境界の彼方 ~next stage~ (眼鏡が好きなモブ男)
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1章 3人から1人へ
第1話 神原家の非日常


第1話スタートです。どうぞお楽しみください。

追記 サブタイトル変更を行いました。また、亀投稿なのでご了承ください


あの戦い(事件?)から15年が経った…

そんなに出来事が無いと年月が過ぎ去るのは早いもんで。気付かぬ間に5年…10年…15年と過ぎて行った。

まあ、何も無かったのかと聞かれたらそりゃ色々あるさ。

例えば、10年前。僕と栗山さんは結婚した。後は…7年前、子供が産まれた。子供の名前は未來(みく)で、名に込めた願いは「幸せな()来が()るように」って感じ。字が一緒だと分かりづらいから、「来」を「來」に変えた。顔はというと、本っっっ当に栗山さん…じゃないや、未来にそっくりだ。目元なんか特に。

これは余談なのだが、昔の癖でついつい「栗山さん」って呼んでしまう事がある。その度に「今の私は栗山じゃないし夫婦なんだからさん付けも要らない……です」とか言われる。

が、それならそっちも敬語じゃなくていいじゃないかと言ってやったら「うー…不愉快です…」とか頬を赤らめながら言ってくる。うむ、今日も可愛いぞ未来。

まだ付き合ってただけだった頃は、こんなイチャイチャするようになるとは思ってなかった。中学生の頃はリア充を見つけては毒づいていたのが嘘のようだ。

さて、本題に移るとしよう。簡単に言って、僕神原秋人は、死にかけている。腹をナイフでブスッてやられた。もちろん普通はこんなもので死ぬはずがない。あのいかつい血の刀で刺されても痛いだけなのだから。恐らく術式かなんかでも掛けてあったのだろう、妙に息苦しくて、汗がダラダラ出てくる。

昔、泉さんにやられたような方法で人の面を極めて弱くさせられているようだ。

……足音が聞こえる。めちゃくちゃ足音のリズムが早い。まるで蹴飛ばすかのようにドアが開き、軽く泣きそうな顔をした未来と我らが娘、未來がそこには居た。

「先輩!平気ですか!?」

「ああ、平気だよ。それより、もう先輩じゃないだろ?」

ニカッと笑ってみせるも未来にはバカにしてるように見えたのだろうか、「不愉快です」と言われてしまった。これでも無理して笑ってるんだぞ?

「そ、それよりほら、看病の時に定番のリンゴですよ!」

「…おお!可愛いじゃん!」

そう、未来の作る料理はいつも味はともかく独創性溢れる見た目であり、結婚してすぐ、桜から結婚祝いで(再び)貰った豚の頭をそのまま焼いて出すという偉業をやってのけた。

なのに、今回のリンゴは…可愛い、綺麗なうさぎリンゴだ。どう考えても未来が切ってきたものではない。それ故「未來、上手いじゃないか。」と言うのは簡単だ。しかし、それだと未来が傷つく。かと言って「未来、上手くなったね。」と言っても未來がギャーギャー言ってくるだろう。

そう悩んでいると未来から「未來が切ったんですよ!」と言ってきた。

何も言わずに済んだことに内心ホッとしながら、「上手だぞ」と言いながら撫でてやった。すると、未來は「エヘヘー…」と心底嬉しそうに言っている。その様子を見ていると新しい何かに目覚めてしまいそうだ。

「パパ!あのさ!」

「んー?どうした?」

何か買って欲しいものでもあるのかな?良いぞ、なんでも買ってやる。(親バカ)

しかし、思っていたのとは違っていた。

「パパとママは、どうやって知り合ったの?!」

「そ、それは……。大きくなってから…」

「パパもママもなんで隠すの!?」

…成程、既に聞いていたか。でも未来は仕方ないよな。まず、覚えていないし、あの出会いは偽物…って程でもないけど本当に初めて知り合ったのではない。だから言わなかった…いや、言えなかったのだろう…。

皆さんご存知の通り未来が自殺しようとしていた(今考えてみると違うのかもしれないが)所に僕がメガネの魅力等々を熱く語ったと言ったのだった。

言えるか?こんな出会いだなんて。

そんな事を考えているのも構わず続けざまに未來は話してくる。

「まっいいかそれより、ママにパパのどんな所が好き?って聞いたの!」

「……!」

未来が凍りついてる。え、何?何て言ったの?

「そしたら、パパは優しくて、カッコイイっt…」

「未來ぅぅぅぅ!!!」

耳まで真っ赤にした未来が未來の口を抑える。息を荒げていて、文字通り必死だ。

「み、未來!?人が沢山いる所では、そういうのは、言っちゃいけないんだよーー?!」

そういう君だって公共の場では静かにしなきゃいけないだよ?ヤケクソの如く笑ってる未来の目は未來を見ているようでいながら未來見ておらず、その端っこには涙が溜まっていた。

こんな何気なく…は無いな。うん。非日常だが、幸せな一コマだった。

 

コンコン

 

突然誰かがノックをした。どうぞーと言うと現れたのは…博臣だった。

「お熱いようで」

アイツはやって来るなり、そう言い放った。おい、どうしてそうなった。僅かな静寂の後、博臣は二人を追い出した。ま、する事大体分かってるけども。だって僕が頼んだんだからな。

「…久しぶりだなアッキー」

「そうだな。何年ぶりだ?」

シリアスな雰囲気をぶち壊し、僕の脇に手を突っ込もうとする博臣の手を弾いて、本題に入る。

「…今日俺が来たのは何も世間話をする為ではない。お前の中の境界の彼方の事だ。」

博臣は、僕の事を指差しながらそう言った。

境界の彼方。それは僕の中にいる妖夢であり、最強って言っても過言では無い。内部が一つの街の広さ…だけだったら良いのだが、家もあって車もあって学校もある「超」じゃ足りないぐらい巨大な妖夢だ。本来、コイツの力で何事も無く忙しない日常に復帰できるのだが、今回は違った。その原因の調査を頼んだって訳だ。

「コイツは…どうした方が良いんだ?」

「……追い出せ」

「バカ言え!コイツがどれだけ危険か、分かってる筈だ!」

「まぁ待て。人の話は最後まで聞くもんだぞ。まず、お前を檻で閉じ込め、空に上げたあと、お前の中から追い出してもらう。悪いとは思っている…だが、これしか方法が無い。あと、お前に頼まれた事について。何者かは分からんがお前が刺されたナイフ、調べ終わった。……術式が掛かっていた。お前の人の部分はほぼ確実に、死ぬ。だからお前の体の主導権を握られる前に、上空で境界の彼方をお前に出してもらった後、お前の嫁さんに殺してもらう」

…ま、そんなとこだと思ってたよ。




これはアンチヘイトだ!と思ったら直ぐに言ってください。基準が無い(と思っている)ので難しいのです。
あと今回、丁度2500文字です。


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第2話 手紙

煎餅美味い


6月。それは日本で梅雨の時期として、恵みの雨を降らす反面、水害をもたらす時期である。ココ最近太陽が顔を見せることがなく、どこまでも曇り空が広がっている。

博臣(元)先輩に病室を退室させられてから早くも十分が経っていた。

未來は眠そうな目を開いては閉じ、また開き…を繰り返していたのだが、やがて目が開かなくなり、代わりに穏やかな寝息が聞こえてきた。

…何を話してるんだろう。私達2人に聞かせたくない事なのか?あるいは……私と未來に流れるこの「血」の事なのだろうか……。

未來が2歳の頃、何でもない段差で転んでしまった。普通の子なら泣き出し、親は絆創膏を貼るなり相当過保護な親なら病院に行くのだろう。

しかし、未來は違った。泣き出す所までは一緒だったのだが、血が一瞬で固まっていた。騒がれると困るのでおぶって早足で逃げる様に帰る事にしたから、大事には至らなかったが。

それはそうと、何故人の寝顔とはこんなにも眠気を誘うのだろうか…。

ヤバい、寝ちゃう!と思った所で丁度博臣先輩が出てきて、廊下で寝ているのを目撃されずに済んだ。

心の中でお礼をしつつ、再び先輩の病室へ。持って来たリンゴは何切れか食べられてあり、「美味しかったよ。」と先輩は言っていた。私も料理頑張らなくちゃな…。

…先輩の顔が暗い。何かを隠しているような、そんな目をしている。思い切って聞いてみると鍵を渡された。

どこの鍵なのかと問うと、引き出しの鍵という答えが帰ってきた。ついでに、見ても見なくても良いと。

引き出しというのは、良く勉強の時に使うあんな感じの鍵付き引き出しの事だ。

そう言えば、結構昔に先輩の部屋の掃除をしていたら「そこはやらなくて良いよ」と言われた記憶がある。

鍵を貰った後は、流れるように時間が過ぎて行った。下らない事を話したり、ほんの少しだけ…いちゃいちゃしたり…。

面会時間が終わって帰ることに。帰宅後もご飯を食べて、未來と一緒にお風呂に入って、歯磨きをして寝た。

 

翌日。やはり空は生憎の天気。そうだ、引き出しの事を忘れてた。鍵は…あった。鍵を右に回して、あったのは……手紙?

「栗山さんへ」と書かれた部分にバツ印が付いてあり、その上には「未来へ」と書き直されていた。

封を開け、中身を見ることに。

 

ーーーーーー

僕は今、名瀬家の家の扉の前に居る。

要件は一つ。

僕を……殺してもらう。

「ようアッキー」

「よう。…早速本題に入らせて貰うぞ。僕を檻に入れて圧殺しろ」

…自分から殺すように言うやつはなかなかいないだろうな。

ーーーーーー

 

「未來…ちょっと家でお留守番してくれる?」

「おっけー!」

ニコッと笑いながら未來を撫でてあげると、やはり気持ちよさそうに笑っている。

焦っているのを悟られないように落ち着いて準備をし、外に出る。ドアが閉まった瞬間、私の出せる最高のスピードで走る。

息が切れてきた。構うもんか。

足が自分の物じゃないみたい。知らん。走れ。

嗚咽が止まらない。諦めるな。まだ間に合う…!

溢れ出る涙を堪え、力の限り走った。

 

「未来へ…

これを読む頃、キミはおばあちゃんなんだろうか。なんちゃって(笑)

本当は40歳になる頃に話すつもりだったけど、これを読んでいるということは僕の命が危険な状態って事なんだろう。

これから書くのは、ずっと知りたがっていたであろう君の忘れてしまってた事についてだ。

まず、血を刀の形にする事が出来る能力について。

君は「妖夢」という、人の怨念とかが姿を持ったのを狩ることを仕事とする異界師としても特異な存在として生まれた。そう、「呪われた血の一族」として。

そして、呪われた血の一族には現在僕の体にいる、「境界の彼方」を殺すという宿命がある。高校生の頃、普通の高校生でいて欲しかったから、君を避けていたんだ。ごめんね。

今までありがとう。君と未來がいて、本当に幸せだった。」

 

勝手な事を言って…!残された私と未來はどうなるんだ。そっちが幸せでも、こっちは悲しいんだ!

怒りを胸に秘め、病院に到着した。しかし、既に先輩はいなかった。

…博臣先輩の所だ!

間に合うよう祈りながら、再び本気で走り出す。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「言い残す事は無いのか?」

言い残す事か。なんだろうな。…あ、そうだ。

「もしもの話だけどさ」

「何だ?」

「未来の記憶が戻っていたなら…ざまあみろって言っといてくれ」

「……分かった。にしても、最低のヤツだな。妻にざまあみろとは」

「お前が伝える頃にはもう妻じゃないし…神原秋人はもういない」

博臣は少し悲しそうな顔をして、僕のいる檻を縮めていった。

…未来は何て言うかな。いつも通り「不愉快です」とか言うのだろうか?それとも泣くのかな。

「……さらばだアッキー!」

そう叫ぶ博臣の目には涙が浮かんでいた。

 

この光景を最後に、神原秋人はこの世から文字通り消えた。そして、彼の中の境界の彼方が遥か上空に打ち上がった。




2話終了。鍵の下り、強引過ぎましたかね?(笑)
今まで0話の東雲を見た事は無かったんですが、本当にたまたまアニメの流れに合ってたという奇跡…


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第3話 追伸

大分間が空いてしまいました。テスト期間でして…


土砂降りの雨。威力が強く、水量も多い雨だ。

ああ、ホント強い雨だなあ、目にばっかり水が溜まって…前が良く見えないや…

少し遠くには博臣先輩()()がいる。ゆっくり近寄って、声を掛けることにした。

「雨、強いですね」

「……そうだな」

博臣先輩は目を細くしていて、今までに見たことがないくらい細い目だった。

「先輩は…?」

返ってきたのは沈黙。

「先輩は……?」

再び問いかけるも、またもや返ってきたのは沈黙だった。

「…答えてください!先輩は何処なんですか!?」

博臣先輩は微動だにせず声を掛ける前と同じ空の1点を見続けていた。

その空は、まるで鏡のように街が、大地が映っていた。

「…いい加減に…!」

慣れた身のこなしで右手の傷から刀を作り出し、首に突きつける。

「…その様子だと、思い出したようだな」

「だからどうしたって言うんです?」

そう、思い出した。嫌な思い出も、楽しい思い出も全て。しかし、それは何の意味も無い。その思い出を共有する人はもう、いないのだから…

「アッキーの最後の言葉だ」

「……先輩の?」

「ざまあみろ、だそうだ」

…ずるいよ、そんなの。もう、仕返しも何も出来ないっていうのに。

さすがに抑えきれなくなった哀しみが頬を流れる。

体感では数時間、実際には3分程泣いた後、帰りを待つ未來の事を思い出し帰ることにした。

 

家に着いたら既に12時だったため、未來に昼食を食べさせ、寝室に籠った。

神原秋人が存在した証であるあの手紙を何度も読み返し、その度に泣きそうになった。

が、手紙が入っていた封筒にまだ何かがあるのを見つけた。

取り出してみると、「p.s」と書いてある紙が入っていた。

えーっとなになに…?

