ULTRAMISSION ORB (彩花乃茶)
しおりを挟む



 本作は自分が別に投稿している『ウルトラマンオーブ 天駆ける星の祈り歌』の前日談です。


~~ジャグラー~

 

 Oー50(オーフィフティ)戦士の頂。その頂上に燃える光は優れた素質のあるものを見極め、光の戦士の力を授けるという。

「ぐぬぅぅ・・・はぁ・・はぁ・・はぁ・・」

 

 俺・・ジャグラス・ジャグラーとまだ未熟な相方であるガイはその頂上を目指して崖を登っていた。

「これが・・・オーブの光・・」

 

 そしてようやく頂上へと到達した俺はそこで輝く光へと手を伸ばすと・・

「ッ・・!?」

 

 俺の手は光に弾かれてしまった。俺では・・・俺ですら光は認めないというのか。

「・・・俺が行く」

 

 遅れて登り終えたガイは光へと手を伸ばすと、光はガイを拒絶することなく入っていく。そして光から抜け出たガイの手には一本の短剣が握られていた。

「俺を・・俺を選んだのか?」

 

 ガイは自分が光に選ばれたことに驚きを隠せずにいる。いや・・・

「何故だ・・。何故お前なんだ!!」

 

 俺も俺ではなくガイが選ばれたことに納得ができずにいた。

「ん?・・うおっ!?」

 

 すると次の瞬間短剣が輝きだし、そこから放たれた光のリングがガイの胸に張り付いた。するとその光は瞬く間にガイの全身を包み込み、ガイは光の巨人、ウルトラマンへと姿を変えた。赤と銀の体色に胸にはオーブの輝き。これがオーブ・・ウルトラマンオーブか。

「な、何故俺が・・・」

 

 元の姿に戻ったガイはどうして自分が光に選ばれたのか分からずにオーブの光、その象徴であるオーブカリバーを見つめている。俺もガイが光に選ばれたことに納得はいかないが・・・認めるしかない。

「何人もの戦士が挑んだと思っている?覚悟を決めろ。お前が光を継ぐもの・・・ウルトラマンオーブなんだ」

 

「俺より凄い奴がいる。・・・お前だよジャグラー」

 

「オーブの光はお前を選んだ。異論を唱えても仕方がない」

 

 俺はガイに・・・そして自分自身にそう言い聞かせる。するとオーブカリバーの刃が輝くとともに空に光の文字が浮かんだ。

「何だあれ?」

 

「成すべきことを伝えている。お前に・・・いや、俺達に・・」

 

 光の文字はほんのわずかな時間で消えてなくなってしまう。

「つまり俺達のファーストミッションってことか」

 

「お前をサポートしろというのなら従う。だがあまり手を焼かせるな」

 

 俺はガイの肩を掴むと、ガイはオーブカリバーを空へと掲げる。すると俺達は光に包まれながら空へ・・・いいや、宇宙へと飛び上がった。

「何処に向かっているんだ?読み終える前に消えちまった」

 

 こいつ、ちゃんと読み終えてなかったのか。

「まずはスターゲートまで向かえ。そしたらオオカミ座系の惑星である惑星ジャグジャグまで飛んで別のスターゲートを経由して・・・」

 

「ジャグジャグ?お前の出身の場所か?」

 

「馬鹿なことを言うな。俺の出身はお前と同じだろうが」

 

「悪い悪い・・。ちょっとふざけてみただけだ」

 

 こんな馬鹿のサポートなど俺に務まるのだろうか?

「ちゃんとは読めてないが・・・俺達の向かう先で宇宙悪魔ベゼルブってのが派手に暴れているらしいな」

 

 道は覚えていないくせに目的は確認していたか。

「お前の任務はそれを操る黒幕を捕えることだ」

 

「俺のじゃなく・・・『俺達の』だろ?」

 

 オーブカリバーの導きのもと、俺達はスターゲートを通過して別の宇宙へと飛ぶ。そしてオオカミ座系にある惑星ジャグジャグまで飛び始めた。

 

 

~~小鳥~

 日本海溝4000メートル。佐々木琥太郎(ささきこたろう)君

「凄い!発光プランクトンがこの深度でも光ってる!」

 

「あぁ。生息域をさらに深いところまで移したんだろうな」

 

 私達の乗る潜水艦はさらに深いところまで潜っていく。そしてつい最近発見されたという古代文明の遺跡がある場所へとたどり着いた。

「どうしてこんな深海に遺跡があるのかな?」

 

「やっぱり地殻変動で島ごと沈んでしまったと考えるのが自然だと思うぞ」

 

 潜水艦は前へと進んでいくと海底神殿というべき場所を発見した。

「ねぇ、あれを見て」

 

海底神殿の最上階に祀られていた宝箱らしきものが潜水艦の振動のせいかいきなり蓋が砕けてしまう。

「歴史的大発見だったのに・・」

 

 老朽化や長く海水に浸かっていたという要因もあるとはいえ、せっかくの歴史的大発見のものが壊れてしまったことにがっかりしていると・・・

「あれは何だろう?」

 

 宝箱の中から何かが出てきた。あれは・・・種?

「とにかく回収しないと」

 

 潜水艦のアームを操作して慎重に種を回収しようとする。しかしアームの力が強すぎたこともあり種の3分の1ほどが欠けてしまった。

「あっちゃ~。結構アームの力を弱く設定してるのに」

 

 慣れないことはするものじゃないかも。

 

 

~~カガリ~

 

『我が名はサイキ。Drサイキ。女王を差し出せ。さもなくば宇宙悪魔ベゼルブを使わせ、命の樹を破壊する』

 

 この星、王立惑星カノンにはDrサイキと名乗る男から私カガリを差し出せという強迫について緊急の会議が開かれていた。

「宇宙悪魔ベゼルブ。・・・命の樹・・」

 

「すべての命を生み出した聖なる樹。それを失えばこの星が滅びます」

 

「だからといって女王陛下を差し出せるわけがない」

 

 防衛将軍のライゴウの言葉に近衛隊長のエサカが意見する。

「サイキというものは何者ですか?」

 

「何者であろうがこの者は本気です」

 

 ライゴウは部下にホログラムを表示させる。

「カノンの衛星軌道上に宇宙悪魔ベゼルブの群れが周回しております」

 

「ベゼルブ・・・」

 

 どうやら狂言ではないのは確かなようで・・・私は神話が語られる絵へと視線を向ける。

「神話の再現なら、宇宙悪魔を駆逐します」

 

「再現ではなく覆そうとしているのです。戦神を倒せる勝算があるからあえて女王に戦いを挑んできた。そう考えるのが妥当かと・・・」

 

「私の命が狙いなら、何故私を直接ベゼルブに襲わせないの?」

 

「何か裏があるのです」

 

「表も裏も関係なしに先制攻撃を仕掛けるべきです」

 

 相手が何故私を直接狙わないのか・・。裏があると予想するエサカをよそにライゴウは先制攻撃を提案してくる。

「戦争が・・・始まるのですか」

 

 できれば争いたくはない。

「・・・戦争は嫌です。親が子を残して死んでしまうようなことは絶対に嫌です」

 

「平和的に解決する策はきっとあります」

 

「では聞くが、何か策はあるのか?」

 

 ライゴウの問いかけにエサカは口を閉ざしてしまう。

「無いようなら私の策を・・・。直ちにサイキの基地がある無人惑星ザインに我が軍を送り込み、先制攻撃をかけるのです。いくらベゼルブがいるとはいえ拠点へと乗り込んでしまえば敵は科学者1人。行く道のみ少々厄介ですが、あとは容易いはずです」

 

「女王を最前線に立たせるおつもりですか!」

 

「そのための王家の血ではありませんか?」

 

 その策にエサカは反論するも、ライゴウはそのための王家と言い返した。王家は代々この星を守る象徴とされてきた存在。こう言われてしまうのも当然なのかもしれない。

「将軍、私は戦神になるつもりなどありません」

 

 

~~ジャグラー~

 

「ようこそオオカミ座系銀河へって看板はないのかよ」

 

 ゲートを潜り抜けて別の宇宙へと到着したガイはまた馬鹿なことを言い出す。

「まさか本当に看板を期待してたのか?」

 

 この馬鹿のことだから本当に期待していたのかもしれない。

「いや流石に俺もそこまで・・っ!?聞こえる・・ッ」

 

 何かに気づいたガイはいきなり進路を変え始める。

「おい、何処へ行く気だ?」

 

 ガイは説明も無しに惑星ジャグジャグへと着陸する。そこは民族の家が複数あるぐらいの場所だった。

「悲鳴が聞こえた。・・・ような気がした」

 

「気がしたとは何だ!カンで動くな。宇宙で悲鳴が聞こえるわけがない」

 

 俺の注意をよそにガイは民家へと歩いていく。

「救助隊にいた頃、聞こえないはずの悲鳴を何度も耳にした。悲鳴は音じゃない。心から心への救難信号なんだ」

 

 民家の中を確認してみると・・・そこには子供の獣人が1人倒れていた。

「おい、大丈夫か?」

 

 ガイはまず救護の基本である意識の確認をするも、意識はないようだ。

「ッ・・・」

 

 続けて耳をその胸に当て心臓の鼓動の確認をする。どうやら心臓も止まってしまっていたようで、ガイはすぐさま心臓マッサージを始めた。

「しかし何故心肺停止の子供が倒れているんだ?」

 

 病気などで倒れたというのならガイが聞こえたという悲鳴などは叫ばれないはずだ。そう思った俺は民家の中を確認する。

「壁に穴が・・」

 

 壁にはこの獣人の子供が突き抜けてきたかのような穴があった。まるで何者かにこの子供が投げ飛ばされてきたかのようだ。

「っ!!」

 

 近寄ってきた気配に気がついた俺は即座に防御の構えを取ると・・・5人ものオオカミ獣人が一斉に襲い掛かって来た。

「この辺りの民家の奴らか・・」

 

 民家なくせに人気がないことは気づいていたが・・・こいつ等は何かに操られているな。

「ハッ!」

 

 オオカミ獣人は身体能力が高く、鋭い爪による攻撃は俺の体を貫くことも可能だろう。それに何者かに操られているせいで連携が取れている。この場合1人の攻撃を避けようとすると他の奴の攻撃を受けかねないな。

「まだガイも子供の処置を終えていない。ここはこいつ等の注意を俺に惹きつけつつ、攻撃を受け流すのが最善だな」

 

 操られているというのならその元を断てば洗脳は解けるはずだ。

「ヌンッ」

 

 左肘で1人のオオカミ獣人の貫手を弾きつつ、反対側から攻めてくるもう1人のオオカミ獣人の噛みつきを顎の下を叩く形で止める。もし舌を噛んでいたらそれは自己責任だ。

「戻って来い!!」

 

「かはっ・・」

 

 ガイの心臓マッサージにより子供が蘇生したようだ。すると子供は慌てて起き上がりこちらへと視線を向けた。

「父さん!母さん!」

 

「何っ!?」

 

 正直どれも似たような見た目なので誰があいつの親なのかは分からないが・・・この5人のうちの2人はあいつの親のようだ。

「ジャグラー!なるべく怪我をさせないように頼む!」

 

「まったく・・面倒な注文をしてくれる」

 

 まぁ、言われずともそうはしているがな。

「っ!!」

 

 頭上を何か大きいのが横切った気がしたので俺は咄嗟に後ろへと下がると・・・黒く大きい虫のような怪獣が2人のオオカミ獣人を潰しつつ着地した。

「宇宙悪魔ベゼルブか・・」

 

 今回俺達に与えられたミッション。その過程で倒すべき相手の一匹に出会うとは幸先がいいのか悪いのか。

「なるほど。こいつ等がこうなっているのは貴様の仕業というわけか」

 

 宇宙悪魔ベゼルブは尻尾の先端にある毒針からクグツという毒を注入することができる怪獣だ。そのクグツを注入された相手は意思を奪われて支配されてしまう。ここの連中はこいつにその毒を刺されたのだろう。

「ッ!!」

 

 ガイはオーブカリバーを空へと掲げると光とともにウルトラマンオーブへと姿を変える。しかしその大きさは話に聞く他のウルトラマンの5分の1ほどだった。

「ガイの奴、気合いが足りないんだよ・・」

 

  小さめとはいえベゼルブと同サイズなだけマシか。

「奴の尻尾に気を付けろ!それには相手を操ることができる毒がある!」

 

「・・・ッ」

 

 俺の言葉に頷いたオーブはベゼルブの尻尾を回避しつつ、その背後へと回り込む。

「デュァッ!!」

 

 そしてオーブは腕を十字に重ね合わせ水色に輝く光線を放つも・・・その光線の勢いにたじろいでしまい、光線はベゼルブではないあらぬ方向へと向かってしまった。

「馬鹿が!!なんて戦い方をしている!それでもウルトラマンか!」

 

 まるでなっていないな。仕方ない。

「腰を安定させろ!」

 

 俺の指示に頷いたオーブは少し中腰になり再び腕を十字に重ねる。その十字の先はしっかりとベゼルブに向いている。

「デュァッ!」

 

 再び放たれた光線はしっかりとベゼルブへと直撃する。倒すまでとはいかなかったが、腕の爪を破壊するぐらいのダメージは与えられた。

「よしっ!」

 

 俺が喜んだのもつかの間、ベゼルブは赤い光弾を放って反撃をしてきた。

「っ!?」

 

 油断していたオーブはその一撃をまともに受けてしまい背中から倒れてしまうと、胸のタイマーを赤く点滅させながら身体から光が抜け出てしまい、光の戦士としての姿ではなくガイへと戻ってしまった。

「かはっ!?」

 

 オーブを撃退したと認識した様子のベゼルブは空へと飛び上がり何処かへと飛んでいく。難は逃れた・・とは言い辛いな。

 

 

 

~~エサカ~

 

「あのような小娘が我らの最終兵器とは・・」

 

 将軍の小言がドアの向こうから聞こえてくる。私に聞こえているということは私の目の前にいるカガリ様にもその声が聞こえているということだ。

「・・・それでは・・」

 

「待ってください」

 

 私は将軍を注意するためにこの場を去ろうとすると、カガリ様は1つの種を取り出してくる。

「王家に伝わる魔除けです」

 

「何故自分に?」

 

「あなたにお願いがあります。交渉をお願いしたいのです。まずは話し合いをしなければ・・・本当に戦争になってしまってはならないのです」

 

「・・・承知致しました」

 

 こうして私はカガリ様の命を受けてサイキの基地がある惑星ザインへと向かった。すると無人惑星にも関わらずまるで工業地帯のような大きな施設を発見した。

「いや・・。技術開発だけではないな・・」

 

 暗くて分かりにくかったが・・・良く見るとあちこちに大小様々な大きさの宇宙悪魔ベゼルブがいる。まるで玉座のようにそびえたつ山の上には一匹だけ形の違うベゼルブがいた。もしかすればあれがベゼルブの親玉であるクイーンベゼルブなのかもしれない。クイーンベゼルブさえ撃破できれば事を終息に導ける可能性もあるが・・・この飛行船に搭載されている武装ではベゼルブ達に阻まれてクイーンベゼルブに近づくことしらままならないだろう。小さい個体なら問題ないだろうが大きい個体となると私1人ではせいぜい1~2体が限度だ。

「やはりまずは話し合いを最優先にせねば・・」

 

 もしこの数のベゼルブが一斉に惑星カノンを襲撃したとなると、とても近衛も含めた我が軍では敵わない。そう思いつつも私はそびえたつ塔の内部へと入っていく。

『ようこそ!近衛隊長エサカさん!』

 

 すぐ近くから聞こえた声に私はすぐさま刀を抜こうとする。するとそこには私の膝まで程度であろうサイズの小型ロボットが宙に浮かんでいた。

『わっとっと・・。驚いたぁ』

 

 私の刀の威圧に驚いた反応をしたそのロボットは空中で回転しながら作業台の上に着地する。

「君の星の女王様は賢いね。争いをするよりも対話を選択したんだからさ」

 

 椅子を180度回転させてこちらを振り向いた男は私にそう話しかけてくる。回線越しではなく直接顔を確認したことは初めてだったな。この男がDrサイキか。

「知的生命体だなんていいながら、結局は争い出す野蛮人とは大違いだ」

 

「いきなり他所の星を攻撃するあなたは野蛮ではないと?」

 

 私はそうサイキに尋ねてみると・・・サイキはいきなり笑い始めた。

「フハハハハッ!面白いことを言うねぇ。私が野蛮だと思われるなんて、中々面白いジョークだ!」

 

 サイキは面白いものを聞かせてもらったとでもいうようにロボットともに拍手をする。

「では面白いものを見せて上がるよ」

 

 パネルにサイキが手をかざすと頭上にホログラムのモニターが浮かび上がる。そこには先ほど見かけたクイーンベゼルブとそれに操られてる怪獣たちが映された。

「よっと・・お待たせクイーン」

 

 そしてサイキは自身の頭に何らかの機械をつけ、画面に映るクイーンに話しかけると・・・クイーンベゼルブはそれに返事をするように反応を示した。するとクイーンベゼルブは近くにいたベゼルブに何らかの命令を下す。命令をされた2匹のベゼルブは飛び上がるとそれぞれ少し離れたところにいた怪獣を刺してクグツを注入した。

「これは怪獣たちに注入されたクグツ濃度だ。あの怪獣は今クグツでベゼルブに支配されている。でだ、あのベゼルブはクイーンの支配下だ。そして私はクイーンに指示を出せる。どういうことか分かる?」

 

「・・・クイーンに命令すれば毒を打たれたすべての生き物を操れる」

 

『よくできました』

 

 サイキと小さなロボットはまるで小馬鹿にするかのように拍手をしてくる。

「それじゃクイーン。始めてくれる?」

 

 クイーンベゼルブはサイキの指示でベゼルブへと命令すると、そのベゼルブ達が怪獣たちを操り出し・・・その怪獣たちがいきなり争い始めた。

「いったい何を・・?」

 

 何をさせているのか分からないでいると、一匹の怪獣が争いに敗れる。

「これを見て。勝ったほうの怪獣の濃度がグッと上昇するんだ。そしてそのパワーがベゼルブを経由して最終的にクイーンへと送られる」

 

「クグツ濃度を高めてどうする?」

 

「クイーンのパワーを高めて、クグツを全宇宙に広めるのさ!」

 

「毒の力で宇宙を支配するのか!!」

 

「・・・まるで悪いことみたいだね。君だって女王様に支配されているのに」

 

 こいつ、あろうことかカガリ様まで侮辱を・・・。

「私はカガリ様に操られているわけではない」

 

「そうかな?エサカ君達も既に別の毒で操られているんだよ。自分達の星を愛する心、女王様への忠誠心」

 

 この男。それをクグツと同じ毒だと言うのか・・。私はこの男と話し合いなど不可能だと考えて刀を抜こうとすると、サイキは両手を挙げながら私から距離を取る。

「私達が実現しようとしているのは争いのない平和な宇宙の創造だ。それは悪いことかな?」

 

 サイキは自分の理想を平和な宇宙の創造だと語り・・・私はますますこの男が理解できなくなった。

 

 

 

~~ジャグラー~

 

「よし、これでもう大丈夫だ」

 

「・・・ありがとう」

 

 ガイがオオカミ獣人の子供の手当てを終える。子供は潰された1人が親だったらしく、ショックで落ち込んでいる。

「むっ・・・」

 

「地震か?」

 

 突然大地が揺れ始める。ガイは地震だと思ったようで子供とともにしゃがみ込むが・・・これは地震などではない。

「下だ!離れろ!!」

 

 俺は2人に離れるように告げると・・・先ほどのベゼルブが地面の下から出てきた。

「どうやら俺達に気づいて、戻って来たらしいな」

 

「ジャグラー!頼む!」

 

 ガイは俺にオオカミ獣人の子供を任せるとオーブカリバーを空へと掲げて再びウルトラマンオーブへと変身する。

「デュァ!」

 

 オーブが出現したことに気づいたベゼルブは光弾を放ってくると、オーブは横に跳んでそれを避ける。するとベゼルブは低空飛行でオーブへと体当たりをすると背後から毒針を刺そうと迫って来た。

「シュァっ!」

 

 あろうことかあの馬鹿は真正面から戦おうと駆け出す。

「真正面から突っ込むな!下に潜り込め!」

 

「っ!!」

 

 その指示でオーブは毒針を受ける寸前にベゼルブの下に滑り込み、そのまま光線を放つ。光線はベゼルブを引き裂くように浴びせられ、オーブを通り過ぎたベゼルブは空中へと上がると同時に爆発する。

「・・・・」

 

 戦いを終えたガイは元の姿へと戻ると潰された2人とベゼルブの支配は解かれたが毒に耐えられず命を落とした他のオオカミ獣人たちを地面へと埋めて墓を建てた。

「もう誰もこんな悲しい目にはあわせない。・・・ごめん」

 

 ガイは墓の前で泣きじゃくる子供に謝る。

「今はこんなことしか言えない・・」

 

 そんな達成できない約束など言うな。そんな約束気休めにもならない。そうは思ったが・・・今は言わないでおいてやることにした。

 




 こちらは2週間に1話のペースで進めるつもりです。


次回「波乱」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

波乱

毎回ではないですがこちらも隠しサブタイトルがあります。


~~エサカ~

 

「クイーンが泣いてる。・・・何処かで彼女の子供が死んだ」

 

 クイーンベゼルブと意思疎通のできるサイキは何処かでベゼルブが倒されたことに悲しみ出す。

「悲劇はもう沢山だ!そのためにはどうしてもカガリちゃんの協力が必要なんだよエサカ君!」

 

「残念ながら女王は協力しない。私がさせん」

 

「でも君の女王様も平和な世界を望んでいるんじゃないのかい?」

 

「心の底からお望みだ。しかし私は貴様を殺すためにここに赴いた。既にこの部屋にやってくるまでに爆弾を仕掛けてきた。これが起爆装置だ」

 

 私は起爆装置をサイキへと見せる。

「脅しているつもりだったのに・・・私が脅されているとは」

 

「失望させて悪いが私は野蛮なんだ」

 

 起爆装置のスイッチを押して爆弾を起動させようとすると・・・

「待って待って!ちょっと待って!・・・私がこう言ったら殺さないでくれる?『譲歩する』って。反省して譲歩している人をそれでも殺すのかい?」

 

 サイキは命乞いをしてスイッチを押すのをストップするように言ってきた。

「それが『戦わずに対話を』と言う女王様への忠誠心かい?」

 

 こいつ、会議を盗聴していたのか。

「エサカ君。女王様をしっかり守ってね。君の大事な女王様は私にとっても大事な・・・大事な女王様だからね」

 

 

 

~~カガリ~

 

 昼の会議から少し時間が経ちすっかり空も暗くなってきた頃、私は城を抜け出して命の樹の根元へと1人歩いていた。すると一組の親子が根元の近くにいたことに気がついた。

「ねぇお母さん。怪獣たちが来て命の樹が壊されちゃうの?」

 

 1人の幼子が母親にそう尋ねる。

「大丈夫よ。きっと女王様が戦神になって守ってくださるわ」

 

 どうやら私は民達にも戦神として戦うことを望まれているようですね・・。

「さぁ、もう暗くなってきたから帰りましょう」

 

「うん!」

 

 親子が根元の近くから去っていくのを見届けた私は命の樹を見上げました。

「私はいったいどうすれば・・・」

 

 戦神にはなりなくない。けれど民達は私が戦神として戦ってくれることを望んでいる。私はどうしたらいいのかわからなくなり命の樹に触れると・・・不思議な世界にいる1人の青年の姿が見えた。

「・・・貴方は?」

 

 

~~琥太郎~

 

「やっぱりこれ・・・種っぽいよな」

 

 大学へと戻った俺達は海底神殿で発見した種らしきものを研究室で分析を始めようとしていた。

「これ、どんな肌触りなんだろ?」

 

「琥太郎君。細菌とかもありそうだし、素手で触るのは危ないと思うよ」

 

「殺菌処理して運んだから大丈夫だって」

 

 殺菌処理してからケースにしまわれたので細菌に関しては問題ないと思い、俺は種に触れてみる。

『・・・貴方は?』

 

「君は・・・?」

 

 すると何処か分からない場所の光景が見え・・・そこにいた1人の少女もこちらの光景と俺の姿が見えたようだった。

「どうしたの琥太郎君?ねぇ、大丈夫?・・・えっ、なんかこれもしかして本当に・・・ねぇ!しっかりして琥太郎君!!」

 

「っ!!」

 

 小鳥の問いかけでこちらに意識が戻った俺は種から手を離す。

「いったい今のは・・・?」

 

 

~~ガイ~

 

「できない約束などするな。誰も犠牲を出さない戦いをするなど不可能だ」

 

 未だに泣いている子供から離れると俺はジャグラーにそう注意された。

「不可能って言葉は諦めたものの言い訳だ・・」

 

「限界はある。思いでどうこうできない限界がな」

 

 俺より強いジャグラーですら思いでどうにもできない限界がある。

「・・・お前が正しいんだよ。きっと・・。だけど理想を追いかけては駄目か?」

 

「駄目ではない・・が愚かだ」

 

 随分とはっきり言ってくれる。

「お利口になれそうはない・・」

 

 そうジャグラーに言い残した俺はオオカミ獣人の子供のところへと戻るとせめてもの手向けとして亡くなった彼らの墓の前でハーモニカを取り出し、俺の故郷の曲を奏でた。

 

 

~~ライゴウ~

 

「近衛隊長が邪魔だと・・・?」

 

「はい。エサカは女王様が戦神になられることに賛同しないでしょう」

 

「父親か何かのつもりだろう。思い上がるのも華華しい」

 

 私と部下はそんな会話をしながら歩いていると命の樹を眺めていた我は妻を見かけた。

「私はこれで・・・」

 

 察してくれた部下は一礼してからこの場を去っていく。

「あの樹は大丈夫ですよね?」

 

「脅迫のことなら心配いらない。対処している」

 

妻にそう告げると・・・サイキのいる惑星から戻って来たであろうエサカの飛行船が着陸するのが見えた。

「怖い顔をしていますよ」

 

「・・・あぁ。いつの間にかこういう顔が素になってしまってたのかもしれんな」

 

 俺は自分の顔を少し揉んだ後で妻の大きくなりつつある腹部に触れる。

「行かないと。あの樹を守らねばならない。生まれてくる子供のためにも・・・」

 

 妻と生まれてくる子供を・・・そしてこの地に住む民を守るためになら私はどんなことでもしてみせる。

 

 

 

~~エサカ~

 

「サイキはやはり恐ろしい人でしたか?」

 

 王宮へと戻るとカガリ様はサイキの印象を訪ねてきた。

「いえ・・・」

 

 私はサイキとの一連の出来事をカガリ様に話した。

「・・・他人を操り、支配することがどうして宇宙の平和という話になるのですか?」

 

「私もそのことを尋ねると『他人を妬み、恨み、攻撃する。そんなことを飽きもせず繰り返す宇宙の方がいいのか?』と逆に尋ねられました」

 

「毒で他人を従えるよりマシです」

 

 カガリ様は私と同じことを言う。

「私も同じことを言い返しました。するとサイキは『クグツは毒じゃない。逆、天使の贈り物さ』と・・・」

 

「彼の話が本当だとして・・・どうして彼の計画に私が必要になるのです?」

 

「欲しいのはカガリ様ではなく、そのお身体を流れる王家の血です。何故必要なのかは女王陛下、貴方自身がお分かりのはずだと・・・心当たりは?」

 

 おそらくは戦神だと思う。カガリ様もその事を悟りつつ戦神の絵に視線を向けつつも首を横に振った。

「サイキはカガリ様の血を一滴差し出せばベゼルブを引き上げさせる。そう言っていました」

 

 私はそう言いながらサイキが渡してきた血液採取の道具を取り出す。

「・・・それに従えば戦うことなく平和が戻る。民のためなら・・・この血の一滴で平和が保てるなら・・」

 

 カガリ様はそう自分に言い聞かせながらその道具に手を伸ばそうとする。

「お待ちください!」

 

 私はそれを止めた。

「っ・・・サイキに従うべきだと言いたいのではないのですか?」

 

「私の意見はカガリ様をどうすればお守りできるか・・・それだけです」

 

「これは私が決断すべきことです。女王としてこの星をどうするべきか私が判断します」

 

 そう言ったカガリ様は道具を手に取る。

「私は悪魔が操る楽園で暮らしたいとは思いません。他人が作った平和など信じない!」

 

 カガリ様はそう言いながら道具を私に突き返してきた。カガリ様の決断を理解した私は一礼をしてその場を出ていくと側近のルチアとシズルがやってきた。

「ご無事で何よりです隊長」

 

「あぁ。心配をかけたな」

 

 私は単身敵地である惑星に乗り込んだことを謝ると将軍が通りすがる。

「・・・礼を忘れているぞ」

 

「・・・・」

 

 将軍に言われてしぶしぶ礼をすると・・将軍は嫌味たらしく去っていった。この時、私は将軍を疑っておくべきかもしれなかった。

 

 

~~琥太郎~

 

 俺が種に触れてしまった翌日。俺は植物を専門としている助教に種のレントゲンを見せてもらっていた。

「これってやっぱり植物の種・・・ですよね?」

 

「うん。種皮、胚乳。ここが胚だから間違いないだろうね。それとこれが炭素年代測定の結果だよ」

 

「「えっ!?」」

 

 助教から年代測定の結果を見せてもらった俺と小鳥は驚きの声を挙げてしまう。これは紀元前よりももっと前の遺物だったからだ。

「コタさんや、これ本当に超古代文明の遺物だったのですね」

 

「お、おう。そうですね」

 

 俺達は驚きのあまり会話がぎこちなくなりながらも更に別の結果も確認すると・・・この種はまだ生きているという結果も記されていて、更に驚いた。

「しっかしこれだけデカい種。どれだけの大きさに育つのですかねぇ。どう思いますコタさん?」

 

「種のサイズ的に300メートルぐらいだと思うぜ」

 

「いいや、ありえない。地球上で一番大きい植物でも115メートルだぞ」

 

 地球上で・・・か。

「これが地球上の樹じゃない・・そんな気がするんだ」

 

「樹の種だけに、そんな気がすると?」

 

「ギャグじゃねぇよ!?」

 

 人の考察をギャグ扱いしないでくれますかね。

 

~~カガリ~

 

「やはり争うしかないのでしょうか」

 

 私は自室で1人悩みながらペンダントを開きました。私のお母様と私が一緒に写る写真を・・・。

「お母様・・」

 

 お母様は私がまだ幼き頃、戦神としてこの星を守るため魔獣と戦い・・・刺し違える形で命を落とした。だからこそ戦うのが怖いのだ。

「っ・・・」

 

 誰かが近づいてくる足音が聞こえたので私は部屋の明かりを消して物陰に隠れた。すると扉が開かれて入って来たのは近衛の・・・エサカと思わしき人影だった。

「待て。そこで何をしている?」

 

 近衛のルチアが駆けつけるとその人影に刀を向ける。その後ろにいたシズルも銃を構えようとすると、その人影は2人を押し倒して部屋から駆け足で出て行った。

「カガリ様!ご無事で・・・これは?」

 

 そんな中、事態に気づき駆けつけてきたライゴウは足元に落ちていた何かを拾い上げる。それはエサカに突き返した血液採取の道具だった。

 

 

~~ルチア~

 

「あの服、隊長だったように見えた・・」

 

「あぁ。だけどまだ確証がない」

 

 私達は隊長のように見えた人影を追いかけて走っていると・・・別の近衛が反対側から走って来た。

「隊長を見なかったか?」

 

「大変だ!その隊長が防衛隊に捕まってしまったんだ。なんでも女王様暗殺未遂容疑でな、スザークで逃亡しようとしてたところを確保されたんだ」

 

 スザーク・・。隊長の専用機で何処かに行こうとしていたなんて・・。

「隊長が・・隊長がそんなことをするわけない!」

 

「落ち着けシズル」

 

 シズルは説明してくれた近衛に掴みかかる。信じられない気持ちは・・・私も同じだった。

 

 

 

~~ジャグラー~

 

 ベゼルブの戦闘の翌日、ガイはオオカミ獣人の子供を背負って何処かへと向かい出したので俺も渋々それに付いていくことにした。

「どうするつもりだ?」

 

「この子の面倒をみてくれる人を探す」

 

 またこいつは・・・。

「目の前しか視ないから先を読んだ戦いができない」

 

「だからサポートがいるんだろ」

 

「助言を無視するお前にサポートが必要か?」

 

 戦闘だけではない。本来ならこれ以上関わらないで置いてやるのがそいつのためにもなると言うのに・・・まだ関わろうとするとは。

「あそこならこの子の面倒をみてくれる人がいるかもな」

 

 しばらく歩いているとようやく1つの村を発見した。だがこの村、まるで人の気配がないな。

「よしさっそく・・・」

 

「いや、待て。何か様子がおかしい」

 

 俺はさっそく村へと駆け出そうとするガイを静止させる。人の気配はしないのに妙な気配がする。

「磁場の乱れか?」

 

「ッ!!」

 

「おいッ!だから助言は聞けと・・・」

 

 またも助言を聞かないガイは村へと駆け出していく。俺も仕方ないのでその後を追いかけると・・・やはり村は静かすぎた。

「静かすぎる・・」

 

