想いのカタチ (新茶)
しおりを挟む

注意事項と主人公紹介

初めまして「新茶」というものです。

今回から小説を投稿していきます。

本編にいきたいのは自分でも山々なんですけども色々書いておきたいことがあるので…

 

下にも書いているのですがメンバーの出番が極端です。ぶっちゃけた話、それは今回の主人公によるものです。自分の考え方ではそこまで「μ’s」という大きな枠組に主人公を突っ込む必要性があるのか?と思いました。その中で視点という考えに至りました。

第1視点はμ’sそのものです。メンバー自身を映し出したものであり、アニメでの重要なポイントです。

 

第2視点はアニメなどの視聴者視点です。μ’sを側で見守り、彼女達の成長を見ていく。結局彼女達にも視聴者の存在は分からないし、ある意味1番のVIP席なのかもしれませんね。

 

第3視点は関連性が高い人達です。雪穂や亜里沙、ママ、ヒフミトリオなどです。μ’sと深く関わりメンバー全員がその人の顔を見ればこの人だとわかる存在です。

普通なら第3視点までしか作品に出ません(多分)。要するに第3視点以降の位置どりとしてはモブキャラという感じでしょう。今回は第3視点でもないけど、モブキャラでもないという(微妙な)キャラを主人公として描いていきます。それがまぁ第4視点です。

 

ということで第4視点はある特定のメンバーと接点がある人物になります。全員ではないけど普通に会話したりすることができる人物です。その結果、アニメ版で描かれている出来事にはあまり深く関わりません。(例、合宿)

その分オリジナル展開が多くなったり、μ’sが様々なことをしている中でその裏では…という展開がこの小説あるあるになります。

 

 

※上記の考えは決して他の小説を批判するものではありません。あくまで自分の考え方です。

 

 

 

 

 

◎注意事項

・主は小説を書いたことがないのでこれが初作品となります。

 

・ラブライブ!の2次創作となります。

 

・音乃木坂学院は共学設定にしてください。そうしましょう。そうしてくださいお願いします。それ以外の設定から展開する方法が思い浮かびませんでした。

 

・初作品の割にまさかの長編になりそうな展開(当初こうなるとは思わなかった)かつ、恋愛作品です。

 

・2次作品ではありますが半分ほどはオリジナル展開になるかと思われます。時系列的には変化はありません。最初からオリジナル展開をぶっぱしていきます。話は高校1年から始まるんだもん仕方ないね。(できるだけさっさと1年は終わらせるつもりです。)

 

・キャラによって出番の差が激しく変化します。ヒロインは異常な出現率。皆勤賞待った無しといった感じでしょう。逆に出ない人はほんとに出ません。1年生組は…ほんとに出ないよ、申し訳ない。批判されても「えぇ( ;´Д`)そんなこと言われても…」といった感じになるので各自自分の意思を抑えつけることのできる理由を探して納得してください。

以上の注意事項が大丈夫だよ!という方は是非読んでもらえると嬉しいです。

 

 

オリ主の自己紹介

※このデータは高校入学時のものとなります。高2、高3時にまた書く予定です。

名前 波野 和也(なみの かずや)(15)

身長166cm

体重64kg

趣味 読書、マジック研究、ゲーム

 

 

父母と姉の4人家族。小学校卒業後父の都合上東京都内に引っ越し、異動しばらくないとのことなのであっさり1軒家を購入したのに…まーた異動かと。4つ上の姉(現時点では大学1回生)は1人暮らしのため家にはおらず父母も仕事の関係で別のマンションを借りるため、和也は元は4人で住んでいた1軒家に1人で住むことになります。

 

中学時代にはーー部に所属←すぐにわかります

合気道や護身術を軽く習っています。

運動神経が良く、勉強もできるというすごい人です。(主的な観測)

家事は1人暮らしになるということで母から大体のことは教わり、できるようになりました。

 

和也は努力の人間と中学時代言われていました。彼は努力すれば、大体のことは達成できる人間でした。それを恨んでいる人もいましたが、結果は努力の上に立っているという考え方の人が次第に増え、彼はクラスの人気者となりました。また、その考え方に初めて辿り着き良き理解者となったのが今の親友2人です。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話 あの日の彼女

今回から本編となります。まぁ回想という形にはなるのですが…とりあえず今回もよろしくお願いします。

※3月6日 加筆修正を行いました。主自身ミスは後に気づいてしまうタイプなので、文の表現が後から見ればおかしい部分がよくあります(よくあるとダメですね)これからも修正に関してはよくあると思われます。ご了承ください。


1000文字ほど寝落ちで消し飛びました。辛いです。



朝日が昇りカーテンの隙間から光が差し込んでくる。俺の部屋は太陽光が朝方にこれでもかというほど当たる仕組みになっている。

良くも悪くもその光は引っ越して来てからの3年間で仕組みを理解し起きる時間を調節できるまでになった。おかげで今まで学校に遅刻したことはなかったけどさ、調節とか言ってるけど、別にそれを望んだ訳ではないんだけどね…

 

相変わらず眩しいと思いつつも目を覚ました俺は癖のようにベットから起き上がり「ん〜〜」と背伸びをしながら、起きる直前に見ていた夢の内容を思い出す。

 

「またあの人の夢だな。まぁ俺は尊敬してるからいいんだけど…」

 

とりあえず着替えよと収納棚の引き出しを開け、着替えを探す…

 

 

あれは中学生として最後の弓道の大会でのことだ。

 

 

***

 

大会当日

俺は朝早くから学校に来ている。会場には学校で集合してから向かうのだが学校での集合時間よりもまだ1時間も早い。

呼ばれたのは3年の部員だけのようで弓道部部室で部員に対して顧問の滝井 明義(たきい あきよし)先生が話をしている。この人にはお世話になったし、この大会で俺たち3年生は引退となる。最後の話と自分を説得し…とりあえず聞いておくか。

先生の話をひと通り聞いた後には円陣を組み、掛け声を出して全員で声を合わせる。

この先生とてもいい人なんだけどなぁ…なぜこんなにも熱血的なんだ?どこかのテニスプレイヤーみたいに

 

これで会場にすら着いてないとか…

 

 

***

 

 

なんだかんだで会場に着いたが今までと同じ会場なのにも関わらず別世界のように感じた。先生の話が重なりこれで終わりかと思うと悲しくなってくる…ん?少し遅いか?

とりあえず会場の雰囲気に慣れようと中に入っていく。

 

入場すれば、「中もやっぱりすごいな」と小並感漂う発言をしつつ、2階の観覧席に行く。競技は女子が先なので見学することになった。

 

 

しばらく自由時間となったので2階の通路の手すりに腕をかけながら1階の競技の様子を見る。

ふと、会場の左側を見ていた目線を右側に移すと、射法八節の中の(かい)と呼ばれる部分に入っている女子がいる。他に矢を放つような姿勢を見せている女子はいなかったので、自然と注目した。

 

あの時の姿を俺は忘れないのだろう…

洗練された動き、獲物を狙うように光る美しい目、群青色の長い髪は太陽光を反射して輝いている。弓道着を着たその姿は引き込まれるものがあった。

 

そして、矢が放たれた。矢は的の中心に突き刺さる。

気持ちいい音が鳴り我に帰る。

小さな子供が水槽に張り付いて魚を見るような目でジーッと観察してしまっているが別に変態な訳ではない…本当だよ?

 

自分の中で納得した後、彼女がまた弓を引いている。が、矢が放たれる瞬間に矢が的の中心を射抜くことがなぜか分かった。思った通りにまた的の中心を矢が射抜く。なんだろう時間をループしているのだろうか?

観客からは「おぉ〜」という声もちらほら聞こえる。

 

すると、彼女はこちらを向いて控えめではあるが笑顔を見せている。俺に向けてではないのは承知しているので、目線の方向から予測し後ろを見るとオレンジ色の髪の女の子が大きく手を振っている。隣のベージュ色の髪の女の子も小さく手を振っている。

「なんだ友達か…」と何か変に思われていなくて安心した。

 

その時「おい波野、何ボーッとしてんだ?かわいい子でも見つけたのか?ちゃんと準備しとけよー」と笑いながら茶化してくる滝井先生。こういうところは滝井先生のいいところだと思う。緊張がほぐれて周りの空気が和む。やっぱいい先生だなこの人は。

俺は「違いますよ」と同じく笑いながら返事をして準備の為にその場から去った。

 

***

 

大会の結果としては彼女は女子部門優勝、俺は男子部門準優勝、団体戦は共に3位という結果だった。俺としては満足で最後の大会で悔いがない戦いができた。

でも、1つ気になることがある。彼女(あの人)は誰なのだろうと。

俺は自分で言ってても悔しくなるのだが、彼女と戦っているという訳でもないのに『負ける』そう思える確信が持てた。全てが俺よりも上回っている気がした。

だからこそ、なんとか彼女の名前だけでも知れないものかと考えていた。

 

「おーい波野、表彰式始まるから戻ってこい」と言った滝井先生の声が聞こえた…表彰式?ん?「そうだ!表彰式だ!」周りに人がいるにも関わらず大声で言ってしまった…

滝井先生もおいおい…といった様子だ。あわあわとしたが周りの人に一礼してその場を去る。

 

 

***

 

 

表彰式が始まり男子から表彰される。会長に軽くお辞儀をし、メダルと賞状が渡される。やはり自分の努力が形として現れて報われるのはとても嬉しいことだな。

嬉しいが…それより彼女の名前だ。気になって仕方なかった。

 

 

ついに、女子の表彰だ。大会の会長が名前を読み上げる。

 

「賞状、園田 海未(そのだ うみ)殿 あなたは〜…なのでこれを賞します」

 

彼女の名前を心に刻む。俺は彼女を尊敬する。彼女を超えたい。今までにないくらい強く熱い感情が俺を包んでいる…

ここで終わりなんかじゃない。彼女は高校でも弓道をするのかな、いやするんだ。俺の身勝手な希望だが叶ってほしい。

 

新たな目標ができたんだ。

 

その後は滝井先生に頭をワシャワシャとされて褒められたりしたり、引退会など色んなことをした。引退するのは辛かったけど3年間弓道をやってきてよかったと思える。高校でも絶対にやる。必ず新しい出来事があるはずだから…必ず新しい出会いがあるはずだから。

 

 

 

 

 




今回も読んでいただきありがとうございます。
感想や指摘なども募集してます。貰えると嬉しくなる人なので笑

残念な?お知らせですがしばらく滝井 明義先生はでてきません…出てくる予定は今後ありますが相当後になります。

あとμ’sでの推しはこの作品の通り海未ちゃんです。
Aqoursでは梨子ちゃんです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 そんなことあるんだ…

少し遅れました。海未ちゃんの誕生日に合わせたかったんです(言い訳)
次の投稿はできるだけ早くする予定なので…

さて、今回も回想となります。前回とは全く別の親友とのお話になります。楽しんでください!

※多少の訂正をしました。


「はぁー」

金曜日の放課後、学校の教室に俺は1人溜め息をつきながら頭を掻いている。机の上にあるのは色んな高校の資料と白紙の進路希望調査用紙だ。勉強はそれなりにしていたし、高校でやりたいことは弓道くらいだ。だが今、白紙の用紙があるということは…

 

何も決まんねぇんだよぉぉぉぉぉ

 

とりあえず、時間も時間なので先生には「親と考えてきます」と適当な言い訳をして自然と早くなる足に体がついていきながら急いで家に帰った。

 

 

***

 

 

土曜日

俺は母方の祖父母の家に家族で遊びに来ている。そこでなぜか進路の話が祖父の一言から話題に上がった。正直あまりいい気分ではないが仕方ないと割り切って相談してみようと思う。

 

「和也は高校決めたのか?もう決めないといけない時期だろう?」

 

「週明けには提出しないといけないんだけど、何も決まってないんだ。いい感じの学校が見つからなくて…」

 

「高校に入ってやりたいことはないのかい?」

 

「弓道を続けたいのは決まってるんだけどそれ以外何も…」

 

「弓道をやりたいんだったら…もう話ししてたら申し訳ないけど、あの学校はどうかね、。えーとそうそう音乃木坂ね。弓道部も私がいた時からあったからね、今も続いてるならそれなりに歴史はあるんじゃないかね」

 

「音乃木坂?…あぁ家から結構近くにある高校か。でもあの高校って女子高じゃなかったっけ?」

 

「お母さんの母校だったわね。音乃木坂は5年前から共学化しているわよ。男子も少ないけれどいるようだし、制服を着てる子も見たことがあるわよ。というか5年も前から共学化していたのに気づかなかったのね…」

 

母に軽くdisられたが新しい情報が手に入った。とりあえずdisられたことに関してはとりあえず置いておこう。

 

「まだ音乃木坂学院の話は出たことがないな。帰ったら調べてみるよ。おばあちゃんありがとう」

 

家に帰る途中、車中で音乃木坂学院について調べていたが、車酔いでそれどころではなかった。

 

 

 

家に帰り気分が落ち着いてから音乃木坂学院について調べた。

 

・共学化の理由は生徒数の減少が原因のようだ。

・祖母が言っていたように弓道部は創設から結構な月日が経っているようだ。今も20人ほどの部員がいる。更には校内に弓道場まであるみたいだ…少し歩かなければならないみたいだが。

・俺の学力だと今の成績を維持すれば、合格できるレベルだったこと。

・勉強面でのサポートも充実していること。

 

調べた結果としては俺にとっては今までにないくらい好条件な高校なのではないかという考えに至った。1番やりたいであろう弓道部も歴史があり、弓道場まであるのだから嬉しい。

 

それからは行動が早かった。両親と姉に音乃木坂に行くと言うと、3人とも嬉しそうに「がんばれ!」と言ってくれた。

日付が変わりそうなころ、俺は進路希望調査用紙に

 

第1希望 国立音乃木坂学院

 

と書き込み、ファイルに用紙を入れ、就寝した。

 

 

 

月曜日に用紙を提出し、先生も嬉しそうにしてくれた。俺はホッとしたあと、受験に向けた勉強に取り組んだ。

 

 

*****

 

 

遂に出願日を迎えた。

中学校で学校ごとに先生の元に集まり注意や交通機関の確認等をする。同じ学校の人と一緒に固まって出願することで知り合いと席が近い状態で入試を受けれるというのも狙いのようだ。

 

で、音乃木坂学院の集合場所にむかったのだが…

 

「は?なんでお前らがいるんだよ…」

 

そこには俺の親友である秋山 涼輝(あきやま りょうき)北川 陸斗(きたがわ りくと)の姿があった。

 

「なんでいるって言われてもよ…音乃木坂受けるからに決まってるじゃん」

 

「そうだよ、結構酷いこと言うね」

2人からボロクソに叩かれたあとなんとか話題を変えれた。

 

一応2人のことを紹介しておくと

秋山 涼輝は単純で正直に言うと『バカ』だ。3人で過ごしている中ではテンションがいつも高めだ。友達思いで悩みを相談すると自分のことのように考え挙げ句の果てには、彼の単純さが故にあっさりと解決することも多く、後になぜ悩んでいたのかと自分を問いたくなることも多い。あと柔道をやっている。

 

続いて北川 陸斗だが一言で表せば『情報屋』だ。学校のことや生徒同士の恋事情など聞けばキリがない。また、付き合ってから1ヶ月以上彼にバレなかった人もいないとのこと。更には、彼の持っている情報がデマだったということは一度もない。なぜそれほど確実な情報が手に入れられるのか俺は分からないが、クラスメイトと気さくに接することのできる彼だからこその情報網なのだろう。そして、彼は剣道をやっている。

 

 

注意等を受けたあと、3人で音乃木坂学院へ向かうことになった。

 

 

「2人はなぜ音乃木坂に行くことにしたんだ?」

 

「俺らはお母さんが友達同士でさ、音乃木坂が母校だったんだよ。で学校を見たところ2人ともいい感じだなってなった訳だ」

 

「僕たちがやってる剣道と柔道も歴史があるし、いいとこだと思ったんだ。和也はどうして音乃木坂に?」

 

「あぁ、祖母の母校が音乃木坂だったんだよ。で悩んでる時に行ってみたらと言われてさ意外とよかったからさ…って涼輝入試大丈夫なのか?」

 

「それは僕も思ったよ…」

 

「はぁーお前ら分かってねぇな。俺がテストで悲惨な点数を取ったことがあるか?」

 

「と言われてもさ、涼輝小テストは悲惨だよね」

 

「まあこいつは一夜漬けの天才だし定期テストとか毎日のようにやってただろ。だからこそ、入試でもやってくれると思うよ…多分」

 

「そんな不安なこと言うな…怖いだろ」

 

「これって出願前の会話だよね?」

 

「さっさと行って帰ろうか」

 

「「そうだな」」

 

まぁ何の問題がある訳でもなく出願も終わった。強いて言えば女子が多かったくらいだな。

 

 

入試でも3人でいたから緊張感はあまり無く思ったよりもあっさり終わってしまった。(書くことも大してないんです)

 

 

***

 

 

「結果発表大丈夫かなぁ」

 

「陸斗…ここにきて緊張してるのか」

 

「そ、そうだよ」

 

「大丈夫だろ。心配すんな」

 

「俺は涼輝が1番不安だわ」

 

「やめてくれ…」

 

「やっぱりみんな不安なんだね」

 

「「「はぁー」」」

 

 

 

 

 

でもその不安に反して結果は…

 

 

 

 

 

「やったー!!合格してんじゃん俺ら!!」

その喜びとともに涼輝が俺と陸斗に抱き付いてきた。

 

「イッテェんだよ。でもよかった…な」

 

「和也泣いてる?でも、これからも一緒に楽しく過ごせるんだ!!」

 

「あぁ、嬉しい…んだよ」

 

「「「やったな」」」

 

これは俺の素晴らしい高校生活の予兆だ。しかも、その1歩にしか過ぎない。

 

 

*****

 

 

LINEsのグループ会話にて

涼輝「明日入学式だぞ!!」

 

陸斗「嬉しそうなのが画面越しで伝わってくるよ笑」

 

和也「そりゃ楽しみだろうな。クラス分けどうなるかな」

 

涼輝「もちろん3人とも同じクラスだろ!!」

 

和也「うわ、そんなこと言うんじゃねぇ」

 

陸斗「これは一波乱ありそうだね(汗)」

 

涼輝「大丈夫だって笑」

 

和也「これでバラバラになったら…呪うよ?」

 

陸斗「これは涼輝が悪いよ…うん」

 

涼輝「えぇ!?なんでだよ。それに呪うとか怖いこと言うなよ。和也が言うとガチでやりそうだから(汗)」

 

………

 

和也「おい、もう1時半だぞ。普通に入学式当日だからさ…寝ようぜ?」

 

涼輝「まだまだ夜はおわんねぇぜ」

 

和也「何言ってんだよ…しかも30分前から既読が1つしかついてない時点で陸斗寝落ちしてんじゃねえか」

 

涼輝「確かにそうだな…で終わるとでも思ったか!!スタ連してやる!!」

 

和也「おいやめろ」

 

ピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコン…

 

和也「あーうっせぇよ!!」

こうして寝不足感漂う入学式を迎えるのでした。

 

 

 

 




今回も読んでいただきありがとうございます。

なんとか海未ちゃんの誕生日に間に合わせることができました。(訂正で次の日になった模様)
本来は3時15分に投稿することも考えたのですが、こちらのミスもあり投稿することは叶いませんでした。来年は必ず3時15分に投稿したいという意気込みを述べつつ…海未ちゃん誕生日おめでとう!!!!!


魔法師さん、緋炉さん、天道刹那さん、ネギさん、大天使さん
お気に入り登録ありがとうございます!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 あっさりとした出会い

今回は早く投稿しましたよ(迫真)なんて嘘です。
モチベーションも上がったのでサラサラと書くことができたので早く投稿できました。

えー今回はついに回想から抜け出し(?)入学式となります笑

これ思ったんですが進行速度遅い気がしますね。何話行くことやら…

※加筆修正しました。


今日は入学式だ。

俺はマーガリンを塗ったトーストとコーヒーというありきたりな朝食を済ませ、制服に着替えも済んでいる。時間潰しを兼ねて、朝のニュース番組を見ているのだが、今日が入学式という学校が多いのだろうか?入学式関係のニュースが多くいつものように物騒なことばかりではない。

 

「もうそろそろ待ち合わせの場所に向かった方がいいかな」

コメンテーターが話している途中だが何の躊躇いもなくテレビを消しカバンを自分の部屋に取りにいく。

 

 

「よし、忘れ物はないな」

鍵をかけたこともしっかり確認し、今日は涼輝と陸斗と一緒に高校へ向かうので、待ち合わせの場所という名の涼輝の家に向かう。中学校に通っている時から続けているが…学校から明らか遠回りなんだよなぁ。

 

そんな遠回りの途中、欠伸を繰り返したがまぁ大丈夫だ。

 

涼輝が深夜に騒いだせいか若干寝不足気味だがこれぐらい想定範囲内だ。中学時代にも何回もやられているし、俺自身も睡眠時間が少なくなることも慣れてしまった。今は…6時間ほど取れば十分かな。

 

 

 

で、着いたわけだが陸斗が数分後に来た後は待ち合わせ場所(涼輝の家)に涼輝がこない。

 

「またか…」

 

「まぁ涼輝のことだし、僕たちにとっては恒例行事だね」

 

「ははは…あとで覚えとけよ」

 

「それも相変わらずだね…」

 

しばらくして涼輝の家の扉が開きやっちゃったぜ☆みたいな顔をして涼輝が出てきた。

 

これを見越して待ち合わせの時間は早めに設定してあるので、もうこんな時間だ!急げ〜ということにはならない。

 

「とりあえず何か言うことは?」

 

「すみませんでした」

 

「よろしい。ならさっさと行こう」

 

「は、はい…」

 

「いつも通りでよかったよかった」

 

 

 

 

 

桜が舞い散る中、正門を通る。前に来た時は桜が咲いていなかったからか校舎が目立っていたが、今は桜が負けずとばかりに咲き誇り写真に収めたいと思えるほど綺麗で美しい。

 

「遂に入っちゃったぞ俺たち!!」

 

「そんなに大きな声で言わないでくれ。入学早々耳を潰したくない」

 

「でもさぁー」

 

「まぁまぁ。あっちにクラス内訳表あるみたいだよ」

 

「よーしさっさと見に行こうぜ」

 

「はぁ次から次へと…」

 

 

 

 

 

「秋山は…あったわ。1組2番か。1番は無理だったかぁ」

 

「えーとそのまま横へ見ていって…あった1組8番だね」

 

「あとは和也だな。16が東堂、17が中居、18が羽田…」

 

「「あっ…」」

 

「やっぱりそう上手くはいかないよな。とりあえず2組見てくるわ…涼輝、昨日言ったこと覚えてるよな?覚悟しとくことだな」

 

「ははは…陸斗どうしよう」

 

「そう言われても…近々お祓いにでも行こうか」

 

「お願いします陸斗様」

 

 

 

 

 

 

「はぁー受験の段階で運使っちゃったかぁ。これはやらかしたなぁ」

あちらこちらから友人とクラスが別れたのか悲しそうな声があちこちで聞こえる。俺が別れたから敏感になっているのかもしれないが…

あぁあそこでも…

 

「ク、クラスが別れても大丈夫だよ海未ちゃん!」

 

「どうしてこうなるのですか…穂乃果があんなこと言うからです!」

 

「えぇ!?そんな責任転嫁は良くないよ!」

 

「こんな時ばかり難しい言葉を使っても無駄です!」

 

「まぁまぁ海未ちゃん落ち着いて…」

 

「ことりだって穂乃果と同じクラスだからそんなこと言えるんです!」

 

「ふぇーんそんなぁ」

 

 

 

あぁ同士よ。この世界は無情なものだな。

 

もう消化試合みたいなものだがとりあえず見ていくか。

 

「えーと10番あたりから見ればいいか…あったな18番か小学校や中学校に比べると早めだな。やっぱり人数が少ないからかな」

 

高校生活始まって早々出鼻を挫かれたがこればかりは仕方ない。2人のところへさっさと戻ろう。

 

 

 

 

 

「2組だったわ」

 

「お、おうそうか」

 

うわぁ涼輝大分気にしてるなこれ

 

「俺友達できる自信ないなー。これからも一緒にいてくれるか2人とも?」

 

「「もちろん」」

 

涼輝はこちらをキラキラさせた目で見ている。はぁ許してあげるか…

陸斗はニコニコしている。なんだこいつは…

 

 

 

「じゃあ俺は2組に行くわ」

 

「おう、達者でな」

 

「なんだよその言い方…変な言葉遣いするな…」

 

「もうあんまり時間ないみたいだし座った方がいいんじゃないかな?」

 

「また休み時間に会おうぜ」

 

「おう、またな」

 

 

 

 

 

教室内は机が…6×6列ということは18番だと1番後ろになるのか…ラッキーだな

 

大体の人が座ってる中、席を見つける。

 

「えーとここだな。あーやっと落ち着いた」

 

椅子に座り机にへたりこんでいるが、机にLOVEなんてことはない。

1番後ろだからこそのこの教室内の広大な景色(?)…最高だな。

 

教室を眺めていると隣の席の女の子が俯いていた。

どうかしたのかと見ていたが、これさっき俺が同士と言った人じゃないか?まぁ辛いよなその気持ち俺も分かるよ。

 

ん?

 

隣の席の子『海未ちゃん』って呼ばれてたよな…えーと隣の席だから12番かえーとえーと思い出せよ俺!

 

そうそう、園田だ…で園田海未…あ?

 

俺の中で1つの事実が出来上がりそうなんだが。

 

しかもその長い群青色の髪…あの時と同じだ。要するにこの人か、俺の尊敬してる人って。あまりの色々な出来事の連続でボケーっとしていた。

 

「あ、あの…」

 

ガン!!

突然話しかけられたので驚いて膝を机に思いっきりぶつけてしまった。

「い、痛い…」

 

「す、すみません」

 

「だ、大丈夫だよ。どうかした?」

 

「先ほどからずっとこちらを見られていたので…」

 

「あーごめんね。考え事してたんだ、気にしないでってえーと丁寧語?」

 

「え、えーと」

 

「とりあえず落ち着いて話そうか時間もまだあるから。もしかして男の人苦手?」

 

「いえそういう訳ではないのですが、あまり経験がなくて」

 

「そうか、丁寧語は気にしなくていいか?」

 

「はい。気にしたら負けということです。ふふ」

 

「お、おう了解した」

最近知った言葉を使えた嬉しさのような無邪気な彼女の笑顔が太陽のように明るく見えた。

それになぜだろうか。いつもの俺の話のテンポが崩されている気がするぞ。

 

「さっき聞いちゃったんだけど君も友達とクラス別れちゃったのか?」

 

「やはり騒がしかったでしょうか」

 

「いや、俺親友2人とクラス別れちゃったからさ。自然と耳に入ってきたんだと思うよ」

 

「私も1人だけはぐれてしまって…はぁー不運です」

 

「同情するよ。ところでこれだけ話してたけど名前言ってないよね?」

 

「確かに…こちらから話しかけていたのに申し訳ないです」

 

「俺も何かごめんな。俺の名前は波野和也だ」

 

「園田海未です…」

 

「はぐれ者同士よろしくね」

 

「その言い方は誤解を生みます!」

 

「ごめんごめん。とりあえず1年間同じクラスなワケだしよろしく」

 

「はいよろしくお願いします」

 

 

「みんな揃ってるかな?」という先生の声が聞こえ目配りをし2人とも前を向く。

 

色々話をされたがまぁそこまで面白い内容でもなかった。校則とか…あと今から入学式らしい。

 

 

 

ということで体育館で用意された席に座り、今は理事長先生が挨拶&お話をしている。

周りからチラホラ理事長先生が綺麗だとか色々言われてる。確かに理事長先生は綺麗だな。学校の経営諸々のこととなんというか年齢なんて失礼だが釣り合わないようなそれぐらいの美貌だ。

実際どうなのかもよく分からないが。

 

入学式も終わり教室で配布物が配られ、その日は終わりになった。部活についてはまた後日とのことだ。

 

 

 

 

SHRが終わり帰ろうと廊下に出たところ

 

「お、いたいた。一緒に帰ろうぜ」

 

「1組の方が早かったんだな。待たせてたみたいだしさっさと帰ろうか」

 

「ん?なんかいいことでもあった?」

 

「あぁ、不運かと思えばそうでもないかもしれないな」

 

「ならよかったよ」

 

「あ、うん」

 

「なんかやけにあっさりしてるね。これは裏がありそうだ」

 

「余計な詮索はしない方がいいぞ」

 

「あはは、和也だとお前は知ってはいけないことを知ってしまった。だから、家に帰すことはできない。とか言って殺されそうだしやめとこうかな」

 

「陸斗にとって俺はどういう風に見えてんだよ…」

 

「何の話してるんだ?今日は学校午前中だけなんだし昼食食べに行こうぜ」

 

「いいよー」

 

「いいことあったし、もろちん構わないよ」

 

「何があったんだよ教えてくれよぉ」

 

「気にしたら負けだぞ」

 

 




今回も読んでいただきありがとうございます!

今回で正式に?和也と海未が出会いましたね…ははこれからが楽しみでならない…おっと失礼笑

あと作中に出てきた東堂、中居、羽田さんは何も関係はありません笑

次は部活面の話になるかと思われます。
これからもよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 驚きと期待

お待たせしました。
2、3日前にはある程度形にはなっていたのですが、色々ありまして遅れました。

相変わらずの物語進行速度なので同じことの繰り返しでつまらないかもしれませんが今回もよろしくお願いします!


「またかぁ」

 

「仕方ない仕方ない」

 

今日も涼輝が家から出てこず、陸斗と一緒に待つ羽目になっている。昨日の夜に注意したはずなんだがなぁ。

 

 

そんな間にふと園田海未のことが浮かんだ。

俺自身もまさか尊敬している人にあんな出会いを果たすとは思わなかった。あっさり出会い、その場で咄嗟に初めて会ったかのように装ってしまった。俺が勝手に見たことがあるだけなのだが、それがバレていないのなら今は大丈夫だ。

しかし、そのうちバレる、またはその事実を告白する状況になった場合関係は…どうなるのだろうか。でも、そんなことを考える意味が今はない。俺は園田に尊敬の念を隠し続けるから。その時はその時、結局は先になれば分かる話だ。

 

「…おーい和也ー」

 

「ん?あぁどうした」

 

「涼輝来たから行くよ?ボーッとして反応なかったから」

 

「あぁ、ごめんごめん。今日クラスで一人一人自己紹介するらしいからなんて言おうかと考えてたんだ」

自己紹介が今日あるのは事実だが、言っていることが考えていることとかすりもしていない。まぁ陸斗に追求されると面倒だから仕方ないな。

 

「1組は昨日に終わったぞ」

 

「涼輝スベってた気がするけどね」

 

「そ、そんなわけないぞ?」

 

「あーあと、涼輝に似た元気なオーラ増し増しの女の子いたね」

 

「そんなに似てたか?」

 

「陸斗の説明を聞く限り多分似てるだろうね」

 

「あと男子を悩殺するかのような声で話す子もいたよ」

 

「あれはエグいな。入学式早々にあの子に落ちた奴もいると思うぞ」

 

「結構色んな人が揃っているもんだね」

 

「他にもさ…」

通い始めた高校と同級生に興味を持ちつつ、高校に向かった。

 

 

 

***

 

 

席に着き「ふぅ」と溜め息をつく。中学生の時から言われていたのだが俺は溜め息をつくことが癖になっているようだ。

 

隣を見ると園田はまだ来ていないようだ。今から涼輝と陸斗に会いに行くのもありだが時間もあまりなく、行っても先生に自分のクラスに戻れと言われるのが目に見えている。なので暇潰しがてら何かないかと通学カバンを漁る。

 

「えーと…うわぁ見事に何もないな」

 

俺は無駄な時間は極力省きたい人だ。あくまでそれは1人の時。もちろん友達なんかと過ごす時は無駄な時間なんてものはないし1秒1秒が1人でいる時よりよっぽど大切に思える。

 

授業はまだなくいらないと思い、教科書を持ってこなかったことや読書用の本を持ってこなかったことを後悔している。家の父の書斎にある本を読み続けているのだが中学3年間でも読みきれなかった。中学の間に自分の特技やためになることを習得するための本を何度も読んでいたことも書斎の本を読みきれなかった原因だ。

 

「この間に父の本読みたいんだがな」

空が映るわけでもない天井を眺めながら、ダラダラとする。

 

「お、おはようございます」

声が聞こえた方向を見ると園田がいた。

 

「おう、おはよう」

 

「「………」」

 

「あの「は、はい!」」

 

「あわわすみません」

 

「深呼吸、深呼吸」

 

「すーーはーー。お、落ち着きました」

 

「えっと話しするね。俺の都合押し付けるのもあれかと思うんだけど今暇だから話して時間潰さない?」

 

「構いませんよ。他にすることもないですし」

 

「なら良かった。でだ、今日HRの時にクラスで自己紹介あるみたいだけど、考えた?」

 

「え…そんなこと言ってましたか?」

 

「言ってたはずだよ。1組は昨日に終わったらしいし」

 

「確かに穂乃果がそんなことを言っていたような…あぁ思い出しました…うぅ最悪です」

 

「自己紹介がどうかしたのか?もしかして人の前で話すの苦手か?」

 

「そのもしかしてだったりします…」

 

「人前で話すのは俺もあまり得意じゃないんだよな。はぁ親友が堂々と話せている様を見習いたいなと思うよ」

 

「全くその通りです。自己紹介といえば、名前ともう1つ何か言うのが定番ですよね」

 

「担任の先生の気分にもよるが趣味、入りたい部活とかかな」

 

「部活は決めているので簡単なのですが、趣味となると周りとは少し異なるかもしれませんね」

 

「何か特殊な趣味をお持ちで?」

 

「少なくとも波野さんが考えていることではないと思います。真っ当ではあるのですがあまり女子高生がするものでもないと思うので」

 

「なるほどな。ある意味それが人の興味を誘うかもしれないけど逆もまた然りだよね」

 

「その通りです。一種の賭け事なのかもしれませんね」

 

「入学早々賭け事なんて危険な橋を渡りすぎな気もするけどな」

 

「その道を設けたのは私たち自身ではないですか」

 

「正論すぎて何も言えないよ。今はこの賭け事に勝利しないとね」

 

「はい、お互い頑張りましょう」

 

 

 

 

担任の山田先生は名前と趣味+一言を加えて話すようにと注文を付けてきた。出席番号1番から順番に言っていく。

あっという間に10番が過ぎる。

 

園田の番だ。

 

「そ、園田海未と申します」

緊張してるなぁ。いざ本番となると俺も緊張するんだろうなぁ。あともう少しだ園田、無事に終わってくれ。

 

「し、趣味は書道と読書です。1年間よろしくお願いします」

 

何とか終わったみたいだな。それにしても書道か、確かに珍しいと言えば珍しいな。お疲れ様と言った具合に園田にウインクでもしておくか。

 

パチッ

 

「…頑張ってください」

 

「サンキュー」

 

この次だ。

 

「えーと波野和也と言います。趣味は…読書とマジックです」

流石にゲームが好きだとはいえ初対面の場で発言するのは印象として良くないだろうな。

 

「1年間よろしくお願いします」

素っ気ない感じだったが、しょうもない人間が俺の周りに集まるよりは全然マシだ。このあとマジックをして欲しいと言われるのだろうな。マジックに使えるものあったかな…

 

「何とか終わったな」

 

「はい、変ではなかったでしょうか」

 

「大丈夫だろう。最悪俺も気休め程度にいるし…」

 

「そうですね。ありがたいです」

 

「あーあと書道?確かに珍しいかもしれないけど、別におかしいことでもないと思うけど」

 

「では賭けには成功したということで良いのでしょうか?」

 

「まだ終わってないぞ。休み時間が山場だな」

 

「油断はできませんね」

 

 

*キーンコーンカーンコーン

 

 

「なーマジック出来るってほんとか?」

 

「簡単なやつしかできないけどな」

 

「見せてー見せてー」

 

彼はもう数人の方に囲まれています。大方先ほど自己紹介で言っていたマジックでしょうか。

あまり生徒間での話題が作りにくいこの時期だとマジック1つでクラスの輪に入れるものなのですか…

でも彼の顔は嬉しい、楽しいといった顔ではないように見えます。

 

「おぉ〜すごいな」

 

「どうやってるの?」

 

「別に大したことはしてないよ」

 

 

*キーンコーンカーンコーン

 

 

「ふぅ」

 

「溜め息ついてますけど、どうかされたのですか?」

 

「いや、あの人たちだって所詮最初だけなんだろうなと。最初から分かっている結末にわざわざ時間を割くほど人生暇してないからな」

 

「そうと決まったわけではないでしょう」

 

「確かにそうだな。でも、利用されるなんてごめんだ」

 

「では、1つお聞きしますがあなたはなぜ私と話しているのですか?」

 

「と言いますと?」

 

「質問に質問を返さないでください。あなたはなぜ利用されるかもしれない私と関わるのですかと聞いているのです」

 

ぐっ予想外だ。それを聞かれるのはまずい…冷静に思えばこうなることなんて簡単に予測できたはずなのに。

「なぜだろうな、俺もわからないわ。運命なのかもな」

 

「う、運命だなんて…そ、そんな」

なぜか園田の顔が赤い。何かまずいことでも言ってしまったか。あぁなるほど運命ってことね。畳み掛けて誤魔化す方法もあるが、今はこの質問から逃げることを優先しよう。

 

「おい、そこちゃんと聞けよー」

 

素晴らしい助け舟が現れた…

「はーい、すみませーん。…また後でな」

 

「は、はい…」

 

 

 

***

 

 

 

今日は午前中で授業が終わり、午後からは部活動見学となる。

 

「和也ー!!」

 

「うるさい」

軽く手刀を頭に食らわせておく。

 

「で部活どうするんだ」

 

「俺は弓道部に行くよ。他に行こうと思うところもないし。陸斗はどうするんだ?」

 

「僕は剣道部と新聞部を掛け持ちしようかなって思ってるよ。新聞部は掛け持ちオッケーみたいだから」

 

「俺はもちろん柔道部に行くぜ。みんな頑張ろうー」

 

「「おう」」

 

 

 

 

 

 

「えーと弓道場はこっちか…ん?あの後姿、声かけてみるか」

 

「おーい」

 

「!…波野さんでしたか」

 

「驚かせてすまないな。今からどこ行くのかと」

 

「あぁそういうことですか。と言ってもこの先にあるのは1つの部活だけだと思いますよ?」

 

「園田も弓道部に入るのか?」

 

「はい。中学生の頃から続けていますし、高校でもやりたかったので。波野さんはなぜ弓道部へ?」

 

「俺も中学生の時にやってたからな。高校も続けようと思ってたところなんだ。まぁさっさと行こうか」

 

「偶然もあるものです」

 

「確かにすごいな」

 

 

 

 

「ここか。結構設備整っているみたいだな」

 

「そうですね。外見も落ち着いた感じです」

 

「話つけてくるよ。少し待ってて」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

波野さんが手招きをしています。彼は何でもこなせる人なのかもしれませんね。

 

「えーと2人でいいのかな?」

 

「「はい」」

 

「あと今日は一応仮入部期間になっているけど、もう弓道部に入ること決めてるなら今から入部用紙渡すから家で書いてきてもらえるかな?」

 

「じゃあ用紙もらっていいですか」

 

「私ももらいます」

 

「はいどうぞ。2人とも弓道衣似合いそうだねぇ。これは弓道部の美男美女誕生かなぁ」

 

「え、ええ?」

 

「はぁーなんですか突然…」

 

「いやなかなかのイケメンと美女だからさ。ついつい口が滑ってね。そういえば、私の名前言ってなかったね。2年の岡城 恵(おかしろ めぐみ)です。他の部員はまた別の機会に紹介すると思うから」

 

「恐ろしい爆弾投げてきますね。とりあえずよろしくお願いします」

 

「よ、よろしくお、お願いします」

園田大丈夫か…

 

「じゃあ着替えてきてもらえるかな。向こうに弓道衣あるからさ」

 

「「わかりました」」

 

…あれ?あの子達弓道衣の着方分かってたっけ?

 

 

 

「これでいいでしょうか」

 

「きっちりできてるよ。俺も確認してもらっていい?」

 

「構いませんよ。…はいしっかりとできてますね」

 

 

 

「これでいいですか?」

 

「うん。2人ともバッチリみたいだし杞憂だったみたいだね。即決で入部を決めたり、弓道衣をあっさり着こなしてるあたり経験者だったんだね」

 

「はい。中学生の頃やっていたので」

 

「同じく」

 

「じゃあまた呼ぶからそれまでゆっくりしてて」

 

 

その間言われた通りゆっくりしていたが隣にいる弓道衣姿の園田のせいで気が気でなかった…

***

 

 

呼ばれたから来てみたがいきなり弓を持って矢を射ってみようとのことだった。初心者には先輩のサポートもつくらしい。

 

俺は先輩のサポートを断り、準備をする。仮入部の人たちの中で先輩のサポートを受けていないのは園田と俺だけだ。

 

 

 

的を狙え…ここだ!

 

 

 

パーン

 

 

 

なんとか的を射抜くことができた。

園田も見事命中したようだ。見ていた先輩も少し騒ついているな。

 

その後も何度か射って部活体験は終了ということになった。

 

 

 

制服に着替えたあと園田と話していると岡城先輩が声をかけてくれた。

 

「いやーやっぱりすごいね。私の見込んだ通りだ」

 

「まだまだですよ」

 

「まだまだ鍛錬が足りません」

 

「2人とも恐ろしいほど限界がなさそうだね…先輩の褒め言葉はそのまま受け取るが吉だよー。部長に呼ばれているから行くね。是非弓道部に入ってねー」

 

「はい、今日はありがとうございました」

 

「了解しました。絶対入ります」

 

 

***

 

 

「先輩良さそうな人だね」

 

「はい。頼もしいです」

 

「で、これからどうする?」

 

「特にやることもないので帰りましょうか」

 

なら少し踏み込んでみるか。

「じゃあ俺もお供してよろしいですか?」

 

「え…良いですよ」

 

「あ、いいんだ」

 

「波野さんなら大丈夫だと思ったので」

 

「根拠は?」

 

「女の勘ですかね?」

 

「なら安心だな」

 

 

***

で帰るのはいいのだが会話がない。

 

「「………」」

またか。どう解決すべきかな。

 

「園田…さんってなんで弓道始めたんだ?」

 

「今更さん付けで呼んだところで遅いですよ。呼び捨てて構いません」

 

「分かった。改めてよろしく園田」

 

「はい。えっとなぜ弓道を始めたかでしたよね。私の家は元々日舞の家元なんです」

 

「へーそれで…ん?なぁなんて言った?」

 

「私の家は日舞の家元だと言いましたが」

 

「それってすごいことでは」

 

「そうかもしれません。将来は家を継ぐことになると思いますし」

さらに上に行くかこの人は…俺と桁違いじゃねえか。流石だよ。

 

「折角日舞の家元に生まれたのだから武道のひとつでもやってみたいとなったんです。やってみると魅力にハマり今に至ります」

 

「理由はやっぱりまともだね…それよりも日舞のインパクト強すぎたけど」

 

「日舞のことは気にしないでください。そのせいで変な扱いを受けるのは嫌ですから」

 

「分かった。これからそんな態度はとらない。約束するよ」

 

「ありがとうございます。あっ、家ここです」

 

瓦屋根の和風の家だが見た感じでも相当な広さだ。

「おう…デカいな…」

 

「他の家と比べればやはりそうでしょうか」

 

「この家が大きくなかったら世の中の5割からは苦情がくると思うけどね…」

 

「それは恐ろしいです…これから控えめにしますね。わざわざ送っていただきありがとうございました」

 

「家からの通り道だし気にしなくていいよ。じゃあ、また学校で」

 

 

 

 

さっきとはうって変わり静かに自宅に向かう。今日は園田がすごい人だと改めて思えた1日だった。これからの弓道部での活動に期待を込めつつ美しい夕陽を眺めていた。

 

 




今回も読んでいただきありがとうございます!

