俺ガイル短編 彼らの日常は進み続ける (ふじ成)
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またしても、川崎沙希は俺と会う

12月21日。

 

クリスマスイベントをもう何日か後に控えた寒い日のことである。

 

俺は予備校に向かっていた。

 

なんかほんと最近忙しすぎるんだけど……。

 

 

働きたくない働きたくないって言いながら結局社畜なサラリーマンってこんな感じなのかもしれない。

 

 

学校、イベント準備、学校、イベント準備予備校で授業、学校、イベント準備、予備校で授業…学校…よびこ…頭の中でループする。メダパニ状態。

 

 

奉仕部での問題は解決したものの、って思い返すと黒歴史。超恥ずかしい。

 

 

今日は、予備校にも行かなくてはならない日だった。しかも今日なんか授業ですらない。

 

 

三学期準備ガイダンスとかいうものらしい。

おそらく年末年始のすごしかた的なものを話されるんだろう。三学期良いスタートを切るために!ここ大事だよ!みたいな。

 

そんなものにはまるで興味なかったが、スカラシップを継続してとるため。知らなかった!?ええ!?嘘!?みたいな情報があってはならない。結構基準が厳しいのだ。

 

 

俺は時間ぎりぎりの所で予備校に入り教室を時間割で探す。こういった時間調整結構大事。

 

二〇一教室なのを確認してから教室へ向かう。

 

壁に大量にはってある妙に暑苦しいポスターを辟易しながら教室に着くと、教室はもうほぼ満室といった具合だった。

 

 

えぇ……なんでこんなに出席率いいんだよ……。

 

 

おかげで隣が空いている席もなければ壁際の席も既に埋まっている。ごめん、八幡さっき嘘ついた。やっぱり大事なのは時間調整より前もって時間に余裕を持って行動することだね!

 

しぶしぶ、最後尾の空いている席に座る。

 

まぁ、一時間程度だし我慢するか……。と思っていると、視線を感じた。

 

 

首の向きを変えずに横目で盗み見る。

 

 

 

 

そこには、見覚えのある青みがかった黒髪をシュシュで束ねたポニーテイル。弟にメールでもしていたのか携帯を片手に持っていたが、その手には力が入っていなく、落としそうだった。

 

 

 

 

隣に座っていたのは、川なんとか沙希。

 

 

 

略して川崎だった。

 

 

 

 

 

×××

 

 

目が合って時が止まったようになる。

 

 

 

これは気まずい。一応なんだかんだで結構な知り合いだから余計に。

 

 

えーっと…なにか話さないとこれはやばい。

 

ガイダンスはじまってしまえば後はこっちのものだが、それまで会話の糸口をなんとか探さないと……。

 

 

 

「き、来てたのか……」

 

 

 

「あ、あんたこそ……」

 

 

 

 

「あ、あぁ……俺は…来た……」

 

 

 

 

 

…………。

 

 

 

 

沈黙。

 

 

 

 

 

なんだ俺は来たって。私が来た!ってヒロアカじゃないんだから。

 

 

 

…………。

 

 

 

えっと、もうこれ無理じゃない?修復不可能じゃない?

 

 

開幕10秒で諦めてると川崎がもにょっと口を動かして言う。

 

 

「……そ、そう、来たんだ」

 

 

 

 

まさかのタイムラグ、衛星放送ばりのタイムラグだった。しかしこれはチャンス。こっから繋いで一気に勝つる!

 

 

 

 

「あぁ……来た……!」

 

 

 

 

 

完全に詰んだ。俺バグってるんじゃないの?ちょっと食い気味に言ったせいでなんか勢いついたし。

 

 

 

 

川崎の方を見ると、目をそらされた。

 

 

なんか、もう、いいや……。帰ったら速攻寝て忘れよう。俺はこれ以上やらかさない為にも挙動不審にならないよう気をつけるだけでいい。

 

俺は、あんなに興味のなかったガイダンスが一秒でも早く開始されることを祈った。

 

 

 

 

×××

 

 

 

予備校のガイダンスが始まった。

 

 

やっとはじまってくれたよ…!

