ガールズ&パンツァー 俺の戦 (アレク)
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大洗に上がる狼煙

『やぁやぁイクサ。元気ー?』

 

「…杏…か?」

 

高校生活3年目の春が過ぎ、雨が多くなって来る頃、

 

唐突にその電話は来た。

 

俺の親父は戦車の整備士、お袋は戦車道の教官とあって子供の頃から戦車に触れる機会が多く、俺自身も戦車が好きだった。

 

戦車道は女子の嗜む武道。男で戦車が好きと言うのは珍しく俺は「戦車男」と呼ばれてた。

 

俺はそれが嫌で『だったら「戦車」の「戦」で「イクサ」と呼べ!』と自分で広め、中学時代の古い友人からは今も「イクサ」と呼ばれている 。

 

 

 

『おぉよくわかったねぇ』

 

「そりゃ俺に電話かけてくる女子なんざお前ぐらいしか…」

 

 

 

電話の相手は「角谷 杏」中学の頃の…まぁ友人になるのか。

同じクラスの唯一の戦車好き仲間だった。

高校に上がるときに杏は女子高、俺は男子校に進みそれから2年間連絡を取り合ってすらなかった。

 

 

 

『なぁになぁに?彼女の一人もいないの~ん?』

 

「うぜぇ」

 

『はっはっは~』

 

 

 

うわすっげぇ懐かしいこの感じ。

いっつもからかいあってて、でも戦車の話じゃ少し真面目になって。

近すぎず遠すぎず、さっき友人といったが…うん、まぁ、親友、と言ってもよかったかもしれない。

 

 

 

「そんでどうした?同窓会の連絡か?」

 

『…いや。ちょっと真面目な話するよ?』

 

「…おう」

 

 

 

電話越しで分かるレベルで声のテンションが変わった。

 

 

 

『その前に。イクサはまだ戦車が好きかい?』

 

「そりゃもちろん。親父の仕事も継ぐ予定よ。」

 

『じゃあ整備もやってるんだ?』

 

「あぁ。」

 

『…うん…そんで、もうひとつ』

 

 

 

今までで一番真面目な声のトーンだった。

 

 

 

『大洗は…好き?』

 

 

 

質問の真意は何も分からなかった。

だけど、中学時代の俺と杏の思い出の背景のすべてに大洗はあった。

 

 

 

「好きだよ」

 

 

 

間を開けずに答えは口から出てきた。

杏のほうが少しだけ間をおいて、

 

 

 

『…色々助けてほしい事があるんだ。』

 

 

 

言葉を続ける。俺に対する覚悟を決めたように。

 

 

 

『電話で話すには長すぎる。事情は後として、まずイクサにやってもらいたいことは…』

 

 

 

俺も覚悟を決めなくてはならない。

 

 

 

『大洗女子学園に転校することだ。』

 

 

 

 

 

 

 

……この数日後俺は杏と再会、そして杏が現在生徒会長を勤める大洗女子学園のすべての事情を聴く。

 

 

突然の廃校宣告、戦車道の復活、役人との優勝の約束。

 

 

確かにこいつ一人じゃ荷が重すぎる。

 

 

俺も一緒に抱えてやると言ったら、いたずらっぽい、でも、少しだけ涙を浮かべた笑顔を見せてくれた。

 

 

 

 

 

そして俺は大洗女子学園唯一の男子生徒として、

 

この学園と大洗町、そして、親友の杏のために、

 

高校生活最後の一年を、激動の中で過ごすこととなる。

 



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生徒会4人目メンバー

改めて初めましてアレクです

杏ちゃん目線での「ガルパン」を妄想してたらこんなことになってました。

生暖かい目で見てやってください



大洗女子学園内。

 

 

俺は「生徒会室」と書かれたドアをノックし、少し声を張って、

 

 

 

「失礼します。」

 

 

と告げると、

 

 

「どーぞー」

 

 

と、聞き覚えのある声。

 

少し緊張を解き、ドアを開ける。

 

 

 

「おっはー」

 

 

 

部屋に入り、そんな気の抜けた挨拶と同時に見えたのは、理事長とか政治家とかいう肩書きの人間が使うようなデカイテーブル。

 

 

その向こうに、俺ことイクサをこの学校によんだ張本人、角谷杏がこれまた座り心地の良さそうな椅子にニコニコしながらながらふんぞり返っていた。

 

 

そしてそのテーブルの上には杏の好物であるホシイモと、『生徒会長 角谷 杏』と書かれた名札が置いてある。

 

 

「…マジに生徒会長なんだな」

 

その名札を見てついそんな言葉が漏れる。

 

 

この前「事情」を聞いた時に知ってはいたが、実際に文字にして見ると感慨深いものがある。

 

 

すると杏の笑顔が歯が見えるようなニコニコ顔から慈しむような微笑みに変わった。

 

 

そして俺が見ていた名札を撫でながら言う。

 

 

 

 

「この学園が好きだからこそだよ」

 

 

 

 

優しく、それでいて確かな強さを秘めた言葉。

 

それに対して、

 

 

「…そうか」

 

 

なんてつまらない言葉しか返せなかった。

 

 

そして杏は声と顔をいつもの調子に戻して、俺に質問してきた。

 

 

 

「それにしても、こんな時期に転校なんてよく両親を説得できたねぇ?陸の高校で、しかも実家暮らしだったんでしょ?」

 

 

「あぁ…あの学校にも戦車道はあったが男子校なだけあって規模は小さかったんだ。自分でわざわざ戦車道の盛んな学校に行って試合と整備をさせてもらってたぐらいだからな。そんな事情を知ってたから、『戦車道を復活させるにあたって戦車に精通している俺がスカウトされた。』って言ったら二つ返事で許可してくれたよ。」

 

 

俺の両親は戦車に深く携わっている。

そんな二人に「戦車道」で「スカウト」されたって伝えた時の喜びようといったらな。

 

 

 

「はっは~それはさぞかし喜ばれたろうねぇ」

 

 

「赤飯炊こうかってレベルだったぜ」

 

 

 

 

 

そんな話の直後、後ろのドアが開かれ、

 

 

「「おはようございます、会長」」

 

 

という重なった挨拶が聞こえてきた。

 

 

 

 

俺が振り替えるとそこには二人の女の子が。

 

 

 

「おっはよう!」

 

 

 

と杏が挨拶を返す。

 

 

 

「イクサ、この二人が我が生徒会のメンバーだ。」

 

 

 

もう一度振り返り杏の方を向くと、後ろから二人が回り込んできてテーブルの前に並び、俺と3人が向かい合う形になった。

 

どうやら杏はこの二人には俺のことを伝えてるらしい。

 

 

 

「はじめまして。私は生徒会副会長、小山柚子です。」

 

 

まず向かって左、優しそうでおっとりとした印象を受ける子に自己紹介をされた。副会長とあってか初対面の、しかも男である俺に対してもこの落ち着きよう、ただ者ではないのだろう。

 

 

 

「同じく生徒会広報、河嶋桃だ。よろしく頼む。」

 

 

そして向かって左、珍しい片眼鏡をかけた、柚子とは対照的に真面目でしっかりとした印象を受ける子が自己紹介をした。広報という肩書きではあるが生徒会では広報を越えた役割を担っているという。

 

 

 

「あ…あぁ俺は『イクサ!』…えっ」

 

 

 

そんな二人に圧倒されつつ俺も自己紹介しようとしたら、杏に遮られた。

 

 

 

「いやそれはあだ名だろ」

 

 

「いやいいんじゃない?他の学校じゃソウルネームが本名みたいなところもあるし」

 

 

「いやだからって」

 

 

「よろしくね、イクサ君」

 

 

「イクサ、期待しているからな」

 

 

「……」

 

 

 

さすが生徒会。チームワークバッチリだなオイ

 

なにも言い返せなくなった俺を尻目に杏が、

 

 

 

「で。イクサの役職どうする?」

 

「「「えっ?」」」

 

 

 

なんて軽く言いやがった。思わず3人でハモって聞き返したぞ。

 

 

「いやだからイクサの生徒会での役職でしょ」

 

 

「か、会長?イクサ君を生徒会に入れるんですか?」

 

 

「男女抜きにしても、今日転校してきた奴を入れるのは…」

 

 

 

この二人は俺のことは知ってても俺が生徒会に入ることは初耳らしい。

そりゃそうだ俺だって初耳だからな。

 

 

 

「杏よ、さすがにそれは」

 

 

「…これはこの学園のためでもあるしイクサのためでもあるんだ」

 

 

「…っ」

 

 

 

 

今までの軽い雰囲気はまるでなくなり、顔から笑顔が消えた杏に、思わず息を飲む。そしてこう続けた。

 

 

 

「これからこの学園は戦車道に重きを置いていくことになる。だが今現在この学校で戦車の整備、戦車道の教官役が出来るのはイクサただ一人だ。そしてイクサにやってもらうことは山積み。戦車道履修者の勧誘、戦車道の訓練監督、いざ試合となったときには戦術指南、相手のデータ収集、ヘタしたら直接試合に出てもらうことにもなる。そもそも戦車がないからその捜索、自動車部への整備指導……切りがない。もちろんそのすべての負担をイクサ一人が背負うのは無理だ。ならその負担を誰が分散させるかってなったら…もうわかるでしょ?」

 

 

3人とも何も言い返せなかった。

 

そうだ、こいつは真面目に何かをやらせると誰にも追随を許さなかった。

360度すべてを見渡し、最適な答えを導き、それを実行できる。

 

 

 

 

 

「…私はこの学校が大好きなんだ。」

 

 

 

そして、一途だ。

 

 

 

「この学校で悔し涙は流したくない。笑って卒業したいんだよ。」

 

 

 

心に決めたことは決して諦めず、常に目的に向かって前進し続ける。

 

恐らく廃校になる前日、いや、その一秒前まで答えを探し続けるだろう。

 

 

 

「戦車道全国大会で優勝。途方もない目標だが、それぐらいの実績がないとあの大人達は納得しない。生半可な努力じゃ決して達成出来ない…だけど、この4人でなら必ず成し遂げられると信じてるよ。」

 

 

決意の眼差しを俺たちに向ける杏。柚子と桃にはもう迷いはないようだ。

 

 

「…わかった。」

 

 

 

ならば俺も杏の進もうとしている道を信じる。

 

 

 

「入ろう。生徒会」

 

 

実に普通な、つまらない言い方だが、俺なりの覚悟をきめた確かな答えだった。

 

 

 

それを聞いた杏はまたいつもの調子に戻り最初の議題を出した。

 

 

 

 

「そんじゃイクサの役職名は…」

 

 

 

 

そしてその日、生徒会による戦車道復活宣言と同時に、俺は「大洗女子学園生徒会戦車道特別教官イクサ」として全校生徒の前で自己紹介することとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想等よろしければお書きください

さらにアドバイス、明らかにおかしな設定、読みにくい所なども遠慮する必要ないです

ネット創作物を投稿することが初めてなので、注意点もむしろ教えてくださると嬉しいです


時系列についてはガバガバかもしれないので気にしないでいただけると幸いです


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腹が減ってはなんとやら

1000文字ちょっとで満足していた俺が皆さんの小説の長さに愕然とした今日この頃。

恋愛要素に進展あり。甘口なっていれば幸いです。


「はぁぁー…寒っ。」

 

手を吐息で暖めながら廊下を進む。

 

「寒いねー」

 

 

一緒に歩いてた柚子が俺に同調してくれた。

 

 

何千人もの女子生徒の前で自己紹介をした次の休日。

今日は朝から柚子に学園の中を案内されていた。

そして今は昼が近いので一度生徒会室に戻っている所だ。

 

 

 

「南の方じゃあ梅雨入りしてるとか言ってなかったか。」

 

「海の上だし、けっこう北の方に来てるからね。」

 

「だったらもうちょい暖かい所行こうぜ…」

 

「それは船舶科と商業科が決める事だからねー」

 

 

交流や交易、補給のために北へ南へ常に航行している学園艦の上で生活している以上、日本の春夏秋冬は忘れなければならない。

 

そういえば俺が学園艦について杏に教わってるときに、

 

 

「春夏秋冬がはっきりしている日本が珍しいだけで、年中雪が降ってる国もあれば、冬でも水着で過ごせる国もある。そんな環境に慣れさせておくのも国際性豊かな生徒の育成を目的とする学園艦の一つの目的だね。」

 

 

って言ってたのを思い出した。

 

 

 

「大丈夫よ。朝から桃ちゃんと会長が暖まるのを作っているから!」

 

 

 

柚子が寒がる俺を励ますように言う。

暖まるのを作ってる?つまり杏の手料理が食えるってことか?

みなぎってきた。

 

 

 

「たぶんイクサ君が初めて見る具材が入ってるんじゃないかな。」

 

「そんなこと言われちゃあ期待するしかないな。」

 

 

 

正直歩きっぱなしで滅茶苦茶腹が減ってる。

さらに心のテンションをあげて廊下を進む。

 

 

 

 

 

ガチャッ

 

 

 

「戻りました、会長。」

 

「お疲れー小山ぁー」

 

 

 

柚子がドアを開ける。生徒会室の中は、食欲をこれでもかと刺激してくる匂いで充満されていた。

 

 

いつも杏が座ってる机は部屋の隅に片付けられ、代わりにコタツが置いてある。そしてその中央には、ガスコンロに熱せられ、蓋が被せられた大きな土鍋が白い湯気を上げながら鎮座し、その回りを囲むように野菜や魚の切り身、揚げ物などのおかずが並ぶ。

 

 

そして俺から見て正面の席に制服の上に赤いどてらを着た杏、左に黒いどてらの桃が座っていた。

 

 

 

「はい、イクサ君の。我が生徒会の証よ。」

 

「ん、あぁ。ありがとう。」

 

 

 

そして青いどてらをいつに間にか羽織っていた柚子に、杏と同じ赤のどてらを渡される。

 

早速羽織ってみる。暖かい。

ちょっとブカブカだがこれぐらいで丁度いいのだろう。

 

 

 

「似合ってるねぇ~」

 

「会長自ら同じ色と柄のを探して買ってきたんですよね~」

 

「こっ、小山っ!余計なこと言うなって!」

 

 

 

俺から見て右側の席に座りながら言う柚子に慌てて言い返す杏。

 

 

 

「イクサ!今日の鍋は会長が『イクサとの久し振りの食事だから』と言ってかなり奮発して気合い入れてたぞ!」

 

「河嶋ァァ!」

 

 

さぁ有り難く思えっ!と言わんばかりの桃に対し、もはや杏は涙目だ。

こんなに慌てた杏は珍しいと思いつつ、俺も気恥ずかしくなってそのまんま立ち尽くしてた。

 

 

「は、早く座りなって!鍋開けるよ!」

 

「お、おう!」

 

 

やたら声を張る杏に促され、そんな気恥ずかしさのまま慌てて杏の正面に座る。

 

 

 

「では…」

 

 

手袋をした桃が神妙に鍋の蓋を開ける。

 

 

「おおっ…」

 

 

思わず声が漏れる。

既に煮えている大量の肉と色とりどりの野菜。

鍋から漏れていた匂いもより一層濃くなった。

 

 

「よーし。小山入れろ。」

 

「はいっ。」

 

 

杏の指示で柚子が目の前に置いてあった魚の切り身を入れ始める。

 

 

「イクサ君。これ、あんこうだよ。」

 

「あんこう…って頭に明かりがついてる…」

 

「うん、そのあんこう。」

 

「あれって食えんの?!」

 

「河豚なんかと並ぶ高級食材よ~」

 

「へぇー…」

 

 

さっき言ってた初めて見る具材ってこれか!

確かに食ったことない。

 

 

「切り身で売ってるのか?」

 

「いんや、今回はまるごと買ってきた。」

 

「えっ?じゃあ杏が捌いたの?」

 

「そうだぜぃ!」

 

 

グッっと親指を立ててはにかむ杏。

趣味が料理なのは知っていたが、ここまでとは。

 

 

 

「いやー切り身でも売ってるんだけど、あんこう鍋初めてだろうし、丸ごと食べて貰いたかったからさ。」

 

 

「…ありがとう」

 

 

 

作り慣れているのだろうがその苦労は計り知れない。

俺は万感の思いを込めて礼を言う。

 

 

 

「えへへ…じゃあ食べよっか!」

 

 

 

「「「「いただきます!」」」」

 

 

 

____________________

 

 

 

 

「あー食った…」

 

「アタシもちょーっと食い過ぎちゃったかなー」

 

「ホシイモむしゃりながら言うセリフじゃねぇな」

 

「気にしない気にしなーい」

 

今席に座っているのは俺と杏のみ。

 

コタツの上には急須と緑茶が入った湯飲みが二つ、あとホシイモと茶菓子ぐらいしか無い。

 

土鍋や食器は柚子と桃が洗っている。

 

 

「なんか申し訳ねぇな。あんな上手いもん食わせてもらって」

 

「それこそ気にしなーい。これからかけるであろう苦労の前払いとしては安すぎるぐらいだよ。」

 

「苦労つったらお前の方がでかいだろ。」

 

 

そんな会話の後、突然杏の顔が暗くなった。

 

 

「……はぁーあ…苦労で思い出しちゃったよ…」

 

 

杏がため息をつきながら立ち上がると、部屋の隅にどかされたいつもの机に向かった。

 

 

「まさかまた問題が?」

 

「実は今この学園にはもう一人、戦車道経験者の女の子がいるんだ。」

 

 

これは予想外だ。経験者は一人でも多い方がいい。それにもしその子が教官役をやれれば俺は整備に専念できるしな。

 

…じゃあ苦労ってなんだ?

 

そんな疑問をよそに、杏は引き出しから書類を数枚取りだしてきて、またコタツに戻ってきた。

 

そしてその書類の中の一枚が俺に手渡された。

 

「はい」

 

「…『西住みほ』…この子が?」

 

「うん。ちょっと前に黒森峰から転校してきたんだ」

 

「!? 黒森峰の西住って…」

 

「うん。あそこの戦車道隊長、『西住まほ』の妹ちゃんで、元副隊長だね。」

 

戦車道全国大会の情報は毎回テレビや雑誌を通して得ていた。

 

そして黒森峰が去年の決勝戦、副隊長が崖下の川に転落した戦車を助けるため、フラッグ車を放置するという「判断ミス」のせいで十連覇を逃したことも知っている。

 

だが、あれは俺から言わせてもらえば誉められるべき行動であったと思うのだが。

 

…まさか。

 

 

 

「……去年のことで黒森峰から追い出されたのか?」

 

「いや、彼女は自分の意思でこの学校に来たみたいだね」

 

「接触済みか?で、どうだった?」

 

「…『戦車道が無い学校だからわざわざここを選んだのに…』って言われちゃった。」

 

「だろうな…」

 

 

十連覇の夢を途絶えさせた戦犯。そんな記事を目にしたこともある。黒森峰からはもちろん、戦車道そのものから逃げ出してこの学園に来たのだろう。

 

「でも無理矢理にでも戦車道をやってもらう。そうでなきゃこの学園に未来は無い。西住ちゃんにはイクサと同じだけの苦労をかけることになるけどね…」

 

俺の予想が合っているのなら、今は戦車なんて言葉すら聞きたくないだろうな…

 

「だからこそ、私たち3人が恨まれ役を買う。イクサには西住ちゃんの味方になって貰いたい。」

 

「この子の…味方?」

 

「そう。西住ちゃんに対してはかなり強引な手段をとる。脅し紛いの事もするつもりだよ。恨まれようがなんとしても戦車道に入ってもらう。そしてその後の心のケアをイクサがやるんだ。」

 

「…同じ戦車道経験者として、協力体制を作りやすくするために…か?」

 

「そんな打算的な考えじゃないよ。ただ、あの子に寄り添っていて欲しいんだ。この学園のために西住ちゃんが壊れちゃうのは私としても嫌だからね…」

 

 

どんな手段を使っても学園を守る。でもそのために犠牲は出したくない。その気持ちは俺も同じだ。

 

 

「イクサの苦労がまた増えちゃったねぇ」

 

 

申し訳なさそうな笑顔を俺に向ける。

 

 

…さっきからこいつは苦労苦労と…

 

 

「…それは違うぞ」

 

「はっ?」

 

 

今日初めて、杏の言葉を否定した。

 

 

「俺はこの学園事情に巻き込まれたことを迷惑とは思ってねぇし、この学園のために尽力することが苦労とは思ってない」

 

 

俺はさらに捲し立てる。

 

 

「俺はお前に呼ばれこの学園に来た事を運命だと受け入れている。それにこっちはとっくに覚悟完了してんだよ。お前が苦労だと言った事なんざ余裕でこなしてやるし、この学園だって守ってやる!」

 

 

俺の素直な気持ちを、我ながら不器用過ぎる言葉で杏にぶつける。

 

 

「だが…何よりも…」

 

 

そして、呼吸を落ち着かせ、俺が一番言いたい言葉を。

 

 

「俺が一番守りたくて、助けになりたくて、寄り添っていてやりたいのは、」

 

 

真っ直ぐ杏を見つめながら。

 

 

「お前なんだよ。」

 

 

言ってやった。

 

 

 

 

………言っちゃたよおおぉおおぉおおお!!!

 

どうしてこうなった?最初は俺に苦労なんて言葉使うんじゃねぇ的なことを言おうとしたんだよな?

 

なんで告白してんだあぁあぁあああぁあああ!?!?

 

無表情を保ちながらも俺の頭の中は俺の発言のせいで大混乱だよ!

 

しかもどてら羽織ってコタツに座りながらとか、ムードもへったくれも無いじゃん!告るなら告るでもっと考えt違う今はそれどころじゃねぇ。

 

いや、逆に考えろ。杏の事だ。きっと軽く受け流して

 

 

「////」(カァァァ

 

 

あっ可愛い…じゃねぇ!この反応、完全に「そう」だよな!

 

 

頭の中で頭を抱える。マジどうすっぺかなぁ…なんて考えてたら突然杏が立ち上がり、俺の側まで歩いてきた。

 

 

「下がれ。」

 

 

「アッハイ」

 

 

謎の威圧感に圧され、言われた通りに体を後ろにずらす。

 

 

「よいしょっと。」

 

「!?」

 

 

あぐらの上に杏がのっかって来た。

そしてそのまま俺の胸に寄っ掛かる。

 

俺の心臓が一気に跳ね上がった。

 

 

「か、角谷氏…?」

「足が寒い。詰めろ。」

 

「アッハイ」

 

 

そのままコタツの中に体をずらした。

 

 

「…」

 

「…」

 

 

しばしの沈黙。

 

最初に口を開いたのは杏だった。

 

 

「河島と小山さぁ…」

 

「は、はい?」

 

「片付け終わったら帰れって伝えてあるんだよ」

 

「そうですか」

 

「…わかんないかなぁ」

 

「何が?」

 

「今、このあたりには二人しかいないのよねぇ」

 

「へ、へぇ~」

 

 

心臓が高鳴りすぎて呼吸がおぼつかない。

 

辛うじて鼻から息を吸うと杏の匂いがダイレクトに伝わってきて、それが更に心臓を高鳴らせる。

 

 

「さっきのさぁ…」

 

「はい?」

 

 

声が裏返る。

 

 

「告白って事でいいの?」

 

「…ああ、そうだ」

 

「ふーん」

 

…まぁパニクっちゃったけどさ、あの言葉に偽りは無い訳で。俺はそのままの気持ちで答える。

 

 

「…そのどてら、良いでしょ」

 

 

杏が俺のどてらの袖をつかんでそう聞いてくる。

 

 

「わざわざ同じのを買ってきたんだろ?」

 

「うん。これから冬が来る度に『ずっと一緒に』着れると思ってさ」

 

 

『ずっと一緒』を強調して言ってきた。

…それって、つまり…

 

 

「……俺の告白の返事って事でいいのか?」

 

「……」

 

 

少しの沈黙のあと杏の顔が俺の方を向く。

 

 

そして目を閉じ、口を突き出す。

 

 

「ここまでやってわかんなかったら泣くよ?」

 

「…ああ」

 

俺も目を閉じる。

 

 

そして一瞬。本当に一瞬だけ、俺たちは触れ合った。

 

 

その後、杏はまた顔を前に向け俺に背中を預ける。

 

 

俺は杏を後ろから抱き締める。

 

 

「絶対に笑って卒業しような」

 

「…イクサとなら、できるよ」

 

 

 

 

 

 

新たな仲間、新たな問題、そして、新たな絆。

 

そのすべてを受け入れ、 俺たちは進んでいく。

 

 

 




3話目にしてやっとみぽりん(名前のみ)登場。

イクサとの絡みがどうなるのか。自分でも(妄想するのが)楽しみです



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スタートライン

見てくれてる方ありがとうございます。

4話目です。あの名台詞がやっと出てきます。

前からですが基本生徒会サイドからテレビシリーズをなぞってるだけなので説明が大分省かれているところもあります。ので、ノリと勢いに任せて付いてきて下さい。


「あのっ!私っ!……戦車道、やります!」

 

「「えぇーっ!?」」

 

 

その一部始終を、俺は生徒会室の前で聞いていた。

 

 

あまりにも予想外すぎる結末。

 

 

 

 

 

 

時間は今朝に戻る。

 

 

「やっぱり西住ちゃんは戦車道を選択しなかったよ。……後は、頼むね。」

 

 

杏が俺にそう言った。生徒会室にはいつもの4人。だがいつもの軽さは微塵もなく、完全に覚悟を決めた顔だった。

 

 

 

「イクサは私たちのことを徹底的に悪者にしろ。『同じく生徒会に巻き込まれた被害者』としてな。」

 

 

「うん。私たちの事は気にしないで。これぐらいの事なら覚悟の上だから。」

 

 

桃と柚子にそう言われる。だが、

 

 

「それは無理。」

 

 

と強く否定した。こればっかりは命令されたって出来ない。

 

 

二人が納得のいかないような顔をしていたので俺は続けた。

 

 

「お前らの良いとこをたくさん知っちまったからな。あの日だって、休日だってのに柚子は学園艦を丁寧に案内してくれた。しかも覚えやすくな。俺、案内されたの一回だけだったのに、柚子の事思い出してもう歩けるようになっちまった。桃も鍋以外の料理を作ったって言ってたじゃん?あの揚げ物は旨かった。しょっちゅう食いたいもん。」

 

 

女性は誉められる事に弱いって、戦車道の雑誌に載ってた。

 

 

「それに、俺は皆の事を大切な人だと思っている。なんでもやるつもりだが、だからっつってお前らの事を貶めるなんてできない。」

 

 

反論を封じるためとはいえ、誉めたことも含めて俺の本心だ。

 

 

「「「……」」」

 

だが、3人とも黙ってしまった。

 

いや、俺の狙い通りだけど、なんだこの妙な雰囲気は?

 

 

柚子は俺の足元を見ながら指を弄ってるし、

 

桃は口を固く閉ざしてうつむいてるし、

 

それに二人とも心なしか顔が赤いような?

 

そして杏といえばなんか面白く無さそうに、ホシイモを食ってるし…

 

 

 

「……『柚子の事思い出して』とか『しょっちゅう食いたい』とか『大切な人』とか……」

 

 

「杏?」

 

 

「な~んでもないですぅ~」

 

 

 

杏が何か呟いてたが聞こえなかった。それにしてもなにこの不機嫌っぷり。

 

 

「どっちにしても!」

 

 

杏が仕切り直す。2人ともはっとして杏の方を向く。

 

 

「『説得』は今日の昼だ。イクサは西住ちゃんに見つからないように生徒会室の前で待機。そして出てきたところで接触って形で。……じゃあ解散!」

 

 

なんだ今日の杏は?やたらびしっとしてるというかなんというか…

 

まぁ良い。今から西住にかける言葉を考えないとな。

 

 

「イクサ!」

 

 

柚子と桃が生徒会室から出た後、俺も出ようとすると杏に呼び止められた。

 

 

 

「廃校の事はアタシ達だけの秘密だから。」

 

「……分かってるよ。」

 

 

他の子達に重責を背負わせたくない。そんな気持ちあってのことだろう。

 

わざわざそんなことを言うのは杏なりに緊張しているからか。

 

 

「大丈夫だ。なんとかなる。俺を信じろ。……まあ、なんの保証もない言葉だがな。だが杏の背負ってるものは一緒に背負ってやる。そこは信じてくれ。」

 

 

こんな言葉で緊張を解せるとは思えないが。気休めでもいい。ただ真っ直ぐ、杏を見据えてそう返した。

 

 

「……」

 

 

返事は無かった。杏はただ目を伏せてホシイモを食ってるだけだ。

 

だが顔が赤い気がする。

 

 

 

「もはや才能だよねぇ……」

 

「何だって?」

 

「ホームルーム始まるよって言ったの!」

 

「わ、分かってるよ」

 

 

 

やはり今日の『説得』の事を考えて気が張ってるのか?

 

俺は言われるままに生徒会室を出て教室に戻った。

 

 

 

「……ああ言うの天然ジゴロって言うのかなぁ……生徒会に入れたのは失敗……いやアタシの目の届かない所で色々されても……だったらそもそも……」

 

 

そして杏は独り、恋敵が増えることを懸念していた。

 

 

 

 

 

そして昼、校内放送で西住を生徒会室に呼び出し、『説得』が始まる。

 

 

影で西住が生徒会室に入るところを見ていたが、どうやら一人ではない。友人が二人付いてきているらしい。

 

 

そしてその3人が生徒会室に入ってからドアの前まで行き、聞き耳を立てる。

 

 

 

『…………。』

 

『……!…………!』

 

 

中から聞こえるのは予想通りの言い争い。

 

 

『みほは戦車道やらないから!』

 

『西住さんの事は諦めてください。』

 

 

……俺と同じく転校してきたばかりだと聞いたが、いい友人に恵まれたらしいな。

 

 

 

その後も言い争いは続き、

 

 

 

『……そんなこと言ってるとアンタたち、この学校に居られなくしちゃうよ?』

 

 

 

俺でさえゾクッとするような杏の脅し。

だがそれでも西住の友人は怯まない。

 

 

 

……厳しそうだな。西住の味方が強力過ぎる。

こりゃあ、西住が一人の時に改めて『説得』するしかない。

だとしたら、この後俺が接触しても逆効果、…か?

 

そう思い、この場を立ち去ろうとしたとき。

 

 

 

『あのっ!私っ!』

 

 

 

西住の声が聞こえ、足を止める。

 

 

 

『戦車道、やります!!』

 

 

 

耳を疑った。

 

だが、その後に聞こえた、『『えぇーっ!』』という重なった驚き声と生徒会の嬉しそうな声。

 

聞き間違えではない。

 

西住が自分の意思で戦車道を選択したのだ。

 

 

 

そして数分後、西住を含めた3人が出てきた。

 

 

 

「みほ、本当に大丈夫なの?」

 

「わたくし達のことなら、大丈夫でしたのに…」

 

「ううん、こっちこそごめんね。」

 

 

廊下で支えあうその姿は、少し前に知り合ったとは思えない、確かな絆を感じた。

 

これなら、心配はいらないか。

 

 

 

「すまなかったな。」

 

 

 

俺はそんな3人の後ろから声をかけた。

 

3人が振り返るとそれぞれが驚いた顔を見せる。

 

 

 

凛として芯が強く、礼節を重んじる、五十鈴華。

 

人当たりがよく、誰とでも親しくなれる、武部沙織。

 

そして気弱そうだが、優しく友達思いな西住みほ。

 

 

 

「生徒会戦車道特別教官の…まあこれはあだ名だが…イクサだ。気軽にイクサパイセンとでも呼んでくれ。」

 

 

この学園の希望。

 

 

新たな仲間。

 

 

ここでやっとスタートラインに立ったと言う所か。

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

ガチャッ

 

 

「お疲れ。」

 

「おーうイクサ。西住ちゃんはどうだった?」

 

「あの二人のお陰だな。落ち込んでるとか、怒ってるとかは無かったよ。」

 

「うん、まぁ、私たちもびっくりだったけどねー。……これでやっとこさ山を1つ越えたってとこかな?」

 

「あー…後何回登山するんだ…」

 

「日本列島縦断するより多そうだよねぇ…」

 

「気が遠くなるな……まあとりあえず、あの3人に自己紹介はして、あと連絡先も交換した。戦車道については後でって感じだな」

 

「……ふーん……連絡先交換したんだ……」

 

「えっ?そりゃあお前、これからの事を考えたら自然な流れだろ。」

 

「まー…いーんだけどねぇ…?」

 

「なんだよ」

 

「少しでも変な気を起こしたら風紀委員に突き出すからねー。」

 

「変な気ってなんだよ!?」

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁ~!それにしてもこの学園で男の人と電話番号を交換できるなんて~!」

 

「沙織さん。それもう4回目ですよ?」

 

「だってだって~!わざわざ呼び止めて来るなんて、これもう脈ありとしか思えないよ!」

 

「あはは…」

 

「まあ確かに誠実そうで、頼りがいのありそうな殿方でしたね。」

 

「でしょー!ねぇみほはイクサ先輩のことどう思った!?」

 

「えぇっ?わ、私?……えっと……なんか、お父さんの事を思い出した、かな…?」

 

「西住さんのお父様……ですか。」

 

「うん……なんとなく、だけど。」

 

「おぉー……そう言えば好きな異性のタイプは親に似るってよく言うよね!……もしかしてみほも脈ありって感じかな?!」

 

「ふぇっ!?」

 

「沙織さん。みほさんが困ってますよ?」

 

「えぇー?でも誰を好きになるのかなんて自分でも分からないものだよ?」

 

「でも他の人から押し付けられるのは違うと思うんです。」

 

「華は真面目だなー。こういうコイバナだって大事なの!」

 

「…………」

 

 

 

 

「……イクサさん…かぁ。」




みぽりんにフラグを立てつつここまで。

会話文だけのパートはいかかでしょうか。
多用していく可能性があるので読みにくかったらごめんなさい。


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ザ・自動車部DASH

5話目です。今回でアニメシリーズ2話前半という事実。亀過ぎワロス。


今回で自動車部が初登場。口調がよくわからないので、誰が誰だか……というところは各自脳内で変換してください。


西住の勧誘に成功し、いよいよ戦車道の授業が始まった。

 

初日は校庭の大きな倉庫の前でスタート。

 

戦車道を選択したのは1年と2年の18人。

 

生徒会4人を入れても22人…少ないがこれでやってくしかない。

 

 

「これより、戦車道の授業を開始する。」

 

 

集まった生徒達の前に俺ら生徒会が向かい合い、桃が仕切り始める。

 

 

「あ、あのっ戦車はティーガーですか?それとも…」

 

 

生徒の中の一人が興味津々に聞いてくる。

 

そういえば俺も大洗に現存する戦車の事は聞いてない。

 

 

「えーと…なんだったけな?」

 

 

杏も知らないんかい。

 

 

 

 

 

 

 

 

ギッ ギギギギ…… ガコンッ

 

 

 

いかにも重たそうに倉庫のドアが開かれ、その戦車が姿を表す。

 

 

「なにこれ……」

 

「ボロボロ……」

 

「ありえなーい……」

 

 

そんな感想が聞こえてきた。

 

中にあったのは履帯を外され、鉄錆びだらけ、何年も整備されてないと一目でわかる戦車が一両。

 

 

だが、俺と西住はそんな戦車に歩み寄っていく。

 

 

「ドイツのⅣ号戦車…そのD型か。」

 

「……装甲も転輪も大丈夫そう。これでいけるかも。」

 

 

生徒達から聞こえる『おおー』という声。やはり頼りになるな。

 

 

「イクサ先輩!」

 

 

武部が俺を呼ぶ。そういや、電話番号を交換したときから妙に絡んでくるな。

 

 

「なんだ?」

 

「こんなボロボロで大丈夫なんですか?」

 

「今はダメだな。だがこれをどうにかするのが整備屋の仕事だ。」

 

「おぉー…格好いいです!」

 

「ははっ…ありがとな。」

 

 

お世辞だろうが女子にそう言われるのは悪い気はしな…

 

 

(ジー……)

 

 

待て杏。そんな目で俺を見るな。風紀委員に通報するのはまだ早い。

 

 

「でも一両しかないですよ?」

 

「あ…ああ、この人数だと……」

 

「全部で5両必要だ。」

 

 

武部の質問に桃が代わりに答える。助かった。

 

 

「じゃあ皆で、戦車探そっか!」

 

 

杏が全員に向かって言い放つ。

 

買ったりするのではなく、探す。この言葉に全員が困惑した。

 

予算もなく、譲ってくれるアテもない。

 

だったら探すしかない。

 

これが様々な方法を模索し、俺達が出した最も可能性の高い答え。

 

ざわつく皆の前で桃が説明する。

 

 

「この学園では何年も前に戦車道は廃止になっている。だが当時使用していた戦車がどこかにあるはずだ。いや必ずある。」

 

 

こうやって聞くと改めて無茶な話だと思うよ。

 

 

「そして明後日、戦車道の教官がお見えになる。それまでに残り4両を見つけ出すこと。」

 

 

こうして、戦車捜索作戦が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

皆が戦車を探してる頃。俺は一人、自動車部の所に向かっていた。

 

皆が戦車を探し出せれば、明日から整備が始まる。

 

今日の俺の仕事は、その自動車部に戦車整備のいろはを教えることだ。

 

そして杏に教えてもらった部屋のドアを開けた。

 

 

「失礼しまーす」

 

「あえっ?」

 

 

俺が最初に目にしたのは今まさにタンクトップを脱ごうとしていた女の子のきれいな背中。

 

だがそれは直ぐに隠され、代わりに鉄のなにかが俺のみぞおちめがけて飛んできた。

 

 

ズンッ

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

「ゲホッゴホッ……」

 

「いやーごめんねぇ?ホシノって女子校だからってどこでも着替えるからさぁ。」

 

「ほんとごめんなさい……」

 

「いや、ノックもせずに入った俺が悪いし…」

 

「だからってスパナぶん投げるかなー?」

 

「反省してるって……」

 

「いやもういいよ。ちょっと痛いぐらいだし。」

 

 

どうやら俺は、ホシノと呼ばれた子が着替えようとしてるとこにちょうど入ってきてしまったらしい。

 

 

「イクサさんのことは会長から聞いてるよ。戦車を整備できるとは思ってもいなかったから、わくわくしてたんだよねー!」

 

「そうか。でも俺にさん付けはしなくていいぞ。」

 

「そう?じゃあイクサ。私はナカジマ。わたしのことも呼び捨てでいいからねー。」

 

 

自動車部には4人居て、その中で一番小柄なナカジマから自己紹介をされた。

 

 

「同じくスズキです。よろしく!」

 

「ああ、よろしく」

 

 

次に褐色肌で癖っ毛のスズキ。

 

 

「私はツチヤ~。ここでは私だけ2年なんだけど、敬語使わなくていいですよね?」

 

「かまわないよ。整備で忙しいと敬語なんて使ってられんよなー」

 

「そうそう!いやー器が大きくてよかったー!」

 

 

ナカジマと同じぐらい小柄で茶髪のショートヘアー。

そして常に笑顔絶やさないツチヤに挨拶された。

 

 

そして……

 

 

「…………です」

 

「えっ?」

 

「いや気持ちはわかるけど、もうちょい声張ろうよー」

 

「わ、わかってるよナカジマ……えっと、ホシノです。……あんな最初だったけど、よろしくね。」

 

 

俺が着替えを見てしまった、さらっとした黒髪のホシノに自己紹介された。

 

そういえば4人ともお揃いのオレンジ色のツナギだが、ホシノだけツナギの上を縛って、タンクトップ姿で俺の隣に座っていた。

 

 

「気にしてないさ。これからよろしくな。」

 

 

と、俺はホシノに手を出し、握手を求めた。

 

 

「え……あ…うん……よろしく。」

 

 

そしてホシノはおずおずと俺の手を握ってくれた。

 

 

「「「…………」」」

 

 

そんなホシノを他の3人が物珍しそうに見ている。

 

 

「な……何?」

 

「いやぁ~そんな乙女してるホシノなんて初めて見たからさぁ…」

 

「な゛っ」

 

「以外な弱点発見?」

 

「え゛っ」

 

「センパイっ!今メッチャ可愛かったッス!」

 

「う……うるさいぃぃー!」

 

「あっはは…」

 

 

賑やかでいいな。これから一年、俺が生徒会の次に多くの時間を過ごすであろう場所がここでよかったよ。

 

 

 

 

 

ブーッ ブーッ

 

 

「おっ…」

 

 

俺の携帯が震えた。……杏からか。

 

 

ピッ

 

「もしもし?」

 

『あぁイクサ。今自動車部?』

 

「そうだ。」

 

『戦車が見つかった。すぐに回収頼むよ。』

 

「わかった。場所は?」

 

『えっと座標で言うと……

 

 

 

……てところだね。わかった?』

 

「……ずいぶん面倒臭いとこにばっかあるな…」

 

『まぁなんとかして貰うしかないよねぇ』

 

「オーケー……何とかしてみるさ。」

 

ピッ

 

 

「よっしゃ!初仕事だ。戦車を回収しにいくぞ!」

 

「「「「おうっ!!」」」」

 

 

 

 

_____________________

 

 

翌日……

 

 

「いやー久々に疲れたねぇ……沼の底とか崖の洞窟の中とか…どうやって回収したっけ……」

 

「覚えてないけど、ウチのクレーンが大泣きしてたのは覚えてるよ……」

 

「あと、森の中はまだマシだっけど、ウサギ小屋とか何を考えてあんなとこに隠したんだろうなー…」

 

「お陰でウサギを逃がさないように小屋を解体して、戦車を回収した後にもう一回小屋を建てる羽目になったからねぇ……」

 

「あー…腰いてえ…皆お疲れ様。」

 

 

満身創痍とはこの事か。やっとの思いでⅣ号があった倉庫の前まで4両の戦車を運んでくる。

 

 

「イクサも自動車部もご苦労だった。」

 

「イクサ君大丈夫?」

 

「いやー本当に大変だったねぇ。」

 

 

 

そんな俺らを生徒会の3人が労う。

 

 

 

「でも、これで洗車をしたらいよいよ私達の本領だね!」

 

「うん!これの中身がどうなってるか今から楽しみだ!」

 

「燃えるねぇ~」

 

「そうだな!」

 

 

と、やる気を燃やす自動車部。

好きこそ物の上手なれというが、まさにそれだな。

 

 

「いやー頼もしいよ。」

 

「ああ、俺もだ。」

 

 

杏も全面的に信頼しているようだし、俺も楽しみになってきた。

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

そしてその日の夕方。

 

 

 

「おぉー綺麗になってるー!」

 

「洗車とは聞いてたけど外側の整備もやってくれたみたいだね。」

 

「そうだ。俺らの仕事は主にエンジンとか、中身の整備になるな。」

 

「むしろ気になるのはそっちの方だし、助かったよ。」

 

「よし、じゃあ整備開始だ!」

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

生徒会室……

 

 

 

「はぁ~あ…」

 

「会長?ため息なんてどうしたんですか?」

 

「あ、ああ小山ぁ……いや整備ちゃんとできてるかなー……なんてね?」

 

「?それなら会長がさっき『自動車部にイクサが入ったら鬼に金棒どころじゃないよねー』って言ってたじゃないですか。」

 

「そ、そうだっけ?」

 

「……もしかして……」

 

「な、なにかな?」

 

「イクサ君が女の子4人と一晩過ごすのが心配なんじゃ?」

 

「!!」

 

「……図星ですか?」

 

「……まぁ、変なことにはならないと分かってるけど。どうしてもねぇ……」

 

「大丈夫ですよ。彼、そこら辺は真面目だと思いますし。」

 

「それも分かってるんだけどねぇ……あいつに盗聴機でも仕掛けてやろうかなぁ?」

 

「それはだめです。」

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

 

ブロロロロ…… キキーッ

 

 

「ふう……」

 

 

M3リーの試運転が終わり一息つく。

 

 

「いい感じじゃない?!」

 

「あぁ。何とかなるもんだな。」

 

 

戦車から降り、同乗していたツチヤが興奮気味に言う。

 

 

「イクサー!次Ⅳ号ねー!」

 

 

そしてⅣ号の整備を終えたナカジマが手を振りながら叫ぶ。

 

 

「あいよー!……ツチヤ。因みに今何時?」

 

「草木も眠る丑三つ時~。」

 

「わかんないっす。」

 

「2時半ぐらい?」

 

「うわーお……皆テンション高えなー。」

 

「この時間は大体こんなもんだよー?」

 

 

メカニック系女子恐るべし。

 

因みにこのM3リーで4両目。あのⅣ号に問題が無ければ今日の整備は終了だ。

 

 

「よっしゃ!じゃあ次は誰が乗るんだ?」

 

 

試運転自体は俺がすべて担当していたが、その他にエンジンの調子を見るために自動車部の一人が同乗していた。

 

運転していると細かい音までは聞こえないからな。

 

 

「じゃあホシノ乗ったら?」

 

「わ、私?」

 

 

そういえば他の3人は乗ったが、ホシノはまだだった。

 

 

「私はいいかな~……」

 

「いや、この子のエンジンはホシノがやったんだし、自分で乗るべきじゃない?」

 

「う……わかったよ。」

 

 

ナカジマに言われ、しぶしぶといった感じでホシノが折れる。

 

やっぱこの前のことを気にしてるのかな?

