黒子のバスケ~白銀の軌跡~ (ZEKUT@GRAND)
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1Q

初めまして、処女作なので温かい目で見守っていただけるとありがたいです。
誤字等がありましたら教えてください。
作者も一応確認をしましたが、見落としがあるかもしれません。
それでも言い方は、続きをどうぞ。



「ラグビー興味ない!?」

「将棋やったことあるでしょ?」

「日本人ならやっぱ野球でしょ!」

「水泳ちょー気持ちいいよー!」

 

 

 そこら中から部活の勧誘を呼びかける声が響く。

 

 

 季節は春、今日から新しい新学期が始まると同時に新しく新入生もやってくる。そんな新入生たちを、どうにかものにしようと積極的に勧誘活動を続ける学生たち。

 

 

「賑やかだなぁ……」

 

 

 そんな喧騒が鳴り響く中、一人の男が桜の木の上で大きな欠伸をしながら、眼下に移る部活動の勧誘活動を眺めて物思いにふける。

 

 

「そう言えば、昨年もこんな感じだったな」

 

 

 青年は苦笑交じりに小さく呟きながらその光景を眺める。

 この光景はある意味どの学校でも恒例行事のようなものだろう。そして、新入生がこれに巻き込まれるのも毎度の事だ。かくいう青年も去年の入学時は悲惨な目にあったりしたりする。

 

 

 青年がこんな桜の木の上にいるには理由がある。

 一つ目は勧誘活動をサボるためだ。青年は口下手であまり人と話すのは得意ではない。基本的に遠慮せずに言葉を述べる性格もあり、第一印象は余り好意的に思われなかったりすることの方が多い。青年は自身が厄介事を持ち込まないようにする為に、部員の目を盗み桜の木まで逃げてきたのだ。

 二つ目はその目立ちすぎる容姿だ。青年の髪色は日本では珍しい銀色の髪だ。髪型はアシメントリーのようになっており、左目が前髪で見えなくなっている。それに加え、青年自身もなかなかの美形に入る部類であり、女生徒から声をかけられることも少なくはない。事実、ここに来るまでに新入生の女生徒に声をかけられることがたびたびあった。

 

 

 そう言った理由があり、青年は桜の木に避難もとい、サボりをしているのだ。

 最も青年の部活動の部員たちは彼がいなくなったことに気づき、激怒している事を彼は知るはずもない。

 

 

 青年はこの喧騒が収まるまで桜の木の上で隠れているつもりだったが、そこから面白いものが見える。思わず彼も二度見するような光景だ。事実、彼も目を細めてその光景を注視している。

 

 

「慎二の奴……何やってんだ………?」

 

 

 そこには、彼の所属している部活の部員である者が、猫の首元を掴むようにしながら180cm後半の男に連行されている様子が見えた。

 

 

「あれじゃあ、どっちが新入生かわかったものじゃないな」

 

 

 青年は溜息を吐きながら桜の木から降りる。流石の青年もあの光景を見て見ぬ振りができるほど薄情ではない。青年は自身の所属する部活動のブースに向かって歩き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひー、ふー、みー……今のところは入部希望者10人か。う~ん、今後の事を考えるともうちょいほしいかなぁ」

「まあ、今の人数に比べたら全然多いんだし、それに有望そうなやつも居そうだしいいんじゃないか?」

 

 

 入部希望用紙を数えながら愚痴を零す女性徒。それに応える眼鏡をかけた男子生徒。

 二人は現在、部活動のブースにて入部希望者の対応を行っている。しかし、女生徒の方は、思っていたより人数が集まっていないことに愚痴を零しているようだ。

 

 

「つーか、あの野郎……!いつの間にかいなくなりやがって!後でぜってぇシバく!」

「確かに私達に仕事を任せて自分だけサボろうなんて良い度胸してるわね……これは連帯責任でランメニュー倍よ!」

「ゲッ!そりゃねぇよ監督ぅ………」

 

 

 眼鏡をかけた男子生徒は、自身の不用意に発した言葉を、後悔しながら元凶である銀髪の男を恨みながら今までの入部希望者の書類を纏める。

 

 

「ま、とりあえずあいつは後でシメるとして、勧誘の方はどうかしらね?有望そうなの連れてきてほしいんだけど」

 

 

 女生徒が勧誘に向かっている部員に期待を寄せているところに、こちらのブースに向かってくる部員、否、連れてこられている部員を見て目を丸くする二人。当の本人は半ば半泣き状態で、二人に視線を向ける。

 

 

「か、監督ぅ~……連れてきました~……」

 

 

 この時二人は思った。

 

 

(いや、どう見ても連れてこられたの間違いだろ!)

 

 

 心の中でそんな事を思おうと、目の前の大柄な新入生は、そんな事情知ったことじゃないと言わんばかりに自身の聞きたいことを質問する。

 

 

「バスケ部はここで合ってるか?」

「……う、うん」

 

 

 あまりに衝撃的な光景に呆然としながら女生徒は、新入生に説明をしていく。しかし、当の本人はそんなことはどうでもいいと言い、入部希望用紙に名前だけを書きその場から去って行った。この一瞬は二人にとって、まさに嵐のような時間だった。

 

 

「こ、こえぇー!あれで一年かよ~」

「いや、それよりも何でコガが、首根っこ掴まれて連れてこられたのか知りたいんだけど」

 

 

 首根っこを掴まれて連れ来られた男子生徒は今までの恐怖と精神的疲労が噴き出したのか、椅子に座り机に突っ伏す。今の彼のこの行動に誰も注意はできまい。

 

 

「小金井君、伊月君達は?」

「伊月達ならもう少ししたら帰ってくると思うよ?流石に新入生たちも減ってきたし」

 

 

 小金井の言う通り、すでに新入生たちの多くはその場を後にし、帰宅している者も多くいる。それ故にこれ以上の勧誘活動はあまり効率的ではない。

 

 

「そうね、じゃあ、伊月君達が帰って来たら始めましょうか?」

「始めるって何を?」

 

 

 女生徒の言葉に疑問をぶつける小金井。その疑問を当たり前のように答える眼鏡をかけた男子生徒。

 

 

「決まってんだろ。あのサボり野郎をシメに行くんだよ」

「あ、そういやあいつ居ないじゃん!」

 

 

 とても今更なことに今気が付く小金井。

 

 

「あのやろ~。俺が一年に首根っこ掴まれている間にあいつは呑気にサボってたのかよ!」

「全く、どこに雲隠れしたのかしら」

「お、噂をすればなんとやらだな」

 

 

 話している間に噂の男が勧誘組と一緒にこちらに来ているのが見える。

 

 

「あ、慎二無事だったか?」

「第一声がそれ!?」

 

 

 男の容赦ない言葉に小金井の心を的確に抉る。

 

 

「あら、随分とのんびりしていたのね……白銀(・・)君…!」

 