 

 

説明する講師はなんか新しく入った人らしく、遅れて入ってきた割になんかこの資料置いてきちゃったとかパワポが立ち上げられないだの異常に手際が悪かったがなんとか始まった。

冊子になった資料が前から配られる。

 

ひょいひょいと後ろに周り、俺たちのところまで来る。

 

 

「全員、行き渡ったかなー?」

 

講師がなんだか少し不安気に言う。

 

幸い、渡ってきてませんという声はなく、講師は安堵したようだった。

 

そうして、説明がはじまる。

 

 

「えっと、あまり時間が無いので最初の大学紹介のページは飛ばしますー。後でうちに帰って各自で読んでおいて下さい。それで、次の8ページ開けてー」

 

 

最初から飛ばすならそこに載っける必要ないでしょ……。とか思いながらと聞く。

 

すると、目の端でおろおろしてる奴が目に入った。

 

 

見ると川崎は、机の上に筆記用具以外何も出していなかった。え?配られてないの?

 

 

配られてないならそう言えよ……。講師がなんとなく不安気にしてたのって部数心配してたのね……。

 

 

 

ありがた迷惑になるんじゃないかと少し迷ったが、おろおろしてるのをただ見てるのも気分がちょっと悪いので、資料をスーッと手でゆっくりスライドさせる。資料なくてもどうせ前のパワポで映し出されるしいいや。

 

 

川崎はぎょっとした顔をしてこっちを見てきた気がするが、俺は前を見て顔を合わせないようにする。いや、なんかアレだし。

 

 

 

 

しばらくすると、視線の端からスーッと手が伸びてきた。

 

 

渡した資料。

 

えぇ……なに?返却?

 

 

資料が元の位置に戻される。

えっと……あの、川崎さん?

 

 

川崎の方を見ると、川崎は前のパワポの方を見ていた。

 

二度見するが目が合わない。もしかしてぼく透明人間になっちゃったの?インビジブル?

 

 

渡した手前、返ってくると負けた気分になる。

てめぇの施しは受けねぇよ!へっ!って感じ?

 

 

それに、川崎は俺と違ってスカラシップとれないと結構本気でやばいっぽいし、また深夜バイトみたいなことになっても困る。

 

 

 

 

 

俺は帰ってきた資料をまたスライドさせる。

 

 

ばいばいっ!ぼくのしりょう!

 

資料は川崎の元へ。

 

 

 

ちゃんと今度は行ったかな……。と思い、川崎の方をちらとみる。すると目が合ってしまった。

 

 

 

固まること数秒。

 

 

 

講師の声が急に遠くなる。

 

まぁ、このままでもまた返ってくるだろうし。

 

 

俺は無言のまま、いいから持っとけよと視線で促す。

 

 

川崎は冷めた目を尖らかせて、いや大丈夫です。という視線をやってくる。

 

 

 

 

見つめ合うこと数秒。

 

 

 

 

ふうっと川崎はため息をつく。諦めてくれたか……。

 

俺は安心して前を向く。

 

 

すると、資料がスライドされる。野郎まだ諦めてなかったか!

 

 

 

ばっと見ると、資料は真ん中に置かれていた。

 

 

 

川崎は、やっぱり前のパワポの方を見ている。

 

 

 

……あぁ、最初からこうすれば良かったのね……。

 

 

俺も、パワポの方を向いて講師の説明を聞いた。

 

 

 

講師の声は、やっとちゃんと耳に入ってきた。

 

 

 

 

×××

 

 

 

ガイダンスが終わり、アンケートを書くと解散となった。

 

川崎は、「下で資料貰って帰るから」とだけ言うとそそくさと行ってしまった。

 

教室を出るときぽしょりとなんか聞こえた気がしたが多分聞き間違いだろう。

 

 

俺もアンケートを書き終え、教室を出る。

 

 

携帯で時刻を見ると、八時五分を指していた。

一階の自販機でマッ缶、買って帰るか……。

 

マッ缶を買い、一息に飲む。

 

やけに疲れたガイダンスは、マッ缶が癒してくれた。

 

やっぱこれだぜ、それはトッポか。

 

 

 

 

自転車にまたがり家へ向かう。

 

