コスプレして酒を飲んでいたら大変な事になりました。 (マイケル)
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プロローグ

 

約千年前……

 

大帝国を築いた始皇帝は悩んでいた……。

 

皇帝は自分が築いた国を永遠に守って生きたいと考えていたが皇帝はただの人

いずれ寿命が来て必ず死ぬ。

 

そんな事を考えていた皇帝にふと、妙案が浮かんだ。

 

武器や防具である。

 

過去未来において最強の兵器を作れば、遥か未来まで受け継がれ、帝国は守られると……。

 

伝説と謳われた超級危険種の素材。

 

オリハルコンなどのレアメタル。

 

世界各地から呼び寄せた最高の職人達。

 

皇帝は絶大な権力と財力を使い、48の兵器を生み出した。

 

その兵器は帝具と名付けられ、臣下に貸し与えられた。

中には一騎当千の力を持つ帝具もあり、臣下達は絶大な戦果を上げるようになり帝国は平和になった。

 

しかし、永久の平和などなく500年後、帝国に大きな内乱が起こり、半分近くの帝具が各地に姿を消してしまった。

 

ある時にはゴミ捨て場に人知れず放置され。

 

また、ある時は骨董品として売買されるなどなど……。

確率がかなり低いが戦いに無縁で特に目立つ事のない平凡な人間が帝具を帝具と知らず

拾ってしまったら?

もし、その拾った人物が帝具に主として選ばれたら……。

 

その人物はどんな人生を歩む事になるのだろうか?

 

少なくとも…今までのような平穏な日常が帰ってくることは二度とないだろう。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

俺の名前は加藤 雄二。

 

年齢は22歳の新社会人だった。

俺が就職した会社は人も少なく、忙しい所だったが後の上司になる

男が「大丈夫!新人は出来る事が少ないっていうのは分かっているし、一からちゃんと

教えてあげるから平気だよ」

と会社見学や面接でも言っていたから、安心して頑張っていこうと張り切っていた。

しかし……。

 

実際は大嘘だった。

 

上司は、一度教えたらそれで終わり。

 

分からないところを聞きに行っても機嫌が悪いと「そんなのは知らない自分でやれ!」

と言う。

 

仕方がないので分からない所を自分で調べているとこちらの様子を見に来た上司は

 

「仕事中に調べ物をするな!」と怒られる。

 

また、問われた質問に対し間違った答えを言うと「死ね」と言われたり

ボールペンを投げつけられたりした。

 

相談しようにも同僚は女性で年上ばかり。

しかもその中の一人は上司の奥さんだ。

とてもじゃないが相談出来ない。

 

精神的にかなり追い詰められた俺は……。

 

誰もいない深夜の道路で車に乗った俺は……電柱に突っ込んだ。

事故じゃない。

俺は自分から突っ込んだんだ……。

 

そう自殺である。

 

自殺したんだけど………。

 

 

なんか生き返っちゃいました。

いや、生き返ったのとは違う。

 

俺は思い出したのだ。

 

加藤 雄二だった頃を……。

 

現在の俺はジョニー・テスタス。17歳。

帝都に住み、喫茶店を営んでいる普通の男で店を開ける準備をしている時

誤って、床に落とした雑巾を踏んでずっこけた挙句、店の床に後頭部を打ち付けて前世を思い出した、アホともいえる。

 

まあ、最初は戸惑ったがここにはあの鬼畜上司は居ない。

喫茶店とは言え、自分の城がある。

一度捨てた人生だけど、ジョニー・テスタスとしてもう一度人生を

やり直すのもいいかもしれない。

 

 

 

☆☆☆

 

 

タレの付いた肉と野菜を適度な量でパンに挟んだ俺は今か今かと待ち受けている客のテーブルに出す。

 

「ジョニー!この新商品はうめーな!!」

 

「確かハンバーガーだっけ?お前がこんな物を考えるなんて……

明日で世界は終わるのか?」

 

「やかましい」

 

客たちはニコニコと笑顔でハンバーガーを咀嚼する。

前世の記憶を思い出した俺は早速、この世界にはないハンバーガーを作って店の新商品として出した。

 

するとどうだろうか、常連さんの口コミでさらに多くなかった客が増えて店の売り上げは倍以上だ!

Mの付くバーガーショップには悪いが、ここにそんな店はないので堂々と出させて貰っている。

 

ありがたや、ありがたや。

おかげさまで仕事は充実し、すっかり鬼畜上司の事も忘れられ、前世の趣味も

始められるようになった。

 

え?どんな趣味かって?

 

 

コスプレです!!

 

 

そう!コスプレ!自分の理想のキャラクターに心までなりきるあの遊び!!

最高だね!!

加藤 雄二が学生だった頃はよく友人と遊んでいたよ……。

 

金ぴか王とか赤い弓兵さんとか……etcetc

 

そして特に俺が凝っていたのはブラックキャット!!

クロノス最強の殺し屋にして最強のガンマン。

もうカッコイイよね!!トレイン=ハートネット(クロノス時代)!!

 

そんなわけで俺は黒いコートに黒いズボン黒いシャツなど、ブラックキャットのコスプレに必要な物を買い集め……。

ついに一番重要な武器屋にやって来た!!

そう!一番重要なのは装飾拳銃ハーディス。

 

どうせなら本物の銃で完成度が高いものを作りたい。

その為の銃選びはとても重要なのだ!!

幸い、銃の携帯は法律で禁止されていないしな!!←ここ重要。

 

店の前にたどり着いた俺は意気揚々と店の扉を開けて中に入る。

通路の右側にある棚には刀剣類が並べられ、左の棚にはさまざま種類の銃が置かれている。

そして中央の奥のカウンターには謎のミイラが……。

 

「殺すぞクソガキ」

 

「すみません」

 

店長だと思われる、爺さんにメッチャ睨まれました。

 

やばい、テンションが高かったせいか、調子に乗ってしまったようだ。

しかしこのミイラ…じゃなく店長は人の考えを読めるとは恐ろしい。

もしかしたら、ここに来た客は皆、この店長を見て同じ事を考えるのかもしれない。

とりあえず、物を売ってもらえなくなったら困るので、即座に謝罪して棚に置いてある銃を見る。

 

しかし……見当たらない。

ハーディスはコルトパイソンのようなリボルバータイプの銃が必要なのだが、ここにあるのはマシンガンやル○ン三世の愛銃みたいなのしかない。

しかたがない。別の店に……ん?

 

あ、あれは……!!

そう、俺は見つけたのだ。

入り口では棚に隠れて見えなかったが……。

 

そこそこ大きなタルにハンバーガー10個分の値段が書いてある紙が貼ってあり、無造作に銃や剣が詰みあがっている。

 

注目するのは値段かも知れないが、俺にはどーでもよかった。

そう!あったのだ!!リボルバー……しかも装飾拳銃でハーディスのそっくりさんだ!!

ダッシュでタルに駆け寄り、手に取る。

やべぇマジでそっくりだ!!

 

ローマ数字は書いてないがそれ以外は本当にそっくりだ!!

製作者は神だな!!

店長が「見た目だけ」「撃てないただのゴミ」と何やらぶつくさ言っていたが知らん!!

 

うきうき気分でハーディス(命名)+ホルスターと弾60発分を購入し、来たとき同様に意気揚々と店を出た。←店長の忠告をガン無視。

 

いや~~いい買い物をしたな!!マジで!!

店兼、自宅に帰ってきた俺は道具と服を持って自室に篭りいそいそと準備を進める。

さて、早速自室でハーディスにローマ数字を油性ペンで書いて……俺自身の胸元にも黒の油性ペンで書く。←すっかり書きなれている。

 

よし!後は服を着替えて出来上がり!!

 

客商売なので身だしなみを整えるために購入した、等身大の鏡に映るコスプレ姿の自分を見る。

 

おお!結構完成度高いぞ!!固い表情に結構、鋭い目!!

やれば出来るじゃないか俺!!

髪型も整えて……おお!イケるイケる!!

 

明日は丁度、店も休みだし……この格好でぶらついてみるか!!

もし、同じ趣味の人が居たら同好会でも作ろうか?

同好会の名前は『クロノス』で!!

 

ー翌日ー

 

とは、言ったものの友人と出くわして笑われたら恥ずかしい。

 

と、言うわけで……。

 

 

帝都に仕入れもかねて、ある西の町へとやってきました!!

西の町にはいいコーヒー豆や珍しい食材手に入るんだよね!!

店の得にもなるし、趣味で遊べるしで一石二鳥だ!!

期間は二週間!思いっきり遊びつつ、いい豆や食材を探すぞ!!

お世話になる手ごろな宿を見つけた後、部屋に荷物を置き、貴重品とコスプレ衣装+αが入った鞄を持って、外に出る。

 

何故、コスプレせずに鞄で出たのかと言うと……。

久しぶりのせいか恥ずかしいのである。

外に出て手ごろな酒場に入り、トイレを借りてコスプレ衣装に着替えてホルスターにハーディスを入れる。

 

ふう、久しぶりなせいか凄く高ぶる。

そして気分が高揚したからなのだろうか?

心なしか体が軽く力が高ぶる感じがする。

着ていた服を鞄にしまいトイレを出て、店を出ようと出口に向かうと……。

 

「お客さん、注文は?」

 

この酒場の店長だと思われる筋肉隆々の男性がニッコリと笑顔で声を掛けてきた。

表情はとてもいい笑顔だが、目が笑っていない。

 

まるで「タダでトイレ使わせてもらえると思うなよ?」と言われているようだ……。

ま、まあ、トイレの使用料を払えと言われているワケじゃないし?

喉も渇いているし?別にNOと断れないわけじゃないんだからな!!

 

昼間から酒とはどうかと思ったが……。

机に置いてあるメニューを見て少し気が変わった。

酒といえば加藤 雄二の時でも祝いの時にしか飲んだ事はなく、俺ことジョニーは17になったばっかりの若造で、酒を飲んだ事は一度もない。

たまには、飲んでみるのもいいかもしれないな。

 

「じゃあ……」

………。

カウンター席に座り、注文した酒を一口飲む。

感想は……なんというか苦いな。

こっちでは立派な成人な俺だが、日本だとまだまだガキだからな……。

正直、酒の良し悪しなんて調味料としてしか分からん……。

 

「おい、聞いたか?」

 

「ああ、今日で10人目だ。被害者は可哀想に」

 

「……たしか、アレだろ?女は徹底的に犯された後、飽きるまで骨をへし折って

嬲り殺されるんだろ?」

 

「そして、男の場合は大事な部分を握り潰された後、同じように遊び殺されるらしい」

 

こえー。

最近、税金が増えると共に犯罪が増えたりしてるが、俺が聞いた事のある犯罪の中でも最悪の部類だ。

話が話だけに、近くのテーブル席に居る男4人の声に耳を傾けていた。

 

 

「一応、賞金首にして、倒した奴には仕官と大金が貰えるらしいが……」

 

「ギャンザは犯罪組織の頭だ。絶対、帝都警備隊とつるんでるぜ」

 

「軍も動いているとか噂で聞いたが……怪しいもんだ」

 

うわーー。

帝都公認の犯罪者かよ……。

他にも、拷問好きの変態貴族とか………。

男達の恐ろしい会話が尽きない。

全く、どうなってるんだろうね世の中は……。

口に合わない酒を残さず飲み干し、代金をきっちり払って、外に出る。

早く宿に帰るか………

 

 

 

☆☆☆

 

 

ジョニーが西の町に来る少し前の事。

 

ギャアアアアアアアア!!!!