 

 女生徒は笑顔で白銀に話しかける。いや、これは笑顔何て生易しいものじゃない。何せ目が一切笑っていないのだから。彼女の雰囲気から相当怒っているものだとわかる。だが、それに怯むような白銀ではない。

 

 

「ああ、少し面白そうな一年と話をしていて遅くなった。後これ入部希望者の用紙」

 

 

 女生徒の皮肉をたっぷり込めた言葉に答えた様子は全くなく、そんなことはどうでもいいと言うように用紙を差し出す。その様子にムッとした表情になりながら用紙を受け取り目を通す。そして、彼女は次の瞬間、目を見開き驚きの声を上げる。

 

 

「てっ、帝光中学バスケ部出身!?」

「はあ!?」

「マジで!?」

「帝光に抵抗する、キタコレ!」

「伊月、少し静かにしていようか」

 

 

 予想外のことに驚きを隠せない部員たち。それもそのはずだ。帝光中学校のバスケ部と言えば、部員数は100を超え、全中3連覇を果たした超強豪校だ。そして、今年の新入生、つまり今年の一年生には10年に1人と言われる天才が5人同時に現れ、全中で猛威を振るったキセキの世代と同世代という事になる。この帝光中学を、バスケをやっていて知らない者は居ない程のレベルだ。

 

 

「ちょ、ちょっと白銀君!これどういうこと!?」

「みたらわかるだろう、入部希望書だ」

「そう言うこと聞いてんじゃないわ!」

 

 

 彼女は白銀を問い詰めるが、白銀は偶々知り合って少し話しただけと言うだけだ。しかし、部員たちは既に、その帝光中学出身の生徒に興味津々だった。

 

 

 やれどのくらい強そうだとか

 

 

 身長は高かったかだの

 

 

 真面目そうだったかと言った的外れな質問ばかりだった。

 

 

 第一、一目見ただけで相手の強さが分かったら苦労はしない。真面目そうか真面目じゃないかと言ったことも答えられるわけがない。

 

 

 だが、しいて言うなら

 

 

 

「見たことない面白い奴」

 

 

 白銀からはそうとしか言えなかった。

 

 

 

 

 

 




物語が進まない件について…………


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2Q

プロフィールを乗せます!

名前:白銀 柊斗(しろがね しゅうと)
学年:2年
身長:184cm
体重:69kg
利き手:左
誕生日:4月2日
ポジション:SF
紹介文:7歳から14歳までの間、都合上アメリカに在宅。15歳になる前に日本に帰国し、誠凛高校に入学する。
誠凛入学後、リコからの必死の説得により誠凛バスケ部入部を渋々了承(10月)。
その後、白銀のバスケスタイルが問題で一時期、バスケ部から離れる。その後、日向達と和解することに成功し、誠凛の一員として認められ、エースとして誠凛を引っ張っていく。




 翌日

 

 

 入学式が終わり、本格的に学園生活が開始する。新入生は新しい生活に四苦八苦しながら初めての高校生活一日目のカリキュラムを終える。

 

 

 放課後

 

 

 それは部活生が待ちに待った部活動の時間だ。

 その例はバスケ部にも当てはまり、既に昨日訪れた新入生が、何人も体育館に集まっている。その姿は早くバスケがしたくてうずうずしている者、友人と談笑している者、ストレッチをしている者と様々だが、全体的にモチベーションは低くなさそうだ。

 

 

 そして、部活動開始の時間がやってきた。

 

 

 まずは初めに上級生である2年生から自己紹介をしていく。

 

 

「あー、俺の名前は日向順平。一応、この部活の主将をやってる。何かわからないことがあったら遠慮なく聞いてくれ」

 

 

「副主将の伊月俊だ、よろしく」

 

 

「俺は小金井慎二!バスケ始めてまだ一年だけどよろしく!」

 

 

「(ペコッ)」

 

 

「こいつは水戸部、下の名前は凛之助っていうんだ。無口な奴だけどいいやつだから!」

 

 

「俺は土田聡史、俺もコガと同じで高校から始めたんだ。初心者だけどよろしく」

 

 

「白銀柊斗」

 

 

「最後に男子バスケ部監督の相田リコです。よろしく」

 

 

 最後の言葉に一年生から動揺が走る。

 

 

「え、あれってマネージャーじゃ」

「え、それってあり?」

「じゃあ、あそこにいる先生は」

 

 

「あれは顧問の武田センセ、見てるだけ」

 

 

 そこから監督であるリコが新入生にシャツを脱げと言い、新入生のポテンシャルをその観察眼によって鑑定していく。そして、その中に一つだけ異常な数値を叩きだしている一年生がいた。先日、小金井の首根っこを掴んでいた一年生、火神大我だ。

 リコは戦慄する。火神の能力数値はおよそ高校一年生とは思えない破格の数値を叩きだしている。それに加え、軒並みが全くと言っていいほど見えない。リコは人生で2人目の天賦の才を、持つ者を見つけたことに内心驚きつつも歓喜する。

 と、此処でリコはあることを思い出す。

 

 

「そう言えば、黒子君っている?」

 

 

 よくよく考えればまだ黒子と言う人物に会っていないことに気が付く。リコもあの強豪校出身なら一目見ればわかるだろう、と高をくくっていたため、うっかり見落としていたのだ。

 その様子に白銀は不思議そうにリコを見ている。

 

 

「あれ?もしかして黒子君いない?」

「もしかしたら休みかもしれねーし、練習はじめよーぜ」

 

 

 日向の言葉にリコも頷き、練習開始の合図を出そうとするが

 

 

「おい、黒子ならいるだろ」

 

 

 白銀がそう言いリコの真後ろに指を指す。リコはそれに従い後ろを振り向く。しかし、そこには誰もいない。

 

 

「ちょっと、白銀君誰もいないじゃない」

 

 

 白銀の指摘にリコはからかわれたと思ったのか、少し不機嫌そうな表情を見せるが、それはすぐさま別の表情に変わることとなる。

 

 

「すみません、ここにいます」

 

 

 リコの背後から声が聞こえる。それと同時リコはギギギと錆びついたロボットの様にぎこちない動きで首を後ろに向ける。

 そこには先程まで誰も居なかったはずにも拘らず、驚くことにリコの目の前には無表情な少年が、自分の存在を主張するかのように手を上げている姿が見える。

 

 

「……きゃああああ!?」

 

 

 あまりの事で頭の中が整理のできずに悲鳴を上げるリコ。それに釣られて日向達のリコの方に視線が向けられる。

 

 

「どうした監督…って、どわっ!?どこから出てきた!?」

「と言うか誰だ!?」

 

 

「黒子です。後、最初からいました」

 

 

 あまりの衝撃的なことに一同は驚きを禁じ得ない。ただし、それは白銀を除いてだが。この場にいるメンバーは黒子の登場に驚きつつも唯一つ、全員が思ったことがあった。

 

 

(めちゃくちゃ影薄っ!)