弓道衣姿の海未ちゃん…ゴクリ
今回の和也のクラスメイトに対する反応は伏線でもなんでもございませんのであしからず…
あと弓道に関してはwikiさんに大変お世話になっております。

3話3300文字 4話5400文字という自分自身でも何が起こったのかよく分からないことになりました笑

弓道の話をするつもりが実は4話の弓道の話は2200文字程しかないというこちらもよく分からない事態に…

それと遅くなりましたがスクフェスでの海未ちゃんの誕生日限定ガチャの結果をここで報告します。
60回ほど引いてUR2 SSR6 SR14という結果でした。私としては最高の結果でテンションhighでした笑

次回は何を書くかは決めておりません。なので構想がすぐに固まれば早く投稿できるかと思います。

クールサードさん、take05さん、gjbさん
お気に入り登録ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 Promise

1週間ぶりの投稿となりました。
今回の話はいい感じに区切ろうと思った結果、文章量が前回に比べ少なく関係のない文章を無理矢理繋げる結果となりました。ですが、この物語に重要な人物も登場します。是非楽しんでもらえたらと思います。





仮入部期間も終わり正式に弓道部に入部した俺は土曜日の午前7時頃昼食用の弁当を作りつつ朝食を丁度済ませたところだ。食器は浸け置きし、カバンを持ち玄関に向かう。

 

今日は授業はないのだが、部活のために音乃木坂学院に行くことになっている。集合は8時なのだが多少早めに行って先に練習しておきたいと思い、今は高校まで走っているわけだ。

 

で、もうすぐ学校に着くのだがもしかしたら運動としてもいい感じに使えるかもな…通学路が

これからは家から高校までタイムアタックでもしてみるか。3年間でどれだけタイムが縮まるかな。

 

 

よく分からない目標ができたついでに時計を確認したところまだ7時半にもなっていないようだ。

 

更に加速し弓道場に急ぐ。

 

 

 

 

まだ誰かいるとは思えなかったのだが…

 

 

 

 

「波野さん。おはようございます」

 

そこには弓道衣にすでに着替え、弓を持っている園田がいた。

「…マジか。おはよう」

 

「どうかされましたか?」

 

「いや、何でもないんだ。着替えてくるよ」

急いで更衣室に行き着替える。

 

「まさかもう来てるとは思わなかったなぁ。見習うべきかも…」

 

園田以外はまだ来ていないようで2人静寂の中、練習をする。

 

しばらくしてある程度練習し休んでいるようなので話しかけてみた。

「なあ、今日何時くらいに来たんだ?」

 

「まだ7時になっていなかったと思います」

 

「早すぎないか?」

「そうかもしれませんが朝の空気って気持ちいいものですよ?」

 

「確かにな。この季節だと寒すぎないくらいの風が吹いているし。よし、俺もやってみるよ」

 

「ふふ、三日坊主にはならないでくださいよ」

 

「あぁもちろん分かっているさ」

 

「へーお二人共仲よさそうにしてるね。朝から2人でデートですかー?」

 

この先輩は突然何を言いだすんだ。園田は動かなくなってるし…

 

「岡城先輩おはようございます」

 

「相変わらず素っ気ない返事だね。まぁその反応をしてるうちは付き合ってないんだろうけど」

 

「そう考えてもらえるとありがたいです。で、隣の人をどうにかしてほしいのですけど」

 

「あちゃーそういうの弱い子だったのね…」

 

「そうみたいですね。もう集合まで時間もないみたいですし、俺が園田はなんとかしておくので、岡城先輩は着替えてきてください」

 

「ごめんねー。私からやっておいて」

 

「これからは注意してくださいよ」

 

その後なんとか練習前に園田を元の世界に引き戻すことができた。

 

 

 

 

「じゃあこれで午前の練習は終わりです。午後の練習は40分後から始めます」

部長の声かけで練習を止め、各自で昼食を食べ始める。男子と女子の比率は1:3程度なので自然と男子が集まって食べる。そして、今日は初めて弓道部員同士で食べるわけだが…弁当なのは俺だけみたいだな。

となるとやっぱり話題になるわけで、先輩からの質問が飛び交う。

 

「波野くんだけ弁当だな」

 

「それ波野の手作りか?」

 

「はい。これでも一人暮らししてるので」

 

「波野一人暮らしだったんだ…。俺なんてお母さんに任せっきりだぜ!」

 

「それ胸を張って言えることではないですよ…」

 

「卵焼きいただきぃ!」

 

「あっ先輩!」

 

「なんだこれ…普通にうまいだと…お前にも半分あげるわ」

 

「!?…これはお母さんのよりも美味しいぞ」

 

「波野は料理ができて一人暮らしと…さらにはイケメンで賢いだと。こんなハイスペックな奴いてたまるか。ぶっ飛ばすぞ」

 

「「「「おう」」」」

 

「え?やめましょう?なぜ弓と矢を持ってるんですか?ヤル気満々じゃないですか…」

 

 

その後追いかけ回されたが顧問に注意されたためおとなしく昼食を済ませた。先輩に3割ほど弁当を食べられたが。

 

 

 

 

 

「はぁー疲れた」

 

「お疲れ様です」

 

「聞くつもりはなかったのですが一人暮らしなんですか」

 

「仕事の都合で親が引っ越してな。今は家を1人で使ってるんだ」

 

「さっきの騒ぎ様では相当恨まれてそうですね」

 

「ははは…冗談にならないよ」

 

「さっきから視線を感じますよ?」

 

「えっ?あ"…次また会えたらいいね」

 

「2回目ですがお疲れ様です」

 

「ありがとう。逝ってきます」

その後ドス黒い笑顔で先輩達に迎えられたのは言うまでもない話。

 

 

 

 

 

 

3時ごろに練習を終え帰宅した俺は制服から着替え、LINEsを開く。「今暇ですか?」とだけ打ち込み返信を出かける準備しつつ待っている。

意外とすぐに「もうすぐ休憩終わるし人もあまりいないからグッドタイミングだ」と返信があり、すぐに「了解しました。すぐに向かいます」と返してスマホをカバンにしまい玄関に向かう。

 

 

 

ここまでの会話だと闇取引のような感じたが決してそんなことはない。

 

 

 

訪れた場所は『Mondschein』という喫茶店だ。4月にしては暑く感じる日差しの中、扉を開けると鐘が鳴り、明る過ぎない照明と古風な店内が心を落ち着かせる雰囲気を出している。

 

カウンターに向かい、席に座ると「やぁ2週間ぶりくらいか。今日は友達連れてきてないんだね」と声をかけてくれる男性が…彼の名前は八重野 光(やえの ひかる)さんだ。この喫茶店自体は中学2年の終わりに滝井先生が「お前になら教えてもいいだろう」という謎の発言から連れられたのだが今ではすっかり常連客だ。

 

「今日は2人とも用事あるみたいでね。俺は俺でたまには1人で来たいですよ。まぁ新学期だと忙しいので仕方ないと割り切ってほしいです」

 

「分かってるさ、たまには来てくれよ。今日は何にする?」

 

「えーとアールグレイで」

 

「流石だな。今日のオススメの紅茶だよ」

 

「じゃあお願いします」

 

「とびっきりのやつ淹れてやるよ。俺もコーヒー飲もうっと」

 

「いつも思いますけどコーヒー飲んでいいんですか?」

 

「この時間客も少ないからな。大丈夫さ」

 

「そういう問題じゃないと思うんですけど…」

 

しばらくすると両手にコーヒーと紅茶を持った光さんが戻ってくる。

目の前に出された紅茶から良い香りがする。

 

「もう4月かぁ。ここで働くのも高1からだから5年目かぁ」

 

「5年もバイトしてるんですね」

 

「バイトの条件も良かったし、面白そうな人にも出会えたからな」

 

「もう21歳ですよね?色々考えた方がいいんじゃないですか?」

 

「はぁーやめろやめろ話変えるぞ。そうだ肝心なこと聞いてなかったな。高校どこよ」

 

「言いませんでしたっけ?」

 

「この耳で聞いたことを俺は忘れないんだよ。要するに聞いてないということだ」

 

「はいはい。音乃木坂ですよ」

適当にあしらったあと言うと、光さんが驚いたような顔をしている。

 

「俺と高校一緒じゃねえか」

 

「えぇ?ほんとですか。でも音乃木坂は5年前に共学に…あ」

 

「気づいたか。俺は5年前高1で共学になりたての音乃木坂学院男子1期生として入学したんだよ。最初は男子も少なくてさ苦労したけど楽しかったなぁ」

 

「光さんにも楽しい時期があったんですか…」

 

「なんだよその言い方。まぁ今は俺の話なんていいや。どうだ?2週間ほど経過したけど」

 

「今のところは充実してますね。弓道部にも入って毎日楽しいです」

 

「なら良かったよ。彼女とかできたのか?」

 

「残念ながら今のところはそんな予兆はありませんね」

 

「ほんとに残念だな。和也モテそうな顔してるのに」

 

「中学の時も好きになる人とかいませんでしたし、高校でもそうなのではないかと予測してますよ」

 

「俺が予知してやろう!和也は高校で必ず彼女ができる」

 

「なんですか急に…」

 

「貴様のような器量の良いイケメンで賢いやつが彼女の1つ作れないなんてこの世界は狂ってる!」

 

「それ弓道部の先輩にも似たようなこと言われましたよ」

 

「やっぱりそうだろ?灯台下暗しとも言うし意外と自分のことに気づいてなかったりするんだよ」

 

「そういうことにしときますよ」

 

「俺だって高校で彼女ができたんだから大丈夫さ」

 

「意外に光さんにも彼女できてたんだ」

 

「意外には余計だ。高校を卒業する時に別れたんだけど有意義な時間だったな。だからさ彼女できたら俺に教えろよ」

 

「光さん接続詞の使い方分かってますか?というかなんで教える必要があるんですか…」

 

「ダメなのか?教えてくれよー頼むから」

 

「そこまでこだわる意味も分からないですけど仕方ないですね。付き合った時は特別に教えますよ」

 

「流石やってくれるねぇ」

 

「光さんが言えと言ったんじゃないですか…」

 

「ははは、悪い悪い」

彼は楽しそうに笑っているが今日までその笑っている顔をぶん殴ってやろうと思ったか…

 

「あー大事なこと忘れてた。おい和也よ高校での最大の敵って何だと思う?」

 

「唐突に話変えますね。…人間関係」

 

「なかなかに恐ろしいことを言ってるが違うな。正解は勉強さ」

 

「シンプルですね」

 

「これがなかなか恐ろしいものでさ、俺もよく赤点取ったんだよ」

 

「俺はあなたとは違うんですよ。というかなんでも覚えているその耳を使えばいいじゃないですか。それとも都合のいい耳してるんですか?」

 

「残念だがそのような耳をしているようだ…でだ、貴様はまだ勉強の恐ろしさを知らないだけだ!」

 

「まぁ忠告としては受け取っておきますよ。テストの点数に関しては堂々と見せられるものを持って来ます」

涼輝には厳重に忠告しておくか。

 

「期待してるよ。おっともうそろそろいい時間になってきたみたいだ」

 

「そうみたいですね。じゃあまた今度。紅茶ご馳走様でした」

 

「おう。また近いうちに来てくれや。今日の約束忘れんなよ!」

 

扉を開けると来た時と同じく鐘が鳴る。対して外の雰囲気はガラッと変わり夕暮れの淡い朱い光が差し込んでいる。

光を浴び、人よりも数倍長くなった影は足元になるほど黒くなり、別れのもの悲しさを伝えさせる。楽しい時間とは楽しいほどすぐに過ぎてしまう。俺の高校生活は短くなってほしいと切に願い、帰路についた。

 

 

 




今回も読んでいただきありがとうございます。次回は比較的書きやすいと思われるので早くしたいです。

私自身4月から新生活が始まり、忙しくなると思われます。今までのような更新ペースは保てなくなるとおもわれますが、完結できるように頑張りますので気長に待っていただけると幸いです。

龍辰さん、星絆さん、なでかたさん、おとひめさんお気に入り登録ありがとうございます!




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 努力すれば…

前回の後書きで早くに投稿できると書いた筈なのに投稿が遅れるという…本っ当に申し訳ございませんでした!
新生活に慣れず、毎日が忙しくて執筆時間が取れなくて時間がかかってしまいました。時間が空いたときには少しづつ進めたいと思っています!

今回はできるだけ話を進めたかったがために2ヶ月ほどを1話にまとめたのですが、上記のことが裏目に出てしまいました(笑)
少ない時間を使い、少しづつ進めたせいで話の内容が変になったり、繋ぎ方が雑になったりと問題が山積みでした。

とりあえずだらだらと話していても仕方ないので、どうぞ!


「よーし授業終わったー。この本も折り返し地点まで来てるしいい調子だ」

 

「聞き捨てならないですね。授業中も時々見ていましたが教科書、ノート以外に色々出していましたよね?先生に言いつけますよ?」

 

「問題集なんだよ。ほら見ろよ。ちゃんとノートだって板書してるし」

他にも小説を出していたりするがバレなきゃセーフ。

 

「ふむ、嘘はついていないみたいですね」

 

「だろ?じゃあ構わないな」

「それとこれとは別です!」

 

光さんに頭がよろしくない同類と見られたくないので最近勉強をいつもよりしているのだが、タイミングが少し悪かったようだ。その後も園田がガミガミと説教するもので休み時間も半分が経過している。

 

「次したらどうしますか?」

 

「貴方に敬意を持って謝罪します」

当然謝罪はうわべだけでこれからも授業中に問題集をするつもりだ。

 

「…まぁいいです。次やったら土下座してもらいましょう」

 

「なんだろう。少し盛られている気がするぞ…」

 

「当然です」

 

そんなやり取りをしているとチャイムが鳴り出す。それぞれ自分の席に座った状態で話せるので焦って帰るようなことはない。次の時間はHRであり、担任の山田先生がしばらくして教室に現れた。

 

「えー今日は席替えを行いたいと思う」

 

その発言の直後には生徒の喜びや悲しみといった感情が飛び交い教室は混沌としている。

日直もひと通り回ったしそろそろだとは思っていたが…俺的にも1番後ろのこの席良かったので残念だ。

 

「おーい黙れー」

先生の一言で少しづつ生徒の声が収まる。

 

「今回はクジ引きで引いた順に席を決めることとする。決め方は毎回変えるつもりだから安心しな」

 

この決め方はまぁ運試し+クラス内の勢力確認といったところか。気が強い人は他の人を退けるような形で友達と近くの席に座れる…とりあえず後ろの席の争奪戦だろうな。

 

「はーい並んでねー」

並んでクジを引き自分の席に戻り開けるとそこには『32』という文字があった。このクラスの人数は35人だ。要するにまともな席は残っていないということだ…

 

「最悪だ…」

横には悲しそうに紙を見つめる園田がいた。

 

「園田は何番だった?」

 

「30番です」

 

「良かったな、俺より2番前だぞ。五十歩百歩のようなものだが」

 

黒板に書かれた座席表に名前が刻まれていく。もう俺の席は別の人の名前で埋まってしまったようだ。

20番を経過したが後ろの席はほぼほぼ埋まってしまった。

歓喜の声が聞こえる中、先生が着実に番号を呼ぶ。

「30ばーん」

 

「では、いってきます」

 

「おう。いい席残しておいてくれよ」

 

 

「次、32ばーん」

 

「はい」

 

「来たか。波野は友人と近くの席になる予定とかあるのか?」

 

「いえ、ないですね」

 

「そうか。まぁのんびり決めてくれ」

 

残っているのは右前の端、左前の端から2番目、真ん中らへんのポツンとした席、右後ろの端から3番目の4席だ。

ハッキリと言ってどれも微妙だが、友達がいない状態で後ろに行くのは自殺行為なので候補が1つ消える。うーん3つが決め難いな。次に決める要素とすれば周りの席の人を見てみるか。すると、1つの名前が目に入った。

 

「…他の席に行く理由もないな。先生、左前の端から2番目でお願いします」

 

「おう。席に戻っていいぞ」

 

 

「では、机と椅子を持って移動してくれ」

先生の合図と共に教室内で机と椅子がぶつかる音が反響する。今思ったが俺は教室を横断することになるのか。

 

机を運ぶ人との譲り合いを繰り広げながらなんとか席に辿り着いた。この席は窓際の前から2番目の席だ。なぜ選んだかというと…

 

 

 

 

 

「波野さんまた近いですね」

建前は窓際の席に行きたかっただが、本音は園田の名前が俺の席の前に書かれていたからだ。現時点で俺から話しに行くのはクラスで園田くらいなので近くにいた方がいいと思った。

 

「そのようだな。またよろしく」

こちらが故意にやったのにこの返しようである。結果的には得をした席替えとなった。

 

「配布物回すぞー」

挨拶を済ませたところで先生がプリントを列の1番前の席の人に渡す。園田が振り向きプリントを回すのだが、その姿に少し動揺したことは園田には伏せておこう。

 

 

 

 

 

今思ったが授業中に問題集をできるのだろうか。この場合では園田から離れた方が良かったのでは…

 

 

 

 

***

 

 

 

 

席替えから1週間ほどが経過したがなんとか問題集をしているのはバレていないようだ。教卓からも近いので先生から気づかれないようにするのも一苦労である。じゃあやるなというのは禁句だ。

俺は左利きなので右腕で頬杖をつくように立て先生からの視界を遮り、園田に関しては完全に反射神経だけでどうにかしている。まぁ園田自体が授業中振り向くことが少ないのがラッキーといったところか。

 

 

で終礼も終わろうとしており帰る用意をしていたのだが、高校生活の障壁が現れた。それは山田先生の口からさらっと放たれる。

「えーあと中間考査、まぁテストまで2週間だから勉強しておくように。赤点を取れば補習もあるからな。自分のためと思って頑張れよ。じゃあ今日は終わりだ。もう帰っていいぞー」

もうそんな時期か…先程は障壁と大袈裟に言ったが、俺は元々勉強はできる方なので大して気にはならない。クラスの中では頭を抱える奴もいるようだが…涼輝は多分ダメだろうな。一応忠告しておくか。

 

「はぁー」

園田が溜め息をついている。テストが不安なのか。それとも勉強ができないとか…えぇーんなわけないよな。勇気を出して聞いてみるか。

 

「溜め息ついてるけどどうかしたの?」

 

「すみません。友人がまともに勉強しない人でして」

 

「あー俺にも1人の親友がそんな感じの人だわ。そういうのは最初あまりごちゃごちゃと言わない方がいいよ」

 

「なぜですか?」

 

「見事に赤点を取ってきた時には次のテストで言い訳できないからな。ビシバシ勉強をやらせるのさ」

 

「あなたという人はなかなかエグいことをするのですね」

 

「当然の報いさ。ということだから泳がせておけば?」

 

「様子見ですね。でも悪い点数を取ったら怒りますよ…」

 

「も、もちろんそうだな。終礼も終わったし部活行かない?」

寒気がしたが気のせいだよな…

 

 

 

帰り際に涼輝にテストの件を軽く話すと「いつもの一夜漬けで大丈夫だ問題ない」という返答が返ってきた。つくづく不安である。陸斗は隣で苦笑いだったし。

 

 

 

 

*****

 

 

 

なんだかんだで中間考査は終わった。今回のテストはあまり範囲が広いわけでもないので、結構簡単だった…はず。

 

ところで涼輝はというと…

 

 

 

「涼輝テストどうだった?」

 

「ん?だ、大丈夫だよ」

 

「そうかそうかならいいよ。よかったね」

 

「え?あぁうん」

涼輝は狐につままれたような顔をしているが、俺のこの反応は当然計画通りだ。涼輝の反応から見るに今回のテストダメダメだったようだ。いやーテスト返しが楽しみだなぁ…ふふふ。

 

「2人とも珍しい反応するね。これは一雨あるかも」

陸斗にはバレてそうだからいつもヒヤッとするのは本当に辛い。

 

「な、なんだといつもの返しじゃなのか?」

涼輝はテストの出来と俺の反応で完全に混乱してるな。俺からしたらとても面白い図なんだが。

 

「確かに珍しいかも。でも、たまにはこんな反応もしてみたいんだよ」

 

 

***

 

 

「今日でテスト全部返ってきたな」

 

「えぇ、あまり注意はしなかったのですが穂乃果は大丈夫でしょうか」

 

「本人の頑張り次第だろうな」

 

「結果、聞きに行きましょうか」

 

まぁ大体結果はわかっているがな。

 

 

 

 

 

和也の場合

「涼輝ーテスト全部返ってきたよな?ちゃんと勉強して大丈夫だったんだろ。見せてくれよ」

 

「えーとあのーそのー」

 

「涼輝のテストだよ。はい和也」

 

「陸斗サンキュー」

 

「な、いつの間に!」

次の瞬間俺には衝撃が走った。なぜなら手元には3、40点のテストばかりが広がっていたからだ。

 

「…涼輝どういうことかな?」

 

「ヒッ…こ、これには訳がありまして」

 

「へー言い訳だろうが聞いてやるよ」

 

「一夜漬けしようと思ったんだけど、つい寝ちゃいました☆」

 

「覚悟は決まったか?」

 

「これは涼輝が悪いね」

 

「この馬鹿野郎が!!!!」

 

「ギャァァァァ!!!!」

 

 

 

 

海未の場合

「穂乃果ー」

 

「ゲッ…海未ちゃん?」

 

「テスト返ってきましたよね?」

 

「いや、返ってきてないよ?」

 

「その右手に握られている紙は数学の解答用紙でしょう。なぜ嘘をついたのか教えてもらわなければなりませんね…」

 

「海未ちゃん落ち着いてー」

 

「そ、そうだよ。ことりちゃんの言う通りだよ」

 

「へーそこまで隠そうとするなら強行手段です」

私は穂乃果が手に持っていた解答用紙を奪い取りそれを見たのですが…27点ですか…え!?

 

「逃げる!」

 

「穂乃果待ちなさい」

穂乃果が逃げる前になんとか肩を掴めた。とりあえず説明してもらわないといけませんね。

 

「これどういうことですか?」

 

「ヒッ…」

 

「ほーのーかー!!!!」

 

「いやぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

こうして1組には2人の怒号と2人の絶叫が響きましたとさ。

 

 

 

*****

 

後日…

 

「涼輝。今度のテストで 赤点取ったら…どうする?」

 

「ど、どうするって言われても」

 

「それ相応の罰は必要だよねー。勉強サボっちゃったんだし。あれはどうかな?涼輝のアイドルグッズを捨てるというのは」

 

「それは名案だな」

 

「やめてくれ。それだけは許してくれ」

 

「じゃあ次のテストで赤点を取らないと誓うか?」

 

「くっ…卑怯な奴め。分かったよ」

 

「まぁ今度はちゃんと勉強手伝うからさ、くれぐれも赤点を取らないようにな。じゃあ、俺は用事あるから行くね。涼輝君よ補習頑張りたまえ」

 

「うぐぐ…」

 

 

***

 

 

涼輝と陸斗と別れたあと、俺は『Mondschein』を訪れている。

 

 

「はいどうぞ。テストの結果を持ってきましたよ」

解答用紙をカウンターに広げ注文していたコーヒーに手を付ける。

 

「本当に持ってきてくれたんだな。では拝見…ってなんじゃこりゃぁぁぁぁぁ」

 

「なんですか。うるさいですね…」

 

「だってさ俺がみたことのない点数ばっかりだから…なぁ!どうやったらこんな点数とれるんだ?」

 

「ごく普通に勉強しているだけです」

 

「そんな単純なことなのか?」

 

「あぁ、光さんもちゃんとやれば…」

 

「か、悲しくなるじゃねぇか…」

 

「すみませんね。でも、テストでは光さんの仇は取りますよ」

 

「仇なのか?でもなんかよろしく頼むわ」

 

「じゃあまた1ヶ月後くらいにテストあるんで持ってきますね。コーヒーご馳走様でした」

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「えーとここはxに9を代入して…できたぞ」

 

「よし、ある程度ばできるようになってきたな」

 

「やっぱり涼輝って努力すれば勉強できそうだよね」

 

「今回はグッズがかかっているからな。捨てることは絶対に避けないといけないんだ!」

 

「それをいつもやってくれ…」

 

「毎回グッズを賭けてテストに挑むことにする?」

 

「やめてください。お願いします」

 

「このテストでそれを毎回やるか決めようか」

 

「どこまでも鬼畜な奴らめ…」

 

「誰がこの状況を作ったのかな?」

 

「ぐぬぬ…」

 

「キリがいいしちょっと休憩しようか。飲み物何がいい?」

 

「コーラ」「烏龍茶」

 

時の流れは早く中間テストから1ヶ月ほどが過ぎた。今は期末テストまで1週間となり、涼輝のために俺の家で勉強会を開いているところだ。俺が理系、陸斗が文系を教え、なんとか赤点を取らないようにとこちらも必死である。

 

 

「やっぱコーラって格別だわー」

 

「飲み過ぎたら骨溶けるらしいぞ」

 

「それ僕も聞いたことあるよ」

 

「え…マジで?」

 

「俺は体験してないから実際のところよく分からんけどな」

 

「周りに影響されやすい涼輝はいつ見てもおもしろいね」

 

「それもこいつのいいところだがな」

 

「そうだね」

 

「ありがとーう」

突如涼輝が俺と陸斗を抱きしめた。余程嬉しかったのだろうか。

 

「今は勉強してくれよな」

 

「分かった!和也早く続き教えてくれ!」

 

「ほんと切り替えが早いよ」

 

「はいはい。えっとここは…」

 

 

 

*****

 

 

期末テストも終わり、これからは夏休みに向けて気が高まるのだが、その前に…

 

 

 

「涼輝!」

俺は終礼後、急いで1組に向かった。なぜなら今日はテスト返却日だからだ。

 

「あ、来たね」

 

「テストどうだったんだ?」

 

「えーとね…」

 

「ど、どうなんだ?」

 

「じゃーん!」

涼輝の大きな声と共に出されたテストには65〜75点の数字が刻まれていた。決して高いとは言えないだろうが、涼輝が努力して勝ち取った点数だ。俺としても嬉しくてたまらない。

 

「すごいぞ!よく頑張ったな涼輝!」

 

「本当にすごいよね。まさか前回から2倍にも跳ね上がるとは思わなかったよ」

 

「これは先生も驚くだろうな。よし、今日は何か食べて帰らないか?もちろん俺の奢りでだ」

 

「「さんせーい」」

 

 

 

一方その頃…

 

「穂乃果!テストどうでしたか?」

 

「えっとね!これ見てよ!」

 

「な、穂乃果すごいじゃないですか!」

 

「穂乃果ちゃん頑張ってたもんね」

 

「へへへ、頑張ってよかったよ。そうだ!帰りに最近できたクレープ屋行かない?」

 

「駅前のお店だよね?あそこ美味しいって評判らしいよ」

 

「ふふっ、今日くらいは羽を伸ばして楽しみましょうか」

 

「やったー!じゃあ行こうー!」

 

「穂乃果ちゃん待ってよー」

 

「穂乃果待ってください!」

私は穂乃果に見えない力で引っ張られるように走り出しました。穂乃果の力にはいつも驚かされます。私も見習わないといけませんね!

 

 

 

***

 

翌日

 

「園田おはよう」

 

「はい。おはようございます!」

 

「やけに嬉しそうだね。その正体は期末テストのことかな?」

 

「厳しく教えた甲斐もあって穂乃果が良い点数を取ってきてくれたので」

 

「おめでとう。俺も涼輝が中間の2倍の点数を取ってきてびっくりしたんだよ。ふぅ、とりあえず一息つけるな」

 

「そうですね。これが全てではありませんが今はこの余韻に浸りたいです」

 

「弓道部も夏休みに入れば初めての大会もあるし頑張らないとね」

 

「気兼ねなくできますからね。精進あるのみです!」

 

「もちろん!お互い切磋琢磨しような」

 




読んでいただきありがとうございます。

今回はクラスや親友の話でしたが、次の話の予定では5〜8月の弓道部での活動を投稿したいと考えております。

今後も少ない時間で書き進めることになると思われるので変な部分があると思われますが、よろしくお願いします!

najaさん、MORI1123さんお気に入り登録ありがとうございます!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 喜び

どんどんと前よりも投稿が遅くなっていってますね。申し訳ありません。
本来ならGW中に2話投稿したかったのですが、疲労による風邪もありまして結局1話という結果になりました。
みなさんも無理はしないようにしてくださいね。

さて、前回の発言通り今回は弓道部のことを書かせていただきました(笑) 逆に次回予告を無視するドラマ、アニメってとんでもないですね。

μ'sのメンバーも今回いくらか出てきます。この物語でも結構主要メンバーなのでしっかり見てもらえればと思います(次話で登場させようと思っていたのは別の話)

ではどうぞ






 

 

 

涼輝と穂乃果が中間テストで赤点を取った頃、弓道部では…

 

 

 

「お疲れ様です。先輩」

スポーツドリンクを手渡し、先輩の隣に座る。

 

「なぁ、前から聞きたかったんだが波野って園田と付き合ってるのか?」

 

「え?いえ付き合ってませんけど…」

唐突に聞かれたために若干中途半端な答え方をしてしまった。これでは…

 

 

 

「ちょっと動揺してないか?やっぱり付き合ってるだろ!」

予想通りである。

 

「違いますって!」

 

「ほんとかぁ?」

 

「先輩の前で嘘をつくなんて言語道断ですから!」

 

「そこまで言われちゃうと引き退るしかないな」

先輩がなんとか諦めてくれたところで弓道場の入り口からノックと綺麗な声が聞こえた。

 

「すみませーん。生徒会の者ですが、入ってもよろしいでしょうか」

 

「今部長が入り口の方に向かいましたけど、生徒会の人が何か用があるんですか?」

 

「えっ?お前聞かされてないのか?今日生徒会の人達が部活動調査に来るんだが…さては岡城1年に伝え忘れてるな」

 

「そうだったんですか。まぁ部長が対応してくれますし任せておいて大丈夫だと思いますが…あのー部活動調査とは?」

 

「そのままだけど部がちゃんと活動してるか見にきますよってやつさ。部の名前に沿った活動じゃないとおかしいとなるわけ。その時だけちゃんとしてればいいみたいに感じるが、そう言って消えた部が今までに何回かあるみたいだぞ」

 

「事前に見られていた、または後でバレないように見られたということですか…でも弓道部ならサボりなどはないし、大丈夫ですよね?」

 

「特に何か思い当たる節はないし、大丈夫じゃないかな。あと生徒会で思い出したけど、なぜか生徒会には美人とイケメンな奴が集まるって噂らしいぞ」

 

「初耳ですけど言われてみれば、はなから見ても相当レベル高いですよね」

 

「今は女子しかいないから男子がどうだったのかは分からないけど、中でも来期生徒会長と言われている2年の絢瀬絵里、その親友の東條希はずば抜けてるみたいだ。狙っている人が撃沈されるなんてこともザラにないし2人とも残虐という噂まで流れる始末だ」

 

「なかなか色んなことをやってるみたいですね…」

 

「そろそろ休憩終わって練習始めよう!」

生徒会の人を2人引き連れ入ってきた部長の声が響き、部員がぞろぞろと立ち上がる。

 

「まぁいつも通りで構わないから、気にせず弓道部の力見せてやろうぜ!」

 

「当然いいところ見せた方が印象はいいですもんね!」

調査に来ていた人達は今先輩と話していた絢瀬先輩と東條先輩だった。絢瀬先輩はロシアの血が混じっているらしく金髪で水色の氷のような瞳が人を惹きつける要因みたいだ。

一方、東條先輩は包容力があり、年下の人間が幾度と狙ったがあえなく撃沈…あとはどうみても高校級には見えない胸かな。絢瀬先輩もなかなかですよね。不謹慎だとは思うけど流石に目線がいっちゃうかな…

 

 

 

俺はいつも通り練習をこなしていたのだが途中で鏡に向かい射形を確認していたところ、絢瀬先輩と東條先輩の声が聞こえてきた。

 

「なぁ、えりち…あの髪が青くてロングヘアーの女の子なかなかカッコいいと思わん?」

 

「急に何言い出すのよ希。まぁ私とは正反対なのかもしれないわね。純日本人って感じだし、大和撫子?というべきかしら?」

 

「えりちと一緒で女の子にモテるかもね」

 

「やめてよ希…」

 

意外と普通なのかもなあの人達も。

 

「あの子…ふふっ」

 

 

 

 

 

「では、もう帰ります。最後にこの用紙に部長のサインを貰えますか?」

 

「はいはーい。これでいいかな?」

 

「はい。結構です。ありがとうございました」

 

 

 

「帰ったかな?よし扉を閉めて…」

 

「みんなお疲れ様!ちゃんと動けてたし生徒会の人達の目にはいい感じに映ったはずだよ」

部長がそう言ったあとみんなはホッとしていた。でも、俺は違った。まだ、絢瀬先輩と東條先輩は来るんじゃないかと気にかけていた。別にサボっているわけではないけど再調査するのではないかと…

 

「あと2年、3年はもうすぐ大会があるから頑張って練習しておいてね。1年も8月に好きにエントリーできる小さい交流会に出てもらう予定だからよろしくー」

 

「「「「「はい」」」」」

 

 

***

 

 

数日後

 

 

 

「よし、これでいいな」

 

俺は今矢を洗うための水を汲んできたのだが…ん?あれは誰だ?

 

「裏道を通って背後を突いてみるか」

弓道場をぐるっと回り先ほど見かけた人がいるであろう道の曲がり角まで来た。

一応スマホのカメラ機能でレンズを少しだけ壁から出し向こう側の様子を伺う。少しだが制服のスカートが見えている。それを確認した俺は足音を立てずにそっと近づいた。

 

「!…えりち誰か来る!」

 

「えっ?」

 

「…絢瀬先輩と東條先輩ですよね」

 

「ひぇっ!?」

絢瀬先輩はびっくりして尻餅をついていた。

 

「えりち大丈夫?」

 

「えぇ。少し驚いただけだわ…」

 

「驚かせてすみませんね。早速本題に入ってもよろしいでしょうか?」

 

「えぇ」

絢瀬先輩俺に怯えてないか?

 

「では、単刀直入に聞きますが、ここで何をされていたのですか?」

 

「君は多分気付いたのかな?」

横にいた東條先輩が口を開いた。

 

「大方、部活動再調査といったところですか?先輩から軽く話は聞いていましたが、結局再調査は、全部活でやっているのですね」

 

「そこまで分かっているなら話した方が良さそうやね」

 

「希そんな勝手に決めて…」

 

「大丈夫や、彼は私たちの調査を見破った珍しい人やからね。話したところで秘密にしてくれるはずや」

 

「えぇ、ここで聞いたことは内密にすることは保証しますよ。もし約束を破れば、高校にどんな噂をばら撒いてもらっても構いません」

 

「良い度胸やね。では、えりち説明してあげて?」

 

「そこで私?まぁいいわ、君が言ったことはほとんど正解よ」

 

「まぁ通告した上で調査に来てもその時だけ真面目にされては生徒会側も口出しできませんし、妥当な判断、行動だと俺は思いますよ。俺がその立場でもそうします。やり方的にはクズもいいところですが」

現に弓道部の部長はいい感じだったと言って部員を褒めていた。再調査なんて思いもしていないだろうな。弓道部がサボりの部活でなくてよかったとつくづく思う。

 

「それに関してはこちらは何も言い訳しないわ。でも、より良い学校のために、仕事は仕事だしそこは割り切って仕方ないことと考えているわ」

 

「仕事…ですか。絢瀬先輩は生徒会を誇りを持って活動していらっしゃるのですね」

 

「音乃木坂が好きだから…」

 

「どんな手でも使い自分が悪になったとしてもですか?」

 

「手段は問わないし、周りからどう思われようと構わないわ」

 

「先輩方…そう思うのはいいですけどその意識にとりつかれないようにしてくださいね」

 

「良い機会やし、折角やからLINEsのアカウント交換しておかん?」

 

「何が折角なのか分からないですけど東條先輩が言うなら構いません」

スッとポケットからスマホを取り出しQRコードを提示する。

 

「ありがとう。あとでえりちの分も送るね」

 

「そんな勝手に!」

 

「いいやんいいやん」

 

「では、俺は練習に戻らなければならないので、調査の妨害すみませんでした。またあとで連絡させていただきます」

 

「はーい。また連絡してなー」

 

 

 

「希、1年生にあんな話してよかったの?」

 

「えりち、彼は1年生レベルの子じゃない。秘密を知ったところで堂々としていたし、うちでも崩せないかもしれんほんとに珍しい子やと思うねん」

 

「希が興味持つとは珍しいこともあるわ」

 

「そんなん珍しくないやんか。まだ回らないといけない部活あるんやし移動しない?」

 

「分かったわ。今度はバレないようにね」

 

 

 

先輩と別れたあと俺は弓道場に戻ろうと歩いていた。

「ふぅ…東條先輩と話してると陸斗といる時に似た焦りを感じるな。さっさと戻らないと」

 

「波野さんどこに行ってたのですか?」

 

「えっ?あぁ園田か…。親から電話がかかってきてな、ちょっと裏道で話してたんだ」

急に出てきたから焦った…

 

「弓道場に姿がなかったのでどこに行ったのか分からなかったので」

 

「それは申し訳ないことをしたな。わざわざありがとう。

 

「あと、今度の先輩の大会見に行きますか?」

 

「あぁもちろん行くよ。園田は行くのか?」

 

「行きますよ、逆に都合がつかない人が多くて誰と行こうか迷っていたところです」

 

「じゃあ一緒に行こうか。服装は先輩が自由で良いって言ってたしそれでいいよな?」

 

「観戦はプライベートですし、公共の場というのを弁えた服装であれば構わないと思います」

 

「了解した。開始は9時からで距離的に集合は8時15分に駅の改札でいい?」

 

「大丈夫ですよ。楽しみにしておきます」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「…こういうのって何時くらいに行くべきなんだろうな」女子より遅れるのは論外だし、早すぎるのもな。

大会当日、朝6時半に一応余裕を持って起きたが、逆に何時に駅に向かうかを考え中…

 

30分前くらいが妥当かな。ここから駅は7分くらいだろうか?あまり使うことがないから分からないな。まぁ着ければいいし他のことをあんまり気にしないでおこう。

男と女が2人でどこかへ向かうという一種の『デート』とも呼べるような考えが頭の片隅でグルグルと回っているが、急いでその回転を止め、投げ捨てる。

 

「まぁ普通に過ごそう」

 

 

 

 

「7時半…どうしてこうなったんだ」

結局暇を持て余したので早く出てしまった。足取りも早くすぐに駅についてしまった。うーんどうするべきか…。

とりあえず涼輝に教えてもらったゲームアプリを開き、時間を潰していると聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「すみません。波野さん待たせましたか?」

 

「いや、そんなに待ってないよ?というか今何時だ?」

アプリを閉じ、時間を確認するが7時45分と表示されていた。…早くね?(特大ブーメラン)

 

次に園田の姿を確認したが、大人っぽい印象を持たせる服で、厳粛な場に行くにはぴったりの服装だと思う。要するに似合ってて園田の印象を引き立ててるってことだ。

 

「2人とも集合早いしとりあえず行こうか、時間有り余るかもしれないけど」

 

「確かに元の集合時間より30分も早いですし、向こうで待つことになりそうです」

 

 

 

 

 

会場までは電車で3駅ほど、意外とあっという間だ。その間に話したことと言えば先輩達の話だ。まぁ一言でまとめれば楽しみだね!ということです。

 

「着いたけど、まだ時間もあるしなんか買いに行く?」

 

「はい、飲み物は現地で購入しようと思っていたので」

 

「じゃあ、そこに見えてるコンビニに行こう」

 

 

いらっしゃいませと音楽のテンプレを聞き、店内に入って行く。速攻で飲み物売り場へ向かい何にしようか迷っていた。

 

「園田は何にする?」

 

「そうですね…これがいいです」

 

「うーん俺はこれでいいか」

手には新発売!水の恵みオレンジ味と書かれていた。美味しそうだし興味本位だ。一方、園田が手にしたのはレモンティー。

 

「他に買うものある?」

 

「いえ、ありません」

 

「了解ッ」

園田が持っていたレモンティーを手からスッと抜き2つのペットボトルを持って急いでレジへ向かった。園田は一瞬何が起こったか分からずボーッとしている。

いい感じにレジも空いておりそのまま吸い込まれるように入った。速攻で小銭を出して早く会計してくれるの願う。後ろから足音も聞こえて来た。

 

「45円のお返しです」

 

「ありがとう」

完全勝利…

 

「波野さん…急に何するんですか」

 

「はい、レモンティーどうぞ。園田は自分で払いますって聞かなさそうだったから奪って払った」

 

「自分の分は自分で払います」

そう言ってジュース代を出す園田の手にお釣りの45円を乗せた。

 

「じゃあ行こうぜー。ほら置いて行くよ?」

 

「え?えぇ…」

園田は想定外のことをされすぎて混乱しているみたいだな。それでも、引き際を捉えているのかそっとお金をしまってくれた。ちゃんと分かってくれる人でよかった。

 

 

 

 

会場に入るが早くに来た甲斐もあってまだ席もそこそこ空いており見やすい席を取れた。

 

開始時刻の9時になり開会式?が執り行われる。細かい話はすっ飛ばすとして、競技が始まった。1日目は男子、2日目は女子が行う。園田とは明日も来ようという話になっている。

 

 

 

しばらく見ていると男子の先輩が出て来た。いつもはチャラチャラとしている先輩達だが、人違いかと思うほど真剣な顔をしている。

 

「先輩達の気迫凄いな」

 

「圧倒されてしまいます」

 

「先輩…」

 

 

 

3人は4射中2射を的中させ、1人が4射中3射を的中させた。東京大会はレベルが高いため2射的中の3人は予選敗退となってしまった。もう1人も力を発揮できなかったようで後の射詰競射で1射目を外し敗退となってしまった。

 

 

「独特の緊張感だったね」

 

「はい、射詰競射となれば1射でも外せば終わりですから余計に雰囲気も重くなりますね」

 

今は表彰式だ。知りもしない人が表彰台に立っており、興味がないという訳ではないが嬉しさはないな。

そんな感じで1日目は終了した。

 

2日目の結果は部長、副部長、岡城先輩が射詰競射まで進んだが結果的には敗退となってしまった。

 

先輩達でも、緊張感に飲まれてしまうんだ。経験があるないなんて関係ない。特別なんだ、そう噛み締めながら会場を園田と後にした。

 

 

 

 

*****

 

 

 

そして、先輩達の大会から2ヶ月が過ぎ夏休みを迎えた。ほぼ毎日練習を続けている。

 

「みんな集まってー」

部長の声でみんなが集まる。

 

「今度、弓道部では毎年恒例なんだけど合宿をやりたいと思います。行程は2泊3日で場所はここです」

 

「え?ここかよ」

つい本音が出てしまった。まぁ便利がいいし下手にどこか山奥に行くよりは全然構わないが。

 

「そこ、なんか言った?」

 

「いえ何も」

 

「ここでやる分1日だけでも参加してほしいからできるだけ予定は合わせてください」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 

***

 

 

「朝から晩までやって次の日も…って意外としんどいな」

 

「家がどれだけ落ち着くのか分かりますね」

 

「あー愛しの我が家よ…」

 

「ふふ、私も我が家に戻りたいものです」

 

「さっさと帰れるように練習しますか」

 

「はい、もちろんです」

 

「あとさ、次の休憩の時に勝負してくれないか」

 

「…構いませんよ。容赦はしません」

少しの間があり、園田は一転して真剣な顔をした。

 

「ありがとう。そちらの方がありがたい」

 

 

 

 

「みんな休憩入っていいよー」

 

「園田…やるか?」

 

「構いません。ルールは射詰でよろしいですか?」

 

「あぁ当然そのつもりだ」

園田との一騎打ち…あの時は勝てないと思ったが今はどうだろうか。目標の出来栄えを確かめるにはうってつけだ。やるからには…勝つ!

 

 

 

「では、私からいきます」

園田は1射目を淡々と的中させた。

 

 

 

「…よし」

俺も1射目は的中。先輩達もその勝負に興味を持っているのか集まって話しているようだ。

 

 

 

2射目、3射目は2人とも的中。

 

 

 

 

 

 

そして、4射目…

 

「…はっ!」

園田は的中させた。

 

くっ…狙いを定めろ…

 

 

 

そうして放った1射は的を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外した。

 

 

 

 

 

「はぁ…ダメか…いい勝負だった。急に言ったのに付き合ってくれてありがとう」

俺は園田の元に向かい、握手を求める。

 

「久しぶりにこんなにいい勝負をしました。こちらこそありがとうございます」

そう言って園田は握手をしてくれた。周りからは拍手が起こっていた。まだまだ園田には届かないようだし、精進しないとな。今度は必ず…勝ってみせる。

 

 

 

矢取りのため的場に向かい矢を取っていたところ、岡城先輩が話しかけてきた。

 

「さっきの勝負すごかったね。まだ鳥肌立ってるよ」

 

「一応休憩時間にやったんですが、先輩方どうでしたか?」

 

「大丈夫だよ。怒ってなかったし、逆に期待できるって喜んでたくらい」

 

「ならよかったです。今度は必ず勝ちたいですね」

 

「もちろん応援してるからね。頑張ってよ未来の部長さん」

 

「部長なんて大袈裟なこと言わないでください。どちらかと言えば園田の方が部長でしょう」

 

「でも、女子が多いこの学校で男子が部長の部活なんて話題性たっぷりだけど?」

 

「そんな話題性いらないですから」

 

「あー話してたから休憩時間が」

 

「話しに来た先輩が悪いんですよ?…」

 

「ははっごめんごめん、今度の大会頑張ってよ。緊張するかもしれないけど」

 

「自分の力を発揮できるよう、頑張ります」

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「緊張するなぁ…」

岡城先輩の思惑通りがっつり緊張してしまっている。手の震えなどは感じないが心臓の鼓動が身体全身に伝わるような感覚だ。

 

「はい、高校で初めての大会ですよね」

 

「参加する学校数はそこまで多くないし、1年限定だから数は男女それぞれ100人くらいだな」

 

「新人戦ではもっと多くの人が競技を行うんですよね。ここで怖気付いていてはダメですね」

 

「あぁ、先輩方に実力を見せる貴重なチャンスだ。胸張ってやろう。頑張るぞ」

 

「はい!」

 

 

 

先に競技をするのは女子で、俺はその様子を観戦していた。

 

園田は堂々としていて周りとは別のオーラを纏っているようだった。予選は4射中2射的中で突破できる。だが、初めての試合で実力を出せない人は多く、突破できる人はそれほどいない。実際、女子の部は予選を終わり25人に減っており余程の緊張があることを伝えている。

園田は4射中3射的中で予選を突破、その後も順調に当て残り10人まで残っていた。

 

ここからは射詰…外したら終わりの1発勝負。

園田は1、2射目を的中した時点で3人に絞られており、表彰台は確実になっていた。

 

 

だが、3射目を外してしまった。

 

 

3射目を的中した人が1人いたため、優勝は逃したがそれでも2位という結果に終わった。

 

「頑張れ俺」

自分を奮い立たせるように言い放った言葉と共に待機場所へ向かった。

 

 

 

 

流石に予選落ちは避けたいな。そう思いつつ放った1射目は的中したが2、3射目を外し絶賛ピンチだ。

 

これを当てないと…悪い考えをするのはやめよう。必ず当てる思いで…

 

 

 

 

 

その願いは叶い4射目を的中させ、予選突破を決めた。

2回戦もなんとか突破、射詰まで駒を進めた。

 

 

 

 

 

 

まずは1射決めないと話にならない。

俺は園田に負けたくないんだ。合宿でも射詰をしたんだ。あの時を意識しろ!

 

 

 

1、2射目を的中させ残りは5人。

 

表彰台に上がるには3射目を的中させることが絶対条件だ。この壁を超えろ。やってみせろ俺!

