SKETDANCE BOSSUN the IF STORY (ぐぎゅる)
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helper of a school

…語り部設定がいるのかと、つい思ってしまう俺…


 

 

 ーー開盟学園高等学校。

 

 私立の自由な校風がウリの高等学校である。

 制服はブレザーと決まっているが多くの生徒は自由に制服を身に付け、多くの着回しを生み出している。

 カバンも指定されたものがあるが、基本的に自由である。

 

 ああ、遅ればせながら……この小説の語り部を務めさせてもらうスイッチこと笛吹和義だ。

 何故俺が語り部に選ばれたかのかといえばーー作者が一番語り部っぽいと判断したから、ということになっている。

 一部のシリアス回では三人称になったり、特定回で俺以外の語り部が登場したりするがその点は了承してもらいたい。

 了承出来ない場合は、おとなしく別の小説を探してくれ。

 

 さて、ここで開盟学園に登校する一人の少年に焦点を合わせてみよう。

 

「…………」

 

 藤崎佑助。1992年11月11日生まれの17歳。所属クラスは2-C。愛称はボッスン。赤いツノ付きの帽子とゴーグルがトレードマーク。好きな食べ物は唐揚げ、ハンバーグ、カレー。好きなガンダムはガンダムキュリオス。嫌いな食べ物はペロリポップ☆キャンディ。

 そして学園生活支援部、通称「スケット団」の部長である。

 口調はやや乱暴な感があるが、真面目で責任感が強い。そしてポップマンというヒーロー物のアニメを見ていた為、仲間や友達に対しては深い思いやりを見せる。

 

「ボッスンおはよー」

『チッス、ボッスン』

「おはよう、ヒメコ、スイッチ」

 

 そんな訳あり満々なボッスンと合流した二人の少年少女。

 少女の名前は鬼塚一愛。愛称はヒメコ。ボッスンのクラスメイトでスケット団の副部長にして数少ない武闘派メンバーである。

 奇特な事にペロリポップ☆キャンディ、通称ペロキャンが大好きで、それを咥えながら愛用のフィールドホッケー用のスティック、ブラスト社製「サイクロン」を振り回す姿は、ヤンキー界では酷く恐れられている。好きなアニメキャラは綾崎ハヤテ。

 そして少年は、我らが笛吹和義。愛称はスイッチ。同じくボッスンのクラスメイトでスケット団の書記にして、スケット団きっての情報通である。科学とオタク文化をこよなく愛する才子だ。

 常に肩からノートパソコンを提げ、合成音声ソフトを通してしか喋らないため、周囲からは遺憾だが個性的な男子として見られている。好きなガンダムはケルディムガンダム。

 

 彼ら三人が所属するスケット団は、生徒が抱える学園生活上の悩みやトラブルを解決し、円滑な学園生活が送れるよう手助けすることを目的として結成された部活動である。

 部長であるボッスンが一年の頃にヒメコと立ち上げ、後にスイッチが加入し現在の体制が出来上がった。学園活動支援部として認められたのは二年に進級して間もなくの事だ。

 愛称のスケットは英語でSKETと表記されるのだがーー

 

 Support (支援)

 Kindness (親切)

 Encouragement (激励)

 Troubleshoot (問題解決)

 

 この英単語の頭文字を取って表記されているのだ。

 スケット団の活動内容は落し物の捜索や他部活の助っ人、裏庭の清掃など多岐に渡るがざっくりまとめれば人助けだ。

 だが、学園活動支援部としては趣旨に沿った活動が出来ているので全く問題は無いのだ。

 

「でな、昨日のアレ。むっちゃオモロかったわー。ボッスンは見た?」

「ああ。確かにあのドラマは面白かったな」

『俺は魔法のペテン師 リアリティーー』

「オタクは黙れ。でなでな、ウチが一番良かったのがーー」

 

 とはいえ依頼が無ければスケット団も動けず、登校中にダベり授業を受けて放課後は部室でダベったり遊んだりして一日が終わったりすることもある。

 この日も転校生が来た事以外は、大した事件も頼まれ事も無く。その転校生をスケット団に誘い、断られ、放課後に部室に集まっていた。

 

『そういえばボッスン。あの「葉鶏頭事件」に関する情報が目撃者から寄せられたぞ。ボッスンの読み通りだ』

「やっぱり城ヶ崎と三浦かよ。先生には?」

『既に伝えてある』

 

 葉鶏頭事件とは、カツラを使用している2-D担任の伊藤先生のハゲを城ヶ崎と三浦が体育館の壁に「ハゲ伊藤」と落書きし伊藤先生のハゲをバラした事件である。

 落書きをした城ヶ崎は弱者を暴力で支配する一方、自らの悪事が露見すると知らん振りをする典型的な小物であり、対極の位置にいるスケット団を嫌っている。

 因みに伊藤先生はとても優しい先生で、2-Dの生徒からは慕われている。

 

「流石やなボッスン。相変わらず切れた頭しとんで」

「そうか? 目撃者の証言に当てはまったのがあの二人だったっつーだけの事だろ」

『確かに熟考すればそこらの生徒でも分かる。たが、ボッスンは証言を聞いて直ぐに名前を挙げたからな』

「…そういうもんか?」

 

 因みに、ボッスンはいざという時に動けるように体を鍛え更に剣道を嗜んでいる。

 その為剣道部から勧誘があったが、スケット団を立ち上げる気満々だったので、ボッスンは断っている。代わりに、ボッスンはたまに剣道部の助っ人をしていたりする。

 仲間を守る為の戦いでは、類稀なる戦闘力を発揮する。

 

「にしても、今日も依頼ゼロやなぁ」

「葉鶏頭事件のような事件が起きないだけマシだろ」

『だが、依頼が無く部室で遊んでいると流石に生徒会執行部に目を付けられるぞ』

 

 元々開盟学園は校則の厳しい学校だったが、現在の生徒会執行部会長が庶務の頃からこれに反発し現在の自由な校風に変えた。

 しかし、自由な校風といえどもあまり度が過ぎるとやはり生徒会執行部に目を付けられてしまう。現在の生徒会執行部会長が安易に認可した部活動の整理に会長の部下たちが奔走しているのも、意味不明な部活動が存在しているせいである。

 学園生活支援部、通称スケット団もその安易な認可にあやかった部活動なのだ。

 それでもスケット団の方針に則り部活の助っ人や生徒のお悩み相談など精力的に活動してきた。

 

『確か、今期の副会長が不必要な部活動を整理していると聞く』

「なるほどなぁ…」

「た、助けてください‼︎」

 

 そんな時、部室の扉が開き頭から赤い液体を被った男子生徒が入ってきた。

 ぱっと見、まるで血塗れの人間だ。

 

「うわっ⁈」

『っ⁈』

「…確か、転校生の杉原哲平だよな。ペンキ塗れでどうした?」

 

 ペンキ塗れの彼ーー杉原哲平は部室のベンチに座って事のあらましを話し始めた。

 杉原は校内を見て回る途中で体育館の裏庭で池の鯉を眺めていたと言う。

 その時いきなり上から何者かにペンキを浴びせられた。その犯人は仮面を着け体育館の窓から杉原にペンキ浴びせ、直ぐに逃げた。

 犯人を追う事も考えたが、杉原は今日知り合ったスケット団に事情を話すことにした。

 あらましを聞いたボッスンは腕を組み考えるように顔を伏せる。

 因みに、杉原の好きなアニメキャラはウッソ・エヴィン。

 

「まるで夢を見てるみたいで、何か怪談めいてるっていうか…」

「んなワケあるかい。どこの世界にペンキブチまける幽霊とかおんのや」

「で、ですよね…」

『だが、転校してきたばかりの彼が人の恨みを買うとも思えん。もし無差別なら、第二の犠牲者が出る恐れも』

「僕もそう思ってここに。これはまさしくスケット団の出番かと」

「どないする? ボッスン」

 

 しばらく瞑目していたボッスン。その眼を開きヒメコ、スイッチ、杉原を見て立ち上がった。

 

「もちろん、目の前に困っている奴がいるなら助ける。それがスケット団だ」

「よっしゃ、決まりやな‼︎」

「ああ、でもあまり大事にはしないで貰えると…。転校早々こんな目に遭ったなんてバレたら…」

『問題無い。極秘捜査ならお手の物だ』

「よし、なら明日から捜査開始だ」

 

 こうして、ペンキ仮面事件(仮称)の捜査がスタートした。

 

  ▼

 

 捜査の基本は、足からーーと刑事ドラマなんかで言うが全く正しい。

 まずは杉原がペンキを浴びせられた体育館の裏庭周辺で聞き込みをすることにした。とはいえ裏庭周辺にはあまり人は来ない。たが、人が来ないという事は人目を忍んで何かをしたりする事が出来るのだ。

 スイッチがチョチョイと調べれば、裏庭周辺でここ最近人目を忍んでいる奴は直ぐに見つかった。

 

「な、何だい一体…」

 

 小坂正利。ここ最近、狙っている女子を裏庭周辺にあるベンチに連れてきては話をしている。ここ最近では頭の悪い女ばかりを狙うと公言している、まさにスケット団の格好の餌食ーーならぬ貴重な証言者である。

 

「マ、マー君怖〜い」

「怖ないわ。肉天使は黙っとれ」

「に、肉…⁈」

 

 小坂の彼女が多少肉付いているのは、趣味なのであろうか。天使は小坂が彼女をそう呼んでいたからだ。

 

「ともかく、昨日この辺りで怪しい奴とか見てねーか?」

「うーん…。あ、そういえば昨日城ヶ崎たちが体育館の落書きを消してたなぁ」

 

 スイッチ曰く、ボッスンに報告する前に伊藤先生に報告していた。つまり、葉鶏頭事件の後始末だった。

 ならば、犯人はやはり城ヶ崎たちかとヒメコは疑うがボッスンは首を横に振る。決めつけるには証拠が無いのだ。それに、城ヶ崎と三浦が持っていたペンキは体育館の壁と同じ色のペンキ。つまり犯人ではない可能性がある。

 あくまで可能性の話であり、人にペンキを浴びせるような事をするのは城ヶ崎ぐらいしかいないのだが。

 

「他にねーか?」

「いや、城ヶ崎以外は見ていないよ」

「ホンマか? 嘘ついとったらシバきあげるぞ‼︎」

「ひいっ⁈ う、嘘なんかついてないよ‼︎」

『ヒメコ、あまり威嚇をするな』

「せやかて…なぁ、ボッスン」

「これ以上知らねーんなら、他の場所を当たるしかねーだろ」

「んー…しゃーないか」

「小坂、何か思い出したら知らせてくれ。後、あまり遊んでいるとロクな目にあわねーぞ」

「そや。どうせ別れるんやしあんまテンション上げんなや、見てるこっちが恥ずかしいわ」

「ちょ、何で捨台詞吐いてくの⁈」

『小坂正利。巧みな話術でかつては三股を掛けたことがある。最近は釣りやすい頭の悪い女ばかりを狙っていると、友人に公言している』

「ちょっ、何でその事をーー」

 

 走り去るスケット団と杉原の後ろから、男の悲鳴が響いたが、四人は足を止める事無くその場を離れた。

 

  ▼

 

 一旦部室に戻った四人。情報を整理しこれからどう動くかを話し合う事にした。

 

「なぁ、ボッスン。やっぱめんどいから城ヶ崎たち締め上げて話聞こうや」

「いや、出来れば確実な証拠か証言が得てから行った方が良いだろう」

「締め上げる事自体は止めへんのやね」

「口で言っても解んねーなら、仕方ねーだろ。とりあえずスイッチは城ヶ崎たちの身辺調査を頼む」

『合点承知』

「俺とヒメコは城ヶ崎たちの尾行だ。…杉原はどうする? 今日はもう帰るか?」

「…家にいると返って気になっちゃうし、部室で待ってるよ」

「分かった」

 

 杉原を部室に残し、ボッスンとヒメコはスイッチと別れ城ヶ崎たちを探そうとしたところで運良く校舎を出たところで城ヶ崎たちを見つけ、尾行を開始した。

 

「…なぁ、ボッスン」

「んー?」

「普通にバレとんで、尾行」

 

