちゃ〜残念。八ツ橋相手じゃタダでは情報くれないか〜」

状況を理解できない私に、駆我さんが補足説明をしてくれた。

「あいつは情報屋のドロップ。情報屋の前では全てが情報だ。名前から科学武器(スキル)、数字の羅列までもが情報だ。発言には注意しないとタダで情報を渡してしまう。しかも情報を渡したことに気付かないことがほとんどだ」

つまり私の名前でさえ価値があるらしい。

「本題に入るよぉ」

私の口から手を離した部長が静かに言い放った。

「科学武器集団HARDってしってるぅ?」

「さぁ、どうかな?これも立派な情報…」

情報屋ドロップの言葉を遮って部長が続ける。

「そいつらの追跡を頼みたのぉ」

部長は白衣の内側に手を突っ込み内ポケットから何かを取り出して、机の上に放り投げる。軽い紙束の着地音が聞こえた。見ると机の上には野口英世が十人、つまり千円札が十枚あった。なぜ一万円札一枚にしなかったかは問わないでおこう。

「これでどぅ?」

野口さんを見て情報屋は唸った。少ししてお面が正面を向くと調子のいい声で答えた。

「うん、いいよ!追跡依頼承諾っと、ほいこれ領収書。」

情報屋は札束を引いて、代わりに紙切れを差し出した。部長は領収書を内ポケットに入れると席を立とうとする。しかしそれを情報屋が止めた。

「ちょっとまちな部長さん。いい話がある」

部長は椅子に座り直し情報屋の話を聞く。

「最近、子供の死体の写真が入るようになった。趣味じゃないぞ?」

「続けてぇ」

「はいよっと、俺も胸糞悪いからちっと自分で探ってみたわけ。そしたら主犯はあいつだった…っと、ここからは有料だ」

情報屋がいい終わる前に部長は机に手を叩きつけた。手と机の間にはまたしても千円札が十枚。

「あいよ、毎度あり犯人は科学武器(スキル)使い、仮名(アナザー)『斬り裂きジャック』だ」

「それでぇ?まだ何かあるんでしょぅ?」

「全く…お見通しかよ、調子狂うぜ。ジャックは一週間に二回、深夜二時に家へ侵入、子供を殺害している。ここ一ヶ月な。被害者の子供はいずれも胸を裂かれ、“心臓”だけが無かったそうだ。他の部位は一切傷ついていない。綺麗に心臓だけがくり抜かれていた。こんな真似出来るのはアレ(・・)しかないよな?」

場の空気が変わった。先程までのふわふわとした雰囲気ではなく、まるで世界の運命がかかっているような重みを帯びた空気で満ちた。そんな中駆我さんが静かに口を開く。

「部長…これって」

「うん………」

「その通り!これは『キー』を使った犯行だ」

情報屋の言葉に部長の顔がいつもの弱々しい表情から、焦燥感で溢れる表情へと変わる。勢いよく椅子から立ち上がると部長はまた内ポケットを探りだす。

「『斬り裂きジャック』の次回犯行予測点と団編成、使用科学武器(スキル)をまとめておいてぇ!」

机に向かって野口束を叩きつけると同時に情報屋が喋り始める。

「そう言うと思ったぜ。ほらよっステータス情報はまけてやる。俺だってさっさと終わらせて欲しいからな。自分で撒いた種は自分で回収しな!」

そう言うと情報屋は右上をクリップで止められた紙束を部長に向かって投げた。部長が紙束をめくるのに合わせて、情報屋が説明する。

「次回犯行予測は明日午前二時、団編成はなし、使用科学武器は『キー』ともう一つ、普通より少し大きめの注射器型|科学武器(スキル》だ。注射器で眠らせて『キー』で刈り取るみたいだな」

「流石ぁ、仕事が早いわねぇ」

資料を閉じて内ポケットに入れると部長が情報屋に問う。

「でぇ?肝心の『キー』のパターンは?」

情報屋が黙る。すかさず部長が白衣の内ポケットに手を突っ込むが、情報屋がハンドサインでそれを止める。

「おいおい、パターンにまで情報屋を使うのかよ。ちったぁ自分で考えろ!それに『キー』についてはあんたらの方が詳しいだろ」

部長は何も掴まずに内ポケットから手を出した。

「それもそうねぇ。ありがとぅ、また来るわぁ」

部長は席を立ち、扉へ向かう。私と駆我さんもそれに続くいてスタッフルームを後にする。

「まいど〜っとそうだ、グレイモアにコレ渡しといてくれ」

帰ろうとする私達を引き止めて、大きな机の足元に置いていた紙袋を差し出す。グレイモアというと勇さんがタルタロスで使っていた名前だ。

「なにこれ?お土産?」

私は紙袋を受け取る。重くはないが、軽くもない。微妙な重さだ。

「とにかく渡せば分かるから!それじゃ〜まったね〜」

情報屋はまるで歌のお兄さんのように爽やかな笑顔で手を振って私達を送り出した。いや、お面のせいで顔は見えないので正しくは“笑顔に見えるほどに清々しい声”だ。

 

