君はルールを守る人?破る人? (3148)
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第一章 第一話
オリジナル設定、擬人化、独自解釈、オリジナル主人公のストーリーとなりますので、苦手な方はブラウザバックを推奨します。
それでも、良いという方はお付き合いください。
――どうせお前らは、ポケモンをバトルの道具としか見てないんだろ――
いらいらした様子で、男は3DSを閉じた。色違いのポケモンをGTSで手に入れたにも関わらず、不一致の性格のためにバトルで連敗し、先ほどレートが3ケタ下がったからかもしれない。
「酒でものむか……」
部屋の散らかった中で、コートを取り出し、外に出る。雨は降っていないものの、吹く抜ける風は、体温を少しずつ奪っていく。鉄骨でできた階段を降りようとしたとき。
「つめたっ!」
冬の冷気に晒された鉄製の手すりは、指が張り付きそうなほどに温度が下がっていた。顔をしかめ、苛立ちをはらすかのように音を立てて階段を下りる。近くのコンビニへと男は足を向けた。
「ありあっしたー」
酒とつまみを購入し、帰路につく。完全に昼夜逆転した生活を送っていて、街灯をコンビニの光だけが、足元を照らす。
「くっそ~、いけると思ったんだけどなぁ」
先ほどのポケモンバトルのことを呟き始める。調整次第ではいけるはずだった、そう呟きながら、とぼとぼと歩いていると、ふと足元が暗くなった。原因を知るために男が顔をあげると、街灯がバチバチと音を立て、点滅しており、放っておくとすぐにも消えてしまいそうだった。
「……ついてねぇな」
偶々不機嫌なところに、不運が重なった。それも良くあることだと自分に言い聞かせて歩き続けていたのだが、足元が見えづらく、段差に気付かず足を引っ掛ける。
「ってぇ!」
なんとか転ばずには済んだものの、先ほど購入した缶ビールとつまみをコンビニの袋ごと落としてしまった。気恥ずかしさからか、周囲を見渡したが他に人の気配はない。溜息をこぼし、男は落としたコンビニの袋を探し始めるが、何せ灯りは精々星と月の光程度だ、足元がなんとか見えるかどうかという状態に男は苛立ちを募らせていく。
「……ん、なんか明るいな」
ぼんやりと光が見える。暗すぎて遠近感がなく、どれぐらいの距離にあるのかは分かり辛い。落とした荷物を探して周りを見渡してもよくわからない。まるで自動販売機に群がる虫のように、男はそれに近づいて行った。
「う……そだ、ろ?」
それは次元の裂け目、まるでその空間が向こう側に抜けおちていってしまうような、非現実的な現象。あり得ない現象に対して、男は呟く。
「ウルトラホール」
闇夜に言葉が呑み込まれていく。その現象は近づくごとに薄れ、時になくなってしまうかのように不安定だった。男は迷い、足を踏み出す。非現実的な現象に興味が湧いたのか、或いはそれが夢幻だと証明するためにか、光に誘われて手を伸ばし、その先へと男は落ちていく。
「……ん?」
目を覚ますと、大木が男の目の前にあった。むせかえる様な草の匂いが先ほどまでいたいた場所ではない事を告げる。
「えーと、周りは草ばっか、大木と……見た事あるような」
確かに、似たような景色を見た記憶はあるのだが、思い出せない。
「なんだ……頭が、痛ぇ!」
頭を抱え、痛みを耐える。やがて痛みが治まっていったのか、抱えていた手を離し、今度はデコに手を当てる。
「そうか、俺はウルトラホールを通ったのか!」
それと同時に、男がパニックに陥った。
「確か、記憶喪失になった例があったはずだ……まずは」
記憶を探すかのように、頭を掻き一つ一つ思い出せることを口に出していく。
「おれの名前は星野 一海(ほしの ひとみ)。高卒で就職して、ブラック企業について……でかい失敗をやらかして、二週間前に退職して」
ボソボソと呟き続けて、唯一の趣味であるポケモンを昼夜問わずやり続けて、という言葉で止まった。
「……忘れよう」
ヒトミがそう呟いたとき、目の前の大木が揺れる。
野生のカリキリが現れた!
丁度手のひらに収まるくらいの大きさの緑色と二本の鎌、大きな赤い目が特徴のかまくさポケモンが落下してきた。
「……ぅゎ、かゎぃぃ」
ちょうどヒトミと対峙する形になるが、首をかしげる。
「カリキリって、こんなに小さかったっけ?」
ポケモン図鑑には0.3mとあったのだが、それと比較すると約三分の一といったところだろうか。
「きゅ?」
今目の前にいるポケモンは、のんきにヒトミを見つめている。あまりに小さいのでつまんで手のひらに乗せてみた。
「きゅ!」
「いたっ」
カリキリに手のひらを突きさされた。サイズがサイズなので、少し血が出た程度だ。その反動でカリキリを落としてしまい、再度向き合う形になっているのだが……
「きゅきゅ」
落ちた時についた砂埃を悠長に手で払っている。カリキリがヒトミを警戒する様子はなく、ただ対峙しているだけである。
「……これは、ワンチャンあるか」
ヒトミが周囲を見渡すと、周りはジャングルで植物が生い茂っているが、よく見れば道具を使い捨てた後のゴミやまだ使えそうな道具が転がっていた。恐らく他のトレーナーが来た時に落としたのだろう、ゲームでは有り得ないが、実際に野生のポケモンと遭遇した時に道具を落としたり、うっかり躓いて落とすというのも、足元の悪いこの環境では仕方ないことに思える。
「……あった」
上半分が青く、赤いラインが二つ付いている、スーパーボールが数メートル先に転がっていた。カリキリに刺激を与えない様に、ゆっくりと落ちている所まで近づく。ヒトミにそれほど興味を示している訳ではなく、動く様子もない。手に取るとまだ未使用の様で、中にポケモンが入ってると言う事も無かった。手のひらに収まるサイズのそれを握りしめ、再びカリキリへと近づく。
「きゅ?」
ほしの ひとみは混乱している!
スーパーボールを拾った、カリキリが目の前にいる。だが、ヒトミは動くことができない。
「使い方が分かんねぇ……」
迷っているとカリキリの方から近づいてきた。
「きゅきゅ?」
まるでトテトテという効果音が似合いそうに歩いて、目の前で止まる。スーパーボールを右に左に動かしてみると視線が動く。
「あっ、ポケリフレで見た事あるわ」
ポケ豆はあるのかなぁ、などと呟きながらヒトミはカリキリの目の前にスーパーボールを置く。
「きゅきゅ」
ボールの真ん中のボタンを小さい鎌が突く。
ぽわんっ
ボールの中にカリキリが呑みこまれた、地面に落ちて何度か揺れた後。
カチッ
やったぞ、カリキリを捕まえた!
「お、おぅ……」
恐る恐る近づきカリキリの入ったボールを拾う。どうやら中ですやすやと眠っているみたいだ。ポケモンにとってはボールの中も快適らしい。
「ポケモン、ゲットだぜ!」
お決まりの台詞をポーズ付きで決めるヒトミ。ただ、その後すぐに顔が紅潮していく。人がいたら致命傷だった、そう呟く。
ガサガサ
「……はっ!?」
そう人は見ていなかった。ただ、その場にいるのがカリキリ一匹等と言う事はなかったのだ。周囲に視線を感じる。それも一つや二つではない。突き刺さるような縄張りを意識しているポケモンの視線と、甘い香りがする。
「あっ、これアマカジの匂いだ」
一瞬、呆けた表情になるが、大切なのは野生のポケモンに囲まれているという事実を思い出したのか、全力で走りだす。
「逃げるんだよぉぉぉー!」
どれくらい走っただろうか、地面を這いまわる蔦や転がる枝に躓きながら、気がつけば服も汗で重くなって、かなり熱くなっている。ゲーム画面では二つのエリアチェンジ程度の距離だが、実際は獣道しかなく、どこまで走っても景色が変わる事がないように思えた。
「ちょ、異世界ものでっ……ハードモードは聞いてないっすよ!」
わき腹を抑え、整地されてない道を走ったせいで足首を痛めたのか歩き方もおかしくなり、膝をついて少しでも酸素を取り込もうと荒い呼吸をする。今ポケモンに襲われたら、ひとたまりもないだろう。
ガサガサ
草むらを掻きわけるような音がした。その音は少しずつ近づいてきている。徐々に大きくなっている音から、先ほどの様な小さなポケモンではない、少なくとも人とそう変わらない大きさだということが分かる。逃げられる程呼吸も落ち付いていないし、何より野生のポケモンから逃げられるかどうかすら怪しい。草をかき分ける音が大きくなり、それはすぐ近くまで来ている。恐怖で体が強張り、動く事も出来ない、涙目になりながら信じてもいない神様に祈った。
(どうか、命だけは……)
「アローラ! 珍しい服装だね、観光客かな?」
緑色のポニーテールを揺らし、陽気に声をかけてきたのは、涼しそうな格好をしている少女だった。
読了ありがとうございました。
後書きにはポケモンの設定を書き込んでいこうと思います。まぁ、毎回出るほどの種類のポケモンが出てくるわけではないのですが。
カリキリ
アローラ図鑑No.143
タイプ:草
特性:天邪鬼
種族値:H40 A55 B35 C50 D35 S35 (合計種族値250)
Lv:18
個体値:H28 A22 B15 C20 D15 S0
とりあえず、こんな形で、できる限り戦闘はゲーム準拠で行いたいのですが、どこまで書けるかはわかりません。興味がない方は読み飛ばしていただいて問題ありません。
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第二話
オリジナル設定、オリジナル主人公、擬人化等がありますので、苦手な方はブラウザバック推奨です。
ちなみに擬人化は物語中盤からになります。
それでも良いというお方は、どうぞお付き合いください。
「えっ、君がキャプテンなの?」
少女に近くのポケモンセンターまで案内してもらい、食事をとりながら現状の説明を行う。緑髪の少女が小さな石を取り出して応える。
「そう、私こそがシェードジャングル、草タイプの試練を取り仕切っているキャプテン、ウスユキさんです!」
両手を合わせてしゃがみ、ゆっくりと突き上げて最後にぱっと両手を広げる。
「……草Z技のポーズだ」
「アローラ! 物知りさんだね、えーと……」
「星野 一海(ほしの ひとみ)っていいます」
「ヒトミ君だね、よろしく!」
草タイプのゼットポーズは、植物の力強さ、生命力を現した動きだった。例えるとするならオーラと言えばいいのか、圧倒される何かが、その動きの中に確かに存在した。
「それで、気付いたらシェードジャングルに来てたって、ホント?」
「あっ、はい。目覚めたら草むらの中でした」
しかし、ゲーム内では草の試練のキャプテンはマオだった。見た目も明らかに違うし、陽気で活発な言動から少し子供じみて見えるかもしれないが、恐らく十代後半だろう。疑問に思ったのか、ヒトミは考え込む。
「うーん、ハラさんに昔人が流れついた事もあったとか、そんな話を聞いた事があった気がする……記憶喪失とかなんとか」
何か思い出そうと頭を抱えるウスユキ。
「考えてもしょうがない、いこっ!」
「ど、どこに?」
「島クイーン、ライチさんのところ!」
知っている名前を聞いたからか、少しほっとした様な気持でウスユキさんに手を引かれるがままに、コニコシティに連れて行かれる。
――ライチさん、若い!――
ゲームでは散々、独身であることを触れられていたが、見た目は二十代前半といったところだろうか。スラリと伸びた美脚と褐色の肌が、健康的な美を表している。
「アローラ! ライチさんちょっと相談があって~」
「えっ、もしかして恋の相談?」
「違いますよ~、まぁこの人の事で間違いないんですけど。記憶喪失の漂流者の話ってライチさん知ってます?」
「ああ、直接は会ってないけど、噂は聞いたね。今はもうアローラ地方にはいないはずだけど……もしかして、彼も?」
「話を聞く限りだと、そんな感じです」
お手上げです、といった風のポーズをするウスユキ。
「記憶喪失、って言う訳じゃないんですけど、とても遠いところからやってきたみたいで……この地方の常識とか、そう言った者が全くない状態なんです」
「ポケモンの事は知ってるんだけど、触った事がないとか、道具の使い方も分からないって言うんです。そんな地方あります?」
ライチは首をひねる。ポケモンの世界では、ずっと昔からポケモンと人間が協力して生きて来ているのだ、多少なりともポケモンと接触するはず、というのが常識なのだろう。ヒトミも別世界から来たと言う訳にもいかずに、言葉を慎重に選ぶ。
「周りが海に囲まれていて、人間だけで暮らしている独特な地方で育ったので……本や資料でポケモンについては知っているんですが、それ以上は初めてで」
ポケモンの世界から見れば、独特な地方であり、嘘ではない。何せ、ポケモンがいないのだから。
「う~ん、そんな地方は聞いた事がないけど、私の知識不足ね。帰る方法も分からないなら、どの道不便でしょうし、着いてきて」
図らずともライチと知り合いになれた事はヒトミにとって良い出来事だっただろう。島クイーンであれば、島に知らない人はおらず、羨望の対象であるため、ライチの協力を取り付けられた事は、今後生活するにあたって重要であることは想像に難くない。ヒトミは通してもらった居間でアクセサリを貰う。
「これが島めぐりの証、これがあればポケモンセンターとか、街の人々もある程度は協力してくれるわ。それと、ポケモンは持ってる?」
「あっはい、カリキリを捕まえました」
「へぇ、ポケモンを持ってないのに、捕まえたの?」
経緯をライチに話す、運が良かったわねと笑わる。
「それも、カプ・テテフ様のお導きかしら? じゃあちょっと、そのカリキリを見せてもらえる?」
ライチにボールの使い方を手ほどきしてもらいながら操作し、なんとかボールからカリキリを出す事が出来た。
「あれ、でかくなってる?」
最初に見た時は手のひらに収まるくらいだったのに、約30cm程まで大きくなっている。
「ふふっ、珍しいのね。特性あまのじゃくのカリキリよ、覚えたばかりのせいちょうを使ってたんでしょうね」
使えば使うほど縮んでいって手のひらサイズになっていたのだ。あの時、手を刺されても大した傷にならなかったのは、攻撃のランクが著しく下がっていたということになる。
「本来であれば、島キングか島クイーンが最初のポケモンを渡すのが習わしなんだけど、生憎島クイーンになったばかりで、わたせるポケモンもいないの、ごめんね」
「いえいえ、ここまでしていただいてむしろありがたいです」
ヒトミは頭を下げる。ライチのおかげでなんとかやって行けそうといっても過言ではない状態だ。
「生活費を稼ぐ必要もあるだろうし、私の知り合いの定食屋を紹介してあげる。人手が足りないって言ってたから、多分快く受け入れてくれるんじゃないかしら」
「ありがとうございます!」
ヒトミのポケモン生活アローラ編が順風満帆に進んでいっているように見えた。どうやらポケモンの世界に来たことに胸を躍らせ、今後に妄想を抱きながらライチの家を出ようとした時、ふと鏡に目が止まった。
「……どうかした?」
「い、いえ、なんでもないです」
動揺を抑え、笑顔でライチについていくヒトミ。ウスユキはキャプテンの仕事があるから、と此処で別れる事になった。今からライチの知り合いの定食屋さんを案内してもらうことになった。
ヒトミの頭には、三つの疑問が浮かんでいる。
一つ キャプテンがマオではない
二つ ライチさんが島クイーンになりたてらしい
三つ 俺の姿が、大体15~16歳の頃に戻っている
此処から導き出される憶測は、信じがたいことに、ポケモンサンムーンの5~6年ほど前に自分が来てしまったのではないか、ということである。
「……大丈夫かな、俺」
読了ありがとうございました。
今回登場したポケモンのデータは変わらないのでありません。
ここからは登場人物についての説明になりますので、興味のない方は飛ばしても問題ありません。
シェードジャングル キャプテン
ウスユキ
17歳 緑色の髪とポニーテールが特徴。
行動的だが、思いやりのある性格。
アーカラ島 島クイーン
ライチ
年齢不詳(笑)
一応島クイーンなりたて、という設定です。
自分が知る範囲では、年齢、島クイーンになった経緯などは分かっていないので、設定と違っていた場合はオリジナルとしてご了承ください。
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第三話
オリジナル設定、オリジナルキャラ、物語中盤から擬人化などなど、苦手な方はブラウザバック推奨になります。
それでも良いという方はどうぞお付き合いください。
※追記 挿絵追加しました。ウスユキさんの絵です、色鉛筆であまり綺麗ではありませんが。
「アローラ! お待たせ致しました、日替わり定食二つになります!」
昼のピークの時間になると店が慌ただしくなる。行列が出来る訳じゃないが、今まで料理から運ぶ所まで一人でやっていたというので、ままならないなんてものじゃない。
「ヒトミ! 定食三つ出来たよ!」
「喜んで!」
お客様に迷惑をかけない程度に早足で、キッチンから定食を運ぶ。
「アローラ、お待たせいたしました!」
「おっ、やっぱりヒトミが来てから料理が来るのが早くなったな」
「冷たい水とお手拭きが最初に出るなんて、ママ一人の時は考えられなかったからなぁ」
「ありがとうございます、今後とも御贔屓に」
ヒトミは素直に礼を言う。バイトを始めてから三カ月経ったが、この店の評判もあがり、客層も増えるようになった。元々家庭的な料理で見栄えはしないが、味よし、バランス良し、値段良しの三拍子がそろっていたのだ。サービスを少し改善するだけで充分人を引き寄せられる力があったのだろう。
「ヒトミ、次出来たよ! 早くしな!」
「喜んで!」
「ママはやっぱり厳しいな」
「頑張れ、若いの!」
やっぱりアローラの土地柄か、大らかな人が集まるようだ。部外者のヒトミもこれだけの間で受け入れてくれている。
「ふぅ、ようやく客足も落ち着いたね」
「そうっすね、休憩ですか?」
お昼も過ぎて、客足は途絶えた。お昼を食べに来た連中はもう仕事に向かっているころだろう。また、夕食時には忙しくなるだろうが。
「……あんたのおかげで、店も賑わうようになったよ、ありがとう」
「き、急になんすか? そんな大したことしてないっすよ」
ママが優しい笑みを浮かべる。仕事の時の厳しい表情ではなく、仕事が終わった後の柔らかい笑顔だ。
「そこそこ儲かる様になったんだ、少し給料もあげようかと思ってね」
「本当ですか!? 俺、もっとがんばります!」
「まぁ、ちょっとだけだけどね」
珍しく景気の良い話だ。客の数が単純に増加しているので、儲けも増えているのだろう。バイトで入っているとはいえ、ヒトミも純粋に期待にこたえようと返事をする。
バァン!
勢いよく店の扉が開かれる、現れたのはキャプテンのウスユキだ。
「あろー……ら?」
彼女も良くこのお店で食事をしている。とはいえ、こんな時間帯にくるのは珍しい。それも扉を叩きつけるように開くほど、普段は礼儀の悪い事はしないが。
「ヒトミ!」
「……御指名だよ」
「俺、なんかしましたっけ?」
ずんずんとウスユキが近づいてくる、歩き方も表情も放つオーラも何もかもが怒りに満ちている。何をしたのか身に覚えがないのか、ヒトミはただうろたえているだけだ。
ウスユキがテーブルにバンと両手を叩きつける。
「なんで試練に来ないのよ!」
体力を持て余す肉体を手に入れ、生活費も稼がなければならない中で、俺が悩んだ結果
俺が辿り着いた結果は
感謝だった……
前の世界からずっと俺を支え続けてくれたポケモンに対しての限りなく大きな恩
自分なりに少しでも返そうと思い立ったのが、
一日 十回 カリキリとアマカジとの勝負
バイトを終え
ママに挨拶をし
シェードジャングルの大きな木の下に
モンスターボールを構える
カリキリが現れる!!!!
一体倒す事に最初は十~三十分
常に勝利すると言う訳にはいかず、初日に倒せた数は僅か三匹だった。
カリキリが倒れれば、ポケモンセンターへと走る。
数時間の休憩の後、またバイトが始まる日々
三ヵ月が過ぎた頃、異変に気付く
カリキリとアマカジを十体倒しても、
日が暮れていない
カリキリのレベルは三十を超えて完全に羽化する
感謝のカリキリとアマカジとの勝負十回
一時間を切る!!
かわりにポケリフレの時間が増えた
シェードジャングルから戻ってきたヒトミとカリキリは
試練を
置き去りにした。
「いや、置き去りにしてんじゃねぇよ」
ウスユキの鋭い眼光に、ヒトミはただただひれ伏すしかなかった。
「忘れてた訳じゃないんですけど、まだ努力値振りが……」
HA極振りにするためには、252回の戦闘が必要だ。パワー系のアイテムや呼び出しによるボーナスができる環境でもないため、時間を割いて行う必要が出てくる。
「努力値って何よ……ったく、訓練はしてるって聞いてたからずっと待ってたのに、何? 放置? 放置プレイなの? 普通はもっと早く来る訳よ。それで現実を知るの、主ポケモンの強さを知って、そこからスタートするの、それが島めぐりの試練なの!」
「あっはい、サーセンした」
さっきからウスユキパイセンの前でずっと土下座である。
「まぁ、忘れてた訳ではないってことで大目に見てあげるけど……」
「うぃっす、今日準備するんで、明日には向かわせて頂きます!」
「……まぁ、バイトもあるだろうし仕方ないか。明日、必ずよ!」
そう言ってウスユキさんが去っていった。努力値が狂わないようにトレーナーの目を避けるようにして、トレーニングを続けていたのだが、時間を使いすぎたらしい。
「要するに、なんで私のところに来ないのよ、ってことさね。ちゃんと約束は守るのが男だよ」
「……アイマイマム」
夕方の忙しい時間帯を終え、ヒトミはいつもお世話になっているオハナ牧場へと向かう。
「アローラ! お姉さんいます?」
「アローラ、あっいつもの定食屋さんね。ちょっと待ってね~」
ここのモーモーミルクは評判で、店で販売の許可をもらおうとしたらあっさりと承承諾が下りたため、定食屋さんで販売するに至ったのだが、評判は良い。毎日必ず売り切れになるので、数を増やすかどうかをママが悩んでいるようだ。
「それと、ちょっと相談、いいですか?」
ヒトミがこっそりと頼みごとを伝える。
「あぁ、おやすい御用よ。少し金額は上がるけど、大丈夫?」
「……どのくらいっすか」
「2割増し」
「大丈夫っす、5つください」
「毎度あり!」
自分の考えが上手くいって上機嫌になったヒトミは、レンタルライドのバンバドロに店用のモーモーミルクを積んで戻る。
完全に日が暮れて、ポケモンセンターにも人の出入りが多くなる。二階の宿泊施設を利用する者、夜にしか出ないポケモンを捕まえに出発する者、闘いを終えて傷を癒す者、様々である。
「グランブルマウンテン、貰える?」
「あいよ」
ポケモンセンターの端にある、こじんまりとした喫茶店。有料の施設なので、人はまばらだが、サービスは良い。おっさんの腕は確かなものだ。少し待つと頼んだコーヒーが出てくる。
「遠方から良い知らせが来てね、最近はコーヒーの豆が良作らしい。今日のグランブルマウンテンは苦みもコクも、一味違うかもしれんな」
そう言って、サービスのもりのようかんとポケ豆がついてくる。カリキリには緑色のポケ豆を二粒渡す。
「きゅきゅ~♪」
コーヒーに口を付ける、おっさんの言葉通りいつもより苦みが強い、だが風味とコクが一段と良くなっている。ブレイクタイムには贅沢なくらいだ。
「話は聞いたぜ、ようやく重い腰をあげたってな」
「まぁ、カリキリも充分強くなったと思うしね。というか、噂になるの早いね」
「アローラは狭いからな。特にこういう仕事をしてると、色んな奴の愚痴も良く聞くのさ。ライチさんのもね」
「……ライチさんも?」
「試練について、驚かせすぎたか、説明が足りなかったのか……バイトで忙しそうにしてるけど、島めぐりを諦めたりしてないだろうか、ってね」
「……耳が痛いね。試練をクリアしたら真っ先に挨拶行かなきゃいけないな」
ヒトミが苦い顔をしているのは、コーヒーが苦いからか、周りへの影響を今更自覚したからか。
「あれでも心配症で頑張りやだから、色んな人に頼られるんだが……良い人を超えないのよなぁ」
コップを磨きながらおっさんが一人愚痴る。この時からすでにライチさん周囲から心配されていたらしい。
「もしかして、ウスユキさんも来てたりする?」
「トレーナーなら、誰でも来るだろう?」
おっさんのうんざりするような様子を見ると、二人の愚痴を聞いてるのは一回や二回ということはなさそうだ。
「ちなみに、試練の事って知ってる?」
「そいつはキャプテンに聞く事だな。知らない事はないが、順番が違う」
「そいつはそうだ……気合入れなきゃな」
ポケ豆を食べて満足したのか、ねむそうにしているカリキリを撫でる。ヒトミはそこそこ懐いていることを実感していた。
読了ありがとうございました。
今回はレベルアップ後のカリキリのデータを載せておこう思います。
興味のない方は飛ばしていただいて問題ありません。
ヒトミの手持ちポケモン
カリキリ
Lv:33
努力値 H140 A140
実数値 H90 A60 B36 C44 D33 S25
進化寸前ですね。ちなみに、140体ずつカリキリとアマカジを倒した時、ざっとの計算ですが約三万五千程になるので、多分これくらいのLvになると思います。
もちろん、出てくるポケモンのLvとレベル差の経験値減で変わると思います。というわけで多分これくらいだろう、という数値にしてあります。
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第四話
オリジナル設定、オリジナルキャラ、物語中盤から擬人化等、苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでも良いという方は、どうぞお付き合いください。
※追記 ヒトミの挿絵を追加しました。カリキリが上手く書けなくて凹みます、もうちょっと頑張らないとなぁ。
「来たわね」
シェードジャングル入口にて、キャプテンが仁王立ちしていた。普段と雰囲気が違う、表情に笑みはなく、殺気立っているのではないかと勘違いする程。
「シェードジャングル、草の試練、準備はよろしいですか?」
「勿論」
キャプテンの後をついていき、ほぼシェードジャングルの真ん中まで歩く。
「普段の貴方が、ここで訓練を行っていることを鑑みて、前座の闘いは不要と判断させていただきました。貴方の覚悟を、見せて頂きます」
ヒトミはその言葉に違和感を覚える。すでに試練が始まっていると気付いたのは、迫りくる影を見たときだ。
「草の試練、開始!」
「しゃらんら!」
シェードジャングルの主 ラランテスが現れた!
ヒトミは背後を振り返るまで、全く気付く事が出来なかった。はなかまポケモン、ラランテス。カリキリの進化系にして、専用技 ソーラーブレードの使い手。その恐ろしさをその身に感じる。
(Sが低いってのは、カマキリと同じで気配を誤魔化して近づくのに特化してるってことかよ!)
「カリキリ、頼んだぜ!」
スピードはラランテスの方が早い、先手は主がとる。そしてラランテスの持ち物は、パワフルハーブ。
「しゃらんら!」
二つの鎌から、光の剣が伸びる。莫大な光と熱量を帯びたそれをまっすぐ振り下ろす。
草タイプ ソーラーブレード
「……カリキリっ!」
ところどころ傷ついてはいるが、倒れてはいない。
「れんぞくぎりだ!」
「きゅ!」
虫タイプ れんぞくぎり
反撃にラランテスに傷を付ける……がダメージは浅い。再び力を溜め始めるラランテス。
「もう一度ソーラーブレードは受けきれないでしょうね」
主との戦いを見つめるキャプテン。これまで幾度も最初の一撃で沈んでいくトレーナーを見てきた。相性が良い相手でさえも、体力が足りなければ高威力一致技を受けきれずに倒れる。主力を失ったトレーナーが出来る事は少ない。その点、半減とはいえ一撃を受け止めた事は、やはりあのカリキリは訓練は充分だということだろう。
「素早さを強化してるラランテスに、先手を取ることはできないわ」
ゲームで言えば二段階上昇、すなわち倍の速度で動く事が出来る。ただでさえ、足の遅い種族なのだ、カリキリがそれに間に合うはずがない。もう一度光の剣が振り下ろされる、最初に一撃よりもチャージに時間がかかったが、これで終わりのはずだ。
砂煙が捲き上がる中、ソーラーブレードをまともに喰らったカリキリの姿はボロボロだった。
「カリキリ、れんぞくぎりだ!」
「きゅ!」
ボロボロではあったが、体力はしっかりと残っている。先ほどの一撃を耐えきった。
「しゃらんら!」
もう一度、ソーラーブレードのエネルギーを蓄える。
「カリキリっ、こっちだ!」
「きゅきゅ!」
ヒトミは小型の瓶のふたを外し、白い液体をカリキリの口に流し込む。極度に栄養が圧縮されたそれは、代謝を活性化させ、植物であるカリキリの姿はソーラーブレードを喰らう前の姿になり、体力は全回復していた。
「しゃらんら!」
「れんぞくぎりだっ!」
「きゅきゅ!」
カリキリの行動はラランテスの後になる、それは間違いない。だが、一つだけラランテスより先に行動する方法がある。それはトレーナーの道具の使用だ。ソーラーブレードが確定一発の範囲でないのであれば、回復アイテムが間に合えば倒れる事はない。
(急所さえなければ、だけどな)
三度目のソーラーブレード、確実に受けきれている。喰らった後にれんぞくぎりを当て、チャージ中に回復をする。草タイプ様に調合してもらった特製モーモーミルクだ、ほぼゲームと同じ回復量を見せてくれている。
「きゅきゅ」
回復が遅れれば、間違いなくカリキリは倒れてしまう。回復するタイミングもこれまでなんども訓練した。手元さえ狂わなければ遅れることはないだろう。
「しゃらんら!」
4度目のソーラーブレードが振り下ろされる。ソーラーブレードのPPは5、このラランテスがそれに当てはまるのかどうかは確証はないが、あれだけ高威力の技を使い続けるのは負担が掛かるだろう。カリキリのれんぞくぎりのダメージの蓄積も間違いなく溜まっている。ヒトミが四つ目の瓶に手を伸ばした時、それが現れた。
「しゃらんら! しゃらんら!」
シェードジャングルの主は 仲間を呼んだ
やせいの ポワルンが 現れた
炎タイプ にほんばれ
(最悪だ!)
このタイミングで日本晴れをされてしまえば、チャージに掛かる時間は短縮されてしまう、そうなれば回復が間に合わない。攻撃を中止して、いまから回復するべきか、判断に戸惑う。
「きゅきゅ!」
ヒトミが指示するよりも早く、カリキリは飛び出していた。確かに攻撃を受けた後は反撃する様に訓練はしていた。その通りにカリキリは動いた、作戦を信じて、勝利を信じている。
「いっけぇー! カリキリ!」
(引けない、俺が折れる訳にはいかない! 行動は変えない、ただ信じるだけだ)
五度目の光の剣が輝き、振り下ろされる。
五度のソーラーブレードによって、周囲の草はなぎ倒され、地面が抉られている。その中心にいるカリキリの姿はあった。
「しゃ……らんら」
大技を連発したラランテスも無事ではない、これまで受けた攻撃は確かに、ダメージを蓄積している。
「きゅ……きゅ!」
「……カリキリ」
カリキリは ヒトミを悲しませまいと こらえた!
カリキリは ピンチで 泣きそうだ!
「最後だカリキリ、やっちまえぇ!!」
「きゅ!」
ボロボロになりながらも立ち上がったカリキリの一撃が、ラランテスに突き刺さる。
「しゃ……らん……ら」
それはポケモンの習性で、瀕死状態になると小さくなり回復するまで待つという現象だ。
「ってことはつまり……」
先程までいたポワルンは、立ちあがったカリキリに怯えて逃げていってしまっていた。
「きゅ~……」
ポテン、とカリキリが仰向けに倒れた。最後の力を使いきったと言わんばかりに、動かない。
「ちょっ、待ておい……ほら口あけて」
特製のモーモーミルクを流し込む。少々咳き込んでしまったが、充分回復したようだ。
「きゅきゅ♪」
「よかった~……どうなるかと思ったぜ」
すっかり元気になったカリキリの頭を撫でる。バトルでほこりまみれになった体をブラシで綺麗にする。
「おめでとうございます、草の試練完了です。お見事でした」
ウスユキが現れて、お辞儀をする。
「はは……カリキリが頑張ってくれました」
「貴方も十二分に、よくやりましたね。無理はなさらず、休息を」
ソーラーブレードのあおりを受けて、服もあちこち破け、ボロボロだ。深い傷はないが、打撲や擦り傷だらけになってしまっている。
「……それは?」
「げんきのかけらです。瀕死状態のポケモンは、小さくなった状態で少しずつエネルギーを蓄えて、いずれ元に戻ります。そのエネルギーを凝縮したものを与えると」
眩い閃光の後には、疲弊はしているものの元の姿に戻ったラランテスがいた。
「応急手当に近いですが、復活します。しかしまぁ、戦闘中に道具を使うとはよくそんな無茶な事を思い付きますね」
「トレーナーなら、誰でもやってるでしょ?」
「平凡なトレーナーであれば、ポケモンの技の前に怯え、足が竦むでしょう。貴方のそれは歴戦のトレーナーの言葉です」
キャプテンの賛辞の前に、ヒトミは胸が躍る。
「歴戦のトレーナーなら、怪我もしないでしょ。もっと精進します」
「ふふっ、いずれ私ともお手合わせお願いしますね」
「きゅきゅ?」
「しゃらんら」
二人がそんな話をしていると、ラランテスがカリキリに近づいていった。しゃがみ込んで、二匹の額が触れ合い、光が生まれる。
「……これは?」
眩い光は、二匹のポケモンを包み込み姿が見えなくなる程に輝いていた。光は眩しいが、温かくまるで太陽の様な光だった。
「珍しいですね、ララが相手を認めるなんて」
やがて光は少しずつ収まり、二匹が姿を現す。
「しゃらんら♪」
「しゃらんら♪」
おめでとう! カリキリは ラランテスに 進化した!
「う、うおぉ!!」
「しゃらんら♪」
進化したラランテスがヒトミの胸に飛び込んでくる。一m程度の大きさになっているので、受けきれずにマウントポジションをとられる形になる。
「すげー、すげーよお前!」
「しゃらんら、しゃらんら」
お互い喜びを分かち合い、讃えあう。これこそ、ポケモントレーナーと人間との絆が深まった瞬間だった。
「それでは、一度お見せしたと思いますが」
それは、草Z技のポーズだった。花が芽吹き、開花するようなイメージのその動きは生命力に溢れている。
「そして、これを」
渡されたのは緑色に輝く石の中に草のマークが刻まれた草Zクリスタル。
「Zストーンについては、今頃ライチさんが手配してくれてるはずだから、やってみてね」
「ありがとう、試練を達成できたのもウスユキさんのおかげだよ」
「ふふーん、ちゃんと弁えてるじゃない。私のララちゃんも、手加減してあげたんだから」
「しゃらんら?」
主のラランテスが首を傾げる。
「改めておめでとう、草の試練を突破した事を、キャプテンウスユキの名の下に、認めます。けれど貴方にとっては、島めぐりの試練の一歩目となります。これからさらに過酷になる試練ですが、カプ・テテフの加護があらん事を」
どうやら、ウスユキなりの試練突破の祝福の言葉らしい。手にしたZストーンの重みを再確認して、今は一時の休息につく。
読了ありがとうございました。ここから先はポケモンのステータスになりますので、飛ばしてもらっても問題ありません。
シェードジャングル 主
ラランテス
はなかまポケモン
アローラ図鑑No.144
特性:リーフガード
Lv:35
実数値:H104 A89 B78 C71 D78 S47(94)
かっこないは二段階上昇数値
ラランテス ソーラーブレード
ダメージ:60~71
回数:確定二発
カリキリ れんぞくぎり
ダメージ:18~22
回数:乱数五発
ダメージ計算はポケモントレーナー天国様の計算機を使用させていただいております。
ちなみに、五発目のソーラーブレードを耐えたことについてはもちろんポケリフレの効果としてありますが、実際行動順だとラランテス→ポワルン→カリキリとなるので、五発目のソーラーブレードは二ターンかかるはずなのですが、まぁ、エネルギチャージできたら撃てるよね、ということでポワルンの後に行動してます。その代わり、命中精度が悪くなった、威力が十分ではなかった、それもあったため、という設定ですが、まぁ、カリキリが頑張ったというだけでもいい気もします。
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第五話
オリジナル設定、オリジナルキャラ、物語中盤から擬人化設定等、それらが苦手な方はブラウザバックを推奨します。
それでも良いという方は、どうぞお付き合いください。
「アローラ! 本日のお勧めは日替わりのマラサダ定食になります!」
「え~、何それ? 聞いた事ないんだけど」
「マラサダって、アローラ地方の名物ですよね?」
「そうですよ、ふわふわサクサクの食感と南国オリジナルの刺激的な味がやみつきの定食になります。食欲増進! 観光で慣れない土地での疲労も回復、名物で記念にも成って一石二鳥です♪」
二人の観光客が目を合わせる、太陽が真上に登り、日差しが肌を焼く、時間は正午といったところだろうか。
「アローラは初めてですか? それでは是非、サービスさせていただきます!」
「えっ、サービス?」
「勿論、折角の旅行ですから、アローラを満喫していただかないと!」
「そうね、これ以上迷うのも嫌だし、サービスしてくれるなら、ここにしましょうか」
「そうだね、そうしよう」
「御新規二名様ご案内―! 日替わり二つ!」
そうして観光客をテーブルに案内して、果実を浮かせている水差しで水を注ぐ。
「いい香り♪ この店雰囲気いいかも」
「少々お待ち下さいませ」
今日もコニコシティの定食屋は繁盛している。最近はウェイターをマオが手伝ってくれるようになり、対応出来る客の数も増えた。時間が空けば、コニコシティに来る観光客の呼び込みも行うようになり、口コミで『派手ではないが、お手頃価格でアローラの名物を食べられるお店、こだわりのモーモーミルクと店員の接客も好評価』と広がっている。
「アローラ」
二人の客が店に入ってきた。
「アローラ! 二名様ですね、お席に……ごあん……な」
「特盛Z定食」
「日替わり定食」
ライチとウスユキが不機嫌そうにテーブルにつく。
お昼を過ぎ、客足も途絶えた所でヒトミはライチとウスユキのテーブルへ向かう。
「……サービスのモーモーミルクです」
瓶のまま二つ、二人の前に置く。指を刺されて、向かいの席に座る。
「はぁ、トレーナー辞めたら(呆れ)」
「ウスユキキャプテン、その言葉は俺に効く……やめてくれ」
ウスユキがモーモーミルクに口を付ける。毎朝届けてもらっている新鮮なものを使っているので、なんだかんだ言って二人とも足繁く通っている。
「ちゃんとポケモンは育ててるみたいだけど、次の試練に行くつもりはないの?」
「いや、ありますよ。ただ、次の試練に行く前に準備したいものがあって、ちょっと手間取ってるだけですってば」
その為にまた一カ月費やしているのである。最近は日を追うごとにウスユキの視線が汚物を見るような眼になっていっている。
「ならよかった、これが無駄にならずに済んだみたい」
ライチが、ポケットから白い腕輪のようなものを取り出す。
「Zリング、遅くなって悪かったわ。これであなたもZ技を扱う事が出来るようになる」
「……ありがとうございます」
ヒトミは頭を下げ、慎重に受け取る。右腕にはめ、その感触を確かめる。持っているZクリスタルと反応し、持っている草Zが熱く光り輝く。
「なんだいなんだい、また試練の話かい?」
「そうなの、ママ聞いてくれる? 未だに次の試練に行ってないの、信じられる?」
「まぁ、店も忙しかったし、色々してくれてたもんねぇ」
オハナ牧場との契約、ウェイターから調理手伝い、観光客のターゲットにした呼び込み、それに伴う看板や店内のちょっとした模様替え、その他雑用諸々、バイトにしては業務範囲を超えているのではないだろうか。
「忙しいのは分かるんだけど、島クイーンとしては島めぐりの試練が遅れるのは……ちょっと」
毎年多くの少年少女が島めぐりを行い、試練を経験し成長していく。必ずしも全ての試練を達成できるわけではなく、何年も掛かるトレーナーも少なくない。ただ、その時に培った経験と人脈を通して、その後の人生を豊かに出来ると言うシステムでもある。けして遅いと言う訳ではないのだが、長い期間挑戦していないということが、問題なのだ。
「ヒトミのやる気次第、ってことだね」
「その情熱がバイトに向いてるようにしか見えないのよね~」
「サーセン、いや、トレーニングはしてるんで、やる気はあるんです」
昼と夕方はバイト、朝は仕込みの手伝い、それから夜に努力値振りへシェードジャングルへ。正直ラランテスの努力値振りとレベル上げは恐らく充分行えただろう。進化した事によって、効率は格段に上がった。ラランテスも昼の間は店の屋上で日光浴をしてエネルギーを溜めている。毎日、充分な休息も取れているし、偶に道端に出て客寄せを手伝ってもらっている。アローラ独自のポケモンとその華やかさで観光客にも大人気だ。
「まぁ、新しいバイトもそこそこ仕事を覚えたし、マオもメニューを覚えたし、居なくてもいいちゃいいんだけどね」
「……マジッすか」
複雑な面持ちでヒトミはママを見つめる。だが、トレーナーの道を応援してくれてるのであれば、それに従うことを決心したようだ。
「びしっと試練こなして来な」
ママに背中を叩かれる。
ちなみに、マオは後にキャプテンになるマオちゃんです。まだ少女じゃなく幼女ですが。
「さて、と」
シェードジャングルからまっすぐ南に下り、五道路を超えるとせせらぎの丘に辿り着く。此処に辿り着くまでに、何人かのトレーナーとの対戦はあったが、ラランテスが充分に育っていた為、ほとんど苦労も無く辿り着いた。
「がっはっは、おんしがヒトミっちゅう島めぐりかのう!?」
「はい、ヒトミです!」
いきなり現れた上半身裸のおっさんに大声で呼びかけられ、驚きを隠せないまま硬直する。正面に立たれて、肩を叩かれる。
「水の試練にようこそ! わしがキャプテンのガジュマルじゃ、ウスユキから聞いておるぞ、早速挑戦するか!?」
「あ、はい、よろしくお願いします島キン……キャプテン!?」
見た目も腹の出っ張りも30代後半にしか見えないが、島クイーンがライチなのだから、キャプテンなのだろう。
「貫禄があり過ぎて困るなぁ! まだ19というのに、誰も信じてくれんわ」
がっはっは、と背中を力強く叩く。
「ちなみに、わしも、火の試練のところもそうじゃが、一筋縄ではいかんぞ。何せ、キャプテン全盛期の主じゃからな!」
自信満々に笑うその言葉に、嘘偽りは全くなかった。キャプテンは島めぐりを終えた人間から島の守り神が選ぶ、そして最短で11歳、そこから20歳までの期間となる。必ずしも主ポケモンが一新されるかどうかまでは分からないが、少なくとも島めぐりとキャプテンという莫大な経験は積もるほど強くなっていくだろう。つまり、ゲームではキャプテンの皆は一様に才気あふれるトレーナーではあるものの、発展途上であることは間違いない。5年前という時期に来たのは、何の因果か分からないが、恐らく全ての試練がゲームよりも凶悪になっているだろう。
「実際のところ、ゲーム準拠のLv24ラランテスなら、あそこまで苦労しなかっただろうしなぁ」
「それで、今から試練を行うか?」
ガジュマルがいまかいまかと待ちかまえている。
「いや、やってきたばかりですし、一度ポケモンを休ませてから挑戦させていただきたいです。それと、せせらぎの丘の中は一度入らせてもらっても大丈夫ですか?」
「おう、構わん! ワシの自慢のヨワシまではみせちゃれんが、クリスタルの台座に触れさえしなければ、試練の間に入っても構わんぞ」
「……まじっすか」
そんなんでいいのか、ザルすぎやしませんかねぇ。
「ライチさんとウスユキさんの話を聞く限りでは信用に値すると聞いておる。そしてなにより」
ガジュマルは背を向け、民家の方向へと向かって行く。何処かその背中には、哀愁を感じさせるものさえあった。
「良い勝負をしたいからな」
がっはっは、高らかに笑いながら去っていった。その背中を見送った後、とりあえずせせらぎの丘の近くのレンタルライド屋さんに手ごろなラプラスを借り、中へと足を踏み入れた。
右腕にはめたZリングを見ながら、ヒトミは木陰で休憩をとる。
「キャプテンに選ばれた……か」
恐らくは初めのころは才覚溢れる子供として、島めぐりをおこない、幾多の試練をポケモンと乗り越え、島の守り神からも実力を認められ、その席へとつく事になる。それから主ポケモンの育成となると、気合をいれて育てようとするだろう。最初の内こそ、上手くいかず、難儀したかもしれないが、試練を訪れるものの大半は格下だ。彼らと同じ様に才覚のあるものでさえ、さらに経験を積んだキャプテンと向かい合うことになる。他の地方のジムリーダー程強制力はないだろうが、全力で戦う機会は減っていくだろう。何せ、島めぐりの試練はあくまで、Zクリスタルを持つに足る実力を量る為の物なのだから。一定以上であれば、勝ったしても、クリスタルを渡したり、自分に枷をつけることで対等になろうとするものもいるかもしれない。
「ウスユキさんは……あのラランテスもメインパーティじゃないんだろうな」
あくまで主ポケモンで、島めぐりのトレーナーを量るものである。思いやり溢れる彼女であれば、自分の試練で挫折していくトレーナーがいる事すら、責任を感じていたのかもしれない。
「そんなんじゃねぇだろ……勝負っていうのは」
両手を合わし、しゃがみ、成長する植物をイメージしながら天に向かい伸びていく、最後はそれが花開くように足と両手を大きく広げる……それは草Z技の踊りになるのだが。
「……想像以上に厄介だぞ、これ」
ゲームだと一試合一回が限度なんてルールがあったが、スーパーマサラ人だからこそ、一試合に一回出来たと考えた方がいい。技ごとに持って行かれる体力も違えば、踊りを間違えたら暴発する。何より、踊りを見よう見まねで行えば、それで出来ると言うものではなかった。
「しゃらんらぁ……」
ラランテスもぐったりとうなだれ、良く日が当たる所で休憩している。
「発動はする、んだけどなぁ」
Zリングとクリスタルの反応は良い、ある程度の距離であれば、他人が持っている物ですら反応してしまいそうになるほどだ。ここからはあくまで憶測にすぎないが、Zストーンからエネルギーを送る際に、踊りとトレーナーを媒体にする事で、Zクリスタルに、具体的に言えばポケモンが利用出来るエネルギーに変換している、のではないだろうか。発信するトレーナーも一定のレベルで安定させて発動させなければ、ポケモンの技も安定しないし、ポケモンもZクリスタルからの反動に慣れなければ、技を打つ際に威力が半減してしまったり、最悪暴発して自傷ダメージになることもある。
「ついでに、このせせらぎの丘っつうのも厄介だな」
海につながる浅瀬の様な場所なのだが、波によってランダムに削られ、足首までの深さもあれば、そこの見えない深いところもある。その為、地上のポケモンも水中のポケモンも充分に闘える場所で試練としては確かにうってつけかもしれない。足元が水なのはラランテスにとって問題はない、太陽の光さえあれば、むしろエネルギー元に出来る環境なのだから。
「あとは、水中に潜られた時の対策だな」
正面切って殴りあえるなら、タイプ相性としては有利対面、だが生半可の威力の草技が水中にまで有効という訳にはいかない。何より、ヨワシの群れた姿は種族値の暴力みたいな奴だから、半減技でも十全のコンディションで放つ技は強い(確信)
「……ハイドロポンプとか、覚えてるんだろうなぁ」
半減で87・5の威力、140の種族値から吐き出されるそれは、間違いなく脅威でしかない。ラランテスも耐久は低くはないが高くも無い、確定1発にはならないだろうが、何発耐えられるか……ラランテスの時の様に、チャージ時間もないなら大量の回復薬を持ちこんで長期戦にする事も出来るが。
「……」
ヒトミは底の見えない試練の間を眺める。仮に水中に引きづり込まれる様な状態になれば? そうなった時点で勝ち目はない。ラランテスも水中で動きが劣るかと言えば、それ程落ちる事はないだろう。何かと器用なポケモンだから、どんな場所でもある程度こなしてくれるだろうが、格上のヨワシにさらに水中戦となると、メインウェポンさえ封じられて完敗するしかない。
「それじゃあ、まぁ……準備しますか」
下見は終え、敵のポケモン把握した、用は済んだヒトミはせせらぎの丘を後にする。
「後は仕上げをごろうじろ、ってことだ」
読了ありがとうございました。ここから先はポケモンのデータになりますので、飛ばしていただいても問題ありません。
ヒトミの手持ちポケモン
ラランテス
はなかまポケモン
草タイプ
Lv:47
努力値:H252 A252 S4
実数値:H165 A143 B105 C89 D96 S42
技:????
