この素晴らしい世界で放浪を!! (ACS)
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一話


アニメ知識しか無いのでかなり現行スタートになります、二期枠に入ったら週一更新になれば良いかと。

後放浪者、超丸い。


第一話 駄女神

 

 

さて、状況を整理しようじゃねぇか。

 

俺は確かに最初の火の炉であの男に負けた、目潰し食らって心臓を抉られて肉体が王のソウルに耐えられなくなって燃え尽きた。

 

その事に対して何の後悔もねぇし、逆に清々しい負け方だったからあーだこーだ言う言い訳もするつもりもねぇ、アレで俺は存在ごと消えた筈だった。

 

––––––なのに俺は気が付いたらよく分からん女神の前に座っていた、周りにゃ見渡す限りの暗闇しか無く、カアスの居た深淵に近いか。

 

ソウルにしてある武器はきっちりと残ってる、墓王の大剣はねぇが何故かそれ以外の武器も含めてだ、不審には思ったが戦える状態ではあるっつーことだ。

 

昔の俺ならこの時点で踏ん反り返っている目の前のクソ女神の首を刎ねていただろう、肌に感じる神性的にゃロードランの連中以下だが神は神、殺さない理由は無かったはず。

 

だが、少なくとも満足した終わりを迎えた俺は大分丸くなったらしい、どうにも斬りかかる気にはならなかった。

 

「あれー? 此奴日本人じゃないわよね? 他所から迷い込んで来たのかしら? もー、何処の管轄の奴よ」

 

 

鬱陶しいわねー、とブツブツ呟く小娘に早速前言撤回したくなったが、現状の把握に努めようとした俺は怒りを堪えて話を聞く。

 

めんど臭そうに答えた小娘の話によるとこの場所は所謂あの世の世界らしく、転生やら何やらをする場所だと。

 

そして、此処とは違う世界に魔王とやらが存在し、其処の世界の人が減る一方な為、態々別の世界から人間を集めて魔王討伐を行なっている、そしてこの小娘はその斡旋者だ。

 

…………大前提として俺は転生とやらが何なのかは分からず話の半分も理解出来なかった。 元々ダークリングの影響でロードラン以前の事の大半を忘却しているんだ、断片的な昔の記憶はあっても殆どが消え去ったんだ、分かる訳ねぇ。

 

俺の様子を見て女神は転生そのものを理解していないと察したのか、ムカつくため息と共に『要は新しい世界で新しい人生を送れるって事よ』と言い俺の足元に何かの書類を置いた。

 

 

チラッと目を通すと転生特典とか言う物らしく、特別な才能や神の武具などをなんでも一つ持って行けると言う話だ。

 

なんで他人から貰った力で戦わなきゃならねぇんだよ、バカじゃねぇのか? んな三下みてぇな真似、なんでこの俺がしなきゃいけねぇんだよ。

 

転生そのものを断ろうにも確定事項だと言わんばかりの態度、つかボリボリと何かの薄揚げを食ってやがるし、一々見下した目が腹立つしで段々腹が立って来た。

 

そもそもこの女神、説明の時の態度も悪かった、神っつー時点で人間見下してる節がある典型的な神族だ。

 

 

「ねーまーだー? 後がつっかえてるんですけどー? どーせなに選んでも一緒なんだからサクッと選んでよ、人間なんて弱っちいんだから」

 

「あ゛? じゃあテメェを連れてきゃ安心だな? 何せカミサマだ、それはそれはお強いんだろうよ」

 

 

元々、俺は短気な性格だ、売り言葉に買い言葉でついそう言ってしまった。

 

「そ、じゃあ足元の魔法陣から出ない様に––––って今何て?」

 

 

ポカンとした顔で惚ける女神、その隙を突いてシミターを取り出し首を刎ねようと足を踏み出した瞬間、俺の足元の魔方陣から光の壁が立ち上がり行く手を塞ぎやがった。

 

思わず舌打ちを零したが、上から羽の生えた女が降りて来て『承りました』と言った為、俺は一気に我に返った。

 

 

見れば俺の足元の魔方陣と同じ物に取り込まれたクソ女神がぴーぴー泣き言を言っている、思わず目元を覆い天を見上げてしまった。

 

考えれば『異世界に持って行く物』の話の真っ最中だった、迂闊な事を答えたこの口を引き裂きたいぞ畜生。

 

 

涙と鼻水でぐっちゃぐちゃになったアホ女神が相棒になって別世界で新しい人生?

 

嗚呼、俺の女運の悪さは死んでも治らねぇらしい。

 

 

 

次に俺が目を覚ますと活気のある街の中だった、ロードランとは全く違う明るく華やかな街の空気は何処と無く落ち着かねぇ、スラム出身で娼婦の捨て子だったからかねぇ。

 

昔の事を思い出しながら嘆息した俺は先ず街中の探索に向かう事にし、項垂れている小娘を置き去りにしようとしたんだが……思いっきり襟首を掴まれて揺さぶられた。

 

 

「ねぇどうしよう!? どうすんの!? 私帰れないんですけど!? どうしたら良いの!?」

 

 

そう言って小娘は往来の真ん中で号泣し始めた、俺は腹ただしさよりも哀れさが生まれ、頭を抱えてしまう。

 

昔なら絶対にこの女斬り殺してるが、アホさ加減にその気が薄れ、ある種の罪悪感が生まれてしまう。

 

女運、マジで治んねぇかな……。

 

 

「わーったよ、テメェが帰れる様に魔王とやらを何とかしてやるよ」

 

「本当!? ほんとに!?」

 

「ああ、だから先ずギルドかそれに近い場所を探す、情報が欲しい」

 

「おおー、旅慣れてる、なんか妙に頼もしい!!」

 

(こっちは微塵も頼もしさが感じられねぇんだがな)

 

女神を宥めた俺は道行く人々の動きを観察しつつ、ギルドと主要な商店の位置を把握した後、改めてギルドの中へと入る。

 

中には如何にもな装備をしたゴロツキ崩れが屯していて、犯罪集団か何かにしか見えん、つかクソ女神がさっきから俺の背後で服の裾掴んでビビりまくってる、神だろテメェ。

 

 

取り敢えずギルドの受け付けへ行き、登録を済まそうとしたんだが、此処であっさりと躓いた。

 

「登録料?」

 

「はい、流石に登録無料ですと実力の見合わない方や遊び半分の方が加盟されてしまうので……」

 

背後のクソ女神に金の持ち合わせを聞くも答えはノー、何の準備も無くほっぽり出されたからそりゃそうか。

 

仕方ねぇから古竜の大剣を取り出し、カウンターの横へ立て掛け、『此奴を手数料代わりに出来ねぇか?』と聞こうとした矢先、クソ女神が震え声とドン引きした目で質問を投げて来た。

 

「あ、あの、これ、トンデモな力が篭ってるんですけど? 何なのこれ?」

 

「お前の所に行く前に古竜の尻尾から手に入れたもんだよ、限界まで鍛えてあるし手数料には足りるだろ? な、受け付けさんよ」

 

そう言って交渉すると、受け付け嬢は『しょ、少々お待ち下さい』と言って店の奥に引っ込み、十数分位相談した後に古竜の大剣を手数料として受け取った。

 

 

「本当に良いんですか? 数千万エリスは下りませんよ? 後でギルドに請求されても困りますよ?」

 

「それは趣味じゃねぇから良いんだよ、それより早く登録してくれ」

 

 

俺は取り回しの効く得物が好みだからな、特大剣の中じゃ軽いツヴァイは採用の範囲内だが、ありゃ重過ぎる、重量武器ならスモハンがあるし特に使う予定は無ぇ。

 

んな事を思っているとアホが周りの空気に慣れたのか俺を押しのけて先に登録を済ませやがった。

 

結果は知力以外が平均を大きく上回るスペック、腐っても神だからな、そりゃそうだろうよ。

 

知力の必要な職種以外なら何にでもなれると太鼓判を押されたアホは調子に乗って舞い上がっている、周りの群衆も拍手して持て囃してるししばらく天狗だなありゃ。

 

「では貴方もどうぞ、この水晶に手をかざして下さい」

 

「へいへい」

 

気のない返事と共に差し出された水晶へ手をかざす、サラサラとした粒子状の物が俺のギルドカードに記入を行なっている、んだが、ちょっと様子がおかしい。

 

名前の欄が空欄なのは良い、元々生まれからして名前があったかも怪しいんだ、無くて当然なんだが、所謂ステータス欄の数字が並ぶ筈の場所に意味不明の文字列が並んでやがる、なんだこれ?

 

「……文字化け、してますね」

 

覗き込んでいた受け付け嬢の引きつった笑いは忘れん、後一番コメントに困ってんのは俺だから群衆どもなにか喋れよ。

 

取り敢えず名前の空欄だけは埋めるためにリチャード・ロウ(名無しの死体)と名乗っておいた、意味はそのまんまだ、どの道一片死んでるしうってつけだ。

 

んな事を考えながら、アホの襟首を引っ掴んで俺は仕事の張り出しを覗きに行った。



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二話


めぐみん可愛過ぎ(白目


第二話 カエル狩り

 

 

唐突だがこの世界はロードランとは大きく生態系が違うらしい。

 

ジャイアント・トード、要は牛頭のデーモンぐらいのデカイカエルなんだが、かなりの肉食らしく人間だとか羊だとかをむしゃむしゃ食っちまうんだと。

 

現に『あーんなカエル位私一人でじゅーぶんよ』と胸を張っていたアホ女神が頭から丸かじりされている、良かったな歯が無くて。

「カエル臭え女、連れ歩きたくねぇなぁ……」

 

そう愚痴を零したが、仕事は仕事、このカエルを3日で五匹仕留めなきゃならん、指定された討伐数以上を倒してもボーナスが出るらしいし、馬小屋生活も出来る限り早目にオサラバしたいところだ。

 

シミターを握り、上を向いてアホを飲み込んでいるカエルへ向かって大きく踏み込む、なんだかんだ言ってダークリングの無い人間の身体、何処まで無茶が効くのか調べておきたいので全力だ。

 

そう思って足に力を入れた瞬間、足元が吹っ飛んだ。

 

(踏み込みだけで地面抉れるとか、マジかよ……)

 

王のソウルを失ってるはずなんだが、どうにもこの身体はその失う前の性能らしい、一歩踏み込んだだけで500mぐらい軽く詰まった。

 

カエルは上を向いてやがるから死角になった腹を真下から一閃、丸呑みされていたアホを腹の中から引きずりだした。

 

「ひっく、わ、私、汚されちゃった……」

 

「女神の癖に生娘みてぇな事言ってんじゃねーよ、ほれ次狩るぞ次」

 

「やだー!! お家帰るー!!」

 

帰ったどころで湯浴みする金も無ぇ事理解してんのかね、この娘。 未だ一匹目、少なくとも後二匹は狩らねぇと裕福な飯にもありつけん。

だがまぁ、士気のねぇ奴に居座られても滅入るだけか、そう考え直した俺は後ろに下がる様に言おうとしたんだが、長い舌がアホ女神の腰に巻き付いていた。

 

「あっ」

 

「あーあ、また粘液プールだな」

 

「嫌ぁぁぁぁあ!!」

 

 

悲鳴を上げながらカエルの口に吸い込まれていくアホ女神、アレが仮にも神だと思うと思わず泣けて来そうになる、食い扶持目当てとは言えだ、俺だって昔はアストラの騎士団に居たんだぞ。

 

この世界に来て何度目になるか分からないため息と共にシミター片手に突っ込む、カエル共は土の中に居やがるから注意しねぇと俺もアホの仲間入りだ。

 

そう考えていた瞬間、『早く、早く助けて下さい!!』と必死な助けを求めるアホの声に起こされたのか、アイアンゴーレムサイズのカエルが地面から顔を出して俺を飲み込みに来やがった。

 

咄嗟に下顎を踏み台にして飛び上がり、大火球を口の中に炸裂させて丸焼きにする、同時にアホを丸呑み中のカエルに向かって竜狩りの大矢を投げ槍の様に投擲して串刺しにする。

 

丸焼きになったカエルに着地した頃に、アホ女神がカエルの中から這いずり出たと思ったら全力でコッチに走り寄って来た。

 

「あんた馬鹿なの!? 死ぬの!? 私がお腹の中に居るのに槍投げるとか何なの!? ねぇ、私ごとヤる気だったのよね!! 絶対そうよね!?」

 

「女神なんだろ? アレぐらいじゃ死なねぇだろうが、少なくても俺の知ってる神はんなヤワじゃねぇよ」

 

「それとこれとは話が別よ!!」

 

 

その後もピーピー文句を言って来たが、めちゃくちゃ生臭くてかなわん、周りのカエルも逃げちまったし今日は三匹で妥協だなこりゃ。

 

「……ねえ、リチャード? なんで私から距離取るの?」

 

「いや、臭えから」

 

「ガッハァ!! ふ、普通女の子相手に臭いとか言う!?」

 

「オメェに気遣いとか要らねぇだろ」

 

「ぐっ、此奴とことん私を舐めて……ッ、ならぬるぬる攻撃を喰らえー!!」

 

そう言ってアホは両手を広げて俺に飛び掛かって来た、俺は遠慮無しにその頭に踵落としをかまし、極力触らない様にしつつ襟を摘んで公衆浴場へと向かった。

 

 

 

 

風呂上がりでさっぱりした俺たちがギルドで食事をしていると、ビアトリス見たいな帽子を被った娘が腹の虫を鳴らしながらこっちを見ていた。

 

厨房を借りて自分で作った飯を並べてた時から居たんだが、恨めしそうな目でヨダレを垂らして俺たちの飯を見てやがる、あの様子だと数日は食えてねぇな。

 

 

ちらっとアホ女神を見たら一匹もヤッてねぇのに一心不乱に食ってやがる、如何やら俺の飯はお口に合った様で何よりだよ、穀潰し。

 

周りを見ても昼の時間にはやや遅かった所為か、俺たちしか飯を食ってねぇ…………仕方ねぇか。

 

 

「ほれ、其処のガキ、腹減ってんなら食わせてやるよ」

 

「ほ、本当ですか!!」

 

「んな事で嘘言ってどうするんだよ、俺の分やるから良い加減そのうっとおしい視線を辞めろ」

 

 

そう言って俺は立ち上がり、改めて自分の分の飯を作りに厨房に行ったんだが、まさかこの気まぐれがアホ二号を抱える事になるとは思わなかった。

 

食事を終え、満足と言った顔をした魔女っ子の話を聞くと、紅魔族と言う魔法使いの部族出身らしく、名前もめぐみんと言う風変わりな名前だった。

 

職業は上級職のアークウィザード、因みに俺は何にでもなれるらしいが基本職のままだ、アホ女神はアークビジョップ。

 

『美味しいご飯の御礼に貴方のパーティーに参加してあげましょう!!』と魔女っ子は言うがどうにも嫌な予感しかしねぇ。

 