コンビニを出て車に戻った私達はトランクに荷物を積み、またも部長運転で八ツ橋高校に向けて出発した。いつの間にかセグウェイも積んであったが、別に重要なことではないので突っ込まないでおいた。

日もだいぶ沈み綺麗なオレンジ色をした太陽が道路を怪しく照らす。

走る車の中、後部座席に座る私は助手席にいる駆我さんに質問する。

「そうだ駆我さん!分からないことだらけだから聞いてもいい?」

「なんだ?答えられることなら教えてやるぞ」

同意の声を聞いて、私は質問を開始する。

「えっとまず、部長が頭撃たれたのに脳震盪(のうしんとう)だったのってなんでなの?」

HARD討伐で車から降りた瞬間狙撃されて倒れた時だ。その時は、部長が死んだと勘違いして大慌てした。

「ああ、部長は骨の上に金属板が張ってあるんだ」

「そっかーなるほどね…ん?金属板?!」

流しかけた言葉を拾い、もう一度考える。

「金属板ってあの金属板?」

「どれか分からないが、その金属板だ。スナイパーは大体頭を狙って撃ってくるから、それを防げばいいってことだ。だから頭、具体的には脳の周りを金属板で覆ったんだ」

嘘みたいな現実を受け入れようと頑張っていると、前の運転席から部長の声がした。

「痛かったよぅ…」

今まで聞いた中で一番弱々しく放たれた言葉だった。

「そうなんだ…」

気をとりなおして二つ目の質問をする。

「じゃあ………キーってなに?」

「キーってのは『テンペストキー』の略称で、勇が作った科学武器(スキル)だ。いくつか種類があって、どれも切れ味が高すぎる危険なスキルだ」

「あれ?勇さんが作ったのになんで回収しなきゃいけないの?」

「勇がまだ科学研究部に入ってない時に裏で馬鹿やってたんだ。いろんな種類のキーを作って高値でやりとりしてたんだとよ。それを今、部活ぐるみで回収してるんだ」

「じゃあパターンっていうのはテンペストキーの種類ってこと?」

「そうだ。大剣型からナイフ型までいろんなのを作ったらしいぞ」

「そうなんだ………じゃあこの車って誰のものなの?」

今部長運転で高校へ向かっているこの車は、高校の駐車場にあったものだ。これが部長の車だとしてもなぜ高校に停めてあるかが分からない。

「これは私の車だよぉ。学校に許可を取って停めさせてもらってるのぉ。もちろん運転免許も持ってるよぉ」

それを聞いて一安心した。

「じゃあ最後に、この部活の目的って何なの?」

「それはな………勇が作った科学武器(スキル)、『テンペスト』を止めることだ」

一瞬渋ったが、駆我さんが答えてくれた。

「勇は昔、世界を潰すために一つの科学武器(スキル)を作った。それが『テンペスト』だ。およそ五年で世界を潰す準備が準備が整う。そうすればこの星は消えて無くなる。けど本人も死ぬことが怖かったんだろう。別で作ってあったキーを使えば止められるようにしたんだ。逆に言うとキーなしでは止まらない。起動から三年、今も動いているテンペストを止めることが私達の、八ツ橋高校科学研究部の目的だ」

私は言葉が出なかった。世界を滅ぼす科学武器(スキル)なんてあるのだろうか。しかもそれはもう起動しているという。まだ起動しているという。

あの日、些細(ささい)なきっかけで勧誘され、入部した部活はとてつもないことをしていた。

 

八ツ橋高校へ到着すると、もう日が落ちていた。時刻は六時半。

「情報屋の資料による斬り裂きジャック犯行日時は、明後日の朝二時。つまり明日の深夜だよぉ」

駐車場に停まった車の中で集合時刻を確認する。

「十二時頃に学校前に集合、十二時三十分に出発だよぉ。勇には私から伝えておくねぇ。来てなかったら置いて行くよぉ」

遠足に行くみたいだが、実際は殺人犯を捕まえに行くのである。

「じゃぁ解散!」

部長の掛け声で今日の部活は終了した。




こんにちはぺんたこーです。
やっと部活動目的が分かりました!
まだまだ謎は多いですが、次は斬り裂きジャック編です!
誤字じゃないです。切りではなく斬りで合ってます。
それではまた、次のあとがきで!


