底辺扱いされる強く生きる者たち (ガッセー)
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プロローグ
「ハァ・・ハァ・・ッ!」
一人の男が狭い路地裏を懸命に走っている。あたりは暗くどうやら夜のようだ。所々やぶけたぼろぼろの茶色のジャケットに黒っぽいジーンズという格好で左足を引きずりながら走っている。時折痛みに顔をしかめ歯を食いしばっているのが傍目で見ていてもわかる。相当痛いらしい。
「ちくしょう・・・なんで・・・グッ!?」
焦っているためか普通ではつまずきそうにもない廃材のようなものに引っかかり、転ばずにはすんだものの引きずっている足で踏ん張ってしまい、痛さのあまりその場にうずくまってしまった。
「クソ・・・なんでこんなことに・・・」
若干涙目で男は悲観する。男はようやく立ち上がり後ろを気にしながら再び走り始めた。廃材から杖にしやすい手ごろな棒切れをひろい、松葉杖のように使い器用に走っていく。男は額に脂汗を浮かべ垂れ落ちる汗も拭こうともせずただ懸命に走る。すると後ろでライトのようなものがチラついた。
「やつら・・・はやいっ!」
男は即座に路地を左折する。そこからさらに右折し走る。どうやら何者かの追われているようだ。それも1人ではなく複数の者たちによって追跡されていた。
「ここなら」
男は急に大きなダストボックスの中に入り身を隠し始めた。臭いはきついが贅沢は言ってられない。男はわずかな隙間から外を見る。するとライト片手に走ってくるイマドキの服装である二人の男たちが、丁度右折したT字路のところに見え男の心拍数は跳ね上がった。男はじっとし二人を注視する。すると片方の男が話し始めた。
「クソ、あの野郎どこいきやがった!こっちも暇じゃねぇってのに!」
「まぁまぁ落ち着いてください。やつは足に怪我してたはずッスからまだこのあたりにいるはずッスよ。もう少しで援軍も来るし後は時間しだいッスよ。」
「俺はその時間がねぇから焦ってんだよ!・・・はぁ・・・」
男たちは少しだけ話すと右折せずにまっすぐ走り去っていった。男はダストボックスから出て、さっきの男たちの言っていたことを思い出す。
「(援軍って・・・クソやべぇ!!)」
男は衝動に駆られて即座に走り出す。足の速さは先ほどと大して変わらないがその顔はさっきよりも遥かに焦り冷静さを欠いていた。男たちがいた方向の逆に走りまっすぐ走っていく。
「(このまま大通りに出てすぐの地下道に降りれば地下鉄がある。それに乗れば・・・!)」
男は今までの人生の中でもトップクラスといっても過言ではないほどに頭をフル回転させ、今後の行動について決定する。ならばあとは実行するのみである。男は杖を捨て必死に走る。そして大通りに出て怪しくならないようにジャケットを脱ぎ、足を引きずりながらも歩きそのまま地下道へと続く階段を下りていく。男は地下道に追っ手がいないか確認し通行人に紛れついに改札までやってきた。
「(よしこれで連中を撒ける!)」
男は己の勝利を確信した。
まさにそのとき
「はいおつかれ~」
男の肩を知らない私服の男がつかんだ。
私服の男は目にも留まらない早業で男の右腕の間接を極め、うつ伏せに倒してしまった。男は一切抵抗できなかった。
「ぐあぁ・・!!?」
組み倒された衝撃で左足に激痛が走り、男は思わず声を出してしまった。しかし私服の男はそれを気にしたそぶりもなく、男を取り押さえたままどこかに通信し応援を呼ぶ。
「こちらGG。例の男を○○○線×××駅にて確保。くりかえーす・・・」
男はどうにかして脱出を試みるが私服の男がうつ伏せにさせ右腕を極めた状態のまま男の上にひざを付き体重をかけているため起き上がるための力が出ない。
私服の男が通信し1分もしないうちに仲間と思われる連中が集まってくる。男だけでなく女もいたらしい。
「くそ・・・こんなんで終わるのかよ・・・」
男はまるでこの世の終わり、または自身の終わりのような絶望のどん底にいるような目をし、地獄に落とされ終わらない罰を受け続ける囚人のような覇気のない低い声でそう呟いた。今の彼はまさに無実で処刑させられる死刑囚のようである。通行人もその異常な風景に気圧され、あたり一面に極度の緊張が走る。
「じゃあまずはスピード違反と公務執行妨害とその他で現行犯逮捕な~。話は署で聞くから。あと暴れんなよマジで。こっちも疲れんだよ。ただでさえ仕事が多いってのに・・・」
やる気は感じられないが良く通る声で自らをGGと言った私服の男がそう宣言する。こうしてある男の逃走劇は幕を閉じた。
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設定
一応始まりの世界設定は航空火災のちょっと前くらいから。そこから段々と年を重ねていく感じ。恐らく今後も設定は増えていきます。
陸士323部隊(裏呼称:特別対応班)
いわゆる一般的な刑事の立ち位置の部署。特殊なところは所属隊員全員保有魔力が低い、もしくはないといったものたちで構成さており、そのかわり何かに特化していたりレアスキルのようなものを保有している。このような部隊構成のため魔力至上主義のような偏ったものに染まっている連中にはたびたび「能無し部隊」といわれている。しかしその特異性もあってか物事に対して中立で身内の汚職にも敏感に反応するため、(半数は握りつぶされる)伝説の三提督や一部権力者、または協力し合った部署などからは絶大な信頼があり、未だに隊として機能している。裏では違法施設の殲滅や過激グループの殲滅、身内の摘発など正義の魔導師では出来ないような少々汚い仕事をする。
部隊員
浮岳 智紀 (男)
身長:172cm
年齢:見た感じ二十台前半、たぶん・・・
誕生日:不明(一応記録上11月11日)
呼び名:GG(コールサイン)、ジジィ、黒ゴキ、トモetc…
本作の主人公。リリカルなのは原作の世界とはまったく別の世界からやってきた元次元漂流者。元の世界では兵士をやっており大怪我した際にとある人体実験の被検体になり、皆の想像を超えた力を持ってしまい、かなり特殊な部隊配属となって、戦争の最前線で戦い続けていた経歴を持つ。そのため戦闘技能は圧巻と言える。次元世界にはジュエルシード事件あたりの年にやってきた。リンカーコアがないため魔法は使えないが自身の武術と保有スキルで魔導師とも互角以上にやりあえる。(能力により空戦もいけるが内緒)。ちなみにコールサインは前の世界のものを流用しているだけで深い意味はない。階級は一等陸尉でさりげなく執務官の資格も持っているがその資格を悪用するくらいにしか使っていない。
容姿:黒髪、黒目のいわゆる日本人と一緒。髪型はこれと言った特徴のない短い髪型。左目に横から切られたような跡があるがそこまで目立たない(目じりからちょっと切り傷が出てる感じ)左腕、左足、左眼が義肢、義眼だが擬態機能があるためそれほど目立たない。
性格:楽天的でたいていの仕事はのらりくらりと片す人間。だが限度が超えるとめっちゃ怒る上にかなり覚えているため、ねちっこい人と思われることもしばしばある(怒りメーターの幅は広いため簡単にはブレイクしない)。また仕事が溜まると「悟りを開いた」といって逃げようとする。
保有スキル
1.重力制御
その名の通り重力操作の能力。まだ自身も全てを使いこなしてるわけではないため、全貌が見えない。今使えるのは重力付加による捕縛や固定、無重力空間の作成、物を飛ばす(質量兵器扱いにより自粛)、防御フィールドくらいである。
2.武術
無重力でも有効に戦えるように改良したもの。
クロス作品は「銃夢」ガリィの「機甲術」(パンツァークンスト)、ともう一人(今は内緒)。
3.義肢、義眼
義肢はガリィのようなイマジノス体によるもの。つけた瞬間骨までイマジノス体によって変異してしまい、自分で最早人といっていいのか悩んでいる。義眼はかなり高性能で索敵や熱源探知から壁の透過など色々出来る優れもの。だが義眼にディスプレイが投影されるため邪魔なときが多々ある。
4.???
フレッド・オーレン (男)
身長:185cm
年齢:24
誕生日:3月27日
呼び名:ストリング(コールサイン)、おしゃべりクソ野朗、歩く下ネタ、フレッドetc…
主人公と同じく323部隊に所属する男。主人公とは1番長い付き合いでお互い親友と呼び合っている。頭が良く回り口が達者でまたイケメンであるため、よく交渉や密偵などに重宝される。また女癖が悪くそれでよく問題を起こしていた。戦闘能力も高くかなり絡め手の戦闘を好み格下でもよく罠にはめたりする。部隊内ではめずらしい魔力持ちではあるがCランクでバインドや念話で精一杯である。階級は二等陸尉
容姿:金髪碧眼のイケメン。髪はチョイ長め。
イメージは漫画ドライブのクレーバー・オウル
性格:軽薄でへらへらしているところはあるが、締めるところは締め仕事に望む意識はある。女好きではあるが本命は決して簡単に手を出さず、ステップを踏むタイプ。口が災いしよく部隊の女性隊員から折檻を受けている残念なイケメン。
保有スキル
1.ストライクアーツ
ミッドにある格闘術。フレッドはかなりの使い手。
2.ハラスメント
フレッドのレアスキル。その効果は相手の頭に浮かんだ戦略や、枝分かれする一手の概念を強制的に半分忘れさせるといったもの(分かりやすく言うと遊戯王のハンデス)。デメリットとしてあるのは、使用した自分は何の一手を消したのか分からないこと、5分後忘れさせた一手を全て思い出しそれは次の能力発動では決して消せないということ、能力発動後15分間は能力がつかえないといったものである。
3.暗器(デバイス)
糸を主に使いその腕はまさに達人級。用途によって魔力を使い、太さ、長さ、強度を変化可能。主人公にも教えている。
4.トラップ
陰湿。あるものは何でも使えるらしい。
ガルシア・バーンズ (男)
身長:180cm
年齢:33
誕生日:7月18日
呼び名:リッパー(コールサイン)、加齢臭、ブレスケア、女々しいおっさん、パパ、ガルさん
323部隊の良心の一人。基本めんどくさがりだが仕事はきっちりこなさないと気がすまない几帳面な男。2年くらい前に嫁さんが実家に帰り一人娘も嫁に取られ、どうにか復縁したいと願っている(原因は主におっさん)。魔力はないがその分レアスキルに優れ今まで肩身狭い管理局でがんばってきた。過去に借金をし全額返済したがたびたび来る借金の催促にキレて、その闇金を潰した逸話を持つ。ヘビースモーカー。階級は一等陸尉。
容姿:無精ひげに眼鏡。最近白髪が混じってきた。(イメージ的に言ったらネギまの高畑先生)
性格:めんどくさがりで変なところで几帳面。キレたら1番厄介なのは間違いなくこの人だが後輩思いで身内思いの普通にいい人。超が付くほど親バカで嫁さんスキー。
保有スキル
1.追跡調査
物限定で使用されたときの残留思念をたどり、その時の情景やそれらに映った物、壊れたものの破片同士の思念を追跡することが出来る。デメリットは人物が黒く塗りつぶされたようにまったく見えないこと、現場の物と何か因果的なものがないと追跡できない(例えば何もなければ着ている衣服も黒く映るが、相手を刺しその返り血を浴びれば現場の因果として返り血の浴びた衣服を追跡できる)、大体追跡可能距離は5kmくらい。
2.剣術
管理局謹製の非殺傷の刀(通称ご都合ブレード)を使った実戦剣術。
イメージは銃夢のケイオスとるろうに剣心の斉藤一
ラナ・シルキー (女)
身長:144cm
年齢:16
誕生日:4月25日
呼び名:エレクトロン(コールサイン)、ロリっ娘、ちび、アホの娘、ラナetc…
323のマスコット兼癒し。明るい性格でいろんな人から可愛がられている。元々ある施設にてモルモットのような扱いを受けていて、それを救ってくれた部隊長と主人公、フレッドを追って323部隊に志願した。どちらかと言うと運動音痴なため他のみんなのように強くはなく護身術程度である。年齢の割には小さくそれが最大のコンプレックスであり、それについて触れると怒るがみんな微笑ましそうに謝ってくるのでやるせなさを感じている。身長を伸ばすヨガにハマり半年で1cm伸ばしたと歓喜していた(しかし徐々に戻りつつある)。階級は陸曹。
容姿:童顔で身長と合わさってさらに幼く見える。髪は明るいブラウンでセミロング。プロポーションも身長に伴い残念な感じである。まさに小動物。
性格:明るく元気がモットーで暗い過去があると意識できないほどである。いちいちリアクションが背後に擬音語が見えるほど大きく、そのため滅茶苦茶イジられている。仕事には熱心だがよく居眠りをしては叩かれている。
保有スキル
強制介入
アクセスポイントなどを仲介せずにあらゆる電子機器にダイレクトで侵入、ハッキングが可能。その気になれば人の神経の電気信号に介入することも可能。デメリットは意識が独自の電脳世界に入り込むため完全に無防備になること、人体への介入は不慣れなためかなり体力、精神を消耗することである。
イメージは銃夢のアガ・ムバディ。
ユキナ・アクツ (女)
身長:164cm
年齢:赤い何かで読めない
誕生日:12月14日
呼び名:ファイアー(コールサイン)、毒女、お姉さま、女狐、アバズレ(仮)、ユキちゃん、ユキさんetc…
323で恐怖政治を敷く女帝(フレッド談)。根は真面目だが時折融通がきかないときがある。いわゆるツンデレ。魔力がDランクで昔から陰口を叩かれまくってきたためすこぶる毒舌でツンデレ時の毒はまた強烈である。よく礼を欠いた連中の顎にフックパンチする姿を同僚が目撃している。自分のような魔力がない人間が活躍できると聞き、323にやってきた。最近犬を飼い始めた。階級は二等陸尉
容姿:一目で美人だと言える人物。髪は黒に後ろの襟足がロングであとはセミロングでまとめているといった感じ。プロポーションは男子諸君曰く及第点らしい。
性格:かなりの毒舌家ではあるが常にそういった感じではなく、むしろ男女問わず話しやすい人物である。とりあえずキレたら怖い。バカにされないために男性経験があるという設定にしているが実際そんなものはなく、よくそれについてイジられ、言いようのない空しさを感じている。八神はやてさんとは面識がありなぜか犬猿の仲である。
保有スキル
1.焦熱地獄
その名の通り焼き尽くす能力。単純な破壊力で言えば323の中でもトップクラスの実力で最高で2000度までいった(まだ成長中)。人を殺さないようにする程度のコントロールは出来る。体のどこか一部だけ炎に変えられるが全身はまだ出来ない。
イメージはワンピースのエース。
2.武術
アハトマスターデという内家拳のような武術と布槍術を使う。
イメージは銃夢のクー・ツァン。
3.デバイス
バリアジャケットはないが頑丈で鋼糸のようなもので出来た長い布。
クリア・へミスティン (女)
身長:170cm
年齢:ふふふ・・・としか書いていない
誕生日:5月1日
呼び名:グレー(コールサイン)、部隊長、詐欺師、変態etc…
まさに女傑といった感じ。管理局上層部の弱みを多く持ち高官たちからはかなり煙たがられてる。色々なところに顔が利き協力要請や交渉ごとでかなり融通が利き発言力もある。まさに理想の上司。しかし男女問わず部下へのセクハラ、パワハラが激しく常に警戒されている。かなりの怪力。実は二人の子供が居る。色々と謎の多い人物。階級は二等陸佐。
容姿:色白でプラチナブロンドの髪を持つ美女。髪型はロングを後ろでまとめている。マジで何歳かわかんない。
性格:まさに人を食ったような性格。身内には愛情をもって接するが、敵には容赦のない冷徹さを見せる。実は可愛いものとわが子が好きでたまらないが自身はなんでもないように振舞っている(周りからはバレバレ)。
保有スキル?