「p.s

君の事だからきっと境界の彼方を討伐しに行くんだろうね。

 きっと僕が止めろと言っても…だから一つだけ。頑張って。あの世とかそういうのがあるのかは分からないけど、ゆっくり来るんだよ。|いつまでも待ってる。 」

危なかった。泣きかけた。しかし、未來がいる以上泣くわけにはいかない。…辛いもんだ。

閑話休題。

さて、これからどうしようか。今すぐ討伐とか死ぬ気しかしない。

なぜなら、さっき走った時、全盛期の十分の一ぐらいしかスピードが出なかったからだ。

恐らく境界の彼方も力が弱まっているだろうとはいえ、現状で倒せる可能性は皆無なのだ。

そして、今死んだ場合、小学生になりたての未來を一人ぼっちにさせてしまう。

せめて中学生までは一緒に居てあげたい。しかし、私の勝手で世界が破滅など本末転倒もいいところだ。

ということで博臣先輩にタイムリミットを聞いてみると、大体十年位で完全復活するらしい。

うん。平気だ。生活費稼ぎかつ戦闘の勘を取り戻す為に妖夢退治をして…。

よし、頑張るぞ。

 

その日の夜。未來が寝た後、額に優しくキスをして、妖夢退治に出発した。

久々の標的は初めて先輩と狩った包帯みたいなアイツだった。懐かしい感覚になりながらもしっかり倒す事に成功。

意外といけるかも?というのは間違った認識だったようで、息は荒いし貧血でフラフラになったりと2体目に取りかかる余裕は無かった。

…こいつ確か牛丼(並)二杯分しか無かったような…

真っ先にお金の方にシフトされた思考を今の自分の状態へと傾ける。

改めて考えると結構ピンチかもしれない。ホントにぶっつけ本番じゃなくて良かった…

元の状態に戻るのに数十分を要した後に2体目を撃破。後々妖夢石を鑑定してもらったところ野口さん一枚分だったから一応報われたんだろう。

帰った後はシャワーを浴びてパジャマに着替えて寝た。

 

今日の成果:1500円




最近字数が少ないのも反省点です。次回こそは…


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第4話 そして誰もいなくなった

感想が入っていてビックリしました。1でしたが||||||(_ _。)||||||
ですがそこは伸び代として頑張ります。当面の目標は5を貰うこと。がんばるぞい。


先輩がこの世を去ってから約6年。

身体能力が尋常じゃないレベルになった以外は特に変化は無く、いつもと変わらぬ日が来る…と思っていた。

嫌な予感はよく当たる。そんな人生の不条理の一つが今の私を襲っていた。

「…つまり、境界の彼方の復活が予想より早いと捉えていいんですね?」

「まあ、そういうことだな」

未來に持っていかせる弁当を作っていたら突然携帯が鳴り、今に至るのだが…

「この朝の忙しい時に電話をするのはどうかと思うんですが」というセリフはぐっと飲み込むことにした。しかし、朝食食べさせて、弁当作って、見送りしての朝のイベント3連発のこの時間に電話をするだろうか?せめてあと30分は遅らせて欲しいものだ。

「母さん、誰と話してるの?」

「うわぁぁ!って、未來か…」

寿命が3秒縮んだじゃないのとか言いたかったがそんな下らない事を言っている暇は無かった。だんだん私の冷静な思考が戻ってきた。今私の胸中にあるのはただ一つ。それすなわち、「さっきの話を聞かれていないか?」である。

もし聞かれようものならこの六年間が水の泡なのだが、神様は少しだけ味方してくれたらしい。

「本題に入るけど、何話してたの?」

「……大人になってからよ」

「いつもそればっかり!!」

どうやら今回は味方をしてくれなかったらしい。

…ごめん、未來…。でも、ただの嫌がらせじゃないのよ。

なんとしてもこの宿命は次の世代には引き継がせない。…今日、倒そう。それで、未來に話してあげなきゃ。今まで隠してきたすべてを。

そんな私の決意とは真逆に娘はひたすらに怒っていた。風呂が長いとか、ご飯食べ過ぎだとか…。

朝の騒動が終わり、未來を見送った後、私は境界の彼方を討伐することにした。手紙を書いて、早速ヤツの内部へ。

この時、私は気付いていなかった。()()()の意志が生きていたことに。

ーーーー

全く。お母さんはいつも話をはぐらかしすぎなんだ。

一人で母に対する愚痴を言いながら登校していたその時。

空に黒い稲妻が走った…気がした。

ーーーー

…十何年ぶり位なのだが、改めて凄い。なぜこれ程に強力な力を持っているのだろう。そして、それを押さえつけていた先輩も。

雑念を払い、早速ヤツの核を壊しに行こう。

と思ったが、そう簡単な話ではない。

境界の彼方の中にも妖夢がいるのだが、いくら弱っているとは言え30代も後半に差し掛かった世間一般でいうオバサンの私じゃあ前回のような戦い方は出来ない。

今対峙しているのは百足のような妖夢で、ひたすらにすばしっこい。こういうやつはまだマシだ。なぜなら、すばしっこい故に防御が薄く、少ない隙で集中放火を浴びせればいい。

問題は硬くて鈍いやつだ。隙は多いくせに一回一回で蓄積させられるダメージが少なすぎる。

しかし、ここは私の発想の勝利だ。

まず、高く跳ぶ。その後前方に回転し、足に血で尖った踵を作りだして回転の勢いで踵落とし!

これで敵は真っ二つになった。…気分が悪くなったのは内緒。

 

さて、段々中心部に近付いてきた。こうなると相手も焦ってくるのだろう、下手な鉄砲数打ちゃ当たる作戦で火球を飛ばしてくる。

だがしかしこっちも盾があるからそんなに苦では無い。

筈だった。

何者かに足を撃ち抜かれた。態勢を保てなくなり、前かがみに倒れてしまう。おまけに体に力が入らないと来た。

弱めだと防がれてしまうと気付いた敵は動けなくなった私めがけて火球に力を溜めている。絶体絶命ってやつだ。

ーーーー

眠い。めちゃめちゃ眠い。

数学の教科担任の山田先生は授業がとても静かで、それはいい事なのかもしれないが、とにかく眠いのである。

ふと窓に目を向ける。すると、天に向かって屹立する紫の光の柱が見えた。

眠気なんて吹っ飛んだと思っているのも束の間、今度は体がだるい。それに…嫌な予感がする。

この日初めて私は学校を早退した。体のだるさを吹き飛ばし、家に猛ダッシュ。

嫌な予感が現実にならない事を祈りつつ、再び走り出す。

ーーーー

動け動け動け!

火の玉はついに遠目から見ても私の身長と変わらない程度の大きさとなっていた。アレをくらったらいくら防御してても関係ないだろう。

現実は非情にして残酷。火球が放たれ、炸裂ーーーしなかった。いや、正確には私に当たる前に炸裂したというか。

ポカーンとしている私の前に、6年前死んだ筈の。愛を誓った神原秋人(先輩)がいた。

彼は私に微笑みかけると、ゆっくりと遠ざかっていく。

「待って……!先輩っ……!」

見た感じ先輩は普通に歩いているのにダッシュの私でも追いつけない。雪に足を取られて先程と同じようにコケてしまった。見上げるとーーー既に先輩はいなかった。

寂しかった。泣きたくなる程に。しかし、私には寂しさとは違う、温もりがあった。

まだ大丈夫。私はまだ戦える。

火球で力を使い切ったのか特に攻撃もされずに中心部に辿り着いた。

全力でジャンプする…と、再び力が抜けてきた。知るかそんなもん。気合だ気合。血の刃を振り下ろすと、まるで悲鳴を上げているかのように大地が揺らぐ。

だが私の攻撃は終わらない。最後に血を解放し、完全に消し去る。

その時の爆発にきっと私は耐えれないだろう。でも止めない。この宿命を…終わらせる。

「ハアアァァァ!」

そう叫びながら、私は力を解放した。

ーーーー

遥か上空で爆発が起きた。

何か聞き覚えのある声が聞こえた気がするが、気にせず走る。

家に着いたが誰もいない。テーブルには…手紙だ。

内容は敢えて省略させてもらおう。お母さんの背負っていた宿命や子供の頃に出来た手の平の穴についてが書かれた文章だった。

 

しかし、私の体の震えは止まらない。もう会えないと分かってしまったから。秘密にしていた理由が分かったから。お母さんは私より後の世代の、いわゆる「呪われた血の一族」にこんな気持ちにさせたくなかったからなんだと思うと、涙が止まらない。

1人、声を殺して泣き続けた。

ーーーー

遠くに誰かがいる。その正体も既に分かっている。

「…先輩」

声をかけると、彼は振り向いた。穏やかな表情でこちらを見ている。

私は迷わず彼の胸に飛び込んだ。彼は優しく抱き返すと、私に呆れた声で囁く。

「まったく…ゆっくり来いって言っただろ」

「不愉快です」

もちろん言ってやった。いや寧ろ言わないわけがない。

「…一人にさせちゃったな」

「そう…ですね」

そう、心残りはただ一つ。未來の事だ。

でも。

「心配ないですよ。私達の娘ですから」

「……そうだといいな」

「そこはそれもそうだな!って所でしょ!はぁ…。にしても、これからどうなるんです?」

「もちろん三途の川へレッツゴーだ」

…聞かなきゃ良かった。

「でも…」

「?」

「大丈夫ですよ。2人なら」

そういって私は先輩と手を繋ぐ。

彼は「それもそうだな!」と言い、少しずつ前へと進んでいく。

その先は…例えどんなに暗闇に覆われようとも、前が見えなくても、いい未来が待ってるはずだ。

そうさ、2人なら。

ーーーー

ピリリリピリリリピリリリ

突如電話が鳴った。

通話ボタンを押して応答する。

「もしもし」

「えーっと、そちら栗山さんでよろしいですか?」

軽く身構える。誰だか知らない人が自分の名前を知っているのは少し気に食わない。

「はい、そうですが。あなたは?」

「ああ、名乗り忘れていましたね。私はーーーー」

この電話の後、私の人生は大きく変わることになる。

それがいい方向なのか悪い方向かは分からないが、ともかく、それはまた次回の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3年後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

----------------

僕は今、屋上にいる。

本当は夕暮れ時の暖かな日差しを受けて熟睡する…つもりだったんだ。

でもなぜか今、僕は目の前にいる後輩女子の自殺を止めている。(後輩だというのは上履きの色から分かった)

さて、その後輩女子の特徴を語るとしよう。

髪型は…ミディアムって言うのかな?肩にかかる寸前の所まで伸びている。色はピンクのような茶色のような…

次に体型。凄く小柄で、ほっそりしている。大体150前後…だと思う。

顔は童顔で、その身長のせいもあってか恐らく実年齢の3歳位は若く見えるだろう。

思春期男子なら誰でも気にする()()の存在は皆無だった。俗に言うまな板だ。

取り敢えず存在がゼロのそこは置いといて、なんと言っても特徴は眼鏡だろう。少し古ぼけた赤縁の眼鏡で、まるで眼鏡と共に産まれてきたのごとく、眼鏡=コイツ、コイツ=眼鏡でくくれる位のフィット感だった。

彼女の名は栗山未來。世間一般からしたら超絶美少女の2歩先を行く眼鏡美少女だろう。

閑話休題。

とにかく、僕はこの子の自殺を止めたんだ。

「眼鏡が似合いますね」から始まり、彼女の全てを褒めまくった。筈なのに。

返答は「不愉快です」だった。

どうしようどうしようこのままじゃ彼女がフライアウェイしちゃうじゃなくてえーとえーと…とパニクる僕の眼前では普通有り得ない光景が広がっていた。

2.5mはあろう安全用の柵を飛び越え、右手にどこから取り出したのか赤黒い刃を握りしめた後輩女子は僕の腹部をその刃で貫いた……わけない。そうすると僕は死に戻り体質とかそういう不死身属性の何かがあるという事になってしまうからだ。

軽くパニクっていたとはいえ、僕が敵(?)の接近を許すはずがない。

結界の一種を作り出し、その刃を防いだ。が、問題がもう一つあった。このままだと後輩女子の下腹部が貫かれる。「伏せろ!」と僕は反射的に叫んでいた。

数瞬遅れて伏せた後輩女子の着ていたカーディガンに穴が開き、屋上にはしばしの沈黙が訪れた。

さて、ここで皆さんに問おう。

こんな衝撃的な出会いをした2人がそれきりの関係になる物語があるだろうか?