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memory of one day
科学武器(スキル)を初めて作ったやつは最大の過ちを犯した」
「どうしてぇ?どこを間違えたのぉ?」
能力制限(リミッタ)をつけなかったんだよ」



情報屋の資料による斬り裂きジャック犯行予定時刻、午前二時の五分前、(奈々)駆我(くが)さんと位置についた。部長と勇さんは別の場所で身を潜めている。

普通の住宅街の一片、運悪く狙われることになった家の近くの公園の木の上に私達はいる。

深夜の空気と静けさが身に染みる。凍える指先をさすりつつ、その時を待つ。

「そういやちびすけ、『マスク』持ってないのか」

「マスク?持ってないよ?別に風邪引いてないもん」

視線を変えずに家を見たまま駆我さんが解説を始める。

「マスクっていうのは顔を隠すものだ。私達はアサシンであると同時に学生だ。顔がバレたら日常生活に支障をきたす。だから仕事の時にはマスク…お面のようなものをつける」

駆我さんは視線を家から変えることなく鞄を漁り、お面を取り出してこちらに差し出してくる。私は内心納得してお面を受け取った。いつの間にか駆我さんは真っ黒のお面を装着していた。さながら魔王みたいだ。

「今日はそれを使え。帰ったら部長にちびすけ専用のマスクを作ってもらおう」

私は頷いてたこさんのお面を被った。

 

午前二時。腕時計の針が丁度零を指した瞬間、その時はやってきた。見張り続けていた家の玄関に人影が現れる。その人影は真っ黒のコートを着ており、双眼鏡越しに見るその姿はボロ布にしか見えない。右手には銀色に光るアタッシュケースを持っており、黒いコートと白銀のケースの相反する色が私の眼に何かを焼き付けた。いや、何かを思い出させた。

私は駆我さんの方を見るがGOの合図はない。再び前を向いて、人影が玄関から家へ入るところを見届ける。

閉まる寸前の扉の前に、どこからともなく音もなく勇さんが現れる。いつも通りの白衣をなびかせ、部長の合図を待っている。

「ちびすけ、これを見ろ」

そう言って駆我さんが開いたのはノートパソコンだ。画面上には誰かの部屋が映し出されている。

「これはあの家の子供部屋だ。勇に頼んで昼間に設置してもらった」

要するに監視カメラだ。画面右下には今日の日付が表示されており、現時刻を示す数字がせわしなく入れ替わっている。

(やつ)が犯行に及んだら、突入する。確認しておくが、目的は斬り裂きジャックの『討伐』ではなく、キーの『回収』だ」

私は小さく頷いた。

画面を見つめて数分、ようやく斬り裂きジャックと思われる人影が画面上に現れる。影は何の迷いもなく部屋を移動し、ベッドの前まで来る。そのベッドでは、今回の被害者になるであろう少女が眠っている。これからされることも知らずに、すやすやと。

斬り裂きジャックがまず懐から出したものは注射器だった。そしてそれを高々と掲げると躊躇(ためら)いなく振り下ろし、ベッドの上で寝ている少女の二の腕に突き刺した。

薬品を注入、一秒もせずに注射器を腕から引き抜くと、懐へ注射器を直してアタッシュケースに向かってかがんだ。斬り裂きジャックが二つあるロックを同時に弾いてケースの蓋を開くと、そこにはナイフのような形をしたものが入っていた。

「これがテンペストキー?」

画面越しに行われる犯行を観ながら私は駆我さんに問う。

「ああ、そうだ。パターンは………『コダチ』か」

勇さんが昔作った科学武器(スキル)、テンペストキー。とても高い斬れ味を誇る武器だそうだ。それの『コダチ』という種類。鮫の尾ビレのような形の刀身を持つそれは、柄と刃の継ぎ目が全くない。一つの大きな素材を削って作ったものようだ。

テンペストキー:コダチを持った腕は蛇のように眠る少女の胸に近づき、反対の腕は眠る少女のパジャマのボタンを手際良く外していく。前が全開になると、シャツをめくり上げ、コダチの刃先を胸の中央に添えた。

ゆっくりと切っ先を突き立て押し込んでいく。少女の胸の肉が裂けてコダチの刀身が沈んでいく。

パソコンの画面越しで観ても嫌悪を感じる光景に、私は思わず口を押さえた。込み上げる嗚咽を飲み込む。込み上げる涙を引き留める。

「…すけ!………ちびすけ!!」

駆我さんの呼びかけで(われ)に帰る。ショックで思考が止まっていたようだ。

「行くぞちびすけ!突入だ!」

「あ………うん!」

駆我さんに続いて木から飛び降り、公園から家へと走った。

 

勇さんが既に突入しており、玄関扉は開閉音がしないに三角形の木片が詰まってストッパーの役割を果たしていた。音を立てないように、かつ急いで家へと入る。

室内でまず目についたのは、壁に書かれた暗闇で光っている一本の黄色いラインだ。

「勇が作った科学武器(スキル)、『(ひかり)()()』だ。簡単に言えば暗闇で発光するインクが入ったペンだ。時間が経てばインクは蒸発するから消さなくていいし証拠も残らない。色ごとに消えるまでの時間が違うそうだ。今回は黄色だから数分だ」

光るラインを辿り走りながら小声で解説する駆我さんの後を追いかける。ラインは階段へ続いており、出来るだけ静かに駆け上がる。

階段を抜けて二階へ到着するとどこからか削れるような金属音がする。誰かが戦闘になった証だ。戦闘が始まったということは相手にこちらの存在がバレたということだ。つまりもうコソコソと音に気を使う必要がなくなったのだ。

