城下町のダンデライオン~王の剣~ (空音スチーマー。)
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設定集(ネタバレあり)
主人公設定


物語を進行する上で主人公について知っておいてもらいたく
設定集を投稿します

あくまで初期設定なので追記、変更、後付けなどはご了承ください、ごめんなさい

かなり長文になっていますので
長文、ネタバレが苦手な方は飛ばしていただいて大丈夫です


名前 櫻田 翔(さくらだ しょう)

 

登場時年齢 17歳

 

長男・第一子

 

身長 178cm

 

誕生日 12月24日

 

特殊能力 王の剣(キングスグレイブ)

 

歴代の王の武器13種を所有する。

物語開始時には11種所有。残りは父・総一郎と祖父の物。

全て集めると能力が覚醒すると言われている。

初代と六代目の国王も同じ能力者だった為。

 

他にも自身の所有する武器を異空間の倉庫に貯蔵し任意で召喚することもできる。また、その武器を投げてその場所へワープする事もできる。(元ネタはFF15ノクトのマップシフト)。

 

切れ味や重さなどは任意で自在に操れるのだが、

歴代の王達の武器は見た目的に危ないので普段は貯蔵した木刀や竹刀など籠手のみを召喚する。ピコピコハンマーやハリセンを出してツッコミをいれることも。

 

得意科目 英語以外

苦手科目 英語

趣味 写真、旅行

 

好きなもの 昼寝、家族

苦手なもの 葵、外国、冬

 

好きな食べ物 唐揚げ、ビーフシチュー、甘味

 

・詳細

本作の主人公。葵の双子の兄。髪の色は藍色。

 

自他ともに認めるシスコン、ブラコン。

普段は温厚で人当たりがいい性格だが、家族の事となると口が悪くなり、冷酷な判断も平気で下す。

自分の事はけっこう適当で大雑把なところも。

また、結構茶目っ気があり、子供っぽいところも。

 

次期国王選挙が始まるまでは全国に散る歴代の王の墓をまわり歴代の王の武器を回収してまわっていた。第九子の四男・輝が産まれる前から家にはいなかった為、六女・栞も含め二人とは会ったことがなかった(旅の終盤に葵から送られてきた家族写真と話で二人の顔と能力だけは知っていた)。

 

11歳まで能力がないとされていたが、偶然見つけた二代目賢王の墓で剣を継承され能力が発覚。その後歴代の王の墓を巡る旅に出る。

常人より五感が発達しており、家族と外にいるときは常に研ぎ澄ませることで家族の安全を守っている。

 

両親と双子の妹の葵とだけは時々電話で連絡を取り合っていた。

その時は必ず故郷の方角を見ながら電話をするという律儀さである。

 

五女の光が産まれた日から家族を守る為にと自らの意思で城の軍の訓練を受けており、当初から成績は優秀だったらしく、特殊能力を抜きにしたら国のNo.2の実力を持つ。

現在では自ら率いる直属の少数精鋭の特殊部隊を持つ。

ちなみにトップは楠で、頭もきれる彼からは戦闘・学業や政治など文武全般を教わっており師と仰いでいる。

 

なんでもそつなくこなすタイプで

高校の編入試験は国・数・理・社の4教科満点。

しかし英語が絶望的に苦手で試験もギリギリ合格ライン。

それもあり言葉の通じない外国が苦手。

英語力は師匠の楠すらもお手上げなレベル。

 

葵とは双子なだけあり周りには理解できないほどに意思の疎通が完璧にこなされている(アイコンタクトで会話が成立しするほど)。

それが作用し弱味や嘘が必ずと言って良いほどばれる為、葵が苦手。

 

基本妹弟には平等に甘いが家を出る当初の末っ子だった光にはその時の名残もあり特に甘い節がある(奏談)。

甘い食べ物が大好きで、光と甘いもの巡りをしている姿がたびたび目撃される。

 

趣味はカメラで、休日などは外へ繰り出し、お小遣いやお年玉を貯めて自腹で購入した一眼レフカメラを使い色々な風景や人や動物を写真に収めている。

 

11歳までは葵と一緒に学校に通っていたので卯月、静流、菜々緒とも知り合いで妹の葵共々仲が良く、帰ってきてから5人で遊ぶこともある。まだ恋愛感情に発展まではしていないものの多少卯月に気がある。卯月以外の4人はすでに気づいており卯月本人も内心好意をよせている。

 

 

・歴代王の武器

FF15のファントムソード参照。

一部オリジナル要素に変更しています。

 

1『祖王の逆鉾』     

最初に地を納め国を創った王の鉾。

 

付加能力は三位一体(トリニティ)

2つの残像を作り出し共に戦う能力。

 

 

2『賢王の剣』

数多の知恵で国を反映させた王の両刃の片手剣。

 

付加能力は高速治癒(ホーリー)

生物の回復力を活性化させ、怪我の回復を早める能力。

治るのは怪我のみで病気は治すことはできない。

 

 

3『修羅王の刃』

領土を拡げ民を豊かにした武勲多き王の鎖鎌。

 

付加能力は金属操作(メタナイト)

金属を自在に操る能力。

 

 

4『獅子王の双剣』

いくつもの秘境を開拓した疾風のごとき王の二振りの剣。

 

付加能力は閃光解放(ライトニング)

斬撃を空間に留め放つことの出来る能力。

 

 

5『飛王の弓』

技術に秀で数多の武器で戦った王の弓。

 

付加能力は雷電操作(エレクトロン)

電気を自在に操る能力。

 

 

6『夜叉王の刀剣』

迫りくる驚異から国を守った王の六本の短刀。

 

付加能力は王の剣(キングスグレイブ)

自在に武器を呼び寄せる、翔と同じ能力。

 

 

7『慈王の盾』

内政を重視し王都の民に愛された女王の盾。

 

付加能力は能力消去(アビリティキャンセル)

能力を無効化する能力。

 

 

8『闘王の豪拳』

最愛の妻を早く亡くし豹変したという王の籠手。

 

付加能力は怪力超人(リミットオーバー)

肉体を強化し、超人的力を生み出す、輝と同じ能力。

 

 

9『覇王の大剣』

大柄で厳つい容姿だったと言われる王の大剣。

 

付加能力は巨人殺シ(アタックオンタイタン)

触れた物を自由に拡大縮小することの出来る能力。

 

 

10『伏竜王の投剣』

民の前に姿を表すことのなかったという王の手裏剣。

 

 

11『鬼王の砲筒』

温厚で誠実なれど戦場では鬼と謳われた王の拳銃。

 

付加能力は感覚支配(ザ・ファントム)

生物の五感を支配して惑わせる能力。

 

 

12『聖王の刀剣』

各国との交友を深め貿易を栄えた王の刀。

 

 

13『父王の杖』

次代を担う子らを護り育て慈愛に満ちた王の杖。

 



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その他設定

こちらは主人公以外に大きな変更点がある主要人物達やオリジナルキャラの設定集となっております

多少のキャラ崩壊などありますがよろしければ

他にも今後新キャラや変更がある場合
随時更新、または新規で投稿いたします


・櫻田家設定

 

長女 (あおい) 呼び方は 翔くん、お兄ちゃん

翔の双子の妹。

幼い頃はお兄ちゃん子で常に翔に引っ付いていた。

自身の能力の影響を受けない数少ない人物の翔に絶大な信頼をよせている。翔の卯月への感情にも気づいており、もし卯月と恋愛に発展したとしても応援するつもりではあるが兄をとられたくない気持ちも少なからずあり複雑な心境のもと翔にその気持ちを自覚させる事をしぶっている。

弱味を見せるときや慌てたときに昔の呼び方に戻る。

誕生日にもらった青い薔薇の装飾の髪飾りは晴れ着として身につけ、普段は大切に保管されている。

 

 

次男 (しゅう) 呼び方は 兄さん

昔から強い兄を尊敬し、憧れている。

翔が家を出るときに家族の面倒を任され、それを今でも変わらずしっかり守っている。花との恋愛相談はまず翔にする。

 

 

次女 (かなで) 呼び方は お兄ちゃん、お兄様

昔から面倒見のいい兄を慕っているお兄ちゃん子。

昔から次期国王は翔だと思っていた為、その補佐役になろうと必死に努力して勉強してきたが翔に次期国王になる気がないことを知り複雑な心境になるも、修への償い心と翔の意思を知り国王になることを目指す。

翔ファンクラブのNo.2。

 

 

三女 (あかね) 呼び方は 翔ちゃん 

昔から何かと守ってくれていた翔をヒーローのように想い慕っている。昔から何かあればすぐ翔に泣きつく癖は治っておらずよく奏に叱られている。

 

 

四女 (みさき) 呼び方は 翔兄

兄弟の中で一番のお兄ちゃん子。翔が家を出ていった時はショックで1週間寝込んだほど(奏は3日寝込んだ)。

遥も好きだがそれ以上に翔の事が好きすぎて慕っている。

よく甘やかされている光と黙ってずっと連絡を取り合っていた葵に嫉妬している。

誕生日に翔から貰ったリボンは晴れ着としてイベント事や大切な日、頑張りたい日に着けているらしい。

 

 

三男 (はるか) 呼び方は 翔兄さん

昔から家族のために努力をしてきた兄を尊敬している。

遥も翔が次期国王になると思っていた為そんな翔の力になろうと勉強をしてきた。翔の意思を知った後、翔に後押しされ岬の面倒見役を買って出る。唯一自身の能力の確率を平気で覆す翔を尊敬すると共に恐れている。

誕生日に翔から貰った翔の過去の勉強の品を見て勉強するのが日課。

 

 

五女 (ひかり) 呼び方は しょうちゃん

翔が家を出た当初はまだ4歳だった為、昔の翔のことはあまり覚えてはいないが、ずっと翔に引っ付いていたことは覚えておりその時の延長線でよく翔に甘える。翔自身もその当初の名残か光には特に甘い節が見受けられる。アイドル活動の休日に翔と甘いもの巡りをするのを楽しみとしている。

 

 

四男 (てる)  呼び方は 兄様、翔兄様

翔が家を出た年に産まれた為、翔との面識はなかったが上の兄姉達から話だけは聞いており、幼心ながら尊敬し憧れている。

すでに厨二病なところがあり、翔の力や旅の話を聞きさらに憧れを抱いている。翔と修は輝の話を理解し影ながら応援している。

誕生日に翔から貰った腕輪を外すべき場所では外すという約束のをまもりつつ普段は肌見放さず身につけている。

 

 

六女 (しおり) 呼び方は お兄さま、翔お兄さま

産まれたときにはすでに翔がいなかった為、翔との面識はなかった。上の兄姉達から話は聞いていたが、内心不安はあった。しかし、はじめて会ったときの翔の人柄や雰囲気に触れ安心し、純粋な好意を寄せている。

 

 

父親 総一郎(そういちろう) 呼び方は翔

第13代国王。翔が能力に目覚めた時に初代の能力を翔に明かし翔が旅に出るのを後押しした、それを家族になにも言わず決定し送り出した為、妻の五月にかなり怒られるは、奏と岬に一月口を聞いてもらえなくなると散々な目にあっている(自業自得である)。歴代王の武器として杖を翔に継承しなければいけないが未だ保留にしている。

 

 

母親 五月(さつき) 呼び方は翔

自分に何も言わず翔が旅に出たことについて総一郎に怒りはしたものの、翔が決めたことならと応援はしている。

しかし、あとから電話で翔にも説教をちゃんとしている。

 

 

・その他関係者

卯月(うづき)静流(しずる)菜々緒(ななお)

翔と葵とは小学校の時からの付き合い。

翔が帰ってきてからは何度か5人で遊んでいる。

 

卯月は翔の初恋の相手で、翔本人は自分の気持ちに気づいてはいないが出会ったときから現在に至るまで翔は好意をよせている。翔が旅に出てから卯月も翔への自分の気持ちを自覚しつつも、葵の気持ちも知っている為考えないようにしている。

静流と菜々緒の二人は他三人のそれぞれの気持ちを理解した上で最終的にはそれぞれが決めることと、黙認しそれぞれ平等に応援している。菜々緒と翔の悪ノリ仲間。

 

 

・櫻田城関係者

 

楠 史朗(くすのき しろう) 

総一郎の参謀兼軍の最高責任者。国内No.1の武術。

また、頭も良いことから翔の文武の師匠。

能力を抜きで戦った場合、翔は三回に一回勝てるかどうか。

翔には師匠と呼ばれているが、あまりよく思ってはいない。

 

 

曽和 初姫(そわ はつき)

総一郎の世話兼護衛係。城のメイド長。満姫の母。

総一郎に絶大な信頼をおいており、普段はしっかり者だがどこか危なっかしいところがある。総一郎からはいい人過ぎて逆に心配されている。

 

 

曽和 満姫(そわ みつき)

本作のオリジナルキャラ。翔の世話兼護衛係。

メイド長の初姫の娘で、翔の旅に同行していた。

歳は翔と同じ。翔に絶大な信頼を置いている。

普段はしっかり者なのだが母の危なっかしさはしっかりと遺伝されている。

王都に帰ってからも翔のスケジュール管理など世話係は継続している。

 



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王の剣設定

改めまして
 
主人公直属の部隊【王の剣】のメンバー設定です。

こちらもネタバレが苦手な方はスルーしていただいね大丈夫です




王の剣(キングスグレイブ)

翔直属の特殊部隊。隊員は6人と少数精鋭。

 

翔の特殊能力の加護のもと自身の武器にのみなら翔と同じようにワープする事が可能。

 

翔の特殊能力の王の剣(キングスグレイブ)と同じ名前の部隊名がつけられている。

 

歴代の王の墓を巡る翔の6年間の旅にも同行していた。

 

バハ、シヴァ、イフ、リヴァ、ラム、タン+満姫の7名。

(名前はFF15の六神参照)

 

シヴァとリヴァは双子の姉妹。他4名は男性。

 

翔の方針で殺しではなく制圧を目的とした部隊な為、それぞれの武器に殺傷能力はない。

 

 

 

・バハ 

 

年齢 22歳 呼び方 翔様 身長 177

 

翔の右腕にして王の剣の隊長。

翔に絶対の忠誠を誓っている。

誠実な性格で悪を良しとしない。

 

その為、翔に軽い口を聞くイフとは仲が悪く、剣と銃どちらが強いか競いあっている。

 

元は不良で、入院中の母の治療費を稼ぐため力をつけ国の軍に入り、高い地位で多くの給料を貰おうとしていた。

しかし、翔に諭され、あげく肩代わりしてくれた治療費を返すために翔の元で働くこととなる。

 

武器は両刃剣。賢王の眷属。

剣術の達人でまるで自身の体の一部のような自在な剣さばき。

 

 

・シヴァ

 

年齢 20歳 呼び方は マスター 身長 164

 

リヴァの双子の姉。

真面目な性格で翔の言葉を絶対としている。

冷静な性格で物事を客観的に捉え、時には冷酷な判断をも下せる頭脳派。

 

性格が真逆な妹には手を焼いている反面、裏表なく自由に生きる妹を羨ましくも思っている。

妹より胸が小さいのがコンプレックス。

 

武器は双剣。獅子王の眷属。

その素早い攻撃は相手に隙を与えない。

 

 

・イフ 

 

年齢 23歳 呼び方は 翔 身長 175

 

祖父の残した山を守ろうとするも、自分の無力さを知りどうしようもなかったところを翔に救われ、翔の意思に賛同し仲間になる。

 

翔の事を呼び捨てにしたりボンボンとバカにしたりと友人の様な対応をとる。

しかし、翔の事を悪く思っているわけではなく、翔本人も気にしたことはない。

 

バハとは仲が悪くよく言い合いをしている。

 

気性が荒く喧しい性格だが仕事となるとたちまち無口になり黙々と仕事をこなす仕事人。

口は悪いが誰よりも正義感の溢れた人物。

 

なんだかんだ面倒見がよく子供にもなつかれやすい。

 

武器は2丁拳銃。飛王の眷属。

目にとまらぬ速さで繰り出される銃撃は相手にその認識すら遅らせる。

 

 

・リヴァ 

 

年齢 20歳 呼び方は 翔くん 身長 166

 

シヴァの双子の妹。巨乳。

真面目な姉とは違い気さくな性格。

手まで隠れるくらいの長い袖が特徴。

 

普段は不真面目な振る舞いで翔にもため口で話すが任務や翔の指揮する戦闘時には敬語になる。

元々は暗姫と呼ばれるほどの暗殺術や暗器の使い手で、普段から長い袖の服を着ており、袖に何本かクナイを隠し持っている。

 

武器は8つの関節を持つ蛇腹剣。夜叉王の眷属。

予測ができない変幻自在な攻撃を得意としている。

 

 

・ラム

 

年齢 32歳 呼び方は 主 身長 180

 

元は城内での翔の身辺警護役。

メンバー内では最年長。髭面で濃い顔をしている。

それもありイフにはおっさんと呼ばれている。

 

翔と2人でバカをやっては満姫に怒られている。

 

城に仕えるまでは神槍と呼ばれるほどの槍の使い手だった。

 

棒術に秀でており武器は槍。祖王の眷属。

巧みな槍さばきで相手に休む間を与えない連続攻撃を得意とする。

 

 

・タン  年齢 27歳 呼び方は 王子

 

メンバー内で一番の力持ち。基本無口。

 

旅の途中に寄った祭りの催し物の大会で出会い、翔に敗れ仲間となる。

 

元孤児の施設の出で、稼いだお金を色々なそう言った施設に寄付して回っている。

 

誰かの力になることを生き甲斐としていて、旅の間も自ら率先して荷物持ちなどをしていた。高身長で体格も良い。

 

武器は大斧。覇王の眷属。

重い一撃を放つパワータイプ。

 



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第1章 櫻田家の長男
プロローグ


今回が初の投稿となります

至らぬ点も多いと思いますが
楽しんでいただければ幸いです

また、誤字脱字などありましたら
教えていただければと思います


「もしもし?あー俺、ーー」

 

とあるホテル

 

夜景が綺麗に見える一室のベランダで夜景を眺めながら電話をする人影

 

「ああ、大丈夫、お陰さまで元気にやってるよ」

 

電話の相手と会話は弾む

 

「写真?今朝、曽和(そわ)さんから貰ったよ。まさかあれからさらに二人も増えるとはね…はやく会いたいよ」

 

そう話ながら手元の1枚の写真に目を写す

 

「みんなでかくなったな、そっちも元気そうでなにより」

 

そうして数分間のお互いの現状報告を交わした後

 

「そうそう、近々そっちに戻る予定だからみんなによろしく言っといてーーああ、それじゃおやすみ」

 

そう言って電話を切る

 

そしてもう一度写真を見てその影は笑みを浮かべる。

 

「お待たせ致しました、お食事の用意が整いました!」

 

一人の女性が近づきそう言う

 

「ああ、いつもありがとう曽和さん」

 

「いえ、これが私の仕事ですので!」

 

そしてその影は席に着き用意された食事をとる

 

「明日のご予定ですがーー「だいたいでいいよ」かしこまりました。明朝、最後となられる前王様、伏竜王様の墓前を参拝なされた後に自家用ジェットにて王都へご帰還される予定となっております」

 

「あーそれなんだけど、帰りさ、電車とかでゆっくり帰ったらダメかな?まだまだ色んな景色収めときたいんだ」

 

そう言ってナイトテーブルに置かれた一眼レフカメラを指差す

 

「私は構いませんが、よろしいので?」

 

「ああ、さっき電話でも近々帰るって言っといたしお土産買ったりとか土産話とかにもなるからさ」

 

「かしこまりました。ではそのように国王様にも申し上げておきます」

 

「うん、ありがとう、よろしくね」

 

「ふふ、随分とご機嫌でいらっしゃいますね」

 

「そう?まあ、あれから6年だからねー」

 

「大変お疲れさまでした」

 

「まあこの旅が終わったかどうってこともないけどね…あのアホの父さんが次期国王選挙とか言い出すもんだから…俺が国王になる気ないのは知ってんだろうに…」

 

「きっと国王様にもなにかお考えがあられるのですよ」

 

「ま、大方俺ら子供たちに自分を見つめ直させるとかそこら辺だろうね」

 

「なんにせよ私はあなた様のお仕えすることに変わりはありません!」

 

「そうだね、これからもよろしく頼むよ曽和さん」

 

「心得ております!」

 

「ところで曽和さん、明日も晴れるかなー?」

 

「ただいまお調べ致します“(しょう)”様!」

 

そして窓の方へ目をやり、残してきた家族を想う

 

その方角は懐かしの故郷

 

こうして夜はふけていく

 

かの地へ想いを乗せてーー

 

 




いかがでしたでしょうか?

キーボードが不調のため
現在スマホからの投稿となりますので
投稿が遅れることもありますが

2日に1話ぐらいのペースであげていければと思っております

是非今後ともよろしくお願いします


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第1話【櫻田家】

文才がなく1話目から長文になってしまったことを先にお詫びいたします申し訳ないです


「よいしょ!もういつまで寝てるつもりなの?茜ー、光ー!」

 

布団を干しながら妹達を起こす、よくある日課です

 

「もうみんな起きてるわよ!」

 

そう告げると同時に三女の(あかね)が悲鳴をあげながら起き上がりました、それにつられて五女の(ひかり)も目を覚まします

 

「まったくもうーー」

 

二人が起きたのを確認すると私はリビングに降りて朝食の用意をしているお母さんの手伝いを始めます

 

これもまた私の日課です

 

我が家の朝は毎日戦争です

 

なにしろ家族が多く、毎朝洗面所もトイレも取り合いです

 

料理が盛り付けられたお皿をテーブルの上に並べているとだんだんと家族がリビングに集まってきました

 

「はい、お待たせ」

「ありがとう、葵」

 

最後のお皿を起き自分の席に着きます

 

「今日はママ特製野菜オムレツでーす!みんな残さず食べるように!」

 

「「「いただきまーす!!」」」

 

お母さんの一言と共にみんな各々食事を取り出します

 

「パパ、食事中ですよ」

「わ、わかってます」

 

お母さんに叱られながらも、新聞を読むのを止めないお父さん

 

「うげ、やっぱりグリンピース入ってる!」

「好き嫌い言ってると身長伸びないわよ」

 

五女の光、次女の(かなで)

 

「母上、僕は好き嫌いないから大きくなれますよね?」

「ええ、そうね!栞、よく噛んでね」

「うん」

 

四男の(てる)に六女の(しおり)

 

「あ、そういえば、もうトイレットペーパーストックがないけど」

「今週の買い物当番誰だっけ?」

 

三男の(はるか)、四女の(みさき)二人は双子です

 

「修ちゃんでしょ?」

「ああ俺か、帰りにでも買ってくるよ」

 

三女の(あかね)と次男の(しゅう)

 

「修くんお願いね」

 

そして長女私、(あおい)です

 

「親孝行な子達で助かるわー」

「いえいえー」

 

お母さんの言葉に岬が反応します

 

我が家は家族が多いのでお母さんの負担を減らすため中学生から上の弟妹たちで家事を分担して家のお手伝いをしるのがルールです

 

という感じで、色々大変なことも多いですが十人兄弟仲良く毎日頑張っています

 

これだけならただの大家族ですが、我が家は少し特殊で

 

「パパ、早く食べて!また迎えを待たせちゃうから!」

 

そう言っていい加減お母さんがお父さんの新聞を取り上げると

 

「…なんで王冠してんの?」

「あ、いやー間違って持って帰っちゃったから、せっかくなんで」

「パパなんか王様みたい!」

「あの、一応本物だから」

 

そうなんです

家のお父さんはこの国の国王なんです

 

「ねーそんなことより翔にいはいつ帰ってくるの?お父さんか葵ねえなんか聞いてないの?」

 

岬が急に立ち上がりそう言います

 

「さあ?先週電話があってから連絡きてないけど」

「電車でゆっくり観光しながら帰ってきてるってきいたぞ?」

 

「ってことはお土産もあるかな!?」

「光…」

 

岬の問いに答える私とお父さんを横目に

光に呆れている遥

 

「そもそも、なんで姉さんにしか電話寄越さないのよお兄ちゃんは!」

「そんなこと言われても、奏、お姉ちゃん困っちゃうよ」

 

そして少し機嫌を損ねる奏

 

そうなんです

先程紹介した中にはいなかったのですが

我が家にはもう一人の兄弟

 

私の双子の兄にしてこの家の第一子の長男

 

(しょう)”がいます

 

11歳の時に家族に何も言わず突然旅に出てしまってから早6年が経ち先日その兄から近々帰ると連絡があったのです

 

兄が旅に出た日はそれはもう大変でした

 

独断で送り出したお父さんにお母さんは激怒

 

妹弟の中でも特にお兄ちゃん子だった岬と奏はそれぞれ1週間と3日寝込む始末

 

あげく原因のお父さんと1ヶ月間口を聞かなかったりと

なだめるのが大変でした

 

ちなみに兄が旅立つ前に私と修くんだけは会っていたのですが妹達が拗ねるのがわかっていたので修くんと二人で黙ってることにしました

 

(もう、人の気も知らないでどこでなにしてるのよ翔くん)

 

「兄上!翔兄様は修行の旅に出ているんですよね!」

「ああそうだぞ輝、兄さんは強くてカッコいいんだぞ!」

「輝、栞、翔ちゃんはね!ヒーローなんだよ!」

「そうなの?茜お姉さま」

 

下の子二人に力説する修くんと茜

あの二人はヒーローの様に尊敬の眼差しで慕ってたっけ

 

兄は輝と栞が産まれる前にはこの家にいなかったので

二人は兄の事を知りません

 

「あ、そうだ遥の能力でいつ帰ってくるか調べてよ!」

 

岬が遥に言います

 

そう、私たち家族はそれぞれ特殊能力を持っており

それが王族の証ともなっています

 

遥の場合は確率を予知する能力です

 

「そんなこと言われなくてもすでに予知済みさ

僕の予知によると今日帰ってくる確率が95%でている」

「遥!それ本当でしょうね!?」

「う、うん…いえ、はい。」

 

遥の結果に奏が遥に掴みかかります

 

(奏やめてあげて、奏の気迫に圧されて遥の顔色悪くなってるから)

 

なにを隠そう私も含めて妹弟全員、兄の事が大好きで慕っているんですよね

 

「はいはい、みんな話は一旦そこまではやく学校に行きなさい!ほらパパも」

 

「「「はーい」」」

 

お母さんの言葉でみんな一斉に学校へ行く準備を

 

私はお母さんと栞と玄関でお父さんの見送りをします

 

「あ、そうだ、今日は晩御飯までに帰りますから」

「おーけー」

「いってらっしゃい」

「いってきます」

 

そしてお父さんが乗った迎えのリムジンは走り出します

 

「みなさん、毎朝騒々しくてすいません」

「すいません」

 

私の言葉に合わせておんぶした栞もそう言います

 

(そっか、やっと帰ってくるんだ)

 

そう思いながらふと空を見上げます

 

うん!今日の天気は快晴です!



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第2話【帰郷】

「曽和さん早く!なにしてんの?出発しちゃうよ?」

「お待ちください!まだお会計が!」

 

俺、櫻田 翔は

駅のホームで駅弁を買ってる曽和さんを横目に

ホームに停まってる新幹線に乗り込む

 

「えっと…Fの15っと」

 

自身の切符と座席の番号を照らし合わせ指定された席に着く

 

しばらくすると曽和さんがやってきて

 

「もう、待ってくださいよ翔様~」

 

さっきおいてきた曽和さんが涙目でやって来た

 

「ごめんごめん」

 

この人普段はしっかりしてるけど

やっぱり初姫(はつき)さんの娘だなあ

 

目の前であたふたしてる曽和 満姫(そわ みつき)さんを見ながらその人の母親を思い出す

母の方も普段のしっかり者だな危なっかしい時がちらほら見受けられる人だ

 

 

俺は訳あって6年前からずっと旅をしてる

彼女はそんな俺の世話兼護衛係だ

 

俺が旅に出るときに父さんが付き人に選んだ人だ

 

普通なら世話だの護衛だの必要ないのだか

 

まがいなりにも俺は王族でして

この国を納める櫻田家の第一子・長男だったりする

 

じゃなきゃ曽和さんの他に黒服の人を5メートル内に6人も連れて歩く理由がない

 

恥ずかしいからほんと勘弁してほしいが

自分の身分や彼らの仕事を理解しているので強くは言えない

 

なによりこの6人は俺の直属の部下だったりするし

みんな優秀のいい人達です

 

 

「ーー様、翔様。あ!おはようございますあと一駅で王都へ到着いたしますよ!」

 

あれから曽和さんが買ってきた駅弁を食べすぐに眠ってしまったようだ

 

「んー?いま何時?ーー「10時です」って2時間も経ってないじゃん、冗談やめてよ」

「冗談ではありません!新幹線ですので別におかしくはありませんよ!」

 

あーそうか、これ新幹線だったわ

寝起きの頭でそんなことを考えながら伸びをする

 

「お目覚め後すぐで失礼致しますが、次の駅にて王都にご到着でございます。国王様より到着後はそのまま城へ足を運ばれるよう仰せつかっております」

 

「ん、りょうかーい」

 

そんな会話をしているとすぐに駅に到着

 

「んー、やっと帰ってきたな」

 

新幹線からおり深呼吸をひとつ

 

約6年

 

ずいぶんと長い間この町を離れてたからな

 

人々だけじゃなく建物や景色にも変化もあるだろ

 

「懐かしいな」

「翔様、迎えを用意しておりますのでこちらへ」

 

そして用意された車に乗り移動する

 

目指すのは国王、父の待つ城だ

 

俺らの代から父さんの方針で一般の住宅街で普通の生活を送っているが、父さんの代まで王族が住んでいた城

いまでは国王の職場みたいな感じになっている

 

 

そしてしばらくして城へ到着

 

車から降り城を見上げる

 

ここも懐かしいな

 

「国王様は現在、玉座にて王の執務を全うされているとのことなので暫くお時間があります、まずお召し物を」

 

そして一室に案内され

 

用意された服に着替え

 

時間もあるので適当に城内を彷徨いていると

ある列を見つけた

 

「曽和さんあれなに?」

「国王様への謁見希望者の列ですね」

「へーけっこういるなー、将来王様になるやつも大変そうだな」

「他人事のように仰いますが、翔様もその権利をお持ちなので可能性がないこともないのですよ」

「んー興味ないなー」

「はあ」

 

俺の気の抜けた返事に曽和さんが溜め息を漏らす

そんな事言われましてもねー

興味ないものはない!

 

「あ、そうだ。ただ会うのも面白くないし、どうせこれ終わるの待つなら一緒でしょ、俺らもこれ並ばない?」

「…私は構いませんがーー「んじゃ決定」かしこまりました」

 

渋々な感じでもあったけど承諾してくれる曽和さん

ほんとにいい人です

 

そして俺達は列の最後尾につく

 

あれから6年だし今の俺の顔を知る者は誰もいない

 

玉座の扉の前に構える城の人は気づいている様子だったけどジェスチャーで内緒にして貰うよう指示を出すと察してくれたようで笑顔で頷いてくれた

 

ほんとここの城の人達はみんな優秀で助かる

 

ーーーーーーーー

 

櫻田城の玉座にて

 

「それでは本日最後の謁見希望者となります」

「うむ、謁見希望者をこちらへ」

 

玉座の重い扉が開かれ一人の男と

それに付き従うように斜め後ろ立つ女性が入ってくる

 

ある程度前へ進んだ男はその場でひざまづき

 

「お久しぶりにございます陛下、櫻田家第一子長男、櫻田 翔、帰還致しました」

 

笑顔でそう言い放ってみせた




いかがでしたでしょうか?
2日に1話ぐらいのペースで投稿できるようがんばります!


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第3話【故郷】

今回は卯月登場回です

他の兄弟が出てくるのは2話ほど後になりそうです
楽しみにしてくれている方々には申し訳ないですが

もう少しお待ちいただいて
オリジナルの話を楽しんでいただきたいと思います


「お久しぶりでございます陛下、櫻田家第一子長男、櫻田 翔、ただいま帰還致しました」

 

玉座に向かってひざまづいた状態からそう言い放ち笑顔で顔をあげる

 

「翔!お前、帰ってきたとは聞いていたがまさかそうきたか」

 

国王、父の総一郎(そういちろう)は一瞬驚いたあと嬉しそう笑い飛ばす

 

「お帰りなさいませ翔様。長期に渡る責務、大変お疲れ様でした」

「うん、ただいま師匠!ありがと!」

「翔様、その呼び方はお止めくださいと何度もーー」

 

そう言って困った顔をする楠 史朗(くすのき しろう)さん

 

父の参謀であり、国の軍の最高責任者だ

頭もよく、武術の心得もあり、この国で右に出るものはいない

 

俺も腕には多少自信はあるつもりだが

王族の特殊能力を使わなかったら三回に一回勝てるかどうかだ

 

ちなみに俺の文武の師匠でもあり、この人からは武術、学業、政治など色々な事を教わった

 

しかし俺に師匠と呼ばれるのをあまりよく思ってくれてはいないようだ

 

「お帰りなさいませ。旅の間、不便はございませんでしたか?」

「うん、初姫さん。満姫さんが良く働いてくれてたからね」

 

次に、曽和 初姫(そわ はつき)さん

俺の付き人の満姫さんのお母さんで、この城のメイド長をしてくれている

 

満姫さんの危なっかしさの産みの親である

 

 

「色々つもる話もあるだろうが、父さんまだ仕事が残っていてな、悪いが話は帰ってからになる」

「ん、おっけー大丈夫だよ」

「それからお前にはちょっとやってもらいたいことがあってな、次期国王選挙のポスターの写真撮影をしてもらいたい。今日中に刷って明日には公開するつもりだから」

 

そういや城に向かってる途中、車の中から妹弟達の選挙ポスターを見たな、あれのことか

 

実際選挙には興味はないけど、言ったところで無意味なのはわかってるし、

 

「はいよ、了解。それ終わったら久しぶりの町を見て回りたいし勝手に帰ってるよ」

「そうか、そうだな。しかし早めに帰るんだぞ?もう父さん嫌だからなーー」

 

そう言って奏が、岬がとぶつぶつ言い出す父さん

 

葵から多少電話で聞いてはいたが奏と岬よ父さんにここまでトラウマを残すとは…

 

お兄ちゃん子なのはお兄ちゃん的には嬉しいけど

 

悪い、父さん…

 

 

それからすぐに写真撮影をし、昼食を済ませ俺は城をあとにした

 

 

にしても想像してたより思ったより変わってないな

 

唯一目立って変わったことと言えば…

 

そう思い電柱に設置された監視カメラに目をやる

 

 

そう、この王都には所々に監視カメラが設置されている

 

俺達家族を守るために父さんが設置させたものだ

 

そしてその映像はさくらだファミリーニュースとしてテレビで放送される

 

これも国民の人達に俺たち家族の事をよく知ってもらおうという父の意向だ

 

それはわかるし気にはしていないけど

 

「…昔より明らかに数が増えているな」

 

そう、昔住んでいた頃より格段に数が増している

 

「これじゃああいつが外に出たがらないのも無理ないね」

 

そう思い出すのは二つ下の妹

 

ある出来事がきっかけで極度の人見知りになってしまった

 

ちなみに俺には双子の妹がいる

 

旅の間、両親とその妹とだけ連絡を取り合っていたので家族の事や現状報告など色々していた

 

その為、その二つ下の妹が未だに人見知りで買い物に行きたがらないということも聞かされている

 

 

しばらく町を散策しているとどこかで見たことのある雰囲気の人物を見かけた

 

 

ーーーーーー

 

 

私は昔から体が弱く、今日も学校を休んで病院へ行ってきたところです

 

「はぁ…あっ!ご、ごめんなさい!」

 

下を向いて歩いていたせいですれ違う人にぶつかってしまいました

 

昔から身長も低いので力負けして危うく後ろに転んでしまうところでした

 

あれ?そういえば私なんで転んでないんだろう?

 

そう思って後ろを見ると一人の男性が私の体を支えてくれていました

 

「大丈夫?」

「は、はい!ありがとうございます!」

 

そして助けてくれた男性に向き合ってお辞儀をすると

 

「ん?なんだ、やっぱりそうか!久しぶりだな卯月(うづき)

「えーー」

 

久しぶり?

そう思って改めてその男性の顔を見る

 

「も、もしかして、翔、さん、ですか?」

 

そこには6年前に突然いなくなった幼なじみがあの頃と変わらない笑顔で立っていました

 

「おう!大丈夫か?」

「は、はい!大丈夫です!」

「まだ体の調子悪いのか?あんま無理すんなよ?」

「はい!とは言っても今日も学校を休んで病院へ行ってきたところなんですけどね」

 

小学生に入学したときからの付き合いなので

彼は私の体の事も知っています

 

「まあ思ったより元気そうでよかったよ。あ、そうだ静流や菜々は元気にやってるか?」

「はい!二人とも元気ですよ!」

 

私には二人の幼なじみがいます

 

静流(しずる)さんと菜々緒(ななお)さんです

 

そしていま私を助けてくれた彼、櫻田 翔さんとその双子の妹さんの葵さんの仲良し5人組です

 

翔さんと葵さんは菜々緒さんのことを菜々と読んでいます

 

「あ!そうだ葵さん!葵さんはこの事知っているんですか?」

「ん?あー近々帰るって電話では言っておいたんだけど、俺も今朝帰って来たところで、どうせこの後帰るから連絡は入れてない、入れた方がよかったかな?奏に怒られるかな…」

 

そう言ってどこか遠い目をする翔さん

 

色々大変そうですね

 

「ま、まあなんとかなるだろ。それより来週から俺も葵らと同じ学校に通うことになったからまたよろしくな!」

「え!そうなんですか!?またみんなで学校生活を送れるんですね!嬉しいです!」

 

それから近くのバス停で私が帰りのバスを待っている間、翔さんとお話をしました

 

私と体の事や、翔さんのいなかった6年間の私たちの出来事や、翔さんの6年間の旅のお話など

 

翔さんは将来この国を担う王族の一人なので色々な責務があって大変なんです

 

私のような一般市民には理解できないような事もたくさんあるんでしょうね

 

「翔さんも国王選挙に?翔さんも葵さんも私みたいな一般の国民にも分け隔てなく接してくれたり、私の体を気遣ってくれたり優しいので、どちらが王様になってもきっと立派な王様になりますね!」

 

そんな私の言葉に翔さんは少し困ったように笑って見せました

 

私なにか間違った事でも言ったでしょうか?

 

しばらくしてバスが来て翔さんは家まで送ると言ってくれましたけど

 

「ありがとうございます!けどそのお気持ちだけで十分ですよ!もう学校も終わってる時間なので早くお家に帰って家族の方々に元気な顔を見せてあげてください!」

「んーそうか?ならいいけど。そうだな!それじゃ、また今度な」

「はい!それでは、また!」

 

そして私たちはその場で別れました

 

 

帰りのバスの中

 

「ふふ、翔さん、なんも変わってなかったなー」

 

6年ぶりに再開した彼はその間の時間さえも感じさせないぐらい親しみやすく接してくれました

 

そんなことを考えていると顔に熱がこもるのがわかりました

 

あ、あれ?なんで?また体調悪化しちゃったかな?

 

今日は早く寝よう

 

そう思いバスの窓に体を預ける

 

 

バスは走るーー



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第4話【ヒーロー】

偶然出会った幼なじみの卯月と別れしばらくして、ようやく帰路につこうとしていた時だった

 

「ひったくり!お願い誰か捕まえて!!」

 

道路を挟んで向こう側から女性の声が上がる

 

このご時世、この王都にまだそんなことする間抜けがいるとは仕方ないな追うか

 

「ーーぎは勝ーつ!!」

 

そのひったくり犯が道路をこえちょうどこちら側に渡ってきたので追おうとすると、犯人を追うように赤毛の女の子が物凄い勢いで駆け抜けていった

 

「あれってもしかしてーー」

 

とりあえず追ってみるか

 

そうしてひったくり犯と少女の後を追う

 

 

追いついた頃には先程の赤毛の少女が地面を蹴り上げ犯人の頭上を飛び越える

近くの電柱を蹴り反転し一気に犯人目掛けてライダーキックをかまそうとしていた

 

やっぱり

 

あんな人間場馴れした動きを出来るのは王族の特殊能力を使ったときぐらいだろう

 

にしても

 

「…大きくなったな茜」

 

そう、少女は俺の妹、三女の茜だった

 

いまに茜が犯人を捕まえて、そしたら警察やメディアも来るだろう

 

帰ってきて早々面倒事に巻き込まれるのはごめんだし、どうせ後から家で会えると思い引き換えそうとすると犯人が上着の内側からナイフを取り出すのが見えた

 

やばい!

あのままだと直撃コースだぞ

 

茜も顔を赤くしてスカートを押さえて反応が遅れている

 

こんな時にそんなの気にしてる場合かよ!

 

 

ーーーーーーー

 

少し時はさかのぼり

 

「お姉ちゃん凄いね、どこでも人気者で」

「そうかな?」

 

葵と茜は下校中、今日の学校での出来事を話しながら歩いていた

 

そして交差点の信号待ちをしていると

 

「ごごご、ごめんなさいぃぃ!後ろに目がついてなくて!」

 

後ろから走ってきた男と茜がぶつかり

 

極度の人見知りの茜は必死に謝りながらも葵の後ろに隠れる

 

(後ろに目がついてなくて当然なんだけどなぁ)

 

涙目で怯える妹を見て将来が不安になる姉であった

 

 

しかし、男はそんな茜にも目もくれず舌打ちをしながらまた走り出す

 

「ひったくり!お願い誰か捕まえて!」

 

そしてすぐに後ろから声が上がり先程の男がひったくり犯であることを知ったとたん怯えていたはずが目の色を変え

 

「ちょっと行ってくるね!」

「あ、うん。茜、気を付けてね?」

 

「正義は、勝ーつ!!」

 

クラウチングスタートで犯人を物凄いスピードで追いかける茜

 

(人見知りだけど正義感の強い真面目な良い子なんだよね茜は…ん?あれってもしかしてーー)

 

 

ーーーーーーー

 

「待ちなさーい!!」

「げ、王家の三女!」

 

私、櫻田 茜はひったくり犯を追いかけている

 

「だから、待ちなさいってーー」

 

地面を蹴り上げ犯人の頭上を飛び越える

 

 

王族である私の特殊能力は自分と自分の触れているものの重力を自在に操れること

 

だから自分にかかる重力を弱くすることで普段より早く走ったりこんな風に身軽に動くことが出来る

 

「ーー言ってるでしょー!!」

 

そしてそのまま近くの電柱を蹴り反転して犯人目掛けてライダーキック!

 

あ、ちょっと待って!

これじゃあパパ、パンツが!!

 

咄嗟に足を閉じスカートを押さえる

 

その一瞬油断した時だった

 

え?嘘!?

 

犯人の手元には光るナイフが

 

やばい、当たる!

 

迫り来る痛みを覚悟し目を閉じた一瞬だった

 

「っな!痛ぇ!」

 

犯人の悲鳴が聞こえ目を開けると

 

犯人の手にはどこから飛んできたのかわからないけど別のナイフが当たっていた

 

見た目は確実に鋭いナイフなのになぜか犯人の手に刺さらずまるで鈍器のような物が当たったかのように犯人は痛がり痛みに耐えきれず持っていたナイフを落とした

 

と、同時に足を閉じていた私の両膝が犯人の顔面に直撃

 

あ、やり過ぎた

 

ーーーーーーー

 

それから暫くして

 

警察やメディア、野次馬が集まってき人だかりが出来ていた

 

「茜様、犯人逮捕の経緯をーー」

「犯人になにか仰りたいことはーー」

 

王族の一人が犯人を捕まえたと言う事だけあり、かなりの大事となっていた

 

「み、見ないでぇー」

「そんなに嫌?」

 

恥ずかしさのあまり制服の上着を頭から羽織り犯人を捕まえた側の茜が犯人のようになっている

 

「はぁ…ん?」

 

さらにそんな妹の将来が心配になった葵がふと人混みの方に目をやると、人混みの奥にこちらに背を向けながら手を振り歩いていく一人の藍色の髪の青年を見つけた

 

 

「ナイフが消えた?」

「うん、なんだか結晶が砕けたみたいに幻想的にシャン!って」

 

あの後、ようやく解放された茜と葵は帰宅中、先程の謎のナイフの話をしていた

 

そう、犯人の手に直撃したナイフは、犯人のナイフを落とすと同時にまるで役目を終えたかのように消滅したのだ

 

「あれってなんだったのかな?幻?気のせい?」

 

(やっぱりそっか…ふふ、相変わらずだなぁ…昔も今も、私達のヒーローなんだね、翔君は)

 

「ねぇ、聞いてる?」

「え、あぁうん聞いてるよ!きっと家に帰れば何かわかんるかもしれないよ」

「え?お姉ちゃん何か知ってるの?」

「たぶんだけどね。さ、そんなことより早く帰ろっか!」

「ちょ、お姉ちゃん待ってよー!!」

 




次回の更新は明日のこの時間までを予定しています!

誤字脱字、感想なのよろしければ是非送っていただけると嬉しいです!


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第5話【家族 その1】

家族との再開の話です
長くなったので2話に分けました


「はい、到着っと…」

 

事件後のごたごたに巻き込まれたくなかった俺はすぐ様あの場を後にして、一旦城に戻り“ある事”をしてようやく自宅に帰ってきた

 

 

まあ、あの場には葵もいたし葵には気づかれてるだろうな

 

俺と葵は昔から双子だからだけでは説明しきれない程の信頼関係と意思の疎通が出来ている

 

お互いの感情の変化や気持ち、考えは勿論のこと隠し事が通じない

 

だから俺にとって葵はある意味の天敵なわけであって苦手な存在だ

 

「にしても、えらく懐かしいな…やっと、帰った来れたんだな」

 

玄関の前に立ち家を見上げる

 

「っ!」ドサッ

「ん?」

 

後ろで物が落ちる音がし振り替える

 

そこには母さんとその母さんの後ろに隠れるようにこちらを見る小さな女の子が立っていた

 

買い物帰りだろうか、食材の入った袋を落とした音だった

 

「おかえりなさい、翔」

「うん、ただいま、母さん」

 

最初驚いた顔をして少し涙を浮かべていた母さんは優しく笑って見せた

 

「えーと、その、色々心配かけてごめんなさい」

「まったくよ!最初いきなり旅に出たって聞いたときは心臓が止まるかと思ったわ!だいたいあなたはいつもいつもーー」

 

あ、やべ、地雷踏んだ

 

「そ、そうだ母さん!そ、その子は?その子が末っ子の栞、であってるのかな?」

 

なんとか話題を変えようとずっと母さんの服をつかんで母さんの後ろから俺を観察するように見ている女の子の話を持ち出す

 

「え?あ、そうだわ!そうよ!この子があなたの一番下の妹の栞よ!ほら、栞!この子はね、あなたのお兄ちゃん。怯えなくても平気よ」

「まあまあ、母さん大丈夫だよ」

 

そう言って俺はしゃがんでその子に目線を合わせる

 

「はじめまして、俺は翔。君の一番上のお兄ちゃんなんだ。これから一緒にこの家で住むことになるんだ。これからよろしくね?」

「…わたし、栞。よろしくお願いします」

 

恥ずかしそうに下を向く栞

 

んーこれは時間かけて仲良くなるしかないかなー

 

そう思いながら立ち上がると栞が俺の服の袖を掴んできた

栞はまだ下を向いている

 

「どうした栞?」

「…お兄さま!」

 

そう言って顔を上げて純粋な笑顔を向けてくれる栞

 

て、天使かこの子は!?

 

にしても、昔を思い出すな

 

思い出すのは幼いとき俺にずっと引っ付いてついてきていた妹弟たち

 

栞の笑顔は昔の記憶と重なって見えた

 

「うん、よろしくな栞!」

 

栞の頭を撫でながらそう言い

ほっとしたようにこちらを見ていた母さんと笑い合った

 

「さ、立ち話もなんだから早く家に入りましょ!今日は翔の好物のビーフシチューよ!そのために今買い物してきたんだから!」

「え、なんで俺が帰ってくること…あー遥か」

「そういうこと!」

 

三男の弟、遥は確率を予知できる能力を持っている

 

大方、俺が帰る日を予知したんだろう

 

 

そして、さっき母さんが落とした買い物袋を栞と拾い集め家の中へと運ぶ

 

うん、良い子に育ってるね栞も

 

他の子らもみんな良い子だし、これも両親のおかげだろうな

 

 

「ただいまーっと」

「な!?兄さん帰ってきてたんですか!?」

 

6年ぶりの家を懐かしみながら中には入ると次男の修が一人の男の子とゲームをしていた

 

「おう!久しぶり修!でなくなったなー俺より身長あるんじゃねぇの?」

「そうですかね?兄さんこそ元気そうでなりよりーーあ、そうそう、こいつが四男の輝です。いちお姉さんから話は聞いているんですよね?」

 

そういってずっと目を輝かせながらこちらを見ていた男の子の頭に手を置く修

 

「ま、能力や性格とか一通りはなーーはじめまして、輝、だね?俺は翔。一応この家の長男でお前の兄ちゃんだ!これからよろしくな!」

「はい!僕は輝です!こちらこそよろしくお願いします兄様!」

 

うん!元気で大変よろしい!

 

元気よく自己紹介をする輝をやはり良い子に育ってるな

 

「兄様は旅に出ていたんですよね!」

「まあそんなとこかな、最早長期旅行みたいになってたけどねー」

 

さっきからずっと気になってたけど

 

なんだこの輝の熱い視線は!?

 

ちらっと修の方を見ると、俺の言いたいことがわかったのだろう、どや顔で親指をつきだしてきた

 

こいつ!変なのと吹き込んでないだろうな?

 

「兄様はヒーローなんですよね!」

「ヒーロー?」

 

あー、そういうことか

 

確かに修、そして茜は昔よく俺をヒーローだと慕ってくれていたっけか

 

葵から茜に負けず劣らず輝は正義感と責任感の強い子だと聞いてたし、なるほど、理解した

 

「そうだなーお前達妹弟を守るのが兄ちゃんの仕事だからな。そんな俺をヒーローとするかどうかは輝次第だ。ヒーローってのはなろうとしてなるものじゃなく、誰かにそう思われてはじめてヒーローなんじゃないかと、俺は思うよ」

「な、なるほど!勉強になります兄上!」

「なにも変わってませんね兄さんはーー「なにが?」いえ、こっちの話です」

 

俺と輝の会話を聞いて懐かしそうに笑う修

 

(昔から変わらず、兄さんは俺たちのヒーローのままですよ)

 

「もーさっきから騒がしいなー何かあったのー?」

 

こちらの騒ぎを嗅ぎ付け、見知った金髪の女の子がリビングに入ってきた

 

「ん?光か?」

「え?しょう、ちゃん?」

「おう!ただいま!久しぶり!大きくなったなー、あれから6年だもんな。ちゃんとお姉ちゃんしてるのか?」

 

五女の光、俺が家を出た当初はまだ末っ子だった

 

光が産まれたのをきっかけに俺は国の軍隊の訓練にまぜてもらって武術に足を踏み入れたり、末っ子なだけありけっこう甘やかしたりもしてたっけ?

 

そのたびに奏や岬にずるいと怒られてた記憶があるな、いまじゃ懐かしいだな

 

ていうか…

 

「あの、そんなにじろじろ見ないでくれませんか?」

 

さっきから俺の体をじろじろ見たりつついたりして観察してくる光

 

「だって小さい頃のしょうくんの記憶あんまないんだもん!うん、まあしゅうちゃんよりカッコいいかなーー「おい」合格!6年間も家にいなかったの許してあげる!」

「は、はぁ、ありがとうございます」

 

なに基準でなんの合格をしたのかはわからないけどとりあえず感謝しておく

 

(顔は覚えてないだけで、ずっと一緒にいた記憶はあるんだよねー)

 

「とりあえず、おかえり!しょうちゃん!!」

 

そう言って俺に抱きつく光

 

なんだ、甘えん坊なのは変わらずか

 

家を出るまでずっと俺の服を掴んでどこへ行く時も一緒だったことを思い出す

 

「あぁ、ただいま光」

 

光の頭を撫でる、と同時に

 

「「こらー!離れなさい光!!」」

 

二人の女の子が怒鳴り声と共にリビングに入ってきた

 

今度はなんだーー



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第6話【家族 その2】

5話の後半の話です

これからはこの時間に投稿していくのでよろしくお願いします!


「はあ…すっかり遅くなっちゃった」

 

私、櫻田家次女の奏は生徒会の仕事を終え、帰路についていた

 

遥の予知だと今日お兄様が帰ってくる…

 

今日!

 

お兄様が!!

 

帰ってくる!!!

 

6年!

 

6年よ!?

 

6年も何してたのよ、まったく!

 

 

「あ、翔、旅に出てしばらく帰ってこないから」

「「「…は?」」」

 

 

6年前、仕事から帰ってきたパパが突然そう言い出したときはその場の時間が止まって、世界の終わりかと思ったわ

 

それから1ヶ月間パパとは口を利かなかったのは悪いと思ってるけど、あれは自業自得よね

 

 

「ただいまー」

 

声のトーンが弾んでいるのが自分でもわかった

 

遥のは予知はあくまで確率なだけで絶対とは言えないけど、それでもやっぱりそうであってほしい気持ちの方が強くて普段より早歩きで帰ってきてしまった

 

 

ん?

 

なにやらリビングが騒がしい

 

もしかして!!

 

私は可能性を信じてリビングへ急ごうとした瞬間

 

「もーさっきから騒がしいなー何かあったの?」

 

光に先を越された

 

そして中で何やらまた賑やかに会話が始まる

 

う、やばい、入るタイミングを失った

 

 

「ただいま」

「たっだいまー…あれ?かなねえどうしたのー?」

 

それからすぐに遥と岬が帰ってきた

 

「なにしてるの?はやく入りなよ…」

 

そう言って岬がリビングの扉を開いた瞬間ーー

 

男性に抱きつく光が目に入った

 

空白の6年間何て関係ない、すぐにわかった

 

そう、その男性は、

 

「…お兄ちゃん」

 

私が待ちわびていた人…

 

ってそんなことより

 

「「こらー!」」

 

私と岬は一斉にリビングに入り光に掴みかかる

 

「「離れなさい光!!」」

 

そしてお兄ちゃんから光を引き剥がした

 

ーーーーーーー

 

「「離れなさい光!!」」

 

そう言って二人の女の子は光を俺から引き剥がした

 

「奏?それに岬か!?二人とも大きくなったな!元気そうじゃんか!」

「おかえり、翔兄さん!翔兄さんこそ元気そうだね」

「遥!お前もイケメンに育っちゃって!」

 

二人に続いて、遥も入ってきた

 

「翔にい!おかえり!!どこも怪我してない?ちゃんとご飯食べてた?そんなことより会いたかったよー!!」

「ぶー岬ちゃんも抱きつくんじゃん ! 」

 

岬が泣きながら俺に抱きついてきた

 

「お前は俺の保護者か何かかよ…ただいま。色々心配かけたな…奏も」

 

岬の頭を撫でながら、俯いたままの奏を見る

 

「…ほんとよ…ほんとに、心配したんだからぁ…」

 

奏も泣いていた

 

そして同じように抱きついてきた

 

「ごめんな二人とも…葵からは聞いてたよ。二人ともすごく心配してくれてたんだろ?ありがとう!もう大丈夫、なんとか無事に終わったから、やっと一緒に住めるよ」

 

そう言って二人の頭を撫でる

 

「ほんとぉ?もうどこにも行かない?」

「あぁ本当だ!とりあえず鼻を拭け岬」

「…約束だからね」

「あぁ約束だよ奏」

 

「遥はあんま驚かないんだな」

「まあ、ちゃんと予知には出てたからね。けどもちろん嬉しいのは変わらないよ。ほんと、おかえり翔兄さん」

「おう!二人にも色々迷惑かけたな!これからは俺も一緒だ!」

「いえ、俺達はただ自分の出来ることをやって来ただけです。もちろんそれは今後も変わりませんよ」

 

だんだんと泣き止んできた奏と岬をあやしながら修と遥とそんな話をしていると

 

「ただいま…ってこれは、どういう状況?」

 

そこに葵も帰ってきた

 

「よ、葵!お前とは久しぶりな感じしないけど、ただいま!我が妹ながら相変わらずの美貌だな」

「お父さんにも似たようなこと言われたことあるけど、いまそれ関係ないし!…もう、翔君も相変わらずだね」

「そうか?こんなもんだろ」

「ふふ、ううん、ほんとなにも変わってないね!…おかえり!」

「おう!ただいま!」

 

ようやく泣き止んだ奏と岬を一旦離し葵と笑い合う

 

「…それと、ただいま茜。元気してたか?久しぶりだからって俺にまで人見知りするつもりか?」

「そ、そんなことないよ!一瞬誰かわからなかっただけだもん!…それより、おかえり翔ちゃん!」

 

葵の後ろに隠れていた茜に少し意地悪をすると、慌てて飛び出し茜も同じように泣きながら抱きついてきた

 

「あぁ、ただいま!心配かけたな茜」

 

そして俺も同じように茜の頭を撫でる

 

 

「ところで翔にい?葵ねえだけ褒めて私たちにはなんもなしなの?」

「ん?あーもちろん岬も相変わらず可愛いよ」

「えへへ」

 

…じぃー

 

「ん?もちろん奏もな?綺麗になったな」

「わ、私はまだ何も言ってないわよ!」

「ねえ翔ちゃん!わ、私はー?」

「茜も相変わらずだよ!(…特に胸が)ーー「えへへ、そうかなー?」(とは口が裂けても言えないな…)」

 

「ねえねえ、そんなことよりしょうちゃん!お土産はー?」

「だから光、翔兄さんは遊びに行ってたわけじゃーー「あるぞ」…あるんだ」

「もちろん!ちゃんと買ってきたさ!」

「本当に!?どこどこ?」

「…あ、城に忘れた」

 

あーらら、お土産城に置いてきちゃったわ

 

「えー!ーー「すまん、明日取ってくるよ」うーん、約束だからね?」

 

 

そして、一気に騒がしくなる

 

6年間の俺の旅の事、みんなのこと、初めて合った輝や栞の事

 

10人も兄弟がいるとさすがに賑やかだな

 

と、ふと台所で母さんと料理をしている葵を見ると、葵もこちらに気づき二人で笑い合う

 

 

本当に、やっと帰って来たんだな、家族の元に

本当に、やっと帰ってきたんだね、私達の元に

 

 




いかがでしたでしょうか?

感想やこんな話が読みたい!というリクエストなどありましたら是非お願いします!

また、誤字脱字の報告も頂きました、ありがとうございます!
他にもありましたらまたお願いします!


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第7話【長男の能力】

今回は少し長めです

台詞も多いので読みにくいかもしれません
読みにくいなどご意見ありましたお願いします!
今後書き方を変えますので


『ーーご覧いただいたのは茜さまがひったくり犯を捕まえたニュースでした』

『こんな貴重なVTRが見られるのもサクラダファミリーニュースならではですね』

 

6年ぶりの再開を果たした俺達家族は現在リビングのソファに座ってテレビを見ていた

 

 

サクラダファミリーニュース

町中にある監視カメラで撮影された家族の映像や家族について毎週放送されるニュースである

 

これも父さんが俺達家族の事を国民にもっと良く知ってもらおうと始めたものだ

 

 

「お、さっきの事件じゃんか。仕事早いなぁ」

「お兄ちゃん知ってるの?」

「まあこの場にいたからな」

「え!翔ちゃんいたの!?」

「まあ一応な」

「いつから!?」

「茜が犯人追いかけ出したとこからかな」

「さ、最初からじゃん!じゃあさ、もしかしてあの時のナイフって翔ちゃん?」

「ナイフ?そんな物どこにも映ってなかったぞ?」

「え?」

 

いま流れてたニュースの録画を入れる修

 

ちなみに余談だがサクラダファミリーニュースは第一回からすべて録画されている

 

 

「あれ?本当だ!ない!なんで!?」

 

先程の映像には犯人を攻撃したナイフどころか犯人が持っていたナイフすら映っていなかった

 

「なんでって、そりゃあ俺が編集で消させたから」

「「「え?」」」

「いや、帰って来て早々面倒ごとに巻き込まれたくなかったし…証拠隠滅…みたいな?」

 

そう、あの事件の現場から離れた後、家に帰る前に城によった理由はこれだ

 

映像からナイフのみを編集で消させたのだ

 

「ってことはあの消えたナイフってもしかしてーー「あぁ俺だ」えぇ!?」

「やっぱり翔君だったんだね」

 

台所から出てきて同じようにテレビの前に座る葵

 

母さんに手伝いはもういいから久しぶりの兄と話してこいと言われたらしい

 

「あーやっぱ葵にはバレてたか」

「え?え?どういう事?」

 

俺と葵以外全員訳がわからないといった顔をしている

 

 

「ーーつまり兄さんの能力で茜を助けた、と言うことですね」

「ま、そうなるな」

「さすがです兄様!」

 

茜がみんなに事件の詳細を話し、修がまとる

 

そして目を輝かせる輝

 

純粋な良い子だなー

 

「え!?翔にい能力あったの!?」

「なに言ってるの岬ちゃん!私たちと同じ王族なんだから能力があって当然じゃん!」

「そっか、岬も光もまだ小さかったから覚えてないか」

 

そう、何を隠そう最初俺には特殊能力がなかったのだ

 

厳密に言えば開花するのが遅かっただけだけど…

 

「俺には最初能力がなかったんだよ。けど11の時たまたま能力が発覚してね…その能力が関係して旅に出てたんだ」

「そうだったんだ…それで、どんな能力なの?」

「私見たーい!」

「僕も!」

「…私も」

 

俺の能力を知らない岬、光、輝、栞は目を輝かせる

 

「俺の能力は王の剣、キングスグレイブ。俺が保有する武器を異空間の倉庫から呼び寄せる能力だよ」

 

そう言って、ひったくり犯に投げたナイフ、正確には短刀を手元に召喚する

 

「あ、私があの時見た消えたナイフだ」

「すごーい!」

「カッコいいです兄様!」

「でも、それならかなねえも似たようなことできるよね?」

「それは違うな岬。奏のは欲しい物を生成する能力だろ?俺の場合は既に手元にある私物を出すわけだから他の物はだせないんだよ」

「なるほどー!」

 

「ちなみにその短刀は6代目の夜叉王の刀剣だね」

「お、詳しいな遥、正解だ」

「なにそれ?」

 

遥の言葉に頷く

 

葵、修、奏以外は頭に?を浮かべている

 

「俺らのご先祖様、つまり昔の国王が使っていた私物だよ。13代ある歴代の王達の遺品を回収する為にこの6年間全国を旅して各々に眠るご先祖様達のお墓参りをしてたんだよ」

「これはその内の1つ。夜叉王と呼ばれていた6代目国王の短刀だ。全部で6本あるんだ」

 

俺の言葉に付け足す修

 

「なんだお前らほんと詳しいな」

「私と修君は翔君が子供の時ご先祖様達について書かれた本を読んで憧れてたのを知ってるから」

「私は歴史の本で読んだことがあっただけよ」

「僕も本で知ってただけさ」

「二人はこう言ってますが、兄さんの旅の目的を知って必死に勉強しただけです」

「「ーーっ!!」」

「そうなの?なんかありがとな奏、遥!」

 

そう言って二人の頭を撫でる

 

「「…/////」」

 

「でも翔ちゃん、なんで先代達の遺品が必要なの?」

「ん、それはな、俺の能力が未完成だからだ」

「「「未完成?」」」

 

俺の言葉に事情を知らない子らはさらに疑問が深まる

 

「そう。俺の能力は歴代王の力を全て集めて初めて本来の力を発するんだよ」

「だから王の剣(キングスグレイブ)というわけですね兄様!」

「そういうことだ輝。ちなみに王の剣(キングスグレイブ)にはもう1つ能力があってだなーー」

 

そこまで言って光の背後にそっと短刀を投げる

 

「ーーえ!?」

「とまあ、こんな感じに呼び出してる武器の場所にワープすること出来る」

 

その瞬間俺は光の背後に現れ、光の頭を撫でながらそう言った

 

「ちなみにこれは修の瞬間移動とは似ている様で違う。俺の場合は武器の所にしか行けないからな…あと歴代の武器は自由に切れ味や重さを操れる」

「あーそれであの犯人の手に刺さらなかったんだ」

「ご名答」

「じゃあつまり、翔にいは全部集めたから帰って来たってこと?」

「いや、それがまだ全部じゃないんだ。いま手元にあるのは11種類。残りは先代国王と現国王、つまり俺達の祖父と父さんのだ」

「ねえねえ!しょうちゃん!他のも見せてよ!」

「ぼ、僕も見たいです兄様!」

「また、今度な」

 

そう言って光と輝の頭を撫でる

 

あんな物騒なものここで出すわけにはいかないからな…

 




次回は明日投稿します!


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第8話【ニュース】

タイトル通り例のニュースのお話です


『ーーではここで、最新の世論調査による支持率を発表したいと思います』

『王室ライターの真島さん、お願いします』

 

それからしばらく話した後、俺達はニュースの続きを見ていた

 

真島さん全然変わんねーなー

 

真島さんとは、父さんの高校の後輩で王室専属のライターさんだ

 

『今回の調査によりますと、やはり世代を問わず第一王女の葵様が人気を集めています。第二王女、奏様の人気も高いですねえ』

 

へー、葵と奏人気なんだ

 

『やはり、次期国王となると上のご兄弟が有利ということでしょうか?』

『一概にそうとは言えませんよ、別の調査ではーー』

 

一通り兄弟全員の支持率が発表されていく

 

にしても…

 

『ーー末っ子の栞様がなったら、楽しそうですよねー』

『私も応援しています』

 

軽いな…大丈夫かこの国

 

国の将来が不安になる

 

『次回の調査ではひったくり犯を捕まえた件で、茜様の支持率も格段に上昇すると思われます』

 

「だそうだ、やったな茜!」

「いやぁぁあ!これ以上映さないでぇぇえ!」

「カメラよく捉えてるな」

 

茜が犯人の顔面に膝蹴りを入れている写真が映し出され、頭を抱えて絶叫する茜と感心する修

 

「茜、頑張ったんだし良いじゃない!」

「そうだぞ、国民に良く知ってもらって支持してもらえるよう頑張るのも王族の仕事だぞ!国民がいなきゃ国は成り立たないからな」

「うぅ…だけど…」

 

ほんと、茜のこの人見知りというか恥ずかしがり屋というか…この性格、早いとこどうにかしないとなー

 

『さらに!今回は国王から最新情報を頂いてきました!なんと、6年間の責務を終え第一王子の翔様が本日ご帰還されたそうです!』

 

さっき城で撮った選挙ポスターが映し出される

 

「あ、翔にいだ!」

「ほんと、こういうとこだけ無駄に仕事早いな…」

 

最早ちょっと引くわ…

 

『明日にはこのポスターも町中に張り出され選挙に参加されるとの事です。これをきっかけに他のご兄弟の支持率がどう変動するかも楽しみですねーー』

 

 

「ただいまー」

 

そして間も無くして父さんが帰ってきた

 

「あ、パパ!おかえりなさい!」

「あら、本当に早かったわねー」

「はい!お、翔もちゃんと帰ってるな」

 

父さんの言葉に軽く手をあげ返事をする

 

「お前達、全員週末は何か予定あるか?」

「え?別にないけど?」

「俺も今朝帰ったばかりだしあるわけもなく…」

「どっかつれてってくれるの!?」

 

父さんの質問にそれぞれ答える

 

みんな予定なし

 

自分でいうのもあれだけど王家暇かよ

 

「いや。急な話なんだが、お前達のテレビ出演が決まってな」

「「「へ?」」」

 

どうやら父さんの計らいで俺達兄弟の事を紹介する為、テレビ特番が決まったらしい

 

選挙にも影響してくるし、なにより6年間いなかった俺の紹介も兼ねての事のようだ

 

やはり茜は最後まで渋ってたけど、そんなわがままが通じるわけもなく全員参加することになった

 

 

それから、俺の6年間の旅の話を改めてしながらみんなで夕飯を食べた

 

6年ぶりの家族との食事、母さんの手料理は懐かしく、嬉しく、本当に帰ってきたんだと改めて実感した

 

 

空白の6年間を埋めるように家族は騒がしく、そして賑やかな時を過ごした



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第9話【葵】

切りよくしておきたかったので今回は3話投稿しました



懐かしい賑やかな食事の後、

 

「…うーん、どうしたものか…」

 

風呂から上がった俺は階段を上がった先で腕を組んで悩んでいた

 

「翔君どうしたの?」

「ん?あー葵か。いや、俺はどこで生活すれば良いのかと思って…」

 

そう言ってそれぞれの部屋を指差す

 

それぞれの部屋の扉には修・輝、茜・光、岬・遥、奏・栞と書かれていた

 

それぞれ部屋の真ん中をカーテンで仕切って生活しているようだ

 

ちなみに2階は兄弟の部屋のみ、両親の寝室は1階にある

 

 

「あーそういうこと?それならほら」

 

そう言って葵は5つある内の残りの部屋を指差す

 

翔・葵

 

「翔君の物は昔のまま残ってるよ?あ、定期的に掃除はしてあるから安心して!」

「え、いや、そこじゃなくて…」

 

いや、気づいてたよ?そりゃあ、ちゃんと気づいてたさ

 

けどそう改めて言われると本当にそれで良いものなのか?

 

兄妹といえど、年頃の男女が同じ部屋というのは…

 

いや待てよ?そんなこと言ったら岬と遥はどうなる?

 

二人は中学生、思春期真っ只中じゃないかーー

 

「なに気にしてるか知らないけど私はなにも気にしてないよ?」

「うーん…やっぱリビングのソファでーー「ダメです」…はい、お言葉に甘えさせて頂きます」

 

こう見えて葵は頑固だ

 

言い合いになった場合、意地でも絶対に退いてはくれない

 

そんな葵は数少ない俺の弱点の1つでもある

 

 

その後、部屋に入った俺は一回部屋を見渡し椅子に腰掛け机に手をのせる

 

「…なにも変わってないな、ほんと懐かしい」

「うん、あの頃のままだよ」

「いや、部屋もそうだけど、家族やこの町がだよ…」

 

「6年前から何も変わっていない。暖かくて、居心地が良くて…俺は本当に帰ってきたんだな…」

「…うん、そうだよ。ちゃんと帰ってきてくれた…」

 

そこで初めて葵が涙を見せた

 

「ごめんな、葵。お前にはほんと色々心配かけた」

「…うん、ほんと、心配したんだから…」

 

俺に抱きつき泣きじゃくる葵の頭を撫でながら、俺もそっと葵を抱き締める

 

「けど、もう大丈夫。約束通り帰った来たから…もうどこにもいかないから」

「約束だよ…お兄ちゃん」

「…!あぁ約束だ!絶対にどこにもいかない」

 

 

葵は小学1年まで俺の事をお兄ちゃんと呼んでいた

 

いまでは翔君と呼ばれているけど

 

本当に弱ったときや慌てた拍子には昔の呼び方に戻る

 

 

心の底から心配してくれてたんだな…

 

「…って葵?…寝ちゃったか」

 

泣きつかれて緊張がとけたのか、葵は気づいたら俺の腕の中で眠っていた

 

いままでの不安が晴れたような明るい顔だった

 

あぁ…俺は本当に葵に弱いようだ…

 

 

「…ただいま、葵」

 

そう呟いて、葵の頭を一回撫でた

 

ーーーーーーー

 

余談だが、

 

俺と葵が同じ部屋で生活していくことを知った奏と岬が部屋に乱入してきて葵を抱きしめているのを見られ大騒ぎになった

 

その騒ぎで目を覚ました葵と共に二人の誤解を解くのと部屋の説得をするのが大変だったというのは…言うまでもないな

 



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第10話【櫻田家の長男 前編】

すいません
この回は長くなりすぎたので前後編あります

前編後編合わせて1話です
少し長いですがお楽しみください


『皆様!こんにちは!』

『なんと今回のサクラダファミリーニュースは王家のご兄弟全員に来ていただきました!』

『皆様よろしくお願いします!』

 

そして週末、父さんに言われた通り俺達兄弟はテレビ出演の為、とある高層ビルの前に来ていた

 

設置された特大スクリーンには『サクラダファミリーニュース~特別編~』という文字が映し出されており

 

司会の声に合わせて後ろの観衆から歓声が上がる 

 

 

にしても、高いなこのビル、何階まであんだ?

 

 

『国民の皆様もご存じの通り、王族の皆様には特殊能力が備わっております』

『本日はあるゲームに挑戦していただき、その能力を披露して頂こうと思っています』

 

「ーーっえ!そんなの聞いてないよ!」

 

葵の後ろに隠れた茜が驚き声をあげる

 

「そういうな茜、こういうのも大切な事だ」

 

光や輝を見てみろ、凄くやる気満々だぞ

 

 

司会の説明にもあった通り、俺達王家は特殊能力がある

 

もちろんそれを全ての国民が良く思ってくれてはいないだろう

 

こんな人間離れした力、恐れられていてもおかしくはない

 

だからこそ、自分達の力を知ってもらう為にはこういった場も必要なのだ

 

 

『ーーそのゲームとはーー』

 

『『危機一髪ダンディくんを救え!』』

 

『屋上に取り残された人々に見立てた人形、ダンディくん!これを制限時間内に多く回収し、下に用意された籠に入れていただくというシンプルなルールです!』

『国王からも激励のメッセージを頂いております!』

 

そう言って画面が切り替わり父さんが映り

 

『みな、惜しみ無く力を発揮し、国民の皆様に自分達の事をよく知ってもらえるよう頑張ってほしい。一番成績の悪かった者には城のトイレ掃除をしてもらう』

 

満面の笑みで爆弾を投下しやがった

 

「えー!?」

「お城のトイレ掃除ぃー?」

 

『あ、それから翔。今回は歴代の使用を許可する。危険だけはないよう存分に力を振るいなさい』

 

「はいよ」

 

俺は普段はあまり歴代の武器を出さないようにしている

 

理由は簡単、見た目が物騒だからだ…

 

いくら切れ味を変えれると言っても、元は危険物だ

 

銃刀法違反が適用されるなら、今ここにはいないだろう

 

王族として、息子として、国王である父さんの名誉を傷つけない様、普段は使わないで別に保有している木刀や竹刀など見た目が危なくない物を使っている

 

 

ちなみに茜を助ける時に投げた夜叉王の刀剣だが…

 

咄嗟だったんだ…見なかったことにしてほしい…

 

いや、むしろ刺さらないよう調整しただけでも誉めてほしいものだ

 

 

そしてまた画面が先ほどの司会二人に切り替わり

 

『ーーそうなんです!国民の皆様!今回なんと、先日ご帰還された第一王子の翔様もご出席して頂いております!!』

 

そしてまた、後ろで歓声があがる

 

「翔君人気者だね!」

「6年間いなかったんだ、どんな奴かおもしろがってるだけだろ?」

 

『制限時間は60分!皆様準備はよろしいですか?ーーそれではスタートです!』

 

葵とそんな会話をしていると、どうやらゲームが始まったらしい

 

ーーーーーーー

 

「僕はこのビル、登ります!」

 

そう言ってすごい跳躍力と共にビルの壁を登り始める

 

『最初に動いたのは四男輝様!能力は怪力超人(リミットオーバー)物凄いパワーを発揮し、順調にビルを登っております!ーーおっと!ここでアクシデント発生!』

『見ているこちらもハラハラしますね!』

 

しかし、その瞬間ビルの壁の一部を破壊し、危うく落ちかける

 

「よーし、私だって!ーー「あんまり無理しないでね」わかってるって!じゃ、始めちゃおっかな!」

 

『五女光様の能力は生命操作(ゴッドハンド)!生命の成長を操ることが出来ます』

『考えましたね!樹木の成長を操り屋上へ一番乗りです!』

 

近くにあった街路樹に登り能力を使う光

 

しかし、

 

「あ、あれ!?伸びすぎたぁぁぁあ!!」

 

成長を促進させすぎビルの高さを越えてしまった

 

これではビルには乗り移れない

 

『あーっと残念!24時間は元には戻りません!』

 

「なにやってんだかあの子は…よく考えたら自分が登るなんて効率悪いですねぇ」

 

そう言って5体のドローンを周囲に出現させる奏

 

『次女奏様の能力は物質生成(ヘブンズゲート)!あらゆる物質を生成することが出来ます!』

 

しかし、価値に等しい金額が引き落とされるのだが…国民は知らない

 

「私も頑張らなくちゃーー」

 

岬は7人の自分にそっくりな人物を生み出した

 

『四女岬様の能力は感情分裂(オールフォーワン)!最大で7人の分身を生むことが出来ます!』

 

ちなみに、7人にはそれぞれ名前や意思があり、人間の欲望や感情とされる七つの大罪が具現化した存在である

 

また、元は岬個人なので、分身達とはテレパシーで会話することも出来る

 

 

「そうなの?…ごめんなさい、ちょっとわからない」

「栞、なに話してるの?」

「あのね、せっかく消火栓さんが近道教えてくれたんだけど、わからなくって…」

「なんだって?」

「B2、荷物用エレベーター、27階で乗り換えーー」

「あぁ、あのルートね!ーー「お姉ちゃんわかるの!?」前に一度見学に来たことあるから」

 

そう言って栞と手を繋いでビルの中へ入っていく葵

 

『六女栞様の能力は物体会話(ソウルメイト)!生物だけでなく無機物とも会話することが出来ます!』

『長女葵様の能力は完全学習(インビジブルワーク)!一度覚えたことは決して忘れません!』

 

「んじゃ俺も、ずっと映りっぱなしってのもなーー」

 

修は瞬間移動で一気にビルの屋上に移動する

 

『次男修様の能力は瞬間移動(トランスポーター)!ご自身とご自身の触れたものを一瞬で移動することが出来ます!』

 

『ーー皆様、能力を発揮し始め、ゲームも盛り上がってきました!ますます目が離せません!』

 



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第10話【櫻田家の長男 後編】

後編です


にしても…修の奴、ずるくないか?