答えは「否」だ。いや…あってたまるか。




ここで神原秋人と栗山未来の物語はおしまいです。次回からはずっと書きたがっていた未來編です。だから話が急展開です。異論は認める。
恐らく殆ど原作キャラがいなくなるのでそこあたりはご了承を。
ではまた次回に。
2019 2/13
まず何よりも、更新1年弱(もしかしたら超えてるかも)止めてすいません。学業もありましたが、ほとんどサボりです。最終更新からしばらく経っているのにまだUAがのびているのは本当に驚きであると同時に、本当に申し訳なく思います。改めてお詫び申し上げます。
さて、本題に入りますと、大幅な加筆...というよりプロローグとして独立させていた出会いを一章の最後に入れさせてもらいました。字数が足りないばっかりにセクハラ野郎を作り上げてしまっていたので、どうしても変えたかったんです。
これを機にいろいろな部分を、最新話を読んでいく上でおかしいところが出ない程度に変えていきますのでよろしくお願いします。


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二章 1人から2人に
第5話 手合わせ


ごめんなさい更新遅れました!
めんどくさかったんでs((殴



「さてと、帰るか」

わざとらしくそう言って僕は学校を後にした。

帰宅途中、耳を澄ますと(そんなに澄まさなくても良いけど)何者かが僕の跡をつけている事に気付いた。いや、まあ誰か分かってるけどもね?

これで何回目だっけな。学校で3回と…外で5回位か。

さて、どうしたものか。ここで追跡者の名前を呼ぶのは簡単なのだ。しかし、その方法は既に実証済みで、呼んだ瞬間姿は消えていた。

つまり、不意打ちしか無いという結論に至るわけだ。

 

何事もないように歩くこと約1分。ここで僕は勝負に出た。

ここには特に曲がり角などが無く、隠れる場所は無い。

左足を上げて次の1歩を踏み出すように見せかけて後ろを振り向く…

いた。栗山未來だ。フリーズしている彼女の顔は焦燥に満ちていた。

「なあ栗山さん」

「こ、ここは誰?私はどこ?」

「ベタか!」

…突っ込まずにはいられなかった。彼女の動きが機械のようにガチガチだから尚更だ。

にしても、真面目な話、記憶喪失してたらこんなちっぽけな島国の公用語を使えるはず無いよな。

取り敢えず逃がさないためにも頭にチョップを加えとく。「DVだー!」とか「セクハラだー!」と言うからストーキング被害で訴えるぞと言って黙らせた。

本題に入ろう。

「なんで栗山さんは僕のことをつけまとうのかな?」

「…先輩に興味を持ったからです」

異性としての興味という可能性は敢えて排除しよう。

なぜなら、現代日本において求愛行動がストーキングだなんて考えたくないからだ。

「それで?目的は?」

「えっと…その…手合わせをと…」

「…前にも言っただろ。僕の『鏡』は初見殺しではあるが知っている奴には全くの無力なんだ」

鏡。深山一族に伝わる唯一無二の能力。

って言えば良く聞こえるだろう。実際はチキンプレイに走った御先祖様が編み出した全てを跳ね返す完全防御。

欠点は2つ。

1つ目。霊力消費がアホみたいに多い。

2つ目。()()()使()()()()

1つ目は仕方ない。強度を出す為だから出し惜しみはしてられないもんな。

問題は2つ目なんだ。

霊力を大量に使う為、大きさ調節等をしていたら出せる鏡は1枚が限界だ。

という事で心の底から「はあ?」と言ってやりたい気分である。

しかし、後輩女子はそうはさせてくれない。

いつの間にか背後に立っている。そしてこれまたいつの間にか赤黒い刃を握りしめている。

「うおおおお!!?」

どこぞの副団長も真っ青な突きを繰り出してきたものの、ここは経験の勝利と言ったところだろう。

悪い予感を感じた僕は咄嗟に横に避けていた。

もちろんコケたら詰むので回避した僕はそのまま走る。

さて、どうしたものか。こうした間もヤツは追ってきている。

振り向くとヤツはいなかった。どこだ?

ふと上を向くと…刃を下に突き立て落ちてくる者が1人。

回避しきれないと踏んだ僕は鏡を張った。

眼前が火花でいっぱいになったが、パキィンと音がしたのであの刃は折れていることだろう。

「やっと出しましたね、本気を」

ヤツは右手に握った折れた刃を右手で吸収すると、再びそれを()()()()()

昔、聞いたことがある。

曰く、血を操る一族がいる、と。そして、その一族は他の異界師から忌み嫌われているのだ、と。

あの後輩女子はその一族の者なのだろう。そして、彼女が壮絶な人生を送ってきたのであろう事は想像に難くない。

しかし、だからといってここで僕がそう易々と死ぬ理由にはならない。

「さて、終わらせるか。この戦いを…」

ここで大事な要素は今は下校途中ということだ。つまり、僕は今カバンを持っているという事であり、その中には筆箱があり、さらにその中にはハサミ、カッターなどの凶器がある訳だ。ついでに、僕が彼女が刃を創り出した後、何度か鏡を使っている。これは、意識を鏡に向けるためだ。

あと、さっきの言葉も彼女をイラつかせる作戦の1つだ。

この後は実に上手く作戦が成功した。

僕がカバンを彼女目掛けて投げ、こっちから見てカバンの手前に()()を張る。すると、彼女はカバンを斬り。その奥の結界に弾かれ、それを鏡だと勘違いした彼女は屈んだ。

その隙を僕は逃さなかった。

ぶちまけられたカバンの中身から筆箱を、筆箱からカッターを取り出し、立ち上がった彼女の首に突きつけた。

「チェックメイト…だな」

「……!」

彼女は驚愕のあまり目を見開いている。そりゃ驚くよな。僕だって驚いてるもの。

「…まあ、立って話すのもアレだし、座って話さないか?」

近くの公園を指差し、取り敢えずベンチに座る。後輩女子が隙間を開けてるのはご愛嬌だろう。

再び本題に入る事に。

「で、本当の目的は何なんだ?」

「何のことですか?」

「とぼけるなよ。君が本気で僕を殺すつもりなら、僕を生物としての原型を保たない只の肉塊になってる」

「………」

そう、呪われた血の一族が忌み嫌われる理由がこれだ。

うろ覚えなのだが、確か「あらゆる物を内側から溶かす」みたいな特性が血そのものにある。

だから、少し遠くで座っているこの後輩女子は僕を殺そうと本気で思ったなら、血を浴びせるだけでいい。たったそれだけで、僕は物言わぬ肉塊になるのだ。

暫くの沈黙の後、呪われた一族の少女は口を開いた。

「…実は、相談したい事が…1つありまして…」

たったそれだけで僕は殺されかけてたのか?と言いたくなるのをグッと堪えた。

僕に心配させたくないのか無理に笑おうとしているものの、彼女の顔には哀愁の色が見て取れる。

彼女は今「相談したい事がある」と言ったが、その血統と職業故に相談出来る相手がいなかったのだろう。

だから僕は彼女の相談に乗ることにした。

「私…実は異界師になったばっかりなんです。だからいざって時に足がすくんだり、いくら悪いやつらとは言っても命を取ることに抵抗があって…」

本日2度目の驚きだ。

あの動きで異界師になったばっかり?信じたくないものだ。

それはともかく、返答をしなくちゃな。

「僕だって妖夢が怖くないわけじゃ無いさ。いくら完全防御とは言ってもそれを使うのは人間だからな。防御が間に合わなければ即アウト。それと…妖夢だからって悪いと決めつけるのは良くないと思うな」

「?どういう事ですか?」

「それはまた今度。そういえば…栗山さんは家に帰んないの?」

後輩女子の体がビクッと震えた。なんだろう、嫌な予感がする。

「ごめんなさい、相談したい事は2つあってですね…」

予感は確信へと変わった。

「家に住み着いた妖夢を退治するの、手伝ってくれません?」

ここで「寧ろこっちが本題だろ!」と突っ込むのを耐えれるような精神力は僕には無い。




お気に入り登録してくださった方がいて本当に嬉しい限りです!目指せ2人目!


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第6話 初めての妖夢退治

遅れてしまい申し訳ない!反省はしてませ((殴
嘘です。してます。次回こそは頑張ります(二、三回目)
それではどうぞお楽しみください。


まず言わせてもらおう。「どうしてこうなった」と。

今までの経緯を話すと愚痴で一晩は越せるので言わないでおく事にするのだが、流れを説明するとなれば

栗山さんの家に住み着いた妖夢退治に行った→追い詰めたけど妖夢を殺すことへの嫌悪を拭いきれなかった為逃がしてしまう→追ってみたらなんかデカくなっとる→現在戦略的撤退中

最初は「イーヒヒヒヒ」なんて笑い方の悪戯をする程度しか出来なさそうな小悪魔(みたいなやつ)だったのになあ…今じゃ血のように紅い目に闇より黒い漆黒の体だ。

「ああ…もう…!なんで…こんな走らなきゃ…いけないんです…か…!」

「誰の…せいだ……!」

「不愉快…です…!」

そう言って彼女は突撃していった。

「おいバカ!やめとけ!」

そこの怪物は攻撃を受けてたまるかと腕で後輩を振り払う。

奇跡的にカスリもしなかったものの、何しろあの巨体なので風が吹くわけだ。

それに吹き飛ばされる後輩女子をしっかりと受け止める…なんて芸当は出来ないんだよな。これが。

しっかりクッションにはなってやったけど、絶対腰の骨逝ってるよこれ。

「畜生…訴えてやる…」

「先輩!ナイスです!」

「ありがとうじゃなくてナイスなのか?!」

「そ、それはともかく、アイツの指を見てみてください!」

んん…?アイツの指…あ、斬れてる。

「気付きました?多分、殺れます」

「出来るのか?」

「分かりませんが…何事も初めてが大事だとお母さんが」

突っ込みどころが多過ぎる。もう突っ込むのはやめとこう。

閑話休題。

さて、どうしたものか。

「じゃあさっきみたいにやるので、先輩は援護をお願いします」

え?と聞き返す暇もなく彼女は突撃する。

先程のように振り払う腕を鏡で受け止め、トドメの時だ。

「行っけぇぇえ!」

「だぁぁぁぁぁ!」

怪物は見事に真っ二つになっていた。

勿論その死体からは赤黒い血が吹き出、まさしく地獄絵図というヤツだった。

「…お疲れさん」

「ハァ…ハァ…ッ…」

今日の戦いのMVP賞に輝くであろう彼女の足取りは覚束無い物で、今すぐコケてもおかしくは無い。

無理矢理立たせるのは辛いはずだから、その場に座らせる事にした。

「大丈夫か?これ何本に見える?」

「すいません、ちょっと…今は…」

良くあるベタなやつにすら合わせる体力が無い?いや、もしかして…

「ちょっと失礼するぞ」

「?」

瞼の色を確認する為に顔に触れてから彼女は反応した。勿論瞼の色は限りなく白に近い。

「無理すんなよ?立てるか?」

返答は無い。顔を近づけてみると、スースー寝息が聞こえた。

参ったな…仮にも女子の部屋なのだから、無断で入る訳にはいかない…しかしここに置いていくわけにも…

 

そうだよ、なんで気づかなかったんだ。僕の家で寝させれば良い。そして気にするようであれば直ぐにベッドを洗えば良い。

そんな訳で僕は家に帰ることにした。どうやって運ぶか悩んだのはまた別の話だ。




短い?そんなの知らん。
異論は認める。


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第7話 幼馴染みと警告

相変わらず文字数は少ないですがお楽しみください


「よう」

「ごきげんよう」

文芸部部室、午後4時30分。取り敢えず立っているのは疲れるので椅子に腰掛けることにした。

たった今挨拶を交わした人はこの地域を管轄している桜ノ宮家の一人娘、桜ノ宮凛香(りんか)である。

おっとりした雰囲気に丁寧な言葉遣い。余程のアホでなければすぐにどこかのお嬢様だと分かるだろう。

念の為紹介しとくとコイツは僕の幼馴染みであり、ちっさい頃からバカな事を一緒にやったもんだ。

さて、先程僕は凛香についておっとりしていると話した。

それはつまり、コイツの作り出す重い雰囲気は通常の倍重い雰囲気になるという事だ。

「貴方には幾つも言いたいことがありますが…今は一つで勘弁しましょう」

「正直聞きたくないが頼んだ」

「『栗山未來』を知っているでしょう?」

知っているなんてものではない。

ストーキングされた挙句、一方的に妖夢退治を手伝わされたのだから、忘れろと言われても無理な話だ。

「出来る限りで良いです。出来る限り彼女は避けなさい」

「いきなりそんなことを言われて、はいそうですねとはいかないだろ?」

「前例が無いと言えば分かるでしょう?」

前例が無いということは、今この状況がかなりの異常事態であるという事だ。

説明を忘れてしまっていたが、桜ノ宮家ってのは長く繁栄し続けている事で異界師業界では有名なのだ。

それなのに前例が無いというのは自然と雰囲気が重くなってしまうものだろう。

「あくまでも呪われた血の一族の者がやって来たという意味ではありますが」

「それで、まだあるだろ?」

「狙っている妖夢が危険すぎるのです。姉様が依頼したと風の噂で聞いたのですが…その名前を調べてみても一切情報が出て来ない。だから私は適当に『アンノウン』と呼んでいますが」

