笑う門には福来たる! (長雪 ぺちか)
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笑う門には福来たる!
脳が揺さぶられるほど大きなサイレンが鳴り響く。校内にいる力の弱い生徒、それに少しではあるが一般住民は体育館に集められ、避難が完了されていた。下手に外に出るよりも間違いなく学校にいた方が安全だ。この学校ーー神樹ヶ峰女学院はそもそも彼らに対抗するべく作られた施設なのだから。
星守である私は星を、みんなを守る為戦っている。
「うりぁああああ!!」
昴の振り下ろしたハンマーが地を抉った。しかし、彼女の豪快な一撃に怯むことなくイロウス達は次々と迫ってくる。隙だらけの昴に襲いかかるイロウスに遠くから飛んで来た槍が風穴をあける。
「昴! 集中して!」
「ありがとう遥香!」
昴と遥香は背中合わせに、死角のない構えでイロウス達に対抗した。私も御剣先生に習った剣術でイロウスを薙ぎ払う。右、左、右、目の前から来るイロウスを倒したところで身体に違和感を感じた。それと同時に通信機から悲鳴が響いた。
「急に力が……きゃああああああ!?」
どうしたのかと思うより先に自分の身体が答えを教えて来る。これは……
「神樹様の力が、弱まっている……?」
通信機からは誰のものか分からない重なった悲鳴が鳴り続ける。目前で戦っている私の親友達も先ほどまで優勢だったはずが、今では防戦一方だ。
このままだと星守達は全滅する。星守が全滅してしまったら……先を考える前に足が動いた。
校舎へと向かう私の背中に遥香の呼び声が聞こえるが構わず走った。
何振り構わず廊下を走る。明日葉先輩に見られたら怒られちゃうだろうな。途中何度も転びそうになりながらも、私は目的の場所まで辿り着いた。神樹様だ。
神樹様の前に立つと不思議な気分になる。嬉しいとか悲しいとかそう言った感情じゃない。言葉で言い表せないような、そもそも私のものであるのかすら分からない感情がわいてくる。
それとは別に私の足は震えていた。今から私がすることがどういうことなのか分かっているから。
苦しい。辛い。泣いてこの場から逃げ出したい。
しかし、それではダメなのだ。
私はゆっくりと一歩ずつ神樹様へ歩んでいく。
「私には夢があるんです。お料理をもっと上手になってママと同じパティシエになりたい!」
笑え
「まだ上手にできないけど、いっぱい練習して美味しい料理を作れるようになります!」
笑え
「今、笑いましたね! 私分かるんですから。でも心配しないでください。私はとっても美味しいんですよ?」
歯を食いしばっても笑うんだ。
「さあ神樹様、私を食べて……私の友達を守って!」
笑う門には福来たる!
「それが星月の家に生まれた……お神酒としてのお役目ですから!」
涙をたっぷり貯めた目をこすり、私は星を、みんなを……大切な友達を守る為に、駆け足で飛び立った。
読了ありがとうございます!
「みき」と「お神酒(みき)」をかけました。
公式でこんなネタ使われたりしないかな〜とかちょっと期待してたりします笑
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番外編。あったかもしれないミサキの話
一応今回の話を考えたのは、公式からミサキというキャラが発表されてしばらく経ったあと、まだ4章の結末が公開されていなくて「ミサキ……こいつ何者なんだ……?」ってなってた頃です。
ですので、公式の設定と間違いなくかけ離れています。頭をリセットして読んでください。
よろしくお願いします。
私には憧れている人がいる。
いつも笑顔で、周りを笑顔にするお日様みたいな人だ。
周りの人間はあの人のことを、きっとそう思っている。
まあ、本人は自覚ないだろうけど。
私は知っている。
私だけが知っている。
あの人はお日様みたいだけどお日様じゃないことを知っている。
そんなに強くないことを知っている。
いつか終わりが来ることを知っている。
日の落ちた世界を知っている。
私はいつか、あの人がしてくれたように、あの人を救いたい。
*
最近また一段とイロウスが強くなっている。
硬い装甲に身を包む巨大イロウスや、入れ替わり?の能力を使ってくる植物のような不思議なイロウスまで最近では見るようになっている。
新しい仲間、ミサキちゃんが星守に加わって少しは安定してイロウスを跳ね除けることが出来るようになってきたけど、それでも最近はやはり押され気味だと思う。
これは敵が強くなっているからだけが原因じゃない。
最近また神樹様の力が弱まってきている。
つまり、星守の力も弱まってしまっているため、イロウスに遅れを取っているというところもあるのだ。
本当に申し訳ないと思っている。
私が情を、思い出を捨てきれないばっかりにみんなに迷惑をかけてしまっているんだ。
…………あと少しでいい、あと少しだけみんなと一緒に居たい、という気持ちを捨てきれない自分の弱さに呆れを通り越して失望までしているが、それでもみんなと一緒に居られるなら私は笑っていられた。
笑う門には福が来るのだから、ちょっとは奇跡を信じてみてもいいじゃない?
