fate/lostmoon (茜谷)
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prologue
プロローグ・アベンジャー


 嗚呼、夜よ。太陽のない世界は、輝いているか。

 嗚呼、星よ。何億光年も前の光は、美しいか。

 嗚呼、人々よ。暗闇が恐ろしいか。

 嗚呼、宇宙よ。太陽が消えた世界は、残酷か。

 

 

 fate/lostmoon

 

 

 誰か、ここにいるような、ずっと見られているような、そんな感覚に襲われることがある。

 ずっと、誰かに恋い焦がれているような、何かを忘れているような、そんな気になる。

 まるで、子供を探す親のような、迷子の幼子のような、そんな不思議な気持ち。

 月が消えて、約8年の時が経過した。

 今は西暦2020年。

 私は、魔術師であった祖母の遺言で、聖杯戦争に参加することになっていた。

 今日という日、祖母が用意した触媒、それを使って、大英雄を召喚する。

 私は、きっと駄目な人間だ。

 きっと、というのは、周りに比較対象がいないから。

 私の周りの子供はいない。

 学校にも、私以外、いない。

 小さな離れ小島。

 小学校も、中学校も、ないようなところ。

 そこでは、先生と二人っきりで「お勉強」をしていた。

 祖母は、いつも言っていた。

「お前の父親は、魔術刻印を受け継がなかった。」

「だからお前は、叔父さんのような、立派な人におなりなさい」

 と。

 叔父を殺してまで、私に期待をかけてくれた。

 祖母に、私は報いなければいけない。

 

「みたせ みたせ みたせ みたせ みたせ

 閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。

  繰り返すつどに五度。

  ただ、満たされる刻を破却する」

 

 体全体が、大きく唸るような、そんな感触。

               

 「―――――Anfang」

 

 「――――――告げる」

 

 待っていた。

 

 「――――告げる。

  汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

  聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 真夜中、月のない世界に、異分子が誕生する。

 

 「誓いを此処に。

  我は常世総ての善と成る者、

  我は常世総ての悪を敷く者。

 

  されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。

 

  汝三大の言霊を纏う七天、

  抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 

 嗚呼、この光景を、わたしは待ちわびていた。

 

「貴女が、私の、マスターなのかしら?」

 

 栄華はなく、それ故に、真っ黒な少女。

 

「そう、私は貴女のマスター。そして貴女は、私のサーヴァント。」

 

 そうだ。私は、この瞬間の為に、生きてきたのだ。

 

「ええ、ここに契約は成立された。私は、アベンジャーのサーヴァント、真の名は――」

 

 黒い空。

 何億光年も前の光。

 その下で、我々は戦い、血を流し、笑い、実直な欲望に思いを馳せるだろう。

 

「今日も、月が綺麗だ。」




見切り発車です。突発的かつ自己満足な内容。
 作者は型月作品の知識が未熟ですので、間違っていたらご指摘おねがいします。

一応知識として、
 月姫(漫画版)メルブラ(少しだけ)まほよ(プレイ済み)らっきょ(小説と映画)fate(sn,hollow,(アニメと現作(全年齢版))apo(全巻読破),fake,extra,ccc,ZERO(アニメと小説)extella(プレイ中)fgo)
 はあります。
 タイころや格闘ゲーム版は未プレイ。
 事件簿は一巻の知識だけです。


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プロローグ・ランサー

 小さな町だったので、すぐ広まった。

 小さな町だったので、皆、知っていた。

 小さな町だったので、警官も黙った。

 小さな家だったので、皆知らないふりだった。

 小さな人間ばかりだったので、

 ゆがんだ人だったので、

 狂った血筋だったので、

 全て、

 終わらせようと思った。

 

 日本の西、近畿地方にある某都市で、秘密裏に行われる闘争があると聞きつけた男は、すぐさま荷物をまとめ、ハンガリー、リスト・フェレンツ空港から日本に飛んだ。

 トランクには、「裏」の商売人から仕入れた「触媒」そして、魔力を込めた宝石。

 仏頂面で目つきの悪い彼は、飛行機のビジネスクラス、その柔らかいシートに腰かけながら窓の外を眺めた。

 これから、彼の復讐が、始まる。

 

 東の果て、独特の文化をもったその国で、数年前に行われた聖杯戦争、そこで聖杯は破壊された。

 そうだと思っていたが、実際は違った。

 聖杯戦争が行われるということは、聖杯は消えていない、ということなのだろう。

 そう考えるのが妥当である。

 そもそも、聖杯なんていうシステムは簡単に模造できるものではないし、聖杯が復活した、だなんていうのhありえないことだろう。

(冬木で行われる、聖杯戦争とはまた違ったものらしいな……。まあいい、俺の願いは聖杯戦争に勝ち、願いを叶えるまでだ。極東の魔術師どもがどんな手練れであろうと、俺が倒して見せる。―――あの子の為にも。)

 

 噂話にしか聞いたことのない「聖杯戦争」

 七人のマスターと、その使い魔である「英霊」の、バトルロワイヤル。即ち、殺し合い。

 少し前、日本の冬木という地方都市で行われたのが、恐らく最後の聖杯戦争。

 大英雄の魂が一堂に集う、恐ろしい儀式。

 万能の願望器たる「聖杯」

 あの、聖書にも登場する、聖遺物。

 それは、いかなる願いもかなえると聞く。

 それを手に入れるのだ。

 例え、この手が汚れても。

 