 尾行、と言っても二人はただ城ヶ崎たちの後ろを歩いているだけ。そして、隣で話す三浦をよそに城ヶ崎はチラチラとこちらを伺い、かといって文句を言う事無く体育館の裏庭へと三浦と共に歩いていく。

 

「ええんか、これで?」

「構わねーよ。それでも気になるっつーなら、コレでも被るか?」

 

 ボッスンが持って来たカバンから取り出したのはーーアフロのカツラだった。

 

「なんでやねん‼︎」

「いや、隠れて尾行するならこれだろう」

「いやいやいや、ありえへんやろ‼︎ 何考えとんねん⁈」

「んだよ、んな怒るこたぁねーだろ」

「ったく…って、ああっ⁈ 城ヶ崎おらへん‼︎」

 

 二人が少し目を離した間に、城ヶ崎たちがその姿を消した。

 ヒメコが慌てて城ヶ崎たちがいた場所に向かうが、もちろん城ヶ崎たちはいない。

 

「ああもう、ボッスンのせいやで‼︎」

「…とりあえず、二人を探そう。ヒメコは向こうを探してくれ」

「わかった‼︎」

 

 ボッスンがヒメコから離れ、ボッスンは辺りを見渡し誰も「いない」事を確認した。

 ふと、振り向いたヒメコはその場を動かないボッスンを怪訝そうに眺めていたが、そのボッスンの上に仮面を着けた生徒、ペンキ仮面が立っていた。

 その生徒の手にはペンキの缶がありーー

 

「ボッスン‼︎ 後ろや‼︎」

「っ⁈」

 

 ボッスンに向かってペンキが浴びせられたが、ヒメコの声掛けによって間一髪のところでペンキを避ける事が出来た。

 ボッスンがペンキ仮面を見るが、既に後ろ姿で走り去っていた。ペンキ仮面がいる場所は二人がいる場所よりも人一人分高く、追いかけるには少々手間だ。

 

「ボッスン、追い掛けるで‼︎」

 

 ヒメコの言葉に頷き、ヒメコの後に続いて駆け出す。

 しかし、勢い良く駆け出したヒメコが道を曲がったところで誰かにぶつかってしまう。

 

「痛ったぁ…」

「あいたたた…って、君たちは」

 

 ヒメコにぶつかったのは、三股の小坂正利だった。

 

  ▼

 

「お前、あれからずっとあそこにいたのかよ?」

「うん。君たちのせいであの後ユミちゃんにフラれちゃってね…」

「あはは…。あれはもう殆どスイッチのせいやしな」

「…で、それからずっと池に映る自分の姿を眺めていたんだよ。かつてのこの池のように僕は恋(鯉)を失ったんだとね」

「一々上手い事言おうとせんでええねん」

 

 ボッスンは小さく息を吐き、笑みを浮かべる。ボッスンが笑みを浮かべる時、それは事件の真相を解明した時なのだ。

 

「ボッスン?」

「この事件の真相が大体見えた」

「ホンマか⁈」

「ああ。ただ話すのはスイッチの報告を聞いてからーー」

 

 その時、ポケットからボッスンの言葉を遮るように携帯のメール着信音が流れる。

 メールの相手はスイッチだった。

 

 

 〝オツカレ〜(*•▽•)ノ♪

  城ヶ崎の調査オワタ!\(^▽^)/

  色々情報仕入れたよーーーー!

  あとで報告しマー( *´ ∀ ` )bース‼︎

  "b((((≧▽≦))))q"

  シェイク♪シェイク♪〟

 

 

「コイツなんでメールやとテンション高いねん」

「知るかよ」

「めんどくさいわー。ってまたメール来おった」

 

 

 〝マァマァ(*^o^)ノ"(ーー;)

  そんなに怒らないで

  (キラクニイコウ)

  (。ゝ∀・)ゞ〟

 

 

「何で会話になっとんねん‼︎」

「また来たぞ」

 

 

 〝実は近くにいたりして☆

  |・ω・*)チラ〟

 

 

『チラ』

「「おったんかい‼︎」」

 

 なんやかんやでスイッチと合流した二人は部室で待っている杉原とスイッチの報告を受ける事にした。

 

『で、城ヶ崎が小学校の頃、標的に悪戯を仕掛けて逃げるという遊びが問題になった事があるらしい』

「…なるほどな。これで黒幕が判った」

「ホンマか⁈」

「黒幕を捕まえる作戦は明日決行。今日は各自解散だ」

『了解した』

「ボッスンは?」

「ちょっと用事があるから、それを済ませたら帰るわ」

「分かった。じゃ、また明日な」

 

 スイッチ、ヒメコ、杉原が部室を出て行ったのを確認したボッスンは、おもむろに携帯を開いた。

 

  ▼

 

 先程よりも陽が落ち辺り一面が夕焼けに染まる頃、ボッスンは体育館の裏庭へと足を運んでいた。

 携帯のキーを弄りながら体育館の側で待っているとボッスンの背後へと迫る一人の影。

 仮面を着け、その手にはペンキが入った缶。一度失敗している為、もう失敗は出来ない。ゆっくりとしかし足早に近付き、缶を振り上げーー

 

「ようやく会えたな、ペンキ仮面」

 

 ボッスンの言葉で、缶を振り上げた手が止まった。

 何故気付いた、足音を立て過ぎたかとペンキ仮面が思考を巡らせるがその間にボッスンが振り向きペンキ仮面を視界に入れる。

 失敗か…いやまだいける。ペンキ仮面の缶を持つ手に力が入る。

 

「別にペンキブチまけてもいいぞ。ま、もう逃げ道は無いだろーけどな」

 

 ボッスンの言葉と共に草むらに隠れていたヒメコとスイッチが現れ、ペンキ仮面の背後を押さえる。

 ボッスンは三人が部室を出た後で、ヒメコとスイッチに囮作戦と事件の真相、体育館の裏庭近くの草むらに待機のメールを送っていたのだ。

 

「ペンキ仮面。実は無差別のように見えてちゃんとした標的があった。昔、小学校の頃に流行った悪戯のようにな」

「標的はボッスン。ボッスンが襲われた時間に近くの体育館の裏庭で小坂が池を眺めていても襲われんかったんが、その証拠や」

『そして、ボッスンの行動を把握し尚且つボッスンを襲う事が出来た人物はただ一人。それはーー』

「転校生の杉原哲平、お前だけだ」

 

 背後にいたヒメコがペンキ仮面の仮面を剥ぐ。露になった素顔は、杉原の驚きの表情だった。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ‼︎ 僕はただ様子を見にーー」

「そんな仮面被って、ペンキ持って様子を見に来たんか?」

「っ…」

「最初に違和感覚えたのは、お前が池の鯉を眺めてたっつーこの言葉だ。実はな、あの池に鯉はいねーんだ」

「えっ⁈」

『あの池に鯉がいたのは去年までだ。鯉がいないくせに立て札は立ったままだから勘違いしたのだろう』

「つまり、アンタの言うた事件は狂言。せやのにわざわざスケット団に依頼を持ってきた。目的はウチらをおびき寄せる為」

「つまり、実行犯は杉原。そして黒幕は城ヶ崎、違うか?」

「…ま、待ってください。城ヶ崎って誰ですか? 僕は転校してきたばっかでーー」

『杉原哲平。君は小学生の頃この辺りの土地に住んでいた。城ヶ崎は当時の同級生だ。…既に調べはついている』

 

 杉原はスイッチの言葉で観念したのか、深く肩を落としペンキの缶を地面に置き事件の動機を話し始めた。

 杉原は小学生の頃、城ヶ崎にイジメを受けていた。小学生の間ずっと行われた城ヶ崎のイジメは小学生を卒業して引っ越しをした事で終わりを迎えた。そして中学生を卒業してこの街に戻りーー城ヶ崎と再会した。

 城ヶ崎は小学生の頃に行っていた度胸試しーーつまりは悪戯をやろうと杉原に持ちかけた。

 標的は城ヶ崎が報復を考えていたスケット団の誰か。杉原に拒否をする勇気は無かった。

 

「…そして僕は自らペンキを被り、スケット団の部室に…」

「自らペンキを被り被害者を装えば、疑われる事はまず無いからな」

「でも何でアンタが城ヶ崎の言うこと聞かなあかんねん…」

「…あなたたちにとってはくだらない事かもしれませんが、僕にとっては大問題なんですよ。笑っちゃうでしょ」

「笑う気なんてねーよ。面白くもねーし。そんだけ城ヶ崎が怖かったんだろ。ま、もう心配はいらねーよ。俺たちがいるからな」

「あんな、ボッスンがスケット団立ち上げんはアンタみたいな奴を助ける為なんやで?」

「ダメなんです…逆らっちゃダメなんですよ‼︎ 僕みたいな人間が平穏に生きるには立ち向かっちゃダメなんです‼︎ エスカレートさせないように下手に逆らわず、なるべく人に関わらず静かにやり過ごすしか…」

「確かに生きてりゃ怖い奴はいる。暴力を盾にイジメてくる奴もいる。逆らえねぇ気持ちも解る。もし立ち向かえないなら一言言え。俺たちが一緒に立ち向かってやるよ」

「な、何でそこまで…」

「それが俺たちスケット団だ。そして、お前は俺たちの友達だ」

「えっ…?」

「友達助けるのに、理由がいんのか?」

 

 友達。この言葉に杉原は静かに涙した。

 溢れ出す罪悪感と安心感。こんな自分に無償の友情を向けてくれるボッスン。

 そんな友達を、騙していた。この事実に胸が張り裂けそうになる。しかし、今なら…自分が持つ恐怖に立ち向かえる気がした。

 自分は、一人じゃないのだから、と。

 

「…ヒメコ、ワリィけどサイクロンを貸してくんねーか?」

「ええけど…何するん?」

「ちょっと、な」

 

 ヒメコからサイクロンを受け取り、ボッスンは一直線に体育倉庫へと歩き出す。

 

「黒幕が実行犯に何かをさせる時、多くはその現場を見たがるもんだ」

『特に悪戯をけしかける黒幕は、その確率が顕著だ』

「つまり、俺がペンキ塗れになる姿を楽しみに待っていた奴ーー城ヶ崎が近くで見てるっつーわけだ」

 

 開かれた体育倉庫の扉。そして、そこには城ヶ崎と三浦がいた。

 

「まま、待ってくれよ。哲平の事なら冗談だって。だからそう熱くなるなよ…」

「フザケんな‼︎ イジメる方は冗談だろうが、イジメられる方は本気なんだよ‼︎」

「しかも自分の手ぇ汚さへんとか、コッスい真似すんなや‼︎ 文句があるんやったら直接ウチらに言えや‼︎」

「…くそっ、こうなりゃ‼︎」

 

 城ヶ崎が苦し紛れに鉄パイプを取り、ボッスンに襲い掛かるがボッスンは迫る鉄パイプをサイクロンで弾き飛ばす。

 城ヶ崎が体勢をを立て直す中、ボッスンはサイクロンを大上段に振り上げる。

 

「ちったぁ、反省しやがれ‼︎」

 

 ボッスンの持つサイクロンが城ヶ崎の脳天に叩き込まれ、城ヶ崎の意識は刈り取られた。

 

  ▼

 

「…杉原がバスケ部に?」

『新しい事にチャレンジする、という事で兼ねてから興味があったバスケ部に入部したようだ』

「あーあ、せっかく新入部員ゲットのチャンスやったのにー」

 

 事件の翌日、杉原はバスケ部に入部した。

 結局ペンキ仮面事件(仮称)は表沙汰になる事なく、解決。城ヶ崎も杉原に絡む事は無くなった。因みに、城ヶ崎は未だにスケット団の事が嫌いらしい。

 

『まぁ、良いじゃないかヒメコ』

「そうだな。スケット団は三人でも何とかなるしな」

「…うん、せやね」

 

 この日は依頼も無く、部室で解散した。

 ボッスンの家は開盟学園から二十分ほどの所にあるマンションだ。

 建物は団地よりも少し高い程度。賃貸マンションにしては安い賃料もあり、人気のマンション。ボッスンの自宅はそのマンションの最上階にある。

 

