転生青年は行くのさ、ハイスクールD×D! (倉木遊佐)
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スタートラインの一歩前

敢えて言わせてもらおう。

登場キャラは2007〜2017年アニメと結構特定が難しいと思われます。
誰か当ててみてくだちい(黒髭


「何だ、これ?」

 

 絶賛ネットサーフィン中の彼は、何故か小説サイトの右端にある広告に目をひかれた。

 

『今だけチャンス!?異世界が現実に!』

 

「うえっ、嘘くせー」

 

 彼は無視して、新着の作品を探そうとマウスを動かして、

 

「……あっ」

 

 間違えてスクロールではなく左クリックをする。

 どうやら広告を押した模様、ウイルス混入だけはしないでくれよ、と彼は内心思う。

 小説投稿サイトからポップアップで紹介ページへと飛ぶ様を見て、何が気に触れたのか、彼はすこし覗くことにした。

 マウスでスクロールしながら出てきたウィンドウを流し見していく。

 そこに書かれていた内容は相変わらず嘘くさいもので、このサイトでキャラクター作成をすれば、どこぞの異世界にそのキャラに憑依もとい転生できるというものだった。

 彼は嘘くさいと顔をしかめたが、何ともまあ、キャラ作成のレパートリーが存外に多い。

 最新のソフト採用でパーツ選択制ではなく、日本語入力で大方のイメージを創り上げる。ソフトの中に人工知能でも入っているのか?とふと口をこぼす彼。

 念のため、ウイルス対策ソフトを起動させておき、彼はキャラ作成のボタンを押した。

 ページが真っ黒になり数秒したら、質問と入力フォームが出てくる。

 

『性別を入力してください』

 

「え、これだけで日本語入力かよ」

 

 女か男の二択しかないだろうに、まさか鍋釜有りなのか?

 少しばかし気にしながらも無難に『男』と入力する。

 

『容姿を入力してください』

 

「ここは自分の理想を込めて、細かい情報を打ち込むとしよう」

 

 だが、イケメン過ぎるのも困るとよく聞く。さて、どうしたものか。さんざん悩んだ彼が導き出した結果は、『黒髪で、軍服の似合う青年。容姿は中の上』。

 もうすこし打ち込みたかったようだが、字数制限に引っかかってしまった模様。

 

「字数制限あるなら書いとけよ……次は特典か」

 

 特典を決めるのは構わないが、先にどんな世界に転生するかにもよるだろうに。そんなことを考える程に彼は今、キャラクターメイキングにのめりこんでいた。

 容姿の時とは違い、特に考えることもなく、『ランダム』と打ち込み、直ぐにバックスペースキーを押す。

 

「ランダムだとハズレの可能性があるし、オススメにしておこう」

 

 代わりに『オススメ』と打ち込み、次のページへと移す。

 次に出てきた彼への質問は……

 

『welcome to the world ‼︎』

 

「えっ」

 

 質問ではなく、英文が出てきたのに驚きを返した瞬間、部屋の電気が消え、彼の視界は真っ暗になる。

 

 この停電も一瞬の静寂の後に復旧し、パソコンと照明は部屋には()()()()()にも関わらず、再び稼働し始めるのだった。

 

 

 

 

 

「やあ、アステリオ君。起きた?愛しの僕が起こしに来てあげたよ!」

「……やめてくれ、テト。誰もお前のことを愛しいと思ってはいない」

 

 憎しき太陽の光を浴び、虚脱感を感じながら黒を基調とした寝間着を着た青年ーーアステリオ・オリアクスは目を覚ました。

 首の骨を鳴らすついでに、どこか無機質さを感じさせる赤い瞳を右側に向ければ、エメラルド色の髪をもつ美少女(美少年?)が窓のカーテンを開いていた。

「モーセっ!」と呟いていることから、どのように開いたのか察したアスタリオは起床早々にため息をついた。

 

「む、朝から早速ため息かい。まあ、いいさ。ところで今日は僕、女の子なんだけど」

「性転換する気分だったのか。いや、元より性別は無いな」

「……やっぱ軽く流すんだ」

 

 女の子だから何だ、と内心毒づきつつ、彼はベッドから起き上がり、普段着に着替えるべくクローゼットへと足を向ける。

 

「……何だ、テト」

 

 ベッドから数歩歩くと、どうやって移動したのか、彼女がアステリオの前に立っていた。

 

「……」

「……」

 

 アステリオとテトの身長差は約20センチ。アステリオは意図せずとも彼女の顔を見下げる形になる。

 催促したげな彼の瞳が彼女の大きな眼を捉えた。左右の瞳は緑、青と異なっていて、さらに瞳孔は特徴的で左が黄のダイヤ、右が緑のスペード。

 