「その言葉、禁句にしようぜ。そんな言葉を言うと必ず良くないことが起きる」

 

 ガイがそう言った矢先、何処からか大きな圧迫感を感じた。

「何かいる・・ッ!」

 

 俺は刀に手を伸ばしながら周囲を確認する。

「まさかまた下から・・」

 

「いいや・・・上だ!」

 

 足元の影に気づき、上を見上げると・・・そこにはベゼルブとは違う怪獣が俺達の真上を飛んでいた。

「ほら、お前が変なこと言うからだ」

 

「そんなこと関係ないだろ!・・・とにかくここにいたらマズイ」

 

 俺達は一旦物陰に隠れる。すると怪獣は地面へと着地した。

「前よりデカいな・・」

 

 怪獣は昨日のベゼルブの5倍近くはありそうな大きさだった。

「気合いを入れて変身しろ。そうすれば同じ大きさで戦えるはずだ」

 

 本来のウルトラマンはあれぐらいのサイズと聞く。ならばガイもあれぐらいの大きさになれるはずだ。

「この子を頼む。住民はたぶんあの建物だ」

 

「カンでモノを言うな!」

 

 ガイは村の奥にある少し大きめの建物を指差すと1人前へと出ていく。そして怪獣の前に立ちオーブカリバーを掲げると光とともにオーブとしての姿に変わる。

「・・・シュァ!」

 

 前回と同じ大きさだったオーブは光とともに更に大きさを変化させると怪獣と同じ大きさとなる。これならあの怪獣と戦えるはずだ。

「よしっ・・」

 

 俺は子供を連れてガイの指差した場所へと向かってみると・・・本当に住民たちの数人がいた。

「直感恐るべしだな・・」

 

 住民たちに子供を預けた俺はすぐさま建物を出る。

「オオォォォ・・セイッ!」

 

 オーブは怪獣に蹴りを入れると、怪獣は反撃と言わんばかりにオーブに飛びかかってくる。

「ダァッ・・デュァ!!」

 

 怪獣の頭を押さえつつ後ろに跳び下がったオーブは腕を十字に重ねて光線を放つと・・・怪獣は腹部からその光線を吸収してしまった。

「っ!!・・・シュゥワァッ!!」

 

 何が起きたのか理解しきれていないオーブはあろうことかもう1度光線を放つ。すると怪獣は光線を吸収せずに飛び上がり、そのまま低空飛行でオーブへと体当たりを仕掛けてきた。

「ダァっ!?・・・デュゥワッ!!」

 

 その体当たりを避けきれなかったオーブは何とか持ち堪えると飛んでいる怪獣に対してまたも光線を放つが、それは怪獣に当たらなかった。

「もっとしっかり狙え!エネルギーを消耗するだけだぞ」

 

 腹部以外に当たれば何とかなりそうなものを・・・あの馬鹿は怪獣にまともなダメージを与えることはないまま胸のタイマーを赤く点滅させ始めてしまう。

「ヌゥ・・・」

 

 オーブはタイマーの点滅が早くなり始めたことを気にし出してしまう。戦いの最中に敵から意識を削ぐとは・・。

「おい!ちゃんとあの怪獣を見ろ!!」

 

「デュァぁっ!?」

 

 怪獣を見ていなかったオーブは怪獣が放ってきた光弾に反応しきれずに直撃して倒れてしまう。

「がはっ!?」

 

 その一撃でオーブはガイへと戻ってしまうと・・・怪獣は空へと飛び去っていく。

「くっ・・・」

 

 俺はすぐさまガイの元へと駆け出すと、起き上がったガイはあの怪獣を追いかけようとオーブカリバーを取り出す。

「何で毎回取り逃がすんだ」

 

「ごめん。でも絶対捕まえるから」

 

「深追いは危険だ。罠だったらどうする?」

 

「その時はその時だ」

 

 オーブカリバーから放たれた光に包まれた俺達は怪獣を追うために宇宙へと飛び上がった。

 

 

~~カガリ~

 

「・・・それと最後にもう1つ。注射針からはクグツの毒が検出された・・・ようです」

 

 自分達の隊長がそんなことをするなんて信じたくない。そんな顔をしているシズルは血液採取の道具の中に入っていた注射針にクグツの毒があったことを伝えてくれた。

「エサカが私に毒を・・・」

 

 もちろん私も信じられなかった。父のように・・兄のように私を支えてくれたあの人が何故・・。

「ご報告します。エサカ隊長は女王暗殺未遂容疑で裁かれるまでの期間、監獄惑星にてその身柄が拘束されることが決定致しました」

 

 近衛の1人がエサカのことで決定したことを報告しにきた。

「彼にまだ会えますか?」

 

「いえ・・。既に護送船が出てしまい・・・」

 

 もうエサカは出てしまったのですか。

「失礼します。・・・シズル、ルチア。スザークへと向かえ。将軍からの緊急招集だ」

 

 

 

~~ルチア~

 

「エサカは護送船の脱出ポットを使い逃亡を図った。お前達の隊長は今や逃亡犯だ」

 

 どうやら隊長は護送船から逃げ出したようだ。

「隊長が逃げ出すようなこと・・・考えられない」

 

「カガリ様を暗殺しようとすることもな。・・・エサカを追え!絶対に逃がすな!」

 

 こうして私とシズルはスザークで隊長を追うため宇宙へと飛んだ。

 

 

 

~~ジャグラー~

 

「あの怪獣、何処に行った?」

 

 怪獣を追いかけて宇宙を飛んでいた俺達は大量の小惑星のせいでその姿を見失っていた。

「油断するな。気配はある」

 

 気配はかなり近い。近くにいることは間違いないはずだ。

「「っ!!」」

 

 近くの大きめの小惑星、その裏側から飛行船が飛ぶ音と怪獣の鳴き声が聞こえた。俺達は急いでそれらが聞こえてきた場所へと飛んでいくと、怪獣の吸収能力によって吸い込まれそうになっている飛行船が必死に抵抗している光景があった。

「逃げながらお食事かよ!腹ペコはこっちも同じだぞ!」

 

「怒りの方向が違うだろ。俺は船を助ける」

 

「頼む!」

 

 俺達は飛行船の中に入り込もうとすると・・・小惑星の破片が飛行船にぶつかってしまう。嫌な予感がしたので飛行船の中に入ってすぐにパイロットを確認すると、今の破片のせいでパイロットの2人が気を失っていた。

「特に怪我はない。さっきの衝撃で気を失ってるだけだ」

 

「分かってるからとっとと行け」

 

 ガイはすぐさまオーブカリバーを船の外へと向けて怪獣と同じサイズのオーブへと姿を変える。そして船と怪獣の間に割って入り、吸収しようとする勢いを阻んでくれた隙に俺は船を怪獣から遠ざけた。

「シュゥゥワ!!」

 

 オーブは怪獣の真正面から光線を放つと・・・その光線は怪獣の腹部へと吸収されてしまう。

「無駄だ!少しは学習しろ!」

 

 奴に真正面から光線を撃っても意味がないというのに・・。これではまたエネルギーを切らすぞ。

「っ・・。知らない男がいる」

 

「船を乗っ取られてしまったのか!?」

 

 目が覚めた2人はどうやら俺に船が乗っ取られたと思っているらしい。

「これでも助けようとしている・・」

 

 俺は2人にそう告げつつもオーブと怪獣の戦いへと視線を向ける。

「シャァッ!」

 

 まだ戦い慣れしていないオーブは「光線が効かないならどうやって倒せばいい」とでもいうかのように戸惑っていると、そんなのはお構いなしに怪獣はオーブを攻撃してくる。

「あの馬鹿・・何やっている・・」

 

「おい!前を見ろ!」

 

「しまった!?」

 

 戦いを見ていたせいで運転がおろそかになり小惑星にぶつかりそうになってしまう。俺としたことがこんなミスをしてしまうとは・・・。

「っ!!」

 

 すると左側の運転席に座っていた女がスイッチを押して目の前の小惑星に攻撃を浴びせ、ギリギリのところでそれを破壊してくれた。

「よしっ。これで・・・」

 

「追い馬鹿、まだ離すな!」

 

 何とかぶつかるのは回避できたがまだ小惑星はある。これを避けつつオーブへと近づかねば・・。

「わき見運転注意」

 

「すまん・・」

 

 左側に座っていた女に注意を受けながらも俺は小惑星を避けながら進んでいく。

「ほぅ。凄いな・・」

 

「ルチアが褒めるなんて珍しい」

 

「褒められても何もでないぞ」

 

「ルチアは操縦は宇宙で一番って思っている」

 

 宇宙で一番とは大きく出たな。だが悪いことではない。

「自分を信じるのは大事なことだ。自分を信じない奴は何をやっても上手くいかない」

 

「ところで・・・怪獣と戦ってるあの巨人はお前の友達か?」

 

 相方にルチアと呼ばれている女はオーブを俺の友達かと尋ねてくる。

「いや・・・」

 

「違うのか?ちなみに私達のところの女王様も巨人になれる」

 

「なんだと!」

 

 さらっと言われたことに驚いてしまうと・・・

「前方不注意!」

 

「ぬっ・・ぐぁ!?」

 

 またもわき見運転となってしまい小惑星にぶつかってしまい、回転しながら別の小惑星にぶつかりそうになってしまった。

「ぐぅぅぅ・・・」

 

 俺は何とか持ち直そうとするも勢いは殺しきれず衝撃に備えようとすると・・・思ったほど衝撃はなかった。

「・・・・・」

 

 オーブがこの船をキャッチしてくれたからだ。

「・・・っ」

 

 俺が頷くとオーブは船をゆっくりと下に降ろす。すると周囲の小惑星の破片が怪獣へと吸われ始めた。

「このままじゃ船も・・・とっとと決めろ!」

 

「デュゥゥゥ・・・」

 

 オーブは全身を発光させて光によるコーティングをすると自ら怪獣の腹部へと突っ込んでいく。するとオーブは怪獣に吸収された。

「食べられた!?」

 

「問題ない」

 

「オォォォリャァァァ!!」

 

 怪獣の腹部を突き破り背中からオーブが出てくる。怪獣は状況が読み込めないまま周囲を見渡すとようやく自身の腹部を貫通していることに気がつき、そのまま爆発した。

「まったく・・・時間かけ過ぎだ」

 

「お前の友達も凄いな!」

 

「聞いてなかったのか?あいつは友達じゃなく・・・」

 

「友達じゃなくても相棒ではある。そうだろ?」

 

 俺はガイが相棒だという問いかけに言葉を詰まらせた。

 




次回「自身」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

自身

 こちらがある程度進んだらジードも書くつもりでいます。


~~ムサシ~

 

 遊星ジュラン。怪獣と人間が共存できる場所として開拓計画が成された惑星で、今ではそれが実を結んですっかりこの星にも怪獣が増えてきた。昔からこれを目指して活動してきた僕にとって「ようやくここまでこれた」という段階だ。だけどこの星に住む人はまだ地球の人口の50億分の1にも満たないのが現状だ。第二の地球・・・とまではいかなくてもいつか怪獣だけじゃなく人間も住みよい星にすることが僕の理想だ。

「ボルギヌス、今日も良く食べるな!健康状態に問題なし・・と」

 

 そんな更なる理想を描きながら僕は今日も怪獣たちの健康状態を確かめていた。

『・・シ・・・聞こえる・・サシ』

 

「え?」

 

 何処からか声が聞こえた気がした。僕は周囲を見渡してみるも、それらしい人影は何処にもいない。

『ムサシ・・・聞こえるかムサシ』

 

 今度ははっきりと僕を呼ぶ声が聞こえた。そして気づいた。これは僕の知っている人物からのテレパシーだと・・・。

「アスカ。どうした?」

 

 テレパシーの相手はアスカ・シン。ウルトラマンダイナとして宇宙を超えて戦っている僕の仲間だ。

『お前の力が必要だ。怪獣たちを操って宇宙を混乱させようとしている奴がいる。手を貸してくれ』

 

 怪獣たちを操って・・か。それは見過ごせないな。

「分かった。何処に行けばいい?」

 

『次元を超えてもらうことになる』

 

 別の宇宙・・。アナザーユニバースってことだね。

「すぐに行く。君の居場所を目標にすればいいのかな?」

 

『そうしてくれ。助かる』

 

 アスカとのテレパシーを終えた僕はボルギヌスを撫でる。怪獣たちを利用しているなんて聞いたら放っておけないよ。

「ムサシ・・」

 

 僕がコスモプラックを取り出すと金色に輝く光が近づいてきた。カオスヘッダーだ。

「君達の会話は聞いていた。ソラ達には私が伝えておこう」

 

「ありがとうカオスヘッダー。僕がいない間、この星は任せたよ」

 

 頷いたカオスヘッダーは日課である星の見回りのために飛び去っていく。

「それじゃ僕達も行こうか。・・・コスモォォォォス!!」

 

 コスモプラックを空へと掲げた僕は一体化している光の巨人、ウルトラマンコスモスへと姿を変えて宇宙へと飛び上がった。

「タァッ!」

 

 宇宙を飛んで別の宇宙に行くとなると・・・久々にこの姿になるかな。

「・・・ッ!」

 

 光を纏うように青い姿から紫色の姿へと変化する。宇宙で活動をしやすい姿、スペースコロナモードだ。僕と一体化してないコスモスが変身していることが多い姿で、僕と一体化した状態からは滅多にならないんだ。

「シャァッ!」

 

 ワームホールを潜った僕は別の宇宙へと飛んで行った。

 

 

 

 

~~琥太郎~

 

「これはここで・・・ここはこう・・」

 

「いやいや、それはこの角の隣じゃないかな?」

 

 種のようなものが植物の種だと確定した午後、俺達は種が入っていた宝箱の蓋をパズルのように組み合わせて再現しようとしていた。

「よし、こんなもんだろ」

 

 回収できた蓋の破片を組み合わせて何とか形にはできた。その蓋の部分には何やら樹のような絵が刻まれていた。

「樹?」

 

「世界樹・・なのかもしれないね」

 

 その絵を見た助教はその樹が世界樹かもしれないことを語る。世界樹ってあの・・・北欧神話に出てくる・・。

「イグドラシルとかいうものでしたっけ?」

 

「そう。伸び行く枝は無限へと広がり、太い幹は過去と未来を繋ぐ。そして果実は永遠を与える。そういう神話さ」

 

「永遠なんて退屈そうだしいらない。無限も迷いそうだからいらない」

 

 さすが小鳥。率直過ぎる感想だ。別にそんな感想求めてないのに。・・・そう思いながら俺はケースの中にある種へと視線を向ける。

「コタさんや、情熱的に見ても芽は出ないし、花も咲かないですぞ」

 

 ふざけた口調でそう告げる小鳥をスルーして俺はケース越しに種に触れると・・・まるで身体に電流が走ったような衝撃とともに俺は吹き飛ばされた。

「ぐはっ!?」

 

「こ、琥太郎くん!?」

 

 小鳥が慌てて駆け寄ってくるの見たのを最後に・・・俺の意識はそこで途切れた。

 

 

~~小鳥~

 

 琥太郎くんがいきなり吹っ飛んじゃってから数時間が経った。琥太郎君は病院へと運ばれて精密検査を受けて、私と助教のおっちゃんはお医者さんの話を聞いていた。

「何か普段と違うものを体内に取り込んだりはしませんでしたか?もしくは通常なら触らないようなものに触ってしまったりは?」

 

 通常なら触らないもの・・・間違いなくあの種だ。

「バクテリアや細菌が脳内に入り込んで悪さをすることもあるんです」

 

「それって超古代の遺物にもくっついてたりします?」

 

「それはどういうことでしょうか?」

 

「あの・・・」

 

 私は発見した種に琥太郎君が触れてしまったことを話そうとすると助教のおっちゃんに止められる。

「何で止めるのおっちゃん?ちゃんとお医者さんに話さないと・・」

 

「歴史的大発見の可能性があるものを迂闊に郊外しちゃいけないの。不確定な情報を広めちゃいけないのは危ないことだって研究者なら分かるでしょ?あとおっちゃんはやめて」

 

 そりゃまぁ、情報を外に漏らさないのは研究の基本だけどさぁ・・・琥太郎君が倒れたのは明らかなのに。

「でもちゃんと説明しないと琥太郎君がどういう状態なのか分からないよ。おっちゃん」

 

 

 

「ちょ、何してるの琥太郎君!?」

 

 お医者さんとの話を終えて琥太郎君の病室に向かってみると・・・琥太郎君は壁やベッドに黒いインクで樹のような絵を描いていた。

「本当にどうしちゃったの?!」

 

「・・・・・」

 

 揺さぶりながら問いかけても琥太郎君は自分の描いた絵を見ているだけで返事をしれくれない。

「何か言ってよ琥太郎君・・琥太郎君!!」

 

 何度呼びかけても琥太郎君は私の声など聞こえないかのように無反応だ。

「カガリ・・・」

 

 琥太郎君が何か言った。

「何それ?人の名前?」

 

「遠い星の向こうから助けを呼んでいる・・。俺の名前を呼んでいる」

 

「な、何言ってるの琥太郎君?」

 

 琥太郎君がいきなり電波な発言をし出した。確かに高校生なるまで厨2病だったり、高校入ったら高2病になったりして残念なところはあったけど何でここに来ていきなり電波系になっちゃうの?

「ど、どうしたの琥太郎君。正直痛いよ?」

 

「何で他の星に住んでいる人のことがお前には分かるんだ?」

 

 おっちゃんはあくまで冷静に琥太郎君に問いかけた。

「何でかな?俺にもよく分からないや」

 

「勝手に妄想を膨らませてるだけだ!本当にしっかりしろ!・・・あの種は何か薬物のようなものだったのか・・。ちゃんと成分を分析しなければ・・」

 

 琥太郎君に意識をしっかりしろと呼びかけたおっちゃんはあの種に薬物のような効果があることを疑い出した。

「大丈夫だよ琥太郎君。一緒に何とか治していこう」

 

 これが一時的な状態なのかずっと続いちゃうのかは分からないけど・・・一緒に向き合ってあげないと。

 

 

 

~~カガリ~

 

「もう一度おっしゃっていただきたい」

 

「エサカの言う通り、サイキの要求に従うべきかと・・」

 

 争いに民を巻き込みたくはない。そう考えた私はやはりサイキの要求に従うことを考えていた。

「戦うのが怖いから、敵の要求を飲み、あの侵略者に屈すると・・・そうおっしゃるつもりなのですか?」

 

「私は民を守りたいのです!」

 

「戦わずして負けを認めることは、民を守る事にはなりません。お分かりのはずです」

 

「向こうは譲歩を申し出てくれました。それに応じることで無用な争いは避けられるはずです」

 

 少なくとも譲歩に応じて血を与えさえすれば民が傷つかずにすむ。

「王家の血を守ることは無用な争いではありません」

 

「その血を守るために私に戦神となって戦えと言いたいのですね」

 

「その通りでございます」

 

 ライゴウはそれを肯定する。

「それでは私の精神が死んでしまいます。戦いは平和を生まない。その信念を捨てろということは私の心を殺すことです」

 

「女王は民のためのもの。ご自身の考えは必要ありません」

 

 あろうことかライゴウは私に自身の考えなど不要だと告げてきた。

 

 

 

 

~~ジャグラー~

 

「へぇ、君達の女王様も巨人に変身できるのか」

 

怪獣との戦いを終えて一段落した俺達は髪を後ろでひとまとめにしているルチアと小柄な女シズルから話を聞いていた。

「カガリ様と同じことができる人がいるなんて、びっくりだ」

 

「戦神。私達はそう呼んでいるけど、それになれるのは王家の血だけなのだ」

 

 戦神・・王家の血か。

「とは言ってもカガリ様はまだ戦神になられたことはない」

 

「・・・そのサイキってのは女王様を狙ってるんだろ。だったら直接本人を襲えばいいだろ」

 

「そうしないのは何か目的があるからだって、隊長が言ってた」

 

「元・隊長だぞシズル。あの人は更迭されたのだから」

 

 2人の表情から察するに中々に人望があったようだな。その元・隊長とやらは。

「よし!だったら俺達がその情報を聞き出してやるよ!」

 

 ガイがまた馬鹿なことを言い出した。

「私達に協力してくれるということか?」

 

「宇宙悪魔がいるってんならそこが俺達の目的地でもあるしな。旅は道ずれって言うだろ?」

 

「おい、お前は何を言ってるんだ?任務の邪魔になるだけだろ」

 

 こいつ等の任務の邪魔だけでなく、俺達のミッションにも支障をきたす。

「この娘たちはベゼルブが大量にいる場所に向かおうとしてるんだぞ。可哀想じゃないか」

 

「だったら惑星ザインには近づくなと教えてやるのが筋だろ。みんな一緒に行こうなど・・・任務はピクニックじゃないんだぞ」

 

「私達も任務がある」

 

「逃げたのは私達の隊長。隊長を捕まえるのは私の・・・私達の任務」

 

 こいつ等も人の忠告を聞かない馬鹿なのか。

「・・・っ」

 

「ジャグラー!」

 

 俺は人の忠告を聞かない馬鹿どもを注意しようとするとガイは俺の肩を掴んで2人とは反対方向を向かせてきた。

「俺、この2人の女王様に聞いてみたいんだよ。巨人に変身する運命とどう向き合っているのかを」

 

 こいつは本当に人の話を聞いてないな。まだ戦神になっていないと言ってたのだから運命と向き合いきれてない可能性があるだろうが。

「王家の血って言ったよね。だとしたら生まれた時から力を持ってたってことだろ。だとしたら俺の先輩だ。この力とどう向き合ってるのか女王様に聞いてみたい」

 

「カガリ様はあなたとは違うな」

 

「正反対」

 

「カガリ様はその力を望んだわけじゃない。力を望んで得て、戦うために使うあなたとは正反対なんだ」

 

「戦えば犠牲が出る。女王陛下はそれを許せない」

 

 その女王様とやらはこの馬鹿以上の甘ちゃんらしいな。

「なら俺と同じだ」

 

 訂正しよう。この馬鹿も女王様と同レベルだ。

「ちょっと来い。これを借りるぞ」

 

 置かれていた刀を借りた俺はガイを連れて別の部屋へと移動した。

 

 

 

~~ルチア~

 

「ちょっと来い。これを借りるぞ」

 

 ジャグラーは私の刀を借りると物置と化しているトレーニングルームへと向かう。物置と化してると言ってもここで普段トレーニングはしないので備蓄品をしまっている箱が5~6箱あるだけで充分広い状態だ。

「トレーニングルームだというのに、傷が少ない。あまり使ってないな。だが掃除や整理がされている辺り、1対1の武器を使った訓練はしていないが鍛練自体はしているということか」

 

 それはそうだ。船内でトレーニングをするなんてよほど遠出をする時しかないのだから。

「始めるか・・」

 

 ジャグラーは私の刀をガイへと渡すと自分の刀を抜く。そしてガイも渡された刀の刃を抜くと同時にジャグラーが刀を振るった。

「っと・・」

 

 ガイはその刃を受け止める。すると今度は足を狙って振るわれた刀をガイはスレスレで飛び越えた。

「っ・・」

 

 そして着地したところにジャグラーが刃を突き付ける。壁に追い込まれているガイにとってそれはもう回避することはできないもので、ガイは負けを認めて両手を挙げた。

「争いは感情から始まる。憎い、誰かを守りたい。そんな感情だ。だが戦いの真っ只中において感情なんて邪魔になるだけだ」

 

 ガイと距離を取ったジャグラーは2本目を始めると言わんばかりに刀を構える。

「そう割り切れたらいいのにな。本気でそう思うよ。だから俺はお前から学びたいんだ。いや、学ばなくちゃいけないんだ」

 

 そう言いながらガイは刀を構え直す。するとジャグラーは中段から斬りこみ、それを避けられるとすぐさま足払いを仕掛けた。

「っ!」

 

 ガイは後ろへと下がりつつそれを避けて刀を振り下ろすと、ジャグラーは刀の側面を左手で払いつつすぐさま距離を詰めた。するとジャグラーとガイの刃がぶつかり合い、せばつり合いとなる。

「俺から学ぶことはたくさんある。あり過ぎて泣くぞ」

 

 そう言ったジャグラーは押しきろうと刀を握る手に力を込めるガイを飛び回し蹴りで物資が入っている箱まで蹴り飛ばしてした。

「ぐっ・・ぁ・・。強ぇ・・」

 

「知ってる」

 

 負けたのにガイは晴れやかな反応をすると、ジャグラーは少し自慢げに返答した。そして倒してしまった箱などを片付けると2人がトレーニングルームから出てきた。

「凄い技・・・ですね。どんな流儀なんですか?」

 

 ジャグラー。この人の剣は私よりも格上だ。是非ともその剣術を教わりたいと思った私は敬語でその流派を尋ねた。

「蛇心流だ」

 

「私が理想としていた剣さばきが目の前で展開されていました。剣と体術を合わせた動きであそこまで・・・憧れます」

 

「所詮は他人を殺すための技術だ。そんなものに憧れるな」

 

「是非とも教えてください。その蛇心流を・・。本気で学びたいんです」

 

「フッ。断る」

 

 ジャグラー・・・いいや、師匠は私の申し出をあっさりと断った。

「何故ですか?女だと言う理由なら・・」

 

「任務がある。お前も任務の途中だろ。お互い余計なことに関わっている暇はない」

 

 任務・・か。なら任務を終えた後なら問題ないのだろうな。

「さっきの模擬戦で少し覚えましたから」

 

 なら今は見込みがあると少しでも思わせておこう。

「やめておけ。付け焼刃では怪我をするだけだ」

 

「強くなりたいんです。女王様を守るために」

 

「戦いたくない女王様か。人に守って貰えてるからそんなお気楽なことが言える」

 

「カガリ様はお気楽などではありません!」

 

「そうか。・・・俺にとってはどうでもいい」

 

 私は師匠の発言に言い返すと、師匠は興味が無いようにあっさりと引き下がった。

「貴方は心に穴が開いている人ですね。シズクも同じ顔をしていました。信じていた相手に裏切られたような顔・・・。貴方を裏切ったのはやっぱり女性?強いし、カッコいいし、モテると思うし・・」

 

「・・・確かに信じていたものに裏切られた。だが女じゃない」

 

 では友達ということか。

「もしかしてガイ・・」

 

「あいつは誰かを裏切るだなんて思ったことすらない不器用そのものだ」

 

「ではいったい誰が?」

 

「俺自身・・」

 

「えっ?それってどういう・・・?」

 

 師匠に小声で言った意味を教えてもらおうとすると、船がいきなり大きく揺れた。

『敵襲!たぶんベゼルブ!』

 

 シズルの曖昧なアナウンスが船内に響き、私と師匠は急いでコックピットに戻ると・・・ガイが不慣れな手つきで操縦桿を握りながら、シズルが船の武装で押し寄せてくる小型ベゼルブの群れを迎撃していた。

「変わろう」

 

「頼む」

 

 私はガイと運転を交代する。惑星ザインは目の前だというのに、私達を近づけまいとするベゼルブの群れは増えるばかりだ。

「道を作る!」

 

 ガイは短剣を前へと突き出して光の巨人へと姿を変えると目の前にいる小型ベゼルブの群れを押しつぶしながら道を作って、先に惑星ザインへと飛んで行った。

「今だ!」

 

 私はガイが作ってくれた群れの穴を一気に突っ切ろうとするも、小型ベゼルブの数はかなりのものですぐに穴が塞がってしまった。

「いったいこいつ等は何匹いるんだ?」

 

「こいつ等1匹1匹を潰すより、こいつ等を操る親玉を倒す方が早い」

 

 師匠の言う通りだが、その親玉は惑星ザインから出て来てはいないだろう。それにたとえ出ていたとしても、この数では見つけられはしないな。

「どうするルチア?このままでは・・・」

 

「・・・・」

 

 このままではあのベゼルブの群れに船が破壊されてしまう。そう考えていると、船の真上を何かが通り過ぎるように船が揺れた。

「な、なんだ?!」

 

 私達はすぐに正面を確認すると、光がベゼルブ達を倒しながら惑星ザインへと向かって行った。

 

 

 

~~ガイ~

 

「シュゥゥワッ!」

 

 小型のベゼルブ達を打ち倒しながら惑星ザインへと到着すると、大型ベゼルブの大群が待ち構えていた。

「シュァっ!!」

 

 腕を十字に重ねた俺はオリジウム光線で押し寄せてくる大型ベゼルブの群れを一気に蹴散らすと、背後から迫って来た大型ベゼルブの1体に爪で斬りつけられた。

「デュァ!?」

 

 俺がその攻撃で倒れてしまうと、増援の大型ベゼルブが2匹やって来た。

「っ。・・・」

 

 2体の大型ベゼルブに挟まれてしまう。俺は後ろのベゼルブに蹴りを入れつつ、正面のベゼルブにパンチをする。すると後ろのベゼルブはクグツを注入しようと尻尾を突き立ててきた。

「シャァッ!!」

 

 右手に光を集束した俺は手刀でその尻尾を切り裂いた。そして尻尾を切られて怯んでいるベゼルブを背負い投げでもう一匹に叩きつける。

「っ!」

 

 そしてすぐさまそのもう一匹の尻尾も切断しようとすると、地面から更にもう1匹のベゼルブが出てきて、俺の両足を掴んだ。

「デュァ・・・」

 

 俺は両足を掴んでいるベゼルブから逃れようとそいつに拳を振るおうとすると先ほど尻尾を切断したベゼルブが俺の両腕を掴んだ。こいつ、仕返しのつもりか。

「グッ・・ぉぉっぉ!!」

 

 手足を押さえつけられて身動きが取れない俺に低空飛行でベゼルブが迫ってくる。このままじゃクグツを刺されちまう・・。

「ッ!?」

 

 クグツを注入する尻尾が間近へと迫って来た瞬間、空から降り注いだ光の柱が俺に迫って来たベゼルブを押しつぶした。

「ダァッ!!」

 

 降り注いだ光の中から俺とは違う1人のウルトラマンが出てくる。

「っ!!」

 

 あの姿、見間違えるはずない。数多の宇宙を超える伝説のヒーロー。ウルトラマンダイナさんだ。かつて起きたギャラクシークライシスや光の国の滅亡がかかったべリアルとの戦いでも最前線で戦ったというダイナさんがどうしてここに・・?

