東方叛逆郷─スパルタクス幻想入り─ (シフシフ)
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その男は────マッスルだった。


アッセイ!(挨拶)












 

 幻想郷。

 

 そこは、人と妖怪が共存する最後の秘境。

 博麗の巫女と1匹の大妖怪が作り出した博麗大結界で包まれた、陸続きの孤島。

 

「ふむ・・・・・・・・・・・・・・・闘技場(コロッセオ)か」

 

 そこに迷い込んだ男が1人。突如訪れた変化。しかし、その思考に迷いはない。

 

「おぉ、圧政の匂いがする!ははは、だが安心するがいい。私が来たっ!」

 

 その男は─────マッスルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目に覆われた、暗い空間。様々な世界が垣間見得る、固有の空間。

 

「あら・・・・・?」

 

 金髪を靡かせ目を瞑っていた妖艶な美女、もとい大妖怪。そんな彼女が目を開く。幻想郷に誰かが侵入したことを感じ取ったのだ。

 

 強い気配を感じる。

 

 なるほど、と彼女は思う。

 自らの能力で高所にスキマを作り出すと、そこからこっそりとその男を覗き込む。

 

 真上から見下ろせば、筋骨隆々という言葉が良く似合うそんな男がいる。

 

「へぇ・・・・・何処ぞの英雄かしら?」

 

 まぁ、幻想郷に害をなさなければ彼女は男を排除するつもりは無かった。

 もういいか、とスキマを閉じようとした時だ。

 

「────待ちたまえ圧政者よ」

 

 その男は目の前に居た。

 

「────っ!?」

 

 身に迫る凄まじい殺気(スマイル)。目の前に開かれるゴツゴツとした手。

 

 ここは高所、飛べない限りは辿り着ける訳が無い。そして、何かを使って飛んだようには思えない。つまり、跳んだ。

 そんな思考を瞬時に捨て去り、スキマを閉ざす。

 

「・・・・・お、驚いたわね」

 

 ビクビクと、スキマが閉ざされた衝撃で千切れた男の手と、彼女。その二つが目玉だらけの空間を漂っている。

 興味本位に近づくと跳ねるように動き、彼女を驚かせる。

 

「な、なによこれぇ・・・・・気持ちわるいわ、返してあげましょう。ほんとに人間なのあれ・・・・・」

 

 そう言って再びスキマを開くと目の前には笑顔(ニッコリ)

 

「圧s」

「ひやっ!!!」

 

 驚いた勢いのままに手を投げつけてスキマを閉ざす。

 

「はぁ、はぁ・・・・・こ、こわ・・・・・なに?私が何をしたというの?た、確かに圧政者と言われればそうかもしれないけど、これしかないんだから仕方ないじゃない!バランス難しいのよ?!・・・・・はぁもうやだ炬燵で寝たいぃ・・・・・」

 

 笑顔で殺しにくるのは1人で良いのに。

 

  彼女は若干落ち込みながら考える。幻想郷に受け入れるべきか、否か。

 

 今の数秒の中で、あの男の人間性?とでも言うべきものは多少、理解出来た。正直理解したくなかった彼女だが、結論としては・・・・・人間の味方。もしくは弱者の味方だろう。

 

 上白沢と同じく人間の守護者となるのだろう。

 

 そこまで考えて、バランスを練り始める。

 

 今、確かに人は劣勢だ。一部の妖怪、特に中級妖怪達が下手に力をつけ始め、人里に侵入しては暴れ回る事が増えた。

 

 とすればこれはチャンスではないだろうか?

 あの男が人類の守護者として戦ってくれれば、次の巫女候補の捜索や、育成の時間が稼げるかもしれない。

 

 ただ・・・・・・・・・・。

 

「私、スキマを開いたら殺されそうなんだけど・・・?」

 

 この大妖怪・・・・・実はとってもビビりである。巫女探しはもう少し後に引き伸ばすことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅむ、逃げられたか。まぁいい」

 

 腕から感じる痛み(誉れ)に喜ぶ男。圧政者にあと1歩まで迫る事が出来た、その証明たる痛み。

 そして、痛感する。

 

「やはり・・・・・高い。」

 

 物理的にでは無い。もっと、他の要素からそう思った。・・・・・もっとも、思う、という事が今の彼に出来るかは別だが。

 

 ピクピクと動く手を回収し、腕とくっつける。暫くすれば、何と腕は元通りになっていた。

 

「・・・・・む?」

 

 そんな異常さを見せつけた男の前に、一体の影。

 それは男の身長ですら見上げ無くてはならないほどの大きさで・・・・・

 

「グルアアアア!!」

 

 余りにも凶暴なバケモノだった。

 

 

 

 

 

 

 

 のだが!

 

 

 

「おぉおお!やはりコロシアムか!猛獣と闘士!いいぞ、いいぞぉ!!ふむ?観客は何処だ」

 

 どうやら驚いてはいない様子。むしろ嬉しそうだ。

 男はいざゆかん!と腰にぶら下げていたグラディウスと言う短剣を片手に立ち向かう。

 

 まず、第一に。

 

 基本として彼は攻撃しない。

 

「グァァアア!!」

「はははははは!いいぞ!」

 

 怪物の爪が、男の皮膚をいともたやすく切り裂いた。鮮血が溢れ出すが、男は慈愛の満ちた笑み(スマイル)を浮かべている。

 

「グルゥゥウア!!」

「もっとだ!ふははは!もっとだ!」

 

 腕が落ちた、肩が弾けた。

 誰が見ても、男の敗北は必至だろう。むしろ、なぜこの状況になっても笑っているのか。

 

 観客がいたならば、攻勢に出ずにいる男に野次を飛ばすか、憐れむかをするのだろう。

 

  そうしてじらして、またせて・・・・・覆す(叛逆)

 

「フンッ!」

「───────ァ」

 

 ただの1振り。

 たった一撃で、怪物が消し飛ばされた。

 

「うむ。良い、痛みだぁ」

 

 終始、笑みを浮かべていた男は、満足げにグラディウスを撫でるその姿は正しく闘士だ。

 

 それはさておき、何たる有様か。もしも男の姿を見た人物がいるならば、「医者ー!」と叫ぶか、「誰か救急車ー!」と叫ぶだろう。もしかしたら助からないと諦めて線香を持ち寄るかもしれない。

 

 そう、例えばこんなふうに。

 

「ふんふんふ〜ん、お?なんだアン・・・・・タぁ!?おおおお!?アンタ大丈夫か!?医者呼ぶか!?」

 

 実はここ、道である。道のど真ん中で男は死闘を演じていた。周りは勿論血だらけである。

 

 そんな男を見てしまった憐れな商人SANチェック。魔除けのお札をぶら下げながら、おおっと滑って腰を打つ。

 

「おや、大丈夫かね?」

 

 いやお前だよ。振り向き差し伸べられた手を見て、商人はそう思いつつも尋ねにはいられない。人として、と言うか常識的に状況的に。

 

「あ、アンタ、大丈夫かよ!?」

 

 言われた男はニッコリ笑って親指立てて、更には傷口を見やすいように商人に近づけて

 

「大丈夫。ほら、傷口も笑っている」

 

 応える男に商人2度目のSANチェック。

 もしや魔除けの効かない妖怪か何かなのではと本気で思う、商人であった。

 

 でも・・・・・その笑顔的重圧から、背を向けられなかった。

 

「ところで君は・・・・・」

 

 キラリ。と男の目が光る。

 

 「圧政者(悪徳業者)かね?」

 

 疑り深い、男であった。

 

 











FGOでの出来事。

スパ「おぉ!圧政者よ!汝を抱擁せん!」
ソロ「いいぞ、いいぞ!そうでなくてはな!」


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スパルタクスは笑う。

アッセイ!

かっこよく書けてたらいいなぁ。










 道中。男は終始笑顔であった。

 その隣を歩く商人は名を霧雨と言う。

 

 しかし、なんというか・・・・・凸凹である。

 

 その男は221cmもの巨体だ。霧雨は150cmほど。

 

「えっと、ここが俺の家、と言うか店だ。アンタ、名前は?」

 

 霧雨は自分の家であり、店でもある霧雨店にやって来ると、男に名前を聞く事にした。そう問いながらも医薬品を探しておく。

 

「私の名か?私はスパルタクス、叛逆者である」

「叛逆者?」

 

 おいおい、何言ってんだか。そんな態度で霧雨はスパルタクスの青白い皮膚を布で拭う。

 

「・・・・・は?」

 

 しかし、どうした事か。傷口を綺麗にしたあと薬を塗りこもうと思っていたと言うのに。

 スパルタクスの体には古傷しか無い。

 

「はははは、私の体はあの程度の攻撃では傷つかんよ」

「いや傷付いてたからな!?なんでだ?!やっぱり妖怪なのか!」

「妖怪?それは圧政者の事か?であれば違うな、私は人間、叛逆者である」

 

 意思の疎通は出来ているようだ。ならやっぱり妖怪じゃないのかも。霧雨はそうおもう。それに、ここまでの道のりで襲われなかったのもその証明だろうと。

 

「はぁ・・・・・良くわからんが・・・・・とりあえず慧音先生のところに向かうぞ」

 

 慧音先生とは、この人里で人々に物事を教える教師の役割を持つ半妖である。

 

「む?はははははは!そうか、そっちか!今行くぞ圧政者よ!!」

「うぇ!?ちょ、スパルタクス待っ・・・・・行っちまった」

 

 しかしどうした事か、スパルタクスは急に立ち上がり、きちんと扉を使って外に飛び出して行った。

 

「・・・・・身長・・・・・考えてくれよスパルタクス・・・・・」

 

 きちんと扉は使ったが・・・・・ドアの上枠周辺が吹き飛んでいた。

 身長までは考慮していなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大妖怪、八雲紫は怯えていた。

 スキマを開けばまた笑顔(あの男)が出迎えるのではと心底恐怖していた。

 

「・・・・・紫様、早く行ってください」

 

 そんなヘナチョコゆかりんに、冷たい声音で催促を促すのは八雲藍。ヘナチョコなご主人様に使えるエリートフォックスである。

 

「藍、貴女は知らないから良いけどね、見てみなさいよあの笑顔!ニコッじゃないのよ!ニタ〜って感じ!幽香よりも怖いんだから!」

「知りません。今日は博麗の巫女との会議でしょう?」

「それはそうだけど・・・・・怖いもの」

「はぁ・・・・・では、私が先にスキマを使って確認しますから、後から来てくださいね?」

「う、うん!出来るだけ大物オーラを出しつつ出ていくわっ!」

「(小物だなぁという目)」

 

 よし、頑張るわっ!と両手を胸の前で組む紫。

 そんな紫にため息をこぼしつつ、藍はスキマを開く。

 しかし、どうした事か、前が見えない。青白い(・・・)壁で塞がっているようだ。

 スキマは正常に人気の無い場所に開けたはずなのだが・・・・・?

 

「あの、紫様、スキマが少しおかしいみたいで・・・・・紫様?はぁ・・・・・あの人は・・・・・」

 

 こんな時は能力の大元、紫を頼ろうと振り向けば、そこには紫はいない。

 騙されたか・・・・・と再びため息を付くと・・・・・体がグイッと引っ張られる。

 

「うわっ!?」

 

 ぐわんと動く視界が、青空を捉えた。

 どうやらスキマの外らしいが・・・・・?

 

「圧政者かね?」

「は?」

 

 藍を出迎えたのはとってもいい笑顔をした御仁。そう、スパルタクスである。どうやったのか不明だが、スキマが開くのを予見して予めスタンバっていた様だ。

 

「・・・・・(じっと微笑みながら見つめている。)」

「ぇ、ぃゃ、その、そんなに、見つめられると困ると言うか・・・・・恥ずかしいと言うか」

「(更に笑顔で凝視している。)」

「や、止めてくれ!恥ずかしいだろ!」

 

 笑顔で凝視するスパルタクスと、見つめられて赤面していく藍。ちなみにスパルタクスは殺意を出していない。なぜなら・・・・・

 

「なるほど、奴隷であったか」

「ぇ?」

「君からは首輪(圧政)の匂いがする、圧政者の匂いもだ」

 

 どうやらスパルタクスは八雲紫の式神である藍を、縛られている者、奴隷として認識したらしい。

 先ほど攻撃しなかったことも関係しているのだろうが、これは珍しいケースと言える。

 

「わ、私は紫様の式神で・・・・・」

「八雲紫、圧政者の名か!それに式神、やはり同士であったか」

 

 この男、スパルタクスは基本的に話を聞かない。いや、聞いているのだが、伝わっていない。

 

「いや、少し話を聞k」

「私の名はスパルタクス。君を救おう。」

 

 青白い顔で、しかしその微笑みには慈愛が込められている。トゥンク、と藍の心が高なった。

 

「ははは、共に圧政者を討ち滅ぼそうではないかっ!」

 

 もちろん、恋愛的な意味ではない。この状況が如何に危険か、今更に理解したのだ。

 なにせ、ここは幻想郷。紫を殺せばこの結界は無くなり、結果として幻想郷の妖怪は皆滅ぶ。

 

「私には無理だな、スパルタクス殿」

「む、何故だね」

 

 排除しなくてはならなかった。この優しげな微笑みを浮かべる男性を。藍は妖力を漲らせる。紫からの命令が無い以上、式として全力は出せないが、それでも藍は大妖怪だ。

 人間など即座に殺せるだろう。

 

「それは、私も圧政者だからさ」

 

 過去、自らがやって来たことを思い浮かべる。国を傾ける傾国の美女。それが八雲藍。

 展開する九尾、藍の種族は妖狐。姿を変えることなど容易だった。

 一瞬、なぜ人間相手にこれだけの警戒をしているのか、不思議に思った藍だったが・・・・・次の瞬間、それは正しいことだと理解する。

 

「ほぅ、猛獣であったか。はははは、コロシアムでは仕方の無い!騙し討ちも許そう!さぁ来るがいい!その全てを受け止めてやろう!」

「ふっ、男らしいじゃないか。・・・・・行くぞ!!」

 

 膨れ上がる殺意。明らかに、人の放つソレでは無い。

 一方的な激闘が・・・・・始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あわわわわわ・・・・・!」

 

 大妖怪。八雲紫は慌てていた。誰が見ても慌てていた。

 八雲家の中を行ったりきたり、炬燵に入ったと思えば出てきたりと、忙しない。

 

「ら、らららら、藍が殺されたらどうしよう・・・・・!私、最近サボってばかりだったから各勢力の手紙のやり取りなんてわからないわよ!」

 

 この体たらくである。

 

「い、いや、平気よ、平気。藍だもの、私のいっちばん信用している式神ですもの、負ける訳ないわ!」

 

 フラグを立てるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 閃光、後の爆風と爆音。畳み掛けるように隙間なく放たれた継続的な絨毯爆撃。

 

「ははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!」

 

 爆笑。肺の空気が無くなるまで笑う。

 

 大妖怪、九尾の放つ全力の妖力弾をその身一つで受け止める。

 既に全身は血だらけで、足は無くなっていた。

 だが、それでもなお───

 

「はははははは!何という加虐!何という圧政!!何たる強さの猛獣か!!後に待つ凱歌は高々と叫ぶとしよう!!」

 

 ───笑っている。

 

 幻想郷のほぼ全ての妖怪が青ざめ、冷や汗をかくだろう圧倒的なまでの攻撃を受けて。

 

 回避などしない。防御などしない。

 

 全てを受け止める。

 超えられない圧政を受け続け、耐え続け、超えていく。

 

「くっ・・・・・!なぜ倒れない!?本当に人間かコイツは!」

 

 藍は冷や汗が止まらなかった。これだけの攻撃、過去に数度と無い攻撃だ。

 これを耐える人間などいるはずが無い。

 

 攻めているのに、押されている。

 既にスパルタクスの四肢は抉れ、もがれ、転げ落ちているというのに、その腹には風穴が開いているというのに。なぜ、こうも冷や汗が止まらないのか。

 

「ここで、押し切る!!死ねぇ!!」

 

 式として制限されている以上、全力は出せない。つまり、妖力の限界が近かった。

 両手を掲げ、巨大な妖力弾を作り出す。

 

 中級妖怪なら一撃で即死、大妖怪ですら容易に負傷する威力だ。紛れもない今の藍の最大火力。

 

「おぉ・・・・・!何という────────」

 

 小さな言葉を残して、スパルタクスが光に飲み込まれた。

 

 着弾。

 

 そして───爆発(咆哮)

 

 ・・・・・爆発の余波に髪を揺らしながら、藍は爆心地を眺める。

 自身の妖力をほとんど使ってやった。

 

「ふぅ・・・・・」

 

 汗を拭い、背を向ける。紫に報告するのだ。

 そうしたらきっと、あのぐうたらご主人は泣き喚きながら私に抱きついてくるだろう。と微笑ましい想像に浸る。

 

 あぁ、だがしかし。

 

 残念なことにそれは出来ない。

 

「────叛逆の時、来たれり。」

 

 瞬間、悪寒が九つの尻尾を逆撫でにする。

 振り向けばそこには────血に濡れた微笑み(スマイル)が。

 

「馬鹿なッ!?」

 

 信じられない。あれだけやってなぜ・・・・・!

 

 ──首元を掴まれる(・・・・)

 

 信じられない。四肢は全て欠損したはず。

 

 ──驚いた目で見れば、短剣が振りかぶられている。

 

 不味い。と、大妖怪が恐怖した。この短剣は・・・・・自分を殺せると。

 

「うぅああああ!!」

 

 意地も、面目も投げ捨てる。今この瞬間は、この瞬間だけは。自分の主人に会うまでは、何が何でも生きねばならなかった。

 爪を立ててスパルタクスの目に突き立てた。ぶにゅり、と眼球は容易く潰れ───そのグラディウスは叩きつけられる。

 

「──────うぐぁっ!」

 

 右肩から、左の腰まで。

 見事に一刀両断。

 単純な筋力だけで叩き切る。

 

「はははははは!!無駄だ、死ぬがよい」

 

 振りかぶった止めの一撃。躊躇など、1ミリたりとも存在しない。あるのはただ一つ。

 

 ──圧政者殺すべし、慈悲はない──

 

「あああああああ!」

 

 藍が悲鳴を上げる。振り下ろされるグラディウス。

 今ここに、1人の圧政者が滅ぶと確信したスパルタクス。

 

 しかし

 

「藍っ!!」

 

 空間が歪むようなそんな現象とともに、完璧なタイミングで開かれるスキマ。

 スパルタクスの攻撃は空を斬り、藍は素早くスキマに回収されてしまう。

 

 しかし、それで諦めるスパルタクスではない。閉じるまでの一瞬、最も圧政者に届き得るだろう行動に出た。それは────

 

 投擲である。

 

「ぬんっ!!」

 

 短剣グラディウスと言っても、その実重厚な刃の頑丈さ、さらには重みを武器とする。そしてソレを、この男、スパルタクスの筋力で放り投げたなら・・・・・凄まじい威力と化すだろう。

 

「ぇ?」

 

 閉じるギリギリで、グラディウスはスキマを通り抜ける。驚愕をその顔に貼り付けた憎き圧政者(八雲紫)の顔が一瞬見えた。

 

「・・・・・」

 

 しばらく、静けさがその場に戻った。あまりの音と妖力に、妖怪も人もこの場にはしばらく近付かないだろう。

 

 スパルタクスは今も尚、笑っている。

 

 おのれの得物を失い、宿敵を取り逃しても、笑っている。

 

 ───否。

 

 得物とは己の心であり、取り逃がしたのではなく、乗り越えたのだ。

 

 一本とったのだ。

 

 見たか、あの取り乱した姿を。

 

 見たか、あの圧政者として有るまじき姿を。

 

 見たか、あの驚いた顔を。

 

「人とは、平等で無くてはならない。それがわからぬ圧政者達に、今1度我が愛をもって教えねばなるまい」

 

 見たか、あの「人の子としての姿を」。

 心をもつならば、皆同じであるはずなのだ。

 喜怒哀楽を持ち、笑い、泣き、怒り、喜ぶ。それが当然であり、当たり前であるはずなのだ。

 

「故に。弱者を虐げ弱者から奪う者達を、私は許さない」

 

 圧政者とは、同じ人であるはずの者達から喜、楽を奪い取る。笑いと喜びを奪い去る。圧政を敷き、人々を苦しめる。

 

 故に、故にだ。

 

 その全てに叛逆しよう。

 

 圧政を笑おう。どれだけ虐げられても、どれだけ奪われても、どれだけ縛られても・・・・・笑おう。

 

 

 

 

 それが────希望(叛逆)であるから。

 

 

 

 

「はははははは!!はーはははははははははははは!!」

 

 

 

 スパルタクスは、笑い続ける。

 

 



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少女と貴族とスパさんと。


アッセイ!(挨拶)



なんと言うか、ワンパターンになってしまう。
次の話はあれだ、ほのぼのを目指そう。












 スパルタクスは歩き始めた。

 と言っても、何処へ?と言われれば、決まった場所などない。

 本能のままに飛び出してきたのだ、帰り道など分かるものか。

 

 既に傷は癒えている。ネタバラシをすると、八雲藍の全力の一撃を受け止めながら、疵獣の咆哮(クライング・ウォーモンガー)を放ったのだ。

 今までの戦闘で溜め込んだ魔力の殆どを、藍の攻撃の相殺と体の回復に注ぎ込んだ。

 

「あぁ」

 

 なんと言う叛逆であったか。スパルタクスは思い返す。

 圧政者が必死の形相にて放つ攻撃を、このスパルタクスの咆哮は打ち消したのだ!と。

 圧政者が与えた苦痛の数々は全て無駄となり、結果、負傷したのは圧政者だけである。

 

 圧倒的と言って差し支えない勝利である。

 

 さて、そんなことは置いて置いて、スパルタクスは何処に行くのか。

 

 

 

 実は、何と!スパルタクスは何も考えていない。

 

 

 

 驚愕の事実だが、スパルタクスは弱者を守ること、圧政者を倒すこと位しか考えてないのだ。凱歌を歌おうにも、歌うべき場所は知らない。

 なので今はテキトーに歩いてなにか起きるのを待つしかない。

 なんて、考えていた時だ。

 

「随分と楽しそうに笑っていたが・・・・・何かあったのか?」

 

 スパルタクスが叛逆の余韻に浸り同じ場所をぐるりと回っていると、黒い髪の女性が話しかけてきた。服装は赤と白の巫女服に見える。

 

「なに、圧政者に一太刀浴びせたのだよ」

 

 そう言ってスパルタクスは特に驚くことも無く、また、戸惑うことも無く笑顔で振り返りそう言った。

 尚、振り向いた時に見えるのが圧政者だったらいいなぁ。と、思っていたり思ってなかったりする。

 

「圧政者・・・・・?まぁ・・・・・よくわからないが、余程の妖怪と戦っていたのだろう。周りを見ればよく分かる。妖力が並々と漂っているしな」

「うむ、その通り。猛獣であり、圧政者でもあった。だが!あの程度では私の体は無傷である!」

 

 ・・・・・古傷だらけではあるのだが。

 

「なるほど、確かに目新しい傷は無さそうだ。余程の手練と見える。少し話でもしないか?私は知人が来るのを待っていてね」

「うむ、いいだろう」

 

 スパルタクスは話を聞く様だ。これは驚くべきことである。なにせ、あのスパルタクスだ。

 ニッコリとした笑みを、優しげな微笑みに変える。

 

「とは言え、立ち話ではなんだろう?見た所、力が自慢と見える。そこらの木を斬って貰えないだろうか?」

 

と言うかこの巫女。古傷だらけの青白い肌をした巨漢相手に一切物怖じしない。実際スゴイ。

 

「私の名はスパルタクス。よろしく頼むぞ、同士よ」

「え?あ、あぁ。知ってるとは思うが、博麗の巫女だ」

「ふぅん!!」

「・・・・・聞いてないな?」

 

 スパルタクスは巫女の話を完全にスルーし、椅子を用意した。しかし、少し違う点があるとすれば、斬ったのでは無く、引っこ抜いた事か。

 ちなみに、巫女は斧を手渡していたのだが・・・・・。

 

 なぜ巫女が斧を?・・・・・それはもちろん、何処ぞの妖怪に投げつけるためである。

 

「まさか引っこ抜くとは思っていなかったよ」

「ははは、では、私は行くとしよう」

 

 おおっと、今までの地の文はなしだ、無し。やはりスパルタクスは話を聞かないらしい。

 

「いやいやいや、少し可笑しくないか?」

「何を言う。あちらで戦いの気配がしているのだ。弱者を守ることは使命である。私は、ユク」

 

 ツッコミを入れる巫女に、スパルタクスは自らが感じ取った事を伝える。

 そう、この近くで戦闘があるのだ。彼の知覚能力は非常に高いらしい。

 

「・・・・・そうか、引き止めることは出来ないな。では気を付けてくれスパルタクス殿」

「はは、ありがとう博麗の巫女!最も狭き牢獄に繋がれた奴隷よ!!いつかその枷を外し、共に叛逆を成そうっ」

 

 背中を巫女に向けたまま、手を振ってそう叫ぶ。

 数秒としない間に、スパルタクスは森の中へと消えていった。

 

「はぁ・・・・・」

 

 青白い肌が、視界に入らなくなって数秒。巫女は小さくため息を付く。だが、決してイラ付きなどは無いように見えた。

 

「そうか・・・・・貴方は分かってくれるか」

 

 横に倒された木に腰掛け、そっと空を見上げる。

 この幻想郷に張られた結界。

 

 博麗大結界。

 

 これは、妖怪達を守る物だ。決して、人を救うものでは無い。

 その維持のため、私は生きている。

 

「それにしても・・・・・遅いな、紫達は」

 

 この日、紫達は此処には現れなかった。

 決して不満はない。だが・・・・・僅かな────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霧の湖。その湖畔に、一つの館があった。

 赤く、朱く、そして紅い。

 

 名を、紅魔館。

 

 吸血鬼の住まう悪夢の館である。

 

「──────くくく・・・・・」

 

 そんな館の一室。カーテンが全て閉められた真っ暗な部屋の中、1人の吸血鬼はほくそ笑んでいた。

 

「八雲紫、貴様を殺し、全てを我がものにしてくれる・・・・・くくく・・・・・はーっはっはっは!!」

 

 吸血鬼が両手を大袈裟に広げれば、何かがバタリと倒れ込む。

 吸血鬼が手を叩く。そうすればすぐ様、執事が部屋へ入り、それを片付けた。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう、言うまでもなく分かるだろう。圧政者である。

 

 しかし、今は『まだ』スパルタクスにバレていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霧雨はスパルタクスが居なくなってから、日曜大工に励んでいた。

 トンカチを持ち、釘を持ち、譲ってもらった廃材を再利用して入り口を直す。

 

 さて、いい汗をかいてきた頃合で、てってってっ!と軽い足音が。

 

「おっと、まいったなぁ。魔理沙が帰ってくる前に直そうと思ってたのにな」

 

 どうやら霧雨には小さな子供が居るようで、その子が帰ってきたと考えたらしい。

 だが、残念な事に帰ってきたのはその魔理沙と言う子供では無い。

 

「あ、あのっ!」

 

 やって来たのは1人の少女。

 

「お?どうしたんだい?お客さんかな?」

 

 自分の予想が外れた事に少し驚きながら、霧雨はお菓子を取りに行こうと店の中に踵を返す。

 いや、返す前に聞き捨てならない単語が聞こえたのだ。

 

「攫われちゃったの!!魔理沙ちゃんが!攫われちゃったの!!!」

「・・・・・な、に・・・・・?」

 

 血の気が引くとはこの事か。血塗ろのスパルタクスに出会った時よりも、傷口が既に無く、妖怪かと怪しんだ時よりも。体から全てが抜けるような、そんな感覚がしたのだ。

 

「・・・・・っ!!」

 

 しかし、それも一瞬の事。店の中、武器や防具、巫女のお札など、身を守るためのものをかき集める。そして金もありったけ。

 

「君!慧音さんには!?」

「ほ、他の子が言ってるよ!」

「ありがとう!!」

 

 霧雨は少女に礼を言って駆け出した。

 目的地は上白沢慧音・・・・・人里の守護者の元へ。

 

 

 

 ひた走ること2分。大きな広場には既に特徴的な髪の女性が立っていた。その周りには屈強な男達が。

 

「はぁ、はぁ・・・・・慧音さん!ウチの子が・・・・・!これも、使ってくれ!」

「これは、霧雨殿。あぁ、話しは聞いているよ」

 

 霧雨は背負ってきた風呂敷を開く、中には店一番の品々が。

 そんな様子をみて慧音は目を細め、しかしすぐさま真剣な表情へと戻った。

 

「いいか皆、相手は確実に妖怪だ。それも、新参者だろう。人里に潜り込み攫って行ったようだ。早急に救助に向かうぞ!」

「「「おおぉおお!」」」

 

 霧雨も防具を着込み、槍を背に背負う。戦う気なのだ。

 

「・・・・・そうか、行こう。霧雨殿。魔理沙ちゃんを助けるぞ」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森を、青白い塊が駆け抜ける。

 

「はーははははははははっ!!!どこだ!何処にいる!」

 

 そう、スパルタクスである。

 

 彼の並々ならぬ嗅覚が、こちらで弱者が虐げられており、なおかつその場に圧政者がいると告げていた。

 

「ふははははは、我が愛からは逃げられぬ!!おぉ!愛!愛だ!」

 

 そんなこんなで走り続けること30秒。一瞬、木々の間で金髪が踊った。

 

「圧政者かっ!?」

 

 この男、金髪に敏感になっている。

 なにせ、今のところ出会った圧政者は皆金髪、スパルタクスの頭では「この闘技場における圧政者は金髪。」なんて理論が完成しているかもしれない。

 

 足が沈み込むほど思いっきりブレーキをかける。地面がいくらかめくれ上がったがそんな事は気にしない。

 スパルタクス、大喜びで圧政者がいると思しき場所に飛び込んだ。

 

「雄々おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 後に、この日の出来事は霧雨によって語られる。

 

曰く──「人間って妖怪だったっけ?」

 

 さて、そんな事は置いておいて時間軸は戻ってくる。

 

スパルタクスは見てしまった。

 

「おぉ!んん?圧政者か」

 

 金髪の幼女に今まさに遅いかからんとしている貴族っぽい男性達。そう、明らかなロリコンか、若しくは自分よりも立場の低い者に何かを強制させる圧政者か。

 どちらも同じような気がしたのでスパルタクスは喜んだ。

 

「な、なんだ貴様は!へんな叫び声と共に現れおって!妖怪にでも追われたのか?!」

「否、追ってきたのだ!!」

「なっ───!!」

 

 速攻。

 

 もうパッと見で圧政者。瞬時にわかる圧政者加減に、スパルタクスは行動に出た。

 そう、パンチである。

 

 しかし、なんという事か。圧政者は血煙になるのでは無く、霧となって攻撃を回避したではないか!

