We did'nt start the fire (lamina)
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プロローグ とあるリンクスの手記より抜粋

アーマードコアの二次創作を書く
       ↓
誰かの目に留まる
       ↓
アーマードコアがプレイされる
       ↓
心は戦いを求める
       ↓
アーマードコアの新作が発表される


 《PrivateMemorir(個人手記)/Author(著者):S,K by11-Mar. 2x23》

 予てより所属していた会社が、幾つかの会社と合併することになったそうだ。

 それに伴い、私の馴染みの研究室も解体され、人材は新しく作られる部門に再配置されることになる。

 これを機会にスクラップ&ビルドを済ませてしまうつもりなのだろう。

 画一化されていた面は一新され、非効率的だった部分を削ぎ落とし、次なる発展のリソースとして有効活用される。

 

 そこで問題となるのは、新生する組織に置ける私のスタンスだ。

 果たして私は、有益な人材足り得るか?

 

 個人で判断を下すには情報が不足している。

 足りないものを補う為に、先ずは上層部(老人共)に掛け合ってみなけらばならないだろう。

 

 …どうも嫌な予感が拭いきれない。

 あの時から、時代は猛烈な速度で流れて行く。

 これも時代の変遷の現れならば、取り残されぬ様慎重を期して立ち回らなければならない。

 

 

 

 《PrivateMemorir/Author:S,K by18-Mar. 2x23》

 案の定、私の危惧は実現した。

 情報を統合するに、私の企業内地位はこれまでよりも低いものとなるだろう。

 私の、というよりは、リンクスの地位は、というべきだろう。

 恐らくはこれは我が社の決定ではなく、より大きな、企業連全体の決定ではないだろうか。

 レイレナードの消滅。

 リンクス戦争の結末。

 コロニー・アナトリアの失陥。

 思い当たる節は山ほどある。

 

 そもそもアームズフォート等というデカブツが複数の企業間で開発されている時点で、企業連の思惑は見え透いている。

 

 詰まるところ、老人どもはネクストという個人の存在に依存する強大な戦力の危うさに漸く気付いたのだろう。

 

 その結果が複数の凡人とソフトウェアによって駆動するあの馬鹿デカい鉄の塊というわけだ。

 

 …これは、潮時かもしれないな。

 

 

 

 《PrivateMemorir/Author:S,K by29-Mar. 2x23》

 なんでも、近い将来カラードというリンクスに依頼を斡旋する組織が作られ、我々リンクスは皆そこに所属することになるらしい。

 

 らしい、とはいうものの、それなりに金をかけて複数のソースから確認したため、組織名含め確定情報と見なして良いだろう。

 COLLARED(繋がれたもの)、とは気が利いた名前だ。

 そのストレートさはいっそ敬服に値する。

 

 その名の通り、我々に首輪を着けて統括管理し、企業間闘争の体の良い尖兵として使い潰す心算だろう。

 ネクストを戦場の中核から降格させ、アームズフォートをそこにとって代わらせるというシナリオが見え透いている。

 

 アレの機動実験に付き合わされた身としては、現実は青写真の通りには運ばれない確信があるが、問題は別に在る。

 

 別に社内の地位が落とされ、以前ほどの金銭的報酬が望めないからといってそれはたいした問題ではない。

 金は充分過ぎるほど稼いでいるのだ。

 弾薬費やら兵器の購入費用は別として、個人の生活にはこれ以上の金額は無用だろう。

 

 ただ、企業連によってパックス・エコノミカ(社会的地位の明確な階層化)が実現した今の世界では、地位の標高は命の価値と等号で結ばれている。

 私は替えの効き辛い人材でこそ在るものの、社内における政治的地位は低い。

 腹芸は余り得意ではないのだ。

 私の価値は積み上げた戦闘経験と、ネクストとリンクス開発における専門知識だけだ。

 その二つだけでこの先生きのこれると楽観するには、少々私はこの業界を知りすぎている。

 ベルリオーズも、メアリーも、アンジェも、皆散って行ったのだ。

 BFFの「博士」の様な政治手腕も、GEの「夫人」の様な俯瞰視点を持たない私では、老人どもの思惑通りに使い潰される末路を辿るだけだろう。

 

