東京レイヴンズ <鵺への挑戦> (yaukl)
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ちょっとしたプロローグ

もう、何年も前の話―――

 

 

親戚の大人たちが集まって会合をもつとき、夏目はいつも春虎の姿を目で追っていた。

本家の1人娘だった夏目は、控えめで大人しかった。人見知りも激しく、友達らしい友達もいなかった。

その夏目ですら不思議に思う子がいた。

それが、春虎だった。

 

 

彼は、土御門の分家筋にあたる土御門鷹寛さんと千鶴さんの息子であった。

ただ、彼の大陰陽師・安倍晴明に連なる陰陽道宗家である土御門家の分家に生まれながら、霊気を視る力である 「見鬼」の才を持たない落ちこぼれと言われていた。

そう言われていたけれど、私はそう思うことが出来なかった。

どことなく子供っぽくないというかあまりに達観しすぎていると私は感じた。

さらに極め付けとして彼は、本家に来ると必ずと言っていいほど土御門家が代々受け継いできた呪術に関わる古文書などを保管している書庫や蔵などを訪れていて多くの書物を読み耽っていた。

 

 

私も本家の者として呪術について少しずつではあるが、勉強はしている。

それなのに彼が読み耽っている書物を彼が帰った後に読んだことが何回かあるが、ほとんど理解することが出来なかった。

まず、漢字で書いているとこが読めない。

その次に読めそうな漢字のところなどを読むが理解できない。

それもそのはず、今、私が勉強しているのは汎式陰陽術の基本のキの字とも言える隠形。

この書物の表紙には帝式と書かれていた。

 

 

「帝式」

正式には帝国式陰陽術とされる現在の陰陽道の祖、陰陽頭・土御門夜光が戦前に軍部からの要請を受けて作り上げた呪術体系であり、日本に存在するありとあらゆる呪術を一つにまとめ挙げた物だとされている。

土御門夜光は私の先祖に当たり、生前はここで暮らしていたとも言われていた。

だから、彼の者が作成した物がこの家に置いてあるのは別に問題ではない。

ただ、これは確か、国家一級陰陽師クラスでなければ扱えない物とされていたはず、それを彼はあの歳で理解しているというのだろうか?

落ちこぼれと言われている彼が?

 

 

他にも不思議なことがある。

それは、父だ。

彼が書物を読んでいるのを止めたりはしない。

普通、これほどの土御門家の遺産ともいえる物を子供が読んでいて破いてしまわないだろうかとか、読んでも分からないだろうから普通の子供たちが読むような本を見せるとかするのが一般的な大人と言えよう。

それなのに父はというと、彼が読み耽っているときは邪魔にならないようにと分家の者たちを逆に書庫などに近づけさせないようにしている。

はっきり言って、異常だ。

 

 

それに「見鬼の才」が彼に無いと言われているが、ふと遠方を眺める節が彼にはある。

私も彼が見ている方角を見るとなんとそこには何かがいる(・・・・・)のである。

「視える者」にしか見えないものを彼は見ているように思える。

そして、彼は興味が無くなったのかまた書物を読み始める。

 

 

 

たまに彼が書物を読んでいるのを見ているときに「ゾッ」とすることがある。

どこか生き急いでいるというか、どこか焦っているようにも見える。

気になって「どうしたの?」と聞いてみても「何でもないよ」と素気なく返してくる。

でも、その顔はどこか悲しそうで、辛そうでもある。

だから、私はその時に決めたのだ。

将来を決めたと言ってもいい。

 

 

 

 

 

 

「「必ず、彼を支えることが出来る、彼の隣に立つことが出来る、陰陽師になろう」」と。

 

 

 

 

 



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泰山府君祭 其ノ壱

俺の名は土御門春虎。俺には前世と呼ばれる記憶がある。

しかも、その前世の記憶がなんとあの有名な土御門夜光の物だった。

彼の偉大な大陰陽師の記憶は、俺が本家に置いてある呪術の書物に興味を持った時から少しずつ思い出し初めた。

初めはマジで困惑した。最初は5歳のときだったかな?