ソーラーブレード
リーフブレード
こうごうせい
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第六話
オリジナル設定、オリジナルキャラ、物語中盤から擬人化等、苦手な方はブラウザバックを推奨します。
それでも良いという方は、お付き合いください。
※追記 ガジュマルの絵を追加しました。
せせらぎの丘 最下層 試練の間
「まだるっこしい事は、わしは嫌いでの! 早速主ポケモンと闘ってもらう。準備はよいか!?」
「……やるなら、全力だ」
久しぶりの強敵に胸が躍るのか、にやりとガジュマルが笑う。それはまさしく、獲物を前にした肉食獣の笑みだった。
「いけっ、ラランテス!」
「叩きつぶせ、ヨワシ!」
二匹のポケモンが現れたのは、同時だった。一匹のヨワシを中心に、群れを成し、巨大な一匹の魚の形になる。それは全長がゆうに5mを超えていた。さらには主ポケモン特有のオーラを纏い、防御力が上がっている。
「いくぞラランテス、日本晴れだ!」
「しゃらんら!」
ラランテスが両の鎌を広げ、大空に向かって仰ぐ。それに呼応するかのように大気中の気温が上がり、太陽が眩く光り、フィールドが日照り状態になる。
ほのおタイプ にほんばれ
ポケモンによってやり方は様々だが、大気中に水分や反射物を散布し、意図的に周囲の太陽光をそのフィールドに集める技術である。天候そのものを変えてしまう様な伝説のポケモンの様な事は出来ないが、擬似的に有利な環境を作り出す事が出来る。
「ほぉ、それを買いにロイヤルアベニューに行っておったのか」
「自力で覚えるには、まだLvが足りなかったもんでね」
ほのおタイプの攻撃が1.5倍、水タイプの威力が半減、ソーラーブレードのチャージ時間が無くなる、そして。
「これでちょっとは、足場が良くなるだろ」
一時的ではあるが、水位が下がる。干上がるなんてことはないが、ヨワシの移動範囲は狭くなり、ラランテスの動ける範囲が広がる。
「がっはっは、成程な。用意周到よ、有効な作戦だ。ワシのヨワシも足は遅くての、先行をとられてしまっては、術中にはまったの」
ガジュマルは手を組み、高らかに笑う。その所作だけで、まだ余裕があるのだろう。二人とポケモンの間には力の差がある、まだ対等ではない。
「ギョオオォォ!」
水タイプ ハイドロポンプ
水中から踊りだし、内側に溜めこんだ水を一斉に噴き出す。その水流がラランテスを飲みこみ、圧力が体を叩きのめす。
「なんと!?」
ガジュマルが驚く。並のポケモンであれば吹き飛ばされる様な威力のはずが、ラランテスは変わらずその場に立っていた。
「バランス感覚と足捌きは抜群だからな」
再び水中に潜っていくヨワシの群れに、光の剣が振り下ろされる。
「ソーラーブレードだ、いけぇ!」
「しゃらんら!」
高々と振り上げた双の鎌が光を纏い、幾つもの光の束となって天を衝く剣となる。
草タイプ ソーラーブレード
太陽光を集め、体内にてエネルギーに変換し、集約して圧倒的な熱量を放つ技である。現在この技を使う事が出来るポケモンは、太陽光の変換効率と集約能力が飛び抜けているラランテスしか確認されていない。
「ギョオオォ!?」
水中にいるヨワシの群れに直撃する。何体かのヨワシが気絶したのか、ヒレや尾に少しの欠けが見られる。
「がっはっは、よいぞよいぞ! これぞ試練、これぞポケモンバトルじゃあ!」
「ラランテス、光合成だ!」
草タイプ こうごうせい
文字通り、光と水を吸収し、エネルギーを作成する技だ。日照り下では効率よく行えるため、通常よりも効率が良い。
「追いつめろ、ハイドロポンプじゃ!」
体力を回復するラランテスとそれに対抗するかのようにハイドロポンプがブチ当たる。ダメージよりも回復量の方が上回っているようだ。
「しゃらんら!」
「ギョオオォオ!」
再度同じ対面を迎える。ハイドロポンプとソーラーブレード、二度目の交差、互いが互いの全力をぶつけ合い、それでもお互い一歩も引く事無く、ぶつかり合う。
「ヨワシ、もう一発じゃ!」
「ギョオオォオ!」
「ラランテス、ぶちかませ!」
「しゃらんら!」
ヨワシの群れが激しい水しぶきを上げ、空中へと踊りでる。光の剣と水流がぶつかり、交差し、互いの体力を削っていく。
「……よくやった、良いバトルじゃった」
ヨワシの群れは傷つき、最初の大きさよりも小さくなっていた。だが、依然としてオーラを纏う力強さは残っていて、強者としての強さを保っている。それに比べて、ラランテスは満身創痍、幾度も受けたダメージと強力な技の連発、毅然と振舞ってはいるものの、限界が近い。
「あと一発、さっきの技が当たれば、危なかったかも知れんの」
ヨワシの群れは水中を泳ぎ、次の攻撃のタイミングを量っている。もうソーラーブレードを溜める時間はない。
ひでりが おさまった
もう水タイプの半減も、ソーラーブレードを放つ事も出来ない。生半可な攻撃では、太刀打ちできない技が、放たれようとしている。
「ガジュマルさんよ、勝負は下駄を履くまで分かんねェって、聞いた事無いか!?」
それは祈り
それは体現
それは生命
それは成長
Zストーンは輝き、
Zクリスタルと同調する
合わせる両手は循環を現し、
天を衝く構えは生命と成長を現す
開かれた両手は集約した力が、
その身に宿る命が開花した事を現す
ヒトミとラランテスの動きは同調し、その力に同調したのか、周囲の草花達も一斉に芽吹き、その生命力が中心のラランテスへと集約していく。
Zパワーがラランテスの身に宿る。
「がっはっは! とっておきが残っておったか! ワシ等もとっておきじゃ!」
「全部持ってけ、ラランテス!」
「しゃらんら!」
「ギョオォオォオオ!」
草タイプ ブルームシャインエクストラ
水タイプ ハイドロポンプ
溢れる光と巨大な水流がぶつかり合い、その勢いをぶつけ合う。
「しゃ……らんらぁ!」
「ギョオォォオ!??」
試練の間が、光に包まれた。
「よくやった、水の試練、文句なしの達成じゃ」
ガジュマルからヒトミへひし形のクリスタルを渡される。水色になかに水のマークが刻まれた水Zクリスタルだ。
「ありがとう……もう限界だ、うごけねぇや」
ヒトミは仰向けに倒れ、ラランテスも試練の間ど真ん中てぷかぷかと浮いている。力を使いはたしてお互い動けない、と言った感じだ。
「がっはっは、ワシもまだまだ、世界は広いのぉ」
瀕死状態のヨワシに回復役を与え、傷を癒し、健闘を讃えるガジュマル。
「……負けるとは思わなんだ。強くなり過ぎたと思っていた。だが、ヒトミとラランテスの力には敵わんかった」
一度手を水につけ、手を冷やしてから、ヨワシを撫でる。
「済まんのぉ、ヨワシ。ワシの力不足じゃ、ワシの怠慢じゃった。次は負けんように研鑽せんとなぁ……」
その言葉を聞いたヨワシは、輪を描くように泳ぎ、飛び跳ねる。
「ははっ、そうじゃ。お主も負けず嫌いじゃったの! そうと決まれば特訓じゃな!」
ヨワシも負けじと力強く泳ぎ回る。
「……あのバトルの後で動き回るのかよ、化物だな」
力尽きたヒトミは、起き上がる事も難しかった。最後にはなったZ技の消耗はそれほど大きかった。
「がっはっは、最初はそんなものじゃ、慣れればもう少しマシになるわい! とはいえ、辛さはワシもわかっておる、知り合いの家まで送ってやる!」
「……知り合い?」
「気の良い親父殿よ。釣りの仕方も親父殿に教えてもらったのじゃ! ヒトミも教わって見るとよい!」
ガジュマルはヒトミをひょいと担ぎあげ、手慣れた様子でラランテスをボールに戻す。
読了ありがとうございました。これから先はポケモンのデータなので、飛ばしていただいても大丈夫です。
せせらぎの丘 主
ヨワシ
こざかなポケモン
アローラ図鑑No.110
特性:ぎょぐん
性格:ゆうかん
Lv:69
努力値:H252 C252
実数値:H208 A244 B208 C266 D215 S42
ラランテス与ダメ
ソーラーブレード:62~74
こうごうせい:110(回復量)
ブルームシャインエクストラ(Zソーラーブレード):92~110
ヨワシ与ダメ
ハイドロポンプ:46~55
今回は、ラランテスとヨワシの同速勝負でしたが、これに関しては、初手はガジュマルの油断がラストはハイドロポンプをぶち抜いたということで、ラランテスに軍配が上がりました。データを作ってるときに同速勝負の方が熱くね!? ということで、レベル調整が決まりました。確定数いじるのにノート二ページぐらい無駄にしました。でも、結構お気に入りの勝負です。日本晴れのターン数とか、Z技とか、主ポケモンとか王道の展開にできたんじゃないかな、と思ってます。
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第七話
オリジナル設定、オリジナルキャラ、物語中盤から擬人化等、苦手な方はブラウザバックを推奨します。
それでも良いという方は、お付き合いください。
「何から何までありがとうございます、寝場所と食事まで。体が動かなくてすみません」
ヒトミは何とか上半身を起こし、ベッドの上でスープを口に運ぶ。ラランテスは縁側に寝転がり、日光浴をして休憩している。
「試練の後は皆そんなものさ、それよりキャプテンに勝ったんだって? 凄い実力だな、君は」
ヒトミがせせらぎの丘の近くの民家に預けられ、1日が経つ。ようやく食欲が出て来て、体力もそこそこ戻り、なんとか動けるようになった状態だ。
「……」
部屋の外から覗きこむ瞳が見える、まだ幼いその瞳は興味と恐れが半々という様子だ。
「スイレン、入って挨拶しなさい」
「あ、あろーら……」
スイレンと呼ばれた幼女が控えめに挨拶をして、お父さんの横に立つ。袖を掴むあたり、まだまだ父親離れは出来ていなさそうだ。
「アローラ、スイレンちゃんよろしくね」
ひゅっ、と父親の後ろに隠れてしまった。
「すみませんね、人みしりなもので……」
「ははは、まぁ急に知らない人に会ったらこんなものですよ」
まだ体の重さと疲労感は抜けきらないが、あまりお世話になり続けるのも迷惑だ、と告げ、旅に戻る準備をしようとするヒトミ。だが、スイレンの父親に引き留められる。
「そうだ、ヒトミ君は釣りに興味はあるかな?」
「え、まぁ……興味はあります」
これから火の試練に向けて、水ポケモンをゲットしておきたいとはすでに話している。ギャラドスやヒンバスが釣れると聞いて、ヒトミも釣りに興味をもっていたのだ。
「釣り……する?」
スイレンちゃんがきらきらした目でヒトミを見ている。釣りという単語に反応しており、釣りが好きだということが一目でわかる。
「はっはっは、折角だし、一度してみませんか? スイレンも行きたがってるようですので」
「ええ、是非」
この後、めちゃくちゃ釣りの仕方を教えてもらった。
「ヒトミさん、調子はどうですか?」
ヒトミの釣果は三日間、丸坊主です。
「なんでかなぁ、素質がないのかなぁ」
スイレンのお父さんに教えてもらい、一通り出来るようになったのだが、一向につれる気配がない。ヒトミの横でスイレンちゃんも釣りをするのだが、釣れない日はない位上手い。
「素質は……ないと思います」
「……辛辣ぅ」
ヒトミは気は長い方が、それが逆に釣りに向いていないようだ。餌に食いついても反応が遅くて、逃げられたりする事もしばしばなのである。
「でも、続けていれば、チャンスはきます。諦めなければ、きっと良い出会いがある……父がよく言っています」
成程、良い言葉だとヒトミは呟く。釣り糸垂らしてるだけでだとしても、気の長いヒトミには性が合っているのか、飽きる様子はない。ラランテスも日向ぼっこして、楽しそうだ。
「……引いてますよ?」
「うおっ」
スイレンちゃんに言われるまで気付かなかった。急いで引き上げ、釣り上げる。手ごたえは小さく、大きい魚ではなかった。それでも、それは滅多にないチャンスだった。
「金色の……ヨワシ?」
「色違いだ!!」
桟橋の上で、少し岩が盛り上がっているスポットに釣り糸を垂らす。こういうコケやプランクトンが増えやすい所に、魚は集まりやすいのだろう。魚ポケモンの影がちらほら見える。
「ヒトミさん、順調ですか?」
「うん、順調だよ」
そういうと横にスイレンちゃんが座る。
「……一匹も釣れてなさそうですが」
「逆に考えるんだ、釣らなくっても良いさ、ってね」
「……?」
ヨワシを捕まえてから、とりあえずHC振りでレベル上げをしようと考えたヒトミは、コダック、ママンボウ、ヨワシをひたすら釣ったり水上をラプラスで移動してみたり、草むらを歩きまわったりしていたが、ヨワシが群れを作れるようになって、充分ヨワシでレベリング出来るようになってからは、やり方を変えた。
「餌に近づいてきたママンボウがヨワシに襲われてる」
ゲームではないので別に釣りあげなくても水中に待機させたヨワシがバトル出来さえすれば良い。群れた姿は攻撃力も高いので、ヒトミの釣りの腕も考慮すると効率ははるかに良くなった。
「面白い事を、考えますね」
ふふっと、スイレンちゃんが微笑む。まるで天使のように純粋無垢な笑顔だ。
「あっ、そういえば、赤いギャラドスって知ってる?」
ゲームの中では、スイレンは赤いギャラドスを釣り上げたというセリフがあった。ヒトミは何か話すことはないか、と考え込んでいたところ興味本位で尋ねてみたようだ。
「赤い……ギャラドス?」
スイレンの反応を見る限り聞いた事なさそうだ。
「そうそう、俺のヨワシみたいに、普通とちょっと違う色のギャラドスが……」
「詳しく教えて下さい!」
ヒトミは金色のコイキングとか、赤いギャラドスとか、遠い地方の伝説のカイオーガの話をスイレンにしていると、日が暮れてきた。
「よし、今日はこんなところかな」
ヨワシの群れも解散し、ヒトミに近寄ってくる。手を水で冷やしてから、頭を撫でる。
「♪」
このヨワシは素直な性格で、捕まえた当初からヒトミの命令に従っていた。育てるに連れ、懐くのも早いが、種族的に晩成型なのでレベル上げには時間がかかってしまう。次の試練に向かうにはあと一週間はかかりそうだ。
「あの、ヨワシにポケ豆をあげても良いですか?」
「ん、いいよ」
ヒトミが持ってきていた普通の青いポケ豆をスイレンに渡す。小さめに砕いて水面にばら撒くと、美味しそうにヨワシが食べ始める。
「……ヒトミさんは、変な人ですね」
「傷つくわぁ」
ヒトミにも自覚は少なからずあったのだろう。別世界から来た、と言う事もあって色々な意味でアローラ地方の人たちと違う事なのだから。
「なんというか、他の島めぐりの人とは違う感じがします」
その言葉に、ヒトミは戸惑う。温暖な地域で、島の人たちも優しい人が多い。全く問題が無いと言えば嘘になるだろうが、島の守り神がいる事も含めて、平和な世界だと思う。
「まぁ皆、島めぐりに関しては急ぎ足な気がするよ」
ヒトミは15歳と告げているので、後五年間ある。キャプテンになるのをあきらめさえすれば、育成に時間をかけることも十分に可能だろう。
「この島では、島めぐりを終えて一人前と認められます」
「でも、必ず全ての試練をクリアしないといけないわけじゃないんだろう?」
余程協力なポケモンを持っていたり、トレーナースキルが高ければ、カキやスイレンやマオのように早くにキャプテンになることもできるのだろう。だが、ヒトミにあるのは、ポケモンについての知識とこの先のアローラで起こるであろう事を少しだけ知ってるだけだ。
「私も、早く島めぐりをしたいです。一人前になって、ガジュマルさんのキャプテンを引き継いでいきたいですし……」
確かに、キャプテンは皆の憧れである。主ポケモンを育てる事が出来るし、何より育成環境が他と段違いの境遇になる。ガジュマルのヨワシや、ウスユキのラランテスも、その環境では有り得ない程の強さを持っていた。
「まぁ、スカル団みたいなのもいるしなぁ」
苦虫をかみつぶしたような表情でヒトミが呟く。島めぐりをこなせず、悪行にはしる集団。周囲からも白い目で見られ、迫害される。ゲームでは愛嬌のある感じのキャラだったが、まぁ実際には様々だ。名乗ってるだけみたいなのもいれば、積極的に迷惑をかける奴もいる。この時代はゲームのころほど、規模が大きくはなくまだ認知度はそれほどないけれど。
「……ヒトミさんは、島めぐりが出来なかった時が、怖くないんですか?」
読了ありがとうございました。ここから先はポケモンのデータになりますので、興味のない方は飛ばしていただいて問題ないです。
ヒトミの手持ちポケモン
ラランテス
ヨワシ←NEW!
特性:魚群
Lv:16
色違い
二匹目の枠をどうしようかと迷っていましたが、シナリオを考えている途中で夢特性ヒドイデを探していたら、色違いと運命的に出会ってしまったので登場させました。
ラランテスと一緒に壁張りトリルで暴れてもらってます、ウイの実持たせると結構固いです。
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第八話
オリジナル設定、オリジナルキャラ、物語中盤から擬人化等、それらが苦手な方はブラウザバックを推奨します。
それでも良いという方は、お付き合いください。
※火の試練 キャプテン テンの挿絵を追加しました。衣装が替わっているのは描きたかっただけです(´・ω・`)
「アローラ! 火の試練にようこそ!」
童貞を殺すセーターのお姉さんが現れた。若い男性にとっては色々と目のやりどころに困る人だ。
「テンさんってば、またそんな格好で……」
ウスユキが頭を抱える。偶々用事が合って、ヒトミの火の試練についてきてくれたのだが。
「あら、いいじゃない。ダンスっていうのは、情熱的なものよ」
「とても情熱的だと思います」
ヒトミはあくまで具体的には言葉にしないが、サムズアップをしている。
「……サイテー」
立っているだけで汗が流れる程日差しが強い。火山と呼ばれるだけあり、異常な熱気を感じている。
「ガジュからも聞いてるわ。凄腕のトレーナーだって……体が火照っちゃいそう」
「火傷で済まないかもしれませんよ」
ヒトミのヨワシはかなり強くなっている。元々のステータスもよく、タイプ相性さえ悪くなければ、十二分に闘えるはずだ。
「楽しみね♪ さぁ、始めましょうか」
踊り台に扮したバトルフィールドのど真ん中に立つのは、主ポケモン。
「……ローブシン?」
異様なまでに膨れ上がった、二本の腕、それに伴い鍛え上げられた肉体は、一切の無駄のない筋肉に覆われている。両手には、地面に突き立てるように、骨を持っている。
「持ち物は当然、ふと~い骨よ♪」
ひたすら攻撃に特化した、ガラガラ・リージョンフォルムだ。
「いくぞヨワシ! お前の力を見せてやれ!」
モンスターボールから、小さな魚が現れる。だが、闘いの時には群れた姿になり、巨大な力を発揮し、時にはサメハダーさえ逃げ出すほどの海のポケモンなのだ!
ピチッ、ピチッ
勿論、水が無いところでは泳ぐ事は出来ないぞ!
ピチッ……ピチッ
闘うために、その力の全てを振り絞り、立ちあがろうとする。その姿は、真面目で勤勉なヨワシの姿そのものだった。
「……ヨワシ」
ピチッ……
「ヨワシーーーーーーー!」
「と言う事がありましてですね」
「分かるわ」
久しぶりに戻ってきたコニコシティの食堂で、ヒトミはライチと向かい合って座る。
「色違いが出てテンション上がってたんです、嫌な予感はしてたんですけど、ヨワシが頑張っているの見てると、もしかしたらって思って」
あのあと、ヨワシはポケセンスタッフに治療してもらいました。
「炎タイプには水ポケモンが有利、それは勿論あるけど、あそこで動き回れる水ポケモンって中々いないのよねぇ」
ライチの話によると過去の試練突破者は地面タイプを駆使して乗り越えている事が多いらしい。
「それで、ライチさんに相談って何かしら?」
「まぁ、ヨワシは別のところで頑張ってもらうとして、ラランテスも相性が良くないですし、正直あのガラガラに勝てる気がしないんですよね」
「でも、諦める気はないんでしょ?」
「勿論、手持ちを増やそうかと思ったんですが、育てる時間も含めると長くなりそうだし、選択肢は増やしておきたいと思いまして」
そこで、ライチが少し考え込む。
「そうねぇ、別に他の島の試練を先にする、っていうのは悪くないかもしれないわね」
最初の島の大試練を突破してから、他の島に送り出すのが、基本的な島めぐりとなる。そのため、ヒトミ自身もこの話をするまでに時間がかかってしまった。あまり例を見ない事案だが、試練に立ち向かうにあたり、意欲的な案であれば島クイーンとしても受け入れてくれるだろう。
「余計な事かもしれないけれど、他の島の試練も同様に厳しいわ。他の試練なら、という考えなら辞めておきなさい」
「承知してます。負けっぱなしは嫌ですから」
「ただ……いくならメレメレ島にしなさい。ハラさんなら事情も聞いてくれるでしょうし」
「やっぱり、受け入れにくいものですかね」
ライチは少し苦い顔をする。
「他の島キングだと……ちょっとね。ウラウラ島もそうだけど、ポニ島の島キングは特に厳格な方だから」
他の島で試練を突破できないから、という理由で来たトレーナーを歓迎する、ということは有り得ないだろう。ライチにその辺も弁えて行動していくべきだと、厳しく注意される。
「ただまぁ、今の試練の状況も考えると、脱落者ばかりになるよりか、良いかもしれないわね。私は応援するわ」
「ありがとうございます!」
そうしてヒトミは、メレメレ島に出立する準備を整えていった。
「なによぉ、お姉さんを置いていっちゃうなんて、このひとでなしぃ」
「ちゃんと戻ってきますって、テンさん。絶対、リベンジしにきますから」
「がっはっは、まぁお主なら他の試練もやり遂げるだろう! ワシも強くなって、戻ってきたら再戦といこうぞ!」
「はい、ガジュマルさんもお元気で」
「いい、メレメレ島についたら一番にハラさんに挨拶するのよ。それから、守り神様にも失礼の無い様にして、カプ・テテフ様よりずっと好戦的な方なんだから、雷落とされるんだからね」
カプ・コケコの雷であれば、人間であればひとたまりもない。世の中には十万ボルトを受けて平気なマサラ人がいるらしいが、それはアニメだけの話だろう。
「ウスユキちゃんってば、心配性ね。そんなにヒトミ君がこの島を離れるのが嫌なの? だったらついていけばいいのに」
「そ、そんなんじゃないわよ! 大体私はキャプテンだから、離れる訳にはいかないし!」
「そんなに心配しなくっても、ちゃんと戻ってきますよ」
ヒトミは心配性なウスユキに、ハグをする。
「強くなって、帰ってきます。今までありがとうございました」
「……うん」
名残惜しむかのように、船に乗り込む。ヒトミはライチと一緒に、メレメレ島に向かう。
「ごめんね、ヒトミ君。ウスユキは心配性だから」
「分かってますよ、あの人がそうなのも今に始まった事じゃないですし」
アーカラ島は広くて狭い島だ。色々な人とポケモンが寄りそいあって生きていて、海もジャングルも山もあって大自然に囲まれてとても良い環境といえる。
「……ガジュマルもテンも、キャプテンが終わったら島を出ていくからね」
トレーナーとして大成を目指すのであれば、逆にアローラ地方は狭いくらいかもしれない。世界はまだまだ広がっていて、カントーもジョウトもカロスもイッシュも、まだ見ぬポケモンやトレーナー達との出会いを求めて飛び出すのは無理の無い話だ。
「試練に負ければ脱落して、無事に達成しても島を離れていく……ウスユキさんも複雑でしょうね」
キャプテンという立派な立場を得たとしても、彼女は残されていくという不安が募っているのだろう。寂しがりで陽気に振舞う彼女に、寄り添ってきたキャプテンがその地を去るのは、耐えられないのかもしれない。
「ガジュマルもテンも自由奔放だから、やりたいことがあったらすぐに飛び出しちゃう様な子なのよ。ウスユキも気配りが上手だから、周りにすぐ気にいられるし、すぐ仲良くなるんだけど」
キャプテンという立場が、彼女をアーカラ島に閉じ込めてしまっているのかもしれないとライチは言う。
「別に、メレメレ島に行ったからと言って帰って来てはいけないってことはないのよ? きっと、皆喜ぶわ」
ライチも複雑な気持ちなのだろう。残って欲しいという気持ちはある、でも試練や風習が足かせになることもある。
「そうっすね、お金が無くなったら、飯食いに帰ってきます」
ヒトミが軽く喋るとライチは笑い出す。しんみりとした雰囲気がどこかにいってしまった。
「また皿洗いから始めないといけないわね」
読了ありがとうございました。ここから先はポケモンのデータになりますので、興味のない方は飛ばしていただいて問題ないです。
ヴェラ火山 火の試練 主
ガラガラ
ほねずきポケモン
アローラ図鑑No.164
特性:いしあたま
持ち物:太い骨
火山ではガラガラがいるためか、踊りについては伝統、ということにしてあります。カキもテンさんに手とり足とりナニとり教えて頂いたという設定です(ゲス顔
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第九話
オリジナルキャラ、オリジナル設定、物語中盤から擬人化等、苦手な方はブラウザバックを推奨します。
それでも良いという方は、お付き合いください。
ヒトミはがっちりとした体格の島キング、ハラさんに出迎えられた。5年前だとしてもそんなに見た目が変わる歳ではないのだろう。
「ようこそ、メレメレ島へ。島めぐりに来たトレーナーで間違いないですかな?」
ただ、ゲームの様な明朗快活な雰囲気はない。あるのは余所者に対する警戒心だ。
「ハラ様、アーカラ島にて二つの試練を突破した者です。何とぞ、よろしくお願いいたします」
ライチが深深と頭を下げる。それに習い、ヒトミも頭を下げる。
「お初にお目にかかります、メレメレ島島キングハラ様。己の不精進の為、御指導を賜りたく参らせて頂きました。御指導御鞭撻の程、何とぞよろしくお願いいたします」
ライチも島クイーンとはいえ、立場としていえばハラさんに比べれば弱いだろう。ヒトミは拾ってもらった恩もあってか、面子をつぶす様な真似はするまいと、会った時に話す言葉をしっかりと考えていた。
「……軟弱者が来ると聞いて警戒しておりましたが、参りましたな。そう畏まられると対応に困りますぞ」
やれやれといった感じで、ハラが頭をかく。
「礼儀はよいとして、あとは資質次第ですな。早速、実力を見せてもらいますな」
「是非もなし、よろしくお願いいたします!」
まずはハラに一揉みしてもらうところから、メレメレ島の試練が始まった。
結果はボロボロだった訳なんですけどね。
朝一番にハラの相撲の訓練をうけ、午後になってから自由時間となる。ポケモンスクールやハウオリシティ等、とりあえず散策し、次捕まえるポケモンを決めていこうかとハウオリシティに来たら、ヒトミは褐色の男性に呼び止められた。
「お前が、最近来た島めぐりのトレーナーか?」
どこかぶっきらぼうでけんか腰な若者は、ヒトミを睨みつけている。
(どこかでみたことあるような……)
ヒトミは、何か歯の奥に引っかかったような表情をする。
「あっ、はい。多分、そうだと思うけど」
「島めぐりなんて止めとけ、こんな狭い世界で一番になっても、所詮井の中の蛙にすぎない」
詰め寄る様に捲し立てられる。どうやら島めぐりに対して悪感情を持っているみたいだ。
「ちょ、ちょっと待ってよククイ! 来たばっかりの人にそれはないだろ!?」
駆け寄ってくる金髪の眼鏡をかけた細身で青年が現れた。その姿を見て、ヒトミは見覚えがあったのか、納得したような顔をする。
「ふん、本当のことを言ったまでだ。マーレインもこんな古ぼけた風習に捉われる前に真実を教えてやった方と思うだろ?」
「確かに非効率な考え方でもあるだろうけど、伝統を無下にする訳にもいかないだろ」
ククイがそっぽを向いて研究所の方へ向かって行ってしまう。
「すみません、折角アローラ地方に来てもらったのに、お騒がせしてしまって」
随分と腰が低いマーレイン。ククイがゲームとの印象が違ったからか、ヒトミは戸惑いを隠せない様子だ。
「い、いえ、大丈夫ですよ。それより、キャプテンの方ですか?」
「あ、そうか、島めぐりで来てたんですね。僕はキャプテンのマーレイン。ウラウラ島で鋼の試練を受け持ってます。今日は、折角帰って来たククイと話をしようと思ってこっちに来てたんですけど……」
虫の居所が悪かった、ということだ。というか、マーレインさんも苦労してそうだな。サンムーンの時は年配っぽくみえたのは苦労皺の所為だったのかもしれない。
「メレメレ島の試練なら、ポケモンスクールの方に行くと多分キャプテンさんがいると思いますよ。手強いとは思いますが、頑張ってください」
マーレインの丁寧な対応に、ヒトミは笑顔になる。ゲームではポケモン預かりシステムの管理もしてるし、元々世話焼きな性格なのかもしれない。
「いや、試練に向かう前にポケモンを捕まえようと思いまして、この辺で良い場所はないですかね」
ヒトミはメレメレ島なら、コラッタかモンメンとかかなと呟く。
「そうだったんですか……それなら、コイルやベトベターなんかはどうですか、ポケモンスクールの近くの草むらでゲット出来ると思いますよ」
ヒトミは申し訳なさそうだが、ガラガラには相性が悪いし、もう少し別の方向で考えますと答える。マーレインの良心に少し申し訳なさを感じつつ、他に何かいい方法がないかと考え込んでいると、ふと道路に面している家の柵に落書きのあとを見つける。
「……あの落書きってなんですか?」
「ああ、この辺はドーブルが出るんですよ。度々落書きされるんで、近隣の人も迷惑がっているんですけど……」
「それだっ!」
マーレインにお礼をして、ハウオリシティのポケモンセンターに寄り、捕獲用のボール等を購入して近くの草むらを歩く。幸いにしてモーテルも近く、厳選にはもってこいの環境かもしれない。夕暮れも近く、探すのに苦労するかもしれないと準備に時間をかけていたヒトミだが、どうやらそれほど手間は掛からなさそうだ。
「マーキングがある……そう言えば、縄張りにマーキングするって図鑑説明があったか」
これを追えば、ドーブルを捕まえる事が出来る。
「いや、この際だから特性がムラッけで、性格は臆病個体がいいな。ガラガラ対策を考えるとSはあんまり妥協できない。いくぞー!」
メレメレ島に来て一週間が経った。ヒトミは段々と島の住民にも顔と名前を覚えられて、少しは馴染んできたようだ。
「あらあら、ヒトミさんじゃないか。今日も頑張ってるねぇ」
「あざっす!」
近所のおばちゃんにおいしいみずを奢ってもらった。アーカラ島は熱帯ということもあり、水分補給は欠かせない。
「ヒトミじゃないか、俺んちにも来てくれよ。女房が綺麗にしろって五月蠅いんだ」
「あっ、いいっすよ。此処終わったら行きますね」
声をかけたおじさんが手を振って自宅に戻っていく。
え? 俺が今何をしてるって?
ドーブルのマーキングを消すお仕事してます。
「ふぅ、綺麗になったな」
首にかけたタオルで汗を拭き、立ちあがりストレッチをする。ずっと同じ体勢で壁を磨いていたのだから、定期的に動かさないと体が固まってしまうのだろう。
「……しかし、いざ探すとなると中々見つからないもんだな」
そう、捕まえるポケモンを決めた所までは良かったのだが、中々夢特性のドーブルが見つからない。さらに、足の速い個体を探しているので、遭遇難度は跳ねあがってしまっている。行き詰ったヒトミは、とりあえず、ドーブルについて調べてみる事にした。そうして、個体によってマーキングする形や色が違う事、近辺に多数存在していること、そしてブティックにドーブルのマーキング落としという洗剤を見つけた。
「……これだ」
その日から街の至る所にあるドーブルのマーキングを探しては消しまくった。マーキングを消す事によって、消した犯人を探しにドーブルがやってくるという算段である。なおかつ、マーキングの色や形を記録しておくことで、ヒトミなりにドーブルの法則を探そうと試みたところ、ある程度推論を立てる事ができた。足の早い個体はマーキング間の距離が広く、HPの高い個体は、マーキングの数が多い傾向がある。マイペースな個体はマーキングの形が崩れる事が少なく、テクニシャンな個体はやたら凝ったデザインが多い。そう考えるとムラッけはマーキングにバラツキが多い個体かもしれない……まだそのマーキングは見つかってはいないが。そうやってヒトミのドーブル探しが一日、二日と続いていくと、街の人からありがたがれ、差し入れを貰ったりするようになった。ハラもその行為自体はそこそこ良く思ってくれているようで、朝の訓練が終わったらドーブルの落書き消しという慈善作業に勤しむ事になった。
「うん、綺麗な壁はうつくしいな!」
読了ありがとうございました。ここから先はポケモンのデータになりますので、興味のない方は飛ばしていただいて問題ないです。
ドーブル
えかきポケモン
アローラ図鑑No.058
特性:マイペース、テクニシャン
夢特性:ムラっけ
まだ出てきていないので、個体値などは次の機会に。
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第十話
オリジナル設定、オリジナルキャラ、物語中盤から擬人化等、苦手な方はブラウザバックを推奨します。
それでもという方は、どうぞお付き合いください。
「あ!? 馬鹿じゃないか、お前! つか、馬鹿だったな、ばーかばーか」
「んだとコラァ! やる気か、てめぇ!?」
マーレインがモーテルの扉を開けると、見慣れた二人が言い争いをしていた。
「……もう飲んでるのか、今日は何の言い争いをしてるの?」
もはや慣れてしまって、驚く事もなくなったマーレイン。
「ヒトミのやつが、ドーブルはなんでも技を覚える事が出来るって言うんだぜ? あんないぬっころに出来る訳ないだろ!?」
「ばっか、ククイ。いぬっころ舐めんなよ!? やれば出来るんだよ、やれば!」
「だったら、とっとと捕まえて見せてみろってんだ!」
そう言って、缶ビールを煽る二人。借りているモーテルが隣だったから、ちょくちょく顔を合わせるようになり、いつからかこうやって言い争うようになっていった。
「昨日は伝説のポケモンについてだっけ? あれはどうなったのさ?」
そういうとククイが表情を曇らせた。
「……こいつが書いたイラストと似たような伝承を知ってる先輩がいたよ。クソッ、なんでそんなこと知ってんだよ、この馬鹿!」
「えらーいククイ博士には教えませーん! あははは」
マーレインもヒトミのポケモンに対する知識には驚かされる。ククイが興味をもったのもそれがきっかけだ。島の守り神についても、四つの島全ての守り神について、様々な事を語った。守り神は気紛れで、人の前に現れる事すら珍しいと言うのに、半年前にアローラに来たと言うヒトミという青年は見事に描いてみせた。
「それは凄いな……ん、これは一体?」
「ヤドンの尻尾をアマカジの葉っぱで燻してみた。結構いけるぜ」
「マーレイン、これは美味いぞ。お前も食え!」
絵を描いたり、料理をしたり、色々と器用になんでもこなすヒトミ。他人からは色々行動がおかしいけど、悪い奴じゃなさそうと思われていることについてはまだ自覚していない様子だ。
「あ、ホントだ。美味しい」
「マーレインの分のチューハイ、ほれ」
「あっ、俺が買ってきた酒だぞ、勝手にすんなよ!」
「怒んなよククイ、折角マーレインが来たのに、構わないだろ」
チューハイを受け取って口をつける。マーレインはあまりお酒は好きじゃないんだが、この二人との馬鹿騒ぎは嫌いではない。ククイがもう一つ缶ビールを空けながら人の金だと思って好きにしやがって、とぶつぶつ呟いている。この中では一番の稼ぎ頭だし、なんだかんだ言ってヒトミに奢るのも日常になってきてる。
「なぁマーレイン、あれ、どうなった?」
「どうもこうも、出来る訳ないだろ、って馬鹿にされたよ」
思い出すと苛々したのか、一気にチューハイを煽る。アルコールが回り、マーレインは少し顔が赤くなっている。
「いやいや、お前なら出来るって! 絶対、大丈夫だから!」
「その根拠はどこから来るんだよ……」
呆れながらも、その言葉に対してはマーレインは喜んでいるようだ。研究というのは、始めた頃はバカにされるもので、形が出来ていかないと誰も期待しないものだ。それなのに会ってまだ数える程だと言うのに、ヒトミはマーレインの事を信じて、お前なら出来る、と言う。
「何の話だ?」
「フェスサークルの話だよ、ククイ。それに加えてGTSについても初期構想を出したら駄目だし喰らってきた」
「それは上司が無能だな! やってない事を不可能っていうなら研究者止めろってんだ!」
「そうだそうだ、失敗がなんだ! 失敗が怖くてポケモントレーナーが出来るか!?」
「そうだヒトミ! その通りだ! お前は馬鹿だけど、そこは分かってる奴だ!」
ついにククイとヒトミが肩を組んで踊りだした。隣の部屋がまだ空だからいいものの、何時苦情が来てもおかしくないぐらいの騒ぎだ。朝まで騒いで呑み倒すことも最近では多くなってきた。
「全く……馬鹿ばっかだ」
マーレインはチューハイの残りを喉に流し込み、一人呟く。
「マイクテス、マイクテス……聞こえますか?」
「うん、聞こえてるよ、マーレイン。ありがと」
ライチのパソコンの前にマーレインの顔が映し出される、逆にマーレインのパソコンにはライチの顔が映っている。
「……すまんな、マーレイン。どうもこの手のパソコンは苦手でな」
ハラがマーレインに礼を言う。やり方を伝えて、マーレインが部屋から出ていった。
「あー、あー、ライチ殿。聞こえておりますかな?」
「聞こえていますよ、ハラ様。お忙しいところ申し訳ありません」
ハラはいつものように、豪快に笑う。
「構いませんな。こちらもライチ殿に話したいと思っておりましたからな。本来であればお会いできればよかったのですがな」
お互い、島キング、島クイーンという立場だ。そうおいそれと自分の島を離れる訳にはいかず、自分の仕事もこなしているとこうやって話す機会を作る事も出来ない。
「しかし……パソコンとやら、すごいですな」
「そうですね」
ライチはいつまで経っても機械類の操作に慣れないハラに苦笑する。マーレインやククイが研究に没頭している事に関して、良いのか悪いのかよく悩ましているらしい。何せ何をやっているのか、研究についても内容が全く分からないのだから評価の使用もない。孫のハウ君が生まれてからは、そういった事についても大分丸くなったみたいだけれど。
「おっと、話がそれてしまいましたな。ちなみに、ライチ殿のお話とは?」
「はい、そちらに行ったヒトミさんの現状が気になって……御迷惑をおかけしておりませんか?」
ハラは無言になる。腕を組んでうむむと唸って、ようやく言葉をだした。
「ククイとマーレインとよく馬鹿騒ぎしているみたいですな。この前は、二日酔いで朝の鍛錬に来たので、叱ってやったばかりですな」
何やってるんだあの馬鹿はと、マイクに入らないようにライチが呟く。
「……ただ、不思議な人間ですな。ドーブルの落書きを消して回って、街の皆からは評価も高いですな。朝の鍛錬も、欠かさず来ておりますし、人柄は悪くはないのですが……素質はあまりないですな」
ライチは悪い事はしていないらしいということ胸を撫で下ろす。
「御迷惑でなければ、何よりです。素質が無いのは……まぁ、分かっていたことですから」
他のキャプテンの様に、特別な能力がある訳でも、ポケモンを育てる能力があるわけでも、守り神からの加護がある訳でもない。そう言ってしまえば、ある意味普通の人間なのだが。
「素質はありませんが、努力はしておりますな。特に育てる事に関しては見た事が無い程……彼のポケモンは良く懐いておりますぞ。特に気負わずとも、時が経てば立派なトレーナーになると思いますぞ」
「そう……ですか。ありがとうございます」
「いえいえ、ライチ殿からお預かりした島めぐりの人間ですからな! 正直どんな厄介ものかと心構えていたのですが、別の意味で驚かされましたな!」
「ええ、アーカラ島に居た時も、驚かされました」
それから近況を少し話して、通信が終わる。慣れない事をしていたからか、結構時間が経っていて、肩や腰が強張っていたのをほぐす為に背伸びをする。
「んー……元気にやってるなら、いいかな」
ライチの気がかりが少し晴れたのか、気付かないうちに表情が柔らかくなる。
「……グズマの事もあったけど、心配いらないかな」
ライチは才気あふれるハラの弟子を思い出し、杞憂だと振り払う。
読了ありがとうございました。今回はポケモンのデータは無です。
自分の勝手な想像ですが、ククイ博士は今でこそいい人って感じですが、昔はやんちゃしてたイメージがあります。
グズマとの会話だったり、ところどころに現れる黒い面(を感じる気がする)が、どこか暗い過去があったイメージにつながっているのでしょうか。
まぁ、王道でいえば、結婚してから丸くなったってとこでしょうか。
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第十一話
オリジナルキャラ、オリジナル設定、物語中盤から擬人化等、苦手な方はブラウザバックを推奨します。
それでも良いという方は、お付き合いください。
ある晴れた日の真昼、ハラの朝の鍛錬を終え、ヒトミは住宅街へと足を向けた。今ではクリーン屋さんとして、少しの賃金とご飯を奢ってもらう代わりに、落書きを消す日々を送っている。洗剤が切れたのでいつもの店に向かう。
「いらっしゃいませー、あ、いつものやつですね」
「よろしくおねがいします」
もう店員さんにも顔を覚えてもらい、ヒトミが来たら洗剤を渡してくれるようになった。あまり高価なものではないが、この店員はいつも笑顔で対応してくれる。
「今度、僕にもコツ教えて下さいね」
「企業秘密だよ」
そう言って代金を支払う。今日はたまたまセールの日で安く購入する事が出来た。もう少し買いだめするべきだっただろうかと呟く。これから足を運ぶのに荷物が増えるのは良くない、一つでも安く買えた事を喜ぶべきだなどと言い訳するかのように呟きながら店を出る。街路地を歩いていると、ペンキ塗りたてと書かれている柵がある。ヒトミが最初に落書きを見つけた所だ。道行くおばあちゃんが挨拶をする。ヒトミは挨拶を返してすれ違う、方向からして役所の方へ向かうのだろう。はしゃぐ子供たち、観光に来た浮かれているカップル、ライドポケモンのムーランドに乗って、ゆったりと走るのも、どれもヒトミには見慣れた光景だ。流れに逆らう様に目的地へ、インターホンを鳴らして名前を告げる。
「あぁ、やっと来てくれたか。家の裏のかべなんだ、頼むよ」
一言謝ってから、敷地内に入る。頼まれたのは三日前、他にも依頼があったから中々来る事が出来なかったのだが、ようやく来る事が出来た。持ってきた洗剤とタオル、そしてハブラシとタワシ、修復用キットもバッグに詰め込まれている。
「この壁なら、修復は必要ないかな」
稀に一緒に塗料がはがれてしまう家もあるので、タッチアップする事もしばしばある。頼まれているのは壁を綺麗にするということだ、部分的に色が変わってしまっては台無し、仕事としては下の下だ。手間が増えることはなさそうで、陽気に鼻歌交じりにお仕事に取り掛かかる。洗剤をタオルにしみ込ませ、壁に直接当てる。洗剤がドーブルの塗料にしみ込むのを待って、タワシで優しくこする。なるべく傷がつかない様に、溝や細かいところは歯ブラシで、丁寧に綺麗に仕上げていく。最初は中々上達せず、あとで怒られた事もあった。やさしいおじいちゃんは、仕方ないね、としょんぼりしていた事にヒトミは衝撃と後悔を覚えたのだろう。細かいことからこつこつと、見てもらった時のお客様の笑顔が何より大切なのだと、壁磨きを通してヒトミは成長していった。
額に汗が流れる。作業にはそれほど時間が掛からなかった、大体一時間弱といったところだろうか、目の前には周りの色と変わらない元通りの壁があった。それは仕事をやり終えた証拠。家の主に報告する為、改めてインターホンを鳴らす。
「丁度良かった、家にあがってくれ」
壁の仕上がりに満足した主人は、コーラとピザを分けてくれた。出前を頼みすぎたらしく、よければ食べてくれということだ。
「御馳走様でした、失礼します」
「もう食べ終わったのかい、もう少しゆっくりしていけばいいのに」
御主人の厚意には申し訳ないけれど、笑顔で返す。
「行くところがありますので、申し訳ありません」
それなら仕方ない、と御主人は手を振って送り出してくれた。まだ日が暮れるには時間がある。颯爽と目的地へと足を向ける。
「今日は、ついてるな」
揺れる草むら、荒い息遣い、相当の距離を走って来た。足にも自信がある、下手な事をしないように、慎重に立ちまわってきたはずだ。それなのに、今恐怖に追われている。相手は自分の事を知っている、間違いない。どれだけ距離を離しても、気付けば近くに居るのだ。鼻が効くのか、あるいは耳か、それともこちらの行動パターンを読まれているのか。なんにせよ、逃げるのも限界が近い。どうしてこんなことになったんだろう。身に覚えはない、最近周りが騒がしいのは知っていた、変わりものだと呼ばれ、周囲から注意を引いていたのも知っている。だからこそ、細心の注意をもって行動してきたのに、逃げても逃げても追いかけてくる。呼吸する度に肺が痛む、足ももうボロボロだ、捕まればどうなるか分からない。嫌だ、嫌だ、こんなところで終わりたくない。誰か、誰か助けてくれ――
「つっかまえたー!!」
ああ、とうとう人間に捕まってしまった。
「……また、なにしてたのさ」
マーレインが呆れた様な目でヒトミを見る。見るも無残な姿でうきうきと歩いていたら、無視するかかなり迷った様だが、声をかけない訳にはいかなかったらしい。
「これを見てくれ!」
「ぼろぼろに服が破れてて、髪が乱れてほこりまみれに、おまけにはっぱや木の枝のアップリケが付いてるね。とてもじゃないが君のファッションについていける人はいないと思うよ」
頭を抱えるとふっふっふとヒトミは笑うのを止めない、とうとう気がふれたかとマーレインが呟くとこしからボールを取り外す。
「捕まえたんだよ、ドーブル!」
手にしたボールの中には、確かに犬の姿のポケモンが収まっていた。
「お預かりしていたポケモンは元気になりましたよ!」
「ありがとうございます!」
一度ポケセンにきて、一旦モーテルに戻り、シャワーを浴びて着替えて戻ってきた。ボールの中には確かにドーブルの姿がある。二階の休憩室にいきドーブルをボールから出す。
「くぅぅん」
出てきた瞬間、椅子の下に隠れた。行動からこのドーブルの性格は臆病だとわかる。
「ほら~、怖くないぞ~」
ヒトミがポケ豆を取り出し、目の前に差し出すと更に椅子の奥に引っ込む。とりあえず、一粒置いて、手を下げる。見えない位置まで下がってみたら、今度は見える位置まで出てきた。ポケ豆は確保しつつ、こちらへの警戒は解いていない。どうやら、近づくのも難しいらしい。
「……分かったよ」
横に置いてあった椅子を取ってきて、ドーブルが見える位置に座る。
「これから長い付き合いになるんだ、一時間だって二時間だって、待つさ。当然だろ?」
パートナーとして選んだのはヒトミで、無理矢理言う事を聞かせるという育て方は今までしなかった。これからも、それは彼の性分なのだろう。
気がついたら、日が暮れて夕日が部屋を赤く染めている。ヒトミはどうやら椅子に座ったまま眠ってしまったらしい。夕方と言う事は、2時間程だ。だというのにドーブルはまだ元の位置から動かない。
「……ポケ豆は食べたんだな」
ヒトミが起きた事に気付いて、ドーブルもこちらに目を向ける、相変わらず警戒心はそのままだが、逃げる事もしないらしい。
「ちょっと待てよ……ほら」
ポケ豆をもう一つ、ポケットから取り出す。どうやら取りに来ることはないらしい、目の前に置いて、また椅子まで戻る。
ガブガブガブ
今回は早速食べた、どうやらポケ豆は気にいったらしい。もう一つ取りだすと、再び反応した、ピクリと体が動いたのでゆっくりと近づいて、目の前にポケ豆をチラつかせて。
左
「わふっ」
右
「わふっ」
視線がポケ豆に固定されて釣られて動くようになった。
(いやぁ、ポケリフレって偉大なんだな)
今度は手に持ったまま食べた。やっと警戒を解いたようで、ヒトミが頭を撫でると嬉しそうにドーブルは尻尾を振った。
読了ありがとうございました。ここから先はポケモンのデータになりますので、興味のない方は飛ばしていただいて問題ないです。
ヒトミの手持ちポケモン
ラランテス
ヨワシ
ドーブル←New!