 

 

「よし、じゃあとっと終わらしちゃうか。」

 

「う…うん。」

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

「どうだ…?」

 

「まだわからないな……」

 

 

そして今俺たちは森に囲まれた道で沈黙しているⅣ号相手に格闘していた。

 

突然のエンスト。これ自体は予想していたので一通りの工具とライトは戦車に乗せてある。

 

 

「はぁ……この前からごめんね?」

 

「だから気にして無ぇって。」

 

 

『あの事』と、そして自ら担当したエンジンでエンスト。まぁ、落ち込むなってのが難しいか。

 

……励ますってのは苦手なんだがな。

 

 

「……ありがとな」

 

「えっ?」

 

「突然戦車を整備しろって言われて、なのにこんな時間まで親身になってやってくれてさ。」

 

「そ、そんなの!皆楽しんでやってるし、私も楽んでるし、さ…」

 

「いや、楽しんでやってて、ここまでの技術を持てるのは本当に尊敬するよ。」

 

「うぅ……」

 

 

手を動かしながらも言葉を詰まらせてしまうホシノ。逆効果だったか?

 

 

「あっ……あれ?…ここどうなってるの?」

 

「うん?ああこれは……」

 

 

戦車特有の箇所を教えるため、ホシノに密着する形になる。

 

 

「……ってところだな。わかったか?」

 

「う、うん……とと、とりあえず、離れて……」

 

「おっ……す、すまない。」

 

 

うーん。もしかしたら、男にまだ慣れてないのかもなぁ。

 

 

 

 

 

 

「よし……エンジンかけてみて。」

 

「よっしゃ。」

 

 

そして景気のいい音を上げながらエンジンが始動する。

 

うん、問題は無いな。確認して一度エンジンを切る。

 

 

 

「大丈夫だろう。早く片付けて戻ろう。」

 

「うん……あのさ。」

 

「うん?」

 

 

片付けしながらホシノが話しかけてくる。

 

 

「詳しいことは聞いてないけど、事情があるんでしょ?」

 

「……ああ。今は話せないがな。」

 

「だったら、私達が力になるから。頑張るから。だから……」

 

 

そして手を差し出してくる。最初の時とは逆だ。

 

俺はその手をしっかり握り返す。

 

これからの新たな仲間に。

 

 

「……よろしくね。イクサ。」

 

「ああ。」

 

 

 

 

 

そんなやり取りのあと、人影が3つホシノの後ろに並んでるのに気づいた。

 

 

「あら~見ましたスズキさん?」

 

「わたくしも見ましたわぁ~ナカジマさん。ツチヤさんは~?」

 

「見ました見ました~!まさかイクサさんとホシノさんがこんな所で密会なんて~!」

 

 

その声にホシノが固まる。

 

 

まぁ来るよな。エンジン音もなくなってしばらく経ったんだから探しに来るよな。

 

そしてさっきのエンジンをかけたときの音でここを探し出したのだろう。

 

 

「なっ……なっ……」

 

「戦車デートとか最先端突っ走ってるっすね~!」

 

「ツッ!ツチヤァァァ!」

 

「照れるなよぉ~可愛かったぜ!」

 

「スズキもぉ!」

 

 

3人が騒いでる所で、ナカジマが近づいてくる。

 

 

「あっはは!あんなホシノは本当に初めてだよ。……まあどんな事情があるのかはわからないけど、私達自動車部はいつでも力になるからね!」

 

「あぁ……ありがとう」

 

 

その言葉に俺は新たな絆が生まれるのを確かに感じていた。

 

 

「それに……ウチのホシノを末長くよろしくねぇー?」

 

「ナカジマもぉ!変なこと言わないでぇ!」

 

 

そんな騒ぎが収まったあと、Ⅳ号で全員倉庫まで戻り、長かった整備はやっと終わりを告げた。

 

 

 

 

そしてその日、同じ部屋で5人で寝ているのを杏に目撃され、風紀委員に突き出されそうになるのは別の話。





エンジニア系タンクトップ女子、つまりホシノいいよね。



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大洗に響く絶叫

6話目。日常&ギャグ回 となっております。

自動車部とこんなテンションで過ごしてぇなー…っていう欲望。


「Zzz……」

 

 

 

ゴォォォォォォ……

 

 

 

「スヤァ……」

 

 

 

……ドゴーーン!

 

 

 

「!?!?」

 

 

 

整備明けの惰眠を貪っている所に襲いかかる轟音。

 

 

「何々っ!」

 

「えっエンジンが爆発したっ!?」

 

 

一緒の部屋で雑魚寝していた自動車部の面々も跳ね起きる。

 

 

 

轟音は窓の外、駐車場のほうから聞こえてきた。

 

俺がカーテンを開ける。

 

そこには……

 

 

「10式……?」

 

 

自衛隊に配備されている最新鋭の主力戦車。

 

なんでそんな代物がここに、と思ったが。

 

 

「あぁ……昨日言ってた戦車道の教官って自衛隊の人なのか。」

 

 

と、自己解決。

 

 

すると、ホシノが隣に来て驚いた声を上げる。

 

 

「あっ?あれ学園長のフェラーリじゃない?!」

 

 

ホシノが指差す方を見るとペシャンコになってる赤い高級車だった物が。

 

 

 

「……」

 

 

 

俺は無言でカーテンを閉めた。

 

 

 

「見なかったことにしよう。」

 

「……そうだね。」

 

 

実際俺らは何も関係無いしな。

 

 

「あっ!いっ今何時!?授業遅れる!」

 

「落ち着け。今日は休みでいい。さっき杏が来て授業を1日免除するって言ってたからな。」

 

「あっそうなの?じゃあ寝よう……」

 

 

ツチヤが慌てるが、少し前に杏に言われたことを伝えると、糸が切れたように再び横になる。スズキとナカジマも同様に倒れ、寝息をたて始める。

 

 

その後、一緒に窓際に立ってたホシノが思い出したように聞いてくる。

 

 

「そういえばさっき会長とケンカしてなかった?」

 

「…いや、気のせいじゃないか?」

 

「…ふぅん?」

 

 

適当にごまかしたが、ホシノが言ったことは合ってる。

 

 

 

数時間前…

 

 

「おはよー。イクサ起き…」

 

「んあ…杏か…」

 

「……」

 

「?…なんで背中の上に…痛え!まて腕がもげる!」

 

「とりあえず話は風紀委員と一緒に聞くから。」

 

「関節!関節がっ!どこでこんな技術をお前!」

 

「ほら騒ぐと皆が起きちゃうよ?」

 

「じゃあ止めてくれよ!?」

 

 

…なんてことがあった。

 

整備が終わった後、疲れのあまりその場に全員で寝てしまっただけで、やましい事は何もないと腕を極められてる中必死の思いで弁明したが… あの小柄な体のどこにあんな力が…

 

 

「…まあいいけど…あと、噂で聞いたんだけどさ…」

 

「ん?なんだ?」

 

「イクサと会長って…付き合ってるの?」

 

「はいっ?」

 

 

 

心臓が跳ねる。ホシノはいきなりどうして何故そんな爆弾発言を?

 

 

 

「いや、そんなことはないぞ?」

 

 

 

内心慌ててそう言ってしまう。っていうか告白しあって、キ……まぁあんな事までしておいて付き合ってないってのもおかしいが、素直に付き合ってるって言うのも問題があるような…

 

 

「ふぅん?」

 

 

無関心のような、興味があるような微妙な返事をされる 。

 

 

「まぁいいや。ふぁーぁ……もう一眠りしよ…」

 

 

とあくびをしながら元いたソファーの上で横になってしまう。

…やっぱ女の子ってまだわかんねぇや。

 

…俺もまだ寝足りない。もう一度その場で横になって意識を飛ばす。

 

 

 

……ひそひそ……

 

「…ホシノホシノっ」

 

「…ナカジマ?」

 

「…まだチャンスありそうじゃない?」

 

「…うん…でも多分イクサは会長と…」

 

「…ふーん…でも私は応援してるよ!」

 

「…ふふっ…早く寝なよ。」

 

「…はいはーい…ふふっ」

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

起きた時には昼を回っていた。

 

体を起こすとツチヤが一人で弁当を食べていた。

 

 

「ングッ?……遅いお目覚めだねー。まあ私も今起きたんだけどさ。」

 

「…皆は?」

 

「ちょっと前に起きて昨日ほったらかしにした道具なんかを片付けてるよ。ほら、イクサの弁当もあるぜー」

 

「あぁ…ありがとう。」

 

 

そしてツチヤと弁当を食べ始める。

 

 

「…そういえば前から気になってたんだけどさ。ツチヤはいつから皆とため口で話すようになったん?」

「……うーんと、去年ナカジマ達の先輩がまだいたときに自然とって感じかなー…ナカジマ達がその先輩とため口だったから余計にって感じ?」

 

「まあひとりだけ敬語ってのも逆にやりずらいもんな…てか2年上の先輩にもため口だったのか?」

 

「そうだよー」

 

「へぇー…そりゃ生意気にもなるわ」

 

「えぇー?あたしィーイクサ先輩のこと尊敬してるっすよぉー?」

「なめくさってんなぁ…」

 

「えへへー」

 

と、笑いあっているとドアが開かれホシノが入ってきた。

 

「…二人とも楽しそうだねぇ…」

 

ホシノがジト目で呟く。

 

「あんれー?終わらしちゃったの?」

 

「そうですー!大変でしたー!」

 

「すまんなホシノ」

 

「あっ…いやイクサに言ったんじゃなくて…」

 

「おやー?ずいぶん私との態度に差がありますねぇ?」

 

「うるっさい!そもそもツチヤが一番下なんだから働けよう!」

 

「あー!こーゆー時だけ年功序列を持ち出してくる人は将来的に…すごい…あれだぞ!」

 

「ふっはは!無理して難しい言葉使おうとするなよ!」

 

「ははっ…多分年功序列の意味違うしな」

 

「もうー!」

 

 

そしてナカジマとスズキが入ってきて騒ぎはさらに続いた。

 

 

「なんだよー廊下までうるさいぞー?」

 

「あーナカジマぁー!ホシノがいじめるよー!」

 

「おーよしよし怖かったねー…イクサを取られそうになったからって大人げないぞー?」

 

「んなっ!そんなんじゃないよっ!」

 

「あっははは…」

 

 

_______________________

 

 

ガチャっ

 

「ただいまー…」

 

「おーイクサお帰りー」

 

「…イクサ。生徒会室はお前の家じゃないぞ」

 

「硬い事言わないの、桃ちゃん」

 

「桃ちゃんと呼ぶな!」

 

「そうだぞ桃の助」

 

「だから桃ちゃ…んではないがそれもやめろ!」

 

「ははっごめんな……で?初日からハードだったみたいだな?」

 

「あー結構派手にやったからねー。大変だったっしょ?」

 

「まぁ昨日ほどじゃなかったが、整備したその日からあんな状態だからな…」

 

「イクサ君本当にお疲れ様だね。」

 

「まぁこれから技術も上がってもっと楽になるさ。それで?今日はどんな事やったんだ?」

 

「まぁ結果から言ったら西住ちゃんのチームが他のチームを全滅させたね」

 

「えっなにそれ」

 

「いくらなんでも端折りすぎです…今日の訓練は5つのチームに別れての模擬戦。その結果、会長の言ったような最後になった。」

 

「だいたい合ってるじゃーん。…でもすごいよねー1両は自滅だったけど、その他の3両は西住ちゃんが撃破したんだもん」

 

「へぇ…やっぱりすげぇな…」

 

「まぁ、それはそれとして。さっきの話はまだ終わってないからね?」

 

「えっ?」

 

「とぼけないでよーん。…自動車部の4人と一晩寝たんでしょ?」

 

「「……」」

 

「お前言い方を考え…」

 

「座れイクサ。言い訳はこれからしてもらう」

 

「会長。そど子さんに連絡しますか?」

 

「いや、シロかクロかはっきりさせてからでも遅くない。」

 

「待て。お願いだから話を聞いいででで腕!腕がっ!」

 

「イクサ君。男だったらケジメをつけなきゃ」

 

「柚子さんお願いだから関節を極めるのを止めて!」

 

「ふむ。相変わらずの腕だな。柚子」

 

「ありがとう桃ちゃん。でも会長には負けるけどね」

 

「泥んこプロレスリングで鍛えられたからねーあっはっはー!」

 

「この状態で談笑するんじゃねぇぇぇ!」

 

 

 

 

この後数時間拷問され続け、自動車部の電話による証言によって俺の潔白は証明された。

 

 





ホシノにもフラグを立てていくスタイル。

立て過ぎて回収できないなんて事にはならないようにしたい。


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カラーリング・ウォー

7話目。桃ちゃん回となっております。

やっぱあのキャラは無理して作ってるんじゃないかなーと思っての今回。

あとバトルシーン…と呼べるかはわからないけどそれっぽいのに挑戦してみました


夕暮れ。森の中。

 

いつもは静かなはずのこの場所では今、多数の銃声が鳴り響いている。

 

 

「チッ…」

 

空になったマガジンを捨て、舌打ちを漏らす。

 

マガジンはあと1つ。敵は3名。こちらは1人。

 

…非常にまずい。

 

 

 

不意に銃声が聞こえた。 だが俺には当たらず少し遠くの木に着弾する。

 

今ので場所はわかった。俺は落ち着いて敵がいるであろう場所に数発撃ち込む。

 

その場所から聞こえる断末魔にも似た叫び。これで後は2名。

 

その直後。右前方の茂みから1人が飛び出す。

 

『奴』が発砲する前に撃ち込み命中させる。

 

だが『奴』が飛び出してきた茂みから銃声。

 

その凶弾が俺の右胸を撃ち抜いた。俺は叫ぶ。

 

 

「畜生!負けだ!」

 

「よっしゃあ!」

 

 

茂みから撃ってきた杏が立ち上がり、ガッツポーズをする。

 

 

「会長!やりましたね!」

 

 

最後に命中させた 『奴』…柚子も同じくガッツポーズしている。

 

 

「あぁ…やっぱりなぁ…」

 

「まぁ早々に1対3にしちゃった私達が悪いよねぇ…」

 

 

そして俺のチームメイトであり、試合開始直後に撃破されたホシノとナカジマが申し訳なさそうに歩いてくる。

 

 

「にひひーイクサ君?約束はなんだったっけー?」

 

「あぁ…38(t)を全面金色ね…おーけーおーけー…」

 

 

 

 

 

さて、俺らが何をやっていたか。事の発端は今朝の生徒会室での会話。

 

 

「イクサぁーちょっと戦車道のルールについてなんだけどさ」

 

「なんだ?」

 

「戦車のカラーってある程度決められてるの?」

 

「いや。全く決まりはない。あらゆる色、模様、文字なんかも迷彩として認められている。」

 

「へぇー!じゃあさじゃあさ!」

 

「嫌な予感しかしないんだが?」

 

「うちのチームの38(t)を全面金色にしてよ!」

 

「マジで?」

 

「ただの金色じゃないかんねー!金箔みたいに、光が反射するようなピッカピカにしてね!」

 

「できるかそんなもん」

 

「えー無理なの?」

 

「無理とは言わないが、ピッカピカなんて何時間掛かると思ってやがる」

 

「やってよぉー」

 

「駄々っ子か。てかなんで金色だ?」

 

「この写真見てみー?」

 

「あ?…なんだこれ!?これ三突か?なんで真っ赤にして旗ぶっ差してるんだ!こっちのM3リーはピンク一色だし!八九式はマシ…じゃねぇな『バレー部復活』って書いてやがる!」

 

「でしょー!だったらウチらも…」

 

「やらねぇよ!」

 

「なんでよ!?」

 

 

 

その後も言い争いは続き、結局杏がサバゲーで勝ったら金色にするという事になった。

 

要するににあれだ。他のチームがトンデモカラーにしたから自分達も派手にしたいってだけだろう。

 

……なんでサバゲーかって?俺が聞きたい。感情的になって全然覚えてない。

 

 

「ごめんな二人とも…余計な手間を掛ける…」

 

「気にしないで。戦車のカラーリングってなかなかできる事じゃないし!」

 

「そうそう!それにサバゲーなんて初めだったけどすごく楽しかったよ!」

 

 

ホシノとナカジマの優しさが身に染みる。

 

 

「んじゃ早速取り掛かりますか!」

 

「あぁ。頼んだ。」

 

 

自動車部の二人が校舎に戻った後、ある事を思い出す。

 

 

「…あれ?そういえば桃どこいった?」

 

「イクサが撃ったんじゃないのん?」

 

「…ちょっと行ってくる」

 

 

杏のチームはいつもの生徒会三役。

 

もちろんBB弾で試合をしていたが、もしかしたら打ち所が悪くて動けなくなってるかも…

 

内心焦りながら桃を撃破した場所に向かう。

 

そして、そこにいたのはうずくまっている桃。悪い予感が当たったか?

 

 

「おい!桃大丈夫か!?」

 

「ふえぇ?」

 

 

桃に声を掛けるが、返ってきたのはいつもの桃からは想像できない情けない声。

 

 

「も、桃…?」

 

「…かった」

 

「えっ?」

 

「痛かったぁぁ~!」

 

「ちょっ!泣くなって!」

 

 

ついには泣き出してしまう。なにこの子!本当にいつもクールにしている桃か?!

 

本気で人違いの可能性を考え始めた頃、柚子と杏が後ろからやってくる。

 

 

「あーもー桃ちゃん泣かないのっ」

 

「うぅ…ひっぐ」

 

「あはは…河島ってこう見えて結構打たれ弱いんだよねー」

 

「そう…なのか?二重人格とかじゃなく?」

 

「そんなわけないじゃーん」

 

「桃ちゃんどこ撃たれたの?」

 

「…腕の…」

 

「あー…ちょっと赤くなってるねー…でもこれぐらいガマンしなきゃ戦車道なんてできないよー?」

 

「うぅ~…」

 

この杏と柚子の慣れた様子。…もしかして

 

 

「結構普段から泣き虫?」

 

「泣き虫言うな~!」

 

 

 

___________________

 

 

 

 

桃が撃たれた所が少し腫れていたので、保健室で湿布を貼ってもらった。

 

そして今はふたりで廊下を歩いている。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

会話がない。まあ桃からしたら見られたくない所を見られたのだから気まずくて当然だろう。

 

 

「…い…イクサ。」

 

 

桃が恐る恐るという感じで俺の名を呼ぶ。

 

 

「なんだ?」

 

「あの…さっきの事は…誰にも…」

 

 

桃が泣きそうな声で懇願する。

 

生徒会の一員としてふさわしいように、口調、性格、あとこの片眼鏡なんかも用意して作り上げてきたのだろう。

 

なのに、俺に素の一面を見られてしまった。

 

恐らく、今桃の中にあるのは俺がその事を言いふらしてしまうのではないか、という不安。

 

もちろん俺にそんな気はさらさら無い。

 

それに…

 

 

「言わねえよ。むしろ嬉しいぐらいだ。」

 

「えっ…?」

 

 

桃の困惑が伝わってくる。

 

 

「あんな所を俺に見せてくれたんだ。お前が俺の事を仲間として…なんていうかな…信頼、してくれたってことだろう?」

 

「…えっと…」

 

「あぁいや、俺が勝手にそう思っているだけだからな。…まあなんにしてもさっきの事を言いふらすなんてつまらんことはしない。」

 

「あっ…あぁ…感謝する…」

 

 

桃が安心したような笑顔を見せててくれる。

 

そうだ。俺が一番言いたいのは。

 

 

「それだ。」

 

「えっ」

 

「そんな固い感じじゃなくてさ、たまには肩の力を抜いて自然な感じでいてくれよ。その方が可愛いぞ?」

 

 

可愛いとか女の子には初めて言ったな…だが、それ以外に言葉が見つからなかった。

 

 

「……ふっ…ははははは…」

 

 

桃が突然笑いだす。

 

 

「可愛いなんて…言い慣れてないのが見え見えだぞ?」

 

「…うるせ。」

 

「でも…」

 

 

そして俺に見せてくれたのは、今までで一番自然で、そして嬉しそうな、桃の笑顔。

 

 

「ありがとう。…えへへ。」

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

ガチャッ

 

 

「戻りました。」

 

「あっ桃ちゃん。大丈夫?」

 

「ああ。ちょっと腫れてただけだからな。」

 

「イクサ君は?」

 

「自動車部の方に行ったよ。どうせ終わってないだろうから早く手伝ってやらなきゃなって。」

 

「…ふーん?」

 

「どうした?」

 

「なんていうかなー…桃ちゃん、ちょっと柔らかくなった?」

 

「えっ…そそんな事はないぞ?」

 

「ふーん?ちょっと可愛くなったと思ったんだけどなー?」

 

「かわっ!?」

 

「ん?」

 

「そんなっ私が可愛いなんてそんなっ…無いじゃないか?!」

 

「そ、そんなに否定するー?」

 

「はっ…」

 

「…まぁ早く帰ろう?会長も帰っちゃったし。」

 

「う…うん。」

 

 

 

 

 

 

 

 





ところであの金色ってどうやってるんだろね?

光を反射どころか自分で発光してた気がするんですが…


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角谷杏のやきもち

8話目でございます。正妻を愛でていくスタイル


バレンタインデー ?今朝知りました。


夕暮れ時、今日の訓練は一通り終わり俺は全員に向かって叫ぶ。

 

「よし、今日はここまでだ!…まぁ全員慣れてきたが、そう言う時が一番危ねぇ。気を抜かず、常に自分が初心者である事を忘れるな!」

 

 

『はい!』

 

 

校庭、倉庫前。戦車道受講者達の声が響く。

 

戦車も揃い、訓練も本格的に始まったある日。

 

 

「全員聞けー!」

 

 

訓練が終わり各々が解散しようとした時、桃が叫ぶ。

 

 

「急だが今度の日曜、聖グロリアーナ女学園との練習試合がある。当日は朝6時に集合!わかったな!」

 

 

全員がざわめく。当然だろうな今日決まったんだもん。

 

そんな中、なにやら西住のチームが揉めている。

 

チームごとのトラブルの面倒を見るのも俺の仕事だ。俺は西住のもとへ向かう。

 

「西住。どうした?」

 

「あっイクサさん…それが…」

 

「うん?」

 

 

西住の視線の先を見ると…

 

 

「人間が朝の6時に起きれるか!」

 

「い、いや集合が6時なので…起きるのは5時ぐらいになるかと…」

 

「どっちにしても無理だ。短い間だったが世話になった。」

 

「もー!単位どーすんのよー!」

 

 

 

 

「…どういうことだ?」

 

「えっと…冷泉さん朝が弱くって…どうしても起きれないみたいで…」

 

「冷泉…?あぁマニュアル見ただけで戦車を操縦できたっていう…」

 

「あっはい。その冷泉さんです」

 

「朝が弱いっつてもなぁ…」

 

 

あそこまでいくと何か強い意思を感じるな。

 

 

「まぁ何とかして起きて貰うしかないな。…それはそれとして…」

 

「はい?」

 

「改めてどう思った?あれ」

 

「あれって…?…あぁあれですか…」

 

 

俺が指差した方を見て西住も納得する。

 

 

全面をピンクに染められたM3リー。

 

至るところにバレーボールのマーク。そして『バレー部復活!』の文字が目立つ八九式。

 

メインカラーを赤にし所々に武家?の紋様?が描かれ、そして車高が低いという利点を完全に殺す旗が4本刺された三号突撃砲。

 

そして自動車部が無駄に魂を込め、純金さながらの輝きを放つようになった38(t)。

 

それぞれ常識の斜め上を行くペイントが施された戦車達。これについて前から西住の感想を聞いてみたいと思っていた。

 

「ふふっ…私も驚きました。」

 

「…楽しそうだな?」

 

「はい…黒森峰では楽しいなんて思う余裕すら無かったですから。」

 

「…そうか…そう思ってくれてるのなら何よりだよ。まぁいろいろ負担を掛けるが、相談にならいつでも乗るからな。」

 

「はい!…えっと…じゃぁ…今度お願いしますね?」

 

「あぁ。いつでも良いぞ。」

 

「あっ…ありがとうございます!」

 

「うん。…足止めしてごめんな。お疲れ。」

 

「はい!お疲れさまでした!」

 

 

西住は小さくお辞儀をし、まだ冷泉を説得していたチームメイトのもとへ走っていく。

 

 

「…仲よさそうですなー」

 

 

それを見送っていると杏に話しかけられる。…不機嫌そうに。

 

「仲いいって…ただ相談してただけだろ?」

 

「そーですなー」

 

「…なんだよ」

 

「なんでしょうなー」

 

 

何を言ってもこの調子だ

…そんなあからさまにいじけた態度を取るんなら俺にも考えがある

 

 

 

「…杏」

 

「なんでっすかー?」

 

 

 

回りを見渡す…この倉庫前に生徒は俺達だけ。恐らく目撃者も無いだろう。

 

俺は杏の目に前にしゃがむ…これでやっと目線が同じぐらいなんだな…

 

 

 

「んー?…何を…わぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

そして杏を抱えそのまま俺の肩の上に乗せる。

 

 

 

「イクサ待っ…てぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 

 

さらにこの状態で起立。女の子を初めて肩車した感動を噛み締める。

 

 

「はぁ…俺もやっと…肩車童貞から卒業か…!」

 

「何言ってんの!とととりあえず下ろして!」

 

「ヒャッホォォォォォウ!最高だぜぇぇぇぇぇ!!」

 

「何叫んでるの!?」

 

「すまん…カタグルマー・ハイに浸っていた…」

 

「いや本当何言ってんのさぁ!」

 

 

 

俺の頭に必死で掴まって叫ぶ杏。いやーいい気分だ。

 

「ハッハァー!俺をおちょくるとこうなるってのが身に染みて分かったろう!」

 

「分かった!分かったから!下ろして!」

 

「取り合えず散歩をしてから考えていいか?」

 

「今考えて!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ねぇ…いつまでやってんのさ…」

 

「お前が落ち着くまで」

 

「じゃあ下ろして…」

 

 

俺の上で叫び疲れたのか大人しくなる杏。

 

これでやっと本題に入れる。

 

 

「俺はよー杏?」

 

「なにさ…」

 

「お前の事が好きなんだぜ?」

 

「ふぇっ?」

 

「今考えてみたらさ。中学の時からずっとお前の事ばかり考えてたんだ 」

 

「えっ?えぇっ?」

「そして今、俺がここに居るのは、今の俺という存在が在るのは、お前がいたからだ。」

 

「…」

 

 

 

そこまで言って、俺は杏を肩から下ろす。

 

そして、真っ直ぐに見つめ合う。

 

 

 

「杏ちゃん顔真っ赤じゃん」

 

「…イクサもじゃん…」

 

「ふへへ…これでも真面目だったんだぜ?」

 

 

 

そして言葉が無くなりゆっくりと二人の距離が縮まる。

 

 

 

 

 

「…そこまでです。」

 

「風紀が乱れちゃいますよー…」

 

 

 

河嶋と小山にストップを出された。杏が固まる。

 

まぁ俺は二人が近くに居たことは気づいてたけどね。

 

 

 

「こー言う時ぐらい見てみぬ振りしてて下さいよー」

 

「そんな訳にも行かない。校内で有る限りな。」

 

「そうだよー…しかもこんな校庭の真ん中でー…」

 

「二人とも硬いなぁー杏も何か言いい痛でででで!」

 

「ニャアァァァァァァ!!」

 

「あーっ!杏様っ!いけません膝はそっちには曲がりません!あーっ!」

 

「うなぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「股関節がっ!アァァッ!杏ちゃんそこを外すっ!?」

 

 

 

夕暮れ以上の赤色に顔を染めた俺と杏。

 

 

 

「ふむ。ある意味いつもどうりの最後だな。」

 

「あの身長差の相手に正確に技を決められるとは…さすが会長…!」

 

「うりぃぃぃぃぃ!!」

 

「はい外れた!今俺の関節外れたよ!」

 

 

素直にイチャイチャできるのはいつになるのかなー…なんて考えつつ俺は杏の愛を受け止めていた。







ラブコメしようとしたのに持病の『ギャグをオチにしないと死んじゃう病』が…


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せいぐろ!


9話目 聖グロ回ですわ!

劇場版へのフラグを今から立てていくスタイル

ダー様の性格は某らぶらぶ作戦寄り。

ローズヒップは一年という設定で。







「すげー…」

 

「やっぱり日本じゃねぇなここ…」

 

 

俺と杏は校舎の前でため息をついていた。

 

校舎と言ってもここは大洗女子ではない。今居るのは先週行った親善試合の相手、聖グロリアーナ女学園。その校舎。

 

ちなみにその親善試合は5対5の殲滅戦で行われ、結果としてはこちらの全滅だったものの、相手の隊長車以外の4両を撃破するという大健闘を見せた。

 

これからの大会の事を考えても満足できる結果だったであろう。

 

負けた罰として行われたあんこう踊りも目の保養になったしな…踊った当人たちには悪いが。

 

それにしても。

 

 

「本当にイギリスのお城みたいだな…見たこと無いけど。」

 

「いやー本場の雰囲気が伝わってくるよね~…行ったこと無いけど。」

 

 

 

校舎…で良いんだよな?と何度見ても疑わずにはいられないこの外見。ちらほら見える生徒もイギリスらしい身のこなしをしている…まぁイギリス人の知り合いなんて居ないけど。

 

 

 

「んじゃーここの生徒会長に挨拶してくるから、ダージリンと仲良くしといてー。」

 

「この前も聞いたが本当にそんなざっくりで良いのかよ?」

 

「根回しの『根』ってのは張りすぎても枯らしちゃってもダメ…まぁつまりイクサの…その手土産のセンス次第よ~ん。」

 

 

杏は俺が手にぶら下げているバスケットを指差してニヤリとする。こいつは俺が用意した物だが…

 

 

「センスとか言われると非常に不安なんだがな。」

 

「まっ、ウチらのことを印象付けられたら勝ちよ。話は伝わってるから、よろしくぅ~」

 

 

そう言って校舎の中へ姿を消してしまう。

 

…ここまで来ちまったんだから気合い入れるしか無い。

 

校舎の中に足を踏み入れたが、早速問題点が。

 

 

 

「…どこに行けばいいんだ?」

 

 

 

 

 

俺は広い校舎の中で迷いながら数日前の杏との会話を思い出していた。

 

 

「イクサー今度の日曜暇ー?」

 

「ひまー。」

 

「んじゃー聖グロ行こうぜい。」

 

「んあ?聖グロ?試合やった所か?」

 

「そうそう…まぁこれから何が必要になるか分からないし、根回ししとこうかなー…って。親善試合って言うきっかけもあることだしねー」

 

 

最悪の事態を想定しておいて損はない。手は伸ばせる所まで伸ばしておくべき…という考えだな。

 

 

 

取り合えず遠くで聞こえた戦車の砲撃音頼りに歩いていくが…すれ違う女子生徒の視線が痛い。まぁ今さらか。

 

 

 

「あーっ!!」

 

 

後ろから突然聞こえる叫び声。振り向くと生徒が一人猛ダッシュでこちらに向かって来る。

 

 

「そこの殿方ァァァ!!」

 

 

俺だよね。俺しか居ないよね。

 

そしてその子は俺の目の前で急ブレーキ。衝突寸前の所で踏みとどまり、俺を見上げる。

 

 

「あのっ!大洗から来られたイクサ様でございますかっ!?」

 

「あ、あぁ。」

 

「ワタクシ、ローズヒップと申しますの。アナタの事は伺っておりますわ!」

 

 

今まですれ違った生徒は紺色の制服だったが、ローズヒップと名乗った子は赤色のパンツァージャケットを身に付けていた。髪も薄い赤色。そしてこの勢いと合わさって燃え盛る炎を彷彿とさせた。

 

 

 

「そ、そうか。じゃあ早速…」

 

ガシッ

 

 

そんな勢いに若干引きながら答えると突然手首を掴まれる。

 

 

「えぇ!早速!」

 

「えっ?」

 

 

 

そして俺を引っ張り…?

 

 

 

「行きますわよォォ!」

 

 

「うおおおおおお!?」

 

 

猛ダッシュ!?本当にこの子聖グロの生徒かよ!?

