パズル (いかまる)
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第1話 見える者

初めて連載小説を書くのでもしかしたら分かりにくい解釈あるかもしれないです。
投稿は遅めだと思います

1話では、主人公の土宮 夏目が音ノ木坂学院に転校する話です。




俺は物心ついた時から幽霊や妖など、人に見えないものが見えていた。

家が代々とある祠を護る家系にあるせいなのだろう。

周りから見る俺は少し違っていたようだ。違っていたというのは、他でもないこの右眼が原因だ。

俺は生まれつき左眼が黒、右眼が紅のオッドアイで髪の色は闇のような黒色。

この右眼を気味悪いと思う人もいるようで、小学生の頃は石を投げられたりすることもあった。

 

高校生活を順調に過ごしていたある日、諸事情で東京に引っ越すことになった。

俺が転校した学校は音ノ木坂学院。

あのスクールアイドルで有名になりつつある学校だ。

 

「高1の時点での転校で良かったな」

 

そう両親は俺に言った。

確かに友達と呼べるような人が出来る前の転校だったのでその辺を考えれば[良かった]と思えた。

 

しかし...

ここはあまりにも幽霊が多い。

無念の想い、怨み、悲しみ色々なものを取り込んだ幽霊があちこちを歩いていた。

 

音ノ木坂学院に早朝から向かった。

転校した身なので職員室など用事が色々あったから。

 

「あなたが今日からここ音ノ木坂学院に通う生徒の土宮夏目君ね」

 

そう俺の名前を呼びながら歓迎してくれたのは理事長。娘もここに通ってるの。あなたよりも1つ年は上だけどね。

微笑みながら理事長は娘のことも話してくれた。

 

職員室などを行き来しているうちに登校してくる生徒が段々と増えてきて、見たことのない俺の顔を横目で見ながら通り過ぎていく。

 

幸い制服は、こちらについたと同時に貰えたので制服が違うといった点で注目されることは無い。

 

そして教室。

の、扉の前で俺は待っていた。

名前を呼ばれるのを。

 

「それじゃ、入ってきていいわよ~」

 

それを合図に教室に入る。

 

ザワザワと騒がしい教室。

先生は、はい!静かに!と言って俺に自己紹介する様に促した。

 

「初めまして、土宮夏目です。前は鬼神高校に通っていました」

 

俺が自己紹介を終えると質問タイムになり、男女共に様々な質問が飛び交った。

 

「はい!質問!夏目くんは、前の学校でどれ位モテたの?」

 

「そんなにモテなかったよ」ニコ

 

「ね!まじイケメンじゃね?やばーい」

 

女子は何やら勝手に盛り上がり

 

「なあ!その右眼ってカラコン?」

 

「いや、生まれつきだよ」

 

「かっけー!!!漫画みたいだな!」

 

男子も勝手に盛り上がってた。

一番驚いたのは、右眼を気味悪がらないことだった。

前の学校じゃ、祟りやら災いやらとそういう類のものに煩かったから敏感だったけど、東京は違うらしい。

 

クラスの皆と和気あいあいと話してる内に放課後になっていた。

 

「今日は、帰ったら引越しの荷物を整理しなきゃいけないから先に帰るな」

 

そう言って教室を出た時。

見てしまった。

恐らく今教室にいるクラスメイトには見えない者を。

忘れていた。

見える者は見えない者、幽霊や妖に襲われやすい対象だということを。

 

「.....へ~、あの子も見えるんやなぁ....」

 

この時俺はまだ彼女の存在に気づいていなかった。




次回からはまきりんぱなやオリジナルキャラ(男)など
出てきて少しずつ関係が変わっていく予定です。

のんたん霊感とか凄くありそう。。。


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第2話 ピースの欠片

今回は少し長めです。

夏目が学校を通して楽しい思い出のピースの欠片を見つける話です。
前回登場した、正体不明の見えない者も出てきます


部屋の中にあるダンボールが少しずつ減ってきた頃、電話がかかってきた。

相手は、如月 風夜。

クラスメイトで隣の席の男子なのだが、人懐っこい奴で皆といつも楽しそうに過ごしている。

 

何の用事だろう?と思い電話に出る。

 

「お!もしもし夏目か!」

 

「急に電話してくるなんてどうしたんだ?」

 

元気な声で話す風夜と対照的に部屋の整理で疲れていた俺はあくびをしながら電話をする。

 

「あれ?もしかして寝てた?それなら悪いことしたな!」

 

「部屋の整理をしてたら少し疲れただけだから大丈夫だよ」

 

「部屋の整理って明日もかかりそう?」

 

俺は部屋を見渡してみる。

まだ、机とベッドに本棚など大きいものしか配置されていない。

リビングとかの荷物整理は、両親と一緒にやっていたので片付いたのだが疲労で自分の部屋はおろそかになっていた。

 

「あぁ、明日までかかるかも」

 

「そっか.....」

 

遊びにでも誘うつもりだったのだろうか?

それなら悪い事をしたなと思っていると

 

「なら、明日俺も手伝う!2人の方が早いだろっ?」

 

「えっ?!」

 

予想もしなかった言葉に思わず驚いてしまった。

でも、手伝ってくれるのはありがたいので俺は風夜と明日部屋の整理をする約束をした。

 

翌日、まだ見慣れない景色の中、登校していると後ろから肩を叩かれた。

 

「よっ!おはよー!」

 

クリーム色の髪に太陽のような笑顔で犬みたいな奴。

そう、風夜が声をかけてきた。

一緒に行こうぜ?と誘われ、校門手前に差し掛かった時、俺は見た。

 

スクールアイドルを。

 

「お!凛ちゃんと西木野さんと花陽さんだ!」

 

「え?誰の事言ってんの?」

 

「あーそうか、夏目は見たことないもんな!」

 

俺がスクールアイドルに詳しくない事を知った風夜は、スクールアイドルの内の3人を教えてくれた。

 

「あの、赤髪の子が西木野真姫さん!で、あの元気そうなショートカットの子が星空凛で、その隣にいる少しもじもじしてる子が小泉花陽さん!!」

 

「へ〜。じゃあ、あの3人が音ノ木坂のスクールアイドルってやつなの?」

 

「おう!後、6人いるけどな!」

 

9人で構成されているスクールアイドル。

名前はμ'sというらしい。ここ最近のアイドルランキングで有名になりつつあり、A-RISEという前年度の

ラブライブ!で優勝したチームからも一目おかれる存在らしい。

 

教室に着くまで風夜にスクールアイドルの事を頭がパンクする位説明された。

コイツ、アイドルオタクかなにかなのか?