ヒーメヒメと脳内で歌いながらペダルを回していると突然携帯が鳴る。

 

 

「もしもし?」

 

 

「お兄ちゃん?今予備校出たとこでしよ?帰り牛乳買ってきて、あー、それとトイレットペーパーも切れかかってるからお願い」

 

 

 

「えぇ…お兄ちゃん疲れてるんだけど……明日、いや明後日じゃ駄目?」

 

 

「だーめ!頼むよ!じゃ!」

 

 

 

 

一方的に切られてしまった。

 

めんどくさいなぁ……。

可愛い小町のため、愛する家族のため、買って帰るか……。頑張るよ!お兄ちゃん!

 

 

まぁ、ただのおつかいなんですけどね。

 

 

この近くだとローソンかスーパーになる。

スーパーの方が安いし、そっちに行くか。

 

 

俺はスーパーの方へ方向転換をして、自転車を漕ぎ始める。

 

 

 

 

またしても、会うと知らずに。

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます!

短編なのでこれで終わりです
最後の文面とタイトル掛けてみました。掛かってない?
次回はなんの短編書くかはまだ決めてません。リクエストあれば受け付けてますので是非。というかされると滅茶苦茶嬉しいです。


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やはり、一色いろはは唐突に現れる。(前編)

 

祝日で学校が休みになった月曜日

 

俺は映画を見に行くことにした。

 

話題のアニメーション映画である。

 

公開前は長文タイトルで爆死臭しかしなかったのだが蓋を開けてみればとんでもなく素晴らしい作品だったらしい。

 

映画三本分の価値があるとかなんとか。

聞くところによると公開一週間で興行収入百億を超えたとかリアリティが物凄いとか聞けば聞くほど期待値は上がる。

 

 

期待に胸を膨らませながら、俺は千葉駅にあるデパートに向かう。

 

 

そこは六階より上が劇場になっていて、劇場もかなり広い。

 

しかも、本屋やゲーセンなど色々な店が入っており暇つぶしに事欠かない。

他にもオシャレなカフェからラーメン屋までかなりの店舗が揃っており、余裕で一日楽しめるレベルだ。

 

まぁ、結局一人だと行動は決まってしまうので回ることはほとんどないが。

 

とりあえず携帯で映画の時間まで調べると二時間以上あった。

 

 

ふむ、少し腹が空いているがわざわざがっつりいく程でもない。そこの本屋で文庫本一冊買ってミスドでドーナツでも食いながら待つかな……。ぱないの!いや、ここらドンドンドーナツ、どーんと行こう!って感じか?

 

 

ぼっちは決断が早い。なぜなら選択肢が少ない上、結局脳内で初めから決まっていたりするからだ。映画→結構待ち時間ある→本買ってどっか店入るか→あ、ミスドある。という調子でこの間十秒もかかっていない。ぼっちは最適化されているのだ。つまりぼっちは常にアップデートされた新人類だということか……。

ここにぼっち新人類説を打ち立てる。

そうと決まると、一人うきうきしながらエスカレーターを登り、二階に行く。

右手を進むとそこには三省堂書店がある。

 

結構広い。

 

俺は、面白そうな小説を探す。

ハードカバーだと高いから文庫本だな。

 

シリーズ物って気分じゃないから一巻で終わる文庫本がいいんだけどなー。

 

あたりをうろうろしていると、面白そうな小説を見つける。

 

これにしよう。

 

俺は決めて、手に取りレジに並ぶ。

 

レジはそれなりに並んでいて時間が少々かかりそうだった。

 

俺は大人しく列に加わる。

 

 

 

「せーんぱいっ!」

 

 

 

いきなり後ろから声をかけられびくっと身構えてしまう。

 

 

その声は甘く、聞き覚えがあった。

 

 

まじびびった……!というか、一人でいる時いきなり声かけられるのまじで心臓に悪いからやめて……。

 

 

小さくため息を吐き、俺は振り返る。

 

 

後ろを振り返ると、そこには亜麻色の髪にくりっとした瞳。白のダウンベストとスカート。

上からカーキ色のブルゾンを羽織っていて暖かさそうなのに、軽やかでどこか軽装のようにも見えた。

 

 