 

 

「待て。待って!走る必要は無いよな!?」

 

「時間は有限ですわ!急がないと無くなってしまいますわよ!!」

 

「淑女なら落ち着いて行動すべきじゃないか!?」

 

「急げば急ぐほど落ち着ける時間が多くなるから問題はないですのよ!!」

 

「意味がわかんねぇぇぇぇ!」

 

 

炎じゃないなこれ。ジェットエンジンだな。

 

 

 

 

そしてとある部屋…

 

 

「ゴク…ゴクッ……ハァー…ありがとう。」

 

 

 

コップに注がれた水を飲み干し、その水を出してくれた子…オレンジペコに礼を言う。

 

 

「いえ。こちらこそすいませんでした…」

 

「気にしないでくれ。俺も貴重な体験が出来たしな。」

 

「フフッ…」

 

 

俺が座っている席の正面。この学園の戦車道隊長にして実質的なナンバーワン。ダージリンがクスクスと上品に笑う。

 

 

「確かに…この聖グロリアーナの校舎を走り回るなんて、ここの生徒でもなかなか出来ないわよ?」

 

「えっそうなんですの!?ワタクシいつも走ってましたわ!」

 

「…まぁこの子はいつもこんな感じなのよ。」

 

「まぁ…なんとなく分かるな…」

 

 

ローズヒップはそんな会話を『はて?』という感じで聞いている。

 

初対面の相手にあそこまでできるのはもはや才能だと思うけどな。

 

 

「さて…まずは土産を…」

 

 

俺は『手土産』のバスケットをテーブルの上に置く。蓋を開けて姿を現したのは大量のスコーンと、ジャムが入ったビン。

 

 

「スコーンは…紅茶とよく合わせて食べらていると聞いたんでな。レーズン入りとチョコ入りがある。これはイチゴジャムだ。」

 

「ありがとう。早速頂きましょ?」

 

「ハイですわ!」

 

「頂きます。」

 

 

ダージリンに促され、オレンジペコとローズヒップも食べ始める。

 

 

「あら!美味しいわね!」

 

「えぇ…紅茶ともよく合いますね~」

 

「ダー様!これ!ジャムを付けたらさらに美味しいですわ!」

 

「ダー様はやめなさいって……んー…!確かにこれも捨てがたいわね…!」

 

「ジャムとだったらチョコ入りの方がいいですよ!」

 

「えっホント?……ホントだわ~…」

 

 

和気あいあいと食べるお三方。

 

口に合ったようで何よりだが…なんつーか…

 

 

「あら?どうしたのかしら?」

 

「あぁいや…もっと静かに…厳かに食べるものだと思ってたから…」

 

「フフッ…私達にも気を抜く時ぐらいあるわ」

 

「いつもおしとやかにしてたら疲れてしまいますわ~」

 

「ローズヒップはもうちょっと…いや何でもないです…」

 

 

 

スコーンの残りも少なくなってき頃、ダージリンが口を開く。

 

 

「ところで、このスコーンはもしかしてアナタが?」

 

「あぁそうだ。時間があればもう少しキレイに作れたんだがな。」

 

 

見破るとは流石と言ったところか。

 

 

「マジですの!?買ったお店を教えてもらおうとしてたのに!」

 

「ご注文は何時でも承るぜ?」

 

「えっじゃあ早速…」

 

「イクサ。この子に冗談は通じないわよ?…それで、なぜ店で買うのではなく、わざわざ手作りなんて事を?」

 

 

パーティームードは無くなっていた。

 

忘れていた。今目の前にいるのはこの学園のトップであることを。

 

…これは。試されている…か。

 

 

「ふー…」

 

 

ため息をひとつ。ダージリンは俺の答を待っている。俺の心まで見てそうな眼差しで。

 

そして俺は口を開く。

 

 

「事情は話せない。だが力を貸して欲しい。今では無いが、その時が来る。見返りは用意出来ないし、そちらにはなんのメリットはない。下手をしたらそちらに被害が出る可能性もある。」

 

 

「……」

 

 

「そして、贈り物とは自らの想いや誠意が直接形になった物。そちらに取ってこんな理不尽なお願いをするのに、店で作られた物を持っていくのはと、思ったからだ。」

 

 

 

これが俺の全て。あとは向こうの返事次第だ。

 

ダージリンは紅茶を一口飲み、スコーンをかじる。

 

 

 

「ご馳走さま。」

 

「えっ?」

 

 

予想外の言葉に思わず聞き返してしまう。

 

 

 

「あなたが言ったんじゃない。これはあなたの誠意なんでしょう?…美味しく、頂いたわ。」

 

 

スコーンを持ち上げ微笑むダージリン。

 

 

「…ありがとうございます…で、良いのか?」

 

「えぇ…でも、その時になったら事情を聞くわよ?」

 

「…ありがとう。」

 

 

頭を下げ、感謝の意を表す。その言葉に心底救われた気がした。

 

 

「ところで、あなた女子学園に居るのもその事情のせい?」

 

「あぁ…ウチの生徒会長がな…」

 

 

 

 

その後も他愛のない話が続き、

 

 

「ふむ、ではそろそろおいとまするかな。」

 

「そうね。ローズヒップ。お見送りを。」

 

「かしこまりましたですわ!」

 

「走らずに…ね?」

 

「か、かしこまりですわ…」

 

「…あと、イクサ。」

 

「うん?」

 

「ローズヒップではないけど…たまにお茶菓子の注文、よろしくて?」

 

「…今度はもっと美味いものを持ってこれるはずだ。」

 

「フフッ…楽しみしているわ。」

 

「あぁ…オレンジペコも。」

 

「はい。お待ちしてますね。」

 

「じゃあ、行こうか。ローズヒップ。」

 

「えぇ!行きますわよ!」

 

「待て、手を引っ張る必要は…待って!走るなって言われたろ!?」

 

 

ドタタタタタタ……

 

 

「あら!イクサ様、競歩はご存知無くて?」

 

「走ってなければいいって意味じゃないよな!?」

 

 

ドタタ……

 

 

 

「大洗…そして…イクサ……フフッ……これからが楽しみね。」

 

「えぇ。」

 

 

 

 

 

 

「うぃーっすイクサお疲れー……って、どしたの?」

 

「ハァ……ハァ………ちょっとな……」

 

「ふうん?で、どうだった?」

 

「ハァー……まぁ……協力を取り付けることが出来たし、こちらの印象も悪くないだろう」

 

「そっか!よくやったねぃ!ご褒美あげよっか!」

 

「ホシイモって言ったらどうしてやろうか。」

 

「……じゃあホシイモで。」

 

「えっ」

 

「……」

 

「……」

 

「……戻ってからな。」

 

「……うん。」

 

 







これを全校分やるぜ!覚悟しときな!


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けいぞく!

十話目ェ…… 継続はどうせ遭難しているだろうという風潮


~あらすじ~

聖グロから大洗にボートで帰還中、非常に微弱な信号をキャッチ

気になったイクサは杏と共に、信号の発信元……とある無人島に舵を向けた


「……うん。じゃあよろしくぅ~」(ブチッ)

 

「ど、どうでした?」

 

「今ウチのメカニックに連絡したよ。夜には着くって~」

 

「わぁ!ありがとうございます杏さんっ!ミッコ!聞いた!?」

 

「聞こえたよアキ。いやー…ウチのボートがイカれて無人島に流れ着いた時にはどうなるかと思ったけどねー」

 

 

 

 

 

 

『来いよクマ公ォ……爪なんて捨ててかかってこい!』

 

『グガァァァァ!』

 

 

 

 

 

「まぁお互い様よん。ところでボートに戦車積んでるけど、二人で運転してるのん?」

 

「い~や。あと一人のんびり釣りをしている隊長がいるよ。……っと噂をすれば。」

 

「……おや。客人がいるのかい?」

 

「客人じゃないよミカ!大洗の会長さんが救難信号を見て助けに来てくれたんだよ?しかも、ボートを直してくれるんだって!」

 

「へぇ。あんなのが届くとはねぇ。」

 

 

 

 

 

『グアァァァ!』

 

『ぐふぅっ!……この程度かッッッ!』

 

 

 

 

 

 

 

「あんなのって!ミカがこれで大丈夫って言ったんじゃん!」

 

「ふふっ……でもこうして助けが来ただろう?」

 

「そうそう!大事なのは結果だよ!」

 

「ミッコまで!」

 

 

 

 

 

『ギャッ……』

 

『なにっ!?お前……今わざと急所で受けたのかッッ!?』

 

 

 

 

「まぁ確かにあんな小さな信号、イクサじゃなきゃ気にも留めなかったよ」

 

「イクサ……もしかしてあそこでクマと格闘している?」

 

「そうだよミカ!私達の晩御飯も用意してくれるんだって!」

 

「クマを素手で……?大洗の人は凄いねぇ。」

 

 

 

 

 

 

『弱肉強食……俺の事を強者と……俺に食われる事を選んだのか……?』

 

『…グウ……』

 

『笑って……くれるのか……?俺のッ…ためにッ…』

 

『…………』

 

『ありがとうッ……お前の命無駄にはしないッッ』

 

「いやもういいよ。」

 

 

 

 

 

 

「ん~~……うまい!」

 

「杏さんも気に入ったようだね~」

 

「まだまだおかわりありますよ!」

 

「クマ鍋なんて初めてだよ~……あれっ?イクサ?」

 

「あぁイクサさんなら……」

 

 

 

ポロロン……ポロロン……

 

『……レクイエム?』

 

『いや。旅立つ友を勇気づける曲さ。』

 

『……あいつは最後に、俺に、命を差し出した。』

 

『うん。』

 

『旅立ちではない。俺と共に、俺の中で、あいつは生きてる。』

 

『……』

 

 

 

……ジャンッ!ジャンジャン……!

 

 

 

『ん……ずいぶん陽気な曲だな?』

 

『君の……君達の旅立ちのためにね。』

 

『フッ……ありがとうな』

 

 

 

 

 

 

「なにあれ。」

 

「さぁ?でもミカと空気が合うなんて珍しいかも?」

 

「……アタシもカンテレ練習しようかな……」

 

「あはは……でも楽しそうなミカなんて本当に珍しいんですよ?」

 

「そうなのん~?まぁイクサって誰とでも打ち解けられるしね~…」

 

「……」

 

「どうしたのんミッコちゃん」

 

「もしかして二人って……付き合ってる?」

 

「うぇっ?」

 

「みみミッコ!そういうことは……」

 

「えーだって気にならない?」

 

「き……になるけども!」

 

「そそそうだよー?大人の事情に首は突っ込まない方が良いよー?」

 

「つっ突っ込んだんですかっ!?」

 

「にゃっ!?」

 

「アキの方がヤバかった」

 

「あああああ違うます今のはそうことじゃなくて……」

「うんうんそうだよね突っ込みはしないよね行ってもキスまでだよねー」

 

「キスしたんですかッッ」

 

「まさかの自爆」

 

「うああ今のはそうじゃなくって」

 

「楽しそうだねぇ?」(ポロローン

 

「「うひいっ!」」

 

「あっミカ。イクサさんは?」

 

「クマの墓標を立ててるよ。そんな事より……気になる言葉が聞こえたねぇ?」

 

「ひいいっ……」

 

「だっダメだよミカ!人の事情にこれ以上踏み込んじゃっ!」

 

「だいぶ土足で踏み荒らしてたけどね~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい……ってどうした杏?だいぶグロッキーだな?」

 

「あああ……ごめんなさい杏さん。私のせいでミカに火がついてこんなことに……」

 

「いいんだアキちゃん……きっとこうなる定めだったんだよ……」

 

「本当にどうした。」

 

「まぁ詳しくは言えないけど……出会いから今までを洗いざらい話してもらってるだけだよ。」(ポロローン

 

「それほぼ答えじゃん」

 

「?……それより自動車部が来た。あと数時間もすれば直るんじゃないか?」

 

「えっマジですか!?」

 

「マジ。んじゃ俺も手伝ってくるからもうちょっと待っててくれ。」

 

「…………行ったね。さて、どこまで話したかな?まだ中学1年の春だったっけ?」

 

「もう許して……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう。この礼は必ずさせてもらうよ。」

 

「あぁ。その時が来たら頼む。それに今度はあんこう鍋もご馳走しよう。」

 

「楽しみしてるよ……(次は中学2年の冬からだよ?)」

 

「(びくっ)」

 

「じゃあ3人とも気を付けてな。」

 

「うん!試合の時は負けないからね~!」

 

「杏さん……あの……」

 

「いや……これも戦車道だよ。」

 

「杏さん……!」

 

 

 

 

 

ブォォォォ……

 

 

 

「これならあと一時間半で学園艦に着けるな……」

 

「あぁ~うぅ~あうぁあああ~」

 

「杏……さっきからどうしたんだよ」

 

「ああーん?あんなにコイバナが好きなんて思いもしなかったんだよぉ」

 

「なに言ってんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「♪~……」(ポロローンポロロン

 

「楽しそうだね~」

 

「あぁ……この日の事を忘れないようにね。」

 

「お願いだから忘れてあげてよ……」

 

「ふふふふっ」

 

「あっこれ忘れないやつだね」

 

「あぁ……杏さん……ごめんなさい……」

 

 







オ チ な し


あと、小説紹介を大幅に修正。

ハーレム要素など、初めからない

騙して悪いが妄想なんでな

ということなので杏さんとホシノさんメインで恋愛は進めようかなと


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兎の特訓と恋の火花

十一話目

~重戦車キラーへの道~


そして、歯車は動き出す。


「あのっ……ご一緒してもいいですか?」

 

 

昼休み、大勢の生徒が昼食を食べる食堂。

 

一人で定食を食べていると声をかけられた。

 

 

 

「あぁ。どうぞ。」

 

「…はっはい……失礼します。」

 

 

 

一年チームの隊長、澤梓。

 

いつもはそのチームと一緒だったと思うが……

 

 

 

「友達と一緒じゃないのか?」

 

「えっと……相談したいことが……」

 

「……ふむ。」

 

 

 

 

男であり二年上の俺に話しかけるのも相当な勇気がいるだろう。

 

本気の相談なのだと伺える。

 

 

 

 

「……私達、あの試合で……えっと……」

 

「……言わなくて良い。俺もわかってる。」

 

「…はい。」

 

 

 

 

先の聖グロリアーナとの親善試合。そこで一年チームは自らの戦車を棄てて逃走、結果、撃破されてしまった。

 

澤はその事を言っているのだろう。

 

 

 

「あの後、皆で相談して……もっと本気にならなくちゃ駄目だなって……」

 

「……驚いたな。」

 

「えっ?」

 

「てっきり辞めたいって相談だと思ってたからな。」

 

 

 

砲弾が飛び交うなか、鉄の箱に閉じ込められ、戦う。普通だったら怖いものだ。

 

どんな強豪校だろうとその恐怖心を克服できずに辞めてしまう生徒は多いと言う。

 

 

 

「はい……最初はそういう意見もあったんですけど……負けた原因は私達にあると思ったので……」

 

「……律儀なんだな」

 

「いっいえ!そんな!ただ……皆さんにアンコウ踊りをさせたまま逃げるのはって……」

 

 

 

 

……逃げる、か。そんなこと思ってたとはな。

 

 

 

「だから!もうあんなことの無いように鍛えて欲しいんです!お願いします!」

 

 

 

俺の目を見て真っ直ぐにお願いする澤。

 

 

 

「わかった。お前達なら強くなれるさ。」

 

「!……ありがとうございますっ!」

 

 

 

本当に嬉しそうな笑顔を浮かべて礼を言う澤。

 

こいつは伸びる。そんな確信が俺の中にはあった。

 

 

 

「あと早速なんですが……」

 

「うん?」

 

「ペンキってどうやったら剥がせるんですか……?」

 

「……あー……」

 

 

 

……まぁ訓練より先にピンク一色のM3の色を戻す作業からだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の午後、戦車倉庫。

 

 

「うーん…やっぱり剥がすのは無理ですか…?」

 

「上から塗り潰すしかないな。」

 

「はい……うん!じゃあ皆で塗っちゃおう!」

 

『はーい!』

 

 

 

 

澤の号令に元気よく返事する一年チーム。

 

そしてピンク色の上から元の緑色の塗料が塗られていく。本当に良いチームだ。

 

よく見ると他のチームも元の色に戻そうとペンキを持ち出していた。

 

やはり初めての試合を経験して思う所が有ったのだろう。

 

 

 

 

「お前もそう思うよな?」

 

「……なにがー?」

 

 

38(t)の近くにいた杏。

 

 

「いやーこんな金ぴかにして他の戦車から目を反らさせる作戦とはやるねぇ」

 

「……わかったよぉ……上から塗り塗りすればいんでしょー?」

 

 

嫌味を言ってやると心底残念そうに塗料を手にする。どんだけ気にいってたんだか。

 

 

「イクサも手伝え~」

 

「はいよ。」

 

 

___________________

 

 

「…………」

 

「よっ恋する乙女。」

 

「うわぁ!……ナカジマか……」

 

「ホシノも手伝ってくればいいのにー。」

 

「いや……そんなんじゃ……」

 

「ペンキ持ってうろうろしてるだけじゃあ何も起こらないよー?」

 

「うぅ……」

 

「……会長のことが気になる?」

 

「……うん」

 

「じゃあさ……一回ぶつかってみたら?」

 

「……」

 

「イクサにも、会長にも。このままよりは良いと思うよ?」

 

「……私は……」

 

 

 

___________________

 

 

 

「イクサさーん!」

 

 

手を振って澤が俺を呼ぶ。

 

 

「終わったか?……おお、良い感じじゃないか……?」

 

 

ピンク一色から元の迷彩色に塗り直されたM3。だが気になるものが。

 

 

 

「うさぎ?」

 

 

 

その装甲に塗られていたのは両手に包丁を持ったピンクのうさぎ。

 

 

 

「私が説明しよう!」

 

「なにそのテンション」

 

「いやー金色もいいけどやっぱり戦車は迷彩色に限るよねぇ!っていうテンション。」

 

 

 

……杏が上機嫌ならそれでいいよもう。

 

 

 

「んで。やっぱりチーム名が無いとやりずらいよねーって西住ちゃんと話しててさー」

 

「そりゃあなぁ。AチームBチームじゃ混乱しやすいだろうし。」

 

「そうそう!んでM3を見た西住ちゃんが……『2つの砲塔がウサギの耳みたい……』って言ったからうさぎさんチーム。」

 

「西住らしいなぁ……」

 

 

 

後で聞いたが全部のチーム名を西住が決めたらしい。

 

三突は『どっしりしてて待ち伏せが得意そう』でカバさんチーム。

 

38(t)は『親ガメが子ガメを乗せてるように見える』でカメさんチーム。

 

八九式は『なんかアヒルっぽい』でアヒルさんチーム。

 

Ⅳ号は『大洗に来てあんこうを吊るして捌くのを初めて見たんですよねー』『あれ?西住ちゃんあんこう食べたことないのん?』『はい……美味しいとは聞くんですけど高くてなかなか……』『あっじゃあ今度ご馳走するする!』『本当ですか!?ありがとうございますー……あっチーム名……じゃああんこうで!』であんこうチーム。

 

 

いやいやふわっとしすぎじゃない?特に最後は完全に杏との会話のノリで決めてるし。

 

……まぁ全員嬉々としてそれぞれの戦車に動物をペイントしてるし、皆が覚えやすいならそれでいいさ。

 

 

 

 

「イクサさん!じゃあ早速……」

 

 

澤に急かされる。熱心な事だ……これからが楽しみになるな。

 

 

 

「よし。一年……改めうさぎさんチーム!行くぞ!」

 

『はいっ!』

 

 

 

___________________

 

 

夕方、校庭。

 

 

 

「お疲れー……大丈夫か?」

 

『『大丈夫でーす……』』

 

 

 

立ってるのもやっとという感じのうさぎさんチーム。

 

今日はひたすら反復練習……地味だが、確実に経験を積める……そして疲れる。

 

 

 

「今日はこれまでだ。今日はゆっくり休めよ。」

 

『『はーい……』』

 

 

 

 

どんなに疲れていても返事はする6人。これも良いチームの証だな。

 

 

 

「イクサさーん!」

 

 

 

整備をしようと倉庫に向かっていると澤が走ってきた。

 

 

 

 

「どうした?」

 

「少しだけ時間ありますか?相談が……」

 

「いいけど……お前も疲れたろう?明日でも良いんじゃないか?」

 

「いえ……この感覚を忘れない内に……なんていうか…この…もやもやっとしたのを無くしておきたいんです。」

 

「……そうか。」

 

 

澤にはいつも驚かされる。

 

疑問に思うというのは初心者ではまず無い。言われた事を愚直に実行するのに精一杯だからな。

 

だが澤は今、この日数の少なさで初心者から抜け出そうとしている。

 

 

 

「日も落ちるし、少しだけだぞ?」

 

「はい!」

 

 

 

この学園の希望を育てる。

 

俺は今その実感を噛み締めていた。

 

 

 

 

__________________

 

 

 

「いやーすっかり暗くなっちゃったな」

 

「すいません……」

 

 

 

相談に乗ってたら日が落ちたのに気づかなかった。

 

今は二人で澤の家まで歩いてる所だ。

 

犯罪などが全く無いと言って良い学園艦だが、夜道を女の子一人で歩かせるのもな……

 

 

 

「気にするな。強くなりたいって思ってるんなら、俺は応援するだけだ。」

 

「……男の人って慣れてないんですけど……イクサさんが優しい人で良かったです。」

 

「優しいか?」

 

「はいっ!」

 

 

 

こんなに勢いよく言われるとは思わなかった。

 

 

 

「訓練でも分かりやすくて皆楽しいって言ってるし、そうそう!クラスでもイクサさん人気なんですよ!」

 

「へぇ。」

 

 

普通に返事したけど心の中でニヤけてしまう。やっぱ男としてはなぁ。

 

 

「……私も……」

 

「ん?」

 

「いえ!あっ、私あそこなので!」

 

「そうか。お疲れ。」

 

「はーい!」

 

 

 

そして自分の家に入って行ったのを確認し踵を反す。

 

俺の住んでいる寮は学校のすぐ近く。だが荷物が学校に置きっぱなしなので一度学校に戻らないとな。

 

そして一つ目の角を曲がると。

 

 

 

「デートは楽しかったー?」

 

 

 

ホシノが腕を組んで壁に寄り掛かってた……いつものツナギ姿で。

 

 

 

「あ?ホシノもこの辺りだっけ?」

 

「いや?学校に戻るんでしょ?」

 

「わざわざ来たのか?」

 

「……ナカジマが行ってこいって。」

 

「ふうん?」

 

 

 

まぁいいや。話し相手が欲しかった所だし。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

二人で歩き出すが、会話が無い。

 

いや俺から話しかけても良かったんだが、なんか様子が違う。テンションが低いというか……これから帰ろうって感じじゃない。

 

そして沈黙を破ったのはホシノだった。

 

 

「……モテモテなの?」

 

「は?」

 

「クラスでも人気なんですよー……って。」

 

 

 

聞いてたのか……

 

 

 

「いや……少なくても俺はモテてる自覚はないぞ。」

 

「じゃあ……」

 

 

 

歩きながらホシノが俺との距離を縮める。

 

 

 

「杏会長だけ?」

 

 

 

心臓が跳ねる。俺はこの前と同じかと思い適当に流そうとした。

 

 

 

「いや……だから」

 

「誤魔化さないで?」

 

 

 

優しい口調だが、言い逃れは許さないと悟った。

 

 

 

「実際は?」

 

「……あぁ。告白はした。お互いな。」

 

「それだけ?」

 

「まぁ……うん……」

 

「……うん。じゃあさ。その上で聞いてくれる?」

 

 

 

 

そしてホシノが俺の前に立ち、向かい合う。

 

 

 

 

「イクサ。」

 

 

 

電灯に照らされ赤い顔が良く見えるようになった。

 

その視線はひたすらに、真っ直ぐだった。

 

 

 

 

「好きです。」

 

 

 

それだけ言うと、ホシノは俺に歩み寄り……

 

 

 

チュッ……

 

 

 

一瞬だけ口づけをした。

 

 

 

「ごめん。でも考えといてね。」

 

 

 

そして学校の方に走っていくホシノ。

 

俺は何も理解出来ずにただ立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

「会長~この書類は……うん?どうしたんですか双眼鏡なんて覗いて……あれ?会長?どこ行かれるんですか?……はい……じゃあこれは明日で……はい、お疲れ様です…………うーん、会長どうしたのかしら?」

 

 

___________________

 

 

 

「……はぁ~あ……」

 

「お疲れ~」

 

「ああうんお疲れ……って会長!?」

 

「ホシノちゃん、ちょっといいかな?」

 

「……はい。」







もしかしたらハーレム行けるかも!

なんて希望を持ち続けたいけどやっぱムズイ……(吐血)

ドロドロにはならないようにする。絶対回避。あくまでハーレム。


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三人の恋路

十 二 話 だ っ !


なんて気合いを入れつつ気合いの入ったホシノちゃん編のターニングなポイント







朝。通学路。

 

 

普段通りの道。普段通りの人や車の往来。

 

 

だが私の頭の中は普段通りとは言えない。

 

 

 

 

『好きです。』

 

 

 

昨日、イクサに伝えた言葉。もっとましな言葉があったんじゃないか?

 

いや、それよりも。その後の行動。

 

私の言葉に驚いているイクサに歩み寄り、顔を近づけ……

 

 

 

「ホーシノっ!」

 

「ひゃいっ!?」

 

 

 

後ろから肩を叩かれた。……我ながら変な声。

 

 

 

「驚いたにゃ?」

 

「……朝から心臓に悪いにゃ。」

 

 

 

ナカジマ。私の人生初の悩み……それをマジメに相談できる唯一の友人だ。

 

昨日、私にイクサに思いをぶつけるアドバイスとその機会を作った張本人でもある。

 

 

 

「すまんにゃ~……で?昨日はどうだった?」

 

「……言ったよ。好きです。って」

 

「ほうほう!んで?返事は?」

 

「走って逃げちゃった。」

 

「イクサが!?なんで!?告白され慣れてなかったのかな!?」

 

「違う違う……私がだよ。」

 

「あぁそっち……なんだキスの1つでもしてくればよかったのに」

 

 

 

思わず言葉が詰まってしまう。そのわずかな動揺をナカジマは見逃がさなかった。

 

 

「……マジで?」

 

「……うん。」

 

「へぇ~……」

 

 

 

ナカジマは感心したようにため息にも似た声を漏らす。

 

 

 

「いやーぶつかれって言ったのは私だけどさ、物理的にぶつかるとは思わなかったよ。」

 

「ふふふっ…私もびっくりしたよ……あとね?」

 

「なぁに?」

 

 

 

昨日、あの後。杏さんと話をした。

 

私からしたら恋敵になるのかな?その相手と、一対一で。

 

その事を言おうと思ったが。

 

 

 

「いや。なんでもないにゃ。」

 

「なんだとぉ気になるじゃにゃいか!」

 

「……これは私の問題だからね。」

 

「んー……しょうがないにゃー」

 

 

 

 

大人しく引き下がってくれたナカジマに感謝しつつ、昨日の杏さんの言葉を思い出す。

 

 

 

 

『取り合えずホシノちゃんをどうこうしようって気は無いよん』

 

『まぁ女子校にいる限り、イクサを好きって子は出てくると思ってたしね~?』

 

『だからっていちいち私が相手にしてたら男を束縛しているとか嫉妬してるとか変な噂がながれるしぃ』

 

『じゃあどーすっかって考えた結果、イクサの思いを尊重する方向で行こうかなって』

 

『イクサがホシノちゃんを好きってなったら、ホシノちゃんとも付き合い始めれば良い……まぁ結局どうするかはイクサ次第だけどねぃ』

 

 

 

 

……そんなのでいいのか?と私が聞き返したかった。

 

私に恋愛の経験は無い。が、間違いなく杏さんが普通では無いのは分かる。

 

だが、杏さんはこう続けた。

 

 

 

『勘違いしないで欲しいのは、私のイクサに対する想いは決して軽くはないってこと』

 

『他の人と比べようってんじゃないけど、これは誰にも負ける気は無い』

 

 

 

いつも適当で飄々としている杏さんだが、その言葉は重く、そして強いものを感じた。

 

好きだからこそ、信じているからこそ。

 

それがこの人にとっての『普通』なのだろう。

 

 

 

 

 

 

「えっ!そうなの?」

 

 

 

昨日の事について物思いにふけっていたが、ナカジマの驚いた声で現実に戻される。

 

いつのまにか誰かと電話してたらしい。

 

 

 

「……うん。大丈夫だよイクサ。ゆっくりしてなー?」

 

 

 

ピクッ

 

 

 

イクサの名前が出るとやはり体が反応してしまう。

 

またもやナカジマはそれを見逃さなかった。

 

そして電話しながらもその口がイタズラを思い付いたようにニヤリと曲がる。

 

 

 

「そうだ!今日誰か看病に行くかもだから鍵開けといてね!絶対だよ!」

 

 

 

それだけ言って電話を切り、私の方を見る。

 

 

 

「ホシノも、風邪だね?」

 

 

 

どうやら、私に拒否権は無いらしい。

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

数時間後。とある寮の、とある部屋の前。

 

 

 

「はぁー……」

 

 

 

この場所に着いて何度目のため息か。

 

ここまで来といてドアを開ける勇気が出ない。

 

……そういえば、杏さんが帰る時。

 

 

 

『これも勘違いしないで欲しいんだけどさ』

 

『私はホシノちゃんを応援してるからねぃ』

 

『アイツは変にニブかったり鋭かったりするから……まっチューまでして意識してないってことは無いと思うし』

 

『あともうひと押し。ホシノちゃん次第だよん』

 

 

 

本当に普通では無い。まさか私が応援されるとは。

 

 

だが。

 

 

 

「よしっ」

 

 

それで背中を押される私も、大概普通では無いようだ。

 

自然と、まるで自分の部屋を開けるように、ドアノブに手が伸びた。

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

「あ!あそこだ!二股が得意なフレンズ!」

 

「ひどーい!乙女の純情を弄ぶなんて!」

 

「同じ自動車部のフレンズを泣かせる奴は許さないよ!」

 

「狩りごっこだね!地の果てまで追い掛けっこだ!」

 

「たーのしー!」

 

「捕まえたよ!」

 

「すごーい!」

 

「じゃあどうしよっか!」

 

「じゃあ……を……して二度と……出来ないようにしよう!」

 

「むごーい!」

 

 

 

ガバッ

 

 

 

上半身を起こす。そして痛む頭を押さえながら再び横になる。

 

時計を見るとすでに昼を回っていた。

 

あぁクソ……なんて夢だ。けもののコスプレをしたナカジマとスズキとツチヤに追い回されて……その後は思い出したくない。

 

この前見たアニメと……昨日の事に影響されたか。

 

 

それにしても。

 

 

 

「女の子に告白されて熱を出すとは、俺も純情なもんだ……」

 

 

 

最近なんとなくだるい事が多かったし、徹夜もしてたから風邪も引くだろうが、状況だけ見たらそう言われるだろうな。

 

 

 

「あっ、起きた?」

 

 

 

ふむ。俺はまだ寝ているな?

 

オーバーオールに白いTシャツ。さらにその上からいつものツナギと同じ、オレンジのエプロンを着けたホシノが台所に立っている。

 

ツナギか制服でしか見ていないホシノを夢の中で着替えさせるとは、俺は想像力もとい妄想力も豊かなようだ。

 

 

 

「純情なイクサ君にごちそうだよ~」

 

 

 

うん。やっぱり夢じゃない。

 

俺の独り言を聞かれてるし、ホシノが持ってきた一人用の土鍋からは美味しそうな匂いがする。

 

 

 

「どう?おかゆぐらいは食べれそう?」

 

「……」

 

「……どうしたの?」

 

 

 

聞きたいことは色々ある。まずは……

 

 

 

「エプロン姿も可愛いな。」

 

 

 

なに言ってんの俺?ほれみろ。ホシノが土鍋を持ったまま固まっちまった。

 

 

 

「いや……」

 

 

 

そうだ、まずはホシノがここに居る理由を……

 

 

 

「オーバーオールってホシノが着ると胸が強調されて……」

 

 

 

ちょっと黙ってろ俺。駄目だ意識がはっきりしてるけど確実に脳がやられてる。

 

 

だがホシノは何もなかったように土鍋をテーブルの上に 置いた。

 

 

 

「ふふふ……」

 

「ど、どうした?」

 

 

 

クスクスと笑いだすホシノ。いや、今の発言を笑い事にしてくれるんならそれで良いんだが……

 

 

 

 

「うん?イクサに女の子として見られてるんだな、って。」

 

「い、いや今のはそういう事じゃ……」

 

「はい、今なら食べられるでしょ?」

 

 

 

俺の言い訳を遮るようにお椀によそったお粥を差し出してくる。

 

 

 

「ほーら。それとも『あ~ん』して欲しいの?」

 

「いや……いただきます……」

 

「ふふっ」

 

 

 

なんだろう。風邪を引いてるからなのか、ホシノから母親のような逆らえない雰囲気を感じる。

 

 

 

「……最初に会った日。覚えてる?」

 

 

 

お粥を食べ始めるとホシノが話し出した。

 

 

 

「あぁ……着替えをうっかり見ちまってな……」

 

「うん。そのあとスパナをぶん投げちゃったしょ?」

 

「ははっ……まぁ今では笑い話だよ。」

 

「そして……次の日に整備して、試運転して、森の中でエンストしちゃってさ。」

 

「あぁ。」

 

「そこでした握手。覚えてる?」

 

「あぁ……あの時の言葉と一緒にな。俺の励みになった。」

 

「……思えば、その時からイクサが好きだったと思う」

 

 

 

お粥を掬っていた手が止まる。

 

 

 

「……こんな時でごめんだけどさ。昨日の事について、聞かせて貰えないかな。」

 

 

 

ホシノは不安そうな眼差しで、俺の目を見ている。

 

 

 

「……俺もずっと考えてた。」

 

 

 

誤魔化す事はしたくない。ホシノの想いに報いるように、俺もまた、想いを伝える。

 

 

 

「さっきの……森での言葉。『力になるから。頑張るから』……今でもよく思い出せるよ。」

 

「うん。」

 

「……俺も、ホシノの事を特別な人として見ていたのかもな。」

 

「それって……」

 

 

ホシノが期待をするように聞く。

 

 

 

「だが……俺は……」

 

 

 

頭の中に居るのは。

 

 

 

 

『にひひ~』

 

 

 

 

イタズラっぽく笑う杏。

 

 

 

 

 

『ホシノちゃんもやるね~』

 

「あ、杏さんっ!?」

 

 

 

 

頭の中の杏と目の前のホシノが話している。

 

 

 

……あれ?

 

 

 

「イクサも結構脈アリだったのかな~?」

 

「…あん…ず…?」

 

 

いや違う。二人とも現実に、目の前に居る。

 

 

 

「いやー妬けるね~特別な人なんて~うりうり~」

 

「ひゃっははっ……杏さんくすぐった……ひゃん!」

 

 

 

杏がホシノをくすぐっている。こんなに仲良かったの?今のやり取りを見て何も言わないの?てかいつの間に入ったんだ?

 

 

 

「あっ杏さん!イクサが!」

 

「あ~……そーいや風邪引いてたの忘れてたわ。」

 

 

 

脳が処理しきれず意識を手放す。最後に聞こえたのは杏の呑気な声だった。

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

「おいしー!」

 

「うまい。鍋を作らせたら誰にも負けないな。」

 

「でっしょ~てかイクサも冷蔵庫に材料ぐらい揃えとけよう~」

 

「一人なんだからあれで十分だろ。」

 

 

 

さらに数時間後、俺が寝覚めた時には体のだるさは消えていて、熱も下がっていた。

 

今はホシノが作ったお粥に杏がひと手間加え、更に美味しくなった鍋を三人でつついている。

 

……それに、二人がどういう話をしていたのか。それも聞いている。

 

 

 

 

「そんで?イクサはどーなのよ?」

 

「なにが?」

 

「ホシノちゃんが好きなの?」

 

「「ングっ」」

 

 

 

俺とホシノが同時に喉に詰まらせる。いつも普通に爆弾発言をしてくるから心臓に悪い。

 

だが俺はそれを飲み込んでから落ち着いて、正直に。

 

 

 

「……あぁ。そうだな。」

 

「んじゃあほらっ。ちゃんと向かい合って!」

 

「お、おう」

 

 

 

促されるまま、俺はホシノの方を向く。ホシノも俺の顔を見て言葉を待っている。

 

 

 

 

「ホシノ。」

 

 

 

俺は手を差し出す。

 

 

 

「……はい。」

 

 

 

そしてホシノがその手を握る。最初の日から数えて三度目の握手だ。

 

 

 

 

 

「好きだ。……これからもよろしくな。」

 

 

「……うん。こちらこそ。よろしく。」

 

 

 

 

 

すこしだけ涙を浮かべ、それでもとびきりの笑顔を見せながら、ホシノが返事をした。

 

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 

それを待ってたとばかりに杏は俺とホシノに手を伸ばす。

 

 

 

「私もだからね!」

 

「あぁ。忘れねえよ。」

 

「ふふっ……はい。」

 

 

 

そして三人で輪を作るように手を繋ぐ。

 

 

 

「杏も好きだぜ。」

 

「私も……杏さんが好きです。」

 

「いやぁ照れるなぁ……好きだよ。私も二人のことが。」

 

 

 

 

少し変わってるかもしれない。常識とは外れているかもしれない。

 

だが、偽りではない。この『好き』という言葉も、いま胸にある気持ちも。

 

 

 

__________________

 

 

……帰り道。ホシノと杏。

 

 

 

 

「いやぁーすっかり暗くなっちゃたねぇ」

 

「……杏さん。今だから聞くんですけど。」

 

「ん~?」

 

「普通は誰にも渡したくないものなんじゃないですか?その……イクサの事。」

 

「……まぁ最初はそー思ってたけどさ……イクサが女の子と仲良くしててイライラするよりさ、こういう関係になった方が楽しいじゃん?」

 

「まあ……それはそうですけど……」

 

「なぁに~?それとも私が全力でガードしてた方が良かった~?」

 

「それは困ります。杏さんにはいろんな意味で勝てる気がしないですもん。」

 

「フッフーン」

 

「それより、また……その、私みたいな子が居たらどうするんですか?」

 

「まっ、その子の本気度次第だねぇ。ホシノちゃんは実にお熱だったみたいだからさ。」

 

「……///」

 

「そー言えば……ナカジマちゃんに相談されたよ?」

 

「えっ」

 

「イクサを渡してくださいとは言いませんけど、優しくしてあげてください。あの子の初恋なんで。ってさ。実はそう言われたことも原因なんだよねぇ~」

 

「あいつ……」

 

「フフフ~いい友達じゃん?」

 

「……はい。」

 

「んで話を戻すとさ。結局はイクサ次第だよ。あいつが好きって言うんなら、私はそれを信じるだけさ。」

 

「うん……じゃあ私も、信じてみます。」

 

「……ホシノちゃんで良かったよ。これからいろいろよろしくね。」

 

「はい。」

 

 









取り合えずこの三角関係はハッピーな事になったかなと。


そーいえば全国大会まだだよねー……よし一段落ついたし次から頑張ろう(フラグ)

何故ホシノなのかって?好き以外に何か理由が必要なのかな?(ポロローン


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さんだーす!

十三話目……だっけ?