不意に通信が入る。
どうやら新型のイロウスと交戦中の他の星森たちが苦戦しているらしい。
分厚い装甲のイロウスの倒し方はミサキちゃんが教えてくれたけど、それでも強敵であるのには間違い無いのだ。
私は覚悟を決めるといつものように学校の奥にそびえる神樹様を見上げた。
神樹様は若々しい輝く葉っぱをぶら下げて、いつも通りそこにあった。
見た目はいつも通りでも、力が弱まっているのが私から見れば一目瞭然だった。
全く大食いの神樹様だ。
食べても食べてもまだ腹ペコで、でも遥香ちゃんみたく私の料理を食べてくれない。
食べてくれたら楽なんだけどなぁ。
私は一歩、また一歩、神樹様に歩み寄るたび体に悪寒が走る。
何度経験してもなれることのない感覚。
命の削られる感覚だ。
みんなと居られる時間が減っているという事実を突きつけてくるこの感覚が私は嫌で、自然と涙が流れてきた。
笑って。笑わなきゃ。
悲しくても笑うんだ。
いつか来る終わりまで、私は笑って居なくちゃダメなんだ。
それが、短い間だけど私にステキな時間をくれたみんなへの恩返しなんだから。
目の前の神樹様に私が手を触れようとしたところで通信ではなく、後ろから呼び止められる。振り向くと、私と同じ髪色で綺麗に長く伸びた髪の少女がそこにはいた。
「ミサキちゃん!? どうしてここに? 今はイロウスと戦っているはずじゃ……」
「それを言うならみきこそどうしてここにいる?」
「…………っ! それは……」
どうしよう、ミサキちゃんに怪しまれている。
でもここでモタモタしていると今イロウスと戦っている他の星守が…………
焦っていることを悟られないように努力するが、額から冷や汗が流れる。
「みきは星守についてどう思ってる?」
「え…………? みんなのこと……?」
「星守という仕事について。……でもそう答えるのはみきらしい」
そう言ってミサキちゃんは小さく頬を赤らめて笑う。
ミサキちゃんが笑うところを初めて見た。
「本当にみきがみんなのことを思ってくれているって分かって……いやそんなこと始めから分かってたけど、嬉しい」
「何を言ってるのミサキちゃん? それより早くイロウスを」
いきなり「星守」がどうのとか話されても困る。
そして早くミサキちゃんがここから居なくなってくれないと供物を捧げられない。
「星守の仕事は誰かを助けるものだよ。月に行った時だって場所も名前も知らない沢山の命を、救ってる。こうして今私たちがイロウスと戦っている間にも誰かが救われている」
「もういいから、早くみんなのもとに」
「でも星守の仕事だけがみんなを助けているわけじゃないでしょ? f*fだって歌で何処かの、誰かの心を救っている。みき達が星守になってくれた、それだけで救われた大人たちもいる」
「何が言いたいの、ミサキちゃん……」
「私はあなたに救われた…………あなたを救えなかった」
ミサキちゃんは聖衣を纏うと、目にも留まらぬ速さでこちらに接近する。
そして右手のクローファングで私を吹き飛ばした。
先程までの私たちの立ち位置が入れ替わり、ミサキちゃんが神樹様の前に出た。
「ちょっとミサキちゃん何をするの!」
「違うよミサキ…………私の名前は『みき』でしょ?」
「意味がわからない。………………っ!?」
ミサキちゃんの言葉の真意を私は理解する。
間違いない。
彼女は私のお役目のことを、私が『みき』である由縁を知っている。
そして……恐らくミサキちゃんは神樹様の御神酒としてのお役目を私から引き継ごうとしているんだ。
「私があなたのためにつけた名前だよ。身を裂き、みんなを救ってきた英雄の名前」
「ミサキちゃんそれって……」
「私は全部知っている。ミサキが今までどれだけ星守のために頑張ってきたのか、それに私が生まれた時からミサキが私を救ってくれていることも知っている」
「でもダメだよ! これは私のお役目だから…………それが「みき」のやるべき事だから!」
「だからあなたはミサキだってば。…………そう言って私を助けてくれようとするのは嬉しいけど、私はもう…………貰いすぎた。少しは返させてよ」
「待って! 話し合おう……? ミサキちゃんがお役目をしなくていいような 方法を考えるから! 私が絶対ミサキちゃんを守るから…………」
私がそう言ってミサキちゃんの元に歩み寄ろうとした瞬間、目の前の彼女の悲痛な叫びが響く。
ミサキちゃんは、クローファングを自分の腹部に突き立てると共にそれで自分の腹を引き裂いた。
真っ赤に滴る血液が地面を叩く音が広い空間に反芻する。
彼女は、苦痛に顔を歪ませながらもそれでも力強く笑みを浮かべていた。
「ミサキちゃん!!」
「…………あはは…………もう私は助からないよ。ちょっとぐらい私にも助けさせてって」
私はミサキちゃんの血相がだんだんと悪くなっていくのを見て、彼女の言葉が本当であると悟り、膝をつく。
もうミサキちゃんを助けることは出来ない。
こちらまで流れてきた彼女の血は生暖かく、どこか安心する感触がした。
「私を救ってくれてありがとう。ミサキ…………ううん、お姉ちゃん」
「まさか、み…………」
私の言葉が紡がれるより速く、彼女は神樹様に飛び込み、その身が溶かされた。
こんな……こんなのあんまりだよ…………!!
一人残されたミサキは嗚咽を漏らしながら神樹様を叩くが、彼女は……大切な妹は帰ってこなかった。
読了ありがとうございます。
「ミサキは未来から来たみきの妹」という予想を私は立てていたのですけど、見事に外れてしまいましたね笑
半分はあってるのかもしれませんが、まさか並行世界だったとは……予想できませんよ!!
確かにこれからもバトガという作品を続けていくことを考えると、未来から来たネタバレ内包キャラは登場させないのが吉ですよね!アニメ楽しかったです。ではまた〜!
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