 

このゲームじゃあいつが一番有利だろうな

 

輝と光は…こんど能力の制御の仕方ちゃんと教えないとな…いつかなにか仕出かしそうで不安だ

 

さて、俺もそろそろ動くかな

 

『そういえば、先程から長男翔様のお姿が見当たりませんね…どこへ行かれたのでしょうか?』

 

そう、俺はもうすでに下にはいない…

 

俺はと言うと、

 

「もーどうしよう!これじゃあ降りられないよー!ーー「いや、そんなことないぞ?こんだけ見えてりゃ十分だ」ええ!?なんでしょうちゃんがここにいるの!?」

 

『あ、いました!なんと、先程光様の能力で成長した木の上に翔様がいます!』

 

そう、木の上に光といた

 

「いや、使えそうだったから光が能力使う前に一緒に登ってたんだ」

「えー!?」

「さて、そんなことよりだ、光。俺はあっちに移るけどお前は残るか?」

「え!?そんなことできるの!?」

「俺の能力、忘れたか?ーー「そっか!ワープするんだね!」そゆこと」

 

光の頭を撫でてから少し離れるよう指示する、そして

 

右手を突きだし巨大な手裏剣を呼び寄せる

 

『おっと!?ここで翔様に動きが!ーー国王より頂いた資料によりますと長男翔様の能力は王の剣(キングスグレイブ)!我が国の歴史にもあります歴代の国王達の遺品やご自身が所有する武器を異空間の倉庫から召喚する事が出来るそうです!』

 

司会の説明に下から歓声が上がる

 

『そして、いま手にしておられるのは伏竜王と謳われた10代目国王の投剣ですね!これは専門家や歴史好き、男の子が喜びそうですね!かく言う私も先程から目が離せません!ーーそれから国民の皆様、ご安心ください、確かに歴代の遺品は真剣ではありますが翔様のご意思により切れ味の調節がされており至って安全との事です!』

 

父さん、ありがたい

 

これで少しは誤解されずに扱える

 

そして、俺は手裏剣をビルの屋上めがけて投げる

 

手裏剣は綺麗に弧を描き屋上に刺さる

 

「光、しっかり捕まってろよ?」

「うん!わかった!」

 

そして光をおんぶし屋上に刺さった手裏剣へワープする

 

『なんと、さらに翔様の能力には続きがあり、ご覧いただいた通り自身の所有する武器へワープすることが出来ます!』

 

先程より大きな歓声が上がる

 

「ふぅ…ま、なんか受け入れてもらえてるのか?とりあえず良しとするか」

 

父さんの配慮にも感謝だな

 

「兄さん、最初からこれを狙ってたんですか?」

「んーまあ少しはな」

 

手裏剣を消しながら屋上にいた修と話す

 

葵、岬、栞はたぶん中かな?

 

輝はさっき壁を登ってきてるのが見えたな

 

「光、適当に集めな、すぐ降りるよ」

「はーい!」

 

背中におぶった光を降ろし、自分も2つ人形を手に取る

 

『三男遥様の能力は確率予知(ロッツオブネクスト)!あらゆる可能性の確率を知ることが出来ます』

『三女茜様の能力は重力制御(グラビティコア)!ご自身とご自身の触れたものにかかる重力を操ることが出来ます!』

 

遥と茜も動いたか

 

大方、遥が茜をそそのかしたか

 

 

「ーーさ、降りるか」

「うひゃー!結構高いけど大丈夫なの?」

「あぁ、確かに飛べる距離にも限度はあるし、この高さだと一気には無理だろうな…まあけどある程度落ちた所で飛べば問題ない…どうする?怖かったら中を通ることをおすすめするけど」

 

そう言ってもう一度手裏剣を呼び出す

 

「平気だよ!ねえ!帰りはお姫様抱っこしてよ!」

「んー…まあ良いけど、ちゃんと捕まってろよ?…おーい、茜、そのまま真っ直ぐ飛んでろ、危ないからーー」

「え!?」

 

驚いている茜を無視してら手裏剣を地面に向かって投げる

 

上がって来ている茜や遥、下の人たちに当たらないように調節してある

 

大体の軌道なら俺の意思で曲げることが出来るのだ

 

 

そして光を抱き上げ一気にーー

 

「「「ーーっな!?」」」

 

『と、飛んだぁぁぁぁあ!!!!』

 

見ていた全員が驚きの声を上げた

 

そう、ビルから飛び降りたのだ

 

飛び出した体は重力に抗うことなくどんどんと落ちていき

 

「お先ーー」

 

未だに驚いた顔をして浮いている茜と遥の横を通過

 

地面がだんだんと近づいてくる 

 

 

そして、いい感じの高さまで落ちたところで最初に投げた手裏剣の元へワープ

 

俺は光をお姫様抱っこしながら何事もなかったかのように着地した

 

 

『ーーな、なんということでしょう!これが第一王子翔様の実力かぁぁぁ!?』

 

今日一の歓声が上がる

 

「光、怖くなかったか?」

「うん、平気だよ!むしろすっごく楽しかった!」

 

なにやら盛り上がっている周りを他所に光を降ろす

 

うん、子供って無邪気だな

 

「お、お兄様!いくら能力で回避出来るからと言って無茶な行動は控えてください!!軽率すぎます!」

 

奏に怒られた…

 

 

ちなみに奏は他所では俺の事をお兄様と呼ぶ

 

そんな周り気にして呼び方変えなくても良いのに

 

 

「はーい、ごめんなさーい」

「なんですかその気の抜けた返事は!それにお兄様は光に甘すぎます!」

「そんなことないぞ?俺はお前達みんな平等に甘い!!」

「そういう問題ではありません!木の上から脱出させたり…お、お姫様抱っこだなんて……羨ましい」

「ん?最後の方なんて?小さくて聞き取れなかった」

「ーー!/////と、とにかく!昔からお兄様はーー」

 

あーらら、こうなった奏はなかなか止められない

 

 

それから数分説教は続き、そろそろ奏さんめんどくさいなーと適当に返事をしながら聞き流していたら

 

 

「ーーいやぁぁぁぁぁあ!!!」

 

上から茜の悲鳴が

 

何事かと振り返ると

 

パンツを晒した茜がスクリーンに映っていた

 

今日一の歓声が更新される

 

 

「はぁ、なにやってんだあいつらは…」

 

頭を抱え、そう呟きながら俺は人形を籠に入れた

 

 

 




次回は月曜日に投稿します!

次回から日常編に突入します

妹弟の中で誰との絡み回が読みたいかリクエスト受付中です!ご協力よろしくお願いします!


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日常編 1年目
第11話【罰ゲームと音楽会】


岬の呼び方を

翔にい → 翔兄 に変更しました

前回まではそのままですが今後はこれで書いていきます


「兄様!バケツの水変えてきました!」

「あぁ、ありがとう輝」

 

「翔兄さん、こっち終わったよ」

「さんきゅ、遥。こっちも…これで、よしっと!あとはーー」

 

「翔兄!こっちも終わったよー」

「お兄さま、私も頑張ったの!」

「そうか、偉いぞ栞!岬もありがとな!」

 

そう言って岬と栞の頭を撫でる

 

ゴールデンウィーク俺達兄弟は全員で城のトイレ掃除をしていた

 

なぜこんなことをしているかと言うと、先日のゲームの後の事だーー

 

ーーーーーーー

 

茜のパンツ事件が原因でゲームは制限時間前に中断

 

特別スタジオに案内された俺達はそれぞれ指定された席に座っていた

 

茜はパンツを晒したショックのあまり魂が抜けて真っ白に燃え尽きている

 

 

『そ、それでは結果発表です!』

 

それぞれの席の前に得点が表示される

 

あと茜、いい加減帰って来なさい…司会の人が対応に困ってるから

 

『トップは次男の修様!残念ながら最下位は長男の翔様という結果になりました!』

 

俺は0

 

しかし、なにもしていないはずの茜は2ポイントあった

 

遥は遥でちゃっかり1ポイント入れてるしな

 

「ーーえ!?なんで!?」

「お、やっと帰ってきたか茜。…なんでってそりゃ俺が自分の分をお前の籠に入れといたからだ」

 

そう、あの時俺は持っていた人形を自分ではなく茜の籠に入れたのだ

 

遥はそういうところちゃっかりしいるから、自力で入れるとふんだけど…まったく予想通りかよ

 

「んーまあ俺がいなかった6年の間、みんなで母さんの家事手伝ってたんだろ?それしてなかった分の埋め合わせってとこかな?」

「そんなこと言って、お兄様はまた甘やかすんですから」

「翔ちゃんありがとおぉぉぉ!」

 

 

それから司会の進行のもと、4月時点での選挙の結果発表がなされた

 

葵、茜、奏の順にトップ3をしめていた

 

もちろん途中参加の俺は票数がない為最下位

 

先日の逮捕事件が影響してか2位になっていた茜がショックを受けていたけど…見なかったことにしよう

 

 

それから家に帰宅した俺達は夕飯の時に

 

葵の提案で俺のトイレ掃除を手伝おうと言い出し、俺はいいと言ったのだが、他のみんなもみんなでやった方が早いと言い出す始末

 

ねえみんな、俺の埋め合わせって言葉…ちゃんと聞いてた?

 

 

ーーーーーーー

 

そして、結局兄弟みんなで城のトイレ掃除をすることになり、今ようやく終わったところだ

 

「やっと終わったー!お城のトイレ多すぎー!」

「みんなお疲れさま!手伝わせて悪いな」

「ううん、そんなことないよ!私達が好きでやったことだか!」

 

茜の言葉に笑顔で頷くみんな

 

良い妹弟を持ったなー…お兄ちゃん感激だわ

 

 

「皆様、そろそろお時間ですのでご準備をお願いします」

 

そして、しばらくして城の使用人が呼びに来た

 

そう、今日は月に一度城で行われる音楽会だ

 

3年後に選挙を控えた俺達兄弟もそれに参加しなくてはならない

 

 

それぞれ着替える為に男女で用意された部屋に入る

 

俺達男4人はタキシードに着替え終わり廊下に出るが、どうやら女性人はまだらしい

 

 

「お待たせー!」

「…お兄さま、素敵です!」

 

しばらくして葵と栞が出てきた

 

「ありがとう栞、栞もとても綺麗だよ!」

 

そう言って栞の頭を撫でる

 

「もちろん葵も、相変わらず何を着ても美しいな」

「ふふ、ありがとう」

「あー翔兄、また葵姉だけ贔屓するー」

 

他の残りの3人も出てきて、岬が妹差別だーと文句を垂れる

 

「まあそりゃ双子だからなー…自分の片割れが好印象だと嬉しいもんさ…岬も遥が褒められると嬉しいだろ?それと一緒だよ」

「まぁそうだけど…」

「心配したくても岬もみんなもちゃんと綺麗だよ!これは自信をもって言える!」

 

そして、まだ何か文句がありげな岬を他所に俺達は演奏ホールに移動し王族の特別席に座る

 

 

しばらくして演奏が始まり、それぞれに音楽を楽しんだ

 

あまり音楽は詳しくはないが、綺麗な音色というのは心地いいものだ

 

てか、よく見りゃ修バレないように寝てやがる…無駄に器用かよ

 

 

こうして音楽会は進んでいったーー



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第12話【王家の休日】

私事ではありますが、名前を変えました

ただふと思い付いた語呂が気に入っただけです
言葉になんの意味もありませんwww


「兄上!僕ヒーローショーが見たいです!」

「落ち着け輝、まだショーまで時間がある。あっちのグッズを見に行ってみよう」

 

「奏お姉さま、これお母様にどうかな?」

「そうね!栞が選んだ物ならなんでも喜んでもらえるはずよ!」

 

「遥!次あれ乗ろー!」

「わかったから引っ張るなよ岬!」

 

「あかねちゃんお化け屋敷あるよ!入ろー!」

「えぇぇぇえ!?本気!?私嫌だよぉぉ!!」

 

……

 

「…カオスだな」

「ふふ、みんな楽しそうだね」

 

 

ゴールデンウィーク最終日

 

俺達兄弟は遊園地へ来ていた

 

理由はせっかくの埋め合わせのトイレ掃除をしようと思っていたのに結局みんなに手伝ってもらったので、俺の奢りで遊園地へ行くことにしたのだ

 

 

ゴールデンウィークだが、幸い最終日ということもあり人は少ない方だ

 

王族の名を出せば貸し切りにも出来たが、さすがに茜一人の為に貸し切りにしては他のお客さんにも迷惑だからな…

 

これぐらいは我慢してもらいたいものだ…今後の為にも…

 

 

そして冒頭に戻るが、みんな各々好き勝手に楽しみ困惑状態となっている

 

「んじゃ午前中はそれぞれ自由にするから昼頃さっき言ったレストランに集合なー!」

「「「はーい!」」」

 

茜には頑張ってもらいたいとこだが、さすがに食事くらいは落ち着いて食べたいだろうと申し訳ないけど特別に個室を用意してもらった

 

「んじゃ、俺は修と輝に着いてくわ!なんかあったら連絡くれ」

「りょうかい!私は茜が心配だから茜達に着いてるね」

「…あーうん、一番大変そうだけど、頼むな」

 

ちらっと茜の方に目をやると

 

これから入るお化け屋敷への恐怖か、それとも人混みへの恐怖か、色々なものに脅え挙動不審になりながら光の背後にくっついていた

 

いまの茜の方が何よりも怖いと思うぞ

 

 

そして昼、最初に指定したレストランで食事をしてた

 

「どうした遥、食欲ないのか?」

「…うん…ちょっと、ね…」

「もー遥ったらだらしないなー!ちょっと絶叫マシーン乗り継いだだけじゃーん!」

 

合流してから遥の顔色が悪いと思ってたけど…

 

あー…どんまい!強く生きろ遥!!

 

 

「ーーちゃんと可愛く撮ってねー!」

「わかってるよ」

 

そう言って持参していたカメラで光を撮る

 

実は俺はカメラが趣味だったりする

 

幼い頃、お小遣いやお年玉を貯めて自腹で購入した一眼レフのカメラで色々な人物や動物、風景を写真に収めるのが趣味だ

 

昼食後、すぐに動いたらお腹にもあれなのでいまはみんなで軽い乗り物に乗ったり、両親や友達へのお土産を選んだりの時間にしてる

 

俺はそんな妹弟達を写真に収めている

 

 

観覧車に乗って一番上で見えた父さんの城を笑顔で指差す茜とそれを微笑ましく見る葵

 

よく遊園地で売っている限定のカチューシャを奏にかけて笑う修とそれに対し顔を赤くして怒る奏

 

ある程度顔色も落ち着いてきた遥の肩に腕をまわして笑顔でピースをする岬

 

ヒーローショーのグッズ売り場で購入した謎の腕輪を腕にはめポーズを決める輝

 

笑顔でソフトクリームを差し出す栞

 

そして今撮ったメリーゴーランドに乗り笑顔でピースをする光

 

 

今日はいい写真がたくさん撮れたな

 

昔から一番好きな写真は家族の写真だ

 

帰ったら両親に見せてあげよう

 

 

ある程度経過したところで俺達一行は岬と光の提案で、この遊園地の目玉のジェットコースターの列に並んでいた

 

「大変申し訳ありません!栞様のご乗車は難しいかと…輝様はお楽しみいただけるのですが…」

 

キャストの人がすごく申し訳なさそうな顔でそう告げる

 

どうやら身長が規定に満たしていない為、栞は乗れないらしい

 

「それは仕方ないことですから大丈夫ですよ!…だそうなので俺は栞と下で待ってるよ」

「あ、じゃあ私も」

 

「「なら私(僕)がーー!」」

「ダメだよ遥!これ乗ったら絶叫系制覇なんだから!」

「あかねちゃんも逃げちゃダメだよー!」

 

同時にハモる茜と遥だが、岬と光に捕まった

 

遥、そんなに絶叫系苦手だったのか…

 

それに茜、お前もかよ…

 

逃げ場を失った哀れな妹と弟に苦笑いしながら、葵と栞を連れて列から離れる

 

てか茜に関しちゃ、普段から能力使って飛んでるんだし、似たようなもんだろ、そこは平気であれよ…

 

 

「栞、おいしい?」

「うん!お姉さまにもあげる!」

「ありがとう!うん、美味しいね!」

 

栞にわたあめを買ってあげ、近くのベンチに腰かけてみんなを待つ

 

「お兄さまもどーぞ!」

「ありがとう、栞!」

  

「ねー見て見て!翔様と葵様よ!」

「ほんとだ!栞様と3人でいると親子みたーい!!」

 

と、他のお客さんがなにやら盛り上がっている

 

いや親子て…俺達兄妹だし…

 

そんなことを考えながら上を見上げると

 

ちょうどみんなが乗ったジェットコースターが最上部に到達し、一気に急降下

 

……

 

茜と遥が真っ白になってた気がするけど…

 

見なかったことにしよう…

 

 

楽しい時間も終わりを迎え、俺達は帰路についていた

 

今日1日の事を楽しそうに話す妹弟を微笑ましく見つめながら俺と葵は一番後ろを歩いていた

 

「今日はありがとうね翔君」

「いや、なに、ただの手伝ってもらったお礼だよ」

「それでもだよ、ありがとう!みんな凄く楽しそうだった」

「どういたしまして、楽しんでもらえたなら何よりだわ」

 

「おーい!2人とも!はやく、はやくー!!」

 

葵とそんな話をしていたら気がつくとみんなとけっこう距離が離れていた

 

「なぁ葵…」

「なぁに?」

 

「たまにはこういう日も悪くないな」

「ふふ、そうだね!」

 

笑顔で手を降る妹弟達に返事をして、カメラのシャッターを切り、撮れた写真を確認する

 

うん、悪くない

 

 

 

『ーーご覧頂いたのは、ご兄弟の休日でした!ーー大変仲睦まじく、見ているこちらも思わず笑顔になりますねーー』




次回は明日のこの時間に!


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第13話【初登校】

「かなちゃんもう少しゆっくり歩いてよー」

 

俺はいま、奏と茜と共に登校している

 

編入試験も無事合格し、今日からみんなと同じ高校へ通うことになる

 

その為、今日は色々な手続きがあるらしく俺はみんなより早く家を出ようとしていたところ、ちょうど奏と茜も用事で早く登校しなくちゃいけないらしく一緒に行くことにした

 

「…にしても…茜、少しくっつきすぎじゃないか?」

 

茜は奏に後ろから抱きつきながら歩いていた

 

極度の人見知りなのはわかるけど、逆に目立ってるぞ

 

「だ、だって、離したらかなちゃん絶対走って逃げるもん」

「逃げないわよ、人前で全力疾走なんてはしたない事するわけないでしょ?」

 

笑顔で吐き捨てる奏

 

…こいつ、絶対逃げる気だわ

 

「そ、そう?絶対?絶対だからね」

 

そう言って腕を緩める茜…がその瞬間

 

「「あ」」

 

奏さん全力疾走

 

それを必死で追いかける茜

 

なにやってんだあいつらは…

 

別に急ぎではないが、一応心配なので俺も早歩きで2人を追いかける

 

 

するとしばらくして突然、路地裏から茜が道路に向かって飛び出した

 

「っ!?」

 

茜が向かった先には子猫が

 

しかし、大型トラックが向かってきていた

 

おい!あの速度、洒落になんねぇぞ!このままじゃぶつかる!

 

咄嗟に駆け出す

 

その時だった、トラックが茜にぶつかる直前で奏が間に入り、巨大な黒い壁を生成しトラックを止めた

 

なんだあれ!?トラックの衝撃を完全に止めただと!?

 

いや、そんなことより2人は!?

 

…どうやら無事のようだな

 

「…よかった…2人とも大丈夫かーーな!?」

 

その気が緩んで思わず足を止めた一瞬だった

 

「…え?」

 

奏の生成した壁が歪みだした

 

咄嗟過ぎて生成が不安定だったのか!?

 

いや、理由なんか今はどうでもいい

 

「ーーっそが!」

 

間に合えぇぇえ!!

 

ーーーーーーー

 

間一髪の所で生成が間に合った

 

それは強力な衝撃吸収材

 

よかった、なんとか間に合った…

 

「体は普通の女の子なんだから無茶しないで!」

 

私は思わず茜を抱き締めた

 

こんな子でも大切な妹、もしもの事があってはならない

 

しかし、茜の無事を確認してほっと安心しきっていた時だった

 

「…え?」

 

生成した壁が歪み始めた

 

そんな!生成は間に合ったはず!!

 

咄嗟の出来事過ぎて不安定だったの!?

 

そう考えるのに時間は感じなかった

 

これも一種の走馬灯?

 

時の流れが長く感じた

 

歪んだ壁は次第に崩れ、すでに原型を留めれずにいた

 

咄嗟に茜を勢いよく突き飛ばす

 

いまの私に出来る精一杯の行動だった

 

ーーあ、ぶつかる

 

迫り来る痛みを覚悟して強く目を閉じる

 

 

……あ…れ?

 

しかし、一向に痛みは襲ってこない

 

恐る恐る目を開けると

 

「…ふぅ、なんとか間に合った!」

「…ふぇ?…お兄、ちゃん…?」

「おう、無事か奏」

 

そこには息を切らしながらも笑顔を向ける兄の顔があった

 

「…ここは、天国?」

「あほ、滅多な事言うんじゃねぇ」

 

そう言ってお兄ちゃんは私にデコピンをした

 

「かなちゃん!翔ちゃん!二人とも大丈夫!?」

「あぁ、なんとか無事だ、茜も怪我とかしてないか?」

「うん!かなちゃんが守ってくれたから!」

 

下から茜が声をかけてくる

 

よかった、茜は無事なようね

 

 

…え?下から…?

 

「ーーっ/////!?」

 

そこで初めていまの状況に気づく

 

お兄ちゃんは建物に突き刺した剣を片手で掴みぶら下がりながら、もう片方の手で私を抱き抱えていた

 

一気に顔に熱がこもるのが自分でもわかった

 

「茜、降りるから少し離れてな」

「わ、わかった!」

「え?…ひゃあ/////!!」

 

お兄ちゃんは剣を握る手を離し私をお姫様抱っこで抱えて地面に着地し、私をおろす

 

ーーーーーーー

 

ふぅ、なんとか間に合ってよかった

 

俺は走りながら呼び寄せた剣を投げ、剣が奏の横を通過する瞬間にワープし、そのまま飛んで建物に刺さり止まった剣に、奏をかっさらいながら連続でワープしたのだ

 

上手くいってよかった…

 

初めてしたってのは…うん、黙っておこう…また後が怖い

 

 

奏も茜も無事

 

これで一件落着…じゃねぇよ!

 

「おい!危ねぇだろ!!…て、お、王家の長男!?それに次女と三女も!」

 

問題のトラックの運転手が降りてきて怒鳴る

 

危ない?どの口が?…あんた何キロで走ってたよ?あ?

 

それに俺らが王家じゃなけりゃ問題なかったのかよ?

 

「急に飛び出してご迷惑をおかけしました、申し訳ないです」

 

さすがに思ったことを口に出すほど俺は弱くない

 

それに王家の評判や父さんの面子にも関わるからな…ここは穏便に済ませておこう

 

ただ、

 

「しかし、そちらも明らか法廷速度を超えていたとように思えました。もし家の可愛い妹達になにかあった場合、俺は決して黙ってはいないので、今後お気をつけください?」

 

笑顔で言い放つが、あえて伝わるように殺気も込める

 

「は、はい!ももも、申し訳ありませんでした!」

 

俺の殺気に怯んだ運転手は急いでトラックに乗り去っていく

 

これでよし…じゃなかった

 

まだ肝心の問題が残ってた

 

さっき俺が剣で刺した建物だ

 

あーあ、綺麗に穴空いてるわ…

 

 

それから建物の管理人さんに謝罪をし、城に修復のお願いの電話をしといた

 

ついでに、奏が生成した壁の残骸の回収も

 

ほんとに申し訳ない

 

 

ちなみに、先程呼び出した剣は2代目国王、賢王の剣

 

俺が一番最初に手にした歴代王の遺品なのだが

 

これはまた別の話

 

 

そして俺達はようやく学校へ到着した

 

「ありがとね、かなちゃん!翔ちゃん!助けてくれて」

「なに、兄ちゃんだからな…それに茜を助けたのは奏だ…立派だったよ奏」

 

茜に返事をしつつ奏の頭を撫でる

 

「わ、私も姉として当然の事をしたまでです/////!」

「ありがとうかなちゃん!」

 

そう言って奏に抱きつく茜

 

「こら、離しなさい/////!…それと、お兄ちゃん、助けてくれてありがとう、それに、その、相手の運転手に怒ってくれたのも嬉しかった////」

「うん!翔ちゃんすっごくカッコよかったよ!」

「言ったろ?兄ちゃんだからな、お前達を守るのが使命なんだよ!」

 

そう言って2人の頭を撫でる

 

「…私もいつか支えれるように…(ボソッ」

「ん?なんか言った?」

「な、なんでもない!/////」

 

そう言って先を歩く奏

 

「あ、そうだ、お金使わせちゃってごめんね!いくらしたの?私払うから」

「いいわよ、そんぐらい。どうせあんた貯金なんて全然ないでしょ?」

 

ふと、茜が言い出す

 

「は、払うって!バ、バイトして貯める!ねぇ、いくらしたの?」

「…4000万」

「…よ、よん、せん…?」

 

茜の思考が停止した

 

茜には絶対に無理な金額だわ

 

「ぜ、絶対返すから!」

「だからいいってば…」

「茜…お前には無理だ、甘えとけ」

 

そう言って、俺は2人とは別れ職員室へ向かう

 

 

ちなみに、奏は株が趣味で貯金はたしか、国家資産並みだったか?…いや、もう考えるのはやめよう…

 

 

 

 



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第14話【噂の編入生】

「それでは、合図したら入ってきてください」

「わかりました」

 

担任の先生に指示され教室の前で待機する

 

残り1年だけとはいえ、これから学校生活を共にするわけだからな、最初が肝心だな

 

 

「ーーそれでは、入ってきてださい」

「はい」

 

指示された通り入り、教壇に立ち教室内を見渡す

 

みんなこそこそと何やら会話をしたり

 

一部女子がキャーキャー言ってたりしている…なんだあれ?

 

まあ、そうだろうな…

 

すでに妹弟達王族がこの学校に通っているが、そりゃ警戒するわな

 

他の兄弟と違い俺は長い間この町にはいなかった、そんなどんな人間かわからない奴が急に同じクラスにやってきたんだから、みんなの気持ちもわからかくはない

 

 

…ん? 

 

しかしみんなとは別に、笑顔でこちらに手を降る4人を見つけた

 

なんだ、お前達も同じクラスかよ…

 

それを見てどこかほっとした俺は、一度深呼吸をしてから自己紹介を始めた

 

「…えっと、今日からこのクラスに混ぜていただきます、櫻田 翔です。1年間だけですけどよろしくお願いします!」

 

俺の自己紹介が終わると同時に教室内に歓声が上がる

 

ん?あれ?なにこれ?

 

さっきまでの空気はなんだったの?

 

 

そんな疑問を浮かべながらも先生に指示された席に座る

 

ちなみ、廊下側の一番後ろだ

 

それから一時間目の授業が何事もなく終了し、道具を片付けていると

 

!?

 

気がつくとクラス全員に囲まれていた

 

それだけでなく、座席の位置もあってか他のクラスの人達もやってきて完全に逃げ場がなくなっていた

 

 

何事!?はっ!もしや新手のいじめか!?新人いびりなのか!?恐るべし高校生活!だか俺は決して屈しないぞ!

 

 

そんことを考えていると…

 

なんて呼べば良いか、どんな旅をしていたのか、彼女はいるのかだの、質問攻めにあった

 

結婚してとも聞こえてきたけど…きっと気のせいだな、うん

 

 

てか俺はなんて的はずれな事を考えてたんだろ

 

これじゃあ逆にみんなに失礼だな…

 

 

そう思いそのお詫びも兼ねて、一人一人の質問全てに丁寧に答えることで敬意を払った

 

 

「ーーやっと昼…やっと解放された…」

 

机に突っ伏して安堵する

 

あの後も2、3と休み時間に入る度に質問攻めに合い

 

昼休み、みんなも昼食がある為、やっと解放されたのだ

 

一応、俺も王家の人間だし人目や質疑応答はメディア関連で馴れてたつもりだったんだけどな…

 

「翔人気者だなー」

「からかうなよ菜々」

 

現在は4人の女の子とテーブルを合わせている

 

妹の葵に、小学校からの馴染みの卯月、静流、菜々緒だ

 

卯月には帰ってきた日に会っているし

 

残りの2人とも別の日に葵経由で再開を果たしていた

 

「けど、みんなと同じクラスでよかったわ…なんか安心した」

「はい!また5人一緒ですね!」

「あぁ、みんなまたよろしくな!…にしても、最初クラスのみんなこそこそしてたからさ、怖がられてんのかの思ったよわ…一時はどうなるかと…」

「まぁ、そりゃそうでしょ、先週から既に校内は翔の噂で持ちきりだから」

「…は?どんな?」

 

静流の言葉に葵からもらったお茶を飲みながら疑問符を浮かべる

 

「国内最難関の我が校の編入試験に5科目中4科目満点で合格した奴が現れたって」

「あー…まあ、いい師に恵まれたからね、あれぐらいならまだ」

 

ここの高校、入学試験は他と変わらないのだが、編入試験となると国内一難しいとされている

 

「あと、むしろ残り1科目何があったんだとも噂されてる…」

「…」

「「「……」」」

 

俺も含め事情を知ってる全員が苦笑いを浮かべる

 

「…翔君、昔から英語だけは苦手だしね…」

「…最早苦手の域を超えてるけどな…」

 

そう、俺は英語だけどうしても出来ない

 

俺の文武の師である楠さんですら、お手上げで頭を抱える始末だ

 

だから俺は海外の会合は昔から苦手だ

 

「け、けど合格できたんですからよかったじゃないですか!」

「…ありがとう卯月…ギリギリだったけどね…」

「「「…」」」

「…さ、さぁ、そろそろご飯食べよっか!」

 

微妙な空気を変えようと葵が切り出した

 

「…うん…あ、俺、そういえば昼ない…」

 

終わった…今から購買に行っても間に合うかな?

 

「もう、やっぱり忘れてたんだ!朝お弁当箱置いてったでしょ…代わりに持ってきたよ!」

 

俺の分の弁当を取り出す葵

 

「うおぉぉぉ!葵!俺の妹よ!さすが俺とは出来が違うな!ありがとう!愛してるよ!いまは葵が女神に見えるよ!」

「もう、大袈裟なんだから!次から忘れないでね?」

「はいよー!」

 

そう言って弁当を食べ出す

 

「本当に仲良しですねお2人は」

「こればっかりは昔から変わらないな」

「これが翔だからな」

 

そんな俺たちを3人が微笑ましそうに見ていた

 

 

 

その5人の姿は、昔、小学校生活を共に過ごした5人と何も変わらず重って見えた

 

 

 




次回は明日です!


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第15話【葵と買い物、二人の想い】

いつも読んでいただきありがとうございます!

お陰さまでお気に入り登録100名を越えました

ありがとうございます!

そこで今夜は普段の投稿とは別にリクエストをいただいた葵回を投稿いたします!

まだまだはじまったばかりですし
至らない点もあるかもしれませんが

今後ともよろしくお願いいたします!





「悪いな、せっかくの休日なのに付き合わせて…」

「ううん、気にしないで!ちょうど何も予定なかったし!」

 

とある休日、葵と2人でショッピングモールに来ていた

 

ーーーーーー

 

それは、2日前のこと

 

「…着替えがない」

「「「いまさら!?」」」

 

リビングでテレビを観ていた時、ふと口にした言葉にその場にいた全員が驚きの声をあげる

 

「え、いや…だって、旅してたときの感覚が抜けてなくていままで気づかなかったけど、俺1週間分の着替えしか持ってなかった」

 

旅の間は邪魔になるので1週間分の着替えを日替わりで着ていた

 

「家にある兄さんの着替えは、6年前の物ですし…あの頃兄さんが気に入ってたパーカーも今じゃ光の寝間着ですからね…」

「「そうなの?」」

 

光、お前も知らなかったのかよ…

 

 

と言うわけで、着替えやその他もろもろ必要な物を急遽買いに行くことになったのだ

 

ーーーーーーー

 

そして現在に至る

 

 

寝る前に葵にどこの店に行けば良いか聞いたらところ、ちょうど予定がないからついていくと言われ、お言葉に甘えることにしたのだ

 

 

「それにしても、綺麗に建ったなー…6年前まだ計画段階だったろここ…」

「うん、翔君が旅に出てしばらくして工事が始まったからね」

「へー…これなんか似合うんじゃね?」

 

そう言うって葵に服を合わせていく

 

「…あの…えっと、今日は翔君の服を買いに来たんじゃなかったっけ…?」

「ん?買ったよ?…だから次は葵の選んでるんだろ?」

「…そうですか(そんな、何当たり前なこと言ってるの?みたいな顔されても…)」

「葵も女の子なんだし、こういうのは多いに越したことないだろ?」

 

そう言うって次々と服を合わせていき、何着か購入した俺たちは休憩がてらカフェに入ることにした

 

「いらっしゃいま、せ…しょ、翔様に葵様!?よ、ようこそお出でくださいました!申し訳ありません!た、ただいま特別席のご用意を…!!」

「あ、いえ…今日はプライベートなんで普通の席で大丈夫ですよ!」

「か、かしこまりました!ではこちらに…!」

 

なんだろう…この思わす応援したくなる店員さんは…

 

目の前であたふたするツインテールの可愛らしい店員さんに

 

とりあえず心の中で頑張れと言っておいた

 

「なんだか応援したくなる可愛いさだね」

「…そうだな…」

 

さすが双子と言うべきか見事に思考がシンクロしていた

 

「翔様と葵様よ!」

「お2人が一緒にいるとカップルみたい!」

「華になるー!」

「前の生放送の翔様凄かったよね!」

「私もあんなお兄ちゃんかお姉ちゃんほしかったー」

 

などと店内が騒がしくなってきた

 

これも王家の定めというやつだな

 

どこへ行くにも目立ってしまう

 

 

茜ならともかく俺と葵だ

 

軽く笑顔で会釈して気にせず過ごす

 

それから何件か店をまわって、帰宅途中のこと

 

「ーーくるなっ!」

 

たまたま通りかかって公園で

 

一人の男の子が女の子を背中に隠しながら野生の犬と対峙していた

 

「悪い葵、ちょっと言ってくる」

「うん!気をつけてね」

 

葵に荷物を預け、少年達の元へと向かう

 

しかし、犬が少年達へ向かって駆け出した

 

「まったく…」

 

俺は咄嗟に手裏剣を呼び寄せ、犬と少年達の間に向かって投げた

 

コントロールが効くのはこれだけだからな

 

手裏剣はちょうど間の地面に壁になるように刺さり、犬はそのまま手裏剣にぶつかった

 

そして手裏剣へワープし手裏剣を地面から抜きながら

 

「そんぐらいにしとけ、俺もお前を危険な動物として処理したくはないんだ…な?わかるだろ?」

 

少し殺気を込めた笑顔でそう言うと犬は怯えて逃げていった

 

「二人とも大丈夫?」

 

犬が去って行くのを確認して振り替えると、追い付いた葵が二人に寄り添っていた

 

「僕が守ったから大丈夫さ!」

 

少年が胸を張る

 

「そっか、偉いな!君はこの子のお兄ちゃんかい?」

「うん!僕はお兄ちゃんだからね!妹を守るのが使命なんだ!」

「そうだね、立派だったよ!」

 

それからすぐに二人の母親が迎えに来て何度もお礼を言われた

 

そして別れ際に

 

「翔様!今日はありがとう!僕もいつか翔様みたいに強いお兄ちゃんになってみせるよ!」

「そっか!大丈夫!きっとなれるよ!」

 

その子の頭を撫でて、俺達はその場をあとにした

 

 

そして再度帰り道

 

「ふふ、やっぱり変わらないね翔君は…」

「なにが?」

「昔と変わらずみんなのヒーローだなって…」

「ん?いきなり何言い出すかと思えば…俺は別にそんな大それた人間じゃねーよ…ただ守りたい、そう思ったら体が勝手に動いてる、そんだけだ」

「ううん、それでもやっぱり翔君は昔から私達のヒーローだよ!」

「そうか?…ヒーローねー…」

「うん…でも、だからこそ、もう少し自分の為に過ごしてきてほしかったな…(ボソッ」

「ん?なんて?」

「ううん、何にもない!」

 

葵はすぐ笑顔をこちらに向ける、が、

 

 

ばーか、隠せてるつもりだろうけど、気づいてんだよ

 

お前がまだ“あの事”を気にしてる事も、俺の為に悩んでくれてることも、たまに見せる暗い表情も…

 

全部気づいてる…全部知ってる

 

たとえ6年間の空白があったとしても、俺たちは同じ時間を過ごしてきた、言わば半身だ

 

だからこそ…俺は…葵には…

 

もう少し自分の事だけ考えて過ごしてきて欲しかった…

 

 

「まあなんだ…俺はもうどこにも行かねえよ…そう約束したろ?」

「え?」

「俺だってもうみんなと離ればなれになるのはいやだしなー」

 

葵の頭を撫でて笑いながら先を歩く

 

「さ、帰るぞ…みんなが待ってる」

「…もう少し、もう少しだけ甘えてもいいのかな(ボソッ」

 

 

いまはまだこれでいい…

 

互いに互いの感情を理解できる俺達だから

 

もうお互いに気づいているだろう…

 

それでもあえて口にしないのは

 

触れればいまの環境が壊れてしまいそうで

 

互いの心の奥の気持ちを知るのが怖いから

 

相手の気持ちを受け止める勇気と覚悟がないだけ

 

ただ現状から逃げてるだけかもしれない…

 

どうすることが正解かはわからない…

 

けど、それでも、いまはまだ…

 

 

「なにしてるおいてくぞー」

「うん!待ってよ、お兄ちゃん!」

「んぁ?なんだよ急に」

「なんでもないよ!ほら、おいてくよ!」

 

逆に笑顔で俺を追い越して先を行く葵

 

 

ーー俺(私)はこの幸せな生活を続けていたいーー

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?

二人の強い絆、二人は過去になにがあったのか…


まだまだリクエスト受付ておりますので
ご意見感想ありましたらよろしくお願いします!


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第16話【買い物係】

楽しみにしてくださってる皆様には申し訳ないのですが

金曜日まで仕事が立て込んでいるため

今日、明日、明後日は1話ずつの投稿になってしまいます

申し訳ありません


「買い物ぉぉぉぉお!?」

 

日曜日の昼下がり

 

櫻田家のリビングに三女の嘆きがこだました

 

「…茜、うるさい」

 

 

我が家は高校生の兄弟のみで料理・洗濯・掃除・買い物の4種類がそれぞれ書かれくじを引き、毎週その当番を決めるルールがある、らしい

 

1つ下の双子が高校に上がった時に、父さんの仕事の付き合いで家にいなかったり、その上大家族の家事をこなす母さんの負担を減らそうと出来たルール、らしい

 

他の下の子達は自主的に家の手伝いをするというのが今では定着している、らしい

 

そう、らしい

 

俺がいない間にみんはしっかりやってたんだな…

 

 

そして現在、俺、葵、修、奏、茜の5人はその当番くじを引いていた

 

今回から俺も参加することになり新たに休み枠が追加された

 

 

そして茜が悲鳴をあげた理由は、茜が手に持つくじに書かれた文字、お買い物にある 

 

人見知りの茜にとっては酷だろうな…

 

けどいままでどう乗りきってきたんだよ

 

逆に気になるわ

 

 

ちなみに俺は初っぱなから休み枠を引いた

 

茜に変わるかと言ったが、

 

奏に甘やかすな、当番は当番だから次もし自分が当たったらそれをやれと怒られてしまった

 

それで仕方なく休みを貰うことにしたけど…

 

いままでやってなかった分申し訳ない気もするんだよな…

 

 

「うぅ…出掛けたくない」

「私カレーがいい!私もついてってあげるから!」

「えー…出掛けたくないんだってば」

「あかねちゃん!そんなにカレーが嫌いなの!?」

「カメラが嫌いなの!!」

 

机に突っ伏して頑なに動こうとしない茜

 

「別いいじゃん今さら…全国ネットでパンツ晒したんだし」

「言わないでぇぇぇえ!…外、出たくない…」

 

蘇る悪夢

 

「…早く行けよ…」

 

 

しばらくして、茜は結局光と買い物に行った

 

その頃俺は、

 

「…はいチェックメイト」

「んなっ!?」

 

チェスで遥の確率を負かしていた

 

「そんな…僕の予知じゃーー」

「常に最善の手で打とうとするから読みやすいんだよ」

 

奏が言ってたぞ…

 

遥は確率に囚われすぎて物事の本質を見失いがちだと

 

だから俺は奏に頼まれ定期的に遥の予知を打破することにした

 

昔から遥の確率予知を正面から破れるのは俺くらいだからな…

 

遥が読めるのは、せいぜい勝つ確率が高いの次の一手だ

 

けどそれは、ただ確率が高いだけで絶対ではない

 

なら簡単な話、そのさらに何手も先まで読めばいいだけのこと

 

 

なぜだぁぁああ!と頭を抱える遥を他所に、次は輝と栞とテレビアニメを見る

 

『ほれみろダンディくん』

 

 

これテレビアニメしてたんだ…

 

しかも意外とおもしろいし…

 

ちなみに岬は友達と買い物らしい

 

「あ、そうだ遥…いつまでも落ち込んでないで1つ予知してほしいんだけど」

「…え?」

 

ーーーーーーー

 

「ただいまー」

 

そして夕暮れになり茜と光が帰宅した

 

「おかえり遅かったな…って誰だお前ら!?」

 

ただ成長した光と子供になった茜が帰宅した

 

どうやら木から降りられなくなった猫を助ける為、光が成長したとこまではよかったものの、服の丈が合わず仕方なく茜を小さくしたらしい

 

「「なになに?どうしたの!?」」

 

騒ぎを聞き付け奏と先に帰っていた岬がリビングから顔を出す

 

「「え!なに子のどこで捕まえたの!?」」

「あんた達の姉妹だよ!」

 

実は可愛いもの好きの奏と岬が小さい茜に抱きつき

 

そのまま拐っていった

 

 

「24時間はもとには戻らないし、明日まで遊ばれるな」

 

茜、南無…

 

「それで?買い物は?」

「あ!忘れてた!!」

「…はぁ…だと思った…」

「え?」

「僕が予知したんだよ」

 

遥もリビングからやってくる

 

そう、俺は遥に茜達が無事買い物をしてくる確率を事前に予知してもらっていた

 

そしたらどうしたものか…0%

 

これにはさすがの俺も頭を抱えたよ

 

確率が0か100の場合、最早俺の介入の余地がなく、どうしようもないからな

 

「それで岬に電話で頼んで買ってきてもらってたわけだ」

「ひどい!ってことは私達のこと信用してなかったの!?」

「信用はしてたよ?ただ不安ではあったな…そしたら0%だし、現にこれだ」

「…うぅ」

「当たり前だよ、僕の予知は絶対だ!」

「まあ俺にチェスで負けたけどな」

「次は絶対に勝つさ!」

「国の頭脳(楠さん)直々に叩き込まれてんだ、俺もそう簡単に負けるわけにはいかねえよ」

 

遥をからかいながらリビングに入り、料理をしている葵の手伝いをする

 

例のごとく今夜は母さんはいないからな…

 

こうして1日が過ぎていった

 



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第17話【はじめてのおつかい】

「また買い物ぉぉぉぉお!?」

 

日曜日の昼下がり

 

今週も茜の嘆きがこだました

 

「…茜、近所迷惑だ」

 

今週の当番くじ

 

俺・料理、葵・洗濯、修・掃除、奏・休みと引いていき

 

残る買い物は当然茜となった

 

「引くまでもないわね」

 

と、

 

「葵姉様!僕にも当番くじ引かせてください!」

「輝がもう少し大きくなってからねー」

 

輝の申し出を軽く流しながらくじを回収した葵は自分に割り当てられた仕事をしにリビングから出ていった

 

 

「外出たくない…」

「お困りのようだな…明日から一ヶ月、ツインテールの位置を高くするなら俺の掃除当番と変わってやらんでもない」

「なにその条件!?」

 

そしてテーブルでは修と茜のそんな会話が繰り広げられていた

 

「割に合わない!当番は一週間で変わるんだよ!それだけの為に…そんな、子供みたいな髪型…!そん…なの……3週間でどうか」

「いいだろう」

「やるんかい」

「はぁ…しょうもな…」

 

俺と奏がツッコむ

 

「兄上!僕に買い物行かせてください!」

 

輝が次は修にそう願い出た

 

「さっきからどうした輝、わけを言ってみろ」

「…僕は大切なものを守る為にもっともっと強くならなくちゃいけないんだ…その為には…試練が必要なんです!」

「気に入った!いいだろう!任せた!」

「兄上ー!」

 

「これって茜、ツインテやり損よね」

「…だな」

「ああ!?」

 

気づいてショックを受けている茜はどうでもいいとして

 

「まあ、いいんじゃないか?お使いぐらいなら…輝ももう小学生だし、良い機会だろ…」

「ありがとうございます翔兄様!」

「輝は何食べたい?せっかくだから輝の好きなもの作ってあげるよ、俺料理当番だし」

 

自分でいうのもなんだけど、

 

普段から母さんや葵の料理の手伝いをしているだけあり、一通りならなんでもそつなくこなせる

 

「本当ですか!?なら僕、ハンバーグが食べたいです!」

「おっけ!なら必要なものメモするから、ちょっと待ってな…」

 

そう言うって必要な食材のメモを書いていると、どうやら栞もついていくことになったらしい

 

 

「ーーでも輝、行くのは良いけど気をつけて行けよ?…ちゃんと栞の面倒も見てな?」

「わかってます翔兄様!栞、僕から離れるなよ?」

「栞も、気をつけてな?お兄ちゃんのお手伝いをしてあげな」

「はいお兄さま!」

 

玄関まで二人を見送りリビングに戻る

 

 

茜はまだ頭を抱えていた

 

「光!変身よ!」

 

と思ったら突然立ち上がり隣に座っていた光にそう言った

 

「…え、なに突然…ごっこ遊び?…ごめん、ちょっと付き合えない」

「違う!引くな!!」

「光…お姉ちゃんからの誘いなんだから…その、な?付き合ってあげなよ…ぷ」

「だから違うからね!?笑わないで翔ちゃん!」

 

茜の言い分は簡単に言うとこうだ

 

本来自分がいく予定だったのに下の子二人に行かせるのは罪悪感が、何より心配だから光の能力で変装して尾行しようと言うことらしいけど、

 

「んで?また茜小さくなったわけか」

「27って言ったじゃん!」

「7歳って言いましたー」

 

不手際で茜が縮んでいた

 

「お前らも気を付けてなー」

 

そして光は光で16歳ぐらいに成長して、二人は先に出掛けた輝と栞を追いかけて出ていった

 

茜、結局出掛けるのかよ…とは言わないでおこう…

 

 

それからしばらくして…

 

結局俺も気になって茜と光とは別にあとをつけることにした

 

むしろ後に言ったあいつらの方が心配なとこあるしな…

 

と、思ったら

 

やはりと言うか輝と栞に見つかっていた…

 

…あほか…

 

 

あの後なんとか誤魔化して逃げ切った茜と光

 

そして輝と栞も何事もく買い物を済ませ後は帰るだけ

 

 

…さて、俺もばれる前に先に帰るかな…

 

と、思った矢先、輝と栞は犬に狙われていた

 

飼い犬か、どこから逃げてきたのか首にはリードが繋がれていた

 

食べ物目当てか犬は栞目掛けて駆け出した

 

まずい!

 

そう思って武器を呼び寄せようと手をあげた瞬間

 

「おいお前、弱いものを攻撃するなんて卑怯なやつだな…生き物に能力を使っちゃ駄目と言われた、悪が立ちはだかろうと正々堂々戦うって母様と約束した…兄様に栞の面倒をみてあげろと任せられた!だからお前が栞を傷つけようとするなら、僕は契約を破るぞ!」

 

輝は能力を使い地面を踏み砕き犬を威圧した

 

犬は怯えて逃げていった

 

 

俺は輝と栞の事をまだよくは知らない

 

葵から話は聞いてはいたけど、実際のところ産まれてからいままでの二人を見てきてはいないから

 

 

でも今回でよくわかった

 

この子達は大丈夫だな…

 

輝も立派にお兄ちゃんやっているし

 

栞も輝の力になろうと頑張っていた

 

ちゃんと良い子に育ってるんだな…

 

 

手を繋いで帰っていく輝と栞を見ながらそう思った

 

それとは別に、

 

「…さてと…あの地面、どうにかしないとな」

 

輝が砕いた地面をみてそう思った…

 

 

とりあえず城に電話して道路の修復を頼んだとして…

 

小さい茜が国民に見つかり、もみくちゃにされてたのがちらっと見えたけど…

 

…見なかったことにしよ…

 

こうして俺もその場を後にした

 

 

余談だが、

 

その後帰宅した茜と光が輝に見つかり

あの時の不審者!と警戒されていたけど…

 

まあ、俺には関係ないな…

 

 

 

 

 




すいません
明日の投稿はおやすみとなります

楽しみにくださっている皆様には申し訳ないのですが

次回の投稿は明後日の土曜日となります


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第18話【遥の受難】

今回は下の双子の誕生日回です


どうも、三男の遥です

 

今日休日、天気も良く気持ちの良い朝を迎え

 

こんか素晴らしい日にはもちろん

 

「…部屋にこもって読書だな…」

 

そんなことを考えながら、喉が乾いたのでリビングへ

 

しかし、この行動ががいけなかった…

 

「なにしてんだ遥、早く準備しろ、出掛けるぞ」

「遥遅い!何してるの!?早く準備してきて!」

「…は?」

 

我が家の長男と双子の姉に拉致られた

 

さようなら、僕の平穏な休日…

 

 

それから無理矢理連れ出され町へと来ていた

 

「…なんで僕まで」

「何言ってんの?この前出掛けるって言ったじゃん!」

 

…あ、たしかにこの間岬が何かはしゃいでた気が…

 

くそ!話全然聞いてなかった!

 

こんなことならちゃんと断っとけば…!

 

 

「…にしても…まさに両手に花だな…」

「は?」

 

コノ人ハイマナンテ?

 

「ほんとだ!やったね翔兄!」

「いやいやいや、待てよ!僕男だから!」

「「そうだっけ?」」

「うぉぉい!…もういい、僕は帰る!」

 

ダメだこの二人といたら僕の身が持たない

 

「まあ落ち着きなよ遥!せっかく翔兄が全額負担で遊びに連れてってくれるって言ってんだよ!」

「そうだぞ遥、ここはお兄ちゃんに甘えときなさい」

 

そう言って僕の腕を掴む二人

 

 

けっきょくそのまま連行された

 

「二人はどっか行きたいとこあんの?」

「…僕は別に…」

「んー翔兄とならどこでもいいよ!」

「なに?嬉しいこと言ってくれるじゃん岬」

 

前ではしゃく二人

 

 

岬は翔兄さんが大好きだ

 

言ってしまえば、僕ら兄弟の仲で一番のお兄ちゃん子だろう

 

僕も翔兄さんの事は嫌いじゃないし

 

むしろ尊敬している

 

昔から家族の為に努力してきてるのを知っているからだ

 

6年間の旅も僕らの為だと父さんから聞いた

 

僕ら周りの人間には理解できない程の努力と苦悩がそこにはあったんだと思う

 

僕もそんな兄さんの力になりたくて必死に努力してきたつもりだけど

 

6年ぶりに再開したときに思った

 

全然背中が見えない…

 

現実を突きつけられたんだ

 

少しずつでも追いついてるつもりでいた僕にとって、そんな兄さんの姿はあまりにも酷な現実

 

だから僕はこんなところで遊んでる場合じゃない

 

もっと知識を蓄えなくちゃいけないのに…!!

 

 

…まあ、この二人が相手じゃどうしようもないんだけどさ…

 

昔からそう…

 

岬は岬で僕の意思とは別に好き勝手やるし

 

翔兄さんは僕の能力が通用しない唯一の天敵

 

この二人が揃ったら僕に逃げ道はない

 

 

だから昔からのやり方で…

 

いっそこの状況を楽しめばいい…

 

 

…なんて思った時期も僕にもあったさ…

 

 

あれから、カラオケ、ショッピング、食べ歩き、ゲームセンターと岬の要望で連れ回され散々な1日だった

 

「なんだ遥、疲れたのか?」

「遥は昔から体力ないからねー」

「…ほっとけ」

「なら、最後にこの店よって休憩してから帰るか」

 

兄さんの提案でカフェに入ることになった

 

「わー美味しそう!」

「そうだろ?この前光と来たんだけど、凄く美味しくてさー」

「む…また光…」

「?」

「…はぁ…」

 

兄さんは自覚がないようだけど光には特に甘いところがある

  

だから岬はそれをあまりよく思っていない

 

毎回愚痴聞かされるの僕なんだから…

 

後が面倒だからほんと勘弁してほしい

 

「ちなみにここのプリンがめちゃくちゃ美味しくてさー!遥プリン好きだったろ?」

「…え?」

「あれ、違ったっけ?」

「いや、なんで覚えて…」

「翔兄、よく遥の好物覚えてたね」

「当たり前だろ…大切な家族の好きなものは全部ちゃんと覚えてるよ」

 

あぁ…やっぱり翔兄さんには敵わないな…

 

「…どうだ?」

「うん、美味しいよ翔兄さん!」

「そうか!よかった!」

 

そう言って兄さんは笑って見せた

 

 

それからしばらくして僕達は帰宅した

 

「たっだいまー!」

 

そして岬がリビングの扉を開けた瞬間

 

パンッ

 

「「!?」」

 

「「「岬!遥!誕生日おめでとう!!」」」

 

クラッカーが鳴り響き家族が待っていた

 

 

あ…そうか、今日は僕らの誕生日…

 

だから兄さんは僕らを連れ出したのか

 

「改めて…岬、遥…誕生日おめでとう!」

 

そう言って後ろにいた兄さんは僕と岬の頭を撫で

 

「俺の妹弟として産まれてきてくれてありがとう!」

「「っ!?」」

 

僕らを後ろから抱き寄せた

 

「ちょ!…大袈裟だよ、翔兄さん!?/////」

「大袈裟なもんか…長いこと離れるとな、改めて家族の大切さを実感すんだよ」

 

翔兄さんはいつもそうだ…

 

家族の為、家族の為にと一人で努力して

 

弱音なんか1つも吐かず、僕らの前では笑顔を振る舞う

 

 

「ほれ遥、誕生日プレゼント」

 

そう言って二冊の本と一冊のノートをくれた

 

「え、ありがとう…」

「聞いたぞ?最近政治や軍略とか色々勉強してんだって?」

 

なんでそれを…岬だな?余計なことを…

 

「だからそれは俺が昔に勉強した本とそれを俺なりに簡単にまとめたノートだ…本には重要な点をメモしたり印もついてる」

「え?…そんな大事な物、いいの?」

「あぁ、ある程度頭に入ってるし、遥になら譲ってもいい!」

「あ、ありがとう!!」

「おう!頑張れよ!遥なら将来立派な参謀にだってなれるかもな!」

「ーーうん!」

 

翔兄さんは何気ない感じで言ったのかもしれない

 

けど、僕にとっては嬉しいすぎる言葉

 

目標とする人からの言葉

 

翔兄さんの考えはいまはまだわからない

 

いつも僕の予想の上をいく

 

だけど、いつか必ず追いついて見せるーー



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第19話【岬の憂鬱】

翔兄は光と休日よく出掛けている

 

ずるい!

 

二人とも甘いものが好きだから甘いもの巡りをしているらしい

 

ずるい!

 

私だって甘いもの好きだもん!

 

この間は葵姉と買い物にいってたし

 

ずるい!

 

それに家にいなかった6年間定期的に葵姉とだけ連絡取り合ってたらしいじゃん!

 

ずるい!ずるすぎる!

 

 

もうこうなったら…

 

突撃だ!

 

バンッ!

 

「翔兄!」

「ひゃい!?」

 

翔兄と葵姉の部屋の扉を勢い良く開ける

 

机で何かノートに書いていた翔兄はビクッ驚いた

 

あ、いま声裏返った…可愛いな…

 

普段から無駄がなく隙を見せない翔兄だからこそ愛らしさを感じる

 

翔兄の滅多に見れない一面見ちゃったラッキー!

 

「な、なにか俺に用かな、岬」

「翔兄!光ばっかずるいよ!」

「…え?」

「いっつも光とばっか出掛けて!こないだは葵姉と買い物行ってたし…ずるい!私も遊び連れてって!」

 

そう言って翔兄の肩を揺する

 

「あ、あぁ…なんだそんなことか…」

「そんなことって何よー!こっちは本気なんだよ!」

 

翔兄の背中をポコポコ叩く

 

「ごめんごめん…けどそう言うことじゃなくてだな…ちょうど今度の休み誘おうと思ってたんだ」

「…え?」

「いや、今度の休み遊びに誘おうと…」

「ほんと!?」

「え、あぁうん、本当だよ」

「やったー!」

「うん、そういうわけだから遥にも言っといてね」

「…え、遥?」

「うん、遥…3人で出掛けようと思ってるんだけど…あの、岬?聞いてる?」

 

むー…そこは二人きりじゃないの!?

 

翔兄独り占めできないじゃん!

 

…まあ、遥だからいっか

 

「うん!わかった!…けど今度は二人きりでどっか連れてってね?」

「え、あぁいいよ!約束だ!」

 

 

お出掛け当日

 

「翔兄おっはよー!」

「おはよう岬…遥は?」

「起きてはいたからもう少ししたら降りてくるんじゃない?」

「そうか」

 

1時間後

 

「遥遅い!何してるの!?早く準備してきて!」

 

遥は部屋着のまま普通に降りてきた

 

もう!出掛けるって言ったじゃん!

 

 

それから町に繰り出した私達は何も予定を考えてなかったので、とりあえずカラオケ、ショッピング、食べ歩き、ゲームセンターと遊び回った

 

 

そして帰り道

 

「ねーこの間の遊園地の時から思ってたけど、翔兄ってそのお金どっから出てくるの?手持ちとか大丈夫なの?」

「ん?あーそれなら別に心配要らないよ…俺も岬達と同じようにお小遣いやお年玉貰ってたんだけど、旅の旅費とか交通費は別に支給されてたから使い道なくて全部貯金してたんだよ」

「そうなの!?じゃあ旅先とか何してたの?」

「空いた時間はずっと写真撮ってたなー」

「あー」

「元々物欲はあまりないから、こっち帰ってきても使い道なくてね…だからこうやって岬達、可愛い妹弟に使えるなら本望かな」

 

そう言って私の頭を撫でる翔兄

 

昔から翔兄に頭を撫でられるのは好きだ

 

とても落ち着く

 

ツラいことや悩みごとがあっても翔兄はいつもそうやってい私の悩みを取り除いてくれる

 

今日のこのお出掛けも単なる私のわがままだったけど

 

翔兄は真剣に考えて、一緒に笑ってくれた

 

翔兄はいつもそうやって家族の為に笑ってる

 

 

「たっだいまー」

 

パンッ!

 

「「「岬!遥!誕生日おめでとう!」」」

 

リビングの扉を開けるとクラッカーを鳴らした家族のみんながいた

 

あ…そういえば今日は私達双子の誕生日だった

 

翔兄とのお出掛けが楽しみすぎてすっかり忘れてた

 

「改めて…岬、遥…誕生日おめでとう!」

 

そう言って後ろにいた翔兄は私と遥の頭を撫で

 

「俺の妹弟として産まれてきてくれてありがとう!」

「「っ!?」」

 

私と遥を後ろから抱き寄せた

 

「ちょ!…大袈裟だよ、翔兄さん!?/////」

「大袈裟なもんか…長いこと離れるとな、改めて家族の大切さを実感すんだよ」

 

照れる遥と真顔でそう言ってのける翔兄

 

ほんと、翔兄は私達家族の事となるといつだって真剣なんだから 

 

「ありがとう翔兄!翔兄が私達のお兄ちゃんでよかった!」

「そうか!そう言ってもらえると嬉しいよ!」

 

そして遥に誕生日プレゼントを渡す翔兄

 

二冊の本と一冊のノート

 

あ、あのノートって…こないだ部屋に押し掛けたときに書いてたやつじゃ

 

あれって遥の為に書いてたんだ

 

帰りによったカフェでもそうだった

 

遥の好きな食べ物を翔兄は覚えていた

 

翔兄はちゃんと私達の事を見てくれてるんだな…

 

 

「そんで岬にはこれな」

 

そう言って大きめのリボンやシュシュ、ヘアゴムを何種類かとスケジュール帳をくれた

 

「学校で部活の助っ人頑張ってるんだって?今どき携帯とかで管理するんだろうけど、こういうのもいいかなって…あと昔は短かった髪も大分伸びたろ?それで…」

「翔兄ありがとう!さっそく1つつけてみるね!」

 

シュシュを1つ選んで今つけているのと取り替える

 

 

久しぶりに会う時は正直不安だった

 

「どう…かな?」

 

翔兄は変わってしまってるんじゃないかって

 

「うん!似合ってる!可愛いよ岬!」

 

けど、なにも変わらない昔の笑顔のままで

 

「ほんと!?翔兄ありがとう!」

 

私達の事をちゃんと見てくれている

 

 

これが私の大好きなお兄ちゃんーー

 

 

ーーーーーーー

 

 

今日は岬と遥の誕生日

 

 

我が家にはいつからか家族の誕生日はみんなでサプライズパーティーをするという約束事がある

 

今年から俺もようやくそれに参加できる

 

残念ながら栞の誕生日には間に合わなかったから

 

来年はちゃんと祝ってあげよう

 

ということで、まずは今回誕生日の岬と遥から

 

いままで祝ってあげれなかった分の埋め合わせと家でパーティーの準備をするみんなの時間稼ぎを兼ねて遊びに連れてってあげよう

 

と思っていたら、数日前ちょうど岬からの誘いが来た

 

岬は昔から一番の甘えん坊だ

 

俺も甘えられたい人なので、そんな素直な岬は正直嬉しいし可愛くもある

 

 

 

そして当日の今日

 

どうやら二人は楽しんでくれたらしい

 

誕生日プレゼントも気に入ってくれたみたいだし

 

本当よかった…

 

 

「んじゃ、撮るよー」

「「はーい!」」

 

主役の岬と遥を真ん中に家族で集合写真を撮る

 

俺もタイマーでシャッターのボタンを押して、ソファーに座る岬と遥の後ろに立ち二人の頭を撫でる

 

カシャッ

 

シャッターが切れる瞬間に岬が俺に抱きついてきて、また一悶着あったのだが…

 

まあ、これはこれで…皆が笑顔だから良しとしようーー




次回の投稿は月曜日になります!


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第20話【ツインテールとストーカー?】

ある日の放課後

 

今日は生徒会の作業があるとのことで

 

葵、静流、菜々はその手伝いで帰りが遅いらしい

 

卯月に至っては生徒会長だし

 

普段なら俺も手伝いたいとこなんだけど…

 

俺は俺で輝と栞とアニメを見る先約があった為、不参加

 

よって一緒に帰る人がいない

 

と、思ったら

 

いいところに茜と修を発見!

 

にしても、先日のツインテールの条件本当に実行してるあたり、茜は本当真面目で律儀な良い子だな…

 

 

…ん?

 

と、さらにその二人のあとを偉くお粗末な尾行スキルで追跡する小さな影が

 

あのツインテールってこないだのカフェの…

 

 

「やっぱり彼女さんかな?あんまりよく聞こえないーー「ほーう、あの二人がそんなに気になる?」そりゃあもちろん…ってしょ、翔様!?」

「やぁ、カフェの店員さん!」

 

やはりこの間葵と行ったカフェの店員さんだった

 

「え、あ!この間はどうも!ていうか覚えてるんですか!?」

「そりゃもちろん!君みたく必死に頑張ってる人は嫌いじゃないし特にね、葵もきっと覚えてるはずだよ」

「そんな!ありがとうございます!」

「いえいえ…それよりあの二人なんだけど…」

「そ、そうだった!急いであとをーー!」

「俺も立場上、王族のあとをつける人を黙って見過ごすわけにはいかないんだけどなー…?」

「!?そ、そうですよね!で、でもそういうつもりじゃ…!」

「けど、俺が一緒に行動していればなにも問題ないわけだ…」

「…へ?」

 

俺の言葉に気の抜けた返事をする店員さん

 

「気になるんだろ?追うぞ!」

「!?は、はいー!」

 

そして俺と店員さんは追跡を再開した

 

 

追跡しながら改めて自己紹介を交わし

 

どうやら店員さんは修のクラスメイトで佐藤さんと言うらしい

 

あのカフェはバイト先らしい

 

佐藤 花って名前…確か…

 

 

「翔さん、やっぱりあの隣の子は彼女さんなんでしょうか…?」

「どうだろうなー?でも、もし仮にそうだったとして、佐藤さんはそれで諦めがつくなら、それでもいいんじゃない?」

 

佐藤さんには悪いけど、俺達は王族だ…

 

いまはこうやって普通の生活をしているけど、王族にも王族なりの苦悩や責任が問われてくる

 

だからその恋人となる人にも何らかの障害は必ず訪れる

 

だから佐藤さんが半端な覚悟で好きといっているようなら、佐藤さんには悪いが早い内に芽を摘ませてもらう

 

佐藤さんの為でもあるからな…

 

そう思っていたけど

 

「そんな!私は…諦めたくありません!」

 

どうやら余計なお世話だったようだ

 

「ならもっと胸を張りな…こんなこそこそしなくてもいい」

 

おっと…そんなことを話してたら、修と茜が人通りの少ない通りにはいった

 

気づかれたかな?

 

「佐藤さん、どうやら気づかれたようだ…」

「えぇ!?ど、どうしましょう!?」

「でもこれはチャンスかもしれないよ?君の疑問と誤解を解けるかもしれないよ…二人はその角を曲がった先だ、行ってごらん」

「で、でも…」

「大丈夫!一つ教えておくと、あの子は彼女じゃないから安心しな!君のその覚悟が本物なら堂々とぶち当たってくればいい!」

「…わかりました!私行きます!ありがとうございます!」

「おう!頑張りな!」

 

そう言って佐藤さんに手を降り見送る

 

 

まあ、気になるっちゃ気になるから俺は別で覗くんですけどね?

 

どうやら佐藤さんは告白を遂げれたらしい

 

修の返事は…保留か…

 

修もただ逃げたわけじゃないだろう…

 

立場上、妥当っちゃ妥当か…

 

お前は断ることはないと思ってたよ修

 

だって佐藤 花ってお前が昔好きだった子の名前だろ?

 

 

「きょ、今日のところは送ってあげたら?この辺なら私一人でも平気だし…」

「あ、あぁ…そうだな」

「だ、大丈夫です!待つって言ったんだから私に構ってたら意味ないです!」

「いや、別に今日くらいなら…」

「ほ、ほんとにいいですから!」

「まぁ遠慮するな佐藤さん、ここは甘えときな」

 

「翔さん!」

「兄さん!?」

「翔ちゃん!?いつから!?」

「最初からだけど?」

「「え!?」」

 

驚く二人は置いといて、この話、お兄ちゃんが気を利かせてやろう

 

「ってことで茜は俺と一緒に帰ろうなー」

「う、うん!」

「それじゃお先ー」

 

茜の頭を撫でて二人を残してその場を去る

 

 

帰り道

 

「ねえ翔ちゃん…」

「んー?」

「修ちゃん選挙終わったら先輩と付き合うのかな?」

「どうだろうなー…それはあの二人の問題だからなー…さすがにそこまでは俺達が口出しするとこじゃないな」

「そうだけど…」

「なんだ?茜はお兄ちゃん取られるのが嫌なの?」

「そ、そんなわけないじゃん!」

 

そんなあからさまに動揺されてもな…

 

「まあどうあれ、俺達は家族だ…それは変わらないだろ?」

「うん、そうだね!」

「あ、でもかなちゃんが王様にならないように妨害ってのは?翔ちゃんなんか聞いてないの?」

「…まあ知ってはいるけど…それもあいつらの問題だからな…修にも奏にもそれぞれ理由がある…でも別に悪いわけじゃないんだ、そこは信じてあげな」

「え、知ってるなら教えてよ」

「茜が気にすることじゃないんだよ…茜はとりあえず自分の心配だけしてな、葵から聞いたぞ?王様になってカメラ撤廃するんだろ?」

「そうだった!そうだね!私もかなちゃん達に負けてられないもん!」

「まあ無理しないように頑張りな…」

 

 

その日の夜

 

修と輝の部屋の前で壁に耳を当てて修の電話を盗み聞きする茜と奏を発見した

 

たぶん電話の相手は佐藤さんだろう…

 

とりあえず二人の頭にチョップでもかまして追い払っといてやろう…

 



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第21話【適材適所】

すいません
物語の段取りミスでまたも岬回になります


ある日

 

「ただいまー…って臭っ!なにこれ納豆か!?」

 

学校から帰ると玄関が納豆臭かった

 

こんなことってある!?

 

そう思いながらリビングに入ると

 

「…茜、お前の仕業か…」

「え?なにが?」

 

茜が納豆をひたすらかき混ぜていた

 

「玄関納豆臭かったんだけど、そんなもんもって動くなよ」

「嘘!?ごめん!消してくる!」

 

そう言って納豆を置いてリビングから茜は出てった

 

「ん?」

 

と入れ替わりに岬の分身が入ってきた

 

暴食の化身 ブブだ

 

 

ちなみに分身は全員で7人で

 

傲慢の化身 ライオ

憤怒の化身 ユニコ

嫉妬の化身 レヴィ

色欲の化身 シャウラ

暴食の化身 ブブ

怠惰の化身 ベル

強欲の化身 イナリ

 

それぞれに特技や性格、名前があり、岬と分身達の間ではテレパシーで会話出来るらしい

 

 

「ブブ、何で出てきてんだ?」

「お腹すいた…」

「あ…」

 

そしてそのまま俺の横に座り、先程茜が置いていった納豆をご飯にかけて食べ出すブブ

 

「ふーこれでひと安心!…て、あ、あの、それ真島さんの…」

 

戻ってきた茜が慌てる

 

いま聞き捨てならない発言したなこの子!

 

真島さんが来ることは聞いてたけど…

 

インタビュー中にこれ出すつもりだったのか?

 

むしろここでブブが食べてくれてよかった気もするな

 

まあ、とりあえずだ

 

「ブブ、俺の部屋にあるお菓子やるから岬のとこ戻るぞー」

「!?…ほんと?」

「あぁ好きなの持ってっていいぞ」

 

俺は甘い物やお菓子好きだから、常に机の引き出しにストックしてある

 

「…これにする…!」

「ポテチか?いいよー」

 

基本チョコばっか食べてるしな、ポテチは気が向いたときにしか食べないし、俺的にもそのチョイスは嬉しい

 

「んじゃ戻るぞー」

「…ん」

「岬ーブブ来てたぞー…ってなんだみんな出てたのか」

 

ブブを連れて岬と遥の部屋を開けると

 

ベッドにうつ伏せになりなにやらふてくされている岬と、それを囲むように分身が全員出ていた

 

「…なに?これどういう状況?」

 

一番近くにいたイナリの横にブブと座りこっそり耳打ちする

 

「あ、翔兄…自分ばかり面倒事を押し付けられるのが嫌だって、自分じゃなく私達ばかり必要とされてるのが嫌だって…それで…」

「…なるほど、ね…」

「翔ちゃんなんとかしてよぉう」

「俺にふるなよシャウラ…あと胸当たってますよ?」

「わ・ざ・と」

 

俺の首に手を回し背中から抱きつくシャウラ

 

「どうせ私は誰からも必要とされてないんだ!」

「は?唐突になんだよ…今日も学校でモテモテだったじゃん」

「それは私じゃなくてあんた達でしょ!私はあんたらのオマケかっつぅーのー!」

 

荒れてんなー

 

けど下の妹である岬にここまでストレス抱え込ませた俺達上の責任でもあるんだよな…

 

と、そこへ

 

「岬ー真島さん来たんだけだインタビューお願いできる?」

 

茜がやってきた

 

「やだ」

「うん!じゃあ下で待ってーーっえ?…は、反抗期きたぁぁぁぁあ!?」

 

いまの状況的にちょっとこいつは邪魔だな…話がややこしくなる

 

「私じゃなくてもいいじゃん、あか姉やってきてよ」

「む、無理だよ…こういうのは岬が…あ、じゃあ翔ちゃんやって!」

 

 

まあ別にやるのは構わない、けど…

 

いなかったとはいえ、ここまで放置した俺にも責任はあるし

 

長男としてインタビューを受けるのも筋だろう

 

けど、それではいまの岬はどうなる?

 

自分の存在意義を見失って二度と立ち直れないかもしれない…

 

ってことはここで俺が取るべき手段は、茜には悪いが

 

「無理だ」

「なんで!?翔ちゃんも反抗期なの!?」

「なわけないだろ…シャウラ、悪いけど時間稼ぎ頼む」

 

お馬鹿な茜に呆れつつ、背中のシャウラにこっそり言う

      

「はぁい…ままま茜ちゃん!今日のとこは私がやるから」

「えっでも…」

「いーから!いーからー!」

 

そしてシャウラはそのまま茜を連れ出し部屋から出ていった

 

…やめろ、そんな目で見るなよ他の分身達よ

 

言っといてあれだけど俺だって思ったさ…

 

あ、人選ミスったかもって…

 

 

「あのさー必要とされてないって言うけど…」

「ごめんそれ私のワガママ…私ってさ何やっても平均以外だから、勉強も運動も…顔もスタイルもぜーんぶ普通…お姉ちゃんやあんた達がちょっと羨ましかったんだ…でももういいんだ…普通の私が特別な人間に相談したって理解されるわけないよね」

 

…いや、普通の人間が分裂とかするかよ

 

って絶対思ってんな、こいつら…

 

にしても、どうしたものか…俺が口出してもいいのかな…?