ドーブル
性格:臆病
特性:ムラっけ
覚えている技
スケッチ
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第十二話
オリジナル設定、オリジナルキャラ、物語中盤から擬人化等、苦手な方はブラウザバックを推奨します。
それでも良いという方は、お付き合いください。
「お前が、最近アローラに来たヒトミってやつか?」
夕暮れ時、いつものようにモーテルに戻ろうと一番道路を歩いていると、見覚えのある人間に出会う。
「……グズマ」
ヒトミがこうしてグズマと会うのは初めてだ。ハラやライチ、他の人物もいるのだから当然、グズマもいて当たり前だ。だが、ヒトミは緊張に体がこわばり、警戒心をあらわにする。
「んだおめぇは!」
「グズマさん、だろうがぁ!」
二人のスカル団の下っ端が後ろから現れる。ヒトミは背筋に冷たい汗が流れるのを感じる。威圧感、プレッシャー、オーラ、言葉では取り繕えない何かがその人物には、あった。
「黙ってろ、お前ら」
静かにグズマが喋ると、下っ端は縮こまる様に下がる。
「破壊という言葉が人の形をしているのがこの俺様グズマだぜぇ!」
まるで周囲の空気が震える様な雄叫び。上から見下ろすその視線は、肉食獣と変わらない。
(バトル……いや、今の俺の手持ちじゃグソクムシャ一体にやられて終わりだ)
草タイプのラランテスも、陸上じゃ闘えないヨワシも、ドーブルもまだ、闘える状態じゃない。
「……そのグズマさんが、俺なんかに何の用ですかねぇ」
ベルトについたモンスターボールに手を付けながら、後ずさる。逃げようとしてるのがばれたのか、下っ端が逃げ道をふさぐように道路側に立つ。後ろは崖、目の前三方は囲まれている。
「最近、噂になってんだよ。島めぐりの試練をこなしている余所者がいるってな」
「言うほどじゃないっすよ、タマタマです」
「とはいえ、何度かうちの下っ端も追い返されてるみたいだ。まぁ、比べ物にならねぇのは分かってんだが、勧誘しても良いんじゃねぇかって声もある」
「そいつは……ありがたいお話で」
一歩近づけば、一歩下がる。少しずつ、少しずつ崖に追い詰められている。
「だがまぁ、噂より使えねぇってんなら話は別だ。なぁ、トレーナーならバトルしてくれるよなぁ」
グズマがボールに手をかける。恐らく出すのはグソクムシャ、勝ち目などない。
「いいぜ……ついて来れるんならな!」
ヒトミは後ろに振り返り、崖を飛び降りて海に飛び込む。
(水中まで追ってくるならヨワシで相手するまでだ、追いつかれない様ににげるけどな)
ヨワシをボールからだし、背びれに捕まりその場から離れた。
「グズマさん、やっぱり腰ぬけだったんすよ」
「とんだ無駄足でしたね」
アーカラ島に戻る時にも後ろをついていく団員二人。グズマは何も喋らない。
「グズマさんがメンチ切ったらすぐに逃げ腰になって」
「最後はビビって海に飛び込んだ。思い出しただけでも笑っちまうぜ!」
ギャハハと、スカル団人が笑う。
「……お前ら、何が面白いんだ?」
一度だけ、グズマが振りかえる。それだけで、何もなかったかのように静まる。彼等は知っているのだ、グズマに歯向かったらどうなってしまうのかを。
(そうだ、あいつはそれを知っていた。俺を危険と理解していた。その上で状況を正しく認識して、海に飛び込んだ)
ヨワシを使っているという噂は聞いている。グソクムシャも水中で闘えない訳ではないが、流石にヨワシ相手では分が悪い、一対一では勝てたかもしれないが、追いかけて勝負するのは危険だった。
(つまり、あいつにとって勝機があったのはあの行動って事だ。向こうの手持ちが割れてりゃ、こっちの手持ちも幾つか割れてると考えた方がいい)
グズマは水ポケを更に隠し持ってる可能性を考えた場合、飛びこむ訳には行かなかった。
(そこらのトレーナーより、もしかすればキャプテンよりも、頭は回る奴かもしれねぇな)
ヒトミは才能にかまけて、ひたすらポケモン勝負をしているやつよりも、あの手この手をこねくり回すタイプだ。敵に回せば厄介だし、味方につければ使い道もあるだろう。
「……実力があれば、だがな」
この道は、いつも雨が降っている。傘はささない、雨避けに意味なんてない。気に食わなきゃぶち壊す、破壊が人の形をしているのが自分の姿だ。ならば、グズマは自分を破壊するのもまた、自分なのだと言う。雨を防いだところで、腹の底の溜まる鬱憤も破壊衝動も収まらない。なら少しでも、体の熱を冷やしてくれる方が、幾分かマシだ。
「……雨は、やまねぇな」
読了ありがとうございました。ここから先はポケモンのデータになりますので、興味のない方は飛ばしていただいて問題ないです。
グズマ 手持ちポケモン
グソクムシャ
そうこうポケモン
アローラ図鑑No.183
特性:危機回避
アリアドス
あしながポケモン
アローラ図鑑No.023
特性:むしのしらせ
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第二章 第十三話
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等、苦手な方はブラウザバックを推奨します。
それでも良いという方は、何とぞよろしくお願いします。
※イラスト追加しました。
2年後
ハレハレビーチ、そこは常夏の天国。観光客が戯れ、ビーチパラソルの花が咲き、時に水しぶきがあがる楽園。そこに、サングラスをかけてアロハシャツを着た、観光地には微妙にマッチングしない青年が座っていた。
「アローラ、そこの綺麗なおねいさん達!」
その地方の独特な挨拶をし、二人組であるいている女性に目を付けた。
「……なんですか?」
かなり怪しい目で青年を見ている。なんなら声をあげて、警察を呼ぶぞと言った雰囲気だ。
「いやいや、折角観光に来たんなら記念に、ポストカードなんかどうかなって」
「興味ないです」
横を通り過ぎようとすると、懐からポストカードを取り出した。
「……ね、結構綺麗に描けているでしょ?」
観光客は目を見開く。それは確かに自分たちが浜辺で遊んでいる風景だ。
「と、盗撮?」
「とんでもない、カメラじゃあないですよ。ほら」
するとその男は近づいてきたドーブルの頭を撫でる。
「こいつが色を塗ってくれるんです、そん所そこらの写真より、ずっと思い出残るものですよ」
確かに、素人目でも分かる程、描いた事が分かるものだ。表面がでこぼこしていて、まるで小さな絵画のよう、さらには写真では有り得ないアングルから撮られ、なおかつ水しぶきも幻想的に仕上げられている。
「……確かに、悪くはないかも」
「あとこの辺、カメラだとちょっと映りが悪くなるところも……ね?」
男が周りに聞こえないような声で指をさす、そこはちょうど女性の下腹部にあたる所なのだが、まるでスタイリストの様な体型の自分がそこに描き出されている。
「……確かに」
「一枚千円でっす」
「えっ、高くない?」
「いや、ポストカードなんてどこいってもこれくらいしますよ」
「え~……」
「八百円」
「もう一声」
「二枚で千五百円で、これ以上はちょっと厳しいです」
「う~む、仕方ない買った」
「毎度あり!」
日は沈み、ポケモンセンターには宿泊に来るもの、今からポケモンを探しに出る者、疲れを癒す為に休んでいる者、様々な人間が混じり合う。その端にぽつんと、有料の喫茶スペースがある。
「おっちゃん、グランブルマウンテン一つ」
「あいよ」
慣れた手つきで、豆を砕き、お湯を注いでいく。円を描くように、少しずつ、少しずつ足されていくお湯と、広がるコーヒーの香り。苦みとコクがそれだけで想像を掻き立てる。
「おまち」
ポケ豆とお菓子と一緒にコーヒーが出る。ポケ豆をドーブルに渡し、美味しそうに食べている。青年はコーヒーに口を付け、少しだけ呑みこむ。
「やっぱりおっちゃんのコーヒーは美味いね」
「下手なお世辞どうも、それより、今日はどうだったんだい?」
「良くも無く悪くも無く、世は事もなしってね」
実際にポストカードが売れるのは一日に20から30枚ほど、値引きは8割程度目安で受け入れる方が観光客には受けが良い。がめつそうな客には半額まで下げる事もあるが、まぁそれはそれだ。元出が一枚十数円と考えれば悪くない。それでも、天気が良くて観光客が多い日に限る。皆ご機嫌な日には、自分も乗っかってご機嫌になれるってことだ。
「羨ましい限りだ、こっちは客足があんたくらいしかいなくて困ってるんだがな」
「またまた、さっきまで船から降りてきたトレーナーで賑わってたんでしょ。俺だってそれ位わかるさ」
観光客の中には、勿論ポケモントレーナーもいる。アローラのポケモンショップ内の喫茶店は有名だ。他の地方では基本的にサービスとしての軽食くらいしかないので、そこそこの食べ物が有料でも食べれるのであれば有難いと足を運ぶトレーナーも少なくない。
「と、そんなこと言ってたらお客さんかね?」
「いや、俺の連れみたいだ。悪いね、待ち合わせしてたんだ」
そう言ってコーヒーの代金を置いて、青年が立ち去る。
「……毎度」
カランカランと下駄の軽やかな音がなり、暗くなった道に人通りは疎らなものの、通りすぎる人の視線を集める。
「ふわ~あ、今日は天気が良くて、よかったでありんす」
土地柄に合わない和服を着た少女は、横に居る青年に声をかける。
「おいおい、さっきまで寝てたんだろう。眠気覚ましでも買ってこようか?」
先程までつけていたサングラスを外し、二人はマリエ庭園へと足を運ぶ。
「眠気なら、懐に入ってる森のヨウカンで覚めると思うでありんす」
「……終わったら食べていいよ」
頭の上に音符を飛ばして、少しだけ歩くスピードを上げる。マリエ庭園の入り口まで付いたところで、二人は別れる。
「それじゃあ、終わったらお茶屋で」
「今宵は月も綺麗に出て、華やかでよろしおす。あとはお客さんが沢山おらはられたらええんやけど」
「そいつは舞台に上がってからの、お楽しみだな」
マリエ庭園の中心にあるお茶屋普段は夜に客がいる事もないのだが、この日はほとんど満席に近かった。皆がこの後の華を見に、今か今かと待っているのだ。客席がどよめき始め、主役が現れた事を示す。
「皆々様、本日はお集まりいただき、感謝の言葉を述べさせていただきます」
ピンク色の和服を纏い、優雅に一礼をする少女は、真夜中だと言うのに、月の光に照らされて、月を映し出す背後の池を舞台に咲く一輪の華の様に美しかった。
「世にも珍しき、夜に咲く華、是非終幕までお付き合いくださいませ」
そう言葉を区切ると、少女の袖の中から、短刀が現れる。ゆらり、ゆらりと、風に揺れる花のように舞う。長くたなびく袖と帯が軌跡を残し、磨き上げられた刀は月の光を時に反射し、時に月を写し、その残像はまるで蛍の光の様に、輝いては隠れ、その身を翻しては円を描き、静かに、物音一つなく舞う。
「……皆々様に、命の祝福があらんことを」
凛とどこまでも透き通る声で少女がさざめく。それと同時に、風が吹く。舞台を取り囲むように、円を描くように草木がざわめきだす。より一層舞は激しくなり、人々の目が注目が高まった瞬間、周囲の花々が咲き乱れる。月夜に照らされ、反射し輝く花弁は幻想的に、夢の様に風に揺れる。少女が刀を振るい、向けられた花が散る、二度、三度と刀は振るわれ、全ての花弁が散り、風に乗る。それは客席を中心に渦を巻き、ゆっくりと穏やかに舞いあがっていく。やがてその全てが頭上に集まると少女が高々と短刀を振り上げ、風切り音と共に振り下ろされる。まるで力を失ったかのように、花弁達がゆっくり、ゆっくりと客席に降り注ぐ。それはまるで春の桜の様に、一つ一つゆっくりと舞い降りてくる。
「御清聴、感謝します」
いつの間にか短刀を仕舞っていた少女が優雅に一礼をする、観客は皆拍手で少女を送り出す。
観客の興奮冷めやらぬ中、少女はこっそりと裏口から入る。
「おつかれヒメ、おかげで店長も大満足だよ」
「三日かけて仕込んだ舞台でありんす、当然でありんす」
そう言って椅子に腰かけると、お茶と茶菓子を当然の様に頬張る。
「さて、後は客が退くまで、ゆるりとしようか」
読了ありがとうございました。ようやく二章となりました。設定をここで書くかは悩んでいるので、また後ほど。
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第十四話
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等、苦手な方はブラウザバックを推奨します。
それでも良いという方は、お付き合いください。
※イラスト追加しました。
客足は途絶え、お茶屋の店主から礼金を頂く。
「いやぁ、おかげでお土産物も完売しました。またよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします。ただ、今まで通り仕込みにも時間が掛かりますので、その辺りの配慮だけ、よろしくお願いしますね」
店主が頷き、改めて礼をする。月に出来て二度、日取りが悪ければ出来ない月もあるので、充分な稼ぎとは言えないが、今では隠しイベントとして、ひっそりと宣伝している。月が明るい晴れた日の夜、幻想的な華見が開催される、と。
モーテルに戻ろうとマリエ庭園から歩いていると、ふと見覚えのある奇抜な髪形にスカル団のタンクトップを来た女性が立っていた。
「姐さん、こんな時間にどうしたんすか」
「その呼び方は止めなって、言っただろ」
姐さんと呼ばれたプルメリが呆れたように溜め息をつく。そうして、ヒメと呼ばれる少女を一瞥して、青年に話しかける。
「グズマ団長から依頼だよ。ポータウンまで来な」
「えぇ~、グズマさんからか。面倒なのじゃなければいいけど……ちなみに内容は分かる?」
「詳細は書類があるから、向こうについてから確認して欲しい。持ち出し厳禁だからこうして呼びに来たのさ」
そう言われて、青年は露骨にいやな顔をする。単純な依頼のみであれば、直接呼び出す必要などないのだ。電話一本入れて、明日にでも集合でいい。そうすれば、定期便で移動できて態々飛行タイプのライドポケモンを準備する必要などないのだ。
「内容! 詳細をくわしく!」
日本語がおかしい気がしないでもないが、青年の焦燥感は伝わったらしい。
「……ヒトデマン三匹、明日までに準備しろってさ」
「指定なしならなんとかするけど、無理なら交渉出来そう?」
「グズマ団長の依頼だからね」
青年は頭を抱える。無茶な役割ばかりこっちに押しつけて、とだれにも聞こえない声で呟く。
「プルメリ姐さんでもいいんじゃない?」
「私は別件で動いてるから、頼んだよ」
プルメリはそっぽをむいてしまう。最近プルメリから青年に渡される仕事は日を増すごとに増えていっている。完全にブラック企業となりつつある。そもそも存在自体ブラックで、企業ですらない集まりなのだが。
「わっちは関係ないなら、先に戻りんす」
気がつくと、プルメリの背後に回り込んでいたヒメは、すたすたとモーテルの方向へと向かって行く。
「ちょ、ちょっと……いいのかい?」
「まぁ、あいつがそういうならいいと思いますよ。俺もヒメの力借りる内容だと思わないし」
ヒメの呑気な性格は急ぎの依頼には向かない。更に今日の事で疲れてるので、手を借りない方が無難だ、と青年は言う。
「あんたが言うなら、いいけどさ」
「そんじゃ姐さん、ポータウンまでよろしく」
少し歩くと、街灯が照らす道の端にぽつんと篝火が見える。良く見るとそれはライド用のリザードンだった。
「しっかり掴まってなよ」
「えっ、姐さんに掴めるところありましたっけ?」
「落とすぞ馬鹿!」
他愛無い話をしながらポータウンへとたどり着く。い眠りをしているスカル団の門番を叩き起こし、門を開けさせる。
「サーセンっした! 姉御、ヒトミさん、お疲れ様です!」
「サーセンっした!」
「……あんたのが移ったじゃないか、どうしてくれるのさ」
「まぁまぁ、いいじゃないっすか。姐さん」
そう言って、ヒトミは上に来ていたシャツを脱ぎ、頭にバンダナを巻いて口元も隠す。隠していたスカル団のマークが顕わになる。
「さて、スカル団の下っ端として、頑張りますか」
プルメリと共に真ん中を歩き、グズマのいる屋敷まで向かう。
グズマは苛付いた様子で、椅子に座っていた。周囲に居るスカル団の下っ端はいつその牙が自分に向くか、びくびく怯えていると、扉が開く。プルメリとヒトミが部屋の中に入る。
「遅せぇ!」
空になったコップを二人に向けて投げつける。プルメリはひょいと避け、ヒトミの腹部に直撃する。
「げ、げふぅ……」
「はぁ、これでも最速で準備したんだけどね」
やれやれと言った風に、プルメリが溜め息をつく。ライドポケモンの段取りから、ヒトミがいる場所の特定まで、依頼から1時間もたたずに完了させている。ポータウンからマリエ庭園までの往復も含め、迅速な対応ではあったのだが、グズマには不満だったらしい。
「え~と、グズマさん。依頼って聞いて来たんですけど?」
鈍痛の残る腹部を抱え、落ちたコップを拾いながら、ヒトミが喋りかける。
「おう明日までに、これ済ませとけ。中身はプルメリとお前以外見るんじゃねぇぞ。任せたからな」
そういうと下っ端が無地の封筒をプルメリに渡す。まだ開けられた形跡はなく、グズマも内容を確認していないのだろう。
「資料これで全部っすか?」
「他にはねぇよ。下っ端使ってもいいから、明日までに準備しな」
「了解しました。また報告します」
「中間報告はプルメリでいい、俺には完了報告だけで充分だ。出来ねぇ時は、わかってるだろうな?」
グズマがボキボキと指を鳴らす。ゆっくりしてると殴られる事は周知の事実だ。ヒトミはさっと返事をして、逃げるように部屋を出る。
あやしい館の一階部分、そこに鍵をかけてヒトミは一人で封筒を開ける。プルメリは任せたと一言だけ残し、自分の部屋で休息を取ってる。何せ社会の掃きだめみたいな集まりだ、碌に仕事をこなせる人間もそうそういない。なんだかんだ言って、プルメリも頼まれごとと火消し役で忙しいはずだ。
「さてと……中身はっと」
封筒を開くと、透明なファイルに持ち出し厳禁と印を押してある。中には数枚のプリントが入っており、依頼の詳細が書かれてはいるが、ところどころ黒で塗りつぶされており、何処の誰が書いたのかが分からない様にしてある。
「水タイプポケモンのデータを集める為、実験用のサンプルが必要。実験内容からヒトデマンが妥当であると判断する。個体数は3体、訓練などは不要、野生、能力値、雌雄等は問わず。研究予定日……二週間先か」
工程を考えるとこれでも遅いくらいだ。実験の段取りより先に準備を終わらせておくべきなのだが、ヒトミにこういった案件が回ってくることは一度や二度ではない。下請けに話がまわってくるときは何時だって時間はないのだ。特にスカル団みたいなのに話が来る時は、だ。
「野生で指定なしなら、まぁどうにでもなるか」
ふと時計を見ると、午後9時。良い子は寝ても良い時間だが、残念ながら世間様はスカル団を良い子とは認めてくれない。ヒトミは部屋のカギを開け、封筒に再度のりづけしファイルを閉じ、カバンにしまう。扉を開けると暇そうにしているスカル団員が二人いた。
「あ、ヒトミさんお疲れ様です」
「お疲れ様です」
「お疲れ様。ちなみにお前達って、明日動ける?」
団員二人が目を合わせ、少し悩んで返事をする。
「まぁ、暇っすね」
スカル団下っ端と言っても、普段から命令があるというわけではない。暇なときは暇なものである。
「んじゃ、明日朝一番の定期便で、アーカラ島行くぞ」
「了解っす! あ、姉御はいいんすか?」
ヒトミは少し考えたが、別件があると言っていたのを思い出して団員を止める。
「姐さんは起こさなくていいや、多分、死ぬほど疲れてるから」
遅刻すんなよ、と二人の団員に声をかけていかがわしき館を出る。三人分の定期便とライドポケモンの手配、必要経費を勘定し、手持ちの金額で充分足りると判断し、歩いてポケモンセンターまで戻る事にする。手持ちのポケモンを確認し、ポケモンが入ったボールが二つ、空のボールが一つある。
スカル団の朝は早い。午前6時に起床し、身支度を整える。共同の洗面台で歯を磨き、顔を洗う。身支度を整え、朝食を依頼する。ポケセンの喫茶店でホットドックとグランブルマウンテンを頼み、いつものサービスを受け取る。手早く朝食を済ませると、足早にポケセンからでて、港へと続く道を歩く。ライドポケモンを借りても良いのだが、あまり朝早くに行くと借りれない事もあるので、確実に時間を守りたい時は、徒歩で計算する方が間違いない。手元のボールを操作し、ドーブルを出す。
「ラフィ、ポケ豆だぞ~」
寝起きのドーブルはもぐもぐとポケ豆を食べ、食べきった所で目を覚ます。港まで向かうまでの散歩の様なものだ。歩くこと小一時間、ようやく港が見えてくる。携帯電話を取り出し、電話帳に乗っているある人物に電話をする、この時午前7時半である。コール音が鳴り始め、十回程鳴った頃、ようやく電話の持ち主が出た。
「おはようございます姐さん。今起きた所っすか?」
「モーニングコールがあんたか……まぁ、いいや。どうしたのさ」
ふあぁ、と欠伸しているのが電話越しに聞こえる。どうやら昨日から今まで爆睡していたらしい。
「とりあえず、昨日館に居た二人連れて、アーカラ島で依頼をしてこようと思うんすけど、二人まだそっちいます?」
「ん~、ちょっと待ってて」
そう言って階段を降りる音が聞こえてくる、その音が鳴らなくなったと思ったら二度、何かを蹴る音が聞こえた。
「今起こした、ソファで寝てたよ」
「ははっ、だと思ってました。ケンタロス借りて最速で港まで来るように伝えて下さい」
「了解、そっちはなんとかなりそう?」
時計を確認し、朝一の定期便に間に合わないのは確実だと判断する。
「最悪一人でもなんとかなるんで、大丈夫です。ヤバくなりそうだったらまた連絡します」
「あいよ、出来れば完了報告だけだと私は嬉しいんだけどね」
「そりゃそうっすね。そんじゃ、次は姐さんが喜ぶ電話に出来るよう頑張ります」
「ま、期待しないで待ってるよ」
そう言って、電話が切れる。港につくと仕事に向かう者、別の島へ向かう観光客、島めぐりのトレーナー等でそこそこ人がいる。そこを掻き分けて受付まで向かう。
「アーカラ島行き三枚、今日の便っていつくらいになります?」
受付が時刻表を確認する。時刻表と言っても、所詮は船だ、波が荒れれば遅れるし、客が込めば止まりもする。海のポケモンに襲われればそれこそ事件になってしまう。そんなことはあまりないのだが、偶々そんな事態になれば別ルートを探すハメになってしまう。
「えーと、本日は波も良好で予定通り便は出てます。8時の便が出た後は……10時ですね」
「それじゃ、アーカラ島到着は、10時半ですね」
「予定通りであれば、その時間帯になりますね。遅れる事もありますので、余裕を持ったスケジュールをお願いします」
「ははっ、ありがとうございます」
代金を払い、チケットを受け取ればヒトミの準備は終わる。あとは待合室でジュースでも購入し、遅刻組をしばく方法を考えながら待つだけだ。
「サーセンっした!」
スカル団のタンクトップとバンダナを巻き、遅れてきた二人組が頭を下げる。時刻は9時半、10時の便に間に合ったのでヒトミは特に遅刻については口を出さなかった。近くの店で購入した安いポロシャツを二人に投げる。
「これ着てバンダナ外せ、口元の方もだ」
「……へ?」
「いいから、早くしろ」
頭にクエスチョンマークを浮かべながら指示に従う二人。船に乗る時にスカル団ですと主張したところで、騒ぎになるだけで何の意味も無い。過剰反応する住民もいるので、最悪便が止まる可能性もある。
「着ましたけど、いいんすか?」
「ん~、まぁいいだろ。今回は秘密の依頼だからスカル団だってばれちゃいけない、分かったか?」
「なるほど、だから変装するんすね」
頭いい! と馬鹿な台詞を言う。そもそも、わざわざスカル団の格好をして街を歩く方がおかしいのだが、そういうことが分からないからそうしてしまうのだろう。
ボーッ
船が付く音がする、時間通りのようだ。
「ほら、早く船に乗るぞ」
チケットを二人に渡し、船に乗る。船旅は予定通りのトラブルのみで済んだのでヒトミは胸をなでおろす。
アーカラ島につくと近くのレンタルライド屋に声をかける。
「予約してたものっすけど、ケンタロス三体お願いします」
「あ~、電話の人ね。そっちにいるから好きなの選んで頂戴」
代金を支払い、なるべく気性が穏やかそうなのを選ぶ、ヒトミは一通りは操れるようにはなったが、気性の荒いケンタロスを乗りこなせる程ではない、適当に見つくろい、下っ端にも指示を出す。
「予約してたんすか!?」
「マジパネェっす!」
移動手段確保しないと間に合わないのに確認しない訳がないだろ、と言っても理解してもえなかったことは一度や二度ではない。
「んじゃ、8番道路まで行くぞ!」
「うっす」
「付いていきます!」
8番道路のポケセンに辿り着く。
「ここにヒトデマンがいるんすか!?」
「いるわけねぇだろ」
「分かった、ヒトデマン持ってるトレーナーから奪うんすね!」
「んな事で事件起こしてたまるか! ボール買いに来ただけだよ」
ケンタロスをポケセンの近くに止め、待っている様に指示をする。ライドポケモンとして育てられたポケモンは、こう言った指示を受ける事に慣れ、何かあった時は自力で帰れるように訓練されている。おかげで近年では、移動手段にしているポケモンの衝突事故等も減り、アローラ地方では観光客の安全を優先して、ライドポケモンの制度の先駆けになろうと地方全体で推進している。
「クイックボールを……6つお願いします」
「ありがとうございます」
本来なら三つでいいのだが、一応トラブルも考慮して6つ購入する。まぁ、あとでグズマに必要経費で出してもらえば済む話だ。勿論、話が出来るのは上手くいった時に限る訳だが。
「よーし、ハノハノビーチにいくぞ~」
「えっ、戻るんすか!?」
「早くないっすか!?」
「寄り道しても仕方ないだろ、それに俺は釣りは得意じゃないんだよ」
そういってケンタロスに跨る。不思議な顔をして二人もケンタロスに跨り、ハノハノビーチへ急ぐ。
時刻は午後一時、移動など考慮しても昼飯を食べる余裕はあるだろう。
「……ヒトミさ~ん」
二人の腹の音が聞こえる。どうせ朝飯も碌に食ってないのだろう。流石にホテルのレストランとまではいかないが、食事をとる事はヒトミも了承する。
「分かってるよ、マラサダでもいいか?」
「食べれりゃ何でも!」
「大丈夫っす!」
我慢してんなら早く言えよ、そうヒトミは呟く。
近くのマラサダショップに寄り、大きめのマラサダを三つ頼む。四人席に座り、食事をとる。
「ごちになりやす!」
「ごちになりやす!」
怒涛の勢いでマラサダを完食し、さも当然の様に奢ってもらうつもりのようだ。
「……ちゃんと働けよ、お前ら」
そこからは徒歩で移動し、ハノハノビーチに辿り着く。
「ヒトミさん、俺達なにすればいいんすか?」
「なにすればいいんすか!?」
理解力のない二人組に頭を抱える。スカル団に所属すると言う事は頭痛と胃痛と闘うということなのだ。
「いいか、これから会う人の言う事をしっかり聞いて、その通りに動くんだ。難しい事じゃない、分かったか?」
「うっす」
「了解っす」
返事だけはいいのが心配な表情になるヒトミ。だが、別に悪くはないので、任せるとしよう。ヒトミはハノハノビーチのライフセイバーさんに声をかける。
「アローラ、景気はどうっすか」
「アローラ、丁度いいところに来てくれた。今日も手伝ってくれるのかい?」
ヒトミは後ろの二人を指差し、返事をする。
「いやぁ、ちょっと俺はやることがあるんで、代わりにこの二人が手伝ってくれるんで、やり方教えてやってください」
一瞬ライフセイバーさんが首を傾げたが、手伝いがいれば特に問題ないと思ったのだろうか、二人にナマコブシ投げの説明をし始める。まぁ、二人でやればそんなに時間は掛からないだろう。
「以上だ、分かってくれたかな?」
「ぶっし!」
「ぶっし!」
なんでお前らがナマコブシになってんだよ。
ナマコブシなげに勤しむ二人をよそ目に、ハノハノビーチの余り日の当たらない岩肌の方へ向かう。この辺りは足元も良くなく、観光客も寄りつかない。その為、野生のポケモンが住み着いているのだ。
「……これかな」
微妙に砂山になっているのを見つけると、それに近づく。一定距離まで近づくとそれが反応しポケモンが現れる。
野生の ヒトデマンが 現れた。
「はいよ、っと」
準備していたクイックボールを投げる。空中でヒトデマンが吸い込まれ、何度か揺れた後カチっという音が鳴る。
野生の ヒトデマンを 捕まえた。
「一匹目は幸先よし、っと。日が暮れる前に終わらせないとな」
時刻は午後二時、見つける事にさえ苦労しなければ充分に間に合う時間だ。
三匹目のヒトデマンを捕獲した時には、午後4時になろうとしていた。中々見つからないときは見つからないものである。一息つき、ボール三つを確認し、ようやく一段落付いた事に安堵する。
「おりゃぁああ」
「ぶっしゃぁあ!」
二人が勢いよくナマコブシを投げる声が聞こえる。真面目にやってるようでなによりである。二人に近づいて声をかける。
「ぶっし!」
「ぶっし! ヒトミさん、ナマコブシ投げ終わりました!」
「おう、お疲れ」
ライフセイバーさんに確認し、ナマコブシ投げが終わった事を確認する。
「よし、お前ら、今から重要な任務を任せる」
「えっ」
「まじっすか!?」
二人が驚く、まぁ下っ端に重要な任務を任せるということはあまりないので、こういうときはちょっと嬉しそうに反応する。
「いいか、ここにヒトデマンが入ったボールが三つある。これをポータウンまで運んでプルメリ姐さんに渡すんだ」
「マジッすか!」
「いつのまに捕まえてたんすか!?」
お前らがナマコブシ投げてる間だよ。
「プルメリ姐さんもグズマさんも、お前達の事を待ってる。全速力で届けてほしい。俺は残って後処理をする必要があるからな、お前達にしか頼めない。やってくれるか?」
そういうと二人が目を合わせ、きらきらした目で返事をする。
「勿論っす!」
「任せて下さい、最速で届けてきます!」
良い返事だ。二人にヒトデマンが入ったボールを手渡すと、すぐさま船着き場の方へ走っていった。定期便もこの時間なら充分間に合うだろうし、とりあえずは問題ないはずだ。
「あっ、バイト手伝ってくれた二人は行っちゃったんだね。参ったな、バイト代渡し損ねちゃったよ」
ライフセイバーのお兄さんが声をかけてくる。
「なんか急に用事を思い出したみたいで、俺が渡しときますよ」
「いいのかい、よろしくね。また頼むよ」
バイト代が入った紙袋を受け取り、鞄の中にしまう。電話を取り出し、プルメリに連絡を入れる。
「もしもし、何かあったのかい?」
「いや、今からヒトデマン三匹もった馬鹿二人がポータウン向かうんで、まぁ二時間もしないうちにそっちつくと思います」
「成程ね、首尾よくて何よりだよ。それで、あんたは戻って来ないのかい?」
アーカラ島のモーテルに向かいながら、電話を続ける。
「せっかくアーカラ島まで来たんだ、そのまま帰りますよ。姐さんがディナーに誘ってくれるなら行きますけど」
「はいはい、それじゃあ後はこっちで済ませておくよ。今日は忙しいから、食事はまた今度、ヒトミの奢りなら付き合ってあげる」
「まじっすか、海が見えるレストラン予約しときますね」
「たらふく食ってやるから、期待してるよ」
取りとめの無い馬鹿話で電話が切れる。
「ふぁあぁ、完了報告は……姐さんに任せれば大丈夫か。何かあったら連絡来るだろ」
馬鹿二人が何事もないように、カプ・テテフ様にお祈りしつつ、ヒトミは帰路を急いだ。
読了ありがとうございました。ここからはポケモンのデータになりますので、興味のない方は飛ばしていただいて問題ないです。
ヒトデマン
ほしがたポケモン
アローラ図鑑No.184
ナマコブシ
なまこポケモン
アローラ図鑑No.200
この二匹が出てきたのは特に理由はないです。スカル団って普段何してるかなぁと考えたらこんなストーリーになりました。
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第十五話
物理方面にもうちょっと強化が来たら、そこそこ使えそうな気がするけど、どうにかなりませんかね、ゲーフリさん。
オリジナル設定、オリジナルキャラ、擬人化等、苦手な方はブラウザバックを推奨します。
それでも良いという方は、お付き合いください。
場所はせせらぎの丘、ヒトミは何の気なしに釣り糸を垂らしていると、小柄な人影が現れる。
「試練の間に勝手にはいっちゃ駄目ですよ、ヒトミさん」
釣り竿を担いだスイレンだ。口では注意しているが、この光景は何度も繰り返されている。要するにヒトミは常習犯なのだが、スイレンも怒っている様子はない。隣に座って、スイレンも釣り糸を垂らす。
「悪いね、ギャラドスを追っかけてきたらここまで来ちゃったんだ、次からは気を付けるよ」
「ヒトミさんがギャラドスを釣るなんて、今日は雪でも降るかもしれませんね」
そんな他愛ない話をしていると、スイレンの横に小人があらわれる。
「スイレンさん、釣りをするです?」
「あら、ヨワシさん、居たんですね。ということは……」
岩影からピョコっと、耳と尻尾が揺れているのが見える。
「ラフィ、スイレンだから安心していいよ」
ヒトミがそういうと人影が顔を出し、スイレンを確認すると近づいてくる。
「ラフィさんは本当に凄いですね」
「へへっ、うちの自慢だからな」
ヒトミがそう言うとラフィの頭を撫でる。
「……というか、本当にどうなってるんですかね」
「やっぱり擬人化は不思議です?」
ヨワシが首を傾げる。
「基本はメタモンの変身の応用だからなぁ。と言っても、まだまだ分からないことばっかりだけど」
回想
「……どうすっかなぁ」
ヒトミの目の前には、島めぐりの証と、草のZストーン、水のZストーン、それと三つのモンスターボール。モーテルに引きこもり、考え込んでいる。もう三日もハラの鍛錬に出ていない、思いっきり服のまま海に飛び込み、ヨワシに掴まって逃げたはいいものの、人間は水ポケモンが泳ぐスピードには耐えられないし、そもそも飛び込んだ時点でそこそこダメージを負っていたし、ヨワシが人間は水中で呼吸できない事を理解しているはずも無く、ようやく陸地にたどり着いた時にはすでに気絶していた。ククイの研究所の近くでぶっ倒れているのをハラさんに発見してもらったのも遅かった。
「おかげで熱は出るわ、あちこち体が痛いわ、散々だったぜ」
ちなみに泳いでる間に何処かにぶつけたのか、体中擦り傷だらけだった。どうやら、漫画みたいに格好良くはいかないらしい。
だが、ヒトミが外に出ない理由ではそれではない。
「なぁ、ドーブル。お前はどう思う?」
一番道路でひたすらキャタピーを倒し、HPの努力値を上げ、コラッタを倒し続けてSの努力値を上げ切った。頭を下げてドーブルの技を覚えさせる為に、ウラウラ島にも行った。その結果、一つの結論に辿り着いた。
「……闘いたくないよな、臆病だもんな」
ヨワシやラランテスはまだ、種族値があるポケモンだ。勿論600族や伝説級と比べれば、見劣りするが、400を超えていて、特性や技が優秀であれば、現実の対戦でも使用される事はある。このポケモンの世界で言えば、中々それを超えるのは少数で、つまり言ってしまえば元々闘う素質はあるということだ。だが、ドーブルに関しては、種族値は250、加えて性格は臆病、どうしたって闘う事に拒否反応がある。
「あんなに、頑張ったのにな……」
それでも、ドーブルは努力値振り、技のスケッチに努力し育成は一通り終えた。慣れない技をスケッチして、傷つくたびにポケセンで回復し、ポケ豆をあげたり、ブラッシングすることでそこまではなんとか乗り越えた。そうして、迎えたトレーナー戦、ドーブルの初陣を迎えたその日、ヒトミは後悔した。ドーブルが技を出す事を躊躇したのだ。ポケモンだって生きている、感情がある、ドーブルはトレーナーや人間に対して、好意を抱いた。ポケモンを育てる事に、愛情を知ってしまった。野生のポケモンとは闘う事が出来ても、トレーナーの繰り出したポケモンに、攻撃することは出来なかった。
「俺が、間違えたのか?」
何故、疑問を持たなかったんだろうか。それは知らなかったからだ。知ってしまえば、迷ってしまう、今まで信じ続けた答に疑問を抱いてしまった。
「……試練に立ち向かわないといけないのか?」
このまま順調にポケモンを育てれば、火の試練にも、ノーマルの試練にも、いつかはライチやハラとの大試練が待っている。彼等は皆、勝利を望み、ポケモンと共に力を合わせて闘う事を望んでいる。
「ちくしょう……」
ヒトミは闘う相手をさえ思いやるポケモンを、間違えていない、そう呟く。それは、臆病でも優しい心だ。だけどそれは、闘う事を避ける事は、試練を諦めるということになる。
「ドーブルを使わずに試練を続けるのか」
違うと呟く、それは問題を無視するだけで解決ではない。バトルする事が恐ろしいとドーブルの初陣で感じてしまった。バトルとは他人を否定することで、自我を押し付ける行為になる。勝てば認められ、負ければ失う。何時だって勝つ側に居られる訳にはいかない。しかし、ヒトミが立ち上がる力は、ポケモンがくれる。ライチもハラも、ウスユキもガジュマルもテンだって、背中を押してくれる。だけど、スカル団は、そこに行ってしまった奴等はどうだったんだろうか。手を取ってくれる人間はいたのだろうか、ポケモンが支えてくれたんだろうか、誰も彼もがそうだった訳じゃない、きっと独りぼっちになってしまった奴だっているのだろう。
「それにきっと……」
負けたことを許さないのはきっと、自分自身だ。そこから足掻いて足掻いて、力を手に入れるのだ。グズマの様に、プルメリの様に……それはきっと、キャプテンや島キング達だって、同じはずなのに。
「俺は……どうしたらいい?」
答えは出ない、ヒトミはグズマに会った時に、ドーブルを出すことは出来なかった。グソクムシャに対して、唯一対抗策を持ったポケモンだったというのに、バトルする事を、恐れたのだ。
モーテルの扉を叩いたのはライチだった。海に飛び込んで怪我をした事をハラが伝えてくれたらしい。ライチは今まで来れなかった事を謝る。来てくれただけでも有難いとその意思をヒトミは伝える。
「ライチさん……試練は、乗り越えないといけないんですか?」
落ちついたところでライチに切りだした。その答えを見つけない限り、ヒトミは先には進めない。足が強張って、動く事ができないのだ。
「……その答えは、とても難しいことよ。乗り越えられなかった人間が今、全ての人が不幸せということではないもの。定食屋さんのおばちゃんも、ポケモンセンターで喫茶店をしているマスターだって、全ての試練を乗り越えた訳ではないのよ。立ち向かう事に、意味がある……そう、そうでなければいけないのよ」
ククイは言っていた、古ぼけた風習だと。試練を乗り越えた所で、井の中の蛙にしかなれないと。だけど、蛙にすら届かない者達も、確かに存在するのだ。
「試練に立ち向かう事に、意味がある」
ヒトミはこの三日間、ボールにも、島めぐりの証を手をとる事が出来なかった。その資格があるのか、ずっと迷っていた。
「だからね、ヒトミ。私が出来る事は背中を押す事だけ。闘うのは、立ち向かうのは……あなた」
そう言って、ライチがヒトミの手の平に島めぐりの証を置き、握る。
「今じゃなくて良い、越えられなくっても構わない……でも、目を閉じないで、諦めないで。貴方の心に、嘘はつかないで」
島めぐりの証の感触を、ライチの手は冷たく冷え切っていたヒトミの手に温かみを伝える。こんなにも、重たいものだったのか。こんなにも、尊い存在だったのに、ヒトミの頬には涙が流れる。
「ライチさん、俺……島めぐりを続けます。旅を続けて、答えを知りたい。俺が、ポケモンと一緒にどう生きていきたいのか、その答えが出るまで……諦めたくないよ」
静かに、深く頷いた。
その日から俺は、ポケモンを鍛えることをしなくなった。必要があれば野生のポケモンとも闘うし、避けられない闘いもあった。けれど、試練を行うのではなく、街を渡り歩いて、時にはラランテスと一緒に一日ひなたぼっこをしてみたり、ヨワシと一緒に海に潜り、様々な海のポケモンを見た。ドーブルはやっぱり絵を描くのが好きなようで、スケッチを買い与えると喜んでいた。
「俺だって、負けないぜ」
ヒトミも趣味で絵を描いていたのだ。社会人になってからは、あまり書く事はなかったけど、今だって忘れちゃいない。スケッチに鉛筆を当てて、景色を、人物を、ポケモンをドーブルと一緒にかいた。時には協力してドーブルに色を塗ってもらったり、同じものを描いて比べ合ったり、時にはどっちが上手いかで喧嘩もした。どうやらドーブルは色を塗るのは得意でも、構図やパースなんかは苦手みたいだ。綺麗な色を重ねたって、何か違うって言うとドーブルは怒る。俺が書いた風景画を見て、ドーブルは興味を示す。そんな風にして、少し試練から離れて、バイトしたり、ポケモンと過ごす時間を増やしていった。
読了、ありがとうございました。
シーズン2でクチートナイトとスピアーナイト使えんとかうっそやろ!?
はぁ~、ほんまつっかえ。
すでにスピアーとクチート育成終わりました、特に卵技とか不要だったんでさくっとおわりました。
今回は特にポケモンの紹介はなしです。
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第十六話
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等、苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでも良いという方は、お付き合いください。
「マスター! マスター!」
聞き覚えの無い声に、ヒトミは揺り起こされる。昨日は夜のバイトを入れて、帰ったのは深夜だ。窓の近くで眠っていたラランテスも、スケッチに夢中だったドーブルも、水槽で泳いでいたヨワシも無視して、ベッドに潜りこんだはずだ。眠り直そうにも、ゆさゆさと体を動かされては仕方がない。重い瞼を押し上げ開くと、そこには見覚えがある様なない様な、犬耳尻尾付き南半球美少女がいた。
「……は?」
「よかった、ようやく目を覚ましてもらえた。大変なんです、大変なんですよマスター!」
まだ頭が理解できていないのか、ヒトミは硬直する。とうとつに現れた美少女に困惑するしかないヒトミだが、思い出そうと必死に頭を抱えて、記憶を掘り起こす。
(こんな見た目の人間に見覚えは……ない。人間では、ない。)
「お前……ドーブルか?」
涙目になりながら、ドーブルが抱きついてきた。
「よかった、気付いてくれてよかった。マスター、マスター、マスター!」
どうやらドーブルは混乱しているらしい。いや、混乱しているのはヒトミもそうなのだけれど。ドーブルが擬人化したということは間違いないようだ。ヒトミが嬉々として擬人化のイラストをドヤ顔でドーブルに見せたその姿になっているのだから、驚くのも無理はない。
「ちょ、ちょっと落ち付け! なんでお前その姿になってるんだ!? 何したら、そんな事になったんだ!?」
少し落ち着きを取り戻したドーブルが、スケッチの方を指さす。そこにはヒトミが書いた擬人化のドーブルとドーブルが綺麗に色を付けているイラストがあった。
「……マスターが、これが私の姿だって言うから、そうなりたくて」
「うんうん、まぁ確かに、そんな事言った気はしないでもない」
あくまで擬人化であり、ヒトミの妄想の産物をドーブルに見せたことがある。実現するとは夢にも思わず、ただ趣味の延長上として行っていただけのものだ。
「マスターに教えてもらった、メタモンのへんしんを使ってみたら……この姿になりました」
答え……犯人はヒトミでした。
「えっ、イラストに対してもへんしんできるの?」
「見た存在を写し取る様な技なので……正確には、私とマスターの想像を合わせた姿、だと思います」
基本的にはドーブルベースで、腕とか足とかは……人間の体を模倣しているのか。
「ちょっと失礼」
試しにおっぱいを触って見る。
「おおっ、たゆんたゆんで柔らかい、しかも温かい。やべぇ、超気持ちいい」
「な、なにするんですかぁ!?」
ドーブルが超逃げた。部屋の端っこまで逃げた。そう言う事には抵抗があるようだ。
「いや、俺をコピーしたんなら、体は男に近いのかなぁと思ったけど、そうでもなさそうだな」
ドーブルはライチや他の女性にも出会っているから、それを参考にしているのかもしれない。
「うぅ、マスターの意地悪ぅ」
「いや、悪意はなかったんだよ」
単なる好奇心による行動だと言い張るヒトミ。それをいぶかしむ様にドーブルはじとりと見つめる。
「しかし、どうするかなぁ……擬人化なんてしてたら、やっぱり目立つかなぁ」
「……やっぱり、元の姿の方がマスターは良いですか?」
「いや、お前の事は好きだよ」
もちろん好きじゃなかったら擬人化なんて描かないし、むしろ趣味の塊みたいなものだから描くのだ。擬人化したこと自体は嬉しいとは言うが、実際に起こってしまった事態にたいしてどう行動したものかとヒトミは思考する。
「そ、そんな……マスター。いきなり、そんな事言われても……」
ドーブルが指で床をもじもじし始める。ついでに尻尾を持ってもふもふし始める。
「あ、それいいな、俺もやりたい」
まだ寝ぼけているのか、ヒトミの思考がそのまま言葉になっていた。
「他の人に見られても……良いもんかね」
二次小説や萌えモンなんかもあるが、他の人がどんな反応をするのかがヒトミには全く想像がつかない。意外とすんなり受け入れられるのか、或いは研究対象になったり、最悪悪の組織に狙われる、可能性も否定できない。
「これは……信頼出来る誰かに相談してみるべきかね」
腕を組んで、相談できそうな相手を想像してみる。一番最初に出てきたのはライチだが、一緒に困る絵面しかできないと否定する。
「ハラさんは……そもそも信じてくれなさそうだな」
ガジュマルとテンはもう他の地方に旅立ってしまっている。ウスユキは頭がパンクして倒れるのが目に見えるようだ。そう考えていると水槽の方からコツコツという音が聞こえる。
「ヨワシ?」
水槽の壁を叩いているのはヨワシだ。こういう時は大概餌を欲しがっているアピールだ。ポケ豆はどこにおいたか、とヒトミが寝惚けた頭でバッグを探そうとしていると、ドーブルに声をかけられる。
「ヨワシも……擬人化したいみたいですよ?」
「……は?」
読了ありがとうございました。
ここからは、ドーブルの擬人化後のデータになります。
種族値(擬人化後):H60 A5 B50 C25 D50 S50
Hが少し上がり、Aが極端に下がってます。少しCとDが上がってSは落ちてます。
あまりこの姿で戦闘する予定はないので、割とざっくり計算です。
擬人化で能力値が変わる設定ってどうなんでしょうか。ベースがへんしんという設定なので、こういう形にしています。
良ければ、またお付き合い頂ければさいわいです。
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第十七話
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等、苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでも良いという方は、お付き合いください。
ヒトミは考え込んでいても仕方が無いと結論を下して、電話してみる事にした。
「ドーブルが擬人化しました」
「何言ってんだ、とうとう頭おかしくなったのかお前? いや、元々頭おかしいやつだとは思っていたが」
電話の相手のククイが次々とヒトミに対する暴言を吐き捲る。ポケモンについての技の研究をしている事を思い出して、冷静に分析できそうなのがククイだと思ったのだろう。
「いや、とりあえず来いよ。あと誰にも言うなよ、まだ秘密だからな」
「は? 何言ってんだ、俺が他人に言ったらお前と同類と思われるだろうが」
残念だが、もう他の住民にはヒトミとは別ベクトルでおかしい奴と思われており、第二のククイが来たと噂された事もあるのだが、これは二人が知らない話だ。
「いいから来いって、嘘じゃないから。なんなら、この前買った20年物のワインを賭けたっていい」
「……分かった。そのワインを貰いには行ってやる。だが、お前のその話を信じた訳じゃないからな」
そう言うと電話が切れた。
「……マジか」
「マジです」
ポケモン図鑑を態々準備してきたククイ。図鑑にはきっちりとドーブルのデータが表示された。画像イメージはNO DATAではあったが、そこにいる少女がドーブルであると証明するには十分な証拠になる。
「確かに、メタモンが人間に変身した例はある。ちなみにポケモンと人間が融合した事例も……過去に一度だけ存在はする。お前の言ってる事も、仮説としては……筋は通っている」
だが、それは信じ難いと、ククイは頭を抱える。
「うん、俺もまだ半信半疑なんだが。図鑑の故障はないよな?」
「さっきそこのヨワシを測定したら、正しい反応をした。そこにいるのがきぐるみで、中にドーブルが潜んでるって言うなら話は別だが」
そうではことは、先ほど会話し、実際に触るなどをして確認した。
「はぁ……俺も研究者の端くれだ。目の前の事実は……認める。これもまた、ポケモンの新しい可能性だな」
ククイが大きな溜め息をつく。流石に目の前の現実が受け入れ難いのか、擬人化したドーブルを色々な角度で見定める。ただ、仮にでもそれを受け入れる事が出来たのは、やはりポケモンについて知識が十二分にあるククイだったからだろう。
「ちょっと聞きたいんだが、他のポケモンも擬人化できたりすんのか?」
「まて、これ以上ややこしいことにしようとしてるのかお前は?」
「お、おう、そんなにややこしいか、すまんな。ただ、ヨワシが擬人化を見て興味を持ったみたいで、出来たら態々水槽を準備したり、陸での行動の制限がなくなったりするからな」
出来る範囲で、やってみたいとヒトミは言う。
「そんなもん、俺が知るか。第一、現状なんでドーブルが擬人化出来たかすら分かってないだろ。普通はそんなこと出来ないんだから、条件があるはずだ。それがドーブルにあるのか、お前のポケモンが特別なのかは今は判断できない。そもそもドーブルにはへんしんする体質は持ってないんだから、仮説通りだとすれば他のポケモンにも可能性はあるはずだろ、やってみるならドーブルの状況の再現をしたらどうだ」
お手上げだ、という風にククイは両手をあげる。ヒトミはククイの意見を受けて、その通りだと返事をした。
「……ドーブル、擬人化した時ってどうやったんだ?」
「それは……頭にその姿を思い浮かべて、大体こんな感じかなぁってイメージして、メタモンのへんしんを真似するようにスケッチしたら……出来ました」
「なるほど、わからん」
とりあえず分かった事は、擬人化へんしんにはイメージが必要だということだ。ヨワシの擬人化を実現させるには、ヒトミが改めて妄想力を発揮させるしかない。
「いいか、ヒトミ。ヨワシを擬人化させるときは俺を呼べ、どういう現象なのか俺が知りたい」
「知らんがな。勝手に見るなら見やがれ、いつできるかわかんねぇけどな」
そう言ってククイは出ていった。
「うおぉお、今こそ真価を発揮しろ、俺の妄想力!」
「良く分かりませんが、頑張ってくださいマスター!」
ヒトミは三回転半ぐらい回って良く分からないテンションになりながら、スケッチにヨワシの擬人化絵を描き始めた。
「……う~ん、出来ないな」
ククイが冷静に呟く。ククイの研究室の地下でへとへとになったドーブルとヨワシとヒトミが横たわっていた。
「やっぱ、ドーブルだけなのか?」
「いや、へんしんの技自体は発動しているみたいだ、ドーブルと同じ反応をしているのは間違いない。だが、成功しない」
そう言うと、ククイが唸り始める。ヒトミも色々と違う擬人化のイラストを描き続けているのだが、どうにも上手くいかない。ドーブルが明確にイメージを持つ事が出来ていないのか、それとも別の原因があるのか。
「ふぇえぇ……もう限界ですマスター」
そう言うとドーブルがヒトミの上にのしかかってくる。
「おいっ、上に乗ったら……重くない?」
「……流石に私でも傷つきますよ、マスター」
「あ、すまん。いや、そうじゃなくて、見た目より軽いな、と思って」
「あ、そっちでしたか。え、マスター、私太って見えます?」
「いや、そりゃあ擬人化したんだから、元の姿より重くなったと思うだろ、普通」
「あ、また重くなったって言った!」
「いや、誤解だって……重くないよ、大丈夫だって」
「それだ!!」
ドーブルとヒトミが言い争っていると、ククイが叫んだ。
「……え、何が」
「限界があるんだよ、メタモンと違ってへんしん出来る機能がないから、何にでもへんしん出来る訳じゃない! いや、違うな、何にでもへんしん出来るのは、メタモンのへんしんだけだ!」
「いや……もうちょい分かりやすく」
ククイが何言ってるのか、理解できないヒトミが困惑する。
「さっきお前が言っただろ! 重くないって、ドーブルの元々の体積から大きくなっているけど、そこには増減できる限度があるはずだ。なにせ元々のイメージはそのポケモンなんだからな!」
「つまり、俺が書いたヨワシの擬人化は、ヨワシの擬人化の限界を超えていた?」
確かに、今まで描き散らしたものを見返してみれば、あくまで人型であり、ヨワシのサイズとくらべると何倍も大きくなっている。
「え~、でも人のサイズっていうとヨワシさんほど小さくはならないですよ?」
ドーブルが溜め息をつく。確かに、赤ん坊にしてしまっては意味がない。いや、へんしんできるかどうかを証明するには、それもありだが。
「考えろ、ヒトミ! ヨワシのへんしん出来る範囲で、想像できるものを!」
無茶難題を押し付けるククイ。
「う~ん、小さいものかぁ、いっそ虫とか、他のポケモンになるとかでもありかなぁ。体積的な問題なら、ヨワシに足だけはやした半漁人的な?」
ヒトミは自問自答しながら、自分のイメージを膨らませていく。試し書きしてはバツを書き、新たにイメージを書きだしていくと、ついに結論にたどり着いた。
「閃いた!」
「ご主人様、よろしくお願いしますです?」
「うん、可愛いです!」
「よろしくな、ヨワシ」
結果として、ヨワシは小人さんになった。
「なるほど、体積的には大きく変わらず、二頭身に収める事で擬人化が可能になった、か。サイズ的にも限界がある……ということは逆もしかりかもな」
小さくし過ぎるのも不可能ということらしい。勿論発想とポケモンの能力次第ではあるが、制限がかかることが判明した。
「これで僕も、外を歩けるです?」
「勿論、これからもよろしく頼むぜ」
ピョンピョンと飛び跳ねるヨワシは、まるで人形みたいだったけれど、喜びの感情は確かにヒトミに伝わっていた。
読了ありがとうございました。ここからはポケモンの設定になりますので、興味のない方は飛ばしていただいて問題ありません。
ヨワシ(小人の姿)
タイプ:水
種族値:H60 A30 B30 C20 D25 S10
HとAとBが上がって、CとSが下がった形になります。人型になって動くのが遅くなったが、体積が増えたので、この数字になりました。
ただ、この状態での戦闘はないので、あまり意味はないです(笑)
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第十二・五話 前編
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等、苦手な方はブラウザバックを推奨します。
それでも良いという方は、お付き合いください。
ちなみに今回はプルメリ回です。
ヒトミはいつものように観光客相手にポストカードを売りつける仕事を勤しんでいたのだが、その日は中々繁盛し、夕方でそろそろ引き揚げようかといった時に、来訪者が現れた。
「あんたが、ヒトミかい?」
「そうですが……お客さん、ってわけじゃなさそうですね」
目立つピンク色の髪を後ろでまとめ、金色のメッシュを二本入れている女性が現れた。
「あんた結構噂になってるよ、口八丁で観光客から金を取るのが上手い、ってね」
「成程、そいつはほめ言葉ですね」
ヒトミはそう返したが、荷物をたたみ、逃げる準備を始める。なにせ、彼は誰かの許可を得て商売をしているわけではない。今のところは、諌める人物がいないためにグレーになっているだけであり、裁判沙汰になってしまえば出るところに出るしかないだろう。
「ポケモンバトルも強いんだって? いっちょ勝負してみないかい?」
問答無用で手持ちのポケモンを繰り出す。それは、ヤトウモリだった。雄雌の区別はつかないが、相手トレーナーを見据え、自分ができる行動を最速で行えるようにじっと構える姿を見るだけで、相当訓練されているポケモンであることは理解できる。
「いけっ、ラフィ!」
現れたのは、ラフィと名付けられたドーブル。手慣れた様子でトレーナーの手前にスケッチを描き出す。
「はんっ、そんなポケモンに何が……」
そこで、女性トレーナーが違和感を覚えた。自分が育てているヤトウモリよりも早いのだ。ヤトウモリはそこそこSが高いポケモンであり、並大抵のポケモンに素早さ勝負で負けたことはなかったことから、Sが抜かれる事態に驚きを隠せない。
「そうとう、鍛えてる……って!?」
描き出されたのはキノコのイラスト。ポケモンバトルには似つかわしくない、メルヘンなキノコだったが、次の瞬間には彼女のヤトウモリはすやすやと眠り状態になっている。
草タイプ きのこのほうし
目に見えないきのこのほうしをふりまき、対象を強制的に睡眠状態にする技である。胞子といっても、拡散するわけではなく、指向性をもつものであり、また呼吸によって取り込まれる事から、微量でも即効性はある。ただし、そこから繁殖したりするということはないので、後遺症がみられるケースは極稀である。