1.マスドライバー
ただ高速で物体をぶん投げるだけで別にレアスキルではない。公式での記録は宇宙空間での第一宇宙速度が最高。
2. 不明
3. 不明
今後もオリキャラ増えます。
銃夢面白いから流行らないかなぁ
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1話 323部隊 1
文才のなさを再確認しました。
ミッドチルダ。
次元世界における首都のような世界であり、大都市クラナガンをはじめとしたベルカ自治領、エルセア、アルトセイムといった地方から、時空管理局の本拠地もここに置かれ、いわゆる世界の中心ともいえる世界である。しかし多くの世界から人、物資が出入りする性質によりひったくりから、違法薬物、兵器の取引まで幅広いの犯罪が蔓延る側面もある。それら犯罪から市民を守り、犯罪の撲滅に勤めるのが時空管理局の仕事一つなのである。
「えーこのように我々時空管理局は市民の安全を守り、人々がよりよい生活を送れるように・・・」
昼過ぎ、今子供たちが多く座るホールの壇上にて、一人の青年が淡々と言い聞かせるように講義を行っていた。彼の名は浮岳智紀。時空管理局323部隊に所属する、管理局員である。本日の仕事は未来を担う子供たち相手に、時空管理局はこんなにも素晴らしく、最高であるということを伝えなければならないというものだった。元々は別の執務官がやる予定だったが、仕事が多いのか同じく、なんちゃって執務官である智紀に全て依頼(パシリ)してきたのだ。下っ端部隊の特性上断ることはできず、現在に至るというわけである。
「説明は以上となりますが質問などはありますか?」
感情の込こもってない事務的な声で(本人的にはやさしく)説明を終えた智紀は質問を促す。するとぽつぽつと手が挙がる。
「ではえー・・・F列の通路側の男の子どうぞ」
そういうとマイクを持った人が少年のそばによる。自分と一緒の黒髪で気の小さそうな少年だが芯は強そうな印象を受ける。
「僕は魔力があまり多くないんですけどそれでも入れるんですか?」
(まあ無いやつは気になるわな)そう思い少年の質問に極力丁寧に答える。
「大丈夫ですよ。現に魔力が少なくても活躍している管理局員はたくさんいますし、私はそもそもリンカーコアがないので魔力自体がありません。それでも仕事はできるので安心してください」
そういうと会場が波打ったかのようにざわつく。(あの人魔力ゼロ?)(すごーい)(大丈夫なのかよ)子供たちの感想が聞こえてくる。するとまた手が挙がった。
「じゃあ今手を挙げた女の子どうぞ」
智紀が指名し女の子が立ち上がる。少し赤みがかった金髪で見るからに自分に自信を持ち、動作一つ一つに気品さが漂ってくる。どこかいいとこのお嬢様なのだろう。
「私は執務官を目指しておりまして、先ほど自己紹介で執務官とおっしゃっていましたが、どのようなお仕事をなさっているのでしょうか?」
(ふむ・・・どう説明したものか・・・)会場は少女の質問により静かになり、智紀の答えを待っている。智紀は少女の質問にどのように答えようか悩む。正直なところ執務官の資格は、次元漂流者という後ろ盾がない状態をどうにかしようと思い取ったもので、調査や交渉などの時にちらつかせて使うくらいで、それ中心で仕事をしているわけではないのだ。
「私の主な仕事はクラナガンで起こる、スリのような軽犯罪から強盗、殺人のような重犯罪まで多岐にわたる刑事事件の捜査ガ中心で、あとは局内の他の部署からの依頼や応援といったことなどが仕事となります。執務官としての仕事は先ほど述べた事件捜査が主なものとなっています。」
智紀は淡々とだが伝わりやすい声で説明する。少女は納得したようでそのまま座ってしまい、先ほどの子供たちからの視線が段々と輝きだす。すると急に質問の手が多く挙がる。智紀は(マジかぁ)と内心ため息をつきながら少年少女たちの質問に答え講義を無事終了した。
「くぁ~疲れた~」
プシュッと炭酸飲料の缶を開ける心地いい音が響く。今彼は管理局の廊下を歩いていた。子供相手の仕事を終わらせ次の仕事を片付けるため323部隊のオフィスに向かっていたのだ。好物のフルーツ系炭酸飲料を飲みながらオフィスに入ろうとドアを開けると異様な熱気が体を包み込んだ。
「いや悪い、悪かった!!ほんと反省してるからその手を納めてくれ!!」
「相変わらず煩い口ねぇ腐れ金髪。まずはその汚い口から溶接しようかしら。」
地面に尻餅をつい状態で後ずさりをしている彼はフレッド・オーレン。それに対し右手から猛烈な光を伴った炎を放っている彼女はユキナ・アクツ。どうやらこの熱気はあの右手のせいらしい。
「お疲れさん。智紀君」
「あ、部隊長。お疲れ様です。」
「なんだまだやってたの?すきねぇあなたたち」
「今日はどんな理由で起きたんですか?あと密着しながら胸押し付けてるの、やめてください」
「もう、枯れるには早すぎよ?」
後ろから話しかけてきたのは323部隊の部隊長クリア・へミスティン。彼女曰く書類作成中に口論になり、昼食を食べに外に出ていたら入らない内にあそこまで発展したらしい。彼らにとっては見慣れた光景である。するとこちらに気づいたのかユキナは手の炎を収め、あわてた様子でこちら向く。
「す、すみません!仕事に戻ります!」
そういってフレッドを睨みながら自分デスクに戻り仕事を再開しようとする。対してフレッドは安堵のため息を漏らし、立ち上がってこちらにやってくる。
「ホントありがとう・・・。マジで顔が蒸発するところだった・・・」
「おめーら本当にそんなスキンシップしかできねーのな」
今日も323部隊は平常運転だった。
毎度のイベントも終わり、通常業務に戻って智紀が書類整理に勤しんでいると、隣のデスクのフレッドが話しかけてきた。
「お前聞いたか?この前しょっぴいたバイクのクソガキのこと」
「あいつだろ?スピード違反で注意しようとしたらこっちの手振り切って逃げて勝手に事故って怪我したやつ。奴がどうかしたのか?」
「あの野郎どうやら管理局のお偉いさんのガキだったらしくてな。釈放だってさ」
「マジでか。やるせねぇなぁ。まぁ標識に被害があったくらいだったからよかったものの・・・。まぁあれは交通課と協力したものだし、こっちにナンかしらのとばっちりはねぇだろ」
わが子の可愛さ故か自分のキャリアのためかは分からないが、こういったことは珍しいことではない。もみ消すことに関して言えば一流なのだ彼らは。
「そういやフレッドは財務部の仕事代行ってのは知ってるけど、ユッキーはなにやってんの?」
「私のも似たようなもの。2週間前のデパート立てこもり事件と別世界での凶悪犯逮捕のときに出ちゃった被害額の打ち出し」
「そんなすげぇのか?」
「どちらも戦闘被害。デパートは商品の破損でしょ、あと床、壁の破壊、最悪なのは売り場崩壊。別世界の方もかなりひどいわよ。農地で結構大規模に戦闘して砲撃魔法でクレーター多数とか、衝撃波の出る近接戦闘で農地の野菜たちが全滅とか。しかもこの世界、通貨がミッドと違うからまだ被害額出せてない・・・。まぁどっちも人的被害は出てないし、全員犯人逮捕できたからよかったみたいだけど」
「「うわぁ・・・(察し)」」
「これの管理局代表で謝罪に行く仕事だけはしたくないわね・・・」
「ちょっと今いる人だけでいいから聞いてもらえる?」
三人が話しているとクリアが真剣な声色でよびかける。
「なんスか?裏の仕事っスか?」
「いんや協力要請よ。それもパシリじゃあない」
フレッドの問いにクリアはそう返す。
「どうやらミッドの港湾都市ペラブハン郊外に質量兵器の工場兼倉庫があるらしわねぇ。陸士108隊が過激派組織の捜査していたようで、その際に見つけちゃったようよ。なんかその組織のアジトも同じ都市の離れたとこにあるから、工場とアジトの一斉検挙しようってことで、私とか知ってる人間のいる323部隊にも協力をって話を持ってきたって具合ねぇ」
「結構なおおとりものだな」
「だな。なかなかハードな仕事になりそうだぜこりゃ」
「あの質問よろしいでしょうか」
そういいながらユキナが手を挙げた。
「その工場はどういった規模のものなんでしょうか」
「この資料によると一般の拳銃、アサルトライフルから手榴弾のような爆発物まで結構色々そろえてるようね。おまけに港湾都市のアクセスのよさを利用してだいぶ広範囲にばら撒いてたようだと書いてあるわ。今日の深夜にどこかへの納品があるからこの時に決行するらしいわ。詳細はこのあとの合同会議で説明とあるわね」
「今日の深夜決行!?マジかよ・・・今日はたらふく寝れるとおもったのに・・・」
「・・・急ですね。何か取引以外に理由が?」
フレッドはぶつぶつと愚痴をつぶやき、智紀が疑問点を質問した。
「ええ。どうやらアジトに接触していたこちらの密偵が2日前にバレて捕まったらしくてね。おそらくこの納品を終えたら人質もろとも高飛びされる可能性があるから、今日やるしか無いそうよ」
「なるほど分かりました。会議は何時からで?」
「17時とあるわね。今16時だからあと1時間後。場所は本局の第1会議室。ガルシアとラナには連絡したから連絡しなくていいわよ。あとクラナガンからペラブハンまで大体陸路で3時間くらいだから夕食は早めに済ませなさい。じゃあ以上!」
そういってクリアは解散を促す。そして各々会議の時間まで残っている仕事を片付けていった。
17時、広めの会議室には多くの管理局員が座り、今回の作戦について話していた。323部隊はと言うと先ほどの4人と新たな2人を加えて、総勢6人で今回の作戦に参加する。新たな二人のうち制服の腕を捲くり、白髪交じりの頭をしているのがガルシア・バーンズ。背の小さい子供のような容姿で明るいブラウンの髪をしているのがラナ・シルキーである。
「おっさんそっちの仕事はうまくいってんの?」
「あ?まぁだいぶ絞り込んであとは事情聴取だけだから問題ねぇよ」
「やっぱおっさんとラナ組ませたら大体の事件は即時解決だな」
ガルシアとラナは持っているレアスキルのおかげでかなりのスピードで捜査を進めることが出来るため、よく刑事事件の捜査を請け負っている。ちなみに今回はひき逃げ事件だった。
「ユキさん、トモさん、今回銃火器を所持している連中と戦うんですよね。大丈夫でしょうか。」
「魔法使える用心棒みたいなのもいるかもしれないけど、うちにはその手の専門家がいるから大丈夫でしょう。ねぇ智紀」
「そういうユッキーも立派に銃相手に大立ち回りできるじゃねえか。最初はあんなビビッてたのに」
「あ、あの頃は質量兵器相手なんて訓練で少しやるくらいで、実際に相手する機会なんてなかったからよ!」
「はいはい、わかったわかった」
「おまえら、そろそろ始まるぞ」
ガルシアがそう言ったすぐに会議は開始した。前のほうには各隊の部隊長が5人座り総勢30人以上に緊張ムードが高まっていく。
「では始めます。皆さん本日は我々の協力要請に応じてもらいありがとうございます。陸士108隊部隊長ゴードン二等陸佐と申します。まずは詳細について陸士108隊所属ゲンヤ・ナカジマ一等陸尉、説明お願いします。」
「はい。では説明させていただきます。私の所属する陸士108隊は私を含めた5人で要注意組織『スパイク・シールド』の捜査を3ヶ月ほど前から行っていました。その際に大規模な質量兵器の工場を確認―――」
彼の詳しい説明と配られた資料を会議室の局員は、皆真剣な表情で確認する。大筋は先ほどのクリアからの情報と違いはないようだった。説明が終わり今回の作戦内容に移る。アジト攻略部隊と工場攻略部隊の二手に分かれるようだ。ここで部隊ごとにグループ分けとなった。
「ユッキーは強制的にアジト方面な」
「なんでよ」
「オメーの炎で工場大爆発なんてコントがありえるからだよユキナ姫」
「あんたには聞いてないわよ。おしゃべりクソ野朗」
「まぁそういうことだ。あきらめなユキちゃん」
「加齢臭香るおっさんにそう言われたら納得せざるを得ないわね」
「・・・毒女スイッチがは入っちまったか」
「もう喧嘩しないで早く決めましょうよ!」
話し合いの結果アジト方面はクリア、ユキナ、フレッド。工場方面は智紀、ガルシア、ラナのチーム分けとなった。このあと2つのグループ別での打ち合わせを行い突入時のフォーメーションや統率の確認を行い、終わり次第全体での採集確認と各部隊長の檄で合同会議は終了となった。
『スパイク・シールド』
最初は自警団のような組織だったのが歴史と共に一人歩きし、時空管理局に反発する者の集まりへと変貌してしまった組織。主に密貿易や禁止兵器の所持、最近では新型の覚醒剤にまで手を出している。この手の組織の中では割と大きい組織で、今回のアジトは数箇所あるといわれている大きなアジトのなかの一つ。
まあヤクザな人たちって感じ。
『ゴードン』
この時期ってゲンヤさん部隊長じゃないからそれに代わる人ということで作っちゃった人。今年で定年。
『港湾都市ペラブハン』
他の町なんて知らないんで勝手に作りました。
ペラブハンはインドネシア語で港って意味(たしか)。
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2話 323部隊 2
続きどうぞ。
アジトside
アジトは市街地の真ん中にある大きなオフィスビルの中にある。窓には黒いシートが貼ってあるらしく仲の様子は伺えない。ビジネスマンが多く通り、人目に付きやすいところだが今は閑散としており、いるのは酔っ払いか逢引している男女くらいである。そこから200mほど離れたところの空きビルを拠点にし、管理局員たちが作戦開始を時間を待っていた。
「ふぁ~ねみ~」
「相変わらずひどいツラね。生まれてくる種族間違えたんじゃない?」
「ハッ、これでも世間一般ではイケメンで通ってんです~。だから生まれてきた種族は間違ってないのだよ~ユキナ姫」
「ああ言えばこう言う腐れ金髪ね。躾が足りないんじゃないかしら。」
「あなたたち声のトーン落として喧嘩しなさいね」
他の隊の局員が困惑した目やジト目でこちらを見てくる。大きい声ではなくむしろ小さい声だが緊張感が漂う拠点の中で、あまりにもいつも通り過ぎる二人に、止めても終わらないということを知っているクリアはそう諌める。すると二人の人物がクリアに話しかけてきた。
「ははは、相変わらず肝っ玉の据わった連中ですね。実に心強い。」
「でも非常識すぎます。少し自重してください。」
陸士108隊部隊長のゴードンとペラブハン陸上警備隊隊長アメリア一等陸尉である。会議のときにあまり話せなかったので話しかけに来たのだ。
「ゴードンさんお久しぶりです。お元気そうで何よりです」
「ははは、まだまだ若いもんには負けませんよ。もう今年で定年ですがね。」
「そうですか。時が経つのは速いですね・・・。ああ失礼、後存知だと思いますが323部隊の隊長クリア二等陸佐です。今回の警備隊員の大幅増員ありがとうございます」
「ああそれは私からも改めてありがとう」
「ご丁寧にどうもありがとうございます。自分たちの街を守るのは当然の事ですから。私はペラブハン陸上警備隊隊長アメリア一等陸尉です。323部隊のお噂は聞き及んでおります。とても優秀な部隊だと」
「あはは、まあ曲者ぞろいですがね」
「そのようですね」
そう言い喧嘩している二人をジト目で見つめる。さすがに悪いと思ったのか静かになる二人。
「それは一先ず置いておいて、本当にこちら側の人質は工場に?」
「ああ、それは私も確認しておきたい」
「うちに電子機器に強い者がいましてね。ハッキングの結果倉庫の地下に監禁されているのを確認しました」
実はラナが現場に到着したときレアスキルを使い施設に探りを入れていた。そのときに監禁されている管理局員を発見したのだ。
「ハッキング・・・。資料では確認してましたが凄まじい能力ですね」
「ほんとになぁ・・・。うちの部隊に欲しいくらいだ」
「あげませんよ。そういえばむこうからの接触はなかったのですか?」
「身分の分かるものは身につけさせないで調査していたからな。来ないということは管理局か対立組織か、まだ判断しきれてないかもしれないな」
「なるほどどちらにしても長い夜になりそうですね。そろそろ時間だ。配置に付きましょう」
そして人知れず多くの人影が一斉に動き始めた。
工場side
「あれが工場兼倉庫か」
「トモさん私にも双眼鏡みせてくださいよー」
「ラナ、深夜なんだから家帰って寝ててもいいんだぞ?」
「もー、子ども扱いしないでくださいガルさん!」
するとラナは拗ねてどこかに行ってしまった。ここは市街地とは打って変わって湾岸地区の倉庫街である。夜は人通りなどまったくなく風の音ばかりであとは何の音もしない。明かりは港側の街頭だけ。普段はそんな場所だが今日に限って窓一つ無い密閉されているはずの倉庫が一つだけ開き、すぐそこの港にはあわただしく作業する船員がいて、すぐそばに船が停泊している。港湾管理所の書類上では午前2時に船が出港とあり、積荷は金属資材と書いてある。事前調査により船と船会社自体は白でほかの企業の積荷も積み込まれていると報告が出ているが、どうやら船員の中に組織の人間が紛れ込んでいるらしくそこで手引きされているらしい。
「しかし船か~。あん中入るよか倉庫入るほうがよっぽど楽だわ」
「どっちもどっちでしょ。倉庫なんて救出作戦な上、何引っ張り出してくるのか分からないんですから」
「まぁ俺は狭そうだから剣を振りにくいって意味もあるからな」
「お前さんら少しいいか?」
智紀とガルシアが振り返るとそこには先ほどの会議で説明をしていたゲンヤ・ナカジマが立っていた。
「どうかしたんですか?えーっと・・・ナカジマさん」
「はははゲンヤで結構だ。階級一緒みたいだしな。お前はさん付けで呼べ」
「嫌なこった。どんなに階級離れてもそれはないわ」
どうやらゲンヤとガルシアは知り合いらしく、お互い軽口を叩きあうがどちらも楽しそうである。
「あー、分かりましたゲンヤさん。自分は323部隊の浮岳智紀一等陸尉です。智紀でもトモでも好きに呼んでください」
「じゃあ智紀と呼ばせてもらおう。それと今回はありがとうな。おかげでついにこの日を迎えられた」
「前からあった計画だったらもっと早めに連絡しろよ。こっちだって、いくつも仕事抱えてんだからよ」
「そうですね、せめてうちの部隊には事前に伝えておいて欲しかったですよ。うちに間者みたいなのなんて入り込む隙間ないし」
「ん?お前らのところには1週間前に、近いうちに協力を要請するかもしれないからその時よろしくって、うちの部隊長がお前らの部隊長に連絡したはずだが?」
「「・・・は?・・・まさか!?」」
実はこういうことは初めてではない。過去に2回ほどだれかが仕事に余裕が出始めてくると依頼や協力要請といって余暇の時間を潰しに来てはおもしろがっているのだ。そういう女なのだ、部隊長は。