 

帝都 西の町の近くの森

一匹の獣が断末魔の声を上げ……。

 

「うるさい」

 

「ギャビッ!!!」

 

急所をナイフで一突きにされ、その命を刈り取られた。

たった一人の……13歳の少女の手によって。

 

 

???視点

 

北の異民族に故郷を滅ぼされ、危険種を狩っては素材を金に替えて

フラフラと数年ほど生活をしてきたが……。

 

「飽きた」

 

最初は苦戦していた獲物も何度か狩れば手ごたえすら感じない。

それに獲物の数も大分減ってしまった。

獲物の素材をナイフで剥ぎ取り、袋に詰めいつも素材を買い取ってくれる店に行く。

 

何か狩り応えのある獲物は居ないだろうか……

 

そう思い店へと向かっていると一枚の紙が、風に乗って私の足元に落ちてきた。

紙には頭がモジャモジャした醜い男の人相画。

よく見ると手配書のようだ。

 

紙を手に取り内容を見て、思わずニヤリと笑う。

そうだ、獲物が居なくなったのなら……新しい獲物(人間)を狩ればいい。

しかも仕官すれば危険種も人間も狩り放題だ。

 

手始めにコイツを狩ってやろう。

ギャンザか……お前が私が狩る人間の第一号だ。

 

ー捜査開始から数時間後ー

 

 

私はそれからギャンザについて慎重に調べ上げた。

醜い男だが、一応帝都の裏世界の頂点に君臨しており、この国の大臣とも仲がいいようだ。

 

その、仲の良いギャンザの形だけの手配書が出回ったのは目撃者が多くなりすぎて

大臣が犯罪者に仕立て上げて処理しきる事が出来なくなってきたからだとか……。

まあ、そんな情報はどうでもいい。

重要なのは奴の行動だが……。

 

何も分からなかった。

 

活動しているのはこの西の町で間違いないのだが……。

 

今まで起こった事件現場も手がかりはなかった。

 

被害者の血痕すら残っていない床を見て思う。

危険種なら、足跡やなんらかの痕跡を残しているのだが……人間では隠されてしまうか。

ふむ、人間を狩る上でひとつ勉強になったな。

日も完全に沈み、時間も遅い。

 

ギャンザの事は潔く諦め、普通に仕官しに行く事に決めた私は、帝都に来てから

世話になっている宿へと向かうため歩き出すのだが……

 

 

 

ゴバッ!!

 

 

土から…手だと!?

私が宿に向かって歩き出した瞬間、地面から人間の腕が生えだし、私の胴を掴む。

 

「へへへ、俺の情報を探ってるバカがどんな奴だと思ったら………。

まさか、こんなかわいい嬢ちゃんだったとは」

 

っち!?気づかれていたのか!?

掴んだ手を離させようと持っていたナイフで奴の手首に切っ先を突き立てる。

しかし……

 

ギィン!!

 

「なっ!?」

 

奴の手首に突き刺さるはずのナイフが弾かれてしまった。

危険種が切れるナイフだぞ!それを弾くなんて、一体どんな体をしてるんだ!!

 

ボゴゴッ!!

 

私が奴の異常な体の構造に驚愕していると、大きな音を立てながら一人の大男が

姿を現したと同時に奴に持ち上げられる。

男の顔は手配書で見た、ギャンザそのものだった。

 

「ヒャヒャヒャ!無駄無駄!抵抗しても無駄だぜ嬢ちゃん!!

俺様の体は帝具、『マッスルリング』の力で鋼鉄並みに固いからな!それと、助けなんて期待すんなよ?

ここら辺りは、俺の部下が居て誰も来ないようにしているんだからよ!!」

 

掴まれてた奴の手に力が篭りミシミシと身体からイヤな音が出る。

 

「もっと、肉付きのいい女だったら殺す前に楽しめたんだが………。

まあいい。せいぜい泣き叫んで俺を楽しませてくれよ?」

 

 

……この世は所詮、弱肉強食。

……弱きものは淘汰される。

犯され汚され蹂躙されても仕方がない……私が弱かっただけだ。

 

 

「ちっ、もうちょっと泣き顔を見せていれば少しは長生きできたものを……

もういい。さっさと殺して別の獲物を………」

 

獲物をいたぶる趣味を持つギャンザにとって、全てを受け入れた私はお気に召さなかったのだろう。

奴は私の頭を鷲づかみにして、つぶそうとした瞬間。

 

「不吉を……届けにきたぜ」

 

ギャンザのものではない低い男の声が聞こえた瞬間……。

 

ダァン!

 

一回の銃声が鳴り響き……私を掴んでいたギャンザの腕の力が一切なくなった。

ギャンザの力のなくなった拘束を振り払い、後ろに跳んで距離をとって、ギャンザを

見ると……。

 

奴は地面に崩れ落ちた。

そして、ギャンザの大きな体が倒れた事でもう一人の人物が姿を現した。

 

ソイツは黒いコートを風になびかせ、ギャンザを表情一つ変えることなく

ゴミでも見るような冷たい瞳で見ていた。

まさに強者と弱者の構図。

 

 

この光景を見た時、二つの思いが私の中で起きていた。

 

一つ目は戸惑うことなく急所を打ち抜いた、芸術とも言える殺しをした男に心を奪われた事。

 

二つ目はこの男を自分の物にして、私を欲しいと心の底から思わせるように染め上げたいと

いう欲求。

 

しかし、気配もなくギャンザを殺したこの男のほうが私よりも強いのは明らかだ。

私の物にしてから染め上げるのはまず無理だろう。

だったらこの男の物となり私に染め上げるのもいい。

 

私よりも強い強者を私に依存させる。

うむ、こういう趣向も悪くない。

 

危険種や人間を狩るよりも面白そうだ。

 

「私の名はエスデス。今日からお前のものだ。犯すも汚すもお前の自由だ」

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

ジョニー視点

 

ああ…いい気分だ。

まさに神になったようだ。

 

そう、俺はブラックキャット。

この世界を創造した神なのだ…。

この世の美少女は俺のものだーーーー!!←調子に乗って、また飲んだ。

 

「……ギャンザ様、またお楽しみか」

 

「いやー、アレは将来いい女になると思うがまだガキだったぜ?

なぶり殺しだろ?」

 

「まだまだ、甘いな。俺は全然余裕だ」

 

「なんだ、お前はそういうのが趣味なのか?」

 

俺の創造した世界で不穏な会話をする兵隊と黒スーツのやばそうな男。

話の内容を聞く限り、俺の創造した世界で悪巧みをしているらしい。

有罪だな。

 

「ん?おい!そこの黒ずくめの怪しい奴!!ここからは立ち入り禁止だ!!

引き返さないと逮捕…」

 

ダァン!

 

男はお呼びでない!

何故俺が、あんなむさくるしいおっさんに怒鳴られないといけないんだ!

俺は躊躇することなくハーディスをホルスターから引き抜き、おっさんの眉間に向けて発砲した。

 

俺に撃たれた男は見事に眉間に風穴を開けて崩れ落ち、物言わぬ肉の塊になった。

さすが俺の創造した世界、銃なんか撃った事ないのに百発百中ではないか。

 

「な!?テメェ!!」」

 

俺の世界を汚す、もう一人のおっさんが持っていたマシンガンを俺に向けて発砲してくるが弾が異常に遅い。

 

まるで前世で見たマトリックスのようだ。

ゆっくりと向かって来る弾を、俺は折角なので避けるのではなく一発一発をハーディスで全て叩き落とした。

 

「……あ、ありえねぇ…」

 

絶望の表情を浮かべるおっさん。

その表情は見ててもいい気分ではなかったので顔面に向けて適当に発砲。

おっさんは前のめりに倒れ動かなくなった。

この神、ブラックキャットに逆らうからだ。

 

…そういえば女がどうとか言っていたな………。

なんか奥に気持ち悪い感じがするし……行ってみるか…。

俺の創造した世界だきっと襲われているのは美少女に違いない!

 

………。

 

路地の奥に行って見ると、アフロで巨大な体躯の男とそれに襲われそうになっている

美少女。

俺の世界を汚すアフロめ!!

貴様に鉛玉をプレゼントしてくれる。

 

俺はまるで疾風のような速さでアフロの背後をとり

男の後頭部に銃口を突きつけ、決め台詞を言った。

 

「不吉を……届けにきたぜ」

 

ダァン!

 

引き金を引くと、鉛玉が奴の後頭部をぶち抜き、裁きを下した。

ふ、この神に逆らうからこうなるのだ。

愚かなアフロを見下ろしていると、捕まっていた美少女が俺に熱い視線を込めてこう言った。

 

 

「私の名はエスデス。今日からお前のものだ。犯すも汚すもお前の自由だ」

 

 

やはり俺は神だった!!←酔いによって絶好調!!

 

 

ー翌日ー

 

 

目が覚めて、天井と周りを見れば俺が居るのは泊まっていた宿の部屋にあるベッドの上。

 

そして右には何故か記憶にない異民族の美少女が……。

 

……………………え?

 

 



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1話

エスデス視点

 

黒い男。

トレイン・ハートネットと名乗る男の所有物になった私。

宿に連れて来られたが、奴について知る為に色々と質問をした。

 

名前はトレイン・ハートネット。

職業はゴミ(人間)を掃除する掃除屋とカモフラージュのためにやっている喫茶店の店長。

 

今は一人で活動をしているが、いずれクロノナンバーズと呼ばれる仲間を集めて『クロノス』という組織を作りたいらしい。

 

そして、組織の構成員で一定の強さを持つ者には番号が与えられるようだ。

トレインの装飾拳銃と胸にはXIIIの数字が刻まれている。

何故Iではないのか?と質問をすると不吉の象徴だからだそうだ。

組織での殺し以外でも、暗殺の依頼は受けるらしい。

 

依頼されたターゲットは将軍だろうと危険種だろうと要人だろうと依頼人の事情とターゲットの極悪さで仕事をするそうだ。

実に面白い。

 

この日、私はナンバーIの数字を貰う事で、後に裏世界を騒がせる事になる秘密組織クロノスが誕生した。

 

 

 

 

 

???視点

 

今朝、僕の自宅に伝令が飛んできた。

話を聞くと僕と契約をしているデブ大臣と繋がっていた木偶の坊が死体で発見されたらしい。

 

正直、ゴミの死体を見る趣味はないが、大臣の与えた帝具により身体強化された人間をどうやって殺したのか、興味が湧いた僕は出かける準備をして死体安置室に来てみたんだ。

 

そして、木偶の坊の死体を見て今までにない感動と衝撃を覚えた。

すばらしい!!これぞまさに芸術だよ!!