「……」

「……うん♪」

 

 目を合わせてから三秒もせずに彼女は両目を閉じて満足そうに頷く。

 

「グレモリー公爵から会合への招待状が来てたよ。若手の有力悪魔が勢揃いだってさ」

「分かった」

「じゃ、僕は先に朝御パンを食べさせて貰うよー」

 

 そう言って、彼女はスキップじみた走り方で部屋を出て行く。

 それを見届けた彼はクローゼットを開き、

 そこに頭を突っ込んだ。

 

「ダメだダメだ、耐えろ俺の理性。あいつは男、女の子じゃない。あいつは男の娘…じゃない!」

 

 彼にも色々あるのだろう。

 性転換する度に女の子らしさを身につけていく彼女にも問題はあるのだが、葛藤を封じ込めている彼も彼だ。

 そんな状態も二十秒もすれば収まり、彼は時々胸を押さえながら普段着ーーイタリア軍服に近しい装飾がされた黒服を着る。

 

「ふん……少々唾液が飛んだか」

 

 左上腕あたりについた水滴を見つけ、ハンカチで拭き取りながら部屋を出るアステリオ。

 その表情には今さっきの取り乱した様子のかけらも残っていない。

 

(テトが朝御パンと言ったからには、朝食はパンなのだろう。下手すれば恋が食べきってしまう。急ぐとしよう)

 

 彼はそんなことを考えると、歩くスピードを少し早めて廊下を歩いていった。

 

 

 

「(もきゅ、もきゅっ)……ん。まだ足りない」

「……」

「残念。お二人のパンはお亡くなりになられました」

「具体的に言えば、無限の胃袋によってね」

「そ、そんな……酷いですよ恋さん!」

「ふん、寝坊するやつが悪いのです。ささっ、恋殿。お代わりはまだあるのです」

「まぁーだ余っているではないかぁ!音々音!」

 

「……やはりか」

「リーダー、これ」

「あぁ、先にとっておいてくれたか。ありがとう」

「別に構わない」

「む、テトはどこいった?あいつ、起こしに来た時はまだ食べてなかったはずだが」

「巻き込まれたくないからと朝食片手にクラムベリーと遊戯室でチェスをしにいったぞ」

 

 カオスを極めたこの状況下でも、アステリオの覆面が剥がれることはない。何せこれが彼の日常なのだから。




キング
アステリオ・オリアクス
オリアクス侯爵家の長男。断絶したオロバス君主家の隔世遺伝により歪曲の魔力をもつ。また、一族の特徴でもある占星術を微弱だが使える。
なお転生の影響か、一族の特殊体質とも呼べる『欲望の無さ』が少々欠けている。
蔑称『スプーン曲げのアステリオ』
特典:歪曲の魔眼→歪曲の魔力(空の境界)、世界軸交錯の感知



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あくまで一日常

主人公はゲスなんかじゃない…はず。
今回で大体の人はクロスキャラを察せることでしょう(´ー`)


 ガタガタと僅かに揺れる車内。冥界を駆け巡る列車の一つ、その3両目にアステリオは居た。

 二週間ほど前に届いた現魔王サーゼクス・ルシファーからの会合への招待にあずかり、彼は魔王領へと向かう列車に乗った次第である。言うまでもなく、彼の眷属も全員揃っている。

 だが、彼には納得のいかないことがあった。

 

「おい。何故軍服を着ていない」

 

 彼の軍服に対する意識はかなり高い。なにせ眷属全員分の軍服を自らの手で作成し、手渡すほどだ。

 こめかみを震わせながら彼は自身の眷属ーー正しくはその服装ーーを睨む。

 一番の古株で、彼に女王(クイーン)の駒を与えられたテトは、トランプのクラブのマークが目立つマリンキャップを目元を隠さない程度に被り、半袖シャツと半ズボンの上に赤色のパーカーを着ている。

 テトの普段着、言うなれば『ゲーセン帰りの少年』スタイルだろうか。

 

「普段着で会合に参加するのはどうかと思うのだが?」

「それを言うなら、君のソレだって普段着じゃないか」

 

 おっしゃる通りだ。しかし、お前のよりは列記とした正装である。と申したい彼だったが、深くため息を吐くことでその気持ちを誤魔化す。アステリオ・オリアクスという男は元より、テトにたいして強く出れない。