 そして、今、西暦2009年。

 魔術使い、ヘーデルヴァ―リ・ジョルジュは、東京の空港に降り立った。

 タクシーを使い、あらかじめ予約しておいたホテルでチェックインを済ませる。

 落ち着いた内装の部屋に、侵入者避けの結界を張る。

 広々としたスイートルーム。

 巨大で怖気づく程の街並み。

 足取りの重い人間。

 そして、僅かに感じる魔力の残留。

 ここだ。

 ここで、戦うのだ。

 誇りも、情けも、慈悲も、愛情も、何もかも捨て去り、非常で無情な戦争を始めよう。

 そうだ、今から始めるのはギャンブル。

 そして、賭けるはわが命、対価に求めるのは、断罪する力。

「……もしかしたらこれは、復讐者を引き当ててしまうかもしれないな!」

 自嘲気味に微笑み、魔法陣を描く。

 恐れもしない。

 己の血で、ゆっくりと円を描く。

 床に敷いた白い布が、深紅の鮮血を吸い込んで、滲ませる。

「これで、俺も……」

 

 深呼吸。

 触媒など、必要ない。

 これは、召喚されたサーヴァントが誰でもいいというわけではない。

 ただ、思いっきり今ある状況で暴れたい、という彼なりの願い。趣味だ。

 

「満たせ、満たせ、満たせ。」

 

 狂気を孕んだ表情で、己の手で、そう、軽やかに!

 

「されど、されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。」

 

 確かな手ごたえを感じるのだ。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 

 叫んだ。

 ただひたすらに、己の邪念を込めて。

 喉を嗄らすように、吠えるように叫んだ。

 

 風が、騒いだ。

 大いなる魔力の本流が、熱気が、この部屋を包み込む。

 しかし、そこから感じるオーラはまがまがしいものではなく、むしろ、どこか心落ち着くような、新緑の香りが漂う、そんな、そんなオーラだった。

 

「サーヴァント、ランサー。召喚に応じ参上した。」

 

 まるで、聖人のように穏やかな顔で、何もかも悟ったような表情で、まっすぐに、真っすぐにこちらを見据えて、ただ手も伸ばさず、ひたすら穏やかにこちらの出方を待っている。

 

「……ランサー、か。」

 三代騎士クラスのうちの一つ、ランサー。文字通り、槍を用いて戦う英霊のことである。

「ああ、俺が呼んだんだ。そう、マスターとしてこの戦いに参加しようってな。」

 少しだけ、間があってから、ランサーは頷く。

「了承した。貴殿が私のマスター、この戦争のパートナーなのだな。よし、これからよろしくたのもう。」

 ランサーはうなずく。

(拍子抜けするくらいあっさりしてやがる……。このランサーは、プライドが高いような奴じゃなくて、よかった。)

「あれ、そんなあっさりしてるもんなんだ。へぇ、でもそちらの方が俺としても気楽ってなもんだ。よろしくな、ランサー。」

「ああ、こちらこそ。……いきなりで悪いのだが、マスターと呼んでいいのだろうか?名前があるのなら、そちらを呼んでもいい気がするのだ。」

 ランサーは、爽やかな笑みを浮かべ、ジョルジュを見据える。

 その整った顔立ちに、ジョルジュは少しだけ凄んでしまった。

 しかし、その表情にやや照れくさそうなものを見つけると、ジョルジュはにやりと笑ってからからと答えた。

「ジョルジュだ。ヘーデルヴァ―リ・ジョルジュ。見ての通り、日本人じゃない。でもまあ、日本語はソコソコってとこだな。ランサーも、見たところ日本人じゃないよな、うん。これだと三国志とか、そういうアジア系の英霊ってことはないだろう。東欧系?もしかして、俺の知ってる人だったり?」

 ランサーは、少しうつむいてから、こう答える。

「うむ、貴殿の出身の国の出、所謂同郷の人間なのだが、わかるかね?」

「……貴族か兵士みたいななにか、か?それとも神話の英雄?それとも世紀の大悪党、作家や魔術師……ってのはないか。」

「どれも違うな。しかし、兵士であり、貴族……ではないが、私の生前の地位はそれなりのもの。私は一応人を治めていたことがある。」

「もしかして、王族か!?」

「ご名答、さて、ハンガリー王は何人もいるが、その中では言い当てられるか?」

 難しいぞ。と、ランサーは言う。

「アールパドほど古くはないが、マスターが生きていた時代のはるか昔の人間ではあるね。」

「……すまない。俺にはさっぱりだ。生憎、歴史は苦手なものでね。」

 ジョルジュは「お手上げ」のポーズをして、答えを願った。

「私の真名は……ヴァイク。……嗚呼それは洗礼前の名だ。イシュトヴァ―ン1世だと言えば。分かるかね?」

「!?もしかして、建国者!……確か、聖人なんだろう!?」

 ジョルジュは興奮気味に叫ぶ。

「そう大げさに褒めたたえられても照れるものだ。」

「すごい、すごいぞ!もしかして、これは、いけるかもしれない…!」

 ジョルジュはそう言いながら、必死に頭の中で辞書を捲った。

 正直、彼の名前は歴史でしか聞いたことがないのだ。

 

 ヘーデルヴァ―リ家の次男として生を受けたジョルジュ、ジョルジュを待ち受けていたのは、壮絶で陰惨な「家族」、「血筋」という縛りだった。

 呪詛、特に生き物に苦痛を与える魔術を専門とするこの家は、一般的な魔術師から見ても、「異質で異様」としか形容できないような濁った血の家系であった。

 強引に魔術刻印を埋め込まれ、待っていたのは血もにじむような「訓練」の数々。

 これが「愛」だと言われて、鞭を打たれて。

 優秀でないから。

 そんな理由で睡眠も、食事も減らされた。

 出来の悪い自分と、優秀な兄、真面目な弟。

 自分を救ってくれるもの、味方してくれる人間はいなかった。

 魔術師として、ヘーデルヴァーリの名に恥じぬようにと幼いころから押さえつけられ、友を作ることさえも許されず、親族同士での「団栗の背比べ」ではいつも引き合いに出され、普通の学生として通っていた学校でもいつも言われるのだ。