「ダァッ!」

 

 叩き潰したベゼルブが爆発するとダイナさんが立ち上がり光の刃を飛ばして俺の足を掴んでいたベゼルブを怯ませてくれた。俺はその隙を突いて全身を光を放ち、俺の手足を掴んでいるベゼルブ2匹を離れさせると後ろへと飛び下がってダイナさんの横に並んだ。

「・・・・ッ」

 

「っ!」

 

 ダイナさんは「一緒に戦おう」とでも言うかのように頷き、俺はそれに返事をするように頷く。そうだな・・。どうしてここにいるのかなんて答えは1つだ。

「「ッ!!」」

 

 そして俺達は同時にベゼルブへと駆け出した。光の戦士として平和のために・・・一緒に戦う理由なんてそれで十分だった。

 




次回「クグツ」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クグツ

~~ガイ~

 

「ダァァァァッ!!」

 

「オォォォォっ!!」

 

 俺とダイナさんは大型ベゼルブ3体とクグツで操られている鳥のような怪獣へと駆けていく。ベゼルブ達は一斉に飛び上がると空中から光弾を飛ばしてきた。

「ダァッ!!」

 

 その光弾をダイナさんは片手で払いのけると、トリのような怪獣は俺に向けて火球を放ってきた。

「デュァ!!」

 

 俺はバリアを張ることでそれを防ぐと、ベゼルブの相手をしているダイナさんは光とともに赤い姿へと変わった。確かストロングタイプって言われてる姿だったか・・。

「オォォォォダッァ!!」

 

 ダイナさんは左手に炎を灯すと一気にベゼルブとの距離を詰めて、尻尾の切れているベゼルブを殴って打ち上げる。打ち上げられたベゼルブが爆発すると、鳥のような怪獣が俺に飛びかかって来た。

「っ!!」

 

 俺はその鳥のような怪獣のクチバシを掴んでキックを叩き込む。すると新手のベゼルブが俺の背後から攻まってきた。

「オォォォ・・セイっ!!」

 

 しゃがんで尻尾のクグツを避けた途端、鳥のような怪獣がクチバシで俺を突いて攻撃してきた。

「デュぁぁぁぁぁっ!?」

 

 突かれた箇所が燃えるように熱い・・。これ、まさか毒か。

「グァ・・・ぁぁ・・」

 

 毒のせいで動きが鈍っている俺に鳥のような怪獣は再びクチバシによる突きをしてくる。それを寸前のところで止めたが・・・毒のせいで力が入りきらず押し負けそうになっていると・・・

「っ!?」

 

 鳥のような怪獣に船による光線が直撃した。

『ボサッとするな!』

 

 ジャグラー達の乗る船からの攻撃だ。さらに放たれた光線は動きが鈍っている俺を狙っていたベゼルブを撃ち落とした。

「ジャグラー・・」

 

『お前は戦士としての自覚がなさすぎる。もう少し背後に気を配っておけ』

 

 船からそうジャグラーの声が聞こえると・・・船は上昇して戦線を離れ、塔のような建物へと飛んで行った。

「ジャグラー・・・サポートありがとう」

 

 飛び去ってそう告げた俺は手を軽く動かしてみる。万全ってわけじゃないが変身してるおかげで毒はだいぶ抜けてきた。

「デュァッ!!」

 

 これならもう少しは戦えそうだ。

 

 

 

~~ジャグラー~

 

「サイキという男は何処に潜んでいるんだ?」

 

「ほら、あの大きなタワーだよ」

 

 俺達はサイキの潜伏するタワーへ突入すると監視カメラを破壊しながら奥へと進んでいく。

「タァッ!!」

 

 するとシズクはロックがかけられている扉を銃で穴を開けつつ、扉を蹴り倒した。

「よしッ!」

 

「何がよしッ!だ。潜入のルールを知っているのか?」

 

「大丈夫」

 

 俺の注意を聞かず、シズクは扉があった場所の向こうへと進んでいく。何が大丈夫だ。自信を持つのは悪い事ではないがその自信は何処からくる。

「まぁ、気にするな。とにかく進もう師匠!」

 

「あぁ・・。って誰が師匠だ!」

 

 もしやルチアの奴、勝手に俺の弟子になったつもりでいるんじゃないだろうな。

「人の気配がまったくしない・・」

 

 先頭を進むシズルがそんな言葉を呟く。確かにシズルの言う通り人の気配はしない。

「確かに静か過ぎるな・・」

 

「おい、そんな言葉を口にするな。碌なことにならんぞ」

 

 ガイと似たようなことを言うつもりはないが・・・そういうことを告げた時にはまず何かが起きる。

「潜んでいるな・・・」

 

「っ・・」

 

 気配を感じた俺は刀を抜くと、ルチアも俺のより少し短めの刀を抜く。するとシズルは少し慌ただしくも二丁の銃を構えた。

「どうした?怖いのか?」

 

「べ、別にそんなことはない!人一倍の訓練は受けてる!」

 

「・・・ふっ、その言葉。信じてやる」

 

 小型のベゼルブが近くにいる。それもおそらく1匹や2匹ではなく、10や20はいるだろう。流石にそれだけの数がいると非戦闘員を庇いきれんからな。

「きゃぅ!?」

 そう考えていた矢先、シズルは脇道から小型ベゼルブに引き寄せられた。

「タァッ!!」

 

 俺はシズルを掴んでいる小型ベゼルブを斬り倒すと、近づいてくる別のベゼルブへと刃を向ける。するとシズルはすぐさま銃口をそのベゼルブへと向けて、ベゼルブへと銃弾を浴びせた。

「戦闘はできても注意力はまだまだだな」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「だが銃の腕は悪くない。だが実戦経験が少ないな。これからも精進しろ」

 

 人一倍の訓練を受けているというのは嘘ではないようだが、経験不足で相手の気配を探るのはまだまだのようだ。

「師匠に叱られたなシズル」

 

「シショー厳しい」

 

「だれが師匠だ」

 

 騒いでしまったせいで小型ベゼルブ達が集まり出した。

「この辺りだけでこの数か・・」

 

近くの気配は10体ぐらいだとは気づいていたが・・・集まり出したせいで20どころか30体は俺達の前にいる。

「この建物全体にベゼルブがいるということなのか・・」

 

 これは少々骨が折れそうだ。

 

 

 

~~ガイ~

 

「ダァァァァ・・おォォッら!!」

 

 ベゼルブを捕まえたダイナさんはジャイアントスイングでそのベゼルブを振り回すとそれを3体のベゼルブへと投げつけた。

「ムンっ!オォォォォダッ!!」

 

 そして2体が倒れているところに赤い光弾を放って撃破をする。

「シャっ!!」

 

 俺もそれに続こうと鳥のような怪獣へと距離を詰めようとするも・・・連続して放たれる火球を避けきれずに背中から倒れてしまう。

「グっ・・・」

 

 カラータイマーが赤く点滅し始めてこのままではジリ貧だと考えていると・・・俺の真横をダイナさんが通り過ぎた。

「・・・・」

 

 ゆっくりと歩いて近づくダイナさんに対して鳥のような怪獣はプレッシャーを感じたのか後ずさり始めた。確かにダイナさんは数々のマルチバースを旅して、戦い続けている猛者なのだから恐れをなしてしまうのも仕方ないだろうな。

「・・・ダァッ!」

 

 そんな威圧だけで怯んでいる鳥のような怪獣に対してダイナさんはデコピンを一発叩き込むと・・・痛みというよりもそのプレッシャーに負けた鳥のような怪獣は逃げるように空へと飛び去っていった。

「・・・はぁ・・はぁ・・」

 

 大型ベゼルブ達との戦いを終えて元の姿へと戻った俺は同じく人の姿となったダイナさんの方を見る。

「ウルトラマンダイナ・・・アスカ・シン」

 

「そんな目で見るな。照れくさい」

 

 近づいてくるアスカさんに対して俺は頭を下げた。

「すみません。俺がヘマをしたばかりにアスカさんに迷惑をかけてしまって・・」

 

「気にするな。ウルトラマンになって最初はそんなもんだ」

 

「名乗り遅れました。ガイと申します」

 

「よろしくなガイ。怪我は大丈夫か?」

 

 俺は鳥のような怪獣に突かれた箇所を触る。これぐらいならもう大丈夫だな。

「はい。大丈夫で・・・ッ」

 

 塔の方から何かを感じた。ジャグラー達に何かあったようだ。

 

 

 

~~ルチア~

 

「私の実力は見てくれたか?弟子にしてくれ」

 

 小型ベゼルブを数体斬り倒した私は師匠の隣に並び再び弟子にしてくれるように頼んでみる。

「馬鹿なことを言ってる暇などないだろ」

 

 断られはしたが・・・少し反応が軟化してきている気がするな。

「ここは俺が引き受けてやる。お前達はとっとと隊長を探して来い」

 

「信用していいなシショー」

 

「だから俺はお前達の師匠になったつもりなど・・・」

 

「よし、ここは師匠に任せよう!」

 

 私達は師匠の言葉に甘えて目の前のベゼルブを任せ、隊長がいそうな場所を探しに行く。

「そもそもここに隊長がいるという確証はないがな・・」

 

 脱出ポットの発する信号がこの星にあったというのは事実だが・・・隊長が再びここに来ているかというのは確証がない。本当に裏切ったというならサイキと共にいるだろう。だが裏切ってなく何者かの罠にかけられたのなら単身で乗り込むのが隊長だと考えたから探しているんだ。

「もし隊長がここにいないとすれば・・・」

 

 それはクグツによってベゼルブの配下になったか・・・墜落か何かで行動不能な状態なのだろうな。

「・・・ん?」

 

 何処からか私達の星の歌が聞こえてくる。

「この微妙に外れた感じは・・・」

 

「この下手さ。間違いなく隊長の歌だ!」

 

 はっきりと下手な歌の人物を隊長だと言い切ったシズルはその歌が聞こえた場所へと走り出す。

「お、おい待てシズル!」

 

 私もその後を追って外れた感じの歌が聞こえる場所へと向かってみると・・・

「我らぁぁカノン近衛たぁいぃい!」

 

「うわっ・・」

 

 近くで聞くと凄く音程を外していたので思わず引いてしまった。しかし歌の主は本当に隊長だった。

「こら、その『うわっ』とは何だ。・・・まぁいい。来ると思っていたぞルチア、シズル」

 

 光線の檻の中に囚われている隊長は私達の顔を見るなり来ると思っていたことを告げてきた。

「本当にカガリ様の暗殺を・・・?」

 

「濡れ衣だ。ライゴウ将軍は俺の存在が邪魔だったんだ。あいつは俺を捕えて、俺のニセモノを仕立てあげてカガリ様を襲わせたんだ」

 

「「・・・・・」」

 

 私とシズルは「信じていいのか?」と互いに目を合わせる。

「俺を信じてくれ」

 

「・・・その言葉、信じる」

 

 そう呟いたシズルは銃撃で光線による檻の発生場所を破壊すると、その檻が消えて体調が解放された。

「ありがとうシズル。それと今すぐカノンに連絡をしてくれ」

 

「師匠にお礼を言わないと・・」

 

 師匠のおかげで無事に隊長を見つけることができたのでお礼を言おうと私は急いで師匠のもとへと戻った。

「ッ!!」

 

 すると師匠は2体の小型ベゼルブを一太刀で斬り倒しながらも私が戻って来たことに気がつき、こちらへと視線を向けた。

「師匠!あなたのおかげで隊長に会えた!」

 

「・・フッ・・っ!?」

 

 師匠にしては珍しく嬉しそうな表情をすると、上の方からベゼルブの鳴き声が聞こえてきた。

「ッ!」

 

 私はすぐさま刀を抜こうとするも・・・急降下してくるベゼルブに私の抜刀は間に合わなかった。

「っ・・・!!」

 

 刺される。そう思いながら目を閉じた瞬間・・・

「諦めるな!!」

 

「えっ?」

 

 師匠が私を庇ってベゼルブの尻尾に刺された。

「戦いを途中で諦めるのは・・・守れるはずの命を見殺しにするのと同じだ。お前は近衛・・・守るのが仕事だ・・ろ」

 

 師匠は尻尾からクグツを注入されながらもそう私を注意してくる。すると師匠を刺しているベゼルブは師匠を掴んで空中へと飛び上がった。

「は・・・離せ・・」

 

 クグツを注入されているせいか力を出し切れていない師匠はベゼルブから逃れられず・・・ベゼルブはこの場から離脱するように飛んでいく。

「師匠!」

 

「シショー!」

 

「し、師匠?」

 

 私達は師匠を助けるためにそのベゼルブの後を追うと・・・曲がり角を曲がったところでベゼルブが師匠を解放した。

「くっ・・」

 

 師匠はすぐさま刀を構えてベゼルブを斬ろうとするも、その動きが止まる。

「大丈夫か師匠!」

 

「来るな!」

 

 私達は師匠の叫びのような言葉に足を止める。

「俺の・・・俺の中に入ってくるなぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 どうやらそれはクグツへと向けて叫んだものらしく、こちらを睨みつけてきた師匠の目はベゼルブに支配された赤い目をしていた。

 

 

 

~~ガイ~

 

「守るべきものを守れないような俺が選ばれるなんて、本当にこの広い宇宙は不思議な事ばかりですよ!」

 

 塔へと走りながら俺は自分がウルトラマンに選ばれた経緯とここに来るまでのことをアスカさんに語った。

「手にした力の意味をいくら頭で考えたところで答えなんか見つからないぞルーキー!」

 

「押忍ッ!」

 俺とアスカさんが塔の中へと入って奥へと進んでいくと金属がぶつかり合うような音やベゼルブの鳴き声が聞こえてきた。

「あっちか!」

 

 その音が聞こえてくる場所へと向かって行くとジャグラーがルチアに刀を振るっていた。

「ルーキー!」

 

「はいッ!」

 

 アスカさんは手にしていた銃で小型のベゼルブ達を撃ち倒し、俺も迫ってくるベゼルブ達を殴り倒しながらジャグラーのもとへと急ぐ。

「アヴァぁぁ!!」

 

「ジャグラーお前・・・」

 

 もしかしたらと思いながらジャグラーへと近寄った俺は間近でその姿を見て確信した。ジャグラーはベゼルブに刺されてクグツの毒にやられていることを。

「ジャグラー!クグツに負けるな!」

 

 ジャグラー取り押さえた俺はそう呼びかける。

「っと・・」

 

 アスカさんは1体の小型ベゼルブの頭を掴みあげると、そいつを蹴り飛ばして近くの小型ベゼルブにぶつけた。

「・・・これじゃキリがないな。みんな目を閉じろ!」

 

 そう警告したアスカさんは懐からウルトラマンの顔が刻まれているかのようなアイテムを取り出すと、それを上に掲げた。

「光よぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 そのアイテムから放たれた光はアスカさんを取り囲む小型ベゼルブ達を浄化消滅させ、周囲のベゼルブ達がほとんどいなくなった。これでジャグラーの方に専念できる。

「ジャグラー!お前しっかりしろ!」

 

「・・・ッ」

 

 俺が必死にジャグラーへと呼びかけていると、ルチア達が言っていた隊長だと思う男は自身の首元につけていた種を手にして駆けよって来た。

「そのまま押さえつけてろ!」

 

 そして隊長はその種をジャグラーの口の中に無理やり入れると・・・ジャグラーは暴れるのは収まったが別の毒に犯されるかのようにもがき苦しみ出した。

「おい!ジャグラーに何をした!!?」

 

「・・・・」

 

 俺は隊長を掴みあげてそう問いかけるも、何も答えないのですぐさまもがいているジャグラーに目線を変える。

「ジャグラー!しっかりしろ!ジャグラー!」

 

「うぁぁあぁァァァぁ!?・・・・」

 

 ジャグラーはそのまま意識を失ってしまう。脈はあるのようだが・・・大丈夫なのか?

「クグツが浄化されたようだな」

 

「浄化?どういうことです隊長?」

 

「かはっ・・・まさか俺があんな毒に・・」

 

 すぐに意識を取り戻したジャグラーはクグツに支配されたことを悔しがる。

「カガリ様に感謝しなくてはな・・・」

 

 どうやらあの種は女王様からの預かりものか何かだったようだ。

「どうして種でクグツが・・・」

 

『まったく、野蛮なもの人達ばかりだねぇ』

 

 隊長に種のことを尋ねようとすると、俺達の前にいきなりモニターが現れ、そこに1人の男が映し出された。

『エサカ君以外はお初にお目にかかります。私は・・・』

 

「サイキっ!」

 

 男が名乗ろうとしていると隊長がその男の名前を叫んだ。この男がベゼルブ達を操る親玉のサイキか。

「あぁもう!ちゃんと自己紹介をしようとしていたのに!君はそういう乱暴で野蛮なところを直した方がいいと思うよ!」

 

「何言ってんだ?」

 

『私はこの宇宙を平和に導こうって話をしてるんだけど・・・』

 

「話がしたけりゃ姿を見せろ!」

 

 さっきから画面を通して話してきやがって。

『その態度、頭が痛くなりますよ』

 

 頭が痛くなるのはこっちだ。お前の従えるベゼルブのせいでジャグラーがクグツに操られてこっちはイライラしてるんだからな。

『あぁ!もう限界です!!』

 

 サイキは通信を切断すると塔が大きく揺れ始める。すると何かが空へと飛んでいくような轟音が聞こえた。

「あいつ!逃げやがったのか!」

 

「いや、逃げたんじゃない。スザークは何処にある?急いで奴らを追うぞ!」

 

 

 

~~サイキ~

 

『ワープ設定完了。何時でもワープできるよ!』

 

「ありがとうパーテル」

 

 あの野蛮な彼らとこれ以上話をしても無駄だと理解した私は急ぎ戦神となりえるお姫様がいる惑星カノンへと船を飛ばした。普段は塔の最上階となっていたのでこれを発進させた衝撃で塔が崩れてしまったよ。

「仕事を終えて戻ったらまた建て直さないとね」

 

『そうだねマイフレンド!』

 

 でも戻るのは僕らが宇宙を平和にしてからだ。

『マイフレンド!あいつ等、追いかけてきてるよ!生意気!』

 

 パーテルが教えてくれたのでモニターを確認してみると、エサカ君の船がこの船を追いかけてくるのが映し出されていた。

 

 

 

~~ルチア~

 

「こちら近衛隊のスザーク。隊長のエサカだ。この通信を・・・駄目だ。ジャミングされている」

 

 隊長はカノンにサイキが迫っていることを伝えようとしたが、ジャミングされていることに気づく。すると目の前を飛んでいたサイキの船が消えてしまった。カノンへと向けてワープしてしまったのだ。

「こっちもワープするぞ」

 

「はい!・・・あれ?」

 

 私は船をワープさせようとするも・・・船はワープできなかった。

「どうした?」

 

「ワープができません。どうやらサイキに細工をされたようです」

 

「仕方ない。飛ばすから何かにしがみつけ!」

 

 隊長は私達にそう告げると船を一気に加速させる。

「ルチア。速度をこのままで惑星カノンまでオートにしておいてくれ」

 

「了解」

 

 私は船をオートモードに切り替えると席を離れる。

「惑星カノンにつくまで何もできないというのは歯痒いが・・・今のうちに休憩を取るとしよう」

 

「ならば聞かせてもらおう。・・・あんたに何があった?」

 

 師匠はこの休憩を利用して隊長に何があったかを尋ねる。

「うむ、ライゴウ将軍にハメられた私は囚人惑星送りにされそうになり・・・」

 

「護送船で騒ぎを起こして脱走した」

 

「・・・あぁ。カガリ様を守りたい一心だった。だがカノンに戻る途中で俺の脱出ポッドがサイキによって捕えられてしまい・・・気づいた頃にはあの檻の中だったのだ」

 

 なるほど。そういう経緯だったのか。

「それであの種でクグツを解毒できるというのは・・?」

 

 まだ警戒心を解いてない師匠は隊長にそのことも尋ねる。

「捕えられている時、サイキが私が首につけていた種を見て言ったのだ。『もし本物なら貴重だよ。だってクグツを解毒できるのだから』とな。私も半信半疑でジャグラーに呑ませたのは賭けだったが・・・無事で良かったよ」

 

「フン・・。まさかそんな分の悪い賭けで助かるとはな。一応礼は言っておこう」

 

「サイキの目的はカガリ様・・いいや、戦神だ。『闇と光。クイーンと女神が出会う時、世界は変わる』奴はそう言っていた」

 

「なるほどな。ベゼルブを使ってカノンを脅迫したのはその女王を追い詰めて、戦神の力を使わせるためか」

 

 サイキの目的を理解した師匠はそう口にすると、ガイは慌てた様子で立ち上がった。

「早く女王様に伝えなきゃ・・・。俺が先に向かいます」

 

「待てガイ。俺達にも体力の限界がある」

 

 ガイが1人で先にカノンへと向かおうとすると、もう1人のウルトラマンであるアスカがガイを呼び止めた。

「その身体で繰り返し変身するのは無茶だ」

 

「無茶かもしれないけど無理じゃない!」

 

 ガイがそう言いながら変身しようとするとアスカは師匠の方を見る。

「お前に頼りになる仲間がいるように俺にも頼りになる奴がいるんだよ」

 

 

 

 

~~琥太郎~

 

「琥太郎!退院できたのか!」

 

研究室やってきた助教は俺を見るなり話しかけてくる。

「・・・・」

 

 だけど俺はそれに返答する気にはなれなかった。

「これ、買って来たんだけど食うか?」

 

 助教はタコ焼きを俺に見せてくるも・・・食欲すらも湧かない。

「琥太郎君、ずっとこの調子なんさね」

 

「ごめん、ちょっと1人にさせてくれ」

 

「こ、琥太郎君・・」

 

 そう言った俺は無理にでも1人になろうと小鳥の静止を振り払って準備室の扉を開くと・・・俺は見たことがない空間に立っていた。

「ここは・・・」

 

 俺は周囲を見渡す。まるで神殿か王宮のような部屋だと思っていると神話を語るかのような絵の前に1人の少女が立っていることに気がついた。

「カガリ・・・」

 

 その少女の名前が不思議と頭に浮かんできたのでそう口にすると・・・俺はいつの間にか準備室に戻っていた。

 

 

~~カガリ~

「カガリ・・・」

 

「えっ?」

 

 何処か遠くの星にいるはずの彼の声が聞こえた気がしたので振り返ってみましたが・・・そこには誰もいませんでした。

「琥太郎・・・」

 

 知らないはずの相手なのに・・・何故か知っている名前。私がその名を口にした瞬間、王宮に警報が鳴り響きました。

「何事です?」

 

 私はすぐさま外を確認すると大型のベゼルブ達が村に着陸している光景がありました。さらに空には巨大なサイキの立体映像が映し出されます。

『やぁ、惑星カノンの皆さん。如何お過ごしですか?・・・譲歩の提案は受け入れられなかったと判断致しました。よって当初の要求通り、女王を差し出してください。さもなくば夜明けとともに総攻撃を開始します』

 

 そのサイキの宣言に民達のざわめきがここまで聞こえてきた。

「私は・・・私は・・」

 

 戦神になりたくない。そう考えていた私は王宮から抜け出して命の樹へと走り出した。

 




次回「戦神」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦神

当初は3章までの予定でしたが、やはり本編直前である5章までやることにしました。


~~ルチア~

 

『なるほど。かなりまずい状況だね』

 

 先に行こうとしていたガイを止めたアスカは仲間のウルトラマンであるというウルトラマンコスモスにテレパシーで状況を説明した。

「あぁ、惑星カノンは怪獣たちに包囲されているらしい」

 

『それを突破して僕が女王様に会って戦神になるのを止めればいいんだね。分かった。僕なりにやってみるよ』

 

 しかしこれがテレパシーという奴なのか。初めてみたな。いや、この場合聞いたというのが正しいか。

「・・・ムサシが先に惑星カノンに向かった。今はムサシを信じよう」

 

 

~~カガリ~

 

 戦神になりなくなかった私は王宮を抜け出して命の樹の根元へと走っていると、根本の近くに明かりが灯っていることに気づきました。

「あ、カガリ様・・」

 

 すると偶然にも以前母親と命の樹に祈っていた子供が目の前に現れ、私に気づいてしまいました。

「どうかお力を持ってお助けください」

 

「戦神様・・」

 

「命の樹よ・・」

 

 明かりに集まる人々は命の樹や戦神に祈りを捧げていまいた。そんな中ベゼルブの鳴き声が響いてくると民たちとともに子供も怯える反応をした。

「安心しなさい」

 

 私の言葉にその子供が頷くと、周囲の民達は一斉に私に気づく。

「カガリ様!」

 

「カガリ様だ!」

 

 民達は私がこの場にいることに驚いていると、再びベゼルブの鳴き声が響いてきた。

「皆の声は命の樹に届きました。さぁ!下がりなさい!」

 

 私は民にそう告げると、民達はこの場を離れていく。それを見届けた私は見通しのいい高い場所へと移動すると、ベゼルブ達が私に気づいた。

「Drサイキ!あなたの求めに応じましょう!この身を差し出しますので、どうかこの星の民には手を出さないでください!どうか・・・どうか民の平穏な暮らしを壊さないでください。この星から撤退してくれるというのなら今すぐ私を連れ去ってもらっても構いません!」

 

 ベゼルブ達は私の宣言に「どうしようか?」と相談するかのように顔を見合わせていると・・・私の前にいきなり青い光の巨人が現れた。

「光の・・巨人・・」

 

 

 

 

 

~~ムサシ~

 

 アナザーユニバース。次元の壁を突き抜け、別宇宙へとやってきた僕は惑星カノンの衛星上までやってくると・・・アスカの言っていた通りそこは怪獣たちに包囲されていた。

「ベロクロンにバキシム、それとドラゴリーの3体にそれを操るベゼルブか・・」

 

 見事に操られている怪獣が3体とも通常の怪獣よりも強いと言われる超獣たちだ。

「っ!!」

 

 僕に気づいたベゼルブは超獣達に命令をするとベロクロンはミサイルを放ち、バキシムも角をミサイルのように放ってくる。

「タァッ!」

 

 それらを打ち壊しながら前へと進むと・・・ドラゴリーが鋭い牙で噛みつこうとしてきた。僕はドラゴリーに噛まれる寸前で踏みとどまり、その腹部に蹴りを入れながら後ろへと後退する。

「超獣たちは完全に操られている。見事な連携だ」

 

 ベロクロンとバキシムによる遠距離対応にドラゴリーによる近距離対応。ベゼルブが動かなかったところをみるに、この3体の連携で動きを止めた相手にクグツを刺そうとしているんだろうな。

『クグツを打ち込まれたやつは誰でもそうなる』

 

 テレパシーでアスカの声が聞こえてくる。この宇宙についてからアスカとの波長を合わせたままにしているからジュランにいた時と違って今回はどちらも同じ次元にいるからリアルタイムで互いに声が聞こえているんだ。

「まずはクグツを浄化してみるよ」

 

超獣たちは操られているだけなんだから可能な限りは倒したくない。そう考えた僕はスペースコロナから青いルナモードに戻った。

「シュァ・・・」

 

 そして超獣たちにフルムーンレクトを放ってクグツを浄化してみる。すると怪獣たちの目の色がもとに戻った。

「・・・!」

 

 超獣たちを浄化できた。僕がそう思った瞬間ベゼルブが目を光らせながら超獣たちに呼びかけると、超獣たちは再び目の色を赤くした。

「そんな・・コスモスの能力でも浄化できないなんて・・」

 

 一旦はクグツを落ち着かせることはできても、超獣たちの体内に入ったままのクグツはベゼルブの呼びかけですぐに活性化してしまうんだ。

「だったら・・・クグツを体から出してあげれば・・エクリプスで行く!」

 

 クグツを体から出す手段・・・それは僕とコスモスの勇気の証とも言えるエクリプスモードのコズニューム光線だ。あれならばクグツのみを出せるはず・・・。

『待てムサシ!エクリプスは長く使えないんだろ。それに今は女王の方が・・・』

 

「っ!」

 

 超獣たちも助けたいと頭にいっぱいになっていた僕はアスカの言葉で冷静に戻る。たとえここで超獣たちを浄化しても、そもそもな元凶であるサイキとクイーンベゼルブを止めなければ浄化してもまた操られてしまう。第一その女王様にサイキが近づいていることを知らせて戦神にさせないためにするのが僕がここに来たわけなんだ。

「・・・必ず君達も助ける」

 

 ベゼルブに操られたままの超獣たちにそう約束した僕は彼らの攻撃を潜り抜けてカノンの地へと降り立った。

「光の・・巨人・・」

 

 着地場所のすぐ近くには偶然にも1人の少女がいた。服装からして彼女がこの星の女王であるカガリさんなんだろうな。

「・・・貴方がこの星の女王様ですね?」

 

 コスモスへの変身を解いた僕は女王様にそう問いかけると、女王様は驚いた表情をしながらも頷いた。

 

 

~~カガリ~

 

「僕の仲間から貴方のことを託されてきました」

 

 先ほどまで青い光の巨人となっていた男性・・ムサシと名乗るこの人はお仲間の人から私を守るように頼まれてここに来たようです。

「貴方も・・・大いなる力を?」

 

「はい」

 

「教えてください。貴方にとってその巨人の力とはどのようなものなのですか?」

 

 私には分からない。私に宿る王家の血・・・戦神の力が自分にとって何なのかを・・。きっと同じく巨人の力を持つこの人ならばその答えを教えてくれるはず・・。

「理想が現実に負けそうになった時・・・僕を支えてくれました」

 

 理想が現実に負けそうになった時・・。

「陛下!」

 

 私が彼の言葉の意味を考えているとライゴウの声が聞こえてきた。するとすぐさまライゴウの部下たちが一斉にムサシを取り囲んだ。

「良い!その者は悪い者ではありません!」

 

「陛下!今がどのような時なのかご理解なされて・・」

 

「分かっています!・・・ライゴウ将軍。貴方に見せたいものがあります」

 

「・・・解け」

 

 私はライゴウに王家の秘密を語ることにし、その場所へと向かい出す。するとライゴウの命令でムサシを拘束しようとしてた部下たちは引き上げ始めた。

「カガリ女王!貴女が進むべき道は貴方自身が決めるべきです。ですが恐怖に怯えた心で決めないでください。怯えた心で下す決断は間違った未来を選んでしまいます!」

 

 ムサシの忠告を聞いた私は彼に一礼をしてこの場を離れた。私の進むべき道・・私は何処に進めばいいのでしょうか?今の私にはまだそれは分かりません。

 

 

~~ジャグラー~

 

「ハァっ!」

 

 惑星カノンまで時間があると判断した俺はせっかく時間があるのでガイを鍛えるためトレーニングルームを借りていた。

「っと・・」

 

 怪獣たちとの戦いをそれなりに経験したからか、ガイは以前避けきれなかった足払いからの剣戟を避け切る。

「蛇心流・・。やっぱりスゴイ」

 

「ガイもやるもんだ。傷は浅くないってのにな」

 

 アスカの言う通りガイは手負いのはずだ。それなのに俺の太刀筋をここまで避けることができるとは、本当に怪我をしているのか疑いたくなるレベルだ

「くっ・・」

 

 ガイの振るう刀を避けた途端、回し蹴りによる追撃で俺が壁際にまで追い込まれてしまう。

「何、らしくない顔してんだよ」

 

 刀を振り下ろしながらガイはそう訪ねてくる。

「クグツに侵されて分かった。俺は今までルールに縛られていたんだ」

 

 俺はその刀を受け止め、力づくで押し返しながらも答える。

「気に沿わないルールでも、それに従うって御立派なこった」

 

「だがくだらない信念はクグツに意思を奪われてるのと同じだ」

 

 剣術とは言えないただの力押しで今度は俺がガイを壁際へと追い込む。

「よく分かんねぇな、そんな難しい話!」

 

「たまには自分でも難しい事を考えろ!」

 

 ガイも同じく力押しで俺の刃を押し返してきたので、俺は後ろに下がって距離を取ってから飛びかかるように刀を振るう。するとガイは以前は下がって避けていたはずの技を前へと進んで距離を詰めながら避けた。

「っ!?」

 

 俺はそれに驚きながらも刀を振り上げると・・・ガイは顔スレスレでその刃を避け、俺に刀を振り下ろしてきた。

「・・・・・」

 

 今回は1本取られてしまった。そう思った瞬間・・・

「・・ッ!」

 

 ガイの振るう刀の動きが遅くなったことに気づいた。ルチアやシズルは気づけていないようだが、エサカやアスカも気づいたようだ。

「ガイ、貴様・・」

 

 俺はその手を抜かれた刃を蹴りで弾きながらガイの首に刃をあてる。

「降参だ。・・やっぱりお前は強いよ・・・」

 

 ガイはそう言いながらトレーニングルームを去っていく。

「はい、師匠」

 

 模擬戦を観戦していたルチアは俺に汗ふきを渡してくる。

「・・・ガイは戦いのなか信じられない速さでどんどん強くなっていく。それは分かっていた」

 

 ただ負けて一本取られるのはいい。それはあいつがまがいなりにも戦士として成長しているということなのだから。

「だが最後の最後で手を抜かれるのは・・」

 

「え?手を抜かれた?」

 

 やはりガイが手を抜いていたことに気づいていなかったルチアは去っていくガイに視線を向ける。戦士にとってわざと手を抜かれて勝利させられるというのは・・・それは屈辱でしかない。

 

 

~~ガイ~

 

「ガイ、さっきのは何だ?気遣いのつもりか?」

 

 トレーニングルームを出るとすぐアスカさんがそう問いかけてきた。気遣い?どういうことだ?