声の主は、やはり僕らのあざとさマスター。

 

 

一色いろはが立っていた。

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

「よう、一色か」

 

 

答えながら振り返ると、一色は不満げにむーっと頬を膨らませて俺を軽く睨む。

 

 

「リアクション薄すぎませんかね……」

 

「だって、お前のそれ、あざといんだもん……」

 

それに、この下りも何回やったかわからんし……。

 

やだなー素に決まってるじゃないですかーと言うのを軽くあしらっていると、前の人の会計が終わり、俺の番になる。そうだ俺は列に並んでいたのだった。

 

 

「あ、後ろ並んでいますし、先輩会計一緒にしちゃいましょうよ。私ぴったり持ってますから」

 

 

断る理由もないので、ああそうだなと返すと、一色が本当に小銭と雑誌を渡してくる。

 

これ、なんか小町も読んでたな……。

リビングに置きっぱなしだったからペラっとめくってみたけど異常にキャピキャピキラキラしてたから、拒絶反応おきて秒で閉じたんだった。

 

手を触れないよう気をつけつつ、俺は受け取る。だって触れたりしたら、なんかやばいし、緊張してくるんだもん……。考えられなくなってやばいって言ってる時点で緊張してる。やばい。

 

 

会計が終わり、一色に本を渡し店を出る。

 

 

ふぅ、ここで会ったのは予定外だったが、特にやることは変わらんのでミスド行くか。

 

街中で出くわすこともあるんだなーと思いつつ、早速ミスドの方向に足を向けると、いきなり肩を押さえつけられた。

 

見ると、一色が後ろにつったっている。え?なんでまだいんの?

 

 

「先輩、なんで勝手にどっか行っちゃうんですかー」

 

 

「いや、どこ行くもなにも俺、お前と行動してないんだけど……」

 

 

してなかった筈だ。うん。だよね?

 

言うと、どはぁーっと大きくため息を吐かれた。なんか、あーあ、だめだコイツ。なにもわかっちゃいねぇって感じの表情してるし……。

 

 

 

「そういうところが駄目なんですよ!先輩は!わ、ざ、と、やってるんですか?」

 

 

 

目が本気だった。ぎろっと睨みつけられる。いろはす怖い。いや、ちょっとは思ったことは思ったんだよ?でも、ぼくだって予定あるし……。

 

 

「いや、このあと俺予定あるし、…映画見るから……」

 

 

しどろもどろになりながら、言い訳をする。

すると、一色はハッと驚きながら言ってくる。

 

 

「先輩もですか!?ちょうど私も見に行こうと思ってたんですー!」

 

 

「いや、でも同じのかわからんだろ」

 

 

「タイトルなんですか?」

 

 

「この世界の片隅にいた君の名は慎吾。」

 

 

なんか長文タイトルってタイトル口に出して言うの恥ずかしくならない?人に紹介とかしづらいからやめて欲しい。まぁ、紹介する人なんていないんですけどね、ええ。

 

 

「あ、やっぱり同じです!先輩、これ恋愛モノらしいですよ?こういうの見るんですか?」

 

 

「悪いかよ。というか、俺は怪獣映画と聞いたんだが……」

 

 

「あれ?そうなんですか?どうも情報が入り乱れてるみたいですね……」

 

 

俺と一色は首を傾げる。

 

本当に一体どんな映画なんだろうか?

宇宙意思を感じるというか、怖くなってきたまである。

 

 

 

「そんなことより!まだそしたら二時間以上ありますしっ!ここだいたいなんでも揃ってますから時間まで一緒に回りましょう!」

 

 

 

 

快活にほがらかに、俺の意見を全く聞かず、一色は笑ってそう言った。

 

 

×××

 

 

 

 

「それはそうとどこ行くんだ?」

 

 

俺は一色に問いかける。

 

 

「うーん、先輩は時間までどうしようとしてたんです?」

 

どうやら考え中らしく、一色は俺に質問を返す。質問を質問で返すなと言おうと思わないこともなかったが、素直に答える。

 

 

「そこで、本買ってミスド入って読んでようと思ってな」

 

 

「ふんふん、なるほど」

 

「お前は?」

 