 

と、その時だった

 

「いいじゃん普通だって」

 

いままで黙って本を読んでいた遥が口を開いた

 

「ていうか、僕の周りには変な奴らばっかりで…だから逆に僕にとっては岬が特別なわけで…岬が岬じゃなくなったら僕は困るんだけど」

 

…へぇ…良いこと言うじゃん遥

 

「それに必要とされてないって言うけど、要はーー」

「ねえ岬!インタビューやっぱりあなたが答えて!」

 

そこへシャウラを連れて茜が乱入…ほんと騒々しい子だな茜よ

 

「こ、この子えっちな回答しかしないんだもん!客観視できて社交性もある岬が適任なんだよ!」

「翔ちゃーん!茜ちゃんにめちゃくちゃ怒られちゃった!慰めて?」

 

そう言ってまた俺の背後に回り抱きつくシャウラ

 

「…やっぱシャウラに任せた俺が間違いだったか…」

「もう!翔ちゃんのいじわるぅー!」

「こらそこ!どさくさに紛れてなにやってんの!!」

「あら?あなたが本心からしたいと思ってる事をしてるだけよ?」

「私はそんなこと思っとらん!」

「なに言ってんだ、さっきも自分がオマケだとか私らが羨ましいだとかほざいてたけど…私達みんな岬の一部なんだぞ」

 

そう言って分身達にただされる岬

 

「…岬…家にいなかった俺が言えた立場じゃないのはわかってるけど…お姉ちゃん達もただ岬に押し付けてるわけじゃない…岬だから、岬が適任だと思えるから岬に任せてるんだよ…だから許してやってくれないかな?」

 

「…うん」

 

「うん!ありがとう!…けど無理なら無理って言えばいい誰も責めたりなんかしないから、その時は俺が、もちろん遥も、岬を庇う!岬が頑張ってることはちゃんとみんな知ってるから」

 

岬の頭を撫でる

 

「嬉しいときは笑えばいい、何かあったら甘えればいい、嫌なときは弱音を吐けばいい…単純なことの様で難しいかもしれないけど、それが出来る素直な岬が俺は好きだよ!」

 

「…わかった…ありがとう翔兄、遥も!私行ってくる!私がいないとみんなダメダメなんだから!」

 

そう言って分身達を戻し茜を連れていく岬

  

「…言うようになったじゃんか遥」

「べ、別に!…それにどうせ確率ではどうせこの予定だったし」

 

そういう遥のノートには

 

岬が立ち直る確率100%と書かれていた

 

「なるほどな…けど遥、これはお前がいてこその確率だと俺は思うぞ?」

「え?翔兄さんじゃないの?」

「俺は今回何もしてないよ…確実に岬の心を動かしたのは遥、お前だよ」

「…そうかな?」

「そうだよ…どうだ?数字だけじゃわからない、人の感情ってのも捨てたもんじゃないだろ?」

「どうかな…けど岬にはまだ僕がついてないとダメだな」

「それだけでもいい…誰かの為に何かしたい、そう思えるなら十分だ!」

 

遥の頭を撫で

 

「適材適所…それは遥にも言えることだぞ?…だから、これからも岬の事頼んだよ!」

 

そう言って俺も二人の部屋をあとにした

 

 

俺と葵の様に双子だからな…

 

俺達兄弟でも理解できない絆はあるはずだ…

 

まああの二人ならこれからも問題ない

 

今回は俺が口出す程でもなかったかなーー

 




次回は明日です!


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第22話【ライラック】

質問を頂いたのでここでもお答えします

ヒロインの卯月についてですが
この選挙1年目は家族回にしようと思っているので
本格的な絡みは2年目からになる予定です



「ごめんなさい生徒会の仕事手伝わせちゃって…」

「いいよ、いつも用事で手伝えないでいたからさ」

「ありがとうございます!」

 

夏休みを間近に控えたある日の放課後

 

俺はいま生徒会の仕事の手伝いで卯月と資料を運んでいた

 

ちなみに今週葵は買い物当番で先に帰り

 

静流と菜々も珍しく予定があるらしく、今回は俺一人だ

 

「そういえば副会長は奏だって?上手くやってる?」

「はい!よく頑張ってくれてますよ!むしろいつもお仕事任せっきりで申し訳ないくらいです…」

「まあ奏でも好きでやってるわけだしな…あまり深く考える必要ないと思うぞ?これからもよくしてやってくれ!」

「はい!もちろんですよ!」

「それよりも卯月は自分の体を大切に…こう、負担をかけすぎないように、適度な休憩をだなーー」

「ふふ」

 

む?

 

俺的にいまとても大事なこと話してるつもりだったんだけど…

 

面白いとこあった?みたいな顔をしていると

 

「なんだか翔さん私のお母さんみたいです」

「お、お母さんかー…せめてお父さんにしない?」

「そこなんですね?」

 

そう言って二人で笑い合う

 

「ありがとうございます!翔さんが昔からいつも心配してくれるのでお陰さまで大丈夫ですよ!」

「当たり前だ…卯月も俺にとっちゃかけがえのない大切な人なんだから!」

「え!?そ、そんな!大切だなんて…/////」

 

そう言って顔を手でおおう卯月

 

…あの…持ってた資料、落ちたよ?

 

「おほん!お兄様?なに白昼堂々と女性を口説いているんです?」

 

前を見ると黒い笑みを浮かべた奏がいた

 

「え?そんなつもりは…いえ、ごめんなさい、奏…さん」

 

これは、逆らえばやられる…確実に!

 

 

その後、俺にのみ黒い笑みを浮かべる奏…さんに散々こき使われたのは言うまでもない…

 

 

帰り道

 

しばらくして後のまとめは自分がやるから先に帰っていいと奏に言われた俺と卯月は、申し訳ない気もしながら帰路についていた

 

 

「奏はあー言ってたけど実際のとこどうなの?生徒会長」

「はい!翔さんが頑張ってくれたのもあって後はジャンル別、番号順に資料をまとめて保管するだけです」

「そうなの?そんぐらいなら手伝ったのにな…」

「はい、申し訳ない気がします…」

「まあ良いか…奏は頑固なとこあるからな、一度言い出したら聞かないし今日のところはこのままお言葉に甘えるとしよう」

「そうですね、翔さんがそう言うなら…帰ったらお礼言っておいてください!」

「はいよ!」

 

そして再開した日と同じバス停に座り卯月の帰りのバスを待つ

 

「…あ、あの翔さん…が、学校で言ってた、私がた、大切と言うのは…?」

「え?あーあの話?大切だよ、卯月も静流も菜々も俺の大切な幼馴染みの親友だ!葵も奏でも良くしてもらってるし!」

「あ、ああ!そういうことですよね!」

「え?他にどういう意味が…?」

「な、なんでもありません!…あ、バス来ましたね!」

 

そう言って立ち上がる卯月

 

「それでは翔さん!今日はありがとうございました!また明日!学校で!」

 

バスに乗りくるりと振り返り笑顔でそういう卯月

 

「え…あ、ああ…!また明日!」

 

そして扉が閉まりバスは走り出す

 

 

最後に見せた卯月の笑顔に思わず見とれてしまった…

 

普段から見慣れたはずの笑顔のはずなのに…

 

 

「…帰ろ」




実際きっかけなんてほんと些細で突然なものですよね…

ちなみに今回のタイトルですが
物語内に出てこないので関係はないですね

ちょっと言い方かっこつけたかっただけです
ごめんなさい

今日はこの1話のみとなります、次回は明日!


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第23話【プールへ行こう】

本日は夏休みの話2本です


「あつーい。」

「言うな光、よけい暑い…。」

 

夏休みに入ったものの特にする事もなく、俺は光とリビングのソファーでアイスを食べながら暑さと戦っていた。

 

輝と栞は目の前でアニメを見ている。

 

 

岬は中学校の部活の助っ人、遥はその付き添い。

 

奏は生徒会の仕事で学校へ。

 

葵は部屋で茜に勉強を教えて宿題の手伝い。

 

修は学校のみんなで遊び…青春だなぁ…。

 

 

と、ふと流れたCMを見て、

 

「これだ!」

 

光が立ち上がった。

 

 

「ってことで葵、言ってくるわー。」

「うん、お願いね翔君!光、輝、栞、ちゃんとお兄ちゃんの言うこと聞いてね!」

「「「はーい!」」」

 

 

「プールだー!」

 

こうして俺、光、輝、栞の4人は最近新しく出来た大型プールの施設に来ていた。

 

「おい光、走るな転ぶぞー。輝、栞、俺から離れるなよ?」

「「はい兄様(さま)!!」」

 

にしても広いなー。

 

国が直々に資金出して作ったらしいこの施設。

 

巨大スライダー、流れるプール、波出るプール、南国を思わせる砂浜や木々、ずらりと並ぶ売店

 

そして何が凄いかって、

 

完全室内の温水プールな為、季節・天候関係なし。

 

…素晴らしいな。

 

国も粋なもの作りやがる。

 

父さんと楠さんもずいぶんと思いきったものだ。

 

 

「ねえねえしょうちゃん!これ乗ろうよ!」

 

そういってメインもメイン、巨大スライダーを指差す光。

 

「お、これ保護者同伴なら小さい子も大丈夫みたいだな」

 

前回の遊園地みたく栞が乗れないことはなさそうだ。

 

「栞乗って見るか?」

「うん!」

 

列に並び俺達の番がまわってくる。

 

二人ずつ乗れると言うことで光・輝、俺・栞で乗ることになった。

 

「ひゃっほーう!」

「うわぁぁーあ!!!」

 

スライダーの奥から輝の悲鳴が響いてくる…。

 

輝、怖がりだからなー。

 

「それじゃ栞いくぞ?」

「…う、うん。」

 

栞を前にして俺達も滑る体制にはいる。

 

先ほどの輝の悲鳴や初めての体験ということもあり少し不安そうな栞、大丈夫かな?

 

 

「ふぅ…思ったより長くて楽しかったなー。栞どうだった?怖くなかったか?」

「うん!すっごく楽しかった!」

「そうか!よかったな!」

 

そういって目を輝かせる栞。

 

どうやら要らない心配だったらしい。

 

「栞、怖くなかった?」

「うん平気だよ!輝お兄ちゃん!」

「え!?そ、そうか…そうだな…!たしかにあんまり怖くなかったからな!」

「…ふーん、ならもっかい乗る輝ー?」

「い、いえ!ぼ、僕はいいです、光姉様!」

 

強がって頑張って栞にお兄ちゃんとしての威厳をアピールする輝とそれをわかっていてからかう光。

 

…やめたげてお姉様。

 

 

それからしばらく、何種類かのプールを回った俺達は休憩がてら売店でかき氷を買い食べている。

 

「栞、ゆっくり食べなよ。」

「うん。」

「…ほら輝。言わんこっちゃない頭痛くなったんだろ?」

「ぼ、僕は平気です兄様!」

「しょうちゃんの何味?一口ちょうだい!」

「ただのみぞれだけどーー「あーん!」…はいよ。」

 

光の口にスプーンを運ぶ。

 

奏と岬がいたら、また甘いと怒られそうだな。

 

「んー!美味しいね!」

「そうか?それは良かった!」

 

けど、昔の名残かこの笑顔には弱いんだよなー…。

 

 

「あ、翔様だ!」

「下のご兄弟も連れてらっしゃるわ!」

「可愛いー!」

「ほんと仲良しだね!」

「私もあんなお兄ちゃん欲しかったー!」

「あの細いくてもしっかりとついたたくましい筋肉、割れた腹筋(ブフッ」

「おい!鼻血吹いて倒れたぞ!係りの人呼べ!」

 

などと周りが騒がしくなる。

 

あの人形のゲーム以来、なぜかわからないけど俺の人気が上がり、前回の与論調査では2位、1位の葵に迫る勢いらしい。

 

なにもしてないはずだけど…。

 

そもそも俺王になる気ないんだけどなー。

 

それと、最後の人大丈夫…?

 

 

それからしばらくプールを堪能した帰りのバスにて

 

「ん?みんな疲れて寝ちゃったか…」

 

光が俺の肩に寄りかかってきて気づいたけど、栞も輝もお互いに寄りかかって眠ってしまっている。

 

 

みんなはしゃいでたからなー。

 

けど、楽しそうで良かった…。

 

 

それから最寄りのバス停に到着。

 

起こすのあれだったので、偶然、少し前のバス停で乗り合わせた修に輝を預け、

 

俺は光を背中におぶり、栞を抱っこして帰路へつく。

 

「いやー、偶然とはいえ修がいてくれて助かったわ!」

「いえいえ、それにしても兄さんは本当に凄いですね。」

「なにが?」

「この数ヶ月だけで輝と栞も大分兄さんになついてますし、家族のみんなも以前より沢山笑うようになりました。」

「そうなの?みんな良い子なだけだよ…。それより修は今日どうだった?佐藤さんいたんだろ?」

「知ってたんですか!?」

「いや、そんな気がしただけ…。」

「…まぁ、楽しかったですよ!それより兄さんが佐藤と知り合いだったことに驚きでしたよ。」

「それもたまたま。寄ったカフェの店員さんだったってだけだよ…。」

「なるほど…でも佐藤が感謝してましたよ?背中を押してもらったって。」

「まあ、一応な。…だってあの子昔に修が好きだった子だろ?」

「!?ほんと兄さんには隠し事が出来ませんね。」

「お兄ちゃんだからな!修、あの子真っ直ぐな目をした良い子だよ…。周りの意見は気にするな。お前が、お前達がどうありたいのかだけ考えな?何かあったら相談乗るから。」

「ありがとうございます。」

 

修とそんな会話をしながら家へと向かう。

 

「けど、また岬に怒られるんじゃないですか?」

「え?」

「光達だけずるい!って…。」

「あー。…かもな…。」

 

案の定、家に帰ると腕を組んで膨れた岬が待ち構えていて、今度また遊びに連れていくことになったのは割愛ーー



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第24話【お祭りへ行こう】

今日は年に一度の夏祭り

 

毎年城門の前の石橋にずらりと屋台が並ぶ。

 

城の前で行われるだけあり、国が主催のその祭りには、もちろん俺達兄弟もそれぞれ浴衣を着て参加する。

 

 

「にしても、賑わってんなー。」

「そっか、翔ちゃん6年ぶりになるもんね。」

「…茜はずっといるのに馴れないのな…。」

「うっ…。」

 

俺の背中に隠れながら歩く茜

 

「修の方が身長あるし隠れるなら修のがいいんじゃないの?」

「…修ちゃんは…やだ…。」

「うぉい!」

「ぷ…どんまい修。」

 

一緒に横を歩いていた修がツッコむ。

 

茜大好きな修への茜の無慈悲な発言。

 

思わず笑ってしまった。

 

「それに翔ちゃんの方が背中大きく感じるし、安心するんだもん!」

「そうか?」

「翔兄さん鍛えてる分、体格が良いからね。」

「あー、そういうことね!」

 

 

それから、

 

「相変わらず何着ても美しいな葵。」

「ふふ、そう?ありがとう。」

 

当然のように褒めて褒められの俺と葵の会話。

 

そこには何の裏もなく、相変わらず素同士の会話が流れていく。

 

 

「あ、修!ほらあこ!浴衣姿の佐藤さんだ!」

「え!?」

「ごめーん冗談!」

「兄さん!!」

 

修をからかって怒られる。

 

反応早かっなー…。

 

その後、本当に現れた佐藤さんの浴衣姿にデレデレしていたのは言うまでもない。

 

 

「奏、ヨーヨーあるよ!昔好きだったじゃん?」

「む、昔の話です!」

「…え、やらないの…!?」

「やりません!」

「…そっか…まあ、そうだよな…奏でももう大人だもんな…」

「…い、1回だけだからね!/////」

 

無意識か?素のしゃべり方に戻ってるよ奏ちゃん!

 

結局、俺達はやるなら全種類集めようと5回した。

 

 

「茜、いつまでも隠れてないで、せっかくの可愛い浴衣が台無しだろ?」

「だ、だってー!」

「欲しいの買ってあげるから!」

「じゃ、じゃあ…あれ…。」

 

背中に引っ付いて離れない茜の指定でかき氷の列に並ぶ。

 

 

「翔兄!次は焼きそば食べよ!」

「いいねー!お!焼き鳥もあるじゃん!」

 

そういう俺と岬の腕の中には色々な食べ物が。

 

 

「プリンといい、ベビーカステラといい…遥は卵が入ってればなんでも好きなの?それとも牛乳?」

「いや、別にそういう問題ではないよ。」

 

遥と休憩がてら椅子に座ってベビーカステラを食べる。

 

 

「しょうちゃん金魚すくいしよー!」

「金魚か…いや、ダメだな。家にはボルがいる…食べられでもしたら栞が泣いてしまう。」

「…あ、そうだった!」

 

光と金魚すくいの屋台の前で二人して頭を抱える。

 

ちなみに、ボルというのはこの間、光が助けた猫であのまま家で飼うことにしたのだ。名前はボルシチ。

 

 

「兄様!僕はこのお面にします!」

「なら俺はこれにしようかな、おじさん、この2つください。」

 

輝と互いに戦隊もののお面をつけて笑う。

 

 

「栞、どうだ?美味しい?」

「うん!お兄さま!」

 

栞にわたあめを買ってあげて一緒に食べる。

 

 

一通り屋台を満喫した俺達は城のバルコニーへと来ていた。

 

しばらくすると、城を取り囲むように花火が打ち上がる。

 

城の周りの湖から打ち上げ花火が上がったのだ。

 

国民の人達には悪いけど、ここが一番の絶景ポイントだろうな。

 

 

「いやー天気良くてよかったなー。良い感じに風もあるし、綺麗に見えるじゃん!」

「うん!私もこんなに綺麗に見たのは初めてかも!」

「そうなの?なら今年はラッキーだったな!」

 

花火を見てはしゃぐ他の兄弟達を、少し離れた場所で見ながら葵と並んで話す。

 

「…ねえ、いつまで続くかな…。」

 

ふと、葵が不安そうに呟く。

 

それだけで言いたいことはわかる。

 

「そうだなー、ずっとってわけにもいかないだろうな。」

「…そう、だよね。」

「でもな、葵。俺が言いたいのは減る、じゃなく増える、ってことだ。」

「え?」

「今後俺達にも新しい家族が増えるかもしれない…それをどう捉えれるかじゃないかな。」

「うん。」

 

「そうだな、もしもの話な?修が結婚でもしたら俺達に妹が一人増えるわけだ…葵はどう思う?」

「うーん、それは嬉しいかな。」

「そうだな、俺も嬉しい。葵が環境の変化が苦手なことは知ってる、けどだからと言って深く考えすぎなんだよ。こんな風に良い様に考えれば良い。そもそも、これから先どうなるかなんて誰にもわかんないんだから、もう少し今を楽しみな!」

「…うん、そうだね。」

 

「仮に何かあったとしても俺がいる。もうこの町を離れる予定も理由もないしな。」

「うん、ありがとう!なんだか話したらすっきりした!」

「葵はなんでも一人で抱えすぎなんだよ、なんかあったら俺だけでもいいし話しな。相談ぐらいのる。」

「ありがとう!けど、それは翔君も同じ事言えるからね?」

「…わかってるよ。」

 

 

「翔ちゃーん!葵お姉ちゃん!花火やるよー!!」

 

打ち上げ花火も終わり、どこから持ってきたのか手持ち花火を持つ茜が俺達を呼ぶ。

 

「うん!さ、行こ!お兄ちゃん!」

「!?…あぁ、そうだな!」

 

 

俺も葵と同じ、兄弟と過ごすこの時間がたまらなく好きだ。

 

旅から帰ってきて改めて実感させられる。

 

だから葵の気持ちはわからなくもない。

 

けど、だからこそ逆に、今を楽んだ者勝ちだろ。

 

 

「ふぅ…今日もたくさん良い写真が撮れたなーー」

 

 

こうして夏休みは過ぎていったーー

 




次回は明日です!


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第25話【セクハラという名の日常】

夏休みが明け、数日経ったある日の昼休み

 

いつもの5人で昼食をとっているときのこと。

 

「そういえば翔と葵って同じ部屋で生活してるじゃん?」

「あぁ、そうだな。着替えの時とかはちゃんと仕切ってるけど。」

 

菜々の投下した爆弾に教室内がざわめいた(特に男子が)。

 

「ってことは、その気になれば葵の着替えを覗けるわけだ。」

「…まぁそうなるな。」

「二人とも?」

 

慌てる葵をよそに菜々はニヤッと不敵に笑いさらに続ける。

 

「ではでは今日の葵様の下着の色をどうぞ!」

「ちょ!菜々ちゃん!?」

 

静まり返る教室(特に男子が)。

 

菜々の問題発言にさらに慌てる葵。

 

なるほど、そう言うことか…いいだろう、のった!

 

「よくぞ聞いてくれた!この櫻田家長男の私が第一王子として国民のその疑問にお答えしよう!」

「おぉ!よっ!さすが王子!」

「もう二人とも!/////」

 

そこで顔を真っ赤にして恥ずかしがる葵に怒られた。

 

(((可愛いな…)))

 

仕掛けた俺と菜々は勿論、残りの卯月と静流、さらには教室内の全員の心はシンクロした。

 

「と、まぁ冗談はこれぐらいにして。」

「恥ずかしがる可愛い葵も見てたことだしねー。」

 

「もう!/////」と怒る葵を見ながら菜々と笑う

 

菜々とは昔から悪乗り仲間でこうやって二人で葵をいじっては恥ずかしがる姿を見て楽しんでいる。 

 

てか、男ども、あからさまにガッカリするなよ。

 

バカめ!

 

俺が可愛い妹の情報を公に晒すわけがないだろ?

 

たとえ知っていても絶対に教えないね!

 

「で?実際のところは?」

「残念、まだ見たことないからなー…今度確認しとくわ。」

「さすが駄王子!」

「良い度胸だ国民その2よ!貴様は処刑だ!」

「おい!まてよ!その2ってどういうこと!どうせなら1にしてよ!」

「そこ!?」

 

などと話していると、

 

「二人とも茶番はそれぐらいにしときな…あと葵はいい加減怒っていい」

「葵さん顔が真っ赤です!」

「「はーい。」」

 

おっと静流と卯月にも怒られてしまった。

 

葵はただただ恥ずかしさのあまり下を向いて震えていた。

 

 

それから数日後、櫻田家にて

 

「いいもん!将来はあたしの方がおっぱい大きくなるし!」

「はぁ?おっぱいは形が大事なの!」

 

リビングに入ると光と奏がそんな言い合いをしていた。

 

どういう状況だよこれ…。

 

「大きさだよ!修ちゃん言ってた!!」

「言ってねぇ!感ーー「茜ちゃんはどう思う!?おっぱい!」」

 

修よ。

 

光に途中で遮られたけど、俺は聞き逃さなかったよ。

 

小学生相手に感度とか言うのはやめろ。

 

そして、光。

 

茜にだけはふっちゃだめ。

 

「ごめんなさい…」

「謝らないで」

「…ごめん」

「やめて」

 

時すでに遅し。

 

すべてを悟った光と、どんどんHPを削られる茜。

 

「気にするな茜!俺は感度さーー(ゴスッ」

 

修は茜に湯飲みで殴られ気絶した。

 

我が弟ながら恥ずかしいアホだな。

 

「じゃあしょうちゃんはどう思う!?」

 

俺にふるなよ…。

 

「私も興味あるわお兄ちゃん。」

 

…奏も乗るなよ。

 

「私も!」

 

岬、いたのか。

 

「爆乳か!」

「(爆ってお前…)」

 

と、光が

 

「巨乳か!」

「(確かに素晴らしい大きさだ!)」

 

と、奏が

 

「微乳か!」

「微乳って言うな!」

「(おさまりが良いと言いなさい)」

 

光の言葉にツッコむ岬

 

「…ひ、貧乳か…。」

「やめて」

「(ほんとに、やめたげて)」

 

そんな岬を無視して申し訳なさそうに茜を見る光

 

 

えーめんどくさい事になったな。

 

これどれ選んでもアウトな気しかしないんだけど。

 

「「「誰を選ぶの!?」」」

 

え、これ胸の話じゃなかったの?

 

もはや人選ぶことになってるじゃん。

 

 

なら俺は安牌を取ろう…

 

決して、おっぱいと安牌をかけたとかそういうのではない断じて!

 

「び、美乳…かな。」

 

この場にいない葵!それが俺の答えだ!

 

「「「…はぁ!?」」」

 

「お兄ちゃん!またそうやって葵姉さんを選ぶの!?」

 

そんなこと言われましても奏さん。

 

「翔兄!また双子だからって葵姉ばっか贔屓する!びはびでも漢字が違うんじゃない!?」

 

いや、岬も遥のこと大好きじゃんか。

 

人の事言えないよ?

 

あと微乳って認めちゃうのね?

 

「しょうちゃんのシスコン!」

 

今の状況なら誰選んでもシスコンだよ光。

 

そもそもそんな言葉どこで覚えた!?

 

 

その後、1時間以上3人に説教されました。

 

 

その時、葵はというと…

 

「…何してるの葵姉さん?」

 

リビングの扉の前で顔を赤くして入るタイミングを失っていたーー

 

 

 



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第26話【ファンクラブ】

今日は全校生徒が体育館に集まり朝礼をしていた。

 

「ーー来週、全校をあげて町内清掃活動を実施します。」

 

副会長である奏の発言だ。

 

 

「町内清掃ねー…茜、大丈夫かね。」

「うーん。でもあの子真面目だから頑張ろうとはするんじゃないかな?」

「かもな。」

 

教室に戻り葵とそんな話をしていると、

 

「でも茜ちゃんのファングラブの連中がなんて言うかねー。」

 

静流がそう言った。

 

「ファンクラブ?」

「ほら前に電話で話したでしょ?茜にファンクラブが出来たって…。」

「あー!それで修がNo.2ってやつな!」

「ほんと修くんは茜ちゃん大好きだなー!」

 

俺の言葉に爆笑する静流と苦笑いの葵。

 

「シスコンの翔的には、そういうのはオッケーなの?」

「おいおい、菜々。俺をなんだと思ってる。強要してないなら俺は別に何も言わないし、むしろ人気物であって欲しいさ。」

「シスコンについては否定しないんだな…。」

 

菜々の言葉に真顔で答え、それに呆れる静流。

 

「人気者といえば、最近生徒会に入って来てる情報だと翔さんのファンクラブも出来たとかなんとか…!」

 

そこで卯月の爆弾発言。

 

「は!?そんなんあんの!?」

「翔知らなかったのー?あんた校内じゃ人気者だよー!」

「帰ってきてからの短期間で選挙の票も集めてるから案外校内だけに留まってないかもねー!」

 

笑う菜々と静流。

 

「葵は!?知ってたの!?」

「う、うん。まあ…」

「なんだよその歯切れの悪い返事は…なんかあんのか?」

「そのファンクラブのNo.2が奏さんだっていう噂も…」

 

は?卯月さん?可愛い顔してこの子は今なんと?

 

「ごめんもう一回言って。」

「奏さんがNo.ーー「ごめん、やっぱいいわ。」」

 

なにしてんのぉぉぉぉお!?

 

奏ちゃん何してんの!?

 

修といい、奏といい、あの双子はほんとに…。

 

「はぁ…。」

「「「あ、あはは…」」」

 

ため息しか出ない俺を見て苦笑いを浮かべる4人。

 

…よし、聞かなかったことにしよ。

 

 

それからしばらくすると、

 

「葵ー!1年生の子が呼んでるー!」

 

呼ばれた葵は廊下で1年生の男の子と話し出した。

 

「おやおやー?お兄さん、可愛い妹の客人が男だと気になりますかな?」

「からかうなよ菜々。どうせさっき話してた茜のファンクラブの奴とかそこら辺だろ?」

「なんでぇい!これだから頭の良い子供は嫌いだよ!」

「うるせぇよ!」

 

菜々といつものようにふざけた会話をしていると葵が戻ってきた。

 

「葵。さっきのが例の?」

「あ、うん。会長の福品君だよ。」

「会長かよ!?」

 

ファンクラブの人間だろうとは予想はついていたけど、まさかの会長かよ!?

 

「葵ー!またお客さーん!」

 

と、クラスの女の子が次は茜を連れてきた。

 

が、葵と少し会話をしてそのままその子達に捕まり完全にオモチャにされていた。

 

なんか、助け求められてるような気もしたけど…

 

茜、強く生きなさい。

 

 

町内清掃当日

 

「それではみなさん!頑張って町内をピッカピカにしちゃいましょー!」

 

なんとも気の抜けた卯月の言葉と共に各クラスがそれぞれ動き出す。

 

あれでいて生徒会長を勤めているというのだから大したものだ。

 

「ん?茜のクラスか?はりきってんなー」

 

例のファンクラブの会長もいるだけあってか、茜のクラスは一番貢献していたのは語るまでもないーー




次回は明日です!


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第27話【女子会おじゃまします】

休日

 

今日は特に予定もないので、いつも通り光と甘いものを開拓しに町に繰り出していた時の事だった、

 

「ねえ、いいじゃん!俺達と遊ぼうよ!」

「あんたらなんて興味ないから、どっかいって!」

「へー。気の強い女は嫌いじゃないぜ?」

「んじゃ俺はこっちの黒髪で清楚系の子を…」

「いや!離して!」

 

おいおい、こんな白昼堂々とナンパかよ。

 

女の子2人が3人組の男に絡まれていた。

 

光も気づいたのだろう。

 

俺の服の袖を掴んで来た。

 

「しょうちゃん!」

「そうだな。助けてあげるか!ちょっとここで待ってな。」

「はーい!」

 

そう言って光の頭を撫でて歩き出す。

 

「やれやれ…よ!」

 

そして、短刀を呼び寄せ投げつける。

 

「いいから!こっちこいよーーな!?」

「「「!?」」」

 

短刀は男の目の前を横切り後ろの壁に刺さる。

 

その一瞬の出来事にその場にいた全員が驚き短刀に目をやる。

 

もちろん他に人がいないことは確認済みだ。

 

そして、俺は短刀にワープし、壁から短刀を抜き戻す。

 

「な!?櫻田家の長男!?」

「困るんだよねー。せっかく可愛い妹と遊びに来てるのにさー。…とりあえずその子の手、離してあげてくれる?」

「は、はぃい!すいません!!」

「おっけー。んじゃこれはこの子に怖い思いさせた分ね。」

「「「!?」」」

 

そう言ってもう一度短刀を呼び寄せその男の腹を刺す。

 

もちろん全員驚くわな。

 

しかし、安心してほしい。

 

「なーんて!こっちはただのオモチャのナイフなんだけどね!ほら!引っ込むやつ!」

 

と爆笑しながらオモチャのナイフをシャカシャカしていると、

 

「あれ?気絶しちゃった?大の男が情けないなー」

 

本物と勘違いした男は思わず気絶してしまった。

 

「まぁ、いいや。君達、こいつ連れてってくれる?あともうこういうのやめなよ、な?」

 

残りの男2人に若干の殺気を込めて笑いながらそう指示する。

 

せっかくの光とのお出掛けを邪魔されて不快なものまで見せられたんだ。

 

光の教育にもよろしくないし。

 

一応俺怒ってるんだよ?

 

「「は、はぃぃぃい!すいませんでしたぁぁあ!」」

 

そして、男2人は気絶した男を抱えて逃げて行った。

 

「んー…やりすぎたかな?」

「いや、あーいう輩にはちょうど良いですよお兄さん」

 

そう言って気の強い方の女の子が俺の横に並ぶ。

 

お兄さん?

 

「あれ?あー瞳ちゃんだったか!」

「はい!お久しぶりですお兄さん!」

 

その子は一条 瞳(いちじょう ひとみ)ちゃん。

 

修の小学校からの馴染みの子で、俺も昔何度か修を通して話したり遊んだことがある。

 

「助けてくれてありがとうございました!」

「いーえ。たまたま通りかかっただけだよ!」

「あ、あの…」

「あ、紹介しますね!この子は私と修と同じクラスのーー」

早乙女 零子(さおとめ れいこ)です!ありがとうございました!翔様!」

「様はいらないよ!改めまして、櫻田 翔です!よろしく早乙女さん!」

「はい!」

 

自己紹介を交わしていると、

 

「瞳ちゃーん!零子ちゃーん!お待たせ!ってしょ、翔さん!?」

「やあ佐藤さん。君はいつも俺の顔見て驚くね。」

「す、すいません!」

 

佐藤さんがやって来た。

 

「しょうちゃーん!遅いから来ちゃったよ!ていうか見てたけどやりすぎだよ!」

「あーごめん光忘れてた。」

「ひどい!今日もしょうちゃんの奢り決定ね!」

「かしこまりましたお姫様!それじゃ3人とも俺ら行くわ、今後も気をつけてね!」

 

そう言って光を連れて去ろうとしたところ、

 

「あのーー」

 

 

「んー!このお店初めて来たけど美味しいね!」

「そうだな。こんな店があったとは、全然知らなかった。」

「でしょでしょ?私のイチオシなんですよここ!」

 

あの後、3人に呼び止められ助けられたお礼もしたいと言うことで一緒にお茶をする事になった。

 

瞳ちゃんのオススメのこの店。

 

店内の雰囲気も落ち着いているし、ケーキも美味しい。

 

これだけでもついてきたかいがあったもんだ。

 

「ところで今日3人はなんの集まりなの?」

「え、とそれは…」

「花の恋バナでーす!」

「ひ、瞳ちゃん!?」

「あぁ。修の事か…。」

「え!?花ちゃん修ちゃんの事好きなの!?」

「ひ、光ちゃん!?」

 

おっと、光は知らなかったなこれは失言だったか。

 

てかもう下の名前で呼び合う仲かよ…凄いな女の子ってのは。

 

「光。これは佐藤さんの問題だ。家では口にするなよ?」

「わかってるよ!乙女の恋愛事情は絶対だもん!」

「そうか。ならいい。」

 

光も変なとこ律儀なんだな。

 

「それにしても修ちゃんなんかのどこがいいのー?」

「ほんとだよねー!」

 

修を昔からよく知る光と瞳ちゃんが笑い合う。

 

修、哀れ。

 

「…櫻田君は、何年も会ってなかった私の事、ちゃんと覚えててくれたんだよね。去年同じクラスだった男子にも覚えられてない私をだよ?そんなの…好きになっちゃうじゃん/////」

「「「ふーん、そうですか。」」」

 

聞いといてあれだが、佐藤さんの惚け話に俺も含めその場にいた全員が興味なかったなといった感じに軽く返事をしてそれぞれケーキを食べたりお茶を飲む。

 

「まあ、理由はどうあれだ。前にも言ったけど俺は応援するよ?修に彼女ができるってのも兄貴的に嬉しいし」

「そ、そんな彼女だなんて、まだ…」

 

あ、だめだ自分の世界に入っちゃってこの子。

 

「そういう翔さんは彼女作らないんですか?」

 

と、早乙女さんに話をふられた。

 

「んー。俺はまあ、まだまだいいかなー。こうやって可愛い妹弟達と過ごす時間の方がいまは大切だし。ほら、俺長いこと一緒にいれなかったから余計、ね。」

 

そういいながら光の頭を撫でる。

 

光もこちらを見て、にっ!と笑う。

 

「そもそも、俺達は王族だ。彼女ってことは王族と関係を持つってことだ。そうなったら、その子は今までの生活から一変することになるし、ツラいことも沢山降りかかると思う。そう思ったらなかなか、ね…。」

 

横目で佐藤さんの方に目をやると、自分の世界から帰ってきてなにか思い当たる節があったのだろう、俯いていた。

 

 

それからしばらくして時間も時間なので解散することになった。

 

「いやーお兄さん!ごちそうさまでーす!」

「すいません!助けていただいてさらにお金まで…。」

「いいんだよ早乙女さん!良いお店教えてもらったお礼さ!ここは男の俺にカッコつけさせてよ!」

 

そう言って笑う。

 

 

「あの、翔さん。さっきの話…櫻田君も…。」

 

佐藤さんが他の3人には聞こえないようにこっそり俺に近づく。

 

「…どうかな。修の考えを全部わかるわけじゃないけど、少なからず思ってはいるかもね…。」

「そう、ですよね…。」

「諦めないんだろ?」

「え?」

「俺はあの時の君の言葉、信じてるよ!だからもう少し修の事待っててあげてくれないかな?」

「は、はい!もちろんです!」

「うん!ありがとう、よろしくね!」

 

こうして俺達は解散したーー

 

 

 

 

 

 



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第28話【体育祭 午前】

「それではみなさん!今日は優勝目指して頑張りましょー!」

 

「相変わらず気の抜けた挨拶だなー。」 

「あれはあれで卯月ちゃんの良いところでもあるからね!」

 

今日は体育祭。

 

年ごとにクラスをくじで分けて組まれた3チームで競い合う。

 

俺と葵のクラス、修と奏のクラス、茜のクラスは綺麗にわかれた。

 

青、白、赤の3チームだ。

 

もちろん俺達王族は能力の使用は禁止だ。

 

 

着々と競技が進行されていき、

 

『続いての競技は二人三脚です!』

 

本日最初の俺の参加する競技が回ってきた。

 

もちろん俺のペアは葵だ。

 

「うし、行くか葵!」

「うん!」

 

お互いの足を結び立ち上がると、修と佐藤さんが仲良く足を結んでいるのが目にはいった。

 

ほほーう、さては瞳ちゃん辺りの根回しかな?

 

「修。イチャイチャしているとこ悪いけど、いくらお前と佐藤さんのペアでも俺と葵には勝てねえよ!」

「兄さん!?それに姉さんまで!?さすがにそのペアはずるくないですか!?」

「なに言ってんだ?俺と葵は一心同体なんだから当然だろ!」

 

「お互い頑張ろうね!花ちゃん!」

「はい!葵さん!」

 

ちなみに葵と佐藤さんも既に下の名前で呼び合う仲で葵も二人の事情をしっている。

 

ていうか隠してたのバレて俺が話した。

 

ほんと、葵に隠し事は出来ない。

 

 

まあ、結果はもちろん俺と葵のペアはぶっちぎりのトップ。

 

修と佐藤さんのペアは2位となった。

 

「まだまだだな!その程度じゃ夫婦にはなれんぞ!!」

「「ふ、夫婦って!?」」

 

二人して顔を赤くして顔をそらす修と佐藤さん。

 

「翔君、大人げないよ…。」

 

葵に怒られました。

 

 

『続いての競技は借り物競争です!』

 

お、そういえば茜と奏が参加すると言っていたな。

 

って二人して同じ番かよ。

 

スタートの合図がなり一斉に走り出し、それぞれ借りてくるものが書かれた紙を拾う。

 

校内だからか、茜も生き生きしてるなー。

 

にしても…

 

「…なんか二人してこっち向かってきてない?」

「う、うん…。」

 

横に座って見ていた葵とそんな話をしていると、

 

「しょうちゃん!来て!」

「お兄様!私と来てください!」

 

俺の腕をそれぞれ掴み同時にそういう茜と奏。

 

「ちょっと茜?私の方が先よ!」

「かなちゃんこそ!その手離してよ!」

 

やめろ、こんなとこで喧嘩すんなよ…。

 

それからしばらく睨み合う二人?

 

互いに譲ろうとしない。

 

そろそろ俺も腕痛いんだけど?

 

「…茜、奏。もう他のみんなゴールしちゃったよ?」

 

そこで葵からの助け船。

 

遅すぎて茜と奏は失格となった。

 

「それで?結局のとこ二人ともなんて書いてあったの?」

 

「「な、なんでもない!!/////」」

 

そう言って二人は去っていった。

 

「なんだったんだよ…。」

 

奏の紙には頼れる人、茜の紙には壁とそれぞれ書かれていた事を俺が知ることはなかったーー。

 

 

『続いての競技は棒倒しです!』

 

我が校の棒倒しは男子のみで行われ、危険を避けるため棒の先に刺さった旗を先に取った方の勝ちとなる。

 

あと服を引っ張るやつも出てくると危ないから上半身は裸だ。

 

「んじゃ、行ってくるわー。」

 

そう言って自分の席から立ち上がりその場で上着を脱ぐ。

 

「ちょ!ここで脱ぐの!?」

「え、だって上脱がなきゃだめなんだろ?」

「諦めな葵。翔は昔からこういう奴なんだから…。」

 

驚く葵と呆れる静流と菜々。

 

え?なに?なんで俺呆れられてんの?

 

ちなみに卯月は生徒会長の仕事で本部の生徒会テントから動けない。

 

 

とりあえず集合場所へ向かう。

 

…あ、ここで脱ぐんだ。

 

俺1人だけ上裸でここまで来たじゃんか恥ずかしいな!

 

 

スタートの合図がなり両チームの攻めが一斉に駆け出す。

 

俺も一応攻め担当なので、その後ろ小走りで追いかける。

 

どちらも譲らぬ攻防戦。

 

さて、いい加減終わらせるかな…。

 

そう思いながら相手の守備の中で手頃な人物を見つける。

 

「やあ、武田、だっけか?いつも茜がお世話になってるよで…。」

「!?櫻田さん!?」

「ついでなんで今回は俺の事もよろしく頼むわ!」

 

そう言って自軍の棒を支える武田の肩によじ登る。

 

がたいの良い3年生の武田、たしか茜ファンクラブの副会長だったはず。

 

武田には悪いけど、肩を蹴り上げ一気に旗を掴み着地する。

 

 

「いやーでかいのいて助かったー!」

 

座席に戻り上着を着直す。

 

「翔ってたまに冷静に酷な判断下すときあるよねー…。」

「まぁ、それもまた王族として必要な事なのかもしれないけど…。」

「翔君、あまり無茶はしないでね…。」

 

菜々、静流、葵は相変わらず呆れていた。

 

それと終始周りから何やら熱い視線を感じ続けてた気がするんだけど…気のせいかな?

 

 

『これにて午前の部は終了となります!午後の最初の種目は王家の方々によるエキシビションとなります!』

 

「「「はあ!?」」」

 

この体育祭、ただでは終わらなさそうだーー

 




次回は明日です!


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第29話【体育祭 午後】

前回の続きです!

戦闘シーンを文字で表現するのって難しいですね。


体育祭の午前の部が終了し、合流した卯月を含めいつもの5人で昼食をとっていた。

 

「それで、どういうことだ卯月?俺達初耳なんだけど。」

 

午後一発目に俺達王家のエキシビションがあることを知った俺達は生徒会長である卯月を問い詰める。

 

「あれ?奏さんから何も聞いてないんですか?」

「…聞いてない。葵は?」

「私も何も聞いてないかな。」

「えぇ!?そうなんですか!?そうとは知らすごめんなさい!」

「別に卯月ちゃんが謝ることじゃなよ!」

「そうだぞ。どうせ奏の独断だろ、前もって話すと茜が了承するわけないからな。」

 

「うぅ。実は奏さんの提案で体育祭を盛り上げるために今回の件を行おうと…。」

「なるほど…翔君、どうする?」

「どうするもなにも、ここまできたらやらしかないだろ。まぁ、いんじゃね?それで盛り上げるなら!で、俺達は何をさせられるんだ?」

「はい。各チームそれぞれ1名が出てもらって頭に巻いたハチマキを取りあってもらう簡単なルールです!」

「だから綺麗に俺達兄弟が別れたわけか…まんまと奏にしてやられたなー。」

「…笑い事じゃないよ翔君…。」

「王家のエキシビションってことは能力ありだろ?」

「あ、はいです!」

「なら能力的にうちのチームは俺だな!茜は確定だろうし…あとは、修か…。」

「なんでわかるの?」

「ここまで仕組まれてんだ、いまさら奏が自ら動く理由はまずない。能力的にみてもそのルールなら修のが有利だしな。」

「なるほど。あまり無茶はしないでね…。」

「わかってるよ!…今回一番の被害者は修だな。」

 

こうして昼休憩が終わるーー

 

『それでは!これより午後の部を開始したいと思います!午後の部、第一種目から盛り上げてくれますのは王家の方々です!』

 

こうしてグランドの中央に俺、修、茜が立たされる。

 

「やっぱ修が出てきたか。」

「ええ、あの奏には逆らえませんでした。」

 

両手をあげ、やれやれといった感じの修。

 

 

『ルールは簡単です!頭に巻いたハチマキを取り合ってもらい、最後に残った方の勝ちとなります!』

 

「二人とも!やるからには私、負けないよ!」

「今日の茜は生き生きしてるなー。」

「だ、だって校内だし学校のみんなしかいないもん!」

「他所でもそうなってほしいもんだわ…。」

 

『今回のみ特殊能力の使用もオッケーとさせていただきます!』

 

「…茜。提案なんだが、まず協力して兄さんを倒すと言うのはどうだろう?」

「え、そんな、ずるくない?」

「考えてもみろ。俺とお前、どちらかのみで兄さんを倒すは不可能だ。お前も兄さんの強さは知っているだろ?」

「…う、確かに。」

 

こいつら…本人を目の前にして、そんな仲間はずれにするなよ!

 

お兄ちゃん泣くぞ?

 

まあ、

 

「いいよ?修と茜、二人でかかってきなよ!」

「翔ちゃんもそれでいいの!?」

「ああ。まあ?お前ら二人がかりでも負ける気はしないけどね?」

「いってくれるじゃん!こうなったらやるよ!修ちゃん!」

「ああ。だが茜、一筋縄じゃいかないのは本当だぞ。油断はするな。」

「わかってるよ!」

「さらにハンデだ、俺はこれの内これだけしか使わない。」

 

そう言って夜叉王の刀剣、6本の短刀を手元に呼び出し3本戻す。

 

「いくらワープ出来るからって私達からたったの3本で逃げ切れるとでも?」

「ああ、問題ない。」

「ーー!?本当に後から後悔してもしらないからね!」

「前の人形のゲームでは勝ちを譲ったけど、今回は負ける気はないから安心しな!」

 

『それでは、用意!ーースタートです!』

 

「「!?」」

 

スタートの合図と同時に茜に向かって1本投げつける。

 

「わ!ちょ!!ーーいきなりびっくりするじゃん!」

 

茜はそれを能力で弾き上げ、短刀は宙を舞った。

 

茜の言葉も聞かず俺は打ち上がった短刀にワープし、茜の頭上から奇襲ーー

 

「…へーやるじゃんか。」

 

と、思ったが失敗した。

 

茜のハチマキを掴む手前で、かわされた。

 

「ならこういうのはどうだ?」

 

もう一度茜に向かって1本投げる。

 

「2度も同じ手は通じないよ、翔ちゃん!」

 

またも弾かれる。

 

「ああ、2度はないーー!」

 

しかし、俺は冷静にその弾かれた短刀に向かってもう1本投げる。

 

それは、先に弾かれた短刀をさらに空中で弾き、弾かれた先の短刀は茜の背後の地面に刺さる。

 

「どこ狙ってーー「ばか!茜!後ろだーー!!」え?」

 

そしてその刺さった短刀にワープ。

 

今度こそ捉えたーー

 

「あら?」

 

またも失敗。

 

「ありがとう修ちゃん!」

「あぁ。茜、兄さん相手は本気でいかないとキツいぞ。」

「うん…そうみたいだね。」

 

今度は修が能力を使い、茜ごと瞬間移動で逃げられた。

 

うーん、この勝負、やはり修の能力は厄介だな。

 

「それじゃあ、今度はこっちから行くよ!修ちゃん!」

「おう!」

 

そう言って茜がこちらに向かって駆け出し、修は姿を消す。

 

「てりゃ!」

 

修の奴、どこへ飛んだ?

 

茜の攻撃を受け流しながらも、意識は修に集中させる。

 

「よそ見はよくないよ、翔ちゃん!」

「ん?おわっ!?」

 

そう言って茜は俺の腕を掴み能力を使い背負い投げをする。

 

普通なら対処できるが、茜の能力で重力が操作されていてどうこうできる話ではない。

 

「まだまだ!」

「!?がはっ!?」

 

さらに、叩きつけると同時に重力で押さえつけられた。

 

容赦ねーな。

 

普通の人なら気絶もんだぞ!

 

「よし!捕まえた!修ちゃん今の内に!」

「ああ!」

 

そしてどこからともなくそばに現れた修が歩み寄り俺のハチマキへと手を伸ばす。

 

けど、

 

「いいのか?二人とも、そこ、頭上注意だ。」

「「!?」」

 

その言葉に二人が上を見上げた瞬間、短刀がそれぞれに降り注ぐ。

 

修はギリギリのところで瞬間移動でかわし、茜も掴んだ腕を離してかわさざる得ない。

 

茜に投げられ上を通過するときにあらかじめ投げておいたのだ。

 

修が出てくる位置は偶然予想が的中しただけだが、当初の目的の茜から脱出は成功した。

 

「いやーおしかったねー。危ない危ない。」

「もう!もう少しだったのにー!」

 

しかし茜もちゃんと能力を使いこなせてる見たいで関心関心。

 

「こうなったら一気に決めるぞ茜!」

「…うん!わかった!」

「よし、いくぞ!」

 

距離を取った二人の間で作戦会議が行われ、また修が消える。

 

「またか?ーー!?」

 

と、思ったら修は目の前に現れ、俺の顔へ手を伸ばす。

 

「っぶな!?」

 

思わず後ずさるが、背後にはーー

 

「よし!もらったー!!」

「!?」

 

茜がいた。

 

なるほど、修が俺の視界を奪っている内に回り込んだか!

 

まずいな、挟み撃ちか!

 

「「取ったぁぁぁあ!!」」

 

俺のハチマキへと同時に伸びる二人の手。

 

しかし、

 

「ま、及第点かな。」

 

俺はニヤリと笑い、茜の背後へワープした。

 

結果、二人が掴んだのはお互いのハチマキ、互いに取り合う形となった。

 

『しゅ、終了!勝者、翔様!』

 

司会の言葉と共に歓声が上がる!

 

「な、なんで!?」

「兄さん、なにをしたんです?短刀は投げていないはずですが?」

「けど、俺の手元には2本しかないぞ?」

「「!?」」

「答えは茜のポケットだ。」

「え?」

 

驚く二人に種明かしをし、茜が自身のジャージのポケットに手を入れる。

 

「あ!これ、いつの間に!?」

 

すると、ポケットから短刀が1本出てきた。

 

切れ味、重さも自在に操れるからな茜が気づかなかったのも無理ない。

 

ほぼ重さを感じさせないよう調節しておいたし。

 

「茜の攻撃を受け流してたとき、ついでにな。」

「そ、そんなー!全然気づかなかった!」

「やはり兄さんには勝てませんか。」

「いや、二人ともなかなかおしかったよ!ただ、まだまだお兄ちゃんの方が上なだけだな!」

 

そう言って二人に手を降りながら自分のチームへと戻る。

 

 

「あー疲れたー。」

 

エキシビションが終わり自分の席へと戻ってきた。

 

「ふふ、やっぱり翔君は優しいね!手加減してたでしょ?」

「あ、ばれてた?」

「「あれで!?」」

 

驚く菜々と静流。は、おいておいて、

 

「それでも疲れたもんは疲れたんだよ。ちょっと休憩。最後の競技になったら起こしてくれ。」

 

そう言って葵の膝を枕にして寝る体勢へ入る。

 

「おい翔!こんな日にまでイチャつくなよ!」

「そう言うなよ菜々。葵の膝枕ほど快適なものはない!こんどお前も試してみると良い!」

「そうなの?なら仕方ないな!」

「仕方なくはないだろ…。」

「んじゃ、おやすみ…。」

「あ、翔君…もう…!」

 

葵の静止も気にせず眠りにつく。

 

ちなみに、俺の趣味は昼寝だったりする。

 

暇さえあれば寝るし、授業中も気づいたら寝てしまっていてよく葵に怒られている。

 

あ、けど寝起きは良い方だから安心してほしい。

 

そしてなにより!俺の特等席はこの葵の膝枕だ!

 

ここほど安眠できる場所はないぞ?

 

他の男になんか譲る気はないけどな!

 

 

それから競技は進み、

 

『最終競技はリレーです!出場者は入場ゲートに集合してください!』

 

「よし!起きろ翔!最後だ!これは手を抜くなよ!やるからには絶対勝つ!圧倒的勝利だ!」

「んー?ああ…気合いはいってんなー菜々。」

「当たり前だろ!体育祭のメインじゃないか!」

「アンカーで走る俺の身にもなれよ。」

 

最終競技で菜々に起こされ、葵と静流に手を振りながら菜々に連行される。

 

寝起きなので一応、体をほぐしながら菜々の相手をする。

 

なぜか俺がアンカーを勤めることになり、前走者は菜々だ。

 

茜ほどではないが今日一日で目立ちすぎて、結構疲れたし今日はもう目立つの事はいいんだけどなー。

 

 

まあ、菜々と二人で他のチームとは一周差をつけてのぶっちぎり勝利をし、俺達のチームが優勝したのは余談だ。

 

 



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第30話【シンデレラ】

光回です!
個人的にお気に入りですw


「それじゃあ翔君お願いね!」

「ああ、行ってくる」

 

今日は光の誕生日。

 

岬と遥の時同様、今回も俺が主役を連れ回すことになったのだが…

 

「…なんでまた成長してんの?」

「ふふーん!だってデートでしょ?だからしょうちゃんの年齢に合わせてみましたー!」

 

輝と栞のお使いの話の時と同じように16歳に成長した光が俺の腕を組んみながら笑った。

 

「いや、確かにデートでもいくかーとは言ったけど、普段通りのお出掛けのつもりだったんだけど?」

「なに言ってるのしょうちゃん!デートとお出掛けは違うんだよ!」

「…そうですか。それは失礼いたしました。けど、そのまま帰ったらまた輝が騒ぐぞ?」

「ふっ、それなら心配ご無用!昨日の内に能力使っておいたから、夜までには戻るはずだよ!」

「用意周到なことで。それはわかったけど、この腕は離してはーー「だめ!」ですよね。デートですもんねー」

 

そして光の提案で水族館へと来ていた。

 

「わー色んな魚がいるんだねー!ボルも連れてきてあげたいな!」

「…それはやめといたほうがいい。確実に迷惑だ」

 

まあ、王族の特権とか言ってしまえば可能だろうけど…というのは言わないでおこう、やりかねん。

 

「あ、この子すぐ隠れるから茜ちゃんみたい!」

「ほんとだなー!」

 

ぷ、よりによってチンアナゴか。

 

クマノミとかならまだ可愛かったのにな。

 

「しょうちゃん見て見て!イルカだよー!」

「へー凄いかしこいな!」

 

イルカショーを見て一通り見て回った。

 

その後、二人で開拓した行きつけの店に行き軽くお茶をしたり、バッティングセンターへ行ってみたいと言う光の要望でバッティングセンターへ行ったり、ゲームセンターへ行ってプリクラを撮ったり、エアホッケーで遊んだりと、1日を満喫した。

 

さすが、見た目は16歳でも中身は小学生、元気が有り余っているな。

 

そして、

 

「ねえ!しょうちゃん!最後に行きたいところあるんだけどーー」

 

 

「きたー!海だー!!」

「季節外れだけどな。いま10月だぞ!」

 

夕焼けの海。

 

季節も季節なので肌寒い風が吹き付ける。

 

「綺麗だね!」

「ああ。」

「やっぱりデートと言ったら海でしょ!」

「そういうもんか?」

 

海沿いを歩く。

 

「今日はみんなの時間稼ぎの為に誘ってくれたんだよね?」

「なんだ、気づいてたのか?」

「そりゃあ、毎年兄弟全員にしてるんだもん」

「まあ、言われてみればそうだな」

 

「それでも今日1日すっごく楽しかったよ!ありがとうしょうちゃん!」

「そうか?それはよかった!どういたしまして」

 

「次はしょうちゃんと葵ちゃんの番だから楽しみにしててね!」

「ああ、そうするよ。けどそれ本人に宣言しちゃ意味ないだろ」

「ーー!?しまった!!」

「まったく…。」

「えへへ…くしゅん!」

「ほら…これでも羽織りなさい」

 

そう言ってくしゃみをした光に、自分の着ていた上着をかける。

 

「誕生日当日に主役に風邪引かれちゃ困るからな」

「ありがとう!」

 

無邪気に笑う光。

 

「それと、みんなより先に…」

 

誕生日プレゼントにと買っておいたネックレスを光の首にかける。

 

「光に似合うかなと思って買っておいたんだ!俺からの誕生日プレゼントな!」

 

そして光の頭を撫でる。

 

「!?可愛い!ありがとう!大切にするね!」

 

そう言って光は前に出て振り返り、

 

「どう?似合ってる?」

「ああ。やっぱりそれ選んで正解だったわ!」

 

二人で笑い合う。

 

その時、

 

「!?あれ?戻っちゃった!」

 

光は能力の効果が切れて元の身長に戻ってしまった。

 

「まったく。相変わらず光は肝心なとこ抜けてるなー」

 

光な頭を撫でて抱き上げる。

 

「なんかしょうちゃん王子様みたい!」

「いや、これでも本物だからね。それを言ったら光はシンデレラみたいだなー。魔法の時間切れ、みたいな?」

「じゃあ王子様はしょうちゃんだね!?」

「いや、王子様の目の前で魔法解けちゃだめだろー。さしずめ俺はカボチャの馬車ってとこかな」

 

そう言って光を下ろしながら二人で笑い合う。

 

「さ、日も沈んで魔法も解けちゃったし、そろそろ帰りますかお姫様」

 

光に背を向けてしゃがむ。

 

「その服じゃ歩けないだろ?」

「あ、そっか!」

 

光が着てた服じゃ元の身長に合わないからぶかぶかだ。

 

 

帰り道

 

光をおんぶしながら歩いていると、

 

「ねぇ、しょうちゃん…」

「んー?」

「今度はみんなで来ようね!」

「ああ、そうだな!」

 

無邪気に笑う光。

 

奏が言っていた通りかもな…。

 

俺は一番光に甘い。

 

やっぱりこの笑顔より勝るものはなさそうだ。

 

「しょうちゃんだーいすき!!」

「ありがとう。俺もだよーー」

 

俺の可愛いお姫様(シンデレラ)ーー




次回は月曜日となります!


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第31話【学園祭 1日目】

今日は1話だけの投稿になります。
少し長いです。

タイトル通り今日から3日間学園祭の話になります。


「いらっしゃい!いらっしゃいーー!!」

 

「あ!ここのお店行ってみよー!」

 

「これ美味しいー!」

 

今日は我が校の学園祭。

 

年に1度、この季節に金土日の3日間かけて行われる本校の学園祭は国内一の学園祭と言われる程、大きなイベントして賑うらしい。

 

「つか、夏祭り以上の盛り上がりじゃね!?」

 

平日なのにこの盛り上がり!?土日やばいやつじゃん!国負けんなよ!と廊下の窓から外を眺めて一人はしゃいでいる頃、

 

「翔珍しくテンション高いなーどうした?」

「無理もないよ。翔君こういうの初めてだから…」

「そうか、ずっと旅してたからね」

「…うん」

「でしたら思いきり楽しんで貰えるように私たちも頑張らなきゃですね!」

「うん!そうだね!」

 

いつもの4人でそんな会話がなされていた。

 

 

ーーーーーーー

 

翔達のクラスの模擬店はカフェだ。

 

普段からカフェ巡りをしている翔プロデュースのもと、仕込まれた接客技術と、葵や調理部、製菓志望の子らと完成させらたスイーツが売りだ。

 

そしてなにより、

 

 

「いらっしゃいませお客様。本日は当店をご利用いただき、ありがとうございます」ニコッ

 

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」ニコッ

 

「大変お待たせいたしました」ニコッ

 

「ありがとうございました。またのお越しを心よりお待ちしております」ニコッ

 

 

翔の洗練された接客マナーと営業スマイルは女性客から絶大の人気を誇っていた。

 

普段から多くの人の相手をしている王族である翔だからこそ出来ることでもあるだろう。

 

それは、

 

「あの笑顔は反則だろ/////」

「テンションがあがってノリノリな分余計な/////」

「あんな楽しそうな翔君久しぶりかも/////」

「はうあ/////」

 

いつも一緒にいる仲の良い4人ですら顔を赤め見惚れる程の威力だった。

 

「お客様、よろしければお茶のおかわりなどはいかがでしょうか?」ニコッ

「は、はい!お願いします!/////」

 

「まあ、あの笑顔のおかげで儲かってるし良いか」

「「「…うん、まあ」」」

 

もちろんおかわり制度などなく、新たに料金が上乗せされる。

 

翔は商売上手だった。

 

ーーーーーーー

 

「いやーよく働いたー!」

「お疲れ様!翔君大活躍だったね!」

「そうか?ならよかったけど、お客さん達みんなおかわりいっぱいしてくれて良い人達ばかりだったなー!」

「(やっぱり無自覚なんだな…)」

 

そして今日の自分のシフトも終わり一段落ついたので葵と学園祭をまわっている。

 

「さーてどこからまわろうかなー!葵どっか行きたいとこある?」

 

配布されている会場マップを見る。

 

「今日は翔君の行きたいところまわろ!」

「え?いいの?遠慮すんなよ?」

「ううん、大丈夫!」

「そうか?ならさっそくなんだけどーー!

 

マップを見たときから一番最初に行きたいと思っていた。

 

「よ!修!それに花ちゃんも!」

「花ちゃんこんにちは!」

「あ!翔さん、葵さん!こんにちは!」

「兄さん、姉さん。来てくれたんですか」

 

修達のクラスのクレープ屋だ。

 

「そりゃお前、花ちゃんのクレープが食べれるんだぞ?来るに決まってるだろ!」

「そうだね!花ちゃんのクレープ美味しいもん!」

「え!?兄さんと姉さんいつのまに食べたんです!?」

「翔さんと葵さんはたまにうちのバイト先に来てくれるんだよ!その時に!」

 

そう、花ちゃんのバイト先は最早俺と葵の行き着けとなっていて、あこの店のクレープが何より美味い。

 

そして、他の店員では俺達に緊張して裏で何枚も失敗していると花ちゃんに聞いて以来、花ちゃんが俺達の専属みたいになっている。

 

花ちゃんも大分俺達に馴れてくれたし嬉しいなー。

 

俺も花ちゃんと下の名で呼ぶくらいの仲にはなっている。

 

「なんだ?修、食べたことないの?ぷーくすくす」

「っな!?」

「…翔君…」

 

修をからかう俺を見て、呆れて苦笑いを浮かべる葵。

 

「ほーう、花ぁ、身内から攻める作戦かぁ?」

 

奥からこちらに手を振りながら瞳ちゃんと早乙女さんが出てきたので俺も手を振り返事をしながら、

 

「なるほど、そういうことだったのか!?これはしてやられた!」

「ちょ、瞳ちゃん!?翔さんも!?そんなつもりじゃ!」

 

瞳ちゃんの冗談に乗っかり二人で花ちゃんをからかう。

 

「ははは、冗談だよ!けど花ちゃん、本当に俺の妹になんない?」

「に、兄さん!?/////」

「ええ!?い、いいいい、妹だなんて!?つまり私と櫻田くんが…そんな、私まだ心の準備が…!/////」

 

顔を真っ赤にして慌てる修と花ちゃん。

 

もういいよ、早く付き合えよお前ら。

 

「もう翔君!翔君はクレープが食べたいだけでしょ?」

「ありゃ、ばれた?てか、花ちゃん焦げてるよ…」

「え?ああ!?」

 

そんな会話で盛り上がった後、当初の目的通り花ちゃんのクレープを食べて満足した俺達はその場をあとにした。

 

「そういや、奏いなかったな」

「奏は生徒会役員として校内の見回りとかがあるから忙しいんだよ」

「あーそういや卯月も出張ってたな」

 

そんな会話をしている内に次の目的地へと到着。

 

「よう花蓮!」

「こんにちは花蓮ちゃん!」

「あ!翔さん!葵さんも!こんにちは!来てくれたんですね!」

「おう、売り上げに貢献しに来たよ!」

 

この子は鮎ケ瀬 花蓮(あゆがせ かれん)

 

茜のクラスメイトで、茜の幼馴染み。

 

昔からよく家に遊びに来たりして、俺のことも兄のように慕ってくれている。良い子だ。

 

「ここっておばけ屋敷だよな?」

「はい!そうですよ!」

 

茜達のクラスはおばけ屋敷らしい、のだが…

 

「ひぃぃぃい!ご、ごご、ごめんなさいぃぃ!」

 

中から脅かす側のはずの茜の悲鳴が聞こえてくる。

 

「…おばけ、だよな?」

「…はい、一応…」

 

苦笑いを浮かべる俺達3人。

 

「…ま、まぁ、とりあえず入ってみようよ!」

「あ、ああ、そうだな」

 

 

「ぅ、ぅぅ、ぅ、うらめしやー(ボソッ」

「「…」」

 

…なんだこいつ。

 

「っは!翔ちゃんに葵お姉ちゃん!?…うらめしやぁぁあ!!」

「はいカットぉ!何事もなかったかのようにテイク2入るんじゃねえ!(ピコッ」

「あぅ!?」

 

思わず、ピコピコハンマーを呼び出して、真顔でやり直すおばけの茜の頭を叩いてツッコミをいれる。

 

「なんだ最初の蚊みたいな声は!?あれで脅かしてたつもりか!?んで、何2回目やってんだよ!いけると思ったのか?最早その根性が怖いわ!」

「うぅ、だ、だってー。知らない人も来てるから…」

 

頭を押さえながらそういう茜。

 

どこの世界に挙動不審のおばけがいるんだよ。

 

こんなんで明日明後日大丈夫なのか?

 

「でも茜、いまのじゃさすがに…」

「ほら見ろ茜。あの葵ですら対応に困る有り様だ!」

「す、すみません」

「なんかないの?こう、能力で物浮かせてポルターガイスト、的な」

「む、無理だよ!触れてないと浮かせれないもん!」

「そうか。ならせめて自分だけでも浮いてろ。それだけでも雰囲気は出る」

「な、なるほど」

 

こうして客であるはずの俺による、おばけ講座が始まった。

 

なにしてんだろ、俺。

 

 

「わー思ったより暗いですね奏さん!」

「もう。付き合えるのはこの休憩の間だけですからね?」

「わかってますよー!」

 

おっと、こうしている内に次のグループが来てしまった。

 

会話と声から察するに奏か…ちょうどいいな。

 

そして俺はニヤッと笑い、手本を見せてやると、茜と葵に隠れているような指示して、短刀1本呼び出し足元に置いておく。

 

 

そして、2、3歩進んだところでしゃがんでうずくまる。

 

「あれ?誰かいますよ!」

「本当ですね、あの大丈夫ですか…?ってお兄様!?」

 

奏一行が俺に近づき、先に置いた短刀を越えたところで、

 

「ーー!?」

「き、消えた!?」

 

短刀にワープし、背後へまわり、

 

「…奏、愛してるよ(ボソッ」

 

奏の耳元でそう呟いた。

 

「ーー!?/////」

 

すると奏は声にもならない悲鳴を上げて、力が抜けたようにその場でしゃがみこんだ。

 

「あははは!どうだ、茜、葵!この奏の驚き様は!」

「…はぁ…翔君…」

「しょ、翔ちゃん/////」

 

そう笑いながら2人を呼ぶと、葵は頭を抱えて溜め息をつきながら、茜は顔を赤くしながら出てきた。

 

「なんだよ2人とも、その反応は」

「…本当、そういうとこあるよね…」

 

「ぅお兄ぃ様ぁあ?」

「どうした、かなーーひぃ!?」

 

足元から奏でに呼ばれ振り向くと、奏が黒い笑みを浮かべてこちらを見ていた。

 

やばい、この笑顔はやばい。

 

「いや、ね?奏ちゃん!ほら、茜に脅かし方をレクチャーしていてですね…」

「へー…それで、なんでこんな脅かし方になったんでしょうか?」

「えーとですね、何て言うか、そのーー「まあいいです」え?」

「今日はせっかくのお祭りです。お話は帰ってからじっくりしましょうね?」

「…は、はい…」

 

終わった…俺の人生。

 

さらば、愛しの家族達。

 

その愛しの家族の1人に消されるんだけどね…ふ。

 

「!?翔ちゃんがどこか遠い目をして燃え尽きていく!」

「今回は翔君が悪いからいいのよ茜」

 

あ、葵にまで見放された…。

 

「ふ、ふふふふふ」

「ぶ、不気味な笑いを!?か、帰ってきて!翔ちゃぁぁぁあん!!」

 

さらに真っ白になっていく俺を見て半泣きで俺の体を揺する茜。

 

いま、この状況を見た者はみんな思うだろうな。

 

なんだこれ、と…。

 

その後、騒がしさがいい加減心配になった花蓮が見に来くるまでこの状態が続いた。

 

 

「ん、んん!お、お兄様?/////」

 

咳払いをして手を出してくる奏。

 

「な、なんでしょうか奏…様」

「「「…様って…」」」

 

苦笑いを浮かべる周りはおいておいて、

 

「あの…その…ですね。こ、腰が抜けて…/////」

「「「(なんだこの可愛い生き物は)」」」

 

恥ずかしそうにもじもじしながらそう言う奏に、その場にいた全員がそう思ったのは間違いないだろう。

 

ほら、やっぱり脅かし成功じゃんか!と、思ったけど言わないでおこう…。

 

「あ、ああ、そういうことね。ーーよっと!」

「ひゃあ!?/////」

 

そして奏を抱き上げて、そのままお姫様抱っこで出口を目指す。

 

「お、お兄様、何を!?/////」

「なにってお前、動けないんだろ?」

「そ、そうですけど…/////」

「ならここはお兄ちゃんに甘えて、大人しくしてろ」

「もとはと言えばお兄様のせいですけどね!」

「…返す言葉もございません」

 

「そ、それで…その、さっきの言葉は…/////」

「ん?ああ、愛してるっての?本気だよ?」

「え!?/////」

「俺の大切な家族だ。愛してるに決まってるだろ。俺は家族を愛してるぞ!」

「…ああ、そう」

「あれぇ!?なんで!?急になにその冷めた目は!?奏ちゃん!?なんで怒ってるの!?」

 

そんな俺達を他のみんなは微笑ましく見ていたそうなーー

 

 

 




次回は明日!


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第32話【学園祭 2日目】

「いらっしゃいませ」ニコッ

 

「今日も翔は絶好調だなー!」

「お客さんもすごい列だね」

「ほとんどが翔目的だそうだよ」

「「…」」

 

静流の言葉に苦笑いしかできない葵と菜々緒であった。

 

 

「翔ーお疲れ!今日はもうあがって良いよー!」

「んー?おー菜々!もうそんな時間かー!んじゃまた見て回ってこよっかな!」

 

 

ーーとは言ったものの一人でまわるのもあれだな…

 

葵も静流も菜々もみんな俺と交代でシフト入ったしな…

 

昨日で一通り見てもまわったし…

 

「…ん?あれはーー」

 

 

「…ふぅ」

「や、お疲れのようですね、生徒会長?」

「ひゃあ!?しょ、翔さん!?」

 

おっと驚かせてしまったか。

 

「悪い卯月、驚かせて」

「い、いえ!大丈夫ですよ!翔さんも休憩ですか?」

「ああ、今日の分はもう終わったからふらふらーと…ん?ってことは卯月もか?」

「はい!奏さんに少し休むよう言われまして」

「あー奏か…」

 

昨日の夜の事を思い出す…怖かったな、奏ちゃん。

 

思い出しただけで意識が飛びそうだ…。

 

「ならさ、これからちょっと付き合ってくんない?一人で暇しててさ」

「え?あ、はい!いいですよ!」

 

 

「すいません、クラスのお手伝いなにもできなくて…」

「気にするなよ、卯月には生徒会の仕事があるんだし!それぞれに役割がある、出来ることをするばいいんだよ!」

「…ふふ」

「なんだ?いま俺けっこう良いこと言ったつもりだったんだけど?」

「いえ、すいません。ただ、やっぱり翔さんは翔さんだなって!」

「?なんだそれ?」

「気にしないでください!こちらの話です!」

 

2人で校内を歩く。

 

「あ、そうだ!卯月、良い店紹介するよ!」

 

そう言って卯月を連れてきたのは、

 

「や、花ちゃん!今日も来ちゃった」

「あ、翔さん!いらっしゃいませ!」

 

もちろん花ちゃん達のクレープ屋だ。

 

「この子の作るクレープがすっごく美味しくてさー卯月にも食べてほしくてさ!」

「そうなんですか?それは楽しみです!」

「そ、そんな大したものじゃないですよ!」

 

そう言いながら俺達2人分のクレープを焼き始める花ちゃん。

 

どうやら修は休憩中のようだ。

 

ちぇ、今日もからかい倒してやろうと思ったのに。

 

「はい、どうぞ!出来ましたよ!」

 

そんな事を考えているとクレープが完成した。

 

お金を払い花ちゃんにお礼を言って店をあとにする。

 

「ほい!卯月!俺の奢りだ!」

「え?そんな、悪いです!払いますよ!」

「いいよ別に、いま付き合ってもらってるお礼!受け取ってくれ」

「…わかりました。ありがとうございます!」

 

どこかまだ納得のいかない様子だが受け取ってくれる卯月。

 

「あ、美味しい!」

「だろ?この絶妙な焼き加減がなんとも言えないだろーー」

「ふふ」

 

花ちゃんのクレープの良さを語っていたら笑われた。

 

俺なんか今日笑われてばっかじゃね?

 

「翔さん凄く楽しそうですね!」

「そうか?まあ、学祭とか初めてだし少し舞い上がってはいたかも…変だったか?」

「いいえ!むしろ楽しんでもらえてよかったです!葵さんも言ってましたよ?こんな楽しそうな翔さんは久しぶりだって…」

「葵が…?また余計な心配をかけさせたかな…」

「でも葵さん凄く喜んでましたよ!私も楽しんでもらえたなら生徒会長として嬉しいですし!」

「そっか、ありがとな卯月!」

「はいです!」

 

それからしばらく校内を散策した後、全体を見たいと言う俺の願いのもと、屋上へと来た。

 

「にしても、ほんとすごい賑わいだなー!」

「そうですね!今年は特に賑わってるかもです!」

「はい!今年は翔さん達、王家のご兄弟が最も在校する年ですからね!」

「なるほどね、それで一目見ようと集まるわけだ…」

「…そういうことになりますね」

 

二人で苦笑いを浮かべる。

 

「なあ卯月。会場の人達さ…あの人達、卯月の目にはどう見える?」

「え?えっと…みなさん楽しそう、です」

「ああ、そうだな。俺もそう思う。俺はこんな笑顔を護っていきたいんだよ」

「え?」

「…人を笑顔にする人と、その笑顔を護る人がいると俺は思うんだ。今回ならするのが生徒達で、護るのが生徒会の仕事だと俺は思う。ならそれを国に例えたとして、国を豊かにして国民を笑顔にするのが国王の仕事だ。なら護るは誰だと思う?」

「うーん…護るのも国王、でしょうか?」

「正解。国王にはその両方の責任がある。だけど俺は兄弟達にそんな重い責任を背負わせたくはない、だから俺が護ればいい、そう思うんだよ」

「…でしたら翔さんが王になればいいじゃ…?」

「まあ、確かにそう言われたらお仕舞いだけどね。…俺はそんな大した人間じゃないんよ…」

「…?」

「あー話し込んじゃったな…適当に忘れてくれ!ってことで、そろそろ戻るかー」

 

そう言って話を切り上げ卯月を急かすように立ち上がる。

 

と、その時目の前で立ち上がった卯月はふらついて転びそうになった。

 

「!?卯月!」

 

俺は咄嗟に卯月の腕をつかみ自分の方へと抱き寄せ、

 

「おい!大丈夫か!?」

 

慌てて安否を確認する。

 

「…は、はい。すいません。急に立ったから少し立ちくらみしちゃって…」

「そ、そうか?無理だけはすんなよ?」

「はい!大丈夫ですよ!」

「…ほんと、よかった」

「はい!心配してくれてありがとうございます!」

 

そう言って笑顔を見せる卯月。

 

「!?」

 

なんだこの気持ち…この感じ、この前のバス停と同じ?

 

「…あの…それで、翔さん…/////」

「え?どうした卯月?顔赤いぞ!やっぱりどこか具合が!?」

「い、いえ!その…もう大丈夫ですので…その…もう、離しても…/////」

 

そう言われ初めて気づく。

 

俺達のいまの格好は端から見れば抱きついているような状態だ。

 

「ーー!?ご、ごめん!/////」

慌てて腕を離し、卯月から離れる。

 

しまった!いくら咄嗟だったとは言え、卯月は女の子だもんな…やってしまった。

 

「…/////」

「…/////」

 

沈黙。

 

これほどまで長くツラいと感じた時間は初めてだ。

 

と、そこへ、

 

「あ!いた!翔発見!翔、お店がすごい混んじゃってさ、あげく翔はどこだとか騒ぎになっちゃって!悪いけどいまから出てくれない!?」

 

菜々が現れた。

 

菜々ナイス!助かった!

