悪役(?)†無双 (いたかぜ)
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各地編
序章


初めまして、いたかぜです。
初投稿となりますがよろしくお願いします


唐突だが俺は知っている。この世界が恋姫†無双というゲームの世界だったということを。俺がこの世界に転生していることを。俺がこの世界にいるのには涙なしでは語れない理由がある。その一部を見てもらおう。

 

 

~ダイジェスト~

 

 

「やっほー! アタシ神様! 突然だけど手違いで君をこ○しちゃったの! 許してテヘペロ☆ それで現世には戻れないけど君が好きだった恋姫なんとかというゲームに転生させてあげるね! あ、もちろんチートありありでね! 一応主人公は登場しないから好きにやって貰ってもいいから! それじゃ頑張ってね! バイビー!!」

 

 

~終了~

 

 

な? 涙なしでは語れないだろ? 夢かと思ったら目覚めてみると赤ん坊だった時には本気で神様を信じちまったよ。(ツラ)見せろぶん殴ってやる。

まぁそんなこともあって恋姫の世界に生まれた俺はある目標の為に生きることにした。その理由は……

 

「恋姫武将を“くっころ”させたい!!」

 

そう何を隠そう俺はその手のゲームも大好きなのだ! だからこそこの世界のヒロインの屈辱的な顔を拝めると思うと興奮が収まらないぜ。

だから俺は自分が悪役になることを決め、その為の準備をすることにした。

 

まずは幼少期は目立たないこと。子供の時に目立ってしまうと天才やら神童やらと騒がせてしまう。そうなると恋姫のヒロインに俺の存在を知られてしまう可能性がある。それでも良いが俺のプランとしては突如現れた悪役によってプライドもズタズタにする方がより効果的である。幸いにも俺は名族やら名家やらではなく、ごく一般的な村の息子として生まれた。

だから俺は普通の子として生活を送った。適当に親の手伝いをし、適当に叱られ、適当に村の人たちと交流する。

そのお蔭もあって村からの評価は……

 

「いると助かるけどいなくても問題ない普通の子だな」

「これといって特徴がある子じゃないわね」

「誰そいつ?」

 

ご覧の通りである。完璧だけど目が潤むのは何故だろう。

 

次は情報。神様が言うにはこの世界には主人公である北郷一刀は出てこないらしい。だからどのルートで進むかわからない。事によってはヒロインがいなくなってしまう。これは大問題の案件である。くっころされる前に退場されては意味がない。

そこで対策としてはたまにくる行商人と仲良くなること。商人とは様々な街や地方を訪れるため、情報を得るにはうってつけである。こんな田舎村に来るか心配もしたが、定期的に訪れてくれる商人がいたので俺は訪問した際の手伝いを引き受けた。商人は最初こそ疑いはされたが、村の評価もあって段々と俺を受け入れてくれた。

そして仲良くなってきた頃に……

 

「おじさんはいろんなところを回ってるの?」

「ああ。これでもお偉いさんとも繋がりはあるんだぜ」

「マジですか!? 俺、ここから出たことないんで街の話とか聞かせて貰ってもいいですか?」

「お安い御用さ。といっても今はちょっと不況だから面白くないけど……」

「不況?」

 

こうして俺は商人から情報を聞き出せた。話からするとどうやらが漢王朝が弱り始めており、賊が増加したとのこと。

俺は恋姫こそやっていたが正直三国志は詳しくはない。だから漢王朝と言われてもピンと来ないが張角について質問したところ初めて聞くとのこと。だからまだ黄巾の乱は始まっていないらしい。

おじさんありがとう。悪人になってもおじさんは襲わないようにするね。

 

そして最後は強くなること。今こそ普通の子で過ごしているが神様から頂いたチートがある。しかし戦いに関してはど素人である。まずは村の目の届かない場所で特訓を行った。やはりというべきか身体能力は桁はずれである。試しに木を思いっきり殴ってみたらキレイに拳が貫通した。はんぱねえなオイ。そしてこの力は任意で出せるみたいだが正直暴発してしまうのが怖いのでそれを抑える特訓を行っていくことにした。

独学ながらもチートのお蔭もあり、上手く制御出来るようになり、今では手からビームを出せるようになった。……あれ?

そして長い月日が流れた頃……

 

 

~森~

 

 

「ククク……ようやくだ」

 

長い長い準備期間を経て、俺は村を飛び出して山賊っぽいことを行っていた。まぁ山賊とはいっても村からではなく同じ賊から強奪していたんだけど。奪った物資は大半を奪われた村に返し、少しちょろまかす程度には悪さをした。顔がバレたら嫌なので村の近くに置くことにしている。顔にはフードを被り、口元もマフラーで隠すなどの遠くから見られても大丈夫な対策もばっちりだ。

こうして着々と力をつけていき、俺の部隊も20人を超えていた。あまり多すぎても目立ってしまうからこのくらいが丁度いい。

 

「兄貴が笑いながら武器の手入れをしている……」

「こりゃあ近いうちに何かあるな」

「笑ってる兄貴もきゃわいい……」

 

俺の部下もまた猛者たちであり、俺自身で訓練を行った。どうやら教える際にもチートは作用するようで教えただけで1人で一つの賊を撃退できるようになっていた。余談だが最近、尻に殺気を感じるのは何故だろうか。

 

「御主人様」

 

得物の手入れを行っている最中に俺に話しかけてきた人物。この時代には余りに合わない“メイド服”を着用した顔が整っている女性。

名は孫乾(そんけん)、字は公祐(こうゆう)。真名は美花(みーふぁ)

賊を襲った時に捕らわれていた女性である。基本、俺は捕まっていた人は村へ返すのだが彼女は俺の部隊に入りたいと言ってきたのだ。最初は断り、村へと返したが、拠点としている隠れ家を見つけられてしまったので仕方なく部隊への参加を許可した。

ちなみにメイド服は夢の中で神様が「面白いものがあったから置いとくね!」と言って目を覚ますと枕元に置いてあったのだ。せめての抵抗でそのメイド服を窓から捨てると次の日に美花が着てきた。なにしとんねんと思ったが予想以上の破壊力であったのでそのままにしている。というよりこの子めっさ可愛いけど恋姫のキャラにいたっけ?

 

「各地の情報が集まりました。いかがされますか?」

「ククク……実はもう行き先は決めている」

「と、申されますと?」

「銭唐だ」

「「「えっ!!?」」」

 

俺の発言に部下たちは驚愕の顔を隠せない。

 

「正気ですか兄貴! あそこには多くの海賊がいるんですよ! いや海賊ならまだいいです。あそこには……」

「江東の虎……だな」

 

部下が心配しているのは賊などではない。そこで賊退治を任命されている江東の虎である孫堅(そんけん)の存在だろう。その武勇は俺にも届いている。

 

「そうですよ! 今までとは話が違います! ですから兄貴! 此処は一旦落ち着いて……」

「ククク……だからこそ行かなければなるまい」

「兄貴!?」

 

そう行かなくてはいけないのだ。孫策や孫権、孫尚香の母親である孫堅。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶対に美人さんに決まってんじゃん! ゲームだと居なかったから是非とも会ってみたいんだよ! いつ退場になるかわかんないから!

そして願わくは最初の“くっころ”ヒロインになってもらおうか。げへへ……

 

「やっぱり兄貴も武人だな。その名を聞いて笑ってやがる」

「だが、これでこそ兄貴だぜ! こうなったら何処までもついていくぜ!」

「兄貴の笑い声……あれ……初めて聞いた時……なんていうか……その…下品なんですが…フフ……勃○……しちゃいましてね……」

 

各々もまた俺の声に賛同してくれたようだ。最後の奴はどこかに捨ててこよう。じゃないと俺が“くっころ”されてしまう。

 

「美花」

「既に準備が出来ております」

「さすがだな」

「ッ……勿体なきお言葉、です」

 

美花は本当に有能な存在だな。だが何故か俺が褒めると身体を震わすことが多い。風邪かな?

まぁいい。記念すべき最初のターゲットは定めた。これより、俺の野望がはじまるのだ!

 

「俺は臧覇(ぞうは)! これより始まるは俺の天下よ!! いくぞてめぇら!!」

「「「ヒャッハーーーー!!!」」」

 

待っていろ恋姫よ!!!




呼んでいただきありがとうございます。
多分呼んでアレ? と思う部分もあるかと思いますが、完全な三国志を目指すわけではないのでそこらへんはご理解の方よろしくお願いします。

それではまた次回。


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第1話

~孫堅サイド~

 

 

「………………」

 

天を見上げる美しい女性。ただそれだけで絵画にもなる。女性の足元には人間“だった”物体が転がっているの除けばだが。

彼女の名は孫堅(そんけん)。字は文台(ぶんだい)。真名は炎蓮(いぇんれん)

江東の虎と評される武人である。死屍累累という言葉通り、彼女以外の人間は見当たらない。そんな状況で彼女は天を見上げて何を思うのか。そこへ……

 

「相変わらずの戦ぶりですね、大殿」

 

何人かの兵を引き連れた女性が近付いてきた。こちらもまた美しく凛々しい女性である。

 

粋怜(すいれい)か」

 

名は程普(ていふ)。字は徳謀(とくぼう)。真名は粋怜(すいれい)。炎蓮に仕える古参の将である。

 

「こちらもあらかた片付きました。あとは適当に兵を任せればよろしいかと」

「そうか……」

 

報告を聞く炎蓮は一度も粋怜を見ず、ずっと天を見上げていた。

 

「不満ですか?」

 

長く仕えている粋怜には多少なりに理解出来る。炎蓮は生粋の戦人。彼女が求めているのはこのような賊狩りではなく、猛者との死闘。全力でぶつかり合い、生死が交じり合う闘い。それで欲求は満たされる。しかし、戦を求めても求めても戦場はなく、ただの狩場しかないのだ。それでは炎蓮の欲求は満たされるどころか、ますます溜まっていくばかりである。

 

「違うぞ粋怜。不満は確かだがな」

「おや、意外な返答」

 

しかし、炎蓮から返って来た言葉は粋怜の予想とは違うものであった。

 

「オレは待っているのだ。この欲を満たしてくれる想い人が現れることを」

「……お言葉ですが、そのような人物がいるとは思えませんね」

「ハッキリ言うな」

「これでも長く仕えているんです。仮にいたとしても人間かどうか疑いたくなります」

「大地は広い。その中にはオレすら敵わん奴がいるかもしれんぞ」

「……まさか。猛者と言われた武人が大殿に挑み、大地へと還っていきました。それでも信じようと」

「ああ。でなければオレが乱世を起こせばいい」

「今のは聞かなかったことにします」

 

そして炎蓮は剣を仕舞い、馬に跨る。

 

「近くの山に向かう。後は任せたぞ粋怜」

「兵は連れていきますか?」

「いらん!!」

 

そう言い残し、炎蓮は大地へ駆けていく。いずれ会う猛者を求めて……

 

 

~山~

 

 

「ククク……此処も制圧だな」

 

此処の地域は海賊が多いので山を拠点とする賊は少ないと思っていたが、予想以上に多くてびびちまったぜ。まぁ大方の奴らは片付いたが。全く虎さんは何をやってるんだ。

 

「兄貴、新しい拠点もできやした」

「ご苦労。それぞれの役割が終わり次第、体を休ましておけ」

「へい!」

 

にしてもさっきまで木と草しかなかったのに、何で木製の小屋が出来てるんだ? 俺の部下が用意したと言っていたが素直に大工でも目指せば後世に名を残せるぜ?

 

「御主人様、少しお時間を」

 

俺の背後から美花が現れた。いや、ビックリしてないよ? 突然気配もなく現れた美花に対して驚くわけないじゃないですか? ホントウダヨー?

 

「御主人様?」

「っとすまん。して何事だ?」

「はい。先の賊退治の際なのですが……これを」

 

そう言って美花が渡してきたのは賊が使っていた剣である。ただの剣ならば問題ではないが……

 

「……なるほど。賊が使うにしては随分と上等な剣だな」

「はい。それでその賊たちの防具も調べましたら、これもまた賊が使うには充分すぎる品物ばかりでした」

 

一つや二つならば奪って手柄程度には出来るが、話からすると賊全員が同じような身なりだったっていうことか。となると……

 

「この近くで兵を忍ばせていた理由があるということか」

「おそらくはその通りかと」

 

待ち伏せ……そうなると此処で何かが訪れるってことか

 

「……美花」

「このことは内密にしておきます」

「さすがだな」

「アンっ……勿体なき、お言葉」

 

本当にこの子優秀だな。時折、もぞもぞするのは少し心配だけど。

 

「俺は少し出る。後は任せるぞ」

「いってらっしゃいませ、御主人様」

 

さて……鬼が出るか蛇が出るか。はたまた噂の虎さんかな?

 

 

~山奥~

 

 

さてとやってきましたよ奥さん。今は物陰に隠れていますが目の前ではとんでもない光景が写ってますよ。

 

「チッ……此処もはずれか」

 

首を回しながら剣を仕舞う女性。かなりの美人さんなんだけど足元には屍が多数ありますので若干ホラーです。というよりあの人孫堅さんじゃないですかね? 桃色の髪に褐色の肌、そしてなによりのナイスバディな身体。あれ、孫策さんよりもデケェぞ。ハンパねぇなオイ。このままじっくりと眺めるのもええんじゃねいですかねグヘヘ……

 

「何処にいるのかねオレの想い人は……テメエもそうはおもわんか?」

 

………………俺の事? いやまさか。かつて俺はかくれんぼして、そのまま行方不明扱いになってテレビにも取り上げられたほど、影が薄いといわれた男だぜ? 簡単に見つk

 

「そこの茂みに隠れている野郎だ。早く出てきな」

 

バレてーら。ええい、こうなっては仕方ない。

 

「ククク……いつから気付いた?」

「この山ん中入ったときから妙な気配を感じてた」

 

マジですか? やだこの人怖い。

 

「そんでテメェは何してるんだ? 仮にもオレはここを任された身なんでな。事情を話さなければ斬る」

「ククク……さすがは猛将。血に飢えた虎とはまさにこのことだな」

「……話す気はないらしいな」

 

そう言って仕舞っていた剣を再び抜く孫堅さん。ならば……

 

「一つ虎退治を行うとしよう」

 

こっちにはチートもあるんだ。いざとなればビームを出せば平気平気。

 

「フン……ほざけッ!!!」

 

すると突如、目の前に孫堅さんの顔がドアップになった。ってちょ?!

 

「せいッ!」

 

すぐさま俺も剣を抜き、孫堅さんの剣を止めた。というより迷いなく首を狙う辺り、流石ですね。

 

「ほう……いい反応だ」

「そいつはどうも」

「だが……よッ!」

「ぐッ?!」

 

ぐおおお……ず、頭突きと来ましたか。この人は何でもやるな。今ので確信したわ。

 

「どうやら闘いはまだまだ赤子みてぇだな」

「……さすがは虎さんだな。驚きましたよ」

「まさかこれで終いってーのはないよな? さぁもっと楽しもうぜ!」

 

楽しそうに闘うなーこの人は。だけどこれほど強い人だ。さぞかしプライドも高いに違いない。

 

「ククク……残念ながら楽しむのは俺だけだ」

「ほう……言うねぇ」

 

見てろ。そんなプライド、ズッタンズッタンにしてやるんだからね!

 

「すぅ……はぁ……」

 

俺は深呼吸をして、狙いを孫堅さんの顔に狙いを定め……

 

「セィリャアアーーー!!!」

 

いわゆる“牙○”と言われる突きを披露した。

 

「ッ!? チィッ!!」

 

孫堅さんも反応し、剣で防ごうとしたが時既に遅し……

 

「ガハッ!!」

 

その突きは防いだ剣ごと孫堅さんを吹き飛ばした。というより防いでくれなかったら貫いてしまったかもしれん。危ない危ない。

 

「ゴホッゴホッ……ッは!」

「動くな」

 

木にもたれかける孫堅さんの首に剣を向ける。やべぇ今の俺、めっさ悪役じゃね?

 

「ククク……先で油断したな? 弱者と思った人間に喰われる気持ちはどうだ?」

「………………」

 

俺を睨みつける孫堅さん。やばい、興奮が収まらないぜ。さぁそのまま“くっころ”展開に……

 

「フフフ……アッハッハッハッ!!」

 

あれ? 急に笑い出したよこの人? さっき吹き飛ばしたときに打ち所が悪かったのか?

 

「何が可笑しい?」

「可笑しいのではない。嬉しいのだ! 世に絶望していたオレが若造に敗北するとは! やはりオレは間違っていなかったな!」

 

それからも笑いを止めようとしない孫堅さん。マズイこのままでは向こうのペースになってしまう。

 

「オ、オイ」

「フゥ~……笑った笑った。さて、“想い人”よ」

「お、おう何だ」

「別にこのオレの首を持っていっても構わんが一つ頼みがある」

「頼み?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今すぐ抱いてくれ」

「………………What?」

 

あるぇーーー?(=゚ω゚=;) くっころどころかとてつもなく嬉しそうなんですが? というよりこの人人妻じゃないんですか?

 

「き、貴様には子供がいるはずじゃ?」

「ほうよく知ってるな。だが、そんなことは関係ない」

 

そ ん な こ と ?

自分の娘をそんなことっていったぞこの人! 娘に聞かれたら悲しむぞオイ!

 

「どうせなくなる命ならば猛者に抱かれて死んでいきたい。さぁこい!!」

 

そう言って着ていた服を脱ぎ捨てて、豊満な身体を披露する孫堅さん。うわすげぇ……じゃなくて! 待ってお願い! 違うの! 展開が全く違うの!

ええい! こうなったら……

 

「……き」

「き?」

「今日のところはこれで勘弁してやるからな!! 覚えてろーー!!」

 

秘奥義! 三十六計逃げるに如かず!!

 

「はぁ!? ここまできてそれはねぇーだろ! オイ!」

 

何か言ってるが一目散に逃げろ俺! チクショー! 次こそは! 次こそはぁーーー!!!

 

 

その日、夢の中で神様に会い「ヘwwwタwwwレwww」と思いっきり笑われた。覚えてろよこのヤロー




ちなみに話で出てきた謎の賊は孫堅を討とうとした者たちです。
主人公がいなければそのまま討たれてました。

それではまた次回


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第2話

感想、お気に入り登録ありがとうございます。


〜拠点〜

 

 

「………………」

「あ、兄貴はどうしたんだ?」

「いや、昨日突如いなくなったと思ったらすぐ戻って来たらずっとあの状態なんだ。俺にも何がなんだが……」

「落ち込む兄貴……嫌いじゃないわ!!」

「御主人様……」

 

外野が騒がしいが今は何もする気にならん。昨日、孫堅さんに勝ったと思っていた。だか、あの人は俺の想像以上の行動を取った。俺は何も出来なかった。これから俺は悪役になって恋姫のヒロインをくっころしなければならん筈だ。このままでいいのか、いやよくない。これからは生まれ変わるのだ。なればこんなところでくよくよしてる場合ではない!

 

「よし、次の策だ。部下を集めろ」

「だ、大丈夫なんですか?」

「だいじょうぶだ…おれはしょうきにもどった!」

「は、はぁ……」

 

困惑しながらも部下が全員集まり、次の策を説明する。

 

「まずは俺の身に起きたことを説明する。実はこの森に孫堅が入り込んでいたのだ」

「「「えっ?!!」」」

 

皆は驚きを隠せていない。それもそうだろう。100人の賊に“関わりたくない人物は?”とアンケートを取ったならばぶっちぎりでNo.1であるあの孫堅さんだからな

 

「孫堅ってあの……」

「噂だと生き血を求めて賊狩りを始めたとか……」

「龍と闘って右目を喰らったって話もあるぜ?」

「実はあと三回変身が出来るという話も聞いたことがある」

 

あの人なんなの? 実は魔王でしたって言われても不思議じゃないよ?

 

「で、ですが、入り込んで“いた”と言うと?」

「ふっ……俺が退治してやったのよ」

「「「な、何だってーーーっ!!!」」」

 

君たちノリがいいね。そういうの好きよ俺。

 

「さっすが兄貴だぜ!」

「まさかあの孫堅を退治出来るなんて……もう怖いもん、無しだぜ!!」

「アタシの心がギュンギュンきちゃうわーー!!」

 

先のビビりから打って変わって士気が爆上がりである。まぁ嘘はついてないし、問題ないだろう。

 

「そんじゃあその勢いで孫堅を倒しちまうってことですね!」

「落ち着け。孫堅1人倒してもあそこは崩れん。強い土台が出来上がっているからな」

「そ、そうでしたか。すいやせん、早とちりしてしまって」

 

いや、その気持ちわかるよ。君は悪くない。そのままの君でいてね。

 

「いいかお前ら? 戦ってのは何も力だけじゃねえ。オツムの使い方ってのもあんだぜ?」

「「「おおー……」」」

「美花の情報によると孫家には多くの猛将や軍師が存在する。その中でも俺が特に注目してるのがいる」

「そ、そいつの名は?」

「……名は孫策。孫家を担うべき英雄だ」

 

さぁ……私の作戦に恐れろ!!

 

 

孫策(そんさく)サイド~

 

 

う~~ん! 気持ちのいい朝! こういう日は散歩が一番よね!

 

「孫策様、おはようございます」

「は~い! おはよう!」

 

いや~賑わってるわね~。全く……冥琳も素直に来ればよかったのにー。ぶーぶー。まぁお土産くらいは買っていってあげようかしら。私ってば優しー!

 

「いらっしゃい、いらっしゃい! 出来立ての肉まんが揃ってるよー!」

 

あ! いつもおいしい肉まん屋さん! ちょうどお腹もすいたし買ってこー!

 

「おばちゃーん! 私にも肉まん一つ!」

「おや孫策様! それじゃあ少し待ってね。出来立てを上げるから」

 

やったわ。

 

「あいよ! やけどしないよう気をつけるんだよ!」

「はーい。はむ…………ん~~~おいふい~~」

「全く足をバタバタさせちゃって……昔っから変わらないわね~」

「それが私のいいところじゃない?」

「はいはい……そういえば孫策様は大丈夫なのかい?」

「? 何が?」

「今、街では流行の病気があるって噂だよ?」

 

病気? そんな話、城では聞かなかったけど……

 

「ただの噂じゃない?」

「実はね、その病気ってのは表に出てこないで気付いたら手遅れになるって病気らしいのよ」

「うわ何それ……何か特徴とかないの?」

「普通の医者でも見落とすらしいのよ……怖いわね~」

 

流れの病気ね……気をつけてやらないと。

 

 

数日後……

 

 

冥琳(めいりん)! 今日という今日は付き合って貰うわよ?」

雪蓮(しぇれん)……あいにく私はお前ほど暇ではないんだ」

「ひっどーい! それだと私は万年暇人娘ってことになるじゃなーい!」

「ほう、自覚はあるのだな。感心したよ」

 

今日の冥琳、すごく毒がある。やっぱり肉まんのお土産を食べたのが原因かな?

 

「……はぁ。このままじゃずっと私の前で駄々をいいそうだな。仕方ない」

「冥琳!!」

 

やっぱり持つべきは友よね! それじゃあ早速街に繰り出そう!

 

 

~肉まん屋~

 

 

「おばちゃーん! 肉まん二つー!」

「また来たのかい孫策様。おや、周瑜様も一緒とは珍しい」

「いつも雪蓮がお世話になっております」

 

アンタは私の保護者か。

 

「ほら、熱いうちに食べな!」

「はーい! はい冥琳!」

「わかったから……ん、おいしいな」

 

やっぱり冥琳も食べたかったんだ。この前は本当にごめんね?

 

「そういえば孫策様はあの後は大丈夫だったかい?」

「あの後? ……ああ、流行の病気?」

「病気……この前の会議でも話してたな」

 

こういうのはすぐに報告するに限る。私の愛してやまない街だもん。何かあってからじゃ遅すぎるからね。あの後は私や将だけじゃなく、兵や侍女のみんなにも話しをして異常があったらすぐに伝えるように指示をしてるわ。

 

「私たちは問題ないわよ~」

「ああ。本当にただの噂だったみたいだな」

「それは安心だね。だけど、知らないうちに病気に犯されるのも怖い話だね」

「………………」

 

あれ? 少しだけど冥琳の顔が暗いような……気のせいよね?

 

「そういや聞いたかい? その病気を見つけてくれて治してくれる医者が来てるって話は?」

「へ? 何それ?」

「何でもその病気を聞いてわざわざやってきたらしいのよ。流行の病気だけじゃなくて、格安で怪我や風邪にも対処してくれるから一時はすごい列になったって話だよ?」

 

へぇ~……そんなことしてくれる人がいるんだ。有難い話ね。今度、会いに行こうかしら。

 

「………………」

「……冥琳?」

「雪蓮、ちょうどいい機会だからその医者に会いに行こう」

「え? ま、まぁいいけど……」

 

さっきまで食べていた肉まんを止めて、私に相談してきた。自分から行こうだなんてめずらしいわね。

 

「店主、その医者は何処に?」

「ん~~? アタシはわかんないわね。でもそこの客が通ったって言ってたわ」

「感謝する」

 

そう言ってすぐにその客に話を聞きにいく。本当にどうしたのかしら?

 

 

~小屋~

 

 

話によれば此処で診断をしてるらしいわね。それにしてもこんなところに小屋なんてあったかしら?

 

「それじゃあ行こう」

 

冥琳自ら率先して扉を叩く。此処まで行動力があるの初めて見たかも……何があったの?

 

「どうぞ~」

 

扉を開けると椅子に座り、顔を隠した男性と白い衣装に身を包んだ女性が立っていた。怪しい。物凄く怪しい。

 

「すいませんねこんな姿で。多くの患者を診るんで対策をしなくてはいけないんですよ」

 

私、顔に出てたかしら? あんま失礼なことしちゃいけないわね。

 

「いや、構わないです。それで流行の病気についてですが……」

「ああ、あれは長い潜伏期間が必要なんですよ。だから一日や二日で手遅れです! なんてことはないので安心してください。その薬も出来ているのでなるべく安く提供してます」

「それなんだけど何で安く提供してるの? それだけでかなりの金額になりそうだけど……」

「高く提供して、治せる命を治せなくなってしまった……そんな悲しい物語は作りたくないんですよ」

 

……本当、さっきの私は失礼だったわ。見た目でだけで怪しんで、判断するなんて。まだまだね私も。

 

「………………もし、その期間が長かったら………………手遅れですか?」

 

え? 冥琳?

 

「……君」

「はい」

 

すると医者は女性に声をかける。女性はすぐに冥琳の身体を触り、軽い質問をした。その質問に医者は一つ一つ書き残す。

 

「……正直に申し上げます。かなり危険な状態です」

「え!?」

 

そんな……冥琳が!?

 

「これは流れの病気ではありません。憶測ですが既に何人の医者にも相談をされましたね?」

「はい。ですが、口を揃えて手遅れと言われまして」

「どうして……どうして黙ってたの!!」

「………………すまない」

 

出来れば言い訳を言って欲しかった。そうすればなにかしら言い返しも出来た。だけど、素直に謝られてしまっては何も言うことが出来ない。

 

「なんでよ……どうしてよ……」

 

もはや何も考えられなくなってしまった。これから国の為に戦おうと誓った親友(とも)がいなくなってしまう。そんなの考えたくもない。これからはどうすれば……

だけど、此処で救いの言葉が聞こえてきた。

 

「ですが……手遅れではありませんね」

「「!!?」」

 

さっきまで黙っていた医者から出た救いの言葉。その言葉に私と冥琳が飛びつく。

 

「な、治せるのですか!?」

「もちろん可能性は高くはありません。ですが少しの時間をいただければ……」

「そっちの条件はいくらでも飲むわ。だからお願い! 助けて!」

「……では、数日後に行いましょう。場所は何処で?」

「この先にある城が私たちの拠点です。可能であるならばそちらで行って頂けませんか?」

「わかりました」

 

そういって医者はすぐに奥の部屋へと向かった。私たちはあの医者を信じ、城へと戻っていく。私に何か出来ることはないだろうか? いや、やめよう。今はただ、冥琳の近くに居よう。

 

 

~数日後・???サイド~

 

「………………」

 

全ての準備が出来ました。後は……私次第となります。いはやは、これほど気持ちを抑えるのが難しいとは思いませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名医かと思った? 残念! 臧覇ちゃんでした!

フフフ……こうも簡単に忍び込めるとはな。存外、孫策さんも温いってもんだ。さっきまで話していた医者は俺で女性ってのは美花だ。今日は1人で来たがな。それにしても、流石は俺の作戦だな。

 

実は流行の病気というのは俺の部下が広めた噂。先に潜入してその噂を流す。そして孫策さんの行き着けのお店にも足を運び、噂を直接伝える。

そして何日かしたら俺と美花は医者と助手に変貌して、小屋を作成。そこで医者の仕事をはじめる。知識は子供の時に本を読んでいたので問題はない。そして必ず周瑜さんと一緒に訪れるであろう肉まん屋で俺の居場所を教え、後は流れ通り……

 

ここまで上手くいくとは恐れ入ったぜ。後は持ってきた睡眠薬を周瑜さんに飲ませ、人質を確保。そして、それを餌に……

 

 

~妄想~

 

 

「謀ったわね!! 冥琳から離れなさい!」

「オイオイオイ、立場が理解できてねぇんじゃねーか?」

「くっ……この外道!!」

「最高の褒め言葉だな! グヘヘへ……!」

「冥琳を殺すくらいなら……私を殺しなさい!!」

 

 

~終了~

 

 

完璧だ。全てにおいて完璧だな。孫策さんがまだ母の背中を見ている時期。まだ覚醒しきっていない今が狙い目なのも素晴らしい。

さぁ……目的の場所に到着だ。

 

「先日の医者です」

「入ってください」

 

これから始まるショーを楽しんでいってね!

ゆっくりと扉をあけるとそこには……

 

「………………」

 

不安そうな孫策さん。これから絶望へと変わるとも知らずに……

 

「今日はよろしくお願いします」

 

周瑜さんは覚悟を決めた顔だな。まぁ関係ないがな!

 

「冥琳を助けてくれるんですね? お願いします!」

 

何か見たこともない美しい女性からお願いされてしまった。めっさ可愛い。少し驚いたがまぁいいだろう。

 

「今日はよろしく頼む」

 

そして準備満タンで話しかけてきた華佗(かだ)さん。………………ん!!?

 

「かかかっ華佗!? ど、どうして此処に?」

「私が連れてきたんです! 彼も流れの医者なんだけど事情を話したら引き受けてくれたんです!やっぱり医者も多い方がいいかと思いまして!」

 

チィ! 余計なことをしてくれたな可愛い嬢ちゃん! というより本当に君誰?!

 

「あ、挨拶が遅れました。私は太史慈(たいしじ)と言います!」

 

あ、これはご丁寧に……じゃねえよ!!

マズい、非常にマズい。もちろん華佗さんのことは知っている。この人がいると本当に治してしまう。いや、そもそも、孫策さんをくっころさえすれば後で華佗さんを全力で探して教える予定だったのに……

 

「それにしても驚いたよ。俺自身でも診断したが、かつてないほどの病魔が潜んでいた。このままでいたら確実に魂と交わって治療が出来なくなってしまう」

「そんなに酷かったの?」

「ああ。しかも、今のまま俺の治療をしようものなら確実に後遺症が残る。だから、アンタの治療方法を聞いてから対策をしようと思ってな」

 

治療? んなもんしねえよ!

だが、此処まで来て「実は嘘でしたー! テヘ☆」なんて言ってみろ。首と胴体の離婚が成立してしまう。それだけは阻止せねばなるまい。

 

「えーっと……こ、これを使って……」

 

孫策さんをくっころにします。

 

「おお! やはり持っていたか!」

 

手に持っていた薬を見た途端、表情が明るくなる華佗さん。

 

「それは?」

「これはいわゆる仮死にさせる薬だ」

「仮死……ですか?」

「人間は眠っていても身体は動いてる。だから魂と隣接してる病魔への対処は難しいんだ。だけど、一時的にだが死に近い状態をすることで病魔に治療が行いやすくなる」

「でも、それって危険なんじゃ……」

「ああ。一般人だけじゃなく、医者も分量を間違えると本当に死んでしまう薬だ。だが、これならば死ぬことはない。流石だ」

 

へぇー勉強になるなー。え? 俺? 全く考えてなかったぜ!

 

「アンタ、多分治療方法は既にあると思う。だが、此処は俺の五斗米道(ゴットヴェイドォー)をやらせてはくれないだろうか?」

「……どうぞ」

 

もーどうにでもなれー

 

「感謝する!! それじゃあ始めよう! 準備はいいかい?」

「とうに出来てます。んっ」

 

そして周瑜さんは俺の薬を飲み、目を瞑る。しばらくすると寝息も聞こえなくなり、頃合と見て華佗さんが針を出す。

 

「よし……いくぞ!! 我が身、我が鍼と一つとなり! 一鍼同体! 全力全快! 病魔覆滅! げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

すると周瑜さんの身体がかつてない光を見せる。何の光ぃ!?

だんだんと光もなくなり、先ほどと変わっていない周瑜さんの寝顔が写っていた。

 

「よし、治療は完了した。後は起きるのを待とう」

 

華佗さんの言葉を信じ、静かに待つ孫策さんと太史慈さん。此処で人質にしたいけど完全に2人が手を繋いでるから出来ない。チクセウ。

しばらくして……

 

「………………ん?」

「「冥琳!!」」

 

仮死状態から復活した周瑜さん。それに気付いて声をかける孫策さんと太史慈さん。

 

「大丈夫? 何処が痛む場所はある?」

「いや……むしろ今まで不快だったところがなくなってる」

「今ある病魔はなくなったからな。重い枷が取れたはずだ。だが、しばらくは無理をしないようにしてくれ」

「はい。ありがとうございます」

 

孫策さんと太史慈さんは涙を見せながら周瑜さんの手を強く、されど優しく握り、笑みを見せる。周瑜さんもまた、それに応えるように笑みを返す。

しばらくして孫策さんが俺と華佗さんの方に向かい、頭を下げた。

 

「2人とも、今回は本当にありがとう」

「礼ならばそっちの医者に言ってくれ。俺はいわばおいしいところをもっていっただけ。彼くらいの腕ならきっと治療も上手くいったさ」

「それでも、助けてくれたことには変わりはないわ。ありがとう」

 

華佗さんとの会話が終わり、今度は俺に顔を向ける。

 

「貴方には返せない恩が出来ちゃったわ。もし、あの時に会わなければと思うと……考えたくもないわ」

「………………」

「貴方でよければだけど……此処の専属の医師にならない? もちろん今回のことは上に通して、相応の地位にさせるから」

「………………」

「? あの……」

「こ……こ……これで勝ったと思うなよぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

そう叫んで、俺は窓から飛び降りた。

 

「ええ?! ま、待って! せめて名前だけでも!」

「チクショーーーーーーーー!!!」

 

 

こうして俺の作戦はまたも失敗に終わるのであった……




感想、お気に入り登録ありがとうございます。
既にお気に入りが200を超えていることに驚きと歓喜でお腹が痛いです(汗)
今後ともよろしくお願いします。


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第3話

話の途中のが途切れておりました。大変申し訳ございません。


袁術(えんじゅつ)サイド〜

 

 

美羽(みう)さま美羽さま。今回も多くの資金が集まりましたよ〜」

「にょっほっほっ! そうであろうそうであろう!」

 

うむ! やはり妾の威光に民も理解しておるのじゃ! 七乃(ななの)も嬉しそうで何よりじゃ!

 

「さてさて美羽さま。今後の方針についてなんですけど……」

「七乃に任せる!」

「わかりました~」

 

七乃は有能じゃから何も心配いらん! それに……

 

「お主も七乃に手を貸すのじゃ。これは命令ぞ!」

「仰せのままに、袁術さま」

 

新しく雇ったこやつもまた使えるしの! 存分に働いて妾を幸せにするのじゃ!

 

「それでは紀霊(きれい)さん。この後は別室で話しましょうか」

「はっ!」

 

うむ! 苦しゅうない苦しゅうない。さて……

 

「コーユー、おやつを頼むぞえ」

「はい、こちらに」

 

おお! これはまた一段と輝いてる蜂蜜水じゃ! ゴクっ……ん~~~~~! 美味なのじゃ美味なのじゃ!!

 

「袁術さま。こちらは異国の御菓子、曲奇餅(クッキー)でございます」

「おお……!! 美味しそうなのじゃ!」

 

コーユーもたくさんの御菓子を持ってきてくれる有能なヤツなのじゃ! これからも妾に尽くすように!

 

「にょっほっほっ!!」

 

 

~紀霊(?)サイド~

 

 

いや、(?)ってつけなくても俺が臧覇だってわかってると思うよ。見ての通り俺は今、袁術さんの配下となっている。何故かって? これも作戦の一部なのだ。

過去の失態をしてきた俺は考えた。孫堅さんと孫策さん。あの一族に無様な撤退を余儀なくされた。ならば次は孫権さんを狙おうとしたが、このままでいけば同じ過ちを繰り返す。ならどうすればいい?

しばらく考えていると、俺はあることを思い出す。

 

「そういえば呉のルートって、袁術いなかったっけ? ……美花はいるか!」

「此処に」

「今すぐ袁術の情報を集めてほしい」

「こちらになります」

「早くない!?」

 

ということがあって、俺の力だけじゃなく、袁術を利用して作戦を成功させようとしていた。

領地が広く、兵もたくさんいる。これを利用すれば必ず孫呉は俺の手に落ちる! それて孫一族や名だたる将のくっころ劇場が完成するのだ! たまんねぇぜガハハ!

 

「ちょっと紀霊さん? 聞いてましたか?」

「はっ失礼しました。少し考えごとをしておりまして……」

 

おっと。今は張勲(ちょうくん)さんの知恵とならねば。

というより少し手を加えた蜂蜜をたくさん献上しただけで軍に入れるだけじゃなく、かなりの地位をくれるのはどうかと思いませんか張勲さん?

ま、そんな非常識だからこそ助かったんだがな。これからは俺の駒として利用してやる。

 

「もう。次はありませんよ?」

「心得ております」

「よろしい。では次に美羽さまとの可愛い、可愛い散歩話を致しましょう。その時は美羽さまがですね……」

 

……この話、いる?

 

 

~美花サイド~

 

 

私の名前は孫乾。どこにでもいる村娘でしたが、ある日に賊が、私の村を襲い、攫われの身となりました。わずかな時間ですら絶望に感じていました。このままどこかに売られるのか、それとも賊の玩具になるのか……。そんなことを考えていた矢先です。

 

「「「ヒャッハーーーー!!!」」」

 

謎の軍団が賊を退治したのです。けれど彼らもまた荒れた格好をしており、捕まっていた女性らも不安でいっぱいでした。しかし、彼らの長である……私の御主人様は皆を解放してくれたのです。

皆は涙し、感謝の言葉も飛び交う状態。けれど、私の心は全く違いました。

 

(素敵……)

 

こうして私は御主人様のお役に立てるように努力しました。

そして今回の作戦で私に任された任務は……

 

「はむはむ……ん~~~! たまらんのじゃあ!」

 

目の前にいる袁術様の教育係です。私は最初こそ戸惑いましたが、袁術様と過ごす中で御主人様の言っている意味がわかったのです。

このお方は……何も知らないのだ。自分が歩けば道がある。自分が欲しければ出てくる。他人が見れば我が儘な人と言ってしまうでしょう。でも、何も知らないまま君主となり、言えばなんでも出てくる立場になってしまったらそれが当たり前になってしまう。なれば私が出来ることは一つ……

 

「袁術さま」

「ん? どうしたのじゃコーユー?」

「もし、よろしければ……少しお話を聞いてくれないでしょうか?」

 

このお方のために、精一杯の教育をする。それが御主人様のためならば……

 

 

~数ヶ月後・臧覇サイド~

 

 

「美羽さま。どうやら紀霊さんが話したいことがあるそうですよ」

「おお! お主の働きは妾にも届いておるぞ! してなんじゃ? 何か褒美が欲しいのか?」

 

な、長かった……まさか此処まで財政難だったとは思わなかった。というよりこんな状況でよく我が儘三昧を送れたな。いや、我が儘三昧だったからこうなったのか。

ともかく、このままではすぐにやられてしまうので景気回復、建物の補強作業、軍の強化、民への信頼回復……そして美花には袁術さんへの多少なりの教育。出来ることは手を尽くした。全ては孫呉のくっころのため。あとはそれとなく、袁術さんを誘導すればいける。いけるはずだ。

 

「実はですね……千年に一度と言われる蜂蜜を見つけることが出来ました」

「なんじゃと!? 蜂蜜とな!」

「はい。それはもう……濃厚さ、味、品質。どれをとっても普通の蜂蜜とは比べ物にならず、食べた者は幸福のあまりに翼が生えるとまで言われているようです」

「そ、それほどのものなのか……ゴクリ」

「ですが見つかった場所が問題なのです」

「場所……ですか?」

「孫呉の首都、建業なのです」

「なんじゃと!?」

 

ククク……これで袁術さんは蜂蜜欲しさに攻め込むはず。もし、孫堅さんが怖いならば俺の話術で上手く誘導して

 

「うむ。それならば仕方ない。今回は諦めるのじゃ」

 

や………………る………………?

 

「え、袁術さま?」

「なんじゃ?」

「えと……蜂蜜ですよ?」

「それは先も聞いたぞよ」

「それを諦めになると? いえ、もちろん孫堅は強敵ですが我が軍はそれすら凌駕する強さを持っております。ですから……」

 

いや、これは何かの間違いだ。きっと孫堅さんへの恐怖が袁術さんの思考を停止させたのだろう。恐るべし孫堅の覇気。

 

「違うぞ紀霊。妾の我が儘で戦を起こすのが嫌なのじゃ。それならば妾が我慢すれば問題なかろう」

 

………………………………はい?

 

「美羽さま……!!」

「袁術さま……」

 

そんな袁術さんに感動する2人。いや美花? 何で君まで感動してるんですか? いや、ともかくこれ以上は得策ではない。とりあえずは一歩退こう。

 

「そう、ですか。わかりました。では、私はこれで……」

「うむ。妾のためにわざわざご苦労であった。その働きを民にも頼むぞえ。にょっほっほっ」

 

袁術さんが……民の為に?

おかしい、何かがおかしいぞ!?

 

 

~廊下~

 

 

「どういうことだ……何が起きてるんだ?」

 

俺は夢を見てるのか? あんな袁術さんどのルートでも見たことないぞ? まさか隠しルートでもあったというのか?

 

「御主人様」

「ん? 美花か?」

「はい」

 

本当に君って気配なく背後にいるよね。もしかしてニンジャだったりとかしない?

 

「何か顔色が悪い様子でしたので……何か問題がありましたか?」

「いや、問題があるというかなんというか……ん?」

 

あれ? そういえば美花には……

 

「美花。お前には袁術の教育を任せたよな?」

「はい。私なりに全力で教育を行わせていただきました」

「全力で?」

「全力で」

「……ちなみにどういうことを?」

「国のあり方。民への配慮。王に求められること……書物で学んだ私ですが、袁術さまは大変優秀でしたのですぐに覚えて頂けました」

 

お前かい!!!

たしかに教育は任せたけど誰があそこまでやれといった! どうすんだよあれ! 本当に袁術様みたいな感じだぞ!

ええい。こうなっては仕方ない。一旦孫呉は諦める。

 

「美花。俺の部隊に連絡を」

「孫呉に仕掛けるのですか?」

「いや……この国だ」

 

 

~王座・七乃サイド~

 

 

「はい美羽さま。蜂蜜水ですよー」

「おお! 待っておったのじゃ!!」

 

はぁ~ん。やっぱり美羽さまは可愛いですね。先の凛々しい美羽さまもいいですけど、やっぱりこのトロ~ンとした顔がいいですね!

 

「それにしてもさっきはビックリしましたよ。まさか美羽さまからあんな言葉が出てくるなんて」

「うむ! 実はコーユーが妾のためにいろんな話をしてくれるのじゃ! その話が面白くての……つい、頭に残るのじゃ!」

 

ほぇ~。あの侍女さんやりますね。ということは侍女を連れてきた紀霊さんが有能となりますね……むむむ。何か面白くないですね。

 

「やっぱり七乃は一番の配下なのじゃ! 妾は大好きじゃ!」

 

あ~~ん! 美羽さま!

ま、彼は本当に優秀ですので腐らない程度には飼いならしましょうか。

 

「それじゃ美羽さま。この後は……ッ!?」

 

その時である。謎の武装集団が部屋に入ってきたのだ。

 

「な、なんなんですか貴方達は!?」

「袁公路だな……その命、貰い受ける」

「………………」

 

はぁ!? 何馬鹿なこと言ってるんですか! 美羽さまも黙り込むほど怖がってしまったじゃないですか!

 

「だ、誰かいませんか! 曲者です!」

「無駄ですよ。張勲さん」

 

………………え? 紀霊さん? それに侍女さんまで?

 

「皆は疲れて寝ております。起こすのは無粋ではありませんか」

「こ、これはどういうことですか! まるで謀反みたいに」

「みたいに……ではありません。謀反なのです」

「ッ!!!」

 

 

~臧覇サイド~

 

 

これですよ! どうですかこの悪役っぷりは! 今までで一番輝いてる気がする!

 

「私……いやもういいか。俺はある理由で孫呉を討たなければいかん。だからこの国を利用し、孫呉と戦を起こそうと思っていたのだ」

「個人的な事情で私たちを巻き込んだということですか。中々のクズっぷりですね」

「この世は弱肉強食。弱いものは喰われるのが世の理。お前が一番理解してると思うが」

「………………」

 

その屈しない目……大変好物でございます。

さぁ! このまま袁術さんと張勲さんの絶望顔を拝見しましょうか!

 

「やはりそうであったか。理解したぞよ」

 

………………ん? 袁術さん?

 

「ほう……何を理解したというのだ?」

「妾は暗愚なのじゃ。しかも、最近まで気付かないほどじゃ。しかし、お主とコーユーが来てからこの国が変わったのじゃ。そんなお主が妾の下にいるのが謎であった。じゃが、今回の謀反で理解出来たぞよ」

「………………」

「妾なんかよりお主が国の長ならば民も納得出来よう。それならば妾は喜んで首を差し出そうぞ!」

 

いや、あの、袁術さん?

 

「すまんな七乃。このようなことになってしまって」

「……この張勲。どこまでも美羽さまの傍でいる覚悟です」

「七乃……」

 

あれれ? この流れって……

 

「紀霊……いや、名も知らぬ英雄よ。主にお願いがある」

 

あれれ? この流れって……

 

「な、何だ?」

「この国の民を安心させてほしいのじゃ。それと……妾の真名は美羽。主に覚えて欲しいのじゃ」

 

そして袁術さんは満面の笑みを浮かべ……

 

「さぁ! 来るがよい!」

 

堂々たる姿で前に出てきた。

 

「………………いや………………あの」

 

おい! どうなってんだよこれ! 発注したヤツと違うのがきたぞ! 返品させろゴルァ!!

 

「(な、何か話が違う気がするんすけど……)」

「(お、俺たちはどうすれば?)」

「(女子供は趣味じゃないけど……兄貴がヤルなら!)」

 

部下たちも焦りが見えてきた。そうだろうな。俺も焦るよ!

 

「………………ク」

「? どうしたのじゃ?」

「クソーーーー!!!」

 

そう叫んで俺は懐に入れておいた煙玉を地面に叩き付、あたり一面を煙が包んだ。

 

「なんじゃ!?」

「美羽さま!」

 

驚く2人を置き、俺たちは撤退をしていく。そして煙が晴れるとその姿はなかった。

 

「……いないのじゃ」

「ですね。それよりも美羽さま! お怪我はありませんか!?」

「………………」

「美羽さま?」

「びぇ~~~ん!! 怖かったのじゃ~~~!!!」

「あらあら、大丈夫ですよ美羽さま」

「七乃~~!!」

 

 

~荒野~

 

 

「クソ! 途中まで上手くいっていたのに! 何故だ!!」

 

何か自滅の気もするが……次だ! 次こそはくっころ展開に持っていく!! 

 

「覚えてろよーーー!!」

 

 

こうして俺たちは夜の闇へと消えていった……




前回、200のお気に入りから2000以上になっていたことに恐れております。
感想も多く頂き、歓喜して足首を捻挫するというのもありました(汗)
皆様の期待に応えられるように頑張ります!


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第4話

くっころのお待ちの読者様。大変お待たせしました。
ついにくっころ展開が!?


~山~

 

 

どうも臧覇です。先の作戦が失敗に終わり、腹いせで闇雲に走っていたから場所がいまいちわからんとです。とりあえず山を見つけたのでそこを拠点にしようと思っていたら先客がいたとです。なので退治したとです。そしてその山賊の親玉っぽい2m近くある毛むくじゃらの大男の前にいるとです。

 

「こんなことして! タダですむと思うなよ!」

「………………」

「くっ……殺せ!!」

 

………………………………はぁ。

 

「男の……くっころなんて……」

「モガッ!?」

「見たかねぇーんだよチクショウ!!!」

「アガガガガッ!!」

 

大男の頭を鷲掴みにし、思いっきり握力をかけていく。

 

「出た! 兄貴の百の技が一つ! 鉄手(アイアンクロー)だぁ! さっすが鬼畜の兄貴だぜ!」

「自分の頭に指が入ってくるのがわかる恐ろしい技だ……。アレを躊躇なくやるあたり同じ人間とは思えない」

「アタシもアレで死に掛けたわ。お陰でソッチに目覚めたけど」

 

部下たちはいつのまにか観戦モードになっている。というより、みんな俺のこと馬鹿にしてない? 気のせいか? 気のせいなのか?

 

「ふぅ……そんで此処はどこだ?」

「今、姉御が周辺を探索してるみたいでっせ」

「ならそれまで待つか。他に情報は?」

「そういえばさっきコイツらが拉致ってた女子供がいましたが……」

「いつも通り逃しとけ」

 

本来なら女を誑かすのが悪役っぽいらしいが俺はやらない。俺の目標は高く、険しい道だ。そんじゃそこらの女じゃあ満足出来ないぜ。

 

「いやそれなんですが、どうしても感謝が言いたいと言って帰らない女がいるんすけど……」

「はぁ?」

 

んだと?また美花みたいなヤツがいんのかよ……。だが、此処でつっぱねたらそれでこそ美花の二の舞だ。なら悪役っぽく接してみるか。

 

「なら通してやれ」

「いいんですかい?」

「やることもないし、此処らで俺の怖さを見せておかねぇとな……ククク」

「わかりやした!」

 

さてさて……俺を舐めているお嬢さんをどういじめてやろうか。恥ずかしい服でも着させるか?

 

「兄貴! 連れて来やした!」

 

ご苦労。それではご対面と………………嘘だろ?

 

「さっきはありがとうなの! まさか隣の村で買い物した後の帰り道で賊に遭遇するとは思ってなかったの~。武器も持ってなかったから最悪だったの~」

 

なんでこんなところにいるんですか? 于禁(うきん)さん?

 

「あ、自己紹介がまだだったの! 沙和(さわ)の名前は于禁なの!」

 

知ってます。

 

「いや、うん……ヨカッタデスネ」

 

マズイ……向こうから鴨がやってきた。だが、突然の訪問で戸惑ってしまう俺。このまま于禁さんをくっころにしてしまおうか? いや、それは愚策だ。于禁さんがいるなら必ず楽進(がくしん)李典(りてん)が近くにいるはず。出来れば楽進さんから先にくっころしたい。

え? 何故かって? 楽進さん絶対にくっころ似合うと思うからです!

 

(なぎ)ちゃん……大丈夫かな……」

「ん? 他に連れがいるのか?」

「そうなの! 沙和の買い物に付き合ってくれたんだけど、途中ではぐれちゃって……」

「……その子1人かい?」

「なの!」

 

つまり李典さんはいない……か……。これはいけるか?

 

「なら俺が探してきてやろう」

「ホント!? なら沙和も……」

「いや、貴方はここにいたほうがいい。武器もなしにこの山を進むのは危険だ。部下には君の護衛を任せるので俺に任せてはくれないだろうか?」

「………………わかったの。凪ちゃんは傷が多い可愛い女の子なの!」

 

知ってます。

 

「わかった……では行ってくる」

「頑張ってなの~!!」

 

ククク……暢気なものだ。今から大切な友達が大変な目に合うとも知らずに……。そして俺は山の奥へと進んでいった。

 

 

~凪サイド~

 

 

「セェーーイ!!」

「「「ぐはぁ!!」」」

 

ハァ……ハァ……クソ! 油断してしまった! 最近は賊も少ないから沙和の買い物に付き合った結果、賊に襲撃され、沙和ともはぐれてしまった。早く見つけなければいけないというのに……

 

「相手はもう虫の息だ! どんどん攻め込め!」

 

クッ! こうも多いとどんなに弱くても脅威だな……。

 

「ええい! 邪魔だ!」

 

口ではこう言っているが正直私も限界がきてる。これ以上、気を使ってしまうと沙和を探す余力がなくなってしまう……どうすればいい?