と、思いながら話を聞いてたらどうやら違うらしい。

 

「俺、花陽さんの事好きなんだ」

 

照れながらそう言っていた。

 

「あ!おはよーにゃ!」

 

唐突に声をかけてきた相手は星空凛。

昨日話しかけるタイミングがなく自己紹介が出来なかったらしい。

 

「えーと...星空...さんで合ってる?」

 

「もう凛のこと覚えてくれたのかにゃ?!嬉しいにゃー!」

 

「さっき、風夜に教えて貰ったんだ。μ'sのメンバー、だっけ?」

 

「そうだにゃ!凛たちはスクールアイドルをやってて何とか廃校を阻止しようとして出来たのがきっかけのグループだにゃ!」

 

今日1番驚いたかもしれない事実に遭遇した。

まさか廃校寸前の所に転校したなんて、凄いな。

でも、話を聞いていくとμ'sの知名度が上がってきたため廃校にならないという話になってきているらしい。

 

「実力も着実に付けてきててな。すげーんだぜ!ライブは!!」

 

「こっちまで楽しくなっちゃうにゃ!」

 

「あの、えと、その....良かったら今度ライブに見に来て下さい!.....あと、わ、私の名前は小泉花陽...です!よろしくね」

 

少し恥ずかしがりながら自己紹介をしてきた彼女は紛れもない風夜が想いを寄せる小泉花陽だった。

 

へ~、お前こういうのがタイプなんだ。

という視線を風夜に向けると顔を赤くし、ばっ、バカ!それは内緒だ!と1人で大慌てするものだから思わず俺は笑ってしまった。

 

正直、前の学校ではこんな事を言う仲も楽しいと思ったこともなかった。

こんなにも学校というものが楽しいのだと俺は高校生にして初めて知ったのである。

 

「......」

 

1人机に座り本を読んでる彼女、西木野真姫を見る。

彼女は本を読んでるのではなく、読んでるフリをしていた。本越しに何かを見ている。

 

そこに視線を向けてみると奴はいた。

紛れもなくそこに居た。

昨日の放課後、教室を出て見たものと同じものが。




次回は、見えない者に真姫ちゃんが襲われそうになる話です。
助けるのはのんたんか夏目か。どっちになるかはお楽しみに。

真姫ちゃんは、聖書とかで幽霊や悪魔をやっつけてしまいそうな
イメージがあります


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第3話 希先輩

今回は、夏目が初めてのんたんを知るお話です。



「........」

 

じっと見えない者を見つめ続ける西木野真姫。

恐らく見つめ続けているのではなく、動けないのだ。

少しずつ、彼女に近付いてくる異界の姿をじっくりと見てみる。

昨日は一瞬しか見ていなかったので、顔が骸骨という事実を今ここで発見した。

 

このままだと西木野さんが危ない。

恐らくあれは悪霊の類か何かだ。早く手を打たないと西木野さんや周りの人まで危険な目に遭ってしまうかもしれない。

 

俺が鞄から札を取り出そうとした時、悪霊は西木野さんを襲った。

 

「っ!?」

 

恐怖で声のない悲鳴を小さくあげる西木野真姫。

だが、ギリギリの所で彼女は助かっていた。

俺の札で助けたのではない。

そう、彼女を助けたのは

 

「ギリギリセーフやね。真姫ちゃんもう大丈夫やで」

 

「の、希....」

 

希と呼ばれる彼女は、俺の横を通り過ぎ教室に入っていき西木野さんの席まで行くと

 

「せやからこれは持ってて損は無いって言ったやろ?」ニコッ

 

そう言って西木野さんの鞄に入っていた御守りを取り出した。ボロボロになっていた御守りを大事そうに紙に包み

 

「ほな、これはウチの神さんの所で処分するね」

 

と、言い残し教室から出ていった。

 

「希先輩は相変わらず凄いな〜」

 

感心したように風夜が言う。

俺は希先輩という人物の事を聞き出そうとすると

 

「先輩はほら、生徒会副会長の人で皆にすっげー優しいんだ!神田明神って神社でお手伝いしてる人でさ。見えるらしいんだよ、幽霊とかそういうの」

 

すげーよな〜と言いながら風夜は続けて言った。

 

「でも、驚いたよ。まさか、夏目も見えるなんて」

 

いつもと違う目つきでその言葉を言った風夜に俺は少し嫌な予感がしたが、昼になる頃には忘れていた。

 

昼休み。

風夜と2人で昼ご飯を食べながら朝の出来事を話していた。

 

「風夜にも、見えるの?幽霊とかそういう類のもの」

 

「ん?見えるぜ。霊感が普通の人より強いみたいでさ」ハハッ

 

「へー、霊感あんのか。何か意外」

 

「それよく周りに言われるw」

 

そんな会話をしながら、一瞬だけ風夜の目つきが変わったのを思い出したので本人に聞いてみようとしたが、タイミングよく予鈴のチャイムが鳴ったので、やむを得ず諦めた。

 

 

放課後、昨日約束した通り風夜と一緒に帰宅し部屋の整理を手伝ってもらった。母さんは、友達もう出来たの?良かった〜。と言いながら嬉しそうに風夜を歓迎した。

父さんは前とは違う内容の仕事に追われているようでまだ帰宅していなかった。

 

「へー、これが夏目の部屋か!広いな!」

 

まぁ、代々祠を護る家系の為自分専用の御守りや式その他の物を入れておくスペースが必要なので部屋は広い。

 

整理をしながらこんな会話をする。

 

「そういえば希先輩さ、夏目の事知ってるっぽいんだよな」

 

「俺は今日初めてその希先輩見たけど?」

 

「だよな~?希先輩も夏目の事は今日初めて見たけど、名前は知ってる。みたいな事言っててさ」

 

もしかしたら、家系に関係のある人物なのかもしれない。

希先輩、苗字は東條。

このヒントを頼りに思い出せるだろうか。

数ヶ月前の会議での話を。




次回は、数ヶ月前の話がメインになります。

海未ちゃんも除霊の力とかありそう。。。


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第4話 東條家

今回は数ヶ月後の会議がメインです。
東條家のお父様が登場します。


数ヶ月前、土宮家と繋がりのある家の者達を集めて会議を開いていた時に確か東條家がいた気がする。

俺は、次期当主だったので父さんと一緒にその会議に出ていた。

 

話の内容は、祠を今後どのようにして守り継いでいくか、だった。

土宮家が代々守ってきたのだから今後も土宮家なのでは?