 

 スパルタクスの脳裏に、懐かしいものが思い浮かぶ。

 

 そう、たしか、こんな感じに避けるやついたよなぁ、圧政者で。

 と言った緩い感じで思い浮かべた。ちなみにヴラド公である。なお、なぜ緩いのかと言うと、本人はヴラド公を倒したつもりだからだ。

 

「ぉお滾る!再戦の時か!!ははは!!叛逆をせねば!」

 

 ・・・・・どうやらそこらにこだわりは無いようで。

 

 何度もなんども殴りかかる。しかし、全てを避けられてしまう。

 だが、スパルタクスも負けていない。さり気なく、子供から男達を引き剥がした。考えての行動だろうか?否、まぐれである。

 

「ぬぅ?大丈夫かね、少女よ」

「うぅ、ひっぐ・・・・・怖いよぉ」

 

 スパルタクスがニッコリと金髪の少女に話しかける。安心したのか余計に怖がったのか、女の子は泣いている。

 それにより更に闘志が燃え上がった。

 

 子供とは弱者の筆頭。

 

 最も守られるべき存在。

 

 であれば成すことはただ一つ。

 

「安心したまえ、私が君を守ろう」

 

 スパルタクスの思考は「最も困難な状況」を選ぶ。故に「圧政者を滅ぼす」から「圧政者から子供を守りつつ、圧政者を滅ぼす」に変化する。

 

 そう、スパルタクスはこの子に一切の傷を付けず助ける気なのだ。

 

「はっ、下らない」

「人間ごときが我々に歯向かうか!」

「死ね、劣等種」

 

 わぁお。素晴らしい。完全な圧政者である。スパルタクス君のボルテージがぐんぐん上がっていく。

 その爛々と輝く両眼は、目で殺せそうな程。きっと何時か見るだけで圧政者を殺せるようになる事を夢見て。

 

「さぁ!来るがいい!!・・・・・君は私の後ろにいたまえ」

 

 スパルタクスには勝算しかない。いや、正確には自身が負ける姿を思い浮かべるという事が出来ない。

 

 ゆえに、その圧倒的なまでの自信とキュートなスマイルが相手を怯ませる。

 相手から見ると絶望的な状況にあるのに、笑っている。と言うことは、状況を一変させる手札があるという事だ。

 なにせ、〜〜の能力。なんて物がある世界だ。もしかしたら「圧政者だけを殺す程度の能力」なんてものもあるかもしれないしないかもしれない。

 

「撃て!!」

 

 3人の男は翼を生やし空へ。

 この時点でスパルタクスの敗北は確定したような物だが、スパルタクスは笑っている。

 

 放たれる魔法の数々は火、雷、氷、中には単純な妖力弾もある。

 

 それらはスパルタクスの体に当たり、魔法としての力を実現させる。

 燃やし、感電させ、凍らせる。これだけでも十分に分かるだろう。食らったら人は死ぬ。

 

 だがしかし!スパルタクスは人にして人にあらず。

 

「ふーははははははは!いいぞ!いいぞぉ!!」

「な、なんだこいつは!!」

「知るか!私の知る人間ではない!」

 

 リアクションも素晴らしい。スパルタクス君のボルテージはMAXだ。

 

「ひ、ひぃいいいい!?」

 

 とは言え、スパルタクスの後ろに隠れる少女は人間。スパルタクスの体が2mを超えていなければ、簡単に魔法が当たり死んでしまうだろう。

 それについてはスパルタクスもよく分かっている。よく見れば飛んでくる、しかも自分から外れる魔法に手を差し伸べているではないか。

 

 ───つまり自分から当たりに行っている。

 

「はははは!少女よ!笑いたまえ!!この加虐に!この劣勢に!負けていながら笑え!ははははーははは!!」

「わら・・・・・う・・・・・?」

 

 正しく魔法の嵐。雨あられと飛んでくる魔法の中、スパルタクスは少女に向けてそう言った。

 

 そんなこと、出来るわけがないと少女は思う。

 だが、目の前の男はどうか。絶望的な状況だ。武器もなく、まともな防具もない。それなのに名前すら知らない少女の為に体を盾に、魔法を防ぎ続けている。

 

 笑えない・・・・・筈なのに、その背中が驚く程に大きく見えて・・・・・

 

「あ、あは、はは・・・・・」

 

 少女は涙をながしながら、引き攣った笑いを浮かべる。

 スパルタクスが背後目にそれを見て、笑みを一層深めた。そして────

 

「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」

 

 我笑死了。これ程愉快な事は早々ないと、スパルタクスは笑う。

 

 笑死我了。これだけの笑いを催させる彼らに叛逆を。

 

 耐え忍ぶのだ。笑い、耐える。単純でありながら、決して交わらぬ水と油。

 それを混ぜて魅せるのがスパルタクス。

 

 爆炎が上がる、抱きついて守る。氷柱が飛来する、仁王立ちして受け止める。落雷が落ちる、飛び上がり当たりに行く。

 

「はぁ、はぁ・・・・・なんだこいつは!まだ死なないのか!?」

 

 火傷、裂傷。凍傷。落雷が通った場所は蚯蚓脹れの様に腫れ上がり、最早見ていられる怪我ではない。

 体全体にその傷は付いている。顔もまた、例外ではない。

 少女がもしもその顔を向けられたなら、ひっくり返ること間違いなし。

 

「・・・・・もう終わりかね?」

 

 スパルタクスが攻撃は終りか、そこまでなのか?と問いかける。

 相手3人の攻撃を全て受けきったスパルタクスは、いざ攻勢出ようかと足に力を込める。

 

 ──────しかし。

 

「・・・・・居たぞ!まったく、貴様らは勝手に抜け出しおって。・・・・・なんだソイツは」

「危険です!我ら3人の魔法をすべて受けきった化け物です!」

「ただの人ではないか」

 

 敵が増えた。単純明快、危険度増大。

 しかしかし、まだまだ増える。まだ増える。

 

「ふん、まぁ良い。あのお方の作戦のついでだ、引き潰すとしよう!!全員、的当ての時間だ」

 

 ニッと笑った男の口元には牙。そう、なんと彼ら・・・・・吸血鬼なのである。

 わかってた?それならば重畳。現在、スパルタクスの前には100人規模の吸血鬼が存在している。

 

 その口元を卑しく歪め、これから起きる虐殺に心を昂ぶらせている。

 

 その下卑た目線が、人を人と思わぬ所業が、自らの絶対的地位を信じて疑わぬその心が。

 

「私は大嫌いだ。故に、死ね」

 

 スパルタクスが快笑する。飛びかかりながら放つ一撃は────やはり回避される。

 

「っと。人とは思えぬ敏捷だ。───────ほう、皆の者、あの人の子を狙え」

 

 吸血鬼達は皆一様に、魔法陣の展開された腕を少女に向ける。向けられた少女は全てを諦めた様な、弱々しい姿に見えた。

 

 ────そうだ。この状況こそが。

 

 スパルタクスの最も求めていた状況である。

 明確な弱者と強者がいる戦場で、尚且つ、非情なほどに不利な戦いで、さらには命の危険がある。

 

「うてぇ!!」

「きゃぁぁぁぁ!」

 

 放たれる数百の魔法。先の3人と比べると明らかに威力が上がっている。

 

 悲鳴を上げる少女。

 スパルタクスは走る。敵ではなく、少女の元へ。

 困難な選択をする彼の思考は、やはり少女を守らんとした。

 

「はは────────!!」

 

 打、打、打。内蔵がぐちゃぐちゃになるほどの衝撃。焼け焦げ神経が死に、感覚のなくなる体。

 凍結し、砕ける足。雷の衝撃で吹き飛んだ腕。

 魔力で出来た剣がスパルタクスの下顎を吹き飛ばし、地面から伸びた茨がスパルタクスを締め付ける。

 

 そんな光景から連想されるのは「死」。人であれば、否。人でなくてもこれは、死ぬ。

 

「──────────!!」

 

 だが、爆炎の中。強風の中。吹雪の中。砂嵐の中。

 ───その目は笑っている。

 

 なぜ、笑うのか。

 

 それは、自らが希望であるから。

 

 後ろに、絶望に暮れる少女がいるから。

 

 守るべき者を守るため、笑わなくてはならない。

 

 己が笑うことで、少しでも、一瞬でも良いから笑ってほしい。

 

 ───だからこそ。絶望に叛逆を。

 

「───────────!!」

 

 決して膝は着かない。着けば敗北、少女は死ぬ。

 

 圧政に屈しはしない。屈せば最後、少女は死ぬ。

 

 圧政者を倒さねば自分は死ぬ。だが、倒す為に動いたならば、少女は死ぬ。

 

 自己回復は追いつかない。

 

 宝具の使用は少女を巻き込む。

 

 

 ──絶望的。

 

 ──否、断じて否。

 

 

 勝てない事など分かっている。

 

 この身に滾り行く魔力が、自分がどれだけのダメージを受けたか理解させてくれる。

 

 放てば勝てる。

 

「まだ倒れんのか。本当に化け物のようだな」

 

 吸血鬼が鼻で笑う。無駄に硬いだけで、何も出来ない案山子であったな。と。

 そして、手を高く上げる。・・・・・とどめを刺すのだ。

 

「全員、総力をつぎ込むぞ」

 

 魔力が収束し、武器を象っていく。斧、剣、槍。

 

「放て!」

 

 まるで散弾のように放たれたそれら。受け止めるだけではスパルタクスの体を貫通し、少女を殺すだろう。

 

 ────この瞬間こそが。

 

「スパルタクス!!」

 

 ───叛逆の時。

 

 飛来する魔力の武器の中、最も早く飛来したのは・・・・・魔力のない無骨な剣。

 スパルタクスは残っていた右手で本能的にそれを掴む。目線の先には霧雨が。

 

 ありがとう。心の中でそう言って。スパルタクスは剣を肩越しに構える。

 

 武器なしではただの爆発だ。だが、武器に乗せて放てばそれは・・・・・強力無比な一撃と化す。

 

「─────────ォォオォオオオオ!!」

 

 凄まじい速度、めまぐるしい程の速度で体が修復される。

 

 ─────1歩、前へ。

 

 身体を数多の武器が貫いて───けれど、体を突抜ける前に、再生して受け止める。

 

 ─────2歩。まだ、前へ。

 

 腕が吹き飛び、しかして治り。足が千切れ、けれども前へ。

 

 ─────3歩、ために溜めた一撃を解き放つ。

 

「我が、愛は!爆発っするぅぅううううう!!!」

 

 剣に全ての魔力を乗せて、放たれるのは英雄の一撃。

 圧政者に致命傷を与える、叛逆の一撃。

 範囲を正面に絞り────破壊する。

 

「ば、馬鹿な───────────!!」

 

 吸血鬼達全てが光に飲み込まれ・・・・・消滅した。

 









A,こんなスパルタクスで大丈夫か?(エルシャダイ的圧政者感)



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人里へ


テスト期間で執筆を止めていました。
テストは圧政。








 全滅。瞬殺。大逆転。

 

「ぁ、・・・・・あぁ・・・・・」

「魔理沙!魔理沙怪我はないか!?」

 

 目の前の光景が信じられなかった。

 

 幼心でも分かるほどの絶望的な状況だった。

 

 だが、それが今はどうか。目の前には無傷の男が空を仰いで戦闘の余韻に浸っているだけである。

 

「これが・・・・・・・・・・・・・・・魔法・・・・・・・・・・」

 

 少女、霧雨魔理沙は憧れた。

 

 どんな傷も瞬く間に直してしまう魔法。

 どんな不利な状況でも覆してしまう魔法。

 どんな相手でも一撃で消し飛ばしてしまう魔法。

 

 凄い。凄い!凄い!!

 

 そんな年相応な幼稚な感想しか出てこないが、それだけその想いは強い。

 父親が自分を抱きしめている、だが、それよりも目の前の男が気になった。

 

 その背中が気になった。

 

 

 

 ───飛び散る火花。魔法の余波に服が不安定に揺れるなか、その背中は一切、揺れ動かない。

 両手を広げ、自分の壁となってくれる。

 

 でも、既にその時は絶望に暮れていた。あの状況をひっくり返すなど不可能だと思われたから。

 

 だが、だからこそ。その反動は凄まじい。

 

 死を直面した絶望からの大逆転。

 

 まるで何事も無かったかのように、敵は消え、無傷のスパルタクスが残った。

 当然、魔理沙も無傷だ。

 

 心が跳ねた。その背に憧れた。

 

 スパルタクスが振り返る。その顔には笑顔が浮かんでいた。

 思い返す、あの言葉を。

 

 ───はははは!少女よ!笑いたまえ!!この加虐に!この劣勢に!負けていながら笑え!ははははーははは!!──

 

 あの時魔理沙は理解出来なかった。けど、今は理解できる。

 例え負けていても負けてはいけない。

 心だけは、意志だけは決して負けないのだと。

 

「大丈夫かね?」

「は、ははははいぃ!」

 

 なんて優しい笑顔だろう。なんて、頼もしい笑顔なんだろう。

 顔が熱くなる。胸がいっぱいになる。魔理沙はこの感情を理解出来なかった。だが、稚拙なその言葉にするとしたら「好き」なのだろう。

 恋愛感情なのか、違うのかは分からない。

 

「そうか、ならば良かった。」

 

 スパルタクスが優しく魔理沙の頭を撫でる。

 心臓がバクバクと音を立てる。そして視界が・・・・・暗転した。

 

「おおおおい!?スパルタクスやめてくれ!魔理沙が怖がってるだろぉ!」

 

 霧雨が慌てて魔理沙を介抱する。

 霧雨は涙目で、震える手で魔理沙の頬や頭を撫でている。子供が奇跡的に助かったのだ。心の底から歓喜に震えていた。

 

 遠くからスパルタクスが見えた時、その後で魔理沙が縮こまっていた時。どれだけ驚いただろう。

 二人の前に一瞬では数えられないほどの妖怪が居た時は心臓が止まりかけた程だ。

 

「あぁ、いや・・・・・ありがとうございます!」

 

 霧雨が魔理沙を大事そうに抱えながら、頭を下げる。

 それに対しスパルタクスはゆっくりと頷いた。

 

「って・・・・・!スパルタクス!!アンタ、剣は?」

「剣は無い、私の一撃と共に消えた。だが安心するといい、我が愛はどれほどの名剣よりも鋭い!!」

「あ、あれ1番高いやつなのに・・・・・!・・・・・まぁ、魔理沙が助かったし・・・・・良いか!」

 

 どうやら金銭的な損害は大きい様で。

 しかしこうして魔理沙は助かり、誰も死ぬことは無かった。

 結果だけを見るならば、人を襲った妖怪が打ち破られ、商人が損をしただけである。

 スパルタクスからすれば理想に近しい結果であったと言える。

 

「スパルタクス殿」

 

 特徴的な髪を持つ女、慧音がスパルタクスに話しかけた。実は道中でスパルタクスの詳細を聞き、ある程度は知っている。・・・・・とは言え、先の一撃だ。正直な所警戒心MAXである。

 

「おぉ、獣の匂いがする。ふむ・・・・・場はコロッセオ、観客もいる・・・・・死闘であるか」

「!!」

 

 スパルタクスは瞬時に慧音が半獣である事を見抜いた。これは慧音が隠そうとしていない事もあるが、スパルタクス曰く匂いがするらしい。

 慧音が目を見開いて隙を晒すが、スパルタクスは攻撃しない。

 

 そうこの男は第一に、自分からの攻撃はしない。もちろん例外はあるが。

 

 今現在の慧音は、この例外に入っている。

 

 敵意があり、攻撃する意思のある者が敵の場合、スパルタクスは相手の攻撃を受け止める。そして相手の全力を受けきった上で攻勢にでるのだ。

 しかし、敵でありながら、攻撃する意思の無い者の場合は相手が交戦の意思を見せるかどうか少し様子を見て、それでも動かなければ自分から攻撃を仕掛ける。

 

 残念な事に敵を見逃すとかそういった甘い考えは無い。

 

「ちょちょちょ!待て待てまってくれスパルタクス!!慧音さんは人間を守るために戦ってくれる人なんだよ!」

「なんと、同士であったか!!飼い慣らされた獣とあれば、戦う意味もなし。共に弱者を守るとしよう」

 

 スパルタクスは笑顔でそう言う。

 スパルタクスには敵を見逃すという選択肢は無い。けれども敵じゃないなら当然、見逃すのだ。

 

「あ、ありがとう霧雨殿。・・・・・スパルタクス殿は・・・・・その、何処か可笑しいのでは?(小声)」

「多分頭です。俺が出会った時もこうでしたし(小声)」

「私は正気である(ニッコリ)」

 

 その暖かな笑顔で、二人の背筋は凍った。

 ─────あぁ、聞こえてたんやなって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻想郷のどこかにある屋敷。

 そこでは──────

 なんか凄いことになっていた。

 

「どどど、どうすればいいのかしら!」

 

 肩からグラディウスを生やした紫は、9本の尻尾と身体の6割・・・・・合計したら8割位を失った藍を看病していた。

 

 いや・・・・・看病・・・・・なのだろうか?

 

 包帯でぐるぐる巻になった藍がボテっと床に落ちている。どうしたらいいとか、そういう問題ではなくとりあえずは清潔な布団に寝かせるなどの処置が必要だろう。

 

「・・・・・考えるのよ紫・・・・・!」

 

 紫は頭が良い。

 

 そう、頭が良いのだ。

 

 だが、パニックになるとヘナチョコゆかりんに脳みそまで変貌してしまうため、今は何とも言えない。

 

 ───紫様・・・・・紫様────

 

「はっ!!この声は、藍!」

 

 ───ちょっと天の声風に話しかけてます・・・・・──

 

 おおっと?どういう事だろう。真面目に書こうとすればするほど、彼女らは奇天烈になっていく。

 

 ──傷口に直接包帯は痛いです───

 

「あっ・・・・・!ご、ごめんなさいね藍。いま取るわ」

 

 既に血は乾き始めている箇所が多く、取ろうとすればビリッと行くだろう。あれはとても痛い。

 

「あ」

 

 ──あっ、て何です!?───

 

「いや・・・・・ちょっと・・・・・何か取れた」

 

 ──これ以上取れたんですか!?何処が!?──

 

「私の腕・・・・・」

 

 紫は確信した。治療が出来ぬぇ。

 藍は確信した。此奴使えぬぇ。

 

 なんという事か、なんて言うことだろうか。これこそが叛逆。真面目に書こうとする作者への叛逆なのだろう。おのれスパルタクス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人里。

 慧音が守る里だ。人口は5000人にも届かないが、これでも幻想郷と言う環境では相当に大きい。

 夕暮れ時、そんな場所に1人の男がのっしのっしと歩いてきた。その後ろに列なるようにして慧音や自警団が並んでいる。

 

 里の者達は皆、「なんだなんだ?」と不安やら好奇心やらを覗かせながらそれを見ていた。

 

 もちろん。分かるとは思うが、先頭の男はスパルタクスである。

 人々からの好奇の視線に微笑みで返す。人々はそんなスパルタクスの肩の上に、魔理沙がちょこんと乗っているのを確認し、ほっと安堵のため息を付いた。

 

 魔理沙と言う少女は人里では割りと有名人なのだ。問題を起こしたわけでは無い。単に霧雨家は家柄も良く、家も大きく、そして商品は安く品質は良い。里の会議でも重鎮として顔を並べる程だ。

 つまるところ、「いい所のお嬢様」なのである。

 

 そんな彼女が攫われたとあって、人々は驚き、家や戸に鍵をかけていた。

 いやはやしかし、どうやらあの筋骨隆々の戦士が助けたのだとひと目でわかる。

 

 凄いマッスルだった。

 血管は浮き上がり、腹筋はバキバキ。いや、全身はムキムキ。そう、マッスルだった。

 

 あれだけのマッスルならば魔理沙を助ける事が出来たと信じられる。

 人は先入観で物事を決める。スパルタクスはマッスルでとても強そうだと人々は考え、更にはそのスマイルがスパルタクスを心優しいお人だと認識させた。

 

「ははははは」

「あ、あは、はは・・・・・お、下ろしてぇ」

 

 スパルタクスは御満悦である。魔理沙はそんなスパルタクスの上で恥ずかしさに身を悶えさせていた。

 後で絶対に弟子入りしてやります・・・・・!赤面し、心に決めながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅魔館にて、男、スカーレットは頭を抱えていた。

 なにせ・・・・・誰も帰ってこないのだ。

 送り出した吸血鬼100人が全員。

 

 信じて送り出した吸血鬼たちが・・・・・。

 

 と言った状況である。

 

「あの、お、お父様?」

「黙れっ!!」

「うぐっ!」

 

 そう、とてもストレスが溜まっていた。

 最愛の娘・・・・・なのかは置いておくとして、娘を殴り飛ばす程には。

 娘は水色の髪を持つ吸血鬼だった。まだまだ外見的には幼く、弱々しく見える。

 

「貴様の、能力は、どうしたッ!!」

「ごめ、なさ・・・・・!や、めて・・・・・!」

 

 吹き飛んだ娘に股がり、何度も何度も殴りつける。

 己の鬱憤を晴らすためだけに。

 

 

 娘は強い力を持っていた。名を『運命を操る程度の能力』。

 その能力を使い、最も八雲紫にとって致命傷となる時期を狙っての行動だった。

 しかし、スカーレットの思惑は外れた。運命を操る程度の能力は万能ではない。

 

 イレギュラー・・・・・スパルタクスの介入までを見てとることは出来なかったのだ。スカーレットはそう判断し、娘を殴る。

 

 やがて動かなくなった娘は赤毛のメイドに回収させて、再び物事を考える時間となった。

 しかし、スカーレットは何も情報を得ていない。

 吸血鬼はみなスパルタクスの一撃で消滅し、情報を生きて伝えるものは居なかった。

 

「・・・・・仕方あるまい」

 

 彼は自分で動くことにした。

 本来ならば配下の吸血鬼が妖怪を捕まえるのだが、今回はそれら配下は居ない。故に自分で捕まえるのだ。

 雑用を自分でやる・・・・・屈辱だが、しかしやらねばならない。

 

「出る。共をしろ美鈴」

「はっ」

 

 二つの人影が紅魔館を出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霧雨家に戻ってきたスパルタクス。その肩には未だに魔理沙が乗っていて、その父、霧雨も乗っている。

 

 なぜスパルタクスがここに来たのかと言うと、家が無いなら泊まって行ってくれ!と霧雨が言ったからだ。魔理沙も顔を輝かせながら、うんうん!と頷いていた。

 

 スパルタクスは雨風を防げなくても喜べる男だが、そう言われて嫌な気持ちになる事はない。むしろ嬉しいとすら思う。

 

「ちょちょ!待ってくれスパルタクス!!ぶつかるから!!降ろしてくれ!」

「ん?おお!そうであったな。すまない」

 

 スパルタクスは謝れる男だ。

 なので昼間の様な失敗はしない。スパルタクスは失敗から学び前に進む男なのだ。

 2人を降ろし、2人が家の中に入ったのを確認してから、スパルタクスは家に入・・・・・ろうとして頭をぶつけ、少し屈んでから入った。

 

「・・・・・スパルタクス」

「なんだね、商人よ」

「ありがとう。魔理沙を助けてくれて。ほら、魔理沙も礼をしなさい」

「ありがとうございます!」

 

 霧雨はスパルタクスに頭を下げた。魔理沙も一緒だ。

 スパルタクスは知識としてそれを知っている。

 日本人は礼儀を示す時に頭を下げる。スパルタクスは微笑む。助けた者達から感謝を送られて嫌な訳が無いからだ。

 

「・・・・・部屋は、そこの空き部屋を使ってくれ。わからない事があれば言ってくれ。魔理沙、スパルタクスを手伝ってあげて欲しい」

「お、お布団ひきます!」

 

 魔理沙が部屋へと消えていった。

 

 そして何事もなく、スパルタクスの1日は終わった。

 そう、1日目だ。

 朝、八雲紫に出会い、妖怪と遭遇。紫は逃がしたが妖怪は倒した。その後、霧雨と出会い人里へ。

 昼間、人里から飛び出して森へ。八雲藍と出会い戦闘。激闘の末、スパルタクスが勝利した。博麗の巫女と出会い、話をした。

 夕方、子供を救うために吸血鬼の群れと戦い、勝利した。

 

 濃い、1日であった。

 

 なお、スパルタクスは眠る時も微笑みを絶やさず、魔理沙がこっそりと布団に入り込んでも起きなかった。

 早朝に、それを発見した霧雨が青い顔をして倒れるのは語らなくても良いだろう。









なんだか、書ききれていない感が出てしまった。
頑張らなくては。


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向日葵畑と筋肉ダルマ


どうも、圧政者サン。シフシフですまない。
日にちが空いてすまない。
フィギュアヘッズが楽しくてすまない。
今回は物語りが割と進むような進まないような感じなんだすまない。
向日葵畑と言えばあの人だがすまない。

とりあえずすまない!
















 その男は───────太陽の畑に来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 向日葵が太陽を追いかけ顔を向ける。

 緑髪の少女が、そんな向日葵に水をやっていた。

 

 微笑ましく、絵画になりそうなのどかな風景だ。人々がこの一瞬を見たのなら、きっと忘れられない思い出となるだろう。

 目の覚めるような光景、目の覚めるような美人。目の覚めるような─────────一撃。

 

 ここに人々はやって来ない。

 なぜなら、そこには1人の少女がいるからだ。

 

 風見幽香(フラワーマスター)

 

 最強の一角。幻想郷と言う魑魅魍魎の跋扈する闘技場の一角を、たった1人で担う少女。

 

 まさしく化け物。

 

 更に、人の寄り付かない理由としてはその性格にあった。残虐で無慈悲、一切の容赦が無く殺しにくる大妖怪。

 

 ・・・・・いや、語弊があった。寄り付かないのは人々だけにあらず。

 同じく妖怪、怪物・・・・・魑魅魍魎達もここにはやってこない。この美しい花畑にはやってこない。

 

 美しさに目を奪われれば、奪われるのだ。物理的に目を、否、全身を。

 

 つまり。そこにスパルタクスがいるということは、何が起きるかなんて予想通りの予定通り。

 計画ずみの計算尽く。

 予想可能回避不可能。

 

 そう──────────ティータイムである。

 

「へ、へぇ、そ、そそ、そうなの・・・・・」

「うぅむ、良いぞ!良い味だぁ!」

「ど、うも、ありがとう・・・・・」

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?・・・・・んん??

 

 

 

 

 これは、どうしたと言うのだろう。

 血を血で洗い、殴って蹴って斬って叩いてを繰り返す、血塗ろ☆レスリングの開催はまだだろうか。

 なぜ彼ら彼女らは呑気に茶を嗜んでいるのか・・・・・分からない。わからな過ぎる。

 

「あ、あの、その・・・・・お名前・・・・・聞いてもいいかしら?」

 

 幽香が若干おどおどとした風にスパルタクスに訪ねている。

 

 なるほど理解した、これはスパルタクスが急に押し掛けたと思ったら茶を要求し、あれやこれやと言う内にティータイムに突入。

 

 そして今更ながらに「誰だこいつ・・・・・」となっているのだろう。さしもの風見幽香と言えど、狂人の扱いはよく分からない様だ。もしかしたら1発殴ったのかもしれないが、コイツなら喜ぶだろう。扱いに困るのも頷けるというもの。

 

「おぉ!すまない自己紹介を忘れていた。私の名はスパルタクス。叛逆者である」

「そう。ねぇスパルタクスさん。・・・・・その、いつになったら帰るのかしら?」

 

 自己紹介をした事で冷静になったのか、幽香はそう切り出した。

 確かに、青ざめた皮膚に、筋骨隆々で2mを超える肉体。股間以外隠さない近未来叛逆ふぁっしょんだ。

 

 少女の家の前に居るには似つかわしく無いだろう。と言うか事案案件だ。

 帰って欲しいと思うのも頷ける。

 それに対し、スパルタクスはお茶を飲み「ふぅ」と一息ついた後、向日葵を見つめ出す。

 

 顔は柔らかな微笑みを浮かべている。

 その視線の先には幽香が手塩にかけて育てた向日葵達。

 幽香は警戒している。「こいつ、花盗む気か?」と考えているのがありありと伺える。

 

「素晴らしい。全ての花々が皆、喜びに満ちている。美しい光景だ・・・・・」

「・・・・・!」

 

 しかし、予想は裏切られた。衝撃的な事実だが、スパルタクスは美しさを語れる男だったのだ。スパルタクスは語った。

 向日葵が如何に素晴らしいのかと。

 

「向日葵は常に太陽を見ると言う・・・・・私も常に圧政者を睨みつけてきた。決して目を離さず前を向くのは難しい、苦行である。」

 

 スパルタクスはどうやら太陽を強大な敵・・・・・つまり圧政者として比喩し、向日葵を叛逆者として捉えたのだろう。

 正直、お金やご飯をくれる大人に付いて行く子供達・・・・・の方がわかりやすいと思うのだが。

 

「そ、そうなの・・・・・ここの花は全部、私が育てたのよ。種からね」

「おぉ、そうであったか。ははは、では礼を言わねばなるまい」

「お礼?」

「しかし、私は何も持っていない。故に、感謝の言葉で表そう。行動にて示そう・・・・・ありがとう風見幽香。この景色を何時か、幻想郷中に広げるのだ!!」

「えっ・・・・・!」

 

 ポッ!と頬を赤く染める幽香。

 幽香は花の妖怪だ、花畑はある意味本体と言っても過言では無い。

 そんな花畑で幻想郷を染め上げよう・・・・・つまるところ、プロポーズ。

 幽香はそんな熱烈な言葉に、言葉を失ってしまった。

 

 さて、セリフを翻訳しよう。

 スパルタクスは向日葵畑の様な幻想郷にしよう、と言いたいのだ。更に言えば向日葵とは叛逆者の比喩としてスパルタクスは扱った。

 つまり、幻想郷を1つにまとめ上げて叛逆しようぜ!