「なんの捻りも無いのな」

突っ込むと脛に蹴りが入った。

呻いている僕にかかってきた言葉は「何いきなり呻いてるんです?」だった。理不尽だ。いや、まだコイツの能力を使われてないだけマシかな。

「自分でも分かっているでしょう?貴方が余計な事に関わることで何が起こるのか」

ああ、分かってる。そんな事分かりきっている。

「で…?なんで…今そんな事を言うんだ…?」

目の前の幼馴染みはドアを指差した。

数秒後、コンコンと誰かがドアをノックした。

いや、誰だか察しついたけども。

入部するってことなら歓迎しなきゃいけないものだからしっかり「はーい」と返事をしてドアを開けた。

「入部を希望しているのですが…」

小さな体躯、ゆるふわ系の髪の毛、決して口には出さないが見事なまでの絶壁。

見間違える筈などない、栗山未來その人である。

新入部員が来たというのに未だに座ったままの幼馴染みは、してやったりといった表情をしていた。

 

 




次回こそは2000文字超えたいものですね


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第8話 眼鏡事件

久々の2000文字突破です


春、屋上、放課後。

季節的にも、場所的にも昼寝をしたくなるシチュエーションである。

しかし文芸部にはあの2人が…という思考が脳裏を掠める。

だがそれは本当に掠めただけであり、僕の睡眠欲を抑えるまでには至らなかった。

暖かい春の陽気に包まれ、花の匂いを含んだ春風が吹く中、僕は夢の世界(ディ〇二ーじゃない方)へと旅立つ……

 

なんてことは無いんだなぁそれが。

鳩尾に蹴りが入り、危うく死にかけた所で上を向くと、彼女は僕の前に立っていた。

栗山未來。

安息から絶望へと切り替わった脳に彼女は「地獄か部室、どっちが良いですか?」と聞いてきた。

僕が「部室でお願いします」と言うのに1秒もかからなかった。

 

 

文芸部部室はお世辞にも広いとは言えない。

昔は生徒が多く、教室が足りなくなる事もあったのだが、今は少子高齢化やらなんやらで生徒が少なくなり、余った教室の使い道は無いかということで、文芸部室へと生まれ変わったわけである。

そこまでは良かった。

だが、広すぎるという声が上がり、図書室の本を総入れ替えした結果狭くなったのである。

もう1回入れ替えるかという意見も上がったが、面倒臭いという多数派に勝てる筈など無かった。

よって文芸部員は5人までという制約の下、今この文芸部は成り立っている。

さて、そんな文芸部事情は置いといて、僕の脳内では事件が起きていた。

子猫探しのような小さいものでもないのだが、殺人事件のようなものではない。

そう、それは栗山さんの眼鏡が赤渕の眼鏡では無いのだ。

いや、眼鏡好きとかでは無いけども。ただ、もどかしいというか、違和感というかを感じてしまう。

勿論本人に言えるはずもなく、部室で見かけては1人で違和感を覚える、傍から見たらどう考えても変人だろう。

今日は黄緑と黒のしましま眼鏡だった。なんかこう…合わない。

暖色系のカーディガンならやっぱり暖色系の眼鏡じゃないといけない気がする。

 

1週間後……

 

やってしまった。チラチラ見ていたのがバレた。

ぷんすこという効果音がぴったりの、怒っているのは分かるけどどこかに可愛らしさを残した怒り方だった。もしここで凛香さえいなければそっと顔を背けてニヤニヤしていた所だが、ヤツがいる以上真剣な顔をしなくてはならない。

しかし、この性根から腐りきっている女子が何もしない筈が無い。

まず僕の爪先をグリグリと踏みつけ、約1分経った後、立ち上がって栗山さんの頭の上に鬼の角を指で作ったり等といった嫌がらせをしてきた。

僕はツボが浅いため、まんまと笑ってしまうのだが、勿論その事で怒られる。

それに便乗して怒ってくるなどの精神的暴力を1時間程耐えた後、再び眠気と格闘して僕は家に帰ることにした。

 

誰かに尾けられている。

その誰かというのは無論栗山未來であり、面倒なので話しかけることにした。

「要件は?」

「手合わ「はい終わり」

鏡で封じて終わらせた。

「聞きたい事があるんですよ!」

最初からそう言えば良いのに。

というか怒り気味で言ってるけど怒りたいのはこっちだぞ?

「で、何が聞きたいの?」

「先輩がなんで笑ってたのかなーって気になってですね…」

「えっ」

「えっ?」

「本当に気付いてないのか?」

「気付くって何に?」

「………」

文字通り絶句だった。

まさか本当に気付いていなかったとは思いもよらなかったことだったからだ。

そして、暫しの沈黙の後、会話が再開された。

「端的に言えば凛香が栗山さんの頭にこんな感じで鬼の角を作ってただけさ」

「本当にだけですね」

「……」

「……」

足音だけが響いている。

辺りはすっかり夕暮れ時で、ふと右を見ると山の隙間に沈んでいく夕日が春の到来を感じさせる。

ここで沈黙を破ったのは隣を歩く後輩だった。

「その…」

「ん?」

「私の顔をチラチラ見てたのって何だったんです?」

「ああ、それは眼鏡がね」

「眼鏡?」

「いつもと違うじゃん?」

「これは…少しイメチェンでもなーって」

ふむふむ、やっぱりそういうのってあるんだな。

あれ、そういえば…

「幾つ眼鏡持ってるの?」

「……ちょっと待っててください」

そう言って彼女はおもむろにスマホを取り出し、操作している。

何をしているのだろうか。

答えは数秒後知ることになる。

「出ましたよ!」

出る?何が?

「約1051200個ですね!」

「ふーん、約100万か。100万!!?」

いきなりの大声にビックリしたらしい後輩が軽く飛び跳ねる。いや、何度も言うけどその反応は本来僕がする物なんだぞ?

「なんでそんな持ってるんだ?」

「お父さんの趣味です」

「君のお父さんは眼鏡に並ならぬ愛もしくは執着心を持っていたんだろうな」

「むぅ、不愉快です。生きている人にならまだしも、もうこの世にいない人を貶すのは…」

そこで言葉が途切れる。

人には思い出したくないものもある。それを思い出させてしまったのなら素直に謝るべきだろう。

「ごめん。嫌な事を思い出させちゃったね」

「いやいや、平気です」

「それはそうとして…」

「?」

「栗山さんはあの赤渕の眼鏡って感じがするんだよな」

「…へー」

顔が赤く見えたのは今が夕暮れ時だからだろう。

後日、栗山さんはいつもの赤渕眼鏡でやって来た。

それと…

 

怒る時に角を作るようになったのは言うまでもないだろう。



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第9話 昔話

今更気付いたのですが異界士の士を師に間違えてました。ごめんなさい


状況というのは急激に変化していく。

それは、悪い方向にも良い方向にも傾く可能性があるのだが、今回は紛うことなき前者だった。

「なんでこんな熱血バトル漫画みたいな展開になったんだろう」

「私に聞かれても困ります」

 

事の発端は1時間前だったと思う。

学校も終わり、寝ていたら目が覚めた夕方5時、僕の家を走り過ぎていく後輩女子を発見。

怪しく思った僕は尾行を開始し、やがて後輩は森へと入って行った。

現在は凪の時期で、栗山さんが妖夢を狙っているという事を思い出し、引き止めた結果、()()()()()「決闘で決めよう」という提案をしたのだった。

 

「戦いで決めると言うなら…さっさとやりましょう」

「まあ待てよ。一旦この地域に伝わる昔話を聞くのも大事だと思うぞ。RPGとかでもあるだろ?その地に伝わる事が物語のカギになってくる事が」

「…それも一理あるかもしれませんね」

「決まりだな。良く聞いとけよ。コホン」

わざとらしく咳払いをすると、僕は話を進めていく。

 

 

むかーしむかし、ある村に子供が居ました。

その子供は、その村の中でも群を抜いて力を持つ異界士の養子になりました。

しかし、その異界士の一族は妖夢の力を自分達の力に変える研究をしていたのです。

もちろんその子は実験台となり、何体もの妖夢を入れられました。

その子は、妖夢を体に入れられたせいか、体に紫の斑点が出来てしまいました。

その奇妙な見た目と名家の跡取りになったことの嫉妬から、その子は段々と集団から省かれていく事になります。

……事件は突然起きました。

その子の中の妖夢が暴れ出したのです。原因は精神的苦痛と言われていますが、未だに判明していません。

話は戻りますが、妖夢が何体も混ぜられていて、手がつけられません。

その異界士の一族は元々、結界で有名な一族だったのですが、その子は結界も教わっていたので、結界は意味を成さず、その一族は滅んでしまいました。

なんとか元に戻ったその子ですが、行く宛がありません。困り果てていると、一命を取り留めたその子の義兄が、この地に行くといいと教わり、今も尚その化物はここで生きているそうです。

 

「…なんてお話さ」

「なんか…嫌な話ですね…でも、それがなんの関係があるんです?」

「関係は無い!」

きっぱりと言い切った。しかし、飛んできたのはツッコミではなく血の刃だった。

だが、僕まで刃は届かない。

どこかに檻という結界があるらしいが、防御力だけを見れば完全な上位互換、「鏡」に防がれたからだ。

戦闘については正直特筆すべき点は無い。防御能力しか出来ない僕と、その応用まで知っている栗山さんの勝負なんていつまで経っても終わらない。筈だった。

異変が起きたのは約15分後。

体が熱い。まるで僕に流れる血が全て溶岩に変わったようだった。

唯一の頼りである鏡の維持すらままならない僕に、持久戦になる事を意識して力を温存したままの栗山さん。結果なんて目に見えている。

僕が左肩を貫かれた所で勝負はお預けとなった。

あれ、左肩にはアレがあった筈だ。いやいや、まさかピンポイントで当たる訳が…

パキッという破砕音は僕の思考を止めるのには十分な衝撃があった。

本能が見られたくないと感じたのか、全く考えもなしに栗山さんに先を促す。

僕に一言謝った後、栗山さんは走り去って行き、姿が見えなくなってから5分後、二つの人影が現れた。

一つは性根から腐った幼馴染み。二つ目は何度もお世話になった援護主体の異界士だった。

「はぁ…河井さん、勇輝の容態はどうです?」

「すっごいグレーゾーンだなこれ。あー…駄目だな。損傷部位が約10%ぐらいだからキツイや」

そう言って河井さんは僕にお札をぺたぺた貼ってくる。

「一旦出血を止めるだけだから、暫く動くなよ?」

要領よく応急処置を終えた後、河井さんは僕をおんぶする。

「これから僕は何処に行くんですか?」

「ひとまず俺の家だな」

「そうですか…すいませんが、家には1人で行ってください」

僕はそう言いながら、河井さんを突き飛ばす。

離れた所で受け身を取って逃げるつもりだったのだが、相変わらず上手く体が動かない。

2、3度転びそうになるが、なんとか体勢を立て直し、後輩女子への元へと急ぐ。

死ぬなよ…と祈りながら木々を抜けていった。

――――

「これでいいのか?」

「ええ、どうせ栗山未來の所に行こうとしてるのは分かってましたから。それよりも…暴れだした時はお願いしますね」

「そんときゃ時間との戦いだな。どのくらい勇輝くんの中の妖夢が起きてから経ってるかで決まる」

目の前の少女の顔はよく見えなかった。

一つは単純に闇が深かった。もう一つは、顔を伏せていたからだ。




やっぱり適当だなぁと感じるこの頃です


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第10話 強襲の銀髪少女

本当に遅くなって申し訳ありません!
ちょっぴり失踪しちゃおっかな~と思ったのですが、「期待してます」と言われちゃったので頑張ります!
あと今回も短めです…久しぶりなので勘弁してくらはい…。
次回!次回こそは必ず!