「にげるんだよぉぉぉぉおお!」
手慣れた様子で、ヒトミは自宅に向かって走り出す。それにピッタリとついていくラフィ。どうやら騒動事には慣れているらしい。
「……ほら、ヤトウモリ、おきな」
ぺちぺちと頬に刺激を与えて、眠ってしまったヤトウモリを起こす。あれだけ、闘いなれているというのに、一目散に逃げるという行為はあまりトレーナーとしては見慣れない行動だ。
本日は曇天、雨が降る予測ではなかったが、薄く広がる雲は日差しを遮り、いつもの清々しいハレハレビーチは、観光客の数もまばらだった。
「やっと見つけた」
そういってピンク色の髪を揺らしてヒトミに近づく。
「安心しなよ、今日は客としてきたんだ」
そう言って、ビーチに配置してある椅子を持ってきて、ヒトミの正面に座る。
「あんた、絵を描いてるんだろ。私はプルメリ、金は前払いかい?」
一瞬戸惑うが、ヒトミはいつもの様に対応する。
「いいや、後払いだよ。気に入らなければお金は要らない。それが信条でね」
グレーである以上トラブルごとは避けたい。多少の利益を失ったとしても、悪評が広がる事は徹底的に避ける、という方針でヒトミは動いていた。
「成程ね……それじゃ頼むよ」
「はいはい……少し時間がかかりますよ」
そういって無言の間が続く。プルメリと自称した少女はやはりゲームとは衣装は変わっているが、スカル団のタンクトップを着ていて、スカル団であることは間違いなさそうだ。無言でプルメリを見つめ、考え込むヒトミ。やがて、イメージが固まったのか、ポストカードに鉛筆でさらさらと構図を描き始める。それが始ってからは早かった。数分で書き終えたそれをラフィに手渡し、それについてラフィに説明をする。やがてそれを理解したのか、色を付ける作業に入っていく。
「……随分と、懐いてるんだね」
「それもあるかもしれないけど、ラフィは絵を描くのが好きだからね」
ヒトミじゃなくても、喜んで絵を描くだろうさ、とヒトミは言う。プルメリは複雑な表情で見つめていた。トレーナーとポケモンとの絆と言えば聞こえはいいが、必ずしも理解しあえるものではない。紆余曲折があって、初めてお互いを理解できるのは人間でもポケモンでも変わりはないのだ。おくびょうなヒトミのポケモンに、絆を結ぶために相当な時間をかけたことは、想像に難くない。
「ほら、出来たよ」
ラフィからその絵を受け取り、プルメリに手渡す。それを見たプルメリは驚く。そこには、見せたはずのない、ゴ―ス、ヒドイデなど、毒ポケモンに囲まれ、困ったような表情だが、確かに笑顔で描き出されるプルメリの姿があった。
「……不味かったかな?」
はははと苦笑いしながら、ヒトミはそう呟く。確かに、プルメリの手持ちも見てないし、今目の前にいる彼女からは想像もつかない表情だ。しかし、彼が描いたのは普段見ることのない彼女の笑顔であり、困りながらも放っておけない彼女らしいイラストだった。
「いいや、これでいいよ。ありがと」
そう言って、手持ちからお金を渡し、そのポストカードを仕舞う。誰に見られたくないのか、鞄の奥底にしまってしまう。
「こちらこそ、毎度あり」
そういうと、ヒトミはラフィを撫でポケ豆を渡す。おいしそうにポケ豆を食べる姿にプルメリは少し見とれてしまった。
「ねぇ、あんた……スカル団に入らないかい?」
読了ありがとうございました。ここからはポケモンのデータになりますので興味のない方は飛ばしていただいて問題ないです。
ヤトウモリ
どくトカゲポケモン
アローラ図鑑No.161
特性:ふしょく
性別:♀
今回はヒトミがスカル団に入団するきっかけになったお話です。プルメリさんに声をかけられて、ほいほいついて行ってしまった感じですかね。
それでは今回はここまで、次回もお付き合い頂ければ幸いです。
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第十八話
そう考えると納得しますが、僕はピンクの方が好きなので初投稿です。
オリジナル設定、オリジナルキャラ、擬人化等苦手な方はブラウザバックを推奨します。
それでも良いという方は、お付き合いください。
「う~ん、ラランテス、お前はどうする?」
「しゃらんら?」
ヒトミの問いにラランテスは首を傾げる。のりのりで擬人化の絵を描いてる途中でふと我に返ったヒトミはラランテスと向き合う。幾ら擬人化出来ると言っても、する必要はないのだ。ヨワシは明確にへんしんしたいという意思を示した。ドーブルも、自分がその姿になりたいという思いでへんしんしたのだ。だが、ラランテスはどうだろう。その姿に満足しているなら、擬人化する必要があるのだろうか。
「こういうの、興味ある?」
ヒトミが擬人化のイラストをラランテスに見せてみると怒られた。
「しゃらんら! しゃらんら!」
「分かった、分かったから叩くのを止めて」
ラランテスはどうやらデザインが気に入らないらしい。鎌先で器用にヒトミに指示し始める、どうやら擬人化に興味はあるようだ。
「よし、これで皆擬人化出来たな」
どうやら、ヒトミのポケモンで擬人化出来ないポケモンは居なかったらしい。ちなみにボールに戻すと、元の姿に戻る。再度擬人化するにはドーブルにへんしんをかけて貰わないと出来ない。対戦に使う予定はないので特にその辺は問題ないだろう、とヒトミは呟いた。
「問題なしです?」
「はい、ばっちりですマスター」
「まだデザインが気に入らないでありんす」
「分かった、分かったから……また描くからちょっと待って」
あれから何枚描いたと思ってるんだこの我がまま華カマキリとヒトミが愚痴をこぼす。ちなみに、描いてはダメ出しをくらってから三日が経つ、それまでに消費したスケッチブックの枚数は、ばら撒けばモーテルの一部屋一面くらいは覆えそうなほどだ。
「いや、ちょっと待て、そう思ったのは何時だ?」
ヒトミが頭を抱えていると、疑問が浮かんだのかラランテスに問う。
「擬人化した後でありんす。イメージと違ったでありんす、やり直しを要求するでありんす」
「やり直しって……出来る?」
「う~ん、マスターにもう一度描いてもらって、それがイメージできれば……多分」
この擬人化へんしん状態が固定というわけではないようだ。時間と労力さえあれば、今とは違う姿にすることも、可能ということだろう。
「よし、それじゃ、描きながら一緒に見てくれ」
「ふーむ、とりあえず今は我慢するでありんす」
ラランテスは自分の体をちらちら確認しながら、どうやら思ったものと違う事を確認する。これはまた長くなりそうだ、そう呟きながらもヒトミは笑顔だった。
「そこで、だ。折角だし、ニックネームを付けたいと思う」
「ニックネーム、ですか?」
「うん、ドーブル、ラランテス、ヨワシじゃなくって、お前達はお前達だけの名前を付けたい、構わないか?」
「変な名前にしたら、断るでありんす」
「可愛い感じがいいです!」
「僕も名前がつくです?」
どうやらニックネームを付ける事自体に反対意見はなさそうだ。
「それじゃあ、ドーブルは落書きのグラフィティからとってラフィ」
「はいっ!」
「ラランテスは、ヒュメノプス・コロナトスからヒメ」
「……まぁ、悪くないでありんす」
「ヨワシはツヨシ!」
「それは嫌です?」
露骨に凹むヒトミ。本人は格好いいと思っていたらしいのだが、見事に断られた。
「ヨワシはヨワシでいいです?」
「まぁ、ヨワシが言うならそれでいいか」
ヨワシが気に入ってるなら、とヒトミも了承した。
「それじゃ、改めてよろしくな。ヒメ、ラフィ、ヨワシ」
「主は主でありんす、今までと変わりはりまへん」
「よろしくお願いします!」
「よろしくです?」
ヒメの言う通り、姿かたちが変わったところで、ヒトミとポケモンとの関係が変わるものでもないのだろう。
回想終了
読了ありがとうございました。これで三匹全員擬人化出来ました。ここから先はポケモンのデータになりますので、興味のない方は飛ばしていただいて問題ないです。
ラランテス(擬人化した姿):NN ヒメ
種族値:H90 A130 B90 C60 D90 S20
HとAが上がって、CとSが下がった形です、防御面は変わらずですね。正直Aは120以上ほしかったなぁと思いつつも、キノガッサを見ていると130あっても、マイナーは抜けださせなそうな気もします(´・ω・`)
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第十二・五話 後篇
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等、苦手な方はブラウザバックを推奨します。
それでも良いという方は、お付き合いください。
今回はグズマ回です。
ヒトミはプルメリに誘われるままにスカル団のアジト、ポータウンまで足を運んだ。
「一応俺、まだ島めぐり中なんですけどねぇ……」
「来た時からずっと、島めぐりにやる気があるのかないのか分からない、って噂だけど?」
プルメリの返事に、二の句が返せないヒトミは悩んでいる。ライチとの会話以降、島を歩きまわってはいるが、特に試練に向けて準備することもしてないないのだ。
「……スカル団かぁ」
いかがわしき屋敷はすでにボロボロで、家具は破壊されていた。だが、まだ人が通れるような状態であり、グズマがいる部屋にはすぐにたどり着くことができた。
「グズマさん、入りますよ」
ノックをして、プルメリが声をかける。どうやらまだ、プルメリがグズマに対して呼び捨てが出来る間柄ではないようだ。
「……よう、久しぶりってほどでもないか」
そうグズマが話すと向かいの椅子にヒトミが座るように指示する。プルメリは壁に背を預け、話をする様子はない。
「スカル団ボスのグズマさんが、しがない俺になんの様ですか?」
「まぁ、そんなに自分を卑下にするなよ。少なくともお前の能力を、俺は買っているんだからな」
ヒトミが逃げ出したあの一件を、グズマはあの判断は正しいと話した。そして、スカル団に引き入れたい、と。
「ヒトミ、お前は島めぐりをして、キャプテンになりたいのか?」
その返事に、ヒトミは一瞬戸惑う。返す言葉を探し、少し間が空いて答える。
「島めぐりは……するつもりだ。どこまでやれるかは、わからないけど。キャプテンには、多分なれないだろうな」
アローラに来て以来、ヒトミは守り神と接触したことはない。彼らの加護があるわけでもなければ、順調に島めぐりが進んでいるということもない。それならばキャプテンになることもないだろう、とヒトミは結論づけているようだった。
「ははっ、なるほどな。だが、島めぐりなんて古いしきたり、必要ないとは思わないか?」
「それは……あんたがキャプテンになれなかったからか?」
プルメリが驚く、その話をするのはグズマに対してタブーとなっていたからだ。だが、グズマは怒り狂う様子はなく、至って冷静だ。
「そいつは、答えとしては半分だな、そいつを知ってるだけでも話が早い。それで、島めぐりについてどこまで知ってる?」
グズマの問いに、ヒトミが答える。
「……アローラ各地の試練を受けて、島キング、島クイーンの大試練をうけ、Zクリスタルを受け取る。それを終えて晴れて一人前になれるって儀式だろ?」
それに対して、グズマはうなずく。
「確かに、その通りだ。お前の言うとおり、試練は人によるものだ。場合によっちゃキャプテン不在の試練もあったりするが、それに対する合否の判断に関しては島キング、島クイーンに任されているから、人が執り行うものと言っていい。その裁量は島キング、島クイーンに一任されている」
「……まぁ、その通りだな」
グズマの話し方に、ヒトミは顔をしかめる。話したい内容がイマイチ理解できない、という風だ。
「人が執り行う時点で、多少の不公平はあるっていうのも試練としては欠陥だと思うが……それはまた別の話だ。偉い人に認めてもらう為に、島めぐりをしている奴も少なからずいるからな、そこは大した問題じゃない。そこで次のキャプテンの選別だが、これは守り神によって決められる」
「キャプテンも島キングも島クイーンも、守り神によって決められる、らしいな」
その瞬間に立ち会ったことがないヒトミは、それについては話でしか聞いたことがなく、実感がないのかあまり自信の無いように見える。
「ああ、お前は間違っていない、その通りだ。さっきも言った通り、試練に関しては島キング、島クイーンあるいはキャプテンに裁量がある。だが、キャプテン、島キングになるためには、守り神に気に入られなきゃならない、そういうことになる」
そこまではいいか、と確認するようにグズマが区切る。それに対し、ヒトミが返答をする。
「つまり、あんたがキャプテンになれなかったのは、人じゃなく守り神に選ばれなかったからだ、ってことか?」
「守り神に選ばれない、確かにそうだな。少し順を追って話していくか。キャプテンになる機会は何も一度きりじゃない。島キング、島クイーンにしてもそうだが、訓練を積んでから何度めかに認められるケースもある。そもそも、カプ・レヒレなんかは人間嫌いだから会うだけでもなんども遺跡に通う必要があるわけだしな」
「そうか、一度選ばれなかったからといって可能性がなくなるわけではないのか」
「そうだ。まぁ、キャプテンを目指すものは、島めぐりを終えただけでなれるわけじゃない。そのあとはキャプテンに師事したり、島キングに師事したり、或いは独自で守り神の加護を得るために試行錯誤したりと、様々ではあるな」
島めぐりを終える事は、キャプテンになれるということではない。それはあくまで前提の一つであって、キャプテンとなるにはさらなる試練が待ち構えている、ということだ。
「キャプテンの席が空白になるのは珍しい話じゃない、何せ守り神のお気に入りだからな。任期終了まで続くことの方が多い上、そう易々と後釜が見つかるわけでもない」
「確かに、今はドラゴンやヒコウのキャプテンはいない、だったよな」
グズマが頷く、そして話を続ける。
「メレメレ島にはノーマル、格闘、飛行のZクリスタル。アーカラ島には、水、草、炎、岩のZクリスタル。ウラウラ島には電気、氷、虫、ゴースト、エスパー、鋼のZクリスタル。そして最後のポニ島では、毒、地面、ドラゴン、フェアリーのZクリスタル、といったように、各島で生成されるクリスタルの性質は限定されている。他の島では同様の現象があるかどうかまでは分からないが、少なくともアローラの伝統では各地がそのクリスタルを製造するに良い環境になっている、と推測されている」
「……そこまで知ってるのか」
キャプテンを目指したものなら知ってて当たり前だ、とグズマは言う。確かに、自分がなるタイプがどの島に所属しているのかを知らなければ、どの守り神に仕えるかどうかすらわからないのだから、突如選ばれたというわけでもない限りは知っていて当然なのだろう。
「そして、俺の場合は虫タイプのキャプテンを目指していた、だからカプ・ブルルの実りの遺跡に行くわけだが、選ばれなかった。それはそういうものだからな、その後にどうやってキャプテンになれるのか、人によっちゃあ守り神から試練を伝えられる奴もいるらしいが、俺にそれはなかった」
「そして、キャプテンになる方法を調べた……のか?」
グズマが肉食獣のような笑みを浮かべる。
「そうだ、俺の願望は確かにあったが、まぁ守り神の事だ、どのタイプのキャプテンに指定されるかわからないし、もしかすれば、別タイプや違う守り神に選ばれる可能性だってある。調べるさ、なぜおれがキャプテンになれないのか、それを知るために、な」
ゴクリとヒトミが唾を飲み込む。
「守り神に、選ばれるために……?」
自分の育てているポケモンとは別のタイプのキャプテンを任される可能性がある、それは初めてヒトミが知った事実だったようで、驚きを隠せない。
「それじゃあ、次のステップだ。俺はハラに師事していたから、カプ・コケコに選ばれる可能性もあると思っていたし、虫タイプ中心に育てていたからカプ・ブルル選ばれるかもしれない、そう考えていた」
「そして、守り神について調べた、と」
幸いにも図書館もあれば、島めぐりを終えた人間には島全体が比較的協力的になる風習があるとグズマは言った。つまり、調べ、人に聞き、或いは自ら守り神に仕えるための努力を行った、ということだろう。
「カプ・コケコは気まぐれで、人を助ける時もあれば裁く時もある。力比べや速さ比べを好み、バトルを好む傾向がある。それに対して、カプ・ブルルは争い事は嫌う傾向にある。秩序を重んじ、破る物には罰を逆に秩序を守るものに対しては、人であれポケモンであれ、その恩恵を受けることが出来る」
そこでグズマが一区切りする。
「それじゃあ、後の守り神は?」
「カプ・テテフは保守的だ。そもそも、伝説クラスのポケモンなわけだから弱いわけではないが、守り神の中では耐久がある訳じゃない。基本的には気まぐれではあるが、アーカラ島に愛着があるのか、キャプテンはアーカラ島出身が多く採用されている。例外もなくはないが、それでもアーカラ島に長い間滞在し、カプ・テテフに気に入られる事が条件であることは間違いない。そして、カプ・レヒレだが、保守的どころか排他的だ。ポニ島の島キング、島クイーンに至っては長年従事し続けている血族しか選ばれる事はない。キャプテンを選ぶことすら稀で、毒、ドラゴン、に関しては近年キャプテンが選ばれた事はない。そもそも人前に姿を現すことすらほとんどないからな、余程の事がなければ、キャプテンにはなれないだろうな」
カプ・レヒレの話になるとプルメリが目をそらす。どうやら毒タイプのキャプテンに選ばれなかったのは、プルメリも同様らしい。
「そこで無類のバトル好きな俺はどうやらアーカラ島とポニ島は不可能だろうと考えた。どう考えてもこの守り神に気に入られる要素がねぇ、あるとすれば、戦う事に関して良しとするカプ・コケコか、あるいはルールに基づくものであれば認めるカプ・ブルルになる訳だ」
「なら、カプ・コケコなら、可能性はあるんじゃないか?」
グズマは首を横に振る。
「カプ・コケコが好むのは競争であって、闘いじゃない。実力のあるものに対しては関心をもつが、破壊や略奪といった行為は好まない。カプ・ブルルならばなおさら、だ」
「……だけど、そのころお前が、破壊や略奪を行っていた訳じゃないだろ?」
島めぐりをしている時から、そういった行為をしていたのであれば、他の島キングや島クイーンがグズマを一目おく理由がない。
「そうだな。そこで俺には二つの選択肢があったわけだ。一つは、これまで積み上げてきた信条をへし折り、頭を垂れて守り神に降るか」
そこで一度区切り、続きを口に出す。まるでそれが禁忌であるかのように。
「秩序を否定し、破壊するか、だ」
そして、苦悩し、グズマは選んだのだろう。これまでポケモンとともに歩んできた道を振り返り、それを否定する別の道か、或いはポケモンと共にある事を望むか。
「俺は、俺が積み上げてきたことを否定しない。俺は俺が正しいと思う道を行く。キャプテンだろうが、島キングだろうが、守り神であっても、だ」
力強く握りしめられた拳は、玉座に叩きつけられ、無残な形に変形する。グズマの拳からも血が流れ出ていた。
「ヒトミ、お前が信じるものはなんだ? キャプテンか? 島クイーンか? それとも守り神か?」
それは、神に反逆しても己を信じられるか、という問いだった。
――お前らは結局、ポケモンをバトルの道具としか見てないんだろ――
「……上手くはいかねぇもんだな」
自分で黒のタンクトップに白の糸で模様を描く。それは、白いドクロでスカル団のものだ。次からはペイントにするか、と呟きそれに袖を通す。バンダナを頭に巻き、カラーコンタクトを入れ、口元を隠す。この衣装をまとっている限りは、ヒトミではなく、他の人間はスカル団と認識するだろう。
「なんだい、様になってるじゃないか。小物臭がプンプンするよ」
プルメリが茶化す。それも悪くない、とヒトミは笑う。
「さて、スカル団の下っ端として、いっちょやりますか!」
己と己が信じるポケモンたちは、守り神とは相いれないのかもしれない。もしかすれば、アローラからも、違法ものと呼ばれる存在なのかもしれない。だがそれで構わない。自分が信じるものは、自分と共に歩むポケモンたちでいい。
読了ありがとうございました。
いかがだったでしょうか?
今回はヒトミがスカル団に入ったきっかけの回になります。
キャプテンとか島キング、島クイーンのシステムについては、やはり伝統ではあるものの、否定的な意見が出てしかるべきものではあると思います。過去の偉人達が積み上げてきたものであり、無下に出来るものではないけれど、それと自分が生きる道筋が合うかどうかについては、やはり誰もが葛藤するところではないでしょうか。
オリジナル設定としては、グズマがキャプテンになれなかったのは、自分の信条に従う為に、生き方を変える事を拒んだ為になれなかった。破壊の道を選んだ、という設定になっております。
ちなみにプルメリはそこまで行ってません、島めぐりは終えたものの、レヒレに選ばれず、迷っていたところグズマに勧誘された、という設定です。
こういう、表の輝かしいところもあれば、暗い部分もあるポケモンというゲームは個人的にすごく好みになります。大きく分かれるところではあると思いますが、ここまで書いておいてなんですが、サンムーンのメインストーリーに触れない限りグズマ絡まないのが残念でならないですorz
格好いい悪役ってやっぱりいいですよね、サカキ様とか、フラダリ(笑)とか。
良ければ、ヒトミの物語の続きをまた見て頂ければ幸いです。
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第十九話
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでも良いという方は、お付き合いください。
「釣れないなぁ……」
釣り糸を垂らしていても、ピクリとも反応しない。
「上達しませんね、なんででしょうか」
先程から、スイレンはコイキング、ヨワシ、ママンボウなど、様々ポケモンを釣りあげていた。基本キャッチ&リリースの精神なので、手元に何か残っているというわけではない。
プルルル
「……電話か」
ポケットから取り出し、プルメリからの通信にでる。
「もしもし」
「悪いけど、すぐにポータウンに来てくれるかい? グズマから呼び出しを喰らってね、私も今向かってるのさ」
悪い予感を感じたのか、一瞬ヒトミが震え上がる。グズマからヒトミとプルメリを呼びだす時に、面倒事でなかった試しがない。
「あ~、行かないとかないっすかね」
「いいから来るんだよ。じゃないと、今度こそ館がぶっ壊れてもしらないからね」
ヒトミは大きな溜め息をつく。数秒ほど頭をぐるぐる回し、悩んでいる様子だったが、ほかならぬプルメリ姐さんの頼みなら、と呟く。
「承知しました、向かいますよ」
そう言って、電話を切る。楽しい釣りの時間が終わってしまったのが残念なのか、重い腰をゆっくりとあげる。つりざおを引き上げてみると、見事に餌だけ持っていかれていた。
「電話してる間、引いてましたよ」
「……もうちょっと早く言ってくれよ」
本日も変わらず、ヒトミの釣りは坊主で終える事になりました。
ポータウンに向かうこの道は、いつも雨が降っていて、スカル団の面子がうろついている。ヒトミが軽く挨拶しながら、進んでいくと門番二人に挨拶する。
「お疲れ様です!」
「お疲れ様です、姉御はちょっと前に中に入りましたよ」
「お疲れ、ありがとな」
此処を抜ければ館まで一直線だ。とうとう来てしまったと顔を顰め、重い足取りでヒトミは館へとむかう。
「……本当なのかい?」
プルメリは額に皺を寄せ、考え込んでいる。それに対してグズマが応える。
「本当かどうかは、ヒトミが来たら分かる事さ。そうじゃなければ、また探すだけだがな」
丁度その会話の最中に、ヒトミが扉を開ける。
「グズマさん、姐さん、お疲れ様です。今回はなんの依頼っすか?」
グズマはいつもと比べて、機嫌が良い様に見える。プルメリはいつになくヒトミの事をじろじろと見て、疑惑の目を向けている。
「ヒトミ、この資料に目を通してくれるかい?」
「はぁ、またこの手の奴ですか」
資料を手渡される案件においては、時間が少なかった事もあれば、内容の分かり難いものも多く、辟易した表情を隠さずに受け取る。封筒を開け、資料に目を通してみると、ヒトミが目を見開く。
「……アローラ地方の空間歪曲現象について?」
いつもの様な依頼の内容ではなく、研究資料の様なものだった。表題からして想像できるのは、ウルトラホールについての研究かもしれない。ヒトミは一つ一つ読み進めていく、機密事項なのか、塗りつぶされている部分も多く、全てを読み取ることは出来ない。不完全で研究段階のものということではあったが、読み進めていくとヒトミはその資料自体に疑いの目を向け始めたようだ。UBの特徴や、過去に現れたポケモン、明記はされていないが、コスモッグの特徴についても、記録がされていたのだが。
「はぁ……どこでこんなガセネタ掴んだんすか、グズマさん」
資料をプルメリに返して、溜め息をつく。他の伝説のポケモンと関係があるとか、ヒトミの知ってるサンムーンの世界ではなかったようだ。歴史が変わっているのならば話は別だが、少なくともヒトミにとってはその資料が偽物だろうと判断できたようだ。
「ヒトミ……あんた」
「言っただろ、プルメリ。こいつがビンゴだ」
プルメリが驚いた表情をし、グズマがくっくっくと笑う。
「そうだヒトミ、そいつはガセの研究資料だ。まぁ、全部が全部って訳じゃあないがな。で、どうしてお前はそれがガセってわかる?」
そこまで言われてヒトミは失敗したと顔をひきつらせる。他の人間では、この資料を見ても理解できないはずだ。ましてやガセと言いきるなんて、知っている人間にしか出来ない。
「2年前、ウルトラホールの現象を確認した。まだ研究が進んでいねぇから、どこに何が現れたのか、何もなかったのかは分からねぇが、兎に角それがあったって所までは、調べは付いてるそうだ」
2年前、それについてはヒトミは確かに覚えがある。
「そう、お前がこの島に流れ着いた時期と一致してるんだよ。お前、ウルトラホールから来たんだろ?」
戸惑う、これまで誰も認知していない現象だったためか、ヒトミはそれについて言及されたことはなかった。ウルトラホール等の事に関して話す事は、それを知る人物もなく、問われる事もなかったのでヒトミ自身から話すこともなかった。
「……隠してるつもりは、なかったんですけどね」
頭を掻きながら、バツの悪そうにヒトミは答える。
「いいんだヒトミ、別にその事について責めるつもりはねぇ。むしろ、お前がスカル団に居てくれた事に感謝してるぐらいなんだぜ」
探す手間が省けた、とグズマは口走る。
「さぁ、俺と一緒に行ってもらおうか」
「……行き先は?」
半ば予感はしていたが、ヒトミはその答えを聞かずには居られなかった。
「エーテルパラダイス、海上の楽園さ」
読了ありがとうございました。今回はポケモンのデータなどはありません。
なんだかんだいって、グズマさんはサンムーンの中でも結構好きなキャラクターです。ポケモンの事は大好きで、頭もいいはずなのに性格が歪んでしまった感じで。ゲームではあまりそういった表現は少なかった様に思えますが、きっとカリスマ性もある人物なんだろうなぁ、と思いつつ筆を進めてます。
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第二十話
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでもよいという方は、お付き合いください。
スカル団の船に乗り、地下一階に船を止め、エーテルパラダイスの中に入る。中はゲームと変わらず、まっしろな外観とコンテナが幾つも置いてある。警備員は疎らに居て、少し待つと迎えが来た。
「さすがグズマさん、お早い御着きで。この方が……例の?」
「ああ、そうだ。連れて行ってやってくれ」
迎えと言うのは、ザオボーだ。どうやら、まだ局長という立場ではないらしく、名札にも現場長という肩書が添えられている。
「それと、ルザミーネ様から呼び出しがありました。いつもの場所でお待ちしております」
「了解、それじゃあ、先に行かせてもらうぜ」
そう言ってグズマは先にエレベータに乗りこむ。恐らく向かうのは2階の扉の先、ルザミーネの部屋だろう。
「初めまして、私はザオボーと申します。以後お見知り置きを」
丁寧に頭を下げ、ヒトミをエレベーターに招き入れる。ゆっくりと移動し、地下へと向かって行く。やがて移動が終わると、真っ白い空間に出た、その先には扉があり、研究室があるのだろう。エレベーター自体が職員しか地下に行けない様にしてある以上、ここに警備員がいることはない。手荒な真似をして連れてこられたわけでもなければ、ポケモンを没収されている訳でもない。
「……なぁ、ザオボーさん。少し話をしないか?」
ザオボーが立ち止まり、振りかえる。
「ええ、いきなり呼ばれて困惑しているでしょうから、構いませんよ」
穏やかに話す姿に、警戒している様子はない。
「俺は、何の目的で呼ばれた?」
「はぁ、グズマさんも説明不足だったんですね。私たちはアローラ地方の独特な現象について、研究をしているのです。ウルトラホールと呼ばれる別次元との関わりを調べる為に、ね」
「ウルトラビーストを、ウツロイドをアローラに呼び出す為に、か?」
ここで初めてザオボーが驚愕をあらわにする。
「何故……それを知っているのです」
「本当は俺を人体実験にするつもりじゃないのか? くそっ、そう簡単には思い通りにはさせねぇぞ!」
「ちょ、ちょっと待って下さい! 落ち付いてください、何か勘違いをされていますよ、貴方は!?」
慌てふためくザオボー。ザオボーは基本的にポケモンバトルを好んで仕掛けるタイプではない。更に今ポケモンを持ち歩いている様子でもなかった。
「確かに、血液検査やCTスキャンなどに協力して頂きたいとは考えておりましたが、危険な事はありませんよ。それにウルトラホールの現象については過去の記録が少なく、まだ手探りの状態です。どういう状況でウルトラホールと対面したのか、入った後どうなったのかを教えて頂くだけで充分なのですよ」
ザオボーが焦った様子でヒトミに説明を始める。
「それに……ウツロイド? ですか、それについては私も初めて耳にしました。それはもしかしてウルトラビーストの名称ですか? まさか、出会った事があるのですか?」
「なん……だと?」
エーテル財団はポケモンの保護と同時に、UBやウルトラホールについて研究していたはずだが、時間軸的に過去であるのでまだ見つかっていない、という可能性もある。さらに言えばまだグラジオは逃げ出していないし、コスモッグを連れてリーリエが逃げ出していると言う事もないはずだ。
「……なぁ、ザオボーさん。確かに俺はウルトラホールについて、あんた達よりも知ってる事があるかも知れない。もしかしたらあんたにとって有益な情報の可能性もある」
「そうでしょうね、先ほどの会話でも十分、そう感じました。出来れば協力して頂ければ有難いのですが」
「幾つか条件がある、俺もその研究について知りたい事がある。今どれくらいまで研究が進んでいるのかとか、どれだけの規模で動いているのか……ウルトラホールの研究については、あんまり表沙汰にはしてないんだろう?」
こんな海上の施設に立てる必要性は少ない。秘密や研究内容について、情報が漏れないよう、管理をしやすい様に態々この場所を選んだのだろう。そうでなければ、インフラが整ってる陸地の方が、費用も安く済むはずだ。
「……私達は法に触れる様な事はしておりませんよ?」
「ああ、知ってるよ。違法ってことはないだろうな、ただ、知られたくも無いだろ?」
ザオボーが考え込む。ヒトミの情報を得たいがために呼んだのだ、非協力的な態度をとられるのは困るのだろう。
「勿論、俺も協力しないとは言っていない。だけど、ザオボーさん、アンタも俺に協力してほしい。財団じゃない、ザオボーさんあんたに、だ」
「それは、どういう意味でしょうか」
ヒトミはニヤリと顔を歪める。
「俺はあんたに協力する、だから、それに関する情報は全て、アンタから財団に伝えてくれれば良い。そして俺は、アンタに協力してもらい、エーテル財団の研究について調べさせてもらう。生憎俺は、名前が知れ渡るのはあんまり好きじゃないんだ」
ヒトミの言ってる事を理解したのか、ザオボーさんも口元を歪める。
「いいでしょう、利害関係が一致する限り、私とあなたは協力する。そう言う事でいいですね」
「グッド! お互いウィンウィンの関係でありたいからな」
そうしてヒトミは、エーテル財団とのツテを手に入れる事が出来た。
読了ありがとうございました。今回もポケモンのデータなどはありません。
ポケモンバトル書きてぇなぁ、俺もなぁ……
とりあえず、この小説を書いてて思った事は、この先6VS6バトルは絶対に書かないということでした。
情報量多すぎて、矛盾ですぎぃ!
あまり愚痴を書いても仕方ないのでこのあたりで、次回もよろしければお付き合い頂ければ幸いです。
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第二十一話
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでも良いという方は、お付き合いください。
そうして、ヒトミはエーテルパラダイスに出いるする回数が増えた。
「血液検査、CTスキャン共に特に異常は見当たりませんねぇ」
「ん~、そっち方面の変化はないのか……」
「なにしろ二年前の事ですからねぇ、分からなくなってる可能性もありますね」
ヒトミはザオボーと休憩室で、資料を読み合せている。研究が進むかと思っていたが、そう簡単に行くものではないようだと二人は肩を落とす。
「う~む、色々と試しては見ているものの、あまり進捗は……あ、今結果が出たみたいですね」
端末を操作して、最新の結果報告がザオボーに届く。
「どうだ、良い結果は出たか?」
各試練の間やシェードジャングルやマリエ庭園等での、ポケモンや植物などを採取して、様々な検査を行っている。もしかすれば、そこで何か見つかるかもしれないとヒトミが提案して、土地にある動植物鉱石など、様々な実験を繰り返しているが、発見には至らない。
「ん~、微妙な所ですねぇ。ウルトラホールの固有周波数と近似値は出ているのですが……誤差の範囲内なんですよねぇ」
「まじかぁ……データ不足だなぁ」
ウルトラホールと近い反応はあるのだが、確証には近づけていない。データ収集をしてはいるものの、これというものに当たらない。
「アローラ地方限定の事象ですし、他の地方の検証結果も取り寄せてみましょうか」
端末を操作し、他地方の物質と比較して、何がウルトラホールと関係しているのかを断定に繋げようと言う手法だ。それには膨大な時間が掛かってしまう。そんな事していては、時間がいくらあっても足りないだろう。勿論、他に方法がなければそうするしかないのだが、ヒトミは別の方法がないかと頭を悩ませる。そして、ひっかかったところがあって、ザオボーに聞き返した。
「……ザオボー、さっきなんて言った?」
「ん、他の地方の検証結果ですか? でも、そこそこ時間掛かりますよ?」
「いや、違う、その前」
「アローラ地方限定の事象……ですか?」
「……アローラ地方限定、か」
そう、サンムーンの新要素のメインでもある。もう一つあるのだ。
「……ヒメ、頼むよ」
ヒメがぷいっ、と首を横に振る。ヒトミがポケ豆を取り出すと、ヒメの視線がポケ豆に向かう。偶々手に入れた柄つきのポケ豆だ、一つしかないから勿体無い病で使えなかったのだが、今がその時とヒトミがなくなくヒメに手渡す。
「しゃらんら♪」
買収は完了し、実験が始まる。
「それでは、検証開始します!」
白で統一された大きな空間。例えポケモンが暴れても大丈夫なように設計されたトレーニングルームだ。技の検証や危険物を取り扱う際、または狂暴なポケモンの保護などにも使われているらしい。
「いくぞ、ヒメ!」
「しゃらんら!」
両手を合わし、Zストーンが反応する。
自分の体に力が巡るのを感じる
それと同時にZクリスタルの共鳴
高まる力とヒメと繋がる感覚
しゃがみ込み、ゆっくりと天を衝く
それは命を、植物の成長を想起させる
両手を広げて、生命の開花を現す!
「しゃらんら!」
草タイプ ブルームシャインエクストラ
周囲に草がない為、普段より威力は落ちるが、ソーラーブレードがより強く光り輝く。
「……オッケーです。測定纏めますんで休憩してください」
アナウンスがトレーニングルームに響く。Z技に慣れはしたものの、やはり疲労感は残り、疲れの色が見える。ヒメも同様の様で、ヒトミは頭を撫でてポケ豆を食べさせる。
「しゃらんら」
いつまでもそこにいても仕方がないので、検証結果を見るためにトレーニングルームをでる。
「どうっすか」
「ノイズが多いので、やっぱり判別は難しいですね。けれど、やっぱりところどころ、ウルトラホールに近い数字が出てます」
「う~ん、関係はあるんでしょうけど」
固有周波数を重ね合わせても、部分的に重なるだけで、正確なデータをとれない。
「ここ、俺とラランテスの固有周波数のデータ取ってます?」
「あ、はいそちらもとってありますよ」
研究員がデータを探すとすぐに出てきた。
「それに今回のデータと合わせて、周波数を引くと……」
「すごい、すごいですよ! ウルトラホールよりもかなり微小ではありますが、固有周波数は全く同じ形を示してます!」
「と言う事は、Z技自体が微小なウルトラホールという事ですね! これは、新しい発見ですよ!」
「やったな、ザオボーさん!」
「やりましたね、ヒトミさん!」
拳をザオボーと合わせる。一カ月間続けてきた研究が一歩進んだ瞬間だった。
読了ありがとうございます。今回もポケモンのデータなどはないです。
ちなみに、エーテルパラダイスでは擬人化はしてないので、ザオボーさんやその他財団メンツには擬人化は知らない状態です。
現状知っているのはククイ博士とマーレイン、という状態になっています。
今回はここまで、次回もよろしければお付き合い頂ければ幸いです。
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第二十二話
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでも良いという方は、お付き合いください。
ウルトラホールとZ技を関係が分かったのは良いが、Z技でウルトラホールを開く様な事は難しいだろうという結論になった。
「島キングクラスが何十人と集まらないと開かないとなると……どうしましょうかね」
「流石にそんなにトレーナーが協力してくれるかなぁ」
仮に協力をしたところで、どうやって形にするのかも問題だ。やはり、同じ固有周波数を持つUBが一番現実的なのだが、そもそもUBが居ないのだ。月と太陽の笛の例もあるが、アレはコスモニウムが居て初めて意味がある行為だ。何より、リーリエと主人公だったから成功したのであって、出来る人間を探す所から始めなければならないのは現実的ではない。
「あ~、借りれるかなぁ……無理だろうなぁ」
ポニ島の島キング、つまりハプウのお祖父さんは厳格な方なのだ。特に儀式の道具をお借りすることを承諾してもらえるとは思わない。
「Z技を増幅する装置……いや、結局は共鳴する媒体で止まってしまうんですよね」
「コスモッグが居ればなぁ……どっかUBいねぇかなぁ」
そこまで考えて、ヒトミは突然言葉を発する。
「ウラウラの湖だ!」
「ヒトミさん、ヒトミさん、コスモッグと思われるポケモンを発見したと連絡がありました!」
「うおっ、マジか! 居るとは思わなかったけど、やってみるもんだな!」
「しかし、通常のモンスターボールで捕獲することは難しく、仕方なく檻に閉じ込める形で捕獲することになったようです」
「あ~、ウルトラボールの研究も進んでなかったなぁ……」
「えっ、ウルトラボールとは?」
ヒトミはザオボーにまだウルトラボールの説明してない事を思い出した。
「UBを捕まえる専用のボールだよ。そいつがないと折角UBを見つけても、捕獲は……無理じゃないけど、かなり厳しいだろうな」
ゲームでは、1%以下の確率に挑戦する猛者もいたけれど、この世界では余計に現実的ではない。なにより、UBは総じて強力な上、オーラを纏って能力上昇しているのだから、なおさらだ。
「成程、確かにそちらの研究も急務ですね……ちなみにどういった構造なんです」
「……さぁ」
そもそもどうやって捕まえる機構なのかすら不明だ。一つ数百万かかると言われているが、その発明の経緯については触れられていない。
ヒトミは頭にアイスノンを乗っけて、休憩室でうなだれていた。とりあえずコスモッグの研究についてはザオボーに任せている。研究データ集める等の実験関連については、ヒトミの強力がなくても進むのだ。ウルトラボールの開発については、糸口すら見つからないから全く進まないうえ、研究チームすらも定まっていない状態だ。
「そもそも、ポケモンなんですかね」
そりゃそうだ。公式もポケモンとは言ってない。ヒトミはなんか糸口はないかなぁ、と必死に記憶を掘り起こそうと努力しているのだが、結果は中々出ない。
「大分お疲れみたいですね、紅茶などはどうですか? ストレス軽減に良いんですよ」
「あ~、ありがとうございます。最近コーヒーばっかなんで、あったかいのがいいっす」
「分かりました、丁度いい茶葉がありますので、準備しますね」
「う~す」
ヒトミは椅子にうなだれながら、紅茶を待つ。頭を働かせすぎたのか、頭痛に悩まされている。今は脳みそに限界が来たため、休憩をしている、という様子だ。
「お持ちいたしました。どうぞ」
丁寧な所作で紅茶を入れ、ティーカップに注がれてカチャリとテーブルに置かれる。
「めっちゃ良い香り、ありがとうござ……ビッケさん!?」
「あら、ご存知でしたのですね、ヒトミさん」
ゲームではエーテル財団の幹部になっていたはずだ。そんな人がなぜこんなところに、とヒトミは尋ねる。
「私も研究チームですので、と言っても現場よりも管理や交渉事担当になりますが」
「はぁ……すいません、こんな事させてしまって」
そういって礼を言って紅茶をすする。ビッケの言うとおり良い香りはストレスを軽減させるのか、ヒトミの表情が和らぐ。
「それで、ウルトラボールの方はどうですか」
「……」
ヒトミは無言になってしまう。
「その様子だと上手く言ってないみたいですね」
ビッケが苦笑いをしている。ヒトミに対して特に面識もなければ、関係もないビッケだが、丁寧な物腰を崩さないのは彼女の性分なのだろう。
「あ、そういえば例のUB……コスモッグは貴方には特に興味を示すみたいですね」
そう言って、別の話題に変わる。
「ああ、かなり懐いてくれてますね。て言っても、あいつは好奇心が強すぎて誰でも付いていくし、目を離したらどっかいっちゃうんですけどね」
リーリエがコスモッグをバッグに入れてたのは、ボールで捕獲出来なかったからなのかもしれない。あの時点でウルトラボール完成してたかどうかは判断できないうえ、一個数百万という事で、もしかすればボールを使うのがもったいない、ということだったのかもしれない。
「やっぱり、ウルトラホールから来た人やポケモンは惹かれあうんですかね。そう考えると、ちょっと運命的な気もしますね」
ビッケが何気なしに呟く。コスモッグもUBなので、ウルトラホールからきたはずだ。そこで、ヒトミはふと思いつき、言葉にする。
「ウルトラホールに戻りたがってる、とかですかねぇ」
「あぁ、そういう考え方も出来ますね。確かに故郷の匂いがすれば、私達も興味を持ちますものね」
ウルトラホールから来たリラにUB達が惹かれているという設定がある。故郷に戻りたいという感情であれば、ポケモンも人も関係なくリラがUB達に対して同情する気持ちもわからなくはないかもしれない。
(マッシブーンとか、あいつ筋肉見せつけに来ただけだしな。)
「……ビッケさん、ウルトラホールに近い周波数とかって、ボールで再現出来ます?」
「それは……不可能ではありませんが、Zストーンに近い鉱石を探す必要がありますね。費用としては材料代だけでも、ちょっと驚く金額になりそうです」
「ですよねぇ……ルザミーネさんに言ったら出してくれないかなぁ」
「あはは、代表はこの研究に没頭してますからね。もしかしたら、ですね」
ルザミーネ代表の執着は、傍から見ても異常である事はエーテルパラダイスでの研究を見れば分かる。ただ、まだヒトミとは面識はない。
「一応、案として出してみますね」
「あ、俺の名前は出さないで貰えます」
「分かってます、ザオボーさん提案と言う形で資料を作っておきますね」
「なにからなにまですんません、一応そういう約束でここ手伝ってるんで」
エーテル財団にヒトミの名前が残れば歴史が変わるかもしれない。
「それでは失礼しますね」
優雅に一礼をしてビッケが退室する。
「あ~、もうひと頑張りすっか」
折角の紅茶はもう冷めてしまったが、ビッケが入れてくれたものなのでグイっと飲みきる。いつまでも腑手腐っている訳にはいかないと頬を叩き、何か方法がないかと再び頭を悩ませた。
読了ありがとうございました。ここからは、ポケモンのデータになりますので、興味のない方は飛ばしていただいて問題ないです。
コスモッグ
せいうんポケモン
アローラ図鑑No.289
そういえば図鑑にはUBも○○ポケモンと表記されてますね。一応ポケモン扱いでいいのかなぁ?
今回はここまでです、良ければ次回もお付き合い頂ければ幸いです。
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第二十三話
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでも良いという方は、お付き合いください。
「ヒトミさん、話したい事が」
ザオボーから呼び出されて、ヒトミはいつものようにエーテル財団に行く。勿論、スカル団の船で地下からだ。
「ザオボーさん、どうしました。ウルトラボールの考察はまだ出ませんよ」
ヒトミはあれからどう頭を悩ませ続けたが、方法は見つっていない。ゲームをプレイしただけでは、ほとんど情報出てないため、分かないのも無理はない。
「ルザミーネ代表から、ウルトラボールの開発の許可が降りました」
「……うっそだろ」
ザオボーから告げられる驚愕の言葉に、ヒトミはただ呆然とする事しか出来なかった。
「現在、アローラ地方各地で、材料の交渉を始めてる状態です。ということで、そちらの事で協力を必要になりましたら、改めて連絡させて頂こうと思います」
「やっべぇ、これで成功しなかったらどうするんすかねぇ」
「と言われても、オッケー出ちゃったからやるしかありませんよ。失敗したら減給じゃすみませんからねぇ」
ザオボーさんが肩を落とす。ザオボーの目の下にくまが出来ており、ろくに睡眠がとれていない事が見てわかる。作業の忙しさか、もしくはストレスによる不眠症か。どちらにしても無理難題であることは明白だ。
「まぁ、悪い事ばかりではないんですけどね。代表も最近の研究の進行具合に大変喜んでおられますし、成功したら昇進間違いないですよ、これは!」
悪そうな体調とは反対に、前向きな言葉を発するザオボー。ゲームでも降格された後もチャンピオンに挑戦したりしているので、基本前向きな性格なのかもしれない。ハウとグラジオとのやりとりで性格捻くれてるイメージもあるが、悪人として描かれているイメージはあまりない人物だ。
「それでは、また何かありましたら連絡します。是非、よろしくお願いしますね!」
がっしりと肩を掴まれた。ザオボーの虚ろな瞳は、失敗した時は道連れだからと言わんばかりだ。危機感に襲われたヒトミは、苦笑いで逃げる算段を立てる。
「とはいえ、ここまで来たらあとは研究チームに任せる事が多いので、これまで程ヒトミさんに頼る事は少なくなるでしょうね」
「そいつは助かります。給料貰えるのはいいんすけど、結構時間とられますからね」
実験となると二日三日滞在、食事制限などは普通だった。しかも不正規労働なので、なにかあった時に訴える事も出来ない。ただ待遇は悪くはなかった。思い返せばいつもやってるのも不正規労働だったため、もう諦めるしかないと再びヒトミは肩を落とす。
「それでは、進捗の確認とこの後会議がありますので、手短ですみませんが、私はこれで」
これからもよろしくと言われて、エレベーターへ向かうザオボー。後ろ髪を引かれつつも、スカル団の船に乗り込み、アーカラ島のモーテルに戻ることにする。
「うっす、ヒトミさん、用事終わりましたか?」
船の運転席に座っているスカル団の下っ端が声をかける。
「ああ、待たせて悪かったな」
「いやいや、ヒトミさんに任せて船壊されてもキツイんで」
「……下手糞で悪かったな、アーカラ島まで頼むわ」
「了解しました、行きますよ」
なんだかんだ言って、スカル団には一芸に長けた者が結構いる。この船についてもそうだ、がらくた間際の船を修理する奴や、運転が上手いやつ、色んな奴がいて協力してスカル団が成り立っている。エーテル財団からの支援を得ている事もあるのだが、今回のヒトミの働きでそれも更に増えるかもしれない。ようやく一区切り付いた事に安堵を覚え、ヒトミは船の上で脱力する。たった二ヶ月ではあったが、ある意味濃い時間だった。ザオボーやビッケとの対面、エーテル財団の研究員と議論をぶつけ合うなど、いつも観光地で小銭を稼いでるヒトミには想像もつかない出来ごとだった。ヒトミにとっては楽しい時間だったかもしれない。
「あれ、これ家族崩壊ルートまっしぐらじゃね?」
そこで初めてサンムーンの事件の元凶になっている事に気づく。
「なにぶつくさ言ってるんですか、もうちょっとで付きますよ~」
「……忘れよう、全部忘れて知らなかった事にしよう」
普段あまり飲まない缶ビールを買って、つまみとポケ豆を購入してモーテルへ帰宅する。迎えてくれる仲間たちと一緒に、騒いでしまえば、きっと明日は良い明日になると現実逃避をしていると、船はアーカラ島へとたどり着いた。
読了ありがとうございました。今回もポケモンのデータなどはないです。
主人公がUB関連のイベントの元凶になった、と表記していますが、設定としては未来は収束する、となっています。つまり、ヒトミが介入しなくても、コスモッグは見つかるし、ウルトラボールは開発されていた、という設定です。
どちらかというと、この辺に関してはUBとかウルトラホールとかに興味を持った時に設定を作って、書きたかっただけな部分なので、公式とはかなり違っている可能性があります。
今回はここまで、良ければ次もお付き合い頂ければ幸いです。
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第二十四話
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでも良いという方は、お付き合いください。
プルルルル
「姐さん、なにかありました?」
「なんだい、寝起きかい?」
真夜中まで馬鹿騒ぎをしていたので、もう昼だと言うのに、ヒトミは爆睡していた。電話がなければ夕方まで寝こけていたかもしれない。
「ちょっと昨日飲んでまして……」
「別に構いやしないけど、二日酔いでフラフラとかは止めておくれよ」
そう言われると頭を押さえる。呑み過ぎた訳ではなさそうで、充分にアルコールは抜けているようだ。
「いや、大丈夫みたいっす。ポータウン集合っすか?」
「いや、今回はあたいがそっちに行くよ。シェードジャングルでの依頼だからね」
「ういっす、準備しときます。ちなみにどんな依頼っすか?」
電話の向こうからがさがさと資料をさぐる音がする。エーテル財団がらみの依頼らしい。ちなみに、前のヒトデマンもエーテル財団の研究に使われてたかもしれない。というか、研究施設との繋がりはそこしかないのだから。
「ウルトラホール? についての研究材料調達っぽいね。詳細はあたいが読んでも分からないから、ヒトミが確認してくれるかい?」
「あ~、なるほど。それでシェードジャングルっすね。準備しときます」
頼んだよと言う言葉と共に電話が切れる。材料調達ということはボール研究関連だろう。材料調達で目処がまだついてないんのだろうか。財団の資料に目を通すと、研究費と材料費で目ん玉飛び出る額になっていたため、失敗したらザオボーの首が物理的に跳ぶ可能性まである。ヒトミにも責任感があるのか、そういった依頼を断る事が出来ないでいる。
「うわぁ、資料内容ざっくりしすぎだろう。ザオボーさんも相当切羽詰まってんな」
「え、なんて書いてあるんだい?」
「要約すると、それっぽいのを見つけて来て欲しい、ってさ」
プルメリが渋い顔をする。
「なんだい、要領の得ない内容じゃないか」
「そりゃまぁ、研究進んでない部分だしねぇ」
草木を掻き分けながら、とりあえず歩きまわる。アマカジやカリキリが時に飛びだすが、プルメリとヒトミが一緒に倒して進む。
「あ、ヒトミじゃん。なにしてんの?」
キャプテンのウスユキが出てきた。どうやら、主のラランテスの世話をしてたみたいだ。
「いや、ちょっと探し物をね」
「へぇ~、また何か悪い事してんじゃないでしょうね」
その言葉にヒトミは少し驚くが、悪い事はしていないと弁明する。
「スカル団と一緒にいたりとか、悪い噂立ってるんだから、気を付けてよね」
ヒトミはウスユキにはスカル団に所属している事は隠している。ウスユキがスカル団を嫌っているので言いだせないのもあるが、基本的にスカル団以外には隠している。プルメリも今日はスカル団のタンクトップはきていないし、スカル団としての知名度もないので、ウスユキが気付く様子も無い。
「……って、プルメリじゃない、なんでヒトミと一緒にいるの?」
いぶかしむ様に見つめられる。
「あれ、なんか不味かった?」
「島めぐりの時にね、相性がよかったから楽勝だったけどね」
悔しそうに顔を歪めるウスユキ。
「あの時からララも成長したんだから、今は負けないけどね」
「どうだか、あたいだって強くなってるんだからね」
二人はバチバチと火花を飛ばしあってる。トレーナーは皆好戦的なのはなぜだろう、と困った顔でヒトミが二人を諌める。
「ははは、今日は探し物で来てるんだから、バトルはまた今度にしてくれると有難いんだけど」
「ちっ、まぁ手間取っても仕方ないしね」
「へぇ~、逃げるんだぁ。まぁ、今日のところは見逃してあげる」
「……絶対ぼこぼこにしてやる!」
「やってやるわよ!」
「だから! また今度にしてくれよ!」
喧嘩腰の二人を収めるのに時間がかかり、へとへとになったヒトミと、不機嫌な二人がそこに立っていた。
「ふんっ、これ以上ここにいたらまた喧嘩になっちまうね」
そう言って、プルメリは別方向へ行ってしまう。
「ね、姐さん!」
「心配しなくても、なんか見つけたら連絡するよ。あんたも、必要な時は呼びな」
振りかえることなく、手だけ振って草むらの向こうに行ってしまう。
「べぇーっだ、今度こそコテンパンにしてやるんだからっ!」
「ウスユキさんも、大人気ないっすよ」
そう言われると、ウスユキも少し冷静になった。
「まぁ、キャプテンになった時にいの一番に負けた相手だから仕方ないかもしれないけどね」
「ふにゃあ! なんで知ってるのさ!?」
プルメリから聞いているので、仲が良くないという話も聞いていた。
「言う通り、まだラランテス育ってなかったみたいですし、いいじゃないっすか」
「でもぉ、悔しかったもん……」
キャプテンでも、色々あるんですね、と分かったような言葉で濁す。二十歳目前なのに、ウスユキの子供っぽさが抜けないのは、彼女の性格であり、もしかすれば調書でもあるかもしれない。
「もう! その話はなしだから! 探し物って何?」
「あ、そうそう、それで来たんだった」
ヒトミはこれまでの経緯は伏せながら、試練の主について聞いてみる事にした。
「ん~、その辺はシェードジャングルの主に選ばれた時から、そのオーラを纏う訓練をしてるから、どうやってとかはちょっと分からないかなぁ」
「えっ、前任から教えて貰ったりしないんですか?」
それが分かればいいんだけどねぇ、とウスユキは困ったように話す。
「うちだとカプ・テテフ様に選んでもらって、そのポケモンがいつの間にかオーラを纏えるようになってる、って感じだから」
もしかすればカプが力を与えてる可能性もある。そうなると守り神に力を借りるしかないが、気まぐれな守り神が容易く手を貸してくれるとは思えない。
「あ、でも、ララがいつもいるところならあるよ! 日当たりが良くて、なんかすっごくぽかぽかしてて、いたらなんかこう、やるぞっ、て気分になるとこ」
ふわっとしすぎだと、つっこみを入れるヒトミ。ラランテスなんだから日当たりが良いところは好きだろうが。
「……まぁ、行ってみましょうか」
当ても無くさ迷うよりかはマシだと呟く。藁にもすがる思いで、ウスユキについていく。
「へぇ、こんなところがあったんだ」
ウスユキに言われるままについてくると、開けた場所に、太陽が差し込み、周囲に草木が生い茂り、湧水が小さな水たまりを作り、ラランテスが気にいるのも分かる。
「ふふ、良い場所でしょ? 私も良く来るんだぁ」
ん~、と背伸びをするウスユキ。確かに、一息つくには丁度いいかもしれない、心地好い空気と温かい日差しにヒメを出したら一日中ひなたぼっこしてそうな雰囲気だ。休憩がてら散策していると、ラランテスがその中心で日の光を浴び始める。
「ふふっ、ララもやっぱりここが好きなんだね」
光合成しているだろう、そう思ってみているとヒトミは違和感を感じる。
(空間が歪んで見える?)