「クソッ!!油断してたーチクショウ!!道理でここ1週間割と簡単な仕事ばっかくるから休み出来そうだなーとか思ったら、こういうことだったのか!!」
「アンの女豹が~~~!!なんでこいつらの事件捜査の仕事がここんとこ少ないなと思ったら、俺とラナに全部押し付けて請け負ってる仕事量の消化を謀ったのか!!」
「・・・お前ら苦労してんな・・・」
みんなが驚きながらこちらを向く。いきなりだれかが癇癪を起こし始めたのだから無理も無いだろう。それを聞きつけラナが他部隊の女性職員との会話を打ち切りこっちにやってくる。
「大声だしてどうしたんですか?」
「いや実は・・・(おっさん説明中)」
「なにそれー!!許せません!!」
怒っているはずなのにあたりにマイナスイオンを振りまくがごとく癒しをふりまいている(*本人は本気で怒っています)。
「そういやラナはゲンヤさんに挨拶した?」
「あ!してませんでした!始めまして323部隊のラナ・シルキー陸曹です。よろしくお願いします!」
「おう、陸士108隊所属ゲンヤ・ナカジマ一等陸士だ。よろしくな嬢ちゃん。それにしても家の娘たちとそんなに年違わないから、ちょいと複雑だな」
「そういってやんな。本人は大人のレディって言ってるし、こっちも最大限フォローしてる。それにこいつ役に立つぞ~」
「資料もらってるから知ってるよ。・・・お、そろそろ時間だし配置に移動するぞ」
こうして二地点で激しい逮捕劇の火蓋が切って落とされた。
アジトside
「3……2……1『作戦開始』」
その合図と共に守りの薄い地上の数箇所と空から一斉に突撃を開始する。323部隊のクリアはロングアーチ兼有事の際の援軍。フレッド、ユキナは他腕に自信のある者4人と共に正面からの陽動を担当していた。すぐさま侵入しようとすると警備員の制服を着た男たちがわらわらと出てきて定型文のような警告を言ってくる。
「繰り返す!!これ以上近づけば容赦なく攻撃―――あいつら管理局だ!!?くそ、来るのが速い!!応援を呼べ!!」
すると男たちは警棒ではなく、拳銃やナイフを手に持ち、魔法が使えるものはデバイスを起動する。
「っしゃあ、こっちも行くかぁ!!先行するぞ!!」
「ええ、いくわよ!!」
「「セットアップ!」」
二人が所有するデバイスを発動する。魔力不足のためかバリアジャケットは無いため管理局の制服のままだが、その手には薄手の黒いレザーグローブ、そして薄い黄色の布が現れた。
「撃てー!!」
その号令と共に銃を持った男たちが一斉射撃を始める。それに合わせユキナが羽織るように身に着けている布を広げ前方へと振り、空気を絡め取るように操る。すると手元に戻した布から、放たれたはずの銃弾がポロポロと落ちた。これと同時にフレッドが体制を低くしながら走り、両腕を前方に振りそして思いっきり引いた。すると男たちが持っていた銃が手元から急に引っこ抜かれたように空中を舞い、フレッドの後方へと飛んでいく。
「「「!!!?」」」
あまりに一瞬の出来事に男たちは動作を止めてしまった。そのスキが決定打となってしまった。
「ハァ!」
「グッ、ガァ!!」
他の仲間たちが間合いを詰め、呆然としていた男たちを一瞬で気絶させ、ドアの守り手を無力化した。
「ありがとう。助かった。」
「気にすんな。曲芸みてーなモンだ。じゃあこいつらは後続にまかして次行くか」
そういいながらビル内へと無事侵入を果たした。一階のエントランスは広く、遮蔽物が少ない印象を受ける。正念場はここからである。
「階段、エレベーターは奥か…守りやすそうな構造だな」
「(クリアさん)こちら323ユキナ及び他の戦闘員侵入成功、他はどんな感じですか?」
念話をするほどの魔力がない者は念話を傍受し、相手を思い浮かべ此方から声にして話さなければならいが、念話として発信すること、さらにシェアリングも出来る専用のインカムのようなものが支給されている。これにより魔力の少ないものでも皆と変わらず、安心して通信が出来るようになっている。
『はい、こちら323クリア、今のところ各部署も順調に侵入成功、工場の方も同様よ。あとロングアーチから報告、奥からそちらに移動する敵対者と思われる熱源を多数感知注意せよ』
「了解、では任務を継続します」
通信を切り目の前の2階に続く階段を注視する。先ほどの念話を聞いていた皆も臨戦態勢を整えていた。
「じゃあ、出迎えてやろうかっ」
「じゃあ撹乱するわ。合わせなさい」
フレッドが弾丸のごとく移動を開始すると奥の広くはない通路から男たちが出てきた。それにあわせユキナがだれにも当たらないように一瞬だけ炎の壁を作り出す。
「うお!?アツッ!!」
「やつらだ。ぶっ殺せー!」
男たちは殺気立った表情で銃口を此方に向ける。中にはサブマシンガンやショットガンを装備している者もいる。
「そいつはちっとアブねぇなぁ!!」
そうってサブマシンガンやショットガンを、右腕を引くことで優先的に没収する。その様子に男たちは驚くが先ほど倒した連中から念話でもあったのか隙を見せず、持っていた拳銃を抜き応戦しようとする。
「悪いがもう俺の間合いだ」
1番前にいた男が発砲した瞬間、下から上に左手で銃を持った手を払うことで銃撃を回避し、男の鳩尾にきつい右拳の一撃を叩きこむ。男は一瞬の出来事に声すら出ず、フレッドに突き飛ばされ何人かと接触し気絶した。
フレッドはその後もうまく対峙している人間を盾のようにして銃撃を戸惑わせたり、人を吹っ飛ばしエイミングの邪魔をさせ撹乱していく。そのタイミングでユキナの槍の如き布による攻撃と、射撃型と思われる仲間の援護と近接型の仲間が一斉に畳み掛ける。これによりここにいた10人以上の男たちをすべて戦闘不能にすることが出来た。するとまた念話の通信が入る。
『今いる通路と他の2箇所のルートからそちらに向う敵性反応あり注意せよ。以上』
通信が終わり皆に険しいムードが立ち込める。
「じゃあ行きますか」
まだまだ夜は長い。
工場side
合図と共に皆が一斉に動き出す。今回此方の作戦は空戦魔導師と陸上魔導師による船への積荷の差し押さえをする部隊が一つ、そして工場へ突入する部隊が一つの二つで行われる。智紀とガルシアは工場の部隊に、ラナはロングアーチでスキルを使ったサポートに周った。
現在彼らは倉庫の裏手の扉の前にいた。この倉庫街の構造は倉庫同士が密着し横から入れないため港側の大きな搬入口か、裏手にある事務所のようなところから入るルートしかないのだ。切り込み隊長を智紀が勤め、後続にガルシアを含めた仲間3人が侵入するという布陣である。智紀が手でカウントを取り、ドアをぶち破り速攻を仕掛ける。中では搬入口ですでに始まっていた戦闘に気を取られ、そちらに応戦に行こうとしていた男たち5人ほどが、武装の準備をしている最中だった。
「管理局だ。お縄につけや!」
そう言いながら拳銃を構えようとした1番手前の男の顎に右掌底くらわし、一撃で昏倒させる。そしてガルシアが2人に肉薄し一瞬のうちに斬り捨て、残り二人を魔導師である二人が魔法弾で気絶させる。
「うし、さっさと地下に行くぞ」
「ちょっと待ってくれ」
智紀がそういい倉庫内に続くドアを凝視する。すると蛍のように淡く発行する。
「よし誰もいない。行こう」
彼の目は義眼である。しかもただの義眼ではなく索敵や透視機能など多機能な一品なのだ。皆が無人である通路を進み、地下に続く階段のそばまで来ると近くに3人戦闘員の姿を確認した。そこで智紀は仲間に提案をする。
「みんな暗所での戦闘経験はあるか?」
「俺は問題ねえ」
「すみません自分暗所は・・・」
「私は魔法で視覚強化と聴覚強化ができるので大丈夫です」
そしてラナに通信を入れだした
「ラナ。階段のすぐそばにいる連中がわかるか?」
『はいはーい、ばっちり見えてますよー』
「今からここの電気を落としれくれ」
『りょーかいです』
今彼女は自らのレアスキルで船と倉庫内のシステムを全てその手中に収めている。全ての監視カメラの映像も見ることが出来るし、電子ロックであればどの鍵も無力化し扉を開けることができる状態なのだ。その力で通路の明かりを落とす。無論予備電源など発動しない。
「うわ!どうし、グッ!?」
暗くなった瞬間、三人はそれぞれ相手の無力化を図り、ガルシアと女性隊員は自分の得物で昏倒させ、智紀はチョークスリーパーで締め落とす。
「うし、オーケーだ。ラナ」
『はい』
明かりがつくとそこには倒れ地面にキスしている、男3人が転がっていた。
「じゃあ次だ」
足早に階段を下りていく。事前にラナから提供された見取り図から監禁場所がわかっているため迷うこともなくラナが余計な通路や部屋を隔壁、ロックでもって封鎖し、監禁部屋まで一直線で進む。たどり着き部屋に入ると、全裸で頭に袋を被せられ椅子に手足を縛り付けられ、点滴をされている男性がいた。拷問を受けたようでいたる所に傷がついていてとても痛々しい。全員一瞬言葉を失った。
「クッ、こいつはひでぇ」
「安心してくれ俺たちは管理局だ。助けに来た。」
そういいながら布を取り、拘束しているバンドを外す。男性は憔悴しきっていたが、まだなんとか意識を保っていた。
「あ、あ、ありがとう……本当に助かった……」
「ああもう大丈夫だ。君、たしか治癒の魔法できるよな?」
「はい大丈夫です」
「よし、こちら救助班。要救助者確保」
智紀は歩けそうに無い男性と男性局員を能力で浮かし、治癒に専念させ、ゲンヤに通信を入れながら施設からの脱出しようとする。階段まではそう遠くない。
『よし、そちらに援護をまわすからそいつらと合流して…ん?どうしたラナ…お前らそこを離れろ!!』
「は?・・・!!!」
その瞬間左の壁が爆発し、容赦の無い爆風と破片が襲う。智紀と女性局員がとっさに重力障壁と魔法障壁を張り、被害を最小限に抑えたが全ての衝撃は殺し切れず、衝撃波が全員を襲う。
「グアア!?」
「くうう!?」
粉塵が舞い視界が閉ざれる。すぐに智紀が重力を操作し粉塵の霧を吹き飛ばす。
「(この臭いC-4に似てるな)ッ、くるぞ!!」
すると二人の男がこちらに距離を詰めてきていた。智紀が右の、ガルシアが左の男に応戦する。右の男は智紀の当身を右に回避し距離を開け、階段を背にゆらりと立ち此方を見据える。左の男はガルシアの剣の一撃を受け後方に下がる。
「ほう、爆発ならまだしもこちらの不意打ちは成功したと思ったんだがなぁ。やるじゃないか」
「生憎眼がいいんだ」
「へぇ面白いなあんた。俺は耳のほうがいいんだ。それにしても驚いたぜ、いきなり隔壁が降りて閉じこまれたときは」
するとガルシアが気づいたようにつぶやく。
「こいつらどっかで見たことあると思ったら前に見た指名手配書の中にいたな、二人組みの殺し屋みたいなの。名前は忘れたが」
「たしかアカヌ・ナカルって言ったはずです。フリーランスの何でも屋みたいなやつらです」
「ほうあんたら俺らを知ってるのか。俺たちも有名になったなぁ」
ガルシアが対立する男がクツクツと笑う。二人とも魔導師のようでどちらも片刃剣のアームドデバイスを持っていた。
「ゲンヤさんどうやら指名手配犯を用心棒に雇っていたらしい。交戦するから要救助者のために応援をよこしてください」
『了解した。すぐに応援をまわす。死ぬなよ』
そのまま念話を終了した
智紀side
「三人共じっとしていてくれ」
「え、それはどうゆう・・・」
また戦闘が開始された。ガルシアは爆破され繋がった通路のほうに、智紀は階段を背に立つ男に向かっていく。智紀は左腕を盾に男の剣を受け止め、能力を使い男を天井に貼り付ける。
「グッ!?」
その隙にさらに能力を使い、固まっている三人を階段まで飛ばす。
「あとはよろしく!」
「は、はい!」
男性職員が満身創痍の男性を背負い、女性局員が護衛しながら足早に階段を上がっていく。すると天井に張り付いていた男が魔法を使い下からの重力を何も感じないかのように浮かぶ。
「重力系のレアスキルか。本当にレアだなそれ」
「お前空戦魔導師だったのか」
「そうだな。本業はそっちだ」
「(強いなこいつ。ランクAは行ってるかもな)」
相手は魔法障壁を張り、空中に浮いている。下から上という異常な力の向きを受けながら。
「それにしてもお前のその左腕はなんだ?バリアジャケットでもないのに、殺傷設定にしてて斬れないってのはおかしいぞ?」
「チョイと特別製なんだ気にすんなっ!」
会話の終了とともに戦闘を再開する。智紀が重力付加を解き男が地面に着地したところに接近する。それに合わせ男が魔法で斬撃をいくつか飛ばし、自らも斬りかかる。斬撃を紙一重で回避し、振り下ろされる相手の剣を左手で掴もうするが、予想していたかのように斬り返し智紀の右胴を斬りにかかる。それを智明は右肘と膝でもって挟み剣を止め、剣を左手で叩き折ろうとする。すると男は剣を手放し一瞬で拳打と蹴りのコンビネーションに入った。魔力の強化も入っているのか強力な攻撃を左手だけでは捌ききれず、刺さるような蹴りが腹部に入り、拘束の緩んだ剣を掴み取り横なぎに振るいさらに足封じにと左足をも斬る。全ての攻撃をとっさに体をひねることで致命傷は避けたが、左脇腹と右胸部にダメージを負い、左足は義足なので事なきを得た。
「ッ!?」
智紀はすぐさま頭を切り替え、両手を構えずにだらりとさげ、右足を半歩さげ半身になって構える。
「ち、足にもなんか仕込んでやがんのか。おい、どうした管理局そんなもんか?だったらもう死ね」
男は次の攻撃に移っている。剣を八双に構えこちらに肉薄してくる。男は手負いの相手に油断するような三流ではない。剣に大きな魔力を通し確実に命を刈り取りに来る。今の彼の剣は鋼だろうが意図も簡単に切断してしまうほどの切れ味を持っているのだ。しかし彼はミスをした。それは相手の左腕、左足にただ装甲が仕込んであるだけで生身であると勘違いしてしまったことだった。剣を上から驚異的なスピードで振り下ろす。それに合わせるように左掌を上に向け、剣を受け止めるような姿勢になる。この時彼は自分の勝利を確信した。しかし一瞬でその予想は覆った。
ヴォン
不思議な音が聞こえた瞬間、男の右側頭部に激しい衝撃が襲う。
「ガァッ!?(いったい何が!?)」
まったく何が起こったか解らなかった。見切りは得意であったし、今はバリアジャケットや魔法のおかげで、魔法の使えない奴の無手の攻撃でどうにかなるような、柔な防御力はしてなかったし、重力のスキルを使用した不快感もなかった。気が付けば剣まで粉々に砕け、男は完全に意識も精神も混乱していた。そして一つのミスに気づいた。
「(なんだよその腕と足・・・)」
技の衝撃で左腕がノースリーブのようになり、左足はズボン膝の部分からビリビリに破けてその正体が顕わとなった。唯一わかったのは、どちらも人の体色をしていなかったということだけだった。智紀が男の意識が混濁している、その隙を見逃すことなどあるはずもなく、あっけなく男は気絶させられた。
先ほど何があったのか。智紀はそのまま剣を左手でたしかに受けた。しかしそれを右に流すようにいなす。そしてそのまま剣を支点にしてとんでもなく速い身体操作で飛び上がりながら左の膝蹴りと左手からある技を放った。
『周破衝拳』〈ヘルツェアハオエン〉
振動波を放ち内部から物体を破壊する技である。それにより魔力強化された剣を破壊したのだ。
「痛-なチクショウ。おっさん大丈夫かなー」
痛みに少々顔をしかめながら、戦っているのであろう仲間の安否を気にする。こちらまで剣戟の音が聞こえてくる。
ガルシアside
智紀が戦闘を終了させた一撃を放った時、戦闘は丁度膠着していた。お互い付かず離れずの絶妙な間合いで立ち、一歩でも無用心に踏み込めばその瞬間斬られるという緊張感が伝わってくる。
「フッ!!」
「ッ!!」
二人が一瞬で間合いを詰める。男が剣を振りかぶりガルシアが下段から男の剣をすり上げそのままを斬ろうとする。しかし男はそれを何とか剣で受け止めそのまま鍔迫り合いになってしまった。
「ヒヤッとしたぜ。ゾクゾクするなぁおっさん!!」
「ちょっと気持ち悪いからやめてくんない?あとおっさん言うな!!」
この状態はガルシアにとってあまり好ましい状態ではなかった。ガルシアの得物は打刀と同じもので、向こうはカットラスのようなもので激しい打ち合いに適したものである。それに加え相手のほうが力は上のようで、圧力がすさまじい。ここで男がガルシアを押し飛ばし、頭部を割ろうと剣を振る。それを冷静に受け巻き返しながら踏み込み打ち返す。このような攻防がさっきから何度も続いていた。
「そろそろめんどくせぇなぁ、オラァ!!」
男がそういうと魔力で作られたナイフのようなものが無数に飛んできた。
「マジか!?」
それを何とか体捌きや刀で防ぐが何発か肩や足に刺り、溶けるように消えていった。
「やってくれるな・・・」
「楽しかったぜ、じゃあなおっさん」
そういいながら右袈裟を切り裂こうと剣を振る。魔力による身体強化によりその速度はまさに一瞬。だがそのときガルシアの口角が上がる。刀でもって男の剣を下から叩き上げるように振るが、剣と接触した瞬間に力を抜き、上から剣をはたき落とすようにいなす。そして怪我を負っているとは思えない身のこなしで間合いを詰め、顔めがけて刀を振る。
「ウォ!?」
「お前の剣は我流か?」
先ほどとは打って変わりガルシアが目にも留まらぬ怒涛の攻めをしている。それにより男は受けに周らざるならなくなり、さっきとはまったく違う様子の相手に気圧され、背筋から悪寒がした。
「そうだがそれがどうした!」
「やり難くてしょうがなかったからな。それにまだまだ基本がなってねぇ」
そう言うと男は腹を立てたのか、無言のままガルシアを力任せに弾き飛ばし、自分の番だと言うが如く左袈裟に強烈な、それでいて隙の無い剣を振るう。それに合わせガルシアも左袈裟、それにプラスして互いの正中線が合わさる立ち位置で相手の剣の柄に近い部分に強打させる。それに伴い相手の剣が一時的に止まり、一瞬の隙が生まれる。そこに容赦なく斬り込んだ。それは男から見たら、剣を受け止められた瞬間、刀がすり抜けでもしてきたのかと勘違いしてしまうほどの剣速だった。
「基本がまともに出来りゃこんぐれーの事はだれでも出来るようになる。お前は俺より才能がありそうだが、その他が足らなすぎだな」
ガルシアはそのまま伸びてしまった男にそう告げ、錠のようなものを手につける。これで地下施設での戦いは終わった。
Side out
その後各管理局員の奮闘もあり、組織の施設2箇所の同時摘発は2時間後に無事作戦完了となった。今回管理局側において軽傷者は多数いたが、重傷者6名、死者0名と損害は最小限に抑えられ、人質の救出に加えアジトと武器製造施設の摘発と組員の捕縛、おまけに指名手配犯の逮捕という文句の無い結果となった。朝にはもうマスコミに嗅ぎ付けられたため報道され、ワイドショーの一面を飾っていた(主に陸士108部隊)。その次の日には記者会見が開かれ、323部隊代表としてクリアが出席したが、これといって特別目立つといったことは無く終わった。夜には協力部隊同士での飲み会が開催され、智紀はゲンヤさんから娘たちの話しを永延と聞かされ続けていた。そして翌日にはいつもの業務に戻っていった。そんなある日。
