シスコンな俺とお兄ちゃんっ子な私 (ミツフミ)
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第1話 聞こえてたよね!

ほんわか「第1話♪」
ほのぼの「はじまるのです~。」




「ん、ん~。漸く終わったぁ~。」

 

 手に持っていたシャーペンを机に投げた俺は、椅子にもたれかかって大きく伸びをする。

 ずっと同じ姿勢だったせいで、こり固まった腰が「パチン」と心地いい音を鳴らした。

 

 

「ふぁぁぁ。全くヒラ先のやろう、受験対策だ何だの言いながらとんでもねえ量の課題出しやがって……。

 ただ単に生徒の苦しむ姿見て愉悦に浸りたいだけだろ。

 ってあいつはどこの麻婆神父だよ。」

 

 欠伸をしながら、俺はたった今やり終えた数学の課題をこの課題を出した担任の代わりに睨みつけ、ぶつくさと文句と自分にツッコミを入れながら明日の授業に必要な教材と共に鞄の中にしまっていく。

 

 その最中にまた欠伸が出た。

 

 

「さて、と。明日の準備もすんだことだし、そろそろ寝るとするか。

 ……ってうわっ、もう1時過ぎてるじゃねえか! そりゃ眠いはずだな。」

 

 振り返った先にある壁時計の針は共に1を指していて、いつも寝ている時間を3時間以上もオーバーしている事を示していた。

 さっきから頻繁に欠伸をするのはそのせいなのだろう。

 

 

「……明日起きれっかな。」

 

 そうぼやきながらベッドの上に置いてあるスマホを手に取ってアラームの音量をいつも設定している8から最大の16に変更してベッドの枕元に置く。

 中学3年の俺にとって、1月の後半である今の時期は受験シーズン追い込みの時期。

 万が一にも寝坊して遅刻でもしたら麻婆神父……もとい担任によって大変な目に遭ってしまうのだ。

 

 

 

『ーー』

「……ん?」

 

 そんなこんなで寝る準備も万端になり、布団をはぐったタイミングでふと聞こえた音に、その場で動きを止めてドアの方に目を向ける。

 動きを止めたのはドアをノックする音が聞こえたような気がしたからだ。

 

 

「……気のせい、か?」

 

 数秒経ってからそう呟く。

 うちは家族4人暮らしで、共働きの両親は今日は2人とも仕事の関係でまだ帰っていない。

 そして今年で小5になる4歳年下の妹は遅くても10時には寝てしまう為にこんな遅くまで起きてるはずもない。

 

 

「……やっぱり気のせいだったか。」

 

 

 

 布団をはぐる雑音があって、よく聞こえなかった為に気のせいって事にして布団の中に入った俺は、枕元に置いてあるリモコンで明かりを消した。

 

 

 

『おにいちゃん……。』

 

 

「うおぉ!」

 

 灯りが消えたと同時にか細い声がドアの方から聞こえてきておもわず飛び上がる。

 

 ビックリして煩い心臓を無視しながら俺はリモコンで明かりを点け、大股でドアに近付き取っ手に手をかけると勢いよく横にスライドさせた。

 

 

「! 早希!?」

 

 ドアのすぐ先にはピンクのパジャマを着た、妹の早希(さき)が涙目になりながら、お気に入りのクマのぬいぐるみを抱えて立っていた。

 

 

「お兄ちゃぁん!」

 

 ドアが開いた瞬間、早希は腰まである長くて綺麗な黒髪を揺らして、抱えているクマのぬいぐるみごとポフリと俺の胸に抱き着いてくる。

 

 

「早希?」

 

 いつもならとっくに寝ている筈の妹の、いつもと違う様子に疑問を感じながら、いつも通り抱き着いてきた早希の頭を撫でていると、

 

「うぅ、ひどいよ。わたしを無視して寝ようとするなんて……。」

 

 若干涙声で怒っていながらもどこか安心した色を含んだその声が、俺の顔より20cm以上下から聞こえてきた。

 

 

「えっと、悪い。まさか早希がまだ起きているなんて思ってなかったし、ノックの音も気のせいだと思ってな。

 ……それでどうしたんだ? こんな夜遅くに。」

 

 素直に謝って、早希がこんな夜遅くに俺の部屋に来た理由を尋ねると、早希の小さくて華奢な肩がピクリとはねる。

 そして半分隠れて見えない早希の顔が見る見る赤くなっていった。

 

 

「早希?」

 

 そんな妹の様子に再び疑問を感じながら再度声をかけると、早希はゆっくりと俺から1歩後ろに下がって顔を上げる。

 

 その顔はリンゴみたいに真っ赤で、しばらく見つめていると早希は恥ずかしそうな表情でぎゅーっとクマのぬいぐるみを抱きしめて俯く。

 

 

「えっと、えっとね、その……お兄ちゃんに、お願いがあって来たの。」

「お願い?」

 

 赤い顔で俯いて何故かもじもじしながら、俺の言葉にコクリと頷く妹の姿を見て俺の頭の上では疑問符が浮ぶ。

 

 とりあえず、早希が話しやすいようにしゃがんで目線の高さを合わせる。

 俯いて見えなかった早希の顔が見えるようになり、赤の少し入った茶色の大きな瞳が、おずおずと不安げに動いているのが分かった。

 

「お願いって何?」

 

 

「! えっと、私と、今日、いっしょに――、」

「ん?」

 

 上目遣いになりながらお願いの内容を言ったようだったが、尻すぼみに小さくなった声は肝心のお願いの内容を言う頃には聞き取れる大きさではなかった。

 

 

「ごめん、聞き取れなかった。もう一度言ってくれないか?」

「うぅ///」

 