「ねぇ駆我さん!部長との連らッ!!」

質問を言い切る前にものすごい勢いで駆我さんの手が私の口を抑える。息ができないうえ、はたかれた痛みがじわじわとする。

「静かにしろ!」

金属音の中でギリギリ聞こえる程度の声量で駆我さんが喋る。

ようやく手を放してくれ、口が解放されたので深呼吸をする。

「なんで?もう戦ってるじゃん!こっちのことバレてるよ!」

一応小声で言った。

「誰かが戦闘を初めても、相手に他の奴の位置が分かるわけじゃない。こちらの人数も分からない。相手にとって不利なことには変わりない。ならば戦闘はそいつに任せて私達は援護にまわるか、不意打ちのタイミングを待つなど、戦略の幅が広がる。分かったか?」

私は頷いた。

駆我さんは壁に沿って子供部屋の扉へと向かう。今この瞬間、壁一枚隔てて戦闘が行われている。

「ちびすけ、入部試験の時に作った科学武器(スキル)は持って来てるか?」

「『びりりん』のこと?あるよ」

びりりんとは私が科学研究部に入部する際、腕試しに部長に作れと言われた物だ。四本の爪が正方形の頂点の位置にそれぞれ付いており、握力計の握る部分のようなグリップを握ると爪が勢いよく閉じる。さらにグリップの横側に付いているボタンを押すと電気まで流れる。掴んで焦がす、攻撃系の科学武器(スキル)だ。

「使うぞ。構えろ」

私は背負っていた鞄から急いでびりりんを取り出して電源を入れる。

「部長の指示で突っ込むぞ」

「いっくよぉ!」

「ぶ、部長!?」

指示を待つ暇も無く家の天井をぶち破って部長が白衣をなびかせながら降りてくる。しかも部長は顔にうさぎさんのお面を着けている。呆気にとられている私の背中をぽんと叩いて、両手に科学武器(スキル)を持った部長は軽やかに廊下を駆けて行った。

「行くぞちびすけ!」

駆我さんの言葉でやっと今やるべきことを思い出し、足を動かす。

少女の部屋に入ると、今までの争いの果て、室内は見るも無残な光景になっていた。争いの当事者も無残な姿になっている。具体的には勇さんの服が何箇所も裂けており、白衣の至る所に血が滲んでいた。相手の斬り裂きジャックに目立った傷はない。防戦一方だったのだろう。

部長が左手に持っている科学武器(スキル)を敵側に向けて勇さんを守るように二人の間に滑り込む。二人を守る科学武器(スキル)は大きさと分厚さから盾のようにみえる。

「部長、遅いですよ…」

疲労しきった声で勇さんが言う。

「ごめんねぇ…タイミングが合わなくてさぁ」

「まあ生きてるからいいんですけど…それより本題始めてください

「わ、分かったよぉ〜。ねぇ、斬り裂きジャックぅ。あなたの目的は何なのぉ?」

真っ黒のコートを着た人物はのろりとした動きで近づき、盾に斬撃を入れる。削れるような金属音がするが、盾には傷はついていない。

「ちょっとぉ!話聞いてるのぉ!」

攻撃を諦めた斬り裂きジャックは周りを見回す。

部長が叫んだ。

「奈々ちゃん!科学武器(スキル)!!」

咄嗟にびりりんのボタンを押して爪の部分に電気を流す。窓に向かって走るしかしその先何をすればいいのかが一切分からなかった。

焦ってどんどん出てくる汗を感じながら今自分に求められている行動を考える。

「奈々!」

思考を遮ったのは勇さんの言葉だった。言葉と一緒に何かが飛んでくる。しかしそれは放物線を描いたのちに床に叩きつけられて、粉々に割れてしまった。花瓶だ。木の床には花と破片が散らばって、水浸しになった。

私は答えをだした。求められている行動。今するべきこと。

それはー

「やぁあ!!」

私はびりりんを床に突き立てた。電流は水を伝ってボロボロのマントを這う。生き物のように纏わりついた電気は、斬り裂きジャックの身体の機能を麻痺させる。

音を立てて倒れる身体を確認した私はびりりんを床から抜き、電源を切る。

「よくやったな、奈々」

「うん!初めてにしてはぁ上出来よぉ!!」

「回収だけでよかったんだがな、討伐までこなすとは」

私は次々に浴びせられる歓声に身を縮める。

「さて…駆我、後始末よろしく!」

勇さんは駆我さんの肩をぽんと叩くと、開いた窓目掛けて大きく跳躍した。引き止めようとする伸ばした駆我さんの手を振り払い、速度を殺さないまま屋根の上を軽やかに走って、みるみるうちに小さくなりやがて見えなくなった。