 

 

 

 

 

 

放った1射はバンッという音と共に的に突き刺さった。

 

 

「ふぅ…」

 

3射目を終え、残りは3人表彰台は確実になったが、緊張は最高潮に達していた。手は軽く震え、息は少し荒くなっていた。

 

 

 

4射目は動揺が結果に現れたのか的を外し垜に矢が刺さった。

 

 

 

この交流会という名の初めての大会は2位で終えた。

 

 

 

表彰式では表彰者同士お互いを讃え合い入賞者含め全員と握手を交わした。小さいながらもメダルを手にし、表彰状を丸めて持って自分の荷物の場所に戻ろうとしたところ、

 

「波野く〜んよく頑張ったね〜」

観客席から手を振るその姿は紛れもなく岡城先輩だった。来てくれていたんだ。

 

「他の人にも言ってあげてくださーい」

手を振り返し廊下をサッサと歩く。

 

 

 

 

荷物を整理し、部の集合場所に向かう。

そこでみんなから

 

「「「おめでとう!」」」

 

と言われとても嬉しかった。自分の実力を発揮できてよかった。園田も囲まれているようで既に解散している状態なので会場を出ることにした。

 

「波野さん」

 

「おう、園田かおめでとう」

 

「そちらもおめでとうございます」

 

 

その時2人の話す方向とは違う向きから

「改めておめでとう」という声が聞こえた。

 

 

「岡城先輩でしたか。ありがとうございます。今日全て見てたんですか?」

 

「えぇ、期待の新人の初大会だからね。2人とも良すぎる結果で私達もすぐに抜かされてしまいそうだね」

 

「そんなことないですよね?」

 

「もちろん。まだまだ練習を積まなければ」

 

「これから練習バカとでも呼んでやろうかな」

 

「「なんでですか!」」

 

「そんな揃えて言われても困るね…でも2人ともこれからも上を目指せるように頑張ってね」

 

「「はい!」」

 

「じゃあ私は帰るわ。また練習でね」

 

「「ありがとうございました」」

 

 

帰り際何度も手を振る岡城先輩を見届けたあと、園田と2人になっていた。

 

「よかったな2人ともちゃんと表彰台に上がれて」

 

「優勝は出来なかったですが、良い経験になりました」

 

「新人戦でもお互い表彰台目指そう」

 

「はい。頑張りましょう」

 

「ライバルとしてもな」

 

「ふふ、面白いですね。勝負しましょう。どちらが上に立てるか」

 

「互いに高め合おうな」

 

 

喜びに満ちた夏休みの中頃、これからも園田を目標に、そしてライバルとして勝ってみせるその想いが大きくなっていった。

 

 

 




今回も読んでいただきありがとうございます。

私の物語にしては長かったでしょう(笑)

普通に筆が進んだ結果なんですよね。5〜8月までやっちゃうと必然的にそうなるのかもしれませんが。

絢瀬絵里先輩と東條希先輩が出てきましたね。この2人はこれからもそれなりに出てくるので一応2人ともタグは付けようと考えております。そのため、あらすじの部分にもキャラの出現内容であったりの書き足しをしたいとも考えております。

次回はテストが控えているため早くても5月下旬、下手すれば6月初旬となりそうです。できるだけ早く執筆しますのでよろしくお願いします。

テリアキさん、近衛はるかさん、四神さん、青龍さん、やまっちょさんお気に入り登録ありがとうございます!





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 奔走

お久しぶりです。まずは投稿が遅れて申し訳ありません。部活に課題と時間を食い潰されておりました。自分自身でも、書きたくても書けない日々が続いていましたがなんとか完成しました。

今回もまとまりがなく相変わらずの文ですがどうぞ!


「いってぇ…まだ腫れてるし」

頬をさすりながら夏休み明けの学校に向かっている。全く涼輝のやつ…

 

こうなったのは夏休みの一件のせいである。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「暇だなぁ〜」

ふと出たその言葉は虚しく、夏の暑さがかき消す。弓道部は3年生の先輩が部を引退し、新たに岡城先輩が部長になった。短い期間しか一緒にいなかったが、よくしてもらったし、悲しく感じた。

 

今日は部活がオフで、今はもう雀の涙ほどしか無い夏休みを全力で暇している。毎日部活をしていて生活の一部のようになっていたせいか、急に休みになるとこのざまである。誰かあそぼーなどと連絡してこないものかと思っていたところ、スマホから通知音がしソファに深く座っていた身体を起こす。

 

 

「流石、空気の読める奴だわ。グッドタイミングだな」

 

 

 

涼輝「今日遊ぼうぜ」

の文字が画面に映っていた。

 

 

 

 

 

 

「涼輝、来たぞ」

なぜか近くのゲーセンに集まれとの通知が来たので色々持ってそのゲーセンに来たのだが。

 

「和也が来ただと…」

 

「なんだよそれ」

 

「そりゃ遊ぼって言ってもいつも部活だ部活だって言ってるから」

 

「今日はたまたまオフだった上に暇だったんだよ」

 

「もうそろそろあいつも…来るかな?」

 

「おーい、来たよー」

聞き慣れた声が聞こえる。

 

「久しぶりだね、和也」

 

「なかなか会えてなかったもんな」

ゲーセン特有のガヤガヤ感の中、涼輝が嬉しそうに話し始める。

 

「今日は2人に紹介したいゲームがあるんだ」

 

「呼び出した理由はそれ?」

 

「それだけならすぐ帰るけど」

 

「まあまあ、これもそのうちの1つだよ。行くぞほら」

涼輝に背中を押されつつゲーム音が木霊しあう中へと入っていった。

 

「俺が紹介したいゲームはこれだ!」

 

「これは…」

一見みると正九角形ような形をしたタップする場所がある台とその台の前には大きなモニターがあった。

 

「リズムゲームの類?」

 

「その通り。これは画面に流れてくるリズムアイコンの場所をタイミングを合わせて足で踏むゲーム。その名も『Dancing the top stars』だ!」

 

「それだけ?」

 

「まだまだ、このゲームで配信されている曲は新人のアイドルから人気のアイドルまで幅広く配信していて、今年は初めて全国大会も開催されたんだ」

 

「要するにやってみろってことか?」

 

「そういうこと、まずは俺がやるから見ていてくれ」

 

「おう」 「分かった」

 

 

 

涼輝の足捌きはなかなかのもので、曲のリズムに乗って踊れるほど余裕を見せていた。

 

「流石、やってるだけはあるな」

 

「うん、すごかったよ」

 

「これくらいできないと紹介するにもショボくなるだろ。とりあえずさっさと進めようぜ。次和也な」

 

「…よし、オススメの曲を選択してくれ」

足の距離感もそれなりに掴めた。準備は万端だ。

 

「えーと、これかな。よし、始まるぞ」

 

「録画しよっと」

 

「おい」

顔は映りたくないので腰に巻いていたパーカーを着てフードを被る。

 

「始まるぞー」

クールな曲調で始まり次第にアイコンが降り始めるが…あれ?涼輝の時と同じくらいの物量なんだが…まさか!

 

「あ!難易度変えるの忘れてた!」

 

「ですよねーーー!!!」

次々と降ってくるアイコンに必死で足を合わせる。

 

「こんなの踊りとかいうレベルじゃないぞ」

余裕なんてものは当然無い。目を見開き画面をガン見、足を動かす。

 

「ここはこうするしか!」

身体を回転させ顔だけを画面に向ける。

 

「えっマジかよ…」

 

 

 

 

「ふぅなんとかなったな、いつもとは違う筋肉を使ったからか足が痛い…」

 

「和也、途中で反転したところどうやったんだ?」

 

「えっ?あれは同じ足だと間に合わないと思ったから逆の足で踏むために回ったんだけど」

 

「あの曲、いや全ての曲で身体を回転させる場所はないぞ…」

 

「嘘だろ…俺のなんだったんだよ」

 

「動画サイトに投稿されている同じ曲でも回転はしてないね。今の動画サイトに投稿しておこう」

 

「あと、初見でフルコンボはおかしくないかな。和也君よ」

 

「知るか、こっちだってガチなんだよ。おいそこ許可無く動画を投稿するな」

 

「まあまあ。確かに、和也の顔に余裕は感じなかったね」

 

「とりあえずこれから使えるログインカードは作っておけよ、損はしないから」

 

「はぁ、サンキュー…」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

結局、それなりにゲーセンで遊び昼飯は涼輝の家で食べることにした。なぜなら思った以上に涼輝が金を使い金銭面がピンチになっていたので出費を抑える方針になった。

 

 

 

「久しぶりこのゲームやろうぜ」

涼輝の家に来た途端、急に取り出してきたのは今作で8人乱闘が可能になった任天DOのソフトの大乱闘スマッシュファイターズだった。3人ともこのソフトを持っており、よくフレンド対戦をする。

 

「久しぶりにガチタイマンしようぜ。総当たり戦で最下位の奴が昼飯用意で」

 

「それ、涼輝が負けたら…」

 

「大丈夫に決まってるさ」

 

「大体読めたわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、そのコンボやめろ死ぬ死ぬあぁ〜」

 

「ぎゃぁぁぁ回避読まれたぁぁぁぁ」

 

最初の2戦で涼輝が2人ともに負けたためその時点で涼輝の最下位は決定、あとは気軽に陸斗と勝負することになった。

 

「さっさと終わらして飯食べさせてもらおうぜ」

 

「そうだね」

 

「くそう…」

 

 

 

 

 

 

「勝った陸斗が昼飯決めていいよ」

接戦だったが負けてしまったので陸斗が決めることになった。

 

「えーっと今の気分はオムライスが食べたいかな」

 

「なるほど…って俺オムライス作れねえよ」

 

「そっかぁじゃあ…」

 

「俺が作ろうか」

 

「え?和也作れるのか?」

 

「まぁな、その代わりに涼輝には買い出しだな」

 

「背に腹は変えられんが金が…」

 

「建て替えで許してやるよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実食!」

どこかの食わず嫌いの戦いで聞いたことのあるフレーズを涼輝が言い、2人とも食べ始める。

 

 

「…うまいぞ!」

 

「涼輝の言う通りだよ。卵もフワってしてるしおいしい。涼輝に作らせてると思うとゾッとするね」

 

「そりゃどうも。今度はできるやつでいいから作ってくれ涼輝」

 

「カップラーメンになる可能性大だがいいか?」

 

「遠慮しておこうか」

 

「もちろん」

 

 

 

適当に食べ終わり、陸斗が食器を洗ってくれるらしく、俺と涼輝は2人で部屋で座っていた。

 

「なー久しぶりにタイマンしないか?」

 

「え?タイマンならさっき…そういうことな。ならさっさとやろうぜ」

 

「親父呼んでくる」

 

「陸斗ー久しぶりに涼輝とタイマンするから終わったら下の道場来てくれ」

 

「了解ー頑張ってねー」

 

 

 

 

 

「剛輝さん、お久しぶりです」

 

「お、和也君久しぶりだね。半年くらいは会ってなかったかな?」

 

「はい、それくらいですね。わざわざ時間を割いていただきありがとうございます」

今話しているのは俺に弓道や合気道を薦めてくれ、護身術を教わった涼輝の父の秋山 剛輝(あきやま ごうき)さんだ。実は現役の警察官だったりする。

 

「全然大丈夫だ、今は遅めのお盆休み取ってたから」

 

「おーいやろうぜ和也ー」

 

「おう。ではまた後で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ではルールを説明する。勝負は一撃制で3回行う。相手に確定的なダメージを与えた場合、または相手を動けなくさせた場合勝者となる。お互い私が反則にあたる行為だと思った場合は指導。3回で負けだ。以上!1回戦…始め!」

 

 

 

「とりゃぁぁぁぁぁ」

開始と同時に涼輝が突っ込んできた。そのまま右拳を前に突き出し俺の顔面に迫ってくる。

 

「そんなパンチでこの勝負終わりたくねぇよ!」

右側に一歩踏み出しながら右拳を左手で受け流す。だが思った以上に涼輝との距離が離れたため追撃しようにもできなかった。

 

「まだまだ!」

すぐさま方向転換し、蹴りを放ってくる。俺はその足に沿うように避け涼輝との間を詰める。

 

「…見えた!」

蹴りの後すぐさま出た右拳が伸びきったところで腕を掴み、涼輝の後ろ側に回る。膝の裏に蹴りを入れ、膝を曲げさせる。そのまま背中を押し、仰向けにして右腕を後ろ側にもっていった。

 

「そこまで、一回戦は和也君の勝利だ。素晴らしい手際だったぞ。それに対して涼輝は隙を晒しすぎだ」

 

「ありがとうございます」

 

「うーん攻めすぎたか…」

 

「では、今のを踏まえて2回戦始め!」

 

 

 

「そっちから来いよ」

さっきのを踏まえてか涼輝は俺から攻めさせる気のようだ。俺は防御から流れを作るタイプだからどうせ涼輝を攻めでは突破できない。まぁ釣るくらいならできるか。

 

「分かった」

速攻で距離を詰め、左ストレートを肩にかますが、手のひらで受け止められた。俺はすかさず振り返り左肘でエルボーを腹に入れようとするがそれも止められた。

 

「くっ…やっぱり厳しいな」

このままでは埒があかないと考え距離を取る。

 

「まぁ和也は攻めるのはあまり得意ではないことくらい知ってるからな。次は俺だ!」

先ほどと同じように迫ってくる涼輝に対して俺はタイミングを合わせ1回戦と同じように横にステップしながら左手で受け流そうとした。

 

 

 

 

 

 

だが、その手は空を切っていた。

 

 

 

 

 

 

「なっ、フェイントだと」

そこには俺の腕が届かない範囲にいる涼輝の姿があった。今はステップのせいで身体は浮いており身動きは取れない。それが意味するのは負けだ。

 

「チャンスッ」

 

「そこまでだ!」

これを好機と捉えた涼輝が右ストレートを放ち、俺の頬へと直撃した。

 

「マズっ…」

本来床と垂直にあるはずの身体が気付けば平行になっており、そのまま床に倒れ意識は霞んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かず…く…だい…ぶか?!」

薄っすらと聞こえた声には焦りがあったように感じる。頬はひんやりとしていて何かのっているようだ。

 

「ん…これは」

ひんやりとしていた正体は冷たく絞ったタオルだった。殴られてからの記憶もないし…だが、すぐに状況を察することができた。

 

「大丈夫かい?」

 

「あぁすみません。普通にぶっ倒れましたね」

 

「和也すまん!」

隣には土下座をしている涼輝と苦笑いの陸斗がいた。

 

「いや、顔を上げてくれ。対処を怠った俺が悪いんだ」

 

「とりあえず今日はここまでにしておこうか。和也君をこれ以上やらせる訳にもいかないし」

 

「俺なら大丈夫です。できますから」

 

「いや、やめておきなさい。さっきので頭も少し打ってるはずだ。その代わりと言ってはなんだが涼輝の勉強を見てもらえないだろうか。あいつ夏休みの宿題をあまりやってn「あぁーーー!何にもなーい」

剛輝さんの発言を妨害したことで大体理解した。

 

「へー、宿題しろっていっただろ?」

明らかヤバそうな顔をする涼輝と引き続き苦笑い継続中の陸斗。

 

「涼輝をよろしく頼む」

 

「了解しました。覚悟はできてるよな?」

 

「…はい」

 

 

この後、殴られた恨みからかいつも以上に厳しく教えたのは当然の話。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「あーあ、結局勝負はお預けか…」

あのタイマンの3回戦は行っていない。いつかやる日が来るのだろうか。まぁできなかった原因は俺がフェオントをモロに食らったのが悪いんだがな。

 

そんな夏休みの思い出に浸っていると学校がもう目の前に迫っていた。別に久しぶりに会うクラスメイトになんの喜びがある訳でもない。

また学校という1つの行動が増えるだけのものだ、なんて小説チックなことも一度は言ってみたい。そうこうしているうちに1ヶ月ぶりの教室に着くはずだったのだが山田先生に声をかけられた。

 

 

 

「久しぶりだな波野、会って早々悪いが1つ頼みたいことがあるんだがいいか?」

 

「できる範囲でしたら」

 

「生徒会に入ってもらえないか?」

 

「はい?」

急すぎて混乱中。普通生徒会は自分から立候補した上で選挙を行い容認されるはずだが。

 

「今年は立候補者が今のところいなくてな、締め切りも近いから聞いて回ってるんだ」

というか生徒会の立候補できるなんて話聞いたっけ…

 

「残念ですがお断りします」

 

「うーん、では絢瀬さんと東條さんからのご指名なら?」

…先輩から直々の指名か断る訳にはいかないがどうしようか。

 

「…期限内に立候補者がいなければ考えなくもないです」

今は保留にしておこう。

 

「流石波野だ。感謝するぞ」

 

「まだ入ると決まったわけでは…」

 

「頼むぞー」

先生は行ってしまわれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、今日は文化祭の出し物をHRの時間を使って決めようと思う」

そんな時期かぁと思いつつ窓に寄りかかる。

 

「本校では文化祭を2日行い、1日目はクラス、2日目はクラブでの出し物を行うと決まっている。何をするかはお前達の自由だ。やりたいように発言してくれていいぞ」

しばらく騒ついたあと、1人の生徒が手を挙げた。

 

「メイド喫茶やりたいでーす」

 

「それは1組が先に決めて生徒会に提出したようなので無理です」

 

「!?」

逆にメイド喫茶が通ったのか。驚きを一瞬で抑え気持ちを宥めるために園田に話しかけた。

 

「園田はメイド喫茶どうなんだ?」

 

「メイド喫茶は…嫌です」

 

「園田似合うと思うけどな」

いつも着ている弓道衣を考えれば新鮮だし着てみて欲しいような…ん、そんな欲望は抑えるべきだな。

 

「そ、そんなことありません!」

 

「はいはーい。じゃあお化け屋敷やらなーい?」

園田が否定したあたりで別の意見が女子生徒から出た意見にはみんな賛成らしく、どんな脅かし役がしたいかなんて話までしている始末だ。

 

「なら、それで決定でいいな。それと、その出し物で先生の補佐的な役割で仕切ってくれる人を1人頼みたいんだ。先生も毎日毎日関われるほど暇じゃなくてな」

その瞬間教室はシーンとした。まぁめんどくさいのは明白だもんな。

 

「やってくれる奴はいないか?個人的には波野でいいかと考えているんだが」

は?おまえは一体何を言っているんだ。なぜ俺が指揮を取らないといけないんだよ。その瞬間俺の顔が険悪になったのは言うまでもない。

 

「いいと思いまーす」

1人の生徒を皮切りに次々と賛成の声が出た。そりゃ面倒事を他人に押し付けることができるんだから賛成するわな。

 

「じゃあ決定でいいか?波野」

こんな状況下で否定する訳にもいかないだろう。

 

「…了解しました。指揮を取ればいいんですね」

 

「ありがとう、後で話があるから教卓まで来てくれ。今日はこれで終わりだ。解散」

 

 

 

 

 

 

「で、勝手に指名するとはどういうつもりですか」

 

「やっぱりお怒りのようか。でも、私としては波野にはできるだけ人の上に立つという経験をして欲しかったんだ」

 

「…生徒会に関してもそれが理由ですか?」

 

「生徒会の話は本当に先輩の指名だ。波野はいつも平然としていて軸がしっかりとしている。何かアクシデントがあった際でも冷静に対応してくれると思った」

淡々とした口調で話す山田先生に俺は納得するしかないとまで感じた。

 

「君は将来優秀な人材になると思う。だからこそ今は我慢してほしい」

 

「そこまで言うなら分かりました。先生に考えがあるなら俺はやってみせます。ですが初めてなのには変わりありません。できるだけサポートをして欲しいのですが」

 

「あぁそれはもちろんだ。分からないことはなんでも聞いて貰って構わない」

 

「はい、よろしくお願いします」

先生と話を終え弓道場に行くために帰る準備をする。

 

 

 

「波野さん災難ですね」

話しかけてくれたのは少し気まずそうな顔をした園田だった。周りの奴らは罪悪感があるのかないのか分からないが話しかけてもこないし。

 

「まぁな。でも、先生にも考えがあるらしいし、やるからにはやってやるさ。全員馬車馬のように働かせてやる」

 

「お手柔らかにお願いしますよ?」

気まずそうな顔から一転、笑みが溢れていた。

 

「みんなのやる気次第かな。よし、弓道場行こうか」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

「みんな聞いてー。今から文化祭でやる出し物を決めたいと思うからホワイトボードの前に集合ー」

新部長である岡城先輩の呼び掛けに呼応し、みんなサササッと集まる。

 

「まず、弓道部は昨年一昨年と…和風喫茶をやっているんだけどみんなどう?」

そして今日2度目の喫茶である、3度目は流石にないだろうなんて願いはいいとしてどんな感じなのか聞いてみるか。先輩達は同じものを続けた方がやり方も分かっているし、和風喫茶でいいと思うがな。園田が横でぷるぷるしているけど…

 

「具体的にはどうするんですか?」

 

「えっと着物や浴衣などの和を感じられるような服装と和菓子を中心とした食べ物をお客さんに提供するつもりだよ。何回か弓を引いている姿も見せれたらいいと考えている」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

「あと、当日は浴衣班、弓道衣班の2つに分かれてもらうよ。服装を決めるだけでシフトは別だけどね。明日に班を決めるからそれまでに何を着たいかボードに書いといて」

 

 

 

俺は折角だから浴衣にすることにしホワイトボードに書き込んでいたのだが、その横で「弓道衣でいいです」と言い張る園田と「浴衣絶対似合うから浴衣班行ってよお願い!」と言う岡城先輩がいた。園田は嫌ですと繰り返し、そこをなんとかと頼み込む岡城先輩という面白い図が出来上がっていが結局、園田が押し切られて浴衣班になった。

 

 

 

 

***

 

 

 

文化祭前日

「…じゃあ準備を始めよう。前に決めた通りそれぞれの担当で行ってください。自分の担当が終わった場合は飾り付けと部屋全体の暗転化をする装飾班を手伝ってください。俺は装飾班を手伝っているので何か不備等があれば聞いてください。では散らばって開始してくれ!」

 

「「「はい」」」

 

 

 

 

 

 

 

「波野くーん。ここってどうしたらいいかな?」

 

「そこはこっちの道を広くしてほしいから向こうを狭めるようにしてくれ」

 

「ありがとー」

 

 

 

 

「波野君こっちもお願い」

 

「ああ、すぐ行く」

 

 

 

「波野これ一緒にやってくれ!」

 

「もちろん!」

 

 

 

…準備の1日は早く過ぎていった。今日1日で何度名前を呼ばれたか分からないレベルだったが準備の段階でも相当楽しかった。

 

 

 

 

「みんなお疲れ様、今はもう9時半だな。明日はついに文化祭当日だ。それぞれ仕事はあるけど、それでも楽しむことを忘れずに全員でやりきれるよう頑張ろう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の才覚を問われているのかもしれないが楽しい2日間が始まろうとしていた。

 




今回も読んでいただきありがとうございます。

次回こそは、次回こそは前書きで謝罪がないようにしたい…でも、あと1週間ほどで期末テストさんがスタンばってます。それが終わればほぼ夏休みのようなものなんで更新ペースを上げたいです。



散々忙しいと言っている部活ですが実は弓道部だったりします(笑)
最近弓を引き始めて徐々に的に当たり始めた感じになります。


とりあえず次の目標は1ヶ月以内投稿で!

赤いアイツさん、アルフレインさん、嗣雪さん、ゐろりさん、シルバークロウさんお気に入り登録ありがとうございます!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 初文化祭1日目

お久しぶりです(震え声)
大変お待たせしてしまいました。色んなことの忙しさ増し増しやモチベの低下&放置が響きましてこのような事態になってしまいました。今後はこのようなことがないようにしたいです。毎回こんなこと言ってる気がしますが。

今回ですが最初は1日目と2日目を纏めようとしたのですが予想以上に膨大になりまして投稿期間も空いてしまっている状態から先に1日目だけを投稿することにしました。2日目も半分以上は書き終わっているので比較的すぐに投稿できるはずです。

ではお楽しみください!


「只今より音乃木坂学院高校文化祭を開始します!」

放送によっての開会宣言は全校生徒にすぐさま伝わり歓声が聞こえ始める。

 

「みんな!照明を消して驚かす人は各位置に移動して待機。俺は受付にいるからちょっとしたことでも何かあればすぐに言ってくれ。この文化祭を良いものにできるように頑張ろう!」

 

「「「「「おー!!!!」」」」」

 

「もうリーダーとしての姿が決まっていますね」

隣に同じく受付を担当する園田が中から出てきて席に座った。

 

「吹っ切れたあと色々やってきたが、リーダーというようなことはやった覚えがない気がするんだ」

 

「自覚なかったんですか?この文化祭で波野さんはクラスメイトから印象が変わったって話題になっていますよ?」

 

「そうなのか?」

 

「『ちょっと根暗で近づきずらいかも』とか『話し掛けにくい』とも言われていましたね」

 

「結構散々言われてんのな…」

こっちとしても結構傷ついた…

 

「ですが今では、『あいつ頼れる奴だよな』『困ったことがあれば波野君だよ!』って言われてましたよ?」

 

「些か反応が違いすぎるような気もするけどありがたいな」

手首がねじ切れるような手のひら返しを食らったところで第1客人発見。

 

「ここって1年2組のお化け屋敷ですか?」

 

「はい、興味があるならどうぞ。めでたくあなた方がお客様第1号です」

にっこりした顔で教室のドアを開け誘導した。

 

「じゃあ、楽しんできまーす」

 

「はーい、いってらっしゃい」

その15秒後には悲鳴が聞こえた。

 

「ふっ」

目論見通りといったところだな。

 

「波野さん、とんでもない顔してますよ」

 

「え…マジ?」

 

「マジです」

 

「いや驚かす側としては嬉しいことだからつい…ね?」

今見られたのが園田でよかった…先生とかだと嫌というほど印象が付くからな。

 

「それにしても酷い顔でしたよ?これからは無いようにしてください、受付なんですから。はい、次のお客さんが来ますよ。ちゃんと対応してください!」

 

「あっはい。気をつけて対応させていただきます」

ほんと園田には敵わないなぁ…

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

客は次々と入り大盛況となっていた。入った人からは叫び声が聞こえ、計画通りに進みすぎて逆に何かミスがあるのではないかというレベルだ。

 

「お待たせしました」

 

「次の方どうぞー」

今のところはトラブルも無く順調に客を捌けている。

 

「波野さん、あの姿ってもしかして…」

 

「ん?…先輩方じゃないか!わざわざ来てくれたのか」

ふと、後ろの方を見ると弓道部を引退した3年生の先輩方がいた。

 

「やっと順番だね、あ!受付に居たんだ2人とも!」

 

「お久しぶりですね。来ていただけたのですか」

 

「クオリティー高いって評判になってたみたいだし、2人がいることも分かっていたからね」

 

「ほんと、わざわざありがとうございます。もう入れるみたいなんでどうぞ」

 

「楽しみ、行ってくるね」

 

「ぜひ、楽しんできてください」

 

 

 

 

 

 

数分後

「いやー楽しかったよ」

 

「えっ楽しくない。怖すぎて」

平然としている先輩に対してブルブルと震える先輩の対称性溢れる講図である。

 

「そう思ってもらえるならこちらとしても本望です」

 

「波野さんがリーダーとしてクラスを引っ張ってましたもんね」

 

「そうだったの?ほんとオールマイティーな人間だね君」

 

「いや、あれは無理やりで…」

 

「それ以外にも内部の設計なんかにも関わっていて…」

 

「へぇ〜海未ちゃんって波野君のことに結構詳しいんだぁ〜」

さっきまで震えていたのはなんだったのか。その先輩は園田をジロジロと見始めニヤついている。

 

「い、いえそういう訳ではなくて」

 

「本当に?」

さらに先輩の顔がニヤける。

 

「ほ、本当ですって」

 

「まぁまぁもうその辺でやめてやってください先輩。俺がクラスを引っ張っていくようなことが初めてだから不安なんだって相談してたんですよ。だから心配してくれてたんですって」

 

「ふーん、そうなの?」

 

「そうですよ?」

 

「なんで疑問形なの…」

 

「し、知りません!」

 

「はい、後輩いじりはやめて次行くよ」

 

「あー待ってよまだ話は終わってなーい!!」

先輩は襟を掴まれ引きずられていった。

 

「あはは、もうちょい仕事やりますか」

 

「そうですね。午前もあと少しです」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「飯時からか結構空いてきたな」

 

「もうそろそろ交代でしょうか」

 

「2人ともごめん遅くなっちゃった。ありがとうお疲れ様」

 

「お、来たか。じゃあよろしく頼むわ」

 

「よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様」

 

「ありがとうございました」

 

「あっという間だったな。サポートありがとう」

 

「こちらこそ波野さんがいなければあれほど円滑に進みませんでした」

 

「午後は遊んで明日の準備だな」

 

「はい、また後で会いましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「待たせたな」

 

「いや、それほど待ってないよ」

 

「和也来たしさっさと行こうぜ」

午後は遊ぶためにいつもの3人で集合した。

 

「何する?」

 

「スポーツテスト行こうぜ」

 

「俺まだ飯食ってないって」

 

「それ前提で行こうって思ってたんだけど?」

 

「マジかよこいつ…」

 

「そりゃそうだよ。だって涼輝つまみ食いしてたし」

 

「な、してねぇし。ただ腹減ってないんだよ!」

 

「ふーんなら腹も減らないわけだ」

 

「とりあえず僕も何か食べたいから向こう行くね。ちょっとしたら戻ってくるから」

 

「行きたいとこ決めとけよ」

 

「だから行きたいのはスポーツテストだってば。あーあ行っちゃった。普通に置いていかれてるし…え?おい待てよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー美味しかった」

 

「涼輝腹減ってなかった割によく食べたね」

 

「やっぱ別腹というかなんというか」

 

「いつものことだろ、飯も食べたしスポーツテストの出し物行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へへへ、まだまだ…余裕だ、ぜ」

 

「まだ乗せるのかよ」

今はスポーツテストで涼輝が水の入った2Lのペットボトルをどれだけ持てるかというのをやっている。協力者として俺と陸斗がペットボトルを乗せているのだが涼輝はとっくに限界を超えているようだ。

 

「先生の、記録を…抜かしたいん…だ」

先生の記録とは体育会系ガチムチ先生が偉大な記録を打ち立てたらしい。最低でもペットボトル50本分は持ったそうだ。

 

「次40本目だぞ。これ乗せる場所あるか?」

 

「うーんここ乗せれそうだけどやっぱり上に積んだ方が賢明かなぁ」

 

「うぐぐ…は、や、く、し、ろ、よ」

 

「はいはい、ちゃっちゃと乗せちゃいましょうねー」

適当に40本目を乗せた。

 

 

 

「あー限界だぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「え?…ッ!!!」

涼輝が抱えていたペットボトルが突如崩れ俺に向かって落ちてきた。そのうち先ほど乗せた1番上に乗っていた1本が俺の足のつま先に直撃し、痛みを感じた。まるで、グギッという効果音が聞こえそうなほどの衝撃で俺は床で悶えた。

 

「ぬわーやっぱ無理だー」

床で仰向けで大の字になっている涼輝、うずくまり足を抑える俺。

 

「うっそ、和也大丈夫?」

 

「あいつ殺されてぇみたいだな」

 

「あー疲れたってどうしたんだ和也?」

 

「ははは…どうしたもこうしたも貴様のせいだぁぁぁぁぁ」

近くにあったペットボトルを涼輝に投げつけた。

 

「へ?ぎゃぁぁぁぁぁ」

その断末魔は校内に響き、一瞬の静けさを生んだらしい…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あークソ痛いわ。歩くたびに痛いし」

 

「別に痛いだけで骨とかはセーフだったみたいだし、湿布も貼ったから大丈夫だよ」

 

「そうだな。えっと、俺が引きずってる涼輝はどうする?」

 

「じゃあ僕何か買ってくるよ」

 

「分かった。俺はこいつを中庭に引っ張っておくわ」

 

「りょーかーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「当たり前のように食べ物の匂いを嗅がせれば起きると思ったんだけどいけるかなぁ」

焼きそばを買ってきた陸斗がプラスチック容器を開けそれとなーく近づけた。

 

「んー…」

目は覚ましてないが鼻はピクピクと動いている。

 

 

 

 

 

「焼きそばぁ!」

 

「やぁ、おはよう」

 

「お、おはようございます」

 

「じゃあサッサと行こう。涼輝、その焼きそば食べとけよー」

 

「おう?分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、結局自分のクラスに戻ってみた訳だけど」

 

「普通にお化け屋敷行こう」

 

「お疲れー。うまくいってる?」

受付に手を振りつつ調子を伺う。

 

「ここまでトラブルなしです!リーダー!」

 

「ならよかった。このままの調子で頼む」

 

「はーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっひゃー真っ暗だな」

 

「そりゃそうなるように作ったからな」

 

「涼輝を壁にして進もう」

 

「は?うお、押すな押すなーやめろ陸斗ぉぉぉ」

目を瞑りつつ涼輝を押している陸斗だが押した先には驚かすための仕掛けをした場所だ。

 

「ひぇっ、誰今触ったの」

 

「俺じゃねえ」

 

「違うぞ」

 

「え〜もう怖いよ〜」

 

 

 

「あーほんと暗くてほとんど何も見えない…」

策士策に溺れるとはこういうことなのだろうか。ホラー要素が怖い訳ではないが、早くこの空間から出たいのだがな…

 

「いて。すみません」

なんだ、何とぶつかったんだろう。

 

「すみません」

 

「あれ?その声はまさか園田か?」

 

「波野さん!?」

 

「とりあえずお互いの位置関係を確認しよう。少し手を振り回してみて」

 

「こ、こうですか?」

 

「えーっと…よし」

風の方向を考えて振り回してた手を握り動作を止めた。

 

「え、あ、手を握って…」

 

「あーごめんごめん、もう離すから」

なんとなく園田は見える距離になったし目も慣れてきた。

 

「で、どうしてここに?店番の仕事は終わっただろ?」

 

「私は穂乃果とことりとこのお化け屋敷に来ていたのですが途中ではぐれてしまって…」

 

「そうか、それはさいな…ん?涼輝ー陸斗ーどこにいるんだー」

返事は聞こえず声は暗闇に吸い込まれるように消えた。

 

「…俺も置いていかれたみたいだ」

 

「ここはどこなのでしょう」

 

「適当に突っ走ったから俺も覚えてないな。せめて何か目印があるなら思い出すんだが」

 

「前に進まないと始まりませんね」

 

「どこが前かも怪しいがな」

 

 

 

 

 

 

「こっちでしょうか」

 

「そうだと思うが…」

 

「ひゃっ!!」

 

「うおっ」

園田が何かに驚き俺の腕を掴んで身を寄せてきた。

 

「ど、どうした?」

 

「あ、すみません!」

 

「いや、別に大丈夫だけど何かあったのか?」

 

「なんか足らへんを触られた気がして…」

 

「…あ、確かそんな仕掛けをしようと準備してた奴いたぞ…ってことは結構後半だな、もうすぐ出口だ」

 

 

 

 

 

 

 

「光見えたぞ」

 

「やっとですね…」

カーテンを開け、光が漏れた扉を開ける。

 

「「和也遅い!」」

 

「「海未ちゃん遅い!」」

 

「「すみません…」」

 

「何してたの!?海未ちゃんだけはぐれちゃうからお化けにでも食べられてるのかと心配したんだよ?」

 

「急にどこ行ったんだよ。心配したんだからな!」

 

「というか2人でいたの?」

 

「まさか、そういった関係で?」

 

「いや、うーんなんと言うべきか」

 

「偶然が重なった結果で…」

 

「おどおどするところが余計に怪しい」

 

「何にもないからな。あーもう部活の方の準備行かないといけないからー」

 

「お、おい!」

 

「ほら行くぞ園田。ではサラバー」

 

「ま、待ってください!」

 

 

 

 

 

「あの2人怪しいよね」

 

「今度調べてみることにするよ」

 

「それは助かるけど…どうする?4人で回るか?」

 

「いいよ!」

 

「うん!」

 

「僕は構わないよ」

 

「じゃあもうちょっとだけど楽しもう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー変な汗かいた…」

 

「あの言い方じゃ誤解されたままですよ?」

 

「そのうち陸斗が調べ始めるさ。その時に普通でいれば何も無くなるはずだ」

 

「それならいいのですが」

 

「あいつのことだから徹底的にやるぞ。まぁやましいことがないから何にもならないんだがな。あー言ったし、もうすぐ文化祭も1日目が終わる。部活の方の準備に行くぞ」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー来た来た2人とも!」

 

「岡城先輩はしゃぎ過ぎです」

 

「いやーやっぱり文化祭ってテンションあがるもん」

 

「まぁ分からなくはないですが」

 

「初めてなのでどうなるか不安で仕方ないです…」

 

「大丈夫だって、何かあれば私がなんとかしてあげるから。じゃんじゃん先輩に頼ってくれていいからね」

 

「そうさせていただきます」

 

「俺も頼らせてもらいますよ」

 

「オッケー任せといてよ」

 

「もう準備進めるんですか?」

 

「そうだね、適当に進めちゃって」

 

「あっはい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし準備終了!」

 

「お疲れ様でした」

 

「まぁ明日が本番だからここで気力を失う訳にはいかないけど、私のテンションはハイだよ!」

 

「ほんと楽しそうで何よりです」

 

「明日は浴衣♪浴衣♪」

 

「そういや浴衣着るんだったな」

 

「ま、まだ諦めません。私は嫌ですよ!」

 

「ダーメ、もう逃げられないんだから。ちゃんと覚悟決めてよ?逃げたらどうするか分かってるよね?」

ギラギラとした目が一層先輩を恐ろしくしている。

 

「…ひっ」

 

「無駄な抵抗だぞ。もうやめとけ…」

 

「楽しみだなー」

呑気に鼻歌を歌いながらテーブルクロスをひく先輩。この日岡城先輩に対して少しの恐怖を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

部活の準備を終えた後クラスでの打ち上げのために近くの居酒屋に集まっていた。

 

「あ!来たよ2人」

 

「ごめんな待たせて」

 

「申し訳ありません」

 

「全員揃ったことだし、乾杯といきたいところだがそれは波野に言ってもらおう」

周りから謎の拍手が起こる。

 

「なんでだよ…」

 

「ほら、食べ物冷めちゃうから早く」

 

「分かったよ…えーと今日はみんなお疲れ様。分かっていることだと思うが2組のお化け屋敷は大好評だった。これはみんなが団結してこの文化祭に挑んだ結果だ。俺はリーダー紛いでちゃんとしたこともできなかった。だからみんなありがとう。では!この時間を楽しもう乾杯!」

 

「「「「「乾杯!!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

「何湿っぽい挨拶してんだよ」

ビールではなく普通に炭酸飲料を飲みつつ話が進む。だが、話はよくわからない方向に流れていくようで…

 

「あれじゃダメか?」

 

「んーでもお前らしいや。だよな?」

 

「え?ほんと?2人でいたの?」

 

「うん、最後2人で出てきたからね」

 

「俺の仕掛けのところ2人で通過したぞ」

 

「じゃあやっぱり…」

 

「なぁ聞いてんのか?」

 

「あぁ、その通りだと思うよ」

 

「何の話してんだよ」

 

「いやさ、波野って園田と付き合ってるのか?」

 

「ゲホッゲホッなんだ急に、むせゲホッ、じゃねえか」

どこをどう繋ぎ合わせてそうなったんだよ。鼻にも逆流して痛いしシュワシュワするし最悪だ。なんか周りの場も凍りついた。いや、なんも悪いことしてないよな俺。

 

「「「マジで!?」」」

 

「マジな訳ないだろ、何の勘違いしてんだよ」

 

「お化け屋敷でカッコいいところみせるデートじゃねえの?」

 

「違いますね、はい」

やっと熱も引いてきたんだが…完熟トマトの顔のお方が新たに誕生したようで。

 

「そ、そんなわけないですよ!」

 

「その反応絶対付き合ってるよ」

 

「海未ちゃんってやっぱりかわいいよねー」

 

「見てて飽きないもん、かわいすぎて」

 

「そんな女子になりたかったなぁ…」

 

「お前にはもう無理だな」

 

「なんだと!?」

 

「あうぅ…」

園田がかわいいという声が女子たちから上がり園田の顔はますます赤くなり湯気が出るんじゃないかと思うほどだ。

 

 

 

そんなこんなであっという間に時間は過ぎていった。

 

 

 

「え、もう10時じゃん。私帰らないと」

 

「私も!」

 

「門限過ぎてるオワタ」

さっきの盛り上がりはいづこへ会計を済ませ帰る人はダッシュで帰っていった。

 

 

 

「園田は大丈夫なのか?」

 

「一応親には言ってありますがもうそろそろ良くない時間ですね」

 

「だよな、明日もあるしできるだけ早く帰りたいし…」

 

「帰る方面は一緒なんだし送っていくぞ」

 

「いや、そんな面倒を煩わせる訳には」

 

「万が一もある。帰る方面が一緒なんだからついでだと思ってくれ」

 

「ではお言葉に甘えてよろしくお願いします護衛さん」

ぺこっとお辞儀をし微笑む園田に女子が言ってたことが超がつくほど分かりました。

 

 

 

「俺と園田はもう帰るわ。弓道部の出し物もあるし」

 

「おっけー、バイバイカップル」

 

「タイマンを要請する」

 

「拒否する」

 

「休み時間にでもボコボコにしてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽しかったな」

 

「そうですね。普段はあーやって盛り上がることはほとんどないですし」

 

「さっきに比べればあまりにも静かすぎるな」

夜の住宅街は明かりこそついているもののとてもシーンとしている。

 

「寂しくなりますね」

 

「そうだな、文化祭が終わればもっと思うんだろう」

 

「明日はもっと楽しくなるのでしょうね。ではもう家に着きましたので」

 

「んじゃまた明日。今日以上に楽しもうな」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

「明日も早朝から準備の仕上げかな…さっさと寝ないともう1日もたないし早く帰ろ」

俺の高校初の文化祭はまだまだ楽しめるみたいだ。




今回も読んでいただきありがとうございました。
後書きは2日目の後に固めるので今回はこれで失礼します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 初文化祭2日目

早く投稿する(1ヵ月)の新茶です。
テスト期間に入る前に書き上げれればもっと早く投稿できたんでしょう。

今回は彼氏彼女でもないのにイチャイチャしてる感がある珍しい回な気がします。それではどうぞ。


「浴衣班準備できたー?」

 

「おーけーでーす」

 

「待ってください!まだ心の準備が」

 

「お披露目ー」

 

 

 

「「「おぉ〜」」」

 

「恥ずかしいです…」

 

「俺も大分恥ずかしいぞこれは」

先輩達が可愛いとか似合ってるを連呼するせいで顔を赤くなっていないか心配で仕方がない。

 

「いやー浴衣カップルはいいよね」

 

「カップルじゃないんですけど」

 

「そんなこと気にせずね?気分って大事だよ?」

 

「はいはい、分かりましたよ…」

 

「もうすぐ始まるからちゃんと接客しておいてねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

1週間ほど前にファミレスに行き、研究したおかげかスムーズに案内はできている。

 

 

 

次へ次へとお客様が来られるためこちらも嬉しい限りだがあまり来て欲しくない奴らが来た。

 

「いらっしゃいま…せ」

 

「へっへっへっ、浴衣似合ってんな和也」

 

「1枚写真を…」

 

「撮らせてたまるか」

陸斗が持っていたカメラのレンズを塞ぐ。

 

「やっほー和也くん!」

 

「昨日の…園田の親友さんか」

 

「そうそう、高坂穂乃果です!穂乃果って呼んでくれて、か、構わないので?よ、よろしくお願いします」

 

「なんか固くないか?別に崩した話し方でいいんだぞ?」

 

「あ、そうなの?海未ちゃんといることが多いからてっきり海未ちゃんみたいな普段からギチギチした人なのかと思っちゃった」

 

「穂乃果ちゃんそれは波野君に失礼だと思うよ?」

 

「園田にも失礼な気が…」

 

「何が失礼なんですか?」

 

「「「えっ?」」」

 

「あ"…海未ちゃんだ」

 

「何か聞こえたように感じたのですが気のせいでしょうか?」

 

「な、何も言ってないよ」

うーん、助け舟を出してやるか。俺が出すのも謎だけど。

 

「別に何も言ってなかったぞ?ただ園田の浴衣姿が可愛いねって話をだな」

陸斗にアイコンタクトを送りあとはお願いする。

 

「近づいてきてくれたんだからツーショット写真を…」

 

「見ないでください!恥ずかしいです!」

 

「遅れたけど私は南ことりです。ことりって呼んでください」

 

「ああ、よろしく」

軽い挨拶を交わして振り向いた瞬間シャッター音がした。

 

「ツーショットいただき!」

 

「な!?」

園田も驚いているようだ。

 

「2人とも油断しすぎなんだよ!」

 

「陸斗!あとでその写真くれ」

 

「穂乃果にも!」

 

「私も!」

 

「陸斗君、大人しくそのカメラを渡しなさい」

半ば諦め気味で交渉してみる。

 

「もし返さないのであれはば私が強引にでも奪う必要がありそうですね…」

 

「そ、園田?」

周りから明らかに悪そうなオーラを出している園田はニコニコとし始めている。

 

「海未…ちゃん?」

これは只事ではないと親友の2人も焦り始めたようだ。

 

「海未ちゃーん?波野くーん?」

岡城先輩の声が聞こえ、スッと意識を現実に戻した。

 

「ハッ…し、仕事があるので戻ります」

 

「あー先輩のお呼びだわ、あとでちゃんと返せよ」

スタスタと去って行く俺たちとは裏腹に唖然としている4人がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました、抹茶プリン2つ、抹茶ティラミスと」

 

「わらび餅、抹茶ラテです」

4人は同じ席でニコニコしながら話している。

 

「美味しそうだね」

 

「うん!」

 

「結構本格的なんだ」

 

「はぁ〜美味そう…」

 

「それは何よりだ」

 

「嬉しい限りです。ではこれ以上仕事をサボるわけにもいきませんし戻りましょう」

 

「そうだな、じゃあまたあとで」

 

 

 

 

 

 

キッチン付近に戻ると岡城先輩がとある提案を出して来た。

 

「ねぇ、弓引いてる姿を披露する話覚えてる?」

 

「…それがどうかしたのですか?」

 

「海未ちゃんと今やって欲しいんだけど。君達のお友達もいるようだしいいかなと思って」

 

「浴衣でですか?」

 

「うん、浴衣で」

 

「普通やっちゃダメじゃないですか?」

 

「まぁ文化祭なんだし多少はね?」

 

「それで全部丸め込めるんですね…矢は何本程度で?」

 

「うーん一手でいいか、あんまり長く見ててもつまんなくなりそうだし」

 

「了解しました。園田にも伝えておきます」

 