鬱蒼とした森の中。

僕は彼女を探してさ迷っているわけなのだが、これが中々見当たらないのが人生というものなのだろう。

耳を澄ますと聞こえてくる金属音を頼りに彼女を探す。

どうか生きていますようにと祈りながら僕は走り続ける。

━━━━━━

 

この人は一体誰なのだろうか。

突如現れては口も聞かずに襲いかかってくる銀髪の女性と今戦闘をしている。

「あなたは…一体…誰なん、ですかッ!」

「……」

その女性は沈黙を続ける。彼女は刀を使っており、私よりも実力が何段も上のようだ。

「ぐっ…」

次第に追い詰められて来た。私の体勢は仰け反るような形なのに対し、相手は前屈みに変わっていき、遂に立っていられなくなった。

相手はおもむろにポケットに手を突っ込み、荒々しく取り出したのは、手榴弾。

ハンマーを外し、それを離すつもりは毛頭無いらしく、必然的に死の予感が這い出てくる。

アドレナリンのせいか、時間が長く感じる。

こんなところで死んでしまうのだろうか?

答えはnoだった。

視界の外からいきなり現れた先輩が謎の女性を私から引き剥がす。

突然の出来事に頭が追い付かない。

しかし、そんな頭を再び回転させたのも先輩だった。

「必ず追い付く!先に行け!」

「でも「いいから早く!」

なぜ先輩の方が真剣なのか?そもそも行くなと言った先輩がいるのか?

という疑問は投げ捨て、先を急ぐ事にした。

どうか死なないでと心の中で叫び、私は走り始める。 

━━━━━

「一つ聞いておきたい。君はどうして栗山さんを狙う?」

返ってきたのは沈黙。そして、次の瞬間背後で甲高い金属音と共に火花が散った。

相手の使う刀は僕に届く寸前で止まっているという現象についてはもう説明は不要だろう。何はともあれ、これで刀は折れると確信したその時、とんでもないスピードで構え直し、今度は刺突を放ってくる。

「……チッ」

何度も弾かれてイラついているのだろう。少なくとも少女が使うような殺意のこもった舌打ちではない。

などと思っている暇を眼前の少女は与えてはくれない。

まるで木の棒を振り回しているかのごとく速い太刀筋は、脅威的と言わざるを得ない。その上鉛の塊をそのままぶつけているような重さ。これはさすがに反則級だ。

やがて、こっちの霊力が底を尽きて来る。

亀裂が入り、広がっていく。

そして、遂に鏡は割れてしまった。

僕の首を目掛けて振られた刀を僕は悪あがきのように防ごうとする。

刃が届き、僕の腕の肘から上が斬り落とされる間際。

突如として現れた血の刃が僕を守る。

ふと下を見ると、先程走っていったはずの後輩女子がこちらをジトッと睨み付けながら刀を受け止めていた。




そう言えば感想はドシドシ送ってください!アンチコメでも励みになりますので!ってアンチなんか湧かないですよね(苦笑)


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第11話 「不愉快です」

いい加減2000文字超えたいですね。
いずれ何を血迷ったか書き忘れたシーンを集めて投稿する予定です。
乞うご期待


「不愉快です」

その一言は、僕の停止しかけていた思考を再び動かすのに充分過ぎるほど充分な言葉だった。

まずどうするか。勿論決まっている。

「逃げるぞ!」

栗山さんの手を取り、近くの建物の中に入る事にした。

「あー…もう少し遅れてたらヤバかったよ。ありがとう。…にしても、なんで戻って来たの?」

「あの、先輩」

「?」

「そろそろ手を離してくれませんか?」

「うわああ!ごめん!」

今までの人生の中で最も速いんじゃないかというくらい早く、手を離すと、彼女は理由を話し始めた。

「敵を探して走っていたらドアを見つけたんです」

ピンク色ならどこで〇ドアみたいだなと言うのは流石にはばかられた。

「入ってみるとそこは迷路みたいにごちゃごちゃしてたので他のルートで行こうと思ったのですが、ドアを閉めてしまったのが運の尽きでした。

戻ろうとドアを開けるとそこにはまた迷路。

そこを抜けたら丁度ピンチの先輩が居たというわけです。これが主人公補正というやつですかね?」

「メタ発言は止めるんだ栗山さん」

「すいません。…それはともかく、あの人の能力が分かった気がするんです」

「能力?使ってたのか?!」

「確信はありませんが…『物体の質量を変える』とかその類かと。刃の部分が当たる寸前に握る強さを変えていたので」

言われてみれば、手なんて気にしていなかった。

刀身にばかり気を向けていて、凄まじい腕力があるとばかり思っていた。ならば、

「対策は打てる」

簡単な事だ。当たる直前に質量を変えているなら、その前に防げば…

そう考えていた矢先、凄まじい衝突音が鳴り響いた。

「逃げる?戦う?」

彼女は上を向きながら「行きましょう」と言った。

少々説明不足だったので今話すとしよう。

逃げ込んだこの建物は塔のように縦長で、大体マンション5、6階分の高さだと思われる。勿論階段があるので、そう簡単に捕まりはしない。

走り出すと、衝突音ではなく、破砕音が聞こえてきた。土煙の中現れたのは、勿論謎の銀髪女である。

手には今更驚きはしないが、拳銃を手にしていた。

毎度お馴染みの鏡で防いだものの、もう霊力は残っていないというのが本音である。

「早く早く早く!」

「あーもう、急かさないで下さいよ!」

「そんな事言ったって…そら来たぞ!」

僕の脳天めがけた銃弾は、見事に直撃する。…直前に紅い盾に防がれてそのまま勢いを失った。

「私だって守れるんですよ?えっへん」

「キメ顔は良いから早くしてくれ!」

死の危険が迫っているというのになんと緊張感の無い事だろうか。自分にツッコミつつ、新たな疑問が生まれた。

もう既に5分くらい走り続けている。逃げれる状況というのは良い物だが、明らかにおかしい。

そこで、自分の思考回路を疑うような可能性が浮かんできた。

「ドアを探すんだ栗山さん!」

「ここで先輩に問題です。目の前のあれは何でしょう?」

「ふざけてないで開けろーー!」

「言われなくても…!」

よし、間に合った。と思ったのも束の間、拳銃を持った少女がこちらに構えている。

「……」

「遺言は?って顔してるな。じゃあ言っとくよ。『もう二度と会いたくない』ってな」

扉を蹴り、勢いよく閉める。彼女の言っていた通りなら…

扉を再び開くと、もうそこに奴は居なかった。

どうやら逃げ切ったようだ。

しかし、目の前には永遠にも思える迷路があった。沈む心に鞭打って、説明をすることにした。

「栗山さん…恐らくここは…

君の追っているだろう妖夢の中だよ」



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第12話 決着(?)

もう未完で良いかなこれ…でもここからが書きたかった所に…辛い。


色々と混乱していてわからなかっただけだったのだと信じたいが、思い返せばそもそもさっきまでいた建物自体がおかしいのだ。

森の中なのにあんな灯台のような塔がある事が。

さて、そんな思考を張り巡らせた所で何一つ状況は変わっていないのだ。

別に内部から破壊も考えられるが、それは最後の手段にしておきたい。

何故なら、この敵なのかはっきりしない妖夢はどんな攻撃をしてくるのかがわからないからだ。

突然爆発でもしようものなら間違いなく…

考えただけでもゾッとする。

 

取り敢えず、出口を探す事にした。

もはや見慣れたドアを開いて次の空間を歩くと、再び何個もドアが。

そこまでなら話す必要はないのだが、ちょっとした変化があった。

今まで引いて開ける式だったドアが押して開けるタイプになっていたのだ。

正直、出口だと思った。

しかし、開くとアイツがいた。

今まで命を狙ってきた銀髪のアイツが。

脅威の反射神経で放たれた銃弾を防ぎ、鏡からの反撃を再びヤツが避けた。

しかし、今は僕一人ではない。

即座に前に出てきた栗山さんが斬りかかり、それを防ごうと抜刀し、つばぜり合いに持ち込まれる。

なんて事はさせない。

刀を重くされる前に鏡で防ぐと、相手は大きな舌打ちをして、逃げるためだろう、壁を斬りつけた。

少し身構えていると、特に何もなく外が見えた。

(実際は久しぶりではないが)久々の外に驚いていると、追い討ちと言わんばかりに今まで発されなかった澄んだ、しかしどこか残忍さを含んだ声が聞こえてきた。

「私の名は…峰岸舞耶。再び会うことがあったなら…息の根を止める」

「おととい来やがれ…ってね」

すると峰岸舞耶と名乗る少女は消えていった。

逃がさせたのは、こっちの消耗もあったのと、別れのセリフの後に逃げれないなんてのはカッコ悪いだろうと思ったからだ。

そのせいで、僕達が脱出する機会も逃してしまった。

まあ、意外と簡単に抜け出せると知れただけでも感謝するべきかもしれないが。

そんなわけで、栗山さんは脱出するために血の刀を振りかぶっているところだった。

 

しかし、僕は知らなかったんだ。峰岸舞耶が凄まじい強運の持ち主だということを。

栗山さんが壁を斬った時、足下が光ったのもまた運が良かったのだろう。

爆発する。

そう悟った僕はまず彼女を結界で守り…

その瞬間暴走するエネルギー、負の感情の爆発が起きた。

━━━━

「ーーーーー!!」

私は言葉にならない声で叫んだ。

また守られてしまった。

先輩は生きているのだろうか。自分だけ守られて死なれては寝覚めが悪いというものだ。

 

しかし、よくよく考えてみれば結界が消えていないのだから生きているはずだ。

土煙が引いていき、遂に開けた視界にはこっちに微笑む先輩がいた。肌に紫のような黒い染みを作って。

結界が消え、近寄ろうとすると物凄い声で「来るな!」と叫ばれ、足を止めてしまう。

「良いか、僕は今こいつに取り憑かれてる。今ならまだ僕の体は自由だ。僕を殺せ」

「でも、そしたら先輩が」

「死なない。絶対に死なないから、早くするんだ。僕と栗山さんが闘う前にしたあの話、あれは僕の話なんだ。今は詳しくは話す暇はない。早くしてくれ」

「……!」

私は自分の顔がくしゃくしゃに歪んでいるだろう事を自覚できた。

そして━━

先輩の体を貫いた。そして先輩の口から血が吐かれた。すると、

「グォォアアアア!!」

と、苦しそうな叫び声を上げながら先輩の体から出ていく妖夢━━虚ろな影が出てきた。

「貴方は絶対に許さない」

弱った敵を斬りつけると再び苦しい声を上げるが、もう容赦はしない。

「ハアアアァァッ!」

気合いを全て一撃に込め、真っ二つに切り裂いた。

断末魔には全く興味を傾けずに、倒れる男の元に駆けつける。

息をしていないどころか心臓が動いていない。嘘をついたのだろうか…?

「先輩…先輩!起きて下さい!」

体を揺すっても起きない死体は、私の理解を越える現象に包まれた。

急に先輩の体が輝いた。その輝きは強さを増していき、遂に目を開けていられないようになる。

 

その数秒後、光が収まると、無傷の先輩がいた。

止まっていた鼓動が再び始まり、段々と早まって…

「あーよく寝た…」

「…不愉快です…!」

「…えっ?グホァッ!」

私の目尻に浮かぶ物を悟られないように先輩の鳩尾辺りに頭突きを加えた所で、今回の妖夢討伐は終了である。




はい。
虚ろな影討伐編終了です。
2000文字超えは何時になるやら。


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第13話 またか…またなのか…

もうモンハンの小説が書きたいです


どんなに疲れていても世界は止まってはくれない。だから僕は今、栗山さんと並んで学校に向かっている。

あの後、僕は何も言わなかった。いや、言えなかった。やむを得なかったし、本当に僕が死んだわけではなかったとはいえ、人殺しの一歩手前くらいはさせてしまったからだ。しかしそれを察してくれたのかはわからないが栗山さんは特に何も言いはせず、そのまま解散とした。

 

今は僕の中にいる妖夢の話をしよう。

 

七回と言われる輪廻転生。

それをちょっとばかし操れるのだ。

詳しく言うのであれば「死んだ頃の記憶を保存しておくか」とか、そもそも「死んだ時点の体を修復して戻るか」とか。

今回はあんな死に方だったため後者を選んだが。

 

……そういえばまだ言ってなかった気がする。

僕の家は栗山さんの家から学校までの間にある為、必然的に一緒に登校することとなるのだ。

 

それでだ。歩いて数分後、曲がり角を曲がって学校に着く、という時に彼女は「しまった」と言いたげな顔をしてから、「忘れ物をしたので取りに帰ります」と言って来た道を引き返して行った。

しかし、この時の僕は疑問を持っていない。

今さっき曲がったのは左。栗山さんが曲がって行ったのも左だということに。

 

特筆すべき点は無かった。

基本的にずっと寝ていたと言えば分かりやすいだろう。ただ、僕はそんな怠惰なわけではない。もちろん理由があるのだ。

昨日、僕は1度死んだわけだ。そして、僕は先程「輪廻転生を操れる」と言ったな。あれは嘘だ。

改めて話すのだが、僕は子供の頃―この子供の時というのは1度目の人生のことである―に妖夢を人為的に取り憑かされた。その数、6()()

つまり、1回死ぬ事に僕の中の妖夢が身代わりになるのだ。

そして、死んだ時に1体ずつ僕の体を離れる。

すると、僕が普段無意識で使っている妖夢の力が弱くなる。

よって、相対的に使う力が多くなり、結果眠くなるというわけだ。

さて、これからは今の話をしよう。

家に帰ってからも僕は寝続けた。

本来この状態に早く慣れるべきなのだが、どうにも体が動かない。それだけ今回僕の体から消えた妖夢は強力だったんだろう。

そうして僕は眠りについた。

━━━━━━

目を覚ました時、もう辺りは暗く、充分に寝たのもおそらく起きた原因の一つだが、それよりも腹の減りが凄かった。

何を食べようか考えていると、地震だろうか。何故か揺れている。

とりあえず外を見てみると……周囲の闇よりもっと黒い物体がカー〇ィのニードルみたいな感じに広がっているのだ。

遠目から見るだけでも気が遠くなるような本数だった。

なんかもう、逃げたい。1日くらい休ませてくれたって良いだろう?