一瞬の出来事だった。駆我さんの肩を叩いてから姿を消すまでわずか数秒。

「また逃げたねぇ…」

呆気に取られている私の隣で部長が呟く。

「ちびすけ、もし討伐依頼で任務達成したら勇から目を離すな。あいつはいつも後始末をする前に逃げる」

経験者は語ると言わんばかりに駆我さんが言う。

「ほらぁ、警察が来る前に片付けるよぉ!」

部長の一言で駆我さんが動く。テンペストキー:コダチを斬り裂きジャックが持っていたアタッシュケースに入れて蓋を閉める。部長は鞄から大きな麻袋を取り出し、感電して動かない斬り裂きジャックをその中に詰め込む。割れた花瓶の破片と散らばった花、監視カメラを回収して部屋を争う前と同じような配置にする。

「よし、こんなもんか」

「そうねぇ、帰りましょぉ」

駆我さんが麻袋、部長がアタッシュケースを持つ。疑問を残しつつ部屋から出る。そういえば壁に『光の在り処』で描いてあったラインが消えている。

玄関を出てドアストッパーを外し、家を後にする。

「ねぇ部長、これからどこ行くの?」

「部室だよぉ。今日の収穫置いていかなくちゃぁ」

「じゃあ質問!」

情報屋の帰りと同じように質問タイムだ。

「あんなに激しく戦ってたのになんで誰も気づかなかったの?両親は寝てたんじゃないの?」

「目標が家に入ってから少女の部屋に現れるまでに時間があっただろ?多分あの時に少女にしたものと同じ注射を親にもしてたんだろう。それに少女の部屋にはピアノがあった。きっと防音設計なんだろう」

答えてくれた駆我さんは麻袋を一切引き摺らずに軽々と持って歩いている。麻袋は人一人分の重さがするはずだが一切顔色を変えない。

「なるほど…じゃああの子は?ちょっとだけどコダチで斬られたじゃん!」

家へ突入する前カメラで様子を見ていた時、確かに少女の胸にキーの刃が入っていた。

「絆創膏貼って包帯巻いたから大丈夫だよぉ。キーの斬れ味はすっごいからぁ断面をくっつけて固定すればすぐ治るよぉ」

うさぎさんのお面を付けた部長が言う。

私は安心する。テンペストキーの回収が第一目的でも、無差別に子供を襲う斬り裂きジャックの犠牲をこれ以上出したくはない。

あれこれ質問しているうちに八ッ橋高校へ到着する。時刻は午前三時を少し過ぎた頃だ。当然校門は閉まっていたが二人は難なく飛び越えて、部室に収穫を置いて一分も経たないうちに戻ってきた。

「それじゃぁ帰りましょっかぁ」

「久しぶりの深夜戦で疲れましたね。ちびすけも明日…今日の朝学校に遅れるんじゃないぞ!」

私は笑顔で頷いた。二人が見えなくなるまでに手を振り初めての部活動実戦は成功という結果で終わった。

スキップしたい気持ちを抑えながら静かに目の前に見える、月明かりに照らされた帰り道を歩いた。




こんにちは、ぺんたこーです。
一話で終わってしまった斬り裂きジャック編!この話で注目してほしいのは説明にない動きです!
本来は文字を駆使して読者に状況を説明するのが小説ですが、文字で記されていないキャラクターの感情を読み取ってくれれば嬉しいです。
例をあげると、斬り裂きジャックが部長の盾に斬撃を入れたあと辺りを見回しただけで、部長は奈々に科学武器(スキル)使用の指示を出しました。なぜかというと、勝てないと悟ったジャックが逃走すると判断したからです。
『なぜそうしたのか』という理由まで考えて楽しんでいただければと思っています!(作者の文章力のなさを正当化しようとしている)
つまり言い訳!!
それではまた、次のあとがきで!


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memory of one day
「どうしていつもいつもこんな酷い点数とるのぉ!」
「いてっ…どうしてって言われても…いてっ!」
「もぉ!次の模試まで勇は科学武器(スキル)所持禁止ぃ!かかりは科学武器(スキル)製作禁止ぃ!」
「「そ、そんなぁ〜!」」


「ちょっと勇さん!!」

放課後、部室にて、俺、説教中。

未だに理解できないこの状況を俺、南古都 勇は理解できていない。理解できないのだから理解できてなくて当然なのだが…

床に仰向けで寝ている俺の腰の上にはオーバーオールの女の子が立っている。特殊すぎる状況をどう理解しろというのだろう。

テンペストキーと名をつけた斬れ味超特化の武器、それのコダチという小さなナイフ型の剣の回収と無差別に子供の心臓だけを持ち去る科学者(アサシン)、斬り裂きジャックの討伐を終えたのが今日の夜明(よあ)け前。

いつも通り家に帰り、仮眠。起きて黒焦げのパンを食いながら学校へ到着。六限まである授業を終え、部室へ向かうとドアの前で奈々が腕を組んで仁王立ちで待っていた。

歩いてくる俺に気がつくと奈々は小さな体を生かして俺の股下へ綺麗なスライディングで滑り込み、右手に隠し持っていた科学武器(スキル)びりりんで俺の足を軽く麻痺させた。