「いや、俺は・・・」

 

「無意識でやったことか。尚更タチが悪いな。・・・相棒を信じているのなら本気で打ち込めるはずだぞ」

 

 俺は本気でジャグラーと勝負してるつもりだった。俺はジャグラーにはまだまだ及ばないんだから手加減なんてできないはずだ。

「ガイ、その気遣いは時に人を傷つけることがあるってこと。忘れんな」

 

 そう俺に注意したアスカさんはコックピットの方へと歩いていく。俺は何故そんなことを言われたのかよく分からなかった。

 

 

~~カガリ~

 

「何故私を此処に?」

 

「時が満ちたと・・・思ったからです」

 

 ライゴウを連れて王宮の地下へとやってきた私は神話を語る壁画の前で足を止めました。

「命の樹はその種を宇宙へと散らし、命を広げる」

 

「そんな誰もが知る話を何故今語る必要があるのです?」

 

「ここに貴方を入れたのは王族のみが知る神話を知ってほしいからです」

 

 私は壁画に視線を向けながらその神話を語り出す。

「命の樹が宇宙を広げるのは新しい命などではないのです」

 

「では何を・・?」

 

「それは知恵です。知恵の実を育むこの樹は同時に2つのものを育みました。命の樹が産み落とした守る者・・戦神。そしてその兄弟たる滅ぼすものベゼルブ」

 

「なっ・・戦神とベゼルブが兄弟!?」

 

 ライゴウはその事実を知って驚愕した表情を見せる。

「命の樹が全ての争いの根源なのです。闇と光・・・クイーンと女神が出会う時、世界は変わる。それが古より王家に伝わる予言です」

 

「それが現実になろうとしていると?」

 

「共に命の樹から生まれた戦神とクイーンベゼルブが出会い争うのは取り返しのつかない恐ろしい未来が訪れる・・・私にはそう思えてならないのです!」

 

「だから戦いを放棄し、敵に身を委ねると?」

 

 私は戦神になりたくない本当の理由を語ると・・・ライゴウは自身の刀を抜く。そしてその刃を壁画へと向けて振り下ろしました。

「・・・・」

 

 その刃は壁画を傷つけることなく止められていたことに気づくと、ライゴウはこちらに振り返りました。

「このような神話ではなく、どうか現実に目を向けてください」

 

 ライゴウはそう言い残して地下を後にすると、大きな揺れと共に外から民達の怯えるような悲鳴が聞こえてきました。おそらくベゼルブやそれに操られている怪獣たちが移動を始めたのでしょう。

「私は・・・私は・・・」

 

 女王は戦神は民を守るためにあるもの。戦神にならなければベゼルブの・・・サイキの魔の手から民を守ることはできない。戦神になりたくない。戦いたくはない。誰も傷つけたくはない。・・・私はそんな様々な想いに押しつぶされそうになり、息が苦しくなってしまいました。

 

 

 

~~ジャグラー~

 

「誰かの悲鳴が聞こえた・・」

 

 いきなりガイはまたも何処からか悲鳴が聞こえたと言い出した。

「引き裂かれそうな悲しい叫びだった」

 

「まさかカガリ様・・」

 

 カガリ、惑星カノンの女王様か。だとするといよいよ戦神にならざる得ない状況になって、そうなることを迫られてるのかもな。

「結局このままサイキのシナリオ通りとなるのか・・」

 

 

 

~~カガリ~

「・・・・・」

 

 民のためにと自分に言い聞かせ覚悟を決めた私は戦神になることを決意し、祭壇へと足を進めていると・・・

「答えを決めたのですね」

 

再びムサシと出会いました。

「その様子、やはり戦神になるのですね」

 

「はい・・」

 

「貴女の目をみせてください。女王!」

 

「ッ・・・」

 

 私は今の表情、今の目をムサシへと見せると・・・ムサシは察したように悲しそうな表情となった。

「光は闇を突き抜けたところにしかありません。貴女に思い描く未来があるならどんなに遠くともその光を・・・その光だけをまっすぐ見つめてください」

 

 光だけをまっすぐ・・・。そうムサシに告げられた私は彼に一礼をして再び祭壇へと足を進め出しました。

 

 

 

~~ルチア~

 

「夜明けまでもう時間がない!急いでくれ!」

 

 いよいよ時間まで残りわずかとなってしまい、慌てているガイはそう私に催促してくる。

「こいつの腕を信用しろ」

 

「師匠にそう言われたからには、その期待に応えなくちゃいけないな」

 

「言われなくてもやれ」

 

 いよいよ「師匠」という言葉を否定しなくなってきた師匠の期待に応えようと大量の小惑星を回嗅ぐってようやくそれを抜ける。

「よし、抜けたぞ」

 

「待てルチア。油断するな」

 

 流星群を抜けた途端、師匠はすぐさま進路上に大量の中型ベゼルブがいたことに気づいた。

「待ち伏せか・・」

 

「ハッ!」

 

 ガイは剣を突き出して光の戦士オーブへと姿を変えると、左手に光を集中させる。そして左手を振るい光の刃を中型ベゼルブ達へと飛ばし、奴らを一掃した。

「あの数を一瞬で・・・」

 

 あれだけの数を一瞬で蹴散らしたことに隊長も驚いていると、大型のベゼルブがオーブへと光弾を放ってきた。

「デュァ!?・・・ダァッ!」

 

 それを背中から受けてしまったオーブは爆炎の中から出てくると光り輝く手刀で大型ベゼルブを小惑星まで吹き飛ばす。

「オォォォ・・セイっ!」

 

 手刀を振るい光の刃を飛ばしたオーブはその光の刃に蹴り込んで、その威力を増したまま大型ベゼルブへと突っ込み小惑星ごとベゼルブを真っ二つにした。

「ガイ・・お前何処まで・・」

 

 その戦いぶりを見ていた師匠はそんな言葉を漏らす。オーブ・・・いや、ガイは師匠の想像を超える速さで強くなりつつある。師匠もそれを認めきれていないのだ。

 

 

~~カガリ~

 

 何十人もの僧侶たちの御経とともに、私は印を結び出します。迫りくる脅威から民を守るためには・・・私が戦神になるしかないのです。

「・・・・・」

 

 夜明けとともに村の方からは爆発音や人々の悲鳴が聞こえてきました。ベゼルブやそれに操られた怪獣たちがいよいよ動き出してしまったのでしょう。

「大いなる樹木の精霊よ。神秘なる命の源よ。今こそ目覚め、我が肉を喰らい、我が血を飲みほし、我を同化せしめよ!」

 

 その祈りの言葉とともに私は光に包まれた。

 

 

 

~~ムサシ~

 

 ベゼルブ達とともに地上に降りてきた超獣たちは城へと向けて一斉に攻撃を放つと、光の壁がそれが直撃するのを阻んだ。

「カガリ女王・・・」

 

 金色の姿をした女神・・・戦神。女王様がとうとう戦神になってしまったんだ。

「アスカ・・・これが彼女の出した答えだ」

 

 僕はテレパシーで女王が戦神になったことをアスカ達に伝えた。

 

 

~~ガイ~

 

『アスカ・・・これが彼女の出した答えだ』

 

「女王、何故戦神に・・・」

 

 隊長は女王様が戦神になってしまったことを知り、動揺してしまう。

「女王が決めたことだ。これ以上想いを押し付けたらクグツと同じになっちまう」

 

「・・・くそっ!」

 

 俺はそれに納得しきれず壁に頭を打ち付ける。

 

 

 

~~小鳥~

 

「琥太郎君・・・」

 

 いきなり過呼吸になって倒れた琥太郎君は手術室に運ばれることになってしまった。

「琥太郎君、私の声。聞こえる?」

 

 何度呼びかけても琥太郎君は目が覚めない。

「起きろ寝坊助!・・・うぅ・・」

 

 このまま目覚めないなんてこともあるんじゃないか。私はそう心配しながらも手術室に入れられるまで彼の手を握っていた。

 

 

~~ムサシ~

 

「っ!」

 

 戦神は静止を呼びかけるようにクイーンベゼルブと思われる個体に右手を向けた。だけどクイーンはそんなもの気にしないとでもいうかのようにベゼルブ達に命令を下し、ベゼルブや超獣達が一斉に城へと走り出した。

「ハァっ・・ッ!!」

 

 それに対して戦神は額から緑色に輝く光線を放った。その光線はベゼルブ達には直撃せず、その足元を攻撃しその進行を妨害させたんだ。

 

 

~~サイキ~

 

「クイーンと女神が出会う時、世界は変わる。ついにこの時が来たよ!」

 

『マイフレンド!命の樹の種の回収を始めるかい?』

 

 解毒用に命の樹の種を回収するというのも今回の予定に含まれていることだが、今は首を横に振った。

「クグツの解毒剤も大切だが、それは後でいい」

 

『そうだね!今はこっちに集中しないと!』

 

 ようやくあの女王様が戦神になってくれたんだ。今は盛大に歓迎してあげるとしよう。

 

 

 

~~ガイ~

 

「彼女を守らないと・・」

 

 モニターに戦神が1人でベゼルブ達を相手にしているのを目にした俺は我慢できずオーブカリバーを取り出した。

「ちょっと待て・・。どういうことだムサシ?」

 

 いざ行こうとするとアスカさんに止められた。どうやらお仲間であるムサシさんからまたもテレパシーが届いたようだ。

『女王様は戦わない決意で戦神になったんだと思う。自分からは決して攻撃をしていないんだ』

 

 確かに映像で観えるかぎりベゼルブ達の攻撃を避けつつも、倒す気のない牽制攻撃や爪を弾いたりするだけだ。

『その想いを踏みにじる訳にはいけない』

 

「何でだ!」

 

 ジャグラーはそれに対して理解に苦しむ反応をする。俺もジャグラーと同意見で納得いかなかった。現に戦神は1人でベゼルブや怪獣たちを1人で相手にしていて、苦戦しているのだから。

『うわァァァァっ!?』

 

 怪獣がミサイルのような攻撃を村へと放つと、命の樹や村を守るためにドーム状のバリアを張る。しかしそのバリアの中に戦神自身は含まれてはなく、戦神だけがそれを喰らってしまっていた。

「・・・行きましょう。今行かなきゃ光の戦士に選ばれた意味がない!」

 

 見ていられなくなった俺はアスカさんにそう告げると、俺の言葉に頷いてくれた。

「そうだ、俺達はウルトラマンだ。行くぞガイ!」

 

「はいッ!」

 

「ダイナァァァァァァァッ!!」

 

 アスカさんがを取り出して光へと変わっていく。俺もオーブカリバーを掲げて光となり、戦神が1人で戦う命の樹へと向かった。

 




次回「種」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



~~ムサシ~

 

「ぐぁっ!?」

 

 戦神がベゼルブ達の攻撃により背中から倒れた瞬間・・・光の柱が2本空から降りてくる。

「シュァ!」

 

「ダァッ!」

 

その光の正体はウルトラマン。かつて共に戦った仲間であるウルトラマンダイナと最近ウルトラマンになったばかりだという新たな光、ウルトラマンオーブだ。

「貴方達は・・・?」

 

「オォォォォシャァッ!!」

 

「ダァッ!」

 

 戦神がその2人に驚くのもつかの間、オーブはバキシムに飛び膝蹴りを決め込み、ダイナはベロクロンに殴り掛かる。そしてその2体を怯ませるとすぐさまその2体を操っているベゼルブへと向かって行った。

「オォォォ・・・セイっ!」

 

 オーブは回し蹴りでベゼルブの爪を弾くと回転の勢いを乗せたパンチで追撃をする。

「ダァァァァッ!」

 

 ダイナも頭突きからのドロップキックでベゼルブを怯ませると・・・戦神は2人を止めるかのように手を伸ばした。

「待ってください!殺しては・・・殺してはいけません」

 

「オォォォ・・・シュワッ!」

 

 そんな戦神の声に気づかなかったオーブは腕を十字に重ねて光線を放ち、ベゼルブの1体を撃破する。

「・・・ッ!」

 

 ダイナも姿を青く変化させる。ダイナのタイプチェンジ、ミラクルタイプだ。ミラクルタイプとなったダイナは空間を超高密度圧縮させて衝撃波を飛ばす技、レボリュームウェーブでベゼルブを攻撃する。その攻撃を受けたベゼルブは発生したブラックホールに吸い込まれてこの場から消えてなくなった。

「・・・ぁぁ・・」

 

 たとえ怪獣でも相手の命を奪いたくない。怪獣との共存を望み、ようやくスタート地点に立てた僕にはそんな女王の気持ちがよく分かる。だからこそ僕はこの時戦いに参加するのを躊躇っていた。

 

 

 

~~ライゴウ~

 

 戦神となったカガリ様や突如として現れた2人の光の巨人が大型ベゼルブ達の相手をしてくれるなか、我々と同じぐらいの大きさの小型のベゼルブや、我々よりも5倍ほど大きい中型ベゼルブが戦神の張るバリアの穴を潜って攻めてきた。

「ここから先、絶対にベゼルブを通すな!」

 

「「「「「オォォォォォ!!」」」」」

 

 私は軍を率いてその侵攻を食い止めにかかる。しかし小型や中型とはいえベゼルブはベゼルブ。光弾や雷撃によって私の軍を攻撃してくる。

「怯むな!民を守れ!!」

 

 逃げ惑う民を守るため、私の部下たちが次々とベゼルブに敗れ、命の灯火が消えていく。2~3人で1匹を倒すこちらに対して、ベゼルブは1匹で数人を倒す。我々は軍と言っても他の星に侵攻などしないので実戦経験は少ない。というよりもほぼない。そのためこちらが圧倒的劣勢となっていた。

「くっ・・・」

 

 私も覚悟を決めて刀を抜き、ベゼルブへと斬りかかる。しかしそのベゼルブに襲われていた部下の1人はその場に倒れながら大量の血を流していた。

「た、隊長・・」

 

「・・・よく頑張った。お前は勇敢な戦士だ」

 

「カノンを・・・民を・・・守ってくだ・・さ」

 

 勇敢に戦った戦士の1人の最後を見届けた私は背後に迫って来たベゼルブに刃を振るうも・・・その刃は爪によって受け止められてしまった。

「くっ・・・」

 

 人間とベゼルブとの力比べでは体格差で当然のようにベゼルブが優勢となる。そのため力負けしてしまった私はベゼルブに押し倒され。今にもその爪に刺されてしまいそうなところを何とか持ちこたえている状態となってしまう。

「先ほど部下にカノンの民を任されたばかりだというのに・・・私もここまでか・・」

 

 私はここまでかと諦めようとした瞬間・・・私を襲っていたベゼルブが何者かに背中を刺されて倒れた。

「エサカ・・お前何故?」

 

 そこにいたのは私が罠にハメたはずのエサカだった。

「私は貴様を・・・」

 

「今はそんなことよりも民を守ることの方が先決だ。そうではないのか?」

 

「そうだな・・!」

 

 私はエサカの言葉に頷くと、見知らぬ黒い服の男とともに近衛の2人が駆けつけてくる。すると黒い服の男は中型ベゼルブの頭に飛び乗り、その頭部を刀で突き刺すと近衛の2人が銃撃による追撃を与え・・・中型ベゼルブを一匹仕留めた。

「何者かは知らんが、協力感謝する!」

 

「あまり期待はするな。幾ら個の戦闘力があるのが数人増えたところで、根本的に力で負けている」

 

 黒い服の男は着地しながら私にそう告げてくる。確かにベゼルブ1匹1匹が我々より強いが、あくまで身体能力だけで知恵や技術は人間であるこちらが有利だ。そしておそらくこの男の実力は私以上とみる。エサカとその近衛という増援とともにそのような御仁が手を貸してくれるのだからこの崩れかかった戦況を持ち直すこともできるだろう。

 

 

 

~~サイキ~

 

「嘆かわしい。痛ましいよね。傷つけ合い、血を流す。殺し合いで全てを決める」

 

 彼らとベゼルブ達の戦いをモニター越しに観て、涙を流す。他の命を奪うことでしか維持することができない平和とは本当に平和と言えるのだろうか。

「こんなものが平和なものか!こんな宇宙はもうたくさんだ!」

 

『マイフレンド。あれを観て!』

 

 パーテルに言われて私は戦神へと視線を向けると、戦神はその瞳から金色に輝く光の涙を流していた。女王様は自分達の民だけでなく、次々と力尽きていくベゼルブ達にも涙を流してくれているんだ。

「分かるよ女王様。こんな戦い、辛いだけだよね。・・・もう終わりにしよう。クイーンと女神はそのために巡り合ったのだから」

 

 私がそう口にした途端、女王様も同じことを考えたのかクイーンの目の前までジャンプをして距離を詰めてきた。

 

 

 

~~エサカ~

 

 ジャグラーやルチア達の協力もあり何とか小型ベゼルブとの戦いも一段落を迎えると、立ち上がった戦神はいきなりクイーンベゼルブの近くまで跳び上がった。

「どうして自らクイーンベゼルブの前へ?」

 

「まさか・・・対話か。女王様はクイーンベゼルブと対話をしようとしているのではないだろうか?」

 

 カガリ様は民はおろか攻めてくるベゼルブ達をも労われる御方だ。

「クイーン!クイーンベゼルブ!」

 

 戦神はクイーンベゼルブへと呼びかけ始めると、それに気づいたクイーンベゼルブの動きが止まった。

「えぇ、話し合いましょう」

 

 どうやら戦神となっているカガリ様にはクイーンベゼルブとの意思疎通が可能なようで、話し合いでこの場を納めようとしているのだ。

「女王・・・」

 

 私は女王の話し合いが成立することを祈った。

 

 

 

~~サイキ~

 

『争いなど無意味だと・・・驚きました。私もそれを伝えたかったのです』

 

 クイーンと女神の波長が重なり始める。

『えぇ、私もそう思います』

 

『脳波がシンクロしてる!対話してるよ!』

 

 その事実にパーテルも驚いているが・・・私はそれ以上に動揺していた。

「私は・・・こんな指示など出していない」

 

 私はクイーンに対話をしろなどと伝えていないのに、女神と対話をしているのだ。

『じゃあクイーンが自分の意思で対話してるってこと?』

 

 何故クイーンが自分の意思でこのようなことをし始めたのかと考えこんでしまっていると・・・クイーンの姿に変化が生じる。蟲のような顔は後頭部となり、あごの下だった部分の形状が変化して女神のような顔になっているのだ。

 

 

 

~~ジャグラー~

 

 戦神とクイーンベゼルブの対話で、クイーンベゼルブの姿が変化をする。

「女王・・」

 

 ライゴウとかいう将軍は「戦いは終わった」と判断して刀を納める。

「クイーンが・・・カガリ様を受け入れたのか」

 

 まさか本当に・・・本当に話し合いで戦いを終結させることができるのか。

「互いの心と心を1つにする。それで・・・」

 

 俺は半信半疑のまま成り行きを見守ろうとした瞬間、事態は動いた。

 

 

~~サイキ~

 

『互いの心と心を1つにする。それで・・・』

 

 心と心を1つに・・・そうか!

「戦神を油断させようとしているのか!ナイスフォローだよクイーン!」

 

 私はようやくクイーンの真意を理解できた瞬間、戦神の足元から大型ベゼルブが飛び出てきて尻尾を突き刺した。

「クイーン・・何故・・」

 

 戦神はクグツを注入されながらもクイーンへと手を伸ばす。

『成功だ!戦神にクグツが注入された!』

 

 パーテルが喜びの声を挙げるとともに戦神の目が赤く変化する。クグツに意思を委ねた証だ。

 

 

~~琥太郎~

 

 夢を見ていた。深い闇の中にカガリが消えていきそうになる夢だ。

「カガリ・・・カガリ!カガリぃぃぃぃ!!」

 

 俺は消えていくカガリに必死に手を伸ばす。すると闇はいきなり晴れて、目の前にカガリが現れた。

「琥太郎?」

 

「カガリ!!」

 

「何処・・・ですか?助けてください。・・・私はもう・・私でなくなってしまう」

 

 どうやらこちらからカガリは見えても、カガリの方から俺の姿は見えていないらしい。

「自分を見失うなカガリ!」

 

「助けて・・・助け・・」

 

「俺はここにいる」

 

 俺は背中からカガリを抱きしめてここにいることを告げると・・・カガリはようやく俺が近くにいることに気づく。

「琥太郎・・・」

 

「このままじゃカガリの意識は飲み込まれちまう」

 

 飲み込もうとしてるのが何かは分からないが、カガリが何かに飲み込まれそうになっているのは伝わってくる。

「俺も・・俺も一緒だ」

 

 目の前に見えていた世界が再び黒く染まり、抱きしめているはずのカガリも見えなくなってしまうと・・・俺もその『何か』に飲み込まれてしまった。

 

 

 

~~ムサシ~

 

「女王様!しっかりしろぉぉぉぉっ!!自分を!!見失うなぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 オーブは右手に光を集束させて光輪を作り出すと、それを戦神を刺しているベゼルブへと投げつけた。その光輪は戦神に刺さっている尻尾を切断しつつその大型ベゼルブを両断して撃破すると、戦神はクグツに侵されて苦しみ出した。

「女王様!!」

 

 すぐさま戦神へと駆け寄ろうとしたオーブはいきなり戦神に攻撃されてしまう。クグツに乗っ取られてしまったんだ。

「この星の人達を守るためにその姿になったんだろ!!」

 

 守るために戦神になった女王様は額にエネルギーを集中させ、城へと向けて光線を放とうとしていた。

「その事を思い出せ!コスモォォォォス!!」

 

 コスモプラックを空へと掲げてウルトラマンコスモスへと変身した僕はすぐさまバリアを張って戦神が放った光線から城を守った。

「ぁぁぁぁぁっ!!」

 

「っ!?」

 

 すると戦神は僕へと襲い掛かって来たので、僕はその攻撃を受け流しつつ肩を掴む。戦神が暴れまわるせいで僕もエクリプスへと変わる暇がない。

「このままじゃ・・」

 

「ヴぁぁぁぁぁっ!?」

 

 このままでは埒があかないと考えていると、戦神はいきなり頭を抱えて苦しみ出した。きっとまだ女王様がクグツに抗っているんだ。

「負けるな!女王様!」

 

 

 

~~ジャグラー~

 

「まだ女王がクグツに抗っているのか・・」

 

 戦神がクグツに侵され、今もなお抗っている光景を見た将軍は自身では何もできないので成り行きを見届けるしかないと言わんばかりにその光景を見ていると、その肩をエサカが叩いた。

「命の樹の種があれば何とかなるかもしれん」

 

「命の樹の種?何故だ?」

 

「命の樹の果実、その種だけがクグツを解毒できるのです」

 

 クグツの毒に侵されたことを認めたくはないが・・・俺もその種の解毒作用によって救われた身だ。サイキが言っていたことだが、身をもって体感したからこそそれは信用できる。

「・・・生憎私も、私の部下も手負い・・。今、女王陛下を救えるのはお前達だけだ。任せたぞ」

 

 将軍は俺達に命の樹の種の回収を頼んでくる。まぁ言われなくてもそうするつもりだったがな。

「時間がない。とっとと行くぞ!」

 

「ま、待ってくれ師匠!」

 

「私も行くぞシショー!」

 

 俺は真っ先に命の樹へと走り出すと、ルチアとシズクも付いてくる。

「近衛隊長として私もカガリ様のために動かなくてはな」

 

 比較的怪我が少ない近衛隊長のエサカも付いてきて4人で命の樹へと向かっていると、俺達の目的を理解してか小型のベゼルブ達が行く手を阻んできた。

「ルチア!シズク!」

 

「「はい!」」

 

 エサカ達は銃を構えると空から迫ってくる小型ベゼルブ達を迎撃しにかかるが、それでも怯まずに迫ってくるベゼルブはいる。

「ムンッ!」

 

 そんな小型ベゼルブ達を俺が斬り伏せてカバーしようとするも、やはり数ではこちらが圧倒的に不利なせいで次々と着地したベゼルブが四方から襲ってくる。

「ここは私が食い止める!カガリ様を頼む!」

 

 エサカは1人でこの場のベゼルブを食い止めると言い出し、俺達に種を任せると言ってくる。

「隊長!私も手伝う。ルチアはシショーと種を取って来てくれ」

 

 1人では危険だと判断したシズルは自分も残ってエサカを援護するつもりのようだ。

「行くぞ!」

 

 俺は2人を信じてルチアとともに命の樹の根元へと走る。そして樹に光り輝く果実が実っていることに気づいた。

「うおぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 その果実目掛けて俺は刀をブーメランのように投げつけ、幾つかの果実を切り落とした。

「っ!!」

 

 俺はそのうちの1つから落ちてきた種を跳び上がって掴み取ると落下してきた刀が地上に突き刺さった。

「ルチア!刀を頼む!」

 

「はい!」

 

 着地した俺はルチアに刀を任せてオーブとダイナが戦う方へと振り返った。オーブもダイナも戦っている相手は超獣たち、そう易々と倒せる相手ではないか。

「あっちのは・・」

 

 慈愛の戦士と言われる青いウルトラマン・・ウルトラマンコスモスの方も暴れまわる戦神を押さえ込むのに手を焼いているようだ。

「ガァァァァァイ!!これを女王に打ち込め!!」

 

 そう叫んだ俺はオーブへと向けて種を投げつけると、オーブはその種を掴み取る。そして光を纏わせて槍状にした。

「ウゥゥゥラッ!!」

 

 オーブはその槍を戦神へと投げつけると、その槍は戦神の額に直撃した。

「うぅ・・・ァァァ」

 

種を包んでいた光が消えたが種は無事に戦神に取り込まれたようで、俺の時と同じように戦神の体内のクグツが解毒され始めた。

「よしッ!おいルチア!やったぞ!」

 

「流石私の師匠!」

 

刀を回収したルチアも喜びの声を挙げる。というかまたあいつ俺のことを師匠と・・・。

「だから師匠ではないと・・・おいルチア!後ろだ!」

 

「えっ?・・・」

 

 俺は背後からルチアに迫るベゼルブに気づき、その事を伝えるとルチアはあろうことか俺の刀で・・・それも蛇心流の構えで戦おうとした。

「まさかッ・・おいよせ!」

 

 刀の長さが違う。まだ見様見真似程度で稽古をしてないどころかまともに教わってすらいない。そんな剣術で挑むのはあまりにも無謀すぎる。

「たぁぁぁぁぁっ!!」

 

「やめろ!ルチアぁァァァァァ!!」

 

 俺の静止を無視したルチアは見様見真似の蛇心流で小型ベゼルブへと斬りかかる。

「え・・・っ?」

 

 その刃は小型ベゼルブに当たりはしたが斬り切れてなく・・・小型ベゼルブの爪はルチアの腹部を貫いていた。

「そん・・な・・。し・・・しょ・・」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 目の前の相手を・・・慕ってくれた人を守れなかった俺は声にならない声を挙げる。するとこちらの異変に気づいたシズクとエサカがこちらへと走って来た。

「そんな・・・ルチア・・」

 

「・・・くっ・・」

 

 シズクはその場にへたれ込み、エサカは悔しそうな顔をしながらもルチアが仕留めそこなった小型ベゼルブを斬り倒す。

「ルチア。しっかりしろルチア・・目を覚ませ!」

 

 虚ろな目でルチアに近寄ったシズクは必死に呼びかけるも・・・その目は覚めることなく、刺された部分から血だけがたれ流れる。

「止まれ!止まれ!」

 

 シズルは刺された部分に布をあてて、その血を止めようとしていると・・・そんなシズルにも別のベゼルブが迫って来た。

「ッ!!」

 

「ハァっ!」

 

 俺は即座にその小型ベゼルブの尻尾を切断すると、エサカがベゼルブにトドメを刺した。

「大丈夫だ・・。きっと・・だからルチア・・」

 

 涙を流しながらきっと助かるとルチアに呼びかけるシズルだったが・・・エサカも俺もルチアが既に亡くなっていることを理解していた。刺された腹部を押さえても貫通してしまっているのだから反対側からも血が出るのは当然だ。血の量は既に致死量。いいや・・それ以前に刺されて倒れた段階でルチアの命は・・・。

「・・・ルチア・・」

 

 俺はルチアに視線を向けながらここまでのこいつのことを思い出す。蛇心流を教わりたいと言ってきた事。俺を『師匠』と呼び始めたこと。俺の目を見て何に裏切られたのかと尋ねてきたこと。短い付き合いながらも、それなりに記憶に残ることはあった。

「・・・ッ!」

 

 更に迫って来た小型ベゼルブを斬り倒す。そしてエサカへと迫っていた小型ベゼルブも貫いた。

「ウオォォォォぉっ!!」

 

更に俺は追加で押し寄せてきたベゼルブ達の中に身を投じた。

 

 

 

~~サイキ~

『命の樹の種は凄いね。マイフレンド』

 

 せっかく揃っていたクイーンと戦神の波長が再び離れてしまうと、パーテルがそうに語った。

「関心してる場合じゃない!!」

 

 光の戦士はそれぞれベゼルブや超獣たちを相手にしはじめる。あの戦うことで物事を解決しようとする野蛮な光の戦士のことだ。きっとベゼルブ達を倒したら次はクイーンを倒さんと攻撃してくるだろう。

「このままでは・・・」

 

 

~~エサカ~

 

「ウワァァァァァァッ!!」

 

 短い付き合いながらもルチアが殺された事に私達以上にショックを受けていたジャグラーは怒りと悲しみに身を任せベゼルブ達を次々と斬り倒す。

「ジャグラー・・・っ!?」

 

 私はそんな彼を心配して加勢しようとすると・・・ジャグラーから黒いオーラが溢れ始め、顔の半分が魔人のようなものへと変化した。

「隊長・・今、ジャグラーが・・・」

 

 シズルもその瞬間を観ていたようで驚いていると、またもベゼルブを斬り倒したジャグラーの姿がまたも変化した。今度は顔だけでなく全身が鎧を纏った魔人のような姿となり・・・次々とベゼルブを斬り倒していくうちにそれが一瞬ではなくなってきた。

「修羅の道を行く気かジャグラー・・」

 

 怒りのままに剣を振るい、更なる力を求めんとするジャグラーに・・・私はどうすることもできなかった。

 

 

~~ジャグラー~

 

「俺に・・俺にもっと力があれば・・・」

 

 自分の力不足を後悔しながらも俺は荒れ狂うように刀を振るう。もっと力さえあればむざむざ目の前でルチアが殺されることはなかった。

「あぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 周囲にいた全てのベゼルブを斬り倒した俺は行き場のない怒りで叫ぶと・・・ようやく我に返って自分の両手を見る。その手はベゼルブの返り血で汚れているのではなく、別の手になっていた。

「これは・・・俺か?」

 

 俺の手はまるで鎧を纏ったようなものになっていた。そして自分の顔を触りながら手にしている刀に顔を写すと・・・俺の顔はまるで魔人のようなものへと変化していた。

「シュァ!!」

 

 自分が魔人のような姿になったことを自覚した俺はベゼルブと戦うオーブを見上げる。光の戦士として戦うガイに比べて・・・俺の見た目は光の戦士からは程遠いものになっちまったな。

 

 

 

~~エサカ~

 

「ジャグラー・・・」

 

 自身の姿が魔人へと変わったことを自覚した様子のジャグラーはベゼルブと戦うオーブを見上げている。私は彼に声をかけようとすると、シズルが私の手を掴んで首を横に振った。

「隊長・・」

 

 どうやらシズルは今のジャグラーに恐怖を感じているのようだ。

「大丈夫だ。たとえ姿は変わっても・・・ジャグラーはジャグラーだ」

 

 おそらくジャグラーは私が飲ませた命の樹の種と自身が抱いた怒りや悲しみの感情によって今の姿に変貌してしまったのだろう。だとしたらこれは私の責任でもある。

「ジャグラー」

 

「・・・命の樹がこの星の宝か?」

 

「命の樹がこの星の要。そして民の心の支えだ」

 

 私はジャグラーの問いかけに答えると、ジャグラーは命の樹を見上げた。

「俺にはあの樹が悪魔に見える。あんた等の神話は全部あの樹についての話だ。あの樹が全ての元凶だ。・・・違うか?」

 

 確かに私もクイーンベゼルブを目の当たりにしてからはそう考えたこともあった。何故クイーンベゼルブが戦神と対になるように語られているのか。それはもしやクイーンベゼルブと戦神に何らかの繋がりがあるのではないかと。もし2つに何らかの繋がりがあるとすれば、命の樹というのはその2つのルーツなのではないか。カノンに戻ってくるまでの間、私はそんな推測を立てていたがジャグラーも同じことを考えていたようだ。

「まさかお前・・・」

 

「あの樹が無くなれば戦いは終わる。もう犠牲は出ない。この戦いを終わらせて、あんたの女王様も守ってやる!」

 

 ジャグラーのやろうとしていることに予想がついた私は確認しようとすると、ジャグラーは『間違った手段』の救い方でカガリ様を守ることを約束し勢いよく跳び上がった。

 




次回「根」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



~~エサカ~

 

「ハァァァァ・・・」

 

 跳び上がったジャグラーは手にしている刀に殺気を込める。どうやらジャグラーは本気で命の樹を斬るつもちのようだ。

「止めるんだジャグラー!!」

 

「っ・・・!!」

 

 完全に正気を取り戻した戦神はそれに気づくと命の樹を守ろうと走り出す。

「ハァァァァァっ・・・タァァァッ!!」

 

「あぁぁぁっ!?」

 

 ジャグラーの刀から紫色に光る斬撃が放たれる。戦神は身を挺して命の樹を守ろうとするも、斬撃に弾かれてその場に倒れてしまった。そして戦神が止め切れなかった斬撃は命の樹へと命中すると・・・命の樹は斬撃が当たった幹の部分から倒れ始めてしまった。

 

 

~~サイキ~

 

「戦神に傷が・・」

 

 戦神がクグツを解毒されてすぐ、いきなり現れた魔人のような誰かが禍々しい斬撃を放つ。その斬撃は戦神の腕に傷をつけてしまうほどの威力で命の樹に直撃すると、命の樹は幹が横に斬られて倒れ始めた。

『マイフレンド!せめて果実だけでも!』

 

「そ、そうだ。果実を・・・」

 

 あまりの出来事に頭を回転させることを忘れていた。せめて集められるだけの果実を回収しなければ・・。

「みんな!果実を手に入れてくれ!」

 

 ベゼルブ達に果実の回収をお願いする。ベゼルブ達はみんなで集めれる限りの果実を集めてくれていると、村の方へと命の樹が倒れそうになった。

「っ!!」

 

 それに気づいた戦神は額から光線を放つとベゼルブ達もろとも斬られた部分の命の樹を消滅させた。斬られた部分の命の樹が消滅してしまうと、根の部分もそれと連動するかのように消滅してしまう。命の樹がその命を失ってしまったのだ。

「ぁぁぁ・・」

 

 命の樹を消滅させるほどの威力で光線を放った戦神は力尽きてその場に倒れてしまうと・・・青い光の戦士の光で傷を癒され、女王としての姿であるカガリちゃんに戻ってしまう。

『・・・計算外のことが起こる。この宇宙は不完全だね』

 

 パーテルの言葉とともに僕は膝をつく。もうここにいても・・・どうしよもない。

「クイーン。もう帰ろう」

 

 ここにいても意味がないと判断した僕は船をクイーンの真上まで降下させると、クイーンと生き残りのベゼルブ達を乗せて惑星カノンを離れた。

 

 

 

~~ガイ~

 

「シュァ!!」

 

 ベゼルブ達を回収して飛び去ろうとしていたサイキの船に対して俺はオリジウム光線を放とうとするも・・・サイキの船はワープを発動したらしく俺達の目の前から一瞬で消え去ってしまった。

「・・・・・女王様ッ」

 

 俺は渋々変身を解除するとすぐさま女王様の倒れている場所へと走った。

「女王!」

 

「カガリ女王!」

 