イヤだ、イヤだと思いつつ、僕は黒い物体の方へと駆け出すのだった。




短いです。はい。やる気が迷子です


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第14話 本当の目的

やっとや…やっとここまで来たんや…


「やあ、本当に来たんだね」

「一応、仕事なので」

「仕事か…俺は君たち異界士のそういう所が嫌いなんだよ。何でもかんでも仕事仕事と、自分の意思を持つ事を悪とさえ思い、それを信じて疑わないんだからな」

そう語るこの人は今朝会った、私の本当の目的。

 

通学路で、何か不穏な雰囲気を感じ振り返ると、異界士協会でお尋ね者となっている髭面で何故か眼帯をしているおっさん―河井(かわい)正人(まさと)を見つけたのだ。

そして、午後7時30分にとある倉庫―横浜の赤レンガ倉庫みたいな―に来いと言われ、今に至る。

「さて…どうする?とは言っても、その手に握っている物騒な物を見れば目的は明らかだけど」

「もちろん、貴方の命を頂きます」

私は、全力の突進を放った。

敵は右手で私の血の刃を掴もうとする。

まずは右腕。

そう一瞬でも思った私をぶん殴りたい。

血の刃が相手の右手に当たる寸前、見えない壁に止められる。

そして、私の血の刃がドロドロの状態になっていった。

なんなのだ、これは。

「ふふ、驚いた?この能力は君の宿命、境界の彼方の能力さ。これは君の能力に限らず、どんな結界も無効化するんだ。それと…一番大事なのは、その性質を他のものに与えられるところなのさ」

そう言って相手は指を鳴らすと、周りに火球が現れた。

先程の話を聞くに…これも私の武器を無力化させれるという事なんだろう。

この瞬間から、この戦闘はもはや戦闘と呼べるものでは無くなった。

私はただただ逃げている。しかし、それは生き延びる為ではなく、唯一のチャンスを掴むためだ。

「ははは、逃げてばっかじゃ終わらないぜ?!」

ダメだ。今回も避けるしかない。だが、そろそろこっちの体力も血も限界だ。

足が丸太のように重いし、貧血寸前というのも相まって早く決着をつけなければまずい。

再び、火球が飛んでくる。

……来た!ようやく食らわせれる。

チャンスは一度きり。テレビでたまーに見る野球みたいに…!

「いっけぇぇぇぇ!」

渾身のピッチャーライナーを食らうがいい。ついでにバット(?)投げもしてやる。

もうもうと上がる白煙。

その中に立つ人影は、何度かフラフラと揺れた後、倒れるなんて事はなく、私の方を指差し、その指の先から一筋の閃光が放たれる。その閃光は、私の足を無慈悲に貫いた。

何が起こったのかを悟ったのは少し間を空けてからだった。

足を貫かれた事を認識した瞬間、感じた事の無い激痛が走り、私はただ呻く事しか出来なかった。

ヤツの左腕からは、生えてきているとさえ思える包帯が出てきていた。それはゆっくりと、動けない私を嘲笑うように近づき……

遂に私の右腕に巻きついた。その次に左腕に。

先程のヤツの口ぶりからすると、恐らくもう私の血の刃は封じられてしまっている。

事実、もう上手く刀の形を保てない。

力を失った私を嬲るかのように右腕から先程よりも遅く、私の両足に近づき、再び巻きつけられてしまった。

「このまま殺しても良いんだけど。最期に一仕事してもらおっか」

「ひっ……」

眼帯を外した目の中には、紫に発光している蟲が蠢いていた。そりゃ、私だって年頃の女の子なのだ。こういうのは苦手だ。

「弥勒さんも良いの遺してってくれたよな。キミがどんな風に……くくっ、考えただけで震えが止まんないね。こりゃ」

「……?」

血が限界に達した私は貧血を起こしていたのも相まって、ぐったりしてしまっていた。発された言葉の意味も掴めないまま、私の意識は消えた。

 

 

 

 

 

と思ったのだが、真っ暗な場所にいるようだ。

先程と同じように手足は縛られていて動きそうに無い。

何が始まるのか。

そう思っていると。

「マイクテスマイクテス。なんちゃって。聞こえてるかい?聞こえてなきゃ困るんだけど」

「これから何をするつもりですか?」

「お、聞こえてるね。それじゃスタートだ!」

急に景色が変わる。

夜の古びた駅のホームだ。人も殆どいない。

でも何故だろう?

どこかで見た事があるような…

そうだ!昔の私の家の最寄り駅だ!

しかし、パズルを解いた時のような達成感などない。

どうしてコイツが知っているんだろう…?

そう思っていると、前から男性が歩いてくる。

金髪でツンツンの髪型をしていて、優しそうな顔立ちをしている。

あれは…

「お父さん…?!」

「おお、正解。やっぱ覚えてるもんなんだね」

「質問に答えてください。どうしてあなたがこんな映像を?」

「見てれば分かるよ。くくくっ…」

とは言ってもお父さんの周りには何も無い。

そうして安心していると、何も無い空間から黒い服を着た男が現れた。

「あっ……」

と声を漏らしていると、

その男はお父さんに近づき

ポケットからナイフを取り出して

その刃を

お父さんの体へと――

「――――――!!」

声にならない絶叫が響いた。そして、それが私のモノなのだと気付くのには長い時間を要した。

「いやあ、楽しかったなあ、君のお父さんを刺した時は。あの苦しみ、悶える顔。願いが叶うならもう一度見たいもんだね…。それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()からなあ…」

「お前が…お父さんを…」

……待て、今「もう一人」って…。

「じゃあ、次行こうかね」

今度は、もうどこに居るのかを察した。

中一の頃にいた場所だ。そして、この日を私は忘れた事なんて無い。

きっと、いや絶対にお母さんが居なくなった日のことだ。

もうこの先を見たくない。

そう思い目を瞑っても脳に直接映像が流れ込んでくる。

雪が積もっている中、一際目立つ巨大な装置があった。その装置のスイッチが押されると、紫色の閃光が空へと放たれる。

「この装置はねぇ、君たち異界士の力を抜くのさ。この後の君のお母さんの死に様を見てみたかったね」

「う、うあぁぁぁああぁぁぁ!!うっ、ぐっ……殺す…殺してやる…絶対に殺して……!!」

言い終えた時、私の体に何かが触れた。

それを手繰り寄せると、どこか温かいような…そう、冬の朝の毛布の中のような不思議な感覚がした。

私はそれに抗うことは出来なかった。

飲み込まれていく意識の中、私はふと思う。

これは本当に温かいのだろうか…?

しかし、もう考える力は与えられず、私はそっと目を閉じた。




小説は書き始めると止まりませんね(笑)

早速後書きを加筆してしまうのですが、ここまで見てくれている皆さん、本当にありがとうございます。
この先は退屈させないようにしたいと思います。
ここからはこの小説を書く前から考えていた部分なので、これからもnext stageをよろしくお願いします。


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第15話 それぞれの思い

サブタイトル思い浮かばねぇぇぇ!!!


「グウゥ……」

「…弥勒さん、あんた本当にヤバいのを遺したなぁ…」

憎しみに支配された彼女は、先程からずっと俺の命を狙っている。

「こんなんだったらやめときゃ良かったかな…」

ふと耳を澄ませると、ザフザフという荒い足音が聞こえる。

さて、どうしたものか。

━━━━

「栗山さん!!…ってうおぉぉ!!?」

なんだあの黒いカマキリの脚みたいな刃は。いや、どちらかと言うとなぜ栗山さんの髪の色があの刃と同じくらいの漆黒に変わっていることと、問題の刃がこれまた問題の栗山さんの頭から生えている事が問題なのだ。

…違う。

真に問題なのはそこじゃない。

栗山さんがこうなった原因。それこそが真の問題なのだ。

そして、そいつは恐らく…

「なあ、何やってんだよ、河井さん…いや、()()()()

「…驚いた。いつから分かってたんだ?」

「そんな下らない事を言いに来たんじゃねぇ。…こっちの質問に答えてもらう。一体「『彼女に何をしたんだ』ってか?」…その通りだ」

「…こっちとしては殺されそうになったってのにな」

「過剰防衛とは思わないのか」

「思わないね。それより…良いのか?このままじゃ彼女、死んじまうぜ。負の感情に押しつぶされちまってな。それじゃ、俺はこの辺りでトンズラさせてもらうぜ」

「おい、待て!……行っちまったのか…」

突然動かなくなった栗山さんは急に黒い刃を自分の喉元に突きつけた。

「馬鹿な事を…するなッ……!」

どうにかそれを引き剥がそうと触れる。

冷たい。氷のような痛みのある冷たさではなく、金属のような、いや、死体のような無の冷たさだった。

━━━━

「うっ、うぅっ………」

ずっと啜り泣いていた。

ヤツの不愉快な笑い声だけが脳裏に響く。

生きる気力なんて湧くはずが無い。死んでしまいたい。

……死?そうだ、死んでしまえば良い。それだけでこの気持ちは消えるのだ。

自由になった右腕から血の刃を作り出し、喉元に突きつけた。

しかし、そこで刃は止まった。

なぜ邪魔するんだ。

勝手に人を苦しめて。

それなら、勝手に私が苦しみから逃れたって良いじゃないか。

…それでも邪魔するのか。なら、死ぬ前に殺してやろう。死にたいと思えるくらいに苦しめてから殺してやる。

━━━━

「クッソ…昨日の今日でこんなに迷惑かけやがって!」

「グアァァァ!!」

栗山さんの自殺を止めようとした途端に、栗山さんは僕の事を襲い始めた。

というか、二足歩行をしているとは言え、まるでNARUT〇の九尾化状態みたいな感じになって来てる。

この状況を打開する為には栗山さん自身が憎しみに、悲しみに打ち勝たなければならない。

そして、その為の策はある。たった一つだけ。

しかしそれは同時に最も辛い事を無理矢理させる事でもある。

 

人は、脳の記憶領域に無意識で強力な結界をかけている。

それに少し劣った結界を意識の部分に。

意識の部分の結界を解除させるのが名瀬家の白昼夢。

ここまで来れば分かるだろう。

記憶領域の結界を解除させるのが深山家の十八番、そのままの名前で「強制結界解除・極」としている。

それを使えば栗山さんの楽しかった記憶を引っ張り出して救う事も出来るのかもしれない。

しかし、それには希望と絶望を何度も往復させる可能性が付きまとうのだ。

 

「くそ…これしかないのか…?本当に、これ以外に方法は無いのか…?」

「グルアァァァ!!」

「ッ……!」

これ以上暴れている栗山さんを見るのはただただ辛かった。この暴走は考えられないほど深い悲しみから来るものだと思うと、胸が締め付けられるような気がした。

だから――

僕は唯一の方法に、可能性に賭けた。

しかしまだ問題はある。

この状態の栗山さんに近づかなければならないのだ。

せめて体の一部に触れていないと結界を解除させるほどの霊力は送れない。

様子を見て……3つの刃がそれぞれ、肩、首、心臓を狙い放たれた。

それを()()()防いだ。

今だ。

機会を見計らって栗山さんへと駆け出す。

再び何個もの黒い刃が放たれる。しかしそれを避けて意外にあっさりと懐に忍び込めた。

少しでも油断してくれたなら有難い。

そして、僕の手は彼女の左手を掴んだ。

━━━━

「ぐっ……」

何かを流し込まれている。嫌だとも心地いいとも思えない何かを。

しかし、もう一人の私はそれを過剰に拒否した。

私の腕を掴む男を執拗に突き刺す。

しかし男の眼から光は消えない。

それがまた嫌で何度も心臓を抉り取る。腸を掻き回す。

それでも彼は掴む手を離さない。

…やがて再び私に何かが触れた。

それは掴もうとしても私の手から離れて行ってしまう。

逃がしちゃダメだ。

そう思ってもそれは逃げていく。

…これは何なんだろう?

もしかして、これを与えてくれているのは目の前の男なのだろうか?