 

 

 その後、何やかんやで黒子が、中学時代に公式戦で試合に出ていた等の爆弾発言をしたりしながらその日の練習は無事終了した。

 

 

 

 多くの謎を残しながら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その帰り道

 

 

 リコと白銀は部活を終え、一緒に帰り道を歩いていた。

 

 

「で、今年の新入生はどう?」

「今日見た感じでは、ずば抜けたのが一人と独特な奴が一人ってところだな。他は似たり寄ったりって所だな」

 

 

 リコの問いに白銀は少し考えた後、自身が感じたことを端的に話す。リコの言う『新入生はどう』と言う言葉の意味は、即戦力になりそうな人材はいたかどうかという事だ。白銀は現在の二年生の中で最もバスケに精通しており、観察眼も他のメンバーよりも優れている。そんな白銀にだからこそ、リコは部活動中にはできなかった質問をいまする。

 

 

「ん~……白銀君にとって黒子君はどう見えた?」

「色々と極端で異常な奴としか言えない。」

「……っていうと?」

 

 

 リコは自身も黒子を初めて見た時から感じていた違和感。その違和感を勿論、白銀も感じていた。

 

 

「まず、初めて見たときに思ったことが、あいつの身体つきが明らかスポーツをしているような奴の身体つきじゃなかったことだな。遅く見積もってバスケを中学から初めていたとしても、あの身体つきは普通じゃ在りえない。更にドリブルスキルはGとしては下の下か中ぐらい、シュートは独特なスナップ、反射神経も並、体力が特別ある訳でもなく走る速度も並、これだけを見たらどう考えても強豪校どころか並の高校でも試合に出るのは難しいどころかほぼ不可能だ」

 

 

 白銀の容赦ない言葉に聞いているリコですら苦笑いを零す。白銀は事バスケに関しては遠慮と言う文字はない。元々それほど人付き合いがうまいわけではなく、どちらかと言うと人付き合いは苦手で自ら話しかけることは極力しないような男だ。だが、それは日常での話であり、バスケでは別だ。それ故に白銀が入部した時は、日向達と意見が食い違い衝突することも少なくはなかった。

 そんな苦笑いを浮かべるリコを気にせず白銀はそのまま言葉を続ける。

 

 

「だが、あいつはパスに関しては正確無比の精度を持っている。付け加えるなら味方がとりやすいようなパスを心がけられている。視野の広さは並よりは広いし、観察眼は特に良い。その観察眼を使い味方のプレイに合わせたりできることからバスケIQも決して低くはない。そして、判断力やプレイに迷いが無いから思い切りが良い。最後に影が異常に薄い」

「つまり?」

「前半の事だけを考えると素人に毛が生えた程度に思えるが、後半の事に関しては、何度も繰り返し練習したことによって、自然に身についたような感じがした。だからこそ、俺が分かることはあいつのスペックは色々と偏りまくってて、異常に影が薄いってことぐらいしかわからない。唯一つ言えることは、あいつは練習は本気で取り組んでいたが、それだけじゃない。まだ何か隠し持ってる可能性が高い」

「それって、練習中じゃできないってこと?」

「さあな、今日の練習は基礎的なことばかりだったからな。そうだと断定するには少し判断材料が少なすぎる」

 

 

 白銀の言葉を最後にリコは何かを考えるように手を顎にやる。白銀はリコが何を悩んでいるのかは理解しているつもりだ。しかし、判断材料が少ない今できることはない。これ以上考えるの時間の無駄だ、と白銀は思っていた。第一、これから一緒に戦っていく仲間なんだ、知る機会はいくらでもあると呑気なことを考えていた。

 

 

「白銀君、明日1年対2年でミニゲームをしようと思うんだけどどう思う?」

「相手にならないな」

 

 

 リコの問いに対して白銀は淡泊的に、且つ絶対的な自信をもって言い切る。

 

 

「それはわかってるわよ。会ったばかりの1年生と今まで一年間一緒にやってきた2年生とは全体的に質が違うって言うのはわかるわ。だから白銀君は明日出さないつもり」

「わかった、審判でもやっておく」

「理解が速くて助かるわ」

 

 

 リコは満足そうにしながら明日の練習メニューを考え始める。

 

 

 白銀は誠凛の現エース(・・・・)だ。その実力は他の日向達と比べると明らかに桁が違う。日向達は決して下手なわけではないが、ただ白銀が理不尽なまでに強いのだ。そこで、リコは白銀と言う強力なプレイヤーを2年生チームから取り上げることによって、1年生チームとの実力の均衡を保とうと考えた。1年生チームには天賦の才能を持つ火神大我がいる。彼がいるなら圧倒的実力差を埋めてくれるだろうとも考えていた。ついでに火神がどこまでできるのかを見るのも目的の一つだ。その結果次第で今後のスターティングメンバーは大幅に変わることになる。そしてこのミニゲームは黒子の実力を確認するという事が最大の目的でもある。

 

 

「眉間にしわ寄せてばっかいるとブサイクになるぞ」

「余計なお世話よ、あんたみたいなプレイヤーがいると、こっちも大変なのよ」

「……悪かったな」

 

 

 何も言い返せない白銀だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日

 

 

「一年対二年のミニゲーム!?」

 

 

 昨日と変わらない練習メニューの最中に、突然言われたリコの一言に騒然とする。

 

 

「先輩らと試合ってマジで?」

「覚えているか?入部説明の時に言ってた去年の大会の成績」

「確か一年だけでインハイの決勝リーグまで行ったんだよな?」

「マジで普通じゃねぇよ……!?」

 

 

 試合が始まる前から一年生は二年生に既に気遅れてしている。この時点で一年生の大半は普段通りのプレイができないだろう。だがそうでない者もいる。

 

 

「はっ!ビビるよーなことじゃねー、相手は弱い奴より強い奴の方が良いに決まってんだろ!」

 

 

 そう言って始まった試合は、なかなかの接戦となった。

 

 

「マジかよあいつ!?」

「今のダンクを一年がすんのかよっ!?」

 

 

「おいおい、わかってたけどとんでもねーな」

「白銀ほどの技術はないが、パワーと高さがケタはずれだな」

 

 

 日向と伊月は火神の荒々しいくも力強いプレーに素直な感想を述べる。

 試合が始まってから2Q目、点数は17対16で二年生チームが勝っているが、普通なら点差がもっとついても可笑しくない状況だが、以外にも点差は全くついていない一進一退の状況で膠着している。

 二年生チームは日向の3Pを起点に中と外を使い一年生チーム圧倒するが、一年生チームのOFを止めることができずにいた。その理由は、火神の単独プレーだ。

 一年生チームは、火神にボールを集めることによって二年生チームに食いついている状況だ。全体的に余裕がある訳ではないが、火神だけは余裕を持ってプレーをしていた。

 

 

「一年チームも全然負けてねぇ!」

「ってか、火神だけで戦ってるぞ!」

 

 

 そんな状況で火神は苛立ちを隠せずにいられなかった。

 

 

(そんな事どうでもいいんだよ!マジで神経逆なでされて仕方ねー!)