 

「……やるしかないか」

 

選択肢など最初からない。此処で負けるくらいならば!

 

「ハァァァ………!」

 

今、力を持てるありったけの気を脚に溜める。すまない、沙和。出来れば無事でいてくれ。

そう思った瞬間である。突如、莫大な気の塊が私の背後に現れたのである。

 

「ッ!!?」

 

わずかながら反応出来た私は地面を思いっきふり蹴り飛ばして、真横に飛ぶ。その直後……

 

「「「ウボァーーー!!?」」」

 

気の塊は賊たちに命中し、爆発する。そして直後には全員が気絶していたのだ。

 

「一体何が……」

 

自分でもなにが起きたかわからない。そう思いながら後ろを振り向くと……

 

「………………」

 

顔を隠した謎の人物が立っていたのだ。身体的に男性というのはわかるが賊の格好にも見える。

 

「貴様! 一体何者だ!」

「………………」

 

私の言葉に返事はしない。しかし、ゆっくりと近付いてくる。やはり、コイツも賊の1人か! だが、私も先ほどの回避で力が残っておらず、動けない。どうすることも出来ずに男は私の目の前に来てしまった。

私は一体どうなってしまうのか……

 

 

~臧覇サイド~

 

 

フッフッフ……キタ……ついにキタ!

楽進さんは返事をしない俺を不気味がっているに違いない。そう、それでいい。そして俺は彼女の服を剥がせば……

 

 

~妄想~

 

 

「この下衆が! 私から離れろ!」

「そう言うな……お楽しみはこれからだろ? ゲッヘッへ……」

「くっ! 殺せ!!」

 

 

~終了~

 

 

そう! 必ずこの展開に持っていける!! 思えば長い道のりだった……。時には孫堅さんに追われ、時には医者になり、時には謀反を起こした。

だが!! 全てはこの時のため! その記念すべきくっころ第一号は君だ! 楽進ッ!!

 

「沙和………………真桜(まおう)………………ごめん」

 

おお! 汚れる前に親友の名前を言って謝る! これは高いポイントですね。やはり俺の目に狂いはなかった。

そして俺は楽進さんの服に手をかける。

 

「ッ!! 殺気!?」

 

その時である。突如として上空に謎の殺気が俺に向かってきた。瞬時に察した俺はその場からバックステップで回避し、何が降ってきたの確認する。

そこには……

 

「ようやく会えたな……オレの想い人よ!!」

 

そこには………………魔王(そんけん)がいました。

 

「げえ?! 孫堅!?」

「オイオイ……そんな怯えることはねぇじゃねーか。オレはお前を探してやったのに」

 

頼んでねーよ! つーかアンタは国のトップだろ! なんでこんなところにいるんだよ!?

 

「くにへかえるんだな。おまえにもかぞくがいるだろう」

「安心しな。オレは基本的に国にいることのほうが少ない」

 

孫呉ォ! こんな猛獣を放し飼いするのはやめなさい! ご近所さんが迷惑するでしょ!

 

「………………」

 

ほら見なさい! 楽進さんついてこれなくてフリーズしちゃってるじゃないですか!

 

「ん? なんだ嬢ちゃん、今は取り込み中だ。邪魔だから向こういってな」

「あ……はい……」

 

孫堅さんがシッシッと逃がす。楽進さんも辛うじて残った理性でそそくさと山奥に逃げていく。

待って! お願い! 俺は君が目的なの!

 

「さぁ……邪魔者は消えたぜ? 殺しあうか? それとも抱くか?」

 

唇をペロッと舐め、ゆっくりと近付いてくる孫堅さん。その時俺は理解した。この人にくっころは出来ない。寧ろ喜んで抱かれることを……

 

「………………フフ」

「………………フッ」

「「ハッハッハッハッ!」」

 

お互い高笑いして……

 

「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「逃がすかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

こうして俺は魔王との壮絶な鬼ごっこを丸一日行った。

余談だが、楽進さんは無事に于禁さんと合流したそうです。

 

 

~美花サイド~

 

 

「……このくらいですかね」

 

私は今、御主人様のいる山から一番近い村に来ております。もちろん情報収集のため。しかし、これといった情報がなく少し苦戦を強いられました。ですが、目ぼしい情報は集まったのでこれから帰還するところです。

 

「それでは……あら?」

 

村を出ようと思いましたら、何処からか綺麗な歌声が聞こえてきました。普段はそういった類は気にもしないのですがこの歌声には妙に魅かれてしまいます。とりあえず歌声が聞こえる場所に足を運ぶと、そこには旅芸人さんであろう3人の女性が歌ってました。足を止める人もチラホラといます。

 

「………………少しくらいは大丈夫ですよね?」

 

そう心に言い聞かせ、旅芸人さんの演奏を聞きました。ですが、本当に不思議な歌声です。まるで人の心を掴もうとする声。きっと相当の努力をされたと思います。

しばらくして……

 

「「「本日はありがとうございました!!!」」」

 

演奏が終わり、旅芸人さんが頭を下げる。まばらながらも拍手がおき、おひねりを彼女たちに渡す人もいました。それでは私も……

 

「ああー! その服可愛いー!」

「……え?」

 

おひねりを渡そうとした瞬間、中央にいた桃色の髪が特徴の女性が私の服を見て、褒めていただきました。

 

「ちょっと、天和姉さん……」

「その服、何処で買ったんですか!?」

「それちぃも気になる!」

「地和姉さんまで……もう……」

 

ええっと……こういった場合はどうすればいいでしょうか?

 

「これはあるお方から頂いたものでして……申し訳ないのですが、私も存じ上げません」

「「ええ~……」」

 

真ん中と左にいた女性は答えが不服だったのか頬を膨らませ、いかにも不満ですよと伝えてくる。

 

「本当にすいません。2人のことは無視して貰っても構いませんので……」

 

そして右にいた眼鏡を掛けた女性が頭を下げ、私に謝罪をしてきました。

 

「いえ、そんなこと……あの、しばらくはこちらで演奏をされるのですか?」

「えっと……そうですね。しばらくは資金集めをしますのですぐにはいなくならないと思います」

「そうですか。それでしたらこの服をくださった方がいますので、もしよろしければ聞いて参りましょうか?」

「いいの!? じゃあお願いします!」

「やったやった! これで少しは可愛い服で演奏が出来る!」

「……ご迷惑を掛けてしまってすいません」

 

素敵な演奏をしてくださいましたのでこれくらいはしても問題ないでしょう。

 

「それではお名前を聞いてもよろしいでしょうか?」

 

この歌声は是非とも御主人様にも聞いてもらいたいです。

 

「わたしは張角(ちょうかく)だよ~」

「ちぃは張宝(ちょうほう)!」

張梁(ちょうりょう)といいます」

 

 

これが彼女たちとの出会いです。

後に大きな戦に巻き込まれるとはこの時の私は考えてもおりませんでした……




というわけで初のくっころは大男でした。
大変申し訳ございませんでした。


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第5話

今回は臧覇ではなく違う人物にスポットを当てた話です。
多分読まなくても本編に差し支えないと思います。


これは臧覇が去り、しばらくの時間が流れた頃、孫呉に思わぬ来客が現れた話である。

 

 

〜建業・雪蓮サイド〜

 

 

「……同盟ですって?」

「うむ!」

 

今、目の前にいる小さな子は袁術。名族とも言われるほどの有名な一族である。そんなお嬢様が突如として私たちの城に向かうとの手紙を読んだ時はものすごく慌てたわ。今はお母様が留守であるので、私が対応しなくてはいけない。恨みますよお母様。

彼女たちの悪い噂が後を立たなく、暗愚とも言われるが財と兵に関しては右に出るのがいないためたちが悪い。

そんなお嬢様から出て来た言葉が同盟の申し出であった。

 

「……横から失礼します。申し訳ないのですが、その同盟の意図を聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

言葉を発した人物の名は張昭(ちょうしょう)。字は子布(しふ)。真名は雷火(らいか)

呉の文官代表であり、冥琳の師でもある古参の将である。

 

「それならば七乃。頼むぞえ」

「はい。美羽さま」

 

すると袁術の横でずっとニコニコしていた女性が前に出て来た。

 

「説明は私、張勲が行います。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願い致す」

「同盟の理由としましてはそちらの将に興味があります」

「将に?」

「そうです。我が軍は兵こそ多いものの、しっかりと指導が出来る人材が残念ながらいないのです。様々な場所を拝見しましてこちらの兵の質の濃さに注目した……ということです」

「なるほど。軍の強化として我が国の将を借りたい……ということですか」

「はい〜」

 

なるほど。ま、褒めてくれるだけなら嬉しいわね。褒めてくれるだけなら……

 

「かの有名な袁術様に目を付けて頂けまして、この上なく喜ばしい限りです。しかし……」

「そんなホイホイと国の将を貸せませんよね。それは重々承知しております」

「………………提案を聞きましょう」

「話のわかる方で助かりましたー。今のが孫堅さんなら私、斬られちゃってますよ〜」

 

……食えない人ね。もしかしたらお母様のいない時を狙っていた?

 

「そちらの将を貸して頂けてましたら、建築関係や天気に詳しい人たちを派遣させて頂きます」

「……なるほど」

 

うわー……完全に家の事情を知ってるわ。

私たちの国は賊や他国の他に自然とも戦っている。もちろん天気を止めることは出来ないから嵐を予測し、水害が起こるかもしれない場所には出来る限りの対策をする。だが、それでも限界は近い。

だから、建築や天気の詳しい人たちは喉から手が出るほど欲しい。

 

「この地域は水害が特にヒドいと聞きました。だから我々が協力してあげようと優しい優しい美羽さまからの提案なのです」

「そうなのじゃそうなのじゃ!」

 

ピョンピョンと嬉しそうに跳ねる袁術に若干のトキメキが生まれる私。危ない危ない。

 

「水害で一番苦しむのは民じゃ! 民なくして王は生まれないのじゃ!」

「素敵です美羽さま! よっ! この泣き虫王!」

「にょっほっほっ! もっと褒めてたも~」

 

今の褒めてる? まぁそれは置いとくとしてその考えには頷ける。暗愚っていう噂も嘘っぽいしね。

 

「雷火。私はこの同盟を受けてもいいと思うわ」

「……ふむ」

 

雷火は顎に手を添え、しばらく考える。

 

「わかりました。この同盟は君主、孫堅にも伝えます故、最終的な決定は後ほど……」

「それはもちろん。ありがとうございますー。それでは美羽さま、帰りますよー」

「うむ! 今回、時間をくれたソチらに感謝するぞえ! にょっほっほっ!」

 

そういって袁術たちは部屋から出て行った。残された私と雷火は同時にため息をつく。なんだかんだ言っても疲れるわ。

 

「それにしても、なーんか引っかかるわね……」

「ほう? 何か気になることがあるのか?」

「袁術って噂だととんでもなく我が儘で自己中心って聞いてたけど、ちゃんと民を思う可愛い子って感じ? それにあの張勲って人、何か気味が悪い……ってことしかわかんない」

「40点」

 

ぐぬぬ……手厳しい。

 

「今回の同盟……もし断れば確実に攻め込んでくるであろう」

「そうは見えなかったけど?」

「いや、袁術はしない。するのは張勲じゃな」

「けど、どうやって? あちらさんの全戦力をぶつける気?」

「そんな簡単な策ならばどうとでもなる。奴らの狙いは水門じゃ」

 

その言葉で私は理解した。水門とは水害対策としてお母様が建設させたといわれる巨大な門。これがないと国は大きな水害にあってしまうのだ。

 

「先の話を聞く限り、張勲は既に我が国の情勢を把握しておる。その気になれば嵐の日を狙い、水門を攻め、水攻めをしてくる。水門と同時に我らに攻め入る兵はあるはずだからな。同盟とは名ばかりの脅迫とも言えよう」

「多くの民が犠牲になるわよ?」

「だからするのだ。我らがどれだけ民のために戦っているか、理解しているに違いない」

「………………」

「張勲という人間は詳しくは知らん。しかし、軍師として見たならば既に冥琳は超えている」

「それほどなの?」

「ああ。軍師とは兵や地形、そして敵をも利用して勝利へと導く。しかし、張勲は人間の情を利用し、徹底的に追い詰める。たとえ負けたとしても後味が悪いようにしむける。例えるならば相手に“勝つ”戦ではなく相手を“殺す”戦をするのじゃ。本来ならば軍師として必要なのだがな」

 

雷火がそこまで褒めるのも珍しい。私や蓮華(れんふぁ)にも厳しく接しているから初めてといってもいいくらいのべた褒めね。

 

「しかし、幸いにも袁術にゾッコンじゃ。今の袁術を見る限りでは同盟は袁術の本心によるもの。張勲は絶対に成功させたいがために脅しをかけたのだろうな」

「ふ~ん……でも、袁術は暗愚って噂があったわよね? 今の感じじゃそうは見えないのに……どうしてそんな噂がたったのかしら?」

「大方噂とはそんなものよ。それか……大きな出来事があって変わったのかもしれんぞ?」

 

大きな出来事ね~……なんだろう。自分でもよくわかんないけど他人事のように思えないわね。

 

「しかし、残念じゃ。出来れば冥琳にも見せてやりたかったのう……」

「それは言わないの! 冥琳に無理をさせるもんなら私が許さないから!」

「わかっておる」

 

そういえばあの医者は元気かしら? 出来ればまた会いたいわね。

 

 

~帰り道・七乃サイド~

 

 

「ご苦労であった七乃! これでより民を安心させることが出来るのじゃ!」

 

あ~ん! 美羽さまが可愛すぎて理性が暴走しそうです!

 

「良かったですね美羽さま」

「うむ!」

 

それにしても美羽さまも変わりましたね~。もちろん、昔の美羽さまも可愛かったですが今はとても優しくなられたので凛々しくなりました。ちょっと寂しいですね。

 

「妾が成長すればいずれコーユーと紀霊は戻ってくる! それまでは勉学にも力を入れんとな!」

 

本当にあの2人が好きなんですね美羽さま。私も好きですよ~……私をあそこまで追い詰めた人なんですから。

どんな外道の道を歩こうが、どれだけ犠牲を払おうが必ず美羽さまのモノにしてみせます。それが私が出来る唯一の“愛”なんですから……

 

「ふふっ……美羽さま?」

「なんじゃ七乃?」

「早くお2人に会いたいですね……」

「うむ! 絶対に会うのじゃ!!」

 

待っていて下さいね? 必ず……必ず取り戻しますから………………フフフフフ。

 

 

~臧覇サイド~

 

 

「ぶえっくしょい!!」

「兄貴? 風邪っすか?」

「いや、なんか急に寒気がしてな……」

 

誰か噂でもしてんのか? ………………まさか!?

俺の悪評が知れ渡っているのか! ふふふ……今も弱き民が怯えているに違いないなぁ!

はぁーっはっはっは!!




張勲さん、何気に強キャラ設定なんですよね……
そして若干、ヤンデレっぽくなっていきました。

ありがとうございました。


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第6話

来舞(ライブ)会場・人和(れんほー)サイド〜

 

 

「みんな大好き!」

「「「てんほーちゃーーーーん!!!」」」

「みんなの妹!」

「「「ちーほーちゃーーーーん!!!」」」

「とってもかわいい」

「「「れんほーちゃーーーーん!!!」」」

 

今日は私たち、数え役満☆姉妹(かぞえやくまんしすたぁず)来舞(ライブ)。見渡す限りの人、人、人……。今まで自分たちが転々と芸を披露していた時とは大違いだ。

これほどの人が来るようになるとは夢にも思っていなかった。これも全てあの人のお蔭。どれほどの恩を貰ったのだろう。まさに“神様”のような存在だ。これもあの日の出会いがなければなかった……感謝します。

だから私たちなりの形で返していこう………………

 

 

〜数ヶ月前・臧覇サイド〜

 

 

「う〜〜ん……おいしいよ〜!」

「これとこれと……あとこれも追加で」

「すいません、本当にすいません」

 

今目の前でたくさん食べている2人とひたすら謝っている眼鏡っ娘。すごい勢いでお皿が並ぶ並ぶ。この子たちってこんなに食べる子だったっけ?

彼女たちの名は張角、張宝、張梁。ゲームの物語でもノリと勢いで大変なことになっちゃった姉妹。

 

「今回は御主人様が支払うと仰っておりましたので遠慮せず食べてください」

「「はぁ~い!!」」

 

うん、元気なのはいいことだ。食べる子は好きだからね。

さて……どうしましょうか?

張角三姉妹にはあったはいいが何も考えずに出会ってしまったのだ。仕方ないじゃん。もう少しゆっくりとヒロインたちをくっころしていこうと思っていたのに……まだ劉備さんや曹操さんに出会ってないよ……え? 孫権さんは? しばらく魔王に会いたくないので避けます。

そもそもこの子たちってどうやってくっころすればいいのかな? 考えろ臧覇。この子たちを上手く利用し、より絶望させる方法があるはずだ。

………………そういえばこの子たちって大きな舞台で歌うのが夢とかなんとか。

 

「貴方たちは芸をしながら旅を?」

「そうだよ~。歌が好きだからみんなに聞いて貰いたんだ~」

「だけどいろいろ回ってるけど儲けは微々たるモノ……もう少し世間はちぃたちに優しくしなさいよ!」

 

そうかそうか。それじゃあおじちゃんも手伝ってあげよう。

 

「それでしたら私たちもお手伝い致しましょう。いいかね美花?」

「御主人様の仰せのままに」

「「ホントッ!?」」

「……どうして此処までやって頂けるのですか?」

 

さすが張梁さん、既に俺たちを疑ってるな。まぁ初対面だし仕方ない。ここは俺の話術できり抜けよう。

 

「私はある日、神に出会いました」

「………………神、ですか?」

 

途端に目線が鋭くなる。嘘だと思うだろ? 本当なんだぜこれ?

 

「その時、私にこう助言されました……“困っている人がいたならば手を貸しなさい。それが己の使命と知りなさい”と」

「……はぁ」

「(この人って、かなりアレな人? 顔も隠しているし)」

「(もしかして……ちぃたちの身体が目当て!?)」

 

そこ。ヒソヒソ話はもっと小さくやりなさい。聞こえてます。泣きますよ?

 

「私はこの言葉通りに人の為に働きました。この美花もまたそのうちの1人なのです」

 

横にいた美花は頭を下げる。

 

「私は多くの人を助けたい。こんな時代だからこそ、神は私に使命を与えたのでしょう。それならば私は使命を全うするのみです」

「「「………………」」」

 

さて、こんな怪しい人間が貴方たちを助けたいなんて言われたらまずお断りだろうな。だけど、この子たちは大きな夢を持っている。夢を持つ女の子ほどこういったモノにはまり易いって前世の雑誌で見た気がする。

 

「……私たちを助けたいことはわかりました」

 

真っ先に反応したのは張梁。

 

「正直申し上げますと此処までしてくれる貴方に警戒しております」

「承知の上です」

「ですが……もし本当に人助けをしたいというなら私たちの夢を手伝ってくれますか?」

「聞きましょう」

「私たちは多くの人に歌を聞いてもらうことです。村や街などではなく大陸を揺るがすような……それが夢です」

「お姉ちゃんも、もっともっとたくさんの人に聞いて欲しいな~」

「ちぃだって! もう誰もがちぃ達を知ってるような有名人になるんだから!」

「……わかりました。では私も全力で手伝いましょう」

 

よし釣れたな! やっぱり夢追う少女はチョロいな! さぁ~てここから絶望に引きずってやるぜぐへへ……

 

それから俺は某アイドル育成ゲームの如く頑張った。元々、彼女たちのポテンシャルはむちゃくちゃ高い。だから必要なことは事務方の仕事である。これは俺が主に全体、美花はライブを行う際の広告、そして張梁さんには金銭面での仕事を行っていった。

 

「今回の衣装です。どうぞ試着をお願いします」

「わぁ~~!! みんな可愛い!」

「これだとちぃの人気がまた上がっちゃうわ!!」

 

服のデザインは俺が考えて、部下に作らせる。というより部下たちには会場の建設、周辺での料理の販売などをやらせている。マジで万能だろコイツら。

もちろん彼女たちのメンタルサポートも手を抜かない

 

「お姉ちゃん、お腹すいちゃったな~……」

「こちら、美味しいと評判のシュウマイ(自家製)です」

「ねぇねぇ! 次のすてーじなんだけどどっちの衣装でやった方がいいかな?」

「張宝さんはこちらの自由に走り回れる衣装がいいかと思います」

「すいません、次のらいぶでの人件費で相談が……」

「こちらで既にまとめておりますので目を通して頂ければと」

 

三者三様とばかりに言ってくるがこれもくっころのためだ、我慢我慢。

最初は小さな村からスタートして、あっという間に名が広まっていき、現在は大多数の人間が彼女たち目的で歌を聴く。また、彼女たちのファンとわかるように黄色い布を頭に付けさせるようにもした。俗に言う“黄巾党”である。

そして今……

 

 

~現在・臧覇サイド~

 

 

目の前で彼女たちのライブが行われてる。とてもいい笑顔です。

 

「御主人様」

「動きがあったか?」

「はい……官軍が動き始めました。我らの討伐に向けて続々と軍が出てきているとのこと」

「………………」

 

始まったか。なんかやっと恋姫が始まった感じがしてきたな。

 

「我々は勝てるでしょうか?」

「無理だ。そもそも暴れているのはこの場にいない黄巾と名乗る愚賊の仕業。そんな連中が集まったところで烏合の衆。軍には勝てんだろうな。滅びるのも自業自得。俺たちは戦わない」

「……今回、全員ではなく、限定に集めて長期らいぶを行った目的はそこに?」

「さぁな。そんじゃライブが終了次第実行に移る。美花は部下を連れて撤退の準備をしておけ」

「御意」

 

張三姉妹……貴様らの夢は叶えた。次は俺の夢を叶えてくれ!

 

 

~ライブ終了・楽屋~

 

 

「気持ちよかった~~!!」

「これなら大陸制覇も夢じゃないわ!」

「もう……すぐに調子に乗るんだから」

 

おうおう、歓喜の声が此処まで聞こえてくるぜ。この声が悲鳴と変わるのにな!

 

「失礼します」

「あ! ぷろでゅーさー!」

 

俺が楽屋に入ると真っ先に飛んできた張角。その豊満な胸を腕に押し付けてくる。うっはやっべー……。っと惑わされるな俺。

 

「今回のらいぶどうだった!?」

「とても輝いておりましたよ」

「ありがとうございます。それで何か用事でも?」

「はい。実はですね……ふん!」

「きゃっ?!」

 

俺は腕にしがみついていた張角さんを突き飛ばし、腰に差していた剣を抜く。

 

「本日をもってライブは終了する。覚悟しろ」

「「「っ!!?」」」

 

ふっふっふっ……これは完全に俺を信用していたな。だが、更なる絶望を貴様らに与えてやろう!

 

「お前たち張三姉妹率いる黄巾党は官軍によって討伐命令が出された。だからその首を頂き、将軍様への贈り物にしてやる!」

「「「………………」」」

「神のお言葉? そんなモノ最初からない! 全てはお前たちを餌にする準備に過ぎん!」

「「「………………」」」

「だが俺は優しい……お前たち3人のうち、1人を差し出せば2人は助けてやろう」

 

さぁ究極の選択だ! 三姉妹の絆は知っている。だから誰も売れないだろう! だが、この中で一番身を犠牲にしそうなのは張梁さんだ。彼女が出てくれば他の2人も絶望するに決まっている。どうだ! 俺の作戦は完璧だ!

 

「ついに……来たのですね」

 

一番最初に口を開いたのは意外にも張宝さん。彼女のことだきっととんでもない罵倒が飛んでくることだろう……それをねじ伏せる! ククク、我ながら中々のSっぷりだn

 

「ちぃたちは……ついに天の国へ行けるのですね!」

 

………………………………へ?

 

「てんのくに? なんですかそれ?」

「私たちはしがない旅芸人でした。ですがぷろでゅーさー……いえ、神様が私たちの前に現れてからそれは一変しました」

 

淡々と説明をする張角さん。あれ? 君ってもう少しほわ~んとしてなかったっけ?

 

「最初は疑ってました……そんな自分を叱りたいほど私たちは充実のある日々を送れるようになりました」

 

うん、よかったね張梁さん。それで、何で君の目のハイライトは消えてるのかな?

 

「ですがこの充実は何故あるのか。私たちは考えました。そして私たちはある答えに辿り着きました」

 

そういって3人は俺に近付いてくる。後ずさりする俺。

 

「それが……神様です。己の欲に溺れていた私たちの前に現れて下さった正真正銘の神様」

「こんなちぃたちですら神様は手を伸ばして下さいました。それが何より嬉しかったです!」

「もし、私たちの首で神様の役に立つなら喜んで差し出します。そして私たちの悲願である天の国へ恩返しを……」

 

………………………………………………………………どうしてこうなった!?

待て待て待て! 何が起きたの!? どうして彼女たちはここまで狂信してるの!?

落ち着け……落ち着くのだ臧覇。このまま彼女たちのペースに惑わされるな。

 

「何を馬鹿なことを言っている! 天の国など存在するわけないだろう!」

「そうでしょうか? この国でこれほどの知識を持った人間がいるならば都はもっと華やかになるはずです。しかし、今の時代は私利私欲に埋もれた人々でいっぱいです。だからこそ、神様がこの時代の人間ではないと確信しております」

 

ちくしょう! 少なからず当たってるのがメンドクサイ!! だが、このままでは自分から首を斬りかねん。

とりあえず俺は剣を仕舞い、腕を組む。

 

「………………よくぞ見破りました」

 

神様になりきろう。

 

「っ!? やっぱり神様だったよ!」

「うん!」

「これで私たちも……」

「ですが……残念ならが貴方たちを天の国へと送ることは出来ません」

「「「ッ!!? どうして?!」」」

「貴方たちは天の国へと行きたい……それもまた欲なのです」

 

俺の言葉を真剣に聞いてくれる三姉妹。張梁さんに至っては涙を流している。ちょっとシャレになってないかも……

 

「貴方たちは選ばれた人間なのです……ですから此処で終わるのではなく、多くの人間に想いを伝えるのです」

「多くの……人間に……」

「それがちぃたちの使命なんですね!」

「ありがとうございます。私たちもより一層、頑張ります」

「それは良きこと……私はいつまでも見守っておりますよ……」

 

そういって俺は全力でジャンプをして飛び立っていく。そんな俺を最後まで祈りを捧げるようなポーズを見せる三姉妹。

そして雲より高い場所に来た時に……

 

「………………何故だぁぁぁぁぁぁ!! 何故こうなるんだぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

天に向かって叫ぶのであった。




何か取り返しのつかないようなことをしたような……

ありがとうございました。


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第7話

たまには真面目に悪役っぽく見せてみようとしています。


華琳(かりん)サイド~

 

 

此処は私の城。そして今は黄巾討伐の任が終わり、部屋に私と軍師たちが集まった。どうやら今回の件で気になることがあるらしい。

 

「お疲れ様です華琳(かりん)様」

「これで疲れるなら天下も安いものね」

 

開口早々、桂花(けいふぁ)に愚痴をこぼしてしまう。決して彼女が悪いというのではない。ただ、イラつきが出てしまった。私の悪いクセね。

 

「そうですね~。今回の討伐で、功績を頂いても微妙ですからね~」

「大規模であり、組織化した賊への討伐。いざ、蓋を開けてみるとただ集まっただけで組織も何もない賊退治です。これも中心都が腐っている証拠です」

 

頭に人形を乗せた軍師、(ふう)と眼鏡をかけた軍師、(りん)も私の苛立ちに納得している。

 

「それで、今回の討伐で話したいことは何かしら?」

「……今回の賊、いくつか不可解な点がございます」

「……聞かせなさい」

「御意。まずは風から」

「………………ぐぅー」

「寝るなっ!!」

「おおっ!?」

 

いきなり寝始める風とそれに大声で注意する桂花。相変わらず読めない子ね。だからこそ、常人では出来ない策を出せるのかしら。

 

「そうですね〜。華琳様は何故、これだけ賊が大きくなったと思いますか〜?」

 

今回の規模は明らかに異常だ。それは私でもわかる。ならば理由は一つ。

 

「主犯である張角ら3人の惹きつける力……かしら?」

「それで間違いないですね。その張角らも処分されました」

「処分というより勝手な自滅よ」

 

首謀者の張角ら3人は私たちが直接手を下してない。相手の拠点に入ったら既に死んでいたのだ。誰かに背後から斬られ、苦しみながら死んだ様子ね。

 

「風が気になるのはそこなんてすよ。あれほどの規模を率いる首謀者が何故、誰にも守られずに殺されたのか……」

「…………言われてみれば不思議ね」

 

風の言う通り、人を惹きつける力があるのなら誰かしらに守られるはず。

 

「もしも、今回が華琳様なら桂花さんらが守ってくれるはずですよね〜」

「そんなの当たり前じゃない!!」

 

風の言葉に食い気味で答える。ふふっ可愛い子。

 

「次は私からですね」

 

次に禀が前に出てきた。

 

「これは季衣(きい)からの情報で……実は既に張角と接触していたそうです」

「季衣が?」

「はい。昔、村に旅芸人として訪れていたことがあったと言っておりました。そして……季衣が言うにはその時訪れていた人物は女性とのことです」

「……私が確認した張角らは醜いブ男だったような気がしていたけど?」

 

あれは見るに堪えられなかったわ。その夜、すぐに春蘭(しゅんらん)秋蘭(しゅうらん)を呼び出して消毒したわ。

 

「季衣も自信がないとは言っておりましたが、あの子が嘘を言うような性格ではないです。そう考えてみてもこの情報は可能性としてありえるかと」

 

確かに季衣は失敗こそするが嘘をつくことはない。だとすればこれは……

 

「先の風の話とすり合わせると、今回、死んだ3人は……」

「全くの別人ですね〜」

「そう考えると斬られた理由もわかります」

 

なるほど。確かに張角ではないなら斬られても問題はないわね。だが、その説を考えるともう一つの問題も出てくる。

 

「だとすれば張角の目的はなに?ただ官軍を困らせたいがためにこんな戦を起こしたの?」

「………………これは憶測に過ぎないのですが」

「話しなさい」

「今回の討伐……官軍でも張角でもない何者かが関わっているかと思います」

「「………………」」

 

……風や禀も何も言わない様子。とすればその説に賛同しているということね。

 

「季衣の情報が正しければ、張角ら3人は戦を知らない芸人です」

「そんな人が賊との関わりを持つとは考えにくいですね〜」

「しかも、ただの賊ではなく、ある程度の知名度を持っていた賊が大半でした。それをどうやって接触出来たのか……」

「つまりは官軍も黄巾もその何者かの手によって利用されただけ……そういうこと?」

「はい。ですが、これを追求することはないかと……」

「中心都では既に討伐成功を祝う雰囲気です。後味の悪さなんてどうでもいいのでしょう」

 

今の話が本当なら全てはその者の手の内ということになる。この私ですら使われた……ますます不愉快だわ。

 

「先の討伐は茶番に過ぎないとでも言いたいのかしら?」

 

私は窓から星々を見つめる。もしも、桂花たちの憶測が本当ならば……私は楽しめるのかしら?

 

 

〜廊下〜

 

 

その後は定期報告で終わり、自室へと戻っていく。桂花が閨を望んでいたけど今は1人になりたい気分であった。

あの戦場には数々の英雄もいた。彼らもこの不愉快さに気づいて同じように対策でもしてるのかしらね……

 

「…………誰かいる?」

 

自室の前に到着し、扉を開けようとした時、私は手を止めた。

誰かが部屋にいるのだ。

入らなくてもわかる気配。だが、私は再び動き出して部屋に入る。そこには……

 

「………………」

 

顔を隠した人間が立っていた。身体から男性なのは理解出来たが、それ以外は不明である。

 

「あら? 今夜は誰も呼んでない気がしたけど?」

 

私からは特に反応はしない。暗殺者ならこんな堂々としていない。何かしらの理由で此処にいるようね。

とりあえず私は窓際にあった椅子に座り、彼を見つめる。

 

「……兵に伝えないのか?」

「ええ。その前に色々と聞きたいの……今回の首謀者さん?」

「……なるほど。流石は曹孟徳(そうもうとく)だな」

 

男も近くにあった椅子を私の目の前に置いて対面するような形で座る。

 

「さて……城に無断で入った代償に私の質問に答えてくれるかしら?」

「……いいだろう。何が聞きたい?」

「そうね……今回の目的は何なのかしら?」

「増えすぎた賊を減らすことだ。このまま増えても俺の邪魔となるだけの蛆虫。駆除するのも面倒だったのでな……それに関しては感謝する」

「ワザと統一させるような格好をさせたのも?」

「道に転がっている石ころは誰も気にしない。しかし、同じ石ころが大量に、かつ道のど真ん中にあるなら貴様はどうする?」

 

なるほど。確かに邪魔となるわ。彼はそこまで考えて、官軍を動かしたのね。

 

「では次。何故、私の前に現れたの?」

「時代の英雄に会いに来た……とでも言っておこう」

「ふふっ。素敵な告白ね。それで、会ってみた感想は?」

「その名に恥じない英雄だ」

 

こんな夜に素敵な台詞を言える辺り、この者は私と同じような性格なのかしら……

 

「これからは群雄割拠の時代となる。貴様は既にこれを予感し、力を溜めていた」

「………………」

「自分の道を覇道として偽りのない歩みを進んでいく。まるでこの世の“覇者”のようにな」

「自分を信じずに誰を信じるというの?私は私、誰でもない曹孟徳よ」

 

これは昔から変わっていない。自分の道は自分のためにある。その信念を捨てたら何も残らないわ。

 

「……ならば断言しよう。貴様は覇者となる器だが“勝者”とはなりえない。俺がいる限りな」

「……へぇ」

 

ハッキリ言う。本当に私好みの性格ね。

 

「必ず貴様は俺の前に屈することになる。必ずな」

「なら、今すぐ勝者になってみせましょうか?」

 

そう言って私は近くにあった戦鎌“絶”を取り出し、男の首に構える。しかし、男はその場から避けようともせずにただただ座っている。

 

「……避けないのね」

「貴様が納得するなら殺せばいい。だが、貴様の欲は満たされんだろう」

「……ふふっ」

 

まさかあんな茶番の後に、こんな情熱的な出会いがあるなんて……。それだけでも今回の討伐に参加した甲斐があったわ。

私はゆっくりと絶を下ろす。

 

「もうすぐ侍女が部屋に来るわ。出るなら窓から出なさい」

「……難儀な性格だな」

「それも私よ。素敵な強敵さん」

 

男は立ち上がり、窓から身を投げた。

1人となった私は棚にあるお酒を取り出した。これは特別な時にしか飲まないようにしている。最近だと曹魏を旗上げした時かしらね。

 

「ふふっ……乾杯」

 

私は窓に向かって乾杯した。これからどんな再会があるか楽しめる……。それだけで私の心は満たされる。だから私はこの言葉を送る。

 

「ありがとう……」

 

 

次は……情熱的な戦場で。

 

 

~荒野・臧覇サイド~

 

 

「………………」

 

………………なんか違う。

今までとは違うベクトルで意味深な悪役でもなろうかなと思ってたけど、なんか曹操さん気に入ってた気がする。この路線はやめよう。

 

「まぁいい。次は……董卓討伐だったっけ? それまでにせめて1人でもくっころしなければ!」

 

俺の道は果てしなく険しい。だが! それでこそ達成感があるってもんよ!

 

「見ていろ恋姫よ……必ず全員くっころしてみせるからな! ハァーッハッハッハッ!!」

 

 

こうして俺と曹操さんの夜は過ぎていくのであった……




いつも失敗ばかりする悪役が見せる真面目なシーン。かっこいいから好きです。

それでは!


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第8話

前略、前世のお母様へ……

お元気ですか? 私は元気に悪役になっています。未だに目標は達成していませんが、もうすぐまで来ていますので安心してください。

そんな私ですが……

 

「「「カンパーーイ!!」」」

「さぁどんどん飲め飲め! 今夜は宴だ!」

「ゴク…ゴク…プハー! うめえ!」

「いい飲みっぷりじゃないか!」

「いえいえ、魏延の姉御には負けやすぜ!」

「ホントホント。でももうちょっと可愛く着飾った方が魅力的よ」

「フン! そんなモノは私には必要ない!」

「ふふっ……いつかわかりますよ」

 

敵対しようとしていた人たちと宴をしています。みんな楽しそうです。

なんでこうなっちゃったんだろ?

 

「杯が空いてますよ。どうぞ」

「あ、はい……ありがとうございます」

璃々(りり)もする〜! 璃々もするの〜!!」

「ふふっ。はいはい」

 

黄忠(こうちゅう)さんが私の杯にお酒を注いでくれます。娘さんの璃々ちゃんも元気いっぱいです。

 

「本当に……ありがとうございます」

 

やめてください黄忠さん。そんなもの優しそうな笑顔を見せないでください。違うんです。私は貴方の娘さんを使ってくっころしたいと思っていたんです。決して助けようなんて思っていませんよ。

あ、いや、もちろん目的さえ達成すればちゃんと解放する予定ではありましたけど……

 

「………………あっるええええええ??」

 

何故、私たちが此処まで歓迎されているのか。それはある日の出来事がありました。

それはこの地に訪れてからのお話です……

 

 

〜臧覇サイド〜

 

 

「兄貴! ここいらで活動している賊の一覧です!」

「ご苦労。どれどれ……」

 

前回、俺は悪役をイメチェンしようと試みたが失敗に終わった為、いつも通りの山賊に戻っていた。やっぱりこっちがしっくりくるぜ。

そして部下と共に離れの場所を確保し、迅速に同業者の処理を行っていた。悪役は俺1人で十分だからな。

 

「なるほど……主に誘拐を行う集団が大きいようだな」

 

結構な規模の山賊だこと。でもまあ黄巾党よりは少ないか。

 

「誘拐ですって?! なんて野郎どもだ許せねぇ!」

「同じ人間とは思えん……解せん奴らだ」

「そんなオイタする悪餓鬼はアタシたちで成敗よ!!」

「「「ヒャッハー!!」」」

 

……………うん。気合いは入るのはいいことだ。だが、一つ言わせてくれ。

 

「君たちって、自分の立場を理解してる?」

「え? 山賊っすよね?」

「泣く子も黙る臧覇一派ですよ?」

「男が裸足で逃げる臧覇の兄貴だわ」

「山賊って……誘拐とか村に襲撃とか普通にやるよ?」

「「「…………え?!」」」

 

やっぱり理解してなかったよコイツら。

 

「でも兄貴は今までやってないっすよね?」

「そんな小粒な悪行には興味ない。俺は目指すは天下も驚く大悪行よ!」

「だ、大悪行!? それって一体……」

「ふっ……時が来ればわかるさ」

「やだ……アタシの兄貴……カッコ良すぎ……じゅるり」

 

なんかケツがゾワっとしたけど、まぁいい。とりあえず、この小粒集団をどうにかしないとどうにもならんからな。

 

「てめぇら! 此処の雑魚どもを片付けるぞ!」

「「「ヒャッハー!!」」」

 

 

〜数分後〜

 

 

「くっ! ころアバババ?!」

「お客さん……天丼はいらないんですよ」

 

だから男のくっころは毒なんだよ。黙ってくたばれよ。

 

「出た! 兄貴の百の技が一つ! 大蛇卍(コブラツイスト)だぁー!」

「胴体が引きちぎれる勢いの力でかけていく恐ろしい技だぜ……」

「でもアレ……兄貴とものすごく絡み合うからアタシは好きなの……」

 

よし。この技は封印しよう今決めた。

ともかく大将は倒したから大丈夫だろう。

 

「美花」

「誘拐されていた人たちを護衛しながらこちらに連れてきます。それと彼らとの繋がりのある役人を調べます」

「さすがだな」

「イクッ……勿体なきお言葉です」

 

今なんて言いました?

…………空耳だな。うん。

 

「兄貴、今回の誘拐されていたヤツなんすけど……その……」

「…………子供か」

「へい」

 

世の中には色んなヤツはいる。前世でも疑うような事件もあったからあまり気にしない。

部下が戸惑うのは自分たちが行くと泣かれてしまい、落ち込むからだ。繊細だなオイ。

 

「なら俺も行こう。案内をしてくれ」

「わかりやした!」

 

賊も片付き、手が余ったから俺も向かうことにした。

 

 

〜監禁室〜

 

 

薄汚い場所に案内された俺。ったく、ちゃんと掃除しとけよ。子供が病気になったら高く売れないだろ。

オンボロの扉を開けると年齢が十も行かない子供たちが震えながら隅っこで固まっていた。多分、泣くことも許されなかったんだろうな。

そんな感じでしばらく子供を見ていると……

 

「…………こ、此処は通さない!」

 

今にも泣きそうな女の子が前に出てきた……ってちょっと待って。この子って確か……

 

「璃……ッ!」

 

璃々ちゃんと呼ぼうとした口を塞ぐ俺。危ない危ない……璃々ちゃんって真名の可能性があるから気安く呼べない。

 

「あ、兄貴? どうしやした?」

「いや……この娘、確か黄忠とやらの娘ではないか?」

「ッ! お母さんを知ってるの!?」

 

黄忠という名前に反応したのか、こちらに食いついてきた。

まさかこんな形で会えるとは思わなかった。

しかし、これは……

 

「ふふふっ……来たな。俺の時代が」

 

僥倖っ…! 圧倒的僥倖っ……!!!

 

「俺は急用が出来た。此処を任せるぞ」

「ええっ!? ガキはどうすんですか!?」

「お前らでどうにかしろ。傷は付けるなよ」

 

そう言い残し、俺はこの場を離れた。そして美花を呼び、すぐに文を作り、ある場所に送るように指示をする。

 

「これで黄忠は釣れる。そして必ず厳顔(げんがん)と魏延も来るはずだ……」

 

【娘は預かった。返して欲しければ取引に応じろ。指定の場所にて少数で来い】

 

これで後は璃々ちゃんを利用し、黄忠さんたちのくっころ物語が始まるのだ。

ふふふっ……まだだ。まだ耐えろ。全てはくっころが成功してからだ。

 

 

〜数日後〜

 

 

「…………来たな」

 

どうやら、黄忠さんがやって来たようだ。ご丁寧に厳顔さんと魏延さんもいやっしゃる。

 

「…………………」

 

心配そうな顔をしている黄忠さんに対し、厳顔さんと魏延さんは今にも攻撃して来そうな目で俺を睨んでいる。

あぁ……いい……。

 

「お主が璃々を預かっているヤツか?」

「預かっている? 馬鹿な話はするな。これは取引だ」

「何だと!」

焔耶(えんや)……抑えよ」

「くっ!」

 

けけけ……完璧に相手を掴んでいる。

 

「文は読ませて頂きました。取引の前に……一度だけ、璃々に合わせて頂けないでしょうか?」

「………………条件がある」

 

俺は斜めの方向に指を指し……

 

「あの部隊は決して動かさないことだ」

「「ッ!?」」

 

やはりな。微かながらだが、音がしている。話し声ではない、鉄が擦れる音だ。

 

「俺は少人数で来いと言ったのだがな……まぁいい。俺は優しいからな。今回は目を瞑ろう」

「……ありがとうございます」

 

さぁ此処までは予定通り。後は部下と待機させている璃々ちゃんたちと再会だ。きっと部屋の片隅でカタカタと震えているに違いない。あえて部下を残したのもアイツらは子供の扱いを知らないからきっと大声でも怒鳴り散らしているだろう。

もうすぐだ、もう少しで俺の夢は達成される。

意気揚々と俺は部屋の前に到着する。

 

「ここだ。念のために武器は此処で捨てろ」

「わかりました。2人もお願い」

「……承知」

「……わかりました」

 

ゴトンと各々の武器を地面に置く3人。それを確認した俺は勢いよく扉を開けた。

さぁ……絶望にひれ伏すがいい!!

開けた扉から部屋を確認すると……

 

 

「ベロベロバァー!!」

「きゃっきゃっ!」

 

そこは…………

 

「右手にあるこの玉。これを思いっきり握ると……消えてしまうんです!」

「すごーい!!」

「どうやったの!?」

 

そこ……は………

 

「はい、兄貴直伝の玉子汁よ。熱いから気をつけなさい」

「はーい!!」

 

俺の部下たちと子供たちが仲良く遊んでいました。

……………は?

 

「? ……!? お母さん!!」

「璃々!!」

 

俺が呆然としている横で感動の再会をする黄忠さん。

 

「あ! 兄貴! お帰りになったんですかい!」

 

俺に気づいた部下3人は俺に近づいてきた。

うん、ちょっと待って。今、気持ちの整理をしてるから……。

 

「オイ! これは一体どういうことだ!」

 

俺が聞きたいです魏延さん。と、取り敢えずは事情を聞かないと……

 

「……何してんのキミタツィ?」

 

いや、これはコイツらが考えた策に決まっている。だからそれまでは冷静にいないとな。

 

「あの後、子供相手はいつも兄貴任せだったんで俺たち考えたんすよ!」

 

うん。

 

「俺たちはどう頑張っても兄貴にはなれない……だから、俺たちなりの答えを見つけようと話し合いました」

 

うん。

 

「そしてアタシたちは……子供に笑顔を作ることにしたんです!」

 

うん。……うん?

 

「その後は他のヤツらと協力して、子供向けの本や兄貴直伝の手品を見せてやりやした! おかげでみんなめっちゃ元気になりやしたよ!」

 

………………忘れてた。コイツら、多方面で万能性能だったんだ。

よく見たらこの部屋も明るい感じになってるし、床も怪我しないように柔らかくしてるし、奥にある小型のスベリ台も作ってあるし……。

 

「いやー、まさか子供がこんなに可愛いとは思いやせんでしたよ!」

「全くだ。これも兄貴が俺たちに任せてくれたおかげだな」

「やっぱり兄貴は大陸一の漢だわ!!」

「「「ヒャッハーー!!」」」

 

違うんだ。お前たちが子守が出来ないと思って託したんだ。こうなるとは思ってもいなかったんだ。

 

「「「ひゃっはー!」」」

 

そこの子供たち! 部下のマネをするのはやめなさい! 山賊になりますよ!

 

「待たれよ。何故、子供らがこんな場所におるのだ? やはりお主らが誘拐を」

「んなわきゃねえだろ!! 兄貴は大悪党となるお方だ! こんなチンケな悪行に興味はねえんだよ!」

 

そうなんだけどさ! 今は黙っててお願い!

 

「それは私から説明致します」

 

そしてふと現れる美花。あ、ヤバい。この流れは絶対に良くない流れだ。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 

「待っ……」

「聞こう」

 

おーっと此処で厳顔くん、上手く割り込んだ!

 

「この子供たちはある場所に送られる予定でした。それを我々が保護する形になります」

「ほう……して、その場所とは?」

「巴郡です」

「……ワシの町か」

「然り。それも劉璋(りゅうしょう)様との繋がりがあるお方らしく、思っていた以上に根は深いようです」

「またあのクソボウズか……」

「賊もそのお方も直属の配下の娘を拉致していたとは思っていなかったんでしょう。これがもし、劉璋様の耳に入っていたら……」

「ああ。間違いなく人質よ」

 

ハァと溜息が出る厳顔さん。待てよ? 此処で俺たちが劉璋さんと知り合いとの設定にすれば……

 

「ちなみにそのお方に息がかかった賊は既に排除しておりますゆえ、これ以上は誘拐は出ないかと思います」

 

チクチョウ!

 

「……そうですか」

 

先ほどまで璃々ちゃんと抱きついていた黄忠さんがこちらに身体を向ける。

 

「少人数での呼び出しや武器を捨てる行為は……子供たちを安心させる行いだったんですね」

 

変な捉え方はやめてください! 俺は俺のためにやったんだよ!

 

「だが、こんな回りくどいやり方をしなくても……」

「考えろ焔耶。今回はワシらの町で出てきた膿。誰が味方かもわからん状況。なればこうするしか他あるまいて」

「…………浅はかでした」

 

オイオイこの流れはマズイ。何処かで最低なことをしないと……

 

「今回の件、本当にありがとうございました。どれほどの恩かはわかりかねますが、必ずお返しを出来ればと思います」

「おじさん! ありがとうございます!」

 

深々と頭を下げる黄忠さんと璃々ちゃん。

…………待てよ? 此処でもし、璃々ちゃんを蹴り飛ばせばまた敵対するんじゃないか?あまり得策ではないことは確か。しかし、俺には考える時間がない。やるのだ臧覇!

 

「「「おじさん、ありがとう!」」」

 

璃々に見習って子供達もお辞儀をする。

やれ……や……れ………。

う、うおおおおおおおお!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう……いたしまして……」

 

……もうヘタレでもいいです。

 

 

〜深夜・臧覇サイド〜

 

 

以上のことがあり、俺はこの地域の武将さんと仲良くなりました。

あの後すぐに帰ろうとしたんですが、黄忠さんと厳顔さんにどうしてもと言われて宴会を開くことになったのです。

 

そしてその宴会も終わり、この地域の人たちが寝てるであろう時間に俺たちは此処を去る準備をしていた。あまり長居するつもりはないのでとっととおさらばだ。

 

「全員、終わったか?」

「へい!」

「……もう一度聞くが酔っ払ってるヤツはいないのか?」

「俺たちなら大丈夫でっせ! あれだけならまだまだ飲めやす!」

 

厳顔さん、ぶっ倒れてたよ? 君たちの身体どうなってるの?

 

「それならいい。ならば行くぞ!」

 

俺の掛け声と共に数十の人が深夜の内に消えた。今回もまた失敗したが、俺は諦めない。必ず、必ずや成功して天へと高笑いしてやるからな!

 

この日を境に“名無しの救世主”という謎の噂が大陸を駆け巡るのだが、この時の俺は知るよしもなかったのである……



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第9話

今回は悪成分はないかと思います。


~廃村・臧覇サイド~

 

 

「誰もいねぇな……よし。てめぇら! 此処を拠点とするぞ!」

「「「ヒャッハー!!」」」

 

どうもみなさん、臧覇です。最近失敗が続き、もしかしたら悪役に向いていないんじゃないかなと思っております。だけど、諦めたら試合終了という言葉を信じ、今も悪役をやっています。

現在、誰にも使われなくたったであろう村を見つけ、俺たちの拠点にしようとしている。

 

「棄てられた村ねえ……孫の姉御。この近くに賊はいないんでしたっけ?」

「此処は賊が最も嫌う場所です。その心配はないかと」

「嫌う? 何かいるんですかい?」

「まさか……妖!? やだもー! アタシ無理なんですよ兄貴! 一緒に寝てくださいよー!」

「…………この地は“飛将軍”の管轄となっております」

 

美花がそのワードを言った途端、部下たちは手を止め、大量の汗が出てくる。

 

飛将軍……つまり、三国最強でもある呂布(りょふ)がこの近くにいるのだ。多分だが、あの孫堅さんよりも恐れられている。これなら妖の類の方がマシだろう。

 

「ひひひひ、ひ、飛将軍っ!!!??」

 

めっちゃビビってる。それも仕方なし。

 

「兄貴! 此処は退きやしょう!」

「命がいくつあっても足りませんよ!」

「兄貴はこんな場所で終わる人ではなくってよ!」

 

部下たちはそれぞれ自分の心配より俺の心配をしてくれる。いい部下たちだ。

しかし……

 

「落ち着けお前たち……飛将軍がいるからこそ此処を拠点にするんだ」

「「「っ!?」」」

 

そう。次のターゲットはあの呂布と決めていた。

これから董卓討伐が開始してしまうと蜀に取り込まれてしまう。比較的自由の身である今が最もくっころ時期と言っても過言ではない。

だからこそ今が狙い目なのだ。

 

「飛将軍がいるから……って、まさか兄貴!?」

「ああ。呂布を討ち、俺の名を天下に轟かせる時が来た!」

「「「う、うおおおおおおお!!!」」」

 

部下たちのボルテージは最高潮になり、大地が割れんばかりの雄叫びが響く。

 

「だがしかぁし!!」

「「「………………」」」

 

そんな雄叫びも俺の一声でピタッと止まるこの統一性。さすがは有能な部下たちだ。それをもう少しくっころのために使ってくれませんかね?