そのまま部室へと引きずり込まれて今にいたる。

「聞いてるの?」

「聞いてない。というよりなんでそんなに怒ってるんだ?」

「勇さんが昨日…今日の朝の依頼の後片付けせずに帰ったからでだよ!」

浮かぶ疑問。なぜ片付けしなかったことを怒っているのか

長年の疑問だ。そういえば部長にも怒られたことがあった。

足を確認する。まだ痺れは残っているが動かすには十分だ。

「おい奈々、覚悟しろよー」

次々と説教を繰り出す奈々に軽く注告すると、俺は腰に乗っている小さな足を掴んで奈々を垂直に持ち上げる。

急に足が地面から離れた奈々は驚愕と恐怖で慌てふためいている。

奈々の足の下から体を退け、代わりに転がっていた科学武器(スキル)を足を器用に使い奈々の下に来るように寄せる。

「この科学武器(スキル)(けもの)()みといって、部室への侵入者の足を使い物にならなくするために作ったものだ」

俺は奈々の足首を持つ力を本当にゆっくり、しかし確か弱めていく。

「さあどうする!俺を許すか!足を失くすか!」

「いやぁぁああぁぁ!!下ろしてぇぇぇえええ!!」

「手を離していいんだな?」

奈々の下には獣噛みが設置されている。

奈々は首を横にぶんぶん振り、必死に否定する。

「だったら答えろ!許すか!足か!」

「許す!許す!許すから安全なとこに降ろして!」

最大限暴れた奈々を科学武器(スキル)のない地面に降ろす。

「ひどいよ勇さん!」

「なにがひどいだ!会うなりバチってくるほうがひでぇだろ!」

「うぅ…」

奈々が反論できないでいると部室のドアが開き、黒髪ロングストレートでコミュ障の部長が入ってきた。

「おっはよぉ…ってなにしてるの勇…」

「おはようございます部長。俺はなにもしてないです」

昼なのに朝の挨拶を返す。

「じゃあなぜ奈々ちゃんは泣いてるの?」

部長の言葉で奈々の方を向くと地面を濡らすそうと涙が下へ落ちていく。

部長は持っていた科学武器(スキル)オオダチの側面で俺の頭を思いっきり叩いた。

放課後、部室にて、俺、再説教。

「許してくださ…ッ!」

再び響く鈍い音。部長は自分の身長ほどあるシンプルな形の大剣を軽々と振って、その側面を俺の頭にぶつける。

いくら軽量といえど頭に金属をぶつけられると痛い。

「あ、そういえばぁ情報屋からお手紙きてたよぉ」

右手で大剣を持ちその刀身を俺の頭に乗せたまま、部長は左手で制服の胸ポケットから器用に手紙を取り出す。

「HARDの居場所ですか?」

部長は今回はこれで許すというように大剣を壁際の床に勢いよく突き刺すと軽く頷いた。

「どこなんです?」

まだ痛む頭を押さえながら立ち上がる。

「それがねぇ…」

大剣に軽く体重をかけている部長は複雑な表情をあらわに続ける。

「全員この高校にいるらしいのよぉ…」

俺は再び理解できない状況に陥った。

敗走にまで追い込んだにしろ、廃ビルを使った巧妙な作戦で駆我を()め、普段物静かな部長を激昂させた科学者集団『HARD』がこんなにも近くにいたなんて部室にいた誰もが思いもしなかった。

「え…?じゃあ今から会おうと思えば会えるってことですか?」

「うん…、しかも秒でぇ…」

灯台下暗しとはこのことだ。つい先日、本気で殺し合いをした相手が同じ学校で暮らしているなんて誰が考えるだろうか。

「…で、どうするんですか?部長」

同じ学校の生徒ということは、HARDのメンバーの誰か一人でも死ねば緊急集会が開かれ、追悼が行われるということだ。

ここは敵味方お互いに引くべき状況である。

「とりあえず会ってお話ししましょぅ…」

いつもよりさらに活気の無い声は、部室の空気までも変えてしまった。

「でもぉ私は会ったら討伐しちゃうかもしれないからぁ、かかりと奈々ちゃんで行ってきてぇ…」

「俺はどうするんですか?」

名前を呼ばれなかった勇が問う。

「勇はオオダチ手入れしてしまっておいてぇ」

オオダチとはさっき部長が勇を叩いていた剣のことだ。

「え?あ…」

事に気づいた勇は目を見開き間抜けな顔で剣を指差す。

「あれテンペストキーだったんですか」

「製作者が忘れないでよぉ!」

弱々しく怒鳴る部長。

八ツ橋高校科学研究部の裏の姿、科学者(アサシン)。その本来の目的は殺人でも金稼ぎでもない。昔、南古都(なこと) (ゆう)なる人物がばら撒いたテンペストキーという科学武器(スキル)を集める事こそが活動目的である。

気だるそうにオオダチの柄を持ち、軽々と持ち上げて部室奥のロッカールームへ向かう勇を見届けて、駆我(くが)と奈々は部室を後にした。

 