「流石わかる男は違うね」

 

「そういうもんなんですかね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーと、只今より1年生2人に演武をしていただきまーす」

 

「どういうことですかこれ」

弓と矢を2本持ち入る準備をしつつヒソヒソと園田が話しかけてきた。

 

「それは岡城先輩に聞いてくれ。俺も突然だったんだ」

 

「…ですがやるからには穂乃果とことりには無様な姿は見せられません」

表情が真剣そのものに変わる。

 

「あぁ、涼輝と陸斗が俺の射を見るのは久しぶりだ。驚かせてやる」

 

「「…お願いします」」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺を先頭に上座に向かい勇をし、射位に入る。

 

矢をつがえ取懸ける。

 

「ふぅ」

一息ついたあと打起し、大三、引分け1つ1つの手順を明確に丁寧にそして会で狙いをつける。

 

 

 

 

10秒と少し同じ状態が続き…離れを出す。

 

 

 

 

 

 

的から響く音は矢が的中したことを刹那に表した。園田も同様に的中させ、その後もブレることなく的中させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

結果としては2人の合計である4本は全て的中した。

 

 

「あー変に疲れた」

 

「浴衣での違和感が尋常でなかったです」

 

「大して変わらないものだと思ったんだけどなぁ」

 

「いやいや、流石だね2人とも」

パチパチと拍手をしながら登場した…何様なんだよ、あんた。いや分かるけど。

 

「岡城先輩だけど岡城先輩と思うと腹が立つ」

 

「なによ!先輩よ先輩」

胸をバシバシと叩きながら誇らしそうな顔をしている。

 

「そうだよねうんそうですね」

 

「あまり先輩を舐めていいもんじゃないよ?」

 

「そうですよ。仮にも先輩なんですから言葉遣いに気をつけてください!」

 

「海未ちゃんまで…」

 

「今何か悪いことを言いましたか?」

 

「言ってないんじゃないかな。そうですね先輩?」

 

「…いや、もういいよ。叱る気力も無くなったわ…じゃあこのあとも頑張って」

しょんぼりとして帰っていく先輩の後ろ姿がなんとも虚しく見えて仕方なかった。

 

「ははは…恐ろしや」

無意識に出した棘が刺さった岡城先輩御愁傷様です。

 

 

 

その後涼輝達が座っていた席から親指を立てグッジョブとサインをされていたので手を振り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてもこの格好で接客はしんどいなぁ」

演武後、奥のキッチンの部分で休憩させてもらっていて中途半端に注いであった抹茶ラテをパクって飲んでいる。

 

 

 

「波野君そろそろいける?」

 

「もちろんです。すぐ行きます」

残っていた抹茶ラテを飲み干し向かう。

 

 

 

 

 

 

「すみません、もう自分の担当なんで休んでもらっていいですよ」

 

「もうそんなに時間が過ぎてたのね。ありがとうゆっくりさせてもらうわ」

 

「お疲れ様です」

先輩に一礼したあとお客さんが来た時のためにスタンバイしておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやーどこも盛り上がってるね」

 

「今のところ何もトラブルのようなことは起こっていないようだし」

 

「それで、ここが弓道部の和風喫茶かな?」

 

「そうみたいね。和菓子楽しみだわ」

 

「うちもや、結構賑わってるみたいやし評判もええんやろな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっつ…とか言ってる場合ではないか」

9月とはいえ快晴でかつ風がない日はまだまだ暑い日が続く今日この頃、前から2人組が向かって来ていることに気づいた。だが普通のお客さんではないっぽいみたいだ。

 

「いらっしゃいませ、絢瀬先輩、東條先輩」

 

「へ〜覚えてくれてたんや」

 

「先輩方は普通に目立つ立ち位置の方ですし余計に覚えやすいです」

 

「まぁ波野くんなら普通に覚えてそうやね」

 

「文化祭でもやっぱり生徒会の活動ですか?」

 

「一応レベルのことやけどな」

 

「水を差すようで悪いけど波野くんは仕事しないのかしら?」

 

「…立ち話をするのが仕事ではないですね。案内します。こちらへどうぞ」

 

 

 

注文を取り、品を持ってテーブルに向かう。その時に俺は生徒会に指名したという話が本当なのか聞こうと考えていた。既に絢瀬先輩に釘を刺されているので聞きづらいがな。

 

「どうぞ」

注文された品を置いたあとスッと座った。

 

「先輩方、一つ聞きたいことが有るのですが」

 

「ん?どうしたん?」

 

「まだ話すの?でも大切な用事みたいだし、何かしら?」

 

「次期生徒会で自分が指名されたと聞いたのですが?」

 

「あぁ〜先生に誰かいない?って聞かれた時に言ったね」

 

「あの時は名前もまだはっきりしてなくて1年の弓道部の賢い男子って言っただけで1年生の先生はすぐに反応してくれたわ」

 

「そういや弓道場の裏で話した時には言ってなかったですね。手間をかけさせてしまって申し訳ないです」

 

「いや、こちらも良い人材の発見に繋がったからお互い様や」

 

「それでなんだけど、先生に言ってもらったとはいえ直接頼まないのは失礼ね」

 

「波野君も突然のことで戸惑ったやろうしな」

 

「…私は生徒会長として波野和也君に生徒会に入ってもらうことを強く希望します」

 

「…こんなの断れないに決まってるじゃないですか。波野和也は生徒会として恥じぬ行動を心がけ一生懸命頑張らせていただきます…こんな感じで大丈夫ですかね?」

 

「十分十分、ありがとな入ってくれて」

 

「これで以前よりは仕事が楽になるかしら?」

 

「浴衣でこんな発言するとは思いませんでした。では仕事があるので、また今度生徒会役員として会いましょう」

 

「そうやな、そろそろ返したらんとね」

 

「楽しみにしてるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生徒会って何やるんだろうなぁ…」

なんだかんだで生徒会が気になって仕方がない俺はぼんやりしていた。もちろん仕事をサボっていた訳ではない。ふと、時計を見れば3時頃になっていた。

 

そんなボケーッとした状態だったが後ろから背中をチョンチョンと突かれた。

 

振り向いたところにいたのは上目遣いにインパクトがありすぎる園田だった。現に今も振り向いた瞬間少しドキッとした…

 

「岡城先輩がもう私達は上がっていいそうです」

 

「え?マジで?いやまだ働く気満々なんだが」

 

「『いやー朝からフル回転でやってもらってるし2人で最後くらいどこか遊びに行ってきなよ』と言われてしまって…もちろん私も否定はしましたよ?でも、押されてしまって」

 

「じゃあお言葉に甘えて行くか。…もう浴衣のままでいいか?」

 

「はい、遊び終わってからまだ働きますし、構いません」

 

「さーてどこに行こうかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、パンフレット持ってくるのを忘れました」

 

「見事にカバンの中だな…」

パンフレットは表紙や案内図は美術部、紹介文その他諸々は新聞部の担当でありちょくちょく陸斗のコメントが挟まれていたりする。彼曰く嘘は書いていないと言っていた。

 

「今から戻るのも時間かかるしある程度把握できているだろ?」

 

「無くてもいけるんじゃないですかね?」

 

「ねねね、そこの浴衣カップルさん」

話を遮るように急に声をかけてきたと思ったら…誰やねんこいつ…関西弁も急に露出しましたけども。

 

「浴衣カップルじゃないんですけど」

 

「え?…まぁいいやちょっとチャレンジやっていかない?」

 

「お話くらいなら…」

 

「ではでは説明させていただきます!えー今から用紙をお渡ししますのでそこに書かれている複数のお題をクリアしてハンコをもらってくるというシンプルなものです。景品もあるので頑張ってください。はいこれ用紙です」

 

「どうも」

 

「んじゃ頑張ってねー」

 

「やる?もうあの人どっか行ったけど」

 

「折角ですからやりましょう。やることも特になかったんですからいい暇潰しにはなると思われます」

 

「そうこないとね。まず1つ目のお題がえーと『バスケ部の超シュートゲームで良いところを見せつけろ!』か…」

初っ端からめんどくさそうなのが出てきたな。久しぶりにやるけどどこまで通用するか…

 

「バスケできるんですか?これは波野さん宛に近いような気がしますけど」

 

「可もなく不可もなくと言った感じか。とにかく時間もないし、体育館行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「受付はあそこか…」

体育館とは逆方向にいたため時間がかかった上にしんどい。

 

「あ、あそこの紙持ってる?」

 

「ど、どうぞ」

 

「よし、バスケのやつだね。誰かカゴ持ってきてー」

 

「頑張ってください。ルールとしては1分間に規定のラインからどれだけシュートを入れられるかとのことでした」

 

「あーあとボールの受け渡しは女子がやることになっているのでその点もお忘れにならないようお願いしまーす」

 

 

 

 

 

「それでは位置について…よーい…ドン!」

掛け声の直後できるだけ時間のロスを無くすために最速で飛びシュートする。一応シュート方法は自由でジャンプしようが片手で投げようが自由、ただ入ればそれでよし。まぁ俺は普通にやるけど…

 

「どうぞ」

着地とほぼ同時にボールを渡しすぐにシュートする。

 

「この子たち連携凄くない?」

 

「無駄な時間を作ってないよね。こんな人材欲しいかも…今までのシュート全部入ってるし。あとさこの子達浴衣だよね」

 

「ほんとこんなところでこんな人材見つける羽目になるとは…」

 

 

 

 

「やっと残り10秒」

 

 

 

「浴衣動きづれぇ。くっそ、園田!残り3秒になったら俺の頭上に2つ連続でボールを投げてくれ」

 

「え!?そんなこと…やってみます!」

 

「4、3…」

 

「今だ!」

俺はまず手に持っているボールをジャンプして放つ。着地寸前に頭上から降ってきたボールをシュートフォームのまま受け取り着地と同時に少し左に倒れながら放つ。放ったボールとすれ違うように落ちてきた最後のボールを取り、右足に体重をのせ片足で軽く飛び放った。状態が不十分だったからかボールはリングをぐるぐると回るがそれも徐々に収まりリングに吸い込まれた。

 

「しゅーりょー!!!」

 

「はぁ…結構疲れた」

 

「君!何者なの!?シュート25本中24本成功でかつ新記録で2位とは5本差あるし」

 

「そして浴衣と…と、とにかくスタンプを押してあげないとね」

 

「「ありがとうございました」」

 

 

 

 

 

「久しぶりの割りに結構うまくいったもんだ」

 

「よくあんなに連続でシュートが入りますね」

 

「一時期やってたからな、もっとも今は涼輝達と遊ぶ程度だけど。ま、そのうちそんな昔話もするよ。じゃ次はどんなお題なんだ?」

 

「続いてのお題は『たこ焼き屋に行ってたこ焼きを食べさせてもらえ!』ですか…」

 

「そんなのありですか」

 

「どう考えてもカップル向けのやつだったんだろうな。とりあえず行こう」

 

「はぁ、なぜこんなことに…でもそうしないと始まりませんもんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へい!らっしゃい。その紙はそういうことだね!!」

 

「いや、どういうことなんですか」

 

「味は何がいいんだ」

 

「あの…もういいや、俺はなんでもいいから園田が決めてくれ」

 

「ではえっと…ポン酢とトッピングにネギでお願いします」

 

「ネギぽん入りましたー」

 

「「「はいよー」」」

ラーメン屋を思わせるような連携ですぐにアツアツのたこ焼きが出てきた。

 

「あのーここのお題はどんな感じでやればスタンプを押してもらえるんですか?」

 

「そこの飲食用のテーブルで1つずつのたこ焼きを食べさせるところを俺たちが見る、ただそれだけだぞ」

 

「「え」」

2人ともの思考が止まったのは言うまでもない。カップル向けに作られたものを無理やりカップルでない2人が突っ切ってきたが…流石に恥ずかしい気もする。

 

「ほら、せっかくアツアツなんだからさっさと食べちゃってよ」

あの人絶対これを見てニヤニヤするためにこの企画に協力しただろ。現にニヤつき始めてるし。

 

「まずは席に座るか…」

 

「そうしましょうか」

 

 

 

「で、どうする?」

 

「どちらにしても食べるところを見られるのは回避できませんよね」

 

「あぁ、この際ジャンケンで勝った方が先に食べさせるでよくないか?」

 

「別に構いませんが…」

 

「別にスタンプさえ貰えればいいだろという精神なんだ!」

 

「では」

 

「「最初はグー、ジャンケン、ポン!!」」

 

「あ、勝った」

これ結局食べさせる側も緊張するよな。

 

「ほら、口開けてあーん」

園田は手で長い髪を耳元に添えながらたこ焼きと口を近づかせていく。パクっと爪楊枝からたこ焼きを抜き取りもごもごとしていて…

 

 

 

 

 

「あちゅいです」

!?…不意打ちにも程があった。自分でも思うくらい顔がにやけてる。うん今のは分かったわ。只今の気分は半分彼氏で半分お兄ちゃんである。店番のお兄さんも心情を理解してくれたかのようにうんうんと頷いている。

 

「次私が食べさせるんですよね?…波野さん?」

 

「すまんすまん考え事してた。そうだな」

舞い上がってる気分を抑える。

 

「どうぞ、あーん?」

 

「あーん?…熱いね」

やはり出来立ては熱い。お兄さんはここで『2人の仲もアツアツに決まってるよなぁ!』とか言うのかもしれない。今のは我ながらしょうもないか…

 

 

 

 

 

そんなお兄さんはニヤニヤが止まらないようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーとこれで最後だといいのですが」

 

「いやあと2枚みたいだぞ。えっと『被服部&美術部で絵を描いてもらえ』だそうだが」

絵を描いてもらうなら美術部だけで良さそうなものだが、なぜ被服部も一緒なんだ?

 

「今度は合同開催のものですか」

 

「やってたかそんなの」

 

「私も憶えていません。こんな時にパンフレットがあればと思いますね」

 

「絵を描いてもらうなぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません、この紙なんですけどここで合ってますか?」

 

「ええ、合ってますけど…衣装どうしよ。少々お待ちください」

何か呟いたあとにそそくさと別室戻っていった。その後別室からは『そのままでいいじゃん。お似合いなんでしょ?』とかよく分からないことが論議されていた模様。

 

 

 

「お、お待たせしました。本来なら衣装を色々チェンジして似合っているものを着せて写真を撮ったりするんですが2人とも浴衣がお似合いなのでそのままでいいかなぁーと…」

 

「あーうんいいんじゃないかな」

断ると逆にめんどくさくなりそうで適当な返事をついついしてしまった。

 

「他の衣装はどんな感じだったんですか?」

園田が問いかけるとクローゼット状になっていた教室の一角のカーテンが開き衣装がその姿を現した。

 

「これは…」

大方は女性の服と思われる。いかにもお嬢様☆といった感じの服もあれば男装に近いようなものまでバリエーションは豊富だ。俺は浴衣を着てきてよかったなと思った。園田はこんな服着れるのか…大体わかるけど。

 

「ありがとうございます…浴衣でいきます」

やっぱりな。

 

「じゃあこっちに来てもらって何枚か写真撮りますので」

 

 

 

 

 

 

 

 

「もっとニッコリしてくださーい」

言われるがままにニッコリとしてみる。

 

「はい、良い感じです」

シャッター音が何度か響き終了した。

 

「ふぅ、お疲れ様」

 

「お疲れ様です…」

 

「あとこれ撮影中に描き上げたものとスタンプ押した用紙」

 

「ありがとうございます…へぇ、は?」

俺が気の抜けたような反応を示したのには理由があって

 

「こんなのいつ描いたんだよ…」

色紙は俺が園田をお姫様抱っこしている絵が描かれていた。しかも色鉛筆でうっすらと色付けまでされている。この教室に来てお姫様抱っこをしたこともないのに…その想像力は凄まじいものだ。パタパタと俺の後ろを追いかけて来た園田は横から顔を出して見ようとしたらしいがすぐに顔を引っ込めてしまった。

 

「な、なんですかこの絵は!」

 

「写真撮ってる間に描きあげたんだとさ」

 

「すごいですけど、これどうしましょうか。普通に持って帰ったら間違いなく見つかって騒ぎですよ?」

 

「ドンチャカ騒ぎコース一択だよなぁ…胸らへんに入れておくか」

 

「それバレません?」

 

「俺の胸板が厚いんだと言えば」

 

「厳しくないですか?」

 

「その通りでございます。あとこの写真な」

最初の何枚かは写真撮影とか言うから結構緊張して引きつってるけど、その後はニコニコしてるな…よかっただろうか、いやよくないだろう(反語)

 

「…帰る直前に考えよう」

 

「はい」

半分諦めた2人は最後のお題に目を移すことにした。ここまで続いたカップル用のお題旅もやっと終わりだ。楽しかったけどね、疲れ方は半端じゃない。

 

「『ラストはのんびり2人の時間を!!』だってさ」

最後は単純で楽そうだ。ここまで色々やったしその反動なんだろう。

 

「場所は屋上ですね」

 

「行こう」

 

 

 

 

 

 

 

「結構屋上まで来るのってしんどいな」

なんだかんだでこれが初めての屋上だったりするわけで。

 

「初めて登りましたがこんな景色だったんですね」

 

「ザ都会って感じの景色だけど…」

鉄筋の建物である高層ビルが立ち並ぶ景色。これだけでも昔からこの街が大きく変わったんだろうなと想像できた。だからこそかけ離れてしまった…

 

「山とか行って自然の景色みたいな…親と小さい頃に近くの山に登って弁当食べて遊んだわ」

 

「山…今度行きませんか?」

 

 

 

 

それは予想外の言葉で…

 

 

 

 

「いいのか?山なんかで」

 

「『山なんか』じゃありません!というか波野さんに聞いているんですからどうなんですか?」

 

「あぁ、いいよ。もう秋になるし紅葉でも見に行こう」

 

「ふふ、いいですね。最近は一緒に行ってくれる人がいなかったので」

 

「約束だからな」

 

「忘れると思いますか?」

 

「忘れないでしょもちろん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ戻ろっか」

 

「はい、あそこにあるのはスタンプでは?」

 

「確かに」

昇降口のとなりにひっそりと備え付けられたスタンプ台。近くまで行き朱肉にスタンプをつけ紙に押す。そのスタンプには『これからもお幸せに」と書かれていた。

 

「これからも幸せでいたいもんだ…」

心の中でそう誓えた想いを握りしめた。

 

「何か言いましたか?」

 

「いーや、さっさと景品取って部活に戻ろうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「浴衣カップル擬きの方々!」

景品の受け取り場所と書かれていた2年2組に来てみたところ最初に紙を渡してくれた人がいた。

 

「堂々と言わないでもらえますかね。詐欺ったみたいじゃないですか」

 

「まあまあ、見事に全てのお題をクリアしてきたようですね。それで景品なんですが…それは思い出です」

カッコいいことを言われたかと思ったがよく考えると景品ではなくないか?

 

「あの物品はないんですか?」

 

「ないことはないよ?はい写真」

手渡された写真は2年2組スタンプラリー記念と書かれたフレームの中に入った写真で2人は最高の笑顔をしていた。

 

「結論から言うと景品云々よりもここまで一緒に巡って来たことが大切だと思う。話して笑って喜んでそうやって楽しんでもらえたらとこの企画を思いついたからね」

 

「そうだったんですか…なんかありがとうございました」

いいことを教えてもらった。この出来事は俺にとっては楽しい思い出になったから。

 

「いやいや感謝される筋合いはないよ。ほらっ文化祭もあと少しなんだしやりたいことやってきな!」

 

「「はい!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「只今戻りました」

 

「お帰りー、楽しめた?」

 

「もちろんです。ありがとうございます」

 

「荷物だけ置いてきますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました!」

その後は文化祭が終わるまで接客を続けた。終わったとなるとドッと疲れが出るが片付けを済ませるまでが文化祭であってテーブルをなおし始める。テーブルを置いたのが昨日とは思えないほど懐かしく、この2日間がどれだけ長かったかが感じられた。

ある程度片付けた後は岡城先輩による文化祭のまとめ的なもの。そして、その後はあっさり解散したのだがLINEsで飯を食べに行くことになった。

 

 

 

「この写真やらはどうする?一人暮らしの俺が預かっておいた方がいいか?」

 

「そうですね。私の場合だと見つかった場合が面倒です」

 

「だよな、俺が預かっとくわ」

 

「何預かっとくの?」

 

「いや、景品の写真を…ってなんで岡城先輩がいるですか」

 

「あっ、それ私の友達がやるって言ってたやつじゃない?私は相手がいないから行かなかったんだけど」

 

「「え…」」

完全に☆フルハウス☆もとい事故った瞬間だ。2人は凍りつき次の一言が出てこない。

 

「やっぱり2人は…」

 

「だー違いますから!」

 

「特にやることもなかった時に廊下で紙を渡されてなんとなくやっただけなんです」

 

「そりゃ男女が浴衣で文化祭の廊下歩いてたらそうなるわ。はーうらやま」

この後の打ち上げの場でも散々弄られるハメになったのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ただいまー」

別に誰かがいるわけでもない家に対して玄関から言う。今思えば結構寂しいのかもしれないけど慣れてしまってはその感情すら危うい。

 

「これは自分の部屋の引き出しにしまっておこう」

写真と色紙は机の引き出しにしまい荷物は机の上にドサりと置く。

 

「今日はもうこのまま寝ちゃえ」

色々あったがそれは全て明日に整理することにした。ベッドに入るとすぐに眠気に誘われていく。

 

 

 

 

 

 

ただ楽しかった。こうやって笑えて過ごせる時間がとても楽しかった。いつまでもそうしていたいんだと瞳を閉じた。

 




今回も読んでいただきありがとうございます。
この文化祭で和也と海未の関係も進んだような進んでないような…うーん難しい。
そこらへんの書き方がイマイチ分かってなくて手探りな状態です。こんな稚拙な文章ですが、読者様それぞれで改変していただいても全然大丈夫なので楽しみやすいように読んでください。

次回はあの世界を代表する(?)アイドルの登場かもしれません。お楽しみに。



Leonさん、黒鳳蝶さん、てらにしさん、とめじろうさん、ドラリオンさん、海未ライバーUMRさん、サツマイモ55さん、黄昏草さん、穂乃果ちゃん推しさん、なとざむさんお気に入り登録ありがとうございます!




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 十人十色

どうもお久しぶりです(こいついっつも略)
チビチビと書き続けてはや2カ月やっとのことで完成致しました。テスト許すまじ。

というわけで今回も急展開続きでございますがどうぞ。


文化祭から2週間が経ちその熱気は冷めいつも通りの日常が戻っていた。

季節は10月に入り時々寒く感じる風も吹き始めている。

 

 

そんな時学校では今、前期終業式が行われており、週末を挟む形で後期始業式が行われる。2回に分かれているがいちいち2回行うのもどうかと思うんだよな。俺的には。

 

 

 

「続いて理事長による挨拶です」

司会による進行で相変わらず美人な理事長が出てくる。

 

「起立、礼…座ってください」

卒業式程ではないがいつも以上に多い上下運動という名の申し訳程度な礼によって話が始まる。

講堂であるため体育館で体育座りをしなければならない状態にもならないため話を聞くだけなら楽だ。1列前の涼輝はグッスリみたいだが…

 

「あいつ…寝てんのか?」

先程から俯いて動かない涼輝。

 

ということで涼輝の座っている席を足で蹴った。

 

「ぐあ?なんだ今の」

涼輝の反応にクスクスと笑い声が聞こえる。

 

「…起きとけ、それ以外は何も言わないから」

 

「…はいよ」

 

 

 

「はぁ〜涼輝と和也何してんの…」

少し遠くでため息をつく陸斗。

 

 

「前期を振り返ることも大切ではないでしょうか。それを後期に活かせるよう今一度振り返ってみてください」

 

 

 

 

 

「起立、礼…座ってください」

あ、理事長の話あんまり聞いてなかった…死にはしないしまぁいっか。

 

 

案外早く終業式は終了し、文化祭後から恒例となり始めた男子で集まり飯を食べていた。

 

「和也さっきの蹴ったやつやばすぎだろ」

 

「ちゃんとした友達でない限りは絶対しないけどな」

 

「笑い堪えるので必死だったわ…」

 

「涼輝ドンマイすぎる」

 

「マジ勇者だよなー和也って」

 

 

今日は午前授業のため昼食後は終礼だ。さっさと部活に行けるかと思っていたのだが、

『ピーンポーンパーンポーン。1年2組の波野和也君、生徒会室に来てください。繰り返します、波野和也君生徒会室に来てください。ピーンポーンパーンポーン』

 

 

「「「「………」」」」

 

 

 

「お前何かやったの?」

 

「いやいや何もやってねえよ!」

 

「じゃあなんでこんな時に生徒会長の絢瀬絵里から放送がかかるんだよ!」

 

「その通りだ!」

なぜか周りからヤジが飛び出し収集がつかないうえ、女子からヒソヒソ話をされている始末なので、

 

「一旦静まれ!!」

 

 

 

「…行って用件を聞いてくる。その後なら愚痴はなんでも聞くし」

 

「ま、行ってら」

 

「無事に帰還しろよな」

 

その中には神妙な顔をした園田もいた。

 

 

 

 

 

 

「着いた…」

生徒会室と書かれた扉を3回ノックすると先輩達であろう返事が返ってきた。

 

「はいってー」

 

「失礼します」

初めて入る生徒会室の感想は意外と質素ということだった。長机が正方形に並べられ対応するように椅子が置かれている。棚には資料と思われるファイルが年度ごとに並んでいた。

 

「えりちは放送室から帰ってきてると思うからもう少し待っててな」

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

ガチャ

 

「あら、もう来てたのね。そういや生徒会室の場所を言い忘れてた気もしたのだけれど」

 

「そういや言ってなかったかもね」

 

「とりあえず急に呼び出してごめんなさいね」

 

「クラスで色々言われたんですよ?」

 

「直接行くよりはマシやと思うけど?」

 

「その通りです…」

 

「じゃあ早速その呼び出した理由なんだけど、君も後期に入ると本格的に生徒会役員として活動してもらうわ。後期始業式の時に生徒会役員選挙もするんだけど今回の立候補は私たちと君だけだから選挙はなし」

 

「でな、そこで一言ずつ今期の役員の挨拶みたいなんがあるねん。それを波野君にも言ってもらわんといけないから伝えようと思って」

 

「なるほど、全校生徒と先生の前で意気込みを語れということですか」

正直な話面倒以外の何物でもないけどやらないと認められないなら仕方ない。

 

「そう捉えてもらって構わないわ。生徒会の仕事についてはまた後日連絡を入れるつもりだから」

 

「そんなに難しいことをやるわけじゃないし波野君ならすぐに会得できると思うで」

 

「分かりました。今度はスマホに連絡してくださいね…」

 

「ええ分かっているわ。今日は直接説明した方がいいと思ったから。私も放送室の雰囲気で結構緊張したしできるだけ使いたくないわ…」

 

「じゃお開きやね。うちらは教室戻るわ」

 

「失礼します。わざわざありがとうございました」

 

「あとこれも渡しておくわ」

 

「これは生徒会室の鍵ですか?」

 

「私たちも持ってるし波野君個人で保管してくれて構わないから」

 

「勉強とか集中してやりたい時とかも使ってくれて全然いいよ。役員になったからには自由に使う権利があるから」

 

「了解しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「お、意外と早かったな」

 

「何の話だったわけ?」

食いつく男子共とこちらに向かないながらも確実に耳は傾けている女子共。

 

「実はな、俺生徒会に入ることにしたんだ」

回りくどいことをしても誤解を招くだけなので正直なことを言ってみたところ、

 

「「「えーっ!?」」」

 

「本当?」

 

「本当、先生に誘われて断りきれなくて仕方なくでもあるんだけど」

内心少し楽しみなのは照れ隠しで嘘をつく。

 

「俺たちは応援してるぜ、日本男児としてやれることやって来いや」

 

「これで男子にも活力が?」

 

「「「生まれるー!Foo〜!!!」

なんだこのテンション。応援してくれるのはありがたいけど。

 

「はぁ…期待に応えられるように頑張るよ。なんかしらの挨拶もあるみたいだし」

 

「じゃ俺たちは生温かい目で見守っておくな」

 

「やめとけや」

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「続いて後期生徒会役員の挨拶です」

司会から絢瀬先輩がマイクを受け取り壇上に立つ。俺は東條先輩の後要するに最後なのだが心臓は鼓動を繰り返して止まない。

 

「後期生徒会長を務めさせていただく絢瀬絵里です」

その一言で半端なものを一蹴するそんな強さを秘めた堂々とした意志が見えた。

 

「前期も会長を務めさせていただいたことを活かしこの音乃木坂をより良いものとなるよう努力いたします。皆さまの意見によってこの学校はもっと、さらに良くなると思います。今期はそれぞれ校外学習などの大きな行事が良いものとなるよう励みます」

 

 

 

「続いて波野和也さん、よろしくお願いします」

一瞬で自分の番になり絢瀬先輩の演説は感想なんて言えない精神状態かつ、東條先輩の演説においては耳に入ってすらこなかった。

落ち着け波野和也。ここでこけると笑い者だぞ。

 

 

 

「…1年2組波野和也です。生徒会役員として生徒の見本となれるようにし、発想、追求、転換を繰り返しながらこの学校を生徒にとってより良いものとなるように精一杯頑張ります。

また、共学化から初の男子役員ということで多方面の視点からも様々なことを見ていき小さなことでも取り組めていければと思っています。よろしくお願いします」

礼をすることもちゃんと忘れず司会にマイクを渡し元いた椅子に座った。なんとか終わったものの眩暈がして仕方ない。

…唖然としてる涼輝がいる、なんでだっけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「和也ーーーー!!!」

 

「ラリアットォォォ!!!」

勢いよく突っ込んでくる涼輝をラリアットでぶっ飛ばそうとしたものの普通にすり抜けやがる。

 

「お前、生徒会に入るとはどういうことだ!」

 

「いや…どうだっていうんだよ」

 

「別になんとも思わないけど」

 

「え?あうん」

 

「みんな頑張ってって言ってたぞ。じゃあまたなー」

そういって俺の来た方向に嵐のように去っていったなあいつ。

 

 

 

その後部活でボロクソイジられたのは言うまでもない話。

園田でさえもイジる側に回ってんだからどれだけ事が大きいかシミジミと感じた波野和也でございました。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

後日

再び召集がかかったため生徒会室に集合した。

 

「今回はLINEsで連絡していただきありがとうございます」

 

「お安い御用やで」

 

「そういうものなのかしら…」

 

「そういうもん、そういうもん」

 

「はぁ、で集まってもらった理由なんだけど」

 

「部活動調査かな?」

 

「ええ、正解」

 

「ついに波野も裏側につくことになったんだな。我ながら感心s」

 

「波野君?キャラ壊れてるわよ。あなたがしっかりやらないとこの生徒会もっと成り立たなくなるんだから」

 

「内容を聞かないとどうしようもないので説明お願いします」

 

「もう…疲れてきた」

 

「エリチ、今日チョコレート持ってきたんやけど」

 

「え?ほんと!?」

 

「ほんとのほんとや。でもそれをあげるのはこの話が終わった後やで」

 

「そ、そうだったわ」

 

「先輩も似たようなものですね」

0円スマイルを売っていくスタイルです。

 

「時間なくなっちゃうよ?あと波野君、その不敵な笑みやめておいた方がええで?」

 

「えっ…」

 

「さ、流石に本題に移りましょ。えっと調査なんだけどそれぞれの部活に専用の紙が2枚ずつあるわ。1枚は表向きの部活側から書いてもらうもの、片方は生徒会側が調査するものになっているわ」

 

「でやな、さっきエリチから渡された小さい紙なんやけど机の上に裏返しにしてるからそれぞれが順番に開けてそれが担当する調査ということにせん?」

 

「見た感じ拒否権なさそうですけどね」

 

「That's right。エリチから開いていって」

 

「何よそれ…バスケ部」

 

「次はうちが…軽音部」

 

「じゃえーと…弓道部出ちゃったんですけど」

 

「あ、それは自分が所属してる部活は調査できんからうちの2回目と交換や。もう1回引いてみ」

 

「なんかすみませんね。…アイドル研究部?」

こんな部活の名前この学校では聞いたことがない…と思うけど。

 

「おもしろいの当ててくれるやん」

 

「よりにもよって…最初から苦労しそうね波野君。この部活は任せるの?」

 

「せやね、ちょっとクセがあるけど普通の女の子やから」

 

「なんか嫌な予感しますけど了解しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

振り分けも終わり俺の担当はアイドル研究部、テニス部、柔道部、剣道部の4つ。アイドル研究部はまず謎でしかないし、柔道部と剣道部は涼輝と陸斗がそれぞれいるし入り辛くて仕方がない。ま、気長にやるか。

 

 

「…いや、先輩方より早く終わらせるか。1番楽そうなのはテニス部だな。そうとなれば準備だ」

 

 

 

 

 

 

 

ということで双眼鏡を持ってテニスコートが見える校舎3階の端に移動した。

 

 

が、いつまでたってもテニスコートに部員らしき人は現れない。

「ん〜、来ないぞ…」

時間を無駄にするわけにもいかないしどうする…。

ずっと眺めているとテニスコートに併設された部室の窓に内側から光が反射している。

 

「もしかすると…」

自然と俺の足は部室へと向いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿らしい」

部室に近づいた結果笑い声が聞こえ遊んでいるのが丸聞こえ、と。これは報告で。じゃあ表側の用紙を持って訪問しますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「柔道部、剣道部に関しては問題ないと思うんだけどなぁ」

剣道部はいつも竹刀のぶつかる音や声がするしなんなら朝練までしてる時もある。柔道に関しては受け身を取った際の音が響いてた。この様子だと仕事も早く終わりそう。涼輝と陸斗にもバレてないと思うし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、厄介なやつの件だな」

事前に東條先輩に伝えてもらったメモ書きには部長『矢澤にこ』と部室の場所が書かれてた。

紙を持ちその部室の前にいるわけだが変化がなさすぎる。徹底的に時間を無駄にしている気がしてならなかった。

 

「扉は2つ?いや正規の入り口は1つか」

正直なところ思考停止感が凄まじい。こうなったらバレる覚悟でノックだ。

 

 

 

ノックしようと扉に手の甲を向け叩こうとした時

「にっ…に…こ…にー」

部室から声が聞こえたのだ。これは突撃あるのみ。

 

素早くノックをする。

内側からはドタバタと慌てた様子がすぐにわかった。

「な、なによ!」

 

「生徒会の者ですが調査書を書いてもらいに来ました」

 

「お…こ?ま、まぁ入りなさい」

なんか違う言葉も聞こえた気がしなくもないがチャンスはチャンス、きっちり利用させてもらうことにした。

 

「失礼します」

扉を開けるとそこには俺の人生の中では体験したことのない領域のものであふれていた。

アイドルの百科事典からDVD、Blu-ray特典までついた初回限定版、グッズ、ポスター…アイドル研究部ここまでとは。

 

「なにボケーっとしてるのよ」

 

「いえ、なんでもありません」

 

「そこの椅子に座りなさい。はい、粗茶だけど」

 

「ありがとうございます」

口調こそ悪そうだけど悪い人ではなさそうだな。

 

「ねぇ、あんたこの前生徒会で話してたえーと」

 

「波野、です。あなたはアイドル研究部部長の矢澤にこ先輩でよろしいですか?」

 

「ええ、そうよ」

 

「では早速本題を。これに記入をお願いします」

 

「あぁいつものね。分かったわ。部長はにこで部員は1人と」

1人…なのか。だが聞かないふりを、知らないふりをするしか方法はないと口を結んだ。

 

「これでいい?」

 

「はい、ありがとうございます。あとこれも」

 

「似たようなものじゃない。また同じことを書かせる気?」

俺が提示したのは裏の方の調査用紙。初仕事でこんな規則破りも甚だしいが信用はできると思ったから。

 

「この用紙には自分の部活に対する思いや考えを書いてください」

 

「役員要記入って書いてるじゃない」

 

「あなたの考えを自分が全て理解できているとは到底思いません。だからこそ矢澤先輩に書いてもらいたいんです。もちろんいい意味で」

 

「仕方ないわね〜。このスーパーアッ…矢澤にこ様が思う存分書かせてもらうわ!」

 

「今なんて「うっさいわよ」…はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでいい?」

 

「ありがとうございます。これで初任務は無事に終わりそうです」

 

「いや、規則破りした時点で無事に終わらないでしょ」

 

「はは、どうにかなりますって」

 

「全く恐ろしいやつ、でも久しぶりに楽しかったわ。ありがとう」

 

「お役に立てたなら光栄です。ご協力ありがとうございました」

 

 

 

 

 

 

 

「これでよろしいですか?」

まとめた調査用紙を先輩に渡したところ大変驚いていた。

 

「え?これってこの前の調査用紙」

 

「めっちゃ早いやん」

 

「そうよね…不備も特には見つからな、ん?これはどういうこと?」

絢瀬先輩が例のアイドル研究部の件に気づいた。

 

「その件に関しては自分では矢澤先輩の意図を十分に汲み取ることができないと思ったために書いていただきました」

絢瀬先輩と同じく目を見合わせ続ける。

 

「面白いことやってくれるやん。これはこれで伝わりやすいし、エリチそんな見んとったってーや。波野君照れるで」

 

「えっ!?いやそういうわけじゃ」

 

「まぁ別に照れてないですよ」

考えてみれば音乃木坂でも指折りの美人である先輩に見つめられてると思うと…いや赤くなっちゃ負けだろ。

 

「悪くない方法だと思うけど今度からは相談してよね…」

 

「これで解決やな」

 

「よかったです」

なんだかんだであっさり終わったな。めでたしめでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事に仕事も片付いたし、久しぶりに光さんのところに遊びに行くか」

でも、なんか手土産が欲しいなぁ。お?いい感じの店あるじゃん。

 

 

 

 

 

「うーん光さん和菓子好きだっけ。まぁ嫌いならマスターの方に渡せばいいと思うし」

じゃあ入ろう。いかにもな和菓子屋『穂むら』へ。

 

 

 

「いらっしゃいませ」

1つ疑問を持ったのは挨拶をしてくれたことではなくその容姿だった。こういう老舗っておばちゃんが店番してるもんだと思ったけど、店番してるの多分中学生だよねこれ。

 

「「………」」

普通に考え事をしていたら反応が遅れ気まずくなった件。

 

「あの、その制服って音乃木坂ですよね?」

中学生から話させるとは自分がとてもダサく感じた瞬間。自分のコミュ力の低さに頭を抱える。

 

「あぁ、そうだよ?」

 

「私の姉も音乃木坂に通ってるんです」

 

「学年は?」

 

「1年なのでお客さんと一緒だと思うんですけど」

同じ学年かぁ…たしかに見たことあるような顔してるけどなぁ、わからん。

 

 

 

「ゆきほーおちゃー」

 

「「………」」

その言葉で場が凍りついたのは言うまでもない。

 

「ちょっと待っててくださいね」

 

「アッハイ」

その後少し怒っている声が聞こえたがガチギレほどではなく慣れている感じだったのでホッとしつつ売り物を見てた。

 

 

 

 

 

 

「すみません、お恥ずかしいところを」

と頭を下げる中学生。今どきこんなできた中学生ってあるもんなんだなぁと感心してた。俺何歳なんだよ。

 

「いえいえ、楽しそうじゃないですか」

テンプレの0円スマイル再び。

 

「そうですね。お姉ちゃんといると楽しいことが多いですし」

 

「じゃ、そんなできた妹さん。餡蜜を2つと饅頭をサイズ中箱で、種類はオススメを4種類いれてもらえますか?」

 

「ありがとうございます。少々お待ちください」

彼女は慣れた手つきで箱に注文したものを詰めていった。

 

「お待たせしました」

 

「お、ありがとう。えっとお金はこれで大丈夫?」

 

「はい、ちょうどいただきました。レシートです」

 

「じゃ、また買いに来ると思うわ。あ、名前聞いてなかったな」

 

「高坂雪穂って言います。お客さんは…」

 

「波野和也だ。ん?」

 

「どうかしましたか?」

 

「いやなんでもないよ。話に付き合ってくれてありがとう」

さっきあの子高坂って言ったよな。いい感じに話切ったし今から話すのは気がひける。また今度の機会にしておこう。

 

「私も楽しかったです。また来てくださいね」

 

「はいよー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カランカランー

「お久しぶり…って」

 

「あー久しぶりだな和也」

 

「あれマジで波野?成長したなぁ」

 

「え、誰だあいつ?」

光さんの他に2人、1人はよく知ってる人だけども。

 

「俺と光がよく話すやつだよ」

顔が俺の方向に向く。

 

「滝井先生じゃないですか!」

 

「ははは、久しぶりだなぁ波野。楽しくやってるか?」

「楽しくやってますよ。あと光さん宛てのつもりでしたけど」

 

「お?気が利くなー。ってこれ穂むらの饅頭か?」

 

「そうですよ」

 

「最高だ。ここの饅頭うめぇんだよなぁ。4人で食おうぜ。光コーヒー用意しろ」

 

「いや、ここは紅茶だろ」

 

「自分も今の気分は紅茶ですね…」

 

「じゃあコーヒーと紅茶2:2だ」

 

「…わかったよ」

光さんは重たい腰を上げて裏の方に入って行く。彼もパシリになるんだな…

 

「君が波野君か?」

 

「はい、それと滝井先生も和也って呼んでもらって構わないですから」

 

「了解、俺は光の兄の(あきら)だ。光と被るし明でいいぞ」

メガネをかけた理系っぽい顔立ちの方だ。冷静に物事を見れそうなその目の感覚は見習いたい。

 

「はい、おまたせ。ミルク各種はセルフで」

滝井先生が箱を開け、光さんがテーブルに飲み物を並べる。

 

「「「「いただきます」」」」」

 

 

 

 

 

「いやさー和也最近いい子とか見つかったの?」

 

「年下にそんなこと聞くなよ…」

 

「別にそういう関係になっている人はいませんけど」

 

「答えなくていいから…」

 

「明義兄さんは最近先生は慣れてきたのか?」

それは俺も気になった。卒業後は面識なかったし。

 

「まぁな、楽しくやれてるよ。光あの子はどうなったの?」

 

「あの子ってもうとっくに別れてるよ」

 

「え?あれマジだったのか」

 

「マジ中のマジだよ」

こういった風に会話は結構ドッチボール気味だ。投げたボールは辛うじて誰かがキャッチし別の人に投げる。それを他が受ける。

 

「明義こそいないのか?」

 

「ん〜そういう感じになりそうな人はいないことはないんだけどな」

 

「「えっ」」

俺と光さんは同じ反応をして互いに目を合わせた。

 

「大学の時に年の差ひっくるめて8人くらいで遊んだんだよ。まだなにか進展したわけじゃないしこの話はまた今度な」

滝井先生は話を強引に切り饅頭を口に入れる。

 

「ま、明義ならその時になれば話すだろ」

 

「はぁ俺のもとにも現れねぇかなぁ」

 

「とか言って未練あんじゃねぇの、光」

 

「よく自分にも話してくれますもんね元カノの話」

 

「あれは経験談だよ経験談。和也はまだまだ世界を知らないからな」

 

「ほんとかよ…」

 

「俺だってやる時はやってみせますよ。将来いい妻をもって結婚式呼んでやりますからね」

あ、やべ俺凄いこと言ったんだろうなぁ。

 

「ほーう、言ったな?」

 

「大胆な奴になったもんだ和也も」

 

「俺の目からすればこういう奴は大抵有言実行するけどな」

明さんからそう言ってもらえるのは嬉しい。でも、彼は何者なんだろう。謎は深まるばかり。

 

「お前にもいい奥さんがくるといいな」

 

「余計なお世話だ。明義」

 

「はは、俺も中学生見てるだけじゃいかんしな。気にかけるわ」

 

 

 

そんな男4人の恋愛話はこの後も続き外はいつのまにか暗くなっていた。

 

 

 

「ひかるーコーヒーもう一杯」

 

「ちゃんとお代とるんでそこらへんよろしくお願いします」

 

「じゃやめとくわ」

 

「ふぁ?」

 

「皆さん何時までここにいるつもりなんですか?」

 

「もう8時かよ。流石話しすぎたなこりゃ」

 

「ん、お開きか?んじゃ俺は帰るかなぁー」

 

「マスター、ここかしていただいてありがとうございました」

小さく手を上げて返事の代わりだろう。本当にいい人だ。

 

「じゃまたな。今度4人で会う時は誰かに彼女ができた時で」

 

「LINEsも交換してグループ作ろうぜ」

 

「話は合いそうだなこの4人」

 

「そうですね。じゃあこのへんで失礼します」

 

「おう、またなー」

 

「さいならー」

 

「おつかれー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの3人となら飽きることはなさそうだな」

あれだけ話が弾むのは正直予想外だった。大人の年上の男性と話すってのも実際久しぶりな話でして。

 

「あ、結婚式呼ぶとか言っちゃった…」

まず結婚できるかすら危ういし、更に言えば付き合う経験すらどうこうって話になってくる。

でかいため息が出そう。幼馴染のあるある展開があるわけでもなし、道端でぶつかってとか、靴箱にラブレターがとか、いやうーん無理でしょ、はは。

 

…完全に息の根が止まった。

 

「今そんなこと気にしてる場合かぁ?」

ベットに潜り息の根が止まらないことを祈りつつ今日は寝た。




今回も読んでいただきありがとうございました。
和也以外の山ほど出てくるキャラの関係性がそれなりに頭を抱えていたりします。他にも出てきていない人はまだまだいるのでなにか補完するべきなのかなぁとも考えてます。
次話ですが極端な2択を12話、13話どちらに投稿するかを決め兼ねているのでそれが決まれば投稿は早くなるかもしれません。主的にはシリアス回の方がまとまりつつありますがそこはなんとも言えません。

では次の投稿まで失礼します。



最後にwhitesnowさん、√Mr.Nさん、杉並3世さん、hokkaiさん、石切さん、オセロガチ勢さん、ハイパームテキさんお気に入り登録ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 歪み

珍しく早い新茶です。
クリスマスが暇だったんで速度が跳ね上がりました。要するにご察しください。

今回は予告通りこの作品では珍しいかもしれないシリアス回です。弓道の描写に関しては大体こんな感じなんだろうなーくらいで捉えてもらって大丈夫です。それではどうぞ。





 

 

「選抜大会…か」

岡城先輩から配られた用紙をか見てため息のような感覚の声が出た。

別に大会が嫌いじゃない。どちらかといえばこれまでに鍛えた実力を見せれる場面としてはこれ以上ないことだ。今も調子が悪いわけではないけどなんとなく身体が重かった。

 

隣で用紙に目を通す園田を横目に俺は空を眺めていた。

最初は他にも同期がいたが様々な理由でやめていき1年の部員は俺と園田だけになっていたし今年最後の公式戦でもある。

 

「必ず関東には行こう」

それが俺の願いだ。

 

「だからもうちょっと残って練習するか」

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「男子、ゼッケン番号61番から75番は待機場所に向かってください」

役員のアナウンスによって呼ばれた選手はどんどんと集まっていく。

 

「…気分が上がらない」

その中で俺は弓道の調子が悪いわけではないけど相変わらずあの時の感覚は残ったままだった。

 

「波野さん行かないと」

俺が考え詰めていたからか園田が心配そうな顔をして見てた。

 

「あぁ分かってる」

園田も気づいてると思う。何か変だと。でも後悔のしないようにしないとな。

 

これまで使ってきた相棒の弓と矢を持ち戦いに挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそッ、これだと関東も怪しい…!」

12射が終わった段階で俺の的中数は8だった。最初は良かったものの9〜12本目がほとんど当たらなかった。なぜ急に調子が悪くなったのか自分でも分かってなかったしその自分にイラつく面も少し出てる。

残りの8射でどうにかして本数を出さないと関東に行くのは厳しい。ただでさえ東京は人数も相まってレベルが高いというのに。

過去の傾向から見れば東京は他の県では関東大会出場のラインが脱落圏内になっていたりする。もちろん運も絡むが大抵変わることはない。

 

「どうにかしないと」

焦燥感に駆られていた俺は昼飯を食べることすら忘れていた。代わりに口には血の味が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「緊張は解けてきた。まだ立て直せる」

射場に立ち自分の心を鎮め落ち着かせる。鼓動は身体に響き反響し合って徐々に消えていく。ここまで練習してきた。努力はした、音乃木坂なら誰よりも練習している自信はある。だから、だから…!