「私は特になんも考えてなかったので、適当にぶらぶらしてようかと思ってー」

 

 

「ふーん、そういえば誰か誘ってこなかったのか?」

 

一色には誘う友達ならいくらでもいるだろう。

不思議になって俺は聞く。

 

 

 

「あー、書記ちゃん誘おうと思ってたんですけど……書記ちゃんと副会長があれであれでしたし…。」

 

「あぁ、そう…」

 

 

こいつもこいつで大変なんだな……。だいぶ端折っての説明だったが充分伝わった。

友達が彼氏持ちとか、そういう奴ね。色々気を遣わなくちゃいけなそうで、きちー……。

 

一色は続ける。

 

 

 

「それに、いつも何人もと遊ぶと、楽しいんですけど、自己中と思われたくなくて行きたいところ結局行けなかったりして、これは一人で行ったほうが楽しめるのでは?実はいつのまにかいつも妥協アンド妥協してる気がするし………とふと、急に気づく瞬間が出てくるんですよね……」

 

 

げんなりとした調子で一色がいう。

 

 

「あぁ……そう……」

 

 

 

俺の声はいくらか震えていたと思う。

 

闇が!闇が深すぎるよぅ……。てかなんで、それ俺に言っちゃうの?友達とからいらなくなっちゃうじゃん……。鬱にさせてさらに引きこもり体質を悪化させたいの?

 

 

「まぁ、なんでもいいけど、それだったら一人で回ったほうがいいんじゃねえの」

 

 

「いえ、先輩だと、どんなに連れ回してもなんの罪悪k…噛みました気心知れてますし!」

 

 

多分、ほぼ全部聞こえちゃってるから言い直す意味ゼロなんだけど……。まぁ、一色のストレスのはけ口に少しでもなるならいいとしよう。

 

 

「これです!見てください!」

 

「ん?」

 

見るといつのまにか一色は、館内の地図が書いてある看板を見ていた。

 

ビシッとと指を指された箇所を見る。

え?カラオケ?予想外の提案に驚いていると、にまっと笑って言う。

 

 

 

 

「リベンジですっ」

 

 

 

×××

 

 

カラオケ対決。

 

どうやら一色は、卓球の時のリベンジを図っているようだった。

 

勝負は一時間。交互にカラオケの採点の点数で対決。

総合得点ではなく、一回戦、二回戦と時間の許す限り歌い続ける。なんか若干不毛だ。

 

とりあえず、俺は多分音痴では無いから乗ることにした。カラオケは小町と何度か来てるし、よくわからない平塚先生同伴の打ち上げでも行ったことがある。あと一人でも来たことあるしな。それこそ不毛過ぎて二度と行かなくなったけど。

 

だが、相手は一色。おそらく行った回数では負けるだろう。つまり、これは経験の差を戦略で埋める必要がある。

 

 

俺は脳内で考えているとカラオケ場に着いた。

幸い、混んでいることもなくすぐに部屋に入ることができた。

 

ドリンクバーがついていたので、適当に飲み物を入れ、部屋に向かう。

 

 

部屋に入ると、俺は考えを悔い改めた。

 

 

えっと…深く考えてなかったけど、カラオケ部屋でふたりきりってなんかおかしくない?

ラブコメとかでこういうのあるじゃん!

いや、そういうんじゃないことは知ってるけど、意識しちゃうって!

やばい、意識すると一気に気持ち悪い汗をかいてきた気がする。助けてくれ…!ラブコメの神様……!

 

 

ちらと、一色の方を見る。

 

 

すると一色の瞳は仄かに燃えていた。

ささっと既に慣れた手つきで採点モードを選択しながら、マイクを充電置き場から抜き取っている。

 

あ、この子も誰かさんと同じく結構負けず嫌いさんなのね。

 

 

一気に意識をしちゃったことが馬鹿らしくなり安堵した。良かった。俺一人意識して地雷踏むとこだった。セーフ!