「ジョルジュの家は変人ばかり」

「お前のあざは、気持ち悪い」

 間違っていない。

 そのとおりだ。

 汚くただれた焼け跡のような魔術刻印は、長袖でも着ていないと隠し切れない。

 近親婚と、口にできないような非道な「研究」で発狂した家族も沢山いる。

 陰口や暴力は当たり前。

 教師も見て見ぬふりで、両親や家族も「その程度も耐えられぬようでは」と突き放す。

 それは、つらい日々だった。

 それは、悲しいことだった。

 けれど、自分には抗うすべがなかった。

 しかし、希望がないわけではなかった。

 ジョルジュには、好きな少女がいた。

 黒髪のエリーザ。

 彼女だけは、何もしてこなかった。

 いや、もっと言えば、彼女だけは自分を正当に扱ってくれた。

 勘違い、思い込み、何でもいい。

 けれど、彼女を一目見たとき、本気で思ったのだ。

「彼女は天使だ。」

 と。

 しかし、ジョルジュは知っていた。

 彼女は、自分の兄が好きなのだ。

 それでもよかった。

 それでもいい、兄が目当てだとしても、自分に何か思い入れがなくても。

 ただ、彼女の近くにいられるだけでよかったのだ。

 

 ある日の夜、兄が自分を呼んだ。

 兄の自室、清潔なベッドの上、エリーザは、死んでいた。

 

 兄は計算高い人間だった。

 まるで機械のよう。

 彼女が自分に好意を抱いていることを知っていて、だまして、犯して、そして、殺した。

 

 ヘーデルヴァ―リの一族の、長子にだけ伝えられる魔術がある。

 それは、「自分に好意を抱いた人間を、殺すことによって完成する呪い。」

 それで、ヘーデルヴァ―リの一族は滅びずに残った。

 その魔術は、一定の期間だけ効果がある。

 その効果とは、「不死」

 一定の間、正確には60年。

「何をされても死なない。」

 たとえ、火に焼かれても、酸素がない状態でも、何をしても、死なない。

 そしてその間、異性を引き付ける効果のせいで、子供も増える。

 そうやって、毎回、一人の人間の命を犠牲に、この家は栄えた。

 そうやって、自分の命も作られた。

 これは、神からの啓示だ。

 この家を、この血筋を根絶やしにし、自分の代で終わらせろ。

 そんな、お告げだ。

 こんな家、こんな屑、生かしてはおけない。

 そう思った。

 

「―――ジュ、――ルジュ、ジョルジュ!」

 気が付くと、寝ていたらしい。

 肩を揺さぶり、きつい声音で自分の名を呼ぶランサーの顔は、ひどく焦っている。

「ああ、ランサーどうしたんだ?」

 ジョルジュは冷や汗を拭いながら言う。

 ランサーの顔には焦りの表情が浮かんでいる。

「ジョルジュ、いいか、もう戦争は始まっている!」

「何当たり前のことを―――え?」

 目を見張る。

 一面、瓦礫と硝煙、土煙で灰色。

 跡形もなく、ビルも、道も、何もない。

 爆発?テロ?いや、違う。

 これは、

「宝具、だ。」

 ジョルジュは唇を噛みしめ、立ち上がった。

 悲鳴、怨嗟、誰かを呼ぶ声。

 ほんのり鉄の臭いがする。

 命が、消えていく。

 ジョルジュは気づいた。

 これは、マスターである自分を殺しに来た、誰かの仕業だ、と。

「誰か、俺らを狙ってきてやがる。ランサー、ここまで喧嘩を売られたら――」

「買うしかない、だろう?」

 ランサーは苦虫を潰したような顔で、そう言った。

 ランサーとジョルジュは駆け出した。

(もう二度と、自分のせいで人が死ぬのは御免だ――!)

 魔力の本流、サーヴァントが放つ気配を探して、二人は走った。




ランサーを王族にしようというのは、最初から考えていました。
最初は三国志か、水滸伝の人にしようかな、なんて思っていたのですが、適当に辞典を捲っていると、この人が出てきたので運命を感じてこのお方にしました。
結構脚色したり、妄想をくっつけやすいので楽しいです。


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プロローグ・ライダー

 我が命運は、優れた従者と共にあり。

 そう、勝ち抜くためには強力なサーヴァントが必要不可欠。

 アインツベルン、マキリ、トオサカの三家が作り出した聖杯戦争のシステム、「英霊召喚」は素晴らしいものだ。

 大英雄から神話の神まで、古今東西、過去から未来まで、全ての時代の英雄が、現世に!

 そんなの、あこがれるしかないじゃないか!即ちこれは、浪漫だ!

 

 

「ま、わたしみたいな三流魔術師には、名高い英雄さんなんて縁遠いものなんやけど……」

 そう呟いて、私室でだらしなく菓子を貪り、雑誌を片手にだらけて居る少女は、大きく口を開いてチョコレートをほおばった。

「やめろ!俺と契約しておいて、そんなにだらけるなんて、死にたいのか?この俺と共に戦えるのに?そう、今は泣いて喜び、俺に這いつくばるべきだろう!さぁ!ほら!……あっ!そこのイチゴ味は俺のものだ!」

 狭くて汚い部屋に似つかわしくないほど豪奢で華美な服装をした青年が、少女の手元にあったチョコレートを一つ掴んだ。

「あぁ!王さんそれで5個目やで!これわたしがバイトで稼いだお金で買ったやつなのにぃ……!」

「ははっ!俺の口に合う歌詞を献上するのは、下僕として当然であるぞ!」

 そう言って、ホワイトチョコにも手を付ける。

「むっ!これは、この白いもの……中々に美味だ!キョーコ!この白いのはもっとないのか!?」

「あ~、それで最後っすわ。そんなにチョコ好きなん?昔もっと旨いお菓子食べたことないん?」

「……生前には、このような手の込んだ菓子は食したことがない。俺の時代には小麦を使った簡単な焼き菓子、あとはそうだな……それくらいしかなかった。この国はいいな、旨い菓子が沢山、そしてこの時代は良い。このようなチョコレートがあるのだからな!」