 という事を言っているのだ。勧誘である。

 

「・・・・・・・・・・わ、私なんかで・・・・・いいのかしら?」

 

 しかし、何たる事か。この少女・・・・・風見幽香は、コミュ障で乙女思考で恥ずかしがり屋で家庭的な娘だった。

 

 人を殴ったのはいきなり話しかけられたから驚いて。

 妖怪を殴ったのは襲いかかって来たから。

 残虐だとか言われているのは逆ギレして復讐に来た天狗一行を返り討ちにしたから。

 紫に殺意を向けるのは単純にウザイから。

 

 このように何一つ悪いことをせず、人が来ない事を悲しく思い、時折迷い込んでしまう外来人には人里を教えてあげて、怪我をしていたら薬草で治療してあげるのだ。

 

 ・・・・・そんな彼女に恋愛経験は無い。誰かを好きになった事はあるが、その名声と性格が邪魔をして近付けず、遠くの花の影からそっと見守る。その程度の経験だ。

 更に言えばそれが長ーく続いたもので、こうして怖気ず近寄ってきて、挙げ句の果てにプロポーズなどされてしまえばイチコロだ。ワンパン、まじワンパンだから。まじ、これマジ。

 と言ったくらい、敢えて乏しい語彙力で強調するほどにはチョロイ。

 

 顔を赤くする幽香に対し、スパルタクスの返答は決まっていた。朗らかに笑って答える。

 

「当然である。共に歩もうでは無いか同志よ!はははは!」

「〜〜!!」

 

 私なんかが彼女で平気?という問に対し、当然だ、一緒に生きよう。と返された。少なくとも幽香はそう考えている。

 

 そして、スパルタクスの中では一つの方程式が組み上がっていた。

 

 叛逆に誘う→叛逆者増える→圧政者倒せる→みんな幸せ。

 

 狂った思考は、決して少女の恋心を弄んでいるなどと考えてはいない。

 と言うか、スパルタクスとて理解しているのだ。見目麗しい少女達が、自分のような『朗らか抱擁系マゾヒスト筋肉ダルマ』に恋などする訳が無い、と。

 

 故に、こうして勘違いは起きてしまった。

 とは言え強力な仲間が増えたことに変わりはない。

 スパルタクスは満足そうだ。幽香もとても嬉しそうにしている。なら、いいでは無いか。

 

「あ、その!」

「なんだね?同志よ」

「む・・・・・その同志はやめて欲しいわ。幽香って呼んで」

「わかった。で、何か用かね幽香」

「えっと、そ、そのね・・・・・」

 

 幽香は一大決心をしていた。この短い時間でだ。

 そう、同居である。

 初心な生娘であることがバレバレである。まだ距離感が掴めないのだ。普通なら付き合ったら少しづつデートを重ねていき、その果てに同居は成る。

 

「す、住む場所はあるのかしら?スパルタクス」

「ふむ・・・・・」

 

 とは言え、スパルタクスに強要する訳には行かない。幽香は我慢した。そしてそれは大正解だった。もしも「スパルタクス、貴方はここに住みなさい。いえ、住め!」とか言っていたら死んでいただろう。

 

 スパルタクスはスパルタクスで考える。

 住む場所はあるのか。スパルタクスは首を横に振るだろう。なにせ自分の家は無い。正直無くてもいいのだが・・・・・無いのは不便ではある。それもまた苦境、とか言って楽しめる男ではあるのだが質問には答えなくてはならない。

 

「宿泊できる場所はある。しかし、私個人の家は無い。だg「本当!?」ウム」

 

 だが、と続けようとしたスパルタクスの話しに割って入り、幽香は興奮したように再確認する。スパルタクスは再確認されたので頷づいた。ただそれだけだ。

 

 幽香は考えた。スパルタクスは外来人で、宿に泊まっている・・・・・なら、もう家で一緒に住んでも問題ないよね!と。

 

 問題だらけの穴だらけだが、もとより相手はバーサーカー。話など通じないし、通じて見えるのは偶然なのだ。

 

「その、私の家で良ければ・・・・・一緒に住まない?」

「ほう・・・・・」

 

 幽香は己の勇気を振り絞り、言った。

 スパルタクスは考える。

 叛逆者の本拠地に、この向日葵の畑はどうか・・・・・素晴らしい、その一言に尽きた。

 

 実はこの男、迷い込んだ訳ではない。人里で情報収集を行い、圧政者っぽい奴をリストアップ。その後、こうしてやって来た。

 

 だが、風見幽香は安全だとスパルタクスの本能は告げた。しかし、それら情報もあながち嘘という訳では無く、尾ひれがついてまわったのだと理解した。

 

 敵は寄り付かず、人里からの距離も遠すぎることはなく、尚且つ花を扱う能力を持つという幽香が居れば決して敵は近付け無い。

 即ち砦。

 叛逆者の集う砦としては完璧に近い。

 

「ありがとう幽香。感謝する。私は君の同胞だ。君の剣として、盾として!!共にあろう!ははは」

「!!・・・・・ふふ、嬉しいわっ。よろしく、私の剣士様?じゃあ家の中に入りましょう?」

 

 霧雨から新しい剣を貰っていたスパルタクスは、幽香に敬意を表し、戦士として誓いを立てる。

 幽香からすれば重ねて告白されたようなものだ。真っ赤になって、ニヤニヤを隠しきれない様子で家の中に入っていく。

 

 スパルタクスは付いて行くが、ふと思いとどまる。・・・・・このまま進むと頭をぶつけてしまう。

 スパルタクスは屈んだ。しかし、どうした事か。進めない。

 

「む・・・・・?」

 

 スパルタクスはチラッと横を見る。肩だ。肩が引っかかる。扉が小さく、入り切らないのだ。

 スパルタクスの頭は高速回転した。この状況を打破するには・・・・・!

 そしてついに行き着いた至極真っ当な答え。そう、外せばいい。扉を外せば中に入る事は出来る。

 

「ふんっ!」

 

 ブチぃ!と片腕を引っこ抜く。違う、そうじゃない。

 そして外に投げ捨てる。だが、ただ投げ捨てては向日葵畑が汚れる。なので全力で遠くへ。何も考えず全力で投擲した。だが、そうじゃない。

 

 その後幽香の可愛らしい悲鳴が上がるが、それはまた別のお話し。

 

 

 

 

 

 

 

 妖怪の山付近。スキマが開く。

 

「い、居ないわよね・・・・・?」

 

 怯えながら顔をチョコンと出したのは、ヘナチョコゆかりんだ。

 右よし、左よし、もう1度右よし。

 

「本当に居ないわよね?」

 

 念のためにもう1セット。

 しかし、スパルタクスは居ない。紫はホッとして、豊満な胸をなで下ろす。

 

 しかし。

 

「んにゃぁ!?」

 

 スキマから出た途端、何かが頭にクリーンヒットした。

 

「何なのよ!!誰よこんな腕投げた奴!・・・・・腕?」

 

 憤った後、冷静になる。目を点にして、手の内にあるその筋骨隆々な青白い腕を見た。

 

 ─────めっっっっちゃ見覚えがあった。

 

「ひぃいいいい!イヤァァァアア!!」

 

 紫は一目散に逃げ出した。

 

 スキマを開いて家に猛ダッシュ。

 

 襖を開いて押し入れから敷き布団を先攻ドロー。掛け布団を後攻ドロー。

 

 布団にアクロバティックに侵入し、夢の中にボッシュート。

 こうして、妖怪の山での会議は後回しにされるのだった。

 

「って紫様何してるんですかーーーーー!!!」

「だってだってぇ!!怖いのよ!恐ろしいのよ!!外出れなぃいいい!!」

 

 ヘナチョコゆかりんは部屋に閉じこもり、結界を張って恐怖に耐えた。

 耐えて、耐えて、耐えて・・・・・いる内に眠ってしまい、更に藍に怒られることになるが・・・・・それもまた別のお話しだ。

 









ゆかりんとゆうかりんの関係。

ゆかりん、ゆうかりんの本性(ド親切)に気が付く。
→仲良くならなきゃ!私の癒しを増やすのよ!(行動開始)

頑張って近づくが空回りし続け、結果としてウザがられ、更には「八雲紫を追い払う凄い妖怪が居るらしい」と腕自慢のバカ妖怪達がゆうかりんの元に押し寄せ、ゆうかりんはブチ切れた。

ゆかりんはまだ仲良くなる事を諦めていない。
が、スパルタクスに取られた。

悲しいね。


誤字脱字、コメント、評価、お待ちしております。


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翼のもげたえんじぇるぅ〜♪

アッセイ!

大暴れは次回だったぜ!
平和!大事!圧政!大切!





 スパルタクス()は人里に来ていた。

 

 しかし、どうした事だろう。人気(ひとけ)が無い。皆一様に窓やドアを閉め、家の中に閉じこもっている。

 

 スパルタクスは考える。もしや、圧政者がなにかしたのかと。

 しかし、しかしだスパルタクスよ。気が付け、お前の隣に居るのは誰だ。恥ずかしそうに居心地悪そうにしているのは誰だ!

 

 そう、風見幽香だ。

 

 そりゃあ、みんな息を殺す。何せあの(・・)風見幽香だ。残虐にして極悪非道。妖怪の中の妖怪。人は食べないけど殺します。そんな大妖怪様であらせられる。

 

「む?」

 

 そして、そんな現場に居合わせた、可哀想な男が1人。

 

(噂は本当だったのか!!ま、まさかスパルタクス・・・・・コテンパンにのされて人里に案内をさせられているのか!?)

 

 霧雨である。

 可哀想な霧雨。目を覚ましたら魔理沙の泣き声が聞こえ、何があったのかを尋ねれば、「スパルタクス様が居ない」と泣いているでは無いか。霧雨の心は深く傷付いた。

 もうなんて言うか、1晩を共にした男に、娘が「様」とか付けちゃう辺が物凄い傷付いた。

 

 それと同時にスパルタクスに怒りを抱き、探し歩いていたのだ。

 そして、風見幽香がスパルタクスと共に人里に向かっていると聞いておっかなビックリやって来た。

 

 そして今、スパルタクスに見つかったのである。

 

「おぉ!商人よ。何かあったのか、人々が見当たらないのだが」

 

 スパルタクスが笑顔で聞いてくる。

 

(お隣のせいだよッッ!!お前が連れてきたからだろ!?)

 

 霧雨は心の中で絶叫した。しかし、スパルタクスは他人のこころの中など読めない。

 

「ね、ねぇ。やっぱり帰った方がいいと思うのよ」

(はい是非帰ってください!!もう来ないでください!!今にも怖すぎてチビりそうですわぁ!!)

 

 霧雨は天啓を得た気分だった。幽香は里を滅ぼしに来た訳では無いようだったからだ。

 

「ふむ。商人よ、怖いか」

「は、はい。怖いですはい(やめろバカ!変な事言ったら殺されるかもしれないだろ!?)」

「ふーむ・・・・・であれば出直そう」

 

 スパルタクスは引き下がった。当然だ、弱者に恐怖を与えて何になると言うのか。

 そして、スパルタクスは考えた。風見幽香は叛逆者である。その風見幽香を受け入れないと言うことは、圧政者に逆らうと殺される・・・・・などの現状が邪魔をしているのだと。

 ならば、それを取り除く為に動かなければ叛逆は成らない。

 

「あやややや!天下の風見幽香様が、こんな人里に何の御用で?」

 

 スパルタクスが笑顔でそう考えていると、上からそんな声が降り注ぐ。

 

 3人が上を向くと、太陽による逆光まで計算に入れパンツが見えないように飛んでいる天狗の姿が。

 手にはメモ帳と羽根ペン。ニマニマとした表情が、からかっている事を雄弁に物語る。

 黒いショートヘアーをふよふよと風に揺らし、3人を見下ろしている。

 

 幽香はそっと視線を逸らし、スパルタクスは目をカッと見開き圧政者かどうか見定める。

 しかし、可哀想な霧雨は顔を真っ青にして慌てだした。

 

「て、天狗だ、天狗が出たぞぉおおおお!!」

 

 霧雨の一言をきっかけに、里の至る所から「天狗が来た!」と叫び声が連鎖する。

 これは天狗から子供を守る術である。

 

「子供を攫われるぞ!早く家の中に入るんだ!!」

 

 幽香が来た時点で子供は外に出ていないが、そこは置いておこう。

 

「はぁ、人間もつまらないですねぇ。私がそんなことするわけ──────」

「死ね────圧政者よ!!」

「あやや!?」

 

 はい。圧政者認定です。

 飛んでいるし、攻撃する素振りも見せない。故に、この間話した例外に属す。

 不意打ちまがいの攻撃だが、圧政者は強者、叛逆者は弱者。如何なる手を使ってでも互いに殺しあわねばならない。

 

 突如の攻撃。しかも、人間とは思えないほどの速度で振るわれた一撃は、天狗の翼を切り落とす。

 スパルタクスは博識だ、鳥は翼を落とされると飛べないのだ。

 

「うぐ・・・・・、な、何をしやがりますか人間様ぁ。わ、私がそんな、人攫いなんてするわけ無いでしょう?」

「私の名はスパルタクス。圧政者よ、今、コロス」

「うっわぁ、人の話しを聞かない顔をしています」

「か、カッコイイ・・・・・」

「えぇ・・・・・!?」

 

 怒れる男、スパルタクス。

 痛がる女、烏天狗。

 惚気る女、風見幽香。

 置いていかれる霧雨商人。

 

 場は、混沌としていた。

 

「で、では、私はここでドロンしますね〜」

 

 烏天狗は頭の後ろを掻きながら、あはは〜と場を後にしようとするが、スパルタクスはカバディ並の動きで回り込む。

 しかし、この烏天狗は強者だった。

 

「は、ははぁ〜!!」

 

 土下座である。

 スパルタクスは固まった。土下座とは、この地域における最大の謝罪。それを圧政者がするという事は、地位を捨てるか、又は悔い改めるという事だと、スパルタクスは考えている。

 

「今です!!!」

 

 しかし、懐から紅葉の葉っぱの様な扇を取り出した天狗は物凄い風圧と共に、空に飛んだ。

 スパルタクスは博識だ、モモンガは風に乗って飛ぶ。つまりアレは鳥とモモンガのハイブリットだったのだ。

 

「─────させないわ」

 

 しかし、烏天狗の不幸は続く。何せ、スパルタクスはあるものを手に入れていた。

 

 それは───────遠距離攻撃手段だ。

 

 風の力で空を飛ぶ天狗に、幽香は手を向ける。するとどうだろう。地面の至る所から花々が咲き誇り・・・・・ビームを放った。空を覆う程の無数のビームだ。

 

「あやっ!?」

 

 残念ながら、翼が片方ない状態では満足な飛行は出来ない。風による加速は出来てもコントロール出来ないのであれば、乗用車にロケットブースターをくっつけるのと変わらない。つまるところ、避ける事は出来なかった。

 

「ぁぁぁぁあああ!!たたた、お助けおー!!」

 

 手足をバタバタさせながら落ちていく天狗。そこに、幽香は傘を向けた。ジ・エンド。さようなら天狗さん、決して悪い人ではなかったよ。そんな気持ちが霧雨の中に芽生えてしまうほど、その次の光景は悲惨だった。

 

 ─────────────!!!

 

 極太のビームが落下する天狗を飲み込んだ。

 

「おぉ!素晴らしいぞ幽香!!」

「え、あ、ふふ?そそうかしら?」

 

 天狗の不運は続く。

 あの一撃は手加減をされていた。死なない程度に、けれど動けない位の威力に調整されていたのだ。

 風見幽香にそんな技術が・・・・・?と疑問に思った同志諸君。よく考えても見たまえ、一人暮らし、彼氏なし、コミュ障。・・・・・ここまで揃った時、不器用なんて追加されれば、もはや目を当てることは出来ない。

 

 風見幽香は器用な子だ。人付き合いを除いて、と先に付いてしまうが。畑しかり、裁縫しかり、料理しかり。とても繊細に熟す、まさに妻にしたら幸せになれるランキング堂々の何位かには入れるだろう。

 

「ぅ、うぅ・・・・・やら、れた・・・・・!!」

 

 がくり、とわざとらしく倒れる天狗。彼女は今この瞬間でも生き残る術を探し、必死にあがいている。

 

「ふむ・・・・・圧政者はどこにいる?」

 

 スパルタクスが烏天狗の頭をつかみ、持ち上げて問い質す。凄まじい光景だ。妖怪が人間に頭掴まれて脅迫されてるのだから。

 おい、嬢ちゃん、情報持ってんだろ?とスパルタクスは烏天狗を振り回す。

 

「あやややややや!?分かりました分かりました!?言いますからァ!!!」

 

 振り回されながら、烏天狗は考えた。

 

 圧政者なんか知るか。むしろ適当に強いヤツの名前を言って、倒してもらおうこの人間。と。

 

 実に素晴らしい判断だが、選んだ相手が悪かった。

 

「博麗!博麗の巫女ですぅ!」

「否!」

「あがっ!?」

 

 地面にドーン。

 後頭部から地面に叩きつけられた烏天狗は、目をグラグラと泳がせ、気絶する寸前だ。

 

「・・・・・ねぇ、天狗さん。あなたのボスは妖怪の山にいるのよね?」

 

 幽香がスパルタクスの怪力にメロメロになりながら、言葉の足りないスパルタクスの援護に回る。

 ちなみに幽香は、スパルタクスが言う圧政者とは、幻想郷における大勢力の頭だと認識しており、それらを潰すのは幻想郷を花畑で染め上げるため・・・・・2人の愛の巣を完成させるためだと思っている。

 

「・・・・・・・・・・ぁ、・・・・・は、い・・・・・」

 

 最早ふざける事などできなかった。顔を抑え付ける岩のような手、その指の隙間から見えるスパルタクスの顔は・・・・・笑顔であった。

 その笑顔のなんと恐ろしいことか。全身が恐怖に支配され、失禁をしてしまう。

 

 幽香が、そっと目を逸らしつつ、能力で花を作り出して隠してあげる。幽香は乙女。目のまえで女の子が粗相をしたらフォローしてあげるのだ。

 さらに言えば、花達は養分を貰えるので一石二鳥・・・・・なのか?

 

「ふむ・・・・・妖怪の山か。それは何処にある」

 

 スパルタクスは笑顔で天狗に問う。天狗は震える手で、妖怪の山を指さす。ここで、スパルタクス1人だったなら他の山を指さしただろう。だが、山の位置を知っている幽香がいる以上、嘘は無駄だと思われた。

 

「あ、そっちだったの?私行ったことないからわからなかったわ。・・・・・嘘じゃないわよね?」

 

 知らなかったんかい!天狗が内心叫び、山の皆に謝罪する。

 

「よし、では行くとしよう。圧政者よ、貴様は逝け」

「あなた、その天狗は道案内にした方がいいんじゃないかしら?」

「む、そうであるな。では、行くぞ」

 

 スパルタクスが剣を振り上げると同時に、幽香の何気ないフォロー。決して目の前で妖怪が死ぬのが嫌だった、なんて理由ではなく、言葉にした通りの理由しか無い。

 

「ぁ、やぁ・・・・・これ、は、しかられ、そうです・・・・・ね」

 

 スパルタクス担がれた天狗が、ボロボロになりながらそう言った。

 さて、叱ってくれる上司は残るのだろうか。

 

 








あややがボロボロですが、生きているので問題はありません。

あやや・・・・・一体何命丸なんだ・・・・・!


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白狼天狗と青白筋肉


アッセイ!!

遅れたが許せ(圧政者感)。






 一人の少女が白い髪を揺らしながら、緑が燃ゆる山を駆ける。

 少女は白狼天狗、名前を犬走椛。通称もみもみである。

 

 椛に与えられた仕事は巡回。彼女ら天狗の総本山、八百万の神が住まう神聖なる山。

 

 人呼んで(・・・・)『妖怪の山』。

 

「はぁ・・・・・暇」

 

 椛はいつもの調子でそう呟く。能力である千里眼をフルに活用し、川やら花やら、好きなものを見る事が出来るのだが・・・・・椛はバカが付くほどの真面目だ。それらは休憩時間にしか見ない。

 

 暇だ、と言っているのは烏天狗の上司、射命丸文に聞かれているかも知れないからだ。射命丸は会うたび会うたび

 

「暇じゃないんですか?ねぇねぇ、暇じゃないんですか?」

 

 と聞いてくる。

 だから、暇です、と時折呟いておけば射命丸は

 

「へぇ〜そうですかぁ。あやや、私は忙しいので帰りますね!」

 

 と帰っていく。とてつもなくウザイが、仕方ない。上司からのセクハラやパワハラに堪えているようでは白狼天狗は務まらない。

 

「・・・・・異常なし。観測地点を変える」

 

 視界の中の動くものの殆どは鳥やら動物ばかり、誰も妖怪の山に入ろうという者はいないらしい。

 椛は珍しい事もあったものだ、と少し首を傾げる。最近になって加速的に増えた『凶暴な中級妖怪』は妖怪の山の山に頻繁にやってきたと言うのに。

 

「もーみーじー!」

「・・・・・?」

 

 椛を呼ぶ声が後ろからする。椛が振り向けば、そこには射命丸とは別の烏天狗が瓢箪を片手にやってきた。ツインテールが特徴の可愛らしい天狗だ。

 

「喉乾いたでしょ?どうせ椛の事だし、川に行っても水を飲まないで監視してるんだろうなーって思ってさっ」

「・・・・・ありがとうございます。」

「いいよいいよー。ところで、人の様子はどう?」

 

 この烏天狗はよく椛に人里の様子を聞きに来る。人は下等生物、と言うのが妖怪の山共通の認識だが、何処にも変わり者はいるのだ。

 

「人里ですか・・・・・ふむ。・・・・・どうやら何かあった後の様ですね」

 

 椛が千里眼を使い人里を見れば、何やら人々が集まっている。その中心にはいくつかの黒い羽が落ちており、椛はそれが射命丸のものだと断定した。

 

「へぇー、例えばどんな事かわかる?」

「えっと、恐らくは文さまが悪戯をしたのかと」

「文が?どうしてそう思うの?」

 

 ツインテ烏天狗の質問に、椛はアッサリと答える。そんな椛に烏天狗は驚いたように聞き返す。

 

「文さまの羽が幾つか落ちていますから」

 

 これまた間を置かずアッサリと確信を持って答える椛。

 

「ほほー、凄い・・・・・ぇ?その距離から見分けつくの?と言うか、もしかして烏天狗の羽・・・・・見分けつく感じ?」

「はい」

「・・・・・・・・・・凄いわね」

 

 もはやドン引きである。

 目の前のバカ真面目に烏天狗は何とも言えない顔をした。

 

「ありがとうございます。はたて様、そろそろ私は巡回に戻りますので」

「え、あ、ごめんなさい!じゃ、あんまり無理しちゃダメだよー!」

 

 お礼を言って切り上げようとする椛に、はたては一瞬止めようとするが、椛の尻尾が垂れ下がっているのを見て別れることにした。

 最後に手を振りながら飛び去ったはたてに、椛は溜息を付く。

 

「(嫌いではない。・・・・・少し騒がしいですし、無礼講となれば大天狗様を引っぱたいたりと・・・・・もう少し弁えを持った方がいいと思うのですがね)」

 

 うん、真面目である。

 

 さて、物語を進めよう。どうやって?このままでは椛の私生活を盗み見る変態?

 大丈夫、我々よりも更なる変態が向かってきている。

 

 名を─────────

 

 

 ─────────スパルタクス(筋肉ムキムキマッチョマンの変態)

 

 

 

 

 

 

 

 視界に僅かに映る、青白い影。

 

「っ」

 

 ハッとしてそちらを見れば、何者かが妖怪の山に侵入を試みている。

 

「何者・・・・・っ!?」

 

 何者だ、そう言おうとして言葉が詰まる。見覚えのある黒いスカート、黒い羽、下駄。

 

「文さま・・・・・!」

 

 青白い肌の巨漢が、射命丸を担いでいた。その顔にはいやらしい笑みが浮かんでいる。

 

「(何をするつもりだ・・・・・。っ!ま、まさか)」

 

 もう何かされた後なのでは?と頭を過ぎる。

 が、そこまで考え、別にそこはどうでもイイと切り捨てる。問題なのは、射命丸をどうこうできるほどの実力を持った何某かが妖怪の山に攻め入っている現状である。

 

「っ!?」

 

 そして椛はズーム倍率を下げ、視野を少し広くしたことによって青ざめた。

 男など、些細な問題であった。

 

 その隣、そこに・・・・・バケモノは居た。

 

 風見幽香。四季のフラワーマスターが何故ここに!椛は焦る。しかし、目が離せない。

 目を離しては死ぬ、そんな気がした。

 

「・・・・・ひっ!」

 

 幽香の目が確かに椛を捉えた。

 

「(ば、化け物め・・・・・!千里眼でやっと補足できる距離なのに・・・・・!!)」

 

 恐怖に青ざめ、2、3歩と後ろに退る椛。駄菓子菓子、彼女はバカ真面目。

 自身が殺される覚悟で─────吠えた。

 

「アオォォォォオオオオオン───!!!」

 

 遠吠えの意味は『警告』。強敵が現れたと山全体に伝えるための命懸けの叫び。

 

「あら?折菓子を持ってきたのに」

 

 真後ろから声をかけられる。それは妖怪の山では決して聞かない声だ。

 椛は青ざめた顔を更に青くする。まさか、真後ろから声がするはずがない。

 

「さっき見られている気がしたから、お花に聞いたらここに居るって言われたのよ。で、どうかしら?ほら、人里で買ってきたのだけれど・・・・・ねぇ、聞いているかしら?」

 

 幽香は人付き合いが苦手だ。現在、物凄い緊張しているが、頑張って声の震えを抑え、高圧的にならないように丁寧に言葉を選んで話している。

 しかし、緊張する余り、その莫大な妖力が溢れ出ていた。

 

 まるで全身が鷲掴みにされたような感覚に襲われ、椛は咄嗟に剣を抜く。

 

「?」

 

 これに動揺したのは幽香だ。あれ?私何か間違えたかしら・・・・・と顔に書いてある。

 しかし、首を傾げたその動作を椛は「そんな棒切れでどうするつもりなの?」と言う強者の余裕(・・・・・)と受け取った。

 

「ぅ、ぅあああ!!」

 

 恐怖を叫びでかき消して、椛は斬りかかった。しかし、幽香は動かない。首を傾げた姿勢は、まさに「首を狙って下さい」と言わんばかりだ。

 もちろん幽香は思考がショックによりショートしているだけで、首を差出している訳では無い。

 

「え?」

 

 漸く現実に戻った幽香だが、刃は目の前。流石の風見幽香も、この姿勢から防ぐことは出来ない。焦りが体を支配する前に──────彼は来る。

 

「ふぅん!!」

「ぎゃぅん!?」

 

 幽香に迫る刃は、下から掬い上げる様に放たれた一撃に弾かれる。弾かれた衝撃は凄まじく、椛は空中で四、五回回転しながら地面に突っ込んだ。

 

 幽香は自身を守ってくれた剣士様に目をハートにしながら胸の前で手を合わせる。

 

「弱者の盾となることこそ、私の使命である。大丈夫か幽香よ」

「はいっ!スパルタクス様ぁ!」

 

 なんだこいつら。と紫がみたら言うだろう。最も、紫が近くに隙間を開いた時点でマスパルタクスが飛んでくるが。

 

「ぐっ・・・・・ここは、通さない!!」

「ほう、闘士かっ。盾に剣!そして戦う意思を持つのならそれは闘士。いいぞ、いいぞぉはははは!!」

 

 スパルタクスのテンションが上がった。

 

 目の前には圧政者が雇った闘士が居る。圧政に与した戦士を打ち倒し、圧政者を打ち倒す。まさに叛逆。

 相手が用意した戦力全てを打ち倒して、初めて武力による叛逆は達成される。

 

「こい、獣の闘士よ。君の剣は、私に傷一つ付けられまい」

「なめるなァ!!」

 

 スパルタクスは自分の感想を伝えただけだが、それは椛を怒らせるのに十分なものだった。椛が立ち上がる。

 白狼天狗の犬走椛には、数少ないプライドがあった。

 

 それは剣の腕だ。

 

 武器を持つ、それは妖怪にとって弱者の証(・・・・)。己が怪力、己が異能、己が知能こそが妖怪たる現れ。人間を凌駕する怪物たる所以。超常の具現。

 

 故に、人が脅威から身を守るために使用する哀れな棒切れを使うなど、妖怪の恥晒しだ。

 

 だが、白狼天狗は武器を持つ。盾を持つ。

 

 なぜなら彼らは弱いから。個の力が劣るから。

 白狼天狗は人よりも強い。しかし他の妖怪と比べれば────。

 

 だからこそ、恥知らずだからこそ磨いた。

 

 研ぎ澄ました。

 

 恥の上塗り?それでいい。厚顔無恥で構わない。蔑まれようとすまし顔で居てやろう。

 

 彼らは戦士だ。

 

 白狼天狗は弱い。しかし、侮るなかれ。

 人類がそうであるように彼等もまた不屈であり、強かである。

 

「はあぁあ!!」

 

 妖力を練りこみ、弾幕を放ちながら接近する。

 椛の考えはこうだ。弾幕を放てば相手は避ける。もしくは防ぐ。その瞬間に後ろに回り込み、首を断つ。

 

「(時間など掛けない。生かしてやる道理もない!)」

 

 弾幕は寸分違わず狙った場所へ飛来する。しかし、椛の予想は尽く外れた。

 

 避け無い(・・・・)防がない(・・・・)

 

 スパルタクスがやった事はそれだけだ。いや、何もしなかった。しかし、それだけだと言うのに椛は後方に飛んだ。

 

 獣の本能が危険だと信号を送ったのだ。

 

「(危ない・・・・・!あのまま行けば抱きつかれていた)」

 

 スパルタクスの体を見て、抱きつかれた後の自分はどうなるか、など考えなくてもわかる。

 

 椛は孤を描く様に走り、スパルタクスに接近する。

 

「(足を断ち、機動力を削いであの長身を屈ませ、首を狙えば・・・・・!)」

 

 足を掬い上げるような一撃、躱されても続く二撃めが首を断つ。流れるような動作から繰り出される一連の攻撃は・・・・・・

 

「っ!」

 

 防がれる。否、作戦が意味をなさなかった。

 

 動かない。

 

 たったそれだけの行動が、椛の行動を止めさせる。カウンターを警戒して下がってしまうのだ。

 

「終わりかね?」

「なっ」

 

 もう終わりなのか、それが全てなのか、全力なのか。

 スパルタクスは問いかける。微笑み(スマイル)を決して絶やさず。

 

「き、貴様・・・・・・!」

 

 そして椛もようやく気がついた。この男は、スパルタクスはカウンターを狙っていたわけではなく、全てを受け止めるつもりだったのだと。

 

「ならば、叛逆の時だ。」

 

 笑みが───────変わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かはっ・・・こほっ・・・うぁ・・・」

 

 椛は死にかけていた。左肩から右太股までザックリと深い傷跡が残っている。

 生命の比重を精神に傾けた妖怪でなければとうに死んでいる傷だ。

 

 そう、妖怪だから生き延びた。

 

 スパルタクスは妖怪と言うものを理解出来ていない。

『この一撃なら相手は死んだ』そう思いこの場をあとにしたのだが、その想定は人間や使い魔(サーヴァント)を相手にしたものだ。

 

「なさけ、ない」

 

 椛は立ち上がる、無骨で分厚い大刀を杖に。

 

「誰か、いません、か!!」

 

 山の頂上は悲惨な有様だった。天狗たちの住まう住居は破壊され、辺り一面が抜け落ちた羽で埋め尽くされている。

 

「そんな、馬鹿な・・・!」

 

 引きずるようにして登ってきたのに、これではあんまりだ。

 大天狗はどうした、天魔はどうした。あの威張り散らした上司たちは何をしている。

 疑問が浮かび、そして解消されていく。

 

 ───目の前に、見るも無惨な死体があった。

 

 頭が弾け、体は縦に裂けている。

 

 大天狗だった。

 

「化け、ものめ・・・!!化物め!!!」

 

 椛は吠える。吠えて、吠えて、吼える。

 

「どこだ、どこですか、どこにいるんですか!!」

 

 怒りと不安と悲しみと、全てを綯い交ぜにしたような気持ちの悪い心境で、嫌味な烏天狗を探す。

 

 生存は絶望的だった。

 

「文さま、文さま!文さま!?」

 

 瓦礫を退かし、地面を掘り返し、全てを探した。

 余りにも高濃度な魔力が立ち込め、鼻が利かない。

 

「(そんな・・・もう、会えないの・・・?)」

 

 悲痛な叫びは声にならず、膝から崩れ落ちる。

 出血しすぎた。血が足りないのだ。いくら生命が精神に寄っていたとして、生命活動には肉体は必要不可欠。

 

 もう、椛の体は限界だった。

 

「あや、や。どう、やら、負け犬を見つけた様ですね」

 

 ふと声がした。だがきっと空耳だ。朦朧とする意識の中、最後の気力で振り返る。

 

「さぁ、天魔様の所に、逃げますよ───椛」

「文・・・・・・さま・・・・・・?」

 

 文に肩を抱かれ、椛は歩き出す。意識が途絶えようとするが鞭を打つ。

 上司に、無茶をさせられない。

 大好きな人に、迷惑は掛けたくない。

 

 真面目な少女は────目を閉じた。

 

 いつか、いつの日か、かの剣士を打ち倒すことを夢見て。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










さり気なく逃げる烏天狗の鏡。射命丸さんは流石やでぇ。

次回!スカーレット卿の苦悩。(まだ書いてないので変わるかも)


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スカーレット卿の憂鬱


アップデート?で色々と追加されましたねぇ。色がつけられるようになったのは驚きです。
色々試そうかなと思ったけど、今回はお試しで最後の方に少し入れてます。色は多用したら変になりそうですね。重要な部分だけで行こうと思います。

今回はスパルタクスの活躍は特にないよ!