そもそも上級職の砲台だ、後方から魔術で支援できる職種の癖にフリーってのが怪しいが、まぁ使ってみれば分かるか。どの道魔術系統は専門外だ、学べば出来ねぇ事もねぇだろうが、後方支援専門ってのは性に合わん。

 

つーわけで外へ連れ出して追加のカエル狩りをしようと思ったんだが、この魔女っ子爆裂魔法しか使えないと来た。

 

しかも浪漫型の魔術師だったらしく、日に一発撃ったら行動不能になるんだとか、試し打ちさせたらアホ女神共々カエルの餌になりやがった。

 

…………嗚呼、やっぱり俺は女運最悪だわ。

 

 

その後、俺一人で更に四匹倒してボーナス付きで仕事を終える事になった、あんまり狩りすぎると逆に生態系に影響が出るからと自重したから少々消化不足だ。

 

帰り道に魔女っ子背負う羽目になるし、なんで俺の周りの女には碌な奴が居ねえんだよったく。

 

とは言えだ、個人的な感情を抜きにすれば火力に関しては申し分なかった、使い用によっては十二分に戦力化できる、俺も単体相手なら問題無いんだが、数が多いと処理が面倒だ。

 

ま、当の本人は一人で暴れ回ってた俺を見た所為でかなり気を落としてるみたいだけどな、多分その浪漫追求の所為で他所のパーティーには入れて貰えなかったんだろう。

 

多分このままほっぽり出したら飢え死にする可能性もあるし、見てくれは良いから最悪物好きに売られるかも知れん、そうなると少し目覚めが悪い部分もある。

 

なんでこう、俺は女の弱味に弱えんだろうな、ビアトリスの時もそうだった。

 

そんな自分に溜息を吐きながらパーティーメンバーとして採用する事を告げると、背中の上で『本当に良いんですか!? 言っちゃなんですけど完全にリチャードさん一人で十分ですよね!?』と食い付かれた。

 

「俺は範囲攻撃手段が限られてんだよ、一発屋の固定砲台でも居ないよりはマシだ」

 

「ふ、ふふふ、漸く我が爆裂魔法の真価を理解出来る者と出会えるとは––––」

 

 

痛いセリフをベラベラ喋りはじめた魔女っ子に呆れながら、体液塗れの二人を浴場に送った俺はカエルの換金と消化不良解消の為に高難易度の仕事を受けに行くのだった。

 



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三話

第三話 変態

 

毎度の様に言っているが俺の女運の無さは筋金入りらしい。

 

目の前にいる女騎士、いつの間にかアホ女神が貼っていたらしいパーティーメンバー募集の張り紙を見て来た女だが、目付きからしてまともな奴じゃねぇのが分かる。

 

見定める様に身体つきを見てるだけで顔を赤くし、身体をくねらせてやがる、なんだこいつ。

 

「前衛は俺で足りてる、それに聖職関連ならアークビショップも居るから不採用だ、分かったらさっさと消えろ」

 

しっしと虫を払う様な仕草で冷たくあしらい、募集の張り紙をひっぺはがしに行こうとしたんだが、この女普通じゃ無かった。

 

「ああ、虫扱いに口汚い罵倒……素晴らしい男だ……」

 

あー、なるほど、被虐趣味のお方でしたか……、マジでなんでも居るなこの世界、クソ女神じゃ無く対人運を貰うべきだったと真剣に後悔し始めたぞくそったれ。

 

はあはあと目の前で喘いでやがるし、生理的にキモかったから反射的にギルドの外へ蹴り飛ばしちまった。

それなりに強烈な蹴りだったから暫くは起きねぇだろうからさっさと飯食って寝よう、あの手の連中は死んでも治らん。

 

すっかり癖になった溜息を吐きながら俺は厨房へと向かい、材料費を払って料理を作る、此処の飯は俺の舌には合わねぇんだよ。

 

どーせ先に食ってんだろと考えてたんだが、テーブルを見たらアホ二人が食器を持って俺の帰りを今か今かと待ってやがる、お前ら……。

 

『はーやーくー』と急かす馬鹿共、一回飯食わせただけで俺の事を料理当番か何かと勘違いしてんじゃねぇだろうな?てか、他の冒険者連中も注文してくるんじゃねぇよ、俺は自分の分を作ってるんだよ、別に手伝いをやってる訳じゃねぇんだ。

 

つか、なんで俺に注文が来るんだよ? ………ああ、アホ二人が俺の分をおすそ分けしてるからか、しばき倒すぞ。

 

「リチャードさーん、お代わりお願いします!!」

 

「リチャード、しゅわしゅわお願いねー!!」

 

よし、あのアホ共は朝一でカエルのエサにしてやる、覚えてろボケ共。

 

(はぁ、混み始めたしこりゃ座って食うのは無理だな)

 

仕方ないのでパンをスライスした物にハンバーグと野菜とソースを挟み、ポテトをフライにした物を付け合わせにして食おうと考えてたんだが、いつの間にかカウンターに移動していた魔女っ子にそれが見つかった。

 

「何ですかそれ!? 美味しそうです、いや絶対に美味しいです!! 食べたいです!! 食べます!!」

 

 

確かハンバーガーだったか? こっちに来て覚えたもんだがまぁそのジャンクフード加減がお子様には美味そうに見えたようだ、身を乗り出してそれを要求して来やがった。

 

俺の飯だしくれてやる必要は無ぇんだが、期待を膨らませたガキに嫌がらせする程器の狭い人間じゃねぇからそっくりくれてやった。

 

「おお〜!! 初めての味です!! パンとハンバーグが絶妙にマッチしてすっごく美味しいです!!」

 

「分かったからもう少し上品に食えよ、口元ソース塗れじゃねぇか」

 

手の掛かるガキだなと思いつつその口元を拭いてやるとかなり意外そうな顔をされた、俺も自覚してるからその目辞めろ。

 

「意外な優しさです……ハッまさか優しくしておいて目的は私の身体だとか!?」

 

「安心しろ、お前の平らな幼児体形に興味はねぇ」

 

「よ、幼児体形……幼児、ふふふ、幼児ですか……」

 

 

俺の発言が意外にも刺さったのかさっきまでのテンションが消え、魔女っ子はどんよりとした顔で飯の続きを食い初めた。

 

ざっと周りを見渡してかなり落ち着いた事を確認した俺は、魔女っ子にやったポテトを一つ食った後、宴会芸で遊んでいるアホ女神を置いてキツめの酒持って店を出た。

 

だがその瞬間蹴り飛ばしたマゾヒストに出待ちされちまった、だからなんで俺の周りの女にゃ碌な奴が居ねぇんだよ……。

 

「女性に対して容赦の無い蹴り……そのゴミを見るような蔑みの視線……嗚呼、やはり私の求めたパーティは此処しか無い!! 是非、是非私をパーティに入れてくれ、何でもするから!!」

 

 

そう言って縋る様に女騎士は俺の腰にしがみ付く、膝蹴りをもう一発入れてやりそうになったが、周りの視線とこの女の性癖を考えると手を出すだけ状況が悪化する一方だ。

 

俺にできる事はただ一つ、変態を受け入れる事だ。

 

 

 

次の日、俺は変態を受け入れる事になった所為で飲み過ぎたらしく二日酔いに襲われていた、不死人だった時はザルだったのに人間の身体ってのは不便で仕方ねぇや。

 

そんな事を思いながら今はスキルについての説明を魔女っ子にして貰ってる、変態には関わり合いたくないし、アホ女神に説明が出来るだけの知能があるとは思えん。

 

「と、言う訳でスキルポイントを使って人から教わったスキルを習得する訳です、分かりましたか?」

 

「ふーん、つまり俺でもオメェの爆裂魔法を覚えられるって事か」

 

 

呪術が使える俺からしたら不要な代物なんだが、呪術自体を発展させる事が出来るかも知れねぇし、割と前向きに覚えて損はねぇか?

 

そんな事を考えていた所為か、二日酔いだったからか、俺は余計な一言を零しちまった事に気が付かなかった。

 

「その通りです!! その通りですよ!! 爆裂魔法を覚えたいなら幾らでも教えてあげましょう!! と言うかそれ以外に覚えるスキルがあるでしょうか? いいえありませんとも!! さあ私と共に爆裂道を歩もうではないですか!!」

 

 

ああ、爆発マニアだもんなこの娘、そりゃ自分の好きな魔法に前向きな発言されたらこんな反応するわな。

 

顔も近いしよっぽど嬉しかったんだろうよ、真顔で見つめ返してやったら顔真っ赤にして顔逸らしやがった、テンション差に恥ずかしがってんのか、男慣れしてねぇのかは知らんが落ち着けっての、俺は二日酔いで頭痛えんだからよ。

 

カウンターで頭痛を堪えながら水を飲んでいると昨日強引に仲間になった女騎士、ダクネス……だったか? とにかく其奴が連れと一緒にこっちに来た。 ああ、アホ共とは昨日面通ししたらしい、妙に馬があったみてぇで直ぐに打ち解けた様だったよ。

 

「来たかマゾヒスト……今日は頭痛えんだから余計な体力使わせねぇでくれよ?」

 

「つ、つまり、放置プレイか!? パーティー加入後の仕事が放置プレイとは!!」

 

「ダメだ、話聞かねぇ人種だこいつ……」

 

 

二日酔いの身体に追い酒を入れたくなるレベルの変態に精神的苦痛を感じていた俺だったが、変態の連れと目が合った。

 

「あはは、苦労してるねーイケメンさん。私はクリス、この子のお友達だよ、こう言うのもなんだけど早く慣れた方が楽だよ?」

 

「……俺はリチャードだ、アドバイスにならねぇアドバイスありがとよ」

 

「うーん、じゃあ、迷惑料代わりに何か私のスキルを教えてあげるよ、盗賊系のスキルは便利だよ?」

 

スキル、スキルか……実を言うと地味に興味がある。

 

ロードランには無かった概念、魔法がそれにあたるんだろうが、此処まで多種多様な物は無かった。

 

特に盗賊系スキルのスティールや潜伏などは完全に別系統の代物だ、発想自体がロードランのソレと異なっている。

 

つー訳で、俺はサクッとスティールのスキルを覚えたんだが、此処で一つ問題が起きた。

 

 

それは俺の手に握られた白い下着、スティールは盗むアイテムがランダムだって事を知らなかったんだよ!! 二度と使うかこんなスキル!!

 



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四話

第四話 大豊作

二度と会う事は無ぇだろう師匠よ、知ってるか? キャベツは空を飛ぶんだぜ?

 

俺は多分すげぇレベルの死んだ魚の目をしてるに違いねぇ、二足歩行するキノコが居るんだから空飛ぶキャベツが居てもなんら不思議じゃねぇんだがよ、なんつーか、野菜だぞ? なんで空飛ぶんだよ。

 

いや、ロードランのキノコも確かにおかしかったけどさぁ、なんだよあのハードパンチャー、横殴りのフックでどれだけ人間ぶっ飛ばしゃ気が済むんだよ。

 

 

『収穫だぁぁぁぁあ!!』と張り切る冒険者共とアホ三人、この状況に違和感を覚えてるのはどうやら俺だけらしい。

 

街全体に緊急クエストの知らせが鳴り響いた瞬間は件の魔王軍関連かと期待したのにやる事は農家の仕事だ、やってらんねぇよ。

 

バシバシ弓撃ったり魔法撃ったりしてっけど、それ食うんだぞ? 自前の刃物で斬るんじゃねぇよ、それで魔物斬ってんだろ? しかもこの時期じゃカエルが主な討伐対象だ、お前ら何も思わねぇのかよ。

 

一玉あたり一万エリス、正直金貰ってもやりたくねぇ類の仕事なんだが、ウチのアホ共が張り切ってやがる、『クルセイダーとしての私の実力、その目で見てくれ』とか言って突っ込んだマゾヒストは論外だったし、キャベツに襲われてる冒険者庇って恍惚としてやがる。

 

 

…………俺、もしかしてまだ亡者化が続いてて本格的に頭が逝っちまったのか?

 

 

溜息を一つ吐いた俺はゴーレムアクスを取り出し、真空刃を放ってキャベツを一箇所へ固める様に吹き飛ばしていたが、クッソ情けねぇ姿晒してる気がしてやる気がゴリゴリ消えたので直ぐに辞めた。

「我が必殺の爆裂魔法の前において何者も抗う事叶わず」

 

 

横のややこしい馬鹿に付き合う気もねぇ、好きにしてくれ……。

 

「ふふふふっ、あれ程の大群を前にして爆裂魔法を放つ衝動を抑えられようか……いや、ない!!」

 

「いや抑えろよ、お前の火力だと周り巻き込むだろうが、そもそも爆裂魔法なんぞ使ったらキャベツが消し炭になるぞ」

 

 

思わず口に出た注意を無視したアホ二号はそのまま詠唱を開始、俺が一箇所に固めたキャベツの中心に向かって爆裂魔法をぶち込みやがった。

 

あーあ、何人か焼けてやがる……てかマゾヒストも一緒に燃えたのか。

 

何なんだよ彼奴、ロードランでも彼処まで狂った奴は居なかったぞ。

 

二日酔いの頭痛なのか悩みの所為での頭痛か分からなくなって来た俺はさっさと寝る事に決め、魔力切れで崩れ落ちた魔女っ子を背負った後、無感情にキャベツをはたき落としに行った。

 

弓で射抜くより真空刃を上手く使って落とした方が傷も無くキャベツを収穫?出来る、出来るだけ素早く収穫を終わらせてやる。

 

そんな事を考えながら一時間くらい黙々と腕を振っていたんだが、落としても落としてもキリの無いキャベツに段々腹が立って来た、何が悲しくて野菜如きに一時間も浪費しなきゃならねぇんだ。

『おお〜、的確に落としますね〜』と完全に観戦モードの魔女っ子を背負った状態で赤い涙石の指輪を付け、自分の動脈を切った後に竜狩りの大弓を取り出し、内なる大力を使って大矢を番え、キャベツの中へと矢を放つ。

 

大力によるブーストは人間の身体を限界以上に引き上げ、身を削る痛みと引き換えに莫大な力を与える、赤い涙石は装備者の死の匂いに反応して力を跳ね上げる、あの能面野郎との戦いじゃその代償が致命的な隙になる可能性があった所為で使わなかったが。

 

だが今回は関係ねぇ、矢の衝撃波で軒並み落とす事が目的なんだからな。

 

「ちょっ!? な、な、ななな、何やってるんですか!?」

 

 

慌てた様な声が背中から聞こえるが、それを無視して第一射を放つ。

 

その瞬間、空気が弾ける様な音と共に衝撃波が周囲を蹂躙する、感覚的に音の壁をぶち抜いたと感じ、そのままキャベツを撃ち落として行った。

 

 

 

収穫が終わり、打ち上げ会場となったギルド内、俺は首に包帯を巻かれ、安静にしていろと魔女っ子にキレられた。

我ながら流石にやり過ぎたとバツが悪く、大力はまだしも赤涙までは不要だったかと少々反省させられた。

 