そんな意見も飛び交う中発言したのは東條家。

 

「今や祠の力を抑えるのは土宮家では不可能と思われますが、正直なところどうなんですかな?」

 

「........確かに、祠は年々力が強くなってきている事も事実。しかし、ここで責任を放棄しては土宮家の恥でもある」

 

「夏目殿の右眼に何年も私は期待していた。だが、いくら待ってもその力は開花しないではないか」

 

父さんはその返答に返す言葉が見つからなかったのか黙り込んでしまう。あまり見たことのない父さんの暗い顔。

原因は、俺にある。

 

東條家以外の者も同意見を言い始める。

まるで待ってましたと言わんばかりの批判。

祠を守るのは神人(かみびと)にとって光栄な事であり、その役職につくだけで大きな組織を作ることが出来る。

 

初めから仕組まれていた。

俺の次期当主が決定した時から。

ずっと待っていたのだろう。自分達が一番上に立つための状況を。

 

「土宮殿には悪いが、これから祠を守るのは東條家に譲ってはもらえないか?私の娘は優秀でね。どうやら占いで外れたことは無いらしい。それに神社でお手伝いもしているから立場としては相応しいだろう。どうだね?悪い話ではないだろう?」

 

「..........確かに悪い話ではない。だが、今ここで決断するわけにももちろんいかないのでな。3日後にもう1度集まって頂きたい」

 

「ふっ....良い返事を待ってますよ。土宮殿」ニヤ

 

皆が帰った後、大広間に俺と父さんだけが残った。

重たい空気が流れる。代々受け継いできたその役目を俺の力不足のせいで途絶えさせてしまったのだから。

 

「.........」

 

黙って父さんを横目で覗いてみる。

正座したまま姿勢よくどこか遠くを見ていた。

まるで何かがそこにいるみたいに。

 

「俺にもいつか見えるのかな」

 

そう呟く。

父さんは、少し間を置いてから言葉を発した。

 

「........時が来れば時期に見える。今のお前には神は見えないが焦ることは無い。妖、幽霊、どちらも見えるのは貴重な事だ」

 

「.....でも、肝心なものが見えなければ意味ないよ」

 

「肝心なものっていうのはな、見るものじゃない」

 

父さんはそう言って俺の頭に手をポンと乗せる。

 

「無理して見ようと思って見えたものは答えではないし、大切なものでもない。気付いた時に近くで見えるものが肝心なものなんだ」

 

その時、俺はまだその言葉の意味がわかっていなかった。

 

 

「おーい、夏目ー?どうした、ボーッとして」

 

風夜の呼びかけで思考が現実に戻される。

 

「もしかして疲れたのかー?」

 

心配そうに訪ねてくる風夜を見たら笑ってしまった。

あまりにも、俺には大きすぎる日常が幸せで、そして何より

 

「なぁ?何で笑うんだよー」

 

「だって、お前顔見てみろよ」ハハハッ

 

風夜のおでこにマッキーペンで猫の絵が書いてあったからだ。

よく見なきゃ気づかないその絵を鏡で見た風夜は

 

「なんだこれええええええ?!」ゴシゴシ

 

必死にタオルで拭いていた。

そしてそれから2時間後部屋の整理が終了した。

二人でやると早いだろっ?と得意げな顔をしている風夜へのお礼は小泉さんと話すきっかけを与えることでいいだろうか、そんな事を思いながら俺は風夜を見送る。




次回は風夜とかよちんの話になると思います。

ラブライブのホワイトデーボイスは最高や。。。


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第5話 呼び方

遅れてすみません。
この話では呼び方で距離感がなくなったりできたりする
というのを中心に書いてます


翌日。

遅れてやってきた梅雨。

いつもと違って教室にいる人も多い。

ふと、小泉さんを見てみると星空さんと仲良く話していた。

西木野さんは相変わらず音楽室でピアノを弾いているらしく2人はその邪魔をしないように教室で過ごしていた。

 

「はぁ~...やっぱり可愛いよな~」

 

「朝からそのにやけ面はやめろ」

 

「だって、こんな梅雨の時期に見れるだけで幸せになれるなんて....名前の通り本当に太陽のようで花のように柔らかい笑顔で....」

 

「.....もういい、自分の世界に浸っててくれ」

 

風夜も相変わらず小泉に夢中になっていた。

そこまで人を好きになった事が一度もないので少し羨ましいと思いつつ、提案をしてみることに。

 

「え?!?!お、おお、俺が?!」

 

「その方が距離も縮まるだろ。今よりは」

 

こんなに風夜が驚いた内容は至ってシンプルなもので、小泉さん呼びから花陽さん呼びに変えてみる、というものだ。

実際苗字で呼ばれると相手との距離を多少感じてしまう。

そのままではいつまでも進展しそうにないので、昨日のお礼も兼ねて俺は提案してみたのだが。

 

「.............」

 

はぁ、思考停止したか。

いまの世の中こんなに純粋な奴も珍しいな。

 

俺は風夜の肩を軽く叩き現実に引き戻す。

はっとした様に我に返った風夜は、さっそく今日の昼休みあたりにでも実践してみると言い残し、どこかに走っていった。

 

「昼休み以外でも時間あんだろ......」

 

そう呟いて俺は小泉さんの所へ向かう。

 

「あ!夏目君、おはよーにゃ!」

 

「お、おはようございます!!」

 

