機械生命体と機械の様な男の昼下がり (紫野)
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機械生命体と機械の様な男の昼下がり

ナーガ・レイ。彼には感情が無い。彼の一族は遥か昔、争いをなくすために感情を捨てた。そして彼は機械生命体であるバランスと共に行動することで感情を手に入れようと旅をしていた。

 

 今日も彼は感情について勉強していた、そんな昼下がり。ついこの間、惑星ジガマにてラッキーという青年に出会い、色々あってバランスと共にキュウレンジャーになった。その時彼は宇宙幕府ジャークマターに対して怒った。それは彼が初めて感情を表した瞬間だった。ナーガはその時の興奮が冷めやらぬまま、次の感情について相棒であるバランスと話していた。

 

「 バランス。俺はこの間、怒ることができただろう。次はどんな感情があるんだ。」

「おお!そうだったね~じゃあ今度は喜ぶことかな~感情は喜怒哀楽四つが一番大事だからね~」

「喜ぶ…どうしたら俺は喜ぶことができる」

「えーっとね~…喜ぶっていうのは、…あ!」

「どうした、バランス」

「僕からだと毎回同じことになっちゃうな~って。じゃあ今日は他のみんなに聞いてみると新しい発見になるかもしれないよ~」

「そうか。では聞いて来よう。」

 

そう言うとナーガは部屋を離れ、キュウレンジャーの仲間のところへと向かった。

まずはシシ座系出身のラッキーの元へと向かった。ラッキーの部屋は彼らがいた部屋からそう遠くない。

部屋の前に行くと、ナーガは扉に書かれている巨大な文字を確認して扉を開けた。

 

「ラッキー」

「うおわ!!」

 

中に入るとベッドに横たわり、まどろんでいたラッキーが飛び跳ねる。どうやらラッキーはノックせずに入ってきたナーガに驚いたようだ。

 

「いきなり驚かすなよ、ナーガ!」

「すまない。」

「まあいいけどさっ…で?何かあったのか?」

「そうだ。今日はバランスに喜ぶことを教わるつもりだったが、たまには他の意見も聞いたらどうだと言われて、ラッキーのところに来た。」

「そうか!喜ぶことか~俺は嬉しいことがあった時に喜ぶな」

「嬉しい…こうか」

 

そういうとナーガはおもむろに顔の中心にしわを寄せて目を吊り上げた。それはいわゆる怒る感情をあらわにした。

 

「違う違う!!ナーガ、それはこの間の怒るってやつだ!」

「じゃあ、嬉しいとはどういうことだ」

「嬉しいってのは、好きな食べ物を食べられた時とか、好きなことができた時とか。とにかく!!好きなできごとが起こった時だな!!」

「好きな出来事…」

「ナーガは何が好きなんだよ」

「好き…う~ん…。」

「好きな食べ物とかないのか」

「食べ物は体に栄養を与えてくれればいい。」

 

感情を捨てた一族には自分達の生命活動が続けられること。それが全てだった。

 

「えーーないのかよ。じゃあバランスは?ずっと一緒にいたんだから好きだろ!」

「バランスが、好き…。バランスは特別な存在…。好きなのか?俺はバランスが」

 

彼は好きという感情も分からなかった。共に過ごしてきたバランスの事をどう思っていたのか言葉で表すことができない。しかし、表すことができなくとも彼には彼なりの思いでバランスに接してきたつもりだ。

 

「特別に思えるってことは嫌いじゃないってことだから、お前はバランスが好きなんだよ!俺にはそんなに小難しい半紙はできねえから、あとは他にも聞いて来いよ」

「分かった。」

 

ラッキーに送り出され、部屋を出たが、ナーガはラッキーに言われたことで心がざわついていた。このざわつきは自分では考えたことももちろん感じたこともなかった。このまま他の仲間にも聞こうと思ったが、どうにも落ち着かないため、一度部屋に戻ることにした。

 

自室に戻ると、ベランダに出ていたバランスがナーガに気が付き、声をかける。

 

「あれ、早かったねー?どうだった?どんなこと聞いてきたの?」

 

バランスを見ると先ほどのラッキーの言葉がよぎる。

 

「俺は…バランスが」

「んん?なぁに?ナーガ」

「俺は、バランスが好きなのか」

 