急に変な呪文みたいな声が聞こえて来てさ。

だんだんと思い出してきて今では完全に思い出したと言っていい。

そして、初めのうちは何ともなかったけど、思い出していくうちに何故だか涙が止まらなくなった。

次にはスゲー悲しくなったし、辛くもあった。そして、最後に何故あの大陰陽師が死んだのか。

分かってしまった。彼は、生前一人で戦っていたのだ。

いや、一人というのにはさすがに語弊があるか。

いつもそばにいてくれていた式神たちをはじめ、多くの人たちもいた。

確かに何も伝えていない者がほとんどではあったが、とても楽しかった。そして、俺は最後に呪術を失敗し、亡くなった。

・・・・・いや、俺はあいつらに呪術戦で負けたんだ。

 

 

 

 

 

「ホホゥ、これはまた」

 

割り箸の先で麺をつかんだまま、土御門春虎はテレビを見ていた。春虎は箸先を店の奥のテレビに向け、

 

「見ろよ、冬児。あのデカい木、斬り倒した。すごくね!」

 

向かいに座る阿刀冬児にそう言い放った。話しかけられた冬児は、肩越しにテレビを振り返る。

 

「陰陽師のキャリアはだいたいあんなこと出来んだろ。つか、お前もあれ出来んだろ」

 

「あれはなかなか大変」

 

(否定はしねーのな)「まあ、こっちには関係のないことだろ、霊災なんて」

 

「それはどうだろ」

 

「あ?なんかあんのか?」

 

「ズズズ」と音を立てながら春虎は汁を飲み干していた。

 

(聞いてねー)

 

春虎の方を向いて、冬児が不機嫌そうに眉を寄せた。

 

 

 

店の外に出ると日差しが痛かった。

 

「暑い」

 

「まあ、今は夏だがこれはさすがに暑いな」

 

二人はすぐさま木陰に移動。それから何となく、並んで歩き始めた。

 

「さて・・・・・これからどうすっかな?」

 

「帰る」

 

「いや、さっき出てきたばっかだろ」

 

冬児としては、この引きこもりを外に食事と称して連れ出すということを現在進行形で決行していた。

 

「帰って、呪術の勉強」

 

(こいつ、またか)

 

 この土御門春虎という少年は基本的に学ぶということが好きだ。学校でやっているテストや全国模試では1位をとるぐらいに頭が良い。こいつの頭なら東京の名門校に首席で入れる。

下手をすれば、海外留学で飛び級までできるかもしれない頭を持っている。なのにこいつは、地元の普通の学校に進学した。そして、さらには呪術なんてオカルトじみたものにまで手を伸ばしている。

 

「なあ、春虎」

 

「んぁ、」

 

「なんで、お前東京に行かなかったんだ?そんだけ勉強してんのに」

 

「別に学ぶことなんてほとんどこっちでも変わんねえだろ」

 

「俺が言ってんのは陰陽術についてだ。東京の方にはそれ専門の学校があんだろ」

 

「あぁ、それか。・・・・・別にいってもなぁ」

 

(何度聞いてもまた、言葉をにごす。こいつの真意が分からない)

 

何故、冬児が何度も聞いているのかというと春虎の家に何回か行ったことがあるからだ。そして冬児は驚愕した。いや、恐怖や畏怖と言っていい。

 

春虎の部屋には呪術に関わると思われる書物などが山のように積まれていた。しかも部屋だけではない。それが家全体にまで及ぼうとしているぐらいにいたるところに置いてあった。もう、異常としか言いようがないくらいの量だ。確かにこいつの家は呪術に関して(、、、、、、)有名な家だ。だが、それだからと言ってあの量を読むのはさすがに可笑しい。あれだけ学んでいるというのにその道に進まなかった。はっきり言って、変人だ。

 

「む、今失礼なことを考えていたな」

 

それに感も鋭い。

 

「気にするな」

 

「むむ、それはどういう意味で?」

 

「その通りだからだ」

 

「おいコラ」

 

そう春虎がつぶやいたとき、狙ったかのようなタイミングで春虎の携帯が鳴った。おっ、と言いながら春虎がポケットから携帯を取り出す。しかし、ディスプレイを見たと思うとすぐさまポケットに戻した。