「ただいまー」

「お帰り佑助。ご飯出来てるけど食べるわよね?」

「ん、頼むわ」

 

 リビングから顔を覗かせるのは藤崎茜。ボッスンの母親である。好きな物はゲーム、嫌いな物は虫。少々デリカシーが無い一面があるが、ボッスンにとっては唯一無二の母親である。

 自分の部屋で部屋着に着替え、リビングに入ると既に夕飯の支度が出来ていた。

 椅子に座り夕飯を食べようとしたところで、ボッスンが見知った女の子が対面の席に座った。

 

「お兄ちゃん、早くご飯食べちゃってよ。デザートが食べられないじゃん」

「んだよ、先に食えばいいだろーが」

「私、そこまで恥知らずじゃないもん」

 

 藤崎瑠海。中学三年のボッスンの妹である。大のデザート好きで、特にジャンボシュークリームが好物。嫌いな物は母親と同じ虫。

 ボッスンが夕飯を食べる姿を、瑠海はジッと見ていた。そして、見られると気になってしまうのが人間だ。

 

「何だよ、瑠海」

「夕ご飯、美味しい?」

「ん、ああ。美味いぞ」

「そっか」

 

 不思議がるボッスンだったが、今日初めての事でもないのでそのまま流した。

 夕飯後はジャンボシュークリーム(ボッスン作)を妹と母親で食べたボッスン。

 部屋に戻り、軽く勉強をして寝床に着いた。



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peppermintsamurai&princessogre

上手く書けているだろうか……。


 

 

「へぇ、もうベンチ入りしたのか」

「うん…っても、まだ補欠だけどね」

「凄いやん‼︎ ほれ、アメちゃんやろか」

 

 ペンキ仮面事件(仮称)から、数日。杉原哲平はその才能を発揮し、早くからベンチ入りを果たしている。

 城ヶ崎もあれから杉原に接触する事も無く、平和な学園生活を送っているようだ。ただーー

 

「うげぇぇぇっ⁈」

「おぅわっ⁈ ヒメコ、何食わせたんだ⁈」

「ペロキャンのレバ刺し味」

「おまっ、何食わしてんだよ‼︎」

 

 ペロキャンは、マニア向けのキャンディなので普通の人が食べると高確率で吐くのだ。

 今回は吐かずに済んだが、これ以上はヤバいと判断した杉原は慌てて部室を後にした。

 

『完全にペロキャンを警戒されたな』

「何でなん? こんなに美味いのに」

「逆に何でペロキャンが美味いのかを知りてーよ。にしても、杉原の奴運動部の奴らにスケット団を売り込んでくれるとはな」

『これで、依頼が増えると良いな』

「だな。…あー、今日もお茶が美味いな。ヒメコ、お茶淹れるの上手くなったか?」

「んー、分からんけど…ボッスンに褒められるんは悪い気はせんな」

 

 ニカッと笑みを浮かべてボッスンの湯呑みにお茶を注ぐヒメコ。

 そんな時、部室の扉が激しくノックされた。まるで、時代劇で扉を叩く感じだ。

 

「なんやなんや、騒がしいなぁ」

「ったく、もうちょっと静かに出来ねーのかよ…」

 

 ガラッと扉を開くが、そこには誰もいない。

 ボッスン下、とヒメコの言葉で下を見ると一人の男が正座し頭を下げていた。

 

「誰やねん⁈」

「御免‼︎」

「だから誰や⁈」

 

  ▼

 

「拙者、武光振蔵と申す者。本日はスケット団に依頼があって参った」

「依頼?」

「いや、突然の訪問、失礼仕った」

「何やねん、こいつ…」

 

 武光振蔵。侍に憧れ。着流しに髷、刀(レプリカ)に芝居掛かった口調と、見た目はバッチリ侍である。

 因みに、芝居掛かった口調は父親の影響だ。好きなアニメキャラはオールマイト。

 

「コイツーー振蔵は剣道部の主将なんだよ」

「ボッスン知り合いなんか」

「たまに助っ人に行くからな。剣道部は」

「実は、その剣道の事で相談があるのでござるがーー」

 

 開盟学園の剣道部は、振蔵が二年生ながら主将を務めている。たが、主将になってからの振蔵は試合で一度も勝てずに足を引っ張っていると言う。

 一年から試合に出ていた振蔵は先鋒を務め、入部以来負け無しだった。それが二年になると同時に主将となり大将を務め始めから勝てなくなったのだ。

 

「責任を感じ切腹を試みたのも一度や二度ではーーあ、もちろんレプリカでござるが」

「意味ないやんけ‼︎」

『だが事実、大将になってからの戦績は芳しくないようだ』

「しかし拙者‼︎ 稽古は人の二倍、いや三倍はしているでござる。慢心もござらん‼︎」

「あたりまえだ。もし慢心で俺より弱いんだったら、今すぐ振蔵をぶっ飛ばす」

「ボッスン、過激過激」

「しかし、試合になると決まって結果を残す事が出来ず…。近々区の大会があるのだがもう自分ではどうにも出来ず、川に身を投げようと思った事も二度や三度では…。お三方‼︎ そこでお願いなのだがーー」

「試合で本来の実力を発揮出来るように協力すればいいんだな。分かった、協力しよう」

「おお‼︎ かたじけない‼︎」

「お前の精神力、鍛え直したるわ‼︎」

「では、恐縮ではあるが連絡先などを交換させて貰ってよろしいか?」

 

 喜び勇んだ振蔵は、手持ちの袋を漁り始めた。出てくるのは紙や硯かーーと思いきや。

 

「今、赤外線でアドレスを送るでござる。しばし待たれよ」

「でぇぇっ⁈ 何やねんその現代人ぶり‼︎」

『とんだエセ侍だな。携帯をあれほど滑らかに扱うとは』

 

 侍に憧れる少年は、現代っ子だった。

 

  ▼

 

「少し寄り道をするでござる。すぐに向かうので先に体育館に行っててくだされ」

 

 と言われ、先に体育館に向かった三人だが。

 

「…おっそいなぁ、あの侍」

『確かに。おかげでボッスンが待ち切れずに防具を付けてしまったしな』

「何やってんだよ、振蔵は…」

 

 剣道部に事情を話し、防具は貸して貰っている。しかも、防具の前垂れは無地ではなく藤崎と書かれている。

 剣道部員曰く、助っ人だとバレないようにする為だそうで最初に説明を受けたボッスンが呆れたぐらいだ。

 そうこうする内に振蔵が体育館にやって来た。

 

「お待たせした。少々コンビニに」

「コ、コンビニて…」

 

 そう言ってコンビニの袋を見せる振蔵。エセ侍道爆進中である。

 

「…とりあえず、試合の時のようにやってみてくれ」

「あい分かった」

 

 壁際に座り精神統一し、頭に手拭いを巻き防具を付ける。そしてーー

 

「やっぱ手際ええなぁ」

『腐っても剣道部員かーーん?』

「フリスケを一つ」

 

 振蔵が手にしていたのは、清涼剤のフリスケであった。

 

「待て待て待てや‼︎ 何でフリスケやねん⁈」

「いや、拙者防具を付けた後に食べるのが一つの習わしになっており…」

『なるほど、それでコンビニに…』

「いつも何か口に入れてるとは思ってたがフリスケだったのか…」

「中途半端やねん。フリスケとか」

「何を申されるか‼︎ 父上は申された‼︎ フリスケの刺激は戦闘意欲を高め、清涼感は集中力を持続させると‼︎ 謂わば剣を志す者にとっては常備品‼︎ かの宮本武蔵も決闘の前に、かの柳生十兵衛も戦いの前に、かの水戸黄門もこらしめる前にーー」

「その時代にフリスケあらへんやろが‼︎ オトン嘘ついてんねやないか‼︎」

「なぁにを申されるかぁぁぁっ‼︎」

「もういいからさっさとやれよ‼︎」

「承知仕った‼︎」

 

 放っておくといつまでも続きそうだと判断したボッスンが割り込んで先に進むように振蔵を促す。

 フリスケ一粒食べ、一粒面を被る。対戦相手はーーボッスンだ。

 ボッスンも面を被り、振蔵と正対する。面の隙間から見える振蔵の顔は気力に満ち満ちた、まさに侍の顔だった。

 

「ではーー始めっ‼︎」

「「せえぇぇぇい‼︎」」

 

 声を張る二人の竹刀が音を立てて交わる。しばらくは鍔迫り合ったまま膠着していたが。

 

「せいやぁぁぁぁ‼︎」

 

 戦闘意欲が高まった振蔵が勢いを付けボッスンを攻め立てる。

 面、胴、小手、突きあらゆる攻撃でボッスンを攻め立てるが、ボッスンは面、胴、小手への攻撃は竹刀で捌き、突きは余裕を持った体捌きで回避する。

 二人の対戦を見ていたヒメコとスイッチは振蔵の強さに少し驚いていた。

 

「へー、振蔵強いんやな」

『俺もボッスンからは強いと聞いていたが、半信半疑だったが驚いた。本当に強かったみたいだ』

「まぁ、それでもボッスンには勝たれへんやろな」

 

 振り下ろされる振蔵の大上段の攻撃を竹刀で受け止め、そのまま振蔵の竹刀を上に弾き飛ばす。

 振蔵は弾き飛ばされた竹刀を離す事はしない。だが、そのせいで巻き戻しのように腕を大上段の位置にまで戻されてしまう。そしてその隙を狙いボッスンの竹刀が振蔵の胴を打った。

 

「一本‼︎ 勝負あり‼︎」

「くっ、やはり勝てぬか…」

「いや、だいぶ腕を上げたな。これなら他の奴らに負けるとは思えねーんだが」

 

 実際、ヒメコもやり合ったら少しは手古摺りそうと感じたぐらいだ。

 ボッスンが感じた振蔵の強さは、一般の剣道部員よりも上だった。

 

「練習ではあの通り、振蔵は強い。問題は何故練習での強さが試合で出せないのか、だ」

「そりゃあやっぱり精神的なものやと思うで。プレッシャーに打ち勝つ根性を鍛えなあかん‼︎」

「は、はぁ…」

 

 そう言ってまずヒメコが振蔵に提案したのが、滝に打たれる修行ーーいわゆる滝行である。精神面を鍛えるのにはうってつけである。

 しかし滝行を続けた結果、振蔵は風邪をひいてしまい試合に負けてしまった。

 

『強い精神は強靭な肉体に宿るものだ』

 

 そう言って次にスイッチが提案したのが、天下無双養成ギプス「バカバンド」。要は、剣道の養成ギプスである。

 しかし、強制的な運動によって振蔵は筋肉痛になり結局負けてしまった。

 

「何やってんだよ、お前ら…」

「何やと、ボッスンのくせに」

「…ヒメコ、ボッスンのくせには酷くねーか?」

「知るかボケ」

『では、ボッスンは何かいいアイデアがあるのか?』

「…アイデア、か」

「いや、もう十分でござる。みんなには感謝しているでござる」

「ちょ、ちょお待てや、ウチらまだーー」

「いや、大将の務めは己の力で全うすべきもの。そもそも心の弱さの克服を他人に頼ろうとしたのが拙者の誤り。今度の大会には是非応援に来て欲しいでござる」

 

 結局、問題は少しも解決されぬまま、この日は解散となった。

 振蔵は先に帰り、ボッスンたちは部室に集まっていた。

 

「なぁ、ボッスンよ。これからどうするんよ。振蔵は自分でやる言うてるし」

「…んー、何で勝てないかの原因は何となく見えてんだけど」

『何? それは本当か?』

「ああ」

「何なんや、その原因ってのは」

「それはーー」

 

  ▼

 

 数日後、振蔵の今後を占う地区大会の日がやって来た。あれから振蔵が部室に来る事は無く、ひたすら練習に明け暮れていた。

 ボッスンたちも振蔵の気持ちを尊重し、下手に手を出す事無く様子を見守るだけにした。

 

「…で、この日が来たんやけど」

「良いな、拙者は今日こそ勝つ‼︎ 勝って大将としての役割を必ず果たしてみせる故、皆も心せよ‼︎」

『かなり気合いが入っているな』

 