 

 

 

弓を構え、矢を番え、眼を瞑る。

 

 

 

 

 

何を思ってここまで過ごした。

 

 

 

 

俺にならできるだろ。

 

 

 

 

必ず。

 

 

 

弓を引き分け会にもっていく。動作は止まる。

 

 

 

放つ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、音は何も聞こえなかった。

微かに矢は的の右側すなわち前に刺さってた。

 

「あ…」

言葉が出ない。手は無意識に震えてた。歯車に何かが挟まり動かなくなったような、どうしようもなかった。どうすればいいのか自分でも分からない。壊れたガラス細工は元に戻らない。割れた鏡は1つのものを正しく映し出さない。

 

元に戻す方法はその場では思いつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

結果から言えば関東は16、全国は18が出場ラインだった。俺の的中数は12、後半でも引っかかったものは取れず本数は伸びなかった。それに後半の1本目を外した時点で関東大会にも出場できなかったし、圧倒的に実力が足りてない。園田は射詰競射まで進んだが関東大会まで惜しくも1本足りなかった。

 

 

 

「なぜだ…!」

分からない。底無し沼に腰までが既に浸かっているくらいそれくらい困窮してた。

 

「波野さん、閉会式が…」

 

「あぁ、分かってる!」

苛立ちはついに感情をも侵食していた。少し引きながら瞳を見つめた園田は何も語らなかった。どちらかと言えば園田はあと1本中てていれば関東大会に出場できたのだ。

俺なんかよりよっぽど悔しいのは分かってる。

 

「…ごめん、すぐに行くから」

余裕もなく苦し紛れに静かに返事をしてコンクリートの地面から目を離した。

 

 

 

どこか上の空で遠くを眺めても曇天が広がるばかり。いつも空を見上げればそうだった。

 

早くここから去りたい、嫌なことばかりが表面に浮かんできて辛かったんだ。

 

 

 

 

 

「おい、お前」

 

「…俺に何か用か?」

下を向きつつ声の聞こえる方向を見ると袴が映っていたため顔を起こした。

 

「お前最初の方は調子良かっただろ、射形も綺麗だった。なぜ失速した」

…ッ、人が1番気にしているところをづけづけとつけ込みやがって!

 

「…俺が知りたいよ。あんな結果で満足できるわけないだろ」

 

「俺は今回の大会で関東大会への切符を掴んだ」

 

「…ッ!」

 

「お前だって普通に考えれば」

 

「うっせぇよ!というかあんたは誰なんだ。傷口に塩を塗るような真似しやがって!」

 

「俺の名前は長瀬皇河(ながせ こうが)だ。さっき言ったのはお世辞でもなんでもない。順位がついている人間が順位がついていない人間にわざわざ会いに来ると思うか?」

 

「あぁ…確かにそうかもしれないな。だが今は」

普通は入賞者同士で交流をするものだ。そうする理由が分からない。

 

「少なくともそういう人間に会う気持ちじゃない…だろ?」

 

「ご名答、君が何をしたくて俺に話しかけたのかは知らないし、特別扱い云々の話じゃないと思うけど」

 

「…1年では俺の次はお前だった」

 

「1年…弓道歴は?」

 

「4月からの7ヶ月だ。今まで色んなことに手を出してなんでもやってのけた。この世界でも俺は頂点を目指す」

 

「それは俺だって…いやなんでもない」

いつもの俺なら対抗できた。そう、いつもなら。

 

「今度は頂点で会えることを期待してる。これ連絡先だ。まだ話したいことは沢山あるからまた連絡する」

長瀬は挨拶がわりに手を挙げ立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…才能の天才か。俺にはなれそうもないな」

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「まだだ、この程度じゃ追いつけない」

あの苦い試合から俺は時間の限り練習を続けていた。現に今の時刻は9時だ。最終下校時刻は過ぎている。

 

「では、私はお先に失礼します。戸締りなどよろしくお願いします」

 

「了解、そっちも気をつけて」

園田を見送り練習を再開する。1週間経過しても引っかかることばかりだ。

 

 

 

 

「何も解決しない、なぜだ?」

弓道を3年やっていながら今回の感覚に確信をもって原因を特定することがまだできていなかった。単に的中させる上でのミスなのかそれとも精神的なものなのか。ただの調子の悪いドン底か。

 

弓道場は道路と面しているが車通りは少なく静かだ。道場にはただ弓の射出音が聞こえるだけ。

練習の潮時はいつも迷う。きっかけはいつも突然、要するに感覚だ。だが、今はその感覚が融解してる。残酷な話だよ、今まで当たり前のようにあったものがなくなるってのは。

 

 

 

 

 

 

「あれも違うしこれも違う…」

俺は基本的に部活以外の時間は自分の射形を考えたりすることはない。しかし、大会が終わってからというもの飯を食べている時、風呂に入っている時何をしていても弓道のことが頭に浮かぶようになった。

調べたところで何も変わりはしないしなぁ。

カウンセリング…受けた方がいいのか?

 

 

「夜も更けてきたし帰るか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…少しはマシになった」

調子は少しずつ戻っているような気がした。あれから3週間経ち大会のことなど本当ならとっくに昔のことのはず、だったのだが濃縮されて昨日一昨日の事実のようで鮮明だ。

 

想いを乗せ的に飛ぶ自分の矢が的に刺さらなかった。今でもこの事実は脳内に刻み込まれていて消えない。

 

今日も本数を引こう。誰よりも。

 

 

 

弓と矢を持ち射位に入る。

 

射法八節の動作これを何回繰り返してきたことか。

 

大三、引き分け…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐッ…!」

引き分けをしている最中に右肩に激痛が走った。引き切れないままに痛みで右手は弦を離し矢は的までの半分にすら届いていない。

 

「このッ!!動けよ!!」

しゃがみこみ、右手で弓を持ち左手は右肩を守るように覆った。

 

「どうしたの!」

岡城先輩が駆け寄ってきて俺の顔の正面、睨むような目でこちらを見た。

 

「…引き分けてくる時に右肩に痛みが」

 

「やっぱりね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「波野君今日のところは帰って病院に行って」

 

「なっ…帰れなんて受け入れれる訳が」

 

「部長命令よ。頼むから今すぐに病院に行って」

その目に嘘はなかった。

 

「…分かりました。お先に失礼します」

 

 

 

 

 

「何がやっぱりだったんですか?」

 

「海未ちゃん…彼あの大会から相当無理してたみたい」

 

「無理…練習のし過ぎですか?」

 

「うん、肩に痛みが出たのはそれが直接的な原因だと思う」

 

「私が引き止めていれば」

 

「海未ちゃんが気にすることじゃないよ。でも、もっと深刻な問題は彼の心だね。肩を痛めるようになった引き金でもあるし」

 

「あの時波野さんは私でも見たことのない苛立ちしてました」

 

「中学から弓道をやって上位を取れていた、彼はその高いレベルまで引き上げられているのよ。もちろん海未ちゃんもだけど」

 

「いえ、そんなことは。波野さんは元々練習量は多かったですし私は家の都合で早く帰ることもありますから」

 

「彼の具合も見つつだね。女房役お願いね?」

 

「にょ、女房ってそんな」

 

「…そこ顔真っ赤にするとこじゃないよ?」

 

「す、すみません。ですが彼の自信を元に戻すならばやはり試合でいい結果を残すのが1番だと思いますが」

 

「私もそう思う。けど今年はもう試合がないし部内試合をやったところで彼の心が満たされる訳でもない。少なくとも次のインターハイ予選まで…か。遠いね」

 

「そこまでとなると正直彼の心が保つのかも心配ではあります」

 

「試合以外でインパクトのあること…唯一あるとすれば海未ちゃんのことかな」

 

「私ですか?」

 

「海未ちゃんなら彼の意識を変えることができるかもね」

 

「肝心のどうやるかが決まってないじゃないですか」

 

「だからあまり気を背負わなくていいよ。ある程度なら私がやっておく。海未ちゃんまで潰れられると私の首が回らなくなっちゃうし」

 

「笑って言ってますけど結構マズイですよそれ」

 

「とりあえず海未ちゃんも無理しちゃダメだよ。ありがとう話に付き合ってくれて」

 

「私も気持ちが楽になりました。ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「波野さんお入りください」

 

「…はい」

 

「えっと今回の症状なんだけど、結果から言わせてもらうとこのままの練習を続ければあなたは弓道をできなくなります」

 

「…できなくなるですか」

 

「話によるとあなたは練習量が元々相当多い、練習量だけならどこと比べても恥ずかしくないとは思います。更に今は練習量が増えていますがあなたはそれに合っていない」

 

「普段でも疲労のボーダーラインのギリギリを上下してるあなたでは今回のように身体が悲鳴をあげ続けるのがオチです。

筋肉が傷みボロボロになれば怪我を引き起こしやすくなる。止めるなら今しかないですよ。波野さん」

 

「…そうですよね。この1ヶ月空きがあればずっと練習し続けてました。でも、何も変わらなくて何も成長しなくて全く楽しくなかったんです」

 

「1度心を休めるべきだと思うよ。これを機会に見直してみなさい」

 

「分かりました、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

次の日俺はそのことを岡城先輩に報告した。返ってきた返事は

 

 

 

 

 

 

「波野和也君、あなたを1週間クラブ停止とします」

俺も周りも凍りついた。その中で岡城先輩は更に口を開く。

 

「色々考えた結果あなたに今練習をさせたところで意味がないんじゃないかという結論に海未ちゃんとなったわ」

 

「ですが!」

 

「あなたのためを思ってる。苦しいのは分かるしそれを引きずり続けるためには弓道をやり続けるしかないのも分かってる」

 

「なら…」

 

「これはいい機会として思って欲しい。猶予である1週間弓道を考えず過ごして。これも命令」

 

「職権濫用でしょそれ」

 

「こうでもしないと波野君は止まってくれないでしょ」

 

「そうではありますけど」

 

「だから色々休憩してね?試合が迫ってる訳じゃないから」

 

「わざわざすみません。こんなことで」

 

「部長として先輩として当然だよ。波野君に怪我が悪化して弓道できなくなりました。なんて言われた日には何回ビンタしてるか分かんないし」

 

「反省しておきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、弓道のことを考えるなと言われてもな」

部活に出ることもないため日の暮れないうちに自宅に帰るなんていつぶりだろうか。自分でも諦めがつき始めてた。リフレッシュするべきなんだろな。

 

園田にも迷惑をかけた。今度会った時何か奢ろう。

 

 

 

いつも歩いている通学路。今日の足取りはとても早く感じた。家にあっという間につき鍵穴に鍵を挿す。

回すと当然ドアは開くのだが開けようとしても開かなかった。

 

「え、鍵閉めて出たよな俺」

もう一度鍵を回してからドアを引くと開いた。最初からドアは開いていてわざわざ俺は1回閉めてからまた開けたことに気づいた。なんて無駄なことを。

 

溜め息をつきつつ階段を上がっていくがリビングの電気がついていた。

 

「流石にリビングの電気を消したことくらいは覚えてる」

じゃあなんで電気がついてる。強盗か?こんな昼間に?最悪武道でねじ伏せることもできなくはない。開けるぞ。

 

 

 

 

「あっはっは。面白いや」

…マジか。

そこにいたのは呑気にテレビを見ながらソファにもたれくつろぐ俺の姉の美紀(みき)がいた。

 

「姉さん何やってんの」

 

「何やってんのって言われても元は私も住んでた家だし」

 

「まぁいいよゆっくりしてて。なんだかんだで久しぶり、今は2回生でいいのか?」

 

「そうそう、会うのは半年ぶりくらいかな?」

 

「もう少し経ってた気もするけどいいや、いつまでいるんだ?」

 

「明日の朝までかなぁ朝食もお世話になるかも」

 

「分かった、晩飯はどうする家で食うか?」

 

「食べる!」

 

「何がいい?」

 

「んーハンバーグで」

 

「分かった作ってくれるんだよな?」

 

「私客なんだけど?あとは分かるよね?」

こいt…姉さん昔はもっと融通きいたんだけどなぁ。

 

「ま、いいよ。久しぶりに家で羽伸ばしてくれたらいいよ」

 

「さっすがぁ和也は物分かりがいいねー」

 

「あまり余計な口叩いてると追い出すよ?」

 

「あーもうごめんってお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいよ、勝手に煮込みにしたけどどーぞ」

 

「いただきます!」

俺は姉さんのこの元気にいつも助けられてたのかも。

 

「…おいし、もしかして和也毎日自炊してる?」

 

「まぁそりゃな、簡単なもので終わらすことの方が多いが生憎最近は時間が有り余っているのでね」

結局は気にしちゃってるんだよな俺。戒めでもあるけど。

 

「へぇ〜弓道はどうしたの?」

 

「色々あって…な、今は自重してる」

 

「ふ〜んあまり聞かないようにはするけど身体壊さないようにしてよね」

 

「うぐっ…了解」

それもう1週間前に言って欲しかった。

 

「えっ、もうやらかした感じ?」

 

「ちげーよもうほらさっさと食べちゃって」

 

「はいはーい。あれ和也ご飯食べたっけ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉さんの側にいるとやっぱり元気になる…な」

写真立ての中の写真にいる俺。小さい頃は今より少し臆病だった。どこへいくにも姉さんの後ろにトコトコついていったし、いつも袖をギュッて掴んでた。

俺にも姉さんのようなその太陽のような明るい元気欲しかった。後ろに隠れていた俺は…静かに微笑む月だろうか、それとも苦し紛れな無謀な隕石か。

 

 

 

「月は太陽に変われない。ならば太陽も月に変われない」

人にはそれぞれ個性があってその個性は誰かが求めてるんだって母さんが言ってくれたんだ。

 

…俺ちゃんと戻ってみせないとな。

 

 

 

 

「和也ーって電気もつけずになにしてるの?」

 

「…ちょっとした思い出をね。さ、冷蔵庫にゼリー冷やしてるから食べようぜ」

姉さんに変な心配はかけたくないからさっさとキッチンに戻ろう。

 

「ほんと!?食べる食べる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悩んでるくせに…素直じゃないんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉さん本当にそこでいいの?」

 

「大丈夫だって敷布団あるし特別寒い季節でもないんだから」

 

「なんかあったら遠慮なく起こしてくれよ」

 

「その時は頼らせてもらうね」

 

「じゃおやすみ」

 

「おやすみー」

 

 

 

 

「元気に…そうだな、そうだよな」

自室に戻り勉強机の前に座り自習用のノートを開く。

 

「これはなんだ?」

ノートの栞代わりに使っていたものだろうか。2つ折りになっていたため開くとそれは今月の学校の予定表だった。

 

え、3日後になんかあるみたいだ。1年行事予備日って書いてる。そういや4月にあったはずの1泊2日の宿泊学習が延期したんだよな。天候が悪かったとか病気が流行ったとかもなしに。最近11月に延期せれた行事があるのが楽しみだって涼輝が言ってたかも。

 

ちょうど1週間以内…弓道を忘れて過ごすにはうってつけかな」

明日2人に聞いてみよう。

 

 

 

「明日のこと考えたらすげー眠くなってきた」

もう寝ちゃおうか、どうせ勉強する時間はあるんだし。気長にやろう。

 

「おやすみ」

倒れていた写真立てを戻しベットにその身を任せた。

 

 

 




今回も読んでいただきありがとうございます。
現実でも努力を裏切られるってのは結構心にくるんですよね。彼と弓道は葛藤の連続でこれからも苦労しそうです。(謎目線)

10月、11月の話が多すぎて話が進みません。次もまた長くなりそうな予感です。できれば年明けまでに、悪くても冬休み終わりくらいまでには投稿したいと思っております。



最後に十六夜64さん、フユニャンさん、はるかずきさん、東雲 アキさん、hiraPさんお気に入り登録ありがとうございます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 気懸かり

明けましておめでとうございます、新茶です。
今年の目標は「投稿ペースを上げる」です。進行具合的にいつまでたってもおわんねぇなこれってなってきたので…

今回ですが現実でこんな行事やってみたいですけどね。トラブルに巻き込まれるのは御免ですけど。では、どうぞ。


 

「えっと、俺たちが取れたのは」

 

「ガスコンロにつけるガス缶」

 

「地図と懐中電灯」

 

「割り箸50膳と竹串30本」

 

「どうすんのこれ」

 

「なんかもうちょっとなかったのかな…」

 

「とりあえず食料と言えばここでは魚か。俺が取ってくるよ」

 

「僕は家から持ってきた植物図鑑で食べれそうな葉っぱを」

 

「俺は…どうする?」

 

「涼輝は火起こししてて、そこにやり方は載ってるからー」

 

「お、おうやっておく!」

 

 

 

 

 

 

あーあなんで魚取りなんか…

 

 

 

 

 

記憶を遡りますと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな行事あったんだな」

 

「うん、やっぱり4月の行事が流れたんだって。しかも1泊2日が2泊3日に延びるみたい」

翌日、情報を網羅していそうな陸斗に聞いてみることにした。

 

「へ〜これまたなんで?」

 

「お詫びだってさ。でもね、もしかしたら延びたことは良くも悪くもって感じなんだよね」

 

「…普通に考えればいいことなんじゃないのか?」

俺は陸斗に反応の模範解答を言った。

 

「それが今回の行事の内容が『サバイバル』らしいんだ」

 

「…は?要するに自給自足で2泊3日サバイバルしろと?」

こんな企画があまりクラスの仲がいいわけでもなかった4月にあったとすればそれなりに地獄絵図だったろうな。

 

「そういう施設があって自然に溢れてるみたいだよ?先輩の話によれば半自給自足みたいだけどね。2日目の夜は地獄だって言ってた」

 

「補給物資があるってことか。それはそれで取り合いになりそうな感じが頭を過ぎるんだけど」

 

「なくはないよ。物資は寝ている間にランダムでエリアに配置されるらしいから」

それワンチャン2泊3日何も食べずに過ごすことにもなりうるよな。想像したくない話だよ全く。

 

「あとこれは3人1組でテントを張り拠点を作り協力して生き残ろうってこと」

 

「ふーん俺たちクラス違うけど組めるのか?」

正直な話涼輝、陸斗でないと協力して楽しく過ごせる気がしてならない。あとは園田とその幼馴染組も過ごせるか。

 

「多分大丈夫だと…思うよ?」

 

「神様頼む…」

 

「来年は元からそうならないようになるといいね」

 

「それな」

今年度1年はなんとか持ち堪えるつもりだけど来年度も逸れるとなると流石に精神的に持たなくなってくる。

 

「過ごすものは向こうで用意するからあまり荷物はいらないらしいよ」

 

「絶対裏あるだろ」

 

「僕もそう思うね。バレない程度にこっそり持っていくといいよ」

 

「だな」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

「で、ですけど去年行った感想としてはどんな感じなんですか?」

次に経験者である生徒会長様、副会長様に聞くことにした。

 

「うーん、エリチあれ結構しんどかったよな?」

 

「…希が食べれる草とかに詳しくなかったら1日はご飯にありつけていなかったでしょうね」

絢瀬先輩と東條先輩でそうなったと思うと俺も不安になってきた。

 

「え、結構それまずいんじゃ」

 

「なかなかに過酷よあれは」

 

「補給物資に関しては?」

 

「配布されているのは配布されているけど行う場所の敷地が広いのよ」

 

「うちの学校は元々人数が少ない分1人1個あるとはいえ補給物資の数と敷地の広さが割に合わないよね」

 

「え、結構まずいですね」

どんどん雲行きが怪しくなっていくこのサバイバル行事。さっきからまずいしか言ってない。

 

「自給自足については魚や草を食べるのが1番楽かな。それか補給物資の天運で何かを当てるかやね」

 

「川で魚捕まえたわね。1日目は大量だったのに2日目全く取れなくて」

 

「本当に天運で決まってますやん」

 

「波野君、希の口調移ってるわよ」

 

「マジですか」

 

「ま、ネタバレもこれくらいにしとこか。あんまり公開し過ぎてもつまらんようになるやろうし」

 

「そうね、あなたにも地獄を味わってほしいわ」

 

「エリチ、邪念が漏れてる」

 

「…笑えねぇ」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「へへへ楽しみだなぁ。なんでもやる気満々なんだけど!」

 

「涼輝、早い」

軽く手刀を涼輝の頭に叩き込み再びバスの窓から高速道路の壁面が半分以上を占める景色を眺めていた。

 

「まだバス乗るとこなんだから気が持たないよ?」

 

「と言っても楽しみなんだよ」

 

「帰るときにこの発言が変わっていないといいね」

 

「全く、この2泊3日は不安しか感じない」

 

「…で何持ってきたの?」

涼輝を挟んで俺と陸斗は裏を読んだ話し合いに発展する。

 

「まず圏外で使い物になるか分からないけどスマホのバッテリーを3つ、手回しで発電できるライト。サバイバルを行うエリアの地図のコピー、空のペットボトルを3本程度、あとはしおりに書かれてたのを適当に」

 

「なるほど、僕はハサミとカッター、植物図鑑、スマホのバッテリー、ウェットティッシュ、コンパスかな」

 

「え?そんな物持ってくるのか?」

 

「普通に従ったのか…」

 

「ってことは持ち物は」

 

「カバンはすっからかんだぞ」

 

「「はぁ〜」」

ここまで素直だと逆にワラケテクルけどな、ははは。

 

「もう戻ることもできないんだし、ボロクソ言うつもりもないけどね」

 

 

 

「それよりもどこにテントを立てるかだな」

最初の集合位置から扇状に広がるエリアには森が広がっていて細かく川も流れている。下手に川から遠いところに立てると食料確保が厳しくなるし、近すぎると雨で増水したりすると危ない。

 

「このへんかなぁ?」

陸斗が指した場所は川に挟まれた中洲の進化版みたいなところだった。

 

「でも、そこ危なそうだけどな」

 

「じゃそこの隣のえーっとここでいいじゃん」

涼輝が指したのは川を1つ挟んでエリアのさらに奥に進んだところだ。地図にはその付近は『せせらぎの森』と書かれており、隣の川は辿っていくと『せせらぎ川』って書かれる。

 

「いいんじゃない?」

 

「この川、サイトのホームページでもこの川は綺麗で川魚が色々住んでるんだって」

 

「そこに決定だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言うことでグループで集まって解散してサバイバルを始めてください。あ、あと今から最初に配る必要かもしれない物資をそれぞれ1人1個取っていってください」

 

「これだー」

 

「重たいこれにするわ!」

 

「軽いけど大きいに決まってるだろ」

皆が我先にと袋を取っていく。全てが全て同じ物ではないみたいだな。

 

「俺たちもいくぞ」

 

「ああ、これにするわ」

 

「俺も決まった」

 

「僕もこれでいいよ」

3人ともある程度固まっていた3つをそれぞれ分けてテントの道具を持ってせせらぎの森を目指して歩き始めた。開始時刻は11時。これから2日先のこの時間までサバイバルをしなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、結構疲れたな」

テントの設営なんてほとんどやったことなかったから軽く汗が出た。

 

「あと、あの袋なんだけどさ」

そして、全員が気になる3つの袋の中身。

 

「確認するぞ」

 

「えっと、俺たちが取れたのは」

 

 

 

…という風になったんだけど、なにせ要らないものしか物資から獲得できていないのが非常に辛い。

 

ガス缶はまずガスコンロが無いと全く役に立たないし懐中電灯と地図は元々俺が持ってきてたし、まぁ2つあることに損はないのだけど。割り箸と竹串は何というか3日で使い切れる物なのかもよく分からんし何がしたいのやら。

 

 

 

結論を申し上げますと、大ハズレを引きまくったわけですねはい。

 

 

 

 

 

 

「えっとここがせせらぎ川か。魚は…」

あ、なんか袋ないと魚持って帰れねえじゃん。金魚の要領でスーパーのレジ袋に水汲んだらいいだろ。

 

靴と靴下を脱いで裸足で川に足をつける。

「あ、クソ冷ぇてえや」

そりゃ11月上旬の自然豊かな中の川の水は冷えてるだろーな。ちょっと一掬い…美味しい!

 

「水はあって損はないしペットボトルに詰めて帰ろう」

本題は魚が取れないと当然のように昼夜の飯が無くなりかねないということ。

 

「集中しろ、俺」

精神を統一し、川の流れを凝視する。細かな動きも逃さない。

 

「ッ!」

右手で水面下をはたきその身を捉える。

 

川の水から飛び出した魚はピチピチと跳ねていた。袋に入れて木の枝に引っ掛けておく。

 

「このっ!」

 

「オラっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、おかえりー」

 

「これくらいで大丈夫かな?」

 

「うぉぉ和也すげーな」

 

「あ、火起こしできてる」

 

「涼輝の精神は消沈してたけどね」

 

「まさかあれほどしんどいとは」

 

「折角だから早く焼こうよ」

割った割り箸を魚の喉に刺し火に照らす。速報、割り箸さん活躍のお知らせ。

 

徐々に焦げ目がつき始め食べ時を迎えた魚に3人で頬張りつく。

 

「うめぇぇぇぇ」

 

「何もつけてないのにすごく美味しい」

 

「結構幸せかもな今は」

まだ2時間しか経ってないんだよね。でもさ、半日で終わりでいいよこんなの。

 

「あ、もうすぐ3時じゃん」

 

「3時がどうしたんだ?」

 

「話聞いとけよ涼輝…物資は午前5時と午後3時に配られるんだ。ランダムで配置されるし中身が何かもわからない。要するに早い者勝ちなんだ。確率的には最初に取ろうが最後に取ろうが同じなんだけどね」

 

「じゃ俺探してくる!」

 

「朝5時は低血圧の人間にはキツイから僕も行ってくるよ」

 

「じゃよろしく頼むわ。俺は今のうちに朝5時に備えて寝とく」

 

 

 

…園田は今何してるのかな。

 

 

 

ふと頭に浮かんだ彼女の名前。なぜ浮かんだのかは分からないけどサバイバルという状況ではどうしてもいつも身近にいる人が気になってしまうものだ。

 

 

 

 

その時テントの幕が開いた。

 

「なぁ」

 

「涼輝どうした?物資見つけたのか?」

 

「いやさー、そこの川を渡って少し行ったところに穂乃果達のテントがあったんだよ」

 

「へ〜そうなんだってマジか」

人間頭に浮かんでいることが意外と近くにあるのかもしれない。

 

「しかもさ向こうガスコンロ持ってんだよ」

 

「コンロ使えるじゃん」

起こした火に適当に草を投げ入れつつだらしない格好で返答する。

 

「だからガス缶持っていくわ」

 

「あ、うんそっちにあげるのね」

 

「そうそう」

 

「りょうかーい」

その返事のあと俺はテントの中で持ってきた上着を掛け布団代わりにして目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…」

覚醒すると周囲は相当暗かった。幸いにも火がついているからだろうか。近くは輝くほど明るい。

 

「あ、起きたー」

 

「もう飯食うぞ」

 

「はいよ」

…少しLINEsを開いてみることにした。

何件か広告なども来ていたがその中で1つだけ確かに違うものがあった。

 

 

 

海未『明日の朝物資を一緒に取りに行きませんか?』

 

 

 

…ここってスマホ繋がるもんなんだね。今はそんなこと気にしてる場合じゃない。

 

どう返事する、いや朝俺が行くことは確定してるし多分だけど理にかなってる。

 

なら、

 

 

 

和也『構わないよ。4時半にそっちのテント行くわ』

当然こうするべきだ。何か心の中で確信が持てたのは事実だ。

 

「…和也なんか嬉しそう?」

 

「そうか?」

 

「俺はよくわかんねぇ」

 

「とりあえず飯食ってさっさと寝るわ」

晩飯は補給物資であったパンと涼輝が取った魚が数匹で終えた。魚はまだ食べる、明日の昼くらいから厳しくなってくるだろうな。

 

 

 

海未『分かりました。そちらは調子いいのですか?秋山さんが魚が美味しかったと言っていたので』

 

和也『結構魚取れたしな、火起こしもうまくいったし今のところは順調』

文字を打ってると思うが俺たちって今はとてもいい感じなんだろな。

 

海未『晩御飯はみんなで魚を取ったのですが全然取れなくて質素な食事になってしまいました』

 

和也『それならなおさら朝ちゃんと取らないとね』

 

海未『そうですね。よろしくお願いします』

 

和也『おう』

 

「なーにやってんだよ」

 

「いーや何にも」

スマホの画面を消しテントを出た。

周りはとても暗かった、でも空は明るい星空が広がっていて神秘的だった。都会では見たこともない風景に圧倒された。

自然とはこれほど美しいものなのかと。水の流れる音が耳に響き心地いい。

 

月は満月に近かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「4時前かちゃんと起きれたな」

内心ビクビクしてた。起きれなかったらどうしようって小さい頃の遠足前日みたいな感覚かもな。

 

外に出ると1番寒い時間帯は過ぎたがそれなりに寒かった。上着を着ることとスマホとライトを持って行くことも忘れずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、いた」

遠くからなんとなくシルエットが見えた。手を振ると向こうも振り返してくれた。

 

「おはようございます」

 

「おはよう、ポニーテールなんて珍しいね」

シルエットから気になったのは彼女が髪を括っていたことだ。普段はストレートでおろしていて弓道をするときでさえ先の方を括るだけなのだ。正直髪を高めに括り振り向かれると似合ってるという言葉しか出なくなる。

 

「ええ、この場ではこの長い髪も括っていた方が邪魔になりませんからね。時間も無いですがどうしましょうか」

 

「…先生が泊まっているところに突撃して追跡する方法もあるけど」

 

「それはズルをしているような…いえ、面白そうですね。その案に乗りましょう」

 

「オッケー!地図あるからえーと先生が泊まってるのはこのロッジじゃないかな」

 

「…そうですね。そちらの方に向かってみましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう出てきてますね」

 

「ああ…ん?こっちにくるぞ!」

袋を何個か持ちこちら側に向かってくる先生が1人。

 

「えぇ?どうしましょうか。ここにいることがバレたら」

 

「とりあえずこっちだ。そこの茂みで隠れよう」

一応その先生を追跡することにし、観察しながら隠れるがなんといっても茂みが暗かったせいか見込んだ以上に狭い。

 

「これだと向こうから丸見えじゃないですか?」

 

「…怒るなよ」

 

「あっ」

俺は園田を引き寄せほとんど抱くような形で7m前くらいを歩く先生を目で追った。肌身は近いというか触れている。鼓動が身体に響いてるのが分かる。

 

 

 

先生は何も気づかずそのまま去った。俺は立とうとしたが右腕が掴まれていてバランスを崩しそうになったがもう一度しゃがみ直す。

 

「どうしたんだ?先生どこかに行ったし行くぞ?」

 

「はわわわ」

園田の顔は暗くて見えにくいながらも真っ赤になってた。そうだよな、こいつがそういうことに弱いことは分かっていたよな。俺にも非はあるし追跡はやめてだらだら探すことにするか。

 

 

 

 

 

「なんかごめんね?」

 

「い、いえこちらも思考が止まって混乱してしまいました。あのままなら先生にバレていたのは確実でしょうしありがとうこざいました」

 

「いやいや、こちらも急にやるのはまずかったよ」

向こうが頭を下げてこちらも頭を下げる。会社の取引現場じゃないんだから。

 

 

 

「じゃ、のんびり物資探そうか」

 

「あの先生は?」

 

「追いかけるのは止めることにした。やっぱり面白くないしな、ほら行くぞ」

 

「ま、待ってくださいっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっとこれの中身はレトルトカレーとご飯か。よし、園田これ持ってけよ」

 

「え、急に投げないでくださいってこれカレーとご飯受け取れませんよ」

 

「昨日食えてないんだから持っていけ。他に何かあるならまた交換するし」

 

「じゃあ他にもっといいものを見つけてみせます!」

 

「期待してる」

なんだかんだで朝5時から始まった物資探しはひたすらに森の中を駆け回り2人の目標数の6個の袋は見つけた。

 

実際のところ相当楽しかった。朝早くからそうした甲斐があったってもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「………」

反応がないただの屍のy…

 

「あ、和也おかえり…」

寝ていると思ったが低血圧で若干どんよりとした陸斗が起き上がった。

 

「はい、袋これな。涼輝いい加減起きろ」

 

「ぐぇ、今いいところだったのに」

寝てて今いいところってどういうことだよ。夢オチだよそれは。

 

「えっと火も消えてるよなー。火起こししよ」

 

「うぉカレーじゃん!」

結局園田にあげるはずのカレーは2つ同じ物が入った袋を見つけたため分けることにした。

 

「袋のぞいてないで手伝えっての!食えるもんも食えないぞ」

 

「はいはーい」

 

 

 

 

 

「うおぉぉぉ!!!」

 

「涼輝の火起こしの気合は誰にも負けないね。心の火つきそう」

火起こしの才能に目覚めた秋山殿。あと1日火起こし係に任命しようかなと思った。

 

「もうすでについてるだろ。俺は茹でるための水を…容器がないじゃん!」

 

「「えーっ!!!!」」

 

「いや逆に素手で温めよう」

 

「その手がないわ!」

 

「飯食えればいいよもう…」

 

「「…せやな」」

ついに諦めた3人は9時半に遅い朝食を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうすぐ補給の時間だな」

 

「じゃ僕行くよ」

昼飯は必死で取った魚で終わらせ間食の時間帯になった。正直なところやることがなくて3人でテントの中で川の字なんてこともこの行事のあるあるになりつつある。

 

「俺も俺もー」

 

「はい、いってらっしゃい。スマホと地図忘れずにね」

 

 

 

暇すぎる本当に。空を見ると昨日よりも少し雲は多くなったか。でも星空はまだ楽しめるだろう。あいつら早く帰って来てくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様」

 

「うん、普通に見つかったね」

 

「そうだな、俺の混沌のゴットアイによって」

 

「頭ぶつけただろこいつ」

 

「ぶつけてた覚えはないんだけど…」

 

「ま、たまにはいいか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁ、ねぇ!海未ちゃん見てない?」

 

「…どういうこと?」

 

 

 




今回も読んでいただきありがとうございました。
今後についてですが雪は積もらないくせに課題が山ほど積もっているため前回と今回のような1週間間隔で投稿できるのは最後になるかもしれません。続く感じの話の内容になっているためできるだけ早くはしようと思います。

最後になりましたが今年も『想いのカタチ』をよろしくお願いします。



暗中模索さん、Tiyaさん、NECOLOGYさんお気に入り登録ありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 星夜行動

どうも新茶です。
なんとか1カ月以内に間に合いましたので…。続きなんで前は短めに。
では、どうぞ。


「…どういうこと?」

 

「私達袋をあまり見つけられてなくて海未ちゃんが探しに行ってくるって言ってからずっと帰ってこなくて」

全身の体温が下がる感覚がした。11月とはいえ夜は冷える。一晩中森を彷徨い続けたりしたら彼女の身が保証できない。…もしかすると怪我をして動けなくなった可能性もある。

 

「周囲は探したんだけどいなくて」

 

「何時くらいに出たんだ?」

 

「2時間前くらいッ」

 

「既に暗くなり始めてたってことか」

 

「先生には言ったの?」

 

「まだ言ってない。すぐに見つかると思って」

…どうする。まず2人を探すことに動員するのを間違ってるのは分かる。考えろ1番被害の少ない方法はなんだ。

 

 

 

 

 

「とりあえず涼輝と陸斗は穂乃果とことりをテントまで送ってほしい」

 

「「なっ」」

 

「テントに帰ってくる可能性もある。その時に2人がいないとそれこそ最悪なパターンだ」

まず2人の安全を確保しないと元も子もない。2人の気持ち痛いほどわかる。俺がその立場なら間違いなく探すと1番に言ってる。

 

「だけど!」

 

「俺に任せろ、必ず見つけてみせるから」

 

「僕だって協力するよ!」

 

「…2人は送ったあと周囲の探索をしてほしい。あくまで周囲だ。2人で連絡が取れる範囲で探してくれ。絶対に圏外にだけはいくな。バッテリーも渡しておく…頼む」

わがままなんだろうな、許してくれ涼輝、陸斗。

 

「自分のスマホのバッテリーはあるから、和也もう一個持っておいて。頼むから本当にダメだと思ったら連絡して」

 

「おい!陸斗もそれでいいのかよ!」

 

「…和也はこうなると聞かないけどそうなった時信頼はあるから大丈夫だと思うよ。和也の目は本気だから」

 

「チッ、無理すんなよ」

 

「できる限りな」

俺は最高の親友を持った。その瞳だけで真意を分かるなら。そして真に心配してくれるから。

 

 

 

 

 

「じゃあ行ってくる。そっちもよろしく頼む」

 

「…ごめんね私達しっかりしていないから」

 

「謝らなくていい。最初園田はどちらに行ったんだ?」

 

「川の上流の方だと思う」

 

「了解、あともし夜が明けるまでに連絡がなければ先生に連絡を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁ、どこにいった。園田!いたら返事しろ!」

ライトを照らし声を出しながら森を進む。園田が進んだのは多分エリアの集合場所とは真逆の奥。

 

 

 

 

 

少し立ち止まって考えてみよう。

 

 

 

連絡すらついていないということはこの奥がスマホの圏外である可能性、または気を失うなどの理由でスマホに反応できない状態にあるか。どういう留守番電話の音声が聞こえたか聞いておくべきだった。

「電波の届かないところ」という言葉が出れば1発なんだが。

 

過ぎたことを悔やんでも仕方がない。ライトで照らしながら地図を開く。

今は川に沿って上流に向かっているがここで川は曲がっている。地図でもそれはよくわかるため現在位置は曲がる付近だ。しらみつぶしに探すか?いや効率が悪すぎるし鍵がなさすぎる。

 

賭けに出るか?だがまだ9時だ。賭けに出るには少し早いだろう。細い道が何本か続いてるからそこを中心に探そう。思考は渦を巻いて複雑化していくのがよく分かったし次何をするべきかもとても迷ってる。

 

月明かりがなんとか道を照らしていた。周囲を探しても誰もいない。だが1つ視界に入ったものがあった。

 

 

 

「…袋!」

そこには補給物資の袋が木の根元に置かれていた。動かされた感じもない、中身も漁られた形跡がない。要するにここは通ってない。時間ロスにはなったが確実に範囲は狭まった。

 

道を引き返し合流地点から別の道に進む。

 

「どうなってるんだよここ、まるで迷路のように周りが同じように見えて仕方ない」

スマホのコンパス機能を起動し、地図は写真を撮って可能性のないであろう場所は編集で×を打ち範囲を縮めていく。

コンパスによって迷路から迷走することはなんとか避けているがそれでもこの辺は整備があまり行き届いていないのだろうか、それともここにテントを立てる人が少ないか。とにかくごちゃごちゃしてる。

 

草木はさっきよりも少しずつ揺れが激しくなっている気がする。俺の心の動揺を表しているのか何かの予兆かはわからないが。のんびりしてるとあっという間に今日が終わってしまう。

 

「急がないと…走ろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃここで待っていて、こちらからも動きがあれば連絡するから」

 

「でも!」

 

「大丈夫和也が見つけてくれる。あんな顔弓道と勉強以外で久しぶりに見たから」

 

「そう…」

 

「ちゃんと待っとけよ?」

 

「ん、じゃあね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…陸斗はあの時なんで和也を信じれた?」

 

「さっきも言ってたけど和也があんな顔をするのはそれほどに深刻な事態に陥っているということにつながる」

 

「うん、それくらいはバカな俺でも分かってる」

 

「僕たちが和也と中学時代に出会ってから、和也は頼んだこと、任されたこと、自分から言ったことは全て何かしらの方法でこなしてきた」

 

「そうだったな、ってことは今回も」

 

「…僕は救ってくれると信じてる」

 

「救ってくれる…か。じゃ俺たちも出来ることちゃんとしとかないとあいつに協力してないな」

 

「そういうことだね。よくよく考えてみたら、多分和也は周辺の探索を涼輝と僕に任せたんだと思う。1番危険な森の奥には俺が行くからって」

 

「とんだいいとこ取りだな」

 

「いいとこでは全然違うけど。どちらかといえば悪いとこ取りじゃん」

 

「だからあいつとは付き合ってられるんだよな!俺たちには俺たちの出来ることを!」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だいぶ奥の方まで来たか…」

地図にGPSで位置情報を表示しながら進んでいるが先程からそれを示す青丸の動きがおかしい。

 

スマホも一応ちゃんと動いているけど…電波マークが消えてる…ッ!