 

「この戦いは危険すぎる。正直に言うがお前たちでは大地に還ることになる」

「「「………………」」」

「ゆえに今回ばかりは俺1人で行うことにした。お前たちは此処を拠点として待機をしていろ」

「あ、兄貴1人っすか?」

「そうだ…………もし、数日経っても此処に戻らなければお前たちだけでも撤退しろ」

 

こればかりはどうしようもない。いくらチートを貰っているとはいえ、呂布さんの武力は計り知れない。もしかしたら負ける可能性だってある。だから、部下たちは連れていけない。

 

「……心配いりやせん! 兄貴なら呂布だって勝てやすって!」

「天下の大悪人と言わしめるために呂布を討つ。これ以上ない筋書きですね」

「信じてるわ。兄貴ならきっと呂布に勝って此処へ戻ってくると……そうだろおめぇら!」

「「「ヒャッハー!!!」」」

 

本当に良い子に育ちやがって……お父さん嬉しいよ。

けど、これって絶対悪役じゃないな、うん。

 

「美花。しばらくはお前がコイツらの親分だ。何かあったらお前に任す」

「承りました。ですが、私も皆と同様……御主人様の帰還をお待ちしております」

 

深々と頭を下げ、俺の無事を願う美花。なんでこの子、山賊やってるんだろ?

 

「それじゃあ俺は行く。てめえらもくたばんじゃねぇぞ!!」

「「「ヒャッハー!!!」」」

 

こうして俺は部下たちと別れ、1人で呂布を探すことになった。部下たちは最後まで俺に手を振っていた。

思ったけどアイツら普通に山賊向きの性格じゃねえな。誰に似たんだよ全く。

 

 

〜山奥〜

 

 

「美花の情報だと此処らで呂布が現れることだが……」

 

情報によるとこの山の中でよく呂布が入っていくのを見たとのこと。多分、動物関係だろうな。

とりあえず辺りを見回すがあるのは静かな風の音のみである。

 

「…………それにしても」

 

俺は悩んでいた。ターゲットは呂布さんと決めてはいたが、ある問題を抱えていた。

 

「呂布って……くっころするの?」

 

呂布さんは感情は表に出さない。そんな彼女がくっころしてくれるかも怪しい。しかも、とてつもなく強いのだ。どうすればくっころをしてくれるか……。しっかりと対策を練らんといけない。

 

「う〜〜〜〜ん…………」

 

動物を使うか? いや、それだけじゃあ意味がない。ならば陳宮(ちんきゅう)さんを……それもダメだな。

いくらか策を考えるが残念なことに何も浮かばない。今回ばかりは苦戦を強いられるな。

 

「ふぅ〜……」

 

俺は横になり、天を見つめる。

此処へ来て長い時が流れた。俺の目的は未だ達成されていない。しかし、何度かは惜しい場面もあった。通用していないわけではないのだ。だから俺は諦めない。必ずヒロイン全員のくっころを見てやるまではな!

 

「………………寝るか」

 

頑張ったって結果が出るわけではない。

果報は寝て待てという言葉があるようにたまには休むのも悪くないだろう。

 

「………………」

 

疲れも溜まっていたのか目を瞑っているとすぐに睡魔が襲ってきた。俺は抵抗もせず、すんなり睡魔を受け入れるのであった……

 

 

〜数時間後〜

 

 

「………………ん?」

 

目が覚めるとお月様が出迎えてくれた。少し寝るつもりだったが思った以上に寝てしまったようだ。

 

「んじゃ起きる……か?」

 

身体を起こそうとした瞬間、右半身に違和感を感じた。

とりあえずそちらに顔を向けると……

 

「………………くぅー」

 

幸せそうに居眠りをする呂布さんの姿があった。

 

「…………おんやー?」

 

この状況に脳が追いついていないのがわかる。

すまんな俺の頭脳さん。早速だが、フル回転で働いて貰おうか!

 

隣にいるのはターゲットである呂布さん。ゲーム通りの女性が俺の身体を抱き枕状態で使っている。此処で普通の主人公ならば慌てふためく様子を見せる。

しかし俺は違う。何故なら呂布さんを知っているからだ。大方、子犬のセキトと一緒に散歩している途中で俺と遭遇し、気持ちよさそうだからと昼寝をしてしまったのだろうな。ならば左隣にはセキトがいるはずだ。俺はゆっくりと顔を左に向ける。

するとそこには呂布さんと同じように気持ちよく寝ているセキトの姿が……

 

「よう……随分と気持ちよさそうに寝てたじゃねぇか」

 

あっ…………た……?

あれ? セキトって人間の言葉喋れたっけ? セキトってメスなの? というより俺の目には孫堅さんの姿に見えるんだけど?

 

………………………………

 

落ち着け俺。きっとこれは夢だ。悪だけに悪夢を見てるに違いない。

こんな時の対処法は……

 

「ぐ、ぐぅー」

 

もう一度寝ることだ。そうすればきっとこんな悪夢はすぐになくなるはz

 

「もう一度寝たら犯すぞ?」

「すんません勘弁してください」

 

もうやだこの人。クーリングオフ希望です孫呉さん。

 

「………………ん?」

 

そんなやりとりをしているうちに呂布さんも目覚めてしまう。右に呂布、左に孫堅。何このサンドイッチ? 胸焼けが凄そう。

 

「そこで居眠りしてる嬢ちゃん。オレはコイツに用がある。悪いがどっか行っててくれねえか?」

 

ホントに物事ハッキリ言う人だ。

だが、今回は俺的にも好都合。実は呂布さんの対策は何も出来ていない。だから此処で帰ってくれたらありがたい。孫堅さんは最悪逃げ切れるから大丈夫。

 

「…………やだ」

「ほう?」

 

呂布さん、まさかの否定。

 

「理由を聞こうか?」

「……わかんない。けど…………なんと、なく?」

 

なんとなくで孫堅さんに喧嘩を売る度胸。さすがは飛将軍様だね。

というより俺を挟んだまんま会話するのやめてくれませんか?

 

「そうかい……なら、覚悟は出来たんだろうな?」

「…………こっちの台詞」

 

そんな俺の気持ちを理解したのかお互いに立ち上がり、得物を取り出す。なんか今、少女漫画とかに出てくる“私のために争わないで!”みたいな気持ちです。

あれ? そうなると俺ヒロイン的な立場? ふざけんな!

 

「ちょっと待てええええ!!」

 

今にも勝負しそうな雰囲気に割り込みをかける。

 

「勝手に話し合って勝手に決めるな! 俺を誰だと思ってやがる!!」

「オレの想い人だ」

「それが勝手というんだよ! いいかよく聞け! オレはいずれ天下に名を轟かす大悪党の」

「…………悪党?」

 

キョトンとした顔で聞いてくる呂布さん。

 

「そうだ! それの何が悪い!」

「…………悪党……」

 

な、なんだよ?何が言いたいんだよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前…………悪党、向いてない」

「………………ッ!!!??」

 

その言葉は……どの刃物よりも鋭利であり、俺の心に突き刺さった。

 

「お前から……そんな匂い……しない」

「に、匂い?」

「悪いこと、する奴……いい、匂いしない……。お前……優しい、匂い……する」

 

淡々と話す呂布さんの言葉を聞き流す俺。というよりさっきの言葉のインパクトが強すぎて未だに困惑してるのだ。

 

「あん? お前、悪党になりてえのか?」

 

此処で孫堅さんも乱入。

 

「ならやめときな。そっちの嬢ちゃんも言ってたが向いてない。それにオレの勘だが……お前、未だに悪事働いてないだろ?」

「い、いや! それはない! 俺は山賊だ! こ、これまでだって数多くの悪事を働いた! 村だって襲ったぞ!」

 

この時は本当に襲った。しかし、そこは既に賊の配下の村だったので悪事三昧をしていた村だったというのを後で知る。

 

「だったら手配書の一つが出てもいいんだがな……それっぽいのはなかったぞ?」

(れん)も……覚え、ない」

「馬鹿な……俺は、俺はいずれ大悪党に……」

 

そうだ。きっとこれは俺を嵌めようする2人の策だ。そうに違いない……。ふん! そう簡単に惑わされてたまr

 

「お前…………悪党の、才能………全くない」

「なッ!!!??」

 

チートを授かった俺だが、心までは強くなかった。その言葉を聞いた瞬間、崩れるように膝をつく。

 

「俺は…………俺は…………」

 

悪党に……なれないというのか?

 

 

〜炎蓮サイド〜

 

 

なんか知らんが想い人は落ち込んでいる。

 

「……ふぅ。拍子抜けだな」

 

決してコイツに興味がなくなったわけではない。だが、今のまま抱いても全く燃えないだろうな。

 

「………………」

 

目の前の嬢ちゃんも武器を仕舞い、想い人に寄っていく。

 

「ソイツをどうするつもりだ?」

「…………連れて、帰る」

「………………」

 

普段なら反対するが、どうもオレの勘がそっちの方が面白くなると告げている。

なら…………。

 

「そうかい。なら、ソイツは任せた」

 

オレは面白い方に賭ける。

 

「…………わかった」

「オレの想い人を頼んだぞ。ソイツとの死闘はとても面白いからな。出来れば全力で闘えるようにしてくれ」

 

コクッと頷き、ズルズルと引きずりながら連れてかえる嬢ちゃん。あれが天下の呂布……ねえ。

さて、この選択はどう出るかな? まずは……一度帰るか。

 

「これからは楽しくなりそうだな……そうだろ?」

 

 

天に向かってオレは言葉を吐く。その答えは……オレも知らない。




感想読んでいくと孫堅さんの人気が凄いです。
ありがとうございました。


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第10話

ヤンデレタグを増やしました。
理由?
……本編をどうぞ!


〜洛陽・臧覇サイド〜

 

 

臧覇です。前回、呂布さんに衝撃的な通告を受けてから記憶が曖昧な状態になっておりました。そして意識がハッキリした頃には何故か呂布さんの部屋にいました。

そしてそして現在は……

 

『ワン!』

『ニャーン』

『ピヨピヨ』

『■■■■■■■』

 

動物に囲まれながら、戯れております。さながら飼育員状態です。どうやら俺は動物に懐かれ体質のようで、身体の至るところに動物が絡みつく。

というより1匹、完全に地球外生物がいるんすけど……大丈夫だよね? SAN値チェック必要?

 

高順(こうじゅん)殿! 次は張々もお願いしますぞ!」

 

そう言って愛犬を渡してくれる呂布さんの軍師、陳宮(ちんきゅう)さん。最初はメチャクチャ警戒されていたのだが、陳宮さんの愛犬である張々がものすごく俺に懐くのを見て警戒を解いたらしい。基準緩くないっすか?

ちなみに高順とは此処での俺の名前です。

 

「了解しました。張々、こっちにおいで」

「バウ!」

 

よしよし可愛いな。だからね、少し落ち着いて。俺の足は食べ物じゃないから。こらこらやめなさい。やめなさ……やめんか!

 

「相変わらず張々は高順殿が好きですな!」

 

違いますよ陳宮さん。コイツは俺のこと、非常食くらいしか思ってないないですよ。つーかマジで離せよ!

そんな感じで動物たちとじゃれ合っていると……

 

「ふふっ。みなさん、今日も元気ですね」

「………………」

 

今の上司である呂布さんとその更に上司の董卓(とうたく)さんの登場である。

 

(ゆえ)殿に恋殿! おはようですぞ!」

「おはようございます。董卓様に呂布殿」

「はい。おはようございます」

 

原作通りに淑やかで可愛さが残る人だ。なんかもう……浄化されそうです。

 

「…………ねね」

「わかっておりますぞ! すぐに準備してくるであります!」

「では俺は董卓様の護衛に移ります」

「…………お願い」

 

口数は少ないがある程度話していると大体わかってくる。習慣って怖いね。

そもそも新参の俺が董卓さんの護衛なんて引き受けていいのか? 華雄(かゆう)さんや張遼(ちょうりょう)さん辺りが妥当じゃないのかな?

 

「いつもすいません……まだまだ治安が悪く、皆さん忙しいので」

 

ということらしいですよ。

黄巾の乱以降、規模は少なくはなったがまだまだ荒れ放題の地域が多く、その度にみんな頑張ってる。

 

「いえ……このような新参者には余る任であります」

「け、決してそのようなことはないかと。高順さんはとても頼もしいですよ」

 

何すかこれ? 天使かな? ダメだ、眩しくて見てらんない。

 

「…………行ってくる」

「ではでは参りましょう!」

 

そう言って2人は姿を消す。残ったのは俺と董卓さんと動物たちである。張々、そろそろマジで離してくれない?

 

「今日はこれといった仕事もありませんので、此処でゆっくりしていきましょう」

「了解です。ではこの高順直伝の動物たちの芸を披露致しましょう」

 

俺は手を挙げると鳥たちが一斉に俺の目の前に集まり、輪っかを作る。次に犬や猫、地球外生物がその輪っか目掛けて走り飛び越えていく。

 

「わぁ〜……凄いです!」

 

その芸に董卓さんはとても喜んでいる。

 

「この子らは優秀です。董卓様、手を出してみてください」

「え? こ、こうですか?」

 

董卓さんが手を出すとその手にリスが止まり、花をプレゼントした。

 

「わぁ〜……ありがとう、リスさん」

 

何この萌兵器……こんなん見せられたら俺の悪なんて馬鹿みたいだな。

そんな感じで動物たちの芸を見せていると……

 

「こんなところにいたのね(ゆえ)

「あ、(えい)ちゃん」

 

眼鏡軍師である賈駆(かく)さんの登場である。

 

「どうしたの? 今日はこれといった仕事は……」

「仕事じゃないわ。ボクも時間が出来たから遊びにきたの」

「あ、そうなんだ」

 

そういって董卓さんの近くで座る賈駆さん。

……それと同時に一瞬だが、俺を睨みつけた。

 

「今、高順さんが動物さんたちと芸を披露していたの。みんな凄くて面白いよ」

「ふ〜〜ん……」

 

賈駆さん……というより、華雄さんと張遼さんもだが、俺のことは信用していない。ここ最近、霊帝付近の動きが怪しいらしく、警戒を強めてる。

その中で呂布さんが俺を連れてきたのだ。怪しくないわけがないだろう。逆に呂布さんや董卓さんが甘いと思う。

 

「ま、そんな凄い芸ならボクも見ていこうかしら」

「ホント? ……高順さん」

「お任せあれ」

 

疑うのも仕方ないさ。だけど、足を洗ったのだ。

俺はもう董卓さんの優しさで目が覚めたのだ。あんな馬鹿みたいに悪を目指すより、この人の笑顔のためなら頑張れる。

 

「ではまず、このクトゥルフの名状しがたい踊りを……」

『■■■■■■▲▲▲▲▲▲!!!』

「……お願いだからそれは見せないで」

 

……やっぱりダメだよな。

 

 

〜深夜〜

 

 

「………………」

 

この次に起こるのは虎牢関の戦い……所謂、董卓討伐だ。確か無実の罪で大軍と戦うことになるんだよな?

それはマズい。そうなってしまっては……

 

「董卓を人質に出来ないではないか!」

 

先ほど足を洗ったと言ったな? あれは嘘だ。

呂布さんが俺は悪に向いてないと言っていた。それで「はいそうですか」と諦めるなら最初から真っ当な人生を送ってやるわ!

だが、俺は運がいい……今いる状況はとても素晴らしいのだ。数人に疑われているこの状況。最高のくっころイベントではないか! しかも今回、有能な部下たちもいないときた。誰も俺を邪魔する奴はいないのだ!

 

「賈駆は強気な性格と董卓を大切にしている。必ずくっころイベントへと持っていける。そのついでに、張遼と華雄も一緒にくっころだ……」

 

ククク……決行は明日の朝。この時は全員が食事をする日となっている。ならば狙い目は此処。

 

まず食事は普通に行なう。そして皆が食べ終わった時、俺が作ったこの“衝撃で爆音がなる爆竹”を入り口付近に投げる。この爆音で全員がその音の方へと向くが俺だけは董卓の方へ移動する。一瞬さえあれば董卓さんを確保出来るのでその後は……お待ちかねのイベントだ。

 

「今回こそは上手くいく……これで俺は大悪党になれるのだ!」

 

悪は諦めん……絶対にだ!

 

 

〜王座の間〜

 

 

「モキュモキュモキュモキュ」

「恋殿〜!? それはねねの分ですぞ〜!」

「アッハハハ! しゃーなしや、ねねっち。恋の近くで食うてるアンタが悪い」

「くっ……大食いでも呂布に勝てんのか!」

「…………何やってんのよ」

 

皆さんとても楽しそうに食事をする。心なしか董卓さんも嬉しそうな顔をしてらっしゃる。

俺は新参者なので黙って食べる。クッソ、顔のフードが邪魔で食べにくいな。

 

「高順殿? どうされたのですか?」

「いえ、皆さん楽しそうに食べているので……」

「……なんや悪いんか?」

「まさか。羨ましいと思っております」

「……ふん」

 

おうおう当たりが強いのう張遼さんに華雄さんよう。此処から地獄を見るなんて想像もしとらんのにな……。

 

「……喧嘩は、ダメ」

「み、みなさん、楽しく……」

 

食事をしていた呂布さんと董卓さんが止めに入る。あいも変わらずお優しいことだ。だが、まだだ。焦るな俺……チャンスは食事が終わった時。

そして皆が食べ終わり、食器等を片付け……

 

「それじゃあこのまま軍議に……」

 

賈駆さんが立ち上がった。

今が好機! 袖の中にしまっていた爆竹を素早く取り出す。

 

「ッ! ちょい待ちぃな!」

 

チィ! さすがは張遼さん! だがもう遅い! 俺は爆竹を入り口付近に投げ捨てる。

そしてその爆竹は凄まじい音を鳴らす。

 

「「「ッ!!」」」

 

皆がその音の方へと顔を向ける。よし! このまま董卓さんの場所だ!

そう思った矢先……

 

「馬鹿なッ!? 何故バレた!?」

 

俺が投げた場所に、数人の男たちが現れた。

………………………………どちら様ですか?

 

「やっぱ、動いておったか! 華雄ッ!」

「ああ!」

 

その男たちを見てすぐに臨戦態勢に入る2人。呂布さんも既に得物を手にしている。

 

「せぃやああああああ!!」

「うぉりゃああッ!!」

 

な、何か戦いが始まっているが関係ない! 俺は俺の計画だ!

そして俺はすぐに場所に移り……

 

「……ッ! 月ッ!」

「え?」

 

董卓さんの手を取り、俺の元へと引っ張った。や、やった!!

そう思った矢先……

 

「ガッ!!?」

 

俺の背中に何かが刺さったのだ。

 

 

〜詠サイド〜

 

 

最近、宦官の動きが怪しい。皇帝を思うままにしようと模索しているのか、邪魔だと思った奴らは亡き者にしようとしている。世の情勢など気にせず、己の欲のままに。

そんな奴らのために月を巻き込みたくない。だから、(しあ)と恋、そして華雄をなるべく月の側近に置こうと頑張っていたが、世はそれを許さない。黄巾党に始まり、続々と荒くれ者たちが暴れているのだ。

さすがに放置にすることは出来ず、各地に配下を派遣する。この時のボクは本当に生きた心地がしなかった。

 

そんな状況が続いていた時である。恋から紹介したい人がいると言われたのだ。

 

「高順と申します。よろしくお願いします」

 

顔を隠した男であった。いくら恋の紹介とはいえ怪しすぎる。顔のことについて尋ねてみたら……

 

「大変申し訳ありません。私は顔を見られてしまうと全身の穴という穴から血が噴き出してしまう病気でして……」

 

それは病気ではなく、呪いよ。こんな男を月の側に置きたくないが、恋は大丈夫との一点張り。とりあえず霞と華雄には報告して何かあれば動ける準備だけ用意することにした。

そんな心配をよそに月はどんどんと仲良くなっていく。ねねも注意するようにと伝えていたが既に仲良くなっていた。だからボクは自分でも月に付き添うようにした。しかし、この男は動かなかった。

そして久々に集まる機会があり、朝は皆で食事をすることにした。

 

「ふふっ……」

 

やっぱり月も楽しそうな顔をする。それを見たボクも笑顔になる。

食事も終わり、そのまま軍議に移ろうとした。

その時……

 

「ッ! ちょい待ちぃな!」

 

霞が大声を出す。ボクはすぐに男の方を向くと何かを投げる様子が見えた。

 

「やっぱり……!」

 

何かを投げた瞬間、ものすごい爆音が響いた。嫌でもそちらに顔が向く。

すると……

 

「馬鹿なッ!? 何故バレたッ!?」

 

謎の集団が現れたのだ。きっと宦官たちの送った刺客だろう。いつかは来ると思っていたので霞と華雄はすぐに対処に移る。

ボクはあの男が気になりそちらに視線を移すと既に月の近くであった。

 

「……ッ! 月!」

「え?」

 

だが少し遅かった。男は月の手を引っ張ったのだ。

その瞬間……。

 

「ガッ!!?」

 

男の背中に数本の矢が刺さったのだ。まだ隠れていた刺客の矢である。あのまま何もしなければ月に襲っていた矢。

 

「……え?」

 

この男……月を守ったの?

 

「クソッ! 邪魔がはい」

「……死ね」

 

その刺客たちも悲鳴もなく恋の手によって首が飛んだ。

それはともかく……。

 

「高順さん! しっかりして下さい!」

「高順殿! 高順殿!!」

 

今、倒れているこの男は確かに月を守った。なら最初からボクの勘違いだったの? もしもボクが追放してたりしたら月が……死んでいたの? ボクは……ボクは……。

 

「しっかりせんかい詠っち!」

「……霞?」

「落ち込むのは後や! 急がんとこの男、くたばってまうで!」

「罪悪感に浸る時間はないぞ。先にどうするか考えろ」

 

霞も華雄も焦りながらもこの男を救おうとしている。ボクだけが何もせずに呆然としていた。

……ボクの馬鹿。まずはコイツを救うのが先なのに何をやってたんだ!

 

「みんな落ち着いて! 華雄は応急処置に心得がある人を探して! 霞はそのまま医者を呼びに……」

「いってええええええ!!!」

 

………………は?

 

 

〜臧覇サイド〜

 

 

「いってええええええ!!!」

 

何かが刺さったあああああ! メチャクチャ痛いいいいい!

 

「こ、高順さん?!」

「と、董卓様……今、私の、背中は、どうなって、いますか?」

「え、えと……や、矢が刺さってます」

「はぁ?! ふざけんなよ死んだらどうすんだよマジで!」

「落ち着くのです高順殿! 本来なら死んでますぞ!」

「黙らっしゃい!!」

 

つーかマジで痛い! とりあえず誰か助けてお願い!

 

「…………えい」

「ゲロッピ!?」

 

呂布さん……助けてくれたのはありがたいんですけどもう少し優しく抜いて下さい。

 

「えと……少しええか?」

「あ、はい、どうされましたか?」

「いやいや、自分、大丈夫なん?」

「そうですね……特に問題ないと思います」

 

背中の傷は既に塞がっており、血も出ていない。やはり此処らはチートの恩恵を貰ってるな。

 

「はぁ〜〜……なんやえっらい疲れたわ」

 

頭を抱える張遼さん。そういえば今どうなってるの?

 

「高順さん」

 

真っ直ぐな目で俺を見つめる董卓さん。この時に俺はある確信をした。

 

「このような事態に巻き込んでしまって申し訳ありません」

 

あ〜……今回もダメだったんだな。

 

「もしも、あの時に助けてくれなかったら私は此処にいなかったと思います」

 

もうこれはどうしようもないわ。しかも今は怪我しているから下手に暴れらんないし……。

うし、切り替えよう。チャンスはいくらだってあるんだし。めげずに頑張るぞい!

 

「言葉なので恩は返せないとは思っています。ですが、聞いて下さい」

 

そう言って董卓さんは俺の手を取り……

 

「本当に……ありがとうございました」

 

慈愛に満ちた笑顔で感謝をした。

 

「………………」

 

その時である!

俺の心の中にある悪の波動と慈愛の擬人化である董卓さんの善の波動がぶつかったのだ。この波動は全て俺の体内に蓄積されて未知数の塊となっていく。その塊はすぐに大きくなり、限界点に到着する。

その結果……

 

「ぐわああああああ!!?」

 

壮絶な痛みへとなったのだ!

 

「こ、高順さん!?」

「あかん! さっきの矢に毒が盛っとったんか!」

「霞! すぐに医務室に運んでちょうだい!」

 

お、おのれ董卓=サン! なんと凄まじい善だ! 人間が持てる善の数値ではない!

み、認めよう董卓=サン! 貴様は俺の最大の敵だ! しかし、今回仕留めなかったのを呪うがいい!

 

「ッ! 全員、下がれ!」

 

華雄さんが全員に指示をして、俺から離れる。

 

「サ……サヨナラッ!!」

 

直後、俺は膨大な気を爆発させる演出をする。残ったのは董卓さん御一行のみとなる。

 

 

〜詠サイド〜

 

 

高順は突然爆発したかと思ったらその場にいなくなっていた。

 

「……な、なんなのよ、アイツ」

 

結局、アイツは何がしたかったのかわからないまま。敵か味方かも判断できない。だが、月を救ったのは事実である。それだけはちゃんと礼をしたかったわ。

 

「…………詠ちゃん」

「? どうしたの月?」

「このままじゃダメだよね」

「……え?」

「何も恩を返せないままなんて……ダメに決まってるよね」

「ゆ、月?」

「ちゃんと恩返しをしなくちゃ……恋さん」

「…………ん」

 

恋は何か感じとったのか、すぐにその場からいなくなる。

 

「詠ちゃん」

「は、はい!」

 

あまりの凄みに思わず敬語になるボク。

 

「詠ちゃんもしたいよね……恩返し」

 

いつもの優しい笑顔を見せる月。しかし、その目に光はなかった。

 

「も、もちろんよ!」

「そうだよね……ふふっ」

 

 

これ以降、普段と変わりないいつも通りの月に戻っていった。しかし、アイツ関連となるとこの時の月になってしまうのだ。

 

もしかしたら……アイツはどの勢力よりも厄介なのかもしれない。そう思うボクなのであった。




というわけでヤンデレが増えました。
ますますくっころから離れていきますね。

それでは次回もよろしくお願いします。


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第11話

今回は主人公ではなく周りにスポットを当てました。
番外編っぽい感じではありますが、しっかりと物語に繋がるような話です。
それと、いつもの部下3人に名前が付きます。


〜部下サイド〜

 

 

「全員! 整列!」

 

彼らは臧覇の部下たちである。彼らが臧覇を慕う理由は様々である。ある者は助けられた恩。ある者は強さに惚れた者。そしてある者は一目惚れ……。

そんな彼らは今、荒野のど真ん中で集まっていた。

 

「兄貴の行方が分からない今……」

「俺たちに出来ることは何だ?」

「ただ兄貴を待つだけなのかしら?」

「「「否! 否! 否!」」」

 

まるで軍隊のような統一感。しかし、彼らは自分たちは山賊だと思い込んでいる。

 

「孫の姉御に頭を下げ、俺たちだけで行動をする……つまりは! 誰からも力を借りずに行動しなければならない!」

「残念ながら俺たちは兄貴がいなければ何も出来ない集団だ」

「けど今回は好機よ。これが上手くいけばアタシたちはもっと兄貴の力になるんですもの」

「「「うおおおおお!!!」」」

 

いつもの部下3人が皆を奮い立たせる。それに応えるように皆も叫ぶ。

 

「常々兄貴は言っていた“悪のために行動しろ”……この意味は何だ?」

「古今東西、どこもかしこも己の欲しか考えない連中だらけだ」

「そんな中で兄貴は悪になろうとしている……これにアタシたちはある答えにたどり着いたわ」

 

いつも以上に気合が入っている部下たち。その姿は歴戦の猛者のようである。

 

「時代に逆らう悪……すなわち! 兄貴は天下に勝負を挑もうとしてるのだ!!」

「「「な、何だってーッ!!!」」」

 

もちろん臧覇は普通に悪役になりたいだけであってそんなことは一切考えていない。

 

「その偉業を行う前に俺たちが足手まといになっては兄貴の名前に泥を塗ってしまう……ゆえに! 俺たちはこの部隊の強化に目をつけた!」

「「「おおー……」」」

「まずは部隊を三つに分ける。第一部隊は各地で活躍する賊の鎮圧。第二部隊は使える奴の勧誘。第三部隊は入ってきた新人の訓練。以上を行うことでより兄貴の力になるはずだ」

「何か質問があればすぐに聞いてちょうだいね。あと、分かってると思うけど女子供は手を出さないように」

「「「ヒャッハーーー!!!」」」

 

何度も言うが彼らは山賊です。臧覇は普通に悪役になりたいのです。そんな意図も気にせずに彼らは臧覇の為にと思って頑張ります。

 

 

「この廖化(りょうか)……兄貴の役に立って見せやす!」

董公仁(とうこうじん)、必ずや兄貴の力となります!」

「兄貴の為に……呂岱(りょたい)、奮起するわ!」

 

 

後に彼らは各地で賊退治に力を入れ、村や町に希望を与える存在となるようだが、それはまた別のお話である……

 

 

桃香(とうか)サイド〜

 

 

「名無しの救世主?」

「はい」

 

私の名は劉備(りゅうび)。この世の平和を求めて、みんなと頑張っています。

そんな中、軍師である朱里(しゅり)ちゃんがある噂を持ち出した。

 

「ここ最近の話ですが、賊の退治や村への手助けを行っている人たちのことです」

「神出鬼没であり、少量の物資のみを貰い、突如として消える……民の間では“天の使者”とも言われてます」

 

朱里ちゃんと同じ軍師である雛里(ひなり)ちゃんもまた噂の話をする。

 

名無しの救世主。

村や町の至る場所で噂を聞く。何でも賊や悪事を行なっていた貴族にも天誅を下し、颯爽と消え去る謎の人物。

 

「確かに最近はその話を聞きますね。実際に助けられた人もいるようですし……」

鈴々(りんりん)もさっきその話を聞いたのだ!」

 

愛紗(あいしゃ)ちゃんも鈴々ちゃんもその噂に食いつく。確かにこの噂は私自身も気になる。

 

「非力な民に手助けをする……まるで桃香様と同じ志を持つお方がいるのでしょう」

「うん……そうだといいよね」

「そうに違いないのだ!きっと鈴々たちと一緒でみんなの平和を願っているのだ!」

「その可能性はあるかと思います。しかし、この噂が目立てば目立つほど、上はいい顔はしないでしょう」

 

朱里ちゃんの言う通り、この噂は民の答えと言っていい。それほど今の情勢に不満があることなんだよね。それを直して、平和な時代を作りたいのが私たちが戦う理由。

 

「出来れば会ってみたいけど……今は自分たちのことでいっぱいだから難しいかな」

 

たとえ会ったとしても今の私に出来ることは少ない……だったら少しでも強くなって一緒に平和の為に話し合いたいな。

 

「……きっと素晴らしい方に違いありません」

「そうなのだ! 桃香お姉ちゃんのような優しい人に違いないのだ!」

「……うん! そうだね!」

 

よし! みんなと一緒に頑張っていこう!

すると扉から音がなり、1人の女性が入っていきた。

 

「失礼します。お茶が入りましたので少し休まれてはいかがでしょうか?」

「あ……そういえば随分と時間がたっていましたね」

「それじゃあ少し休もっか」

 

無理して身体を壊しても意味がないしね。

 

「ありがと、美花ちゃん!」

「いえ……これも皆様の為です」

 

 

~炎蓮サイド~

 

 

「………………」

 

オレは今、自室でとある客人を目の前にしている。想い人と離れ、自国に帰ってすぐの客人だ。

 

「いやー孫堅さんが帰ってくる日に出会えてよかったですよー」

 

コイツは袁術の腰巾着の張勲……だったな。何でもオレの国と同盟を結びたいと雷火が言っていたようだが……どうも腹の中が見えんな。

 

「オレはまどろっこしいことは嫌いなんでな。出来れば早めに案件を言ってくれると助かる」

「……では、話させて頂きますね」

 

常に笑顔を絶やさない……なるほど。雷火が気を付けろと言っていた意味がわかる。

 

「美羽さまはあるお方を探しています。その人物を一緒に探してほしいのです」

「………………」

 

もっと馬鹿っぽい案件が飛んでくると思ったが……それだけならオレに言う必要もないはずだ。なら、何故コイツはオレに直接言ってきた?

 

「何故オレに言う? それだけならオレの配下にでも言えばいいだろう」

「それはそうなんですけどね……どうもその人物、貴女が追いかけている人と一緒みたいなんですよ」

 

その言葉にオレは反応した。オレが追っている人間はこの世でただ1人だからだ。

 

「何処の情報だ?」

「さぁ? 風で流れてきた情報なので不安でしたけど、どうやら当たりみたいですね」

「ふん……どの口が言う」

 

だからオレに直接会いにきたのか……コイツも物好きな奴だ。

 

「それでどうでしょうか?もし、協力してくれましたら情報の共有は約束しますので」

「……理由を聞こうか」

「理由……ですか?」

「そうだ。その分ならオレに会うのも危険な賭けだったはず。なのに貴様はその橋を渡った。そこまでする理由は袁術の為か?」

「………………」

 

コイツの袁術好きは知っている。だが、それだけならこんな賭けには出ない。そこまでする理由が知りたかった。

 

「もちろん美羽さまの為でもあります……しかし、同時に私の為でもあるんですよ」

「ほう……」

 

今まで笑顔だった顔が真剣な目になった。これは覚悟の目か? いや、少し違うか。

 

「私は全身全霊で美羽さまを愛しています。しかしですね……そんな私が一瞬……そう、その一瞬です。その人を私のモノにしたいと思ったのです。最初は自分でも理解出来なかったです。しかし、それは私なりの“恋”と知った時に理解出来ました」

「………………」

「無論美羽さまが欲しいと言えば差し上げます。ですが……“いつ”“どのように”渡すかは存じ上げておりませんので……後は、わかりますよね?」

 

……コイツもオレと同じか。どんな場面があったか知らないが不器用なやり方しか愛せない人間だ。

 

「だが、そうなるとオレは敵対する立場のようだが?」

「ええ。ですが、今の孫呉とは同盟国でもありますので……立場上は協力しないといけませんよ?」

「……これを知って同盟を結んだのか?」

「今回は本当に偶然でしたよー。でも、共同作業もまた、楽しみではありませんか?」

 

ふっ……やはり戻ってきて正解だった。こんな楽しい状況になっているなんてな。これも想い人のお蔭だ。

 

「そういう理由なら協力してやろう。猛者は多くの色を好むはずだからな。オレとしても大歓迎だ」

「ありがとうございます。では、一つ情報を差し上げます」

 

……情報?

 

 

「彼の名は臧覇。各地を騒がせている“名無しの救世主”です」

 

 

〜人和サイド〜

 

 

「名無しの救世主様……これって神様よね?」

「ええ。顔を隠しているのが特徴と言っていたからまず間違いないわね」

 

私たちは今、ある町で食事をしている。神様が言っていた人を導く為に多くの信者集めを行なっている。これもいつかは神様の役に立つ日がくる。

そんな中でちぃ姉さんが言っていた“名無しの救世主”。これは間違いなく神様だ。きっとこの世の人々を救おうとしているようだ。

 

「こんな時こそ、ちぃたちも神様の役に立ちたいのに……」

「仕方ないわ。世間では黄巾の残党がいるから迂闊に出れば私たちが疑われるわ」

 

そうなってしまっては確実に極刑。そんなことをすれば私たちは天の国へ行けない。非常に不本意だが、此処は耐え忍ぶしかない。

 

「そんなことより天和姉さんは?」

「まだ買い物じゃない?」

 

全く……昔から買い物が長いのは変わらないわね。だけど、私たちの中で1番頑張っているのもまた天和姉さんのも事実。その為の息抜きも必要よね。

そんなことを思っていると……

 

「そこのお二人。少しよろしいですか?」

 

とても小さい女の子が私たちに話しかけてきたのだ。

 

「……もしかしてちぃたち?」

「もしかしなくともお前たちなのです」

「えと、何か?」

 

すると女の子は私たちに近づき……。

 

「(出来ればついてきて欲しいのです……張宝殿に張梁殿)」

「「ッ!?」」

 

私たちの本当の名で呼んできた。その名は黄巾討伐時に捨てているので知ってるのは神様とごく一部の人間のみである。しかし、大声を出さない様子を見ると、向こうも何かあるようだ。

そうなると選択肢は一つのみ……。

 

「わかったわ。ちぃ姉さんもいい?」

「ええ」

「有り難いのです」

 

私たちはこの女の子の後についていく。しばらく歩いていると目の前にボロボロの小屋が見えた。そこで女の子は止まる。

私たちは黙ってその小屋の扉を開ける。

そこには……。

 

「モキュモキュ……」

「はぁ〜ん……か、可愛い」

 

天和姉さんと謎の女性が仲良く肉まんを食べていた。

 

「ち、ちょっと!」

「ん? ……ああ! 2人とも!」

「2人ともじゃないわよ! 一体なんなのこの状況は!?」

 

私もちぃ姉さんも流石に戸惑ってしまう。まるで意味がわからないからだ。

 

「れ、恋殿? それはもしやねねの肉まんでは?」

「…………ごめん」

「恋殿ーーー!?」

 

こっちもこっちで慌てているようだ。とりあえずお互いが落ち着き、話し合いの場を作ることは出来た。

 

「それで天和姉さん……この人は一体誰なの?」

「うん。実はね〜……誰だっけ?」

 

……うん、気にしないでおこう。

 

「と、とりあえずねねが説明しますぞ」

「あ、よろしくお願いします」

「ねねは陳宮です。そしてそして……」

「…………恋は呂布」

「「…………ええっ?!」」

 

呂布って、黄巾討伐で3万の賊を1人でやっつけたっていうあの?

だとすればこの場にいる私たちは危ないはずだが……

 

「…………恋、何もしない」

 

こちらの気持ちを読んだのか、捕らえる気は無いらしい。だとすれば此処に呼ばれた理由は?

 

「お前たちが黄巾党の長の張角たちなのは把握済みなのです。しかし、既に首謀者の偽者は討たれたのでお前たちを捕らえる気はさらさらないのです」

「……それなら此処に呼ばれた理由を教えて頂けないでしょうか?」

「実は……お前たちからある匂いがするらしいのです」

「匂い?」

「ええ! ちぃ臭いの?!」

「…………違う」

 

どうやら呂布さんがその匂いを感じ取っているらしい。しかし、そんな匂いらしきものは感じないが……。

 

「……優しい……匂い…………する」

「優しい?」

 

ますますわからなくなってきた。

 

「違うよ2人とも。呂布ちゃんは神様のことを言ってるんだよ」

 

そんな中、天和姉さんは呂布さんの気持ちを理解している。しかも、その匂いとは神様のことらしい。

 

「どうやらね、呂布ちゃんたちは神様に恩返しをしたいみたいなの」

「恩返し?」

「そうなのです! 高順殿は我が君主の命の恩人! ですが、何も言わずに去ってしまったのです!」

 

……多分だが、天和姉さんもちぃ姉さんも同じことを考えている。

 

「さっすが神様! ちぃたちだけじゃなくていろんな人を救っているなんて……素敵!」

「うんうん!」

 

神様の活躍を耳に入ると自分のように嬉しく思う。同時にまだまだ精進が足らないと自分に活を入れる。

 

「それで……呂布さんは神様に会いたいのですか?」

「………………ん」

 

深く縦に首を振る呂布さん。

言葉こそ少ないがしっかりと意志を伝えてくるので理解は出来る。

 

「けど、ごめんなさい。今の私たちは表に出れない状況でして……」

「………………?」

「えと……私たちは黄巾党の真の首謀者です。なので誰かにバレてしまう可能性があります」

「もう少しでこの騒ぎも落ち着くからちぃたちも自由に活動出来るのよねー……」

「それまで、我慢してるんだ〜」

 

そう……未だに黄巾を語る愚族が暴れている。本当に困ったものだ。

 

「…………ねね」

「了解なのです!」

 

そう言って、陳宮さんが前に出てくる。

 

「お前たちについて行けば高順殿に会える可能性があるということになるのです! ならば、このねねと恋殿が協力してあげるのです!」

「「え?」」

 

陳宮さんの提案に驚く私とちぃ姉さん。それもそのはず。私たちは黄巾党の首謀者なのだ。それがバレて協力していたとなると、彼女の立場は危なくなってしまうのではないか。

 

「けど、本当にいいの? もし、バレたら……」

「…………いい」

「命を救って下さった人を何もしない方がねねたちにとっては大問題なのです!」

 

どうやらこの人たちも神様の導きで此処に来たのだろう。

ならば、私たちは…………

 

「それではよろしくお願いします。呂布さんに陳宮さん」

 

それを受け入れていこう。これが私たちの出来る神様への恩返しだから……

 

 

こうして様々を動きを見せた陣営。その中心には必ず、臧覇の存在があった。

そんな臧覇は今……。

 

 

〜???・臧覇サイド〜

 

 

「おーっほっほっほっ! おーっほっほっほっ!」

「………………」

 

金色に輝く謎の女性と一緒に歩く臧覇の姿があった。

その目は………………全てを諦めた目であった。




部下3人の名前は覚えなくても問題ありません。今後、名前が出てくることはないとおもいますので。

ありがとうございました。


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第12話

「おーっほっほっほっ! おーっほっほっほっ!」

「………………」

 

………………………………はぁ。

 

「袁紹さまー!」

「おめでとうございます袁紹さまー!」

「おーーっほっほっほっ!」

 

今日は袁紹さんの誕生日らしくパレードみたいな感じで街を歩いている。民から祝福を受ける袁紹さん。その姿はまるで名君のようである。

そんなおめでたい日に横に俺がいるのは何故だろうか?

 

「いやーめでたいっすね麗羽(れいは)さま!」

「本当に……立派になられましたね……うぅ」

「やはり私の目は正しかったのよ! 麗羽さまこそ王者の器を持つ君主!」

 

ああ……文醜(ぶんしゅう)さんと顔良(がんりょう)さんも祝福ムードになってらっしゃる。それとそこの眼鏡さん、出来ればこの人を止めて下さい。

 

「おーーーっほっほっほっ!」

 

さっきから笑っているけど肺活量すごいっすね。まぁ今の俺にはそんなツッコミを入れる気力もないが。とりあえずこの状況を壊してくれる人はいないですか?

 

「顔をあげなさい(りゅう)さん!このような祝いの席でそのような態度ではいけません!」

「ハイ、モウシワケアリマセンエンショウサマ」

「もう、わたくしのことは麗羽でいいと言っているのに……」

 

………………どうしてこうなった?

 

 

何故、臧覇は袁紹の陣営にいて、このような流れになっているのか。

それは彼が董卓の陣営から離れた時の出来事であった……。

 

 

〜荒野・臧覇サイド〜

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

クソ……思った以上にダメージを受けているな。ここまで身体が重いのは初めてかもしれん。

やはり、休みなくがむしゃらに走ったのはいけなかったか。

 

「もう……ダメ…………だ……」

 

こんな荒野で寝るのは自殺行為だが、脳も働かない。それに意識も朦朧し始めた。

そして俺は前のめりに倒れ、そのまま意識を手放した。

 

「………………」

「……あら?」

「麗羽さま? どうしたんすか?」

「いえ、そこに何かあるのが気になりましてね……」

「……って、人が倒れていますよ!」

「え? お、ホントだ。おーい! こんなとこで寝てると風邪引くぞー!」

「そうじゃないでしょ文ちゃん……どうされますか麗羽さま?」

「本来なら庶人に構う時間などありませんが……今日は気分がよろしくてよ。連れて帰りなさい」

「「はい!」」

「この袁本初に助けて貰えるなんて……末代までの誇りとなさい! おーっほっほっほっ!」

 

 

〜???・臧覇サイド〜

 

 

臧覇よ……聞こえますか? 貴方に伝えなければならないことがあります。

実は……ハン●ー×ハン●ーが最終回を迎えました。

 

「マジかよ!」

 

布団から飛び上がるように起きた俺。

 

「………………夢か」

 

夢でもいいからその最終回見たかったな。

つーか俺、荒野のど真ん中で寝てたような気がするんだけど……ここどこ?

そんなことを思っていると……

 

「失礼しまー……あ! 目が覚めたんですね!」

 

おかっぱの女性が部屋に入ってきた。

というよりこの人……

 

「………………顔良さん?」

「え? ……何処かで会ったことありましたっけ?」

 

やっぱりそうだったってマズい! 思ったことをそのまま口にしてしまった! ええい! とりあえず誤魔化すしかない!

 

「い、いえ、かの袁一族に所属している二枚看板の顔良様を知らない方が珍しいかと」

「ああー……そういえば私たちって有名なんでしたっけ?」

「もちろん」

「う〜〜ん……麗羽さまはともかく、私と文ちゃんってなんか実感が出てこないんですよね」

 

あーうん、何となくわかる。周りが凄いと思っていても当事者からすればそんなことないよっていう感じ。わかるわかる。

 

「えーっと……私を助けて下さいましてありがとうございます」

「いえいえ。礼なら麗羽さまに言って下さい。ホントに珍しいことなんで」

「珍しい?」

「麗羽さまは基本的にこういったことはしないんですけど……あの時は気分がいいと言って助けた感じですので」

 

ふむ……気分で助けてくれたというわけね。まぁ運が悪ければ死んでいたかもしれんしな。それは礼を言う必要がある。

 

「とりあえず礼を言わなくてはなりませんね……お会いする許可等は必要ですか?」

「そうですね……一通り確認してきますのでお待ちになって頂けますか?」

「了解しました」

 

そして顔良さんは部屋から出ていった。

さてと……

 

「礼を言った後は逃げるとしようそうしよう」

 

くっころはどうしたって? そんな状況じゃねーんだよちくしょう!

この時期の袁紹さんって最ッッ高に波に乗ってる時期なはず。俺のプランとしては曹操さんに負けて1番弱い時を狙う筈だった。

しかも、俺の調子といえば最ッッ高に悪い。身体は動くがそれだけ。戦うことはまず無理だ。

最後に今いる場所は袁紹さんの懐。これまで懐に入って成功した試しがない。今回も失敗する可能性大と見てもいい。

以上のことがあるのでまずは戦略的撤退を行う。異論は認めん。

 

「こ、今回は貴様の勝ちだ袁紹。しかし、必ずやお前のくっころを拝んでみせるぞ!」

 

三下っぽい感じを見せた瞬間、扉のノック音が聞こえた。

そして顔良さんが顔を見せた。

 

「麗羽さまが会ってもいいそうなので案内をしますね。準備などは大丈夫ですか?」

「ええ、もう準備は出来てますのでよろしくお願いします」

「わかりました」

 

さてと……袁紹さんに会いに行きますか。

 

 

〜王座の間〜

 

 

「おーっほっほっほっ!」

 

開幕早々飛ばしてますね袁紹さん。

そんな袁紹さんの隣には文醜さんと……なんか眼鏡をかけた女性がいる。誰ですかい?

気にはなるがとりあえず礼を言わなくては……

 

「此度は助けて頂き、ありがとうございます」

「気にすんなよ!」

 

文醜さんが答える。

 

「アンタは黙ってて! ……失礼」

 

それにツッコミをいれる眼鏡さん。あの人、絶対苦労人だ。

 

「ま、猪々子(いいしぇ)さんも言っていますが気にしなくて結構。この袁本初に助けて貰えたなんて……庶人にとっては死んでも返せない恩ではなくて?」

 

気にしなくていいのか、気にしたほうがいいのかどっちなんだよ。

ダメだ……今の状態でこの人をどうこう出来る問題じゃない。早く撤退しよう。

 

「袁紹様の御恩、末代までの家宝とさせて頂きます。それでは私はこれで……」

「お待ちなさい」

 

もう少しで撤退出来た所で袁紹さんのちょっと待ったコール。え? 何? 選択肢間違えた?

 

「な、何か私に?」

「いえ、せっかく助けたのにこのまま終わるのは何かつまらなくて?」

「わ、私如きが袁紹様とお話しするのも無礼かと……」

「そんなことは私が決めることですわ!」

 

この理不尽さ……正に袁家ですねわかります。

 

「……貴方、名は?」

「えと……その……劉と申します」

 

流石に本名は使っちゃマズいからね。適当に言っておこう。

 

「では劉さん。しばらくはこの袁本初の付き人としてさしあげますわ! 感謝しなさい!」

 

………………は?

 

「そ、それこそ私には身に余ることです! 御恩は必ずや返します故にどうか!」

「ならばその恩を返す時は今ですわ!猪々子さん、斗詩(とし)さん、真直(まぁち)さん、問題は?」

「「「ありません!」」」

 

あれよ! 顔を隠した男だぞ! 怪しいだろが!

 

「さあ! まずはわたくしの街を見せてあげますわ! 準備なさい!」

「い、いえ! ですから! 待って! お願い!」

 

なんでこの人イケイケなんだよ! 庶民に興味ないんじゃないの!? ねえ!

 

 

さて、此処までで疑問に思う所はある。何故、袁紹はこれほど臧覇を連れ回したがっているのか?

もちろん、この時点で臧覇に何かあったわけでもない。

実はこの時、袁紹にある変化が訪れていた。

 

袁紹。原作では身勝手で何かすると誰かを巻き込む厄介者として扱われている。もちろん此処でもその根本は変わっていない。

しかし、ある日を境に袁紹が変わるキッカケとなる出来事があった。それは……

 

「麗羽お姉さま!」

「まぁ美羽さん! よくいらっしゃいましたわ!」

 

袁術である。袁術は基本的に袁紹を苦手としている。しかし、美花の教育で様々なことを学び、成長していった。その成長の中で袁紹との関係も少しずつ変わっていき、今では本当の姉妹のような関係になっていた。

そんな開花する袁術を見て、袁紹は……

 

「美羽さんに負けてはいられませんわ!」

 

妹には負けたくないという気持ちになり、自身もまた様々なことを学ぶようになったのだ。元々、曹操と同じ私塾で好成績を収めていた程の才能。必然的に成長していった。

そんな中で、袁紹はあることに気付く。

 

「………………これ、わたくしが行う必要があるのかしら?」

 

今までは自分がやらないと気が済まない性格だったので率先して物事に突撃し、勝手に自爆する流れだった。しかし、自分を見れるようになった袁紹は自身にとって必要不要がわかるようになる。

 

「真直さん。この案件は全て貴女に任せます。重要な情報以外は貴女で判断しなさい」

「わ……わかりました!」

 

その為に大体のことは田豊(でんほう)に任せるようになる。

この時、田豊は……

 

「麗羽さまが……私を頼ってくださった! 必ず結果を出す!」

 

今まで話すら聞いてもらえなかった袁紹が自分を頼りにしてくれる。それだけで田豊はやる気に満ちていた。

こうしたこともあり、袁紹の陣営は着々と力をつけていく。

しかし、此処で別の問題が発生する。

 

「………………暇ですわね」

 

暴走していた分の時間が手に入ったのだ。仕事は部下が全部行うのでより暇な時間がある。

そして気分転換にと散歩をしていたら……

 

「………………」

「……あら?」

 

臧覇を発見したのである。

様々な出来事が重なり、結果として袁紹と出会うことになった。今の袁紹は時間が有り余っている。

つまりは……

 

「何か面白そうですわね……しばらくはわたくしのお供と致しましょう」

 

暇つぶしなのである。

 

しかしそれだけでは真名を許すことにはならない。もちろん、そうなった理由がある。

そうなった理由は……

 

「このままではマズい……どうにかして逃げなければ!」

 

臧覇である。

この男、普通ならば何もしなければ済む問題を焦ってしまい……

 

「……そうか! 嫌われ者になればいいんだ! ならばくだらないイタズラで困らせてやる!」

 

率先して首を突っ込んでいったのである。

さて、お気付きの方も多いかと思うが、この男は神様からチートを授かっているが運には全く好かれていない。

袁紹が持つ豪運と臧覇が持つ凶運……二つが交わった時、どうなるのか?

ご覧頂きましょう。

 

 

〜回想その1・臧覇サイド〜

 

 

「袁紹様、こちらが美味しいと評判の肉まんです」

「まぁ!ありがたく頂きますわ!」

 

ククク……その中には激辛唐辛子が入っているのだ! さぁ! 悶え苦しめ!

 

「モグモグ………ホントに美味しいですわね!」

 

………………あれ?

 

「えと……袁紹様?」

「なんですの劉さん?ああ、貴方も食べたいのですね。よくってよ」

 

そういって食べていた肉まんを差し出す袁紹さん。もしかしたら入れ忘れた?