 スイッチの言葉通り、振蔵を始めとした剣道部員はかなり気合いが入っている様子で、更に振蔵はフリスケを食べより一層気合いを入れる。

 

「せやけどボッスンの言う通りやったら、振蔵勝たれへんのちゃうん」

「そうだな」

『とりあえず、対策準備はしてきたぞ』

「…ま、その準備の出番が無けりゃ良いんだが」

 

 そんなボッスンの小さい願いは案の定、破られることになる。

 先鋒、次鋒共に勝利を収めるも中堅、副将は時間一杯ギリギリまで粘ったが敗北。2-2のスコアで大将である振蔵へと出番が回った。

 回ったのだがーー。

 

「…ボッスン、振蔵の顔…おかしなってる。なんかアホみたいな顔になっとる」

「あー、まぁ大分時間経ったからな」

『どうやら、ボッスンの見立て通りのようだな』

「…フリスケの効果切れて、冗談やと思ったんやけど…ホンマみたいやな」

 

 振蔵が勝てない理由、それはフリスケの戦闘意欲と集中力向上の効果切れにあった。

 主将になるまでは先鋒を任されていた振蔵。トップバッターという事もあり、フリスケの効果は絶大に発揮され、振蔵は無敗を誇った。

 だが主将となり大将を任されるようになってからは待ち時間が長くなり、待ち時間の間にフリスケの効果が切れ、試合に出ても実力を発揮出来ずに負けるようになってしまった。

 

「…ま、要は合法ドーピングな訳なんだが」

『服用しているのがフリスケだけにタチが悪い。しかも振蔵にしか効果が無いからな』

「どないすんねん⁈ もう大将戦始まってまうで‼︎」

 

 そうこうしている内に大将の呼び出しが行われる。フリスケの効果が切れた振蔵は剣道部員とは思えないへっぴり腰だ。

 

『ボッスン、このスリングショットを使え。フリスケは既に用意してある』

「…このスリングショットでフリスケを振蔵に喰わせろってか? 無茶言うぜ」

『だが、ボッスンなら出来る』

「……ちっ、しゃーねーな」

 

 大将戦開始の合図が審判から出され、NOフリスケの振蔵は瞬く間に攻め込まれる。

 ボッスンはゴーグルを掛け、スリングショットを構える。照準は、振蔵のだらしなく半開きになった口だ。

 

『説明しよう‼︎ ゴーグルを付けたボッスンは強力パチンコ「スリングショット」の狙いを付ける事に全神経を集中させる事が出来る‼︎』

「えらいいきなり饒舌やな‼︎ ってか、ボッスンいけんのか⁈」

「…当たり前、だ‼︎」

 

 振蔵と相手が離れた、その一瞬の隙を突きスリングショットでフリスケを放つ。スリングショットで放たれたフリスケは瞬く間に振蔵の口に飛び込み、噛み砕かれた。

 そして噛み砕かれたその瞬間、振蔵から恐ろしい程の闘気が溢れ出した。

 

「ぬおおおおおおおっっっ‼︎」

『どうやら上手くいったみたいだな』

「よっしゃ、行けー‼︎」

 

 復活した振蔵はその勢いのまま相手を攻め立て、苦し紛れの相手の攻撃を防ぎ、その一瞬の隙を突いて相手の胴に一撃を入れた。

 

「一本‼︎ そこまで‼︎」

 

 かくして、振蔵は大将戦で初の勝利を飾る事が出来たのであった。

 そして、その勝利の陰にスケット団がいた事を知るのは、振蔵だけであった。

 

  ▼

 

 剣道の地区大会から数日経ったある日の放課後。三人は下校しながら振蔵からの依頼を振り返っていた。

 

「…で、結局現状変わらず振蔵は未だフリスケ頼りなんやけど」

「ま、剣道部員も何とか大将戦まで回さずに頑張るって言ってんだから、良いんじゃねーか?」

「ええんか、それで…」

『まぁ、良いんじゃないか。先日のヤバ沢さんのペットに比べたら全然マシだろう』

 

 結局依頼自体は未達成だが、振蔵自身は満足したようなのでこの件は解決したと言えるだろう。

 その後、ボッスンたちのクラスメイトであるヤバ沢さんこと矢場沢萌が勝手についてきたシロテナガザルのイエティを預かって欲しいと言ってきたのだ。

 因みに、ヤバ沢さんはチアリーディング部に所属。三つ編みに丸メガネ、3の字の形の口に恰幅の良い身なりが特徴。好きなアニメキャラは織斑千冬である。

 そして更にチュウさんこと中馬鉄治先生が持ってきた爆弾(ソフトボール程の大きさ)の処理を依頼してきた。

 またまた因みに、チュウさんは学園生活支援部顧問であり、白衣にパイプ姿で恐ろしく面倒臭がりなマッドサイエンティストとして学校や生徒から危険人物として認識されている。好きな格ゲーキャラはネロ・カオス。

 

「イエティ×チュウさんの爆弾は異常に面倒だったな」

「もうイエティいらんわ…」

『そういうのに限って何回も来たりするんだがな』

「不吉な事言いなや」

 

 そんなチュウさん作の爆弾をイエティが持ち去り部室を飛び出したのだ。

 学校の敷地内や校舎内を余すとこ無く駆けずり回り、ソフトボール部のみんなや他の生徒を巻き込みながら、最後はヒメコが囮となりボッスンが屋上からバンジージャンプでイエティを捕獲した。

 因みに、イエティの持っていた爆弾がソフトボールと入れ替わり、何故かソフトボール部顧問の金城先生が足元に落ちていた爆弾を体育倉庫に投げて爆発させていたりする。

 

「まさかソフトボールと爆弾が入れ替わっていたとはなぁ」

「ホンマ驚いたわぁ」

『もう暫くチュウさんネタはいらないなーーむっ、来たぞ』

 

 時刻は既に夕暮れ時。いつもは通らない住宅街を歩いていると、見慣れない三人組がボッスンたちの行く手を遮る。

 三人共がまさに「ヤンキー」といった風体だ。その手には鉄パイプや金属バットが握られている。

 

『間違い無い、この三人だ』

「…何とも時代を感じさせる格好だな」

 

 ただのコスプレならば問題無いのだが、実際にはこのヤンキー三人組に絡まれ、中には手を出された生徒もいる。

 今回スケット団はそんな生徒からヤンキー三人組をどうにかして欲しいとの依頼を受け、実際にヤンキー三人組に絡まれた生徒の帰り道を歩いていたのだ。

 予定通り、ヒメコが前に出ていきそのヒメコを三人組が一定の距離を置いて取り囲む。

 

「へへっ、アンタら…ちょっと付き合って貰うよ」

「アホ吐かせ。何でアンタらに付き合わなあかんのや」

「へぇ、逆らおうってのかい?」

 

 そう言って鉄パイプや金属バットを構えるヤンキー三人組。

 こうやって得物をチラつかせて脅かしをかけるのも、この三人組の手口である。

 

「確か……日本一工業の乾、去川、木島、やったな?」

 

 因みに、この三人だが絡む相手にいちいち名乗っていたりする。

 

「良い度胸してるね、アンタ」

「褒めてやるよ」

「ここまでは、な‼︎」

 

 唐突にヒメコの背後から木島が襲いかかる。ヒメコは木島の鉄パイプによる一撃を躱し、スティックと蹴りによる攻撃を木島に叩き込む。

 更に乾が襲いかかるが、スティックの一振りで吹き飛ばされる。その隙を突き去川が金属バットを手に襲いかかる。

 たが、場慣れしたヒメコに通じるはずも無く、金属バットが弾かれ去川の手から離れたそれはヒメコの左手に収まる。

 

「しっかり持てや‼︎」

 

 その金属バットを去川に投げ渡し、去川が動揺した隙を狙い去川をスティックで吹き飛ばした。

 木島が背後から襲いかかってからこれまで、僅か20秒足らずである。

 

『流石ヒメコ。秒殺だな』

「アンタらの名前もう覚えたで。二度とウチの生徒に手ぇ出すなよ‼︎」

「ウキィィ…おだまり‼︎」

「おだまり? 喋り方古いなホンマ」

「このままじゃ済まないよ‼︎ アタイらのバックにはモモカさんが付いてんだ」

「アタイ? そんなん言う奴初めて見たわ。生まれる時代間違えてへんかー?」

「おまち‼︎ アンタ見ない顔だけど」

「どこのモンだい⁈」

「名前は⁈」

 

 立て続けに質問されたヒメコは、苛立ちを交えながら恫喝気味に言い放った。

 

「お前らに名乗る名前は無い‼︎」

 

  ▼

 

「あーつっかれた」

「お疲れさん。依頼は無事達成だが、やっぱ俺がやった方が良かったんじゃないか?」

「ボッスン基本的に手ぇ上げへんやろが。女には特に」

『ボッスンはフェミニストだからな』

「せやせや」

「うるせぇ。オメーはこれでも食ってろ」

 

 日本一工業のヤンキー三人組を撃退したヒメコをねぎらう為、駅前のコンビニに来ていた。目的はペロキャンである。

 ペロキャンのブルーチーズ味を買ったボッスンは包み紙を外しペロキャンをヒメコの口に押し込む。

 

「むぐっ⁈ んんー…ふむぅ」

『満足げな顔だな』

「ったく。ま、にしても相変わらずの強さだな。また、強くなってるんじゃないか?」

「どーなんやろーな。もしかしたらボッスンより強うなってるかもなー」

『しかし、武器がホッケーのスティックとは』

「まぁ、使い慣れてるっちゅうか…一番しっくりくんねん。サイクロンはウチの愛刀やな」

『なるほど』

「もしかしたら卍解出来んじゃね?」

「出来るかアホ‼︎」

 

 ヒメコがケンカにフィールドホッケー用のスティックを使うのは理由がある。スイッチは知らないが、ボッスンはその理由を知っている。

 その理由をこの場で語る事は出来ない。下手に語ればヒメコから私的制裁をされてしまうのだ。

 

「あーしんど。ほんならアタシ帰るで。はよ休みたいわ」

『明日はソフト部の助っ人だったな』

「ちゃんと休めよ。後、応援に行くからな」

「お、おう…」

 

 どことなく照れ臭そうな顔で頷くヒメコをボッスンとスイッチは見送り、帰路に着いた。

 そんなボッスンたちの会話を建物の陰から盗み聞きしていた三人組に、ボッスンたちが気付く事は無かった。

 

  ▼

 

「どうなの、最近。例の部活は」

「まぁ、出来たばっかだけど…ぼちぼちやってるよ」

「そう。頼られちゃってたりするの?」

「んなわけねーだろ。昨日もヒメコに頼りきりだったしな。…ほれ、朝飯出来たぞ」

 

 翌日、ボッスンは家で母親の茜の朝食を作っていた。茜の仕事はデザイナーで、徹夜する事もままある。茜が徹夜した朝は決まってボッスンが朝食を作る決まりになっているのだ。

 

「おはようお兄ちゃん。私カフェオレとクロワッサン」

 

 茜が徹夜した朝はそれに便乗して妹の瑠海も朝食をボッスンに要求する。

 最初は突っぱねて茜と同じ朝食を用意していたボッスンだったが、余りにもしつこいので。

 

「ほらよ。カフェオレとクロワッサン」

「……マジで?」

「マジだ」

 

 要求されたカフェオレとクロワッサンを出したのだ。因みに、ボッスンが瑠海の突然のリクエストに何故答えられたかは、まぁ…ご都合主義という事にしておこう。

 もしくは家族への愛故、か。

 

 それはともかくとし、この日はソフト部の試合がありこの試合にヒメコが助っ人として出場するのだ。

 

「来たで、キャプテン」

「ヒメコちゃん‼︎ ありがとう、待ってたわよ。みんな、張り切って勝つよ‼︎」

 

 ソフト部をまとめあげるのは、キャプテンこと高橋千秋である。

 熱い人とスポーツ全般が好きで、ソフト部のキャプテンや2-Bの学級委員を務めるなど皆の先頭に立ち、周囲を引っ張っていく活発で潑刺とした美少女だ。

 愛称はキャプテン。ソフト部の部員以外の友人からも愛称で呼ばれ、その頼り甲斐のあるキャラとして皆に親しまれている。因みに好きなアニメキャラは七条アリア。

 ヒメコとは一年の頃にクラスメイトで特に仲が良いようである。

 