 

こいつが来てくれたおかげでこのキツい沈黙から解放された。

 

今日だけはこいつが天使に見えたわ。

 

「そ、そうか、なら仕方ないな!わ、悪い卯月。そう言うことらしいから俺行くわ!/////」

「え、あ、はいです!頑張ってください!/////」

「どうした二人とも?なんか顔赤くない?」

「「/////!?」」

「き、気のせいだろ!そんなことより、ほら早く行くぞ菜々!」

「え?あ、うん!」

 

そう言って俺は菜々を連れて急いで逃げるようにその場をあとにした。

 

ーーーーーーー

 

1人取り残された屋上にて

 

 

「…///// 」

 

まだ顔が熱い…。

 

「卯月!おい!大丈夫か!?」

 

翔さんはいつも私の体調を気づかってくれる。

 

さっきみたく自分のことのように顔を真っ青にして。

 

それは素直に嬉しいけど申し訳なくもある。

 

私は体が弱い。

 

だからこそ気持ちだけでも強くあろうと思っている。

 

翔さんの腕の中で思った…

 

翔さんって、こんなたくましい体つきだったのか、と

 

もちろんここまでの体を作るのに相当な努力や覚悟があったんだろう…。

 

翔さんはいつも真っ直ぐに前を見つめていて、目的のために努力する。

 

だからこそ、そんな心も体も強い翔さんは私の憧れあり、友達として誇らしくもあった。

 

 

それなのに…なんで、

 

「…俺はそんな大した人間じゃないよ…」

 

あの時の翔さんはどこか悲しげで遠い目をしていたんだろうーー

 




次回は明日です!


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第33話【学園祭 3日目】

学園祭3日目です


「お客様、お茶のおかわりはいかがでしょうか?」ニコッ

「お、お願いします!/////」

 

例によって翔のテンションは高い。

 

 

「やっほー!遊びに来たよー!!」

「おー!翔兄似合ってるねー!」

「やあ翔兄さん」

「兄様!カッコいいです!」

「兄さま、素敵!」

「おーお前達、いらっしゃい!」

 

学園祭最終日、今日は可愛い妹弟達が遊びに来てくれた。

光、輝、栞が行きたいと言い出し、岬と遥はそのお守りとしてついてきたらしい。

 

「お前達何にする?ここは俺の奢りだ!」

「ちょっとしょうちゃん!私達お客だよ!なに?その口の聞き方は!」

「そうだよ翔兄!ちゃんと接客して!」

「これは大変申し訳ありませんでした!お飲み物いかがなさいましょうか?」

 

光と岬に怒られ言い方を改める。

 

「うむ、よろしい!じゃあ、私オレンジジュース!」

「私コーラ!」

 

満足したのか笑顔でそれぞれ注文をする二人。

 

やれやれ、家のわがまま姫達は…。

 

 

その後、しばらくして休憩に入った葵に連れられてみんなは他の模擬店をまわりに行った。

 

その時に俺も一緒にと岬と光に駄々をこねられたけど、まだ仕事も残っていたし、残念なことに先約もあったので断った。

 

何も言わずこちらを見つめる栞の潤んだ瞳で精神的大ダメージを負ったのは言うまでもない。

 

今度またどこか遊びに連れて行ってあげよ。

 

 

「それじゃあ今日はよろしくお願いしますね!」

「ああ、こちらこそよろしく早乙女さん!」

「まさか翔さんが引き受けてくれてくれるなんて思いませんでしたよ!ロミオ役!」

 

そう、先約とは演劇部の手伝いだ。

 

演劇部の早乙女さんに頼まれてロミオとジュリエットの劇に出演することになったのだ。

 

「まあ、せっかくだし色んなことして楽しみたいじゃん?けど、俺なんかが主役やらせてもらっていいの?」

「はい!むしろ翔さんにやってもらいたいので!これは部員全員の意見ですよ!」

「そうなの?ならいいけど…」

 

この目を輝かせる早乙女さんの気迫に負けたというのも、1つの理由だったりするんだけどね…。

 

しかもその早乙女さんは衣装担当だし、出ないし…。

 

最終打ち合わせの為、舞台裏でそんな話をしていると、

 

「きゃあ!」

「「!?」」

 

舞台から悲鳴と物音が上がった。

 

「なに!?どうしたの!?」

 

慌てて舞台の方へ見に行くと、どうやら小道具が倒れてジュリエット役の子が下敷きになったらしい。

 

運良く大事には至らなかったものの足を捻って出演は難しいとのこと。

 

「どうしよう!いまから代役なんてーー」

 

ざわめく現場。

 

俺もここまで来て中止は避けたいからな、

 

「それなら1人心当たりあるんだけどーー」

 

最強の助っ人を呼ぼう。

 

 

 

「ーーそれで…事情はわかったけど、なんで私なの?」

「そんな怖い顔すんなよ葵ちゃん。似合ってんぞ衣装」

「そういう問題じゃなくて…」

 

ジュリエットの衣装のドレスを着た葵が恨めしそうにこちらを睨んでくる。

 

そう、俺が呼んだ最強の助っ人とは葵だ。

 

「仕方ないだろ?いまから台詞全部暗記できるのなんて葵ぐらいだからな…完全学習(インビジブルワーク)、だっけか?」

 

 

葵の能力は本当は完全学習(インビジブルワーク)ではない。

 

それは国でも一部の人間しか知らない。

 

下の兄弟達ですら知らない情報。

 

それを知る数少ない一人でもあるの俺は、笑顔でわざとそう言う言い方をする。

 

 

「…もう!翔くんのいじわる!」

「はーはっは、なんとでも言え!」

「…はぁ…わかりました。衣装まで着ちゃったから劇には出ます。ただ、帰ったら少しお話ししましょうね?」

「いやー…あははは、は……はい」

 

笑顔で承諾する葵だが、この笑顔はやばい。

 

奏の黒い笑顔とは比べ物にならない…。

 

今日こそ死んだな、俺。

 

 

「葵様、急にお願いしたのにごめんなさい!」

「ううん、今回は仕方ないし大丈夫だよ!」

 

頭を下げる早乙女さんに笑顔で答える葵。

 

あれ?この人誰?さっきまでのドス黒いのどこ行った!?

 

 

 

「葵様!そろそろ出番ですので準備お願いします!」

「はーい!じゃあ行ってくるね翔くん!」

「ああ、頼んだよ!」

 

手を振って舞台袖へ向かう葵にこちらも手を振って答える。

 

 

そして舞台の幕が上がり、本番が開始する。

 

「にしても凄いな…本当に一字一句間違わずに覚えたのか…」

 

葵の本当の能力を知ってる身としては、その嘘を本当にするだけの、あの葵の記憶力には毎度素直に驚かされる。

 

「はい!それにしても、まさか葵様にも出てもらてえるなんて!感激です!何回誘っても断られてたので…」

「そなの?」

 

そういや、葵は色んな部から勧誘されてるって茜が言ってたな。

 

 

そして俺も自分の番が来て、舞台へ上がる。

 

あ、兄弟全員…それに卯月、静流、菜々、花ちゃん、瞳ちゃん、花蓮まで…知り合い勢揃いかよ。

 

知り合い達が一番前の列を陣取ってた。

 

ーーーーーーー

 

翔と葵。

 

二人が演じるのは王子様とお姫様。

 

実際に本物と言うだけあり、違和感の感じさせないほどの見事な演技を交わす。

 

国民からの指示も1位、2位を独占するその二人。

 

それもあってか、さらに会場は二人の演技に飲み込れていった。

 

 

そしてクライマックス、ラストのキスシーン。

 

二人の演技に魅了され、静まり返る会場。

 

 

今回のこの劇では、毒を飲んで死んだジュリエットを見て嘆き悲しんだロミオが後を追うため、自らも毒を飲みジュリエットにキスをして、幕が降りる。というオリジナルのラストとなっている。

 

翔と葵が演じるとなって瞬時に監督の子が台本をいじってそうなったのは余談。

 

 

倒れる葵の横に涙を流しひざまづき葵の手を取る翔。

 

そしてゆっくりと葵の顔へ自分の顔を近づける。

 

もちろん本当にキスはしない。

 

 

はずだったのだが…

 

「「!?」」

 

ひざまづいた時に自分の衣装のマントを踏んでしまっていた翔がそのマントで滑り、その拍子に二人の唇が重なった。

 

「「「ーーきゃー!!/////」」」

 

このハプニングには会場全体が大盛り上がり。

 

特に女性客は顔を赤らめ大興奮していた。

 

 

二人を良く知る者達は、顔を赤らめる者、良いネタを手にしたと笑みを浮かべる者、「あー!」と絶叫する者、といったそれぞれのリアクションをしていた。

 

誰がどれ、とはあえて言わないでおこう。

 

 

「「/////」」

 

こうして、翔と葵、二人にとって一生忘れられない劇の幕が閉じたーー

 

ーーーーーーー

 




ラストの誰がどのリアクションかは聞かれればお答えしますが、みなさんのご想像にお任せしますね!

次回は明日です!


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第34話【能力暴走期間】

最近、葵の様子がおかしい…。

 

話しかけても、どこかよそよそしいし、まともに目も合わせてもらえない。

 

なぜだ…。

 

 

そしてとうとう事件は起きた。

 

「よし、んじゃ帰るか、あお、い…?」

 

放課後、葵は逃げるように教室から出ていった。

 

「…あれ?もしかして、いま俺、逃げられた?」

 

まさかなー、ははは。

 

「いや、そのまさかだよ」

「静流!?…人の心を読むなよ…」

「そんな気がしただけよ。…それより、恐らくだけど原因はこないだの劇じゃないの?」

 

劇の最後の葵とのキスがよみがえる。

 

「え、いやでも、あれは事故って事で済んだはずじゃ…」

「あんたは良くても葵は女の子だよ。それに初めてだったんじゃないの?」

 

静流にそう言われ一気に血の気が引いた。

 

普段から菜々に鈍感だの無神経だの笑われている俺だけど、その事の重大さぐらいはわかる。

 

「そもそもちゃんと謝ったの?」

「…あ」

「…追う!早く!ダッシュ!」

「はいぃ!…あ、静流ありがとな!」

 

静流に怒られ急いで葵の後を追う。

 

ーーーーーーー

 

「…はぁ。みなまで言わないとわからないなんて…」

「あははー、ほんっと翔はアホだなー」

「菜々緒、まあたしかにそうだね、少なくとも2人の女の子に苦労はさせてるね」

「2人だけで済んでればいいんだけどねー」

「…いつまでもこの調子なら、一回死ねば良い」

「あははははは」

 

ーーーーーーー

 

「にしても葵の奴どこ行った!?」

 

いつもの通学路で帰ってないのか、一向に葵は見つからない。

 

「…こうなったら」

 

携帯電話を取りだしある人物に電話を掛ける。

 

「ーーもしもし曽和さん?うん俺。ちょっと急ぎて調べて欲しいことがあるんだけどーー」

 

 

『ーー翔様。次の交差点を右折です』

「りょう、かいっと!」

 

城の監視カメラの映像を見る曽和さんから電話越しに指示を貰い、住宅街の屋根の上を能力で飛び回る。

 

素直に道を走るより、こっちの方が断然早いからな。

 

 

『それにしても、翔様?またなぜ葵様を追いかけてるんです?』

「…色々ありまして…」

『…はぁ。どうせまた無神経な事したか言ったんでしょう?』

「な、なぜそれを!?」

『何年ご一緒させて頂いてると思ってるんですか?詳しくはまた今度お伺いします…その先、4本目の道に葵様がおられます』

「…はは、お手柔らかに頼むよ。ありがと!」

『それではーー』

 

そこまで話し、電話を仕舞い葵を見つける。

 

「見つけたっ!」

「!?」

「苦労したぞ葵!…ってなんて格好してんだよ?」

 

道を歩く葵の前に降り立つと、葵はグラサンにマスクとなんとも怪しい格好をしていた。

 

まあ今は葵の格好の事はどうでもいい。

 

そんなことよりもだ、

 

「…あの、さ…こないだの学園祭の劇の事なんだけど…ごめん!事故とは言え葵には本当に悪いことしたと思ってる!」

 

全力で頭を下げて謝る。

 

他の人の通行人もいたけど構うもんか!

 

周りの目なんかより葵との仲のが大事だ!

 

「そ…そ、それはーー/////」

「?」

「それはもう気にしてないからーー!/////」

「え?そうなの?ーーって!?葵!?」

 

そう言って頭を下げる俺の横を走って通りすぎていく葵。

 

だからなんで逃げるんだよ!

 

けど、そうか…あの事で怒ってたんじゃないのか。

 

よかったー…

 

なら、

 

「だったら、なんで逃げるんだよ!?」

 

俺も走って葵追いかける。

 

「おい!」

 

しかし、一向に葵に止まる気配はない。

 

 

それからしばらく走り続けたが、疲れたのか葵が立ち止まり、俺も走るのをやめて近づこうとすると、

 

「ーーないで!」

「え?」

「だから来ないで!今日はもうほっといて!!ーーあ!?」

 

葵が叫び、なにやら慌てて口をふさいだ。

 

顔は隠れているけど、青ざめている感じもする。

 

そして問題はその後、

 

「「「はい、葵様」」」

 

周りにいた他の通行人達がそう言い去っていった。

 

「!?」

 

これってもしかして…

 

「葵…ってまたかよ!」

 

また走り出す葵。

 

いまの葵を見といて、ほっとけだって?ふざけんな!

 

「嫌だ!」

「!?」

 

そう言って葵の前にワープし、葵を捕まえる。

 

「ーー!?え、なんで!?翔君?」

「なんでって何がだよ」

「かかってないの…!?」

「かかるって何が?…あー葵の能力のことか?」

 

葵の本当の能力、絶対遵守(アブソリュートオーダー)

その名の通り、相手を服従させる能力。

 

さっき葵の言葉を聞いた通行人達が、従いその場を去ったもそれが原因だ。

 

「…なんで!?能力暴走期間(ブレイクアウト)のはずなのに…」

能力暴走期間(ブレイクアウト)?…もしかして、それでそんな格好してたのか?」

 

能力暴走期間。

俺たち王家の者には定期的に能力が制御できなくなる期間があり、それをブレイクアウトと言う。

 

「そんなことより、だから!大丈夫なの!?」

「え?…あーそうだな、なんで俺かかってないんだろ?」

「そんな…こんなことって…!?…あ」

「おい葵!?」

 

そう言ってへたっと力が抜けたようにその場に座り込む葵。

 

「…大丈夫、緊張が解けて力が抜けちゃっただけ…」

「そ、そうか…」

「…なんで翔君にかからなかったんだろう?」

「んー…さあ?」

「さあって、軽すぎない?こっちは真剣にーー!」

「わかってるよ!うっかりみんなにかけたりしないよう気使ったんだろ?」

「…うん」

「はぁ…。あほ!」

「ぅ!?」

 

葵に手刀を入れる。

 

「だからって俺にまで気使って逃げんじゃねえよ!」

「え?」

「俺たちは家族だ。さらにいえば俺はお前の兄ちゃんだぞ?だからいちいち気使う必要なんかない。妹ならもっと甘えてこい!」

「…翔君」

「だいたい逃げるってなんだよ!せめて紙に書くとかして事情ぐらい教えてくれてもよかったろ?」

「…あ」

 

こいつ…必死だったのはわかるけどさー。

 

「いいか葵!俺にお前の能力は効かない!だからこれからは何も遠慮するな!妹は素直にお兄ちゃんに甘えてな!」

 

そう言って葵の頭を撫でる。

 

「…翔、君/////」

「どうした?なんか顔赤いぞ?」

「な、なんでもない!/////」

 

慌てて顔をそらす葵。

 

「?まあいいや。とりあえず帰るぞ」

「う、うんーーあれ?」

「どした?」

「…力が入らない」

 

そう言って困った顔をする葵。

 

「こないだの奏といい…今度は葵かよーー」

 

 

「ーーなんで私はおんぶなの?」

 

背中の葵が文句ありげに言ってくる。

 

「だってさすがに家までの距離お姫様抱っこははずいだろ…」

「…た、たしかに」

「そもそも奏をおんぶしてみろ、あの国宝級のたわわが背中に当たってしまう!」

「…ふーん。つまり、私の胸なら良いってことかな?」

「ちょ、葵ちゃん!?絞まってる絞まってる!!」

 

おぶさる腕を絞めてくる葵。

 

「…私の胸がタイプって言ったくせに(ボソッ」

「え?なんて?」

「なんでもない!/////」

 

なに怒ってんだこいつ?

 

「とりあえず逃げた理由はわかったけど、最近よそよそしかったのはなんで?」

「え…そ、それは…/////」

「ん?」

「な、なんでもない!(劇の事が気まずくて目も合わせれなかったとか言えるわけない)/////」

「は?なんだよそれ…?」

「(それに翔君はなんも気にしてないみたいだし1人悩んでた私がバカみたい…なんかちょっとムカつく気もするけど、)もういいの!/////」

「…そうかい」

 

まあ、機嫌直してくれたみたいだし良しとするか。

 

 

「いつもありがとう、お兄ちゃん!」

「…?なんだよ急に、照れるな」

「ふふ、なんでもない!」

 

そう背中で笑い俺の肩をぎゅっと握る葵の手は、少し熱がこもっていた気がしたーー

 

 

「ーーなにか言い残すことは?」

 

家につき、玄関の扉を開けると奏と遭遇。

 

目の前で腕を組み黒い笑みを浮かべる奏。

 

騒ぎを聞き付け降りてきた岬に至っては

 

「劇だけにこりず、おんぶまで!葵姉ばっかりずるい!翔兄のバカ!バーカ!帰れよ!」

 

と泣きながら部屋に走り去って行く始末。

 

あとが怖いから、あとからお菓子でも持って機嫌とりに行こ。

 

「え、いや、奏ちゃん?これには事情がありまして?」

「言い訳無用!」

 

そう言って俺の制服の襟を掴み俺を引きずっていく奏。

 

ってあれ?葵!?お前いつの間に降りて!?

 

てか、立てたのかよ!いつから!?

 

そう思いながら葵を見ると、

 

笑顔で舌を出してウィンクをされた。

 

あいつ…確信犯か!

 

「…まったく」

 

「お兄ちゃん?今日という今日はただじゃおかないから!」

「…お手柔らかにお願いします」

 

今回だけは多目にみてやるかーー

 




翔と葵のその後でした!
翔に能力が効かない事を知り改めて兄の凄さと大切さを実感した葵。
今後どのように心境が変化していくのかも楽しみにしていてください!

そして、久しぶり曽和さん! 
来週から新章に入る予定です!
そこでは曽和さんを含む翔の部下のオリキャラ達が出てきます!
お楽しみに!


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第35話【誕生日】

翔と葵の誕生日です!


冬休みに入り、クリスマスイブ。

 

俺と葵の誕生日でもある日のこと。

 

 

「…ふぅ」

 

毎朝の日課のランニングから帰宅し、シャワーを済ませ自室に戻る。

 

「あ、翔君おはよう!」

「ん?ああ、おはよう葵」

 

ちょうど葵も起きたとこらしい。

 

「下はもうすでに大騒ぎだぞ…」

「ふふ、みんな良い子達だからね」

 

例のよって他の兄弟達はサプライズパーティーの準備をしてくれている。

 

クリスマスイブということもあって、クリスマスパーティーの準備とうまく隠せているつもりらしい。

 

「手伝おうとしたらいらんと言われた」

「毎年の事だよ」

 

本当に良い子達だ。

 

その後、葵とリビングに行き、みんなの準備を見守っていると、

 

「あー!どうしよう!!そういえばみんなで交換する用のプレゼントまだ買ってない!」

 

岬が叫んだ。

 

わざとらしいな…

 

「でもこの寒空の下、1人で町まで行くのはちょっとなー…」

 

準備が出来るまで俺と葵を外に連れ出したいんだろうな…

 

「そうなのか?ならちょうど良かった岬。俺と葵もちょうどいまからその買い物に行こうと思ってたんだ。…な、葵?」

「うん!そうだね!岬も一緒に行こっか!」

 

葵も俺の意図を理解し笑顔で答える。

 

「ほんと!?ありがとう2人とも!」

 

にしても、絶望的な演技力だな…。

 

 

そして、外出の用意を済ませ、バス停にて、

 

「もうちょっと厚着してくればよかった…」

「マフラー貸そうか…?」

「ダメお姉ちゃんだって寒いでしょ!」

「…なら交代交代で使う?」

「もく!私のが若いんだからこれくらい平気だよ!」

「そんなに変わりませんっ」

 

岬と葵でそんな会話がなされていた。

 

ぷふぅ、葵ちゃん、遠回しに歳だってよ…。

 

「翔君?帰ったらお話ししましょう?」

「…はい」

 

でました葵の黒い笑み。

 

なんで俺の心読めるんだよお前…。

 

「学園祭は色々あってお話しできなかったからその分も一緒にお話しする?」

「いえ、今回は遠慮しておきます…」

 

二度と逆らうのはやめよう…。

 

「ちなみに俺も寒いなー、と…」

「ふーん、だから?」

「…いや…その、実は俺寒がりで冬嫌いでして…」

「知ってるよ?だから?」

「…俺とはマフラー交代交代は…」

「…?」

 

とどめの無言の圧力。

 

終始笑顔なのが余計にツラい。

 

マジで二度と怒らせないようにしよう…。

 

 

そしてデパートに到着。

 

「あー決まらないよぉ!」

 

叫ぶ岬。

 

今日はよく叫ぶな…。

 

どうやら俺達のプレゼントで迷っているようだ。

 

しゃーない…助け船を出すか。

 

そう思い葵も見ると、葵も同じ考えだったらしく頷いて近くにあった猫の抱き枕を手に取る。

 

「あ、この抱き枕ボルシチみたいで可愛いなー!こういうのがあったら落ち着いて寝られるかもなー」

「お、本当だな!」

「翔君は何か良さそうなのあった?」

「んー、俺はさっきの店で見てたマフラーが欲しかったかな…ただ、今日はもう手持ちがないから諦めることにしたよ」

 

もちろん手持ちがないというのは嘘だけど…。

 

そこまで話して2人でチラッと岬を見る。

 

うまく伝わればいいけどな…。

 

 

「手袋にした!」

 

おっと…伝わりづらかったか?

 

まあ、岬が選んでくれたものなら俺はなんでも…。

 

「んじゃそろそろ帰ーー「あー買い忘れがあった!」るか?」

 

ほんと今日はよく叫ぶな。

 

けど、ここ店内だからほどほどにしなさい。

 

「すぐ戻るから2人は先に下行ってて!」

 

あーそういうことね…。

 

そう言って上の階へ上がっていく岬。

 

 

「おっと、俺達も買い忘れるとこだったな…」

「うん!そうだね!」

 

「これなんてどうかな?」

「お、可愛いな。うん、いんじゃないか?」

 

葵と2人で買い忘れていた物を選んでいると、

 

「…すまん、葵。会計かわりに頼んで良いか?後から俺の分返すから」

「え、いいけど…どうしたの?」

「いや、ちょっとね…すぐ戻るから!」

「あ、ちょっと!?」

 

そう言ってその場を後にする。

 

まさかとは思うけど…

 

気のせいで済めば良いんだけどなーー

 

ーーーーーーー

 

「…トイレかな?」

 

走り去っていく翔君を見ながらそう呟く。

 

今回のこのお金も別に私が出すのに…。

 

いつも私や兄弟達に出してもらってばっかだし。

 

けどそんな事言ったら、2人で買うって約束しただろ、とか怒るんだろうな…そういうとこ頑固でまめだし。

 

そんな事を考えながらお会計を済ませる。

 

すると、

 

「お前ら全員動くなぁぁぁあ!」

「出口は押さえた!妙な真似はしない方が身の為だぞ!」

 

広場の方で騒ぎが起きる。

 

 

強盗!?

 

 

咄嗟に店員さんと共にレジの下に隠れる。

 

 

もう…せっかくみんながお祝いの準備してくれてるのに…。

 

なんとかしたいけど、記録されて事を大きくしたくないなぁ…。

 

そう思い監視カメラに目をやる。

 

 

でも、あのタイプは録音機能は付いてなかったはず。

 

カメラの死角でやれば大丈夫かな?

 

「お前ら上の階を制圧しろ!」

 

ーー!?上には岬が!

 

こうなったらやるしかない!

 

「待ってください!」

「あ、葵様…!!」

 

目の前に飛び出した私の姿を見て驚く強盗達。

 

「…あなたもついてないな…抵抗しなければ危害は加えない。しばらく大人しくしといてもらえるか?」

 

そう言って銃を構える強盗。

 

本気だ…けど

 

「我々は本気だ。葵様といえどーー「少し黙ってもらえますか?」」

 

私の能力の前ではそれも意味をなさい。

 

「あなた達、武装を解除して」

 

私の言葉に武器を落としていく強盗達。

 

あーあ、やっちゃったな…。

 

「あなた達、他に仲間は?」

「はい、下の階を制圧した際に5名ほど待機させてあります」

 

まさかとは思ったけどやっぱりまだいたか…どうしよう。

 

と、そこへ。

 

「そいつらならもう大丈夫だぞ」

 

翔君がその残りの5名であろう人達を引きずりながら現れた。

 

「翔君!?」

「いやーまさかとは思ったけどさ、地味に下が騒がしいし、微かに火薬の臭いもしたから行ってみたら、この様よ。俺、こういうこともあろうかと常に五感は研ぎ澄ませてるから?」

 

笑いながら冗談っぽく言ってみせる翔君だけど、

 

騒ぎ?私には何も聞こえなかった。

 

研ぎ澄ませるって言ってもそこまでたどり着くのにも努力はあったはず。

 

理由はわかる。

 

私達を守るためだろう。

 

本当にこの人は私達を守る為にどれ程までに努力してきたんだろう…どれ程までに自分を犠牲にしてきたんだろう…。

 

いくら意思の疎通が完璧でも、相手の気持ちが理解できたとしても、

 

それだけは計り知れない。

 

ほんと、敵わないな…。

 

 

その後、能力で強盗を追い返し、目撃者の記憶を消した。

 

もちろん警察を呼んで後の処理は任せた。

 

ーーーーーーー

 

「いやー、にしても葵が能力使うとはな…」

「仕方ないでしょ?上には岬がいたんだから!」

 

ベンチに座りながら葵と共に岬を待つ。

 

「家族を守りたい気持ちは私も一緒なんだから!」

「…!?ああ、そうだな」

 

真っ直ぐこちらを見つめる葵。

 

言いたいことはわかる。

 

1人で黙って無茶だけはするな、か。

 

「これからはちゃんと相談するとするよ…」

「そうしてください!ほんと、今日のお話は長くなりそうだね!」

「…ほどほどに頼む」

「んー、考えとく!」

 

そう言って意地悪そうに笑う葵。

 

 

「ほら…」

「え?なにこれ?」

「何って俺からの誕生日プレゼントだけど?いらないなら別にいいけど?」

「え?ほんと!?ありがとう!開けてみて良い?」

「…どうぞ」

 

俺が渡したプレゼントの箱を開ける葵。

 

「ーーこれって!?」

 

中身は青い薔薇の装飾がされた髪飾り。

 

「たしか花言葉はーー「神の祝福、奇跡」そうそうそんな感じ。俺達が兄妹ってだけならまだしも双子として産まれたのは凄い事だと思うしな!まあ後は普通に似合うかなと…」

「嬉しいよ!ありがとう!大事にするね!!」

「ああ、気に入ってくれたならよかった!」

 

「じゃあ、はい!私からはこれね!」

「え?」

「いつもお世話になってるお兄ちゃんに!」

 

そう笑顔で小さい箱を渡してくる葵。

 

「え、あ、ありがとう!」

 

予想だにしてなかった不意打ち。

 

その箱を開けると、2つの青いリング状のピアスが入っていた。

 

そう、いまさらだけど俺は左耳の耳たぶに2つピアスの穴があいている。

 

学校ではちゃんと取っているし、

 

なんであいているかとかも、ちゃんとした理由があるのだが、それはまた今度話すとしよう。

 

にしても、

 

「まじか!ありがとう!」 

 

素直に嬉しい。

 

「ちょうどそろそろ買い換えようと思ってたんだ!つけてみて良い?」

「うん!」

 

もらったピアスに付け替える。

 

「どう、かな?」

「うん!ばっちり!やっぱりそれ選んで正解だった!」

「そうか!本当にありがとう!嬉しいよ!」

「大袈裟だなあ」

 

そう言って2人で笑い合う。

 

そして、しばらくして岬が来て、俺達は帰路についた。

 

 

「あ、ちょっと待ってて!」

 

最寄りのバス停で降りたところで岬がそう言い、携帯を取りだし何か打ち出す。

 

大方、そろそろ帰る報告かな?

 

「…葵」

「うん!」

 

名前を呼んだだけで俺の言いたいことを理解した葵は鞄の中からある物を取り出し、それを岬の首にかける。

 

「え?お姉ちゃん、これって…」

 

そう、ある物とはマフラーだ。

 

あまりにも寒そうだった上、俺達の為に風邪を引かれても嫌だったので、俺と葵で選んであの時買っておいたのだ。

 

もちろん買うかという話し合いをせずとも、同じ考えに至りお互い理解し合っていたのは言うまでもない。

 

「俺達から岬にだけ特別プレゼントだ」

「みんなには内緒ね」

 

そう言って俺は岬の頭を撫で、葵はマフラーを巻いてあげる。

 

 

そして、ようやく帰宅。

 

「ただいまー!ちょっとここにいて!!」

 

そう言ってリビングへ行く岬を見ながら2人で微笑む。

 

しばらくして、オッケー指示が出たので2人でリビングに入ると、

 

「「「お兄ちゃん!お姉ちゃん!!お誕生日おめでとー!!!」」

 

家族みんなが俺達の誕生日を祝ってくれた。

 

 

欲張りかもしれないけど…

 

こんな幸せ者の俺(私)が

 

今宵1つだけ望むことがあるとすれば…

 

高価な物や、地位や名誉なんてものより

 

「「葵(翔君)」誕生日おめでとう!!」」

 

ずっとこうしていられたな、と願わずにはいられないーー




すいません

もう1話投稿するつもりだったのですが少し遅れてまして

30分にはもう1話投稿します!


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第36話【年末年始】

お待たせしました!
遅れてしまったすいません!

けっこう急ぎで書いたので誤字脱字あったらごめんなさい!


大晦日

 

下の兄弟達はみんなテレビの前のソファに集まってテレビをみている。

 

葵は母さんと年越しそばの準備を、俺はダイニングのテーブルの椅子に座って兄弟達を眺めながらテレビを見ている。

 

「ーー下がれ下がれ下がれ下がれ」

「…茜うるさいぞ」

 

さっきからずっと祈り続けている茜。

 

 

その理由は明白。

 

『櫻田家!チキチキ年末大世論調査会!!』

 

本番と同じ条件のもと行われる、全国民回答による世論調査だ。

 

『それではさっそく順位を発表して参りたいと思います!』

 

「ーー下がれ下がれ下がれ下がれ」

「そんなに祈らなくても案外ビリかもよー」

 

必死な茜を見て笑いながらそういう光。

 

「いや、ビリは修ちゃんで確定だからそれはない」

 

…修、哀れ。

 

しかし、

 

『第10位!第三王女、茜様です!!』

 

「え!?うそ!?やったぁ!!」

 

一気にテンションが上がる茜。

 

こいつ、本当必死だな…。

 

 

『第9位!第二王子、修様!!』

 

「ま、今回は茜より上だし」

「票数大して変わりないし!」

「やだわぁ底辺のみにくい争いって…栞、聞いたらダメよ」

 

言い争う修と茜を見て、自分の膝の上の栞の耳をふさぐ奏。

 

はぁ…情けな…。

 

「この様子だと次は光かしら」

「年下の輝と栞より順位が下なわけないじゃんーー」

 

「第8位!第五女、光様!!」

 

 

「えーん!しょうちゃーん!こんなのあんまりだよぉぉお!何かの間違えに決まってるよぉぉお!」

 

そう言って俺に泣きついてくる光。

 

光、現実とは所詮残酷なもんだ…強く生きなさい。

 

 

そして、

 

7位 輝

6位 栞

5位 岬

4位 遥

 

の順に発表されていく。

 

『第3位!第二王女、奏様です!!』

 

「やっぱり、奏じゃ兄さんと姉さんには勝てないな」

「修ちゃんまた自分の事、棚にあげてー」

「何位だろうと大好きな彼女さんな1票が入ってれば本望よねえ」

 

修の煽りに腹を立てた奏が爆弾を投下。

 

あーあ、俺しーらね!

 

「な!?佐藤はまだ彼女じゃなくて…つかなんで知って…!茜か!?せっかく兄さんが黙っててくれたのに!」

 

睨む修と知らんふりをする犯人の茜。

 

「なになに?修ちゃん彼女できたの?」

「ややこしくなるから岬は黙ってろ」

「はあ!?なにその言い方!なんで遥は私に冷たいんだよ!」

「はあ?お前が噛みついてくるからだろ!」

「うえーん!遥が冷たいよ翔兄ぃー!!」

 

そして俺に泣きつく岬。

 

今度は岬か…。

 

『そして第2位!第一王女、葵様!!第1位は第一王子、翔様です!!』

 

そして一気に俺と葵の順位も発表される。

 

「さすが兄さんと姉さん、圧倒的だな」

「けど、姉さんは選挙やる気ないんでしょ?」

「なら実質、翔ちゃんで決まりだね!」

「さすがです兄様!」

 

そんな兄弟達の言葉に、

 

「あれ?言ってなかったっけ?俺も王になる気ねえよ?」

 

泣きついている光と岬の頭を撫でながらそう言った。

 

「「「…」」」

「…え?なに?」

「「「えぇぇぇぇえ!!!」」」

 

一瞬の間をあけて、兄弟達の驚きの声が響き渡った。

 

すでに知っていて、ため息をついた葵は頭を抱えていた。

 

あれ?俺、なんかまずいこと言った?

 

「お兄ちゃん!王になる気ないってどういうこと!?」

「どうってそのままの意味だけど…?」

「翔兄さん、本気なの!?」

「え、まあ…」

 

やけに突っかかってくる奏と遥。

 

いったいなんだってんだ?

 

そんなに意外だったか?

 

 

そんな中、

 

『申し訳ありません!先に発表した茜さまの得票数ですが、一桁間違えていた模様で、1位は茜様となります!おめでとうございます!!』

 

「ーー!?」

 

1人、茜は別に悲鳴を上げていた。

 

 

「そんな…なら私はいままでなんの為に…(ブツブツ」

「僕が勉強して来た意味が…こうなったら何としても兄さんを王に…(ブツブツ」

 

奏と遥がなにかブツブツ言っていたけど、そっとしておこう。

 

 

そして翌日、元旦

 

家族会議が行われていた。

 

「これまで平等な選挙を行う為、監視カメラみなの日常をお茶の間に提供してきたが、それでもなお、各々の世論露出に偏りがあるのは否めない」

 

父さんのその言葉を聞いて、なんとも言えない顔をする茜。

 

だろうな、心当たりあるもんな?

 

「そこでーー」

 

しかし、そこにさらに追い討ちをかける父さん。

 

「より平等にアピール出来る機会を設ける為、お前達には勝負をしてもらい、それを番組としてテレビ中継しようと思う!今から!!」

 

 

ルールは簡単

 

くじで3チームに別れ、勝利したチーム全員に100ポイント。

その獲得したポイントは任意の相手に謙譲することが出来る。

そして、選挙を行う際、各々の獲得ポイント、1ポイントにつき1万票を加算する。

 

最後のかなり重大なことだと思うけど、いまは置いておこう。

 

 

「今回の勝負内容は鷹匠の下田さんの昨日逃げ出してしまったこの子を捕まえてほしい」

 

そう言って1枚の写真を見せる父さん。

 

「今夜は新年会もあるのでリミットは日没まで、最初に目標を捕獲したチームの勝利とする!手がかりはこの写真とこの町から出ていかないということ、そしてミケという名前だそうだ!」

 

鷹にミケって…

 

兄弟全員がそう思った。

 

そして、くじ引きがなされ、

 

葵、光、栞チーム

 

修、奏、輝チーム

 

茜、岬、遥チーム

 

の3チームに別れ、最後は俺の番というとこで、

 

ミケ、ねぇ…。

 

「父さん、このチーム編成だと能力的に葵達のチームが不利だ」

「そうだな、だかくじで決まったことだし」

「そこでだ!提案なんだけど、俺を葵達のチームに入れてくれ」

「いや、翔にもちゃんとくじをーー」

「せっかく“鷹”を捕まえるのに、1チームだけ何もしないってのも盛り上がらないだろ?」

 

父さんの言葉を遮り、みんなにに聞こえないように耳打ちする。

 

「…わかった、いいだろう!その提案を認めよう!」

 

俺の真意を理解したのか父さんの承諾を得て、俺も葵達のチームとなった。

 

奏と岬が不満そうだったけど、気のせいだろう、たぶん。

 

 

 

「翔君、やっぱりミケって…」

 

そして勝負が開始され、それぞれチームごとに行動していた。

 

「ん?葵も気づいたのか?父さんの反応からしてほぼそうだろうな」

 

そう、ミケは鷹ではない。

 

写真の端の方に写っている猫の事だ。

 

 

「どうしよっか…」

 

葵とそんな話をしていると光と栞が落ち込んでいた。

 

まあ、無理もないな、俺も葵も選挙に興味がないからこの勝負にも無関心だと思って不安なんだろう。

 

「…ねえ、2人とも、やっぱり勝ちたい?」

「うん…」

 

葵の質問に頷く2人。

 

「大丈夫だ。俺と葵が組んでんだ、負けないよ!」

 

そう言って光と栞の頭を撫で、

 

「んじゃ、葵。あと頼むわ」

「え?どこに行くの?」

「俺と葵がいて、なにも干渉なしじゃ逆に怪しまれるだろ?それぞれ頭のきれる奏と遥もいることだし」

「あ、そっか…!」

「ま、盛り上げるって父さんにも条件付きでこのチーム入ったわけだし…」

「わかった!お願いね翔君!」

「おう!」

 

返事をしてその場をあとにする。

 

 

「私達もいかなくていいの?」

「ふふ、大丈夫だよ!お姉ちゃん達気づいたことあるんだ!」

「え?なになに!?」

 

 

ーーーーーーー

 

「茜姉さん!いた!あこだ!」

「オッケー!」

 

茜、遥、岬のチームが建物の上に鷹を見つけ、茜が能力を使い空を飛び鷹に迫る。

 

「させるか茜ぇ!!」

「うぉぉぉお!」

 

そこに、修と輝も現れ3人が同時に鷹に迫る。

 

あと、少し、3人の手が鷹に触れそうになる瞬間ーー

 

「「「ーー!?」」」

 

突如、何者かに弾かれ吹き飛び建物から落ちる3人。

 

「あか姉大丈夫!?」

「ーーあれは!?」

 

慌てて岬と遥が茜に駆け寄り、

 

その場にいた全員が先程鷹がいた場所を見上げる。

 

 

しかしすでに鷹は飛び立っており、

 

 

そこには、

 

舞い散る鷹の羽根を浴び、

 

一振りの剣を肩にかけて圧倒的存在感を放つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄ちゃん登場!」

 

余裕の笑みを浮かべる長男()がそこにいたーー

 

 

 

 

 

 




真打ち登場!
最強の兄、翔の登場で荒れる戦場ーー

次回は明日です!




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第37話【兄の実力】

長男の登場により兄弟対決勃発!

勝負の行方はーー



「兄ちゃん登場!」

 

…ふ、きまったな。

 

俺を見上げる兄弟達。

 

どうだ?兄ちゃんかっこいいだろ!

 

 

「…って、ぺっ!ぺっ!うわ、羽根口に入った!」

「「「(…だせえ)」」」

 

「…」

「「「…」」」

 

「…兄ちゃん登場!」

「「「(…うわあ)」」」

「やめろ!引くな!」

 

 

冷ややかな目で見てくる兄弟達。

 

やばい、俺の兄としての威厳が…!

 

「お、おほん!ところで、だ!」

 

咳払いをして、話を戻す。

 

「俺がいることを忘れてもらっちゃ困るなー。そう簡単にはこの勝負は終わらさせないぞ?」

 

ま、どちらにしろ鷹捕まえても終わらないし、俺も時間稼ぎに過ぎないんけどね。

 

 

「茜、修!どうだ?体育祭のリベンジでもしてみるか?」

「「!?」」

 

「そうだなー、なんなら2チーム全員でかかってきなよ」

「そんな勝負のるわけないですよ兄さん」

「そうだよ!さすがの翔ちゃんでもこれだけの人数相手は無理だよ!」

 

「うわー言ってくれるねー!…はっきり言おうか?お前達なら俺一人で十分だぞ?」

「へーそっちこそ言ってくれるじゃん翔ちゃん!」

「そうだよ!いくら翔兄でもいまの言葉は聞き捨てなんないよ!」

 

「なら、試してみるか?」

「ーー!?」

 

俺の挑発にまんまと乗ってきた茜と岬をさらにあおる。

 

「こうなったら、やるよ遥!」

「はぁ…本気?正直勝てる気しないんだけど」

「「遥はどっちの見方なの!?」」

「落ち着いて茜姉さん、岬。確かに勝てる気はしないけど…翔兄さんには勝ちたいとは思ってる」

 

そう言って敵意をむき出す遥。

 

いつもボードゲームとかで負かしてるからなー。

 

「よし!ならいくよ!…修ちゃんと!輝も!」

「えぇ!?僕もですか!?」

「…はぁ」

 

気にせずちゃっかり鷹の確保に向かおうとしていた修と輝の腕を掴む茜。

 

「仕方ない…俺達もやるか輝」

「は、はい兄上!」

 

「来なよ!ま、今回もお前達の敗けだけどな!」

 

そう言って笑うことで茜の怒りは最高潮に達し、

 

「ーー!?泣いても絶対許さないよ翔ちゃん!!」

 

一気に能力で俺の元まで飛んでくる。

 

 

しかし、

 

「そんなんじゃ届かないよーー」

 

盾を呼び出し構える。

 

「ーー!?姉さん!その盾に触れちゃだめだ!!」

「!?」

 

それを見た遥の言葉に、咄嗟に反射でブレーキをかける茜。

 

遥の奴、勉強熱心なのは良い事だけど、敵にまわすとなると考えものだな…。

 

けど、

 

「もう遅い…墜ちな、茜」

「え?ーー!?」

 

茜が盾に触れた瞬間、能力が切れ重力を制御できなくなり、重力に従い地面に落下する。

 

だが、間一髪の所で能力をかけ直し、なんとか持ちこたえる。

 

「…慈王の盾」

「ご名答!」

 

苦虫を噛み潰したような顔でこちらを見る遥に、笑いながら答える。

 

「え?なに!?どういうこと遥!」

「翔兄さんの持つ歴代王達の武器はただの武器じゃない。それぞれの王が持っていた特殊能力をそのまま宿してるんだ。あれは、慈王と謳われた7代目の女王の盾。その慈王が持っていた能力はーー」

「…能力を無効にする能力、能力消去(アビリティキャンセル)か」

 

遥の説明に続ける修。

 

「能力を無効って!?そんなことあるの!?」

「現に茜がいま能力を消されたのを見ただろ?」

 

「…それだけじゃない…翔兄さんは歴代王のほぼ全ての武器を持ってる…。つまり実質10以上の能力者って事だーー」

「「「ーーな!?」」」

 

遥の言葉に驚愕する茜、岬、輝。

 

ま、武器は1つずつしか出せないから、使える能力も実際は1つずつなんだけどな。

 

「そんなのチートじゃんか!翔兄のばか!」

 

そんなこと言われてもなー…。

 

素で傷つくわー。

 

「茜姉さん!とりあえずあの盾は触れたものにしか能力が発動しないはずだから、触れなければ大丈夫!」

「わ、わかった!」

「岬、お前は分裂して他方向から攻撃して!盾は1つだ、必ず付け入る隙はある!」

「わかった!」

「輝、俺達もいくぞ!」 

「はい、兄上!」

 

 

茜、修は空から、輝と岬の分身の中でも運動神経が良いライオとユニコの3人は俺を囲み迫ってくる。

 

ふむ、これは盾じゃ防ぎきれないか…

 

なら、

 

「…俺も少し本気だすか、なっ!!」

「「「ーー!?」」」

 

盾から鉾に持ち変え、振るうと2人残像が現れ、それぞれ修と茜、ライオとユニコ、そして俺は輝を払い除ける。

 

「あの残像は…!?初代、祖王の逆鉾、三位一体(トリニティ)か!?」

 

三位一体(トリニティ)

本来1つだけのはずの能力を2つ持っていたとされる、この国の最初の王、祖王のもう1つの能力。2人の残像を作り出し共に戦うことが出来る。

 

もう1つは俺と同じ、王の剣だ。

 

ちなみに2つ持ちだったという事については、ほぼ一般常識として世に知れ渡っているから兄弟達の反応は薄いな。

 

ちょっとつまらなくもあるな…。

 

 

「…対峙すると改めてチートですわね」

「だぁあ、ムカつく!」

 

おもむろに怒りを露にするライオとユニコ。

 

「ど、どうしよう修ちゃん、遥!」

「落ち着けお前達…」

 

「さすがにこれだけの数に囲まれたら、俺も少し本気ださないときついわ」

 

鉾を戻しながら笑っていると、

 

「!?」

 

ズドンッ

 

「「「!?」」」

 

急に巨大な岩が降ってきたので、籠手を出し受け止める。

 

咄嗟すぎて片手で受け止めてしまったけど、籠手の能力でなんとか回避できたな。

 

「私を忘れてもらっちゃ困りますよ、お兄様!」

 

そう言って遥達の後ろから現れる奏。

 

「…まさか、奏までこの勝負に乗ってくるとはなー」

「実際、お兄様を残して鷹を捕まえるのも難しいですからね…」

「なるほど…最善策か。…しかし、人の頭上に岩を生成するなんて…殺す気かよ?」

「これぐらいこちらも本気でいかないと、お兄様には勝てないじゃないですか」

「…ま、そうかもな」

 

そう言って受け止めた片手で岩を握りつぶす。

 

「あ、あれって僕と同じ…!?」

「ああ、8代目、闘王の豪拳、怪力超人(リミットオーバー)

「輝と同じ能力まで!さっきからなんなのさ!翔兄ずるすぎ!」

「ここまできたらさすがに、な…」

「もはや化け物ね…」

 

「そんな言い方なくない!?」

 

ちょっと大人げなかった気もするけどさー…。

 

「わかったよ、ならもういつも通りこいつだけでいいよ!」

 

半ば拗ねながら普段から使いなれている夜叉王の刀剣を6本呼び寄せる。

 

「あーあ、翔ちゃん拗ねちゃったー」

「拗ねたお兄ちゃんもなかなか…(ボソッ」

「かなちゃん…?」

 

「いいんですか?兄さん、今回は体育祭の時とは人数が違いますよ?」

「もういいよ、別に…。そのかわり今回は6本全部使ってやるからな!文句言うなよな!」

 

「「「(あーあ、長男拗ねたー)」」」

「(きゃーお兄ちゃん可愛い!)」

 

 

「なんでもいいから、ほら!来いよ!!」

 

 

そして戦闘が再開される。

 

奏が生成対価の無い石ころを生成し、輝が能力を使いそれを高速で投げつけてくる。

 

それを能力でかわした先には、ライオとユニコが待ち構えているが、さらにそれを能力でかわす。

 

しかし、奏が生成した巨大な岩を能力で持ち上げ、逃げ道を段々と縮めていく茜。

 

そして、やむを得ず上に逃げた先には修がーー

 

「!?」

 

修が俺の持つ短刀に触れる。

 

やばい、このままだと飛ばされる!!

 

咄嗟に短刀から手を離し、修と短刀だけがどこかへ瞬間移動する。

 

「やっば!危なかったぁ!!」

「…ちっ!」

 

そしてそんな俺を見て悔しそうに舌打ちをする、俺の逃げ道を全員に確率予知で指示していた遥。

 

「すまん!逃した!」

 

そして修も戻ってくる。

 

「やるなぁお前達…でもまだまだこれからーー」

「ーーいいえ!私達の勝ちです!!」

「は?なに言ってーー!?」

 

奏に言われてはじめて気づいた。

 

修、奏、茜、遥、岬、輝の6人がそれぞれ俺の短刀を1本ずつ持っていた。

 

俺を追い詰めつつ、投げた短刀を回収してたのか…!?

 

「ぷ、はは、ははははは!本当の狙いはそれだったか!」

 

兄弟達の成長に嬉しくて、思わず笑いが込み上げる。

 

「いやー嬉しいよ!みんな立派に成長したなー!兄ちゃん一本とられたわ!」

 

本当に嬉しいな…小さい頃はいつも俺に引っ付いて離れなかったこいつらが…!

 

「…けど、忘れてないか?それは俺の所有物だぞ?」

 

そう、俺に所有権がある限り、どこにあろうと自由に呼び戻せる。

 

すなわち、

 

「俺から奪ったところで何も意味はない…さ、返してもらうぞ!」

 

そう言って手を前にかざす。

 

が、しかし、

 

 

「ーー!?な!?」

 

 

目眩がして思わず膝をつく。

 

「時間切れだよ翔兄さん」

「まったく…能力の使いすぎですよお兄様」

 

「え?なに?どういうこと!?」

 

「歴代王達の力は確かに強大だ…けど、もちろんリスクが生じる。使えば使うほど体力が持ってかれるんだよ」

 

俺の能力を知る遥、奏、修が、わけがわからないといった感じの茜、岬、輝に説明する。

 

「いやー、はは…ここまで計算の内とはな…」

 

本当、少し見ない間に立派になりやがって…。

 

なんか、嬉しくもあり、寂しくもあるなー。

 

「…はあ。この勝負、俺の敗けだ!鷹ならあこだ、好きにしな」

 

そう言って地面に座り込み、ビルの上の鷹を指差す。

 

 

「もう!お兄様はいつも無茶しすぎです!」

「はは、今回はちょっと新年明けましてってことで、はりきっちゃった!」

 

呆れながらも心配そうに介抱してくれる奏に笑いながら答える。

 

 

「え!?待って!鷹、2羽になってるんだけどぉぉ!?」

 

いつの間にか鷹が2羽に増えていた。

 

「どっち遥!早く予知して!」

「いまやってる!(どっちだ!?どっちが捕まえるべき鷹だ)…!?翔兄さん、いったい何したの!?」

 

予知が終わったのか、勢い良くこちらに振り向く遥。

 

「なにって、遥の結果通りだけど?」

「なに!?どうしたの遥!」

「…どっちも0%だ」

「え!?どういうこと!?」

 

 

 

『今回のサクラダゲームは翔様・葵様・光様・栞様のチームの勝利となりました!』

 

ゲームが終了し、家に戻りテレビに結果が映し出される。

 

無事、“猫”のミケを捕まえれたようだな…。

 

「まんまと兄さんにしてやられたな…」

「僕達の意識を葵姉さん達に向けさせないように時間稼ぎしてたのか…」

「勝負に勝って、試合には負けたって感じね…」

 

「目標が猫とか聞いてないんだけど…」

「鷹を捕まえろとも言ってないぞ」

 

そう言って拗ねる茜の頭を撫でる父さん。

 

「でもお父さん、なんでこんな引っ掻けるような真似を…?」

「その方が面白いと思ってなーテレビ的に!なのに翔も葵もすぐ気づいちゃうんだもんなー…翔に至っては始まる前から気づくし…もう、空気読め!」

 

そう言ってウィンクをしながらこちらを指差す父さん。

 

「まあいいだろ?結果、ちゃんと盛り上げてやったんだし?」

「おーう!翔のおかげで視聴率も過去最高だ!」

 

力を使いすぎて疲れたからソファで横になりながら父さんと会話をする。

 

そして今回は奏の膝枕だ!

 

ゲーム終了後からずっと介抱してくれている。

 

良いことでもあったのか、さっきからやけにご機嫌だし。

 

いつもこんなならいいのに…。

 

それにしても…

 

上を向けば目の前に2つの国宝が!

 

うむ、これも悪くない!

 

思わず手が伸びそうになる衝動にかられているとーー

 

 

!?

 

な、なんだ!?このただならぬ程の殺気は!?

 

3方向から殺気を感じる。

 

なに!?囲まれた!?そんなバカな!

 

冷や汗が止まらない。

 

いや、待て!落ち着け俺!

 

こんなときこそ冷静に、クールダウンだ!

 

きっと気のせいに違いない!

 

「お兄さま、凄い汗!お水どうぞ!」

 

そう言って横でずっと待機していた栞が、水を渡してくれる。

 

起き上がり、お礼をして一気に水を飲み干す。

 

「大変!顔色も悪い!もう一杯どうぞ!」

 

そしてコップに水を注ぎ直してくれる栞。

 

ああ…こんな殺気の中だってのに、なんなんだこの天使は!?

 

「ありがとう!兄ちゃん栞が注いでくれるなら何杯でも飲めそうだ!」

「本当!?」

 

嬉しそうに目を輝かせる栞。

 

 

おお!なんて眩しいんだ!天使か!

 

産まれてきてくれて、ありがとう栞!

 

こんな素晴らしい栞を産み出してくれて、ありがとう世界!

 

 

現実逃避しながら栞の頭を撫でていると、しばらくして殺気は消えていった。

 

ほんと、なんだったの?怖かったんだけど!

 

 

「さて、そろそろパーティーに行く準備をするぞー」

「あ、その前にお父さん。早速だけど、ポイント譲渡してもいいかな?」

「いいぞ、誰にするんだ?」

「えーと……奏に」

 

その言葉に喜ぶ奏と茜。

 

なんで茜も喜んでんだよ…。

 

どんだけポイントいらないんだよ…どこまでも必死か!

 

 

そんな中、

        

「んじゃ俺は修に…」

「…え?」

 

不意打ちに驚く修。

 

そしてーー

 

「「「えぇぇぇえ!?」」」

 

茜、奏、岬、光の4人から1人反感を買う俺だったーー

 




兄弟達に圧倒的力の差を見せつけた翔

しかし、主人公をチートキャラにはしたくはないので、強大な力を使う代わりにもちろんリスクが生じます。

残りの武器の能力については今後その都度紹介し、主人公設定に更新していきます。


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第38話【新年会と写真】

「翔様、お会いできて光栄です!」

「翔様、今度せびとも我が国へお越しに…」

「翔様!私と結婚してください!」

 

「あ、あははは…」

 

さきほどのゲームの後、俺達兄弟は毎年他国を招いて行われる国同士の新年会のパーティーへと来ていた。

 

もちろんみんなドレスコードも完璧、正装済みだ。

 

うん!みんな可愛いし、カッコいいぞ!

 

 

6年ぶりの長男の参加とだけあり、先程から色々な国の人達に囲まれている。

 

興味関心やご機嫌取りとそれぞれ目的は違うんだろうけど…最後の人は聞かなかったことにしよう。

 

この人達の目的はどうあれ関係ない。

 

正直に言おう、俺は海外が苦手だ!

 

理由は簡単、英語が出来ない。

 

それとなく意思の疎通は出来るが、何を言っているのかわからない、ごめんなさいだ。

 

このパーティーに来る人達はこちらの国の言語に合わせてくれてるからまだありがたいけど。

 

俺が他国に行ってみろ、路頭に迷って死ぬぞ。

 

 

「…はぁ、しんど…」

「お疲れ様ですお兄様」

 

やっとの事で解放され、近くにいた奏のそばへ逃げ込む。

 

「お兄様、海外苦手でしたもんね!」

「…そんなにはっきり言ってくれるなよ」

 

けど、いまはそんな奏の皮肉すら愛しく思うね。

 

他国から解放され、本来に戻った事を実感させてくれる。

 

「それにしても、多くの女性に囲まれて、随分とモテモテでしたね!」

「…どこがだよ?たとえそうでも別に嬉しくーーえっと…奏ちゃん?」

 

奏の言葉に振り向くと、

 

「なに怒ってんの?」

 

黒い悪魔がそこにいた。

 

「え?なんのことですか?」

「え?いや…その…」

「結婚してとも言われていましたね!」

 

訂正、魔王でした。

 

「いや、だから俺海外苦手だから結婚するわけないじゃん」

「…そうですよね!わかってましたよ!ちょっとからかっただけじゃないですかー!もうお兄様ったら本気にされたんですか?」

 

そう言って先程までの黒い笑みなど嘘のように、ぱぁっと明るい笑顔を見せる奏。

 

あれ?魔王は?どこ行った?

 

「魔王?なんのことですお兄様?」

「!?」

 

いや、ここには女神しかいないな、うん。

 

「これ以上邪魔者が増えて、ややこしくされたらたまったもんじゃないわ(ブツブツ」

「え?なんの話?」

「いいえ!こちらの話ですのでお気になさらず!」

「そ…そうか」 

 

 

「なぁ奏、あの人誰?」

 

そう言って、葵と話す男を指差す。

 

「お兄様、こんな公共の場で人を指差すのはやめてください…。あーあの方は南方より来られてる貴族の方ですね。」

「ふーん、なんか葵凄い困ってる感じしない?なに話てんだろ?」

「もう少しで40半ばになると言うのに奥さんもめとらず、お姉様が中学に上がった年から毎年あーして求婚の申し込みを…て、お、お兄様!?」

「…ふーん」

 

…殺す!

 

「んだ?あのくそじじい!俺の可愛い妹に何言い寄ってくれてんの?は?中学から?ロリコンか?あぁん!?」

「お、お兄ちゃん!本音がだだもれなんだけど!?殺意むき出しなんだけど!?」

「安心しろ奏、俺はいたって冷静だ。お前こそ慌てすぎて外出モードが解けてるぞ。…さて、どうしてくれようか?まずはあのムカつく髭でも引きちぎるかーー!!」

「お兄ちゃん!?だめ!落ち着いて!やめてぇぇえ!!」

 

 

その日、他の兄弟達は、

 

1人の男にただならぬ殺気を放つ長男と、

 

その長男に泣きながら抱きついて引き留めるも、力及ばずずるずると引きずられる次女

 

を見た…ような気もしたがきっと気のせいだと思うことにした…。

 

 

殺気を当てられた人物は全身から冷や汗が止まらずその場から逃げ出し、その年から2度とそのパーティーに参加することはなかった…。

 

その男と会話していた葵がどうしたのかと振り返ると、何事もなかったかのように清々しい笑顔で手を振る兄と、泣きながら安堵するいつも冷静なはずの妹がいて、余計困惑したらしい。

 

 

そして、

 

櫻田家の番犬が帰還した。

あの家族、特に姉妹に取り入ろうものなら間違いなく消される、という噂が流れたそうな…。

 

 

しかし、いつの時代、どの場所にも勇者は存在する。

 

 

「お、お兄様…一応聞いておきますけど、あれはいいんでふか?」

 

泣き止み落ち着いた奏が不安そうに指を差す。

 

「おいおい、奏ちゃーん。さっき俺に人を指差すなと怒ったのは君だぜ?さっきから取り乱したりして奏らしくもないぞ?どうした今日は不調かい?」

「お兄様のせいじゃないですか!!/////」

 

怒る奏に、冗談、ごめんとあやまりながら指を差された方に目をやる。

 

あー…

 

「あいつは大丈夫だ」

 

 

先程の葵の一件を見ておきながらも茜に取り入る少年。

 

人々が彼の事を勇者と称えたのは余談だが、

 

 

その少年とは西洋王家の第二王子のアルヴィンだ。

 

歳はひとつ下で修と奏と同い年。

 

 

あいつが昔から茜に気があることは知っているけど、

 

「別に俺が出る必要はないしな」

 

そう言ってもう一度目をやると、修と喧嘩をしていた。

 

茜の場合は、茜ファンクラブNo.2でもある程に茜を溺愛している修がまず黙ってるはずないしな。

 

「…なるほど。翔お兄様はお姉さま、修お兄様は茜。2人して妹が大好きなことで!…どいつもこいつもシスコン共め(ボソッ」

 

不満ありげにそういう奏。

 

「何言ってんだ!俺は奏が男に言い寄られていても同じ態度を取るぞ!」

「お、お兄様!/////」

「まあ、岬や光、まだまだな話だけど栞の場合でも絶対許さないけどな!」

「…ですよねー。わかってましたよ、ええ」

 

どこか遠い目をする奏。

 

人が真剣に話してるのに、こいつ聞いてるのか?

 

「まあ、いずれはその時も来るだろうけどなー。俺は無理強いは絶対許さないけど、お前達がちゃんと選んで信じた相手なら、なんも文句は言うつもりはないよ…」

 

ま、寂しい事にかわりはないけどな…と奏の頭を撫でる。

 

「…お兄ちゃん以上の人なんているわけないもん(ボソッ」

 

どこか納得のいってない感じだなー…。

 

いまはまだ想像もつかないのかな?

 

無理もないか…。

 

 

見当違いも甚だしかったーー

 

 

ちなみに、

 

葵、岬、光がそれぞれ誕生日に翔から貰ったものをしっかりと身に付けていたの余談。

 

 

 

それから新年会のパーティーも終わり

 

 

翌日

 

リビングにて、

 

 

「あ!見てみて!この写真ーー」

 

「ほんとだ良く撮れてる!」

 

「あ、ボルだ!」

 

この1年の間に俺が撮った写真を整理してアルバムに入れるのをみんなに手伝ってもらっていた。

 

毎年年始に、年ごとにアルバムを分けて保管してあるのだ。

 

 

「ぷ、あははは!このかなちゃん最高!ナイスタイミングじゃん!」

「だろだろ?ぶさかわいいだろ?」

 

光と奏がくしゃみをする瞬間をとらえた写真を見て爆笑していると

 

「光?お兄ちゃん?ちょっとあっちでお話しましょう!」

「「…はい」」

 

 

「あははは!兄さん!これはさすがにやばいですよ!」

「ば、やめろ修!せっかくおさまったのに鬼を刺激をするな!」

「そ、そうだよ修ちゃん!はやく隠して!」

 

修が手にしてるのは、昼寝をしている奏の鼻にボールペンをさすというイタズラを光とした時の写真

 

「光?お兄ちゃん?もう1回お話しましょうか!あ、修ちゃんも一緒にね!」

「「「…はい」」」

 

 

とまあ色々あったけど大方片付いた。

 

「いやー助かった!ありがとみんな!」

「ううん!いっぱい思い出も振り返れたしむしろ楽しかったよ!」

 

そう言って笑う茜の頭を撫でて、アルバムを持つ。

 

「あ、1枚落ちたよ!…あれ?ねえ翔ちゃん、この人達誰?」

 

そう茜が拾った写真には俺を含む8人の男女。

 

「どれどれ?…このメイドさんは満姫さんだよね」

「あ、ほんとだ」

 

他のみんなもその写真を覗きこむ。

 

「この人達、昨日お城にいたよ?パーティーの時しょうちゃんと話してた!」

「じゃあお城の人達?」

「良く見てたなー光。そうだよ、そいつらは俺の部下だ」

「部下?」

 

俺の言葉に?を浮かべる茜、岬、光、輝、栞。

 

「なに?あんた達知らなかったの?お兄ちゃん国の軍のNo.2なのよ」

「なんばー、つぅ?」

「まあ、まだだけどな…正式には高校卒業してからだし…」

「実質そんなようなもんじゃない」

「え?え?ちょっとどういうこと?」

 

困惑している5人。

 

「国を守ってる軍隊がいるだろ?それの最高指揮官が楠さん、これはみんな知ってるだろ?」

 

遥の言葉に首を縦に振る5人。

 

「兄さんはその次に偉いって事だよ」

「「「…えぇぇぇえ!?」」」

 

「翔ちゃんってそんなに偉い人だったの?」

「え、まあ…それなりには」

「王女である姉さんも十分偉くはあるんだけどね…」

 

「まあ、これでも一応は1つの隊を任されてる身だからねー…そいつらはその俺の直属の部下だよ」

 

「翔兄がそこまで凄い人だなんて知らなかった!」

「しょうちゃん凄かったんだね!」

「かっこいいです兄様!」

「兄さま、凄い人!」

「そうだろ?もっと誉めてもいいぞ!」

 

 

「そうだな…じっくり話したこともなかったし聞かせてあげるかな!」

「え?なになに!?」

「俺が旅の間の話だよ!」

 

そう言って6冊のアルバムを取り出す。

 

旅をしてた6年間分の写真が入ったアルバムだ。

 

「やったー!」

「へえ、私も興味あるなあ!あ、じゃあお茶淹れるね!」

 

そしてソファに座り、葵が淹れてくれたお茶を受け取り、アルバムを開くーー

 

 

これは俺の6年間の旅の話

 

俺達、王の剣(キングスグレイブ)の話ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 




来週から新章、王の剣編です!

翔の6年間の旅の話なので原作キャラ達がほとんど出てくることがないので原作キャラとの話を期待してくれている方には申し訳ないです!

けど、今後のストーリーに大きく関わってくる者達なので是非読んでいただけると幸いです!

再来週から2年目に入れるよう頑張るのでもうしばらくお待ちください

今後もよろしくお願いします!


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王の剣編
第39話【蛇使い】


本日より新章 王の剣編です!

完全オリジナルストーリーでしばらく原作キャラは出てきませんが楽しんでいただけたら幸いです!


まずは旅に出て半年後の話ーー

 

 

「だぁあ!見つんねぇぇぇえ!」

 

森の中をさ迷っていた。

 

「主よ。こんなときこそ冷静になれと、師である楠殿にも言われたであろう?」

 

俺を主と呼ぶ、この男性

 

名前は吉良村(きらむら)、通称ラムさん。

 

俺が7つの時から身辺警護役として仕えてくれている。

 

棒術に秀で槍の名手。

 

妻子持ちの優秀な戦士だ。

 

今回の旅の従者として同行してくれた1人。

 

そしてもう1人、

 

「そうですよ、翔様。いくら誰もいない森の中とはいえ、将来一国を担う者としてみっともないですよ」

 

説教をたれる曽和満姫さん。

 

一人だけ異様に大きなバックパックを背負っており、以前何が入ってるのか聞いたら乙女の秘密ですと流された事がある。

 

食料や食器、治療道具と旅に必要なものから、ネジやサイコロといった、え?それいるの?という物までなんでも出てくる不思議な鞄だ。

 

これに関しても、以前一度だけソワえもんと呼んだことがあり、その日の俺の夕飯だけ具なし、おかずなしと地味な嫌がらせを受けてから二度と呼ばないようにしている。

 

昔からどんな局面でも主の希望に添えるにと、教育を受けている為、別に重くはないらしい。

 

隠れ力持ちだ。

 

今回この2人が俺の旅に同行してくれたわけだが…

 

「…そんなこと言ったって、もう2日も森の中じゃん!」

 

旅立ってから半年経ったというのに、歴代王の墓は1つもまわれていない…

 

「そもそも、情報なし!ってどういうことだよ!」

 

というか見つからない。

 

 

歴代の王達の墓だというのに、城にあった情報は大体の場所のみ。

 

国王である父さんですら、正確な場所は知らされておらず、行ったこともないらしい。

 

 

そして、色々情報収集をしながらやっとの思いで1つ目の墓、修羅王の墓の手がかりを手にしてこの森までやって来たのだ。

 

手がかりと言っても、この森のどこか、と言うことしかわからないんだけども…。

 

 

「まあ、確かにいい加減見つかってもいい頃ですな…」

「帰りは任せてください!GPSマップがあるのでばっちりです!」

 

だが、けっきょくその日も見つからず

 

「いやー…はは、今日も野宿だな…」

「申し訳ありません。王族である翔様にこの様なーー」

「いや、いいんだよ!今回の旅は自分で決めたことなんだし!むしろ付き合わせてるのこっちだし!」

「まあまあ!たまにはこうしてキャンプも楽しいではありませんか!」

「ラムさんは気が緩すぎです!」

 

 

そして翌日

 

 

「ーーこれ、かな?」

 

そこには森の中だというのにあり得ないほど綺麗な金属で造られた建物が建っていた。

 

「恐らく、間違いないかと…扉の紋章は確かに王家の物ですし」

「にしても、やけに綺麗すぎない?修羅王って3代目だろ?…いつの時代だと思って…」

「確かに。最早、不気味ですな。主、先に入って中の安全を確かめてきてくだされ」

「ちょっとラムさん!?あなた仮にも翔様をお守りする役目だというのにーー「わかった」って翔様まで!」

「おじゃましまーす」

「だから普通に入ってかないでください!」

 

 

「良いですかお2人とも!ご自分の立場をわきまえてください!いったいどっちが主人かわかりませんよ!」

「やだなぁ曽和さん。ちょっとした冗談じゃん!ジョーク!」

「そうですぞ満姫殿。ほんのお茶目ではないですか!」

「聞・い・て・ま・す・か?」

「「…はい。申し訳ありません」」

 

けっきょく全員で中に入り、入った矢先で正座させられ怒られていた。

 

すると、

 

「ーー!?ラム!」

「はっ!」

「え?お2人ともどうしました?」

「満姫。俺の後ろにいろ」

「え?は、はい!」

 

背後からただならぬ気配を感じ、俺は賢王の剣を呼び寄せ、ラムは肩にかけていた槍を袋から取りだし、それぞれ構え、わけをわかっていない曽和さんを背中に隠す。

 

『先代賢王が認めた者だと、少しは期待していたが…まだ童ではないか。…所詮はあの甘い賢王が考えることだったか…』

 

すると、建物の奥から、鎖鎌を自在に操り、長い鎖をまるで蛇の様に体に巻き付けた男がつまらなさそうな顔で歩いてきた。

 

「…3代目国王、修羅王!」

「3代目って…何百年も前に亡くなられた方ですよ!?なぜここに!?」

 

『ふん。そんなもの所詮は肉体の寿命にすぎぬ。我々、歴代の王はそれぞれ己の武器に能力と共に魂を宿す。そうして代々受け継がれてきたのだ。貴様も既に賢王には会ったのであろう?』

 

ああ、確かに。この賢王の剣を継承された時に会っている。

 

 

 

旅に出る前に父さんが言っていた言葉を思い出すーー

 

「ーーいいか、翔。お前のその力はまだ未完成だ」

「…未完成?」

「ああ、その力を最大限使いこなせるようになる為には、各地に眠る王達の試練を突破し、お前の王としての器を認めてもらう必要があるんだーー」

 

 

なるほど。

 

どの墓にもこうして先代が待ち構えてるってわけか。

 

 

『まあよい。暇潰し程度には楽しませてみせよーー』

「「「ーー!?」」」

 

そう言って殺気を放つ修羅王。

 

俺の服を掴んでくる曽和さんが震えているのがわかる。

 

無理もない…。

 

戦いなれしてる俺とラムさんですら、気を抜けば怯んで動けなくなってしまうような程のとんでもない殺気だ。

 

剣を握る手に力が入る。

 

「ラム、満姫を頼む」

「承知しました主よ!」

 

『賢王が認めた者よ、見定めさせてもらうぞーー』

 

そう言って、修羅王ら右手を前に出すと巻き付いていた鎖鎌が勢い良くこちらに向かって飛んでくる。

 

それを剣で弾き、

 

「金属を操る能力、金属操作(メタナイト)ーー」

 

修羅王はその能力で、鉱山を読み当て、莫大な財産で領土を拡大したとされている。

 

『ほぉう、知識はあるようだな…いかにも。こうしてこの鎌を操る様は、当時“蛇使い”とも呼ばれていたな…。どれ、童。武の腕はどうだ?』

 

さらに鎖鎌を操り仕掛けてくる。

 

地を這い、攻撃をかわし回り込みを繰り返し、じりじりと追い詰めてくる様は、まさに蛇使いの名に相応しい。

 

『ふむ、なかなか当たらぬものだな。ならこれはどうだ?』

 

そう言い修羅王は指を鳴らす。

 

「な!?」

 

その瞬間、手に持っていた剣がカタカタと勝手に動きだし、剣先を俺の首に向けてくる。

 

『我を前に剣を振える者などおらぬ』

 

なんとか力で押さえ込もうにも、修羅王の能力で操られた剣は一向に止まる気配を見せず、じりじりと首へと近づいてくる。

 

戻そうにも、俺の支配権を離れていて戻せない。

 

『さて、童よ。この状況、貴様はどうする?』

 

少し首に当たり、血が滴る。

 

「翔様!ーー「来るな!」!?」

「こいつはいま修羅王の能力で操られていて、俺の意思が効かねえんだ!いつお前達に向くかわんねえ!」

 

くそ!まじでどうする?

 

このままじゃまじでやばい!

 

首が飛んじまう!

 

こんなあっさり終わっちまうもんなのかよ俺!

 

『やはり所詮はこの程度か…。賢王の目も落ちたものよ。つまらぬな…』

 

そして鎖鎌がこちらに向かって這ってくる。

 

 

賢王?

 

そうだ…

 

そうだぞ賢王…

 

「…あんたが“あの時”俺を選んだんだ…」

 

一度俺を認めたんならーー

 

「ーー黙って俺に力を貸しやがれ!!」

 

瞬間、剣が輝き、剣の動きが止まった。

 

『なに!?自力で支配権を奪い返しただと!?』

「うおらぁ!ーー」

 

そしてそのまま鎖鎌の鎖に剣を突き刺し、動きを封じ、修羅王に向かって駆け出す。

 

『ふん、だが甘い。足元ががら空きぞーー』

「ーーな!?」

 

が、長い鎖の全ての動きを封じれたわけでもなく、無慈悲に足をかけられて転ぶ。

 

「ちぃ!」

 

舌打ちをして立ち上がりながら修羅王を睨む。

 

『…どうした童。ふらふらではないか…そんな状態でまだ我に挑むか?』

「…うるせえ!俺にだって事情があんだよ!守りたいもんの為に、こんなとこで倒れるわけにはいかねえんだ!」

『…はぁ…やめだ…』

「…え?」

『もうよい、やめだ…ん?何を面食らった顔をしておる。聞こえんだか?やめだ』

「え、じゃあーー」

『…ああ、貴様を王として認めてやろう。…ふふ、ふははは!まさか我に素手で挑もうという輩が現れるとはな…なかなかに面白いぞ童!(幼さゆえ、まだ粗さは残るが…賢王が認めたのもわからなくもない…)しかし履き違えるな童!勇気と無謀は違う!精々他の者に殺られぬよう精進しろ!…貴様の目的の物はこの奥だ、好きに持って行けいーー』

 

そう言い残し、修羅王は姿を消した。

 

「はぁ…はぁ…やった、のか?」

 

緊張が解け、その場に座り込む。

 

「翔様ぁ!ご、ご無事ですかぁ!?あのまま翔様の首が飛んだらと思うと、私…私、怖かったんですからぁ!!」

 

後ろから泣きながら抱きついてくる曽和さん。

 

「主よ、ご無事で!?」

「ああ、ラムさん。なんとか、ね」

 

泣きじゃくる曽和さんの頭を撫でながらラムさんに答える。

 

「ごめん、曽和さん。これの手当て、頼んで良いかな?」

「あ!は、はい!ただいま!」

 

そして、曽和さんに切れた首の手当てをしてもらい、奥へ進む。

 

「ーーこれか…」

 

そこには、台座に横たわり、修羅王の鎖鎌を手に持つ銅像があった(FF15参照)。

 

「修羅王、あんたにも力を貸してもらうぞ!」

 

そう言って鎖鎌に手をかざす。

 

すると、鎖鎌は輝き、浮き上がり、俺の胸に突き刺さるように入る。

 

そして、透明のクリスタルの様な賢王の剣といまの鎖鎌、修羅王の刃が俺を中心に現れて消える(FF15ファントムソード参照)。

 

「「!?」」

 

それを初めて目にした曽和さんとラムさんが驚く。

 

「しょ、翔様!?い、いい、いま刺さって!ご無事なので!?」

「ん?ああ、大丈夫。無事継承された証だからー」

 

そして、目的を果たし、建物から出た瞬間、

 

「「「!?」」」

 

先程まで新品同然だった金属の建物は、ゆっくりと錆びついていき、やがて音を立てて崩壊した。

 

「…なるほど。修羅王の能力で維持していたということですな…」

「本来のあるべき姿に戻ったということでしょうか?」

「恐らくね…俺が持ち出したことで能力が解けたんだろ…」

 

そう言って、奥の方に目をやると、

 

崩れた鉄が1つも当たることなく銅像だけが神々しく綺麗に横たわっていた。

 

主が鉄が当たらぬよう仕向けたのか、鉄たちが最後の意思で主を避けたのか…

 

もはやそれを知るすべはない。

 

けど、

 

「…偉そうなわりには、案外いい人だったな…」

 

こうして、なんとか1つ目の墓、修羅王の試練を突破したーー

 

 




普段は、名前にさん付けや緩い言葉遣いの翔ですが、本気の戦闘や任務時の部下の前ではキツい命令口調に。


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第40話【鬼ヶ島】

修羅王の墓から2か月後、12月ーー

 

俺達はとある港町を訪れていた。

 

「ーー王様の墓、ねぇ…」

「はい。この辺りにあると聞いたのですが…」

「聞いたことないねぇ…」

「そうですか…ありがとうございました」

「すまないね」

 

「ーー手がかりなしかぁ…」

「そう上手くは事は運びませんな…」

「文献によるとこの辺りで間違いないはずなんですけどね…」

 

町について聞き込みをしてみたものの、何一つ情報を得られず、休憩がてら海岸に座って海を眺めていると、

 

「お主達、王の墓を探してるとな?」

 

髭のはえた老人が話しかけてきた。

 

「…あなたは?」

 

少し警戒しながら相手の出方を待つ。

 

「おっと、これはすまんのぉ!会話が聞こえてきたものでや。なに、儂は漁師をしておるただの爺じゃよ」

 

別に怪しい感じはしないな…大丈夫か。

 

「…そうか。それで、さっきの話なんだけど、お爺さんは王の墓について何か知ってるの?」

「うむ。王の墓と関係があるかどうかはわからぬが…100年ほど前に、王族の方々があの島を訪れ、何かを置いていったらしい…」

 

そう言って少し離れた小島を指差す老人。

 

100年か…。

 

この辺りにあるとされる墓は、11代目、鬼王の墓。

 

つまり、俺の曾祖父にあたる人だ。

 

年的にもまず間違えないか…。

 

曽和さんとラムさんを見ると2人も同じ考えなのか、頷いてくる。

 

「…なるほど。ありがとうございます。ならあの島についてもう少し調べてまわる必要があるな」

 

そう言って立ち上がり、聞き込み再開しようとすると、

 

「待たれよ!」

 

俺達を引き留め困ったような顔をする老人。

 

「教えておいて悪いんじゃが、あの島には近づかんほうがよい…」

「え?それはどうして…?」

「あの島には鬼がおる…」

「…鬼…ですか…?」

「うむ。あの島には一度は足を踏み入れれば二度と出られぬ洞窟があってな、来るものを取り込み食らう事から鬼が巣食う洞窟と言われておるじゃ。…その為、この町の者も誰もあの島にすら近づこうとはせんのじゃ…」

「なるほど…鬼、ねぇ…。なら漁船に頼むのは無理か…どうすっかなぁ…よし、泳ーー「ぐ、とか言いませよね?」…も、もちろん!」

「…え?」

 

服を脱ごうとしたところを曽和さんに止められる。

 

横で同じく、自分の服に手をかけていたラムさん。

 

ほら、ラムさんも泳ぐ気満々だったじゃんか。

 

「ふぉっふぉっふぉっ!面白いのぉお主達!気に入った!どれ、言い出した者として儂が連れてってやろう!」

「…え?」

 

こうして俺達は老人の船で小島へと向かうことになった。

 

 

「いやーしかし、ご老人。なんとも立派な船ですなぁ」

「なーに、ただの歳よりの見栄じゃよ」

 

笑いながらそういう老人だけど、本当に立派な船だ。

 

そこらの漁船が霞んでるぞ。

 

そんなことを考えてる俺達だけど、

 

「ラムさん!誰が余所見して良いと言いましたか?」

「め、面目ない!」

「まあまあ、曽和さん落ち着きなよ…」

 

先程の事をまだ怒っている曽和さんに船の上で説教されていた。

 

「いつもいつも適当な翔様がいけないんですよ!だいたいいま12月ですよ!?真冬ですよ!?死にますよ!?」

「…はーい、ごめんなさーい」

「なんですかその返事は!」

「ふぉっふぉっふぉ!怖い娘さんを連れておるなぁ」

「お爺様?なにか言いましたか?」

「ふぉ!?…な、なんでもないわい…」

 

初対面でも容赦ねえな。

 

そしてなんとか小島に到着。

 

「さて、目指すは洞窟だな…お爺さん場所ってわかる?」

「うむ、わかるぞ。案内してやろう…が、しかしじゃ!」

 

そう言って急に真面目な顔をし、

 

「よ、酔った…」

「あんた漁師だよな!?」

 

 

「ーーすまんのぉ」

「いいよ、島に連れてきてもらって、案内までしてもらってるわけだし。ま、俺が背負ってるわけじゃないんだけどねー」

 

さすがにまだ11の俺じゃ無理なので、ラムさんが老人を背負って洞窟を目指していた。

 

「いやいや、若いのにその気持ちだけでもありがたいわい…ほれ見えたぞ、あれが鬼の巣食う洞窟じゃ」

「うはーでけぇ!」けぇけぇけぇけぇ…

 

何十メートルもある巨大なら洞窟の入り口。

 

にしても凄いな!