上げ直し失礼しました。間が空いちゃったからね。ミスもするよね仕方ないね。


サンダース編です。試合前から杏とケイが親しげだったのはこんな事があったからじゃないかな?(適当





サンダース学園艦。サンダース高校校舎前。

 

「さあ行け。世界が戦火に包まれる前に。」

 

と杏に言われるがままこの場所まで来てしまった。

 

突拍子のない事は慣れっこだが、今回の杏は様子がおかしかった。中二病的な意味で。

 

取り合えず校舎前まで来たら電話しろと言われたのでその通りにする。

 

 

 

ピッピッピッ……プッ

 

 

 

 

「杏?校舎前まで来たんだけども」

 

『遅い。道草はそんなに美味かったかこの草食動物。』

 

「いきなり行けと言われてその罵倒かよ。」

 

『まぁいい。所定のポイントに到着したようだね。では今回のミッションを伝える。』

 

「ミッション?」

 

『先週、戦車道全国大会の開会式が行われた。』

 

「杏さん?」

 

『そして一昨日。ウチの戦車道受講者、秋山優花里がサンダースに潜入。無事に帰還したし、情報も手に入れたようだけど、その時に発見されて大騒ぎだ。』

 

「なにそれ初耳。」

 

『そこでイクサに課せられたミッションは、そちらの戦車道隊長、『ケイ』と接触し、和解することだ。』

 

「それっぽく言ってるけど要は謝ってこいって事だろ。」

 

『厄介な事に、先の潜入を受けて警備が厳重になってる。見つかればタダでは済まないだろうね。』

 

「なんで事前に連絡とかしてないの?」

 

『これは潜入任務だ。しかも単独。だがイクサなら必ず成し遂げられると信じているよ。頑張ってくれ。』

 

「ちなみに最近なんのゲームにはまった?」

 

『メタルギ(ブチッ

 

 

 

そこまで聞いて電話を切る。何かに影響されやすいってのはいつものことだ。

 

まぁこの校舎が本当に某ステルスゲーの如く要塞化してるわけないしな。取り合えずそこらの女の子に話を聞くか。

 

 

 

「あのーすいません。」

 

「はい?」

 

「ここの戦車道の隊長に会いたいんだが。」

 

「……」

 

「……?」

 

 

なぜか俺のことを見つめてくる。

 

 

「あなた、どこの生徒?」

 

「あぁ……大洗女子学園だ。」

 

「!!」

 

「まぁ女子学園つっても俺はれっきとした男だ。実は男装の麗人でしたとかじゃ……」

 

 

 

「 侵 入 者 だ ー ー ! ! 」

 

 

「……は?」

 

 

その子が突然叫び出す。待って。男装の麗人とかふざけた事言ったけど俺は不審者じゃない。

 

 

 

「ちょちょちょっと待ってアポなしだけど本当にここの隊長さんに会いに来ただけで」

 

 

 

そんな言い訳むなしく数秒後に鳴り響くサイレンと大音量の声。

 

 

 

『AD2にて大洗からの侵入者有り。付近の生徒は直ちに捕獲に向かえ!』

 

 

 

 

……嘘でしょ。

 

 

 

 

 

『こっちだ!』

 

『見つけた!あの男だ!』

 

『die!die!』

 

 

さらに辺りから聞こえる叫び声。

 

 

……そうだな。

 

 

 

『逃げたぞ!追えー!!』

 

『回り込め!退路を塞げ!』

 

『kill!kill!』

 

 

「おい一人キラーマシンいるぞ!」

 

 

 

 

 

三十六計なんとやら。俺は全速で逃げ出した。

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

「ヘイイクサ。調子は?」

 

「すこぶる好調だよ。」

 

「それは良かった。」

 

 

 

今俺は広い教室の椅子に座っている。

 

どこかを縛られているわけではないが、結構な数の女生徒に囲まれ逃げられない。

 

目の前に居るのはナオミ。薄い茶髪のベリーショート。背も高く、ボーイッシュの見本のような子だ。

 

俺はこの子が指示する部隊に捕まった。

 

 

「ところで、マジに熊を素手で狩れるのかい?」

 

「……誰から聞いたんだ?」

 

「いや。おかげでちょっとダーティーな手を使うハメになったからさ。」

 

 

 

ここに居る捕虜は一人ではない。

 

隣の椅子にはホシノが座っている。

 

 

 

「ほーら。アンタの事よぉ。」

 

「うー…」

 

 

腕を組み、ホシノを見下して嫌みったらしく言うのはアリサ。薄い赤の髪で短いツインテール。鼻の所に少しそばかすがあるが……あれだな。黙っていれば可愛いタイプだな。

 

 

「アリサやめな。」

 

「ヘイヘーい。」

 

 

そんなアリサをたしなめるナオミ。

 

何故かこの学園にいたホシノを人質に取られ、俺は大人しくここまで連行されたのだ。

 

ホシノがここに居た理由を聞いても「いやー…何でっていうか…あははは…」なんて要領を得ない答えしか返ってこない。

 

 

 

 

ガチャッ!

 

 

 

 

ドアが開かれ、スタイルの良い長い金髪の子が入って来る。

 

 

 

「おっ疲れー!お客さんは?」

 

「はい。こちらに二名。大洗からです。」

 

「うん。じゃあ皆下がってオーケーよ!」

 

『はいっ!』

 

 

 

アリサとナオミを残して全員が教室から出ていく。

 

この生徒達を素直に従わせるカリスマ。どうやら目標の人物がやって来たようだ。

 

 

 

「ハロー。イクサ。大洗に招待状を出した覚えは無いんだけどねぇ?」

 

「……隊長のケイ…でいいのかな?」

 

「イエース。」

 

「少しだけ話をしに来ただけだ。……まぁ事前に断りも無く入った事は謝るよ。」

 

「その必要は無いわ!」

 

 

 

バッとケイが叫び、ドアの方を向く。誰か入って来るのか?

 

 

 

「……?」

 

 

 

少し待つが誰も入って来ない。

 

 

 

「その!必要は!無いわッ!」

 

 

 

無駄に声を張り上げ、再びドアの方に叫ぶ。

 

だが何も起こらない。

 

 

 

 

「……んー?」

 

 

 

ケイが不思議そうな声を出し、ドアに近づく。

 

 

 

 

「……ホシノ。何か知ってるのか?」

 

「さ、さあ~ね~…」

 

 

 

ホシノは誤魔化すのが苦手らしい。

 

 

 

 

「どしたの?合図わかりずらかった?」

 

『……』

 

「いやいや!覚悟決めたんでしょ!」

 

『……!』

 

「恥ず…ってそれも今更よ!ほぉら!」

 

『…!…!』

 

 

 

 

と、ケイに引っ張られながら大体予想通りのあいつが出てきた。

 

 

 

 

「ど、どっきりだーいせーいこーう……」

 

 

 

 

『ドッキリ!!』と大きく書かれた看板を持ち、もじもじしながら決まらない決め台詞を言う杏。

 

 

「……」

 

 

ただ。その格好。スクール水着の上にセーラー服。スカートは履いてない。さらに猫耳を装着している。

 

ハハッその程度で俺が動揺ガハァッ!!

 

 

 

「吐血!?」

 

「ノォォウ!メディィック!!」

 

「だーいせーいこーう……」

 

「あぁ!杏さんが大成功人形と化してる!」

 

「アンタも落ち着きなさい!そんな人形は無いわよ!」

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

 

「おぉー……猫耳の杏さんなんて新鮮ー」

 

「さわるなぁー……」

 

「照れてるところもそそりますなぁ…」

 

「うぅー……」

 

 

 

 

いろいろと落ち着き。今ホシノと杏は同じソファーの上でイチャついてる。さっきのままの姿で。

 

 

 

 

 

「……はぁ…」

 

「なんだいイクサ。ジェラシー燃やしてる感じ?」

 

「どっちにさ。」

 

「それはこっちが聞きたいよ。」

 

 

ニヤニヤしながらナオミが聞いてくる。

 

こっちはサンダースの三人と同じテーブルを囲んで座り、事情を聞いたり、聞かれたりしてる。

 

 

 

「まぁアンジーとは昔ちょっと知り合いだったのね。んで話しているとボーイフレンドができたって言うじゃない?じゃあそいつの顔を見せてーって私が言ったのがはじまりなのよ。」

 

「そんで、ここの生徒集めて俺をドッキリに掛けたってわけか。」

 

「楽しかったでしょ?」

 

「まぁあの鬼ごっこはスリル満点だったな。」

 

「ふっふーん。ウチの生徒は何事にも全力だからね!」

 

「だからってガチ殺意むき出しにする必要は無いと思うんだわ。」

 

 

 

 

 

この感じだとスパイの件は水に流されたみたいだな。じゃあ俺が来る必要なかったんじゃ……

 

 

 

 

 

『やっぱスク水の感触って気持ちいいですよねー…ずっとなでなで出来そう…』

 

『……あっ…やめっ…お腹くすぐっ…ひい…!』

 

 

 

いつの間にかホシノが膝の上に杏を乗せ、さらにイチャイチャしていた。

 

 

 

「……」

 

「イクサ。鼻血鼻血。」

 

「これは心のトマトジュースだ。」

 

「どんな誤魔化し方よ……」

 

 

 

アリサに呆れられながら鼻…いやトマトジュースを拭う。

 

 

「ふー……あのコスプレ…ストパン?だっけ?」

 

「うんストライクパンツァーズね!」

 

「あれそうだっけ?」

 

「違った?まああれもアタシがただ出てくるだけじゃああれだからってアンジーに着せたのよ。気に入った?」

 

「んー……」

 

 

コスプレよりあんな態度の杏なんて滅多に見れるものじゃないしなぁ……と思いつつ杏と目を合わせる。

 

 

 

 

ビックーン

 

そんな擬音が付きそうなほど肩を跳ねらせる杏。

 

 

 

『うおっ?……あーイクサに見られてびっくびくですかぁ?』

 

『わかってるなら着替えさせて…せめてスカートを着せて…』

 

 

ふむ。

 

 

 

「場所が場所なら全アングル三桁ぐらい撮影して永久保存してたんだがな。」

 

「うわぁ……」

 

「そんな引くなよアリサ。可愛い物を愛でるのは当然だべ?」

 

「それには同意するが鼻血を垂らしながらだと変態にしか見えないよ?」

 

「ナオミ。これは心の昂りによって沸騰した血液を鼻から逃がしているんだ。」

 

「つまり鼻血だな。」

 

 

 

俺のこの気持ちは伝わらなかったようだ。

 

 

 

 

「んでイクサ?アンジーが言ってたんだけどさ?本当にあの二人両方と付き合ってるの?」

 

「おう。」

 

「わー男らしい。」

 

 

 

なるほどホシノが居たのは杏が言ったからか。ケイの性格なら連れてきてとか普通に言いそうだな。

 

 

 

 

「まぁまだ二人かー」

 

「えっまだって?」

 

「そーいえばナオミは何人だっけ?」

 

「6人ですね。」

 

「えぇ?」

 

 

 

これは予想外。さすが自由の学園と言った所か。

 

 

 

「しかも全員ガールフレンドってね。」

 

「ほー……」

 

「まぁ私は同じ戦車のメンバーとメカニックだけどね。でも私は全員を愛しているし、皆もそれぞれを愛している。」

 

「うむ……」

 

「だからこそ戦場で生きられる。分隊は兄弟。分隊は家族。」

 

「わかった。わかったからそれ以上言うな。」

 

「まぁそれは冗談として、二人程度で悩むなって事だよ。」

 

「……悩んでる訳でも無いんだがな。」

 

 

 

 

無いんだが。まぁ後ろめたいというか、そんな気持ちはあったな。

 

 

 

「経験者のお言葉ってやつだよ。気にした時点で負けってね。」

 

「そうだな。ありがたく受け取っておくよ。」

 

 

 

6人のナオミと比べてどうこうって訳じゃないが、気が楽になったのは確かだ。

 

 

 

「まぁ私はこれ以上増える予定は無いけど、もしかしたらアンタはすごい事になりそうだね。」

 

「……ノーコメントで。」

 

 

 

俺もこれ以上増える予定は無い。……多分な。

 

そしてケイが「さて!」と手を叩く。杏とホシノもこちらに注目する。

 

 

 

 

「今回のスパイ騒ぎはアンジーに免じてって事で!」

 

「体張った甲斐がありましたねぇ。」

 

「うー……」

 

「そうだな。まぁ試合じゃあよろしく頼むよ。」

 

「えぇ!……あっ試合で思い出したけど、フラッグとかの編成は変えないから安心してねっ」

 

「……そうなのか?」

 

 

 

 

 

こちらがスパイに入った以上、完全に組み直して来ると思ったが。

 

 

 

 

「まっそれもアンジーに免じてってね……ほら。」

 

 

 

ケイがナオミとアリサにも見えないようにスマホの画面を見せてくる。

 

 

 

「ん?……ッ!?……これは!?」

 

「貴重なアンジーのお着替えシーン」

 

 

 

無言で口と鼻を押さえる。

 

丸見えではない。だがきわどい。俺の頭をヒートエンドさせるには十分だった。

 

 

 

 

「ふふふ……良い写真でしょ?私でもそそられる何かがあるわ……さすがアンジーね。」

 

「フゥッー…フゥー…で?これで作戦を変えないってぇ?公私混同もいいとこだなぁ?」

 

「さすがにそれだけじゃないわよぉ?……こっちにもプライドってのがあるわ。覗き見されたぐらいでこそこそしてちゃぁ……ね?」

 

 

 

プライドか……確かに強豪校であるサンダースがスパイされて編成を変えたなんて知れたら他にナメられちまう……って事か。スパイしたこっちが言う事では無いが。

 

 

 

「それに面白そうじゃない?そっちの方が。」

 

「それがメインじゃないのか?」

 

「えぇそうね!」

 

 

 

 

即答だよ。

 

 

 

 

「なんにしても、負ける気は無いからね!」

 

「こちらこそ。勝たせてもらうよ。」

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

校門……

 

 

 

 

 

 

「それでイクサボーイ?」

 

「なにかね」

 

「あの写真欲しい?」

 

「……とりあえずメアド交換しようぜ。」

 

「フッフッフッ……そう言うと思ってたわぁ……」

 

 

メアド交換中……

 

 

「……よしっ。んじゃまたねー!」

 

「おーう。」

 

 

 

そして先にいた杏とホシノに追い付く。

 

 

 

「待たせたな。」

 

「やけに長かったんじゃなーい?」

 

「あれ杏着替えたの?」

 

「そうだよ!あんな格好で出歩けないからね!」

 

「なに怒ってんの……怖い……」

 

「そら怒るさ!仕掛人だと思ってたら辱しめられてるのこっちだもん!」

 

「でも私達関係ないですよ?」

 

「ホシノちゃんも同罪だよ!?あ…あんなに…あんなに…うぅー!」

 

 

 

顔真っ赤杏ちゃん。まぁあんなにさすさすすりすりされてたらなぁ。

 

 

 

 

「いいじゃねぇか別に。」

 

「そーですよ。イクサの意外な所も見れましたし?ほらっ」

 

 

 

不意にホシノが杏のスカートをめくる。あぁまだ中はスク水なんだな。パンツじゃないから恥ずかブフゥッ!

 

 

 

 

「……まぁそうだね。今日はとっとと帰ろっか。」

 

「えぇ。行きははサンダースのヘリだったんで、帰りはイクサの乗ってきたボートでですね。」

 

「ほらイクサー置いてくよー?」

 

「ちょっと待っへくらはい……」

 

 






戦車(操縦、整備)の事ならおまかせ

料理が売れるレベルで上手

熊の素手狩り

(性的に)興奮すると血を吐く ← new !



イクサ設定……普通だなぁ……なにか盛らなきゃなぁ……



それはそうとして次から全国大会編ですよ、多分。


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屋台道、始めます! 前編

十四話目。


この誰が得してるのかわからないこのガルパン小説もやっとこさ全国大会編ですよ。

なおタイトルでお察しの通り戦車のせの字も出てきませんご了承下さい。








対サンダース戦前日の放課後。

 

 

 

「ここに入っていったわね……」

 

 

 

おかっぱ頭で『風紀委員』の腕章をつけた少女が灯りの漏れるドアを睨み付けている。

 

この学園で知らぬ者はいない、風紀委員長 園みどり子。通称そど子。

 

 

 

(イクサ……唯一の男子生徒とあって当然マークしていた……)

 

 

だが本人の性格は極めて良好。生徒会役員としての役目をきっちり果たしているし、戦車道履修者からは同級生後輩問わず慕われている。さらに唯一の男手とあって様々な力仕事に引っ張りだこ。風紀委員も何度かイクサの力を借りている。

 

 

 

(だけど……あの噂……)

 

そど子の耳に入ってきたひとつの噂が彼の評価を変える。

 

『イクサが二人の女子生徒と付き合っている。しかもその一人は生徒会長である。』

 

 

(あれ聞いた瞬間生徒会室にカチコ……ごほん。直接事情を聞きに行こうかと思ったけど、今日まで待っててよかったわ。)

 

 

 

そして、今。目の前の部屋には、噂の張本人であるイクサ。そして生徒会長と自動車部のホシノ……その3人が一緒にいる。

 

 

 

(3人が入っていく所を目撃できたのは普段の行いの賜物ね……そして…必ず見つけてやるわ……)

 

 

 

 

拳に力が入る。自らが見つけるのは悪の証拠。

 

そう。清らかな学生にとって最大の悪。

 

 

 

 

(不純なッ!異性のッ!交遊をッ!)

 

 

 

 

この時点で頭からは正義とか風紀とかの文字は吹き飛び、完全にピンク一色に染まる。

 

 

 

 

(夕暮れに親密な男女が密室でする事と言ったらアレしかない!そりゃあもう危険なアバンチュールであなたのアハトアハトに装填……)

 

 

ドンッ!

 

 

(!?)

 

 

部屋から聞こえた音で淫らな妄想から無理矢理連れ戻される。

 

何か重い物がテーブルの上に落ちたような音だ。

 

 

 

 

(しっ心臓が止まるかと……というか本当に何やってるのかしら?)

 

 

 

ゆっくりとドアに近づき、聞き耳を立てる。

 

 

 

「…イクサ……ゆっくりね……」

 

「うん……そっと……そっとね…」

 

「わかってる……けど俺も初めてだからな……」

 

 

(!!!???)

 

 

 

クールダウンしかけた頭に再び熱が入る。

 

 

 

(こっこれ……完全に……いいいいやまだ確定では……)

 

 

「アタシだって……こんなのやった事ないし……」

 

「……あぁっ……イクサ動かさないでっ……」

 

「あと少しだから……このままっ……」

 

 

(あわわわわわわ……)

 

 

 

本来ならば即刻突入すべきなのだがもはやピンクに染まった頭に思考力は無い。

 

 

 

 

「はぁぁぁ……いったぁ……」

 

 

(入った!?入ったの!?そういえばさっき初めてって!おめでとうございます!!)

 

 

 

「あぁ……綺麗だ……」

 

 

 

(綺麗って!?『そういう時』の女性が一番美しいっていうけどそういう事かしら!?)

 

 

 

「……本当に綺麗で……美味しそう」

 

 

(あぁっ!ホシノさんって会長の事をそう思ってたのね!これはイクサ中心じゃなくて二人が会長を可愛がっているって事でファイナルアンサー!?)

 

 

 

「あ゛ー……改めて何やってんだろな俺達。」

 

「ここまでやって第一声がそれかい?」

 

「これを作り上げる時間プライスレス。」

 

「プライスレスっつーか材料費考えるとマイナ…」

 

「「それ以上いけない。」」

 

 

(……うん?)

 

 

頭の熱が霧散する。思っていたのと違うような。

 

 

 

「そ、そうだな。じゃあ取り合えずいろいろデコレーションしようぜ。」

 

「ホイップは出来てますぜ旦那!」

 

「よくやったホシノ!じゃあ俺は……」

 

「イチゴとオレンジなんてどうかね?」

 

「「!!??」」

 

「アタシはそこまでホシイモキチじゃないよ!」

 

「さっすが杏さん!ツッコミの先手を取るとは!」

 

「そこに痺れる憧れるゥ!」

 

「二人とも仲良さそうで羨ましいねぇ!」

 

中から聞こえるのはワイワイキャイキャイと楽しそうな3人の声。

 

 

(……あ、あーうん分かってたわ。まさか校内であんな事やこんな事をするわけ無いものね。うん。)

 

 

誰も聞いてない言い訳をするそど子。

 

 

 

「まぁホシイモ様はここに有るけどね。」

 

「とうとう様付け始めたね。」

 

「やっぱりホシイモキチじゃねぇか。」

 

「取り合えず軽く12袋あれば足りると思ったんだけどどうかな?」

 

「ヤバイ。コイツ俺らをホシイモ教に勧誘しようとしてる。」

 

「なにそれ怖い。」

 

(……楽しそうね……)

 

 

取り合えず感想を一言。

 

 

(まぁ時間も時間だし、事情は聞いとかないとね……)

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

「バケツプリン……ですか……」

 

「そうそう!いやぁまさか風紀委員長様にバレるとは。あははは!」

 

「あは……ははは……」

 

 

 

ケラケラと笑う会長。

 

そど子はテーブルにそびえるプリンの山を眺めて乾いた笑いしか出なかった。

 

 

 

「綺麗に出来てるでしょ?」

 

「……えぇ……綺麗ですね……」

 

「いろいろ乗っけて、美味しそうに見えるでしょ!」

 

「……うん……美味しそう……」

 

「バケツひっくり返して持ち上げるのが大変でさ。3人がかりで崩さないようにするのが特に気を使ったよ。」

 

「それは……大変だったわね……」

 

 

 

全ては勘違い。バケツを持ち上げるのに苦戦する声。プリンに対する感想。それを勝手に変換していただけ。

 

不純異性交遊なんて無かった。強いて言えば……

 

 

(一番不純なのは……私だったわね……あはは……)

 

 

 

「ん?なんかお疲れみたいだな?まぁ甘い物でも食べてゆっくりしようや。」

 

「えぇ……そうね……」

 

 

(まぁ……何も無ければそれでいいわよね。)

 

 

この際先ほどまでの妄想は捨て去って、この時間を楽しむ事にした。

 

____________________

 

 

 

「この前の親善試合の時にかかった経費から予想して次のサンダース戦に勝ってもワシの財布は焼け野原だ状態だ。」

 

「ウチの戦車はもちろん、工具とか重機とか運搬車とかあてにならないパーツがざっと50を越えた所で数えるのをやめました。」

 

「ごちゃごちゃ言ってて何もわからいよ!要点だけプリーズ!」

 

「「マネーが足りません。」」

 

「うん知ってた。」

 

「うわぁ…」

 

 

 

残酷なまでに現実的な3人の会議を聞きそんな声がそど子から漏れる。

 

3人がこんな遅くに集まってたのはバケツプリン試食会の為だけではない。何気に生徒会長、戦車道教官、戦車整備班と重要どころが揃っているのだ。自然と会議も始まるものだろう。

 

そど子も興味本位でそこに同席していたが。

 

(ちょっと場違いだっかしら……)

 

と今更ながら後悔。

 

 

「やーっぱり次の試合で屋台でも開くしかないよねぇ…」

 

「だけど俺&自動車部5人じゃあやらない方がマシレベルだぜ?」

 

「稼ぎが経費を越えるビジョンが見えないかな……」

 

「んー……じゃあどうするぅ?今流行りのタンカスロンでも参戦する?」

 

「戦車が無いっつーかもし有っても全国大会優先だろう。」

 

「んじゃあホシイモ養殖して売ろう。大洗印の。」

 

「海の上じゃあ難しい気が……」

 

「てかその前に養殖ってどういう事じゃ。」

 

 

 

 

 

会議は踊る。とはこの事か。案は出るが実現は出来ない。

 

その中でそど子は何かを考えていた。

 

 

 

 

「バカ野郎ホシイモは生きてるに決まってるダロォ!?」

 

「ほらイクサのせいで杏さんが壊れたじゃん!」

 

「元から壊れてたでしょ。」

 

「この姿を見てみろよむしゃ美味しくなるために幾多のモグモグ苦難を乗り越えた結果手にいれた芸術的なまでのむしゃこのフォルムをさぁゴクン。」

 

「喋りながら一袋食べきるってすごい。」

 

「しかも美味しくなるのを目指した結果が芸術的なフォルムってどういう事だよ。」

 

 

「あのっ!」

 

 

「「「うん?」」」

 

 

会話が脱線してあさっての方に行きそうになった時。そど子が声を上げる。

 

 

 

「えぇっと……屋台の件だけど、人手が居ればどうにかなるのね?」

 

「ん?…ん~……まぁ売る量が増えるに越した事は無いが……」

 

「じゃあウチの……風紀委員が手を貸すわ。」

 

「えっ……因みに何名ほど?」

 

「100人。」

 

「はえ?」

 

「足りない?」

 

「いやいや十分過ぎる!杏。それで準備していいか?」

 

「……うん。任せるよ。」

 

「よっしゃ。ホシノ行くべ。」

 

「あいあいさー!」

 

 

 

 

イクサとホシノが慌ただしく部屋を出ていき、そど子と杏二人きりになった。

 

 

 

「……いいのん?正直、屋台を出すこと自体ちょっとそっちとケンカしそうだなって思ってたんだけど。」

 

「会長の性格は知ってるつもりです。出店を出してでも予算を確保して戦車道を続けるのは理由があるのでしょう?」

 

「…軽い理由だよ?」

 

「どこにも不満を出さないように誰よりも予算案とにらめっこしてた会長がその予算を圧迫する軽い理由って?……あなたは飄々としてるようですけど私は見てるんですからね?」

 

「あー…やっぱりそど子には敵わないねぇ。」

 

「園、みどり子、です!……まぁ何気に会長とは3年の付き合いですからね。」

 

「まぁ生徒会対風紀委員で何回もケンカしたしねぃ……悪友って感じ?」

 

「それはそっちが破天荒過ぎるんですよ!今でも泥んこプロレスの件は許して無いですからね!……はぁ。じゃあ今日は失礼します。皆に連絡しないといけないんで。」

 

 

 

そど子が立ち上がる。

 

 

 

「ち・な・み・に」

 

「はい?」

 

「私たちは三人で付き合ってるからね~」

 

「……あっ」

 

「フッフッフッ~本来の目的忘れてんの~どうせやらしい妄想してたんだろ~?」

 

「…………」

 

「えっ……」

 

「そんな素の反応しないでよ!」

 

「あの…なんか…ごめんね……?」

 

「やめて!恥ずか死しちゃうから!」

 

「……フッ……アッハハハハ!」

 

「なに笑ってんのよ!?」

 

「いやぁ~……アタシが生徒会長になってから園ちゃんずっと敬語だったじゃん?」

 

「……あっ」

 

「懐かしいねぇ~……アハハ!」

 

「ッ~~!……もう!知らないです!」

 

 

 

早歩きでドアに向かい廊下に出ようとする。

 

 

 

「ハハハ……じゃあ園ちゃんよろしくねぇ~」

 

「……」

 

「…ん?どうしたん?」

 

「公の場で無ければ……そど子でいいから。……悪友だしね。」

 

「……ずいぶん柔らかくなったんじゃない?」

 

「フフッ……二年に居る遅刻魔のせいで呼ばれ慣れちゃったのよ……じゃあね、あんちゃん。ほどほどにね?」

 

 

 

ガチャン

 

 

 

 

 

 

「ほどほどにって……こりゃ風紀委員公認って事かな?……それにしても……あんちゃんかぁ……久々に呼ばれたなぁ……あははは……はぁ……」

 

 

 

杏の目からハイライトが消える。

 

 

 

「どうすっかなぁ……」

 

 

 

その視線の先には未だ半分も食べきれてない巨大プリン。

 

 

 

「やっぱ15リットルはデカ過ぎ……まぁホシイモと一緒に食えば一瞬……あと3袋しか無ぇ……」

 

 

 

その数時間後。戻ってきたイクサと自動車部達が見たのはプリンと追加で持ってきたホシイモをミキサーに掛けてる杏の姿であった。

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

サンダース戦当日。 観戦会場前。

 

 

風紀委員の協力により5人では難しいと思われていた出店を開く事ができ、さらに店数も予定より大幅に増え、試算ではかなりの儲けが期待できた。

 

イクサとホシノも、試合に出ている杏でさえもそれを疑わなかった。

 

 

「……イクサどう思う?」

 

「甘ったるいを越えた名状しがたい甘さです。」

 

「ホシイモプリンジュースの話じゃないよ!」

 

「わかってる。あれを見たら現実逃避もしたくなるさ。」

 

 

 

 

そう。競合するライバルが居なければ。

 

設営をほぼ終えた大洗印の出店が一列に並ぶ。それと大通りを挟んで向かい合うように出店が並んでいた。

 

 

「……あのピザの校章ってよく見なくてもアンツィオだよな?」

 

「巷で噂の出店ガチ勢ですな。」

 

「その噂は初耳だがあれを見ると納得しちまうな。」

 

「こっちの急ピッチで作った店とは訳が違う。最新のキッチンと伝統を積み重ねたイタリア本場の確かな味。しかもコックの練度も士気も向こうが上だね。」

 

「何そのちょっと改変したら戦争映画かゲームで出てきそうな説明。」

 

「まぁ戦力差もそれっぽいし?」

 

 

 

 

 

風紀委員の人海戦術と自動車部の徹夜の努力により店数は勝っているものの、質は間違いなく向こうが上である。

 

最初は優位に立てるだろうが、長期的に見ると劣勢になるのは目に見えている。

 

 

 

 

「……まぁいいか。ちょっと向こうに挨拶してくる。」

 

「挨拶(物理)?」

 

「止めて風紀委員さん達の前でそんな事言うの止めて。」

 

 

 

 

イクサは風紀委員数人からの痛い視線から逃げるようにアンツィオの出店へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 








杏×そど子という新たな可能性。

それより屋台道では黒森峰的立ち位置のアンツィオにどう対抗しようかな?(自問)



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屋台道、始めます! 後編

十五話目。


サンダース戦(の裏)決着でございます。




アンツィオ陣営。客が来るまであと一時間と言った頃。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 

 

アンツィオ高校3年。アンチョビ。

 

イタリア語で総帥の意味をもつ『ドゥーチェ』の名でアンツィオでは通っている。

 

そんなアンチョビは今、『直接隊長と話がしたい』とやってきた大洗のイクサとテーブルを挟み向かい合って座っている。

 

 

 

 

「なんか……重い空気っすね……」

 

「えぇ……きっと話が難航してるのね……」

 

 

 

それを心配そうに見つめるのは同じく二年のペパロニとカルパッチョ。

 

共にアンツィオの幹部とも言える生徒である。

 

イクサとアンチョビの顔は真剣そのもの。それが十数分も続けば周りの空気も重くなるであろう。

 

 

 

 

「……いいかお前ら。今は見守れ。ドゥーチェを信じるんだ。」

 

「ペパロニ……あなた……」

 

 

 

喧嘩っぱやい他の生徒の空気を察したペパロニのそんな言葉にカルパッチョから感心の声が漏れる。

 

いつもこう言う時は真っ先に突撃するペパロニからは予想できない『見守れ』という指示。これにはアンツィオの生徒も従うしかない。

 

そしてペパロニは早口にこう続けた。

 

 

 

 

「だがあの男が少しでも不審な動きを取ったら直ちにヤれ。いいな!」

 

『イエス!マム!』

 

「やっぱりそうなるのね!」

 

 

 

カルパッチョの感心は吹き飛び、代わりにやってきたのは胃痛にも似た不安。

 

 

(ドゥーチェの話も終わらないし、この子達本気で武装し始めそうだしぃぃ……)

 

 

カルパッチョがそろそろ本気で胃痛を感じて来た頃。

 

イクサとアンチョビが突然握手を交わした。

 

それを見たカルパッチョが幸いとばかりにペパロニを呼ぶ。

 

 

 

「ほらペパロニ!終わったみたい!」

 

「よっしゃお前らとつげ」

 

「ヤメロォ!」

 

「ひぃ!パッチョ姉ぇ口調が!」

 

「誰のせいだと思ってるの!行くわよ!」

 

「お、おう!」

 

 

 

 

仲間に号令を出しそうになったペパロニを抑え、共に二人が会議しているテーブルへ走る。

 

そして最初にペパロニがアンチョビに話し掛ける。

 

 

 

 

「ドゥーチェー!どうなったんすかっ!?」

 

 

「…ペパロニ……私はやったぞっ……!」

 

「何をやったんすかっ!?」

 

「ついに……ついに我が軍にティーガーⅡが来たんだ!」

 

「うえええぇっっっっ!!??

 

 

 

…………ってなんすかてぃーがーつーって?」

 

「そこから!?」

 

 

 

 

 

そんなアンチョビとペパロニの天然コントを横目にカルパッチョがイクサに近寄る。

 

 

 

 

「……まさか本当にドイツの主力戦車と引き換えにしたんですか?」

 

「そんな訳ないじゃん。これだよ。」

 

 

 

 

イクサのスマホの画面に写っているのは誇らしげな戦車の姿と『BOSS CLEAR!!』の文字。

 

 

 

「……あぁ……ゲームの話ですか……」

 

 

今までの心配はなんだったのかと肩を落とすカルパッチョを尻目にアンチョビが胸を張る。

 

 

 

「そうだ!どうしてもクリア出来なくてなぁ……無課金には厳しい世の中だよホント。」

 

「だがそいつが居ればかなり楽になるはずだぜ?」

 

「うんうん……ホントに感謝してるよぉ~」

 

 

 

話が進まず、息抜きに娯楽の話をしていると偶然同じスマホゲームをしてると言うので協力プレイでも……というのが発端である。

 

 

 

「てかずっとゲームしてたんすかぁ~?」

 

「ゲームと侮るなよ!かなりリアルだから戦車を楽しみながら学べるんだ!」

 

「そりゃすげぇ!アタシもやろっかな!」

 

「二人とも、話が逸れてます。」

 

「あぁもちろんゲームばかりじゃない。ちゃんと紳士協定も結んだぞ?」

 

「あっはっは!アンチョビ姉さんてば!アタシらは淑女じゃないっすか~」

 

「そういう事じゃない!」

 

「紳士ってのは例えだ。」

 

「うむ。双方が紳士的である。つまり嘘偽りなく全てにおいて信頼出来るっていうのを前提にした口約束だ。だからまぁ淑女でも間違いではないな。」

 

「なんか遠回しに自分が淑女って言ってるみたいっすね!」

 

「二度と表出ろ。」

 

「日本語忘れるぐらいキレなくてもいいじゃないっすか!?」

 

「ふむ……それでどう言った協定を?」

 

「……まぁパペロニは後にして……イクサと相談した結果これからはジャンルを分ける事にした。大洗は飯。アンツィオはデザートって感じにな。」

 

「それはアンツィオに感謝だな。こっちは飯物しか用意できないし。」

 

「ウチなら全ての店を今からデザートに変えても問題はない。パスタ類はまだ茹でてないよな?」

 

「はい。他の食材はどうせ帰ってからウチで消費しますし。」

 

「ジェラートにパンナコッタにティラミスに、その他もウチらが喰う分を考えても余るほど用意してるっす!」

 

「だからウチが喰う事を前提にするなとあれほど……まぁ今回はいいか。そう言う事でお前らは準備に掛かってくれ。」

 

「「はい!」」

 

 

 

 

ペパロニとカルパッチョが遠巻きに見守っていた仲間の所に戻り指示を出す。

 

そしてアンツィオの陣営は再び慌ただしく動き出した。

 

 

 

「ふぅー……ひとついいか?」

 

 

 

一仕事終えたとばかりにため息をついたアンチョビが質問してきた。

 

 

 

「私達は一回戦に勝ったからいいが、大洗は今試合だろ?応援とか……気になったりしないのか?」

 

「応援するのは他の子達がやってる。だったら俺らは次の試合のため少しでも金を稼ぐだけさね。」

 

「ふーむ……ウチも予算が厳しいから気持ちは分かるけど……負けたらって考えると気が気でないんじゃ?」

 

「……結構俺らも背水の陣だしな。そもそも負けた時の事を考えていない。だから逆にこーゆー事が出来るのかもな。」

 

 

 

失う物が無いほど……とはよく言うが、実際には廃校が懸かってる。優勝とか以前に予算が無くて試合が出来ませんでした、なんて笑い話にもならない。それだけは避けたい。

 

 

 

 

「なにやら事情が有りそうな……まぁなんしても恨むべきは貧乏かぁ……」

 

「あぁ……」

 

 

 

試合について話してたらいつの間にか世知辛い話になってて悲しくなる。そこで昨日の会議で出てきた案の一つを思い出した。

 

 

 

「そういやタンカスロンやってるんだってな?どんな感じなんだ?ぶっちゃけ稼げるのか?」

 

「んー……タンカスロン自体まだまだマイナーだが、間近で戦車戦を見れるってんでコアな戦車道ファンからスポーツ感覚で観戦する人まで、試合をすれば結構お客は来るからな。それに人が集まればそれだけで得をする人もいる。そんなスポンサーからのファイトマネーもなかなかなもんだ。」

 

「想像以上に魅力的だな……まぁ悲しい事に戦車が無いがな。」

 

 

 

昨日も言ったが全国大会が全てだ。捜索してもし戦車が出てきてもタンカスロンに回される事は無いだろう。

 

 

 

「だったらウチと組むか?戦車ならあるぞ?」

 

「いいのか?ルールも分かってないぞ?」

 

「ルールなんて……使用できるのは10t以下の軽戦車のみ!」

 

「……えっ終わり?」

 

「うん。それ以外は何でもあり。審判も居ない。ウチなんてカルロベローチェに主砲が無いから、火力アップのために対物ライフル使ってるぐらいだしね。さらに乱入、同盟、裏切りも過去にあった。」

 

「怪我しない以外はホントの戦争みたいだな。面白そうだ。」

 

「だろう?てかイクサも戦車乗るの?」

 

「これでも中学の時はブイブイ言わせたもんだ。俺が助っ人で砲手やったらもう止めて下さいと言われた程度にはな。」

 

「なにやったのさ……」

 

「練習試合でスタート位置からフラッグ車狙撃した。」

 

「私なら練習試合なのに練習にならないじゃないかって言いそうだな。」

 

「全く同じ事を言われたな。真顔で。まぁその後の試合から装填手に移されたんだがそこでもな……」

 

「またか。」

 

「自動装填装置付けてるんじゃないかと相手に猛抗議された。」

 

「一体どんな早さで……」

 

「その時は熊本から来たチームとの試合だったが……その中の一人に威勢が良い奴がいてな……かなり大騒ぎされたが、実際に装填してるところを見て下唇噛みながら納得してくれたよ。」

 

「絶対心のなかで壁パンしてたな、それ。」

 

「今じゃあ一緒にゲームする程度には仲良くなったがな。」

 

「やはりゲームの力は偉大……まぁそれほどの腕だったら歓迎だ。次の試合にでも呼ぶよ。」

 

「あぁ。その時は頼む……っとそろそろ戻るか。今回は本当にありがとうな。」

 

「大したことじゃない。お互い商運を祈るよ。」

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

大洗陣営……

 

 

 

「今帰りましたマム!」

 

「あれ?どこ行ってたのよ?」

 

「ちょっとアンツィオとお話を……てかそど子だけ?」

 

「皆休憩してるわ。あとはお客様が来るのを待つだけだしね。」

 

「……」

 

「なによ?」

 

「いや、そど子?でいいの?なんか文句言われると思ってたんすけど?」

 

「ん?……あぁ呼び方?別にイクサなら良いわよ。あんちゃんに免じてね。」

 

「あんちゃん……って会長の事かえ?」

 

「そうよ。というかあんた達の事は知ってるわよ。二股なんて随分良い御身分ね?」

 

「……杏が言ったんすか?」

 

「えぇ。あんちゃんとも長いからね。てか最初にそど子って言いやがったのは奴じゃけんのう……」

 

「なんか……いろいろ深そうだな?」

 

「まぁ悪い事ばかりじゃないわ。良くも悪くも堅い風紀委員があだ名で呼び会うようになったからね。それを見越しての事かは解らないけど。」

 

「ホントにそれは解らんな。」

 

「……ま、この際言っとくけど。これでもあんちゃんとは長いし、まぁ、悪友なわけよ。」

 

「おう。」

 

「弱い所は本当に弱いんだから、ああ見えて。」

 

「……おう。」

 

「泣かせたら風紀委員の総員で泣かすからね。」

 

「卒業の時に泣くのはカウントされます?」

 

「じゃあイクサを泣かすのも卒業の時ね。」

 

「例外は無しかよ。」

 

「無しね。あんちゃんが泣くときはイクサも泣きなさい。」

 

「……そうだな。」

 

「さて、そろそろお客様が来るわ。風紀委員の完璧な接客術を見せてあげるわ!」

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

数時間後……

 

 

 

『イエェーイ!!』

 

「おうお前ら!アタシ達は淑女であるドゥーチェと同じで淑女だ!もう少し淑女らしい淑女じみた行動をだな……」

 

『でもペパロニ姉さん。淑女らしいってどーすれば良いんすか?』

 

「ん?そりゃぁお前……えーっと……あっ!この前聖グロと試合した時に居ただろ!……名前が出てこないが……」

 

『あぁあの飛ばしまくってた……』

 

「そうそう!あのスピードと優雅さを同居させたような!まさに淑女の権化だ!あれを参考にするんだ!」

 

『なぁるほど!』

 

「って事で……撤収ですのよォー!!」

 

『はいですわァー!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「参考にした人を間違いなく間違えてんな。」

 

「……まぁ三日もすれば忘れるさ」

 

 

 

 

 

日も傾き、観戦会場から帰るお客も捌き終わり、両陣営共に撤収を始めている。

 

 

そしてあらかた店を畳み終えた俺は「ですのー!」とか「よくってー!?」とか何かを履き違えた言葉を使ってるペパロニ達をアンチョビと眺めていた。

 

 

 

 

 

「イクサァー!!」

 

 

 

 

 

 

と、声のする方を見ると笑って手を振りながら走って来る杏が。

 

実は未だ試合の結果は知らされていない。いや、怖くて聞けていない、と言う方が正しいか。

 

だがあの嬉しそうな様子を見るに俺が不安がる必要は無かったようだ。

 

そしていっさい減速する事無く……

 

 

 

「イエェェェイ!!」

 

「グフォアァァ!?」

 

 

 

 

 

俺に抱き付いてきた。いや違う飛び付いてきた。そんで両手両足をがしっと俺に固定させる。

 

まぁ問題は無い。足がガクガクしたり腰が砕けたりしそうだが問題は無い。

 

 

 

 

「んー……なんだっけ?……あぁイージス◯ンダムだ。」

 

 

 

 

アンチョビ。これを見た感想がそれか。

 

 

 

 

「あんず……そろそろ…降り…」

 

「んぅー……はいはいっと…」

 

 

 

杏が名残惜しそうに俺から離れる。いや俺ももうちょっと堪能したかったが周りの視線とか俺の肉体とか問題が有るからな。

 

 

 

「いつつ……んで試合は……」

 

「勝った勝った!大勝利ぃ!」

 

 

 

 

興奮気味に胸を張りブイサインを付き出す。

 

いい笑顔だ。今までで一番輝いてるかもな。

 

 

 

「んで?そちらさんは?」

 

 

 

杏がアンチョビの方を見る。そういや紹介はまだだったか。

 

 

 

 

「私はアンツィオの戦車道隊長。アンチョビだ。」

 

「アンツィオ……って事は……」

 

 

 

顔が少し強ばる杏。

 

 

 

 

「ん?杏知り合いか?」

 

「トーナメント表見ようよ。次の相手っすよ。」

 

「え゛」

 

 

 

頭からスポーンと抜けてた。そういえばさっき一回戦終わってるってアンチョビが言ってたわ。

 

 

 

「ふっはははは!正直スパイか何かされると思ってたら、知らなかったとはね!」

 

「いやー……屋台に夢中ですっかり忘れてたよ。」

 

 

 

アンチョビが笑う。ホント恥ずかしい限りで……

 

 

 

「んでそっちは大洗の隊長なのか?」

 

「いや。隊長は別に居るよ。アタシは大洗の生徒会長。角谷杏でっす。」

 

「そうなのか……じゃあ角谷。」

 

 

 

 

アンチョビは仕切り直しと言わんばかりにマントを翻させ、杏と向かい合う。

 

 

 

 

「今回はイクサの協力によりこちらもいつも以上の売り上げを得られた!だがあのサンダースを下したとあってはこちらも手加減をするつもりは無い!」

 

「うん。こっちも勝ちたいからね。全力で相手させて貰うよ、チョビ。」

 

 

 

アンチョビが少しずっこける。

 

 

 

「チョ…って……違うアンチョビだ!」

 

「え~なんかあんずとあんちょびで『あん』が被ってるじゃん?」

 

「被ってるかは関係ないだろ!?」

 

「でもこっちが『あん』を譲ったらアタシ『ず』だけになっちゃうよ?」

 

「……確かに……いやいやそもそも譲る必要なんて無いよな!?」

 

「気にしないでよ~……んじゃイクサ。アタシもう戻るからねぃ。」

 

「あっ待て!訂正しろぉ!」

 

 

 

 

 

そして足早に杏は去ってしまった。ホント色んな意味で大物なんだと思うよ。

 

杏の姿が見えなくなり、アンチョビがジト目をこちらへ向ける。

 

 

「はぁ~……何?もしかして彼女なの?」

 

「ま、せやな。」

 

「この私をチョビなんて……初めて言われたぞ。」

 

「あれぐらいじゃないと学園艦の運営は出来ないんだよ。」

 

「いやそんな事は無いと思うが……まぁ良い。私もそろそろ帰る。」

 

「あぁ。後は、次の試合だな。」

 

「うむ。さっきも言ったが、手加減はしない。正々堂々と頼むぞ。」

 

「おう。今度遊びに行くよ。」

 

「その時は角谷も連れて来い。アンチョビの名の重さをイタリア本場のフルコースと共にじっくり教えてやる。」

 

 

 

そしてアンチョビとも別れ、俺も帰り支度をしている皆の元へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 




終わりがあっさりなのは仕様です。

あとタンカスロンという単語が出たって事はリボンの武者にも首を突っ込んで……行くかなぁ……

あと前回からのそど子と杏の話は完全に妄想です。やっぱ風紀委員と生徒会って事で絡む事は多かった……ハズ。

それと小説そのものについて。地の文がおかしすぎる。
他の小説を見てるとおいしいカレーライスのようにセリフと地の文のバランスが取れているのに俺のはもうカレールーとらっきょうのみみたいな。

前半のほうがちゃんと出来てたってどういう事さ……


総括 次からちゃんとします。したいです。


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初勝利の夜

十六話目

継続は力なりぃぃ!