迷いのない銃弾が見事に木偶の坊の急所を撃ち抜いていた。

ああ、知りたい。

 

僕以外にもこんな芸術的な殺しが出来る人間が居るなんて……。

是非、この人物には僕と同じ将軍となり、共に戦場を駆け抜ける相棒になって欲しい。

 

「クリード将軍、ギャンザを殺した賊に関する情報を僅かですが集め……」

 

「賊ダトォ!!!」

 

僕の中で最も素晴らしい部類に入るアートを眺めていたら、どかどかと安置室の部屋にやって来た警備隊の男の言動に我慢できず、腰に差していた帝具『虚鉄』を抜刀して

男の左目を斬る。

 

もちろん殺しはしない。

だって、僕が会いたくて仕方がない人物の情報を持ってきたのだから……。

運がよかったね。

 

「ぎゃああああ!!目がぁ!目がぁぁぁあああ!!」

 

「……言葉に気をつけたまえよ…。君のようなゴミがこの芸術を

生み出した人物に対して暴言を吐くなんて許されないんだよ。

でも…情報を持ってきたからその左目だけで許してあげたんだから感謝してよね」

 

「あああぁあああ、ありがどうございまず……」

 

左目から流れ出る血を抑えながら感謝の言葉を述べるゴミ。

そうそう。何かを教えてもらったら礼を言うのは社会の基本だよ。

 

「さあ、言いたまえ。このすばらしい殺しをした人物に関する情報を」

 

「は…い、ぞの人物は……」

 

痛みに悶えながらゴミの報告に耳を傾ける僕。

 

犯人の特徴はまず、性別は男で服装は黒一色

 

身体的特徴は胸にXIIIの数字が刻まれている……か。

 

「ふははははっはは!!まさに暗殺者の風貌だね!!実に素晴らしい!!

ご褒美に君を帝都警備隊の隊長にしてあげるよ!!」

 

一人の狂人の喜びの声が安置室に響く中。

警備隊の隊員オーガは左目を代償に警備隊の隊長へと昇進した。

 

 

☆☆☆☆

 

ジョニー視点

 

宿泊する宿の部屋で右へ左へウロウロする怪しいコスプレ男がいた。

はい、俺の事です。

 

おおおおおお、落ち着けジョニー!

まままま、まずは情報収集だ!!

まだ有罪と決まったわけではない!!

 

とりあえず、いまだにベッドで眠っている名前もしらない美少女ちゃんを起こして質問をしてみた。

 

Q名前は?

 

Aエスデス

 

Qどうしてここに居るのか?

 

A俺の所有物となりクロノスと喫茶店に所属しクロノナンバーズになったから

 

ほわっと?

落ち着け、落ち着くんだジョニー。

前半部分は色々とおかしいが後半部分はちょっとだけ記憶がある。

だしか……コスプレ仲間を見つけたら同好会でも作って『クロノス』でも

作るとか調子に乗っていた薄くフワフワした確かな記憶が……。

 

つまりあれか?

コスプレ的なものに興味があった彼女と意気投合し、飲み歩いた

挙句に俺が泊まっている宿に連れ込み恥ずかしい設定話しつつ

13歳の中二病な少女を雇ったと……?

 

ははははははは、お巡りさん!!!ここです!!俺を逮捕して!!!!

 

 

 

 

 

ふぅ……なんか、焦るだけ焦ったら一周して落ち着いた。

 

 

お互い服も着てるしR18的なこともなく、俺は中二病なコスプレ仲間?

と新しい店員を雇っただけ!!それだけだ!!

何にも悪くない!!!俺は悪くねぇ!!

 

 

と、心の中で号泣会見なみの餓鬼臭い、言い訳をしつつ、目の前の彼女を店員として面倒を見ることを決めた俺は、予定を切り上げて我が喫茶店へと彼女を連れて帰ってきた。

 

幸い喫茶店は売り上げ上昇中だし、喫茶店であると同時に自宅である我が家は二階建てなので、部屋もそれなりに余っている。

彼女の一人や二人雇えないわけじゃない。

 

それに、ハンバーガーを生産するのに一人ではきつくなってきたし、彼女を雇うのはかなりタイミングがよかったのかもしれない。

それに我が喫茶店にはウェイトレスがいなかったしな……。

 

うん!何事もポジティブポジティブ!!

 

よし!まずは彼女が何が出来るのか聞いてみよう!!

出来ないのであればしばらくは指導する必要があるしな!!

 

「エスデス。料理の経験、もしくは給仕の経験はあるか?」

 

「…いちおう、肉料理は出来るが給仕の経験はないな」

 

ふむ。

それじゃあ、しばらくは給仕は俺で、彼女にハンバーガーを任せるか。

ただ、用意したハンバーグの肉を焼いてタレを掛けた後、パンをはさむだけだし。

何度か、根気よく教えれば一人でもできるようになるだろう。

失敗しても俺が責任をもってフォローすればいいだけの話だ!!

よし!頑張るぞ!!

 

と、思ってたらやべぇよ。

この子、いろんな意味で逸材すぎるだろ……。

狩りをして生活をしていたらしいので、キッチンでハンバーガーを教えたらすぐにマスター。

 

そして給仕を教えたら…彼女に悪い固定客ばかりが付いて、一般男性客と女性客がまったく来なくなってしまった。

 

 

その悪い固定客はと言うと……

 

「おい、犬。まさかハンバーガー5個だけじゃあるまいな?」

 

「はぁ、はぁ。10個、頂きますです!!姐さん!!」

 

「よし」

 

俺がいない時、店番をしていたエスデスに難癖をつけたゴロツキ達は、彼女の従順な犬となり、我が喫茶店の売り上げに貢献してもらっている。

 

椅子に座らず、床で四つんばいになりながら………。

あと、俺のことをジョニー様とか呼んで来るんだよ気持ち悪い。

 

売り上げは、エスデスファンのゴロツキが増えるたびに上昇するが、同時に女性客や一般男性客が減っていく。

喜んでいいのやら、悲しんでいいのやら……。

 

ご近所さんの目も辛いし、もう引っ越そうかな……

あと、重要な問題が俺に発生した。

俺の胸の油性ペンが消えません!!

あと話は変わるが、俺はエスデスに会ってから体の調子がおかしい。

いや、別に病気や怪我をしたわけではない。

その逆で、体の調子がとてもいいのだ。

 

具体的に言うと体が頑丈になり強くなった。

いつもヒィヒィ言っていた買出しも息を切らすことなく店に帰ってこれるしセールをやっている店に向かって走れば、今までとは比べ物にならない速度で走れる。

まさか……地味にやっていた筋トレがここまで効力を発揮するとは……。

しかしその反動なのだろうか?表情筋が固くなって目がつり上がってしまった。

まるでトレイン・ハートネット(殺し屋)状態。

一応、接客業なのに……。

 

 

 

☆☆☆

 

 

エスデス視点

 

トレイン…じゃなかった。

今はジョニーでもなく仕事中は店長と呼べばいいんだったか?

クロノスのメンバー、『ナンバーズ』になった私は現在、

得意な肉料理のスキルを利用してハンバーガーとやらをキッチンで店長に教えてもらいながら作っている。

 

ふむ、父以外に何かを教えてもらうのは初めてだが……なんだかいいものだな。

 

しばらくして、私がハンバーガーを完璧に作れるようになると今度は給仕について教えてくれた。

 

どうやらかなり頼られているようだ……ふむ、やった事がなくて不安だが、店長の頼みだ。

実行するとしよう。

 

私が給仕の仕事を覚え始め、店長が買出しをする間、店の留守を任された時のことがあった。

 

「おいおい!このハンバーガーは肉じゃなくて、虫が挟まってるぞ

どうなってるんだ!!」

 

店のテーブルでハンバーガーをこれ見よがしに掲げ虫が挟まれている事をアピールして騒いでいる男が居た。

 

む?たしかこれはクレーマーと言うのだったな。

しかし、対応が思い出せない。

店長が最低の客と言っていたのは思い出せるのだが……。

ふむ、とりあえず……。

 

「そうか、ブサイクなお前には上等なものではないか。遠慮せずに食え」

 

「ぐぼぉぉおおおお!!??」

 

虫の挟まったハンバーガーを男の口の中に突っ込んでやり、両手で顎を固定した後に顎を動かして咀嚼するのを手伝ってやった

最低な客には最低なおもてなし(調教)をすれば問題ないだろう。

 

「お、親分!!ぐぉぉおおおお!!」

 

「うるさい、他の客に迷惑だ。ほら、注文したハンバーガーを食わせてやる」

 

「ぶふぉ!??」

 

男の隣に居た男が騒ぎ出したので、テーブルに備え付けてあったスプーンの柄をもう一人の男の手に突き刺す。

 

すると痛みで男がうるさくなったので、男の席に置いてあったハンバーガーを口に無理やり突っ込んで静かにさせる。

 

しまった、テーブルクロスをゴミの血で汚してしまった。

後で店長に謝らなければ……。

 

「ガ、ガキ!この親分を誰だか分かってやってるのか!!?裏の帝王ギャンザ様の右腕の

ロドニーさんだぞ!!」

 

「ギャンザ……?ああ、店長に殺されたあのゴミか」

 

確か、店長が殺した奴がそんな名前だったな。

まあ、奴には店長と引き合わせてくれた事については感謝してもいいかもしれん。

そんな事を考えていると……。

 

「え、今なんと?ブギュ!?」

 

「店長に殺されたゴミと言ったのだが…それがどうしたゴミ」

 

考え事をしている時にゴミに話しかけられたので思わず蹴りを入れた後に地面に転がして踏んでしまった。

 

「いだだ!も、もももも、もしかしてここの店長様の胸に『XIII』の刺青が

あらせられますのでしょうか…お嬢様?」

 

む?グリグリ踏んでいる男の態度が急に変わったな……おもてなし(調教)の成果か?

 

「そうだが」

 

「「「ギョヒィィィィィイイイイ!!!」」」

 

わたしが肯定すると3人のクレーマーそれぞれ持っていた財布をテーブルに置いて走り去っていった。

ふむ。代金ももらったし、どうやら私のクレーマーに対する対応は正解だったようだな。

 

翌日、昨日のやつらとその部下らしき男達が迷惑料と言って金を差し出してきた。

うむ、殊勝な心がけだ。

 

そういえば『クロノス』はできたばかりの組織だと店長は言っていた。

ならばこいつ等を番号なしの構成員にしてやるか。

雑魚ばかりだがこいつ等の数だけでも資金が集まる

店長にもいい報告が出来るな。

 

 

 

☆☆☆

 

ロドニー視点

 

装飾拳銃を武器に持ち、胸に『XIII』刺青をした男が裏世界最強である『帝具』持ちのギャンザ様…いや、

ギャンザを殺した事は偶然生き残ったギャンザの部下の話で瞬く間に裏の世界に広まった。

 

いまや裏世界では最強の称号を手にした『XIII』男の事でこの後どうなるのか気が気でない。

 

帝具とは過去現在においての絶対最強の兵器だ。

それを使う、ギャンザを殺したのは間違いなくギャンザと同じ帝具使い。

 

その武力を持って裏の世界を恐怖に落とすのか?

それとも、ただの放置なのか?

 

だが、恐れていても仕方がない。

いま、どの組織もどのように動けばいいか分からず静観している今がチャンスだ!!

ここでゴマすってワイロ渡して、ギャンザの側近になった俺の権力をいかして

俺様が成り上がってやるぜ!!

手始めに、ここら一帯の店なんかを絞めて俺様の領地にしてやる!!

 

そして俺は気合を入れて、一軒の喫茶店に手を出して……。

 

 

 

 

 

 

部下もろともエスデス様の犬になりましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

いやいや!ただの犬じゃねぇぞ!!本名は教えてもらえなかったが裏世界最強の称号を得た『XIII』の男、ジョニー様率いる『クロノス』の構成員になれたんだぜ!!

しかもだ!!『クロノス』は帝国のゴミを掃除する組織らしい。

 

つまり!国のゴミ、俺達平民をバカにするクソ貴族や邪魔になる組織をぶっ潰し、帝国の表と裏の世界の頂点を目指すってことだ!!

 

やべえぇ!超興奮してきた!!ジョニー様超パネェ!!!

それにギャンザみたいに美味いポジションにありつければ……ぐへへへへへ!!

 

さあ!まずは店の売り上げ貢献と、情報収集だ!!