 

声こだまして響いてんじゃん!

 

「これぞ、冒険って感じだよな!」

「翔様、遠足か何かと勘違いしてませんな?」

「そんなわけないだろ曽和さん。目的は見失ってないさ!」

「ふぉっふぉっ!仲が良いのぉ…しかし、すまんが案内できるのもここまでじゃ。儂もまだまだ死にたくないのでな、船で待っておるぞ」

「うん!ここまでありがとうお爺さん!あとは俺達で行くよ!」

「では、またあとでな…」

 

そう言って来た道を戻っていく老人。

 

「んじゃ、行くか…」

「…やっぱり入るんですか?」

「当たり前じゃんか」

「…で、ですよねー…」

 

 

「ーー思ったより明るくてよかったなー」

 

洞窟の中は一定の間隔で灯りが設けられており、やはり、人工の手が加わっているのが見てとれる、

 

「…にしてもおかしいな…」

「…ですな…」

「え?なにがです?」

「ここ、さっきも通ったんだよ」

「それどころか、ずっと同じところをぐるぐると回っている」

「え!?全然気づきませんでした!も、もしかして噂通りこのまま私達、出られないんじゃ…」

「うーん、それは困るなぁ」

「まあ原因は、十中八九この気味の悪い霧でしょうな…」

 

そう、この洞窟に入ってしばらくして出てきたこの霧。

 

視界を奪うわけでもなく、うっすらと立ち込めるその霧は確かに気味が悪くて仕方がない

 

「や、やっぱり鬼の仕業なんですよぉ!」

「かもねぇ」

「なんでそんな呑気なんですか!?」

「いや、落ち着いて曽和さん。鬼は鬼でも鬼王の話だよ」

「ふぇ?鬼王、様ですか?」

「うん。曽和さん、塩ある?」

「え?はい、ただいま!…でもお塩なんて何に使うんですか?」

「んー、確認かな…」

 

そう言って曽和さんに手渡された塩を舐める。

 

「…ラムさんはどう思う?」

 

ラムさんにも塩を渡し、舐めてもらう。

 

「!?苦い、ですな…」

「苦い?そんなはずは…辛っ!?」

「2人はそう感じたのか…ちなみに俺は甘く感じた」

「え?つまり、どういうことですか?」

「…恐らく俺達は今、鬼王の能力下にある」

 

相手の五感を支配し惑わせる能力、感覚支配(ザ・ファントム)

 

普段は温厚で誠実だった鬼王だが、戦場に立てばこの能力を使い相手を惑わせ鬼の様に容赦ない攻撃で追い詰めたといわれている。

 

「えぇ!?じゃあどうするんですか!?」

「このままでは無限に同じ道を通るだけですな…どうなさいますか、主よ」

「鬼王の能力が影響されるのは生物のみ…だったら無機物に頼むしかないだろ」

 

そう言って修羅王の刃を呼び寄せる。

 

「あーやっぱり、修羅王みたく全身に纏わせるのはまだ難しいな…」

 

呼び寄せられた鎖鎌の鎖は足まで上ったが力不足で地に落ちてしまった。

 

武器と共に能力を手に入れても、扱いきれなければ意味がない。

 

練習あるのみだな。

 

「主ならいまに習得出来るでしょう!」

「毎晩練習してますしね!」

「ばっ!2人共、知ってたのか!?」

 

隠れて修行して驚かせようと思ってたのに意味ないじゃん!

 

「もういい!とりあえず先を急ぐぞ!」

 

そう言って鎖鎌に地面を這わせる。

 

一応、この程度の操作なら出来るようにはなっている。

 

 

しばらく進んでいると、鎖鎌は壁の方へ進み出す。

 

「え?翔様、そっちは壁じゃ…」

「俺らの感覚なんて最早宛になんないよ…」

 

そう言って鎖鎌を信じて壁に向かって歩くと、そこには壁など存在せず通り抜けることが出来た。

 

「やっぱり、壁だと思い込まされていたのか…」

「やりましたな主よ」

「あ、霧も晴れましたよ!」

「そのようだね…ということだわ、お爺さん」

 

『ふぉっふぉっふぉ!いやはや気づかれておったか』

 

俺の言葉に答えるように、奥から笑いながらここまで案内してくれて老人が歩いてくる。

 

「え!?先程のお爺様!?」

「なるほど、ご老人が鬼王様でありましたか」

『いかにも。して、いつ頃からバレておったのかの?』

「最初から、かな」

『なんと!?』

「怪しい点はいくつかあった…。まず1つ目、港の人達に王の墓について聞いた時さ、墓について本当に知らなくても、昔、王族がこの島に寄ったって事が少しぐらい話に出てきてもいいはずなのに全員が知らないと答えたんだ」

『なるほどの…』

「次に2つ目、この島について調べようとした時、貴方は俺達の事を止めた。他の人に聞かれたくないことでもあったんでしょうね…たとえば能力でこの島の存在自体を隠していた、とか」

『!?』

「あこで海を見てた時、おかしいと思ってたんだ。漁船の船たちが島へ向かったと思ったら急におかしな動きをして引き返してた。あれも貴方の能力の仕業では?」

『むぅ…』

「そして最後に、そんな不可解な状況下で、貴方一人だけが詳しすぎた…」

『…ふぉっふぉっふぉ!なるほど、誘い込んだつもりがまさかこちらが案内させられていた、そう言うことか!』

「ま、そういうことですかね…それで、やはり貴方とも戦わなきゃいけないんですかね?」

 

そう言って鎖鎌を握る。

 

戦場では鬼と謡われた人だ、一筋縄じゃいかないだろうな。

 

そんなことを考えて、警戒していると、

 

『安心せい!その必要もなく、文句なしの合格じゃよ!』

 

と、俺の心配もよそに豪快に笑う鬼王。

 

『それだけの推理力、能力を破られた時点で儂の敗けじゃ!そして何より、従者との信頼関係。お主らを見ていればわかる…。互いに認め信頼した目をしておる。自分を慕ってくれる者は大切にしなさいーー』

 

最後にそう言って笑って鬼王消えていった。

 

大切な国の為、心を鬼にしてまで戦い抜いた王だからこその言葉だったんだろうな…。

 

 

そして、そのまま奥へ進み、無事、銅像の間へと到着。

 

銅像が手に持つ拳銃に手をかざし、鬼王の砲筒が継承される。

 

「うぅむ、やはり継承の瞬間は見ていてゾッとしますな…」

「そうですか?私は神聖な儀式だと割り切る事にしましたよ?」

 

その一連を静かに見守っていた2人が話し出す。

 

そんな2人を見て、改めて大切にしようと思う。

 

本当に良い仲間に恵まれたな…。

 

 

さてーー

 

 

「帰りだけど、船運転できる人いる?」

「「…あ」」

 

 

結局、あの船も幻でただの小さなモーターボートだった為、ラムさんが運転でき、帰ることが出来たーー

 

「あの狸爺め!」

 

2つ目の墓、鬼王の試練、突破ーー




次回は明日です!


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第41話【悪童】

すいません!

私事ながら仕事が忙しくて遅れてしまいました!

今日中にもう一本投稿する予定ですが時間は未定です

待ってくれているみなさまには申し訳ないです!


鬼王の墓からさらに4ヶ月が過ぎようとしていた頃ーー

 

 

「桜めちゃくちゃ綺麗だなぁ!こりゃ写真も止まらないわー!…あ、曽和さんそこ立って!」

「え?あ、はい…」

「うん!いいねえ!」

「は、はあ…?」

 

俺達は桜の名所の山を訪れていた。

 

「ひゃー水も美味い!やっぱ湧き水が良いんですかねえ!」

 

観光地というだけあり、色々な店が建ち並び、見渡す限りの山すべてが桜一色!

 

これはテンションが上がらずにはいられない!

 

…のに、

 

「…なんで俺らしかいないんですか?」

 

そう、桜の名所として有名なはずなのに、先程から誰一人と他の見物人を見ていない。

 

「…悪童のせいですよ」

 

店主がため息をつきながら答える。

 

「…悪童?」

「…はい、数年前にこの山に住みだした子供がいてね…そいつが山の動物や植物を狩って生活するもんだから、山中動物の死骸やらなんやらで、観光客も寄り付かなくなってしまったんですよ…私達も何人かで移住の抗議をしに行ったんですけどね、子供とは思えない強さで追い返されまして…」

「国には報告を…?」

「はい、もちろん。…しかし、その住居や狩り場がその子の所有地だったらしく、国も何も…」

 

なるほどな…。

 

けど、国もそんな子供一人をほおっておくはずは…。

 

国の者まで追い返して頑なに動こうとしない理由、か。

 

「んじゃ行ってみるか!」

「えぇ!?い、行くんですか!?」

「なにビビってんの曽和さん。俺ら鬼退治まで経験済みじゃんか!」

「それとこれとは話が別です!」

「諦めろ満姫殿。こうなった主は止められぬ…」

 

こうして俺達一行は鬼の子と話をつけに向かった。

 

 

「たのもー!」

 

山の中にある悪童が住んでいるらしい1つの建物。

 

見たところ水道と電気もちゃんと通っているっぽいな。

 

「想像してたより綺麗だね…俺もっとこう、小さい小屋を想像してたわ…」

「私は洞窟を想像しておりました…」

「…お2人ともそれは偏見ですよぉ…」

 

キャンプ場のコテージの様な家の前でそんな会話をしていると、

 

「ーー誰だ!?」

 

後ろから声がし、振り返る。

 

そこには山菜の入った籠を担いだ、高校生ぐらいの1人の男がこちらを睨みながら立っていた。

 

「おっと、これはどうも。俺達はただの観光客でして…」

「へー、その観光客が家になんのようだ…?」

「悪童退治…と言えばわかってもらえます?」

「!?」

「しょ、翔様!?直球過ぎますよ!」

「あっはっは!主はいつでもまっすぐですなぁ」

「ラムさんも笑ってないで!」

 

俺の言葉にさらに警戒心を高める相手。

 

「なるほど。あこの店の連中にでも頼まれたか?俺をここから追い出そうとしても無駄だぞ…怪我したくなかったら帰れ」

 

そう言って持っていた弓を構える男。

 

「…そうですか…では帰ります」

「!?」

「えぇ!?帰っちゃうんですか!?」

「うん。ほら、行くよーー」

 

俺の言葉に一瞬驚くも警戒心だけは緩めない相手をよそに2人を連れてその場をあとにしたーー

 

 

「ーーよかったんですか?帰ってきちゃって…」

「うーん、よくはないんじゃない?」

「…うぅ…もうわけがわからないですぅ…」

 

あの後、今日は山の麓の旅館に泊まることにして、案内された部屋で曽和さんと会話していた。

 

ラムさんには別に少し調事をしてもらっている。

 

 

「…やはり、主のお考え通りかと…」

 

しばらくして合流したラムさんから報告を受ける。

 

「…そうか。ありがとうラムさん。お疲れ様、先に温泉つかってきなよ、俺はもう少し用事済ませてから曽和さんと入るから」

 

そう言って曽和さんを見る。

 

「…?」

 

真顔だ。

 

 

あれ?

 

おかしいな…。

 

これじゃあ俺が1人ですべった上、女の子と一緒に風呂はいる宣言した恥ずかしい奴じゃないか!

 

「…あ!承知しました」

 

何かに1人で納得したラムさんは笑顔で部屋を出ていった。

 

待って!なにいまのあ!って!?

 

やめて!変な誤解しないで!違うから!

 

「…あの、曽和さん?」

「はい。なんでしょうか?」

「…ツッコんでは、くれないの?」

「なにがです?」

 

きょとんとした顔で首をかしげる曽和さん。

 

嘘だろ、おい!

 

「え、いや、だって…一緒に風呂、だよ?おかしくない?」

「どこがです?主のお背中をお流しするのも仕事の一環ですので何ともーー(バンッ! え!?しょ、翔様!?」

 

ダメだこの人、どこまでもメイドさんだわ。

 

机に頭を打ち付け突っ伏したまま、二度とこういう冗談は言わない、そう誓わずにはいられなかった。

 

それから温泉から戻ったラムさん共々誤解を解き本題へと移る。

 

その時2人が「なんだつまらん」という顔をしていたのは見なかったことにしよう…。

 

 

「そ、それじゃあラムさん。詳しく話してもらっていい?」

「はいーー」

 

ラムさんの話によると、

 

 

今日会った彼、名前が一二三(ひふみ)、17歳。

 

両親は幼少時に他界しており、年前に亡くなった祖父に育てられてきた。

 

あの山は元々、その祖父の所有地で、そのまま相続したらしい。

 

元は弓道部で全国にいくほどの腕前でその推薦で高校に進学。

 

しかし祖父が亡くなった事で、その高校も中退。

 

昔からやんちゃだったが、気が荒れ始めたのはそれかららしい。

 

好物はタケノコご飯。

 

「…最後の必要あります?」

 

 

翌日、俺達は彼の行動を監視してみることにした。

 

朝起き朝食を済ませた後、木を的に弓の練習をし出した、

 

「へー上手いな…百発百中じゃね?」

 

彼の射る矢は全て的の中心を捉えていた。

 

「ラムさんも弓出来たよね?同じことできる?」

「まず無理でしょうな。あれと同じことが出来る者は世界に何人いることやら…」

 

その後、汗を流し、山菜採りに山へ。

 

道中、猟師の罠にかかったうさぎを発見。

 

彼のものかと思ったが、罠をはずし手当てまでして森へ帰していた。

 

「見かけによらず優しいんだな」

「でも動物を狩ってるって…噂と違いますね」

 

昨日のラムさんの報告と俺の思い当たる節からまさかとは思ってたけど…とうとう噂も胡散臭くなってきたな…。

 

 

そして、夕方

 

彼が帰宅したところで彼もとを訪れていた。

 

「…また来たのか?昨日諦めて帰ったんじゃねえのかよ!」

「いや、諦めてはないですよ」

「ああん!?どちらにしろ俺はここから動く気はねえぞ!」

「…そうですか。…なら今晩俺を泊めてください」

 

 

「「「…はあ!?」」」

「な!?急になに言い出すんだお前!!」

「そうですよ翔様!冗談にもほどがありますよ!」

「主よ、今回ばかりは満姫殿と同意見ですぞ」

「え、いやだって動く気ないんでしょ?なら仕方ないし俺はあなたと話がしてみたい。だから泊めてください」

「はあ!?そんな身勝手な話があるか!嫌に決まってんだろ!」

「…わかりました。なら俺ここにいるんで、気が向いたら出てきてください」

 

そう言って家の前の丸太に腰かける。

 

「ーー!?好きにしろ!俺には関係ねえ!」

 

そして家に入っていく一二三さん。

 

3人いるとそれはそれで迷惑だと2人を無理矢理帰し、1人で夜を過ごしてきた。

 

「へきし!…やっぱまだ4月だし寒いな…」

 

曽和さんが置いてってくれた毛布だけじゃ追い付かねえ!

 

 

そして時刻は11時頃、動きがあった。

 

「…お前、まだいたのか…」

「ん?あ、話し相手になってくれる気になりました?」

「なんねぇよ!家の前で凍え死なれちゃ迷惑なんだよ!」

 

そう言って暖かいスープを渡してくる。

 

「え?これって…?」

「いらねえならいい!勝手に死ね!」

「いえ!ありがとうございます!ーー美味い!」

「ふ、だろ?この山の山菜は栄養も豊富でそこらのより味がいいんだ!」

 

そう言って笑う一二三さん。

 

「いやーやっぱ見かけによらずいい人ですね一二三さん!」

「うるせえよ!つかやっぱりお前ら俺の事探ってやがったな!」

「あれ?ばれてました?」

「あたりまえだ!」

 

なんでも昨日素直に帰った俺達が怪しくて後をつけてたら、ラムさんが聞き込みをしていたのを見たらしい。

 

「だいたいなんなんだよお前…さっきの2人を見る限りじゃ、どっかの良いとこの坊っちゃんかなんかだろ?」

 

へー、意外に冷静に見てるんだな…。

 

「ええ、まあ一応、そこそこには…」

「け!ボンボンかよ!見たところガキじゃねえか!」

「はい、12です。あ、ちなみに名前は翔です」

「聞いてねえ!…だいたい良いとこのガキがこんなとこで何してんだよ」

「まあ、色々ありまして…俺守りたいものがあるんですよ…けど何分力がない。だからその修行の旅、って感じですかね」

「…んだそりゃ…」

「あれ?守りたいという意思は同じだと思ったんですけど…違いましたか?」

「ーー!?お前、そんなことまで!」

「いえ、これはただの俺の勘です」

「!?」

「…本当の事を話してくれませんか?」

「……ついてこい」

 

そう言ってなにかを決心した一二三さんに連れらて、昨日俺達がいた麓とは別の麓に案内された。

 

「ーーこれは!?」

「見ての通り工場さ。しかも許可を得てない違法のな」

 

そこには黒い煙や汚水を出す巨大な工場が建っていた。

 

昨日気づかなかったのも無理はない、桜の名所からじゃここは完全に視角だ。

 

「見ろ、あの汚ねえのを!あいつのせいでここらの草木は死に、あの水を飲んだ動物が次々と死んでってる」

「じゃあ、噂の動物の死骸というのは!?」

「ああ、あいつらのせいさ。…じじいが死んでからだ、あこの連中が家に来てこの土地を譲れと言ってきた。理由を聞いたらこの工場の拡大だとぬかしがる!この有り様を知ってた俺はもちろん断ったさ…それからというもの奴らは動物の死骸を山に棄て、俺のデマの噂を流した。俺をここから追い出すためにな!」

 

そう言って横の木を殴る一二三さん。

 

なるほどな…そう言うことだったのか。

 

でも、これで今日の彼の行動とつじつまがあった。

 

「やっぱり一二三さんは優しい人でしたね。安心しました」

「あ?なに言ってーー」

「だって昨日だって、俺達を脅したとき。あえて矢じりの潰れた矢で威嚇してきましたよね。今日の昼間の矢を使えばいいものを…」

「!?お前、見てたのかよ!?」

「そんな睨まないでくださいよ…おかげで俺も決断することが出来たんですから」

 

あなたに手を貸すって決断がーー

 

「あ?なに言ってーー」

「ま、ここじゃなんですし、とりあえず戻りましょう!」

 

そう言って無理矢理帰路についたまではよかった。

 

が、しかし、俺達が戻るとーー

 

 

「おい!どういうことだよ!どうなってやがる!」

 

 

一二三さんの家は燃えていたーー

 

 



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第42話【希望の光】

大変お待たせしました、続きです!

急いで作ったので少しいい加減や適当になってるかもしれないです。




燃え盛る家ーー

 

「おい!これはお前の仕業か!?」

「まさか!そんなわけ!…!?誰だ!」

 

胸ぐらを掴む一二三さんを抑えながら、気配のした方を睨む。

 

「あなたがいけないんですよ一二三さん。あなたが我々の言うことを素直に聞いてくれていれば良かったものを…」

 

すると黒服の男達がぞろぞろと現れた。

 

「お前ら!?工場の!これはお前らが!」

「ええ、そうですよ。いくら頼んでもあなたが出ていってくれないものでね、無理矢理出ていく理由を作らせてもらいました」

「な!?ふざけんな!」

「ふざけるな?それはこちらの台詞ですよ。こちらがいくら大金つぎ込んでると思ってるんだ!どけと行ったどけ!こっちも、いつまでもガキのわがままに付き合ってる暇はないんだよ!」

「ーー!?」

「力も金も権力も!なにも持ってないガキは黙って大人に従っていればいいんだよ!」

「…くそ、俺は…!」

 

相手の怒鳴り声に怯み膝をつき涙を流す一二三さん。

 

「まったく…これだから言うことの聞かないガキは嫌いなんですーーごふ!?」

しゃべっているのを無視してその男の顔を殴る。

 

「な!?」

「ーーなんだお前!?」

 

殴られ吹き飛んだ男がこちらを睨んでくるが、そんなの関係ない。

 

「黙れ」

「「「!?」」」

 

俺の殺気に驚くみんなを無視して言葉を続ける。 

 

「お前ら何をしているのかわかっているのか?お前達の勝手な都合を押し付け、森林を殺し、あげく俺の友人を泣かせたんぞ!」

「ーー!?え…友人って」

「なに言ってやがるこのガキ!ーー!?」

 

殴りかかってくる1人を返り討ちにし、続ける。

 

「その罪の重さを知れ、くずども」 

 

 

「それから一二三!それでいいのか?お前の守りたいものはなんだったんだ?」

「…それは…」

「せっかく同じ意思を持つ友と思えたんだけどな…がっかりだ…」

「!?」

「お前の意思はその程度か?守りたいんじゃねぇのか?黙って見てるだけならそんなもの棄ててしまえ!」

「…俺は、じじいの残した山のために…世話になったじじいのために…」

 

俺の言葉に俯く一二三さん。

 

それを無視して黒服達をいなしていく。

 

 

しかし、しばらくして

 

「ーー前に…お前に言われなくてもわかってんだよ!」

 

そういながら俺の背後から向かってきていた黒服の額に弓を射て気絶させる一二三さん。

 

「言ってくれるじゃねえかガキ!」

「ガキじゃない、翔だ」

「へ!なら手貸せ翔!俺が守りたいもののために!」

「乗った!」

 

そう言って背中合わせになり、2人で黒服を蹴散らしていく。

 

近づく者は俺が蹴散らしていき、遠くの者や俺の背後をとるものを一二三さんが弓で排除していく。

 

 

それからしばらくして、

 

「はぁ…はぁ…」

「…あとはお前だけだ…」

 

なんと全員を倒し、最初に話していた男が残す1人となった。

 

「な、なんなんだよお前ら!ただのガキじゃないのか!?」

「「!?」」

 

そう言ってナイフを取りだし構える男。

 

「やってやる!こうなったらやってやるぞ!」

「…はぁ震えてるじゃないか。…それはお前のような半端な奴が人に向けていい物じゃない」

「だ、黙れ!ガキがぁあ!」

 

俺の言葉に興奮した男がナイフを向けてこちらに迫ってくる。

 

「おい!なにしてる!危ねぇ!」

「!?」

 

一二三さんが俺を庇おうと前に出る。

 

「ほぉう。その覚悟はよしーー」

「ーーな!?ごふ!」

 

が、ナイフが触れる直前にラムさんが現れ槍でナイフを弾き、男を吹き飛ばした。

 

「…ラムいままで何してた?」

 

ずっと側で隠れて見ていたの知ってんだぞ?

 

「いやーこういった登場の方がカッコいいではありませんか!」

 

なんつってーと笑うラムさん。

 

あんた本当に俺の護衛役だよな?

 

「…あとで満姫の説教な」

「な!?それだけはご勘弁を…!」

「そうだ!家がーー」

「それならもう大丈夫ですよ!」

 

慌てて振り返る一二三さんの前には曽和さんが立っていた。

 

「地元の消防隊の方に任せてすでに消火済みです」

 

そう言う曽和さんの指の先には鎮火作業を終えた消防隊や黒服達を拘束する警察達がいた。

 

火が上がっているのを隠れて見ていた曽和さんはその場をラムさんに任せて救援を呼んで誘導してきてくれたようだ。

 

「ありがとう満姫」

「いえ!翔様もご無事で!」

 

それにくらべラムさんは…。

 

良いとこ取りのチャンスうかがってたとか…使えねー。

 

 

「…よかった」

 

安心して緊張がとけたのか、その場に座り込む一二三さん。

 

「ふぅ。…一二三さん、工場の件だけど、これでとりあえずは問題ないはずだよ。…けど…」

「…ああ、わかってる。今後またこういった事が起こるかもしれない…都市計画が進んでるこの世の中じゃおかしくはねえ」

 

あ、やっぱり意外に冷静だな。

 

「うん、だからーー」

「だから、俺はもっともっと力をつけなくちゃなんねえ」

 

…訂正、やっぱり極端かも。

 

「はぁ。…一二三さん1人でどうこうできるわけないじゃん。あの男が言ってたのは事実だよ。力も金も権力もない奴は黙ってみているしかない…」

「!?だからって本当に黙ってみてろってのか!」

「いや、だから、ここら一帯の山を自然保護区にした」

「…は?」

 

あれ?反応薄いな。

 

「だから、自然保護区にーー」

「はぁあ!?どうこうことだよ!は?お前にそんなことできる権利がーー」

「権利ならある!」

「!?」

「いや、正式には今はまだない。…だから今回は上の権利を借りた」

 

昨日俺が風呂前に済ませた用事とはこれだ。

 

国王である父さんに直々に依頼したのだ。

 

「けど必ずいまにそれだけの権力を手に入れるつもりだ」

「…は?なに言って…」

「そうだな、改めて自己紹介を…俺は櫻田 翔。この国の第一王子だ!」

「…!?」

 

ーーーーーーー

 

「そもそもここの桜、こんなに綺麗なのに無くなるとか考えらんなし」

 

そう言って笑う翔。

 

ほんと、なんなんだよこいつは。

 

第一王子?

 

一先ずこの山は守られた、のか…?

 

もうほんとわけわかんねえ…

 

 

けどーー

 

「俺には守りたいものがある。…けど、まだまだ力も地位も足りない…」

 

こいつにならーー

 

「だから俺はもっと上を目指す。その為には1人じゃ限界があると思う…」

 

こいつの目指す先をーー

 

「だから今度はお前が俺に力を貸してくれ!」

 

俺を救ったこの希望の光の先をーー

 

「はぁ。…ああ、いいぜ!乗った!!」

 

一緒に見てみたいと、この時俺は思ったんだーー

 




次回は明後日にまとめて投稿します!


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第43話【狂犬】

すいません!
 
金曜日にまとめて投稿すると言いたかったんですけど

いま見てたら今日投稿するってことになってましたね!

待ってくれていた人には本当に申し訳ないです。

とりあえずお詫びに1話だけですが載せておきます

ご迷惑お掛けしました。


あの山の事件から1ヶ月が過ぎたーー

 

 

「だぁぁあ!飽きた!!」

 

 

「うるさいんだけど“イフ”」

「うるさいですよ“イフ”さん」

「うるさいぞ“イフ”」

 

あの後、仲間になった一二三、通称イフ。

 

話し方も砕けた感じでいいと言われた。

 

「だってもう1ヶ月もほぼ何もしてねーじゃねえか!…つか、だいたいイフってなんだよ!」

「一二三って呼ばれるのは好きじゃないとか言うから、俺が良いあだ名をつけてやったんだろ?…わがままかよ」

「だからってどうしたらイフんだよ!」

「ひふみの、ひは、いちとも呼べるだろ?そっからだよ」

 

「良いじゃないですか畏怖(イフ)、短気な貴方にピッタリですよ、くす」

「おいこらメイド!笑ってんじゃねえよ!」

「男の癖に弱いものに食って掛かるなイフよ、情けないぞ」

「おっさんは黙ってろ!」

「な!?どこがおっさんだ!私はまだ27だぞ!」

「その髭だよバーカ!んだそりゃ?たわしか?」

「確かに、ラムさんはその無精髭のせいでフケて見えますよ」

「そんな!?」

 

そう言って言い合う3人。

 

うん、もう仲良くなったみたいで安心安心。

 

「ラムさんの髭はどうでもいいけどーー「主まで!?」この1ヶ月動きがないのは確かだな…」

「だろ?観光して写真撮って美味いもん食って温泉浸かって…って旅行か!?」

「ひゅー!いいねーイフ!今日もキレッキレだねえ!」

「…んな話してんじゃねえよ!」

 

イフに胸ぐらを掴まれ揺すられる。

 

やめて、揺れる。

 

「そんなこと言われても、伏竜王のとこだめだったしーー」

 

 

ーー先日俺達は伏竜王の墓に辿り着いたのだが…

 

いくら待っても姿を表してくれることはなく、声だけが聞こえてきたと思ったら、今のお前には足りない、認められないと追い返されてしまった。

 

何日か通ってみたが、毎度同じことを言われ無駄足に終わった。

 

いったい何が足りないのかわからないし、どうしようもなく、別に順番があるわけでもないので、先に他の所をまわり、ここは最後に訪れようという結論に至った。

 

しつこくして受け入れてもらえなくなったら元も子もないからな…。

 

「だからってこのまま何もしないでぼけぼけしてるのかよ!守る力を振るえる地位に上るそう言ったのはお前をだろ!」

「かっちーん!いまのは聞き捨てなんねえわ!あーあ!怒ったよ?怒っちゃったよ俺!」

 

イフの胸ぐらを掴み返す。

 

「やめんか2人共!」

「「いだっ!!」」

 

2人してラムさんに頭をどつかれる。

 

 

「ーーそれで、曽和さん情報は?」

「はい!この先に道場があって、その道場の師範の方が代々、王の墓の番人をしているようです!」

 

曽和さんに今朝調べてもらったその情報をもとに、その場所まで来たのだが…

 

「これ、のぼるの?」

「そうなりますね」

 

頂上があんなとこに…いったい何段あんだよ。

 

俺はラムさんは鍛えてるし、曽和さんもメイドとして体力はつけてる、イフも山育ちでなんともないだろうけど、

 

普通にめんどくさいな。

 

「めんどくさ!」

 

イフなんか口に出しちゃったよ。

 

「…はぁ。まあ、とりあえず行こうか」

 

 

「ーーやっと頂上!…って、なんだこれ!?」

 

やっとのこと上りきったと思ったら、目の前に転がる人達。

 

胴着を着てるから恐らく道場の人達だろう。

 

「ぅ…」

「!おい!あんたなにがあった!」

 

意識のある者を発見し駆け寄るイフ。

 

「…き、きょう…犬…が…」

 

そう言って意識を失う。

 

「は?犬?」

「恐らくあの方のことかと…」

「え?…!?」

 

首をかしげる俺達にそう言う曽和さんの言葉の直後、一人の男が道場の奥から師範らしき人を引きずりながら現れた。

 

「聞き込みをしている時に一緒に耳にしました。名前は羽原さん。ここら一帯の道場破りや集る不良達と対峙することで力を求め続けているそうです。いつもボロボロな格好で一人でいる事から、ついた名前が狂犬だそうです」

「なるほどね…」

 

「…せっかくこの町で最強の道場だっていうから来たってのに…期待はずれだ…ん?」

 

ようやく俺達に気づき敵意を向けてくる。

 

「…なんだあんたら。…そこのでかい人、面白そうなの背負ってるじゃんか。強いの?なら俺と闘ってくーー「おい!」…?」

 

ラムさんを指名する羽原の言葉を遮り、怒りを露にして立ち上がるイフ。

 

「こいつらをやったのはお前か?」

「…そうだけど?」

「ーー!?翔…こいつは俺にやらせろ…」

 

イフって普段は喧しいのに、怒ったり本気になって集中すると物静かになって人が変わるよなー。

 

「…止めても無駄だろうしな…なら満姫、あれを」

「はい。…こちらに」

 

俺の言葉に持っていたアタッシュケースをイフに向けて開ける曽和さん。

 

「これって!?」

 

中身を見て驚くイフ。

 

それは、燃えたイフの家に唯一残っていた、イフの祖父の形見。

 

戦時中に使っていたらしい、2丁の拳銃だ。

 

「改造が終わって今朝届いたんだ」

 

いずれ国を守るために力をつける俺の仲間になるからには、それなりに力をつけてもらわなくちゃ困る。

 

イフは元々射撃の腕は良い。

 

けど弓矢を持って歩くには効率が悪い。

 

なので、現代に合わせこの銃を持ってもらう。

 

けど、俺は人を殺すつもりはないし、殺してほしくもない。

 

例え、テロや強盗、どんな罪を犯した者が相手でも俺達に人をそこまで裁く権利はない。

 

だから俺達の目的はあくまで制圧。

 

相手を捕らえることに特化した部隊。

 

俺はそれを作りたい。

 

そこで、この銃は一旦回収し、国の技術で殺傷能力は無くしてもらい、しかしながら威力は弱くない、そんなギリギリのラインに改造してもらった。

 

「どうしてもやるってなら、これを使いな。…けど、それを取ったら最後、覚悟してほしい。…こっから先、甘くはない。俺の目指す者の為、俺の部下として尽力してもらう」

「…」

 

俺の言葉に少し間を開けて、

 

「言ったずだ。俺はあの時、お前の話に乗ったんだ。…だからお前は命令してくれりゃいい。俺はそれに答える…そんだけだ」

 

銃を手に取り、不敵に笑ってみせた。

 

「…よし。イフ、あいつを止めろ!これは命令だ!」

「は!」

 

そう言って銃を構えるイフ。

 

「…強いなら誰でもいい。…こい」

 

そう言って羽原は木刀を構えたーー



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第44話【銃VS剣】

大変お待たせしました!


「ーー!」

 

少しの睨み合いの末、始めに動いたのは羽原。

 

木刀を引きずりながらイフに向かって駆け出す。

 

イフもすかさず銃を撃ち出す。

 

しかし、飛んでくる弾丸を全てをかわし、弾き、一気に間合いを詰めていく。

 

「ちぃ!ーーてあれ?出なくなった!弾切れ?」

 

そして全て撃ちきったイフの持つ銃を弾く。

 

「ーーな!?」

「…話にもならない」

 

反動で思わず尻餅をついたイフの眉間にすかさず剣先を向けて不敵に笑う羽原。

 

 

……

 

「「「…弱…」」」

「ーー!?っかたねえだろ!銃なんか使ったことねえんだかーーらっ!」

 

俺達の言葉に反論しつつも、羽原に足をかけ、ひるんでいる隙に銃を拾い直すイフ。

 

「…そんな言い訳君に説明しよう。その銃の総弾数は15発。手元のボタンみたいのあるだろ?それ押すとマガジンつう弾が入ってるのが出てくる。そいつに新しい弾を装填するも良し、新しいマガジンと取り替えるも良しだ。常に替えのマガジンを持つようにしとけ!」

 

そう言ってアタッシュケースから銃と一緒に入っていた替えのマガジン4つを投げ渡す。

 

「…なるほど。これか…そういうことだな…よし、理解した」

「後は弓と一緒だ。普段通り、落ち着いて構えて、よく狙って射ぬけ」

 

そこまで言って曽和さんとラムさんに道場の人達を安全なところに運び、手当てするよう頼む。

 

俺も手伝おうと思ったが、ラムさんに主として見届ける義務があると言われた。

 

そうだな。

 

主として部下に命令したんだ、見届けてやんなきゃ失礼だよな、イフ。

 

 

「「ーー!」」

 

両者一斉に駆け出す。

 

先ほどと同じように銃を撃つイフ。

 

「…同じことをしても無駄ーー」

「ーーするかよ」

「!?」

 

しかし、先ほどの無駄な連射とは違う。

 

狙って撃ち込まれた弾丸は、相手の額のみを捉え、かわされた先すらも先読みして撃ち込む。

 

そうしてジリジリと羽原の退路と体力を奪っていく。

 

この一瞬で物にするイフもそうだけど、それを全てかわす羽原も、2人共とんでもない集中力だ。

 

 

「ちぃ!」

 

しかし弾切れでリロードの隙ができる。

 

2丁拳銃のリロードだ。

 

普通より時間と隙ができる。

 

それを見逃す羽原ではなく、再び間合いを詰めようと駆け出すが、

 

「ーーなめんな」

 

イフが両腕を下に勢いよく振ると、袖口から替えのマガジンが出てきて、腕を上に戻す勢いで、そこまま手を使わず空中でマガジンを取り変えた。

 

「「な!?」」

 

これには見ていた俺も羽原も驚く。

 

 

んな、あほな!

 

人間業じゃねえな。

 

どんな集中力と飲み込みの早さだよ!

 

完全にあの2丁拳銃をものにしている。

 

本当に今日初めて触ったのかよ。

 

 

「もらい」

 

そして驚いている羽原の一瞬の隙をついて、弾丸を撃ち込む。

 

「!?ーーちぃ!」

 

額めがけて飛んでくるそれを間一髪でかわそうとする羽原だが、完全にはかわしきれず、左肩に直撃。

 

殺傷能力はないものの、ちゃんとした威力はある。

 

頭に当たれば突然気絶ものだし、痣にもなるだろう。

 

あの左腕はしばらく麻痺して上がらないだろうな。

 

「ーーうらぁあ!!」

 

しかし、傷み顔を歪めながらも足は止まらない。

 

「ちぃ!ーー!?」

 

舌打ちをしてもう一度撃ち込もうとするイフだが、一気に間合いを詰められ、右手の銃は後ろに弾かれ、左手の銃は手から離れはしなかったものの銃口を下へ向けられた。

 

そして、羽原は右手を振り上げ、木刀をイフの頭に振り下ろそうとする。

 

まずい!

 

そう思い、武器を出そうと手を前に出そうとしたとき、

 

「ーーあほ、黙ってみてろ」

 

俺の行動を止めるように、下を向いた銃を撃ち出した。

 

その撃ち出された弾丸は地面でバウンドし羽原の右足の太ももを捉えた。

 

「ぐぁ!?」

「な!?跳弾!?」

 

思わず膝をつく羽原。

 

その隙に弾かれた銃を取りに走るイフ。

 

持っていた銃を向ければ勝てたと思うかもしれないが、

 

その銃に弾丸はもう入っていない。

 

いまので撃ちきってしまったのだ。

 

イフも羽原もそれをわかっている。

 

弾かれた銃に残る最後の1発。

 

それを拾ったら最後、勝負が決まるーー

 

 

ーーイフ(俺)の勝ちだ!

 

 

そう俺もイフも思っていた。

 

のに、

 

おいおい!まじかよ!?

 

なぜ動ける!?

 

立ち上がりイフに迫る羽原。

 

あの至近距離で跳弾を受けたんだぞ!?

 

もちろん、近ければ近いほど威力はあがる。

 

出血もする。

 

片腕片足でそんなに血を流して

 

いくらなんでも無茶すぎる!

 

理性なんてものはとうになく。

 

もはや彼を動かすのは闘争本能のみ。

 

勝利への執着心?

 

力を求める執念深さが成せる技か?

 

彼をあこまでさせる理由はなんだ?

 

 

イフが銃を拾い振り返る。

 

しかし、もう目の前まで追い付いている羽原。

 

 

「がぁああっ!」

「んな!?(ボキッ…ってぇ!」

 

羽原の横凪ぎを左腕で受け止めるイフ。

 

「…やっと捕まえたぞくそが」

「!?」

 

そして、痛む腕でそのまま木刀を握り、木刀を銃口と羽原の間に引っ張り。

 

「もういい。寝てなーー」

「ーー!?(パンッ!」

 

撃ち込まれた最後の弾丸は、羽原の木刀をへし折り、羽原の額に直撃した。

 

 

木刀を間に入れて、威力を殺したか…。

 

あの距離じゃいくらなんでも致命傷だった…。

 

それをわかっていたのか。

 

相手の武器を破壊し、命令通り相手を止めた。

 

闘いながら相手の事まで考えて配慮してみせた。

 

俺の思想通りの制圧。

 

それをイフはやってみせたのだ。

 

 

…やっぱり、お前に声をかけて正解だったな。

 

 

気絶した羽原を、ガードして痛めた左腕を抑えながら見るイフを見て俺はそう思ったーー



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第45話【慈王と眷属】

遅れてすいません続きです!


「ーー折れてますね」

「…へ?」

 

あの戦闘の後、曽和さんに怪我の手当てをしてもらっているイフ。

 

「だから、折れてます」

「…」

「…」

 

最後の羽原の攻撃を受け止めた腕はやはり折れていたらしい。

 

でしょうね、バキッっていってたもの。

 

「どんまいイフ!ま、頑張ったんだしいいじゃんか!」

 

そう言って笑顔でイフの左手を取り、ぶんぶんと握手する。

 

「いっでぇ!なに笑顔で折れた腕振り回してんだよ!?鬼か!」

「やだなぁ、イフさん。悪童とまで言われたあなたが骨折ぐらいで」

「それは俺じゃねえ!勝手に流れた俺の偽者だ!」

「そうですぞ主。イフはどちらかと言うなら“山猿”がぴったりでしょう!」

 

そう言って話に合流するラムさんと爆笑する。

 

「…お前ら…腕が治ったら覚えてろ?今度は物なんか挟まず、至近距離で直接脳天ぶち抜いてやっからなぁ!」

「動かないでください」

「いだっ!」

 

いまにも突っかかってきそうなイフだが、包帯を巻いていた曽和さんに怒られ、包帯が強く締まり悶える。

 

ぷぷ、ざまあねえな。

 

 

「ーーんで、あいつはどうなんだよ?」

 

そう言って、駆けつけた地元の救急隊に運ばれて行く、気絶した羽原を顎で指すイフ。

 

「ああ、とりあえずは治療だろうね。けど、その後の判断はわからない。地元の警察達の判断だろうね。これだけの事をしたんだ、ただの道場破りじゃ済まされない。…唯一の救いは、まだ未成年だってことかな…」

「…そうか」

「…まるで昔の自分を見ているようだったって?」

「!?」

「ま、確かに1人で力を求めて、周りが見えなくなってる辺りは昔のイフ、一二三にそっくりかもね…」

「…」

「…ただ…忘れるな。いまのお前は1人じゃない。仲間を信じ、仲間に頼りな!もう1人で無茶する許さない!」

 

そう言って笑う。

 

曽和さんとラムさんも笑顔でイフを見つめる。

 

「…け!言われなくてもわかってるよ!」

 

悪態をつくイフだが、笑顔だった。

 

「ーーまあ、今回イフが無茶したのは主の命令で、主にも責任があるんですがね」

「…う」

 

 

 

「ーーさあ、やってきました慈王の墓!」

 

翌日、俺達は慈王の墓がある建物へと来ていた。

 

道場の人達が毎日掃除していたらしく、外も内部とても綺麗だ。

 

 

昨日はあの騒ぎでそれどころじゃなかったし、詳しく知る師範も気を失っていたからな。

 

入院している師範には悪いけど、さっき病院に行って話を聞いてきたのだ。

 

その時、

 

「本来、王の墓をお守りする身にも関わらず、この醜態!本当に申し訳ありません!」

 

と何度も頭を下げられて困ったものだ。

 

 

「ーーんで?どこにいんだよ、昔の王様ってのは…」

「こら、イフよ!ここは神聖な場だぞ!わきまえろ!」

「だから!怪我に触れんなっつってんだろぉが!」

「2人共お静かに!」

 

騒がしいイフを抑えようと、三角巾をしたイフの左腕を掴むラムさんと、そんな2人を叱る曽和さん。

 

そんな3人を見て、やれやれと思っているとーー

 

『あらあら、元気な子達ですねぇ』

 

奥から女性が歩いてきた。

 

「「「!?」」」

 

んなぁ!?

 

腰まである髪に、泣きぼくろ、ボン・キュッ・ボンッ!…だと…!?

 

誰もが振り向く、笑顔が素晴らしいおっとり超絶美人さんが現れた。

 

『待っていましたよ、選ばれし王の器よ。あなた達はこの子の従者かしら?』

 

そう言って笑顔で3人の方を向く女性。

 

「ひゃ、ひゃい!」

 

…は?

 

あははは!まじかよラムさん!

 

緊張して裏返ってんじゃん!

 

よし、奥さんに報告な。

 

「ぴゃい!」

 

…お前もかよ!

 

ぴゃいってお前…。

 

おもしろすぎだろイフ。

 

「あ、あわ、あわわわ」

 

曽和さんに至ってはこの有り様。

 

 

もういいよお前ら…。

 

「はぁ。…あなたが慈王ですか?」

『ええ』

 

慈王には悪いけど、 

 

俺は葵が一番の美人だと思ってるからな。

 

このアホ達みたく動揺はしないぜ!

 

『…そういえば、伏竜王に追い返されたそうですね?』

「あ、はい。…いまのお前ではダメだ、足りないと言われました」

「まったく…あの子には困ったものですねぇ」

 

そう言って困った顔をする慈王。

 

「足りないってのがなんの事かさっぱりでして…力の事なのか、他の王達の武器の事なのか…」

『あぁ、それでしたら…あら、その前にお客さんですね』

 

俺達の奥を見る慈王。

 

そこには、

 

「「「!?」」」

「羽原!?てめぇ、なんでここに!?」

 

病院で入院中のはずの羽原が立っていた。

 

「…まだ終わってない…」

 

昨日イフにやられた左腕と右足、頭には包帯を巻いて、片手に松葉づえを持ち、ふらふらな状態でこちらを睨んでいる羽原。

 

「…誰でも良い、俺と戦え…」

「のやろう!つけてーー「待てイフ」!?」

 

前に出ようとするイフを止めて、羽原に向き合う。

 

「俺が話す。…ってことでちょっと待っててもらって良いですか?」

『はい。かまいませんよ』

 

「…本気?そんな体で」

「ああ…」

「…そうか…なら、仕方ないな」

 

そう言って武器を構えようとすると

 

「あれ?」

 

武器が出ない!?

 

…まさか!?

 

『ふふ』

 

慈王の方を見ると、意地悪そうに笑っていた。

 

能力消去(アビリティキャンセル)

 

この人の仕業か。

 

『私の前で武器は使わせませんよ。…やはりどうせなのでこのまま私の試練も付け加えますね!さあ、彼相手にあなたは素手でどうします?』

 

そう言って目を細めてこちらを見てくる。

 

 

!?

 

この人は…

 

見かけによらず、やはり王か。

 

慈愛で民に愛された王とはいえど、時に冷酷になれなきゃただの人だ。

 

それじゃ、全ては守れやしないからな。

 

 

素手で羽原と?

 

いくら昨日の怪我が残っていても、昨日の戦いを見ているからな…勝てるかどうか…。

 

これ以上羽原の体を痛め付けるのもあれだしな…

 

「なあ、羽原、聞いて良いかな?」

「…なんだ?」

「あんたがそこまで強さを求める理由ってなに?」

「…俺は…」

「…?」

「…お前には関係ない!」

 

そう言って松葉づえを木刀がわりに振り回してくる羽原。

 

「…関係…なく…ない!…意味もなく…戦えない!」

 

羽原の攻撃をかわしつつ言葉を続ける。

 

「…俺は…俺は強くならなきゃいけないんだ!」

 

しかし攻撃の手を緩めない羽原。

 

『…彼の母親はいま病に伏しています。…父親は彼ができたことを知り逃走。1人で育ててくれた母親は入院。しかし医療費はない…』

 

慈王がたんたんと説明する。

 

「!?…なぜそれを…」

 

羽原は動きを止め慈王を睨む。

 

『あなたが毎日こうしてここへお祈りに来てくれるものですから』

 

そう言って慈王は微笑む。

 

「!?…そうさ…そうだ!けど大人達はこんな不良、誰も相手にしちゃくれない。母さんを救うには金がいるんだよ!だから俺は王都に行き、国の軍に入れてもらう!…その為に力がいるんだ!」

 

…なるほど。

 

だからここまで力に執着しているのか。

 

けど…

 

「…国はお前みたいなのは必要としていない」

「な!?」

「お前は何もわかっちゃいない。そんな奴はいらない」

「お前に…!お前なんかに、何がわかるってんだよ!」

 

そう言って振るわれた羽原の横凪ぎ攻撃が脇腹に入る。

 

「翔様!」

「主!」

「翔!」

 

すかさずそれを腕で掴んで、近寄ろうとする3人を制止する。

 

「…わかるさ!お前みたいな何も見えてない奴を戦場に立たせれるわけねえだろが!!」

「ーー!?」

 

俺の怒鳴り声が建物内に響きわたる。

 

「そんな自分1人突っ走って、自分の体も労れない奴に、国を守る仕事が勤まるわけない!」

「!?…だったら…俺は…」

 

俺に確信をつかれたその場に座り込む羽原。

 

「国を守る仕事はそんな簡単な事じゃない。一人突っ走る奴がいたら、仲間はどうする?お前を守るためにさらに被害が拡大するかもしれない。そんな原因を作るような奴を集団には置けない。その分ではいくら力があろうがお前が一番弱い」

「だったら!俺はどうすればいいんだよ!」

 

俺を見上げ睨んで来る。

 

「仲間を頼れ!!」

「!?」

「1人で抱え込むな!集団ってのは協力しあってこそだ!個の力がいくらあろうがチームワークの取れない組織はないも同然。お前の勝手が全滅に導く」

「…けど、いまさら…こんな俺に仲間なんか…」

「なら、俺と来い!」

「!?」

 

そう言って羽原に手を差し出す。

 

「俺達がお前の仲間になろう。お前の力になろう。だからお前も俺達の為に力を貸してくれ!」

『…敵に情けをかけるつもりですか?』

 

いままで黙ってみていた慈王がこちらを見てくる。

 

「情けのつもりはない。目的は変わらない俺は守る力が欲しい、羽原は救う資金が欲しい。なら答えは1つでしょ?俺の元で雇えば良い」

『ですが、彼は道場の者達を襲ったのですよ?』

「確かにその事実は変わらない。だから償ってもらう。羽原は力の振るい方や振るう場所を間違えたんだよ。だからこれからは俺のため国のためその力を振るってもらう」

『…信用できるのですか?』

「…出来ますよ!人となりはわかったし、この意思の強さはなによりも信頼できる。…それに…あなたが気に入っている。それだけでも十分でしょ?」

 

そう言って慈王を見る。

 

『ふふふ!良いでしょう!その冷静な判断力と洞察力。優秀な人材を見分ける観察眼と敵をも迎え入れる懐の大きさ。…良いでしょう!合格です!あなたの王の器を認めましょう!』

「どうも!」

 

2人で笑う。

 

『そして羽原。あなたがこれから王の力になると言うなら力を与えます』

「…え?」

『王の器よ。賢王の剣をーー』

 

言われた通り賢王の剣を出す。

 

『では、羽原。王の器の前にひざまづいてーー本来なら私が力をあげたいところですが、力を振るう羽原の剣と私の盾じゃ性質が違うので…でもきっと賢王様ならお力を貸してくれるはずですよ』

 

そして言われた通りに剣を羽原に向けて掲げ、

 

「羽原、俺はこの国を守りたい。だから俺にその力を貸してくれ。これからはその剣、俺の為に振るえーー」

「我が主の御心のままにーー」

 

目の前にひざまづき両手を掲げる羽原に賢王の剣を手渡す。

 

「「!?」」

 

その瞬間、賢王の剣が輝き羽原の体の怪我が全て治った。

 

『ふふ。無事、賢王の眷属として認められたようですね』

「…眷属?」

『はい。王の器に惹かれ、互いに認め認められた者にのみ宿る王の加護とでもいいましょうか。羽原の怪我が治ったのもそれが理由です』

 

賢王の能力、高速治癒(ホーリー)

生き物の回復力を活性化し、怪我の回復を早める能力。

 

『ふふ。いつもボロボロの羽原にはうってつけの能力ですね!』

 

そう嬉しそうに笑う慈王。

 

『いまはまだ無理かもしれませんが、いずれ賢王の力を使いこなせるようになるかもしれませんね。とりあえずは王の器と同じように自分の武器にワープぐらいは出来ると思いますの?』

 

本当に羽原がお気に入りのようだ。

 

『王の器よ。これが先ほど話していた、伏竜王があなたを追い返した理由です。あの子は歴代で一番眷属を引き連れた者ですからね。…これに関してはうるさいかも知れませんね。羽原1人じゃ認めてもらえるかどうか…もう少し眷属を増やしてから行くことをおすすめします』

「わかりました」

『そして羽原。これでお別れですね。毎日顔を見せに来てくれてありがとう。これからは王の器の中からあなたを見守っていますね。どうか王の器とその従者にご加護があらんことをーー』

 

そう言って羽原の頭を撫で、祈りながら消えていった。

 

そして、無事慈王の盾を回収ーー

 

「ーーってちょっと待てよ!なら俺の腕も治せるだろ!」

 

あーー




眷属については皆さんお察しの通り

マギの眷属器がモデルです。

次回は明日です!


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第46話【祖王】

すいませんお待たせしました!


慈王の墓から約8ヶ月ほど経ち、俺も13になった頃ーー

 

電車の中、

 

「翔様、もう少しで次の町につきますよ」

 

森の中、

 

「翔様、少し休憩されてはどうです?」

 

「「「…」」」

 

「翔様ーー「うるせえよ!」…なんだ?」

「なんだじゃねぇよ!だから誰なんだよお前は!?」

「またそれか?この8ヶ月、しつこい奴だ…」

 

そう言い合うイフと羽原、バハ。

 

「だから言ってるだろ?翔様からいただいたバハと言う愛称があると…」

「そうじゃねえよ!その翔に対する態度だよ!」

 

そう、あの一件以降仲間になったバハ。

 

バハの母親の治療費はとりあえず俺が肩代わりすることになり、俺の元で働きながら、その給料で返していくということになったのだが、

 

「なにがおかしい?主を立てるのは部下の役目だろう」

 

それからというもの、ずっとこの調子なのである。

 

ずっと1人ではいたが、根はまじめで忠誠心の高かったバハの性格が出てしまったのだ。

 

確かに当初はやりずらくて仕方なかったが、俺はもうなれた。

 

「犬っころが猫かぶってんじゃねえよ!」

「あ?そんなわけないだろ。山猿は黙ってろ」

「んだとこら!上等だ!今日こそけりつけるか?」

「望むところだ」

 

そう言って銃をか構えるイフと、俺が渡した刃の潰れた切れない剣を構えるバハ。

 

これも最近ではいつもの事だ。

 

何かあればこうやって喧嘩し合う。

 

狂犬と山猿だけに、すっかり犬猿の仲だ。

 

「やめないか、2人とも!もう少しで祖王様の墓なんだぞ」

 

2人の仲裁にはいるラム。

 

「「…」」

「…な、なんだ?」

「「…ラム(おっさん)って強いの?」」

「失礼なやつらだな!これでも昔は神槍と呼ばれたほどだぞ!」

「「…へー」」

「んな!?信じてないなお前達!」

「ラムさんはお強いですよ。翔様も能力を使わなかったら勝てないほどです」

「…いまは、な」

 

曽和さんめ、一言余計だ。

 

「「な!?本当か!なら俺と戦ってみてくれ!」」

 

戦闘狂どもに囲まれるラムさん。

 

力を求めるところは2人ともそっくりだよな。

 

「けど、それはまた今度にしてくれ…どうやらついたみたいだよ」

 

遠くの方に建物が見えてきた。

 

 

「よし!ついた!…てあれ?みんな?どこいった?」

 

建物の前に到着して振り向くと、誰もいなかった。

 

「…あれ?ーー」

 

ーーーーーーー

 

その頃、

 

「おい!翔様はどこいった!?いままで目の前にいただろ!?」

「わかってる!少し落ち着け!!」

 

バハとイフはまた喧嘩していた。

 

「…ラムさん、いまのって…」

「うむ。恐らく祖王様の能力、三位一体の残像だろうな…」

「まさか、翔様の残像を出してくるとは…」

 

「なんで2人はそんなに落ち着いてるんだ!」

「落ち着いてくださいバハさん」

「主はあの若さでしっかりしている、すぐにどうこうと言うことは無かろう。が、心配なのは事実、早く合流しよう」

『その必要はないよ。みんな、探したよ!』

 

翔が現れた。

 

「翔様!?心配しましーー「まてバハ!」!?」

 

駆け寄ろうとするバハをラムが止める。

 

「貴様、何者だ?」

『…なんだ、つまらんな。こんなすぐばれるとは思わなかったな…』

 

するとその翔は少し成長し、歳は二十歳かそこら、髪は白髪になった。

 

『はじめまして。王の器の従者達よ。俺は祖王、この国を創始者だ』

「「「ーー!?」」」

 

ーーーーーーー

 

『お前はなぜ力を求める?』

 

建物内で祖王と対峙していた。

 

「…大切なものを守るため」

『それがーーでもか?』

 

!?

 

『王の剣、確かに強大な力だ。真の王として選ばれた者にのみ宿る力。最初は俺、そして夜叉王、そして…』

「…俺。…けど俺は王に…」

『…わかってる。お前が嫌なら別になる必要はないさ』

「え?」

『なにも王とは限らないんだ。ただの王の器だけならそこら中にいるからな…』

 

『しかし、この力はその中でも強い意思とその時代の指針となる者に宿る力』

「…俺が、時代の指針?」

『ああ。お前はいずれこの時代に大きく名を残す偉業を成すだろうな』

「…」

『まあ、いまは実感はないだろう。俺もなかったしな…』

 

そう言って困った顔をする祖王。

 

『俺も最初は6人の眷属だけを連れて旅をするただの旅人だった。それがいまじゃ大国となった…びっくりだよねまじで』

 

あれ?軽くねこの人…。

 

『いまの王都は昔、2つの村が戦争の末に出来た場所だ。それはお前も知ってるな?』

「…ああ」

 

歴史の本にも載ってることだし。

 

『まあ本当は、俺がその戦争を止めて、2つの国に立てられて統制したんだけどねー』

 

さらりと話す祖王。

 

この人いまさらっと重要なこと言った!?

 

『いやー当時は焦ったけどやってみるもんだよな…ま、いい部下に恵まれた証拠だよね!…お前にもいるんだろ?そう思える奴らが…ほら噂をすればーー』

 

「翔様!ご無事でしたか!?」

「翔!やっと見つけたぞ!」

「主よ。お待たせいたしました」

「翔様!もう心配しましたよ!」

「お前ら!無事だったか!」

 

祖王の言葉に合わせるように、みんなが扉を開けて入ってくる。

 

『お前もいい仲間を持っているな…。心配は無さそうだ…』

「え?」

『お前になら、俺の意思を理解して継いでくれそうだ…』 

「なんの話を…?」

『お前を王の器として認める、俺の武器を持っていけ。…それからラム、と言ったか?お前を祖王の眷属に任命、王の器の力になりな』

「え?あ、は!」

 

そう言って礼をとるラムさん。

 

え?ちょっと話の流れが理解できないんだけど…。

 

ここに来る前になにかあったのか?

 

『んじゃあとは頼むわ!頑張れよーー』

 

そう言って笑顔で消えていく祖王。

 

は?え?ちょっと!?

 

「気持ちの良い方でしたね…」

「翔も将来あんなんなんのかね?」

「見た目だけでなく、性格までそっくりだったな…」

「翔様!俺はどこまでもついていきます!」

 

曽和さん、イフ、ラムさん、バハの順で話す。

 

は?なんでお前らだけ理解して終わってんの?

 

「ここに来る前なんかあったの?」

「主よ。申し訳ありませんが、祖王様との約束ゆえ、いずれ時が来たら話します」

「…なんでだよ!?」

 

くそぅ!

 

なんなんだよお前ら!

 

俺だけ仲間はずれか!?

 

それからしばらくその話が繰り返されたが、教えてくれる気配がないから諦めた…。

 

まあ、祖王の武器も回収できたし、なんか悪い気もしないから、よしとするかーー




今回はたくさん謎を残しましたが、いずれなにがあったかちゃんと出します


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第47話【イフの悩み】

お待たせしました!


ーーイフは悩んでいた

 

「(なんでだ!)」

 

仲間達が次々と眷属になっていくことに…

 

「(…おっさんはまだわかる…最初からいたからな…。けどなんでよりによって一番後に入ったバハが一番最初なんだよ!)」

 

翔に武器へのワープのレクチャーを受けているバハとラムを遠目で見ながらイラついていた。

 

「なあメイド、お前は悔しくないのか?」

「なにがです?」

 

横で翔達の休憩のお茶を用意している満姫。

 

「だって眷属ってのはそれぞれの武器や個性の相性で選ばれるんだろ?」

「そうみたいですね」

「つまり戦わないお前はあいつの眷属にはなれねえってことだろ?」

「…確かにそうですね。けど、別に眷属じゃなくても翔様を支えることは出来ます!翔様が私を必要とされるなら私はどこまでもついていきサポートするつもりですよ!立場なんて関係なく、私の出来る範囲で翔様のお力になりたい。ただそれだけです!」

 

そう言って満姫はイフにお茶を渡す。 

 

「…へえー、意思が固いことで…」

 

それを受け取り、飲みながらもう一度3人の方を見る。

 

「(…やっぱりムカつくな)」

 

そして、ふとテーブルの上に置かれた資料が目に入る。

 

「…これは?」

「それは明日向かう飛王様の情報ですよ。翔様のご命令で調べてまとためた物です」

「ふーん」

 

パラパラっと資料を覗く。

 

「(ーー!?これだ!)」

 

ーーーーーーー

 

翌日

 

「翔!なにしてんだ!ほら急ぐぞ!」

 

この丘の上の建物にあると言われる飛王の墓を目指す俺達。

 

「なに?なんか今日のイフ、テンション高くね?」

「キモいですね。…切り捨てましょうか?」

「…やめなさい」

 

1人先行するイフを見ながら、腰の剣を抜こうとするバハを止める。

 

「おい遊びに来た訳じゃないんだ!浮かれるな間抜け!」

「うっせえよ!いいから黙ってついてこい!」

「「「!?」」」

 

普段なら絶対に乗るはずのバハの挑発にすら乗らず足を止めないイフ。

 

「…やはりキモいので切ーー「…だからやめなさい」」

「では変わりに私がこの槍でーー「…ほんとやめなさい」」

 

…2人とも…。

 

確かにやりにくい気持ちはわかるけどさ…。

 

 

そんな話をしているとだんだんと雲行きが怪しくなってきた。

 

「翔様。なんだか雲行きも怪しいので、確かに急いだ方が良いかもしれませんね…。もうすぐ飛王様の建物ですので…」

「そうだね曽和さん。なんか雷も鳴り始めたし、雨降られたらめんどくさいからね…」

 

少し急ぎ目的地へと向かい、到着する頃には、昼間だと言うのに、雷雲で辺りは真っ暗になっていた。

 

「ここか!」

「では、私とラムが先行して中の安全の確認を、翔様と満姫はその後に、イフお前は後ろを守れ」

「うん、よろしく頼むわ」

「はいよ、さっさと行けよ」

 

そう言って順に入っていき。

 

満姫が入ったところでーー

 

(ゴロゴロッ

 

!?

 

まずい!

 

「ーーイフ、危ない!」

「えーー」

 

慌ててイフを建物内に吹き飛ばす。

 

「「「ーー!?」」」

 

瞬間、その場所に雷が落ちた。

    

それを皮切りに次々と不規則に雷が落ち始める。

 

どんどんと雷に追い払われてしまい、建物から大分離れてしまった。

 

「ーー飛王の電気を自在に操る能力、雷電操作(エレクトロン)…」

 

試練はもう始まってるってことか!

 

ーーーーーーー

 

「翔!」

「イフ動くな!」

 

飛びだそうとする俺を止めるおっさん。

 

「なんで止めんだおっさん!」

「闇雲に突っ込んでもかえって主の足手まといになるだけだ」

「そうだぞイフ。お前じゃ足手まといだ」

「バハ!てめえまでか!?」

「翔様は五感が優れておられる。それは俺達常人が理解出来ないほどだ。ただ降ってくるだけのあんなもの翔様に当たるはずもない。ずっと鍛練をご一緒させて頂いて見てきた、それだけ信じれる」

「だからっ黙って見てろってのか!」

「俺やラムならまだしも眷属でもないお前が行くだけ邪魔だと言ってるんだ」

「…眷属、眷属って…んなもん知るかよ!」

 

そう叫び、上着の下に隠した両脇のホルスターから2丁拳銃を抜き駆け出す。

 

しかし、

 

「ーーぐっ!?ちぃ!」

 

雷が直撃し、ギリギリ銃で受け止めるが衝撃で銃を手放して後ろに弾かれてしまう。

 

「ほら見ろ、死にたくなかったら黙って翔様がこちらに合流するのを待て」

 

んなこと言ったって、翔は俺を庇って…

 

くそ!本当にこれじゃ足手まといじゃねえか!

 

 

そんな時ふと、ずっと黙っているメイドが目に入った。

 

祈るように胸の前で手を組ながらも、決して翔から目を離さない。

 

信じてはいるけど、やっぱり不安なんだ。

 

「…メイド…お前…」

「イフさん。私には力がありません。昨日の質問の答えですけど…正直こういうとき何も出来ないのが悔しいです。私にはこうして無事祈ることしか出来ません」

「…」

「1つお教えしておきますね。今回、この飛王様を訪れると決めたのは翔様です。他にも王様はいらっしゃいますけど、最優先にと調べるよう仰せつかりました。それはイフさん、あなたの為です」

「…え?」

 

…は?俺の為?

 

「あなたの悩み、翔様は感じておられました。この飛王様の武器は弓、本来あなたが得意とする弓なら、必ずイフさんに合うのはずだと…」

「…あいつ…そんなこと…その為に…!?」

「もう一度言います。私には力がありません。…けどあなたにはそれがある。翔様はあなたを信んじています。だから、どうか私達の主の期待に応えてあげてください!」

「ーー!」

 

昨日の言葉を思い出すーー

 

「立場なんて関係なく、私の出来る範囲で翔様のお力になりたい。ただそれだけです!」

 

昨日あの時、こいつは凄いと思った。

 

自分の無力さを理解した上でも、自分が出来ることをしようとしている。

 

自分の無力さを嘆くだけで終わらず、かわりに何が出来るのかを考えて実行するだけの覚悟がある。

 

俺はそう思った。

          

 

なにしんだ、俺…!

 

いつまで地面に這いつくばってやがる!

 

 

こいつにはこいつの役目がある。

    

なら、こいつが出来ないこういう時こそ、俺がかわりにあいつの力にならなくてどうするーー



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第48話【飛王の眷属】

「よっ…よっと…こんぐらいなら余裕だな」

 

建物を目指しながら雷をかわしつつそう思った時、

 

「ーー!?」

 

かわしたはずが地面すれすれで軌道を変え、俺目掛けて雷が曲がった。

 

「やばーー」

「「「翔様(主)!」」」

 

誰もが直撃する、そう思った。

 

「「「!?」」」

 

しかし、

 

「ーー俺の主に落ちてんじゃねえよ」

 

雷は直前で軌道を変え、右腕を伸ばしたイフに直撃。

 

そして、雷はそのままイフの右腕に纏わりついた。

 

「ーー!?これって…!?」

 

自分でも困惑しているイフの目の前に転がっていた銃が輝き出し、弓へと変わった。

 

弓!?

 

…そうか!よし!!

 

「…イフ!それを使ってあの雲を射ぬけ!」

「は?射ぬくったって矢が…」

 

俺の言葉に辺りを見渡すイフだが矢は見当たらない。

 

「矢はお前のその右手にある!」

「右手って…!?」

 

そして、雷雲がうなり、もう一度雷が落ちようとする。

 

「ちぃ!こうなりゃ一か八かだーー」

 

急いで弓を拾い上げ建物から飛び出し、雷雲を睨む。

 

しかし、矢はない。

 

「イフなら出来る!俺は信じてる!」

「は!…たく、お前にそこまで言われたら、やるしかねえじゃねえか」

 

そう言って弦を引き、上空へと狙いを定め、

 

「射て!」

「…我が主の御心のままにーー」

 

そして弦を離す。

 

同時に、イフの右腕に纏っていた雷が矢の形へと変わり、雷鳴と共に雷雲を貫いた。

 

貫かれ穴が空いた雲から日差しが差し込み、イフを照らす。

 

次第に雲が晴れていき雷も鳴り止んだ。

 

「…やった、のか?」

 

そして、弓が輝きながら元の2丁拳銃へと戻る。

 

『ま、そういうことだね』

「「「!?」」」

 

建物内からゴーグルをかけた能天気そうな青年が出てきた。

 

「あんたが飛王か?」

『ご名答!俺が眷属に選んだわけだしわかっちゃう?』

 

そう言ってイフの言葉に笑う飛王。

 

『しかし、いきなり眷属器を使いこなすとは、俺が見込んだだけはあるねえお前!』

「眷属器?」

『あれ、聞いてない?…眷属の力ってのは眷属たる者の持つ金属に宿る。それを眷属器って言うんだ。…そして、眷属は自分の主、お前らの場合はそいつの能力が使えるようになるわけだ。つまり武器へのワープな。ここまでは知ってるだろ?』

「…ああ」

『けどお前らは特殊でな、そいつの眷属であると同時に、俺達歴代王達の眷属でもある。だから自分を選んだ王、お前は俺の能力が使えるようになるわけだ!』

 

そういえば慈王もそんなような事言ってたな。

 

『けど、その為には眷属器の本来の力を扱えるようになる必要がある。それが今回の弓だ。お前らの武器を媒体として俺達、王の武器を具現化する。まあ要は貸してやるわけだな』

「なるほど、つまり普段は俺の能力を、そして眷属器を解放する事であなた達の力を使えるようになるわけですね」

『そういうこと!あ、安心しな!眷属の武器は俺達の力でその形へと具現化するだけだから、お前の手持ちから消えることはない』

「なるほど…」

 

『まあ?かといって眷属器は、すぐ扱えるようになるわけでもないし、いくつか条件があるわけだ…』

 

『1つは、その者が普段から肌身離さず身に付けて思い入れのある金属だと言うこと。お前のその銃、祖父の形見だろ?相当大事にしてきたんだな。そしてなにより、その銃で毎日とんでもない練習量積んでたでしょ?』

「なんでそれを!?」

『俺は数多の武器を使ってきた王だからな、そんなもの武器を見ればわかる』

 

ああ、それなら俺も知っている。

 

俺やラムさんやバハも毎日の鍛練や身体強化を怠った日はない。

 

けどイフはそれ以上にみんなが寝た後もずっと銃の練習していた。

 

それこそ、いつ寝てるんだってくらいに。

 

『だから今回はその銃を媒体とさせてもらった。そして2つ目だが、主の為に力を振るいたいという強い意思。今回は王の器のこいつを助けたいって想いからだね…』

 

 

『そして最後に、勿論のごとく、主と従者の互いの信頼関係。今回は王の器のお前、自分の命が危ないってのに従者のそいつを信じて、動かなかったな。慈王の盾で打ち消すことも出来たろうに…』

「あ、やっぱりばれてました?」

「んな!?それは本当ですか翔様!もしイフのバカがダメだったらどうしたおつもりですか!?」

「どうもなにも、死んでたね」

 

そう言って笑う。

 

「まあ、生きてるし、イフも俺の期待通りやってくれた!…そうだろイフ」

「…当たり前だ。お前は俺の主だ。主の命令は絶対だからな」

 

そしてイフと拳を合わせ、

 

「うん!ありがとう!今回はよくやってくれた」

「ありがとうございます!」

 

礼をとるイフを見て笑う。

 

『まあそう言うことだ、こいつが俺とお前の期待通り、眷属として覚悟を見せた…それで俺からは以上だ。部下に慕われ尽くされるのも王の務めだ。よってお前を王の器として認めよう。俺の弓と能力、お前に託す。うまく使えよ!』

 

そして飛王は消えていった。

 

こうして、無事、飛王の試練も突破することが出来たーー

 

 

 




次回は明日の予定です!


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第49話【世界は広い】

すいません、お待たせしました!


「本日より城内での翔様の身辺警護と鍛練の相手を担当することになったーー」

「吉良村と申します。よろしくお願いします翔王子」

 

楠殿に紹介され当時7歳の主に挨拶をする。

 

「身辺警護?城内で?」

「はい。いつ何時、なにがあるかわかりません。私も仕事がある身ゆえ、鍛練の時しかご一緒出来ませんので」

「ふーん、鍛練の相手って事はこの人強いの?俺もう城内だと師匠しか戦う相手いないんだけど…」

 

そう言う主は当時、どこか冷めた目をしていた。

 

挨拶の前に、軍の訓練に混ざり組手をする主を見せてもらった。

 

軍の者達も王子だからと決して手を抜いていたわけではない、しかしそれらを圧倒するだけの力が7歳のこの少年には既にあった。

 

強すぎるゆえの孤独…。

 

幼い身でありながら周りとの違いを実感し、絶望してしまったのだろう。

 

「ええ、強いですよ。翔様よりもずっと…。相手の力量がわからない内は翔様もまだまだです。強いだけでは意味はありませんよ。鍛練不足ですね。…それと、師匠はやめてくださいと何度も言っているはずですよ…」

「…む」

 

楠殿の言葉にむすっとする主。

 

軽いことで機嫌を損ねるのは辺りは年相応か。

 

「吉良村さん、だっけ?…なら俺と手合わせしてよ」

「は、はあ…。承知致しました」

 

敵意を剥き出す主と向き合う。

 

お互いに素手だ。

 

どうやら主は体術での近接戦闘を得意とする様だ。

 

向き合う7歳の少年からは凄い気迫を感じる。

 

今回主のお側におかせていただくにあたり、前もって楠殿に聞かされていた事。

 

 

当時の主はまだ王族としての特殊能力を持ち合わせていなかった。

 

産まれつき能力がないと言われてきた主にとって、能力を持ちながら産まれてくる他のご兄弟達はコンプレックスに感じついたそうだ…。

 

それでも正義感の強かった主はそれでも自分は長男だからと兄弟を守るため強くあろうとした。

 

その為にとんでもないほどの努力を重ね、今の強さを手に入れたと…。

 

しかし、いざ強くなったらどうだ。

 

国の軍隊で主に勝てるものはもういなくなっていた。

 

脅威から守るために手に入れた力。

 

しかし、その脅威もこの程度かと主は思ってしまったらしい。

 

能力も持たない普通の自分で勝てるなら、自分が強くなる必要すらなかったのでは…?