 

 

「スティール!またあいつだ!」

 

 

 黒子が小金井にスティールをされ、攻守が逆転する。

 

 

「(なんか意味深なこと言ってたのに何の役にも立ちやしねー。雑魚の癖に口だけ達者な奴ってのが一番)イラつくんだよ!」

 

 

 火神は小金井がレイアップを決める瞬間、後ろから器用にシュートを弾き、速攻を防ぐ。

 

 

「また火神だ!」

「もう止まんねー!」

 

 

 一年生チームが歓声を上げるが

 

 

「あんまし一年に舐められるわけにはいかねーし、そろそろ大人しくしてもらうか」

 

 

 一年生チームのOF、火神にボールが渡った瞬間日向、小金井、伊月のトリプルチームが火神に襲い掛かる。

 

 

「火神に三人!?」

「そこまでして火神を!?」

 

 

 そこから試合の流れは大きく変わった。

 

 

 今まで火神に頼りきりになっていたOFは、火神と言う起点がいなくなったことにより、攻める手段が淡泊になり、点数を取ることができなくなった。それと同時に膠着していた点差は一気に離れ始める。

 

 

 

 38対20

 

 

 残り試合時間8分と言うところで、一年生チームからは諦めの声が漏れ始める。

 

 

「やっぱし強い……」

「勝てるわけがねーよ…」

「てか……もういいよ」

 

 

 そんなチームの声に溜まりに余っていた火神のフラストレーションが一気に爆発する。

 

 

「もういいって……何だよオイ!」

 

 

 火神はチームメイトの胸ぐらを掴み今にも殴りかかりそうなほどの剣幕で睨め付ける。その状況に慌てるリコだが、それは杞憂に終わった。

 

 

「落ち着いてください」

 

 

 火神の後ろに現れた黒子は火神に膝かっくんをし、火神を諫める。余りの出来事にチームメイトは呆然とするが、とうの被害者である火神は額に青筋を浮かべて黒子を睨め付けている。

 

 

「てめっ!?」

 

 

 黒子のとっさの機転により、火神が爆発することはなかったが、ギャーギャー騒ぎ立てる様子を見て、審判である白銀が仲裁に入る。

 それで一時騒ぎは収まるが、状況が好転することはない。しかし、此処でようやく黒子が動き始めた。

 

 

 

「えっ」

「はっ?」

 

 

 一瞬だった。突然の出来事に周りは理解することができなかった。あえて表現するとしたらいつの間にかパスが通っていて、何時の間にかシュートを決められた、だろう。

 

 

 そこから試合の展開は一変した。

 

 

 防ぐことができない謎のパス

 

 

 神出鬼没な黒子によるスティール

 

 

 今までの立場が逆転し、二年生チームは一切点数を取ることができなくなり、一年生チームの怒涛の反撃始まった。

 

 

 そしてとうとう試合終了まで残り1分と言うところで

 

 

「しまった!黒子のパスに気を取られ過ぎた!」

 

 

 火神のジャンプシュートによって逆転する。

 

 

 38対40

 

 

 二年生チームは動揺を隠せず、キャッチミスをし、ボールが外に出る。

 

 

「ご、ごめん伊月」

「気にするな、コガ」

 

 

 小金井はファンブルをしたことを伊月に謝罪をするが、状況は最悪だ。残り時間を考えるとここでシュートを決められたらゲームオーバーだ。

 

 

「慎二、少し悪いが交代してくれるか?」

「ちょっ、白銀君!?」

 

 

 白銀の言葉にリコが待ったを掛けるが、白銀は止まらない。

 

 

「残り1分もないんだからいいだろ?それに天狗になってる一年生の鼻を折ってやらないとな」

 

 

 そう言うと白銀はビブスを着てコートの中に入っていく。

 

 

「もー、勝手なことばかり言って。小金井君もごめんね?」

「別にいいよ監督、それにあいつになら安心して任せることができるからさ」

 

 

 小金井の顔には既に先程のミスをしたときの悲壮な表情はない。そこには白銀に対しての絶対的な信頼があった。

 

 

「出たからには勝ちなさいよね」

 

 

 そんなリコの呟きはコートの中に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、柊斗は出ねーんじゃなかったのか?

 

 

 日向は不機嫌そうに声とは裏腹に笑顔を浮かべながら白銀に声をかける。

 

 

「そう言うなよ日向、実際柊斗がいないと逆転は難しいんだから」

 

 

 日向の言葉をいさ冷めながら伊月は白銀に向き直る。

 

 

「お前が出てきたという事は火神は任せていいのか?」

「まあ、DFは期待しないでほしいんだがな」

 

 

 伊月の言葉を白銀は苦笑交じりで返す。

 

 

「わぁーってる、いつも通りDFでいいな?」

 

 

 日向の言葉に伊月と白銀は頷く。

 

 

 

 

 

 試合が再開し、スローインは火神に渡る。ここで火神は異変に気が付く。

 

 

(トリプルチームじゃなくなった。それにこれはゾーンディフェンスか)

 

 

 二年生チームは先程まで行っていた火神に対するトリプルチームを解き、1—3—1のゾーンディフェンスに切り替えてきた。トップが白銀、両サイドが日向と伊月、真ん中が土田、下が水戸部だ。

 

 

(ゾーンディフェンスで俺と黒子のパスをいっぺんに封じる気か。だが、その程度で俺を止めれると思ってんなラ大間違いだ!)

 

 

 火神は今までの試合経過で日向達の実力をすでに見切っており、二人までなら一度に来られても対処ができると踏んでいた。最悪、黒子に渡せばどうにかなるだろうとも考えていた。

 

 

 だが、火神はその考えをすぐに改めることになる。目の前の一人のプレイヤーによって。

 

 

 火神はさっさとトップにいる白銀を抜こうと片足を白銀の守備範囲に踏み込んだ。その瞬間、白銀の雰囲気が一変する。火神は白銀から発せられる肌が焼けるようなヒリつくプレッシャーに気圧されて、火神の思考に空白が生まれる。それが命取りだった。

 

 

 火神の一瞬の隙をつき白銀はボールを奪取する。火神がボールを奪取された位置はトップ。当然、味方チームのDFは居ない。

 

 

 普通なら

 

 

「よっと」

 

 

 白銀は急停止からのレッグスルーで突如現れた黒子の魔手から逃れ、次のバックチェンジで黒子を抜き去る。

 

 

「待ちやがれ!」

 

 