まるで蜃気楼のように、ラランテスの周囲が歪んで見える。それはまるで、極小のウルトラホールに見えなくもない。
プルルル
「あっ、ライチさん? えっ、キャプテン会議するって? もう、急に言われても困るよ~……うん、うん、分かった今から向かうね」
ライチからウスユキに連絡があったらしい。
「ごめんね、ヒトミ。私ちょっと用事が出来ちゃったから、行くね」
そう手を振って、ララと一緒に離れていってしまった。ぽつんと一人残されたヒトミは、むしろ好都合だった。
「試して……みるか」
右手にはめた、Zストーンを構える。神経を集中させ、Zポーズをとる。いつものように力が集まる感覚と、それが繋がる感覚を覚える。しかし、いつもと違うのは繋がる先が、この空間の中心ということだ。不安定で小さいが、ウルトラホールが現れれた。やはり、主ポケモンはウルトラホールの力の恩恵を蓄える事でオーラを纏う様になるのだ。そういう場所がアローラ地方には幾つかあるのだろう、だがそれは普段は小さく、目で確認出来る様なものではないのだろう。恐らくポケモン自体も力を蓄える場所程度にしか理解できていないはずだ。
「っと、考え事ばっかしてる訳にはいかないか」
今にも消えてしまいそうなウルトラホールに飛びこむ。吸い込まれる様な感覚と、上下がさかさまになり、ぐるぐると三半規管がおかしくなる様な運動をして、やがてヒトミの意識が遠くなる。
読了ありがとうございました。ここからはポケモンのデータになりますので、興味のない方は飛ばしていただいて問題ないです。
カリキリ
かまくさポケモン
アローラ図鑑No.143
アマカジ
フルーツポケモン
アローラ図鑑No.171
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第二十五話
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでも良いという方は、お付き合いください。
ヒトミが目を覚ますと、無機質な岩壁に囲まれている空間に自分が倒れている事に気付く。
「これが……ウルトラホールの中か?」
周りを見渡し、ウツロイドの存在を探す。どうやら、ゲームでルザミーネが向かったウルトラホールと違う場所のようだ。岩壁の端々に小さな植物が生えている事が分かるが、それ以外に目新しいものはない。ところどころにある鉱石が光を放っている事で、歩く事については特に問題なさそうだ。
「ヒメ、ラフィ、ヨワシ、頼む」
手持ちのポケモン全て出す。ポケモンの姿で現れ、ラフィが手慣れた様子で擬人化の技をかける。
「……草木を感じはしはりますが、異様でありんす」
「そうだね……ちょっと怖い感じ」
「初めてくる感じです? ちょっと寒気を感じるです?」
あまりポケモン達は良くない印象を持っているらしい。その辺りはヒトミよりも敏感だろう。ヒトミは岸壁と植物を少量採取して、小瓶に詰める。
「これから、探索するんだけど……充分に気を付けて進むぞ」
周囲を警戒しながら進む、幸いにも一本道ではないので、特に問題なく進む事が出来る。
「何もないでありんすね」
「……マスター、大丈夫でしょうか」
とりあえずで飛びこんでみたものの、ここまで何もなければ、なにも起きない事に不安を覚える。時計は機能しているので、此処に来てから30分程度歩いた事は分かる。だが、同じ景色ばかり何も発見はない。ちなみに電話も試してみたが、反応はない。当然の様に圏外になっている。
「帰る方法はあるです?」
「やっべぇ」
ウルトラホールから出る方法がないことに今さら気付く。ゲームであれば、ルナアーラかソルガレオがウルトラホールを開く能力があるが、ヒトミ達に開ける手段はない。手探りで探していく事になる。
「はぁ、ここで生き倒れは勘弁でありんす」
ヒメが思いっきり溜め息をつく。
「無計画で悪かったな」
「ま、マスター! 何か来ます!」
ひらり、ひらりと紙が空を舞う様にそれが現れた。
「……カミツルギ」
UB No.04 SLASH
それはひらりひらりと揺れていて、ヒトミ達を認識しているかどうかすら、定かではない。ただ、ヒメは短刀を取り出し、ラフィも構える。
「ヨワシ、群れは呼べるか?」
「……ここでは呼べないみたいです?」
実質戦力はヒメだけになりそうだ。草・鋼の混合タイプなので、ラフィの技構成ではきのこのほうしも、効かない。ニードルガードはまだ使えるかもしれないが、あとはへんしんぐらいか。カミツルギにへんしんしたところで有効打が増える訳ではなさそうだが。
「わっちも……有効打はなさそうでありんすね」
頼みのソーラーブレードも4分の1じゃあ期待薄だ。どくづきは無効だし、あとはしっぺがえしぐらいだ。とはいえ、カミツルギはBが高いタイプだ。半減とはいえヨワシが闘えれば特殊で押せるかもしれなかったが、群れの姿にフォルムチェンジが出来ないのであれば、種族値が足りない。
「……敵じゃなかったら、助かるんだけどな」
今のところ、ひらりひらりと舞っているだけだ。特に攻撃する意思も敵意も感じはしないが、下手に刺激するのは逆効果かもしれない。
「逃げる準備は皆しておけよ、倒すのはちょっと厳しそうだ」
捕獲用のボールもなく、ウルトラボールなしでは捕獲確率が低すぎる。何もかも準備不足だった、迂闊と言うほかない。
「来るでありんす!」
それはまさに風の様なスピードで此方に突っ込んでくる。
ノーマルタイプ いあいぎり
草タイプ リーフブレード
それは目に止まるスピードではなく、火花と残像だけが虚空に残る。
「ヒメ!」
ヒメの和服が一部切り裂かれている。打ち合いで合わせたはずなのだが、スピードが違いすぎる。
「一発落とせなかっただけでありんす、物理ならそう簡単には……落ちないでありんすよ」
強がりはするが、ダメージはそこまで浅くはない。何より、ヒトミには捉えられない速度で少なくともカミツルギは二発以上打ち出しているのだ。
「ヒメは、見えたか?」
「いあいぎりなら軌道は読めるでありんす。まぁ……二発目は見えなかったでありんすが」
一撃目の交錯で、カミツルギにもダメージはあるはず、なのだろうが、その手に当たる部分の刃には、欠けた跡すら見えない。
「……引くぞ。不利すぎる」
せめて、デンジュモクなら闘えたかもしれないのに、なんでこんなに相性の悪い相手が出てくるのか、自分の運の無さに愚痴をこぼすがヒトミはそれでも諦めてはいない。
「殿はわっちが、するでありんす……」
「先頭はラフィだ、ヨワシは……ボールに戻ってくれ」
「……わかったです、どうかご無事でです?」
ヨワシがボールに収まり、カミツルギは変わらずゆらりゆらりと揺れている。
「……いくぞ!」
カミツルギと反対方向、今まで来た道を逆走する。それにどう反応するかは分からなかったが、全速力で駆け抜ける。足の遅いヒメはカミツルギを警戒しながら、ラフィは前方の安全を確認しながら、少しずつ距離が離れていく。どうやら、積極的に攻撃をしてはこないのかもしれない。縄張りの様なものがあるのだろうか。
「ラフィ、あぶないでありんす!」
一瞬の油断が、命取りになる。ヒトミたちのスピードなどあざ笑うかのような速度で一番前のラフィの後ろに追いつく。どうやらカミツルギは一番早い相手を目標にしたらしい。
「……えっ」
ノーマルタイプ いあいぎり
目にもとまらぬスピードで、横一線の軌跡がはしる。その刃はするどく、肉を裂き、骨まで達する。
「離れるでありんす!」
ヒメが全力のソーラーブレードを横薙ぎに放つ。一応当たりはしたものの大したダメージもなく、ひらひらと元いた方向へ飛んでいってしまった。
「マスター、マスター! しっかりしてください、しっかり……マスター!」
カミツルギのいあいぎりは、咄嗟に反応したヒトミの背中を切り裂いていた。ラフィをかばう様に、その一撃を受けた背中は、一部白い骨が見え、横一線にばっくりと開いてしまっている。血がとめどなく流れ、一刻の猶予もないことは明らかだ、顔色は青ざめ、最早時間の問題だろう。
「……主」
ラフィは苦虫を噛み潰した顔をする。殿を務めておきながらこの体たらくだ。悔やんでも悔やみきれないのだろう。
「嫌です、マスター! どうして、どうして……」
錯乱するラフィとは裏腹に、ヒトミは冷静に頭が回っている事を意識する。これ以上の出血は命に関わる、止血をしなければ出血多量でじきに心臓も止まるだろう。
「ヒメ、傷口を焼けるか?」
「ラフィ、布を主の口に挟むでありんす。舌を噛み切らないように」
ヒメの短刀の片方が光り輝き始める。熱量が高まり、周囲が歪む程高温になる。
「……ヒメちゃん、本気なの?」
「一秒でも惜しいでありんす、早く」
普段はのほほんと、柔らかく安穏とした声色が、今は冷酷そのもので、ひんやりと寒気すら覚える程である。
「ラフィ、気絶したら……叩いて起こしてくれ。意識を失ったら、まずい」
「……はい、マスター」
当然だがヒトミは背中を切られた事も、傷口を焼くのも初めてだ。あくまで止血の知識だが、確証なんてない、もしかしたら、死なずに済むかもしれない、と言う程度だ。
「躊躇う時間もないでありんす、御覚悟を」
「う……ぐぅあああああああああ」
絶叫が響き渡る。ジュウと皮膚を焼く音と悲鳴が轟き、幾度も気を失いかける。その度にラフィの掛け声で、意識を繋ぎとめる。それは、地獄の責苦の様に、時間にして数十秒。体感としては、何時間にも感じた。皮膚を焼く痛みと、切り裂かれた痛みで頭がおかしくなりそうだ。ただひたすらに脳が警鐘を鳴らす、痛みで目玉が飛び出して、頭がい骨が破裂したのではないかと勘違いする程、思考をようやく取り戻した頃には、傷口を塞いで数分経ってからだった。
「とりあえず、出血は止めたでありんす。ただ、傷を治した訳ではないし、出血量も酷い……いつまで持つかは、分からないでありんす」
「マスター、マスター! 死なないで、しなな……いで」
ぼろぼろとラフィが涙を流す。幾つもの大粒の涙が、落ちる度に彼女達を悲しませている事が耐えられないと、なんとか体を起き上がらせようとする。ヒメも今冷静でいるのは、恐らく天邪鬼な気質の所為だろう。はらわたが煮えくりかえっている時ほど、冷静に物事をクリアに見れるようになる。
「あ……うぐぅ。これはちょっと、不味いかな」
痛みは相変わらず引きはしないし、動こうとする度に、激痛が走る。背中は熱を持ち、いつ意識が飛んでもおかしくない。
「……下半身の感覚がねぇ」
そして足が全く動かない。おそらく居合切りが脊髄を掠ったのだろう。こんな時に体が動かない、情けない自分に苛立ちながらそれでも、ヒトミは前を向く。
「一刻も早く治療を受ける必要がありんす」
だが、それを実行する手段がない。そもそもアローラに戻る方法すら、分からないのだ。
「ヒメ、ラフィ……」
「わっちは、主から離れないでありんす。何があっても、でありんす」
「……マスターと一緒です。ずっと、ずっとです」
(ああ、くそ。こいつらこんな時までそんな事言うのか。俺の事なんかほっといて、此処を出る方法を探してくれればいいのに)
極限状態で死にかけの人間なんて、荷物でしかない。それなのに、ポケモンたちは主を心配し、諦めることはない。
「……はっ、死ぬわけにはいかなくなっちまったな」
読了ありがとうございました。ここからはポケモンのデータになります。
UB No.04 SLASH
カミツルギ
ばっとうポケモン
アローラ図鑑No.298
草・鋼タイプ
特性:ビーストブースト
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第二十六話
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでも良いという方は、お付き合いください。
足の動かないヒトミはラフィに背負われ、先頭をヒメが歩く。目標はカミツルギとの戦闘である。
「……おでましでありんす」
ひらりひらりと、何も無かったかのように変わらずに宙を舞う。
「この借りは、高くつくでありんすよ」
ヒメは短刀を袖から出し、カミツルギに飛びかかる。それに対応するように、カミツルギが応戦する。
ノーマルタイプ いあいぎり
草タイプ リーフブレード
緑色の光を纏い、カミツルギのいあいぎりを打ち落とす。剣戟がいくつも閃光を残し、鍔競り合う音が遅れて聞こえてくる。
「あ……ぐぅ、ヒメが、闘ってるか」
「はい、マスター。闘ってます、必死に」
閃光がチラつく度に、金属音が響き渡る度に、ヒメは傷ついていく。実力差は明白で、勝ち目など無かった。それでも懸命に、冷静に、耐え忍んでいる。
「かはっ……」
口から血が溢れだす。内臓のどこかを傷つけたのかもしれない。もう、長くはないかもしれない。
「足が動かなきゃ……祈れないと、思ったか?」
震える腕で、両手を合わす。消え行く命を、その魂をZリングに託す。
ゆっくりと、天に伸びゆく手はZリングと呼応し、ヒメの持つZクリスタルと反応する。
「マスター!」
「ここで折れたら……合わせる顔がねぇんだよ!」
迷っても、躓いても、高い壁を越える方法が見つからなかったとしても、諦めないと誓ったのだ。
「ありったけだ、受け取ってくれ……」
それは、命の輝き。生命力の光が、ヒメの持つ両刀に集まる。膨大な熱量と光が、辺りを照らす。変わらずに居合切りを放ち、二筋の剣戟がヒメに迫る。
ギィン、ギィイン
刃の打ち合う音が響き渡る。それはヒメの頬に切り傷がはしり、血が流れ出す。
「……」
それとどうじに、カミツルギの刃に、確かにひびが入っていた。
「残念だが、うちの主は死ぬほど諦めが悪くてね」
再度攻撃を繰り出そうとしたカミツルギに光の刃が振り下ろされる。
「ソーラー……ブレードォォ!」
光の刃が、真っ直ぐ軌跡を残して、どこまでも真っ直ぐ伸びていく。それが通った先は塵も残さず、焼け、吹き飛ばされていく。
「やったの……?」
光の刃の後には、カミツルギの姿は見えなくなっていた。
「いや、飛ばされただけでありんす。あれで倒れてくれるなら、主がそこまで警戒することはないでありんす」
ボロボロになって、ヒメは腕を抑えながらヒトミに近づく。
「こんな状態で……無理なんてするから、この馬鹿主が」
もうヒトミに意識はない。こぼれる涙を止める術もなく、後悔が溢れだしているのだろうか。ヒトミの生気の無い姿を見るほど、今すぐに自分の首に短刀を突き立ててしまいそうな衝動が襲う。
「ヒメちゃん、見て!」
ラフィが指差したのは、ヒメがソーラーブレードを振り下ろした先、その先に亀裂の様なものが見える。それは、此処に来た時の、空間の亀裂と同じだ。
「……これも、計算の内か、主殿よ」
ヒトミの返事はない、だが歩み出すしかない。ラフィと共にヒトミを支え、歩き出す。この亀裂の先に、元の世界がある保証はない。だがそれでも、一縷の望みかけるしかない、なにより、ヒトミが紡いだ奇跡なのだ。それを疑う理由などない。
「いくよ……」
読了ありがとうございました。今回はポケモンのデータはなしです。
イベント戦的な感覚で、データ用意してないです(白目)
草四分の一は正直勘弁してほしいのに、カグヤさんとツルギさんはどうすればいいんですかねぇ(白目)
今回はここまで、次回もお付き合い頂ければ幸いです。
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第二十七話
晴れパでドレディアの仲間作りあたりでしょうか? この辺は思いついたらダブルにはまるかもしれません(笑)
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでも良いという方は、お付き合いください。
ヒトミが目を覚ますと、ポケモンセンターの医務室だった。カーテンで仕切られていて、周りに人影はない。体を起こそうとすると、激痛と共に腹部に重みを感じた。
「ははっ……気持ち良さそうに寝てやがる」
ひなたぼっこをするかのように、ヒメとラフィがポケモンの姿で眠っていた。
「感謝しなよ、ずっとあんたのこと看病してたんだから」
その言葉と共にカーテンが開かれる。出てきたのはプルメリだった。
「あ、姐さん。ここは?」
「マリエシティのポケモンセンターだよ。食欲はあるかい?」
返事代わりに腹の虫が応える。
「体は正直だね、ちょいと待ってな」
そういうと、見舞い品の中から果実を取り出し、器用に果物ナイフで皮を剥いていく。
「え~と、ちなみにウルトラホールまでは覚えてるんだけど、その後はどうなったんです。というか、俺って結構眠ってたりします?」
「三日、此処来た時は、出血多量で生きるか死ぬかってとこだったね。マリエ庭園で倒れてるの巡回中の人に見つかって緊急搬送で今に至るって感じ。ちなみに、ウスユキが帰る時に擦れ違って、あんたがいたはずの所に向かったら誰も居なかったからね。とんだ無駄足を踏まされたって訳だ」
最後の一言に明らかな怒りが含まれていた。
「まぁ、こうやって目が覚めたんだから、それは帳消しってことにしてあげる」
そうして果実を剥き終わり、丁寧に果肉の部分だけ切り出す。
「はいよ、食べれるかい?」
「アザ―ス」
そう言って、手を動かそうとした瞬間激痛が全身に走り、ヒトミはうずくまる。
「つっ……いや、姐さんの剥いてくれた果物を口にしない訳には」
ヒトミの訳のわからないプライドが、激痛を堪えて手を動かそうとする。
「馬鹿、無理すんじゃないよ」
プルメリはそういうと一旦皿を下げる、折角の好意を無駄にしてしまうなんて、とヒトミが呟く。
「はい、口開いて」
「……えっ」
「えっ、て。痛むんだろ、こういう時くらい甘えな」
一瞬、呆然とした表情になるヒトミ。
「もしかして、あーんですかぁー!?」
「馬鹿言ってると帰るよ」
プルメリの顔が僅かに紅潮する。
「あーん」
もぐもぐという擬音と共に果物を咀嚼する。プルメリに食べさせてもらっているからか、純粋に果物の味に喜んでいるのかは分からないが、非常に幸せそうな表情をしている。果物を食べ終えると時計に目を向け、プルメリが立ちあがる。
「じゃあね、ゆっくり療養するんだよ」
「え~、姐さん帰っちゃうの? 俺寂しいよ」
「そろそろウスユキが来るのさ、あたいがいると騒がしくなっちまう。じゃあね」
プルメリはそっ気なく帰ってしまった。二人が揃うとどうしても喧嘩になるので、その配慮からだろう。それから程なく、ウスユキが病室に入ってくる。
「……ヒトミィィッィ!」
ウスユキの勢いに危険を感じたヒトミだが、今体を動かすことはできず、無抵抗にとっしんをくらうことになる。
「アッーー!??」
そうしてヒトミは、失神した。
「へぇ、じゃあさっき起きたばっかりなんだ」
「起きたばっかりで失神しましたけどね」
ヒトミが痛みで気絶して数分、三途の川が見えた等と呟きながら、半泣きで目を覚ました。
「それより、一体何したらそんな大怪我するのよ」
ヒトミの背中の傷自体はふさがっているらしい。火傷の跡は残っているが、内部の血管や内臓、それと脊髄に付随する神経系も、むしろ以前より丈夫になっているのではないか、と医師は言ってる。と言う訳で足は動くが、そのバランスが悪く、当分激痛とリハビリの日々が続く、ということだ。
「いやぁ、ちょっと無茶しちゃって」
「無茶やってんのは、毎度のことでしょ。全く、ストライクに襲われたって、そんな怪我しないよ。しかも、傷口を焼いて塞ぐなんて……馬鹿じゃないの?」
馬鹿なのは否定しません、と反省する。ウルトラホールに計画もなく突っ込んだ時点で無茶だったと、ヒトミはすでに後悔していた。命あって五体満足なのが不思議なくらいなのだが。
「ほんと……本当に心配したんだから」
「ごめん……ごめんな」
少し前に会っていた友人が、死にかけているという連絡が来たら、誰だって心配するだろう。なにより、あの状況でウスユキは一人残してと自分は離れるという選択をしたのだ。
「大丈夫、ウスユキの所為じゃないよ。それにほら、五体満足で帰って来たんだから、結果オーライ、だろ?」
心配性のウスユキは責任を感じずにはいられないのだろう。それはヒトミも理解していて、心配しないでほしいと慰める。
「……うん。帰って来てくれたから、許してあげる」
そういってウスユキが、手を握る。抱きついたらまた失神してしまうので、手で妥協するということらしい。ウスユキの手の温度が伝わり、ヒトミは安堵の表情を浮かべる。
「それで、話は戻すけど。何があったの?」
「それが、俺にもさっぱりなんですわ」
「……はぐらかしてない?」
嘘はついてはいない、解明するのはこれからなのだ。
「いきなり変なところに移動したと思ったら、見た事も無いポケモンに出会って。まぁ、そいつにやられたんだけど、闘ってたらまた最初の現象で……あとはマリエ庭園に落とされたみたいだけど。そん時には、気絶してたから、その辺は俺もわかんない」
「なにそれ、本当なの、それ?」
「う~ん、スリーパーにさいみんじゅつかけられてたって方が現実味があるかな。あれが本当に現実だったのか、正直あんまり自信ないし」
うーむと、ウスユキが困惑する。ヒトミの説明だと、伝わらないのも無理はない。
「まぁ、不思議体験したってことね。しっかし、試練の時から無茶ばっかりしてるけど、本当に気を付けてよね」
「アイサー、命あっての物種だからねぇ」
「茶化さないの。本当に……まぁ、いいわ。そろそろ、面会時間終わっちゃうし、また明日来るね」
「えっ、明日も来てくれるの?」
むっ、ウスユキが顔を顰める。
「なによ、来ちゃ駄目なの?」
「いいや、忙しいのに悪いなと思って。あ、でも来てくれるならウレシイ、ウレシイよ」
溜め息をついて、ウスユキが出口へ向かう。
「リハビリだってあるんだから、誰か来ないと大変でしょ。また明日」
そう言って出ていってしまった。ウスユキの優しさに応え、すぐに体を治さなければと意気込むヒトミだった。
それから、リハビリ期間は特に何も起こらず、順調に快復していった。ライチに怒鳴られたり、ハラに鍛錬不足だと怒られたり、マオとスイレンとカキにお見舞いに来て貰いしたけど、心配してくれる皆に感謝を述べるヒトミ。ウスユキとプルメリは交代で毎日来て、身の回りからリハビリまで手伝っていた。ヒメは数日口を聞かず、ラフィは一日ずっと泣いてそばを離れない、ヨワシは身の回りの世話を焼いてくれていた。
読了ありがとうございました。今回はポケモンのデータなどはありません。
今回はここまで、次回もよろしければお付き合い頂ければ幸いです。
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第二十八話
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでも良いという方は、お付き合いください。
「ひっさびさの外だぁ!」
アローラの日差しの下、大きくを背伸びをする。二週間のリハビリを終え、ついにトレーナー復帰である。深呼吸をして外の空気を吸い込む。まともに歩けないと暇で、パソコン借りて、手持ちの能力値とレベルを確認して、技構成考えたり、ダメージ計算で時間を潰していた。その時に、一つ分かった事がある。
「擬人化した後って、種族値変わるのな」
大きく変動はしないものの、各々変動があった。ヒメはSが下がって、AとHが上がっていた。あと若干Cが下がってる。ラフィはAが壊滅的になって、代わりにHとBとDとCが少し上がって、Sが下がった。ヨワシはほぼ誤差である。群れの姿の擬人化へんしんはできていないので、それも今後の目標の一つとなる。それと同時に分かった事ももう一つ。
「合計種族値は、変わらない、っと」
これは、擬人化する時の条件なのだろう。ククイと調べた時に、体積やそれも関係してくると仮説を立てたが、恐らく種族値合計を変える擬人化については負荷がかかるのだ。一定のラインを越えると耐えられずに技が失敗となる。だが、元々がメタモンのへんしんであることを考えると、種族値の変更自体は不可能ではないとククイは言っていた。そのあたりはまた研究の余地もあり、きっとバトルにも有効だろう。とはいえ、公式戦じゃ使えないので今すぐというではなさそうだ。
「久しぶりっす、調子はどうですか?」
エーテルパラダイスの地下に船を泊め、ヒトミが中に入るとザオボーが出迎える。
「はぁ……進んではいますが、まだ結果は出てないですね。ウルトラホールを開く実験についてはコスモッグのおかげでようやく見えてきそうです。まぁ、アプローチ方法を試していかないといけませんが」
極度のストレスを与える事が条件の一つである事は伝えていない。そうなってしまうとほしぐもが変化する時系列が変化してしまいかねないからだ。願わくば、それ以外のウルトラホールを開ける方法を見つけてほしいと、ヒトミは考えていた。
「ウルトラボールの方は……さっぱりですね、正直実現できるかどうかすら」
「へへへ、朗報ですよ、ザオボーさん」
ザオボーに、ウルトラホールで採取した物質と、撮影した写真、それと作成したレポートを手渡す。
「……まさか、本当にウルトラホールに行ったのですか!?」
「まぁ、以前開かれた場所とは別の場所に繋がってたみたいですけどね。それでも、ウルトラボールの開発に使えると思います」
「さ、流石です、ヒトミさん! さ、早速研究室に持って行かせてもらいますね!」
「是非、よろしく……って、もう行っちゃったよ」
返事を待つ間もなく、エレベーターに乗り込んで地下二階へ向かって行くザオボー。彼は仕事に関しては性格的に抜けてるところもあるが、仕事自体にはまじめなのである。
「……抜けてるとこについては、俺も人の事言えないけどなぁ」
人の振りを見て我が振り直せ、と呟き。船に乗り込み、アーカラ島に戻ろうとした時、頭痛が起こる。頭に浮かびあがるのは、サンムーンの主人公の姿と、そのポケモン達、そしてジカルデ。
「……なんだ、ってんだよ」
「どうかしました、ヒトミさん?」
サンムーンにはジカルデ関連のイベントは収集だけだったはずだ。断片的に映し出される気憶に、心当たりはなく、やがて頭痛は治まっていった。
「いや、なんでもない」
それは死にかけたからの混乱なのか、それとも何かの予感なのか、知る術は今はなかった。
読了ありがとうございました。今回もポケモンのデータなどはありません。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。よろしければ次回もお付き合い頂ければ幸いです。
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第二十九話
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでも良いという方は、お付き合いください。
ザオボーに資料を渡してから三日が経ち、メールが届く。どうやら、エーテルパラダイスの一階エントランスに来て欲しいとの連絡だった。スカル団の格好で堂々と入る訳にもいかないので、いつものアロハシャツを羽織り、タンクトップは隠す。いつも付けているカラーコンタクトは外して、サングラスもバッグに忍ばせる。とりあえずこれで、パッと見でヒトミだと判断出来る人間は少なくなるだろう。どちらかというと良く似てる観光客ぐらいな感じが一番良い。準備を整えたヒトミはエーテルパラダイス行きの定期便に乗り込む。
「え~、エーテルパラダイスに到着いたしました。水上の楽園をごゆっくりお楽しみくださいませ」
ガイドの方がそう放送すると客が船着き場から降り、一階の外部に向かい始める。
「……あれ、中に入るもんじゃないのか」
そう思いながらエントランスに入ると、改装中のカラーコーンが立てられていた。
「ヒトミ様ですね、どうぞ中へおはいりください」
スタッフの一人が、中に誘導する。
「あの、今日は何かあるんですか?」
「本日は水上でのポケモンショー、ライドギア体験と海上と外部でのイベントの日となっておりますので、観光客の方はそちらに向かわれております。改装中ですので、中には最低限のスタッフのみ、配置させております」
そこにヒトミが呼ばれる理由が全く説明されていないが。他の客がいないと言う事は、他に話してはならない内容ということだろう。ザオボーも、ここじゃないと話出来ない理由でもあったのか、そう呟きながら奥へと進む。
「ザオボーさん結構部下に対して上から命令するし、今進行中のプロジェクトもそこそこ無茶だしなぁ、研究室から追い出されたとかじゃなければいいけど」
そんな考えを巡らせながら、エーテルパラダイスの内部に足を踏み込む。内部には整えられた通行路。ゆったりと休んでいるポケモン達、それと清掃や、通路の整備をしているスタッフ達が点々としていた。
「初めて入ったけど、やっぱり綺麗だな」
空調もしっかりと聞いていて、少し涼しい。白い壁の体感効果もあるのだろうか、水が流れる音で清涼感を感じ、きっとポケモンにも、人間にも最適な環境を再現しているのだろう。
「……これは、凄い技術だな」
水上に大規模建築物を建てる時点で財団の技術力の高さが伺える、さらに内部環境も完璧だ。インフラも整えてあり、エーテルパラダイス自体が一大プロジェクトなんだと、改めていやでも理解させられる。あるいは、ポケモン達の協力の成せる技なのか、元の世界とは建築の考え方自体も違うのかもしれない。
「ん~、外ももうちょい見学していきたいなぁ。内部までは無理だろうけど、図面とか、ザオボーさんに言ったら見せてもらえないかなぁ」
公共物関連なら、図面や計画を公開してる可能性もあるが、内容次第では閲覧に手続きが必要な場合もある。もしかしたらマリエ図書館にも資料があるかもしれない。などと、無関係な独り言を呟いていると、一番奥に人影が見えた。そしてヒトミは勘違いをしていた事に気付き、背筋に冷たい汗が流れる。
「ルザミーネ……代表」
「ようこそ、ポケモンと人間の楽園エーテルパラダイスへ。歓迎しますわ、ホシノ ヒトミさん」
金色の髪を膝元まで伸ばし、抜群のプロポーションを余す事なく表現する服装で、まるで女神を想起させるような笑みで、迎え入れられる。
ルザミーネと対面すると、改めてその美しさに驚愕する。スラリと伸びた足、モデル体型のそれは、同じ人間であるかどうかすら疑ってしまうほどに。
「あらあら、そんなに緊張されてしまっては、私も緊張してしまいますわ。折角お会いできたのですから、ゆっくりお話ししましょう」
緊張というよりも、警戒してるといった方が近いのだろうか。
「いやぁ……そう言われても、こんな美しい方とお会いするのは初めてで。緊張が解けるまではちょっと、時間が掛かるかも知れませんね」
そう言って、ヒトミは腰のモンスターボールに手をかける。あくまでルザミーネには見えない様に、そして周囲を確認する。スタッフ達が一様にこちらを警戒する動きを見せた。どうやら、かなり訓練されているようだ。
「ふふっ、お世辞でも嬉しいですわ」
穏和な笑みを崩さない。なによりも、余裕がありすぎる。敵陣真っただ中に飛びこんでしまったということに気付くとヒトミは潔く諦めて、ボールから手を離し、両手をあげる。
「はぁ、随分優秀なスタッフ達みたいですね。本当に周囲に目が行きとどいてる」
「ええ、自慢のスタッフ達ですわ。彼らがいてこそ、このエーテルパラダイスがあると言っても過言ではありません」
そう言って、自慢げにスタッフ達を見つめる。話していると落ち着くような温和な印象を受ける。ヒステリックな感じを予測していたヒトミは、また別の意味で驚くことになっていた。
「ごめんなさいね、手前味噌な話をしてしまって、今回お呼びした件についてお話しないと。まずは、協力して頂いたお礼から」
そういって優雅にルザミーネが頭を下げる。
「そ、そんな! 俺は何も……」
「ビッケからお話は聞いていますわ。研究の結果についてはザオボーを評価してほしい、勿論お約束は守らせて頂きます。ですので、一個人として貴方にお礼を言わせて頂きたかったのです」
「参ったな、代表に頭を下げられると、恐縮してしまいますよ」
フフっ、と微笑み、ルザミーネが話す。
「ここではルザミーネと、お呼び下さい。私も代表と言う立場でお話するには、少し面倒事が多いので」
確かに、ヒトミはスカル団の一員だ。一応、見た目はばれないようには配慮してあったとしても、周囲に知られて良い情報でもない。
「はぁ、分かりました。ルザミーネさん、それで、話の内容とは?」
「貴方のおかげで、劇的に研究が進みました。何年先になるか分からない実験も、仮にですが実を結びつつあります。なにより、ウルトラボールという発想、私たちにはなかったものですわ」
恐らくヒトミがいなくても自力で辿り着いたはずなのだが、この世界ではヒトミの協力があってこそ、ということになっている。
「別次元から来るポケモン達にも、安らぎの空間を。元の世界と行き来出来る方法が確立すれば、それが一番良いのですが、今はまだそれも難しいのです。せめて、突然の来訪者にも、この世界を好きになってもらえれば、良いのですが」
「その一つが、ウルトラボールだと?」
「ええ、ウルトラホールに付随する特殊な現象には概ね良好な反応を示しています。全てがそうだとは限りませんが、それでも、安らぎの場所があるのとないのでは、違いますもの」
本気でUBのこと考えてるということが、その話の熱からも伝わってくる。そう語るルザミーネには慈愛の感情が見える。
「それに、リーリエもグラジオも、コスモッグと良く遊ぶようになって……あまり研究室には近づかない様にと言ってあるのに、子供ですから仕方ありませんね」
何故か、とても嬉しそうに語っている。この時点ではまだ、グラジオもリーリエも脱走していないのだ。ということはタイプ:ヌルに関しての研究も進んでいる最中ということだろう。
「二人とも私に似て、本当にポケモンが大好きで、エーテルパラダイスを計画している時に私だけで管理をしようと話をしていたのですが、二人とも一緒に行くと聞かなくて……毎日、ポケモンと触れ合って笑顔でいるのを見ていると、エーテルパラダイスの計画に参加して、本当に良かったと思いますわ」
多少偏執的な思考はあるが、ポケモンや家族に向ける愛情は本物だ。下手したらウツロイドの毒がまだ入ってない可能性すらある。しかし、まだ二人に裏切られてないから愛情の対象なのか、むしろ親馬鹿と行って差し支えない様子だ。
「あらいけない、子供の事になるとつい夢中になってしまって……貴方にお話しても、詰まらなかったでしょう?」
「いいえ、本当に子供思いなんですね。厳しい方だと思っていたのですが、少し印象が変わりました」
「ふふふ、自分で言うのもなんですが、教育に関しては厳しいんですのよ。勉学については手を抜くつもりはありませんわ……ただ、ポケモンに対しても愛情を持って、育ってほしいと言うのもあって、やはり子育ては難しいものですね。何より、甘えられると中々強く言葉を言えなくて」
「ははは、いいじゃないですか。俺にはまだ分からない話ですけど、きっと子供たちも貴方の事を誇りに思ってますよ」
きっとこの姿が、彼女の本来の姿なのだ。ウツロイドに寄生され、悲しい事件が重ならなければ、優しくて、時に厳しくて、愛情に溢れた人間だったのだ。それ以上に企業家としても抜け目ない人だが。
「ありがとう、そう言われると何だが照れてしまいますね。それと、お礼と合わせて一つ提案がありますの」
「提案……ですか?」
穏和な笑みを崩さず、言葉を続ける。
「エーテル財団の代表としてではなく、一人の人間として、ただのルザミーネ個人として、お互い協力をお願いしたいのです。貴方はきっと、他に代わりの無い、特別なお方ですわ」
その笑みに、ぞくりとする。甘い甘い誘惑。個人としてと言う事は、それに預かる恩恵は多大なものになる。ましては財が溢れかえるほどもつエーテル財団の代表と個人的な繋がりを持つと言う事は、今後何をしようとしても、有効に働く事は間違いない。社会の掃きだめの様なスカル団の人間にとっては、とても魅力的な相談だ。
「勿論、協力させてもらいますよ。うちの団長が貴方と協力してるんですから。スカル団として、ね」
だが、断る。ルザミーネの様な格上の人間に対して、要求を二つ返事で受ける事のリスクが高過ぎる。ザオボー経由で呼び出されて何の用心もなく此処に来た時点で、彼女の掌の上ということになる。二つ返事で受けるには、危険すぎるだろう。
「あら残念、振られちゃったわ」
うふふ、と穏和な表情を崩さない。
「魅力的なお話だったんですけどね、俺が信じたのはグズマのカリスマ性です。そうひょいひょい移り気になってしまっては、男の価値が下がってしまう。いやいや、本当に勿体無い話ですけど、義理は通さないと」
「なるほど、義理ですか。ますます好きになってしまいそうですわ。良ければ、またお茶会にでも誘わせて下さいな。貴方のポケモンも、子供たちに見せて貰えれば喜ぶと思いますし」
「ははっ、うちの団長の機嫌が悪くなければ考えときますよ」
そう話が一段落つくと、スタッフの一人がルザミーネに耳打ちをする。
「呼び出しておいて申し訳ありません。少し用事が出来てしまいまして……またお会いしましょう?」
「ええ、お呼びして頂きありがとうございました。ルザミーネさんのお誘いであれば、地球の裏側でも駆けつけますよ」
そう言って、ルザミーネは移動用エレベーターに乗って姿を消す。
「……つっかれたぁ」
手すりにもたれかかり、脱力する。
「誰だ、あんなキャラ作った人。青少年には悪い影響すぎるぞ。性的な意味で。ついでに、頭良過ぎるし、どこまで読まれただろうか、多分俺の事も大分探りいれられてるんだろうなぁ。ただでさえ国籍不明の不審者なのに、その気になれば一瞬で牢屋か研究所行きだぜ」
慣れない緊張感からか、早口に愚痴をこぼす。
「まぁ、いいか。良くも悪くも、まだ異常は起こってないみたいだし、何より、良い人みたいだしな」
UB関連さえなければ良い人なのだろう。
(もしかしてロリーリエちゃんと会える可能性ワンチャン!? まじで!? 深く考えてなかったけど、それって最高じゃね!?)
「俺のトランセルが固くなっちまうぜ」
冗談はこれくらいにしておいて、通報されないうちにアーカラ島のモーテルへ戻る船に乗る。
定期的に訪れる頭痛と断片的な記憶がヒトミを悩ませる。見知らぬ光景、ラキアナマウンテンの頂上、チャンピオンの椅子、集まる10匹の10%フォルムのジカルデ。自分が何を忘れてしまっているのか、その焦燥感だけが積もっていく。
読了ありがとうございました。今回はポケモンのデータなどはありません。
ルザミーネさんはゲーム内ではヒステリックな感じでしたが、愛情余って憎さ倍増って感じだったらいいなぁ、と思ってそんな設定にしてます。
ただまぁ、教育熱心なところもあり、締めるところは締める、ただ甘えられると弱いお母さん、だったらいいなぁと妄想してたらこんな感じになりました。
今のところはイベントが起こる前なので、ウツロイドの毒が表面的になることはすくなかった、といったところでしょうか。
今回はここまで、次回もお付き合い頂ければ幸いです。
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第三十話
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでも良いという方は、お付き合いください。
出会えたのはショタグラジオでした。
それから、ヒトミはエーテルパラダイスに向かう事が多くなった。研究室の方ではなく、一般開放地域の方だ。ハノハノビーチに続いて、ここも観光スポットなので観光客は平日でもかなり多い。ましてや、珍しいポケモンと会えたり、触れ合ったり、ライドポケモンの質も高い。そして職員の対応も良し、広告も大体的に打ち出しているので、観光施設としてそこそこの売り上げを叩きだしているようだ。つまり、コバンザメの如く、ポストカードを売りつけていくお仕事に勤しんでいる訳だ。
「お二人さん、ちょっといいですか?」
「ん、なんですか?」
ヒトミはカップルで来ている二人に声をかける。良い雰囲気だったので、男の方は少し不機嫌の様だが、それも問題ない。
「記念に一枚、買って行きませんか?」
先程ライドポケモンの試乗の際に、二人並んでいるイラストだ。いつものようにラフィに色を付けて貰い、幻想的に仕上げている。
「わぁ、凄く綺麗! これって写真、じゃないですよね」
「ドーブルが色を付けたものになります。ただの写真より、良い思い出になると思いませんか?」
男の方もその絵を見て、表情が明るくなる。
「綺麗に描かれているし、記念に一枚買ってもいいんじゃないか」
「うん、そうだね」
毎度あり、と料金を貰ってポストカードを渡す。本日も商売は順調、今日のポケ豆はちょっと豪勢にしても良いかもしれない。
鼻歌交じりで他に反応がよさそうな客がいないかとぐるぐると歩いていると、丁度入口から陰になるところから、何処かで見た事がある子供が近づいてきた。
「おいお前、俺を誘拐しろ!」
「……は?」
言われるがままに袖を引かれて、貯水器の管理室らしき場所に入り、鍵を閉める。
「ここなら普段誰も出入りしない。定期点検も夕方の閉館後だから大丈夫だ」
「はぁ……それで、家出でもしたい訳?」
金髪で黒を基調とした服だが、明らかに質の高い身なりをしている。それに、特徴的な髪形、ヒトミはこの少年を知っている。
「俺の名前はグラジオ、エーテル財団代表ルザミーネ母さんの息子だ」
ヒトミはこの時、ウルトラホール、UB、ウルトラボールについては関わってはいたが、タイプ:フルの研究についてはほとんど知らなかった。
「今の母さんは、おかしくなってしまった。タイプ:ヌルはもう限界なのに、実験を止めようとしないんだ……だから、ここから逃がさないといけない。でも、俺一人だとここを出る事もままならない」
「だから、脱出の手助けをしろ……って?」
つまり、二年前にタイプ:ヌルを連れて逃げるというイベントが、まさにこのタイミングらしい。
「じゃなきゃ、無断で商売してること、警察に知らせるぞ」
「いや待て、それは困る」
ジュンサーさんに知られてしまっては、不味い。身分証明も碌に出来ないため、そういった場面になると、刑務所行きもありえてしまう。
「大体、そんな子供の通報で、警察が動くと思うか?」
「エーテル財団の職員に相談すれば、問題ない。それに、皆知ってて見逃してるだけなんだからな」
グラジオが現状を的確に把握している事にヒトミは驚く。ヒトミの立場としては、スカル団所属、非正規労働、擬人化ポケモンと捕まる要素が三拍子揃っているので、グラジオがその気になれば、まず不自由な暮らしを強いられる事は明白だろう。
「オーケーオーケー、まずは冷静になろう。ビークールって奴だ。つまりは、お前とその実験中のポケモンを連れだせってことだな」
「そうだ、協力しろ」
「それじゃあ、確認事項が幾つかある。そのポケモンを連れだすことは可能か?」
「研究室のカードキーは職員の物を借りる事が出来る。研究の時間は決まっているから、昼間の間なら気付かれないはずだ」
流石ルザミーネさんの息子だ、とヒトミは感心する。
「それじゃあ、昼間にそのポケモンを連れだして、ここで合流する。職員はお前の顔を知ってるな」
「……そうだな、ほぼ全員が知っていると思う」
「船に乗り込む姿を見られたとしたら、止められるか?」
「止められるか、母上にすぐに連絡がいくだろうな。そうなると、船の上か付いた先で捕まることになるか」
グラジオは考え込む。思考から答えに至るまでの早さはルザミーネ譲りか教育のたまものか。
「となると、少なくとも此処を出る間は気付かれる訳にはいかない。とまぁ、その辺は俺が変装の用意をするから、なんとかしよう」
「それで本当に大丈夫か?」
「職員だって暇じゃないんだ、一々乗っている子供が誰かまで注視することはないだろ。それに、ポケモンを持ってても不思議なことなんて何一つない。あとは、観光客らしい服装と目立つ髪形を隠す帽子をして、お前がガキっぽく振舞えばばれないかも知れない」
「……かもしれない、か」
「状況次第だ。お前の事を良く知ってる職員が気付いてしまえばそこで終わりだからな」
「なら、観光客が多い日にしよう。数が多くなれば、その分だけ注意が逸れるはずだ」
「となればイベントの日だな、直近でいつになる」
「今週の日曜日、三日後に家族向けのイベントがある。子供と一緒にポケモンと触れ合おうってイベントで、ライドポケモンと広場を開放して、他の地方の四天王に来てもらうらしい」
有名人も呼んでの呼びこみらしい。お金は寂しがり屋だから、お金があるところに集まるって、本当上手い事いったものだ。
「三日あれば変装の準備は充分だ。その研究って言うのは日曜日の予定は?」
「むしろ、その日は職員がイベントの対応と片付けで総動員する。私用がない限り、次の日まで研究室に入る人間はいない」
「それじゃあ、二人分のチケットと変装用具を俺が準備する。そして、観光客に紛れて定期便に乗り込む。それでいいんだな?」
「ああ、構わない」
なんでこんなことになっちゃったんだろうなぁ、と呟いた後ヒトミが疑問を投げかける。
「島に渡った後は、どうする?」
「……幾らか金は持ってる。とりあえずは最寄りのモーテルに部屋を借りて、あとはそれから考える」
グラジオの行く先はスカル団しかない、のだろう。さらに言えばグズマからルザミーネさんに連絡がいって、事なく脱出したとしてもいずれはバレルということだ。むしろゲーム内でもばれてて放置だったのかもしれない。あとはモーテルの費用とか、その辺りが問題になってくる。スカル団所属となると、彼の経歴としては問題になるので、とりあえずはスカル団の用心棒って立場にしないと不味い。かといってまだまだ子供バイトして一人暮らしってのも厳しいのは想像につく。社会経験も少ないだろうし、なにより箱入り息子だ。
「いいか、俺には時間がない。お前に拒否権はないんだ! 分かったか!?」
相当焦ってるということが話し方から伝わってくる。
(ルザミーネさん、貴女の思い通り愛情たっぷりに育ってますよ、性格の曲がり方まで遺伝してますが)
「了解、それと俺の名前はヒトミだ。お前じゃない」
グラジオが呆気にとられた顔をして、初めて笑顔を見せる。
「そうか、悪かったな。よろしく頼む、ヒトミ」
ヒトミは年上なのに呼び捨てにされたことが腑に落ちなかったのか、一瞬戸惑う。
「まぁいいか、よろしくグラジオ」
ちょっとフレンドリィで嬉しいとかないんだからね!