「これはどういうことかしら?」
「そのまんまの意味です」
ユキナやフレッドが先に帰り、帰宅ムードが高まっていたこの時、クリアのデスクの前に智弘、ガルシア、ラナが立っていた。みんないい笑顔で休暇の申請書を出していた。
「でもちょっと今他所からの仕事が溜まってきてて大変っていうかさ・・・」
「一週間、事件現場走りまくったの疲れたな~。なぁラナ」
「そうですね~。1日に何回も能力使ったから疲れましたね~」
「・・・この前の協力要請の件、自分ら知ってるんでいいですよね?少しくらい休暇とっても。ここに証拠の108部隊とのやり取りが書いてある資料があるんで、どうぞ確かめてください」
そういって智紀が紙束をクリアに渡す(ゲンヤさんに頼み用意してもらった)。それを悪戯がバレた子供のような顔でクリアが受け取った。
「他の二人に言わなくていいの?」
「5人一斉に申請したらクリアさん絶対許可しないじゃないですか!」
ラナが少し黒いこと言う。
「それに『休暇が欲しけりゃ賢くなれ』って言ったのアンタだしな」
ガルシアが追撃する。
「というわけで明日から数日間休暇をいただきます。じゃあお疲れ様でした」
そして3人は一緒にうまい物を食べに帰っていった。
「私も行くから待ってー!」
結局この日は部隊長の奢りとなった。翌日仕事場に来たフレッドとユキナがすべての経緯を聞き怒り狂ったのは言うまでもない。結局彼らも休んだ3人と部隊長からなにか奢って貰い、少ないながらも休日を得ることで和解となった。
今日も323部隊は忙しい。
『ペラブハン陸上警備隊隊長アメリア一等陸尉』
お巡りさんみたいなの欲しいなと思い作ってしまった。陸上警備隊ってのは実際に原作にあります。覚えてなかったけど。
『アカヌ・ナカル』
インドネシア語で悪童という意味。
『周破衝拳』〈ヘルツェアハオエン〉
銃夢という漫画の主人公が使う代表的な技。
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3話 特別対応班 1
朝の6時、閑静な住宅街に智紀とユキナがいた。二人とも隈のついた顔をしながら眠そうに車の中でじっと座っていた。実は昨日の残業中に別の部署から応援に来てくれないかと頼まれ、残業が終わらないまま徹夜して今に至ると言う訳なのだ。
「6時か…。最近時間の流れがさらに速くなったきがするな…」
「あら、あなたもついにおっさんの仲間入り?うつさないでよ」
「病気みてーに言うんじゃねーよ」
二人が軽口を叩き合っていると念話による通信が入ってきた。
『目標出てきました』
その瞬間二人が真剣な表情になり、前の住宅を注視する。そこには赤のチェック柄のシャツにジーパン姿で青のリュックを背負った、30代くらいの中肉中背の男が出てきた。
「あいつか」
「あいつね」
二人が男を確認し智紀がキーに手を掛ける。男が駐車場にある自分の車に乗り込みエンジンを掛けようとしたそのとき、智紀が車のエンジンを掛けそのまますばやく発進し、同じく発進してきたほかの車と一緒に、駐車場の出入り口を塞ぐ。裏にもある出入り口も同様に塞ぎ、完全に退路を断った状態にする。
「管理局です。ちょっといいですか」
車から降りた仲間が男に話しかける。
「い、一体なんですか!」
「自分たちが来た理由わかってるでしょう?これ令状です。あなたの車調べさせていただきますね」
そういうと数人で車を物色し始めた。
「あ!ちょっと!ちょっと待って…」
「あった」
「うわ、こんなに…」
そこには大量の女性下着がダンボールのような箱に入れられていた。
「ホントあの手の輩はムカつくわね」
「無駄に疲れるやつだったな…」
あのあと自宅まで捜査し多くの下着を押収しいざ逮捕といったときに、犯人の男がかなりゴネてかなりめんどくさかったのだ。朝一での仕事ということもあり余計に疲れ、昼飯まで仮眠室で寝ようと智紀が思っていたとき、部隊長のクリアから通信が入った。
『智紀君、あなた今時間空いてるわよね?』
「アイテナイデスヨー」
『空いてるのね。じゃあちょっとすぐオフィスに来てちょうだい』
「え、ちょっ…切りやがった」
それだけいって通信が切れた。
「空いてないって言ったじゃん!!」
「あんた演技ヘッタクソね」
「ハァ、せめて用件言ってくんないかな…」
「急用なんじゃない?」
「だったら尚更だろ」
そう愚痴りながら歩みを速める。こういった急に呼び出されるときは碌な用事ではないということを智紀は経験上察知していた。今日は何なんだろうと考えているうちにオフィスの前について、ドアを開ける。
「おや、来たわね。じゃあ智紀君いくわよ」
「はい?行くってどこに?」
智紀が当然の質問をするがそれより前に二の腕を万力のような握力で掴まれ引きずられていく。
「い、痛い!右は痛い!」
そう叫びながら智紀は拉致られて行った。
「いったい何なの…」
ユキナが呆然とした表情をしながら自分のデスクに戻っていく。
「あら?金髪はいいとしてガルシアさんは?」
よくみるとフレッドとガルシアのデスクが空いていたのだ。ユキナは一人残っていたラナに聞いた。
「ガルシアさんは刀の調子が悪いって言って、開発部のほうに行きました。」
「ふ~ん、そう」
ユキナはそのまま興味の対象をデスクの上に溜まっている紙束に移して盛大にため息をついた。
「腕ちぎれるかと思った…」
「まったくだらしないわね~」
今二人はいるところに向かっていた。管理局地上本部上層区画である。
「で、上層部の巣に来て何があるんですか?」
「それは行ってからのおたのしみ~☆」
「いい年こいて『おたのしみ~☆』ってグボァ!!?」
智紀がついツッコミをつぶやいてしまった瞬間、まさに神速の裏拳が顔にはいった。
「あら大丈夫?鼻血出てるわよ?」
「いえ…大丈夫じゃなさそうなんで帰ってもいいですか…」
「いいえダメよ。さっさとその顔洗ってきなさい」
そういってトイレを指差した。鬼である。
そんな一幕を終え目的地までたどり着いた。そこは自分らのオフィスとは違い随分と上等な両開きの扉があり、そこの前にフレッドがいた。それを見て智紀は大体のことを察した。
「よう、ひでぇツラだな」
「うっせぇな」
「あなたたち静かに。失礼します」
クリアがそう言いながら入っていく。智紀とフレッドも顔を引き締め入室する。
「おお、来たかい」
そこにはゆったりとしているが、力強い覇気を放つ老人が立っていた。
「323部隊クリア・へミスティン二等陸佐、浮岳智紀一等陸尉、フレッド・オーレン二等陸尉。ただいま到着しました」
「ああ、ご苦労。」
彼がそういった瞬間全体に結界のようなものが張られ、空気が一気に緩やかなものになった。
「もう楽にしてくれてかまわないよ。防音、盗聴対策の結界を張ったからね」
「ではお言葉に甘えて…。直接会うのは部隊結成以来ですね、ジョバンニ少将」
「君は本当にかわらないなぁクリア君」
互いに握手しソファに掛けた。
「君たちも座りなさい」
「「はい。失礼します」」
智紀とフレッドも座り、話が始まった。
「君たちとも久しぶりだねぇ」
「はい。書面か通信で軽い意思疎通をするくらいでしたから。」
「そうッスね。何か報告する時くらいしか接することないですからね」
久しぶりに直接会ったため、会話に花が咲く。そこにクリアが話しを戻した。
「積もる話もありますが本題に入りましょう」
「ふむそうだね。実は今回呼んだのは特別対応班としての任務と警告を伝えようと思ってね」
ある程度察しがついてたのか動揺はしなかったが、警告と言う言葉に皆が眉をひそめる。
「仕事と警告ですか・・・前者はともかくとして後者は穏やかじゃないですね。」
「任務は文面や通信でもよかったのでは?」
「うむ、色々と理由があってね。まずは依頼についての話をしようか。フレッド君調査報告も兼ねていいかい?」
「はい」
そして空中に大きめの画面が投影された。
「依頼するのは第37管理外世界にある違法研究施設の潜入、破壊だよ」
「潜入に破壊ですか・・・。どういった施設なんでしょう?」
「そこからは俺が説明します」
そこでフレッドが立ち上がる。
「えー、自分は今回ここの研究所について、関系組織、企業などを探って調査していました」
そういって画面を変える。画面には緑に囲まれた山の中に、自然豊かな所には不釣合いな人工物のゲートのようなものが映っていた。
「ここの研究所は表向きでは第52管理世界にあることになっており、デバイスなどに使われている高性能AIを開発する研究所としてあります。しかし裏ではレアスキルや人間の脳を使ったある研究がなされていたこと。あと実際に第52管理世界赴きダミーであることを調査した結果、確認しました」
「どんな研究なんだ?」
智紀が真剣な表情で聞く。
「簡単に言うと脳と脳を繋いだスパコンみたいなものを作っているようだ」
その言葉に部屋の空気が重くなる。
「専門的なものは分からないんですが、どうやら連中は人間の脳は未知の可能性を秘めているから、それでスパコン作ったらすごいことになんじゃね?って考えたらしいですね」
「イカレてるわね…。レアスキルはどういったものなの?」
「レアスキルは脳みそ研究の副産物みたいなものらしいです。ただ面白いのがレアスキルの付け替えを研究していたらしい」
「付け替え?」
智紀が首をかしげ、フレッドが頭をガシガシ掻きながら説明した。
「これもよくわかんねぇけど、レアスキルを連中は脳が特殊な何かを起こして出来るって考えて、その「何か」をチップとかメモリーに移して誰でも使えて且それが付け替え可能なようにするっていう研究をしてたようだ」
「(チップ、メモリー…)」
智紀がなにかを考え込み、クリアとジョバンニが質問する。
「大体想像つくけどバックにはなにがいるのかしら?」
「どの証言や資料のも明確なものは出てないッスけど、たぶん最高評議会関系じゃないかと」
「その研究施設で使われている人間はどういった人たちなんだい?」
「それがこれも明確なルートは掴めませんでしたが、おそらく人身売買の組織と各世界のスラム街や出稼ぎ労働者の人間を使っている可能性があります。出稼ぎ労働者の裏を取ろうとしたんですが、雲隠れするやつらがいるもんで絞りきれませんでした。」
「ふむ、よく調べてくれた。あとは報告書として提出しておいてくれ」
「了解しました」
「少将、今回の任務でも本局の情報部との連携はあるんでしょうか?」
「それは問題ない。彼らも情報は欲しいからね」
次元航行部隊、または本局や海と略される組織である。そこの情報部とはこういった任務のときだけ協力関係にあり、次元世界に渡る手続きや各種サポートをしてくれるのだ。
ここで智紀がジョバンニに聞く。
「さっき仰っていましたが、端末ではなくここで話さないといけない理由とはなんでしょうか」
「ああそうだったね。この話は先ほど言った警告と直結する話なのだが、ここ最近管理局上層部できな臭い動きがあってね」
「きな臭い、ですか?」
「うむ、レジアス・ゲイツ少将を知っているかな?」
「たしか地上本部の人ですよね」
「ああ、私自身が彼と敵対しているわけではないんだけどね、彼はちょっと地上の現状に大きな疑問を抱えていて、海の連中と大きく事を構えだしているんだよ。おまけに身内の荒捜しまで始めている。そんな中で文章や通信でこういった裏が漏れたら厄介でしょう?だから今回はそれらの警告と任務を口頭で伝えようと思って、このような形にしたと言うわけなんだよ。まぁ近いうちに新しい秘密回線を作る予定だけどね」
思っていた以上に大きな話なってきて智紀とフレッドは聞き入り、クリアは思案顔で聞いていた。
「元々陸と海は連携がとり辛かったり予算の問題で度々衝突はあったけど、彼のような権力のある人物が表立って言うことはあまりなかったからね。今のところ問題はなさそうだけど海との関係がさらに冷める可能性があるんだよねぇ」
「それは困りますね。海の情報部にはだいぶお世話になってますからね」
「情報部のほうは私から連絡をとって、特に問題はないことを確認したから大丈夫。おまけに彼らから『存分にやってくれ』と言伝までもらったよ」
その言伝に皆から苦笑が漏れる。するとクリアが腕時計をのぞき立ち上がる。
「さてあまり長居して怪しまれるのも厄介ですからここらで失礼します」
「監視でもされてるんスか?」
「上層部の陰険さを舐めてはいけないよフレッド君。その気になっていれば今頃君たちのプライバシーは全て覗かれてるかもしれないからねぇ」
「うえ~最悪ッスねそれは」
「ははは、じゃあ頼んだよ」
「「「はい、失礼します」」」
そういってドアを閉め3人は足早に上層区画を後にし、オフィスに戻ってすぐ会議を始めた。
「今回は智紀君とフレッド君のツートップだけで行く」
「クリアさん、私も行かないんですか?」
ラナが挙手しながら言う。
「今回の任務は機械的な電子回線だけでなく人間の脳も含まれる。君には少し酷過ぎる」
ラナは能力で人間の神経パルスにアクセスしてハッキングすることも出来るが、人の感情がモロに自分の中へ入ってきてしまうデメリットもある。そのためいくつも繋がった脳に間違ってアクセスしてしまった場合、発狂してしまう可能性があるとクリアは判断したのだ。
「でも…」
「気にすんなチビッ子。俺たちがパパッと終わらせちまうさ」
そういいながらフレッドがラナの頭をクシャクシャと撫でる。
「う~、だから子ども扱いしないでください!!」
「ハハハ、撫でられるのはガキの特権だ。あきらめな」
「まぁ、そこまでにしておきな。で、部隊長俺たちはどうすんだ?」
ガルシアが場を納め自分らの役目を問う。
「残りのみんなはこの二人の残ってる仕事を引き継いでもらえる?」
「まぁそうだろうなってわかってたけどさ…ちなみにドンくらいこいつら帰ってこないんだ?」
「3日ね」
「マジか…」
そういいながらガルシアは天井を仰ぎ見る。
「ハァ、智紀あなたの仕事渡しなさい。やっとくから」
「ありがてぇ。書類ばっかで現場行くようなのは今のところないから安心してくれ。帰ったら飯くらいは奢るよ」
「じゃあ俺のはおっさん、引き続きよろしく!」
「この野郎…。帰ったら飯の奢りの他にカートン二つ追加しとけよ」
「私も手伝います!」
皆の会話がひと段落ついたところでクリアが手を叩き全員の視線を集めた。
「じゃあすぐに準備しなさい。行くためのお膳立てはもうできてるから」
「分かりました。準備が出来次第出発します」
二人は緩んだ表情を引き締め、オフィスを出て行った。
ジョバンニ少将
323部隊の後見人的な人。どちらかと言うと穏健派で強硬的な主張はしないものの締める所は締めて制裁を加えるような清濁併せ持つ人。
情報部
本局にある管理局の諜報機関的な所。秘密主義で排他的なのであまり他部署とつるむことはないが323部隊は別で裏で協力関係を結び管理局内や次元世界の問題を解決している。
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4話 特別対応班 2
37管理外世界。
自然が豊かで共存するように人々が生活する世界。その奥地に目的の研究所はあった。智紀とフレッドの二人は出張捜査と偽りミッドチルダの空港から他の管理世界に行き、そこから情報部の手引きで管理外世界にやってきたのだ。
「目標確認。ったく情報部の連中転送場所遠すぎだろ。歩きだけで体力消耗するわ」
「夜お楽しみして翌朝出社し来る程度に体力はあるだろうがお前」
智紀が呆れながらそういい、スコープのようなもので目標の研究施設を観察する。二人は管理局の制服ではなく、全身黒の服装にこれまた黒のフェイスガードをつけフードのようなものを被り、見た目では分別がまったくつかないようになっている。
「入り口は一箇所だけ、感じから言って地下に続く構造、めんどくせぇなこりゃ。入り口閉じちゃってるし」
「それはいいとして、中に入ってからだな。抵抗がある場合は敵性排除、研究所内の情報を吸出し、最低5人ほど研究者を捕獲、あとは施設は完全破壊ねぇ。捕獲ってのがネックだな。情報部の連中ちゃんと後方待機してんだろうな」
「あいつら仕事はキッチリする連中だからな。一応今まで約束を反故にしたことはないし」
「元の世界じゃ諜報機関ってのは、裏切りが付き物だったんだがなぁ」
そういいながら智紀はフェイスガードをいじりながら、フレッドはデバイスをいじりながら立ち上がる。
「じゃあ始めるか」
「ああ、やっちまおう」
その瞬間二人は景色に溶けるように消えた。
山の中腹にその研究所はあった。ここは山々が重なるように山脈を形成している一部の場所で、現地の人間もほとんど立ち寄らない場所だった。研究所の前には木々で隠れるようにヘリポート用のスペースが空きそのすぐそばに鋼鉄のゲートが地下シェルターの入り口のように建っていた。今二人はそのゲートの目の前にいてついた瞬間警報が鳴る。
「ストリング、ちょっと離れてろ」
「了解」
智紀がそう言い、フレッドがすぐに後退する。智紀がゲートの前に立ち、少しの時間待って左手を大きく振りかぶってとんでもない速度の拳を打つ。その瞬間まるで大型の爆弾が爆発したかのようなとんでもない衝撃と音が起こり鋼鉄のゲートに大穴が開いていた。
「…久々に見たな。お前の大理不尽パンチ」
「そんなことよりさっさと行くぞ」
吹き飛んだゲートの瓦礫が衝撃により、奥のほうにある地下へと降りる、車も載れそうな大きいエレベータまで飛び、多くいたであろう警備隊のほとんどが、飛んできた瓦礫により原型を留めずバラバラになって転がっていた。
「GG、階段を見つけたから俺はそっちから行く」
「わかった、俺はエレベーターで行きながら陽動に徹する。何かあったら念話で通信してくれ」
「あいよ、じゃあ死ぬなよ」
「お前もな」
そういいながら二人は別行動を始めた。
智紀side
智紀はエレベーターに乗り下の階に進んでいた。1番上のフロアはゲートを吹っ飛ばした影響でほとんどの人間が死に、生きていても戦闘など出来る状態ではなかったため、脅威にならず、すんなりと通ってこれたのだ。エレベーターが止まり扉が開いた瞬間大量の魔力弾が襲ってきた。回避することなく能力で自分に重力のバリアのような壁を作り、全ての魔力弾を防ぐ。魔力弾が暴風雨の如く打ち出されるが、一つもその身に受けることなく歩き出す。
「なんなんだあいつは!何でこっちの攻撃が通用しないんだ!」
「チクショウ!こっちは殺傷設定で一斉射撃なんだぞ。誰か砲撃魔法使えるやつら、ぶっ放せぇ!!」
外野が戦々恐々している間に智紀はまわりを見渡し、確認する。