 

 

心の中で一色に感謝しつつ、渡してきたマイクを受け取る。

 

 

 

「先輩、負けたらご飯奢ってくれませんかー?」

 

 

 

やると思ったよ。

 

きゃぴっとした声を出したが、それにしては勢いがある。感覚としては宣戦布告に近い。

 

 

ならば、こちらも受け取ろう。

俺は性格の悪そうな顔をして言う。

 

 

 

「あぁ、負けた方が奢りな」

 

 

そして一色を見ると、一色は少し悔しそうに、にやっと笑った。

 

 

 

「今回は、()()()()が奢りなんですね……」

 

 

「あぁ」

 

 

 

そりゃ前回とは、ちと違う。フェアに行かせて貰おうじゃないの。

 

 

 

「わかりましたよ。もう」

 

 

 

俺達は互いに目を合わせる。

やっぱラブコメの神様なんていないって。

心は少年。いつだって燃えるのはバトル漫画だ。

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます!

二回目の投稿です。
一回目の感想くれた方、本当にありがとうございました。
感想貰えると、本当にめっちゃ嬉しいです。
今回、文字の分量的にも、前後編に分かれてしまいました。すみませんm(_ _)m
後編は、なるべく早く投稿するので引き続き呼んで貰えると幸いです。


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やはり、一色いろはは唐突に現れる。(後編)

「先輩先どうぞー」

 

特に断る理由もないので俺が先行を切る。

 

アニソンとかだと有名なやつ以外は引かれる可能性があるので、当たり障りない曲をセレクト。

かつ、これは点数勝負。点の取りやすい、テンポが丁度いい、かなりガチの曲選だ。

 

 

結果は、86。

 

俺としては良い方だった。

一色の方を見ると「先輩、案外歌えるんですね…」とか言っていた。

 

 

「それでは、次はですねー」

一色が歌い始める。

曲名は知らなかったが店などで流れてくる流行歌だった。

 

 

点数は……93。

 

 

え?

 

「まぁ、こんなもんですかねー」

 

予想してなくもなかったが、一色は上手かった。というか、これ勝てなくない?

前回ちょっと熱い感じで終わったのに、蓋を開けてみればヤムチャとフリーザばりに戦力が違う。ヤムチャは地球人だ。超サイヤ人にはなれない。最近だとゲームで覚醒したりしてるらしいが……。あれどうなってんの?

 

おのれ…一色…!謀ったな…!(なにもしてない)

その後も一色は90越えを連発。

俺はた80後半が行けばいい方だった。

 

結果は惨敗。

 

オチも覚醒もなにもなかった。

俺はため息を吐く。

ほくほく顔で一色は言う。

 

 

「先輩の負けですね☆」

 

ほんと嬉しそうだなこいつ……!

まぁ……ぼく、そのうれしそうなかおをみれただけでまんぞくです。まる。

 

 

 

 

×××

 

 

 

映画の後は、予定通りミスドに向かった。

 

約束通り奢ることになる。

まぁ、ミスドだし、千円程度で済むだろうし。

俺は胸を撫で下ろしつつ、ドーナツの並んでいる棚から選んでいく。

 

「一色、どれにする?」

 

「あの……先輩、私別にそんなに奢ってほしかったわけじゃないんでいいですよ?」

 

 

「別にたいした額じゃねぇしいいから」

 

 

視線でいいから早くと促すと、一色は諦めたような仕草をする。その割に嬉しそうなのは気のせいですか、一色さん。

ポンデリングと…あ、その苺かかってるのと…と言うのを聞きながらトングでひょいひょいドーナツを掴む。

会計を終え、皿に分けると数時間か前に買った小説を読みながらもぐもぐ食べる。

見ると一色は買っていた雑誌を読んでいた。

やっぱ、その雑誌なんかきらきらしたオーラ出てんな。覇王色の覇気でも持ってるの?