読了ありがとうございました。今回はショタグラジオ回です。
子ども一人でどうやって逃げたのかなぁ、と妄想してたら主人公手伝っちゃえYO展開になりました。まぁ、ヒトミも吝かではないのでいいと思います(笑)
今回はここまで、次回もお付き合い頂ければ幸いです。
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第三十一話
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでも良いという方は、お付き合いください。
三日後
想定通り、その日は家族連れの観光客が押し寄せ、チケットが準備出来たのも幸運と言ったところだ。少し時間が遅れて待ち合わせの場所にグラジオがやってくる。
「すまん、カードキーを盗むのに時間が掛かった」
「船が出るまでまだちょっと時間がある。これに着替えて、服はこのバックの中に入れろ」
そういうと、グラジオは早速着替え始めた、が。
「こ、これはどうやって着るんだ?」
これだから箱入り息子は、と呟きながらヒトミは着替えを手伝う。
「ここに袖を通して、そうそう。それで、前のボタンを止めて……まだズボン履いてないじゃないか」
「い、今から履くんだ、焦らせるな!」
ヒトミは表情に不安を浮かべながら、着替えを待つ。
「……なんか、凄くスースーするぞ」
「我慢しろ、着心地まで考慮できるか」
折角準備しものに対してケチをつけられ、少し不機嫌になるヒトミ。
「そんで帽子を被って、オッケー!」
持っていた帽子を被らせて、パッと見は観光客にみえる。良く見たらばれるだろうけど、ヒトミに変装の技術を求めるのは難しく、時間は更にない。グラジオはテキパキとバッグの中に着替えとタイプ:ヌルが入ったボールを入れる。
「よし、いくぞ!」
「……手際いいな」
「ん、母上から身の回りはきっちり整頓しろと教わったからな。脱いだ後とかも、身の回りの片づけは身だしなみの一つだと」
ルザミーネの教育の厳しさが垣間見える。しっかりと教えを遂行出来ている事に感心しながら、ヒトミは笑みを浮かべる。
「どうかしたか?」
「いや、なんにも」
複雑な家庭環境の中でも、子供も親も頑張ってるんだな、と聞こえないように呟く。
「アーカラ島行き、二人です」
「はいよ……そっちのオチビちゃんは子供かい?」
帽子を被ったグラジオが慌てふためく。
「俺が親に見えます? 親戚の子ですよ。観光に来たわ良いけど、人が多くてぐずっちゃってね」
「そいつは大変だ、船酔いしない様にちゃんと見てやらないとな」
「安全運転、頼みますよ」
そう言って、二人で乗り込む。終始緊張しっぱなしだったが、職員も対応に慌て過ぎててこっちを気にしている様子もなく、ばれている様子はなかった。港につくと、フラフラの足取りでグラジオが船を降りる。
「……大丈夫か、顔色悪いぞ」
「大丈夫だ、ちょっと揺れがきつかったが、陸地についてしまえば……問題ない」
船が苦手というわけでなく、緊張で余裕が無いだけのようだ。ヒトミは、あとはグラジオを送り出して仕事は終わりだと呟いた時、電話が鳴り始める。ヒトミの知らない番号だ。
「……もしもし」
「もしもし、ヒトミさんの番号で間違いないですか?」
どこかで聞いた様な声だ、だがこのタイミングで電話が来るのは怪しい。
「ヒトミですけど、そちらは?」
「失礼しました、ビッケです。グラジオおぼっちゃまは無事にアーカラ島に着きましたか?」
所詮は子供の浅知恵、計画はばれていたということだ。
「ええ、ちょっと緊張で顔色は悪いですけど、一人で歩ける程度には大丈夫ですよ」
「そうですか、それなら良かった。ついでで申し訳ありませんが、モーテルまでおぼっちゃまを連れていってもらえませんか、すでに家賃は振り込んでありますので、グラジオの名前で入れるはずです」
つまり、ビッケさんは脱出の協力者で、逆に言うとグラジオの管理もしていたことになる。手の内の範囲だからルザミーネも許容してたのだろうか。
「あ~、そういうことだったんですね。それはいいですよ。もう降りちゃいましたけど、乗り掛かった船なんで」
流石に此処まで来てはいさようならは後味が悪過ぎると、ヒトミが喋る。
「ありがとうございます。大変申し上げにくいのですが、グラジオおぼっちゃまはあまり世間についてうといところがありましてですね」
「……まぁ、なんとなくは察しが付きます」
「そこでお願いしたいのですが、おぼっちゃまの面倒を見て頂けないでしょうか」
ヒトミは困惑の表情を浮かべる。
「は……俺が?」
「はい、ヒトミさんなら信頼できますし、こちらから状況の確認も容易ですから。勿論報酬はお渡しいたしますし、お坊ちゃまの分も含め、不自由のない支援をさせていただきます」
「いやいやいや、俺についていったらスカル団になっちゃいますよ!? いいんですか?」
「そこはそう……用心棒とか、そんな感じで入団してない事にしてくださいな。それと、タイプ:ヌルは人に対して不信感が強いので、ポケモンの世話の仕方も手伝って頂ければ有難いのですが」
「……そうだ、プランB、プランBはないんですか」
「はい、ありません」
つまり最初から最後まで、ビッケの思惑通りということだ。グラジオがヒトミに話しかけてきた時点で違和感を覚えていたヒトミだが、ビッケ立案であるならば当然だろう。
「どうなっても、知りませんよ?」
「信じてますから、よろしくお願いいたします」
モウドウニデモナーレ。
読了ありがとうございました。今回はポケモンのデータなどはありません。
ショタグラジオを誘拐したのは、ヒトミさんでした(笑)
このあたりからルザミーネさんの暴走がかそくしていった説はアリエール?
とまぁ、今回はここまで、次回もお付き合い頂ければ幸いです。
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第三十二話
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでも良いという方は、お付き合いください。
そうして、ヒトミとグラジオの奇妙な共同生活が始まった。
「ヒトミ、晩御飯の時間は18時と言ったはずだぞ!」
「うるせぇ! 姐さんの依頼があったんだよ!」
現在夜の20時、家庭にも寄るが、お子様には少し遅い夕飯かもしれない。
「生活リズムが狂うと、体調管理もままならなくなる。ちゃんと気をつけろ!」
「ならお前が飯作れよ! はい、炒飯お待ち!」
こじんまりとした丸テーブルを二人で囲み、両手を合わせる。
「いただきます」
同時に言うと、炒飯を食べ始める。お腹がすいていたのか、皿はすぐに空になった。
「ヒトミ、お茶はいるか?」
「あ~、頼む」
グラジオは冷蔵庫の中からペットボトルのお茶を取り出し、二つのコップに注ぐ。
「今日の食器洗いはどっちだっけ」
「昨日は俺だったから、今日はヒトミだぞ」
「え~、お兄さん疲れてるんだけど」
最近になってプルメリに仕事投げられる回数が増え、ヒトミの疲労も蓄積している。
「決まり事は決まり事だ。しっかりと守らないと、信用を失うぞ」
「くっそ、グラジオの癖に正論を……」
ヒトミはお茶を飲み干すと渋々台所に向かう。グラジオは結構細かい性格で、なんやかんや人に口出ししてくる。だが、それ以上に自分に厳しく、やると決めた事はしっかりとする人間だ。
(俺より人間できてるんじゃないかな)
ククイとマーレインと馬鹿やったり、非合法な商売やって食いつないだり、島めぐり放って暮らしてたりと、人として微妙な真っ当とは言えない生き方をしているヒトミ。グラジオと自分を比較すると、少し自分を見直さなければ、と度々呟くが早々気性が変わる訳でもない。
「ヒトミ、歯磨き粉もうちょっとしかないから明日買ってくるぞ」
「洗剤と入浴剤も少なくなってないか?」
「入浴剤は予備があるぞ……洗剤は、買った方が良さそうだな」
「他に何か買うもんあったかなぁ……あ、砂糖が少なかったわ。すまん、砂糖も一袋買ってきてくれ」
「分かった、めがやすで纏めて買ってくる」
ヒトミは同居人の有難さに感謝しつつ、グラジオに対して庶民的な事をさせすぎているのでは、と思う日々を過ごしていた。
「くっ、俺とした事が……」
「グラジオ、大丈夫か!?」
グラジオが膝をつき、腹部を抑える。先ほどの攻撃で立ち上がる事も出来なさそうだ。
アオーン
タイプ:ヌルの咆哮がこちらに敵意を現す。脱走してから1ヶ月が経っても、人間に慣れる様子はない。
「く、くそっ、俺は諦めん……諦めんぞ!」
そうして、ヒトミもタイプ:ヌルのたいあたりを受け、吹き飛ぶ。準伝説は伊達ではない、たいあたりとはいえ人間がそう何度も耐えきれるはずもない。
最初からボールに戻していれば解決していたのに、二人は一体何をしていたのだろうか。
「本当にヒトミは馬鹿だな」
「お前も同じ事してただろ、お前も馬鹿だ!」
「なんだと!? 馬鹿って言った方が馬鹿なんだぞ」
「その理屈はブーメランだぞ!?」
そんなやりとりをしながら、ヒトミは慣れない手付きで裁縫をする。
「へったくそだなぁ」
「うるせぇ……出来た!」
グラジオの破れた服を何とか繋ぎ合せ修復させる。やり方が分からなかったので、とりあえず紐と針と、まだつけやすそうなチャックで対応した。
「ぷっ……なんだこれ?」
「あはは、センスないな、ヒトミは!」
「あ、言ったなお前! 選ぶときお前もこれで良いって言ったろ!」
「ふん、なら見てろ! 次は俺のセンスを見せてやる」
「いや、まず服を破るなよ……」
「……お前、手先も器用なんだな」
「ヒトミみたいに絵は描けないがな。ほら出来た」
ヒトミの時より綺麗に出来てる。相変わらずチャックでの補修ではあるが。
「う~ん、タイプ:ヌルももうちょっと警戒心を解いてくれたらなぁ」
「……ポケ豆作戦も失敗したしな。全く、ヒトミの作戦は宛てにならん」
「くそっ、ラフィの時は上手くいったんだよ! お前のタイプ:ヌルが頑固なだけだろ!」
「なんだと、むしろヒトミの人相に反応してるんじゃないか!?」
「おっ、言ったな! お前も攻撃されてるじゃねぇか。お前も怪しい人間だと思われてるんだよ」
「ち、違う。俺のは愛情表現だ。ヌルは不器用なだけなんだよ!」
それからタイプ:ヌルとグラジオが仲良くなるまで、一年掛かった。ゆっくりと歩く様な速度で、少しずつ少しずつ研究で傷ついた心を癒していったのだ。
読了ありがとうございました。ここからはポケモンのデータになりますので、興味のない方は飛ばしていただいて問題ないです。
タイプ:ヌル
じんこうポケモン
アローラ図鑑No.203
グラジオとの共同生活をもっと書きたかったけど、ネタが出てこないのでもしかしたら書き足すかもしれません。
それでは今回はここまで、次回もお付き合い頂ければ幸いです。
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第二十九・五話
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等、苦手な方はブラウザバックを推奨します。
それでも良いという方は、お付き合いください。
今回は対グズマ対戦編です。
「以上で、報告になります」
ここはいかがわしき館の二階、グズマがいつも滞在する部屋になる。そこには、ヒトミとプルメリとグズマの三人がいた。
「そうか、まぁ、研究の方が進んでるのは俺も聞いてる」
グズマが興味なさそうに椅子に踏ん反り返る。どうやら報告内容もまともに聞いていなさそうだが、それはいつもの事なので他の二人も気にする様子はない。
「……で、いつもは来ないお前が来たのは、どういう理由だ?」
ヒトミは、実際にポータウンやいかがわしき館に入ることはあまりない。もちろん、収集がかかった時、スカル団として下っ端を集める時など、必要時は来るのだが、基本的にはアーカラ島のモーテルを拠点とし、報告なども出来る限り、電話や下っ端を使うようにしている。
「なんでってそりゃあ、トレーナーがグズマさんに会いに来るって言ったら一つしかないでしょう」
ヒトミが変わらない笑顔でそういうと、プルメリが驚愕する。グズマは肉食獣のような笑みを浮かべ、椅子から立ち上がる。
「そりゃそうだ。破壊という言葉が人の形をしている、このグズマ様がぶっ壊してやるよぉ!」
「勝負は二体二、問題ないっすよね?」
「おう、俺の手持ちは今ちょうど二匹だからな……お前は三つ持ってるみたいだが」
「ははっ、一匹はヨワシっすよ。ここじゃ闘えません」
「そうか、ならかまわねぇよ。ちなみに、負けた時は分かってるだろうなぁ!」
グズマの覇気が、部屋をまるごと震え上がらせる。
「へっ、そいつはないっすよ、グズマさん。俺が勝ち目のない勝負、すると思うか!」
二人がボールを構え、ポケモンを繰り出す。
「ぶち壊せ、グソクムシャ!」
「頼んだぜ、ラフィ!」
グソクムシャとラフィが対面する。大きさの差は歴然で、グソクムシャが圧倒しているようにも見えるが。
「ラフィ、ニードルガード!」
「グソクムシャ、であいがしらだ!」
草タイプ ニードルガード
ラフィが空中に棘の檻を描き出すと、それは実体化しグソクムシャの爪を防ぐ。
虫タイプ であいがしら
対面した瞬間、一瞬の不意を突き先制をとる技だが、ニードルガードの発生は早く、読まれていたこともあり、不発に終わる。
「ちっ、シェルブレードだ!」
ニードルガードが崩れ落ちる。同時に攻撃した爪を傷つけられたグソクムシャにダメージが蓄積されていることが分かる。
「ラフィ、バトンタッチ!」
ラフィが空中に円を基準として、幾つもの重なりをもった魔法陣の様な絵を残し、ヒトミと息を合わせ、ラフィをボールに戻すとともに、ラランテスのヒメがその場に現れる。
ラフィに照準を合わせていたグソクムシャのシェルブレードは、ヒメに直撃する。しかし、水タイプの攻撃とは相性が良く、ダメージは深くない。
「それがどうした、シザークロスだ!」
虫タイプ シザークロス
「ラランテス、リーフブレード!」
草タイプ リーフブレード
互いに鈍足のポケモンどうしが、己の武器をぶつけ合う。お互いの体力が削れ、ラランテスもグソクムシャも消耗が激しい。それと同時に、グソクムシャの特性が発動する。
特性 ききかいひ
一瞬でボールへとグソクムシャを戻すと同時にグズマが手持ちのボールを投げる。
「いけ、アリアドス、とどめばりだ!」
虫タイプ とどめばり
特殊な形状をした針が、ラランテスに襲いかかる。すでに消耗していたヒメは耐える事が出来ず、瀕死状態になる。
「よくやったヒメ、ゆっくり休んでくれ」
倒れたヒメをボールに戻しながら、ヒトミはヒメをねぎらう。グズマの場には攻撃力の上昇したアリアドスが待ち構えている。
「さぁ、あと一体だ……どうする?」
「行って来い、ラフィ!」
そうして、再びボールからラフィが現れる。
「ラフィ、きのこのほうしだ!」
草タイプ きのこのほうし
「はっ、無駄なあがきだな!」
アリアドスが眠りにつく、眠っている時間はさほどなく、グズマの掛け声で目を覚ますのも時間の問題だろう。
「ラフィ、へんしんだ!」
「……なっ!?」
ラフィが自分の体にめがけて絵を描き、まばゆい光に包まれると、その姿はアリアドスの姿になった。
「「ふいうちだっ!」」
グズマとヒトミの掛け声が重なる。だがグズマのアリアドスは目を覚まさず、アリアドスの姿になったラフィが一方的に攻撃することになる。
悪タイプ ふいうち
相手が攻撃モーションに入っていた時、その隙を突く形で先制する。それはたとえ眠っていたとしても、発動することができる。
「ちっ、やるじゃねぇか!」
ラフィから攻撃をうけ、壁際まで吹き飛ばされたグズマのアリアドスは目を覚まし、攻撃態勢をとる。
「ラフィ、もう一度だっ!」
「アリアドス、ふいうちだ!」
お互いに動き始めたのは同時だ。そして、一瞬の交錯で倒れたのは、グズマのアリアドスだった。
「ちっ、戻れ、アリアドス」
アリアドスをボールに戻すと、グズマが舌打ちをする。
「やるじゃねぇか、ヒトミィ!」
「さぁ来いよ、グズマァ!」
グソクムシャとアリアドスの姿に変身したラフィが対面する。お互いの指示が飛び交う。
「グソクムシャ、であいがしらだ!」
虫タイプ であいがしら
「ラフィ、シザークロスだ!」
虫タイプ シザークロス
先制技のため、グソクムシャの方が早く、ラフィにダメージを与える。傷は深いが、まだその動きは衰えていない。そして、アリアドスの姿になったラフィの牙がグソクムシャの鎧をはぎ取る。
(シェルブレードじゃない!?)
「キ……シャァアァ」
グソクムシャは、膝をつき、倒れこむ。ラランテスに受けた攻撃を含め、体力は限界に近いだろう。しかし、まだ倒れない。
「くそっ、ラフィ、かげぬいだ」
ゴーストタイプ かげぬい
「これでしまいだ!」
悪タイプ ふいうち
グソクムシャは瀕死間際の体を立ち上げ、ラフィの攻撃の不意を打つために駆ける。ラフィは、せまるグソクムシャをにらみつる。それと同時に、グソクムシャの影が変形し、グソクムシャに襲いかかろうとする。
一瞬の交錯の後、倒れたのはラフィだった。グソクムシャから伸びた影は突き刺す寸前で止まり、もとの形へと戻っていく。
「……ち、くしょう」
己のふがいなさからか、拳を握りしめ、ラフィをボールに戻す。グズマも満身創痍のグソクムシャをボールに戻し、ヒトミに近づく。
「いい勝負だったぜ、ヒトミ。じゃあな」
そう言い残す、とグズマの蹴りがヒトミの腹部をとらえる。吹き飛ぶようにヒトミは窓ガラスを割って、窓の外へと放り出される。
「グズマっ! そこまでする必要があるのかい!?」
「俺に立ち向かうってことは、こういうことだろうが。それでもまだ立ち上がるなら、もう一度破壊してやるよ」
そういって満足そうに椅子に座る。どうやら自分がしたことに対して、疑問すら持っていないようだ。
「くそっ!」
プルメリが焦り、階段を駆け降りる。
館の階段をかけおり、プルメリは走る。
「姉御、さっきのでかい音は……」
「あとにしなっ、それよりヒトミが……」
土手っ腹に蹴りを喰らって、二階から落ちたのだ、無事ではすまないだろう。下手をすれば命すら失いかねない。館の扉を開くと、周囲の下っ端達が群がっているところがあった。恐らく、ヒトミが落ちた場所だろう。
「ヒトミっ!」
駆けつけると、なんとか意識はあるようだ。
「姐さん……どうしたんすか、そんなに……あわて、て」
呼吸をする度に顔をしかめる。どうやらアバラが折れ、もしかしたら内臓も傷ついているかもしれない。
「バカっ! 言ってる場合じゃないだろ!直ぐに病院に向かうよ!」
プルメリと下っ端の一人が支え、ヒトミをポータウンから連れ出す。
「やっぱ、姐さんは優しいなぁ……」
「黙ってな! ったく、本当に馬鹿なんだから……」
ポータウンからでて、歩いて行くと交番で呼び止められる。
「おい、なんだ。そいつは怪我人か?」
「……クチナシさん、二階から落ちたんだ。アバラが折れて、内臓も傷付けてるかもしれない!」
プルメリが答えると、クチナシが怒鳴る。
「馬鹿野郎! そんなやつを動かすんじゃねぇ! 救急車を呼ぶから、ここのソファーに寝かせろ!」
クチナシの適切な指示で、ソファーにねかせられたヒトミは意識が朦朧としているのか、呼吸も荒く、しきりに呻いている。
「もう少しで救急車が来る、お前らが一緒にいるとややこしいだろうから、戻ってろ」
「っでも! ヒトミが……」
そういうと、ヒトミが反応する。
「……姐さん、お……はだい、じょぶだから」
傷付き、痛みを堪えながら笑みを浮かべるヒトミ。その姿に戸惑ったものの、プルメリは歯をくいしばって交番を出ようとする。
「おい、こいつも持ってけ」
クチナシが手渡したのは、ヒトミが着ていたスカル団のタンクトップだった。
「そいつを着ていると、話が拗れる。とっとと行け」
プルメリはそれを握りしめ、ポータウンへ戻る。
ヒトミが目を覚ますと、ウラウラ島の病院だった。どうやら治療は終わったらしく、腹部に包帯が巻かれている。蹴られた腹部と落ちた時に打ち付けた手足以外に特に痛みがない事を確認していると、クチナシが病室の扉を開く。
「ありがとう……やっぱ、クチナシさんは、優しいな」
病室に二人きりになって、ヒトミが口を開く。交番に運び込まれたところまでは意識はあったようだ。
「怪我人を放っておく警官がいるか、普通だよ」
そりゃそうだ、とヒトミは笑い咳き込む。
「ヒトミ、なんでお前はスカル団にいる? その気になれば行くところなんて、いくらでもあるだろうに」
クチナシが呟く。
「……そういうクチナシさんこそ、なんでスカル団を放置、してるんすか?」
「質問を質問で返すな。面倒だからだよ」
「スカル団は……グズマが倒れたら直ぐに、崩壊するような、脆い集団だ。目的も意識も薄い」
そう、独白の様にヒトミは呟く。
「何が言いたい?」
「自販機に群がる虫みたいなもんなんですよ。それが何かも分からないのに、いく場所がないから集まった……そんな掃き溜まりみたいな、所なんです」
クチナシは、言葉を選ぶように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「なら尚更、お前がいる場所じゃないだろ。お前は日の当たるところに行ける。ライチもウスユキも、なんならハラだって、認めてない訳じゃない」
ヒトミの呼吸が荒くなる。アバラが折れているため、呼吸するたびに痛みが走るのか、顔を何度も顰める。
「あいつら、野良猫みたいなもんなんですよ。本当は何処へだって行けるのに、道が分からないから、光に集まって、群れて、自分を守ろうとしてる」
「……ニャースと同じってか?」
クチナシが自嘲気味にこぼす。
「違いますよ。行ける場所があるのは、俺じゃない。あいつらの方なんだ、だけど行き方が分からないからふらついてるだけなんだ……だから、それが見つかるまで、ちょっとだけ間違えるのは、おかしい事じゃない」
「お前はスカル団があった方が良いって言うのか?」
クチナシが問う。
「……試練があって、守り神がいて、今のスカル団はセーフティネットの役割を果たしてるんだ。乗り越えられなかったやつの、モラトリアムになってる。だから、人に疎まれても消えない、無くならないんだ」
「だが、スカル団にいたって、そいつが良くなる訳じゃない。傷を嘗めあって、庇いあってるだけじゃねぇか」
そして、ヒトミはまた笑う。
「だから、クチナシさんも、手を出せないんでしょ? スカル団が無くなれば、元スカル団達は本当に行き場所を失う。虐げられて、の垂れ死ぬしか無くなる」
クチナシが黙りこむ。ヒトミの言う通り、今でこそ集団として成り立っているから、人々はスカル団を嫌いはしても、排除までは出来ない。だが、グズマという旗を失えば、力を失い、行き場もなくなり、彼らはどうなってしまうのか。のたれ死ぬ連中が出たとしても、おかしくはない。
「結局、どうにもならねぇじゃねぇか」
クチナシは俯き、頭を垂れる。おさめることも、解体することもままならない。手を出すことも出来ないのだ。
「大丈夫ですよ、現状を変えようとしているのは、俺達だけじゃない。ククイもマーレインも、グズマもプルメリもウスユキさんだって、スカル団の奴等だって、今日より良い明日を探してる」
ヒトミが呟く、まるで悟ったような表情をしている。
「だから、クチナシさん。出来ない事はやらなくていいんです。やれる奴がやってくれるなら、それでいいんですよ。わざわざ無理したって、こうなっちゃうだけですしね」
「……お前はグズマを倒そうとしたのか?」
「ええ、だけど勝てなかった。やってみるまで分からなかったし、いい勝負だったけど、グズマを倒すのは俺じゃない。そういう事なんだ」
「他に、出来る奴がいるのか?」
「いるよ。きっとそう遠くない未来にやってくる。アローラは変わるんだ、誰かじゃない、一人一人が動く事で、今も昔も……」
そこまで話を終えると、クチナシは席を立つ。
「それじゃあ、俺も待つとするかね。そういう日の下で働くのは、おじさんは苦手なのさ」
「ははっ、そいつが来たら、盛大に迎えてやって下さい。きっと凄い事を成し遂げるやつだから」
クチナシが尋ねる。
「お前は、どうするんだ?」
「俺にも、やることはありますよ。グズマには勝てなかったけど、そっちだけは譲れない、ね」
読了ありがとうございました。ここからはポケモンのデータになりますので興味のない方は飛ばしていただいて問題ないです。
ヒトミ
手持ちポケモン
ラランテス(NN:ヒメ)
Lv:50
実数値:H175 A152 B113 C90 D102 S45
技:ソーラーブレード リーフブレード にほんばれ
与ダメ 対グソクムシャ:78~93(A二段階上昇)
ドーブル(NN:ラフィ)
Lv:37
実数値:H159 A18 B32 C27 D47 S104
技:ニードルガード きのこのほうし バトンタッチ へんしん
与ダメ 対グソクムシャ:23(ニードルガード時)
対アリアドス :88~104 確定二発(アリアドス変身時 A三段階上昇)
対グソクムシャ:75~88(アリアドス変身時 A三段階上昇)
グズマ
手持ちポケモン
グソクムシャ
そうこうポケモン
アローラ図鑑No.183
Lv:63
種族値:H75 A125 B140 C60 D90 S40(合計530)
実数値:H187 A182 B200 C100 D137 S74
特性:ききかいひ
技:であいがしら シェルブレード ふいうち シザークロス
与ダメ 対ヒメ :42~50(シェルブレード、追加効果防御一段階減少)
:120~144(シザークロス ヒメ防御一段階上昇)
対ラフィ:57~68(であいがしら ラフィへんしん時)
対ラフィ:60~71(ふいうち ラフィへんしん時)
アリアドス
あしながポケモン
アローラ図鑑No.023
Lv.55
種族値:H70 A90 B70 C60 D70 S40
実数値:H159 A121 B99 C79 D99 S66
特性:むしのしらせ
技:とどめばり かげうち ふいうち シザークロス
与ダメ 対ヒメ:48~56(ヒメ瀕死→攻撃三段階上昇)
ダメージ計算はポケモントレーナー天国様
実数値はPOKeMONNDS様
上記のサイトを使用させていただきました。ありがとうございます。
ちなみに九ターン目にグズマがシェルブレードを選択していた場合、むしのしらせが発動して、グソクムシャは落ちていました。
あとは乱数次第でどちらが勝ってもおかしくない、そういう状況にしています。
ポータウンのイベントの後、意味深な事を言ってた事とか、スカル団の近くでずっといたとか、理由を妄想してたら、スカル団の存在自体が必要悪だったというところにたどり着きますた。クチナシさんの意味深な発言もそこからかなぁ、と思ってます。
今回はここまで、次回もお付き合い頂ければ幸いです。
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第三章 第三十三話
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでも良いという方は、お付き合いください。
「行ってしまうのか、ヒトミ」
「なんだ、寂しいのか?」
そう応えるとグラジオがふんぞり返る。
「誰が寂しいものか、五月蠅い奴がいなくなって清々するさ。スカル団の用心棒も、俺一人で充分だしな」
タイプ:ヌルが言う事を聞くようになったおかげで、戦力としてはかなり使えるようになった。なにより、その知識と行動力はスカル団に大いに貢献してると言っても良い。なおかつ、グズマからはルザミーネの息子と言う事で特別扱いもされているのでこれからの事に心配はないだろう。
「ようやく、はみ出し者を卒業してまともな職に就いた訳だ。応援しない訳にはいかないだろ」
「いや、グラジオ。お前が言う台詞じゃないから、お前もはみ出し者だから」
「ふん、特に私生活に関してはだらしないの一言に尽きるからな。俺がいないからと言って、自炊や整理整頓を怠るなよ」
「お前はおかんか! ったく、調子に乗るとすぐこれだからな……まぁ、ビッケさんにも伝えてはいるし、プルメリ姐さんにも言ってあるから、困った時は頼りにするんだぞ」
そういうと、少し困った顔でグラジオが返事をする。
「俺は……一人でも生きていける」
「強くならなきゃいけない、か。まぁ、それもいいけどな」
グラジオは未だに、タイプ:ヌルを一人で助け出せなかった事、もっと早く気付いてやれなかった事、最初の一匹の事について悔やんでいる。あの時、自分にも力があれば、と後悔しない日はなかったのだろう。
「その辺は……まぁ、いいや。あいつが何とかしてくれるだろ。強くなって悪いことはないしな」
「ヒトミに言われなくても、強くなる」
「そうだな……いつか、いつか俺より強くなって、タイプ:ヌルの本当の姿を見せてくれよ」
そう言うとグラジオは鼻を鳴らす。
「当然だ! 俺とタイプ:ヌルは最強になるんだからな!」
「ははっ、これはもう心配いらないな。じゃあ、元気でな!」
サンムーンでの物語まで、後一年
ジリリリ
目ざましの音で目が覚める。もう朝か、寝惚けた頭のまま歯を磨き、顔を洗う。すると見計らったかのように電話が鳴る。
「ヒトミさん、今日は研究の結果が出る日ですよ!」
「そんなに大声言わなくても聞こえてるよリラ」
「この結果次第では、アローラ行きのメンバーが決まりますからね。勿論、ヒトミさんも行きますよね!」
なぜかうきうきとして感じでリラが喋る。他の人と会話をする時はクールな感じなのに、ヒトミの時だけは子供の様だ。
「俺はいかねぇよ。誰がサポートすると思ってるんだ。ハンサムさんが話に上がってたし……上が増員を呑んでくれればいいんだけどな」
そうヒトミは言うが、実際のところ可能性は低い。
「そんなぁ、ヒトミさんと一緒にバカンス……もとい、捜査を楽しみにしてたのに」
「いや、事件なんだから楽しみにするなよ。あんまり気を抜くと大怪我するぞ」
特にリラは危険な役割なのだから、とは言わなかった。
「知ってます、任せて下さい!」
「提出して貰った資料は見させて貰ったよ。ウルトラホール、ウルトラビーストの危険性について、確かに対策をするべき事だろう」
幹部の一人が、手元の資料を確認しながら返答する。それに対して、リラの表情は明るくなった。
「ただ、緊急性は認められないな。何より、アローラ地方への人材を手配については時間がかかる。今の所は否定的な意見が多いと、考えられます」
急にリラの表情がくもり、立ち上がる。
「ウルトラビーストが出現してから対応していたのであれば、被害は抑えられません! そんな悠長な対応では……」
リラの言葉の途中で、ハンサムが遮る。
「勿論、リスクについても考慮しております。一人、現地の参考人をお呼びさせて頂いても構いませんでしょうか」
会議室内がざわめき、議長が言葉を放つ。
「必要とあれば、構いませんよ」
その言葉を聞くとハンサムの合図と共にヒトミが現れた。
「彼はリラと同じく、アローラ地方にウルトラホールから現れた人間です」
あれが例の人物か、と一瞬ざわつき、ヒトミの発言に耳を傾ける。
「えー、ウルトラビーストの対策の緊急性と提案について、お話させて頂きます。ただ仮説や確証のない点もありますので、出来れば最後までお聞き頂ければ幸いです」
そうして、一度礼をする。
「私は資料にもありましたが、星野 一海(ほしの ひとみ)と申します。まずは事の緊急性から、エーテル財団は既にウルトラビーストの様な存在を管理下に置き、ウルトラホールを人為的に発現出来る段階まで研究が進んでいると思われます」
「なぜそんな事が分かる!?」
否定派の一人が、声を荒げる。
「信じ難いとは思いますが、その捕獲に私も関与していたからです。しかし、ウルトラビーストであると証明する方法もないので、エーテル財団からの発表はないと考えていいでしょう」
「な、なんだと?」
「私が知っている限りでは、あと1〜2年以内に、ウルトラビーストを発生させる事件が起こるでしょう。まだ発生させる事が出来てもコントロール出来るとは言えない状態ですからね」
「それでは、君の意見を信用して人材を派遣するべきだと? 馬鹿馬鹿しい、そんな事が出来る訳がないだろう?」
反対派が切り返す。
「大規模の派遣となれば、手続きにも時間がかかり、リスクも高くなります。そして、それについて対策を提案させて頂きます」
議長が反対派を抑え、続ける様に指示する。
「まず一つ目、現地のウルトラビーストへの対応は現地のトレーナーへの協力依頼にて対応します。これによりポケモンを渡航させる手続きは最小限で済みます」
「そんな事が出来るのかね」
「アローラ地方には島キング、島クイーンと呼ばれる……他地方の四天王の様なトレーナーがおり、また守り神とされている強力なポケモンも存在します。管理下に置く事は難しいとは思いますが、ウルトラビーストに対しての脅威は私達よりも理解していると思われます」
過去の事例と合わせて、交戦の記録があると告げる。
「二つ目ですが、そこにおられるリラ特別捜査官はアローラ地方が出身国となっています。比較的容易にポケモンを連れて行く事が可能です。現地民の誘導や、情報規制に人材は必要ですが、そちらポケモンは不要ですので、こちらも派遣は容易であると考えられます」
成程と、議会の場が静まる。
「時期と派遣内容については私が言及出来る立場ではありませんが、迅速な対応が必要な以上、現地民の協力と少数の手配を行なって置く事が有効ではないか、と提案させて頂きます」
そうして、ハンサムから詳細についての資料を会議室内に配る。ヒトミが出来る事は全てややり終え、後はハンサムとリラがどこまで押し込めるか、結果を待つしかない。
読了ありがとうございました。今回はポケモンのデータなどはありません。
アローラの事件が起こるまでの間、ヒトミはアローラから出て、ハンサム達と行動していた、という設定です。
今回はここまで、次回もお付き合い頂ければ幸いです。
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第三十四話
なお、レートの方はなおきです。
オリジナル設定、オリジナルキャラ、擬人化等、苦手という方はブラウザバック推奨です。
それでも良いという方はお付き合いください。
「やぁ、ヒトミ。そっちは元気でやってるかい?」
「ククイほどじゃないが、まぁ、良くもなく悪くもなく、世は事もなし、ってとこさ」
テレビ通話で久しぶりに見る友人は、最近結婚報告をしてきた色黒の白衣姿の男だった。
「しかし、悪ガキだったヒトミが研究室に入るなんて、びっくりしたぜ。言ってくれれば、俺だって協力したんだぜ?」
「悪ガキはお前も一緒だろ。結婚して丸くなりやがって。研究室入りつっても、モルモットと待遇が変わらないのはどうかと思うけどなぁ」
豪快な笑い声が、画面の向こうから聞こえてくる。
「ヒトミのことだ、また口八丁でやり込めたんだろ?」
「おいおい、なんて言い草だよ。それ以外のやり方を知らないだけさ」
クックックと、ヒトミは冗談交じりに喋る。
「おっと、それじゃ本題に入るけど、来週の会議は……俺とナリヤ博士とバーネットの所の研究員で良かったか?」
「ああ、間違いないぜ。というか、それだけしか集まらなかったと言う方が正しいけどな」
「ははっ、そりゃあ、あんな無茶苦茶な論文を読む奴なんて、変人だけだよ」
「おっ、漸く自分が変人って自覚したのか」
「おっと、ヒトミほどじゃないけど、って付けるのを忘れてよ」
「どっこいどっこいよ」
画面の奥から、バーネットの声が聞こえる。
「まぁ、それはそうだ。そう言えば、お前の研究所のロフトの上はもう埋まったのかい?」
いつもはバーネットととの交際が始まってからは、いつ子供が出来るのかと言う意味で使っていたが、今では別の確認になっている。
「本当にお前は……勘が良いのか? 時々まるで見てきた様な事を話すよな」
ククイが困った様に頭を掻く。
「残念ながら、朗報じゃないが。一人訳ありの子供がやってきてね。放って置くわけにもいかないから、ロフトに住んで貰ってるよ」
ヒトミはリーリエが逃げ出してきた事を遠回しに確認する。
(ルザミーネさんはカンカンだろうなぁ。戸締りしとこ)
「そいつは大変だな。女の子連れ込んだら、奥さんの目が厳しくなってるんじゃないか?」
「冗談でも勘弁してくれ、半殺しじゃ済まないから。まぁ、バーネットもその子に対して良く世話を焼いてるし、酷く怯えているのと、持ち物以外はいい子で助かってるよ」
特にポケモンの研究には興味があり、覚えが早いので、何かと手伝って貰う事になるかも知れないと言う。
「そいつはいい。お前のボロボロの白衣も直して貰えよ」
「余計なお世話だよ、じゃあ、来週の会議でな」
そう言って、テレビ通話が終わった。どうやら、ゲームの話が進んできた様だ。ちなみに、何カ月後かに親子が引っ越してくるとも、ククイから確認している。
「まぁ、あとはあいつ一人でいいんじゃないかな?」
ヒトミは未だ見た事もない未来のチャンピオンに、想いを馳せる。
会議から一週間、ハンサムから連絡が来る。
「上層部の決定は、やはりウルトラビーストの確認があってからしか動く事は出来ないという事だ。ただ、迅速な対応の為の手回しは行うという所で落ち着いた。リラと俺の渡航の準備もしてある、バーネット博士からの報告次第では直ぐに動く事になるな」
「結局二人だけか、まぁ、妥当な所だろうな。それじゃあ、俺は後方支援って事になるかな」
ハンサムから苦笑いが返ってくる。
「リラがどうしてヒトミが来ないのかと怒っていたぞ。あいつをなだめるのはお前の仕事だろう」
「ははっ、まぁ落ち着いたら、俺もアローラに行きますよ。バカンスって事でね」
「そうだ、飯が美味いと聞くが、本当か?」
「機会があれば、安くて美味い所を紹介するよ。ちょっと店内は汚いかも知れないけどな」
「ははっ、ヒトミが言うなら間違いないだろう」
そう言って、ハンサムからの連絡が切れる。そこからすぐにリラからの電話がくる。
「聞いて下さいよ、ヒトミさん!」
「はいはい、ちゃんと聞くから……」
そうしてリラからの電話は二時間続いた。電話が終わるころには疲労でベッドに倒れこむヒトミの姿があった。
読了ありがとうございました。今回はポケモンのデータなどはありません。
もうちょっと一話の分量増やしてもいいかなぁ、と思いつつ編集が面倒くさいのでする予定がありません(笑)
一話であまり多すぎても読みにくい気はしますが、1000文字ちょっとだと少ない気もします。どうでしょうか?
それでは今回はここまで、次回もお付き合い頂ければ幸いです。
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第三十五話
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化など苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでも良いという方は、おつきあいください。
※指摘していただいた文章、訂正いたしました。
一年ぶりのアローラの地に足を踏み入れる。熱い日差し、透き通る海に、観光客達の喧騒、来たばかりの時と少しも変わらない。少し開発が進んで自然が減ってしまったのは残念だが、建築途中のラキアナマウンテンの頂上に立つ大規模建築物を見ると、これから起きる出来事に胸が踊る。
「やあ、久しぶりだな、ヒトミ!」
「なんだ、マーレインじゃないか、どうしたんだ?」
「どうしたはこっちの台詞だよ、ククイには連絡しておいて僕には何も言わないなんて、酷いじゃないか」
以前と変わらない笑顔でマーレインが迎え入れてくれる。
「悪い悪い、別の件でバタバタしててね。そっちこそ、忙しくないのか?」
「忙しいも何も、連日徹夜さ。フェスサークルもGTSもやっとこさでトラブルばかりでね。本当に無茶苦茶だよ、まさか実現するとは思わなかったけどね」
よく見ると、マーレインの顔の皺が一層深く刻まれている様な気がする。
「だから言っただろ、お前なら絶対出来るって」
「全く、マーマネが居なかったらどうなってたやら。キャプテンも引き継いで貰ったし、頼りきりなのも悪いけど、親友の帰郷くらいは、ね」
「ははは、親友って言ってくれるのはお前くらいだよ。ククイも会ったらどうせ悪態を吐くに決まってる」
「ククイも丸くなったけど、ヒトミ相手だとそうなるだろうね。そう言えば、ガジュマルさん達とは連絡取ってるのかい?」
ヒトミは懐かしいキャプテン達の事をおもいだし、感慨に浸る。
「ガジュマルはここ二ヶ月くらい連絡取れないよ。まぁ、あいつのことだから、世界を股にかけて大航海してるんじゃないか? テンはポケモンコンテストで入賞したって言ってな。一度あいつのダンス、見に言ってやらないとな」
変わらないな、とマーレインが笑う。
「ポケモンバトルの間違いじゃないかい? ちなみに、ウスユキさんの名前が挙がってないけど?」
ニヤニヤとマーレインが話す。
「未だに週に三回は連絡が来て迷惑してるくらいだ。一トレーナーとして世界を巡ってるよ。一々写真撮って送って来なくても良いのに、おかげでHDDをまた買う羽目になっちまったよ」
「でも、ちゃんと保存してるんじゃないか。それも全部」
「……話すんじゃなかった」
ククイもそうだが、やっぱり他人のそう言う所になると嬉々として突っ込んでくるのは最早本能なのだろうか。
「おっ、マーレインも来てたのか。アローラ、久しぶりだなヒトミ!」
ククイがやって来た、どうやら準備が整ったらしく、他の面子も揃っている。
研究所の一室、ポケモンバトルに耐えられる設計をしてある所に、ヒトミとククイが向き合ってボールを構える。
「いけっ、ラフィ!」
「いってこい、ジバコイル」
四方に取り付けられたカメラが、別室でモニターに映し出される。
「さぁ、見せて貰おうか。俺のジバコイルは頑丈だぜ!」
「ラフィ、擬人化バトンだ!」
指示を受けたドーブルは、空中に色とりどりの体液を重ね合わせ、幾重にも重ねられたそれは魔法陣の様に光輝く。
「さぁ、出番だぜ、ヒメ」
そう言って取り出されたボールからラランテスが、魔法陣の真ん中に降り立つ。その光を浴び、ドーブルからの力を受け取り、姿を変える。ジバコイルの十万ボルトが放たれる、砂煙が舞う。そして現れたのは、桃色の和服、長い両袖に、優艶に舞う帯を纏った赤い目をした少女だった。
「はっ、それが擬人化か! 何が変わったんだ、教えてくれよ!」
ジバコイルから、ラスターカノンが放たれるが、それすらも、受け切っても、僅かにしか傷をつける事が出来ていない。
「……特防特化か? それは、草Zの構え!」
ヒトミが草Zのポーズを取ると、ヒメと繋がり、その力がヒトミに流れ込む。
「なっ……能力ダウンだと!?」
ポケモンにZ技で力を与えることは前例がある。攻撃技は威力が上がり、補助技は能力アップや下がった能力を元に戻すこともある。だが、ポケモンの能力を下げるZ技は存在していない。一瞬の疲労の色からオーラがヒメから放たれる。
「特性、天邪鬼じゃな。逆に能力を下げるとは考えたものじゃ」
モニター越しにナリヤ博士が頷く。
「さぁ、いくでありんす」
ひらりと、袖を振るいその場の総ての人間が眼を奪われる。その次の瞬間、ジバコイルにヒメが肉薄している。
「袖の動きは視線誘導、長い裾は足捌きを隠してるのか」
卓越した技術に、マーレインが舌を巻く。
強化された状態で、短刀を振り下ろし、ジバコイルの体に傷をつける。
「……連続攻撃か!?」
ジバコイルが攻撃をかわそうと後ろに下がるが、それにピッタリくっつく様な足捌きに思う様に動けない。二撃、三撃と続き、最後に交差する様にジバコイルを切り裂く。
「流石だぜっ、だか鋼タイプに草技は半減だ! いくらZ技とはいえ……」
ジバコイルがラスターカノンの構えをした瞬間、ククイは違和感を覚える。まだ能力を下げて連続攻撃をしただけだ。それは確かに半減でも十分なダメージがあったが、Z技としては、むしろ低い。連続攻撃のため、二撃までは当たったとしても、その後当たるとは限らないのだ。何より、Zストーンとクリスタルによって生まれた力は、使われていない!
大上段に構えられた、二本の短刀は光の柱の様に輝く。バンギラスの地震にも耐えられる設計の部屋が揺れ、光が当たっている部分が、焼け焦げていく!振り下ろされる光の剣はラスターカノンごとジバコイルを飲み込む様に振り下ろされる!