 黒子が白銀のスピードを緩めた隙に火神が白銀の横に並ぶ。しかし、白銀はそれを一瞥し、すぐさま視線をリングに戻す。

 残り時間も少なく、これで白銀が決めたとしても延長戦のないこのミニゲームでは同点引き分けだ。そして、それを認めないのが白銀だ。彼はバスケを妥協をすることは許さない。

 

 

 白銀は火神より小さなその身長でダンクをするために大きく跳ぶ。火神は白銀よりも高く跳び、ダンクを弾こうとする。

 

 

「っらぁ!」

 

 

 火神は先程のスティールをこのブロックで返さんと言わんばかりの気合を込めるが、白銀はその火神の心情すらも逆手に取る。

 

 

 白銀は途中まで完全にダンクをするモーションだったにもかかわらず、そこからボールを一度下げ、小さく円を描くようにボールを放る。

 

 

「なっ!?」

 

 

 火神はまさかここで白銀がダンクではなく、ダブルクラッチに切り替えてくるとは思ってもおらず、そのまま勢い余って白銀にぶつかってしまう。審判である小金井から笛が鳴る。そして無情にもボールはリングを潜りネットからパサッと音が鳴る。

 

 

「ゼッケン11番、プッシングカウントワンスロー!」

 

 

 このワンプレイによって、一年生チームの敗北は決定的になり、二年生チームの勝敗が決まった。

 

 

 

 




こんな感じでどうでしょうか?


誤字が多いかもしれませんが、勘弁してください。

誤字の報告をしてくれた『ぞろぞろ』さんありがとうございます。


感想、評価してくれたらうれしいです。


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3Q

 仮入部期間も終わりを迎え、新たな新入部員を加えて、スタートを切った誠凛バスケ部。その始動は予想よりもスムーズに進んでいた。

 

 

「そう言えば、キャプテン!一つ聞きたいことがあるんだけど、です」

 

 

「あるんだけどです?お前敬語下手くそか。練習中に聞きたいことって何だ?碌でも無い事だったらランメニュー増やすぞ」

 

 

「いや、あの銀髪の奴って、どんな人なんすか?」

 

 

 先輩に対して奴よばわり、その事に溜息を吐きながら日向は一応注意する。

 

 

「お前、仮にも先輩にむかって奴なんて言うな。あいつは気にしない奴だからいいけど、それを他の奴に言ったらシバくからな」

 

 

「うっす」

 

 

 日向はボールハンドリングをこなしながら、簡単に説明を始める。

 

 

「うちのバスケ部が、去年出来たばっかなのは知ってるな?」

 

 

「それは知ってる、ます」

 

 

「聞き流すからさっさと敬語に慣れろ。でだ、俺達が夏の大会で負けた後に柊斗は入部したんだ」

 

 

「転校生なんすか?」

 

 

「いや、柊斗は元々部活動には入ってなかったんだ。うちに入部する前は、地元のクラブチームで活動してた。ま、見ての通り人付き合いが悪いからやめたんだけどな」

 

 

 日向の言葉に、今日までの部活動で起きた風景を思い起こす。

 仮入部期間は両者ともに自重をしていたが、その期間が終わると毎日と言っていい程、主将と柊斗とで口論が起きていた。

 口論の内容は勿論バスケ。だが、その中身は苛烈を極めていた。

 やれパスの回転がどうだ、動き出しのタイミングが遅いだ、シュートモーションがこうだ、聞くに堪えない怒声を浴びせ合う二人。互いの主張が間違っていることはないが、根本として考え方が合わなかった。

 お前らが俺の動きに合わせろと、それが白銀の意見。

 対する日向の意見は、お前が俺らに合わせろ、と言う意見だった。

 弁護しているように聞こえるかもしれないが、白銀は自身の我儘で発言している訳ではない。本人なりに考えた結果、これが効率が良いとみなしての主張だ。

 だが、日向からしたら白銀の意見は全面的に賛成できることではなかった。確かに、実力の高いプレイヤーの動きに合わせることは必要だと理解している。それでも、誠凛はチーム5人で攻め、5人で守るチームワークを信条としたチームであり、白銀が入部する前から、今の今までそうして勝ち進んできた。

 まさに水と油、両者の考え方の相違。

 

 

「まあ、あんだけ言い合いしてるからって仲が悪いわけじゃないが、いいわけでもない。ぶっちゃけ、俺はあいつの事が嫌いだ」

 

 

「さ、さらっと言うな……」

 

 

「それ以上に。俺はこのチームの主将として、そして1人のプレイヤーとして、あいつの事を信頼している。ことバスケにおいて、あいつほど真摯な奴はそういない。その点だけは信用してるからな」

 

 

 その言葉に火神は好戦的に口元を吊り上げる。

 このバスケ部の実力は決して低くはない。全国的に見てどうかと聞かれれば判断に困るが、それでも並より上の実力者だという事は前回の練習試合で理解している。特にOFは眼を見張るものがあった。

 そんなチームの主将が全面的に信頼を置いているプレイヤーだ。前回はあえなく敗北を期することになったが、今度はそうはいかないとリベンジの炎に燃える火神。

 だからこそ、聞いておきたかった。白銀柊斗がどれほどの実力者なのかを。

 

 

「キャプテン、実際の話、その人はどれくらいできるんすか?」

 

 

「どれくらい、か」

 

 

 火神の質問に答えを言い淀む日向。

 その反応に思わず首をかしげる。

 あれだけの評価を下しておきながら、具体的な実力を聞かれれば答えが出てこない。奇妙と言うか、なんというか。

 それからしばらく溜めると、苦々しい表情で口を開く。

 

 

「……正直、俺もよくわからん」

 

 

「わからない、ですか?」

 

 

 あれだけ答えを言い淀んでおきながら、出てきた答えが『よくわからない』。期待していたものとかけ離れた容量の得ない返答に、火神は無意識に顔を顰める。

 

 

「実際問題、俺らと柊斗はまだ日が浅い。その間に実力を把握することは少し難しい。だが、短い時間しか一緒にプレイしていないが、それでも確信を持って言えることが一つだけある。あいつは全く底を見せていない」

 

 

「底を見せていない……」

 

 

「夏の大会が終わったら、冬の大会があるんだけどな、その大会中にあった5試合であいつが何点取ったか予想できるか?」

 

 

「多かったとしても、100点ぐらいじゃないっすか?」

 

 

 火神の予想は100点、この予想が正しければ一試合に20点もの得点を挙げていることになる。シュートを10本決めるだけと、簡単に見えるが、実際はそう簡単なことではない。

 膠着した試合ではロースコアになることもあり、40点ほどしか点が入らないこともある。逆にランガンゲームなら、両チームとも100点を超えることもあるが、それでも20点は対した数字だ。

 火神の予想の答え合わする様に、日向は答えを言う。

 

 

「150点だ」

 

 

「150!?」

 

 