「金城先生、この間はスンマセンした」

『申し訳ありませんでした』

「No problem。その代わり、今日は真面目にやりたまえよ」

 

 この間の「チュウさんの爆弾イエティが持ってって金城先生が爆破事件」の件について謝罪を述べ、ソフト部のベンチに座ったボッスンとスイッチ。

 事件の発端はイエティの管理不行き届きによるもので、責任がスケット団にあるとボッスンが考えた為謝罪をする事にしたのだ。

 ふと、グラウンドに張られたネットの向こう側にいる生徒三人がボッスンの視界に入る。

 ロン毛の男子にポニーテールとおっとり系の美少女二人。

 ボッスンはこの三人に見覚えがあった。

 

「スイッチ、生徒会執行部がいるぜ」

『本当だな。休日出勤とは、ご苦労な事だ』

「まぁ、あの生徒会長なら部下の仕事は増えそうだよな」

「プレイボール‼︎」

 

 金城先生の合図に、生徒会執行部の三人からバッターボックスへと視線を移す。

 ヒメコは先頭打者としてバッターボックスに入っており、気合も十分だった。ただーー

 

「タイムタイム‼︎」

「え? 何やのボッスンよぉ」

「どこの世界にサイクロン持ってソフトボールやる奴がいんだよ‼︎」

「はぁっ⁈ ボッスンサイクロンの力信じてへんのか⁈ ほんなら見とけや、今サイクロンの実力見せたるわ‼︎」

 

 ヒメコの愛刀、と言うだけはあるのだがさすがにルール違反になるので、ボッスンはヒメコからサイクロンの取り上げ金属バットを持たせてベンチに戻った。

 サイクロンをスティックのカバンにしまい込む。ヒメコはすでに2ストライクを取られ、ボッスンを恨めしげに睨んでいる。

 

「うーん、ヒメコちゃん運動神経良いから助っ人頼んじゃったけど、悪かったかしら…」

「…スイッチ、なんかアドバイスしてやったらどうだ?」

『そうだな。タイム』

 

 ボッスンの指示でスイッチがヒメコにアドバイスをするが、ヒメコの残念なおつむでは理解出来ずにスイッチに突っかかってしまう。

 見かねたキャプテンもタイムを取ってアドバイスには入るが、あまり効果は無かった。

 

「…しょうがねーな。ヒメコ‼︎ ヒット打ったらお前の大好物ペロキャンカキフライ味をやるから、気合入れろ‼︎」

 

 ボッスンがため息交じりでペロキャンのしかもヒメコの大好物のカキフライ味をポケットから取り出し、ヒメコに見せる。

 見せる、とは言ってもバッターボックスからベンチは結構距離がある。ペロキャンを見せてもそれがカキフライ味かどうかを見分けるのはちょっと難しい。だがーー

 

「死にさらせぇぇぇ‼︎」

 

 見事に特大ヒットを放って見せたヒメコ。そのまま怒濤の勢いでダイヤモンドを回り、ランニングホームランをやってのけたのだ。

 その後はヒメコが上げた得点を守り切り、開盟学園ソフト部は見事勝利を収めた。

 

「ほれ、カキフライ味。しっかし、よくもまぁこんなんでランニングホームラン打てるもんだよな。びっくりだ」

「うっさい。…あーん」

「…何だよ」

「ご褒美やん? 食べさせてーな」

「はぁ⁈ オメーはガキかっ‼︎」

「ええやんええやん、ほらあーん」

「ったく…何なんだよコイツ」

 

 ブツクサ言いながらも包み紙を取りヒメコに食べさせるあたり、ボッスンもお人好しである。

 その後はソフト部とスケット団で記念撮影し、この場は解散となった。

 

「ボッスンよ、この後どーすんの?」

「久しぶりにスイッチと格ゲーしようかと」

『腕が鳴るぜ』

「ホンマ好きやな。ほんなら今日は解散って事でええな」

「ヒメコちゃーん、ちょっと来てー」

「すぐ行くわー。ほなら、キャプテンに呼ばれたからあたし行くな」

「おう。…久しぶりだから、電撃の格ゲーやろうぜスイッチ」

『分かった。俺のシャナたんが無双するぜ』

「言ってろ。すぐに俺のキリトがーーいや、久しぶりだから手乗りタイガーvs.灼眼と行こうぜ‼︎」

『同じ声優同士の戦いか。いいだろう、かかって来い‼︎』

 

 この時、キャプテンと話し込んでいたヒメコも変なテンションになっていたボッスンとスイッチもヒメコのホッケースティックなカバンに近付く人影に気付く事は無かった。

 

  ▼

 

「あー疲れた。体力仕事二連チャンはキツいわー」

 

 しばらくキャプテンと話し込んでいたヒメコは一人で帰宅の途に就いていた。

 

「ま、ええ事もあったし良しとするか」

 

 既にペロキャンカキフライ味は胃の中で、ペロキャンの棒を咥えながらニッシッシとヒメコは笑みを浮かべる。

 が、良くない事もあった。近頃「鬼姫」を名乗る不良が街で暴れているらしい、と言うこと奇妙な噂。

 噂を教えてくれたキャプテンはそんな事ある訳無いと一蹴していた。

 もしその鬼姫がケンカを売って暴れているのなら、それは偽物だ。何故なら、鬼姫は絶対にケンカは売らない。ただ、売られたケンカは必ず買うのだ。

 

「もし目の前に出てきたらとっちめたろかーーん?」

 

 ブツクサ言いながら歩くヒメコの前に現れたのはーー日本一工業の乾らヤンキー三人組だった。

 

「何やお前ら、また返り討ちにして欲しいんか?」

「キキッ、モモカさんにアンタを連れて来いつて言われてるんだよ。一緒に来な」

「おいおい気軽に言うてくれんなや、友達ちゃうねんから。しんどいし面倒やけどはよどかな痛い目見んで?」

「ケッ、今日も勝てると思ったら大間違いだよ‼︎ ケーンケンケン‼︎」

「ケンケン⁈ お前ら笑い方おかしない?」

 

 ヒメコの挑発(無意識)にも、三人は只々笑うだけ。その余裕が少し不気味だ。大好物のペロキャンカキフライ味を食べてはいるが疲れ自体は残っている。

 たが、勝てない相手じゃない。ヒメコはさっさとぶちのめして家に帰る事にした。

 

「あんな、今やったら勝てるなんて思うとったら大間違いやで。お前ら三人このサイクロン一本あれば十分やっちゅうねん」

 

 ヒメコは得意げに語りながらスティックのカバンを開ける。

 だが、そこに入っていたのはサイクロンじゃなく見知らぬおもちゃのステッキだった。

 

  ▼

 

「ヒメコちゃんまだいる?」

「ん、キャプテンか。ヒメコならもう帰ったはずだけど?」

「うん、ヒメコのスティック体育倉庫の脇に置きっぱなしだったから…」

「…何で?」

 

  ▼

 

「な、何やこれは…」

「どうだい、魔法のペテン師 リアリテッ」

「あ、噛んだ」

「っ…リアリティ☆マジのシニカルステッキは気に入ったかい?」

「そしてアタイらヤンキー三人がおもちゃ屋で買うのにどんだけ恥ずかしい思いをしたか分かるかい?」

「知らんがな‼︎」

「ソイツはウチらがすり替えておいたんだよ‼︎」

 

 実はヤンキー三人組は開盟学園のグラウンドにいた。ソフト部の試合が終わった後、ボッスンとスイッチがいなくなり、ヒメコとキャプテンが世間話に夢中なりスティックのカバンの周りに誰もいない隙を見計らい、サイクロンとシニカルステッキを入れ替えのだ。

 まさに外道、悪の所業である。

 

「ホンマ、とことん腹立つ事してくれるやんけ」

 

 腸が煮えくり返る一方、ヒメコは冷静に思考を巡らせていた。

 素手で三人を相手にする事は出来る。但し下手をすればヒメコ自身ただでは済まない。

 そして、ボッスンはそれを絶対に許さない。

 

「…チッ」

「ヒヒッ、それじゃ大人しくついてきてもらうよ」

 

 三人はヒメコを取り囲み、乾と去川がヒメコの両手を掴む。

 

「なっ、離せや‼︎ こんなんせんでもーー」

 

 背後の木島に気付いたヒメコは次の瞬間には意識を失っていた。

 

  ▼

 

 キャプテンからヒメコのサイクロンを受け取ったボッスンはスイッチと部室でヒメコが来るのを待っていた。

 と言ってもヒメコが来るかは分からない。事実、部室に夕焼けの光がさしこみはじめていた。

 

「おせーな、ヒメコ」

『今日はもう来ないんじゃないのか?』

「…そうかもなー」

 

 ただ、ボッスンは確かな引っかかりを感じていた。最後にサイクロンをスティックのカバンに入れたのはボッスンだ。

 ヒメコと別れた時もスティックのカバンはベンチにあった。

 ボッスンは一応キャプテンに話を聞き、ヒメコがベンチからスティックのカバンを持って帰ったと言っている。

 あり得ないのだ。サイクロンが体育倉庫の脇に置きっぱなしになるのは。

 

「…スイッチ」

『何だ?』

「ヒメコが危ないかもしれない」

『…分かった、行こう』

 

 二人はカバンを手にぶしつを飛び出した。スケット団の仲間を救う為に。

 

  ▼

 

「ん…っ、ここは…」

 

 どこや、とボヤけ気味に意識を取り戻したが、すぐに自分の置かれた状況は把握出来なかった。

 ヒメコは木を背後にし後ろ手で木を抱くようにして縄で両手首を縛られていた。それを乾ら三人と見知らぬ女一人がヒメコを眺めていた。

 

「な、何やこれ⁈ 何やこの状況‼︎」

「絶体絶命のピンチって奴だよ」

 

 三人の後ろから出てきたのは、見た目はスケ番だがとても不良をするような顔立ちには見えない、例えるならアイドルのような可愛らしい女の子だった。

 

「お前がボスかい。何やエグいん想像してたけど、えらい可愛い顔しとるやん。確か…モモカ、ちゃんやったっけ?」

「そう、アタイの名は吉備津百香。またの名をーー鬼姫」

 

 ヒメコの思考が一瞬凍りついた。まさか、このようなところで鬼姫に出会うとはさすがのヒメコも予想がつかなかった。

 まさか、本当に鬼姫の偽物にこんな形でお目にかかれるとは。

 

「アンタも聞いた事ぐらいあるだろう? 金髪、咥えタバコ、バット。アタイが鬼姫さ」

「ほう、アタシが聞いた鬼姫はこんな卑怯もんちゃうかったけどな」

「…ふん、卑怯…結構だね。相手に恐怖を与えて嬲り殺すのがーーアタイのやり方」

 

 バットの先端がヒメコの頬に押し付けられ、すぐに顎に添えられる。

 後ろでは子分の三人がヒメコの姿を見て笑い声を上げている。

 

「ご覧の通り、鬼姫は冷酷で残忍」

「相手を倒す為なら手段を選ばない強いお人さ」

「にしては口のソレ、タバコちゃうやん」

「っ⁈」

「ハッカ味のするパチモンやろ?」

「モモカさんは健康第一なんだよ‼︎」

「タバコなんて良くねーじゃねーか‼︎」

「おかげでこの肌この美貌‼︎ おまけにスタイルもばつぐーー」

 

 子分の三人が言い終える前にモモカが三人を伸してしまった。吉備津百香は照れ屋であったのだ。

 

「ったく…。でも、確かにアンタ骨があるよ。冥土の土産に名前ぐらい聞いといてやる。名乗りな」

「嫌や、言うたらどないする?」

 

 二人の間に言い知れぬ緊張が張り詰める。そんな時、緊張を切り裂く携帯の着信が鳴った。

 

  ▼

 

「俺とした事が、さっさと携帯鳴らせば良かったじゃねーか」

『だが、電話に出られない状況だと意味が無いのではないか?』

「普通に考えたらな。だが、もし犯人が予想通りならーー」

 