「「ツヴァイ・シュベァトグラース!」」
ヒメとヒトミ動きが同調し、膨大なエネルギーが叩きつけられる。
「よくやった、お疲れ様ジバコイル」
完全に伸びきったジバコイルをククイがボールに戻す。
「少し、やり過ぎたでありんすね」
口元袖で隠し、修復が必要な研究室内を見ない振りをするヒメ。
「悪いな、ジバコイルを倒すにはこれくらいじゃないとな」
「構わないよ、むしろ、Z技の新しい可能性を見せてくれたんだ。安いもんさ!」
堂々とククイは言うがマーレインは苦笑いをしている。
読了ありがとうございました。ここからはポケモンのデータになりますので、興味のない方は飛ばしていただいて問題ないです。
ジバコイル
じばポケモン
アローラ図鑑No.049
オリジナルZ技
草タイプ ツヴァイ・シュベァトグラース
ニターンの間、Hを除くすべての能力が二段階下がる。一ターン目に二から五回連続攻撃をし、二ターン目に高ダメージを与える。
一ターン目 威力二十 × 二から五回連続攻撃
二ターン目 威力二百
折角サンムーンのネタを書くのでオリジナルZ技は必須だろうと思い、固有特性に合わせたものを作りました、あまりぶっ壊れ性能にならないように、とは考えていますが、ぶっちゃけ使う機会はあまりなさそうです(笑)
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第三十六話
オリジナル設定、オリジナルキャラ、擬人化等苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでもと言う方は、お付き合いください。
会議室に集まり、ククイもヒトミも合わさり、全員が円を描く様に向き合う形になる。
「Z技で能力ダウンとは、それもあそこまで持続させるとは、よく考えついたな」
「元々、Z技自体が極小のウルトラホールの様な物ですから、それ自体は一方通行ではなく、双方向にベクトルを向けられるんです。まぁ、天邪鬼のラランテスだから意味のあることですが」
理論としては出来ても、余程の訓練が無ければ成し遂げられないだろう。
「そもそも、天邪鬼の特性が体内の抗体反応が過剰な個体を指すものですから、一時的にエネルギーを引き抜くと体細胞が活性化して、能力上昇になるんです」
その代わり、負担はよりかかりますが、とヒトミは付け加える。ただ、逆に力を蓄えると不活性化して、元よりも下がってしまうという特性なのだが。
「ゴホン、それよりも、最初のドーブルの技じゃが。あれは、バトンタッチとへんしんを、組み合わせた技じゃな?」
ナリヤ博士がヒトミに聞く。
「はい、バトル形式で擬人化をするにはドーブルの擬人化へんしんが必要でしたので、バトンタッチと組み合わせることで、対戦中でも使用出来る様にしたものです。今回の研究には、あまり関係はありませんが」
そこで、ナリヤ博士が考え込む。数秒間考え、答えをだす。
「元々リージョンフォルムは、環境に適応した進化の形じゃ。基本的には非可逆的な進化を指す。だが、今回はメタモンのへんしんを元とした、可逆性のある変化となる。まだ断定は出来んが、ポワルンやメテノの様なフォルムチェンジに近いものじゃな」
「そうですね、メガシンカの様に更に特化した姿となる訳でもありませんし、個体の能力変化の上下が釣り合いの取れる形にしかならないと言うことは、進化と呼ぶよりかはナリヤ博士の言う通り、フォルムチェンジに近いでしょう」
ナリヤとマーレインの話を聞いて、ククイが纏める。
「よし、この現象を擬人化フォルムと名付けよう!」
「まぁ、擬人化だけじゃなく、他の姿になれる可能性もあるから、仮称ではありますけどね」
ヒトミが横槍をさす。
「でも、その変化は成功してないんだろう? まぁ、仮称であることは否定しないけどね」
「しかし、ポケモンの可能性には驚かされるのぅ。リージョンフォルムの研究にアローラに赴いたというのに、特性をそのままに形を変える、それも己のみじゃなく、他のポケモンも変化出来るとは」
う〜む、とナリヤ博士が唸り、結論をだす。
「だが、まだ公表は出来んな。可能な個体がそこのドーブルのみという事は、研究も出来んしの」
「ははっ、なるべく協力はしますけど……まぁね」
心配そうにヒトミの袖を掴むドーブルの姿を見て、これもトレーナーとポケモンの絆が成せる技だとその場の皆が理解する。
「さて、ヒトミさんはどれ位アローラに滞在するんですかな」
ヒトミはほおを掻き、申し訳無さそうに告げる。
「いやぁ、国際警察関連でまたトンボ帰りしないといけないんですよ。ウルトラホール絡みの対策だとすぐに指揮系統が混乱するので」
確かに、ウルトラホールやウルトラビースト、更にエーテル財団に精通している危篤な人間は、関係者を除けばヒトミしかいないだろう。
「しかし、そんなに警戒することなのかい?」
マーレインが尋ねる。確かに、伝説上のウルトラビーストは脅威と呼ばれているが、島キングも島クイーンも、守り神もいる。備えておくに越した事はないが、焦って今行うべきとは、思えないと、ククイとマーレインは告げる。ヒトミの行動は、すぐにでもウルトラビーストが現れると言わんばかりの行動だ。
「お役所仕事は結果が出るまで時間がかかるのさ。皆知ってるでしょう? 事件が発生してからじゃ、間に合わない……かも知れないんでね」
ヒトミの内心は、彼が現れなかった場合、あるいは想定通りに物語が進まなかった場合の対策であり、問題が無ければ、ククイとマーレインの言う通りである事は間違いない。あとは、リラとハンサムがアローラに向かい、彼が対応すれば済む話だ。無理に自分が関わらなくても、物語は進んでいくのだから。
「あとは、とあるやつと、約束したんでね」
そうして、擬人化についての会議が終わる。
読了ありがとうございました。今回はポケモンのデータなどはありません。
投稿が遅れてしまって申し訳ございません! ストーリーが終わるまで毎日投稿するはずだったのに(絶望)
今日から毎日投稿しますので、よろしくお願いします。それもこれもMHXXってやつの所為なんだ(´・ω・`)
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第三十七話
ちいさくなるやとける系の特殊で擬態とか技にならないかなぁとか、カメレオンの擬態が変幻自在なら、カマキリも変幻自在ワンチャンあるやんとか無理矢理な理論が一瞬頭をよぎったので初投稿です。
オリジナル設定、オリジナルキャラ、擬人化等苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでもという方はお付き合いください。
一年後
「本当に、こっちに引っ越してきたヨウがチャンピオンになってしまったよ。全く、お前はどこまで分かってたんだ?」
テレビ通話でククイが爽やかな笑顔で話す。悔しかっただろうが、全力で闘えた事が楽しかったのだろう。
「馬鹿言え、いつだって今の事しか分からないよ。ただ、ククイはいつだって挑戦者だっただろ? だから、チャンピオンの椅子に座ってるイメージが湧かなかった、それだけだよ」
ククイは豪快に笑う。
「確かに、言う通りだな! 椅子に座ってるより、外にポケモンと出掛けてる方が俺らしいな! だが、また挑戦してやるぜ」
「きっと返り討ちだよ。チャンピオンだってまだまだ強くなるからな」
「それは最高だな、そうやって高めあいたいよ。ところで、お前はまだ帰ってこないのか? ウルトラホールの件も片付いたんじゃないのか?」
「それこそまさかだよ。これからウルトラビーストの捕獲で、そっちに人員が漸く着いたところさ。全く、現地に行ければこんな手間はなくて良いんだけどな、設備が良くなっても、操作する人間がいないなんてお笑い草だぜ」
「あ〜、そういえば、そうだったっけ?」
エーテル財団の協力もあり、ウルトラビーストの周波数を捉え、位置を解析する機械が出来上がったのだ。それも、無駄に技術を投入して、各地に設置した設備から情報を発信すれば、遠隔地でも正確に知る事が出来るのだ。
「確か、固有周波数を確認出来る技術者がいないんだって?」
「信じられるか? グラジオのやつ、早いけどどっか抜けてるのは変わりやしないんだぜ? ウルトラビースト研究施設ならアローラ地方に作れって話だろうに」
ヒトミは盛大なため息をつく。別に急いでアローラ地方に戻る必要は無いのだが、おかげでハンサム達への連絡が遅れるわ、リラからの着信で睡眠妨害をされるわで散々だ、とヒトミは愚痴をこぼす。アローラとイッシュには時差があり、下手をすると深夜に連絡が来る事もある。
「ははっ、グラジオといえば、ルザミーネさんの代わりに頑張ってるよ。あと、この前ヒトミの事話したら自分に知らせなかった事に怒ってたな」
「いや、その頃まだあいつスカル団の用心棒してただろ。連絡先なんか俺が知るか」
「そう言ってやるなよ、やっぱりいなきゃいないで寂しいのさ。むしろ、こんなに離れてるのに覚えてて貰えるなんて良い事じゃないか」
どこか忘れられているかも知れないと、不安を覚える事はヒトミが思う事はあったようだ。ククイの話を聞くと安心した表情になる。
「とにかく、俺には俺のやる事があるのさ。当分帰る事は出来ないよ」
「そうか、それでも連絡ぐらいとってやれよ。あと、良かったら、チャンピオンとも会ってみないか?」
ククイが自慢する、ヨウという人物。アローラ地方の現チャンピオン、島巡りを終え、頂点に立っても、更に上を目指し続ける奴だ。
「いいや、遠慮しておくよ。どうせ、お互いトレーナーをしてたら、いずれぶつかるさ」
「違いないな、それじゃまたな」
ククイとの通話が切れる。それとほぼ同時に、暖かいコーヒーが机に置かれる。
「ありがと、ハイリ」
『いえいえ、当然の事ですマスター。それよりも、疲労の色が見えますので、休憩されては?』
デスクワークばかりで、目の疲労も溜まっていることを漸く自覚し、額をおさえるヒトミ。休むかどうかを考えたが、頰を叩き気合を入れ直す。
「いや、リラとハンサムは今闘ってるんだ。休むのはその後、じっくり休むよ。悪いな、ハイリ」
そう応えると、すっと背後の気配が無くなる。きっと気を利かせて、離れてくれたのだろう。
「……頑張らないと、な」
刻一刻と過ぎていく時間が、焦りを生む。いずれ、その時が来る時の為に備えなければならない。
「ヒトミさぁん!!」
余りの声のうるささに、思わず電話を落としてしまった。
「徹夜で疲れてんだよ、大声は勘弁してくれ」
「あ、すいません。で、でも、ウルトラビースト全て捕獲出来たんですよ!? 勿論、チャンピオンの協力あってのことですけど!」
そうか、やっぱりチャンピオンだな、とヒトミは呟く。
「それより、リラも結構無理したんだろ? 報告関連はこっちで進めてるから、ハンサムと一緒にバカンスを楽しんでいけよ」
明らかな喜びの声が聞こえる。実際、ウルトラビースト関連について、経過観察という事で、リラとハンサムは急な案件が無ければ待機してもらう事になる。なにより、上部への報告よりも大幅に短縮された期間でやり遂げたのだ。というか、エーテル財団のウツロイドの件に掛かった時間を考えれば、二週間で全て捕獲してしまうなどと、予測出来るはずがない。
「で、ヒトミさんはいつこっちに来るんですか!?」
「あ〜、うん。まぁ、その内な」
「そんな、こっちに用事があるって言ってたじゃないですか! 来てくださいよ〜」
電話の向こうで肩を落とすリラの姿が目に浮かぶようだ。
「分かってるよ、そんなに焦らせるな。絶対行かなきゃいけないんだから、もうちょっと待ってくれよ」
「絶対ですよ! 約束ですからね!」
そうして、リラの電話が切れた。恐らく、残りの事務仕事は他の奴に任せても良いだろう。ネクロズマに関しては放っておいても無害だし、何よりヨウが捕まえに行くだろうから。
「よう、グラジオ。久しぶりだな」
かつて同棲した懐かしい弟分からの電話に喜びと少しの寂しさを覚える。
「全く、連絡一つ寄越さないでその態度はなんだ! 本当に社会人なのか! またファストフードばかり食べてるんじゃないだろうな!」
依然と何一つ変わらないやり取りに、思わず笑みが零れる。
「くっ、そんな馬鹿な事を言ってる暇はないんだ」
そうだろうな、とヒトミは応える。そうでなければ態々ヒトミに連絡して来るなんてあり得ない。
「ヨウが居なくなったんだ、アローラのどこにも! 今島全体で探しているんだが、見つからないんだ!」
きっと、藁にも縋る気持ちで掛けて来たのだろう。グラジオにとっても、ある意味恩人なのだろうから。
「さぁ、さっぱり事情は分からないが、仕方ない。俺も探しに行くよ、人手は多い方が良いだろう?」
「ほ、ほんとうか!? 頼む、あの馬鹿を見つけてくれ!」
そうして、ヒトミはアローラに帰る準備をする。荷物の整理と、出立の準備。部屋を引き払い、必要なもの以外はすべて処分する。
「……パソコンのデータは見られないようにしないとな」
読了ありがとうございました。今回はポケモンのデータなどはありません。
ようやく、アローラ地方に帰ります。これまでの間に色々とあったのですが、それはまた別の機会に書こうと思います(書くとは言ってない
それでは今回はここまで、次回もお付き合い頂ければ幸いです。
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第三十八話
カマキリの擬態とは根本的に違うということで、変幻自在は無理かなぁと思いつつ、そんな感じのことしてる準伝説ポケモンでとるやんけと思いつき、タイプ:フルさんに魔改造計画が頭に浮かび上がったので初投稿です(最早ラランテス関係ないなこれ
オリジナル設定、オリジナルキャラ、擬人化等苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでもと良いという方は、お付き合いください。
メレメレ島の船着場に着き、久々にアローラの地に足をつける。強すぎる日差しに少しくらみ、その光景を目に焼き付ける。
「さて、挨拶ぐらいはしとくか」
少し歩いて、ククイの研究所の扉を叩く。
「あぁ、ヒトミか、よく来てくれた。今大変なんだ、手伝って欲しい事がある」
「チャンピオンが居なくなったんだろ? グラジオに聞いたさ。それより、そいつが持ってたポケモン図鑑を見せて貰っても良いか?」
「構わないが、何かそれが重要なのか?」
「ちょっと確認しておきたくて、な」
ロトム図鑑を手に取り、ポケモンについて検索をかける。見事、全ての欄が埋まり、図鑑が完成していた。
「流石だな、やっぱり全部埋まってる」
「あぁ、確かに凄いよ。俺も全部埋めてくれるとは思わなかったよ。でも、それが何か関係があるのか?」
ゆっくりと図鑑を元の場所に戻すと、ヒトミは首を横にふる。
「いや、確認したかっただけさ。さぁ、折角来たんだし、ハラ様にも挨拶しとくか」
「久しぶりですな! 元気にしておりましたかな!?」
ハラの全力のハグに背骨が折れそうになる。
「痛い! 痛いっす! はぁ、ちょっとバタバタしてましたけど、この通り、ちょっとはまともになったつもりです」
にっこりと笑顔で返すと、ハラも笑顔になる。
「それは、何よりですな! 今は少し慌ただしいですが、落ち着いたら、他の地方の話でも聞きたいですな、それに、アローラが変わった事についての話もですな!」
「それは楽しみですね、是非行かせて貰いますよ」
ヒトミが次の島に向かおうとすると、人影が道を塞ぐ。
「おうおう、破壊が人の形をした様なグズマさんの登場だぜ」
「お久しぶりです、グズマさん。元気、ってのはちょっと違いそうですね」
鼻を鳴らし、グズマは腹立たしい様子をする。
「そりゃあ、ヨウのガキにあれだけ盛大に負けりゃあな。スカル団も解散だ、俺も一から鍛え直しだよ」
雰囲気が変わったグズマに、少し戸惑ったヒトミ。
「それで、そんなもん着てどこ行くつもりなんだ?」
そんなもの、というのはシャツの下に隠したスカル団のタンクトップの事だろう。
「いやぁ、懐かしいから着たかったんですよね。ここに居た時はずっと、これを着てたから」
グズマが、押し黙る。沈黙の後に、口を開く。
「お前は、何も言わないのか?」
本当に、これだから勘のいい人は苦手だ、とヒトミは呟く。グズマは確証も何も無いはずなのに、そんなことを言われてしまえば動揺してしまう。
「言いませんよ。墓の下まで持ってかなきゃならない事もありますしね。まぁ、墓があればいいんですが」
「縁起でもねぇことを言うんだな」
「縁起の良い事なんて、こっちに着てから言った覚えはないっすね」
「はっ、まぁ俺は止めないさ。そいつを着てたとしても、もうお前は俺の部下じゃねぇ。だがな」
「寂しいこと言わないでくださいよ」
「プルメリとグラジオには会ってから行け、じゃあな」
そう言って、二人は擦れ違う。これからの事を何も話してはいない、それでも二人は自分の信じた道を行くのだ。
ヒトミがアーカラ島につくとアーカラ島現キャプテンが勢揃いで迎えてくれた。
「ヒトミさん! ククイ博士からこっちに来るって聞いて……」
「マオ、スイレン、カキ、久しぶりだな。大きくなったな、ちゃんとキャプテンやってるか?」
スイレンが溜息をつく。
「ヒトミさんに言われたくないです。ヒトミさんこそ、釣りは上手くなったんですか?」
「ああ、全く釣れないままだぜ!」
「それ、自慢出来ないからね!?」
マオが突っ込みを入れる。
「仕方ないですね、また釣りの仕方、教えてあげますよ」
スイレンがふふふと笑う。
「ヒトミさんは、変わらないな。まるで、テンさんがいた時と変わらない」
「そう言うカキは、逞ましくなったじゃないか。強くなったからって、島巡りの挑戦者を苛めてないだろうな」
「まさか、テンさんの頃と比べたらもっと訓練しないとと思いますね」
「おっ、言ったな? テンさんのガラガラ、また強くなったらしいぜ。今度挑戦してみろよ」
そう言うと、カキの顔色が変わる。
この面子の中では、唯一テンがいた時期に島巡りしたキャプテンだ。勿論、結局負けたままで、なんとかクリスタルは貰うことになったのだが。カキにとってはトラウマになっている。
「嘘でしょう、まだ強くなるんですか?」
「そうビビるなよ。お前だってあと三年もすれば同じ立場になるんだぜ?」
島巡りを終えていないヒトミが言う言葉ではないのだが、それでも気易く受け入れてくれる。
「それじゃ、ライチさんに挨拶してくるわ。じゃあ、元気でな」
若いキャプテン達に後ろ髪を引かれながら、ヒトミはコニコシティへと足を運ぶ。
ライチさんの家の前に立つと、ノックする手が止まる。今更どのツラ下げて会えば良いのだろうか、そんな事が頭をよぎっているのだろうか。
「ノックしたって、ダイノーズしかいないよ。さっさと入りなよ」
「ら、ライチさん」
どうやらライチが丁度戻ってきた時に来てしまったらしい。
「まぁ、とりあえずは元気な顔を見せに来た事は褒めてあげる」
「ライチさんこそ、お変わりない様子で」
部屋を見渡すと、ザ・独身という雰囲気がして居た堪れない空気になる。
「今、失礼な事考えなかったかい?」
「いえいえ、まさかそんな!」
考えていた事が顔に出ていた様だ、慌ててヒトミは否定するがライチも不満そうな顔は戻らない
「ったく、近頃の男どもは根性が無くて情けないね。ちょっと押しただけで、すぐ腰が引けるんだから」
「ライチさん……」
仮にも島クイーンだ、忙しさや立場も合わさって釣り合う男性も少ないのだろう。
「まぁ、その話は良いんだ。良くないけど、あんたに話しても仕方ないしね」
「ええ、本当に仕方ないですね」
ライチは更に不機嫌になる。
「なんだい、ちょっとは紹介するとか気の利いたこと言えないのかい?」
そういうところが面倒臭いって思われるんじゃないっすかね、というとライチの拳骨が下りてきた。
「それで、何しに来たのか、話しても良いんじゃないかい? このタイミングでわざわざ、会った事もない奴を探しに来る様な奴じゃないだろ?」
ヒトミは首を横にふる。
「会って無くても、よく知ってますよ。要領悪いくせに、諦めが悪くて、馬鹿正直な奴です」
「あぁ、鈍臭いとこまであんたにそっくりだったよ。ポケモンの腕と釣りの腕は段違いだったけどね」
いつまでも上達しない釣りの腕は、ヒトミは半ばあきらめかけている。
「それじゃ、何処にいるか、知ってるんだ?」
「まぁ、多分そこだろうな、ってくらいには」
「教える気は?」
「ないですね、こればっかりは譲れないっす」
ライチの表情が険しくなる。
「目の前にいるのは島クイーンだよ。なんなら、船を止めて、あんたを閉じ込めるくらい、訳ないんだ」
「それでも、です。ルールを破ってでも、行かなきゃならない。その為に、ここに来たんですから」
ライチが歯をくいしばる。
「今日ほど、自分が情けないと思う日はないよ。なんで、あんた一人で行くのさ? 力が必要なら、皆貸すよ。なんだったら、島全体で協力したっていい!」
そして、ライチは俯く。
「だから私に、隠し事なんか……するなよ」
「すみません、結局ライチさんに貰ったもの、何も返せなくて。でも、今俺が立ち上がれるのは、ライチさんのおかげなんです」
ヒトミは、いつも手放さなかった島巡りの証を改めて握りしめる。
「なんで……まだ持ってるのさ。馬鹿じゃないのかい?」
「知ってるでしょ、馬鹿なんです。だから、こいつがないと、踏み出す勇気も持てないんすよ。こいつがあれば、諦めずにここに来れたんです」
「……必ず、帰ってくるんだよ」
何も言えずに、家を出る。ここから見える景色を、目に焼き付けるかのように、立ち止まる。
「随分、義理難いんだな、ヒトミは」
「グラジオこそ、わざわざ来るなんて気を利かせるじゃないか。来なくても行くのにさ」
立ち止まっていたヒトミにグラジオが声をかけた。少し俯き、口を開くまで時間がかかった。
「あそこに行けば、お前は後悔するんだろう?」
エーテルパラダイスを指差し、グラジオが話す。
「まぁ、な。大変だったろ? 辛かったろ? そんな時に側にいられなかったからな、原因を作ったのは俺なのにさ」
ヒトミがコスモッグを見つけなければ、ウルトラホールについて助言しなければ、何かが変わったかもしれない。変わる事が恐れて、アローラから離れたといっても間違いではない。ハンサムやリラと対策をすることで、ヒトミは少しでも罪悪感を減らしたかったのかもしれない。
「ふん、ヒトミがいてもいなくても何も変わらないさ。俺も、もう強くなった。ヒトミがいたから、あいつらと一緒に強くなれたんだ」
「なぁ、進化した姿、見せてくれよ」
「勿論だ」
グラジオがボールに手を伸ばす、そして投げられたボールからは、仮面を破ったシルヴァディが現れた。
「すっげぇな、カッコいいじゃないか」
グラジオが自慢げにすると、ヒトミにシルヴァディが近づいてきた。
「覚えてるんだ、ヒトミの事」
「ははっ、可愛い奴め」
頭を撫でると、気持ち良さそうに鳴く。本当に強くなったんだと、ヒトミは呟く。ボロボロだった二年前から、絆を繋ぐまで簡単で無かったであろうことは、想像に難くない。
「さて、良いもん見せて貰ったし、そろそろ行くかな」
「……帰って、くるよな」
「じゃあな」
ヒトミは振りかえらずに、手を振っていってしまう。
ウラウラ島に辿り着く。そこで、マーマネとマーレインが待っていた。
「なんだよ、皆して……暇人じゃないだろ」
ヒトミがそう言うと、マーマネが飛びついてきた。
「グフッ」
マーマネのタックルは重く、吹き飛びそうになるのをなんとか踏みとどまる。
「ヨウも大切だけど、ヒトミも大切!」
「君がいなければ、フェスサークルもGTSも完成しなかったんだ、感謝しても、したりないよ」
「馬鹿言え、俺がいなくたって、完成させてたに決まってるだろ。それが分かってるから、俺は出来るって言ったんだ」
そう言うと、マーレインが笑う。
「そうだね、ヒトミはいつもそう言っていたね。マーマネ、もう離さないと、ヒトミが困ってしまうよ」
そう言うと、マーマネは名残惜しみながら、離れる。
「はぁ、誰にも何も言って無いのに、どうして皆分かったかのように来るかな」
「ははっ、分かりやすいのは昔からだろう? アローラを離れる時だって、分かりやすかったんだから」
もうちょっと、顔に出るの隠さないとなぁ、とヒトミが呟いた。
「行ってきなよ、いつもみたいに僕達は待ってるからさ」
「おう、ちょっと行ってくる」
「えっ、ヒトミ!? いつ帰って来たのさ!?」
「ついさっき、姐さん久しぶり」
プルメリは珍しく慌てふためいて、混乱しているみたいだ。
「全く、帰って来る時も急なんだから、そんで何の用で来たのさ」
「まぁ、折角来たし、挨拶だけでもと思って」
「ふーん、それでいつまでいるのさ。それとも当分はこっちにいるのかい?」
そうなったらまたバイトだね、と笑う。
「そうだ、マオのところ新しいバイトが入ったのさ。あんたが言ってた、料理が好きな奴がさ、マオと仲良くなっちゃって、そのまま料理の勉強なんか始めちゃって……」
二人とも話したい事は、山程あった。解散した後のスカル団の事。それまでの事、これからの事。
「ねぇ、これからどこ行くのさ?」
「ちょっと、野暮用だよ」
「あたいもついてく、駄目かい?」
プルメリが心配そうな顔をする。
「え〜、姐さんの我儘だからなぁ、どうしようかなぁ」
「冗談じゃないよ! 覚悟はあるんだ」
それに対して、ヒトミは首を振る。
「違うよ、覚悟がないから行くんだ。弱いから、皆に会いたくなっちゃうんだよ。だから、姐さん」
「……なんで」
「さようなら、プルメリ姐さん」
プルメリと話したことで、覚悟は決まったのだろうか。いよいよ目的の場所へと足を向ける。
読了ありがとうございました。今回はポケモンのデータなどはありません。
もうちょっとでラストバトルです。
今回はここまで、次回もお付き合い頂ければ幸いです。
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第三十三・五話 前編
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等苦手な方はブラウザバックを推奨します。
それでも良いという方は、お付き合いください。
「主、ちょっとこっちに座りんし」
日当たりのいい縁側で、白湯を啜りながらヒトミを呼び出す。ヒトミは言われるがままに行き、隣に腰かける。
「何か、隠し事しとりまへんか?」
アローラ地方をでてからバトルをする回数が増えている。つい最近では色違いのラルトスを捕まえて、早速レベル上げに勤しんでいるのだが、それにしても急ぎ足にレベリングをしている感覚を覚えていた。
「……ヒメには隠し事が出来ないな」
ため息を一つ、主がこぼす。
「主が分かりやすいだけでありんす。ちなみに、具体的にどういうことを危惧しているか、聞いてもよろしおす?」
そう切り出すと、主はすらすらとこの先のアローラに起こる事、自分が間違えてしまったこと、そしてそれをやり直さないといけない事を語る。
「……また、難儀なことを」
そう呟きながらも、主らしいと感じていた。どこまでもお人好しな主には、仕方のないことかもしれない。
「確かに、戦力は多いに越したことはないでありんす。ただ、相手が相手だけに、闘い方は考えんと厳しいんに」
そう答えると主は一つ問う。
「ついてきて、くれるのか?」
何を今更、と思うが、言い出しにくいのも分からなくもない。
「ヨワシやラフィなら兎も角、わっちは大丈夫でありんす。彼女等は動物であり、魚で有り犬でありんす。故に生きていたいと思い、主を止めはるかもしれん」
それでも最後はついて行くだろうけれど、とつけたす。
「ヒメは……止めないのか?」
「わっちは、花でありんす。勿論、生きているに越したことは、ありゃしはりまへんが」
白湯を啜り、喉を潤す。
「最愛の人のそばで散ることも、歓びにありおす」
そう言うと、立ち上がり背筋を伸ばす。さて、最終決戦に向けて準備が必要だ。
「それで、考えはありまへんの?」
「あれば、試してるんだが、今のところは漠然とレベル上げ位しか思いつかないんだよ」
仮想敵に対して、有効な策が思いつかないらしく、頭を抱えている。なにせ分が悪いにも程があるのだから。
「ふむ、主はどうすれば勝てると思はります?」
無茶でも良い、実現できるかどうかは案を出してから考える物だ。
「他のポケモンは置いて置くにしても、ヒメは特性を活かす方向で考えた方が良いと思う」
特性、天邪鬼だ。能力の上下する変化技は、逆の効果をもたらすという特性だ。自分の場合リーフストーム等が相性が良いとされているが。
「ん~、わっちは特殊技は得意とはいえまへんからなぁ」
元々種族値はAよりなのだ、擬人化する事でさらに拍車がかかっている。
「ということは、新しい技を考えるか、技を改良していく方向になりんす」
「新しい……技か」
そこでもう一度頭を抱える。残念ながらポケモンの知識に関しては明るくないので、そこは主に頼るほかはない。
「何か、変化技をあげていってもらえまへん?」
「からをやぶる、ちょうのまい、つるぎのまい、つめをとぐ、とぐろをまく、りゅうのまい、はらだいこ……」
よくもまぁ、そこまですらすらと技名が出てくる物だ、と感心する。まぁ、わっちが他に関して興味がないだけかもしれないけれど。
「こうそくいどう、てっぺき、ギアチェンジ、つぼをつく、ビルドアップ、コットンガード……」
「ん、さっきなんて?」
そして、主が口を止める。
「何か、気になるのがあったか?」
そう言って、改めて技名を告げていく。そして一つ、これならばという物を見つけた。
アマージョが覚えられるのであれば、自分にも可能ではないか、擬人化能力があればなおさらである。
「とはいえ、そのままだと逆効果なんだよなぁ」
「なにもそのまま使おうとはおもとりまへん。自分の技ならまだしも、他のポケモンの技を精錬するのは難しいのはわかってはります」
その言葉で、主は理解したようだ。
「……改悪なら、ってことか」
特性天邪鬼を利用し、つぼを突くを改悪しようという事だ。
どちらにせよ、一筋縄ではいかないが、試してみる価値はある。
そう考えて、チャーレムやラフィの協力の元、つぼをつくの真似事くらいなら出来るようになったが、本来上昇する数字よりも低く、尚且つマイナス方面になっている。
「逆に血行を悪くするつぼを突くとか、得意にしているポケモンとかはいはりまへん?」
「コジョンドなら、はっけいとかは覚えるけど、それも少し違うような……」
なにより、一つ二つ能力値が上昇したところで、形勢が逆転するとは思えない。もっと、思い切った事をしなければならないだろう。
「……主、ちょっとここを触ってみて貰っても、よろしおす?」
そういうと、自分の胸の部分を指す。
「どうした、考えすぎておかしくなったか?」
「主にだけは言われたくないでありんす、いいから!」
そう言って、無理矢理手を掴み、胸を触らせる。自分の鼓動が高まるのを感じる。
「……鼓動が鳴っているの、わかります?」
「まさか……本気か?」
「実現できるかどうかは、主次第でありんす。わっちはただ、主の命に従うだけでありんす」
そう呟くと、時間が欲しいと主は去って行った。優しい主が思い切るには自分が背中を押すしかないだろう。どちらにせよ、結論は変わらないのだから。
数日後
両手を包帯でぐるぐる巻きにした主が、ラフィに泣き付かれていた。必死で宥めてはいるが、説明に苦労している様子だ。
「一体、何がありんした?」
主に近づくと、耳打ちされる。研究室のトレーニングルームで伝えると言われてしまえば、そこに足を向けるしかない。
トレーニングルームに行くと、主が後から入ってくる。
「覚悟は……決まりんしたか?」
「ああ」
そういうと、ポケットから木で出来た簪を取り出した。
「……それは?」
「こいつを適切に刺す事で、一時的に心臓を止める事が出来る。ヒメの体なら、十数秒で同化し、効果はなくなる。本来なら、その十数秒で能力は低下し、その後瀕死に至る」
本来なら、ということは特性天邪鬼の性能がいかんなく発揮されるということだ。その十数秒間だけ、全開に近い能力が引き出される事になる、という。
「またそんな結滞なものを……まさか、主が削り出した訳でありんす?」
「こんなこと、他の誰かに任せられるか。まぁ、難しくて結構時間かかっちまったけど、これでいけるはずだ」
ふふふと笑う。自分は死ぬ覚悟をしていたというのに、他人の事となるとここまで力を発揮するのだから主は面白い。
「それでは……主が刺しておくんなまし」
一歩間違えれば、死に至る技だ。失敗したときのことを考えれば、すべきではないのかもしれない。ただ、主にこの命を摘まれるというのなら、それは本望である。主は顔を顰め、歯を食いしばって俯くが、やがて覚悟を決めたようだ。
「……いくぞ」
「いつでも」
主がわっちの左胸を触り、鼓動を確かめる。刺す位置を間違えれば、ただの自殺行為となる。緊張が走り、神経を集中させ、間違いないと確信したとき、一気に簪が胸の奥まで差し込まれる。
「……!?」
その瞬間、時が止まったのか錯覚した。特性が発動したのだ。死に直面した体細胞はその全てをいかんなく発揮し、抵抗する。流れる空気も、僅かな呼吸音も、自分の袖がすれる音ですら、耳障りに感じるほど。永遠とも思える感覚も、少しずつ流れている。やがては力を失い、倒れてしまった。
「ヒメ、ヒメ!」
仰向けに倒れたヒメにヒトミが近づき、耳を胸に当てる。
「心臓が……動いていない」
見たところ、同化現象は進んでいるが、肝心の心臓が動いていない。すぐに両手を合わせ、心臓マッサージを行う。
「絶対に、絶対に死なせないからな!」
リズムを刻むように、精一杯振動を与え、人工呼吸を行う。三度目の心臓マッサージでヒメが目を開き、心臓が再び動き出したことがわかった。
「良かった……本当に」
力一杯抱きしめ、ただ生きていてくれたことに感謝をし、涙を流すヒトミ。
「まぁ……成功してよかったでありんす」
「成功? 能力は上がっていたのか?」
ヒトミが首を傾げる。わっちが指を指すと丁度真後ろの壁に目を向ける。そこには直径十センチほどの穴が開いていた。
「あの位置から、あの穴を開けられる程度には能力が上がりはりました」
そう告げて、立ち上がろうとすると体に全く力が入らないことに気付く。
「……動けない、のか?」
「そのようでありんす」
多少指先を動かすことは可能だが、ほとんど動かないと言っても過言ではない。
「それじゃあ、よいしょっと」
主が背中と膝の下に上を通し、体を持ち上げる。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
「外の……日当たりの良いベンチがいいでありんす」
「承知いたしました、お姫様」
時間は丁度真昼頃だろうか、天気は雲一つなく、天気は良好である。ヒトミとともにベンチに座り、肩を預けて寄りかかる。というよりも支えることが出来ないのだ。
「日が落ちるまで、このままで……」
「……ヒメ?」
そう呟くと、体中に疲労感が襲い、気が遠くなる。主の暖かさを感じながら、暖かい日差しの中、まどろみに落ちていく。
「……はっ!?」
目が覚めると、まだベンチに座っていた。隣でヒトミは座っていて、自分が目を覚ました事に気付く。
「目が覚めたか、体の調子はどうだ?」
「ふむ、疲労感は抜けてはおりまへんが、動くようにはなりんした」
そういうと、多少ふらつきながらも立ち上がることが出来る。
「全く、流石に今回は無茶のし過ぎでありんした。当分は休暇を頂けないとダメでありんすね」
それに対して、主はその通りだと応える。
「……まだやることがあるなら、行っても構いまへんよ。わっちはゆるりと戻るとします」
「いや、そんな体で……」
「ゆっくりさせてくんなまし、ほらつべこべ言わずに行った行った」
しっしっと手で振り払う動きをすると、納得のいかなさそうな面持ちでヒトミは室内に戻っていった。
「……」
ヒトミが去った後のベンチで一人佇む。
「まぁ、気付いておりまへんよな」
自分の頬が一気に熱くなるのを感じる。そう、動く能力だけでなく、感覚も普段の何倍も鋭敏になっていたのだ。そして、倒れて四肢が動かなくなった後も、感覚はそのままだった。
「主の……鼓動」
心臓が早くなり、本当に心配してくれている事が鮮明に分かる。額に流れる汗や表情から、自分に対する情を感じ取ることが出来た。
「主の……唇」
人工呼吸とはいえ、唇を重ねたことに違いはない。主に自覚はないだろうし、それによって息を吹き返した事は感謝すべきだ。だが、それとは別次元で意識せざるを得ない。
「……鮮明に思い出せるのが、また厄介な」
あまりにも衝撃的すぎる感覚は、一度眠った後でも、はっきりと思い出せる。唇を重ねた瞬間、主の熱い吐息、その感情すら感じ取ってしまった。
「当分は……顔を合わせない方が良いでありんす」
未だに熱が治まらない頬と、早鐘を打つ心臓を恨みがましく思いながらも、昂ぶる感情には、悪いと思えずにいた。
読了ありがとうございました。
ラストバトル用にオリジナル技を編み出すところを書かせて頂きました。
ラランテス可愛いよラランテス、と言った感じの話でした。
それでは、次もお付き合いいただければ幸いです。
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第三十九話
オリジナル設定、オリジナルキャラ、擬人化等苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでも良いという方は、お付き合いください。
ウラウラ島の中心に位置する日輪の湖。ヒトミがそこに足を踏み入れるのは、初めてだ。荘厳な雰囲気に押し潰されそうになるような圧迫感がある。
「きゅきゅ〜」
「カプ・テテフ!?」
どうしてアーカラ島の守り神がここに、という疑問にヒトミは困惑する。
「きゅきゅ〜、きゅっきゅ!」
ヒトミには何言ってるかさっぱり分からないが、どうやらついてくるという事は分かったようだ。
「いや、この先は危ないんで、いくらテテフ様ても……」
「きゅきゅ〜」
カプ・テテフはヒトミの言葉を聞くつもりはなさそうだ。
「きゅきゅ!」
そう言って、クリスタルをヒトミに手渡す。それは、特別な模様が刻まれたクリスタル。
「きゅきゅ〜」
「頼みますから、無茶しないで下さいね」
そう言って、ヒトミは歩みを再開する。丁度頂上に辿り着くと、探し物を見つけた。
「随分と、待たせたな」
次元の歪み、ウルトラホールへ足を踏み入れる。
そこは馬鹿みたいに広い、何もない空間だった。ただ一つ、椅子が一つあるだけだ。
「待たせたか?」
「いいや、お前に比べれば、大した事ないさ」
そう言うと、少年は立ち上がる。その姿は、わずか十二歳だと言うのに、威厳に満ち溢れていた。
「さぁ、新しい秩序を作ろうか」
アローラ地方チャンピオンのヨウが待ち構えていた。
「いいや、お前は間違っている」
ボールを構える。準備は出来ている。
「何をしている、これから秩序を作り上げる為に貴様を呼んだと言うのに」
「だから、それが間違いなんだよ! 新しい秩序なんて必要ない、お前がそこに立つ必要は無いんだ!」
「何を言う。秩序無き世界はただ崩壊を招くだけだ。お前もそう思ったのだろう?」
「あぁ、その通りだ。だから、集めた、必要だと思った。だが違う! 歪んだルールはまた崩壊するだけだ!」
「ふはは、良かろう。ならば、ここは貴様のルールに従ってやる」
そう言うと、彼はポケモンを呼び出した。
「ガオガエン、獲物だぞ!」
オーラを纏ったガオガエンが現れる、強靭な肉体がオーラによって更に強化されている。
「頼む、ハイリ!」
色違いのサーナイトが現れる。
「DDラリアット!」
悪タイプ DDラリアット
ガオガエンの固有技、高速で回転しながらぶつかる特有の動きは、相手の強化状態に関わりなくダメージを与える特性を持っている。
「トリックルーム!」
エスパータイプ トリックルーム
一定時間空間が歪み、足の速いポケモンを動きが鈍くなる技だ。発動するまで時間がかかり、どうしても後手に回ってしまうが、強力な技だ。
凄まじい勢いで回転するラリアットを避ける事が出来ず、吹き飛ぶハイリ、だが技は発動している。
「ふん、それがどうしたというのだ」
もう一度、DDラリアットを受けるとハイリは耐えられない。
「……ガァァ」
「よくやった、ハイリ」
ゴーストタイプ みちづれ
ラリアットが当たるよりも先に、道連れが発動していた。そのハイリが吹き飛んだ瞬間、ガオガエンにまとわりついた紫色の手が、闇の中に引き摺り込む。残ったのは、気絶したガオガエンだけだ。お互いのポケモンを手元に戻し、新たなポケモンを出現させる。
「小賢しい! いけっ、アシレーヌ!」
もともと足の速いポケモンではないが、纏うオーラでスピードを補っているようだ。
「頼むぜ、ラフィ」
ラフィが出た瞬間、魔法陣を描く。
ノーマルタイプ 擬人化バトン
ヒトミとラフィが編み出した、固有の変化技だ。
「うたかたのアリア!」
水タイプ うたかたのアリア
アシレーヌは大量のバルーンを出現させ、器用に操りラフィに向かって放つ。
「行ってこい、ヒメ!」
現れたのは、桃色の和服の少女、大量のバルーンが割れても顔色一つ変えない。
「……覚悟は、終わりはりましたか?」
ノーマルタイプ 心経穴
ヒメは独特の形をした簪を自ら、自分の胸部に突き立てる。
更にアシレーヌの追撃が来るが、ダメ―ジは殆どないようだ。次の瞬間アシレーヌの前に立つヒメ、技が繰り出される。
草タイプ リーフブレード
ヒメの短刀に緑色の光が宿る。深緑の閃光が閃き、アシレーヌは倒れていた。
「やるな! いけっ、ジュナイパー!」
ジュナイパーを纏うオーラはその体を守るように展開されている。
「続けろ、ヒメ」
歪んだ空間が元に戻り、ジュナイパーの方が早く影縫いを放つ。
ゴーストタイプ かげぬい
ジュナイパーが構えた弓から、矢羽解き放たれ、それはまさに意思を持つかのように動き、ヒメの影をとらえる。
「……くっ」
ヒメの口の端から血を流し、確かなダメージが現れる。だが、それでもまだ倒れた訳じゃない。短刀で、羽を切りとばすと目前に迫るジュナイパーに目を向ける。
飛行タイプ つばめがえし
次元が歪むほどのスピードで振りぬかれた刃は、六本の閃光のみを残し、ジュナイパーが倒れる。
「クァァ……」
そして、がくりと膝をつくヒメ。ヒトミが近寄り、抱え込むと胸に突き刺さっている簪が同化し、脈と呼吸を確認する。顔色は悪いものの、心臓はしっかりと動いているようだ。
「……わっちは、ここまでみたいでありんす」
「よくやったよ、ヒメ。休んでくれ」
回復薬を与え、ヒメをボールに戻す。
「はははっ! やるな、やっぱり流石はプレイヤーだ!」
「チャンピオンに褒められるとはね、俺も捨てたもんじゃないかもな」
チャンピオンが高らかに笑う。
「そう卑下するなよ、お前のおかげで俺がここにいるようなものなんだからな!」
「悪いな、こんなところまで付き合わせちまって」
ヒトミが苦虫をかみつぶしたような表情をする。
「そう言うなよ、俺だって悪くは無かったよ」
チャンピオンのヨウが言葉を続ける。
「何かに導かれるように、アローラに来て試練を乗り越えた。そして、チャンピオンになれたのも、お前のおかげなんだろう?」
「そうだ、俺がお前に指示していたんた」
「そうしてUBも捕まえた。ウルトラボールがあれば、可能だった!」
「そうだ、だがお前が全てのUBを捕まえた訳じゃない」
「マーマネも凄い物を完成させたよ。おかげで、違う世界のポケモンすら手に入れる事が出来た」
「GTSで図鑑を完成させて、さらに別の地方のポケモンまで、お前は手に入れた」
「そう、そして……秩序のポケモンはそれを許さなかった」
「ジカルデが、生態系を狂わすお前に反逆を起こした」
「だが、返り討ちにあった。ヒトミ、お前のおかげでな」
ヒトミは記憶喪失がないと思っていたが、そうではなかったのだ。ここに来た時、ウルトラホールに入るところまでは覚えていた。だが、その後の事を忘れてしまっていた。
「俺は伝説のポケモンの倒し方を知らなかった。だが、お前は知っていた。必要だったのさ、お前の知識が」
「そうだ、俺とお前は協力してジカルデを倒した。そして、アローラの秩序は失われた」
各地に散らばるジカルデセルを集め、パーフェクトフォルムとなったジカルデを倒してしまったのだ。そして、アローラ地方から、ジカルデが消滅した事で生態系のバランスが崩れ始めた。
「俺は迷った。どうすればいいか、分からなかった」
「だから、俺が考えた。消えてしまったのなら、別の物で補えばいい」
「そうして、GTSでジカルデを集め、新しくジカルデを作り直した!」
「だが、制御出来なかった。当たり前だ、他の世界から掻き集めたのを混ぜ合わせても、上手く行くはずがない」
「ジカルデキューブでコントロールしようとした俺は取り込まれた。ジカルデの一部となったんだ!」
「秩序のその一つに組み込まれてしまった」
「だが、足りない! 俺には知識が足りないんだ! だから、お前が必要なんだよ、ヒトミ!」
「違う! 例え秩序が崩れてしまっても、時間を掛けて作り上げるべきだったんだ!」
「そんな事をしていたら、アローラ地方に大災害が起こる! 地は割れ、海は荒れ、UBが蔓延る世界になってしまうかもしれない!」
「いや、ならない! ハラさんもライチさんも、クチナシさんだってハプウだって、マオもマーマネもカキもスイレンも、イリマもククイもマーレインもバーネットさんだっているんだ! 守り神もいる、それを信じれば、良かったのに……」
ただ、失敗を隠す為だけに、ヒトミは間違えた。失敗に失敗を重ねて、取り返しがつかなくなってしまった。
「だから、ここで間違いは終わらせるんだ! 俺と、お前で!」
「秩序を破壊した者が、新しい秩序を作る! その宿命は果たさないとならないんだ!」
ヒトミとヨウのバトルが、再び始まる。
読了ありがとうございました。ここからはポケモンのデータになりますので興味のない方は飛ばしていただいて問題ないです。
ヨウ チャンピオン
手持ち
ガオガエン
ヒールポケモン
アローラ図鑑No.006
Lv:80
種族値:H95 A115 B90 C80 D90 S60 (合計530)
努力値:A252 B252 S4
実数値:H266 A264 B224 C157 D173 S126
特性:もうか
追記:オーラによりBとDが一段階上昇
技:DDラリアット
与ダメ 対サーナイト:157~186 確定二発
アシレーヌ
ソリストポケモン
アローラ図鑑No.009
Lv:80
種族値:H80 A74 B74 C126 D116 S60 (合計530)
努力値:H252 C252 S4
実数値:H293 A148 B148 C281 D215 S126
特性:げきりゅう
追記:オーラによりSが二段階上昇
技:うたかたのアリア
与ダメ 対ヒメ:68~81(一撃目)
17~21(二撃目)
ジュナイパー
やばねポケモン
アローラ図鑑No.003
種族値:H78 A107 B75 C100 D100 S70
努力値:A252 H252 B4
実数値:H290 A251 B150 C189 D189 S141
特性:しんりょく
追記:オーラによりBが二段階上昇
技:かげぬい
与ダメ 対ヒメ:28~34
??????
??????
??????
ヒトミ 手持ちポケモン
サーナイト (NN:ハイリ)
ほうようポケモン
全国図鑑No.282
性格:ひかえめ
Lv:58
種族値:H68 A65 B65 C125 D115 S80 (合計518)
個体値:H15 A5 B10 C31 D31 S15
努力値:H252 B252 C4
実数値:H192 A74 B122 C184 D156 S106
特性:トレース
技:トリックルーム みちづれ サイコキネシス ムーンフォース
ラランテス (NN:ヒメ)
はなかまポケモン
Lv:80
実数値:H306 A281 B177 C149 D161 S37
特性:あまのじゃく
技:心経穴 つばめがえし リーフブレード ソーラーブレード
与ダメ 対アシレーヌ:1188~1398 確定一発
対ジュナイパー:262~310 乱数一発(43.8%)
ドーブル(NN:ラフィ)
??????
??????
??????
ダメージ計算はトレーナー天国様のダメージ計算機
実数値はPOKeMONNDS様の個体値計算ツール
上記を使用させていただきました。ありがとうございます。
とうとうラストバトルの折り返し地点です。はてさて、ヒトミの手持ちとチャンピオンの手持ちはあとはなんでしょうか。
今回はここまで、次回もお付き合い頂ければ幸いです。
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第三十三・五話 中編
「僕も変身したいです?」
アローラを出てから、数ヶ月が経った。ご主人様が何かに向けて準備をしているのはわかる。だが、それが何に対してかは分からない。
「ん、どうしたヨワシ?」
一瞬戸惑ったご主人様だったが、そういえばと言って思い出したようだ。
「魚群の姿になれないんだったな。どうしようか……」
擬人化出来た後も何度か試してみたが、陸地では魚群の姿になれず、依然として能力は低いままなのだ。勿論、それが理由で何かあるというわけでもなく、水中に適応出来る自分がいることに対して、信頼を置いて貰っているのも理解しているが、この先なにが起こるかは分からない。
「僕も陸上で闘いたいです?」
しかし、幾度かスケッチをして貰っていたが、その度にフォルムチェンジに失敗している。発動しないわけではないのだが、ヨワシが群れることの出来ない場所ではできないし、元の魚群の姿になってしまう。
「まぁ、ヨワシが陸上でも闘えるのに越したことはないんだけど、やっぱり難しいんだよなぁ」
ご主人様はそう呟くと、頭を抱える。問題となっている点は二つ、群れを作れない環境ではフォルムチェンジ出来ないこと。もう一つは、フォルムチェンジをした姿で陸上に適応出来ないこと。
「う~ん、フォルムチェンジ以外の方法で考えた方が良いかもしれないな」
魚群の姿の種族値は確かに魅力的ではあるが、実現できないのであれば別の手段を考える必要がある。
そして部屋には、ご主人様と自分とリラさんがいる状態になった。ラフィとヒメは縁側でひなたぼっこをしていて、ハイリはお茶を入れる準備をしている。
「遊びに来ました!」
「あ、うん。どうぞ……」
態々明言しなくても、暇があればよくヒトミのアパートに出入りするようになったので、住人たちも慣れてしまっている。
「しかしまぁ、俺の家に来ても特に何もないぞ?」
ヒトミがげんなりとした口調で話す。放っておくと見境なしに出入りしようとし、この前居留守を使ったら鍵開けで侵入されたこともあるほど、彼女の関心は高い。
「そんなこと言わないでくださいよ。たった二人しかいない同じ境遇の人間なんですから、仲良くしましょう!」
そう、彼女は本当にその一心でヒトミと交流を深めたがる為、ヒトミも断りにくいのだ。同じ境遇の人間として、特別視しないことはないが、如何せん異文化感に戸惑っている様子だ。
「別に仲良くしてないつもりはないが……まぁいいや。どうするかな」
ヨワシと相談している最中に来た上、アポなしで来るので本当に何も出来ないのだが、リラ曰く、一緒にいられるだけでいい、とのことだ。
「ちなみに、今まで何を話してたんですか?」
ハイリが入れてくれた紅茶に口を付けながら、リラが問う。隠すこともないと思い、ヨワシの悩みの原因を打ち明ける。
「なるほど、それではいっその事、特性を変えてしまってはどうでしょうか?」
「特性を?」
これまで擬人化をすることは出来たが、特性が変わったものはいない。しかし、メタモンのへんしんから考えると特性を変えることも不可能ではないはずだ。
「しかし、この種族値で有効な特性かぁ」
まず上がるのは、神秘の守りや影踏みなどの固有の特性、次に加速やムラっけ等が考えられるが、ヨワシの覚えられる技を含めて考えると大幅な時間が必要になるだろう。
「そうなっちまうと、いっそへんしん覚えられる方が良いかもしれないな。もしくは、仲間と同じ形になるか」
擬人化をかけられるなら、へんしんをかけられる……かもしれないという発想だ。だが、それについてはヨワシの強みを活かすことが出来ず、誰でも良いと言うことになりかねない。
「あ~、でもそれじゃヨワシの意味がないしなぁ。なんとか、魚群の特性を活かしてやりたいんだが……」
「ご主人様、やっぱり難しいです」
困難である事は否定はしない。だが不可能ではないはずだとご主人様はそう話す。決して諦めている訳ではないのだ。
「魚群の姿、陸上バージョン! みたいな?」
突然リラが言葉を放つ。
「……今なんて言った?」
「あ、冗談ですよ?」
なんとなく言ってみただけです、と誤魔化す。どうやら思いつきで言ってみただけのようだ。
「特性、魚群、条件、陸上……何か、何かないか」
ご主人様がぶつぶつと呟きながら、今までの話の中からつなぎ合わせていく。集中してしまっていて回りが見えていないようだが、それをリラとヨワシと、遠巻きにハイリが見つめている。
「閃いた!」
「みずのはどう?」
リラに手伝って貰い、ルカリオからヨワシに技の特訓をして貰う。
「ヨワシだって、みずのはどうなら使う事が出来る。水をコントロールできれば、応用して体の維持に使う。イメージは中身が空洞の鎧、だな」
「なるほど、それで陸上でも対応出来るように、ということですか。確かに水なら、余程じゃない限りどこでもありそうですが」
魚群の姿のイメージとなると膨大な量になる。鎧を構成する物体は、水だけでは大きさが限定されてしまうのではないだろうか。
「周囲の鉱物や石なんかも混ぜ合わせて、圧縮、強化。って出来れば理想なんだけどなぁ。まぁ、その辺は波動のスペシャリストルカリオからどれだけ技術を学べるか、によるかな」
そういうと、二匹の特訓を見守る。
「ありがとうリラ、お前のおかげだよ」
「どういたしまして、私もルカリオも貴重な経験になります」
そうして、訓練の時間が過ぎ、波動についてヨワシが学んでいる間、ヒトミも行動していた。
「ふぇ~、分かりませんよますたぁ」
本を下敷きにして、机に突っ伏すラフィ。どうしてもヨワシの擬人化の時の特性についてイメージが出来ないと言うことなので、ラフィに学んで貰っているところだ。
「うん、どこがわからないんだ?」
ラフィは本を読むのは好きだが、慣れるまで時間がかかった。漫画や娯楽小説は楽しむのだが、学術書となるとやはり長続きしない。
「この辺から……この辺です」
「ほぼ全部じゃないか」
まぁ、全ての知識を取り込む必要はないが、それでも明確なイメージが掴める程、安定するようでヒトミは熱心に教えていた。自分も分からないことが多いが、幸いにも学べる環境はあったから。
(今度、漫画で分かる系のやつ探しとこ)
ホワイトボードに一つ一つ、図やグラフをかきながら、そんなことを考えていた。
「始めるです?」
訓練が終わったヨワシと、決して理解したとは言い難いが、イメージは掴めるようになったラフィと観戦のヒメでヨワシの特性変化を始める。場所は準備して貰ったトレーニングルームだ。
「ああ、始めてくれ!」
ヒトミがその言葉を発し、それに呼応するようにヨワシの体が輝き、光を放つ。水が幻想的にあわを作り、波動となって広がり、準備されていたあくのジュエルと反応する。やがてそれらを集め一つの鎧へと変化していく。
「ヨワシちゃん、凄い!」
「……いや、おかしい」
ヒトミの目には、違和感が映っていた。水の波動の中に、黒い靄がかかっているのだ。
「あれは、悪の波動でありんす」
そう呟いたヒメは、体を臨戦態勢にうつし、短刀を構える。
「オオッォォォオオ!」
群青色の鎧に、黒い靄がかかったいような怪物が、咆哮を上げた。
「ヨワシ! 聞こえるか!?」
「オオオォォォオオ!」
ヒトミが言葉を発すると、鎧はそれに反応し、鉱物を槍のように変えて投擲する。辛うじて避けるヒトミの横腹に、血の跡がつく。
「こっちに、気付いてないか」
「……自意識を失っているでありんす」
唯ひたすらに周囲にある物を破壊し、音や光に反応して攻撃する。まるで闘争本能の塊のような状態だ。
(僕は闘えるです?)
ヒトミは、それを知っていた。ヨワシの中に秘められている思いを。
(皆と一緒に、歩けるです?)