そう思い肉まんを食べると……

 

「………………かっれえええええ!!?!」

「劉さん?!」

 

待って! シャレになってない! 辛いというか痛い!

 

「ま、まさか……わたくしを守る為に……見事ですわ!」

 

違う! 違うよ袁紹さん! つーかマジで痛い!

 

 

〜回想その2〜

 

 

よし……例の場所に誘導すれば罠が発動して、落とし穴に落ちるはずだ。

 

「こちらで素敵な景色を見れますよ袁紹様」

「おーっほっほっほっ!」

 

そのまま……そのまま……3、2、1!

 

「………………」

 

あと一歩のところで足を止める袁紹さん。

 

「どうされましたか?」

「………………」

「袁紹様?」

「…………ハ、ハクション!」

 

どうやらくしゃみをしたかったようで止まったようだ。

さあ、くしゃみが済んだら……

 

「今日は随分と冷えますのね。戻りましょうか」

「え?! え、袁紹さッ!?」

 

クルリと回り、帰ろうとする袁紹さんを止める俺。その時、足首を捻ってしまい、地面に手が付く。

その瞬間……

 

「おわあああああ!!?」

「劉さん!?」

 

落とし穴に落ちてしまったのだ。

 

「身を投じてまでわたくしを護ろうと……さすがですわ!」

 

………………次こそは。

 

 

〜回想終了〜

 

 

それから何度も嫌われようと頑張ってきた臧覇。しかし、事あるごとに失敗してしまい、袁紹の株が上がっていった。

そして……

 

「劉さん。わたくしのことは麗羽と呼ぶように」

「」

 

袁紹の真名を許されたのだ。

もう一度言うが臧覇は決してワザとやっているわけではない。どうにかして嫌われようと罠やイタズラを行なった。しかし、袁紹の豪運と臧覇の凶運が重なり合い、このような結果が生まれたのだ。

真名を許された臧覇に対しての評価は……

 

「なんか麗羽さまが楽しそうだから問題ないっしょ!」

「劉さんがいると麗羽さまも大人しいので……出来れば……そのまま……」

「犠牲はつきものよ」

 

受け入れられていた。

もちろん脱走しようとも考えた。そして夜遅くに決行しようとしたら……

 

「劉さん、少しお茶でもよろしいかしら?」

「……ハイ」

 

絶妙のタイミングで袁紹が邪魔をしてきたのだ。それも決行しようとした直前にやってくる。まるで逃がさないかのようにやってくるのだ。

 

以上のこともあり、街の誕生パレードは死んだ魚のような目をしている臧覇である。

 

 

〜深夜・臧覇サイド〜

 

 

パレードが終わり、静けさを取り戻した街。そんな日の深夜……

 

「………………」

「素敵な夜ですこと」

 

俺は袁紹さんと共に深夜の街を歩いていた。

 

「これもわたくしの威光で発展していった街ですわ。どう思います?」

「……素晴らしいことかと」

 

俺は既に心が折れかかっていた。この人はどう頑張ってもくっころに出来ない。もうムリポ。

 

「……この先は誰も追ってはこないでしょう」

「……?」

「あら? 逃げたかったのではなくて?」

「………………いつからお気づきで?」

「それは秘密ですわ」

 

え? この人ってこんなにカッコよかったっけ? もっとこう……失礼だけど馬鹿っぽい感じじゃなかったっけ?

 

「このまま貴方を手にしたい。それは変わりませんわ。ですが……今のわたくしはやる事が多い。出来ることでしたら全てが終わった暁に貴方を迎え入れる方が魅力かと思いましてね」

「………………」

「昔のわたくしでしたらこんなこと思いもしないでしょうね。きっと既に家柄を威張り散らして終わっておりますわ」

 

んん? 俺は今、袁紹さんと話しているよね? 袁紹さんの皮を被った曹操さんとかじゃないよね?

 

「しかし、このままお別れもまた寂しいですわね。……劉さん」

「………………え?」

 

その瞬間、袁紹さんは俺を抱きしめた。優しくも強い抱擁だ。

 

「次に会うときは……本当の貴方に出逢いたいものですわ」

 

そういって袁紹さんは優雅に去っていく。その後ろ姿は見たことがない王者の姿である。

1人となった俺は地面に膝を付き、四つん這いのような姿になる。

 

「また負けた……手も足も出来ないまま……負けた……」

 

これが……圧倒的敗北!

 

「……落ち込むな臧覇。今は立ち上がるのだ」

 

このままで終わらせてはならん! 必ず……必ず復活を遂げ、貴様のくっころを!

 

「袁紹……次に会うときは絶望の世界だ!!」

 

勢いよく立ち上がり、街を後にする。まずは部下たちと合流しなくては……

 

 

〜麗羽サイド〜

 

 

「ふふっ」

 

まさかこのわたくしが殿方に惚れるなんて……夢でも見ているようですわ。劉さんも罪なお人。

 

「しかし! 最後に笑うのはこの袁本初! 必ずや劉さんを手に入れますわ!」

 

おーーーっほっほっほっ! おーーーっほっほっほっ!

 

 

こうして臧覇は袁紹の下を去り、再び荒野へと走り出したのだ。




袁術……配下の謀反を許すほどの優しさを手に入れた慈悲深き王。
袁紹……己の技量を見極め、着実に力を蓄える時代の王。
……袁一族が強くなっているような気がします(汗

ありがとうございました。


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第13話

〜森・臧覇サイド〜

 

 

袁紹さんの陣営から離れた俺は部下たちと合流した。どうやら皆、頑張っていたらしく20もいかなかった集団がいつのまにか100を超えていた。ええ……。それと美花の姿がないが、部下の話では何処かの陣営で潜入中らしい。

とりあえずそんな大人数と行動するとかえって目立ってしまうので部隊を分け、別々に行動するように指示を出す。

そして俺たちは……

 

「「「ヒャッハー!!」」」

「た、助けてくれー!!」

 

商人を襲っていた。もちろん向こう側も護衛を雇ってはいるが、俺らに刃向かうことなく即座に逃げていった。料金を渋ったなこりゃ。

さて、何故俺は商人を襲っているのか? 幾度も恋姫のヒロインをくっころしようとしたが失敗に終わっている俺は考えた。そして一つの答えが出た。

 

「そうか……俺はまだ悪として未熟だったのか!」

 

まだ恋姫のヒロインをくっころするのは早すぎる。そう運命が俺に告げていた……気がする。

なので俺は山賊の原点ともいえる襲撃をやっていたのだ。

 

「おら! 大人しくしやがれ!」

「手間を掛けさせんな」

「次暴れると……首が飛んじゃうかも」

「命だけは……命だけはお助けを!!」

 

いつもの部下3人が商人に脅しをかける。そんな脅しが出来るなら早くやろうよ。

 

「安心しろ。奪うのは品だけだ」

「そ、そんな……これがなければ私は!」

「なら今すぐ死ぬか?」

「ッ!!?」

 

それなりの気をぶつけると商人は黙ってしまう。いや、喋れないとでも言った方がいいだろう。というよりそれなりに大きい馬車なんだから護衛の金をケチんなよ。こうなるだろ?

 

「兄貴! ちょいと来てくだせえ!」

 

部下その1に呼ばれたのでそちらに向かう。するとそこには大きな袋があった。

 

「金や物資の他に怪しい物がありやして……なんか異様に柔らかくて」

「………………」

 

かなり大きいな。肉類……にしては袋が汚い。

 

「おい商人。これはなんだ?」

「い、いえ……これはお客様から預かっているモノでして……金払いも良かったもんですからそのまま受け取った形です」

 

なんだそりゃ? 怪しさ満点じゃねーか。

 

「とりあえず袋を開けるぞ」

「ヘイ!」

 

そして袋の封を開けて中身を出す。

そこには……

 

「なッ!?」

「ええ?!」

「………………」

 

意識のない少女ら2人が現れたのだ。

 

「……オイ」

「ち、違います!! 私は断じて人身売買など行っておりません!」

「ふざけてんじゃねえ! ならこれはどういうことだ!」

「本当なんです! 信じてください!」

 

本当に知らないとなるとそれこそ問題なのは気づいていないのか? だとすればこの商人は捨て駒……

そう思った瞬間、俺の顔に矢が飛んで来た。当たる寸前で矢をキャッチする。

 

「兄貴!?」

「ひ、ヒィー!!」

 

オイオイ……とんだ荒事に巻き込まれたな。まあいい。今やることは一つだからな。

 

「てめえら! ここは引き上げるぞ!」

「兄貴! コイツはどうしやすか?」

「連れてけ。てめえもそれでいいな?」

「は、はい!」

 

俺たちは森からの脱出を試みる。その間にも無数の矢が飛んでくるが部下たちは全て対処する。凄くね?

しばらくして森を抜けて俺たちの拠点に戻ってきた。謎の集団は拠点まで追いかけてこようともせずに退却していった。

 

「……ふう。とりあえずは安心だ」

 

俺の言葉を聞いて安堵のため息をつく部下たちと商人。

 

「とりあえずだ。あの小娘たちが何者かがわからん限り始まらん。起こして此処に連れてこい」

「ヘイ!」

 

あれほどの集団だ。きっとかなりの地位の娘さんに違いない。まぁ恋姫のヒロイン以外は興味がない俺だが、悪を目指すには必要なことなんだろ。上手くやってやるぜ!

 

 

臧覇らは謎の少女を手に入れていた同じ時、ある場所で大陸を揺るがす大事件が起こっていたのだ。

 

 

〜個室・詠サイド〜

 

 

「……本当なのですか?」

「はい……」

 

今、ボクと月、そして霞が目の前の客人の対応をしている。その客人の名は趙忠(ちょうちゅう)。霊帝に仕える宦官。その中でも十常侍という無駄に権力が高い集団の2番手でもある。まぁ、この趙忠は政はからっきしなのでほぼ侍女に近いが皇帝陛下の信頼は一番と言ってもいい。

そんな彼女がボクたちに話があると言ってやってきたのだが、彼女から出た言葉はとんでもないことだった。

 

「十常侍の一部が謀反。皇帝陛下両名を拉致していきました」

 

馬鹿を超えると人は何をしでかすかわからない。正に無能極まりだわ。

 

「今の今までも好き勝手やっとるのに……まだ足りひんか。救えん阿呆やな」

「返す言葉もございません」

 

全くよ。ただでさえ朝廷に不満が多いってのに。

 

「この件に関して、知っている方々は?」

何進(かしん)将軍と何太后(かたいごう)様は十常侍の対処を行っております。ですが、事は大きく出来ないので……」

 

つまりはボクたちだけでどうにかしろってことね。だけど恋も華雄も各々の任務に行かせているから難しいわ。

 

「……私なんかが頭を下げても役には立たないことは承知しております。ですが、今の私に出来ることはこれくらいしか出来ません」

 

そう言って深く頭を下げる趙忠。本来ならあり得ないことだけど事情も事情。

 

「頭を上げてください趙忠様。この件につきましては私たちも協力します」

「…………ありがとうございます」

 

本当に月は優しい。だからこそ、守って上げたい。

 

「ともかく、ウチはどうすればええんや?」

「余り大事には出来ないから……少数で悪いけど、十常侍の息のかかった商人から調べてちょうだい」

「商人を?」

「十常侍はなるべくバレないようにことを進めたかった。なら近くに置くのではなく、一旦離れた場所まで持っていき、安全を確保した状態にしたかったはずよ」

「なるほど……ま、片っ端からやってみるさかい、少し待っててな!」

 

そういって霞は部屋を後にする。しかし、こうなるとボクたちもどう動くのも難しい。とりあえずは霞の結果待ちしかない。

 

 

〜拠点・臧覇サイド〜

 

 

「………………へいかさま?」

「うむ」

「そうよ!」

 

眠っていた少女たちが目を覚ました。怪我も具合も問題ないので話を聞くととんでもないことを言い出していた。自らを皇帝だと言っているのだ。

 

「朕たちは皇帝なるぞ! こ、皇帝……なんだもんね!」

 

身体にあっていない服の少女が涙目になりながら俺たちに訴える。最初こそお偉い言葉で話していたのに段々と幼くなっているのは今の状況が怖いからだろう。

 

「お腹すいたわね……なんか食べ物はないかしら?」

 

君はもう少し状況を理解しようよ。

 

「………………」

「あ、兄貴? この娘らの話は本当なんですかね?」

 

嘘だと思いたい。しかし、自分たちが皇帝と名乗れば極刑は確実。しかも、あの集団はかなりの腕だった。となるとこれは本物の可能性は高い。

モブかと思ったらこの国のトップでした。メチャクチャじゃねーか!

 

「…………しかしこれは」

 

俺はある意味、とてつもないチャンスを手にしたのかもしれん。これが成功すれば俺は天下に轟く大悪党になれる。大悪党となれば恋姫のヒロインたちを……グフフ。

 

「おい商人」

「ははは、はい!!」

「お前を目的地に送ってやる。そうすれば命は助けてやる」

「はい! はい!」

 

何度も頷く商人。さて……作戦を実行する!

 

「はい玉子汁。その場で作ったから余り上手く出来なかったわ」

「そんなことないもん! 美味しいんだもん!」

「趙忠よりは劣るけど……これはこれで美味しいわ」

 

………………大丈夫、大丈夫だ!!

 

〜霞サイド〜

 

 

「ここやな」

「はい」

 

詠の読みは当たりやった。しかもご丁寧に全く事情も知らん商人を使ってるとは……そこまで考える知恵があるんなら馬鹿な真似せんでもええんちゃうか? ま、自分の欲のためなら何でもする奴らやからな。

そんでウチは今、少数の部下を引き連れて、皇帝様が乗ってくる商人を待ち伏せしてる。十常侍の側近を脅したらすぐ口を割ったから楽やったわ。

 

「………………アレか」

 

確かにそこら辺の馬車ではない。しっかりと周りを護衛が付いとるし、デカい取引がしやすい感じや。

 

「それにしても……」

 

あの護衛ら、めっさ柄が悪い。まるで賊のようやな。金でもケチったんか?

そうしてると中から小太りの男と顔を隠した男が降りてきた。

ん? あの男……

 

「あれは……高順様?!」

「ってアイツ、なにしんてんねん!!」

 

アレは間違いなく高順やん! 何でこないな場所におんねん!

っと、落ち着け。今は皇帝様が最優先や。すると、商人の向かいから男が現れた。

 

「随分と遅かったですね……」

「申し訳ありません。実は賊と遭遇してしまいまして……優秀な護衛で商品には傷はついておりませんので安心を」

「……フン、まあいいでしょう。それでは馬車を預かりますので」

 

そういって男は馬車を預かる。そろそろか? いや、高順の動きも気になる。此処は少し様子見をせんと。

 

「その前に一つよろしいでしょうか?」

 

そう思った瞬間、高順が動いた。

 

「なんですか? 私は忙しい身ですので」

「いえ……皇帝様を扱うには雑ではありませんか?」

「……貴様」

 

男は手を上げる。するとどこからともなく、謎の集団が現れおった。なるほど、そういうことかいな。なら、ウチは……

 

「ウチは高順に味方する! アンタらは皇帝様の確保に専念せえ! ええな!」

「「「ハッ!!」」」

 

 

~臧覇サイド~

 

 

「いえ……皇帝様を扱うには雑ではありませんか?」

「……貴様」

 

男が手を上げると周りから先ほどの集団が現れた。やはり、この商人は捨て駒だったか。

 

「貴様らが手を組んでいることなぞ知っているわ。そのまま引き渡せばよかったものを……」

「元々殺すつもりだったのに何言ってんだ? ああ……それを考えられないからこんな馬鹿なことをやっているのか」

「……殺せ!!」

 

一斉に襲い掛かってくる集団。そろそろかな?

 

「「「ウオオオオ!!!」」」

「ッ! な、何だ?!」

「オラ! どいたどいた!!」

「貴様は……張遼!?」

 

ほう、来たのは張遼さんだったか。狙いとしては華雄さん辺りだったが……まぁどちらでも構わないが。

 

「何故、張遼が此処に!?」

「むしろなんでウチが動かんと思ったん? やっぱ阿呆やな」

「クッ! しかし、この暗殺集団が貴様の首を」

「ごめん、もう死んでるよ?」

「はぁ?!」

 

君たちが仲良く会話してるときに俺が全員斬ったからね。うん、ごめんね?

 

「馬鹿な……私は……いずれッ!」

 

何か言いたそうであったがその前に張遼が首を刎ねる。

 

「アンタは生きても毒にしかならん。大人しくくたばっとけ」

 

何アレかっこいい……お、俺だって本気出せばいけるし!

そんなことをしていると向こうから喝采の声が上がる。どうやら暗殺集団をやっつけたらしい。

 

「……あんがとな。また、助けられたわ」

 

ニカッと笑う張遼さん。関係ない話だけど姉御肌のお姉さんキャラが時々見せる女の顔ってずるくない? まぁそんなことはどうでもいい。

 

 

 

 

助けた? 馬鹿を申すな! 此処からが本番だ!

皇帝様には俺の部下たちがいる。これを利用し、張遼さんに脅しをかける!そうすれば嫌でもくっころ展開に持っていける!

 

「ククク……呑気なもんだな。張遼さんよ?」

「ん? どないしたん?」

 

完全にこちらを信頼してるな。その信頼を叩き折る!

 

「こちらには皇帝s」

「あ、兄貴ィィィ!!!」

 

決め台詞を言おうとした瞬間に割り込む部下その1。

チィ! これから脅しをかけるって時に邪魔をするな!

 

「何だ! これから俺は大切な」

「………………見つけた」

 

………………嘘だろ?

俺はこの声を知っている。俺の心を叩き折った人物。

 

「り、りょりょりょりょ呂布?!」

 

アイエエエエエエ!? リョフ=サン!? リョフ=サンナンデ!?

 

「お、恋か。どないしたん?」

「………………高順、探してた」

「なら、ちょうどええわ。ウチも義理返さんと気がすまんし」

 

お、落ち着け俺! まだこちらには切り札が!

 

「張遼様、お二人とも無事に保護しました」

「さよか」

 

はあ?!

 

「お、俺の部下たちは!?」

「すんません兄貴……皆、呂布が現れた瞬間に気絶しちゃいまして……」

 

お、おう……そうか。怪我もしてないならいいけど。

いやよくない! せっかくの状況を無駄にしてはダメだ !こうなれば俺が直接……

 

「やっぱり神様だ!」

 

………………俺のことを神様と言ってくる人は3人知っている。

ギギギと壊れたロボットのような動きで後ろを振り向くと……

 

「民には飽き足らず皇帝様もお救いになるなんて……」

「流石です神様! ちぃたち感動しました!」

 

張三姉妹(ハイライトオフ)の姿がありました。コワイ!

え? 何してんの君たち? ゴメン、俺の脳みそが全然追いついてない。

 

「実は私たちも多くの民を救ってきたのですが……こちらの呂布さんがどうしても神様に会いたいとお願いされたので……」

「いや、どうやって俺の場所を把握したの?」

「………………キキタイデスカ?」

「遠慮します!」

 

そんなやり取りをやっていると後ろの腰部分から衝撃が伝わる。そちらに目線を向けると皇帝様の妹さんが抱きついていた。

 

「助けてくれて……ありがとうだもん!」

 

すんごい笑顔で感謝される。しかもご丁寧に剣が抜けない感じの抱きつき方だ。怪我するよ?

………………状況確認。

前方に呂布さん、張遼さん。後方に張三姉妹。そして腰に皇帝様。更に部下たちは気絶中。……詰んでね?

 

「とりあえずこんな場所にいても仕方ないし、一旦戻ろか」

「………………うん」

 

ガシッと俺の腕を掴む張遼さんと呂布さん。待て、話し合いをしよう。

 

「私たちもご一緒しても?」

「…………大丈夫」

「ま、恋が言うんやから問題なしや! ほな、いこか!」

 

ズルズルと引っ張るお二人。待ってお願い! こんなの望んでない!

 

「チクショオオオオオオオ!!!」

 

 

こうして悪を目指す臧覇は皇帝を救うという前代未聞の活躍を見せた。しかし、この救出劇は単なる序章に過ぎないのであった……




うーん……同じパターンになってマンネリ化してるような気がします。
次回あたりで少し変えていきたい思いはあります。思いだけです。

ありがとうございました。


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第14話

〜個室・華琳サイド〜

 

 

「…………それは本当なの?」

 

今この部屋にいるのは私、そして目の前の……

 

「ええ。本当ですわ華琳さん」

 

かつての学友、麗羽である。突然、私に話があると言って現れた麗羽を個室に誘い、話を聞いている。

 

「今回の首謀者、張譲と趙忠を討て……これが何進将軍が出した答えですわ」

「………………」

「言いたいことはわかりますわ。わたくしも幾度かこの件について、抗議しました。ですが結果がこれです」

 

十常侍の反乱。自分の欲のために皇帝陛下を攫った愚行。そしてそれは皇室警護の人間によって首を斬られたと聞いていた。

 

「首謀者とは初耳ね。アレはごく一部の人間が勝手に行ったことではなくて?」

「わたくしもそう理解しておりました」

「なら答えは出ているように見えるけど?」

「前々から十常侍と何進将軍は対立関係でおりました。だからこそ、これが好機と見て危険分子を消すつもりなのでしょう」

 

その噂は嫌でも耳に入る。

……そういうことね。

 

「自分の邪魔者を消すつもりね。愚か過ぎるわ」

「さすがですね華琳さん」

「これで褒められても喜べないわ」

 

だとすれば何進も十常侍も何も変わらない。この国の象徴ですら餌にされる。世が乱れたままなのも頷ける。

天は時折、気まぐれで何かを起こすが……これは笑えないわ。

 

「今となっては華琳さんが羨ましく思いますわ」

「………………」

「わたくしは目の前にある道を堂々と歩くことしか出来ない。ただ歩くのではなく、その道を恥のないように、誰もが羨むような姿で歩く。けど、華琳さんはその道を嫌い、あえてその道を歩かなかった」

「誰しもが歩けば偉くなる道は支えがない。ならばいずれ崩れるのは明白。それを気付かないで歩いた結果がこれよ」

「ですね。しかし、わたくしはその道を歩かねば意味がありません。それが崩れようとも……それが名家たる由縁。延いてはわたくしの生き方ですわ」

「多くの人間が貴女を無知蒙昧と評価するわよ?」

「言わせなさい。そしてその評価した人間の上に立てばいいだけですわ。それが四代にわたって三公を生み出した名家袁一族であるわたくしの歩みですわ」

「…………何があったの?」

 

元々、麗羽を見下げるつもりはないが昔から家柄を威張り散らしていた。それが枷となっていることに気付いていなかったように感じていたが、今はそのような姿は見えない。

 

「いえ……強いていうならば、恋を致しましたわ」

「………………………………は?」

「それも殿方に」

 

あの麗羽が……恋? しかも、あれほど見下していた男に?

 

「本当になにかあるかわかりませんわね。華琳さんもどうですか?」

「…………今は間に合っているわ」

「あら、そう。ではわたくしはこれで……おーーっほっほっほ!」

 

あ、いつもの麗羽になった。

笑いながら部屋を出ていく麗羽を見送り、自室に戻る。

 

「あの変わりよう……恋だけで変われるものなの?」

 

桂花と稟は麗羽を王の器ではないと見定め、私のところにやってきた。だが、今の所彼女を見たらどう答えるのか。それもまた楽しめそうね。

 

「恋……か」

 

その時、私はあることを思い出す。

 

《必ず貴様は俺の前に屈することになる。必ずな》

 

かつて黄巾討伐で本当の首謀者。今までも記憶の片隅に覚えていたが、此処でこの記憶がハッキリとしてくる。

もしも、この男が動き、この腐った戦いを変えようしてるなら……私はまた……

 

「……まさかね」

 

思い違いだと自分に言い聞かせ、これからの準備の為に部屋を出る。

その前に……

 

「どうなろうとも私は曹孟徳……そうでしょ?」

 

誰もいない部屋に一言掛け、今度こそ部屋を出る。

 

 

~王室・詠サイド~

 

 

「それはどういうことよ!!」

 

ボクと月の目の前で叫ぶ皇帝陛下。

 

「趙忠は私の為に頑張ってくれたわ! それなのにどうして極刑されなきゃいけないのよ!」

「「………………」」

 

十常侍が起こした反乱。皇帝陛下両名にも危害を加えたとして実行犯はもちろんその関係者も処罰の対象となる。そして十常侍もその対象となったのだ。

 

「何進が判断したんでしょう? なら話をすれば収まるじゃない」

「……そういうわけにはいきません」

「なんでよ!」

「趙忠様が率いる十常侍……これは陛下に服従は絶対です。ですが乱を起こし、あまつさえ陛下に逆らってしまったのです」

「そうなると十常侍の意味がなくなり、乱すだけの存在になります。それでは陛下の身が危ないと判断されたのでしょう」

 

ボクと月で今起こっている現状を話す。最早、皇帝の話でどうにか出来る問題ではない。事は進み過ぎた。

 

「張譲はどこよ? 彼と話がしたいわ」

「張譲様は行方がわかっておりません」

「ならどうすればいいのよ! 朕は皇帝なのよ!」

 

これが周りが見えていない者の末路。理解できず、自分の思い通りにならないと駄々を言えば解決すると思っている。

 

「陛下……」

「待ってなさい趙忠。こんな馬鹿な話、すぐに」

「もう大丈夫です」

「……え?」

 

今までずっと黙っていた趙忠が口を開き、霊帝を止める。

 

「私が出ればこの騒動は少しは収まります。それが私に出来る最後の恩返しです」

「ダメ……ダメよそんなこと! そんなの絶対に認めないから!」

 

この陛下に恩返し……多分だけどこの趙忠は陛下に絶対なのね。本来ならそれが十常侍のあり方なはずなのに珍しく思えてしまう。

 

「…………詠ちゃん」

「ダメよ……と言いたいけど、向こうも此処にいることがわかってると思う。どう転んだって共犯者扱いなのは目に見えてるわ」

「………………ごめんね」

「月は悪くない。だから謝らなくていいの」

 

月は優しいから協力してあげたいと言うと思った。しかし、今回はこちらが後手過ぎるからどちらにしてもこんな結果になっていたはず。ならばそれをどうにかするのがボクの役目になる。

 

「陛下、趙忠様。私たちも出来うる限りで協力致します」

「ホントッ!?」

「はい」

「本当によろしいのですか? この戦いは……」

「負け戦になるのはわかっています。けどボクとてこのまま引き下がるわけにはいきませんので」

「……ありがとうございます」

「朕も感謝してるわ!」

 

2人から感謝を受ける。それにしても……

 

「……神様ってのはボクたちが嫌いみたいね」

 

こんなことに月を巻き込むなんて……絶対に許さないから!

 

 

袁紹は自分の愚を認めながら軍を集め、董卓は己を犠牲にして対立を決める。

どちらもまた、傷を負いながら導かれる道を歩き続ける。どちらが正しく、どちらが悪いこともない。それがこの戦いの“運命”なのかもしれない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜???・臧覇サイド〜

 

 

「兄貴! 準備が出来やした!」

「御苦労……」

 

随分と手間がかかった。だが、これでようやく実行に移せる。今までは焦りや予想外が重なり、失敗していたが今回こそは成功する!

 

「これが成功すれば俺は……フフフ」

 

ヤバい……込み上げてくる笑いを抑えられない。いや! 抑えるな俺!

 

「ハァーッハッハッハ!! ハァーッハッハッハ!!」

 

そう! これこそ悪の笑いだ! これで俺は大悪党、間違いなしだ!!

 

 

そんな高笑いをしている臧覇の後ろには影が四つ。

 

「なんやえっらい楽しそうやね」

「………………かわいい」

 

彼と共に同行していた張遼と呂布。

そして……

 

「して、わらわたちは何をすればよい?」

「借りた恩は返さないとね……ふふっ」

「そうだな。何でもするぞ?」

 

褐色の女性と妖艶な女性の2人。褐色の女性は何進。妖艶な女性の名は何太后。

本来ならば対立関係であろう両者が何故集まっているのか? 2人が言う恩返しとは? 彼らの目的とは一体なんなのか?

その答えは、目の前の男のみぞ知る。

 

「ハァーッハッハッハ!! ハァーッハッハッハ!! ハァッ……ゴフッ!? ゴフッ!?」

「兄貴! 水です!」

 

 

“運命”の戦いに抗う者あり……




たくさんのコメントありがとうございます。皆さんの期待に応えられるように頑張ります。
そして私から一言……

主人公のくっころ展開の声……多くないですかね?(困惑

それでは!


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第15話

〜???〜

 

 

多く軍が押し寄せきた洛陽。俺たちを囲むように構える。しかし、手は出せない。何故ならばこちらには大きな人質がいるのだから。

 

「劉さん! 何故このような……」

「何故? 馬鹿を言うな! これこそ俺の目的だ!」

 

その大将である袁紹さんが俺を説得しようとする。だが、今の俺には響かない。何故ならば俺は大悪党だからだ。

 

「こちらにはお偉いさん2人の人質がいる。ならばすべきことはわかるはずだよな?」

「……この外道が」

「フハハハッ! 褒め言葉だな!」

 

隣にいる曹操さんも鋭い目付きで俺を睨みつける。最高ですありがとうございます。

 

「さあどうする英雄さん?答え次第では……」

「………………」

「ッ! おやめなさい!」

 

気絶している将軍と陛下の首には部下の刃がある。

 

「……わかりました」

「ん〜〜?」

「お二人を殺すくらいなら……わたくしを!」

 

 

〜臧覇サイド〜

 

 

「此処でくっころが完成するんだよ。わかる?」

「へ、へぇ……」

「お、その顔わかってないな? よしもう一度最初から説明してやる」

「も、もう十分ですぜ兄貴!」

 

俺の妄想……じゃなかった、確定的未来を部下その1に伝える。かなり熱く語ったので引いてるのがわかるが俺には関係ないね。

 

俺たちは今、洛陽に向かっている。原作では洛陽の戦い……つまりは反董卓連合が董卓さんに攻め込まれる場面だ。袁紹さん率いる連合軍らがこの洛陽に向かってくる。

故に俺はある策を考えた。その名も……

 

「国のトップを巻き込んじゃえ作戦だ!」

「……とっぷ? なんなのですかそれは?」

 

おっと、熱が入り過ぎた。俺は自分の名が広まることを恐れ過ぎて行動が狭くなっていた。その結果がくっころ人数0人。これはマズい……かなりマズいぞ。

だからこそ、この戦いで俺は大々的に悪党宣言をする。そうすれば嫌でもヒロインたちは俺を敵視するはず。

 

「まーた騒いどるで。ようやるわ」

「…………かわいい」

 

俺と陳宮さんのやりとりを近くで見る張遼さんも呂布さん。何故くっころを目指す俺がこの2人と協力をしているのか。それにはちゃんとした理由があった。

 

「お主らはいつもこうなのか?」

「楽しくていいじゃない。私は好きよ」

 

何進さんと何太后さんの確保である。この2人……というか姉妹はかなり有名人なのだ。何進さんは大将軍様だし、何太后さんに至ってはあの皇帝(姉)の奥さんなのだ。

……女同士の結婚。何故だろう、すごく興奮します。

 

ともかく、この2人を捕まえるのにどうしても人手と面識のある人間が欲しかったので仕方なく協力をお願いした。

そしてこの姉妹がいる場所に行ったら何太后さんが捕らえられられる寸前であったので奪取し、何進さんもなんやかんやあって確保出来ました。え? なんやかんやじゃわからない? なんやかんやはなんやかんやです!

これで俺は国のトップwith奥さん、そして大将軍様を人質に取ることに成功した。此処だけならとんでもない悪党だな。だか俺はその更に上をいく!

 

「これで袁紹も……上手くいけばあの場にいる全員を……ふふふ」

「あやつは時々、変なことをぶつぶつと言うのだな」

「………………そこが、いい」

「あら? 呂布ちゃんはあの人みたいなのが好みなの?」

「………………………………ぅぅ」

「恋殿が照れてるのです……」

「ホンマ珍しいわ」

 

外野が少しうるさいが今の俺は気分がいい。見逃してやろう。

さぁ! 最高のパーティを始め……

 

「で、伝令!」

 

ゆっくりと歩いていた俺たちのところに董卓さんの兵が息を切らしてやってきた。

ぬぅ……せっかくの気分が少し下がってしまった。

 

「許可する。何があった?」

 

おお、流石は大将軍。なんか偉い感じが出てる。

 

「ち、張譲様が突如現れ、皇帝陛下を連れ去ろうとしております!」

「何やと!?」

「あの竿なし……動きあったか!」

 

………………張譲って誰?

 

 

〜玉座の間・趙忠サイド〜

 

 

「はあああああ!!」

 

私たちの前に突如現れた張譲の率いる軍隊。本人は現れていないが、目的は空丹(くぅたん)様と白湯(ぱいたん)様の奪取であろう。今は華雄様が撃退をしているが数がかなり多い。董卓様と賈駆様も他の場所で頑張っている。

 

「お、お姉ちゃん……」

「大丈夫よ白。安心して」

 

そういう空丹様の手も震えている。こういう時、力がないことを後悔する。

 

「大人しく皇帝陛下両名をこちらに渡せ!」

「断る! 陛下に刃を向ける者たちなぞ信用出来ん!」

 

しかし、現状を見る限りでは明らかに不利。もしも、華雄様がやられてしまったら……その時は覚悟を決める時です。

 

「趙忠……いえ、(ふぁん)。変なことを考えるんじゃないわよ?」

「………………」

 

今思えば、力を手にした時から我らは変わった。国の為より己の欲を優先し、今がある。もしも、この地位にいなければ……我らは狂わなかったのかもしれない。しかし、全て遅すぎた。

 

「お二人とも……今までありがとうございました」

「ッ! 馬鹿を言わないで! 絶対に諦めるんじゃないわよ!」

 

普段ならとても気持ちいい罵声だ。しかし、今の私はひどく落ち着いている。ふふっ……ですが、悪い気ではありません。

 

「華雄様! お二人を連れてお逃げください!」

「ッ! 趙忠様はどうなされるのですか!」

「……私とて陛下に命を捧げた人間です」

 

包丁なら慣れている。だか、剣を持つのは初めてだ。ひどく震えているのがわかる。私なんかが戦っても時間稼ぎすらならない。しかし、此処でやらなければ心すら張譲らと同じ。私は違う!

 

「やめなさい黄! 此処はみんなで逃げるのよ!」

「……本当にありがとうございました。空丹様、白湯様」

「「ッ!!」」

 

私が真名を言う時は……命を落とす時と教えていた。

 

「やめて……やめてえええええ!!」

 

白湯様が悲鳴をあげたその時である。突如一部の天井が崩れたのだ。

 

「な、何だ?!」

 

向こうも何が起きたのかわかっていない様子。そして砂煙が晴れると……

 

「ん? 適当に突っ込んだが当たりだなこれは」

 

お二人を救って下さったお方の姿があったのだ。

 

 

〜臧覇サイド〜

 

 

なんかトップ姉妹が襲われていると聞いたから地面を思いっきり踏んで空を飛び、城の適当な場所に突っ込んだら目的の部屋だった。日頃の行いが悪いから運が味方したのかな?

 

「き、貴様! 何者だ!」

「え? 俺? ん~~……悪者だ!」

 

そう言って俺は回転斬りを行い、数人を吹き飛ばす。何これめっちゃ楽しい。

しかし、何人かが生き残っており俺を囲む。

 

「目的は皇帝陛下のみだ! 此処で手こずっているようで」

「死ね」

 

隊長格の人が言っている途中で呂布さんが降ってきて真っ二つになってしまった。

 

「りりりり呂布?!」

「た、退却!!」

 

呂布さんが登場した瞬間、謎の集団は退却していった。さて、まずは安全を確保出来たな。トップ姉妹は無事かな?

 

「……ッ! 兄様!」

 

すると妹さんが俺の胸に飛び込んできた。というよりいつのまに俺たち兄妹になったの?SoulBrotherなの?

 

「本当に……本当にありがとうだもん!」

 

満面の笑みを見せてくれる妹さん。

もしも、此処で強くて優しい万能なイケメン主人公なら頭を撫でて爽やかに笑う場面だ。

だが、俺は違う!

 

「………ふふふ」

「?……兄様?」

 

格好の餌が飛び込んできたわ! 此処で離すなよ俺!

そう思っていると……

 

「伝令! 張譲の軍勢は退却していったのこと! 現在、安全確保を董卓様らが行っております!」

 

ふん! 俺の邪魔をするからこうなるのだ。さて、妹さんは俺を信頼しているが、それを利用し、連合軍に地獄を見せてやるわ!

 

「流石は竿なしの軍だ。女々しいことこの上ない」

「こんなのに振り回されていたなんて恥よ」

「ホンマあの竿なし……絶対殺す!」

 

お! ちょうど目的の2人と張遼さんも到着したな! よし、ならこのまま……

 

「おーっほっほっほ!」

 

………………いやいやいや。まさかそんなことはない。きっと欲望が溜まり過ぎて幻聴が聞こえてきたんだよ。うん。

 

「袁紹、曹操もよくやった。褒めてつかわす」

「ありがたく受け取ります、何進将軍」

 

あれれー? おかしいな? 金髪でクルクルの髪型をした女の子が2人見えるぞー?

 

「あら? ……劉さん?」

「……やはり動いていたのね」

「え、袁紹に曹操?!」

 

汗が止まらない。な、何故だ。何故……此処にいるのだ?!

 

「貴様らは連合軍を作っていたのではないのか!?」

「まぁ! 流石は劉さん! もうそこまで知っているのですね!」

「御託はいい! 質問に答えろ!!」

「……確かに予定ではあったわ。だけど、余りに不審点が多く、もう一度私と麗羽で何進将軍に話をしようとしたのよ」

「その途中でちょうどお会いしたかと思えば……張譲らが皇帝陛下を攫おうとしているとの情報が入りましたの」

 

………………………………うん。

 

「私たちも出来る限りをと思いましたが……その前に劉さんが動いていたようですね」

「………………違う。高順」

「……劉さんですわよ?」

「……違う」

 

何だよこれ?

 

「それにしても貴女、中々の腕ね。ウチにどう?」

「おおきに。けど、今はええわ」

 

そもそも、あの戦いって劉備さんとかが活躍してとか……夏侯惇さんの目がやられてとか……どうなるの?

 

「兄様」

 

放心状態の俺を呼ぶ妹さん。

 

「今回、朕たちが不甲斐ないばかりに兄様や多くの人を巻き込んでしまった。本当に申し訳ない。そして二度も朕たちの命を救ってくれたことに感謝する」

「……わらわたちも救われた。なぁ瑞姫(れいちぇん)?」

「ええ。これまで会った男の中で1番よ。ふふっ」

「朕も。黄も救ってくれたし、感謝しかないわ」

「ああ〜……ま、また真名で呼んでくれました!」

「うるさいわよ趙忠!!」

 

お偉いさんらから感謝の言葉を貰う俺。

違う……違うのだ。俺はこんな結末は望んでない!

 

「皇帝陛下らから感謝されるとは……」

「ウチもはじめて見るで。せやけど、そんくらいのことはしてるからええわ」

「………………凄い」

「流石なのです高順殿!」

 

やめろ……俺に感謝の言葉を言うな!

 

「私たちも危うく道を外れるところだったわ」

「ですが! 劉さんが皆を救ってくれました! これこそ袁家の婿としてふさわしき殿方ですわ!」

「………………え?!やっぱりこの男だったの!?」

 

 

ターゲット2人からも祝福を貰う。違う……違う違う違う!!

俺は……俺はああああああ!!

 

「これで勝ったと……思うなよーー!!」

「「「ッ!!?」」」

 

この空気に耐えきれず俺は再び空の旅に出た。

俺は諦めない! 諦めないぞおおおおおおおおおお!!!

 

 

かくして皇帝陛下を巻き込む事件はある1人の英雄によってことなきを得た。しかし、事態の大きさ故に目を瞑ることが出来ないと判断した皇帝陛下両名は生前退位を決める。それに伴い、騒ぎを止められなかった何進将軍もまたその座を降りる事を決意。

これは大陸全土に広がり、群雄割拠の時代へと続く……

余談だが、皇帝を救った英雄が各地を救った“名無しの救世主”だと噂され、市民の希望の象徴となりつつあったのである。

 

 

〜???〜

 

 

「本当にこれで良かったの? 月?」

「うん」

 

皇帝陛下を守っていた董卓と賈駆は今、城を離れている。

 

「それにしたって……」

「お二人とも無事を確認出来たし、あのまま私たちが出てもややこしくなるだけだよ」

「……まぁね」

「それに……また恩が増えちゃったから」

「ゆ、月? 落ち着いてね?」

 

その目に光はなかった。

 

「董卓様……準備が出来ました」

「ありがとうございます。それではお願いします……」

 

そして董卓はある人物たちに頭を下げる。

 

「こちらこそよろしくお願いします」

「ちぃたちと一緒に神様の力になりましょう!」

「これも全て神様の想いだよー!」

 

 

この瞬間、董卓と賈駆は自分の名を捨てるのであった。




董卓編を長く書こうかなと思いましたがそれだと独自展開っぽくないと思い、こういった展開になりました。苦手な方は注意ください。

これ……恋姫を借りた何かの小説ですので。

ありがとうございました。


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第16話

~臧覇サイド~

 

 

前回、俺は情けない結果を生んでしまい、その場から戦略的撤退をしてしまった。部下たちも残してしまったが奴らは有能な奴らだ。きっと上手く逃げているに違いない。

 

さて、そんな俺だが、今はとても重要な作戦を行っている。

それは……

 

【ヒヒーン!】

「おーよしよし。もう少しで終わるから待ってろよ」

 

この馬の世話だ。どうやら俺は動物にとても懐かれるらしく、どんなに人間嫌いな動物でも俺ならメチャクチャ懐かれてしまうのだ。これもチートの恩恵だろう。そして馬ということで気づいている人もいるだろう。

そう今回のターゲットは……

 

「悪いな韓遂(かんすい)。アタシらの代わりに世話なんてしてもらって」

「とんでもない! 私は動物が好きですので私にとっても嬉しいことですよ」

「……そっか」

 

貴女ですよ、馬超(ばちょう)さん。

 

「それにしても珍しいよねー。この子たちがこんなに懐くなんて」

 

近くに馬岱(ばたい)さんもいらっしゃる。これはもうくっころをしてくれと言っているようなもんだな。

で、ここまではいい。俺も知っているヒロインだ。

 

「確かに珍しいですよね。普段なら慣れない人には絶対に嫌がりますから」

「きっと韓遂さんの超絶的な指使いでこの子たちはもう虜に……キャー!」

「ななななに言ってるのよ(そう)! 変なこと言わないでよ!」

 

んで、ここからは俺の知らない人たち。

最初に喋った生真面目そうなのが馬休(ばきゅう)さん。そして次に喋った若干変態の感じがするのが馬鉄(ばてつ)さん。

馬岱さんは従姉妹にあたるがこちらは馬超さんの本当の姉妹らしい。やはりというか皆の髪型はポニーテール一択みたいですね。

 

「はぁー……ごめんな韓遂。なんか騒がしくしちゃって」

「いえ、仲が良く素晴らしいことかと思います。いつまでも見ていたいものです」

 

馬岱さんですら本当の姉妹のように接している馬超さんは優しい心を持った女性やね。そんな人のくっころを見れるとは……やっべ顔がにやけてきた。

 

「…………でも、本当にここまで懐くのは母さん以来だ。生きていたらきっと大喜びしてたと思うよ」

「………………」

 

彼女らの母でこの西涼の長である馬騰(ばとう)さんは既に亡くなっていた。どうやら病によるものらしい。

しかし、俺の記憶が正しければ馬騰さんは曹操が攻め込んできた際に馬超さんと馬岱さんを逃すために殿を務め、勇ましい最後を迎えたはずだ。だから孫堅さん同様に生きて会えるかと思っていたのだが……

 

「……歴史のズレが起きているのか?」

 

馬超さんたちに聞こえないくらいで呟く。

孫堅さんの生存。董卓連合の消滅。そして馬騰さんの病死……原作で起こっていないことが多く発生しているこの外史。これからは俺の頭脳のみでこの乱世を駆けていくのだろう。上等だ!全員のくっころを見るまでは死なんぞ!

 

「さて……この後、アタシらは飯にするけどどうする?」

「……どうするとは?」

「もー……お姉ちゃんは韓遂さんと食事をしたいって言ってるんだよ!」

「いいいい言ってねえだろ!」

「あの慌てっぷり……強ち間違いではないっぽいね」

「……あの……その……ど、どうでしょうか?」

「……ここにもいたかー」

 

本当に君たち元気だね。だが、その幸せが続くと思うなよ? この俺によって壊されるのだからな!

 

「ではわたしもご一緒しましょう。何なら料理も作ってあげます」

「ホントに!? たんぽぽ、韓遂さんの料理大好きなの!」

「蒼も蒼も!」

「ふ、2人とも落ち着いて! そ、それではよろしくお願いします……」

「ふふっ……それじゃあよろしくな!」

「仰せのままに」

 

今は仲良くしとくのもアリだ。この一族と馬の信頼を高め……ぐへへ。

 

それからの俺は地道に頑張ってきた。どうなるかわからないこの外史。最初こそ曹操さんが攻め込んできたら漁夫の利作戦を行う予定であったが、下手すれば曹操さんすら攻め込んでこない可能性もある。だからこそ俺は俺自身の力でくっころを目指すことにした。

 

「馬超さん。これがこれまでの調教報告です」

「ありがとな。何か変わったこととかあるか?」

「そうですね……手入れに使う道具類が若干ながら弱くなってきました」

「わかった。すぐに手配しとく」

 

ある時は馬超さんの補佐。この国にとって馬は家族同然なので下手に動かず、しっかりと補佐をする。

 

「料理において最も大切なのは基礎。愛情で!という人は頭をカチ割っても問題ありません」

「そ、それは流石に……」

 

ある時は馬休さんに料理を教える。俺の料理の腕は美花によってかなり上達した。故に多少のモノなら人に教えられる。馬休さんも自分で料理がしたいと言っていたので俺が教えることにした。

 

「なんかいいイタズラの道具ってない?最近同じモノばっかでつまんなくなっちゃって……」

「ではこの“踏めば風が発生する”地雷はどうでしょうか?」

「……………それってどうやって作ったの?」

「禁則事項でお願いします」

 

ある時は馬岱さんとイタズラの強化。多少の息抜きは大切だ。ならばイタズラでも全力で行うのが俺のポリシー。

 

「フハハハハハハ! 遅い! 遅いぞ馬鉄ッ!!」

「どうして馬より速いの?!」

 

ある時は馬鉄さんと遊びを付き合う。馬一族の中で1番と言っていいほど馬に愛されている馬鉄さんはよく俺と遊びたがる。だから俺と馬鉄さんと遊ぶ時は馬も同行している。

 

以上のことを行い、俺は馬一族と馬の信頼を高めた。最早俺を疑うこともないだろう。

では……作戦に移らせて頂こう。

 

 

〜翠サイド〜

 

 

しばらく前に母さんが死んだ。何の前触れもなく、突然に。だから、悲しんで別れる暇もないまま、葬儀や引き継きを行っていった。そして全てが終わった時に初めて実感が出来た。蒲公英(たんぽぽ)(るお)、蒼は枯れるまで泣いていたけどアタシは泣かなかった。此処で泣いたらきっと母さんが心配すると勝手に思ったから。強い人間になろうと思ったから。

そして時は流れ、ある日のこと。ある男が西涼にやってきた。

 

「韓遂と申します。馬の手入れには自信がありますのでよろしくお願いいたします」

 

商人の紹介ということでアタシの面会を許した韓遂。どうやら馬の世話役をしたいということ。

その時のアタシは……

 

「帰れ。今はそれどころじゃない」

 

冷たく彼を突っぱねていた。この頃は忙しさで心を埋めたいこともあり、かなり苛立ちがあった。だが、それ以上に許さないことがあった。

 

「………………」

「アタシらは馬と家族同然として接しているんだ。他所のところの人間がどうこう出来るもんじゃない」

 

西涼の民は馬を家族として見ている。その誇りもあったから先の韓遂の発言が許せなかったのだ。

 

「遠くから此処まで本当に感謝してる。だがこればかりは……」

「し、失礼します!」

 

すると鶸がものすごい勢いで部屋に入ってきた。

 

「オイ! 今は客人と話している途中だ! 用事なら後で……」

「そ、それは重々承知です! ですが、麒麟(きりん)の様子が!」

「ッ!?」

 

アタシの愛馬の1匹である麒麟。鶸の様子からかなりの案件だというのがわかる。今すぐ行きたいが……

 

「……悩むことはありません。どうぞ行ってあげてください」

「…………いいのか?」

「この西涼では馬は家族。家族の心配ならばすぐに向かうべきです」

「……感謝する」

「いえ……もしよろしければ私も同行してもよろしいでしょうか?」

「こちらの勝手を受けてくれたからな。アンタに判断を任せる」

 

そうしてアタシと鶸、そして韓遂は急ぎ麒麟の場所まで走った。

そして到着すると既に蒲公英と蒼が麒麟の側にいた。

 

「お姉ちゃん! 麒麟が……」

「朝まで元気だったのに……急に苦しそうに」

【……………】

 

麒麟の顔を見ると確かに苦しそうな顔をしている。

 

「何かわかったことは?」

「いつも通りに世話をしてたよ。けど、特に変わったことはなかったし……」

「麒麟に話しかけても何も答えてくれないの」

 

蒼が此処まで言うとなると……とても重い病気か何かなのか?

だったら今すぐ医者に……

 

「失礼します」

「ッ! 麒麟に触るな!!」

 

すると付いてきた韓遂がすぐに麒麟の身体を触った。アタシは焦りもあって怒鳴ってしまった。

だけど……

 

「待って翠お姉ちゃん!」

 

蒼がアタシを止めてきた。

 

「止めるな蒼! 今すぐコイツを……」

「わかるけど落ち着いて! 麒麟の顔を見て!」

 

蒼に言われ、顔を見るととても穏やかな顔をしていた。普段でも麒麟は他者に触れられるのを嫌うのでアタシはかなり驚いた。

そしてしばらくすると麒麟はいつも通りの顔になり元気よくなったのだ。

 

【ヒヒーン!】

「……いつもの麒麟だ」

 

蒲公英が言う通り、先ほどの苦しそうな顔など忘れたかのような元気を見せる麒麟。

 

「若干ですが、関節部に炎症してるのがわかりました。とても小さなモノでしたが、それが気に入らなかったのでしょう」

「なら何で蒼たちに教えてくれなかったの?」

「ご主人様を心配させたくない意志が出ていたのでしょう。あのまま行けば歩けなくなっていたかもしれません」

 

そう言うと麒麟がアタシらに申し訳ない感じの雰囲気を出す。それと同時に韓遂に感謝するかのように頭を下げる。

 

「………………本当に自信があるんだな」

「ええ」

「先の発言は謝罪する。それで良かったらだが……」

 

さっきのやりとりを見て、この韓遂は信用出来る。そう思ったアタシはすぐに謝罪して韓遂に世話役をやらせた。

それも甲斐あってか、多くの馬たちが元気になっていくのがわかった。そんな馬たちをみて見てアタシらもまた、喜んだ。本当にあの時は恥ずかしいもんだ。

 

そして今……

 

「韓遂の奴、こんな夜遅くにどうしたんだ?」

「何かの用事ですかね?」

 

アタシらは韓遂に呼ばれ、小屋に来ている。どうやら見せたいモノがあるとのこと。

 

「もう鈍いな2人とも……」

「夜、男と女、小さな小屋、そしてそして……キャー!蒼興奮してきたー!」

「「……はぁ」」

 

この馬鹿2人は放置。そして小屋の扉を開けると……

 

「お待ちしておりましたよ……」

【……………】

「「「「ッ!?」」」」

 

韓遂が麒麟に刃を向けていたのだ。

 

 

〜臧覇サイド〜

 

 

おうおうその顔。とてもいいね!

 

「な、何してんですか韓遂さん!」

 

馬休さんが俺の行動に驚く。そうだろうな……今の今までは世話役してたんだ。この行動は驚くだろうな。

 

「見てわかりませんか?」

「そんな危ないモノを見せたら麒麟がかわいそうですよ! 今すぐ仕舞って……」

「…………くくく。甘ちゃんだな馬休」

「……え?」

 

まだ気付かないか……腑抜けとはこういうものか。

 

「もしかして……怒ってるの?」

 

馬岱さんが恐れ恐れ聞いてきた。いや、怒っているのとは違うが……

 

「寝ている時に蒼の下着を頭に被せたこと?」

「たんぽぽのイタズラで韓遂さんが落とし穴に落ちたこと?」

 

あれお前らだったのかよ!! 馬岱さんはわかるとして馬鉄さんはマジでわかんなかったよ! 何がしたいんだよ!