 

「陸斗!」

急いで電話帳を開き陸斗に電話をかける。

 

 

 

『電波の届かないところにいます。再度掛け直してください』

ついに電波の届かないエリアに来た。これより奥に園田がいるとするなら深刻な事態だ。あの2人なら周囲の捜索は徹底してくれるはず。わがままを言って頼んだんだから俺だって徹底する。

 

「ここまで来てるやつはそれこそ極致のサバイバル好きだな」

月は薄雲によってぼやけていて地上に射し込む光は確実に弱くなってる。早くしないと本当にこの森が暗闇に包まれる。今は10時過ぎ、もう3時間近く探しているのか。早く見つけないと。

 

ここまでくると草むらも候補に入れるべきか…とりあえず歩かないと見つかるものも見つからない。

先程の川の水音は聞こえなくなり相当歩いたんだろうなと思ったけど足の痛みは全く感じないが足場は徐々に悪くなりつつある。怪我の可能性も頭に入れておくべきだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

『そっちはどう?』

 

『見つかんねぇ、和也にも連絡つかないけどこれは想定通りか?』

 

『うん、大丈夫のはずだけど。現在地分かる?』

 

『大丈夫だ。テントの場所にはピン打ってるし』

 

『涼輝にしてはよく頭働いてんじゃん。けどもうそろそろ範囲的には戻った方がいいと思う』

 

『そうか?ここまで来て帰るのもなんだかな』

 

『それより穂乃果ちゃんとかの方が心配だよ』

 

『…急いで戻るわ』

 

『うん、切るね』

 

 

 

「和也心配だけど引き返すか」

歩を180度反対に向けたところでまた電話が鳴った。

 

『もしもし』

 

『…穂乃果だけど』

 

『どうした?』

 

『海未ちゃん見つかった?』

俺でも流石に分かる落ち込んでる声色だ。

 

『残念だけどまだ、大丈夫和也が見つけてくれると思う』

 

『でももう待てないよ!』

そうだよな…ごめん、約束を守れる人間じゃないわ。

 

『じゃあ…俺がそっちに今から行くから一緒に探さないか?』

 

『…うん』

 

『じゃ速攻で向かうから』

 

 

 

「ごめん、和也。放っておけないんだ許してくれ」

1つ空を見上げてからスマホを見ながら走って森に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…水音?」

あれから何も頼りにならない中ひたすら奥に進んでいるはずだ。その中で水音が微かに耳に入ってきた。時間は11時半を過ぎていてもう少しで日を跨ぐと思うと焦りが滲み出てくる。

 

水音が大きくなる方向へ駆けていく。躓くこともあったけどなぜか足が走ることを求めた。

 

 

 

「あっちだ、うお!?」

踏み出した一歩はつくであろうところにつくことはなかった。バランスを崩し身体が傾き修正は不可能であることは自分が1番よく分かった。

坂を漫画のように転げ落ち全身に痛みを感じる。

 

 

 

「いってぇ、けど動けなくはなさそうか」

落ち葉に全身が叩きつけられて俺は止まった。切り傷や打った箇所もいくつかあったが気にするほどでもなかった。

 

「あれが水音の正体か」

転がり落ちたところには小さめではあるが遠くに滝があった。地図にこんなもの載ってたかは定かじゃない。しかし、夜に滝を見るのは初めてだ。だが、絶景ではあるが感情に浸れるほど余裕はない。

まずはここから登って元の場所に戻ることに専念しないと。

 

滝のそばから上がれるだろうかまずはそっちに進んでみよう。

 

 

 

 

 

 

 

「ここも無理そうだよなぁ…」

ずっと岩場の斜面が続きこの暗闇だとまともに登れそうにない。岩場の岩壁に手をつきながら沿って歩いて行く。

 

 

 

 

「あれは…?」

しばらく進むと滝はもう近く。そこで自然とは離れた何かの姿が見えてきた。光を照らすとそこにはよく見知った人がいた。

 

 

 

 

「園田!!」

 

「脈は、大丈夫だな」

彼女の首に手を当て精神を宥める。よかった生きていてくれて。外傷は切り傷くらいしか見られないけど何かしら怪我をしてる可能性の方が高いだろう。

スマホを覗くと相変わらずの圏外という文字と0時という表示があった。

 

「よいしょっと」

園田を背負い少しずつ歩みを進める。彼女は軽かった。重ければ地獄だったのは間違いないだろうな。

近くまで行った結果滝の方に登れる道はなかった。背負っている分更に無理に登ることはできなくなったが、眠ったままの園田は背中で息をしていて、その息を一息感じるたびに俺はホッとしてしまう。

 

「ここからなら…ッ!」

足元がおぼつかないながら彼女のだらんとした手足を擦らずになんとか斜面を登る。落ち葉で滑りやすく膝をつきバランスを崩しそうになるけど園田だけは絶対に落としてはいけない。

 

 

 

時間はかかったが登りきりコンパスを開く。GPSは無理だとしても地図は開ける。テントの場所にはピンを刺したが肝心のどこにいるかが分からないためどの方角に向かえばいいのか…。まずはスマホの繋がる場所に行くのが先決か。

 

「もうちょっとだからな」

 

「う…、か………や…」

返事か何か寝言なのかも分からないけど園田の声は安心できた。

 

出来るだけ急ぎたいが園田の怪我の具合なんかも分かっていないから変な焦りは禁物だ。

草を掻き分け道無き道を進んで行く。なぜこんな道じゃないところを?そりゃコンパスの方向によるとそうみたいだし最短ルートだからな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石にしんどいな…ごめんダメだ休憩させてくれ」

園田を背負って1時間くらいが経ったか。人の身体をずっと持ち上げてるということは足に普段の2倍程度の力がかかることになる。

倒れることはなくともフラつき近くの木によりかかることもさっきより増えてる。無理してやって園田を地面に…なんてことは1番やってはいけない。

 

「今どこなんだろ…」

正直どこに行けばいいのかも分からず彷徨ってる。コンパスと地図からいえば方向は分かるが目の前は崖になっていて回らないといけない。

 

園田を無言で見つめてた。あれほど必死になって自分で行くって言ってこんな結末許されないだろうな。…雨が少しパラついてきた。周囲には俺のライト以外真っ暗、これは希望の光か絶望の闇か。

 

「とりあえず被っといてくれ、力不足でごめん。もう行こう。日の出までの時間も迫ってくるからさ」

パラついた雨に少しでも当たらないように着てた2枚の上着を園田に着せる。背負うから基本的に園田が雨に打たれる。これくらいはしてあげないとな。

 

ちゃんと被ってるな。まずは崖の上に登れる場所を探そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海未ちゃんまだなのかな…」

 

「…和也がきっと見つけてくれてるはずだよ」

 

「でもさっきから連絡つかないって」

 

「それは和也がスマホの圏外にいるからじゃない?」

 

「…海未ちゃんもそうだと思うからそうだと思うけど」

 

「分かってる。でも思い詰めちゃダメだよ。これでもし見つけてなかったら僕、和也殴ってるかもしれないから」

 

「陸斗くん…」

 

「僕だってそりゃ自分から真っ暗な森に行くなんて悪く言えば自殺行為してる親友のことは心配。でも、和也がちゃんと海未ちゃんを連れて帰ってきてくれることの方が信じれる」

 

「…そうだね、信じてあげないと」

 

「僕たちも探そう、近場にいてくれるなら好都合だから」

 

「でも、和也さんは…」

 

「さっきも言ったけどあいつは帰ってくるって信じてるから。ほら、探しにいくよ」

 

「…うん」

 

「無理してるなら言ってね?」

 

「ううん、大丈夫信じてるから。陸斗くんこそ…」

 

「僕は大丈夫、森に入ってるより余程ね」

 

 

 

 

 

 

 

降り続く雨は少しマシになった。月光は暗闇と割に合わない弱さで照らしてる。コンパス通りに進んでいて進展したことが1つある。それは水音が聞こえたこと。

滝とは違って穏やかな流れの音。見つける前の行きに通った川の近くじゃないか。

 

「ん…あれ」

 

「起きたか?」

 

「はい…ここは?」

 

「よかった。今テントに向かって帰ってるから」

あとはここからテントまで帰れるかどうか、俺次第だ。スマホとライトも充電の消耗が激しい。園田を背負いながらライトを充電して歩くなんて俺にはできないし。光は失われるばかりだ。

 

「私は滝の近くで…」

 

「大丈夫、もう移動してる。この水音は別の川」

 

「申し訳ございません。自分で歩きますから下ろしてください」

 

「…左足首が少し青くなってた。俺と同じで崩れているところに気付かず落ちたんだろ?その時に足首をぐねったか捻ったかは知らないけど無理はしてほしくない」

 

「ですが」

 

「絶対下ろさないから」

 

「…お願いします」

俺の首元に顔を埋め腕を前に回してくることによって薄着の俺は彼女の温かみのある体温をほとんど直で感じていた。

 

「あ、そうだ電話しないとな」

早く安心させてあげないとね。俺も一安心だけど。

 

『もしもし、2人ともいるか?』

それぞれにかけるのはめんどくさいから手短にグループで回した。

 

『おうよ、やっと繋がったか』

 

『どうしたの?』

 

『園田見つかったし、意識も回復したよ』

 

『よっしゃー!!!やったぁぁぁ』

 

『流石だよ!やったぁ!』

涼輝の方からは穂乃果の声が陸斗の方からはことりの声が聞こえてきた。あいつらやっぱり一緒に探してたか。

 

『今順調に帰れてるから、テントで待ってて。最悪電話する』

 

『気をつけてね』

 

『頑張れよ』

 

『じゃ代わるよ』

 

『もしもし…』

 

『海未ちゃん!!心配したんだよ?』

 

『怪我してない?』

 

『はい、ご迷惑をおかけしました。少し足を捻ったくらいですから平気です』

 

『ちゃんと帰ってきてよ?』

 

『また2人に会いたいですからちゃんと帰ります』

 

『うん、和也くん任せるからね?』

 

『了解、無事に会わせてみせるよ』

 

『じゃ切るよー』

 

 

 

 

「よかったな」

 

「はい、本当にありがとうございます」

 

「まだ帰れたわけじゃないからそれは帰ってから言ってくれ」

 

「帰ってから何かお願いを聞かせてもらえないですか?」

 

「…うーん弓道の一件もあるし俺も園田に何か奢ろうと思ってたんだけど」

 

「そんな波野さんは何も悪くなんて…」

 

「いいんだ、じゃあ園田が場所を決めて俺が奢るそれでいいじゃん」

 

「それで…いいのでしょうか?」

 

「いいよ。じゃ、これも約束だよ」

 

「はい!」

後ろの顔の様子は分からないけど明るい返事が返ってきた。これからの約束が俺の動力になる。1歩1歩着実に進んでる。雨はもう降ってない、月が顔を出し始め、星が広がっていく。

少し開けた場所に出たからか星が季節外れの天の川のようで鏡のように逆転した道が俺たちの進むべき道筋に沿っている気がして顔を上げ足は自然に天の川を追ってる。

 

「綺麗ですね…」

 

「追っていこう!」

どこまでも駆けて行けると思う。

 

「わ、速いですよ和也さん」

 

「大丈夫!この星の続くところまでならどこまでも行ける!」

歩みは速くなるけど疲れてる気はしない。闇をも切り裂き光に溢れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駆けることどれくらいだろうか空は藍色から淡い青色へと変わっていき星も煌めきが見えずらくなってきた。

 

「もうこんな時間か」

スマホとライトのバッテリーはとっくに切れたが空の明るさは視界の確保には充分だった。

 

 

 

「あれはテントじゃないですか?」

 

「火が見える!戻ってこれた…」

歩き続け何時間か分からないけど日の入りから日の出までずっと探してたことは想像がついた。

 

 

 

「帰ってきたぞ!!」

 

「「海未ちゃん!!」」

 

「和也!!」

 

「…お疲れ様」

 

「あぁ、ちゃんと帰ってきたよ」

 

「やってくれると思ったぞ」

 

「最初は否定してたくせに」

 

「うっせぇ、確認だ確認」

 

「よかったぁ無事で」

 

「もう会えないかと思って…」

 

「そんな…申し訳ないです。私はここにいますからもうどこへも行きません」

 

「そうだよね、よかったぁ」

 

「とりあえずテントに海未ちゃん運びなよ」

 

「そう…だな」

みんなに会ったからかなホッとして力が抜け始めてる。あともう少し頑張らないとな…。

 

 

 

「いける?」

 

「はい、ありがとうございました。このお礼はまた後日に」

 

「はいはい、じゃ安静にしてなよ?」

 

「こんな時くらいはちゃんと和也さんの言うこと従いますよ」

 

「うん、よろしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この一夜で何かが変化した気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一件落着だな」

 

「…あぁ、途中滝があったんだ」

 

「滝?地図にそんなのなかったよね」

 

「おう」

 

「俺もそう思ったんだけどさ、あれは間違いなく滝だったしそこに園田が倒れてた」

 

「…なんだか怖い話だね」

 

「更に言うとさ…」

 

「わー僕もうお腹いっぱい先帰ってるー」

 

「まだ朝飯食ってないのに」

 

「そう言う意味じゃないでしょ」

 

「あ、飯!」

 

「俺はもういいよ、流石に疲れたわ…」

 

「そりゃな」

 

「はは、あんなサバイバル初めて…」

 

「改めて」

 

 

 

 

 

 

「「お疲れ様」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ身体だっる」

自分のテントに行くまでの道のりすら歩いたのかも覚えてないし目は覚めても金縛りとは違う身体的な疲れが身体を襲ってて起き上がるのがキツい。

 

「おはよう、でももう時間だよ?」

 

「マジっすか、さっさとテント出ます」

こんなのトチ狂って弓道やってた時でもなかった。なんか全身ジンジンするし。荷物は元々固めていたしなんとか這いずりながら外に出る。

このテントもう一晩お世話になってるはずだったんだけども…まぁ今となってはいい思い出になるのかな。

 

「俺が速攻でぱぱぱっと片付けてやるぜ」

 

「なんか頼りになるねー」

 

「おうよ」

俺が体育座りしているだけでどんどんテントが片付いていく。

 

 

 

 

「いっちょあがり」

 

「さっすがぁ」

 

「じゃ集合場所まで行くぞー」

 

「はーい」

約3日ひたすらにサバイバルをし続けたこの場所とももうお別れだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たやつから順に乗っていけー」

 

「F班全員揃ってます」

 

「F班だな…乗っていいぞ」

 

 

 

「和也帰り寝るの?」

 

「あぁ一旦休むわ」

 

「そう、ならあの窓側座っておきなよ」

 

「て言ったってあれ別の人の席だろ」

 

「もう許可は取ってるから、それに僕達の隣じゃうるさくて寝れないだろうし」

 

「…ごめん恩に着るよ。といっても陸斗達の前の席だろ?」

 

「そうそう、また起きたら騒げばいいよ」

 

「だな、おやすみー」

 

「おやすみー」

陸斗に言われた席に座り上着を被り視界を暗くする。すぐに眠るだろう、そう思い目を瞑れば周りの話し声は次第に聞こえなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?ここですか」

 

「うん、海未ちゃん帰りのバスで寝るってさっき言ってたし、ことりは別の席あるから大丈夫だよ?」

 

「そうですか…あの、隣に座ってるパーカーをフードから丸ごと被っている人は?」

 

「あー穂乃果ちゃんの席も寝る人に譲ってほしいってさっき陸斗くんにお願いされたから。でももう寝てるみたいし何かされることはないんじゃないかな…」

 

「ですよね、わざわざ気遣いありがとうございます」

 

「海未ちゃんこそお疲れ様」

 

「行きは4時間ほどかかりましたし十分睡眠は取れそうですね」

 

「うん、サービスエリアの休憩の時にまた起こすね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んーと?あれ今どこだろ」

なんというかこういう疲労が溜まりに溜まった状態でも俺は簡単に起きれるみたいだ。東京どころか時間も1時間半ほどしか経っていない。そして、首が痛い。窓にもたれて寝ていたため道路の段差の振動で首がイカれた。

首をなんとかしようと首を1、2回曲げる。全く良くならなかったけど。バス内は非常に騒がしい。みんな意外と元気なのな…

 

が、俺にそれ以上の衝撃を与えることが起こるとは予想だにしなかった。

 

「…えぇ」

隣に座っているのはまさかの園田。彼女は同じ規則で寝息を立てスヤスヤの眠っていた。席移動激しすぎるんだよな。涼輝達は涼輝達で楽しそうだしもう一眠りしよう。今度は椅子にもたれる形で、そうしないと首がもたない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…いつのまにか寝てしまったみたいで…す」

 

「……すぅ」

 

「へっ?え、あ、やはり相当疲れていたんでしょうね」

海未がそう思った理由は1つ。和也さんが私にもたれながら寝ていたから。

起きた瞬間にもぞもぞと動いたことの後悔と内心異性がこういう体制で寝ることもないに等しい海未にとっては新鮮というか衝撃だらけというか…顔が赤くなってるのが自分でもわかるし心臓も鼓動をいつもより感じる。相手に鼓動が響いていないかそれが1番の心配であったりする。

 

「起こすのもどうかと思いますし…そのままにしておきましょう」

彼の顔は真横と言っていいほど近い。頭を撫で…なんてことはやめておく。私を探すために夜通し捜索を続け更には歩けなかった私をおぶってテントまで戻ってくれた。多大な迷惑をかけてしまったけど…

 

 

 

 

 

「ありがとうございます。私の…」

その声はバスの騒音で消えた。

 




今回も読んでいただきありがとうございました。

なんとなくもうちょっと話を詰めれた気もするんですけどね。他の小説様よりも進行スピードが早くなりがちなのが少し課題になっているかなと感じ始めてます。

次回についてですができれば2月上旬には投稿したいと考えております。色々すっ飛ばすかある程度日常回になるかは未定ですが気を長くしてお待ち下さい。

最後にルーミアは可愛いさんお気に入り登録ありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 反響

お久しぶりの新茶です。
2月予定とはと大抵の方がお思いになっていると思われます。大変申し訳ございません。
もうこの謝りが薄っぺらいものではないかと感じ始めています…

あと、海未ちゃん誕生日おめでとう!特別なことはしないけど。

では今回も、どうぞ。


寝たあとは大変だった。

起こしてもらったと思ったら俺は園田にもたれてるし、園田は園田で顔を赤らめながらもジッとして起こさないようにしてくれていたみたいだ。

 

「海未ちゃーん、サービスエリア着い…たけど」

 

「ん?…」

ここで目が覚めたんだよ俺は。何が何だか分からなかった。

 

「え?あっ、えっと」

 

「そういう…関係?」

 

「ち、違いますよ!」

横で否定している彼女にもたれる俺は寝ぼけながらも態勢を椅子の背もたれにもたれるようにする。

 

「海未ちゃん顔真っ赤ぁー」

 

「えーなになに?」

 

「和也君がね海未ちゃんに」

 

「き、気のせいです!!」

気のせいってなんだ…一応加害者?だからカバーはしとくか。

 

 

 

「そうそう気のせいだって」

ごめん、寝起きすぎて正直浮かばんかった。

 

 

 

まぁ必死に説得して無理やり言いくるめたけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く…とんでもない目に遭った」

俺が悪いとはいえまさかあんなことになるとは…。で、だ。今日から弓道部に復帰だ。思った以上に密度の濃い1週間でかつ身体は休んでないんじゃないかな。今も足に少し違和感があるけど。主にふくらはぎと首が。

 

 

 

先輩への挨拶も済ませ久しぶりに袴を着て弓を持つ。

 

 

 

「あれ?どうやって引いたんだっけ。なんか気持ち悪いな」

以前の感覚が何一つ残っておらず矢を番えずに素引きを繰り返すものの吹き返さなかった。弓道は1日休むとその1日を取り戻すのに3日かかると誰かが言ってた。

とりあえず矢を1本持ち引いてみることにした。うん、知ってたけどこれは外しすぎだろ。まるで中たらん。

 

仕方なく弓を弓立てに置き、見つめて考えに耽る。

 

 

 

「どう?久しぶりの弓道の調子は?」

 

「分かったことを…」

いつも楽しそうにする岡城先輩の顔はニコニコとしていた。

 

「そりゃそうよねー。でも、ここからだからね。君がそうして再スタートしてくれるならそれでいいよ」

 

「…先輩」

 

「私だって謹慎命令出した張本人だし、それなりの責任は取らないといけないかなーとか」

 

「はぁ…責任は要らないです。自分は目標がある限りは必ず達成してみせます」

 

「その言葉期待してるよ?」

 

「達成した時には何か奢ってくださいよ」

 

「うーん考えとく」

 

「そこはキチッと言ってくださいよ」

 

「冗談、ちゃんと何かしら奢ってあげる」

 

「なら、頑張らせていただきます」

改めて思うけどいい先輩だよなぁ。こんな先輩がいてくれて良かったもんだ。今日はもう終わりにして切り上げよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「和也さん、調子はどうだったんですか?」

俺と園田はスタスタと帰路を進んでいた。元々この辺に住むのは2人だけだから基本的にお互いの用事がない限りは一緒に帰っている。ここらも何かと物騒だからな。この前だって不審者情報の連絡用紙が配られたくらいだし。

 

「何となく予想はついてるんだろ?」

 

「はい、今日の様子からしても大体」

 

「ま、矢が的まで届いてたし1週間ぶりにしてはいい方だと思うよ。今までできていたことがほぼ全てできなくなってるけど」

 

「弓道に関してはこれからオフシーズンですしゆっくり進めていけばいいと思いますよ?」

 

「あぁ、ありがたいことにオフシーズンだからな。あと、明日って奢りの件行けるか?」

 

「明日は確か午前練習でしたね。午後からもとくに予定はないですし私は構いませんが」

 

「ならよかった。でも明日昼から生徒会の仕事あるから…3時前には終わらせるつもりだけど」

 

「大丈夫ですよ。食べに行く場所も遠くないですし、連絡さえ取ればいつでも食べに行けると思いますが」

園田が望む場所はそれほどに園田は常連なのか?連絡ひとつで…なんてのも言ってるし。

 

「…なるほど」

話が急展開過ぎたかと思いつつも約束を取り付けれたのでオッケーだ。今から楽しみにしている自分の顔もなんか想像できてしまう。

 

「では、ここで。いつも送っていただいてありがとうございます」

 

 

「ああ、明日楽しみにしてるよ」

 

「はい、私もです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーやっべぇ」

家に帰り復習用のノートを開き教科書とにらめっこをしていたが時間とはにらめっこしていなかったようで晩飯の買い物も準備も何もしていなかった。そんな中俺はドタドタとうるさく階段を降りていた。

 

部屋着を脱ぎ既に沈みかけの日を窓の外に見据えながらハンガーにかけていたコートをハンガーが落ちるのも気付かず着ているとインターホンが鳴った。画面を見るからに配達みたいで返事をすると快い返事も返ってきた。

 

 

 

「はい?」

 

「えーとお届け物です。優しい両親ですね」

 

「ん?…はい、ありがとうございます」

正直なんのことかわかってないけど。なぜ俺の親を知ってるのかも分からないし。

 

「では、失礼します」

 

「ありがとうございました。お仕事引き続き頑張ってください」

 

「そちらもいい一年を。後で伝票の確認もしておいてくださいー」

最後まで発言がイマイチ不思議だったけど何かあるのか?ステキな配達業者が返ったあとリビングの机に薄型ながらも両手で抱えるくらいの配達物を置いた。

伝票を確認して欲しいと言われたのでとりあえず捲ってみると伝票の裏側には『息子の誕生日なんで軽く祝ってあげてください』と書かれていた。

その字体はよく見たことがある字で、

 

「父さん…」

紛れもなく父の字だった。そう確信した瞬間サンタさんからプレゼントを貰った翌朝のように配達物をドタバタと開けた。梱包を丁寧に外しダンボールを開けると光に反射し保護シートで見づらいものの、ノートパソコンが入っていた。そして、その近くには1つの封筒。

 

どちらから開けるべきか迷いはしたが封筒を手に取り丁寧に開けていった。

 

『和也へ

元気にしてるか?その歳で一人暮らしさせてしまうのは本当に申し訳ないと思っている。まずはすまん。

だからと言ってはなんだが今年はサプライズ的なノリで母さんと相談した結果ちょっとだけ早い誕生日プレゼントとしてノートパソコンを送らせてもらう。お前も一人前の人間になろうとしている時期なのだからこれくらいはしてやって当然だと思っているからな。この機会に新調してまた一つ成長してほしい。次に会うときにはとても逞しい姿をしていることを期待しているからな。また遊びに行くぞ。

父より』

 

 

 

「はぁ…しんみりするなぁ」

こういう手紙を見るとやはり自分の家から自分以外の声が聞こえないのは寂しいものだと思う。それでも俺は生きていかないといけないし、絶対真っ当な人間にならなければならない。

 

「ありがたく使わせてもらうよ、父さん」

封の空いた封筒を端に避け中身をどんどんと出していく。ノートパソコン以外にも色々ソフトウェアだったり外部コンテンツやら付属品も山ほど出てきて何から手をつけるべきなのかよく分からなくなった。

 

「だけどこれ時間かかるやつだぞ…」

1つ1つ動作を確認しながらソフトをダウンロードしてみたり色々やってみる。

これは忘れていることだが晩飯は脳から消えていた。

 

 

 

 

結局俺はこの夜高度な電子機器との熾烈な勝負を繰り広げた。その勝負は日付が変わるくらいまで続きやっと終わった。

 

その時に気づいたんだ。

 

「あ、飯食ってない…コンビニ行こ」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「では、これより生徒会活動を行います」

午前中に練習をした後、弓道場を後にし今は生徒会室だ。試験的な導入も兼ねてノートパソコンも持ってきてみた。

 

「先に確認しとくわ…そのパソコンは、何?」

 

「作業用だったりメモや議論を纏めるなら便利かと思いまして」

 

「もうエリート会社員やん。生徒会でそういうの使えるのは助かるよ?」

 

「そりゃありがたいですけどここの面接官には通るかは怪しいみたいですよ」

絢瀬先輩は渋い顔を浮かべていた。この手の機器が苦手なのだろうか。本当のところ東條先輩を味方につけた時点で俺の勝利は決まっている。

 

「そうよね、希の意見も一理あるわ。これから先はこういう作業波野君に任せようかしら」

あの言い方からするに否定されると思ったがそうでもなかったみたいだ。許可も頂いたしこれで暴れまわってやろうと思う。もちろん良い方向に。

 

「いつものように脱線したがるから進めるわよ」

 

「今日のお仕事は何ですか?」

 

「まず意見ボックスを開いてみましょう」

箱型で上に紙をいれるところがあって…簡単に言えば学校生活を良くするために意見をくださいってことだな。

 

底のロックをかけていた部分を外すと大小の大きさと形はあるものの十数枚の紙が長机の上に少し散らばり落ちた。

 

「手分けして見ていきましょう。何かあればすぐに言って」

 

「ふむふむ…」

近くにある何枚かを攫い順番に見ていく。半分ふざけた内容もあったが…絢瀬先輩は付き合っていますか?って意見に書いちゃダメだろ。名前までご丁寧に…ってこれ俺の隣の席の奴じゃん。

 

「あの、こんなのが」

 

「何かしら?」

さっきの紙を机越しに渡してみると白い肌に対して顔が赤くなっているのもわかった。

 

「なんてもの渡してくれてるのよ…」

 

「えっ?エリチが付き合っていますか?ってー。近頃はこんな大胆な男子もいるんや」

 

「そ、そういう問題じゃないわよ!この紙は処分します!」

 

「夢破れたり」

 

「あーあ会う前からフラれるとはかわいそうに」

 

「全く、男子ってみんなこんな感じなのかしら」

 

「いや、違いますというか男子で一括りにしないでもらえますかね」

 

「あーあ波野君も被害者に」

 

「はぁどっと疲れたわ、少しお茶でも淹れようかしら」

 

「じゃ自分はまた作業に戻りますね」

 

「うちと波野君の分のお茶ももちろん淹れてくれるやんな?」

 

「もちろんよ」

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜やっぱり落ち着くわね。お茶は」

 

「美味しいですね」

 

「最高やねぇ〜」

 

「そういえばこの学校って体育祭ありましたっけ」

何故俺が今そんな質問をしたか、それは手元に握られたよく見慣れた気もする字が教えてくれた。

 

「うーん、ないね」

 

「言われてみればって感じだけど、その通りではあるわ。他の学校なら普通に有ってもおかしくない行事だし」

 

「じゃあやらないんですか?」

 

「今までやった記録はないみたい」

お茶を啜る役員と記録簿をペラペラとめくる副会長、そして今の話に俯き加減に考えに耽る会長のよく分からない立ち位置の三角形。俺は2人を視界に入れるように広くとっていた。

 

「この際やってみましょうか、だけどそれ以上の問題もあるわ。それを解決してからにしましょうそれでも遅くないわ」

 

「その問題というのは?」

 

「この学校の入学希望者が年々減っていることよ」

少し落ちたトーンから発せられた言葉はこの部屋の空気を凍らせるのには十分だった。敢えて視線を机の少し陥没し壊れている穴に目を向けていた。

 

「現にうちらの学年は3クラスやけど、波野君たちの学年は2クラスや」

 

「来年1クラスになってもおかしくはない…と?」

 

「ええ、現時点ではそれも覚悟してるわ。しかし、私達生徒会はこれを阻止しなければならない」

会長の目はその先を見据えていた。冷酷ながらも希望を燃やしていた。会長としての責任、この学校を背負う者としての覚悟、全てを肌で感じた。

 

「最終に…いえなんでもありません」

 

「波野君、その可能性も十分にあるよ」

 

「人の心を読まないでもらえますか」

 

「…だけど、事はうまく進んでいないわ」

3人とも前にそれを察していた。先月、今月に行われた学校見学会は正直良い収穫があったとは言えなかった。

まず、来る人が少なく思えた。興味があって音乃木坂に見学に来ているならまだしも見学にすら来ていないならこの学校への進学はほとんど望めないと言っても過言ではない。

見学に来ていてもそれは何校かの1つであって確実に来るとも限らない。人数が少なくなればなるほどドツボにハマるのはこちら側だ。

 

この学校が歴史があるにも関わらずここ何年かで人数を減らした理由、それは

 

 

 

「UTX…」

そうポツリと呟いた。

 

UTX学院、最近になってできた俺の家から音乃木坂への通学路と真逆の方向にある学校だ。校舎が近代の会社のオフィスビルのようになっていて設備も最先端を進んでいる。。

更に追い討ちとなったのはA-RISEというスクールアイドル。涼輝から散々話を聞かされたので知らないわけではないが、あの学校には追い風が吹いていることは確かだ。

 

「波野君、それは一種の正解であって一種の不正解でもあるわ」

 

正解は相手の方が長所が多い結果時代とともに廃るのは当然だということ。

不正解はただの言い訳でしかなく、自分達の努力不足またはそれ以外の分かっていないことが判明すらしていないこと。

 

完璧な答えでは絶対にない。俺も見つけ出せていないのが現状。

 

 

 

「考えすぎても仕方ないわ。また家で考えましょう」

強引に話を打ち切った絢瀬先輩の顔には笑顔なんてものはなかった。こんな時にどうすることもできない自分が悔しくて腹が立つ。

 

「あとは切れ気味の蛍光灯が多いのと資料室の管理が少しできてないってことくらいかな」

 

「体育祭はアンケートを実施してやるやらないの方針を決めるべきだと思うのですが」

 

「報告しておくわ」

 

「後程文書をつくって先生に印刷してもらえるようお願いしておきます」

 

「早速そのノートパソコンの出番やね」

ある意味試験的導入を兼ねてこういうことをやってもいいだろう。先生にやってもらうと何かと自分達が思っていることと違っていたりするし。

 

「じゃあお願いするわ、また後日確認させてもらいましょう」

 

 

 

確認を取り大体意見もまとまったところで放送が鳴った。

 

『生徒会役員は理事長室に来てください』

 

 

 

「色々まとまりましたし行きましょうか」

お茶が残っていた湯呑みを顔にかかるくらいにまで傾けて一気に飲み干す。今からよく話すことになりそうだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

「わざわざお呼び立てして申し訳ないわね。今回呼んだ件だけれど」

 

「入学希望者数のことですか?」

絢瀬先輩が即答、一瞬絢瀬先輩を見ることはあったがすぐに理事長の眼を見る。

 

「ええ、今の調子ならかなりの定員割れは覚悟しないといけないわ」

 

「…そうですか、お力になれず申し訳ありません」

淡々とした言葉が刺さる。努力したところで解決しない問題なんて世の中にはいくつもある。今俺は現実と唇を噛み締めている。

 

「いえ、謝って欲しい訳ではないんですよ?あなた方にはここまで進んで学校を助けてもらい感謝しています」

 

「もう一度チャンスをもらえないでしょうか」

 

「…今くらいが潮時じゃないかしら」

 

「いえ、まだやらせてもらえませんか。…お願いします」

生徒会が学校をより良いものとして活動することの意味は何だろうか。まだまだ知らないことばかりだ。

絢瀬先輩は頭を下げ、くくられたブロンドの髪が重力に従って垂れる。俺も頭を下げた。何ができるかは分からないけど助けにならなければならない、そんな気がした。

 

「そう…また頑張っていただけますか。あなた方がそう言ってくれることに私はとても嬉しいです」

 

「ありがとうございます」

 

「別件ですが、絢瀬先輩」

 

「そうだったわ。理事長、生徒の意見から自分の学校には体育祭がないのかというのがありまして」

 

「それを実施したいかというアンケートを行いたい…かしら?」

 

「はい」

 

「構いませんが好ましい結果になるとは限らないことを前提においてください」

 

「ありがとうございます」

 

「これくらいかしら、わざわざ集まってくださりありがとう。これからも生徒会として実りある行動を心がけるよう頑張ってください。あと波野君は少し残ってもらえますか?」

 

「…?分かりました」

 

「では私達は先に失礼します。波野君、もう自由解散にするからそのまま帰って大丈夫だから」

 

 

 

 

 

 

 

「何かありましたか?」

心当たりが何もない中で相手との心理戦を行うというのがどれだけ難しいことか。ましてや相手はこの学校の根幹を支える人物、比べ者にならない天上の人だ。

 

「生徒会とは関係がないのだけれど娘の友人がお世話になっているみたいだから」

…娘の?理事長の苗字は南。そしてベージュの髪の色と髪型から予測できるのは。

 

「まさか、ことりさんの母親…ですか?」

 

「ええ、本人もあまりバラしてはいないようだけど」

そう思えばますます似ているようにみえてきた。雰囲気だって…いやもう本人が大人になった時こうなるんだろうなと思える。

 

「そうですか、自分は大したことはしてないですよ」

 

「ことりが海未ちゃんが弓道部で男子と親しくなってるからビックリしたなんて言ってたから」

 

「ああ…今では1年の部員は園田と2人ですからね。頼らせてもらっています」

意外ととんでも発言されているし、しているのかもしれない。

 

「ふふ、弓道部の活躍を期待してるわよ」

妖艶な笑みは俺の心を鷲掴みされているようで吸い込まれそうになったが踏みとどまった。これほど近くで大人の女性を見るのも案外久しぶりなのかもしれない。

 

「園田にも伝えておきます」

 

「関係ないことで引き止めてごめんなさいね」

 

「いえいえ、わざわざありがとうございました」

平気で話していた人が理事長の娘とは。恐ろしいこともあるんだな。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「待たせたっ」

案外時間に余裕がなくドタバタしたものの約束の3時には園田の家に着いていた。

 

「大丈夫ですよ、時間には間に合っているんですからそんなに焦らなくても」

 

「そう言ってくれるならありがたい」

 

「じゃあ、行きましょう。晩御飯が食べれる程度に食べますからね」

 

「存分にどうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

「和也さん生徒会やってますけど、どんな感じなんですか?」

ほぼ通学路をいつもとは違う私服で歩いている手前いつもとは感覚も雰囲気も違う。はたから見てみればどう思われるのかは俺自身よく分からないから放っておくことにする。

 

「うーんどうと言われてもなぁ。別にそこまで難しい仕事を求められているわけでもないし先輩方も優しいよ?」

 

「絢瀬先輩もですか?」

 

「やっぱりそうなるか。確かにあの人は何もない状態から接しに行くのが1番難しいかもな」

 

「怖がっている人も噂では多いようなので」

生徒会長って威厳があってどこでも恐れられる対象なのか。それか、絢瀬先輩が自分からその圧倒的なオーラを発しているか…俺は後者だと思うけど。

 

「何かと責任ある立場だからなぁ、先生との信頼関係もそこそこに重要かもな」

 

「責任感ですか…私では生徒会に入ることはないでしょうね」

 

「そうか?園田ならできそうなものだけど」

何か嫌な魔が差した。雀の囀りだろうか、遠くから聞こえる。少しの静かな間だった。

 

 

 

 

 

 

 

「私にとってあなたはあまりも出来すぎた人です」

 

 

 

 

 

 

「…そう、か」

先程と同じ言葉を発していることに俺は多分気付いてない。その意味も否定しているのかよく分からない受け入れをしているのかまるで違うのに。言葉は伝えれば全てが簡単に脆く崩れるのに。

 

その言葉が俺の身体に重くのしかかった。肩に呪いのように取れない重いリュックを背負っている気分。俺には重すぎる言葉だ。

 

「それほどできた人間ではないよ。多分…いつか脆く崩れると思う」

園田は黙ってた。納得なんてしてないだろう、褒められているのに俺はまだ下手に出そうとしている。

相手からしても印象は悪くなるけど、否定したい部分はちゃんとしないとのちに関わってくるから…

 

「俺にとってみれば園田は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやなんでもない」

結局はこの言葉で済ませてしまうんだ俺は。今だってお互いが思っていることは刺し違えてる。一方的に刺さったままだ。己の刃は手元から動かない。いや動かそうとしなかったんだ。

この関係が破綻することは絶対に今は避けなければならない。

 

「そうですか」

園田は少し目線を外した。空を眺め飛ぶ鳥を微かに眼が追いかけていた。

 

「湿っぽい話になりましたね。奢ってもらう場所はここですよ?」

 

「ああ、って穂むらなのか」

予想外で若干無視しかけたものの反転し扉の近くに戻った。

 

「ええ、それがどうかされましたか?」

 

「いや、早く入ろうぜ」

 

 

 

 

「いらっしゃいませ…エッ!?」

割烹着姿でお客さんを迎えていた雪穂ちゃんが営業スマイルから一転、驚きで顔が歪んでいたけどかわいそうだからそれ以上は言わないでおこう。

 

「雪穂どうかしたのー?」

 

「あーなんでもないからー」

 

「お久しぶりですね、雪穂」

 

「そうですね海未さん」

 

「いつの日かぶりだな」

 

「はい、和也さん」

 

「「「………」」」

なんか気まずい。何だろうこの空気これが俗に言う修羅場というやつなのだろうか。陸斗に聞けば違うと言われそうだけど。

 

「ええええええ!!!???」

また雪穂ちゃんが叫んだ。脳内で推理が固まったのかな。

 

「あ、うん…。弓道部で一緒なんだ」

 

「いつも和也さんにはお世話になっていますから」

 

「そう見るとチャラくも…あ、何も」

なんだろう、初対面が馴れ馴れしかったかな。隣にいる人といればそう思われることもないだろうけど。

 

「どういう態度をとっていたのですか…」

 

「さぁ?園田のお陰でイメージを払拭できたことは感謝してる」

 

「あはは、お姉ちゃん呼んできましょうか?」

 

「いえ、今回は穂乃果に会いにきたわけではありませんので。どうせ早めに出された炬燵で寝ているのでしょう?」

やはりここは高坂穂乃果の家だったか。そう見ると確かに似てるなぁ…あれ?これさっきのデジャブじゃね?

 

「流石海未さんですね…その通りでしたよ」

店の奥の多分居住スペースを見て渋い顔をして帰って来たことで大体は察することができた。

 

「実は今もお姉ちゃんの勤務時間だったりして」

 

「なんで全てを見透かしてるんですか。和也さんは」

 

「また穂乃果は…」

 

「じゃあ、手柄を横取りされる前に注文させてもらうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「案外久しぶりのほむまん…買いすぎましたかね」

 

「俺の分もあるし。あとは」

 

「ええ、雪穂この中から好きなものを選んで取ってください」

少し奥の方で整理を行っていた雪穂ちゃんを呼び出し、勤務時間外の労働としてのご褒美的なことを俺が提案した。といっても饅頭が広がるばかりだが。

 

「悪いですよ、仮にも店番任されているんですから」

 

「俺が買ったんだしどうするかは自由だろ?」

 

「…ぐうの音も出ないです。お姉ちゃんが試食して気になってたこれをいただきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、今度の日曜のオフ空いてますか?」

 

「空いてるよ。何か用か?」

 

「ええ、山に紅葉をと思いまして。文化祭の時に言っていたではありませんか」

そうだったなと俺自身も結構忘れていた。もう紅葉の季節もほぼ終わりかけだ。行く時間がなかったにしろもうダメかとは思っているけど。

 

「次の日曜っていったらほぼほぼ12月になるけど…紅葉見れるのか?」

 

「今年は紅葉の時期が例年よりも相当遅くて今週の日曜くらいまでなら楽しめると言っていましたよ」

そういや朝のテレビの特集でも時期をずらしてゆっくり紅葉狩りなんてのもやってたしいけるか。でもあれもっと東北の方じゃなかったっけ?まぁいいや。

 

「じゃあ行くか。山はまた連絡して決めよう」

 

「楽しみです!」

饅頭を食べながら幸せそうな顔を浮かべる園田を見ながらお茶を啜っていた。

 

「あーあ俺も妹か弟がほしかったかなぁ」

雪穂ちゃんを見ていると思うけどあーいう人が1人いて欲しい気持ちになる。

 

「和也さんはお姉さんが1人でしたよね。私のところには雪穂と同い年の中2の弟が1人いますよ」

 

「へー弟いるんだ。姉ってどういう気分なんだ?」

 

「うーん、あんまり気にしたことはありませんね。喧嘩をするわけでもないですし、普段関わるかと言われると特には。ですが、あの家は私が守らなければならないという自覚が湧きましたね」

 

「そうだよな。俺もその立場なら辛い思いをしてるのかも」

 

「私の弟…優雨(ゆう)と言いますが園田という家系に生まれたことを彼自身どう思っているかは私は分かりません」

日舞は女性が行う。その家系に生まれたということは演者としては生きていけないし、肩書きを生かすこともできない。俺が弟なら多分姉さんへ劣等感を抱くと思う。

 

将来を見据えた人間と見据えていない人間、行動に移しやすいのは自然とわかる。

彼は路頭に迷い考え続けるんだろうな。この家にとって自分がどういう存在なのかってのを。中学2年生が持つ悩みとは到底思えない。

 

「俺なら…いっそ家出してるかもな」

 

「和也さん…私は優雨が何か言われようものなら庇い守ることを胸に置いています。それが私の1つのしてあげられることだと思っていますし、姉としても継承者としても代わりは私以外いませんから」

薄っすらと笑みを浮かべた園田がどれほどの苦労を隠しているか俺には計り知れなかった。いや、俺の器では元から計れないんだ。

 

先ほどのことを訂正しよう。将来を見据えた人間はその将来を勝ち取るために行動をし続けてなければいけないということ。見据えていない人間よりもずっと走り続けなければならない。

 

「何も背負うこともない俺は目標ありきなのかも」

 

「目標、ですか?」

 

「ああ、多分な。目標がある限りは頑張れると思う。期間が短ければ短いほど余計にな」

 

「私と和也さんは全く違うところにいますが、結論は似ているようですね」

 

「俺もそう思っているよ、お互いに高め合えば更に強くなれる。そういう意味ではこれからも頑張ってよ?園田」

 

「負けてられませんね。和也さんも日頃の行いを怠るなんてことはしないでくださいよ」

 

「もちろん」

最後の1つの饅頭を食べ、熱いお茶とは言えなくなったお茶を飲み席を立った。

 

「では、雪穂長居してしまって申し訳ありません」

 

「お仕事頑張ってな」

 

「いえいえ、お客さん全然来ませんし楽ですよこれくらい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…優雨、無…して……かな」

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「なんでもない、です。部活も頑張ってください」

帰り際扉を閉める時に雪穂ちゃんが何か言った気がして聞き返したけど俺のことじゃないみたいだから気にしないことにした。

 

 

 

「久しぶりにこれほど食べた気がしますね」

 

「やっぱここ美味しいよな」

 

「いつまでも食べていたい味です。今日はありがとうございました」

 

「こっちも楽しませてもらったし。今度は日曜かな?」

 

「はい、楽しみにしています。山登りは楽しいですよ!」

 

「お手柔らかにね」

 

 

 

 




今回も読んでいただきありがとうございました。

自分が何か伝統の家系だったなんて聞いたら正直滅入りますね。歌舞伎とかそういう部類の方々は本当に凄いと思います。今の自分に何故か感謝しようかなんて考えました。

ついでにですがこの小説を投稿し始めてから1周年が経ちました。1年でこんなけかよ、的なことは自分がよく理解していますしめちゃくちゃわかりやすかったです。ペースを上げていけるよう頑張ります。

最後にあかり4さん、優しい傭兵さん、蒼瑪瑙さん、chobi9829さん、邪帝真眼さんお気に入り登録ありがとうございます。

引き続け感想なども募集しております。どんなことでも気軽に書いてみてください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話 晩秋の紅山に2人は映える

なんと言いますかお久しぶりです。
新学期から私生活のほどが忙しく執筆時間を確保できないままズルズルとずれ込んでしまいました。ある程度は一旦落ち着いたため、どうにか投稿できました。
大変申し訳ございませんでした。


では、今回は紅葉狩りに行くところからですね。どうぞ。


「たまにはこういう長閑な感じもいいよなぁ」

 

「都会から離れるというのも時には大切ですね」

俺と園田はローカルな電車にゆられつつ目的地まで移動している。今から山登りますよオーラ全開の格好とお前はにわか登山者か?と言われそうな格好。この対極図は頭を悩ませるものがあった。頭痛が痛い、その程度のことなのだけれど。

 

いやまさか7時集合とは思わなかったなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どこ行く?』

 

『あまり知られて無さそうなスポットはないのでしょうか?』

 

『パパッと調べてみるわ』

これだけで場所は簡単に決まるかもしれない。調べてみれば結構出てくるもんだな。名前の聞いたことない山ばかりで少し心配だが。

 

『この山、良さそうだけど結構標高高いな』

適当にスクショしたものをURLと一緒に何回か貼り付け反応を伺っていた。

 

『いいじゃないですか』

 

「え?マジ?」と画面の前で言ってしまったのちに文字の訂正がないかをちゃんと確認した。ホームページには山頂までロープウェイで気軽に行けます!って書いているしこれのことか。

 

『ああ、ロープウェイ使うのね』

 

 

 

 

『え?山を楽しむんですから歩くに決まっているではありませんか』

 

『あーごめんごめん』

あ、これガチのやつだと確信した瞬間だった。別に俺も求めてない訳ではないけどまさか園田が山ガールタイプだとは思ってなかった。何度でもツッコまれただろう。なぜ海未が山と…?