「2人ともおはよ。あの、急で悪いけど聞きたいことあるんだけど。いいかな?」

 

「凛は全然構わないよー?」

 

「私も、答えられる範囲までなら教えられる、かな?」

 

「あのさ、俺2人のことなんて呼べばいい?苗字で呼ばれるの嫌いな人とかいるからさ。もし嫌だったら他の呼び方にしようかなって」

 

「凛はなんでもいいけど.....やっぱり下の名前で呼ばれる方が嬉しいにゃ!!」

 

「私も好きな呼び方でいいけど、やっぱり下の名前だと凛ちゃんと同じで嬉しいし、距離感がなくなる感じがするかな」

 

「じゃあ、これから2人のこと下の名前で呼ぶね」

 

「って、待ったあああああああ」

 

全速力でこちらに向かってくる風夜。

どうやら話を聞いていたらしい。

タイミングがいいな、と思いつつ風夜に話を振ってみる。

 

「風夜、お前も小泉さ....花陽の事、下の名前で呼んだら?」

 

「え?!俺が?!!いいの?!」

 

「わ、私は全然構いません!」

 

「てか、何で夏目が先に呼び捨てなんだよおおおお」

 

感情豊かな奴で良かったよほんと。

タイミングよく聞いてくれてたおかげでこの話をわざわざしなくて済むし、昼休みの時間にはこの会話しだいで一緒に弁当食えるかもな。

と、自分の仕事の早さと完璧さに浸っていると

 

「でも、夏目君は皆の呼び方バラバラだけどどの呼び方でも距離感を感じるにゃー」

 

「.......」

 

予想外の言葉を投げかけられ言葉を失う。

今までの生活のせいもあって距離感を感じさせる話し方をしていたが今は高校生であり、違う土地ということもあってなるべく話し方には気をつけていたつもりだった。

 

「別に、そんな事ないけど?」

 

「ほら!少しトゲトゲするにゃ~。何か真姫ちゃんみたい」

 

「私がどうしたって?」

 

「ま、真姫ちゃん!!今のは聞かなかったことにしてにゃ!」

 

「聞かなかったことにしても何も、私の名前以外話は聞こえてこなかったわよ?」

 

「それならよかったにゃ…」

 

距離感を感じさせる話し方が西木野さんに似てる、か。

意外と凛は観察力鋭いんだな。

気を付けないと、今後に支障が出そうだ。

 

気を紛らわそうと風夜と花陽を見てみる。

和気あいあいとお互い恥ずかしがりながら話してるのを見て安心したが、凛の隣にいる西木野さんは俺を疑いの眼差しで見ていた。




次回は真姫ちゃんが夏目に告白をします。
果たしてそれは恋の告白か
それとも違う告白なのか




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第6話 イミゴ様

真姫ちゃんがキーになる伏線が張られてます


「........」

 

黙って俺も西木野さんを見る。

疑いの眼差しは変わらず俺を見据え続けて目を逸らすことすら許されない、そんな空気が漂っていた。

 

「西木野さん、俺に何か用?」

 

「あなた確か......」

 

「ん?真姫ちゃんどうしたんだにゃー?」

 

「別に何でもないわよ?ほら、次の授業図書室だから鐘が鳴る前に移動するわよ?」

 

言葉の続きを聞き出せないまま図書室に向かう。

 

授業が始まり読書感想文用の本を探していると、西木野さんに声を掛けられた。

人気の少ない後ろの本棚に連れていかれる。

 

「ここなら大丈夫ね」

 

「急に何?」

 

「あなた、確か代々何かの祠を守っている家系だったわよね?」

 

「....へー。何でそのこと知ってるの?俺誰にも言ってないんだけど」

 

家系の事を何故西木野さんが知っているのか謎だったが、接点を思い返してる内に気付く。

 

希先輩に。

 

先輩は、西木野さんと同じスクールアイドルだから内密な話もしているかもしれないし、俺と同じ学年だと知って教えたのかもしれない。

 

「ここら辺に祠は無いわよね?何で転校してきたの?」

 

「そんな事西木野さんが知ってどうするの?」

 

「.......私、祠に祀られてる神様を1回だけ見たことあるの」

 

西木野真姫は、そう言ってハッキリとした口調で言葉の続きを話し出す。俺の事を見据えて話し出す。

 

「その神様、イミゴ様にとても似てるわよね。あなた」

 

「っ!!」

 

イミゴ様。その昔、人々も妖も関係なしに倒した半妖怪の者。瞳は紅く、皆に恐れられイミゴ様と呼ばれていた者。

その村で名のある僧が祠を作りイミゴ様を祀ったことで祟のようなものは途絶えたという。

 

小さい頃から両親に聞かされてきた話。

その話に出てくるイミゴ様に俺が似ているという西木野さん。

そして、右眼だけ紅色の俺。

 

「西木野さん、きっとそれは勘違いだと思う」

 

「何でそんなことが言い切れるのよ?」

 

「だって、俺が聞いてきたイミゴ様は両眼が紅色だった。俺は稀に産まれてくるオッドアイなだけで似ても似つかないと思うけど?」

 

「.....嘘ついても意味無いんだから」

 

別に嘘はついていない。

 

そう、嘘はついていない。

ただ事実を述べただけ。そこに嘘があるとしたら、それはまだ見抜かれてはいけないことで、まだ話してはいけないこと。

 

「イミワカンナイ!」

 

「意味わかんないって言いたいのはこっちなんだけど。大体、何で俺の家系のこと知ってるの?」

 

「ヴェッ....それは.......」

 

「何?」

 

西木野さんは、息を整え先程とは違って顔をそらす。

逆光で表情は分からない。

 

「す、少しあなたの事が気になったからよ!!」

 

そう言って星空達のところへ戻っていってしまった。

肝心なことは結局聞き出せず、謎だけが深まる。

 




次回は、イミゴ様について風夜に聞かれる話です

まきぱなのイベントで二枚目の真姫ちゃん遅れながらゲットしました


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第7話 神主

前回の話と今回の話は伏線だらけですが
気づいて頂けたらいいです。


呆然と突っ立っていると後ろから風夜が突撃してきた。

 

「っ!?何するん...って、風夜か。何だよ急にぶつかってきて」

 