「…やめて」

私の憎しみは聞く耳を持たず、尚も彼を襲い続ける。

「やめて!!」

叫んだその瞬間、彼への攻撃は止まった。

同時に、私が光に包まれた。

━━━━

「よし!後は霊力を流し込めば…」

直後、ドスッという衝撃が僕の身体を揺らした。

腹に黒い刃が突き刺さっている。

「ぐっ……ごはっ…」

喉から血が逆流してきた。それをアニメのワンシーンのように吐き出すと、再び―今度は心臓を貫かれた。

意識を保てない。

そっと瞼を閉じたその時、声がした…ような気がする。

「君は…僕に似てる。その死にたくても死ねない呪いとでも言うべき能力が。でも、君の方が僕なんかよりもずっと強いんだ。

…目を開けろ。君のその能力は、人を守る為にあるんだろ?だったら折れるな。何がなんでも守り抜け。…未來を頼んだぜ」

「……分かったよ!」

目を開けて再び霊力を流し込む。

何度か体を貫かれるがもう気に留めない。彼女はもっと苦しい思いをするだろうから。

記憶領域の結界…解除。

喜と楽の感情を70%以上感じた記憶のダウンロード…完了。

ダウンロードした記憶の再インストール…完了!

「僕の…最後の復活を…君に…捧げ…る…よ…」

僕はその場に倒れ込んだ。

ひとまず…お疲れ様と言っておこう。




まだ地獄は終わってなかったんや……


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第16話 光

すいません!遅くなりました!
追記:いつの間にかお気に入り増えてました!2桁行きたいなぁ


ジリリリリリリ!!

「んむぅ…」

ジリリリリリリ!!

「んん…」

ジリリバタンッ!リリリ!

「んーー……」

「未來ーーっ!起きなさぁぁい!!で、止めなさい、目覚まし時計を!」

「お、おきてるっ、おきてるよ、ママっ」

「目を閉じてるのは起きてると言わないの!」

「は、はーいっ」

「全く…今日はパパのお見舞いだから早起きするって言ったのに、結果がこれじゃ意味無いわよ!ほら、着替えて!」

パパがきゅーににゅういん?したからお医者さんの所に行くらしい。

パパの事が気になるのか、ママはそわそわしっぱなしだ。

着替えた後にあさごはんを食べて、いざ出発っ!

お医者さんの所に着いてからも、ずっとママはそわそわしてる。

やっとパパのお部屋に着いた。

パパのお部屋の前には、むむ…よく分からない文字が書いてある。原?と人だけは見れた。なんて読むのかは分からない。

ドアを開けた先は…真っ暗だった。

先に入ったはずの()()()()すら居ない。

…あれ、さっきよりもずっと目線が高い…よう…な……

「っ!?」

違う。ここは、病院じゃない。駅のホームだ。

「今までのは…?7歳の頃の…私……?どうして………ッ!!」

そうだ、私は、どうして、あんなに大事な事を。

「やめろっ!!!やめろッッ!!!!!」

血を操れない。くそっ…どうしてこんな時に……!

男が何もない空間から現れる。

止めようとしても男の体をすり抜けてしまう。

そして、私のお父さんは男に刺される。

もう4回目だというのにどうも慣れない。

向かいのホームを見る。

私が居た。

まるでお父さんを殺したのは私とでも言わんばかりの目で。

どうしてそんな目をするの。私のせいじゃないじゃない。私は、止めようとしたのに。

「もう…終わらせて…。お前さえいなければ…この悲しみは無いのに…」

そう呟くと、もう一人の私は刃を作り出した。

そんな私とは対照的に私は呼吸すらままならなかった。

気がつくと私が前に居た。呪詛のような、言葉とすら呼べない何かを呟きながら。

「お前さえ、お前さえ、お前さえお前さえお前さえお前さえお前がお前がお前がオマエガオマエガオマエガオマエガアァァッッ!!イナケレバァァアッ!!!」

躊躇う事無く、もう一人の私は私の心臓に刃を突き刺す。

痛い。体中が熱い。もしかして、先輩は死ぬ度にこんな苦しみを感じてたのだろうか?

そこで再び私の記憶は消えた。

━━━━

「これで最後の復活だ。どうだった?何度も死んできて」

声の主は、人形をツギハギ修理した時の縫った跡のようなものがある妖夢だ。

「それを()()()()()()()()僕に聞くのか…」

「わざわざ呼ぶのもめんどくさいだろ」

「いやいや、ここで面倒くさがっちゃいかんだろ。…でも、答えるなら長かったとしか無いな…。生きたという実感だけはあるからな」

「なんだつまんねぇの」

「期待する答えがあったのかよ…」

「ねぇけどさ」

「何なんだよ…お前は…」

「良いだろ消える時くらい。しんみりした空気は嫌なんだ」

冷静に考えてどちらかっていうと嬉しいの方が多いかなって思うのだが、黙っておこう

「うるせー」

「強いキャラ特有の心を読み取る能力やめろ!」

「……別れの時だぜ、なんか無いのか?感動的な一言は」

「あるか、んなもん。…なあ、お前から見て僕はどんな奴だった?」

「うーん……ここは敢えて秘密で行こう」

「おい!最後だとか言ってただろ!答えろこの野郎!」

「バカヤロー、こういうのは答えないからこそ再開の時が待ち遠しいんだろ?」

「…それもそうだな…。ん?てことはもしかして」

「まあ会えねえんだけどな!ハッハッハ」

「何なんだよ!」

結局答えないまま奴は消えていった。

一つため息をついて、僕はその場で胡座をかいた。

「さて…もう一頑張りするか…」

━━━━

「……さ………!…きな…い…!起きなさい未來!」

「おかあさーん、今日は土曜日でしょーー?」

「何言ってるの!今日は金曜日!学校あるわよ!」

はは、何言って…。

目覚まし時計を寝ぼけ眼で見てみる。

曜日が書いてあるところにはどう見ても金と書いてある。

そうだ、メガネつけ忘れてたんだ。そうそう、金と土って形似てるから…

メガネをかけても金は変わらず金のままだった。

何度目を擦っても変わらない。金である。

「……遅刻ぅぅぅ!!!」

時刻は現在AM7:37。45分には家を出ないといけないから、いわゆる詰みである。

「だから起こしてるのに!ほら、早くご飯食べて歯磨いて顔洗って!」

「ご、ごちそうさま!」

この慌ただしい朝は気合で乗り切った。(出発時間、7:50)人間、死ぬ気でやれば何でもできる。

「あ、そうだ未來。私今日出かけるから、もしかしたら留守番することになるかも」

「はいはーい!行ってきます!」

「うん、行ってらっしゃい」

きっと、いつものような優しい笑みで、お母さんは私を見送っているのだろう。

 

校門を過ぎたその時、異変は起きた。

まず、景色が1面闇となった。

次に、変な景色が頭に流れ込む。

私が、憎しみに満ちた目でこちらを睨みつける景色だ。

「あ、ああ、あ…」

「お、思い、出した…。今度は…どこ…から……?」

そう思っていると、正面から誰かが走ってくる。

あれは…

「お、お母…さん…?」

━━━━

ああ、良かった間に合った。

にしても、本当にこの子は寝坊してばっかりだったなあさて、さっさと終わらせなきゃ…

「来るなっ!!」

「…?」

「どうせ…どうせ消える幻のくせに…どうせ目の前で死ぬだけの幻影が、近寄るな!」

えっ…え?何?どういう事?

もしかして、あれか。反抗期か。

いやまあ確かに丁度その時期に私達居なくなったから仕方ないのかもしれないけど。いや、でも正直キツいなぁ…近寄るな、かあ…

「未來、良いから聞きなさい。それを使うのをやめて、早く正気に戻るの。そうしなきゃ未來は…」

「黙れ!どうせ死ぬくせに!死ぬだけに生まれた幻なら、さっさと役目を果たして消えてしまえ!」

…ちょっとカチーンと来ちゃったし、良いよね。うん。

「未來……?親に対して『消えろ』は無いんじゃなぁい?」

「ひっ」

「ねぇ未來…無いわよねぇ?」

「はい!無いです!だからその手をどうかお下げくださ「もう遅い!愛のビンタぁぁぁ!!」いだぁぁぁっああッ!!?」

「はっ、ついやりすぎちゃったみたい…」

「ちょっと!少しぐらい加減ってものを考えてよ!」

「黙りなさい」「はい」

「…でも、本物なんだよね?お母さん、これは」

「…本物…とは言えないわ。これは一応、未來の記憶の私っていう事になるのかな?」

「ふーん…でも良かった…また話せて……?何、これッ……!頭がっ、痛いっ……!」

「未來…未來!しっかりしなさい!これは、桜の武器に居た……?」

間違いない。これは、私もくらった……でもこれは過去を呼び覚ます物のはず…だから未來には効かないんじゃ……?

少し目を離した隙に、虫は未來を包むようになっていた。このままでは…マズい。

「……大丈夫。私は負けない」

私は、未來を抱きしめた。

直後、襲ってくる記憶の奔流。

でも私は負けない。何故なら…

「貴方を愛してるから。未來」

もう虫はそこには居なかった。

━━━━

どうして、どうして居なくなってしまったの、お母さん。

私は、まだ謝れてないのに?1人だけ謝って居なくなるなんて、卑怯だよ。

ずるいよ、お母さ――――

光が、私を包んだ。

とても明るいのに、眩しくない優しい光。

とても温かくて、気持ち良くて…思わずうとうとしてしまいそうだった。

目を開けた時、そこにはお母さんが居た。

「……温かい」

涙で、前がそんなに良く見えなかったけど、確かにそこにはお母さんがいた。

「温かい…温かいよ…お母さん……うっ、うっ……」

「苦しい時は、思い出して。私達は、いつでも未來を愛してる」




ちょっといつもより気合い入れました。書きたかった所なので。
次回は結構遠くなるかもしれないですね。
殆ど思い浮かびません


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第17話 過去を越えろ

久しぶりです。ごめんなさい。正直打ち切りにしようかなって思ってました。もう少しで、完結を迎えそうですので、もうしばらくお付き合い下さい。


「…落ち着いた?」

「…うん」

確かに、落ち着いたには落ち着いた。しかし何か忘れてる気が……

「あっ」

「え?」

「あー……うん。行かなくちゃ、私」

「平気なの?頭は痛くない?」

「子供扱いしなくてへーき。それに……待ってるから…」

「誰が?もしかして、春がやってきたの?」

うわ、すっごいニヤニヤしだした。

あーもう、なんでこんな熱くなってるのよ私。

「違う。ただの先輩だから。そういう関係じゃないから」

「ふんふん。これは後で挨拶しとかなくちゃね」

「ホント違うからね!?……少なくとも、まだ、告白してないしされてないし……」

最後は聞こえないように小さく言っといた。母にそういうのがバレるというのはとても危険だ。

「ま、とりあえず行ってらっしゃい」

「うん、行ってきます」

私は、1度も振り返らずに走り出した。

私を止めるために。

━━━━

先程からずっと栗山さんの動きが止まっている。

これは…成功したのか……?

まさにその時だ。

「グルアァァァアアァ!!」

「お、おいおい…」

栗山さんの黒い刃が空を斬った。

しかし、様子がおかしい。まるで、切りつけている所に何かがいるような…。それに、よーーく見てみると1本だけ動いていない。

あれは一体…?

━━━━

「……やっと…来たのね…」

その声は、本当に、狂おしい程に待ち遠しいという響きだった。

「貴方が…どこかにいる限り…私は不完全なまま……」

「自分の心の闇すら扱えないくせに」

「…黙れ!」

刹那、黒い刃が眼前に現れた。

こっちも剣を作りたいところだが、間に合わないだろうから盾を作って防いだ。

しかし、金属音に混じって何かが焼けている音がしている。

音のする方を見てみると、私の作った血の盾に穴が空いていた。そしてそこに、黒い液体が滴っているのが見える。

「ふふ、私の武器にリスクはない。私の怨念を素材にしているからね。それでもって形状の自由度はこっちが上。決定的なのは…この呪われた力の有無。鍔迫り合いすら出来ないなんて、絶望的ね」

「…まだ分からないの?本当に、埋まらない差が何なのか!…守りたい人がいるということ。それが私と貴方の決定的な差」

「そんなもの…ただの邪魔よ。その証拠に……」

私のいる方向とは全く別の向きを、もう一人の私は切りつけた。黒い刃は空中で止まり、その後すぐに爆散した。

「……まさか…貴方は…!」

「そう、貴方のいっっちばん守りたい人が現実世界のその位置にいるわ」

「絶対に…許さないッ……!」

━━━━

ずっと僕の事を無視していた栗山さんが、僕を斬ろうとしたかと思えば、急に暴れ始めた。というか、やたらめったらに切りつけまくっている。

そして、先程まで動かなかった一本の刃が、その全てを防いでいる。

少し考えていると、いきなり来た刃に反応が遅れてしまった。

しかし、驚いた事に斬られる寸前に動かなかったやつが僕を救ってくれた。

その時、声が聞こえた。

(大丈夫ですよ、私が守りますから…)

それは、聞き慣れた彼女の声だった。

「く、栗山さん!?栗山さん!聞こえてるなら何か返してくれ!栗山さん!!」

にしても、僕を守る?