 

 

 

 

 



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2話

連続投稿の為、プロローグからご覧になる事を推奨します。


突然だが、最近いい事があった。

コスプレ同好会『クロノス』が出来たのだ。

まあ、メンバーは俺と中二なエスデス以外では強面なエスデスの犬になったチンピラやゴロツキ達で構成されている為、とてもコスプレ同好会には見えないのだが……。

 

エスデスに彼らを紹介された時は驚いたね。

まさかあの強面たちにも、そんな趣味があったとは……。

ちなみにメンバーは同好会の会長である俺の好きな『ブラックキャット』の世界観を貫くようだ。

 

エスデス曰く、彼等はナンバーズではなく構成員でいいらしい。

まあ、俺もむさくるしいおっさんをナンバーズにしたいとは思わないが本人のやる気次第ではいいと思っている。

 

しかし、役割のないただの構成員では少し可哀想なので情報収集役を与えてあげた。

遊びの中で世間の情報を知れる、これぞ一石二鳥だ。

 

それになんと!!情報収集の役がよほど気に入ったのか店に来なくなり

代表として一人の男…ロドニーがチンピラ達のまとめ役になって情報を提供してくれるようになったのだ。

 

彼から教えてもらう情報は中々に凄い。

役になりきっているとしか思えないレベルだ。

 

例えば、地方の人間を誘い込み拷問に掛ける変態貴族にスラムの子供達を殺して遊ぶ貴族から始まり、冤罪を作る警備隊長。

どこのゴシップ誌かは知らないが黒い話を収拾してくる……。

 

あと、同好会『クロノス』に入ったばかりのロドニーは『クロノス』について聞いてきた事があったので、世界を安定させるために邪魔な奴を排除する組織と設定について話したのだが、仕事中だったし片手間で話をしていたからよく覚えてない。

 

たしか…排除したらどうするのか?と質問されたので前世の日本のようにすればいいのではないかと思い、市民平等とか選挙制度的な事を語ったら、何やらやる気を出して店を出て行った気がする。

 

やる気を出していたみたいだし、よほど設定が気に入ったんだな。

最近だと、南に要塞を築き上げたとか、帝国の将軍クラスの人間が仲間になったとか次から次へと妄想を口にするし……。

いろいろと大丈夫かな?あのおっさんは……。

 

 

 

☆☆☆

 

 

帝国の遥か南のとある土地に出来た要塞

 

 

 

ロドニー視点

 

帝都と要塞の中間地点にある村の宿屋で資料の整理をしていると、とても興奮してくる。

勿論、俺に怪しい性癖があるわけではない。

今、俺が見ているのは組織の中でトップシークレットの資料。

構成員のリストである。

 

やべぇよ!超やべぇよ!!

俺の時代がやって来たんじゃね!?

帝都の税が重くなったり、治安が悪くなる度に小規模だった『クロノス』に帝国を離反した優秀な人間や帝都を潰したいと思っている連中が『クロノス』の思想の元に集まってきて大規模な組織になりつつある。

 

そんな大組織の幹部『ナンバーズ』エスデス様とリーダーで本名不明のジョニー様に資料と情報を届けるパイプ役となった俺!!

 

ー現在の俺の地位ー

 

リーダ>ナンバーズ>>>>俺>>情報収集および戦闘員

 

要塞から帝都まで往復するのは大変だが、美味しいポジションじゃね!!?

でも大きくなるにつれてヤバイ情報も入ってくる。

 

構成員リストとは別に運んでいる資料に目を通す。

 

クリード=ディスケンス

 

ブドー大将軍と双璧をなす、若くして帝国最強の将軍になった帝具使いの男。

しかも殺しに美学を求める変態野郎で奴とその部下に蹂躙された町は悲惨な光景しか

残っていないという……。

 

まあ、おかげで『クロノス』の存在を知ったナジェンダ将軍みたいな優秀な

将軍や兵達が離反してくれるんだけどな!!

今まで地道に地方の民の血税で私腹を肥やす豚共を排除し、重税に苦しむ村を救ったり

していたが……。←ロドニーはやってない

今度ファーム村で合流する事になっている帝具使いであるナジェンダ将軍が『クロノス』に

入ってくれれば、もっと大きなことが出来るぜ!!

 

まったく、チンピラだった俺や他の奴等もいつの間にか正義の味方だな。

一度…ジョニー様からクロノスについて聞いたことがある

クロノスは世界を安定させるためにゴミを排除する組織だと。

そして、帝国を倒したらどうするのかと質問したら、あの人は言った。

貴族社会を潰し、市民平等な国にし、民主主義の国にする。

などなど。

 

俺は思ったね、クロノスに居れば…この人に付いて行けば…俺達チンピラでも

世の中の役に立ち、革命だって起こせるのだと……。

やってやるぜ!!

 

「大変だ!!ロドニーさん!!」

 

「!?」

 

俺が部屋の窓を眺めてやる気を出していると俺の護衛として付いてきた一人の構成員が大きな声で俺を呼んだ。

一体何があったのか?

 

部屋に入って護衛と話をするために資料を鞄にしまった俺は、扉の方を振り返って報告にきた護衛の表情を見る。

護衛の表情は青くなっており、尋常じゃない事が起きたと予想できる。

 

「さっき緊急の伝令が来て、ナジェンダ将軍と合流するファーム山に……クリードが…クリード=ディスケンスが部下を率いて向かってるそうです!!

要塞のメンバーが合流に向かわせた者たちに早急にナジェンダ将軍の元へ合流するようにと連絡したらしいのですが……」

 

「マジか!?」

 

やばい!かなりやばいぞ!!

クリードの部下は少数だが全員が帝具使いだ!

下手するとナジェンダ将軍が殺される上に彼女が持つ帝具『パンプキン』も

クリードの奴に奪われてしまう可能性がある!!

早くお二人に知らせないと!!

 

俺は荷物をまとめて護衛達と共に帝都へと向かった。

 

 

☆☆☆

 

 

クリード視点

 

あの事件から僕は彼を探しに探した。

そうしてようやく彼に繋がる情報を手に入れた……。

革命軍『クロノス』とかいう有象無象のゴミの中に数字を刻まれた

男女が居ると……。

そして僕は運がいいことにナジェンダの裏切り、革命軍と合流する事を

知った。

つまりだ…彼女を殺すついでに革命軍の雑魚どもを尋問して

彼について聞くことが出来れば………。

 

「フハ、フハハハハハハハ!!」

 

ようやく!ようやく会うことが出来る!!

僕は部下を引き連れナジェンダの向かったファーム山へと進軍を開始した。

 

……………

 

………

 

 

「…帝国を裏切るだなんて残念だよナジェンダ」

 

「……っくそ!!」

 

『クロノス』と合流する前に彼女の軍と接触した僕達は蹂躙という名の戦闘を開始した。

しかし、つまらない。

彼女のパンプキンの攻撃による弾幕も、彼女を救おうと向かって来るゴミ達も…

簡単に斬れてしまって、本当につまらない。

 

「もういいや。さっさと君を殺して目的の人物を探す事にするよ」

 

僕が彼女の首を飛ばそうと虚鉄振るう。

しかし……

 

「へぇ、驚いた。そんな風に僕の虚鉄を避けるなんて……」

 

僕の虚鉄は精神エネルギーによって不可視の刀身を作り上げる帝具。

それを避けるために自身の右腕を犠牲にして避けるなんて……。

さすがナジェンダだ。

他のゴミとは違う。

 

「将軍!!!革命軍の奴等が来ました」

 

………。

砂塵の規模から考えると数が意外と多い……対してこちらはナジェンダと帝具持ちのせいで数を大分減らしてしまった。

…今回は諦めるか。

 

「退却だ」

 

少し待ち人と会うのは遅くなるかも知れないけど……。

ナジェンダが面白いものを見せてくれたお礼だ。

今回は見逃してあげるよ。

 

 

主人公視点

 

最近、帝都の治安が本気で悪くなってきた。

経済は下落し、物価の上昇と共に上がる税金。

さらには取り締まるべきものを取り締まらない警備隊。

俺達の生活が苦しくなってくる中、店にも影響が出てきた。

売り上げはロドニーがエスデスに大金を貢いでくれるので黒字で客が少なくなっても

大丈夫なのだが…問題は材料を買っていた店だ。

この不景気でどんどん潰れたり、まだそこまで税金を取られない場所に移動する

などで、買出しが辛くなってきた。

今では西の町まで材料の買い物に来ている。

俺も引っ越そうかな……。

そんな事を考えながら材料を購入していると広場で何やら人の集まりが見える。

何かあったのか?

 

人だかりが気になった俺は、買い物袋を片手に人ごみへと向かう。

 

すると……。

 

「異民族は出てけ!!」

 

「ピンクの髪が目障りなんだよ!!」

 

人ごみを掻き分けて進むと中央で男達が一人の少女に対して罵声とトマトを投擲している。

 

異民族…日本で言う中○人のような存在で『帝国の領土は我々の物』と主張し、

力のない村々にいやがらせや犯罪行為をする帝国の目の上にあるタンコブのような

ものだ。

 

確かに帝国の人間は異民族に対して印象は良くない。

しかし、ここまで酷いのは初めて見た。

おそらく、生活が苦しくなった今、少しでも鬱憤を晴らそうとしているのだろう。

気持ちは分からなくないが、何もしていない子供に対してするような事ではない。

 

よし!!

 

肉に香りをつける為に購入した酒を袋から取り出した俺は、気合を入れるために

一気に酒を飲んだ。

 

☆☆☆

 

マイン視点

 

 

西の国境近くで生まれた私。

つい最近家族を亡くし、帝国の町を当てもなくふらついていた。

しばらくふらついていると、異民族とのハーフである私に気が付いた男達が

罵声とトマトを投げつけてきた。

他の大人たちもこの状況を見て、誰一人私を助けようとはしない。

そんな状況に一種の諦めを感じていた時、一人の男が私を庇うようにして

目の前に現れた。

 

「おいおい、兄ちゃん。空気読めよ……今異民族のカスどもを追い出そうとしてんのに」

 

「そーだぞ!帝国の領土は帝国の物なんだぞ!!」

 

男達の抗議と主張を聞いた男は腰から一丁の銃を引き抜き、男達に向けて発砲。

ダァン!という大きな銃声があたりを支配する。

 

「息を引き取るか……ここを引き取るか選びな」

 

男がそう言うと、私にトマトを投げていた一人の男のズボンがズリ落ちて

汚いパンツが公衆の面前に晒された。

 

「「こ、ここを引き取らせてもらいますぅぅうううう!!」」

 

ベルトを打ち抜かれたことに気づいた男達はみるみると顔を青ざめ、

泣きながら去っていった。

 

「付いてきたければ付いて来い」

 

逃げて行った男達に眼もくれず私に一言呟いた男は拳銃を腰に差して、ゆっくりと

歩き出した。

 

私は……。

 

思い出すこれまでの惨めな生活。

彼の元に行けばその生活を脱出し、命を繋ぐ事はできるだろう。

 

しかし、危険な生活になる事を私は感じていた。

それでも私は自分の未来をつかみ取る為に、彼の後ろを付いて行った。

 




面白いと思ったら評価をおねがいします。
評価が私の書く原動力になりますので……。


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3話

「大変なんです、ジョニー様!!」

 

ピンク髪の少女マインを店員にして数日目の朝。

店先でロドニーが肉団子のように転がり込んできた。

とりあえず、水を飲ませて部屋の奥で話を聞く。

 

「では、報告いたしやす」

 

ロドニーの話によると、クリードと呼ばれる男が仲間になるナジェンダさんを襲撃したらしい。

滅茶苦茶壮大な話をしているが翻訳するとこうだ。

どこかの団体に所属していた、ナジェンダさんと言う女性が、団体を抜けて俺達の同好会に入会した。

 

ロドニーの話では帝国の将軍の一人という設定らしい。

自分の国の事だけど経済以外は正直どうでもいいと思っているので本当なのか設定なのかは不明だ。

 

まあ、コスプレ同好会であるクロノスに入りたいという事なので中二設定だと思って聞いておこう。

 

そして、同じ団体に所属していた思われるクリードさんが抜けるんじゃねぇとブチキレて配下を連れてナジェンダさん一行を襲撃。

まるで脱退リンチのようだ。

ナジェンダさんは元暴走族なのかな?