 

自分の存在意義や目的を失った成れの果てが、いまの主の冷めた目の理由だと。

 

 

「…確かにお強いですね翔様」

「…吉良村さんは思ったより強くないね」

 

手合わせをしていくなかで、主の強さを改めて実感する。

 

なにより、驚いたのは目の良さだ。

 

ただ良いだけじゃない、こちらの動きを冷静に観察し、かわす。

 

それだけならまだいい。

 

こちらの力の流れを利用する為にあえてその場に合わせにいく、この動きは最早、先読みの領域にすらありつつあった。

 

恐ろしい。

 

この歳でこの少年はどれだけの覚悟を持ちこの力を得るために努力してきたのか…。

 

なら、こちらも全力で迎え撃つのが礼儀。

 

「…では僭越ながらこちらも本気をださせていただきます」

 

そう言って自身の槍を手に持つ。

 

「…棒術、槍術が私の得意分野でして」

「ふーん、なんでもいい…倒すだけだから」

「…ではーー」

 

共に駆け出す。

 

 

初撃の横凪ぎを紙一重でかわされ、カウンターをしかけてくる主を、槍を回し石突きで迎撃。

 

それすらかわす主にすかさず槍で足をかけようとする。

 

「無駄だよ。全部見えてる」

 

それをバク転でかわし、そのまま地面に手をつき足技を繰り出されるも、なんとか槍で防ぐ。

 

「…では、これは見えますかな」

 

そう言って槍を構え直し、一気にーー

 

突く!

 

「ーー!?」

 

主の顔の横を槍が通過する。

 

何も出来ずに立ち尽くす主。

 

「…見えましたか?…わざと外しましたが、今のが実践なら貴方は間違いなく死にましたね」

 

槍を引きながらわざと少しキツい言い方をする。

 

この若さでこの才能を潰すのは惜しい。

 

だからまだ上には上がいることを教えてあげなくては。

 

「…負け、た…?…俺が?」

「ええ。貴方の負けです翔様。どうですか?私以外に負けたご感想は…」

「…悔しい。ここでは俺が師匠の次に強いと思ってましたから…」

「…確かに貴方はお強い。しかし、まだまだ未熟だ」

「吉良村さん…」

「なんでしょうか?」

「吉良村さんよりももっと強い人っているんだよね…」

「はい。楠殿もその一人ですしね。…世界は広い。貴方が見たことのない武術や武器を扱う者もいるし、貴方より強いものはごまんといる」

「…そうか。…ありがとう吉良村さん!俺新しい目標が出来たよ!」

「?」

「もっともっと強くなる!とりあえずまずは妥当吉良村さんだ!」

「はっはっはっ!そう簡単には負けませんよ!」

 

これが私と主の出会いだったーー

 

 

 

 



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第50話【祖王の眷属】

お待たせしました!

もう50話ですね

ありがとうございました!


「あ、ラムさん!おはよう!さっそく手合わせをーー」

「おはようございます翔様。やれやれ、またですか?いい加減、目が合う度に戦いを挑んでくるのはやめてください。私のポケットにファンタジーはありませんよ?」

 

あの日以来、目に輝きを取り戻しまた鍛練に励み出したかと思ったら、毎日毎日こりずに戦いを挑んでくるようになった主。

 

若いってなんて無邪気で単純なんだろうな…。

 

それと、親しみを込めてラムさんと呼ばれるようになった。

 

 

「吉良村って呼びにくいよね、吉良なの?村なの?」

「は、はあ…」

「だから間とってラムさんだね!」

 

とのことだ…。

 

吉良さんと呼ばれることは何度かあったが、まさか本当に真ん中を取られるとは…。

 

ネーミングセンスはともかく、新鮮だったし、なにより主が受け入れてくれたのは嬉しかった。

 

 

「じゃあせめて槍教えてよ!」

「えー、嫌ですよめんどくさい。それに翔様が槍を扱えるようになったら私の存在が霞むではないですか」

「なんでだよ!ラムさんのケチ!なんで戦闘中はあんなギラギラしてるのに普段はそんな適当なんだよ!」

「メリハリがあると言ってください」

「あーあ、いいのかなあ?こないだの軍の慰労会でお酒に酔って浮気未遂してたの彼女さんにチクっちゃうよ?」

「な!?そ、それだけはやめてください!そもそも未遂です!ギリセーフです!」

「…ムラムラさん(ボソッ」

「ごめんなさい、許してください!」

 

…と、こんな冗談を言い合える仲にまではなっていた。

 

ちなみに、この翌年に彼女と結婚し、いまの家庭を築いた。

 

彼女も私と同じくこの城にメイドとして召し仕えられている。

 

 

それから主が11歳になり、ある事件をきっかけに能力に目覚めた。

 

「ご無事ですか翔様!」

「うん、ラムさん。…なんとかね…」

「あまり、無茶をなさらないでください…私も城内でしか一緒にいれないので…」

「うん、ごめん。…けど、改めて思い知らされたよ…自分の無力さを…」

 

そう言って俯く主。

 

「…俺さ、強い自信はあったんだよ…俺1人でも家族を守れるだけの強さはあるはずだって…」

「…」

「けど、いざそうなったら違った…その分野に長けた集団には1人じゃ勝てなかった…今回能力がなかったら確実にーー」

 

ーー死んでいただろう。

 

「…翔様。貴方がご家族を守りたい気持ちはわかりますが、貴方が倒れては元も子もない。かえって家族を追い込んでしまいます」

「…うん。けど、俺は守りたいんだ…」

「はい。わかっております。だからこういう時の為に、私がお側にお仕えしているのです」

「…え?」

「翔様1人では限界があります。それは今回わかったはず…。だから、1人で無理なら私にも一緒に背負わせてください。必ず私は貴方のお力になってみせます!」

「!?」

「翔様がご家族を守る為に力を振るうなら、私は貴方をお守りする為にこの槍を振るいましょう!あ、でもその代わり、私の背中は貴方に任せますよ。私も家庭があるゆえ、まだ死にたくはありませんので!」

 

そう言って笑う。

 

「貴方には私が、仲間がついています!もう1人で背負う必要はありませんよ」

「…ラムさん。俺は…頼ってもいいのかな?」

「ええ!もちろん!」

 

そう言って槍を目の前において、膝まづき、

 

「これより先、何時如何なる状況でも我が槍は貴方様と共にーー」

「ーー!?…わかった、ありがとうラムさん。改めて、これからよろしく頼むよ!」

「はっ!承知致しました、我が主よ!」

 

ーーーーーーー

 

そして祖王様と交わした会話

 

主をそのまま大きくして白髪にしたような青年。

 

「ーー王の剣の能力者ってのは、代々短命なんだよ」

「「「!?」」」

 

突然何を!?

 

「まあお前達眷属にはなんの影響もないし、能力者も絶対短命ってわけでもない。…この能力は時代の指針となる者に宿る、つまりあいつはこの時代で何か大きな偉業を成す人間だ」

「や、やはり翔様は偉大であられたのか!」

 

何か目を輝かせ喜んでいるバハ。

 

しかし、今はそれどころじゃなく…

 

「…それと翔が短命ってのなにが関係すんだ?」

 

イフの言う通り。

 

「その偉業に周りがついてこれなくなるってことだよ。…強大すぎる力は、その者を孤立させる…」

 

それはよく知っている。

 

出会った日の主がそうだった。

 

「俺は周りの限界を察し、眷属に後を託し1人で国に迫る他国の軍隊を壊滅させて力尽きて死んだ。そして俺と同じくこの能力を保持した夜叉王は、ついていけなくなった眷属に裏切られ戦場で孤立し、その時の傷で死んだ。それでも1人で敵軍を撤退させ、その後50年は侵略出来ない状態にまで追い込み、結果としては国を一時の脅威から守った…ほんと立派だよな…俺ならショックで寝返るわ」

 

そう言って笑う祖王様。

 

「まあなんだ、今回、あいつが何を成すかはわかんないけどさ…中途半端な覚悟なら深入りはするな」

「「「ーー!?」」」

 

先ほどまでとは比べ物にならない真剣な顔で闘志を向けてくる。

 

「落ち着け2人とも…」

 

思わず自身の武器に手をかけるバハとイフを止めつつも満姫殿を後ろに隠す。

 

「俺だって少なからず罪の意識は感じてんだよ…王の剣の起源は俺なわけだしさ…出来ることなら最後の憂いは少なくしてやりたい…」

 

そして、自身の逆鉾を呼び寄せ構える祖王様。

 

しかし、

 

「…ご心配には及びませぬ祖王よ。我々は決して主を1人にはしませぬ!」 

 

そう言って私も自身の槍を構える。

 

「へー、あいつが1人で消えたとしても?」

「必ず見つけ出して連れ戻すまで…!」

「誰かがあいつを裏切ったとしても?」

「命に変えても守り通すまで…!石を投げられようと罵声を浴びせられようと、主には生きてもらいます」

「それがあいつを追い詰めるだけだとしても?」

「それでも我々が主のお側にお仕えしていることをわからせるまで…!」

「…そうか…」

 

武器を下ろし戻す祖王様。

 

「…そこまで言うなら見せてみろ、お前達の覚悟を…!あいつに、俺に、お前達の存在意義を示してみろ!」

 

そう言い放つ祖王様から発せられるのは覇気。

 

殺気ほど恐ろしいものではなく、かといって優しいものではなく。

 

相手を威圧し、魅了させる力。

 

これぞまさしく王の器ーー

 

「「「はっ!」」」

 

そんな祖王様に無意識に例をとる我々4人。

 

「よし!んじゃ、頼んだよ?俺もしばらくは傍観させてもらうわ…」

 

そう言って最初の軽い雰囲気に戻る。

 

このお方は…外見だけでなく、雰囲気まで主と似ている。

 

「にしても、お前、槍ってのは良いセンスしてるな!」

 

私を指差して笑う祖王様。

 

「あ、そうそう…夜叉王を裏切ったっていう眷属だけど…まあいいか、この話はまた今度だな…それと今回の話はあいつには内緒な!仲間脅したとか言われて嫌われたくないしー」

 

そう言って笑いながら祖王様は消えていった。

 

ーーーーーーー

 

そして現在

 

もうすぐ14歳になられる主は闘王様と対峙している。

 

出会ってから7年…立派になられた。

 

この歳で時折、あの時の祖王様と同じ王の器を感じるときがある。

 

主よ…貴方はもう私より強い。

 

とりあえずと掲げた目標は越えましたよ。

 

次は何を成すおつもりか…?

 

貴方が目指す先を共に見てみたい…!

 

 

そして主の横に立ち、槍を構え、闘王様に向き合う。

 

「…ラム?」

「闘王様はお強い。主1人では倒すのは無理でしょうね…」

「む…余計なお世話だ」

「…ですから我々が、私がいるのです。1人でダメなら頼れとあの時申したはずですよ」

「ーー!?ラム…」

「それからこれからはそのままラムで結構です。貴方は私の主。どこまでもお供いたします」

「…わかった。手を貸せラム!あの人を倒して先へ進むぞーー」

「はっ!我が主の御心のままにーー」

 

そして主も祖王の逆鉾を呼び寄せ2人で構え駆け出す。

 

 

眷属器、祖王の逆鉾ーー



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第51話【魔女の姉妹】

大変お待たせしました!

そろそろ皆さんも原作キャラが待ち遠しいと思うので、勝手ながら来週いっぱい投稿を控え一気に王の剣編を仕上げてしまう予定です!

楽しみにしてくれている皆さんには申し訳ないですけど、もうしばらくお待ちください!


窓から月明かりが差し込む夜の建物

 

「…はぁ…はぁ…」

 

1人の男はひたすら走る。

 

「こんばんは」

 

目の前に現れる1人の女性。

 

「!?」

「…それと…」

「ーー!?」

 

突如、男は背後から首を切られ、悲鳴を上げることも出来ず崩れ落ちる。

 

「おやすみなさい♪」

 

それを行ったのはまた別のもう1人の女性。

 

「…今日もあっけなかったねー♪」

「…どうでもいいわ。依頼は済んだわ。帰りましょう」

 

そして、すぐさまその場から立ち去り、闇夜へと消えていく2人。

 

 

世界には表と裏が存在する。

 

表には決して気づかれることなく、仕事をこなすのが裏の世界のルール。

 

その裏の世界に生きる者達には暗殺者というものが存在する。

 

その中でも、特に恐れられている姉妹がいる。

 

太刀筋すら悟らせない神速の剣の使い手、姉の剣姫(けんき)

 

存在すら悟らせない俊足の暗器の使い手、妹の暗姫(あんき)

 

人知れず依頼をこなすその姉妹を知る人は彼女達を魂を狩る魔女の姉妹と呼ぶ。

 

ーーーーーーー

 

「ーーと、言う話を以前楠殿から聞いたことがあります」

「…なるほどね。この綺麗な切り傷はそれでかーー」

「それでか…じゃねえよ!なんでそんな冷静なんだよ!?人が死んでんだぞ!メイドなんか気絶したじゃねえか!」

 

イフは慌てながらそう言って、俺が背中におぶった曽和さんを指差す。

 

「…落ち着きなよイフ。こんなだから時こそ冷静にならないと…」

「だからってよくそんな直視できるな!」

「…まあ、一度経験してるからね…(ボソッ」

「?」

 

俺達は次の墓の場所について知っていると言うこの町の長に話を聞くために会いに来たんだけど…これじゃあな…

 

「いい加減うるさいぞイフ。翔様の邪魔だ!」

「あ?そもそもバハもなんでそんな平気な顔してんだよ!」

「俺は常日頃からお前が早く死なないかと、お前の死に様を想像しているからな…」

「よし、お前表出ろ!今日という今日は殺す!」

 

「…ぅ…うう…」

「あ、目が覚めました?大丈夫ですか?」

「な!?動いた!?ゾンビか!」

 

慌てて銃を抜こうとするイフ。

 

バハも剣に手添えるのやめなさい。

 

「…落ち着けって。そもそも最初から死んじゃいない」

 

首の傷も致命傷には至ってなかったし。

 

この飛び散っていた血も偽物。

 

大方、死んだと思ったショックで気絶したんだろうな。

 

 

それから、町長さんの手当てをして話を聞いたが、それを詳しく記された書物を盗まれたようだ。

 

どうやら本当の目的はそっちだったらしいな…。

 

「…んで、どうすんだ?振り出しに戻ったぞ…」

「最悪だ…とりあえずーー」

 

今夜泊まる場所の確保をして、思い当たる節があったので1人で外出をしていた。

 

みんなついてくるとうるさかったけど1人の方が“あちら”もいいと思って置いてきた。

 

 

人通りの少ない路地を歩く。

 

その“あちら”に会うためにーー

 

「…ところで、君は何者かな?」

 

 

返事はなし、か…。

 

まあいいや…

 

「きゃ!?」

 

後ろの路地の角で女性の悲鳴が上がる。

 

その場所に行くと、

 

既に呼び寄せておいた修羅王の刃の金属操作で鎖鎌の鎖に体を縛られて宙吊り状態の女性がいた。

 

「…それで、君は誰?」

「もーう!捕まっちゃった!なんでわかったの!?」

「質問の答えになってないんだけど…俺も一応は自分の身分は理解してるつもりだからね…尾行には特に警戒心が強いだけだよ。…君も俺の事を知っての行動でしょ?」

「…だからって私の存在に気づいたのは貴方がはじめてだよぉ!私、感激しちゃった!」

 

…会話が噛み合わない人だな。

 

「…あの…もう一度聞かなきゃだめ?」

「君は誰、でしょ?…私は鈴音(りおん)!暗姫なんて呼ばれて暗殺者やってまーす♪よろしくね!」

「じゃあ、君が…!?」

「ねえねえ、翔くん!とりあえずなんだけど、そろそろ下ろしてくれない?パンツ見えてるでしょ?」

「あ、ばれてた?」

「ガン見しすぎなんだよ!」

 

笑い合いながら、鈴音と名乗った女性を下ろしてあげる。

 

「それで…なんで俺をつけてーー!?」 

「ーー!?」

 

会話を続けようとした瞬間、背後から殺気と共に剣が降り下ろされるが、咄嗟に鎖鎌でカードする。

 

「お、お姉ちゃん!?」

「お姉ちゃん…?あー、じゃあ君が剣姫か…」

「…はじめまして殿下。貴方に恨みはありませんが、妹の為、切らせてもらいます」

 

そう言って腰の後ろに刺した双剣を引き抜き構える剣姫。

 

「え?あー、そういうこと?はい、どうぞ」

 

そう言って妹の暗姫を縛った鎖をほどく。

 

「「…え?」」

「…え?」

 

…ん?

 

「…どういうおつもりですか?」

「どういうおもつもりもなにも、離せってことじゃなかったの?」

「…」

「…?」

 

警戒心を緩めない剣姫だが、

 

「ぷ、あはははは!お姉ちゃん、どうやら翔くんはいままでの人達とは違うみたいよ!」

「…そのよう、ね…」

 

笑う暗姫の言葉にため息をついて剣を鞘に納める。

 

「此度の非礼をお許しください殿下。…改めまして、千葉 詩音(ちば しおん)と申します」

「妹の鈴音でーす♪」

 

そう言って目の前に膝まづく魔女の姉妹。

 

「え?ちょ、どういう状況?それって本名だよね?暗殺者が名乗っちゃったりして大丈夫なの?」

 

俺の言葉に困惑した表情で互いに顔を見合わせる姉妹。

 

「あはは!ほんっと、変わってるねえ翔くん!普通自分をつけてた相手の心配する?」

「いや、つけられただけでまだ何もされてないから、なんとも…」

「本当に変わってるよ君は…!」

「鈴音、殿下が困ってるからその辺に…。殿下妹の無礼をお詫び致します。…それと、今回貴方様に接触させて頂いたのにはわけが…」

「…聞こうか」

 

そしてその場に座り込む。

 

2人は驚いたものの話し始める。

 

俺はあぐら、詩音は正座、鈴音は体育座り…見えてるんですけど?

 

ああ、わざとか…。

 

目が合いニヤッとした鈴音。

 

会話を続ける詩音、しかし決して目だけは離さない俺。

 

 

どうやら、今回2人は夜叉王の墓について書かれた書物を盗んでくるように依頼され、盗んだわ良いものの、いざ取引場所に行けば口止めの為始末されそうになり、逃げてきたらしい。

 

 

「…つまり、鈴音の水色レースは素晴らしい…じゃなくて2人は命を狙われていると?」

「…はい、そうなります…」

 

やめて!

 

そんなゴミを見るような目で見ないで!

 

「いや、だってですよ詩音さん。こんな真正面で見える体制で入られたら見ちゃうよ!少なくとも、俺はそういう人間だ!」

「やだなあ、翔くんなら見られてもいいから、見せてるんだよ?」

「あ、それはどうもありがとうございます!」

「はぁ…見られて良くても、わざわざ見せる必要はないでしょ」

 

「とりあえず翔くんにはこれを!」

 

そう言って、たわわな谷間から1冊の本と1枚の紙を取り出す鈴音。

 

な!?

 

なん…だと…!?

 

その受け取った物と鈴音のものを交互に2度見する。

 

そしてチラッと詩音のものを…

 

「…なんでしょうか?」

 

黒い笑みを浮かべる詩音。

 

「え、いや、決して鈴音のたわわに比べて詩音は控えめだなとか思ってないから…!…あ…」

「なんですか?セクハラですか?そうですか、最後に言い残すことはありますか?」

「や、ちょ!詩音さん!?剣抜かないで!まーー」

 

 

一応言っておくけど詩音も別に無い訳じゃないんだよ。

 

鈴音は奏より少し大きいくらい、詩音は岬ぐらいだろうか。

 

ちなみに曽和さんは葵より少し小さいくらい。

 

つまり、一番小さいのは、あかーー

 

 

 

 

 



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第52話【夜叉王】

先に魔女の姉妹の話だけ終わらせてスッキリさせておきますね!


「ーーところで、1人で来ちゃって良かったの?」

 

あれから鈴音に受け取った本を元に夜叉王が眠る墓の場所に向かっていた。

 

「1人じゃないだろ?2人がいる」

 

そう、姉妹と共に…。

 

「え?私達はただ殿下に先程の事を伝えたかっただけでして…」

「そうだよ!私達といたら翔くんも危ないんだよ!」 

「…だから?」

「「…はぁ…」」

 

 

先程、鈴音がくれた紙は、今回の依頼主の情報が書かれて紙だった。

 

俺達が歴代王の墓をまわっているこのタイミングでの依頼、ましてやそれに関する書物という特定の物の回収。

 

この事から俺の行動を阻止する者の犯行ではないかと考えた姉妹は、その事を俺に伝えるためにも来てくれたらしい。

 

 

「つまり俺が2人を守ればいいんだろ?」

「私達の心配ではなく殿下がーー」

「あー…なら2人が俺を守ってよ!」

「「!?」」

 

そして目的の夜叉王の墓がある岬たどり着く。

 

 

『ーーダメだ』

 

いきなり建物の前で門前払いされた。

 

『なぜ眷属達をおいてきた?』

「まあ、色々ありまして…」

『ダメだ。つれてこい』

「えー」

『お前1人では認められない』

「…そこをなんとか!」

『ダメだ』

「お願いします!」

『ダメだ』

「…」

『ダメだ』

「まだ何も言ってない!」

 

『ダメなものはダメだ。悪いが出直してくれ』

「ちぃ!」

『おい、あからさまに舌打ちをするな』

「14の俺より小さいくせに!けちかよ」

『身長は関係ないだろ!俺の武器の性質上、こっちの方が小回りきいていいんだよ!』

 

当時14歳の俺の身長は170あった。

 

それに比べ夜叉王は…150あるかないかくらいかな?

 

ぷ…ちっさ!

 

『おい、お前絶対いま失礼なこと考えてたろ…』

「…いーえ」

『…なんだいまの間は!?俺はこれでも18だぞ!』

「わお!?」

『むかつく驚き方をするなー!』

 

それは素直に驚きだわ。

 

 

しかし、まいったな…こんなことならバハかイフでも連れてくるべきだったか。

 

 

ぽかぽかと叩いてくる小さいのの頭を抑えながら考えていると。

 

「なら私達が翔くんのけんぞく?になればいいんじゃないの?」

 

夜叉王を抱き寄せ、頭を撫でてあやしながらそういう鈴音。

 

詩音と鈴音の姉妹はスタイルが良い。

 

2人とも165前後ぐらいだろうし、夜叉王完全に子供扱いだわ。

 

『む?簡単に言ってくれるな娘。さっきこいつと会ったばかりのお前達を歴代王達が認めるわけないだろ…たとえ豊満な胸を持っていてもな!』

 

そう言って鈴音の胸に顔をうずめながら腕を組む夜叉王。

 

 

「…すいません殿下。私この王様なんか好きじゃないです」

「なんかごめん!本当にごめん!」

 

自身の胸を隠しながら夜叉王を睨む詩音に即答で全力で謝る。

 

同じ血筋として、ほんと申し訳ない気持ちで一杯だわ。

 

 

『いいか?ーー』

 

(バシッ

 

『眷属と言うのはな?ーー』

 

(バシッ

 

姉妹に眷属のなんたるかを語りながらも鈴音の胸に手を伸ばす夜叉王と、それを阻止する為弾き続ける詩音。

 

 

本当にごめんなさい!

 

『つまりなーーやれやれ…お前達、大勢のお友達を連れてきたもんだな…』

「「「え?…!?」」」

 

夜叉王の言葉に振り返ると、黒服の集団がぞろぞろと現れ始めた。

 

目の前は林、後ろは崖のこの岬。

 

その目の前を囲うように迫ってくる黒服達。

 

完全に逃げ場を塞がれたか。

 

「あいつら!?」

「じゃああいつらが2人の命を狙ってるっていう?」

「はい」

 

本当に申し訳ありません…と俯く詩音。

 

「んじゃ俺の敵でもあるな」

「「え?」」

『まあ俺は既に死んでるし、手出す気ないから、頑張れ』

 

本当に適当だな夜叉王。

 

 

そんな中、1人の指揮官らしき男が前に出る。

 

「おや?おーこれはこれは第一王子の翔様ではありませんか!」

「!?」

 

こいつ俺を知ってる!?

 

2人が言っていた俺の行動を阻止しようとしてるってのはあながち間違えじゃないのか。

 

「…そういうあんたは?俺を誰だか知っても引く気はなさそうだな」

「我々はただの使いパシりですよ」

 

ははっと笑う男。

 

「今回の任務は情報を知るそこの姉妹の抹殺、それと夜叉王の武器の回収だったのですが…貴方がいなくなれば話は速いですからねえ、きっと我が主もお喜びになるでしょう…逃げられたときはどうしようかと思いましたが、姉妹には感謝ですね」

 

 

こいつは何を言っているんだ?

 

任務?

 

主?

 

俺が武器を集めることで何か困る奴がいるのか?

 

 

「…それでは王子よ、我が主の為に散ってくださいーー」

 

そして周りの者達に指示を出し、黒服達が一斉に向かってくる。

 

「…仕方ない、やるか」

 

闘王の豪拳を呼び出す。

 

肉弾戦を得意とする俺からすれば、この籠手はよく馴染むし扱いやすい。

 

眷属だけじゃなく俺にも武器との相性は存在するらしい。

 

「私達が招いた始末、必ずこの場から脱出させます!行くわよ鈴音」

「う、うん!お姉ちゃん!」

 

そう言って、詩音と鈴音も自分の剣を抜き駆け出す。

 

 

「ーー凄いな…」

 

敵をいなしつつ2人の動きを観察している。

 

 

詩音が振るう双剣は確実に敵の急所を捉える。

 

なんて速い!

 

相手にガードさせる隙すら与えていない。

 

目には自身がある俺ですら、やっと目で追えるかどうかの速さだ。

 

そして、剣を振るう鈴音。

 

あれは…蛇腹剣か!

 

振るう度に剣が9つの関節に別れ、変幻自在の攻撃で相手を翻弄している。

 

さらに、剣で切りつけながらも、遠くの敵を長い袖に隠したクナイの様なもので攻撃している。

 

なるほど、暗姫の由来はこっちか。

 

長い袖はそれを隠すための物だったんだな。

 

何より、

 

それを一撃一撃正確にこなしていき、一撃で相手を戦闘不能にする2人の実力に驚きを隠せない。

 

俺も闘王の怪力超人の能力で相手を一撃で気絶させれる程の力を身につけているけど、2人は確実に達人と言えるだろう。

 

まるで舞っているかの様な2人の動きに思わず見惚れてしまいそうになるな。

 

さすがプロ。

 

俺も負けてられないなーー

 

ーーーーーーー

 

ーー綺麗…

 

敵を倒しながら、翔くんの戦闘が目に入った。

 

向かってくる敵の攻撃を全てかわしたり、その力を利用して確実に潰していっている。

 

でも…

 

なんで笑顔なんだろう?

 

戦闘を楽しんでいるようには見えない。

 

自分の強さに酔っているようにも見えない。

 

楽しんでいるというよりは、自分が強くなって行くことを喜んでいる?

 

わからない。

 

何故あそこまでの強さを求めるんだろう。

 

何が彼をあそこまで強くするんだろう。

 

 

私達姉妹は子供の頃からずっとこの仕事の為に育てられてきた。

 

暗殺者。

 

口にするのは簡単だけど、ひどく血塗られた仕事だ。

 

相手の殺すことでしか生きていけない、そんな暗殺者と暗殺者の生まれたのが私達。

 

そして、そのまま暗殺者に育てられた私達は生まれながらの罪人だ。

 

それでも私達に愛情をもって育ててくれた両親には感謝しているし、私達もまた大好きだった…。

 

けれどある日、両親は別の1人の暗殺者に殺された。

 

優秀すぎた2人は、かえって危険と判断され殺されたのだ。

 

私達が強さを求めるのはその為…。

 

両親を殺した奴に復讐する。

 

ただそれだけ。

 

暗姫なんてのは名ばかりで、私達は殺しではなく盗みの仕事専門にしている。

 

私達が誰かを手をかける時は、そいつに復讐する時だ。

 

人を信用すれば情が生まれ、余計にツラくなる。

 

もしかしたらそいつが犯人かもしれない。

 

誰かわからない、誰も信用できない。

 

だから誰にも心を許しちゃいけない。

 

唯一心を許せるのは姉の詩音だけ。

 

私達はもうこの裏の世界で復讐に生きていくしかない。

 

そう思っていた…。

 

この日まではーー

 

 



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第53話【夜叉王の眷属】

「!?」

 

どこかよそ見をしていた鈴音がふいに倒れた敵につまずき転んでしまう。

 

「「鈴音!」」

 

俺と詩音が一斉に駆け出す。

 

 

けど、この距離はまずい!

 

間に合わない!

 

 

1人の男が鈴音に剣を振り下ろす。

 

 

守るとから言っておいてこの様かよ!

 

情けねえ!

 

くそぉ!

 

 

その時ーー

 

『やれやれ本当に情けない奴だな。守りたいものがあるなら手の届く範囲にとどめとけ』

「「「!?」」」

 

夜叉王がその男を吹き飛ばした。

 

「夜叉王!?あんた!」

『今回だけはこの巨乳の姉ちゃんに免じて特別だ』

「「…」」

 

あ、やっぱこの人あほだった。

 

少しでも見直した俺が間違いでした。

 

「…困りますねぇ夜叉王殿。こちらも貴方は手を出さないと思っていたのですが?」

『俺もそのつもりだったんだけどな、事情が変わった。…お前、何者だ?』

 

そう言って急に真面目な口調で指揮官の男を睨む夜叉王。

 

「なんの事ですかな?」

『俺を前にとぼけんなよ…お前からは王族に近い気配を感じる、誰の眷属だ?』

「「「!?」」」

 

夜叉王の言葉に驚く俺達。

 

 

何!?

 

眷属!?

 

どういうことだ!?

 

こいつの言っていた主ってのは王族?

 

そいつが俺の邪魔を?

 

 

「ははは、もちろんそれは内緒と言うやつですよ」

 

やばい急展開過ぎて困惑してる。

 

『…まあ死んでる俺には関係ないことだからな、なんでもいい。…どちらにしろ俺はこれ以上介入できない。後の事は次代に託すさ…と、その前に…』

 

夜叉王は鈴音の剣に触れると、

 

『これは俺からだ。お前なら使いこなせるだろ…うまく使えよ?』

 

鈴音の剣が6本の短刀に変わった。

 

「え?」

『お前をあいつの眷属として認めるって事だ』

「…なんで?」

『なんでってさっき話したろ?眷属としての条件、お前とあいつの信頼関係は既に出来上がっている』

「ありがとう…ございます!」

 

そう言って短刀を手に取り立ち上がる鈴音。

 

よかった…怪我はないみたいだ

 

『お前は俺とあいつの能力を持ったんだ、他の眷属と比べて特別だぞ』

「…はい!夜叉王様!」

 

夜叉王の言葉に何かを察したような鈴音。

 

そういや、みんなもなんか言ってたな。

 

最初、頭の中に能力の使い方のイメージが流れてきたとか。

 

 

まあ、何はともあれ、

 

「反撃開始だ!」

 

 

しばらくして、黒服は全滅。

 

鈴音の得た能力は俺と同じ王の剣。

 

他の眷属はワープしか出来ないのに比べ、武器の呼び寄せまで出来るようになっている。

 

夜叉王と俺の王の剣が合わさって能力が増えたのか。

 

特別ってのはそういうことか。

 

 

「…んで、残すのはあんた1人だけど…?」

 

残った指揮官の男を睨む。

 

「本当に、困りましたねえ…眷属まで増やされては…」

 

そう言いつつも表情を変えない男。

 

「…しかし、さすがに面倒ですね…」

 

男のかけていた片眼鏡が光る。

 

「まとめて眠ってもらいますか…」

「「「!?」」」

 

何!?

 

急に眠気が!?

 

「…これ、は…!?」

『…眷属器か』

「おや?まあ、やはり死者には効きませんか」

 

笑う男。

 

「…く、そ…!」

 

薄れていく意識の中相手を睨む。

 

 

その時ーー

 

 

「ーーやっと見つけたぜ、主よ」

「!?」

「…イ、フ…!?」

 

俺達と男の間に、轟音と共に雷が落ち、そこにはイフが立っていた。

 

「たっく、世話のかかる主だな…んで…?」

 

そして男を睨み、

 

「うちの主をやってくれたのはお前か…?」

 

右手に雷を宿すイフ。

 

「翔様!ご無事ですか!?」

 

そして、バハ、ラム、曽和さんの3人が追い付き走ってくる。

 

バハとラムはイフと共に男を囲むように構える。

 

「翔様!意識はありますか?しっかりしてください!

「うん…曽和さん…イフのおかげで、なんとかーーごはぁ!?」

「ーーいいですか!寝ちゃダメですよ!」

 

返事をしてるのに必死なのか聞こえておらず、ビンタされたり揺すられたり…

 

「…ちょ…やめ…本当に…死ぬ…」

「わぁあ!?すいませぇん!」

 

心配してくれたのは嬉しいんだけどね…。

 

「…参りましたねぇ、ここまで眷属の方々に揃われては。…時間切れですね…」

 

そう言ってため息をつく男。

 

「あ、そうそう。そこの姉妹に朗報ですよ。あなた方の両親を殺した者を私は知っている。…というより我々の機関のメンバーの1人、と言ったところですかね。…あなた方が生き残った場合教えるよう本人から言伝てを預かっていました」

「「!?」」

 

男の言葉に驚く2人。

 

「確かに伝えましたよ。…では、選ばれし王の器とその眷属の皆さん、また会う日まで精々お元気でーー」

「「「な!?」」」

 

男はそう言うと自身の影に吸い込まれるように消えていった。

 

「消えた!?」

「どうなってやがる…」

「他にも仲間が近くにいたのか…?」

 

 

それから3人には周辺の安全確保を、曽和さんには国王軍を呼んでもらい黒服達の拘束を頼み、俺と姉妹は少し休んでいたーー

 

ーーーーーーー

 

「本当に申し訳ありませんでした殿下」

「ご、ごめんなさい」

 

お姉ちゃんと一緒に翔くんに頭を下げる。

 

「うん、いいよ!…なにが?」

「!?こ、今回の件です!」

 

翔くんの気の抜けた返事に慌てるお姉ちゃん。

 

「今回私達のせいで巻き込んでしまって…これが私達が貴方を陥れる罠だったかもしれない、とは思わないんですか?」

「…うーん…その時はその時、かな?」

「…はぁ?」

 

呆れるお姉ちゃん。

 

「それに考えがなかった訳じゃないよ…2人と行動してれば自然とこいつらが出てくるだろうとは思っていたし…」

「え?それじゃあわざと…!?」

「守るって言ったろ?…だからむしろ俺が2人を利用したみたいになっちゃったね」

 

そう言ってごめんねと笑う翔くん。

 

あ、夜叉王様と同じ顔だ。

 

「なぜ、初対面の私達にそこまで?」

「俺も魔女の噂は聞いた事があったからね…町長の事、今回の戦闘、人を殺さず制圧する力を持ってる2人に興味があったんだ」

 

守りたいものの為に2人の力を貸してくれ!

 

と頭を下げる翔くんに驚くお姉ちゃん。

 

「…申し訳ありません。有難いお誘いなのですが私達にはーー「お受けします」鈴音あなた!?」

「ごめんねお姉ちゃん。けど私疲れちゃったんだ。…復讐に囚われて生きていくのに…」

「…鈴音」

「けど復讐を諦めた訳じゃないよ!お父さんとお母さんを殺した奴は絶対に許さない!…けど今回改めて気づいちゃったんだ、私達2人の力じゃ限界があるって…」

「…」

 

「あの男の仲間ってことは、そいつも能力を持ってるかもしれない…だから翔くん、いえ、殿下!あなたを私達の主と認めるにあたり、いくつか条件があります…」

「…力と両親の仇ってやつの情報の提供ってことでいいかな?」

 

やっぱり見透かされてるか…。

 

「はい」

「深くは聞くつもりはない…けどその条件を呑もう。恐らく今後俺達の敵になるかもしれないからね…そのまま2人がそいつの能力で何も出来ずにやられちゃっても困るし」

「ありがとうございます」

 

どこまでも私達の心配をする翔くん。

 

「…ダメよ鈴音!私達は散々罪を犯してきたのよ!いまさらそんな表に立つなんて…!」

 

いままで黙っていたお姉ちゃんが怒鳴る。

 

「…それでも、私は新しい生き方をしてみたい!翔くんならそれを叶えてくれると思うの!翔くんの目指す先にそれがある気がするの!」

 

真っ直ぐにお姉ちゃんを見つめる。

 

「…そう思えたから夜叉王様も私を眷属にしてくれたんだと思う…」

 

遠くで1人暇そうにしている夜叉王様を見ると、こちらに気づき笑顔で手を振ってくれる。

 

「…わかった」

「ありがとうお姉ちゃん!」

「あの…そこまで信用してくれるのは嬉しいけど、なんで?」

 

少し照れ臭そうに聞いてくる翔くん。

 

「私が眷属になれたから、かな…。夜叉王様が言ってたよ、結局は最後に選ぶのは主である翔くんだって!眷属は主従同士が信頼関係にないとなれないんでしょ?…つまり翔くんが私達を信じてくれているから、私はあなたを信じれる」

「…私も鈴音と同じ理由です。強いて言うなら、こんな鈴音だけど初めてわがままを言ったからです」

「…お姉ちゃん…」

「幼くして両親を亡くしてこの道に入って、わがまま1つ言わなかったあなたが初めてわがままを言った、それを叶えてあげたいと思うのは姉として当然よ」

 

「そうか…わかった!2人の気持ちはよくわかった!…俺にも双子の妹がいてね…その子ももわがままを言わない子なんだ、だから詩音の気持ちは凄くわかるよ!」

 

そう言って笑う翔くん。

 

「ありがとうございます…ですが、やはり我々が表で生きていくには…」

「そうだね…とりあえず2人には死んでもらうしかない…」

「「!?」」

 

やっぱり…

 

「ま、正確には名前を捨てて貰う、かな」

「「え?」」

「さすがに裏の世界の暗殺者を匿えるほど俺の力はないんだ…だから裏の世界の2人には死んで貰うしかない、悪いとは思ってる…」

 

ごめん、と頭を下げる翔くん。

 

そんなことか…

 

「ううん!大丈夫だよ!私達暗殺者に取って名前なんて最初からあってないようなもんだし!」

「もともと本名を名乗っていたのも両親の仇に近づくためですし…」

「そうか!ならよかった…」

 

そう言って翔くんは笑顔で自分のことのように喜んだ。

 

本当に変わった人だなあーー

 

ーーーーーーー

 

「…眷属、全員揃いましたけど…?」

 

みんなと再度合流して夜叉王に向き合う。

 

『…』

「夜叉王様」

 

難しい顔をする夜叉王にラムが口を開く。

 

「…我々は貴方の眷属とは違う!決して主を裏切ったりはしませぬ!」

 

そのラムの言葉に真っ直ぐ夜叉王を見るみんな。

 

『…』

 

そうか…夜叉王は眷属に…。

 

「…あのーー『見りゃわかるよ』え?」

 

言葉をかけようとすると夜叉王に遮られた。

 

『お前達の覚悟や意思は見てればわかる…合格だよ。言ったろ?後の事は次代に託すって…』

 

そう言うと笑う夜叉王。

 

『…それとな、勘違いするな?…俺はこの歳で死んじまったけど、別に眷属を恨んじゃいねえよ!』

「え?」

『結果それで民のみんなが救われたんだ。俺はそれはそれで良かったと思ってる。…だからお前も、お前達も自分の生きたいように生きればいい!』

 

この人は…。

 

ふざけてる部分が目立ってわからなかったけど、やはり王様なんだ…。

 

きっと立派な王だったんだろうな…。

 

…俺は…この人みたいに先代達のようになれるだろうか…。

 

いや、

 

「「「はい!」」」

 

夜叉王の言葉に真っ直ぐ返事をするみんなを見て、

 

俺は俺らしく、俺の出来ることをしよう。

 

何があってもこいつらがいる、俺は1人じゃない!

 

俺は俺だ、俺が思うやり方で家族を、国を守ろう、そう思った。

 

 

『それと、お前、鈴音と言ったか?』

「なぁに?夜叉王様!」

『良いおっぱいをありがーー「「はやく逝け!」」』

 

俺と詩音に遮られながら消えていった夜叉王。

 

 

絶対にこの人みたいにならない、そう再認識した。

 

あの人、眷属に裏切られたんじゃなくて、女性問題で背後から刺されたの間違えだわ、きっとーー

 

ーーーーーーー

 

遠い廃墟にてーー

 

「ーー申し訳ありません主よ、仕留め損ねました…」

「…いや、いいさ…どうせ何もできやしない…」

 

潜む8つの陰ーー

 

「櫻田 翔、かーー」

 

主と言われた男は笑うーー



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第54話【闘技場の怪物】

大変お待たせいたしました!
けっきょく2週間間をあけてしまい申し訳ありません!


あの事件の後、姉妹は名前を捨て、俺達の仲間となったーー

 

姉の詩音はシヴァ。

 

妹の鈴音はリヴァ。

 

もちろん命名、俺!

 

シヴァは同じ剣士、真面目のバハと意気投合し、互いを高め合う仲に…。

 

リヴァは持ち前の明るさでうまく溶け込み、同じ女の子の曽和さんとは特に仲が良くなっていた。

 

 

そして15歳になった夏の夜ーー

 

「わー見てください翔様!」

 

俺達はとある町の夏祭りへと来ていた。

 

「満姫ちゃん、なんだか元気ねぇ!」

「ああ、王都も毎年夏祭りしてんだよ…もう王都を離れて4年だしね…ずっと旅してばっかだったし、それもあってだと思うよ…」

 

リヴァを歩きながら先で手を降る曽和さんを見る。

 

他の皆もそれぞれ祭りを楽しんでもらっている。

 

「なるほどねー…翔くんもしかして気にしてるの?」

「…まあ一応は」

「はぁ…あのね?嫌だったらついてきてないよ!満姫ちゃんも、私も、みんなも…きっと!」

「…そっか、そうだといいな…ありがとうリヴァ!」

「いいえ!…とりあえずそろそろイフくん止めなくていいの?」

 

そう言ってリヴァの指差した先には、射的屋で景品を総取りして店の人を泣かせているイフがいた。

 

「…はぁ」

「あははは」

 

 

「ーーにしても本当に綺麗だなあ」

「はい!イルミネーションが幻想的です!」

「この町は光の都って言われる程、イルミネーションが綺麗で有名らしいよ!前に仕事で何度か来たことあるんだ!」

「「へー!」」

 

リヴァの説明を受けながら3人で町を散策する。

 

 

「翔様あれ美味しそうでーーへう!?あ、ご、ごめんなさい!」

 

はしゃぎすぎて通行人の男の人とぶつかる曽和さん。

 

ぺこぺこと謝る曽和さんに対し、その人は一度頭を下げて、人混みに消えていった。

 

「大丈夫?曽和さん…でかい人だったね…」

「は、はい!…なんだか壁にぶつかったかと思うほどにたくましい人でした…」

「うん、2人ともそれ普通に失礼♪」

 

そう言って笑うリヴァ。

 

「けど、あの男の人どこかで…」

「「え?」」

 

ーーーーーーー

 

「あ?メイドにリヴァじゃねえか!お前らがこんなとこにいるとは意外だな…」

 

イフ、満姫、リヴァの3人は祭りの催し物の闘技大会へと来ていた。

 

「あらイフくん♪…まあ、色々あってね…」

 

苦笑いを浮かべながら指を指すリヴァの先には…

 

「…なにしてんだよ、あいつ…」

 

笑顔で手を振る翔がいた。

 

「それがねえーー」

 

 

「ーー怪物、ねぇ…」

「ええ。満姫ちゃんがぶつかった男の人、どこかで見た事あると思ったら…」

 

 

怪物

 

そう呼ばれて恐れられる男の名は、丹原(たんばら)

 

何者も寄せ付けぬ怪力で相手を退ける、元・雇われ傭兵。

 

その名前と、彼がこの大会に出場することを知り、今回翔も出場した。

 

「…んで強いのか?」

「そりゃ、ね。かなりできるって噂よ?…って、まさか!あなたも戦いたいとか言わないわよね?」

「そりゃ戦ってはみてえけど、体術の戦闘に関しちゃ俺らの中で一番は確実に翔だ…俺の出る幕はねえよ」 

「ふーん…」

「…んだよ」

「いや、意外に冷静なんだなぁと…」

「ほっとけ!」

「イフさんは戦いの事だけは冷静ですからねぇ」

「だけってなんだよ!俺はいつでも冷静だ!」

「ひぃ!ごめんなさいぃ!」

「ちょっと!満姫ちゃんいじめないでよ!…それよりほら!始まるみたいよ!」

 

リヴァの言葉に全員が闘技場に目を向ける。

 

ちなみにもう既に決勝戦だ。

 

『皆様お待たせしました!いよいよ決勝戦です!』

 

司会の言葉に会場に歓声がわく。

 

『それでは選手の登場です!その剛腕で数多の選手を凪ぎ払ってきた丹原選手!そして、軽い身のこなしのスピードと凄まじい攻撃力をあわせ持った桜庭選手!』

 

「…桜庭(さくらば)って誰だよ」

「本名だと色々面倒だからってさ…」

「ああそう…にしてもメイドはこう言うの平気なのか?大好きな主がボロボロになるぞ」

「まあ…翔様の無茶は毎度の事ですし、この旅で何度も危険な場面をご一緒してきたので、もう馴れちゃいました!」

「最初の頃は毎度毎度おろおろになってたのにな」

「き、気のせいです!」

 

 

そんな会話をしているうちに、

 

『それでは!試合開始!』

 

試合開始の鐘が鳴り同時に翔が駆け出す。

 

 

この大会のルールはいたって簡単。

 

武器は自身の肉体のみ。

 

相手を戦闘不能または降服させれば勝ち。

 

 

丹原の目の前で飛び上がり、丹原の顔の横目掛けて、空中で回し蹴り。

 

この人間離れした超人的動きに歓声があがるが…

 

「あのバカ、初手を防がれやがって…」

 

丹原は片手でそれを受け止めていた。

 

そして、そのまま翔の足を掴み、

 

「がはっ!ーーうぉ!?」

 

地面に叩きつけ、壁に向かってぶん投げた。

 

『な、なんという力だぁ!桜庭選手は大丈夫かぁ!?』

 

「翔様!?」

「人ってあんなボールみたいに投げ飛ばせるもんかよ普通…」

「大丈夫よ満姫ちゃん!ほら…」

 

凄まじい勢いで飛ばされ壁に叩きつけられた翔だが、

 

「やーびびったぁ…」

 

平気な顔をして立ち上がった。

 

ーーーーーーー

 

「やるねぇ…怪物傭兵、さん!」

「!?なぜその名を…?」

「連れに情報通な子がいただけだよ…あなたと話をしてみたかったんだ」

「そうか、けど…」

 

瞬間、丹原に一気に間合いを詰められ、

 

「俺は何はも話すことはない」

 

ーー速っ!?

 

顔面を殴る勢いで地面に叩きつけられた。

 

「っー!その巨体でなんて速さだよ!」

 

しかし、ギリギリ両手の掌で受け止める。

 

「…今のを受け止めるとは…君は一体…?」

「あなたと同じ志しを持つ者、さ!」

「な!?ーーぐ!」

 

そして倒れていた状態から丹原の首に足をかけ、背後に回り込み、頭をつかんで顔面から地面に落とす。

 

「とりあえず仕返しね」

「…この程度で…!」

 

ーーな!?

 

急に力が増した…!?

 

背中から押さえ付けていたのに力ずくで吹き飛ばされーー

 

「ーーぐはぁ!?」

 

鳩尾を殴られそのまま吹き飛ぶ。

 

「がはっ!げほっ!」

 

やば、もろにはいった…。

 

そう思いながら相手に目線を向けようとするが

 

!?

 

気づけば背後を取られており、ギリギリの所でかわす。

 

「ちぃ!そう、なんども…!」

 

攻撃をかわしながら相手との間合いを詰め、

 

「食らうか!」

「ーー!」

 

拳と拳がぶつかり合う。

 

「ぐぅ…うわっ!?」

「…!?」

 

力負けし吹き飛ばされる。

 

丹原は少し後退りしただけ。

 

 

ーー痛ぇ!

 

なんだあの固さ!?

 

いくら打ち込んでも逆にこっちの拳が壊れそうだ!

 

 

その後、互いに一歩も譲らぬ攻防が続いたが、

 

 

やっべ、もう限界だ…。

 

意識がとびそうだ…。

 

 

互いにボロボロになり疲れ果てながらも、先に限界を迎えたのは俺だった。

 

 

…また、敗けるのか?

 

 

薄れゆく意識の中、夜叉王の墓での事を思い出す。

 

敵の眷属器使いの能力で、意識が薄れていった時の事を…。

 

あの日以来、修行にもさらに力を入れてきた。

 

あの時、イフが来てくれてなかったら確実に殺られていた。

 

あれは完全に俺の敗けだった…。

 

リヴァを守ると言っておきながらも夜叉王に助けられ…

 

守るために力をつけてきたはずがイフに助けられ…

 

限界…?

 

知ったことか!

 

限界迎えようがなんだろうが、

 

俺は、もっと…

 

「ーー強く!」

 

前に倒れそうになるのを踏ん張り、相手に向き合う。

 

「…」

 

相手もこちらを見ている。

 

お互いに理解した。

 

ーー次の一撃で最後だ!

 

互いに距離を詰め合い。

 

「もう、負けらんねえ!」

 

拳が交差するーー

 

ーーーーーーー

 

「ーー強く!」

 

翔がそう踏ん張った時、

 

「「「!?」」」

 

翔の体が藍色に輝いていたのにイフ、リヴァ、満姫、丹原の4人だけ気づいていた。

 

「なにあれ!?」

「あれは…王家の方々が特殊能力を使う際の光ですね」

「翔の能力は王の剣だろ?何も出てねえぞ?」

「…王の剣ではない他の能力、ってこと?」

「そんな!本来は1人1つのはずですよ!」

「けど、前例がないわけじゃねぇだろ…」

「祖王様ですか…」

「…まさか、ね…」

 

ーーーーーーー

 

「……ん?」

「あ!目が覚めましたか?翔様!丹原さん起きましたよ!」

「はいよー」

 

曽和さんに呼ばれて丹原の寝る部屋へ行く。

 

「や、どうも!」

「え…怪我は?俺もか…」

「うん、あの大会の後、気絶したあなた運ばせてもらって俺の能力で治させて貰いました」

「…やはり君は王族か…?」

 

怪我は賢王の能力で治させてもらった。

 

普段は軽い怪我なら曽和さんに手当てしてもらうけど、今回はお互いやり過ぎてボロボロだったし能力を使った。

 

高速治癒の能力は疲れるからあまり使いたくないのだけど、いつまでも放置しておくと曽和さんがうるさいからな…。

 

「…あれ?なんでわかったんですか?」

「…王族専門の傭兵だったから…それでだ…」

「なるほど!」

「しかし、櫻田家に雇われたことはないな…君は放浪中の第一王子だろ?名前を聞いて納得が言ったよ…」

「それは話が早くて助かります」

 

 

それから全てを話し、全てを聞いた。

 

なぜ俺達が旅をしているのか、なぜ傭兵をやめたのか。

 

俺は知っていた。

 

 

丹原は傭兵時代、稼いだお金を施設に寄付していた。

 

丹原は孤児だった。

 

そんな自分を育ててくれた施設、さらには他の孤児院にまでお金は寄付していた。

 

そんな彼を俺は昔、噂話で知った。

 

尊敬してすらいた。

 

けどある日引退したと知った。

 

その理由がどうしても知りたかった。

 

理由は簡単だった。

 

一度、施設の子供達に何の仕事をしているのか、と聞かれたそうだ。

 

その時、胸を張って言えなかったらしい。

 

善だろうと悪だろうと雇い主を守る仕事。

 

悪だとわかっていても従うしかない仕事。

 

それを子供達には胸を張れず、むしろそのお金を寄付する事すら恥ずかしくなり、そんな自分に限界がきたらしい。

 

いまはその力を利用して建設現場で仕事をしつつ、今回のようにいろんな大会で賞金を集めているらしい。

 

 

なら話は早い、

 

「それなら俺に力を貸して欲しい!」

 

 

こうして、この日、丹原が仲間に加わった。

 

「あ、なら名前つけないとな!丹原、たん、ばら…タンだな!」

 

ーーーーーーー

 



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第55話【獅子王の眷属】

初めは妹のわがままだった…。

 

鈴音の言うことには一理あったし、目的に近づく為なら良いと思ってた…。

 

 

最近鈴音はよく笑うようになった。

 

前から明るい子だったけど心からの笑顔を見せたのはいつぶりだろうか…。

 

確かにこの場所は居心地がいいけど…

 

今まで私が生きてきた世界に比べたら、

 

「シヴァじゃねえか。出掛けんのか?美味そうなもんあっなら教えてくれ」

 

「シヴァか気をつけてな」

 

「あ、シヴァさん!ここの温泉、お鍋出るみたいですよ!夕飯の時間までには帰ってきてくださいね!」

 

「…いってらっしゃい…」

 

「シヴァ、今朝は敗けたが明日は敗けんぞ!」

 

「あ、シヴァ!買い物?付き合おうか?」

 

この場所はあまりにも眩しすぎるーー

 

 

「ーーそれで…なぜついてきてるんですか?殿下…」

「え?暇だったから?」

 

1人で大丈夫だからと言ったのに…。

 

「いいじゃん!同じ双子の上の仲じゃんか!」

「…理由になってないです」

 

 

それからしばらく買い物をし、ベンチに座って休憩をしていると、

 

「…シヴァさぁ…俺らといるのなんか無理してない?」

 

!?

 

「あ、違ってたらごめんね!けど、なんかまだ壁を感じるなって…」

「…いえ…私は…すいません、まだわかりません…」

「…そっか。けどあんま無理しんなよ?…家族や国を守る為に仲間を集めといて、その仲間が笑顔じゃなかったら元も子もないからな…少しずつ馴れていってくれればいいよ…」

「…はい。ありがとうございます…」

   

この人は良く他の人を見ている。

 

確かに目はいい人だと思っていたけど、人の感情の変化や長所や短所を見抜く目を持っている。

 

それゆえに、あの日も私達を受け入れてくれたんだと思う。

 

初対面の私達の本質を見抜き、信頼をおいてくれた。

 

けど、

 

「さ、とりあえず今日はもう帰ろう!夕飯に遅れると曽和さんはうるさいんだ」

 

そう笑う殿下。

 

「…はい」

 

私は、この人に何をしてあげれるだろうーー

 

 

それから数日が経ち、私達は獅子王様が眠るお墓があるという洞窟へと来ていたのだけど…

 

「あ、やば!ごめん、翔くん!私つっかえちゃって通れそうにないや!」

 

細い通路を抜ける際に鈴音の胸がつっかえた。

 

「なん…だと…!?」

 

はぁ…殿下、またですか?

 

やはり男の人は胸なんですか?

 

大きさなんですか?

 

こういうところは夜叉王様そっくりですね。

 

自覚ないんでしょうけど…。

 

 

ところで、

 

「…殿下、セクハラですよ?死んでください」

 

チラッとリヴァと私の胸を見比べた殿下を睨む。

 

「死!?」

「おいシヴァ!お前、翔様になんて事言うんだ!」

「なんですかバハ。パワハラですか?死んでください」

「死!?」

 

そして爆笑してあるイフ。

 

…このメンバーの男性はうるさい人しかいないのかしら?

 

 

結局、その通路をラムとタンも抜けれず、少数精鋭と言うことで殿下、私、バハ、イフの4人で奥に進むことになった。

 

 

それにしても…

 

…普通に通れた私ってなんなんだろう…。

 

 

「だあ!めんどくさい!なんなんだよこの光!」

 

しばらく歩いていると、前方から光の筋が飛んできた。

 

「獅子王の斬撃を空間にとどめて飛ばす能力、閃光解放(ライトニング)の斬撃だろうな…間違っても当たるなよ?さすがに首が飛んだら俺の能力でも治せん」

「さらっと怖え事いうなよ!」

 

 

「いいか、俺とバハであの斬撃の軌道をそらす。その隙にシヴァが奥の元を絶ってくれ。イフはもれた斬撃の処理でシヴァの援護を、相手は王の能力だ。出し惜しみせず最初から眷属器で迎え撃て!」

「「了解!」」

 

岩に隠れての作戦会議。

 

了解、じゃなくてーー

 

「ちょっと待ってください!なぜ私なのですか?」

「この中じゃシヴァ一番足が速いから」

「それなら殿下でもいいじゃないですか」

 

 

「いまだ行け!シヴァ!」

 

結局こうなるのね…。

 

行けじゃないわよ、バハ。

 

明日の朝の稽古、覚えてなさい。

 

 

あれ?明日の朝…?

 

いつから私はここでの未来を考えるようになったんだろう…。

 

 

けど、

 

「頼んだシヴァ!」

 

なぜだが殿下(あなた)に頼られるのは悪い気はしません。

 

「ーー!」

 

2人の言葉と共に駆け出す。

 

すると目の前からさらに2本の斬撃が飛んでくる。

 

仕方ない、防ぐしかないか…。

 

と、思いながら自身の剣を抜こうとしたら、

 

「お前の援護が俺の役目だ…」

 

雷鳴と共に私の左右を雷が横切り、斬撃を相殺した。

 

振り返ると右手に雷を纏わせていたイフが弓を構えていた。

 

本当、眷属器の能力って便利ね…。

 

「…行け」

 

そうして次々と飛んでくる斬撃を相殺していくイフ。

 

戦闘となると口数は減るし冷静。

 

普段の短気な姿からは想像がつかない…。

 

きっと二重人格者なのね。

 

 

…けど、これなら殿下とバハは必要ないんじゃ…

 

「とう!」

 

「はっ!」

 

「せいやー!」

 

「…って!?お前らそれただ素振りしてるだけじゃねぇか!」

「いや、だって俺らのとこまで来ないし?」

「翔様のお手を煩わせずに済むし、俺も楽で助かる。その調子で働け」

「俺の眷属器もいい加減持たねえよ!」

 

…見なかったことにしよう。

 

 

そしてどんどんと奥へ進むと、さすがに皆の援護も届かなず、自力でなんとか奥まで辿り着く。

 

『ーーふむ、私の元に辿り着いのが眷属でもないただの小娘とはな…』

「…私だってそんなつもりではありませんでしたよ」

『…まあ良い。私を止めに来たのだろう?見たところ私と同じ双剣使いか。楽しませてくれるのだろうな?』

「別に私に意味はありませんが…仕事ですので、そうさせていただきます!」

 

互いの剣がぶつかり合う。

 

 

『ーーそろそろ諦めてはどうだ?』

 

強い。

 

なんて強さなの?

 

能力を使わずにこの強さ。

 

それに私と戦いながらも後方の殿下達への追撃も止めてない。

 

通りで、いっこうに殿下達が合流できないはず。

 

なんて人なの…!?

 

底が計り知れない。

 

『お前じゃ私には勝てんよ』

「…その様ですね…」

 

ここで諦めたら殿下は叱るだろうか…?

 

二度と期待してくれないだろうか…?

 

いや、殿下の事だ、恐らくどちらもないだろう。

 

 

「お姉ちゃん、最近よく笑うようになったね!お姉ちゃん笑顔見るのなんて何年ぶりかな!私すごく嬉しいよ!」

 

以前、買い物行く前に鈴音に言われた言葉。

 

最初言われたときは、私が?むしろそれはあなたの事でしょ?、と思ったけれど…

 

…そっか…

 

私もいつの間にかこの環境がたまらなく大切になっていたんだ。

 

仲間と過ごす日々が…仲間の暖かさが…

 

闇に生きてきた私を変えてくれたんだ。

 

なにより、あの人がそんな私達を、私を救ってくれた…。

 

 

だから!

 

「我が主の期待に応えたいので引くわけにはいきません!」

 

剣で体を支えながら獅子王様を睨み付ける。

 

『…そうか、ならば…』

 

剣をこちらに向ける獅子王様。

 

『…合格だ!』

「…え?」

 

その瞬間、私の剣が輝き、獅子王様と同じ双剣になった。

 

これは…!?

 

「…眷属器…!?」

『やつはわかっていたのだろうな。お前の心の揺らぎを…。だから今回お前をここは寄越したのだろう。…結果、眷属が1人増えたが…どこまでが計算の内か…』

 

そう言って笑う獅子王様。

 

『やつは間違いなく王の器だ…それも先天的にな。さすが賢王殿が選んだだけはある…。お前はそんなやつの期待に応えた。もともと私の元に辿り着ければ合格だったのだ…。その眷属器はおまけだ…お前なら上手く使いこなせるだろう…』

 

そう言って消えていく獅子王様を見ながら、静かに頭を下げて見送った。

 

 

「ーーシヴァ!無事か!?」

 

それからすぐに殿下達が合流した。

 

「ありがとう!よくやってくれたよ!お疲れ様!」

 

そう、心から喜んでくれる殿下。

 

そうだ、言わなくては…

 

「殿下、先日の答えですが…」

「…迷いは消えたみたいだね!」

 

私の言葉に察してくれた殿下は笑顔でそう言った。

 

本当に、どこまでも見透かす人だ。

 

それもあって、余計に人の為に動いてしまうのだろう…。

 

だからこそ、私は…

 

「はい。私も、大切なものを見つけました。…これからは貴方様のご意志と夢の為、お供させていただきます!」

 

そう言って臣下の礼をとる。

 

「そうか!これからもよらしく頼むよシヴァ!」

「仰せのままに(マスター)!!」

 

この方と、みんなと歩んでいきたいーー

 



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第56話【覇王の眷属】

「ーー俺に力を貸して欲しい!」

 

そう言って頭を下げる王子。

 

はじめてあった時から変わった人だった…。

 

 

以前みんなに彼の事をどう思ってるのか聞いたことがある。

 

「翔様ですか?そうですね、普段は子供っぽいのにいざという時はカッコ良くて、けど無茶ばっかりして…ずっと支えていけたらなと思ってます!」

 

「あいつは俺の道標なんだ…だからあいつが道を間違えれば俺はあいつを殴ってでも正すつもりだ…あ、あいつに言うなよ?ネタにされるから」

 

憧れーー

 

「翔様のおかげで今の俺がある。あの方に出会ってなかったら今も、と思うと恥ずかしいばかりさ」

 

「翔くんはこんな私達にも生き方を与えてくれてたんだよ!」

「マスターは私達を信じてくれている。だから、せめてその期待には応えたいと思ってます」

 

感謝ーー

 

「主は自分の弱さを理解している。自分の弱さを知る者はいても認め受け入れる事の出来る人間は少ない。だから主が1人では無理なら私が、私達周りの者が力をかせばいい。今までもそうして乗り越えてきた。…お主も、あの日の主の行動に引かれたのではないか…?」

 

保護ーー

 

 

俺は…

 

 

あの日、

 

「…力を貸す?」

「ああ!俺は少しでも守る力が欲しい。王子直属で国を守る仕事なら、その子達にも胸を張って言えるだろ?それとも、あんたの意思はその程度だったのか?」

「…俺は…」

「胸を張れる仕事で、施設に寄付するお金を稼ぐ!貴方の理念にかなっていると思うんだけど」

 

そう言って笑う王子。

 

しかしそれでは…

 

「利用とか思ってるなら、それは勘違いだよ。…俺達は仲間になるんだ、仲間の為に力を貸すのは当然だろ?」

「平気でこんな事を言えるのが翔様ですので」

「…曽和さん、それ褒めてる…?」

 

王子と看病してくれていた少女の会話を見ていると、本当に裏がないんだと思う。

 

少し警戒していた自分がアホらしくも感じる。

 

「…礼がまだでした。手当てと看病ありがとうございます。微力ながらこれより先、王子にお力添え出来たらと思います」

「本当に!?ありがとう!」

 

そう言って王子は心から喜んでくれているのだろう。

 

本当に変わった人だ…。

 

 

だからこそ、信じてみようと思えたーー

 

ーーーーーーー

 

俺もようやく17歳になり。

 

旅に出てから約6年。

 

歴代王の墓も残すとこ2つとなり、この旅も終盤だ。

 

 

そして、俺達は覇王の墓へと来ていたのだが…

 

『良く来たな。歓迎しよう。入りなさい』

 

覇王に建物内に案内され、奥へと進んでいく。

 

ん?

 

あれ?

 

言われるがままに入っちゃったけど、すんなりすぎじゃない!?

 

てか中、広っ!?

 

外観こんな大きくなかったろ!

 

『広いだろう?私の能力があれば多きさなんて合って無いようなものだ』

 

なるほど!

 

確か覇王の能力はーーん?

 

『…歓迎したいところだが、どうやら君達の他にも客人が来たようだ…』

「…そのようで…」

 

唯一気づいた覇王と俺の言葉に全員が身構え来た道を睨む。

 

 

「…おや?」

「ーーお前は!?」

 

現れたのは夜叉王の墓で会った片眼鏡の男!

 

「これはこれは…またお会いしましたねぇ。以前はどうも」

 

そう言ってお辞儀をする男。

 

「お前は何者だ?お前達の目的はなんなんだ!?」

「質問は1つずつでお願いしたいのですが…まあいいでしょう。私は八部衆が一人、摩睺羅伽(マコラガ)と申します。以後お見知りおきを。…目的ですか?我らが主の祈願の達成。その為に今回、覇王殿の武器の破壊を成しにきました」

 

八部衆やこいつの言う主について詳しく知りたいところだけど、とりあえず武器の回収が最優先だ。

 

今後こいつらは確実に驚異になる。

 

その為にも今は力が必要だ。

 

「…黙って引き返してはくれなさそうだな?」

「黙って武器の破壊をさせては頂けないのでしょ?」

 

マコラガと名乗った男がそう言って笑うと同時に全員がそれぞれ武器を構える。

 

『わかっていると思うがーー』

「ああ!けどせめて満姫の身の安全の確保だけでも頼む!」

『…承ろう。非戦闘員はこちらへ…そこの大柄の君もだ、普通の戦闘ならともかく今回は眷属でない君じゃ足手まといになる…』

「は、はいです!」

「…俺は…ちょ…!?」

 

そう言って覇王は満姫と無理矢理タンの腕をつかんで離れて奥の部屋へ2人を入れ、部屋の前に立ちこちらを見る。

 

『この部屋は私以外には外から開けられない。音も攻撃も全てを遮断する。気にせず戦いなさい』

「ーー!?助かる!相手も眷属器使いだ、油断するな」

「「「はっ!」」」

「ーー!?イフ!?」

 

同時にイフが雷の矢を射ち込む。

 

直撃。

 

「…あいつの眷属器は相手を眠らせるだけの能力だろ?それなら使う前に仕留めればいい」

 

…夜叉王の墓で体験したマコラガの眷属器。

 

確かにそうかもしれないが…なんだこの嫌な予感は!?

 

ーー!?

 

「思い込みとは怖いものですねぇ。だから貴方は死ぬ」

「ーーイフ!」

 

突如イフの背後にマコラガが現れた事に気づき、慌ててイフを突き飛ばす。

 

ーーーーーーー

 

「ーーイフ!」

 

翔がイフを突き飛ばした刹那、マコラガの足元から4本の黒い影が伸び、

 

翔の左脇腹、右肩、右腕、左太ももを貫通する。

 

「ぐ!?がはぁ!」

「んな!?」

「おや?」

 

太ももを貫通した影はイフの足をも貫通していた。

 

「翔くん!」

 

リヴァは慌てて自身の眷属を飛ばし、翔とイフを回収し、マコラガから離れた場所へワープする。

 

「翔様!」

「マスター!」

「主!」

 

次々と他の3人もワープしてくる。

 

翔を確認すると、貫通した傷口から血が溢れ出していた。

 

「…!?まずい!バハくん!」

「わかっている!!」

 

リヴァの言葉にバハは自身の剣を翔にかざし、シヴァとラムはそれぞれ武器を構え、マコラガを睨む。

 

ーー眷属器・賢王の剣!

 

翔の体が光だし、少しずつだが傷が塞がっていく。

 

「ーーお前、完成させて…!?」

「当たり前だ」

 

ーーーーーーー

 

「ーーえ?眷属器?」

「…はい。ラムやあのイフですら扱えるというのに…」

「あのってなんだよ!」

「なるほどね…けど仕方ないと思うよ?その剣俺がバハにあげたわけだしまだ身に付けてる期間が足りてないのかも」

「…しかし…」

 

「それかお前だけまだ心のどこかで翔を認めてないかだよな」

「ーーなっ!?」

「イフさん追い込まないであげてください!」

 

「いや、主がバハを認めていない、という見方もできるぞ」

「ちょ、ラムさんまで!?…バハさん!なにして…!?それ、包丁ですよ?…あ、ちょ!切腹はやめてぇぇ!?」

 

ーーーーーーー

 

「ーー翔様。こんな所のおられたのですか?」

「ん?あぁバハか。ちょっとね…」

 

「まさか5人も仲間が増えるとはなぁ…俺いまの皆が好きだわ」

「ええ、毎日が騒々しくなりましたね。…特にイフが喧しいですね。消しますか…」

「はは、喧嘩もほどほどにね。…そうだ、バハ。王都に帰ったらバハがこのメンツのリーダーね」

「…え?」

「いや、ほら。俺は学校とかもあるし、いずれは全てを指揮する地位まで上るつもりだからさ…。そうなった場合、このメンツを任せるならバハかなって…」

 

「わ、私などが、ですか!?それなら私よりもよっぽど強く、知識もあるラムの方が適任では?」

「まあ、確かに一番はラムさんだね。…けどラムさんにはリーダーではなく、一歩下がって誰かの力になる方が向いている…。これは俺とラムで考えて出した意見なんだ。あ、別に嫌ならいいよ?」

「い、いえ!勿体ないお言葉です!我が剣は貴方様と共に…!」

「ありがとう!頼りにしてるよ!このメンバーはまず間違いなく俺の直属になると思う。だから、俺の右腕として、これからも俺と国を支えてくれ!」

「はっ!」 

    

 

「ーー俺は翔様の右腕だからな…。今はその話は後だ…お前も来い。治してやる」

「…すまねえ、俺のせいで…」

「反省は後だ!お前に傷があっては翔様がお前を救った意味がない!黙って回復しろ!」

 

ーーーーーーー

 

『君、来なさい』

「…え?」

 

覇王様に言われて部屋から出ると。

 

「…王子!?」

 

遠くに血を流した王子がリヴァに支えられ横たわっていた。

 

「…助けないと…!」

『君がか?君になにができる?…見たところ戦う意思を感じないが?意思がないなら黙って見ていなさい。ここで死ぬようなら、彼もまた、それまでだったと言うことだ…』

「!?」

 

覇王様の言葉は悔しいことに当たっていた。

 

…俺には戦う意思がない。

 

これが本当に子供達の為になるのか…?

 

またこんな大量に血を流すような戦場に出て、本当に俺は子供達に胸を張れるのか…?

 

わからない。

 

けど…俺は…!

 

「…守りたいものを守れるなら、自分のプライドなんて捨ててやる…!」

 

そう、自分の武器の大斧を構えると、

 

『…そうか』

 

覇王様はニヤリと笑った。

 

ーーーーーーー

 

 

「おやおや…そこの彼を狙ったはずなのですが、まさか器自ら壊れに来るとは…」

 

そう言って笑うマコラガ。

 

「ーーこいつ!」

「シヴァ、挑発に乗るな!」

 

シヴァとラムが対峙している。

 

「まあ、器が壊れるなら越したことはありません。念には念です。ここで消えてもらいまーー!?」

 

マコラガがそう腕を振り上げた瞬間、

 

巨大な剣がマコラガを強襲した。

 

「これは!?」

 

剣を握る者を見ると…

 

「…させない!」

 

巨大な剣を収縮し元の大剣へ戻し、タンが睨んでいた。

 

「…まったく、何度も何度も、不意打ちは勘弁して頂きたい…」

 

しかし、マコラガは自身の影に潜り、イフの矢に続き、それすらもかわしていた。

 

「触れたものの自在に拡大縮小出来る覇王の能力、巨人殺シ(アタックオンタイタン)ですか…私が行くと眷属が増えるジンクスでもあるのですかねぇまったく…」

 

そう言ってもう一度影に潜り、壁から翔に迫ろうとするマコラガだが、

 

「…逃がさない!」

「んな!?ぐっ!」

 

もう一度大剣を巨大化させたタンに壁ごと切られ吹き飛ばされた。

 

吹き飛ばされ、壁に叩きつけられたマコラガにさらに、追撃で斬撃と残像を飛ばす、シヴァとラム。

 

「…く!これは骨を数本やられましたか…困りますね、うちには回復役がいないのですよ?」

 

しかし、すでにそこにはマコラガはおらず、入り口の前で苦しそうに笑っていた。

 

「ここは一旦引きます。王の器…運の良い方だ…」

 

そう言って逃げようとするマコラガ。

 

「…逃が…すか…!」

 

だが、意識を取り戻した翔が修羅王の鎖で拘束する。

 

「残念、はずれです」

 

しかし、影で出来た偽物で結局マコラガに逃げられてしまった。

 

ーーーーーーー

 

しばらくして傷も塞がり、覇王の大剣も継承された。

 

「…翔、悪い…。俺が油断していたばかりに…」

「気にするなよイフ。俺が好きでやったわけだし!それに皆無事なんだからさ!」

「…」

 

俺の言葉にまだ納得のいかない様子のイフだったがラムの方を向き。

 

「…おっさん…明日から稽古頼む…」

「ん?…よかろう。しかし私は厳しいぞ?」

「…ああ」

「あ、イフさん!まだ包帯巻いてる途中ですよ!リヴァさん!翔様の手当てお願いします!」

 

イフはそう返事だけをして覇王の建物から先に出て行き、曽和さんもその後を追うように出ていった。

 

「咄嗟とは言え、今回はバハくんがいなかったら本当に危なかったよ!」

「わかってる。みんな心配かけてごめん」

 

リヴァに包帯を巻いてもらいがら起こられる。

 

傷が塞がったとは言え、まだ安静は絶対だから固定してもらう。

 

「あの瞬間を満姫ちゃんに見られなかっただけましだったへ」

「ああ。さすがに気絶だけじゃ済まなさそうだ…」

 

合流した曽和さんが俺の服についた大量の血を見て気絶した事を思い出す。

 

いくらこちらが殺さすの精神でいこうが、向こうは本気だ。

 

いずれは俺達も本気で殺り合わなくてはならない時が来るかもしれない。

 

曽和さんにそんな血なまぐさい環境を見せたくはない。

 

「はい!おっけー!…お姉ちゃん!」

「ええ、私達も明日からさらに稽古に励みましょう」

「タン、お前の眷属器との戦闘をしてみたい。明日から頼む」

「…あぁ。俺も早く馴れておきたい…」

 

そう言って先を歩き出す4人を見ながら、

 

「大切なものを失う恐怖を知っている者ほど強い。これから彼らはもっと強くなりますぞ」

「ああ、頼もしい限りだよ」

 

ラムに肩を借りながら追いかける。

 

傷が癒えても、出た血は戻らないから貧血だわ、まったく…。

 

「主よ良い仲間を得ましたな!」

「ああ、そうだな!」

 

しかし、マコラガ…眷属器だけでなく特殊能力まで持っていた…。

 

王族ってことか?

 

八部衆ってことはそういう奴があと7人いるってことか?