 そういってライダーはカッカと笑った。

 

「ふぅん、王さんって結構素直なとこありますやん。これでもうちょい謙虚なとこあったら、モテるで、多分。」

「まあそれくらいの小言、許してやろう。………む。キョーコ、窓の外を見よ、月に奇妙な模様が浮かんでいるとは思わぬか?」

「えーっと、どれどれ?………あ!確かにちょいヒビ入ってるみたいになっとる……。」

 ライダーが指さした先には、満月。

 その満月の右側、丁度斜め上あたりに、「ヒビ」のような亀裂が見えた。

 まるで、卵が割れているような、そんな奇妙な模様である。

「何かの前触れかもしれぬ。キョーコ、念のため、もう一度結界を張りなおすぞ。」

「了解。――――結界形成、強化、確認……我が領域、犯せば重罪、裁きを下したまえ…っと。」

 小さく口ずさむようにほそぼそと呪文を唱える。

 面倒くさがらずに、母に魔術を教わった成果と言えよう。

「あ、終わったよ。」

「……キョーコ、備えは怠るなよ、いつ、どこで、誰が見ているのかわからぬからな。」

「うん、分かったわ。気を付ける。」

 もう一度、あくびが口から出てしまった。

 それを見たライダーは口を開く。

「それでよい。……今日はもう寝た方がいい。明日もガッコウがあるのだろう?」

「おやすみ、ライダー。」

「ああ、存分に休めよ、マスター。」

 京子が布団に入る間、ライダーは塵箱に入ったチョコレートの包装紙を眺めながら、少しだけ、思い出していた。

 聖杯戦争の始まり、自分が呼ばれたときのことを。

 

 ライダーのサーヴァント、ジョン「失地王」が呼ばれたのは、日本の兵庫という場所、そこに存在する魔術師の家、その家の小さな小部屋だった。

 目の前に立つのは小さな娘。

 何か不満そうな表情で、こちらを舐めまわすように見つめる娘の名は、鳳京子。

 母との穏やかな生活を取り戻すために、そんな願いと共に、必死の思いで召喚陣を描き、触媒に選んだのは「イングランド王家の紋章」

 鳳一族の最後の生き残り。

 そして、聖杯戦争に臨むマスターの一人だった。

「あ、サーヴァントいうのが出てきよった。えぇっと、わたしと契約してくれるんやろ?返品無理?あ、聞いてんの?ねぇ、あんたサーヴァントなんやろ?わたしの使い魔なんやろ?自己紹介くらいせんかい!」

 呼ばれて一番、そんなマシンガントークでまくしたてられて、ライダーの頭には「苛立ち」という感情がよぎった。

「貴様!黙っていればこのライダーに減らず口を!!その脆弱な体をへし折ってくれるわ!」

 そう言って王笏を構えたライダーに対し、京子は怯むことも、目を閉じることも、令呪を使うこともしなかった。

「やめて。」

 ただ、一言、やめて、と。

 そう言ってまっすぐにこちらを見据えたのだ。

 まっすぐな瞳には決意があり、濁らず、よどまず、こちらをただ見つめていた。

 その黒い瞳を覗き込んだ時、矢に打たれたような、そんな衝撃が全身を駆け抜けた。

(これは、「決心した人間」の瞳だ――!)

 覚悟を決めた人間にしかできたい表情で、こちらが試されているような気持ちになる。

 ライダー――ジョンは思い出した。

(兄に、よく似た瞳だ……)

 リチャードも同じような瞳をしていた。

 息が止まる。

 ずっと小さな小娘に、この誉れ高き我が心が揺らぎ、怖気づいたのだ。

 ライダーは思った。

 この瞬間、ライダーの心の中に、一筋の雷撃が走った。

 あの金髪、我が兄にして、至福の王。

 同じ血を分けた兄、リチャードの纏うオーラを、目の前の少女は身に持っていたいたのだ。

(そう、きっとこれは運命なのかもしれぬ、な)

 ライダーは京子の肩に王笏を当てた。

 丁度、姫が騎士にするように、自然と京子と目線があった。

「御前を、余のマスターにすることを認めよう。……これから、俺はお前の剣であり、盾、お前もまた、俺の相棒であり、臣下だ。」

「うん、よろしく。ライダー。」

 京子はライダーに令呪を見せて、そう言った。

 悪評を拭うべく召喚に応じたサーヴァントと、己の幸福を夢見て、戦いを選んだマスター。

 右手で、三枚のツタが絡み合うように美しい紋章を描く。

 丁度それは、鳳の家の紋章によく似ていた。

 




ジョン失地王のことは、成田先生のfakeでちょろっと出ていたのを、書いた後に思い出しました。
これから本家の方で出てきたらどうしようとひやひやしています。
私版、ジョン失地王だと思って、向こうとは別物という解釈で読んでいただけると嬉しいです。
京子の関西弁(エセ)は自分の地元(一応関西です)での言い方を参考にしているので、間違っていたらすみません。


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プロローグ・アサシン

「何故、君は聖杯戦争に?」

「僕は、死にたいんだ。」

 清潔で落ち着いた部屋、病的なまでに白く、消毒と、薬品の独特のにおいがするその部屋は、俗に「病室」と呼ばれる部屋だった。

 ベッドで寝ているのは大人と青年の中間地点にいるようなやせた男。

 その隣に腰かけるのは、シルクハットを被った紳士風の男である。

「死にたいから戦争に参加するのかね。」

「ああ、僕は安らかに、一刻も早く死ぬ必要がある。死は救いだ。しかし、死の先は無だ。でも、それは幸福でもある。僕は何でもいいから、消えたいんだ。その為に、死ぬために、僕は君と一緒にいるんだよ、アサシン。」