 ボッスンの携帯からコール音が切れ、無音になる。だが、すぐに風に揺れる木々の音が聞こえ電話が繋がったと確信した。

 

「もしもし」

 《その声はあの赤ツノだね》

 

 ボッスンは笑みを浮かべた。携帯から聞こえるのは去川の声だった。

 

 《取り敢えず女は預かってるよ、スケット団》

「どうやら、サイクロンが体育倉庫の脇にあったのは、お前らの仕業みてーだな。……女は無事なのか?」

 《いいや、あまり無事とは言えないね》

 

 急に変わった声に、ボッスンとスイッチが驚きを見せる。

 

「お前がボスか」

 《そうさ、アタイが吉備津百香。巷で噂の鬼姫さ》

「…鬼姫、ね。要求があんなら応じてやる。だから今お前らがいる場所、教えてくれよ」

 《ふん、分かってないみたいだねぇ。誘拐じゃないんだよ。アタイらはただこの女をボコりたいだけ》

 

 ブランコの揺れる音と共にモモカの言葉を聞いたボッスンの手に力が入り携帯がミシミシと音を立てる。

 そんなボッスンの肩をスイッチが軽く二度叩く。

 

『落ち着け。今は冷静に、だ』

 

 スイッチの言葉に軽く息を吐き、ボッスンら小さく頷く。

 スイッチの言葉と携帯から聞こえてくる夕焼け小焼けのメロディで気分を落ち着かせる。

 

「そういう事言うなよ。もう夕焼け小焼けが流れてるし、何よりーーヒメコに手を出されたら俺も容赦無くやらなきゃならなくなるからさ。何もしねぇなら、俺たちも手は出さねぇ」

 

 聞こえる小袋行きの電車の案内と踏み切りの音を聞きながら、ボッスンはモモカの言葉を待つ。

 

 《手は出さない? 生憎そんな言葉信じるほどバカじゃないんでね。女とはまだまだ遊ばせてもらうよ。あばよ、王子様》

「おい、話はまだーー」

 

 ボッスンが言い切る前に電話は切られてしまった。

 だが、この電話は如実に相手の場所を教えてくれた。

 

「スイッチ、今から言う事に当てはまる場所を探してくれ‼︎」

 

 この言葉から二人が走り出すまで、1分も掛からなかった。

 

  ▼

 

「はぁっ、はぁっ……何や、大した事あらへんな…鬼姫っちゅうのも。こんな事しても広まるんは悪名だけ、ちゃうんか?」

 

 満身創痍のヒメコが、息も絶え絶えに悪態を吐く。ボッスンとモモカの電話が終わってしばらく、ヒメコはモモカによっていたぶられ続けていた。

 

「悪名上等。鬼姫ってのは強さと暴力の象徴。恐怖を語り継いで広まっていく名なのさ」

「…まぁ、それはそれで知ったこっちゃない。けどな、ここでアタシを半殺しにしたら、まずお前らは終わる。ウチのリーダーは本気でキレたら男も女も関係あらへんからな。ほんでな、強さ強さ言うけどな、サシでタイマンも張れへん奴が大層なニックネーム自慢すなや。……サブいねん」

「っ‼︎ テメェ、上等じゃねーか‼︎」

 

 ヒメコの一言に、キレたモモカがバットを振り上げる。

 さすがのヒメコもこれ以上は耐え切れない。が、自分ではどうする事も出来ない。

 

「死になっっ‼︎」

 

 目を瞑り、心の中でボッスンの名を叫ぶ。

 人体が金属バットに打たれる、鈍い音が響く。だが、ヒメコに痛みは無かった。

 目の前は目を見開き驚くモモカ。そしてーー

 

「ワリィ、遅くなった」

 

 金属バットを右腕で受け止めるボッスンがいた。

 

「ボッスン…‼︎」

「ス、スケット団⁈」

『大丈夫か、ヒメコ。すぐに縄を解く』

「スイッチ…痛いは痛いけど、何とか。縄は頼んだで」

「何で、この場所が…⁈」

「お前との電話でだよ、吉備津百香。まず聞こえたのがブランコだ。これで公園は確定。そして夕焼け小焼けと電車と踏み切り。聞こえてきた電車の案内が小袋行きで夕焼け小焼けが同じくらいの時間に流れるから17時発だ。そして小袋行き17時発の電車があり、駅のすぐ側に踏み切りがある駅は芽城島(めぎじま)駅だけだ。後は芽城島駅のすぐ近くにある公園を探すだけ。ま、ここしか無かったから簡単だったぜ」

「そん、な…バカな」

 

 相手と話をしながら、必要な情報を取捨選択するボッスンのスゴ技にモモカたちは言葉を失っていた。

 ボッスンはそんなモモカたちに目をくれること無く、ポケットからペロキャンを取り出した。ペロキャンレバ刺し味。杉原も吐きかけた一品である。

 

「レバ刺し味やん、こら疲れも痛みも吹っ飛ぶで。はい、あーん」

「だから、テメェで食えっつーに…」

 

 と言いながらも、やはり包み紙を外してヒメコに食べさせるボッスン。口に入れたペロキャンをバリバリと嚙み砕くヒメコを見てボッスンはモモカたちに視線を送る。

 

「な、何だい‼︎ 三人でやろうってのかい⁈ 上等だよ‼︎」

「…ま、ヒメコがアレだけ世話になったんだ。容赦はしねぇ…が、相手をするのは俺一人だ」

「なっ……正気かい⁈」

「こっちもブチギレてるんでな」

 

 ボッスンの言葉にヒメコは少し安心した。本当にボッスンがキレたら、問答無用で相手に突っ込んでいくからだ。

 

「つーかボッスンよ、これはアタシに売られたケンカや。引っ込んどき」

「いや、しかしーー」

「右腕…腫れてるやん。だから、な?」

 

 渋々納得したボッスンが、ヒメコの愛刀であるサイクロンを渡して後ろに下がる。

 サイクロンを受け取ったヒメコが、軽快にサイクロンを振り回し、地面に叩きつける。

 派手な音と共にサイクロンを叩きつけた地面が破壊される。

 

「…さすがアマゾネス・ヒメコ」

「誰がアマゾネスやねん‼︎」

「あ、アンタ…一体何者なんだい…⁈」

「ったく…金髪に咥えタバコ? これはペロリポップ☆キャンディや。武器もバットやのうてフィールドホッケー用のスティック「サイクロン」‼︎」

「え、ま、まさか…アンタ、本物のーー」

「ホンマ噂っちゅーもんは当てにならんな。お前の話聞いてて腹捩れるか思たわ」

「鬼姫⁈」

 

 怯えるモモカたちを見たヒメコ自身、理解は出来なかったが納得はしていた。

 鬼姫は強さと暴力の象徴。恐怖を語り継いで広まっていく名なのだと。例えそれが悲しき過去を孕んでいたとしても。

 もしここでモモカたちを痛めつけたら、鬼姫の名はモモカたちによって更に広まるだろう。

 

「うらぁぁぁぁっ‼︎」

 

 それでもヒメコは思う。

 こんな私でも、鬼姫としてじゃなく私を必要としてくれる人の為にこの力を振るうのだ、と。

 だから、彼女らにこのスティックを振り下ろすのは間違ってるのだ、と。

 

「っ……あ、あれ?」

「ふーっ、ふーっ…………3秒以内に立ち去れぇぇぇっ‼︎」

「はっ、はいいっ‼︎ お前たちずらかるよ‼︎」

「ずらかるって…どこまでも古臭いな」

 

 結局、ヒメコは手を下さずモモカたちを見逃した。だが、これで良いとボッスンは思っていた。

 ヒメコはもう鬼姫では無く、スケット団副部長のヒメコなのだから。

 

  ▼

 

「鬼姫は強さと暴力の象徴、か」

「結局、アタシはあの頃から変わってないんやろうか?」

「そう考えられるだけマシじゃね? 後は鬼姫に対抗してヒメコの象徴を作るとか」

「何やねんそれ」

『例えば…ツッコミとツッコミの象徴』

「ツッコミしかあらへんやんけ‼︎ アタシはツッコミだけの女か⁈」

「でもま、言ったじゃねーか。俺にはお前のその強さが必要だってな。だから、下手に変わらなくていいんだよ。ほら、ペロキャン塩辛味」

「…へへ、ほうかほうか…。ん、あーん」

「テメェいい加減にしろよ⁈」

『大丈夫だヒメコ。ボッスンはツンデレだからな』

「黙れオタク‼︎ ったく、ほれ」

「あーん…へへー、ありがとなボッスン」

「気にすんな」

 

 こうして「ヒメコ拉致事件」及び「偽鬼姫事件」は解決を見たーーのだが。

 

「えー、後缶コーヒー無糖。ほんでええわ。…別にそんな何回もパシリに行かんでええんやで? まぁ、気を付けて行ってきいや」

「はい、姉さん‼︎」

 

 吉備津百香、以下三名がヒメコの舎弟になったのだ。

 元々、伝説の鬼姫に憧れて名を騙っていたので実物の舎弟になりたがるのも無理からぬことであろうか。

 

『ま、めでたしめでたしで良いんじゃないか?』

「…ま、そうかもな」

「ほら、ダッシュ」

「はいっ姉さん‼︎」

 

 こうして、スケット団に新たな仲間(ヒメコ付き)が加わったのであった。



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romantic&incinerator of the ghost

 

 

 

「ヒメコ、昨日はタオルサンキューな。まぁ、大して役に立たなかったけど」

「役に立たんかったんかい⁈」

「結構大降りだっからな。体拭いたりしたけどキチンと洗ったからな?」

 

 カバンからヒメコのタオルを出し差し出すボッスン。確かに洗ってあるようで、柔軟剤の仄かな香りがヒメコの嗅覚を擽る。

 だが、ヒメコはそれどころではなく。

 

「お前体拭いたんか⁈ 女に借りたタオルでかっ、かっ、体拭くなボケェ‼︎」

「いや…上半身だけだし。それにちゃんと洗ったから大丈夫だって」

「そういう問題ちゃうねん‼︎」

 

 気になる男子の体に触れたタオルという事でヒメコも戸惑っていた。

 これが普通のタオルな黙って家族にくれてやる事も出来るのだが、貸したタオルはペロキャンナス田楽味カラーのタオルだった。

 誰かにあげようにも景品の限定アイテムなので、おいそれと手放せないのだ。

 

「ホンマ、もうちょっと気ぃ使えや…」

「ワリィワリィ。…ちょっくらトイレ行ってくるわ」

 

 ボッスンが扉を開けて部室を出ようとしたところで、人にぶつかった。

 

「きゃっ…」

「おっと、ワリィなアンタ。大丈夫か?」

 

 ボッスンとぶつかったのは、ピンクのベレー帽を被った女子で、ぶつかった拍子に尻餅をついてしまったようだ。

 

「わ、私の方こそごめんなさいーーきゃっ、ヤダ‼︎ えへっ、ごめんなさい」

 

 手を差し伸べたボッスンだが、その女子は太ももまで捲れたスカートを手で押さえ、ドジな自分を諌めるように自分を軽く小突いた。

 最近は古臭い人間によく会うな。ボッスンは面倒くさそうなキャラの女子を見てそう思った。

 

  ▼

 

 取り敢えず、その女子はスケット団に依頼があるお客さんだったので部室に通した。

 ボッスンはトイレに行き、その間はヒメコに任せる事にした。

 トイレを済ませて部室に帰ると、部室へ妙な静けさに支配されていた。

 

「ヒメコ、話聞いてないのか?」

「あーうん。ボッスンが聞いた方がええかなって思てな」

「ふうん。じゃ改めて…お名前は?」

 

 〝私、早乙女浪漫〟

 

「待て待て。勝手にモノローグで自己紹介をするな。…つか何で聞こえるんだ?」

「てかスゴイなその表現。どうやってんの?」

「こういうのもあるわよ」

 

 〝17歳〟

 

「だから止めろ‼︎ そっちにはそっちの領分があんだよ‼︎」

「やりたい放題やなこの子…」

「全くだぜ…」

 