 

俺ももっと力をつけなくちゃいけないなーー

 

 




覇王の能力のモデルは

名前は進撃の巨人から

能力はマギの練紅覇の如意練刀です


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第57話【事件】

ある日、事件は起きたーー

 

「ーーだからお前は帰れって!」

「嫌です!帰りません!」

 

「この旅がどんだけ危ないかお前もわかってんだろ!」

「わかってます!それでも…」

 

「弱い奴がいても足手まといなんだよ!」

「それでも!私は最後まで翔様と、皆さんと旅を続けたいんです!」

 

「「ーーふん!」」

 

そう言ってイフと曽和さんは部屋から出ていった。

 

「…2人が喧嘩なんてめずらしいな…」

「そうですか?何気によく言い合ってる仲だと思いますけど?」

「…バハ…それ、あなたが言う?」

 

「あの2人は互いに認め合ってる仲だと思うんだけどなぁ。互いに互いの欠点を補える良い仲だと思ってたんだけど…」 

「まぁ、主がそう言うならそうなのかもしれませんな」

「…喧嘩は良くない」

 

「弱い奴は足手まとい、だってさ」

「あぁ。本当、自分に厳しい奴だよイフは…」

 

ーーーーーーーー

 

「ちぃ!」

 

壁を殴り舌打ちをする。

 

覇王の墓での事を思い出す。

 

あの日、俺は何も出来なかった…。

 

むしろ、それどころか翔に助けられ危険な目に合わせてしまった。

 

バハの眷属器の能力のおかげで助かったものの、俺が原因なのは間違いない。

 

あいつが俺を誘った最初の日、あいつは俺を救ってくれた。

 

1人あがいていた俺に手を差し伸べてくれた。

 

翔にはいつも借りを作ってばっかりで、俺はあいつに何もしてやれてねえ…。

 

このままじゃダメだ!

 

俺はもっと強くならなきゃダメなんだよ!

 

弱い奴は翔も、メイドも、仲間も守れやしねえーー

 

ーーーーーーー

 

ーー弱い奴がいても足手まといなんだよ!

 

そんなことイフさんに言われなくても…。

 

わかってます。

 

確かに戦いの事はよくわかりませんけど、私だって皆さんと一緒にここまでやって来たんです!

 

そもそも、残すは最後の以前門残払いされた伏竜王様お1人だけじゃないですか!

 

それに唯一メンバーの中で翔様の無茶を止めれるのは私とラムさんだけなんですから!

 

けど、こないだの戦闘みたいな事があったら取り乱してしまいます。

 

あれ?そしたらラムさんいるし私本当にいらない子なんじゃ!?

 

そ、そんなことありません!

 

絶対!

 

私にも存在意義があるはず!

 

そ、そう!お料理が出来ます!

 

ほら私だってちゃんと役に立ててます!

 

「大丈夫だもん!」

 

そんなことを考えて歩いていると気づいたら人通りの少ない道を歩いていました。

 

ここどこだろう?

 

とりあえず来た道を引き返ーー!?

 

「やぁ、こんにちは。お嬢さんーー」

 

ーーーーーーー

 

「…曽和さんもイフも遅くない?せっかく今日は俺が夕飯当番だから2人の好きなもの作ったのに…」

 

夕飯の時間になっても2人は帰ってこない。

 

何してんだよあいつら!

 

料理が冷めてしまうだろ!

 

「…わりぃ、遅れた…」

 

と、思ったらイフが帰ってきた。

 

「あれ?イフくん、満姫ちゃんは?一緒じゃなかったの?」

「あ?一緒なわけねぇだろ…まだ帰ってねぇの?」

「珍しいですな…満姫殿が時間に遅れるなんて…」

「携帯も繋がんないんだけど」

 

曽和さんの携帯に電話しても繋がらない。

 

大丈夫かな?

 

なにか面倒事とかに巻き込まれたりしてなければいいんだけど…。

 

しばらくすると、昼間俺達を見た人から連れの少女が男達に連れられて車に乗せられていたとの情報が入った。

 

確実に曽和さんだ。

 

「ちぃ!なにしてんだよあいつは!」

「あ、おい!イフ!」

 

舌打ちをして部屋を出ていくイフ。

 

イフらしくない。

 

こんな時こそ冷静なのがイフなのに…。

 

なに焦ってんだあいつ!

 

「リヴァ!」

「ここに!」

「イフを追え!手綱を頼む!」

「仰せのままにーー」

 

そう言って瞬く間に姿を消すリヴァ。

 

リヴァは暗姫と言う名だけあり、こういった間者仕事に長けている。

 

あの動き、まるで忍者だな。

 

リヴァもイフと同じく公私の差が激しい。

 

 

「主…」

「ああ、俺達も動くぞ。ラムは城に連絡入れておいてくれ」

「「「はっ!」」」

「かしこまりました」

 

こうして俺達も部屋を後にしたーー

 

ーーーーーーー

 

「…なんで私が…?」

 

ドレスに着替えたシヴァが恨めしそうにこちらを睨む。

 

「仕方ないだろ?男女一組でリヴァにはイフについてもらってるし、何仕出かすかわかんないんだから…それに似合ってるしいいじゃん!」

「はぁ…そういう問題ではありません…」

 

 

あの後、情報を掴んだリヴァから連絡があったーー

 

 

ーーどうやら曽和さんは人拐いに誘拐されたらしい。

 

たちが悪い事に明日の晩に人身売買の会場に並ばされるらしい。

 

運良くリヴァはその招待券を手に入れてくれたらしく、俺達の参加も決まった。

 

人身売買か…。

 

王都にいた頃に、貴族間でそんな不穏な噂を聞いたことがあったが…

 

まだそんな文化が根付いていたとは…。

 

ちょうど良い、運営も関係する貴族も一気に抑えるチャンスだ。

 

「イフ、まだ何もするな!何が用意されているかわからない!1人で乗り込むのは危険だ!」

『あ?そんな悠長な事言ってられっかよ!こうしてる間もメイドはーー「わかってる!」!?』

 

「キレてるのがお前だけだと思うなってことだ。みんな同じ気持ちだ。大切なもの取られて黙ってるような奴は俺の仲間にいねえ!…けど今回は相手が違う。ただのチンピラだけならいいが、相手は貴族だ。下手すりゃまた能力持ちが出てきてもおかしくねぇんだよ」

 

『な!?王族までいるってのかよ!?』

「そうとは限らない!けどもしもの為だ、必ずチャンスは来る!それまで待機!わかったな?」

『…ああ。わかった…』

 

そして電話が切れた。

 

「…よし!ってことでシヴァ、ドレスコードだ!」

「…へ?」

 

そして現在に至るーー

 

 

「ーーそんな怖い顔すんなよ!せっかく綺麗なのに!」

「…もういいです。はやく行きましょう…」

 

そう言って仮面をつけるシヴァ。

 

相手の素性を詮索しない為に、仮面の着用が必須らしい。

 

あるあるだな。

 

「ああ…乗り込むぞ!」

 

そして俺も仮面をつけ、シヴァと腕を組み会場へ向けて歩き出す。

 

ーーーーーーー

 

1人暗く狭い檻の中…。

 

ここはどこだろう…。

 

そう思いながら左耳を触る。

 

聞いたことがある…。

 

人を人とも思わず、家畜同然に扱い、家畜と同じように耳に番号の札をつけて市場に出す。

 

人身売買の会の話を。

 

恐らく私の耳についているのもそれだ…。

 

…翔様…皆さん…。

 

こんなことならイフさんと喧嘩しなければ良かったな…。

 

そもそもイフさんに言われた通り帰るべきだったのかも。

 

今頃みんなどうしているだろうか。

 

心配して探してくれてるとは思う。

 

あの翔様に翔様が認めた人達だから!

 

だから私はまだ諦めないーーと、

 

「目が覚めたか?はは、その番号札、良く似合ってるぜ?」

 

そう言って1人の男が近寄ってくる。

 

「一国の王子付きのメイドなんてレアなもん、まわりはいくら払ってくれるもんかねえ!」

 

そう言って高らかに笑う男。

 

この人、知ってて私を…!?

 

「私の主は翔様だけです!私は絶対に誰にも従いません!最後まで諦めず抗って見せます!」

「へ!…そうかい、好きにしな」

「貴方は自分のおかれている状況を理解した方が良い…」

「…あ?」

「貴方はこの国で最も怒らせるべきではないお方の従者に手を出したのです!きっと翔様が黙ってるわけありませーー「商品の分際で楯突いてんじゃねえよ!」!?」

 

私の胸ぐらを掴み怒鳴る男。

 

「お前がレア物じゃなけりゃボコボコにしてるとこだぞ?俺だって大切な商品に傷をつけたくねぇんだよ!お前こそ自分の立場をわきまえな!」

「きゃ!」

 

そのまま突き飛ばされ尻餅をつく。

 

「そもそもお前の大切な翔様もこの場所には来れねえよ!いままで国の者にもバレてきてねえんだからなあ!…さ、出番だぜ。たっぷり稼がせてくれよ?」

 

そう笑い、部下の人達に私の檻を運ばせる。

 

翔様ーー

 

ーーーーーーー

 

『さあ皆さん!お待たせいたしました!本日の目玉!この娘!なんと王子付きのメイドなのです!』

 

「きた!」

 

自分の番号札を持つ手に力が入る。

 

これをあげて支払う金額を宣言するわけだ。

 

「マスター、今回予算はいくらなのですか?」

「そんなもん限界なんてないよ。曽和さんは何としても取り返す。そしてここにいる奴らもまとめて捕まえるつもりさ」

 

『日常的な家事全般から夜の奉仕まで何をさせるのもお客様の自由です!』

 

「よし、あいつは殺そう」

「落ち着いてください」

 

『そうですね、8000万円からのスタートとしましょうか!』

 

8000万だあ?

 

人の命をなんだと思ってる。

 

よし、あいつだけはとことん痛め付けよう。

 

「…マスター、本当に落ち着いてください。札折れてます」

 

そうこうしている内に早くも3億にまで値が上がっていた。

 

3億で変動が鈍ってきてる、なら…

 

「こんなのとっとと終わらすぞ!10おーー「100億」!?」

「「んな!?」」

 

思わずシヴァと声をあげる。

 

100億だと!?

 

そんな大金!

 

いや、今はそんなことはどうでも良い!

 

けっきょく支払い時に全て壊す算段だしいくらでもーー

 

『こ、これはオーナー!?いらしていたので!?』

 

オーナーだと!?

 

ってことはあの爺さんがこれの全てを仕切ってるってことか!?

 

するとーナーと言われた爺さんが何か合図をし、

 

『お、オーナーの100億円でしめさせていただきます!』

 

強制的に終わらされた。

 

「な!?待て!ーー!?」

 

「全員動くな!この建物は包囲されている!」

 

同時に国の軍隊が大量に雪崩れ込んでくる。

 

しまった!

 

曽和さんのがしめられた瞬間に部隊が突入してくる計画になっていた!

 

 

会場全体がパニックになる。

 

ステージの裏に司会の男と理事長が曽和さんを連れて逃げ込むのが見える。

 

「待て!?シヴァ追うぞ!ーー「はい!」…ちぃ!邪魔だ!」

 

追いかけようにも逃げ惑う人混みに流され上手く進めない。

 

「リヴァ!目標が逃げた!後を追え!」

 

耳につけた無線でリヴァと通信をとる。

 

『申し訳ありません!こちらも交戦中です!』

「なに!?」

『追おうとした所を強襲されました。数は2人!共に能力者です!』

「なんだって…!?」

『主の予感が的中したようです…私とイフで取り押さえますが少し時間がかかりそうです!』

「…わかった!そっちは頼む!」

『ご武運を…我々もすぐに追います!』

 

嫌な予感ほど良く当たる。

 

「ちぃ!…ラムとタンはそのまま会場制圧の手伝いを!バハは俺達に合流しろ!目標は屋上だ!」

『『『了解!』』』

「なぜわかるのですか?」

「僅かだがヘリの音がする、恐らく空から逃げる気だ」

「…本当、どんな五感してるんですかマスター…」

「その話は後、俺達も無理矢理突っ切るぞ!人混みの上だ!」

「はい!」

 

そう言って能力でシヴァの双剣を呼び寄せシヴァに渡す。

 

眷属になった事で俺は眷属の皆の武器も呼び寄せワープ出来るようになったのだ。

 

そして、シヴァは俺の両手を踏み台にし、上空へ飛び、双剣をステージの壁に投げる。

 

その壁に刺さった剣にそれぞれワープをし、後を追う。

 

ーーーーーーー

 

「ここまでご苦労、だがもう良い。ここまでの様じゃな」

 

満姫をヘリに乗せ、司会の男にそう言うオーナーの老人。

 

「な!?俺も連れてってくださいよ!」

「悪いの、店員オーバーじゃ」

「ーー!?じじい!裏切るのか!?」

「裏切るも何もお主は最初から駒にすぎん。…まあせめてもの情けじゃ、チャンスは与えよう」

「な!?ぐ、ぐわぁぁあ!!!」

 

オーナーが男に触れた途端、男が苦しみ悲鳴をあげる。

 

それを横目にヘリが飛ぶ。

 

「な、何をしたんですか!?」

「なぁに、儂の能力で生き延びるチャンスを与えてやっただけじゃよーー」

 

ーーーーーーー

 

「ーーちぃ!」

 

なんとか屋上に来たが、ヘリは既に飛び立っていった。

 

「あのヘリの向かった先を調べろ!」

「はい!」

 

そう言って連絡を取ろうとするシヴァを、

 

「シヴァ!」

「ーー!?」

 

電撃が襲いかかるが、ギリギリでシヴァ突き飛ばす。

 

「ーーあいつは!?」

 

司会の男だ。

 

能力者だったのか!?

 

「な、なんだよこれ!」

 

 

おかしい…!

 

無差別に放電している。

 

あの男、見るからにコントロール出来ていない。

 

まるで能力が発覚したばかりのような…。

 

…まさか…!?

 

 

その時、男の放つ電撃がこちらに向かって飛んでくる。

 

しかし、電撃は俺達の目の前で軌道を変え、

 

「…安い電気だな」

 

イフの右腕の雷に吸収された。

 

「イフ!」

「ひぃ!く、来るな !」

 

男の放つ電撃の勢いが強くなる。

 

しかし、その全てを吸収しながら男に近づくイフ。

 

「そうか!能力でも上下関係があるのか!」

 

そして、やがて眷属器すら戻し、

 

「俺の雷撃にーー電撃が効くわけねぇだろ!」

 

拳銃を投げ、ワープと同時に男の顔面を殴り付ける。

 

そしてすぐにもう一度ワープし直し、吹き飛ばされた男の上に股がり男の顔のギリギリをかすめるように発砲し、

 

「お前がメイドを拐った張本人か!…言え!あのヘリはどこへ向かった!」

 

銃口を男の眉間に押し当てる。

 

「あ!やっと追い付いた!さすがの私でも雷にワープするイフくんの速さには追い付けないよぅ!」

 

そこにリヴァもやってくる。

 

イフは眷属器を使用時のみ雷の落ちた場所にワープが出来る。

 

その為長距離の移動が可能だ。

 

 

「リヴァ!そっちは済んだのか!?」

「あ、翔くんにお姉ちゃん!ううん、それが急に相手が退いていって逃げられちゃって…」

「そうか…まぁ2人共無事でよかった!」

「…それにしても…」

「ん?」

「翔くん大胆♪」

 

そうリヴァの指差す先には、

 

顔を赤くして顔をそらすシヴァが俺の下敷きになっていた。

 

「あ!わ、悪い!」

「いえ!」

 

 

「遅れて申し訳ありません翔様!ご無事ですか!?」

 

その後、バハが合流した時には、

 

シヴァに延々と謝り続ける主と、顔を赤くしたシヴァ、それを見て爆笑しているリヴァと、男をボコボコにしているイフがいたーー

 

 

 



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第58話【王の剣】

大変申し訳ないです!
全部投稿されていなかったですね、

さっき気づきました…

本当にすきません!


「ーーここか…」

 

あの後、俺達はすぐに司会の男から情報を聞き出した建物へと来ていた。

 

そしてなぜか、イフに負けた瞬間、男の能力は消えた。

 

「な!?イフこれって!」

「…あぁ。まさか繋がってたとわな」

 

その建物は昔イフの家の近くに建っていた工場と全く同じ形をしていた。

 

「…とりあえず中に何があるかわからない!みんな油断だけはするなよ!」

「「「はっ!」」」

 

 

「ーーちぃ!どいつもこいつも…どうなってやがる」

 

建物に乗り込んだ俺達を迎える黒服の集団を次々に制圧して奥へと進む。

 

驚くことにその全員がそれぞれに特殊能力を持っているのだ。

 

しかし、全員があの司会の男同様、扱いきれていないといった感じで話にはならないのだが。

 

これは眷属器じゃない…間違いなく王族の特殊だ。

 

でもなんでこんなに大勢の人間が?

 

 

「ーーわけがわからないと言った顔じゃのぉ」

「「「ーー!?」」」

 

そして、広間に出た所で、オーナーの爺さんが姿を表した。

 

全員が臨戦態勢で爺さんを睨む。

 

「…満姫は無事か?」

「あのメイドの娘の事か?それなら安心せい!奥の部屋で寝てもらっておる」

「なにもしてないんだろうな!」

「まだ、な…」

 

ちぃ!

 

この爺さんめ!

 

完全に人をバカにしてやがる。

 

けど、とりあえずの安否は確認できた。

 

よかった…。

 

 

と、爺さんはイフの方を向き、

 

「…しかし、あの山は気に入っていたんだがのぉ…お主らのおかげで儂の研究が台無しじゃわい」

「!?やっぱりあんたがあの工場を建てた張本人か!」

「いかにもーー」

 

爺さんの言葉に瞬時に雷の矢を射ち込むイフだが、

 

「おっと!…せっかちな男じゃのぉ」

 

しかし、それを急に現れた2人の男な1人に弾かれてしまった。

 

「あいつらは!?」

「会場で出くわした連中か?」

「はい…次は逃がしません!」

 

「主、あのじじいの相手、俺にやらせて欲しい…」

「…ダメだ」

「!?」

「因縁を晴らすつもりだろ?ここは主として見届けてやりたいところだが…」

「ーーだったら!」

「けど…あの爺さんからは嫌な予感がする。それに俺も会場で逃げられた借りがある」

「…」

「だから、やるなら2人でだ…!あの最初の晩のように!」

「…ああ…そうだな!」

「他の皆はあの2人を頼む!やつらを倒して満姫を連れて帰るぞ!」

「「「了解!」」」

 

一斉に駆け出し、戦闘へ入るーー

 

 

「ーーちぃ!なんであたんねぇんだあのじじい」

「ほっほっほ!」

「落ち着けイフ、らしくないぞ。相手のペースにのせられるな」

 

こちらの攻撃を全てかわされ焦りを見せるイフ。

 

にしても…

 

「…じいさんの目的はいったいなんだ?」

「んー?目的とは…?」

「この施設、さっき研究って言ってたがただの学者ってわけでもないだろ?研究ってなんだ?その先になにがある!」

「ふむ…どうやらマコラガの言っていた通り、目はいいようじゃのぉ」

「「ーー!?」」

「じじい!あのメガネの仲間か!?」

「おっと、自己紹介がまだだったかの?儂は乾闥婆(ケンダツバ)、八部衆の1人じゃよ」

「「ーー!?」」 

 

思わず2人して距離をとる。

 

ケンダツバ、八部衆だと!?

 

ってことはこの爺さんも2つの能力を!?

 

「そんなに身構えずともよかろう…?能力の1つは既にお主らも見ておるだろうに」

 

そう言って笑うケンダツバ。

 

何を…?

 

まさか!?

 

「…あの2人の男も、司会の男も…!?」

「左様。本当に頭の回転が早い奴じゃのぉ」

「…翔、何言って…?」

「あの爺さんの能力、それはーー」

「他者に能力を与える能力、能力付与(オーダーメイド)じゃよ!」

「なんだと!?」

 

「特殊能力とは、本来王族しか持てぬ。能力はそれぞれに異なる。能力とは言わば個性の様なものじゃ!では後は王族と庶民の違いはなにか…」

「…血縁か」

 

「その通りじゃ!だから儂は自分の血を他者へ射ち込む事でその個性を最大限に活かす機会を与えることが出来る!…ま、時間制限があるのが難点じゃがのぉ…だからそのデメリットを無くす研究をしておる」

 

「ってことはまさかマコラガも!?」

「彼の者には時間制限がない、完全に能力を我が物とした、儂の研究の数少ない成功者じゃよ!頭の良いお主ならもうわかっておろう?」

「八部衆…!?8人の成功者!?」

「いやー本当に話が早くて助かるのぉ!」

「てことはまさか!?本当の目的は八部衆の拡大化…!?そんな事してお前達は何をするつもりだ!軍隊でも作る気か!?」

 

「我が主の祈願の達成…我々は主を王にする」

「「ーー!?」」

 

なんだと!?

 

王位を奪う気か!?

 

国家転覆でもするつもりか!?

 

にわかに信じがたいが、これはとうとう、本当に家族や国を守る為の力が必要になってきたな!

 

まぁ、とりあえずーー

 

「ーー話は後からゆっくり聞かせてもらおうか?」

「な!?お主!いつのまに後ろに!?」

 

爺さんに気づかれることなく背後をとる。

 

「…逆に聞くが、いつからそこに俺がいると思い込んでいた?」

「なにを…そ、それは!?まさか!」

「やっぱりこっちの能力は筒抜けか…そう、そのまさかだよ」

 

ーー鬼王の砲筒、五感支配!

 

「お主!最初からこの為に時間稼ぎを!?」

「さあ、なんのことかな?」

「貴様!謀ったな!」

 

慌てて俺から距離をとろうとするケンダツバ。

 

しかし、

 

「おい、良いのか?そっちはーー」

「ーーん?ぐがぁあ!?」

「雷注意報だぞ」

 

イフの雷の矢がケンダツバを射抜く。

 

そして、眷属器を解きながら静かに歩みより、

 

「…これは俺のじじいからだ」

「ぐっ!」

 

逃げられないように両足に1発ずつ弾丸を射ち込む。

 

「…とどめさすのかと思ってたわ」 

「まあ確かに恨みはあるし、殺してやりてぇがーー」

 

拳をこちらに突き出す。

 

「俺達の目的は制圧であって殺しにあらず。殺さず無力化…だろ?これはお前が言ったことだろ?確かに恨みはあるが、それ以上に主の意思に従う。それだけだ!」

「…イフ!?」

 

そして拳を突き合わせる。

 

「向こうもあのメンツだもう終わるだろ。メイドは俺に任せろ。…お前はこのじじいとまだ話したいことがあるんだろ?」

「…ああ、頼む」

 

イフに曽和さんを連れ戻すよう頼み、倒れているケンダツバに話しかける。

 

「…やってくれたのぉ小僧共」

「…あんたの能力はわかった。けど、あんたの能力はどこで得た?あんたは王族なのか?」

「…まあ良い。儂を追い詰めた褒美じゃ。話してやろう。…儂は今は滅びた王家の末裔よ…。まだ戦乱の時代、この国によっ滅ぼされたのぉ。結局、こうしてまた国に負け儂の代で終わりを迎えるーー」 

「何言ってーー!?」

 

瞬間、ケンダツバを感じた。

 

「何を!?」

「儂の眷属器の能力は爆発。…お主ならこの意味がわかるじゃろ?」

「まさか!?」

「儂自身を爆弾にした。少なくともこの建物は吹き飛ぶじゃろうなぁ。さて、後何分もつことか」

 

と、笑うケンダツバ。

 

俺達を道連れに自爆する気か!?

 

まずい!

 

「翔様!」

 

そこにみんながやって来る。

 

「急げ!この建物から出ろ!」

「え?」

 

「イフ!そっちは!?」

『ん?ああ、いま見つけたとこだ』

「なら今すぐ眷属器使って外へ出ろ!なるべく遠くに飛べ!この建物はじきに吹き飛ぶぞ!」

「「「!?」」」

『!?』

 

俺の言葉に一斉に出口へ向かう?

 

「爺さん!最後に1つ聞かせろ!」

「ふむ、なんじゃ?」

「…あんたらの言う主って奴も、王族なのか?」

「…少なくともお主と同じ王位継承権を持つ者とだけ言っておこう」

「!?おい、それってーー」

「主よ。限界じゃ!行きますぞ!」

 

ラムに連れられ最後まで聞けなかった。

 

そして、なんとか建物から出て、少し離れた瞬間、

 

「くぅ!?」

 

物凄い爆音と爆風と共に本当に建物が吹き飛んだ。

 

2人は!?

 

遠くの方に雷の軌跡が見える。

 

良かった、間に合ったようだな。

 

 

それにしも、ケンダツバの最後の台詞…

 

王位継承権を持っている?

 

いったいーー

 

ーーーーーーー

 

「おやおや。八部衆の一角が崩れますか…」

 

少し離れた別の場所から今回の騒動を見ていたマコラガはそう呟き影へと消えたーー

 

ーーーーーーー

 

「曽和さん!」

 

全てを終えて、イフと曽和さんに合流し、改めて曽和さんに駆け寄る。

 

が、

 

「あれ?」

 

いま完全に避けられたよな、俺。

 

「…曽和さん?」

「…ないでください…」

「ちょ!なんで逃げるんだよ!」

「だから来ないでください!」

「…曽和、満姫!」

 

俺の言葉にようやく立ち止まる曽和さん。

 

「…だって…私は…もう…!」

 

そう振り返る曽和さんは泣いていた。

 

「…普通の人にはなれないんですよ…!」

「「「!?」」」

 

そう言ってずっと隠していた左耳を見せる曽和さん。

 

「…奴隷の証です…家畜同然なんです…」

 

左耳には2つのピアスと番号札がついていた。

 

人拐いに売られる時につけられる物だ。

 

「だから、私は…もう翔様と、皆さんと旅は続けられないんです…」

「…満姫ちゃん…あ、」

 

その場に泣き崩れる曽和さんを見て歩み寄ろうとするリヴァを止めて、修羅王の刀剣を出して曽和さんに近づく。

 

「はぁ…あのなぁ満姫…」

 

そして、曽和さんの前にしゃがみピアスに触れる。

 

「…翔、様?…あ…!」

  

修羅王の能力でそのピアスは水のように流れ落ちる。

 

「そんなものは関係ない!!」

「!?」

「俺達はお前と一緒に旅を続けたい!そう思ってるからここまでやって来たんだ!だからそんな事言うな!」

「ーー!?…でも…」

 

あぁ、このままピアスの穴は消えても、心の傷が塞がるわけじゃない…。

 

だから!

 

外した曽和さんのピアスを針状に形成し直し、自分の左耳に2つ穴を開ける。

 

「しょ、翔様!?」

 

そして、それを見ていた皆も何も言わず俺から針を取り、次々と自身の耳に穴を開けていく。

 

「ほら!こうすりゃもうわかんないだろ!」

 

そう言って曽和さんの頭を撫でる。

 

「…あ…!?」

「むしろこのピアスの穴が俺達が仲間である証だ!だから胸を張れ!俺達と来い!」

「…しょ、翔様ぁぁぁあ!!」

 

そこで限界を迎え俺に泣きついてくる曽和さんをあやす。

 

「ほら!イフくん!何か言うことがあるんでしょ!」

 

しばらくして曽和さんが落ち着いたところで、

 

「お、押すな!わかってるよ!…き、昨日は言い過ぎた…その…すまん…。これからもよろしく頼む…“満姫”…」

「ーー!?はいイフさん!」

 

ふぅ、ちゃんと仲直りもできたみたいで、これで一件落着だな!

 

 

と、そこに何台ものヘリが降りてくる。

 

あれは…国の軍隊か!

 

「満姫!」

「え!?お、お母さん!?お、お母さぁぁぁあん!!」

 

合流したヘリの一機から、曽和さんのお母さん初姫さんが現れ、曽和さんを抱き締める。

 

それにつられ、母に泣きつく曽和さん。

 

「翔!無事か!?」

「と、父さんまで!?」

「今回は人拐い、人身売買と事が事なので陛下にもご同行願いました」

「ししょ…く、楠さんまで!?」

 

そして国王である父さんと師匠の楠さんも現れる。

 

瞬間、その場にラム、シヴァ、リヴァ、タンが膝まずき、それを見て父さんが国王だと気づき、慌ててバハとイフも膝まずく。

 

それから安否と今回の報告をした後に、

 

「此度の件、全て私の油断がもたらしたもの…。申し訳ありません陛下、初姫様」

 

そう言って父と初姫さんの前に膝まずく。

 

「い、いいえ!陛下!私が拐われたからなんです!翔様は何も悪くありません!」

 

慌てて、俺の横に膝まずいてそう言う曽和さん。

 

「…今回ーー」

 

口を開く国王にみなが下を向くが、

 

「誰にも責はない!お前達はかねてより国が抱えた問題の1つを解決したのだ!満姫よ、身をていしての“潜入捜査”ごくろうだった!みなもよく働いてくれた!国王として感謝する!」

「「「ーー!?」」」

 

国王の言葉に全員が顔をあげる。

 

国王と楠さん、初姫さんは笑顔だった。

 

「娘も無事助けていただいたことですし!私から何も言えることはありませんよ!」

「しかし…!」

 

「そうだな…それでも責任を感じると言うのなら…!国はお前達を正式に迎い入れる!本日より、翔率いるバハ、シヴァ、イフ、リヴァ、ラム、タン、そして満姫の計8名の部隊を王の剣(キングスグレイブ)と称し、その名に恥じぬよう国の為、王の為に剣となり尽力する事を命じる!」

「「「ーー!?」」」

 

国王の言葉に言葉を失う俺達にもう一度微笑みかけ、

 

「皆、頼んだよ!」

 

そう言う国王に、

 

「「「ーーはっ!」」」

 

臣下の礼をとり、そう答えたーー

 

 

「ーーしかし、翔様も、またよくこの者達を集めたものですね…」

 

あれから、国の軍隊に処理を任せ、離れたところで手当てを受ける俺達。

 

「私が側近に与えた神槍の吉良村を筆頭に、魔女の姉妹の剣姫に暗姫ーー」

「…昔の話です」

「私達の事知ってるんだ!」

 

「怪物と言われた傭兵、丹原ーー」

「…どうも」

 

「狂犬・羽原と悪童・一二三ですか…」

「その呼ばれ方はあまり好きではありません」

「だから、それは俺じゃねえっすよ!」

 

「2人の話は翔様やラムから聞いていますよ。戦闘の際のバハはまるで修羅の様だと…」

「…修羅」

「なにちょっと気に入ってんだよバハーー「イフは山猿、と…」よし、翔とおっさん!こっち来い!風穴開けてやる」

「冗談です。全てを射ぬく心眼と聞いていますよ!」

「な!て、照れるじゃねえか!」

「…キモいぞイフ」 

「あ?今日こそけりつけるか?」

「良いだろう」

「銃か!」

「剣か!」

「…そして良く喧嘩するほどに仲が良いとも」

「「よくないです!!」」

 

「さすが楠さん!もう皆の情報把握してるんだ!」

「一国の王子の側近となる者達ですよ?素性の知れる者には任せられません!」

「そっか!それで…どう?俺の部下、仲間は!」

「まだ荒さは見受けられますが…えぇ、とても良い仲間を得たかと!」

 

うん!楠さんにそこまで言われたら大丈夫だな!

 

「よくやったな!翔!父さん心配してたんだぞ!」

「父さん!」

 

肩を組んでくる父さん。

 

「でも、本当に良い子達みたいで助かったよ…改めて、国を、翔を頼んだよ!」

「「「はい!」」」

 

父さんの言葉にもう一度臣下の礼をとる皆ーー 

 

 

「ーーそれじゃあ父さん仕事そっちのけで来ちゃったしもうそろそろ帰るとする」

「おいおい、大丈夫かよ国王」

「お前も早く帰ってこいよ!皆心配してるから!」

「はいよ!あと1つだし今月中には帰るよ。…あ、そうだ。2人の耳に入れておきたいことがーー」

 

 

「ーー八部衆とそれを率いる主か…」

「下手をすれば国家転覆の恐れもあります、早急に対策本部を立ち上げましょう」

「ああ、頼むぞ楠」

「はい。かしこまりました」

「それじゃあやらなくちゃいけない仕事も増えたことだし!行くわ!またなーー」

 

父さんの見送りも終わり、

 

「あ!そうだ!曽和さんの帰還と王の剣の結成を祝して、皆で写真撮ろうぜ!」

 

こうして、

 

 

真ん中椅子に座る俺

 

俺の後ろに立ち互いに顔をそらすバハとイフ

 

その2人の肩を組み笑顔のラム

 

俺の左斜め前に座り曽和さんを肩車するタン

 

笑顔の曽和さん

 

俺の右隣に立ちシヴァと腕を組み笑顔でピースをするリヴァ

 

そんな妹を微笑ましそうに見つめるシヴァ

 

 

王の剣の写真が撮られたんだーー

 

 

ーーーーーーー

 

 

ーーとある建物の廊下を1人走る赤毛の少女。

 

釈迦(シャカ)さまぁ!」

 

勢い良く扉を開いた一室で2人の男が迎える。

 

「んあ?どうした?」

「こら(リュウ)、女性がはしたないですよ。入室時はノックをしなさい」

 

「あ!帝釈天(タイシャクテン)さま!ごめんなさぁい!それより、いまマコくんから連絡あったんだけど、ケンダツバのお爺ちゃんがやられたってさぁ!」

「あの陰険腐れじじい…とうとうくたばったのか?」

 

「最後は爆死だってさぁ!」

「あのお方の能力と研究は貴重だったのですが…惜しい人を亡くしましたね…」

 

「どの道、あの研究も進んじゃいなかったんだ…お前らさえいればどうとでもなる」

「ええ、どこまでもお供いたしますよ」

「まっかせといて!」

 

「…選ばれし王の器ってのも伊達じゃあねぇのなーー」

 

 

ーーーーーーー

 

 

あれから数日後、ホテルの一室にてーー

 

「よし…行くか!」

「「「はっ!」」」

 

こうして俺の旅が終わりを迎えたーー

 

 

 



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第59話【はじまりの日】

「ーーとまぁこんな感じかな…あれ?みんなどうした!?」

 

全てを話し終え、みんなの方を見ると全員が泣いていた。

 

感動して涙する者、興奮のあまり涙する者。

 

さすがに覇王の怪我やケンダツバの最期など、危なかった話はそれとなく誤魔化したものの、それでも心配で涙する者それぞれ。

 

 

「ーーあれ?じゃあ翔ちゃんが最初に手にしたっていう剣は?」

 

あの後、兄弟達、特に妹達に無茶な事は控えろとこっぴどく叱られ、ようやく落ち着いた所で茜が問いかけてくる。

 

「ん?ああ、賢王の剣のことか?それはーー」

 

この件について、下の兄弟達は何も知らない。

 

事情を知る葵と修だけが少し暗い顔をしたのを見逃さな買った。

 

「ーーたまたま森で拾ったんだよ!」

 

ここは適当に誤魔化しとくか。

 

「えー何それー!」

「本当に偶然森で見つけたんだから仕方ないだろ?」

 

その出来事がきっかけで旅に出ることになったのだが…。

 

「さ、話はここまで!もうすぐ夕飯の時間だ!みんな母さんの手伝いしてあげようか!」

「「「はーい!」」」

 

なんとか話をそらし、アルバムを片付ける。

 

 

その日の夜

 

「…翔くん、起きてる?」

「ん?ああ、どうした?」

 

皆が寝静まる時間、部屋を仕切るカーテン越しに葵が話しかけてくる。

 

「さっきの話の最後の事…」

「ああ、茜が言ってた賢王の話か?ーー」

 

ーーーーーーー

 

ーー6年前、11歳の4月

 

俺と葵は学校のイベントに参加して登山体験へと来ていた。

 

「…まったく…誰よ登山なんてしようって言い出したのは…?」

「菜々でーす」

「翔でーす」

 

「卯月ちゃん、大丈夫?」

「はいです!今日は体調も良いですし、たまにはこういう運動も必要です」

 

もちろん、卯月、静流、菜々緒のいつもの3人も一緒にだ。

 

「まあ、任せろ!なんかあったら俺が卯月おぶるから!」

「翔だと、熊でも素手で倒せそうだよなー」

「うーん、熊はまだ無理かなー…猪くらいなら!」

「あの…冗談だったんですけど…」

「「「…」」」

 

そんなこんなで、山を登り始める俺達。

 

「おい菜々!早すぎだ!」

「え?そんなわけ…あれ?」

「どうした?…あれ?」

 

気づいたら皆とはぐれてましたーー

 

ーーーーーーー

 

同行する教師と共に登る小学生の集団内。

 

「まったく、菜々緒と翔は何をしてるんだか…ね、2人とも…あれ?葵?卯月?」

 

ーーーーーーー

 

「大丈夫?卯月ちゃん!」

「はいぃ…」

 

集団から少し遅れた位置に葵と卯月はいた。

 

「葵さん、すいません」

「ううん!大丈夫だよ!ゆっくり行こ!」

 

体力的についていけていない卯月の付き添いだ。

 

「さすが凄いですねあのお2人は」

「さすがに菜々ちゃん1人じゃ心配だしね…」

 

本当は安全面を考えるとこの場に翔もいるとベストなのだが、1人で先を行く菜々を追いかけ、現在絶賛はぐれ中だ。

 

 

そへから少し歩いたところで、

 

「…卯月ちゃん、そのまま落ち着いて聞いてね?」

「え?はい?」

「さっきから私達のあとをつけている人達がいる…」

「え!?はぅっ!」

 

驚いて大声を出そうとする卯月の口をふさぐ。

 

「いい?卯月ちゃんは走ってこの事を皆に伝えて」

「え?でもそれじゃあ葵さんは?」

「私は大丈夫だから。あの人達の目的はきっと私だから、頼めるのは卯月ちゃんしかいないの。お願いーー」

 

 

しばらくして3人の男が目の前に現れた。

 

「お初にお目にかかります葵姫」

「貴方達は?」

「なぁに、ただの金に飢えた男共ですよ」

「なるほど、私を人質に身代金目的ですか」

「さすがは秀才と聞く第一王女様、話が早くて助かりますね」

「…」

「平静を装っても、どうしました?震えていますよ?」

「!?」

「そういえば、もう1人いましたね…」

「!?貴方達の目的は私のはず、あの子は関係ないはずです!」

「ええ、確かに関係ありませんが、我々の計画の前に邪魔されては困るので…」

 

そして話していた男は仲間の1人に指示をだし卯月を追わせる。

 

「ま、待ってーー」

「おっと、あなたはこちらですよ!」

「!?」

 

そういう男に催眠薬を吸わされ、意識が薄れていく…。

 

 

お兄、ちゃんーー

 

ーーーーーーー

 

「はぁ…はぁ…」

 

はやく!

 

はやくみんなに伝えなきゃ!

 

山道をひたすら走る。

 

 

だめ…体力が…!

 

「やっと見つけたぞ」

「!?」

 

そんな!?

 

もう追いつかれた!?

 

「所詮は子供の足、大人には勝てないぞお嬢ちゃん」

「そんな…!葵さんは!?」

「姫様なら今ごろ俺の仲間が捉えたとこだろ」

 

!?

 

だめ!

 

そんなのだめ!

 

急がなきゃ!

 

はやくみんな、翔さんに知らせなきゃ!

 

「おっと、逃がさねぇよ?」

 

先を急ごうとするも、回り込まれる。

 

「嬢ちゃんに罪はねぇが、俺達の邪魔をされても困るんでね…」

 

そういって近寄ってくる男の人。

 

「ーー!」

 

恐怖で目をつぶる。

 

しかし、いっこうに何も起きず、

 

「がは!?」

 

聞こえてきたのは鈍い音と男の人の短い悲鳴。

 

「…え?…あ!?」

 

恐る恐る目を開けると、そこにはーー

 

ーーーーーーー

 

「すきだらけだおっさん」

「しょ、翔さん!?」

 

襲われていた卯月と男の間に入り、腕を横に振り男のあごを殴った。

 

男はその衝撃で脳が揺れ、気絶した。

 

体術で相手をとらえたいならあごを狙え。

 

師匠とラムさんの教えだ!

 

急所ぐらいしっかり守っとけばか野郎!

 

 

それより、

 

「卯月、無事か!」

「はぁはぁ…はい!ありがとう、ございます…!」

「心配になって引き返して来てみたら、誰だこいつは…?あれ?葵は?」

「あ!そ、そうです…!あ、葵さんが!」

「葵がどうした?もう少し落ち着いて話してくれ」

「はぁはぁ…拐わ、れて…!」

「!?」

 

 

走る、ひたすらに走るーー

 

 

「ーーごめんなさい!私何も出来なくて、この事を知らせることしか…!」

「そんな事ないさ、卯月はこうしてここまで来てくれた。それだけで十分さ!」

「本当に、ごめんなさい!私が、歩くの遅かったせいで…」

 

持っていた登山用のロープで気絶した男を木に縛り付けながら、泣き続ける卯月をあやす。

 

「そんな事ないよ!油断して2人を放置してしまった俺の責任だ、むしろごめんな、こんな怖い思いさせて」

「いえ!そんなことは…!」

「ありがとう…あとは俺に任せて!卯月は先生達にこの事を伝えてくれ!」

「は、はいです!でも翔さん1人じゃ…あ!」

 

そして卯月の言葉も最後まで聞かずに俺は飛び出したーー

 

 

ーー葵!

 

どうか無事でいてくれーー

 

 

はぁ…はぁ…

 

どこだ!?

 

どこにいる!

 

 

誘拐された葵を追って、卯月が来たという道をひたすら走る。

 

しかし、山の中

 

ここから見つけ出すのは至難の技だ。

 

その時、

 

あれは…!?

 

 

「これは…葵の水筒!」

 

ってこはこの辺りか!

 

 

しゃがんで地面に手をつき、目を瞑る。

 

 

集中しろ!

 

微かな音すら聞き逃すな!

 

 

風が草木を揺らす音、動物の音、川の流れる水の音ーー

 

「ったく、山は歩きにくいな!なんでこんな所なんだよ!」

「けどそのおかげで、人目に触れず計画を遂行できた」

「運のねぇ姫様だな!」

「さ、急ぐぞ」

 

 

ーー見つけた!

 

立ち上がり、その方向に走り出すーー

 

 

この時、俺の体が藍色に輝いていたことを俺は知らない。

 

 

川沿いを歩く2人の男。

 

「ーーそれにしても、遅いな…」

「まさか!しくじったんじゃねぇよな!?」

「そのまさかだよーー」

「ーー!?」

 

1人の男を背後から押し倒し、動きを封じる。

 

「な!?この、ガキ!」

「動くな、的確な場所さえ知ってれば、子供の俺でも人の腕ぐらい簡単に折れるぞ」

「ぐ!い、痛ぇ!?」

 

押さえ込んだ男の腕を少し曲げて、葵を担いだもう1人の男を睨む。

 

葵は!?

 

よかった…どうやら眠らされているだけのようだな。

 

「悪いけど、妹は返してもらうぞ!」

「これはこれは…第一王子の翔様までいらしていたとは…。しかし、噂通りお強いですねぇ…王女の方を狙って正解でした」

「あ?あぁ、なるほど。国王から身代金でも貰おうってことか…?」

「おまけに鋭いときますか」

「ごたくはいい…はやく妹をおろせ。こいつがどうなってもいいのか?」

「…何か勘違いしていませんか?私はそいつがどうなろうも知ったことではない。けど、あなたはこの方に何かあれば困る…違いますか?」

「「な!?」」

 

そう言ってゲスな笑みを浮かべ、葵の頭に拳銃を突きつける。

 

「自分の立ち位置を考えた方が懸命ですよ?」

「く…ちぃ!」

 

舌打ちをしながら押さえ込んでいた男を解放する。

 

「ありがとうございます。では…」

「…え?」

 

瞬間、その男は俺に押さえられていた男に向けて発砲した。

 

「!?おい!あんた!大丈夫か!?」

「俺の計画にお前はもういらないな…」

「しっかりしろ!…お前!仲間じゃないのかよ!?」

「子供ごどきにしくじるようなら計画には不要。邪魔物を消すのは当然の事ですよ王子」

 

そう言ってもう一発発砲され、当たり所も悪く、男は完全に息を引き取った。

 

「…!」

「おや?なんですか、その目は?」

 

こいつ…!

 

「あー、安心してください。葵様はしっかりと私が面倒を見ますよ」

「なに?」

「身代金を頂いても帰すわけないじゃないですか。あと数年もすれば良い具合に成長するでしょう。だから私が責任をもって引き取らせて頂くんですよ」

 

そう言ってゲスな笑みを浮かべる男。

 

「!?お前!葵に何かしてみろ!?その時はーー」

「ーーこの様に殺しますか?」

 

そう言う男は俺に向かって銃口を向けていた。

 

「…え…?」

 

右の脇腹に手を当てると濡れていた。

 

「…血?ぐふぅ!」

 

掌を濡らしたのは自らの血液。

 

瞬間、激痛が走り、口からも血を吐く。

 

「貴方がいけないんですよ?私の邪魔をするからです。私の計画にあなたは不要だ。ここで消えてください」

「くっ!」

 

痛みで傷口を押さえうずくまりながらも、相手を睨む。

 

「…まだそのような目が出来ますか。本当にただの小学生ですか?その意思の強さには感服しますね」

「…へ。お前、も…礼儀、はしっかり、してんのな…」

「ーー!?減らず口を!」

「ぐっ!」

 

顔を蹴られる。

 

「…ぅう…ぅ…?」

 

その時、葵の目が覚めた。

 

「ーーん?…んんんんー!!」

 

口をふさがれ、体を縛られた葵が血だらけの俺を見つけ、涙を流しながら暴れだす。

 

「暴れないでください。めんどくさいでしょ?」

「」

「んん!?」

「あ、おい…!?」

「んんんん!!」

「私の言葉は一度で聞いてください!」

 

そう言って担いでいた葵を地面に叩きつける男。

 

「ん!?」

「て、めぇ…!」

「!?その傷でまだ立てるのか!?」

「ぐぁあ!?」

「んんんんーー!?」

 

立ち上がり睨み付ける俺を見て動揺した男に次は足を撃たれる。

 

けど、

 

知ったことか!

 

「葵を、返せ…!」

「!?化け物ですかあなたは!?」

「ぐっ!」

 

男に蹴り飛ばされ川の中へ落ちる。

 

「私だって子供を手にかけたくはないんですよ。せめてそこで自然死してください」

 

川の水が赤く染まる。

 

体に力が入らず沈んでいく。

 

 

先程の衝撃で口をふさぐテープがはがれたのか、

 

「ーーお兄ちゃん!」

 

最後にそう聞こえた気がした。

 

 

葵ーー



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第60話【選定そして前進】

これで王の剣編完結です!

次回からは兄弟達とのドタバタな日常の再開です!

お楽しみに!


ーー暗い。

 

ここは…?

 

ああ、水の中か…。

 

撃たれて、川に落とされたんだっけか…。

 

思ったより深かったのな、この川。

 

水面が遠くに見えるや…。

 

ははっ、深すぎ…海かって。

 

こんな状況でこんなくだらないこと考えれるもんなんだな。

 

時の流れが長く感じる。

 

ああ、死ぬってこんな感じなのか…。

 

 

ごめんな葵。

 

助けてやれなくて。

 

弱くて本当にごめんな…。

 

卯月は、ちゃんと伝えてくれたかな?

 

そうなら、必ず父さんや国がお前を助けてくれるから…。

 

もう少しの辛抱だよ。

 

 

俺はどうやらここまでだけど…

 

最期に葵の声が聞けて、昔みたく兄と呼んでくれて、

 

嬉しかったよーー

 

 

ーーあれは…?

 

薄れゆく意識の中、底に光る何かを見つけた。

 

…剣?

 

光も届かない暗い水の底なはずなのに、

 

なぜかそこだけ光の差し込み照らされた台座の上の剣。

 

なんでこんな所に…?

 

『問おう。汝、何故力を求める?』

「え…?」

 

突如、声が聞こえてくる。

 

『問おう。汝、何故力を求める?』

 

繰り返される同じ質問。

 

 

…俺は大切な家族を、大好きなこの国を守りたい。

 

『それが、どの様な道となろうとも?』

 

あぁ、それでも俺は大切なものを守りたい。

 

『その為に、どの様な犠牲を払おうとも?』 

 

それでも、俺はその全部を背負っていく。

 

『…自身の全てを犠牲にしてもか?』

 

そんなもの、俺の全てで済むならいくらでもくれてやる。

 

『…自己犠牲の果てに得られるものは孤独。それを受け入れる覚悟があるのか?』

 

大丈夫、俺は1人じゃない。

 

大切な家族がいる。

 

それにこれから色んな出会いもあるだろう。

 

そこで出会う仲間達がいてくれる限り、俺は道を間違える気はない。

 

『もし道を違えたとしたら?』

 

その時は、時代が俺を殺すだろう。

 

それか…そうだな、あんたが俺を殺してでも止めてくれ。

 

『ふ…覚悟は出来ているようだな。…よかろう、ならば汝に力を貸そう』

 

その瞬間、剣の輝きが増す。

 

『歴代の王より受け継がれし力』

 

剣が俺に向かって飛んでくる。

 

『汝ならうまく使いこなせるだろう』

 

そのまま俺の胸を貫く。

 

『若き王の器よ。汝の未来見せて貰おう』

 

!?

 

脇腹と足の銃で撃たれてできた傷が治っていく。

 

『賢王の名の元、汝を次代の器として認めよう』

 

全身の感覚が戻ってくる。

 

そして、先程俺を貫いた剣が手元に現れる。

 

脳裏に直接映像が流れ込んでくる。

 

これはーー

 

ーーーーーーー

 

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」

「もういいでしょう?あなたの兄は死んだんです。さぁ諦めて大人しく来てください」

「いや!」

「物分かりの悪い子供は嫌いですよ!」

「痛っ!離して!」

 

 

暴れる葵に激情し、葵の髪を引きずって連れていこうとする男。

 

その時、

 

「「ーー!?」」

 

物凄い勢いで水しぶきをあげて、川の底から翔が飛び出した。

 

『翔べ、次代の子よーー』

 

 

刹那。

 

本当に一瞬だった。

 

男が瞬きをした一瞬。

 

その一瞬で、空中にいたはずの翔は手にした剣で、葵の髪を掴む男の腕を切り落とした。

 

「な!?ぐ、ぐぁあああ!う、腕がぁ!!」

 

痛みに絶叫し腕を押さえ暴れる男。

 

その男を無言で睨む翔。

 

「何すんだてめぇ!!」

 

痛みをこらえながらも銃を発砲する男。

 

しかし、その全てを剣で弾きながら近づく翔。

 

「な!?く、来るなぁ、化け物が!」

 

その男の制止も聞かず、男に向かって剣を投げつける。

 

「は、はは!どこ狙ってーー」

 

その剣は男の横を通過していく。

 

それを見て笑う男だが、

 

「…え?なん、で…!?」

 

いつの間にか背後にいた翔に背中を切りつけられ。

 

そのまま息を引き取り、その場に倒れた。

 

 

「葵!翔!無事か!?」

 

しばらくして、ようやく駆けつけた国王である父総一郎と楠、ラムが目の当たりにしたのは、

 

血を流し倒れる2人の男と、同じく意識を失い横たわる翔に抱きつき必死に翔の名前を呼び続ける葵がいたーー

 

ーーーーーーー

 

「…ここ、は…?」

 

城、か…?

 

「お兄ちゃん!」

「兄さん!」

 

泣きながら抱きついてくる葵と修。

 

 

俺はどうやらあの後意識を失い、偶然城にいた修の能力で飛んできた父さん、楠さん、ラムにここまで運ばれたらしい。

 

「よかった!本当によかった!」

 

泣き続ける葵。

 

「葵…そうだ!怪我は!?大丈夫なのか!?」

「うん、お兄ちゃんが助けてくれたから!けど…」

 

そういって暗い顔をする葵と修。

 

「翔!目が覚めたか!?」

「陛下、落ち着いてください」

 

その時、父さんと楠さんが部屋に入ってくる。

 

「葵、修。悪いが翔と話がしたい、少し席をはずしてくれるか?」

「でも…!」

「わかった。姉さん落ち着いて、ここは父さんに任せましょう」

 

そう言って、動揺で冷静さを失っている葵を連れて部屋から出ていく修。

 

2人が出ていったことを確認して、話を始める父さん。

 

「翔…。今回だがーー」

「ーー俺は人を殺した、そうだろ?」

「!?」

 

あの時の事は、あまりよく覚えていない。

 

けど、手には人を切った感触が残っている。

 

何とも形容しがたいこの感覚、感情。

 

当然気分の良いものではない。

 

「翔、お前は人を殺めた。その事実は変わらない…」

「…うん」

「しかし、お前は結果、葵と自分の命を救った。何をしたのかじゃなく、何が出来たか、考えなさい」

「今回、翔様のご年齢と状況から翔様に非はありません。幸い、事実を知るものは陛下、私、ラム、葵様、修様のみです。しかし、人の命を奪ったという事実を今後あなたは背負って生きていかなくてはなりません」

「うん…わかってるよ師匠。その覚悟は出来てる」

 

あの時にも誓ったから…。

 

「ならば私からあなたに言うことはございません。ですが、その呼び方はやめてください」

「まあまあ、楠。重い話は置いておいて…翔!無事でよかった!」

 

そういって俺を抱き締める父さんと笑顔の楠さん。

 

「葵から聞いたぞ?撃たれたって!」

「あぁ、そうなんだけどーー」

 

「ーー傷が塞がった?」

「うん。この剣を手に入れた時に…」

 

そう言ってあの時の剣を手元に呼び出す。

 

何故か不思議とこの力の使い方がわかる。

 

「これは…!?翔…お前、川の底で何を見た…!?」

「えっとーー」

 

急に真剣な表情になる父さんに少し気圧されながら、あの時の事を説明した。

 

「ーーそうか…。お前が、選ばれてしまったのか…」

「え?」

「翔、お前は能力に目覚めたんだよ」

「え?俺は能力がないはずじゃ…もしかして傷を治す能力?」

「そうであって少し違うなーー」

 

それから父さんから俺のこの王の剣という能力について説明を受けた。

 

 

王の器に相応しい者から選ばれる。

 

先代に同じ能力を持った者が2人いたこと。

 

歴代の王達の力を使うことが出来ること。

 

まだ未完成であること。

 

そして、

 

「翔、お前にはこれから歴代の王達の墓をまわり武器を集めてきてもらう必要がある…」

 

この能力者が世に現れたということの重大さを。

 

その時代に能力が出現したということは、いずれその時代に何らかの大きな脅威、変化が訪れる。

 

その為に、武器を集め、力を蓄える必要があることを。

 

「すまない…お前にばかり背負わせてしまって…」

「大丈夫だよ父さん!力が手にはいるならむしろ好都合だよ」

 

こうして、俺の旅は決まった。

 

 

それに、わかっていたからーー

 

あの時、脳裏に流れてきたのは能力の使い方だけじゃない。

 

それは…この能力が辿ってきた歴史。

 

悲しみ、憂い、怒り、憎しみ、恐怖

 

ありとあらゆる負の感情が押し寄せてきた。

 

これが先代達の背負ってきたもの。

 

これだけのものを背負う覚悟があるのか?と問われた気がした。

 

正直、まだわからない。

 

けど、俺は進まなくちゃいけない。

 

みんなを守る為に力を求める以上、立ち止まるわけにはいかないんだ!

 

 

あの後、部屋に来た、ラムと話し、旅の支度をした。

 

そして、今回旅に同行することになったラムと曽和さんを引き連れ、城門に来ていた。

 

父さん、葵、修、楠さん、初姫さんが見送りに来てくれている。

 

 

「翔君…ごめんなさい。私のせいで…」

 

ああ、なるほど。

 

葵は自分のせいで俺を人殺しにしてしまった、旅に出なくちゃいけなくなったと思っていたのか…。

 

「葵。俺は大丈夫だよ!心配いらない!」

 

何も言わなくてもわかるよ。

 

なんたって、

 

「俺は葵の兄ちゃんだからな!」

 

そう言って、葵を頭を撫でて

 

「修。俺がいない間、家族を、みんなを頼むぞ!」

「兄さん…。はい!必ず!」

「おう!頼むな!」

 

そして、父さんの方を向き、

 

「では、陛下行って参ります」

「ああ、気を付けてな!母さん達には俺から言っておくが、たまには連絡しなさい?」

「はい!」

 

こうして、俺は旅に出た。

 

守るための力を得る旅にーー

 

殺めた命の分まで生き抜く罪滅ぼしの旅にーー

 

ーーーーーーー

 

あの日、俺は人殺しになり、王の剣の使命を背負った。

 

俺の手は既に汚れている。

 

だから国の、世界の裏の事情は俺が全て引き受ける。

 

他の兄弟達は知らなくていい。

 

だから俺は国王ではなく、その剣として国を守りたい。

 

これが俺が王を目指さない理由。

 

 

あの日以来、葵は俺の事をずっと気にしているようだ。

 

俺自身は吹っ切りているけど、葵はいまだに抱えている。

 

だから、

 

「もう、気にする必要はないよ」

「うん…けど、翔君1人に抱え込ませて追い込んだのは私。けど…!」

「…!葵…?」

 

その時、カーテンを開けて俺の前に立ち、まっすぐ俺の目をみてくる葵。

 

「私ももう前に進もうと思うの!いままでずっと翔君に頼りっぱなしだったけど、私ももう逃げない!この前の私の能力暴走期間のこと覚えてる?なぜかわからないけど翔君に私の能力は効かなかった。私嬉しかったんだ!翔君はそうやって、いつも私達の前で何事もないかの様に平気な顔して手を引いてくれる。けどこれからは私も翔君と並んで生きていきたいの!」

「葵…」

「能力が効かないなら尚更!ううん…私達は兄妹、双子なんだから、これからは私も翔君の力になりたい!」

 

あーあ、そんな真剣な顔でそんなこと言われたら、断れるわけないだろ…。

 

「…はぁ。わかったよ!けど無茶だけはするなよ?」

「ありがとう!」

「ああ。でもいつもちゃんと葵には支えられてるし力をもらってるんだぞ?」

「そうなの?」

「本当だ!そうだ、修にはこの事伝えとけよ?気にしてくれているみたいだったから」

「うん、修君にも色々心配かけさせちゃったね…」

「そうだな…まあ、改めて、これからよろしくな葵!」

「ーー!?うん!お兄ちゃん!」

 

そう言って抱きついてくる葵の勢いに負け、ベットに倒れこむ。

 

「ちょ!葵!?」

「今日だけでいいから…久しぶりに一緒に寝よ?…だめ、かな…?」

 

やめなさい、その上目遣いは反則です。

 

それに今日だけと言わず、むしろ毎日ウェルカムです!

 

とは、言わないでおこう。

 

とりあえず、ここは兄の威厳を保ちつつ、

 

「前進むんじゃなかったのか?昔のお兄ちゃん子に逆戻りじゃないか」

「いいの!今日だけだもん♪」

「ったく…」

 

か、可愛い…!

 

やはり、この世で一番は葵だ。

 

そう思いながら俺達は眠りについたーー

 

 

 

翔の腕枕で眠る葵はとても晴れた笑顔で眠っていた。

 

そして、翔もまたどこか安心した顔だったーー

 

 

余談だが、この6年間溜まりに溜まった憂いを晴らすことの出来た2人は安心の余り、2人ともに寝坊。

 

いい加減、お越しに来た茜が2人が共に眠る姿を見て、興奮し発狂。

 

それに駆けつけた、奏と岬が絶叫。

 

その日1日櫻田家が大変だったのは言うまでもないーー

 

 

 



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日常編 2年目
第61話【茜事件】


大変長い間お待たせしてしまって申し訳ありませんでした!

今回から日常2年目突入です!

今後とも城下町のダンデライオン~王の剣~をよろしくお願いします!


冬休みも終わり、学校も再開されて数日がたったある日。

 

事件は起きたーー

 

 

「ふぁ…寝み…」

 

窓際の自分の席に座り、朝の予鈴の音を聞きながらあくびをしていると、

 

「…ん?あれは…茜?」

 

茂みから慌てて走って校舎へ向かってくる茜を見つけた。

 

「…またこんなギリギリに…。まったく何してんだよあいつは…」

 

つーか、あんな全速力で走ったりしたら…

 

あーあ、ほらパンツが丸見えだぞ。

 

 

…ん?

 

 

…んん?

 

茜のパンツと共にとんでもないものを目の当たりにした気がしたが…。

 

いやいやいや、気のせいだな。

 

あの茜に限ってそれはありえない。

 

既に茜は校舎内で確認のしようもない。

 

きっと眠くて寝ぼけてたんだ俺。

 

そうに違いない、そう自分に言い聞かせながら眠りにつこうとする。

 

「あ、翔君また?ちゃんと授業受けなよーー」

 

隣の席の葵が何か言ってる気がするけど無視無視。

 

私は寝るのだーー

 

 

 

ーーそして昼休み

 

 

結局一睡も出来なかったぁぁぁあ!

 

くぅ!茜ちゃんめ!

 

お兄ちゃんを悩ませやがってぇえ!!

 

 

あり得ない、見間違いだよな。

 

あの茜がーー

 

「ーー君、ーー翔君!聞いてる?」

「ん?あ、ああ、葵か…何?」

「お昼だよ?食べないの?…て、どうしたの!?顔色すごく悪いよ!?」

 

スカートをはいていなかったなんて!

 

「ーーそれが…」

 

事情を話すと何とも複雑な表情を浮かべる葵。

 

「え?なに?」

「どうやら、そのまさかっぽいの…」

「…へ?」

「一応、私も気になってメール入れてみたんだけど、返事が無くて…」

「…」

「…」

 

「「いやいやいやいや」」

「あの茜だぞ?それだけはあり得ないだろ!」

「そうよね!あの子に限ってそんなこと、ね!」

 

互いに笑い合う。

 

「兄妹仲良く現実逃避してるところ悪いけど、どうやら目撃情報が多数みたいよ」

「「はははは…は、は…は?」」

 

そんな俺達をよそに冷静に現実を突きつけてくる静流。

 

「「…」」

 

その時、

 

『1年A組、櫻田 茜さん。生徒会長がお呼びです。至急、生徒会室まで来てください』

 

放送がかかった。

 

「生徒会長ってことは、奏か?外で自分から茜を呼ぶなんて珍しいな…」

 

卯月達、3年も生徒会をやめ、現在は奏が生徒会長を引き継いでいる。

 

「もしかして奏もかな?」

「ああ、恐らく事の真相を確かめるつもりだろうな」

「なら、あとは奏に任せておけば安心だね!」

「いや…。これには欠点がある」

「欠点?」 

「ああ、茜のクラスから生徒会室まで移動するとなると、必ず階段を上ることになるつまり…!」

「ーー!?まさか!」

「俺達にまで届いている事を同じ1年、強いてはクラスの男達が知らないはずがないだろ」

 

そう言って立ち上がる。

 

「どこいくの?」

「ちょっと様子見てくるわ」

「そっか!翔君、お願いね!」

 

そして教室を後にした。

 

「翔さんは何年経っても、ああいうところは相変わらずですね」

「ほんっと妹大好きなお兄ちゃんだこと」

「まあ、翔らしくて良いんじゃない?」

「ふふ」

 

そんな、翔を微笑ましく見送る幼馴染みの3人と葵だった。

 

 

ーーあの後、俺が真っ先に向かったのは茜の元ではなく、

 

「やぁ花ちゃん。相変わらず小さくてキュートだね!」

「翔さん!?あ、ありがとうございます!」

 

2年の教室だ。

 

「あ、翔さんだ!こんにちは!お久しぶりです!」

「やぁこんにちは零子ちゃん!久しぶりだね!」

 

早乙女さん改め、零子ちゃん。

 

学園祭の劇以来、下の名前で呼ぶ仲である。

 

「急に現れるなり弟の女を口説こうとは大胆ですねぇお兄さん」

「何言ってんだ瞳ちゃん。弟の女だから可愛がってるんだろ?将来は俺の妹になるんだし!」

「い、妹だなんて/////」

 

そこにそれを見ていた修が近づいてきて、

 

「に、兄さん!佐藤をからかうのはやめてあげてください」

「からかってなんかないぞ修!俺は本気だ」

「そこまでは聞いてません/////」

 

2人して顔を赤くする修と花ちゃん。

 

ほんと、はよ付き合えお前ら。

 

と、そんなことより…

 

「修、お前に用があったんだ。ちゃっと手貸してくれ」

「…え?」

 

ーーーーーーー

 

「ーーやだなぁお姉ちゃん!ちゃんと下はいてるよ!」

 

階段の手前で待っていた奏と合流した茜と花蓮。

 

ギリギリ下から覗かれると言うことは未然に防がれたが、

 

「でもどう見ても…」

「…それで今日はやたらと男子達が…しょうがないな男の子は…登校中スカートが破けちゃったから途中で短パンにはきかえたんだって!」

「な、なんだそうだったの…」

「ほらーー」

 

そう言って茜が制服をまくり上げた瞬間ーー

 

「「「…はぁ」」」

「ぶふぅ!」

 

間一髪ギリギリのところで修が茜、奏、花蓮を連れて校舎裏へ瞬間移動。

 

すでに待機していた葵、奏、修は妹の醜態にため息。

 

花蓮は鼻血をふきだした。

 

そう、制服をまくった茜は

 

どう見ても下着でした。

 

ーーーーーーー

 

「く!修様の能力か!?」

「ちくしょう!確認できなかった!」

「で、でもこれで罪を犯さずにすんだじゃないな!これでよかったのかもしれない!」

 

「ああ、けどあれはどうみてもはいていなかった。惜しかったな」

「確かに、もったいないことをした気もする…」

「今回はスカートをはいてなかった茜が悪いのは確かだ」

「…え?」

「けど未遂とは言え、確信犯なお前達にも非があるとも思わないか?」

「「「ーー!?」」」

 

男子達が振り返るとそこには…

 

「お前達、放課後グラウンドに来い。全員の顔覚えたぞ?もし逃げたら…わかってるよな?」

「「「ひ、ひぃぃぃぃい!!!!」」」

 

鬼が立っていたーー

 

 

その日、茜と花蓮が下校する時、

 

「あれ?なんで男子達走ってるんだろ?」

「…きっと怖い鬼に捕まったんだよ…」

 

グラウンドを運動部員と同じように走り続ける男子の軍団を見たという。

 

 

「ーーなるほどな。それでスカートはいてなかったわけか」

「言わないでぇえ!」

 

家に帰ってきて茜達から事の真相を聞かされた。

 

どうやら朝、カメラを避けて登校していたらスカートを引っかけて破いてしまったらしい。

 

それでちょうど持っていた短パンに着替えようと茂みに隠れたはいいものの、予鈴の音に条件反射で反応してしまい結果パンツで半日過ごしたとか…

 

「アホか…。いくら遅刻したくないからと言って、それはあり得ないだろ」

「うぅ、ごめんなさい」

 

もっと冷静に物事をとらえるよう茜に説教をする。

 

「まあ今回は何事もなくことを終えたからこんぐらいにしとこう…」

「本当に感謝しております」

「…それで?あのボルの布団はそういうことか」

「え?」

 

そう言って俺の指差した先には、茜のスカートを下敷きにして眠るボルシチが。

 

「あー!探しに行っても見つからないと思ったら、ボルシチが持って帰ってきてたの!?」

 

本当に騒がしい妹だーー

 

 

 



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第62話【この親にしてこの子あり】

「やはり、一晩もの間、娘3人だけというのは…」

 

ある日の事こと、

 

父さんは他国と交友関係を深める仕事の為、1日国にいない。

 

母さん、葵、修の3人もその付き添いで家にはいない。

 

本来なら長男の俺が行くとこなのだが、俺は俺で他国のお偉いさんの相手を城で父さんの代わりにしなくちゃいけなく、手が離せない。

 

遥、岬は修学旅行。

 

光は友達の家でお泊まり会。

 

輝は学校に泊まるイベントで家にいない。

 

だから今日1日家で留守番をするのは奏、茜、栞だけなのだ。

 

その上、茜は熱を出し寝込んでいる。

 

「栞の面倒も茜の看病も私1人で十分よ」

「しかし、警備に不備が…」

「こんな能力者の巣窟に手を出す奴なん花いないってば」

「いや!やはり特殊部隊に警備させよう!」

「恥ずかしいからほんとやめて」

「そうだよ父さん。夜には俺も帰れるんだし」

「うぅむ…。じゃあせめてーー」

「さっさと行かないと明日から無視するわよ」

 

 

「ーーってことが今朝あってさ…玄関で30分も粘るとは思わなかったわ」

「陛下も過保護ですなぁ」

 

そして現在、城で客人を待つ間、王の剣の皆とそんな話をしている。

 

ちなみに、城内には王の剣の部屋が一室設けられていて、そこが俺達の拠点となっている。

 

 

「過保護なら翔くんも負けてないけどねぇ♪」

「…うるせぇよ」

 

そんな話をしていると、

 

「翔様。お客様がお見えになりました」

 

曽和さんが呼びに来る。

 

「あれ?シヴァさんが見当たりませんけど…?」

「ああ、シヴァにはちょっと別件で出てもらってるしいいんだ」

「…なるほど。後でばれて怒られても知りませんよ?」

「…う、それは怖いな…」

 

何なのかを察した曽和さんとそんな話をしながらマントを受け取る。

 

「まあ、とりあえず今は客人を歓迎しなくちゃな!よし、行こうかーー」

「「「は!」」」

 

受け取ったマントを羽織り金具を止め、王の剣を引き連れる。

 

実質、今日は俺がこの国のトップと言うことになる、大きな失態は許されない。

 

その為、俺も皆も正装に着替えている。

 

謁見の間にて、客人を迎え入れる。

 

 

俺のミス1つで大事になるかもしれない。

 

けど、

 

「本日はよくお越しいただきました!歓迎致します!」

 

俺は俺の出来ることを全うするだけだ。

 

ーーーーーーー

 

「ーーだぁ!疲れたぁ!」

 

夜の8時過ぎ、客人を見送り、ようやく解放され、イフが部屋の椅子に勢い良く座り込む。

 

「こら、イフ!だらしないぞ!」

「そんなこと言ったって1日黙って突っ立ってるだけなんて苦痛すぎだろ!」

「俺達の言動1つで翔様の評価に関わるんだしっかりしろ」

「言われなくてもしてるっての!」

 

「いやー皆、今日はお疲れ様!悪いね。さすがに護衛はつけないと曽和さんがうるさいから…」

「当たり前です!」

 

そんなこんなでその日は解散となり、俺も急いで家へと帰る。

 

すっかり遅くなってしまった…。

 

奏達はちゃんとしているだろうかーー

 

ーーーーーーー

 

時計を見ると9時を過ぎていた。

 

「もうこんな時間!髪乾かしたらお布団行こうね!」

 

お風呂から上がり、栞の髪を乾かしながらそう言う。

 

「…まだ眠くない…」

 

栞に上目使いでそう言われたら、

 

「今日は内緒で夜更かししちゃおっか!」

 

許しちゃうわよね普通。

 

 

と、その時2階から物音がした。

 

茜起きたのかしら?

 

栞にちょっと見てくると伝え、茜の部屋へ向かう。

 

 

「茜?起きた?」

 

部屋をノックしても返事がなく、覗いてみても誰もいない。

 

「…トイレかしら?…ひょわあ!?」

 

壁の向こうから大きな音がして思わず悲鳴をあげてしまう。

 

「あかね~…?いるの~…?」

 

念のためスタンガンを生成して恐る恐る隣の部屋を見に行く。

 

隣は修ちゃんと輝の部屋。

 

扉が開く。

 

「あかね…?」

 

違う!

 

明らかに私より身長が高い。

 

誰!?

 

怖い!

 

「だぁー!!」

「あばばばば!!!!」

 

恐怖でその人物にスタンガンを当てると、その人物が悲鳴をあげる。

 

って、

 

「しゅ、修ちゃん!?なんでここに!?」

「わ、忘れ物を取りに瞬間移動で…」

「ごめんなさい!…大丈夫…?」

 

その時、窓ガラスを突き破り、

 

「「わあああああ!?」」

 

何人もの男性が部屋に侵入してきた。

 

何!?

 

どういうこと!?

 

修ちゃんと驚きの声をあげる。

 

 

そして、その内の1人が私達に近づいてくる。

 

 

ーーと、思ったら。

 

どこからともなく1人の女性が現れ、その男の膝の後ろを蹴り倒し、腰にした2本の刀をその男性の首元に当てた。

 

早業。

 

目にも止まらぬ早さとはこの事をいうんだろうけど…

 

今度は何!?誰!?

 

もうどうなってるのよ!

 

「…あら?あなた達は…」

「し、シヴァ殿!?」

 

そんな私をよそにどうやら勝手に誤解を解決しあっていた。

 

 

「ーー異常な熱反応と尋常じゃない叫び声がしたもので…」

 

あれから、どうやらこの人達はパパが配備させた国の軍の人達だとわかった。

 

他の人達は後片付けを、先程の1人は誰かと電話をしている。

 

その相手は…

 

『気づかれずに任務を遂行しろと言っただろ!』

「申し訳ございません陛下…」

 

間違いなく、確実にパパね。

 

「…代わってもらえます?」

『ま、待て!代わるんじゃないーー』

「ど、どうぞ…」

『おい!聞いてるのかーー』

「はい、聞いてますよ」

『あ、か、奏か?あ、朝ぶりだなぁ元気?ははは…!』

『パパ、警備はいらないって言ったでしょ?信用してくれてないの?』

『いや、聞いてくれ奏!』

『もういいです、帰ったらまた話しましょう』

『奏でちゃーー』

 

何か言っていたけど構わず電話を切る。

 

そして、扉の前に立っていた女性に話しかける。

 

「あの、シヴァさんですよね?お兄ちゃ、兄の王の剣の…」

「はい。お初にお目にかかります奏様。改めまして、翔殿下直属特殊能力部隊、王の剣のシヴァと申します」

「え、はい!次女の奏です!いつも兄がお世話になってます!旅の間も色々と苦労をお掛けしたみたいで…」

「いえ、我々は自らの意思でお供しているまでです」

 

この人はどこか自分に似ている気がする。

 

雰囲気というか人との接し方が…

 

「ありがとうございます!それにしてもどうしてここに…?今日はお城で仕事だって兄から…」

「マスター、翔殿下より私だけ別の任務を任されておりまして」

「…それってまさか…」

「はい、奏様、茜様、栞様3人の身辺警護です」

「…」

 

あんのバカ兄!!

 

パパといいお兄ちゃんといい、何してるのあの親子は!

 

「…そ、そうですか。それで兄はいまどこに…?」

「先程、いまから帰ると連絡をいただきました」

「そうですか。では兄にこう、お伝えください。帰ったら覚えてろ、と…」

「…」

 

私の言葉に少し考えるシヴァさん。

 

「…だ、そうですよ?…マスター」

「…え?」

 

シヴァさんの後ろの扉の向こうから音がする。

 

まさか…!

 

「お兄ちゃん!?」

 

ーーーーーーー

 

「や、やぁ奏。朝ぶりだね元気してた?ははは…!」

 

えーい、シヴァめ!

 

びっくりして、音をたててしまったじゃないか!

 

「それはさっきパパから似たような台詞を聞きました。…それより、なぜシヴァさんが家にいるのか、じっくりお話ししましょうかお兄様!」

「え、ちょ…ま…!」

 

俺の服の襟を掴み自分の部屋へと引きずっていく奏。

 

「シヴァさん。今日はありがとうございました。今日はもう兄もいますし、帰宅されて大丈夫です。お疲れ様でした!」

 

奏の言葉にお辞儀をして帰っていくシヴァ。

 

ちょ!?

 

助けてよ!

 

なに普通に帰ってんの!?

 

それによく、この真っ黒な奏を前に平気な顔してられるな!

 

そこは尊敬するーー

 

「お兄様?どうやら話す内容が増えたようですね?

 

な!?心を読まれた!?

 

「そんなに私とお話したかったんですか?もう!仕方ないですねぇ」

 

さぁ逝きましょ!と、笑顔で俺を引きずる奏。

 

階段の方に目をやると。

 

栞の目を隠しながら、涙目でこちらに敬礼をする茜が…

 

良くやった茜!

 

こんな奏、栞に見せたらきっと泣いてしまう!