 

俺は昔の経歴は気にしないけど、同好会に面倒を持ち込まれるのは困る。

 

「それで…ナジェンダさん達は現在どうなっているんだ?」

 

「それが…まだ、連絡が取れていませんので何とも……」

 

ふむ……女性が襲われているのに何もしないのも忍びないが……。

族を抜けるのは大変だろうけど頑張って貰おう。

 

「本人たちに任せる」

 

「そんな!帝具が取られてもいいんですかい!?」

 

帝具?ああ、俺のハーディスと同じコスプレアイテムみたいな物ね。

つまりあれか?団体で作ったアイテムをナジェンダさんが借パクしたのか?

それはクリードさんもキレるよ。

さっさと団体かクリードさんに返した方がいい。

 

円満退団は社会人コスプレイヤーの基本だ。

俺が自分の考えをロドニーに伝えようとするとエスデスが現れ、ロドニーを蹴る。

初めて会った時から成長した彼女は俺の予想通り、男たちを夢中にさせる美女になった。

 

「ぶひッ!?」

 

「黙れ豚。そんなのは元居た場所を上手く抜け出せなかったヤツの落ち度だ。

私や店長が介入して私達の情報をくれてやる必要はまるでない」

 

そして、SからドSにも成長していた。

気に入った相手には優しいのだが、それ以外だとどうも厳しいのだ。

どこで教育をまちがったのだろうか?

 

転がるロドニーを出来の悪い家畜を見るような瞳で見下ろすエスデス。

彼女は床に転がるロドニーに歩み寄り、股間を踏んでグリグリし始めた。

その姿はまさに夜の女王様だ。おいおい、俺の家で特殊なプレイは止めてくれないか?

 

「生きて合流する事が出来なければ、クロノスに入る価値はない。

店長が言っているのはそういう事だ。

まあ、噂に聞くクリードから無事に生還する事が出来る実力なら、高い確率でナンバーズ入りだな」

 

「はひぃぃいいい!!分かりましたぁぁああぁぁああん!!」

 

「おい、クソ豚。貴様にはいろいろと心構えという物を叩きこんでやるから覚悟しておけ」

 

「ひぃぃぃぃいいいいいい!!」

 

……。

 

仕事しよ。

 

汚い豚の悲鳴を聞かないように耳を塞いで部屋を出た俺は、自分の戦場であるキッチンへと向かうのであった。

 

☆☆☆

 

ロドニーがジョニーにナジェンダの件について報告をしている頃。

ナジェンダは合流したクロノスのメンバーに回収された。

 

しかし、回収されたナジェンダの損傷は激しく、右目と腕を失い生死の境をさまよう事となった。

現在も意識が戻らないナジェンダ。

 

彼女が生死をさまよっている頃、一人の恋する少年の命を懸けた挑戦が始まっていた。

 

帝都より南に存在するクロノスの本拠地にある研究施設。

そこには、大臣の命令によって毒ガスの研究やおぞましい拷問につかう毒薬の研究を強要され、帝国の未来に絶望してクロノスに入った優秀な研究者達が革命の為に必要な兵器やけが人を癒す薬、帝具の研究をしている。

 

その研究室にて、少年ラバックは愛する人を守る力を得る為に帝具の適合試験を受ける事にしたのだ。

 

「ラバック君。本当にいいのかね?帝具は未知数の超兵器だ。

拒絶反応が起これば取り返しのつかないケガをする可能性もある。

構成員が命をかけて盗んだ『千変万化クローステール』。

構成員が何人か試したが、拒絶反応が出て全員ケガをし、ひどい者は指が切断された」

 

「ええ、ナジェンダさんにどこまでもついて行って守るのが俺の使命ですから。

…それに、目を覚ましたナジェンダさんの為に部下の俺が功績を上げておけば、ナジェンダさんの評価にもつながるでしょ?」

 

「ラバック君…」

 

帝具を前に緊張することなく己の覚悟を示す少年に感動を覚える職員たち。

しかし、一人の女性研究員によってこの空気は消えてしまう。

 

「だったら、女湯を覗くの止めてもらえませんか?」

 

「それはそれ!!これはこれ!!美女達の美しい姿を見るのは男の本能なので止められません、止まりません!!」

 

恋する少年は重度の変態であった。

既に二回ほど女子風呂を覗いていたのだ。

その話を聞いた職員の少年を見る目は変わった。

 

「では変態。これをグローブの様に嵌めなさい。

ああ、拒絶反応が出たらすぐに外しなさい、指が切れるから」

 

「はい…え?今変態って呼ばなかった?」

 

先ほどまで優しかった研究員の態度は冷たい物になりゴミを見る目で少年を見ていた。

帝具を受け取った変態は研究員の態度に困惑するが、躊躇する事無く自身の手に帝具を嵌める。

 

「……っち、どうやら適合したみたいだね。

…おめでとう」

 

帝具を嵌めて拒否反応が出なかった事に舌打ちした研究員(妻子持ち)はクズを見る目で変態を見つめ、舌打ちをした後、言いづらそうに祝福の言葉を棒読みで送った。

 

「え?今舌打ちしなかった?ねぇ?しかもその、めっちゃ棒読みの賛辞はなに?」

 

「さて、研究員諸君。不本意ながらこの変態が適合者となってしまった。

誰かナンバーズの推薦書を書いてくれないか?

勿論女性以外でだ。

女性に記入させたらセクハラになりかねん」

 

「おい!さっきから失礼すぎやしないか!?なんで俺の推薦状を書いたらセクハラになるんだよ!!」

 

「黙りなさい喋るわいせつ物。

それよりも大変不本意ながら貴方に帝具の説明とクロノナンバーズについて説明します。

一度しか言わないのでよく聞いてください。

質問はロドニーさん辺りに適当にしてください」

 

「雑ッ!!俺の扱いかなり雑ッ!!アンタらドS過ぎるだろ!!」

 

南の本拠地が出来てから、エスデスは喫茶店の休みと有給を駆使して定期的に視察に来る。

その際、研究員であろうと体力がなくてはいかんとそこそこ厳しい訓練が行われる。

訓練に参加することで体力と強い精神力を付けた研究員達であったが、訓練中のドSな罵倒で少し染まってしまったのだ。

故に、普段は優しいし、移民や難民だろうと差別しない彼らでも変態と悪しき帝国貴族や大臣の事になるとドSが滲み出てきてしまうようだった。

 

「っち、なら推薦状は僕が書いておきますよ。

確か……ふにゃチンファックだったか?」

 

「ちげぇよ!!文字数から何もかも違うよ!!小さなツとクしか合ってねえよ!!」

 

「わかった裸バックだな」

 

「そうだけど……。なんだろう、凄く悪意を感じるんだけど……」

 

「ほら裸バック!説明するからしっかりと聞きなさい」

 

東方の文字に詳しい研究員により、少年ラバックは推薦状に無駄に達筆な文字で裸バックと記入され、ジョニーの元に送られる事となった。

裸バックが説明を受けているクロノス内ではカースト二位に位置するクロノナンバーズ。

ナンバーズに入るには総督であるジョニーが定めた条件を満たした者でなければ入る事が出来ない。

 

帝具持ちである事。

 

そして、例外として一騎当千の力を持つ人間のみ、メンバーに加入される。

この加入条件が正式に決まった時、クロノスには帝具はなかった。

故にエスデスは己を鍛えぬいて、例外の条件を満たす事にした。

喫茶店で働いている時も重りを体に巻き付けて体力を向上させ、店が閉まっている時は、ジョニーに教わった感謝の突きなどのありえない特訓方法で技の稽古をするなどして超人の壁を登りつつある。

故に彼女は帝具持ちではないが、自他共に認めるクロノス最強戦力の一人である称号、ナンバーズとして正式に君臨しているのだ。

 

勿論、ジョニーは帝具をおとぎ話やコスプレグッズとして認識しているので、そんなアイテムを持っていたらモブ構成員じゃないよね。

な感じでナンバーズ加入の条件とし、アイテムなくても強い奴いたりすると胸熱だよね!!みたいなノリで一騎当千を付け足したのだった。

 

 

 

 

 




感想と評価などをお待ちしております。


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4話

※オリ主についていろいろと思う所があると思いますが、私は私の書きたいものを書きたいので、読むに値しないなどの思う所のある読者様はプラザバックをお進め致します。



帝国の王と王妃が亡くなり、幼い皇子が帝位を継いだ。

これにより、ギリギリ保っていた帝都はゆっくりと、しかし確実に崩壊の道を歩み始め、その影響は俺達市民に直撃した。

貴族の悪い噂はどんどん増えていき、月に一人二人の死刑囚が二十人を超えるようになった。

俺の喫茶店はまだ、金を持っている軍人さん達やロドニーがエスデスに貢いでいる金で生活できているが、ご近所さんはかなり酷い状態になっている。

 

「頼むジョニー!金を貸してくれ!!」

 

「俺を雇ってくれよ、ジョニー。

生活が苦しいんだ」

 

などなど、金を貸して欲しいとか自分を雇って欲しいという人間が後を絶たない。

おそらくこの不景気に定期的に材料の仕入れする俺の店を見て、金があると思ったのだろう。

おかげで駆け込み寺の様になっている。

 

しかし、俺の店も景気がさらに傾いた事で馴染みの客が減って収入がロドニーだよりになっているし、マインとエスデスという二人の店員を雇っている。

これ以上は雇う事が出来ないし、金も少量なら近所のよしみで貸してあげる事が出来るがそれも限界を迎えようとしていた。

 

そこで……。

 

「店をロドニーに預けてクロノスの本拠地に引っ越そうと思う」

 

「私は構わんぞ。

店長にどこまでもついて行くだけだ」

 

「私もいいわよ。正直近接戦闘以外の訓練もしたかったし」

 

彼女たちと相談して一時的に引っ越すことにした。

ロドニーから送られてくる情報が半分でも本当ならクロノス本拠地とやらは、かなりの規模になっているらしい。

貧しい村の村人や帝国の圧政に苦しむ人々が集まり、本拠地の周りは村となって街へと成長した。

食料は村々の周辺にあった食料となる植物や畑にまく予定の種などを利用して上手にやりくりしているらしい。

ここ最近だと少数だった家畜も増え始めて、乳製品や肉料理も出せるレベルにまでなったようだ。

 

もはや小さな国である。

しかし、皇帝夫妻が亡くなり完全に大臣の支配下に置かれた帝国の圧政により、これから増えると想像される市民達の事を考えると不安でありまだまだ油断できないと、書き記されていた。

 

クロノスでやっていくのは少し不安があるが、引っ越さなければ何をされるか分からない帝都に居るよりはましだと判断した俺はスラムの人たちを雇って、夜遅くに引っ越した。

 

「じゃあ、お願いしますね」

 

「おう!前金とハンバーガーって奴も貰ったし、キッチリ運んでやるよ!!」

 

夜遅くに店の前にやって来たスラムの男達に前金とハンバーガーをご馳走した俺は荷物を荷馬車にまとめて進み始めた。

さらば、帝国。

 

生まれ育った国に心の中で別れを告げて、進もうとした時……。

 

「待ってぇ~~!!私もバイトさせてぇ~~!!」

 

「ば、バカ!静かにしろよレオーネ!夜逃げがバレちまうだろ!!」

 

「お前もうるせぇよ!!」

 

一人の女性によって馬が止まった。

どうやら、引っ越しのアルバイトに来てくれた人らしい。

年齢はエスデスと同じくらいか?