 だからもう一度言って欲しいと頼むと、早希は顔をまた赤くさせて、そして抱えているぬいぐるみの後頭部に顔を埋めてしばらくした後、

 

 

 

 

 

 

 

「えっとね、今日、一緒に寝て欲しいの。」

 

 

 

 

 顔をうずめたまま早希は、か細い声でお願いの内容を口にした。

 

 

 

「……。」

「……。」

 

 俺達の間に沈黙が流れる。

 聞こえて来るのは壁にかけてある時計の針の音だけ。

 

 そして数秒した後、先に沈黙を破ったのは、

 

 

 

「ごめーん、聞き取れなかったなぁ。だからもう一度言ってくれない?」

 

 

 にやけながら言った俺のその言葉だった。

 

 

「聞こえてたよね! 今のは絶対聞こえてたよね!!」

 

 そんな俺の表情を声だけで察知した早希がぬいぐるみから顔を上げる。

 

 

「聞こえてないよ〜?

 早希が『一緒に寝て欲しい』って言った事なんてぜぇんぜぇん聞こえてないよ〜。」

 

「ちゃんと聞こえてるんじゃん!

 うぅ〜///」

 

 

 再びぬいぐるみの後頭部に顔をうずめる早希。

 でもぬいぐるみの後頭部では、赤くなったその顔を完全に隠す事は出来ず、傍から見えるその頬はさっきより赤くなっていた。

 

 

「悪い悪い。まさか小5にもなって一緒に寝ようって言って来るなんてな……くっくっくっ。」

 

「わ、笑わないでよ!」

 

「えー、笑ってねぇよ〜。可笑しいって気持ちから顔の表情をくずしてそれを声にしてるだけだよ。」

 

「それ笑ってるってことだよね! グ◯グル先生で調べた“笑う”たって言葉の意味だよね!」

 

「違う! 大◯泉先生だ!」

 

「同じじゃん! もう!!」

 

 

「ははは、まったく〜、早希はまだまだ甘えん坊さんだな。」

 

「あ、甘えん坊じゃないもん///

 ただちょっと今日は怖い夢を見ちゃったから眠れなくなっただけだもん!」

 

「そっかそっか。怖い夢見て1人じゃ眠れなくなったから俺の所に来たのか~。

 ふふっ。早希はまだまだ子供で(・・・)甘えん坊さんだな。」

 

「むぅ~~///」

 

 

 妹から頼られる。それは兄として誇らしい物だが、それで嬉しくなってついついからかい過ぎた為か、早希は頬を膨らませ抱えているクマのぬいぐるみで俺にボフボフして来た。

 

「ちょっ、早希っ」

 

「むぅ〜〜////」

 

 

 ぬいぐるみで叩かれても全くダメージないのに赤い顔で必死になって叩いてくる妹の可愛らしい姿につい頬をほころばせながら、流石にからかい過ぎたなと自重して「悪かった、ごめんごめん。」と降参する。

 

 

「……もう、しない?」

 

 いつでも再び攻撃できるようにぬいぐるみを構えて、むすぅ、と頬を膨らませている早希。

 そんな妹の姿に、微笑ましい物を感じながら「もうしないよ」と答えると、少し間の開いた後「じゃあ、一緒に寝てくれたら許す//」と赤い顔で恥ずかしそうにそんな条件を言う早希がもの凄く可愛いらしくて、再びからかいそうになってしまったのを我慢するのが大変だった。



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第2話 ぎゅっとしてなでなでして?

シリアス「へっ、第2話だ。」
ほんわか「いっくよ~♪」



ともかく一緒に寝る事になった俺達。

先に俺が布団に入って早希の入るスペースを作ってやると、さっきのむすぅとした表情は何処へやら。

机の脇にぬいぐるみを置いた早希が嬉しそうな顔で俺の作ったスペースに潜り込んできた。

 

 

 

 

早希がまだ小さいとは言っても1人用のベッドに2人で寝転べば狭く、少し動いただけで互いの肩が当たってしまう。

 

「早希、狭くないか?」

「全然大丈夫だよ。むしろいつもよりお兄ちゃんの近くにいれるから嬉しいな♪」

 

でもそんな事気にもならないのか、隣の妹は満面の笑みを浮かべて離れるどころか逆に俺の左腕に抱き着いて猫みたい頭をスリスリさせてくる。

 

 

(何このかわいいニャンコ、天使か!(注:妹です))

 

 

「早希はホント甘えん坊だな。」

「むぅー今日は良いの。それよりお兄ちゃん、早く明かり消して?」

「はいはい。消すぞ~」

「は-い♪」

 

頭で早希の可愛さに悶えながら、それを表に出す事なく早希に急かされながら俺は枕元に置いてあるリモコンで部屋の明かりを消す。

 

 

「お兄ちゃんと一緒に寝るの久しぶりだね♪」

 

視界が真っ暗になってすぐ、左から早希の嬉しそうな声が聞こえてくる。

その声に俺は「そうだな。」と返すと、さっきから気になっていた事を聞く事にした。

 

 

「なぁ早希、早希はずっと廊下にいたのか?」

 

「!」

 

 

そう、早希がずっと廊下にいた事について。

 

 

それについて聞いた瞬間、左腕に抱き着いている早希の身体がピクンと動く。

 

 

「そ、そうだよ。」

 

そして返って来た言葉はいつも元気な早希にしては少し元気がなかった。

 

 

「寒かったろ。気にせずいつもみたいに入って来れば良かったのに。」

 

廊下でずっと待っていた。その行動はいつも勉強中だろうと着替え中だろうとノックもなしにいきなり入ってくる早希にしては違和感のあるものだった。

 