 

そして、逝ってきます…。

 

櫻田家の夜まだまだ明けそうにないーー

 

 

 

 




翔達の正装についてですが、

翔はFF15のノクトの選ばれし王の衣装を参考にしてください。ただ黒シャツに白スーツです。

王の剣のメンバーは白シャツ、黒スーツで右肩に白色の片掛けマントをしています。つまり色は翔と逆ということです。

シヴァはショーパン、リヴァはスカートです。


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第63話【特訓】

イフの異名を

鬼の子 → 悪童

に変更しました。

変わっただけで特に意味や物語には関係ありません。


「ーー輝。ほんとに良いの?ここで…」

 

 

今日は輝の誕生日。

 

皆と同じように時間潰しに好きなところに連れてってあげると言ったんだけど…

 

「はい!僕は兄様みたく強くなりたいんです!」

「…だからってここかぁ…はぁ…」

 

輝の要望で連れて来たのは、

 

「んあ?なんだよ翔、今日は子連れか?」

「わあ!可愛い!四男の輝くんだよね?何歳?お菓子食べる?」

 

王の剣の訓練場だ。

 

この櫻田城には俺達兄弟の特殊能力を計るための部屋や暴走期間であまりにも症状の酷い者を隔離する部屋がある。

 

その部屋は勿論俺達の能力にも耐えれるような特殊な素材で出来ている。

 

そして、この王の剣のメンバーのみが使用する訓練場。

 

この場所も同じく特殊な素材で出来ている。

 

特殊能力部隊というだけあり、俺も含め、メンバーも眷属器も用いることで特殊能力を使用できる。

 

その為、この場所ではその訓練も行えるようにしてあるのだ。

 

 

それにしても…

 

「お前達あまり輝で遊ぶなよ…それとお菓子は俺も食べる」

 

偶然居合わせたイフとリヴァにおもちゃにされて、おどおどしている輝を助け出す。

 

「あ、やっぱり翔くんも食べるんだ」

「お前どんだけ甘いもん好きなんだよ」

「ほっとけ…」

 

それから少しお茶をして良い感じに輝が2人に馴れてきたところで本題に入る。

 

「それで、輝。今日は本当にこんなとこでいいのか?」

「はい!僕も修行して兄様みたいな強い人間になりたいんです!だから僕を鍛えてほしいんです!」

「輝くんはなんで強くなりたいの?」

「それはもちろん大切なものを守るためです!」

「へぇ、どっかの誰かさんそっくりだな…さすが兄弟ってか?」

「ほんとよねぇ♪どこかの誰かも昔はこんなに無邪気だったのかしら?」

「…お前らほんと帰れよ…」

 

外野を放置して輝の修行を開始する。

 

「まあなんだ。やるからには甘くないぞ?途中で投げ出すのも良いけど、その場合二度と教える事はない。…それでも本当にやるか?」

「…」

 

俺の問いに黙り込む輝。

 

少し厳しいかもしれないが、無理に厳しい環境に飛び込む事もない。

 

輝も含む兄弟皆が自分の思うように生きれるように俺がいるのだから…。

 

まぁ、その為に誰かを王にすると言っている時点でそれは最早矛盾でしかないんだけどな…。

 

「…それでも、僕はやります!大切なものを守るために!」

「…!?」

 

真っ直ぐに俺の目を見てそう言う輝。

 

そんな輝の姿に昔の自分を重ねて見えた気がした。

 

だからだろうな…

 

「わかった。なら俺に教えれることは教えるよ」

 

応援してあげたいと思ったーー

 

 

ーーあれから動きやすい服装に着替え、用意されて岩の前に立つ。

 

「いいか輝。去年の人形のゲームの時にも見たけど、お前能力の使い方にはムラがありすぎる」

「…むら?ですか…?」

「ああ。…そうだな、試しにその岩を能力を使って人差し指で突いてみな」

「はい!」

 

俺に言われた通りに岩を人差し指で突く輝。

 

すると、岩は弾けるように砕け散った。

 

「…ま、そうなるよな。それがムラだ。輝は能力を全身に使いすぎなんだ…」

 

そう言いながら闘王の籠手を呼び寄せる。

 

「たとえ同じ能力だとしても、能力の使い方次第でーー」

 

先程の輝と同じように能力を使い岩を人差し指で突く。

 

「ーー!?」

「こんな事も出来る」

 

その岩は、砕いた輝とは別で俺の人差し指の分だけすっぽりと穴が開いていた。

 

「す、凄いです兄様!どうやったんですか!?」

「仕組みは簡単だよ。ただ岩を突く人差し指のみに能力を発動させただけ。ほら」

 

次々と岩に穴を開けていく。

 

「けどこれは口で言うのは簡単なようで実際は繊細で難しい作業だ。…ちなみにそこのアホもこれが出来るようになったのはついこの間だ」

「言うなよ!」

 

俺の言葉に即反応するイフ。

 

これはイフの雷にも同じことが言える。

 

常時雷を放出し続ける今までのイフの能力の使い方ではすぐにバテてしまっていた。

 

しかし、能力を欲しい時、欲しい量、欲しい場所にのみ発動させることで持続時間、強度をあげることに成功した。

 

ちなみな、茜の重力制御の能力も同じだ。

 

「ようは輝がいつも飲んでるジュースと同じさ。ペットボトルのジュースを一気に飲み干すのと少しずつ、飲みたい量だけコップに入れて飲むのとじゃ時間のかかり方が違うだろ?」

「なるほど!」

「まあいきなり俺と同じ様に一点のみの発動は無理だと思うから、まずは…これだ!」

「…ベンチプレスですか?」

「そう、その通り。よく知ってるな。けど、これは輝の能力を使ったときの力では持ち上げれない重さに設定してある」

 

とりあえず輝をベンチプレスに寝かせ、説明を続ける。

 

「これを少しでも動かせれる様になれば、第一段階クリアだ。試しにやってみな?」

「はい!ふんっ!!…だ、だめです…」

 

能力を使った輝でもびくりともしない。

 

「そりゃそうさ。いま欲しいのは腕と胸の筋肉。主に上半身だ。輝の能力は無意識に全身に平均的にまわるようになっている。けどいまは下半身への不要だ。上半身に意識を集中させな。それが出来れば今まで下半身に行っていた力も上半身に加えられて自然と力が増して、これも持ち上げられる。…さ、もう一度だ!」

「はい!兄様!」

 

その後、何度か挑戦するも、なかなかうまくいかず、少し休憩をする事にした。

 

「兄様はどうやって力のコントロールに成功したんですか?」

「俺?んーそうだなぁ、俺の場合はーー「やめてけ、四男坊」…なんだよ、イフ」

「こいつを参考にするだけ無駄だ。翔は感覚や気合い、精神論やってるようなもんだ」

「失礼だなぁ…まあそうだけど…」

「じゃ、じゃあ僕はどうしたら!?」

「ようはイメージだ。俺の場合、得意の弓と同じ感覚でやってる。自分の体そのものを的だと見立てて、雷は矢だ。射ちたい場所に矢を射ち込む、それを感覚にしている」

「なるほど!」

「へー」

 

イフはそういう感じでコントロールしてたんだ。

 

初耳。

 

でも普通、自分が矢、とかならわかるけど…的なんだ…。

 

まあイフらしいな。

 

「だからお前も自分の好きなもの、得意なものに自分を見立ててやってみればいい。まあようは思い込みだな」 

「…結局は精神論じゃねえか」

「…」

 

 

「ーーなぁ、それならイフが輝に教えてみたらどうだ?」

「なんで俺なんだよ…!?」

「ついこの間まで、同じことをしてたんだ。いまの説明を聞いててもちょうどいいんじゃないか?それに人に教えることによって得られるものもあると聞くぞ。…俺は生徒がダメダメすぎてなにも得られなかったけど…」

「教師の教えが悪かったんだよ!!」

 

俺の言葉に自分のことだと察したイフが反論してくる。

 

んなこと言われても、ねえ…?

 

「格闘技とか戦闘面は俺が教えるしさ」

「そもそも、俺じゃなくて。こいつがいいかどうかの話じゃーー「是非!お願いします!先生!!」…先生…」

 

無邪気な輝の言葉に少し考え込むイフ。

 

「先生か…良いだろう!けど俺もやるからには厳しくやるぞ?だが安心しろ!俺は最後までお前を見捨てない!なんたって“先生”!だからな!」

「はい!」

「それと返事をする時は、はい、先生!と言うように!それじゃあ休憩は終わりだ!再開するぞ!」

「はい、先生!」

 

そう言って、輝を引き連れていくイフ

 

「「単純だなぁ(ねぇ)」」

 

先生と言うこと称号がやけに気に入ったのであろう嬉しそうなイフを見てリヴァとハモる。

 

「それじゃあ、よろしく頼むわ“先生”」

「大きな怪我だけはさせちゃだめだよー“先生”」

「お前らからかってんだろ!?」

 

こうしてイフ先生による輝の修行が始まったーー

 

 

「まあ、なんだ…。さっきあぁは言ったが、あいつが気合いや感覚でなんでも出来るのはとんでもない集中力があってこそだ…。でなきゃ、自分のものでもない歴代達の能力をほいほいと使いこなせるわけない。ま、その集中力を身に付けれたのもあいつが並外れた努力を積み重ねてきた結果だーー」

 

 

「それにしても意外ねえ…」

「なにが?」

「イフくんがけっこう面倒見良かったんだなって」

「そうか?あいつは昔からあーだよ?口では悪く言うけど、いつも人を気遣っている。曽和さんが誘拐された時もそうだったけど、ほっとけないんだよあいつは。けど素直じゃないからいつも人知れず努力して弱音を見せないーー」

 

 

「「あいつは誰よりも努力してる凄い奴なんだ!」」

 

 

「…先生は兄様が大好きなんですね!僕も強くてカッコいい兄様が大好きです!」

「何聞いてたらそうなるんだよ!?まあ、そうだな…確かにカッコいいわな…。さ、無駄話はここまでだ、始めるぞ!」

「はい、先生!」

 

 

「ふふ、ほんと似た者通しだね2人は!」

「は?どこがだよ!?俺はあんな短気じゃねぇよ!」

 

 

こうして、1日が過ぎていったーー

 

 

帰り道ーー

 

「ーーうぅ、結局少しも動かせませんでした…」

「まあ、そんなにすぐに習得できるものでもないさ。少しずつ感覚をつかんでいけばいいよ」

 

輝と手を繋ぎながら今日の事を振り返っていた。

 

「でも、先生の言っていたイメージはもう少しで掴めそうな気がするんです!」

「的と矢ってやつか?」

「はい!やはりジャッカルを解放しなかったのが間違いでした!」

 

そう言って右手を抑え込む素振りをする輝。

 

ジャッカルとは輝の右手に宿る力の事で普段は危険だから封印しているのだ。

 

というのは、輝の設定で、力のコントロールが不安定な輝と母さんの約束で、普段は能力を使わないように約束をした結果、出来上がった子供ならではの設定だ。

 

あ、そうだった…

 

「それなら!輝、これは俺から誕生日プレゼントだ!」

「え!本当ですか!?ありがとうございます!」

 

そう言って輝に渡したのはオレンジ色の石の装飾がされた金色のブレスレットだ。

 

毎朝毎朝、必死に手の甲に封印の証をペンで書いてるからな、いい加減手も汚れるし、大変だろうからこの日のために用意したのだ。

 

「いいか、輝。このブレスレットにはな、そのジャッカルを抑え込む術式が施されている」

「なんと!?」

「だからもうその手の甲の封印は不要だ。このブレスレットをしている限りな!」

「本当ですか!兄様!ありがとうございます!」

「ああ、けどちゃんと風呂とか学校の体育の授業とか邪魔になる時は外すんだぞ?大丈夫、これは普段身に付けていれば少しの間外したとしても効果は持続される!兄ちゃんとの約束な?」

「わかりました!」

「うん、よろしい!」

 

そう言ってもう一度手を繋ぎ家へと向かう。

 

「兄様!僕考えたんですけど、右腕のジャッカルを解放するつもりでやれば右腕だけに能力が使えるかもしれませんね!」

「ほーう、なるほどな!今度試してみると良い!」

「はい!」

 

輝も自力で自分なりの答えを出したか。

 

案外いまの案はうまくいくかもな。

 

輝は鍛えれば強くなるだろうな…。

 

望む限りは鍛えるつもりだけど、その力が人に振るう機会がないように、俺達がこの国の平和を守っていかなきゃな…。

 

その小さな腕にしたブレスレットが抑える輝の力が解放される日がないことを願って改めて自分の意思を強くしたーー

 



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第64話【やっぱり兄弟】

ーー最近、遥と光の様子がおかしい。

 

最近と言うか先日のお泊まり会から帰ってきてから光の様子がおかしい。

 

こそこそと何かをしている。

 

まあ兄弟仲が良いのは大変よろしいことなので何も口出しをする気はないが…

 

 

「…お前ら、ほどほどにしとけよー」

「「ーー!?」」

 

朝、こそこそと2人で出掛けようとする光と遥を見つけ年を押しておく。

 

何故か光は能力で成長していたし。

 

何か問題を起こさなければ良いけどな…。

 

 

そう思いながらリビングへ入ると父さんがいた。

 

「あれ?父さん今日休み?」

「そうだぞー!国王だってたまには休みたい時もあるさ!」

 

はっはっはと笑う父を見て、あんたもほどほどになーと思いながらソファに座る茜の横に座る。

 

「何読んでんの?」

「アイドル雑誌だよ!」

「へーアイドルねえ…あ、この子最近よくテレビで見る子じゃん」

「さっちゃんだよ!」

「さっちゃん?」

 

どれどれ…米澤 紗千子(よねざわ さちこ)って言うのか…。

 

へーまだ中学生じゃないか。

 

岬と遥と変わらないのに頑張ってるんだなぁ。

 

わがままな光もいつかはこの子みたいに努力するってことを覚えてくれたらなぁ。

 

ま、甘やかしてるのは俺なんだけど…。←自覚あり。

 

 

案外その願いは早くやってくるもので、

 

昼を過ぎた頃、光と遥が2人の大人の男性を家へ連れてきたーー

 

ーーーーーーー

 

「ーー光様にはアイドルとしての天性の素質を感じ得ずにはいられません!!どうか!光様のアイドル活動にご賛同願えませんでしょうか!」

 

客間へ迎えられ国王を前に土下座をして懇願する松岡と社長。

 

それを腕を組み、怖い顔で話を聞く、国王 総一郎。

 

だが、

 

「うん、いいよ!」

 

存外あっけなく軽いのが総一郎なのだ。

 

 

「やったー!ねえ、しょうちゃん!私アイドルだよ!凄いでしょ!?」

 

そう言って扉の横の壁に腕を組んで寄りかかっていた翔の腕に抱きつく光。

 

同時に、松岡と社長に緊張が走る。

 

 

この国の者なら誰もが知っている。

 

父親である国王以上に、兄弟の事となると人一倍うるさく恐ろしい人間(あに)がいることを…。

 

 

「…松岡さん、でしたね…」

「は、はいぃ!」

 

ずっと黙り込んでいた翔が口を開き、名前を呼ばれた松岡は緊張で体を強ばらせる。

 

「話はわかりました…。光が自分の意思で掴んだチャンスですし、成長できる良い機会だと思います。…わがままで人の話を聞かないところもある光ですが、どうか妹の協力をよろしくお願いします」

 

そう言って頭を下げる翔。

 

「翔様!?い、いえ!こちらこそ!よろしくお願い致します!」

 

翔の言動に驚きつつも、深々と頭を下げ翔の気持ちに答えようとする松岡を見て、翔は満足そうに笑い、

 

「光。お前がやるのは仕事であって遊びじゃないんだぞ?やるからには半端は許されない。嫌だからって簡単には逃げることも出来ないぞ?」

「うん!わかってるよ!私頑張る!」

「ならば良し!光なら大丈夫!きっと上手くやれるよ。俺も出来る限りは力になるから」

 

光の頭を撫でる。

 

「そうだ、松岡さん。光がアイドルをやるにあたって1つ、俺から条件があるんですけどーー」

 

ーーーーーーー

 

「ーーわぁ光可愛い衣装着てる!」

 

数日後、テレビに映る中学生姿の光を兄弟みんなで見ていた。

 

「いいなー!」

「なら茜もアイドルするか?」

「や、やらなーい…」

 

修の言葉に自分には無理だと返事をする茜。

 

『桜庭らいとでーす!みんなよろしくぅ!!』

 

桜庭らいとと言うのは中学生姿の光の芸名と言うやつだ。

 

「桜庭ってお兄ちゃんが旅の途中によったお祭りで使った偽名じゃない」

「そうだよ!気に入ったから貰っちゃった!」

「それで翔兄さん、松岡さんにどんな条件だしたの?」

 

「ふ、よくぞ聞いてくれた遥!」

「よく聞いてくれたねハルくん!」

「なんで光まで自慢気なのよ…」

「俺が出した条件、それは…これだ!」

 

そう言って財布から1枚のカードを取りだし皆に見せる。

 

それは何かと言うと、

 

「桜庭らいとファンクラブ、会員No.1の会員証だ!」

 

アイドルになると言うことは当然ファンクラブも出来る。

 

俺は光が産まれた時から可愛がってきたんだぞ?

 

言わば、産まれながらのファンだ!

 

「だから俺が最初のファンと言うことで取り計らってもらったわけだ!」

「「「…」」」

 

瞬間、光以外の皆が冷めた目をして、視線をテレビに戻す。

 

なんだよ…なんだってんだよ!

 

 

「…どこかの双子とやることが一緒で、本当にやっぱり兄弟だなぁって思うよねぇ」

「「ーー!?…」」

 

葵の言葉に一瞬びくつきながらも心当たりのある2人は、知らぬ顔を通しながら静かにリビングを後にしたーー

 



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第65話【それぞれの想い】

大変長らくおまたせしました!

私事ながら最近色々立て込んでおりまして…




「ーーああ、それでしたら俺は大丈夫ですよ。適当に自分で時間を潰しますし。奏の相手をしてあげてください。たぶん楽しみにしてると思うので」

 

数日後に迫る修と奏の誕生日を前に、修とその事について話していた。

 

もちろん今回もいつも通り2人を連れて出掛けようと思っていたのだが、修に断られてしまった。

 

「…むしろ兄さんとの時間を邪魔したら後が怖いですし…」

 

そう言って遠い目をする修。

 

「うーん、そうか?なら奏と2人で出掛ける事にするよ」

「はい、そうしてあげてください!」

「でも、せっかくだしなぁ…」

「なら今度また別の日に飯でも連れてってください。俺はそれでいいですよ!」

「そうか?わかった!いいよ!」

 

こうして、当日は俺と奏の2人で出掛けることになったのだがーー

 

ーーーーーーー

 

誕生日当日、いつも通り何気ない朝だった。

 

リビングで光とテレビを見ている。

 

葵はキッチンで洗い物をしているが、他の皆はまだ起きてきていない。

 

光はこの後、午前中だけアイドルの仕事の為、早起きしている。

 

俺は奏の準備待ちだ。

 

その時に毎週恒例の時期国王選挙の世論調査の結果が流れた。

 

変わらず、俺も葵もトップ3に食い込んでいる。

 

 

「ーーそういえば、しょうちゃんって王様になる気ないんだよね?」

「ん?そうだな。まあ、ないかなー」

「なんで?」

「んーなんでってそりゃあ…俺なんかよりも相応しい子達がいるからなぁ」

 

そう言って光の頭を撫でる。

 

「えへへ!でも、たぶん皆しょうちゃんがなると思ってるよ?」

「そうは言われてもなぁ…。やっぱり俺には無理かなぁ…。そもそも俺にはそんな資格ないし…」

 

その時、リビングの扉が開かれ、

 

「…?奏?準備できたのか?」

 

黙ったままずっと下を向く奏が立っていた。

 

「…何よ王になる気ないって…資格がないってどういうことよ…!」

 

俯いたままの放たれた奏の言葉は震えていた。

 

「…奏…。年末にも言ったけどそのままの意味だよ。俺には国王になる資格はないよ…」

「どうして?」

「…それは…」

「なんで言えないの?」

「ーー!?」

「あ、私そろそろ時間だ!行かないと!お昼過ぎには帰るからーー」

 

有無を言わさず問い詰めてくる奏。

 

光もいたたまれなくなったのか、急ぎ足で出掛けていった。

 

「ま、まあ奏!いまからお出掛けするんでしょ?」

「姉さんは黙ってて!」

「国王には俺なんかより奏達がずっと相応しいんだよ…。ほら奏の場合は政治とか色んな勉強頑張ってるんだろ?」

「ーー!?…くせに…」

「え?」

「奏!?」

 

俺には聞き取れなかったが、葵には聞こえたらしく慌てて奏を止めようとするも、制止を無視して奏が怒鳴った。

 

「ずっと家に居なかったくせに!わかってるような事言わなーー」

「!?」

 

奏が言い切る前に葵が奏の頬をぶった。

 

「謝りなさい奏!あなた自分が何を言ったのかわかってるの!?」

「ーー!?…どうせまた姉さんだけ全部知ってるんでしょ!いつもいつも姉さんばっかり!」

 

そう言って奏は家を飛び出していった。

 

「…奏。…葵も、別にぶつ程の事でもなかったろ」

「…うん。でも翔君が悪く言われてると思ったら無意識に…。奏もわかってるはずなのに…。どうしよう私…」

 

我に帰り動揺する葵。

 

「俺達は家族だ。喧嘩もするし、すぐに仲直りできるよ」

 

そう言って葵の頭を撫でる。

 

とは、言ってもその喧嘩の原因が俺であってはよろしくない。

 

「…奏には全部話しとこうと思う。6年前なにがあったのか、俺がなんで王になる気がないのかを…」

「ーー!?」

「奏ももう子供じゃない。俺達が思ってるほど弱い子じゃないよ…。まあそれで嫌われたり怖がられたりしたらへこむけどな…」

 

ははっと笑いながらリビングから出て玄関へ向かうと、

 

「どうしたの?なんか荒れてたみたいだけど?」

「お兄様…喧嘩?」

 

騒ぎを聞き付けて不安そうな茜と涙目の栞が階段から降りてきた。

 

「心配しなくても大丈夫だよ。さ、2人とも今日は修と奏の誕生日だ!俺はいまから奏と出掛けてくるから準備頼むよ!」

 

そう言って2人の頭を撫でて誤魔化す。

 

「うん!任せて!栞行こ!」

「うん!いってらっしゃいお兄様!」

「ああ、いってきます!」

「翔ちゃん、かなちゃんの事よろしくね」

「…ああ、わかってるよ」

 

去り際に何か気づいていた茜にそっとそう言われ、家を出た。

 

 

ずっと家に居なかったくせに、か…。

 

奏の言葉は痛いほど心に刺さった。

 

確かに6年も家に居なかったんだ…俺の知らない皆がいても不思議じゃない。

 

連絡もとらず、それだけ長い間、俺は皆を見てあげれなかったんだ。

 

奏が怒る理由もわかるし、許してもらえる事でもない。

 

それに葵が手をあげて怒鳴るなんて珍しい。

 

その行為をさせてしまったのも、2人を喧嘩させてしまったのも、2人を泣かせてしまったのも、俺の弱さが招いた結果だ…。

 

情けない…。

 

そう思いながら奏を探しに跡を追ったーー

 

ーーーーーーーー

 

ーーやってしまった…。

 

 

家を飛び出した後、しばらく走った。

 

お兄ちゃんから、姉さんから、現実から逃げるように…。

 

そして、公園のベンチで1人後悔の念に駆られていた。

 

どうしてあんな事言ってしまったんだろう…。

 

思ったとしても口にしてはいけなかった。

 

姉さんが怒ったのも当然だ。

 

けど、それ以上に、

 

 

悔しかった

 

 

私が勉強してここまで努力してきたのは自分が王様になる為じゃない。

 

お兄ちゃんが王様になった時に支えれるように…。

 

ただそれだけ…。

 

ただ認めて欲しかった…。

 

 

「はあ…。よりによって誕生日なんかに、何してるんだろ私…」

 

ため息をつく。

 

その時、

 

「あら?奏様?」

「シヴァさん!」

 

シヴァさんと出会ったーー

 

 

「ーーなるほど。それでお1人でこの様なところに…」

「…はい」

 

何やら妹さんのリヴァさんとはぐれてしまいました偶然通り掛かったシヴァさんに事情を全て話した。

 

「私はお兄様の力になりたくて今まで努力してきたのに…。元々何でも出来るお兄様とお姉様には敵わないし、どうせ私の気持ちも理解してはもらえないんですよ…」

「…本当にそうでしょうか?」

「え?」

 

「残念ながらまだお会いしたことがないので葵様の事はわかりませんが、少なくともマスターはどちらかと言えば凡人ですよ。確かにマスターは強いですが私達王の剣のメンバーそれぞれ得意分野では私達の敵ではありません。しかし、それでもマスターは私達より強い。なぜだと思います?」

「…特殊能力があるから、ですか?」

「そうですね。確かにそれもありますけど、今は正解ではありません。マスターの強さたる所以は集中力にあります」

「集中力?」

 

「はい。マスターの集中力は最早常人の域ではありません。私がどれだけ高速で斬りかかろうと、ラムがどれだけ高速な突きをはなとうと、イフがどれだけ正確に矢を射ろうとマスターには当たりません。マスターの集中力で全て見切られてしまいます。マスターが何でもそつなくこなせるのはその集中力があってこそ。集中して取り組む事で物事のコツや本質を見極めているんですよ」

「そんなことって…!?」

 

言葉にすると簡単に思えるけど、

 

ただ人が集中すると言ってもたかが知れている。

 

まず今の話と同じ事など出来やしないだろう。

 

「でもそれだと余計凡人ではないんじゃ…」

「それが産まれ持った才能でしたらね…。マスターのあれは私達の想像もつかない程の努力の結果です。自分の人生をかけてまで努力して身につけたマスターだけの力。マスターがそこまでするのは国民や本来マスターを守る立場に私達まで、そしてなにより奏様達家族を守る為、ただそれだけなんですよ。相当な意思と覚悟がないとそこまで出来るものではありません」

「…お兄ちゃんが、そこまで…!?」

 

お兄ちゃんが私達の為に努力してきてくれていた事は知っていた。

 

けど、それがそんなにも凄いことだったなんて…。

 

わかった気になっていたのは私だった。

 

「シヴァさん、ありがとうございます。貴重なお話が聞けました」

「…いえ、お力になれたのならよかったです。奏様は、マスターの考えていることがわからないと仰っていましたが、ご一緒している私達もマスターのお考えは把握しかねますし、ましてや、双子の妹の考えていることですら全てわからないんですよ?」

 

ふふ、と笑うシヴァさんにつられて自分も笑みが溢れる。

「やっと笑顔になられましたね」

「え?」

「先日の警護任務の際にマスターが話してました。奏様は普段の作り笑いではなく、素の笑顔がとても魅力的で可愛いと」

「なっ!?あの人はほんとに…!//////」

 

よくもまぁ平気でそんな恥ずかしい事を…!

 

「それと怒った時の黒い笑みは恐ろしいから気をつけろと…」

 

はい死刑。

 

またO・H・A・N・A・S・I が必要なようね。

 

ふふふ。

 

 

それでも、お兄ちゃんが私や私達の事をそこまで思ってくれてたり、話したりしていてくれたのは嬉しかったな…。

 

だから今回は許してあげよう。

 

その時、

 

「ーーやっと見つけた!」

「え!?」

 

背後から声がして振り返るとそこには、

 

「お兄ちゃん!?」

「おう!迎えに来たぞ!」

「はじめまして奏ちゃん!私はリヴァ!お姉ちゃんがお世話になりました!」

「いなくなったのはあなたでしょ…」

 

お兄ちゃんとリヴァさんが立っていた。

 

 

「奏でが世話になったねシヴァ」

「いえ、少しお話をしていただですよ。では私達はこれでーー」

 

そう言って私達にお辞儀をしてリヴァさんを連れて立ち去ろうとするシヴァさん。

 

「シヴァさん!本当にありがとうございました!良ければ今度ゆっくりお茶しに行きませんか?」

「ええ、喜んで。楽しみにしておきますね」

 

「よかったな奏」

 

そう言って私の頭を撫でてくれるお兄ちゃん。

 

「うん!」

 

 

そして、お兄ちゃんは真剣な顔つきになり、

 

「…奏、話がある…」

「…うん」

 

それから全てを聞いた。

 

6年前何があったのか、お兄ちゃんが犯した罪をーー

 

「ーー俺は人を殺した。理由はどうあれその事実は変わらない。それが俺に資格がないという理由。そして、俺に王になる気がないのは、王になると守られる立場になってしまうから。王は何があっても最後まで国を導かなくちゃならない。けど俺はそんな王や国民や奏、家族を守りたいんだよ。だからその為には国王は狭すぎる」

 

全てを知った私は、許せなかった…。

 

お兄ちゃんや姉さん、修ちゃんまでも私達兄弟に黙っていた。

 

その事が許せないんじゃない。

 

そんなツラい事実も何も知らずに、1人ムキになったあげく、お兄ちゃんに酷いことを言った自分に無性に腹がたった。

 

 

「ごめんな、奏。いままで黙ってて…」

「ううん。私の方こそごめんなさい。あんな酷いこと言っちゃって…」

「いいよ、事実だし…」

「じゃあどうしてそんな不安そうな顔してるの?」

「いや、俺が人殺しだと知って嫌われたり怖がられたりするんじゃないかと…」

 

そう言って気まずそうに頬をかくお兄ちゃん。

 

はぁ…何を言い出すかと思えば…。

 

「そんなわけないでしょ!私達は家族よ!何があっても家族の味方!それをいつも体現してるのはお兄ちゃんでしょ?」

「そうだけど…」

「だったら何も気にしなくていいの!そりゃ驚きはしたけど、お兄ちゃんはお兄ちゃんでしょ?それは変わらないわ!お兄ちゃんが王様になりたくないのはわかったわ。なら私が王様になってお兄ちゃんをこき使ってやるんだから!」

「ははっ、程々に頼むよ」

 

「まあ?お兄ちゃんは修ちゃんを王様にしたいんでしょうけど?」

「え!?なんでそれを…!?」

「だって年末のゲームでポイント譲渡してたでしょ?あれは最下位への情けだけじゃないんでしょ?」

「そ、それは…」

「まあいいわ。理由は聞かない。…けど私は負けるつもりはないわよ!姉さんにも修ちゃんにも!私が王様になったらなったでやりたい事がないわけじゃなかったの!これで迷いなく国王選挙に挑めるわ!」

「そうか。一応言っておくけど、俺は皆の味方だよ。だから頑張れ!」

「ええ!…けど1つだけ約束して。王様じゃなく私達を守る立場になろうとしてくれているのはわかったけど、自分1人を犠牲にしてまたどこかへ行くような真似は絶対にしないで…。もうあんな思いはしたくないの…。だからお願い。せめて一言、相談だけでもーー」

「ーーわかったよ。ごめんな奏。色々心配かけたね」

 

私の言葉を遮りつつ、お兄ちゃんは私を抱きしめ私の頭を撫でた。

 

「…うぅ、ばかぁぁあ!」

 

いままで抑えていた感情が一気に解けた気がした…。

 

 

ーーーーーー

 

「ーーそういえば、お兄ちゃんありがとう!」

 

あれからしばらくして、泣きやんだ奏と一緒に当初の目的通り街に繰り出すことにした。

 

「え?なにが?」

「さっき、私を探しに来てくれたんでしょ?」

「あー。当たり前だ!大切な妹をほおっておけるか!」

「ふふっ、そっか!そういう所、大好きだよお兄ちゃん!」

 

珍しく外で甘えて腕を組んでくる奏。

 

「もちろん人が来たら離しますよお兄様!」

 

抜け目のない子だ。

 

けど、そこが可愛くもあるんだよなーー

 




次回は待ちに待った奏とお出かけ回です!


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第66話【秘密だよ】

大変お待たせしました!!
待ちに待った奏回です ! !

多くの誤字報告を受けております!
ありがとうございます!
そしてそのせいで読み難くなっていて申し訳ないです!

他にもそういった箇所がありましたらよろしくお願いします!



「ーーそれでお兄様!今日はどこへ連れてってくれるんです?」

「え?奏の行きたいところ行こうと思ってたんだけど…」

 

電車に揺られながら奏と街を目指す。

 

「はぁ…もう!こういうのは男性がエスコートするものですよ!」

「いや。だって奏の誕生日だしーー」

「それなら尚更です!誘った男性がエスコートしてくれないでどうするんですか!」

「う、そう言われると耳が痛いな…」

「まあそんな事だろうと思って今日は行きたいところ絞ってきてあります!今度からは気をつけてくださいね?」

「…善処いたします」

 

 

それから奏の提案でとりあえずランチをすることにした。

 

午前は色々あって潰れてしまったからな…。

 

本当に申し訳ない事をした…。

 

 

「ーーはい!お兄様!あーん!」

 

そう言ってデザートのパフェを1口俺に差し出して来る奏。

 

「ほんと今日はご機嫌だな。外でこんな大胆に絡んでくるなんて…」

 

と、言いつつもちゃっかり貰う俺だが。

 

 

甘い物に目がない俺だぞ?

 

ましてや、こんな超絶美女のマイシスター奏ちゃんの差し出すスイーツだぞ?

 

食べないわけないだろ!ぼけ!

 

 

「ふふ、こう言った兄妹仲の良い姿も大切ですよ!(それに定期的にこうやって見せつけておかないとお兄ちゃんに近づく邪魔者が増えちゃうもの…!)」

「そ、そうか…!」

 

笑顔でそう言う奏だが、何か裏に黒い気配を感じたのはなぜだろうか…。

 

 

 

「見てくださいお兄様!可愛いですよ!」

 

ガラス越しの猫を見て興奮する奏。

 

 

次に来たのはペットショップだ。

 

奏は普段は隠しているが可愛いものが大好きだからな。

 

こう言った類は特にな。

 

 

確かに可愛い。

だが…

 

「あ、でも…」

 

「「うちのボルシチの方が可愛いな(わね)」」

 

奏とハモり、2人で笑い合う。

 

俺も大概だけど、奏も過保護、親バカの気質あり。

 

我が子が一番?当たり前だ!

 

 

それから俺達は服、本、小物など色々な店を回り買い物をして、帰路についた。

 

 

季節ながら5時過ぎだと言うのに辺りはもう真っ暗だ。

 

「ごめんなさいお兄様。荷物持ちになってもらって」

「いいよ別に。奏の誕生日だし。こういうのは男が持つものだろ?少しはカッコつけさせてくれ」

 

お金も全部自分で払ってるし、さすが大金持ちだ。

 

「あ、そう?まあそうですよね!ありがとうございます!かっこいいですよねお兄様!」

 

と、俺の言葉に凄い笑顔でそう言ってくる奏。

 

 

これは完全に確信犯だな。

 

少しでも自分の罪悪感などを減らす為にわざと言わされた!

 

かなちゃん、恐ろしい子!

 

「…え?なにか…?」

「イエ、何モゴザイマセン」

 

 

「あ、そうだ奏。最後に行きたいとこがあるんだけどーー」

 

ーーーーーーー

 

そう言ったお兄ちゃんに連れられて来たのはーー

 

 

ホ、ホホホ、ホテル街//////

 

そ、そんな!?

 

私達血の繋がった兄妹なのよ!?

 

でもお兄ちゃんになら…//////

 

待って!けどまだ心の準備が…!!

 

 

けど、そんな私の心の焦りなど関係もないと言った感じに、

 

「奏?顔赤いぞ?この通り抜けたら直ぐそこなんだけど、体調悪いなら帰るか?」

「…ア、イエ。大丈夫デース」

 

本当、この人は…。

 

いつもこれでもかと言う程、周りには気を配ってるくせに

 

こういうとこに限って無神経なんだから。

 

わざとなのかしら?

 

ならお仕置きが必要ね…フフ。

 

「!?(なんだ?急に寒気が…!?)」

 

 

それからホテル街を抜け、どんどんと路地裏へと入っていく。

 

 

こんなまったく人気のない所になりがあるのかしら?

 

まさか!?

 

そんな…私、初めてなのにこんな所で…!

 

 

それすらも無視して歩き続けるお兄ちゃん。

 

そして、しばらく歩くと、大きな壁の突き当りに出た。

 

「えっと、お兄ちゃん?ここは…?」

 

喋り方も戻せるほど全くと人気がない。

 

「よし、奏少し目を閉じててくれ」

「…え?」

 

ま、まさか本当にここで…!?//////

 

「いいから!」

「は、はい!」

 

言われた通りに目を閉じる。

 

すると、すぐに肩に手が触れられるのがわかった。

 

 

これから起こり得る事に正直若干の期待を抱きながら、思わず身体に力が入る。

 

 

しかし、そんな想いとは裏腹に、

 

「よっと!」

「え?ひゃあ!?」

 

お兄ちゃんは私を抱き上げた。

 

思わず目を開けてしまい、改めて今の状況を確認する。

 

お兄ちゃんにお姫様抱っこされた私。

 

お兄ちゃんの手には籠手が嵌められていた。

 

 

これは確か、闘王の…。

 

 

高ぶっていた感情が一気に冷めたのがわかった。

 

…ちょっと待って。

 

闘王の能力を使わないと持ち上げれない程私が重いとでも言いたいのかしら?

 

「おいおい、目を開けるなよ…ってあれ?なんか怒ってない!?」

「イヤースイマセンネ。怪力超人使ワナイト持チ上ガラナクテ」

「え?…あ!?そんなことないぞ!決してそういう訳じゃなくてだな!」

 

慌てて弁解しようとするお兄ちゃん。

 

「えーい、もう!しっかり掴まってろよ!」

 

そう言って地面を蹴り横の建物の壁にジャンプするお兄ちゃん。

 

そして、建物の壁を蹴り、反対側の建物の壁へとワープして壁を蹴る。

 

それを繰り返しながらどんどんと上へと登っていく。

 

 

「この闘王の籠手は投げれない分、ある程度の距離ならノーモーションでワープ出来るからな、人を抱えたまま飛ぶならこれかなって思っただけだよ」

 

そう言って、修みたく一気に上に行けたらいいんだけどね…と、苦笑いをするお兄ちゃん。

 

なるほど、そう言う事だったのね。

 

「けど、この上に一体何が…?」

「行けばわかるよ。…。さ、着くぞ!」

 

そう言って壁の上に出た瞬間ーー

 

「ーー!?…綺麗…」

 

目の前には視界いっぱいに広がる夜景。

 

街全体を見渡せるほどの場所で見る街の灯は、これまでに見た事がないほど綺麗な景色だった。

 

私達の暮らすこの街はこれ程までに綺麗な場所だったなんて…。

 

「まったく…奏なんか簡単に持てるっての…」

 

そう言って闘王の籠手を戻すお兄ちゃん。

 

「奏“なんか”ね…」

「え、いや。その今のは言葉のあやでーー」

「ふふ、冗談よ!」

 

普段は冷静なお兄ちゃんが慌てる姿は特に可愛くて好きよ。

 

「はぁ…程々にしてくれ?兄ちゃん心が持たねーよ」

 

ため息をついて苦笑いで私を下ろす。

 

「はぁい!善処します!!」

「…たっく…」

 

 

「綺麗だろ?ここ、この街全体を見たくて探してたらここを見つけたんだ」

「なんで街全体なんて見たかったの?」

「んー?俺はこの生まれ育った街が、建物が、人が、全部が好きだからかな。それに…」

 

そこで区切り、お兄ちゃんは私の頭を撫でながら、

 

「全部が見えるここからなら、奏が、皆が、どこかで泣いていてもすぐに気付いて駆けつけてあげれるだろ?」

 

そう微笑んだ。

 

「ーー//////」

 

一気に自分の顔が熱くなるのを感じた。

 

お兄ちゃんはたまに平気で恥ずかしい事を言ってくる。

 

思わず顔を逸らして俯き、考える。

 

 

この人は、本当に、どこまでも私の想像より遥か遠くにいる。

 

私はお兄ちゃんの背中だけを追いかけて努力してきた。

 

けど、お兄ちゃんは私なんかには目もくれずこの国を見ていた。

 

いままで私は人の為にと言って色々な活動をしてきた。

 

けどそれは結局は自分の為。

 

少しでもお兄ちゃんに近づく為に無意識でお兄ちゃんの真似事をしてきていたにすぎない。

 

自分でもそれは気づいていた。

 

いくら追いかけても追いつかないわけだ。

 

お兄ちゃんと私とは見ている世界が違うのだから…。

 

自分の為に努力する私と、人の為に努力するお兄ちゃんとじゃ、目指す場所も覚悟も違うのだから。

 

お兄ちゃんは国民と私達家族となら迷わず私達を優先してくれるだろう…。

 

けどそれはただ家族だからに過ぎない。

 

そうじゃなく、家族だからじゃなく、私は…

 

ただーー

 

ーーーーーーー

 

「…認めて欲しかった。…ちゃんと見ていて欲しかった」

 

俯いた奏が僅かに震える。

 

「…奏」

 

奏は今まで独りで溜め込んでいたんだ。

 

今日だけでそれを痛感した。

 

妹1人ちゃんと見てやれないくせに、何が国を、家族を守るだよな…。

 

「ごめんな奏。独りでツラかったよな…」

 

そう言って奏を抱きしめる。

 

「もう独りにはしないよ。これからはちゃんと俺が奏を見てる」

「…ほんとに…?」

「ああ!本当だ!」

「ふふ、約束だからね!」

 

そう笑って抱きしめ返してくる奏。

 

今日は本当に甘えてくる日だな。

 

なんだか、昔に戻ったみたいです嬉しく感じた。

 

 

ちなみに

 

涙目、上目遣い、奏。

 

という可愛いの3大元素で俺の理性が爆死しかけたのは言うまでもない。

 

 

あれから泣きつかれて眠ってしまった奏を抱き抱えて、家へとその場を後にした。

 

 

その日の夜、街の人々は妹を抱き抱え、建物の上を飛び交う兄とその兄に抱かれ幸せそうに眠る妹の2人の笑顔を目の当たりにしたとかしていないとかーー

 

 

 

家の付近まで来たところで目を覚ました奏と2人で並んで歩く。

 

「もう!目が覚めるなりびっくりさせないでよ!」

「す、すいません…」

「いくら能力があるからって当たり前かのように建物の上を飛んで移動しないでください!…まさか、普段からこんな事してるんじゃないですよね?」

 

能力の乱用について怒られながら。

 

 

ちなみに建物の上の為、カメラに映っていない為、毎週のテレビに放送されていないだけで、街の人々の中では建物の上を飛び回る翔の姿は既に名物化していたりする。

 

 

「そ、そうだ奏!これ!誕生日プレゼント!!」

 

話題を変える為、慌てて奏のプレゼントを取り出す。

 

腕時計と、黒い百合が装飾されたイヤリングだ。

 

「奏は葵や岬と違って髪も長くはないからさ。俺なりに選んでみたんだけど…どうかな?」

「ーー!?ありがとう!!すっごく嬉しいよ!大切に使うね!」

 

そう言って渡したプレゼントを嬉しそうに抱きしめる奏。

 

よかった、喜んでもらえたみたいで。

 

 

そんなやり取りをしている内に家が見えてきた。

 

ん?あれは…

 

「ーー奏!」

「ね、姉さん!?」

 

家の前で俺達の帰りを待っていた葵が駆け寄って来るなり奏に抱きついた。

 

どうやら先ほどもうすぐ着くと連絡してから待ってくれていたようだ。

 

「ごめんね奏。お姉ちゃん、奏に酷いことしちゃった 」

 

泣きながら奏に謝る葵。

 

朝の出来事を気に止んでいたんだ。

 

「ううん。私の方こそ何も知らずに…ごめんなさい」

「そっか…聞いたんだね」

「うん。だから…その…あ、ありがとう」

「え?」

「だ、だから!私達に心配かけさせないように気を使って黙ってくれたんでしょ?だからよ!」

「ーー!?奏。お姉ちゃん嬉しいよ!そうだ!誕生日おめでとう!産まれてきてくれてありがとう奏!!」

「う、うるさい!そんな恥ずかしい事普通に言わないで!」

 

そう言ってさらに奏抱きつく葵と照れながら葵を引き剥がそうとする奏。

 

そんな2人を見て改めてこの笑顔を守りたいと思った。

 

これで一見落着かな?

 

2人の頭を撫でて3人で笑った。

 

「さ!奏!皆待ってるよ!早く入ろ!」

 

そう言って先に家へと入っていく葵に続いて俺も入ろうとすると、

 

「お兄ちゃんも、その、今日はありがとう。楽しかったわ」

 

俺の服の袖を掴んでもじもじとそう言う奏に引き止められる。

 

 

か、可愛い!!

 

そうか!

 

これが俗に言うツンデレのデレか!?

 

今日1日中感じていた可愛さはこれか!

 

ギャップ萌えと言うやつだな!!

 

 

そんな事を心の中で考えながら、奏の頭を撫でる。

 

「あ、そうだ奏。あの場所だけど、まだ誰にも教えてないんだ」

「そうなの?」

「だからあこは俺達2人だけの秘密な?」

「ーー!?2人…秘密…いい!」

「えっと、奏ちゃん?」

 

急に1人でボソボソと興奮しだす奏。

 

たまにこういうとあるから少し不安を覚える。

 

「なんでもないわ!なら約束ね!今度また連れてってよね?」

「ん?ああ、約束だ!」

「ふふ!絶対だからね!」

「ああ!んじゃ早く入ろうか、もう寒くて寒くて…」

 

と、入ろとした瞬間、

 

ちゅ

 

頬に柔らかい感触がした。

 

「秘密なんだからね!」

 

そして俺のすぐ真横にある奏の顔は赤く、しかし意地悪そうに笑顔でそう告げて、足早と家の中へと入っていった。

 

いまのって…

 

確認するようにそっと自分の頬に手を触れる。

 

「…あついーー」

 

そう見上げた空からは雪が降ってきていたーー

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?

奏や翔それぞれの葛藤。
そして最後の…むふふ(笑)

感想などありましたら!
是日是非お聞かせください!


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第67話【ボルシチ】

大変お待たせしました!

先日さ、続き書こ!とした矢先、2年ほどぶりに高熱だして寝込んでしまいビビリましたww

今回先日購入したiPadで書いて見たので誤字脱字があるかもしれませんので、ありましたらよろしくお願いします。

今回はボルシチ回なので原作知ってる方々はわかると思いますが話の場面は飛び飛びになります。


ある日の朝ーー

 

「ねぇボルってよくビニールかじるけどあれの何がいいか通訳してもらえない?」

 

リビングに入ると茜が栞にそんなことを頼んでいた。

 

「お、何かおもしろそうだな。俺もまぜてくれ」

 

俺も冷蔵庫からお取り出したお茶をコップに注ぎながらその輪に混ざる。

 

そして栞の能力の物体会話でボルシチとの通訳が始まる。

 

「…放浪のみであった私を迎え入れてくれた事には感謝している。しかし、王族の食事がどれ程のものかと楽しみにしていたがとんだきたいはずれだった」

 

お茶を飲みつつ、なんだこのクソ生意気な猫は、と思いながら栞の通訳の続きを聞く。

 

「それに比べビニールの歯ごたえには快感すら覚える。論理的に言えばここの食事はビニールにすら劣るーー」

「ブフゥッ!!」

「わかった栞。もうやめて」

 

思わず飲んでいたお茶を吹き出し、同時に茜の制止が入る。

 

「「栞になんてこと言わすんだ…」」

 

なんて性格の歪んだ猫だこいつはーーー

 

 

そしてまた別の日ーー

 

「こいつービニール噛んじゃダメだろー」

 

こたつに入りながらボルシチをワシャワシャと撫でる岬。

 

「よくそんな風に可愛がれるわね」

 

ソファに座り雑誌を見ていた奏が鼻で笑う。

 

ちなみに俺はダイニングテーブルの方の椅子に腰掛けてカメラの手入れをしている。

 

「またまた、そんなこと言ってー」

「そいつの性格どうも好きになれないわ」

 

奏の言う事には同意見だ。

 

確かにあの捻くれた性格には目に余るものがある。

 

しかし俺は知っているよ奏。

 

君が一番ボルシチを可愛がっていることを!

 

隠しているつもりでも、奏は可愛いものが大好きだからな。

 

「…ほれ」

 

瞬間、岬がボルシチを軽く放り投げた。

 

と同時に奏がボルシチを滑り込みでキャッチ。

 

「体は正直だね。猫なら平気だってー」

「そりゃ動くわ!」

 

かく言う俺も性格はあれだがボルシチを嫌いではない。

 

むしろその捻くれさも含めて可愛がっているし家族として受け入れている。

 

にしても、いまはそれよりも、

 

「おいおいまじかよ!?撮り損ねた!すまんもう一度頼む!」

「するか!」

 

 

翌日、リビングにてーー

 

奏とボルシチが2人きりなのを確認した俺は、急いでカメラを取りに行き気づかれないよう扉越しにカメラを構えた。

 

 

こたつで雑誌を見る奏とその後ろでビニールを噛むボルシチ。

 

しばらくの沈黙の後、

 

「もぉーまたそんなのかじって」

 

キタァ!

 

一気にゆるい顔になった奏がボルシチを撫で回す。

 

ふ、俺はこの時を待っていた!!

 

迷わずシャッターを切りまくる。

 

盗撮?

 

ノンノン!家族だからセーフだ。

 

仮にアウトだとしても、普段あんな可愛い一面を隠している奏が悪い!

 

 

と、そんなことをしていると、

 

「兄様?何をされてるんです?」

「ん?あぁ輝か。なんでもないよ。入るのか?兄ちゃん用事ができたからどうぞ。俺がここにいたことは内緒な」

 

そう言って輝の頭を撫でて2階の自室へと向かう。

 

早いとこパソコンにデータ移しとかないとな!

 

その後すぐ、リビングで気まづい雰囲気が流れたらしいが俺は知らないーー

 

 

その日の夕方ーー

 

「ボルがそうやって茜以外の上で寝てるとこあまり見ないな」

 

リビングで横になる茜の上で眠るボルを見て修がそう言った。

 

「いつもご飯あげてるの私だもんね」

 

懐いて当然と、言う茜だが…。

 

近くにいる栞がなんとも言えなさそうな顔をしているから、おそらく違う理由があるんだろうな。

 

「大方、なだらかさ加減がいいんだろう」

「ぐっ」

 

修に痛いところをつかれ悲鳴をあげる茜。

 

薄々気づいてはいたんだな…。

 

 

「それなら私もなかなかだよー」

 

そう言って茜の横に寝転がる光。

 

高校生が小学生と張り合ってもなー。

 

と思っていたが、

 

「…こない」

「茜の方がなだらかだと判断したらしい」

 

1度光を見たが構わず寝続けることにしたボルシチ。

 

「!?いずれその時が来ることはわかってたけど、早すぎる!」

「なに?」

 

そう言ってボルシチを下ろし、勢い良く光に向き合う茜。

 

「これが成長期というやつか!?」

「やめてください」

 

そして光の胸を揉みだした。

 

確かに光が将来、素晴らしい成長を遂げるのは、光の能力で把握済みだが、

 

「…あほ」

「う」

 

光の胸を揉みしだく茜の頭にチョップを入れ止める。

 

「茜がそんな事しなくても、どれ兄ちゃんが確かめてやーー」

 

そう言いながら光と茜の胸に手を伸ばした一瞬の出来事だった…。

 

「きゃあ!?」

「な、何っ!?」

「翔兄さん!?何してんの!?」

 

気がつけば、壁に突き刺さり、廊下に飛び出た上半身だけで買い物から帰宅した葵、岬、遥を出迎える形となっていた。

 

その後、2階から降りてきた輝の能力で回収され、介抱してくれた光と栞に話を聞くと、

 

まるで重力を感じない速度で宙を舞い壁に突き刺さったとか。

 

俺に続こうとしていた修なんかビビってどっかに飛びやがったらしい。

 

あのヘタレ次男め!兄を見捨てて真っ先に逃げやがったな!?

 

 

その後、茜の機嫌をとるために、茜の好物の店のマカロンを買いに行かされたのは余談。

 

勿論、戻ってきた修の能力で一瞬でした。

 

 

買い物から戻ると茜と光は風呂に入っていて、葵がボルシチ相手に能力を使ったのか、弄ばれている所に遭遇。

 

その場にいた、岬や修は何をしているのか?といった感じだったけど、唯一事情知る俺は大爆笑していたが、

 

「翔君、もう一つ壁に穴でも開ける?」

「…いえ、大丈夫です」

 

葵の笑顔に一瞬で黙らされました。

 

 

「そういえばこの子の名前って誰がつけたんだっけ?」

 

風呂から上がった茜がボルシチをブラッシングしながらふとそう言った。

 

「いつの間にか馴染んでたけど今思うとすごいセンスだね」

 

岬のその言葉に、ソファで俺の横に座っていた奏が自信満々のドヤ顔で

 

「ふ、それはねーー「今更だがひどいセンスだな。普通ペットにつける名前じゃないぞ」…」

「もう慣れた。センスは疑うけど…」

 

名乗り出ようとしたところ修と岬の言葉に思い止まっていた。

 

だから俺は奏の肩に手を置き、

 

俺にはわかる!良いと思うよ!

 

という意味を込めて親指をグッとしたまではいいのだが…

 

 

「「…」」

「やぁ母さん、おかえり」

「…何してるの翔」

 

またもや一瞬の出来事、突如硬い物体を生成した奏によって、先程仮補強した壁の穴にもう一度突き刺さった。

 

「なんでも良いけど、ちゃんと直しておいてね」

「…はい」

 

我が母ながら、全く動じないなこの人。

 

そして…

 

ふ、2度目だけあって全くもって無関心な兄弟達。

 

大したものだ。

 

感心感心。

 

 

なんだろ目から汗が…。

 

 

「お兄様大丈夫?」

「良いのよね栞。あぁいうのは放っておいても」

 

唯一心配してくれた栞を抱きかかえる奏。

 

ちなみにもう1人心配してくれそうな輝は遥と風呂に入っている。

 

 

「葵ちゃん今日の夕飯なにー?」

 

最愛の妹光は兄より夕飯だし、

 

「今夜はボルシチだよー!翔君、いつまでも遊んでないで、夕飯作るの手伝ってくれる約束でしょ?」

「…」

 

半身に至ってはこの人使いだ。

 

恐るべし我が家の女性陣。

 

「はいはい。いま行きますよー」

 

そう言って壁から抜け出しキッチンへと向かう。

 

「はいは1回!」

「はーい」

 

葵に怒られながら、能力で包丁を呼び寄せる。

 

マイ包丁というやつだ。

 

俺が武器と認識すれば何でもありなのだよ。

 

ま、刃物だしな。

 

 

しかし、俺の行動を見たボルシチが凄い勢いで逃げてった気がしたけど、何かあったんだろうか?

 

 

 




久しぶりに書いてみると今まで自分がどの様に書いていたのか感覚が鈍ってしまいました。

今回読みにくい形となってしまっているかもしれません申し訳ありません。

次回からは今までの形でなるべく早く更新していければと思っております。


余談ですが、

翔のネーミングセンスと奏のネーミングセンスは似ています。
さすが兄妹ですねww


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【お知らせ】

ご無沙汰しております。


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ご無沙汰しております。

 

【城下町のダンデライオン〜王の剣〜】の作者

空音スチーマー。です。

 

 

まずはじめに

 

長い間何も言わず休載していた事深くお詫び申し上げます。

 

言い訳はしません!

ネタが浮かばなかった、めんどくさかったが理由です

 

しかし、私事ではありますが

先日とうとう念願のパソコンを手に入れました!!

 

いままでiPhoneでフリック入力で投稿していたのですが

これで少しは楽になりました!!

 

ということで!!

 

この度、また、投稿を再開しようと思います!

 

書きたいネタはたくさんありますので、あとは形にするだけです!

 

長い間待ってくれていた皆様

これから新しく読んでいただける皆様に改めて楽しんでいただけるよう、精進いたしますのでこれからもよろしくお願いします!!

 

まずはGW中に2本!!

投稿する予定ですので読んでいただけたら幸いです!!

 

以上

 

作者、空音スチーマー。でした!

 

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【追伸】

 

下に無数に続く謎のーーーは気にしないでください

ただの文字数稼ぎです(笑)

 

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第68話【憧れ】

大変長い間お待たせしました!
城下町のダンデライオン~王の剣~投稿再開です!!

長い間お待たせし、本当に申し訳ありませんでした!

ずいぶんと久しぶりな投稿ということもあり、文章の書き方の変化や、
平成が終わるまでに一本投稿!という思いでけっこう急ぎ足になってしまったため
読みぐるしい点もあるかと思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。

けどこの文章打ってるうちに日付変わってしまっていましたww
ですので、令和いっぱつめということで改めてこれからよろしくお願いします!!


再開一発目は茜の誕生日回です!どうぞ!!



とある日の朝ーーー

 

「おーい、おいてくぞー!!」

 

玄関で靴を履きながら二階の自室にいるであろう人物に呼びかける。

 

 

「ま、待ってよ翔ちゃん!一人じゃいけないよぉ!」

 

 

慌てて上着を羽織りながら、ふわふわと能力を使い二階から降りてくる人物ーー

 

「遅かったな。なにしてたんだ?茜」

 

二つ下の三人目の妹、茜。

 

「だ、だって中々服が決まらなくいて!」

「別にいつも通りでいいだろ?」

「だめだよ!せっかく翔ちゃんが誘ってくれたんだから!」

 

そう言って玄関の姿見で改めて服装と髪型を正す茜。

 

「その髪どうしたんだ?」

 

普段のおさげではなく、三つ編のアレンジがかかった茜の髪型に目をやる。

 

「これね、翔ちゃんとお出かけするからお姉ちゃんにしてもらったの!」

「そうなのか?よく似合ってる!可愛いよ!」

「えへへ、そうかな?」

 

嬉しそうに髪をいじる茜の頭を撫でる。

 

「それじゃあ行こうか!」

「うん!」

 

 

なにを隠そう今日は茜の誕生日なのだ。

 

例のごとく、主役を外に連れ出す役を買って出たまでは良かったんだけどーー

 

「…あの…茜さん?」

「な、なに!?」

「歩きづらいんだけど…」

「だ、だってカメラがぁ」

 

俺の腕に引っつく、挙動不審な妹を見てため息をつく。

 

せっかくの誕生日だってのに、これじゃあかえってストレスを与える事になってしまったか?

 

「そうは言っても茜、こればっかりはいい加減なれないとだな…」

「わ、わかってるよ!今年から翔ちゃんもお姉ちゃんもいないんだもん!ちゃんと一人でもやっていけるようにならなきゃ!」

 

そう言いつつも俺の腕を掴む腕を離す気はない茜。

 

 

俺と葵は先日高校を卒業した。

 

そのため、茜は今年から一人で登校しなくてはならない。

 

まぁ、今年いっぱいは修か奏が一緒に登校してあげればいい話なのだろうが、あの厳しくも妹思いの奏の事だ、茜の今後のためにもそれを許してはくれないだろうな。

 

まぁ

 

修なら喜んで引き受けてくれるだろうけど…

 

逆に茜本人に断られている哀れな弟が容易に想像できてしまい、苦笑いを浮かべる。

 

 

「そうだな、けどまぁ、少しずつ茜のペースでやっていけばいいさ」

「…うん」

 

そう返事をしつつもまだどこか不安そうな表情の茜の頭を撫で、

 

「とりあえずだ!今日はせっかく可愛くおめかししてきたんだから楽しもう!な?」

「うん!そうだね!」

 

こうして少しは元気を取り戻してくれた茜を連れて街へと繰り出すーー

 

 

ーーまでは良かったんだけど…

 

 

「ひぃ!!」

 

 

行く先々で、

 

 

「ご、ごめんなさいぃぃ!」

 

 

人目を気にして、

 

 

「見ないでぇ…」

 

 

パニックを起こす茜。

 

しまいには、

 

「いやぁぁぁぁぁあ!!」

「ちょ!?おい茜!!」

 

どこか遠くへ走り去ってしまう始末ーー

 

 

「ーーったくあいつどどこ行った?」

 

急いで追いかけてはみたものの、能力を使い重力を無視して走り抜ける茜に到底追いつけるわけもなく、完全に見失ってしまった。

 

とりあえず茜の携帯に電話をかけてみるが、

 

~♪~♪~

 

 

なぜか俺の上着のポケットから流れ出す茜の携帯の着メロに、黙って発信を切る。

 

なんで俺のポケットに入ってるんだよ!?

 

腕を掴んでいた拍子に紛れ込んだのだろうか?

 

しかし、いまそんな事はどうでもいい、

 

「…まいったなーー」

 

 

ーーーーーーー

 

 

「ーーうぅ…どうしよう…」

 

周囲から感じる視線の恥ずかしさのあまり駆け出して、気が付けば一人になってしまていた。

 

「…携帯もどこかになくしちゃったし…翔ちゃぁん」

 

一人こそこそと不安になりながら歩き、さっきまで一緒にいたはずの兄の名前を呼ぶ。

 

それにしても、翔ちゃんは本当に凄いなぁ…。

 

6年間旅をしていて、去年までこの王都にいなかったはずなに、もう国民のみんなに受け入れられて、すごい人気だ。

 

今日一緒にいて、行く先々で声を掛けられている兄の姿を見て改めてそう感じた。

 

まぁ、そのおかげで一緒に注目を浴びて、いまこうして一人途方に暮れているはめにもなったんだけど…。

 

 

「…うぅ…」

 

不安のあまり、いまにも泣き出しそうになる。

 

そんな時ーー

 

「ーーきゃあ!?じ、地震!?」

 

けっこうな揺れの地震が起き、咄嗟に歩道の柵に掴まる。

 

「おさまった?み、みんなは?!」

 

暫くして地震がおさまったり、慌てて周囲の皆の安全を確認する。

 

どうやら怪我人はいなさそう。

 

良かったー!

 

ほっと胸をなでおろしていると、

 

 

「おい!あれ見ろ!!」

 

一人の男性が上を見上げ、それを指さし叫ぶ。

 

「え!うそ?!」

 

その指の先には、二人の作業員を乗せたビルの窓拭き用のゴンドラが傾き、今にも二人が落ちそうになっていた。

 

「危ない!!」

 

誰かがそう叫んだ拍子に、二人の作業員が真っ逆さまに落ちた。

 

「っ!!」

 

咄嗟に体が反応し、能力を使って二人を救出し、ゆっくりと二人を地面に降ろす。

 

「ーーー!!!」

 

と、同時に周囲から歓声があがる。

 

「//////!!!」

 

し、しまったぁ!また目立ってしまったぁぁあ!!

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

「茜様は命の恩人です!」

「茜様万歳!」

「うぅ!み、見ないでぇぇぇえ!!!」

 

助けた二人の感謝の言葉も耳に入らないくらいにいまはそれどころではないと慌てて顔を隠す。

 

けど、まだ終わってはいなかった。

 

 

ガタンッ

 

 

辛うじて片方で吊られていたゴンドラが大きな音をたて、落下しはじめた。

 

「やばっ!」

 

もう一度能力を使い浮かび上がり、落ちてくるゴンドラに向かう。

 

「茜様危ない!!」

 

下で小さい女の子の声が聞こえた。

 

瞬間ーー

 

「!?」

 

隣で建設工事をしていた、ビルの鉄筋が崩れ、ゴンドラのさらに上から重なるように降ってきた。

 

な、なんで!?

 

さっきの地震の影響で不安定になってたの!?

 

 

だめ!

 

一人じゃこんなに一度に受け止めきれない!!

 

 

「あーー」

 

急展開についていけず慌てていると、もうゴンドラが目の前に来ていた。

 

やばい当たる!

 

能力を使うのも忘れ、迫りくる痛みの恐怖で目を閉じる。

 

そんな、目を閉じる瞬間、

 

淡い光と共に大好きな憧れの人がゴンドラと私の間に割って入って来た様に見えたーー

 

 

 

「ーー金属操作(メタナイト)

 

 

一向にやってこない痛み。

 

恐る恐る目を開けると、

 

 

「ふぅ…なんとか間に合ったな。茜無事か?」

「…翔…ちゃん?」

 

ビルの壁に刺した鎖鎌の鎖を片腕に巻き、もう片腕で私を抱きかかえ、ゆっくりと地面に降りながら優しく微笑みかけてくる大好きな兄の顔がそこにはあった。

 

「…どうしてここに?」

「どうしてって、そりゃお前。妹が急に走って消えたら探すだろ?」

 

そう言って困った風に笑い地面に足をつける翔ちゃん。

 

「そうだ!そんなことより!!」

 

ゴンドラは!?鉄骨は!?

 

上での出来事を思い出し空を見上げるーー

 

 

「ーーって!えええぇぇぇぇぇええ!!!!」

 

崩れつつあったビルの鉄骨や既に落ちてきていた鉄骨が寄せ集まって、まるで巨大な手の形となって、空中でゴンドラを掴んでいた。

 

「なにあれぇ?!」

「なにって俺の能力の一部だけど?」

 

なにを今さら?といった顔でゴンドラを地面に置き、鉄骨を元のビルの形へと戻す翔ちゃん。

 

 

金属を自由に操れるってことは知ってたけどこんな事まで出来るの!?

 

もともと知っていた常識離れした兄の一端を改めて再認識したーー

 

 

 

ーー帰り道

 

あの後、現場を警察と消防隊の人達に任せて、私のためにと翔ちゃんが早々にあの場を切り上げてくれた。

 

 

「それにしても茜、なにも考えずに飛び出す癖は相変わらずだな」

 

そう言って、自身のポケットから私の携帯を取り出し返してくる翔ちゃん。

 

「う…。だって気づいたら体が動いてるんだもん」

「まぁわからなくもないけどなー」

 

はははと笑いながら私の頭を撫でてくる。

 

「でも、なんか安心した!」

「なにが?」

「翔ちゃんは今も昔と変わらず私のヒーローだなって!」

「うーん、前に葵にも似たようなこと言われたなー」

 

そう言って笑いながら歩きだす翔ちゃん。

 

「ま、待ってよ!」

 

追いかけて翔ちゃんの腕にひっつく。

 

「ま、人見知りの茜の壁ぐらいならいくらでもなってやるよ」

 

そう意地悪そうに、自分の腕を掴む私の腕を指さす翔ちゃん。

 

「うぅ…意地悪ぅ!」

「ははは!あ、そうだ!ほら茜、誕生日プレゼント!!」

 

そう言って私の掌に赤い石が装飾された髪留めを置く翔ちゃん。

 

「その石はガーネットと言って、情熱や熱意を与えてくれるといわれてるんだ!普段は人見知りで怖がっていても、いざという時は国民の為、みんなの為にと行動できる本当の茜にぴったりだろ?」

 

そう言って私の胸、心を指さして笑い、歩き出す翔ちゃん。

 

 

あぁ…この人は、本当に…

 

翔ちゃんはいつもそうやって、常に私達兄弟のことを気にかけてくれて、ちゃんと見てくれている。

 

口ではお兄ちゃんだから当たり前、別にヒーローなんて大した人間じゃないよ。

 

なんて普段言ってるけど…

 

 

でも、私にとっては今も昔も変わらず唯一無二の憧れのヒーローは翔ちゃんなんだよ?

 

 

 

掌の髪留めを髪につけ、先を歩く翔ちゃんを追いかける。

 

 

 

かなちゃんや岬には悪いけど、

 

今日くらいはお兄ちゃんを独り占めしてもいいよね?

 

 

そう思い、もう一度改めて翔ちゃんの腕を掴み直したーー

 




気づいた方もいると思いますが、

金属操作の能力名を【メタナイト】に変更いたしました。


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第69話【添い寝戦争】

予定よりだいぶ遅れてしまいましたが続きです!

大変申し訳ないですが、楽しんでいただけたら嬉しいです!

また、感想や誤字脱字などもありましたらコメントしてもらえると嬉しいです!



翔と葵の3年生が高校を卒業して暫くしてのこと…

 

事件は起きた。

 

 

「ただいまー」

 

学校から帰宅した奏がリビングの扉を開けると

 

「ーー!?」

 

そこには、

 

「な、なな、なーー」

 

リビングで横になって眠る翔、葵、栞の姿があったーー。

 

 

「なにしてーーんー!?」

 

思わず怒号に近い悲鳴を上げようとした奏の口を後ろから塞がれる。

 

「ちょ、なに!?茜?」

 

その手を振りほどき後ろを振り返ると茜が立っていた。

 

「しー!かなちゃん!大声出したら起きちゃうでしょ!(ボソボソ」

 

そう言って寝返りをうつ栞を指差す茜。

 

「ちょっとこれどういう状況なの!?(ボソボソ」

 

「何って見ての通りだよ?(ボソボソ」

 

「見ての通りって、これじゃあまるでーー」

 

 

ーー親子みたいじゃない!!

 

 

そう、幸せそうに眠る3人の姿は、

 

翔の腕を枕にして、栞を真ん中に川の字になって眠る葵と栞。

 

誰がどう見てもまるで親子の様であった。

 

 

「どういうことよ!説明して!」

「そ、そんなこと言われてもー」

 

そんな動揺を隠しきれない2人の間を割って入る黄色い影。

 

「たっだいまー!あれ?あ!しょうちゃん寝てるー!私もー!」

 

そう言って友達の家から帰ってきた光は反対側の翔の腕を広げ、それを枕にして翔に抱きつきーー

 

「ーーすー…」

「「寝たー!?」」

 

一瞬であった。

 

「なんて羨ましい!」

「…かなちゃん、本音が漏れてるよ」

 

そしてさらに、

 

「ただいまー!あれ?かな姉にあか姉?なにしてーー」

 

一番厄介であろう人物、岬が帰ってきた。

 

そして、

 

「なにしてんのさ!?」

 

発狂である。

 

「ん、んんーーあ、皆おかえりなさい」

「もう!岬!大きな声出すからおきちゃったじゃん!」

 

岬の声に目を覚した葵が何事もなかったかのように目をこすりながら起き上がる。

 

「ちょっとお姉ちゃん!いったいどういうことなのさ!」

「んぇ?何が?」

 

瞬時に食って掛かってくる岬に寝惚け眼をこすりながら返事をする葵。

 

「何が?じゃないよ!またお姉ちゃんばっか翔兄独り占めして!ずるいよ!!」

「え?あぁ、気づいたら寝ちゃってた」

「姉さん!今日という今日は私も見過ごせないわ!」

「えぇ!奏まで!?」

「け、喧嘩は良くないよ?」

「茜は黙ってなさい!!」「あか姉は黙ってて!!」

「えぇ…」

 

寝起きで妹二人に怒られる葵ととばっちりを受けあわあわと戸惑う茜。

 

そして、

 

「(…やべぇ…)」

 

実は既に起きており、現状を察して寝たふりを決め込む甲斐性なしの長男である。

 

 

ーーーーーーー

 

「(今起きたら確実に二人に殺られるな…)」

 

事が収まるまでしばらく様子を見ようとしたのだが、

 

「うぅ、翔君。いつまでも寝てないで助けてよぉ」

「っう!?」

 

妹たちにもみくちゃにされて限界を迎えた葵にはバレていたらしく、思わず声を出してしまった。

 

ちくせう!!

 

葵ちゃん!我が妹ながら末恐ろしい子!

 

「お兄ちゃん起きてたの?!」「翔兄起きてたの?!」「翔ちゃん起きてたの?!」

「は、ははは…お、おはようございます」

 

寝ている栞と光を起こさないよう腕を抜き、ブランケットを掛けながら驚く妹たちに返事をする。

 

「お兄ちゃん?まさか寝たふりしてた、とかじゃないわよね?」

「ま、まっさかぁ!はは、今!今起きたとこですよ奏さん!」

 

笑顔で聞いてくる奏だが、うん。これやばいやつ。

 

「翔兄!お姉ちゃんばっかりずるいよ!なんでもっと私にもかまってくれないの?!」

 

そして半泣きで泣きついてくる岬である。

 

こっちはこっちで返答をミスると大泣きしかねないオーラが半端ない。

 

「翔ちゃぁぁぁん!」

 

そしてなぜか涙目の茜。

 

そうだよな。

 

怖かったよな。

 

わかるよ茜。

 

そう思いながら茜の頭を撫でる。

 

「あぁ!次はあか姉なの?!翔兄の馬鹿野郎ぉ!!」

「お兄ちゃん?」

 

しかしそれがまずかった。

 

とうとう大泣きして俺の背中を叩き出す岬と笑顔で無言の圧を掛けてくる奏。

 

助けを求めようと葵の方に目をやると…

 

「…(サッ)」

 

目をそらされた。

 

…はぁ

 

思わず、この悲惨な現状に心の中でため息をもらす。

 

仕方ない、

 

「わ、わかった!じゃあこうしよう!夜一緒に寝よう!な?」

「「「「?!」」」」

 

瞬間、一斉に動きを止める妹たち。

 

 

「しょ、翔兄?!そ、それはまだちょっと早いんじゃ…けど//////」

 

俺を叩く腕を止め、俯く岬。

 

「しょ、翔ちゃん?!私達兄妹だよ?!そ、そんなのって//////」

 

なにやらもじもじしだす茜。

 

「お、お兄ちゃんとい、いっしょに!?!?//////(ツー)」

 

奏ちゃん?鼻血鼻血!!

 

「翔君。さすがに面と向かて言われると恥ずかしいよそれは…//////」

 

照れ笑いをする葵。

 

「…翔…。あんた…」

 

そして、ちょうど輝との買い物から帰って来た母さんに白い目で見られた。

 

 

え、なに?!俺なんかまずいこと言った?!

 

 

「まぁこの子達がいいなら何も言わないけど間違いだけはまだ犯しちゃだめよ?」

「っ?!」

 

そして横を通るついでにニヤニヤした顔でボソッと耳打ちをしてくる母さんの言葉にそこでやっと自分が何気なく放った言葉の重大さを理解する。

 

ていうかまだってなに?!今後もそんな予定はありませんが?!

 

 

「み、みんな?あまり深く考えなくていいんだぞ?普通に!普通に一緒に寝るか?って意味で聞いただけだぞ?」

 

大事なことなので二回言っておく。

 

そう普通にだ!そこになにも意味はない!ないぞ?!

 

「「「「わ、わかってる!!//////」」」」

「ほんとにわかってた?」

 

それから数十分後ーー

 

 

「--ただいまー…ってなんだこの状況?」

「あぁ、兄さんおかえり。見ての通り、いつもの取り合いだよ」

 

帰宅した修が目の当たりにしたのは、

 

翔を取り囲って、いつ誰が翔と一緒に寝るのか討論する妹たちと、何ともいたたまれない顔で弟たちに救難信号を送ってくる兄の姿だった。

 

 

奏と岬だけでなく、葵に茜。あの後起きた光と栞も参加してるいたーー

 

ーーその日の夜、

 

「茜が一番か。茜がまざるなんて珍しいな」

「へ、へへ!たまにはね//////」

「修がなんとも言えない顔で見てたぞ…」

「修ちゃんはだめ!」

 

そう言って抱き着いてくる茜。

 

哀れ修…。

 

 

ーーーーーーー

 

それからの毎夜ーー

 

 

「へっへーん!しょうちゃんだー!!」

「覚えてないだろうけど昔はけっこうこうして一緒に寝てたんだぞ?」

「え?そうなの?」

 

ーーーーーー

 

「お兄様あったかい…」

「そう?栞もあったかくて可愛いよ」

「ほんと?」

「あぁ、幸せだよ!ありがとう!」

「よかった!」

 

ーーーーーー

 

「ちょっとあんた達邪魔!!戻りなさいよ!」

 

「嫌よこんな絶好なチャンス」

「翔兄は私と寝ますの!」

「やだね!岬がどけ!」

「岬には悪いけど嫌だね」

「独り占めしよだなんて許さない」

「眠い」

「お腹すいた」

 

「翔兄もなんとか言ってやよ!」

「時間も時間だしもう少し静かにしろお前達。あとブブ。もう寝るから引き出しあさるのは今度にしなさい」

 

ーーーーーーー

 

「いちお言っておくけど、なにもしないでよね!」

「言われなくても別になにもしないよ」

「…」

「あれ?奏ちゃん?」

「それは私に全く魅力が無いということでいいのかしらお兄様?」

「え、いえ!決してそういうわけでは!むしろ魅力的過ぎていまも困っているといいますか!」

「もう!お兄ちゃんたら!!」

 

ーーーーーー

 

「まさか葵もとはな」

「ふふ、たまにはいいかなって」

「俺はいつでも大歓迎だけどな」

「それ奏と岬が聞いたらまた大ごとだよ?」

「う、確かに…。けど喧嘩さえしなければ奏も岬も、みんないつでも大歓迎だよ」

「その言い方だと、翔君やらしいよ」

「…からかうなよ」

「ふふ」

 

ーーーーーーー

 

ーー翌朝

 

「翔。わかってると思うけど…」

「なにもしてません!」

「…まだ?」

「今後もしません」

 

ーーーーーー

 

それ以降、朝目が覚めると、定期的に妹たちが布団に潜り込んでいることが増えたとかーー

 




次回の投稿は未定ですが、なるべく早くお届けできるよう頑張ります!


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