あと文字数少なめです!済まない





 男は真祖と呼ばれた。

 

 人々がとある人間────ウラド・ドラキュラを血を吸う悪魔だと蔑み、それを吸血鬼と侮辱した。本人は決して血を飲んだ訳でもないが、彼の所業がそうさせたのだ。

 

 しかし、ウラド・ドラキュラは吸血鬼では無い。ウラド・ドラキュラ公は列記とした人間である。しかし人々は確かに恐怖した。

 

 ドラキュラ公に、吸血鬼に。

 

 そんな畏れの感情は暗闇にて密に集まり、やがて人の形を形成した。

 

 紅い眼をした一つの種族。新たに誕生した怪物。人々はその怪物による被害が増えるにつれて、更に畏れ慄いた。

 

 架空の存在であった吸血鬼は、異例の速さで妖怪となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな真祖のスカーレット卿は、凄まじい力を持つ吸血鬼だ。

 ウラド公が授かった異名「ツェペシュ」を模したかのような力。

 

『ありとあらゆるものを貫き穿つ程度の能力』

 

 あらゆる防御を突破しうる究極の一点突破。そんな一撃を放つ事が出来る。

 彼は強い、当然だ。天狗に近い速度、鬼に近い力、魔法使いのような魔法適性。

 

 ありとあらゆる面において優れた力を持つ吸血鬼が、それら全てを『防御不能の一撃』に変えることが出来るとすれば・・・・・・弱いわけが無かった。

 

「ふふふははは!吾輩に従えばその命は奪わんでやろう!!さぁ、吾輩に下るがいい」

 

 多くの中級妖怪達は、そんなスカーレット卿の強さに恐れをなして庇護下に入った。反抗したものは殺され、そしてそれを止める人物は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

「やはり、おかしい」

 

 スカーレット卿はそう呟いた。思わず出てしまったというような、そんな感じだ。

 彼は現状を怪しんでいた。何を、と言われれば、大した邪魔が入らない事だ。

 

 確かに、吸血鬼が誰も戻ってこないのは驚いた。しかし、妖怪の賢者と呼ばれる八雲紫を相手取っているのだ。その程度なら有り得るだろう。

 

 だが仮に八雲紫に吸血鬼達を殺されたとして、何故自分を邪魔しないのか。

 

 それがスカーレット卿には分らない。

 

 本来ならば部下の吸血鬼達が中級妖怪を襲い、味方につける計画だ。それをスカーレット卿が自らやっているに過ぎない。確かに速度は落ちるが確実性は増す。

 

 止めにこないはずがないのだ。

 

「(まさか腑抜けているのか?)」

 

 スカーレット卿は考えを巡らせていく。八雲紫以外にも敵対勢力は存在する。

 

 天狗だ。

 

 妖怪の山に住む天狗達は、数といい統率力といい、吸血鬼と真正面から戦える勢力であることは間違いない。

 中級妖怪達を掻き集めている今、彼らが動かない道理は無いのだ。

 妖怪を集めるということは即ち、戦争を起こすための兵を集める事だ。

 

 敵軍が自軍のお膝元で軍隊を編成しており、自軍にはそれに対抗する戦力がある。

 ならばどうするか、など考える必要も無い。より強大な戦力を得る前に潰すのだ。

 

 その程度天狗たちに分からないはずもない。

 

「(ならば・・・・・・なぜだ?)」

 

 スカーレット卿は考える。

 

「(吾輩は泳がされているのか・・・・・・?だが、だとしたら何故だ?)」

 

 しかし、スカーレット卿は考えていない事があった。

 自分があまりにも強く、やっている事が明らかに目立ち、尚且つ悪い事だから。気がつけなかったのだ。

 

『自分が忘れられている』

『自分よりも先に解決しなきゃいけない事がある』

『やべぇ人妖のバランスがやべぇ』

 

 そう、彼は忘れられていた。

 仮に覚えていたとして、八雲紫と妖怪の山からはこう思われることだろう。

 

 山「あれ?スパルタクスと比べると可愛いもんじゃね?」

 

 紫「それよりもバランスやばくね?妖怪の山損害どれくらい?」

 

 山「不味いですわぁ。正直、吸血鬼は対処いらなくね?」

 

 紫「確かに。中級妖怪達が徒党を組んだところで一掃すればいいね」

 

 山「え?きゅうけつき?なにそれって感じですわぁ。人間怖いわー」

 

 紫「中級妖怪達増えすぎてるし間引きできて一石二鳥じゃね?人間と言うか笑顔筋肉が怖いんだけど」

 

 山「新人に掃除任せるかぁ」

 

 紫「そうねー」

 

 実際、こんな会話は無かった。なにせスパルタクスが未然に防いでいる。だが、概ね彼らの意見としてはこんな感じに違いない。

 

「(だが・・・・・・仮に泳がされていたとしても計画は続行する。いや、せねばなるまいよ。このスカーレット卿の名を世に知らしめるためには)」

 

 彼は知らない。もうすぐその原因がやって来ることを。

 

 

 

 

 

 ドゴォンッッッ!!

 

 

 

 

 爆音が響く。

 

「なんだ!?」

 

 驚愕し、しかしスカーレット卿は即座に理解した。

 

 ─────────襲撃だ。

 

 油断させた後に攻め入るつもりだったのだと。おそらく外には空を埋め尽くすほどの天狗と、そしてあの八雲紫が居るのだろう。

 

 そう考えてスカーレット卿は広い廊下を飛んで移動する。空気を貫く矢の如く、彼は飛翔する。

 

 音の出処は何処だ。吸血鬼の優れた聴力を全力で使用し、周囲の音を探る。

 そうすれば妖精のメイドやゴブリン達があわてふためきその現場へと向かっている音を聞き取った。

 

「そっちか───!」

 

 どうせ屋敷は跡形も残らないだろう、とスカーレット卿は壁を突き破る。

 何度も何度も壁を貫き、やって来たのはこの館、紅魔館のホールだ。

 

 二つの階段が伸びる、城のような作り。赤いカーペットが敷かれ、月を象ったステンドグラスが正面にデカデカと存在している。

 このステンドグラスは月の明かりを室内に届かせるための強力な魔道具だ。ここは玄関ホールでありながら、さながら処刑場であった。

 

 スカーレット卿はそこに一人の男を発見した。重厚な扉を突き破ったのだろうか、扉は破壊されており、男は地面を抉りながら滑り込んできたようだ。男は倒れており、しかし何故か笑っていた。

 

 ひと目でわかる狂人に、スカーレット卿は話しかける。

 

「貴公は八雲紫からの刺客か何かか?」

 

 一般人からすれば唐突な話で混乱するだろうが、それが刺客であれば十分に伝わる内容だろう。

 もとより、話し合うつもりなどないし、殺す気マンマンのスカーレット卿なのだが・・・・・・。

 

「八雲紫っ、圧政者の事か!」

 

 スカーレット卿が八雲紫の名を出しただけで、男の目はギラギラと輝き、笑みがよりいっそう強くなる。スカーレット卿は見抜いた、八雲紫と目の前の男は敵対関係にあると。そして未だに男が生きているという時点で余程の強者だという事も。

 

「・・・・・・では聞くが、吾輩の元に付き八雲紫を倒すつもりは無いか?」

「ほぅ?」

 

 男は今気が付いた、と言わんばかりにスカーレット卿を見る。その目は何かを探っているようで実に不愉快だとスカーレット卿は感じた。

 

「私の名はスパルタクス。叛逆者である。ところで君は─────圧政者だね?」

 

 何かを確信したように、スパルタクスは立ち上がる。

 スカーレット卿も確信した。これは敵だ。いや・・・・・・爆弾だ。とりあえず放り込んでおけば好き勝手暴れる手駒だと。

 

「厄介なものを放り込んだな・・・・・・!八雲紫!!」

 

 スパルタクスが両腕を大きく開き、立つ。「来い」と言っている。スカーレット卿は理解し、けれどその誘いに乗らない。

 彼は狡猾だ、圧政者にして叛逆者でもあり、殺戮者でもあった。

 

「ふん、くだらん。貴公は飛べないのだろう?ならば吾輩は空を飛び、魔法を使うだけで良い」

「ははははは!素晴らしい。だが、それは先日乗り越えた!」

「─────何?まさか貴公、ほかの吸血鬼を倒したのは・・・・・・!」

「私である。」

 

 スパルタクスが言い放った紛れもない事実が、スカーレット卿を警戒させる。

 

「(吸血鬼100体を1人でだと・・・・・・?!いや、待て。闇討ちを繰り返せば・・・・・・ダメだ、斥候として放ったな数人以外は纏まって行動するように命令した。奴らがそれを破るとは思えない・・・・・・つまり、この男はそれらを全て殺したのだろう。)」

 

 スカーレット卿は指先に小さな魔力弾を生成する。そして、その弾に能力を付与した。

 

「仕方あるまい・・・・・・!」

 

 放たれた魔力弾は、空中で四つに分裂し、スパルタクスの四肢を全ての貫いた。その威力は凄まじくスパルタクスの四肢が千切れ飛ぶ。

 

「ぬぅ、イイぞぉははははは!」

「狂人めが・・・・・・ふむ、地下のあの部屋にコイツを放り捨てろ」

「おお!!私を縄で縛るか!!ははははは、圧政、圧政である。より強く縛られ、より強く虐げられた時こそが叛逆の真価ッ!」

 

 スカーレット卿は半目になってスパルタクスを見る。回避されると思っていた一撃はまさかの直撃、更には多少暴れたものの、縄で縛られた後は大人しく連れ去られる。

 

「(何しに来たんだ・・・・・・)」

 

 実は彼、スパルタクスは妖怪の山侵攻中、最奥部にて天魔の本気の一撃でこの紅魔館まで吹き飛んできたのだ。

 天魔は紅魔館と潰しあってほしいなぁーと送り込んだのだ。

 なのでスカーレット卿が考えていた、襲撃という可能性は間違っていない。実質彼らは爆弾を抱え込んでしまった。

 

 

「やっと・・・・・・やっと来てくれた・・・・・・!」

 

 しかしそれも、今までも・・・・・・一人の可憐な少女の願ってきた、微かな希望の現れである。

 

 その日、少女は──────運命(マッスル)に出会う。






マッスルッッッ!!!!!!(大声)


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地下にて膨らむ叛意と狂気


(マッスル!!)
マッスル!!!
マッスル!!!!!

ΣΣΣ≡┏|*´・Д・|┛ダッシュマッチョッチョ


今回の内容は「うー☆」と「フランちゃんうふふ」です。








 コト、コト・・・・・・

 

 硬い床に足音が反響する。ここは地下牢。罪人や躾のなっていない妖怪を幽閉する所だ。

 

 足音が次第に大きくなるにつれて、スパルタクスの目が光を灯していく。

 目の前に圧政者が現れた時、全ての力を振り絞ってこの手足に付いた枷を引きちぎり、一撃の元に殺してやろうと。

 

 しかし、スパルタクスは気が付いた。足音は小さい。警戒して小さくなるのではなく、体重が単に軽い。つまるところ先ほどの圧政者では無いのだろう。

 

 そう結論付け、新たなる圧政者の登場を今か今かと待つ。足音は鮮明になり

 

 コト、コト。

 

 目の前で止まった。

 

「───────ッ!!!!」

 

 全身の筋肉を爆発させるように脈動させ、一瞬にして枷を引きちぎる。次なる障害は鉄格子は────まるで溶けていたかの様にグニャりと凄まじい音を奏でながら捻じ曲がり、スパルタクスは圧政者に掴みかかった。

 

「ひぅっ!」

 

 しかし、掴む寸前にスパルタクスは止まる。

 目の前に居たのは小さな子供だった。素早くその子供を確認したスパルタクスは、その手足に痣があるのを見つけた。

 

「・・・・・・すまなかった。大丈夫かね?」

 

 スパルタクスは自らの行動を恥ながら、少女へと手を伸ばす。その頭を優しく撫でながら、スパルタクスは落ち着いて少女を見た。

 

 青い髪に赤い瞳。薄ピンクの小さなドレスは少女によく似合っている。眼は恐怖に怯え、その体は暴力を知っているのだろう、それら備え萎縮している。

 

「私は君に暴力は振るわないとも。私の名はスパルタクス、君は?」

 

 スパルタクスは明らかな弱者にそう問いかけた。すると、スパルタクスの名を聞いた少女は安心したように顔を綻ばせ、少し微笑む。だが緊張は抜けていない。

 

「わ、私の名前はレミリア。レミリア・スカーレットよ」

「ふむ、レミリアか。良い名だ」

 

 スパルタクスは自身にとって最も柔らかいだろう笑顔を見せる。それは誰が見ても満点花丸をあげたくなるような見事な笑顔だ。きっとどんな人物であれ力が抜けるだろう。それほどに安心させる笑みだった。

 

「・・・・・・!」

 

 レミリアにもそれは効果があったようで、緊張が解けた。しかし、緊張が解けたせいなのか今度は涙ぐむ。

 

「ひっぐ、うー・・・・・・」

「むぅ。」

 

 こうなるとスパルタクスは弱い。どうすれば泣き止んでくれるだろうか。今のスパルタクスに解決策を見出す能力は欠落している。

 分かるとすれば目の前にいるレミリアと言う少女は、圧政を受け、苦しんでいる事だけだ。

 スパルタクスは叛逆者。レミリアを泣かせる圧政者に立ち向かうことはできる。しかしそれが彼女の涙を止める結果となるか、そこまでは考えられない。

 

 故に。

 

「何故泣いているんだね?」

 

 尋ねる。分からなければ、考えられないのであれば直接尋ねれば良い。スパルタクスはバーサーカーだ。意思の疎通は困難。しかし、それはスパルタクスが話しを聞く気が無いからに過ぎない。

 

 スパルタクスは弱者に歩み寄り、寄り添う事ができる。

 

 彼は弱者の為に戦う戦士だ。全ての人よ平等であれと願う優しき人だ。

 その思考がいくら狂っていたとして、その本質は決して変わりはしない。

 目の前に泣く少女があれば、狂気も幾らか治まるというもの。

 

「いっ妹っ、が・・・・・・お父様、に!イジメられててっ、私、助けられなくてっ、ごめんっなさい。フラン・・・・・・」

「そうか、そうであったか!」

 

 スパルタクスは完全で無いにしろ、理解した。あの時であった圧政者、それはこのレミリアという少女の父なのだろう、と。そしてその父は娘達を虐待する圧政者なのだと。

 

 スパルタクスは怒り狂う。治まったはずの狂気は再び膨れ上がり、それは叛意となって彼の体内を暴れ回る。

 

「安心したまえ、レミリアよ。私は─────」

 

 スパルタクスは微笑み手を差し伸べる。

 その眼は爛々と輝き、その闘志は膨れ上がっている。

 だがレミリアを脅すことなくそこにあった。守る、助ける、倒す。スパルタクスのシミュレートは即座に終了した。要するにいつも通りに

 

「────君達を救おう」

 

 最も困難な道を往く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、こっちです」

 

 レミリアがスパルタクスの肩に乗せられながら、地下牢の先を指す。1本の太い道、その左右に計十個の牢屋があった。その奥、更に下に続く階段。レミリアはそこを指さした。

 

 これは余談であるのだが、スカーレット卿は「地下のあの部屋」にスパルタクスを入れろと命じた。

 その部屋こそ、今レミリアとスパルタクスが向かおうとしている部屋だ。

 では何故スパルタクスは変哲もない牢屋に入れられていたのか・・・・・・、それはレミリアの能力によるものだ。

 

『運命を操る程度の能力』

 

 それがレミリアの能力。小石を投じる程度の干渉しか出来ないが、彼女はスパルタクスの運命に小石を幾度となく無数に投じたのだ。結果、スパルタクスはあの牢屋に入れられていた。

 

「ふぅ」

 

 スパルタクスを失うと言うレミリアにとっての大損害は防がれた。

 フランと呼ばれる少女はとても危険であり、スパルタクスがあのまま地下室(・・・)に投じられていれば死んでいた(・・)

 

「ここかね?」

 

 スパルタクスは階段を降り終え、重厚な扉の前に立つ。スパルタクスはその扉が物理的な硬さ以外を兼ね備えていることを見抜く。

 魔力による凄まじい結界や封印が施されている。

 

「少しお待ちください、今封印を・・・・・・」

「フンッ!!」

 

 レミリアが封印を解き、スパルタクスを中に招き入れようとしたその時、スパルタクスの筋肉は荒波の如き唸りをあげて盛り上がる。そしてドアノブを掴むと一気に引っ張った。

 

 バキィン!と言う金属音と共にドアノブが弾け飛ぶ。

 

「む、壊れたか」

「こ、壊し・・・・・・!?」

 

 レミリアが驚愕する。あの扉、そしてその周辺は吸血鬼の筋力ですら破壊できない程に強固であり、更にそこに魔女と吸血鬼の魔法が加わって最早破壊など不可能だと思っていたからだ。

 

「ムンッ!・・・・・・おぉぉおおおお!!」

「えぇ!?」

 

 スパルタクスは扉を押す、当然全力だ。蝶番が悲惨な音を立てて飛散する。扉が音を立てて倒れると、そこには広い部屋が。

 赤やピンクを基調とした可愛らしい部屋だ。

 

「・・・・・・だ、だれ?」

 

 そしてそこに居たのは金髪の少女。これまた赤い小さなドレスに、赤い目。この子がレミリアの言っていたフランだろうとスパルタクスは結論付ける。

 

「私の名前はスパルタクス。君はフランかな?」

「う、うん。フ、フランだよ?」

 

 スパルタクスに話し掛けられたフランは怯えた様に人形を抱きしめ、その赤い瞳をレミリアとスパルタクスに交互に迷わせる。

 

「安心してフラン、助けに来たのよ」

 

 レミリアが嬉しそうにそういった。まだ助かると決まった理由でもないし、確証などあるはずも無いのだが、彼女の中では結論が出ているのだろう。

 

「・・・・・・?どうして?」

 

 だが当のフランは疑問符を浮かべてみせる。彼女は理解出来ていない。

 助けが云々ではない。そもそもの段階で、まずフランはいじめられていると言う自覚など無いし、フランにとっての世界はこの部屋である。

 

 助けって何さ。が、フランの偽り無い本心である。

 

「ふ、フラン、貴女は外に出たくはないの?」

「え?でも外は危険だし、怒られちゃうよ?」

 

 フランは「へんなお姉様」、と首を傾げる。スパルタクスがレミリアを見れば、レミリアは困り果てたような顔をしていた。

 まさか自覚が無いなどとは思っても見なかったのだろう。

 

 だがしかし、スパルタクスは違う。

 

 スパルタクスは沢山のこう言った人物を知っている。

 奴隷として育ち、死ぬまで闘技場、もしくは地下労働をさせられている者は皆こうなる。

 そんな奴隷達に夢を、希望を見せるにはどうすれば良いか。スパルタクスには心得があった。

 

 笑顔で外の景色の話しをし、寝食を共にする。そうすれば「外の世界はなんて素晴らしいのだろう」と夢を見る。自分がその川や山に行ったならどれだけ楽しく、新鮮であろうかと、人は妄想を重ね、やがてそれは不満となり、叛逆心を募らせる。

 

「ふむ、どうだろうフラン。私の話しを聞いてみないかな?」

「えっ!?お話してくれるのっ!嬉しい!」

「あぁ、イイとも」

 

 そこからスパルタクスは、フランとレミリアを連れて近くのベッドに座り(変な音を立てたが壊れはしなかった)語り始める。

 

 それはスパルタクスが生前に聞いた事、体験したこと、美しいと思った、凄いと思った事を並べていく。バーサーカー故に要領を得ない部分も多いが、話すスパルタクスの笑顔に釣られてフランとレミリアも「お〜!」とか「うわ〜・・・!」と想像に胸をふくらませる。

 

 数時間にも及ぶ話しが終わった時、スパルタクスはふと、自分が夢中になって話していることに気が付いた。英霊となり、サーヴァントとなって初めての事だ。自分の事を思い出し誰かに語るのは。

 

 妙な気持ちになりながら2人を見れば、すやすやとスパルタクスに寄り添うように眠っていた。

 

 スパルタクスはそんな2人に微笑み、頭を撫でる。そして自分もゆっくりと微睡みに包まれて行った。

 

 

 誰もが寝静まり、明日への備えを行っている際・・・。

 

──────フラン(狂気)は目を覚ます。






また前回と同じ終わり方してる・・・・・・。

進歩しない系作者ですまない・・・・・・








などと言うつもりは無い!(開き直り)


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笑顔は狂気を紛らわせるか?


僕はね──────シリアスを書きたかったんだ。

でもシリアスはネタ小説では書けない、描く事が出来ないんだ。

どうしてかって?手が動くんだよ、勝手に。心を殺して執筆機械になろうとしても、ゲームに小説、遊びに浮気。・・・・・・そしてハイになって書き始めると・・・・・・シリアスは無くなってしまう。

シリアスが書けるのは期間限定なんだよ(言い訳)

という訳でシリアスなんてものはありません。
最近短くて済まない。






 スパルタクスは目を覚ます。体を襲う痛みと、そして狂ったような笑い声で。

 

「アハッ!アハハッ!」

 

 フランが赤い目をギラギラと光らせて暴れていた。いや、暴れるというよりも、踊りに見える。ただ、少し違うとすればスパルタクスの腕を持って振り回している所だろうか。羞~恥心、羞~恥心と回している。

 

「アハハ!壊れちゃえ!」

 

 スパルタクスが自分の腕を見ればなんと!・・・・・・生えている。

 

 なーんだ、あれば玩具か。ビックリさせないでくれよ。子供は朝が早いんだなぁ、元気はいい事だ!朝ごはんは食べたのかな?歯磨きは?顔は洗ったらかい?

 

 ・・・・・・なんて、スパルタクスは考えているのだろうか?そう思えるほどに彼の表情は優しい。

 

「アハハ!アハハ?あれぇ?起きたの?」

「うむ、おはよう」

 

 スパルタクスの腕らしきものを齧りながら、フランが笑う。

 

「オハヨっ!アハッ、ねぇねぇ!アソボ?」

「ははは、いいとも!」

 

 何故か会話が成立している。

 そして始まる血みどろレスリング!おおっとスパルタクス選手の臓物が弾けたー!

 

「アハッ!面白い!!なんで?!なんで治るの!?アッはは!!」

「ふむ、苦行である。この苦痛こそ我が快感。ふぅむ、だが待てよ?これは圧政か・・・・・・?」

 

 スパルタクスよ気が付くのだ。目の前にはお前の腕で羞恥心踊りながら能力でお前の手足を破壊してくる明らかな圧政者いるだろう。

 

「おお!」

 

 スパルタクス「よっしゃあ、いい事思いついた!」というように声を上げた。そうだ!良く気がついた!そして放たれる最強のスマイル。フランはそのスマイルに見とれ、思わず笑ってしまう!

 

「さぁ来たまえ、フラン」

 

 スパルタクスは両腕を広げ受け止める姿勢になる。

 さて、彼は別に愛情表現をしている訳ではない。ただ単純に「攻撃してくるなら受け止めればいいじゃないか!!」と言う思考に陥っただけである。違う、そうじゃない。

 

「えっ・・・・・・?」

 

 だが、それはフランから見ると違う。

 どれだけの攻撃を仕掛けても、能力を使っても怒らないし、なんと胸に飛び込んで来いと言っている。

「え、何このお父様。実はスパルタクスが本当のお父様だったの?」位には驚いている。

 

「さぁ、おいで」

 

 スパルタクスの父性スマイルに、狂気は吹き飛んだ。と言うよりも別種の緊張に襲われて狂ってる場合じゃなくなったのだ。

 フランが「もうコレパパだわ」と、ゴクリとつばを飲む。

 

「ほ、本当に・・・・・・いいの?」(再確認)

「どうした、来ないのか?」(挑発)

「行く!」

 

 フランがぴょーんとスパルタクスに飛びつき抱きいた。「えへへ〜」とスパルタクスの岩石のような胸板に頭をスリスリするフラン。

 だが、当のスパルタクスは「あれ?なんか違くね」と言う笑顔をしている。圧政者だと思ってたけどどうやら違うっぽい?とスパルタクスは思い直すことにした。

 

そう言えば守るって誓ってたわ。位には思い出したのだろう。

 

「ぅ・・・・・・ん?あ、私、寝ちゃってた・・・・・・って!?」

 

 レミリアが目を覚ますと、そこには筋肉ダルマと情熱的な抱擁を交わす妹が。おかしい、こんなの私の望んだ未来じゃない。

 そんな思考の次に目に入るのは血。スパルタクスは怪我をしていないのに血が沢山部屋には付いている。

 

「ぅ・・・・・・、うっ、そ・・・・・・?」

 

 レミリアは博識だ。女の子は処女を散らすと血が出る。なんでも、大事な所の膜が破けてしまうのだとか。更にはその行為は抱き合う事らしい。

 

 しかも男女で。全ての条件は揃っていた(迫真)

 

 とは言え、残念ながら条件と言うには些か情報が過多というものだろう。血はこんなに出ない。当然だ、こんなに出てたら死ぬ。

 え、スパルタクス?何それ人間?少なくとも本に載っている人間とは別の生き物だろう。実際そうだ。

 

「む、どうかしたのかね?」

 

 このままではまずい。寝起きの頭は労働断固反対!と言わんばかりにうまく働かず、スパルタクスの問いに目を回すばかり。この狂人は自分が何をしたのか分かっていっているのか?!とレミリアの頭が混乱する。

 

「あ、お姉様おはよう!すごいんだよ!!スパルタクスがね、こう、ぎゅーって!」

「いいいい、言わなくて良いわ!赤裸々に語らないで!」

「えー?なんでー?」

「だって男の人と抱き合うなんて駄目でしょ!?」

「平気だよ?だって本当のお父様のよりも暖かくて(体温)、おっきくて(身長)、気持ちよかったもん!」

「おとうさま!?」

「それにカチカチ!(筋肉)」

「おとうさまッ!!!!!!!」

 

 念のため記入しておくが、フランが言っているのは下ネタではない。

 

 レミリアの中でお父様が更に醜悪な変態となっているが気にしてはいけない。というか、処女散らした云々と考えていたのにお父様がそんなことしているわけが無いのだが、今レミリアの脳内は全力でストライキを起こしている。

 

「?」

 

 スパルタクスは状況に付いていけず、困惑しているような笑顔だ。

 暫く痴態が続き、レミリアが自らの勘違いに気がついたのは今から一時間後のことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スカーレット卿はため息をつく。

 てっきりあの男を暴れさせた後、攻め込んでくると思っていたのだ。しかしどうだろう、誰かが来る気配などこれっぽっちも無いではないか。

 

「どうなっている・・・・・・。美鈴、気は探っているな?周囲の状況はどうなっているのだ」

「はっ、問題ありません。・・・・・・ただ・・・いえ、なんでもありません」

 

 美鈴の能力は気を操ることだ。自身のものがほぼ全てだが、生物すべては気を持ち、故に知覚することが可能である。当然範囲はそこまで広くはないが。

 何かを言おうとして口を噤む美鈴に、スカーレット卿は静かに爪を伸ばした。

 

「っ!申し訳ありません。今回の件には関係がないかと思われます」

「・・・・・・情報とはそれだけで重要だ。吾輩は強い。かの妖怪の賢者にも決して劣らぬだろう。だが良いか、決して絶対など無いのだ。情報収集を怠れば待つのは困難だ、吾輩すらも傷つけられる困難が迫る恐れがある。・・・・・・それに、情報収集に失敗した結果が今だ。決して繰り返すな。」

 

 スカーレット卿から傲慢な圧政者に有るまじきセリフが飛び出る。

 実はこの世界のポンコツゆかりんと戦った場合、無傷でスカーレット卿が勝利できるのだが・・・・・・その種明かしはまた別の機会に。

 

「実は・・・・・・」

 

「・・・・・・ほぅ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある秘境にて、八雲紫は温かいお茶を飲んでホット一息ついていた。

 

「紫様、和菓子です」

「あら、ありがとう藍。傷はもう平気なの?」

 

 後ろから聞こえた声に振り向けば、そこには腕の生えた藍が居た。どうやら完治したらしい。エリートフォックスから殉職してハーフフォックスになっていたが、二階級特進してパーフェクトエリートフォックスになって戻ってきた。スパルタクスにやられてから数日しか経っていないのに。さすがゆかりんと言えるだろう。

 

「はい。問題ありません。そちらの和菓子は人里の3番通りで手に入れたものでして、最近の流行りであるそうですよ」

 

 藍がその美しい顔を笑みで包み、紫に和菓子を進めていく。

 ──────藍が優しい。やばいぞ、どうにか話を逸らさないと。

 紫がそのようなダメダメ思考を働かせ、1口和菓子を食べる。

 

「そう。んー、うん。美味しいわね。抑えられた程よい甘さに、決して柔らかすぎない噛みごたえ。そして噛めば噛むほど香る柑橘系の香り。さすがね藍」

 

 とりま褒めよう。そしてそこから何とかしてほかの方向に。そう考えるが早いか否か。藍は「さすがね藍」と言い終わった刹那、間を置かずに言う。

 

「お褒め頂き恐悦至極。・・・・・・所で紫様」

「ハイ、ナンデショウ?」

 

 万事休す。否、袋の鼠。もはや逃げ道など紫には存在しない。

 

「妖怪の山との密会はどのように進んだのですか?催促の手紙が送られてきませんが。つまるところ話し合いはなさったのですよね?」

 

 おおっと。なんという事か、罪深きスキマ妖怪に一筋の希望が。怪我で動けなかった藍は私の行動を知らなかったらしいぞぉ!やったー!ゆかりん大勝利ー!