違う。それは、僕の役目なんだ。宿命とも言える、僕の…

━━━━

「許さないとか息巻いておきながら防戦一方じゃない」

「うる、さい……!」

「へえ、七本同時もクリアか。次は…キリよく十本?」

「うっそぉ……」

流石に自分を相手しているとだけあって敵も私の弱点やスキを突いてくるのが上手い。

それに加えて先輩の分の三本―こっちは先輩の居場所が分からないため大分距離が空いていても防がなければいけない―と私の分を四本でも充分限界だというのに。

「休憩は終わりね。貴方の命も」

来る!と思っていると、黒い刃は殆ど動かずに止まっていた。

━━━━

「これで良いだろ。たぶん」

取り敢えず栗山さんを結界で包囲しておいた。こうすれば、あっちの栗山さんも集中出来るだろう。

━━━━

今しかない。現実世界に気を取られている今しか。

私は私を目掛けて全力で走った。

こっちに気付いたようだがもう遅い。

私は、もう一人の私を思いっきり抱きしめた。

直後襲いかかってくる不快感や憎悪は、私の心を確実に蝕んでいる。

でも、今なら負けない。

一人じゃないから。

少しの抵抗はされたものの、何とか押さえつけることが出来た。

「つ、疲れた……。あれ、体が…動かない…」

━━━━

髪の色が戻っているのから察すると戻ったのであろう栗山さんは、僕の方を向いてすぐにバタリと倒れ込んだ。

「く、栗山さん!返事をするんだ栗山さん!」

「…ね、ねむ…い……」

「待て栗山さん!状況からして寝たら死ぬやつだ!」

「えぇ…もう、無理…です……」

「栗山さん!諦めるな!今助けを呼ぶからな!」

「……すぅ…すぅ…」

…寝息?

後ろを向くと、凄く幸せそうな顔で寝ていた。

ひとまず凛香に連絡をして、治療してもらうことにした。

というか、僕が居なかったらどうなってた事だろうか……無計画すぎる…

 

―数日後の放課後。屋上にて―

 

「…あの、先輩」

「ん?どうしたの?」

「先日はありがとうございました」

「ああ、勝手に行っただけなんだから気にしないでよ。…それより、無茶な事はするんじゃないぞ?」

「はい…」

「さて、今日も文芸部の活動か。あー…眠いなぁ」

「…その、今日だけ…は、特別に、寝ていいですよ」

「本当に?」

「今日だけですからね」

「サンキュ!眠くて死にそうなんだよ!…………」

「うわ、寝るの早っ。…ああ、人が寝てると…私も眠く……」

…寝息が聞こえる。つまり、栗山さんは寝ているということだろう。

「くそっ…前の時から体の調子が……。ここで、倒れたら栗山さんに…心配を掛けてしまう……」

屋上の鉄扉を開けて、階段を降りる。

2階に来た所で、僕の気力は限界に達した。

━━━━

「……んー………あっ!寝てた…。ああ、もう夕暮れ時か…先輩は…流石に起きたか」

部室に置いていた荷物を取って昇降口に向かおうとした時、人が倒れているのを見つけた。

「あの…平気です…か……って、先輩?!!どうしたんですか!返事してください!先輩っ!」

返ってきたのは呻き声だけだった。

どうしようどうしようと思っていると、携帯が鳴り出した。

「何でこんな時に……!はい、もしもし栗山です……はい。今は学校です。それで……えっ!?分かりました。すぐに…行きます……。…すいません先輩…また、無茶しちゃいます…」




待たせた割にこの出来だよ!


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第18話 君を守る

今回文字数少なめです。キリよく終わらせたいので。
もしかしたら大幅な改正などあるかもしれませんが、その時はお知らせ致します


ふと、目が覚めた。

いつも通りの学校の屋上。橙色の空を見上げて、しまった、また栗山さんに怒られる。どんな言い訳をするか。なんて考えていた。

しかし、その計画は即座に失敗してしまったのだと分かった。

すぐ先に栗山さんがいた。良くわからないがフェンスを越えて景色を見ているのだろうか。

「おーい、栗山さーん、危ないぞー!」

しかし、返答が無い。不審がって良く見てみると、彼女は俯いていた。

「栗山さん!どうしたんだい?」

そう言いながら駆け寄って見るが、やはり返事は無い。

「先輩……」

「…ようやく、口を聞いてくれたか」

消え入るような声で僕を呼んだ彼女に応じてみたが、彼女は再び無視をした。

「…栗山さんいい加減に……」

彼女の掴まるフェンスに掴みかかろうとしたその時、僕の体はフェンスをすり抜けた。

「……え?」

「先輩……どうして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死んでしまったんですか…?」

 

「……は?え?」

僕はその言葉をすぐに受け止めることが出来なかった。

僕が?死んだって?

「な、何言ってんだよ、僕はここに…」

言いかけてから気付いた。

栗山さんが掴むフェンスのその先に。

とても見づらいが、動かない僕がそこに居た。

「え?な、何が…起きてるんだ……?」

「私…一人で生きていけるほど強くありません」

「!?ま、待て!早まるんじゃない栗山さん!待―――」

前に傾いた栗山さんを掴もうとしても、言葉で止めようとしても全くの無意味だった。

息が荒くなるのが分かった。

そして、見たくも無い地面を、彼女の血が散乱した地を見て――――

「ああああああああああ!!!!」

叫んだ。力の限りに、悲しみを誤魔化すように。

しかし、消えない。何も、変わらない。

胸に穴が開くどころか何も無くなったんじゃないかというくらいの虚無感が広がっていた。

 

 

 

「っ………う…ん?…あれ?」

…部室だ。何の変哲もない文芸部…。

「あぁ…酷い夢を見た…」

「あ、先輩。やっと起きたんですね?ダメですよ、今忙しいんです…から……って、なんで私は急に抱きしめられてるんでしょうか」

「ごめん、夢の中の栗山さんが死んでしまったからつい」

「人を勝手に殺さないで下さいよ!?…それに、守るって言ったじゃないですか」

「…守る?なんで今、そんな事…」

ふと、右手に生暖かい物が触れているのに気付いた。

見てみると、右手は赤く染まっていた。そして、いつの間にか栗山さんの腹を貫通している。

「こ、これ…は……」

「やっと…戻った……やっと…」

「く、栗山さん、何を…」

気付けば、文芸部の部室などでは決してなかった。

数日前の戦い…いや、それすらも夢だったのか?

「元はと言えば…私が先輩を殺したのが原因ですけど…ね」

「どうして…どうして逃げなかったんだ…僕を…殺してくれなかったんだ…」

「…ごめん、なさい…生きて欲し…くて…」

「馬鹿野郎…誰も…君を殺して生きたいなんて…言ってないじゃないか…。…おい、栗山さん!目を閉じるな!勝手に僕を生かしたんだ、その責任は取ってもらうぞ!」

「すいませ…ん…出来そうに…な……い……」

「うわあああああああああああああっっ!!くそっ、くそおおおおおおおお!」

…夢なんだろ?これも。

あの時言った「無茶するな」が夢だとは思いたくないしな。

「分かったよ…君を…助ければ良いんだろ?栗山さん…」




次回文字数多めの予定。
もしかしたら学業に追われて来年くらいまで出ないかも…?


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第19話 今行くよ

久々の投稿!
忘れてなんかいませんよ。絶対に完結させると決めましたからね。ただここで二つ謝らせていただきます。
前回、あと2話(つまり次回が最終話)と言っていたのですが、多分無理かなーと思っています。
あと、長めと予告しておきながら短くなってしまったことも申し訳ありません。最悪5000文字くらい行っちゃう気がしたので…

さて、気づけば第1話投稿から1年が経とうとしています。
ここまでお付き合いして下さったこと、改めて感謝しています


…正直、僕に何らかの術をかけているのだという事は分かったのだが。

誰が、何のためにというのが掴めないのだ。

何度も栗山さんを救えないまま、20数回のループを終えて、未だに分からない。

そもそも現実の僕は今どうなっている?

現実世界の栗山さんは今何をしている?

鏡を使ってみようと思ったが、何故か出てこないというのも気になる。

ふと、栗山さんと話してみようと思いついた。

夢の中で僕は、部活を終えて、帰ろうと下駄箱に向かうところである。

「栗山さん、君は今、何をしてるんだい?」

「何って…こうして先輩と話してるんじゃないんですか?」

…抜かりはなかったか。

呆れるような彼女の目までそっくりである。

さて…いつ来るか…。

バリン!

という音を出して窓を破壊しながら妖夢が現れる。もちろん、標的は栗山さんだ。

…だが、そのくらい……

「予想してんだよおぉぉぉ!」

ありったけの力で栗山さんを後ろに引っ張った。

妖夢は突進のような攻撃をして来ているため、次の標的は僕だ。

…さて、どうなるか。

「先輩!」

…あれ、やばいんじゃないか?これ。

この世界で僕が死んだら…どうなるんだ?

そう思っていると、妖夢はいつの間にか串刺しになっていた。

栗山さんの武器である血の赤…ではなく、黒い刃で。

この色は、ついこの間見た。

夜の闇よりも黒い…この色は…

「君は…栗山さんじゃ無いのか……?」

「はあ…はあ…本当に…無茶するなぁ…貴方は……」

いつの間にか、栗山さんの髪の色も刃と同じような黒に染まっていた。

「この世界で死んだらどうかなんて…考えないんですか?貴方は…」

「ま、待て!お前は、妖夢の筈だろう?なんで、僕を…」

「単刀直入に言います。栗山未來に危機が訪れてます」

「……また?またなの?懲りずにまた無茶してんの?…一体何してるんだか」

「無茶してるのは貴方もでしょうが…。それに、貴方なら分かるでしょう?貴方が異界師達から煙たがられたのは、何も体に妖夢を宿していたからだけじゃないでしょ?」

「……それにしても、だ。何故お前が栗山さんを救おうとする?僕を選んだ理由があったとしても、この行為に理由はないはずだ」

「…私が負けたから」

「え?」

「私が、負けたんですよ。いや、正確には飲み込まれた。栗山未來は、トラウマから逃げ出さずに共に歩き続ける勇気を手に入れたんですよ。貴方が居たから。それなのに、逆に貴方に負い目を感じているのがなんかこう、ムカついて」

「あ、うん。分かった。……じゃあ、僕が行くまで栗山さんが死なないように頼むよ」

「…この私、命を懸けてでも栗山未來を護りましょう」

いや、君が命を懸けちゃ意味無いだろ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…目が覚めると、凄く気分が悪かった。

よくよく考えてみると、僕の中に居た妖夢が消え去ってくれたおかげでぶっ倒れたんだと思う。見事に居なくなってからも迷惑を掛けやがったわけだ。

現在、僕は病院にいるらしい。まあ、点滴ぶっ刺さってるし。

…さて、僕は今から栗山さんを助けに行くわけだが。

境界の彼方の内部に入るには妖夢の力が不可欠なのだ。

探しに行く時間なんて―

コンコン、とノックが聞こえた。

返事を返すと、出てきたのは凛香だった。

「あら、起きてたのです?」

「今さっき起きたばっかりだ。…やっぱり栗山さんは居ないか」

「やっぱり…って事は何か知ってるって事でよろしいかしら?」

「まあ…な。…見舞いに来てくれたとこ悪いけど、ちょっと行く所が出来た」

「……栗山さんを取り戻しにでも行くの?」

「ま、そんなとこかな」

「待ってますわ、二人ともね」

「アイアイサー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、僕が目指す場所というのは、特に場所という訳では無い。

どちらかと言うと捜し物に近い。そう、

(…よう、弟)

僕の兄貴をだ。

 

 

 

 

 

(…それで?何で俺を探してたのか…聞こうか)

「とぼけんなよ、アンタは一族の中で一番優しかった。そして…誰よりも宿命を全うしようとしていた。

…方法が正しかったとは断じて認めない。栗山さんを苦しめたのは紛れもない事実だからな」

(酷いねぇ、そこまで分かっといて。今、境界の彼方と戦って彼女が生きているのは誰でもない俺のおかげだ)

「……それは置いといてだ。僕も、境界の彼方に入る事は出来ないのか」

(普通じゃあ無理だな。今、境界の彼方は力を欲していない。いくらこの…境界の彼方の妖夢石があろうとも、入り込むことまでは不可能だ)

「…じゃあ出来るんだな」

(お前には、隙間がある。妖夢が入り込む余地があるんだ。そして…藤真弥勒の残した言わば妖夢の食欲を刺激する装置を使えばな。しかし…これを使えば境界の彼方はさらに強力になる。お前が死のうと俺には関係ない。俺には、な)

「…それでいい。…頼む」

(よし、任せろ。行くぞ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん、やっと来るか…先輩……」




あ、そうそう、なんで境界の彼方の事知ってるんだーと思ったアナタ!
多分次回じゃ無理なんで、2、3話先でお話することになると思います。決してご都合主義とかじゃ無いので……



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