HARDの居場所はすぐに分かった。

科学研究部とは似て非なる存在。科学研究部の一つ下の階に位置する技術・工芸部の部員だった。

放課後である今、科学研究部は活動を一時停止、裏の顔科学者(アサシン)となり技術・工芸部の扉を叩いた。

「はーい!」

活気のある声の後すぐに扉が開き生徒が一人顔を出す。

「なにかご用ですか?」

奈々より高く部長より低い身長の少女は「ロウェイド・リリィ・コンシェータ」という名前らしい。ハーフなのだろうが日本でいることが長いのか、発音はとても綺麗だった。

「えっと…どうしました?」

困惑する少女は足に包帯を巻いていた。廃ビルからの逃走時、部長の科学武器(スキル)「ソードアブソリュート」に撃たれたものだろう。

その傷を見て駆我(くが)はようやく口を開く。

「足の傷、剣か?銃か?」

少女の表情が曇る。動揺と葛藤に(まみ)れた顔に汗が一筋流れる。

「場所を変えましょう」

「この前と同じ屋上でいいか?」

無言で頷いた少女はちょっと待ってと言うと部屋へ入っていき、しばらくして戻ってきた。先程とは服装が変わっており、八ツ橋高校の指定制服からブラウンが主体の大人しい服になっていた。

「行きましょう」

こうして駆我と奈々はコンシェータを連れて屋上に向かった。

廊下を歩いていると普段見慣れない、制服以外の服装が注目を集めた。当の本人は気にする様子もなく、むしろ一歩一歩、堂々と屋上への道を辿って行く。

 

屋上へ続く扉は当然のように閉鎖されていた。南京錠が扉を強引に塞ぐよう掛けられていた。

一目みると駆我、何の躊躇いもなくポケットから出した小さな科学武器(スキル)『鉄鬼の爪』でピッキング。ものの数十秒で南京錠は床に落ちた。

屋上に出るとそこには開放感に満ちた世界が広がっていた。グラウンドを一望できる高さ、雲一つない青空、間を持て余すほどの広さ。

そして、戦うに十分な足場。

「お前を呼んだのは他でもない」

コンシェータを鋭い目で抑えながら駆我は白衣を(ひるがえ)す。

「『テクノ』とはなんだ?」

技術・工芸部部員の少女は黙りこむ。視線に耐えながら打開策を実行する。

相手に悟られぬよう呼吸を乱さず慎重に、脳裏で描いた勝利の軌道をシュミレートする。

自分との勝負。葛藤を演じる少女。勝利を確信した瞬間、内ポケットに腕を突っ込み科学武器(スキル)『ロリポップ』を取り出し、標的に向かって大きく腕を振る。

 

一閃

 

ロリポップが放物線を描く前につま先から右手を綺麗な一直線に伸ばして跳躍した駆我が、振り上げられた少女の腕をがっしりと掴む。

少女の腕から落下した科学武器(スキル)は、落ちた衝撃で外面が割れてピンク色の煙をあげている。

「毒煙か。お菓子に偽装するとはいい案だ。…だが」

足下のロリポップを煙の害が及ばないほど遠くへ蹴飛ばし、少女の腕をさらに強く掴む。

「さあ、テクノとはなんだ?」

再び浴びる心臓を掴まれるような視線に、少女は口を割るしかなかった。




こんにちは、ぺんたこーです。
とても久しぶりですね。
今回は科学研究部とは別の部活、技術・工芸部が登場しました。一応学校ですからいろいろな部活があります。
彼らの今後の活動にご期待下さい!
ではまた次のあとがきで!


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memory of one days
「ったく科学武器(スキル)なんてどうやって作るんだよ…ググってもでてこねぇし、果物ナイフの刃を回したいだけなのによ。モーターぶち込んじゃダメなのか…?
……やってみるか」


屋上で一人の少女が正座している。

「テクノっていうのは技術、technologyからできた造語よ」

ロウェイド・リリィ・コンシェータは(うつむ)いたまま、一音一音を丁寧に発する。

「で?どういうものなんだ?」

「そのままよ。テクノロジー…つまり科学技術(かがくぎじゅつ)のこと」

納得と疑問が混じった顔で駆我はさらに言葉を続ける。

「なぜ科学技術(テクノ)を欲しがる?私にはそんなに価値のあるものに見えないんだが」

奈々は次を待つ。言葉、動作、感情、あらゆる要素をじっくりと観察し、的確に、確実に知識として情報を取り込まんとする。

しかししばらく待っても次の動きが無い。HARDのリーダー、ロウェイド・リリィ・コンシェータは俯いたまま黙り込んでいる。

静かな屋上には、グラウンドで活動している運動部の掛け声がこだまする。

「そろそろ話してくれ、寒い」

まだ夏だ。

しかしそんなことはどうでもいい。肝心なのは次の声だ。

「それは俺が話す」

気がつけば屋上へ入る唯一のドアにもたれかかっていた青年。茶色の作業服を着た彼は、情報屋ファイルにあったHARDのメンバーの一人だ。

「いいだろう、だがその四肢(しし)に装備している科学武器(スキル)を外せ」

青年は不気味な笑みを浮かべると作業服を脱ぎ去り、その下の武装を(あら)わにする。両手両足についた竜を思わせる銀鎧は、太陽の日を浴びて辺りを燃やさんと輝く。

「やっぱバレてたか…」

鎧腕(がいわん)の爪をぎゃりぎゃりと鳴らし、青年は歩みを進める。

「外して欲しけりゃ力づくでやってみな!」

突如走る。驚異的な瞬発力は鎧脚(がいきゃく)によるものだろう。アスファルトに傷を残しながら駆我に向かって一直線、低い姿勢で一気に距離を詰める。そして標的まで後数歩の所で姿勢を上げ、大きく腕を振り上げる。