 

「・・・・・北斗か?」

 

「・・・・・北斗だ」

 

<・・・・・・・・・・・・・>

 

暫しの静寂が流れた後、二人はふと後ろを見てしまった。どうやら、詰んでいたようだ。二人の後ろには魔物がすでに降臨していた。

 

「どうして出ない、春虎?」

 

明るい色をしたボブカットの髪の少女がそこにいた。

 

「いや~、忙しかったもんで」

 

「ホゥ、こんなところにいて忙しかったと?」

 

「今、移動中だったんだ」

 

「その移動中に電話に出るというくらいの時間は?」

 

「・・・・・ありました。ごめんなさい」

 

今回はすぐに折れた。だが、今回は春虎だけではなかったようだ。

 

「それで、冬児。冬児は何をしてた?」

 

「・・・・・ただ、見てました。・・・・・ごめんなさい」

 

「よろしい、・・・・・・よし、春虎。説教だ」

 

「あれ、おれだけ!!」

 

もう何度目だろうか、北斗に怒られるのは・・・・・

 

 

 

「それで、珍しく春虎は家から出ているけど何してたの?」

 

「飯を食っていた」

 

「おや、珍しい。まあ、いいや。春虎」

 

「んぁ」

 

「カキ氷食べたい」

 

「それが狙いか」

 

 

それから、10分後。公園のベンチで3人でカキ氷を食べていた。

 

3人で食べている中、冬児が話題を振ってきた。

 

「・・・で、北斗。お前、また春虎に陰陽師になれって言いに来たのか?」

 

すると、カキ氷をバカ食いしていた北斗が春虎に話しかけた。

 

「春虎、どうして陰陽師を目指さないの?」

 

「・・・・・」

 

「どうして答えないの?春虎」

 

「・・・・・忙しい」

 

「こんな田舎で何をやるっていうの?暇でしょ」

 

その会話を聞いていた冬児がつぶやいた。

 

「まあ、あれだけ呪術の本みたいなのを読んでたらな、そりぁ、忙しいだろ」

 

「・・・・・え!?」

 

「おぃ、冬児!!」

 

「・・・・・どういうこと、春虎」

 

「・・・・・・お前には関係ない」

 

「どうして、前はあんなに熱心に・・・・・あ」

 

どうやら、思わず出てしまったようだ。まあ、春虎は北斗の正体を知っているから別に関係ないが。

当の本人はバツが悪そうに急にソワソワし出したかと思うと、急に立ち上がり「じゃ」と言い残し颯爽と離れて行った。

 

「全く、お前は何がしたいんだか分からん」

 

「なんだよ、急に」

 

「そろそろ答えてやったらどうだ?春虎」

 

「・・・・・あいつを巻き込みたくない」

 

「一人で何かを抱え込みやがって。・・・・・まあ、良い。帰るか」

 

「いいのか?」

 

「今から遊ぶのもな」

 

「そうか」

 

二人は帰路に着いた。

 

 

 

そして、二人が帰路についている途中で陸橋を渡っているときに偶然出会った。

 

大きく見開かれた凛とした、綺麗な瞳。少女は、胸元にレースをあしらっただけの、シンプルな黒いワンピースを着ていた。手に小振りのボストンバック。バックの取っ手には、オレンジのリボンがまかれた茶色い麦わら帽子がひっかけられていた。

 

「ひ、久しぶりです。春虎くん」

 

 

本家の少女。春虎が最も巻き込みたくない少女だった。

 

 

 

 

そして、彼はまだ気づいていない。歯車が軋み始めていることに。

 

 

 

 

 

 

 




以外に進まない。


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泰山府君祭 其の弐

(ボク)は誓ったんだ。あの時は何も出来なかった者として今度こそ彼らに・・・>

 

 

 

 