「う、うん。私もそうしたかったんだけど、でも今日は見ちゃった夢のせいでちょっと入りにくくて……。」

「夢? そういえば怖い夢見たってさっき言ってたな。……どんな夢だったんだ?」

「……。」

「早希?」

 

その違和感の原因はどうやら早希が見た夢のようだ。

だがどんな夢を見たのかと聞いてみたら、早希は俺の左腕をギュッと抱きしめて黙ってしまう。

 

 

(まぁ無理に言わせる必要はないか。)

「なぁ早希、嫌なら別に言う必要はーー」

「――いなくなっちゃう夢。」

「……え?」

 

「……お兄ちゃんがいなくなっちゃう夢、見たの。

私の前から突然お兄ちゃんがいなくなって、私はお兄ちゃんを探すの。でもどこを探しても、どれだけ探してもお兄ちゃんは見つからない。

……そんな夢だったの。」

 

 

「……。」

 

早希の抱きつく力が強まる。そして左腕越しに早希の身体が震えているのを感じた。

 

「ねぇお兄ちゃん。お兄ちゃんはここにいるよね? 私の前からいなくなったりしないよね?」

 

暗闇に慣れてきた目が涙目で不安そうに俺のシャツをぎゅっと掴んで俺を見つめる早希を映す。

 

そんな捨てられた仔犬みたいになっている早希を安心させるために俺はニヤリと笑って、

 

 

「当たり前だろ? 俺は早希の“お兄ちゃん”なんだから。」

「ふぁ!」

 

強張って震えている妹を抱き寄せ頭を撫でる。

ゆっくり優しく。

 

 

突然の事でビックリした早希だったが、状況を理解したのか、次第に強張っていた早希の身体から徐々に力が抜けていき俺に身体を預けて来る。

 

「お兄ちゃんにぎゅっとされたまま、なでなでされるのって安心するからすき。

ねぇお兄ちゃん。私が寝るまでぎゅっとしてなでなでして?」

 

力が抜けた事で一気に眠気が襲って来たのか、それとも久しぶりの添い寝で気持ちまで子供に戻ったのか、とろんとした表情でおねだりする早希は昔みたいに甘えん坊だった。

 

 

 

「え~、俺もだいぶ眠いんだけどな。……まぁたまには良いか。」

 

一瞬頭を撫でるのをやめようと思ったが、それは早希の顔を見て思いとどまる。

だって、こんなにも安心しきっている早希()の表情を崩したくなかったから。

 

ってこんな事言ったら俺がまるでシスコンみたいじゃないか。

……まぁ否定はしないけど。

 

 

「ありがとう、お兄ちゃん。なんか安心したら眠くなってきちゃった……。」

「もうこんな時間だからな。俺はずっと傍にいるから安心して寝ろよ。」

「わかった。おやすみ、おにい、ちゃん。」

 

そう言って瞼を閉じた早希は本当に眠たかったらしい。

数秒後には「すぅーすぅー」と可愛らしい寝息を立て始めていた。

 

 

(“俺は早希のお兄ちゃん”……か。)

手を動かしながらかわいい妹のかわいい寝顔から目を離す。

そして代わりに視界に入ってきた天井を見ながら、さっき自分が言ったセリフを思い出すのと同時にため息が漏れた。

 

 

“俺は早希のお兄ちゃん”。その言葉は嘘だ。

 

俺と早希は本当の兄妹(きょうだい)ではなく、血縁的に見れば何も繋がっていない義兄妹。いうなれば唯の他人だ。

 

 

俺は家族の誰とも血が繋がっていない。

もちろん父さんと母さんともだ。

 

 

 

 

 

そしてその事実を知らないのは家族の中では早希だけ。

 

 

俺がこの家に来て、年数にして8年。

それだけの間、俺や父さんや母さんは早希に嘘を吐き続けている。

 

 

(8年、か……。もう、そんなになるのか。)

 

早希と出会ってからの年数を数えた俺はその長さに驚く。

8年。その年月は15歳の俺にとってすれば、早希に出会う前より出会ってからの方が長い事を示していた。

 

 

俺は天井に向けていた視線を再度隣で眠る早希に向ける。

 

さっきは“まだまだ子供で甘えん坊さん”と、からかったものの、俺の腕の中でスヤスヤと眠っている早希はこの8年でだいぶ女の子らしくなった。

 

寸胴だった身体はささやかながらも丸みを帯びた凹凸のあるものへとなってきたし、顔つきも幼くあどけないものから少女の可愛らしいものへと変わってきているように思う。

きっと……いや絶対に後3,4年もすれば美人に成長するだろう。

 

 

それ位に絶対的自信を持って言える程、早希は可愛く魅力的な女の子だ。

 

 

 

「……。」

 

でも同時に不安になる。

義理とはいえ妹相手に俺が変な感情を起さないか、という不安が。

 

今はまだ良い。けどこの先成長していく妹を見て自分が耐える事が出来る保証はどこにもない。

 

 

そしてきっと、こんな思考に辿り着いている時点で既にもう、手遅れな部分はあるのだろう。

 

 

(でも今だけは、願わくばいつまでも。俺は早希の“お兄ちゃん”であり続けたいな。)

 

そんな事を想いながら、俺も瞳を閉じた。

すぐそばで眠っている早希の体温を感じながら……。



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第3話 寝てる、よね?

ほのぼの「第3話〜、」
ハプニング「レッツで〜、ゴーー!」



早希side

 

(あれ?今、何時だろう……。)

まどろんで浅くなった眠りの中。

その中で私はふと今の時間が気になって、横向きのまま枕元に手を伸ばそうとする、

 

「?」

 

けど、私の腕は包んでいる何かによって遮られ動かす事が出来なかった。

 

(……何だろう。身体、何かに包まれてる。

 

お布団……じゃないね? ちょっと固いし。なにかな?