 

「そんなことは関係ない! 元より俺の目的はただ一つ……お前だ、馬超」

「………………」

 

神妙そうな顔をしてらっしゃる。いい……実にいい!

 

「このままこの馬を斬ってもいいが……菩薩と言われた俺だ。貴様に選択肢をやろう」

「……聞こう」

 

随分と落ち着いているな。まぁ、時期に屈辱的な顔にしてやるがな!

 

「このまま馬を斬り捨てるか……お前が裸になるかだ」

「………………っ」

 

やった! やってやりましたよ! これこそくっころ! その後はもうわかるよね? あの馬超さんのことだ。きっと罵声を散らしながら俺に歯向かって……

 

「なんだ。裸程度でいいのか」

 

くる…………は………………ず……

 

「………………ん??!!」

 

なんか今、とてつもない言葉を聞いたような気がする。

 

「アタシ的には2人っきりでも良かったけど……お前がこういうのが好きなら付き合うさ」

 

そう言って服を脱ぎ始めようとする馬超さん。

 

「ち、ちょっと待て!!」

「ん? どした?」

 

いや、なんで不思議そうな顔をしてるんですか? え? 何? 俺が間違ってるの?

 

「いや……なんというか……他に俺に言うこととかない?」

「言うこと? んー……あ、良かったらアタシだけじゃなくて妹たちにも平等に愛してくれよ」

 

………………………………アイスル?

 

「な、何故この流れで愛などという言葉が出てくるのだ?」

「え? だってこれ、告白だろ?」

「え?」

「ん?」

 

お互いに頭にはてなマークが出ているような気がします。

 

「確かにアタシらとお前じゃ身分が違う。だから強行策として麒麟を使ったんじゃないのか?」

 

……………馬超さんの脳みそどうなってるの?

 

「なーんだ。そういうことだったのね」

「もー言ってくれれば蒼がすぐにヤってあげたのにー」

「麒麟を使ったのは確かに悪いことですが……でも、その熱意、素敵だと思います」

 

おっと後ろの姉妹たち。勝手に納得するのはよろしくないぞ? 俺だってこの流れは予想外だぜ?

 

「いや待て、落ち着け。こっちには馬の命を預かってるのだぞ?」

「……麒麟の目を見てみろ」

 

目?そう言われて、麒麟さんの目を見る俺。うん、つぶらな瞳だ。などと思っていると……

 

「今だ!」

「「はい!!」」

「なッ?!」

 

馬休さんと馬鉄さんが俺の腕を掴み後ろに倒した。その間に馬岱さんが麒麟の確保を行う。流石は姉妹の連携プレーだ。とか言ってる場合じゃねえ!

 

「は、離せ!」

「いいじゃんいいじゃん。このまま熱い夜にしようよ」

「韓遂さんの腕……た、たくましいです」

 

この程度、チートを貰った俺ならすぐに振りほどける。しかし、馬鉄さんの胸が気持ちよくて力が入らない。俺の馬鹿!

 

「韓遂」

 

そんな俺の顔をグイッと自分に向けさせる馬超さん。

 

「もう……気にすることなんてない。アタシらは家族だ」

 

馬超さん? 目の光が行方不明なんですが? 迷子センターで案内放送しましょうか?

 

「だから……」

 

徐々に顔を近づけてくる馬超さん。

ヤバいヤバいヤバいヤバい! このままではこっちがくっころしてしまう! そんなのは絶対に認めん!

 

「馬超!」

「ん? なんだ?」

「今回は俺の負けだ。しかし! 俺は決して諦めないぞ! その時が来たら貴様の最後だ!」

 

そして俺は気を高めて……

 

「閃光波ッ!」

「「「ッ!!?」」」

 

身体を光らせた。その光に驚いた馬三姉妹は目を瞑る。そして光がなくなると俺の姿を消した。

 

 

〜翠サイド〜

 

 

「…………消えた?」

 

接吻しようとした時、突然に韓遂の身体が光り出し、収まると韓遂の姿はなかった。

 

「もう少しだったねー翠お姉ちゃん」

「………………はぁ」

 

鶸も蒼も少し悲しそうだ。

 

「お姉ちゃん、さっきすんごい光が見えたけど……あれ? 韓遂さんは?」

 

麒麟を避難させた蒲公英もやって来て韓遂がいないことに気づく。

けど……今回“は”………か。

 

「…………母さん」

 

見つけたよ。この西涼に相応しい君主が。それまではアタシらが頑張る。そしてくる時が来たら……

 

「アワセテアゲルヨ……フフッ」

 

 

この時より西涼はさらなる力をつけていった。民にも愛された馬超率いる一族。だが、民の間ではある噂が目立つようになった。

 

「ねえ聞いた? 馬超様が結婚したって噂」

「え、マジで?!」

「あくまで噂だから強くは言えないんだけどね……」

「それで……その相手ってのは?」

「なんでも馬の手入れは馬超様たちより凄いって話を聞いたわ」

「嘘だろ?!」

「だから馬超様との結婚が認められたらしいのよ」

「な、なるほど……凄い奴がいたもんだな」

「もしかしたら噂の救世主様かしらね?」

 

 

その噂は民の間で多く流行ったという。その真意は……誰も知らない。




1番主人公を追い詰めた馬超さん。流石は五虎大将軍だ!

ありがとうございました。


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第17話

〜臧覇サイド〜

 

 

オッス、オラ臧覇。恋姫の世界で悪役を目指しているどこにでもいる山賊だ。目標はヒロインたちのくっころ顔を拝むこと。未だ成功はしていないがいずれは全員のくっころを見れるようになるから楽しみにしておけ!

さて、そんな俺は今……

 

「助けてくれー!」

「ここから出してくれー!」

「うるせー! 黙ってねーとぶっ殺すぞ!」

「………………」

 

別の山賊に捕まって、絶賛牢獄中でございます。

いや、待って、違うんだ。説明させてほしい。これも俺の計画の一つなんだよ。

俺は数多くのヒロインと接してきたが、どうにも悪としての性分が足りていない。だから他の山賊はどうしているか気になっていた。

最初は子分にでもなろうかとも思ったが、より悪を感じる場所は山賊に捕まった捕虜だと確信した。なので俺は適当な山賊を見つけ、適当に捕虜となり、現在に至る。

 

「お母さん……」

「大丈夫よ……大丈夫だから」

「クソ……どうすればいいんだ……」

 

それにしてもここの山賊は手当たり次第に捕まえるんだな。女、子供は当然だが、健康的な男もかなりいる。

人材不足の波がこの時代にまであるとは……。というより拉致多くない? 捕まった俺が言うのも変だけどもう少し村を襲ったりとかさ?

 

「はぁ……」

 

何か思ったより違うな。

もっとこう……

 

「やめて! 私を乱暴する気なんでしょ! エ●同人みたいに!」

 

みたいな展開が始まるのを楽しみにしていたのに。いざ見てみるとただ捕まえてどっかに売り捌くのが鉄則らしい。

 

「もう少しいてもいいが……どうすっかなー……」

 

観察するにしても絵面が地味すぎる。やはりヒロインがいないと燃えんな。

俺も悪と名乗るだけあり、こういった関係ない一般市民がどうなろうと知ったこっちゃない。基本助けているのは流れであって助けたい気持ちは一切ない。可哀想だから助けているなんてことはない。ないったらない。

そんなことを思っていると……

 

「俺たちはもうお終いだ……男は死ぬまで働かされ、女は死にたいほど犯されるんだ……」

「ッ! ……エッグ……おがあざん……」

「大丈夫よ! 心配しないで……きっと……助けが……」

 

今の状況に絶望してか、だんだんと不安な声が出てくる。こうなると心理的に希望は持たなくなるのが人間というもの。先ほどまで元気に抵抗していた男たちも絶望の色が伺える。

そこへ……

 

「み、皆さん! 大丈夫です! きっと助けは来ます!」

「そうよ! だから諦めないで頑張るのよ!」

「そうそう。みんなで頑張っていこう!」

 

謎の少女たちが皆を励まし始めた。

ん? というより真ん中の少女……見たことあるぞ?

 

「まさか……典韋(てんい)?!」

「………………え?」

 

この場所で何故か出会うと思っていなかったヒロインと出会ってしまった俺。つーか何してんの?

 

「えと……すいません。何処かでお会いしましたか?」

 

聞きたいことは山ほどあるがとりあえずこの場を誤魔化さねば!

 

「あ、いや……申し訳ありません。私はある種の情報が好きな人間でしてね?此処で大きな得物を持った小さな少女が賊退治をしていると流れで聞いたことがありまして」

 

大半は嘘だが……どうでる?

 

「あ、そうだったんですか。確かに私の武器は目立ちますから……それなら、知っているのも当然ですよね」

 

よーーしよしよし! 典韋さんがチョロくて助かった! 少しは疑いってことを覚えた方がいいぜ典韋さん?

すると服を引っ張る感覚があり、その方へ向いてみると……

 

「ねえねえねえ! 電々(でんでん)は?」

 

先ほど典韋さんと一緒に皆を励ましてた少女が俺に聞いて来たのだ。

いや……君、誰?

 

「………………申し訳ありません」

「ガーーン」

 

俺の言葉を聞いてガッカリする少女。ごめんね?

 

「仕方ないわよ電々。雷々(らいらい)たちはまだ旅を始めたばっかりじゃない」

「そうだけどさー……」

 

……多分だが、この子たちの名前は真名だな。とりあえず放置で。

 

「あ、名前を言ってなかったわね! 電々は糜竺(びじく)!」

「雷々は糜芳(びほう)だよ!」

 

あ、どうも丁寧に……じゃない! 君たちは少し落ち着いて! これから典韋さんと大切な話をするから!

 

「それにしても……何故、典韋様がこのような場所に?」

「えと……実は私、友人に呼ばれてある場所を目指していたんです。その途中で此処の山賊と遭遇して対抗してたんですけど、人数が多くて義勇軍の皆さんが捕まったことで私も……」

 

なるほど。人質を使って典韋さんを捕まえたってわけね。やるじゃん。

 

「お二人はその時一緒に戦ってくれた仲なんです」

「えっへん!」

「ふふーん!」

 

なるへそ。つまりは君たちも戦力になりえるのね。臧覇覚えた。

 

「ふむふむ……」

 

さて……どうするか?

適当に逃げようとしていたが、まさかの事態に巻き込まれていた。先は典韋さんらと組んで此処を制圧するか? いや、その流れだとくっころ展開は難しい。ではこのまま何もせずに待つか? それもダメだな。この後の展開がわからないのは苦しい。

そうなると……一つだけ方法がある。

 

「……お三方、この窮地を脱する方法があります」

「ッ! 本当ッ!?」

「お静かに。まずはですね……」

 

これ以上騒ぐと外の賊にバレてしまう。そうなる前にことを進める。

 

「………………ということです。出来ますか?」

「はい」

「雷々も行けるわ」

「電々も!」

 

よし、ならば始めるとするか。

 

「すいませーん! すいませーん!」

 

まずは糜竺さんが大声で見張りを呼ぶ。

 

「んだよ! 黙っていらねーのか!?」

「ごめんなさい! でも大変なんです! 妹が具合を悪くしちゃって……」

「ああ? んなこと知るかよ!」

 

まぁそうだろうな。そして後ろを向いた瞬間……

 

「せええええい!!」

「ヘブタ!?」

 

典韋さんが思いっきり牢獄の檻にタックルをした。典韋さんの力はかなりのモノで檻を簡単に貫通して見張りを巻き込んだ。

その空いた穴から俺と糜芳さんが飛び出して辺りを見渡す。

 

「な、なんだ?」

「何があった!?」

 

ふむ……前に3人と後ろに1人。思ったより多いな。

 

「糜芳様!」

「まっかせてー!」

 

数が多い方を俺が担当して……って待って!

 

「糜芳様!? 逆です!」

「え?」

 

なんでこの子、数が多い方へ向かってるの?

 

「………………間違えちゃった。てへっ」

 

いや……てへって。少し可愛いけど今の状況じゃないよね?

 

「くたばれッ!」

 

そして男が糜芳さんに向かって得物を向けた。

ああ! 言わんこっちゃない!

 

「しゃがん……でッッ!」

「ほい」

「ゴフッ?!」

 

糜芳さんがしゃがんだ瞬間、俺は全力で目の前を殴った。

すると気圧により空気が大砲のように賊に向かって飛んでいき、賊の腹部に命中した。

 

「おおー……すごーい!」

「な、何だ今のは?!」

 

ビックリしてるとこ悪いけど……

 

「シッ!」

「「ッッッッ?!!」」

 

すぐに賊たちに近づいて鳩尾に拳を食らわす。2人は声を出すことも許さず、倒れていった。

 

「ヒ、ヒィィィイ!!」

 

後ろにいた男は逃げるようにその場所から離れていく。

 

「あ! 逃げていくよ!」

「いや、逃しましょう。どうせこの騒ぎですからすぐにバレます」

 

ま、なるようになったから問題ない。とりあえずはこの場は大丈夫だろうな。

 

「電々! 大丈夫!?」

「大丈夫だよー!」

「お兄様も大丈夫ですか?」

 

おおー……なんか一刀君に言っていたお兄様を奪ってしまった。ごめんなさい一刀君。

 

「私も無事です。さて……時間もありませんので此処の親玉に会いに行きましょうか」

「……あの! 私も同行していいですか?」

 

………………ふむ。

 

「糜竺様、糜芳様。この場は任せてもよろしいですか?」

「これでも腕は立つの! みんなを守ってあげるわ!」

「電々に任せなさーい!」

「わかりました。なら典韋様、共に行きましょう」

「ありがとございます!」

 

ではではすぐに向かうしようか。だけど典韋さんには悪いことしてしまうな。え?何故かって?

それはね……

 

 

〜数時間後〜

 

 

「こ、この俺様が……ガクッ」

「ふん、他愛なし」

 

一瞬で終わらせてしまうからだよ。先ほどまで宴会でもしていたのだろう。あちらこちらに酒や肉が散乱している。そして今は数多くの賊たちがお眠り中である。

 

「……すごい」

 

典韋さんも俺の強さに関心している。

 

「さて……あらかた片付きましたか」

「はい! とりあえず皆さんに伝えに行きましょう!」

「そうですね……ですが、一つ残していることがあるんです」

「残していること?」

「ええ……」

 

その瞬間、俺は典韋さんの後頭部に拳をぶつけた。

 

「え…………どう……し…………て……」

 

倒れる瞬間、俺は優しく受け止め、ゆっくりと寝かした。

………………ふふ。

 

「フハハハハハハッ! ハァーッハッハッハッ!」

 

まさか此処までチョロいとは思わなかったぞ!

どうしてこの俺が同行を許可したと思う? それは典韋さんが完全に俺を信用していたからだ!

信用しているならば俺に敵意は向けてこない。それならば2人きりの場面になれば必ずチャンスは生まれる。

その結果がこれ! まさに作戦通り!

 

「さあ……まずは曹操の陣営に文を送ろう。そうすれば許褚が釣れる。そして単独では来ないから夏侯惇か夏侯淵が来るはずだ……」

 

そうすればもうこちらの勝ちだ。後は人質作戦でことを進めればいい。

そのついでだ。此処にいる奴らも人質に取っておこう。

 

「ククク……散々失敗してきた俺だがついに成功する時が来た! やはり勝つのは悪なのだ!」

 

………よし! 文も完成した! 直球でも良かったけど曹操さんだとあの雰囲気でやらなくちゃいけないノリなんだよな。とりあえずそんな感じで書いといた。

後はこれをどうやって送るかだな……

 

「どないしたん?」

「いや……この文をどう送ろうかと思ってな」

「そんならウチが送ったろか?」

「おお。すまないな張遼」

「かまへんかまへん!」

 

………………………………あれ? 俺は今、誰と喋っていた?

そして顔を横に向けると馴染みの顔があった。

 

「………………張遼ッ!?」

「? ウチやで?」

 

馬鹿な、何故貴様が此処に?!

 

「いやーアンタを探してたら名のある賊を討伐してるやん。やっぱオモロイな、アンタ」

「…………き、貴様1人か?」

「……後ろ」

 

ああ……そうだろうな。さっき気づいたが何かに見つめられている感じがしてるんだよ。振り向きたくない。

 

「……………………………見つけた」

 

見つけないでくださいお願いします。というよりどうやってこの場所に?

 

「…………匂い……した」

 

俺の脳内に話しかけてこないでくださいよ! 怖いから!

ともかくだ……典韋さんを逃すのは痛手だか……

 

「戦略的撤退!」

 

俺はすぐにその場から離れた。俺の足ならば一瞬で出口まで行ける! フハハハハ! 最後に勝つのはこの俺だ!

そう……その時までは勝利を確信していました。

 

「…………なん……………だと……?!」

 

出口から外に出た瞬間、俺はその景色に絶望してしまったのだ。

そこには……

 

「お久しぶりですね、紀霊さん? それとも……臧覇さんと呼んだ方がいいですか?」

 

かつての上司である張勲さんと……

 

「久しいな、想い人よ」

 

我が天敵にして魔王の孫堅さんが立っていたのだ。

 

「そ、そんな……まさか……!?」

 

出口かと思われた場所は地獄の入り口だった。

な、ならば此処は一旦戻って……

 

「………………………………」

「何でウチらから逃げるん? 何かしたんか?」

 

戻ろうとしたら後ろに呂布さんと張遼さんの姿あり。待て……待て! 何だ此処は!? 既に俺は地獄に入っていたのか!?

つーか何故このメンバーが手を組んでいる!?

 

「呂布の小娘から聞いたぞ。何でも国を巻き込んで面白いことをしてたみてーじゃねーか」

「ビックリしましたよ。その後、退位された話もありましたからねー……よ! この大英雄!」

「アンタを探している途中で、この人らと出会ってな? 同じ目的やし、一緒にどう? ってな感じで誘われたんよ」

 

クソ……汗が止まらん! 何処だ何処に抜け道がある!

 

「おっと」

「…………ダメ」

 

そう思った矢先、俺の両腕が孫堅さんと呂布さんに捕まる。

 

「そろそろ追うのも疲れたからな……観念しな」

「…………ずっと、一緒」

「では私たちは残りの処理でも行いましょうか」

「せやな」

 

いやいやいやいやいやいや!

俺は目指している場所があるんだ! この世界の……ヒロインたちの……くっころを!

 

「ちくしょおおおおおお!!!」

 

 

流琉(るる)サイド〜

 

 

………………………………ん?

 

「あれ……此処は?」

「流琉! 大丈夫?!」

 

あれ? 季衣?

 

「どうして……季衣がいるの?」

「どうしてって……流琉、此処がわかる?」

 

えと……あれ?

改めて辺りを見回すと見たこともない部屋が目に映った。

何処だろう?

 

「此処は私の城よ」

 

そう思っているとある威厳がありそうな女性が入ってきた。

 

「貴女が季衣の言っていた典韋ね?」

「あ、はい」

「そう……私は曹孟徳。季衣の上司にあたるわ」

 

この人が……

 

「季衣の話、本当だったんだ」

「あ! ひっどーい! 信じてなかったの?」

「だって……季衣の話、大雑把すぎて……」

「ふふっ」

 

私たちのやりとりを見て、曹操さんは笑顔を見せる。

 

「とりあえず、話は出来るのね。なら季衣、安心したなら席を外しなさい」

「はい!」

 

そう言って素直に季衣は部屋を出ていき、曹操さんと私だけになった。

 

「さて、色々と聞きたいことはあるけどまずは一つ」

「は、はい」

「貴女……どうして張遼に担がれてきたの?」

「………………え?」

 

担がれた? どういうことだろ? 私はお兄様と一緒に……あっ!

 

「お兄様は?!」

「……お兄様?」

「あの! 私の他に誰かいませんでしたか?」

「貴女の他に? そうね……双子の姉妹は貴女の様子は見にきたけどそれ以外は特にいなかったわ」

 

糜竺さんと糜芳さん、無事だったんだ。良かった……じゃなくて!

 

「……何か特徴は?」

「えと……すいません。顔を隠していたので特徴がわからないです」

「ッ!」

 

そう言った瞬間、曹操さんの眉がピクリと動いた。

 

「ふふっ……そう、そういうことね」

「……?」

「いえ……張遼と一緒にこの文が届いたの。字は読めるかしら?」

「……あまり」

「なら読むわね……“孟徳の盾、此処にあり。この地にて待つ”と」

「え?」

「憶測だけど貴女は彼の名を知らないわね?」

「はい」

「けど彼は貴女を知っていた……面白いと思わない?」

 

わからない。けど、あの時に私を気絶させたのは間違いない。あれの意味は一体……

 

「………………」

「何かあったみたいね」

「はい……」

「ならば典韋。貴女はこれから曹孟徳の盾となれるか?」

「ッ! はい!」

「では歓迎するわ。私は華琳……貴女は?」

「……流琉です!」

 

今はまだわからない。けど曹操さん……いや、華琳さまに着いていけば答えはわかる。だから……

 

「私なりに答えを見つけよう……その時は」

 

答えてください……お兄様。




曹操さんはどうしたら主人公を三下扱いするんでしょうか?
え? それどころじゃない? ちょっと何言っているかわからない(目逸らし

ありがとうございました。


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孫呉編
第18話


〜曹操・袁紹サイド〜

 

 

生前退位をしたために現状のトップがいなくなった。それを補う形で曹操と袁紹が馬車馬のように働きを見せる。

 

「……今の今まで、よくこんな状況下で崩れなかったわね」

「全くですわ……政なんてないも当然。資金も底が見えているなんてありえますの?」

「彼らは血税はお小遣い程度にしか見ていなかったとしか思えないわ」

 

十常侍やその息のかかった者らにより、国が崩れる一歩手前まで来ていた。もしも、十常侍らがまだこの国を支配していたならば、確実に国は滅び、世は大乱世となっていただろう。現在でも多くの賊がはびこんでいるのも納得が出来る。

 

「上が乱れば自ずと下も乱れる……言いたくはないけど無能の極みね」

「それは我々も含まれますわ。この事態に気付くことはあっても防ぐことは出来なかった。市民からすれば全て上に立つ人間を恨んでいる筈です」

「…………それもそうね」

 

袁紹の言葉が突き刺さる曹操。気が付かなかったわけでははない。しかし、その時は力がなかった。そんな言い訳が頭をよぎる。

 

「ですがご安心なさい! この袁本初、やるからには力を惜しみません! 華琳さん、わたくしの活躍に涙を枯らさないように!」

「………………はぁ」

 

どうしたら涙が出るか説明が欲しかったが、今は黙っておく曹操。

だが実際問題、ここ最近の袁紹は目を見張る活躍を見せている。今の資金問題は袁紹がいなければ解決出来ずにいたからだ。これは曹操が袁紹に相談をしようとしていた時期に自ら資金を持って国へと納めた。

その時、袁紹は……

 

「人なき場所にお金は生まれませんの。その人が住める場所を作るのがこの名家である袁本初の役目と知りなさい!」

 

ここまで言えるようになっていたことには流石の曹操も驚きを隠せないでいた。以前から変わってはきているのは気付いていたが、これほど成長しているとは思っていなかったのだ。

 

「これも噂の婚約者のおかげ?」

「あら? 興味がありまして?」

「ないと言えば嘘になるわ。彼には個人的な関わりもあるしね……」

 

曹操の前に現れ、袁紹を有能にさせ、国すら巻き込んでこの腐った情勢を変えようとしている男。

 

「(彼の目的はわからない。だが、時代が動く時に彼は必ず現れる。先見の持ち主とて限界はある……けど彼はどこまでこの国を見ていると言うの?)」

 

男は間違いなくこの時代を変えようとしている。それが自分と同じやり方かはわからない。

 

「……麗羽」

「なんですの?」

「もしも……彼と対峙するとしたら……どうする?」

「………………」

 

袁紹は少し考え……

 

「国を乱すならば戦いは避けられませんが……国を正そうとするならば喜んでこの座を譲りますわ」

 

偽りのない笑みで曹操に答えた。

 

「そう……」

 

一方の曹操はその答えを聞き……

 

「(私が同じ立場なら……どう答えるの?)」

 

自分に大きな課題を残し、悩むのであった……

 

 

〜劉備サイド〜

 

 

「………………」

「……か……とう…………桃香!」

「ふえ?」

「ふえって……さっきから手が止まってるぞ?」

 

劉備に声をかける赤髪の女性。

名は公孫賛(こうそんさん)。字は伯珪(はくけい)。真名は白蓮(ぱいれん)

かつて慮植(ろしょく)の下で共に学んでいた友である。そして今は幽州啄郡にて太守を務めるなどかなりの才を持っている。

そして劉備らは義勇兵を集め、公孫賛の下で世話となっていた。

 

「ご、ごめん白蓮ちゃん!」

「……何か悩みごとか?」

「………………うん」

「私でよかったら聞くぞ? もしかしたら気持ちも晴れるかもしれんし」

「……ありがとう」

 

そして劉備は悩みを公孫賛に打ち明けた。

 

「私の夢は前にも話したよね?」

「争いのない世を作る……だったよな?」

「そうだよ……けどね、今の私がしてることで本当に争いがなくなるのかな? ……って」

「………………」

「覚悟はしてきたつもりだったけど……いざ、戦場を見ちゃうとどうしても考えちゃうの」

 

劉備はこれまでに多くの賊退治を見てきた。関羽や張飛などの活躍もあり、各地の鎮圧にも成功している。

だが、退治をすればするほど劉備は悩む。自分のしていることは平和のためなのか?これで民は救われるのか?

国の頂点に立つ者がいなくなった今、賊の数も増える一方。その度に鎮圧をし、多くの血が流れていく。

それが今の劉備の悩みであったのだ。

 

「桃香」

「何?」

「正直、桃香の進んでいる道はとても険しい道だと思う。それこそ、私なんかがわかるような道じゃない」

「そ、そんなこと……」

「そんなことさ。適所適材で私は此処を守るのが最適なんだ。けど、桃香は違うだろ?」

「………………」

「だから……桃香ならやれるって自信を持って言えない。けど、出来るとするなら桃香だけだ。それは自信を持って言える」

「白蓮ちゃん……」

「…………だぁー! 自分でも何言ってるかわかんなくなった!」

 

頭をかき回すように恥ずかしさを見せる公孫賛。

 

「ともかく! 悩むなとは言わないからせめて誰かに相談してくれ。お前も上に立つ人間なんだから」

「……そうだね! ありがと、白蓮ちゃん!」

「ああ!」

 

優しき少女は立ち直る。しかし、これは氷山の一角に過ぎない。これから過酷な歩みとなるのをこの時はまだ知らないのであった……

 

 

〜孫権サイド〜

 

 

蓮華(れんふぁ)さま。この地の賊はあらかた片付けました」

「………………」

「蓮華さま?」

「え? ……ああ、ありがとう思春(ししゅん)。皆を休ませてあげて」

「……御意」

 

江東の各地で賊退治を行なっていた褐色の少女。

名は孫権(そんけん)。字は仲謀(ちゅうぼう)。真名は蓮華。

彼女は孫堅を母に持つ次女。そんな彼女はある悩みを抱える。

 

「今の私に……何があるの?」

 

偉大な母を持つ孫権。そのために多くの人間が自分と母を比べる。決してそのようなことはないが完全にないとは言えない。それが孫権を悩ませていた。

 

「お母様やお姉様ほど武力があるわけではない。シャオみたく器用に歩けない……そうなると私の存在意義って何?」

 

思えば思うほど感じる劣等感。決して孫権が劣っているとは誰も思っていない。しかし、孫権自身が真面目故に自分の立場を理解しようとするとどうしても家族のことを思ってしまう。

 

「……どうすればいいのよ」

 

誰かに相談をすれば気持ちも晴れる。しかし、それは孫権が許さなかった。弱音は吐いてはいけないと勝手に決めているからだ。

月が照らす部屋で孫権は悩む。

 

「……救世主……ね」

 

その言葉が自然と出てきた。各地で噂となっている名無しの救世主。もちろん、孫権もこの噂は聞いている。

 

「もし……いるのなら…………話でも聞きたいわ」

 

はじめて呟く弱音。

それは誰にも聞こえずに時間だけが知るのであった……

 

自分の道に悩む覇道の王。

自分のやり方に心を痛める人徳の王。

自分の立場に苦難を見せる絆の王。

それぞれが悩み、壁にぶつかる。それは誰に言われたわけでもなく、己自身が止まる。しかし、時は止まらない。止まるのはいつでも人の歩み。

彼女らはその一歩を踏み出せるのか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜張勲サイド〜

 

 

「……やられたな」

「ええ……」

 

私と孫堅さんは呟く。

正直、これは予想はしていた。しかし、動きを見せるのはもっと遅いと思っていた。完全に一杯食わされましたね。

 

「呂布と張遼が想い人を拉致。そのまま行方をくらましたか……」

「まさか、此処まで早く動くとは考えていませんでした」

「それはオレとて同じだ。もう少し大人しくしていると思っていたが……ふふっ。やはり獣だな」

 

これは私の傲慢でもある。呂布と張遼の警備を強くするべきだった。

天は私のことを嫌っているのでしょうか?

 

「障害は大きいほど燃えるもんさ。そうだろ?」

「……そうですね」

「んでこれからどうする? 兵は無理に出せんぞ?」

「…………もしかしたら、彼らはこの地を離れないかもしれません」

「ほう?」

「呂布さんと張遼さんの目的は彼の保護です。ならば……」

「拠点がある……と?」

「ええ。此処は私たちが動きますので孫堅さんは一度、城に戻ってください。変に勘づかれると危険ですので」

「……まぁいいだろう。今回は手を引くか」

 

そう言って歩き出す孫堅さん。

今回は私たちの負けです。しかし、最後に笑うのは……呂布さんや張遼さん、強いては孫堅さんでもない。私と美羽さまです。

 

「フフフ……その時が楽しみですね?」

 

 

こうして絶体絶命の窮地は思わぬ形で幕を閉じた。しかし、未だ困難は残ったまま、臧覇は闇へと消えるのである……




一度も登場せずに拉致られる主人公がいるらしいですよ?

ありがとうございました。


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第19話

〜臧覇サイド〜

 

 

前回、俺は地獄の包囲網によって魔王に捕まってしまった。此処だけ見れば完全な別作品だが、安心してくれ。これは恋姫の世界だ。そして俺は彼女らの言われるがまま好き放題に……とはならなかった。

呂布さんと張遼さんが魔王を裏切るという予想外の展開が起きたのだ。何故裏切ったかは俺にもわからない。しかし、このまま引き下がる俺ではない。必ずやこの状況を打破してヒロイン共に地獄を見せてやるぜ!

そんな俺は今……

 

「いただきます」

「…………ます」

「いただきますですぞ!」

 

朝飯を食べていた。ちなみに場所はわからんが小さな小屋にいる。

 

「上手く出来たかわからんけども頑張ったで」

 

作ったのは張遼さん。朝から拉麺が出てきた。どうやって拉麺が出来たのかは謎だ。

 

「ずずー……美味いな」

「ずずずずー…………モキュモキュ」

「おう! おおきに!」

 

拉麺のすする音が部屋に響く。美味いものを食べると人は黙るというのは万国共通らしい。

しばらくして拉麺を食べ終わり、張遼さんと陳宮さんが食器を片付けて、俺と呂布さんはのんびりとしていた。

 

「………………って待てえええい!!」

「…………?」

 

俺は一体何してんねん……これじゃ、ただの日常系になってしまうわ! これは俺の極悪で残虐で非道な物語だったはずだ。

 

「なんや?どないしたん?」

「朝からうるさいですぞ高順殿」

「静かにする方が無理難題だよ! なんでマッタリしてるんだよ! というより此処は何処だ?!」

「「さあ?」」

「君たち立場わかってる?国から追われてる身なんだよ?」

「…………?」

 

あ、ダメだわ。これはみんなわかってないわ。

 

「はぁ…………頭が痛い」

「…………大丈夫?」

 

うん、君のせいだよ? そんな可愛げに聞いてもダメだからね?

 

「さて、冗談もここいらにしとこか」

「そうですぞ。そろそろ真面目な話をするのであります」

「………………ハイ」

 

もういいや。なんか疲れた。

 

「そもそもなんでお前たちは孫堅の下にいた?」

「こないだも話したと思うけど、ウチらと目的が一緒だったってのが、理由やね」

「ならそのままでよかっただろ?なんで逃げるような真似を……」

「そら、あくまで高順の確保が目的やもん。その後の問題は関係なしや」

「……問題?」

 

何かあんのか? 原作なら孫堅さんが亡くなった後に袁術さんが国を奪い、それを孫策さんが奪い返す……感じだよな? なら、孫堅が生きてる今はどうなんの?

 

「今、袁術殿と孫堅殿は袁紹殿の命を受けており、戦の途中でもあるのです」

「戦?誰と戦ってるんだ?」

「かつての劉表の部下、黄祖(こうそ)であります」

 

………………ふむ?

 

「ま、知らんのも仕方ない。アレはただの凡人やし」

「その凡人が何故、袁紹に目を付けられた?」

「ただの賊とは違うのです。規模で見たら目を逸らすのは難しいのです」

「それで袁術と孫堅を派遣させたってか?過剰すぎやしねえか?」

「…………見せしめ」

「……ああ。そういうことか」

 

自分に害をなす者は全力で潰しますよー覚悟してくださいねーって感じか。まあ国が甘くみられてたから腐った人間が増幅していったもんだし、このくらいはやっとかないとな。

 

「そんで自軍の強化の為にウチらを取り囲んで早期決着を狙っておったって話や」

「ですが、ねねたちは関係ないので抜けたのです」

「……なるほど」

 

ならばこの状況……使えるな。

 

「呂布、張遼、陳宮……俺に力を貸せ」

「………………むぅ」

 

ん? なんで呂布さん、不機嫌なの?

 

「…………恋」

「……それ、貴方の真名ですよね?」

「ん……」

 

いや……そんな早く言ってみたいな顔されてもね……

 

「よ〜〜〜く見ときねねっち。あれが“たらし”っちゅーもんや」

「恋殿を泣かしたらタダじゃおかないのです!」

 

だぁークソ !メンドくさい! 俺はヒロインには絶対に真名で呼ばないようにしてるんだよ! 仲良くなりたくないからな!

 

 

〜孫権サイド〜

 

 

「手を止めず、攻めたてろ! 相手に時間など与えるな!」

「「「うおおおおおお!!」」」

 

孫権は今、母である孫堅の命を受けて黄祖の軍の討伐を行なっている。状況は完全に孫権が優勢である。

 

「一旦下がるぞ!」

「は、はっ!!」

 

相手は分が悪くなり、これ以上の戦いは無意味とわかり、兵を退かす。

 

「誰1人とて逃すな! 此処で我が孫呉の力を……」

「なりません! 蓮華さま!」

「止めるな思春!!」

「気持ちはわかります! ですが、相手の策があることもあります! それに我が軍の疲労してる者も多いです!」

「ッ!! ………………わかったわ」

 

甘寧に言われ、渋々ながらもその場を去る孫権。それに変わるように甘寧の部下である周泰(しゅうたい)が入る。

 

「蓮華さま……最近、焦って見えますね」

「炎蓮さまや雪蓮さまが功を見せている。その中で自分だけが何も出来ていない……そう感じているはず」

「そんなことないですよ! これまでだって!」

「我々はそう思っても自分の中で納得出来ていないのもある。難しい話だが、乗り越えられるのは自分だけだ」

「そんな……わたしたちは何も役に立てないんですか?」

「………………」

 

甘寧は静かに拳を握る。自分の無力さ故か、それとも孫権の苦しみを取ることが出来ない悔みか。

そして彼女らは兵を下げ、準備にかかるのであった。

 

「……はぁ」

 

陣に戻り、1人の時間を取る孫権。その顔は疲れもあり、かなり荒れているのがわかる。

 

「私がしっかりしないと……上に立つ人間にならないと……」

 

まるで自分自信に呪いをかけるように業務に取り掛かる。プレッシャーもあり、自分への課題とも言える。

そこに遠くから覗いている謎の影……

 

「あそこに孫権がいるのか?」

「間違いないですぞ」

 

臧覇と陳宮である。

 

「それにしても恋殿と霞殿を連れてこなくて良かったのですか? 仮にも此処は敵の拠点なのですぞ?」

「いいんだよ……そもそも今は戦いに来たんじゃないしな……」

「? どういうことですか?」

「よし、まずお前には……」

 

臧覇は陳宮に今回の策を説明し、準備に移るのであった。

 

そして再び、孫権の個室。業務をこなし、今後の軍の行いを考えている。彼女は真面目な性格な為に妥協を許さない。自分でもわかるくらいな不器用さ。

そして次の業務に手をつけようとした時……

 

「お願いします! どうか!」

「助けてやりたいが無理なモノは無理だ」

「……外が騒がしいわね」

 

先ほどまで静かな夜であったが、今は外で口論をしているような声が響いている。気になって外に出る孫権。

そこには自軍の兵士とボロボロになっていた少女がいたのだ。

 

「何があったの?」

「え? ……孫権さま?! お疲れ様です!!」

 

突然現れた自軍の大将に驚きながらもしっかりと挨拶をする兵士。

 

「ええ、お疲れ。それで、何をそんなにもめてるの?」

「はっ! 実は先ほど森で賊に襲われたとこの少女が……」

「本当なので……なんです! 信じてください! 森の中にはまだ父上が!」

「……ッ!」

 

この時にまで愚賊が現れる。怒りを出さぬように唇を噛む孫権。そして冷静になり、少女に質問をする。

 

「どこらへんで襲われたかわかる?」

「えと……あそこから真っ直ぐ来たので……」

「真っ直ぐね……思春と明命は?」

「軍の調整中であります。すぐには終わらないかと……」

「そう……」

 

そして孫権はしばらく考え……

 

「すぐに動ける者を集めてちょうだい。私はすぐに向かうわ」

「え?! 孫権さま!!」

 

兵士の言葉を聞かずにすぐに森の中へと消えていく孫権。自分への焦りと愚賊に対する怒りで周りが見えなくなっていた孫権は兵も連れずに向かっていく。

 

「(…………高順殿の言う通りなのです)」

 

実はこのボロボロの少女、正体は陳宮であった。何故このような格好をして接触してきたのか?

それは臧覇の策であったのだ。

 

「(孫権殿が焦りを見せている今……辺りを見えなくなることは間違いないのです。そこを利用し、上手く誘導すれば……孫権殿は自分の愚かさに気づくのです)」

 

母親である孫堅が生きている今。必ず孫権は焦りがあると確信していた臧覇。この戦で功績を残そうと頑張っているのは必然。そして皆が疲れ切っている中で賊が現れたとなればどうなるか?彼女は必ず、1人で動く筈。そして1人になった時に襲うのが今回の策である。

ちなみに陳宮には孫権に説教をすると伝えている。意外にも、すぐに協力をもらえた。間違っても襲ってくっころをするとは言っていない。

 

「(あとはお願いするのですぞ!)」

 

こうして孫権は1人、森の奥深くへと進んでいく。

全てが完璧とも見えるこの状況……だが、ただ一つだけ臧覇はミスを犯した。

そのミスとは……

 

「くそったれえええええ!!!」

「「「ぐはああああ!!!」」」

 

謎の集団が本当にいたことであった。

 

 

〜臧覇サイド〜

 

 

な! ん! で! 本当に人がいるんだよおおお!! こいつら誰だよおおお!!

 

「何故ここがバレた?!」

「相手は1人だ! 構わん殺せ!」

 

賊にしてはキビキビ動きやがるな。となるとこいつら……

 

「まさかアンタら……黄祖の軍とかじゃないよな?」

「やはり孫権の部下か! 生かして帰さん!」

 

当たりだよチクショウ! なんで夜遅くにこんな森の奥深くにいるんだよ! 昼間動けよ!

 

「メンドくさい……なッ!!」

 

手にしているのは剣ではなく丸太。これだけ敵が多いと1人1人斬るのは時間がかかる。幸いにも森なのですぐに丸太は確保出来る。それにしても扱いやすいな。丸太万歳。

 

「早くお前らを片付けないと……孫権が来るんだよ!」

「ッ!? 此処に孫権が!」

 

そうなんです! だからね? もう此処は一旦退いてくれませ……

 

「見つけたわ!……貴方たちは黄祖の兵か!」

 

早い……早くない?

 

「クソッ! 予定こそ狂ったが孫権は1人だ! すぐに殺せ!」

 

はぁ!? ふざけんなよ孫権さんは俺の獲物じゃい!

 

「そこの人! 申し訳ないが手を貸してくれ!」

「ええ!」

 

俺と孫権さんは背中を合わせて敵を迎え撃つ。さすがといったところか、孫権さんもかなりの武をお持ちで、相手を倒していく。

 

「せい! やあ! はあああ!!」

 

おーバッサバッサ斬ってくなー。やっぱあの娘だわ。

 

「そういうわけで、退場して貰おう……か!」

「「「がはああああ?!!」」」

 

孫権の剣と俺の丸太で敵を圧倒する。その姿に敵は既に戦意をなくしていた。

 

「ひ……退け! 退けええ!」

 

その言葉を待っていたかのように敵は武器を捨ててこの場を去っていく。

あー……疲れた。

 

「………………」

 

敵を倒したのに何故か暗い顔を見せる孫権さん。何?どったの?

 

「私は一体何してるのよ……1人で勝手に行動して……皆に合わせる顔がないわ」

 

あ、反省中でしたか。でも、こんなところで反省しても危ないよ?

だが、待てよ臧覇。これはある意味チャンスではなかろうか?こんな弱気になっている孫権さんを拉致すれば……甘寧さん辺りがくっころをしてくれるんじゃないか?

 

「…………やるか」

 

そーっとそーっと近づく俺。もう少し……もう少しで。

その時である。幾度と危機を乗り越えてきた俺の第六感がざわつき始めたのだ。

何かがくる……身を隠せ俺!

そして身を隠した瞬間、ものすごい轟音が響いた。

 

「な、なに?!」

 

その音に驚く孫権さん。音の方に振り向くと……

 

「ん? こんなところでなにをしている? 蓮華」

 

魔王、孫堅が降臨していた。あの人ってマジで人間なの?

 

「母さま?! どうして此処に!?」

「知った人間の気を辿ってきたんだが……お前がいたとはな」

 

首をコキッとならす孫堅さん。どうやら娘を見つけたことで俺の存在を消してくれたようだ。ありがとう孫権さん!

 

「それにしても珍しいな。部下を連れずに戦うなんて……」

「……見ていたのですか?」

「見てはいない。だが、これでもお前の親だ。ある程度のことはわかるもんだ」

「………………」

「まぁオレとしてはこのくらい盛んな方が好きだがな。お前の性格上、あまり得意ではないだろ?」

 

うん……どうしてあの魔王から孫権さんみたいな真面目な性格の人間が産まれるんだ? 謎だ。謎すぎる。

 

「なら、どうすればいいんですか?」

「………………」

「私は母さまや姉さまみたく強い武を持っているわけではない。シャオみたく器用に生きることも出来ない……なら、人一倍頑張るしかない」

「………………」

「でも頑張っても頑張っても……母さまみたいになれない。こんな私はどうすればいいんですか?」

 

いろいろと溜まってたんだな、孫権さん。これは原作以上に自分にコンプレックスを抱いているに違いないな。

 

「何故、オレになりたい?」

「…………え?」

 

先ほどまで黙っていた孫堅さんが口を開いた。

 

「正直に言おう……オレはお前らが羨ましい」

「……母さまが?」

「ああ。蓮華みたく真面目に物事を取り組むことが出来ない。雪蓮みたく友を大事に出来ない。シャオみたく女を磨くことが出来ない……それが孫文台という人間だ」

「…………母さま」

「オレ1人ならそこらの山賊と何も変わらん。だが……こんなオレを支えてくれる祭や粋怜、雷火たちがいる。あいつらはオレの強さに惚れ、ついてきてくれる。ならばそれに応えるのがオレの役目だ。そしてオレに出来ないことをやってくれるのが部下たちだ」

「………………」

「蓮華……王は1人で成り立つことはない。誰かが支え、それに応える。その絆が強くなり、王が誕生する。代わりを見つけることは出来ない」

「代わり……」

「そうだ……だからオレになるな、蓮華。お前はお前のやり方がある。それを曲げずに進んでいけ。そうすれば自ずと見えてくるはずだ」

 

…………仮にも国を持った王の姿か。これは強敵だな、オイ。

 

「……意外でした。母さまが私たちを羨ましく思っていたなんて」

「誰にも言うなよ?これでも恥ずかしい気持ちなんだからな」

「ふふっ、わかりました。母さまとの秘密ですね」

「ふっ……元気になりやがって」

 

家族の前ではあんな姿になるのか孫堅さん。かなーーーり、意外だった。

その時である……

 

「ッ!! 蓮華!!」

「………………え?」

 

気配もなく、死角から矢が飛んできた。その方向は孫権さん。

いち早く、反応出来た孫堅さんは娘を突き飛ばし……

 

「……がはッ!」

 

孫堅さんの横腹に刺さったのだ。

 

「か……母さまッ!!!」

 

 

それはあまりに突然で……凶悪な一撃であった。




ありがとうございました。


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第20話

〜建業・王座の間〜

 

 

「「「………………」」」

 

建業にて孫呉を支えている武将たちが一同に集まった。それぞれの仕事があるにも関わらず、全員が集まれた理由。皆が暗い顔……否、怒りの表情をしてるのも同じ理由だ。

 

(パオ)……説明をお願い」

 

そんな中、口を開いたのは孫策であった。そして指名された包こと魯粛(ろしゅく)は前に出る。

 

「皆さんは知っているかと思いますが……先ほど、主である炎蓮さまが敵の矢を受け、意識不明の状態です。相手は黄祖の配下で間違いありません。そしてその黄祖の軍は着々と我が国に進軍しております」

 

淡々と説明をする魯粛。感情的にならず、己の任を全うするが、それでもどこか怒りが見えている。

 

「ならばやることは一つ……全軍で黄祖らを皆殺しじゃ」

「異議なし。全てを地へと返してあげましょう」

 

真っ先に意見を出した黄蓋と程普。古参の将だからこそ怒りを抑えず、冷徹な意見を述べる。

 

「今、動ける兵らを集めています。このままいけば早くて軍を今夜までに出陣が出来るかと」

「まぁ我が軍ならこのくらい余裕ですよね〜……」

「相手は勝った気でいるようですしね……この包をナメるとどうなるか思い知らしめてやりますよ」

 

普段、冷静な立場の人間である軍師たちからも反対の声が出ない。それほど今の状況を好ましく思っていないかぎわかる。

 

「なら早く出来るように手伝ってくるね。後は任せるよ、雪蓮」

「私も手伝います、梨晏さま」

「同じく!」

「ありがと」

 

武を語る将はその場を離れ、すぐにでも戦に入れるように準備に取り掛かる。

 

「雪蓮姉様……」

 

そして孫策の妹でもある孫尚香は普段、元気な姿ではなく、今にも泣きそうな表情を浮かべている。

 

「心配しないでシャオ。お母さまなら必ず元気になるわ……」

 

妹を励ますために笑顔を作る孫策。本当ならば母の側にいたい気持ちがある。だが、母が倒れた今、この国を支えるのは自分の役目だと理解して感情を抑えて、この場にいる。

 

「準備が出来次第、軍を進ませるわ。相手の要求や降伏は一切認めない。彼らに地獄を見せてあげましょう」

「「「応ッ!!!」」」

 

こうして軍議を終わり、各々は持ち場へと戻る。残された孫策と孫尚香。

 

「雪蓮姉様はどうするの?」

「私は少し残るわ」

「………………わかった」

 

静かにその場を去る孫尚香。孫策は孫堅が座っていた椅子に座り、天井を見つめる。

 

「……お母さま」

 

その顔に一筋の雫が流れる……

 

 

〜孫権サイド〜

 

 

「……ハッキリ申し上げます。手遅れです」

 

今、私は母さまが寝ている部屋にいる。同席してるのは雷火と最近、文官として頑張っている呂蒙(りょもう)こと亞莎(あーしぇ)

そして目の前にいる医者から、通告された現実に絶望していた。

 

「……どうにかならんか?」

「矢に毒が塗られておりました。これは触れたら即死するものではなく、ジワジワと身体を侵食させ、苦しみながら殺す毒です。下手に処置をするようなら逆効果で孫堅さまはもっと苦しむことになります」

「そんな……」

「この手のやり口は猟師などが動物を駆除するときに使うモノです。ですので、残念ながら……」

 

その言葉のほとんどが耳に入らなかった。先ほどまで私を励ましてくれていた母さまが汗をかきながら苦しそうな表情で寝ている。その現実についていけていない。

 

「………………」

「蓮華さま」

「………………」

「……亞莎、部屋を出るぞ」

「は、はい」

 

私に気を使ったか雷火と亞莎、それと医者はその場を離れた。情けない話だが、今の私は何も出来ない。そんな弱い自分が嫌になる。

 

「ダメなのはわかってるわ。けど……どうすれば強くなれるの?」

 

決心したと思った私の気持ちはまた崩れていた。怒りすらならないほどの悲しみ。立ち上がることも出来ない。

 

「…………ゥ…………ァ…………」

「………………」

 

今の私はただ、手を掴んであげることしか出来ない。母さまが苦しむ様子を見ることしか出来ない。

 

「わたしには……なにも…………できない……!」

 

悔しさのあまりに涙を流す。止めようにも止まらない。私は……どうすればいいの?

 

 

〜???サイド〜

 

「ガハハハッ! 今の孫呉なぞ敵ではないわ!」

 

やれやれ…………何故、ここまで強気でいられるのか、不思議でなりません。

この黄祖という男……凡人以下ですね。使いやすいと思い、利用しておりましたが流石に鬱陶しさも出てきました。

ですが……あの孫堅を仕留めたことを出来たのは褒めてあげましょう。

 

「黄祖さま。そろそろ戦が始まりますので……」

「おー! そうかそうか! ならば、頼むぞ…………于吉(うきつ)よ」

「お任せあれ」

 

この世界ではかなり歴史が変わっているようですし……潰しても問題はないでしょう。

さて皆さん……滅びの運命に抗ってみてください。楽しみにしていますよ?

 

 

〜孫策サイド〜

 

 

「もう準備が出来たの?」

「ああ。すぐにでも出陣可能だ」

 

冥琳の言葉を聞き、私は驚いた……ここまで手際がいいとは思わなかったわ。

 

「だけど、気をつけて雪蓮。みんな、怒りを抑えていないからね?」

「なら好都合だわ……抑える必要なんてない。思いのまま相手に立ち向かいなさい」

「そういうと思っていたさ」

 

私は友に恵まれている。もしも、冥琳や梨晏がいなかったらただの獣になっていたと思う。だからこそ感謝しないと。

 

「失礼します! 張勲さまがこちらにお見えになりました!」

「ほう……」

「通してあげて」

「はっ!」

 

そして姿を見せる張勲。いつもニコニコしているが今回は真面目な表情を見せている。

 

「袁術軍、愚賊である黄祖を討つべく、孫策軍に加勢致します」

「援軍、感謝します」

「…………どうやら哀しみより怒りを見せているんですね」

「ええ。本当に……初めてかもしれないわ、こんな気持ちで闘うのは」

「あら? 闘う気でいらしたんですね?」

「そういう貴女は?」

「駆除するだけですよ」

 

その言葉に感情などなかった。

 

「まぁ相手の動きは既に把握しておりますので、こちらはこちらで動きます。よろしいですか?」

「ええ。好きにやっても構わないわ」

「ありがとうございます」

 

そして張勲はその場を去ろうとした。しかし、一度、足を止め……

 

「…………これは美羽さまからの言葉です。私の言葉ではありません」

「………………聞かせて」

「頑張ってください……それでは」

 

そう言ってその場を去る張勲。それと入れ替わるようなに雷火と亞莎が入ってきた。

 

「雷火さま?」

「それに亞莎まで……蓮華さまは?」

「蓮華さまは今しばらく大殿の近くにいます」

 

蓮華……泣いてもいい。私の分までお願い。

 

「雪蓮さま……これを」

 

そう言って亞莎はあるものを私に渡す。それは紛れもなく母さまの剣、南海覇王であった。

 

「これは……」

「それと共に戦場へ駆けてくれ。頼む」

 

その言葉で私は理解してしまった。

もう……母さまは……

 

「冥琳……梨晏……」

「ああ……」

「行こう、雪蓮」

 

私たちは歩き始めた。皆が待つ場所へ。

我が孫呉に喧嘩を売ったこと……あの世で後悔してなさい。

 

 

こうして孫呉の復讐戦は幕を開く。

彼女らが待つのは望まぬ運命。目を向けたくない未来が彼女たちを修羅へと導くのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜寝室〜

 

 

「……もう、戦が始まってるのね」

 

孫権は今にも消えそうな声であった。孫堅の手を握りしめ、その場を離れない。

 

「将として失格ね……今の姿を見たら、母さまはなんて言うのかしら?」

 

どれだけ呟いても返事は返ってこない。それは孫権自身もわかっている。しかし、今の孫権は何も考えられない状況下であった。

 

「……………ァ…………ウ………」

 

孫堅も声こそ出ているが汗も止まらず、常に苦しい表情を浮かべる。それでも、彼女はまだ生きている。だからこそ、孫権の判断を鈍らせているのかもしれない。

 

「……母さま」

 

その時である。

 

「無様な姿だな………………孫文台」

「ッ!?」

 

突如、謎の声が聞こえてきた。孫権はすぐに声のする窓の方へと顔を向ける。

そこには……

 

「………………」

「貴方は……あの時の!」

 

誰しもが受け入れていた運命に抗うのは……“悪”と名乗る男であった。




やばい……本格的に悪役をやっていないぞ……これはマズイですね(汗
そしてすいません……もうちょっとシリアス先生は活躍します。

それでは!