「(ふむ、広い空間に多くの資材がある。資材置き場として活用しながら侵入者をここで迎撃するためのフロアかな…)」
確認が終わった瞬間バリアを解き、まるでスケートリンクを滑るように高速で移動を始めた。地面だけでなく壁、天井も一切足を動かすことなく縦横無尽に滑走し魔法弾や砲撃魔法を避ける。そこからさらに多くの資材やコンテナを浮かして高速で飛ばし始めた。
「うわ!?なん・・・」グシャ
「ギャアアア・・・」ザクッ
大きなコンテナは何人もの人間を押しつぶし、平たい鉄板はギロチンの如く体を両断、長い資材は隠れているバリケードごと刺さり敵対者を貫く。さっきまで多くいた魔導師たちは一気に半分ほど減り、そこは一瞬で地獄と錯覚するような惨状だった。
「…なんだこいつは」
「ば、化け物…」
相対する魔導師はみな恐怖の表情を浮かべる。彼らは並みの魔導師よりも格上であると自負できるほどの実力と経験がある。そんな自分たちの攻撃が通じないだけでなく、その辺に置いてある資材やコンテナを何のモーションを起こさずに浮かせ、飛ばしてきたのだ。しかも驚きのあまりに足が止まっている魔導師にダメだしと言わんばかりに、頭を砕きバリアジャケットごしに体を貫通、もしくは体だけに直接ダメージを負わせる拳足を繰り出している。あまりにも非常識で徹底した一撃に、魔導師たちは恐怖により動きが鈍ってしまう。すると一人の男が飛び出していく。空戦が出来るようで飛びながら、壁を走る智紀に一瞬で近づき剣を振るった。とっさにバリアーを張るが切り裂かれ、その剣を智紀は左手で受けようとする。しかし受けた瞬間に違和感を感じ即座に距離を空ける。
「!?」
「・・・」
よく見ると受けた掌に切れ込みが入っていた。男は間髪いれずに再度攻撃を開始する。受けてはならないと判断し全てそれを回避する。距離を開けたい智紀だが男がそれを許さず距離を詰める。そこで智紀は能力で男を飛ばし無理矢理距離をあけた。すると今まで攻撃をやめていた警備隊たちが攻撃を再開する。その中には砲撃魔法も含まれ退路にも魔法弾の弾幕が張られていたためバリアーで何とか凌ぐ。智紀のバリアーは非常に強固である。だがそれは絶対防御の防壁などではなく、飽和攻撃や一撃が非常に強力な攻撃を受ければ当然の如く壊れてしまう。今はまさに雨のような魔力弾、砲撃魔法、によりその場で釘付けにされており、なんとかバリアーを幾重にも張って凌いでいた。しかし長くは持ちそうに無い。
「このまま物量で押せー!」
警備隊たちが勢い付き集中砲火をさらに強める。
「クソッ」
智紀はバリアーを薄め滑走しながら魔法弾のみ受け、下に転がっているコンテナを飛ばし砲撃魔法からの盾として使う。さらに再度落ちていた資材たちを飛ばし牽制する。相手も先ほどの惨劇から学びその攻撃をなんとか凌ぎ、攻撃を再開しようとするがいくつも浮かんだ資材、コンテナが邪魔をし、目標へのエイミングが遅れる。浮かぶ資材の影に智紀は隠れ、左手の袖を破き手を合わせる。
「こいつを使うか」
すると智紀の左腕背中側の肩から手首までが割れ、そこから不思議な模様の剣が出てきた。
頂肘装剣(エルボーゲン・ブラッド)
今度は智紀から攻撃を仕掛けた。今度は自分も浮かび上がり、浮かんでいる物を自分中心にして球状に高速回転させ、それで相手からの攻撃を防ぎながら物にかけている重力を解き、360度全体に廻っていた物を吹っ飛ばす。中にはうまく魔法障壁で飛んでくる物を防ぐ連中もいるがそれが、間に合わず潰れるやつらもいた。智紀は凌いだ連中に接近し間合いを詰め、左手に出した剣で斬り捨てる。それに気づいた剣士の男も間合いを詰める。それに遅れて他の数人も接近戦のモーションに入る。周りの警備隊はそれに合わせ援護射撃をして智紀の邪魔をする。そのせいで体勢が崩れ隙ができ、そこに剣士が己の全身全霊を込めた一撃を叩き込んだ。
「!?」
「もらいだ」
斬ったと思った人間が目の前にいた。剣士の男は瞬時に理解した。
「…『機』を外したか」
そう言った直後、彼の頭部と胴体は分離した。接近戦に入った数人も回転するような独特な動きの剣技により、誰もがバラバラに斬り刻まれ頭部、腸、手足など数々の部位が宙に舞う。
「次はお前たちだ」
血まみれになりながら警備隊全員にそう告げる。直後、資材置き場は血の海に染まった。
フレッドside
智紀が大暴れしているとき、フレッドは智紀のいるフロアより下の研究区画にいた。彼も智紀と同じく警備隊との戦闘になっていた。
「クソッ!?」
「オラァ!!」
狭い通路なので派手な攻撃が出来なく、魔法弾によるチマチマした攻撃をフレッドはステップやスウェーで回避し、距離を詰めながら左手の人差し指と中指をクイッと動かす。すると後ろのほうにいた二人が首から血を噴出して倒れた。
「な!?」
「余所見はいけねぇなぁ」
そういいながら前にいる二人の内の片方の男の眼を、もう片方の男の喉下を突く。
「ギャアアアア」
「ゴホッゴホッ!?」
二人の男たちは崩れるように倒れこみ、そこにダメだしの銃弾のような魔法弾で二人の男の頭部を撃ち抜く。そのまま男たちから悲鳴や咳き込みが消えた。
「ヒィィィ」
「じゃあお前さんには聞きたいことがある」
フェイスガードに仕込んである変声機で声を変え、右手から眼に見えるような糸を出して男の首に巻きつけ、隣にあった無人の部屋に引きずりながら入る。
「さっき二人の首が切れた正体はこれだ。じゃあ質問しようか」
「な、なんのだ」
怯えた口調の男にフレッドは淡々を聞き出す。
「研究員が少ないがなぜだ」
「そ、それは緊急時マニュアルに則ってまびきするんだ」
「まびき?」
「お前らみたいなのが襲撃してきた場合、あらかじめ脱出させると決めていた研究員以外を全て処分するんだよ。情報漏えいを防ぐためにな」
「何人残っている?」
「そ、それは」
男が口ごもると腰のホルスターから銃を出し突きつけた。
「魔力は節約しないとなぁ」
「わ、わかった言う。言うからやめろ!?」
男が叫び銃をはなす。
「7人だ。場所はこのフロアでこの部屋から反対側にある部屋に隠れている」
「そうか(手間が省けたな)」
そういってフレッドは立ち上がり、それを隙だと思った男はすぐに魔法を放とうとする。その瞬間首がずれ落ちた。
「糸があったこと忘れんな」
ある程度フロアを探索し、先ほど男が言っていた部屋に入っていった。そこには白衣を着た男5人女2人いた。
「き、君はだれだ!何の為にこんなこと…」
「お前らがそれを聞くのか?」
フレッドはフェイスガードに仕込んである変声機で声を変え、前にいる研究員に凄む。
「質問に答えてもらおう。ここのデータバンクはどこだ?」
「そんなこと言うはずが『パン』ギャアアア!?」
男性研究員の一人が反抗した瞬間、フレッドが銃を放ち研究員の肩を打ち抜いたのだ。男性はそのまま倒れ痛みによりのた打ち回る。
「キャアアアア!?」
女性研究員がその惨状に悲鳴を上げ男性研究員たちが戦慄する。
「データバンクはどこだ?」
同じ質問をする。
「デ、データバンクはこのフロアの一つ下にあるラボの中だ。これでいいだろ!私たちを解放しろ!殺したところで何の得も無いだろ!」
腰を抜かした状態でもう一人の男性研究員がフレッドに食って掛かる。
「じゃあそこまで案内してもらおうか」
「な、なぜそこまでしなくてはいけない」
「お前ら生きたいか?」
その言葉に渋々頷く6人。
「じゃあ協力してもらわないとなぁ。こっちもただのお荷物はいらないからなぁ」
分かりやすいほど嫌味な口調で言いながら、拳銃をクルクル指で回す。
「わ、分かった協力する。そうすれば私たちは死なないんだな?」
「ああ、殺さない。じゃあ纏まったところで案内よろしく」
こうして二人の案内人を選び、その他を糸で拘束して置く。二人を連れて下にむかい、その途中で智紀に念話を送る。
「こちらストリング。状況は?」
『こちらGG。丁度大方片付いた。そっちは?』
「研究員たち7人を発見した。俺は2人を連れて下の階にあるデータバンクのある部屋に行く」
『了解。じゃあこっちは残りを連れて行く』
「OKだ。こちらが終わり次第連絡する」
下のフロアに降りたたところで念話を切ると、目の前に一つのドアがあった。どうやら重要な部屋のようで、重厚感があり壊すには一苦労しそうなドアだ。二人のうち一人のIDですんなりと空けることができ、部屋の中に入るとそこには異様な光景が広がっていた。
「なんじゃこりゃ」
「ふん、貴様のようなやつには理解できない偉大な研究だ」
入った瞬間さっきまで怯えていた研究員が急に強気な態度になる。その部屋は壁一面に脳みその入った水槽が所狭しと並んであり、なにかの溶液に浸され何本ものコードが繋がっているという極めて何かがおかしい空間だった。フレッドは部屋に入ってドアをロックさせ、部屋の一番奥にある大きな端末の前に行く。その前には巨大なガラス張りの水槽のようなものがあり、その中にも数え切れない脳みそが浮かび繋がっていた。
「おまえらこっちに来い。下手なことをしたら頭ぶち抜くぞ」
そういいながら連れてきた二人の研究員を端末の前に立たせ、持ってきていたメモリーにデータ全てを移させる。フレッドは込み上げてくる吐き気と怒りを抑え、さっさと終わらせて早くここを出よう、そう思っていた。そこでふと思ったことを二人の研究員に聞く。
「そういえば被検体の体はどうしているんだ?」
「いらない物はそのまま処分する。いる物は…こうするんだよ!」
研究員が何かのボタンを押したそのときフレッドは危機感を感じドアのほうを向いた。ロックしていたはずのドアが開き、そこには十歳を超えたばかりと思われる手術のときに着るような服を着た子供が立っていた。その顔は能面のように固まり頭部に毛はなく、いくつもの手術痕があった。
「な!?(俺が気が付かなかっただと)」
警戒し横に回避すると謎の空気の流れを感じ、自分のいた場所の頭くらいの高さのところでヒュンと何かが通ったような音が聞こえ後ろの大水槽にひびが入っていた。フレッドが分析に入ると研究員の男が高らかに笑う。
「ははは!これでお前は終わりだ!」
「なに?」
連れてきた男性研究員が笑い出した。
「それはここで作られたレアスキル被検体で今ここにある被検体では唯一の完成品だ。チップにより空気を操るレアスキルを与えた上に、脳の情報処理を10倍以上にまで引き上げた作品だ。たかが魔導師が相手なら問題にもならない。さあ、私たちを助けろ!そうすれば」
言い終わらないうちに男の体が穴だらけになった。いきなりの出来事にもう一人の研究員は驚き尻餅をつきすぐに物陰に隠れた。フレッドは止まっていては危険と判断し即座に行動を開始しとりあえず拳銃を発砲する。すると弾丸は子供に届かず空中で静止しポロポロ落ちる。
「チッ、反則くせぇ」
「・・・」
子供は無言のまま空気の弾丸を飛ばしてくる。それを避けながら糸や銃弾を打ち出すが全て無力化されてしまう。すると子供のほうに空気が多く集まっていくような流れを感じた。
「やべ!?」
とっさにジャンプし天井に設置されていたパイプに糸を巻きつけ空中に逃げる。すると大砲のように巨大な弾が打ち出されたらしく大水槽と衝撃波により壁一面にある水槽を破壊した。そこでチャンスが訪れた。大水槽や水槽に入っていた溶液のようなものが流れ、津波のように押し寄せ、子供はバランスを崩した。その瞬間フレッドは糸を切って着地し、自分のレアスキルを使った。彼のレアスキルはハラスメント。使った相手の頭に浮かんだ戦術を強制的に半分忘れさせるといったものである。その効果は5分で使えば15分間使えないというデメリットがあるため短期決戦で決めなければならない。すると今回は運がよかったようで相手が空気の弾丸を使うという戦術を忘れ、空気の壁での攻撃を試みようとする。しかし弾丸よりも大雑把な攻撃でフレッドにとって、はるかに攻撃が読みやすかった。フレッドは左手の薬指からでる糸を引く。するとこちらを攻撃している子供が急に宙吊りになる。先ほど天井に逃げたときに気づかれないように糸を一本忍ばせておいたのだ。子供は苦しそうに首の糸を外そうとする。
「…あやまりはしない。恨んでくれ」
そういい糸をキュっと引っ張り、子供の首を落とした。
「悪魔め…」
隠れていた研究員がそう毒づく。
「その認識でまちがってねぇよ」
そういって死んだ研究員を捨て吸出しの終わったメモリーを抜き、研究員を連れて部屋を後にした。そのまま智紀に連絡を入れ、合流するため上を目指していく。
side out
完了の念話を受けて智紀は5人の研究員を能力で浮かばせ、フレッドを先ほどいた資材置き場のエレベーター前で相手の攻撃をバリアーと資材の壁で防ぎながらフレッドの到着の念話を待っていた。
『こちらストリング。合流地点に到着した』
「了解。これから向かう」
そういうとエレベーターを使わずそのまま自ら浮かび、飛んでいく。このエレベーターは資材搬入を兼ねたものであるようで、天井がなく上を見れば地上の階が見えるので、そのまま飛んでいっても問題なかった。智紀はついでにエレベーターを破壊し追撃が出来ないようにして速度を出して飛んでいく。上につくとフレッドが1人の人間を連れて待っていた。
「よし来たか。こんな所さっさ出よう」
「まったくだ。こんな所長居したくねぇ」
そういいながらフレッドと連れている1人も浮かして飛ぶ。生憎追っ手はまだ来てないらしく追撃は気にしないで外に出ることができた。ご丁寧に誰一人出れないように大きく開いた穴に瓦礫を積み上げる。
「じゃあ、さっさと最後の仕事にするか」
ある程度はなれて空に浮かんだまま智紀は手を研究所に向ける。するととんでもない轟音と小規模な地震を起こしながら研究所があった場所が沈んでいく。上からすさまじい重力で圧縮しているのだ。終わるとそこには高さ100mはあるかもしれ大穴が開いていた。それをフレッドは慣れたような顔で、起きている研究員は驚きに満ちた顔でその光景を眺めていた。
「よし終わったから行くぞ」
情報部の後方待機している部隊に研究員とメモリーを渡し、今回の任務を終えたのだった。
翌日 ミッドチルダ空港
任務を終え疲労困憊で帰りの次元航行船の中では二人とも爆睡だった。管理局の制服を着た男二人が船の中ずっと爆睡というのは違和感があったようで、近くの乗客、乗員は到着するまで怪訝な顔で彼らを見つめていた。ようやくミッドチルダの空港について二人は荷物の受け取り所で自分の荷物が来るのを待っている。
「あ~疲れた。もう当分やりたくねぇや」
「だな。早く帰ってシャワー浴びて寝たい」
荷物を受け取り二人とも外に出ようとしたとき、鼓膜を破らんばかりの轟音と地震のような揺れが空港を襲いった。
「なんなんだよクソ!?」
「今やべぇ事意外わかるか!」
二人とも怒鳴りながら瞬時に行動を開始する。避難誘導や倒れている人の介抱だ。そこに通信が入った。
『二人とも空港にいる?』
「います」
「います。なにがおきてんスか?」
通信相手はクリアだった。フレッドは冷静に聞き出す。
『空港で爆発が起こったの。事故かテロかはまだ不明で被害は甚大。二人はそのまま中で救助活動に当たってちょうだい』
「「了解」」
通信を切り行動を開始する。しばらくすると救助に来た部隊や消防隊がやってきて大規模な救助活動が開始されていく。しかし奥に行くにつれて火の手が激しくなりだんだんと難航していった。そこでまた通信が入った。またクリアだった。
『急にごめんなさい。青い髪の少女二人を見なかった?』
「いや見てません。その子たちがなにか?」
『…ゲンヤ・ナカジマ三佐の…ああ彼この前昇進したの。その娘さん二人が空港内にいたようよ。まだ発見されたと言う報告が上がっていない』
「おいおいあと残ってるとこって言ったら、火の手の激しい区画しか残ってないぞ」
「やべぇな。そのことゲンヤさんは?」
『もちろん知っているけど救助の指揮を執っているからそっちまで手が回らないのよ。責任感が強い人だからね。だから私たちに通信を入れてきたってわけ』
その瞬間二人は動き出した。智紀が能力で燃えているものを退かし道を作る。
「じゃあいきます」
『たのんだわよ。こちらも出来るだけフォローに回るから』
すぐに二人とも走り出す。
「智紀!俺は隣の区画に行く!」
「わかった俺はここを探す」
そういって二人とも炎の中に突っ込んでいった。
大きなホールを一人の少女が歩いていた。大きな怪我はなく、これほどの惨事の中運がいいと言えばそうだが、辺りの炎が行く手を遮っている状況がその幸運を全てマイナスにしてしまっていた。
「お父さん…お姉ちゃん…」
今にも不安に押しつぶされそうな声で家族を呼ぶ。しかしその声には誰も答えることなく、代わりにと言わんばかりにすぐ横で小規模な爆発が起こる。
「キャアアア!?」
少女は爆風に飲み込まれ大きく吹き飛ばされた。気づくと大きな石像の前まで飛ばされていた。
「痛いよ…熱いよ…」
少女が耐えられず泣き出してしまう。すると先ほどの爆発のせいか、後ろの石像の根元に大きくヒビが入り、ミシミシと嫌な音を立て始めた。それに少女は気づかない。
「誰か…助けて…」
そうか細い声で言うと自重に耐え切れなくなった石像が倒れだした。そこで少女はようやく自分の置かれている状況に気づき、恐怖により眼を瞑り自身の死を覚悟した。しかし自分の予想に反し何も起こらない。恐る恐る眼を開けるとそこには宙に浮いた石像が目の前にあった。
「大丈夫か!よく生きててくれた!もう大丈夫だからな」
そこには管理局の制服を着た一人の男がいた。智紀である。智紀は少女を抱き上げ石像の下から移動し、石像の重力を徐々に元に戻し、石像をゆっくりおろす。
「(あぶねー!?マジもう少し遅かったこの子がスプラッタ死体になるとこだった!)」
心底間に合ってよかったと思う智明に少女は驚いた表情を浮かべる。智紀は少女をおろして話しかけた。
「怪我は…そこまでひどくないな。君はゲンヤさんの娘さんかい?」
「え?お父さんを知ってるの?」
「ああ、お父さんとは友達だ。君の名前は?」
「…スバル」
智紀はそういって少女を落ち着かせ通信を入れる。
「こちら323浮岳。要救助者確保。ゲンヤ・ナカジマ三佐の娘さんです」
するとクリアではないオペレーターが出る。
『了解です!そう報告します!』
「もう一人のほうは?」
『いえ、まだ救助されたという報告は上がっていません』
「分かりました。このまま救助者を安全なところに移します」
そういって切ると丁度いいタイミングで一人の魔導師が飛んできた。
「大丈夫ですか!」
白いバリアジャケットに茶色の髪をツインテールにした少女だった。
「こちらは大丈夫ですって…高町?」
「え!浮岳教官!?」
二人は旧知の仲だった。以前智紀が教官をやっている知り合いに接近戦闘や護身術のレクチャーをしてくれと頼まれ、渋々やったレクチャーの訓練生の中に彼女がいたのだ。
「お前さんか、なら安心だな。この子頼めるか?」