……けどあったかいし、それになんだか落ち着く匂い。)

 

 

心地良い暖かさに包まれて、呼吸する度に安心する匂いが鼻をくすぐる。

その心地よさに包まれて、もうひと眠りしたい誘惑をなんとか逸らして、私は今自分を包んでいるものが何かを確かめるために瞳を開けた。

 

 

 

 

 

「――!//」

 

 

とたんに体温が高くなる。

 

そして叫びそうになるのを必死で抑え込んだ。

 

 

ビックリした。

だって目の前に私の大好きなお兄ちゃんの寝顔があったから。

 

ビックリして反射的に飛び退こうとしたけど、なんでか身体が動かない。

顔を動かして視線を下げると、身体が動かない理由を理解する。

 

 

(はわわわ//)

 

 

身体が更に暑くなる。

だって私は今、お兄ちゃんに抱きしめられているんだから。

 

 

(えぇっ!私今お兄ちゃんに抱きしめられちゃってるよ!

やった!……じゃなくて!

……あぁ違うお兄ちゃんに抱きしめられているのは大好きなんだけど今はそうじゃなくて、えーとえーと……)

 

現状把握のために冷静にならなきゃいけないのに、お兄ちゃんに抱きしめられている。

ただそれだけで私は気持ちがフワフワして全然冷静になれない。

 

 

だから私は一度落ち着くために、

 

 

お兄ちゃんに思いっきり抱きついた。

 

 

「ふにぁ〜♪」

 

睡眠中でポカポカのお兄ちゃんの身体に抱きつくと優しくて暖かい体温を感じる。

 

 

「クウゥーン♪」

 

呼吸する度に目一杯お兄ちゃんのいい匂いが私を満たしてくれる。

 

 

「キュー♪」

 

そして胸に当てた耳から一定のリズムで聴こえてくるお兄ちゃんの心臓の音。

 

(えへへ、お兄ちゃんの体温。お兄ちゃんの匂い。お兄ちゃんの心臓の音。)

 

 

どれも私を幸せな気持ちにさせてくれる。

そしてお兄ちゃんに思いっきり抱きついた時、

 

「〜〜〜!」

 

身体がビクンと跳ねる。

 

「えへへへ///お兄ちゃんしぇ()ーぶん、ほきゅーかんりょ〜♪」

 

お兄ちゃんを堪能した私は身体を少し離す。

 

「えへへ、ちょっとちゃ()んのうしすぎちゃった」

 

堪能し過ぎたせいで幸せな気分になってるから少ししたったらずだ。

 

お兄ちゃん成分は私が活動するのに必要不可欠なもの。

 

私にとっての原動力なのだ。

 

 

 

小さい頃から私の傍にはいつもお兄ちゃんがいてくれた。

よく友達からもお兄ちゃんっ子だと言われるし、自分でもそう思う。

 

だってお兄ちゃんってカッコいいんだもん。

 

 

昨夜みたいにちょっといじわるな時もあるけど、いつも私の事をとても大切に思ってくれるし、優しいし、運動神経抜群だし、爽やかだし、頭良いし、お料理も出来るし、私の学校でも密かなファンクラブがあるしーー

 

挙げればキリがない位、とにかく私はお兄ちゃんが大好きなのだ。

 

 

「……。」

 

でもこの気持ちは持っちゃいけない感情だ。

 

だって、私達は血の繋がってる兄妹(・・・・・・・・・)だから、私とお兄ちゃんが将来一緒になる事はありえない。

誰よりもお兄ちゃんの事が“大好き”なのに、“血の繋がった兄妹”というだけで私のこの気持ちをお兄ちゃんに伝える事が出来ないのだ。

 

 

 

(だから……)

 

 

視線をお兄ちゃんの顔に向ける。

起きている時はカッコいいのに、あどけない表情で「すーすー」と寝息を立ててるお兄ちゃんの顔はどこかかわいくて、そんないつもと違うギャップは見つめているだけで胸がキュンとする。

 

そんな誰も知らないお兄ちゃんの寝顔をいつまでも堪能したい。

けど、残された時間はあまり多くない。

もう少しでお兄ちゃんが起きる時間だから。

 

 

思い立ったら即時決行だ。

 

 

「寝てる、よね?

……大丈夫、ぐっすり寝てる。」

 

私はお兄ちゃんが寝てる事を確認して、視線をお兄ちゃんの顔から唇に移動させて、溢れてきたツバをゴクリと飲み込む。

 

 

「ハァハァ。おに、いちゃん」

 

これからする事を想像してバクバク高鳴る鼓動に速まって荒くなる息。

そのせいでより暖かくなってきた身体をお兄ちゃんを起こさないようにゆっくり移動させてお兄ちゃんの顔に私の顔を寄せていく。

 

狙いはお兄ちゃんの唇。そこに向けて私はゆっくり顔を近づけていく。

 

そしてーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヂリリリリ!

 

 

「ふにゃぁ!」

 

 

 

すぐ傍でお兄ちゃんのスマホのアラーム音が鳴り響いた。

そしてその音にビックリした拍子に、私はお兄ちゃんに思いっきり抱き付いてしまう。

 

……つまり、今私とお兄ちゃんは抱き合っている状態だ。

 

 

「ん、んんぅ……。あぁ、おはよう、早希。」

「!」

 

そしてアラーム音のせいか、それともそのアラームの音にビックリした私が大きな声を出しちゃったせいか、タイミング悪くお兄ちゃんが目を覚ましてしまった。

 

 

「? どうした? 顔赤いぞ。」

 

キョトンと首を傾げるお兄ちゃん。

その瞳の中で慌てた私の顔が見えるくらい間近な距離。

 

「ふぇっ! なななんでもないよっ!