 ボッスンは軽く溜め息を吐きながら、彼女の依頼内容を聞く事にした。

 彼女ーー早乙女浪漫は昨日、雨の降る中一人の男と出会う。そして、一目惚れしてしまったのだ。

 今回の依頼はその男を探して欲しいとの事だった。

 

「取り敢えず、この学園の生徒なのは分かってるんだけど…」

「何だよそれを早く言えよ。で、そいつの名前は?」

「…坂の上の王子様」

 

 ーーーーーー。

 

「中大兄皇子様?」

「アホか。それやと歴史上の人物になってまうやんか」

「…つか、坂の上の王子様ってなんなんだよ」

「知らないの⁈ 坂の上の王子様」

「知らねーよ‼︎」

「うわぁ、何やイタい子来たんちゃう?」

『坂の上の王子様とは、少女漫画の古典「ギャランドゥギャランドゥ」に登場するキャラクターである。因みに彼女は隣の女子漫研所属、雑誌にも投稿している漫画家志望者だ』

「好きな漫画は一昔前の少女漫画よ。それも王道のやつ‼︎」

「どうりで…」

 

 因みにロマンは好きなアニメキャラに例外として長門有希がいたりする。

 

「んで、まとめると…見知らぬウチの生徒に雨の中一目惚れしたんやな」

「うん。…名前も学年も分からなくて…」

「しっかし…恋の仕方もベタだよな、アンタ」

「ベタを馬鹿にしないで‼︎」

 

 〝馬鹿にしないで‼︎〟

 

「だからモノローグ止めろって‼︎ 語り部さんに怒られるぞ⁈」

「つか、これ小説やから少女漫画の表現持ち出されても分からんのやけど」

「可愛いんだけどウザいな…」

 

 取り敢えず、話を進めよう。

 ロマンはベタな場面に出会うと少女漫画的視点で物事を見てしまう。ロマン曰く「乙女フィルター」と呼んでいる。

 今回もその乙女フィルターが発動したという事だった。

 名前も学年も分からないとなると、その王子様を探す手掛かりとして王子様の特徴を知る必要がある。ボッスンはそれをロマンから聞き出したのだが。

 

「全体的に細めな感じだったかな。繊細でシャープなんだけど、鋭すぎて危うくもある。そう‼︎ 例えるならゼビュロの丸ペンね‼︎ 同時に力強さも兼ね備えている筈よ。どちらかと言えばGペンね。ては大きく筋張っていてウニフラッシュぐらいならズバズバ描けそうーー」

「ちょーちょちょちょちょー待てや‼︎ さっきから何言うとんのかぜんっぜん分からへん‼︎」

「乙女フィルター越しだと、意味不明だ…」

「あ、ごめんなさい。下ろしたてのGペンは丸ペンより細い線が描けるのよ。分かりづらかったかしら?」

「俺ら、漫画描きじゃねーしな…」

「ツッコミがいのある子やな…」

 

 そんなこんなで、実はその男の絵を描いてきたというロマン。スイッチは乙女フィルター越しでは信憑性が薄いと苦言を呈すが、ヒメコは漫画家志望者がそんな事はしないと突っぱねる。で、みんなでロマンの絵を見てみたのだが。

 

「あー…うん」

「えーっと…」

『何とも言えないな』

 

 有り体に言えば、絵が下手だった。

 その後、ボッスンが昔の少女漫画のキャラクターや猫(スコティッシュフォールド)を描いたりして半端ない画力を見せた。

 

「アンタ、ここに来てキャラ立ちか?」

「んなわけねーだろ。つか、王子様はどうしたんだよ」

『しかし、こうも手掛かりが少ないとな』

「ごめんなさい。私もう諦めーー」

「よし、ならロマンが出会ったその場所に行ってみるか」

「せやな」

『現場百回とも言うしな』

「みんな…」

 

 こうして、ロマンが王子様と出会った現場に向かう事になった。

 

「ここで王子様と出会ったの」

『何の変哲も無い住宅街の通学路だな』

「ああ、ここなら昨日俺も通ったな」

「ほんで、どこで王子様と出会ったん?」

「そこの電柱よ。そこで雨に打たれる王子様に出会ったの」

「んー、見た感じ手掛かりは無さそうやな」

『そうだな。早乙女さん、その王子様はここで何をしていたんだ?』

「肩に掛けていたタオルで顔を拭いていたわ。紫のタオルで」

「む、紫の…」

『タオル…』

 

 ヒメコとスイッチの視線がボッスンに向く。そして、そのボッスンは苦笑いで頭を掻いていた。

 

「まぁ…確かにここで一旦止まって顔を拭いたな」

「しかも、ウチから借りたタオルで…」

「んー、でも何か違うような…」

「あーならこれちゃうん? ボッスン帰る前にこれ取ってたしな」

 

 ヒメコがボッスンの被っていたツノ付き帽子を取ると、ロマンの表情がみるみる変わっていく。

 その表情はまさに恋する乙女だった。

 

「あなたが…あなたが王子様だったのね‼︎」

「え、えーと……ヒメコ」

「何やボッスン、おーおー照れとんのか? おー?」

「スイッチ、どうにかしろ」

『ほっほっほ、何を言っとるのかねこの子は』

「何だそのキャラクター⁈」

 

 結局、坂の上の王子様だったボッスンはしばらくこの話でヒメコとスイッチに散々弄られまくる事になった。

 

  ▼

 

「…蜘蛛の会? 何やそれ」

『ああ。何でもこの界隈の女子学生たちを標的に様々な猥褻行為を働いている闇のグループがあるそうだ』

「そんなん、さっさと捕まえたらええのに」

『だが、被害者が名乗り出ない為犯行が明るみに出ないらしい。その存在もあくまで噂レベルらしい』

「…何や眉唾な話やな。ボッスンはどうおもうん?」

 

 これは、坂の上の王子様の一件からしばらく経ったある日の出来事。

 スケット団は何時ものように部室に集まり、不定期で発刊される「学園タイムス」をネタに話を咲かせていた。

 

「ああ、その蜘蛛の会ならもうすぐ捕まんだろ」

「はぁ? 存在自体が怪しいグループをどないして捕まえんねん?」

「取り敢えず蜘蛛の会のリーダー…草部直幸を生徒会に密告したからな」

『むっ、俺ですら分からなかった蜘蛛の会のリーダーを…さすがボッスン』

「つーか、何で生徒会なんかに任せんねん‼︎ スケット団で捕まえたらお手柄やん‼︎」

「いや…数的に生徒会の方がいいし。それに、下手にヒメコを傷付けたくねーしな」

「……はぁっ⁈ お、おお…お前は何を…」

 

 ボッスンが言った台詞でヒメコが真っ赤になって慌てふためく姿は、スケット団では恒例である。スイッチも慌てふためくヒメコを生暖かい目で見ている。

 因みに、何故ボッスンが蜘蛛の会リーダー、草部直幸を知っていたかといえば、過去に大事な仲間の一件で偶然知ったのだ。

 そして、これも偶然だがある女子生徒が万引きしていた。次に万引きをしたら止めさせるつもりで数日見張っていると、その女子生徒が廃倉庫に向かい、そこに草部直幸とその仲間がいたのだ。

 手口も蜘蛛の会と合致した為、生徒会に偽名で草部直幸が蜘蛛の会リーダーである事を密告したのだ。

 その時ボッスンが使った偽名は、アカツノチリゲムシである。

 

「ヒメコ、テンパり過ぎだろ」

「お前が平然としてんのがおかしいんやろが‼︎」

「……今日は水曜だ。ヒメコがゴミ当番だ、ちょっと行って落ち着いてこい」

「え……い、イヤや‼︎」

「……はぁっ?」

 

 スケット団ではゴミ当番が決められている。月曜はスイッチ、水曜はヒメコ、金曜はボッスン。

 余程の事が無い限り、この決まりは絶対である。

 その決まりを、ヒメコは破ろうとしているのだ。

 

「イヤって…何で?」

「だって…あそこには……あそこにはーー」

「幽霊がいるのよぉぉぉぉ‼︎」

「イヤァァァァァァァァ‼︎」

 

  ▼

 

 いきなり現れ、叫び、部室の窓から貞子ばりに入ってきた女子生徒。

 彼女の名前は結城澪呼。2-A所属。オカルト研究部部長。腰まである黒髪と不健康そうなまでに白く透き通った肌が特徴。霊的現象、超能力、呪術に深い造詣を持ち非科学的現象を強く信奉している。

 故に科学的事象しか信じないスイッチとはライバル的関係性である。因みに、好きなアニメキャラは朽木ルキア。

 因みに、お決まりの様に禍々しいオーラを放ち貞子ばりに部室の部屋からは入ってくるのは仕様である。

 普通に入れば、それはそれで驚かれるのだが。

 

「しかし、スイッチの知り合いとはな」

『彼女とは以前、幽霊はいるかいないかで摑み合いのケンカになりかけた事があってな』

「…何やっとんねん、お前」

「相変わらずよね、スイッチ君…。まだ科学の領域から抜け出せずに彷徨っているとは…。サタン様もお笑いになるわ‼︎」

 

 結城さんの雰囲気と相まって、ヒメコは完全に怯えてしまっていた。

 ボッスンは少し変わった人ぐらいにしか思ってないので、苦笑い程度で済んでいる。

 

『俺は再びここで言い争う気など無い。君が完膚無きまでに論破され、這い蹲る姿を見たく無いからだ』

「お黙りなさい‼︎ あなたその内天罰が下るわ…エロエロエッサイム……で、今日はこの件で話があって来たの」

 

 軽くスイッチとやり合ったところでボッスンとヒメコに向き直り、学園タイムスの一面を見せる。

 

「焼却炉の幽霊?」

『この学園の七不思議だな。学園タイムスにも一つずつ紹介するコラムがある』

「十年前‼︎ ある男子生徒が受験ノイローゼの為屋上から飛び降りたのよ…。でも彼は死に切れなかった……。朦朧とした意識のまま焼却炉に身を投じようと歩いた…けど、その日は鍵が閉まっていて入り口は開かなかった。結局中に入れず翌朝発見された時には…。以来、その現場では両足を揃えてすっ…と花壇を飛び越えようとする幽霊の姿が目撃される様になったそうよ。まさしくこんな感じにね…」

 

 ヒメコは体を震わせながら、ボッスンは腕を組んで結城さんの話を聞いていた。

 

「…あー、だからヒメコはゴミ当番を。そういえばヒメコお化け苦手だったっけ」

「せやねん…ホンマかなんわ…」

『馬鹿馬鹿しい。幽霊なぞこの世には存在しない。俺が信じるのはデータに裏付けされた真実のみ‼︎』

「ふふ…そうやって余裕ぶっていられるのも今の内よ。何故なら、この写真を撮ったのは他ならぬ私だから‼︎」

 

 結城さんの幽霊の写真を自身で撮ったと言う言葉に結城さん以外の全員が驚いた。

 結城さんが幽霊の写真を撮ったのは、先週の火曜日。学園タイムスのコラムにあった七不思議に興味を持ち、焼却炉の付近で張込みをしていた時だった。

 無我夢中で写真を撮り、そのままカメラを新聞部に持ち込んで今回の学園タイムス一面を飾ることになった。

 

「どう? これであなたも幽霊の存在を信じる気になった?」

『…実に下らん論争だ。だが仮にその目撃談を否定する証拠を持ってきたとしたら?』

「ほほほ…面白そうね。だけど出来るのかしら? あなたたちスケット団に」

「ア、アタシはイヤやで‼︎ そんなんようせんわ‼︎ ていうかお前らケンカすなや‼︎」

「ではスケット団に依頼するわ。焼却炉の幽霊について調査し、私の目撃したモノの真実を解き明かしなさい‼︎」

「いや、だからやらへんてーー」

『引き受けた‼︎』

「スイッチィィィィ‼︎」

 

 結局、結城さんの依頼を受ける事になった。

 

  ▼

 

『…ボッスン、別に俺は一人で出来るぞ』

「別に良いだろが。一応スケット団の依頼だ。ま、ヒメコは部室で留守番だけどな」

 

 結城さんと別れたスケット団は、ヒメコを部室で待機させボッスンとスイッチで調査をする事になった。

 