そういってスバルを預ける。
「はい大丈夫ですが…教官はどうするんですか?」
「教官って言うのやめてくれマジで…。俺はこのまま救助を続ける」
「わかりました。じゃあ私がそのまま報告しておきます」
「じゃあよろしく」
そういって立ち去ろうとしたとき悪寒を感じ後ろを向く。そこには魔方陣を展開するなのはの姿がある。
「上まで一撃で抜くよ」
魔力を練り上げチャージする。
「え、ちょっとおま…」
「ディバイン」
さらに溜まりいい大きさになり。
「バスター!!」
地下から地上までぶち抜く砲撃を放った。
それを見ていた智紀は呆然とした顔で考える。
「(いやこれは救助に必要だったからよかったんだ。ぶち抜いて問題になって仕事が増えるなんてことは無い…ハズッ!!)」
そんな彼女たちに聞かせられないことを考えていた。
一方フレッドも丁度スバルの姉であるギンガを確保して通信を入れたところだった。
「もう大丈夫だ。君の妹も救助されたってよ」
「そうですか。ありがとうございます」
少女がうれしそうに微笑む。彼らのいるところはあまり火の手が無いため足場などを気にして安全に進んでいた。そこに金髪の魔導師が飛んできた。
「そこの人たち大丈夫ですか!」
「ん?おおいいところに航空魔導師がきたな。ほらあのネーチャンんといきな。連れてってくれるから」
「え、あの…」
「自分は323部隊のフレッド・オーレン二等陸尉です。この子たのみます」
「フェイト・テスタロッサ執務官です。分かりました、必ず安全なところまで連れて行きます」
「じゃあよろしくな」
そういってフレッドも智紀と同じく救助に戻っていった。
このあとも二人とも323部隊と合流して救助活動を続けた。被害は甚大だったが救える命を救い、多くの部隊や魔導師たちのおかげで鎮火することができた。しかし今回のこの一件で地上部隊や航空魔導師部隊との確執が浮き彫りになり大きな影響を及ぼす一件ともなった。そんなことは露知らず323部隊では。
「おい、これなんだ…」
「マジかよ…」
今回の空港火災の捜査と財務部から依頼できた被害総額算出の仕事の一部が智紀、フレッドのデスクの上に置かれていた。大量の紙束と共に。
「あと智紀君これもお願いね」
そういってクリアから渡されたのは、空港の運営団体への救助の際に行った施設破壊の報告と報告会への出席だった。
「これって…まさか…」
「あなた1番奥で救助してたんだし彼女の砲撃間近で見てたんだからうまく説明できるでしょ?」
「ここだけでも彼女にやらせれば…」
「エースオブエースにこんなもの上がやらすわけ無いでしょう」
「…ですよねぇ」
「まだ俺の方がマシだな…」
「あなたもよ?」
一瞬フレッドが硬直しすぐ正気にもどる。
「な、なんでッスか!俺は何にも…」
「あなたが救助者預けた執務官。彼女結構壁に穴あけて進んでいったらしいのよねぇ…」
「…なにその理不尽なとばっちり…」
そう言いながらフレッドは耐え切れず膝をついて項垂れる。これでさらに智紀とフレッドの自宅に帰れる回数が減ったことは言うまでも無い。323部隊全員は彼らに同情の眼を向け、肩を叩き精一杯の慰めの気持ちを送った。
『大理不尽パンチ』
「弾丸撃」(ゲショスシュラーク)という音速を超えるパンチに電磁加速を加えたもの。
『頂肘装剣』(エルボーゲン・ブラッド)
肘にブレードを装備して戦う術
最近夜が昼寝する時間くらいしか眠れん・・・。どうにかならんものか・・・。
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5話 夏場の捜査日誌 1
薄ら寒い駄文です。お覚悟を
「あ~、涼しいなぁここ」
「今年の夏はなんか去年より暑くなるらしいぞ」
「マジか~、まぁ冷夏になって色々おかしくなるよりはいいか」
空港火災から幾月か過ぎ、季節は夏となった。ジメジメとした空気にプラスして、ジリジリと太陽が照りつけ、コンクリートジャングルの街は昼に近づくにつれてドンドン加熱されていく。そんな昼過ぎに智紀とフレッドはミッドチルダではメジャーなファミレスで昼飯を食べようと店内に入っていった。そこにはガルシアが煙草を吸いながら待っていたようで、二人を見つけると煙草の火を消して座りなおした。二人は汗を拭きながら席につき注文を入れ話を始める。
「で、そっちは何か掴んだか?」
「掴んだって言うほどじゃないですけど、一応ちらほらって感じですかね」
「そうか。俺のほうも似たようなもんかな」
3人はある事件を追っていた(他の3人はオフィスで別の仕事)。今日の早朝クラナガンの一般住宅地でスーツ姿の女性の死体が発見された。名前はドロシー・パテシア39歳、ミッドチルダなどでは有名な大手キッチン用品企業のOL 、一人暮らしで交際相手なし、死因は自宅マンションからの飛び降りによる脳挫傷及び全身打撲。『この世の中で生きることに疲れました』というタイトルの封筒に入った遺書のようなものが見つかっているため、一応自殺の方向で捜査を進めているが、まだ断定できないので多角的に捜査をしている。そのためこれについて調べるため3人は、彼女周辺の聞き込みを行って、昼飯と一緒に中間報告をしようとしていたのだ。フレッドがメモ帳を見ながら話し出す。
「勤めてた会社に行ってきたんスけど、彼女結構なやり手だったようでしてねぇ、会社の幹部候補で人望もあって、会社での人間関係も良好で、誰に聞いても恨まれてるような話は出なかったって感じっス」
「自分も似たような感じです。近所の住民とクラナガンに住んでる彼女の友人のお宅を訪ねに行きましたけど、人当たりのいい人みたいでご近所づきあいも良好。友人たちの話にも恨み妬み、みたいなのは無かったですね」
「そうか、俺も現場検証で変わったところはなかったな。見た限りじゃ誰かいた痕跡もないし、部屋は良く片付いて特におかしい点はなかったな。遺族に知らせたりしたか?」
「それはもうしました。相当悲しんでましたよ」
「そりゃそうだろ。娘が自分らより早く逝っちまったんだから」
ガルシアは顔を顰めながら話を続けた。
「まぁ最近なにか悩みを抱えていたらしいな。彼女の部下がそう言ってた」
「悩みですか?」
「それがどんな悩みなのか今んとこ解んねぇんだけどな」
「自分のほうでは友人に婚期がどうのこうのって悩みは打ち明けてたらしいですね。でもそれは自殺の要因にはならないと思うんですよねぇ」
「過去の男とかはどうだったんだ?」
「聞きましたけど問題は無かったみたいですね。別れるときはちゃんとお互い納得した形で別れたそうですし、現に連絡のついた元カレは結婚して家庭持ちでアリバイもありました」
ガルシアは頭を掻き、智紀は水を飲みながら、フレッドは腕を組んで悩む。
「この女性、自殺する要因があんまないんだよなぁ」
「そうなんスよねぇ。突発性って事もあるし、悩みもあったって事らしいですけど、優秀なOLだったって言う女性が、気安く自殺なんてするとは思えないんスよねぇ」
「今んとこ解ってるのは、何か悩みを抱えていたってところですね。婚期かどうかはわかりませんけど」
「それが何かによっちゃ捜査の方針変えないといけないかもしれないっスねぇ」
「まぁ後は一回帰って検死結果と鑑識結果見てからだな。…お、飯がきたな」
注文していた昼飯が来て、三人はとりあえず一息入れていた。ガルシアは野菜たっぷりカレー、智紀は焼きそば大盛り、フレッドはしょうが焼き定食を食べる。そして会計をして店を出て行く。
「じゃあちょっと午後用事あるんで分かれます」
「そういやそんなこといってたな。わかった、先帰ってるわ」
「俺も帰るわ。じゃあ後でな」
そういって三人は別れていった。
先ほどガルシアたちと別れた智紀は今度はシャレた喫茶店にいた。コーヒーを注文し、少し大きめの鞄を注意しながら足元に置く。そこで少しばかり別件の仕事の資料を見ながら過ごしていると、一人の男が近寄ってきた。スーツ姿でキツそうな眼に痩せ型で、歩き方としっかりした体軸から只者ではないことがわかる。
「約束の時間より10分前、さすが時間にはカッチリしてるな」
「10分前行動はそれほど珍しいことでもないだろう」
男はそういうと智紀の前に腰掛て、店員にハーブティを注文する。
「で、本来表側ではお互い干渉しないと決めているはずの我々に、なぜこのようなことを頼んだ?浮岳」
「これはちょっとばかし個人的な用事でな、あんまり部隊の中で話す内容でもなかったんだ。だからお前らのところで且、まだ交流がある方の人間であるお前に頼み事をしたってわけだ、ジョージ」
ジョージと言われた男は悩ましいと言わんばかりに自分の眉間を揉む。彼はジョージ・レスター、本局にある情報部の人間で裏の仕事のときに度々世話になっている人物である。
「まぁ貴様らのボスの秘匿回線から来た通信だということから、お前のとこのボスから了承を得てやっているんだろうが、こちらの立場というのも考えて欲しいな」
「まぁそういうな。お前らにも幾つか情報をくれてやるんだから」
そういって智紀はコーヒーを飲み干し、店員におかわりを頼む。ジョージは懐からメモリーを出して智紀のほうに渡した。
「その中に前回の仕事の際に手に入れたデータが入っている。お前の欲しい情報もその中だろう。見たら返せよ。では聞かせてもらおうかお前の情報とやらを」
智紀はもらったメモリーを自分の端末に挿し、資料を見ながら話す。
「前回の仕事でレアスキルの開発があっただろ?」
「ああ、脳に改造を施すとかいうやつか」
「あれさ実は俺の元いた世界の技術に似てるんだよな」
「…何?」
ジョージはただでさえ細く鋭い眼をさらに細め、射殺さんばかりの眼光を放つ。そこにオドオドしながら店員がおかわりのコーヒーを持ってきた。それにお礼を言い店員が戻ったところで、ジョージの眼光を気にもしないで智紀は話を進める。
「脳に能力ICを埋め込んで使うっていう技術は、俺の世界では実際に実用化レベルまでいったものだ。俺の頭にも使ってるし。でも見た感じこれはまだ未完成って感じだな。チップ自体でかいし」
その言葉にジョージは少し驚いた表情をする。
「つまりお前がこの情報を欲した理由は自分のいた世界と類似したものだったからか…。」
「まぁ、そんな感じかな」
「お前の脳にも入ってるということだが、どういった経緯で?」
「俺のは実用化以前の人体実験で貰ったもんだ。俺の手足知ってりゃ解ると思うけど昔大怪我してさ、この手足付ける前に脳みそ弄られたりしてな、それでお前らで言うレアスキルが手に入ったんだよ」
「実用化したそっちのチップとこちらの世界のチップはどこが違う?」
その質問にコーヒーを飲んで一呼吸いれる。
「お前らがこの前の施設とか、俺が受けた非道な実験みたいなのをしないって、信用してるから話すけど一応言っとくぞ。見つけたらお前ら全員楽な死なせ方させねぇからな」
智紀が雰囲気をかえ、ジョージだけに強烈な殺気を放つ。それにジョージは真剣な顔に少しばかり怒気を含ませる。
「見くびるなよ。我々は多少排他的ではあるが仕事に誇りを持っているし、分別くらいはつく。現にこの情報を持ち出すのに数ヶ月を有するほどに情報管理を徹底しているのだ。そこらの烏合の衆のような部隊と一緒にするな」
そういって互いに睨み付け凄む。その様子に他の客、店員は怯え店内の空気が凍った様に寒くなる錯覚を覚えた。智紀は予想外の反応を示したジョージと店の凍えた雰囲気に笑えてきてしまい、自ら発する圧力を緩めた。
「そうかい、悪かったな。その言葉を信用しよう」
「フン、本題に戻るぞ」
「ああ、俺の世界のものはこんなメカメカしい物じゃなくて、脳にいれたら時間が経つにつれて馴染んで脳の一部に溶け込むタイプのものだった。だから解剖して取り出すってのもできないし、こっちのリサイクルみたいなコンセプトっていうのはなかった。あともう一つ俺の世界には拡張パックってのがあってな。まぁ簡単に言うと魔導師が使うデバイスみたいなものだ。能力使用の補助をしてくれている。こいつも基本的なものは脳の中にいれて馴染ませる。物によっちゃ外部から接続するものもあったがそういったのはクソでかい力を使うときだけだ、他ではあまり使わない。まぁこんなところか」
「だいぶ違うな」
「まあな、大元は似てはいるがな。脳みそにぶち込むって発想辺りが」
ジョージは終止真剣な顔で智紀の説明を聞き、質問を続ける。
「この件にお前の世界の技術が関与している可能性は考えられるか?」
「それについて俺もずっと考えてた。今のところ俺の世界との関係性については、証拠が無さ過ぎて判断付かねぇ。このデータだけで見ても別物に見える。でもなんだかキナ臭いいんだよなぁ」
「こちらの次元世界の独自技術だけが入ってきたしても十分厄介だが…」
「俺の世界から技術だけでなく技術を理解し扱うことが出来る人物がこっちに来ているとしたら…」
二人とも苦虫を噛み潰したような渋い顔で押し黙る。
「…今は予想の範囲を出ないが少し調査が必要かもしれないな」
「そうだな、俺も少し探ってみよう」
長話が終わり一息入れる二人。そこでふと思い出したように智紀が自分の鞄をあさって、渡されたメモリーと鞄の中身をジョージに差し出した。
「ほら、ささやかな感謝の贈り物だ」
「急に気持ちの悪いやつだなお前は…。」
そういって紙袋に包まれたものの中身を確認する。
「こ、これは!?」
その中にはフリフリの服を着た、可愛らしい女の子のグッズとフィギュアが入っていた。
「丁度私が欲しいと思っていたものを寄越すとは…。よく私の好みがわかったな」
「前の任務んときの移動中に、あんだけ長く語られたら嫌でも覚えるわ」
「しかしこれ第97管理外世界のものだぞ。よく手に入ったな」
「前にとっ捕まえた奴に盗品を捌いてるやつがいたんだよ。そいつ出所して心入れ替えてから真っ当な商い始めて成功してな、管理外世界の物の商売とかもやってるからこういったもんが手に入ったんだよ。金額かなり高くなってたけど、割引してもらったよ」
「ほう、それはいい事を聞いた。これから私も利用してみよう」
「俺の紹介って言えばたぶん割引してくれると思うぞ。俺からも連絡しておこう」
話し合いにお互い満足した二人は席を立ち会計して外に出る。
「見送りはいらない。このまま失礼する」
「おう、またな」
そういって二人は徐々に日が傾いてきた町に溶け込んでいった。
所変わって捜査官八神はやてのオフィス。彼女は端末の前で何かの書類を書き終わったようで背筋を伸ばし、ふと別の資料を見始めた。
「どうしたのですか?はやてちゃん?」
「え?あ、いやなんでもないよリイン。報告書終わったからちょっと調べ物をな?」
「調べ物ですか?最近多いですね」
はやては数ヶ月前に起こった空港火災のときのことを考えていた。元々管理局で仕事をしていて感じてはいたが、あの時の管理局の対応のちぐはぐさにとても不信感と危機感を覚えたのだ。そこで彼女は自ら部隊を持つことで管理局の古い体制に一石を投じようと思い立ったのだ。そんなある時彼女は管理局の部隊・局員全書とあるウィンドウに眼を通していて、とある一つの気になる部隊を見つけていた。
「捜査支援課323部隊か…」
はやてが今どういった部隊があるのか調べているときに目に付いた部隊がそれであった。航空火災の際高町なのはやフェイト・T・ハラオウンたちが救助に入ったときに中で会い、今の管理局にしては珍しい業務内容に彼女は関心を寄せていたのだ。
「設立目的は管理局の慢性的な人手不足を解消するために試験的に導入された部隊…。主な業務はクラナガンの事件捜査と、各部隊から委託された仕事…か。良く言えばお人好し、悪く言えばパシリやね。委託された仕事は別に手柄とかにもならんようやし」
そういいながら名簿のほうを見る。
「執務官、捜査官に…うわ査察官までおるんや。これなら大体どの部隊の仕事にも対応できる…。階級もある程度高いから個人で動ける権限もあるし…。おもしろい部隊やな」
はやては名簿を見ながら一人の隊員を見る。
「…でこの人がなのはちゃんの教官だった人」
そこには智紀の証明写真とプロフィールがあった。
「元次元漂流者で…って丁度私たちが魔法と始めて出会った年にやって来たんや。特殊な格闘技の達人でレアスキル保持者…。ていうか全員が何かしらレアスキル持っとるやん。その代わり魔力の類はあまりないみたいやけど」
一通り見終わりウィンドウを閉じ椅子に寄りかかる。椅子をギシギシ揺らしながら考えることに没頭する。
「(この部隊は私の部隊作りの参考になるかもしれない。いつか見てみたいなぁ)」
「はやてちゃん!!」
「うわ!?どおしたんリイン?」
「もうそろそろ出かけなきゃいけない時間ですよ。はやてちゃんさっきからボーっとして具合でも悪いですか?」
「大丈夫よ~リイン。今から準備するからな~」
仲良さそうに話しながら二人は外出する準備を始める。時間は夕方、太陽が若干傾き始め空の色はきれいなオレンジになり始めていた。
智紀は323部隊のオフィスに戻ってきていた。現場検証で集まった情報をみんなで整理しようと思ったためだ。入るとフレッド、ガルシア、ラナ、ユキナが揃い応接用の机に資料の紙が積まれていた。
「あれ部隊長は?」
「別件で出てしばらく帰ってこない。じゃあちゃっちゃとやっちまうぞ」
ガルシアが場を仕切りホワイトボードを使って会議が始まった。
「まずは害者についてから改めて説明するか」
ガルシアは解っている被害者についての説明を、滞りなく簡潔にホワイトボードを使って確認する。
「害者はドロシー・パテシア39歳、大手キッチン用品企業のOL 、一人暮らしで交際相手なし。死因は自宅マンション屋上からの飛び降りによる脳挫傷及び全身打撲でほぼ即死。死亡推定時刻は2時15分。4時に出かけようとした住民が駐車場にて発見し発覚。遺書も見つかっており自殺の可能性あり。リンカーコアはなく魔力はないためデバイスも持っていない。まぁこんなところか。で、これが新たに出た鑑識と検死結果のデータだ。ちゃんと眼通しておけよ」
「ん?こりゃ…」
そこには現場や遺体の写真つきで事細かなデータが書かれていた。
「アルコールが検知されたって酒飲んでたのか。しかも結構数値高いな」
「酒飲んだ勢いで自殺ってするか普通?しかもスーツ姿のままってのも奇妙だな」
「それだけじゃないわね。現場から若干の魔力が検知されてる。この感じからいって恐らく人払いの可能性がある」
「彼女の端末も何か操作された形跡があったみたいですね。中の一部データが消された痕跡があるそうです」
四人はデータを見ながら驚きを隠せないでいた。これらの不可解なデータが出てきたということは。
「お前らの思っているとおり、今回この案件は殺人の可能性が出てきたということになる」
ガルシアの言葉に一気に場の空気が引き締まった。
「少し状況を整理するぞ」