 

「えぇ当然よ」

 

 自慢げな顔をして扇で口元を隠す。ドヤゆかりんモードである。しかし、藍は知っている。貴様、それは真実を述べていない時の癖だぞ。

 

「では、その時の内容の細部までお話ください」

 

 紫の額から汗が一筋流れ出る。美しい顔を流れるそれは、紫だからこそ画になるがほかの人であれば、罪を指摘された罪人だろう。

 

「ええっとー、あの、それは・・・・・・ほら、西の妖怪がほら」

「ダウト」

 

 実は!と言うか前にも言ったが、他勢力との文通、及び情報交換、他勢力への情報収集も全て、全て!藍がやって来た。

 念のためゆかりんの弁護をすると、藍が来るまではそれら全て1人でやって来ていたのだが、藍が優秀すぎてもう私要らないんじゃないかな。的な思考からダラけた生活を始めたのであって、ゆかりんぜんぜん悪くないんだからっ!

 

「嘘よ、冗談よ!・・・・・・ズバリ、人里の」

ギルティ!

「イヤー!許してー!!」

 

 許されざる者、紫。

 

 

 

 

 

 










その後、ゆかりんが妖怪の禿山に行って顔を青くしたのはまた別のお話し。

スカーレット卿の能力、「ありとあらゆるものを貫き穿つ程度の能力」に付いてのヒント。

・・・・・実は内面的な能力で、自身に対して発動するもの。沢山練習した結果、攻撃に使えるようになっただけ。

主人公が使う能力だったらカッコよかった糞チート能力です。ちなみにスパルタクスに持たせた場合、最強クラスに強いですが、それならウォーモンガー要らなくね?となります。

相性的には普通の次元の紫様ですら苦戦を強いられるでしょう。

どんな奴か想像出来ましたかね?


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バーサーカー

難しい筈はない。
不可能な事でもない。
もとよりこの身は、
ただそれだけに特化した筋肉─────!

いくぞ圧政者─────加虐の貯蔵は十分か

俺が作るのは、無限の筋肉を内包した世界!

その名は────『unlimited muscle(無限の筋肉)

勘違いしていたっ!
俺の筋肉ってのは剣を振る専用じゃない、
自分の心を形にすることだったんだ!
─────I am the born of my muscle(私の骨子は筋肉)!!

書いてて思った、骨子とは。


 醜い打撃音が鳴り響く。肉を打つ衝撃が僅かばかり残された木々を揺らす。

 根元を吹き飛ばされていた木はそれだけでミシミシと音を立てて倒れた。

 

「はぁ、はぁ・・・・・・どうでしょう?」

 

 黒と白、3対の翼を広げる黒い長髪。肩を押さえながら荒い息をするのは天魔と呼ばれる天狗の長だ。自分用の和服に似た服は既にボロボロで、女である天魔の艶やかな肢体が見え隠れしている。

 

 そんな天魔が不安げな表情で見るのは瓦礫の山だ。そこに殴りあっていた片割れが埋まっている。

 倒したか、倒していないか。それだけが天魔の心配事だ。

 

「っ!?」

 

 天魔は目を見開く。そして瓦礫ではなく、足元を見た。僅かに感じる振動。盛り上がる土から見える、白い指先。

 

「下ッ!?」

「ンァッ!!」

 

 勢いよく地面より飛び出して天魔にアッパーを食らわせた幽香。その程度では終わらせない。散々手こずらされたのだ。これで決める。

 

「ぐっ!蔦だと!?」

 

 吹き飛ぶ天魔の手足に植物の蔦が絡みつく。3対の翼を羽ばたかせてバランスを取ろうとするが、蔦が急速に縮まり始める。当然、幽香の方へ。

 

「終わりよ、圧政者」

 

 腰だめに構えた拳を、勢いを付けて解き放つ。

 加速する天魔に、全力の拳をぶつける。破壊力は数倍に跳ね上がる。

 

「うがはっっ・・・・・・!」

 

 人体・・・・・・否、生物から鳴ってはイケナイ音が鳴り響き、天魔の体がくの字に折れる。そして────そのまま吹き飛んだ。

 

「うぐ、ぎぅっ?!かはっ!!」

 

 バキバキベキベキと、残された木々を破壊しながらどこまでも飛んでいく。数十本をへし折った辺りで木に叩きつけられる。

 

「ぅ・・・・・・ぅうあ!まだ、だ!私はまだ負けてな・・・・・・っ!?」

「終わりと、言ったのよ!!」

 

 凄まじい速度で吹き飛んでいた天魔に、幽香は既に追い付いていた。吠えた天魔に全力の蹴り上げが炸裂する。意識と体を真上に吹き飛ばされ、天魔が浮く。

 

 幽香が血だらけの顔を俯かせ、手を上に掲げる。

 

「はぁ────────来なさい」

 

 花びらがヒラヒラと舞い。幽香の手の中に1本の日傘が現れる。ピンクの傘で、フリルが付いた可愛らしいものだ。

 その先端が真上───天魔に向けられる。妖力が集束し始め、傘の尖端に小さな球体が発生する。そこに無尽蔵と言えるだけの妖力を注ぎ込む。

 

 致死量の一撃。

 

「さようなら」

 

 光の柱が空に伸びる。光は気絶した天魔を飲み込み───そして消えた。

 

「・・・・・・はぁ、もぅ、スパルタクスはどこに吹き飛ばされちゃったのよぉ・・・・・・うぅ、痛い。あの妖怪強すぎるわよっ」

 

 幽香は辺りに誰もいない事を確認し、オロオロとし始める。そもそもが天魔がスパルタクスを吹き飛ばしたのがいけないのよ!と幽香が傷を治すべく薬草を発生させる。

 

「ほんと、どこに飛んでいったのかしら。」

 

 と、幽香がため息をついていると、ドォオオン!と幽香の隣りに天魔が落ちてくる。3対あった翼の殆どが燃え尽きたように根元しか無かった。

 

「(びっ、ビックリしたっ!!)えっと、大丈夫かしら?・・・・・・って、圧政者なんだから心配しない方がいいのかも?・・・・・・でも怪我させてしまったし、治療はしてあげた方が良いわよね?あーでもスパルタクスに怒られちゃうかしら、敵を治療なんて・・・・・・」

 

 そう言いつつ幽香の手は止まらない。薬草を妖力によって手の内で素早く軟膏状に加工し、翼や火傷の酷い場所に塗っていく。骨折などはしていないとは思うが、していたら幽香には治す手段が今は無い。

 

「ぅっ・・・・・・うぅ・・・・・・っ?!」

 

 天魔が目を覚ます。翼が痛みに耐えるように動く。

 

「あぁもう動かないで。治せないでしょう?」

「な、なぜです?私達は敵のはずでは?」

 

 天魔が最もな質問をする。しかし、幽香にはその質問への返答が用意してあった。

 

「・・・・・・簡単でしょう?貴方を倒すのは私では無いのよ、私は叛逆者では無いわ。その、つ、妻になれたら良いななんて思ってたりするだけの女よ。本当よ?本当なんだからね?あの人が嫌だって言ったら止めるし、ちゃんと諦めるわ。うん」

「いや、そこまでは聞いてない・・・・・・」

 

 若干逸れたが、それだけだ。スパルタクスが圧政者の首を断つ。私はそれをサポートするだけ、そう決めた。と幽香はその様を思い浮かべてニヤける。

 そして嫌な方向も考えて頭を抱えた。

 

「うー、でももし嫌だって言われたら私は平気なのかしら!多分落ち込んでしまうわね。いいえ、落ち込むわ。うん。どうしよう、悲しい時には新しいお花でも植えて寂しさを紛らわせた方がいいわよね?何がいいと思う?」

「私に聞かれても・・・・・・」

 

 惚気とは総じて他人に迷惑をかけるものだ。基本的に「どうすればいいかな!?」「幸せすぎて死にそう!助けて!」みたいな理不尽な場合が多い。

 

「ああ!どうしましょう向日葵の花言葉思い出しちゃったわ!重い女だとか思われないかしらっ!!いやいやいや、大丈夫よ幽香、まだ平気のはず!!そうよ、これからよね。これから少しずつアピールをして行って・・・・・・ふふふ、最終的には結婚なんかしちゃったりして・・・・・・えへへ、うふふ、ふへへ・・・・・・!!」

 

 幽香がヘッタクソな将来設計もとい妄想を繰り広げ、未来に思いを馳せる。

 

「こ、これが風見幽香?こんなのに私は負けた!?」

 

 天満はそれこそ哀れな程にプライドその他諸々がへし折れている。青ざめた顔は青筋すら浮かぶ元気が無いようで、出会った当初の余裕と覇気は無かった。

 

「んー、どうしましょう。探しに行った方がいいのかしら───っ!?『家で夫の帰りを待つ妻』!そうね、私は家で待っていましょうかっ。そうだ、お洋服を塗ってあげて──あ、あとご飯も、お風呂も、えっと、お洗濯?でもお洋服来てないのよね?洗濯は要らないか」

「私は・・・・・・私達は・・・・・・こんなのに?」

 

 理想の妻とは何か、幽香は考える。家事が出来て夫の帰りを待ってあげられて、常に心の支えとなる。ふふふふふふ、と言った感じだ。

 

「よし、そうと決まれば即行動よ幽香!」

「えっ、ちょっと・・・・・・!ええ何で私までっ!?」

 

 ガシッと天魔の首筋を引っ掴む幽香。既にスパルタクスに汚染されたのか、思考がバーサーカーな幽香は傷付いた天魔を放って行くことが出来なかったのだろう。引きずってでも家に連れて行くつもりのようだ。

 

「ぁ、あやや!?天魔様がっ」

「うっ、うそ・・・・・・!」

「あら?」

「なっ、逃げなさい射命丸!犬走椛!」

 

 何とも最悪なタイミングでたどり着いてしまった重傷者。幽香の優しさが爆発する。こんな怪我人放っておいたらそれこそ圧政者じゃないか!と、正直幽香には圧政者云々なんてよく分かってない。

 

「ダメよ!そんな怪我のままふらついていたら死ぬわ!怪我人は全員集めて私の家に行くわよ!」

「ひっ!?草が体に!?」

「ガルル!?き、牙が通らなっ・・・・・・!」

 

 

 

 

紫&藍。

 

「もう、分かったわよ!行けばいいんでしょ!?藍ってばほんとそういうところは頑固よねっ。・・・・・・居ないわよねー?おーい?・・・・・・いないわね?笑顔無いわよね?・・・・・・本当に?本当に本当?」

「ほら、早く行きますよ紫様」

「わわっ引っ張らないで藍!」

「もう、紫様は・・・・・・って、えええええええ!?」

「なによ藍そんなに大きな声えええええええええ!?」

「や、山が」

「禿げてるわ・・・・・・!!それに」

「いつもなら激しく動き回っている天狗が見られません。それに静かすぎる・・・・・・!!」

「まさか、いえ、そんなっ!藍!至急妖怪の山の捜査を始めるわよ!」

「おぉ、頼もしい方の紫様だ!」

「何その言い方!?普段からゆかりんは頼もしいですー!メチャかわのゆかりんですー!」

「可愛いのは認めますが、頼りにはなりません。働け」 「はい・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スカーレット卿。

 

「(・・・・・・!!!凄まじい妖力を感じたぞっ!?まさか、今の力の持ち主が攻めてくるのか・・・・・・?不味いな・・・・・・単純に吾輩以外が全滅するような事があれば統治が面倒だ。仕方あるまい、やはり全面に吾輩がでて配下にした者達は人里に突撃させ、主要な者達は地下にでも閉じ込めておこう。)」

 

 

 



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もやし、筋肉と出会う


勘違いもの。(筋肉)

とても短いです。マッスル。






 パチュリー・ノーレッジ。「知識」の名を持つ高名な魔女。・・・・・・唯一残された魔女である。

 過去にあった魔女狩りの生存者にして、精霊魔法を発展させ続ける天才。

 

 動かない大図書館と揶揄される程に図書館から出てこない本の虫なパチュリーだが、その実力は計り知れない。

 

 この館の魔法的処置の全てはパチュリー1人の功績だ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

 そんな彼女の前では凄まじい光景が繰り広げられていた。

 

「ねぇねぇ!スパルタクスっ!!見てみて!コレ見てよ!」

「うん?なんだね?おぉ、これはっ!!猛獣かっ!!」

「違うよチワワだよ!」

「チワワが猛獣って・・・・・・まぁ、一応獣ではあるけど・・・。猛って言うか、萌?」

 

 幽閉されているはずの親友の妹と、親友が見たこともない筋肉の塊と仲睦まじく話しているのだ。

 随分と印象変わったなスカーレット卿は。パチュリーがそう考え、本に視点を戻す。

 

 そう言えば私はレミィの妹を見たことがあっただろうか。パチュリーはそう考える。しかし、見たことは無いと結論付た。近づいたことも無い、あるとして、扉に魔法を掛けた程度だ。

 

「(むきゅ?・・・・・・扉にかけた魔法が壊れている?)」

 

 本読んでて気が付かなかった。パチュリーは天才だが、割と抜けている。と言うか、結界壊されても本を読むことの方が優先度が高かったから忘れていた。

 

「見てみて!ほら、これよ!」

「ほぅ?」

「ほら、吸血鬼の弱点よ!」

「おぉ!素晴らしい!どれどれ・・・・・・?」

「あら?読めないかしら・・・・・・えっと、パチェ、この文字ってなんて言うんだっけ?」

 

 いきなり話しかけられたパチュリーはえぇ、という顔(無表情)をしながらそれに応える。

 

「むきゅう」

「そう、ありがとう」

「ちょっと、冗談だからもう1回聞いて」

「何の文字だったかしら?」

「それは魔法的な言語で書かれているわ。魔法が使える人しか読めないのよ。・・・・・・貴女知ってるわよね?」

「話に入りやすいと思ってね」

「余計なお世話は要らないわ。」

 

 パチュリーはそう言って本に顔を戻すが、レミリアがその隣にやってくる。なんだよ、と思っていると口を耳に近づけてコソコソとこう言った。

 

「あの人が運命の人なのよ」

「え・・・・・・?」

 

 マジかよ。私の友人、自分のお父さんと結婚するつもりなの?

 

 パチュリーはそう思った。

 

「そ、そう。頑張りなさい。応援してあげるわ、ええ。たぶん」

「?」

「いえ、いいのよ?私には口を出す権利は無いわ。親友だものの、応援する。」

「あのパチェ?なんか勘違いしてない?」

 

 まじかー、親子同士かー。とパチュリーは思う。しかし、パチュリーは博識だ。昔の貴族や王族は「血を薄めないために」親子で子を成すことがあったのだ。

 吸血鬼には貴族思考があるので、そういったことも珍しくはないだろう。

 

 それに目の前のレミリアは真祖。とても良い血筋だ。残しておきたいのは分からなくはない。と、パチュリーは考えている。

 

「で、何か用なの?」

「そうね、用があるわ。──────私、お父様を殺そうと思うの」

「ブフゥゥゥゥ!!!!!!!」

「パチェ!?大丈夫!?」

 

 うっはマジかよ!この子、父親に抱かれた後心臓に杭打ち込む気なんですけどぉ!パチュリーがそう認識して吹き出す。

 

「あ、貴女、本気なの?」

「えぇ、本気よ」

「えぇ・・・・・・」

「?」

 

 パチュリーはスカーレット卿(※スパルタクス)を見る。筋肉だ。

 パチュリーはフランドールを見る。可愛い。

 パチュリーは思った。なんでレミィは本人の前でそういうこと言っちゃうのかしら。と。何だかんだ抜けてるのよね、とも思っている。

 

「はぁ、仕方ないわ。私も全面的に協力するわ。まずは式場の手配ね」

「式場・・・・・・なるほど」

「?」

 

 パチュリーの言った式場は結婚式に使うもの、レミリアは「戦闘する場所」の遠回しな表現としてパチュリーが用いたと考えた。

 パチュリーからすれば「え、お前結婚するつもりなのに式場しらないの?」みたいなものだ。

 

「なら、この場所でいいわ」

「はい?」

「この場所に全力で結界とか魔法とかとにかく仕掛けて。ここに誘い込むわ」

 

 パチュリーは無表情のまま思う。「え、何この子。頭悪いの?誘い込むどころか真後ろにいますよ君のお父様。え、何この子目悪いの?頭が悪いの?」

 

「・・・・・・そう、分かったわ」

「で、紹介するわね」

「いや、それには及ばないわ。知っているもの」

「・・・・・・!流石はパチェね。」

「ぇ?」

 

 パチュリーは首を捻る。もしかしてすれ違いが発生してるのでは?・・・・・・そう言えばスカーレット卿ってもっとスリムじゃなかったか?

 パチュリーは疑う。しかしだ。スカーレット卿と最後に顔を合わせたのは30年ほど前、姿が変わっていてもおかしくは無い。

 

「・・・・・・っ!!」

 

 そしてパチュリーは気が付いた。「もしかして馬鹿にされてるんじゃないか」と。30年も経ってればスカーレット卿を忘れてても可笑しく無いなんて思われているのでは?と。

 そして忘れていなかったから「流石パチェ」なのではないか。

 

 フツフツとパチュリーの中で怒りが湧いてくる。私を誰だと思っている。『知識』だぞ。

 パチュリーは決意した。それこそこの館が崩れ去るほどの魔法を掛けてやろうと。だがその前に本に対して全力で保護魔法を掛けなければ。

 

「決行する日は何時?」

「二日後よ。と言うか3日後に妖怪の賢者が来てしまうから、その前に仕留めるわ。じゃないと邪魔されて戦えなくなる」

「なら妖怪の賢者に任せればいいじゃない」

「負けちゃうのよ、それだと」

「わぁお」

 

 全力でありったけ仕掛けろと言いつつ、2日間しか時間を与えないなんてこの子鬼畜。

 パチュリーは過酷な労働が始まる事に目を虚ろにしつつ、本を閉じる。

 

「任せるわね」

「あ、うん」

 

 さて、と。とパチュリーは伸びをする。ポキポキと30年ぶりに動いたからだが悲鳴をあげる。

 

「ッ!!」

 

 パチュリーは声が形を保てない程の悲鳴をあげた。なお、無音である。

 

「さて、スパルタクス。お父様にバレないように隠れるわよ」

「うむ」

 

 まって、助けて。そんな声は届かない。この後、小悪魔に助けられるまでパチュリーは苦しんだ。

 

 

 








褒美だ、人類最高の筋肉を見せてやる…‼︎(嘘)

こんな事言ったら次の話でかっこいい事が起きそう。(考えてはいない)


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英雄なれば



とても遅くなった。だが反省も後悔もしていない!













嘘だ!




 スカーレット卿はニヤリと笑う。美鈴より手に入れた情報。それは自身の娘達があの男と何かを企んでいるという事。

 

「ふん、無駄な事を」

 

 スカーレット卿はそれを無視する事は出来ない。当然だ今は大事な時期、八雲紫との戦いに合わせ蜂起されれば流石に対処しきれないだろう。

 なので今潰す。

 

「美鈴、貴様は何もするなよ」

「はっ」

 

 愚かな娘に今1度罰を与えるべく、彼は図書館へと進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔法陣固定。後は─────」

「ぱ、パチュリーさま!」

「来た、か」

 

 その瞬間は余りにも早く訪れた。二日の猶予などなく、1日と少しくらい。

 ガチャりと音を立てて扉が開く。そこからはマッスルがゆっくりと、この大図書館(コロッセオ)にエントリーしてくる。

 

 その悠々たる様は正しく王者。この紅魔館の支配者に足る存在だろう。流石は夜の覇王といった所か。

 

 1歩、2歩、ゆっくりと足を進める。

 

「(あと、1歩)」

 

 魔法が最もよく当たる場所、そこヘあと1歩と言ったところでスパルタクスの足が止まる。そしてその目は真後ろを見た。

 

「おぉ────圧政者よ。汝を抱擁、せん」

「じゃまだ。貴様に用はない」

 

 廊下を高速で飛翔するのはスカーレット卿。

 扉前で仁王立ちするスパルタクスへと、スカーレット卿は貫通属性の弾幕を放つ。いともたやすく筋肉を貫く一撃達は、スパルタクスの体力を削っていく。

 

 距離が零になると同時にスカーレット卿の蹴りがスパルタクスを吹き飛ばす。

 

「(今!!)」

 

 ナイスだ名も知らない吸血鬼!!とパチュリーがガッツポーズと共に魔法を起動する。

 全属性の一斉砲火。おおよそ全ての生物が死滅するほどの破壊力。

 

「!?」

 

 凄まじい爆発と閃光にスカーレット卿が後ろに飛び跳ねる。確かな手応えを感じて、パチュリーはスカーレット卿の元へ飛ぶ。

 

「手伝ってくれてありがと。お陰で倒せたわ」

「ふむ、なるほどな」

 

 パチュリーは無表情ながらにそう言う。

 スカーレット卿は考えた。パチュリーがなぜスパルタクスを殺したのか。

「吾輩が怖くなったのだろう」とそんな程度の結論を出す。誇り高き吸血鬼の思考が、まさか自分とスパルタクスを間違えてるなんて考えに行き付くわけがない。

 

「良い手際であった。これからも書物を読み漁り魔法を学ぶがいい」

「・・・・・・?ええ、ありがとう」

 

 なんでお前に言われなきゃいけないの?と思うパチュリーだったが、吸血鬼は偉ぶるのがデフォなので仕方ないと礼を言う。

 

「(ふふふ、それにしても。見たかしら今の魔法!レミィはちゃんと見てたかしらね)」

 

 パチュリーはドヤ顔でレミリア達が隠れている本棚の方向を見る。

 そして

 

 グッ!

 

 とサムズアップした。

 

「(いやパチェええええええええ!?なにやってんのよぉおおおおお!?)」

 

 ぶんぶんぶん!と顔を横に振るレミリア。

 

「(むっきゅっきゅ、余りの私の魔法に驚いて言葉も出ないようね)」

 

 ドヤッ!からの胸を張る。言ったりとした服の内側、その殺人的双峰は更に強調され最早マウント=フジだ。そのフジめいた双峰にレミリアの心はネギトロと化す。

 

「ほぅ、そこに居たか」

「っ!?」

 

 パチュリーの視線からレミリアを発見したスカーレット卿がその身から妖力を溢れさせる。余りにも強力な妖力はそれだけで暴力と化す。

 ただの吸血鬼では決して到達できないであろう馬鹿げた妖力に、パチュリーが意識を奪われかけてどうにか持ち直す。

 

 その妖力の質、そこにパチュリーは何かを見出した。

 

「まさか・・・・・・!」

「(そうよパチェ!そいつよそいつ!)」

 

 パチュリーはようやく気が付いた。目の前の男が何であるか。

 ゆっくりとレミリア達の隠れる本棚へとスカーレット卿は手を伸ばす。その手の内、高まる妖力は圧倒的な貫通力を持った暴力兵器。

 

「やめなさい!!」

 

 君は謝りなさい。

 

 パチュリーが咄嗟に魔法を放つ。相手が吸血鬼ならば使う魔法など当然決まっている。

 だが、それよりも先にスカーレット卿は動いていた。

 

「言ったはずだ。本を読み魔法を学べ、とな。だが、もうこれ以上使う必要は無い」

 

 先程までレミリア達に向けていた妖力がパチュリーへと放たれる。距離が近いもあり、パチュリーに避けるという選択肢は存在しない。

 

「ッッ!?」

 

 パチュリーが咄嗟に防御系魔法を展開、魔力で構成されたシールドが幾重にも展開されるが────意味を成さない。

 

 連続でガラスが割るような音が響き、パチュリーの喉を光が貫いた。

 

「──────ぁ」

「パチェッ!!!!」

 

 あっけない。余りにも突然に、呆気なくパチュリー・ノーレッジの命が─────途絶えない。

 

「ケホッ、ケホッ、うぐ・・・・・・」

 

 パチュリーは生きていた。その傷の大半は塞がっている。それを見たスカーレット卿は「ほぅ」と面白いものを見たと嘲るような笑みを浮かべる。

 よく見ればパチュリーの頭につけられていた三日月のアクセサリーが光を失っている。

 どうやらあのアクセサリーはパチュリーが瀕死の重傷に陥った時に発動する緊急回復手段だったようだ。

 

「ふん、まぁ良い。それで貴様は魔法も満足に使えまい」

 

 緊急回復手段故に、その精度は高くはない。傷を塞ぐことは出来る。しかし、完治はできない。そして一度治った傷を治す事は出来ないのだ。

 パチュリーはこの日、決して治らぬ傷を喉に負うことになった。

 

「お父様・・・・・・!」

 

 レミリアがグングニルを展開してスカーレット卿を睨む。その仔犬のような(・・・・・・)懸命な抵抗に、スカーレット卿の加虐心は満たされて───昂った。

 

「ふふは、ふははははは!おぉ吾輩の愛おしき娘よっ!武器か武器と来たかっ!くははっ、くはははは!」

 

 武器とは、弱者の証。精神的な敗北を意味する。

 それが妖怪の認識だ。当然ここにいる彼らもそれに当てはまる。

 スカーレット卿には勝てないと理解したレミリアは、ほんの少しの希望にかけて武器を作り出した。

 

 スカーレット卿は「点」だ。

 ありとあらゆるものに対し、彼は「点」なのだ。故にどれほどの広範囲攻撃であろうと、彼は被害をほとんど受けない。どのような能力を使おうと、満足に掛からない。

 そして「点」と「面」では同じ力でも威力が全く違う。一点集中した彼の一撃を防ぐ手段は無い。

 彼が彼である限り、彼の精神()が彼を最強と認め続ける限り、その能力は覆らない。

 

 彼を倒すには、彼に能力を使うには、彼を超えなければならない。彼が「自分は超えられた」「自分では勝てない」などと思わなければならない。

 

 負け無し、傷なし、最強の吸血鬼と讃えられる彼は正しく怪物だった。

 

「はぁあっ!!」

 

 レミリアの運命操作も当然効かない。「我がある故に我あり」。自己完結の完成系は他からの干渉を受け付けない。

 がむしゃらの一撃、当たっても効かないと理解していながらの一撃。

 

「お前には今1度、言わねばならぬ事があるな」

「くっ!喰らえ!!!」

「黙れ小娘。お前の力では何をどうやろうとも吾輩には勝てん!」

 

 スカーレット卿が、手刀を振り下ろす。レミリアはグングニルを盾にしようと構えるが、いともたやすく両断される。手刀は滑るようにレミリアを捉え、腕を吹き飛ばす。

 

 彼は「点」だ。故に、手刀も「点」。直線的に並べられた点が振り下ろされる。点としての性質を持った「線」攻撃。最強の吸血鬼の筋力を小さな点に集め、それが並んだ一撃だ。受け止められるはずがない。

 

「うぐっ!」

 

 レミリアが苦悶の表情を浮かべる。だが、それでも必死になって戦闘を続けた。

 確かに、目の前の吸血鬼に運命操作は効かないだろう。だが、それだけだ。ならば他のものを操ればいい。

 

「ああぁ!」

 

 操りながら少しでも時間を稼ぐ。それさえすればいずれは────────

 

「ッ!?」

 

 運命は残酷であった。今誰が紅魔館の外から援軍としてやって来ても、この吸血鬼には勝てないと、そう運命は言うのだ。

 ならば、どうしろと・・・・・・?本来の勇者は倒れた。他ならぬ味方の誤射によって。

 

呆然と佇む暇はない。人では目で追うことすら不可能だろう神速の攻防。

スカーレット卿が手を抜く形で3分、5分と時間が経っていく。

やがて、10分を数えた辺りでレミリアが力尽きた。

 

その体にはいくつもの穴が空き、そこから夥しい程に出血している。吸血鬼としての再生能力を穿たれたのだ。

もう勝ち目は無いのか?諦めるしか無いのか?漠然とそう考え───

 

「・・・・・・ふん、ようやく大人しくなったか。お前は我が娘だ。殺さぬよう気を付けるのも疲れるというもの。来い、レミリア」

「───嫌だ」

「なに?」

 

 否定する。

 

 そう、否だ。

 

 レミリアは()()。死中に活あり、苦境に(えみ)あり。

 

 私が見た運命(勝利)はなんだ。傷だらけの背中が、私たちを守ろうと立ち塞がる、あの光景は何だった。

 アレに私がどれだけ希望を感じたか。どれだけ喜びに咽び泣いたか・・・・・・!