 そこでアステリオはターゲットを他の眷属達に変更する。

 どこぞの制服×3に、白衣、神父服はまだマシな部類だ。軍服こそ至高。

 とんがり帽つきの魔女服、薔薇が点在する改造ドレス、中華民族の改造装束×2。これらは流石にTPOに反しているのではないか。やはり軍服は最強。

 そんなことを考える彼が現魔王の一人、セラフォルー・レヴィアタンの普段着を知らないのは言うまでもないことだった。

 視線が自分に向いているのを感じたのか、魔女服の少女がアステリオの方へ振り向いた。

 

「アステリオ、一応言いますがこれは我が一族の正装ですからね」

「コスプレの間違いじゃないのかい?」

「それを言うならあなたもでしょう。悪魔の会合に神父服で行くとか正気ですか?」

「だとしても、僕の方がまだ正装としてまかり通っている」

 

 あまり豊かではない胸を張り宣言した少女に、神父服の男が茶々を入れる。この二人が彼の『僧侶(ビショップ)』なのだが、見ての通り絶妙に仲が悪い。

 お互い炎に関する魔術・魔法を使うから直ぐに仲良くなるだろう、と思っていたアステリオも、今では目を逸らす始末である。

 

「ねぇ、アステリオ。これはちょっとやばいと思うんだけど」

「進言。耶倶矢の言う通り、このままだと列車が吹き飛びます」

 

 どれぐらい目を背けていただろうか、同じ制服を着ている双子が慄きながらも話しかけてきたことによって彼は現状をやっと確認した。

 

「ーーうるさいですよ、エセ神父」

「口を閉じようか、爆裂ジャンキー」

「……皆は?」

「無論。とっくに車両の隅へ退避してます」

 

 アステリオの眼の前では、少女が杖を構え、男がルーン文字が書かれたプレートを構えていた。

 どこをどう見ても戦闘態勢にしか見えない状況に、一周回って冷静なままのアステリオは双子の片割れに全員の生存確認をする。この時、もう一方の少女は皆が避難している隅へと駆け出していた。

 

「夕弦、協力を頼めるか?俺があいつらの気をひくから拘束してくれ」

「快諾。アステリオからの頼みならば」

「すまないな」

 

 逃げ遅れた己と逃走していく耶倶矢の後ろ姿に呆れを向けながらも、隣に立つ少女の協力を取り付けた彼は立ち上がり、絶賛威圧感放出中の二人へと近づく。

 

「また君か……そう何度も同じ手を食らうと思ってるのか?」

「積年の恨みを晴らすまで鎮圧されるわけにはいきません。貴方がその剣に触れた瞬間に私の爆裂魔法が火を噴きますよ!」

「いい加減仲良くなってくれ。此方もこの様な手段はとりたくはない」

 

 互いに威嚇し合っている二人も、視界に入ってきた彼に鬱陶しそうなものを見る様な目と自身の得物を向ける。異様な程にシンクロしている二人の行動に、本当は仲が良いのではないかと勘ぐるアステリオ。それは希望的観測に過ぎないが。

 じっくりと彼らと目を合わせた後、激しく好戦的に燃え盛っている二対の眼を相手に深い溜息(本日五回目)を吐き、腰に吊るしているレイピアへ手を伸ばす。

「はっ!?」と二人が正気を疑うかの様に声を上げ、獲物を構える。冗談で済まさないあたり、正気ではないのは間違いなくこの二人だ。

 だがそれでも少しは常識が残っているのか、あくまでアステリオが剣に触れるまで待つ算段らしい。

 

(そこが甘いな。中途半端に善心を持っているやつほど搦め手には弱いんだよ)

 

 腹の内と表情の差が激しい彼が言えることなのかはさておき、彼は心のうちで笑いを堪えながらマントに隠された左手を出した。それは即興で作られた、伏兵への合図。

 その瞬間、アステリオの動向に気を取られていた二人の背後を先端に刃がついている鎖(ペンドゥラム)が襲いかかる。

 二人が気づいた時には彼らの首に巻きつき、一ヶ所にまとめられる寸前。

 

「無情。浅はかです」

「ちょっ、ぐびっ!」

「まってくばっ!」

 

 無慈悲に鎖を引っ張り、二人の僧侶の呼吸を止める橙色の髪の少女ーーついさっきアステリオが協力を頼んだ戦車(ルーク)である。

 二、三秒締め続けた後に鎖を緩める夕弦に、危険性の低下を察知し戻ってきた白衣の男が心配した口調で声を掛けた。

 

「これ、生きてるのか?」

「安堵。心臓は動いてます」

「リーダーも無茶なことを。見た感じ、後遺症も残ることはないだろ」

「それは良かった。テロ紛いの喧嘩をするアホにはいい薬となるだろう。ついでに監視を頼む」

「またか……」

 