 

 

 

「……。」

 

 

 

 

「……。」

 

 

 

 

会話は特にしなかった。しかし不思議と気まずくならない。

時折聞こえてくるのは、ページをめくる音だけだ。俺は文庫本の文字列に集中できる。

 

 

───楽しいなぁ。

 

思わず呟きそうになってしまったのを慌てて抑える。

誤魔化すように息を吸うと、そのまま深く腰掛けた。

 

そして映画までのひと時を、ゆったりとした気持ちで過ごした。

 

 

 

×××

 

 

 

時間になったところで映画館まで移動した。

券売機に向かう。

券売機は、今ではちょっと少なくなった人が受け付けるタイプだった。

 

「で、どこにする?」

 

「前の方にしましょうよー」

 

む、後ろの方と言われたら、そうか俺は後ろ行くから終わったら後で会おうって言おうと思ってたのに……。

 

……いや、もう潔く諦めた方がいいのかもしれないと思ってきた。

まぁ、あの、そろそろわかってるんですよ?俺だって少しは。

潔くっていうか、なんていうか。

脳内であーだこーだと言い訳しながら口を開く。

 

 

「……ここ、二つ空いてるし。それでいいか」

 

 

 

一歩にも及ばないけど、そろそろ進もう。

 

一色は、ほんの少しおどろいていたような顔をしていたような気がする。なんとなく顔を向け辛かったからわからない。

 

 

「はい、いいです」

 

「そうか」

 

なんだかむず痒い気持ちになりながら財布を出す。すると、とんでもないことを言われた。

 

 

「今、高校生以下限定でカップル割っていうのやってるんですけどー高校生だと一人千円なんですが、カップルで来るとペアチケット1700円なんですけど、カップルさんですか??」

 

 

 

はえ?頭が真っ白になる。えっと?なに?カップル?なに、モンハン?それはハプルポッカだ。全然似てねぇななんだこれ。

 

「えっと、あの…」しどろもどろになりながら答える。さっきまでの気持ちやらは一瞬で爆散していた。

 

 

 

「違「あ!そうです!それでお願いします!」

 

 

おい今なんつった?え?突然、腕に柔らかい感覚。見ると一色が俺の腕をつかんでいた。横目でちらっと睨まれる。

ちょ、柔らかい、いい匂い、やめて!

 

「あ、わかりましたー。じゃあ1700円ですねー」

 

「あ、会計別にできますか?」

 

「となると、一人あたり八五〇円ですねー」

 

なんか俺一人を置いてガンガン状況が進む。ナニコレ?

「はーい!ほら、先輩。先輩?」

 

一色がぱっと腕を離し、一人パニック状態になっていたのを戻される。

 

 

おかげで、あ、あぁ、と気持ち悪い声で返事をするのが精一杯だった。

 

財布から金を出し、支払いを終える。

 

……というか、なにより心臓がやばい。

なんとか鼓動を落ち着けようとするが、意識するほどやばいので放っておいた。

 

 

「安く済みましたねー、それより先輩違うって言いかけましたよね」

 

 

急にじとっとした目を向けられる。

 

 

「いや、だってその通りだろ……。……お前だって勘違いされたら、嫌なんじゃないの?」

 

 

なんとか反論すると、つーんと口をとんがらかして言ってくる。

 

 

「別に安くなりますし、そういうところで意地はる必要ないと思いますけど……別に嫌じゃないですし」

 

 

どんどんと声が小さくなりながら一色が言う。照明のせいかこころなしか頬が紅く見える。

最後に小さな声でぽしょりと付け足された言葉をこの言葉は社交辞令だろう。真に受けたら、思わぬ墓穴をきっと掘る。そう思うことでなんとか堪える。そうやって、自分の予防線が叫んでしまい話を逸らしてしまった。

 

「あー、そういやポップコーン買ってねぇし行くか」

 

ちょっと自分でも強引だったかなと思ったが続ける。

 

 

「……先輩は、どうなんですか?」

 

「並んでるみたいだし、映画おくれちゃうから、さっさと並ぼうぜ」

 

「先輩?」

 

「キャラメルか塩どっちがいい?お前の分まで買ってきてやるよ」

 

「き、キャラメルで……」

 

「おう、もう開園してるみたいだし、先座って待っといてくれ」

 

ちょっと困惑気味の一色がスクリーンに向かうのを見送ると、ポップコーンの列に並びぼんやりと呆ける。

もう俺は中学時代のような失敗はもう繰り返さない。メールがきただけで好意を持ってるんじゃね?とか二度と勘違いはしない。たまたま好きな女の子と教室でふたりきりになったとしても運命なんて感じないし、自意識過剰こそが自分をもっとも傷つけることを知っている。