 レミリアは振り返る。

 

お、お姉様・・・・・・!

 

 涙を目に溜めて、胸の前で両手を組むフランが目に入る。レミリアはそんなフランに微笑み、スカーレット卿へと構える。そして同時に決意を固めていた。

 

 

 今、(スパルタクス)は居ない。ならば私がなればいい。今までなることは叶わなかったフランにとっての

 

 ────英雄(お姉様)に。

 

 あぁ、苦境だ。絶望だ。

 失意に沈みそうになる心を考えを、全部まとめて捨て去る。

 

「何を笑っている。気でも狂ったか」

 

 あぁそうさ。レミリアはスカーレット卿を睨む。口元には獰猛な笑を携えて、その小さな身に秘めた妖力がそれこそ火山の噴火の如く溢れだす。

 それを何処吹く風と真っ向からぶつかるスカーレット卿。

 

「ほぅ、やる気はあるのだな。困ったものだ。娘を好戦的に育てたつもりは無かったのだが・・・・・・なッ!!」

「ククッ、死になさい。圧政者ッ!!」

 

 吸血鬼の死闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地獄の業火が身を焼き尽くした。

 凍てつく絶対零度が全てを奪った。

 神をも討つだろう落雷が身体を穿った。

 

 体に無事な部分は何一つなかった。

 

 結界が張られ、その中でそれらの力が暴れ狂う。何十、何重にも魔法を受ける。その全てが、その一つ一つがスパルタクスという英霊を殺しなお余りある威力。

 

「ぉお、お」

 

 快楽にも似た苦痛が身を支配した。

 悦楽にも似た狂気が、この身を虐げる者を探していた。

 

「ぁあ」

 

 初めに壊れたのは眼球だ。高熱に沸騰し、破裂した。

 皮膚は全て爛れ、その上を霜が走る。筋肉には致死量の電気が流れ、細胞は蹂躙されていく。

 

「いいぞ、いい、ぞぉ」

 

 それでも尚、彼が生きているのは。耐えているのは、守りたいと言う思いがあったからだ。

 倒したいという願いがあったからだ。

 

「はははは、はははははははは」

 

 爆炎、吹雪、雷雲、土砂にマグマに水流。潰れた眼球ではそれらを見ることは叶わず、痛みを伝える機能さえ満足に働かなくなった体では現状の把握など不可能。

 

 ただ───────一つだけ分かることがあった。

 

 戦っている。

 

 まだ、あの少女は戦っている。

 

 英雄(叛逆の意志)を信じ笑っている。

 

 行かねばならない。この枷を吹き飛ばし、この死地を笑い飛ばし、守らなければならない。

 本能がそう囁いていた。いや、これは本能などではない。

 

「私は、ユク」

 

 絆が、確かに結ばれた絆がそうさせる。

 体は動かない。この魔法がいつ終わるのか分からない。だが、理解出来たことがあった。

 

 この魔法の終わりこそが───────────叛逆の開始であると。

 

「はははは、はーははははははっ!」

 









次回!ケッチャコォ・・・・・・。


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叛逆開始





終わらない戦いがある。(今回で決着と言ったな・・・・・・あれは嘘だ!)

何となく変。流石に全てをシリアスなんて無茶だったんだ!
とは言え、ここで変にネタを盛り込んでも悲しいだけ。







 轟音が大気を揺らす。

 

「お姉様頑張って!!」

 

 フラン声援も虚しく、レミリアは常に劣勢だ。攻撃は通らず、防御は出来ない。

 

「無駄だ無駄。さっさと諦めろ」

「私は、諦めないわっ!!」

「いい加減っ、その気持ちの悪い笑をやめよ!吾輩の娘が被虐趣味だったとか、少しだけ気落ちするだろう」

 

 周囲は抉れ、館は穴だらけ。吸血鬼の喧嘩とはかくも恐ろしいものだった。

 

 破壊。破壊。破壊。破壊。

 

 紅の神槍が誇り高き紅き居城を貫く。無数に放たれるか弱き光が、その神槍すら貫き空へと消える。

 

 何をやろうとも、レミリアに勝ち筋は無かった。

 

「ゴボッ!?」

「お姉様っ!?」

 

 レミリアの再生能力が完全に消え去った。もはや回復は不可能。穿たれた穴は腕や足、腹にまで及び・・・・・・初めから絶望的であった戦闘は、事後処理にまで到達する。

 

「ふむ。よく耐えたと褒めて遣わすが・・・・・・控えめに言って無能だな、娘よ。吾輩と戦いを決めたその瞬間にでも平伏し許しを買うべきだったのだ」

 

 コツコツと乾いた音が響く。スカーレット卿は行く、倒れ付すレミリアの元へ。

 

「そん、な、こと・・・・・・出来るわけ、無いでしょう?私は、あなたに育て、られた、誇り、高、き・・・・・・吸血鬼、なのよ・・・!」

 

 レミリアは依然として笑って見せた。しかしその頬は引き攣り、あまりの痛みに表情の筋肉は痙攣を起こしていた。

 レミリアのそんな様子を、まるで可愛げのない羽虫を見るかのように、スカーレット卿は侮蔑の視線を向ける。レミリアの言葉が気に触ったのか、その表情は苛立たしさを感じさせる。

 

「あぁ、そうだったな。だが、どうだレミリアよ?見てみろ、この高貴なる吸血鬼。その真祖たる吾輩を。傷一つなく、圧倒的なまでの余力を残した姿を。これが、これこそがっ!」

 

 ()()()()()()

 

 その傷一つ無い姿が。

 

 その他者を見下し蔑む生き様が。

 

 その酷く生臭い血に彩られた歴史が。

 

 その高潔無比で天上天下唯我独尊を誇る魂が。

 

 何よりも雄弁に物語る。

 

 彼こそが吸血鬼。彼こそが真祖。

 

 吸血鬼はこうあるべきなのだと指し示す。

 

 だが、だとしても。

 

「────私は、貴方の様な吸血鬼(モンスター)には成りたくないわ」

 

 レミリアはこの時初めて目にしたのだ。驚愕に、顔を愉快に歪ませる父の顔を。

 

「ククッ無様、ね。娘の、反抗期(ジョーク)は、お嫌い、かしら?」

「・・・・・・」

 

 険しい顔をして、スカーレット卿はレミリアを睨む。そして、その目線はフランへと動いた。

 レミリアは焦る。フランを守らなければ、と。だがそれはある意味で杞憂に終わった。そう、この瞬間だけは。

 

「お前はどう思う、フランドール。私の可愛い娘よ」

「わ、私は・・・・・・」

 

 フランはスカーレット卿に従順だった。なにせ、他の世界というものを知らないのだから。スカーレット卿はフランの事をそう認識していた。

 けして、それは間違いではない。それしか知らぬのであれば、それは正解だ。父親に従っていればご飯は運ばれてくる。本も読める。遊び相手も来てくれる。

 

 不自由など感じることも出来ないだろう。

 

 だが、今は違うのだ。

 

「私は」

「フラ、ン」

 

 フランは怯える目で、レミリアを見つめる。フランは決めかねていた。父か、姉か。

 分からない。

 だから、思い出そう。目をつぶって思い起こせば何かが見えてくる。そう、これは─

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───夢を、見た。

 

 ───それは暗い昏い夢だ。

 

 ───ただひたすらに戦い。ただひたすらに閉じ込められるようにして生きる。

 

 

 

 

 

 

 己が死ぬか否かを賭け事とし、猛獣(同類)とも、はたまた同じ境遇を持つ闘士(同族)とも戦った。

 

 恨みは募る。けれど、これ以外に生きるすべはない。

 

 彼は笑った。何度でもどんな時でも。常に笑顔であった。理不尽など、絶望など恐怖など不安など、何もかも、タダの一笑をもって吹き飛ばす。

 

 ───あぁ、今日もまた陰鬱な瞬間が始まる。

 

 熱狂的な観衆、罵声、激励、黄色い悲鳴。

 狂いそうなほどのそれらを無視して、眼前の"同胞(疵獣)"に集中する。

 餓えた獅子が、牙を剥いている。空腹で兇暴になり、既に三人を食い殺していると聞いた。殺さなければ殺されるのは獣も彼も同じ。

 だから、この獣の死は確定していた。

 

 ───なんて哀れな。

 

 人を人と思わぬ所業。獣の命を軽視するその頭脳。その全てが恨めしい。

 今に見ていろ、圧政者よ。

 私が、このスパルタクスが、貴様らに致命傷を与えてやる。

 

 

 夢は形を崩していく。小さな囁き声となって耳をくすぐる。

 

 私は自由が欲しかった。奴隷という枷を解き放ち、自由になることが。・・・・・・だが違うのだ。私が逃げようと、新たなる奴隷は生まれるだろう。それでは無駄だ。圧政者を殺さねば奴隷は減らない。

 私は圧政者を倒す(弱者を救う)。否、倒さねばならない(救わねばならない)。力ある者が寄り添い、戦わねばならぬ。

 故に、私は誰よりも目立ち、誰よりも傷を負い、誰よりも前に出た!私はスパルタクス。圧政者を討ち滅ぼす(つるぎ)であり、弱者を守る盾だッ!

 だから・・・・・・フラン。笑い給え!!

 

 

 ───暖かな声が、微笑みが私の身体を包み込んだようでとても心地が良かった。

 

 ───そうだ、私は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────スパルタクス・・・

 

 フランは小さく呟いた。その呟きは本当に小さくレミリアもスカーレット卿も聞き取ることは出来なかった。

 

「どうなんだフラン?」

「っ!!私はっ!私は外に出たい!色んなところに行ってみたい!!」

 

 スパルタクスは語って見せた。外の世界がどれだけ素晴らしいかを。自由とはどのようなものなのか、それを持っていないフランが如何に酷い圧政を受けているかを。

 

「・・・・・・はぁ、まだ狂気は抜けぬか」

 

 呆れるスカーレット卿。今の今まで何をしていたか、覚えていないのだろうか?目の前で姉が虐げられる様子を。

 フランは目を輝かせて笑っていた。思い焦がれる少女は元気に話す。自身の夢を。

 

「色んな人と遊びたい!お話したい!色んなものを食べてみたい!色んな遊びもしてみたい!お姉様と一緒にお出かけしたい!いろんなお洋服を着てみたい!」

「・・・・・・もうよい」

「だから────────!」

「!」

 

 狂気は無い。冷静な頭が能力を発動させた。手のひらを向けて実の父に向ける。

 父を殺す覚悟はできた。

 自らを閉じ込めたこと、虐げたことに対する恨みなんてない。でも、自分は外に出てみたいんだ。

 

 そんな思いで、握りしめる。「目」は捉えた。

 

「きゅっとして──!!」

 

 対象の何もかもを今この瞬間、握りつぶす。

 

「ドカーンッ!!」

 

 ありとあらゆるものを破壊する程度の能力は完璧にスカーレット卿に命中した。

 

 

 

 

 

 

 しかし。

 

 

 

 

 

 

 

「その()()()()能力はやめろ」

 

 爆発すら起きない。

 

「あ、あれ?」

「では、罰を与える」

「!?」

「フラン!!」

 

 スカーレット卿の手から弾幕が放たれる。それを防げるものは最早いない。レミリアは言うまでもなく、パチュリーは魔法が使えそうにない。フラン本人は驚きのあまり固まっている。

 

「避けてぇぇええええええ!!!!」

 

 絶望が背骨を這い上がる様な感覚。弾幕がフランの顔の前まで迫った。

 

「ぁぁぁあああああああああッッッ!!!!!」

「「!?」」

 

 レミリアが全力で叫ぶ。そしてそれに応える声が一つ。高く、美しく、力強い声。

 紅の長髪が舞った。

 フランが宙を吹き飛んでいた。光の弾丸はフランを掠めるに留まる。

 

「がっ、はっ!?」

「美鈴!?」

「・・・・・・はぁ。貴様もか紅美鈴。ここまでコケにされると怒りすら湧かんよ」

 

 

 紅を纏い、胸に大きな穴を開けて荒い息をしながら美鈴は立ち上がる。その目には深き決意。

 

「はぁ、はぁ・・・・・・」

「あぁ、滑稽だ。なぜ逆らう?このような愚行を犯してまで死にたいのかお前達は」

「生きます。あなたを、殺してでも」

 

 スカーレット卿は心底理解に苦しむ。と額に手を当て首を横に振る。

 

「それが主人への言葉使いか?」

「私の主は本来レミリアお嬢様だ」

「おっと、そうだったか。では──勝てると思っているのか?」

「さて、ね。勝利条件というのは時と場合で違うと思われますが。っ!」

 

 美鈴が疾走する。極彩色の気を練り合わせ、その瞬間だけはスカーレット卿すら上回る速度で動いた。

 

「!」

 

 瞬きの刹那、スカーレット卿の真後ろを取った美鈴の全力の一撃。当たれば最後、体内で美鈴の気が暴れ周り対象を破壊する。

 対・生物に対する殺傷力で言えばフランにも迫る一撃。

 

「はぁああ!!」

 

 だがフランに迫る、ではどうやっても勝てない。美鈴はそんなことわかっていた。だからこそ、自分だからこそ気がつけたソレに全てを賭けた。

 

 紅美鈴、その能力は「気を使う程度の能力」。自身の気を練り合わせ攻撃もとい防御を可能とする能力。そして、他人の気を感じ取ることも可能な力だ。

 美鈴は気を確かめる。パチュリーが生み出した結界の中、暴れ狂う魔力の奔流の中で、確かに()は生きている。

 あの調子なら魔法はやがて消えるだろう。結界を破るだけの力があるのに、なぜ破らないのかは分からないが、気を伺っているのなら納得できる。

 

 いささか遅いが、それでも勝てるとしたら彼しかいない。

 そう確信していた。

 

「ふん」

 

 つまらなそうなため息。腕に感じる痛み。まるで鉄の杭に自ら拳を打ち込んだかのように、引き裂ける。

 激痛に顔を歪めるが、まだ。

 

「っ!はっ!」

 

 無事な手と足を使い、スカーレット卿そのものに触れないように気を飛ばして牽制しつつ、体内で練った気を周囲に放出。レミリアとフラン、パチュリーの傷が癒えていく。

 この中に気を感知できるものは美鈴だけだ。

 

 これが美鈴にできる最大限の()()

 

「やめろ、小賢しい。貴様の攻撃など効かん」

 

 美鈴の攻撃全てがスカーレット卿の前に霧散する。対してスカーレット卿の攻撃は美鈴の身体を無慈悲なまでに撃ち抜いていく。

 

「────がはっ!」

 

 美鈴が膝をついた。荒い息、定まらない視線。動かない身体。ニヤついた、けれども悲壮感漂う顔。

 

 ──────もう、だめなのか。

 

 誰もが絶望を見た。諦めた。レミリアもフランも笑顔を失った。

 レミリアは涙を流す。終わりだった。反抗期はこれで終わりなのだ。これまでの計画も、度重なる幸運も無駄。何もかも失敗した。

 スカーレット卿は何かを考えるように顎をさすり・・・・・・ニヤリと笑う。

 

「ふむ、捨て時が来たようだ。貴様もフランもここで死ね」

 

 彼の中でピースがハマった。パズルが完成したのだ。なぜ、娘は自分に八雲紫を当てなかったのか。それは、八雲紫では自分に勝てないと、そう運命に出たからだろう。

 ならば、狂気に飲まれた破壊の力も、反抗する従者も要らないではないか。

 

「くっくっくっ。では、さらばだ」

 

 

 スカーレット卿の掌に光が収束する。当たればおそらく能力を貫かれ死亡する。

 

「や、やめ」

 

 命乞いをする暇もなく、フランに向けて放たれる。

 

「やめてぇえええええええええ!!」

 

 硬質な音が響く。

 それはフランの骨を撃ち抜く弾幕の音だろうか。レミリアは目を瞑った。妹を守れない非力な情けない私を恨んでくれ、と。その夢を叶えられない無様な私を蔑んでくれと。

 

 涙を流し、これではダメだと目を開ける。血の海に沈むフランは───居ない。

 

「ぇ?」

「ケホッ、ゴホッ、成、功ね。」

「間に合い、ましたか」

 

 パチュリーの呟き。倒れる美鈴。

 自分に、自分の隣に倒れるフランに覆いかぶさるような大きな影。

 暗がりからでもよく分かる白い歯。青白い肌。

 

 ──あぁまさか、そんな。

 

「良くぞ戦った小さな()()達よ」

「ぁ、あぁ」

「安心したまえ」

 

 こちらに背を向けるように立ち上がる巨躯。逞しく余りにも頼りがいのある筋骨隆々な傷だらけの背中。

 館に空いた穴から吹き込む風が男の髪を揺らす。

 

 

 

 

「────────これより、叛逆を行う」

 

 

 

 

 













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約束


遅れて済まない。

それと、なんか、主人公が誰だか分からなくなってしまった・・・・・・。

今回の内容は砂糖が含まれるぞっ。
あと、今回──一万七千文字超えたぞ。

え分割?知るか!!たまには長くてもいいだろぅ!?(圧政)
手を出さなければもっと短くできた。あぁ、手を出さなければな。だが、それでは私がつまらなかった(圧政)


許せ!!!!!(圧政)
あと、誤字脱字報告、コメントの方よろしくオナシャス(圧政)










 時はやや遡り、スパルタクスか結界に閉じ込められ魔法の嵐を受けていた時のことだ。

 

 紫の髪に胸元が真っ赤に染まってしまったパジャマのようなゆったりとした服を着た少女、パチュリー・ノーレッジはその頭をフル回転させて現状の打破を目論んでいた。

 

(考えなさい、パチュリー・ノーレッジ。今、こんな時こそが私の出番でしょう?)

 

 手足を失い肉塊の如く転がる親友に回復魔法を唱える。いや、唱えようとする。

 

「ンッ!むきゅっ!むきゅっ!」

 

 しかし、喉に受けた傷は深い。声帯から首の骨を通過し、パチュリーの後方まで突き抜けた一撃。パチュリーが保険のために用意しておいたあの魔法具の回復は、その殆どを首の骨の再生に使われてしまい、声帯は故障したまま治ってしまった。

 一度治った傷は元には戻らない。つまるところ、自分の生の価値をほぼ全て失ったことになる。

 

 だが、それを悲嘆悲観し親友を見捨てるわけには行かない。

 

 そんな思いでパチュリーは回復魔法を行使する。だが、その光はあまりにも弱々しい。こんな魔法では、自分の二の舞いになる。

 

(あぁ、どうすればいいのかしら・・・)

 

 パチュリーが悔しさを噛み締めながら俯く。しかし、その時だ。煙と爆発が起き続け、絶え間無い光を放つ場所────パチュリーが仕込んでいた結界、レミリアが運命の人と呼んだ男が閉じ込められた場所が視界に入る。

 

 いや、生きているわけがない。

 

 パチュリーは自嘲する。ついさっきまでの自分は確かに世界最高峰の魔法使いだったのだから。

 

(むきゅ?)

 

 いや、まて。何かを忘れてはいないか?パチュリーは深く考えを巡らせる。

 自分はどのような魔法を組んだか。そう、確か───!

 

(ぇ、生きてるの?あの中で?)

 

 パチュリーは思い出す。様々な属性の精霊魔法による広範囲攻撃をこれまた精霊魔法による結界で反射を繰り返し、最大効率でダメージを()()()()与え続ける。当然込められた魔力が無くなれば消えてしまうのだが。それがパチュリーが短時間で仕込める限界の魔法だった。

 

(嘘でしょ、いや、でもまだ魔法は正確に機能している。・・・・・・なら、行けるわね。っ!?)

 

 パチュリーは結界の中の男を見て何かに気が付いたのか、震える手でポケットからメガネを取り出す。これは魔道具の1種だ。対象をより詳しく調べあげる際に使うもので、そういう類の魔法が数種類仕込まれた大変貴重なものである。

 メガネを掛けたパチュリーはスカーレット卿に見られていないことを確認し、結界の中を臨む。

 

(な、なんて量の魔力・・・・・・いや、存在そのものが魔力の塊なの?まって、中央に更に高濃度の魔力体・・・・・・つまり使い魔かゴーレムの類なのね)

 

 今のパチュリーに出来ることは少ない。だが

 

(魔法は満足に使えなくても魔力を込めることはできる。限界を超えて魔道具を使うことも可能。よし、使うわ。むきゅー!うぉー最大パワー!っ!?)

 

 パチュリーの視界に途端に大量の情報が映し出される

 

 ─────

 

 クラス:バーサーカー

 真名:スパルタクス

 属性:中立・中庸

 マスター:レミリア・スカーレット

 時代:?~紀元前71年

 地域:ローマ

 ステータス

 筋力:A

 耐久:EX

 敏捷:D

 魔力:E

 幸運:B

 宝具:C

 

 宝具

 

 疵獣の咆吼(クライング・ウォーモンガー)

 ランク:A

 種別:対人(自身)宝具

 レンジ:0

 最大捕捉:1人

 常時発動型の宝具。伝説が昇華されて宝具化したタイプ。バーサーカーのクラスで召喚された場合とセイバーのクラスで召喚された場合で宝具の使用法が異なる。

 バーサーカーのクラスで召喚された場合は敵から負わされたダメージの一部を魔力に変換し、体内に蓄積して貯められた魔力はステータス強化と治癒能力の増幅などに転用され、傷つけられれば、傷つけられるほど強くなる。魔力への変換効率は彼の体力が減少するほどに上昇する。

 

 

 スキル

 

 狂化(EX)

 パラメータをランクアップさせるが、理性の大半を失われる。狂化を受けてもスパルタクスは会話を行うことができるが、彼は"常に最も困難な選択をする"という思考で固定されており、実質的に彼との意思の疎通は不可能である。

 

 被虐の誉れ(B+)

 サーヴァントとしてのスパルタクスの肉体を魔術的な手法で治療する場合、それに要する魔力の消費量は通常の1/4で済む。また、魔術の行使がなくとも一定時間経過するごとに傷は自動的に治癒されてゆく。

 

 不屈の意志(A)

 あらゆる苦痛、絶望、状況にも絶対に屈しないという極めて強固な意志。肉体的、精神的なダメージに耐性を持つ。ただし、幻影のように他者を誘導させるような攻撃には耐性を持たない。一例を挙げると「落とし穴に嵌まる」ことへのダメージには耐性があるが、「幻影で落とし穴を地面に見せかける」ということには耐性がついていない。

 

 剣の凱旋(B)

 戦闘で勝利し帰還するためのスキル。スパルタクスは逸話上、幾度となく戦いに赴き帰還したためにスキル化された。

 戦闘での最終局面における回復力の増加、筋力の上昇が発生し、生存率を高める。

 

 運命の導き(B)

 レミリア・スカーレットによって運命操作を行われていることを表すスキル。

 あらゆる幸運判定に+補正がなされ、致命傷を受けづらくなる。

 ─────

 

 

 

 パチュリーの視界に現れたのは────そう、アカシックレコード(ウィ〇ペディア先生)から引き抜かれたであろうスパルタクスのステータスに、多少手の加えられたステータスであった!

 

 さらに情報の波は襲い来る。

 ウィキペディ〇より引き出される数多の情報が、パチュリーの脳に吸い込まれていく。

 その人生、その能力。その他諸々。

 

 そしてこの戦いの─────勝機を見つけるのだ。

 〇ィキペディア先生万歳。独自設定も多少含まれているがそんなことはどうでもいい。

 パチュリーはすぐさま行動に移した。このままの彼(バーサーカー)を戦わせてはだめだ。決して勝つことは出来ない。

 

(だから、変えてしまおう。・・・・・・お、怒られそうね。いや殺されそう、か。でもどうせ魔法もまともに使えないちんちくりんだわ。構わない)

 

 パチュリーは魔法を必死に唱える。なんども噎せっていたが、それでも何とか唱えることに成功する。

 行うのは霊基の書き換え───クラスチェンジである。

 

 ウィキ〇ディア、宝具説明の最後の方にこう書いてあったのだ。

 ──セイバーのクラスで召喚された場合は、相手の攻撃に耐え抜くと体力や魔力を回復し、次以降の同じ攻撃を無効化するか、もしくは反射するというものになる。

 

 ここにパチュリーは勝機を見出した。

 スカーレット卿唯一の弱点は攻撃力の低さだ。いや、絶対に貫通するという意味で言うなら火力は高く無くていい。故にこそ一撃が育たず軽いのだが、手数でそれは補えた。

 だが最早言うまでもなく、スパルタクスセイバーとの相性は完璧と言えた。

 それに、とパチュリーはスカーレット卿を睨む。

 

(スカーレット卿の能力は絶対的な自信から来るもの。恐らく生涯をかけて攻撃が無力化されたことは無いはず、なら、無効化されたり反射されたりしたならば確実にプライド(能力)傷が生まれる(綻びが生じる)はず。そこをレミィとフランでどうにか止めをさせれば───!)

 

 結界の中で変化が起こる。何が起きてるかを正確に視認することは出来ない。けれど、魔力の動きが彼が変わっていることを表していた。

 

 ─────

 

 クラス:バーサーカー/セイバー

 真名:スパルタクス

 属性:中立・中庸

 マスター:レミリア・スカーレット

 時代:?~紀元前71年

 地域:ローマ

 ステータス

 筋力:B+

 耐久:EX

 敏捷:C+

 魔力:D+

 幸運:B

 宝具:B

 

 宝具

 

 疵獣の咆吼(クライング・ウォーモンガー)

 ランク:A++

 種別:対人(自身)宝具

 レンジ:0

 最大捕捉:1人

 常時発動型の宝具。伝説が昇華されて宝具化したタイプ。バーサーカーのクラスで召喚された場合とセイバーのクラスで召喚された場合で宝具の使用法が異なるが、今回はバーサーカーをセイバーに上書きしようとした所不思議なこと─叛逆─が起き、2つの宝具を使用できるようになった。

 敵から負わされたダメージの一部を魔力に変換し、体内に蓄積して貯められた魔力はステータス強化と治癒能力の増幅などに転用され、傷つけられれば、傷つけられるほど強くなる。魔力への変換効率は彼の体力が減少するほどに上昇する。

 圧政に対する叛逆心が宝具と化したため、一度攻撃を耐え切った場合体力を回復し、同じ攻撃であれば無効化もしくは反射する。これはスパルタクスの意志によるものであり彼が反射、無効化などをその都度好きに切り替えられる。無効化や反射には魔力を消費する事は無いが、発動している限り魔力を消費し続ける為、燃費は良くない。

 

 

 スキル

 

 狂化(EX)

 パラメータをランクアップさせるが、理性の大半を失われる。狂化を受けてもスパルタクスは会話を行うことができるが、圧政者との会話中は一気に狂化が跳ね上がるため、実質的に彼と圧政者の意思の疎通は不可能である。つまり他とはある程度可能となる。

 

 

 ダブルクラス(ー)

 セイバーとバーサーカーの霊基を持っている事を表すスキル。本来のスパルタクスがセイバーとバーサーカーを両立させて召喚されることはなく、このスパルタクスは本来のスパルタクスとは違う存在と認識され、この戦いの記憶が座のスパルタクスに記録されることもまた無い。そして双方の効果を使うことが可能となる。

 

 被虐の誉れ(B+)

 サーヴァントとしてのスパルタクスの肉体を魔術的な手法で治療する場合、それに要する魔力の消費量は通常の1/4で済む。また、魔術の行使がなくとも一定時間経過するごとに傷は自動的に治癒されてゆく。

 

 逆境のカリスマ(A+)

 逆境であれば逆境であるほど、つまりピンチであればあるほどカリスマのランクが上昇していく最大ランクがA+。平常時はCランク程度。

 

 不屈の意志(A)

 あらゆる苦痛、絶望、状況にも絶対に屈しないという極めて強固な意志。肉体的、精神的なダメージに耐性を持つ。ただし、幻影のように他者を誘導させるような攻撃には耐性を持たない。一例を挙げると「落とし穴に嵌まる」ことへのダメージには耐性があるが、「幻影で落とし穴を地面に見せかける」ということには耐性がついていない。

 

 剣の凱旋(B+)

 戦闘で勝利し帰還するためのスキル。スパルタクスは逸話上、幾度となく戦いに赴き帰還したためにスキル化された。

 戦闘での最終局面における回復力の増加、筋力の上昇が発生し、生存率を高める。

 

 運命の導き(B)

 レミリア・スカーレットによって運命操作を行われていることを表すスキル。

 あらゆる幸運判定に+補正がなされ、致命傷を受けづらくなる。

 

 ─────

 

(でき・・・・・・た!)