辞めたと思った?残念続けるんですぅー!

久々に自動車部編!

今回は頭空っぽにして読むといい感じかもしれないね!




静寂の真夜中。戦車倉庫。

 

 

そこでは自動車部とイクサの5人がテーブルを囲んでいる。

 

 

 

そして、ナカジマがサイコロをテーブルに落とす音が創庫に響く。

 

 

 

 

その行方を他の四人……特にツチヤとスズキが固唾を飲んで見守る。

 

 

 

 

「……クリティカル。」

 

「「んにゃぁぁぁぁ!!」」

 

 

 

 

 

ナカジマの宣告に二人が叫ぶが、淡々とナカジマは続けた。

 

 

 

 

「はいそーいう事で幽霊戦車が放った砲弾はツチヤとスズキの乗った軽トラ(爆弾満載)を直撃!アワレ爆発四散!んじゃダメージロール……するまでも無いね二人は爆死しましたお疲れっしゃー!」

 

「だぁから軽トラに爆弾積んで特攻なんざ止めろって言ったんだよう!ダッシュでⅣ号の影に隠れるべきだったんだよう!」

 

「ツチヤが何と言おうとクリティカルされたら死ぬしかないじゃない!それにこうでもしないと修理してるイクサとホシノが危険っしょ!」

 

「はいはいこの世から退場した人は喋らないでねー」

 

「「チクショォメェェェェ!」」

 

 

 

 

 

スズキとツチヤがテーブルに突っ伏すがこっちもそれどころではない。ゲームマスター……つまりナカジマが操る幽霊戦車の標的が俺達になるからな。

 

 

……因みに今はサンダース戦から十数時間後。激戦を勝ち抜いた戦車達の修理は終わり、気がついたら真夜中。

 

この時間まで起きてたらもうずっと起きていようって事で始まったのがこのTRPGである。

 

で、今やってるシナリオをざっくり説明すると……

 

 

 

・何十年も放置されてた戦車に大戦中の亡霊が取りつき、幽霊戦車となった。

 

・その亡霊は今がまだ戦争中だと思っていて生きている者に片っ端から砲弾を食らわせていく。

 

・こちらも戦車のパーツを集め、やっとこさⅣ号戦車を完成させるも幽霊戦車に見つかり砲弾を撃ち込まれる。

 

・そしてスズキとツチヤが囮となり、俺とホシノはⅣ号戦車の修理を試みる。

 

 

 

 

で冒頭に戻る。あの二人の英雄に敬礼。

 

 

 

 

 

「さぁて……二人はどうするぅ?」

 

「イクサ……」

 

 

 

 

嬉々としているナカジマの声、不安そうな目をこちらに向けるホシノ。

 

さてどうするか……今まで安全に修理出来ていたのはあの二人が幽霊戦車を引き付けていたからだ。

 

少しは猶予があるとはいえ修理し終えるにはクリティカルを出さない限り時間が足りない。

 

……だったら。

 

 

 

「……二人で修理を続ける。」

 

「でも戦車は直らないよ?」

 

「あぁ。だから砲塔だけだ。最低限撃てるだけの修理をする。」

 

「ふむ……じゃあ振ってみて。」

 

 

 

 

俺とホシノがサイコロを振る。

 

 

 

 

「……うん。二人とも成功だね。取り合えず撃てるようにはなったよ。」

 

「よし。」

 

「んじゃあ幽霊戦車のターン!射程のギリギリまで移動!あっ因みにお互いの射程は同じね!はいそっちのターン!」

 

 

 

 

 

ナカジマのテンションが高いのが怖いわ。

 

こっちを追い詰めているのが楽しいのか、場を仕切るのに張り切っているのか……まぁ実際に追い詰められているのは確かだが。

 

 

 

 

 

「戦車に乗り込む。俺が砲手。ホシノが装填手だ。」

 

「うん。じゃあ装填を…(コロコロ)…うわっギリギリ。」

 

「ホシノってば機械工学に振り過ぎだったしね~」

 

 

 

 

ナカジマの言う通りホシノは戦車操縦に関しては結構危うい。次は失敗するかもな……よし。

 

 

 

 

「今は撃たずに幽霊戦車の弱点に狙いを定める。どっちにしても射程ギリギリだしな。」

 

「うん。じゃあ次の射撃に上方修正だね。」

 

 

 

 

そして運命の時。

 

ナカジマは笑みを浮かべている。この状況を本気で楽しんでるようだ。

 

 

 

 

「よし!幽霊戦車は前進!距離を半分まで詰めるよ!」

 

「……まだ撃たない。」

 

「おぉ~……その意気やヨシ!停止して射撃!」

 

「こっちもだ!」

 

 

 

 

ナカジマと同時にサイコロを振る。

 

結果は……

 

 

 

「両方……外れ……」

 

「……ホシノ。すぐに装填だ。」

 

「はっはい!」

 

 

 

慌ててホシノがサイコロを振る。

 

 

 

 

「……失敗……」

 

「ぬぅ……」

 

「……どうやら終わったようだね。イクサ。」

 

 

 

そしてナカジマが最後のサイコロを……

 

 

 

「待って!」

 

 

 

……振る所でホシノが止める。

 

 

 

 

「最後に『幸運』でロールさせて。」

 

「うん。まぁ振るだけ振ってみな?」

 

 

 

 

ナカジマはニヤニヤとして完全に勝利を確信している。悪い顔だわホント。

 

さて、結果は。

 

 

 

 

「クリティカル……!」

 

「……んで?どうするの?」

 

「スズキ達の乗ってた軽トラの爆弾……」

 

「……ッ!」

 

 

 

 

ナカジマの顔が険しくなる。

 

 

 

 

「それが一つ、幽霊戦車の足元に……!」

 

「……でもそれを爆発させるには爆弾を作ったツチヤの幸運が……」

 

「ハイ成功しましたハイ!」

 

「早っ!……んじゃあ……」

 

 

 

 

少し間を置き、情報を整理したナカジマがプレイを始める。

 

 

 

「お互いの初撃は外れた。間髪入れずにホシノが装填するも手が滑って砲弾を落としてしまう。そして幽霊戦車がⅣ号に照準を合わせるが……」

 

「これが、私の、未来への爆発だ!」

 

 

 

退場したツチヤがノリノリである。なんだ未来への爆発って。

 

 

 

「幽霊戦車が発砲する直前、キャタピラの下で謎の爆発。幽霊戦車の砲弾はあさっての方へ。」

 

「謎の爆発扱いかよぉ!」

 

「駄目じゃないかぁ!死んだ奴が出てきちゃあ!」

 

「退場者がうるさいよ!……そしてホシノは落ち着いて装填して……」

 

「(コロコロ)……よし成功!」

 

「イクサが幽霊戦車のウィークポイントへ……」

 

「ファンブル」

 

『『えっ』』

 

 

 

 

 

全員が俺の投げたサイコロを見る。何度見ても目はクリティカルの真逆。つまり。

 

 

 

 

「……大失敗っ……ですっ……!」

 

 

『『えぇぇぇぇ!』』

 

 

「……砲弾が暴発してⅣ号は自爆。ホシノとイクサも運命を共にしましたとさ。めでたしめでたし。」

 

 

『『こんな終わり方かよぉ!』』

 

 

「……俺の運の悪さを恨め……」

 

 

リザルト 爆死4名

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「続きまして第二回戦行きまっしょい!」

 

 

「まだやるのか……」

 

 

 

 

ナカジマが叫ぶ。このテンションはどこから来るのか……

 

 

 

 

「やるやる!日が沈むまでやる!」

 

「まだ今日の日の目も見てねぇよ!」

 

 

 

 

 

ナカジマの目が据わってる。本気で今日ずっと起きてるつもりだなこりゃ。

 

 

 

 

 

 

「てか俺TRPG詳しく無いが、ルールブックとか無いんだな。」

 

「まぁナカジマいるから成り立ってる事だよね。」

 

 

 

 

ホシノが答える。

 

 

 

 

「こーいう暇な時にいつもやってるんだけどさ、世界観とか登場人物とか即興で遊べる段階まで仕上げてくれるんだよね。」

 

「へぇ……それも一種の才能だな。」

 

「うへへ……そんな誉めるなよぉ~」

 

 

 

 

ナカジマが頭をかきながら照れくさそうに言う。

 

 

 

 

「んじゃさ。こんどはイクサとホシノの二人でやってみない?」

 

「ん?またみんなでやればいいじゃ?」

 

「だってスズキとツチヤあんな状態だし。」

 

 

 

 

 

 

 

 

『ひっぐ…私が頑張って作った爆弾が…ひっぐ…』

 

『まぁ落ち着きな?最期に一花咲かせたっしょ?』

 

『謎の……謎の爆発って……あの苦労を……あんまりだよぉ~…うっうっ…』

 

『はいはいあんまりあんまり。まぁ飲みなよ。ツチヤが好きなスプライトだよ?』

 

『ドリンクバーじゃなきゃやだぁぁぁ~……』

 

『うわめんどくせぇこいつ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね?」

 

「と言われても……」

 

「まぁメカニックってのは自分の作った物に魂込めてるからね。」

 

「そ、そうなのかー?」

 

「そうそう!んじゃ、二回戦サクサクやりまっしょい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

さて困った。ナカジマの言う通りにホシノと俺でプレイヤーをやっている訳だが。

 

 

 

「はいホシノ。この扉を開ける為にはパートナーに口に関係する『ある事』をしなきゃいけない訳だけど……どうする?」

 

「えっえーっと……ち……」

 

「ち?」

 

「……ちゅー?」

 

「お?どこに?どこにちゅーするんや?おぉん?」

 

「いい加減にしろナカジマァ!」

 

「……ほっぺた?」

 

「ホシノも答えなくていいから!」

 

 

 

 

完全に嵌められた。今までホシノと付き合ってる事に関してノータッチだったのはこの機会を待ってたからか。

 

 

 

「あぁっと扉は開かない!ちゅーの場所を間違えたみたいだね!」

 

「場所って……や、やっぱり……」

 

「やめろホシノ!こいつはナカジマじゃない!変態の皮を被った変態だ!」

 

「うんMTMだね!まうすとぅーまうすだね!」

 

「うぜぇ!その言葉の全てがうぜぇ!」

 

 

 

このままではただ辱しめられるだけだ。ここはひとつガツンと言ってやらなきゃだめだな。

 

 

 

 

 

「男女平等パンチ!」

 

「へぶぅ!」

 

「肉体言語!?」

 

「安心するんだホシノ。ギャグ補正を掛けた。」

 

「どういう事!?」

 

「ほらナカジマを見てみろよ。全力でグーしたのに安らかな顔で寝てるだろ?」

 

「大丈夫?本当に大丈夫?熊を殺したグーとか永眠しないの?」

 

「何も問題は無い。熊を殺した事がすでにギャグだからな。」

 

「そ、そうなのかー?」

 

 

 

 

 

 

 

______________

 

 

 

 

寝てしまったナカジマをソファーまで運ぶ。

 

 

 

 

「ふー……」

 

「お疲れィー」

 

 

 

 

 

ホシノがコップ二つとコーラのペットボトル(2L)をさっきまでサイコロやらメモやらが転がっていたテーブルに置く。

 

なんだかんだ言ってホシノも寝る気は無いらしいな。

 

 

 

 

「ツチヤもスズキも寝ちゃったよー……ほい。」

 

 

 

 

ホシノからコーラ入りのコップを受けとる。

 

……んじゃ今起きてるのは二人だけか。

 

 

 

 

 

「ぐびっぐびっ……」

 

 

 

 

そんな俺の気持ち関係なく腰に手をあて、コップ入りのコーラ仰ぐホシノ。

 

 

 

 

 

「……ッハァー!……あーどうしたんイクサ君?」

 

 

 

 

一息でコップを空にしたホシノが俺の視線に気付きそんな事を言う。

 

前は付き合い始めとあってかどこかよそよそしいと言うか、もじもじしてたと言うか、何となく距離があるような気がしていたが。

 

こんな姿を見せてくれるって事はお互い気の置けない仲になったんだな。

 

 

 

 

 

「ホシノちゃんってやっぱし可愛いねって。」

 

「はい?……はっ…」

 

 

 

 

 

自分の姿に気付き、ゆっくり腰の手を下げコップをテーブルに置く。

 

やっぱりこういう事を言われると顔を赤くして照れるのは変わらないな。

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 

 

 

あっヤバイ。俺が変な事言ったせいで変な空気になっちゃった。

 

 

 

 

 

「……イクサ?この際だしお願いが有るんだけど。」

 

「お、おう。出来るだけ善処するよ。」

 

 

 

 

あっマズイ。ホシノちゃんちょっとおこかも。

 

 

 

「さっきナカジマを運んでる時にさ……やってたじゃん?」

 

 

 

 

運んでる時?運んでる運んでる……あっ。

 

 

 

 

 

 

「……あれですか?俗に言うお姫様だっこ……」

 

「それそれ。」

 

 

 

 

 

 

ホシノは俺の真正面に立ち、

 

 

 

 

 

「ん。やって。」

 

 

 

 

俺に向かって手を伸ばす。てか今さらだけどこの子タンクトップだから面と向かうとおっきなふくらみが目に毒ですよこれ。

 

 

 

 

 

「ほーらー」

 

 

 

 

 

とうとう俺の首に手を回してきやがった。そろそろこれちょっとあぁもぉぉ!

 

 

 

 

 

 

「わぁかったよ!よいしょいぃ!」

 

「ひょーホホホーう!」

 

「もーちょっと可愛いな声出せないんすか?」

 

「『きゃっ(はぁと)』(棒)」

 

「えっなにその器用な棒読み」

 

 

 

 

とうとうホシノをお姫様だっこしてしまう。てかこんなにはしゃいで雰囲気も何も無いなオイ。

 

 

 

 

 

「ねーねーイクサ!もう一個お願い!」

 

「なんだよばたばたすんなよ落とすぞ」

 

「さっきの続きー」

 

「続き?」

 

 

 

 

 

さっき?ってどこからがさっきか最早わからんぞ。

 

 

 

 

 

 

「……えーっと……さっきナカジマとやってたじゃん?」

 

「だからだっこはやってるじゃんか。」

 

「ちがーう……」

 

 

 

 

 

なんかホシノのテンションが違うような……

 

 

 

 

 

 

「ぬぅー……んちゅっ!」

 

「んぐぅ!?」

 

 

 

 

 

 

ホシノが腕に力を入れ、俺に口づけて来た。

 

あー続きってさっきナカジマ(変態)とやってたシナリオの続きの事かー…………じゃねぇよ!

 

 

 

 

 

 

「……っ……ホシノさん急っすね…」

 

「いいじゃん。初めての時も急だったんだし……じゃあ急じゃないのも体験させてよ。」

 

「……しゃーねぇな。」

 

 

 

 

そしてもう一度顔を近づけ、

 

 

 

 

 

ピロリン♪

 

 

 

 

 

 

「あっヤベっ」

 

 

 

 

 

ナカジマ 携帯 カメラ音

 

 

 

 

 

「んあああああ!?降ろして!降ろせイクサァァ!」

 

「おっナカジマ。撮るならちゃんと撮れよ?」

 

「あたぼうよ!向こう十年お顔真っ赤に出来るネタなんてそうそう手に入らないからね!」

 

「イクサ!?ちょっ正気かねそれだとイクサも巻き添えだよ!?」

 

「っふ……この程度なんの痛みにもならんわい……あっ後で俺にも送れよツチヤ?」

 

「ほいほい!ムービーだからちょっと重いかもだけd」

 

「ツチヤ!?ムービーっていつから!?どこから!?」

 

 

ピッ『ねーねーイクサ!もう一個お願い!』

 

 

「んにゃぁあああ!!イクサ!お願い!降ろして!全員データごところころしてやるぅぅぅ!!」

 

 

 

 

 

 

 

数時間後……

 

 

 

 

「正しく座ると書いて?」

 

『『正座です』』

 

「土の下に座ると書いて?」

 

『『土下座です』』

 

「早朝の校舎で鬼ごっことは随分いい度胸しとるのう……」

 

『『申し訳ありませんでした』』

 

 

 

 

 

そこにはそど子に平伏する自動車部と俺の姿が!

 

 

……何故俺も?






Q いつも頭空っぽじゃないの?

A 何を今更

Q TRPGについて突っ込み所しかないんだが?

A 見逃してくれ。俺も1d100という情報のみを頼りにルルブなしでTRPGのようなものをやってた時期があったんだ。

Q 前回地の文云々言ってたのはどうなったよ

A ロッ◯マンDASH新作はよ


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角谷杏のやきもち2 前編

17話目 とうとう地の文投げ捨てましたよコイツ。

そして唐突に出てくる黒森峰勢。マジで頭の中空っぽですよ。

本当に時間が余ってる人にオススメしたいこの一本となっております。



~とあるチャットルーム~

 

 

 

ikusa はオンラインです。

 

erika はオンラインです。

 

 

 

 

erika に招待されました。

 

 

 

 

 

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ikusa が入室しました。

 

iku ;ころす

 

eri ;鬼通知は初めてか?力抜けよ

 

iku ;ころす

 

eri ;そんでサンダース戦の時居た?

 

iku ;ころす

 

eri ;キレたなら謝るから会話してよ

 

iku ;キレてないっすよ。屋台やってたっすよ。

 

eri ;なんで?

 

iku ;ちなみに大洗女子生徒な 俺

 

eri ;性転換

 

iku ;ちゃうわアホ そこは突っ込むな

iku ;あーやって金稼がないと戦車道できないの

 

eri ;んじゃやらなきゃいいのに

 

iku ;そんな訳にもいかん

iku ;てか来てたなら顔出せば良かったじゃん

iku ;あんこう鍋食わせたのに

 

eri ;遊びじゃない 偵察

eri ;サンダース見に来たのにとんだ番狂わせ

 

iku ;こっから伝説が始まるのさ

 

eri ;でってゆう

eri ;話は変わるけど

eri ;そっちにみほって子居るでしょ?

 

iku ;居る お前も黒森峰だったか

 

eri ;どんな感じ?

 

iku ;どんな感じとは?

 

eri ;戦車とか 普段とか

 

iku ;戦車は実に頼りになってるよ

iku ;素人のウチをよくまとめてくれてる

iku ;普段はわからんが

iku ;同じチームでよく遊んでるらしい

 

eri ;ほんと?戦車に普通に乗ってるの?

 

iku ;うん てか試合見てたんだろ?

 

eri ;あんたは去年の試合の事知ってる?

 

iku ;知ってる

iku ;ウチの学校の事情で

iku ;無理に戦車道選ばせた

iku ;西住には悪い事をしたと思ってる

 

eri ;わたしもs

 

iku ;?

 

eri ;間違えた

eri ;今度久々に会わない?

 

ikusa が退室しました。

 

 

 

 

 

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ikusa が入室しました。

 

iku ;ころす

 

eri ;なんでや

 

iku ;身の危険を感じた

 

eri ;逆でしょ 男女的な意味で

 

iku ;餓えたオオカミに食われる

 

eri ;誰が食うか

 

iku ;二年間何も無かったのに

iku ;急にそんな事言われたらびっくりやで

 

eri ;直接相談したいの

 

iku ;ここでええやん?

 

eri ;いろいろ 多すぎる

 

iku ;そうか

iku ;調べたら次の日曜お互い近くに寄港するな

 

eri ;そう んじゃ詳しくはまた後で

 

iku ;おk おやすみ

 

eri ;待て クエひとつぐらい付き合え

 

iku ;(付き合いたく)ないです

 

eri ;違う 付き合えって違う

 

iku ;んじゃおやすみ

 

eri ;違う クエには行くけど

eri ;付き合うってそういう意味じゃない

 

iku ;どんな謎かけだよ

 

eri ;何でもない とっとと行くよ

 

iku ;へーい

iku ;てか昨日もさんざん狩ったのに元気だねぇ

 

eri ;88mm砲弾が落ちないのが悪い

eri ;目的はティーガーなのに

eri ;kv2ばっかり出てきやがるし

eri ;152mm榴弾なんて

eri ;マウスの餌ぐらいにしかならないっての

 

iku ;文字で見るとホント変なゲームだよなこれ

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

……コンコン

 

 

 

「隊長。失礼します。」

 

「エリカか。どうした?」

 

「はい。次の日曜なんですが……」

 

「む。もしかして休みか?」

 

「えっ。」

 

「寄港日と日曜が重なるとあって皆休みを取っていてな。これでは訓練にならんので全休にしようとしてたんだ。」

 

「そうなんですか……」

 

「まぁたまには息抜きも必要だろう……しかしエリカが休みを取るなんて珍しいじゃないか?急用か?」

 

「いやっそんな訳じゃ……古い知り合いと会うだけです。」

 

「ほう……まぁこんな時でなければ会えないだろうな……あぁ下船許可なら早く取った方がいい。いま船舶科はそれで大変らしいからな。」

 

「あー…でしょうねぇ……わざわざすいません。失礼します。」

 

「うむ。」

 

 

 

ガチャッ … バタン

 

 

 

「古い知り合いか……ん?」

 

(次の港…少し遠いが……大洗の学園艦も……みほが転校した……まさか。)

 

(いや……みほとは会わないだろう。この前の喫茶店の件が有るからな……)

 

(それでも……ううむ……気になるな…)

 

 

 

 

 

 

 

____________________________

 

 

タッタッタッ……

 

 

「イクサー!」

 

「あ?あんずぐふぉあ!?」

 

「あー……やっぱ人の……いやイクサの体温いいわぁ……」

 

「ぐっ……飛び付くのは良いがもうちょっと優しく出来ねぇのか……」

 

「くんかくんかすーはーいいにおいだなぁ……くんくん」

 

「ぬあぁぁぁ!!耳に息かけんじゃねぇ!鳥肌がっ!」

 

「うるさいなぁもう……よいしょっと。」

 

「あ゛ぁ゛……何だって急に……」

 

「この前の肩車のお返しよぉ。あと次の寄港日のお誘いに、ね?」

 

「あー……日曜なら先客が入ってるな。」

 

「ん?ホシノちゃんとだったら一緒に……」

 

「いや。この学園の子じゃない。久々に会うんでな……ちょっと勘弁してくれ。」

 

「……ほーん?」

 

「んじゃあな。今度めいっぱい埋め合わせするからな。」

 

「……ほーい。」

 

 

 

 

「…………んー………古い知り合いねぇ………んー……」

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

日曜。陸のとある喫茶店。

 

 

 

 

 

「やっぱりあの運営ちょっとおかしいと思うの。いや金稼がないとやってられないのはどこのネトゲソシャゲも同じよ?でもだからってあのやり方は……」

 

「コーラフロートとベリーベリーパフェで。あとポテトフライお願いします。」

 

『はいっ承りました。少々お待ちくださいませ~』

 

「聞きなさいよ!」

 

『あっ!も、申し訳ありません!ご注文を伺います!』

 

「えっあっ……同じのをお願いします……」

 

 

 

 

 

 

 

『先ほどは申し訳ありませんでした……こちらコーラフロートとベリーベリーパフェとポテトフライがふたつづつでございます。ではごゆっくりどうぞ~』

 

「……ここのポテト結構量多いよな。」

 

「……最悪持ち帰ればいいのよ。」

 

「まぁエリカの見た目で凄まれたら誰でもあぁなる。」

 

「ハァ?アタシのどこを見て言ってんの?」

 

「その遭遇率も色もはぐれメタル並みの銀髪だよ。」

 

「ハッ!あんなまがい物と一緒にしないで貰いたいわね!この銀髪はプラチナキングよ!」

 

「えっお前そんなキャラだっけ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で?相談ってなんだよ?」

 

「……みほの事よ。」

 

「うん。」

 

「この前ね、みほと…そのチームメイト?と会ったんだけどね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ……」

 

「そんな反応しないでよ……アタシだって結構キテるんだから……」

 

「ま、まぁまだそれなら言い方次第でどうとでも……」

 

「『副隊長?あぁ……元、でしたね(嘲笑)』」

 

「御愁傷様でした。」

 

「まだ死んでないわよ!これから蘇生するんだから!」

 

「蘇生って言ってる時点で死んでる気が……んで蘇生した後どうすんのさ。」

 

「……仲直り?」

 

「なぜ疑問形?まずそもそもなんでそんな事言っちゃったのさ。」

 

「……私って生まれつき銀髪なのね。」

 

「ん?」

 

「まぁ聞きなさいよ。……まぁだから子供の時から変なのに絡まれて続けてこーんな性格になっちゃたのねー……そりゃちょっと凄んだだけでビビられちゃうわ。」

 

「あー……なんかさっきはすまんな。」

 

「気にしてないわよ……むしろ私としてはイクサぐらいが取っ付きやすいわ。周りの子はそれこそビクビクしちゃって……エリカって呼ぶのも、隊長とみほの他じゃあアンタぐらいしか居ないもんね。」

 

「……つまり、数少ない友達を取られてついかっとなってやっちゃたと?」

 

「……ほんとは応援の一言でも掛けてやろうと思ってたんだけど…その…楽しそうだったから……」

 

「嫉妬か。」

 

「まぁそんな所ね…認めたくはないけど。」

 

「…んー…でもなぁ……仲直りなぁ……ん?」

 

「ん?」

 

「あーそういえば久々だからプロフ用の写真撮り直さなきゃなー」

 

「は?何(パシャッ)って何勝手に撮ってんのよ!」

 

「ほれ。良く撮れたか確認してくれよ。」

 

「はぁ?……確認も何も……」

 

「お前の右後、窓際。」ひそっ

 

「うしろ……?……ッ!?」

 

「どうだ?」

 

「……イインジャナイカシラ?」

 

「そうか。なら良かった。ハハハ。」

 

「アハハハ。」

 

 

 

 

 

ひそひそっ

 

 

「ナズェミテルンディスカ!?」

 

「お前がわかんねぇんなら俺もわかんねぇよ。」

 

「えぇー……なんで隊長がぁあ??」

 

「……もしかしてなんか隊長さんに言ったのか?」

 

「……古い知り合いに会うとしか……」

 

「じゃあ偶然だろ。たまたまエリカが入ってくのを見て付いていったら俺が居たから……」

 

「黒森の生徒に見られないようにこんな遠くまできたのに…………ところでイクサ。」

 

「ん?」

 

「茶髪のツインテールに見覚えは?」

 

「……居るの?」

 

「アンタの後のカウンター席に。」

 

「……ふ~ん……まぁ大した事ではないな。」

 

「取り合えず落ち着きなさい。パフェにストロー突っ込んでも吸えないわよ。」

 

「…………っ!」

 

「やめろ!ほらもう吸いすぎてストローが潰れちゃってるじゃん!」

 

「っハァ~……てかそもそも慌てるような事か?」

 

「えぇ?」

 

「俺達の間にやましい事は無い、よな?ただ単にお前が俺に相談しに来ただけだよな?」

 

「……確かに……」

 

「そっちの隊長とこっちの会長がここに居る理由はさっぱりだが、このまま何も無しで帰れば良いだけだ……大声出さなきゃ向こうまで聞こえんだろうしな。」

 

「……そうね。端から見ればただお茶してるようにしか見えないでしょうしね。」

 

「そうだそうだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

(ぬぅ~……あんな顔近づけてひそひそ話なんてぇ~……さすがに他校の生徒は管轄外っすよぉ?……まぁなんにしても……)

 

(……随分仲が良さそうだな……まさかエリカの古い知り合いと言うのが男だとは……まぁ恋愛が禁止されている訳では無いが……)

 

((後でゆっくりと話を聞かないと……))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てかウチの会長の姿なんて分からないだろ。見間違いなんじゃ?」

 

「……まぁ……みほの転校先って事で……その……結構調べたから……」

 

「あぁ……そこまで心配してるのに本人の前では素直になれないのか…」

 

「別にそんな……いや、そうね。イクサの言う通りよ。」

 

「ん~……俺にはそうやってぶっちゃけられるのになんでだろね?」

 

「私が聞きたいわよぉ……(もぐもぐ)」

 

「あっおいそれ俺のパフェやぞ。」

 

 

((!?))

 

 

「あぁゴメン……同じの頼んだから分かんなかった……」

 

「あぁほらちゃんと食えや……ほっぺに付いとるぞ。」

 

「えっどこ?(ごしごし)」

 

「そこじゃねぇ……ほれ。(ごしごし)」

 

 

((!!??))

 

 

「ん……ぷぁ……ありがと……はぁ…」

 

「本気で落ち込んでやがるな。」

 

「……なんか策は無いの……?」

 

「……いっそ二人きりで話してみるしか無いんじゃないか?前の件だって他のチームメイトが居たからそんな事言っちゃったのかも知れんし……意外とすんなりぶっちゃけられるかもだぜ?」

 

「……そう、かしら?」

 

「んだんだ!まぁ、いきなりだとあれだから今回の所はお土産で好感度アップを目指すと良いんじゃないか?」

 

「……そうね…フッ…いいわ。アンタの口車に乗っかってやろうじゃない!」

 

「ハハッ……調子が戻ったな。時間はまだまだ有るんだ。行くぞ!」

 

「えぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

(……間接キスにほっぺたごしごしとは……見せつけてくれちゃってぇ……)

 

(……エリカがあんな態度を取るとは……よっぽど信頼されているようだな……こうなったら黒森峰の次期隊長に相応しい男かどうか、この目で確かめてくれる!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『キュートボコショップ BokoPoko』……か。」

 

「……よし。行きましょう。」

 

「やっぱ今回はご縁が無かったと言うことで……」

 

「協力してくれるんでしょうよ覚悟決めなさい。」

 

「わかったから!自分で行くから離せよぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……むぅ。さすがに店内まで付いては行けないか……)

 

(なんなのあの可愛い店!しかも手ぇ繋いで入ってって完全にデートじゃん!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んあぁ……壁も天井もピンクだぁ……全身痒くなりそうだぁ……」

 

「……んー……う?……あ!……あー……」

 

「はぁ……まだかい。」

 

「いや……そんじょそこらの限定品程度網羅してるだろうし……かと言ってみほのボコセンスから外れた物を買っても……んー……」

 

「……ボコっていうジャンルがここまで奥深いとはなぁ……ん…『アーミーボコ』?……なんかプライベート◯イアンを彷彿とさせるな……」

 

「え?……あっ!?なにこれ見たこと無い!!どこにあったの!?」

 

「そこの棚の奥の方に……」

 

「へー……多分これはあの子も知らないと思うわ……ボコられ具合も最高と言っても過言では無い……よし、これにしましょう!」

 

「具合って……なんだお前も結構ボコとやらに詳しいのか?」

 

「……みほの趣味って事で察してよ。」

 

「あぁ……大洗の事を調べたのと一緒か……まぁいいや行くぞ。」

 

「えっイクサが買うの?」

 

「別にいいべさ…気にすんなよ。」

 

「……ありがと。」

 

「その素直さを本人の前で発揮して頂きたいんだがねぇ。」

 

「う、うるさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

(あっ出てきうぉい!?熊のぬいぐるみとかそんな趣味有ったのイクサ君!?あぁいやあれはあの女の子のやつかな?なんにしてもあんなプレゼントとか貰った事ないよぉ……)

 

(……あんな嬉しそうなエリカは初めてだな……やはりエリカはあの男の事を……私はエリカの意思を尊重すべきなのか…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無理です勘弁してください。」

 

「そこまで言うか。ただプレゼント渡してくるだけだろうよ?」

 

「ホントお願い。こればっかりはまだ心の整理というか準備というか……」

 

「はぁ……わかったよ。俺が渡して……ついでにお前の事も聞いといてやる。」

 

「えっちょっとそれも……」

 

「うるせぇ!それじゃいつまでたっても顔を合わせる事すら出来んぞ!」

 

「……うぅ……うん……わかった。覚悟決めるわ。」

 

「よし。んじゃ今日はお開きだな。結果はまた後で。」

 

「えぇ……お願い……今日はホントありがとね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~……」

 

「……エリカ。」

 

「あっ……あぁぁ隊長!」(完全に忘れてた!)

 

「今の男は?」

 

「え、ええっと……ここの前お話しいたしまましました古い友人ですっ……」

 

「友人……うむ……そう、か……エリカ。」

 

「はいっ?」

 

「お前は、どうなんだ?」

 

「えっ……」

 

 

 

 

(えぇぇぇ……?何が『どうなんだ』なの?んんんー……あっ!もしかしてみほの事?やっぱり色々バレてるのかしら……さすがみほの姉であり、私が尊敬する隊長……!だったらイクサの言う通り、本音をさらけ出すのみよ……!)

 

(私は聞きたい。エリカに、恋愛事と戦車道を両立出来るのか。その覚悟があるのか……!)