「そうですね。まず彼女の人物像。職場では優秀で人望があり、友人関係も良好。性格や人間性では人の話を聞く限り問題はなさそうですね。少々几帳面だったらしいですけど」
「今のところ害者のことでネックなのは何か悩みを抱えていたって所っスね。職場の人間が言っていたところを見ると職場関係の可能性がありそうな印象っスけど」
「現場のマンションはセキュリティがしっかりしていて侵入は難しい。そんな所で誰かの魔力を検知。恐らく人払いかそれに順ずる認識阻害系の魔法を仕掛けた人物がいることは確かね」
「遺書はパソコン端末で書かれ印刷されたもので、書こうと思えば誰でも書ける文面であり、紙質が彼女の部屋にあったプリンターにあった紙とは違ったとあります。端末からは何者かが弄った可能性がある痕跡と、消されていたデータがあるといった感じでしょうか」
「酒を飲んでいたが家からは空けた缶やビンの類は無かった。たぶんどこかで飲んでいたかもしれないな」
「監視カメラとかはジャミングか何かの影響か砂嵐で何も見えないか…。彼女の姿も無かったところを見るともしかしたら一緒にマンションに入ったかもしれないですね」
「鑑識結果から面白いデータが出てるなぁ。彼女のハイヒールの靴跡以外に別の靴跡が見つかっている…。こいつはパンプスらしいっスね」
「被害者問わず指紋・毛髪の類がきれいになくなっているということは、その何者かは実際に彼女の部屋に上がって自分の痕跡を掃除していったかもしれない。この他のやつを踏まえてもなかなか計画的な印象を受けるわね」
「前々から殺害する算段をつけていたって事でしょうか」
皆がどんどん意見を出し、ホワイトボードが文字や線で埋まっていく。ガルシアがいい頃合をみて一旦切る。
「じゃあこれからは殺人に捜査方針を変えていく。俺はもう一度現場に行って見落としがないか見てくる」
「自分はさっき聞き込みに行った人たちにまた聞いてきます」
「俺もまた勤め先の会社に行ってきまっす」
「私も智紀たちと同じく彼女の身辺を洗いなおしてみるわ」
「私は彼女の端末について調べます。もしかしたら消去されたデータが復元できるかも知れません」
皆が新たな捜査方針に切り替え、各々役割分担していく。
「おし、みんなの方針が決まったところで一旦解散。そろそろ夜になるから捜査は明日からだな。じゃあみんなで仲良く書類仕事しよう。・・・オネガイシマス、シゴトテツダッテクダサイ…」
「おじさん…カッコ悪…」
ガルシアがそういって会議を締める。最年長が頭を下げてお願いしている姿に、一同言いようの無い侘しさを感じ、微妙な空気のままみんなで仲良くお仕事をし、本日の業務を終了した。
ジョージ・レスター
情報部の人間。階級は智紀と同じ。優秀な人間で数々の極秘ミッションをやり遂げている。323部隊とは裏で協力し見知った仲といった感じ。他世界のサブカルチャーに大きな興味を抱いている所謂ガチオタ。
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6話 真夏の捜査日誌 2
ミッドの法律知らないんで。
翌日、昼前を見計らい智紀は聞き込みを行っていた。大体は昨日と同じで近所の聞き込みをユキナに任せ、被害女性の友人たちに片っ端から聞きまわっていた。そんなわけでまた昨日訪ねた、彼女の学生時代の友人宅に訪問しているところだった。
「昨日に続き今日もご協力いただきありがとうございます」
「いえいえそんな…。私も他の友人たちもドロシーの自殺の理由を知りたいですから…」
対応してくれている人物はミランダ・ボイキニア。被害女性ドロシー・パテシアの学生時代の友人で、現在まで良好な友人関係が続いていた親友にあたる人物である。現在彼女は結婚し二児の母親で専業主婦として生活している。彼女は少しばかり陰のある微笑を浮かべ、頭を下げながら智紀を自宅のリビングに案内し、客人として茶や茶菓子を出してもてなす。智紀はそのまま椅子に座りその対応にお礼を言いながら早速話しを始めた。
「実は本日また伺ったのはご報告することと聞きたいことがありまして」
「報告することと聞きたいことですか?」
「はい、実に言い難いことなのですが、捜査を進めていくうちに自殺ではなく他殺である可能性が出てきました」
その言葉にミランダは驚愕の表情を浮かべ、二重の目を大きく見開いた。
「え!?た、他殺って事は…誰かに殺されたのですか!?」
「ええ、今はまだ捜査中で詳しいことは話せませんが、それを匂わせる物証が出てきています。御辛いとは思いますが再びお話を聞かせてもらってもよろしいですか?」
「…はい…、協力させてください。私の話が彼女の事件解決に役立つなら」
ミランダは辛そうな表情浮かべながらも強い思いを感じさせる眼で智紀にそう答えた。
「ありがとうございます。ではお聞きしたいのですが本当に彼女に怨恨のような感情を持っていた人物などに心当たりはありませんか?」
「怨恨とかの感情は持っている人は…心当たりは本当にありません。あ、でも逆に気に食わない人がいるって言うのは聞いたことがあります」
「気に食わない人ですか?」
「はい、彼女あまり仕事の話はしないんですけど、2ヶ月くらい前お酒を二人で飲んでるときに珍しくポロっとつぶやいたんです。会社の上司らしいんですけど名前までは聞きませんでした」
「なるほど…。その他にいましたか」
「いえ…記憶にあるのはこれだけです」
智紀はこの証言について会社に聴取しに行ったフレッドに急いで内容を送った。これで新しい証言が出てくるかもしれない。
「では次にいきます。先ほどもお酒を二人で飲んでいたと仰っていましたが、ドロシーさんはお酒が好きなんですか?」
「そうですね。酒豪と言えるほどたくさん飲めるわけではないですけど、お酒はよく飲んでいました」
「その中に彼女の行きつけの店などはご存じないでしょうか」
「お店ですか…。はい、いくつか知ってるのでちょっと待っててください。アドレス帳を持ってきます」
そう言って戸棚からB5くらいの手帳一冊を取り出し、二つの名刺のようなものと二つの住所が書かれた欄を見せてきた。
「こちらの二つの名刺が彼女に連れてってもらったバーのものです。こちらの二つも同様の飲み屋さんのものです。私が知っている範囲はこのくらいです。彼女飲むことも好きだったですけど、食べることも好きでたくさんのおいしいお店を知ってたんです。それでよく私も教えてもらって・・・」
思い出に触れてしまい思わず涙が込み上げてきて言葉が続かなくなってしまう。智紀はただ黙って彼女が元に戻るのを待った。
「すみませんお見苦しいところを…」
「いえ御気に為さらないでください。ご友人を亡くされたのですから悲しむのは当然ですよ」
「ありがとうございます」
そういってミランダは涙を拭う。呼吸も落ち着きお互いお茶を飲んで一息入れ智紀が切り出す。
「お辛いとは思いますが最後に後一つだけよろしいでしょうか」
「はい大丈夫です」
「最近ドロシーさんに新しい友人や知り合いが出来たなどの話は聞いたりしませんでしたか?」
「いえ、そのような話はあまり…。ドロシーは元々社交的でしたから友人や知り合いはたくさん出来てると思うし、よく色んな人の話を聞いたのでどの人が付き合いが浅いとかいうのは申し訳ありませんがわかりません」
「そですか…」
智紀は一つ考え事をしながら次は教えてもらった店の住所に行ってみるかと考え席を立とうと思ったそのとき、ミランダが何かを思い出したように顔を上げた。
「そういえばドロシーが最近可愛い女の子がいるって言ってました。20代後半の若い子でとても気があって最近よく飲みに行ったり遊んだりしてるって」
その証言に智紀は何か手がかりを掴んだという感覚を感じた。
「その女性について詳しいことは?」
「たしか顎下に大きいほくろがあるセクシーな感じの子ってドロシーは言ってました。実際にその子のことは見てないのでこれ以上は…すみません」
「いえとても有益な情報です。ありがとうございます」
「もしかしてその子が?」
「いえまだわかりませんのでそれ以上のことは…」
「…もし犯人を捕まえたら聞いてもらえますか?なぜドロシーを殺さなければならなかったのかを・・・」
「はい必ず。任せてください、必ず我々が犯人を捕まえます」
「よろしくお願いします…」
智紀はミランダの協力に礼を言い、家を後にする。ミランダは願いを託すかのように智紀が角を曲がり見えなくなるまで見送り続けていた。
智紀が情報を得た店に向かっていたとき、クリアから念話通信が入った。
「浮岳です。どうでした?」
『智紀くん今から君の携帯端末にある映像を送るから見てちょうだい』
「何の映像ですか?」
『今うちで追っているOL事件についての映像。場所はクラナガン中央区画にある飲食街に設置されている監視カメラのものよ』
智紀は素早く持っている端末を弄り、送られてきた映像を見る。そこにはスーツ姿の被害女性ドロシーと隣を歩く一人のダークブラウンの女性が映っていた。
「こいつは…」
『この映像が撮られたのは一昨日の夜8時。となりの女性については調査中よ。彼女たちが向かった店の住所もメールで送っておいたからそこに向かって』
智紀は驚きながら先ほどもらった情報の中にある店の住所を見つめる。すると二つの店の住所が送られてきた住所と合致した。
「了解です。これから向かいます」
『そこの捜査が終わったら一旦オフィスに集まって情報整理するから戻りなさい。じゃあね』
そういって通信は切られた。智紀は急ぎ足で商店街の場所に向かっていった。
クラナガン中央区画の飲食街、近くにオフィスビルや管理局地上本部があるため客足が絶えない。色々な世界の料理や一流料理人の店が軒を連ね観光スポットとしても人気のある地域である。その飲食街の入り口にある大きなゲートの下に智紀はいた。捜査内容が書かれているメモ帳を歩き見ながらゲートを潜っていく。あくびをして現在時刻を確認し、手帳を閉じて目的地に急ぐ。
「ここか」
一件めの店は簡単に言うとイタリア料理店のようなところだった。外装は白い漆喰のような塗装がされ、店内は雰囲気作りのためか年季の入ったレンガ造りのような内装にしてあり、木のテーブルとイスが並んでいる。まだ2時とギリギリ昼時ということもありチラホラ客が食事をしている。二人が誰かに声をかけ様と思ったとき奥からウェイターと思しき女性が出てくる。
「いらっしゃいませー。お一人ですか?」
「いえ、管理局のものです。少しお話を聞かせていただきたいのですがよろしいでしょうか」
「え、あ、はい少々お待ちください」
そういって奥の厨房に入っていき少ししてから店長と思われる料理人の服装をした初老のように見える男性が出てきた。
「ここの店長のアドネと申します。ここではあれなので奥の別室に行きましょう」
案内され店の奥の従業員の休憩室のようなところで話を再開する。
「それでどういったご用件でしょうか?」
「まず自己紹介ですね。管理局323部隊の浮岳智紀です。本日伺ったのは少々お話を聞かせていただきたいと思いまして…。こちらの女性をご存知でしょうか?」
そういって智紀は自身の名刺を渡し、被害女性のドロシー・パテシアの写真を見せる。それを見せるとアドネ氏はすぐに質問に答えた。
「ああ、ドロシーさんですね、常連のお客様です。一昨日も来たばかりですよ。彼女が何か?」
「実は彼女が遺体で発見されました。今は事件、自殺両方の視点で捜査しています」
「え!?そうなんですか!?彼女が…」
「それで一昨日のことについてお聞きしたいのです」
「一昨日は…たしかご友人と一緒に来店していただきまして…。彼女にはシーザーサラダとゴルゴンゾーラ、ご友人にはカルボナーラをお出ししたのを記憶しています」
「そのご友人はどういった方でしたか?」
「ここ最近何度か二人でお越しいただいてましたよ。たしか顎下に大きめのホクロがある、キレイ系の美人といった感じでしょうか」
その発言に智紀は反応する。
「何時くらいまでここの居ましたか?」
「たしか1時間ちょっとですかね…。お二人で帰っていきましたよ」
「そうですか…。ご協力ありがとうございました」
礼を言いそこで話をて終え店から出て行き、次の店に向かっていった。そこは先ほどの店からさほど遠くない場所にあった。バーのようなところで外見からしてシックな大人の雰囲気というものが醸し出されている。準備中の札が掛けられていたが智紀はお構いなくドアを開け入っていく。すると掃除をしていた店員がこちらに気付き、小走りで近づいてきた。
「すみません、今はまだ準備中でして…」
「お仕事中すみません。私たちは管理局323部隊所属の浮岳智紀というものです。実はお話を聞かせていただきたくてこちらにお邪魔したのです」
「話ですか?」
「はい。ちなみにあなたは…」
「ああ、すみません私はここの店長のアーベル・ビヨルネといいます」
そういってアーベルは自身の名刺を差し出し、智紀も自身の名刺を交換し近くの四人席に案内され話しを始めた。
「実はある事件を追ってまして、こちらの女性に覚えはありますか?」
ドロシーの写真を見せ相手の反応を伺う。
「ああ、ドロシーさんですね。よく当店に来ていただいてます。彼女がどうかしたんですか?」
智紀は先ほどと同じような説明をし、話を再開させた。
「ここに一昨日彼女の他にもう一人来たはずなのですがご存知ですか?」
「ああ彼女ですか。確かに来店されましたよ。ドロシーさんは最近よく彼女と一緒にいらっしゃいましたよ」
「その彼女について何か知りませんか?」
「さぁ、私もそこまで親しくも無いですし、ここ数ヶ月で数回程度しか来店されてませんから…。でもたしかドロシーさんにベティって呼ばれてたかなぁ。年は離れてそうでしたけど二人ともすごく親しそうでしたよ」
「ベティさんですか…。その他には」
「すみません。そのくらいしかないですね」
「何か話していたとか、何か持っていたとか何でもいいのでありませんか」
店長はうーんと腕を組んで悩む。3分くらいそのような状態が続き店長が申し訳なさそうな表情で話し出す。
「私が聞いた話はホント世間話ばかりで会社の上司がどうだとか、洋服がどうだとかそんなのばかりです。何か持っていたといっても持っていたのは当店のグラスとか食器の類とかとボトル、あと自分のデバイスくらいしか記憶にはないですよ」
「デバイスですか?」
「ええ、ドロシーさんは持って無いようでしたから携帯端末を、ベティさんは自身のデバイスを持っていました」
「先ほどボトルと仰っていましたが…」
「ああ、ドロシーさんのキープボトルがあるんですよ」
そういってカウンターの棚に所狭しと並んでいる酒瓶から一本の瓶を持ってくる。
「これです」
「…高そうですね」
「そうですね。ちょっと値は張りますけど上物ですよ。彼女これを持ってよく酌をしたり自分も飲んだりしてました」
「そうですか…。これに触る人はどの位いますかね」
「そんなにいないですよ。自分かあとドロシーさんくらいです。キープされてるボトルとかは大体私が管理をしてるので決まったところに置いておくし、弄られてどこ行ったか解らなくなるのが嫌なので、私以外の従業員にはあまり触らせないようにしてるんです。」
「なるほど。そのボトルいただいてもよろしいですか?あとあなたの指紋も」
「え、かまいませんけど…なぜ?」
「そのボトルに付着しているベティさんの指紋を採取したいんです。そこであなたの指紋を取っておいて照合のときに混乱が起きないように事前にわかるようにしておきたいんです」
「そういうことなら…」
そういってセロハンテープのようなものに指紋をつけてもらい、それを回収する。
「ご協力感謝します。では自分はこのへんでおいとまします」
「いえいえ何かに協力できたなら幸いです。今度はお酒を飲みにいらして下さい。サービスしますよ」
そういって店長はイタズラっぽく笑みを浮かべる。
「ははは、そうですね。じゃあ今度また伺いますよ」
智紀は店長にそう返し店を出て行く。時間は3時前で太陽が燦々と輝き汗を誘う。智紀はうんざりしたように「暑い」とつぶやきオフィスへと戻っていった。
オフィスは冷房がガンガンに効いてもはや寒いレベルまでになっていた。智紀は帰ってきたのはいいものの、早すぎたためかクリアとユキナしかいないオフィスでテレビを見ながら一人遅い昼食を取っていた。飲食街で何か食べればよかったのだが、みんな集まっているかもしれないと思い寄り道せず帰ってきたのだ。そんなわけで一人物悲しくカップ麺をコーヒーと共に啜り飢えを凌いでいた。
「コーヒーとは合わねぇな…。コーヒーもまずいし」
「ちょっと。テレビうるさいから音量下げて」
ユキナがパソコンで表をまとめながら智紀に注文する。智紀は言われたとおりリモコンで音量を下げ、何かのバラエティ番組の再放送を流しながらまた麺を啜る作業に入る。
「あんたいつもそんなものばっかり食べてるの?」
「いいんだよ、腹に溜まれば美味かろうが不味かろうが同じなんだから」
「あんた料理できないんでしょ。情けないわねぇ作ってあげましょうか?」
「ハァ?お前料理なんてできんの?初耳だわ」
「ま、まぁね!(炒飯くらいしか出来ないとは言えない…)」
内心冷や汗を掻きながらドヤ顔をするユキナ。それを見たクリアは必死に笑いを堪え、智紀はひらめいた様にニヤリと笑う。
「じゃあ作ってもらおうかな~。それみんなで食べようぜ。ねぇクリアさん(ニヤニヤ)」
「そうねぇ。ぜひユキナちゃんの手料理を食べてみたいわね~(ニヤニヤ)」
二人とも含みのある笑い顔でユキナに提案する。ユキナは相手の予想外の返しをしてきたため一瞬狼狽してしまう。
「(し、しまった~!墓穴掘った!)い、いいですよ全員分余裕ですよ!」
今更できませんなど言えず、結局乗せられてしまうユキナなのであった。
そんな茶番が終わり他のみんなが戻ってきたところで、ガルシアが仕切り会議がスタートする。
「はい、じゃあ時計回りで俺、フレッド、ユキナ、智紀、部隊長の順で報告していくぞ」
「あれ、ラナがいないっスけど」
「あの子には頼みごとしてあるから遅れて来るわ。先に始めちゃいましょう」
クリアがラナの不在理由を告げる。ガルシアはそれに頷きホワイトボードのペンを持ち、張ってある被害女性の住んでいたフロアの見取り図に点を書き込み始める。
「これが害者と謎の人物の足跡だ。鑑識曰くかなり乱れた足取りでな特に害者の足跡が酷かったらしい。酒を飲んでいたことやこの足跡から考えると、泥酔状態の彼女を謎の人物が肩を貸して二人三脚みたいにして歩いていたと推測が出来る。あとここからが重要なんだが、屋上で彼女の足跡、指紋が検出されなかった。そのくせ鍵だけは開いていたんだ。自殺にしても他殺にしても不可解すぎる」
「それはベランダとか別の所から落ちた可能性は?」
「そいつは無理だ。駐車場はベランダではなくマンションの側面で、壁には空気交換用の小さい窓しかない。しかも彼女は角部屋じゃないからそんなことはできない。害者が落ちた地点はほぼ垂直な壁に面しているところで、どう足掻いても屋上からしかあの地点に落ちることは不可能だ。こんな感じだな、次どうぞ」