 今日夜光の名は、呪術界における一種の禁忌(タブー)となっている。発端は、日本の敗戦が濃厚になった太平洋戦争末期。

 そのころになると、陰陽寮を支援していた軍の一派が夜光に要請を出し、その要請を受けた夜光が大規模な呪術儀式を敢行し――それに失敗したとされている。

 この儀式に関する詳細な記録が一切残っていないために現在、東京で起きている霊災はその時の失敗に因るものだとされ、今日の呪術界では夜光の名を大々的に語る者は少ないと言っていい。

 ただ、それは何も知らない者たちによって大部分が脚色された物だとも知らずに・・・

 

 

 

 

 ある者が禁忌に触れようとしていた。つい先ほども呪術を行使し歪ではあるが、成功した。

だが、この者はまだ、気づいていない。これが災厄へ続く序章に過ぎないことを・・・

 

 

 

「あの・・・・・なんでこっちに?」

「・・・・・夏期休暇です。今日から」

「あ~、なるほど」

 

 春虎の質問に、夏目が硬い声で答えた。二人のやり取りを見て何やら騒いでいる者がいるが、三人はそちらを見ない。正確には二人気づいていないが。

 

「こっちにはいつまで?」

「一週間ほどです」

「以外に短いのな」

「向こうでやることがあるので」

「なるほど」

 

 二人の間にはあまりに遠い距離がある。・・・別に陸橋の端と端で話しているとかそういう意味ではない。

 互いが進んだ進路は似て非なるもの。夏目は第一歩を踏み出し、春虎は終焉に近い。夏目にとっては隣に立ちたいと思っていて、春虎にとっては彼女を守らなければいけない存在だと思っている。

 

「東京の暮らしはどうだ?」

「・・・・・とても忙しいです」

「そうか・・・・・」

「春虎くんはどうなんですか?」

「俺も忙しいかな」

「・・・・・そうですか。」

 

 夏目はしばらくの沈黙の後に「おやすみなさい」と言い放ち、春虎からは離れて行った。

 

「全く、お前らは何をしてんだか・・・」

 

と、冬児が不機嫌そうにぼやいた。

 

 

翌日

 

今日は花火祭りが開催される。それだというのに暑すぎる。

 

「で、どう回る?」

 

冬児が聞いて来た。

 

「どうすっかな、」

 

と、春虎が言った矢先に冬児は春虎の背後を見た。

 

「あ、万年引きこもりの春虎がまた外に出てる」

 

後ろから声がした。北斗だ。

 

「なんだ、お前も来てたのか」

「なによ、来ちゃダメなの?」

「いや、よくもまぁ外で遊んでんなぁと思って」

「私が遊び人のような言い方止めて!?」

「違うのか?」

「違うわよ!?」

「・・・・・そうか」

 

まだ、北斗は不機嫌そうな顔をしている。少ししてその北斗が春虎に問うた。

 

「で、何か言うことは?」

「・・・・・?」

「分からないの!?」

「何を聞きたいんだ?」

「一回、そこら辺のアスファルトに埋まってみる?」

「やめて!?土よりひどい!?」

「じゃあ、土に」

「だから待てって!!」

 

北斗の浴衣姿を褒めたのは少し時間が経ってからのことであった。

 

 

 三人で屋台を見て回っているときにふと、春虎は神社の拝殿の方を見た。そこには、人ではない者が立っていた。そこへ、2人には気づかれないように春虎は近づいた。

 

「あんた、何者だ?」

 

春虎が先に話しかけた。

 

「おや、私に気づかれるとはあなたは陰陽師ですか?」

 

「いや、陰陽師では無いな」

 

「そうですか、まあ、良いでしょう。・・・あぁ、そうでした。つかぬことお聞きしますが、土御門家の方をお探ししておりまして、ご存知ないでしょうか?」

 

春虎はしばしの沈黙の後に問い返した。

 

「土御門は俺だが、何か用か?」

 

 

 

 男に連れられ行った先は、射的屋の近くだった。

 男に声をかけられたとき、断ろうか考えはしたが、この男が綺麗に作られた式神だと気づくと、製作した者に興味が湧き、付き合ってやることにした。

 

 

 そして、春虎が連れてこられたのは、屋台の前だった。

 「.....お連れしました」

 その声に振り返った人物を見て、先ほど抱いたちょっとした興味から陰陽を極める者としての好奇心が勝った。

ただ、春虎が興味を持った者は、明らかに春虎より年下と思われる女の子だった。

 