 

一色の好きな人は葉山だ。

 

幸いにして、それを俺は知っている。

ならば勘違いもせずに済む。黒歴史という屍を超えて比企谷八幡は出来ている。

その屍だけは俺の物だ。それだけは俺以外の誰のものでもないし、俺以外に価値のあるものではない。ならば、俺が大切にしなければ誰が大切にしてくれるというのか。

自分を、自分の過去を真の意味で肯定出来るのは自分だけ。

罪咎と失敗も全部含めて、俺なんだ。

一個でも無くせばそれは俺じゃないし、なかったことにするなんて以ての外。

今日も自意識過剰とは真逆のなにかが、心の内で叫びつづける。

 

ふう。

 

幾分か落ち着くとちょうど俺の番になる。

ガラスケースから見る作り途中のポップコーンは肥大化して膨れ上がり、弾けている。

 

 

ぼんやりと見ていると、それはどこかで見たことある光景だな、などと思ってしまった。

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

映画は物凄い出来だった。

特に、クライマックスシーン。

ずっと節約をしてなんとか暮らしてきた慎吾と心を通わせた怪獣が慎吾と入れ替わり、迫り来る隕石を血液凝固剤を使い手足を固めて受け止めるシーンは、涙無しには見られなかった。いや、泣いてねぇけど。ただ本物はガチで泣いた。五回見に行った。三作品合わせて二桁行った。ていうか本物ってなんだ。

 

 

終わり、時間を確認すると十九時を超えていた。

 

 

「一色、これからどうするんだ?」

 

なんとなく目的も終わり、手持ち無沙汰になって質問する。

 

 

「特に予定もないですし、帰りましょうか」

 

そのまま、出口の方へ足を向ける。

ちょいちょい興味のある店を見ながら進む。

途中、小さなゲームセンターが目に入った。

入り口の所にプリクラがある。

 

 

「先輩、プリクラありますよ!折角だし撮ってきませんかー?」

 

「いや、いいだろ……」

 

 

なんか、さっきから全然進んでないんだけど……。いや、俺もなんか小町喜ぶもんないかなーとかちょいちょい見てるから言えないけど。

「そういうのは、アレだろ葉山とかと撮ればいいだろ。まぁ、ほら」

「えー、撮りましょうよー」

「だって、それこそなんかだろ。二人で撮ると」

なんだかうまく言えなくてぼかしてしまう。

 

一色はしばし固まっていたが、なんか思いついたのか、ぱっと構えると俺から一歩距離をとった

 

 

「はっ!もしかして口説いてたんですか、今のはないですプリクラ二人で撮ったからって彼氏面するのはちょっと無理なのでもう少し考えて再チャレンジしてくださいごめんなさい」

 

 

「えぇ…なんでそうなるの……」

 

 

そろそろこいつに振られた回数二桁の大台登るんじゃないの……?もうどうでもいいや……と目を腐らせていると、わかりましたよ、もういいです……と言って一色はむむっと唸ってうなだれた。しかしぱっと顔を上げる。なぜか表情が明るかった。

 

「先輩!」

 

「ん?」

 

「今回で私達の勝ち負けってどうなってましたっけ?」

 

 

そんなのあったの?いつから対決してたっけ……と思いながら答える。

 

 

「えっと、一勝一敗だな」

 

 

「そういう時ってどうします?」

 

 

聞かれてやっと意図がわかった。

「……次が、真の勝負だな」

 

「はいっ!」

一色は満面の笑みで答える。

 

 

こういうのってジャンプとかだと戦って戦って、いつのまにか仲間になってたりするんだよな……。そんな的はずれなことを考えてしまった。

 

 

やっぱ、いつだって少年の心にはバトル漫画。

ならばこう締めくくるべきだろう。

 

 

 

俺達の戦いはこれからだ。

 

 




読んでいただきありがとうございました!
これで前後編終わりです。一色いろは編でした。
次回は誰書きましょう?まだ決まってませんが近いうちにまた投稿すると思います。
ありがとうございますm(_ _)m
もしよろしければ感想貰えると嬉しいです。
これからも引き続き読んでいただけると幸いです。


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