「そもそもですよ!? キャベツの収穫に命を貼るなんてどうかしてますよ!! さっきからそっぽ向いてますが私の話、ちゃんと聞いてるんですか!!」

 

「へーへー、俺が悪ぅ御座いました、昔のノリでやった事をちゃんと反省してるよ」

 

今の体は人間だ、不死じゃねぇから死んだら終わり、その辺の事は知識としてはあっても実感がねぇんだよなぁ、ロードランじゃ死ぬのが当たり前みてぇな部分があったしよ。

 

その辺りの道徳観念は一生治んねぇな、昔から生き死にの事にはかなりドライだった覚えがある、平気で仲間や友人を殺したり見捨てたりしてた様な曖昧な記憶だが。

 

その点、この魔女っ子は情に熱いのだろう、さっきからずっと俺に向かって説教ばかり続けている、横に座ったアホ女神を見習ってくれ、死ななきゃ安い死んでも安いな感覚は俺と同じもんだしよ。

「しかしリチャード、あの弓は特注品か? 弓も矢も通常の用途で使うには些か巨大過ぎる」

 

 

一応、仮にも、騎士の端くれのマゾヒストは意外にも俺の持っていた竜狩りの大弓に興味が行っていたらしく、初めて真面目な顔をしてやがったので説教を誤魔化す様に質問に答えてやる。

 

「ありゃ元は竜を墜とす為の弓だよ、だから弓も矢も巨大化してるし、矢自体も生半可な槍よりも貫通力がある」

 

 

そう言って飯が片付いたテーブルの上に現物を取り出して見せる、ソウル化の技術をちゃんとした形で晒したのは初めてだったが、一スキルとして見られてる様で別に珍しがられては無ぇみたいだな。

 

「……これ、並みの人間じゃ弦を弾く事すら無理だと思うんだけど、しかもこれ神代の代物よね?」

 

 

意外にも真っ先に食いついたのはアホ女神、口ぶりからして竜狩りの大弓を知らねぇってのが分かった、つまりこの小娘はあの時代の後に生まれた神って事になる。

 

そうでなきゃあの鷹の目が率いた竜狩り隊の事を知らねぇ訳がねぇし、そもそもアノール・ロンド製の代物だ、神の国の物を理解出来てねぇってのはあり得ん。

 

アッパラパーな理由もそれか、あの男がきっちりと世界を分離したから連中は上から眺めるしか出来なくなり、のちに産まれた神はそれが当然だと思って人間に興味が無くなって行く、この小娘もその一つって訳だ。

 

「神の時代の弓? なんでそんな物を持ってるんですか?」

 

「ごく最近入手した訳では無いな、随分と使い込んだ後がある、相当前から使っているんだろう?」

 

 

三人の好奇心が突き刺さる、別に減るもんでもねぇし話しても良いんだが、話す理由も無ければその必要も無ぇわな。

 

「ハッ、なんでンなこと一々教えなきゃなんねぇんだよ、知りたきゃ俺に話す気を起こさせるこったな」

そう言い切った後に俺は酒を一気飲みし、財布をアホ女神に投げ渡し『好きに使え、俺は寝る』つってそのまま馬小屋に帰って干し草の上に横たわった。

 

どーせ明日にゃ報酬金が入ってくるし、財布には二十万前後しか入ってねぇ、あれぐらいで小声から解放されんなら大歓迎だ。

 

二日酔いと出血の疲労が思った以上に溜まっていたらしく、俺は思ったよりも早く眠りについたのだった。



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五話

第五話 厄介事

 

 

世の中には宗教っつーものがある。

 

ロードランの白教然り、太陽信仰然り、暗月然り。

 

崇め奉る神が存在し、その神は曲がりなりにも信仰を受ける対象として威厳がある訳だ。

 

「お願いじまず、おがねがじでぐだざいぃぃ」

 

 

この借金抱えたアル中女神にも当然自分の宗教がある訳だ、確か……アクシズ教だったか?こんな姿晒してる女神が自分の主神だって知れたら余裕で宗旨替えするね。

 

朝釣りの帰りに飯食いに来たら猫撫で声で『リチャード様〜? キャベツ収穫の報酬はおいくら万エリス?』と聞いて来やがったからまさかとは思ったが……。

 

泣いていて話にならんアホ女神の代わりに側にいた魔女っ子とマゾヒストに説明を聞いたんだが、此奴の収穫したのが換金率の低いレタスで、しかも昨日の夜だけで俺が丸々やった金全部使った上に大金が入ると見越してツケまでしていたらしい。

 

 

「ハァ……幾ら足りねぇんだよ」

 

「えっ!? 貸してくれるの!!」

 

「報酬金は五百万ちょいだったからな、テメェの借金肩代わりするぐらいはできるっての」

 

「持つべき物はイケメンで優しい金持ちの仲間よねリチャード!!」

 

 

文字通り現金な奴だ、呆れを通り越して哀れでならん。

 

アホの代わりにツケ代十万エリスを支払った俺は装備を新調した魔女っ子とマゾヒストの自慢話を聞き流しつつ、張り出された仕事を見に行った。

 

「あン? 今日はヤケに高難易度な仕事が多いな」

 

「本当ですね、今の私達ですと完全に力量不足の物ばかりです」

 

 

爆裂魔法の試し撃ちがしたくてうずうずしていた魔女っ子が冷静なるレベルの物ばかり、カエル狩りの十倍は難度の差があるからなぁ、俺だけなら余裕でこなせるんだが、此奴らに足を引かれたくはねぇしなぁ……。

 

やるなら一人でだな、特にマゾヒストなんぞ自分から棒立ちになって殴られに行くような奴だ、下手したら命に関わる。

 

つまり暫く仕事がねぇって訳だ、釣りでもしてのんびり待つか? いや、そもそも何故低難易度から中難易度の仕事が軒並み消えた?

 

そんな疑問を浮かべてると受け付け嬢が『実は……』と控えめに事情説明をしに来た。

 

曰く、近くに魔王軍の幹部が現れ、その影響で弱い魔物の大半が姿を消してしまったらしい、幹部とやらはえらく傍迷惑な奴だな。

 

「要は其奴を殺しゃ良いんだろ? 楽勝じゃねぇか」

 

「いや、あの、魔王軍の幹部ですよ!? それに居場所も特定出来ていません!!」

 

 

つまり目撃情報のみって事か、ビビリようからして積極的にヤり合いに行こうって奴は少なそうだ、………自分の足で探さねぇとダメか。

 

先ずは何処から探るかねぇ……と考えていたら、服の裾を引っ張る感覚に意識が持って行かれ、そっちを向くと魔女っ子が俺を見上げていた。

 

「あの、折角の機会ですので爆裂魔法の訓練に付き合って欲しいのですが……」

 

 

何で俺がと一瞬考えたがよくよく思い返せば一発撃ったら行動不能になる娘だ、碌に魔法の練習もできねぇんだろう。

 

それに爆裂魔法は性質的に街の周辺では無駄撃ち出来ん、熱波と爆音と閃光が近所迷惑レベルを通り越してるからな。

 

そうなると人里離れた場所に行かねぇとならねぇし、行き帰りの護衛も必要だ、マゾヒストの奴はキャベツ収穫の時に一太刀も喰らわせられて無かったから使い物にならんし、アホ女神は今日の食費も無い有様だからバイトするしか無い、つまり頼れるのが俺だけしか居ないわけだ。

 

 

「ちょっと待ってろ、準備だけ整えてくる」

 

「……!! ありがとうございます!!」

 

 

 

 

 

弁当と買えるだけの魔力と疲労回復のポーションを持って行った先は廃城の見える丘の上、位置的に街への迷惑にはならず、動かない標的が存在するこの場所は御誂え向きの場所だった。

 

「ほれ、街中の魔力ポーション買い占めて来たから好きなだけ爆裂魔法撃てるぞ」

 

「本当ですか!? リチャードさん愛してます!!」

 

 

見えるようにポーションを並べてやるとキラッキラした目で詠唱を始める魔女っ子、後先考えずにボコボコ爆裂魔法を撃てる機会なんぞ無かったのだろう、嬉々として爆撃しまくってる。

 

あの城、人が住んでたら今頃絶対ブチギレてるだろうな、俺なら確実に魔法使った奴を殺しに行く、どんな手段を使っても必ず探し出して殺しに行く自信があるわ。

そんな他愛も無い事を最初の頃は考えていたが、魔女っ子の爆裂魔法を見続けている内に新しい呪術を思い付き、気が付けばそれの実験をする為に毎日一緒に城を爆撃していた。

 

この世界じゃ呪術もスキル化されてるらしく、回数制限が無くなり魔力を使う様になった、つまりポーション使えば好き放題撃てる。

 

俺は魔力の質はともかく量はある、つまり新しい呪術の完成まで存分に実験出来るって寸法だ。

 

そうして何日か掛けて完成した新呪術『炎の鎚』狙った空間に爆炎を引き起こす少々特殊な呪術だ。

 

従来の呪術は呪術の火を起点にして発生する物ばかりだったが、コレは狙った場所が起点となって発動させられる。

 

それによって火球系の呪術とは比べ物にならない射程距離を確保出来るようになった、まあどうしても発動前に空間に揺らぎが出来ちまうし、発動後の軌道修正ができねぇから火球系の上位互換にはならなかったが。

 

「ふふふっ、リチャードさんも遂に我が爆裂道を理解し、共に歩む事を決めたのですね?」

 

「ンな訳ねぇだろ、お前みたいな偏執狂と一緒にするんじゃねぇ」

 

「んなっ!! 偏執狂とはなんですか偏執狂とは!! 訂正して下さい!!」

 

「背負われてる癖に暴れるなよ、あと耳元で騒ぐな」

 

 

最早城の原型が無くなる程爆撃をかましたのでそろそろ新しい練習場が欲しい所だ、魔王軍の幹部についても全然情報が集められてねぇ、つかすっかり忘れてた。

 

明日こそは本題に戻らにゃアホ女神の知能が低下する一方だ、俺の名前で食堂にツケやがるし、造花作りを手伝わせて来やがるし、良い加減うざったい。

 

それプラス好き放題爆裂魔法撃った帰りに背中でよだれ垂らして寝られるのもいい加減にして貰いてぇしな。

 

んな訳で、俺は翌日の訓練をキャンセルし装備を整えてたんだが、そんな時に限って緊急連絡が入っちまった。

 

またキャベツか何かかと邪推したが、武装して正門へとの誘導だったのでまともな戦闘だと判断、シミター片手に真っ先に正門へと向かった。

 

 

着いた先には人集りの向こうに首のない騎士が首の無い騎馬に乗って岩の上に佇んでやがる、全身から発する怒気からして生半可な怒りじゃねぇ。

 

先に来ていた冒険者の一人に奴の事を聞くと、アレが魔王軍の幹部の一人だと言う、この街には駆け出しの冒険者しか居ないのでまともにやっちゃ勝ち目が無いとまで付け加えてくれたが。

 

つまり、奴はそれなりに優秀な強さを持ってる訳だ、カエルや知性のねぇ魔獣相手に辟易していた所にコレだ、既にシミターの柄には手が掛かっているので後は踏み込むのみ。

 

そう人知れずほくそ笑んでいた俺だったが、奴の発した言葉によって思わず足を止める事になってしまう。

 

「俺はつい先日、この近くの城に越して来た魔王軍の幹部の者だ……!!」

 

 

……………城?

 

「ま、毎日毎日毎日ッ!! おっ、俺の城に毎日欠かさず爆裂魔法をぶち込むあ、頭のおかしい大馬鹿は誰だぁぁぁあ!!」

 

 

あの城、住居者居たのか……。



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六話

第六話 首なし騎士

 

 

さて、マジギレしてる首無し騎士にゃ悪いが奴には賞金掛かってる、騒音の文句はあの世で女神相手に愚痴ってな。

 

改めてシミターを握り直し、斬り掛かるタイミングを計っていたが、首無し騎士の剣幕と周りの怯え様を見て魔女っ子が前へ出て行きやがった。

 

黙ってりゃ分かんねぇだろうに、素直なこった。

 

「我が名はめぐみん!! アークウィザードにして爆裂魔法をこよなく愛する者!!」

 

 

名乗りを上げ、堂々と自分の仕業だと告げる魔女っ子、俺も一緒になって爆破しまくってたのに全部自分でかぶる気か?

 

忠告だけで済まそうとしている首なしが『爆裂魔法を使うな』と言っていたが『紅魔族は日に一度爆裂魔法を使わなきゃ死ぬ』とか言う無茶苦茶言ってやがる。

 

ふと見ると魔女っ子の後ろ姿は微妙に震えている、あの調子じゃプレッシャーに弱ぇ見たいだな。

 

その姿に俺は不意打ちを諦め、溜息と共に堂々と前へと出て行く、十三のガキに敵を押し付けるなんざ恥ずかしくて耐えられるか。

 

つくづく甘くなった自分に悲しくなるが、そんな事を考えていたのが悪かった、アホ女神が飛び出し意気揚々と首なし騎士に向かって行き、『あんたの所為でクエスト受けれなくて困ってんのよ!! 浄化してあげるわ』と啖呵を切りやがった。

 

だがその直後、『紅魔の娘を苦しませてやろう』と首無しが指先を魔女っ子に向ける。

 

奴の手に集まる瘴気の様な物が呪いの類だと瞬間的に察した俺は、嬉々として庇いに行こうとしているマゾヒストより先に魔女っ子の前まで走り、代わりにその呪いを食らった。

 

「ほう、仲間が庇ったか。だが逆にその方が仲間意識の強い紅魔の者には効くだろう、死の宣告を貴様の代わりに受けたその者は一週間後に死ぬ」

 

 

死の宣告、奴曰く一週間後に俺は死ぬらしい、確かに倦怠感と命が流れ出て行く様な不快感はあるが、コレはダークリング以下のもんだ、別に耐えれない程の物でもない。

 

声にならない動揺を見せる魔女っ子、首なしの言った様にこの娘は仲間意識が強いらしい、涙目になってやがる。

 

『その男の呪いを解いて欲しければ城まで来るが良い』と首なしは言い残して消えていく、追撃しても良かったが魔女っ子の精神状態がよろしく無かったので諦めるしか無かった。

 

「ま、気にすんな、この手の事は慣れてるからよ」

 

 

そう言って軽く頭を撫でてやったが魔女っ子は俯くだけだった、人が気にしてねぇって言ってんだから気にすんなっての、これだからガキのお守りは面倒なんだよ。

 

悪態と共に宥め方を考えつつ俺はソウル内の解呪石を探す、本来の用途じゃねぇがそれでもこの程度の呪いなら十分に解呪出来るはずだ、無理なら城に行きゃ良いしな。

 

だから割と呑気してるんだが、そんな事を知る訳ねぇマゾヒストが俺の胸倉を掴み上げた、なんだ意外に真面目な面もあるんじゃねぇか。

 

「何故私に庇わせてくれなかったんだ!! 私が呪いに掛かればお前が苦しむ事は無かったし、私もあのデュラハンにあんな事やこんな事を要求されて色々大変な目に合えたんだぞ!?」