 

しょうもない話は置いておくとして大体のことは決まった。あとは持ち物とか、向こうの方がスペシャリストだからなんでも聞いてみる、これがある意味間違いだった。

一覧を書き出してくれたのだが紅葉を見に行くのにこれほどまでに荷物が必要なのだろうか。

 

『そんなにいる?』

 

『要りますよ。まだ足りてないくらいです』

どれだけ荷物あるんだ…。青いキツネの異次元ポケット的なのがないと入らないだろ。

 

『今回は本格的にな山登りじゃないんだしテレビで見るあのストック?みたいなやつも多分いらないし』

 

『そうでしょうか』

 

『うん』

 

『…リュック1つで済むように検討します』

 

 

 

 

 

 

 

のはずだったのにそのリュック1つがめちゃくちゃデカい。俺の2倍から3倍くらい容量のあるものを持って来やがった…別に言ったことは破ってないし何も言わないけどさ。

 

「よく背負えるね」

 

「ええ、これくらいは必要最低限かなと」

なんだろう。よく芸能人とかである離婚の理由で価値観の違いみたいなことがうっすら分かった気がした。この程度のことではバッサリいくほどピリピリとした性格はしていない。

 

「よければ持つけど」

 

「いえ、いざという時に自分の持ち物が分からなければ意味がありませんから」

相変わらずどこまでも徹底してるなぁと思いながら窓の外を眺めていた。高層ビルなんてものは見当たらず、遠くにぼんやり高速道路が見える程度。電車の駆動音が心地よかった。

 

こうやって知らない土地に来た時に何か人や物で知っていることがあると安心するな。景色から目を逸らし隣に顔を向けるとゴムを手に通し髪を結う園田がありがたく思えた。

俺に気づいたのか少し顔を向け視線を向けてくれている。

 

「ありがとう、一緒に来てくれて」

 

「こちらこそありがとうございます。今日1日楽しみましょう」

 

「ああ、楽しみだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「写真よりも綺麗だな」

 

「これは当たりを引いたみたいですね」

指定の駅を降りると山の全貌が駅舎からすぐに見えた。山は暖色で染めており都会とは違った雰囲気だ。ホームページの写真と見比べても現実に見たほうが彩りも鮮やかにみえる。

 

入山届け?とか言うものをすらすらと書く。鉛筆を持ったなんていつぶりだろうか。懐かしさに触れながらも登山道に足を踏み入れた。

 

 

 

しばらくは木が生い茂りあまり紅葉の景色の感覚はなかった。まだ見せるのは早いと勿体ぶっているのか木は空を塞ぐようにしてその姿を大きく表していた。

しばらく登ればそのうち開けた場所に出るだろうとのんびり考えつつ幾分か前に舗装されたのかは知らないがぼろぼろになり始めている道を進む。

 

園田が前、俺が後ろで歩いているが荷物の差を感じさせない速度で歩いていく。

 

「そんなに飛ばして大丈夫か?」

 

「大丈夫ですよ。やはり空気が澄んでいて気持ちいいですね」

 

「ああ、少しひんやりとしているくらいがちょうどいいな」

いつも人間の繁栄を支えてくれていると思うと自然には頭が上がらない。鳥のさえずりも心地よく日頃の都会の騒音がいかにうるさく種類のあるものか知らされる。

今のところは遊歩道を通っていて、足元には紅葉の特有の整った形があちらこちらに広がっている。家にこういう絨毯欲しいかもと頭によぎったがすぐに合わないなとその考えを切り捨てて遅れないように足を動かすことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なかなかに険しくないか」

せっせと登って行くと舗装された道が姿を消し始め切り開かれたであろうところが無理やり道として脳内変換している気がする。

ゴツゴツとした岩肌が姿を見え始めていて、そこを器用に登っていく園田を景色の中の1つとして後ろを追いかけていた。

 

「これくらいならっ、平気です」

いつもとは違う一面を含んだ笑顔が俺の気力を増長させた。ニコニコとしながら周りを見渡していて園田の瞳は空気が澄んでいるからかいつもよりも美しく見える。瞳の景色の世界に吸い込まれてしまうのではないかと思うほどくっきりと映っている。

 

「何か顔についていますか?」

 

「なんでもないよ」

笑顔で首を振り岩場に立つ姿をまた見つめていた。

 

「そうですか」

 

「本当になんでもないから。ほら、先進まないのか?」

岩場をリズムよく登ってすぐに園田の隣に来る。

 

「全く、そんな登り方危ないですよ?」

 

「そうだな。気をつけるよ」

言葉を受け入れながらもこの気分は抑えられないでいている。悪く言えば口先だけってことだけど今は許してほしい。

こういった時間ってのは人間の感じ方的に早くなるものだ。ずっと続けばいいのにって思うほどに時間は早送りされているように感じる。気がつけば日も相当昇り、あと半日だぞと呟いているようにも見えた。

 

「あそこから景色見えるんじゃないですか?」

園田が指を指した場所は同じ位置に到着した時俺も同じ気持ちになった。

 

「え?ああ、空が広がってる…」

今まで紅葉で青色の空はあまり見えていない。その隙間から何が見えるのか、気になって仕方なかった。

 

「行きましょう!」

この景色が見たくて俺と園田は来たんだ。まだ頂上って訳ではないけれど足が自然と早くなった。

大きいリュックが小刻みに揺れながら進み続け、ついに林道から外に出た。

 

 

 

「…綺麗だ」

こんな景色いつ以来だろう。そして園田と見ているとは思ってもいなかった。

 

ここら辺の山は小規模ながらも紅葉が群生していて山から互いの山の景色を観れるようになっている。

今登っている山は口コミでは登山者が1番少ない。原因としては山の標高が高く登りづらいとか景色を紅葉で埋めることが出来ず他の山の新緑の色をした葉が混ざるからとは書いていた。あとは…ロープウェイの本数が少ないくらいかな。

まぁ本数云々以前に俺と園田は歩いている訳だがいいことはこちらにもあることを景色を見て理解した。

 

ロープウェイと違うところは自分が良いと思う景色に遭遇した時に立ち止まり好きなだけ景色を見れることだ。対称に見える山が燃えるように紅い。

ここまで登山者とは出会っていない。多分ロープウェイを使う人が大半なのだろう。この景色を共有できないというのも悲しい話だけど自分だけが得をした気分が高揚感がこの紅葉狩りの楽しさに拍車をかけていた。

 

「まだ途中ですからね?」

 

「分かってるよ、早く頂上が見たくなってきたな」

頂上の方へ身体を向けると1つの疑問が浮かんだ。

 

「ええ…あそこに見えるのはお寺?でしょうか?」

 

「あれか?」

確かに木が生い茂る中で明らかに加工された木材を使用した雰囲気の違う木造建築の建物が見えた。道端の表記などをみるにもう頂上までそこまで距離はないし、時間的にも昼食も取りたいところではある。

 

「気になるし行ってみようよ」

 

「このまま帰る気にはなれませんね」

 

 

 

 

 

 

 

現在地よりも少し上の方に建物が見えたため見失わないようにしながら道なりに沿って登って行く。

徐々に姿を現していく建物はやはりお寺のようだ。だが、ネットで検索してもあまり良い結果は得られなかった。強いて言うならオカルトっぽいことぐらい。

 

「このお寺はなんなんだ」

 

「あまり話には上がっていませんもんね」

 

「だよなぁ…結構怪しい感じだし」

 

 

 

少しだけ道を逸れて進むとお寺は目と鼻の先にあった。なんとも古めかしい感じで夜に来ると妖怪が湧いてそうな怖さがある。

 

「これは…」

 

「ああ…ヤバめなやつだ」

本堂?に続くであろう木製の両開きの扉には鍵や封印らしきものが…

 

 

 

 

 

 

 

かかってない?

 

 

 

 

 

「まさか、人が住んでる?」

 

「やめてくださいよ」

俺と園田の距離は近くなっていた。彼女は無意識だろうけど俺の腕を掴んで隠れるようにしていた。

 

 

 

「ああーよいしょっと」

 

「ヒッ…」

更に背中に温もりを感じると同時に中から出てきたおじいさんと目が合ってしまった。

 

「ああ、どうもお邪魔してます」

 

「お客さんなんて珍しい」

最小限に開けた扉をゆっくりと閉めようとする時に中が箒とちりとり、バケツに雑巾を柱に固めて置いているのが見えた。

 

「珍しいんですか?」

園田は顔を恐る恐る俺の肩から出し小声で問いかける。

 

「最近ここらに寄る人も少なくなりましてね」

 

「…ロープウェイができたからですか?」

俺はおじいさんの感情が知りたかった。自分達の興味本位で深入りすればおじいさんを怒らせてしまうかもしれない。

怒っているというより不思議な感じのおじいさんの顔はなぜそれほどに興味があるのか訳が分からないと言っているようにみえる。

 

「はて、どうしてだったかな。あんな機械仕掛けのものができる以前に足を使って登る者が少なくなったからじゃないかの」

おじいさんは溜め息を出すことを拒否するように目を瞑った。

 

「ではなぜこの場所を掃除していたんですか?」

 

「…わしはただの通りがかりじゃ」

 

「嘘は言って欲しくないんですが」

 

「はぁ、こんな客人を迎える羽目になるとはな。もう一度言う、あんたら珍しいぞ」

おじいさんは呆れるように中へ戻ろうと背を向けた。

 

「まだ終わって…」

 

「飯は食ったのか?」

 

「…いえ食べていません」

 

「なら裏庭を利用するといい。わしはまだやることがあるのでな、少し失礼するよ」

手を伸ばしおじいさんの背中を捕まえようとしたがやめてその手は太ももに沿うように垂れた。

 

「使わせていただきます。ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

「結局ここって大丈夫なんですか?」

 

「ああ、多分あのおじいさんがキッチリ管理してるから問題ないと思う。裏庭行って昼食取らせてもらおう」

寺の横の人1人通れるくらいの脇道をするすると抜けていく。草むらから生えこのスペースを侵食するであろう草木は見られない。適当に枝先を触れてみるとやはり剪定されている。

 

「和也さんが言っていた通りみたいですね」

俺が枝に触れているのを見た園田が確信したみたいで俺に問いかけた。

 

「あともう少しで分かる…あのおじいさんの残したい想いってのが…」

寺の角を曲がる。少し足取りは重くなったもののすぐに速度を取り戻し目を向けると

 

 

 

 

 

 

 

「すごい…」

 

「ああ…言葉にならないな」

縁側から左右の木々に対してクッキリと空いた中央部は奥の広大な景色をさらに映し出している。その景色から目が離れずゆっくりとした足取りで歩いていく。

縁側にはおじいさんが用意してくださったのだろう。縁側の一部に2人が座れるくらいの大きさの赤い布が敷いてあった。

 

「確かにこの景色を捨てるのは勿体無いな」

縁側に腰掛け荷物を下ろす。床に触れると掌にサラサラとした感触を感じる。

 

「ええ、私もそう思います」

 

「折角だし昼食食べようか」

2人ともリュックを漁り出すが荷物が多い園田に対してなぜか弁当を出すタイミングは一緒だった。

 

「お〜ぷん〜」

楽しげな気分が抜けないまま弁当の蓋を開ける。

今日は弁当を作ってくることになっていたため、蓋を開けて中身が楽しみなんてことはない。その代わりといってはなんだが相手の弁当が気になる。

 

「…彩り豊かだなぁ」

気になったから見てみた。やっぱり最近の女子高生ってこれくらいは作れるものなのかな。中身は勿論、バランや串に至る細部にまで拘られてる。うさぎさんカットのりんごってやっぱりかわいいなぁ。

 

「和也さんだって」

 

「うーんそうだなぁ」

やはり俺は細部にまで拘る気はない。バランは緑のガチの草っぽいやつでいいし、何かと爪楊枝も使い勝手がいい。弁当に可愛さを求めてないなら普通に完成形を迎えているはず。

 

「満足いってない顔しないでくださいよ。シンプルながらにいいお弁当でしょう、卵焼きいただきましたからね。美味しかったです」

言われて弁当箱に目を向けると卵焼きのスペースに空きができていた。ニコニコとした笑顔をこちらに向けしてやったりといった感じ。

 

「んな、いつの間に」

 

「ふふ、いつ食べても美味しいですね。和也さんの卵焼きは」

 

「俺もいただいたからな卵焼き」

 

「へ?」

俺は俺でやられたらやり返すタイプだ。でも、こういうのってやっぱりいつでも楽しいものだな。

 

「園田家の味付けって他の家と少し違う気がする。どこか落ち着く味なんだ。真似をして味付けしてみるけどいつもなんか上手いこといかないんだよなぁ」

 

「そうでしょうか?私からしてみれば和也さんの味付けが気になりますね」

 

「人の家の料理って新鮮だよな」

 

「ええ、また食べさせてくださいね」

 

「それくらいなら全然いつでも」

 

「じゃあ明日に」

 

「明日?ふっ、別にいいけど」

 

「今なんで笑ったんですか!」

 

「別になんもないって。下りのこともあるんだしさっさと食べちゃおうぜ」

ただただその瞬間が楽しくて笑みが零れた。僅かにレンズが曇った気がする。視界が軽くぼやけたのは本当に今を楽しめている証だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おじいさんに挨拶をしてこの隠れた桜の絶景を後にした。最後の最後までおじいさんは俺と園田を不思議な目で見ていたが最初とは違って顔の表情は少し明るかった。

 

 

 

 

「人が多くなってきたな。登山道ではまともに見かけなかったのに」

ロープウェイの駆動音が徐々に聞こえ始め、麓の駅は見えなくなった。もう100mほど登れば頂上だろう。

 

「こちらの道は本当に人を見かけませんでしたね」

 

「ああ、おじいさんの言うこともよく分かる」

やはり時代には逆らえない…か。隣にいる山好きに聞いてみれば多分『自分で登らない山なんてそんなの山登りじゃありません』なんて返ってきそう。俺はどっちでもいいんだけどな、良さはどちらにもあるし。

 

「あー綺麗だな、うん」

正直この風景に見慣れてしまった自分がいる。あのお寺の方がなぁとか思ってしまう。

 

「さっきの方が落ち着きますね」

 

「園田もそう思うか?」

 

「あそこは静かでしたから…ゆっくりと過ごせました」

 

「…どうかしたか?」

風で揺れる草木だけが騒めくあの静かな空間がやはり1番しっくりきた。一瞬園田の不自然な言葉の引っ掛かりを覚えた気がしたが多分気がしただけ。

 

「いえ、なんでもありません。少し写真を撮って下りますか」

 

「あまり遅くならないうちにな」

 

「前のキャンプみたくはならないので安心してください」

ああ、そういうこともあったな。あの時は最初こそ焦ったが途中からは楽しかったし結果オーライな気もする。

 

「ん、俺もそうしてほしい」

しかし、もう一度体験したいかと言われると口は開かないだろう。

 

「貴方達は今ロープウェイできたの?」

 

「ん?あ、いえ、歩いて登って来ました」

 

「やっぱりそうね、乗り場なんかで見かけなかったもの」

つばの広い帽子を被った如何にもなマダムに声をかけられ、咄嗟に返事をするが最後、完全にマダムペースで話が進む。

 

「それがどうかしたのですか?」

 

「特に意味があるとかじゃないの。でも、登ってきたのなら古ぼけたお寺を見かけたかしら」

…?先程の名所のお寺は古ぼけたといった程ではなかった。かといって他に見かけた覚えもないし…。

園田と顔を合わせるも首を横に振って返すだけだった。

 

「途中で1箇所お寺を見ましたが古ぼけたお寺という程ではありませんでした。整備も行き届いていて綺麗でしたし」

 

「あー…そう?ならいいわ。私の勘違いみたい」

 

「な、何かあるんですか?」

 

「本当に寂れていなかったのね?」

『本当に』という言葉がなぜか心をかき混ぜるような不安にさせるような気持ちにさせた。

 

「…ああ、管理をしているであろう人にも会った」

 

「そう…私も若い頃は毎年のようにこの山を登っていてね、最近は歳のせいもあってロープウェイ通いになっているけれど、若い頃に立ち寄ったお寺の景色が絶景だったの」

そう言って近くの木を撫でながら話を続ける。

 

「この子ももっと小さかったのにね、私は衰えていくばかり。

それで1年前に息子に数年行けていなかったお寺の様子を見に行ってもらったんだけれどボロボロで寂れていたって聞いたのよ。だから1年経った今に登ってきた人に声をかけているの」

 

「どんな様子だったかを聞くため…」

マダムが話す延長線上の言葉を被せる。1つの疑念が浮かぶのは必然なはず。

 

「ええ、でもあなた達は今何か迷いが生じ始めた」

 

「…ッ!、よくお分かりですね」

 

「和也さん、確かめに行きませんか」

 

「ああ、どのような姿だったか話すのは1年後になると思うが」

 

「そうね…話すまでもない気もするけど」

 

「何か仰りましたか?」

 

「いえ、また1年後に会いましょう。お邪魔しました。デートのほど楽しんでくださいね」

 

「残念ながらデートでは…。わざわざお声がけいただきありがとうございました」

 

「失礼します」

 

 

 

 

 

「さて、行くか」

 

「…はい」

 

「怖いか?」

俺もそうだが嫌なことばかりが脳を過ぎる。突っかかりが取れない。

 

「そう、ですね」

 

「行って見なければ何も分からない。日の入りまでに山を降りるためにも少し急ごう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジか」

 

「…嘘、ですよね」

午前に訪れた時とは全てが違っていた。どこもかしこもが荒れていて草が生い茂っている。お寺はところどころ木がボロボロと腐食している部分もある。人が住んでいるとはとても思えない。

 

「少し行ってみるか、裏庭」

『あの景色』はどうなったのか、現実を見たい。この様相を突きつけられて俺は無意識に何が『本当』なのかわからなくなった。

真実はどこにあるのか、マダムの発言から『あの景色』は予想できてしまう。

 

本当だった。

 

 

 

本当…だった。

 

 

 

 

 

 

「俺の後に付いて来るなら来てくれ」

 

「はい、私も決心がつきました」

お寺の脇道の草むらを分けながら進んで行く。そこまで生い茂っているわけではないがやはり管理されている状態じゃないのは確実だ。

 

俺はどう声をかければ良いのか分からず2人とも無言で何か察したかのように進む。

午前と同じように角を曲がるとそこは一層草むらが生い茂っていた。

 

「やっぱりか」

 

「私たちは…」

 

 

 

 

 

 

 

「いや、ちゃんと来たらしい」

縁側には赤い布が敷かれていた。しかも、この空間から切り離されていたように真新しい状態で。

 

「この布…」

 

「はぁ、俺もよく分からなくなってきた。あのマダムが言ってたことが正しかったのは事実だ」

 

「何を思ったんでしょうねあの方は…」

 

「さぁな、俺たちが分かることじゃない。少し急がないと日が暮れそうだ」

あと1年後にまた機会があるかもしれない。その時までこの想いは閉まっておくことにした。

 

「また、来れますか?」

 

「ああ、俺達が望むならな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝とは違う沿線の景色を見ながら電車が揺れる。乗っている人はあまりおらずほぼ貸し切りのような状態だ。そんな中聞こえるのは電車の駆動音だけだった。

 

何かを話すこともなく、ただ目を閉じる訳でもなく時間が過ぎていくばかりでその空間は普段1人で生活しているとは思えないほど息苦しい。

ふとした瞬間に横から身体に圧力がかかる。

 

「…寝たのか、そっとしておこう」

肩をなるべく動かさず身体を捩り楽な体勢にもっていく。彼女の制汗剤の匂いがうっすらとして眠くなってきた。

 

電車の揺れが徐々に心地の良いものに変わっていき、疲労感からか瞼が重くなってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、おじいさん」

 

 

 

そう思いふと山の方が気になったがただ山は遠ざかり流れていくだけだった。

 




今回も読んでいただきありがとうございました。
謎が謎を呼ぶこの低クォリティ的な何かをよく分からない方向に持っていってしまったのは正直困っていますがどうにかします。(笑)
時間があるうちに書き溜めたいところですが書きたいこともまだ決まっておらず普通に時間がかかると思われます。気長に待っていただけると幸いです。




最後にみーとさん、ツナマヨ大佐さん、宇治末千さんお気に入り登録ありがとうございます。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話 クリスマス会

約8ヶ月ぶりくらいの新茶です。
今まで連絡なども行わないまま放置しており大変申し訳ございませんでした。少しづつ執筆は進めておりましたが構成がまとまらないことに加え、生活に余裕がなくなったことが今回のような事態をさらに助長させてしまいました。
今年は5年ぶりくらいにインフルにもかかりました。皆さんもこれからの環境の変化などお身体をご自愛くださるようお願いします。


「期末テスト、終わったねー」

 

「「そーだなぁ」」

河川敷なんていうラフな環境のスポットは見つからなかったために俺の家でテスト終わりで完全燃焼した3人がテーブルを囲んで座っている。

 

「なー、なんかしようぜ」

涼輝がそう呟くものの、彼自身からもやる気は感じられない。とりあえず俺は席を立ち冷蔵庫にジュース類を取りに行くことにする。

 

「やっぱり今年もこの時期は暇だなぁ」

寝転がりスマホを両手でいじり続けていた陸斗がそう呟く。俺だって暇にしたい気分では勿論ない訳だが。

 

「クーリスマスが今年もやってくるー」

 

「嬉しかったできごとを?」

 

「消し去るように?」

 

「は?」

 

「え?」

 

「…エゲつなぁ」

 

「そんな歌詞求めてないから!」

唐突な涼輝の歌い出しから絶望的な陸斗の繋ぎで色々とショックを感じる俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、結局のところどうするの?」

先ほどのクリスマスソングらしく期末テストの終わりによってもうすぐ12月も中旬に突入する。みんな部活があると言えばそれで済むが、認めたくないだけでなく更にどんちゃん騒ぎしたいのが毎年の恒例。

 

「とりあえずゲームしながらでもさ」

 

「バカか、それで毎年結局決まらなくて俺ん家に毎年突撃されるのが困るんだよ」

親がいる時に連絡なしで来るもんだからマジビビった。姉さんは色んな意味で『大丈夫?』みたいな顔されたし。父さんはゲラゲラ笑い出すし、母さんなんて案外冷静に『ご飯一緒にどう?』とか言うから…

 

「毎年楽しい感じじゃん」

 

「普通の家ならそれこそアウトだよ」

 

「でも、今年は家族いないんだよね?」

 

「一人暮らしだからな…って行かせないからな?」

 

「いつも通りでいいだろ?」

 

「今年もクリスマスケーキ買ってくるじゃん」

 

「違う、そうじゃない」

今年も騒がしいクリスマスになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、何作ろうかな…」

今年は母さんが作れるわけもなく1人ということもあって何を作るか1人で決めて1人で作らないといけないのが非常に辛いところ。

 

「あいつら本当にケーキ買ってくるんだろうな…」

これで普通に七面鳥でーすとか言われたら洒落にならないけど信じるしかないか。

 

「とりあえずスーパー行ってから決めるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、来たはいいが」

とりあえず買い物カゴを手に取るもののカゴはこの10分ほど空のままだ。さらに言えば商品を手に取ってすらない。

 

このまま時間を潰せるほど俺も暇じゃない、何か変化が欲しいのだが…。

と思って適当に店内を見渡すと久しぶりに見る黒髪ツインテールが印象的な先輩が目に入った。

 

「あの人矢澤先輩か?」

それほど派手な服を着ているわけでもない。あの人の性格的に…なんてこと思うものの、見かけで判断するのは良くないと直ぐに切り捨てる。

矢澤先輩は2つの商品を手に取っては悩み片方の商品を元に戻しカゴに入れる。

 

ある程度片がついたのか息を吐き顔を上げた先輩と目が合ってしまった。

 

「あっ」

 

「お久しぶりで…」

 

「見てた?」

 

「見てました」

 

「あっそ」

短い言葉のやりとりを続けしばらく商品棚を挟み沈黙が続く。

 

「逃げるが…」

 

「こんなところで逃げて何になるんですか」

 

「待てと言われて待つ奴がどこにいるのよ…と言いたいところだけど場所だしにこも荷物があるし」

 

「待てとすら言ってないんですが」

 

「で、そんな素っ頓狂な顔してどうしたわけ?」

 

「いや、先輩がスーパーで買い物してるところが絵にならなかったもので。料理されるんですか?」

 

「ち、違うわよ。にこはママのおつかい頼まれてるだけだからー」

この言葉に少々半笑いな先輩に疑いの目を向ける。

 

「なによ!疑ってるわけ?」

逆ギレも混ざりつつ言い返してくる先輩に俺は素直に頼み込むことにした。

 

「そんなとんでもない。夕食の買い物ですか?」

 

「まぁね。クリスマスが近いし、ちょっとしたことは妹たちにしてあげたいからそのことも考えのうちにいれてるのよ」

 

「先輩、妹いたんですね」

 

「弟もいるわよ」

 

「そんな先輩にちょっとしたお願いがあるんですけど」

 

「なに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言うわけで…」

ことのあらすじを噛み砕いて説明し何か反応を求めた。

 

「んーそうね…というかあんた料理できるの?」

 

「ええ、先輩と違ってひと通りは」

ちょっとしたことで釣り出してみる。これも俺の中では楽しいひと時。

 

「にこだって料理できるわよ!」

 

「やっぱり」

 

「…ママに教えてもらっているだけよ」

 

「ええ…で、何をするべきですかね」

 

「はぁ…今ので話す気が失せたけどまあいいわ。結局のところ変なところで悩みすぎよあんた」

 

「と、いうと?」

 

「シンプルイズベストでいいじゃないってこと」

 

「え?1週回ってそうなりますか」

最初にシンプルでいいよなとは思っていたがあいつらのことだからと変にこだわりを入れようとしていたのだ。

 

「それが1番よ、何かあっても対応が効きやすい。変なところに足伸ばしてドツボにハマるのがオチよ」

 

「流石ですね、先輩に聞いてよかったと思います」

 

「当たり前よ、にこがアドバイスしたんだから最高のものにしなさい!」

 

「はい!失礼します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一連のものを買い込み、作るものを整理する。

 

七面鳥の丸焼きをしたかったがある程度の大きさに分けておくことにした。それ以外は基本的に調べれば出てくるかな。

あいつらがケーキを買うならデザートはある程度少なめでいい。午後から作り始めれば十分間に合うはずだ。最悪作りながらやれるし2人にも手伝って貰えばいいか。

 

目安で時間配分を決めて今日は寝ることにする。まぁ日を跨いでいたから既に今日の楽しみになりつつあるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝を少しゆっくりと過ごした後時間のかかりそうなものや再加熱すればどうにかなるものを先に調理することにした。

コーヒーを飲みながらレシピを検索しようとお湯を沸かしているところでインターホンが鳴った。

 

「はーい、いまいきまーす」

火を止めスタスタと歩き、ドアを一度躊躇してから開けた。

 

 

 

 

 

 

「…こんにちは」

そこにはコートを羽織り少し頬を赤く染めた園田がいた。なんでここに来れたのだろうと思いつつもとりあえず家に上げるべきだ、部屋着で出てきたから俺も寒いし。

 

「こんにちは」

 

「とりあえず、上がっていく?飲み物くらいならすぐにご馳走できるけど」

 

「そうですね、では上がらせていただきます」

 

「入ったらそのまま真っ直ぐ行くとリビングだからそこに来てくれたらいいよー」

先にリビングにもどり再び火をつけやかんの上に手を添えながらなぜここに来たのかをずっと考えていた。

 

「お邪魔します…」

 

「適当にかけといて、すぐ温かいもの出すから」

 

「いえ、いいんです。今日来たのは涼輝さん…から招待してもらったのです」

 

「あーそういう感じか、でもそれは今日の夜の話だろ?」

 

「ですが、和也さんが今年は全て作ると聞いたので任せっきりにするのも申し訳ないと思ったので」

 

「そうか…」

義理堅い園田らしい行動だった。今日だって時間を何かしらで潰しながら自宅で待てばいいのに。

 

「ダメでしたか?」

園田は不安そうに俺の顔を見てきた。何を考えているから分からず不安にさせたらしい。こうなれば断るのは至難の技であることを今年俺は学んだ。

 

「いーや、人数が増えるならメニューやら量やらを増やした方がいいかなと思ってさ、是非とも手伝い頼めるか?」

 

「そのために来ましたから」

 

「ありがとう、ということはほかの2人も来るのか?」

 

「はい、一応時間はそのままということで。あと量に関しては2人がお菓子を多目に持ってくるらしいので大丈夫だと思います」

 

「了解。紅茶でも飲んで休憩してからでも十分間に合うから少しのんびりしよう」

お盆に乗せたお茶菓子と気分を変え2つの紅茶をさっと出し、微笑んだ。

 

「はい、喜んでいただきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、レシピに関しては粗方コピーしておいたし俺はメインの方作るから、園田はデザートの方頼む」

 

「はい、これを見ながら作ればいいんですね?」

家から持ってきたのかエプロンを着ながら俺に聞き返す。日頃から料理をしているのは知っていたものの、エプロン姿は初めて見るし何より元から大人っぽいのもあってとても似合っている。

 

「ああ、別に急いで作る必要はないから。あとはさっとできるものばかりだし、何かあれば全然聞いてくれ」

 

「頼りにしてますよ」

 

「そりゃどうも」

 

 

 

 

 

 

「まぁ豪勢なものを作るわけでもないしソース作って馴染ませてオーブンでじっくりで終わりだしな」

ある程度鶏肉をカットしてしまい、余計な脂身を取り除いていく。

園田はテーブルの方で生地を鼻歌を歌いながら作っていた。

 

「楽しそうだな」

 

「ええ、こういうの久しぶりですから」

 

「久しぶりってのは?」

 

「穂乃果とことりと仲良くなって少し経った頃ですかね。急にことりがみんなでケーキ作りたいって言い出したことがあって…。私と穂乃果は家柄的な向きから和風が軸であることが明白でしたからケーキ作りなんて以ての外だったわけです」

 

「根っからの和と和菓子屋だもんな」

たしかに、洋菓子を作ろうとはほとんどならないだろうな。しかも、初めてがケーキとレベルはそれなりに高めだし。

よく考えてみれば俺もこういう機会くらいで基本的に三食作る程度だ。

 

「誕生日にはケーキを買ってきてくれてましたし、全くというわけではないのですが」

 

「家柄って色々変えるんだな」

 

「たとえどうであっても私は今が幸せですから」

そんな彼女の笑顔が眩しいくらいに俺の目に映り込んできて微笑ましくなった。

 

「幸せ…か」

1年を振り返るには少し早いかもしれない。それでも、今年は何もかもが初めてで真新しくて、そして何よりたのしかった。

苦悩することも多かった、それでも何もかもが自分に必要なことであったのも事実。園田と出会えたことが1番良かった出来事かもしれない。

 

「どうかしましたか?」

つい、手が止まっていたらしい。すぐに包丁を持ち直し葉を刻み静かな音を立てた。

 

「えっとさ、この1年楽しかったなって」

別に大したことではないかもしれないけど、微笑んでくれる園田にありがたさがあった。

 

「ふふ、私もそう思います」

 

「今日が楽しいな」

 

「今晩も楽しまないと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後、煮込んだり、冷やしたりと俺と園田の手を煩わせない工程が続いている。少し過ぎたものの時計は間食の時間帯を指しており、俺は冷蔵庫から冷やしたカップを1つ取り出す。

 

「とりあえずお疲れ様」

 

「お疲れ様です」

 

「手伝ってくれたお礼というわけではないんだけど、これ食べてみてくれない?」

先程出したものをスプーンと一緒に出す。ついでにとお湯を沸かした。

 

「これは?デザートの類ですよね?」

 

「ああ、チョコビスケットを細かく砕いてから溶かしたホワイトチョコと和えて冷やしてみたんだ。さっきの料理の余り物の家のもので作ってみたんだけど」

 

「食べてみても?」

 

「もちろん」

作ってみたとは言ったが流石に恩を仇で返すわけにもいかないし、ある程度はちゃんと確証を持った上で作っている。

 

「いただきます」

ひと時も作法を忘れず手を合わせてから食べ始める彼女は流石としか言いようがなかった。わざとらしいことが顔に出ないようにとスマホを取り出しそちらに目を向けるものがないかとひたすらにアプリやら検索ワードを漁る。すると小さい声で、

 

「美味しい…」

その声で顔を上げて様子を見てしまう。

 

「そう?」

 

「はい!とても美味しいです」

 

「ならよかったよ」

とりあえず一安心した。本当に不味かったらシャレにならない。

 

「もう少し詳しく教えていただけませんか?」

 

「というのは?」

 

「このデザートです…美味しかったので家も作りたいのです」

最後の方が聞き取りづらかったもののそういうことならと園田を手で『ちょっと待ってて』と合図を送る。自室に向かいルーズリーフとボールペンを持ってリビングに戻る。

時に手が止まりながらも時にスラスラと分かりやすい説明を探した結果だ。

 

「これくらいかな、どうぞー」

 

「ありがとうございます」

 

「そんなに美味しかったか?」

 

「もちろん、よければ一口」

タイミングを失って内心頭を抱えるものの別に白状したところで大した騒ぎでもない。

 

「前に似たものを作ったことはあったんだ。味も似たようなものだし食べなよ、せっかく作ったんだしさ」

 

「わかりました…」

少し寂しげながらもスプーンを口に運べば口角が少し上がっている気もする。

これだけ喜んでくれるなら時折新しいデザートを提供してみるかと口角が少し上がった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きたぞぉぉ〜」

 

「はいはい、開けるから静かにしろ」

 

「お〜っす」

日付だけみると最近の割には久しぶりだと思う顔ぶれ。ドアを開けた正面にケーキを見せつける涼輝、左右に穂乃果、ことり。涼輝の肩から顔を無理やり出す陸斗。

 

「やっほ〜」

 

「久しぶり〜」

 

「元気?」

 

 

「さぁ、上がってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

「「「メリークリスマース」」」

クリスマスの夜はどこまでも盛り上がった。

 

「これうめぇ」

 

「こっちもおいしいよ」

 

「このチキンって和也くんが作ったの?」

 

「まぁね、そこのデザートは園田が作った」

 

「すんげぇおいしい」

 

「ありがとうございます」

 

「ゲームソフト持ってきたから後でやろ〜」

 

「やるやる!」

 

「トランプもー」

 

「げ」

 

「どうかしたか?」

 

「何もありませんよ、ははは」

 

 

 

 

 

 

「涼輝と海未ちゃんの一騎打ちだね」

 

「ああ、ちゃんとオチがついて欲しいものだが」

 

「んー和也くんが思っているようにはいかないと思うけど…」

 

「どうしてだ?」

 

「まぁみた方がわかるよね」

 

「うん」

始めたのはババ抜きで現在手札は園田が2枚、涼輝が1枚で今にもカードに手を掛けようとしている。

1抜けだった俺は他が長引いたこともありコーヒーを啜りながらその様子を見ていた。

 

「いやー、うん」

 

「これは」

 

「でしょ」

 

「いつものことだよ」

矢継ぎ早に4人がそれぞれ唸るように声を出した。幼馴染2人にとっては恒例行事だそうだ。

何故そうなったかというと涼輝がカードに手を掛けた瞬間明らかに顔が嬉しそうだったりヤバそうだったりととにかく分かり易すぎる。

両者共に基本的に真っ直ぐ、よって涼輝はヤバそうな顔をした瞬間にそのカードを引き抜いた。

 

「よーし!」

 

「負けてしまいました…もう一回です!」

 

「…自覚してるのか?」

 

「うーん、してないっぽい。ババ抜き始めて10年くらい経つけどいつもこの調子だから」

 

「…教えてやれよ」

 

「いつもああやって迫ってくるんだもん。教えるにもちょっと」

 

「うーん…とりあえずもう一回やろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、またこの対面か」

あのあと何度かやったものの全て園田がカードを引かれて詰む展開だ。ここに来るまでの運も笑えないのは事実だがそれよりも負けが連発するのはやる側としても何というか…要するに勝たせてあげたい。

 

「なぁ、園田の方にサポートに入っちゃうダメか?」

 

「1撃で沈めてや、んーーーーー」

俺の発言を聞いた後の涼輝は明らかに勢いが削がれた。

 

「まぁいいんじゃない?」

 

「じゃあ涼輝には穂乃果が入る!」

 

「「ええ〜」」

陸斗とことりは揃って似たような声を出し結局こうなるのかと項垂れるものの、すぐにこの世紀の一戦を見守ろうと盤上を見つめる。

 

「まず、園田。ただカード出しただけでは多分君は勝てない」

 

「な、何故ですか!」

 

「うーん、それは自分でそのうちだな。で秘策を教える」

負ける確率が100%から50%に減る方法。完全な運頼みではあるが…。

 

「何を仕掛けてくるんだ…?」

 

「本当にそんなことで勝てるのですか。運任せな気もするんですが」

 

「そりゃあ根本的な問題は他にあるけどそれ以外でやるなら、人事を尽くして天命を待つかな」

 

「頑張ります!」

何かを覚悟して2枚のカードを交互に繰ってくる。ひたすらに繰った後そのカードを左右に離すようにしてテーブルにそっと置いた。

 

「別に対して変わんねえじゃねえか」

カードを1枚ずつ手で触れ園田の顔を確かめる。

 

「あれ?」

何度かざしても特徴的な変化が起きない。

この戦いを見守っていた陸斗とことりはヒソヒソと話を始めている。

 

「わかんないよぉ」

頭を抱える穂乃果と眉間に皺を寄せる涼輝、口角があがっているであろう俺、言われたことを必死にこなそうとする園田。

 

「さぁ決めろ」

 

「こっち!」

 

「あっち!」

さらに時間が経って変化してきたことがあり、どちらのカードを触っても園田の顔が険しくなるのだ。これが余計に困惑させる。これは俺の推測だが後々になってくるとこちら側もカードを予想しようとするのだ。だから、ジョーカーはこっちかもしれない、あっちかもしれないと悩み続ける羽目になる。

 

「あーもう!これだぁぁぁ」

カードをめくった涼輝は残念そうな顔をする。

 

「や、やりました!」

 

「ここからは園田の強さが生きる。迷うことなく気持ちを貫いてやれ」

あとは園田の勝負強さがあれば多分大丈夫だ。

 

「はい、引いてく…」

涼輝がカードを構えてから1秒も経たずに引き抜き、マジマジと手元の2枚を見つめる。

 

「揃いました!揃いましたよ!」

さっとカードの山に積み重なるハートとスペードのQが暗示していた。喜びのあまりが腕を組んでなかなかに接触しているのだが本人は気づいていないらしい。

 

「よかった、無事に勝てて」

ホッとできない状況ながらもここまで喜んでくれると素直に口元も緩む。

 

「海未ちゃんが勝ってるとこ初めて見た…」

 

「うん」

幼馴染もこの展開には大真面目に驚いているみたいだ。

 

「初めて?…本当か?」

 

「はい、初めてです!」

 

「はぁ、よかった」

 

「何だよあの作戦」

 

「秘密、教えたらまた園田が負け続ける」

実際のところ、言う言わないに関わらず確率は変化しないのだがな。流石に言ってしまうのも気がひける。まず、大したことをして勝たせた訳でも無いし。

園田はカードを構えた際どちらのカードを引かれるかによって顔に大きな変化があった。なら、カードを見なければどうにかなるかと思ったのだが、終盤にかけてはどちらを引こうとしても表情は変化した。まぁこれは知らず知らずのうちにアドリブでやっていたのだろう。

 

「負けるつもりはありませんからね?」

少し腕の締め付けが強くなったような気がしたが気のせいと信じる。

 

ここからは園田の耳元でしか聞こえない声で話す。

「て、訂正するからさ。その今がっつり腕掴んでるからさ」

自分でもタジタジになっているのは分かっていたもののこれが限界。

耳が瞬く間に赤くなっていき、さっと腕の締め付けがなくなる。

 

「まぁ、園田自身の力で勝てたんだ。よかったじゃん」

 

「それはそうですけど」

少しむすっとした園田を知る由もなく涼輝が冷蔵庫を漁る。

 

「ケーキ食べようぜ」

 

「暖かい飲み物入れ直すね」

 

「手伝います」

 

「お皿出しとくね」

 

「今年のクリスマスももうすぐ終わりか…」

こうして楽しんでくれているなら嬉しい。こういうこともあと何回できるかと考えるとしんみりする。

その瞬間に不思議と過ぎった『廃校』という2文字が感情を一層静かなものにさせた。先日その可能性が高まったことを伝えられたことから、来年度になるだろうか。この話が正式に伝われば少なくともこの場の5人はとても悲しむだろう。

だからこそ、絢瀬先輩も今でも今からでも音乃木坂を廃校にさせないように頑張っている、十中八九結果が分かっていても。南理事長の想いと今の生徒会の行動は相反するものがあって…。

とりあえず、最後の見学会のための準備だ。もしものための企画として提案した体育祭に関してはその後の来年度の予算、年間の行事予定の会議に間に合えばいい。

 

「和也さんどうかしましたか?」

 

「いや、なんでもない。ちょっと考え事」

俺は出来るだけ園田を悲しませたくない。前に言っていたが彼女の母親は音乃木坂が母校だそうだ。こちらとしても何もしないままというのは流石に辛い。それくらい目の前で悲しい姿を見せつけられるのは嫌なのだ。この1年話すことが多かった園田だからこそ余計に。

 

「準備できたよー?」

 

「今行きます、行きましょう和也さん」

 

「おう」

 

「何かあるなら相談してくださいね」

振り向きつつそう言われた俺はただ黙って頷いた。何かを振り切るような完全な否定ができなかった。

 

「和也、早く座れー」

 

「わかったよ」

今は楽しむことにして1人になってから深く考えるべきだと無理やり棚に押し込みケーキを食べることした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、楽しかった」

みんなが帰ってから食器ごとにまとめてくれている食器を洗う。園田が最後も片付けを手伝うといって聞かなかったが流石に夜も遅いと無理やり帰らせた。

 

今日の感想も次第に途切れ、先程のことを思い出す。

 

「まずはある程度どうするべきか絞らないと」

これまでにこういった例で廃校を回避した高校はあるはず。またはどうやって爆発的に人気を伸ばしたか。…しばらくはこれを調べよう。

その中で、絢瀬先輩と意見の合うものがあればとりあえずやってみるのが先決か。東條先輩は東條先輩で何か考える節があるものの多くは語ろうとしない。そこに関しては然程気にしているわけでもなく、ある程度任せているし普段の絢瀬先輩の相談相手でもあるわけだしと忙しい部分は多い。

俺は俺にできることを片っ端からやる。

 

 

 

今年最後の思い出と来年の強い想いが交差した静けさの夜だった。

 

 

 

 

 

***

 

 

〜おまけ〜

 

 

 

 

高坂家では…

 

「じゃあ今年は海未さんとことりさんは来ないんだよね」

 

「ああ、今年は別で誘われたらしい」

 

「そっか、お姉ちゃんもそっちだろうし今年は3人かぁ」

 

「3人?」

 

「うん、場所は伝えているからもうすぐ来るはず」

 

「いつものごとく試作品の饅頭とお茶も貰ったし、気長に待つよ」

そう言ってお茶を啜っているのは園田家の長男である園田優雨(ゆう)だ。

 

「もうちょっと盛り上げようとか思わないの?」

ちゃぶ台に頬杖をついて少しムスッとしているのは高坂家の次女高坂雪穂(ゆきほ)

 

「毎年穂乃果さんがやりたい放題やってるからさ、元の俺なんてこんなもんだよ」

 

「学校でもそんな感じだけどさ…」

内心溜め息をつきながらもなんだかんだで付き合ってくれている彼には感謝している雪穂はこれ以上愚痴を晒して『帰る』なんて言葉は聞きたくない。

 

「帰るなんて言わないよ、『クリスマス』で盛大にパーティするの雪穂のとこくらいで家帰ってもいつも通りだし」

 

「そういう理由!?」

思考を読まれたことよりもクリスマスのことに突っ込まずにはいられない。

 

「なんというかここにいると落ち着くんだよな」

 

「自分の家じゃなくて?」

 

「どちらかというとね」

 

「私はここにこうやっているので十分かなぁ。まぁ優雨が今まさに食べている饅頭には苦労させられることは多いけど」

ちゃぶ台の下からチョコ菓子を取り出し袋を開けて2人の取り出しやすい中間地点に置く。

 

「この店の和菓子は飽きないけどね」

 

「お客さんはみんなそう言ってくれるんだけど身内はどうもね」

 

「穂乃果さんの分を姉さん時々食べてるしね。よく餡子をあれだけ平気で食べて体型維持できてるもんだ」

 

「それセクハラじゃない?」

 

「…悪いな」

優雨はボソッと黙り込んで炬燵に下半身を入れて寝転がったところで雪穂は下にいるお母さんから呼ばれる。

 

「今行くー」

せわしなく階段を降りていく音を聴きながら優雨は静かに考えていた。

こうやって炬燵に入ってゴロゴロするのも家では絶対にしないことなのだが、ここにくるとついやってしまいがちになる。落ち着くなぁ…としみじみ雪穂が帰ってくるまで感じていた。

 

 

 

 

「来たよ!スペシャルゲスト」

扉をサッと開け嬉しそうにする雪穂が見たのは横になって背中を向けた馴染みの姿。

 

「来たんだ、よいしょと」

ゆっくり起き上がり遠慮して端に寄って迎える。

 

「こんにちは?」

 

「もうこんばんはかな?こんばんは。もう1人って亜里沙のことか」

 

「こんばんは、雪穂から誘ってもらってお姉ちゃんが『是非、お邪魔してきなさい』って言ってくれたから」

今来たのは絢瀬亜里沙(ありさ)だ。中学に上がった時に転校生として来たのも結構昔の思い出な気がする。最初はクォーター?って聞いて驚いた部分も多いが雪穂のお陰もあって接することは多い。

 

「そりゃよかった」

 

「みんな座ってよ。パーティ始めよっ」

 

「「はーい」」

クリスマスとは程遠い炬燵を中心としたパーティが始まる3人だった。

 




今回も読んでいただきありがとうございました。
現実でもこんなことができればなーと思います。(遠い目)

これからはしばらくシリアスな感じが続きそうです。今回の件がありながらなんですが、次の投稿もあまり予定は立っておりません。できるだけ早くできるよう頑張ります。

あと、おまけコーナーの3人も普通に掘り下げてあげたいなぁともこっそり思っています。実現するのが何年後になるかはわかりませんが…。



紹介に関しては次話で行わせていただきます。感想、意見募集しています、よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話 絶対成功の意思

お久しぶりです、新茶です。
気がつけば2ヶ月程空きましたが少しずつ書き溜めを作るようになりました。
季節的にはもう6月と初夏を感じるようになり余計にこの小説の投稿の遅さが際立つ訳ですが…。

今回から波野和也の姿について迫っていくようになっていきますのでシリアスモード全開部分が多いです。それはそれでこの作品の特徴でもあるので彼の弱さや強さを知ってもらえればと思います。
では、どうぞ!


クリスマスの頃から月日は流れ1月下旬を迎えていた。生徒会では主に俺が体育祭に向けての資料作成、絢瀬先輩は別方面で学校の廃校阻止に動いてもらいながら卒業式の準備。東條先輩は両面のサポートをお願いしている。

体育祭に関してはまだ生徒用にアンケートも行う必要があるしで問題は山積みだ。

 

「絢瀬先輩、この資料ってありますか?」

 

「あ、うち持ってるわ。ちょっと待ってや」

 

「分かりました。えっとここは後で補完するから空白でいいか」

 

「エリチは何悩んでるの?」

 

「これからどうしたらいいかってこと」

 

「学校を存続させるために?」

パソコンに向き合いながらも耳を向ける。色々調べたりはしているがそれをこの場で考えるのは悪手でしかないのはこの半年学んだ。そのためひたすらキーボードを叩き続ける。

絢瀬先輩は前々から一層学校存続に努力されていた。しかし、現在は少しばかり方向性を変えなければならなくなった。説明会も思う結果が出ず出願者も昨年より減少した。

 

「考えすぎても体に悪いだけですよ」

 

「…でも!」

 

「別に考えるなって言ってるわけではないです。詰まるように考えても視野は狭くなるばかりですから1度頭をスッキリしましょう。自分は少し休憩させてもらいます」

席を立ち『自教室に行ってきます』とだけ伝え、その場を後にする。

 

「そう…ね」

 

「エリチ…」

 

「大丈夫、まだ手はあるはず。彼だって諦めろなんて言ってない。逆にあれだけの資料を作ろうと励んでくれてる」

 

「和也くんがいたことによってできることが増えた。感謝しないとな」

 

「彼に伝えておいてよ?くれぐれも無理は禁物だって」

 

「うん、1度落ち着いて考えてみない?」

 

「温かいもの飲みながら考えましょ、彼が戻ってくるまで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なぜ報われない」

生徒会室から出て廊下を急ぐことなく歩く。

生徒会長があれほど努力してどうして…先輩だって一介の生徒であることには変わらない。

それでも人のせいにできない理由がある。責められる理由があるのかもしれない。

 

「腹が立つ」

何にかは分からないけど1つ言えるのは、努力は時に儚く残酷だ。デスクワークで冷えた手をさすりながら俺自身の挫折や物事の終わりを噛み締めた。

だが今はそんな感情に浸っている場合ではない。とりあえず話を聞きたい人には出来るだけ早くに聞かないといけない。

 

「波野じゃない」

 

「あ、いた」

その話を聞きたいという人が矢澤先輩だ。

 

「いたって何よ」

 

「すみません、少しお話をよろしいですか」

 

「…少しよ」

渋々了承といったところ。それでも聞いてくれるあたりいい先輩なのだ。

 

「…『ARISE』って知ってます?」

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

「はぁ…まさかあれほどむちゃくちゃ言われるとは思わなかった」

聞く人間を間違えた気がすごくする。せめて抑止が聞く涼輝にするべきだったと後悔しているが聞きたいことは聞けたから良しとするか。

先輩には用ができたと連絡して遅くなってもいいようにしている。

 

 

 

『ARISE』

 

 

 

前にも考えさせられたことはあったがちゃんと有識者に聞くべきだったと感じた。

『UTX学院』は音乃木坂の近くにできた高校で設備などそこらの学校とは一線を画す。高校というよりはオフィスというか超大手会社のビルや銀行本社って感じか?