 

 

 

 

「どう思っているの?」

 

「……今でも大切な友人だと……心から思っています。」

 

「ん?」

 

(大切な……の後がよく聞こえなかったが……だが心から、と言っているしな……恋人、か?…本当に良い人に出会えたんだな……)

 

 

「……隊長?」

 

「いや。ならばもう言うことは無い……私は応援しているよ。」

 

「!……ありがとうございますっ!」

 

(やった!お姉様公認って事ね!きっとみほと仲直りしてみせますっ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「西住。」

 

「あっイクサさん?……あっそれ……!」

 

「お土産だ。エリカからのな。」

 

「エリカさん…が?」

 

「喫茶店の時のお詫びだとさ。」

 

「お詫び…なんて……そんなのいいのに……」

 

「なんか嬉しそうっすね?」

 

「はい……エリカさんはどう思っているかわからないけど、私にとっては数少ない友達だったので……その、喫茶店の時だって、最初はびっくりしちゃったけど、後で考えてみればしょうがない事だったのかな……って。」

 

「……大丈夫だと思うよ?」

 

「えっ?」

 

「エリカもみほの事を本気で心配したしな。それこそ泣きそうな勢いでな。このボコだってかなり時間かけて選んでたぞ?」

 

「……そうだったんですか……よかった……イクサさんも、ありがとうございますっ。」

 

「おう。んじゃ西住、また明日な。」

 

「えっ……」

 

「ん?」

 

「さっき、私の事みほって呼んでたのに……」

 

「……エリカがみほって呼んでたからつられたんだな。すまん。」

 

「い、いえ!むしろ私はそっちの方が……」

 

「そうなのか?」

 

「はい……戦車道の西住としてじゃなく、私の事を見て欲しいんです……一人の、普通のみほとして。エリカさんも、私の事をそう見てくれました。だからイクサさんにも……」

 

「……そうか。わかった、みほ。改めてよろしくな。」

 

「!……はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(みほとエリカは大丈夫そうだな……今日のチャットでの報告が楽しみだ……後は……)

 

 

「あーわーきーひかりたつにーわかあめー」

 

「杏さん春と言うかもう夏に近いので陽射しも強く関節がびきびきと悲鳴をあがががが」

 

「いーとーしーおもかげのちーんちょうげー」

 

「あぁなんか久々だなこの感じ9話ぶりかなてかお前鍛えてる?鍛えてるよね前よりすっごいいたたたたt」

 

「あーふーるーるなみだのつーぼみからー」

 

「ねぇなんでその歌なのさっきも言ったけどもう夏だよその前になんで歌いながらなのそーいうプレイなのかいだだだだだ」

 

「ひーとつ、ひーとつ、はーずしーはじーめーたー」

 

「あがっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「角谷氏。」

 

「なにかねイクサ君。」

 

「さっきまでわたくし折檻されてたんですよ。」

 

「うん知ってる。」

 

「全身痛いんですよ。」

 

「だろうねぇ。」

 

「肩車とか地獄の極みなんですけど。」

 

「へぇー。」

 

 

 

 

 

 

「へぇーじゃねぇよ!なんで肩車!?」

 

「それはこの前のイクサに聞きたいよ。」

 

「前は前!今は今!」

 

「いやまぁこの体勢でこそ尋問出来るというか?」

 

「尋問だと?」

 

「……ほんじつはおたのしみでしたね?」

 

「……いや、あれは。」

 

「うんにゃ。まぁ大体の事情は理解してたよ。西住ちゃんのお友達に協力してたんでしょ?」

 

「……そうだ。」

 

「うん。だからそれはいいんだけどさーあ?アタシがおこなのはねー?なーんかあの子と仲良しそうだった所なんだよねー」

 

「仲…良し……?」

 

「まぁ端から見ればただのカップルがデートしてるようにしか見えなかったんだよねー…」

 

「……気のせいだろ。」

 

「あー前に漫画で見た転蓮華試してみたいなー」

 

「止めてください死んでしまいますてかデートじゃねぇってただみほのために……」

 

「 み ほ ? いつに間に下の名前で呼ぶようになったのかな~…?」

 

「えっいやだからそれは……」

 

「えっとこのまま横にぐりんっ」

 

「ぐあぁっ!…………ってあれ?」

 

「……」

 

「ん…?…あん…ず?」

 

「…デート…」

 

「は…い?」

 

「デートしろぉ……」

 

「えっいやそれはまた今度……」

 

「たまにはイクサを独り占めさせろぉ……」

 

「それは嬉しいですが本日はだいぶ夕日も傾いて……」

 

「なう!!」

 

「イエス、マム!!」

 

 

 

 

 









次は甘口にしたいです。(小声)

っていうかアンツィオ戦もそろそろやりたいんですけどアニメ見直す時間が無くてこんな妄想ばかり捗りますはい。


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角谷杏のやきもち2 後編

十八話っめ


この小説(のようなもの)には

・地の文無しで6000字オーバー

・赤星さん元気すぎ問題

・ふたつに分けるべきだった

・結局何がどうなったの?

・真面目にやれ


以上の要素が多分に含まれています

なので耐性の無い方は気合いでガルパンはいいぞして下さい





黒森峰学園艦

 

 

 

「あっ逸見さん!」

 

「ん……あぁ赤星?アンタも下船してたのね。」

「うん。まぁ私はひとりだったけど……エリカさんにはイイ人が居たみたいですね?」

 

「……何の話よ?」

 

「とぼけても無駄ですよ?私見てたんですから!」

 

「だから何を見てたのよ?」

 

「デートですよ!まさか他校のお方とは……隅に置けないというかなんというか……」

 

「デート?…あぁ違うわよあれはただの……ん?」

 

「知ってますよ彼氏さんでしょ?」

 

「いやいや違う違う。彼氏じゃないわ。」

 

「えー……じゃあどういうご関係で?」

 

「えっ。」

 

「え……って私が聞いたんだけど……というかあの人同い年ですか?」

 

「いや……一つ上よ。」

 

「だったら余計彼氏さんじゃ…?年が違う男友達ってのも言い訳としては……」

 

「いやいやいや違う違う違う。彼氏では無い。」

 

「……んじゃ聞きますけど、今日は我々にとって貴重な寄港日、それも日曜が重なったスペシャルな日です。そんな日をある男性と過ごしたとします。っていうかエリカさんがそうでしたよね?」

 

「うん。」

 

「それはもうデートでは?」

 

「違う。」

 

「まだ言いますか……まぁまた明日ゆーっくり聞かせて貰いますからねー……おやすみなさーい。」

「……おやすみ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

陸某所

 

 

 

 

 

「やほーい!待ったー!?」

 

「すげぇ待ったわ!見ろよこの夕日!何で1度船に戻ったん…だ…?」

 

「へへへー!いやーこの白ワンピ買ったのは良いけど着る機会が無くてさー!この際に……ん?どしたん?」

 

「……いや、それもそうだが…髪…下ろしたんだな…」

 

「あっやっぱ気になっちゃう?なんとなーくイメチェンしてみたかったんだけど……似合わないっしょ?」

 

「いや……なまら可愛い。」

 

「…え……いや冗談冗談!こんな長い髪子供っぽくてアタシにゃ全然…」

 

「いや逆さね。大人っぽくて……なんか……魅力的…だな。」

 

「…そ、そう……?」

 

「うん。」

 

「…ふーん……ま、まぁいいや!んじゃとっとと行くぞい!」

 

(……耳まで真っ赤だな)

 

「なななにかな!?」

 

「なんでもないですぅー行くぞー」

 

「あっ待てって!アタシが先に行くんだよぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

ようこそ。erika。

 

 

 

 

 

フレンド招待

 

 

ikusa はオフラインですが招待しますか?

 

 

 

 

 

いいえ

 

 

 

 

 

 

……今日はもうインしないのかな?

 

 

 

彼氏

 

 

 

 

だから違うっての アイツは

 

 

 

 

……

 

 

 

なんだろ?

 

 

私にとってのなんだろ?

 

 

 

……

 

 

 

最初は 何年も前の試合だったかな

 

 

 

私はチームの隊長

 

 

 

アイツは車長兼装填手

 

 

 

ボロボロに敗けた

 

 

 

ひたすら強かった

 

 

でも それを認めたくなくて

 

 

いちゃもんつけて 難癖つけて

 

 

男の癖にって

 

 

けっこうひどい事も言っちゃったかも

 

 

関係ないイクサのチームの事まで

 

 

私の悪い所 いっつも後で後悔する

 

 

 

 

 

でも

 

 

 

イクサは怒らなかった

 

 

 

年下からボロクソ言われてるのに

 

 

 

そして

 

 

 

その日の帰り際

 

 

イクサは私の所に来た

 

 

なにをされるのかとビビってたら

 

 

 

 

 

「ありがとう。」

 

 

 

 

……は?

 

 

 

 

って声しか出なかった

 

 

 

 

 

「色々為になったよ。一応穴が出来ないように指揮してたつもりだったんだが。」

 

 

「……指揮って……アンタがやってたの?」

 

 

「あぁ。助っ人とは言え俺が一番年上だからな。だがやっぱりまだ慣れなくてさ。」

 

 

 

 

その時の私は多分間抜けな顔してたんでしょうね

 

 

 

 

鬼のような装填速度

 

隙が1ミリも見つからない状況判断

 

さらにチームの指揮?

 

化け物かよ って

 

 

 

 

 

 

 

そしてそんな人に

 

認められた

 

まぁ多分これは私の勘違いでしょうけど

 

西住隊長に出会う前で

 

何か…強くなる理由が欲しかった私にとって

 

イクサはとても大きく見えた

 

 

 

 

 

それで 連絡先交換して

 

チャットとかゲームやったりして

 

なんだかんだで今か

 

 

 

 

……

 

 

 

友達?

 

 

違う

 

 

彼氏?

 

 

絶対違う

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

もしかして

 

 

もしかしたら

 

 

隊長や みほの前に

 

 

無意識のうちに

 

 

私が目標にしてたのかな

 

 

 

…………

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

とあるカフェ

 

 

 

 

 

「……ぐぬぬむむぬぬ」

 

「そんな不機嫌になるなよ。ただ歩いてるときに風船(ハート型)とヘアサロンの(キッズ)割引券と水族館の無料券(小学生以下)と風船(ボコ型)渡されてさっきお前のとこにお子様メニュー配られただけじゃねぇか。」

 

「完全にイクサの妹扱いじゃないかいい加減にしろ。」

 

「それにしてもお前が風船をあの女の子に譲ったシーンは感動的だったな。」

 

「そのあと母親と『良くできた妹さんね?』『自慢の妹ですよ』とか会話してたの聞こえてたからね?」

 

「てかやっぱりあの親子どっかで見た気がするんだけどなー……戦車道関連で……」

 

「話を逸らすなこのやろう。さっきもアタシに許可なく注文してくれちゃって……」

 

「だってお前キッズメニュー見て目を輝かせて「無いよ!」」

 

 

 

『お待たせいたしました。』

 

 

「おっ、やっぱ早いな」

 

「まったく…何頼んだのさ…」

 

 

『『恋のハートピーチジュース』でございます。』

 

 

「!?」

 

 

『ごゆっくりどうぞ。』

 

 

「待って!」

 

 

『はい?』

 

 

「あぁいや。他のはまた後で注文します。」

 

 

『かしこまりました。では失礼いたします。』

 

 

 

 

 

 

「実物を見るとやっぱヤベェな。」

 

「ストロー二本刺さってるのはまぁ分かるけどめっちゃ距離近くない?」

 

「二人の顔の距離国内最短だとさ。」

 

「絶対自称でしょそれ。」

 

「さらに飲む所を写真に撮ってくれるサービスも有るって。」

 

「あっちょっと持病のしゃっくりが「店員さーん!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「ほれ、店員さん待ってるぞ?」

 

「……」

 

「なにやってだよただストローで飲むだけだべ?」

 

「……」

 

「俺一人で飲みきっちまうどー?」

 

「……」

 

「ほーれー」

 

 

 

プッツーン

 

 

 

 

「……杏?」

 

「オラァ!」

 

「んむぅ!?」

 

パシャッ

 

 

 

 

 

 

 

 

『いやー……私もこのサービス始めて長いですがキス写真を収めたのは初めてですよー』

 

「……そっすか。」

 

『ではこちらが写真でございます。ごゆっくりー』

 

 

 

 

「ふへ……へへへへ……良く撮れてるじゃんか……」

 

「うわぁ……ちょうどぴったりの所で……」

 

「イクサが悪いんだよ…あんなに煽られたらアタシもプッツン来ちゃうってもんよ……」

 

「どーすんだよあれ店に飾るとか言ってたぞ」

 

「いーんじゃね?どーせこの港には二度と来ないだろうし」

 

「あっお前会長権限濫用する気だな?」

 

「さーこの際旅の恥をかなぐり捨てていってみよー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

ネット辞書

 

 

 

 

『目標』

 

『そこに行き着くように、

またそこから外れないように目印とするもの。』

 

 

 

 

 

……

 

 

 

これだ

 

 

 

私が今感じた違和感

 

 

 

『そこに行き着くように』の『そこ』

 

 

 

強くなりたい

 

 

 

そして

 

 

 

強くなるための『目印』

 

 

 

 

隊長 みほ イクサ

 

 

 

 

それじゃ駄目なんだ

 

 

 

 

みほとイクサは大洗に居る

 

 

あの2人は必ず越えなければならない

 

 

 

だったら隊長すらも越えなければ

 

 

 

 

でも

 

 

 

あの3人を目標にしてたら

 

 

それより先には行けない

 

 

肩を並べるのでは無く 先に行く

 

 

 

 

 

 

じゃあどうする

 

 

あの3人はそれぞれ自分だけの強さを持ってる

 

 

 

 

 

私の

 

 

私だけの強さって?

 

 

 

真に目標にすべきは?

 

 

 

__________________

 

 

 

 

遊園地

 

 

 

 

「おー!すげー!やべー!」

 

「せやな」

 

「おっあれがナイトパレードってやつかな!見てみよーぜぃ!」

 

「おう」

 

「なんだよイクサー?テンション上げていこうぜー?」

 

「さすがに肩車でデートってのはバカップルもいいとこだと思うのですが」

 

「気にすんねぃ!こちとらこんなの初めてでテンションブチ上がってるんだからさぁ!」

 

「あれ初めてなのか?」

 

「まぁアタシは遠足とか企画したり引率する側だからねー……いやこーいうレジャー施設自体は何度も来てるよ?ただ遊んだ事が無いのさ」

 

「……やっぱ会長って大変なんだな」

 

「だーかーらーアタシは今日という貴重な日を使って はじめての ゆうえんち! を体験したかったのになー!イクサがデートしちゃってたからなー!」

 

「……申し訳ありません」

 

「まぁ今こうして遊べてるんだから気にしてないけどね!それに肩車ぁ?そんなん周りからは兄妹にしか見えて無いって!」

 

「自分でそれ言っちゃうのかよ……」

 

「へへへー……あっ」

 

「あん?」

 

「…パレードも良いけど一回乗ってみたかったのがあるんだよねー…そっち行こう?」

 

「?……どれかね?」

 

「あっち!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おー……上がってる……」

 

「そら観覧車だから上がるさね」

 

「うん……思った以上にゆっくりなんだねー……」

 

「今は夜景を楽しむって事で普通よりゆっくりらしいな」

 

「へー……すげー夜景すげー……」

 

「……」

 

「おー……ん?……ふふーんイクサは夜景よりアタシに夢中なのかねぇ?」

 

「……いやマジで初めて乗った子供みたいだなっでででで」

 

「このまま指を逆に持ってくのもアリじゃないかなー?……ったくムードもへったくれも無いんだから……」

 

「いつつ……ムードって言ったら今がベストの時じゃないっすかねー?」

 

「なんの事かね?」

 

「俺はお前に直接的な言葉で表したぞ?」

 

「なにが」

 

「好きって」

 

「え゛」

 

「やっぱりお互いの気持ちを言葉にして伝えあうべきじゃないかなーって」

 

「いやこの前言いましたやんか」

 

「あの時は3人だったからな。ほらやっぱ1対1で面と向かって俺の目を見て俺の心に直接「うるせぇ!」」

 

「人は言葉にしなきゃわからない生き物だからね。時には自分に素直になるのも必要じゃないかな?」

 

「その口調を止めてどっかのカンテレ弾きを思い出す」

 

「オッケーわかったそこまで言うなら俺にも考えがある!」

 

「何を考えててもアタシは言わな……」

 

「しりとり!」

 

「は?何を……」

 

「しりとり!」

 

「……りく」

 

「クラス!」

 

「……すだれ」

 

「レタス!」

 

「……あぁそーいう事ね……フッ……いいよ!アタシに言語で勝とうなんざ100年早いって教えてやるスイカ!」

 

「カラス!」

 

「スキップ!」

 

「そこまで言ったんなら好きで止めとけよプラス!」

 

「うるせぇこっちもこっぱずかしんじゃスキンシップ!」

 

「お前もうわざとだろプレス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

ikusa はオフラインです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……もう寝たか

 

 

……なんだかんだでイクサが一番こーいう相談しやすい先輩だったんだな……

 

はぁ……言わば敵にアドバイスして貰おうなんてね……まぁイクサならそんなの関係なくしてくれるんだろうけど……私の迷走っぷりがひどいな……

 

 

 

 

はぁ……

 

 

 

 

 

…………デートじゃん

 

 

 

よくよく考えたら今日やってた事全部デートじゃん

 

 

 

 

 

……てかよくよくよく考えたらさっきの隊長のあれもイクサとの事だったんじゃ……

 

 

 

 

……

 

 

 

間接キス

 

ほっぺごしごし

 

手を繋いでボコショップ

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

大切な友人(意味深)だと……今でもそう思っています

 

 

 

……私は(その恋愛を)応援しているよ

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

デートじゃん!!

 

んで思いっきり隊長に彼氏います宣言しちゃってるじゃんかああああうなああああああああ!!

 

 

 

 

 

 

ガチャッ! 「エリカさん!?」

 

「ひゅい!?あぁあ赤星どうしたのよ!?」

 

「えぇいや今エリカさんの絶叫が聞こえたんでなにか有ったのかと……」

 

「あ……あぁいやえぇっとぉ……あれよ!ネットでホラー系のサイト踏んじゃってね!ちょっとヤバくてビックリして、ね!」

 

「そ、そうですか……むしろそこまでのホラーなら興味あるかも……」

 

「い、いやー……ちょっとびっくりして思わずサイト消しちゃったの……どうやってアクセスしたかも覚えてなくて……そそれより赤星もこんな所まで来て何やってたのよ?」

 

「あぁそうだ……昼間のデー『違う!!』ひぃ!?」

 

「だからアイツは彼氏でも何でもなくて、あれはデートでも何でも無い!いいわね!?」

 

「アッハイ!……じゃなくてもうエリカさんが思ってるより話が大きくなっちゃってるんですよ!」

 

「……どういう」

 

「逸見さんがあの人とデー……じゃなくって一緒に居た所を私以外の子も結構目撃してたみたいで、」

 

「へぇ」

 

「そして夕方、エリカさんがあの人と別れたあと西住隊長と話してたんですよね?」

 

「うん」

 

「そしてその後、それを見ていた一人が隊長に特攻してエリカさんの事を聞いたみたいで、」

 

「ほう」

 

「その内容はわからないけど、今流れてるのは『エリカさんが遠距離恋愛してる。戦車道と両立しようと頑張ってるみたいだからこの事は本人には秘密で』というもので、つ、つまり……エリカさん以外の広い範囲にこの噂が流れてるんですよ!」

 

「ふーん」

 

「…え……エリカさん?」

 

 

 

 

 

ガチャッ

 

「待って!取り合えず窓閉めましょ!ねっ!」

 

「離して!もう明日からまともに学校生活送れる気がしないわ!」

 

「だからって身投げしないで!残された私の事を考えてください!」

 

「……赤星……アンタ……」

 

「自殺現場に居たとか事後処理がめんど「死んでやるぅぅぅ!!」わー!ごめんなさいごめんなさい冗談ですよぉ!」

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アキレス」

 

「スワジランド王国」

 

「クリスマス」

 

「スリランカ民主社会主義共和国」

 

「クラス」

 

「スリジャヤワルダナプラコッテ」

 

「なんだそれは」

 

「スリランカの首都」

 

「……テグス」

 

「煤(スス)」

 

「…………」

 

「はいイクサの負け~」

 

「くそ……勝負を間違えた……」

 

「へへへー自慢だけどしりとりで負けた事はい~っかいも無いんだよねー自慢だけどー!」

 

「この歩くインターネット……人間ウィキ……」

 

「煽りになってないよ?……それでイクサ君~?もちろん分かってるよねぇ……?」

 

「なんすか」

 

「にひひひ……敗者は勝者に従うものだよ~……な~にをして貰おっかなぁ~……」

 

「うわ……どす黒い笑顔だわホント……」

 

 

 

 

♪3番!車長!角谷杏!

♪ほーしいっも片手に

 

 

 

「あぁアタシか」

 

「待ってなにその着メロすげぇ気になる」

 

「いや気にしたら負け………あっ………」

 

ブチッ

 

 

 

「あれ?切ったのか」

 

「いや……」

 

 

 

 

 

♪ためらわないで自分を信じたら

♪きっとあなたの

 

 

「あぁ俺か」

 

「どんだけロック○ンDASH好きなのさ」

 

「いやアレはエンディングも含めて神……あっ………」

 

『着信 そど子』

 

「…………」

 

 

 

ピッ

 

「もしも…」

 

『イクサァ!!今何時だと思ってんのォ!?』

 

「「…………」」

 

『だんまりですかそうですかってかさっき会長切りやがったでしょ!!生徒会長が乗船時間無視ってこんな事許されると(ブチッ

 

 

 

「よし!」

 

「じゃねぇよ!何勝手に切ってくれちゃってんだ!?」

 

「いやどーせ怒られんのは一緒だし?説教されるのが先伸ばしになっただけよん」

 

「……今から胃が痛ぇよ」

 

「……まぁ……これ一周したら帰ろっか……」

 

「当然だろな」

 

「はぁ……夜景が目に染みる……」

 

「せやな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「落ち着きました?」

 

「えぇ……」

 

「……それで」

 

「アイツは」

 

「えっ?」

 

「西住隊長や、みほと同じ……私が戦車道を続けている理由のひとつ」

 

「……」

 

「でも、あの2人とは違う……いやまぁ言ってしまえば3人とも違う訳だけど……アイツは分からないのよ。」

 

「分からない?」

 

「敵でも味方でもない。尊敬でも憎しみでもない。好きでも嫌いでもない。アイツに対しての感状。それが分からない。……今日隊長や赤星と話して、分からないって事がやっと分かった。だから知りたい。アイツを越えることで、きっと分かるはず。」

 

「……」

 

「って事を……」

 

「はい?」

 

「アナタが広めなさい。」

 

「はい!?」

 

「アイツは私にとってのライバル。今日一緒に居たのはアイツがどうしてもって言うからしょうがなくってのを……」

 

「いやいや待ってくださいよ!」

 

「私から直接聞いたって言えばすぐに噂になるわよ」

 

「そう言われても……」

 

「大丈夫よアナタ私より友達多いんだから」

 

「自分でそれ言っちゃうんですか!?」

 

「いいから行きなさい!ハリアーップ!!」

 

「わわわわ!」

 

 

 

バタバタバタ……

 

 

 

「頼んだわよ!」

 

「分かった!分かりましたからー!!」

 

 

 

 

ガチャン!

 

 

 

 

 

 

 

よし 取り合えずこれで大丈夫ね!

 

 

 

 

……はぁ

 

 

 

適当な事言ったけど 実際分からない

 

 

 

……

 

 

アイツは

 

 

 

私の事 どう思ってるのかな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれっきびきび走れこの馬車馬!」

 

「うるせぇ自分で歩けやこの!」

 

「女の子肩車して喜んでる癖にこの変態!」

 

「乗ったのはそっちだろコラァァァァァ!」

 

「ひゃはははは!そーだそーだその調子ぃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……疲れた」

 

「まぁここまで来れば歩いても変わらないよね~」

 

「そうだな…………杏」

 

「なぁに」

 

「ほい」

 

「ん?……あっ」

 

「ボコの髪留めだとさ……髪、下ろしてるのも良いけどやっぱツインテの方がしっくり来るよ。」

 

「……そっか。んじゃ早速……」

 

 

 

 

 

「ほいっ……どうよ?」

 

「いや担いでたら見えないがな」

 

「そりゃそうだ。……ところでなんでこれにしたのかね」

 

「んー……なんかお前の髪見るたびにニヤニヤしそうだったから?」

 

「あはは……意味わかんないっすよ」

 

「ふはは……俺もだ」

 

「ははは……はぁ……イクサぁ」

 

「ん」

 

「大好き」

 

「ふへっ」

 

「……一気に顔が熱くなったねぇ」

 

「触るな」

 

「なんだよ言って欲しかった癖にその反応は無いんじゃないのん~?」

 

「うるせぇや!はよ帰るぞ!」

 

「はっはは~!そうだ走れ走れ~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「正しく座ると書いて?」

 

「正座です」

 

「ほらそど子……ここはイクサに免じて」

 

「じゃないわよ!会長はイクサから降りなさい!」

 

「いやこういうのは形じゃなくて心の有り様で誠意を」

 

「いいから正しく座っとけって言ってんの!!」

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

 

 

ikusa がオンラインになりました。

erika に招待されました。

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erika に招待されました。

ikusa が入室しました。

erika に招待されました。

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iku ;うるせぇ

erika に招待されました。

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iku ;うるせぇ!!

 

eri ;それっだrてえどうだった

 

iku ;落ち着け

 

eri ;それでどうだった?

 

iku ;みほなら大丈夫だろ

iku ;お前の事友達って言ってたぞ

 

eri ;そうなんsぼ9ふぃ

 

iku ;落ち着け

 

eri ;ごめん よかった

 

iku ;後はお前次第だ

 

eri ;そうね ありがとう

eri ;それで 違う話だけど

eri ;イクサはなんで戦車道やってるの?

 

iku ;面白いから

 

eri ;それだけ?

 

iku ;まぁ 今は学校の事情とか有るけど

iku ;やっぱ面白いよ 戦車って

 

eri ;それが強さの秘訣って訳?

 

iku ;好きこそ物の上手なれってね

 

eri ;そうか

eri ;あと

eri ;本気で優勝するつもりなの?

 

iku ;そうだ

iku ;優勝しなきゃならんし

iku ;俺も優勝したい

 

eri ;だったら次に会うのは決勝ね

 

iku ;ああ

iku ;つまらん相手に負けてくれるなよ

 

eri ;そっちこそ

eri ;イクサは私が倒すんだから

 

iku ;楽しみだ

 

eri ;あっ

eri ;ゲリラ始まってる 行くよ

 

iku ;寝ますね

 

eri ;起きろ

eri ;エレファント泥率アップなんて

eri ;滅多に無いんだから

 

iku ;お前マウス持ってんだろ?

 

eri ;ドイツ戦車は全部揃えなきゃ(使命感)

 

iku ;捨てちまえそんな使命

 

 

 

 

 

____________

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだ

 

 

こんな簡単な事か

 

 

 

イクサと戦う

 

 

確かに

 

 

 

考えただけで胸が躍る

 

 

 

明日からの練習が

 

こんなに楽しみに感じるなんてね

 

 

 

 

みほ イクサ

 

 

 

待ってなさい

 

 

 

必ず越えて見せる

 

 

 

そしたら

 

 

たぶん

 

 

きっと

 

 

 

 

イクサへの気持ちも分かるはず

 

 

そしたら

 

 

 

アイツの気持ちも確かめてやる

 

 

 

 

だから

 

 

 

待ってなさい

 

 

 

 

 

 

 

 

 




逸見エリカラスボス化計画始動



あとあれですよね


普通の人は短所を克服して長所を伸ばす訳だけど

自分の場合短所を投げ捨て長所を放っておいて余計なことに手を出すからね


つまり全てを諦めてから読むのが丁度良いって訳ですねあとがきで言うのもあれだけど


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これほんアンツィオ 潜入編

19話目 待たせたな(待ってない)



という事で始まりましたアンツィオ編!


早速注意事項↓


・無駄に1万字オーバー

・この小説オリジナルモブキャラ

・建ててるようで建ててない、でもちょっとだけ建ててるフラグ

・自重出来てない妄想

・軽い俺TUEEE



さぁ時間を無駄にする準備と覚悟が出来た人からどうぞ








私の名前は秋山優花里!

 

 

 

本日は我が学園の次の対戦校、アンツィオ学園にお邪魔しているであります!

 

 

 

 

 

 

……序盤のナレーションはこれでいいかな?

 

 

前回は編集が疎かになっちゃったから今の内に大雑把でも決めとかないと……サンダースの時みたいにバレてどたばたしちゃうかもだし……

 

 

いやっ今回はあんなヘマはしない!なんせ生徒会長に背中を押されているんですからね!

 

 

潜入経路であるこのコンビニ船も会長が手引きしてくれたし、なんせ協力者が居ますし!

 

 

 

……その協力者さんとはまだ落ち合ってないけど……場所間違えたかな……

 

 

 

 

 

コツコツコツ……

 

 

 

 

 

っ!……足音!

 

 

 

協力者さんですかね?いやっでももし違かったら……

 

あっそういえば会長が私にしか分からない合言葉って言ってましたけど……なんの事でしょう?

 

 

 

 

「82 56 84」

 

 

 

 

あっそういう事ですか!

 

協力者さんで間違い無いようだから、取り合えず声のする方へ返事してみます。

 

 

 

 

「……はーい……」

 

「ん?どこだ?」

 

 

 

 

 

あれっこの声もしかして……

 

 

 

 

「こっちですー…!」

 

「あぁそこか」

 

 

 

 

 

 

協力者さんってイクサ殿の事ですか!

 

確かに頼りになりますが……

 

 

 

 

 

「イイクサ殿っ!こっ今回はよろしくお願いしますっ!」

 

 

 

 

 

うぅ~…なんか緊張します……

 

サンダースに潜入した時にはイクサ殿が謝りに行ったと聞いてから顔を合わせずらくて……

 

 

 

 

「うん。こっちこそあ…会長の頼みにありがとうな」

 

「いっいやいや!西住殿やみんなのためになるならこの程度!」

 

「それは有り難いな。だが無理はするなよ?」

 

 

 

 

 

 

……やっぱり優しい人です。

 

でもそれだけに前回の事が気になって…

 

 

 

 

 

 

 

「あとさっきの合言葉ってどういう意味なんだ?」

 

「あぁ!あれはス…」

 

「ん?」

 

「……じゃ…なくって、えっと、ただのパスワードみたいな物です。なので深い意味はありませんっ」

 

「ふーん?」

 

 

 

 

 

あっぶな…流石に西住殿のスリーサイズって言うのは問題しか無いですもんね……

 

ってか会長はなぜそんな事知ってたのでしょう……?

 

 

 

 

 

 

 

「いや、なんかあるのかなって思っただけさね。……取り合えずあと一時間位は暇になるのか?」

 

「そーですね……コンビニ船はあまり飛ばさないですし……あっそうだ!」

 

 

 

 

 

折角落ち合った所ですし、ここらで撮影開始といきますか!

 

えっとビデオカメラはー……つっ!

 

 

 

 

 

 

「いつつ……」

 

「ん?どうした秋山」

 

「いや…ちょっと……」

 

 

 

 

 

 

リュックを漁っていると突如肩に痛みが……

 

装填手である以上鍛えてはいるけど、やっぱ体がまだ付いてかないのかな……

 

 

 

 

 

「……筋肉痛か?」

 

「いや…肩がちょっと痛むだけです」

 

「ふむ……」

 

 

 

 

イクサ殿は少し考え、

 

 

 

 

 

「ちょい失礼」

 

 

 

 

そう言いつつ私の手首と肩を掴みみみみみ

 

 

 

 

「イイイクサ殿っ?」

 

「くすぐったいか?」

 

「いいいやそうではなく」

 

「じゃあちょっと我慢してくれ」

 

 

 

わわわわ殿方に体を触られてるよぉぉぉ……

 

 

……あいたっ!?

 

 

 

「っ……」

 

「痛むか?」

 

「…はい」

 

「ここは?」

 

「あっ……大丈夫です」

 

 

 

 

私の手首を持って腕を動かしつつ、肩をマッサージ…

 

…どうやらイクサ殿に気を使わせてしまったようです

 

 

 

 

「やっぱ装填手は体を痛め易いからな。お前も鍛えたりしてるのか?」

 

「はい」

 

「どんな鍛え方を?」

 

「えっと……訓練終わりにダンベルで腕力を…」

 

「あぁ……じゃあ止めた方がいい」

 

「えっ」

 

「訓練終わりは駄目だ。ストレッチに留めておけ。疲れてる所に鞭打つようなもんだ」

 

「そ、そうですか……でも」

 

「どーしても鍛えたいってんならまずは握力だ。握って開いて……グーパーグーパーを2、30回やるだけでも全然違う」

 

「……なるほど」

 

 

 

 

流石、経験者の言葉は重みが違いますね……

 

マッサージも気持ちよくて……あれ?

 

 

 

「痛みが……」

 

「それぐらいならちょいと血行を良くすればちょいちょいよ」

 

「…凄いです…戦車だけでは無くこんな事まで……」

 

「どんなに強い戦車でも動かすのは人だ。人の整備も出来なきゃ、真のメカニックとは言えんよ」

 

「……本当に凄いです」

 

 

 

こんな先輩が居るなら次の試合でも……あっ

 

 

 

 

「ああぁそうだビデオ撮らなきゃ!」

 

「はっはっはっ!熱心な事だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!イクサ殿あれ!」

 

「やっとか……長かったなぁ…」

 

 

 

 

 

ついに見えて来ましたアンツィオ学園艦!

んーやっぱり敵地が見えると心が躍りますねぇ!

 

そこでひとつ気になる事が。

 

 

「そういえばイクサ殿はそのままで潜入するんですか?私はコレが有りますが……」

 

 

 

と私のカバンから取り出すはアンツィオ制服。

 

イクサ殿はいつもの学ランですが、着替えも持ってないようですしもしかして……

 

 

 

「あぁ、俺はこのままだ。普通の客としてアンツィオに入る。」

 

「そうなんですか?」

 

「会長の作戦だよ。俺が囮になってお前に目がいかないようにするためだとさ。」

 

「…なるほど」

 

 

 

 

確かに向こうもイクサ殿が来ている裏で私が潜入してるなんて思いもしないでしょうし、さすが会長といった所でしょうか……

 

 

 

 

「よし、んじゃそろそろ作戦開始と行くか!」

 

「はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________

 

アンツィオ校舎内 とある部屋

 

 

 

 

 

 

 

 

まずいです

 

 

 

 

 

非常にまずいです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んん?どうした顔色が悪いぞ?……はっ……まさか料理になにかまずい物がっ……!?」

 

「いやいやいや!すごく美味しいです!美味しすぎて感想が思いつかなかったんですよぉ!」

 

「そうかそうか!だが感想なんぞいらん!ウチでは黙って食べるきるのが最高の賛辞だからな!」

 

「あはは……」

 

 

 

 

 

 

はい 凄く美味しいです。

 

目の前に置かれた数品の料理。そのどれもお金を払ってないのが申し訳無くなるほど美味しいです。

 

 

 

 

何がまずいのかと言うと……

 

 

 

 

 

「それに、このドゥーチェ・アンチョビが直々に腕を振るったんだ。美味くなきゃ困るってな!アッハッハッ!」

 

「あっははっ…はは…」

 

 

 

 

 

潜入先の隊長に料理を振る舞われている所がまずいですかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うわぁぁぁああああん!!

助けてイクサ殿ぉぉぉぉ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~しかしわざわざウチの制服用意して見学なんて……気合いが入ってるというかなんというか……」

 

「あはは……」

 

 

 

 

 

 

 

そろそろ乾いた笑いでお茶を濁すのも限界ですね……

 

しかし甘かった……と言うか運が無かったです。

 

まさか初っぱなからアンチョビさんに出くわすとは……

 

 

 

 

「あれ?見ない顔だな?」

 

「転入生……でも無いよなそんな報告も無いし……」

 

「ん~……そのヘアスタイルは一発で覚えるはずなんだがな~……?」

 

 

 

そして崖っぷちまで追い込まれた挙げ句咄嗟に出た言い訳が……

 

 

 

「わ、私っ!イタリアに憧れてて、それでアンツィオを一度でも見学してみたかったんですっ!」

 

 

 

 

 

 

 

で、この状況と…あぁ…イタリア料理おいしい…

 

いや信じてくれたのは運が良かったですが、ここからどうしま……

 

 

 

……いや……これはもしやチャンスでは……

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのー……」

 

「ん?おかわりか?」

 

「いやっもうお腹一杯で……それより私、今回アンツィオに来たのはイタリアの戦史……特に戦車について学ぶためでありまして」

 

「ほう」

 

「もしよければ、そちらの戦車道の見学をさせ」

 

「よし分かったっ!」

 

 

 

 

速答!?というかまだ言い終わってませんよ!?

 

 

 

 

「料理の次は戦車だよな!今ちょうど整備してる所だし、早速行こう!」

 

「あっあのビデ」

 

「あぁいいぞ存分に撮れ!」

 

 

 

 

 

やったっ!何だかんだありましたがうまく行きそうですっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

アンツィオ校舎外 屋台広場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まずい

 

 

 

 

非常にまずい

 

 

 

 

 

 

 

「イクサさん……?口に合いませんでした?」

 

「いやっ即席でこんな美味いのが出来るとは思わなかったからな。ちょっと驚いてたんだ。」

 

「でしたらよかったです~」

 

 

 

 

 

 

 

さすがはカルパッチョ、アンツィオの幹部と言った所か。

 

急な来訪にも完璧に対応してみせる……いや違う問題はそこなんだよ。

 

 

 

 

 

 

「でも、前もって連絡をいただければもっと豪華にもてなせましたのに……」

 

 

『……』

 

『……』

 

『……』

 

 

「もう皆!お客さんをそんな目で見ないの!」

 

 

『『『ウィーッス』』』

 

 

「ごめんなさいね……試合前でピリピリしちゃって……」

 

「い、いやいや。いきなり来た俺も悪かったよ……あはは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんで前もって連絡してないんだよ杏ぅぅぅ!!

 

アンツィオから見たらいきなり次の対戦校の人間がやって来たようなもんだよ!

 

そりゃ広場にいる生徒もガチ警戒マックスの眼差しで見てくるさ!

 

てかそういう作戦じゃなかったの!?馬鹿なの?死んじゃうよ?いろんな意味で俺死んじゃうよ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

「今頃あの二人はアンツィオですか……あそこの料理は美味しいらしいから私も行って見たいんですよね~」

 

「んじゃ小山も行ってきなよー?アンツィオ制服ならいくらでも用意出来るぜー?」

 

「会長こそ行きたかったんじゃないですかー?イクサ君と二人で!」

 

「い、いやぁ…それはまた今度かなぁ……今回は秋山ちゃんの顔を立てるって事で……ね?」

 

「ふふふ照れちゃって……」

 

「そそれよりチョビはなんて言ってた?前に思いっきりイジってやったから反応が楽しみだったんだよねー」

 

「えっ?私アンチョビさんとは何も…」

 

「んっ?今日イクサがお邪魔するって連絡を…」

 

「えっ?」

 

「んっ?」

 

 

 

 

ガチャッ

 

 

「あぁ二人ともここに…」

 

「か河島っ?アンツィオにイクサの事について連絡入れた?」

 

「えっ?イクサの事とは?」

 

 

「「……」」

 

 

「二人ともどうしたんですか?」

 

「……まぁイクサなら死にはしないか。」

 

「……えぇイクサ君なら生きて帰ってくるでしょう。」

 

「死!?本当にどうしたんです!?」

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいっ。この前サンダース戦の時にも出てたジェラートです!」

 

「おう……おっこいつも美味いな!」

 

「えぇ!アンツィオはデザートも一流ですから!」

 

 

 

 

 

『……』

 

『……』

 

『……』

 

 

 

 

 

 

流石にこの疑惑たっぷりの視線にも慣れたわ。

 

取り合えずアクシデントは有ったものの、予定通りカルパッチョと屋台巡りをしている。

 

ちなみに今回俺がアンツィオに来たのは先のサンダース戦での快勝を基礎に、お互いの手の内を見せ合い今後の協力体制を磐石なものにするため……あっ屋台の話です。快勝って売り上げ的な意味です。

 

 

……まぁ予定なんて杏からの連絡が無かった時点で破綻しているようなもんだがな。覚えとけあんちくしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そう言えば、私大洗に友達がいるんです。」

 

「そうなのか。」

 

 

 

 

 

ジェラートを頬張っているとカルパッチョが思い付いたように……と言うか前々から言う機会を伺ってた感じだな

 

 

 

 

 

「戦車道を始めたって聞いたんですけど……」

 

「ほう。名前は?」

 

「鈴木貴子です。私はたかちゃんって呼んでたんですけど……」

 

「……」

 

 

 

 

すずきたかこ………?…全く記憶に無い……当然全員の名前は覚えているんだが……

 

 

 

 

「ソウルネーム組…か?……んー……おりょう……エルヴィン……カエサル……」

 

「あっ!多分その子!……ローマが好きって言ってたから……多分。」

 

「カエサル?確か好きな戦車がダヴィンチ円形戦車だとか……」

 

 

 

カバさんチームのプロフィールでも特に異色だったからよく覚えている。てかそのプロフィールにソウルネームで書いてたとか今考えると……俺が言えた事でも無いか。

 

 

 

 

「あー……間違いないわ……ふふっそんな戦車絶対乗れないわよって言っても聞かなかったんですよね……今はどんな戦車乗ってるんですか?」

 

「えっとな……」

 

 

 

 

 

んーこっちの情報を漏らす様なもんだが、友達の乗ってる戦車ぐらいなら良いか……と、考えていると。

 

 

 

 

 

ドルルルルル……!!