 

訂正、この変態は筋金入りだ、真面目さの欠片も感じられん。

 

「ふふーん、リチャード? このアクア様が直々に助けてあげても良いわよ? そ・の・か・わ・り、解呪したらちゃーんと私を崇め奉るアクシズ教に入信して、毎日私にお祈りを捧げて、お小遣いい〜っぱい私にくれて、高級しゅわしゅわをたっくさん貢ぐ事!! それからそれから––––」

 

アホ女神は完全に無視、目当ての解呪石も出て来たのでそのまま胸へ押し当て、呪いを解く。

 

「あっ、ちょっ、何やってんのよ!! 折角このアクア様が呪い解いてあげるって言ってるのに!!」

 

「自力で解けるに越したことねぇだろが、まぁ俺の経験だな」

 

 

ロードランじゃバジリスクかシースぐらいにしか使わなかったからな、余っててしょうがねぇ。

 

「だから言ったろこの手の事にゃ慣れてるってな、俺はテメェらに心配される様な二流じゃねぇ、だからめぐみんも何時も通りに後ろから好き放題やってりゃ良いんだよ」

 

 

どの道一癖も二癖もある連中だ、押さえつけるより好きにやらせる方が良いし、そう出来る場を整えてやるのがベスト。

 

どーせ生きる目的ってのを達成しちまった後なんだ、少しだけならこのアホ共に付き合ってやるのも悪くねぇ。

 

 

さてフォローは終わったし後は居場所が知れた首なしをどう料理するか……だな。

 

 

 

 

首なしの襲撃から数日が経過した、俺はあの後街の鍛冶屋や廃材置き場から刃こぼれした刃物や廃材を回収し、修復中の奴の城の内部とその周囲に罠を張り巡らせていた、潜伏と霧の指輪と静かに眠る竜印の指輪のセットが楽で仕方ねぇや。

 

多分コレならこっちから仕掛けねぇ限り絶対に見つからん、その証拠に城の内部は敵の拠点にも関わらず俺の仕掛けた罠で満載だ、どう頑張っても一週間は外に出れねぇ自信があるし、火炎壺も山ほど埋めたから下手したら城全体が燃える。

 

懲りずに爆裂魔法を撃ちに来てる魔女っ子に誤射されねぇ様に設置するのは大変だったぞクソッタレ。

 

罠は再利用されねぇ様に発動した後は自壊しちまう程度の耐久性にしてあるし、この挑発でまたあの首なしは街まで来るだろう。……尤もこんな真似しなくても爆裂魔法の所為で又来るかもしれねぇが。

 

設置作業中にいっぺん此処で仕留めてやろうかとも考えたが、そうなると報奨金が俺の独り占めになっちまう、そうなったら明らかにあの借金アル中女神がキレる、流石に進んで厄介ごとを拾う気はねぇからな、ヤるなら街の周辺でだ。

 

 

廃材回収に二日、設置に三日掛けた大掛かりな挑発を終えた俺はその足で街へ帰り、ギルドで酒でも呑もうかと考えていた矢先に中から飛び出して来たアホ女神に押し倒された。

 

「リチャード!! クエスト受けましょうよ!! ね? ね? ね? もう私はバイト生活嫌なの!! コロッケが売れ残ったら店長に怒られるの!! 借金返したいの!!」

 

 

帰って早々コレだ、この女は自分が女神だって事忘れてんじゃねぇの? 世俗に塗れ過ぎだろ。

 

わーわー俺の胸元で泣くアホに折れた俺は掲示板の前に行き仕事を選ぶ、しかし殆どが高難易度の物しかなく足手纏いを連れた状況では少々難の有るものばかりだ。

 

そんな中、湖の浄化作業の仕事が張り出されているのを発見する。

 

内容は汚染された湖に魔物が住み着いたのでそれを浄化してほしいと言う物、湖が綺麗になれば魔物は別の場所に移るので倒す必要は無いらしい。

 

檻の中にでもこの女神を入れて沈めときゃ大丈夫か、前に水の女神だとか言ってた記憶がある、浄化に何時間掛かるか分からねぇが、その間に湖近くの他の仕事も纏めて受けちまおう。

 

 

で、弁当などの用意をしてから現地入り、アホ女神の話によると浄化作業は大体半日ほどだと、なら俺の仕事も丁度終わるな。

「てな訳で、俺は熊と猪と鹿の魔物を狩って来るから湖は任せたぞ、トイレがしたくなったら引き上げて貰え」

 

「アークプリーストで女神な私がトイレなんて行くわけ無いでしょ!!」

 

「紅魔族もトイレには行きませんとも!!」

 

「く、クルセイダーも行かない、ぞ?」

 

「…………そう言う事にしといてやるよ」

 

 

色々言いたかったが、下手したら俺はこの中で一番年長の可能性があるから黙って言葉を飲み込んだ。

 

アホ女神は人間の寿命なんぞ遥かに超えてやがるだろうが、俺もダークリングが現れてからは何年生きてるのか知らねぇし、長い間ロードラン以外にも放浪しまくってたからな、少なくても見た目以上は生きてる筈だ。

 

檻の中で三角座りしながらぼーっと浄化作業に入り始めたアホを見つつ、アレが年上ってのも嫌だなと思いながら俺は狩りへと向かうのだった。

 






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七話

第七話 魔剣使い

 

 

「あのアホ女神何やってんだよ……」

 

目的の魔物を仕留め、その肉を捌いていた時にアホの悲鳴がしたんで一番高い大木に登って様子を見たんだが、檻に入っているアホ女神の周りにワニが山ほどいやがった。

 

余計な事しかしねぇ連中だからそれなりに頑丈な檻借りてるんだが、かなりの勢いでワニが噛み付いてやがる。

 

キロ単位で離れてるのに的確に俺の方角に助けを呼びまくってるアホに頭痛がして来た、魔物捕獲用の檻だからそう簡単に壊れねぇっての。

 

 

「聞こえてるんでしょー!! 早く助けてよー!! ってぎゃー!! 檻がミシッて言ったー!? 今鳴っちゃダメな音が鳴ったー!? お願い助けてリチャード様ー!!」

 

「……はぁ、もういっそ誰にも見つからねぇ秘境で釣りだけして暮らすかねぇ」

 

 

そんな愚痴と共に竜狩りの大弓を取り出し、アンカーを太い枝に突き立てて上から狙撃する、全力で射撃すると反動で枝がへし折れちまうから加減はしたが。

 

一発矢が着弾する度に情けない悲鳴がこっちまで聞こえてくる、別にテメェを狙ってる訳じゃねぇんだから一々悲鳴出さなくても良いだろうに、本当にあのアマは人のやる気を削ぐ事に関しては全一だな。

 

 

クッソ情けねぇ悲鳴の所為で俺の精神疲労がピークになる頃、やっと湖を浄化しきったのか住み着いてた魔物が移動を開始し始めた。

 

俺はその様子を見た後、捌いた肉を持って帰ったんだが……何故かアホ女神が三角座りのまま檻の中に篭城してやがる。

 

「檻の外怖い檻の外怖い檻の外怖い檻の外怖い……」

 

「何やってんだよ、こいつ」

 

「あー、それがですね……」

 

 

魔女っ子曰くワニよりも着弾する大矢の雨の方が恐ろしかったららしく、腰抜かして泣いてたんだと。

 

呆れ顔でその姿を見ていた俺に、マゾヒストが肘でつつきながら『謝った方が良いんじゃないか?』と耳打ちして来やがった、元はと言えば借金作った此奴が悪いんだろうが。

 

「面倒クセェこのまま連れて帰るぞ」

 

「それやると人身売買やってるみたいなんですが……」

 

「人身売買……な、なぁリチャード? 私もアクアと一緒の檻に入れてくれないか!?」

 

「よし、真後ろに浄化された湖がある、今からその沸騰脳みそ冷やしてやるからコッチにこい」

 

 

そう言って俺はのこのこ近寄って来たマゾヒストを湖の中に蹴り飛ばし、そのまま罵倒しながら頭を踏んで顔を水面から出したり沈めたりしてしばらく付き合ってやった、体力使い切りゃ大人しくなるだろ。

 

俺の所業に魔女っ子は顔を引きつらせてやがったが、良い感じの巨岩がある所を狩りの最中に見つけておいたから挑発と焚き付けを行う。

 

「そーいやよ、さっき向こうの方に良い感じに硬ぇ大岩があってよ、ありゃお前の爆裂魔法如きじゃ破壊できねぇだろうな」

 

「にゃにおー!! 今我が爆裂魔法をバカにしましたね!? 良いでしょうそんな石ころの一つや二つ余裕ぶち壊す姿を見せてやりますよ、ええやりますとも!!」

 

 

そう言って走って行ったアホは俺の予想通りに爆裂魔法使ってぶっ倒れてやがった、『どうですか? ぶっ壊してやりましたよ……』とか言ってやがったから適当に話合わせてそのまま担ぎ上げて馬車の荷台に興奮して腰の抜けたマゾヒストと一緒に放り込む、最近になって此奴らの要求をある程度聞いてやった方がストレスを抱えねぇで済むと悟ったんで容赦は捨てた、コレで帰りは静かに済む。

 

……俺、師匠の世話してた時の倍は苦労してるな。

 

 

 

 

街に着く頃には既に日が傾いてやがった、まあ半日も掛けりゃこんなもんだろうか。

 

途中から回復したマゾヒストと魔女っ子は未だにブツブツうわ言のように出涸らし女神とか言う謎の歌を歌うアホ女神を宥めている、このまま回復しなけりゃ暫くは大人しくて良いやと内心でほくそ笑んでたんだが、そうは問屋が卸さなかったようだ。

 

「女神様!? 女神様じゃないですか!?」

 

 

そんな男の声が背後から聞こえたと思ったら、鎧を着込んだ男が檻をぶち壊しやがった、ギルドから借りてんだぞそれ。

 

「オイ、アホ女神テメェの客だぞ、いい加減四畳半の聖域から出て来い」

 

「女神? ………そうよ!! 私は女神なのよ!!」

 

自分が女神だっての忘れてたのか……黙っときゃ良かったら。

 

自分の失策にため息吐きながら、俺は先にギルドへと行こうとしたんだが、後ろで色々話していたらしい男が俺の方に大股で詰め寄って来た。

 

「君!! 一体何を考えてるんだ!! 女神様をこの世界に引きずり込むだけじゃなく、馬小屋生活を強いた上に借金まで背負わせるなんて!!」

 

「あん? 俺に言ってんのか小僧」

 

 

馬小屋だろうと屋根と藁があるだけマシだろうが、しかも借金に関しちゃ大部分が自業自得だろ、肩代わりまでしてやってんのに何を言ったんだよ。

 

 

「君のパーティにはアークウィザード、クルセイダー、そして女神様と恵まれたメンバーなのに、ボロボロな彼女達に比べ君だけは汚れていない。戦いは彼女達任せか!!」

 

 

肩書きだけのボケどもを介護してんのは俺だよ、そもそも其奴らの汚れは戦闘外のモンだし、俺は汚れる様な戦い方する無能じゃねぇんだよ。

 

此奴アレだ、正義感バリバリの話聞かねぇタイプの奴だわ、面倒クセェな。

 

チラッと周りを見れば俺とこの思い込み激しい男がアホ女神を取り合ってると言う風評被害も聞こえている、なんでこの女神は女神の癖して祝福も加護も寄越さねぇで厄ばっか持ってくるんだよ、厄神か此奴は?

 

んな事を考えてたんだが、そしたら小僧が俺の胸倉を掴み上げた、身長差があっからカッコついてねぇのが笑い所か? 丸くなったって自覚してるが根本は変わってねぇ俺に喧嘩売ってる身の程知らずの方が笑い所なのか?

 

「勝負だ!! 僕が勝ったら君に酷い目に遭わされている女の子達を僕のパーティーに貰う!! 君が勝ったら何でも好きな物をやろう!!」

 

「なんでンな面倒な事に俺が付き合わなきゃなんねぇんだよ、小僧」

 

「僕の名前は御剣響夜、女神様から魔剣グラムを授かった選ばれし勇者だ!! だから君の悪行を見逃す事は出来ない!!」

 

「流石私の響夜ね!! そんな顔だけの男やっちゃえー!!」

 

 

目の前の小僧の啖呵に、小僧の連れだろう二人の女の片割れがヤジを入れて来た、余計な事言わなけりゃ連れの前で無様晒させてたんだが、既に俺はこの男の事が心底どうでも良くなった。

 

神様に貰った特別な魔剣を使える僕は特別な存在ですってか? 武器の性能頼りの男なんぞ相手しても時間の無駄だ、サクッとどっかで野垂れ死んでこい。

 

胸ぐらを掴まれた手を払って小僧の横をを素通りしたんだが、それが気に食わなかったのかこの男はそのまま魔剣を抜剣し、俺のフードを斬りやがった。

 

 

––––しかも、師匠が縫い合わせた場所を。

 

 

 

 

夕暮れの通り、自信満々に魔剣を振った御剣は実力の誇示の為にリチャードのフードの不器用に縫い合わされていた部分を斬った、それが虎の尾を踏む話では無く竜の逆鱗に触れる行為だとも知らず。

 

 

「今のはまぐれじゃなく狙って斬ったんだよ。考えれば女性の影に隠れる冒険者に決闘を挑んだ僕が悪かったね、パーティーの皆さんも僕の実力は分かって––––」

 

「––––小僧」

 

 

一言リチャード、いや名前すら無くした放浪者がそう発すると、彼の放つ殺気と怒りによって周囲の気温が数度下がったかの様な錯覚が周りを襲う。

 

「城壁の外に行くぞ、街中じゃ殺しは御法度だからな、不可抗力で済ませられる外でやってやる」

 

 

彼を良く知るアクア、ダグネス、めぐみんの三人が後ずさるほどの冷たい表情をした放浪者はそのまま踵を返して城門から外へと出て行った。

 

後に残された御剣は不幸な事に魔剣の加護によってその殺気の影響が少なく、彼がどれほどの男か知らないままその後をついて行ってしまう。

 

彼の連れだった二人は『エンシェントドラゴンを一撃で倒せる響夜なら大丈夫』そう互いに言い合いながら彼を信じて観戦に向かい、腰の抜けためぐみんを背負ったダグネスと面白半分のアクアも様子を伺いに行く。

 

 

両パーティは知らない、御剣が相手にした男が高々ドラゴン如きで収まる強さでは無い事を……。





御剣さん、頑張って!!(小並感


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八話

八話 放浪者

 

 

パーティメンバーを賭けた決闘、街はずれの平野で行われていたそれは実に一方的な物だった。

 

「どうしたよ勇者様?さっきから一太刀も当たってねぇぞ?動きも単調過ぎて欠伸が出ちまう」

 

嵐の様な御剣の斬撃、大剣である魔剣グラムを軽々と扱う膂力はその加護によるものなのだが、その力を使っても放浪者を捉える事が出来ないでいた。

 

それもそのはず、彼の相手にしている男は神の時代にて実力だけで世界の最果てにまで辿り着いた男、四つの王のソウルを内に収めた存在だ、魔剣を持った程度の一般人が勝てる訳がなかった。

 

 

紙一重、肌に触れるか否かと言ったギリギリを見切って避けている、その放浪者の動きは読んでいると言うよりも見てから反応して避けていると言った風だった。

 

(何故だ!? 彼は特に魔眼や何かを持ってる様子は無い、女神様を特典にしたから他の特典も無いはずだ!! なのに如何して剣も使わずに僕の連撃を避けれる!? 何故カウンターを的確に決めれるんだ!?)