「いや〜、西木野さんと面白そうな話してたから俺も混ぜてほしいな~って思ったんだけどさ。タイミング逃しちゃったな」

 

「.......盗み聞き?」

 

少し鋭い口調で俺はそう言う。

もし、先ほどの話を聞かれていたらこちらとしても都合が悪い。

仮に風夜が祠に関係する人物だとしたら。

希先輩と関わりが深い人物だとしたら。

そう考えると言葉に鋭さが出てしまった。

 

風夜は、片手で頭を抑えながら申し訳なさそうな笑顔をしてた。

 

「盗み聞きだなんて人聞きの悪いこと言うなよ~。ただ、少し気になっただけだから。イミゴ様に」

 

「へー....」

 

「そんな睨みつけるなよー。俺もさ?聞いたことあるんだよな。その〜イミゴ様?っていう名前。確か親父に聞いた気がする」

 

風夜はそう言って唸り声をあげながら思い出そうとする。

だが、その唸り声が少々大きかったらしく先生に怒られた。

昼休みにこの話の続きをしよう、という流れになりその場は一時解散した。

 

そして昼休み。

人気の全くない空き教室らしき所に連れていかれる。

 

「なぁ、空き教室って確か鍵かかってるんじゃなかったっけ?」

 

「ん?あぁ、ここは空き教室じゃなくて部室!天文部の部室だよ」

 

「へー、天文部なんてあったんだ」

 

「今じゃ部員は俺だけしかいないけどな」

 

そんな雑談をしながら天文部の部室の中に入る。

ちゃんと常日頃から掃除がされているのか綺麗に整頓もされており埃っぽさも全くと言っていいほどなかった。

天体観測をまとめたファイルに望遠鏡など様々な天文グッズが置かれていた。

 

部室の中央にある丸い机でご飯を食べる。

椅子も丸い形だったが地球の絵が描かれた椅子だった。

 

「それで、親父さんが言ってた話思い出したのか?」

 

「ちゃんと思い出したぜ!」

 

ドヤ顔でそう答える。

2人しかいない部室に声が反響し異様な雰囲気に包まれた。

 

「まず、俺の家のことから話すよ。俺の家の裏に神社があって代々神主をしててさ。昔はよく結界が外れた祠とかにも出向いて封印をしなおしていたらしいんだ」

 

その時俺はまだ気づいていなかった。

両親がよく話してくれたイミゴ様の話に出てくる重要な人物が目の前にいることに。

 

「それである日、近くの村の祠の結界が壊れたって話が伝えられたみたいでさ。そこに先祖は向かったんだって。そしたらそこにいた奴がすごくやばかったみたいで」

 

少し笑いながら話を和やかにしようとする風夜を俺はじっと見て話の続きに耳を傾ける。

 

「人も妖も関係なしに倒してたらしいんだよそいつ」

 

「.........それって、まさか」

 

「そう、そのまさか!その犯人がイミゴ様だったらしいぜ。先祖は急いで村人を避難させて何とか祠に封印したらしいんだけどさ」

 

風夜の家系が祠にもう1度封印しなおした僧の家系だった。

その話を聞いた俺は、もしかしたら風夜も人には見えない者が見えるのではないかと思い聞いてみる。

 

「え?俺に霊感があるかって?そりゃ見えるよ。ちゃーんと見えてる。夏目の隠しきれてない妖気もちゃんと、な」

 

その言葉を聞いて俺は頭が真っ白になった。

もし、西木野さんが話していた事と風夜の話していた事に何らかの接点があるのだとすれば。

あの日行われた会議の話に接点があるのだとすれば、俺は認めなければいけないのかもしれない。

 

イミゴ様の生まれ変わりだということに。




次回は、2年生が登場する予定です。




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第8話 いない長男

今回は2年生が登場します。
夏目の家系にいるはずのない長男の存在を話され少し
困惑する話です


その後は何事も無かったかのように食事を済ませ、午後の授業を受けて、放課後帰宅しようと校門を出た時声を掛けられた。

 

「あ!ちょっと待って!」

 

声がした方を振り返るとそこには違う学年の人がいた。

 

「穂乃果!急に声をかけては相手の方に失礼ですよ」

 

「う、海未ちゃん。一応初めて話す人の前だからお説教は.....」

 

「そうだよ海未ちゃん!ことりちゃんの言う通りだよ!」

 

「何故私が悪者扱いなのですか?!」

 

穂乃果、海未、ことりと呼ばれる3人の内の穂乃果先輩に声を掛けられたらしい俺は呼び止めた理由を聞いてみる。

もしかしたら落し物か何かをしたのかもしれない。

 

「あの、穂乃果先輩。俺に何か用事ですか?」

 

「あ!そうだ!忘れてた〜。あははは....」

 

「笑い事ではありません!」

 

穂乃果先輩のド忘れにタイミングよくツッコミを入れる海未先輩。そして2人を落ち着かせようとあたふたすることり先輩を見ていると、まるでコントか何かを見ているような気持ちになった。

 

「実はあなたに、聞きたいことがあるんです」

 

「聞きたいこと、ですか?」

 

穂乃果先輩の代わりに話を続ける海未先輩は、鞄からお札を取り出して俺に見せてきた。

 

「これに見覚えはありませんか?」

 

「......確かそのお札って、土宮家が使っているお札ですか」

 

「それでね、真姫ちゃんから土宮って名字の人が最近転校してきたって聞いたからここで待ってたの!あ、穂乃果達は怪しい人達じゃないよ!」

 

「穂乃果ちゃん、それを言ったら逆に怪しまれちゃう様な気が....」

 

海未先輩は、それよりもこのお札についてですが、と話を戻し俺に説明をしてきた。

弓道部に所属している海未先輩は、このお札が括りつけられた弓矢があるのを見つけ、紙を開いてみたところお札だというのに気付いたらしい。

そこで、お札関連に詳しい希先輩に聞いてみたところ土宮家が使っているお札だと分かり、そして今に至るというザックリした説明をされた。

 

土宮家の者が弓矢に何故お札を括りつけた?