胸部装甲はエスデスよりも優秀のようだが……。

 

「君は力には自信があるのか?」

 

「アンタが雇い主?勿論さ!力はスラム最強と言ってもいいよ……変身!」

 

正直雇ってあげたいが可愛い女の子がケガをしたら嫌だったので、力の有無を聞いたのだが……。

彼女は変身ヒーローのようなポージングを取って変身をした。

 

彼女のベルトが黄金に輝くと彼女の頭に獣耳と腰には獣の尻尾が生える。

俺はそれを見て……。

 

「採用!うちで雇われない?報酬はそれなりに出すよ」

 

「ほんとっ!?」

 

彼女をスカウトしました。

だって金髪でケモミミで巨乳だよ?男なら仕方ないだろう。

彼女なら喫茶店をクロノスで経営する時や帝都の店が復活した時に即戦力になるだろう。

制服もメイド服にするかな?

 

☆マリオ視点☆

 

俺の名はマリオ。

スラムの雑用髭と呼ばれる男だ。

 

何でも屋をやっており、雑用からマッサージなど様々な仕事をしている。

故にスラムの連中からは雑用髭と呼ばれる。

今日は喫茶店の店長に頼まれて、複数の仕事仲間達と引っ越しの手伝いだ。

 

最近の帝都は危ないせいか、店長の様に夜逃げ同然の引っ越しをする者が多い。

逃げる本人達は最悪だろうが、第三者である俺としては稼ぎになるからありがたいんだ。

 

マッサージの弟子であるレオーネも誘ってやったんだが遅刻しやがって……。

まあ、いい。

 

なんやかんやで帝国を出る事が出来たし、レオーネも店長に気に入られて職に就けた。

弟子がちゃんとした社会人の一歩を踏み出せたようで俺は嬉しいよ。

 

ある程度、帝国から離れた俺達は南の森で店長の指示でテントを張って野営することになった。

 

「ここの周辺は危険種が出る事がある。

交代で見張るぞ」

 

地図を広げた店員の女性…エスデスさんの指示に従って、見張りの順番を決める。

彼女は狩猟民族のようで、こういうのは得意中の得意らしい。

店長以外の男である俺と他の奴らは全員戦力外通告を受けた。

 

…君たち喫茶店の店員だよね?なんでそんなに武闘派なの?

 

「へぇ~店長も見張りするんだ。エスデスだっけ?

店長って、そんなに強いの?」

 

「……レオーネと言ったな。これからは同僚になるのだから先輩として教えてやる。

店長は私たちの中で一番強いぞ」

 

喫茶店に所属する人間たちの戦闘能力に怪しさを感じている俺。

エスデスさんたちの強さはスラム育ちの俺達にはなんとなく分かる。

スラムで生きていくには強い敵に遭遇したら逃げる技術が必要とされるから、その辺は敏感だ。

 

その勘では店長は身体的能力は優れていても殺しや戦いには向いていない弱い部類に入ると俺は思う。

レオーネもそう感じているんだろう。

 

はっきり言って店長は覇気や殺気といった物とは無縁な気がする。

 

「ふーん……」

 

「おいおい、雇い主が大丈夫ならいいじゃねぇか。

店長一人じゃあ寂しいだろうし、俺も店長と一緒に見張りをやりますよ」

 

怪しい感じで店長を見るレオーネを遮って、話題を逸らす俺。

正直店長一人で見張らせるよりかは俺が一緒の方がマシだと判断したからだ。

 

………。

 

店長が用意してくれた男用のテントから出てきた俺は店長と共にマイン嬢ちゃんと見張りを交代する。

テントの近くで燃えている焚火を囲みながら辺りを見渡す俺と店長。

 

「……」

 

「……」

 

か、会話がない。

お互い何も喋らないので空気が微妙だ……。

あれか?黒いコートを褒めればいいのだろうか?

それとも星が綺麗ですねと切り出せばいいのだろうか?

 

他には何か……。

話題を探す為に辺りを見渡したりするがどれもピンとこず、自分の鞄を漁る。

すると……一本の酒が出てきた。

男同士、色々と語り合うにはこれが一番だな。

 

「いい酒があるんですが飲みませんか?」

 

「頂こう」

 

酒を回し飲みして、語り合った。

初めはハンバーガーを作ったり、ポテトフライという新商品の研究など、日常的な話だったのだが、飲んでいる途中から、政治や帝国の批判になった。

スラム育ちの俺達は元から底辺だから、良く分からないが店長は色々と思うところがあるらしい。

 

しかし、周りに人が居なくて良かったよ。

もし、帝国軍人や警備隊の人間に聞かれたら連行されて処刑コースだ。

最近だと身内も巻き添えで処刑されるらしいが……かなりの重罪だ。

 

「今の帝国は根本まで腐り切っている。

直すには根本を排除しなくてはならない。

たとえ…幼い皇帝であったとしても……」

 

「おいおい、えらい過激な発言だな……。

ただの喫茶店の店長がする発言じゃないぜ?」

 

「そうだな」

 

俺の言葉に同意すると右手を懐に入れて一丁の銃を抜いた。

突然の行動に度肝を抜かれた俺だったが、事情を聞いてみる事にした。

俺はまだ、死にたくないんだ。

 

「お、おい、そんなモン出してどうしたんだよ店長。

お、怒ったか?俺のただの喫茶店の店長って言葉に怒ったか?」

 

「店長じゃない。革命を願う薄汚い殺し屋だ」

 

「ひぃ!!」

 

恐怖しながらもスラムで鍛えた根性で店長と会話をするも店長には届かなかったようで、引き金に触れていた店長の指が絞られる。

俺に向けられダァン!と放たれる一発の銃弾。

その弾丸は恐怖してのけぞる俺に当たることなく……。

 

「ぐぁあ!?」

 

複数のガサっという音と共に倒れて姿を現す国境警備隊の服を着た男達。

こいつら、一体いつから……。

つうか、一発しか撃ってないよね?

なんで複数の人間が倒れているんだ?

 

「ほう、ようやくお出ましか…と思ったら六人ともやられて全滅か……。

店長、私の分も残してくれてもいいのではないか?

新技を試したかったのだぞ」

 

「げ、六人だったの?私は四人だと思ってた」

 

「マインは気配察知が苦手なんだな。

私は初めから気づいていたぞ?

にしても店長殺し屋だったの?

なるほど、だから殺す時以外はその凄みがなかったのか……。

ケンカを売らなくてよかったぁ」

 

俺が倒れる男達に疑問を抱いていると店員二人とレオーネが女性用テントから姿を現す。

って、最初から後をつけられていたのか!?

 

店長の殺し屋発言や、女性陣の会話で頭が混乱する俺。

 

「うぅう……セリュー。

アマンダ……」

 

「ほう、一人だけ残していたのか……。

では、さっそく情報を聞き出そう」

 

そして、一人の男を嬉々として茂みの奥へと連れて行くエスデスさん。

それから、男の悲鳴とうめき声が森に響いて静かになった。

な、何してんだよ…こ、こえぇ。

 

そして、恐怖に慄く俺と男子テントから出てきて事情をレオーネから聞いたバイト達。

ようやく出てきやがったか、こんちきしょう!!

さっさと出てこいよ!!普通の人間が俺一人の状況は滅茶苦茶恐ろしかったんだぞぉ!!

 

そんな事を思い、男達と身を寄せ合っていると、エスデスさんが茂みからひょっこりと姿を現した。

 

「こいつらは、ここ一カ月ほど帝国から離れる人間を襲っていたらしい。

なんでも、生活費と上司への賄賂を集める為にやっていたそうだ。

実にくだらん。

命乞いも娘と妻の為にやったとか、上司には逆らえないんだとか、つまらない物ばかりだった」

 

「どんな理由があってもやっている事はゴミだし、掃除してスッキリだね。

私は喫茶店の仕事よりもそっちの方がいいな」

 

「だったら暗殺の特殊訓練を受けなさい。

ナンバーズになるにしても構成員になるにしても、訓練は必須条件よ」

 

「へーい」

 

「ちなみに教官は私だ。死なない程度に叩き込んでやる」

 

「あ、アンタが教官かぁ……。やっぱり、喫茶店の方がいいかな?」

 

「先輩として言っておくわ。エスデスの特訓も厳しくて地獄、店長のハンバーガーを作る特訓は優しいけど地獄よ。

自分で作った失敗作を自分で処理し続ける。

あれはまさに地獄だったわ」

 

三人娘は何事もなかったかの様に和気藹々と女子テントへと帰って行った。

え!?終わり!?

 

「マリオ。引き続き、見張りをするぞ」

 

「え?いや、ちょっと……お前ら、交代してくれない?」

 

人が死んでいるのにあっさりと話を切り上げて戻った女子達を見届けたら、店長に声を掛けられた。

俺は、殺し屋と二人っきりで見張りをするチャレンジャーではなかったので、仲間達に交代をお願いするのだったが……。

 

「すまん!髭!」

 

「成仏しろよ!!」

 

それだけ言って、早々と男子テントへと帰って行った。

ちくしょう!!

 

この後、不安で胃を痛めながら、誤魔化すように交代まで無言で酒を煽った俺だった。

 

 




元々が短編でそこまで深く考えずに書いていた二次創作がランキング上位に居た時は正直驚きました。

この作品を応援していただき、本当にありがとうございます。

皆さんの評価と感想を励みに、これからも頑張っていきたいと思います。




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5話

☆ジョニー☆

 

酔いが覚めると、何故かレオーネとの距離が縮まっており、今度酒を一緒に飲まないかと誘われるレベルにまで昇華していた。

エスデスの話では、店長の実力が認められたからだと言っていた。

ハンバーガーを作る腕が認められたのか?

 

まあ、いい事なので特に気にする事無く、道中エスデス達が危険種に襲われるハプニングがあったが、女子の驚異的な戦闘能力によって危険種はミンチになったりなます切りとなったりと、無残な姿を晒す事となった。

女子の力によって無事にクロノスの本拠地へとたどり着いた俺達。

 

「ここがクロノスか……」

 

自然豊かな南の果て。

そこにはロドニーの報告通りの光景が広がっていた。

大きな要塞を中心に町と集落が形成されており、まるで小国のようだ

 

「なんだアレ?まるで小さな国だぜ」

 

「こんな南に国があるなんて聞いたことがない」

 

「ここからは私が案内しよう。

クロノス本部に連れて行く」

 

「クロノス?この国の名前か?」

 

引っ越しのアルバイト君たちの言葉を無視しながら進むエスデス。

道中で彼女は何度も来ていると聞いていたので案内を任せる事になった。

 

「エスデス様!おかえりなさい!!」

 

「お帰りなさいませ!!」

 

「エスデス様だ!!エスデス様が帰って来たぞ!!」

 

町に入ると、住人たちと兵士の恰好をした男達がエスデスに挨拶をする。

 

コスプレ同好会が俺の手を離れてとんでもない成長を遂げたな……。

 

帝都よりも活気にあふれた街を見ると、改めて思う。

まさかここまで大きくなるとはな……。

 

小さな同好会がロドニー達の加入で大きくなり、クロノスの本拠地が出来て、コスプレを楽しみつつ、人助けなどのボランティアをして小国規模まで発展させた。

 

今のコスプレ同好会に俺の居場所はあるのだろうか?