 

今放浪者はポケットに手を入れた状態で御剣を相手にしている、足捌きと反応速度だけを使用して攻撃を回避し、振り切った攻撃全てに蹴りによるカウンターを叩き込んでいる。

 

早く煩いだけの斬撃の中、放浪者の頭は如何にこの小僧の心を折るかと言う事に思考を割いていた、その結果がこの手加減と挑発。

 

剣だけでなく両手を使わず、足だけで相手をし、且つ相手のカンに障る罵声を浴びせ続ける。

 

踏み込もうと足を踏み出した御剣の足を払い、転倒させたあと後頭部を踏み付け顔面を地面へと擦り付けるように踏みにじる。

 

「ほらほら、気張れよクソガキ。テメェは選ばれた勇者サマなんだろ?無様に地べた這い蹲ってザマァねぇな」

 

「グッ、舐めるのも大概にしろ!!」

 

 

そう言って御剣は起き上がりざまに魔剣を一閃するが虚しく空を切る、そればかりかその刃先の上に放浪者は立っていた、心底くだらない物を見る目をしながら。

 

「顎がガラ空きだ小僧」

 

そう言って放浪者の鋭い蹴りが顎先を打ち抜く、普段ならコレで意識を持って行くのだが、今回はある程度加減をし半端に意識を残した状態にして彼の手から魔剣を蹴り飛ばす。

 

回転しながら上空に打ち上がった魔剣はそのまま重量に従う様に落下、丁度落下地点に居た放浪者はそのまま魔剣を掴み取る。

 

その瞬間に御剣の身体に自由が戻るも彼の手に魔剣は無い、これまで魔剣に頼り切りだった彼は徒手空拳での戦い方を知らずに立ち止まってしまう。

 

「その魔剣は僕にしか使えない!! 真価の発揮しないその剣は普通の剣と何ら変わらないから僕のこの鎧には通用しないぞ!!」

その発言を放浪者は完全に無視し、肩から体当たりを入れて御剣の身体に衝撃を与えた後そのまま下から上に掛けてを一閃、彼自慢の鎧ごとその身体を両断した。

 

「––––え?」

 

それは誰の言葉か、惚けた様な声が響くと同時に御剣が膝から崩れ落ちる。

 

だが彼が喧嘩を売った男はそれを許す男では無い、放浪者は御剣の腹に膝蹴りを入れて身体を立たせた後、首を掴んで持ち上げソウルから取り出した女神の祝福を無理矢理飲ませる。

 

「起きろよ無能、魔剣(こんなもん)振り回して遊んでるだけの凡人が俺に勝てると思ってたのか? 良かったなァ身の程が知れて、この機会に教えてやるよ、テメェは魔剣(これ)が無けりゃ何も出来ねぇ落ちこぼれだってな」

 

身体が全回した御剣をそのまま投げ飛ばし、彼の前に魔剣を放り投げる。

 

それに頼って来た男なのでつい御剣は魔剣へ手を伸ばす、それが彼の強さであり自身を特別足らしめる存在だったからだ。

 

だがその瞬間彼の手は放浪者によって踏み砕かれる、態々相手が武器を拾うのを待つほど優しい男では無く、また彼の好敵手もこの状況なら武器を捨て殴り掛かって来る男だったからこそ余計に容赦が無い。

 

「魔剣がありゃ竜も殺せるんだろ?人間一人余裕じゃねぇか、ほらやってみろよ小僧」

 

踏み砕いた手を踏み躙り、苦痛に歪む御剣の顔を見て壮絶な悪党の表情を浮かべる放浪者。

 

 

利き手と逆の手で魔剣を握って立ちあがる御剣に、彼は両手を大きく広げてさあどうしたと言わんばかりに挑発を続ける。

 

プライドも何も無くなった御剣は魔剣の力を解放し、そのまま放浪者へ斬りかかった。

 

単純な振り下ろし、魔剣の力を解放した状態でのそれは竜を一撃で仕留める力を秘めている、だがそんな物は放浪者の潜ってきた修羅場では日常的なものだ。

 

左手を使って剣の腹を払い、大きく開いた胴をシミターの抜剣と同時に一閃、そのまま彼の両手両足の腱を切り、その際に取り落とした魔剣を拾いながら見下す。

「才能ねぇよ、お前。凡人以下じゃねぇか」

 

「ぼ、僕は、魔剣に……選ばれたんだ、それで、この世界を救うんだ……」

 

「はぁ? その程度で自分が特別だとか思ってんのか? んで? 特別な僕が世界を救ってあげます? あっははははっ!! なんだそりゃ、ばっかじゃねぇのか? オーケーオーケー、教えてやるよ特別ってのはカエル見てぇに這いつくばってるテメェじゃなく、この俺みたいな奴だってな!!」

 

放浪者の握っている魔剣グラムは御剣の転生特典として持ち込まれ、彼専用の武器としてこの世界では存在している。

 

しかし、その専用武器は初めから御剣専用だった訳では無い、ただ単にそう言う風に神の手で後付けされただけであって、真に魔剣に選ばれた訳では無い。

 

何の変哲も無い人間が魔剣や聖剣に主人として選ばれるなど信じられるだろうか? ロードランを駆け抜けた銀髪の騎士も自分の意思、強さを見せ付けた事で聖剣に認められ、その手に収めたのだ、それ故に銀髪の騎士との戦いでは放浪者と言えども聖剣に拒絶され握る事すら出来なかった。 …………尤も、彼はそれらを投げたり蹴ったりとぞんざいに扱っていたが。

 

 

つまり他人が触れられる程度の専用武器ならば、神の手では無く魔剣の自体の意思で所有者が変わる事もあり得るのだ。

白く輝く魔剣グラム、御剣響夜専用だったはずの魔剣は放浪者と言う強烈な才能と強さによって所有者を乗り換えてしまったのだ。

 

声にならない衝撃、全身から力が抜けて唯の人になってしまった響夜に追い打ちをするように放浪者がこれ見よがしに魔剣を振る。

 

次の瞬間、大地が大きく裂け、巨大な渓谷が出来上がった。

 

その威力、その範囲、それは全て御剣響夜の扱っていた時とは雲泥の差の威力であり、正に魔剣の名に恥じない威力だった。

 

「コレでテメェは唯の人間だ、特別でも何でもねぇ何処にでも居る無力な小僧だ、まっ精々頑張れや」

 

 

そう言って放浪者は渓谷の底に向けて魔剣を捨てる、元よりこの様な武器が好みでない彼にとって魔剣は不要な物、その行為にはなんの躊躇も無かった。



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九話


追記サブタイ修正


第九話 胃袋

 

 

「あの、ちょっと私今まで調子に乗ってました……」

 

 

小僧をぶちのめした帰り、アホ女神は指を突きながら普段のやんちゃを謝ってやがる。

 

お世辞にも優しい戦い方とは言えねぇ蹂躙を見たからか、何時も口喧しいボケどもは非常に大人しい、まあこのどんよりとした雰囲気だと魔女っ子とマゾヒストはパーティー抜けるかもな。

んな事を考えてたが、後ろを歩いていた魔女っ子がブツブツと何か言ってる事に気がついた俺は、よーくその言葉を聞いて見たんだが……。

 

「なんですかあの火力、私への当てつけですか、他人の魔剣でもアレだけやれるんだから爆裂魔法を使ったらお前の様な小娘よりも確実に火力出るんだぞって自慢してるんですか? 許しません、ええ許しませんとも、爆裂魔法を極めるのは私です、アレは私が一番上手く使えるんですッ!!」

 

 

…………安心しろ、あんな欠陥魔法使う気ねぇから。

 

「今、爆裂魔法の事愚弄しましたね!? 顔に出てますよ!!」

 

「あーはいはい、分かった分かった、俺が悪かったよ……」

 

女の勘って怖ぇのな。

 

余計な火を付けちまったのか、さっきまでの雰囲気は何処へやら、ぽこぽこと俺の腹を叩こうとしてやがったから頭抑えて空振りさせてやる。

 

チラッとマゾヒストの方を見ようとしたが、大体の予想が出来ちまうので辞めた。

 

「ああ、あの男に対するリチャードの仕打ちの数々……っ!! 圧倒的な実力差を見せつけながら肉体的にも精神的にも痛め付け、最後にはプライドや拠り所すら折ってしまう容赦の無さ……っ!! あの場で蹂躙されていたのが自分だと思うと……くうっ!!」

 

「お前帰ったら覚えてろよ、絶対にしばき倒してやっから」

 

「望むところだ!!」

 

此奴ら、俺が危険人物だったから凹んでるのかと思ったら全然平気じゃねぇか、少なくとも悪党だった筈だぞ俺は。

 

その証拠にあの男の連れは完全に怯えて泣いてやがった、まぁ其奴らの評価はどうでもいい、精々無能になった勇者とやらの介護に勤しんでくれやとしか思えん。

 

だが横で見てた筈のこの連中が、女神以外怯えてねぇってなんだ? 一番まともな感性してるのが女神だけってのも––––。

 

「ねーリチャード、私お腹空いちゃったー、早くご飯食べましょうよー、というかご飯作ってよー」

 

 

訂正、このアホ女神三歩歩いたらすっかり元の調子に戻りやがった、テメェの知能は赤子以下か!!

 

 

「ぐぬぬ、身長差からこの私が子供扱い……屈辱です!! 絶対に忘れませんよこの恨み!!」

 

「あぁ、私は何をされるんだろうな……吊るされて鞭を打たれるのか……それともロープでの束縛プレイか……いやいや又水責めをされるかもしれん、どうしよう!!」

 

「ねー、ねーってば!! 私ビーフシチューが食べたい!! それか大盛りのハンバーグ!! で、で、キンッキンに冷えたしゅわしゅわを飲むの、ああそうなると焼き鳥もいいわよねー、ねー全部作ってよー良いでしょー?」

 

 

なんだこいつら? 好き放題言い過ぎだろ、師匠やビアトリスだってここまでハッチャケて無かったぞ、つかなんで俺がこんなにも疲れにゃならんのだ。

 

体力の有り余る三人に絡まれた俺は肩を落としながらそのままギルドへ行き、報酬の受け取りと夕食の調理に取り掛かった。

 

最悪なことに魔剣使いがぶっ壊した檻、あれの修理費がアホ女神の報酬から引かれると受け付けで聞かされた俺がその分をこっそり立て替える羽目になるし、マジでこいつらと居ると碌なことにならんな。

 

そんなため息と共に、俺はアホ共の為に飯を作りに行くのだった。

 

 

 

 

食事も行き渡り、要求される事を見越して作った各種おつまみをテーブルに運んだ俺は、自分用の飯には手を付けずに切られたフードの確認をしていた。

 

原盤で強化したもんだからあの程度じゃ碌な傷も付きはしねぇんだが、縫い合わせの部分を綺麗に切られちまった所為で糸がほつれてやがる。

 

微塵も興味が無かったのと、殺気がねぇ上に街中で抜くレベルで自分に酔ってるとは思わなかったもんだから思わず一太刀貰っちまった、ガキじゃあるまいしフード如きであそこまでする必要は無かったんだが、どうにも腹が立っちまった。

 

過ぎた事は仕方無いと自分に言い聞かせ、飯を食おうとした時、目の前に置いていた丼が空になっている事に気がついた。

 

顔を上げると口をリスみてぇに膨らませたクソッタレ女神と目があった、お前マジで女神なのか? 残念な頭した唯の女なんじゃねぇのか?

 

「一応聞いてやるが……俺のロコモコ丼、どこ行った?」

 

ひらひゃい(知らない)

 

「飲み込んでから喋れ」

 

「んっく、ふぅ……女神であるこの私が卑しくも盗み食いをするとでも思ったのかしら?」

 

「口元、ソースと半熟卵の黄身が付いてるぞ」

 

これ以上に無い状況証拠だ、このアホ以外は既に飯を食い終えて酒と用意したつまみを食ってるし口元も汚れてねぇ、言い訳に対する制裁を今のうちに考えとく。

 

「ねぇ一旦私の話を聞こ? 判断はそれからでも悪くないと思うの」

 

 

どうせ至極下らない理由だろ? お前の頭じゃ碌な言い訳なんそ考えられん。

「取り敢えず言ってみ?」

 

「ずっとフード触ってたでしょ? だからてっきり私は食欲無いのかなーって思ったの、でねでね? 折角ほかほかの丼なのに冷めるのは勿体無いかな〜って、そもそもリチャードのご飯は何でも美味しいのがいけないと思うの、こんなにも美味しいご飯が冷めちゃうなんて神に対する冒涜よ冒涜。 そう、だから私は悪くない!!」

どうやら俺はそこそこ長い間フードを弄り回してたらしい、まぁ確かに考えりゃ他の連中が既に飯食い終わってるからな。

 

「OK制裁は決まった、俺は暫くお前にだけ飯作るの辞める」

 

だが、俺の飯を食う理由にはならん。

 

「ごめんなさい!! ごめんなさいするからおつまみ作ってください、もう私は焼き鳥としゅわしゅわが無いとダメなの、パフェとかケーキも作れるのはリチャードしか居ないの!! 貴方じゃないと嫌なの!! だから許してよぉ……!!」

 

 

パーティーの台所事情を完全に掌握してっとほんと便利だわ、アホの手の平返しが早くて楽でしょうがねぇ。

 

つか、ハンバーグにビーフシチューにロコモコだろ? 此奴どれだけ食うんだよ、食欲に素直過ぎねぇか? んなだから駄女神なんだよ。 言い訳もガキのレベルじゃねぇか、もちっとマシな言い訳できんのか。

 

そんな呆れを込めたため息と共に空いた皿を回収した俺は、仕方なしに酒とつまみで腹を満たそうと思ったんだが、酒瓶が片っ端から空だった。

 

嫌な予感がしたので横を見たらマゾヒストと魔女っ子が酒瓶抱いて酔い潰れてやがる、おい誰かこのポンコツ連中の取り扱い説明書をくれ、言い値で買い取るからよ。

 

ぴーぴー泣いて俺に縋るアホ女神と『我が爆裂魔法は世界一!!』とか言う物騒な寝言を言う爆裂娘と、意外に寝相が悪くないマゾヒスト。

 

バタバタとした日常だが、同時に忙しさであまり疎外感を感じねぇのが不思議だ。

 