 わざとらしく胸をなでおろす夕弦。

 その横で気絶した二人を軽く調べていた青いタータンチェックのネクタイが目立つ少女にアステリオが監視を命じる。嫌そうな顔をする◼︎◼︎だが、本当に嫌なら無言で逃げてもおかしくはない。

 他の奴らもこれぐらいマトモだったら……と、これまでの眷属達の所業を思い出す彼の耳に、扉を開く音が届いた。誰か入ってきた様だ。

 

「あのー、何かありましたか?」

「あぁ、車掌さん。少し騒いでいたものがいてな。申し訳ない」

 

 ビクビクしながら扉から顔を出した者の姿を見て、車掌だと気づいたアステリオは軽く礼をして謝罪する。大方不審に思った他の乗客が知らせたのだろう。車掌はアステリオのその態度を見て、「そんな、解決したのなら問題ありません!」と顔を上げる様に頼む。侯爵家の次期当主に謝罪させたというだけで、どんな目に合うことか。

 そこら辺の事情もしっかり学習しているアステリオは厄介ごとにしないため、わざとやっている。

 

「で、では失礼しますね」

「他の乗客にもすまないと伝えてくれるとありがたい。ご迷惑をおかけした」

「ええ、それではっ!」

 

 顔を赤くして急いで顔を引っ込めた車掌に、面倒なことにならずに済んで良かったと思いながら、彼の挙動に違和感を覚えたアステリオ。

 

「ーー失念。霊装のままでした」

「……過ぎたことは仕方ない。直ぐに着替えろ」

 

 ボンテージに近しい戦闘服を纏っている彼女を見て、気絶している二人以外の一行は自分たちの風評の低下を察したのだった。





ナイト
◼︎ ◼︎◼︎
マテリアル1『暗殺者の一族』


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胃酸で溶けゆく精神力

伏せ字にするところを無理矢理作る始末よう。
……早急に当ててくださると、こちらが執筆関連で助かります。ヽ( ̄д ̄;)ノ


「久しぶりだな、ソーナ嬢。人間界の高校生活はどうだ?」

「ええ、お久しぶりですアステリオさん。リアス共々、充実した毎日を過ごしていますよ」

 

魔王領ルシファードに到着し、会合の場へと向かうアステリオ一行は現魔王レヴィアタンの妹、ソーナ・シトリーとその眷属達に遭遇した。学生服を着ている彼女にアステリオは社交辞令ばりの挨拶を交わす。それを聞き、ソーナも同レベルの返事を返す。

その冷静沈着ぶりに彼は声を漏らした。

 

「相変わらずだな。君は」

「そちらこそ。今も昔も、眷属には振り回されている様で」

「……起こす?」

「すまないな、恋。……クラムベリー、念のためにこいつらの声を聞こえない様にしてくれ」

 

何気なく出てきた皮肉に、肌色多めに改造された中華民族衣装を纏う少女が、背中に背負う二人ーー言うまでもなく僧侶コンビだーーを軽く持ち上げアステリオに問うた。

その提案に乗るアステリオだったが、再び口喧嘩されては堪らない。音の操作に長けた『兵士(ポーン)』である少女を呼び、口封じならぬ声封じを依頼する。

 

「面倒ですが、構いません。彼らの口論は騒がしく私もうんざりしてましたし」

 

と肩を竦める彼女。その動作だけで、バラの匂いが微かに放たれる。それに対して、うっとおしい限りだ、と感じるのは、この場でアステリオただ一人だけである。

彼が反応を示さないことに気づいたのかじっと見つめてくる彼女を視界から外し、アステリオは再び前を向く。目前に顔を真っ赤にしてクラムベリーを見つめる少年が現れた。

 

「目を逸らせ、少年。棘に刺されても知らんぞ」

「匙……?」

「ーーっ、はい、何も見ていません会長!」

 

その発言は見たと言っているのと変わらないのだが。無事、少年の心が取り戻されたのを見届けた後、アステリオは未だ仄かに香りを放つ少女を睨む。具体的には派手に露出された絶対領域を。

 

「いい加減隠せ」

「ふふ、昔はよく覗いていたというのに。残念です」

「女性として、その露出は看過できないのです!」

「音々音、お前と恋にも言えることであるのは分かっているよな?」

 

妖艶な雰囲気をさらりと回避して、自身に同意して苦言を呈した少女にこれまた苦言を呈す。この三人の露出具合は男子の目の毒である。更に、彼女らのどちらもがアステリオ特製の軍服を着用した姿を確認していないことが、彼のストレスをステージアップさせていた。軍服は最も賞賛されるべき服装なのだ。