いやいや、弱気になってはならない。

ここまで築き上げた彼らの為に、遅くなったが俺も会長として頑張らないとな!!

 

本部にたどり着くと巨大な門があり、そこには門番の兵士が左右二人で警戒していた。

 

「エスデス様!お帰りなさいませ!!」

 

「挨拶はいい。それよりもナンバーズを招集しろ。

総督を連れてきたから挨拶をさせる」

 

門番四人の中で一番の年長者だと思われる男が代表でエスデスに挨拶をする。

銃と剣を装備しているし、本格的だな……。

まあ、小国規模になったんだからガチの警備隊かな?

たとえ、彼らの恰好が軍隊のコスプレだったとしても犯罪の取り締まりなどの有事の際には必要だろうし、正々堂々と装備できるので一石二鳥かもしれないな。

 

「総督!?もしかして、このお方が?」

 

「そうだ」

 

「いらっしゃいませ総督!!自分は門番をしているバルトルトと申します!!」

 

おれがコスプレ同好会の会長だと知って、全力で敬礼をしてくれるバルトルトさん。

ならば俺も彼の本気に答えよう。

てか、俺って会長じゃなくて総督と呼ばれてたのね。

 

「総督のトレイン・ハートネットだ。

今まで顔を出さなくて悪かったな。

しばらくはここを活動拠点にするからよろしく頼む」

 

「はっ!よろしくお願いします!!」

 

敬礼するバルトルトさんに見送られながら本部の中に入っていく俺達。

アルバイト君たちはここでお別れ。

門番の話では、ここで働くかどうかの話し合いをするようだ。

 

エスデス、レオーネ、マインと共に本部に入った俺達はレオーネのメンバー登録を済ませた後、荷物を構成員達に預けて会議室のある最上階へと向かった。

招集したナンバーズとの顔合わせをするらしい。

ここは会長として立派な挨拶をしなくては……気合を入れる為にトイレで酒を飲むとしよう。

 

記憶がだいぶフワフワしてしまうが、美人美少女の店員を獲得出来たり、レオーネと仲良くなれたり、酒を飲むといい事があるからな。

もはや俺の願掛けの習慣となっている。

 

さて、頑張るとしますかね!!

 

 

☆ナンバーズ☆

 

要塞の最上階にある会議室にはすでにナンバーズが集結していた。

 

「初めて会う事になりますけど…俺達の上司ってどんなヤツなんですかね?」

 

「さぁな。エスデスとマインの話では優しさと厳しさを兼ね備えた男らしいぞ。

まあ、マインとエスデスの主観だから話半分でいいと思うがな」

 

「エスデスさんに惚れられているクソ野郎なんですよね……。

どうやって難攻不落のドSを落としたのか気になります」

 

Ⅻの称号を得たナジェンダとⅦの称号を得たラバックは会議室で他のナンバーズと総督がどんな人物かを話していた。

 

「俺は熱い漢が好みかな」

 

「ブラートがついに好みと言った!?」

 

「言い間違えた。熱い漢がいいな」

 

何故か自分の好みの男性のタイプを上げた元帝国軍人のブラート。

彼は自らクロノスの噂を拾ってたどり着き、己の実力と帝具でエスデスに認められたナンバーⅡの称号を獲得した猛者である。

ただ、彼は男が好きのようで周囲からは人柄は好まれるが性癖のせいで、少しだけ距離を置かれている。

 

「私はマインの言っていた通りの優しい人がいいです」

 

彼女はシェーレ。

暗殺稼業をしていた所をクロノスの構成員にスカウトされ、本部で迷子になり、偶然研究室に保管されていた巨大なハサミの帝具エクスタスと適合。

迷子の彼女を発見した研究員の推薦によって、彼女はⅥの称号を得た。

 

本部で迷子になった辺りで、彼女は天然さが発揮。

ナンバーズでありながらお手伝いをしようとする人柄と見た目はとても好感をもたれているが、お手伝いの際に人間ごと洗濯する狂気の天然さで雑事を任せてもらえないようで、天然を治すための本を愛読している。

 

「俺はクロノスの理念を揺るがずに進んで行く男なら何でもいい」

 

「私は今後の行動次第かな?」

 

「俺は楽しそうな男ならいいや」

 

Ⅴのナイザーは理念を、Ⅹのチェルシーは今後の行動次第。

Ⅸのディビットに至っては楽しい男ならどうでもいいらしい。

 

これがクロノス最高戦力を持つナンバーズのメンバーである。

全員が一癖も二癖もある人間であるがその戦闘能力は一騎当千である。

 

「少なくともエスデスさんみたいなドSじゃない事を祈るわ」

 

「あー俺も。帝具に適合して推薦状出した後、地獄を見たからな……」

 

チェルシーとラバックは元々は武闘派ではなかった。

逃げたり隠れたりして相手のスキを伺って敵を排除する。

力ではなく頭で殺すタイプだ。

 

しかし、幹部となるからには腕も必要であると、地獄のエスデスブートキャンプがクロノスの本拠地よりもさらに南の森のジャングルでのサバイバルで、一回りも二回りも強くなって帰って来たのだが、その時の特訓が今でもトラウマのようだ。

 

「お前たちは何をされたんだ?」

 

「知りたいですかナジェンダさん?俺達の地獄の日々を……夜は危険種が襲ってくる……俺達に安眠はないんだ…お腹が空いた、女体が恋しい……もう嫌だ………」

 

「サバイバルは嫌…カエルはもう食べたくない……お風呂に入れないのは嫌。

ラバックが獣になって襲われそうになった……ジャングルは嫌…もう嫌なの………」

 

「分かった。もう聞かないから、ぶつぶつと喋りながらその目で見るのは止めてくれ」

 

トラウマが蘇った彼らの瞳は死んだ魚のような瞳であり、その瞳はナジェンダの背中を冷たくさせた。

 

各々が総督について妄想していると、会議室の扉が開く。

姿を現したのはエスデスと黒いコートの男。

 

百戦錬磨であるナンバーズ全員が男の雰囲気に飲まれ、先ほどまで騒がしかった会議室に静寂が訪れる。

そして、今まで誰一人座る事のなかったⅩⅢと書かれたプレートの置かれた席の前に立った男は自己紹介を始めた。

 

「トレイン・ハートネットだ。よろしく頼む」

 

今この時をもって、現在で存在する最高戦力のナンバーズが会議室にて集まった。

この会議室での出来事の後、ナンバーズは本格的に帝都の害虫駆除と革命の為の準備に動き出す。

 

 

 

 




お気に入りが4,000を超えて天テンションが上がりました。
読者の皆様、いつも応援ありがとうございます。


※ノリと勢いで書いたので修正が入ると思います。


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6話

☆帝都☆

 

腐敗が進行する帝都の宮殿では豚の様に太った大臣が帝具に関する知識を幼い皇帝に人の好い笑顔でレクチャーしていた。

 

「大臣…帝具については色々と理解できたが、500年前と1000年前に出現したとされる2つの超兵器とはなんだ?」

 

「陛下。超兵器とは、帝国が建国される以前に作られた古代兵器の事であり、帝具の雛形と呼ばれる兵器で、歴史家の話では動乱の時代や革命の時代になどの人類の転換期に出現する兵器だと言われており、現在確認されているのはクリード将軍のイマジンブレードだけでございます。

残りの1つは500年前の内乱で紛失してしまったそうで今でも行方は分からぬままなのです」

 

「クリード将軍が虎徹と呼んでいたあの武器が超兵器なのか?

余には普通の刀に見えたぞ」

 

分厚い帝具図鑑を見る幼い皇帝の疑問に持っていた干し肉をむしゃむしゃ食べてから答える大臣。

 

「陛下。確かに普段は刀にしか見えないのですが、イマジンブレードは複数の能力を持った恐るべき兵器なのです。

刀身は伸縮自在にして透明化も可能。

持ち主が成長すれば刀が共鳴し、進化する。

始皇帝に仕えていた二人が帝具の素材を集める為に超級危険種を狩った最強兵器なのでございます」

 

「おお、それは凄い!!今度クリード将軍に頼んで手に持って見てみたいぞ」

 

「それはダメです!」

 

笑みを浮かべて説明していた大臣が慌てた様子で皇帝の意見を却下する。

成長すれば薬に女や金などはいくらでも与えて快楽漬けにしてやる為に皇帝を甘やかして来た大臣が初めて本気で却下した。

大臣の却下に不貞腐れる皇帝。

 

「何故だ?拒絶反応が出る帝具ではないのだから、余でも持つ事くらいは出来るだろう?」

 

「陛下、先ほども言ったように超兵器は帝具の雛形。

能力が帝具よりも優れていたとしても、あれは帝具と変わりありません。

当然、拒絶反応があります」

 

「ほう。どんな拒絶反応がでるのだ?」

 

大臣はポケット手を突っ込んで入れていた饅頭を食べた。

そして、一拍ほど間を開けて皇帝の質問に答えた。

 

「…食われます」

 

「は?」

 

「ヘカトンケイルと同様に刀が本性を現し、文字通り頭から食われるのです。

クリード将軍に出会うまで、あの刀に1700人の将軍が500年の間に食われているので、陛下は触らぬ方がよろしいかと思います」

 

「そ、そうか。うむ、お前の言う事に間違いはないからな。

余は絶対に触れないぞ」

 

「さすがは陛下。ご理解がよろしくて大変すばらしいですぞ」

 

「…それにしても、よくクリード将軍はそのような刀に適合出来たな。

何か条件があるのか?」

 

「それに関しては謎が多くてですね。

文献には死を乗り越えた魂を持つ者だとか、地獄を見ても己の道を進む者が適合したと書かれているのですが……。

死を乗り越える事など出来るわけもなく、地獄も程度による様でイマジンブレードに挑戦した将軍の中には拷問を経験した者が何人も居ましたが、悉く食われました。

結局は謎のままなのです」

 

「そうか…でも、超兵器を持つクリード将軍が居るのだから、帝国は安泰だな!」

 

「そうですね…陛下」

 

「ところで大臣。超兵器についての記述の最後に書いてあるこれはなんだ?