 ムサシさんとアスカさんも変身を解いて駆けつけてくる。コスモスさんのおかげで女王様の傷はだいぶ塞がってはいるが気絶したままだ。

「カガリ様!」

 

「お願いします」

 

 隊長が救護班を連れて駆けつけてきたので、俺は救護班の担架に女王様を乗せた。そしてその救護班に女王様が運ばれていくと少し先に先ほど命の樹を斬り倒した魔人が立っていたことに気づいた。

「・・・お前、ジャグラーだろ」

 

 見た目は変わってしまっているが、長く一緒に旅をしていた俺にはその魔人がジャグラーだとすぐに分かった。

「いったいどうしたんだ?」

 

 ジャグラーの正面に立っていったいどうしてあんなことをしたのかを尋ねると、ジャグラーは人の姿へと戻る。

「俺は・・・この星を守った」

 

「今のが君の正義か・・」

 

「力があれば何をしてもいいってわけじゃねぇぞ」

 

 何処か悲しそうなジャグラーにムサシさんとアスカさんが迫る。

「待て・・。俺は敵か?・・・俺は・・・光の戦士になれるはずだった」

 

「ジャグラー。こんなのは光の戦士の戦い方じゃない」

 

「それは君にも分かるはずだよ」

 

「・・・・」

 

 ジャグラーにも今の自分が『光』でないことに自覚はあるようで悔しそうに俯くと・・・カノンの兵達がジャグラーを取り囲んだ。

「女王陛下を斬りつけた貴様を見過ごすわけにはいかない」

 

 将軍らしき人物が刀をジャグラーの首へと向ける。

「俺は助けたんだ。この星を・・あんた等全員を・・。見て見ろ、戦いはもう終わったんだぞ」

 

「・・・すまん」

 

 俺は将軍に一度刀を下ろしてもらうとジャグラーの肩に手を伸ばした。きっとジャグラーはさっきベゼルブに殺されてしまったルチアのショックで普段の冷静さを欠いているんだ。

「ルチアの事、俺も悲しいと思う」

 

「言っただろ・・。犠牲を出さない戦いなどありえないと・・」

 

「かもしれない。だけど俺は・・・」

 

「ガイ。お前のサポートはもうしない」

 

 そう告げたジャグラーは俺に背を向けてこの場を去ろうとする。

「待てジャグラー!」

 

「・・・それは命令か?」

 

 皮肉を込めてそう言ったジャグラーは跳び上がるとともに魔人の姿へと変わると、その力を使ってそのまま空へと飛び去っていってしまった。

 

 

 

 

~~ライドウ~

 

「サイキの船は空中で粒子分解されたようです」

 

この星を去った可能性もあればまだ近くにいる可能性もあるということか。

「またいつ襲ってくるか分からん。警戒を徹底させろ!」

 

 私は部下にそう命令を下すと・・・妻がこちらへとやってきた。

「あなた・・・」

 

「無事だったか。怪我はないか?」

 

「大丈夫よ。でも・・・」

 

 妻は命の樹があった場所へと視線を向ける。そこにはもう何もなく、森のその部分がすっぽりと何もなくなっていた。

「この子はあの樹を見られないのね」

 

 新しい命が宿っている腹部をさすりながら妻はそう告げた。私は妻にどんな言葉をかけてやればいいのか分からなかった。

 

 

 

~~カガリ~

 

「ここは・・・」

 

 目を覚ますと見知った天井が見えた。ここは私の自室だ。

「っ!」

 

 私はベッドから起き上がる。

「お待ちになってください。まだ動かれては・・・」

 

 医師の静止を振り切り傷ついた民のところへと向かう。

 

 

~~ガイ~

 

 意識が戻ったという女王様がここに来ていることを聞いた俺は、話をしようとやってくると兵達にそれを阻まれた。

「女王様に会いたい。通してくれ」

 

「下がれ。通すわけにはいかん」

 

「お前は女王様を斬りつけた者の仲間だろ」

 

 どうやらジャグラーの仲間ということで俺は警戒されているようだ。

「いや構わん。御通しして差し上げろ」

 

 この場へとやってきた将軍がそう告げると兵達が警戒を解いて通してくれた。俺はそこを進んでいくと女王様は隊長やシズクとともにルチアの亡き骸の前にいた。

「助けて下さった方ですね。お礼を言います。他の巨人の方々にも・・・」

 

「結局・・・力になれなかった」

 

 俺は力になれなかったことを女王様に詫びる。

「申し訳ありません。謝って済むことでないのは分かっていますが・・・あいつのかわりに・・・」

 

「あいつ?」

 

「貴女を傷つけてしまったのは俺の相棒なんです」

 

 力になれなかった自分のことと・・・あろうことか女王を傷つけ、命の樹を斬り倒したジャグラーのことも含めて詫びる。

「・・・力を持つということは自分の中に怪物を飼っているということと同じなんですね。守ろうとしたものを私も結局守れなかった。民に犠牲を出して命の樹も破壊してしまいました。私は・・・貴方の信頼も裏切ってしまいましたね」

 

 女王様は将軍の方を見ながらそう告げる。

「誰も犠牲を出さないことが俺の理想なんです。光の戦士となって実現できると思ってましたが・・・俺はその理想に一歩たりとも近づけていない」

 

「犠牲は出さない。その想いは同じです。だからクイーンと心を通わせられることを信じて行動したのに・・・クイーンが何を言いたかったのか、今はもう分かりません」

 

 戦神となればクイーンベゼルブと波長を合わせられるはずなのに・・・どうしてもう分からないんだ?

「それは何故?」

 

「私はもう戦神にはなりません。命の樹を守る戦神、私には荷が重すぎました」

 

「カガリ女王・・」

 

 守る使命を「荷が重い」と語った女王様は俯くとムサシさんもここにやってきた。

「っ・・!!芽吹いた!」

 

 俯いていた女王様は何かに気づき、いきなり夜空を見上げた。

「芽吹いたって・・・まさか命の樹がですか?」

 

「はい。地球と呼ばれる星・・」

 

 女王様が地球に新たな命の樹が芽吹いたことを感じたことを話した瞬間、空が紫色に光った。

 

 

 

~~琥太郎~

 

「俺、どうしたんだ?」

 

 目が覚めるとまたも病室のベッドの上だった。

「突然倒れてぶっ倒れたんさ。お医者さんの話だと一時的に心臓も止まっちゃって、電気ショックとかもされて何とか持ち直したらしいよ」

 

 なんかとんでもなく危ない状態だったんだな俺。

「あぁ、大丈夫だけど・・・」

 

「だけどどうしたの?」

 

「樹がなくなった」

 

 俺の言葉に小鳥が呆れ顔になっていると、小鳥のスマホが振動した。どうやら誰かからの電話のようだ。

「あっ、おっちゃんからだね。はいもしもし、どしたのおっちゃん?」

 

 小鳥は病室だと言うのにこの場で電話し始める。

『すぐに研究室に戻ってくれ!種が芽吹いた!』

 

「種?えっ、まさかあの発見した種なんて言わないよねおっちゃん。エイプリルフールはもう過ぎてるよ」

 

 助教の話を信じる気のない小鳥は通話を終えようとすると、ビーカーが割れるような音が聞こえた。

『とんでもない勢いで成長してるんだよ!とにかく一度来てくれ!!』

 

「えっ?マジなんそれ?あっ、切れちゃった」

 

「ッ・・・!!」

 

 半信半疑な顔をしている小鳥だったが・・・何かを感じ取った俺は病室のベッドから跳び起きるとすぐさま研究室へと走り出した。

 

 

 

~~サイキ~

 

「命の樹が消えてしまった。・・・私の計画は潰えた」

 

 私が落ち込んでいるとクイーンがある事を伝えてくれた。

「何っ!それは本当なのかクイーン!」

 

『どうしたのマイフレンド?』

 

「また現れたんだよ!命の樹が!!」

 

『何だって!それは本当かいマイフレンド!』

 

 船を量子分解させて身を潜めていたが、もうその必要はないね。

「パーテル!量子復元!目的地は地球だ!!」

 

 量子復元させた船は新たな命の種が芽吹いた場所・・・地球へと航路を急がせた。

 

 

 

~~ガイ~

 

「大気圏外でサイキを探していたアスカからテレパシーが届きました。姿を現したサイキの船はすぐさまワープしてしまったようです」

 

「・・・このままではあの人のところにサイキが・・・」

 

「あの人?」

 

 俺は女王様のいう『あの人』というのが気になっていると空から光が降りてくる。変身を解いたアスカさんだ。

「サイキのヤロウ。何処行きやがった」

 

「地球だよ」

 

「地球だとッ・・・」

 

 お二人ともそれぞれこの宇宙とは別の宇宙の地球の出身らしく、この宇宙の地球が戦いの舞台になろうとしていることに何とも言えない顔をする。

「先輩方、ここは任せていいですか。サイキは俺が追います」

 

 俺はいざ地球へと飛ぼうとオーブカリバーを手にすると・・・隣にジャグラーがいないことを自覚する。

「・・・・・」

 

「どうしたルーキー。1人じゃ不安か?」

 

「自分を信じろ。君はもう1人で飛べる」

 

 アスカさんとムサシさんは俺の心境を察してくれてそう言葉をかけてくれた。

「地球に行ったら琥太郎という青年を探してください」

 

「琥太郎?」

 

「命の樹のそばにきっといるはずです」

 

 女王様が地球の青年のことを知ってるなんて・・・その人は何者なんだ?

「彼はきっと命の樹を守ろうとするはずです。行けるのなら私も行きたいですが・・・私はもう戦神にならないと決意したんです」

 

「分かりました。クイーンが何を言いたいのか、それも自分が確かめてきます」

 

 そう言った俺はオーブカリバーを空へと掲げてオーブに変身すると地球へと飛び立った。

 

 

 

 

~~琥太郎~

 

「琥太郎!お前病院にいないで大丈夫なのか?」

 

「大丈夫です!・・・って・・・何だこれ」

 

 助教が病院を抜け出してきた俺に声をかけてくれたが、俺はそれを軽く流して種を見た。ケースに入っていたはずの種はそれを突き破って根を伸ばし、今も信じられない速さでその根を伸ばしている。

「ちょっとまだそんな走っちゃ駄目だよ琥太・・うっわっキモッ!」

 

 少し遅れて研究室へとやってきた小鳥は急成長をしている根を観て率直な感想を告げた。そりゃまぁ今もなおウネウネと根を伸ばしているもんな。キモイって思っても仕方ないと思う。

「・・・いやもうさ、キモイという次元じゃないと言うか・・・マジヤバくね」

 

 気づくとその根は研究室の天井まで到達していた。

「あぁ、本当にヤバそうだ。私はアナウンスで大学に残っている人を非難させる。お前達も危ないと判断したらすぐに逃げるんだぞ!!」

 

 助教は他の人達を逃がすためにいち早く研究室を出ていくと、小鳥は俺の腕を掴む。

「琥太郎君!私達も逃げなきゃ!」

 

「お、おう・・」

 

 俺は小鳥に連れられて研究室から逃げようとすると何か気配のようなものを感じて振り返る。そこにはまたも不思議な空間が広がっていて、カガリが立っていた。

「カガリ、いったいどうして・・・?」

 

「恐ろしい怪物たちが地球へと向かっています」

 

 怪物?

「でも光の戦士も向かっています。きっと貴方の力になってくれるはずです」

 

 ここにきてカガリが分からない単語を言い始めたな。光の戦士ってのはいったい何だろうか。

「とりあえずその光の戦士は助っ人だとして・・・カガリは無事なのか?」

 

「もう私の事は心配しなくていいです。貴方にはもう会いません。これで最後にします」

 

「最後って・・・どういうことだよ!?」

 

 いきなり会うのはこれで最後と言い出したカガリを問い詰めようとすると、カガリは透明になり始める。

「琥太郎・・。さようなら」

 

「カガリっ!」

 

 カガリを引き留めようとするも、カガリは目の前から消えてしまう。すると俺は現実へと戻されてしまった。

「カガリっ・・」

 

「琥太郎君!こんな時に何言ってるの!早く逃げるよ!」

 

 こんな時に何を言ってるのかと注意された俺は小鳥に引っ張られて研究室を出た途端、根の成長は更に加速してアッと言う間に研究室の中が根でいっぱいとなってしまった。

「は、早く閉めないと!」

 

 俺達は扉を閉めてそれを押さえつけるも、俺達2人の力程度で押さえつけるのは無理がありそうだな。

「うわっ!?」

 

「きゃぁっ!?」

 

案の定俺と小鳥は根の急成長によって扉とともに吹き飛ばされてしまう。

「これ・・・ホントにヤバい」

 

 扉を吹き飛ばすほどの勢いで成長する根は出口へと向かえる右側の道を一瞬にして塞いでしまう。すると左側の曲がり角から見知らぬ男性がこっちにやってきた。

「凄いな。とんでもない成長速度だ」

 

「えっ?誰?」

 

 その見知らぬ男性は腕に付いている腕時計型の機械で根のデータを取り始める。

「物凄いエネルギーが細胞を分裂させているよ」

 

 てっきり助けに来てくれたんだと期待したんだけど・・・データを取りにきただけなのかこの人。というかデータを取るにしても随分とこの摩訶不思議な現象の前で落ち着いてるな。

「もしかしてあなたが光の戦士・・?」

 

「え?そうだけど、どうして知ってるの?」

 

 やっぱりこの人がカガリの言っていた光の戦士なのか。

「カガリが教えてくれたんです」

 

「カガリ?僕の知り合いにそんな人は・・・」

 

「ちょっとお二人さん。その話は今じゃないといけないんですかな?」

 

 すっかり話し始めた俺と光の戦士さんは焦っている小鳥の呼びかけでハッとする。

「ごめんごめん。それじゃまぁ・・・」

 

 光の戦士さんは腕時計型の機械を操作すると俺達3人は球体状の光の壁に包まれた。そして包んだ光はそのまま重力を無視するかのような飛行で俺達を建物から脱出させてくれた。

「えっ?今の何ぞ?」

 

「リパルサーリフト。僕の発明」

 

 光の戦士って・・・とんでも技術の科学者ってことなのか?

「ねぇねぇ、それどんな原理なの?」

 

「説明してもいいけど、その前にあの樹の事を教えてよ」

 

 もはや根ではなく『樹』としての成長まで始めてしまった種は研究棟を飲み込みつつも、俺は惑星カノンのことを・・・そしてカガリのことを光の戦士さんに話した。

「なるほどね。惑星カノンの樹が斬られたら、こっちの種が急速な成長を始めたのか」

 

「あの樹は俺が守らなきゃ。カガリが命がけで守ろうとしてたものだからな」

 

「そう言えば話にカガリって娘が出てきてるけど・・・いや、そもそもどうして君が惑星カノンのことを分かるんだ?」

 

「命の樹の種に触れてから俺とカガリの心が通じ合ったんです」

 

 通じ合ったからこそ、俺にはカガリのかわりに命の樹を守るため動かないといけない。

「その種を通して感応し合ったのか。僕もあの樹を守るように地球に呼ばれてやってきたんだ。別の地球からね」

 

「別の地球?」

 

「あっ、そう言えば名乗ってなかったね。僕は高山我夢。地球の大地を守る光、ウルトラマンガイアとしてこっちの地球に呼ばれたんだよ」

 

 光の戦士・・・高山さんは別の地球から来たような発言をしてるけど・・・どういうことだ?

「もしかしてパラレルワールドってやつ?」

 

「そう。マルチバース理論って言ってね、現在自分達が存在する宇宙とは別の宇宙が存在するってのが・・・」

 

 言ってることはまるで分からないが1つだけ高山さんのことで分かったことがある。この人『戦士』ってよりは思いっきり学者なタイプだ。

「ってあれ?この地球に呼ばれて別の地球から来たってことはカガリが言っていた光の戦士ってのは・・・」

 

「もしかしてあれじゃないかな」

 

 高山さんが何かに気づいて空を見上げたので、俺と小鳥も空を見上げてみると・・・光が俺達の目の前に舞い降りた。光の中からは民族衣装と冒険者を合わせたような独創的な服装をした男が現れた。

「君が女王様のウルトラマン・・」

 

「えぇ、貴方が琥太郎さん・・」

 

 その男の人に真っ先に話しかけた高山さんは俺の名前だけは聞かされていた様子のその人に俺だと勘違いされてしまう。

「いや、俺が琥太郎です。貴方がカガリの言っていた光の戦士ですね」

 

「ガイです。ウルトラマンオーブ」

 

 カガリが言っていた光の戦士・・・ガイさんは自らをウルトラマンオーブと名乗ると、高山さんが反応する。

「オーブか。僕はウルトラマンガイア、高山我夢だ」

 

「驚いた。地球にも地球のウルトラマンがいるんですね」

 

「別の宇宙の地球のだけどね」

 

 何か2人だけで盛り上がりつつあるな。

「ガイさん。カガリは無事なんですか?」

 

「女王様から君の事を頼まれたんだ」

 

 カガリが・・・。

「ありがとうカガリ・・」

 

 俺が守らなきゃとは口にしていたが、正直俺だけじゃ無理だとは分かっていた。だからこそ光の戦士の助っ人が2人も来てくれたのは本当にありがたい。

 

 

 

~~カガリ~

 

「女王様、命の樹が・・・命の樹が無くなってしまったらこの星はどうなるのですか?」

 

 1人のお婆さんが私に声をかけてきました。民達はこれまで信仰してた命の樹を失ったことで不安がっている様子ですね。

「大丈夫です。カノンから消えても別の星で命の樹は芽吹いています。たとえどんなに離れていても、その命を繋いでいるかぎりこの星は滅んだりしません」

 

 私が命の樹が別の星で芽吹いていることを伝えると・・・周囲の民達が集まってくる。

「本当ですか。命の樹は消えていないのですね」

 

「女王様がお守りくださったんだ」

 

「ありがとうございます」

 

 民達は私にお礼を言ってきますが・・・クグツによって操られて、救って下さったのは光の戦士の方々。そう考えた私は後ろめたくて民から目を逸らした。

「皆さん、今はこの国を立て直す時です。早く傷を癒して復興のために力を貸してください」

 

 私の心境を察してくれたエサカは民にそう告げてくれるも・・・私は自分にできることとは何か、すべきこととは何かが分からなくなりつつあった。

 




次回「地球」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

地球

~~琥太郎~

 

「その話が本当だとすると、怪物たちがこの地球にやってくるってことだよね」

 

「それだけこの樹には価値があるってことさ」

 

 小鳥が怪物たちが地球に来るのを怖がると、高山さんはそれだけの価値があって当然だと答える。命の樹は進化をもたらすと言われてるんだから確かに狙われる理由は十分だ。

「あっ!君、種を触ったんだったね!脳をスキャンさせてもらっていいかな?」

 

「はい。いいですけど・・・早っ・・」

 

 俺がいいと答えた途端、高山さんはすぐさま腕時計型の機械から放たれる光を俺にあてた。どうやらその一瞬でスキャンは終わったらしい。

「やっぱり、ほらこれ見て」

 

「えっ、松果体が活性化してる!?」

 

 高山さんはスキャン結果を俺達に見せてくると、俺の脳のレントゲン。その松果体の部分が活性化していた。

「そう、松果体のこの部位が活性化したことで感応が可能になったんだ」

 

「つまり・・・進化しているってことですか?」

 

 ガイさんは活性化して出来なかったことができるようになったことに『進化』という言葉を使うと高山さんが頷いた。

「あぁ、感応によって今まで会う事すら不可能だった者同士のコミュニケーションが可能になる」

 

「なるほど。だから7万光年離れた2人が巡り合えたのか」

 

 俺とカガリは7万光年も離れていたのか。

「僕はずっと知的生命体誕生の理由を調べていたんだ。何が進化のトリガーになったのかをね」

 

「でも地球には今までこんな樹はなかったでしょ・・何でいきなり・・」

 

「俺達の拾った種・・・あれはやっぱり地球のものじゃなかったってことか」

 

「おそらくこの樹が進化のトリガー。この樹が存在しなければ僕らのような知的生命体が存在することもなかっただろうね」

 

「この樹にはそんな役割があったのか」

 

 ガイさんは樹の根に触れながら上の方を見上げる。

「宇宙にとってとても大事なものだったからこそ惑星カノンで失われるとすぐにかわりの種が芽吹いたんだ」

 

「どうしてそんな大事な種が地球にあったの?」

 

「種があったのはこの地球だけじゃない。進化をもたらすために宇宙中の星々に種を飛ばしたんだ」

 

「じゃあ、数ある種からこの種だけが芽吹いたってことか」

 

星々の数だけ芽吹く可能性があったとなると・・・どんだけ奇跡的な確率なんだ。

「たぶん偶然じゃない。君がいたからこの種が芽吹いたんだ」

 

 俺がいたから?

「君と女王様とが繋がりを持たなかったら宇宙から進化のトリガーは失われていたんじゃないかな」

 

「ロマンチックな話っぽいけどその根拠とは?」

 

「奇跡さ」

 

 き・・奇跡ぃ?

「随分と科学者らしくもないこというんだね」

 

「科学者だからこそこれは奇跡と呼ぶんじゃないかって思うんだ」

 

 奇跡と呼ぶしか他に言いようがない現象ってことか。

「人はそれを愛と呼ぶ。・・・いや、ガラでもないか」

 

「実際そうかもしれない」

 

「・・・愛する思いが起こした奇跡・・」

 

 小鳥は少し悔しそうに俺を見ながらそう呟いていた。

「クイーンと女神が出会うとき、世界は滅びる。・・・教えてくれカガリ。その出会いで何が起きるんだ?」

 

 俺は樹に触れながら7万光年離れたカガリに問いかけるも・・・カガリは俺の声に答えてはくれなかった。

~~サイキ~

 

「この星も泣いている・・」

 

地球の衛星軌道上で飛行船を待機させていた私はこの星の各地の声を聞いていた。

『地球も他の星と同じだね』

 

誰もが正義を口にして『正義のために戦うんだ』と命を奪い合う。争いで瞬く間に消えゆく命もあれば、争いの結果住む場所も食べるものも無くなりゆっくりと消えていく命もある。

「光の戦士とやらに聞いてみたいよ。命を奪うことの何が正義かってね」

 

命を奪うことなど決して正義ではない。そこに正義など存在しない。してはならない。

『・・・見て見てマイフレンド!樹がもうあんなに成長したよ!』

 

「・・・・」

 

 パーテルは悲しそうにしてる私を見かねたのか既に緑生い茂る命の樹の映像を見せてくる。私はそれを見て言葉を失う。

『どうしたの?嬉しくないの?』

 

「すまない。しばらく感動に浸らせてくれ」

 

 私は感動のあまり涙を流してしまう。

「今度こそ絶対に成し遂げよう。クイーン」

 

 

 

 

~~小鳥~

『一夜にして出現した巨大な樹に東京はパニック状態です。周囲は自衛隊によって封鎖され、これより先は確認できない状態となっており・・・』

 

 翌日、当然のようにニュースはたった1日で急成長した命の樹の話題で持ちキリになっていた。

『只今入った情報によりますとあの巨大樹が生え始めた大学には何らかの関連があると思われ、専門チームによる毒性の有無を・・・』

 

 あ~あ。とうとうウチが怪しまれ出しちゃったかぁ。

「こうなるのは分かってたけどさ、たぶんマスコミは私達のところにも来ちゃうよね」

 

 スマホでニュースを観るのを止めた私はため息をつきながら琥太郎君のほうを振り向くと、すでにそこには琥太郎君の姿がなかった。

「琥太郎君?・・・まさか・・」

 

 私は琥太郎君が向かったであろう樹の根へとすぐさま走り出した。

 

 

~~琥太郎~

 

「助教!」

 

 ニュースの研究者たちの名前に助教の名前があったことに気づいた俺は彼らに危険を知らせるために根元へとやってきた。助教を含めた研究員たちは防菌スーツという対策ぶりに対して俺はそんなものなどつけていない軽装。・・・この樹に毒なんてないって分かってても浅はかにもほどがあるな俺。

「何やっているんだ!ここは立ち入り禁止だぞ!!」

 

 当然のごとく俺は研究員に取り押さえられてしまった。

「聞いてください助教!この樹を狙って怪物がやってくるんです!」

 

「「「は?!」」」

 

 意味が分からないと言った感じに冷ややかな目で見られてしまった。自分でも可笑しなことを言っているというのは分かっているが・・・ガイさんがいうには本当に地球にやってきているんだからここで引くわけにはいかない。

「逃げてください!!」

 

「いい加減に目を覚ませ!いつまでもそんなんでは・・・」

 

 押さえつけている2人を振り払って助教に言い寄るも聞き入れてもらえない。それでも何とかして伝えようとしていると・・

「おい、何だあれ?」

 

「えっ?何が・・・」

 

 1人の研究員が何かに気づき助教たちもその人が指さす空を見上げると10メートルはあるバケモノがこちらへと迫ってくるのが見えた。

「「うわぁぁぁっ!?」」

 

「え・・・うわぁぁぁぁっ!?」

 

 研究員たちは一斉に逃げ出してしまい、俺も逃げようとしているとバケモノは何故か樹ではなく俺を捕まえてきた。

「このっ、離せ!離しやがれ!!」

 

 俺は必死に抵抗するもやっぱり10メートルほどのサイズのバケモノに抗うことはできずに逃れようがない空に連れていかれてしまった。

 

 

~~カガリ~

 

「琥太郎・・・っ」

 

 会議中、私は琥太郎の危機を感じ取りその名を呼びながら立ち上がった。

「どうしたのです姫様?」

 

「・・・いえ、続けてください」

 

 それでも私はもう彼に関わらないと約束した身。それに私はこのカノンを守る義務がある。なので私は助けに行きたいという気持ちを胸にしまい込んだ。

「では・・・現在の被害状況としては・・・」

 

 ライゴウの部下が現在の被害状況を話すも・・・私は彼のことを気にしてしまい、その話が全く頭に入ってこなかった。それどころか彼がベゼルブによって攫われていく光景が鮮明に頭に浮かび出してしまう。

「やはり行かなければ・・・っ!!」

 

 いてもたってもいられなくなった私は席を立ちあがる。

「カガリ様!」

 

「たとえ何万光年離れていようとも命の樹は命の樹です。あの樹を守る事は私の使命です。なので私は地球へ向かいます」

 

 命の樹を守りたい。嘘ではないが半分建前で・・・本当は琥太郎を助けたいという一心で私は地球へと向かうことを決意し、冠を外す。

「命の樹を守ると言うのならそれも女王の役目。退位する必要などありません」

 

「まさかまた戦神になるおつもりですか?」

 

エサカは私が再び戦神になることを危惧する。私は再び戦神になることも覚悟しながらも冠をライゴウに預けた。

「ライゴウ、後のことはお任せします」

 

「・・・ッ!」

 

 私はそう言い残していざ地球へと向かおうとすると・・・エサカとシズクも私に付いてきてくれた。

 

 

~~小鳥~

 

「琥太郎君!」

 

 琥太郎君の後を追って樹の根元へと到着すると、琥太郎君は大きなハエのような怪物に捕まって空へと連れていかれる光景が見えた。

「大丈夫。彼は僕達が助け出す」

 

「行きましょう。我夢さん」

 

「あぁ!」

 

 高山さんはガイさんの言葉に頷くとセメントを塗るコテのようなものを取り出して前へと突き出した。すると高山さんが光に包まれ、私の正面には赤い巨人が立っていた。・・・確か高山さんは自分のもう1つの名前も名乗っていたよね。

「あれが光の戦士・・・ウルトラマンガイア」

 

「ッ!!」

 

 ウルトラマンガイアに姿を変えた高山さんに続いてガイさんも短剣のようなものを取り出して空に掲げると、光とともにガイさんも銀と赤の体色をした巨人へと姿を変えた。確かガイさんは・・・

「ウルトラマンオーブ・・だったよね」

 

 ウルトラマンオーブは任せろと言いたげにこちらに振り向いて頷いたら、2人の光の巨人は空へと飛び上がった。

 

 

 

~~琥太郎~

 

「うわぁぁぁぁっ!?」

 

 俺はハエのようなバケモノに捕まってもの凄いスピードで何処かへと攫われていると・・・何やら2人の赤い巨人が追いかけてきているのに気づいた。もしかしてあれが光の戦士・・・ガイさんと高山さんか?

「ダァァっ!・・・ヴォ!?」

 

 前を飛んでいた巨人は俺を助け出そうとバケモノを掴もうとすると、いきなり下から襲い掛かって来た50メートルはある別のハエのバケモノの不意打ちで地上に落下してしまった。

「っ!・・・オォォォ・・セイッ!」

 

 落とされてしまった巨人を心配するような反応をしながらも胸のクリスタルが『O』になっているもう1人の巨人は飛ぶスピードを速めてバケモノに一発殴りつける。その一撃に怯んだバケモノは俺を手放すと、巨人は俺をキャッチしてくれた。

「ありがとう。・・・もしかしてウルトラマンオーブ・・ガイさんの方ですか?」

 

「シュァ!」

 

 胸に『O』のクリスタルという理由でオーブだと予想すると、巨人は頷いた。やっぱりガイさんの方だったようだ。

「オォォシャァ!!」

 

 ウルトラマンオーブは右手に俺を乗せたまま左手で光弾を放ってバケモノを撃ち倒すと地上へと降下をする。すると後ろの空には先ほどと同じく10メートルはありそうなバケモノがオーブを針で突き刺そうと迫ってくる光景が見えた。

「ガイさん!後ろ!!」

 

「っ?!」

 

 俺の呼びかけでオーブは後ろを振り向こうとした途端、茶色い鎧を着たような何者かが紫色に輝く刀で斬り裂く姿が見えた。

「・・・ッ!」

 

 オーブが後ろを確認した頃には切り裂いた人物は視界から消えていて・・・見えていたのは切り裂かれたバケモノが地上へと落ちていく光景だけだった。

 

 

~~小鳥~

 

「琥太郎君・・・大丈夫かなぁ。っ!?」

 

「ダァッ!」

 

 私は琥太郎君が無事に戻ってくることを信じながら空を見上げていると・・・ウルトラマンガイアがいきなり地上に着地して砂ぼこりが宙を舞った。そしてそれを追ってきた様子の50メートルはありそうなハエのバケモノも着地しちゃった。

「ダァッ!」

 

「おぉっと・・」

 

 ガイアはハエのバケモノに飛び蹴りを決め込むとすぐさまその頭を掴んで地面に叩きつける。50メートルはある巨体が同じく50メートルはある個体を叩きつけたのだから当然のごとく足元が大きく揺れる。

「うわぁ・・ド迫力・・」

 

 目の前で起きている現実感のない戦いに私は『夢』なんじゃないかと思ってしまう。だけど巨人やハエのバケモノ。そしてあの樹を含めてこれは今起きてしまっている現実なんだ。

「シュァ!オォォォォ・・ダァァ!!」

 

 ハエのバケモノは尻尾の針でガイアを突き刺そうとすると、それに気づいたガイアがその尻尾を掴みあげて大きく回転して空に放り投げた。

「ダァッ!!」

 

 腕を十字に構えたガイアはそこから光線を放ってハエのバケモノに命中させる。それが直撃したハエのバケモノは爆発すると、ガイアの隣にオーブが着地した。

「・・・シュァ・・」

 

 その手には琥太郎君が乗っていてゆっくりと下ろされる。すると2人の巨人は光とともに元の姿に戻った。

 

 

 

~~琥太郎~

 

「我夢さん。先ほどはありがとうございました」

 

「え?何のこと?」

 

 ガイさんはさっき助けてくれたのが我夢さんだったと思っていたようで、お礼を言うも何のことと反応される。

「・・・じゃあさっきのは誰が・・・」

 

「俺、見ました。さっきのはたぶん・・・」

 

 カガリとの繋がりで見た記憶が正しければ先ほど助けてくれたのはあの人のはずだ。

 

 

 

~~ジャグラー~

 

「ちっ・・・ついやっちまった」

 

 もう手助けしないと言いはったにも関わらず俺は勢いでオーブを助けてしまった。その事を悔いながらも地上へと降りようとしていると俺の前に大型のベゼルブが現れた。

「ヘァ!!」

 

憂さ晴らしに相手をしてやることにした俺は刀に力を込めて紫色に輝かせる。そして勢いよく刀を振り下ろしながら大型ベゼルブへと突撃すると、大型ベゼルブの爪と刃がぶつかり合う。

「ハァァァァッ!!」

 

 しかし俺と大型ベゼルブとでは大きさや重さ、力に大きな差がありあっさりと力負けして俺は海へと落下してしまう。

「っ!」

 

 ダメージと疲労で力が出ない俺はもがくことすらできないまま海の底へと沈んでいこうとしていると・・・海の底で何かが光り輝いていたことに気づいた。

「あれは・・・」

 

 俺はあの輝きを知っている。俺の望んだ力、俺が得られなかった力・・・今の俺が絶望した力、今の俺が嫌う力・・。

「光・・」

 

 間違いなくウルトラの光だ。

「・・・・ッ!」

 

 海のように青い光は海を割る。海が避けたことでようやくこのウルトラマンがはっきりと見えた。オーブでもダイナでもない青いウルトラマン。かといってコスモスのように慈愛に満ちたものでもなく鋭さを感じられる姿だ。

「はぁ・・はぁ・・」

 

 俺は海が割れたことで陸に近い場所まで流され、自力で陸へと這い上がると大型ベゼルブが地上に着地した。

「・・・ヘァ・・」

 

「また光の戦士か・・」

 

 それを視界に捉えた青いウルトラマンは割れた海から跳び上がって地上へと着地をすると大型ベゼルブと向かい合い、右手で挑発するかのような動作をした。すると大型ベゼルブはその挑発に乗り青いウルトラマンへと飛びかかると、カウンターで蹴りを喰らっていた。

「タァッ!テァ!」

 

 そして更に2発続けてキックを喰らわせた青いウルトラマンはもう一発強めの跳び蹴りを大型ベゼルブに決める。すると大型ベゼルブが倒れた場所の山から砕けた岩がこちらに飛んできた。

「ッ!ヘァ!!」

 

 青いウルトラマンはすぐさま右手に青い光の刃を作り出すとそれで岩を粉砕する。なんだあのウルトラマンは!!