 

 

『オラァァァァァァァ!!』

 

 

 

 

 

 

戦車のエンジン音と誰かの叫び声。

 

 

 

 

 

 

「あぁ……釘を刺すのを忘れてたわ……」

 

 

 

 

 

 

頭を抱えるカルパッチョ。

 

その方向を見ると猛スピードで突っ込んで来る軽戦車が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギギーーーーーッッッ

 

 

 

 

 

およそキャタピラでは出るハズの無いブレーキ音を響かせながらその戦車が停止する。

 

 

 

 

 

ガパンッ

 

 

 

と、ハッチを開けて出てきたのは。

 

 

 

 

「大丈夫っすか!?大洗からカチコミが……あれイクサの兄貴?」

 

 

 

 

 

 

 

____________

 

 

 

 

 

 

 

「いや~お騒がせしたっす~」

 

「本当にもう……」

 

 

 

 

 

たっははー…なんて笑いながら頭をかくペパロニ。

 

まぁ、うん。俺がカチコミに来たって噂がペパロニにまで伝わって逆カチコミを仕掛けて来た訳だな。

 

どれもこれもあの憎いあんちくしょうが悪い。

 

 

 

 

 

「はいイクサ兄貴!私からのお詫び!鉄板ナポリタンっす!」

 

「おう。ありがとうな。」

 

 

 

とペパロニの得意料理が目の前に置かれる。

 

 

 

 

「これも食べてみてください!最近アンツィオで流行ってるんですよ!」

 

「お、おう。さんきゅー……」

 

 

 

続いてはカルパッチョ。

 

う、うん。うまそうなんだけどな……正直さっきまで屋台巡りしてたから結構お腹が…

 

 

 

『さっきまでスイマセンっした!まさかペパロニ姉さんが世話になってたとは……これは私の気持ちですっ!どうぞ食べて下さいっ!』

 

「えっ」

 

 

さっきまで俺を警戒していた子から一皿。

 

 

 

 

『兄貴っ!こいつは前回の礼です!うまいっすよぉ!』

 

「ちょっ」

 

 

サンダース戦の時に居たらしい子からも一皿。

 

 

 

 

 

『なんかよくわかんないっすけどこれも食べて下さい!』

 

 

なんかよくわかんない子からもひとさ

「ちょっと待てぇ!!」

 

 

 

 

俺が全力で止めた時に周りから突き刺さった『えっもうお腹一杯なの?』の視線が男の尊厳とか色んな物に以下略。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ……」

 

「ははは~!イクサの兄貴もアンツィオの料理に放心状態っすね~!」

 

「そうだな……」

 

 

 

 

質と量の暴力とはこの事か……なんにしても食べきった俺を誰か誉めてくれ。

 

 

 

 

 

 

「んじゃっアタシはもう行くっす!整備中の戦車を無理矢理引っ張って来たんで!」

 

「本当に何やってるのよ……」

 

 

 

 

 

 

少し遠くで二人が何やら話しているが……腹が苦しくてあと4、5分は動きたくな…

 

 

 

 

 

 

ギャギャギャギャギャ!

 

 

「うおっ!?」

 

 

 

 

ペパロニが乗ってきた軽戦車から聞こえる異音。

 

 

 

「お、おい!それ以上回したら……!」

 

ボゴン!

 

キュルキュルキュ……プスン

 

 

 

 

「……あぁ……」

 

 

そして戦車から一番聞きたくない種類の爆発音が……

 

てか最初のもブレーキ音じゃなくてエンジンの悲鳴だったか……

 

 

 

 

「ヤッベェ!やっちまったっ!!」

 

「あーもー……どうしましょ……」

 

「どどーしましょっす!?セルも何も動かねぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

……食後の運動としては少しハードになりそうだな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

アンツィオ戦車道棟 整備場

 

 

 

エンジンルームや操縦席が露出している戦車。

 

慌ただしく動き回る整備服を着た生徒。

 

そんな中をビデオカメラを片手にアンチョビさんと歩いています。

 

 

 

 

「ふむふむ。やはり主力はCV33ですか?」

 

「あぁ。火力と装甲は無いが、足が早い。まずはこれで撹乱、そしてあっちの……」

 

「セモヴェンテですね。」

 

「よく知ってるな……そうだ。それで刺す。」

 

 

 

 

 

 

 

アンチョビさん、やはり戦車道となると顔が変わりますね…

 

しかし隊長に直接戦車や作戦を教わるとは、前回とは比べ物にならない緊張感です…

 

 

 

 

 

 

 

「それに次の大洗戦は自信が有る。いやっ毎回自信は有るぞ?だが次からはさらに秘密兵器を投入するからな!」

 

「秘密兵器ですか?」

 

 

 

 

 

 

なんでも無い感じに言い返しましたが、私の心臓はバックバクですっ……秘密兵器……私が持ち帰るべき一番の情報っ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ……その戦車は……」

 

 

 

 

 

……その戦車はっ!?

 

 

 

 

 

 

 

「アンチョビ姉さんっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

アンチョビ姉さんですか!!

 

 

 

 

 

……ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだペパロニ。客人の前だぞ?」

 

「あっサーセンっ!……あれ?ウチの制服っすよ?」

 

「色々有るんだよ。とにかくこの子は客人だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

ぺっペパロニさん!?

 

確か副隊長の一人だっけ……アンチョビさんだけでも心臓が痛いのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?そんな慌ててどうしたんだ?」

 

「あぁそうだ!アタシのせいでCVを一台オシャカにしちゃって……」

 

「……なんだって?」

 

 

 

 

 

 

その会話を聞いてた整備中の何人かが手を止めます。

 

ビデオ回しながらであれですが、なにやら不穏な空気に……

 

 

 

 

 

 

 

「そのCVはどこだ?」

 

「はい、今兄貴が……あっそうだシャッター開けますね!」

 

 

 

 

 

ペパロニさんがいつも戦車を搬入しているであろう大きなシャッターの方に走って行きました。

 

 

 

 

……それより。

 

 

 

 

 

「……兄貴だって?」

 

 

 

 

アンチョビさんも同じ事を考えているようです。

 

 

……というかアンチョビさんが知っているか分かりませんが、まぁ、一人しか居ないですよねぇ……

 

 

 

 

 

 

ガラガラガラ …… ガチャン

 

 

 

開かれたシャッターの向こうにはここで見慣れたCV33。

 

それがゆっくりと整備場の中に入ってきます……エンジン音が聞こえないのに。

 

そして完全に車体が入りきった所で止まり、その後ろから聞き覚えの有る声が。

 

 

 

 

「着いたぞチキショウメェ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ兄貴。」

 

 

 

 

アンチョビさんがペットボトルのドリンクをイクサ殿に渡しました。

 

例の戦車は整備場の奥に移され、何人もの整備の人に囲まれてます。

 

 

 

 

 

「サンキュー安斎の姉貴。」

 

「おいおいこの学園に安斎なんて奴は居ないぞ?」

 

「あれ?確かお前……」

 

「……ここの生徒のほぼ全員が私の本名を勘違いしていてな……」

 

「えぇ……ある意味すげぇな…」

 

「まぁそれは良い。それより軽戦車とは言え、よく押して運んでこれたな?」

 

「ん。整備班にも言ったが、ちょっと足回りを弄らせて貰った。運搬車も全部整備中らしかったんでな……」

 

「……今度からいっぺんに整備するのは止めるか。」

 

 

 

 

 

 

それにしてもこの二人……というかここの生徒の結構な人数と知り合いだったとは。イクサ殿の顔の広さが垣間見れますね…

 

 

 

 

 

 

『ドゥーチェ。失礼します。』

 

 

 

 

 

と、そこに人影が。

 

アンツィオの生徒としては……と言ったら失礼ですけど、かなり落ち着いた印象を受けます。おそらく、整備班のリーダーでしょうか。

 

 

 

 

 

 

「どうだ?」

 

『……まぁトドメを刺したのはペパロニちゃんですけど……』

 

 

「うぐっ」

 

 

『アイツはここで一番の古参でしたから……』

 

「寿命か…」

 

 

 

修理するかどうかより先にそんな話が出てくるって事は、もう……

 

 

 

 

『オーバーホールすればあるいは……』

 

「お前やれるか?」

 

『半年かかります。』

 

「だよなぁ……」

 

 

 

 

オーバーホール。分解点検修理。

 

確か、エンジンとかを完全に分解して、劣化部品を交換、そして組み立てる。

 

成功すれば新品の状態まで戻せますが、学園艦では生徒の技術力の問題で滅多に行われないだとか……

 

 

 

 

 

 

 

「はぁーあー……」

 

「……どうするんだ?」

 

 

 

 

ため息をつくアンチョビさんにイクサ殿が話しかけます。

 

 

 

 

「んー……鉄として売って……資金の足しにするか……」

 

「ふーん……アンチョビ。」

 

 

 

 

 

 

心なしかイクサ殿の目が輝いてるような……これはまさか。

 

 

 

 

 

「ちょっと弄ってみていいか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ!?」

 

『もーちょいです!』

 

 

 

 

イクサ殿とさっきのリーダーさんの叫びが整備場に響きます。

 

いま例の戦車の周りに居るのは二人だけ。後の生徒は「技術的に付いていけない」と少し遠くから見守っています。

 

 

 

 

 

 

『……こっちOKです!』

 

「こっちも…OK!やれ!」

 

『はい!回します!』

 

 

 

 

 

ドルン! ドルルっ ルルン……

 

 

 

 

 

 

ああっ……また止まってしまいました……これで6回目です……

 

 

 

 

 

 

「惜しいな!あとどこだ!?」

 

『えーっとー……あっ!たぶんこれです!』

 

「……よし。もう一回だ!」

 

『はい!』

 

 

 

 

 

 

 

 

最初はイクサ殿一人で分解し始めたんですが、皆さんのメカニック魂に火が着いたのかどんどん人数が増えて……いったのですが、段々と難易度が上がり、それに反比例するように人数が減り、そして最終段階の今。

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃ回すぞ!」

 

『どうぞ!』

 

 

 

 

 

 

ドルン……

 

 

 

 

 

ドルルルルルル!!

 

 

 

 

『『おおおおお!!』』

 

 

 

 

 

 

エンジン音と生徒たちの歓声がほぼ同時に整備場に響き渡りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________

 

 

 

 

 

 

 

 

ブォォォォォォ……

 

 

 

 

グラウンドを元気に走り回るCV33。

 

ペパロニさんとイクサ殿が試運転をしています。

 

 

 

 

 

 

 

「……なんで前より速くなってるんだ?」

 

『えぇ。不思議ですね。』

 

「お前も分からんのかい。」

 

 

 

 

 

 

 

それをアンチョビさんとリーダーさんが見ていて……それをちょっと遠くから私が見ています。

 

 

 

 

 

 

 

 

『もう不思議な事だらけですよ……さっき私が半年かかるって言ったの、けっして大袈裟じゃないですからね。』

 

「それを2時間ちょっとか……」

 

『大洗恐るべしですね。』

 

 

 

 

 

その会話の後アンチョビさんは腕を組み、さっきの……作戦を話していた時の厳しい顔になりました。

 

 

 

 

 

「……見ていたが、イクサは周りの人間を動かすのが非常に上手い。まるで周りの技術力まで上げているような。」

 

『はい。確か大洗はあの5両の戦車をたった5人で整備しているとか。そんなバカなと思ってましたけど……』

 

「あぁ。あれを見たら納得するしかないな。そして、それを整備面だけじゃなく、普段の訓練でも発揮されているとしたら……いよいよもって警戒せざるをえない。」

 

『……ということは。』

 

「あぁ。温存しようとも考えたが、あれを出す。」

 

 

 

 

 

 

……『あれ』。恐らくアンツィオの秘密兵器。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『P40』の整備。万全にな。」

 

「はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

P40。

 

謎に包まれた戦車の名前が明らかになりました。

 

さすれば長居は無用です!

 

さらばアンツィオ!出来れば次はお金を払ってお料理を食べに来ます!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

「イクサさーん!」

 

「あぁカルパッチョとリーダー……ってか名前聞いて無かったな」

 

『はい。私はアンツィオではオーリオと呼ばれています。イタリア語で油ですね。』

 

「……それ料理の方の油だよな?」

 

『細かい事は気にしない方がいいですよ?』

 

「アンツィオではよくある事です。それよりドゥーチェからお土産です。イクサさんと……『もう一人の客人に』って言ってましたけど……分かります?」

 

「……ドゥーチェの心の広さに感謝しますって伝えといてくれ。」

 

「?…わかりました。あと……」

 

「お、おす」

 

「ん、ペパロニか。」

 

「えっと……」

 

『ほらっ。がんばれっ』

 

「お、おす……ふぅ……き今日は、すいませんでしたっ!!」

 

「うおっ?」

 

「アタシのせいなのに戦車運んで貰って……んで修理までしてもらっちゃって……ほんっっっとにすいませんっ!!」

 

「いやそんな気にする事じゃ」

 

「でもアタシが気にするっす!もうどうやって詫びたらいいか……!」

 

「……んー……んじゃあさ。」

 

「はいっ?」

 

「また来る時、美味い飯食わしてくれよな。」

 

「え……」

 

「それで今日の事はチャラだ。」

 

「で、でもそんな事で」

 

「ん?お前、自分の料理を『そんな事』で済ますのか?」

 

「んな訳無ぇっす!」

 

「だろ?形なんてどーでもいいんだよ。ただお前の全力を見せてくれ。」

 

「全力……」

 

「そうだ、全力の料理だ。やるか?」

 

「……やるっす……次の試合……それまでに絶対作って、兄貴の度肝をぶち抜いてやるからな!」

 

「おう。楽しみにしてるぞ。」

 

「おっしゃぁ!そうと決まれば早速っ……!んじゃ兄貴失礼するっすー!」

 

ダダダダダダッ……

 

 

 

 

 

「……どうだ?正解だったか?」

 

『90点ですね。あの子何気に落ち込むと長いですから。』

 

「あと10点はなにかね。」

 

『イクサさんのせいで戦車が疎かになったらどうするんですか。』

 

「……その分料理の質が上がるからプラマイゼロだな。」

 

『むしろマイナスですよそれ……まぁいいんですけどね………それで、イクサさん。』

 

「うん?」

 

『試合がどうなるかは分かりませんが、たまに、でいいんで……ウチの整備見に来てくれませんか?色々と……勉強したい事も有るんで。』

 

「あぁ。俺で良ければ。」

 

『……はい。楽しみにしてますっ』

 

 

 

 

 

「……モテモテですねぇー」

 

「何が?」

 

「ふふっ何でもないですよ……それじゃ、たかちゃんによろしく伝えといて下さいね。」

 

「おう。今日はありがとうな。」

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

コンビニ船

 

 

 

 

 

 

「……つ、つまり……ばれて、た?」

 

「あの言い回しだとそうだろうなぁ。お土産も二つ貰ったし。」

 

「あぁ~……」

 

「……そんな気にするもんでもないと思うけどな。」

 

「気にしますよぉ!騒ぎになってないとは言え、ヘタすれば前回の二の舞だったんですよ!?」

 

「でも騒ぎにはなってないだろ?こうやってのんびり帰れてるんだからさ。」

 

「でも……またイクサ殿に迷惑を……」

 

「迷惑?」

 

「……サンダースの時……イクサ殿が謝りに行ったって……」

 

「そんな事気にしてたのか」

 

「そんな事で済まないですよ……」

 

「……お前言ったよな?『西住殿や皆のためなら』って。」

 

「でも、それがかえって迷惑になったら……」

 

「……なんかアイツと似てんな……」

 

「え?」

 

「いいか?前回と今回。両方ともお前は仲間の為に行動したんだろ?」

 

「は、はい。」

 

「だったら誇れ。そんなの滅多に出来る事じゃ無い。」

 

「そう、ですか…?」

 

「そうだ。それで起こったトラブルなんざ俺が余裕で処理してやるし、それを迷惑とは思わん。だから、お前を信じた事を全力でやれ。」

 

「……」

 

「……やっぱりまだ不安か?」

 

「あ…い、いえ!なんかぼーっとしちゃって……えっと……まだ…そうやって割りきれるか分かりませんけど……」

 

「割りきる必用なんざ無い。自分を信じてるんならな。」

 

「……じゃあ…ひとつ…お願いしても良いですか?」

 

「おう。なんでも言え。」

 

「私を信じて下さい。イクサ殿が私を信じてくれれば、私も、私を信じる事が出来ると思います。……人頼みでなんか申し訳ないですけど……」

 

「……むしろ、俺なんかでいいのか?」

 

「はい。イクサ殿が良いです。」

 

「……分かった。信じるよ。お前の事。」

 

「はいっ!……えへへ………あっあとですね!」

 

「なんだ?」

 

「私の名前、優花里って呼んでください!なんかお兄ちゃんとか憧れてて……」

 

「ん、わかった。」

 

「それと、装填のコツと言いますか、早い装填の見本を見せて頂けると嬉しいです!」

 

「おう。」

 

「あと、装填繋がりで今朝言ってたトレーニングももっと詳しく……ネットじゃどれが正しいか分からないですし……」

 

「お、おう。」

 

「えへへ!帰ってからが楽しみです!」

 

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

大洗生徒会室

 

 

 

 

 

 

「……はい!と言うことで今回のビデオはここまでです!」

 

「ゆかりんすごーい!秘密兵器なんてふつうじゃ絶対分からないのに!」

 

「うん。P40……私も初めて聞くけど、名前が分かっただけでも大きいよ!」

 

「はぁぁ……西住殿そんな御言葉勿体ないです~……ですが、どれもこれもイクサ殿の……あれ?」

 

「ん?イクサさんなら会長が『急用が出来た』って言って連れて行っちゃったよ?」

 

「そうですか……」

 

「んー……まずはP40の事を調べないと……訓練メニューを組むのはそれからかな……」

 

「おぉ……みぽりん早速だね……」

 

「うん……だからイクサさんと相談したかったんだけどな……」

 

「あっ私もイクサ殿に聞きたいことが……どこ行ったんでしょう……」

 

「……なーんか二人ともイクサさんにお熱だね?」

 

 

「「ふぇっ?」」

 

 

「いやいやいや私はイクサ殿に戦車道のなんたるかを教わろうとしただけでやましいことは何も」

 

「う、うん。私もイクサと作戦を一緒に考えるのが楽しいとかそういう事は思ってないし……」

 

「……あーやーしーいー」

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんで敵の戦車修理した挙げ句無駄にチューンアップしとんじゃぁぁぁぁ!!」

 

「んがぁぁぁ!!違う!!違うんすよ会長!!」

 

「なにが違うって言うんだい!?」

 

「えっとですね!あれは……そう!戦車の精霊が俺に『修理してほしいよ』って囁いて」

 

「オルァァァ!!」

 

「アッーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

「ん?」

 

「?……ドゥーチェ?」

 

「なんか叫び声が聞こえたような……」

 

「ひっ……ややめて下さいよ……」

 

「…カルパッチョ、ホラーダメだったっけ……安心しろ、何でもない、ただの風だ。」

 

「ならいいんですけど……あっそう言えばさっきの『もう一人の客人』ってどういう意味だったんですか?」

 

「決まってるだろう。角谷の事だ。イクサの奴に今度は二人で来いって言ったのになぁ……」

 

「なるほど……それでせめてお土産だけでもって事ですか。さっきイクサさんが『心の広さに感謝します』って言ってたので……」

 

「ふっ、当然だな。……それにしても、あいつ私をチョビなんて略して言いやがって……こうなったら私が大洗に出向いてやろうか……」

 

「それは……ドゥーチェが直接行くのは……」

 

「だったらカルパッチョが行くか?……さすがに今日の事について何も礼をしないと言うのは、アンツィオの流儀に反するんだがな……」

 

「そうですが……でも……あっ」

 

「うん?」

 

「……やっぱり行きます。いや、行かせて下さい!」

 

「おっ、やる気だな。んじゃどうする?ペパロニも連れていくか?」

 

「いや……ペパロニは試合まで行かせない方が良いでしょう……代わりに一人、違う人を連れて行きます。」

 

「ほう……なんか、そう気合いの入ってる所を見せられると……私も行きたくなってきたな……」

 

「えっ……い、いやいやだからドゥーチェは……」

 

「ふっ…私の身元の心配なら大丈夫だ。秘策はある!」

 

「そ、そういう事じゃ無いん」

 

「よし、だったら直ぐ連絡だ!……ぐふふふ……奴の驚く顔が目に浮かぶぞぉ……!」

 

 

 

「あぁ……行っちゃった……せっかくたかちゃんとゆっくり出来ると思ったのに…………ま、いっか。」

 

 

 

 

 






唐突に次回予告!




P40という大きな情報を得た大洗!

だが早速訓練を始めようとした所に突然の来訪者が!?

この先どうなるのか!?

さぁついに始まった3、4話ぐらいで完結出来るといいなぁと思っているアンツィオ編!

題して『これで本当にアンツィオ戦のつもりとか暑さで頭沸いてんのかよ!?』
略して『これほんアンツィオ』!!

お願い!死なないでイクサ!
イクサの心臓の鼓動が弱まりつつある!
ここであんたが倒れたら大洗での約束はどうなっちゃうの?ここを耐えれば満足する事が出来るんだから!


戦車王 サティスファクション

今回 イクサ 死なす デュエルスタンバイ!



「どっから突っ込めば良いんだぁぁぁ!!」


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これほんアンツィオ 訓練編

記念すべき20話目ェ!

さぁ前回に引き続き暑い日が続きますがどうお過ごしd
(無言の腹パン)




「今は夏ではない」




はい。3ヶ月空きました。

もう涼しい……というか寒いです。


別に期間が空いたからクオリティが上がってる訳でもないのでいつもどうり頭を極力空にしてお読み下さいね!

あと、遊戯王ネタ多目なのでアレだったらアレしてください。










戦車倉庫前グラウンド。

 

 

そこで歌いながらランニングしているうるせぇ集団がひとつ。

 

 

 

「走れー!明日へー!」

 

「続くー!進化の道はー!」

 

「新たなー!伝説のー!」

 

 

\(`д´)ゝ「デュエッ!」

 

 

\(`д´)ゝ『デュエッ!』\(`д´)ゝ

 

 

 

 

 

「何やってんの?」

 

 

 

 

そこにやって来たのは日傘を差した杏。

 

 

 

 

「あっ!全員!角谷会長にデュエッ!」

 

(`д´)ゝ『デュエッ!』(`д´)ゝ

 

 

 

 

「満足式敬礼はやめようか」

 

 

 

(^^ゞ「デュエッ!」

 

(^^ゞ『デュエッ!』(^^ゞ

 

 

 

「うぜぇ…」

 

 

 

 

 

別に最後のは皆が真似する必要はなかったんだが、お陰で抜群の煽り性能を発揮できた。

 

 

 

「よし!全員休憩!各自水分塩分補給をしっかりするよーに!」

 

『『はーい!』』

 

 

 

 

俺の後を走ってた皆は倉庫の日陰に逃げ込みそれぞれ休憩を取り始めた。

 

今グラウンドには俺と杏の二人のみ。

 

 

 

 

「……体育教師にでも転職したのかね」

 

「こんなのはいつもの訓練の延長さね。んで、どうしたんすか会長」

 

「ただの見回り」

 

「という名のサボり?」

 

「違うがな!イクサのチームは今日戦車使うって聞いたんだけど?」

 

「あーそうだな……今日は装填手チームだし、反復練習で装填スピードを上げたかったんだが……」

 

 

 

 

 

俺が視線を移した先には陽炎に身を包んだ戦車。

 

 

 

 

 

「……あー……サウナ状態?」

 

「多分目玉焼きぐらいなら作れる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半袖なら平気とはいえ正直今日はクッソ暑い。ホントに船の上かこれ。

 

風が通っているグラウンドでこれだから今戦車の中は地獄だろう。まぁ俺は昔から整備やら何やらで慣れてはいるが、他の皆はマジでぶっ倒れかねない。

 

 

 

 

 

 

「だからランニングってわけかい?歌いながら?」

 

「ただの『いっちにーさんしー』じゃ味気無いし?俺たちドゥエリストだし?」

 

「イクサ。それ変態の方や」

 

「なんだお前の事か」

 

「ハッハッハッこやつめ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カエサル殿ー、コーラとペプシどっちが良いですか?」

 

「……同じじゃないの?」

 

「あっその発言は戦争を生みますよ!……って、うん?」

 

「いや、日傘ってあんな使い方が出来るんだなって」

 

「うわぁ……持つ所のカーブを首に……」

 

「あっイクサさん降参してる」

 

「……会長殿ガン無視ですね」

 

「……ん~てかやっぱりそうなのかなー」

 

「?」

 

「あれ?秋山殿知らない?あの二人が付き合ってるって」

 

「……」

 

「なんでもイクサさんが大洗女子に来たのも会長が個人的に頼んだんだとか。これも含めてただの噂だけどね……あっ私コーラで」

 

 

ガタガタガタガタガタガタ

シャカシャカシャカシャ

 

 

「あっれぇ!?なんか私悪いこと言った!?そんなに振ったら大変な事になるよ!?」

 

「いやいやいやこれはただの武者震いですよ」

 

「今するの!?それに武者震いの域を越えてない!?」

 

「あっコーラですね?私が開けます」

 

「えっその状態で開けたら」

 

 

ブシュウゥゥゥッッ!!

 

 

「あァッ!?秋山殿ぉ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アッ会長!ほらあれ!なんか大変!大変だから離しッ!離しッ!!」

 

「……しょーがないにゃあ……」

 

 

 

力を抜きイクサを解放してやる。いやー本当に傘って便利だなー

 

 

 

「げほっおえっ……あ゛ー……そんで結局見回りに来ただけっすか?」

 

「さすがイクサだ、なんともないぜ。……まーこのあとお客さんと約束してるんだけど、ちょっち時間早いからね。ついでで顔を見に来たのさ。」

 

「すげぇ杏が会長の仕事してる。」

 

「もう一回いっとく?」

 

「よっしゃあ訓練再開しなきゃなー!」

 

 

 

 

 

一目散に皆が休憩してる所に逃げやがった。

 

……はぁーわざわざ『顔を見に来た』って言ってやったのにイクサからは何も無しかい。

 

 

 

「あっ杏!」

 

「なにかねー?」

 

「その髪留め似合ってるよー!」

 

「……アンタに貰った奴だよ!」

 

「知ってますー!嬉しいぜ!」

 

「……ばーか!」

 

「なんで!?」

 

「うるせぇやい!とっとと行けぇ!」

 

 

 

 

 

そして踵を返し、約束の場所に向かう。

 

……今アタシの顔が熱いのは夏のせいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、イクサの所で暇を潰したから良い時間だね。ちょっといろいろあったけど。

 

 

……それにしても、いきなりチョビの方から『明日大洗に行くからな!出迎えろよ!』なんて言ってくるなんて……そんな堂々としたスパイ見た事無いよ。

 

まぁ、見られて困るようなものは無いし、断る理由も無かったから受け入れた。なんかこの前の礼もしてくれるらしいしね。

 

 

 

 

っと来た……ね…?

 

 

 

 

「やあ角谷!今日も暑いな!」

 

「今日はよろしくお願いしますね~」

 

 

「……誰?」

 

 

 

思わず言っちゃったよ。

 

いや大体分かってるよ?でもさ……

 

 

 

 

「なんだと?このアンチョビ様の顔を忘れたのか?」

 

「いやそこまで深く帽子被っといてそもそも顔見せる気無いでしょ」

 

「いやーすいません。やっぱり日射しが気になるもので……」

 

「えっと……カルパッチョちゃん…だっけ?そんなデカイグラサン初めてみたよ……」

 

 

 

 

 

 

顔に日光を『絶対』当てたくないと言う鉄の意志を感じるこの風貌。さらにはマスクも付けてぱっと見誰だかホントに分からなかった。

 

……日傘で十分だと思ってたけど、やっぱり気にする人はそこまでするんだねぇ……

 

 

 

 

 

 

「まぁいいや。どこから見てく?」

 

「ふむ……ところでイクサはどこだ?」

 

「ん?なんでイクサ?」

 

「ェッ?いやいやちょちょっと気になっただけだよあはは~……」

 

「……今は訓練中だね。戦車は使ってないけど。」

 

「そ、そうか。じゃあそこから見学させてもらう。」

 

「あいよ~……それでさ。」

 

「うん?」

 

「イクサに個人的な用があるなら私を倒してからね。」

 

「……はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……誰も居ないじゃないか。」

 

「んー別の場所行っちゃたかなー。ちなみにあの赤いのが戦車倉庫ね。」

 

「ほう。ちょっと見ていくかな。……ってなんで付いてくる?」

 

「ウチの風紀委員はヤバイからねぇ……そんな怪しい格好で居たら一発で牢屋行きだよ?」

 

「……私から離れるなよ。」

 

「それこっちのセリフじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ドゥーチェー……あれ?……はぐれちゃった?」

 

 

 

 

 

 

タッタッタッタッ……

 

 

 

あぁ急がないと休憩が終わっちゃう…やっぱり着替えは更衣室に置いとくべきだったなぁ……

 

 

それにしてもコーラを自爆させるなんてとんだドジを…いやいやいやいきなりイクサ殿と会長が付き合ってるなんて聞いたら誰だって動揺しますよ!

 

……でも本当に付き合ってたら……いや私が気にすることじゃあ……あああああでもでもでも

 

 

 

 

 

ドンッ

 

 

「「うひゃあ!?」」

 

 

カシャン!

 

 

「サングラスがっ…」

 

 

 

あぁっロクに前も見ずに走ってたら誰かとぶつかってしまいましたっ

 

その人が落としたサングラスを拾って謝りに……

 

 

「……ってあぁ!?」

 

「えっ?あっ……あなたこの前の……」

 

「へっ!?いやいやその人と私は別人ですよ!」

 

「あ……ふふふっ……それ、思いっきり自爆してますよ?」

 

「あっ……あ……あぁ~~……」

 

「ふふふふっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど……それであの日イクサさんも急に来たんですねぇ……と言うかやっぱりお土産の件は勘違いですよ。ドゥーチェもあれは会長さんの分って言ってましたし。」

 

「そうだったんですか……」

 

 

 

ぶつかった相手とはまさかのカルパッチョさんでした。

 

そしていろいろと話を聞いた所つまり私の事は結局アンツィオにはバレてなかったと……?

 

いやでもそれのお陰でイクサ殿とほんの少しお近づきになれたから結果的には……

 

 

 

 

「あれ……顔赤いですけど大丈夫ですか?」

 

「ふぇっ!いや大丈夫ですよはい!……そそれよりそっちが大丈夫なんですか……?私がスパイなんて……」

 

「まぁいいんじゃないですか?私もこうして逆スパイしに来てるわけですしっ」

 

「すっスパイですかっ?」

 

「まぁ、私"達"はどっちかと言ったらイクサさんと同じで囮みたいな役割ですけどね。」

 

「…どういう……」

 

「おっとこれは他言無用ですよ!この前は見逃してあげたんですからね!」

 

「うっ……それを言われると……」

 

「大丈夫ですよ。ドゥーチェのちょっとしたイタズラみたいなものですし。……あっ、ついでに……」

 

「は、はい……?」

 

「お願いをひとつ聞いて貰いましょうかね~……ふふふっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッハハハハハ……笑えますねぇ。ナカジマのフィールドは蹂躙し尽くされ、一方こちらは高火力のドラゴンが4体。随分と差がつきましたぁ。悔しいでしょうねぇ。」

 

「てめェツチヤァ!!そのインチキデッキごとゲームから除外しろォ!!」

 

「フッハッハッハッ!征竜の力を思い知れェ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は静かだねぇ」

 

「そう…なのか?」

 

「いつもはこのテンションに機械とか重機の音が入るからね。ぶっちゃけ頭おかしくなるよ。」

 

「杏さーん……おかしくなるはひどいですよー」

 

「あっはっはっホシノちゃんに聞かれちゃったよどうする?」

 

「私に聞くなよ……」

 

「ん、あれ?……誰です?」

 

「なんだと?私の顔がわからないのか!」

 

「いやだからその帽子のせいだよ。」

 

「あぁそうか……スパイに来ているアンチョビだ。よろしくな。」

 

「あっよろしくお願いしま…スパイ?」

 

「まぁそこは気にしないでよん。んじゃアタシいっぺん生徒会室に戻るからチョビの事保護しといてね。」

 

「了解です!」

 

「なんだ行くのか。じゃあここでゆっくり見学してるかなー」

 

「……ん?」

 

「ん?どうした角谷?」

 

「ないでもないよん。んじゃねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほ、本当にカエサル殿の顔を見るだけですからね……?」

 

「秋山ちゃん……そんなビクビクしなくても大丈夫ですよ。私だって騒ぎにはしたくないですし」

 

「わ、解ってはいますが……」

 

 

 

 

 

『……!……。』

 

『……。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっやっぱりこの中ですね」

 

「んー今何やってるんですか?」

 

「えっと確か……」

 

 

 

 

 

 

 

『……あ、い、イクサさん……』

 

『……カエサル……』

 

『ふあぁぁぁ……』

 

『……』

 

『ま、丸山さんっ!や、やめっ、ひぃ!』

 

 

 

 

 

 

 

ダシュッ!

 

「!?秋山ちゃんちょっ」

 

 

 

 

 

ガチャッ!

 

「ちょっと待ったぁぁぁぁ!!……あれ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いだだだだい!勘弁ゆるっゆるひてぇぇ!」

 

「……」

 

「丸山殿ぉ!?な、なにかしゃべっ、無言がっ、その無言が怖いひぃっ!」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カエサル。やっぱあの子進化してるよな」

 

「イクサさんの技を吸収してさらにパワーアップさせてるから……」

 

「……どうだった?」

 

「……凄かったです。」

 

「お、おう……それにしてもあんなダッシュで入ってくるなんてよほどマッサージ実習が楽しみだったんだな。」

 

「元々は秋山殿の提案ですからね。そりゃ楽しみにもなりますよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「あっひぃ!まだ無言でっ!怖いからぁ!」

 

「……すけべな妄想してたの?」(ぼそっ)

 

「ひょっ!?そ、そんな事はっ!」

 

「……イクサさんのほうが良かった?」(ぼそっ)

 

「んにゃぁぁ!もう喋らないでぇぇ!!私が悪かったですぅぅ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……仲良いな。」

 

「あれを仲良いとは言わないでしょう。」

 

 

「「それで」」

 

 

「は、はいっ?」

 

 

「どちら様でしょう?」

 

「お客が来るとは聞いてたが……」

 

「えぇっと~……」

 

 

 

(ひゃ~……たかちゃんもイクサさんも気づいてない~……ドゥーチェの☆完璧☆変装センス(笑)を信じて良かった~……けど、ここからどーしよ…………よし。)

 

 

 

「……私、アンツィオから来た者で、今ドゥーチェと一緒に見学してたんです。」

 

「ドゥー…ってアンチョビが来てるのか?」

 

「はい。」

 

「今はどこに?」

 

「確かそちらの会長さんと一緒のはずです。」

 

「そうか……んー……時間もそろそろだしな……よし。後は自習って事で、チャイムで適当に解散してくれ。」

 

「はーい。」

 

「……」

 

「い、イクサ殿ぉ!その前っひぃっにぃっ!助けっへぇっ!」

 

「あー……そういや優花里の提案なのにあんま出来なかったな……お前が望むんなら後で個人的にやってやるが……」

 

「こっ個人的っ?………はははいっお願いしたいですっ!」

 

「おう。んじゃまた後でなー」

 

 

 

 

……ガチャン

 

 

「……」

 

「へへへへ~……ぎにゃあっ!丸山どっなぜ急にそんな強いっふうぁっ!」

 

「……ずるい」

 

「なにがぁ!?」

 

 

 

 

 

(……こめんっ!そっちにイクサさん行ったけど気合いで上手く誤魔化して!ドゥーチェのために!私は祈る事しか出来ないけどっ!)