 独り言のように語る少年を横目に、アサシンと呼ばれた男は深くため息をつき、手もとにあった手帳を開いた。

「マスター、死は救いだという点に関しては大いに同感しよう。しかし、無であはないぞ。死を終えて、待ち受けるのは生前の呪縛だ。死んだら、誰かが悲しがるふりをする。そうすると、死などは無どころではなくなるのだ。死とは、逃避手段ではあるが、私の生前の「記録」を新しく更新するのだとしたら、自殺だけはやめてくれ。それで私の本には、奇妙で陳腐なあとがきが付け加えられているのだから!」

 キャスターは大げさに身振り手振りで表しながら、大げさにそう言う。

 その姿を見た男は少しだけ口角を吊り上げて、覗き込むようにしながら言う。

「君はアサシンなんだから、僕を殺してくれよ、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。」

 

 アサシンが召喚されたとき、あたりを包んでいたのは、静寂と闇、そして死の臭いであった。

 ボロボロの紙切れに、よたよたと、地を這うような線で描かれた召喚陣を見て、アサシンは感じた。大変なところにきてしまったかもしれない、と。

「君は、僕を生かしたい?」

 暗闇の中で、2つの瞳がこちらを見ている。

 薄い月の光の中、明らかに異質な存在である、「彼」は白く清潔なシーツの上からこちらを見上げていた。

「君が、私を呼んだのか?」

 アサシンは呼びかける。

 召喚したはずの男は、少しだけ間を開けてから、また尋ねた。

「君は、僕を生かそうとしている人?それとも死神?えっと、死神に殺されるパターンは考えていなかったんだ。ちょっと待って、死ぬ用意をするから。」

「………少なくとも、私は死神ではない。そして、君を殺そうとは思っていない。どちらかというと、むしろ生かさねばならない存在だ。」

「え、そうなんだ。残念。でも、君を呼んだのは僕。だって、参加したら死ねるんでしょう?この聖杯戦争っていうのは。」

 そう言って、男は端が擦り切れた紙切れを突きつける。

 古めかしい字体と、ぬるぬると滑るような文字は、まごうことなき「ひらがな」で、大昔に書かれたものなのだろうか、サーヴァントでも読むのに苦労するほどの古い言葉で綴られている。

「すまないが、君は聖杯戦争に参加するつもりなら、生きていないと勝てないぞ。君の望みは叶えられない。」

「うん、知ってる。だから、聖杯ってやつに願うんだ。極上の死、誰も体験したことのない、本当の意味での死をね。」

「……君は、本当にそれでいいのかね?」

「いいよ。マスターになっても。持ってるんでしょう?願い。僕はどっちにしろ、負けても勝っても死ねるんだから、それでいいんだ。」

 そう言って、三画の令呪をまじまじと見せつける。

「ね、ほら、これが浮き上がったってことは、僕をマスターって認めてくれた。それでいいんじゃないか?」

 肉がほぼない、と形容してもおかしくない痩せ切った青白い腹に、アンバランスな真っ赤な令呪。

「……いいだろう。私は君をマスターと認めて、この戦争に参加する。」

「いいよ、握手しよう。……そういえば、クラスを聞いていなかったね。君は何の英霊なのかな?」

「アサシン、アサシンのサーヴァントだ。真名は、ゲーテ。フルネームはヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテだ。くれぐれも、迂闊に口にしないように。」

「わかったよ、アサシン。」

 そう言ってつながったパスには、この細見からは想像できないような魔力が流れている。

(このマスターは、何ものなんだ……!?)

「ねぇ早速だけどさ、何人か殺してきてくれない?他のマスターを殺すためなんだから、今のうちに予行練習しとかないと。」

 男は笑いながらそんなことを言う。

 アサシンは、病室を後にした。

 

(殺せ、か。まあ、アサシンとして呼ばれたから覚悟はしていたが、まさかこの私が直接手を下す、のか。)

 おそらく監視されているだろうから、適当に街で誰か見繕ってしまおう。

 そう思い、彼はアサシンのクラススキルである「気配遮断」を発動させた。

 夜の街は暗く、繁華街は人でにぎわっている。

 星が雲で隠れている中を、アサシンは歩いた。

(今日は、星が見えない、か)

 

 病室のドアに、黒い文字で小さく名前が書かれたネームプレートが貼ってある。

「407号室 寺島功太」

 それが、男の名前である。




アサシンは、皆さん大好き(?)ゲーテです。
アサシンをゲーテにしようというのはずっと頭の片隅で考えていて、別の候補(ロミジュリのロミオ、既出だけど、マタ・ハリ、後はシモン・ヘイヘとか)
最初の方はシモンさんで書こうとしていたのですが、「ウェルテルでいっぱい自殺効果あったんだから、ゲーテアサシンいけるわ!)という考えで急きょゲーテに変更。外見年齢はシュトラースブルクで学んでいた時代あたりで想像していただければいいかと。
死にたがりマスターとの相性もいいんじゃないでしょうか?(実はこのマスターで書くときは、キャスターのマスターで、サーヴァントは太宰治にしようと思っていました)


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プロローグ・アーチャー

 自分でも、何故こんなことになったのかいまいちわかっていない。

 でもわかるのは、自分はとても大変なことに巻き込まれた、ということだけだ。

 

 

「サーヴァント、アーチャー。ウィリアム・テルがここに推参致す。」

 そう言って手を差し伸べてくれたのは、どこからともなく表れた、帽子を被った男の人。

 テレビから抜け出してきたような、俳優みたいな綺麗な顔の人。

「え、マスター?ええっと、貴方は……」

 目が回りそうだ。

 少しだけ、おまじないを試しただけなのに、地面が光ったかと思ったら急に現れて、しかも「サーヴァントのアーチャー」なんて言ってくるなんて、ちょっとこれはゲームのやりすぎなのかもしれない。

 これは、夢?

 もしくは、テレビのドッキリ番組の撮影?

 でも、こんな普通の男子中学生を撮影したところで、何か意味でもあるのだろうか?