 予想よりを遥かに超える得点に火神は驚愕を隠せない。仮に日向の話が本当なら、一試合に30点は決めている計算だ。

 

 

「まあ、得点力が高いからと言って、実力が高いって言う訳ではないんだが、それでもあいつは強い。身内贔屓に聞こえるかもしれないが、ポジションとかなしにしても、少なくともうちの地区では一番の実力だと思う」

 

 

 その言葉に今度は驚愕ではなく、火神は笑顔を見せる。

 当初火神は日本のバスケのレベルの低さに木菟なくない絶望を抱いていた。程度の低い試合、自分に追随することのできない味方、敵にもなりえない相手、もう一度アメリカに戻ろうかと考えたことも少なくはない。

 そんな中で自分の隣、もしくはその先を行く選手がすぐ近くに居るのだ。これで燃えないわけがない。

 

 

「はっ!そんじゃあ、あの人を抜けば俺がこの地区で一番ってわけか。分かりやすくていいぜ!」

 

 

「おう、今のお前じゃ勝てないだろうから、しっかり練習しろ」

 

 

 こうして長話をしている間に、ボールハンドリングのメニューはすべて終わり、次の練習に移行する。

 

 

「うし、締めにミニゲームだ。適当にチーム分けするから分かれろ!」

 

 

 その掛け声と共に練習に終わりの兆しが見える。

 その後、監督であるリコがキセキの世代を要するチームと試合を組んだことで一悶着が起き、更に噂の人物がこの場に現れたことでいっそう場が沸きだつこととなったがそれは些細なことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フィジカルも問題なし、動きにムラが出始めるのが20分からってとこか」

 

 

「冬よりは伸びてるな。それでも微々たるものだが」

 

 

「冬から春までの短期間でこれだけ伸ばせれば上等だ、馬鹿野郎」

 

 

 場所は変わって相田ジム。

 ここで二人の男がテストの結果に互いの意見を述べていた。

 

 

「おら、アイシングだ。しっかりクールダウンしとけよ」

 

 

「助かる」

 

 

「たくっ、もう少し年上に敬意を払いやがれ。可愛くない奴だ」

 

 

「男で可愛いと言われて嬉しいと思うやつは少ないと思うが」

 

 

「そう意味で言ってんじゃねえよ。そのまま楽な姿勢で聞いとけよ。今のところフィジカル、特に体幹は文句なしだ。多少接触しようがぶれることの無い重心、インナーマッスルで鍛えた筋肉の鎧、その筋肉の鎧を重しにすることなく十全に扱うことのできる柔らかさ、才能じゃなく反復することで身に付けたそれはお前の動きに答えてくれるだろう」

 

 

「そうか、その割に上半身と下半身の動きにラグが感じるんだが」

 

 

「それは新調した体に慣れてないだけだ。直に誤差も無くなる」

 

 

 白銀は手を開いて握ってを繰り返し、感触を確かめる。

 その様子を端から見ていた相田景虎は、大きく溜息を吐きながら忠告をする。

 

 

「念を押すが、その不安定な状態で無茶すんなよ。今のお前は成長期だ。身体の成長は勿論、心も大きく変わるデリケートな時期だ。新しくなった身体で試してみたいことはあるだろうが、くれぐれも気持ちを先走らせるなよ。そう言ったことで取り返しのつかない怪我をした奴は多くいる」

 

 

「わかっている。まずはこの身体の動きになれるとこから始める。今のままじゃ、本気で動いたららしくないミスをしそうだ。思考と身体を合わせるために、ボールをついて馴染ませることにする」

 

 

「わかってんならいいんだよ」

 

 

 言いたいことを言い終えた景虎は、計測に使っていた機器の片づけを始める。

 それ視界の端に捉えながら、白銀は今後のスケジュールを脳内で描き始める。

 現状、思考の一歩先を身体が行っている。そのラグは小さいが、そう言ったものが積もり積もって試合に大きく影響を及ぼすことを白銀も理解している。

 夏の大会まで残り時間は多くない。その残り少ない時間の中で、如何に体と思考をマッチングさせるか、それが今後の課題となるだろう。

 

 

「そういや、前のとこにはまだ顔を出してるのか?」

 

 

 突突にフラれた話題、それに苦笑を零しながら答える。

 

 

「月に数回程度な。景虎さんに紹介されたチームだけあってチームの総合力は見事の一言だ」

 

 

「世事はいい。そんな奴らから2Qの間に20点も得点決めやがって。大人もびっくりな強さだよ。これで片方だけなんだから、あいつらからしたら笑えねえよ」

 

 

「初めは苦労したが、慣れればどうってことはない。元々視野は広い方だ。それに見えなかったとしても、バッシュのスキール音でおおよその位置はわかる」

 

 

「普通の選手ならまず間違いなくできない芸当だぞ、それは」

 

 

 白銀はなんてことないように口にするが、景虎からすれば馬鹿げているとしか言いようがなかった。

 景虎が現役時代だった時でも、音によって状況を判断することなど意図的にはできなかった。できたとしても反射的に程度だ。

 それを意図的に行う事がどれだけの事なのか。それをいまいち理解していないのは白銀本人だけだ。

 本人からしたら足りないものを補うために努力した、それに尽きる。

 

 

「現役時代にお前みたいなのが居たらと思うとぞっとするぜ。獣のような本能と人間の知性の融合、そこに天賦の才能まであるときたら相手からしたら悪夢だ」

 

 

「人を獣畜生のように言ってくれるな」

 

 

「怒るな怒るな、マジで褒めてんだよ」

 

 

 そうこう雑談を交わしている間に、玄関からドアが開く音が聞こえる。

 

 

「ただいま~」

 

 

「おっ、リコも帰ってきたことだ。お前はさっさと帰れ」

 

 

「相変わらずの親馬鹿だな」

 

 

 今までの雰囲気から一変、娘を溺愛する父親へと変貌した景虎、白銀はこれさえなければ尊敬できるのだが、と溜息を零す。

 内心の事は口に出さず、軽く汗を拭き、服を着替え荷物を纏める。もしもだらだらする様なら、怖いお父さんがテッポーを持ちだしてくる。だからさっさと済ませる。因みに経験談だ。

 

 

「あ、まだいたのね」

 

 

「今帰るとこだ」

 

 

「お帰り、リコたん!」

 

 

「ふん!」

 

 

 少女の拳が一閃、父親の顔を打ち抜く。

 もはや恒例行事になりつつある流れに、白銀は相変わらず仲の良い事だと微笑ましく見守る。

 

 

「白銀君、今週末にキセキの世代の一人が居るとこと試合することになったから」

 

 

「そうか、俺は後半からか?」

 

 

「う~ん、今の日向君達でどこまで行けるか次第ね。少なくとも2Qは出てもらうからそのつもりで」

 

 

「わかった。監督であるリコの采配に従う」

 

 

「頼りにしてるわよ」

 

 