「.....ふ~ん。あなたが噂の天才児?」

「.....?」

「何よ、その間抜けな顔わ」

「いや、何でもない」

「で、そっちの奴は?」

 

 そう少女に問われ、先ほどから気づいてはいたが見ないようにしていた後ろから、冬児が近づいて来ていた。

「なんだ、冬児。気づいてたのか?」

「ふ、まあな」

「北斗は?」

「向こうではしゃぎ回ってる」

 

 それを聞き、春虎はホッと胸を撫で下した。今、あいつには知られたくなかったからだ。春虎が考えに耽っている中で冬児が口を開ける。

「その顔、雑誌で見たことがあるな。確か『十二神将』の最年少。『神童』大連寺鈴鹿、じゃなかったか」

 冬児の台詞に、春虎は欣喜した。

(十二神将?.....面白そう!!是非、一度手合わせしたい!!)

 ニヤけた顔をしている春虎を見て、冬児が呆れているような顔をしていた。

 

「う~ん、にしてもアホ面にしか見えないのだけど、ホントにあんたが土御門夏目なの?」

 

 初対面の人に対してなんて失礼な、なんてことを春虎は考えておらず、一刻も早く呪術比べをしたいと今なお考えている。

 何も言い返さない春虎に変わって、冬児が話し始めた。

 

「まあ、確かにこいつの顔はアホ面に見えるかもしれないが、腕は確かだぞ。なあ、夏目」

「ん、あぁ。まあ、それは今は隅っこに置いとくとして、で、鈴鹿っつったか?何の用だ?」

 

 春虎は今すぐにでも呪術戦をしたいと思っているため、話を進めることにした。それに対し、問われた鈴鹿は不敵な笑みを浮かべながら春虎に答えた。

 

「土御門家次期当主、土御門夏目。あたしの実験に付き合って」

「実験?」

「そう、実験よ、実験。私がしたいのは土御門夜光が用いた陰陽術」

 

 鈴鹿の台詞に、春虎は「?」を頭の上に浮かべた。

 

(.....ふむ、どれを言っているのか分からんな)

 

「あんたなら知っているわよね?帝式がどういった物なのか」

 

 この問いに春虎は鈴鹿が何を聞きたいのか理解したが、冬児の方は分からなかったようだ。 

 

「危ないものが多いってことぐらいしか分からんな」

 

 冬児の答えに対し、鈴鹿は鼻で笑った。

「アハハッ。まあ、その解釈で間違っちゃいないけど流石にそれだけじゃ不十分にもほどがあるわ。まあ、つっても私も帝式はあまりに莫大にありすぎてどれくらい知ってるのか分かんないんだけど」

 

 鈴鹿は不敵に笑いながら淡々と応えていく。

「それで~、今私が知りたいのは魂に対するメソッドについて。土御門ならこの意味分かるわよね?」

 

 それを聞いた春虎は神妙な顔をする。魂の呪術と聞いて興味を示さない訳が無いし、さらに先ほどから後ろに控えている自分の式神が暴れ出しそうでどうしたものか、と考えていた。

 その顔を見て鈴鹿は何を思ったのか、さらに話を進めた。

 

「で、あんたに付き合って貰いたいのは、あたしが復活させた魂の呪術。その手助けをして欲しいのよ」

 

 春虎はそこまで話を全部聞いていたとは言えないが、聞いていて疑問に思っていたことを聞き返した。

「で、お前は何をしたいんだ?」

 

 鈴鹿は少しの間、思案した後に話し始めた。

「私がしたいのは、『泰山府君祭』だから、この呪術の成功者であり経験者であるあんたに助力を乞うてるのよ」

 

 鈴鹿の話を聞き、春虎はまたもや?を浮かべた。こいつは何を言っているのか、と。

「だから、お前は何をしたいんだ?」

 

 春虎の再度の聞き返しに苛立ちを交えながら鈴鹿は答えた。

「だから、泰山府君祭よ、泰山府君祭。まさか、土御門の次期当主ともあろう者が知らない訳じゃないでしょうね」

 