才能の差から来る疎外感、この街じゃんなモン感じる暇がねぇし、馬鹿どものお守りで感傷に浸る暇もねぇ。

 

だがまぁ、なんだ、最近じゃそれも悪くねぇって思えるようになったよ、師匠。



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十話

これを書いてると又別の設定でこのすばss書きたくなる悲しみ(白目

違うんですよ、fgoやっててね? ほら、カルナ先生が真の英雄は目で殺すって言ってるんですよ。

だから目からビーム出す魔法作っちゃうアクシズ教徒の紅魔族男子でやりたいなーって(白目


第十話 逆襲

 

 

「あー、罠の設置が甘かったか? いや、アンデットのタフさを知らなかったからか?」

 

 

街の城壁の上で胡座掻いて座る俺の下には懲りずにデュラハンがこの街へ抗議をしにきてやがった、後二、三日は出てこれねぇと思ったんだがな、どうやら甘かったらしい。

 

寝るっつー行為に未だに慣れねぇから月見酒をして朝まで飲んでたんだが、朝一で矢だらけの身体で走ってきやがった。 どうやら設置した罠の悉くが効いたみてぇだ、首のねぇ馬が針ダルマになってやがる。

 

「き、き、き、貴様らに正々堂々と言う二文字は無いのか!! その日の内に我が城に罠を仕掛けにきおって!! なに? 俺に何か個人的な恨みでもあるの!? 俺この街に何にもしてないよ?」

 

 

城ごと生き埋めにするつもりで罠仕掛けたんだがな、魔王の幹部ってのは伊達じゃねぇらしい。

 

さて……どーすっかな、今酒が回ってっから狙撃は無理だ、急所をミリ単位で外す可能性がある。

 

けど本気出すまでもねぇ相手だしなぁ、牛頭のデーモンよりは強ぇだろうが、アノールに居る連中レベルか良いとこか? 森の狩人共以下の奴に五分も使わねぇからな、少しハンデ付けして仕留めるか。

 

そう考えた俺はソウルの中からツヴァイヘンダーを取り出し、そのまま城壁の上から飛び降り、落下攻撃を行う。

コートのはためく音に勘付いたのかその攻撃は避けられたが、代わりに馬を両断出来たんで良しとするか。

 

「なっ!? 何故生きている!?」

 

「テメェのヘナチョコな呪い如きで死ねるかよ、御託ならべてねぇで早く掛かって来やがれ、ハンデ付けてやるからよ」

 

俺はそう言って自分の左腕を畳んだ状態で包帯で縛り上げて使えない様にし、残った右腕一本で奴を討つと挑発するように斬りかかる。

 

使う武器は同じ武器種であるツヴァイヘンダー、相手も装備している大剣が特大武器だからそれに合わせて上回る、不死者の先輩として遊んでやるよ。

 

体重移動と身体の捻りを加えた振り下ろし、空気を巻き込む様な音と共にまっ直線にデュラハンの身体を両断しに行く。

 

奴は即座に背後に飛び退いたが、剣圧に弾かれて予定よりも後方に飛んじまったらしく、振り下ろし後の隙をワザと作ってたんだが追撃を誘えなかった。

 

だったらと思い直し、振り抜いて地面に埋まった状態のツヴァイの鍔を蹴り上げ、回転して宙に浮かせた後に回し蹴りで蹴り飛ばして矢の様に弾き飛ばす。

 

同時に弾き飛ばしたツヴァイの下を身を引くして駆け抜ける、距離的に数秒で敵の懐へ飛び込める位置だからな、引き抜くよりこっちのがはえぇ。

 

踏み込みの一歩目、デュラハンは魔王の幹部としての意識が戻ったんだろう、俺の踏み込みに合わせたカウンターを狙って横振りを開始。

 

踏み込みの二歩目、俺の頭の真横にデュラハンの刃が迫る、左手が使える状態ならパリィだが今回はハンデを付けてっからそのまま体制を更に崩してデュラハンの股下を滑り抜ける。

 

カウンター回避後、滑り抜けた勢いで移動し過ぎねぇ様に地面に右手を突き立てるようにして真上へ自分の体を弾き上げ、すっ飛んで行き掛けたツヴァイの柄を両足で挟み、そのまま身体ごと縦に回転させてデュラハンの背中から強襲する。

 

そして斬撃を浴びせると同時に足から右手へとツヴァイを持ち替え、奴の抱える頭を蹴り飛ばしに行ったが、奴は脇を締めるように手前へと頭を移動させて二の腕を差し込まれる。

 

「ハッ、関係ねぇよ!!」

 

 

だがその程度なら十分に押し込める、俺はその状態からツヴァイを地面に突き立て、其処を支柱にしながら腕の力を合わせて二発目の蹴りを叩き込む。

 

重い鎧に身を包んだデュラハンはその一発で身体ごと弾き飛ばされそうになったが、右足を軸にして回転へと繋げる事で吹っ飛びを回避し、更に横薙ぎの一撃をかまして来やがった。

 

この俺の状態で振られた一撃は避ける事は出来ん、すかさずツヴァイから手を離し肘と膝で挟み込む様にして直撃を回避しながら吹き飛ばされる。

 

地面に叩きつけられながらも鋭利な小石を拾い、受け身を取って身体を起こし、その反動を利用してデュラハンの顔面へ投石、ワザと防がせた後に肉薄し素手で殴り飛ばした。

 

 

 

 

「アッハハッ!! どぉしたデュラハンさんよ!! さっきっから防戦一方じゃねぇか!!」

 

 

単騎で魔王の幹部へと挑んだリチャード、片腕を自ら封印しての戦闘だったがデュラハン相手に終始余裕を浮かべた表情をしている。

 

軽量ではあるとは言え本来ならば両手で扱う特大武器を片手で軽々と扱い、アルコールが入っている状態にも関わらず足取りは軽い。

 

反射神経と勘だけで自分の攻撃を回避し、一瞬でも隙を作れば易々と痛烈な一撃を浴びせる男にデュラハンは自分が彼に勝てるイメージを抱けなくなって行く。

 

それ程までの輝かしい才能と鋭い直感、正に天才と言われるに相応しい相手。

 

武器を手放し素手となっても徒手空拳での戦いも一級品、かと思えば小石を拾い弾丸の様に投げ付けたり、足元の土を震脚で煙幕の様に巻き上げたりと搦め手にも精通している。

 

城に設置されていた罠を仕掛けたのはこの男だとデュラハンは場違いながらにも察してしまう。

 

城に仕掛けられた罠は再建中に組み込まれたもので、その全てが巧妙かつ効果的に他者を殺害する物ばかり。

 

アンデットの配下はその全てが罠の餌食となり、デュラハン以外が全滅する事になった、自壊した罠を撤去しようにもプリーストによる祝福が何重にも重ね掛けされている所為で触れた瞬間に身体が焼ける。

 

デュラハンが五体満足で城を脱出出来たのはめぐみんによる爆撃で壁に大穴が空いたからだ、それがなければ彼は誰にも気付かれる事無く城の中で死んでいたか、多重祝福された罠達による物理的な封印がされていた。

 

初めは卑怯者だと内心で憤って居たデュラハン、しかし剣を交えるにつれて徐々に破壊されて行く自分の肉体と装備にその考えを改める。

 

–––––成る程、この男は才能が突出し過ぎているが故、俺程度の者とでは戦いが戦いにならぬのか。

 

自分の大剣ごと肉体を両断され、落ちた頭の中でそう結論付けた彼が最期に見たものは大きくツヴァイヘンダーを振り上げるリチャードの姿だった。

 

 

Auf Wiedersehen‼︎(あばよ、くたばっちまいな!!)

 



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十一話

第十一話 お祭り

 

 

デュラハンを撃破した俺は英雄扱いに辟易しながら頬を膨らませているアホ女神に頭を抱えていた。

 

単騎で魔王の幹部を討ち取ったからか俺個人に対して莫大な報奨金が支払われた、そうならねぇように街の周辺で戦ってたんだが、剣を交えてる間にんな事をすっかり忘れてたんだわ。

 

増援が来る前に終わっちまったから完全に俺の手柄なわけで、ギルドでその場に居た全員の飲食費を払うって宣言したら金に困ってるアホ女神がずるいだのなんだの言ってガキみたく拗ねちまった、魔女っ子もマゾヒストも素直に喜んでたのに器が小っちぇな。

 

無視しても良いんだが、このアマはかまってちゃんだからな、無視したらしたで面倒な事になる事間違いなしだ。

 

「いい加減機嫌直したらどうだよ、ガキじゃあるまいし細けぇ事で膨れてんじゃねぇ」

 

「ふーんだ、人気者は言う事が違いますわねー、余裕ってやつかしら?」

 

 

ああ、こいつ単に俺がちやほやされてるのが気に入らねぇだけか、分け前の話じゃねぇだけ面倒だわ。

 

「はぁ……」

 

「あーっ!! ため息、ため息吐いた!! 私の顔見てため息吐いた!! 何よちょーっと強いからってリチャードばっかり!! 私は女神なのよ!? 偉いのよ!? 凄いのよ!? もっと褒めてよ!! 甘やかしてよ!! 持て囃してよ!!」

 

「俺はこれ以上にねぇくらいテメェを甘やかしてると思うぞ……」

 

好きな料理作ってやってるし、ツケを肩代わりしてやってるし、魔物に襲われても助けてやってる、これ以上なにしろってんだよ。

 

ワガママ全開のアホ女神はそう言って酒を一気飲みしてやがるが、それも俺の金なんだぞ?

 

俺の作ったつまみを食いながらやけ酒を呷るアホ女神、これ以上アホな理屈で絡まれたくは無かったんで、忙しい厨房の中へと入って料理を作る事にした。

 

最近はパーティーメンバーの飯を頻繁に作ってるからか最早許可も要らなくなった、つかギルドの職員も注文を入れて来やがる始末だ。

 

すっかり趣味になっちまった料理、元は師匠の嗜好品だったんだがなぁ、細けぇ注文が多かった所為で身に染み付いちまった。

 

んな事を考えながら料理してたんだが、夕方から夜中まで続いた宴会で周りの連中の大半が酔い潰れちまった頃にカウンター席にアホ女神が来た。

 

厨房の奴らも後半は俺任せにして酒飲んでやがったから起きてるのは俺と此奴の二人、アホ女神は程よくアルコールが回ってんのか顔が赤けぇがな。

 

「デザートか? ジェラートとケーキがあるぞ」

 

「ねぇ、アンタさ、一回死んでる訳じゃん?」

 

 

ちらっと周りを見たが俺たちの話を聞いてる奴は居ねぇ、アホ女神の目も真剣そのもの、どうやら真面目な話らしい。

 

「まぁな、で? それが何だよ」

 

「死因は? あの時、女神の目でもアンタの死因がわからなかった、他の魂なら人生丸ごと見通せるんだけど、アンタのだけは分からなかったの、何処出身でどんな死に方したのか教えて欲しいんだけど」

 

その問いかけに俺は少し考え込む、此奴の口が軽いのは重々承知してるが軽過ぎて信憑性が薄い、別に話してやっても良いんだが……まぁ教えねぇ方がうるさいか。

「真面目な内容みてぇだし、特別に教えてやるが……流石に此処じゃあな」

 

 

そう言って俺は余り物で作った料理と良さげな酒を何本か持って、アホ女神と共にギルドの外へと出た。

 

「ここなら良いだろうよ、人気もねぇし何より月がよく見える」

 

 

俺が選んだのは城壁の上、潜伏スキルを使ってりゃバレる事はねぇし、街のお祭り騒ぎの中にいなくて済む、横に居る女がガキじゃなけりゃ最高だったんだがな。

 

「俺の死因の話、だったな?」

 

「うん、アンタの強さはハッキリ言って異常よ、才能の塊にしても出来ない事が少なからずあるのに、アンタの才能には底が無い。 日常的な些細な事にさえも、ね。 そんなアンタがそんな若い姿で死ぬって言うのが考えられないわ、事故死? 病死? 何にしてもアンタが死ぬ姿が思い描けない」

 

腐っても女神、あんぽんたんのアッパラパーの頭をしててもこの手の事には真剣な訳だ。 死後を司る神か、不死人にゃ縁のねぇ存在の癖によ。

カラン、と酒のグラスの氷が鳴る、普段からこれぐらい真面目な女なら少しは見直すんだがね。

 

「ま、俺様は天才だからな、テメェの意見も尤もなんだが……死因は単純なモンだよ、正面からやって負けた。 ただそれだけだよ」

 

 

そう言って俺はコートの下のシャツをたくし上げ、丁度心臓の部分を見せてやる。

 

其処にはあの男に殺された時の傷跡が残っている、こっちに来てダークリングが消えた代わりに俺の死因であるこの傷は消えていなかった。

 

まぁ、あの男に負けた事は悔しいが単にそれだけだ、あの時あの場所で俺が敗北したって事は、俺と奴の差がそれだけ開いちまったって事だ、そしてそれこそが俺の人生のエピローグ、長年探し求めていた俺の産まれた意味だ。

 

「…………嘘でしょ? リチャードより強い奴ってちょっと想像出来ないんですけど」

 

「強さで言えば俺より弱ぇよ、同じ武器使って正攻法で戦えばまず負けねぇ自信はある、だが奴の強さはそこにゃねぇよ」

 

 

あの男の強さは剣の腕じゃねぇ、確かにそれも何割かはある、俺以外の並みの連中には負けねぇだろうが、奴の強さはもっと別の場所にある。

 

「俺を殺してくれやがった奴の強さってのはな、格上との圧倒的な差を縮める強さだ、その為にゃ鋼の精神でなんでもやる奴だったんだよ」

 

「例えば?」

 

「魔剣・聖剣の類いを当たり前の様に投げてきたり、敢えて暴発させたりだな、兎に角武器の扱いが雑だった」

 

「…………はい?」

 

 

多分あの男が魔剣グラムを使えば蹴り飛ばしたり投げ付けたりと本来の用途以外の方法で活用しやがるだろう、武器防具を使い捨てにする事に何の躊躇いも見られねぇ奴だからな。

 

苗床の道中での会話でハルバードを投げまくってる事に呆れた覚えがある、何しでかすか分からん男だった。

 

「えーっと、要するに……奇策使い?」

 

「それだけなら良かったんだがな、奴は後の先を取る事に関しちゃ超一流でな、二の太刀が異様に早えぇもんだから一太刀目を避ける時に避けさせられるとそのまま首が飛ぶんだよ」

 

「避けさせるって、何? 避けてるんじゃないの?」

 

「才能のカケラもねぇ奴だったからな、一太刀目で斬れるに越したこたぁねぇが、本命は二の太刀三の太刀って奴だ」

 

 

避けられる事を前提にしながら一撃で斬り捨てに来る、そして斬撃を避けさせ、回避しきって無防備になった体勢に本命を入れてくる、一の太刀から二の太刀までの繋ぎも異様に高速化してたから斬撃が連動して見えるんだよ。

 

「ふーん、世の中ってのは広いのね、で? なんでそんなのと戦ってたのよ?」

 