決して、周囲の誰からも責められてはいない。誰も彼を責める気などなかった。だが、許せなかった。
「オオォォォォオオ!」
闘う為に、仲間を守る為に身につけた力が、重要なときに発揮出来ないこと、仲間が苦しんでいるのを一人、ボールの中で見ている度に、真面目なヨワシは、自分を許せなかった。
「オオォッォォォォオオ!」
あれは、ヨワシの心だ。力のない己の不甲斐なさを悔やみ、力を求めるその心だ。
(悪の波動、か)
彼のその優しい心を、悪というのだろうか。そのドス黒いオーラは、あんなにも悲しみと優しさに満ちているというのに。
「……ヒメ!」
ヒトミはにやりと笑った。
「承知したでありんす」
会わせた両手は生命の循環を現し、
天に伸びゆく動きは、成長を現す。
やがて伸びきった生命は、花を開くように大きく開かれ
植物の力の根源へと至る。
Z技 ツヴァイ・シュベアトグラース
「行け、ヒメ!」
光を纏った短刀が鎧を襲う。一撃目は生み出された剣によって弾かれ、二撃目は避けられる。だが、避けた反動で体勢を崩すと追い打ちをかけるように、双刃が素早く三連撃を放たれる。
「オオォォ……オオオオオオ!」
悪タイプ しっぺ返し
鉱物から構成された棒に、黒いオーラを纏わせ、ヒメの胴をなぎ払われる。
「ぐっ……だがっ!」
その一撃に顔を顰める。たとえ強化されていたとしても、その一撃は十二分な威力を持っていた。
「吹き飛ばせっ!」
「ソーラーっ、ブレードォォ!」
双刃から集約された光の束が、鎧を襲い吹き飛ばしていく。その光にやがて、黒いオーラは消えていった。
目が覚めるとそこはポケモンセンターだった。どうやら、あの後治療して貰っていたらしい。スタッフが意識を取り戻したことを察知するとヒトミへと連絡しているようだ。やがて現れたヒトミは、申し訳なさそうにボールを受け取り、帰路を急ぐ。
「すまなかった、俺が浅はかだった」
「謝らないで欲しいです?」
小人の状態になったヨワシは、正面に座って深々と頭を下げるヒトミに困惑する。
「力を操りきれなかった事、想定するべきだった。今回はまだなんとかなったからいいが、解決策が出るまでは特性を使わないようにして欲しい」
未だに頭を上げずに、言葉を続けるヒトミ。
「もう少し、もう少しだけ、待ってくれないか、ヨワシ」
力を操りきれなかったのは、自分の不甲斐なさからだ。破壊衝動に取り込まれ、薄れいく意識の中で、力を求めたのはヨワシ自身だが、ヒトミはそれを謝罪する。
「……大丈夫です、ご主人様」
涙目の顔で、ヒトミに近づき、その手を伸ばす。ヒトミは顔をあげて、ヨワシを抱きしめる。己の力が足りないことに、二人ともが悔やんでいた。
「私が来た!」
「ハイリ、お茶淹れてやってくれ」
扉をバーンと開け、アメコミののりでリラが入ってくる。
「映像とデータ、見せて貰いました。凄い特性になりましたね」
「強力だが、力をコントロール出来ない。ヨワシ本人も自意識が薄れていくのを感じていたらしい」
つまり、自分の意思であの鎧を操作できないのである。
「しかし、何故操作できないのでしょうか」
「やっぱり、波動で形成された鎧に対応できていないんじゃないか?」
フォルムチェンジ自体に欠陥があるのではないか、そうヒトミが考えていた。
「いえ、波動のコントロールは上手くいっているように見えました。まぁ、悪の波動が混ざっていたのは想定外でしたが、それもコントロール出来ていないということはないと思います」
しっぺ返しを使えた事も含め、戦闘には適応している。
「つまり、ヨワシ自身に問題があると思うんですよ」
「なん……だと?」
ヒトミが驚愕する。その点に関しては訓練を行い、波動のコントロールについては十分だと思っていた。
「ヨワシの特性、魚群自体がそもそも多くの個体を統率する能力です。一つの意識の元で動くことによって強力な動きをする事が出来ますが、その時に統率が取れないと力が発揮できません」
成る程とヒトミは頷く。
「ヨワシの特性の中に、魚群に取り込まれる性質が含まれている、ってことか」
「はい、集団行動による連携が頻繁に行われているヨワシという種では、恐らく群れの主との連携を計る為の機能があるはずです。自意識が薄れた、というのはその症状ではないでしょうか」
ヨワシに確認するようにリラが促す。
「つまり、自分自身を群れの主と意識できていないから、制御が出来ない、ってことか」
「仮説の域を出ませんが、本来であれば意識の集合体に適応する特性ですので、可能性は十分あると思います。そして、改善することも難しいと思います」
「……どうして?」
リラが一息つき、ハイリの淹れた紅茶に口を付ける。
「波動をコントロールし、制御するという特性を加えたが為に、ヨワシさんの元々持っている特性からずれています。それを修正するには、そもそも魚群という特性の機能の解明から始めなければ難しいと思われます」
ヒトミは脱力し、ソファに体を預ける。
「特性が完成した時点で、制御できない状態だったわけだな。となると特性から見直さないといけない、か」
何をどうすれば意識を保ったままフォルムチェンジが出来るのか、それは検討もつかない、けどそれしかないか、とヒトミは呟く。
「いやいや、今日はそんな話をしに来たわけではなくてですね」
リラが別の方法を切り出した。
「本当に良いのか、ヨワシ」
「大丈夫です?」
新しくリラが提案したのは、ヨワシが魚群に取り込まれてしまう状態になってしまうのであれば、むしろ完全にその状態になってしまった方が良い、ということだ。無理に意識を引きだそうとすれば前回のように暴走してしまう。故に、主を別に知覚してしまえばいい。
「始める、です?」
そう言うと、光が集まり、水の波動と悪の波動が混ざり合い、鎧を形成していく。そして、波動を伝わり、ヒトミへリンクしていく。ヨワシの感情が伝わり、自分の動きと鎧の体が同期しているのを感じる。
(その代わり、ダメージや感覚も共有することになります。ヨワシさんが受けたダメージの何分の一にはなりますが、ヒトミさんにバックされるので、決して安全とは言えませんが)
リラの言葉を思い出す。そんなことは問題ない。ヨワシの意識が流れ込んで来るのを理解する。闘い、守りたい。自分の大切な物の為の力が、欲しい。
「一緒に闘おう、ヨワシ」
ヨワシの特性が、今完成した。
読了ありがとうございました。
今回は、今まであまり活躍できなかったヨワシの話です。
イメージはフェイトゼロの○○○ロットさんです、クラスはバーサーカーです(笑)
それでは、次もお付き合いいただければ幸いです。
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第三十五・五話 後編
時系列がめちゃくちゃで読みづらくてすみません。
「それじゃあ、ヨワシに特訓を任せたよ」
ヒトミがそう告げると、リラは満面の笑みで応える。
「任せてください」
今、ヒトミ達がいるのはイッシュ地方、ヨワシの訓練を任せて、ヒトミは足を動かす。
「魚群の特性を活かしつつ、ポケモンに適応能力がある持ち物、か」
様々な街を巡り歩き、いくつか候補を探していく内に、一つの結論に辿り着いた。
「ジュエル……か」
イッシュ地方には様々なタイプのジュエルが存在する。各々のタイプに合わせたジュエルが有り、それらは消耗品という形にはなるが、そのタイプに応じた技の威力を一・三倍にするという強力なアイテムである。
「使うとすれば、水のジュエルだな……」
いくつかの種類を集めつつ、額に皺を寄せてヒトミが呟く。ヨワシのタイプを想定すると同じタイプが一番扱いやすいだろう。だが、ヒトミには確信を得たという表情はしていない。
ピロン♪
「……メール?」
ヒトミの携帯から、着信音が鳴った。
ヒトミが借りているアパートに、珍しい客が訪れた。
「風の噂で、アローラ地方出身のトレーナーがいると聞いてね。少し話がしたかったのさ」
そう言うと、燕尾服に黄色いマフラーを纏った男性は、ハイリが淹れた紅茶を啜る。
「……お目にかかれて光栄ですよ、イッシュ地方四天王 ギーマさん」
緊張を隠すことなく、正面に座るヒトミが応える。
「そう固くならないで欲しい。ポケモンリーグも事情があって、今は機能していない。その都合もあって、アローラ地方に行く用事が出来てね」
公私共に、とギーマが付け加える。
「まぁ、確かについ最近までアローラにいましたけど、一トレーナーの俺に聞いても、普通の話しか出来ませんよ?」
サンムーンのストーリーでは、僅かにだがギーマが絡んでいる。何の為に訪れたかは不明だが彼がアローラ地方に出向くことは間違いない。
「その普通の話が聞きたいのさ。情報は多角的にとらえた方が良い。何より、手札は多いに越したことはない、そうだろう?」
口元をにやりとゆがめるギーマ。その姿は一流のギャンブラーの風格だ。
アローラ地方についてギーマとヒトミは話した。サンムーンのストーリーに関わることはできる限り避けたようだったが、街の様子や、守り神、他にも現れるポケモンなど、詳細を伝えた。ギーマ自身もある程度話す内容を決めていたようだが、ヒトミの持っている情報に興味を示していた。
「おっと、もうこんな時間か、ついつい話しすぎてしまったな」
窓の外は夕日に赤く染められ、時刻は夕方になっていることを示している。
「そうですね、話すと結構長くなるものですね。収穫はありましたか?」
ヒトミの問いにギーマが応える。
「ああ、十分過ぎるほどだったよ。バトルツリーとやらにも足を向けてみたいかな。兎も角、予想以上だった」
そう返すと、ギーマは礼をさせて欲しいと言う。それに対してヒトミは一度は断りをいれるが、何かないかと再三ギーマに尋ねられると、思い出したかのように口を開く。
「絶対に勝たなければならない勝負に、勝つ秘訣はありますか?」
詳細は話せないが、今ヒトミが聞きたいのはヨワシの特性をどうするかについてで、答えが出せないことだった。
「ふむ、不明瞭な質問だが、なにかしら事情があるようだ」
口元に手を当て、数秒ギーマは悩み、口を開く。
「それでは質問だ、崖の向こうに君の大切な必要としているものがあるとしよう。向こう岸までの距離は目算で四メートル弱、君ならどうする?」
その質問にヒトミは悩む。四メートル弱であれば、標準的な走り幅跳びの記録で、成人男性であれば不可能な距離ではないだろう。体力に自信がある人間であれば即答で跳ぶと答えるかもしれない。だが、ヒトミはすぐには返事を返さなかった。無意に跳ぶと答える事が正解だとは思えなかったのだろう。沈黙の後に、ヒトミが口を開く。
「確実に崖を渡れる方法を探します。その場にある全てのものを利用して確実な方法を……これだと答えになりませんかね?」
それに対し、ギーマは返事をする。
「今君が思考した時間は七十四・四秒。私が出した質問に対して様々な条件を思考したのだろうね」
そして、ギーマは続ける。
「先に答えを出しておこうか。その思考した時間が零に近いほど、正解に近づくと私は思っている。例えば、ひこうタイプを得意としたトレーナーならそれぐらい問題ないと答えるだろうし、エスパータイプのトレーナーであればテレポートで距離も位置も関係なく辿り着くことが出来る、と答えるだろうね」
質問の意図として、そういった人には別の形の質問にしただろうけれど、とギーマは付け足す。
「……時間がかかれば、正解から離れる、と?」
ヒトミは疑問を浮かべる。言葉の通りであれば、一分を超える自分の思考時間は長いとおもったのだろう。
「いや、君が感じたとおりこの質問には不確定要素がありすぎる。それを考慮するとその時間については長くても問題はないだろう。ただ、それも考慮に入れてなお即答出来るものがあれば、それは間違いなく正解だと思うのさ」
つまりは、思考する時間が多ければ多いほど、不確定要素が多くなり難しい問題だということでもある、とギーマは言う。
「先ほどの答えから君は、物事に対して慎重に行動するタイプの人間だ。なおかつ、自分の能力に関して自信をあまり持っていないということと、今抱えている問題が深刻な状況にあることが分かる」
他にも分析が聞きたいかな、とギーマは問う。
「いや、大丈夫です。凄いですね、今の一瞬でそこまで相手を読むことが出来るなんて……」
断りをいれつつ、流石は四天王だと舌を巻くヒトミ。
「必要であれば思考することも必要だ。だが、物事を保留にする癖は悪癖でもある。必要性があるのであれば、手を伸ばすべきだと思うのさ」
その言葉に、自分の心情を見透かされていた事に驚くヒトミ。
「妥協点を……探すべきだと?」
本音を漏らすヒトミ。
「その結果で十分だと考えるなら、妥協点で構わない。君の目標地点を知らないからね。でも、それが届かないと感じているのであれば、例え不可能に見えたとしても、別の手段を選ぶべきだ」
ギーマの言葉に、迷い、思考し、戸惑うヒトミ。
「ああ、それとあと二つほど、勝負事に必要な事があった」
「それは……?」
再びにやりと口元を歪め、ギーマが言葉にする。
「自分の出した答えに、笑って信じることさ」
宵闇の中、ヒトミの手元にいくつかジュエルがある。ヨワシのタイプを考えれば水のジュエルだろう。だがしかし、相手にするポケモンを想定すると、それでは足りない。
「……笑って、信じる」
ギーマの言葉を繰り返す。そうして、ヒトミはいくつかあるジュエルの中から、黒く輝くジュエルに手を伸ばす。
読了ありがとうございました。
今回はヨワシの特性を決めるときにギーマと会っていた、というお話でした。
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第四十話
オリジナル設定、オリジナルキャラ、擬人化等苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでも良いという方は、お付き合いください。
ラフィのバトンを受けとりヨワシが現れる。そして、チャンピオンのポケモンは、
「ソルガレオ!」
アローラ地方の伝説のポケモン、太陽の様な鬣に獅子の様な強靭な肉体、並みのポケモンでは、相手にすらならないだろう。だが、ヨワシの姿もまた、小人から変化する。
「なるほど、フォルムチェンジか!」
群青色の甲冑に紺色の鈍く光る帯、そして、瞳の部分は金色に輝く。
「オオォォォオ!!」
「ラリオーナ!」
鋼タイプ メテオドライブ
二匹のポケモンがぶつかり合う、ソルガレオが勢いをつけ流星のような勢いで衝突するが、ヨワシはそれを受け止める。攻撃を受けきったヨワシ、だがソルガレオが再度攻撃を放つ。
「ソルガレオ、しねんのずつきだ!」
鋼タイプの技はみずタイプに効果は半減だ。その判断でチャンピオンのヨウはエスパー技を指示する。しかし、ソルガレオの攻撃が当たることはなかった。
「なっ……あくタイプか!?」
エスパー技は基本的には超能力を基本として構成されている。一概にあくタイプがという訳ではないが、相手の心理を読み取る事や本来の事象をねじ曲げて力を発揮するエスパー技と一般的な思考、事象を利用し、逆手に取ることを得意とするあくタイプには効果を発揮できない。
「オオオォォオ!!」
ヨワシが咆哮する、しねんのずつきを避け繰り出される技は。
悪タイプ しっぺがえし
黒いオーラに染まった剣を振い、ソルガレオに反撃をする。その一撃は激烈で、ソルガレオは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。だが、まだ倒れる程ではない。再び、メテオドライブが放たれる。
「オオォォォオ!!」
ヨワシがそれを受け止めるが、最初の一撃よりもさらに後退り、吹き飛びかける。しかし、体力の限界も近い。鎧を形成する力も、長くはないだろう。そして、ヒトミの身体にもダメージのフィードバックが現れ、手の毛細血管が切れ、出血している。衝撃が脳を揺らし、鼻血も流れる、それでも戦意を失う事はない。
「オオォォォオ!!」
圧倒的な膂力を前にしても、どんな恐怖感じても、諦める事はない。
「ヨワシ、いくぞ!!」
ヒトミの声が響き渡り、それに呼応する様に、しっぺがえしを放つ。再び吹き飛ばされた、ソルガレオは立ち上がる事は無かった。そして、力尽きたのか、ヨワシは小人の姿に戻る。
「マスター、僕は役に立てましたです?」
「あぁ、充分活躍したよ。ありがとう、本当にありがとう」
そう言って、ヨワシをボールに戻す。そして次のボールを構える。
「いけっ、ルナアーラ!」
「頼んだぜ! バンギラス!」
ボールからバンギラスが現れ、砂塵が巻き起こる。だが、目の前にいるのは、サンムーンのもう一匹の伝説、月輪を表すルナアーラだ。その姿は、雲に隠れる月のように、揺らめき見定める事が出来ない。
「撃ち抜け、シャドーレイ!」
ゴーストタイプ シャドーレイ
第三の瞳が輝き、バンギラスの身体を撃ち抜く。だが、砂塵で威力が下がったそれは、体力を削り切るには至らない。
「噛み砕け! バンギラス!」
悪タイプ かみくだく
ファントムガードを纏ったルナアーラの姿をなんとか捉え、バンギラスの牙がルナアーラを捉える。ルナアーラが必死に振り解こうともがくが、倍近い大きさのバンギラスとは、仮に全体の能力はルナアーラの方が上でも、膂力で劣る事はなく、幾度か地面に叩きつける。やっとのことで振りはらったが、羽が傷つき、ルナアーラを纏う幻影のようなオーラは失っていた。
「マヒナペーア!」
「グオォォォオ!!」
ルナアーラのシャドーレイが、再びバンギラスに降り注ぐ。いかに屈強な肉体をもつバンギラスであっても、何度も受けきることは難しい、あと一撃がやっとだろう。だが、それに怯むことなく、再びルナアーラに飛びかかる。
「やれっ、バンギラス!」
ルナアーラにかみつき、再度地面に叩きつける。幾度も叩きつけられたルナアーラはやがて力尽き、動かなくなる。
「グオオォォォオオ!!」
勝利の雄叫びをバンギラスが上げる。伝説のポケモン相手に充分な活躍だろう。だが、その余韻に酔いしれる事もなく、幾千の降り注ぐ矢に撃ち抜かれる。
「さぁ、ラストバトルだ。どんな戦法を見せてくれるんだ?」
現れたのは、ジガルデ50%フォルムだ。これが最後だ、こいつを引き摺り出す為だけに、これまでのバトルがあったのだ。だが、まだ、まだ足りない。
「きゅきゅ!」
「カプ・テテフ!?」
自分出番と言わんばかりに、カプ・テテフが前に出る。そうだ、守り神なのだから、災厄に立ち向かう意思を持って、ここに現れたのだ。オーラを身にまとい、スピードが格段に上がる。
「……ありがとうな、感謝するぜ」
構えるのは、カプZのポーズ
表すのは、ただただ純粋な感謝
大切なものを、守るという意思
カプ・テテフと同調する感覚
流れ込んでくる、思い
アローラの、アーカラの思い出
全てを包み込む優しさと、闘う覚悟
その力は、何物にも屈しない!
『「ガーディアン・デ・アローラ!」』
地の底から、光輝く巨人が現れ、その頭部の位置にカプ・テテフが収まる。そして、巨人とヒトミがリンクしていることを感じる。
「守り神如きが、小賢しい!」
襲りくるジガルデの巨体、それに劣らない輝く巨人がぶつかり合う。力は、巨人の方が上だ!拳が振り下ろされる。そこには、恨みも、悲しみも、絶望もない。ただ、覚悟と感謝のみ。地鳴りと共に砂煙が舞う。しかし、周囲に異変が訪れる。ジガルデセルが集まり始めたのだ。
「生意気なんだよぉ! 俺が秩序だ!」
砂煙の中から現れたのパーフェクトフォルムのジガルデ。その中心には、ヨウとジガルデキューブがあった。そして、恐ろしい程のオーラに包まれ、強化されているのが分かる。
地面タイプ サウザンドウェーブ
幾千ものジカルデセルが津波のように襲いかかり、カプ・テテフが吹き飛ばされる。
「ありがとな、これで充分だ。これで、終わりにするんだ」
そうして、手元のボールに手をかける、現れたのはラフィだ。
「そんなポケモンに何が出来る!?」
嘲笑うかの様に、コアが分離して襲いかかる。
地面タイプ サウザンドウェーブ
幾千の巨大な緑色の波が、ラフィを包み、押し流す。
「何が出来るって? そんな野暮な事聞くなよ」
ジガルデが元のパーフェクトフォルムに姿が戻った時、驚愕する。傷つき、ボロボロで、立つのだって、もう出来そうもない様な状態なのに。
「ラフィ、これで最後だ」
ラフィの身体から、襷が千切れ落ちる。それは、闘う前にヒトミの手から渡された、アイテムだ。理屈はない、それはただの祈りだ。ダメージ軽減する力も、攻撃の威力を上げる事もない。だが、トレーナーとポケモンとの間の約束だ。どんなに辛くても、苦しくても、立ち上がる気力と勇気を与える、おまじないのようなものだ。そして、ポケモンもそれに応えるのだ、託されたその襷に込められた思いに。ただ、帰ってきて欲しい、生きていて欲しいという祈りに。
「なんだ、これは……体が、動かない」
「摂氏マイナス255度、絶対零度の世界だ。分子の運動すら停止する、氷のせかいで眠れ、永遠にな」
ノーマルタイプ こころのめ
氷タイプ ぜったいれいど
今、ドーブルはこころのめでこの空間を把握し、その対象に対して、完全に停止した状態を描き出したのだ。本来であれば、熟練した氷タイプの技だが、ドーブルの能力によって再現されている。技を放ったあと、ドーブルが倒れる。
「ラフィ!」
かいふくのくすりを与え、傷を治す。ラフィを抱え、少しだけ、離れる。
「マスター? 終わったのですか?」
ラフィが語り掛ける。
「あぁ、終わったよ」
そう言うと、ヒメとヨワシもボールから出てくる。意図を汲んだのか、ラフィが擬人化の技をかける。
「ヨワシは役に立ったですか?」
「当たり前だろ、最高だったぜ」
そうだ、火の試練の時もカミツルギの時も、闘う事すら出来なかったことを、ヨワシは後悔しているのだ。だからこそ、歩く足が欲しいと、望んだのだ。
「ここは、少し……寒いな」
ぜったいれいどの影響で、空間全体が温度が下がり始めている。あと、数分もしないうちに、氷点下を下回るだろう。そうすればじきに、ここにいる全ての生物が動くことが出来なくなる。そして、全てのジガルデをここに閉じ込める事が出来たのだ。疲労もあり、その場に座りこむと、上半身も引き倒される。ヒメの顔を見て、ヒトミは膝枕して貰っていることに気がついた。
「主は……これで満足でありんすか?」
ヒメとラフィとヨワシを見て、目を瞑ればこれまでの記憶が蘇る。楽しい事も、苦しい事も、喜びも悲しみも、出会いと別れもあった。残してきた人達の事も、心残りはある。
「ヒメ、ラフィ、ヨワシ……最後にお前ら一緒に居られるんだ。俺には、過ぎた幸福だ、満足だよ」
「わっちは、主殿といられれば、それが幸せでありんす」
そう言うと、ラフィもヨワシも身を寄せ合った。身体は温度を失い、もう動かす事も出来ない。だけど、心はこんなにも暖かい。もう何も思い残す事はない。
瞳を閉じて、意識を手放す。大丈夫、ポケモンと一緒なら、どこだって構わないさ。
読了ありがとうございました。ここからはポケモンのデータになりますので興味のない方は飛ばしていただいて問題ないです。
チャンピオン ヨウ
手持ち
ソルガレオ
にちりんポケモン
アローラ図鑑No.291
タイプ:はがね・エスパー
Lv:100
種族値:H137 A137 B107 C113 D89 S97(合計680)
努力値:H252 A252 B4
実数値:H478 A373 B250 C262 D214 S231
特性:メタルプロテクト
技:メテオドライブ
与ダメ 対ヨワシ:87~103 確定三発
ルナアーラ
がちりんポケモン
アローラ図鑑No.292
タイプ:ゴースト・エスパー
Lv:100
種族値:H137 A113 B89 C137 D107 S97(合計680)
努力値:B252 C252 S4
実数値:H415 A262 B277 C373 D250 S231
特性:ファントムガード
技:シャドーレイ
与ダメ 対バンギラス:76~90 確定三発
ジカルデ 50%フォルム
ちつじょポケモン
アローラ図鑑No.205
タイプ:じめん・ドラゴン
Lv:100
種族値:H108 A100 B121 C81 D95 S95(合計600)
実数値:H357 A236 B278 C198 D226 S226
特性:スワームチェンジ
与ダメ 対バンギラス:258~306
ジガルデ パーフェクトフォルム(ヨウ)
実数値:H573 A236 B278 C218 D226 S206
特性:スワームチェンジ
技:サウザンドアロー サウザンドウェーブ コアパニッシャー
追記:オーラを纏うことによりABCDの値が二段階上昇する。
与ダメ 対カプ・テテフ:403~475(確定一発)
対ラフィ :735~865(確定一発)
ヒトミ
手持ち
ヨワシ (擬人化 甲冑フォルム)
タイプ:水・悪
Lv:72
種族値:H60 A170 B168 C72 D110 S40
努力値:H252 A252 B4
実数値:H215 A315 B260 C119 D174 S69
特性:フォルムチェンジ
持ち物:あくのジュエル
与ダメ 対ソルガレオ:206~248(乱数二発 17.9%)
バンギラス
よろいポケモン
全国図鑑No.248
タイプ:いわ・悪
性格:いじっぱり
Lv:55
種族値:H100 A134 B110 C95 D100 S61(合計600)
個体値:H31 A31 B5 C5 D31 S5
努力値:H4 A252 D252
実数値:H192 A224 B128 C100 D166 S74
特性:すなおこし
技:かみくだく ストーンエッジ じしん ステルスロック
持ち物:こだわりはちまき
与ダメ 対ルナアーラ:120~144(一撃目)ファントムガードあり
364~432(二撃目)防御一段階ダウン
カプ・テテフ
とちがみポケモン
アローラ図鑑No.286
性格:むじゃき
タイプ:エスパー・フェアリー
Lv:60
種族値:H70 A85 B75 C130 D115 S95(合計570)
実数値:H172 A125 B113 C179 D114 S150
特性:サイコメイカー
技:しぜんのいかり ムーンフォース サイコキネシス
持ち物:カプZ
追記:オーラによりS二段階上昇
与ダメ 対ジガルデ:268
ドーブル(NN:ラフィ)
Lv:76
実数値:H236 A35 B62 C46 D92 S209
特性:むらっけ
技:まもる こころのめ ぜったいれいど 擬人化バトン
持ち物:きあいのタスキ
与ダメ 対ジガルデ パーフェクトフォルム:一撃必殺
ダメージ計算はポケモントレーナー天国様
実数値計算はPOKeMONNDS様
上記のサイトを利用させていただきました、ありがとうございます。
今回はここまで、次回もお付き合い頂ければ幸いです。
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第四十一話
カブトムシなんかも同じ理論なのですが、こういうのって調べると面白いですが、苦手な方には厳しい画像とかもあったりするのでお気をつけください。
ちなみに大型化したカマキリの羽は飛ぶ為ではなく、主に威嚇用に使用されるらしいです、まぁ、大きさと羽が釣り合ってないので確かにと思いますが、それならそれで逆に擬人化のイラストに羽を広げたようなヒメのイラストが……頭の中にはあるのに、描けない!!
ぶっちゃけ、覚悟を決めて鉛筆握れよ、と突っ込みが来そうなので初投稿です。
オリジナルキャラ、オリジナル設定、擬人化等苦手な方はブラウザバック推奨です。
それでも良いという方は、お付き合いください。
目を覚ますと、白い天井がある。見慣れた医療室の天井に違和感を覚える。
「地獄にしては、ユーモアがない場所だな」
ヒトミは身体に力を入れると、思うように動かない。長い間動かしていなかったのか、関節がガチガチに固まってしまっている。
「おう、やっと目が覚めたか。言っとくけど、地獄はこの先だぜ? 死んでた方が遥かに楽だったと思えるくらいにな」
そう告げるのは、チャンピオンのヨウだ。腕には点滴の針が刺さっていて、病院服を着ている。
「って事は、生きてるのか。というか、お前も生きてるんだな」
ヒトミもヨウも、一命をとりとめ、病院にいるみたいだ。
「あっ、ポケモン達は?」
「ポケモンセンターで休んでるよ。まぁ、俺たちよりは軽症さ、そろそろ地獄の鬼がやってくるから、俺は退散するとするぜ」
「ちょ、ちょっと待て、何があったのか教えてくれよ!」
「おう、お互い生きてたら話す機会もあるだろうよ」
そう言って、部屋を離れていくヨウ。理解が追い付かず考え込んでいると、部屋の扉が開く音が聞こえる。
「……ウスユキさん?」
「……ヒトミ、ヒトミヒトミヒトミィィィ!!」
ウスユキの体当たり、ヒトミは気絶した!
「ヒトミ、ちゃんと聞いてるの!?」
「はい、聞いてます。すみません」
ヒトミが目が覚めてから、二時間は立っただろうか、ウスユキの説教は止まる事を知らない。何しろ、最後のメールを送ってその後音信不通だったのだ。ようやく再会したと思ったら冷凍保存一歩手前で、間違いなく死ぬ直前だった。
「ヒトミはいっつも無茶ばっかり! 人に頼りなさいって、言ったよね!」
「はい、仰る通りでございます」
ヒトミは抵抗するつもりもない、なにしろ、小一時間ほど泣きつかれていたのだ。ひたすら泣き続けられて、その後は説教になる。困惑しっぱなしで、最早考えることをやめているかのように、ウスユキの話を肯定し続ける。
「あっ、目が覚めたんですね。良かったです」
扉が開いて中に入ってきたのは、なんとポニーテールにしているリーリエだった。
(ヤバい、可愛い!)
「あ、初めまして、かな」
ふふふと、上品に笑うリーリエの後ろには、青ざめたヨウの姿があった。なるほど、ヨウにはヨウの鬼が居た訳だ。
「ウスユキさん、説教はこの後再開するとして、とりあえず現状の説明をしておきましょうか」
「そうね、何も分かってないだろうし、説教はその後でもいいかな」
どうやら説教が終わるという選択肢はないらしい。ヒトミは小声でヨウに救いを求める。
「あ、ねぇよ、んなもん」
げっそりとした顔でヨウが呟く。どうやらヒトミもヨウも、当分は地獄の鬼にこってり絞られる運命らしい。
「とりあえず、ことの始まりはヒトミからのメールね」
それを不信に思ったウスユキは行動を始めた。しかし、直接アローラに訪れるのは時間がかかるし、ウルトラホールの事で力になれるとも思わない。
「という事で、マオやスイレンから聞いてたリーリエなら、何かできないかと思って飛んで行った訳」
「そうして、私が初めて状況を知り、ヨウさんが事件に巻き込まれていると、分かった訳ですね」
グラジオはリーリエに対して、事件の事は黙っていたのだろう。確かにカントーにいるリーリエに伝えても心配をかけるだけだ。
「かといって、何か出来るかって言ったら私達だけじゃ何も出来なかったの」
「そこで、持ってきていた太陽の笛を鳴らしたんです」
コスモッグを進化させる時に使った、あの笛である。
「そうしたら、ほしぐもちゃんが私達を見つけてくれたのです」
「えっ、だってソルガレオは……」
「忘れたのか? ソルガレオもルナアーラもGTSで手に入れただろ。だから、ほしぐもとは別個体だよ」
ヨウがそう言う。そう、ヒトミはGTSで色んな伝説、準伝説集めていたのだ。
「そうして、ほしぐもちゃんとウスユキさんと一緒にウルトラホールに行くと、まぁ、何から言えばいいのか分からない状態だったんです」
「ヨウは氷漬けのジガルデと合体してるし、ヒトミは手持ちに囲まれて冷たくなってるし、メチャクチャ寒いしで、本当に焦ったね」
状況を知らない二人が経緯すっとばしてあの光景をみても、困惑するしかないだろう。
「まぁ、ほしぐもちゃんがヨウさんとヒトミさんとポケモン達を連れて、戻ってきて緊急治療室に運ばれて今に至ると言うわけです」
「いや、それは俺が生きてるのは分かるんだけど、ヨウはどうして助かったんだ?」
「それは、麗しい私が説明させて頂きますわ!」
バァンと扉を開け、ジーナとデクシオが入ってくる。何故か、二人共頭の上に大きなタンコブを乗せているが。
「ヨウさんがジカルデと融合していたのは、ジカルデキューブを介して可能となっていたのですわ! 故にジガルデキューブを破壊すれば、ジガルデは元通り各地に散らばっていきますのよ!」
「ジガルデキューブを破壊して、ジガルデから解放されたは良いけど、ヨウの身体は無事だったのか?」
デクシオが代わりに答える。
「無事では無かったね。大きく損傷している部分はあったけど、足りない部分はジガルデセルが補っている状態だね」
「えっ、まだジガルデと合体してんの?」
「時期に俺の細胞に馴染むんだってさ。逆に回復力が上がって、俺の方が重傷だったけど、目が覚めたのは早かったんだ」
ヨウがそう言うと、リーリエに笑い事じゃないと叱られる。
「は〜、そんな事もあるんだなぁ」
デクシオが肩を竦める。
「普通はそんな事あり得ないよ。ただ、ジガルデが秩序として、ヨウがまだ必要だとかんがえたんだろうね」
おかげで経過観察が出来てなかった僕達も博士に拳骨貰う程度で済んだ、と笑う。一歩間違えれば大惨事だったのは間違いない。
「ん、じゃあジガルデはどうなったんだ?」
「君が倒したジガルデと、呼び寄せたジガルデ、そして他の地方のジガルデも集まってきて、時間は掛かるかも知れないが、徐々に元の姿を取り戻し始めているみたいだよ」
倒した思っていたジガルデも時間が経てば復活するらしい。他の地方にもジガルデがいるのは分かるが、遥々海を越えて来てくれるという。
「とまぁ、良い話はここまでだ。これから、アローラ地方は様々な災難に襲われる可能性がある。君達が危惧していた通り、秩序が力を失った状態だからね」
残念ながら、問題はまだ解決していないようだ。それでは、とヒトミが口を開こうとすると、ウスユキに止められる。
「はい、ヒトミはまず傷を癒やすこと!」
「ヨウさんも、何か起こったからって動いちゃダメですからね! まだ、治療が必要な身体なんですから!」
リーリエに叱られてヨウが苦笑いをする。
「まぁ、そう言う事だ。お前の言った通り、アローラには強い奴が沢山いる、俺とヒトミが休んでたって、どうとでもなるのさ」
そう言い放つチャンピオンは、優しい笑顔を浮かべる。
「という訳で、監視役として私がヨウさんを」
「私はヒトミの監視役として、怪我が治るまでこっちにいるから」
二人とも、有無を言わせぬ形相でにらみつける。
「覚悟しなさいよ?」
「ヒトミ、諦めろ。今はもう、この二人の方が強い」
二人ともが、お互いに頭が上がらない状態だ。心なしか、ヨウも青ざめた顔をしてる気がする。リーリエも結構気が強く、行動力があるためヒトミとそう変わらない状況なのだろう。ヒトミはまず傷を癒やす事、その後はジガルデが復活するまで、起きる騒ぎをなんとかしなければならないらしい。そこまで説明を終えると、ウスユキ以外は帰ってしまった。
「ヒトミ、何か言う事ないの?」
「いや、そんな事いわれてもなぁ……おかえり」
ウスユキさんは俯いてブツブツ呟いている。
「はぁ……まぁ及第点にしてあげる」
そう、俺がポケモンの世界に呼ばれて、物語は一つおわったのだ。
「良くもなく悪くもなく、世は事もなし、かな」
読了ありがとうございました。今回はポケモンのデータなどはありません。
一応、これでヒトミとヨウに起きた事件は終わりです。このあと、アローラに秩序が戻るまで騒乱があったり、色々とあるとは思いますが、ジカルデのお話は終止符を打ったということになります。
その後とか、それまでとか、書くつもりはありますが、現時点でストックとして出来ていないので、続きとするのか、番外編となるかは分かりません。
長々とお付き合い頂き、誠にありがとうございました。
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第三章 幕間 一夜目
「わっ、っと」
ウルトラホールを抜けた先には、ゲームの中で見たウツロイドがいた場所に雰囲気はにている。岩肌に囲まれ、頼りない道が続いてる。そんな世界だ。
「ここ……は?」
ヒトミがそう呟くと、誰かが目の前に倒れているのを発見する。急いで駆け寄ると、酷い怪我をしていた。幸いにも、彼自身冒険者だったのか、応急キットを持っていて、せめて止血だけでも、と最低限の処置をしていく。それから顔色は変わらず悪いものの、その人物が目を開いた。
「お前は……?」
帽子をかぶってない為か、きづくのが遅れた、彼こそがアローラ島新チャンピオン、ヨウだったのだ。
「俺は……ウルトラホールを通ってここに来たんだ。それにしても、何があったんだ?」
ヒトミがそう話すと、当てが外れた、とヨウが呟く。そして、二つのボールを取り出す。
「ラリオーナ!」
「マヒナペーア!」
アローラの伝説のポケモンが二体、その姿を現す。だが、その姿は傷ついており、荘厳なオーラとは真逆に疲労の色が見て取れた。
「ヒトミ、と言ったか。お前はどこまで知っている?」
ヨウがそう尋ねる。ヒトミはさっぱり状況が飲み込めないが、とにかくお互いの状況を知るべきだと提案した。ヨウは周囲の危険がないことを確かめ、傷薬でポケモンの傷を癒やしてから、話し始めた。
「どうやら、ここまではおってこれないみたいだな」
「何に追われているんだ? しかも、ソルガレオとルナアーラを両方持ってるなんて」
まるで誰かのセーブデータのような状況になっている、と呟く。
「今さっき、本気を出したジガルデにボコボコにされて、ウルトラホールに逃げ込んで来たところだ。そして、一縷の望みにかけてルナアーラとソルガレオにウルトラホールを開いて貰った。現状を打破出来る人間かポケモンが出てくる事を祈ってな」
残念なことに、普通の人間が呼び出されてしまった、ということだ。
「ちょっと待て! どうしてお前がジガルデに襲われるんだ!?」
奥歯に何かが挟まったように言い詰まるが、なんとか言葉にする。
「興味本位だったんだ。GTSに伝説のポケモンをいれて交換が出来るとは思ってなかった。精々別地方と繋がる程度だと思っていたが、どうやら別世界にまで繋がっているらしい」
嫌な汗がヒトミの背筋を流れる。
「もしかして、ミュウツーとか、守り神、とかだったりする?」
ヨウが驚く。
「どうして、知ってる?」
知っているも何も、ヒトミのサンムーンのセーブデータだからだ。どうやら、自分が呼ばれたのは偶然ではなく、やらかしたことに対して呼び出されたらしい。
「ま、まぁ、それはいいじゃないか。それよりも現状の問題だ、ジガルデってことは秩序が崩れた、っていっているのか?」
「そうだ。これ以上生態系を崩す行動を認めることは出来ない、ってな。オーラ全開にして能力が上がった状態で出てきたから、何をしてもほとんどダメージが通らなくて、このざまだ」
急激にヒトミに自責の念が沸いてきたのか、気まずい顔をするが、改めてヨウに確認する。
「敵はジガルデパーフェクトフォルム一体、強化済みだけ、ってことか?」
「……当たり前のように伝説のポケモンの事を話すんだな。まぁ、お前の言うとおりの状況だ」
そこで二つ疑問点が生じる。勿論、ゲームと彼が闘っている舞台が食い違っているのはある程度予測はしているが、どこまで食い違っているのかを理解したい。
「いくら強化されてても、相手は氷四倍弱点だ、それにほとんどダメージを通らない、っていうことは相手に攻撃できたのか?」
そう言われると、ヨウがばつの悪そうに頭を掻く。
「まるで見てきたみたいに言うんだな。手持ちに氷タイプはいなかったよ。それに、あんなけでかけりゃ、スピードで負けることはないさ。大体先制はこっちが取れる。固すぎてどれだけ殴ってもダメージになってなさそうだったが」
そこまで聞いて、恐らくジガルデの強化された部分にSは加わっていないだろう、という憶測がつく。なおかつ、弱点を突く形で攻撃出来なかった、奇襲の為にこの状態になっているのだ。最悪の場合を想定して。
「ちょっと待っててくれ」
圏外になっているスマホを取り出し、データと計算機を打ち込んでいく。
「何をしてるんだ?」
「ジガルデ パーフェクトフォルム H六百三十六 A二百三十六 B二百七十八 C二百十八 D二百二十六 S二百六。これがレベル百の努力H振りだけのステータスだ。全力ってことは最悪のケースを想定してステータス全六段階上昇と考えると、他のステータスが九百台以上になるな……えげつない、そりゃ勝てないわ」
ちなみにキュウコンの吹雪で乱数四発だって、他人事のようにヒトミが呟く。それに対して、ヨウは驚きを隠さずに問う。
「ステータスって、それは正しい情報なのか!? それにキュウコンの攻撃四回で倒せるって、本当か!?」
「かもしれない、だよ。仮にDに努力値降ってたらさらに厄介だけど、俺のデータだったら攻撃面に降ってるはずだし、というか、6V計算であってるかな」
まるで呪文のようだ、と頭を抱える。
「頑丈持ち揃えて、キュウコンに襷持たせて、元気の塊使ってゾンビアタックかけたら倒せるんじゃない?」
計算上、五回以上攻撃出来るはずだ。実際の数字がその通りなら、だが。まぁ、ぶっちゃけ、襷でいけるならS振りフリーザーで襷持たせてこころのめ絶対零度で一撃必殺っていう可能性もなくはないけれど。
「……マジか。確かにそう言われると倒せなくもないような気はしてきた。幸いにも、色違いと普通のキュウコンはいるし、襷もBPで交換してきたら用意できなくもないか」
そういうとヨウが計画を立てよう、と提案してきた。それに協力してくれ、とヒトミに懇願する。
「……いや、全然それはいいけど。大丈夫か?」
机上の空論という言葉が脳裏をかすめたが、そこはヨウが言葉を放つ。
「俺はチャンピオンだ。多少の無理難題、解決出来なくて何がアローラのトップだ。そこに可能性があるなら、もぎ取ってきてやるさ」
ヒトミはその剣幕と自信に気圧される。ゲームとしてはエンジョイ勢と自称している分、あまり主人公が格好良いイメージはなかったのだが、確かに弱冠十一か十二歳で島廻をこなしてチャンピオンになれば、これくらいの貫禄は付くのかもしれない。
相手の相性を考えて、こちらはタイプをこおりで統一。被ダメに関しては攻撃力上昇を込みで考えて一撃で倒されると考える。というわけで、ジガルデ討伐部隊を編成してみた。
「アローラキュウコン、性格は臆病、Lv百、技は氷の息吹、持ち物は拘り眼鏡、努力値はCSぶっぱで、ダメージは六百七十六~七百九十六、確定急所一撃だ」
以上、現実は非常である。勿論、本当に急所に当てられるのか、スピードは勝てるのか、そもそもジガルデや他のポケモンの数値がデータ通りなのか、等問題はある。しかし、急所で能力上昇無効を利用すれば、なんとかできてしまう、ということだ。あと余談ではあるがLv百のナマコブシを三回投げつければ相手は死ぬ。
「だ、大丈夫?」
考え事をしているヨウにヒトミは声をかける。流石にこんな作戦を実行するなど、不可能に近いのではと考えていた。
「いや、むしろ俺が常識に捕らわれていた。伝説のポケモンでも、ちゃんと闘える、それを知っていたはずなのに。ありがとうヒトミ、この闘いが終わったらハノハノリゾートのホテルに案内するよ、楽しみにしててくれ」
全力でフラグ立てていったぞ。
「いや、ちょっとまて、本当にやる気か!?」
「ああ、丁度チャンピオンのバトルフィールドなら被害も少なくてすむだろう。ラナキラマウンテンなら、キュウコンも力を発揮しやすいだろうし、後はやってみてからだな」
本当にやる気だ、このチャンピオン。というか、伝説のポケモンやっちゃって良い感じなのか?
「悪いが、俺と一緒にいると危険になる。闘いが終わるまでここで待ってて貰えるか?」
「わ、分かった。健闘を祈る」
そうして、ルナアーラ、ソルガレオとともにアローラへとヨウは戻っていった。こんな作戦で本当に大丈夫なのか、不安で仕方がなかったが、あとはチャンピオンに任せるしかない。
唯待つしかない自分に刻一刻と進む度に不安が積み上がっていく内に、ただ座っているだけではなく、この空間を少し歩くことにした。
「じっとしてると頭が可笑しくなりそうだ」
僅かにある明かりと岩肌が続いているだけの空間だ。他になにもない。
「本当に何もないんだな、この場所には」
ウルトラホールに繋がっている、ただの中間地点なのだろうか。もしかしたらUBに出会うかもしれないという気持ちもあったが、何もなかった。そうして同じ場所に戻ったときに、さっき計算した自分のメモが落ちてあったことを見つけた。
「とうっ」
暇つぶしに手裏剣に折って投げてみた。勿論何も起こるはずもなく、道の先に消えていった。
「ラリオーナ!」
「マヒナペーア!」
そうしていると、伝説のポケモン二匹の鳴き声が聞こえた。
「ヨウ! 無事だったのか」
ヒトミの声にサムズアップで応えるヨウ。来たときと同じぐらいにボロボロになっていたが、表情は希望に満ちあふれていた。
読了ありがとうございました。
ようやく主人公を書くことが出来ました()
基本的には、ヨウは操り人形ではなく、神の声が聞こえる的な解釈をしています。
そして、短期間で成長し、チャンピオンになれる才気溢れたトレーナーです。
それに引き替えヒトミ君は、主人公レベルが違うから仕方ないけど。
ということで、今回はここまで、次回もお付き合いいただければ幸いです。
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第三章 幕間 二夜目
ハノハノリゾートホテルの一室そこにヨウは一週間借り続けていた。
「そう、ジガルデにはコアがあった。素早さで上回っているキュウコンは、そこに攻撃することが必要だった」
そうして、両手を広げ一拍おいて演説を続ける。
「お前が提案した『こおりのいぶき』それこそが解決の鍵だったんだ。熟練されたその技は、ジガルデの防護をかいくぐり、五つのコア氷付かせることが出来たんだ!」
「おお! すげぇ! それで、そのキュウコンは!?」
落ち着け、そう慌てるなとじらしながらモンスターボールを取り出す。操作して起動音と共に薄紫色のリージョンフォルムのキュウコンが現れた。
「アローラキュウコン! しかも、色違い!」
しかし、臆病な性格なため、初めて見るヒトミに警戒心を抱いていた。ヨウが首元をなでながらキュウコンに伝える。
「大丈夫だ、こいつは悪いやつじゃない」
「さ、触ってもいいかな?」
構わないよ、とヨウが言うとヒトミはキュウコンの頭を撫でる。
「冷たくて、雪みたいにサクサクした触感だけど、毛が重なってふわふわしている!?」
くすぐったそうに喜ぶキュウコンをみて更にテンションが上がるヒトミ。
「なぁ、他のポケモンも見たいんだが!」
「勿論だよ、だけど、最近慌ただしいからちょっと待って欲しいんだ」
そうヨウが呟くと、小さな揺れを感じる。
「……最近多いな、地震」
地震だけでなく、ポケモンの異常発生、豪雨が襲ったり等、その為チャンピオンであるヨウや島キング、島クイーン、はてはキャプテンのメンツも対応に追われている。
「こんな時期じゃければ、観光につれて回るんだけどな」
その点に関しては、ヒトミも言葉に詰まる。ポケモンの世界に来た歓びはあるが、あまりポケモンと触れ合える機会がない。外に出ようと思えば出れなくはないが、それはそれでヨウに迷惑をかけるかもしれない。この異常気象が治まるまでは、と考えていたが、それも中々治まる様子がない。
プルルルル
ヨウの携帯に着信が入る。
「ジーナからだ、もしもし」
なにやらいろいろと話し込んでいる。数分間話し終えた後、ヒトミに告げる。
「あと少ししたら、ジーナとデクシオがここに来る」
「えっ、俺が聞いてもいい内容なのか?」
少しヨウが悩んではいたが、答えをだす。
「ああ、お前の知識を借りたい、事情はジーナ達にも伝えてあるからな」
そうして、二人の到着を待つことになった。
一時間後
「アローラ諸島のジガルデの反応がゼロになりましたのよ」
「と言うわけで、僕らがその原因を探っているんだけど、心当たりが……チャンピオンの君だったんだが」
それに対して、ヨウが返答する。
「ああ、ジガルデが俺を『秩序を破壊する者』と認識したんだ。それに対抗する為に、反撃した」
そうして、デクシオが頭を抱える。
「まさか、伝説のポケモンすら退けてしまうなんて、美しい私でも予想できませんでしたわ」
「それで、最近の異常気象はジガルデが原因なのか?」
ヒトミが話に加わる。
「原因というのは正確ではないかな。元々多種多様なポケモンが存在して、特殊な環境のアローラ諸島だ。異常気象が起きてもおかしくない」
それを抑えていたのが、ジガルデという存在だったとデクシオが話す。
「あくまで、仮説ではありますが、各所にジガルデセルを配置することにより、異常を未然に防いでいたのではないか、というあまり美しくない結論になっていますわ」
ヨウは、手元にあるジガルデキューブに視線を落とす。今では、それにジガルデセルの反応はない。
「……俺がジガルデを倒したから、か」
デクシオもジーナも、ヨウを責める事は出来ない。最早一個人で判断出来る事ではない上に、すでに起こってしまったことだ。
「そうだ、ジガルデを倒した場所に行ってみよう。もしかしたら、一匹くらい生き残っているかもしれない」
「……そうだね、何をしないよりかは良いかもしれない」
「美しくありませんが、仕方ありませんわね」
そう言って、デクシオ、ジーナ、ヨウ、ヒトミの四人でラナキラマウンテンのポケモンリーグがある場所へ向かった。
そこには、見張りを含めて誰もいなかった。
「緊急事態だからな、島巡りもポケモンリーグも一時的にストップしている。ライドポケモンで直接向かおう」
ヒトミはヨウと、ジーナはデクシオと共にライドポケモンのリザードンに乗り、チャンピオンの間に到着する。
「少し、冷えるね」
デクシオが周りを見渡しながら呟く。
「ここでジガルデを倒し、氷漬けにした。バラバラに砕け散って下に落ちていったんだが……」
ヨウが説明していると、ジーナが叫ぶ。
「微弱ですが、ジガルデセルの反応ですわ!」
チャンピオンの間、その端から一匹のジガルデセルが現れた。
「……生き残っていたのか」
『その表現は正しくはないな。我とてポケモンだ、たとえ瀕死となってもいずれ復活する。今は我一匹だけのようだがな』
「……この状況は、ジガルデを倒したから起きているのですか?」
デクシオの疑問にジガルデが答える。
『貴様達の推測はおおよそ的を得ている。勿論、我のみの力で制御している訳ではないが、環境を安定させる為に制御すること、それが秩序というものだ』
秩序がなくなった世界であれば、異常が起こることも道理だと言う。
「その秩序を復活させる方法はないんですの?」
ジーナが更にジガルデに問いかける。
『無論、時をかければ我々が復活し、環境を安定するに至るであろう』
ヒトミが疑問を上げる。
「具体的には……どれくらい?」
『人間の基準で言えば、何十年か、数百年か、その程度で完全に復活することになるだろうな』
その言葉に絶句する。肩をおとすヒトミを余所に、ヨウが尋ねる。
「今すぐに復活させる方法はないのか?」
『倒した貴様がそれを言うか。まぁいい、不可能だ。元より百のジガルデセルによってアローラの環境を制御していたのだ、秩序を取り戻すには数が足りなさすぎる』
「数が……足りない?」
『制御するには、細胞の数が足りていない。それが復活するまでに時間はかかる』
ヒトミが額に皺を寄せながら、ジガルデに尋ねる。
「もし……数が九十%になったら、今と同じ状況になるのか?」
『いや、多少不安定にはなるだろうが、おおよそ元に戻るな。数字がそのまま制御出来るパーセンテージと言っても良い』
ヨウがヒトミに尋ねる。
「何か、策があるのか?」
マーマネとマーレインに協力を依頼し、フェスサークルのマウントディスプレイを二つ準備して貰った。そして、専用の研究室でヒトミとヨウがそれをセットしている。
「いいか、アローラ地方にいないポケモンをGTSで出して、ジガルデを交換して貰う」
「そして、十%ジガルデを十体集める、だな」
GTSが原因で引き起こした状況をGTSで解決しようとするのも違和感が残るが、この際言ってはいられないだろう。ヒトミとヨウで手分けして、フェスサークルに入り、それを行う。
「他の世界には、多少迷惑をかける事になるけど、それは異常事態が解決したらまた考えよう」
そう言っている今の間にも、傷つき倒れていくポケモンと人間達がいるのだ。二人は覚悟を決め、フェスサークルへと意識を移していった。
チャンピオンの間、そこには二人の男が佇んでいた。両の手に合計十個のモンスターボールが抱えられている。全てを操作し、中から緑と黒の犬型のポケモンが出現した。
『平行世界からの……同種か』
ジガルデセルが、感情の読み取れない言葉で呟く。
『同じ罪を重ねるのか?』
ジガルデキューブを持つヨウに、ジガルデ達が傅く。
「……これで、ジガルデが復活するのか?」
ヒトミが提案したにも関わらず、不安で仕方がないと言ったようすだ。
『不可能だ。このジガルデ達には、この世界を知らない。これまでのアローラ諸島を知らぬ者達に、秩序を取り戻すことは出来ない』
それでは、ヒトミ達のしてきたことは、無駄だったのか。
『だが、新しく作り上げることは出来る。このジガルデ達を統率する存在さえあれば』
「統率って、お前がするんじゃないのか?」
ヒトミの言葉に熱がこもっていく。
『仮にこのまま合体したとすれば、九十九%が別世界の情報で形成されたジガルデが新たに誕生することになる。それでは、この災害を止める事は出来ない』
そんな馬鹿な、とヒトミが肩を落とす。
「ジガルデを統率する存在がいれば、アローラを守れるんだな?」
ヨウがジガルデセルに語りかける。
『ああ、災害を止めるだけの『力』は存在する。あとは、それを統率し新しい『秩序』があれば、その通りにアローラが再生されるだろう』
ヨウが、笑顔を浮かべる。ゆっくりとジガルデセルへと近づいていく。
「待て! それなら俺が――」
『アローラを知らず、信念を持たぬ者に、統率する事は出来ない』
「……ヒトミ、お前のおかげでこの世界は救われた」
ヨウがジガルデキューブを胸に当て、ジガルデ達が一つ一つのセルに分かれ、ヨウを取り込んでいく。
「ラリオーナ!」
「マヒナペーア!」
ヒトミの背後に、ヨウと対極の位置に月と太陽のポケモンが現れ、ウルトラホールが開かれる。
「待ってくれ! 俺は、こんなことがしたかったわけじゃ……」
「少しの間でも、ヒトミと一緒にいれて楽しかったよ。俺をここまで導いてくれて」
その先の言葉は、聞き取れなかった。
目を覚ますと、また岩肌に囲まれた場所に放り出されていた。目の前にはウルトラホールが開いていた。きっと、ヨウの事だからこの先には元の世界があって、元の生活に戻って、ここに来る前の日常に戻るのだろう。
「……なんで、なんでなんだよ」
バッドエンドなんて、自分が望んだ世界じゃない、ましてや、主人公だけを残して自分一人が逃げ出すなんて、あり得ない。
「ラリオーナ!」
「!?」
そうして、太陽の鬣をもつソルガレオが目の前に現れた。
「お前は……?」
「ラリオーナ!」
その咆哮と共に、開いているウルトラホールの反対側にもう一つのウルトラホールが開いた。それがどこに繋がっているのか、問う必要すらない。
「……待ってろ、今度こそ助けるからな――」
今度こそ躊躇わずに足を踏み入れる。その先に訪れる運命をまだ知らずに。
読了ありがとうございました。
これで、前日譚は終了です。
なるべくヨウ君をイケメンに書きたかったけど、難しいですね。
それでは今回はここまで、次もお付き合い頂ければ幸いです。
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