「ま、それに今回の幽霊は多分偽もんだろーしな」

『む、何故そんな事をーー』

「それは、依頼終了までのお楽しみだ」

 

  ▼

 

「ああ、結城澪呼嬢なら知ってるよ。メインフィールドこそ違えどそこはマニア同士相通ずる何かを感じていてね、ニュータイプだけに…ンフフフ」

 

 饒舌に語るこのオタクの名は小田倉拓夫。アニメ研究部、通称アニ研の部長である。

 角縁眼鏡に頭にバンダナという生粋オタクである。スイッチとは浅からぬ交流があり、フィギュアのトレードや時には共に秋葉原に行くなど、スイッチの良きオタク仲間である。

 

『その談義はまたいずれ。話を戻すぞ』

「ああ、新聞部ね。確かに結城嬢の友達がいるよ。島田さんて人」

『2-F、島田貴子。スクープに燃える熱血新聞部員』

「Yes、そうそれ。いやぁ、思うに彼女にはーー」

『分かった、ありがとう』

「んじゃまた」

 

 スイッチと小田倉の未知なる会話にボッスンは終始ついていけなかった。

 その後、小田倉と怪しい取引を行いボッスンを連れて新聞部に向かう。

 島田貴子は、眼鏡とそばかすが特徴の女子生徒。左耳に掛けられたシャーペンがトレードマークである。

 

「そう。学園七不思議を担当してるのは私よ。まぁ、小さい記事だし正直あんまり反響は無かったんだけど、澪呼だけは興味持ってくれてたのね」

「その結城さんがあの写真を新聞部に持ち込んだんだな?」

「ええ。澪呼って怪奇現象探してカメラ持ち歩いてるから、何かあったら持ってくる様に言ってあったんだけど…データ確認したらバッチリ映ってるじゃない? それより、笛吹君って私の周りでは結構評判なのよ? その、ハンサムで博識だし面白い人だって」

『ありがとう』

「今度、新聞部で取材させてーー」

『断る』

「えー? じゃぁいつなら良いのよー」

『一億と二千万年後』

「あはは、何それー。あ、そうそう私と同じクラスのヨッシーが幽霊を見たって噂が」

「同じクラスとなるとーー吉成くんか」

 

  ▼

 

「我は確かに見たナリ。あれは現世に留まる魂、即ち幽霊ナリ」

 

 吉成の話では、先週の水曜に焼却炉で幽霊が花壇を登る様子を発見、直後に夕闇を照らした眩しい光に怯えてその場を逃げたという。

 普通に考えれば、焼却炉の幽霊は存在する。

 

「いぃやぁぁ‼︎ やっぱり幽霊おるんやないかぁぁぁぁ‼︎」

『だが、見ただけだ。見ただけでは存在証明にはならない』

「やかましいんじゃボケ‼︎ ああ…下らん勝負せんとはよ除霊せなアタシがお前らをこの世から消し去るぞ‼︎」

「落ち着けよヒメコ」

「何や、ほんならボッスンはこんな風にふわっと浮けんのか⁈ ええ⁈」

 

 どこからか(おそらく新聞部)から持ってきた例の焼却炉の幽霊の写真を突きつけるヒメコ。花壇の前で浮き上がる幽霊と少し開いた焼却炉の門が写っている。

 ボッスンはしばらく写真を見つめーー違和感を感じた。

 更に見つめること十数秒。ボッスンはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「…なるほどね」

『どうしたボッスン?」

「焼却炉の幽霊の真実が見えた」

 

  ▼

 

 翌日。

 放課後になり、焼却炉から正面に少し離れた渡り廊下では結城さんがカメラを手にし張り込んでいた。

 そんな結城さんに近付く一人の影。それはスイッチだった。

 

『こんなところで何をしている?』

「な、何って…今日もここで待っていればまた幽霊が現れるかと…」

『…そうか。ならば一緒に待つとしよう。もう直ぐ現れる幽霊を』

 

 同じ頃、貴子は吉成に焼却炉の幽霊について再度取材を行っていた。

 そこに聞こえてきたのはヒメコの慌てた声だった。

 

「出おったで‼︎ 焼却炉の幽霊が出おったで‼︎」

 

 貴子がヒメコと慌てて駆けつけると、そこには焼却炉の幽霊と思しきモノがいた。

 結城さんと貴子が声を失う最中、その幽霊と思しきモノは花壇の直ぐそばでその体をふわりと宙に浮かせた。

 

「う、浮いた⁈」

「そ、そんな馬鹿な⁈」

「どないしたんや、島田さん。自分で記事を書いたのに信じてなかったんか?」

「え…?」

『学園の七不思議、焼却炉の幽霊は島田貴子。君だ』

「ええっ…⁈」

「貴子が…ってどういう事? じゃぁ、あの幽霊は…」

「ワリィな結城さん、俺だよ」

 

 驚く二人に振り返って笑みを浮かべるのは、トレードマークの赤ツノ帽子を外したボッスンであった。

 

「で、でも…今浮いて…」

「簡単な手品さ。ズボンのどっちかの裾の正面に切れ目を入れとくだけ。後は靴が脱げない様に細工すれば、宙に浮いて見えるって寸法さ」

「因みにこれ作ったんスイッチなんやって。一晩で作るんやからすごいわ」

「や、ヤダなぁ…私は知らないよ? それに手品に気付いたからって私がやったとはーー」

「もちろんそれだけじゃない。この写真実は結城さんが撮った写真じゃない」

 

 そう言ってボッスンが見せたのは、ヒメコが借りていたがくえタイムスの一面を飾った幽霊の写真だった。

 

「そ、そんな馬鹿な…」

「結城さんが写真を撮ったのは、先週の火曜日。たが、この写真の焼却炉の門は開いている。少なくとも火木土日以外の日に撮られたものだ。ま、言わずもがなだけど幽霊の下に小さい影もあるしな」

「一応、結城さんのカメラを新聞部から拝借してきたで。先週の火曜日の写真はー…と、これや」

 

 結城さんのカメラに写っていたのは、焼却炉の幽霊どころか何が写っているかも分からないぶれた写真だった。

 余程慌てて撮ったのが、よく分かる写真だった。

 

『これに気付いた島田さんは、翌日結城さんが写真を撮った同じ時間にセルフタイマーで写真を撮った。吉成君が見た幽霊は島田さん。光はおそらくフラッシュだ』

「島田貴子、何か反論はあるか?」

「……貴子、あなた」

 

 静寂の中、結城さんの言葉に俯いて黙っていた貴子だったが、しばらくして事件の顛末を話し始めた。

 

「…私、いつか一面を飾るスクープを書きたくて…だけど、私の記事はいつも隅っこの話題にならないものばかり。でも、澪呼はあの七不思議のコラムに注目してくれた。それにオカルト好きだし、つい試したくなって…」

 

 最初は本気で騙すつもりは無かったのだ。しかし、結城さんの様子を見て後に引けなくなり、今回の事件を起こしてしまった。

 結城さんの写真が使えず、改めて撮り直したのが仇となった結果だった。

 

「…ごめんね澪呼、本当に、本当にーー」

「許さないぃぃぃぃーーと…言いたいところだけれど、いいわ。水に流す事にしましょう」

「澪呼…ありがとう‼︎ 今度こそちゃんと自分の力でスクープをモノにしてみせるね‼︎」

「まぁ、熱心さ故に行き過ぎた行動に走るのは私も同じ様だし。…スイッチ君。今回は負けを認めるとするわ。あなたの情報力、スケット団のチームワークにね。でもいずれ認めさせあげる…引きずり込んであげる…オカルトの世界に…‼︎」

『望むところだ。ならば俺はそれを否定する情報を集めるだけ…‼︎』

「ホンマ仲ええなぁ」

「ライバル同士だけあるわ」

 

 こうして「焼却炉の幽霊事件」は両者の和解で静かに幕を閉じた。

 

  ▼

 

「そういえば、昨日蜘蛛の会が捕まったらしいで。何でも生徒会が捕まえて警察に引き渡したみたいや。今日の学園タイムスに載ってたで」

「そいつはよかった。悪い奴が捕まって島田さんのスクープにもなる。一石二鳥じゃねーか」

『島田さんで思い出したが、ボッスンは何故情報を集める前から今回の幽霊が偽物だとわかっていたのか、教えて欲しい』

「またえらい早うに分かっとったんやな」

「焼却炉の幽霊の話になるけど、実は飛び降り自殺はあったらしい。理由も受験ノイローゼ。でも当時は雪が積もってて運良く助かったみてーだけどな。まぁそれでも重傷だ。で、校務員の吉村さんはその生徒と仲が良かったらしい。救えなかった事を悔やみ、そして生徒に危険な事をさせない様に学園七不思議を作ったんだとさ」

『なるほど、同じ過ちを繰り返さない為か』

「そういう事だ。まぁ、ヒメコがもう怖がらなくなるのはちょっと残念だけどな」

「ほー、ボッスンよ。おもろいこと言うやんけ」

「……そういえば、この部室にも曰く付きの話がーー」

 

 その後、スケット団の部室からヒメコの叫び声が聞こえ、校舎内でボッスンがヒメコに追っかけられる姿が多数目撃されたという。

 

  ▼

 

「そういや、草部の事をウチに密告した生徒って誰なんだろう?」

「確か、名前はアカツノチリゲムシさんでしたわね」

「まるでクソ虫みたいな名前だな」

 

 開盟学園生徒会執行部。学園の秩序維持、トラブルの調停などを主な目的とする生徒の代表組織である。

 

 庶務は三年、榛葉道流。愛称はミチル。ロン毛の容姿端麗な優男。ナンパで自分の魅力に絶対の自信を持つナルシストである。

 会計は二年、丹生美森。愛称はミモリン。実家は大財閥「丹生グループ」で、彼女は社長令嬢。おっとりとした性格で世間知らずで言動や感覚が常人よりズレているお嬢様である。

 書記は二年、浅雛菊乃。愛称はデージー。ポニーテールに眼鏡姿の美少女。しかし性格はとんでもないサディスティックなクール系女子。言葉遣いは極めて過激であり、アルファベットで単語や言葉を省略する「ギャル語」を愛用している。

 

「アカツノ、ね……なるほど」

 

 会長は三年、安形惣司郎。主に安形や会長と呼ばれている。「かっかっかっ」という特徴的な笑い方をする長身の男でIQ160を誇る天才。開盟学園をトップの成績で合格しているが、基本的に面倒臭がりだったりする。

 この四人に今はいない副会長を加えた五人が今期生徒会執行部のメンバーである。

 

「安形、そのアカツノなんたらの正体が分かったのかい?」

「まぁな。多分、今頃椿が向かってる場所にいるだろうぜ」

「確か椿ちゃんは今ーーああ、なるほど」

「どういう事ですの?」

「この学園に赤いツノを持った奴は一人しかいない」

「ああ。藤崎佑助だ」

 

  ▼

 

「…あのさ、何で俺はトランプタワー作ってんだっけ?」

「トランプタワー作ってみんなで写真撮る言うたやん。もう忘れたんか?」

「ああ、そうだったか。……よし、完成だ」

 

 ボッスンとヒメコの追いかけっこから少し経ち、現在はボッスンがトランプタワーを建設。それをヒメコとスイッチ、モモカとその舎弟の六人で見学。今しがたトランプタワーの完成を目にしていた。

 

「ボッスンホンマ凄いわ‼︎」

『トランプ総枚数108枚の大作だな』

「やるじゃないかボス男‼︎」

「ボス男って何だよ…。じゃ、写真撮るぜ。位置はベンチのここ……で、セルフタイマーは10秒っと。準備完了だ」

「ボッスンはよ座り。スイッチも」

 

 残り5秒でトランプタワーの後ろにスケット団、さらに後ろにモモカたちが入りシャッターが切られようとしたその瞬間、部室の扉が勢いよく開かれた。

 そしてトランプタワーがその衝撃で崩れ、皆が驚く中静かにシャッターが切られた。

 

「生徒会執行部だ。スケット団というのは君たちだな?」

 

 扉を開いたのは生徒会執行部最後のメンバー、副会長の椿佐介であった。



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