突拍子も無い言葉にバランスが慌てふためく。しかし、ナーガはじっと目の前にいるバランスを見つめた。

 

「えっえっえーーーー?!?!なになになにー!ナーガそれ誰に何聞いてきたの!」

「ラッキーのところに行ってきた。ラッキーが、好きな出来事が起こった時が嬉しいのだと教えてくれた。しかし俺には好きなことが分からなかった。そうしたら、ラッキーがバランスをどう思っているのかって」

「え~~。ラッキーはあんまりあてにならなかったかな~。」

「バランス。俺はバランスが好きなのか。どうしたら嬉しいんだ俺は。」

「う~~んと、僕が喜べば、ナーガは嬉しいの?」

「俺はバランスといることは嫌ではない。バランスがいれば俺は嬉しい…と思う」

 「そっか〜そっっっか〜う〜〜ん。」

 

眼前の機械生命体は柄にもなく頭を抱えていた。ナーガは自分の質問のせいでバランスを困らせていることを察した。

 

「すまない。時間がかかるならまた今度で構わない」

「待って、ナーガ。」

 

バランスは立ち上がろうとしたナーガの綺麗な手を掴んだ。ナーガは無感情にバランスを見つめた。その瞳にはバランスにしか分からないほどの微かな困惑を秘めているように見えた。

 

「ナーガは怒ることを覚えたけど、まだ使いどころ違うよね」

「ん?何の話だ。俺がバランスを好きかどう、…」

 

機械生命体よりも機械らしいナーガの細い身体にひと回りほど小さなバランスがしがみつくように抱きついていた。突然の衝撃に身じろぎをしたが、彼の冷たい身体による強い力に動けずにいた。

 

「バランス?」

「僕は、ずっと、、、」

 

 

バランスは震えていた。

 

 



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機械生命体と機械のような男 第二話

前回の続き
機械生命体が相棒に感情について調査させていた

機械生命体が抱きついて震えているとこから



バランスが俺にこんなに近づいたことはなかった。

バランスはいつも俺の知らないことを教えてくれる。バランスが教えてくれることが俺の知識のすべてに等しかった。

しかしバランスは最近になってごくまれにだが、俺に話しかける時に少し引っかかるような顔をすることがある。

その顔は長年付き添った彼にしか分からない。さらに言うと、顔と言っても機械生命体である相棒は口も目も動かない。それでも分かること、感じ取れることがある。

しかし、自分の数少ない感情ではバランスの気持ちの表し方が全く分からない。それが心をもやもやさせる。このもやもやも自分には分からない。

分からないことだらけでもとにかくバランスに声をかけたかった。

「僕は、ずっと、、、」

「バランス、」

「僕はずっと君のことを想ってきたのに!!なんで!どうして君は、そんな風に、、」

バランスは駄々をこねる子供のように、自分よりはるかに暖かくて柔らかい相棒の胸を叩いた。ぽかぽかと力無く。涙の出ないバランスは必死に、自分も聞いたことのないような涙声でナーガの名前を呼んだ。

なぜこんなに相棒は暖かいのだろうか。当たり前のことであっても、今はそれすらも自分の中でたくさんの感情が渦巻く理由にしかならない。機械ではない生命体に対して何も考えたことはなかったけれど、ナーガとずっと行動を共にしていると自分が機械であることを忘れてしまうようだ。それがどう意味するのかはまだ自分の思考回路では解析できてはいないが、いつかそれが分かるといいな、なんて淡い願いを抱いてることに気がついたのはいつのことだろうか。

しばらくするとその声はゆっくりと小さくなっていった。すると、ナーガがしっかりとした声で言葉を発する。

「落ち着いたか?バランス。ゆっくりでいいから、大丈夫。」

「、、、、うん。」

しばらく二人は部屋のソファに腰を落ち着けた。先に声を発したのはバランスだった。

「僕はナーガのことが好きみたいなんだよね」

バランスの声は普段よりも落ち着いていて、今までため込んできた何かを観念してはき出したような言い方だった。ナーガにはそのくらいぼんやりとした雰囲気でしか感じ取れなかった。この雰囲気がこのあとあんなことになるとはこの時のナーガには、いや、バランスですらも分からなかった。