 

閑話休題(吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー)

 

精神の安定化に成功したアステリオは、恋の背中で口パクで口論し合う僧侶達を意識の死角に追いやり、再三前を向く。

 

「見苦しいところをお見せした。謝罪しよう」

「いえ……こちらが謝りたいほどです」

 

どちらも気苦労が絶えない様だ。

お互いに溜息を吐いた後に、ソーナが「そういえば」と何かを思い出したのか、ついさっき女性の太ももを激視していた少年を自身の隣に呼び出す。

 

「この子はうちの新人です。お見知りおきを」

「『兵士(ポーン)』の匙元士郎と申します!」

「ほう、見たことない顔かと思ったが、新人か。威勢が良いのはいいことだ」

 

彼女の新人紹介を受け、アステリオはそんなことを宣い、次いで「俺はアステリオ・オリアクス。オリアクス侯爵家の次期当主だ」と自己紹介する。

 

「ソーナ嬢とは二年ほどの微妙なつき合いでな。是非とも、今後会うことがあれば気安く声を掛けてくれ」

「ソーナちゃんの新人君。これは彼なりの冗談だから軽く流してあげてね」

「うおっ!?そ、そうですか」

 

自身を上級悪魔と見做さない発言に、テトが唖然としている匙に目と鼻の先まで近づいて訂正する。

顔をまたしても赤らめる匙だったが、残念ながら今のテトは男のコである。

そのことを匙に伝えてみると、「げ、リアス先輩の僧侶と同じかよ……」と彼は口を漏らす。

こいつと似たような奴がいるのなら一度会って見たいもんだな、と考えるアステリオだが、もうじきその夢は叶うことだろう。

 

「そちらは、僧侶が増えたようですね。神父服とは、何処かの聖職者を拉致したのですか?」

「あぁ、安心してくれ。神父なのは見かけだけで、中身はタバコ中毒の未成年。神も、こいつなら見逃してくれること間違いなしだ」

「み、未成年ですか。身長が2m近くあるのに……」

 

こんなことも「更に個性的な眷属が増えましたね」で片付けられる案件である。いつか「オリアクス家の眷属?あー、あの個性的な方達のことか」となっても可笑しくはない。その『いつか』は、アステリオが胃潰瘍を発症する日と言って過言ではない。

 

そんな会話を展開しながら、アステリオ一行とソーナ一行は会場前にたどり着いた。

何やら上が騒がしいが、あまり気にすることなくエレベーターに乗り、会場である階まで上がる。

 

「アステリオ、騒音に近づいている様に感じるのだが」

「奇遇だな。俺もそんな気がしている」

 

ゆったりと上昇していくエレベーターの中で、アステリオの兵士、科学者の凶真は明らかに聞こえる物音をBGMに彼へそう声を投げかけた。時折起こる大きな揺れにうんざりしながら、アステリオも同意の意を示す。

目的地に到着する寸前、一際大きな揺れと轟音が発生する。搭乗者全員が内心頬をひきつらせる中、ポーンと間抜けな音を鳴らしてエレベーターの扉が開いた。

真っ先に目に入るのは、盛大に破壊された会場の扉と散らばった料理の数々。恋が「もったいない……」と触覚の様に延びた二本のアホ毛を萎れさせながら呟く。あぁ、確かに勿体無い。散乱している料理を全て合わせたところで、彼女の腹が満たされるとは思えないが。

普段から無機質じみている瞳を細め、アステリオは目の焦点を足元からあげる。

そこには、目元がキツめなメガネ美少女とその眷属が歩き去り、それを活動的そうな黒髪の青年と紅髪の美少女を中心とした複数のグループが見送っている光景があった。

その横で眷属らしき数人に介抱されている、身体中にタトゥーを刻んでいる男を視界に入れない様にしていた彼に、キツ目の少女を見送っていた男が気づいた。

 

「これは久しぶりだな、オリアクス」

「あぁ、久しいな。で、サイラオーグ。これは何だ?」

「アガレス家とグラシャラボラス家の対立とだけ言おう」

「なるほど、察した。今さっき出て行ったのがアガレス次期当主ーーシークヴァイラ嬢か」

 

面倒くせぇ事案に巻き込まれずに済んだ様だ、とため息混じりに思うアステリオ。

後に、家柄の差の件で胃をキリキリ痛めることになるアステリオだった。



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堪忍袋はいつ切れる?