…とりあえずこの学校によって音乃木坂は入学者数が毎年減少していくことに大きく繋がった。

 

そこに拍車を掛けたのが『ARISE』というスクールアイドル。俺はあまり興味を示していなかったが涼輝はその『スクールアイドル』というワードが流行る初期の頃から色々と知っているらしい。

何度か動画を涼輝に見させてもらったがテレビに出ているアイドルに引けを取らないってすごく唸っていた。実際俺もそう思ったしここまで気持ちを芯に持ってやり遂げる凄みも感じた。

これは学校側がやらせているわけじゃない。自分達の意志で行われているもの。それが学校の活性化にさらに勢いをつけているなら周りに敵はいないだろう。

 

今年の夏にはスクールアイドルに関する一大イベントが開催されるらしい。スクールアイドルは今まさに波に乗っている。なら、目には目を歯には歯をと音乃木坂でスクールアイドルを…いや、可能性が低すぎる。それにこれは『ARISE』のように自分達から切り出す必要がある。とても企画云々で済むような話ではない。

じゃあ部活か?それか生徒会?何か動くには…

 

「どれもイマイチ爆発力がない」

何を考えてもダメだ。俺ができるとすれば弓道で何かこの学校を有名にさせることができれば…いや、それも遅すぎる。今年のインターハイに出場できたとしても強豪校なんていくらでもあるし、施設がよくともここを選ぶ理由にはならない。それが1年で大成して多数になるとも思えない。

 

考えるだけで頭が痛くなってくる。そろそろ戻ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、戻ってきたやん」

 

「お待たせしました」

 

「いえ、構わないわ。今度の先生への企画と説明に関してだけど…」

 

「その件に関しては生徒に対しのアンケートの後、先生への説明のどういったものにするかの説明の順で行えれば問題なく進むと思っています」

正直、生徒のことに関しては何も問題なく進行するとと思う。あとは先生をその気にさせられるかや予算の関係など前々から理事長に匂わせておいてはいたが実際どうなるかは不透明だ。

 

「まぁうちら3人やったら先生らに負ける気しやんけどな」

 

「どうして?」

 

「まずはエリチが大体主旨を説明していって、うちと波野君が補完していけばいいと思うんよ」

正直そんなところとは思っていた。まぁ実際大丈夫なんじゃないかと本番でのフィーリング次第でもあるが平気だとは思っていた。

 

「希!そんな簡単に言うけど…」

 

「いけるんじゃないですか?」

 

「波野君まで…」

 

「先輩の協力が不可欠ですが、何としてでもやり遂げますので」

 

「とは言うけれど」

こういうのってやらせたもの勝ちなところあるしと東條先輩をみるとあともう一押しって顔をしている。

 

「うちら3人でむっちゃ大っきいこと達成してみたいやん?」

 

「希…分かったわ、やってやりましょう」

東條先輩の方を見るとやってやった、みたいな顔してた。俺もスイッチが入ったからか気分は上々だ。

 

「資料はこの際作り直しますか、絢瀬先輩が思う存分やりたい放題できるように」

 

「波野君、何言ってるのよ。流石に期間が詰まり過ぎているし私のことは気にしなくていい、あなたの今の資料を見てでも十分言いたいことを伝えられるわ」

 

「俺が満足しないんですよ、最高のものにできるようにしますから」

2人からは何も出てこないようでまたパイプ椅子に座ってパソコンを開く。

 

「…うち今日日直やったから一旦教室戻るわ。1人やったら時間かかるだけやし、エリチも来てくれん?」

 

「?…分かったわ」

そう言って2人は生徒会室を後にした。

俺はどうすれば保守派の先生達を賛成に持っていくことができるか考えていた。あとは、不自然な退出の仕方をした先輩方とか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「希どうしたのよ。あなた今日日直じゃないでしょう」

咄嗟の判断で希の意思を受け取った絵里は困惑しながらも生徒会室から離れたところで真意を問う。

 

「そりゃそうなんやけどな、さっきの波野君ちょっとおかしくなかった?」

 

「おかしかった?」

 

「いや、どちらかというといつもと少し違った。エリチ、人にはそれぞれオーラってのがあってな、その人がどんな人なのかを表す指針になるんよ。例えばオレンジなら明るく元気、青ならクール、物静かとかね」

 

「まぁ、なんとなくイメージはつくけど」

 

「さっきの波野君、途中から何か別のオーラが混ざりこんでいた気がする」

 

「混ざるってそのままの意味よね?」

 

「うん、彼のオーラのイメージは?」

 

「青、紺、藍とかかしら、比較的濃い目の色」

 

「うちもそうやと思った。でもさっきの彼には…」

 

「何が混ざっていたというのよ」

 

 

 

 

 

 

「血のようなそんな色」

 

 

 

 

 

 

 

「…なッ、それは流石に目が利きすぎじゃない?」

 

「これでも少しは濁した表現してる。うちも趣味程度でやってるんやから自信持って言えるわけじゃないけど」

 

「希の占いとかそういう神秘的なものはよく当たるけど…見かけで判断するのも良くないわ」

 

「うん、分かってる。気のせいかもしれんし」

 

「とはいえどこかでその影響が出てこないとも限らない。でも、彼の力がなければ成り立たないし…。気にするべきじゃないかもしれないわ」

 

「…そやね、わざわざ呼んでごめんね」

 

「ううん、気にしないで。何か起こって何も分からないじゃ困るもの。でも一体何がトリガーだったのかしら」

 

「それこそ彼の身近な人に聞けば分かると思うんやけど」

 

「多分ね、あとは私達が踏み込んでいいところなのか」

 

「んーなんとも言えんなぁ。彼が何かしらボロを出すとも思えないし」

 

「それこそ無意識でやられてたらどうしようもないわよ?」

 

「せやなぁ、ほんとどうしよっか」

 

「暫くは何か起こるまで待ちましょう。問題はそれから、やることも多いんだし」

 

「了解、じゃあ戻ろか。なんて言い訳しようか考えものやけど」

 

「そうだったわね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「お疲れ様です、大丈夫でしたか?」

 

「うん、大丈夫大丈夫」

 

「なら良かったです」

何もないなら別にいいかと疑念はスルーしたところ次に絢瀬先輩の質問が来た。

 

「ねぇ波野君、この学校に体育祭を必要とする理由ってなんだと思う?」

それはなんとも言えない質問。ただやりたいからとかそういうのでは隣の芝生は青いってだけだ。じゃあどうすれば納得させることができるのかってなるとやはり…。

 

「ただ無い物ねだりをするわけじゃなくてやっぱり生徒の意見をぶつければいいと思います」

 

「アンケートにコメント欄みたいなのつければいいとか?」

 

「そんな感じです。結果をグラフや表、図にするのは任せてください。確認してもらうことにはなりますが」

 

「ええ、文章は任せてちょうだい」

 

「全然大丈夫そうやね」

 

「油断はできないけどね」

 

「はい、頑張りましょう」

今日はここで解散。あと1週間やれることをやろう。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「では、仕分けをしましょう」

…生徒会室にて、朝礼時に行ったアンケート結果をそれぞれ回収して回ったものを確認していく。

 

 

 

 

 

 

 

「…賛成票がほとんどですね」

 

「そやね、蓋を開けてみればそれほど杞憂するものでもなかったかな」

 

「だからといって反対票を無視することはできないわ、一先ずは全てに目を通しましょう」

 

「はい、なかったことにはしない。異論はありません」

反対意見をあえて書かないことは協議に関して相手に不信感を抱かせる原因になる。少数ながらにその意見を尊重したものにすればより相手を引きつけやすい。対応策があれば尚更のこと。

 

 

 

 

 

いや、違う…!

 

俺はそんな相手の意見を出し抜くような考えをするわけにはいかない。先輩達はそう思ってやっているわけない。

 

 

 

自分達の利益になるように利用するそんなことがあってはならない。生徒の代表であるからこそ平等である必要が…

 

 

 

「波野君?」

 

「…?、どうかしましたか?」

 

「悩みすぎるのも良くないわよ、数日前あなたが言ってくれたわ」

 

「そうですね、すみません」

 

「まぁ頭スッキリさせて考えや」

 

「はい…」

嫌な考えが脳裏を過ぎったが、そんなものは払拭できた。

 

「では、続けるわね。私達はこれまで通り体育祭の開催を推すように進めるわ」

 

「分かっとるよ」

 

「もちろんです、必ず…」

失敗するわけにはいかない、廃校以前にまず絶対に成功させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「このページは丸々全て意見に使おう」

時計は深夜2時を指している。家の中で自室のみに光を点した机にはメモ紙と画面が明るいノートパソコンにひたすらに文字や線が入力されていく。

 

抜粋された文章を出来るだけ脳内に焼き付け素早く打ち込む。静かなタッチ音だけが響く室内は暖房をつけていながらもまだ2月中旬。寒さはそれなりに感じる。

 

「枠を持っていった分次のページもやってしまわないと」

月は既に弧を半分以上描いている。しかし、手は止まる必要を覚えない。

明日1度見てもらって内容の修正をしてもらわなければ。

 

 

 

作業を進めていると新聞配達のバイク音が聞こえる。微かにうちのポストに入る音がし、取りに行こうとも一瞬思うが今は…と椅子から立つことすらしない。

 

進行状況としては特に焦る必要は今のところないのだが、あれもこれもと考えれば考えるほど手をつけたくなる。

全てにおいての可能性を理解した上で進める必要があるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し遅れたな。準備ありがとう」

 

「いえ、前は和也さんにしていただきましたから」

ある日の午前7時、弓道場には2人の姿があった。基本的に2人の場合が多く今日もまた例外ではない。

 

「今日は生徒会で少し用事があるから遅れる」

 

「分かりました、連絡しておきます」

 

「ありがとう。…どうかしたか?」

 

「いえ、ただ少し顔色が優れないなと思いまして」

朝あまり鏡を見る時間がなかったからか見落としていたが、射形の確認用の大きな鏡の側まで行くと、確かに顔は青白く、目の隈もいつもより酷い気がした。

 

「そうだな」

 

「無理しない範囲で留めておいてくださいね」

 

「今日を越えれば比較的落ち着くと思うから」

 

「その言い方大丈夫なんですか?」

 

「ああ、どうにかなるようには頑張る」

多分いつもより反応が悪いのも普通に感じてそうだ。流石に寝不足が祟ってきた感じはあるもののまだ体は動くし、頭も思ったよりスッキリはしている。

 

「本当に大丈夫なのでしょうか…」

 

「気持ちは貰っておくよ」

 

「…明日の朝練は無しにしましょう。いいですね?」

 

「…はい」

いつもより低い声が無音の道場に静かに響いた。何かが取り憑いたような姿で少し下を向いているからか目元は見えないがとんでもない恐ろしい片鱗を見た気がした。

 

「さぁ、引きましょう。いつもより時間もありませんから」

 

「あ、うん」

いつのまにか射場に入っていた園田に呆然としながらも俺は俺で弓を手に持った。

ふと、彼女の射が目に入り手を止める。入学当時から試行錯誤を繰り返して今の射が生まれた。何にも左右されることのないあの瞳が、身体の隅々まで力が込められて一体となった姿が美しいのは俺が園田を最初に見た時となんら変わりはない。今までの生きてきた中での数少ないターニングポイントの1つで、当の本人にとってはそんなこと思ってもいないのだろう。

 

瞼を閉じ数秒が過ぎた時、優しく静かに弦音が響く。刹那、的を射抜き破裂音が響く。

 

「俺も行くか」

よく一手と言われるが矢を2本持ち、出入りを交代するように射場に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は変わり生徒会室にて最後の調整をしていた。

 

 

 

「本当によくこんな資料作ってくるもんだわ…」

 

「うちも正直予想以上やわ。これだけあれば流石になんとでもなるやろ」

 

「…一先ずはどうにかなりました。まぁわざと手を抜いた部分もありますので」

 

「質問された部分は波野君が受け持ってくれると?」

 

「ええ、もちろんです。ぶっ潰してやりますので」

 

「随分と頼もしいやん」

 

「この資料を作ったのは自分ですから」

 

「これ以上はないわね」

全員が1発勝負にも関わらず自信に溢れていた。学校にとって行事が1つ増えることは全てにおいて変化が起きる。その中で生徒の意思を伝え、いかに振り切れるか。

全ては俺と先輩達に託されている。だからやりがいがある。やってみせるのだ。

 

 

 

 

「行きましょう」

 

「うん」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…が今回の概要となります」

絢瀬先輩がまず大まかな内容を伝えていく。冷静ながらも強い気持ちが溢れているからこそ、彼女と関わりの深い先生はまず大丈夫だろう。

 

「質問があれば答えさせていただきます」

 

「じゃあ1つ質問させてもらうね」

 

「はい、お願いします」

 

「君達がこういった大々的に行動を起こした理由を説明してほしい」

 

「…まずきっかけとしては意見箱に意見として寄せられたことに起因します。私個人としても中学時代の友人10人程度に聞きましたがほとんどがメインの行事として成り立っていると分かりました。

そこで、生徒会は生徒に対して面白く、盛り上がる行事の1つであるべきだと考えたためこのような場を用意していただく運びになりました」

 

「そうか、ありがとう」

その後の質問の波にも丁寧な回答が続き、次第に流れは止まった。

 

 

 

 

「…では、生徒会からのプレゼンを終わらせていただきます、ありがとうございました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分は少し話があるようなので先に戻っておいてください」

 

「分かったわ、パソコンとか持って行かなくて大丈夫?」

 

「構いません、自分が持っておきます」

 

「じゃあ一先ずはお先に」

 

「はい、また後で寄ります」

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえずお疲れ様とこれを」

 

「いいんですか、先生」

話というのは担任とだ。誰もいない教室に戻り自分の机の上に座るものの何も口出しをされることはない。ビニール袋ごと飲料3本を手渡されたのは担任だからこそと言えると思う。

 

「ああ、もちろん。あれほどに気持ちをぶつけられると確定だろう」

 

「いい意味でですか?」

 

「当然だ。元々南理事長も生徒会側ではあったし、あれだけ徹底的にリークされると元々反対していた先生もどうにもならん」

 

「その甲斐がありました、こちらの作戦の範疇です」

理事長がこちらの味方だった…?

まぁいい、こちらとしては好都合だ。今回も理事長が場を作って下さらなければどうにもならなかった節はある。

 

「なんだと?あと、この資料は誰が作った?」

会議で配られた資料を机から取り出して見せつけられるが、俺の口角が上がったことは夕陽によって見えないらしい。

 

「自分です。もちろんですが先輩方と話を固めた上で自分が完成させただけです」

 

「本当に言っているのか?」

 

「別にここでデータを見せても構いませんよ?手元にパソコンありますから」

 

「…疑う余地はなさそうだな。全くお前には驚かされるばかりだ」

 

「いえ、ただやろうと思ったことに全力を尽くそうとしただけです」

 

「その結果が作戦ぶっぱなして大成功と。1組の先生が言ってたぞ、『芯の通った大した奴だな、あの2人が仲良くする意味も分かる』ってよ」

あいつらが日頃何を話しているのか少し焦りは感じたものの、いい意味でならと無理やり押し込めた。

 

「有り難い限りです。では、失礼致します」

 

「あーそうだ、最後に1つだけ」

 

「はい」

 

「お前、一旦休んだ方がいいぞ」

 

「…そういうことですか」

 

「会議中は目立たなかったが青白い顔とクマもひどい、お前相当無理してたんじゃないのか」

 

「…平気です。失礼します」

 

 

 

「全く、信用に値しないもんだな。そんな状態じゃ人に迷惑かけるだけだってのに」

担任の独り言が冷えた教室に静かに消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2月14日、おそらくはチョコが1年で最も行き交う日。しかし、朝からいつもは何事も無い様子でいる彼が机に突っ伏し反応が無い様子をクラスメイトは不審に思っていた。

 

「あいつ今日どうしたんだ?」

 

「分かんねぇな、変に起こしちまうのもかわいそうな気がするし、そのままにしておこう」

 

「おはようございます」

そんな時教室に現れたのは園田海未。今日も朝練を終えて余裕を持った状態で着いたのだが、顔は不安げだった。

 

「おはよう、海未ちゃん。今日も朝練?の割には早かったけど」

 

「はい、ですが和也さんが珍しく来なかったので様子の確認も兼ねて早めに切り上げました」

海未は朝学校に着く前に珍しく彼が朝練を休むという連絡を入れてきたことに不安を感じていた。体調が悪いとかそれといった文章は何1つ書かれておらず、触れることができないでいたのだが、

 

「波野君学校に来てから直ぐに机に突っ伏しちゃって、ね?」

 

「おう、いつもしれっとしてるくせに今日はどうしたんだって、さっきまで話してたところ」

 

「そうですか…また起きた時にでも聞いてみます」

 

「また教えてくれや」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

「流石におかしすぎます…」

授業中も周りから見れば多分私らしくないことは承知の上ですが、和也さんを様子を伺っていました。彼は授業中はなんとか板書を取り続けていたようです。しかし、授業が終わるとすぐに机に突っ伏し、力なくだらんとしているのです。それを全部の授業でやられるのですから流石に焦りも出てきます。途中どうしたのかと聞こうとは思いましたが、前述の通り授業中しか起きておらず私とは席が離れているためどうにもなりませんでした。

 

「どうしたんだ園田、珍しく悩み込んで」

 

「先生、今日の和也さんについて何か知りませんか?」

すると、分かりやすそうに顔をしかめて溜め息をつく。

 

「休めよとは昨日の段階で言っていたんだがな。どうも何も聞いちゃいないとはねぇ。まぁ園田はあいつの女房役みたいなところあるし、部活連れて行くなら連れて行くで任せるけど」

 

「にょ、女房役とかななな、何言い出すんですか!」

 

「まあまあ焦りなさんなって、いちいち可愛いやつだな」

 

「なッ!!!」

面白そうに笑う先生に恥ずかしさと怒りが混じったような真っ赤な顔をした園田が文句を言おうとしたところ。

 

「ほら、こんな話しているうちにあいつ起きたみたいだぞ」

ゆっくりと立ち上がった和也は鞄に教科書やらを詰めていき、肩に掛けて教室を直ぐに後にする。

 

「え、ちょっと待ってください、失礼します」

 

「おう、部活頑張ってこいよ。あと波野に何かあればまずはお前が側にいてやってくれ」

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「部活中はいつもと同じ…」

部活が終わり更衣をしている園田は部活中に関してはいつも通りの動きをしている彼に疑問を抱いていた。

流石に勉強があのような状態で部活が平気なわけがないと順々に服を体に重ねていくうちに何か彼の中でよくないことが起こっているのではないかと不安になる。

 

「海未ちゃん…静止してどうしたのかしら!」

 

「ヒッ、何をやって…」

目線を下にすると両手が胸に伸びて来ていることが理解し咄嗟に離れる。

 

「あーまた、人の胸触ろうとして!」

 

「げ、この声は」

 

「あんたまたやったのね!しかも後輩に」

キョトンとしていると現れたのは手の形がそのまま残った先輩の頭に1撃かましたところの岡城先輩。

 

「ちょ、ちょっとくらい」

 

「ちょっととかそういう問題じゃない!海未ちゃん大丈夫?」

 

「ええ、なんとかなっていますが」

 

「この子意外と反応早かったなぁ」

 

「反省してない様子だね。海未ちゃん、先に帰っといていいよ。こいつ絞めてから帰るから」

 

「わ、分かりました。あとお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

更衣室を後にした園田は先に出て帰路に向いた和也を見たが、練習中とは比べ物にならないほどに動きがゆっくりでふらふらとしていた。

 

「和也さん!」

聞こえているのかはたまた後ろを向く気力がないのかは分からないがこのままほっておくわけにもいかないのは確かだった。

 

急いで追いかけて彼の手を掴む。既に場所は校舎内に移っておりあとは靴箱で履き替えるだけなのだが、彼を掴んだ瞬間に微動だに動かなくなった。

 

顔の様子は髪でイマイチ目元が分かりにくいものの、顔色は悪い。どうしようかと思っていたところ…。

 

「ごめ…ん」

今日初めて話した言葉は力のないもので、突然力がスッと抜けた和也を無理やり受け止めた海未はそのまま強引に体を下ろし座った状態で彼を受け止めることに成功する。

彼は最後の力なのか私に対して負荷を掛けるのではなく、あくまでも直ぐに座ろうとしてくれたため、一緒に倒れ込むようなことはなかった。

しかし、その後はがくんと頭が肩に乗って動きがなく、軽く揺さぶって声を掛けても動きがない。

 

 

 

 

 

そんな彼女の声を聞きつけたのか担任と警備員が現れたのは数分後のことだった。

 

 

 

 

 

 




今回も読んでいただきありがとうございます。

前回の投稿で誕生日を祝い忘れたりとドタバタし過ぎで流石にやらかしたなぁと思いました(笑)
今年ももう半年近く、今更ですが令和初投稿でもありましたね。元号が令和のうちには流石に完結すると思いますが…。

次話は激甘と激シリアスの二律背反展開の予定でございますので出来るだけ早めに投稿できればと思います。書き溜めの分もありますしね。



最後にjenwarkさん、N.S.D.Qさん、☆シユウ☆さん、光の王エレノアさん、あかり4さん、長瀬楓さん、拓留.Dさん、ぐんさん、街を笑うサボテンさん、DAIKINさん、KoKeShiさん、プラウダさんお気に入り登録ありがとうございます。

追記、お気に入り登録に関してですが投稿の際には確認を徹底しておりますが名前の空白などによって別名で分けて投稿してしまうことがありましたので謝罪致します。過去作については随時編集し、訂正させていただきます。

私自身こうして自分の小説を評価(別観点ではありますが)していただいた結果と受け止めてこれからも執筆に取り組んでいきます。読者の皆様のひと時の休息となればと思っておりますので確認などを今まで以上に行っていきます。また、何かおかしな点は当者が気になる場合はお手数ですが連絡のほどをよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話 ひと時の幸せ

明けましておめでとうございました。新茶です。

この7ヶ月間投稿から遠ざかり次話を期待してくださる皆様には大変お待たせさせることとなりました、申し訳ございません。リアルでの生活においてプライベートに使える時間がめっきり減ってしまい一時期は投稿させていただいている「ハーメルン」にすらログインすらしていませんでした。何とか年末年始ということで時間を取り次話を投稿させていただく運びになりました。一先ず4月になれば落ち着く…と思います。

これ以上こんな話を続けてもなんだと思いますので本編の方をどうぞ!


 

 

「養護教諭は帰ったみたいだが保健室の利用は問題ない」

 

「すみません、ありがとうございます」

 

「構わん、それよりあいつだ」

 

「………」

2人で支えながら運んだ彼はベッドで静かに目を瞑っている。彼の顔を見ると最後の瞬間の掠れた声が本当の限界だったことを1番に感じていた。

 

「とりあえず、私は置いてきた仕事があるから一旦職員室に戻るわ。悪いがしばらくこいつのお守しといてやってくれ。もしお前の目でみて体調が良くなっていれば一緒に帰れ、戸締りに関しては任せていいから」

 

「すみません、お仕事頑張ってください」

 

「おう、そっちこそ時間使わせてすまんな」

 

「先生じゃなくて彼から言ってもらうことにします」

 

「それもそうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれだけ辛いのなら部活…休めばよかったでしょう」

あれから2時間既に日は落ち、親へ帰宅の遅れを連絡してその後は椅子に座り本を読みながら…といった具合だ。

彼はまだ目覚める気配が見えない。私は穂乃果曰く寝るととても睡眠が深く全くと言っていいほど起きないようです。今の和也さんは相当疲れているのでしょう、ちょっとやそっとでは起きないと思われます。顔色も幾分はマシになりましたが今までの疲労は隠せない様子です。

 

「いつも、何もかもこなしている彼がこうやって目を閉じて眠っているなんて今まで想像もつきませんでした」

今日の休み時間は別としても普段はどうしているのかと不安になるレベルで、最近の生活に関しては後々問いただしたいところではあるのですが…。

 

「う…あ」

 

「!…和也さん!」

 

「…おは、よう」

あまりにも遅い挨拶が誰かの何かに触れたのかはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身体がダルい。

 

企画の成功を収めた夜、晩飯も食べずにベットに制服のままぶっ倒れていた。

とりあえず今日までのことは終わった…って安心している部分もあるが、それ以上に目に見える景色全部に映る白っぽい天井を見上げてずっとボーッとしていた。

気持ちが満たされたような達成感と何かが足りないような違和感に晒されながら、ただ静寂が訪れていた。

 

 

 

 

 

再び日が差して来た頃、起き上がりシャワーへ。

身体は思うように動いていないもののやるべきことは待ってくれない。

とりあえず今から用意して学校に向かったところで日頃の朝練は十分な時間を確保できないし、園田には申し訳ないが休むと連絡しておこう。

 

いつも学校に向かう時間よりも1時間ほど遅く、かといってギリギリの時間にならないように余裕を持って学校に向かった。正直、歩くのも辛くなる部分はあったがそれ以上に学校を休むことを自分が許さなかったし、なぜこれほど身体が動いてくれないのかと苛立ちも少しあった。

 

学校に着いても身体は思うように動かないし机に突っ伏した方がただ座るよりも身体的にはマシだったので特に用もない時間はこうしている。というより、そうしていないと毎時間の授業がもたない。

そういや今日は一言も話していない気がするが今話したところで相手に嫌な印象を与える気しかしない。それを知って知らぬか園田でさえ話しかけてこないし周りは周りで察してくれていると判断した。

 

 

 

 

 

やっと授業が終わりこれから部活というところだが、俺の中で休むなんて選択肢はハナから消えていて、雑に鞄に教科書をぶち込み足早に道場に向かう。

 

 

 

 

 

そこからはハッキリと覚えていることはほとんどない。今何をしているのかすら…分からない。

分からない?俺は今どうしている?目の前は真っ暗で考えだけが浮かんでくる。

徐々に耳が冴えてきたのか周囲の音が聞こえ始めた。といっても殆ど音はせず、強いて言えば誰かの話し声が聞こえる程度だ。立っているのか、座っているのか、身体は水中に放り出されたように感覚が掴めないでいる。どうにか視覚で補おうと俺は目に光を浴びた。

 

 

 

そこは自室にしては白すぎる天井と落ち着きを感じる薄いピンクのカーテンが壁側以外を囲っており、視界の隅には長い髪が揺れている。

 

「う…あ」

久しぶりに出した声は掠れて言葉として認識出来ず、すぐに黙ってしまった。しかし、視覚以上に聴覚はハッキリと聞き取ることができた。

 

「!…和也さん!」

園田の声が聞こえる、その髪の方へとゆっくり顔を向けていく。はっきりと彼女の顔を捉えた時、俺は…

 

 

 

 

「…おは、よう」

園田と今日初めて会話、挨拶をした。

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、おはようございます。体調はいかがですか?」

いつもよりも少し笑みが溢れている園田にホッとする。

 

「ああ、大分マシになったよ。迷惑かけて悪いな」

いつどうなってここに至るのかは正直覚えていないものの、ここに園田がいるということは俺に関わらせてしまったのだろう。

 

「そうですよ、全く人の忠告を無視して倒れるなんて飛んだ馬鹿者ですね」

 

「あ、うん。その件に関しては…」

ここで俺は一言でヤバいと気づいた。いつもと違うオーラ?雰囲気を醸し出す園田にゾッとした。さっきの微笑みすらも今でさえ表情が変わっていない点で察することができた。

 

起きて一言交わした時点であいつはそれなりにお怒りだったのだ。

 

「大体ですね!あなたは何故倒れるまで自分の身体を気にしないで全部こなそうとするのですか!」

 

「それは…」

今まで見たことない血相でマシンガンの如く放たれる言葉に処理が追いついていない。いや、どちらかといえば言われたことが全部正論であるために返す言葉が思いつかず、黙り込む。

 

「黙るということは自覚していたんですね?」

そう、更に俺は地雷を踏み抜いたのだ。どんどんと返す言葉を考える幅すらも狭くなっていく。

 

「いや…」

 

「…もう少し説教が必要ですね」

 

「すみませんでした」

心の骨が折れた俺は完全に諦めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方日が落ちる頃。

 

 

 

「…ここでいいですか?」

教室の鍵番号を段取りよく外すと扉を勢いよく開けて蛍光灯を付ける。

そこには机とは別のそれより大きい長方形の木板や丸められた方眼用紙が置いてあった。

 

「わざわざ申し訳ないわね」

 

「いえ、珍しいなんてもんじゃないですよ、まさか生徒会長から直々に話があるなんて」

 

「そうかしら?あなただって部活をしている身ではあるし、更に言わせてもらうと彼との1番の友人じゃないのかしら?」

 

「ってことは彼の話ですか」

 

「話が早くて助かるわ」

 

「僕に関係する人は今日はもうここには来ません。話があるならじっくり話しましょう」

 

「ええ、よろしく頼むわ。北川陸斗君」

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、早速本題に移らせてもらうわ」

 

「はい」

 

「彼には何か秘密があるの?」

 

「…秘密ですか。現実的な回答をするならば誰しもが秘密は持っていて僕でも知らない部分は山ほど出てくると思います。彼に限っては特に」

 

「………」

 

「分かっています。あなたが話してほしいことはそんなしょうもないことではない」

 

「………」

絢瀬絵里は静かに話を聞いていた。ただ手掛かりを知りたい、その思いで踏み込むべき線引きに片足を踏み込んだのだ。

 

「彼は最近あからさまに無理をしていた」

 

「ええ」

 

「やっぱりですか。僕の目から見ても彼の様子はおかしかったです、ここ1週間は特に」

 

「そうね」

絢瀬絵里は肯定しかしていない。彼の背中に迫る夕日が、その瞳が僅かに橙色に輝いていた。

口元は微かに微笑みを含んでいて、まるで楽しんでいるかのよう。

 

ここで何か疑問を感じた。この場所、よくよく考えてみればここは新聞部の部室だ。北川君にとってのホームグラウンドでもあると思うと私は彼の世界にすら踏み込んでしまったのではないかと恐れを感じた。いくら彼が知っている情報だからとはいえ主導権はあちら側に簡単に移ってしまった。焦りを感じながらも人の秘密を探るのだとそれなりの覚悟がいると自分を納得させる。

 

「彼の特徴を簡単に言いますが、あいつは自分で決めたことに関しては諦めたり、中途半端に終わらせたことは僕の記憶の中ではありません」

 

「それなら…!」

 

「あなたが悩んでいることにもそれは当てはまるのではないのでしょうか?

あと付け足させていただきますが、彼にとって友人、知人、お世話になっている人など好感触な人の情に何か影響を受けているならば更に努力します」

 

「確かに彼から強い願いを受けたわ…」

 

「その結果彼は成し遂げましたか?」

 

「私達の予想をはるかに超えた。彼のお陰で今回の企画が成功したと言っても過言ではないわ」

 

「あいつも変わっていない…か。僕が彼と知り合ったのは中学からですがその頃から彼は自分の可能性を信じて努力を惜しまない人間でした」

 

「そう…」

 

「努力しない人間を嫌い、努力している人には手を差し伸べる。彼は自分自身の心の中に秘めた尊敬という名の理想像に近づけるように努力をする。僕は今まで生きてきてこんな奴に出会ったのは初めてで、その芯の強さ、人間性に惹かれました」

 

「もし私が何かの今までの積み重ねが無かったとしたら彼は力を貸してくれたかしら」

 

「中身によりますが、余程のことがない限り見限られるのがオチかと思います」

彼の強さは利用するには諸刃の剣で自分の行いに助けられた部分が多くホッとする。

 

「あ、大事なことを忘れていました。彼の取説として1番重要なのは『理想像の欠損』です」

 

「欠損…?」

 

「はい、先程言いましたが彼にとって理想像は道標であり越えるためのものです。そして、彼自身も諸刃の剣でもあります」

 

「理想像がなくなるとどうなるの?」

 

「彼にとってのコア、即ち原動力がなくなります。何かに訴え続けてきたあいつが進むべき道を失ったとき、あいつの全ての時が止まります」

 

「動かないってことは…やる気がなくなるとかってことかしら?」

 

「はい、そう思ってもらって構いません。具体的に申し上げるとバーンアウト症候群ってご存知ですか?」

 

「バーンアウト…燃え尽きる?まさか」

 

「流石生徒会長。バーンアウト、日本語に直すと燃え尽きる。よって、燃え尽き症候群です。彼の場合その原動力が消えた場合何もかも手につかなくなります」

 

「今までそういったことはあったの?」

 

「特にはなかった…ように思えますがこれからどうなるかは保証できませんし、まず誰を理想にしているか分からない上に原動力が消えるかどうかはその人の動き方次第だと思います」

 

「誰が考えられるか全く予想できないわ」

 

「他人は他人ですから流石にどうにもいかない部分は多少出てきます。だから、僕からのお願いです。あいつの力になれるように先に立ち続けてもらえませんか」

1番の友達だからこそ心配して、他者のために人に頭を下げることができる…波野和也が日頃から如何に真っ当な人間であるか証明された瞬間だった。

 

「…私だって覚悟して今の話を聞こうと思ったの、当然断る理由なんてないわ」

 

「ありがとうございます。あいつはいい先輩に恵まれました」

 

「私も優秀な後輩を持ってありがたいと思うわ」

 

 

 

 

 

「…エリチ!」

夕日が薄っすらと射し込む程度にまで話していたが突然扉が開きその先にいる希の焦った様子を見て嫌な予感を覚える。

 

「どうしたの、そこまで焦るなんて」

 

「波野君、倒れたって」

 

「なんだと…」

 

「嘘でしょ…」

 

「さっき波野君の担任と会って倒れたって聞いたんや、今日は容態みて帰ったらしいけど」

 

「遅かった…やっぱり無理をさせていたのは嘘じゃなかったのね」

 

「…先輩方のためにあいつが動いたというならさっきのような話にはならないと思います。きっとただ疲れがピークに達しただけかと。次会う時には平気な顔をして現れますよ」

 

「だけど!事実は変わりない。後輩に倒れるまで無理をさせたのよ!必要な犠牲だなんて割り切れるわけないでしょう」

 

「生徒会長を人情の無い人間だとは思っていません。あいつならあなたのことを責めるような真似は絶対しない!」

 

「2人共熱くなりすぎやで、一旦落ち着きや」

 

「すみません…」

 

「北川君の波野君を思いやる気持ちも分かるけどうちらは生徒会として公式に動かせてもらってる。その場が原因で彼が倒れたのならうちらに責任があることは彼がいくら否定したってあるんよ」

 

「…自分はただあいつの気持ちを誤解して欲しくなかっただけです」

 

「私も彼の意思は尊重する。そこまでの想いをもって活動に取り組んでくれたんだから」

 

 

 

「…今日はお開きにしやん?」

 

「ええ」

 

「…分かりました。戸締りなどは自分でやっておくので先に出てください」

 

「よろしく頼むわね、ありがとう」

 

 

 

 

 

 

「あのバカが、心配させてどうする…あいつの理想像は今誰なのか少し調べてみるか」

1人残る教室に一陣の風が吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ、悪かったって」

かれこれ1時間ほど説教され耳にタコができる思いをしながら彼女の話を聞いていた。挨拶を交わせば相手の怒りに触れるなんて想像もしていなかった。こんなに怒る園田が珍しすぎて冷や汗すら出てこなかった。

 

「まだまだ反省が足りません!大体、あなたという人は人にどれだけ迷惑をかければ良いと思っているのですか!」

正論をぶつけられまくり正直精神が潰れかけていたのだが。

 

「お、起きたのか」

 

「先生、ちょうど良かったです」

 

「あいつ分かってるからさ、もうそろそろやめてやれ。波野が参ってるとこなんて貴重なもん見せてもらったしだな」

 

「趣旨が少し違う気がしますが先生がおっしゃるなら」

 

「ご迷惑をお掛けしました、すみません」

 

「一応、東條には言わせてもらった。今日はもう帰ったと伝えたがな」

 

「…そうですか」

自分の行いのせいで周りに迷惑をかけたことを思うと嫌気が差す。いくら成功に結びつく等価交換だとしても他者の気分は優れないものなのだ。

 

「………」

 

「ま、あまり遅くならないようにな」

再びドアは閉じられ2人の空間に戻る。2人には空調の音だけが静かに響いている。

そんなとき、先に話したのは園田からだった。

 

「はぁ、和也さん。今日何の日か覚えていますか」

小さい溜め息をつき話を始められたが今日が何日かは全くと言っていいほど気にしていなかった。

 

「何日?」

 

「2月14日です」

 

「…バレンタインデー?」

 

「ええ、ということでこれは部活の先輩方からです」

園田が紙袋を暖房の当たらない場所であろうところから持ってきてくれた。紙袋自体は洋菓子店のものだが中を覗くとそれぞれ綺麗にラッピングされた袋が入っていた。

 

「みんな手作りしてくれるんだな」

 

「まぁこういうこともありますが、和也さんは日頃の行いが良いですから。当然と言えば当然だと思います」

 

「やっぱり満足してない?」

 

「平気です!平気ですから!」

 

「あ、うん。また先輩方にお礼しとかないとな」

 

「あともう1つあってですね」

 

「もう1つ?」

 

「私からのチョコです」

ベッドの上からは見えず、おそらくは鞄から取り出した小さいながらリボンが付けられた箱が渡された。

 

「本当にいいのか?」

 

「和也さんならもっと美味しいものを作れるとは思いますが」

話している途中ですぐに首を横に振り否定する。

 

「違う、間違っても自分を下げるようなことは言わないでくれ。こうやって渡されたの初めてだし今日だって迷惑掛けたし、あと…何より嬉しい」

 

「う、嬉しいだなんてそんな…大したものじゃありませんから」

 

「ならさ、ここで食べていい?」

後から考えれば相当頭のネジが飛んでいる気もするが疲れていたのか、はたまた園田の控えめな姿勢に意地になったのか強気な発言をしてしまった。

 

「え?いや、そのそれは…こ、ここは保健室ですし今食べるってのはその…」

 

「もう貰ったし自由にさせてもらう」

包みを解き、箱を開けるとトリュフが6個並んで入っていた。

 

「いただくよ?」

 

「そ、そんな勝手に!」

園田の言うことも知らずチョコを口に含んだ。何か願うような正面のかつ結構顔が近い彼女から目を離さない。

 

「ふふ」

 

「どうしたんですか」

徐々に口内の温度でとろけ始めるチョコは俺の顔もとろけさせていたらしい。

 

「美味しくて…さ、俺誰かに何か作ってもらうなんて久しぶりで嬉しくて」

 

「そこまで言わなくても」

薄っすらと頬を赤らめる園田に普段あまり見せないような満面の笑みで答えた。見つめる瞳はワザと横に逸らされている。

 

「それくらいなんだよ、本当に。1つ食べてみなよ美味しいんだからさ折角作ってくれたんだし本人も味合わなきゃ損だって」

 

「それは少し違うと思うのですが。試作を何度も食べましたし」

 

「はい、あーん」

 

「むぐっ」

今日の和也さんは何かがおかしいと思いながらもそれが悪い意味ではないため彼女はそのテンションについて行くしかなかったのだ。

 

「どう?」

元来控えめで冷静な印象の彼が如何にも楽しそうに見える。そこに嘘偽りというのは存在しない。

 

「…試作よりも美味しいです!」

相乗効果なんてあるのか分からないが、今まで作ったどれよりもそのチョコは美味しかった。

 

「やっぱり美味しいんじゃん」

素直に笑う彼の姿に意外性を感じつつもどうやって作ったの?とか何入れたの?と料理を作る2人だからこそ成しえる会話が続く。

 

楽しく話していると和也は僅かなノック音を感知し、チョコを隠すように求める。

 

「分かりました」

 

「おーいもう閉めるぞ」

 

「ちょ、ちょっと待っていただいてもよろしいですか?」

 

「おう、3分以内にな」

思ってた時間と大して変わってねえと思いつつもガサガサと音を出さないようにチョコをそっと鞄にしまい込む。

 

「…家帰ってからまた食べるわ、ありがとう」

園田の耳元で先生に聞こえないように囁くと次第に耳は真っ赤になっていき動作は停止した。

 

「あーごめんって」

身体を揺らすと元に戻ってくれたのが幸いで全てを元に戻してカーテンを全開にする。

 

「お待たせしました…」

 

「おう、体調管理にはくれぐれも気をつけてな」

 

「はい、本当にご迷惑おかけしました」

 

「分かってくれているなら構わないよ」

 

「お先に失礼します」

 

「失礼します」

2人は冷静にかつそそくさと保健室を後にした。

 

 

 

 

「保健室で男女が2人なんて普通なんかあるはずなんだけどなぁ」

担任は2人の反応をよく分からない目で見ていた。あまり世間話というよりは事務的な会話しかお互いにこなさないので部活仲間程度にしか思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「もう暗いし送っていくよ」

 

「貴方は今日倒れたことをご存知ではないのですか?」

迷惑をかけてしまったことを考えると送っていくのは当然の行為だが、本人の体調も万全ではないのは事実で痛いところをつかれた。

 

「それはそうだけど…チョコで気分はスッキリしたし、もうちょっとチョコのこと聞きたい」

 

「それほどですか」

 

「それほどな。そうだ、お返し何がいい?」

 

「お返しですか?…手作りがいいです」

少し下を向き目を合わせてもらえない。チョコ系統の手作りのものなんてレシピ齧った程度で大して詳しくもない。

 

「本当に?」

 

「本当です。和也さんなら何作らせても美味しいと思いますが」

そこまで信用してもらえるなら作るしかない。折角だから貰った人全員に手作りにしようかとも考え始める。

 

「じゃあ作るわ。ご所望は?」

 

「お任せします」

 

「分かった、頑張ってみる」

既に2人は帰路に歩き始めていた。なんとなく話を続けながらもうすぐ3年生の卒業やら自分達が先輩になるなど大変な1年になることは予想できていた。

…音乃木坂が数年後になくなる可能性が高いってのは流石に言わなかったが。秘匿性も高いし。

人を騙して生きていく罪悪感が今更に心の底から湧き出してくるような気がして嫌悪を抱く。騙して、嘘をついてなんて目の前にいる園田にどう話せばいいのか。時間が事態を重くすることは理解できていた。

 

 

 

 

 

「このらへん家じゃないのか?」

 

「いつの間に」

 

「お疲れ様。チョコありがとう、お返し楽しみにしておいて」

 

「結局は送ってもらうことになってしまいましたね。体調には一層気を使って下さいね?」

 

「…はぃ」

根に持っているのかドスの効いた顔を見せられるとやはり怯む。

 

「では、失礼します」

 

「おやすみ」

 

「おやすみなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

園田と別れを告げ家へと真っ直ぐに向かっていた時、前から歩いてくる男がいた。

制鞄よりも大きめで形も決まったものではない凸凹とした

袋を片側に担いでいる。俺はその顔に僅かに見覚えがあった。そして、すれ違いざまに…。

 

 

 

「なぁお前、波野和也じゃないのか?」

 

「!!」

声にならない驚きと必死にポーカーフェイスを装う。やはりか、と焦りが湧いてくる。風はまだまだ冷たくて手は感覚を無くし、唇も潤ってはいない。しかし、何か嫌な汗が出ていることは察せた。

 

「ああ、波野だ」

淡白な返事だか今はまだ、それでいい。

 

「最近はどうしてる?」

 

「平和に暮らしているよ」

 

「そういうことじゃない」

 

「知ってる」

 

「はぐらかしそうだからストレートに言わせてもらうが、バスケはどうした?」

 

「あの時に俺は競技者としてバスケを行うことはやめた。今は遊び程度だな強いて言うならだが」

 

「ハッ、冗談はやめろ。俺だって暇じゃない」

 

「それは俺もだ。嘘はついていない」

明らかな苛立ちを向けられこちらもただでは済ましたくない。

 

「…本当に言っているのか?」

 

「嘘は言っていない」

 

「ふざけるな!!あれほどの才能を持ちながらバスケをやめただと!?」

 

「…前々からだがお前とは話が合わない」

 

「なんだと?」

 

「才能があるなんて最初からできて、他の奴より頭1つや2つ抜けていないと言えないんだよ。今日は失礼する」

 

「おい、待てよ!」

声を無視して俺は帰路に足を向ける。男は追ってくることもなくその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…嫌な思い出だな」

本当にこんなところで会うとは思っていなかった。

自室に戻ると写真立てに入れられた1枚の写真が目に映る。ゼッケンを付けてバスケットボールを抱える今とは少し幼い顔があった。

 

あの頃の俺は幸せだったのかと心に針が刺さる。映る顔は満面の笑みでこちらを覗くのだ。明らかに楽しんでいてかつ、本気でスポーツに取り組んで結果を求めて努力し続けたがむしゃらな俺はどこへ行ったのか。

 

確かに歩んだ道のりは静かに暗闇に消えていた。

 

 

 

「…今日はチョコを食べて寝よう」

今だけでも明るく照らしたくて貰ったチョコを温かいコーヒーで頂こうとリビングに戻った。

 




今回もお読みいただきありがとうございました。

前書きの通りまだまだ忙しい日々は続きそうです。それでもこの作品は大切にしていこうと思っていますのでよろしくお願いします。辛うじて書き溜めしている分をいじって落ち着くまでは投稿していきたいと思います。流石に海未ちゃんの誕生日には顔を出したい…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。