 

 潮時だ。

 あらゆる意味で、潮時だ。

 一線を退くには、今を於いて他に無い。

 

 

 

 

  《VoiceRecord(音声記録)/Place,Transport aircraft M Co:21(中型航空輸送機 第21号)/block2 passageA(第二区画 通路A)

 

「もうお発ちになるのですか。リンクス」

 

「ああ、下準備は済ませている。必要なモノは、このプラットフォームを降りてから整えるさ」

 

「貴方が降りるコロニーは、住民のクレイドルへの段階的移転が進められています。政治的な思惑が多く介在する場所です。必然、物騒な様相を呈する事になるでしょう。どうか、お気を付けて」

 

「分かっている。それを理解しているからこそあそこを選んだのだからな。それにしても、私の稼ぎをそのまま持ち去って良いとは思わなかったぞ。それについては多少の妥協は覚悟していたのだが」

 

「上層部は貴方の処遇を協議中でした。使い続けるにしても、パージするにしても、慎重を期さねばならない人材でしたから。そこで貴方がその辺りの手回しを自ら行ってくれると言うのであればそれに任せて構わないだろう。という判断です」

 

「ふん、手間が省けた、という訳だ。だが、それだけが理由ではないだろう。お前が何かしたのか、オペレーター?」

 

「はい。上層部には私が掛け合いました。貴方の当社への貢献度合いを考慮した上での退職金に相当するものとしては妥当だと判断しましたので」

 

「そうか。その辺りは素直に有難い。思えばお前とも十年来の付き合いだったか?」

 

「はい。以前のオペレーターからの引き継ぎは13年と5ヶ月ほど前であったと記憶しています」

 

「前のオペレーターはお前と違って冗談を解さん詰まらん男だった。それに、我々の流儀(スタイル)というものをまるで分かっていなかった」

 

「だからこそ、貴方はあの争乱を生き残ることが出来たのではないか、と愚考します」

 

「生き残ることが出来た、のではない。生き残ってしまった、と言うのが正しい。あの戦場が私の死地だった。死ぬべき時に死ねなかったばかりに、こうして無様を晒すことになる」

 

「随分と萎らしい哲学ですね、リンクス。去勢手術でも施されたので?」

 

「ハハハハハ!去勢、去勢と来たか!…だが、言い得て妙だな。戦線を退く兵士と、去勢された獣に然したる差は在るまいよ」

 

「生きるべきが生き、死ぬべきが死ぬものです。ならば、貴方の生存には何かしらの意味が在るのでは無いでしょうか」

 

「生きる意味、か。ロマンチズムに満ちた意見だ。そういうお前も、去勢手術を済ませたクチか?」

 

「貴方にとっては衝撃の真実をお伝えしましょう。私は元から女です」

 

「それは驚きだ。まるで気付かなかった」

 

「同性のつもりで慇懃を通じていたとは…。つまり貴方はホモセクシュアルだったという認識で宜しいので?」

 

「それを言われると耳が痛いな。…おっと、時間だ。もう行かなければ」

 

「では最後に忠告を。上層部は貴方の辞任を容認しましたが、それはあくまでM&Aの為に「脇に置かれた」に過ぎません。貴方の立回り次第では、唐突な事故死の危険性が在ります。努、お忘れなき様に」

 

「なるほど。つまり手元に戻ってきた金は私の動向を探る為の発信器という訳だ」

 

「ご理解が早いのは結構な事です。後ろ暗い事をなさる場合は、ポケットマネーをお使いになるか、ご自分で稼ぐ事をお勧めします。マネーロンダリングは、その行為自体が貴方の立場を危うくしかねませんので」

 

「了解した。最後までオペレートありがとう」

 

「それが仕事ですからお気になさらず。ではリンクス、カスミ・スミカ。良い旅を」

 

「ああ、縁があればまた会おう」



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