「お前の助けなど・・」

 

 刀を出現させて手に握りしめた俺は『闇』とともに魔人の姿へと変わる。

「いるかぁぁぁぁ!!」

 

 そして俺は飛び上がって大型ベゼルブの胸部に一太刀を入れると更に上へと飛び上がり、急降下とともに大型ベゼルブの片目を潰してやった。

「・・・・」

 

 青いウルトラマンはお手並み拝見といわんばかりに腕組みをしながら俺へと視線を向けている。なんとも癪に障る奴だ。

「ハァァッ!!・・・ぬぁぁぁっ!?」

 

 俺は刀に更に力を込め、纏わせる気で刃を拡大させて斬りこむも・・・尻尾で叩き落とされてしまった、

「・・・くそっ・・」

 

 変身が解かれた俺は大型ベゼルブを睨みつけると、傍観していた青いウルトラマンは頭部にエネルギーを集めて光の刃を垂直に伸ばしていた。

「ダァァッ!!」

 

 そしれそのエネルギーを大型ベゼルブに向けて放つと・・・大型ベゼルブは爆散した。

「あんな大きな奴を相手に随分無茶な戦い方をするんだな」

 

 先ほど青いウルトラマンへと姿を変えていた様子の男は起き上がった俺にそう声をかけてきた。

「放っておいてくれ。俺には・・・俺の戦い方があるんだ」

 

「フッ・・」

 

 ウルトラマンとなっていた男は俺をあざ笑うかのようにクスリと笑う。

「馬鹿にすんな・・」

 

「いや済まない。昔を思い出したんだ。お前も誰かと張り合おうとしてるんじゃないのか?」

 

「お前には関係のない話だ」

 

「待て」

 

 俺はそう言ってこの場を去ろうとすると男は俺を呼び止める。

「いつまでも1人で戦い続けられるもんじゃない。どんな事情があれ・・・その道はいずれお前を滅ぼすぞ」

 

「そうか・・。だが俺は1人でも倒してやる」

 

「・・・最後にもう1つ。俺は藤宮博也、ウルトラマンアグルだ。お前は?」

 

「・・・ジャグラスジャグラー」

 

 藤宮と名乗った男に名乗り返した俺は足を引きづりながらもこの場を去っていった。

 

 

 

~~ガイ~

 

「良きライバルであり、良き友。俺はあいつのことをずっとそう思っていました。いや、今でもそう信じています」

 

 俺は我夢さんにジャグラーのことを話し、どう思っているのかも話した。

「僕にもそういう奴がいるよ。本当に何度もぶつかり合った」

 

 我夢さんにもそういう相手がいるのか。

「ジャグラーはきっと1人の戦いを続けているんです。だから・・・」

 

「本当に1人か?君がいるだろ。今は離れて別々の場所に居ても、気持ちは繋がってるんじゃないのか」

 

「だといいですけど・・・」

 

「今は憎む気持ちが勝っていたとしても、君が彼を忘れず彼が君を忘れないかぎり・・・またいつか分かり合える時がくる」

 

 俺達が互いを忘れないかぎり・・・か。

「相変わらず熱いな我夢」

 

 いつの間にか柱の陰に立っていた男が声をかけてきた。どうやら我夢さんの知り合いのようだ。

「藤宮、お前もこっちに来ていたのか。・・・おっと、彼はガイ君。ウルトラマンオーブだ」

 

「初めまして。ガイと申します」

 

「・・・なるほど。昔の俺なら反発していたな」

 

「どういうことですか?」

 

「お前にはあまりにも影がなさすぎる」

 

 影か・・。もしかしてこの人が我夢さんが何度もぶつかり合ったという人なんだろうか。

「ガイさん!高山さん!これを観てください!」

 

 琥太郎に呼ばれて彼の手にある画面に映る映像を確認すると、ベゼルブと我夢さんが変身したガイアとの戦いが映っていた。

『突如現れた怪物。それと戦う巨人。その正体も目的も未だ分かりません。地球の侵略が目的だとしたらいつまた現れるのか・・。この前代未聞の出来事に政府はどう動くのか』

 

「この怪物・・・また襲ってくるの?」

 

「おそらく・・・」

 

『今新たな情報が入ってきました。臨時閣議により緊急災害措置法が勧告されました。これにより被害地域が東京都全域に拡大されます』

 

 東京という地名は分からないが・・・2人の驚きようから察するに都市の1つを丸ごと避難地域にするってところか。

 

~~琥太郎~

 

「これからどうなっちゃうの?」

 

 小鳥は樹の方を見ながらこれからのことを心配すると俺を呼ぶ声を感じた。

「どうしたの琥太郎君?」

 

「カガリだ。カガリが呼ぶ声が聞こえる」

 

「・・・俺にも聞こえた」

 

 どうやらガイさんにもカガリの声が届いていたようで空を見上げている。高山さんといつの間にか増えているもう1人の人も声を感じたように空を見上げていた。

「どうしてこんな近くで・・・」

 

「静止軌道上に生体反応がある」

 

 高山さんは腕時計型の機械で確認をする。やはり地球の近くにカガリがいるようだ。

「どういうことだ?カノンにいるはずじゃないのか?」

 

 ガイさんはオーブへと変身すると慌てて空へと飛んで行った。

 




次回「救済」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

救済

次回予告を追加しました。


~~カガリ~

 

 琥太郎に会うことを決意し、エサカの船で地球へと向かっている途中・・・私達を乗せた船は2体の怪獣に付きまとわれてしまった、おそらくこの2体はサイキの操る怪獣たちなはず。

「駄目。振り切れない」

 

「待ってください。何か様子がおかしいです」

 

 私は何か2体の様子がおかしいことに気づく。

『そう。怯えなくてもよいのですよ。女王陛下を護衛してさしあげているだけなのです』

 

 サイキの声が聞こえた。

『命の樹が芽吹いた新たな星まで安全にね』

 

 つまり地球まで付いてくるということですか。そう思っていると地球から光がこちらへと飛んできていることに気づいた。あれはウルトラマンオーブ・・・ガイだ。

「ソォァ!?」

 

 オーブに気づくなり2体の怪獣は攻撃を仕掛ける。2体が放った火球を避けたオーブは船の上の方へと飛び上がった。

「やはり女王様・・。何故地球へ・・・」

 

 やはり私がここに来たことを気にしているようですね。

「オォォォ・・・シャァッ!」

 

 右腕に光を集めて怪獣の1体を殴り飛ばしたオーブはすぐさまもう1体に飛びかかる。

「ダァッ!オォォォ・・セイッ!」

 

 オーブの打撃に怯んだ鳥の怪獣は少し離れて火球を数発放ってくると・・・その1発がこちらへと向かってきた。

「ッ!!」

 

 私達は避けられないと思うと、オーブはバリアでその攻撃から私達を守ってくれました。

 

 

~~サイキ~

 

「彼とも一度じっくりと話した方が良さそうだな」

 

 女王を乗せた船とともに地球へと飛んでいく光の戦士を観ながらそうぼやく。

『ならお茶会の準備をしておかないとね』

 

光の戦士は6体のベゼルブに取り囲まれると、すぐさま船との距離を取る。こちらとしても女王に何かあったら困るので、そうしてくれるのはありがたい。

「ダァッ!」

 

 ベゼルブ達が光の戦士の後を追うと光の戦士は急停止でベゼルブ達の背後を取り全身に青い輝きを纏った。

「ウゥゥゥゥ・・・シュァ!!」

 

 光の戦士は身体を回転させて青い光の渦を巻き起こすと、その光の渦に巻き込まれたベゼルブ達が爆発しまたも命を落とした。

「・・・すまない。君達の命は決して無駄にはしない」

 

 私はまたも光の戦士に倒されたベゼルブ達に謝りながらも地球を見つめた。

 

 

 

~~小鳥~

 

「ねぇ、本当に女王様なんて来るの?」

 

 空で爆発が見えた後、私は琥太郎君にそう訪ねた。正直な気持ち・・・琥太郎君はきっとその女王様を選んでしまうから来ないで欲しい。

「あぁ・・・来たぞ」

 

「えっ・・?」

 

 琥太郎君が笑顔で見上げた空に視線を向けると、ステルスで着地の寸前まで見えなくなっていた飛行船が少し先の広い場所に着地しようとしているのが見えた。

「っ!!」

 

「ちょ、琥太郎君!」

 

 飛行船が見えるなり駆け出した琥太郎君の後を追うと・・・ちょうど飛行船が着陸してハッチが開こうとしているタイミングだった。

「カガリ!!」

 

「琥太郎!」

 

 ハッチが開かれるとそこからは白いドレスを着た私より小柄な娘が駆け出してきた。あの娘が琥太郎君の言っていた女王様・・。

「「・・・ッ!!」」

 

 2人は出会うなり互いの手を握って抱きしめる。私は・・・いや、あの2人以外のこの場にいる全員がそれに唖然としているとガイさんが戻って来た。

「女王様!何故この地球に来たのですか!命の樹にはもう近づかないと決めたはずです!」

 

 やっぱりというかなんというか・・・怒ってるね。

「っ・・・」

 

「あれ?泣いてる?」

 

 何故か琥太郎君と女王様は2人して涙を流していた。ガイさんに怒られたから・・・ではないよね。

「7万光年の出会いに感動して・・・じゃなさそうだね」

 

「感応し合ってるんだから言葉もなく分かり合えているんじゃないのか?」

 

 黒いコートの人・・・えと、藤宮さんという高山さんの知り合いも学者という観点からそんな考察をする。

「・・・どうしたんだ2人共?やっと会えたってのに嬉しくないのか?」

 

 怒っていたガイさんも流石に2人にそう声をかける。

「もちろん嬉しいです・・・っ」

 

「俺だって・・」

 

 感動してるんじゃないならどうして2人は泣いているの?

「何を悲しんでいるんだカガリ・・・?」

 

「私も同じことを尋ねようとしていました」

 

 互いに・・・悲しんでる?

「俺は悲しんでなんてないよ。ただカガリの悲しみを感じて・・・」

 

「私も悲しくなんてありません」

 

 えと・・・互いに互いの悲しみを感じたと思って泣いていたけど、互いのじゃなかったってことなの。

「じゃあ誰の・・・」

 

「クイーンベゼルブってことはないか?」

 

 ガイさんは2人にそう問いかけた。

 

 

~~ガイ~

 

「女王様はあの時、クイーンにクグツを打ち込まれた。だからあれは嘘で騙されたんだと思ってました」

 

 クイーンは騙されていたんだと思っていたが・・・もし2人がクイーンとも感応していたとすると話は変わってくる。

「私もそう思っていました。でもクイーン自身は本当に私と話したかったのかもしれません」

 

「サイキとクイーンはこの2人のように対等に感応し合っているわけではないのかもしれないな」

 

 藤宮さんはサイキとクイーンが対等ではないという考察をする。

「もしかしたらクイーンは操られているのかも」

 

「サイキに・・・か」

 

 ありえない話ではない。現にあいつはベゼルブを経由して幾つもの怪獣を操っているからな。

「身も心もサイキに捉えられているとしたら・・・」

 

「まさかそんな・・・」

 

 シズルがその可能性を否定すると、女王は彼女に詰め寄る。

「ではこの悲しみは何だというのです!・・・うっ・・」

 

「カガリ様、迂闊に判断するのは危険かと」

 

 隊長は否定も肯定もせずに早急に判断するのは危険ということを伝えると、女王は頷く。

「えぇ、それは承知しています。ですがもし操られているとすればクイーンも被害者なのです」

 

 クイーンも被害者・・・か。

「俺、確かめてきます。サイキのところに行って・・・」

 

「・・・サイキの居場所はおそらく月だろうね。周辺に巨大な熱量がある」

 

 サイキと直接会って確かめることにした俺はオーブカリバーを取り出すと我夢さんはサイキが月にいるだろうと教えてくれた。

「行ってきます!」

 

 俺はさっそくオーブへと変身して月へと向かうと・・・俺に気づいたベゼルブ達とすぐに戦闘になってしまった。

「オォォォ・・セイッ!」

 

『ようこそ光の戦士よ!随分と張り切っているねぇ。実に勇ましい』

 

 サイキの声が聞こえてくる。俺はそちらに意識を向けてしまったせいでベゼルブ達のエネルギー弾が直撃してしまい、その場に倒れてしまう。

『君は自分の正しさをこれっぽっちも疑っていないんだね』

 

 自分の正義を疑う?俺はそれ自体に疑問を抱きながらも立ち上がりベゼルブ達に再び挑んでいく。

『本当に立派だよ。・・・ところで1つ教えてくれないか。君達は知恵を得たことで何を成し遂げたんだい?単により多くのものを破壊できるようになった。それだけなんじゃないのかい?君達は自由な心が愛を生むのだと言うが、君達はその愛すらも取引の材料に使う。愛するもののために戦えとね』

 

「・・・シュァ!!」

 

 俺はサイキの話を聞きながらもベゼルブ達へと光線を放つ。ただの光線では倒しきれない数なので、光線の最中に両手を広げて拡散させて広い範囲のベゼルブを一気に片付けるとサイキのいる船に視線を向けた。

『愛ゆえに殺し合いが始まる。君達が守ろうとする宇宙はそういう宇宙だ。根本から変えたくはないか?』

 

「・・・・・」

 

 争いのない平和な世界。そんな理想的な世界をサイキは実現できるのか?そんな疑問を抱きながらも俺は変身を解いて船の中へと入る。

「ようこそ。光の戦士」

 

 メインルームへと足を運ぶと映像ではない本物のサイキがそこにはいた。

「私を殺すにしろ捕まえるにしろ、まずは茶飲み話ぐらい付き合ってくださいよ」

 

「・・・俺が聞きたいのは1つだけだ。Drサイキ、アンタがクイーンの意思を奪って操っているのか?」

 

「私がクイーンを操っている?侵害だなぁ。私とクイーンの価値観は1つ、理想の世界を作るために・・・誰も争う事のない世界を作る。それが私達の理想だ。誰かが富を独占したり、愛だけに満たされて誰も愛に飢えることのない世界。私達はそんな世界を与えてあげられる!」

 

 愛で満たされた世界・・・クグツで意思を奪ってる奴から出る言葉とは思えないな。

「その代わりに自由意志を奪うのか?」

 

「大いなる意思のために自由意志はいらない!」

 

「誰かが独裁的に支配するなんてデストピアだ!」

 

 俺は独裁的な世界にさせまいとサイキに詰め寄る。

「その通り!」

 

『マイフレンドもボクもそんな世界は望んでいないよ!』

 

「っ!?」

 

 サイキもあのロボットもそれを望んでいないだと?それを疑問に抱いた瞬間・・・いきなり圧力がかかってきて俺は身動きが出来なくなった。

「もし独裁者の目的が支配を目指すものだったのなら・・・そして自由意志を押さえつけて人を無理やり従わせるのならデストピアが生まれるだろう。だが私の目的は平和な世界だ。そして自由意志も押さえつけたりはしない。そもそも自由意志を無くしてもらうのだから自由意志を押さえつける必要もない」

 

 自由意思を無くすだと・・・。

「そんな世界はいらない!!」

 

 オーブカリバーを取り出した俺はオーブに変身しようとするも・・・カリバーから光が解放できなかった。

「何・・・?」

 

『君は膨大な光のエネルギーを解放してとんでもないことをしようとしてるよね。だから遮閉フィールドを張らせてもらったんだ』

 

 オーブになって強引に出ようと思ったが・・・このフィールド自体がそれをさせないためのものってことか。

「私とクイーンが目指す世界に変化も成長もない。永遠の停滞だ。その代わり平和な世界が永遠に続くんだよ。その何が悪いんだい?」

 

「自由意志を奪う世界の何処が平和だ!!」

 

「そんな風に感情的感覚的になることが正義なら知性はいらない。自分が正しいから相手は悪だと思うのなら知性など必要ない!暴力で自分の正しさを押し付ける世界に知性など必要なのか?」

 

「お前は間違っている!!」

 

「何が間違ってるというのかね!君はウルトラマンだろ!!光の戦士なんだろ!?私も光で宇宙を照らそうとしているんだよ!」

 

 光・・・宇宙を照らすだと・・・?

「争いも悲しみもない・・・曇りも闇もない光だけの世界を・・・」

 

「そんな世界ッ!つまんねぇって言ってんだろぉぉぉぉ!!」

 

 上から声が聞こえてきたかと思うと・・・魔人姿のジャグラーが刀を手にしながら降りてきた。そして人の姿に戻りつつその刃をサイキの首筋にあてる。

「相変わらず野蛮な登場ですが歓迎しますよ。それにしても・・・こんな野蛮な解決法しかないとは」

 

「フンッ!」

 

 ジャグラーは刀を振り下ろしてサイキを頭から斬るも、斬れていなかった。今まで話していたのも本人じゃなくて立体映像だったのか。

「暴力でしか解決できないというのなら仕方ない」

 

 サイキがそう言った途端、警告音が鳴り響いた。

「エサカ君が置いていった爆弾で君達はふきとばされる」

 

『爆発まであと10秒!』

 

「ッ!」

 

 2人はそう言い残して立体映像が消えてしまう。するとジャグラーは俺を包み込むフィールドに刃を振り下ろした。

「ぐっ!?」

 

 しかしそのフィールドはジャグラーを弾き飛ばしてしまった。

「ジャグラー!俺に構わず逃げろ!」

 

「うるさい!黙ってろ!!」

 

 俺に黙れと言いつつジャグラーは再び刀を振り下ろす。

「ハァァァァッ!!」

 

 ジャグラーは更に刃に力を入れつつ再び魔人へと姿を変える。するとフィールドにヒビができた。

「ガイ!!」

 

「ッ!あぁ!!」

 

 俺はそのヒビにオーブカリバーを突き刺して光を解放する。変身の際に生じるエネルギーでフィールドを破壊したのはいいものの、結果的にフィールドの作用で変身自体はできていなかった。

「脱出するぞ!掴まれ!」

 

「あぁ!」

 

 俺はジャグラーに掴まると、ジャグラーはすぐさま船から飛び出して地球へと降下する。その背後には船の爆発の衝撃が伝わってくる。やっぱり爆弾というのは冗談じゃなかったか。

「はぁ・・・はぁ・・お前に助けられるのはこれで何度目だ?」

 

 無事に地上へと着陸できた俺は人の姿に戻ったジャグラーにそう話しかける。

「さぁな・・。今更数え切れるか・・」

 

「ガイさん!」

 

 ジャグラーが立ち去ろうとすると、俺が戻って来たことに気づいた女王様たちがこちらへと走って来た。

「女王様、ストップ!」

 

 シズクはジャグラーに気づくなり女王を静止させる。やっぱり命の樹を斬ったことで敵と認定されてるのか・・。

「・・・・ッ」

 

 いや、敵と判断すればいいのかまだ迷っているようなカンジだな。

「・・・・」

 

 ジャグラーはシズクの横を無言で去っていくと我夢さんが俺の肩を叩いてくる。

「やっぱり繋がっていたじゃないか」

 

「無事で何よりだ」

 

「ご心配おかけしました」

 

 俺は我夢さんと藤宮さんに軽く頭を下げると女王へと近寄る。

「ガイさん。クイーンは・・・?」

 

「月にはいませんでした」

 

「じゃあいったい何処に・・・」

 

 我夢さんはデバイスで周囲の星々に探りを入れるも・・・クイーンは発見できなかったようだ。

「一刻も早くクイーンを解放してあげたいです」

 

「俺も同じ気持ちです」

 

「ねぇあれ見て!樹が光ってる!」

 

 小鳥が指さす樹に視線を向けると、樹に咲いた花が蒼く輝いていた。

 

 

~~琥太郎~

 

『巨大な謎の樹の続報です!先ほど防衛隊が封鎖地域に出動しました。政府は甚大な被害をもたらしたあの樹は巨大な怪物の出現にも関係していると判断し、樹の破壊を決定しました。発表によりますと爆弾は樹の根元北東方面に仕掛けるとのことで・・・』

 

「命の樹が宇宙全体にとってどれほど大切なものか・・・」

 

「人間すべてにそれを理解しろと言っても無理な話だ」

 

 高山さんと藤宮さんは中継を観るなりそう言った。

「野蛮な争いしかできないのなら知性なんていらない。サイキはそう言っていました」

 

 知性がいらない。・・・それがサイキの考え方か。

「「ッ!!」」

 

 俺は、いや俺とカガリは何かが近づいてくるのを感じ取った。このざわついた感覚、間違いない。

「ベゼルブが来ます!」

 

 ベゼルブがやってくることを伝えると少し先の方で銃声が鳴り響いた。どうやら自衛隊との交戦が始まってしまったようだ。

「あれは・・・」

 

 大きいのも10メートルぐらいなのも・・・次々とベゼルブ達が集まってくる。しかもベゼルブ達は命の樹の周りに集まっていた。

「何あれ・・・樹を守ってるの?」

 

 小鳥の言う通り、まるでベゼルブ達は樹を守っているように見える。すると鈍い爆撃音が鳴り響くとともに空を飛んでいるベゼルブ達が次々と落下し始めた。自衛隊の戦車による攻撃だ。

『たった今、自衛隊による謎の生物への攻撃が開始されました。このまま事態は終息へと向かうのでしょうか?』

 

 集束だと?このままじゃそれどころか事態は悪化しちまうってのに・・・。

 

 

~~サイキ~

 

「ごめんね。・・・痛いよね。私を責めてくれても構わない」

 

 私は次々とこの星の人間による攻撃で力尽きて命を落としていくベゼルブ達に涙を流す。

「これは新たな世界を作るための尊い犠牲なんだ」

 

 我ながら犠牲という言葉を使うのはおかしいと思う。だが恨むのなら私を恨んで欲しいので、この言葉を選ぼう。

「むっ・・あれは・・何故君が・・・っ?!」

 

 私は更に飛んできたベゼルブ達に紛れてやってきた相手に驚きを隠せなかった。

 

 

~~ガイ~

 

「何故反撃しないんだ?」

 

 この星の人間達の兵器で次々とベゼルブ達が撃ち落され、その命が消えていく。それでもベゼルブ達は樹を守ることのみで反撃しようとはまるでしていなかった。

「やはりクイーンは・・・」

 

「隊長、これは・・・?」

 

 シズクは船で待機している隊長に連絡をとる。

『おそらくサイキは命の樹が実を成すまでの時間稼ぎをしようとしているのだろう。奴は・・・サイキは何処だッ』

 

 隊長はサイキの潜む場所を探し出そうとしていると・・・空から新たなベゼルブが飛んできた。

「あれは・・・クイーンっ!?」

 

 その中にはクイーンの姿もあり、ベゼルブ達の中心に降り立つと、攻撃を受けるベゼルブを庇うように前に出た。

「えっ・・・」

 

 俺達はそれに驚きの声をあげてしまう。まさかクイーンがベゼルブを庇うようなことをするだなんて・・・。

 

 

~~サイキ~

 

『この悲しい声を聞けば女神も現れるしかなくなるよ。流石だねマイフレンド』

 

パーテルは私のことを流石とほめてくるも・・・私は首を横に振った。

「いいや、私はクイーンにそんな指示などしていない」

 

『えっ?じゃあこれは全部クイーンの意思ってこと?』

 

 信じられない気持ちは分かる。だが本当に私はクイーンにそのような指示をしてないのだ。

「きっと私の計画をフォローしてくれているんだ」

 

 不甲斐ない私のために・・・ありがとう。そして済まない。命の樹に実が宿るまでの間、もうしばらく耐えてくれ。

 

 

 

~~ガイ~

 

「クイーンが何かを訴えている・・っ」

 

 女王はそう呟くと前へと出る。

「分かるのですか?」

 

「この姿でははっきりとは・・・でも私に何かを伝えようとしている。戦神になればきっと・・・」

 

 このままじゃ女王がまた戦神になってしまう。それはさせちゃいけない。だがこのままじゃベゼルブ達とともにクイーンまで・・・

「ッ!!」

 

 俺が行くしかない。そう決意を固めた俺はオーブカリバーを手に握りながら空へと飛び上がった。

 

 

~~琥太郎~

 

「待ってくれ!!」

 

 青い光に包まれながら空に飛び上がったガイさんはクイーンが砲撃を受けてしまう瞬間、バリアでそれを防いだ。

「この怪獣たちをよく見ろ!!抵抗も反抗もしていないだろうが!!攻撃をやめてくれ!!」

 

 ガイさんはベゼルブ達に攻撃する自衛隊たちに・・・中継されてこの映像を観ているであろう人々に訴える。

「理解できない気持ちも分かる。だけど一方的に攻撃するだけじゃ何も解決しないだろ!!あんた等だって分かってるんじゃないのか!!」

 

 人は自分達と異なるものに畏怖の感情を抱いてしまう。だから自衛隊は・・・いや、この地球だけじゃなく惑星カノンの人達もベゼルブたちを敵視していたんだ。

「だから考えてくれ!!」

 

 

 

~~サイキ~

 

「だから考えてくれ!!」

 

「ガイ君・・。まさか君が・・・」

 

 光の戦士・・・ガイ君がクイーンを守るために人々へと訴えかける。これは本当に想定外過ぎた。まさか君が愛しい友人を苦しみから救ってくれるとは・・・。

「っ!」

 

 しかしガイ君の訴えも虚しくこの星の人間達はベゼルブ達への攻撃を再開してしまう。

「やめてくれぇぇぇぇぇっ!!」

 

 ガイ君は必死になって飛んでくる砲撃を斬り落としてくれるも・・・彼1人では休むことなく放たれ続ける砲撃の雨を防ぎきることができずにクイーンに当たってしまう。

「このままでは・・・」

 

「見つけたぞサイキ・・」

 

 このままではクイーンだけでなく彼女を守ってくれているガイ君も危ないと心配していると、この場所を突き止めたエサカ君がここへとやってきた。

 

 

 

~~琥太郎~

 

『サイキの居場所を突き止めた。これより乗り込む』

 

「隊長!1人では・・・」

 

 サイキの潜伏先を突き止めたらしいエサカ隊長は単身で乗り込むという連絡をシズクへと入れてきた。当然シズクは1人では危ないと言い返そうとするも通信が切られてしまったようだ。

「サイキはいったいどこに・・・」

 

「たぶんあそこだろうな」

 

 藤宮さんは砲撃が飛び交う中、バリアのようなもので守られているビルを指さす。

「あんなところにいたのか・・」

 

「どうする藤宮・・。藤宮?」

 

 高山さんは藤宮さんの意見を聞こうとするも・・・いつの間にかこの場から藤宮さんの姿は消えていた。

 

 

 

~~サイキ~

 

「これ以上犠牲を出すなサイキ」

 

 エサカ君は刀を構えながらこちらへと近づいてくる。

「殺し合いを続ける宇宙のため、邪魔はしないでもらおう」

 

「タァァァァっ!!」

 

 邪魔をするなと警告すると、エサカ君は刀を振り下ろしてくる。しかしその刃は私が展開したバリアによって遮られた。

「くっ・・・」

 

 バリアに弾かれたエサカ君が後ろに倒れそうになると見知らぬ黒いコートの男が彼を受け止めた。

『誰?』

 

「Drサイキ。知的生命体はガン細胞のように宇宙を蝕む。あんたの考えは正しいよ」

 

 その男は私の考えを『正しい』と言ってくれた。

「ついに賛同者が現れてくれたよパーテル!」

 

『やったねマイフレンド!』

 

「・・・あんたは昔の俺に似ている」

 

 昔の・・・?

「人間に対して絶望しか持っていなかった俺にな。だが人間は変われる。俺は多くの出会いの中からそれを学んだ。あんたは正しいが・・・同時に間違いでもある」

 

 正しいのに間違いだと・・・。

「せっかく賛同者だと思ったのに残念ながら違ったようだね」

 




次回「悪魔」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

悪魔

~~琥太郎~

 

「琥太郎君、彼女の心の声を受け止めたらそのまま送り返すんだ」

 

「分かりました」

 

 ガイさんが頑張ってくれている中、俺達も何かできることはないかと思っていると高山さんの発案でクイーンの声を聞く作戦を実行することとなった。

「これって共鳴現象?」

 

「あぁ。2人の声を共鳴・増幅させればそのままでもクイーンの声を聞くことができるようになるはずだ」

 

「行くぞカガリ・・」

 

「はい」

 

 俺とカガリは手を繋いで心を通わせながらクイーンに呼びかけ始める。

「「クイーン。クイーンベゼルブ」」

 

『・・・タスケテ、助けて。助けて欲しい』

 

 助けてという声が聞こえてきた。これがクイーンの声か。

『これ以上子供達を犠牲にしたくない』

 

 子供・・・ベゼルブ達のことか。

「「どうすればいい?」」

 

『私と貴女が出会う時、世界は変わる』

 

 クイーンは俺達・・・いや、カガリのみにそう呼びかけてくる。つまりカガリに戦神になってくれと言ってるってことだ。

『素晴らしい世界が始まる』

 

 素晴らしい世界?

「っ!?」

 

 自衛隊の砲撃の勢いがさらに加速して、ガイさんもそのほとんどが防ぎきれずにクイーンに直撃する。それによりガイさんは地上に落下して、クイーンもその場に倒れてしまった。

「クイーン!!」

 

 カガリは俺の手を離すとクイーンへと駆け出していく。

「世界は変わる。・・・心と心とが通じ合えば・・誰とも争うことのない平和な世界が生まれる」

 

 どうやらカガリは俺の手を離した状態でもクイーンと繋がり続けているようだ。

「カガリ!」

 

「・・・私はクイーンとともに新しい世界を作ります」

 

 俺達はカガリに追いつくと、カガリは新しい世界を作ると言い出した。

「でももしまたクグツを打たれたら・・・」

 

「起こってもいないことを恐れてはなりません」

 

 シズルはまたクグツを打ち込まれることを不安視するも、カガリは起こってないことを恐れないように告げると前へと出る。

「大いなる命の精霊よ。命の源よ。今こそ目覚め、我が肉を喰らい我が血を飲み干し、我を同化せしめよ!」

 

 長い口上とともにカガリは黄金の巨人・・・戦神へと姿を変えた。すると戦神は倒れているクイーンへと歩み寄る。そしてクイーンの頭を撫でながら何かを語り合っていた。

「・・・・・」

 

 俺は意識を集中してカガリとクイーンの心を聞き取ろうとすると・・・カガリとクイーンが向かい合って話をするイメージが見えた。

『新しい世界を作りましょう。そのために貴女と私は出会ったのです』

 

『アナタトワタシハデアッタノデス』

 

 何か様子が変だ。そう思った瞬間クイーンの姿がカガリへと変わった。

「貴女は・・・?」

 

『アナタハ・・・?』

 

まさかクイーンは・・・

「私の心を・・」

 

『ワタシノココロヲ・・』

 

 カガリの心を・・

「逃げるんだカガリ!」

 

『ただ反射させていただけ?!』

 

 ただ心を反射させていただけなことに気づいた俺は戦神へとそう叫び、それとほぼ同時に戦神・・・カガリ自身もそのことに気づくも時は既に遅かった。

「っ!?」

 

 すぐさま離れようとする戦神だったが、勢いよく立ち上がったクイーンは翼を広げながら戦神に飛びついた。

「カガリ!!」

 

 俺は戦神の身を案じて叫んだ瞬間・・・クイーンは針を構えた。

 

 

~~サイキ~

 

「何故だクイーン?!」

 

『まだ命の樹の実が成ってないのにクグツを刺しちゃだめだよ!まだ解毒剤が手に入ってないんだからやめて!』

 

 私とパーテルは女神にクグツを打ち込もうとしているクイーンへと呼びかける。先ほどから計画外の連続だが・・・これは計画が台無しになってしまうほどの事態だ。

「クイーン!クイーン!!」

 

 駄目だ。こちらに応えようともしてくれない。・・・いったいどうしたというのだクイーン?