 困ったような顔をして、こちらを見つめる男性に、何故かこう口走ってしまっていた。

「あの、お茶でもいかですか……?」

 

 家のダイニング、建て替えたばかりでまだ変な臭いが充満する部屋で、麦茶をコップに入れて二人分を机の上に置いた。

 向こうが、

「これは、俺が飲んでもいいのか…?」

 と聞いてきたので思わず、

「あ、お代わりもありますんで!遠慮なく!」

 と答えてしまった。

 不思議そうに蛍光色のプラスチックコップを眺め、思い切ったように麦茶を飲み干す彼を横目に、必死でカメラを探していた。

(どこだ、あの影か…?いや違う、どこにもない!?いやまさか、嘘だろ?え?どうしろっていうのさ!)

「あの、すまない。」

「はっ!はい!何でしょう?!」

 急いで振り返ると、緑色の瞳が困ったような色を湛えてこちらに訴えかけてくる。

「貴方は俺のマスターになるということで、いいのだろうか?」

「え?」

「……聖杯戦争は、もう始まっている。もう、ランサー、アサシン、キャスターのサーヴァントが召喚されている。参加するにしろ、しないにしろ、君はどうにも聖杯戦争についての知識がないと見受けられるから、心配になってしまったのだ。」

「聖杯、戦争?」

「ああ、君は知らないのか。……魔術師でないものが参加する、まあそういうパターンもあり得るか。」

 最後の方は何を言っているのか聞き取れなかったが、どうやら自分は何も知らないらしい(そのまま受け売りで言ってみただけだ)。

「わかった。全て説明しよう。今更引き返せないし、言わないより言っておいた方が、のちの役に立つだろうから。」

「?よろしくおねがい、します?」

 真剣な面持ちでこちらを見つめる彼に、この時の自分は引き下がれなかった。

 

 過去の偉人や神話の神様なんかが聖杯という器を取り合うバトル・ロワイヤル。

 それは、冬木という街に住む3つの魔術師の家が考案した、殺し合い。

 

 剣を使う、「セイバー」

 弓を使う、「アーチャー」

 槍を使う、「ランサー」

 乗り物に乗る、「ライダー」

 魔法使いの、「キャスター」

 暴れまわる戦士、「バーサーカー」

 暗殺者の、「アサシン」

 

 自分のサーヴァントは、弓の英霊、アーチャー。

 聖杯戦争に参加する人は、そんな7人のうちのどれかと契約して、戦いに臨むらしい。

 勝利する方法はただ一つ、他のサーヴァントかマスターを倒すこと。

 アーチャー曰く、逃げられないし、生き残りたければ他を殺すしかない、とのこと。

 そんな厄介なことに、自分は参加しなければならないらしい。

 そして、三画の令呪。

 これは、サーヴァントにどんな命令でも効かせることができる「絶対命令権」らしい。

 これがなくなると、脱落する。

 聞いたことを自分なりにまとめれば、そうなった。

 

「魔術師なんて、ゲームや漫画の世界のことなんだと思ってた。」

「いや、魔術師っていうのは本当にいるもんさ。現に、そういうやつらこの聖杯戦争に参加する。」

 アーチャーはそう言って、新しく注いだ麦茶を飲み干した。(「あっ、これ旨い」とか聞こえたような気がするけれど、黙っておこう)

「……で、マスター。あんたは勝つ気があるかい?殺し合いに、参加する度胸は?」

 アーチャーは真剣にこちらを見ている。

 正直、返答には困っている。

 いきなり、殺し合いをしろだの、正直胃が痛いし、怖い。

 でも、

 

「本当に、何でも願いが叶うんですね?」

 

 実は、どうしても叶えたいことがあった。

 この機会だし、やってみても損はないと思う。

 

「わかった、マスター。これから俺は、貴方の弓兵だ。どんどんこき使ってくれ。」

 

 そう言って、膝を折って跪く。

 

「うん、アーチャー。死なない程度に頑張るよ。」

 

 

 月が、また瞬いた。

 そして、ヒビは深くなる。

 丁度、満月になった。

 まだ、続く。

 悲劇の幕は、あがろうとしていた。




 ウィリアム・テル。
 この人は正統派アーチャーを目指して考えました。
(本家がアーチャーじゃないアーチャーばかりなので(笑))
 女の子にしてもよかったなあって思ってます。密かに。
 男くさい主従が多いですよね(笑)
 多分、女の子も増えます。多分。


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プロローグ・セイバー

「マスター、失礼致します。」

 ドアを二回ノックし、返事がないということは、入っていいということ。

 そう教わった少女は、古い、木で出来たドアを引いて入室した。

 中には、踏むのも躊躇う程上等な赤い絨毯、そして奥には巨大な窓がある。

 日の光を遮断するように分厚い黒幕が引かれ、その近くにはキングサイズのベッドが一台。

 その天蓋の下で気だるそうに寝転がる女性、彼女は鎖骨のタトゥー――のように見える令呪を見せびらかすようにパジャマのボタンを外した。

 

「何のようなわけ、セイバー?」

 こっちに来ないで向こうで待機しててよ、と言いたい視線に、セイバーと呼ばれた少女は少しだけうつむいた。

 しかし、また前を真っ直ぐに見つめ、自分の主人たる女性に意見を述べる。

「マスター、つい先ほどキャスターが駅近くのオフィス街に宝具を放ったようです。民間人の犠牲も多数出ており、その場にはアーチャーとライダー、そしてランサーと思わしきサーヴァントも見受けられましたが……いかが致しましょう?」