 その後、白銀はリコと軽く雑談し、帰宅した。

 実のところ、適当に合わせてみたは良いが、キセキの世代が何なのか知らなかったりする白銀だった。

 この男、自分がバスケすること以外に対する知識は壊滅的だったりする。

 

 

 

 



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4Q

 キセキの世代を要する海常高校との練習試合当日、誠凛高校一同は焦燥と憤りに駆られていた。

 

 

「伊月、あいつから連絡は?」

 

 

「したけど返信が返ってこないな」

 

 

「もうっ!何してるのよ!」

 

 

 その原因は白銀の不在にあった。

 試合会場となる海常高校は神奈川県にあり、東京から電車で来なくてはならない。大勢で電車に乗るとなると、朝の通勤ラッシュで邪魔になりかねないという事で、各自現地集合と言う形で集まることとなった。

 日向や伊月、選手らは電車で、監督であるリコは父親である景虎に車で送ってもらうと言ったように、各々別の交通手段で集まった。

 それが原因で発生した白銀の遅刻。

 白銀の実力を未だ把握していない一年生はまだしも、二年生らの動揺は少なくない。

 

 

「あ、返信きたぞ!」

 

 

 そんな緊迫とした空気の中、小金井の携帯に一通のメールが受信される。

 

 

「内容は何だ。事故とかじゃないだろうな?」

 

 

「ちょっと待って……えっと、あ、うん。マジで?」

 

 

 メールの内容を心の中で読み上げる小金井。その内容を読み、『えっ、これ俺が言わなきゃいけないの?』みたいな内容に思わず額に汗が浮かび上がる。白銀の遅刻に監督であるリコは勿論、主将である日向も若干苛立っていた。そんな爆発間近の二人に、爆発不可避なガソリンを注ぐことは、楽観的な彼でも躊躇いが湧く。なにより、その怒りの矛先が自分に向くことが一番恐ろしかった。

 

 

「どうした?マジで事故とかじゃないよな?」

 

 

 そこに伊月が怪訝な表情で問いかける。

 彼の言葉が白銀を心配してのことだという事はわかる。だが、その心配は今してほしくなかった。そんな発言をされれば、この内容を伝えた時の怒りの反動が大きくなる。

 しかし、これ以上言い淀めば他のメンバーにもいらぬ不安を与えかねない。

 小金井は意を決して内容を伝える。

 

 

「えっと、電車乗り間違えたから少し遅れるって」

 

 

 その瞬間、ブチッっと言う不快な音が聞こえた気がした。

 心なしか、監督や主将の機嫌がみるみる悪くなっている気がする。

 

 

「あ、あんの今畜生が!今日が練習試合だったからよかったものを!これが公式試合だったらどうするつもりだったんじゃ!ふざけてんのか?ふざけてんだよな!バスケが多少うまいからって何しても許されると思ってんじゃねえぞあのスカしヤロウが!?」

 

 

「ふ、ふふふっ。流石の私も堪忍袋の緒が切れたわ。確かに序盤からは出場させないって言ったけど、まさか遅刻をするなんてね。帰ったらフットワークを倍に、いえ、三倍やってもらおうじゃない。途中出場なんだから体力は有り余ってるはずよね?だったら普段の三倍程度、試合が終わった後にできるわよね?てかやらせる」

 

 

 試合が始まってもいないにもかかわらず、二人のフラストレーションは最高潮まで昇る。余りの怒り様に二人の背後から般若のようなものが見える。

 そして、その般若は選手たちを恫喝するかのように睨め付けた。

 

 

「おい、白銀が来ても出番なんか与えねえつもりで試合に挑むぞ!あいつに出番与えることになったらもれなく全員、次の日のフットワーク三倍だ!それが嫌なら死に物狂いで海常倒すぞ!」

 

 

 まさかの飛び火である。

 錯乱の末、自分自身も巻き込んだ盛大な飛び火が誠凛一同に降りかかった。

 誠凛高校の練習メニューは決して軽くはない。それこそ、全国区の練習メニューと大差ない程の質と量を兼ね備えている。それが三倍だ。確実に屍になることは避けられない。

 主将の言葉に反論しようとする伊月と小金井だが、それをギリギリの所で呑み込む。ここで反論することは、自分達だけでは海常に勝てないと口にすることに等しい。二年生は冬の大会を通して、自分達が如何に白銀に依存しているのか理解しているつもりだ。だからこそ、此処で自分たちが奮起し、少しでも白銀の負担を減らし、安心させてやらなければいけない。

 

 

「勝つぞ!」

 

 

『おう!』

 

 

 相手は全国区のチーム、いずれ全国に出場するのなら尾の力を体験しておくに早いことはない。

 それぞれが闘志を燃やし、モチベーションを高めていく。

 

 

「あれ、滅茶苦茶話かけづらいんっスけど」

 

 

 話しかけるタイミングを逃した黄色は、如何に自然にあの輪へ入り込むか思案するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃

 

 

「やはり電車は苦手だ」

 

 

 ようやく海常高校の最寄り駅に辿り着いた白銀は、片手でボールを遊ばせながらゆっくりとした足取りで、目的地に向かう。

 

 

「現状、うちの弱点は中に切り込むスラッシャーの不足、ゴール下の制空権を確保するリバウンダー、DFの連携不足、それと選手層の薄さ、挙げればきりがないが、それでもスタメンの実力はそこそこある。時代遅れだが確実性のあるピュアシューター、3Pが撃てないが堅実なガード、パワーはないが器用に立ち回る技巧派フォワード、未経験で欠けている物が多いが幅広くこなせるフォワードに、同じく未経験でゴールした以外は特にプレーできないリバウンダー。これだけ見れば前半だけでダブルスコアになることは必定だが、そこに変幻自在のパスと天賦の才を持つ奴が加われば、前半だけはどうにかなるだろう」

 

 あくまで前半だけだが、と呟く。

 事実、火神や黒子が出場することによって、多少の戦力差は埋めることができるだろうが、それでもジリ貧だ。黒子のミスディレクションは試合中常に発動できず、火神単体ではキセキの世代を相手にするのは困難、更に日向達と黒子ならまだしも、火神は連携をとることすら難しい。

 前半は騙し騙しでどうにか有耶無耶にできるだろうが、後半からはその隙を突いたプレーが重点的に行われるだろう。そうなれば、連携も碌に取れず、チームは空中分解するだけだ。

 

 

「まあ、大雑把な推測だが大きく間違ってはいないだろう。それほど戦力差は明確だ」

 

 

 と予想をたてているうちに海常高校に到着する。

 今更ながら、遅刻したことを怒られないかと考えるが、試合には間に合ったのだからいいだろうと、結論を付ける。

 もしもこの場に、二年生が居れば、『それはおかしい』と揃って口にする事だろう。

 

 

「おっ、意外に競った試合になってるな」

 

 