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第21話

孫堅が倒れ、心が折れていた娘、孫権。

その前に現れた謎の男。彼の目的とは一体……

 

 

〜個室・孫権サイド〜

 

 

「………………」

「………………」

 

突如、私の目の前に現れた男……先の討伐で共闘してた男に違いない。

だが、彼は母さまを知っているかのような言葉をしていた。味方か、敵か……今は母さまを守るのが務めね。私は剣を抜き、彼の前に立つ。

 

「ほう……闘う意思はあるのか。流石は孫堅の娘、先ほどまでの弱さが嘘のようだな」

「……見ていたのね」

 

ますます怪しいわ。本当に何者なの?

 

「だが、俺を倒したところで孫堅は助からんぞ?」

「貴様には関係ない話だ」

 

先の発言といい……いきなり現れて、不快なことを言う。けど、私でもわかる。あの男は強い。母さまと互角かそれ以上ね。だから、下手に前に出れない。

 

「ククク……まあいい、今は闘いに来たわけではない。貴様に聞きたいことがある」

「………………」

「もしも、孫堅を助けることが出来るなら……貴様ならどうする?」

「ッ!?」

 

母さまが……助かる?

 

「さっき医者から手遅れと言われたようだが……俺なら助けてやることが出来る」

 

そう言って男は懐からある小袋を出した。

 

「これは解毒薬と活力剤が入った特効薬。今の医者たちには作れないモノだ」

「………………それを信じろと?」

「信じるのも信じないのも貴様の自由だ。そんな余裕があるならの話だが」

 

もし、その話が本当ならば今すぐにでも欲しい。しかし、目の前の男が敵か味方かもわからない状況なのに手を借りるなんて……

 

「……………一体……目的はなんなの?」

「目的?」

「今の私には敵か味方か判断する余裕がない。けど、敵なら助ける必要がない。味方ならこんな回りくどいやり方はしない。なら、貴様の……貴方の目的はなんなの?」

「………………」

 

男は黙り込む。それを見ている私。

しばらくして男は口を開く。

 

「目的というのなら……それは貴様だ、孫権」

「……私?」

「先も言ったが、俺はタダで助けようなど思っていない。助けたくば……貴様の誠意を見せるのだな」

「………………」

「王座の間にて待つ。それまでに答えを決めておけ」

 

そう言って男は窓から降りていった。

 

「…………母さま」

 

未だ苦しそうな母さまを見る。どれだけの時間が残っているかわからない生命。だとすれば……

 

『お前はお前のやり方がある。それを曲げずに進んでいけ』

 

倒れる前に私にかけてくれた言葉。将としてではなく、娘として見てくれた。

いつまでも悩むことこそ孫家の恥。姐さまとシャオが頑張っているのに私はいつまでも弱気になっていたの?

覚悟は決まった。私は立ち上がり、あの男の場所に向かおうとした。

最後に男がいた窓を見る。そこには……

 

「…………え?」

 

 

〜王座の間・臧覇サイド〜

 

 

「フハハハッ! 良いぞ! 実に良かった!」

 

あの顔、流石はくっころしたいランキング上位の孫権さんだよ。あれならば期待できる。長年待ち続けた計画……くっころが成功する!

きっとこんな感じで……

 

 

〜妄想〜

 

 

「さぁ孫権、見せてもらおうか。貴様の誠意を」

「人間の屑めが」

「フッ……それが誠意か?」

「………………………………私は貴方に従います」

「フハハハッ!賢い判断だぞ孫権ッ!!」

「クッ……殺せ!」

 

 

〜妄想終了〜

 

 

ヤバい、鼻血もんやこれ。これはもしかしたら……もしかするぞ?あの屈辱的な顔で……ゴクリ。その後は適当にこの薬を渡してお楽しみタイムと洒落込みましょうぜグヘヘ。

 

「さぁ……来るがいい孫権。そして見せてくれ!」

 

そんな感じで妄想を楽しんでいたら足跡が聞こえてきた。音からするに1人ではないな……ま、その方がより演習的になるな、うん。

 

「よくぞ来たぞ孫権! さぁ! 貴様の誠意…………を?」

 

その場に現れたのは孫権でもなく、その配下や兵士でもなく……

 

「不義なる者に正義の鉄槌をッ!」

「「「応ッ!」」」

 

なんか白い装束を着込んだ集団が入ってきた。

 

「………………どちら様ですか?」

 

 

〜于吉サイド〜

 

 

「……ふむ」

 

現在、黄祖軍と孫策軍が交戦中ですが、やはりというべきですか……我が軍が押されています。

元の軍事力や統率力もそうですが、向こうは王である孫堅がやられてしまいましたからね。それが今の強さに繋がったのでしょう。

 

「于吉! これはどういうことだ! 何故こちらは押されているのだ!」

 

黄祖も今の状況に焦っていますね。むしろ何故勝てると思っていたのですか?

ですが、このまま負けてしまっては私の策が失敗してしまいます。やれやれ……少し面倒ですが、仕方ありません。

 

「では、私の力を使いましょう」

「おお! それはいい! あの謎の力で孫策を倒すのだ!」

 

……まぁいいでしょう。今は孫策が先です。

 

 

〜孫策軍・交戦〜

 

 

「手を休めるな!! 奴らに我らの怒りをぶつけなさい!!」

「「「おおおおおお!!!」」」

 

こちらは黄祖と孫策の軍が交戦している。軍事力と統率力で敵を圧倒している。なにより誰もが愛した孫堅が倒れた悲しみと怒りにより、その力は計り知れないモノとなっている。

 

「見事なモノだ。あの姿こそ王と呼ぶに相応しい」

「ええ。炎蓮さまが見ていたら……喜ばれていたことでしょう」

 

孫策の後ろ姿を眺める張昭と周瑜。その姿を孫堅と重ねるように今の孫策を誇らしく思っているかのようだ。現状から見れば流れは確実に孫策軍にある。

 

「流れはこちらにある……しかしなんなのじゃ、この不気味な感じは」

「雷火殿もですか?」

「……お主もか」

 

張昭と周瑜は謎の不気味さを感じていた。言葉では表せられない、理解しがたい不気味さを。

だが、それは形になって現れる。

 

「伝令! 敵の増援を確認しました!」

「何処かの軍か?」

「そ、それが! 増援は人間の形をした土偶のようなモノと!」

「…………なんじゃと?」

 

 

〜交戦・黄蓋、程普、孫尚香〜

 

 

「なんぞアレは?!」

「私がわかるわけないでしょ!」

「気色悪すぎ!」

 

黄蓋と程普、そして孫尚香は最前線で戦っていた。そしてその流れのまま進軍していく。そして最初に“ソレ”と接触したのも彼女らである。

 

【………………………………】

 

ソレは人の形をしていた。だがソレは、地面から這い上がるように出てくる。その姿を見ていた孫策軍は困惑を隠せずにいた。

 

「とりあえずどうするの?!」

「ともかく、皆で固まっておれ! 単独での行動は危険ぞ!」

「あと少しというのに……他の部隊と合流があるまではここで敵を食い止めるわ!」

「「「応ッ!」」」

 

猛将の言葉により再び戦意を取り戻す兵士たち。そしてソレと戦闘を開始をする。

 

「うりゃああああ!!!」

「シッ!」

「せぇりゃあああああ!」

【………………………………】

 

孫尚香ののチャクラム、黄蓋の大弓、程普の蛇矛が敵を砕いていく。

しかし倒せど倒せど、ソレは地面から湧き出てくる。戦闘力は低いがその底なき数に押されていく。

 

「これじゃあキリがないじゃない!」

「チィ! 黄祖め……妖にでも取り憑かれたというの?!」

「無駄口はそこまでじゃ! まずはコレをどうにかするぞ!」

 

歴戦の猛者を持ってしても苦戦させられる戦場。

かつてない脅威が孫策たちに襲いかかる……

 

 

〜臧覇サイド〜

 

 

「ゼェ……ゼェ……」

 

と、とりあえず全員片がついたか……いきなり現れて攻撃とか頭可笑しいわ。というより、此処の兵士たちは何やってんの?寝てるの?

 

「ま、まぁいい……ともかく今は孫権を待つことが重要だ」

 

多少のトラブルはあったが、修正が出来た。こいつらの正体が気になるが後でいい、今は孫権さんだ。

こちらにはこの特効薬がある。喉から手が出るほど欲しい孫権さんなら必ず来るはず。さて、今のうちに薬を出しておこう。

 

「確かこの辺りに……」

 

………………………………ん?

 

「あれ?……あれ?!」

 

ない! ないないないない!! キーアイテムの薬がどこにもない!

 

「何故だ?! 確かに俺は無くさないように入れていたはずだ! 出さない限り……」

 

ちょっと待て、俺の行動を思い出せ………………

 

 

〜回想〜

 

 

「これは解毒薬と活力剤が入った特効薬。今の医者たちには作れないモノだ」

「………………それを信じろと?」

「信じるのも信じないのも貴様の自由だ。そんな余裕があるならの話だが」

 

 

~終了~

 

 

「あの時かああああああああ!!!」

 

俺の馬鹿! どうして肝心な薬を落とすんだよ! あれなきゃ意味ないじゃん!

 

「だとすれば既に薬は使われたか、クソッ!」

 

だが、あの薬は身体を休ませる為の睡眠効果もある。飲んですぐに復活はない。

 

「此処まで来て失敗するとは……俺もまだまだだ!」

 

あまり得策ではないが、此処は退く。そしてもう一度策を練り直す!

 

「命拾いをしたな孫権。この借り……高くつくぞ!」

 

そして俺はその場から離れ、城門に向かう。

そこには……

 

「不義に鉄槌を!!」

「「「「応ッ!」」」」

 

先ほどよりも多くの白装束の軍団が立ちはだかった。

 

「………………すぅーーーーはぁーーー」

 

俺は一度深呼吸をして……

 

「邪魔すんなボケエエエエエ!!!」

 

その軍団に向かっていった。

 

 

〜孫策サイド〜

 

 

先ほどまでこちらが優勢だったけど……今は押されてきている。理由は目の前の敵の存在だ。

人の形をした土偶。個の強さはどうとにでもなるが、圧倒的な数でこちらに向かってくる。

 

「黄祖……ついに外の道に足を踏み入れたようね」

「雪蓮!此処は私に任せて一旦退いて!」

「退く?冗談なら面白くないわよ。こんだけいるなら斬りがいがあるってこと!」

「ああ、もう……戦闘面だけは炎蓮さま譲りなんだから」

 

ため息を出す梨晏。けど、すぐに得物を持って私の後ろに立ってくれる。

 

「ま、それが雪蓮だもんね。付き合うよ!」

「……ありがと」

 

本当に梨晏や冥琳がいてくれて助かった。もしも、彼女たちがいなかったら、ただの復讐の獣になっていたわ。

 

「ともかくコレをどうにかしない限りは……」

 

梨晏の言う通り、この得体の知れないモノがある限りは我が軍は不利だ。各将たちが頑張っているが……決定打に欠けている。どうする?

その時、私の目の前に伝令兵が現れる。

 

「張勲さまより伝令! この場は袁術軍が引き受けるとのこと!」

「ッ! 感謝するわ!」

 

何があったかわかんないけど……これは好機ね。

 

「聞いたわね! これより、我が軍は突撃をかける! 後ろは気にするな! 進め!!」

「「「おおおおおおおおおお!!」」」

 

これ以上、長引かせるのはマズイ。ならば、賭けに出る!見てなさい、黄祖!

 

孫策たちが突撃を仕掛けていた頃、袁術軍を率いていた張勲もまた動きを見せる。

 

「到着早々で申し訳ありませんが……時間がありません。なるべく多くの敵をお願い致します」

 

張勲が深々と頭を下げ、ある人物にお願いをする。

その正体は……

 

「おーーーっほっほっほっ! この袁本初が来たからには勝利なぞ当然ですわ! さぁ皆さん! 優雅に敵を倒しなさい!」

「「「おおおおおおおおおお!!!」」」

 

河北の名族、袁紹と多くの兵士たちであった。

 

 

~臧覇サイド~

 

 

「おんどりやああ!」

「グハッ!」

 

百の技が一つ! 閃光喧嘩蹴(シャイニングケンカキック)! 片膝立ちした相手の脚などを踏み台にして仕掛け、思いっきり顔面に蹴りを食らわす技。下手すれば顎が砕ける。

 

「ふんぬらば!」

「ガッ!?」

 

百の技が一つ! 脳天砕(ブレーンバスター)! 相手を逆さまに抱え上げて後方へ投げて相手の背面を地面に叩きつける投げ技。打ち所次第では下半身麻痺になる。

 

「どっせえええい!」

「「「ぐわああああ!!!」」」

 

百の技が一つ! 巨人回投(ジャイアントスイング)! 相手の両膝を脇の下に挟み込んでから抱え上げ、回転しながら相手を振り回し、投げ飛ばす技。多人数であればその勢いのまま投擲攻撃になり、多くの犠牲者が出る。

 

「鉄槌を!!」

「うるせえええ! さっきらからそれしか言えんのか!」

 

コイツら……数が多い上に気配がまるでねぇぞ!あとどれくらいいるんだよチクショウ!

 

「というより目的はなんだ!? ハッキリ言うが俺は此処の配下じゃない! 用があんなら他を当たれ!」

「そんなことはどうでもいい! 貴様が死ねばいいだけの話だ!」

 

安直すぎだろコイツら!?

だが、これだとキリがない。何か対策を考えねば……

 

臧覇もまた謎の集団により、苦戦を強いられていた。圧倒的な数に神出鬼没な気配。武では勝るがそれ以外が不利となっていた。

その時……

 

「………………ッ!! 馬鹿なッ!?」

 

臧覇はある気配を感じ取った。自分を苦しめてきたその気配は臧覇が誰よりも知っていた。

そして二つの影が姿を現す。

 

「こんなところにまで敵が!」

 

1人は目的であった孫権。

そしてもう1人は……

 

「オレの城に敵襲とは……寝ている間に甘く見られたものだな」

 

ある者は彼女を王と呼ぶ。ある者が彼女を魔王と呼ぶ。そしてある者は彼女を英雄と呼ぶ。

 

「入ったからには楽しませて貰うぜ……そうだろ? “想い人”よ」

 

江東の虎、孫文台の姿があったのだ。

孫呉の逆襲は……これより始まる。




それぞれの視点では熱い展開やシリアス展開が続いているのに何故か主人公の時だけギャグが生き生きしているような気がします。
もう少しで孫呉編は終わるかな?終わりましたら章管理を行いたいと思います!

ありがとうございました!


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第22話

~建業・城門~

 

 

「な、何故貴様が!?」

 

臧覇は理解出来なかった。確かに薬は本物であった。その効果が効くのならば睡眠薬も効果があるはず。

 

「何を驚いている? お前の薬は効いたよ……最高の目覚めだ」

 

だが、孫堅は目の前に立っている。毒で苦しめてられてきた姿なぞなかったかのような立ち姿。そしてゆっくりと臧覇に向けて歩いてくる。

 

「あの薬には睡眠薬も入っている……効いているなら起きていないはずだ!」

「ああ……だからか。少しだが、眠さはあるぞ?」

「常人なら2日は夢の中の薬を……少しだけだと?!」

 

改めて臧覇は思った。孫堅は規格外の魔王であることを。

 

「おのれ……! またも俺の計画を邪魔しおって……!」

「ん? 困り事か? 何なら手伝ってやろうか?」

「いらぬわボケ!」

 

忘れてはいけないのは現在、彼らは白装束の集団に囲まれている。

 

「孫堅が生きている?!」

「馬鹿な……あの毒は現代では治せないはず!」

「しかし、目の前にいるのは本物だ……」

 

白装束の集団も孫堅が現れたことにより、乱れが見えている。

 

「慌てるな! 奴は病み上がりなはず !ならば、全力で闘うことは出来ん!」

 

その指示により、白装束は孫堅を囲み始めた。各々の武器を手にして、臨戦態勢に移る。

 

「母さま!」

「馬鹿野郎! そいつは全てが規格外だ! 無意味な戦闘は避けろ!」

 

孫権が母の心配をし、臧覇は白装束の心配をする。

 

「不義なる者に鉄槌を!」

「……目覚めの運動にはちょうどいいか」

 

そんな中、孫堅は落ちていた剣を拾い……

 

「失望させるなよ?」

 

全てを飲み込むかのような圧倒的な殺気を放つ。その殺気を受けた白装束らは意識が飛ばされそうになる。

 

「う、うろたえるな! 此処で作戦を成功させなければ、于吉さ……」

「遅い」

 

リーダーらしき者が何か言おうとした瞬間、その者の首は飛んでいく。あまりに早く、躊躇いのない攻撃であった。

 

「ッ!? この!」

 

近くの白装束はすぐに攻撃するが……

 

「フン……」

「ガッ!?」

 

最小限の動きで避け、そのまま相手を突き刺す。

ある者は手足を斬られ、ある者は胴体が真っ二つになり、そしてある者は顔面を抉られる。それは戦いではなく、正に“狩り”そのものである。

 

「………………ふぅー」

 

母の狩りを間近で見ていた孫権は声も出せず、ただ見ていることしか出来ないでいた。

しばらくして、白装束の集団は赤く染まり、孫堅の身体は返り血で染まっていた。

 

「この……化け物めが!」

 

同じく孫堅の狩りを見ていた臧覇は、徐に剣を抜く。

 

「ほぅ……お前も滾ってきたか? オレはいつでも歓迎するぞ?」

「どの口が言うか……! 今の戦いでわかった。貴様はまだ本調子ではないな?」

「フフッ……今のでオレがわかるか。嬉しいぞ、想い人よ」

 

臧覇の言う通りで、孫堅の身体からは若干の汗が出ている。本来なら致死量であった毒がなくなったばかりであり、さらに解毒薬の他に睡眠薬の効果も含まれている。

その状態で戦いに挑んでいる孫堅は正に異常なのだ。

 

「ッ! 此処は私が!」

「いや……オレがやる」

「何故ですか!? このままでは母さまが!」

 

孫権が前に行こうとするが、孫堅がそれを止める。それに納得出来ない孫権。しかし、孫堅は冷静でいた。

 

「前に行っただろう……お前はお前のやり方がある。それはオレも同じだ」

「…………え?」

「これはオレの戦いだ。その代わりなんて誰にも出来ない。オレと……想い人との戦いだ」

「母さま……」

「……許せ」

「ッ! …………わかりました」

 

そして孫権はその場から離れていく。その場にいるのは臧覇と孫堅のみである。

 

「さて……そろそろ決着でもつけようか?」

「……貴様」

「行くぞッ!」

 

そして互いの剣が交わり、大地を揺らすのであった。

 

 

〜于吉サイド〜

 

 

「……参りましたね」

 

まさか孫堅がまだ生きていたとは……駒も全員やられてしまったようですし、今回は失敗ですかね。

そしてこちらもかなり追い込まれています。どうやら、向こうに援軍が現れたようですね。

 

「どういうことだ于吉! 明らかにこちらが不利ではないか!」

 

今になって慌てますか……どうやらこれもここまでのようですね。

 

「では最後の策を行います……ですが、これを行うと貴方を」

「説明なぞいい!! 早くその策を出さぬか!」

「…………では」

 

そして私はとある“呪”を黄祖に与えた。それは黄祖の身体を蝕んでいく。

 

「お、おい! これは一体!?」

「それは黄祖さまの自由を奪うものです。これで貴方は私の操り人形となります」

「な、何だと?! 貴様……裏切るというのか!」

「裏切る? とんでもない。私は元々、貴方を道具としてしか見ておりません」

「……ッ!?」

「私は道具は大切に使うのです。使えるまでは……ね」

「………………」

 

こうなれば黄祖もタダの玩具です。さて……少し早いですが、此処は退散するとしましょう。

 

「……さようなら」

「………………ッ」

 

黄祖は自らの手で剣を突き立てた。錯乱した黄祖は最後に自害する……ベタな展開ですが、これで良しとしましょう。

孫家の崩壊は出来ませんでしたか……ならば次を目指すとしましょうか。

次はどのようになるか……楽しみです。

 

 

〜孫策サイド〜

 

 

「……これはどういうこと?」

「どうやらアレは動かなくなったな」

 

先ほどまで苦戦を強いられていた土偶の軍。しかし、突如として起動しなくなったのだ。

何があったのか私にもわからない。けど、これで軍を動かせられるわ。

 

「引き続き進軍を!ただし、向こうに何か動きがあったら止まってちょうだい」

「「「応ッ!」」」

 

皆は残った土偶を破壊しながら進んでいく。中には向こうの兵士もいたが、構わず斬り捨てる。どうやら向こうに戦う意思は見えない。

すると先行していた兵が慌てて私に向かってきた。

 

「ほ、報告します! 敵の陣にて、黄祖の死体を発見しました!」

「なっ……」

「………………」

 

私は驚きを隠せないでいた。これほどのことを起こしておいて最後には自害?

 

「………………これで終わりだというの?」

「雪蓮……」

「これじゃあただの茶番じゃない……笑えないわよ」

 

冥琳が何か言いたそうだったけど何も言ってこない。

出来れば決着は私の手で決めたかったけど……天はそれすら許さないというのね。

 

「残りは私たちで行う。雪蓮は少し休んでくれ」

 

冥琳はその場を離れ、現場の指揮を執る。

放心状態ってこういうことをいうのかしら?本当に何も考えられないわね。

 

「雪蓮姉様……」

「シャオ……」

 

いつの間にかシャオが目の前にいる。何か悲しそうな表情のままね。

 

「ごめんなさい……母さまの仇を取れなくて」

「シャオは大丈夫。むしろ……雪蓮姉様が心配で……」

「強いのね、シャオは……」

 

仇も取れず、母すら失うかもしれないのに……ダメね、私は。自分のことで精一杯。

そんな私たちの前に1人の兵が姿を現した。

 

「ほ、報告! 先ほど、孫権様がこちらにお見えになりました!」

「……蓮華が?」

「急ぎの件とのことです!」

「雪蓮姉様!」

「ええ!」

 

そして私たちは蓮華の元へ急ぐ。

そして合流した私たちに蓮華から衝撃的な発言を耳にする。

 

「姉様! シャオ! 母さまが!」

 

 

〜臧覇サイド〜

 

 

「ゼェ……ゼェ……」

 

さっきの戦いの後にこの化け物と戦うのはキツかった……病人の強さじゃねえよ、クソ!

 

「………………」

 

その化け物は大の字になって、倒れている。

綺麗な顔してるだろ?魔王なんだぜ?それ。

 

「お、俺の勝ちだな孫堅」

「ああ……やられたよ」

 

計画やらなんやらが崩壊したが、結果が全て! なら、このままくっころタイムへと突入だ!

 

「よ、よし……では孫堅! 貴様の命を」

「くれてやるさ」

「貰おう! …………え?」

 

聞き間違えかな? 今簡単に命をあげるとか言わなかったか?

 

「オレは人生に飽いていた。子に恵まれ、国の王として立っていたのに……オレの心は空だった。だがら、蔓延る賊を殺すことでこの心を埋めようとした」

 

あれ? なんか語り始めたぞ?

 

「しかし、来る日も来る日もオレの心は空のまま……満たされないまま日々を過ごしていた。いっそ乱世を起こそうとも考えたさ」

 

やっぱこの人魔王だよ。思考が戦闘民族とかそういう部類だよ。

 

「そんな時だ……お前が現れたのは」

 

おーっと此処で俺の登場?

 

「オレが負けるなんてことはなかったからな……心が一気に満たされたよ。だから、お前を追い続けた。まるで玩具を買って貰ったガキのようにはしゃいでたよ」

 

そんな気持ちで俺、追われてたの? マジで怖かったんだけど?

 

「それで余裕が出来たのだろうな……ある日、国に帰ってみるとな……俺の子供らが頑張ってる姿が見れたんだ。民と触れ合う雪蓮。勤勉に働く蓮華。女を磨く小蓮。そんな姿を見たらな……この国は安泰だと思えた。親としての甘えもあるかもしれん。しかし、本気でそう思えた時……オレの心は違う気持ちで満たされた。それと同時にオレの役目は終わったと感じたんだ……だがら」

「………………」

「お前の手で……終わらせてくれ」

 

ふむふむ。つまり簡単に説明すると……“我が生涯に一片の悔いなし!”的な感じなの?

………………………………。

 

「ふざけんなああああ!!!」

「ッ!?」

 

それだとくっころ出来てねえじゃん! ある意味向こうもハッピーエンドになってんじゃん!

ダメだダメだダメだ! そんなことはこの俺が許さん!!

 

「何故、俺が貴様のワガママに付き合わなければならん! それに貴様には誇りというのはないのか!」

「誇りか……だからこそ此処で終わるべきだ。オレの負ける姿なぞ誰も見たくないだろう」

「戯言を……! いいか! 無傷の英雄なぞお伽話で充分だ! 現実に求められるのは 傷だらけの猛将なんだよ!」

「………………」

「どれだけ窮地に立たされようがどれほど失敗を刻もうが立ち上がる……その姿が求められるんだ! それを貴様は否定するのか!」

 

そしてその窮地の状況でくっころが出来るんだよ!

 

「…………オレは」

「……ッ! 殺気!」

 

とりあえずその場から即座に離れると同時に上空から何かが降ってきた。

砂煙が晴れると……

 

「蓮華が言っていたのは貴方ね……」

 

小覇王、孫策さんである。

何?君たち家族は空から現れるのがトレンドなの?

 

「……雪蓮?」

「母さまッ!! ………蓮華から聞いたわ。それで目的は何かしら?」

 

すんげー殺気出して聞いてくるけど俺じゃなきゃ気絶もんだぜ?

それと同時に……

 

「よっしゃ! 間に合った!」

「………………」

 

張遼さんと呂布さんも馬に跨って登場した。

 

「(…………………………恋)」

 

コイツ……! 直接脳内に!?

 

「あら? 私が用があるのはそこの男だけよ?」

「そか。せやけどウチらもこの男には用があるさかい」

「へぇ〜……そこをどかないと自分の身体を見ることになるわよ?」

「……やってみぃ」

 

孫策さんと張遼さんが臨戦態勢に入る。

やっぱりこうなったかチクショウ!! 此処ぞのタイミングで何故邪魔が入る!

ぐぬぬ……!

 

「張遼ッ! 今は退くぞ!」

「…………あいよ!」

 

俺は持ってきた馬に跨り、撤退の準備に入る。しかし、このまま引き退るのも味気ない、何か決め台詞でも決めておこう。

 

「待ちなさい! 貴方には聞きたいことが!」

「残念だが、今回は此処までだ……だがな孫堅よ!!」

「………………」

「覚悟なき貴様なぞに興味はない! 再び立ち上がった時、その首は貰う! わかったな!」

 

そして俺たちは馬を走らせてその場を去っていくのであった。

 

こうして臧覇の野望はまたしても失敗に終わるのであった……

 

 

〜数日後・孫策サイド〜

 

 

あの戦の後、母さまは復活したことを皆に告げると大歓喜に包まれた。特に、祭と粋怜は大号泣であり、雷火も涙を隠しきれていなかった。

そんな様子に母さまも満更じゃない感じだったのは珍しく思えた。

 

黄祖の軍はすぐに壊滅した。報告にきた張勲は残りの残党処理も行うとのこと。

私たちも手伝うと告げると……

 

「そんなことする暇があるなら孫堅さんを復帰させるなり、自国の強化をするなり努力してください。我らと同盟を組んでいるんですから同盟国としての威厳を大切にしてください」

 

そんな感じで却下された。それに甘え、今は皆で自国の強化を行っている。もちろん私たちも出来る範囲で手伝ってはいるけど、みんな口を揃えて母さまと一緒にいて下さいって言ってくる。

それからというもの、母さまや蓮華、シャオと一緒にいる時間が増えている。

現に今、家族全員で囲んだ食事を行っている最中なの。

 

「……病人に食べさせる料理が一個もない」

「ええ〜! シャオは美味しいと思うよ!」

「いえ、美味いとかそういうのじゃなくて……母さま、無理して食べなくても」

「ガツガツガツ! ゴックン……ん? なんか言ったか?」

「……ナンデモアリマセン」

 

目の前には肉、肉、肉! 的な料理がたくさん並んでいる。心配していた蓮華も母さまの食べっぷりを見て、呆れていた。

 

「ふふっ」

「どうした? 何が可笑しい雪蓮?」

「いえ……なんか、こうして家族と食事をするなんていつぶりかしら?」

「そうだな……個々との食事は多少あるが……全員で食うことはなかったな」

「そういえばそうですね」

「なら、これから月一でもいいからみんなでしようよ!」

「無茶言わないでシャオ。みんなだって大変なんだから」

「あら?蓮華は私たちとの食事は嫌なの?」

「そ、そんなことありません! 私だって嬉しい……ハッ!」

「「ニヤニヤ」」

「も、もう!」

 

顔を真っ赤にして、可愛い!

 

「……そうだな。出来ることなら皆で食事をする時間を作るとしよう」

「ホント?!」

 

しかし、母さまは真剣にシャオの提案を考えていた。

それを聞いたシャオはとても嬉しそうでいた。

蓮華もその話を聞いて笑みを浮かべる。

 

「………こんな時代でこうして家族と食事をすることが出来るなんてな。本当に……オレは恵まれているよ」

 

……母さま。

 

「……雪蓮、蓮華、シャオ」

「「「はい」」」

「もう一度……乾杯するか」

「「「はい!」」」

「それじゃあ……これからの時間に」

「「「「乾杯ッ!!」」」」

 

 

そしてこの日を最後に……母さまは呉の王から降りることを決めた。




これで中篇パートは終わります。
あ、もちろん孫堅さんは生きてますよ。ただ、地位がなくなったのでより動きやすくなりました……ん?

ありがとうございました。


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各地編
第23話


〜張勲サイド〜

 

 

「援軍、誠にありがとうございます」

「この程度、問題ありませんことよ」

 

黄祖の軍との戦いでは遅れをとってしまいました。何か隠しているのはわかっていましたが、まさかあのようなモノを出してくるなんて……正直、予想外でした。

もしも、麗羽さまの助けがなければ、こちらにもかなりの痛手となっていたでしょう。

 

「それにしても……何故、麗羽さま直々に? こういったことは斗詩さんとかに任せても問題ないと思いますが?」

「ええ。実際に斗詩さんや真直さんも同じことをおっしゃっておりましたわ。ですが……今回ばかりはわたくしの目で確認したいことがありました」

「……あの土偶ですか?」

「ご名答」

「麗羽さまはあの正体をご存知で?」

 

もし今後、あのようなモノが現れるようならば出来る限りの対策はしないといけない。美羽さまのためにも。

 

「七乃さんは妖術を信じますか?」

「…………はい」

「あら、意外ですね。そういった類は信じていないかと思っておりましたわ」

「そ、そうですか……そうですよね」

 

い、言えない……美羽さまとの楽しみのために妖術を学ぼうとしていたとは言えない。山のハチミツでそれが出来ることを知ってからはやめましたけど。

 

「わたくしは全くといっていいほど信じておりませんでした。ですが……華琳さんは違ったみたいです」

「曹操さんが? それこそ意外ですね」

「もちろん全てを信じているとは思っていないようですが……華琳さんはある書物を破棄したいと思っているようです」

「書物?」

「太平要術……聞いたことは?」

 

太平要術……聞いたことはありませんね。

 

「申し訳ありませんが存じ上げないです。それは一体……」

「華琳さんもまだ完全には把握はしておりませんが……この世の奇跡を起こすことが出来るとのこと」

「それはまた……なんといいますか……」

「まぁ正直このような奇想天外なモノを信じようとは思えませんわ」

 

そんなモノがあるならば既に天下を取れていますからね。

 

「ですが先の戦いにて、わたくしはその書物はあながちあるのではないかと感じました」

「………………」

「アレは人の理を超えています。だとすれば……」

「太平要術を扱う者がいると?」

「その通りです」

 

確かにアレは人の力ではない。その書物が存在するというのなら頷ける。

ですが、あまりにも話が大きすぎる。私1人では抱え込まないほどの規模だ。

 

「にわかには信じがたいですが……」

「すぐに信じろという方が難しいです。ですが、何かしらの情報があればわたくしに相談してください。出来る限りの協力は約束しますわ」

「わかりました」

「ではわたくしは黄祖の跡地にて、調査を致します。しばらくは此処に滞在することになりますがよろしくて?」

「もちろんです。そして出来れば、美羽さまにも会ってあげてください」

「当たり前ですわ。おーっほっほっほ!」

 

さて、このことは呉とも共有しておきましょう。ある程度なら知恵も借りれると思いますし。

全く……こんな事態であの人は一体何をしているでしょうか?

 

 

〜孫策サイド〜

 

 

「…………というのが、張勲の文の内容だ」

「太平要術? 聞いたことないわね」

 

現在、この個室には冥琳、梨晏、穏、包、そして私の5人で会議をしている。

それは先ほど張勲から文が届いたこと。内容は先の戦いにて出現したアレを解き明かす可能性のモノ。

 

「穏、何か知らないか?」

「太平要術……そのものはありませんが、それに関しての書物なら見たことがありますね〜」

 

流石は本に欲情するだけあって物知りね。

 

「曰く、その書物を読めば万物の力を得て、この世に奇奇怪怪を起こす……だったような気がします〜」

「何ですかそれ? そんなモノがあるならば包が読みたいですよ」

「ほう……読んでどうする気だ?」

「や、やだなーちょっとした冗談ですよ、冥琳さま」

 

すんごい勢いで目が泳いでいる包。この子は失言は多いけど、それ以上に有能なのよね。しかも、古参の将にも恐れずに意見を言える貴重な人物でもあるから期待してる。

 

「でも、穏の話なら……アレの説明も出来ると思う」

「そうね。張勲の文と穏の話を繋げると不可解な点もある程度は頷ける」

 

突如として現れた謎の土偶。黄祖らが何かしらでその書物を手にしていたのなら……本当に倒せてよかった。

 

「だが、文にも書いてあったがあまり信じ過ぎるのもよくない。人外の力は認めるが、それを決めつけては視界も狭まる」

「ですね。他の可能性も頭に入れつつ、今は孫呉の地盤を固めた方が得策だと包は思います」

「あは、良いこと言うじゃん、包」

「そうでしょう! ならば、この包を大軍師の推薦、お願いします!」

「あらあら……これは負けてられませんね〜」

 

ふふっ。みんなが頑張ってくれれば母さまの時代にも負けないくらい強い将が生まれるわ。

 

「それと……例の薬の件だ」

「ッ! わかったの!?」

「ああ……華佗から話を聞いたが間違いない。あの薬は私を助けてくれた医者のモノだそうだ」

 

やっぱり……私の勘は正しかった。

 

「そうなると、冥琳と炎蓮さまの命を救って、留守の城を守ってくれた……ということになるね」

「ええー……英雄通り越して軍神か何かですか?」

 

蓮華の話だと母さまの部屋に現れて、薬を置いていき、その人の言う通りに王座の間に行くと、黄祖の奇襲部隊が倒れていた。

 

「彼の正体はわからないけど……孫呉の危機の時にかならず現れてる限りだと軍神なのも間違ってないわ」

 

そんな彼に私は刃を向けてしまったのね……ダメね、私も。

 

「出来ることなら礼をしたいが……今は厳しいか」

「きっとまた会えますよ〜。その時に思う存分、感謝をすればいいと思います〜」

「そうそう。祭さまと粋怜さまも感謝したいって言ってたし!」

 

………………孫呉の将たちが彼に感謝の気持ちでいっぱいになっている。それは私も同じ。友を救い、家族を救い、国を救ってくれた。

もしも会うことが出来れば、思いっきり感謝をしなくてはならないわ。

 

「ふふっ」

「どうした?」

「いえ……早く会いたいわね。軍神さんに」

「……ああ」

 

いつか会いましょう。私たちの、軍神さん。

 

 

〜部下たちサイド〜

 

 

「ありがとうございました! これでこの村は救われます!」

「お兄ちゃんたちありがとう!」

「いつでも戻ってきてもいいですから!」

「おー! またなー!」

 

行方不明となっている臧覇を慕う部下たちは、彼の捜索を行っていた。その途中で、賊に襲われていた村を救ったり、廃墟となっていた土地を再利用して、新しい村を作ったりと大忙しのようだ。

 

「ここも外れだったか。本当に何処にいるのやら」

「まぁ焦ってもしゃーねーべ? 兄貴のことだ、きっととんでもねえ悪行をやってるはずだぜ!」

「でもそろそろ兄貴の肌が恋しくなってきてるわ。出来れば今すぐにでも会いたいわね」

 

いつもの部下3人は多くの子分を連れて、各地を転々としていたが、臧覇の情報らしきものは全くであった。

 

「大丈夫よ! 貴方たちの兄貴さんはこの雷々と!」

「電々が必ず見つけてあげるね!」

 

そんな中で新しき仲間も得た。彼女らの名前は糜竺と糜芳。途中で賊退治を行った際に共闘。後に彼女らの証言で臧覇と会っていることがわかり、彼女らもまた、臧覇に感謝をしたいとのことで共に旅をしていた。

 

「うふっありがとん。はい、金平糖」

「わーい! ありがとー!」

「それにしても……今、俺たちは何処を歩いているんだ?」

「うーん……雷々もわかんない」

 

基本的に部下たちも糜姉妹も考える前に行動するタイプである。そのために自分たちがどの場所にいるのかがわからないでいた。

そこへ……

 

「失礼します」

「ヒィ!」

「な、何だ?!」

 

突如背後から人が現れたのだ。

しかし、それは部下たちがよく知る人物であった。

 

「そ、孫の姉御じゃないっすか!?」

 

臧覇の部下であり、メイドでもある美花であった。

 

「先ほど“ニンジャ”の情報で皆様がこの地にいると聞きましたので……」

「となると……アタイたちは劉備のいる所に来てたのね」

「その通りです」

 

先ほどのニンジャというのは臧覇が名付けた美花率いる諜報部隊。各地にその存在があり、美花はその情報を全て頭に入れている。

 

「ところで……兄貴は今どのへんに?」

「建業を出たとこまでは入っておりますが……行方までは」

「なるほど……そうなると探すのは難しそうですね」

「ええ。ですので、一度皆様には劉備様の下に来て頂きたいのです」

「アッシらがですか?」

「情報の共有をしたいのもありますが……今の劉備様は大変危険です」

「……わかりやした」

 

美花は基本、自分で片付けられることは口には出さない。しかし、それを超えると素直にそのことを相談する。故に、今の美花は助けを求めているのだ。

それを理解した部下たちはそれを承認した。

 

「糜芳さんと糜竺さんはどう?」

「雷々はついていくよ! 電々は?」

「電々もー!」

「……ありがとうございます。では案内します」

「「「ヒャッハー!!」」」

 

こうして部下たちは美花との合流し、劉備の下に向かう。

 

各地で動きを見せる中、肝心の臧覇は……

 

 

〜南中〜

 

 

「お前こそこの国の大大王にゃ! みんな! 歓迎するのにゃー!!」

「「「にゃー!!!」」」

「………………………………何でこうなった?」

「あはは……なんかすんごいことになっとるな」

「動物…………いっぱい……!」

「恋殿! ここなら夢の王国が作れそうですぞ!」

 

南中にて、無血征服を完了させていた。




曹魏・素敵な強敵。
孫呉・国の軍神。
ま、まだ蜀があるから……(汗

ありがとうございました。


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第24話

孫家との戦いでは惜しいとこまでいった。本当に惜しかった。だが、孫家の壁は厚い。あらゆる邪魔と自分の失敗が重なり、俺は撤退を余儀なくされた。

しかし、手応えはあった。これまでとは違い、確実に追い込めた。あのままいけば確実に孫権さんのくっころを見ることが出来た。だからこそ俺は諦めない。諦めたら試合終了だからな。

 

そして俺は次なるターゲットを決めた。南中王、孟獲さんだ。諸葛亮さんの策で7回捕まっても諦めない精神は共感出来るものがある。そしてそんな精神があるならば必ずくっころを見れると確信していた。

だが、現実は恐ろしく残酷である。

俺は動物に好かれやすい体質である。その体質は孟獲さんやその兵士さんたちにも対象となっていたのだ。

その為、俺が孟獲さんと対峙した瞬間……

 

 

〜回想〜

 

 

「待つにゃ!! ここはみぃの土地じょ! 見ず知らずの人間が踏み込んで…………にゃ、にゃんかお前、すごくいい匂いがするじょ。も、もうちょい近づくにゃ……ふへへへ」

 

 

〜終了〜

 

 

孟獲さんとの戦いは誰も傷つくことなく、向こうの降参で終了した。こんなの絶対おかしいよ……

ともかく無条件で国の王となってしまったわけだ。

そんな俺は今……

 

「ズピー……ズピー……」

「にょ〜……」

「にゃにゃ〜……」

「にゃ〜〜ん……」

「くぅー……くぅー……」

 

孟獲さんと愉快な仲間たちwith呂布さんの包囲網にて、お昼寝タイムと入っている。そらもう、幸せそうに寝ている。完全に動けないけどね。

 

「何をやってんだ……俺は」

 

こんなのほほんとした日常なんて誰も求めていない。俺が欲しいのは屈強な女たちが窮地に立たされた時に輝くくっころ顔を見たいんだ!

そうなると次のターゲットを決めておかないとな。しばらくは孫呉はやめておこう。俺の第六感のアラームが鳴っているからな。

 

「ここだと劉備たちの陣営が近いようだが……今の時系列はどうなっている?」

 

その領地にいって誰もいませんでしたじゃ話にならんからな。ここは慎重にいこう。

 

「お、なんや微笑ましいな〜」

 

そんな俺の前に現れた張遼さん。この地に来てからは兵士の底上げをしながら世話もしているようで皆からは“母ちゃん”と呼ばれているらしい。黄忠さんのポジションを取りに行くなんて……中々の悪!

 

「何かようか?」

「せや。実はな、ちぃーっとメンドイことがあんねん」

「メンドイ?」

「なんていうか……うーん……」

「……?何か言いにくいのか?」

「いや、そうではないねんけど……まぁ一度見たらわかるさかい、ちょっち付いて来てくれへん?」

 

張遼さんは基本的に自分で出来ることは自分で行う。なのでよほどのことがない限りは事後報告のみ。そんな張遼さんがここまで困るとは……これはもしかしたら張遼さんのくっころを拝むことにも使えるかもしれんな。

 

「わかった。すぐにいこう」

「おお! おおきにな!」

 

さて……その問題とやらに向かうとするか。

 

「「「「ぐぅー……ぐぅー……」」」」

 

……こいつら寝すぎじゃね?

 

 

〜とある場所・臧覇サイド〜

 

 

やってきました問題の場所。そしてすぐに理解できました。何故かって?

それはね……

 

「ええい!! だから此処を通せと言っているだろ!」

「………………はぁ」

 

なんで此処にいるんですか夏侯姉妹?

え? なに? 此処って曹操さんの領地だったの? いや、あの夏侯淵さんの顔を見るに夏侯惇さんの暴走だな。

 

「な? 困る理由、わかるやろ? ウチはちょいちょい曹操の領地に邪魔してたから顔、バレてるんよ」

「ああ……確かに困るな、うん」

 

いきなり曹操さんとこの二大将軍がやってきました! って言われても信用できないしね。

と、とりあえず話だけでも聞いてみるか。

 

「皆、ご苦労」

「にゃ!? 大大王にゃ! お願いにゃ! あの怖い人間を止めて欲しいにゃ!」

「「「にゃー!!!」」」

 

おれの姿を見た瞬間、兵士たちは俺になすりつけるようにその場から去って行く。いや、君たち、王を守ってよ? やくめでしょ?

 

「誰だ貴様は!」

「いや……一応、此処の主をやっております」

「……主?」

「ええ」

「ならば話が早い! 此処の宝を私に寄越せ!」

 

オイ曹操。アンタの配下、山賊みたいなことやってんぞ?

 

「姉者……それだと山賊と変わらん」

「む? そうか?」

「…………突然の訪問、そして多くの失言、本当に申し訳ない」

「いえ……苦労されてますね」

「はは……いつものことです」

「???」

 

夏侯淵さんの乾いた笑みが、その苦労を物語っいた。

このままだと話も進まないのでとりあえず、中へ迎え入れる。念のため、張遼さんと呂布さん、陳宮さんは隠れてもらった。今いるのは夏侯姉妹と孟獲さんと俺の4人。

そして何故この地に来たのか話を夏侯淵さんから聞く。

 

「それで……遥々、この地まで足を運んだ理由を教えて頂いても?」

「もちろん。我らはあるお方に日頃の感謝を込めて、贈り物を渡そうと思っておりました。しかし、そのお方は物事を完璧に行えます故に中途半端な物はかえって失礼に当たるかと思っておりました」

「ふむふむ」

「何かないものかと自分で調べたり、商人などに話を聞きに行くなどしておりましたら……ある宝がこの地に眠るというのが耳に入りました」

 

え? 嘘? そんなんあるの?

 

「しかし、この地は未知数。右も左も分からない状態で進めても成果など期待出来ないと思い、他の方法を探そうとしたら……」

 

 

〜回想〜

 

 

「秋蘭! 華琳さまからお休みを頂いたぞ! さぁ! なんちょうに向かうぞ!!」

「南中だぞ、姉者」

 

 

〜終了〜

 

 

「……ということで、引くに引けなくなってしまったのです」

「ふふん! これで華琳さまからの褒美は確実だ!」

 

うわー……色々ツッコミたいけど……大変だな。

しかし、一つ気になることがある。

 

「孟獲。この地に宝があるのか?」

 

俺自身もまだ調べていないことだらけ。ならば前王に聞くのが一番だ。

 

「あるじょ」

「ホントか!?」

「ホントにゃ。この南中はいろんなモノがたくさん眠っているじょ!」

 

どうやら、一つ二つではなく、かなりの宝が眠っているらしい。

 

「それは大丈夫なのか? 呪われたモノとか不幸になるとか、そんなオチはないか?」

「大半が危険な場所にあるにゃ。みぃたちも近づくことはしないから詳しいことはわからないじょ」

 

なるほど。つまりはそんなオチも可能性としてあるのか。

 

「このまま置いといても損も得もしないから持っていっても構わないじょ」

「おお! 話がわかるな!」

「みぃと大大王の器の大きさに感謝するにゃ!」

 

俺関係なくね?

 

「しかし姉者……我らもあまり時間がないぞ?」

「うっ……そ、そうだな。おい! この地で1番の宝は何だ?」

「それなら“龍の天玉”という宝石にゃ!」

「おお! いかにも宝って感じだな!」

 

……何だろう。それってフラグの匂いがプンプンするんですが?

 

「けど、その宝の近くに龍が現れるという言い伝えがあるにゃ。行くなら気を付けて行くじょ」

 

フラグ回収お疲れ様です……やっぱ出んのかよ。

まぁいい、今回は俺は関係ない。どう考えても今の状況くらくっころ出来る策が浮かばない。下手に動くよりは一度身を潜めるのも一つだ。

 

「任せておけ。もし、出たとしても我が剣で真っ二つにしてくれるわ!」

「おおー! 頼もしいじょー! あの龍にはみぃたちも困っていたにゃ!」

 

おし、このままいなくなってくれ。ピンチになったら呼んでくれ、すぐに駆けつけてくっころを見てやるから。

 

「さて……行くぞ!」

 

すると夏侯惇さんは俺の後頭部のフードをガシッと掴んだ。

 

「………………え?」

「………………ん? どうした?」

「いや……何で私の服を掴んでいるんですか?」

「お前は此処の王なんだろ?」

「いやまあ……そうですけど」

「ならば、国の問題を解決しなければいけないだろ」

 

嘘……少し正論を言ってるような気がする。

だけどマズい! このままいけば絶対に何かしらに巻き込まれる!

 

「え、えーっと……も、申し訳ないのですが、私はこの後に大事な会議がありまして……」

「よし、ならば会議が始まる前に終わらせればいいのだな」

 

あ、ダメだ。この人は話を聞かないタイプの人間だったわ。

な、ならば妹さんに! そう思い、俺は夏侯淵さんに視線を送る。

 

「………………………………許せ」

 

夏侯淵さぁぁぁあん!!?

 

「では出発だ!!」

「気を付けていくにゃー!」

 

そのまま俺はズルズルと引きずられながら宝の眠る場所へと進んでいくのであった。

 

 

〜奥地〜

 

 

さぁやってまいりましたよ。道中は何も問題なく進めました。というより野生の勘なのか、動物が1匹もいなかったといえばいいのだろう。

 

「……静かですね」

「うむ……このままでいてもらいたいが」

 

そう上手くはいかないな。今のでフラグを立たせてしまぅたからね。

 

「何を弱気になっている! もうすぐで宝は目の前だぞ!」

 

見るからにハイテンションになっている夏侯惇さん。多分だけど、子供が欲しいオモチャを買ってあげるとこんなテンションになるんかな?

 

「………………………………ハッ!!」

 

俺は何をやっている! このままでは夏侯姉妹の願いを叶えてしまう! それではくっころを拝むことは出来ない。乗り込んでしまった船だ。ならばどうにかしなければ……

 

「どうされた領主殿?」

「いや……何でもない。それより、もう少しで目的地のはずだが」

「む……あれではないか?」

 

夏侯惇さんが指さす方を見ると何もない崖に虹色に輝く宝石が土台らしき場所に置いてあった。マジであんのかよ……

 

「おお……確かに宝と呼べる美しさだな」

「うむ! これならば華琳さまも喜んでくれるばず!」

 

そして夏侯惇さんがその宝石に手に取り、持ち帰ろうとした。

 

「…………あれ?」

 

しかし、宝石は微動だにしない。

 

「どうした姉者?」

「いや……フン!」

 

今度は全力で取ろうとする夏侯惇さん。思いっきりやっているのにも関わらず全く動かない宝石。

 

「だ、ダメだ……全く動かない」

「姉者の力で無理なのか……ならば何かしらの仕掛けがあるのか?」

「此処は崖だぞ? しかも、来る途中も何もなかったではないか」

「確かに……怪しいモノはなかったですな」

 

そうなると本当に呪われたアイテムなのか?そう思い俺もその宝石を手にする。

すると、宝石は輝き始めたのだ。

 

「ッ! 何だこの光は!?」

 

夏侯姉妹は得物を構える。俺も離れようとしているが宝石から手が離れないのだ。

その光は天に向かい、輝きを増す。

そして……

 

『………………』

 

巨大な龍が現れたのだ。何でもアリかよこの世界! いや、原作でもいたけど!

というよりマジで動けないんだけど!

 

「秋蘭!」

「ああ!!」

 

夏侯淵さんがすぐさま矢を放つ。しかし、その矢は龍を通り抜けていった。

 

「馬鹿な!?」

 

実体がないのか? というより助けてください!

すると……

 

『待て……人の子よ』

「秋蘭、私の気のせいならいいのだが……今、アレは喋ったのか?」

「姉者も聞こえてたか……」

 

大丈夫大丈夫、俺も聞こえたから……全然大丈夫じゃねー。

 

『我が封印を解いたことに、まずは感謝を』

 

もしかしてこの宝石って龍の封印的な何かだったの? マズくない?