じゃあ、お兄ちゃん私部屋戻ってるからねっ!」

 

 

そんな至近距離で見つめられる事に耐え切れなくなって、私は慌てて逃げるようにお兄ちゃんの部屋を後にする。

 

(むぅ、アラームめ。

許すまじ!)

 

後ちょっとのところで遮ったアラームの音にちょっぴり恨みを込めながら。



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第4話未 悠樹

悠樹side

 

「……なんだったんだ?」

 

 

 まるで逃げるように早足で俺の部屋から出て行った早希の後ろ姿に首を傾げる。

多分漫画とかなら今俺の頭には?マークが浮かんでるのだろう。

 

 そう言えば気のせいか早希の顔が赤かったような……。

 

「早希、何してたんだろう?

 ……なんか早希の顔が寸前まで迫ってきてたような気がするけど。」

 

 

 意識が覚醒する前、浅い眠りの時に早希がすぐ側で何かブツブツ言っていた気配があった。

 けど寝ていたせいで何を言っていたのかまでは分からなかった。

 

 

「もしかしてキスでもしようとしてた……とか?

 

 

 ……ありえないな。」

 

 

 一瞬浮かんだその考えは瞬時にありえないと結論にいたる。

 

 早希は家の外中関わらずよく腰や腕に抱き付いてきたり、着替えている時に突入してきたり、俺がいるいないに関係なく俺のベットに潜り込んでいたりするけど、それはただ俺に甘えているだけだ。

 

 流石にキスまではしてこないだろう。

 

 

 

 そもそも、早希がこんな風に育ったのはこの家の環境が原因のような気がする。

 

 うちの両親が共働きでそんな両親を少しでも助けたかった俺は、早希が幼稚園に通っていた時は夕方、幼稚園が終わる時間まで友達の家等で遊んで時間を潰して早希を迎えに行っていた。

 

 早希が小学生になってからは、俺がどこかへ遊びに出ると早希が家に1人になってしまう為、放課後はどこかにも出かける事や友達の家に遊びに行ったりせずにまっすぐ家に帰って先に帰ってる妹とずっと遊んでいた。

 

 たとえ放課後に友達と遊ぶとしても必ずうちに呼んでいたし、呼ぶ相手も早希をいじめそうなわんぱくな奴は呼ばず、姉か妹がいて性格がおとなしい、早希も一緒になって遊んでも問題ない奴だけしか呼ばなかった。

 

 

 だってクラスの奴より早希の方が大事な俺にとって、かわいい早希()に害を及ぼす奴(イコール)友達じゃないって形式がその当時から頭の中に成り立っていたからだ。

 

 

 

 ……そう考えると小学生の時から友達の冬華(とうか)って、3つ年上の姉さんがいるし、性格もその時から穏やかで面倒見も良く、早希とも一緒に遊んでくれて本当に良い奴だよな。

 

 

 

 

 まぁそんな風に、幼少期俺と一緒にいたおかげ(せい)で、早希はお兄ちゃんっ子の甘えん坊に育った。

 

 どの位甘えん坊かというと、中1の時に知り合った俺と同じく血の繋がらない妹を持つ音緒(おとお)が、俺の話を聞いて若干引いてしまう位に……。

 

 ……まぁ血の繋がってない妹がいるという同じ境遇だとしても音緒ん家の場合、あいつと妹さんとは1歳しか離れてないし、お互いが血縁関係じゃない事も知っている。

 

 それに友達が出来るまで遊び相手が俺しかいなかった早希とは違って、あいつん家は音緒以外にもおじいさんと10歳年上の姉がいるあの子とじゃ、事情が違ってくるけどな。

 

 

 

 

「……ん?」

 

 

 そんな事を考えながら学校の制服に着替えて部屋を出た俺は、1階の居間に到着して冷蔵庫に1枚のメモが貼ってあるのを見つける。

 

 それが両親の書いたものだと気付き、その紙を冷蔵庫から剥がす。

 

 

 メモ用紙の内、上半分は父さんが書いたのだろう。

 

 几帳面な父さんらしく、“父、母、朝食要ります”と、シンプルに書いてあった。

 

 

 そして下半分は母さんが書いたものだろう。

 

 3色ものマーカーで、“朝食はフレンチトーストが良いな♪”とカラフルに書いてあった。

 

 

 そんな2人の性格がよく表れているそのメモ用紙に思わずクスリと笑みを漏らして、俺は早速、母さんが朝食に指名したフレンチトーストを4人分作るのに取り掛かった。

 

 

 

――――

 

「……よし、こんなもんか。」

 

 最後にトーストの上からシロップをかけて完成したフレンチトーストを眺める。

 

「うん、我ながら上手く出来たな。」

 

 食卓のテーブルに並ぶ4人分の朝食を見て頷く。

 

 

 きつね色に焼けたトーストは見た目もきれいで漂ってくる甘い匂いは食欲を注ぐ。

 

 きれいに出来た朝食を眺め、気分を良くした俺はつまみ食いしたい気持ちを抑えて食卓のテーブルにサラダやベーコンエッグ等のおかずを並べていると、

 

 

「おはよう、悠樹」

 

 その途中で俺を呼ぶ声が。

 顔を上げると居間の扉の所に黒髪の男性が立っていた。

 

「おはよう、父さん」

 

 俺はその黒髪の男性、自分を引き取った義理の父親に向かって挨拶を返す。

 

 

 

 

 俺を引き取ってくれた父さんと母さんは優しい人だ。

 あまり怒られた記憶がない。

 