言うまでもない、ぐだった。

今回で、眷属全員が判明でしょうかね。。


「最後は俺か。オリアクス侯爵家の次期当主、アステリオ・オリアクスだ」

 

 比較的まともに生き残った椅子を使い、若手悪魔の中でも優秀な(キング)6人が円卓を囲む。アステリオから時計回りにサイラオーグ・バアル、シークヴァイラ・アガレス、ディアドラ・アスタロト、リアス・グレモリー、ソーナ・シトリーと言った具合に座っていた。彼らの眷属は、それぞれの王の後ろに立っているりら。

 そんな状態で6人は互いに軽く自己紹介をしていた。最後のオリアクスが自己紹介を終え、話は雑談へと向かう。

 

「大王、大公、現魔王輩出家ときて我がオリアクス侯爵家。場違いに感じるのは俺だけか?」

「実力が有ったからこそ、俺たちと肩を並べている。胸を張れ、お前は強い」

「前まで『スプーン曲げ』と呼ばれていたとは思えませんしね」

 

 ディアドラの発した一単語に、「ぐっ」と声を漏らすアステリオ。

 その様を見て、この場が同情する者と不思議そうな表情をする者の2つにきっぱり分かれる。

 その後者側の一人ーーグレモリー眷属の唯一の兵士、兵頭一誠が自身の主にその意を聞く。

 

「部長、『スプーン曲げ』ってあだ名ですか?」

「おそらくね。私はあまり詳しくないのだけれど」

 

 彼女もその意を知らなかった。そこで、リアスは親友であるソーナに目を向ける。ソーナは目をそらし、アステリオに困惑した様な表情を見せた。

 どうやら話してもいいか、迷っているらしい。彼はそれを見つめ、片手で額を抑える。

 

「リアス嬢、俺から話させてもらう」

「俺は故オロバス家の『歪曲の魔力』が何らかの影響で持ち合わせている。だが、どうも俺には魔術の才というものが欠けていた様でな」

  「せいぜい出来たことが『スプーン曲げ』って訳なんだ。つまり、そのあだ名は『宝の持ち腐れ』を意味する蔑称ということさ」

 

 アステリオが独白しているところに、テトは彼の右膝の上に座ってしゃしゃり出る。その目つきは普段の飄々としたものよりも幾分か鋭さを持っており、美少女センサーの反応を感知した一誠が目を合わせた瞬間、身体を少し震わせる。

 テトの帽子が視界を遮っているため、アステリオにはテトがどんな目をしているかは分からないが、取り敢えず膝上からの撤去を目的に、地につけているつま先を支点に両膝を上げる。彼の膝の上に胡座をかいているテトも一緒に上がり、膝を机にぶつけ声を上げることになった。

 

「おわっ、とぁい!?ーーりょ、両膝が……」

「場を弁えろ、テト」

 

「はいはい、わかったよー」と言い捨て、トコトコと元いた場所へ戻っていくテト。その姿を悪魔総勢は違和感を感じたかの様に凝視する。

 

「何故でしょうか。彼女の姿を見た瞬間、僅かに頭痛がしたのですが」

「……気のせいではないか?あと、あいつは男だ」

「シークヴァイラ、こいつの眷属は何かとおかしいところがある。今はそれだけを覚えておけ」

 

 心当たりがあり過ぎる現象にアステリオは目を伏せながら誤魔化す。ジーッと睨んで来るシークヴァイラを見て、事情を知っているサイラオーグがアステリオを支援することで、彼に関する話題は終わりを迎える。

 その支援に、アステリオの眷属の一部が反応するが、自覚があるようで何より。と彼らの王はスルーする。

 

「ーーえっ!男なのかよ!?」

「イッセー君、声が大きいよ」

「だって、あの子間違いなく美少女で……まさかギャスパーと同類!?」

「い、イッセー先輩……僕の名前を大きな声で呼ばないでぇ」

 

 兵藤一誠の驚きに満ちた声も頑張ってスルーしたのだった。正しくは、ギャスパーと呼ばれたリアスの眷属が女であるという、より大きい驚きに塗りつぶされていた。

 

「ん、女だと思ってた。あの子変装の才能あるよ」(恋)

「しかし、使い道の分からない情報ですね」(クラムベリー)

「恋殿からの忠言なのですぞ。有益なものに決まってるのです!」 (音々音)

「お前はテトとチェスでもしてろ。正直、面倒だ」(◼︎◼︎)

「ズバッと言い過ぎではないか、って俺に八つ当たりするな、音々音ー!」(凶真)

「うるさい、この無精髭!飛び膝蹴りしてやるのです!」(音々音)

「貴様のそれは飛び膝蹴りではなく、ライダーキックではないかーーッ!!」(凶真)

「チェス盤なら有る……て、こりゃ聞いてないか」(テト)