 

「オイ! 貴様がこの地を荒らしている龍か?」

『否、それは我よりも下位の位置にいる龍の仕業。我が封印されていたことが影響されている』

「……何故封印を?」

『龍の世界とて一枚岩ではない。その争いの最中に封印されてしまったのだ』

 

普通に龍と会話している夏侯姉妹。

俺はまだ困惑中なんですけど……

 

『……貴殿のおかげで再び秩序を守ることが出来る。悪しき龍は我が抑えよう。汝らの生に天龍の加護を』

 

そして龍は天へと戻っていった。龍が去った後、再び光が発生し、俺たちを包みこんだ。

そして……

 

 

~???~

 

 

「…………む?」

「此処は?」

「……何処?」

 

光がなくなり目を開けるとそこは街中であった。全く見覚えのない街。なので困惑しておりますはい。

 

「姉者……」

「馬鹿な……何故この地に?」

 

しかし、この街に見覚えがあるのか、戸惑う夏侯姉妹。

 

「えっと……此処は何処でしょうか?」

「……此処は我らの街だ」

「………………はぁ!?」

 

 

臧覇、再び曹操の下へ……




孫堅→想い人・捕食対象
曹操→宿敵
劉備→まだ見ぬ憧れ
張三姉妹→神様
董卓→恩返しを……
献帝(劉協)→命の恩人
袁紹→未来の旦那
袁術→優れた元配下
孫策→全てを救ってくれた軍神
孟獲→新たな大王
龍→封印を解いてくれた恩人

救世主的な主人公かな?


ありがとうございます。


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第25話

~洛陽・個室~

 

 

「………………」

「クク……久しいな、曹操よ」

「いや、こんな再会は期待していなかったのだけど?」

 

前回、曹操に贈り物を渡したいとのことで現れた夏侯姉妹。それに付き合う形になってしまった臧覇は共に宝探しに出向く。

そして肝心の宝を見つけた一同だが、突如と龍が出現。封印から解かれた龍は一同に感謝を伝えると謎の光が発生させる。

一同はその光に飲み込まれると、曹操の国、洛陽に飛ばされていたのだった。

現在は個室にて、曹操と夏侯淵、臧覇の3人がその部屋で話し合いをしている最中である。

 

「休暇を与えた配下が突如戻ってきて、しかも貴方を連れてくるなんて……誰が想像出来ると思うのかしら?」

「だが、事実である」

「貴方ね……はぁ、もういいわ。とりあえず兵を貴方の国に向かわせるわ。謝って済まされる問題ではないのかもしれないけど」

「いや、此方としても突然のことだ。これを理由にあれこれ言うつもりもない」

「……そう。なら、暫くは客将として迎え入れるわ。問題を起こさない限りはこちらも何も言わない。それでどう?」

「……了解した。では」

 

臧覇が部屋から出て行くと残った夏侯淵が曹操に近付く。

 

「此度の件、大変申し訳ありませんでした」

「秋蘭が謝らなくてもいいわ。しかし……この文の通りね」

「此度の戦にてかの者の姿あり。かの者は南中にいる。その下には呂布、張遼、陳宮あり……でしたね?」

「ええ。あの張勲とやらはかなり目がいいのね」

 

曹操が一枚の文を取り出す。

それは袁術の配下である張勲が曹操に送った文であった。

 

「御丁寧に袁術の印もあるわ。大層なことね」

「これで我らが動かなければ、向こうの主張が強くなります。動いたとしても向こうにも利益がある。人を動かすのが得意な人物でしょう」

「だから、貴女と春蘭を休暇という形で送らせたのだけれども、まさか本当に龍が現れるなんてね……」

 

実は今回の夏侯姉妹の休暇は曹操の指示によるものでもあり、ある狙いがあった。

 

「黄巾討伐、皇帝拉致、そして孫呉の戦い……歴史の大局で必ず彼は現れている。これを偶然だとは思えない」

「華琳さまが危惧されている妖術の使い手……その可能性があると?」

「わからないわ。けど、彼が何者なのか……見極めるなら今しかない」

 

各地でその姿を見せている臧覇。最早人間の業では成し得ない活躍。曹操は彼に何かしらの力を持つと思い、それを見定めるために夏侯姉妹を南中に送ったのだ。

 

「引き続き、春蘭と秋蘭はすぐに動けるように。今回は一国の王としての客よ。無礼のないようにね」

「……無礼を働いて怒らせ、力を出させる。あれは肝が冷えます。姉者はともかく、私には向いていないようです」

「けど、彼はまだ王としての自覚は浅いようね。なら、次の手を考えるわ。軍師たちを呼んできてちょうだい」

「御意」

 

夏侯淵が部屋から出て行き、曹操が1人になる。

 

「もしも、彼が妖術とやらに手を染めていたなら……拍子抜けよ、宿敵さん」

 

そして誰かに伝えることなく、ポツリと呟く曹操であった。

 

 

〜廊下・臧覇サイド〜

 

 

「すまん!!」

「……何が?」

 

部屋から出て、暫く歩いていたら夏侯惇さんに出くわした。そしていきなり高圧的な謝罪をしてきた。

 

「いや、考えてみれば貴様は王だ。それなのに、振り回すようなことをした。これはかなり問題なのではないか?」

「いや……まあ、問題だわな」

「やはりか! だったら悪いことをした! だから謝罪をした! わかったか!」

 

謝罪を此処まで強気に出来るなんて、ある種の才能じゃないかな?

 

「さて謝罪も終わったし、私は訓練に戻る。それではな!」

 

そう言って颯爽と去っていく夏侯惇さん。

うん……なんか、もうあれでいいんじゃないか?

 

「しかし……曹操の土地に来てしまったか」

 

予想外ではあるが大人しくしてる道理もない。ならば、誰かしらのくっころは拝みたい。まぁ1人は決まっているとして……あまり時間もかけられない。さて、どうするか。

 

「あー! きっとあれっすよ! 間違いないっす!」

「ん?」

 

背後から声が聞こえる。

その声の方を向くと金髪クルクルの3人が立っていた。

え?何この子たち?曹操さんのファン?

 

「姉さん、もう……御迷惑をかけてすいません」

「いえ、大丈夫です……えーっと、すいません貴女たちは?」

「あ、ご挨拶がまだでしたね。私は曹純(そうじゅん)と申します」

「あたしは曹仁(そうじん)っす!」

「…………曹洪(そうこう)ですわ」

 

あ、どうもです……ん?曹?

 

「もしかして……曹と申しますと?」

「はい。私たちは華琳さまと従姉妹柄にあたります」

 

マジかよ。いや、可愛いのはそうだけど、みんなドリルなんだな。一族でドリルとか呪いに近くね?

 

「さっき華琳姉ぇが客が来たって言ってたっす! だから失礼のないようにうらなしするようにするっす!」

「姉さん、それを言うならおもてなしです」

「そうそう! それっす!」

 

ヤバい。この曹仁さんって子、頭の弱い子だ。

 

「ところで……おもてなしってなにをするっすか?」

「それを考えろというのがお姉様からの議題だったでしょうに」

「なら考えるっす! うーん……」

 

いきなり地べたに座って考え始める曹仁さん。この人の顔、曹操さんに似てるからなんか複雑な気分になる。

 

「もう、姉さんったら……重ね重ね、御迷惑をかけてしまい申し訳ありません」

「いえ、大丈夫です、はい」

「これよりは我らが案内を行わせて頂きます。まずは部屋を……」

 

曹純さんと曹洪さんが案内を始めようとした時である。

 

「むむむ……あー! 頭が爆発しそうっす! こういう時は!」

 

考え事をしていた曹仁さんが叫び出した。そして自分の服に手をかけ……

 

「ふー……やっぱり気持ちいいっすね!」

 

自分の服を投げ捨てるように脱いだ。

 

「……はぁ?!」

「姉さん!!」

「……またですの?」

 

もちろん彼女の姿は生命が誕生する時と同じ姿。

いやー……これは役得なのか?

 

「なんで裸なの?」

「考え事をしたら頭がいい熱くなったっす! だから服を脱いだだけっすよー。当たり前じゃないっすかー!」

 

ごめん、俺には理解出来ない。

 

「………………」

「………………」

「………………脱がないんっすか?」

 

え?! 俺も脱ぐの!?

 

「裸の付き合いが一番ってどっかで聞いたことがあるっす! だから脱ぐのが一番に決まってるっす!」

 

意味が違うような合ってるような……と、ともかくだ!

 

「曹洪さん!すいませんが部屋に案内してもらっても!」

「ええ。こちらですわ」

「あ! じゃあ、あたしも……」

「姉さんはまず服を着てください!」

 

俺は確信した。あれほどの強敵はいないと。だからこそ彼女だけは避けよう。

心の中で強い決意をし、俺は部屋の寝床にて深い眠りにつくのであった。

 

 

〜翌日〜

 

 

「華琳姉ぇから王様の護衛を任せられた曹仁っす! よろしくお願いするっす!」

「」

 

曹操おおおおお! 謀ったな曹操おおおおお!

 

「そ、そうか。だが、申し訳ないが今は体調が優れない。だから、部屋から出るのはやめにするよ」

 

まだだ……俺はまだ諦めん!

とりあえずはこの曹仁さんから離れるようにしなくては!そうすれば俺は自由に……

 

「ならお世話をするっす! こういう時は裸になって汗を拭くのがいいって聞いたっす!」

「あーなんて天気がいいんだ! こういう時は外で散歩するのが一番だな! 体調が悪いなんて嘘みたいに散歩がしたいなチクショウ!」

「そうっすか? それならいい散歩道があるっす!」

 

クソ……コイツは危険だ。何処かで逃げる手立てを考えなければ!

そして俺と曹仁さんは街に出て、散歩を始めた。今の俺はとくに縛りのない客人らしく、それなりのお駄賃も貰った。

 

「ここの肉まんは流琉っちが認めてるほどの美味しさなんすよ! あ、流琉っちって言うのはうちの将ですごく料理が上手いんすよ!」

 

……思ってみたが、この曹仁さんは頭が弱い。墓穴を掘らなければ逃げる手立てなぞいくらでもあるだろう。

ならば、わざわざ逃げることなどせずとも機会を待てばいいだけの話だ。

 

「さぁ買ってきたっす! 熱々のうちに食べるっす!」

 

ククク、自分の愚かさに気づかないとはな。やはり、無知とは罪だ。

……美味いなこれ。

 

「それじゃあとっておきの場所を連れていくっすよ!」

 

そう言いながら俺の手を引っ張り出す曹仁さん。

そして連れてこられたのは透き通るような川辺であった。

 

「ここで日向ぼっこするのが最高なんすよ。本当は服を脱ぎたいんすけど昨日、柳琳(るーりん)にこっぴどく怒られたっすからやめとくっす」

 

そうだね、時代が時代なら逮捕されるからね。賢明な判断だ。

 

「んー! こうしていると嫌なこととかすぐに忘れるっす!」

「……嫌なこと?」

「…………あ」

 

あ、聞かなきゃよかった。だ、だが、これは話したくないパターンだ。安心していいだろう。

 

「え、えーっとっすね……実は」

 

あ、ダメだこれ。話すパターンだ。仕方ない話だけでも聞いてやろう。

 

「どうやらあたしは……除け者らしいんすよ」

「除け者?」

「そうっす。華琳姉ぇみたくみんなを指揮することも出来ないし、春姉ぇみたく力があるわけでもないんすよ。かといって頭も良くないから……部下の陰口を聞いちゃったんすよ」

「………………」

「一族の除け者……最初は理解出来なくて柳琳と栄華(えいか)に聞いたっす。そしたら今まで見たことないくらい怒ってたのを覚えてるっす。そこで気付いたんすよ。自分はみんなに迷惑をかけてるって。だから、少しでも迷惑をかけないように今回の護衛を立候補したんす」

 

なるぼとなー。曹操さんの一族だから、比例の対象は酷だわな。

しかし……これは使えるかもしれんぞ?

 

「曹仁、お前は除け者は嫌か?」

「……どういうことっすか?」

「答えろ。返答次第では協力してやる」

「ッ! …………嫌っす」

 

ククク……これはもしかすると曹操さんのくっころを拝めることが出来るかもしれんぞ。

 

 

〜深夜・川辺〜

 

 

「……此処ね」

「ええ。間違いないです」

「………………」

 

皆が眠りについていた深夜。曹操は曹純、曹洪と共に川辺に訪れていた。何故、この真夜中に此処に現れたのか。

それは……

 

「来たっすね」

 

曹仁が曹操を呼んだのだ。

そしてそれはただの呼び出しではなく……

 

「姉さん! どうして華琳姉さんと決闘なんて!」

 

曹操との決闘を申し込んだのである。

この真意を知るためにあえて配下には伝えず、一族のみにこのことを知らせ、同行を許した。

 

「………………」

 

曹純の言葉を流し、無言で剣を構える曹仁。

その目を見た曹操は感じ取った。彼女は本気であると。

 

「柳琳、栄華……離れなさい」

「お姉様!」

「今の華侖は本気よ。ならば、こちらも本気で向かうのが道理」

 

そして曹操は持っていた鎌を構える。

 

「貴女に何があったかは聞かないわ。けど……私は甘くないわよ?」

「……上等っす!」

 

曹仁の全力が曹操の鎌にぶつかる。その様子を一族以外に見ている人物がいた。

 

「ククク……やはり身内には甘いか。曹操」

 

臧覇である。

言わずとも、今回の決闘は彼が仕組んだモノ。それを狙う理由は一つである。

 

「曹仁と曹操がぶつかり合い、疲労したところにあの2人を人質にとる。どちらが勝とうなぞ興味もない」

 

彼の狙いは曹純と曹洪の確保である。彼女らを人質に取り、曹操にくっころを言わせる。それが今回の策となる。

 

「貴様の本気を曹操にぶつけてみろ。そうすれば彼女は必ず見る目が変わる……こんな言葉を信じるとはな。素直で助かったぜ。さぁ……とことん闘え!」

 

彼の準備は整っている。あとは舞台が揃うの待つのみである。

一方の決闘はというと……

 

「グハッ!!」

 

曹操の攻撃で吹き飛ばされる曹仁。純粋な力なら曹仁が上かもしれない。しかし、技量や闘いのセンスなどは曹操が圧倒的である。

 

「こんなものなの? 貴女の全力は?」

「はぁ……はぁ……ま、まだ、まだまだっす」

 

 

息切れする曹仁と凜とした立ち振る舞いを見せる曹操。どちらが有利など一目瞭然。

それでも曹仁は立ち上がる。それは己の決意。それを裏切ってはいけないと自分に言い聞かせる。

 

「姉さん……」

「………………」

 

曹純と曹洪も止めに入らない。彼女らとて曹家の血が流れている。此処で止めては何も生まない。だからこそ、納得するまでやらせる。それが今、出来ることだ。

 

「やっぱ、華琳姉ぇはすごいっす……あたしの全力が全く効かないんすから」

「なら、諦めなさい。これ以上は無意味よ」

「…………ふふ」

「何故笑うのかしら?」

「華琳姉ぇは優しいっすね。こんなあたしにもみんなと同じように接してくれるんすから」

「自分を無下にする発言はやめなさい。魂まで腐らせることになるわ」

「……けど、此処で諦めたら、華琳姉ぇは嬉しいっすか?」

「………………」

「あたしは決めたんす。自分の決めた道だけは絶対に諦めないって!諦めたら……自分がいなくなるから!」

 

ボロボロになりながらも剣を構える曹仁。その目は最初の決意の目から何も変わっていない、真っ直ぐな目であった。

そんな目を見た曹操も笑みを見せ、鎌を構える。

 

「見事よ華侖。さぁ……決着をつけましょう」

「了解っす!」

 

2人の決着がつく……その時である。

 

「不義なる者らに鉄槌を!!」

「「「「ッ!?」」」」

 

突如、叫び声と共に謎の白装束の集団が彼女たちを囲んだのだ。

曹操はすぐに前に出て、彼らと対峙する。

 

「何者だ! 我が決闘の邪魔をする不届き者め!」

「曹一族……貴様らは歴史の汚点となる。此処で消えてもらう!」

 

白装束らは得物を構え、曹一族に向ける。

対するは曹操と曹純のみが得物を構える。曹仁は立ち上がるのが厳しく、曹洪は武力は皆無である。

こちらが厳しいと理解している曹操。

 

「ここで倒れるわけには……!」

 

そこへ……

 

「だらっしゃあああああ!!!」

「ごほおおおおおお?!!」

 

臧覇=サンのエントリーである!

白装束の1人を百の技が一つ、人間大砲蹴(ドロップキック)で吹き飛ばした。

 

「貴方は!?」

 

突如現れた臧覇に戸惑う曹操。

 

「貴様は! またしても邪魔をするか!」

「それはこっちのセリフじゃボケが! もう少しで決着がつくって時に……!」

 

自分の計画を邪魔が入ったことですごく不機嫌な臧覇。

 

「さぁどうする? テメェらなんぞ俺1人でどうとでもなるぞ?」

「…………覚えておれ!」

 

そう言って白装束の集団は霧のように消えていった。

 

「ふん! 不甲斐ない奴らめ!」

「……覗き見も不甲斐ないとは思わないかしら?」

「俺はいいんだよ……はぁ」

 

計画を邪魔された臧覇は既にやる気がなくなっていた。そしてその場を去ろうとする。

 

「待ちなさい」

 

しかし、曹操がそれを止めた。

 

「貴方に聞きたいことがあるわ」

「……何だ?」

「あの白装束は一体何者なの?」

「知らん。だが、俺の邪魔ばかりする奴らだ」

「そう……それともう一つ」

 

曹操は曹仁の方に目を向ける。既に力尽きたのか、寝息を立てながら曹洪に抱かれた状態で寝ていた。

 

「華侖の件、感謝するわ」

「………………」

「彼女なりに悩んでいた。それを知っていても私たちじゃどうしようもなかった。だから……」

「言っておくが、これは貴様の為にやったのではない。俺の計画の為に必要となっただけだ。感謝なぞ要らん」

「………………そう」

「なんか勘違いしているようだが、俺は貴様の敵だ。それだけは忘れるなよ?」

 

そう言い残し、臧覇はこの場を去る。

 

「ふふ……やはり貴方は素敵よ、宿敵さん」

 

残された曹操は今までの考えは杞憂と確信し、曹一族とともに城へと戻るのであった。

 

 

~???~

 

 

「………………………………」

 

ゆっくりと歩く。急ぎもしないし、焦る様子もない。

だが、尋常ではない殺気を隠すことなく全方位に放ちながら、ある場所へと向かう。

 

「恋の、邪魔するヤツは………………………………コロス」

 

とある脅威が迫っていることにまだ気付かない……




・乙女繚乱煩悩爆発覇道邁進歴史AVG
恋姫の新作のジャンルが面白すぎ問題。元からでしたっけこれ?


ありがとうございました。


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第26話

今回、かなりぶっ飛んだ内容となっております。
苦手だと思いましたらすぐにブラウザバックをお願いします。


〜???〜

 

 

「「「ヒャッハー!!!」」」

「い、いやああああああ!!」

「た、助けてくれえええ!」

 

世界は、悪に満ちているッ!!

悪は弱き者から何もかもを奪い、己の欲の為に残虐非道な行いをする。誰しもが世界に絶望し、ただただ耐える日々を過ごすしかない……

しかぁし! この世界にもまだ希望があったッ!!

 

「ハァーッハッハッハッ!!」

「な、何だ?!」

「何処だ……何処にいる!?」

「…………ッ! オイ! 上を見ろ!!」

 

悪が満ちる世界で、美しき蝶が舞い降りる!

その名は……

 

「美と正義の使者……華蝶仮面、推参ッ!!」

 

美しき可憐な蝶、華蝶仮面であるッ!

 

「変な奴がいるぞ!」

「ヘンテコな仮面を被りやがって……!」

「ふつくしい……」

「フフフ……」

 

どれほど言われようとも決して崩れない華蝶仮面の強き忍耐!

 

「構うことはねえ! とっととやっちまうぞ!」

「「「ヒャッハー!!!」」」

「やれやれ、舐められたモノだな…………セィヤアアアアアア!!」

「「「グワアアアアア?!!」」」

 

圧倒的な数の暴力ですら華蝶仮面の正義の槍の前では朝飯前なのだ!

 

「す、すごい! あれほどの数の賊を一瞬で!」

「キャーステキー!」

「流石は華蝶仮面様だ!」

 

華蝶仮面が現れるだけで皆に希望を与える正義の使者!

 

「正義は……勝つ!」

 

決めポーズとともに何処からともなく爆発が起きるが安全性はバッチリである!

 

「「「華蝶仮面様、バンザーイ!!」」」

 

こうして華蝶仮面の活躍により、平和は保たれた。だがこの時、強大な悪が忍びよっていたのだ……

 

「フハハハハ!!」

「ッ!? 何奴ッ!」

 

突如として高笑いが聞こえ、警戒する華蝶仮面。

すると屋根に黒いフードを被り、顔が完全に隠している男の姿があった。

 

「これが華蝶仮面の力か。なるほど、面白い」

「おのれ……貴様、一体何者だ!」

「ふふふ……聞かれたからには答えてやろう」

 

男はビシィッとポーズを決める!

 

「俺は怪人、ゾウハ!悪の世界“テンセイ”よりこの世界を侵略するためにきた漆黒の怪人なり!」

「漆黒……怪人だと?」

「そう! この世界はとても悪に満ちている。ならば悪による支配が必要となろう」

「それが貴様の目的か? ならば貴様を倒せば済む話だ。覚悟!」

「フハハハハハ! 甘いぞ華蝶仮面! 既にこの世界には多くの悪の怪人が現れているのだ!」

「なッ!?」

 

それと同時に華蝶センサーが反応を示す。

華蝶センサーは悪が発生するとその位置を正確に教えてくれる仮面の力だ!

 

「それに……今の貴様に私が倒せるのか?」

「…………ッ」

「どうやら図星のようだな!」

 

華蝶仮面は気付いていた。ゾウハから溢れ出る膨大な力を。今の自分では歯が立たないことを。

 

「此処は退かせて貰おう。そして……生きていたならまた会おう! フハハハハハハ!」

 

ゾウハは笑いながら闇へと消えていった。

 

「クッ……この私が何も出来ないとは」

 

自分の無力さに後悔し、拳を握りしめる華蝶仮面。このままでは多くの人々が傷付いてしまう。

その時である!

 

「諦めてはなりません……」

「ッ!? 誰だ!!」

 

突如、謎の声が華蝶仮面の耳に入る。

声が聞こえた方を向くと、上空から光と共に美少女が現れたのだ!

 

「………………」

 

その姿に声を失う華蝶仮面。

 

「私は慈悲の女神、ユエ。この世界を悪の怪人から守るために参りました」

「め、女神……?」

 

今ある現状に理解が追いついていない華蝶仮面。

怪人の次は女神も現れたのだ。少し混沌となるのは仕方なし。

 

「本当ならば、一つずつ説明をしたいですが……時間がありませんので、簡潔に致します。このままでは世界は崩壊し、多くの人間が犠牲になってしまいます」

「……だが、ゾウハとやらの力は未知数かつ絶大だ。今の私では歯が立たない」

「確かに今のままではやられてしまうでしょう……ですが、彼に勝つのは不可能ではありません」

「ッ!?何かあるのか!」

「彼に勝つ為には……同じ華蝶の力を持った仲間、そして彼の部下である“三獄士(さんごくし)”を打ち破る必要があります」

「仲間……そして三獄士……」

「まずは知略の蝶、コウメイを探して下さい。彼女は今、南中にいると思われます」

「了解した!!」

 

こうして華蝶仮面の壮大な戦いが始まった。

 

しかし、彼女は知らない。ここから始まるのはどの戦いよりも過酷であり、残酷なる物語であるのを……

 

 

〜華蝶連者、集結!〜

 

 

「既に世界が危ないのは承知しておりました。この知略が必要となるならば、存分にお使い下さい」

「おお! 感謝するぞ、朱華蝶(あかかちょう)!」

「頑張りましゅ!」

 

 

全てを見通す知略の目! 知の蝶、朱華蝶!

 

 

「…………動物の、危機」

「うむ。これは人類だけでなくこの大陸をも飲み込むモノだ。出来るならば……」

「…………わかった」

「よし! よろしく頼むぞ、恋華蝶(こいかちょう)よ!」

 

 

優しき力で悪を粉砕! 勇の蝶、恋華蝶!

 

 

「ぬふふ、話は聞いたわよん。華蝶仮面一号」

「お、お前は一体……」

「今は語れないけど、貴女を助けにきたわん。この……力の華蝶仮面二号が!!」

 

 

敵か味方か! 謎多き、華蝶仮面二号!

 

大陸の危機で多くの華蝶仮面が集まった。

だが!悪の三獄士は凄まじいものであった!

 

 

〜三獄士、襲来!!〜

 

 

「グッ! つ、強い!」

「あらあら……こんなものなの? 正義の味方さん?」

「まだだ! 行くぞ!」

「いいわ……そうこなくては!」

 

 

圧倒的な力でこの世に絶望を与える暴君。

三獄士が1人、破壊のシェレン!

 

 

「もう一度だけ言うわ。私の下へ来なさい、華蝶連者」

「断る! 私たちには正義の味方、貴様なんぞに屈したりはしない!」

「………………やっつける」

「ぬふふん」

「…………そう。ならさよならね」

 

 

そのカリスマと頭脳で民を苦しめる梟雄。

三獄士が1人、謀略のカリン!

 

 

「恋華蝶! 目を覚ますのだ!」

「………………………………」

「無駄です……私は皆を愛します。その愛に応えてくれるこそ、愛せるのです」

 

 

全てを愛という洗脳によって、生き人形とする偽善。

三獄士が1人、博愛のトウカ!

 

仲間の犠牲がありながらも三獄士の退治に成功した華蝶仮面。しかし、ユエからある衝撃の事実が判明した!

 

「ゾウハはかつて、華蝶仮面と同じように正義を愛する者でした。しかしある戦いの中で、彼は巨悪の根源とも言える怪人に出会いました」

「……巨悪の根源」

「彼は全ての力を持って彼を封印しました。ですが……その封印は解かれてしまいました」

「その名は……虚無の闇、イェンレン」

 

 

〜復活! 巨悪の根源、イェンレン!〜

 

 

「フン……雑魚が」

「ハァ……ハァ……」

 

目の前の膨大な力を前に膝をついてしまう華蝶仮面。三獄士とは比べものにならない。

しかし、彼女もまた倒れるわけにはいかない。ここで倒れてしまっては散っていった仲間たちや多くの民が危険にさらされてしまう。

 

「わ、私は……まだ!」

「もういい……ここで死ね」

 

だが、無情にも冷徹な刃は華蝶仮面に襲いかかった。

 

「これまでか……」

 

目を瞑り、覚悟を決めた華蝶仮面。

その時!

 

「セイッ!」

「…………ッ!?」

「ほう……」

 

その刃を止める者あり!

それは、華蝶仮面が倒すべき敵、ゾウハであった。

 

「フフッ……フハハハハハ!! 会いたかったぞ! ゾウハ!!」

「あいも変わらず下品な輩よ」

「貴様は……何故!?」

 

イェンレンは一度距離を取り、力を溜める。

そして華蝶仮面とゾウハは横に並び、武器を構える。

 

「勘違いするなよ華蝶仮面。貴様を倒すのはこの俺、ゾウハ様だ」

「それはこちらとて同じこと……しかし」

「ああ……そうなると目の前の邪魔者を消す必要がある」

 

それを合図に華蝶仮面とゾウハ走り出し、イェンレンに向かっていく。力を溜めたイェンレンもそれを迎え撃つ。

 

「「ハァアアアアアアアア!!!」」

「なめるなアアアアアアア!!!」

 

 

〜因縁の決着!〜

 

 

「さぁ……イェンレンも消えた。残るはこの俺だけだ」

「その前に答えてほしい。かつては正義を愛した男が何故こんな真似を……」

「…………この世は悪を欲している。たとえ全ての悪を消し去ろうとも人間は新たな悪を作り、戦争を生む」

「………………」

「人間のために戦おうとも、人間は変わらぬ! それならばいっそ、俺が悪となりて世界の敵となる!」

 

ユエが言っていた通り、ゾウハは優しき正義の味方であった。しかし、人間同士の戦いで心が傷ついたゾウハは新たな悪となり、別の形で平和を願っていた。

 

「想いはわかった。だが! それを理由に弱き者たちが傷つくのが何故わからない!」

「犠牲なくして平和など掴めん!」

「……ならば我が槍でその想いを応える」

「やってみせろ……さぁ! 悪は此処にいるぞ!」

 

互いに武器を構え、対峙する両者。

人のために戦う者、人のために悪となった者。想いこそ違えど、人のために戦うことは変わらない。

しかし、彼らは止まらない。止まってしまっては全てが嘘になる。だからこそ戦うのだ!

 

「「ハァアアアア!!」」

 

 

これは、正義を愛する物語である……

 

 

〜臧覇サイド〜

 

 

「なんじゃそりゃああああ!」

 

俺は布団から勢いよく飛び出す。

辺りを見回すと見慣れない風景が目に入る。そしてすぐに曹操さんから借りた部屋だと気付いた。

 

「ハァ……ハァ……ゆ、夢か」

 

良かった……あんな正義の味方が闇落ちした俺なんていなかったんだ。

 

「…………ッツ!?」

 

そしてすぐに頭痛に襲われる。

な、なんでこんなに頭が痛いんだ?昨日の俺は何をしてた?

…………ダメだ、全然思い出せない。

 

「仕方ない。一度、起きて……」

 

そしてかかっていた布団を取ると……

 

「すぅー……すぅー……」

 

身に覚えのない女性が、裸になって眠っていたのだ。

 

「」

 

………………………………はぁ!?

 

 

〜???サイド〜

 

 

いやはや……中々面白い夢であったな。

だが我が主、桃香様が敵として出てくるのだけはいただけないな。そこは後で変えておかねば。

しかし……

 

「ゾウハ……か」

 

夢の住人にしては濃ゆい人物であったな。あそこまでの人物なら共に華蝶仮面を盛り上げていけるのだがな……

 

「もしも、ああいった御仁に出会えるのなら……ふふっ」

 

 

私の人生がより楽しくなるのかもしれないな。お主もそう思わんか?




本来はエイプリルフールの日に載せようと思っていた話でしたが、中々話がまとまらず、此処まで伸びてしまいました。
夢ですらフラグを立てるとは……このリハ◯の目をy)

ありがとうございました。


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第27話

〜豫州・賈駆サイド〜

 

 

「さぁみんな! 神様にお祈りを!」

「「「ほああああ! ほああああ!! ほああああ!!!」」」

 

…………いつ見ても慣れないわ、あれ。

ボクと月は今、天和たちと共に様々な場所を訪れて、賊退治や村の復興などを行なっている。

張三姉妹の役割は簡単。代表の天和、現場指揮の地和、内部管理の人和。そしてボクたちは主に人和の手伝いをしている。

人和はアイツと同じことを真似ているに過ぎないと言っていたが、それでもかなりの数を救ってきた。

 

「朝廷を辞めて行なっているのは国を救うこと……何とも皮肉なこと」

 

国を守る立場に居たのに国を腐らせ、辞めたら国を救う……なんの因果なのよ。

 

「詠ちゃん、大丈夫?」

 

そこへ月がボクに声を掛ける。

因みにだが、今のボクたちの格好はヒラヒラとした服装。曰く、神様が教えてくれた“めいど服”と言うものらしい。

アイツの趣味はわからないけど、月がとても可愛く見えるから文句はない。

 

「どうしたの? 何かあったの?」

「ううん、何でもないわ月。ありがと」

「そう? もし、何かあったら何でも言ってね?」

 

そう言って月はその場を去る。

ここ最近、月の笑顔が増えた。もちろん、アイツのことになると怖くなるのはまだあるけど、それでも朝廷にいた頃よりは本当に笑うようになった。それだけでもボクにとっては意味があったのかもしれない。

 

「素敵な笑顔ね。可愛らしい」

「……見てたの?」

「ごめんなさいね。覗き見するつもりはなかったの」

 

彼女の名は陳珪(ちんけい)。字は漢瑜(かんゆ)。ボクが言うのもなんだがこの胡散臭い軍団を受け入れてくれた胡散臭い人物。

けどかなりのやり手であり、群雄割拠の時代に独立している。それには理由があると言っていたがそこまで知る必要もあるわけではないので聞いていない。

 

「それで? ボクに何か用?」

「……この集団について、改めて聞きたいの」

「見ての通りよ、神を心の底から愛している宗教団体。それ以外に言えることはないわ」

「それまではわかる。私が知りたいのは、その神様のことよ」

「………………」

「私も何人かそういった人たちと会ったことがあるの。だけど、話を聞いても曖昧な返答。聞いてて飽きるほどにね。でもここにいる人たちは違った。話を聞くとハッキリとした答えが返ってきた。まるで“何者”かに言われたように……ね」

 

鋭いわね。相を務めているだけあるってことかしら。

 

「……知りたいですか?」

 

そこへ人和が現れる。

全く……どいつもこいつも気配を消し過ぎよ。

 

「貴女の言う通り、我々はあるお方を神として崇めています。それを知ってどうするおつもりで?」

「……どうもする気はないわ。けど、話は聞きたいと思っております」

「話?」

「貴女たちがここまで心酔させる神様……もとい、人間は実在するのか。そして、願わくはこの地に大樹となりえる人物なのか、見極めたく思っております」

「……なるほど、わかりました。ですが、神様はお忙しい身であるためにすぐにとは言えないです。それでもよろしいですか?」

「もちろん……ふふっこれは楽しみになってきたわ」

 

その時ボクは思った。こうやって宗教は完成するんだなって。

けど、月が幸せなら何でもいいと……

 

 

〜建業・孫権サイド〜

 

 

「セイ! ヤァ! ハァ!!」

 

私は今、修行に勤しんでいる。

母さまが王を退位し、姉さまが新たな王となった。一時はどうなるかと思われた先の戦い。私は己の弱さを見つめ直し、なるべく修行を行うようにした。

母さまがそれぞれの道を歩けと言っていたが、私にはこのやり方が似合っていると思っている。

 

「ハァ……ハァ……ハァ」

 

どれほどの時間が過ぎたのか、外は夕焼け色となっていた。詰め過ぎても仕方ない、今日はここまでとしよう。

 

「………………ふぅ」

 

ふと休むと思い出すあの日のこと。

私たちの国を救ってくれた人間。前に冥琳を救い、母さまとの決闘で勝利を収めた人間とも判明して、姉さまは“軍神”とも呼ぶようになった。

だけど……

 

「あの時……私にどのような事を望んでいたのかしら?」

 

今でもハッキリと覚えている。あの人はあの時、どんな答えを待っていたのか。

 

「……はっ!」

 

まただ。あの人のことを考えてしまう時間が増えてしまった。最近は抑えられるようにはなったが、戦いが終わった直後は常に頭の中でその答えを見つけることを専念していた。けど、そうなってしまうと手を止めてしまい、暫くは何も考えられないのだ。

 

「何なのかしら……これ」

 

もしかしたら奇病みたいなやつなのかしら?

医者に見せたいけど自分でもどう説明していいかわからない。だから下手に動くこともできない。

 

「……こんな弱い姿を見せたらどう言われるのか」

 

 

〜妄想〜

 

 

「ふん……なんとも弱いことだ。これが虎の宝とはな」

「………………」

「何だその目は?まるで自分の立場がわかっていないようだな?ん?」

「くっ……貴様には屈しない!」

「フハハハハ!威勢だけは認めてやる!だが、楽しみはこれからだぞ!」

 

 

〜終了〜

 

 

「………………………………」

「蓮華さま?」

「…………へ?」

「何やらお考えでしょうか?」

 

気付かぬ内に思春が目の前に立っていた。

 

「あ、いや、違うの、これはね……」

「………………」

「えと、その……ごめんなさい」

「い、いえ、こちらこそすいません」

 

私と思春の間に微妙な壁が現れた。

本当に……どうしたのかしら、私。

 

 

〜洛陽・個室〜

 

 

「………………」

 

臧覇は悩んでいた。自分の弱さに。

神様から貰ったチートと呼べるモノの中に、お酒が強くなるのは入っていなかった。その為に、前世でもお酒は強くない臧覇は基本的に飲み過ぎないようにしていた。

しかし今朝、猛烈な頭痛と昨日の記憶が一切ない。これは自分が飲み過ぎた証拠とも言えるだろう。

更に問題なのは……

 

「朝ごはんだけど、簡単なもので大丈夫かしら?」

 

この女性である。

臧覇が起きると、裸の状態で隣で寝ていた。そして話を聞こうにも何も覚えていないとのこと。

 

「問題はない。とりあえずは飯を食ってから話そうか」

「わかったわ。それじゃ、待っててね」

 

そう言って女性は部屋を出ていった。

 

「この状況下であの冷静さ……間違いない、アイツは何かを知っている。そして俺を罠に嵌めたに違いない」

 

この場合、ハメたのは臧覇ではないだろうか。

 

「誰かの刺客か、思惑か……いいだろう。俺は此処で朽ちるつもりはない!」

 

そう言って気合を入れる臧覇。

 

ところ変わって女性の視点。

実は彼女、ただの女性ではない。

 

「……朝廷に仕え、それが崩壊した後も袁紹さんや曹操と共に復興を目指しで頑張った私が……ついに!」

 

彼女の名は皇甫嵩(こうほすう)。字は義真(ぎしん)。真名は楼杏(ろうあん)

かつては漢の将軍として様々な戦果を残し、それを買われていた。皇帝が退位した後も曹操、袁紹と共に影ながら支えており、今もその関係で洛陽にいる。

そんな彼女にはある悩みがあった。

 

「ようやく私にも春が来たわ!!!」

 

彼女は焦っていた。自分が1人でいることに。

エリート街道を歩いてきた皇甫嵩だが、女性としての幸せは遠い人生であった。もちろんそういった願望もあったが、仕事が忙しく、それどころではなかった。

そして自分の時間も出来て、出逢いを求めて街に出た。

しかし……

 

「……誰も近寄ってくれない」

 

彼女は地位が高過ぎなのもあり、寄ってくる男は皆無であった。行動を起こそうにも彼女自身、経験もない為に動けないでいた。

 

「………………ぐすん」

 

仕事の関係とプライベートの不安が重なり、彼女は自棄酒をしていた。その後は記憶がなくなり、目が覚めると裸の状態で男と寝ていたのだ。

 

「耐えに耐えて、掴み取った幸せ……逃してなるものか!」

 

皇甫嵩自身も理解している。あの状況は全くの誤解であることに。しかし、彼女からしてみればどうでもいいことなのだ。

 

「きっと彼は説明をしてほしいはず……ならば適度な嘘で誘導させるしかない」

 

「奴は何かしらの手で俺をモノにしようとしている。そうなる前に記憶があるフリをするしかない」

 

「「この戦い……絶対に負けられない!!」」

 

こうして語られることはない男と女の戦いが始まったのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜???〜

 

 

「………………」

 

臧覇を求めて歩く呂布。それはまるで何かに取り憑かれたかのような姿。殺気を放ち、ひたすらに歩く。

それを妨害すること……それは自殺と見ても間違っていない。今の呂布はそのくらい危険であった。

だが……

 

「……………………ん?」

 

呂布の目の前に“何か”見えた。ハッキリとはしていないが、それは人間の姿をしていた。

 

「…………ダレ?」

 

武器を構え、更に殺気を強める呂布。

しかし、目の前の人間は全く動じていない。それどころかこちらに歩いてきたのだ。

 

「この地で待っていれば呂布に出会える……あの小娘の言う通りだったな」

「………………ジャマ」

「だろうな。そうする為に此処に来たんだからな」

 

そう言って彼女も武器を構え、呂布にも負けない殺気をぶつける。

 

「さぁ……オレと楽しもうぜ?」

 

 

江東の虎、孫堅。彼女は今、最強に挑む。




今回のテーマはほのぼのです。嘘じゃないですよ?

ありがとうございました。


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第28話

〜個室〜

 

 

「………………」

「………………」

 

静まり返った個室。臧覇と皇甫嵩は対面して座り、会話もしない時間が流れる。

臧覇は目の前の皇甫嵩を危険視している。空白の夜に見知らぬ女性。此処から彼女が何を言いますか待っていた。

 

「(焦るな臧覇……此処で昨日のことを思い出したフリさえすればいいだけだ……よし)」

 

覚悟を決めた臧覇は何を言われても此方に主導権を持っていこうと考えた。

しかし……

 

「昨日の晩は……とても激しかったですね」

「ッ!!!!??」

 

皇甫嵩はとんでもない爆弾を投げて来たのだ。

 

「(は……激しかった?! 何をしたんだ昨日の俺!! ……いやまて、これは相手の策だ。彼女は嘘を言っているに違いない)」

 

記憶のないとはいえ昨日の自分はどんなことをしたのか気になってしまう臧覇。

しかしすぐに頭を冷やし、こちらから反撃に出る。

 

「き、昨日のことは覚えていない……先ほどの貴女はそう答えたようですが?」

「確かに覚えておりません……ですが、身体は覚えております」

「……そ、そうですか」

「男の人は野獣と聞いていたけど……間違っていなかったわ」

「ン゛ン゛ン゛ッ!!!!??」

 

頬を赤く染めながら答える皇甫嵩。完全にペースは向こうにある。

 

「……外に出る」

「お供致しましょうか?」

「いや、大丈夫だ」

「そうですか。いってらっしゃい……アナタ」

「」

 

初戦は完全に皇甫嵩のペースのまま臧覇が逃げえるようにその場を去っていった。

 

 

〜城門・臧覇サイド〜

 

 

「クソッ!」

 

俺は門柱を強く殴り、怒りを見せる。歴戦の猛者を相手にして来た俺が一夜を相手(?)にした女なんかに遅れを取っている。

 

「このままヤツ言いなりになるのは御免だ……だが、どうする?」

 

策もなしに戻ってもどうすることも出来ん。悔しいが、向こうは頭が回る部類。無策のまま向かえば確実に婚約にもなる可能性がある。

 

「ヒロインよりも他の女を抱いたとなったなら……」

 

マズいマズい。この俺が目的も達成しないままゴールしてしまう。

何かないのか。此処のピンチを解決する策は……

その時……

 

「…………少しいいかしら?」

「ん?」

 

誰かが俺に声をかけて来た。

その声に反応して振り向くと何処かで見覚えのある女性がいた。

 

「確か貴様は……何太后か?」

「ええ。久しぶりね、高順さん」

 

皇帝での出来事で攫われていた女がこの何太后だ。

 

「何故貴様が此処に?」

「どっかの誰かさんが皇室やらを壊したせいで妾は曹操の子飼いとなったのよ。ま、今は不自由なく動けるから問題ないけど」

 

ほーん……三国志はわかんねえけどお偉いさんを子飼い出来る曹操さんってメチャクチャ凄くない?

 

「それよりこの後は暇かしら?」

「ん?」

「あの時のお礼がしたいのよ。このまま何もしないのは妾の趣味じゃないの」

「そんなものはいい。俺は今忙しくて……待てよ」

 

これは……使えるか?

 

「何太后、今晩付き合え」

「え?」

「俺の部屋で待つ。いいな?」

「そ、それって……」

「これから説明する」

 

さて、こちらも動くとしよう。ククク……此処からが俺の反撃だ!

 

 

〜夜・個室〜

 

 

「今晩は私が料理してみたの。どうかしら?」

「……うまいな」

 

その夜、臧覇は皇甫嵩と一緒に食事を取っていた。皇甫嵩はすっかり妻として顔をしている。

 

「(何も仕掛けにこない……このままイケるわ!)」

 

これで自分は幸せになれる。皇甫嵩は確信していた。長年国の為に働いていた自分がようやく幸せになれる。

 

「(ごめんなさい……貴方の素性もわからないのに……でも貴方も幸せにしてみせるわ)」

 

覚悟を決めた皇甫嵩。

しかしそれを黙ってみている臧覇ではない。

 

「(そろそろか……)」

 

臧覇は頃合いを見ていた。この状況を破壊できる人物を。

 

「皇甫嵩」

「……楼杏とお呼びください」

「呼ぶのがいいのがまずは知ってもらいたい人がいる」

「え?」

 

そう言うと……

 

「失礼するわ」

 

部屋に何太后が入って来た。

 

「……何太后様?」

「あら、誰かと思えば皇甫嵩さまじゃない」

「知り合いか?」

「顔なじみ程度には、ね」

「そうか……では改めて紹介しよう」

 

そして臧覇は立ち上がり、何太后に近づく。そして自分の懐に持っていき……

 

「私の愛人だ」

「…………え?」

 

愛人宣言をしたのだ。

その言葉を聞いた皇甫嵩は呆気にとられて、驚くことも出来ないでいた。

 

「君とは遊びだったんだよ。申し訳ないね」

「ふふっ」

「………………」

 

もちろんのことだが本当の愛人ではなく、これは臧覇の策である。

 

「(何故俺は気付かなかったのだ……別に俺自身のことで愛人を作ろうがどうしようが関係ないではないか。ならば、自分自身で修羅場を作ってしまえばいいんだ!)」

 

先ほど何太后と会い、思いついた策。それは自分を下衆とかし、その場を破壊する修羅場を作り出すことであった。

しかも、これで終わりではない。

 

「邪魔するぞ……なんだお主も来ておったのか、瑞姫」

「あら、姉様」

「なっ……何進将軍まで」

「ククク……」

 

何太后には姉がいる。それを知っていた臧覇はすぐさま動き、何進にも話をつけていたのだ。

 

「(これで俺は最低野郎だ! 罵倒なり悲観なり好きにすればいい! こんな奴と一緒にいるのも嫌な筈だ!)」

 

役者は揃った。これで自分は自由になれる。そう確信していた臧覇。

しかし、彼は見落としていた。ある決定的な事態に。

 

「……まさかこうやって出会うとは思ってもみないものですね。何進将軍、何太后様」

「そうだな。だが、強者の下には自然と人は集まる。仕方あるまい」

「ふふっ。それでどうされます? この後は?」

「私は最後で大丈夫ですよ」

「ならば余が頂こう。最近、身体の火照りを抑えるのも限界なんでな」

「………………ん?」

 

違和感を感じた臧覇。修羅場の流れとは無縁のほのぼのとした雰囲気である。

 

「おい貴様ら、どうして仲良くしている?俺は3人も愛人がいるんだぞ?」

「みたいだな。それで?」

「それでって……何かないのか? こう、俺にムカつくとか、泥棒猫! とか」

「「「………………」」」

 

計画通りにいかない臧覇は少し焦っていた。彼女らが何もことを起こさないことに。

しかし……

 

「何故そうなる? 性を満たすために余や妹を呼んだのだろ?」

「男の人が女の人を欲する……それは不思議でもなんでもありませんわ」

「愛人でも遊び相手でも私を必要としてくれているならお使い下さい」

「ば、馬鹿な!?」

 

彼女たちは寛大であり肉食であった。

正確に言えば、何進は欲さえ満たされれば問題ない。何太后は強い臧覇に興味を持っていたのでどのような形でもお構いなし。そして皇甫嵩は後がない。

その結果……

 

「なんならこの3人相手でも面白いぞ?」

「あら、姉様ったら大胆」

「でも、今後はもっと増えるかもしれないわ。その時のために経験しとかないと」

 

自分自身が絶体絶命のピンチとなっていた。

 

「(計画は完璧だった!何故だ!?)」

 

もちろんのことだが、臧覇の計画も人によっては完璧である。そう、人によっては。

臧覇は隠せない焦りもあり、人選を間違えてしまったのだ。それが自分自身を追い詰める結果となってしまっては意味がない。

 

「さぁ……」

「これから……」

「楽しみましょう……」

 

ジリジリと近寄ってくる3人の女性。それは飢えた獣の如く、目を光らせていた。

 

「く、くそったれ!!」

「「「っ!?」」」

 

そう言うと臧覇は懐にしまっていた煙玉を地面に叩きつけた。

そしてその煙がなくなると臧覇の姿はなかった。

 

「ふむ……逃げられたか」

「少し強引だったかしら?」

「そのようですね」

「むぅ……まあよい。まだ時間はある」

「ええ。長引けば長引くほど欲は溜まっていく。これから楽しくなりそうですね」

「では何進将軍、何太后様、今後とも」

「わかっておる」

「ふふっ……」

 

こうして3人は秘密の協定が結ばれた。

そして逃げた臧覇は……

 

 

〜飲食店・臧覇〜

 

 

「……何がダメだったんだろ?」

 

1人で反省会をしていた。その背中は悲しくもあり、情けなくも見えた。

 

 

〜荒野〜

 

 

何もない荒野。そんなどこにでもある荒野ではある戦いが行われていた。

大地は斬り後が残っており、所々には血痕もあった。

 

「ジャマッ!!」

「ハァア!!」

 

剣と矛のぶつかり合う音が空間を轟かせる。

最強と謳われる呂布と江東の虎の孫堅。

その戦いは1日が経っても終わりを見せていなかった。

 

「最高だ、最高じゃねえか!! 戦いはこうでなくてはな! そうだろ!最強!!」

「ウルサイ……ウルサイウルサイ!!」

「グッ!!」

 

呂布は孫堅の頭を掴み、頭突きを食らわせ、まともに受けた孫堅。

しかし……

 

「ククク……やはりお前はオレとそっくりだ。なぁ?」

「………………」

 

頭に血を流しても怯むことはなかった。それどころかその痛みさえ楽しんで見えてしまう。孫堅が根っからの戦闘狂たる由縁なのかもしれない。

 

「どんなに誤魔化そうが隠せない戦いの欲求。わかるんだよ……オレと同じだからな」

「恋は……お前とは違う…………」

「ふん……ハァッ!!」

「ッ!? グッ!!」

 

孫堅の膝が呂布の腹を狙い、呂布はそれを防ぐ。その反動で後ろに下がる呂布。

 

「どうした? オレとは違うんだろ? ならば……オレに勝って見せろ! 最強!!」

「…………オマエ、ウルサイ」

 

そして再び互いの得物がぶつかり合う。

 

戦いはまだ……終わらない。




遅れてすみません。風邪でした。みんなも気をつけてね!

修羅場とは一体……(哲学

ありがとうございました。


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第29話

〜臧覇サイド〜

 

 

俺は未だ曹操の世話になっている。各地を飛び回るこの俺が此処にいる理由。それは目の前の人物が目当てだからだ。

 

「これはこれは……荀彧さん、おはようございます」

「………………」

 

お辞儀だけすませて、早足でその場を去る荀彧さん。ああ……この感じ、素晴らしい。

そう、今回のターゲットはヒロインの中でもくっころが似合う女性と言われたら真っ先に思いつく荀彧さん。そのために俺はこの地に留まっているといっても過言ではない。

 

「ククク……彼女なら必ず俺の望みを叶えてくれる。そのためにも準備をしなくては」

 

さぁ……待ち望んだくっころを見せてもらおうか!

 

 

〜会議室〜

 

 

「……以上が、華琳さまの身に起こった出来事よ」

 

曹一族に襲いかかった謎の集団。そのことはすぐに配下の耳に入れるように曹操自ら説明を荀彧に話した。そして荀彧もすぐ将を集めて、緊急の会議を開く。

今この部屋に集まっているのは夏侯淵、程昱、郭嘉、そして自分を含めた4人である。

 

「敵の侵入だけではなく、襲撃まで許すとは……将として情けないばかりだ」

「気持ちはわかりますが、それは今後の対策を強化すればいいだけです。問題はこの集団の正体を明確にすることです」

「ですね〜……」

「うむ。しかしこれは……」

「ええ。戦争を起こして勝利をするのではなく、暗殺をして華琳さまを討ち取る……これは外部の人間より、内部の人間を疑った方がいいわ」

「我が軍に裏切り者がいると?」

「それもありますが、1人怪しい人間がいます。敵か味方か区別しきれていない人間が」

 

郭嘉の発言で夏侯淵は気付く。タイミングとして最も怪しい人間は1人のみ。

 

「あの男か?」

「ええ。南中王を名乗るアイツよ」

「彼の訪問と謎の襲撃……偶然という言葉で終わらすことは出来ません」

「そうだな、一理ある」

「風はまだ全部をあの人だとは思えませんが……それでも疑う余地は十分にありますね〜」

「それに栄華の話だと襲撃の現場にも居合わせていた。これはアイツが裏で呼んだに違いない」

「ならば何故退治を? 仮に私がその集団を指揮していたならわざわざ任務を遅らせる真似はせぬぞ?」

「だからこそ風も完全には疑えないんですよね〜……」

 

もしも曹操の首が欲しいのならば何故、臧覇が直接介入してまで阻止をしたのか。それでは襲撃の意味はない。

 

「それがわからないから悩ましいのよ。阻止をしたとしてもその現場にいた意図はわからないなら疑うしかないわ」

「ええ。何かしらの行動を起こそうとしたのならば、警戒を怠らないよう注意すればいいだけです」

「だな。引き続き、我らが注意すればよいか。それで、奴はどこに?」

「……それがですね〜」

 

臧覇の居場所はそこにいた全員が理解出来ない場所であった。

 

 

〜荀彧サイド〜

 

 

「一体、ヤツは何がしたいのよ」

「…………」

 

私は今、香風(しゃんふー)と共にある現場へと向かっている。

それにしても、本当に意味がわからない。

華琳さまは何故、あんな男なんかに目を光らせるのか。もちろん、何かしらの意味があるのしれないが、私にとっては地獄でしかない。あのお美しい華琳さまが野獣のような男に毒されるようなことがあれば……私は生きていけるのだろうか?