 先ほどまでオフィス街でマスターから頼まれた「おつかい」を済ませていたセイバー、その近くで爆発音が聞こえた。

 慌ててその場に向かうと、サーヴァントと思わしき数人と、そのマスターがキャスターのサーヴァントと対峙しているのを見かけたのだ。

 キャスターの放った宝具は極めて強力なうえ、ここで3騎の助太刀をするか迷ったセイバーは、主人である「香蓮・エーデルグランツ」に確認を取りに帰ったのだ。

「……好きにすれば?あと、例のブツは机の上に置いといて。あたしはあんたのマスターだけど、あんたの行動は好きにしとけばいいじゃない。何?令呪でも使われたい?」

 香蓮はそう言って、ひらひらと手を振った。

 これは、出ていけ、という合図である。

「了解致しました。ではマスター、帰還までの間、くれぐれもこの本陣から動かぬようにお願いします。」

 返事はない。

 セイバーは丁寧に退室前に一礼し、そのまま後ろ手でドアを閉めた。

 ギシギシと軋む廊下を走り抜け、ドアから霊体化して一気に加速する。

 昼の太陽は一番高い位置にあった。

 セイバーは全速力で走り抜ける。

(あの3人、うまく持ちこたえていればよいのですが……)

 そう祈りながら、セイバーは飛び出した。

 

 

 セイバーが召喚されたとき、召喚したはずの人間はひどく退屈そうな瞳でこちらを見ていた。

 挑発するような視線と、真っ赤なボサボサ頭。

 寝巻も同然のラフな格好で、「これでいいんでしょう?」と聞かれたときに、セイバーはどう返していいのか全く分からなかった。

 まるで面倒な課題でもこなしているような顔で、つまらなそうに令呪を見つめている。

 そんな異様な光景が数十秒間続き、しびれを切らしたように女性が口に出した言葉は、

「勝手にやっといて。」

 であった。

 

 セイバーは執事風の老人に、この厄介そうなマスターの名前が、「香蓮・エーデルグランツ」である事と、魔術師の家系に生まれ、嫡子でありながらも、他の子供が全員死亡したためにこの聖杯戦争に参加しなければいけないこと、そして、それを本人が死ぬほど嫌っていること、などを聞かされ。

 最後に念を押すように、

「お嬢様には必要最低限の言葉しか話さないで下さい。そして、機嫌をなるべくそこねず、大事な魔術回路をお持ちなので、決して死なせないようにお願いします。」

 と言われた。

 聖杯にかける望みもなく、ただ参加させられただけ。

 そんなマスターに、セイバーである彼女は忠誠心を抱くことなどできなかった。

 しかし、召喚されたからには戦うしかない。

 最低限、魔力のバックアップはあるのだから、宝具を打たねばならない状況でない限り、傍にいてもらわなくてもいい。

 そう考えたのである。

 幸い、それなりに魔力の質と量はいい。

 そして、無駄な命令を出してこないので、セイバーにとっては無茶で横暴な主より「まし」だと考えた。

 触らぬ神には祟りなし。

 そう考えようと思ったのだ。

 

「……これは!」

 セイバーが現場に到着し、真っ先に視界に移ったのは、巨大なタコのような化け物。そして、それを呆然と見上げる群衆たちであった。

(いけない、こんなところを見られては――!)

 真昼間から戦いを仕掛けてくるとは、よほどキャスターも図太いのだろう。

(この人たちに、記憶操作の魔術を……、いや、間に合わないわ。)

「貴殿は、サーヴァントと見受けられる!我らに助太刀をしてはくれぬか!」

 槍を構えたランサーらしきサーヴァントが、唸るような声で呼びかけてくる。

「勿論、その為に参りましたので――私は、この剣を振るうのみ!」

 魔力によって編み出した剣と、装飾が自分の肉体を包む。

 全身に血がたぎるような興奮を感じ、セイバーは、真っ直ぐに飛び込んだ。




 三大騎士クラス、全員揃いましたね(やったぜ)
 セイバーの真名は、あえて明かしていません。話が進むにつれ、わかるようになると思います(多分)
 まあ、プロローグの時点で明かしている方が異質ですよね。普通だったら途中で宝具ぶっぱなすときに格好良く真名開放する方が格好いいですから。
 まあ、他の英霊もすぐ名前ばらしちゃうかもしれませんね。完全に祝詞勢いだけでプロット組み立ててませんし。
 明日から、しばらく旅行と帰省でインターネットが使えない状況におかれるので、しばらくの更新は無理だと思います。


おまけ 女性のセイバーって、アルトリア顔以外あまりいないイメージがあります。


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プロローグ・キャスター

 恐怖とは、どのようなものなのだろう。

 恐れるとは、どのような感情なのだろう。

 自分は、それを知らない。

 ただ、怖いという一言が、理解できないだけなのだ。

 

 怖いを知りたくて入ったオカルト研究部。

 みんな怖いを知っている。

 わたしも、怖いを知りたい。

 そんなある日、とある男の子が持ってきた本の中に、

 その中の、一冊の古びた本に、

 書いてあったの。

 聖杯戦争という言葉が。

 わたしは思った。

 これは、チャンスなんだって。

 だから、チャンスは逃さないの。

 

 月が見えない、曇りの夜。

 わたしは一人、倉の中で。

 

「満たせ、満たせ、満たせ、」

 

 見つけたお話。

 聖杯戦争と呼ばれる、殺し合い。

 それに参加すれば、少しは怖いという感情も理解できるのではないか。

 そう期待して、魔法陣を描く。

 

「閉じよ、閉じよ、閉じよ、」

 

 わたしがわたしである意識。

 つまり、人間の本能。

 それが、抜け落ちているのだと思う。

 怖いとみんなが言っていたテレビ、全然面白くない。

 電車にひかれそうでも、全然平気。

 痛いとは思うけど、別に大丈夫。

 

「繰り返すつどに三度、ただ繰り返される恐怖を忘却する。」

 

 痛いことは、怖いことじゃない。

 楽しいことは、怖いことじゃない。

 怖いって、どういうこと?

 死にたくないって、どんな気持ち?