 

 完全な形には出来なかった。だが、偶然が最善を呼んだのだ。終わり良ければ全てよし、だ。勝ち筋はハッキリと見いだせた。

 結界の中、光る双眸。

 ゴクリと唾を飲む。痛む喉を無視して、パチュリーは念話の魔法をどうにか行使する。

 

 〈私の名前はパチュリー・ノーレッジ。簡潔に言うわ。あの子達を助けて欲しいの〉

 

 万の想いを込めて問う。主人に決して従わない従者だ。それが救うかは賭けだ。でも、きっと問題ない。

 そう信じ────返事は来る。

 

 〈子供(弱者)を救うことは当然である。だが、覚悟しろ。奴を殺した後、次はお前を殺す、圧政者〉

 

 帰ってきたのは是。助けるという肯定。親友が助かるのなら安い身だ。いくらでも殺すがいい。パチュリーの決意は早かった。それこそ一瞬の躊躇いもなく。

 

 〈えぇ、構わないわ〉

  〈おぉはははは!良いぞ!ならば今までの行いを思い出し、自らを恥じるが良い!〉

 

 短く、それでいて深い決意。

 スパルタクスには2人の仲は分からない。今彼の記憶に存在するのはめちゃくちゃなものばかりだ。支離滅裂なものばかりだ。色々な人に会い、会話の大惨事世界大戦を勃発させ、こうして子供を守っている。セイバーとしての理性がややり戻された為に、混乱は避けられない。

 分からないが、それでもパチュリーが圧政者であるか否かについてはハッキリしている。

 許可もなく人の霊基を弄り、更にはこれ程の苦痛を与え続けるのだから、これを圧政と言わずなんと言うか。

 今なおこの身を痛め付ける魔法にスパルタクスは怒りを覚えた。だが、それと同時に高まっていく力。そして知覚する。自らの宝具の進化を。

 

 〈今この時ばかりは感謝しよう圧政者!だが、この慢心が貴様の首を跳ねるのだ。弱者に救いあれ、圧政者に死よ、あれ〉

 

 ───────パリン。

 

 と軽い音が響く。結界(圧政)が叛逆者に屈したのだ。

  それと同時にスパルタクスは地を駆けた。

 重々しい音と共に陥没する地面。加速する視界。宝具のステータスアップ効果をふんだんに使い、自らを加速させた。

 

「──ぬぅ!」

 

 体は既にボロボロだった。自らの命が死に行こうとしているのが分かる。これ程のダメージを受けたのは久しぶりだろう。

 

 だが、だからこそ─────叛逆する。

 

 あの猛烈な魔法()()を耐え切ったのだ。故に、フィードバック(回復効果)は凄まじい。瞬く間に全ての傷が塞がっていく。溶けて貼り付いた皮膚も、電撃で壊れた神経も、凍って砕かれた両腕も。何もかも。

 

「やめてぇえええええええええ!!」

 

 レミリアが叫んぶ。その視界の先には魔弾を構えるスカーレット卿の姿。スカーレット卿の先にはフランの姿。そして、それを守るようにして立つ紅の闘士。その姿は血だらけで、とてもでは無いがスカーレット卿の攻撃を耐えられるとは思えなかった。

 だが決して勝てない相手に対し、子供を守らんとするその意思、熱意、正義感。それはスパルタクスが大いに好むものであった。

 

「────────!」

 

 美鈴を投げ飛ばし、レミリアとフランに覆いかぶさる。迫る光弾を小剣ではなく、己が背で受け止める。貫かれたら終わりの賭けだ。金属のような音が鳴り響く。

 バーサーカーであった時のスパルタクスが受けた攻撃に対しても正確に機能しているらしい。その事実に、目の前の少女らを救えた喜びに、自然と頬が緩む。

 

「良くぞ戦った小さな同志達よ」

「ぁ、あぁ」

「安心したまえ」

 

 華奢な体の叛逆者達に背を向けながら立ち上がり、圧政者(スカーレット卿)を睨む。その顔には笑みを張り付けて、然してその眼は笑ってなどいない。

 

 自分は愛を持って圧政者を討ち滅ぼさんとするバーサーカーでは無い。ただただ圧政者を許すまいと正義に燃えるセイバーでも無い。その二つを持った、持たされた紛い物だ。

 

 だが、それでも。この意志(叛意)がある限り、背後で息を呑む小さな同胞達の英雄(スパルタクス)なのだ。

 その鋼よりも尚硬い意志は、決して折れぬ不屈の闘志こそが、叛逆の英雄(スパルタクス)たる所以。

 仮に本来ありえないクラスとなろうとも、彼の本質が変わる事は決して無い。

 

 おのれ魔女め、小癪な呪いを。そう内心で愚痴る。

 スパルタクスはスカーレット卿にグラディウスを構える。堂に入ったその構えは、今までの技術無き構えでは無く、明らかな闘士の構えであった。

 

 ─────恐らく、私はここで死ぬだろう。だが、それは全てを救った後だ。私は救わなければならないのだ。

 

 

 

 

「────────これより、叛逆を行う」

 

 

 

 

 決死の覚悟でそう言い放つ。

  そしてふと気が付いた。

 

 

 ─────どうやら魔女は殺せなさそうだ。

 

 

 スパルタクスは微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話は終わったか?」

 

 対峙する両者。片や圧政者、片や叛逆者。互いに求めるものは片方の死。互いが振るうのは圧倒的な暴力。

 

「おぉ!圧政者よ。貴様に痛打を与えるべく、このスパルタクスがやって来たぞ!はははは!」

「ふん、狂人が。貴様程度、何ができるというのか」

 

 スカーレット卿の高慢な態度は崩れない。パチュリーの読みが外れたのか?いいや、違う。

 

 これは──────()()()()である。

 

(どうやら無意識の内に手心を加えていたらしいな。全く、あの程度の雑魚を貫けないとは。いや、恐らくだが能力すら使っていなかったのだろう)

 

 スカーレット卿の一撃は、確かにスパルタクスの背に当たり、そして無効化された。

 だがそれはありえない。スカーレット卿は認めなかった。数百年生きてきてそのような事は無かったからだ。

 だが、彼は気が付かない。あの瞬間()()()()()()時点で負けは確定したのだ。

 

「今宵は既に叛逆の時!ユクぞ、圧政者よ。我が愛を持って貴様を倒そう!」

「愛だと?くっ、くはははは!面白い、面白いぞ狂人。愛など下らな・・・?まぁよい。少しばかり興が乗った。付き合ってやろう。────来い」

 

 一瞬何かに首を傾げた。気のせいかとスカーレット卿は考え直し、くいっくいっと手招きする。そして大げさに両腕を広げる。まるで十字架の様。これは本人が弱点を全て克服した絶対強者であると考えるポーズだ。

 

「では行くぞ、ははは!」

 

 スパルタクスは疾走する。その巨漢からは考えられないほどの速度だった。スカーレット卿は少し驚き、チラリとパチュリーを見る。眼鏡をかけて状況を見定めているようだ。あの者がスパルタクスを強化させる魔法でも使ったのか。あの喉で?

 

(まぁ、どうでも良い。どうせ結果など分かりきっている)

 

 鼻で笑い、スカーレット卿はこちらに走るスパルタクスを見た。全吸血鬼の中で最強のスカーレット卿からすれば、速度が亀から兎に変わった程度の変化だ。

 

「はぁ」

 

 ほんの少しの失望と共に、ゆっくりとその手のひらをスパルタクスに向ける。

 収束する光。これはスカーレット卿が放てる最大火力。拳一つ分程の大きさの光の弾。

 

「圧政者に痛打を!!!」

 

 眼前まで迫ったスパルタクスに手向けとして放つ。万物を貫く究極の貫通性だ。当たればどのような防御ですら貫く最強の矛。

 

 しかし。

 

 

 

「─────ぬぅんっ!!」

「!?」

 

 スパルタクスに光の弾が触れると同時に消失する。混乱するスカーレット卿の頭が掻き消える。

 スパルタクスの一撃がその頭を消したのだ。

 

「──っア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!?な、なぁ!?何が起き」

「死ぬが良い!!」

「やめ────」

 

 スカーレット卿は戸惑った。初めて感じる痛みが体を支配する。体が痛い。痛いとはこんな感覚なのか。

 

「ぐぅうう!?おのれぇ!?何をした!?お前か!?お前か!?パチュリー・ノーレッジ!?」

「ははははははははははははははははは!!愛!愛だ!!」

「ヒィッ!?そ、それが愛なものか!」

 

 光。光。光。

 

「何故だ!何故効かん!!!」

 

 直線的に放たれる光の光線は、スパルタクスの肩や腹に当たり、周囲を眩く照らした。怯えるその心ではスパルタクスを貫くなど到底不可能であった。

 

「はははははははは!無駄である!最早その圧政に屈する事は無い。さぁ、死ね、圧政者よ」

「おのれぇ!?なぜだ!?」

 

 スカーレット卿が感じたのは疑問だった。

 なぜ、貫けていないのか。

 理由など不明だ。

 当然、理解など不可能だ。

 ありとあらゆるものを貫いてきた能力が、ただ鋼のような筋肉に阻まれているのだから。

 

「わ、訳が分からない!」

 

 思考が混乱する。訳の分からない仮説が並べられる。

 

 

 だが、彼にわからずとも我々には分かるのだ。スカーレット卿が負ける理由、その最もたる原因が。

 

 

 そう、それは───

 

 

 

 

 

 

 

 ────筋肉(マッスル)だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 マッスルとは即ち英雄。マッスルとは英傑を表す言葉。

 筋肉は全てを解決するマスターキーなのだ。アカシックレコードとは即ち筋繊維に違いない。

 なにせ、古来より無理難題は筋肉により解決されてきた。

 根源?筋肉の間違いだろう。なにせ歴史が証明している。基本、人類史は戦争と筋肉でまかり通っているのだから。根源は恐らく筋肉、もしくはプロテインだ。

 

「思い返すがいい・・・・・・!圧政者よ!貴様が受けたその痛み!それはお前が弱者に与え続けたきたもの、一方的に与えたものだ!故に!こうして数倍になって返ってくるのだ!!このスパルタクスの手によって!」

 

 肉薄され逃れられないスカーレット卿は必死に攻撃するが全て無効化される。

 唸るスパルタクスの上腕二頭筋、否、全身の筋肉が圧政者を殺す機会を求めてギチギチと音を立てているかのようだ。まるで威嚇音の様な音に、スカーレット卿の心は更に萎縮する。

 

「ふはははははッ!ははははははははははははははははは!!!愛!!愛だ!!」

「こ、この化け物めがっ!!」

 

 お前が言うな。この場にいるスカーレット卿とスパルタクス以外が思った。

 スパルタクスとスカーレット卿が一方的な凄まじい攻防を繰り広げる中、レミリアとフランが動き出した。

 

「ありがとう美鈴、このお礼は必ずするわ」

「私もするよ!」

「ありがとう、ございます、そのお言葉だけでも十分に報われました」

「こほっ、いや、あなた、全然死なないわよっそのくらいじゃ」

「「おい」」

「あはは・・・それは言わない約束というヤツでは」

 

 まぁいいわ。と小さく呟くと同時に、ニヤリ、と笑う2人。

 

「来なさい────グングニル」

「おいで────レーヴァテイン」

 

 運命に従い必中する必殺の神槍、全てを焼き尽くす焔の魔剣。

 かの吸血鬼の王は言った。武器は弱者の証であり、吸血鬼には必要の無いものだと。

 ならば、使おうではないか。私達はお前とは違うのだから。人と同じようにして立ち向かおう。

 

「スパルタクス!私達も手伝うわ!」

「うん!頑張る!」

「なっ!?」

「ははははは!イイぞぉ!共に戦おう叛逆者達よ!!今こそ圧政者を打ち砕く時っ!」

「「はぁああ!!」」

 

 スパルタクスの大振りの横薙ぎ。必死の形相でそれを()()するスカーレット卿、しかし不慣れなこと故に、スキだらけにも程があった。

 

「えいっ!!」

 

 近付くだけで肌を焼くかのような炎、武術を知らないフランのテキトーな振り下ろしも、回避技能の無いスカーレット卿からすれば致命的だ。

 

「ぐぬぅぁぁぁあ!?あ、熱いだとこの吾輩が!?熱を、感じるというのか!?」

 

 回避しきれずに肩を焼かれるスカーレット卿。初めて受ける細胞が死ぬほどの熱に驚愕し、慌てふためく。

 もしや、と不安が頭をよぎる。

 

(もしや、この2人にも吾輩の力が効かないのでは・・・・・・?)

 

 いや、そんな筈は無い。この男と同じな訳が無い。

 だが。

 

(だがもしもあの魔女が奴に魔法を掛け、それがこの結果をもたらしているのだとしたら!吾輩のの娘達も同じ様に吾輩の攻撃が効かないのではないか!?)

 

 考えれば()()()()()()。弾幕をはる手が鈍る。

 

 体が衰弱していくのは何故だ。

 心が冷たくなるのは何故だ。

 四肢の末端から、背骨の底から這い上がる悪寒は何だ。

 何故、奴らの笑みを見ると足が後ろへ向うのだ。

 

「「「(あ)ははははははははははははははははは!!」」」

「く、来るなぁ!」

 

 弾幕をめちゃくちゃに撃ちまくる。当たれば貫かれる。能力が精神の状況に依存する以上、弱体化したそれらだが、貫通性が無くなったわけではない。フランとレミリアに当たればタダでは済まないのだ。

 

「ぬぅはは!フラン、レミリア!私の背に捕まるといいッ!」

「ええ!」「うん!」

「おのれぇ!!」

 

 撃ちながら後方へ飛ぶスカーレット卿。舞台は図書館から紅魔館の廊下へ。直線に伸びる廊下、回避困難な貫通弾幕。本来ならばどれだけの妖怪であろうともこの攻撃を前に穴だらけになって死んでしまうだろう。だが。

 

「「「ははははははははははははははははは!!!」」」

 

 止まらない。

 

 恐ろしい笑い声も、その死の足音も。

 

 踏破する。走る。走る。走る。

 

 全ての攻撃を弾き、無効化し、時折反射し、迫ってくる。

 

 その表情は苦痛に満ちていたか?

 憤怒に染まっていたか?

 復讐に歪んでいたか?

 

 

 ──────否、断じて否。

 

 

 ───笑っている(スマイル)のだ。そう、笑っているのだ。

 

「「「ははははははははははははははははは!!」」」

 

 破顔一笑(スマイル)破顔大笑(スマイル)捧腹大笑(スマイル)抱腹大笑(スマイル)

 スカーレット卿からすれば、笑面夜叉(スマ(ry)。嘲笑に他ならない。いや、他人から見たら成人男性がキチマッチョとキチ幼女に追われ悲鳴を上げるだけなのだが。

 

「くそぅ!んっ!?」

 

 ずっと後退していたスカーレット卿の背が壁にぶつかる。視界のやや下を一瞬何かが通り過ぎた。

 

(ば、馬鹿な。測り違えたか!?いや、少なくとも200メートルあったはずだっ!!)

 

 訳が分からなかった。此処は自らの居城のはず。

 なのに、何故だ。

 

「ぬん!!」

「グボハァッ!?」

 

 壁ごと吹き飛ばされ、次の廊下へ出た。ヨロヨロと立ち上がろうとして、固まる。魔力の高まりを感じたからだ。ハッとしてそちらに顔を向け、引き攣る。

 

「スピア・ザ・グンッ──────グニルッ!」

「キュッとしてー!───ドカーン!」

「─────!」

 

 娘達の能力が迫る。

 

 ───まだだ。

 

 放たれた槍は紅の軌跡をもってスカーレット卿を貫抜かんと迫った。

 

 ───まだ、だ。

 

 白く細い指が1本、また1本と閉じられていく。

 

 ───まだなのだ。

 

 ふと、自らの内側が見えた。

 能力で固く閉ざされ守られていた心が。

 いつの間にか狂ってしまっていた約束達が。

 忘れ去ろうとし忘れ去られようとしていた、あの顔が。『愛』と『娘達』を媒体に思い出す。

 

 

「ッ!!」

 

 そうだ。そうだった。

 まだ、吾輩は負けるわけには行かない。

 まだ倒れてしまうことは許されない。やるべき事は残っている。

 

 関係の修復などする気はない。

 だが、だからこそ約束だけは、守らなくてはならない。

 

 

 ───悪魔は契約だけは厳守するのだから。

 

 

「ゥゥウウウウウウアアアッッ!!!」

「「!?」」

 

 神槍を貫手で貫き、破壊を能力で受け止める。スカーレット卿の反撃はそこで終わらない。

 破壊された能力を秒で再展開、前進する。たった1歩、前に進んだそれだけで即座にスパルタクスの後ろを取る。

 

「オオオオオオっ!!!」

 

 そこにいるのは2人の娘。

 しかし、それを許すスパルタクスではない。この男に動揺など無いのだ。

 

「ぬぅん!」

「チィ!!」

 

 身体能力に任せ、スパルタクスの振り向きざまの一撃を回避し、その勢いのままに図書館への廊下を下がる。そして弾幕を撃ちまくる。

 

 再び始まる追いかけっこ。だが、先程とは違い一撃一撃が重く、速い。

 プライドを捨て、思い返す。

 かつて自らが貫き破壊した、いや、破壊しようとしたものを。

 

「─────あぁ思い出したぞ。デザイアよ」

 

 

 

 

 

 

 ──吾輩は何故、産まれてきたのだろうな。

 

 ある日、なんの考えもなく隣に座る()に問うた。

 

 ──さぁ?

 

 女は答える。いや、煙に巻いたのやもしれない。それが吾輩には許せなんだ。

 

 ──さぁ、では無い。答えよ。

 

 愛する女にこの態度では何時かあいそを尽かされるだろう。だが、どうしてかこの女は離れようとはしなかった。変わった女だ。

 

 ──強いて言うのなら、この子達の為では?

 

 そう言って膝の上で眠るレミリアと、腹の中にいるもう1人の娘を愛おしそうに見やる。

 吾輩には理解に苦しむ内容だった。確かに、吸血鬼が子を成すのは難しく、それも2人で尚且つ5年しか月日がたっていないのに、となれば珍しいのは分かるのだが。

 

 ──珍しいからか?

 

 吾輩がそう言うと、女は酷く機嫌を損ねた。これには吾輩も困ってしまう。1度損なわれた機嫌は元に戻るまでが長い故。

 

 ──そうだと思いますか?

 ──お前がそう言う女で無いことは知っている。

 ──ふふ、なら良いのです。

 

 どうやら助かったらしいと、ほっと胸をなでおろす。

 だが、どうやら女の話しは続いていたらしい。仕方ない、この館の主として、聞いてやらねば。

 

 ──この娘たちは私達の血が通っています。とても沢山の血が通っているんです。

 ──ああ。

 ──だからこそ、愛おしいのです。

 

 自分と同じ血が通っているから愛おしい。よく分からない理屈だった。だが真祖としての血が強いのならば強い子なのだろう。誇りに思う気持ちは理解できた。

 

 ──ふふ、分かってないですね?その顔は。

 ──わかっているとも。

 ──嘘つき。この子達もそうなっちゃいますよ?

 ──ふ、悪魔なのだから嘘つきでなくては。

 

 ふっ、やはり。この女は変わっている。まぁ、そこが気に入ったのだが。

 

 ──あなたは、この娘達を守ってくれますか?

 ──ふん、当然だ。吾輩はこの館の主だぞ?住まうもの全てを守る義務がある。

 

 気がつけば話が逸れていた。

 

 ──で、吾輩は何のために産まれてきたと思うのだ?

 

 もう1度問う。すると、女は頬を膨らませて吾輩の頬を掴もうとする。

 吾輩は慌てて能力を解除する。軽く触れるだけでもその手を破壊しかねない。

 

 ──私はその問に対する答えを持っていません。でも、私はその問に対する願望はあります。

 

 まるで、わからず屋にわかりやすく教えてやろう、とでも言うかのような口調と態度に少し苛つく。はぁ、この女で無ければ何度殺していたか。

 

 ──願いとは?言え、可能な限り叶えよう。

 ──親とは、子を守る為にいる。色んな生き物がそうです。

 ──うむ。

 ──そして私は、あなたとの血を分けた子供達が愛おしい。

 ──ほう。

 

 なるほど。初めに女が言った言葉が理解出来た。

 

 ──だから私は、あなたが私との愛の結晶を守るために産まれてきた・・・・・・なんて、ロマンチックな妄想をしてみましたっ!

 

 最後は顔を赤くしてそっぽを向く女。

 全く、下らない。その程度、吾輩ならば片手間にこなせようと言うのに。

 内心でそう笑い、けれど何故か吾輩は誓を口にした。

 

 ──ふはは!よかろう、いいだろう!その程度、このフィックス・スカーレットがその願い聞き届けた。我が名を持って約束は守られよう。

 ──えっ?

 ──ふっ、くくっ、ぷはははっ!!見たぞ、吾輩は確と見たぞっ!その間抜けな面をなっ!!くははは!

 

 女はいつも何もかも分かっています、と言った様な顔をしていた。事実、女の能力ならばそうなのだろう。

『未来を望み結末を定める程度の能力』だったか。吾輩は恐らくその予想から外れたのだろう。痛快だった。

 

 ──だが、な。デザイアよ。吾輩は愛の結晶のみならず愛そのものも守るのだぞ?

 ──ふっ、ふふ、変な人。もうやめてください、顔が赤くなってしまいます。

 ──何を言うか。既に赤かろう。

 ──・・・・・・意地悪。

 ──何をいまさら。

 

 この女に立てた誓は2つ目だった。一つは愛を貫くこと、二つ目は愛の結晶を守り貫く事。

 

 ──では、最後に

 ──今宵はもう十分だろう。朝に起きているのは体に悪い。眠りについてしまおうではないか

 ──そうですね。

 

 そこから場面は一転する。次の約束を思い出したのだ。

 満月の夜だった。狼男達が遠吠えをあげて煩わしい。吾輩は常に最強故に、満月だの新月だのの影響すら受けない。満月の日などうるさいだけだ。

 だが、(デザイア)からすれば違うようだ。

 頬を染め、チラチラとこちらを見ている。まぁ仕方の無い事だ。満月の夜は昂るらしい故な?

 

 ──あの、能力を解いてはくれませんか?

 

 女はそう言った。愛いやつめ。だが、吾輩迷う。能力を解けば満月の影響を受けてしまうからだ。そうなれば余裕綽々の強者たる姿を配下に見せることが出来ない。

 

 ──ふむ・・・・・・。

 ──い、嫌なら構いません。少し、手を繋ぎたくなっただけですから。っへ?!ど、ど!?

 

 女の手を掴み、吾輩の部屋へ連れ込む。もちろん能力は解除した。血が昂るのを感じる。女が望んだのは手を握る事だが、男たるもの女の期待は超えねばならぬ。引き寄せ抱きしめる。

 

 ──ま、ま、満月が、見えませんね。ってぇ!?

 

 作り出した光弾に能力を乗せる。それをいくつも作り出し、天上に天窓を拵える。月に穴を開けるようなヘマはしない。

 

 ──これで満足か、注文の多い客め。

 ──ぅ、うぅ、これでは

 ──まだ何か必要か?

 ──そのままベッドに押されそうです。私は少しお話がしたいだけで

 ──ならばこのままで良い。話せ

 

 少し悪戯が過ぎたとはおもう。が、吾輩は悪魔だ。許せ女よ。恥じらうお前が愛いのが悪い。

 やがて女は恥じらいを捨てたのか、真剣な顔になる。

 

 ──幻想郷に行きませんか?

 

 数十年前に噂で聞いた名が飛び出した。確か、人妖が共に暮らす楽園を作る・・・・・・だったか?馬鹿らしい、不可能だ!と笑ってやったのだったな。

 

 ──もう決めたのだろう?吾輩が能力を解いている間に。

 ──その、ペースを乱されたのでまだです。

 

 笑いそうになるのを堪え、考える。

 なぜ幻想郷に行くのか、吾輩には分からなんだ。

 

 ──なぜ幻想郷に?あの下らぬ机上の楽園になど行ってどうする?

 ──レミリアとこの子、フランが幸せになれるのです。

 ──ほう。

 

 正直な話し。娘2人など、どうでもよかった。むしろ、何故自分が幸せになる結末を選ばないのか。いや、娘達が幸せになると言うことが女の幸せなのか?そんなはずは無いか。つまりは自身の幸せは確定しているから、娘達にもお零れを、と言ったところか?

 

 ──待て、吾輩はどうなのだ。

 ──ふふっ、心配ですか?

 ──そのような訳があるか。ただ、お前の能力は興味深いのでな。

 ──貴方は強いですから。勝手に掴み取るでしょう?

 ──ハッ!確かにな。要らぬ心配だったか。

 ──心配だったんじゃないですか。

 ──むむ・・・・・・。

 

 まぁ良いだろう。と吾輩は承諾した。そうだ、これが三つ目だ。・・・・・・最後の誓いだった。

 

 ──では早速

 ──そこまで急がないで下さい。この子が産まれてからでも遅くはありません。

 

 今思えば、ここが・・・・・・()()道だったのだろう。

 

 

 ある日、娘が生まれそうだと使い魔から連絡を受けた吾輩は病室へと急いだ。

 たどり着いたそこには喘ぎ、唸るデザイアの姿が。発汗が起こりにくい吸血鬼だと言うのに酷い汗だった。吾輩はまず、医者を疑った。この場にいるのは皆人間の医者だ。患者の容態が、だと?分かっている。だが、理由は知らん。故に嘘をついていないか確かめようと一人殺した。

 

 ──フィッ、クス、来て、くれたのですね。

 ──当然であろう。大丈夫なのか?

 ──辛い、ですが、大丈夫、です。

 

 どうやら人間の医者は嘘をついていなかったようだ。だが安心した束の間、それは起こった。

 

 ──!?!?!?っ!?!!っあ!?

 ──なんだ、何が起きている?!

 

 突如、デザイアがベッドが壊れかけるほど強く暴れだした。声が出ないほどの激痛なのだろう。だが、レミリアの時はこのような事にはならなかった。

 白い美しい肌が土気色に染まっていく。表情が驚きと困惑から、悟りと諦めに変わっていく。能力で何が起きるのか察したのだろう。この時の吾輩は気が付かなかったが。

 いや、ある意味で吾輩は気がついていたのだ。直感に従い、デザイアの腹を、フランを能力で貫こうとしたのだ。しかし、デザイアは弱々しい手でそれを制した。

 

 ──なにを馬鹿な!吾輩が愛しているのはお前だけだと何度言えばッ!!

 ──2人、を、しあ、せ、に─────

 

 儚げな顔には懸命さが滲み出ていて・・・・・・次に響いたのは破裂音だった。

 赤き部屋はさらに紅く染まった。先程までデザイアだったもので部屋が溢れかえる。ピンク色の臓物、腕、足。そして首。

 破裂し顕になった背骨に抱き着くように、その元凶は眠っていた。安らかな眠りだった。産声すら上げない。

 

 あぁ、狂いそうだった。あの時吾輩は確かに狂いそうになったのだ。

 気がつけば殺そうとしていた。だが、思い返す。約束は何だった。デザイアとの契約は何だった!

 

 デザイアを愛し、その愛を貫き!その愛の結晶たる2人を守り!幸せにするべく幻想郷にたどり着く!そうだ、それこそが吾輩との契約・・・・・・!!

 

 だが!!

 

 だが、デザイアは今、死んだ!

 

 最も守りたいと思えたものは、その愛の結晶とやらに破壊された。

 

 無駄に美しい七色の輝きが、その異端たる破壊の象徴が、吾輩には何よりも憎かった。

 

 だから───────破壊したのだ。

 

 この記憶を。

 

 貫いたのだ。

 

 愛の結晶を傷付けぬように、破壊しないように守る為に。

 

 だから、見失ったのだ。忘れたのだ!

 

 娘を守るという約束は、地下への幽閉、半奴隷としての雑な扱いへ変化し!

 娘達を幻想郷へと送り届けるという約束は、幻想郷を支配するという暇つぶしの欲望にすり替えられた!

 

 強き気高き吸血鬼は伝承の通りの悪しき醜き怪物へと変わっていた!!

 

 それが吾輩の、吾輩とデザイアの最期!

 

 今この場に立ち、娘とスパルタクスと名乗る男の前に立つのは誰だ?

 そうだ、フィックス卿だ。悪虐の限りを尽くす不死身の、無敵の怪物。最悪の男。

 

「はははは!ぬぅん!」

 

 吾輩は、契約を守る。2つ破ってしまった。だが、まだ残っている。3度目の正直という言葉があるらしい。なら、これで慰めとしよう。

 

「・・・・・・」

 

 これが仮に全てデザイアの望んだものだったのならば、吾輩に悔いはない。

 娘達を虐げたのは確かに吾輩なのだから。

 幸せになれ、娘達。

 

 だがな、ただ殺られる理由には行かないのだ。吾輩は最強最悪の吸血鬼!