そんな事をやる人物は両親しかいない。だけど、そんな回りくどい事をするような人でもない。

 

「希に聞いてみたところ、この印の書き方は土宮家の長男のものに似ていると言っていました」

 

「俺の家に長男はいません。俺1人だけです」

 

「ことりもお母さんに夏目くんの事を聞いてみたけど、兄弟はいないって言われたよ」

 

「でも、希ちゃんは長男って言ってたんだよね?」

 

「はい。確かに長男と言っていました」

 

俺の家に長男はいない。

ましているとしても俺が知らないなら絶縁状態にあるということになる。それに、会議でその話が持ち出されてもおかしくはない。

 

人違いだということになったその話にあまり納得出来ていない様子の海未先輩だったが、穂乃果先輩とことり先輩になだめられ、調子を取り戻した。

 

「希、あんたの言っている土宮家って本当は2種類あるんじゃないの?」

 

「にこっちもそう思うん?やっぱりそうなんかな~」

 

「あんたねぇ、絵里にも言われてるでしょ?あまり首を突っ込むなって」

 

「そうやけど、事情が事情やからね〜。もし、あの夏目くんがイミゴ様やったら一大事やし....」

 

そう話すふたりは、校門の裏に隠れて俺達の話を盗み聞きしていた。




次回はのぞにこメインになります


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第9話 勘違い

のぞにこで話を展開しています。


翌日、困惑した顔をする海未ちゃんにウチは話しかけられた。

勿論昨日盗み聞きをしていたから話の内容は大方予想はつく。けど、それがバレへんようにウチはいつもの調子で

 

「どうしたん?そんな困惑した顔をして」

 

と、海未ちゃんに聞いてみる。

すると海未ちゃんは息を整え昨日あった出来事を冷静に整理しながら話をしてきた。

 

「それで、夏目さんには長男はいないと言われたんです」

 

「やっぱりそうなんか。土宮ってもしかして2種類あるんかな?」

 

「2種類ですか?!」

 

「だって、嘘を付いてるにしてもあまりにも話が噛み合わないやん?せやから2種類あってウチらが追いかけとるんは、そのもう一つの土宮家やないかなって」

 

そう言うと海未ちゃんは、考え込み放課後またこの話をします、と言い残して去っていった。

 

こういう時、エリチに相談すると首を突っ込むなって怒られるしなあ~。

 

そこでウチが思いついた人は

 

「何で私のところに来るのよ?!」

 

「にこっちなら昨日みたいに何かええ考えが思いつくかな〜って思ったんよ」

 

「っんたねぇ、少しは自分で答えを見つける努力をしなさいよって言おうとしたけど止めたわ」

 

にこっちが珍しくキレのない怒り方をするのでどうしたんやろ?と思いわしわしMAXをしようとした時

 

「こうやって希が相談してくるのも珍しいから、いいわよ。特別にこのにこが話を聞いてあげるわ」

 

「にこっち....!!」キラキラ

 

そんな目で見ないでよ!と言いながら話を聞いてくれた。

にこっちは少し考えた後、実は土宮家は昔に何かで分裂して2種類になったんじゃないかという推測論を出してきた。

 

ウチ一人やったら絶対にたどり着けへん回答やな。

 

そう思いながら話を聞いていると、にこっちはウチでも気付けなかった事を聞いてきた。

 

「大体、あんたが探してる土宮家って悪霊とか妖を退治してた人達でしょ?全然この学校にいる土宮とは違うじゃない」

 

「あ!ほんまや!夏目くんの方は祠を守っとる土宮家やな!」

 

「気付くの遅っ?!」

 

ウチとしたことが飛んだ勘違いをしていたらしい。

でも、そしたら真姫ちゃんの言ってたイミゴ様に夏目くんが似ている件と風夜くんが昨日夏目くんとした話はどうなるんやろ?

 

にこっちにまたまた聞いてみるとすぐに答えが出てきた。

 

「真姫ちゃんが見たイミゴ様は夏目よ。大体真姫ちゃんは、調べたものに載っている絵とかを信じ込むタイプだからたまたまオッドアイだった夏目を見てイミゴ様だって思い込んだんでしょ?」

 

「確かに言われてみればそうやな!」

 

「で、風夜の方は本当に夏目と関わりあるだけで面白半分でカマをかけただけでしょ?」

 

まさかこんなにあっさりと答えが見つかるなんて。

ほんまに友達ってええもんやな。

それに、一緒に答えを導き出せる人がおるって幸せや。

 

「はい、この話はおしまい!絵里待ってるんじゃない?次あんた達体育でしょ?」

 

「あ!そうやった!にこっちほんまありがとうな。すごく助かったで」

 

「また何かあったら今回みたいに頼りなさいよ」

 

ウチは、幸せのあまり満面の笑みでにこっちに返事をした。




次回は伏線の答えがちらほら出てくるかもしれないですし、でないかもしれません


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第10話 絵里先輩

綻び。この言葉がエリチとのんたんと夏目を繋ぐワードの鍵になります。今回はその前置き編です。


西木野さんと風夜に意味深な発言をされてから一週間が経った。

時間が経つと共に少しずつ引っ掛かりが薄れていた。

HRで決まったイベント委員の仕事に追われる日々が続いていたせいもあるのだろう。

そんな時だった。

 

「ねぇ、あなた1年の土宮夏目よね?」

 

放課後、教室から出た時に声をかけてきた相手は現生徒会長である絢瀬絵里だった。

生徒会長に名指しで呼び止められたという事は委員会の仕事で何かをミスしてしまったのかもしれない、と思った俺は絵里先輩に尋ねる。

 

「はい、そうですけど。生徒会長がわざわざ教室まで来て呼びに来たって事は委員会の仕事で俺何かミスをしてしまったんですか?」

 

「いいえ、違うわ。ただ希から色々聞いて少し気になったから来てみたの」

 

「希先輩が何か言ってたんですか?」

 

絵里先輩は、希先輩から何か話を聞いたらしく気になった点があったから来たと言っているが、生徒会長が気になる点とは何なのだろうと疑問に思いながらも俺は話を続けた。

 