「今じゃ因縁めいたモンだが、その因縁ができちまったきっかけは快楽殺人って奴だな、意味も無く殺し回ってた中の一人でしか無かった。二回目も同じだった、その時は慢心を突かれて負けた。三回目は逆恨みか、奴の知人に致命傷与えて誘きだしたんだがな、返り討ちに遭った。 四回目はちょっかい出しただけだったが、五回目は本気を出して殺しに行った。まぁ殺しきれなかったがな」

 

「えっと……控え目に言っても、アンタってストーカー? 狂人? 私これから殺されちゃうの?」

 

「今は意味も無く殺し回ったりしねぇよ、する意味がねぇ。 つかストーカーじゃねぇよ、奴と俺の世界が近いのが問題なんだよ、ちょっとした事でしょっちゅう交わってたからな」

 

 

世界の境界線が曖昧だった時代だ、時間ですらまともに機能していないあの時代に比べりゃ、道理がきちんと働くこの世界ならあの男とは永遠に知り合わなかっただろうよ。

 

そんな事を考えながらグラスの酒を飲んでると、世界の境界線の話に疑問符を浮かべているアホ女神に気が付いた、考えりゃ此奴は神の中じゃ若ぇんだった。

 

「まずそっからか……まぁ良い、今日は気が向いたから話してやってるんだ、聞きたいことに全部答えてやるよ」

 

 

夜は長いんだ、話す時間くらいいくらでもあるさ。



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十二話





十二話 昔話

 

 

ロードランの話をしていたはずなんだが、ある気がかりがあったもんでいつの間にか俺自身の話に内容が変わっていた。

 

 

……俺の一番古い記憶は自分を捨てた娼婦の母親を絞め殺した瞬間だ。

 

捨てられた理由も、その間どうやって生きていたのかも殆ど覚えてねぇ、だが一つだけはっきりと今でも覚えている事がある。

 

「『お前なんか、産まれなきゃ良かったのに!!』それが俺の母親が最期に言った言葉だったよ」

 

その時は何にも思わなかったが、今になって思えば母親が俺を捨てた理由が何と無く分かっちまった。

 

「要は、俺が怖かったんだろうよ。ガキの頃からこの才能は有ったからな、日に日に常人離れしちまうガキが薄気味悪くてもしょうがねぇさ」

 

望んだガキじゃねぇんだから堕胎しちまえば良かったのに、とは思うがそれ自体当時の技術じゃ非常にリスキーな物だ、命欲しさにそれをしねぇってのは良くある話だ。

 

ある程度まで育てたのも赤子で捨てちまうと世間体ってのが不味くなるからだろう、んな倫理観気にしてるような奴だったから俺はこうして生きてんだが、まあ複雑だわな。

 

 

「次に覚えてんはアストラに行って騎士になった事か、まぁ良い飯食いてぇからって理由だったと思うんだが、詳しくは覚えてねぇ」

 

使命だなんだってもんは無かった、唯漫然と戦ってりゃ生活出来る職業、俺にとっちゃそれ以上でもそれ以下でも無かった。

 

何匹竜を狩っても、何体デーモンを殺しても、決して満たされる事は無かった。

いや、そもそもその騎士団で俺は一人浮いていた筈だ、何せ好き好んで騎士になる連中は誰かの為や使命の為に剣を取った連中の塊だ、俺みてぇに産まれた意味すらわからねぇ奴が居るような場所じゃねぇ。

その頃から俺は俺が産まれた理由ってのを探し始めたんだ、国を襲う邪悪な竜だの封印されていた悪魔だの、それまで以上に積極的に戦いに身を投じる日々だった。

 

そんなある日、王から叙勲される事になったんだけな、渋々推し進められて出席したが、勲章を貰った瞬間に俺の人生はこんなもんの為に会ったのか?って感じたのをはっきり覚えてる。

 

ダークリングが出たのはその時か、勲章投げ捨てて王を斬り殺した後に自覚したもんだから多分そうだろうとは思う、気付いて無かっただけでもっと前からかも知れねぇが。

 

 

後は毎日毎日戦い続けだった、ダークリングが出来ちまった以上それ以外にやる事も無かったからな。

 

んで、ロードランに行ったのもその流れからだ、あの時は取り敢えず行って見るかって程度だったんだが、まさかそれが正解だったとは夢にも思わなかった。

 

 

「後はさっき話した様に世界の覇権を争って負けた、それが俺の人生の幕引きで、その瞬間の為に俺は産まれたんだと思ってる。 だから、俺はオマエに聞きてぇんだ、女神アクア」

 

「何を?」

 

「––––––俺の人生に、価値はあったか?」

 

俺は俺の結末、人生に納得しているし後悔もない、果たせねぇ約束をしちまった事は申し訳ねぇがそれを含めて俺の物語だと考えてる。

 

だからこそ知りたい、俺の命が他人から見て価値があったのかを、神から見ても何か結果を残せていたのかを。

 

「そんなの当たり前じゃない、価値の無い人なんて居ないでしょ」

 

「………そうか、だったらいい」

 

 

肩透かしを食らった様な、何を当然な事を聞いてるのかと言った顔をしたこいつは、心からそう思っているのだろう、表情豊かな奴だから良く分かる。

 

「お前は良い女だな、アクア」

 

「あれれっ? もしかして今更私の魅力に気付いちゃったの? まあしょうがないわよね、私は心優しく清らかな美しい水の女神様だもの、ツンデレの貴方もメロメロになるのも必然よ必然、この世界じゃ上げ底のパッドエリスが調子に乗ってるみたいだけどやっぱりこの私が一番だって分かるわね? さあ!!早くアクシズ教に入信してこの私を甘やかしなさい!!」

 

 

…………ちょっと褒めたらコレだよ、このアマ。

 

しんみりした空気なんぞ一瞬でぶっ飛んじまった、俺はアホの頭に拳骨を打ち下ろし、涙目の抗議を聞き流しながら月見酒を続けるのだった。

 

 

 

翌日、俺は一夜で使い切れなかった賞金の大半をアホ女神達に投げ渡し、こっそりと購入した高級釣竿セットを持って川釣りと洒落込んでいた。

 

ロードランから続く数少ない俺の趣味、釣りは良いぞ? 問題児の尻拭いを考えねぇで静かに時間を過ごせるし、何より飯を掻っ払われずに済む。

 

今日は鮎の友釣りをしてたんだが、鮎料理を作り終わった辺りで誰かの視線を感じた。

 

…………しかも俺の作り立てほかほかの料理に向かって。

 

 

視線の主を探していると、見るからに二、三日森で迷子でしたって感じの女が茂みの向こうから見ているのを見つけた、つか目が合って慌てられた。

 

飯、一人前しか用意してねぇんだなぁ……。

 

「あ、あの、えっと、コレはその!! 森で迷子になっちゃって、荷物も落としてしまって、だからつい!!」

 

「……食うか?」

 

「……いただきます」

 

 

おずおずと出てきた女はウチの魔女っ子と似たマントとローブを着て居た上に目が赤い、紅魔族か? はぁ、こいつの方が発育が良いしウチの魔女っ子と交換できねぇかね。

 

そんなことを思いながら飯が食い終わるのを待って名前を聞いたんだが、恥ずかしそうな顔で俯いちまった。

 

「……まぁ名乗りたくなけりゃ別に無理にゃ聞かねぇよ、だが礼ぐらいは言って欲しいもんだな」

 

「ご、ごめんなさい……あの、笑わないで下さいね?」

 

「んな事で俺が笑うかよ」

 

「じゃあ、その、我が名はゆんゆん!! アークウィザードにして上級魔法を操る者!! やがては紅魔族の長となる者!!」

「やっぱり紅魔族か、まあんなところだろうとは思ったよ」

 

「えっ? あの、それだけですか? 笑ったりはしないんですか?」

 

 

俺からすりゃ、名前があるだけ幸せだと思うんだが、まぁ流石にゆんゆんって名前はなぁ。

「別になんとも? まぁ精々覚えやすい名前だなって程度でしかねぇよ」

 

「ほっ……」

 

 

名前を名乗るのが恥ずかしいのか、珍しい奴も居たもんだな。

 

そう思いながら俺は別の川魚を釣る為に別の竿を使ってたんだが、電波娘が何故か俺の隣に座って動かない。

 

ああ、迷子だって言ってたし、あれか、帰り道が分からんのか。

 

それにしてもさっきから俺に話しかけようとして躊躇っての繰り返し、なんなんだよこの娘。

 

結局この空気に耐え切れなくなった俺は早めに釣りを切り上げて街まで連れて行く事になった、はぁ。



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十三話


fgoで新宿のアーチャー引いたので強化に勤しんでました、スキル素材多過ぎィ!!(白目


第十三話 癒し

 

 

俺は今知り合いの道具屋でテーブルに座って紅茶を啜っていた。

 

此処の店主は働けば働く程貧乏になっていく不思議な奴だが、その分店の中が静かで落ち着くし、店主自体も気立てが良い、女らしい女といやいいのかねぇ。

 

 

「リチャードさん、おかわりどうですか?」

 

「ん? あぁ、空になってるな頼むわウィズ」

 

 

何だろうか、前世から付きまとっている女運の悪さのせいで俺の中での店主の株がうなぎ登りなんだが……。

 

此奴と知り合ったのは丁度例の幹部が攻めて来る前だったか、魔女っ子の爆裂散歩に付き合う時にありったけポーション買って行ったのがきっかけのはず。

 

『お陰様でギリギリ赤字にならずに済みました』とか言って次の来店時に涙目になって御礼を言われたのを覚えてる、第一印象からポンコツだったが此奴は大人しいし何より中身が大人だ、非常に付き合いやすい。

 

 

「お前だけだわ、ストレス無く付き合える相手は」

 

「そうですか? リチャードさんは街の人にも頼りにされてますし私なんかよりずっと接しやすい人も居ると思いますけど……」

 

「頼りにされ過ぎなんだよ、昨日なんぞクエスト帰りに喧嘩の仲裁やら定食屋の手伝いやらガキの遊び相手やらで一日中だぞ……ったく俺は便利屋じゃねぇっての」

 

 

この世界に来て二月もした頃にゃ今の状態だった、クエスト帰りは暇だからとぷらぷら出歩いては暇潰しに手伝いやらなんやらをやってたらいつの間にかこうなっていた、ガキにゃ先生だのアニキだの勝手に呼ばれるわ、商店街通りゃ野菜やら魚やら肉やらを貰っちまうわで疲れる。

 

 

「今日この店に来る前にもな、『幼馴染に告白するので台詞を一緒に考えて下さい』とか言われたもんだから、自分で考えろつって蹴り飛ばして来たし、散々ガキに剣術教えてくれだの弓術教えてくれだの槍術教えてくれだの駄々こねられた、ガキにゃ早ぇし親が生きてんだから大事にしろっての」

 

「はい、リチャードさんお茶が入りましたよ」

 

 

そう言ってウィズは俺のカップに紅茶を注ぎ、俺の前の椅子に座って俺の顔を見ながら優しく笑う。

 

この女は何時もこうだ、さして面白くも無い話を聞いてニコニコ笑って、話のネタを使い切って黙り込んだ俺が外を見ても横顔を見てるだけ、付き合いやすくはあるが師匠とはまた別のベクトルで調子が狂う。

 

そんな事を思いながら晩飯の献立を考えてたら急な夕立が降り始めた、話すネタも無くなったし帰ろうとしたところにかなり激しい雨なんで暫く様子見だ。

 

 

「こりゃ当分止みそうにねぇな」

 

「朝から少し空気が湿ってましたからね、良ければ傘をお貸ししますよ?」

 

「止まねぇ様なら頼むわ、代わりにっちゃなんだが有り合わせで飯でも作ってやるからよ」

 

「…………その、お気持ちは嬉しいんですが、今お塩とお砂糖しか食材が無くてですね?」

 

「……それは食材じゃなくて調味料だ」

 

 

 

台所を拝見したが食材と呼べる物が無かったので買い出しに行く事になった、俺一人で行くつもりだったんだが申し訳無いからとウィズも付いて来た。

 

傘は一つしかねぇから二人で一つの傘を使ってるんだが、もしかしなくても勘違いされねぇかこれ?

 

バレねぇ程度に傘をウィズ側に寄せながら歩いていると、その予想が的中しちまった。

 

 

「あー!! リチャードのアニキが女連れで歩いてるー!!」

 

「デートだデートだ!!」

 

「八百屋ンとこの兄弟か……」

 

確か今年で7つと6つだった筈、槍と弓を教えてくれとせがんで来る奴らだ。長靴履いて傘でチャンバラやってやがる、ずぶ濡れになって何やってんだか……。

 

 

「アニキ!! 言いふらされたく無かったら槍教えろー!!」

 

「アニキ!! ビラばら撒かれたくなかったら弓教えろー!!」

 

「好きにしな、ぜってーテメェらにゃ教えねぇ」

 

「「けちんぼ!!」」

 

「あの、簡単な手ほどきくらいは教えてあげても良いんじゃないでしょうか?」

「はぁ……別に教えるのが怠いって理由で断ってるんじゃねぇんだよ」

教えようと思えば勿論教えられる、一年ありゃ幼竜ぐらいならヤれる実力に鍛える自信もある、だが此奴らは俺と違って是が非でも戦う力が無けりゃ生きていけないって訳じゃ無い。

 

衣服もきちっとしてるし血色も良い、何よりまともな両親が両方生きてる、魔王だなんだと世間は言ってるが実際に戦うのはそれ専門の人間だ。

 

態々人並みの幸福と人生を捨てる様な選択をガキの間から選ばせる気は無ぇ、後数年しても考えが変わらねぇってならそれも良いんだがな。

 

 

「ほれ、無駄話は終わりだ、風邪引かねぇ内に家に帰んな」

 

そう言ってガキどもを掴み上げ、商店街にある八百屋に引き渡したら店番サボって遊んでたらしく、店先で母親に叱られる二人に呆れちまった。

 

「いやーリチャードさん、何時も何時もウチの倅達が迷惑掛けて……、コレ今朝取れた野菜です」

 

「別に良いっての、毎度毎度でもう慣れた」

 

「しっかしリチャードさんも隅に置けませんねぇ、何時の前にウィズさんと良い仲になったんです?」

 

「オヤジ、一つ断っとくがんな関係じゃねぇぞ」

 

「またまた〜!! お似合いですぜ?」

 

「……サキュパスの店に出入りしてっこと、チクるぞ?」

 

「すんませんでした!! コレ今旬の奴っす!! お代も結構っす!!」

 

「ユスリじゃねぇんだから払うっての」

 

 

こんな調子で俺とウィズは揶揄われながら食材を購入した後、店へと戻った。

 

道中で食材を見たウィズが『久しぶりに固形物が……』とか言って、哀れに思ったのは秘密だ。

 

 

 

ウィズの店で飯を作った後、ギルドへ顔を出した俺に名指しで仕事の依頼が届いて居た。

 