 

 もうやだ何このカオス。現実をもスルーしかねないアステリオの両肩に置かれる二つの手。ソーナとサイラオーグの手だ。

 

「頑張れ」「頑張ってください」

「お前ら、少しは俺の身になってはくれないのか?」

 

 慈悲などない。だって、悪魔だもん。

 

 

 その頃、円卓から少々離れた場所では、無言の争いが繰り広げられていたりする。

 

「     、 !」

「    、    !?」

 

 鎖によって背中合わせの状態で縛られているめぐみんとステイルを見て、「これ、どうすればいいのよ」と愚痴を漏らす耶倶矢。その言葉に縛っている張本人、夕弦は首を振るだけ。

 

「残念。まず、アステリオがお二人のことを忘れている様です」

「えー……ちょっと待ってて。アステリオとクラムベリーに聞いて来る」

 

 夕弦の発言に、耶倶矢は何度か表情を変えた。最初は流石にそれはないでしょ、と信憑性の薄さに眉をひそめ、次にアステリオの方を見て、あの状況だと忘れるかも、と軽く頭を縦に振る。片割れとは違って、感情が顔によく現れている。そして、他人に気遣いが出来るいい子だ。

 

「……すまない、少し席を外させてもらう。ーーお前ら、来い!」

 

 周囲に意を伝えると、彼は眷属全員に聞こえる程度に声を荒げ、部屋の外へと向かう。その声に反応してか、アステリオの眷属は彼を一斉に見る。焦り、安堵、面倒、呆れと様々な表情を浮かべながらも、彼の後を追い、部屋を出る。

 

「間に合わなかった……飛び火しないといいなー」

 

 行動は遅過ぎたことを悔やんでもしょうがないと、耶倶矢は皆に続いて外に出る。この時、カオスは消え去った。

 

「今度、あいつに胃薬でもプレゼントした方がいいかもな?」

「それはそれで、彼の心労が増えそうですが」

 

 アステリオが歯を食いしばる様に顔を歪めながら去ったのを見届けた二人の思考は「相変わらず苦労しているな」という言葉で統一していた。




・ナイト
東 ■■
マテリアル2『東のアズマ』


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マテリアル集

こちらは、活動報告に記載していたマテリアルです↓


・クイーン 遊戯の神 テト

マテリアル1

『最弱の神格かつ唯一神』

マテリアル2

『十の盟約』

マテリアル3

『出典:ノーゲーム・ノーライフ』

マテリアル√

『アステリオの一番最初の眷属で、他作品からキャラを呼び込んでいる張本人。戦闘においては全く役に立たないものの、戦略・戦術・ゲームにおいては気色悪さを覚えるほど。問題児シリーズの【契約書類(ギアスロール)】を使って悪戯や暇潰しをよく行う。意図的とは限らずにゲームに負けることが微々あり、欲望を抑えられなかった頃のアステリオとの賭けに負けた際に、力を制限することで女性になれるようになってしまった。なお、本人はそのことさえも楽しんでいる』

 

・ビショップ めぐみん

マテリアル1

『冒険者』

マテリアル2

『紅魔族の天才』

マテリアル3

『出典:この素晴らしい世界に祝福を!』

マテリアル√

『テトにより呼び込まれた5番目の眷属。オリアクス眷属厨二病三座が一席(本人は否定している)。僧侶(ビショップ)の駒のお陰で、総魔力は『爆裂魔法(エクスプロージョン)』を一度放った後逃走できるほどに増加。元いた世界のチェスとのルールの違いに苦戦している。どっかの『爆弾女王(ボム・クイーン)』とは仲が良いつもり』

 

・ナイト 八舞 耶倶矢

マテリアル1

『風の精霊』

マテリアル2

穿つ者(エル・レエム)

マテリアル3

『出典:デート・ア・ライブ』

マテリアル√

『テトがアステリオとのゲームに負けて呼び出すことになった6、または7番目の眷属。オリアクス眷属厨二病三座が一席なのだが、最近はなりを潜めている。元より身体能力は高く、機動力に関しては騎士(ナイト)の駒によって得物の突撃槍を持ちながらでもかなり早い。夕弦と共に行動することで精霊としての力を十全に発揮し、眷属随一の遠距離アタッカーとなる。まさしく、二人はプ○キュ○!である』

 

・ルーク 八舞 夕弦

マテリアル1

『風の精霊』

マテリアル2

縛める者(エル・ナハシュ)