立ち話もなんだし教室で話しましょう、と言われ適当に席に座り話を再開させた。

少し、いつもとは違う厳しい顔つきをしながら希先輩から聞いたことを話す。俺はただ黙って聞いてる事しか出来なかった。

言葉を発したらそれだけで、空気が変わりそうな気がしたからだ。

 

「私が聞いたのはここまで。それで、あなたに聞きたいことは土宮家って2種類あるのか、という事」

 

「いえ、俺はその様な話は聞いたことがないです」

 

「それじゃあ、希との関係性とかで分かることはある?」

 

希先輩との関係性。

あの会議を見ている限りとても親密だとは思えなかった。

 

「.....希先輩の家とは今は恐らく関係性が親密ではないと思います。どちらかと言うと関係性は悪く、両家とも存続と名誉の為に1歩も譲らない状態です」

 

「そう。なら、何であなた達土宮家の人達は代々受け継がれてきた仕事から追い出される形になったのかしら?」

 

「.........そこまで絵里先輩に言って何になるんですか?他者がこれ以上両家の問題に足を踏み入れる様ならば、いくら先輩と言えども手加減はしませんよ」

 

その言葉を聞き察したのか絵里先輩はこれ以上踏み込もうとはしなかった。決まりが悪そうな顔をしつつも、話してくれてありがとう、と言ってどこかへと行ってしまった。

 

希先輩と絵里先輩は仲がいいからここまで踏み込んだのか?

いや、違う。

恐らく絵里先輩は希先輩に迫る何らかの危険を察知して俺の所に来たのだとしたら、まだ納得がいく。

 

力が衰退した土宮家に代わり東條家が祠の仕事を打って出た。

それに反対する者は多少いたが、力でかなうものはその場にいなかったので反対していた者は大人しくその行動に従った。

 

土宮家は綻びた。

 

いつの日か言われた言葉が夕焼けの空を見つめる俺の頭に浮かんだ。

 




この後、エリチとのんたんと夏目に何かが起こります。
何かが起こった後は仲良くなるか険悪になるかのどっちかですが
恐らく険悪にはならないと思います


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第11話 喧嘩

夏目がエリチにキレられます


東條家が新しく土宮家に加入しなければきっと、衰退もせず今まで通りの事をして末永く祠を守っていけただろう。

 

だが今は違う。

 

東條家が圧倒的優位な立ち位置であり、力もある。

衰退した土宮家から皆が離れるのも時間の問題だった。

 

「ねぇ、やっぱりあなたともう1回話がしたいの」

 

そう言って絵里先輩は戻ってきた。

やはり納得ができる回答ではなかったのだ。

 

俺は、場所を変えましょう、と提案し教室よりは少し落ち着いて話が出来る天文部の部室に来た。

風夜は今日は帰ったらしく当然だが誰もいない。

無言で席に座る2人を夕日が窓から照らしていた。

 

「やっぱりさっきの事なんだけど、希とあなたの関係性が気になるのよ。正直に話してくれないかしら?」

 

「先輩はどうしてそこまで知りたがるんですか?」

 

「最近の希の様子を見ていたらね。もしかして何かあったんじゃないかと思ったの。そして、辿っていったらあなたに辿り着いた。だから、なにか理由を知ってるんじゃないかも思って聞いてるのよ」

 

「そうですか」

 

沈黙が流れる。

短い間でも長く感じるその空気に耐えきれなくなったのは絵里先輩の方だった。

カバンから1枚のお札を取り出し差し出してきた。

 

「希はこれを見ると毎回暗い顔をするのよ」

 

「これは.....」

 

「何か知ってるの?」

 

知ってるも何もそのお札は物心ついた時から見ていた

 

「祠の封印....」

 

「祠?.....」

 

「今希先輩が引き継いでいる仕事です」

 

「巫女さんじゃなくて?」

 

「それとは別の、家の仕事です」

 

絵里先輩はそれを聞くとふーん、と興味深そうに言い俺と東條家の関係性をやはりまた聞いてきたのだった。

気になるところまで言ってしまったのだから仕方の無いことだが、こちらとしてもただ話すだけじゃつまらない。

 

絵里先輩に質問でもして、何でそんなに知りたがっているのかを聞いてみるか。

 

「先輩は、希先輩から辿っていったら俺に辿り着いたって言ってましたけど、何を聞いて辿り着いたんですか?」

 

「.......そうね。希からあなたの話を聞いた、とだけ言っておきましょうか」

 

「俺だけ話すのは筋が通ってないと思いますが?」

 

「......。ふふっ、君は本当に粘り強いわね。でもそれも事実だし、いいわ!教えてあげる」

 

希先輩は、絵里先輩に土宮家と東條家の会議の内容を話し、先程俺に見せたお札を渡したらしい。

会議の内容も俺が欠席していた時のものらしく、話は実に陰険な雰囲気で覆われていたらしい。

その空気の中、希先輩が他の家の者から歓迎されたが土宮家には歓迎どころか拒否をされたとの事だった。

 

絵里先輩はこれが原因で俺に少し強く当たってきてたのか。

 

「先輩には失礼ですが、これは先輩の踏み込んでいい内容じゃないですよ。もう少し自分の立場を考えて欲しいです」

 

「そういうわけにもいかないのよ」

 

「友情やら何やらでこの問題に頭を突っ込むならやめて下さい。その行為一つで希先輩を苦しめることにもなるんですよ」

 

「あなたは何もわかっていない!!」

 

絵里先輩が沸騰したお湯の如く怒った。

勢いよく立ち、両手で机をバン!となるくらい叩くように置き俺の事を鋭い目つきで見つめながら話し始める。

 

「私は今まで希に助けられてばかりだった!私は希に色々話すけど希は自分の事を後回しにしていつも....いつも自分ひとりで抱え込むのよ?それを知ってるのにその話を聞いて何もしないわけないでしょう?!」

 

俺は酷い一言を言い放った。

 

「先輩がもう少しちゃんとしていれば、希先輩も悩みを言えたとおもいますが?」

 

次の瞬間、バシンッ!という音と共に水のようなものが俺の顔に当たった。

そう、絵里先輩に俺は平手打ちをされた。

先輩を見てみると、先輩は泣いていた。




次回もこんな展開が続くと思います。

更新遅れてすみません!