街の共同墓地に夜な夜なゴーストやアンデットが現れるので調査してほしいとの事、アクアのアークプリーストとしての実力を買われたのだろう。

 

だが、なぁ……。

 

 

「リチャードさーん!! ご飯作ってー!! 後デザートもお願い!! パフェとワッフルねー!!」

 

「えへへ〜もう飲めましぇん、爆裂散歩の後にのむしゅわしゅわ……最高」

 

「ああ、泥酔した私を沢山の冒険者が慰みモノに……そして廃墟で目を覚ました私は毎日毎日男達の相手をさせられて––––」

 

 

今日中にって言われてんだが、アホ女神以外は使い物にならんな、つか早い所拠点を買わにゃ此奴らの将来が心配だわ。

 

仕方ないので一升瓶に頬ずりしているアホ女神を引っ掴んで依頼された墓地の調査へと向かう、雨の中を無理矢理連れてきたもんだからブツブツ文句を言われたが、墓地に着くなりアホ女神が鼻をヒクつかせた。

 

「臭う……臭うわ!!」

 

「酒の匂いがか?」

 

「違うから、人をアルコール中毒者見たいに言わないでよ!! アンデット臭よアンデット臭!! 雨に流されてるから分かりづらいけど結構な大物が居る予感が……」

 

「いや、だから俺に仕事が回ってきたんだろ?」

 

「揚げ足取らないでよ!!」

 

「はぁ、さっさと済ませるぞ……って、ん?」

 

 

雨と闇夜の所為で判断が付きづらいが、墓の真ん中に居る人影は……。



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十四話


お久しぶりです(白目

うん、すまない、またなんだ(´・∀・`)

fgo熱が再燃した上に今回のイベントで新たに星五鯖三体引いたんで育成or育成に忙しいっす(震え声

我がカルデアは資材も資金も火の車なのです(白目

その上アニメも最終回しちゃったし、悲しみしかない。


第十四話 雨と店主と駄目神

 

 

雨の所為で見づれぇが、ありゃウィズだ間違いない。

 

薄々人間じゃねぇとは思ってたが、アホ女神の溢れ出る殺意を見るとアンデットの類らしい、俺の中のアンデットって言やぁスケルトン連中と三人羽織にネクロマンサー、後はニトくらいか? ああも人間らしいアンデットはどっちかってぇとこっち側(不死人)に思うんだが、この世界じゃどうなのかねぇ?

 

ま、下手人がウィズなら話は早ぇ事情を聞いてさっさとそれを解決すりゃあ良い、アレが人類抹殺を企む様な奴じゃねぇのは知ってるし、万一今までが仮面だったとしても殺しちまえばいいしな。

 

その為にも奴が何をしているのか見たかったんだが、アホ女神が『リッチー覚悟ー!!』つって特攻しちまったもんだから台無しになっちまった。

 

しかも不意打ち気味に飛び掛ったからかウィズの張っていた術式が乱れ、墓地に埋葬されていた死者が全てグール化して棺桶の中から出て来やがった。

 

それだけなら良かったんだが、どうやらこの辺り一帯の迷える魂とやらが実体化してアホ女神の周りに集まり始めた、俺の周りに浮いてやがった成仏出来てねぇ亡霊どもも俺をガン無視でアホ女神へと向かって行く。

 

 

「来たわね、アンデットにゴースト達!! 私が一人残らず浄化してあげるわ!! ターンアンデットッ!!」

 

「おーおー勇ましいこった」

 

 

張り切って浄化魔法を撃ちまくって未練がましい連中を虐殺して居るアホからウィズを拾う為、俺はソウルからロープを引っ張りだしてウィズを搦め捕り、自分の手元に釣り上げる。

 

 

「あ、あの、リチャードさん? 私色々状況が飲み込め無いんですが……後、何故私は縛られてるんでしょう? もしかして借金の事ですか? で、でも昨日トイチで借りたばかりですよ!? 昨日の今日で取り立てですか!?」

 

「よし、明日朝一で潰してやるからその金融を教えろ、間違いなくアウトローな連中だ」

 

 

なんつーとっから金借りてんだ此奴、十日で一割だぞ? 此奴身体でも売る気かよ。

 

と、ウィズの間抜けさにため息が出たが、トイチの話が聞こえてたのか、アホ女神がビクリと一瞬身体を強張らせた。

 

いい加減奴とも付き合いが長くなって来たのでそれが意味する事が大体分かってしまった俺はウィズをほっぽり出し、ツヴァイ片手にアホ女神に斬り掛った。

 

 

「幾ら借りやがったアホ女神ィィイ!!」

 

「ちょっ!! 私仲間でしょ!? 危ないからやめてよ!!」

 

 

奴は動物の生存本能的な直感で俺の斬撃を回避したあと、墓石の陰に隠れながら言い訳を開始した。

 

 

「だってだって、もう何処も借りれる場所が無いのよ!? 他の金融からの負債を一本化する為に借りたの!! 仕方がなかったの!!」

 

「お・ま・え・は!! この俺が!! 態々!! お前の借金を一つ一つ肩代わりしてやってるってのに!! 次から次へと借金作りやがってッ!! テメェも此処の連中と共に死ねッ!! 俺様が直々にブチ殺してやる、神殺しは慣れてるから安心しやがれッ!!」

 

「全ッ!! 然ッ!! 安心出来ないから!! ちょっ、リチャードさん? 私の前髪ちょっと切れたんですけど!? 全然寸止めじゃないんですけど!? ほ、本気? 本気なの? ちょっ、誰か助けてぇぇぇえ!!」

 

 

ちょこまかとした動きで攻撃を器用に避けるアホ女神、クソ腹ただしい事に腐っても神、スカスカな脳味噌してる癖に生存能力だけは一人前だ。

 

なので更に一つギアを上げ、俺を殺したあの男の得意技である後の先を取る方法にシフトする。

 

叩きつける様に上段から腕から腰まで一気に巻き込む様に袈裟に斬り降ろし、アホ女神に敢えて避けさせると共に墓石と地面を盛大に抉り取り、俺の一撃の威力を目に見せる。

 

それによって恐怖を植え付け、大袈裟な回避をさせる様に誘導、体重と遠心力と腕力の全てが入り混じった一撃だ、仮に杖で防ごうとも諸共粉砕出来る。

 

そして振り抜いた後にツヴァイの柄を蹴り上げ勢いが止まる事を防ぎつつ斬撃の軌道を力尽くで捻じ曲げる、狙いはアホ女神の付けている羽衣、神具だとか言ってたから死にゃあしねぇだろ。

 

そう思っていたが、どうやら俺は此奴を舐めていたらしい、杖を取り出しその表面を滑らせる様にしながら俺の斬撃に逆らわずに受け流して見せた、涙で顔がエライことになってるが斬撃の受け流しに脚が止まって居たので構わずに蹴り飛ばす。

 

それなりに力を入れて蹴り飛ばしたんだがな、一丁前に空中で受け身を取りながら器用に墓石を足場に着地を取りやがった。

 

 

「蹴った!! この人女神を蹴った!!」

 

「ハン、そこらの凡人よりゃ遥かに強え癖に一々んな事で騒ぐんじゃねぇよ、これからキッチリ殺して––––」

 

殺してやる、そう言おうとした矢先背中に衝撃と共に柔らかい感触が当たり、死人特有の冷たい体温を感じる。

 

 

「暴力はダメですよリチャードさん!! 相手は女性じゃ無いですか!!」

 

 

気分がノッて来た頃合いに簀巻きにしていたウィズが止めに来たのだろう、背後から抱き着かれて出鼻が挫かれた俺は渋々剣を引っ込め、本来の目的を果たす事にした。

 

アホ女神はウィズがリッチーだと言う事で敵愾心丸出しだったが、ウィズの人柄に絆されたのか俺を止めて貰ったからか襲い掛かる気は無い様だ、命拾いしたな阿婆擦れ。

 

 

そしてウィズの話を纏めると、この辺りに最近成仏出来ない魂なんかが集まっていてあまりよろしく無い状態だったそうな、その浄化をして貰おうにもこの街のプリーストは聖職者の鏡(金の亡者)らしく、誠意(大金)がなけりゃ浄化なんぞしてくれねぇんだと。

 

だから自分でやっていた、とまぁ事の顛末としちゃこんなもんだ、結局アホ女神がこの辺りの浄化を担当する事で話が纏まり、俺たちは解散した。

 

 

…………このアホ女神がンな面倒な事を三日坊主で辞めねぇかが気掛かりなんだがな。



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十五話

第十五話

 

 

その日、俺はマゾ騎士の剣術の稽古に付き合って居た。

 

魔王の幹部撃破の報酬や高難易度のクエストを請け負ってたから貯金はあるし、あんまり高収入な仕事を独占しちまうと他の連中が食いっぱぐれになるので最近はアホ女神の借金返済目的以外じゃクエストを受けてない、お陰様で暇を持て余し気味だったんで暇潰しにやってたんだが……。

 

 

「ふざけてんじゃねぇぞ雌豚ァ!! 足を止めた無抵抗の相手にしか攻撃当てれねぇとか救いようがねぇにも程があるだろうが!! 稽古ですらロクに当てれねぇなら剣なんぞ捨てちまえ!!」

 

「そ、そこまで言う事無いだろう!? 私だって頑張ってるんだ!!」

 

「頑張った上でこの程度なら才能がねぇなんてレベルじゃねぇぞ!?」

 

 

前々から剣の腕がからっきしなのは知ってたが、正直改めて剣を合わせると予想以上に酷く、どうやって矯正した物か頭を抱えたくなる。

 

太刀筋自体は悪く無い、と言うよりしっかりした教えが見える程度には手ほどきを受けているのだろう、護身術目的臭いが。

 

と言うのも剣の振り方、狙いの位置、足運びや視線の動きから前線で戦う目的には見えん、それよりは貴族が習う様な剣術だ。

 

空振りする太刀筋ばかりに目が行きそうになるが無茶苦茶に剣を振り回してる訳じゃ無い、剣先にブレは無いし握り方や返し方は型が出来ている、致命的な距離感の計り間違えを解消しちまえば何とかなりそうなんだがな……。

 

そもそも此処まで酷くなった理由はなんだ? 本人曰く不器用だかららしいがそれにしちゃ度が過ぎてる、無理矢理前線に出れる様に護身術を我流で矯正しようとして失敗したか? あーいや、此奴の場合性癖の可能性が大きいか。

 

ボコボコに打ちのめされて嬉しそうな顔で倒れるマゾ騎士の頭に水を被せた後、どうした物かと悩む。

 

 

俺の剣はそれこそ我流だ、自分のスタイルに合わせて作ったモンだから参考にならん、やってやれねぇ事はねぇだろうが一旦何かしらの形が出来た剣術に無形の我流を教えてもどっち付かずになるだけだ。

 

経験を積ませて自力で調整させようにも討伐クエストは微妙なラインの物しかねぇし、俺は今クエストを自重しているからなぁ。

 

手加減しまくって稽古付けようにもその状態ですら差が開き過ぎてる、こうなりゃ一から十まで手取り足取りって奴しか無いんだが……何で俺は弟子を扱く師匠見たいな事考えてんのかねぇ。

 

自分が師匠に鍛えられていた時はさぞ手が掛からない生徒だったんだろうと考えつつ、俺はマゾ騎士を蹴り起こして指導の続きをするのだった。

 

 

 

「ちょっ!? 待てリチャード!! いくら私と言えどコレは恥ずかしい!! それに今は、その、汗がだな……」

 

「つべこべ言わずに剣先に集中しろっての、ったく一丁前に羞恥心なんぞ持ち合わせやがって」

 

「鎧を脱がされてインナーだけの状態で背後から腕に手を添えられたら誰でも恥ずかしいに決まっているだろう!!」

 

 

一から教えるにあたり、この女がどんな視点で剣を振っているのかを調べる為に背後から抱きしめる様に手首を握って剣を構えさせていたんだが、さっきからこんな抗議ばっかだ。

 

この方法が一番楽なんだが、思いの外此奴は抵抗しやがってずっとこの調子だ。

 

とはいえ、剣の構え方や重心の取り方はやはりまともだ、俺の見立てが間違ってたんならこの時点から修正しなきゃならなかったが、その必要は無かった様で一先ずは安心だ。

 

体力に関しては問題は無い、体力と頑丈さしか取り柄が無い女だしな。

 

手を離し、今度は足運びを見ようとしたんだが、へたり込みやがった。

 

 

「はぁ…はぁ…も、もう嫁に行けない……」

 

「見てくれと身体つきは良いからな、貰い手はいくらでも居るだろ」

 

「そ、そう言う話じゃ……」

 

「良いから次だ次、足運びと踏み込みを見せてみな」

 

「うぅ……」

 

ふらふら立ち上がったマゾ騎士はそのまま剣を握り直し、俺の立て掛けた案山子に向かって気合いの声を上げながら切り掛かり、肩から腰へ掛けてを一刀両断して見せた。

 

問題の足運びだが、不器用さが見えるのが良く分かった、コレは口で説明するだけじゃダメか。

 

目測の誤りはやはり戦闘スタイルの違いが上手く噛み合わずに距離感が狂ってるんだろう、踏み込みの歩数が安定していない。

 

切り倒された案山子を片付け、ドヤ顔をしているマゾ騎士の頭を引っ叩いた後、問題になっている距離感の授業に入る為に知り合いの道場を間借りした。

 

「つー訳で、俺の見立てだとお前の剣はちぐはぐな踏み込みが原因だな、生来の不器用さが空間把握能力に影響してんだろう、其処でだ」

俺はそう言って懐からナイフを取り出し、マゾ騎士に見せる。

 

「コレを、今からお前に投げる、無論当たればタダでは済まん、自分から当たりに行けねぇ様に眉間を狙って投げるからしっかり避けろよ」

 

「色々言いたい事はあるが……ほ、本気か?」

 

「冗談でンな事言うかよ、それと一つ忠告しとくとこの道場を暗室にして更に目隠しした状態でナイフを避けて貰うからな、気合い入れねぇと気がつく前に死ぬぞ」

 

空間を締め切り、視覚を潰せば第六感が働く様になる、そしてその状態から飛来物を避けようとするなら自分の間合い、空間を持たなけりゃならん、これはその訓練だ。

 

「わ、私は用事を思い出したから今日はこの辺で……!!」

 

そう言って、俺の目が本気だと悟ったマゾ騎士は逃げようと背を向けるが、その瞬間に足音を殺しながら一足で奴の背後を取り、そのまま目隠しをする。

 

そして説明しながら仕込んでいた蜘蛛糸を引き、道場の雨戸を締め切り密室を作り上げる。

 

後は背中を蹴り飛ばし、第六感が働く様にワザと一発外してマゾ騎士の顔スレスレにナイフを投げ、床に刃を食い込ませる。

 

音に反応し、飛び上がったマゾ騎士は腹を括ったのか集中し始めた。

 

 

「よーし良い子だ、んじゃまぁ授業その1を始めるぜ? コレが終わったら名前で呼んでやるよ!!」



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