「そうか」

「そうかってそれだけ?!」

「他に何と言えばいいのかわからないし、バランスの言いたいことを聞きたいと思ってたから俺からは何も言うことはない。」

「そうか~~~~~~」

彼の言う通りだ。感情を勉強している最中の彼に今まで自分が教えたことのない感情について意見を求めても何もわからない。そんな分かり切っていたことですら、自分の思考回路の中から無くなってることに気づかないなんて、我ながらぶっ飛んでいる。どこか回路がショートしていたのかもしれない。ため込んでいた何かはまだはっきりと名前を付けることができないが、相棒の言葉によってその何かはふっと吹き飛んでいったような気がする。

「なんていえば伝わるのか僕にも今はあんまりわからないけど~、ナーガにもわかるように言うとね、君がなんて思ってようと、僕は君と一緒にいたい、離れたくないってこと。自分勝手だね、僕。」

「バランスは俺が死ぬまで一緒にいるのか?」

「いるっていうか、いたいの、傍に。僕がナーガにとっての特別でありたいの。」

「俺にとっての特別…。俺はバランスがいなければもう生きてはいけないと思っているぞ。」

いつもの通りに至極まじめに声にした相棒の言葉に我を忘れそうになった。自分が最初に気持ちを口にしていたはずなのに、なぜか今はナーガがバランスに告白している。こんな状況は機械生命体の思考回路ではたどり着けなかった、いや、たどり着きたくても怖くて遮断していた答えだ。それが現実に起こっている。夢のような出来事にもしかしたら本当に自分の回路はどこかがショートしたんじゃないかと不安になってくる。しかしその不安をかき消すようにナーガがバランスの肩を掴む。

「なんでそんな顔するの、ナーガ」

「今、俺はどんな顔をしている」

「くしゃくしゃな顔だよ、笑っちゃうほど」

「バランスが笑っているならそれでいい」

「そんなかっこいい言葉どこで覚えたのさ、イケメン」

「イケメンとは何だ。」

「”イケ”てる”メン”ズ。簡単に言うとかっこいい男の人のことだよ」

「俺はイケてるのか。」

「うん、ごいすーにイケてる!宇宙一のイケメンだよ!!ナーガ!」

努めて明るく声を発したが、自分の声がまだ少し震えていたことに後から気がついた。

いつものような他愛のない話を繰り返していると二人の間に確かな情が芽生える。バランスはこの感覚に身を任せてしまうと自分が自分じゃなくなる気がしていた。その予感はバランス本人よりもナーガのほうに言えたことだった。

「バランス」

「なぁに?」

「俺はバランスと一緒にいたいが、キュウレンジャーのみんなと一緒にいるときはそういうこと言うとハミィに怒られる気がする。」

「うん、そうだね。でもだからってどうしたらいいのさ」

「俺が考えるには、バランスと二人でいるときは存分にバランスを感じればいいと思う。そうすればみんながいても強くバランスを感じれると思う。」

「感じるってどういうこと?ナー」

 

バランスがナーガの名前を呼び終える前に、機械であるバランスの重量をものともせずにナーガがバランスを抱きかかえた。宇宙でもこれはお姫様抱っこと呼ばれている。

 

「えっ?!ナーガ?!ごいすーに力持ちだね?!こんなにナーガ力持ちだっけ?僕知らないよ」

「知らなくてもいい。」

「え!どいひー!!」

 

あっという間にバランスはソファからベッドに移動させられていた。本当に驚いた。相棒がそつなく何でもこなすことは知っていた。そういえば何か重たいものを持つときは自分が操れるコードで持ち上げていた気がしてきた。そんなに自分は相棒に甘かったか。

そんなことを考えてる場合ではない。それどころではない状況が視界を埋め尽くしていた。

 

「ナーガ、残念だけど僕は機械だよ?」

「もう俺はバランスと一緒にいるときは少しも離れたくない。」

「聞いてる?」

「…」

「硬くて冷たいよ、僕の身体」

「今は俺が熱いからちょうどいい」

 

今度はナーガがバランスに抱きついていた。それも全身で好きを表す動物のように。自分よりも10cmほど大きい身長の男が機械の身体がきしむほどに抱きしめていた。

 




またも抱きしめているところで終わりました。すいません。
次で終わりです。
ちょっと久しぶりにたくさん頭回転させて語彙力の無さを痛感しました。


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