 でもそれは少ないだけで、俺が悪い事をした時はきちんと叱ってくれるし、良い事をした時はちゃんと褒めてくれる。

 

 俺がこの家に来て8年経つけどその間俺は2人から理不尽な扱いを受けた事は1度もなく、幸運な事に早希が産まれてからもそれは変わらなかった。

 

 

 よくドラマ等で養子として引き取られた子は、最初の内は本当の子供のように可愛がってもらえる。

 

 けど引き取った夫婦が子供を授かると段々と放置されるようになるって聞いた事がある。

 

 だけど、うちの場合はそんな事ない。

 

 2人とも俺を本当の息子の様に扱ってくれる。

 

 

 だから俺も2人に対して変にかしこまったりしないで自然と2人の事を“父さん”、“母さん”と呼べるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ、今日も美味しそうだな。

 悠樹、また腕上げたんじゃないか?」

 

「そうかな? まぁ料理の基礎を教えてくれた先生が優秀だからな。」

 

 

 父さんの言葉に俺はニヤリと笑ってそう返答すると、父さんは少し照れたように笑って頬を掻く。

 

 

 俺に料理の基礎を教えてくれたのは父さんだ。

 俺が料理を習い始めたのは小5年の時、早希が小学校に通い始めた年。

 

 その年のある日、両親が揃って帰りが遅くなってお腹を空かせて切なそうな顔をする早希がかわいそうだったから、調理実習の時に作ったハンバーグを作った。

 

出来たハンバーグは正直言ってかなりブサイクだった。

大部分が崩れていたし、大丈夫だったやつも形が歪だった。

 

でもそんなの関係なかった。

 

だって俺が作った料理を早希が「おいしい」って太陽みたいな眩しい笑顔で言ってくれたから、そんな早希の笑顔をまた見たいって思ったから、俺は料理に目覚めた。

 

 

 

「じゃあ料理を運んでおくから、早希を起こして来てくれ」

 

 

 

 

 

 その後、先に帰ってきた父さんに

が炊いたごはんを見て、嬉しい反面、どこか寂しげな表情をしたのは今でも覚えている。

 

 

 

 

 

 その年のある日、いつものように妹と家で遅くまで仕事の両親を待っていると、父さんから電話がかかってきた。

 

 その要件は仕事がいつもより長引いたせいで今日帰るのか遅くなるというものだった。

 

 に褒められてこっぱずかしさから頬を掻く。

 

 嬉しくないはずがない。だって元々この家で料理をしていたのは父さんだったから。

 

 

 

 けど、それをは冬華に習ってそれなりに料理の腕に自信が

 

 

「ははは、そうだな。じゃあ今度冬華君にお礼しなきゃな。

 っとそろそろ2人を起こしに行くか。」

 

 

 それを察してくれた父さんは、その話題を早々に切り上げてまだ下りて来ない2人を起こしに行く事を提案する。

 

 食卓に朝食が並べ終えた所で父さんが声をかけてくる。

 

 

「あぁ、じゃあ俺は早希を起こしに行くよ。父さんは母さんをお願い。」

 

「了解。あっそうだ悠樹、」

 

 居間を出ようとしていた父さんはそこで振り返り、俺の方を向くと1つ爆弾を落とした。

 

 

「早希と一緒に寝るのは良いけど流石に抱き付いて寝るのは父さん見逃せないぞ」

 

 

「なっ!?」

 

「じゃあ早希の方、頼んだぞ〜」

 

 そう言い終わるとすぐ居間を後にした父さんは、まだ起きてこない母さんを起こしに2人の寝室に向かって行く。

 

「み、見られてた。」

 

 少し赤くなった俺を残して。

 

ーーーー

 

「早希〜、入るぞ〜」

 

 早希を起こしに来た俺はある部屋の扉を数度ノックをしてスライドさせる。

 

「やっぱり、こっちにいたか。」

 

 

 俺の予測は正しく、案の定俺の部屋の俺のベッドは膨らんでいた。

 

 早希は朝が弱いわけではない。

 なんせ俺よりも早く目を覚ます。

 だけど早希は2度寝をする。

 何故か俺の布団に潜り込んで。

 

 

 

「こら〜早希、起きろ〜」

 

 

 そう言いながら俺は思いっきり布団をはぐった。

 

 そこには昨日寝る前に机の横に置いた早希のお気に入りのクマのぬいぐるみが横たわっていた。

 

「なっ、!?」

 

 

 それを確認した瞬間、腰に拘束感が。

 視線を下に下げると早希がドヤ顔で俺の腰に抱きついていた。

 

「ふっふっふっ、お兄ちゃん、一本取ったり〜!」

 

「ふにゃ〜」

 

 

 そこには猫みたいに身体を丸めた妹がムニャムニャ寝息を立てていた。

 

 

 寝ぼけて抱き着く

 

 何このかわいい生き物、天使か!(注:妹です)

 

 起こす

 

 選択肢は

1.かまう

2.かまう

3.かまう

 

 ……ここは109番の“起こす”だな。

 

 えっ? 間の選択肢はなんだって?

 そんなの全部“かまう”一択に決まってるだろ!

 

 

 煩悩は妹で出来ている!(I am the Kleshas of my sister!)