 誠凛37-海常35

 

 白銀の予想を上回り、誠凛高校は海常高校を相手に、僅差ながらもリードを保っていた。

 だが

 

 

「序盤から飛ばし過ぎたな。このままじゃ4Q前半辺りで失速する」

 

 

 白銀の推測通り、誠凛は海常に対抗するために最初から全力で試合に臨んでいた。更にそれに拍車をかける様に、『キセキの世代』黄瀬涼太対火神、黒子のぶつかり合いで攻守の切り替えが異常に加速していた。

 

 

「俊も熱くなり過ぎだ。司令塔が他の奴と同じ視点でものを見るのは良くないだろ。状況を理解して、俯瞰して、先を見て、今何が必要か見極めないと。せっかくの眼が見る影もない」

 

 

 ぶつくさと駄目出しをしながら、暫く試合を傍観する白銀。

 本来ならすぐにでもベンチに駆けつけるべきなのだが、あえてギャラリーに混じり試合を観戦する。その眼は、一挙一動たりとも見逃さんばかりにゲームの流れを記録している。その中で一つ図抜けたポテンシャルを発揮している人物が一人、白銀の目に留まる。

 

 

「あれが噂の、正直期待外れだな。一見洗練された動きに見えるが、センスに任せた荒削りのプレー。上手く模倣しているようだが、所詮二番煎じ、一つ一つに癖と無駄がある」

 

 

 天才と謳われ、恐れられているキセキの世代の一人に対し、随分と辛辣な言葉を零す。

 上から目線で傲慢にも取れる言葉だが、白銀からしたら当然の評価だった。

 相手のスキルを見ることで模倣し、自らの糧にする。なるほど、確かに脅威だ。だが、所詮はそれだけだ。所詮本物を真似た模造品。黄瀬の技は、確かに上手いが、それだけ。

 白銀には、黄瀬の模倣した技には先が見えなかった。本来の使い手は試行錯誤の上、この技を生み出したのだろう。そこに至るまでに、何度壁にぶつかったことだろうか。そう言った苦難を乗り越えて昇華させた技には、いくつもの先が見える。それこそ、試合の流れを変えるほどの技に変貌するかもしれない。だが、ただ模倣しただけの黄瀬の技にはその先が無い。

 だからこそ、白銀は黄瀬に対して警戒は持っても、脅威は抱かない。何故なら、それ以上の進化が無いのだから。

 

 

「レフリータイム!」

 

 

 頭の中で全体の採点を終え、2Qの中盤に差し掛かろうとしたところに、アクシデントが起きる。

 黒子の負傷だ。

 試合は止まり、今まで忙しく動いていた選手の足も止まる。

 そして試合が止まったことによって、今までの溜まりに溜まった疲労が降りかかる。そこに黒子の離脱、これは今の誠凛には痛すぎる痛手だった。

 今まで何とか喰いつき、リードを保つことができたのは一重に黒子の助けがあったからに他ならない。確かに日向や伊月、水戸部らも奮戦していたが、ポテンシャルで負けている相手にできることは少なく、火神は黄瀬の相手に精一杯。対する黒子は黄瀬封じに、OFの機転、目立つことはなかったが、要所要所で妨害を繰り返していた。それだけに、黒子の負傷は戦意を低下させるには十分だった。

 海常も不本意ながら、これで試合は決着が付いたと断じる。事実、今まで海常が優位に攻めることができなかったのは、神出鬼没な黒子のスティールを恐れていたからだ。一人抜いたと思えば、そこから音も無くボールが弾き飛ばされる。そこからの速攻の脅威は、知らず知らずのうちに海常のOFに躊躇いを植え付けていた。それが無くなれば、後は元の木阿弥。ゆっくりと点差が開いて行くだけだ。

 彼がいなければ

 

 

「リコ、大変そうだな」

 

 

「白銀君!?」

 

 

「おま、今まで何してた!」

 

 

「試合を見てた」

 

 

 まさかの発言に開いた口が塞がらない一同。それもそうだろう。すでに着いていたにもかかわらず、優雅に試合を観戦していたと言われて、驚くなと言う方が無茶だ。

 

 

「黒子、アイシングとタブレット。少し休め。後は俺に任せろ」

 

 

「すみません、お願いします」

 

 

 白銀はバッグから取り出したタブレットを黒子の口に放り込み、ユニフォームに着替えはじめる。

 

 

「リコ、黒子の代わりに出るぞ」

 

 

「ちょ!言いたいことは色々あるけど、準備運動は!?」

 

 

「来るまでボールを弄ってた。ある程度は問題ない。それよりも―――――」

 

 

 白銀は呆れたように周囲のメンバーを見渡す。

 

 

「順平、主将ならもう少し流れを読め。俊にゲームメイクを丸投げするな。俊はもう少しクレバーになれ。司令塔が頭に血を昇らせてどうする。凛はもう少し自己主張しろ。お前の美徳は裏方に徹するところだが、裏に固執し過ぎだ。そこの赤頭は動きが単調すぎる。わざわざ相手にブロックしてくれって言ってるようなシュートばっか打ちやがって。高さに頼り過ぎだ」

 

 

 ただでさえ意気消沈しているチームの士気を根元から折りに行くような駄目出し。罵詈雑言にも聞こえかねない発言に、一年生は呆然とする。

 

 

「リコ、そこの赤頭は慎二と交代だ。一度頭を冷やす必要がある」

 

 

「はっ!?ちょっと待てよ!」

 

 

 突然の交代指示に異議を申し立てる火神。

 だが、そんな言葉に耳を貸すことなく、白銀は淡々と指示を繰り出す。

 

 

「DFは1-3-1に変更。トップのガードを俺が抑え、黄色にボールが行かないように妨害する。OFはが指示を出す。外と中とで相手の呼吸を乱す。俊は眼で全体のバランス維持、慎二は空いたスペースに飛び込め。起点は言うまでも無く順平と凛だ。できるな?」

 

 

「遅れてきた奴が偉そうに言うな、ダァホ」

 

 

「全くだ。これで負けたらフットワークは三倍だぞ?」

 

 

「ま、白銀がいるなら大丈夫っしょ」

 

 

「(コクっ)」

 

 

 何やかんや文句を言いながらも白銀の指示に従う二年生。

 その姿には先程までの悲壮感はなく、むしろ試合が始まる前の様に戦意で満ち溢れている。

 

 

「もうっ!私に意見の一つもなしに勝手に決めて!」

 

 

「何だ、不服か?」

 

 

「悔しいけど、白銀君の作戦で問題ないのよね……でも、出るからには圧倒しなさい。それで遅刻は目を瞑るわ」

 

 

「了解した、監督」

 

 

 白10OUT 18IN

  11OUT 6IN

 

 

 天災がコートに舞い降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 バスケが始まらない……
 そして黒子の言葉が圧倒的に少ない!
 どうしよ~


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