これがいつものやり方。相手に反撃の隙を与えない準奇襲攻撃。

青年はこの方法でいくつもの仕事をこなしてきた。

しかし、これに対して駆我がとった行動は圧倒的に少なかった。

展開(・・)

相手に背を向けてただ一言呟いた。たったそれだけだ。

駆我が背負っていたゴルフクラブケースから、科学武器(スキル)が飛び出す。

四方向にその部品を広げた科学武器(スキル)は、駆我を守る盾となり銀鎧の爪を止める。

金属が(こす)れ合い、不快な音がこだまする。

「うっそだろ…」

渾身の一振りを容易く止められた青年は、動揺を声にするもすぐさま体勢を立て直し距離をとる。

体全体を使った動きを口を少し動かしただけで対処された。

たった一言で攻撃を止められた以上、次に何が来てもおかしくない。

ここで動くのは命を半分の確率で捨てに行くようなものだ。

半分本能ともいえるその行動に対して駆我は挑発する。

「もう二、三撃くると思ったが…思ったより“コケコッコー”だな」

多分『チキン』という意味だろう。普通にそう言われるよりも腹が立つ。実際、竜の鎧の青年は歯をくいしばり、己の憤怒を必死に押し留めていた。

「どうした!もう終わりか?」

さらなる追い討ちがかかる。この口車に乗ることが意味するのは 死 のみだ。怒りと死を天秤にかけて怒りの感情をどうにか押し殺す。

大きく深呼吸をし、青年は盾を見る。

「分かった…降参だ、話す」

渋々負けを認めた青年は四肢に着けていた科学武器(スキル)を外し、手の届かない場所まで蹴る。装備をなくして無防備な状態で両手を頭より上に上げた。

「いい判断だ。アマチュアかと思ったがそうでもないようだな」

駆我(くが)は盾越しに青年を評価した。

「さあ約束だ。話してもらおうか」

駆我は盾を向けたまま青年に近づく。

後ろでリリィが正座しているというのに、もはや相手にならないと言うように大胆に背を向ける。

少し離れた所から一部始終を眺めていた奈々は科学武器(スキル)びりりんの電源を入れてバチバチとリリィを威嚇する。

駆我(くが)の圧倒的な強さにHARDの二人は文字通り手も足も出せない。

切断(・・)

またもや呟いた一言。駆我の持っている盾は言葉に反応してその姿を変える。軽い駆動音と風を切る音が終わると盾の面影を一切見せない大きな剣がそこにあった。

剣の切っ先を青年へ向け、チェックメイトをかける。

青年はゆっくりと口を動かして科学技術(テクノ)の説明を始める。

科学技術(テクノ)って言うのは自ら科学武器(スキル)を作り出すことができない科学者(アサシン)が使う手段だ。工夫次第でちゃんとした科学武器(スキル)を作れる」

屋上の床を見つめながら放たれた情報は駆我を呆れさせる。

「そんなもので科学武器(スキル)を作って何が楽しいんだまったく。期待して損した…奈々、帰るぞ」

収納(・・)と呟き剣を元のコンパクトな形に戻すとゴルフクラブケースに入れてそれを背負った。

バチバチが楽しくなってきた奈々は少し躊躇(ためら)いながらもびりりんの電源を切り、駆我の後をついていく。

屋上にはリリィと青年だけがとりのこされた。下校を告げるチャイムが八ツ橋高校全体に響き渡る。

脱力した二人はしばらく放心状態だったが、チャイムが鳴り終わると大の字で寝転んだままリリィが口を開ける。

「もう一度科学技術(テクノ)に頼らずに科学武器(スキル)を作ってみましょうか」

青年の口から溢れたのは、はい。の一言だった。

夕暮れで赤く燃える遠くの山は少女らの心に火を灯した。




こんにちは、ぺんたこーです。
とても久しぶりの投稿です。待ってる人がいるかは分かりませんが遅くなってしまいすみません。
今回のお話は科学技術(テクノ)科学武器(スキル)の関係について。
テクノとは、スキルを料理に例えるならレシピ、プラモデルに例えるなら説明書のようなものです。
裏社会で科学武器(スキル)が流行り始めた少し後に普及だした物になります。
攻略本のように分厚いものから同人誌のよように薄いもの、PDFファイルやwebサイトまで多種多様です。
これからお話とどう絡んでくるのか楽しみにしてください!
それではまた、次回のあとがきで!


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