運命を司る超兵器についてと書かれているが…」

 

「ああ…それは確か130年前の歴史学者が超兵器が登場する文献や遺跡を調べて考察した妄想のようなものです。

紛失した最後の超兵器の事で、なんでも攻撃すれば必ず悪しき魂を打ち抜くとか、死を乗り越えた者を運命によって強制的に導くとか……。

根拠は所持していた才能のない少年が将軍へと成長したかららしいですが……」

 

「まるで何かの御伽噺のようだな。それは流石に嘘だろう」

 

「ええ、私も陛下と全くの同意見です」

 

超兵器は歴史学者が解き明かしたい謎の一つである。

制作された年月や制作工程、ありとあらゆることが謎。

ロストテクノロジーによって生まれた現代最強の兵器。

 

始皇帝の時代には超兵器にまつわる石板があった。

 

刀に選ばれし者、地獄を生き抜く強靭な精神を持たずに振るえば全てを食われ。

 

××に選ばれし者、死を乗り越えた魂を持たずに放てば幸運を吸われる。

 

試練を乗り越えし、刀に選ばれし者。

精神と刀が共鳴し、成長を遂げれば世界を動かす力を手に入れる事が出来よう。

 

試練を乗り越えし、××に選ばれし者。

××によって、争いに投じる事になるが、強靭な肉体と己が知る最強を再現し、成長を遂げれば全てを滅却できる究極の光を放てるだろう。

 

ただ、忘れるな。

その刀は主の肉体を常に狙っているぞ。

 

ただ、忘れるな。

訪れた運命を自覚し、立ち向かわねば××に見限られ、命と魂を吸われるぞ。

 

選ばれし者、兵器に飲まれるな。

 

選ばれし者、我は汝らが正しき道を行くことを願い、ここに書き記す。

 

超兵器について書かれた石板は、帝具を完成させた皇帝の手によって破壊された。

超兵器を持つ悪しき者が牙をむけば帝国が滅びると予感したからだ。

 

人類を滅ぼす兵器は封印し、使えぬようにした方がいい。

 

しかし、皇帝が死んだ500年後。

運命に導かれた二人によって、超兵器は目覚めて片方は再び姿を消した。

この時の使い手はお互いに手を取り合い、帝国の為に戦った英雄であった。

 

だが、今回の使い手は敵同士。

刀が勝てば、世界に暗黒の時代が訪れ、文明が滅びて人類に新たな文明の始まりが訪れるだろう。

××が勝てば、革命が訪れて平和な時代がやって来る。

 

 

今まで共に戦ってきた超兵器。

敵対すればどうなるかは超文明を築いたであろう古代の人間でも、それは知らない。

 

☆ジョニー☆

 

顔合わせを終わらせて、数か月の時が過ぎていた。

 

「店長!おかわり!!」

 

「はいよ」

 

クロノスの周辺にある町に住むことにした俺は、空き家を借りて喫茶『黒猫』をオープン。

毎日仕事をしつつ、ナンバーズの近況と革命についての話を聞いたり、日本で学んだ世界史などを思い出し、俺なりの意見を出したりしている。

最近は本気で革命を起こすのではないかと思うようになって来るほどの熱意をクロノス本部の人間から感じる

 

もし、本当にそんな事になっていたら総督の俺ってかなり危ない立場だよな……。

などの不安をじわじわと感じつつも、町に馴染み始めていた。

 

そんな時、何人もの研究者達がぞろぞろと店にやって来た。

団体さんかな?レオーネに対応してもらおう。

 

現在この店を回しているのは俺とレオーネの二人だけ。

エスデスとマインはパンプキンという射撃武器の適正があった為に特訓をするらしい。

見た事はないが、かぼちゃをモチーフにしたエアーガンかな?

本物でも自衛になるだろうしいい事だ。

 

「店長!なんか科学班と考古学者の人が店長に来て欲しいんだって!!」

 

「わかった。すぐに行く」

 

一体なんなんだろうか?

 

俺はお客におかわりのコーヒーを出した後、白衣を着た男達の元へと向かった。

 

「トレインさ……じゃなかった。店長、大変なんです!クロノス本部の地下室をさらに拡張しようと工事をしていたら遺跡が発掘されました!!

そこで我々が調査をしたのですが……そこで大変なものを見つけたのです!!」

 

俺が仕事とプライベートを分けている人間であることを思い出した男は俺の呼び方を言い直し、急ぎの内容を話し始めた。

つーか、俺の名前ってトレイン固定なんだね?

確かにジョニーよりかはかっこいいけどさ。

なんか、完全に訂正する機会を失ったな……。

 

 

そんな事を考えてながら男達に聞かされたその、内容はとんでもない内容だった。

 

「古代文明人と思われる少女の入ったカプセルを見つけたのです!!」

 

 




読者の皆様いつも応援ありがとうございます。
皆様からの評価を沢山いただくとやはり書く時のテンションや意気込みが違いますね。

今回は帝具の材料を集めた兵器についてと新キャラのフラグを立たせていただきました。

これからも応援よろしくお願い致します。

※内容に修正が加わる事があります。
修正した場合、最初と違う文章や表現になっているかもしれませんがご了承ください。


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7話

今回は少し短めです。


☆ジョニー☆

 

本部の地下に眠っていた古代の研究施設と思われる場所。

機材であった物が腐敗し、あらゆる物がもろくなっている中で一人の少女が眠る棺桶のようなカプセルが中央に鎮座していた。

 

少女は金髪の美少女……っていうか、イブだ。

そう、彼女の容姿は俺のよく知るトランス能力を持つ漫画の美少女だったのだ。

 

ハーディスといい彼女といい、奇妙な縁を感じつつも俺の脳内はお祭り騒ぎ、さっさと救出してなでなでしたい。

 

「おい、これはどうやったら開くんだ?」

 

「無茶を言わないでくださいよ。

これは古代の物で我々の扱う機材とはかけ過ぎていて、もはや別物なのです。

調べて開けるようにする為には、機材に使われている言語を解読などの様々な調査が必要です。

早くて十年…二十年の時が必要と予想されます」

 

「古代文字…ねぇ」

 

カプセルのスイッチらしき部分にうっすらと掛かれた文字を学者が解読する為に手帳に書き写している部分をチラリと見る俺。

 

open

 

つまりオープンだよね?

 

滅茶苦茶読めますが?

普通にオープンと書いてありますよ?

俺は文字を一生懸命書き写す学者の背中を叩いて教えてあげた。

 

「ここに開くって書いてありますよ」

 

「え?もしかして古代文字が読めるのですか?」

 

「そんな事よりも、彼女を救出するのが先だ」

 

「へ?いや、ちょっと待ってください!!」

 

科学者の制止を振りほどき、ボタンをポチった俺。

するとカプセルを満たしていた培養液がみるみると消失していき、彼女を閉じ込めていたカプセルが扉を開く。

 

「本当に開いた!!」

 

カプセルの周囲で驚愕する科学者達を無視して、カプセルの中を覗く。

彼女の瞳は未だに閉じたまま。

死んでいるのでは?と思ったが、彼女のそこそこちっちゃなお胸が上下していることから呼吸はしており、生きていることが分かる。

 

「正直あなたには色々とお聞きしたい事があるのですが……。

それよりも彼女の処遇についてです、どうしますか?」

 

「家で預かる。異論は認めない」

 

「……分かりました。

では、目を覚ましたら彼女を連れて健康診断を受けさせてください。

貴重な古代の知識と現代人との身体的な違いについて色々と調べたいので……」

 

「…彼女次第だ。

彼女が拒否をすれば、健康診断も事情聴取もさせるつもりはない」

 

「へ?ちょっと待ってください!!」

 

イブたんの嫌がる事をしたくなかった俺は、研究者を一睨みした後、彼女を自身のコートに包んで抱きかかえ、呼び止める研究者たちを無視して自宅へと帰った。

とりあえずご近所さんに頼んで着替えとか下着とかを借りよう。

 

 

☆科学者☆

 

トレイン様の本気の威圧で動けなくなった私は、貴重な古代人の少女を赤子の様に抱えて去っていくトレイン様の背中を唖然と見送った後、気を取り直して施設の調査を続行した。

 

「リバ班長!!これを見てください!!」

 

「なんだ?」

 

一人の若い研究員が石板の様な物を持ってきた。

科学施設に石板があるのは違和感を覚えるが、彼の持っている石板を見て驚愕した。

 

「こ、これは…トレイン様と帝国の将軍、クリード・ディスケンス」

 

「やはり…班長もそのように見えますか?」

 

描かれた石板には銃と刀を向け合う二人の青年。

彼らの頭上には三体の化け物の姿が描かれている。

 

それぞれが龍・巨人・翼をもった四足獣。

中々に興味深い。

 

「班長……先ほどトレイン様が居たので思わず隠してしまったのですが……これもご覧ください」

 

「これは……壁画か?」

 

「はい、石板同様に向かい合うトレイン様とクリードの姿が……。

そして、トレイン様に抱えられている少女は……」

 

こんな偶然がありえるのか?

トレイン様によく似た青年に抱えられた金髪の少女とそれに襲い掛かるクリード。

まさか二人の戦いは古代から予想されていた事だったのか?

ならば、あのカプセルに入っていた金髪の少女も何かの宿命を背負っているのか?

 

様々な疑問が尽きないが、我々は科学者。

謎があればそれを解明するのが仕事である。

 

ここを隅々まで調べつくし、古代人のどんな施設だったのかを生涯を賭けて解明してやる!!

 

 

☆帝国が誕生する数千年前☆

 

とある研究者の話をここに記します。

前世の記憶を思い出した科学庁長官の男。

彼の前世は二次元嫁を愛する童貞にしてオタク。

 

ナノテクノロジーや光学兵器。

ありとあらゆる分野が彼の前世を凌駕する超科学時代。

 

町を歩けばドラえ〇んの様なロボットが居て、宇宙までテレポーテーションも出来る夢の様な世界。

 

彼は無職となり、エロゲ・ギャルゲ・漫画と趣味の赴くままに制作した。

彼の制作した作品は世界観が古くて新しいと評判となり、彼は伝説となった。

 

そんな彼が特に力を入れたのは漫画の現実化。

 

エロゲなどの利益を利用したナノテクノロジーと特殊金属による再現。

 

そして、二次元嫁を現実にするための狂気の研究である。

当時の彼は二次元嫁で童貞を捨てる気であった。

 

ふざけた研究であるが、彼の頭脳は当時の世界で最高クラスの物。

貯金や、入ってくる金も潤沢であったが為に、地下に秘密の研究所を作り、研究を進めていた。

 

しかし、中二病と言うものは目覚める時がやって来る。

彼にも恋人が出来たのだ。

 

お相手の女性は彼の作ったアニメのファン。

彼の作品制作を支えたいという出来た女性である。

 

目を覚ました彼は、非常に幸せであったが、非常に困っていた。

 

ありとあらゆる中二兵器と薄い本に自分が制作したイラスト。

更には、遊戯王をコラボさせた石板やナノマシンを配合したデザインベビーだ。

 

周りを見ずに好き勝手行ってきたマッドサイエンティストの負の遺産。

 

彼は、施設を恥ずかしいアイテムぶち込んで、閉鎖した。

研究で生み出された少女も、同時に仮死状態で封印される。

 

今、彼女を目覚めさせても居場所がないと彼なりに判断をしたからだ。

 

願わくば、遥か未来にて素敵な人間と出会う事を祈り、彼の研究施設は閉鎖された。

 

その後の彼は、研究所の収納スペースに収まらなかった兵器などのアイテムをどこかに隠した。

 

彼が死に、科学文明が滅んで新たな文明が始まった。

 

彼のアイテムと武器は掘り起こされ、当時の研究者達を驚かせた。

 

大半のアイテムや武器は腐敗したり、壊れて居たりしていたが、二つの武器だけが残っていた。

 

 

発覚する戦う事で進化し、学習する兵器。

 

 

あらゆる戦場を超え、その武器は戦場で名を轟かす。

 

『超兵器』と

 




超兵器誕生などについて触れてみました。
初めは古代研究者の日記を妄想していたのですが、長くなりすぎましたのでコンパクトにまとめてみました。

次回から、ようやく物語が動くと思われます。
動かなかったらすみません。

これからも頑張っていくので応援よろしくお願いします。

※投稿が遅くなってすみません


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