 

 

あとがき

ふふふ、お兄ちゃん成分補給完了♪

 

 

「父さーん、母さーん。おっきろ〜!朝だぞ〜!おっきろ〜!飯だぞ〜!」

 

両親の部屋、その入り口でフライパンとおたまをカンカン鳴らす俺。

 

 

「「ん、ん"〜」」

 

俺の出す音に反応して唸り声と共に緩慢な動きでモゾモゾと動く布団が2つ。

 

 

 

後ろからパタパタと軽い足音が聞こえ、

 

「おはよう、お兄ちゃん」

 

 

早希が居間に入ってきた。

 

 

「おはよう早希、ってさっきまで一緒だっただろ。」

 

その途中で俺を呼ぶ声が。

顔を上げると居間の扉の所に黒髪の男性が立っていた。

 

 

「ん?」

 

ふと視線に気付いて顔を上げると、早希が嬉しそうに俺を見つめていた。

 

 

「早希、どうした?」

 

「ん? なにが~?」

 

 

 

 

「おはようみんな」

 

「みんなおっはよ〜♪」

 

 それからまた10分後、居間に明るい女性の声が響く。

 

 その声の主は、冬華と一姫とよく似た顔立ちの女性だった。

 

 その見た目も若く、せいぜい一姫と10歳程度しか違わないようにしか見えないのだが、彼女の正体は、

 

「「おはよう、母さん」」

 

 冬華と一姫の母である。

 

 

 

この前それを早希に言ったら真っ赤になってしばらく上機嫌だったのはなんでだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

集合場所で早希と別れて俺は1人学校に向けて歩く。

左側には俺の母校であり、現在早希が通っている小学校のグラウンドが、フェンスに仕切られた先に広がっていて、右側にはポツリポツリと住宅が並んでいた。

目の前にはまっすぐな道の先の左手に俺と早希も通っていた幼稚園が見えて、更にその先には高校に行く登り坂もうっすらと見える。

 

 

 

二の腕に頬を乗せておにいちゃんの漫画を読んでいると、頬がだんだんあったかくなってきて、

「すいまには、かてなかったよ……。」

 

私の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ハプニング「また一緒になったね♪」

シリアス「ま、まじかよ……。」

 

 

久しぶりに妹の部屋に入った。

妹は俺の部屋によく来るが、俺は妹の部屋にはあまり行く事はないから本当に久しぶりだ。

 

「ん?」

ふと妹の机の棚に同じ種類のノートが置いてあるのに気付いた。

その中の一番右側にあるノートを一冊取り出して開いてみる。

 

どうやら中身は日記の様で日付は5年前、つまり俺が事故に遭う前の日付だった。

 

○月☓日

『今日、おにいちゃんと近所のスーパーに買い物に行ったんだ!

スーパーに行くまでおにいちゃん、私の手を握ってくれてとっても嬉しかった♪』

 

パラパラと捲っていくが特に変な所は何もない。他の日記帳も数冊取り出して中身を見たが結果は同じだった。

 

「やっぱり気のせいだったか。」

 

妹がヤンでいるなんてそんなのあるわけない。と思っていたのは5冊目の日記帳を開くまでの事だった。

 

 

 

△月□日

『今日、おにいちゃんと一緒に公園近くを散歩デートしたんだ。

でもお兄ちゃん、私とデートしてるのに途中で私じゃない他の女の子に目が行っていた。……お兄ちゃんは私だけを見ていればいいのに。』

 

 

 

「ん?」

 

その日記を読んだ瞬間、今まで読んだ日記と雰囲気が幾らか違う事に気付き、自然に手が止まった。

だって今までは楽しかった事しか書いてなかったから。

 

 

最後に手に取った日記帳を開いた瞬間、ある日付で手が止まった。

 

明日は私とおにいちゃんの入学式。

おにいちゃんの制服着た姿、カッコ良かったなぁ。

私もこの制服でおにいちゃんをメロメロにしちゃうんだから!

 

今日、初めておにいちゃんのTシャツを着た。

おにいちゃんの匂い

 

 

 

そして、手に持つノートを見終わった瞬間、

 

「うっ!」

 

後ろから激痛が走って急速に薄れていく意識。

 

意識を手放す瞬間、視界の端に見慣れた黒髪が映ったような気がした。

 

 

 

何このかわいい生き物(注:妹です)

なんだこの反応、可愛すぎる! 天使か!(注:妹です)

 

だってからせいで喜んじゃって中々出来ない。

 

気持ちと、現状把握のために今の状況を冷静に見なきゃいけない気持ちの間で

まとまらない思考でなんとか昨日の事を思い出す。

 

だから私は一度落ち着くために、

 

 

お兄ちゃんに思いっきり抱きついた。

 

 

「ふにぁ〜♪」

 

睡眠中でポカポカのお兄ちゃんの身体に抱きつくと優しくて暖かい体温を感じる。

 

 

「クウゥーン♪」

 

呼吸する度に目一杯お兄ちゃんのいい匂いが私を満たしてくれる。

 

 

「キュー♪」

 

そして胸に当てた耳から一定のリズムで聴こえてくるお兄ちゃんの心臓の音。

 

(えへへ、お兄ちゃんの体温。お兄ちゃんの匂い。お兄ちゃんの心臓の音。)

 

 

どれも私を幸せな気持ちにさせてくれる。

そしてお兄ちゃんに思いっきり抱きついた時、

 

「〜〜〜!」

 

身体がビクンと跳ねる。

 

「えへへへ///お兄ちゃんしぇ()ーぶん、ほきゅーかんりょ〜♪」

 

お兄ちゃんを堪能した私は身体を少し離す。

 

「えへへ、ちょっとちゃ()んのうしすぎちゃった」

 

堪能し過ぎたせいで幸せな気分になってるから少ししたったらずだ。

 

お兄ちゃん成分は私が活動するのに必要不可欠なもの。

普段は

私はとっても幸せな気持ちになるのだ。

 

 