 

「―――Anfang」

 

 言い表せぬ高揚感。

 

「――――――告げる」

 

 まるで、ここが一つの舞台のようで。

 

「――――告げる。

汝の身は我が神に、我が命運は汝の声に。

聖杯の寄るべに従い、この心、この忠誠に従うならば求めよ」

 

「畏怖を此処に。

我は常世総ての善を壊す者、

我は常世総ての悪を想う者。

 

汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、混沌の支配者よ―――!」

 

 部屋が、暗い部屋が、光った。

 

「問おう、貴女が私の、『主人』か?」

 

 真っ黒な人。

 痩せた、枯れ枝のような人。

 見るだけで、飲み込まれそうな、そんな、「怖そう」な人。

 

「わたしは、貴方に教えてほしい、感情を、恐怖という思いを。」

 

 わたしは本能的に、導かれるようにその場に跪いた。

 その人の背後にはうごめく影、

 わたしの隣には得体のしれない「何か」がいる。

 

「ならば聞かせよう、今宵、わが身は貴女と共にある。そして、唄おうか、この世界に、この人々に、『宇宙的恐怖』を味合わせてやるのだ……!」

 

 卑屈な笑み、狂った顔、むき出しの悪意。

 ああ、それこどが恐怖だとしたら、

 ああ、この感情に名前をつけるのだとしたら、

 わたしは誓いをたてよう。

 この人に、

 そして、この心に。

 

 

「アルファ定時報告。ラビットがサーヴァントの召喚に成功。クラスはキャスター、真名は不明。エコーに応答及び救援を依頼。」

 

「エコー了解。直ちに向かう。」

 

「ブラボー定時報告。47地点での人間が、大群でエリア49地点に移動確認。追尾します。」

 

「……すべては、『蓮』のために。」

 

 




 キャスターの真名は、仄めかす程度にしておきました(大嘘)
 恐らくわかる人には滅茶苦茶分かる。
 ここで二次創作を読んでいる人は、大方知っていると思います。

 この奇妙な主従(?)は結構設定をつけるのに迷いました。
 最初は卑弥呼とかでもいいかな~なんてね。
 でもね、自分の趣味に忠実ですのでね、こんなことにね、なっちゃったんですよ。
 シャーマンが書きたかったんですけど、今回は某作家です。
 てへへ。


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1章 
開幕


 月が、大きく音をたてて割れた。

 そんなニュースが、世界中を駆け巡った。

 そして、月は、正確には、月があったはずの場所には、巨大な壺、もしくは杯に似た巨大な「物体」が我が物顔で鎮座している。

 その物体からは、目が霞む程の眩い光が放たれ、ネット上ではたくさんの噂が流れ、「人類の滅びの予兆である」という説を頑なに信じ込む人々が急増した。

 そして、日夜テレビでは月がなぜ消えたのか、という議論をするための番組が常に放送され、天文学者などは寝る間も惜しんで原因を解明しようと躍起になっている。

 

 奇妙なことに、その物体は、太陽のように光っているのにも関わらず、地上は暗いままなのだ。

 その物体の光は「視認しよう」と思わなければ見えない。

 その物体を見上げない限り、光は視認されない。

 平常時は、新月の夜のように真っ暗なのだ。

 しかし、世の中はいつも通り回っていく。

 いつものように、ただ猥雑に、そして、平穏に。

 

「月が割れた、だと?」

 そう言って驚いたような声を上げた青年を、たしなめる様に黒尽くめの少女は手を男の肩に置いた。

「………始まったのよ、もう私たちが介入することはできない。………仕方ないの。ただ、これ以上の犠牲がでないように、後処理するしかできることしかできないわ。」

 幼い風貌に似つかわしくない落ち着いた声の中に、僅かな焦りを感じた男は、これ以上何をしようが無駄だと理解した。

 少女は胃薬を取り出し、男に勧める。

 男は無言でそれを受け取り、水と共に流し込んだ。

「この年で胃薬を常備するとは中々だな、シャルロット殿。」

「………仕方ないわ。この聖杯戦争は『記録に残らない影の聖杯戦争』になるでしょうね。監督者がいない時点でおかしいもの。そして、恐らくこの聖杯戦争が終わる条件は……」

「これ以上、言ってはいけない。」

 男は少女の口に手を当て、もう片方の手で羽虫を潰した。

「……きっと誰かの使い魔ね。私としたことが、やられてしまったわ。ありがとう、ジョシュア。」

 少女は軽く舌打ちをして、ハンカチで唇についた、男―――ジョシュアの手についた膏を脱ぎ取った。

「礼はいい。早速誰かが動き出したようだ。行くぞ、アシュリー。」

「了解したわ。………行きましょう。」

 

 二人は小さな懺悔室から出ていき、雑草の生い茂る狭い小道を走り出した。

 黒の胴衣を着こんだ怪しげな影は、次第に遠くに消えていく。

 その様子を密かに見ていた人間が一人。

 

「……邪魔された、かな。」

 残念そうに唇を尖らせ、華奢な体に纏っているのはセーラー服。

 そして、傍らに同じくらいの歳の少女が一人。

「マスター、殺しましょうか?」

「いいよ、面白そうだから放っておこう。」

「殺したりない、もっと血が見たいわ。」

「まだ、我慢して。」

「マスターが言うなら。」

 彼女たちは、そう言って手をつなぎ、歩き出した。

 

 

 ――――此処に、6騎は集った。

 ―――そして、戦いの幕は上がる。

 

 故国の為に剣を取った少女。

 忠誠はなく、死後に混乱を招いた王。

 反逆の火種を作った青年。

 失墜と失態の悪王。

 混沌と恐怖の創設者。

 死を招き、恋と人間を見つめた小説家。

 

 

 

 そして、影の聖人。

 

 そして、8人の「マスター」達。

 

   始めようか、

    この、『聖杯戦争』を。




 いえ~いめっちゃポエムです。
 これからは時系列に沿って書こうか、それとも各陣営ごとにピックアップして書こうか迷っています。
 東洋系サーヴァントも出したかったんだ……。まあ、次の機会に出せたら、いいなぁ・・・(遠い目)


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