マテリアル3

『出典:デート・ア・ライブ』

マテリアル√

『テトがアステリオとの賭けに負けて呼び出すことになった6、または7番目の眷属。耶倶矢と同一の容姿(Bは別)だが、口調は彼女の方が冷静。戦車(ユーク)ではあるが、得物のペンドゥラムを使った搦め手が最も得意。ペンドゥラムは耶倶矢の突撃槍と合体することで、超巨大な弓矢『天を駆ける者(エル・カナフ)』に変形でき、それにやる一撃は全てを吹き飛ばす。これぞス○ラッ○ュ・ス○ー』

 

・ビショップ ステイル=マグヌス

マテリアル1

『炎のルーン魔術師』

マテリアル2

『我が名が最強である理由をここに証明する』

マテリアル3

『出典:とある魔術の禁書目録』

マテリアル√

『テトが呼び出した10番目の眷属。数少ない男の眷属。基本防衛特化。駒の影響で大魔術『魔女狩りの王(イノケンティウス)』を二体まで召喚でき、相手に火傷による継続ダメージも与えられる。しかし体力はない。自身の魔法名である『Fortis931』を『ほんとにくさい』と呼んだとんがり帽を燃やした前科があったりするが、オリアクス眷属内では日常茶飯事。気にした方の負けである』

 

・ルーク 恋(呂布奉先)

マテリアル1

『天下無敵』

マテリアル2

『虎牢関の飛将軍』

マテリアル3

『出典:真・恋姫†無双』

マテリアル√

『アステリオがテトとの交渉に成功して、呼び出されることになった3番目の眷属。方天画戟を持てば天下無敵。その類いまれな直感は仕掛けられた罠をも見抜く。食料的な方面で燃費が悪いが、食事中の様はとても癒され、その時は誰もが寛容と化す。武将という存在であったがために、その武功は特攻や遊撃もこなせるが、虎牢関の戦いの様な防衛線でこそ最も輝く。身体的にも、精神的にも、彼女の力を一見してから攻めこむことができる猛者は殆どいないだろう。動物をこよなく愛し、オリアクス邸の客室がいっぱいになるほどに飼っていたりする。その部屋の掃除は(アステリオ)の仕事、いいね?』

 

・ポーン 森の音楽家 クラムベリー

マテリアル1

『魔法少女』

マテリアル2

『森の音楽家』

マテリアル3

『出典:魔法少女育成計画』

マテリアル√

『アステリオが提案した召喚方法、『ガチャ』で引き当てた二番目の眷属。下半分の露出が激しいエルフの美少女。音楽を愛し、バイオリンやピアノで演奏を行うことが出来る。のだが、(アステリオにとって)不運なことに、気が狂って直ぐの状態で呼び出されているので、高い戦闘能力と戦闘狂を持ち合わせている。唯一の救いは、『クラムベリーの子供たち』を創造する前であることか。彼女の魔法である『音の操作』は非常に使い勝手がよく、敵の錯乱は勿論、音波爆弾等の攻撃手段にも使える。現在、テトとのチェスで敗北したため「攻撃する際、技名を叫ぶ」ことになってしまっている』

 

・ポーン 鳳凰院 凶真

マテリアル1

『マッドサイエンティスト』

マテリアル2

『孤独の観測者』

マテリアル3

『出典:STEINS;GATE』

マテリアル√

『多数回の時空間に対する干渉によって生じたエラーが一つ。世界軸が何度も変化したことを察知したアステリオによって捕捉された。アステリオの八番目の眷属にして、厨二病三座が一席。戦闘能力はほぼゼロ、狂気のマッドサイエンティストを名乗っているくせして知能指数はそこそこレベルとポーンの駒一つで足りる才能を持ち合わせている。しかし、彼には切り札がある。そうーー偶然の産物(タイムマシン)だ。悪魔産の謎技術で持ち運び可能となったDメール受信機を破壊せずに、彼に勝つことは難しい』

 

・ポーン 音々音(陳宮公台)

マテリアル1

『直情軍師』

マテリアル2

『真紅の呂旗』

マテリアル3

『真・恋姫†無双』

マテリアル√

『恋殿が行くのなら、ねねも行くのですぞ!と呂布にひっついてきた特典(おまけ)。一応、アステリオの四番目の眷属。必殺技は『ちんきゅーキック(別名ちんきゅー飛び膝蹴り)』。相手は死ぬ(わけがない)。考えていることがかなり分かりやすいという軍師として大きな弱点があるが、策は奇抜なものから王道へと多岐にわたる。四六時中、恋とともに行動しており、それは戦闘中でも同じ。恋が戦う時は、『真紅の呂旗』を掲げて応援している。旗を持ち上げるほどの力はどこから来ているかだって?(恋殿LOVE)だよ!』



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