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第12話 平行線

タイトル通り平行線のまま話が終わる2人。



先輩の掌を見ると小刻みに震えていた。

そして、同時に夕陽に照らされた滴が床に滴り落ちた。

泣いていた。

そう、先輩は泣いていた。

声を出すのでもなく、ただただ静かに泣いていた。

 

「あなたには、分からないわよ....」

 

このたった一言にどれだけの意味が込められているのだろうか?と思考を変えているうちに先輩は部室から出ていった。

まるで少女漫画によくある展開の様で現実味がないと言ったら嘘になるが、やはり俺には感じられなかった。

 

「俺の事も、分からないでしょ...」

 

誰に言うのでもなく1人部室で呟く。

俺もそろそろ帰ろうかと部室を出た時そこに彼女は立っていた。

彼女と言っても不特定多数いるから分かりにくいだろう。

 

「絵里先輩.....」

 

出てくるのを待ち構えていましたと言わんばかりに仁王立ちで腕を組み立っていた。

先ほどとは違って泣いてはいない。

逆に蹴りをつけに来た様子だった。

 

ここで待ち構えてたならさっきの独り言も聞かれたか。

 

「さっきは冷静になれなかったからもう1回だけ、話をしましょう」

 

「俺は別に構いません」

 

「私はね、希に負担をかけたくなかったの」

 

そしてまた話し合いというのが果たしてふさわしいのかはわからないが絵里先輩は話し始めた。

 

「負担をかけたくないことに私は集中しすぎて、希に結局は負担をかけてしまってた。だから、今回希に違和感を覚えたからまた私の事で負担をかけたんじゃないかって少し不安になって話を聞いたのよ」

 

「そしたら原因は俺にあるみたいだったのでこうして話に来た、って事ですか?」

 

「大体はね。あなたの事を聞き出して少しでも希の力になりたかったのよ。でも、強引に話を聞くのはいい事じゃなかったわね」

 

そう言って先輩は、俺から話してくれるまで待ってると言って帰ってしまった。今度こそ本当に帰ってしまった。

 

「話す日が来ればいいけど」

 

また誰に言うのでもなく独り言を寂しい廊下に吐き捨て、言葉を浮遊させたまま俺も帰宅した。

 

家に着くと誰もおらず、俺1人で夜まで過ごすことになった。

 

家の中にいて自分以外の物音がしないってのも不思議だな。

 

物思いにふけっているうちに、ベッドで寝てしまった。

まるで寝るのを我慢していたかのように、走れメロスの様に死んだ様に眠っていた。

気付いた頃には、夜の11時だった。

 

「寝すぎた.....」

 

ボーッとする頭をゆっくりと起こし、ふと机に目を向ける。

そこには刀袋があった。中に刀が入っているのかちゃんと形がありずっしりとした圧倒的存在感で机の横に立てかけられていた。

 

「こんなもの、あったっけ?」

 

そう思いながら俺は刀袋に手を伸ばした。




更新遅くなりすみません!!

刀袋は絵里先輩と平行線から交差線に変えるのに重要なものになります。
詳しく言うと刀袋が、今の所のキーです


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第13話 見えない

力が衰退していく夏目は、絵里先輩との会話を思い出し
自分を責めてしまう話です。


刀袋を手に取った瞬間、何者かが自分の背後に立っていることに気がついた。

今まで感じたことのない異様な雰囲気。

それは、妖気だというのが俺にはすぐにわかった。

何故なら

 

「夏目、振り向くな」

 

いつもとは違う、強く命令するような口調で俺の父さんは言った。

言われた通り振り向かずただじっと刀袋を手に取ったままの体制で固まる。

 

「人の子よ。その刀を我に渡すのだ」

 

「いいか、その刀は絶対に離してはいけないぞ!夏目!」

 

「ええい、人の子がごちゃごちゃと五月蝿いわ!!!!」

 

まるで家に鉄球でも当てられたかのような音が響き渡り、妖気も先ほどまで感じていたものとは全く違う身体全体がまるで重りでも乗せられたかのように身動き一つ取れない程のものになっていた。

 

相手の正体は何だ?

強力な妖ものなのか?それとも......

 

「人の子よ、その刀を我に渡せ。さもなくば殺す」

 

俺は反射的に振り返ってしまった。

 

「嫌だ、これは渡さない」

 

そう、俺は確かにそう言った。妖ものに。

確かにそう言ったはずだった。

だが俺が言葉を発した所には何もいない。

いや、いないのではなく見えなかった。

その存在を見ることすらできなかった。

 

誰もいない......?

いや、だけどここに何者かがいるのは確かだ。

声は聞こえるし、妖気も感じる。

なのに、

 

「何で、見えないんだ......」

 

「見えなくて当然だ人の子よ。貴様には見る力もなくなってきているのが我には分かる」

 

「どういうことだ?!」

 

「そのままの意味だ。貴様の人の子としては特殊な力は衰退、いや、失われつつある。だから、あの者には見えても貴様には我の姿が見えないのだ」

 

力が失われつつある?

俺は、土宮家直属の息子であり後継の子供でもある。

そんな俺が妖者でさえも見えなくなった?

いや、見れなくなった?

 

自分の状況を理解するのに呆然としたまま突っ立っていた。

そして、気付いた時には刀袋は俺の手から消えていた。

 

「この刀は貴様が持つのに相応しくはない。かと言って貴様が持つ資格も初めからないのだがな」

 

「なっ?!いつの間に?!」

 

「取られた事実にも気づかない、か。笑わせてくれるな人の子よ。貴様はそれでもあの祠を代々守ってきた家系のものなのだろう?」

 

「そうだ。だが...今は違う」

 

そう今は違う。

俺のせいで土宮の名を落としてしまったのだから。

 

絵里先輩にあんなことを言っておきながら自分が一番誰の役にも立っていない奴だった。

頼りないのは自分だった。

その事が頭をよぎりさらに俺の思考も行動も止まってしまった。

強制的にシャットダウンされて再起動に時間のかかるPCの様に。




失われつつある力。落ちていく土宮の名。2つの現実と向き合わなければいけない時夏目はどうなってしまうのか。

次回は絵里先輩がまた出てきます


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