小さい頃からお兄ちゃんがいつも傍にいてくれた。

よく友達からもお兄ちゃんっ子だと言われるし、自分でもそう思う。

でも、

「あんな夢見ちゃうなんて。」



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第?話

この事は早希には内緒にして貰ってる

何故なら早希は俺とは違って、もの心付く前から俺と一緒にいる。
だから、もし俺達が本当の兄妹じゃないと知ったらきっととてつもないショックを受けるはずだ。

義理の兄とはいえ、妹を苦しめたくない。


「………。」



なんて良い兄貴みたいな事を言っているけど、本当は早希に嫌われるのが怖いだけだ。


俺を兄として慕ってくれる妹に嫌われるのが……。


早希に事実を言わないのは俺がこの家に来たのは早希がまだ物心付く前の事だったからだ。
ずっと兄と慕っていた男がまさか自分と何も関係ないただの他人だった。そんな事実を早希に知らせたくないという兄としての意地なのだ。

……なんて兄らしい事を言っているけど本当は事実を打ち明けたら早希()に嫌われてしまうかもしれないという恐怖があるだけだ。


いつも『お兄ちゃん』って呼んでくれる妹に嫌われてしまったら、俺は、俺は!!


「冬華、悠樹がなんか変だぞ~。」
「ん? あぁ、気にしないであげて。悠樹君、早希ちゃんの事になるといつもあんな風になるから。」
「あぁ、いつものシスコンモードか。」


周りで冬華と音緒と友哉がなんか話しているが気にしない。
シスコン? その言葉は俺にとっての褒め言葉だぜ!


「だめだこのシスコン、早く何とかしないと」
「もう手遅れじゃない?」
「だな。」

周りで音緒と冬華と友哉がなんか話しry

ゆうきと早希は同じ血液型
朝の血液占いで分かる


「はい早希ちゃん、面会証よ。」

「ありがとうございます。

お姉さん、お仕事頑張って下さい」

「ふふっ、ありがとう。」

 

慣れた手続きが終わり、顔馴染みになった受付のお姉さんから面会証を礼を言って受け取り、受付を後にした私は怒られないギリギリの速さでエレベーターに向かう。

 

丁度来たエレベーターに乗って手に持つ面会証を首にかけると、扉が閉まって私しか乗っていないエレベーターは動きだす。

 

 

初めて来た時は緊張しっぱなしでさっきのお姉さんともたどたどしくしか話せなかったけど、もうかなりの回数ここに来ているおかげで、今では“頑張って”と一言かける事も自然に出来る様になった。

 

慣れって怖いと思う。

 

 

そんな事を考えていると、ボタンの上にある階を表示するパネルが3階、4階と上がっていき、

 

ポーン

『5階です』

 

エレベーター内に設置してあるスピーカーが目的の階に到着したのを告げて扉が開く。

それと同時に私は再び怒られないギリギリの速度で、ある部屋を目指して歩き始めた。

 

 

ーーーー

 

「ここ、だ」

 

目的地である病室の前に到着した。

急ぎ足で来たから少し息が荒い。

でもそれ以上に緊張で胸が苦しくて、取手にかけた手が震えていた。

 

この手の震えだけは何度ここにやって来たとしても慣れてくれない。

毎回ここに来て、この扉を開ける度に恐怖を感じる。

 

 

だけどいつまでもこうしているわけにはいかない。

 

 

「……よし。」

 

私はしばらく扉の前に佇んで心の準備をした後、意を決して扉を左にスライドさせた。

 

 

 

 

 

真っ白い病室。

真っ白いベッド。

そのベッドで眠っているお兄ちゃん。

 

……そして、お兄ちゃんの身体から何本も出ているチューブ。

 

 

 

そのチューブの行き先はお兄ちゃんの枕元に設置された機械へと繋がっていて、その心拍数は前に来た時とほぼ同じ値が表示されていた。

 

それを見て、私がいない間にお兄ちゃんの容態が急変してない事に一瞬安堵したけど、すぐに気持ちが重くなる。

 

 

 

お兄ちゃんはまだ目を覚まさない。

 

 

 

 

 

お兄ちゃん、私、来年で中学生になるよ。

 

 

私は持ってきたお兄ちゃんの着替えを置いて、お兄ちゃんのベッドの側にある椅子に腰掛けて、お兄ちゃんの手を握りながら、お兄ちゃんの手を握るけど、お兄ちゃんは目覚めない。

 

もうすぐ2年になる。

お兄ちゃんが私を庇って車に撥ねられた日からもうすぐ2年に。

 

 

ーーーー

 

『悠樹君の症状は私どもにも分かりません』

 

それがお兄ちゃんを診断したお医者さん達の結論だった。

 

どんな権威を持つお医者さんでも、どんな名医と呼ばれているお医者さんでも兄ちゃんの症状は分からず、辛うじて分かったのは事故の怪我が治っても尚、お兄ちゃんは眠り続けて目を覚まさない事。

 

そしてまるで時が止まってるみたいにお兄ちゃんの身体に変化がない事。

 

 

お兄ちゃんの身体は心臓も動いてるし、血液も流れている。

顔を近付けたら呼吸してるのも分かるし、その呼吸に合わせて胸も上下しているのも見える。

 

でも髪や爪は伸びないし、顔付きも身長もこの2年で全く変わらない。

 

まるで時が止まってるみたいだ。

 

 

 

 

 

「あぁ、早希ちゃんこんにちは」

 

何時間経ったのだろ。

椅子に座ってお兄ちゃんを眺めていると、病室の扉が開く音と共に私を呼ぶ声が。

 

振り向くと、扉の所にお兄ちゃんが小学生の時から友達の上白 冬華先輩が立っていた。

 

 

「冬華先輩、こんにちはです。」

 

冬華さんに挨拶を返して再び顔をお兄ちゃんの方に戻す。

 

 

結局その日も面会時間ぎりぎりまでいたけどお兄ちゃんが目覚めることはなかった。

 

 

 

 



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