 

 

 

~~ガイ~

 

「・・・ッ!」

 

 俺は後悔していた。クイーンがサイキによって操られていると勝手に決めつけてしまったことを。そして決め込んだことで俺はクイーンも犠牲者だと考え、あろうことかつい先ほどまでクイーンを庇ってしまっていた自分に怒りすら感じていた。

「ッ!!」

 

 だからこそ俺はオーブへと変身すると戦神へと刺さろうとしていた針をこの身で受け止めた。

「オォ・・・アァ・・」

 

 クグツが注ぎ込まれ、俺は意識を持って行かれそうになる。

「ガイさん!」

 

 戦神は油断していたクイーンに肘内をして拘束から逃れると俺を守るように前に立つ。するとクイーンへ目から光線を放ってくると、戦神はバリアでそれを防ぎつつクイーンへと殴り掛かる。ここに来てクイーンに『攻撃する』意思を見せたんだ。

「グッ・・・ダァッ!」

 

 クイーンの爪による攻撃を受け流しつつ後ろに跳び下がった戦神は両腕の手甲から刃を出す。そして両腕を突き出して刃のついた手甲をクイーンへと飛ばすも、それは爪によって弾かれてしまった。

「ハァッ!」

 

 戦神は弾かれた手甲を蹴り飛ばすとそのうちの一つがクイーンの肩に突き刺さった。

 

 

 

~~琥太郎~

 

「カガリ・・・」

 

 とうとう本当に『戦う』ことを選んだ戦神に俺は複雑な気持ちになっていると・・・肩から手甲を引き抜いたクイーンは両肩の下あたりから2本の触手を伸ばして戦神の首を締め上げた。

「カガリ!!」

 

「ッ!?」

 

 戦神は首を絞められた状態で投げ飛ばされると勢いよく地面に叩きつけられてしまう。それを見かねた高山さんはガイアへと変身するための三角の形をした道具を取り出した。

「ガイアァァァァァァァッ!!」

 

 高山さんはその道具を前へと突き出しながら大きな声で叫ぶと赤い光に包まれる。

「アグルゥゥゥゥゥ!!」

 

 少し先のビルからは藤宮さんらしき大声が聞こえるとともに青い光も見えた。

「「ッ!!!」」

 

 そして赤と青の2人の巨人が着地して土煙が宙を舞った。高山さんの変身したウルトラマンガイアと藤宮さんの変身したウルトラマンアグルだ。

「シュァ!」

 

「ダァッ!」

 

 ガイアとアグルは同時にクイーンへと掴みかかる。そして同時に掴んでいる手を離すとまたも同時にキックを決め込んだ。

「ウォッ!」

 

 クイーンの爪を避けたアグルは背後に迫って来たベゼルブの存在に気づいてそれをなぎ倒す。一方ガイアは1人でクイーンと戦うことになってしまっていた。

「ダァァっ!」

 

 頭を掴みつつ足払いをしたガイアはクイーンを掴んでいる手に力を込めて、地面に叩きつけようとするとクイーンは翼を羽ばたかせて空を飛ぶ。

「ダァァァァッ!!」

 

 ガイアは頭部に力を集めて光の刃を鞭のようにしならせて浴びせようとするも、1体のベゼルブは攻撃させまいとガイアに掴みかかった。

「ダァッ!」

 

 アグルは青い光の剣でベゼルブを斬り倒すとクイーンは戦神のすぐ目の前に着地する。そして触手を伸ばして戦神を締め上げると針を突き刺してクグツを注入し始めた。

「ぐっ・・・!?」

 

 カガリと繋がっている俺は息をするのも辛くなるほど苦しくなってその場に膝をついてしまう。

「どうした?!」

 

「琥太郎君はそっちのお姫様と繋がってるから影響が出てるの!」

 

「俺はいい・・。それよりカガリだ」

 

 俺は胸を押さえながらも立ち上がって戦神を見上げる。

「でもこのままじゃ琥太郎君の身体が持たないよ」

 

「命の樹の種さえあれば・・」

 

「種?どゆこと?」

 

「種はクグツに対して唯一解毒剤になる」

 

「そうなんだ。でも研究室の種は発芽しちゃったし、実は・・・なってるかなってないのか分からないや」

 

 小鳥は樹の上の方を見上げるも俺達じゃ当然そこまで見えない。

「駄目。まだ実は成ってない」

 

「えっ?見えるの?」

 

「えっ?見えないの?」

 

 どうやら地球人と惑星カノンの人とでは視力が違うようだ。

「どうすれば・・・」

 

「あっ!神殿だ!」

 

 神殿?

「ほら、種を回収する時、アームの力で種が少し欠けていたよね!もしそれが見つかればイケるかも!」

 

 俺達は隊長の飛行船に乗るとすぐさま種を回収した海底へと向かった。

 

 

~~サイキ~

 

「クイーンベゼルブを止めろ!カガリ様から離れるように命じろ!」

 

 エサカ君は私にクイーンにクグツを注入させるのを止めさせるように告げてくる。だけどそれは無理な話だった。

『無理だよ。だってクイーンはマイフレンドからの指示を無視しているんだもん』

 

「なん・・・だと・・?」

 

「クイーン!答えてくれクイーン!」

 

 私は何度もクイーンに呼びかけるも、クイーンは反応してくれない。

「パーテル!出力を上げてクイーンに私の想いを届けてくれ!」

 

『アイさ~!出力最大ぃ~!』

 

 パーテルに装置の出力を上げてもらい、クイーンに私の想いを届けようとするも・・・クイーンに拒まれた状態で出力を最大にしたことで装置が壊れてしまった。

「そんな・・・クイーン!何故私に答えてくれないんだ!!」

 

 装置は壊れ完全にクイーンと意思を通わせることが不可能となってしまった。もうどうすることもできない。・・・そう絶望した私はその場に両ひざをついた。

「お前の目的は何だったのだ。いったい何がしたい!!」

 

『クイーンの脳内で限界まで高鳴ったクグツが戦神に打ち込まれているんだ。そうしたらどうなると思う?体内で増殖されたクグツは戦神の身体を破って全宇宙に向けて放出されるのさ。命の樹が知恵を振りまくようにね』

 

 私のかわりにパーテルはエサカに説明してくれる。

「カガリ様の身体を・・・」

 

『これは全宇宙に広がるビッグバンなのさ』

 

「戦神を・・・カガリ様を道具として利用したと言うのか!!」

 

 エサカは私の襟を掴んで無理やり立ち上がらせる。

「争いのない世界を作るための・・・犠牲だよ・・」

 

 平和に犠牲はつきものだ。だから多くのベゼルブ達もその命を散らしていった。

「お前は全宇宙をコントロールするつもりなのか?」

 

「そのつもり・・・だった」

 

 コントロールするつもりでここまで計画を進めてきたのだが・・・ここに来てクイーンが私の声を拒むようになったのだ。

「すべての知的生物は自由意志を奪われクイーンの支配下に入る。そして私はクイーンを倒して争いのない世界を作るつもりだったのだ。しかし・・・っ!?」

 

 クイーンにクグツを注入されている女神から波動が伝わってくる。その波動はクイーンの創造するヴィジョンを私達に伝えてきた。

 

 

 

~~琥太郎~

 

「っ!?」

 

 俺はカガリを通して俺はクイーンのイメージを垣間見た。そのイメージはクグツを注入された戦神が破裂することによりクグツに満ちた戦神の破片は地球全土に広がって、やがては宇宙に広がるイメージだ。そしてその破片は機械も建造物も・・・文明もすべて・・『知恵』があったことすらも思えないような終わることも始まることも出来ない世界が見えた。

「何・・・今の?」

 

「小鳥、お前も見たのか?」

 

てっきり今のは俺だけが見えたのだと思っていたが、小鳥とシズクの反応を見る限りたぶん全世界の人々にこのイメージが見えたと思う。

「嫌だよ。こんな世界絶対に嫌!」

 

「冗談じゃない!」

 

 感応がなくなっちまった。これじゃカガリがどういう状況に置かれているのか分からない。

「カガリ・・・無事でいてくれ」

 

 

~~サイキ~

 

「あの予言はそういう意味だったのか・・」

 

 私はクイーンの創造せんとする世界のヴィジョンを観てようやく予言の意味を理解した。クイーンと女神が出会う時、世界は変わるとはこのことだったのか。

「同じ夢を見ていたんじゃないのかクイーン!!」

 

「ヴァ・・・うぅ・・」

 

 ガイ君の変身している光の戦士はクグツに抗い続けて、何とかまだ持ち堪えているが・・・女神の方はそろそろ限界を迎えていた。

 

 

 

~~ジャグラー~

 

「なんて最悪な世界だ・・」

 

 

 戦神から発せられた波動で俺はクイーンベゼルブが思い描こうとする世界のヴィジョンを見せられる。人が生きてるんだか死んでるんだか分からないあんな終わったような世界させてたまるか。

「ガイ・・・ッ!」

 

 ガイが・・・ウルトラマンオーブがクグツに意識を持って行かれそうになっているのを見上げた俺は先日のベゼルブとの戦いで癒えてない身体を無理やり起き上がらせて刀を出現させる。あいつがあんな状態なんじゃ・・・俺が止めるしかないじゃないか。

「フンッ!」

 

 魔人の姿へと変わった俺は空へと飛び上がるとオーブの背後に迫っていた大型ベゼルブに一太刀を浴びせた。

「デュァ!!」

 

 するとオーブではない赤い巨人は腕を重ねて光線を放ち、1体の大型ベゼルブを仕留めるとオーブへと駆け寄ってきた。

「ダァッ!・・・ォ?!」

 

 先日出会った青いウルトラマン・・・アグルは青い光の刃でクイーンベゼルブへと斬りかかろうとするも、クイーンベゼルブは戦神を盾にしてその攻撃を静止させる。

「デュァ!?」

 

 もう1人の赤いウルトラマンは暴れそうになっているオーブを押さえこもうとしていると、俺が斬ったはずの大型ベゼルブが立ち上がると同時に光弾をそいつに浴びせた。

「ダァァっ!?」

 

 そして戦神を傷つけるわけにはいかないと躊躇い動きを止めていたアグルも背後から別の大型ベゼルブの光弾を受けて地面に倒れてしまう。すると2人のウルトラマンが光とともに姿を消してしまう。ダメージで元の姿に戻っちまったんだ。

「くそっ!!」

 

 2人のウルトラマンの変身が解かれ結局は1人での戦いを強いられることとなった俺は傷が癒えずまだ痛む身体を無理やり動かしながらもベゼルブ達へと再び斬りかかろうとすると、クグツで暴れているオーブが視界に映った。

「何やってやがるガイ!お前はみんなを救うんだろ?」

 

 お前は光の戦士に選ばれたんだ。

「自分に負けるな!ガイ!」

 

 俺はそうオーブに呼びかけながら紫色に輝く気を纏わせ刀身を伸ばした刃で何度も叩く。すると少し正気を取り戻したオーブは光とともにガイへと戻った。

 

~~小鳥~

 

「確かあの辺だと思うんだけど・・・」

 

 琥太郎君は神殿へと到着いたらすぐに種の拾った辺りを指さした。海流に流されてなければあの辺に種の欠片があるんじゃないかと思ったからだ。

「あった!」

 

「えっ?見えるの?」

 

「うん。見える」

 

 私達はまたさっきと同じやりとりをしながらも種の欠片へと船を近づかせて電磁ネットのようなもので種の欠片を回収する。

「よし!急ごう!」

 

「飛ばす!しっかり掴まってて」

 

 シズクは船を全速力で飛ばして種の欠片を回収してから数分も経たないうちに命の樹の根元近くまで戻る。

「カガリ、今助ける」

 

「外さないでねシズク」

 

「任せて」

 

 飛行船の砲身から放たれた種の欠片は戦神の額に当たった。

「よしっ!・・・えっ・・・」

 

 だけどその種は弾かれてしまう。いったいどうして?

「今の女王様にはあの種だけじゃ解毒できない・・・?」

 

 あれで解毒できないぐらいカガリにクグツが入れられたってことか。

「一撃に全エネルギーを集中させる」

 

 シズクは飛行船のエネルギーを砲身に集めてビームをクイーンへと放つも、その隙を突いてきたベゼルブの光弾を受けて地上へと落下し始めた。

 

 

 

~~ジャグラー~

 

「ガイ!」

 

 俺は未だクグツの影響で苦しみながら暴れているガイの元へと駆け寄る。

「ガイ!落ち着けガイ!」

 

 そして先ほど戦神から弾かれて回収した種の欠片をガイへと飲ませると・・・ガイがその場に倒れた。クグツが浄化されたんだ。

「ガイ・・・。あいつを倒して俺は光の戦士を超える!」

 

 光の戦士達ですら倒せなかったクイーンベゼルブを倒せば・・・俺は光の戦士を超えられる。そう考えた俺は再び魔人の姿となる。

「よせ!無茶だジャグラー!?」

 

 ガイは無茶だと俺を止めようとするも、俺はそれを無視してクイーンベゼルブに斬りかかった。

「ハァァァっ・・・ゼァ!!」

 

「ジャグラー!!」

 

「ぬぉ!?ぐぁぁぁぁぁっ!?」

 

 クイーンベゼルブを斬りつけ倒れさせる。だが左右にいた大型ベゼルブ達の光弾を避けきれなかった俺は地上へと落下してしまった。

「ジャグラー!?」

 

 落下している俺にガイは叫んでいるのが聞こえたような気がしたが・・・俺の意識はそこで途切れてしまった。

 

 

 

 

~~サイキ~

 

「シズク!」

 

 エサカ君は墜落する船に乗っている部下のところへと向かって行くと取り押さえたまま女神にクグツを注入していたクイーンが、取り押さえていた触手を離した。

「クグツの注入を終えたか・・・」

 

『最終段階のようだね。カガリちゃんの身体が破裂してクグツが広がるよ』

 

 いったい私はどうすれば良いのだ・・・そう考えているとクイーンが何かを呼ぶように鳴いた。

「クイーンが私を呼んでいる。私に助けを求めている」

 

 装置が壊れて心を通わせることはできないが・・・きっとそう言ってるに違いない。

『ハァァァァ!』

 

 私はパーテルのテレポートによりクイーンの足元へと移動する。

「クイーン!私を見捨てないでくれ!!」

 

 野蛮な男の剣を受けて地面に倒れたクイーンに私は訴える。

「私も見捨てないから・・・一緒に新しい世界を作ろう!」

 

 共に新しい世界を・・・。クイーンの理想とする世界を知ってもなお私は新しい世界のためにクイーンと共に歩むことを決めた。

「パーテル。私は今度こそクイーンと一つになるよ」

 

『え?どうするつもり?』

 

「言葉通りの意味さ。クイーンと同化すれば解毒剤など不要になる」

 

 これが私の最後のカードだ。

『マイフレンド。まさか2人を量子分解して再構成しろだなんて無茶は言わないよね?』

 

 分かってるじゃないかパーテル。

「私の理解者は君だけだったよ」

 

『・・・マイフレンド』

 

「サイキィィィ!!」

 

 私を見つけたエサカ君は刀を私に振り下ろしてくると、パーテルはその身を盾にしてその刃から私を守ってくれた。

『マイフレンドの邪魔はさせないよ!』

 

 パーテルは私とクイーンに光を浴びせ、量子分解をする。そして分解された量子を1つにして再構成をしてくれた。

 

 

 

~~ガイ~

 

「あれは・・・クイーンなのか?」

 

 一瞬だけ巨大なサイキらしきものが見えたかと思うと、半透明となっているクイーンと同じく半透明なサイキが重なり合い、そのクイーンの姿が変貌した。その姿はこれまでの虫のような姿とは打って変わって悪魔そのもののような禍々しい姿となっていた。

「量子分解されたサイキとクイーンが1つに再構成されて変化したようだ」

 

「言うならばサイクイーンと呼ぶべきかもな・・」

 

俺の元へとやってきた我夢さんは変化したクイーンを解析した結果を伝えてくれると同じくこちらにやってきた藤宮さんはあのクイーンだったものの名前をサイクイーンと呼んだ。

「サイクイーン・・・」

 

 俺はオーブカリバーに視線を向けると我夢さんと藤宮さんもそれぞれの変身するための道具に視線を向ける。するとサイクイーンの咆哮とともに空から2体の怪獣が降りてきた。ムサシさんが浄化出来なかった怪獣たちだ。

「命の樹を破壊する気だ」

 

「クイーンと同化したサイキにとってもはや命の樹は邪魔でしかないからな」

 

「あのおぞましく変貌したサイクイーンを俺に・・・俺達になんとかすることができるのでしょうか?」

 

「何とかするのが俺達ウルトラマンだ」

 

「えっ?」

 

 聞き覚えのある声に振り返るとそこには別行動をとっていたあのお二方が立っていた。

 

 




次回「明日」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

明日

~~サイキ~

 

私は昔を思い出す。まだ幼い頃、まだ両親が生きていて幸せだった頃のことを。そして家族で出かけた際に人間同士の争いに巻き込まれ私だけが生き残ったことを。それ故に私は決意したのだ。この宇宙から争いを・・・悲しみを無くすと。成長した私は様々な知識を得てパーテルを作り出した。だがパーテルを作れるまでの技術を得てもこの宇宙から争いや悲しみを無くすことは出来ずに行き詰ってしまった。そんな最中だ・・・クイーンと出会ったのは。

「クイーン・・・私は君だ」

 

 クイーンの声を聞いた瞬間・・・彼女は私と同じく争いだらけのこの世界に悲しみ、この宇宙を変えようとしているのだと気づいた。

「私とともに・・・宇宙を変えよう!争いのない平和な世界を作ろう!」

 

 だからこそ私はクイーンと歩むことを決めたのだ。クイーンとなら争いのない世界をきっと作れる。

 

 

「クイーン私を見捨てないでくれ!」

 

 クイーンの理想とする世界と私の理想する世界に確かに違いはあった。だがクイーンの出す答えも結果的に世界から争いを無くせるのなら・・・。それでもいいと思った。だから私はクイーンと一つになった。

「ォォォおおォォッ!!」

 

君と共に世界を変えることを決めたのだ。・・・最後まで君とともに歩もう。

 

 

 

 

 

~~ガイ~

 

「悲しみや戦いが消えた世界。それは確かに理想だ」

 

「だけど愛も喜びも消されてしまっては意味がない」

 

 サイキとクイーンが一つとなって状況が大きく変わったところにアスカさんとムサシさんが合流してくれた。

「俺達の光の力で世界に最高の笑顔を取り戻そうぜ」

 

「僕らの光の力を合わせよう」

 

 お二人の言葉に我夢さんと藤宮さんが頷く。するとアスカさんとムサシさんはそれぞれ変身するための道具を取り出した。

「皆さんの力、お借りします!」

 

「ダイナァァァァァァッ!!」

 

「コスモォォォォス!!」

 

「ガイアァァァァァッ!!」

 

「アグルゥゥゥゥゥ!!」

 

 皆さんは自身のウルトラマンの名を叫びながらそれぞれの道具を空へと掲げる。

「オォォォォォォブ!!」

 

 俺も叫びながらオーブカリバーを空へと掲げると、俺達5人は一斉にウルトラマンへと変身した。

 

 

 

~~琥太郎~

 

「・・・ウルトラマンが5人も・・」

 

 シズクのおかげで何とか不時着できた飛行船から外へと出た俺は5人のウルトラマンが変貌したクイーンと対峙する光景を見上げる。するとクイーンは尻尾から光線を放ってきた。

「シャァ!」

 

 藤宮さんとは違うカノンに力を貸していたウルトラマン・・ウルトラマンコスモスは前へと出てバリアでその光線を防ぐとクイーンはウルトラマン達へと距離を詰めてきた。

「オォォォォ・・!」

 

 オーブはクイーンへと突撃したかと思うと上半身を捻らせてその脇下を潜り抜けクグツに苦しむ戦神へと向かって行った。

「デュァ!」

 

「ダァッ!」

 

 クイーンは戦神に向かったオーブを攻撃しようとするとガイアとアグルが掴みかかってそれを妨害してくれた。オーブは戦神を押さえこもうと頑張ってくれているが・・・このままじゃ埒があかない。

「解毒剤が必要だ」

 

「解毒剤って・・・種の欠片は聞かなかったんだよ」

 

「・・・・・」

 

 種の欠片は駄目だった。となると完全な状態の種で解毒できる可能性に賭けるしかない。

「実が成ってるかも」

 

 俺は実が成っている可能性を信じて命の樹を見上げる。

「ここからじゃ見えないし、あったとしてもどうやってあんな高さの場所に取りに行くの?」

 

 もう飛行船は壊れてしまい飛んで取りにいくことはできない。俺は何かあるはずと見渡すと1本の電波塔の天辺が命の樹の葉がある辺りに刺さっていることに気づいた。

「あそこからなら・・・」

 

「琥太郎君!」

 

 あそこからなら登れる。そう思った俺はそこへと走り出すと小鳥も付いてくる。

「デュァ!!」

 

 オーブ、コスモスと共に惑星カノンの危機に協力してくれていたウルトラマン・・・ウルトラマンダイナはその姿を赤く変化させると右拳に炎を灯してベゼルブを殴り飛ばす。殴り飛ばされて空中に撃ちあがったベゼルブが爆発をするとダイナは更に近くに迫って来たベゼルブを殴りつけた。

「シュァ!」

 

 ベゼルブに操られている怪獣たちを飛び越えたコスモスは戦神の元へと向かいながらその姿を赤く変化させる。そしてすぐさま赤と青のラインがある姿に変わった。

「デュァ!!・・・オォ!?」

 

 先ほどまでの青以上に力強く見える姿になったコスモスは後ろを振り返ると拳を突き出して鳥のような怪獣に光線を放とうとすると操られている一本角の怪獣がコスモスに体当たりをしてそれを妨害する。

「ダァッ!」

 

 そこにダイナが1本角の怪獣の角を掴むとコスモスはお礼をするように頷く。

「オォォォォォ!!」

 

 するとダイナは角を掴んでいる怪獣にジャイアントスイングをして投げ飛ばすと、コスモスはその怪獣に対して拳から光線を放った。その光線を受けた怪獣は目が赤から青へと変わった。クグツが浄化されたのか?

「っ!?」

 

 クイーンが咆哮をあげると怪獣の目がまた赤に戻ってしまった。

「えっ?どゆこと?さっき毒が抜けかけてたよね?」

 

「たぶん抜けかけてたところをクイーンがまた活性化させちまったんだと思う」

 

 コスモスには浄化する力はあるっぽいけど、浄化途中でクイーンがクグツを活性化させたらキリがない。やっぱり完全にクグツを解毒するにはやっぱり種が必要ってことか。

「シュァ・・・」

 

 消耗を抑えるつもりなのかコスモスは赤と青の姿から青い姿に戻る。いくらウルトラマンとはいえずっと戦い続けられるわけじゃない。

「急がないと・・・ッ!」

 

 

~~ジャグラー~

 

「タァッ!」

 

 意識を取り戻した俺はエサカが中型ベゼルブの足を斬りつけ膝をつかせているのが視界に映った。

「ッ!!」

 

 俺はすぐさま起き上がりエサカを横切ると膝をついている中型ベゼルブの頭に飛び乗りその頭を刀で突き刺す。

「ジャグラー!頼む!」

 

「任せろ!」

 

 そして中型ベゼルブを踏み台に飛び上がった俺は魔人の姿へと変わるとクイーンが変化したバケモノの頭に刀を突き刺した。

「ハァァァァッ!!」

 

 刃に気を込めてさらに深く突き刺そうとすると、クイーンはエネルギーによる衝撃波で俺と自身を取り押さえている2人のウルトラマンを吹き飛ばす。

「ぐおっ!?」

 

 勢いよく地面に叩きつけられた俺は魔人の姿から本来の姿へと戻ると、そこに中型ベゼルブが迫って来た。

「くっ・・・」

 

 俺は刀を杖にして立ち上がるが・・・蓄積されたダメージのせいでまともに動くことができない。

「ッ!!」

 

 こちらに気づいたオーブは戦神を取り押さえながらも片手から光の刃を飛ばして俺へと迫る中型ベゼルブを撃破する。

「ガイ・・・っ」

 

 またしてもガイに助けられてしまった。何時からだ?いつから俺とあいつにここまでの差がついてしまったんだ?

「何が光の戦士を超えるだ。・・・超えるどころか追いつくことさえできてないじゃんかよ」

 

 光に選ばれなかったものはそれを目指すことすら許されないってことか。

 

 

 

~~琥太郎~

 

「ハァ・・・ハァ・・あと半分・・」

 

 電波塔を登り始めた俺は戦神の方を見る。戦神はオーブの球体状のバリアによって動きを制限されているところにコスモスが浄化技のようなものを放っていた。

「あれなら種が無くても女王様も何とかなるんじゃない?」

 

「いや、クグツを長い間注入されていたし、減ってきたらクイーンがクグツを活性化させるはずだ。だから実質あれは時間稼ぎ程度にしかならない」

 

 オーブとコスモスが少しでも時間を稼いでくれている間に種を取らないと。そう思った俺は階段を登るスピードをさらに早めると小鳥が途中で躓いた。

「きゃぅ!?」

 

「大丈夫か小鳥?」

 

「私のことはいいから先に進んで!女王様を助けたいんでしょ?」

 

 小鳥・・・ッ。

「すぐ戻る!・・・っ!」

 

 俺は小鳥の気持ちに応えるためにも更に上へと昇ろうとするとすぐ真後ろに入り込んでいる樹の枝に果実が実っていることに気づいた。

「あ、案外近くにあったね・・」

 

「あぁ!」

 

 せっかくの決意が無駄になってため息をついた小鳥を背に俺はその果実をもぎ取る。そして果実の皮を剥いて中にある種を引っ張り出した。

「これは・・・」

 

 俺はその種を視て唖然とする。

「何してるの?」

 

「光ってない。・・・輝く種じゃなきゃ海底の種と同じ結果になっちまう」

 

 光ってないと人間サイズぐらいなら何とかなるけどクグツに侵された戦神を浄化することは叶わない。毒を刺したのがクイーンとなるとなおさらだ。

「今更そんなガッカリな顔をしちゃ駄目だよ琥太郎君。遠い星の向こうにいるお姫様と直接心を繋げるなんて奇跡を起こした人がこの程度で絶望しちゃ駄目だよ。女王様のためにここまで登ってきたんでしょ?女王様だって琥太郎君のために7万光年も遠いところから来てくれたんだよ。なのに種が光ってないだけで諦めちゃうの?そんなの駄目に決まってるでしょ」

 

 小鳥・・・。

「進化したから7万光年先の女王様と繋がれたんでしょ。琥太郎君ならその種を自分で光らせることができるよ」

 

 自分で光らせる・・・か。

「女王様のことだけを考えて。絶対助けるんだって気持ちを強く持って」

 

 俺はカガリのことを想いながら種を胸へと当てる。するとオーブのバリアが打ち破られて戦神の身体からクグツの塊のようなものが飛び散り始めた。

「カガリ・・・ッ!」

 

 オーブは再び戦神をバリアで包み込むとコスモスも浄化技で鎮めようとする。

「もう少し待っててくれ。そう時間はかけないから」

 

 俺は目を閉じると初めて種に触れてカガリと繋がった時のことを思い出す。あれからカガリを通して様々なことを見て、様々なことを体験した。そしてようやくこうしてカガリと出会えたんだ。この体験を奇跡って言わずに何ていえばいいんだ。

「琥太郎君!種が!」

 

「・・・ッ!」

 

 小鳥の呼びかけに目を開けると手にしている種が輝いていた。そしてそれに呼応するように樹に実っている果実も輝き出した。

「ヌァ!?」

 

 だけど果実が輝き出すと同時にオーブのバリアが再び砕かれてしまって、クグツの塊がこっちに飛んできた。

「やばっ・・・!」

 

 俺は咄嗟に小鳥を庇おうとするも・・・それは俺達には当たらなかった。

「・・・シュァ・・」

 

 オーブが守ってくれたからだ。

「これを戦神に・・・カガリを救ってくれ!」

 

「オォァ!」

 

 俺はオーブに種を託す。するとオーブはその種を戦神の額目掛けて飛ばした。種は完全な浄化とまではいかなかったが充分クグツに対して効果があったようで、クグツの塊が飛び散るのは収まった。

「効いてる!これなら・・・ッ!」

 

 輝いている種なら浄化できる。そう確信するとオーブは俺達を地上へと下ろしてくれる。

「ッ!」

 

 後は任せろと言わんばかりに頷いたオーブは両手を前へと突き出すと果実を自身の前に集め出す。

「驚きの吸引力・・」

 

 掃除機みたいに言ってる小鳥はさておき、オーブが果実を集めると再び赤と青の姿になったコスモスはその果実の集まったものを拳から放つ光線とともに戦神へと飛ばした。

「ダァ!!」

 

 それに気づいたクイーンはオーブとコスモスを妨害しようとアグルは光の剣で光線を放とうとしていた尻尾を切断した。

「ォォォォ・・デュァ!」

 

 さらにガイアも赤い身体に青いラインが入った姿へと変化するとクイーンの頭を両手で掴んで持ち上げる。

「ディァ!!」

 

 そしてクイーンを力強く地面に叩きつけると、その腰を掴みあげてもう1度地面に叩きつけた。

「ドォォダァ!!」

 

 ガイアとアグルがクイーンの相手をしている間にほとんどのベゼルブを撃破したダイナは赤い姿から元の姿へと戻る。するとコスモスの光線と果実による浄化作用でクグツが解毒された戦神はカガリの姿へと戻った。

「カガリ!」

 

 俺はすぐさまカガリのもとへと駆け寄る。

 

 

「デュァ!!」

 

 コスモスはベゼルブに操られている怪獣たちにも果実とともに光線を放つと赤くなっていた目が青く変わった。怪獣たちも無事クグツが浄化されたんだ。

「シュァ・・・」

 

 浄化した怪獣たちをコスモスは超能力のようなもので宙へと浮かべ、宇宙へと飛ばす。するとまたもガイアに叩きつけられたクイーンは自身の身体に電流を纏わせ電磁力で浮かび上がると戦神へと急降下した。

 

 

~~エサカ~

 

「まさか戦神を・・・カガリ様を取り込む気なのか?」

 

 クイーンはサイキと1つになれたように戦神とも1つになろうとしているのだ。だがいったい何故?