 それを聞き、春虎はやっと鈴鹿との会話が若干成立していないことに気づいた。あぁ、こいつちゃんと調べて来てないのかと。先ほどから冬児は話についていけず、聞きに徹している。

 

「だから、どの泰山府君祭かって聞いてんだよ」

 

 春虎の問いに鈴鹿はすぐには答えられなかった。こいつは何を言っているのか?と。

 

「お~い、聞こえてるか?」

 

 春虎は何も言ってこない鈴鹿に対し、尚も問い返す。と、そこで漸く鈴鹿も聞き返してきた。

「泰山府君祭は一つではないってこと?」

 

 鈴鹿の疑問に渋々春虎は答えてあげることにした。

「そりゃ、泰山府君祭っていうのは言わば、呪術群全般を差す言葉だ。これは、『泰山府君』と呼称する霊的存在にアクセスし、人間の魂を操作しようとしたものの呪術システム全般を差す。だから、泰山府君祭と言っても用途は多岐に亘るって訳だ。ここまでは理解したか?」

 

 それを聞き、鈴鹿はついにフリーズした。冬児は結構前からフリーズしていたようだ。

 

「で、お前は何をしたいんだ?」

 

 春虎はもう一度、同じことを聞き返した。と、そこへ何かが飛来した。

 

「ソコマデダ、大連寺鈴鹿。陰陽法二基ヅキ、貴様ヲ拘束スル」

 

 ツバメが喋るのと同時に羽が鈴鹿を囲み込もうとしていた。だが、鈴鹿は国家一級陰陽師。素直に捕まる訳が無い。鈴鹿の後方から式神が現れた。

 

「マジ、ウザい。今いいところだったんだから、邪魔すんな。雑魚が!!」

 

 鈴鹿の式神が暴れ始める。冬児はすぐさま距離をとった。だが、そこへ鈴鹿を包囲するように人が現れた。

「すでに周囲は封鎖した。投降しろ!」

 

 その言葉を受け、止まるような奴ではないと、春虎は鈴鹿のことを思っている。その通りになったが。鈴鹿は一冊の本を取り出した。それに反応した男たちは呪文を叫び、呪符を投じた。この時、春虎は隠形を行使し傍観に徹していた。

 

「だから、ウザいって言ってんだろうが!殺すぞ、雑魚が!!」

 

(.....にしても口悪すぎじゃねえか、あのゴスロリ)

 

 鈴鹿はしゃべりながらではあるが、式を打った。ページの一枚一枚が千切れ形を成していく。

「これでさっさとクタバレ」

 

(だから、口悪すぎだって)

 

 さらに鈴鹿は攻勢に出る。ポシェットから呪符を一枚抜き、投じる。五行符のひとつ、水行符。呪符から大量の水流が迸る。対抗する男たちも土行符で対抗するが押されていた。

 

 水流が強すぎるせいで回りにまで被害が及んでいた。見に徹していた春虎だからこそ気づけたのかもしれない。倒れたテントの後ろに、子供二人が蹲っていた。水流が子供たちの方へ飛んで行った。

 

(.....時間がない。色々と飛ばすがまあ、良いだろう。用途は違うが効くのかはあとだな)

 そう思案し、春虎は水の神である水天の種字を唱えた。

 

()

 

 そう春虎が唱えると先ほどまで荒れ狂っていた大量の水が霧散した。

 

(は?今、何が起きたの?)

 

 自分の呪術が掻き消されたのを鈴鹿は動揺を隠せずにいた。

 

(いや、こんなことを出来んのは今この場にあいつしかいない。はは、やっぱりあいつは本物.....あ、あいつどこ行った?)

 

 攻撃してきた男たちは全員が伸びていた。春虎の姿を探している鈴鹿の後ろから声が駆けられた。

 

「全く、暴れすぎだろう、お前」

 

 鈴鹿は恐る恐る後ろを向く。そこには春虎が悠然と立ち尽くしていた。

 

 

 

 




四月は腹痛が続く月であった。.....言い訳終わり。


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