 超えて見せろ我が子よ。その男の力を借りてでもよい。超えて見せろ。

 

 この吾輩を倒せるのならこの先も不自由なき生をおくれよう。

 

 決意は固まった。砕けていた能力は・・・・・・蘇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────パキッ

 

「「!!」」

 

 図書館の中、追いついたレミリア達が見たものはスカーレット卿・・・フィックス卿の首に振るわれたグラディウスがひび割れ、完全に折れる瞬間だった。

 

「くく、くくく・・・・・・」

 

 フィックス卿の不気味な低い笑い声が響く。片手で顔を押さえ、笑いを押し殺そうとしている様だ。

 その内心が自らの死を持って娘達を幸せにしようと抗う父親だとして、唐突に溢れ出したおぞましき妖力はスパルタクスを除く全ての生き物の肌を粟立たせる。

 

「実に、実に愉快な時間であった。どうだったレミリア、フランドール。吾輩の演技も、なかなかどうして捨てたものではあるまい?」

 

 両手を広げ、ふわりと浮かぶ。穴の空いた壁を背に、堂々と連中を俯瞰する。

 

「貴様らの顔が、心が、力が!希望に向かい勢い付く様はとても心が踊ったとも」

 

 まるで無傷。全ての傷は既に治り、ボロボロにされたはずの洋服は治っている。まるで何事も無かったかのようにそこに居る。

 

「う、そ・・・・・・」

 

 パチュリーが震える声を出した。

 

「どうした、来ないのか?ならば吾輩から行くとしよう」

 

 手に作り出した光の弾は小さい。そしてそれは素早くスパルタクスへと飛び────()()

 

「!?」

 

 パチュリーが声にならない悲鳴をあげた。

 

「ふん下らんな。実にくだらない。使い魔風情が吾輩を倒す?ふははは!このフィックス・スカーレットを!?実に荒唐無稽な夢ではないか!流石はお子様だ!我が娘ながら恥ずかしいぞ!!」

 

 2つ、三つと作られた光弾がスパルタクスの体を貫いていく。その後にレミリア達がいるためにスパルタクスは飛び出さない。

 

「貴様が何者であるか、見抜いかせてもらった。サーヴァント、過去の英雄達を奴隷として従えた姿とはな。そして吾輩の力を無効化して見せた奇跡は『宝具』だろう?ならば単純な話だ!宝具に守られる貴様を貫けぬならば、宝具ごと貫いてしまえば良い!」

 

 そう言って放たれた光弾はスパルタクスの膝を破壊する。スパルタクスが倒れ込む。

 頼れる壁が脆くも崩れ去ったのだ。レミリアとフランの顔が恐怖に歪む。

 

「恐れよ!ひれ伏せ!吾輩が覇者である!」

 

 口が恐ろしい弧を描く。

 

「空も、ごの幻想郷も!お前達の命も!全て!吾輩のものだ!そう、全ては須らく吾輩のものなのだ!!」

 

 目をかっと見開き、叫ぶ。

 ただそれだけでボロボロになっていた本が吹き飛ばされ、図書館を嵐のごとく舞う。紙が暴れ狂う音が全てを飲み込んでいく。場を恐怖が支配する。逆らってはならないと心を傷つけていく。

 

「否、である」

 

 だがそんなことの一切合切を無視して、スパルタクスは物申す。

 

「人は平等である。自由である。断じて、貴様ら圧政者のものでは無い。それを証明するために、成すために私はここにいる。」

「はっ!下らん!貴様では吾輩は倒せん!武器を失った弱者に何が出来る!!」

「失って等いない。私の得物はこの心故に!我らの心に確かに武器はあるのだ」

 

 互いに凄味のある笑みで威嚇し合う。翼を大きく広げたフィックス卿は光の弾を無数に作り出す。その数二百。

 対するスパルタクスは駆け出した。守りを捨てたのではない。もうレミリア達が狙われないと理解したのだ。

 

「お前では吾輩には勝てん!!」

「否!我らは勝ち続ける!叛逆が我らが願いならば、叛逆をし続ける限り叶い続ける!故に、我らは勝利し続けるのだ!!」

 

 戦いは続く。光と血、肉片の舞う狂乱は終わらない。

 既にどれだけの時間戦闘を行ったか、記憶には残らない程に長く、けれど短い時間。

 

「死にたまえ!!」

「死に絶えるがいい!!」

 

 スパルタクスの体が穴だらけになる。再生は追い付かない。だが、生けるならば、生有るならば進む。突き進む。眼前に獲物は転がっている。結末はそこにある。

 

「「ふはははははは!!」」

 

 腕が千切れた。足がもげた。内蔵に無事なものは無い。それでも、前進をやめない。その姿、その背中に人々は魅入られた。過去、多くの人々が追ったその背は今も尚人を魅了する。

 傷に覆われた青ざめた皮膚、靡く金髪。血だらけのそれらのどこに魅力を感じるのだろう。分からない、だが、分かることはある。

 

 ───────勝てる。

 

 意味のわからない自身。訳の分からない根拠。理由無き理由。

 立ち上がる。誰もが確かに地に足をつけ、大地を踏みしめ立ち上がる。希望を得る。

 

 その全ての心に「武器」はある。

 

 圧政者を、圧政を圧し折る鉄槌は確かにそこにある。

 

「はははははは!!!ユくぞ!!」

「うん」「ええ」「わかったわ」「了解です」

 

 目線だけで通じ合う意志。

 

「我らが愛は──」

「スピア・ザ・グングニル!!」

「レーヴァテイン!!」

「ロイヤルフレア!!」

「彩光蓮華掌!!」

「爆発するぅ────!!!」

 

 同時に放つ、必殺の技。

 スパルタクスをして耐えられないと理解できる馬鹿げた火力。全ての攻撃をスパルタクスの魔力の波が後押しする。

 フィックス卿はそれを─────受け止める。

 

「ぐぬぅぉおおおおおおおおおおおお!!!!!」

「「「「!?」」」」

「まだ、だぁあぁぁああ!!」

 

 その意志はフィックス卿の意志すら上回る。けれど、それを意地で受け止める。体は焼け、心臓は痛み、体は灰となろうとしても、まだ耐えなければならない。

 

「─────我が愛を受けるがいい・・・・・・!!」

 

 その絶死の空間に、スパルタクスは飛び込んできた。

 有り得ない。ほんとうにイカレている。

 フィックスは大いに・・・・・・笑った。

 引き絞られた鉄拳。単なる拳で決着を付けようというのだ。

 手を離す。槍が心臓を貫き、火炎が、気が体を灰に変えていく。だが、フィックスもまた拳を引き絞った。

 

「「ぬぅん!!!」」

 

 スパルタクスが狙うのは頭。フィックスが狙うのは霊格。

 互いの腕は交差し────狙い通りの場所を貫いた。

 生まれたこの隙を逃すレミリア達ではない。

 

「───運命を定める・・・・・・!!!やって!フラン!」

「きゅっとしてっ!!ドッカーン!!!」

 

 凄まじい爆発が発生した。

 館が崩れ始める。

 

「くく、は・・・・・・馬鹿な、この吾輩が・・・・・・!」

 

怪物は落ちていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暁は去り、朝がやってこようとしていた。

 壁を突き破り、外に倒れ込む影。フィックス卿その人である。

 

 なぜ、生きているのか不思議な程に彼は死に絶えている。

 

「・・・・・・」

 

 声を発することは既に不可能。目だけがゆっくりと愛おしそうに二人を見た。

 その内心で如何なる感情が蠢き、どのような後悔をして、どんな走馬灯を見ているのか。

 

「私たちの、勝ちよ。お父様」

「─────────」

 

 決意に満ちた、その紅き眼に。愛おしい誰かを見つけた。優しく、強く、美しいその眼に。

 

 ──あぁ、そうか。これが、愛の結晶か。ようやく、見つけたよ。デザイア。

 

 風が吹く。フィックスの体の端から少しづつ、灰となって空へ舞う。

 

 妖怪としての核はフランに、肉体の核はレミリアに、再生能力はパチュリーと美鈴に。能力そのものはスパルタクスに壊された。

 

「!」

 

 フィックスは微笑みを浮かべ、その体はすべて風に運ばれる。

 

 レミリアはグングニルを強く握りしめ、俯いた。

 

「愚かな、人だ」

 








すまねぇ、すまねぇ、こんなことになるつもりは無かったんだ!!(大嘘)

と言うか!!書き終わってから動画上がってて聴いたけど、「英雄 運命の詩」さん、TVサイズの方しか知らないけどスパルタクスの歌だよねぇ!?この小説に割りと内容あってる気が・・・・・・え?失礼?ですよね、すみませんでした!(市民)

次回はいつも通り短く。



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閉幕

待たせたな(圧政)

正直すまない───などというつもりは無い!!

お腹いっぱいで眠い時に20分で書いたからもうめちゃくちゃだよ・・・・・・。

でも1ヶ月も待たせている(待っている人がいるのかは不明)から急ごうと思ったのさ、許してヒヤシンス。





 レミリアは空を見上げた。もうすぐ日が昇るだろう。であればここにいては不味い。

 フィックス卿は太陽に負けず太陽を笑う男だった。その事実が彼の精神をより強大なものにしていたのやも知れない。結論からいえばフィックス卿が異常なだけで、ほかの吸血鬼は日に当たれば死ぬのだ。

 

「・・・・・・」

 

 レミリアが空から後ろのフランへと視線を下げる。そこには自分達を救った英雄、スパルタクスもいるはずなのだから。

 

「!」

「お、お姉様!!スパルタクスが!スパルタクスが!!」

 

 フランの焦った声に驚き、フランが抱きしめるようにしているスパルタクスを見る。その体が金の鱗粉のようなものを放出していた。その粒一つ一つが大量の魔力を含んでいることもレミリアは理解した。

 

「ど、どうなっているのパチェ!」

 

 しかしこれが彼にとって悪い事だとしてそれを解決する手段も知識も持ちえないレミリアはすぐさまパチュリーを頼る。

 

「─────死ぬのよ」

 

 一言。あまりにも冷たい一言が告げられる。

 

「え?」

 

 つい、聞き返す。

 

「いえ、少し違うわね。消えるのよ」

「消える?」

 

 消えるとはどういう事か、レミリアは問おうとしてその言葉を飲み込んだ。スパルタクスが真に何たるかを知り得ているのは、この場においてパチュリー・ノーレッジただ1人。

 無知な己が何かを問うた所で変わりはしない。だから結論だけを聞く。

 

「答えてパチェ、スパルタクスは助けられる?」

 

 その問にパチュリーはゆっくりと瞳を閉じ──レミリアが諦めかけた所で目を開いた。

 

「yes、だけどそれをすれば貴女が危険よ」

「助けられるのね!?」

 

 レミリアとフランの瞳がキラキラと輝く。助けられる。それだけで十分な程に希望が持てた。

 

「いったい代償は何?」

「それは────」

「それは・・・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レミィ、貴女が【圧政者】になる事よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 パチュリーから告げられた言葉。レミリアは混乱する。

 だからこそパチュリーは続けた。

 

「貴女の背中には令呪と言われ ゴッホゴッホムッキュ るスパルタクスに対する絶対命令権が ゴッホゴッホムッキュ あるわ」

「絶対、命令権?どうしてそんな物が?それに使い魔って」

「スパルタクスはね、使い魔 ゴッホゴッホムッキュ なの、小悪魔とは違った形式による使い ゴッホゴッホムッキュ 魔なのだけどね。主人と使い魔で魔力のパスを通す事に違いは無いわ」

 

 咳き込みながら時間が惜しいとばかりに説明するパチュリー。しかし、何故か少しづつ後ろに下がっていく。

 

「使い魔に本来なら出来ないことをさせたり、やってもらいたいことをやらせたりするのがゴッホゴッホムッキュ令呪なの。使い魔一体につき令呪は3画用意される事が多いみたいゴッホゴッホムッキュよ、そしてね────」

 

 核心に至る一言なのだろう、少しタメを入れるパチュリー。レミリア達はその一言を聞き逃すまいと体を前に傾ける。

 

「ゴッホゴッホムッキュ!」

 

 少し咳をしてタメを入れるパチュリー。レミリア達はその一言を聞き逃すまいと体を前に傾ける。

 

「はぁ、はぁ、はぁ。そしてね────」

 

 息を整えるパチュリー。レミリア達はその一言を聞き逃すまいと体を前に傾ける。おっと、フランが耐えきれずに前に「あうっ!」と倒れた。

 

「─────何だったかしら・・・・・・」

「おい!!」

 

 ため過ぎて忘れたパチュリーに情け容赦のない演出的グングニルが飛来しパチュリーの頭をブチ抜いた様な幻覚を視聴者は見た。が、そんなネギトロめいた殺人的現場は訪れていない。

 

「あっ!」

「思い出したのよね!?」

「思い・・・・・・出した!」

 

 パチュリーが某剣をブンブンしながら歩くOPがありそうなアニメのセリフを口にしつつ、さらに後ろに下がって、待ちに待った答えを神妙な面持ちで言った。

 

「─────令呪を3画全て使う事で、パーティー全員が生き返るのよ」

「・・・・・・・・・・・・ちょっと何言ってるか分からないわ」

 

 意味不な事を言っているパチュリー。しかし、視聴者よ。彼女を許して欲しい。彼女が使った魔法はアカシックレコードに直接答えを聞くというもの。要するに物凄い魔力を使うのだ。魔女にとって魔力は血液の近いものだ、足りなくなれば多少なりとも支障が出る。人間で言うなら血流40%OFF位には頭が動いていない。

 

「ぉ、ぉ!あっ、せい、しゃ、よ・・・・・・!」

 

 さらに言えば、スパルタクスは先程からパチュリーを殺そうと「一生懸命」に立ち上がろうとしている。スパルタクスの純粋なまでの殺意は100%パチュリーに向けられているのだ、怖くて逃げたいけど親友の頼みだから逃げられない。ならばせめて距離を通ろうとパチュリーは必死だ。

 

 ちなみに、令呪によってスパルタクスが回復したら間違いなくパチュリーは殺される。

 

「えっと、よく分からないけど令呪って奴を使えばスパルタクスは消えないのね?でも代わりに私は絶対命令権を使うから圧政者と認識されてしまう」

「えぇ、それと令呪が無くなれば貴女という魔力タンクゴッホゴッホムッキュとスパルタクスとの繋がりはゴッホゴッホムッキュ無くなるわ。スパルタクスはどの道消えてしまうでしょうね」

「うそ!?どうやったらそれは防げるの?」

「私ならもう1度令呪を作れるけど、多分作る前にゴッホゴッホムッキュされちゃうわ」

「咳と伏字が紛らわしいんだけど」

 

 どれだけキツイ状況であれ、パチュリーの叡智は決して並以下にはならない(真顔)。

 

「スパルタクス、と言うよりも使い魔に詳しいのは私だけ・・・・・・つまり貴女は圧政者として狙われる中で私を守りつつ、私が令呪を完成させるまでスパルタクスを止めなければならないわ!」

 

 距離が離れて来たため大声を張り上げるパチュリー。顔が青ざめているのは恐怖、そして大声をあげたことによる酸欠だ。早い。

 

「くっ、この魔力でスパルタクスを止めきれる・・・・・・?」

「私達も協力しますお嬢様」

「みすず・・・・・」

「美鈴です・・・・・・!」

「私も頑張るよ!」

「フラン・・・・・・!」

 

 忠誠、家族愛。そんな美しい絆が、スパルタクスのために立ち上がろうとしていた。

 

「────パチェ、令呪の使い方を教えて」

「───────」

 

 ふっ、と微笑み。覚悟を決める。あとは令呪の使い方を聞きスパルタクスの消滅を防ぐだけ。レミリアはパチュリーの目をまっすぐと見つめ────ることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 パチュリーは、もう限界だった。

 

 数々の無理が祟った、そうとしか言えない。

 

 思えば久々に動いて筋肉痛がやばい。

 

 喉をやられて魔法が使いにくくなって精神がやばい。

 

 腰いてぇ。

 

 スパルタクスが怖い。

 

 とにかく、パチュリーは限界だったのだ。

 

「あとは────任せる、わ───」

 

 薄れゆく意識、親友をのこして先に逝く事を悔やみながら、パチュリーは必死になってその一言を絞り出した。そこに込められた意味は如何程か。それを知るのはきっと、彼女だけだ。

 

「いやパチェぇええええええええ!?なんで倒れてるの!?なんで酸欠起こしてるの!?どうしてそこまで疲弊してるのぉおおおお!?」

 

 パチュリーの(気絶)を悼む悲鳴(ツッコミ)が谺響する。

 

 ────あぁ、なんだ。私は、そこそこ程度には、愛されていたんだな。

 

 頭を駆け巡る走馬灯、今までのレミリアとの軌跡を巡っていき・・・・・・そう言えばレミリアはこの間までオムツだったな、なんて思い出す。

 

 ────もう、私があーんする必要も無い、か。大きくなったわね、レミィ。

 

「何か知らないけど猛烈に馬鹿にされている気がするわよパチェええええ!とりあえず起きなさい!気絶すんな!!」

 

 ────あれ?この記憶、私とレミィ、場所逆じゃない?───そんな訳ないかっ☆

 

「ねぇ!?多分それ咲夜!咲夜だから!!その記憶絶対に全部咲夜と美鈴だから!!しっかりしなさいよパチェ!と言うか咲夜の能力なら万事解決じゃないの!?と言うかせめて私との記憶を正確に思い出しなさいよ!!なんで書き換えてんのよ!!」

 

 ────せやな。

 

「はっ!!私は、正気を、マモレナカッタ」

「いや守ってよ!?というか保って!」

 

 パチュリーは起き上がる、「え"」と濁った絶望の声を上げる親友を救えべく。

 その後ろ姿は正しく英雄に相応しい。風を肩で切り、スパルタクスへと歩み寄る。口元に小さく笑みを浮かべ、レミリアの方へちらりと視線だけを送った。

 

「私に名案があるわ」

「・・・・・・」

「─────咲夜よ」ドヤァ

「それ私が言ったわ今」

「咲夜の能力を使えば私が令呪を作る時間を稼げる」

「うん知ってる」

「さぁ、やるわよ」

「うん使い方を教えてパチェ」

「貴女の名と令呪をもって命じなさい」

「あっはい」

 

 とてつもない塩対応。だが割とよくある光景なので誰も気にしない。みんなが気にしているのはスパルタクスただ1人。はっきり言って相当消えてるのだ。金色の光を放出してキラキラなのだ。

 

「えっと、私、レミリア・スカーレットの名と令呪をもって命ずる」

「あ、3画使ってやるのよ」

「・・・・・・令呪を3画使って命じる。消えないでスパルタクス!!来て!咲夜!」

 

 紅い光がレミリアの背中から放たれる。そうすればスパルタクスの消滅は防がれ、その体が急速に回復して行った。そしてそれと同時にスパルタクスは駆け出していた。さらにそれと同時にレミリアは咲夜を呼びつける。

 

 タァン!と指を鳴らす様な音と共にロリ咲夜が現れる。レミリアよりも背が低い。

 

「はい、なんれしょうかおじょうしゃま」

「スパルタクスの時を止めなさい!」

「はい!」

 

 命令すれば即応じる。こんなに素晴らしい情報伝達が行えるなんて素敵。レミリアはパチュリーとの関係を見直さなければと思った。

 

「っ!っ!」

「えっちょっと咲夜?」

「ご、ごめんなしゃいおじょうしゃま、ゆびパッチンむずかしくて・・・・・・」

「えっとね、ここをー、こうしてね?」

「えいっ!────やりました!」

 

 レミリアが指パッチンを教えて、成功させると同時に咲夜はスパルタクスの後ろにいてスパルタクスの動きは止まっていた。

 憤怒(スマイル)の表情のまま、スパルタクスは彫刻と成り果てた。

 

「・・・・・・やった、のよね。助けられたのよね?聞いてるのパチェ」

「──────」

「パチェええええ!!咲夜!パチェをとりあえずベッドに!」

「はい!」

 

 英雄の反撃は、ここにて一旦その幕を閉じるのだった。

 





コメント、評価、お気に入り、好きなだけするがいい(圧政)


許して(懇願)。

パチュリーがキャラ崩壊してるのは最初からだしセーフのはずだ。
令呪で復活するのはFGO的な何か。

──────続け。


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新章開始!おぉ、筋肉!筋肉だァ!

(›´ω`‹ )僕はね────マッスルになりたかったんだ。

└( 'ω')┘なりたかったって、あきらめたのかよ?

(›´ω`‹ )うん。マッスルはね、期間限定で大人になると目指すのが難しくなるんだ(社畜)そんなこと、もっと早く気がつけばよかったのに。

└( 'ω')┘そっか……じゃあ仕方ないな

(›´ω`‹ )あぁ……本当に、仕方ない

└( 'ω')┘じゃあ、俺が代わりになってやるよ。安心しろって。爺さんの夢は、俺がちゃんと形にしてやっから。








というわけで久しぶりです。新章、始まります。


 ドォン、ドォン。

 

 森の中に響く轟音。木々はなぎ倒され、砂煙が肌を撫でる。

 巨大な影が()()を襲う。鋭利な爪、巨木を超える腕。妖怪、それも中級などでは無い。上級に足を踏み入れた新顔。近隣を荒らし周り、人里を脅威に脅かさんとする怪物である。

 

「─────!」

 

 振るわれる一撃、それを──受け止める。

 ダンッ!と芯を抜く様な鈍い音が響き、少女はその丹精な顔を苦痛に歪め──笑う。

 

「うっ」

 

 溜め。

 そして。

 

「らっああああああ!!!」

 

 放つ。

 

 引き絞られた筋肉が持つ、極限の緊張状態。それが紐解かれ、放たれるその一撃は天をも穿つ。

 ミシリ、妖怪の腹部にめり込んだ一撃は内蔵全てを破壊し、骨という骨を砕きわる。

 

 しかし、そこで少女は終わらない。

 

「はぁ──行くぜっ!マスターッ」

 

 全身の筋肉がシバリングの要領で魔力を生産していく。それぞれが血管、骨を伝い拳へと集まり──追撃。

 

「───スパークッッ!!」

 

 複数回の身体強化を一瞬にして重ね、打ち込まれる拳。めり込んでいた拳は残像を産みながら振り抜かれる。弾ける血肉、骨。髄液や脳みそすら例外無く。

 

「ふぅ、やっぱり、魔法は筋肉(パワー)だぜ!」

 

 流れる様な金の髪は戦いがあって尚、艶やかで、傷だらけの身体は、それを補ってあまりあるほどの筋肉。服はその筋肉量故か、ギチギチだ。

 

 彼女の名は霧雨魔理沙。

 

 どこにでも居る、普通の魔法使いである。

 

 

 

 

 

 

 

「いや~、強敵だったぜー。だがっ!これで魔力増量薬(プロテイン)の素材は集まったな。全く、人がキノコを採取してる時に襲い掛かってくるなんて、これだから妖怪は筋肉が足りないんだ」

 

 魔理沙は両手を頭の後ろに付ける体勢──アブドミナル&サイのポーズで人里を歩いていた。

 歩く度に揺れるのは完璧な鍛え方により柔軟性を持った大胸筋。生命の脈動とも言えるその悠然たる歩みを止めるものは居ない。

 

「ん?」

 

 魔理沙は何かの気配を感じ、サイドリラックスのポーズで振り返る。

 そこには白と赤で彩られる博麗の巫女。博麗霊夢の姿が。霊夢は魔理沙に気が付いたのかとてつもなく嫌そうな、そう具体例を上げるならスパルタクスを見た八雲紫の様な顔で17歩下がった。

 

「おお!霊夢じゃないか!」

「・・・・・・・・・どちら様?私、貴女みたいな筋肉ダルマに知り合いはいないわ」

「はぁ?おいおい、もしかしてボケたか?そんなモヤシみたいな体してると、頭までふやけちゃうぜ」

「五臓六腑から脳味噌まで筋肉で出来てるサイコパスに知り合いは居ないってことよ。理解しなさい脳筋」

 

 リラックスのポーズではなしかける魔理沙。その横を通り過ぎようと霊夢が動けば、ダブルバイセプスのポーズで追従する。

 神社でお茶を飲む霊夢の隣でプロテインを飲む、それが魔理沙の日課である。

 

「あぁ~、早く異変起きないかなー!」

「いや、起きなくていいわよ。と言うか着いてくるな」

 

 今日も幻想郷は平和です。





追記
小ネタ。霊夢の後退歩数=笑顔に使う筋肉の数。

ん?・・・あ、17話だ(驚愕)


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紅魔異変はじめました〜♪

アッセイッ!(挨拶)


ネタが少ないぞ。だが謝らない(圧政)


今回はほのぼの回、楽しめ (圧政)




 此処は紅魔館。

 紅に染まる館。その地下に広がる巨大な空間に、その大魔法陣は設置されていた。

 

 名を────

 

 《ドキドキ☆パッチェさんの擬似大聖杯》である。

 

 ネーミングに関しては小悪魔が担当した。3日ほど炙られる刑を受けることとなったが、今は満足しているらしい。

 そんなことは置いといて、この空間にはパチュリーのみならず、レミリアやフランもやって来ていた。

 

「これが・・・・・・大聖杯か。完成したのだな」

「いいえ、違うわ」

「え?」

 

 大聖杯を見上げ感嘆の溜息をつくレミリアに、パチュリーは首を振る。

 

「《ドキドキ☆パッチェさんの擬似大聖杯》よ」

「あ、うん」

 

 圧政者に見えるよう、密かに練習を重ねてきたレミリアの皮が吹き飛ぶくらいにはパチュリーは空気を読まない。

 

「コホン。・・・これで、かの叛逆者は制御出来るのか?パチェ」

「出来るわ。多分、きっと、えっと、その・・・」

「不安だなァ!!とっても不安だなァ!」

 

 羽をパタパタさせながら叫ぶレミリア。

 パチュリーはそれを見て微笑む。自分のせいで友人が嘆いているとわからないのだろうか。

 

「お嬢様」

 

 パッ、と咲夜が現れる。紅茶が既にレミリアの手には握られており、パチュリーの頭上ではひっくり返った紅茶が時を止められて空中に停止している。

 

「ありがとう、咲夜」

「むきゅ?私のは無いのかしら」

 

 首を傾げるパチュリーに、咲夜はチラッとパチュリーの頭上を見て「ただ今お持ちいたします」と不敵に笑う。

 指を重ね───鳴らす。

 

 タァン!ジャバッ!ムキューー!?パリィン!!

 

「アハハハハハハ!!」

 

 指が鳴り、紅茶が零れ、パチュリーか悲鳴を上げ、カップが割れる。

 ニヤニヤしながら片手でそっとお腹を抑える咲夜。それをジト目で見つめ呆れるも楽しそうな顔をしているレミリア。爆笑して空中でお腹を抑えているフラン。

 

「お嬢様、パチュリー様へのお仕置き、完了致しました」

「ご苦労。いい出来だ」

 

 十六夜咲夜は悪戯が大好きなのだ。よく紅茶に毒を盛ったり、ニンニクをおろしたり、十字架を突っ込んだりしてレミリアにイタズラを仕掛ける。掛け布団の柄が十字架だったりした。そこにフランまで合わさるのでレミリアは大変な思いをしているのだ。

 

 だが、悪戯にリアクションを返してやるとそれはそれは嬉しそうに笑ってくれるので、あまり邪険には扱わない。レミリアはカリスマなので器が大きいのだ。

 

 だが面倒は面倒なのでパチュリーへの悪戯を、お仕置きとして合法的に行わせることで自分から注意を逸らすことに成功した。計画通りである。

 

「あ、あわわ、パチュリー様のお洋服がジュルリ。勿体ない!今着替えさせますね行きますよパチュリー様ハリーハリーこのまま図書館の奥の秘書室で二人きっりになって服を脱がせてあげますからね任せてくださいこう見えてテクニックは自身がありますからその眠たげな眼差しを快楽一色で私1杯に染め上げハート量産の好感度マシマシからのキマシタワーを乱立させ私とパチュリー様の愛の魔術が完成してしまってからの結婚して首輪を繋いで犬の如くハァハァとわたs」

「咲夜」

「はい」

 

 あっやめっ!パシィン!あんっ!パシィン!あんっ!

 

「うわー」

「フラン、みちゃだめよ」

「うん、私はお姉様見てるよ」

「うむ。その方が為になるぞ」

「ほんとかなぁ」

 

 欲望に忠実な小悪魔を咲夜がお仕置きしている。鞭打ちだ。・・・・・ダメだ、効いてない。喜んでいる。レミリアは頭を抑え、パチュリーの服を脱ぐ手伝いをしてやる。

 

「ほら、これを着ろ」

「えっこれメイド服・・・・・」

「着ないのか?ならば下着姿で彷徨いていろ」

 

 振り回されるのは御免なので、振り回す。正しく圧政者であった。

 

 

 

 

 

 

 

「で、それが今回の異変という訳だな?」

「えぇ、そうよ」

「ん?なんだって?」

「そ、そうでございます」

「よろしい」

 

 レミリアがニヤニヤしながらパチュリーメイドを見る。話の内容はこうだ。

 この《ドキドキ☆パッチェさんの擬似大聖杯》には未だ魔力が入っていない。その為、魔力を補給する必要がある。

 しかし流石のパチュリーも一人でそれをやるには骨が折れる。と、レミリアに進言すれば「なら、幻想郷全員に協力してもらえば良い」との事。そして八雲紫との約束などを掛け合せる事でこの「紅魔異変」は完成するのだ。

 

 幻想郷を覆う魔力を奪う赤い霧が数ヶ月に及んで魔力を少しづつ奪い続ける。しかし、魔力を溜め込んでいることがバレれば、幻想郷の賢者と敵対することになるだろう。なのでその真の目的を隠すために「太陽を隠す」。

 

「私達姉妹は吸血鬼だ。故に太陽を忌み嫌いそこから隠れようとする事になんの疑問もあるまい?」

「そうだね」

「まぁ、そうね」

「ん?」

「はい、そうでございますね!」

「よろしい」「アハハハ、パチュリー顔赤いよー」

 

 太陽を人々から奪う傲慢にして恐ろしい吸血鬼、と言う印象を植え付け畏れを確保しつつ、魔力も頂いてしまうとても良い作戦なのだ。考案はレミリア、その補助をパチュリーと咲夜が行った。

 

「さて・・・・・・始める前にスパルタクスの様子だけでも見てくるか」

「そうね」

「ん?」

「もうやだぁ」

「あっはっはっは!」

「お姉様イジメすぎだよー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 そこには筋肉が居た。リラックスのポーズで周囲を威圧しながら、それに本人は気が付かずに歩いている。

 

 これは誰か。

 

 魔理沙だ(真顔)

 

 筋肉式魔法使い、又の名を普通の魔法使いである。

 

「赤い、霧?」

 

 そんな筋肉魔理沙は空を覆っていく赤い霧に気が付いた。

 

「へへっ、異変かぁ?よぉし!!霊夢よりも先に解決してお泊まりの権利を貰うぜ!!」

 

 どこかで休んでいた霊夢は途端に寒さを感じ凍り付いた。

 

「さて、つってもどっから探せばいいかな・・・・・・」

「人だー!やっつけろー!」

「うてうてー!」

 

 魔理沙が頭を悩ませていると妖精達が攻撃をして来た。二方向から来る弾幕。

 

「あびゅ!?」

「くわばらぁああ!!!!!」

 

 しかし、その瞬間には妖精達の顔面に拳は叩き込まれていた。一体めは顔面が砕け散り、二体目はどこか遠くに消えていった。

 

「はぁ、強いヤツがいるといいなー」

 

 この少女────戦闘狂である。

 

 ついでに情け容赦は無い。

 

「いたぞー!いたぞぉおおおお!」

「各部隊配備完了!全域カバーしております!」

「1番隊2番隊はやつの正面を!3番隊4番隊は左右を攻めろ!5番隊6番隊は後方を!7番隊8番隊は空中から援護せよ!!」

「突撃ぃいいいいい!」

「────おらよっと」

「ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

「「こ、小林ぃいいいいい!」」

「こっちも、持ってけ!」

「「ギャあああぁぁぁぁぁぁぁ!」」

「妖精弱いなー」

 

 一撃、必殺。ニ撃、消失。

 

 その拳は最早魔法の領域に突っ込んでいた。

 

「うーん」

 

 魔理沙は頭を悩ませる。しかし、どうした事か、いい案など浮かんでは来ない。

 

 故に。

 

「テキトーに歩き回るかー」

 

 普通の魔法使い、霧雨魔理沙は脳筋であった。

 







もう少しはっちゃけるつもりでしたが、暫く後回し。
霊夢達が動いてからがネタ回の本番だ(未定)

楽しみにしておくと良い。


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