 

 

 

 

 

 

(……とは言っても……こっちはこっちで……)

 

 

「……あの」

 

「うん?」

 

「いっいや~……あはは」

 

「?」

 

 

 

 

(どーしよどーしましょまさかこんな形でたかちゃんと一緒なんて思ってもいなかったから話す事が……)

 

 

 

 

 

「……秋山殿と知り合いだったんですか?」

 

「えっ!あっはい前にちょっと……」

 

「へー……」

 

「あはは……」

 

 

 

 

 

(……んんんあああああ!もどかしい!もういっそのこと変装外して……いや、ドゥーチェに怒られるわね……あーもう普通に会いに来たかったのにぃ…)

 

 

 

 

(……あっそうだ。)

 

 

 

「……カエサル、さん、も戦車道やってるんですよね?」

 

「はい。」

 

「私、アンツィオでは広報、みたいな事をやってて、たまに他校の人に取材させて貰ってるんですよ。」

 

「……もしかしてそれを私に?」

 

「いいですか?」

 

「は、はい。こういうの初めてですけど……」

 

「取材慣れしてる人なんていないですよ~んじゃ早速……」

 

 

 

 

(ふふふ~……たかちゃんってなんか知らないけど戦車道について話したがらないからな……この際にいろいろ聞いてやるわ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「……アンチョビ、さん?」

 

「……えっと……ホシノ、だっけ?」

 

「あっそうです。……あの、帽子脱がないんですか?」

 

「……暑いからな」

 

「室内ですが……」

 

「どっかの海賊だって年中麦わらだろ?」

 

「それとこれは別では……」

 

 

 

 

 

 

 

『なにやってんだお前ら』

 

『あーイクサ!見てよ!ツチヤったら酷いんだよ!?』

 

『負け犬がうるさいなぁ(笑)』

 

『んがぁぁぁぁぁ!』

 

『こんなナカジマ初めて見るぜ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁそれはそれとして……ここの整備班はホントに5人だけなのか?」

 

「はい。」

 

「……純粋に気になるんだが……どうやってるんだ?その人数では試合……いや、毎日の訓練の修理も間に合わないと思うんだが……」

 

「えっと……取り合えず戦車のとこ行きます?」

 

「そうだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

『あぁー……シリーズオール禁止という伝説を作った征竜かぁ……』

 

『そうだよ!それを完全に再現して大人げないと思わない!?』

 

『年下に使う言葉じゃねぇよナカジマ……』

 

『それにしたって禁止カードっすよ!?』

 

『これは公式デュエルでは無い。よって禁止制限リストは無効』

(ハウスルール派ツチヤ)

 

『何!デュエリストは常に禁止制限を守るべきではないのか!?』

(公式ルール派ナカジマ)

 

『どうして戦車と合体しないんだ……』

(シンクロ召喚から付いていけなくなったスズキ)

 

 

 

『だが俺からすればまだ地味すぎるぜ!』

 

『『ゑ?』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだこれ?……ジャッキ、じゃないよな…」

 

「ジャッキで合ってますよ。イクサが作った特別製です。」

 

「作った?……イクサが?」

 

「力が無くても整備出来るようにと。これ二つでキャタピラを交換できる位には浮かせられます。」

 

「この小ささでか。」

 

「さらに片手で持てちゃうぐらい軽いんでかなり楽なんですよねー」

 

「……もしかしてあの棚のやつ……」

 

「はい。ほぼイクサ手作りです。」

 

 

 

 

 

 

 

『ペンデュラム召喚!現れよ、私のモンスt』

 

『甘いぜナカジマ!』

 

『何!』

 

『オシリスの効果発動!相手フィールドにモンスターが召喚、特殊召喚された時、攻撃表示なら攻撃力を、守備表示なら守備力を2000ポイント下げ!その数値が0になったモンスターを破壊する!』

 

『私のモンスターが……全滅……!?』

 

 

『……そんなに強かったっけ?』

 

『あのオシリスだいぶ魔改造されてますね……』

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まるでおもちゃ箱だ。どれもこれも私が見たことの無い工具ばかり。だけど手に取って動かしてみると、すぐにその用途が分かる。」

 

「えぇ。使いやすさと分かりやすさを重点に置いたと。」

 

「……あの人らしいな。」

 

「ん?」

 

「なんでもない。これも……こうやって……こう使うんだろう?」

 

「おぉー……合ってます。というかかなり工具とかに詳しいですけど、アンチョビさんも整備するんですか?」

 

「えっ、うん。まぁー…たまにな。」

 

「へぇー……」

 

「それよりこれはなんだ?触っても分からないんだが……」

 

「あぁそれはですね……」

 

 

 

 

 

 

 

『が、頑張れツチヤ!勝てるよ!』

 

『F・G・Dの攻撃力は5000!並大抵のモンスターでは……』

 

『オベリスクよ!真の究極の力を見せてやれ!』

 

『は?』

 

『自分フィールドのモンスターを生け贄に捧げることで……今、オベリスクは無限のパワーを得た!』

 

『ちょまそれアニメの』

 

『食らえ……神の鉄槌ッ!ゴットハンドインパクトッ!!』

 

『ヴァァアァ!?』

 

『ツチヤァァ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

キーンコーンカン☆コーン

 

 

 

 

 

 

 

チャイムが鳴り、それとほぼ同時に俺とツチヤのデュエルは終わった。

 

 

 

 

「鬼!悪魔!イクサ!」

 

「あんなえげつないデュエル初めてだよ……」

 

「さすがチームオオアライのリーダーだ!(半ギレ)」

 

「 や め ろ 」

 

 

 

 

 

そしてこの罵倒である。ちょっとファラオの記憶から読み取ったデッキを再現しただけなんだけどなぁ。

 

 

……あっそう言えば。

 

 

 

「……すっかり忘れてたけど客が来てるんだよな?」

 

「あぁホシノと居たね。今は実験室じゃないかな?」

 

「そうか。」

 

 

 

 

 

 

 

戦車倉庫の隅っこ。そこには細々とした工具やオイルなんかを仕舞っている小さな部屋がある。

 

あと、俺が新たな工具を開発するのにも使っており、それで自動車部からは実験室と呼ばれている。

 

 

 

 

俺は倉庫に入……なにあの麦わらの人。

 

 

ホシノと麦わらは俺に背を向けて実験室の前に居る。

 

 

 

 

 

『面白いなぁー……よくこんな発想が出てくるもんだ……』

 

『ですよね~』

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず近づいて行くが、まだ二人とも気付いていない。

 

ちなみにここに来る前に杏に電話を入れ、アンチョビが倉庫に居る事は知っている。

 

だからちょっとイタズラ……てか驚かせようとしたんだよ。

 

 

 

 

「お疲れ~い」

 

 

 

 

って言いながらいきなりアンチョビが被っている麦わらを取り上げた。

 

 

 

 

 

「……あっ?」

 

「あぁっ!?」

 

 

そして最初に声を上げたのは俺。次がその麦わらさんだ。

 

俺は随分すっとんきょうな声だが仕方ない。

だってその帽子の下が想像してた人物と違うんだもん。

 

 

そしてそいつはゆっくりと振り向き

 

 

 

「…あ…あはは……イクサ氏……今日も暑いですな……」

 

 

 

 

そんな適当な事を言いつつオーリオが俺の顔を見上げた。

 

 







なんかちょいキャラとして作ったはずのオーリオさんが結構食い込んできそう。


そして、あの、なんだ。


そうだね。言い訳はしない。



アズレンとマギレコにはまってたんd
(無言の腹パン)




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これほんアンツィオ 逆潜入編

二十一話目のはず。


年が明けましたね(他人事)


とりあえず言いたい事は年末から年度末にかけての繁忙期とかマジ[罵倒 編集済み]


あと今回は非常に中途半端です。言い訳等は後書きで書きます。よろしくおねがいします。










大洗 戦車倉庫

 

 

 

 

 

 

 

んー……

 

 

これはどうしたものか……

 

 

 

 

 

「どう?ナカジマ。」

 

 

 

 

 

 

スズキが私に話しかける。

 

 

 

 

 

「どうって言われてもねぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

そして私はこの微妙な空気の原因達に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ほー……やはり手際が良いなんてレベルじゃないですねぇ……』

 

『だがオーリオだって腕はかなりのものじゃないか?俺は親父に叩き込まれた物だが』

 

『私はお母さんが整備士だったのでよくその手伝いなんかで自然と……って感じなんですよねー』

 

 

 

 

 

 

 

まず原因その1。

 

イクサを含めた私達がずっとアンツィオの隊長だと思ってたのは『オーリオ』って言う同じくアンツィオの整備士だった……

 

 

 

いやまぁ肩書きとかはどうでもいいや

 

 

 

問題はそのオーリオさんとイクサが結構仲が良い感じって事で……

 

 

 

そこで原因その2に視線を移す。

 

 

 

 

 

 

『…………はぁ……』

 

 

 

 

 

 

 

すこし遠くのベンチに座ってため息を付くホシノ

 

 

 

 

 

 

……うん。

 

あとは分かるね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いわゆるひとつの三角関係?」

 

 

そうだね今スズキがぶっちゃけた通りだね。

 

 

 

 

 

 

 

あの子にとってイクサが初恋愛な訳で、言ってしまえば初嫉妬……て事になるのかな?

 

 

てかイクサも会長とホシノと来て次は他校の子とはかなりのプレイボーイだよねー!

 

 

 

 

「ナカジマ」

 

 

 

 

 

さっき三角関係って言ったけど会長も含めると四角関係?いやじゃんけんの3すくみの中央にイクサが居るみたいな?いやードロドロになる予感しか無いよねー!

 

 

 

 

 

「ナカジマッ」

 

 

 

 

 

これはもうこれからの展開がたのしm

 

「ナカジマ!」

 

「なんだよスズキさっきか…ら……」

 

 

 

「…………」

 

 

 

「あ、ははは……ホシノさん良い笑顔っすn」

 

ガシッ

 

 

 

 

 

「あいだだだだッこめかみがッ!!」

 

 

「全部聞こえてるんだよなぁッ……!」

 

 

「すいませんしたッホシノパイセンッ!ちょっとまたからかうネタが出来たと思っただだだい!待ってスズキ助けって居ねぇし!っだだだいっマジごめ左右のこめかみがくっついちゃうよぉッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふんっ」

 

「い、いや~そこまで悪気があった訳じゃないんだよね~……」

 

 

 

 

 

痛むこめかみを擦りながらホシノに謝る。

 

でもその視線は相変わらず二人を追っていた。

 

 

 

 

 

「……別に…」

 

「うん?」

 

「嫉妬とか…では無いんだよね。」

 

 

 

 

 

おっ強がりか?

 

 

 

って反射で言いそうになったけど我慢。

 

ホシノがそうやって言葉を詰まらせるのは本当に珍しい。

 

 

そして、その目は穏やかなままで。

 

 

「……ただ……本当にオーリオさんがイクサを好き……ってなった時に……」

 

 

 

でも、その目は迷っていて。

 

 

 

「……杏さんが私にしてくれた事を、私がしてあげられるかな、って。」

 

 

 

 

その口から出た言葉もまた、迷いを孕んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬっぐぐぐ……」

 

「……」

 

 

 

 

私の後ろで秋山さんが苦悶の声を上げている

 

 

 

 

 

「ふっぬぬぬぬ……」

 

「……」

 

 

 

 

 

その両手は私の肩を揉んでいる

 

チャイムは既に鳴っているが、秋山さんに

 

 

『丸山殿っもう少しっ!もう少しだけお付き合いをっ!』

 

 

と、両手を合わせて言われたのでこうしてマッサージを受けている次第。

 

ちなみにカエサルさんはアンツィオから来た人とどこかに行ってしまった。

 

 

「どっどうでしょうか?」

 

 

手を止め息を荒げながら感想を聞かれる。

 

 

……ここは気を使うべき所、なのだが。

 

 

 

 

「……よわい」

 

「なんですと!?」

 

 

 

 

心底驚いた声が少し面白かった。

 

 

いや、決して力が弱いって意味じゃない。

 

 

 

 

 

「うぅ……やはりイクサ殿には届きませんか……」

 

 

 

……こくり

 

 

 

と、首を一回振ると『はぁ…』と、残念そうなため息が聞こえた。

 

『弱い』というのは『イクサさんと比べて』と言う意味である。

 

 

 

 

「も、もう少しだけっ、い、いいですか…?」

 

 

……こくり

 

 

もう一回首を振ると『で、ではっ……!』と私の肩を揉み始めた。

 

 

……

 

 

 

私は

 

 

 

あまり話すのが得意じゃない

 

 

 

でも

 

 

 

どうしても聞きたかった

 

 

 

 

 

 

「……秋山さん」

 

「はぁー…はぁー…な、なんでしょうか…?」

 

「……秋山さん、は、イクサさんをどう思ってるの?」

 

「えっ……」

 

 

 

 

私の肩に掛かっていた力が弱まる。

 

……とうとう聞いてしまった。

 

 

 

 

「……ど、どうして」

 

 

 

 

概ね予想通りの返事をされる。

 

なので、用意していた言葉をそのまま返す。

 

 

 

 

 

「私の友達も、イクサさんの事を…憧れている、って言ってたから。」

 

 

 

 

私の友達。私を戦車道に誘ってくれた、大事な友達。

 

 

 

 

 

「……憧れ……」

 

 

 

 

 

秋山さんがそう呟いた後、再び私の肩に力が入った。

 

 

 

 

 

「んっ……」

 

「あっ、い、痛かったですか?」

 

 

……ふるふる

 

 

首を横に振った。

 

 

 

 

「ちょっと、イクサさんに近づいたかも、って」

 

「そうですか…」

 

 

 

少しだけ嬉しそうな、穏やかな声。

 

そしてそんな声のトーンのまま秋山さんは続ける。

 

 

 

 

 

 

「私は、少しだけ浮かれていたのかもしれません。」

 

「……」

 

「……初めて戦車に乗った。初めて友達が出来て、仲間が出来た。……そして、初めて好きな人が出来た。」

 

「……」

 

「でも、それが憧れなのか、好き、なのかは実は私もよくわかってないんですよ」

 

「……」

 

「だから…どう思ってるか…と言われたら……」

 

「……」

 

「わかりません!……あはは……でも。」

 

「……?」

 

「でも、そのお友達も、イクサ殿の事を、ってなったら…なったら……どうしましょう……私は…」

 

「……ごめんなさい。変な事聞いちゃって…」

 

「……いいんですよ。私も口に出したらいろいろ整理出来ました。」

 

「……なら、よかった。」

 

 

 

 

……本当に変な事を質問してしまった。

 

 

友達が、って言うのは本当の事。だけど。

 

 

実は、自分の為、なのかもしれない。

 

 

 

 

 

「ふふふ……それにしても。」

 

「……?」

 

「丸山殿って、なんか癖になると言うか……可愛らしい声ですよねぇ~」

 

「…………///」

 

「あれ?丸山殿どうしました?うつ向いて……」

 

「やります。」

 

「えっ」

 

「私が手本を。」

 

「すごい倒置法。いやそれよりもう先程までのアレで全身痛いんで勘弁してほしいと言うか……」

 

「あっ」

 

「えっ?…何もありませんが…あれ?丸山殿どこに」

 

「……」(スッ)

 

「あっ」

 

「……」(ギュウウウウウッ)

 

「ンアアアアアアアッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん?……つまりカエサルさんはチームの装填手兼リーダー?で、車長は別にいると?」

 

「んーそこは内輪の話になるんだけどね……今の車長の方が戦車の知識あるし、通信手として連係も取れてる。んでその代わりに、私がその他の会議とかに参加するって感じかな。」

 

「ほー……」

 

 

 

 

 

 

やっぱアンツィオとは考え方が違うと言うか……戦車道自体始まったばかりだから色々手探り、とも言えるのかな?

 

……って何を真面目にインタビューしてるのかしら。

 

結構時間たっちゃったし、そろそろ最後の質問を。

 

 

 

 

 

 

「……それで、最後なんですが。」

 

「はい。」

 

「ズバリ。戦車道を始めたきっかけを教えてください。」

 

 

 

 

 

一番聞きたかった事。

 

たかちゃんは前から戦車道の事を話してくれないけど、その理由はこの質問で解ると思っている。

 

 

 

 

「んー……」

 

 

 

 

 

悩んでる……?もしかしてこっちの想像以上に聞かれたくない事情が?

 

 

 

 

 

 

「これって……記事に書くんですよね?」

 

「はい。」

 

「んじゃあちょっと……名前とか伏せて貰って良いですか?」

 

「それは良いですけど……」

 

 

 

 

 

あっこれ軽く聞いたら後悔するやつでは

 

家庭の事情?学園の陰謀?定められた運命的な?

 

 

 

 

「私、アンツィオに親友がいるんです」

 

 

 

 

うん知ってる。てか『友達』じゃなくって『親友』とか何気に嬉しい。

 

てか私関連?余計何か胸騒ぎが

 

 

 

 

「寂しかった……のかな?」

 

 

 

……うん?

 

 

 

 

「その子とはよくメールしてて、んでたまに会ったりもしてたんだけど……ある日を境に、何か…変わったような気がしたんです。」

 

 

 

 

……私に自覚はないけど……

 

 

 

「ある日、とは?」

 

「……メールで、戦車道を始めたって言われて、その次に会った日かな。戦車の話とか、チームメイトの話とか、色々な話を聞いて……それで、私じゃなくて、どこか遠くの方を見てるんだなって思ったんです。」

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

「元々、私も戦車が好きだったんですよ。……でも、好きってだけだったんです。それで、このままじゃ…その子がもっと先の、何処かに行っちゃうんじゃないかって」

 

 

 

 

……そんな事

 

 

 

 

「だから。大洗で戦車道が復活するって聞いて、一番にチームの皆に、やってみようよ、って。」

 

「……リーダーってのはもしかして…」

 

「うん。私が言い出しっぺってのもあるかな。」

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

「……えっと。もし、カエサルさんその、親友さんが、戦車道をやってなかったとしたら……?」

 

「もしかしたら戦車道じゃない科目を選んでたかもねー……」

 

 

 

 

……やばい。手が震えてる。

 

 

 

 

「……最後に、その人にメッセージが有れば、一言。」

 

「……色々言うとバレちゃうからなぁ……じゃあ。」

 

 

 

……あっ

 

 

 

「すぐそこに行くから。待っててね。」

 

 

 

…………

 

 

 

「とだけ……あれどうしました?」

 

「い、いえいえ!じゃじゃあここまでで私はこれでと言う事で!今日ありがとうごぜいましたっ!」

 

「えっあっはい」

 

 

 

ガチャッ! タッタッタッ……

 

 

 

「……時間が無かったのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タッタッタッ……

 

 

やばいやばいやばい

 

 

思わず走って出て来ちゃった。

 

 

まさか私が戦車道始めた理由とか。

 

 

そりゃ言えないよね。

 

 

 

……

 

 

たかちゃんは私が変わったって言ってたけど。

 

 

 

『すぐそこに行くから。待っててね。』

 

 

 

あのときの顔。

 

 

優しくて、強くて、きれいな顔。

 

 

……

 

 

たかちゃんの方が変わったよ。絶対。

 

 

こんなにドキドキしたの、初めてだもん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さぁ始まりましたというかさっきから始まっているホシノちゃん観察大会、実況はこのナカジマと!

 

とりあえず今北産業ツチヤです。

 

ホシノちゃん

彼の動向

ドッキドキ!

 

帰っていい?

 

よくない!今日はホシノの…いや!この自動車部の大きな分岐点になるはずだ!それを見届ける義務は君にはあるッ!

 

本音どうぞ

 

道連れは多いに限る!

 

ホシノー!ちょっと来てー!

 

あっふざけア痛だpんrtくぇkッ!!

 

おぉ……ホシノの握力でアイアンクローは死ねるねぇ……んじゃま、スズキも上がっちゃったし私も帰るねー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきからなんなんすかナカジマ氏。」

 

「いや決してやましいとか面白がってとか言う意志はないんすよホシノ氏。」

 

「んじゃさっきまでの言動はなんなのかと。」

 

「ホシノっちの新たな面が見れるかなって待って手を降ろして暴力は何も産まない。」

 

「(ため息)……本音は?」

 

「うじうじしてないでまたぶつかって来いやー……って」

 

「…『また』…ねぇ……」

 

「そうだよ。この前もぶち当たって上手くいったんだから今回も上手く行くって!」

 

「ふふふ……ナカジマ様がそう言うんならそうするかっ」

 

「そうだそうだー!……私はいつでも味方だからねっ」

 

「……わかってますよっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

どこだここ?

 

 

 

……カルパッチョとオーリオを囮に潜入出来たのはいい。が、ネットで手に入れたはずの地図がサッパリ役に立たない。

 

教室やら準備室やらの配置がデタラメすぎる。

 

確かに大洗のサイトからダウンロードしたって……うん?

 

……日付が6年前だこれ。

 

……ペパロニぃ……

 

 

 

しょうがない。スマホで調べてせめて調理室……いや違う生徒会室の位置だけでも

 

 

 

 

「あのー……」

 

「うぇっ?」

 

「ああすいません……いや、さっきからここをうろうろしてたので……」

 

 

 

 

 

……渡りに船ってやつか。

 

突然押し掛けて驚かせる計画は無しになりそうだがここで時間を潰すよりはマシだろう。

 

 

 

 

「すまん……ここの生徒会長に用があって来たんだが迷ってしまってなぁ……」

 

「あー……わかりました。じゃあ案内しますね。」

 

「ありがとう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「座れ。」

 

「「はい。」」

 

 

 

 

 

私とオーリオさんがベンチに座る。

 

その前には2枚の設計図を持った無表情のイクサが立つ。

 

 

 

 

 

「別に俺は怒っている訳ではない。」

 

「そのわりには言葉に怒気が」

 

「ホシノ。」

 

「何でもないです。」

 

 

 

 

 

無表情とは言ったけど絶対げきおこですよこれ。

 

 

 

 

 

 

「ホシノ。まずこの設計図はなんだ?」

 

「ジェットエンジンです。」

 

「……で、これをどこに?」

 

「戦車にです。」

 

「キャタピラ走行がジェットで加速できると思うか?」

 

「思わないよ。ただ垂直に飛ばそうt「出来るか!」

 

 

 

 

 

 

私のささやかな夢は打ち砕かれた。

 

 

 

 

 

 

 

「オーリオ。これは?」

 

「調理器具をコンパクトに収納できるのはもちろん焼く煮る蒸すの基本的な」

 

「まとめてくれ」

 

「小型キッチンの設計図です。」

 

「で、これをどこに?」

 

「戦s「無理だよ!!」

 

 

 

 

 

 

オーリオさんのささやかな以下略。

 

イクサの頭は想像より固かったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

「それでイクサ?私とオーリオさんのどちらの案を選ぶんです?」

 

「逆に聞くが選ばれた方はどうなる?」

 

「そりゃあ……」

 

「ねぇ?」

 

 

 

 

私達は顔見合せ、その後視線をイクサの背後に移す。

 

イクサも振り返り私達と視線を同じにする。

 

先週までは無かった、この大洗の新たな仲間。

 

 

 

 

「このポルシェ君に乗せ「無理だよ!」」

 

 

 

 

その仲間を歓迎しようとするのは当たり前だと思わない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 












はい。中途半端です。

ぶっちゃけ期間が空きすぎて続きの話がまったく描けません。

なので頭をリセットするためここまでで投稿し、次に「ポルシェ君捜索編」を挟み、息を整えてから本編に戻ります。



「ポルシェ君捜索編」を挟む意味は寄り道と言うか脱線したした下書きが少し有るからです。だからこの際……ね?だから……ねっ?(語彙力)


ガルパン熱が消えた訳じゃないぞ?あのゲームのためにPS4の購入を本気で検討してるぐらいだからな!


……ただスマホを弄る時間も元気も無いってだけだから……あーマジこの時期は[2000文字に及ぶ社会への不満 罵倒 編集済み]




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「あの二人には見せないようにね」 byそど子

二十二話目だって


なんか色々遊び過ぎて見辛くなったかもしれない

前回とは全く話が違ってますのでと言うかぶっちゃけ前回を無かったことにしたいまであるのでノリで頭を空にして読んでいただけると幸いです







編集者 風紀委員

 

 

 

■月■日に発生した一連の騒動について

 

 

 

これは風紀委員長 園みどり子 が イクサ(本名■■■■■) の顔面にぶん投げた書類を編集者がそれっぽく改訂したものです。

尚、以下の会話記録は特記してあるものを除き、風紀委員長が当人達を尋問して得られたものなので正確ではない可能性があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下、■月■日のタイムライン

 

 

 

 

 

8:15 生徒会室における 角谷杏 と イクサ の会話(小型録音機による記録)

 

 

 

 

追記:

この文を編集した者は生徒会室にある全ての盗聴機を撤去するように。‐イクサ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

角谷:戦車を増やそう。

 

イクサ:……どうやって。

 

角谷 :そりゃ今あるやつと同じ方法でさ。

 

イクサ:もうこの船の大部分捜索したんだろ?

 

角谷 :いーや!まだ絶対に探してない場所がある!

 

イクサ :おお?それはどこだ?

 

角谷 :ここ!(自らの足元を指差す)

 

イクサ :……船内?

 

角谷 :うん!

 

イクサ :流石に無いんじゃねぇ?

 

角谷 :いやいやいやアタシも適当言ってる訳じゃないっすよ?

 

 

 

角谷が3枚の紙をイクサに手渡す。

 

1枚目と2枚目には写真(以下、それぞれ資料A、B)、3枚目は手書きの資料(以下、資料C)が確認できる。

 

Aは現時点で発見されてない戦車の解体状況、Bはその解体された戦車の運搬状況の現場写真。

 

Cは手書きの資料。経年劣化が激しく、読めない所が多い

 

 

 

追記:

さっきのに追加で隠しカメラも、だ。4人で探してるのに全く見つからん。風紀委員の中に随分優秀なヤツがいるようだ。‐イクサ

 

言い掛かりは止めなさい。風紀委員が関与した証拠は何もありません。‐風紀委員■■■■■

 

全く関係無いけど告白するのならもうちょっとムード考えたほうがいいわね

 

 

 

 

 

 

イクサが資料A、Bを眺める。

 

 

 

イクサ:かなり面倒な事をしてらっしゃるな……

 

角谷:とりあえず……ここ。これ昔の大洗女子の校章。だからこの船の中にあるってのは間違いない。あとこれ。

 

 

 

 

角谷が資料Cの一部分を指差す。

 

 

 

 

角谷:大体読めないけど、ここ。見てみて。

 

イクサ:主砲……88ミリ……て事は…!

 

角谷:うん。ドイツ様の、『あの戦車』の可能性あるよね……!

 

イクサ:……よし。そう言う事なら行ってやろうじゃねぇか。

 

角谷:そうだよね~そうだよね~!んじゃ行くぞい!

 

イクサ:は?

 

角谷:へ?

 

イクサ:……今行くの?

 

角谷:うん。

 

 

 

 

[数秒の沈黙]

 

 

 

 

角谷:レッツゴー!!

 

 

角谷がイクサの腕を引っ張り外に連れ出そうとする

 

 

イクサ:待て待て待て!えっ!?今行くの!?

 

角谷:だからそうだって!

 

イクサ:授業は!?

 

角谷:会長権限!

 

イクサ:あぁ引っ張んな!てかふたり!?ふたりだけ!?

 

角谷:何か問題でも?

 

イクサ:こういうのってもっと大人数でやるべきじゃ!?

 

 

角谷……ふたりきりはイヤ?

 

イクサ……イヤ、じゃねぇけどよ……

 

 

角谷:じゃあ行こう!今行こう!やれ行こう!

 

イクサ:違う待て!ちょっと冷静になろうぜ!?下の構造調べてから行くとかさぁ!

 

角谷:地図はアタシの頭にたぶん全て入ってる!

 

イクサ:たぶんつったな!?やっぱおめぇただ行きてぇだけだろ!

 

角谷:うるせぃ!四の五の言わず行くんだよ!

 

 

 

 

角谷がイクサの腕を引っ張りつつ[編集済]。

 

 

イクサ:[悲鳴]だからテメェ意見割れたら暴力を[叫び声]待ってそれ以上はもげ[絶叫]マジサーセンっした杏さんッ!行かさせていただきますんでマジ勘弁願いますッ!

 

 

 

 

8:24 両名が生徒会室から退室する。

 

 

8:26 角谷が生徒会室に入室する。メモに何かを書き、角谷の机に置く。

 

8:28 角谷が退室する。

 

 

 

 

追記:

もし過去に戻れるんなら間違いなくこのメモをバラバラに破り捨てるでしょうね

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

8:45 学園艦地下3階、歩行中の二人の会話

(小型録音機による記録)

 

 

 

追記:

お い 待 て コ ラ

目と耳が壁と障子にしか無いと思ったら大間違いよ

 

 

 

 

角谷氏。これ分解されてるのは解るけどそれがまだこの船の中に有るとは限らんよな?もう売られたり、処分されてるかもしれんよな?

 

それは無いね。その写真の日時前後の資金も洗って見たけど、結果は問題なし。売るにしても処分するにしても大きくカネが動くはずだからね。

 

ほー……やっぱデキる女は違うな

 

だっしょー?

 

んで、その場所の見当は付いてるんですかね?

 

……付いてるよ?

 

おうこっち見て話せや。

 

しゃーないでしょ……出てきた資料がそれっぽっちだったんだから……確証が有るんなら資金なんて遠回りな所調べないよ……

 

……つまり、この88ミリ様が、この船の何処かに有る以外の事はわからんと?

 

はい。

 

……いったん戻ってお泊まりセットでも持ってくるか?

 

そりゃ良い考えだけど今日は大丈夫でしょ。近くに有ったらラッキーだなーぐらいの考えで、無かったらまた後日に……っと、ここだね。

 

 

 

 

 

 

8:50 二人が地下4階への階段の扉の前に着く。

 

 

 

 

 

 

追記:

この扉は簡素な、薄い緑色の鉄の扉だったな。うん。

ドアノブと蝶番に錆が見え、扉の隙間からは異様に冷たい風が流れ、今まで通ってきた他の区画は清掃が行き届いてたのに蜘蛛の巣が張っていた以外はまぁ普通の扉だったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8:53 角谷が持参していた鍵で扉を開ける。

(この鍵は角谷が船舶科から無断で持ち出したものです。)

 

この時点で風紀委員に低レベル進入禁止違反が自動通報される。

(本来なら即座に風紀委員が急行しますが、古い区画で現在のシステムと別に存在していたため位置の特定が不可能でした。)

 

園みどり子の通達により生徒会メンバーが召集される。

 

 

 

 

 

9:14 園みどり子、小山柚子 の2名が会議室に入室する。以下、会話記録。

 

なお、編集者が『園』の漢字でゲシュタルト崩壊を起こしたため『園みどり子』を『そど子』と表記します。

 

 

 

追記:

どんな理由よ!?

 

園園園園園園園園園

もう口の中に変な記号が入ってるようにしか見えません

 

やめて!

 

 

 

 

そど子:そこまで異常事態ってわけじゃないけど、会長が出席してないのは、いただけないわね。

 

小山:すいません。会長と、あとイクサ君も連絡が付かなくて、放送でも呼び掛けたんですけど……

 

そど子:[不明瞭な呟き]……ふたりして連絡が……って事は今まさにふたりきりで……いやいやこんな時間からそんな……でも1度燃えだしたらあの二人は……

 

小山:うん?……そど子さん?

 

そど子:えっ?いやいや、なんでもないわ。それで……現時点で分かってるのは『何者かが、何処かに進入した』って事だけね。風紀委員も捜索してるけど、連絡はないわ。

 

小山:ええ、場所すら分からないんですよね?

 

そど子:そうよ。だから相当古い、かなり変な所に入ったのね。

 

小山:こんなのは初めてですね……イタズラでしょうか?

 

そど子:でしょうね。色んな意味で重要な場所は風紀委員がもう押さえてるし、あとは棄てられた……それこそ物好きしか行かないような……

 

 

 

会話を遮るように扉が開かれ、河島桃が入室する。

 

河島は少し狼狽しているように見える。

 

 

 

河島:あー、二人とも、その……

 

小山:あら、どうしたの?

 

河島:会長の、いつもの机に、これが……

 

 

河島が持ってきた1枚の紙を小山に渡す。

 

小山とそど子がそれを見る。

 

 

 

そど子:……とりあえず、犯人はわかったわね。

 

小山:……正直な所、薄々感付いてはいました。

 

そど子:[長いため息]まず警戒を解除して……皆は授業に戻らせて……

 

小山:申し訳無いです……

 

そど子:あなたが謝らないで。悪いのはあの二人……でもなんで急にこんな……

 

小山:んー……桃ちゃん、ホントにこれしか置いてなかった?

 

河島:うん……机の上には。

 

そど子:……あーなんか一気に疲れた気分だわ……そうね……何人かは地下を探してもらおうかしら……

 

小山:……いいんですか?

 

そど子:一応、ね。あの二人では有り得ないと思うけど、迷って餓死なんてされてたら困るし。

 

小山:ふふっ…何だかんだ言って心配なんですね?

 

そど子:えぇ心配ね!トップが半日も席を空けるなんて!この学園が心配だわ!

 

小山:あらら……

 

河島:照れ隠し……

 

そど子:何か!?

 

小山 河島:なんでもないですっ!

 

そど子:ふんっ!じゃあ私はいくわっ。もし帰ってきたら即!出頭するようにね!

 

 

 

9:25 そど子が退室する。

 

 

 

 

河島:あー……どうする?

 

小山:……生徒会室に行きましょう。二人が直前に調べてた物を調べてみる。何をしにいったのか、予想ぐらいは出来る……かもね。

 

河島:……わかった。

 

 

 

9:27 二人が退室する。

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

9:30ごろ 地下4階(推測) イクサと角谷の会話

(小型録音機による記録)

 

 

 

 

追記:

もう色々諦めたから聞くが、俺と杏のどっちにつけてるんだ?

 

あの録音機、同じ値段でもう一個付いてくるって言うから少し高いの買っちゃったの。でも結局お得だったわ。

 

そうか、両方なんだな。そうか。

 

 

 

 

 

 

 

ん?

 

どしたー?

 

柚子から電話入ってら

 

えっここ電波届くの?

 

……いや圏外だな。不在着信だけだ。

 

ほーん

 

いやお前興味なさげに言ってるけど無断で授業欠席してたら誰だって電話して来るからな?

 

いやいや流石に私だって何も無しでは来ないよ~ちゃんと置き手紙して来ましたって~

 

あぁ、うん流石になぁ……なんて書いたんだ?

 

『イクサと地下に行きます。探さないで下さい。おねがいします。』って……なにその顔?

 

……いろいろ聞きたいけどな。まずなぜ敬語?

 

いやだってねこがいますし

 

どういう事だよ

 

今マイブームなのさ

 

……で、なんで地下に行く理由を書かなかった?

 

……さぁ?

 

素で忘れてたか……あっ。

 

 

 

[二人の足音が止まる]

 

 

 

……また階段か

 

降りよう

 

待て。近くで探すんだろ?また後で来るんだろ?

 

じゃあ下だね

 

だから待て。流石にこれ以上は帰り道覚えてる自信無いぞ

 

そっか下かぁ

 

下かぁじゃねぇよ俺の話を手首がやばい角度に゛あ゛あ゛あ゛っ゛!゛?゛

 

感嘆符に濁点とはやるねぇ

 

[叫び声]

 

何ぃ?日本語で喋ってくれよう

 

すぐ帰るんだろ!?てかこの階もロクに探してねぇだぁああ!!わかった!下行こうすげぇ下行こう!!

 

フッ……やっと素直になったね……

 

あぁもぉ……なんでそんな下に拘るんだ

 

ま、すぐに解るよん

 

……なんか他の目的があるみてぇな言い方だな

 

 

 

[階段を降りる音]

 

 

 

さーて…問題は電気が通ってるかだけど~…

 

 

 

[扉を開ける音]

 

 

 

うは暗っ…スイッチは……これかな?

 

 

 

[スイッチが押される音]

 

 

 

 

あれ違う…これかにゃ?

 

 

 

[スイッチが複数回押される音]

 

 

 

待て待て…今、携帯で明かり…

 

 

 

…おっ見えた

 

 

 

 

[スイッチが押される音]

 

 

 

 

 

…真っ暗よりはマシだな

 

非常電源しか無い感じかー…んじゃ行こう

 

ちょっと待て、さっきはなんのスイッチ押したんだ?

 

んー?多分この…えっと…赤い…見るからにやばいやつ…かな…?

 

マジでこれ以上罪を重ねるのは勘弁してくれよ…

 

いやもうこのボタンに意味は無いと思うよ?緊急用だったとしたら押された瞬間にブザーかサイレンが……

 

 

 

[サイレン。一定のリズムで3回繰り返される]

 

 

 

[13秒沈黙]

 

 

 

 

行こう

 

流石にそど子さんブチギレだと思うが

 

言わないでアタシもちょっと背筋がアレだから

 

 

 

 

 

_________________

 

_________________

 

 

 

 

 

 

「桃ちゃん何見てるの?」

 

「風紀委員が皆に配ってる奴」

 

「あぁー……っと。まずそれ隠して。」

 

「えっ?」

 

「早く早く」

 

「あっあぁ…」

 

がさがさ…

 

 

 

……バタン!

 

 

 

「居た!?」

 

「いやここじゃねぇ!柚子!そど子見なかったか!?」

 

「ここには来てないよー」

 

「わかったサンキュー!」

 

 

 

バタン!

 

 

 

 

 

「……なに今の。」

 

「イクサ君と会長ね、今全力でそど子さんを探してるの。」

 

「いやそれは見たら分かるけど……」

 

「理由はさっき隠した奴。」

 

「…別にそこまでの事は書いてなかったと思うが」

 

「どこまで読んだ?」

 

「会長がサイレン鳴らしたとこ」

 

「あー」

 

「?」

 

「そのサイレンね、結構やばいやつだったらしくてね?一旦解散させた風紀委員を再招集させるハメになってね?」

 

「うん。」

 

「それで先生とかほかの委員にそど子さんが謝りに行ったりとかかなり大変だったらしくてね?その恨みがその紙束に込められてるのよ。」

 

「う、うん。なんか読むのが怖くなったが……」

 

「読めば分かるよ、怨念の深さが。」

 

 

________________

 

________________

 

 

 

 

記録A 多分地下5階 10時ぐらい

 

 

うー……

 

……寒いのか?

 

いやー……地下ってなかなか来ないからねぇ……

間違って薄着で来ちゃったよ……

 

上着あげる?

 

あっまじで?……

 

……おあぁあったけえぇ~……ってイクサは大丈夫?

 

男はシャツ一枚あれば生きられるんだよ

 

あぁそう男って大変だねぇ……んふぅ……

 

なに?

 

……すぅ~……

 

……ん?

 

……うへへ

 

 

 

 

 

やっぱ返せ

 

なんで!?

 

急に恥ずかしくなった

 

なんだよ体臭嗅がれるのがそんなに嫌なの?

 

嗅いでんじゃねぇよ!

 

まって寒いのはマジなんだよ!

あっはは待ってへんな所触んなっあはは!

 

このっ神妙にしろ!

 

ぬがされる~!ヤられる~!あっははは!あっ……

 

 

 

 

[編集済]

 

 

 

 

……あっつい……

 

なんぼなんでもやりすぎだ……まぁこれで上着は要らんわな?

 

んー……そうだ。

 

は?

……うおっ?

 

この状態で上着着て?

 

……着れた事になってんのかこれ?

 

あぁ……イクサの背中ってしがみつきやすいし暖かいしで至れり尽くせりだねー……

 

……すこし歩いたら降りろや

 

[終了]

 

 

 

 

 

 

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________________

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「桃ちゃん顔真っ赤」

 

 

 

「だってこんな…実録ラブコメ書いてあったら…」

 

 

 

「編集済の悪意がすごいよね~」

 

 

 

 

「これイクサの追記?があるが…」

 

 

 

「まぁイクサ君が目を通したときにはラブコメ部分は無かったでしょうね。多分これが配られる直前に……あれ桃ちゃんやっぱり気になる感じ?」

 

 

 

「よ読まない!読まないぞ!こんなのはもう風紀委員に返却してっ…!」

 

 

 

「それは意味ないかな…これ学校全体に配られたやつだから…」

 

 

 

「…会長とイクサが走り回ってるのって」

 

 

 

「お察しの通りだけど、今更そど子さんを捕まえてもねぇ」

 

 

 

「あぁうん、そうだな……この紙束のほとんどがラブコメなのか…」

 

 

 

「全部がそうじゃないけどね。そのピンク地帯越えたら新しい戦車の入手経緯が入ってるから」

 

 

 

「……ほんとだ……しかし入手経路諸々がラブコメより薄いのか…」

 

 

 

「そど子さんにとっては入手経路と今回の騒ぎの説明が会長の目を引き付ける囮で、ラブコメを全校生徒にばらまくのが本命だったみたいね………そんな真剣に読んで、やっぱり二人の甘いのが気になるんじゃないの~??」

 

 

 

「ちがっ違う!戦車がどこにあったのか気になっただけだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ふと思い出したかのように2年ぶりに投稿しました

時が過ぎ去るのが早すぎる

これは(一応)前編になってます。忘れた頃に後半が投稿されるかもしれないのでそのときはよろしくおねがいします


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