ガルシアは自身の説明を終え次のフレッドに回す。
「あい、じゃあ俺ね。昨日行った害者の勤め先に行ったんスけど、昨日じゃ出てこなかった証言が出ました。まず害者は人望のある人気者の反面、やっぱ若干の妬み見たいなのはあったようで、若いというのもあって一部の上司に睨まれていたらしいっス。で、近年そいつらの彼女に対しての当たりが強くなり始めていたらしくて、結構な無理難題や仕事量を押し付けていたようっス。でも彼女かなり優秀でそんな仕事も結局成功させちゃって逆に昇進チャンスとかにしちゃったらしいんスよ。で、そっから上と彼女のイタチゴッコみたいなのが続いていたらしいっス」
「それが害者が抱えていた悩みってやつなのか?」
「いや逆にこの逆境をバネにして仕事やっつけてたらしいから、あまり深刻な悩みではなかったようなんスよね」
「この上司ってどんな奴だ?」
「名前はジーン・ビクスビー。会社の重役で社内での評判はマチマチだったな。仕事面では優秀で信頼できるっていってたが、いかんせん小心者らしくて人望面ではあまりいい声はなかったな。そういやお前連絡してきたけど何だったんだ?」
「それは後で説明するよ」
フレッドが終わりユキナに発表者を次に移す。
「私ね。私は主に彼女の自宅周辺で聞き込みをしていました。そこで色々な証言が出てきました。まず一つはマンション周辺の住人から。2,3ヶ月ほど前から一週間に一度くらいの頻度で同じような女性が目撃されていました。大体決まった曜日にいたらしくて、それが印象に残って覚えていた人が証言してくれました。あともう一つ、あの辺りは昼になるとよく資源回収の業者が徐行で回っていたようでその人に話を聞きました。その人も前に証言してくれた方たちと同じで不審な女性を目撃していました。しかも職業柄同じ場所を周回するらしいのですが、その女性も何度もマンション周辺を回っていたそうで不思議に思っていたようです。恐らく推測するに綿密な下調べをしていたのでしょう。その女性の特徴なのですが、皆さん女性というのはわかっていたそうなんですが、どうも特徴などが全員そろって覚えていないようで、どうやら人に気付かれない程度の認識阻害魔法を使っていた可能性があります。私からは以上です」
「時間帯とかも一緒なのかしら?」
「いえ、昼時のときと夜時で曜日が違ったようです。カレンダーと照らし合わせてみたら、どうやら一週間に一度それぞれ交互に来ていたようです。」
これ以上質問が出ないようで次の智紀に移る。
「自分も外車に親密に関係のある人物を中心に聞き込みと彼女が通っていた飲食店への聞き込みを行いました。そこで害者と学生時代から親しかったミランダ・ボイキニアさんから気になる証言を幾つか貰いました。一つ目は害者が気に食わないと嫌っていた人物がいたということです。これは会社の上司のようで、フレッドの言っていた人物かはわかりませんがその可能性は十分に考えられます。二つ目は彼女が贔屓にしていた店の情報で、これについては後で説明します。三つ目は害者が最近自分より若い女と親しくしていたということです。どうやら友人関係らしいのですが詳しいことはわからず、特徴として顔の顎下に大きめのホクロがあるというもののみです。そして最後に彼女が贔屓にしていた店のことです。この中から害者が一昨日に例の女性と行った店を特定しました。実際に赴いて話を聞いたところ、一軒目でパスタの料理を食べ、一時間後くらいではしごしてバーにて酒を飲んでいます。そこのバーの店長から例の女性の呼び名を聞きだすことが出来ました。名前はベティ。本名か偽名か愛称かはわかりませんがそのように害者から呼ばれていたそうです。ここでも特徴である大きなホクロが確認されています。あと害者はそのバーでボトルをキープしていたようで、そのボトルをベティという女性は酌をしていたらしく、さっき鑑識に回したところ、害者、店長以外の指紋を発見したようで、恐らくそれがベティの指紋であると思われます。自分からは以上です」
「その女性とはどんなことを話していたんだ?」
「ただの世間話だったそうだ。ああそういえば言い忘れていたけど、ベティはどうやらデバイスを持っているそうだ。バーの店長が目撃していた」
「デバイス…。魔導師か」
自分の番を終え次のクリアに交代する。
「私のほうは調べたというより提供してもらった資料を紹介していくわ。まずは司法解剖の結果ね。これで解ったことは智紀君が行ったお店の料理とかお酒とかがでてきたわ。あと体内でわずかに睡眠魔法を使用したと思われる魔力を感知したの。これが被害者の自宅一帯に張られていた人払いの魔法の魔力と一致して、殺しと結界張った人物が同じだと考えていいわね。これで個人の特定が出来るようになったわ。今照合中よ。次は飲食街の監視カメラの映像を解析した結果謎の人物だったベティという女の人相が割れたわ。これ画像だからよく見ておいて」
画像が配られ皆が目に焼き付けるように見る。その画像には確かに顎下にホクロのある、背中まで届く長髪の女が映っていた。
「ほう、こりゃ美人っスねぇ」
「こいつか…」
「あとガルシア君あなたに一つ…」
クリアが何かを言いかけたとき突然オフィスのドアが勢いよく開かれる。そこには走ってきたのか息切れを起こしているラナが、何か茶封筒入りの資料を持って汗を袖で拭いながら近づいてきた。
「すみません!遅れました」
「大丈夫よ。で、今からすぐにいいかしら?」
「はい、大丈夫です!」
するとラナは持っていた茶封筒からホッチキス止めされた数枚の資料を全員分渡し、説明を開始する。
「私は今回被害者のパソコンを調べ、消されたと思われるデータの復元を試みてみました。結果だけで言うと5・6割復元に成功したといった感じです。そこで断片的ですがとんでもない表とデータが出てきました。資料にそのまま載せたので見てみてください」
全員がそう言われて渡された資料を読み出す。そこには今までの捜査ではまったく出てこなかった事実が浮き彫りになっていた。
「ちょっとこれって…」
「おいおい俺でも知ってる会社名があるな」
「この洗剤やスポンジとかその他…価格と数量計算のこのグラフとデータが正しけりゃこれは…」
「価格と数量のハードコア・カルテル…」
そこにはキッチン洗剤やスポンジなどの主婦には欠かせないキッチン用品の、ここ数年の価格、数量がグラフとして記され、さらに詳しい説明が書かれていた。まさかここまで大物が釣れるとは一同考えてもいなかったようで目を見開いて驚いている。
「このデータが彼女のパソコンに?」
「はい、復元できる分はこれだけですがまだまだデータには証拠が残っていたみたいでした。ここまで克明に書かれていたところを見ると彼女は…」
「管理局に直訴しようとしていたって訳ね」
ユキナが沈痛な面持ちで資料を見通す。
「だが解せないな。黒のこの女は会社ともまったく関系ねぇ。なんで害者を殺害したんだ?」
「実はそれを説明できるデータがあるのよ」
クリアはフレッドの弁にそう答え、一枚の紙を皆に配った。
「さっきの時にくださいよ…」
「ラナからの説明があったほうが理解しやすいし二度手間でしょ?」
そこには過去にあった自殺案件が書かれていた。数だけを見れば10件はある。
「男女関係無く車内で練炭に首吊り、身投げもあるな。これ全部まさかこいつが?」
「被疑者というより被害者の体内で見つかった魔力がそれらの案件から見つかった魔力と同質のものだということが判明したの。この魔力極めて隠蔽性が高くてね、これらの案件は全部過去に被疑者不在で自殺とかお宮になったものばかりなの。今回のでその尻尾が見えてきたってところね」
「つまりこいつは殺しを自殺に見せかける殺し屋…。しかもこいつに害者の殺しを依頼したやつがいるってことですか」
「こいつがとにかくクソアマでさっさと捕まえなきゃならないってのはわかったっスけど、こいつどこいるんすかね?」
フレッドのぼやきにみんながうーんと頭を抱える。人相と前科などがわかっても肝心の居場所がないとわからないのだ。そんなみんなが思い悩んでいるとき、クリアがガルシアにあるものを渡す。
「そんな悩んでいるガルシア君これを」
「は?これは…酒?って結構上等なやつじゃないですか」
「あ、それは…」
クリアが手渡した物は智紀が持ち帰ってきたボトルだった。
「それは智紀君が持ち帰ってきた、被疑者が触って被害者に酌した酒瓶だそうよ。これならあなたの能力で終えないかしら」
「ちょっと難しいですね。その場合はこの酒を酌している情景が見えるだけで犯人追跡に使える因果的なものがありません」
「その中身ではどうですか?」
二人が何とかできないかと悩んでいるところに智紀が意見を挟む。
「バーのマスターを聴取しているときその酒の中身も飲んでいたそうです。それではいけませんかね?」
その意見にガルシアは暫し考え、顔を上げた。
「それならいけるかもしれない」
その言葉に全員が安堵の表情とやる気に満ちた表情を浮かべる。
「これでクソアマを追えるな」
「ええ、でもカルテルのほうはどうするの?これはさすがに規模が大きすぎて私たちじゃ対処しきれないし、なにより門外漢よ?」
「それについては大丈夫です!」
ラナが無い胸を張って自身ありげに言う。
「もうすでに知能犯捜査の専門部隊のところに連絡を入れておきました。すでに資料も渡したので向こうでも捜査を行うはずです」
「ああ、それで会議に遅れてきたんだ。でも今回大手柄だな。すごいじゃないか」
そういいながら智紀はラナの頭をなで繰り回す。それに続きユキナも頭を撫でラナは「子ども扱いしないでください!」と言うがまんざら嫌ではないようであった。一方ガルシアは能力を使って女の追跡をしようと思っていたがその方法で悩んでいた。
「なぁちょっといいか?」
「どうしたんスか?」
深刻そうに酒瓶をもって一言。
「追跡に必要かもしれないからこれ飲んでいいか?」
当然彼が全員の冷ややかな視線を浴びたことは言うまでも無い。
20:00クラナガンのある住宅街にあるマンション。そこに二人の男と一人の女がいた。二人の男は黒いスーツに身を包み、そこらのチンピラとは比べ物にならない威圧感を放ちながら多人数用のソファに、女は濃い青のスーツを着込み一人用のソファに腰掛けていた。双方の間の机にはスーツケースが置いてあり、大量の札束が入ってあった。
「ボスからの謝礼金だ」
「あら、今回は中々良心的な額ね。そっちの景気がいいのかしら」
「今回の仕事は元々ボスへの頼まれごとだったからサービスだとよ」
そういって帽子を被った男がクツクツと笑う。女はそれに見向きもせず札束を数え始める。
「今回の仕事の後、管理局はどう動いてるのかしら?」
「嗅ぎまわっているようだが、お前がいつも通り仕事をしていればここまでたどり着くことはないだろう」
「でもそろそろ顔が割れると思うのよね~。一旦どこかに身を隠そうかしら」
「それは次の仕事を終えてからにしてもらいたいな」
そういって帽子を被らずインテリっぽい眼鏡を掛けている男が内ポケットからバッジ型のデバイスを取り出し、ウィンドウを展開する。
「ちょっとペースが速くない?ついさっき仕事終えたばかりなのよ」
「今回はまどろっこしい小細工はいらない。闇討ちして仕留めてもらいたい。ターゲットは管理局の…」
ピンポーン
そのとき家のインターホンが鳴った。3人はドアを凝視し、音を立てずに移動する。ここのマンションはセキュリティ上一階でまず第一のインターホンを鳴らし、家主に入るためのOKを貰わなくてはならない。だが今の音は第二のインターホンであるドアのすぐ横に備え付けてあるものの音だった。だれもこの部屋に呼んでもいないし、何より下のパスも行っていない。女は慎重な顔でインターホンに出てモニターを覗く。そこには初老に近い男性とスウェットにジャージの上着を着た黒髪の若い男が映っていた。
「どちら様ですか?」
『夜分遅くすみません。自分はこのマンションの管理人です。近隣住民の方から苦情が来てまして少しお話がしたいのですが』
それを聞いた3人は首をかしげ、とりあえず応対をする。
「いったい何のことでしょうか。心当たりが在りませんが…」
『私の横にいる方やそのほかの住人の方から異臭がするという苦情をいただいてます。私としても苦情をいただいてしまっては、何もしないわけにはいけませんので出来れば話し合いで解決したいのですが…』
「知りません。帰ってください」
『こちらとしてもこのまま苦情が続くようなら、管理局などに一報を入れなければならなくなりますが…』
その言葉につい舌打ちしてしまう。面倒なことになった。仲間の帽子男が首をクイクイっとドアのほうにやる。
「(面倒だから出て話し合いで解決しろ)」
そのように目で訴えてくる。女はため息を吐き今から開けると告げ、玄関に向かう。二人の男はトイレや脱衣所に隠れ様子を伺う。そして女がドアを開けた。すると初老の男性の姿はなくジャージ男だけが立っていた。すると男がドアが閉まらないように足をストッパーのように入れこちらにIDのようなものと一枚の紙を見せてくる。それには管理局員の身分と逮捕状と書かれていた。
「管理局だ。ヘザー・バーギンスさんアンタを殺人容疑で逮捕する」
その瞬間女はデバイスを起動し、その手に機械的な杖を持って、先端に殺傷設定の魔法の刃をつけ男に襲い掛かる。だがその一撃は右手によって左に払われその右腕の上から左腕の拳が放たれ女の顎にクリーンヒットする。その一撃で女は昏倒してしまった。その1秒にも満たない攻防に二人の男は出遅れていまい二人ともベランダからの脱出を試みる。二人とも魔導師であり、空戦まではいかないが空は飛べたのだ。窓を開けデバイスを起動してベランダから飛び出そうとする。一旦逃げてボスに報告しようそう思っていた矢先だった。
一切の音も無く眼鏡の男は見えない糸に絡みとられ、帽子の男は布で簀巻きにされていた。
「はいお疲れさん」
「気をつけなさい。逃げようとすればその分絞まるわよ」
管理局員の男と女が両隣の部屋のベランダから自身のデバイスを使い、得物を待つ蜘蛛の如く待機していたのだ。そのとき初めて自分らが包囲されていたことに男たちは気付いたのだった。
そこからの捜査はトントン拍子で滞りなく進んでいった。女、ベティ改めヘザー・バーギンスが全て吐いたのだ。どうやら魔法で眠らせた後そのまま担いで空を飛んで屋上と同じ高さから放り投げ、屋上の鍵も空中に浮かびながら開けてあたかも自殺のように見せかけたと自供した。男二人も同様だった。なぜヘザーの名前が割れたかというと理由は単純で成人前の学生時代に売春などの問題行為で管理局に補導され、そのときに取られた魔力がデータバンクの奥底に残っていたのだ。彼女らはとあるマフィアの構成員でヘザーは組織お抱えの殺し屋だった。彼女はなぜドロシーを殺さなければいけなかったのか理由は知らなかったが、二人の男が自供した。どうやら被害者のドロシー・パテシアが勤めている会社の重役に組織のボスと繋がりがある人物がいるようで、その人物から直々に依頼が来たそうだ。
このことから二つの案件がほぼ同時に追われることになった。まず先に追われたのがマフィアの事務所だ。ここに管理局のメスが入り323部隊も協力要員として参加した。元々覚醒剤の売買などで目を付けられていたらしく、丁度今回の殺人絡みでついに事務所のガサ入れに踏み込めるようになった。そこからは覚醒剤はもちろんのこと、ドロシー殺害を依頼した人物の連絡先まで入っていた。さらに芋づる式のようにドロシーが勤めていた会社の強制捜査が開始された。それは百人を優に超える管理局員が動員され、メディアに大きく取り上げられるほどだった。強制捜査の結果、数社の会社とカルテルが行われていた証拠が挙がり、さらにドロシー殺しの依頼者として彼女の上司ジーン・ビクスビーが教唆犯の疑いで逮捕された。こうしてドロシー・パテシアを廻る事件は無事解決し、他二つの犯罪の芽を駆除することが出来た。
数日後、大体9時ごろ、智紀はと言うと事件解決の旨を告げに友人宅をまわっており大方回り終えたところであった。友人であったミランダさんらは涙を流しながら「ありがとう」と何度もお礼を口にし、晴れやかとは決して言えないが、憑き物が取れたような表情を浮かべていた。智紀はそのまま足をあの飲食街に向け、とあるバーの扉を開ける。そこには部隊のみんながそろっていた。
「遅ぇぞ。そんなにマダムたちとの密会は楽しかったか?」
「お前じゃあるまいし、そんな不順なもののわけがあるか阿呆」
すでに飲んでいるフレッドと適当に会話し、智紀はそのままみんなの座っている座席に座り、マスターと会話する。
「いらっしゃいませ。まさか来ていただけるとは思ってませんでしたよ。しかも団体様で」
「サービスして貰えると聞いちゃ行かない手は無いでしょう?」
智紀はにやりと口角を挙げ、マスターは苦笑する。
「何に為さいますか?」
「まずは生ビールで」
「かしこまりました」
マスターは離れカウンターに戻っていく。今日は打ち上げということでここのバーを貸切にしてもらえたのだ。久しぶりの飲み会ということで皆のテンションも上限知らずで上がっていく。
「ではここで第一回ドキ☆ドキ大暴露大会を開催するわよー!!くじ引いて当たり引いた人はじゃんじゃんうれしはずかしー体験を暴露しちゃってねー!!」
「ヒュー、クリアさん大胆~!」
クリアが酒に酔ってなにかをやり始め、フレッドがそれを囃す。
「(おいおい!?もうここまで進んでいたのかこいつら!)」
智紀は予想外のアルコールの回り具合に危機感を覚える。よく見るとクリア、フレッドがハイになり、ガルシアは笑いっぱなしでユキナは泣き出していた。
「あっれ~、智紀ひゃんノリわりゅいでひゅね~」
「…ラナ、お前飲んだのか?」
「アハハハ!そんにゃわけにゃいじゃにゃいですか~」
ラナの持っているものを見るとどうやらオレンジジュースらしきものが入っている。アルコール臭はしない。
「…お前場酔いなのか」
そこはまさに餌を与えた水槽の魚見たく収拾が付かなくなっており、頭を抱えたくなるような状況であった。
するとみんなくじを引き始める。智紀は「やんのかよ!」と心でツッコンで仕方なしにくじへと手を伸ばす。散々愚痴るがたまにはこういうのも悪くないと心で思えてしまう智紀であった。
今更ながらUAが4000を超え、評価も800以上と当初の自分が想像していたものの遥か上をいく数値となりました。
まだまだ未熟な私の書く文章ですが、ここまでの評価をいただき誠にありがとうございます。とても嬉しいです。
完結目指して精進していきますので、よろしくお願いします。
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