それよりも、今はあの男の場所に向かうのが先。少し急ごう。

 

そしてしばらく歩いたら、ヤツの監視役である凪と合流した。

 

「お疲れ様です」

「……状況は?」

「今のところ、怪しい行動は見受けられませんでした」

「ありがと……だって」

「………………」

 

監視役がいるから? いえ、何かしらの意味はある。此処で尻尾を掴めば問題ない。

それにこのままでは……

 

「先生! 次は何の遊びをするの!?」

「そうだな……なら、ドッチボールでもするか」

「どっちぼーる?」

「よし、今から説明するから集まれ」

「わーい! たのしそー!」

 

子供たちが危うい。

ヤツは華琳さまに子供の世話がしたいと相談をした。突然ではあったが、監視役をつける条件でそれを許可。そして今に至る。

だが、此処は城からそれほど離れていない場所。何かをするにしてももう少し場所を選ぶはず。なら、本当にヤツは子供と遊びたいだけ?

 

「……凪、香風、ヤツを見てどう思う?」

「難しいことはわからないけど……多分、今のシャンでは勝てない」

「同意見です。私とシャンで協力をすれば、時間稼ぎにはなるかと思います」

 

それほどなの? 私にはわからないけど、この2人もそこらの将よりも強さはある。だとすれば、ますます目を離すわけにはいかない。

何としてもヤツの正体を掴むわ!

 

 

〜数日後〜

 

 

「先生、先生」

「どうした? 何か新しい遊びでもしたいのか?」

「昨日の夜ね、お父さんとお母さんが布団の中で喧嘩してたの……どうすればいいかな?」

「うん、それは喧嘩じゃないから心配しなくていいぞ」

 

あれから毎日、ヤツは子供たちと遊んでいた。

私はその監視役として見てきた。もちろん武力はないので他の将も同行しているが全く怪しい気配を見せない。

いや……それどころではない。彼の援護をする声するも出てきた。

 

「あの人は沙和と凪ちゃんを助けてくれたの! だから恩返しをしたいの!」

「あの時は気が動転しており、不快な思いをさせてしまいました。また改めて謝罪をしたいかと」

「ウチはまだ会ったことないけど、2人がここまで言うんやから悪い兄ちゃんじゃないかもしれんな」

 

かつて救われた恩を返すとヤツと行動することが多くなった沙和。そしてそのまま凪や真桜もヤツの行動を疑わなくなった。

 

「怪しくはありますが、別の可能性も考えるべきだと風は思いますね〜……ぐぅー」

 

最初からヤツの行動には意図がないと指摘をしてきた風。

 

「あの人は悪い人じゃないっす! きっと子供が好きなんすよー!」

「そうですね。あの時に救って頂けなかったら……どうなっていたことか」

「最初はわたくしも疑っておりましたが……あの子供たちと遊ぶ姿は本物です。ならこれ以上、わたくしが言うことはございませんわ」

 

そしてあの時の襲撃を助けてくれたと信じている華侖。柳琳やあの栄華すら彼を援護している。

将の人間がここまで外部の人間を援護するのも珍しい。いや、ヤツだからこそ認めているのかもしれない。華琳さまからも一目置かれ、皆からも信頼を勝ち取っている。

だからこそ気にいらない。私たちは苦労を重ねて華琳さまに認められて配下となった。それなのに顔もわからない見ず知らずの男が華琳さまのお気に入りとなりつつある。

 

「認めない……認めてなるものか!」

 

ヤツは必ず何かをする。その時がくればどうとでもなる。私は諦めない。絶対にだ!

 

「覚えてなさい!」

 

ともかくこの行動には意味がない。私は監視役にこの場を任せて、城へ戻る。一度、状況整理をして準備をする必要があるからだ。

 

荀彧は臧覇が何かをすると確信して目を光らせ続けた。しかし、それとは反するように臧覇はただ子供たちと遊んでいた。裏があるかのような行動もとらない。

荀彧は日を重ねる事に焦りと怒りを増す。元々男嫌いもあったためか、気持ちもまた拒絶感が増すばかりであった。

そしてその肝心の臧覇は……

 

「フハハハハハ!!」

 

高笑いをしていた。

 

 

〜臧覇サイド〜

 

 

これだよ! やはり悪とは嫌われていなければな! どいつもこいつも俺を疑いもせずに甘ちゃんだらけだったからな。

だがアイツは違う! あの拒絶感、素晴らしいものではないか! 人気キャラなのも頷ける。

 

「先生どうしたのー?」

「大丈夫ー? あっちで休むー?」

 

おっと、まだ子供たちと遊んでいたんだ。

子供たちと遊んでいるのは後に関係がある。だが、本来はただただ荀彧さんを困らせたいだけ。軍師というのは物事を難しく考える天才。俺の行動ですら何かしらの理由を探したがる。

そしてこの必ず油断する時はある。その時に俺は荀彧さんを襲う。警戒が解かれた時、ヤツは必ず無防備になるはずだ!

 

「ヤツはまだ諦めていない。しかし、少なからずこの行動に意味がないと感じている……動くならば今日の夜だな」

「今日の夜、たのしみー!」

「わーい!」

「先生も楽しみだよ、みんなはちゃんと親御さんに伝えたかい?」

「「「うん!!」」」

「そうか、そうか……なら、今晩は此処に集まってね」

「「「はーい!!」」」

 

さぁ……絶望を見せてやるか!

 

 

〜深夜・臧覇サイド〜

 

 

「………………」

 

日も落ち、照らすのは月の光のみ。こんな真夜中に俺はある小屋にて荀彧さんを待っていた。ある文を送り、内容を知れば、必ず来る。その時は誰かしらの護衛もあるが、大ごとになるのは向こうも同じ。そうなるも少数に留めるはずだ

 

「ククク……アイツだけは信じている。必ずやくっころを達成してくれると!」

 

思えば長かった……来る日も来る日も俺は壁にぶち当たった。しかし俺は耐え、この時を待っていた。

だがそれも……

 

「………………」

「…………ふん」

 

この日のために!

やはり来たか荀彧さんよ! 隣の大斧を持った……誰だこの人? まあいい、護衛の人間も1人。俺の読みも当たった!

 

「ようこそ……ここに来たということはあの文を読んできたか」

「当たり前よ。男のモノなんて触りたくもないけどそれどころじゃないわ」

「フッ……かの名軍師も甘さが出ているな」

「……何故、子供を巻き込んだの?」

「貴様らは俺を甘くみた……それだけだ」

 

文の内容は簡単だ。

 

【子供を預かった。助けたければ小屋に来い】

 

ということだ。子供と遊んでいるのはこの時のため。荀彧さんはなんだかんだで子供を大切にしている節がある。ならば、それを最大限に使うのみ!

 

「さて、どうする名軍師さま?子供はこちらの手にある。となれば、やることがあるはずだが?」

 

これはもう決まりですわ。完全勝利ですわな。

 

「………………」

「………………桂花」

「わかってるわよ」

 

そうか……わかってくれたか。

ついに俺は……夢を叶えたのだな。

 

「その前に答えなさい。この計画は何処から気付いてたの?」

「そんなの貴様と会ってから……ん? 気付いた?」

「今回は華琳さまから極秘任務として私と香風で進んでいたのよ」

「けど、貴方が動いたおかげで解決出来たの……だから」

「待て、一体何の話をしている?」

 

な、何だ……この寒気は?

 

「今回の任務…………内通者の発見と対処」

 

内通者…………だと?

 

「華琳さまは気付いていたの。自分の情報を売る人物がいることにね。だから、下手に大ごとにせず、私と香風だけで対処するように命じられた。私もある程度までは確認できたけど、確信に迫るまでの材料がなかった」

「最悪ね、シャンが処分することになったんだけど……」

「だ、だけど……?」

「此処に来る前にその内通者が自首してきたわ」

 

うん……それは良かったね。けど、俺との関係はないよね?

 

「突然の事でこちらも驚いたけど……そいつはこう答えたの」

 

 

〜回想・王座の間〜

 

 

事は数時間前。

その場にいるのは曹操、荀彧、徐晃、そして内通者の男。

 

「私には子供がいます……その子供が笑顔で帰ってきて毎日楽しそうに今日の出来事を話してくれました。その時です。私が兵士の前に人としての親と気付いたのは……」

「………………」

「今さら許してくれとは言いません。ですが、今生の願いとして……子供だけは、どうか」

 

男は深々と頭を下げた。もちろん、こんなことをしても望みは薄いことなど承知の上。だが、彼はその覚悟で此処に現れたのだ。それは最愛なる子供のため。

そして曹操は答える。

 

「……今回の動きは誰かに見られたか?」

「いえ……」

「なら都合がいいわ。貴方はそのまま情報を流しなさい。ある程度までなら本当の情報を許す」

「え?」

「今から貴方には香風の部隊に入りなさい。そしてそこから情報が入り次第、香風に流すこと。いいわね?」

「お、お待ちください! 私は裏切り者です! そのようなことでは……」

「自惚れるな」

「ッ!!」

 

曹操は男に殺気をぶつける。

 

「貴様を1人殺そうが今後も同じような者が出てくる。だが、見せしめとして処刑するよりも危ない橋を渡らせる方がこの国の発展に繋がる。もちろん、事が終われば貴様の処罰も改める」

「………………」

「ま、貴方は裏切り者なのは事実。子供はこちらに預けてもらうわ。貴方が怪しい動きを見せれば、子供がどうなるか、わかるわね?」

「………………はい」

「その潔さだけは認めてあげる。月に一度、会えることは約束するとしましょう」

「ッ!ありがとう……ございます!」

 

そう言って男は徐晃と共にその場を去っていった。

 

「華琳さま」

「甘い、とでもいいたいのかしら?」

「………………はい」

「でしょうね。本来なら処刑ですものね」

「ならば」

「けど、処刑すれば奴の情報はそこまで。けど、嗅ぎ回る奴らを炙り出せるならば生かすのも一つの手よ。いざとなれば亡き者にすればいい」

「……わざと泳がせるのですか」

「そういうことよ……それにしても」

 

曹操は天井を見上げながら……

 

「先に子供の心理を使って内通者を出すとはね」

「………………」

「やはり面白い男ね、ふふっ」

 

笑みを見せていた。

 

 

〜終了〜

 

 

「ば、馬鹿な!?」

 

そんな事初耳なんですけど!?

子供なんて皆同じような感じだろ!

 

「すごいよ……まさか子供を使って内通者を出すなんて。シャン、驚いた」

 

こっちも驚いたよちくしょう!

だが、これではマズイ! このままでは俺がいい奴になってしまう!

 

「ちょっと」

 

行動を起こそうとした時、荀彧さんが俺を呼ぶ。

 

「私は男が大っっっっっ嫌いなの。けどね、個人の感情だけでは華琳さまの理想を汚すことはもっと嫌いなの。だから、一度しか言わないからよーく聞きなさい!」

 

この時俺は直感した。

や、やめろ。お前だけは言ってはいけない!

それを言っては……

 

「待っ……」

「此度の件、感謝するわ………………ありがと」

「ッッッッッ!!!!」

 

本当に小声だった。だが確かに聞こえた。

あの……あの荀彧さんが…………感謝?

 

「……あーもう!帰るわよ香風!」

「うん……シャンもお礼するね。ありがと」

 

そして荀彧さんと小柄な少女は出ていった。

 

こうしてまたも自分の計画が失敗に終わってしまった臧覇。そんな彼は……

 

「大きな星が点いたり消えたりしている。アハハ、大きい……彗星かな。イヤ、違う、違うな。彗星はもっとバーって動くもんな。暑っ苦しいなココ。ん……出られないのかな。おーい、出して下さいよ……ねぇ」

 

誰もいない場所で精神が崩壊していたのだった。




無敵艦……轟沈!

ありがとうございました。


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第30話

〜西涼〜

 

 

馬一族を指揮する国、西涼。馬の扱いなら右に出る者はいないと評される一族。もちろん、その武力も認められている。

その一族は今……

 

「……クソッ!」

 

窮地に立たされていた。

一族の長である馬超は片膝をつき、相手を睨みつける。

その相手は……

 

「思ったよりも時間がかかりましたね……流石と言ったところでしょうか」

 

于吉であった。

白装束を連れ、突如として馬超の前に現れたのだ。それに驚きながらもすぐに槍を持ち、応戦する。しかし、数の暴力に負け、現在に至る。

 

「アンタらの目的は何だ? こんなことをしてタダで……」

「まあ落ち着いて下さい。余興はまだおわりではありません」

 

そう言って指を鳴らし、ある人物たちを招き入れる。

それは……

 

「ッ!? 鶸! 蒼!」

「「………………」」

 

馬超の妹たちの馬休と馬鉄であった。

しかし、彼女たちからは生気が感じられず、まるで人形のような状態であった。それに気づかない馬超ではない。

 

「テメェッ!!」

「彼女たちは一足先に術をかけさせて頂きました。最後まで抵抗しましたがいい収穫です」

「2人から……離れろ!!」

 

ボロボロの身体に鞭を入れ、高速の突きで于吉を狙う。

 

「………………」

「……ガハッ!!」

「ッ!?」

 

于吉はその場から動くことはなく、その槍は横にいた白装束の男が盾となり、受け止めた。全くの躊躇もなく、死ぬことも恐れない白装束。まるで駒のように于吉を守る。

馬超はその不気味さもあり、もう一度距離を置く。

 

「では、先の質問にお答えしましょう」

「ふざけるな!! この後に及んで……!!」

「彼女たちがどうなっても?」

 

すると馬休と馬鉄は小刀を自分の首元に突きつける。

 

「ッ! やめろ!!」

「ならば……わかりますね?」

「…………クソッ!!」

 

そして馬超はその場に槍を投げ捨てる。

それを見た于吉は合図を出すと馬休と馬鉄は小刀を下げ、先の続きを始める。

 

「では答える前に一つ問題を。この騒動を起こし、得をするのは誰だと思いますか?」

「………………」

「わざわざ戦争をせずに領主の首を取り、戦力をそのままに活かせるとしたら……これほどの魅力はないかと」

「…………曹操だと言いてえのか?」

「……フッ」

 

于吉は肯定も否定もせず、ただ不敵な笑みだけを馬超に見せた。

 

「その名が出てきたということは……何か思い当たる節があるのですか?」

「………………」

「私からは何も言いません。思うのも疑うのも自由なのですから」

 

馬超は悩んでいた。曹操という人間は母の時代から聞いている名であり、かなりの野心家というのも聞いている。それと同時に誇りも持ち合わせているとも。

だからこの妖術にまで手を出したというのは考えにくい。

ただ、一つ確信したことがある。

 

「……どうされましたか?」

 

この妖術師は誰かに従う人間ではない。それだけはハッキリと理解した。

その時……

 

「お姉さま!」

「ッ! 蒲公英か!」

 

馬超の従姉妹である馬岱が息を切らしながら入ってきた。

馬岱は遠征に行かせていたので難を逃れたが、馬の落ち着きのなさに違和感を感じ、馬超の様子を見に来たのだ。

 

「おや? 随分と早い……」

「てい!」

 

勘が働いたのか、于吉が何か言う前に馬岱はすかさず動く。

懐にしまってあった玉を地面に叩きつける。するとたちまち辺りが白い煙に覆われる。

これはかつて韓遂(臧覇)と共に悪戯がバレた際に逃走用として作ったモノ。

そして煙が晴れると馬超と馬岱の姿はなくなっていた。辺りを見渡すと窓の扉が開かれている。

 

「ふむ……逃げられましたか」

「追いかけますか?」

「いえ、構いません。このままにしておきましょう」

「はっ」

 

すると白装束らは音もなく消えていき、残ったのは于吉と馬休と馬鉄のみ。

 

「ここで潰しても面白みがありません。物語に必要なのは“道筋”です」

 

于吉は2人の耳元で囁くと糸が切れた人形のように倒れていく。

 

「それでは皆様。今日はこの辺で……フフッ」

 

不気味な笑みを見せ、その場を去る于吉。

 

 

〜数時間後〜

 

 

「ん?」

 

深い眠りから覚めた馬休。隣には馬鉄がぐっすりと眠りについている。

 

「なんでこんなところで寝てたんだろ?……まだ姉離れが出来ていないのかな?」

 

馬休は立ち上がり、空いていた窓を見つめる。

 

「しっかりしなきゃ、私。これだと天国の母さんや……“姉さん”にまで笑われちゃうよ」

 

 

〜曹操サイド〜

 

 

「消えた?」

 

自室にてある発言が耳に入った。報告に来たのは華侖、柳琳、栄華の3人。そして発言者は世話役としていた華侖からのものだった。ちなみに裸である。理由はいなくなってモヤモヤしていたからだそうだ。

 

「そうなんすよー。今日、部屋に入ったら誰もいないんすよー。今はみんなで街を捜索させてる最中っす」

「ね、姉さん……服を着てください」

 

失踪ね……

 

「ふむ……ならその捜索でも見つからなかったら中断しなさい」

「いいんすか?」

「いいも何も彼はあくまで客将としていたまで。これまでの功績ならばこちらから褒美を渡さないといけないけど……いなくなってしまったら仕方ないわ」

「むぅー……出来れば一緒にいたかったっす」

 

客将として招いたけど、これほどまで面白い結果になるなんて思ってもみなかったわ。

 

「華侖」

「うっす」

「欲しいというのなら望むのではなく、掴み取るものよ。曹家の人間ならばね」

「……了解っす! そうとわかれば善は急げっす!」

「姉さん! せめて服を着て!」

 

そう言って華侖は裸のまま部屋を飛び出していき、柳琳は

華侖服を持って追いかけて出ていく。少し騒がしいけど、あの子の良さが出てるわ。

 

「全く、少しは淑女としての嗜みを心得て欲しいですわ」

「……それで、動きはあったの?」

 

華侖の情報も有難いけど、本命としては栄華の方が優先的ね。

 

「はい。実は商人らに話を聞きましたら……劉璋が大量の武具を購入したとのこと」

「劉璋……あの凡人ね」

「各地制圧のためなら頷けますが、それでもかなりの量とのことです。そうなると起こりうる可能性は……」

「戦争ね」

「恐らくは」

 

叩けば叩くほど溜まっていく埃。掃除をするにしても善意でやっているわけではないのに。全く。

 

「ですが具体的な証拠もありませんので、動くのは得策ではありません」

「ええ。けど、軍師たちには報告をしといてちょうだい。何処とやるかはわからないけど、万が一もありえるから」

「御意」

 

……劉璋の動きと彼の失踪。

 

「まさかね」

 

 

〜荒野〜

 

 

「ハァ……ハァ……」

「………………」

 

何日続いたのか。それすらもわからない。だが、決着は見えていた。荒野に存在するのは二つの命。最強と謳われる呂布と江東の虎、孫堅であった。

辺りは抉れた大地と無数の斬撃痕。凡人では決してたどり着けないほどの決闘であったのだろう。互いに大量の血を流しているのか、所々に黒い血痕もある。

孫堅は息をするのが精一杯だが、決して剣を落とさずにいる。対し呂布は傷はあれど、疲れた様子はみえない。

 

「全く……最強に偽りなしかい。これでも地元では強い奴と戦ってきたんだがな」

「…………恋は、強い。それだけ」

「はん……だろうな」

 

そう言って再び剣を持ち上げ、呂布に向ける。

 

「だが、剣はまだ折れちゃいない。決着をつけようじゃねーか」

「………………わかった」

 

呂布も血を流し、冷静になれたのか、先ほどの殺意はなくなっており、純粋な戦いの決着を望んでいた。

互いに武器を構え、暫くの時間が流れる。

そして……

 

「「………………ッ!!」」

 

凄まじい速さで距離を詰める2人。まさに一瞬。

その決着は……

 

「ぬっふぅぅぅぅん!」

「……ッ!?」

「ちぇぇぇえすとぉぉぉぉぉ!」

「な……ッ!?」

 

謎の闖入者により、その決着はつかなかった。

筋骨隆々の大男の2人は呂布と孫堅の腹部に拳をぶつける。呂布と孫堅は対応できず、直撃をくらい、意識を手放す形になる。

 

「ごめんなさいね、呂布ちゃん。今は大変な危機が迫ってるのよん」

「さて……ようやくこの世界にも入れた。後は転生者に会うか」

「ええ。けど……まずは華佗ちゃんを見つけましょう」

「だーりんにか?」

「うっふん。どんな時代でも恋する乙女ね、卑弥呼(ひみこ)

「当たり前よ貂蝉(ちょうせん)! 儂はどれだけ世界を回ろうともだーりんを忘れることはないわ!」

「素敵よん卑弥呼。華佗ちゃんを見つけて……この世界の転生者に会わないと」

「うむ!ならば急ぐぞ貂蝉!」

「了解よ! ぶるぁぁぁぁあ!!」

 

筋骨隆々の2人……貂蝉と卑弥呼は呂布と孫堅を担ぎながら嵐のように去っていく。

 

于吉の暗躍、臧覇の失踪、謎の闖入者……これらが意味することとは。




于吉は書いててすごく楽しい。悪らしい悪をつきぬけてますからね。
ん? 主人公?
……君のような勘のいいガキは嫌いだよ。

ありがとうございました。


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第31話

臧覇が曹操の下を離れて、半年の時間が流れた。

各地で小競り合いが起きているが大きな戦局はない。しかし、ある地ではその戦局となろう事態が起きていた。

 

事の始まりは劉璋の悪政により、逃げてきた民を劉備の陣営が救ったことによるものであった。

その民から話を聞くに、劉璋の悪政はかなりのものであり、逃げられない者たちの理由もまた、劉璋によって人質を取られていることもある。それを聞いて黙っていられないのが劉備の陣営であった。

その話を聞いた関羽と張飛は己のことのように怒りを露わにし、すぐにでも乗り込もうと提案。諸葛亮や龐統、趙雲も大きくなってきた我が軍にも国を持つべきと賛成し、劉璋との一戦を望む。

しかし、その中に劉備の姿はなかった……

 

 

〜個室〜

 

 

「……失礼します」

 

静かな部屋。表すならばその一言に尽きる。その部屋に1人の女性が入る。

名は孫乾。彼女は侍女としてある人物の世話を任されている。料理のお盆を持ち、その人物の前に置く。

その人物は……

 

「いらっしゃい、美花ちゃん」

 

大徳と呼ばれた女性、劉備その人であった。

だが、今の彼女の姿は頬がやつれ、布団から起き上がれないくらいに元気がない。

 

「調子はどうでしょうか?」

「うん。最近はね、とっても調子がいいの。だから心配しないで」

「…………それは喜ばしいことです」

 

見てわかるような空元気。心配させないように無理をする劉備。

 

「これよりは劉璋との戦が始まります。苦しくなるかと思いますが……」

「うん……けど、苦しんでいる人たちがいっぱいいるなら……仕方ないことかな。むしろ前に出れない私が情けないよ」

「そんなことはありません。皆、桃香様の夢の為にと頑張っています」

「………………」

「……食事が終わりましたら、またお伺いします。それでは」

 

静かに立ち上がり、孫乾はその場を去る。

残された劉備は……

 

(人殺し……人殺し……)

(貴様に平和は似合わない……)

(偽善者め……)

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

頭の中で聞こえる幻聴に懺悔をする。

 

この幻聴こそ、劉備を苦しめる原因。ある日を境にいつも如何なる時も囁きが頭を巡り続けるのだ。何日かは耐えていたが、この幻聴による不眠が続き、結果として倒れてしまった。

この事態を重く見た関羽と諸葛亮はすぐに劉備を個室に運び、完治するまで安静にさせる。様々な医者にもお願いをしたが、全員が疲労という答えしか出さなかった。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

劉備は涙を流しながら謝り続ける。

そこへ近く一つの影……

 

「おやおや……随分と苦しんでおりますね」

 

それは各地で暗躍をする于吉であった。

 

「………………」

「どうですか? 貴女が殺めてきた人間の声は? さぞ、貴女の心に響くのでは?」

 

于吉はある(じゅつ)を劉備に掛けていた。それこそ、あの幻聴である。

 

「平和の為にと頑張ってきた貴女が行なっているのは虐殺と何も変わらない。だからこそ貴女には聞いて欲しいのです。死んでいった者たちの声を」

「違う……私は、みんなの平和の……」

「それで逆らう者は亡き者にする。平和という名の独裁なのでは?」

「………………」

「ふふっ……貴女は逃れることは出来ません。その声からは、ね」

 

于吉は音を立てることなくその場から消えるように去っていく。残された劉備は未だ、深海の奥の中である……

 

 

〜建業・魯粛サイド〜

 

 

「もう一度言いますよ! 今のままでは孫呉は持ちません!」

 

これで何度目なのか……もう数えるのも疲れるくらいに訴えを続けている。

 

「それは何度も聞いた」

「聞いても納得して貰えなければ意味ないじゃないですか!」

「落ち着け包。それでは伝えるべきことも伝わらないぞ?」

 

誰のせいと思って……もういいです。

私は今、孫呉の重鎮である雷火様、祭様、粋怜様の3人にある説得を試みている。

 

「現在、炎蓮様から雪蓮様へ引き継ぎが完了し、新たな体制を作ろうとしております。しかし、現状を見るに曹操と袁紹は協力関係が見えています。それが危ないのです」

「じゃが、袁紹は袁術との仲は悪くはないぞ?」

「それは包も知っています。包が危険視しているのは曹操です。明命の情報ですと、少しずつですが各地の制圧を行なっているのがわかります」

「けど、こちらの領地には足を運んでいないわ。ならば、今のうちに地盤を固める方が……」

「ええ、地盤を固めるのも一つの策です。ですが、前回の戦いで包は見えたんです」

「……聞こう」

 

よし、雷火様が耳を傾けた。これならば……

 

「この国は孫家という大きな柱があります。それを支えるのが包たちの使命です。しかし、それは強みでもあり、弱みでもあります」

「…………今のは聞き捨てならないわね」

「説教なら後で聞きます、粋怜様。良くも悪くも包たちは孫家の柱に依存し過ぎている傾向が見えるんです。自国だけの問題なら構いません。ですが、前回の戦いで包も含めた全員が冷静でいられなかったのです」

 

あの時は我を忘れるくらいに怒りがあった。軍師としてはあるまじき行いでしたね。包、反省。

 

「……一理ある。して、どうするのだ?」

「簡単な話ですよ雷火様。同盟を組むのです」

「……へぇ」

「待たぬか、包。同盟ならば既に袁術と結んでおるではないか」

「先の話を忘れたのですか? 袁術は袁紹と従妹の関係。その袁紹は曹操と協力して、各地を制圧しております」

「つまりは袁術とは別の国と手を組み、万事に備える……か」

「それがこの国の強化と包は見ています」

 

そしてこの政策が上手くいけば包は大軍師筆頭……燃えますね!

 

「多少粗削りだが、悪くはないぞ包。して、その相手は誰ぞ?」

「……包は諜報員を使い、各地で名を馳せる軍師たちの情報を集めました。その中でも才を光らせる人物らがいます」

「…………名は?」

「諸葛亮、龐統……その2人が所属している劉備の陣営です」

 

 

〜森〜

 

 

「ぬっふぅぅぅん!」

「ふんぬぅぅぅう!」

 

開幕早々、筋骨隆々な大男の筋肉アピールを見せられてしまった。

 

「2人とも、調子はどうだ?」

「………………大丈夫」

「こっちもだ。度々、世話になってるな」

「気にしないでくれ。俺が好きでやってるんだからな」

 

孫堅と呂布の戦いは貂蝉と卑弥呼の手によって決着はつかなかった。その後、貂蝉らは森で暖をとっていた華佗と合流し、2人の治療を行なった。

ある程度まで回復した2人は同じ暖で軽い食事をとりながら今後のことを話す。

 

「それで、最強の。この後はどうする?」

「…………彼と、合流」

「だろうな。だが、想い人の気配がないが大丈夫なのか?」

「……なんとなく、わかる」

「なんとなく、ねぇ……」

「…………なんで、邪魔した?」

 

呂布はこのまま臧覇との合流が本来の目的。しかし、孫堅がその邪魔をしたのだ。

 

「お前さんの軍師がオレに文を送ってきたんだ」

「……文?」

「“今生の恥としての願い。暴なる主、止めたし”……だったな。まぁオレはお前と戦えれば良かったんだがな」

「………………違う」

「あん?」

「ねねは……賛成してた。恋の、行動を」

「……嵌められた、と?」

「恋とお前……潰し合いを、させることが…………目的」

「なるほど……」

 

互いに潰し合いをさせ、弱ったところを狙うのが目的はと2人は考えた。呂布が暴走していたこと、孫堅がある程度の自由が聞いていたこと。2つの事情を知らなければ動くことは出来ない。

 

「共通の敵がいる……みたいだな」

「…………うん」

 

そこへ……

 

「ちょいといいかしらん?」

 

筋肉アピールから帰ってきた貂蝉とが割り込んでくる。

 

「その共通の敵だけど、心当たりがあるのよん」

「……それはお前みたいな化け物か?」

「だーれが三国一の美女と思い込んでいる精神異常者と思い込んでいる動物界不明動物魑魅魍魎類漢女科のフレンズですってぇぇぇぇ!!」

「落ち着け貂蝉。心の乱れは漢女の乱れぞ」

「あらやだ。貂蝉、はずかし」

「「………………」」

 

呂布と孫堅は心の中で思う。思った以上に変人であると。

 

「それでその人物の話だけど、多く語れることは出来ないわ。けど、この世界……じゃなくて大陸にいるのはわかるわん」

「…………危ない?」

「強いて言えるならば、奴はこの大陸の全員を葬ることが目的。そのためならばどんな手を使うことも躊躇わん」

「ほぅ……全員か」

「うむ。故にワシらはその男を追い、決着を付ける必要がある。しかし、それにはある人物の協力が必要不可欠」

「それが……臧覇ちゃんなのよ」

 

貂蝉と卑弥呼もまた臧覇を追うことが目的。

 

「なるほど、最強と同じ目的か」

「そういうことね。だからね呂布ちゃん、邪魔しないから一緒に付いてってもいいかしらん?」

「………………うん」

「ありがとん」

「お主とだーりんはどうする?」

「成り行きだ。そうとなれば想い人に会うのも面白い」

「2人が行くなら俺も同行するよ。いくら武人でも怪我人には変わらないからな」

「うむ! そうと決まれば! いざゆかん!」

 

こうして貂蝉らの目的は臧覇との合流となった。

 

劉備の深海、魯粛の策、貂蝉らの目的。大局が見えんとする中、時代は確かに動いていた。各々の物語は加速する……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜???〜

 

 

「ったく、このワシに逆らう愚か者がいるとはな」

 

とある場所の部屋。この部屋は他と比べても豪勢に作られている。その部屋には中肉中背で無精髭を生やす男。

名は劉璋。国を腐らせている張本人と言っても過言ではない。

 

「国を持たないただの義勇軍に何が出来るて」

 

劉璋の耳にも既に劉備の陣営が自分の国に向かっていることが入っていた。しかし、相手は田舎者の義勇軍。負ける要素なぞないと思い込んでいる。

 

「……では劉璋様、この件は私にお任せ下さい」

 

そして劉璋と対面している男。深いフードを被り、顔が見えないようになっている。

 

「お前の好きにせい張松(ちょうしょう)。だが、いい女子がいればすぐにワシに献上しろ」

「仰せのままに」

 

そして張松は劉璋の部屋を後にする。

その廊下で……

 

「ククク……遂に来たか、劉備」

 

その男は……

 

「さぁ……見せてもらおうか! 貴様のくっころ顔を!!」

 

 

野望に燃えていた。




悪役が復活しましたよ皆さん! これはもうみんなをくっころしてくれるに違いありませんね!

………………うん。


ありがとうございました。


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第32話

〜張松サイド〜

 

 

私は張松……というのは仮の姿。本当の姿は劉備の陣営をくっころする為に劉璋の傘下に入った臧覇なのだ!

俺は精神が崩壊されかけた。荀彧という絶対の信頼からの裏切りに会い、耐え切れなかった……しかし! 俺はまた立つことが出来た。まだ見ぬくっころヒロインを求めて這い戻ってきたのだ!

 

そして俺が何故、劉璋の側近になれたかというと3つの理由があった。

まず1つ目は金。単純だが、1番わかりやすくもある。

2つ目は黄忠さんからの推薦。向こうも俺のことを覚えていたのでその件の恩返しという形で紹介をしてくれた。かなり反対していたが、関係ない。

そして最後の3つ目だが、これは予想外の展開だった。

何故ならば……

 

「お前は……韓遂?!」

「どうしてここに?!」

 

そう。原作では既に劉備の陣営にいるかと思われた馬超さんと馬岱さんが劉璋の陣営にいたのだ。後の2人は見当たらない。

俺とてこれには驚いた。しかし、同時に好機とも思えた。これだけの戦力ならば劉備の陣営に勝てるのではないか?強い武将がいるのは確かだが、相手は義勇軍。戦力差ならばこちらが有利に働いている。

 

「ククク……」

 

やはり、俺には悪としてのセンスがあるようだな。この戦いで勝ち、隙を見て劉璋の首もとれば……此処にいるヒロインたちのくっころは成功する。楽しみだなオイ!

 

さて、俺は今散歩がてらに街の様子を見ている。今後この街が俺のものとなるならば使い勝手に困らないようにせねばなるまい。

しかし、此処である問題が生まれてしまった。しかもそれは現在進行形なのだ。

それは……

 

「じー………………」

 

俺の背中を見てくる女性。名は魏延。劉璋というより厳顔さんの配下であり、武勇に優れた武人だ。

その魏延さんが俺に尾行をしている。それに今回が初めてではなく、何回かあるのだ。本人は隠れているようだが、背中に担いだ武器が完全に見えていてバレバレである。

 

「アイツは何がしたいんだ?」

 

彼女が尾行に向いていないことなど厳顔さんもわかっている筈。それなのに寄越してきたのは何か意味があるのか?

 

「下手に動いてもしょうがない……此処は大人しく飯でも食うか」

 

とりあえず俺は近くにあった飯屋に入り、お腹を満たすことにした。時間はあるのさ。落ち着いてこう。

 

 

〜飯屋〜

 

 

「………………」

「………………奇遇だな」

「ソウデスネ」

 

俺の目の前には魏延さんが睨みつけながら座っている。

説明するならばこの飯屋は人気店らしく、席が1つだけしか空いていなかった。俺はそれで問題なかったのだが何を血迷ったか魏延さんもこの席に座ってしまったのだ。

本当に……この子は何がしたいの?

 

「先に言っておくが、私は最近この店が好評という噂を聞きつけてやってきたまでだ。断じて貴様を尾行して成り行きでこうなってしまったのではないからな?」

「アッハイ」

 

俺、何も言ってないじゃん。

そんなことをしていると店員が笑顔で向かってきた。

 

「ご注文はお決まりですか?」

「俺は炒飯と拉麺で」

「私は……この回鍋肉で」

「あ、ごめんなさい回鍋肉は来月からです」

「む、そうか……なら酢豚で」

「先ほど売り切れてしまって……」

「……油淋鶏」

「当店では扱っておりません」

「何だよ! 私に対しての嫌がらせか!!」

 

あれ、この子って幸薄キャラだったっけ?

 

「はぁ……もうコイツと一緒で構わん」

「わかりました! 少々お待ちください!」

 

元気よくその場を去る店員に対し、不貞腐れるように机に頭を置く魏延さん。

 

「……何故、今になって此処に現れた?」

「ん?」

「お前にもわかるだろ? この地は長くない。あの野郎が好き勝手やった結果、あらゆる奴に喧嘩を売ってる」

「………………」

「こんな国に志願するのは自殺行為だ。桔梗様も反対してた。なのに何故……」

「お前たちはまだ理解していないようだな」

「……理解?」

「この国……いや、あの劉璋の価値を理解していない。奴は俺にとってどの宝よりも価値がある」

 

俺のくっころ計画にはアイツが必要だからな。そらもう俺の中では最高値ですよ。

 

「……お前の目的は何だ?」

「いずれわかる時がくる。楽しみにしておけ」

「………………」

 

そしていずれはお前もくっころ要員となる。

ククク……楽しみにだぜ。

 

「お待たせしました! 炒飯と拉麺お二つになります!」

「……食べるか」

「ああ」

 

こうして俺たちは炒飯と拉麺を食し、魏延さんはその場から去っていった。どうでもいいが、さっきの飯屋は美味かったから今後ともチェックしていこうそうしよう。

 

「さてと……」

 

なんか拍子抜けしてしまったな、今日はもう帰ろう。

魏延さんもバレたから明日からは幾分かマシになると思うし、明日から頑張ろう。

 

 

〜翌日・街中〜

 

 

「じー………………」

 

なんでやねん。

嘘だろ? 昨日一緒に飯食ったじゃん? まさかあの言い訳が通ったと思ってるの?

クソ、これ以上尾行されるとこちらとしても行動が……

 

「………………ハッ!?」

 

ま、まさか……魏延さんの尾行は俺の行動を阻止するためか!

最初からバレバレな尾行も隠密にする必要はなかった。だからこそ、苦手そうな魏延さんを選んで俺を監視をしていた。そう考えると今までの行動も頷ける。

 

「これが厳顔の策……侮れんな」

 

だが、こちらとて貴様らの手の内は把握した。ならばやることは一つ。

 

「逃げるんだよォ!」

 

これが俺の十八番、逃走だ!

 

「あっ! 待て!!」

 

フハハハッ! 一つ教えておこう魏延さん。

 

「お前に足りないものは、それはー……情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ! そしてェなによりもォーーーーーー」

「は、速い!? クソ!!」

 

 

~街外れ・廃村~

 

 

「速さが足りない!!!」

 

ふぅ……やはり速さは大切だな。

ただ逃げることだけしか考えていなかったから寂れた村に来てしまったな。いや、此処は捨てられた村か。

 

「あちこちボロが見えるが……再利用出来るモノばかりではないか」

 

もったいない。それならば俺が使えるようにしてやろうか?

 

「まぁいい。しばらくは俺の仮拠点にでもしておいてやるか」

 

そう言って俺は適当に空き家の扉を開く。

 

「な! どうして此処がバレた!?」

 

空き家と言ったのに空き家ではなかった。

家の中には賊らしき人物と商人らしき人物がおり、更には机の上にはあるものが置いてあった。

 

「…………クスリか」

 

うむ、あれは見たことがある。もちろんだが俺と配下たちには使わせていないし、見つけても麻酔に使える物だけをとって、後は埋めてる。

クスリ、ダメ、絶対。

 

「クソが!」

「ヒィ!」

 

賊らしき男は腰に差してた剣を抜き、対峙する。

いや、待てよ? 此処でこのクスリを俺の物にして、この現場を作れば……悪党になれるんじゃね?

 

「ッ! 遂に見つけたぞ!」

 

あ、ダメだわ。魏延さんが追いついちゃった。

冷静になれ俺。此処はまずこの場を支配して……

 

「デェェェイ!」

「グハッ!!」

 

手が早いっすね魏延さん。

 

「安心しろ、貴様らは生かしておく。聞きたいことも山ほどあるからな」

「はははははっはい!」

 

気絶している賊らしき男と商人らしき男はそのまま魏延さんのお縄につく。数分後、兵士が到着して2人の身柄を確保。そのまま城へと連れて行かれた。

…………俺、何もしてねぇ。

 

「お前が此処に志願した同時期、不可解な行動をとる人たちが街で発見されてな。私はお前が何か絡んでいると思い、尾行をしていたのだ」

 

つまりは厳顔さんとかは絡んでなく、個人で俺の尾行をしていたわけか。

 

「なるほどな。だからあんなバレバレな尾行をしていたのか。確かにアレでは行動も何も……」

「えっ?! バレバレだったの!?」

「………………」

 

アレ……本気だったんかい。

ともかく、この日を境に魏延さんが俺の尾行をすることはなくなり、代わりに稽古に付き合えということで再び絡まれてしまうのであった。

 

 

〜深夜〜

 

 

「以上が、今回の異変の事実です」

「なるほど……よくやったぞ焔耶」

 

ある日の夜、魏延は厳顔の部屋を訪れ、今回起きた事件の報告をしていた。

 

「あの商人は何度か見たことがある。元より悪さをする為にこの地に訪れていたか……」

「こちらの動きを把握していたのも、内通していた兵がいたと吐いておりました」

「……で、あるか」

「桔梗様、やはり劉璋の下を離れましょう。これ以上、この地にいて損はあれど、得はありません」

「ならん。ワシらもまた一辺を任された身。ワシらならまだしも民にまで犠牲を出してはあのクソ坊主となにも変わらん」

「………………」

「ともかく、この件は他にも絡んでいないか、調べるのだぞ」

「わかりました」

 

魏延はその場を離れ、自分の部屋へと戻る。

そして扉を開けると……

 

「お待ちしておりました……魏延様」

「………………」

 

その部屋にいたのは、劉備の陣営に所属している孫乾であった。しかし、魏延は驚きもせず、自分の椅子へと座る。

 

「随分と早いな」

「………………」

「まぁいい。現状、こちらは動くことはない。戦いになれば敵として……だな」

「そうですか……こちらも覚悟を決めなければなりませんか」

「それと、お前の頭も何か考えがあるみたいだな。どう転ぶかわからんが」

 

現代で表すならば今の魏延は二重スパイ。このことは厳顔も把握しており、厳顔と孫乾の情報のパイプとなっている。

 

「今のまま戦っても無駄に戦力を減らすだけだ。まだ手があるならそっちを優先させた方がいい」

「こちらも時間があまりありません。関羽様と張飛様が既に準備を完了しております」

「そうか。そういうことならこちらも歓迎するしかあるまい」

「……それでは、失礼します」

 

そして孫乾は音もなくその場から消えるように姿を消した。残された魏延は窓の外を見る。

 

「どんなことがあっても私は武を捨てない。例え裏切り者と蔑まれても……」

 

魏延もまた覚悟を決め、その日の1日を終わらす。

 

その頃の臧覇は今……

 

 

〜森・水辺〜

 

 

「………………」

「にゃ………………」

 

綺麗な水辺に二つの影。臧覇ととある少女は無言で見つめあっていた。

少女の名は張飛。劉備の義兄弟にして一番槍としての活躍も聞く。そんな張飛が何故、劉璋の陣営にいるかはわからない。

しかし、臧覇はある問題を抱えていた。

 

「……なんで、服を着ていないのだ?」

「………………」

 

彼は……全裸であった。




事案発生。


ありがとうございました。


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第33話

~劉備陣営~

 

 

「何を言っているんだ鈴々!」

 

劉璋との戦が迫る劉備軍。小競合いこそあるが未だに大きな動きを見せてない。

だが、ある人物の発言に関羽は激怒していた。

 

「だから鈴々が1人で偵察するのだ! そうすれば相手の現状を理解出来るのだ!」

 

義兄弟の張飛が偵察に向かうと皆に伝えたのだ。張飛は力でなら関羽と並ぶ……否、それ以上かもしれない武人。

しかし戦場ならばともかく、彼女が偵察向いているかと聞かれると同意は難しい。それでも張飛には引けない理由があった。

 

「そうすれば……桃香お姉ちゃんは元気になるのだ……きっと」

「鈴々さん……」

「あ、あわわ……」

「………………」

 

 

その場にいる諸葛亮、龐統、趙雲は理解した。武でしか貢献出来ていない自分が他に出来ないかと。だからこその提案であった。

 

「そんなもの無理に決まっているだろ! 出来もしないことを言うな!」

「やってみないとわからないのだ!」

「そんなことのために時間を使うことなど出来ん! お前は自分の仕事をするんだ!」

「……もういいのだ。愛紗なんて知らないのだ!」

「ま、まってください鈴々さん!」

 

張飛はその場から去っていき、諸葛亮と龐統はそれを追いかける。関羽は席に座り、頭を抱える。

 

「随分と荒れているな、愛紗よ」

「……荒れもするさ。こんな状況であんなことを言われれば尚更だ」

「……………」

 

あの関羽が弱音を吐いている。それだけで彼女自身が精神的に弱っていると感じた趙雲。

 

「鈴々は強引にもいくだろう。止めなくてよいのか?」

「……構わん。私は兵の調整をしてくる」

 

そして関羽もその場を去る。

 

「……ここまでとはな」

 

趙雲は今の自営に危機感を隠しきれない。今は崩れないことだけを祈る。そして彼女もまた、自分の仕事へと戻っていく。

 

 

~森~

 

 

「愛紗のわからず屋! 鈴々だって出来るのだ!」

 

場面が変わり、張飛は単独で劉璋の国近くの森に潜入していた。諸葛亮と龐統は張飛の説得を試みたが彼女はそれを全て拒否し、現在に至る。

 

「潜入のやり方は美花に教わったのだ。まずは水辺に自分の拠点を……」

「………………ォォォ」

「ッ! 何か聞こえるのだ」

 

突如、雄叫びのような声が森を木霊する。すぐに臨戦態勢に入り、辺りを見回す張飛。

 

「……ォォォオオ!!」

 

警戒しながら声のする方へ向かう。その間にもその声は止むことなく、むしろその声はどんどん大きくなっていく。

 

「……この先から聞こえるのだ」

 

果たしてこの声の正体は何なのか。若干の恐怖と共に茂みの中から様子を伺う。

そこには……

 

「コォォォォォォォオオ!!」

「………………ッ!?」

 

滝に打たれながら雄叫びを上げる謎の覆面男がいた。

その覆面は見たこともないが何か恐怖を感じられる覆面であった。

 

「な、なんなのだ……あれは?」

 

張飛は困惑した。

何故、彼は滝に打たれているのか。何故、彼は変な覆面を着けているのか。

そして何より……

 

「なんで……服を着ていないのだ?」

 

今の彼女には全てが理解できないでいた。しかし、その緩みで落ちていた木の枝を踏んでしまった。

 

「にゃ?!」

「ッ!? 何奴!!」

「マズイのだ!」

 

音に気付かれた張飛は即座にその場から逃げる。

しかし……

 

「……あれは、張飛か?」

 

この男は見逃さなかった。

 

 

~臧覇サイド~

 

 

人間、解放されたい時はある。特に俺のような極悪人は何事とにも頭を使う。そんな状況で常に気を張る必要などない。

だからこそ、解放がほしいのだ。誰にも邪魔をされず、自分だけの時間が欲しいのだ。

そんな時、俺はいつも行っていることがある。

それは……

 

「コォォォォォォォオオ!!」

 

この滝に打たれることだ。意外かも知れんが俺は前世でもこの滝に打たれることは好きだった。

では何故全裸なのかって? 言っただろ、開放されたいと。文字が違う? 気にするな。

 

「フゥゥゥゥゥゥゥゥウウ!!」

 

しかし、全裸になると顔が見られてしまう。

だから俺は覆面を自作。かつて前世で見たヒールレスラーのような覆面で正体を隠している。そして街の人間にもこの森には悪霊が住んでいると噂を流し、入れないようにした。

完璧な状況。言っておくが俺は露出狂ではない。だから人に裸を見られたいという願望はない。だが、やってはいけないと言われればやりたくなるのが人間の性。ついついやってしまうのだ。

 

「コォォォォォォォオオ!!」

 

しかし、これは気持ちいい。これでより一層とくっころの道を歩ける。

そう思った時である。物陰から枝の折れる音が聞こえた。

 

「ッ!? 何奴!」

「マズイのだ!」

 

何者かが逃走する姿が見られた。こんな暗闇の中で特定するのは至難の業。しかし、俺はあの人物に見覚えがあった。

 

「……あれは、張飛か?」

 

のだ口調と小柄の少女なんて彼女くらいしかいない。何故彼女がここにいるかはどうでもいい。現時点で一番マズイ問題がある。

 

「この姿を見られた?」

 

そう。この姿を見られたことが何よりの問題だ。

 

「このままではただのHENTAIではないか!」

 

俺は悪人であってHENTAIなどではない。ましてや自分の裸を見られて興奮するような性癖を持ち合わせてなどいない。

 

「誤解を……解かなくては!」

 

張飛さんは身体能力の化け物。ならば本気で追いかける必要がある。俺はクラウチングスタートをかまし、全速力で追いかけた。そして俺は気付かなかった。自分がまだ服を着ていないことに……

 

 

~森奥~

 

 

「ハァ……! ハァ……! こ、ここまで来れば大丈夫なのだ」

 

得体の知れない何かに接触した張飛。幾多の戦場を駆けてきた武人だが、ここまで恐怖に包まれたことはない。それほど先ほどの存在が大きいと見える。

 

「い、一体なんなのだ! もしかしてあれも劉璋の手下なのか!?」

 

可能性としてありえなくはない。そう思った張飛はすぐに自営に戻りたい気持ちだった。

しかし……

 

「け、けど……鈴々も見られたのだ」

 

確実に姿を見られた。そうなると向こうも追いかけてくる危険性もある。そのまま自営に戻っても無駄に戦力を削ってしまうかもしれない。

 

「……やってやるのだ!」

 

気合を入れ、先ほどの存在と戦うことにした張飛。しかし、今回は潜入ということもあり、武装は短剣のみである。

 

「来るならこい! この燕人張飛が相手なのだ!」

 

短剣を構え、全方位に意識を飛ばす。どこからでも迎撃は可能といった感じだ。

だが……

 

「………………」

 

ソイツは……

 

「……ど、どこから来るのだ?」

 

突如として……

 

「フォォォォォォォォオオオオ!!!」

「ッ!?」

 

空から舞い降りたのだ。

 

「……ッ! ……ッ!」

 

声にならない声を出す張飛。しかもまた服をきていない模様。

様々な出来事が重なってしまった結果……

 

「張飛だな? 貴様は勘違いを……」

「………………」

「……ん?」

「きゅう……」

 

意識を手放すことにした。それはある種の自己防衛とも言える。

 

「………………は?」

 

突然気絶した張飛に驚く臧覇。もちろん服は着ていない。それにも気付いていない様子。

 

「え? 待って? どうしたの張飛ちゃん?」

 

肩を掴み、頭を揺らす臧覇。

さて客観視点で見てみよう。覆面を着けた全裸の男が幼女にも見える気絶をした女性に接触している。

これだけで事案と判断が出来る。

 

「起きてー……起きてくれー。そして説明させてくれー」

 

まずは服を着ることが重要ではないだろうか。

 

「やばい……このままだと俺の存在がただのHENTAIで終わってしまう……!」

 

事実である。

 

「どうする? 無理に起こしても堂々巡りのような気がするぞ……どうすれば?」

 

どうすれば勘違いを解いてくれるか考える臧覇。

だが……

 

「鈴々ちゃーん!!」

「どこにいるのー?」

「ッ! 真名で読んでいる……敵か!」

 

どこからともなく張飛を呼ぶ声が響く。しかも、真名で読んでいると考えれば相応の相手。

 

「ならば迎撃を……服着てねえじゃん俺!」

 

此処でようやく自分の姿を認知した臧覇。

 

「連れてくか? いや、相手がどれほどかもわからん。くっ! やむなしか!」

 

臧覇はもしものことを考え、その場を去ることにした。

そして入れ替わるように入ってきたのは……

 

「……え? 鈴々ちゃん!」

「ど、どうして気絶してるの!?」

 

かつて共闘したこともある麋竺と麋芳であった。

 

こうして臧覇の活躍(?)により、張飛の潜入を阻止し、一時ではあるが戦力も削ることに成功した。

しかし、当の本人はこれを気に、数日部屋に引きこもってしまうのであった。




携帯の調子が悪いな……コレを機に買い換えるか!

めっさ操作性が違うので悪戦苦闘。仕方ない、パソコンで書くか。

突然のレッドスクリーン。電源すら入らない状況。

慣れない携帯でどうにか完成←イマココ

これだけで数十万くらい消えてったぜ! HAHAHA(白目)
ちなみにパソコンは1週間くらいかかるって言ってました。恋姫できない……(血涙)

ありがとうございました。


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