『何でって顔してるね。簡単な答えじゃないか。そうすればクグツを自分の意思で宇宙全体に飛ばすことが可能になるからさ』

 

 それは自身の身体を破裂させてでも宇宙をおぞましい姿に変える気か。

「「「「「シュァ!!」」」」」

 

 5人のウルトラマンは急降下してくるクイーンへと一斉に光線を放つ。

『アタタタタ・・・ッ!』

 

 するとパーテルはすぐさま何かプログラムを操作するとサイキとクイーンが量子に分解されて分裂した。

「ッ!オォォォ・・セイッ!」

 

 それに気づいたオーブはクイーンへと単身突撃すると光線に耐えきれなくなったクイーンは爆発する。

「むっ・・」

 

「隊長!」

 

その衝撃で近くの建物の瓦礫が私と私のところへとやってきたシズクへと飛んできた。

『っ!』

 

 私は咄嗟にシズクを庇おうとすると、パーテルが私達を庇って瓦礫を受け止めた。

『バイバイ。マイフレンド・・』

 

 瓦礫を受け止めた衝撃でパーテルは壊れてしまったらしく、火花を散らしながら地面へと落下した。

 

 

 

~~ガイ~

 

「シュァ・・・っ」

 

 サイクイーンから分離したサイキを助け出した俺は地面にそいつを降ろすと同時に変身が解かれる。そして俺はサイキの真横に倒れ込んだ。

「・・・何故私を助けた?」

 

 サイキは何故自分を助けたと俺に尋ねてくる。そんなの決まっている。

「誰一人犠牲を出したくないんだよ、俺は」

 

「救う価値などあるのか?犠牲ばかりを強いる宇宙に・・」

 

「知恵を与える命の樹がそれを守る戦神と知恵を消す毒を持ったベゼルブを生み出したんだろ?」

 

「そうだ。クグツは暴走した知恵を生み出した時、それを消し去るための安全装置だったんだ」

 

「なら何で命の樹はそのクグツを何とかできる果実を実らせる?」

 

 俺は足に力を込めて立ち上がる。

「あれこそが知恵ある世界を守るための最後の安全装置だったんじゃないのか?」

 

「そ、それは・・・」

 

 サイキはまるで考えたこともなかったとでも言うような反応をすると琥太郎と小鳥がやってくる。

「ガイさん!」

 

「良かった。お前達も無事だったんだな」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「・・・私からも、お礼を言わせてください。私達の星とこの地球を・・・いえ、この宇宙を守ってくださりありがとうございました」

 

 琥太郎からお礼を言われていると隊長の肩を借りてやってきた女王様がお礼を言ってきた。

「カガリ・・ッ」

 

「琥太郎ッ」

 

 女王様と琥太郎は顔を合わせるなり抱きしめあうと変身を解いたアスカさん達もやってくる。

「これで分かったかサイキ。命の樹の果実が輝く限り、この宇宙を救う価値はあるんだ」

 

「・・・・ッ」

 

 無言ながらも宇宙を救う価値を認めた様子のサイキは立ち上がり果実が輝く命の樹を見上げる。そしてすぐにハッとしたようにシズクを・・・いや、シズクが抱えているロボットへと視線を向けた。

「パーテル・・・っ」

 

「この子が私達を助けてくれた」

 

 そう言ったシズクはロボットをサイキへと手渡す。するとサイキは涙を流しながらその場に膝をつく。すると女王様はサイキの肩にそっと手をあてた。

「この宇宙で争いのない世界を望むことは確かに難しく、不可能のように考えてしまうかもしれません。けれど諦めずに想い続ければきっといつか・・・」

 

「あぁ・・いつか・・必ず・・」

 

 サイキは涙ながらも女王様の言葉に頷くと小鳥の手をとった。

「琥太郎と小鳥さんのおかげで命の樹も輝き始めました。この宇宙に知恵がある限り、愛ある世界は終わらないのです。それを2人が証明してくれました」

 

 女王様は琥太郎の手も握る。

「繋いだ手の中・・・愛が生まれる。愛ある世界があるかぎり人と人の心は繋がり合う。琥太郎、まだ問題は山積みだと思うがこれからの命の樹は任せる」

 

「ガイさん達が守ってくれた命の樹。今度は俺が守ります」

 

 頷いた俺はアスカさん達とともに太陽が沈むのが見える土手へと歩く。

「ガイ君。君の冒険はこれから始まるんだ」

 

 次はどの宇宙へと行くんだろうか。

「いったい宇宙って幾つあるんですか?」

 

「可能性のぶんだけ・・・そして宇宙の数だけ冒険と出会いが君を待っている」

 

 俺の問いかけにムサシさんはそう答えてくれた。

「初陣にしては良い動きだったぜルーキー」

 

 アスカさんはまたも俺をルーキーと呼び、俺はクスリと笑ってしまう。

「先輩方に頼りっきりでお恥ずかしいかぎりです」

 

「恥じる必要などない」

 

「むしろその逆さ。助け合える仲間がいることは僕らの誇りだ」

 

 我夢さんと藤宮さんは誰かに頼ることを恥ではなく誇りと言ってくれた。

「じゃあ・・・そろそろ行くか」

 

「僕らが1つの星に干渉しすぎちゃいけないからね」

 

「さよなら」

 

「またいつか何処かで」

 

「はいッ・・」

 

 俺は皆さん達の別れの言葉に頷くとアスカさんは俺を見て頷いた。

「それじゃ・・それぞれの・・・明日へ」

 

 そうアスカさんが告げるとともに4人は一斉にウルトラマンへと変身し空へと飛び去っていく。それぞれの世界に・・・それぞれの明日へと飛んでいったんだ。

「俺も・・・進まないとな」

 

 たとえジャグラーが隣にいなくても前へとと進む決意を固めた俺はオーブカリバーを輝かせて戦士の頂があるO-50へと帰還した。

 

 

 

「・・・・」

 

 戦士の頂へと到着した俺はオーブカリバーを見つめる。

「やっぱりここに戻って来たんだな。ガイ」

 

「っ!!」

 

 俺は声に反応して横に振りむくと、そこにはジャグラーが立っていた。

「ジャグラーっ!」

 

戻って来てくれた。そんな期待に心を躍らせるも、ジャグラーは霧となるように消えてしまう。どうやら幻覚だったようだ。

「・・・・」

 

 残念に思いため息をついた瞬間・・・オーブカリバーから光が放たれ、俺の前に文字が浮かんだ。

「新しいミッションか」

 

 そこには『奇戒天使ミカエルから星を守れ』と書かれていた。

「悪魔の次は天使と来たか・・っ!?」

 

 次の相手は天使なのかと思っているとミッションを伝える指令がオーブの光となって俺の胸に張り付いた。すると俺は自分の意思とは関係なくオーブへと変身させられた。

「・・・?」

 

 身体から湧き上がる力を感じると俺の身体が輝き、赤と銀だった身体に黒いラインが入る。新しい力に覚醒した・・というよりは抑えられていた力の制限が解除されたような感覚だ。

「・・・シュァ!!」

 

 新しい姿となった俺はセカンドミッションのために再び宇宙へと飛び立った。また宇宙の何処かでジャグラーと会えることを信じて・・。

 




次回「2発目の銃弾」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2発目の銃弾

 第二章は本来4つのエレメントの話ですが、本作ではオリジナルの奇械天使編を挟みます。


~~ガイ~

 

「シュァ!!」

 

 奇戒天使ミカエルに支配されようとしている宇宙に到着した俺はひとまずここから一番近い星である惑星ボレイドへと向かっている最中、いきなり襲ってきたロボットと戦闘になっていた。

「オォォォ・・セイッ!」

 

 この金色のボディ・・・以前資料で読んだことがあるぞ。確かペダン星人が製作したキングジョーってロボットだよな。

「シュァ!!」

 

 俺はキングジョーへと向けて光線を放つも、光線が命中してもキングジョーは倒れるどころか大して効いてないかのように前進してきた。

「っ・・・オォォォ!!」

 

 思っていたより分厚い装甲に俺はたじろいでしまうも、すぐに光線が効かないなら接近戦で勝負しようと切り替えた。

「セイっ!オォォォォ・・・シャァ!!」

 

 右腕に光を集めた俺は輝く拳でキングジョーを殴りつける。そしてキングジョーを踏み台にしながらその目の前で宙返りをして光を集めたキックを叩き込んだ。その一撃でキングジョーを撃破した俺は惑星ボレイドへと飛ぶスピードを上げた。

「シュァ・・・」

 

 惑星ボレイドへと到着した俺は変身を解いて周囲を見渡す。そこには様々な建物があった痕跡こそあるのだが・・・既にそこは廃墟と化していた。

「遅かったか・・・」

 

 建物の壊れっぷりから考えるにこの星がやられてから既に1年以上は経過してしまっているだろう。

「声も・・・聞こえないか」

 

 生き残りがいないかと耳を澄ましてみるも、何処からも助けを呼ぶ声は聞こえなかった。だが遺体らしいものは建物のわりにあまり見られない。

「その天使共に攫われたか・・・もしくはこの星を捨てて別の星に逃げたかだろうな」

 

 こういっちゃぁ星に悪いが・・・この星を捨ててても生きていてくれりゃそれでいいと思った。

「ん?この星の生き残りか?」

 

 上からそんな声が聞こえたかと思うとその巨人は地面へと着地する。

「・・・いえ、俺はこの星に立ち寄っただけです」

 

 青い上半身に赤い下半身・・・頭部には2つのスラッガー。間違いない。

「あの人が噂に名高いウルトラマンゼロさんか・・」

 

 若き最強のウルトラマン。ウルトラマンゼロさん。ウルトラ兄弟3人目であるウルトラセブンさんの息子で幾つもの次元宇宙を救っているという光の戦士。

「初めましてゼロさん。御噂は聞いています。俺はガイ、ウルトラマンオーブです」

 

「お前がオーブか。ムサシから聞いてるぜ」

 

 着地したゼロさんは既にムサシさんから俺のことを聞いていたようだ。

「ゼロさんも奇戒天使の調査でこの星に来たのですか?」

 

「あぁ。この惑星ボレイドがそいつに襲われてるって話を聞いてな・・・既に人っ子1人いやしなかったんで星中を飛び回っていたんだよ」

 

 ゼロさんも俺より少し前に来たようだけど、この星には完全に誰もいなかったってことか。

「この宇宙に調査を頼んだはずのギンガとビクトリーの2人との連絡も途絶えちまったからこうして俺もやってきたんだが・・・っと・・」

 

 ゼロさんはいきなり飛んできたバルカン攻撃から庇ってくれると、攻撃が飛んできた場所を睨みつける。そこには灰色のロボットが右腕のバルカンをこちらに向けていた。

「デスフェイサーか」

 

「デスフェイサーですか?」

 

 デスフェイサーと呼ばれたロボットはバルカンを下げると胸部の装甲を開いて砲身を展開した。

「っ!?ウルティメイトイージス!!」

 

 ゼロさんは左腕に付いている腕輪を輝かせると自身の前に銀色の盾を出現させた瞬間、デスフェイサーはその砲身から特大の光線を放ってきた。

「っと・・・!!オーブ!ここは俺が引き受けるからお前はギンガとビクトリーを探せ!」

 

 盾でその光線を受け止めたゼロさんは俺にそう告げてきた。

「いや、こんな奴俺とゼロさんが協力すればすぐにでも・・・」

 

「馬鹿!あいつの上見ろ!」

 

 俺は言われた通りデスフェイサーよりもはるか上を見上げるとそこにはデスフェイサー以外にも大量のロボット軍団が待機していた。

「こんな数ゼロさんだけに任せるわけには行きません。やっぱり俺も・・・」

 

「ここだけに時間を割いちまってる間に他の星までこんなことになっちまうかもしんねぇだろ!こういう数には慣れてるからとっとと行け!」

 

「・・・分かりました!」

 

 ゼロさんを信じてこの場を任せることにした俺はオーブカリバーを空へと掲げてオーブへと変身すると光線を放ちながら正面のロボット達を撃破しながら道を切り開き惑星ボレイドを後にした。

 

 

 

~~ジャグラー~

 

 ガイと別れて行動するようになってから1週間ほどが過ぎた。俺は星雲連盟という組織の傭兵となり、連盟として最初のミッションに挑んでいた。

「フンっ!」

 

最初のミッションは惑星メルと惑星デューンとの間で行われている抗争、そのデューン側への加勢だった。どうやらデューンの代表が星雲連盟をそれなりの報酬を提示して協力を要請したようらしい。

「・・・他愛ないな」

 

 俺はメルの武装集団達を切り捨てながらため息をつく。メルの住民たちは俺達のような人間的な容姿に動物の耳や尻尾がある半獣人型の奴らで星の多くがリスやうさぎなどの小動物タイプが多い。ライオンやゾウのような戦士向きなやつらもいないというわけではないのだが、それほど数はいない。総じて戦闘種族とはいいがたい連中だった。

「おい、いったい何故このように弱い奴ら相手に俺達が雇われなければならんのだ?こんな奴らお前らだけでも十分だろうが」

 

「傭兵・・・ジャグラーと言ったな。ならば我々の事情を知らずとも仕方ないな」

 

 小隊を率いているデューン星人に質問すると、その男はニヤリと口を曲げた。

「奴らは大した戦闘力は持たないくせに数だけは我々の100倍以上はいるのだ。悔しながら我々の星はこの星の10分の1ほど。・・・まぁこれぐらい言えば分かるだろう」

 

「メルの住民をこの星から消し去り、ここを自分達の星にするということか」

 

 特にいざこざからの戦争というわけでもなくただ土地が欲しいがための一方的な蹂躙というわけか。

「下らんな・・」

 

「まぁそう言いたい気持ちは分からんでもない。だがお前にも何かあるんじゃないのか?命を賭けてでも欲するものがな。そうでなければお前のような武人がただの傭兵でいるわけがない」

 

 欲するもの・・・か。

「分かったようなことを言ってくれるな。だがまぁ・・・少し前までそのようなものは確かにあった」

 

「ほう。是非とも教えてくれ」

 

「俺は光の戦士になるために力を身に付けたが・・・俺は光の戦士に選ばれることはなかった。故に俺は光の戦士を超えることを望んだが・・・それは無理だと悟った。それだけのことだ」

 

 俺には光の戦士になる資格もなければ、それを超える事すら無理だった。かといってあいつの隣でサポートし続けることなどもうできるはずもないので傭兵となったのだ。

「光の戦士・・・お前はウルトラマンを目指していたというわけか。物好きな奴だ。・・・ぬぉっ!?」

 

 小隊の隊長であるデューン星人は血を吐きながら前へと倒れた。腹部を刺されたのだ。

「くっ・・・」

 

 過去話に気を取られて俺も敵の接近に気づかなかった。そのことを悔いながら俺は敵へと振り向くと・・・

「ひっ・・・」

 

 そこには10歳程度の少女がナイフを持って立っていた。少女は俺に怯えて手に握るナイフを震わせながらも涙を流した目で俺を睨みつけてきた。

「お、お父さんの・・・か、仇だ」

 

「父親の仇・・」

 

 この戦場で既に何十人も斬り倒してきたが・・・その中にはこいつの父親もいたということか。

「そうか。すっかり俺は悪なのだな」

 

 惑星カノンの時もそうだが・・・俺はすっかり誰かに敵意を向けられる『悪』となっているようだ。命を奪う事でしか誰かを救えない俺にはお似合いか。

「光の戦士に選ばれないわけだ・・」

 

 俺は光の戦士になれなかった理由を悟りながらも刀を少女へと向け・・・振り下ろす。

「ひゃっ!?」

 

 その刃を少女に届く寸前で止めた。

「・・・これは戦争で俺はお前の父親を殺した。その事実は変わらん。俺は傭兵で敵を倒せと言われ、敵兵だった貴様の親を倒した事実はな。だが貴様のようなガキの命まで取るまで俺は命令されていない。・・・分かったらここから早く離れろ。死ぬぞ」

 

「・・・い、嫌。お父さんの仇を取るんだ!」

 

「そうか、ならばやってみろ」

 

 俺は刀を地面に突き刺すと両手を降ろす。

「う・・・うぅ・・」

 

「どうした?そっちの隊長の方はできたのに俺は殺せないのか?」

 

 おそらく直前までは怒りと悲しみで正気ではなかったから隊長のそいつを殺すことはできたが、そのあとすぐに冷静となり命を奪ってしまったことに動揺して次の殺しができないと言ったところか。

「・・・やれないと言うのなら俺はもう行くぞ」

 

 こいつは命を奪っても心から『光』を無くさないでいられる強い奴なんだな。俺は守るために命を奪うことに躊躇いなどなかった。だがガイは違った。守るために命を奪うことに躊躇いがあった。俺はその躊躇いは邪魔なものだと考えていたが・・・それこそが『光』だったんだな。俺が光に選ばれないわけだ。では光ではない俺は・・・何者だ?

「何をしているんだ傭兵?」

 

「・・・なっ・・」

 

 俺に話しかける声とともに銃声が響く。俺はそれに反応して振り返ると先ほど見逃すことにした少女が腹部から血を流しながら倒れていた。

「俺達の目的は惑星メルの住民を消し去ることとなはずだぞ」

 

「だからといってこのような小さなものの命を奪うまでないだろうが」

 

「武人として女子供は殺さないって奴か?いるんだよなぁ。そういうのがたまによぉ・・」

 

 兵士は呆れたようにため息をつく。・・・大丈夫だ。まだあの少女の息はある。この兵士が去ってからすぐに手配をすれば間に合うはずだ。

「まあそういうのがいるから俺らも楽ができてるんだ。俺らはその残り物を狩るぐらいの仕事はするさ」

 

 そう言った兵士はまだ息のある少女に2発目の銃弾を浴びせた。

「・・・・・」

 

 2発目の銃弾を受けた少女はその灯を消してしまう。

「とりあえずこいつでこのエリアは殲滅完了だな。帰還するとするか!」

 

「・・・あぁ。そうだな」

 

 目の前で消えゆく命の灯に対して何もできなかった。だが怒りよりも虚しさの方が上回っていた。救えたかもしれない命に何もできないほど俺は弱かったのか。

「サイキが望んでいた争いのない世界・・・俺のようなものが争いの火種になっているのだろうな」

 

『真剣に悩んでも答えは出ないぜ。この狂った世界を楽しめばいいのさ』

 

 声が聞こえた気がした。俺の声だ。

「ちっ・・」

 

 気が滅入って幻聴が聞こえちまうまでになってたか。つくづく今の俺は戦士失格だな。

「戦士失格で傭兵にもなりきれないか・・」

 

 ガイのサポートをしないと決め、こうして1人で行動するようになってから自分を見返す機会が増えたな。余裕ができた・・・というわけではないな。むしろ余裕などガイがオーブとなってから無くなっている。そう、あの時から俺は戦士として綻び始めていた。

 

 

 

~~ガイ~

 

 ゼロさんにギンガさんとビクトリーを探すように頼まれてから早1週間、確かに奇械天使のこともあるがそちらを探すよりもまずはその情報を調べていたギンガさんとビクトリーさんと合流した方がいいと考えた俺は光の力の気配を辿ってお2人を探していた。

「この星から僅かに光の力を感じるな」

 

 オーブカリバーを通して光の力を感じ取った俺は地球によく似た青い星へと降り立つ。

「ここは・・・惑星メーテルか」

 

 看板を確認した俺はこの星の名が惑星メーテルという名前であることと、この地域がフランという地域という場所だと理解した。

「・・・争った痕跡はあるようだが、人々はそれなりにいるな」

 

 壊滅していた惑星ボレイドとは違い、惑星メーテルは被害こそあるものの多くの人々が無事なようで復興に尽力していた。

「もしかしたらここはギンガさんとビクトリーさんが守れた星なのかもな」

 

「君はギンガとビクトリー・・・ヒカルさんとショウさんを探しているのか?」

 

 後ろから聞こえてきた声に振り向くと20代ぐらいの青年が立っていた。

「アンタは?」

 

「僕はキョウ。・・・このフランに住んでいる者だ」

 

 なるほど、ここの住民か。それなら町がどうしてボロボロなのか何か知っていそうだな。

「俺はガイ。ウルトラマンオーブだ」

 

「貴方もウルトラマン・・ッ!」

 

「あぁ。ウルトラマンゼロさんに頼まれてギンガさんとビクトリーさんを探していたんだ。何か知っていることが会ったら教えてくれ」

 

「・・・分かりました。案内します」

 

 案内?俺は言われるがままキョウに付いていくとそこには人型の彫刻があった。

 

「随分とよくできてるな。・・・っ!?」

 

 俺はその彫刻を見上げてみると・・・それはまるで光の巨人のような形をしていた。いや、形だけじゃない。僅かながら光の力を感じる。

「これは・・・ウルトラマンなのか?」

 

「はい。ウルトラマンギンガとウルトラマンビクトリー本人です」

 

 まさかギンガさんとビクトリーさんが石になっちまったってことなのか?

「いったいどうして・・・?」

 

「今から1年ほど前のことです。突如として奇械天使ミカエル率いる天使軍団が僕らを『救済対象』と言って攻撃してきたんです」

 

 救済するって言いながら攻撃だと?命を奪うことが救済になると思ってるってことなのか?

「大した武力を持たない僕らは滅びを・・・彼らのいう救済を待つしかないと思っていた時、遠い宇宙の彼方から彼らが・・・ヒカルさんとショウさんが駆けつけてくれたんです」

 

 先ほども名前を出していたヒカルさんとショウさん。その2人がウルトラマンに変身する方々の名前なんだろうな。

「彼らは天使軍団と戦いながらも僕らに光を・・・今を生きる希望を与えてくれました。子供達にはサッカーという遊びを教えてくれたり、僕らには稽古をつけてくれたりしました。彼らがこの星へとやってきてくれて一月が過ぎようとしていた頃、事は動いたんです」

 

 キョウはその日のことがトラウマになっているようで肩を震わせてしまっていた。

「・・・無理に話さなくてもいいぞ」

 

「いえ、大丈夫です。僕らはヒカルさんとショウさんに・・・ウルトラマンに助けられたんです。ならそのことをウルトラマンのお仲間に伝える義務がある」

 

 守られた者の義務か。そんなものはないってのに・・・義理堅いやつだ。

「お、お2人の存在を知った奇械天使ミカエルはかつてない大群をこの星に送り込んできました。激戦の末に大群を追い払って下さったギンガとビクトリーは力を使い果たしてしまい・・・こうして石になってしまっているんです」

 

「エネルギーを使い果たしただけなら何とかなるかもしれない」

 

 光の戦士は他の光の戦士に『光の力』を分けてもらうことでその力を回復させることができる。たとえそれはカラータイマーが光を失ってしまっていたり石化していたりしていた場合も可能だとムサシさんから聞いた。ならば俺にも光を分け与えることができるはずだ。

「ッ!!」

 

 オーブカリバーを空へと掲げた俺はオーブへと変身すると石となっているギンガさんとビクトリーさんの前に立つ。

「今、光をお分けします」

 

 両手に光を集めた俺はその光をギンガさんとビクトリーさんのカラータイマーへととばす。だけどそれではギンガさんとビクトリーさんの石化は解かれなかった。

「シュァ!」

 

 俺はさらに多めの光を分け与えてみるも・・・一向にギンガさんとビクトリーさんが元に戻る気配はない。

「・・・光が無くなったからだけじゃないのか?」

 

 光を分け与えるだけでは駄目だと判断した俺は変身を解くとキョウが駆け寄って来た。

「ガイさん。どうです?」

 

「・・・駄目だ。光を分けてみるだけじゃ何かが足りない」

 

 だけどその何かってのは何だ?

「奇械天使とギンガさん達との戦いで何か奪われていたものとかあったか?」

 

 光が尽きたから石になっただけじゃないのかもしれないなら何かを奇械天使に奪われたのかもしれない。

「何かですか?」

 

たとえばそう・・・ギンガさんとビクトリーさんがヒカルさんとショウさんという人間になっていたんじゃなくムサシさんのように融合している形式だったとしたら。そしてヒカルさんとショウさんが奇械天使に攫われたのだとしたら・・。

「すみません。避難していてそれなりに離れていたので・・・」

 

 何か奪われていたとしても見ることが出来なかったってことか。

「奪われるような何かは見えませんでしたが・・・その戦いがあった場所にこれが落ちていました」

 

 そう言ったキョウは短剣の形をした2つの道具を取り出してくる。

「ヒカルさんがギンガへと変身する際に使っていたギンガスパークとショウさんがビクトリーへと変身する際に使っていたビクトリーランサーです」

 

「ギンガスパークとビクトリーランサー・・・。これがあれば2人のウルトラマンさん方が元に戻ったりするんじゃないか?」

 

 こういうのを届ければ戻るんじゃないかと意見してみるもキョウは首を横に振った。

「僕らもそう思って胸のランプにこれを何度か当ててみたんですですけど・・・残念ながら駄目でした」

 

「そうか・・」

 

 光が無くなったのでもこの光の道具が無くなったからでもないとするとやっぱり融合していたであろうヒカルさんとショウさんが強制的に抜き取られた状態で光が失われたって考えるべきだろうな。強制的に抜き取られたからコップに穴が開いてるみたいになっていて、光を注いでも漏れ出てしまう。だから石化が解けない。

「やっぱり奇械天使を探すことを優先しなきゃいけないようだな」

 

 奇械天使を見つけてヒカルさんとショウさんを救い出す。それが当面の目標になるか。

「これ、預かっていいか。ヒカルさんとショウさんを探す手がかりになるかもしれない」

 

「はい。僕らのヒーローを助けて下さい。お願いします!」

 

 俺はキョウからギンガスパークとビクトリーランサーを預かると懐にしまっているオーブカリバーが共鳴して震えだした。

「オーブカリバーの光とこの2つの光が共鳴してるのか。・・・もしかしたらこれでヒカルさんとショウさんを探せるかもしれないな」

 

 オーブカリバーを通して2つの道具が何処を目指すように示しているのかが伝わって来た。

「この方角は地球・・か?」

 

 示されている場所から察するに・・・その場所はたぶん地球だ。ムサシさんやアスカさん、そして我夢さんや藤宮さんの話を聞く限り様々な次元宇宙で地球という星はウルトラマンの戦いの地となる特異点のような存在なようだ。

「地球には何か特別な何かがあるのかもしれないな」

 

 本当に特別な何かがあるかは分からないが・・・ヒカルさんとショウさんがいるであろう場所が地球だと言うのなら向かうしかないな。

「ッ!!」

 

 オーブカリバーを掲げてオーブへと変身した俺は地球へと飛び立った。

 




次回「大奇械天使ミカエル」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大奇械天使ミカエル

~~ガイ~

 

「まさかまた地球に来るなんてな」

 

 違う宇宙とはいえまたも地球を舞台に戦うことになることに複雑な心境を感じながらも地上へと着地した俺はオーブの変身を解いて周囲を見渡した。

「ところどころに戦いがあった後があるな」

 

 地球全土が一斉に襲撃を受けた様子じゃないが・・・ところどころ交戦の痕が見受けられる。やっぱりすでに奇械天使が地球にやってきたようだ。

「防衛隊による攻撃・・・だけじゃなさそうだな」

 

 防衛隊だけじゃおそらく奇械天使を撃退は出来なかっただろうと辺りを探索してみると光の戦士が戦ったような足跡が残っていた。おそらくこの地球を守るためにギンガさん達のように別宇宙から来たウルトラマンだろうな。

「お前、さっきの巨人だな?」

 

「っ?」

 

 声をかけられたので振り返ってみると、数人の集団が不安げに声をかけてきていた。どうやら変身を解くところを視られていたようだ。まぁわざわざ隠すようなことでもないか。

「はい。俺はガイ、ウルトラマンオーブです」

 

「やっぱりウルトラマンか!おい!ここにウルトラマンがいるぞぉぉぉ!!」

 

 数人のうちの1人が叫びをあげると鉞や包丁などを持った人々が物陰から現れて俺を取り囲んだ。

「悪く思わないでくれよ。ウルトラマンを差し出せば俺達は助かるんだ」

 

「差し出せば・・?それはどういう・・・っ!!」

 

 俺は事情を聞こうとするも・・・人々は問答無用と言わんばかりに包丁や鉞を俺へと振り下ろしてくる。

「待ってください!話を・・・」

 

「こっちにはそんな時間はねぇんだ!!」

 

「大人しく捕まりやがれ!!」

 

「・・・くっ・・」

 

 どうやら話を聞かせてくれそうな雰囲気じゃないな。となると今は一旦この場を離れるべきだな。

「ッ!!」

 

 筋肉質な男性の肩を踏み台にしつつ人々を跳び越えた俺は急いでこの場を離れる。

「こっちだ!」

 

「っ・・・!」

 

 追いかけてくる人々から逃れるために曲がり角を曲がった途端、俺は声をかけられる。

「早く!」

 

「は、はいっ」

 

 俺は声をかけてきたその人に付いていき、追いかけてきた人々を何とか振り切ることができた。

「助かりました。俺はガイと言います。・・・貴方は?」

 

「僕は弧門一輝。助けを求める声を聞いてこの地球へとやってきたデュナミストだ」

 

「デュナミスト・・・ってことはネクサスさんと・・」

 

 デュナミストというのは確かウルトラマンネクサスさんと一体化している人達のことを差す言葉なはずだ。つまりこの人が今現在ネクサスさんと1つになっている人ってことか。

「だとするとここで奇械天使と戦ったウルトラマンは・・・」

 

「あぁ。僕がネクサスに変身して戦ったんだ。・・・何とか撃退したけれど奇械天使はウルトラマンを警戒してか、この地球の人達に3日以内にウルトラマンを差し出すように要求してきた。・・・そんな矢先に君が降りてきたんだ」

 

「・・・なるほど。だいたいの状況は理解しました。だとすると少し動きにくいですね」

 

 下手に変身するとこの星の人々に危害が及ぶ上、戦いを終えるとこの星の人々から狙われるってことか。

「この地球の防衛隊は一度共闘したこともあってか、僕らウルトラマンを攻撃しないことは明言してくれたようだけど・・・人々はそれに納得せず僕らを見かけたら捕まえるといった状況になってしまったのが今から3時間前だ」

 

「・・・すみません。俺がもう少し早く来れてたら少しは状況が変えられていたかもしれないのに」

 

「いや、来てくれただけでもありがたい。とりあえずここにいたら不味い。場所を変えよう・・・」

 

 このまま裏路地にいてはいずれ見つかってしまうと判断した俺と弧門さんは半壊してもぬけの殻となっている建物へと一時身を隠すことにした。

 

 

~~ジャグラー~

 

「ここだな・・」

 

 惑星メルでの傭兵仕事が一段落ついた俺は新たなミッションへと参加させられていた。この星・・・惑星ゴルコムでは『奇械天使軍団の鎮圧』というミッションが行われていたようで先に戦場へと向かった部隊との連絡が途絶えたので、俺が単身で部隊の生存者がいないかを確認しに来たというわけだ。雇われなど使い潰しにしていいと思って1人で向かわせたのかと思うと何ともブラックな話だ。

「来たのはいいが・・・これは生存者などいないだろう」

 

 惑星ゴルコムは科学力があまり発展していないかわりに魔術や魔法といったものに特化していて自然豊かな星とは聞いていたが・・・もはやそんな面影などない。辺り一面が焼野原・・・いいや、星自体が火の海と化していた。

「生存者がいたら部隊や住民を問わず救出しろ・・・だったがこれではな」

 

 こんなところに生存者などいない。そう判断した俺は引き返そうとすると機械が動く音が聞こえてきた。

『生命体発見。浄化スル』

 

 中型ベゼルブと同じぐらいのサイズか少し小さめといった大きさの白い機械が俺を見下ろすように現れる。

「奇械天使と聞いていたが・・・ただのロボット兵器にしか見えないな」

 

 情報によると中型サイズは端末であって本体じゃないらしく、本体である個体を倒さなければ端末は即座に再生し続けるらしいが・・・

「本体の個体情報ぐらい教えやがれよ・・無能共が」

 

 あいにく俺はその見分け方を知らされていなかった。おそらく先行部隊もその情報を教えられていなかったから全滅させられてしまったんだろうな。

『浄化スル』

 

 浄化というのはどう考えても俺を辺り一面にある肉塊のようにするということだろうな。

「やれるものなら・・・やってみろォ!!」

 

 闇の中から刀を引き抜いた俺は魔人態へと姿を変えると、目の前にいる奇械天使を真っ二つに切り裂いてやった。すると真っ二つにされた端末個体が再生するとともに追加の端末が10体こちらへとやってきた。

「話に聞いてた通りやっぱり本体ぶっ壊さないと意味がないんだな」

 

 端末個体は俺でも一太刀でぶっ壊せるぐらいだが・・・本体を壊さないかぎり無尽蔵とも言える復元力と数が問題だ。

「この10体の中に本体がいればいいんだが・・・それはなさそうだな」

 

 端末で攻めてくるようなのが出張ってくるとは思えない。だが離れ過ぎてはいないはずだ。

「・・・・」

 

 端末どもが放ってくるビームを避けつつ、俺は感覚を研ぎ澄ませる。ガイがオーブに選ばれてからは心に余裕を持てなくて剣にも迷いが出てしまっていたが・・・既に自分に『光』がないことを悟ってからその迷いが薄れた。

「蛇心剣!!」

 

 刀に紫のオーラを纏わせ、オーラで巨大な刃を作り上げた俺はそれを横に振るう。その一撃で数機の端末共を両断しつつ、透明になっていた本体と思わしき個体の翼をそぎ落してやった。

「むっ・・・本体は修復されないのか」

 

 どうやら本体と思われる奇械天使には復元能力がないらしくそぎ落した翼は再生していなかった。だが本体はまだ無事なせいで両断した端末たちは即座に修復されてしまっていた。

「本体は見つけた。後はあれを壊せば楽に・・・ぬぉっ?!」

 

 このまま本体を破壊して押しきろうと考えていると端末共が更に10機追加されて一斉にビームを放ってきた。

「ぐっ・・がぁ?!オォォォラァっ!!」

 

 ビームを避けきれなかった俺は右肩と左足を撃ち抜かれてしまいながらも本体に飛び乗って刀を突き刺す。すると本体が爆発し俺もその爆発に巻き込まれて地面へと落下した。

「がっ・・・へっ、天使と言っても所詮はガラクタだな」

 

 背中から地面に叩きつけられて魔人態から人の姿へと戻った俺は炎上している本体だったガラクタに視線を向けていると端末共は再び俺を狙ってビームを放ってきた。

「くっ・・・こいつ等本体がぶっ壊されてもまだ動くのかよ」

 

 おそらく本体から俺を狙うように指令を受けたのを本体が破壊されてもなお実行しようとしているからだと思うが・・・右肩を撃たれたせいで右腕をまともに動かせないうえに左足を撃たれたせいでこの数から逃げ切ることも不可能に近い。

「こんなところで・・・くたばってたまるか!!」

 

 俺は一斉に放たれたビームに対して紫のオーラを纏わせた刀を振り下ろすと・・・オーラを纏った刃とビームがぶつかり合い怪獣が爆発したかのような大爆発を巻き起こした。

 

 

 

~~ガイ~

 

 ウルトラマンネクサスさんこと弧門さんが奇械天使を一時撃退した地球に到着してから早くも3日が過ぎた。あれから奇械天使は現れてはいないようだが・・・

「やっぱり俺達を探している人々が増えてますね」

 

「あぁ・・」

 

 奇械天使たちは3日以内に俺達を差し出すように告げて、今日がその3日目。人々は躍起になって俺達を探していた。

「やはり人々を守るためにも奇械天使の前に俺達が出るべきなんじゃないですか?」

 

「・・・そうするべきなんだとは僕も思う。だけど奴らの最大の強みは圧倒的な数だ。4~50メートルぐらいある白いロボットを仮に本体としよう。その本体と思われる個体は10メートルほどの端末のようなロボットを1体につき10機から20機ほど操作してくる。1機1機はそれほど大したことはないけれど、本体の方も数がいるせいで圧倒的な物量なんだ」

 

 2人で戦っても数に押されてしまう可能性があるってことか。

「でも弧門さんはそれを一度は撃退したんですよね?」

 

「・・・この国の防衛隊の人達と協力できたからこその結果だ。僕一人では難しかったと思う。・・・だけどその時味方をしてくれた人たちも僕らウルトラマンを差し出せと要求に応じることになってしまった」

 

 共にこの星を守った人達が・・・戦った人達が自分を追う人になってしまったってことか。

「確かに今現在僕らは味方がいない状況だ。だけど諦めちゃいけない。光は絆だ。絆があるかぎり僕達の・・・人々から光が消えることはない」

 

「諦めないかぎり希望はあるってことですね」

 

「あぁ・・・。だからまず奇械天使をかく乱して数を分散しようと思う」

 

 分散か。確かに数が多いならその作戦が合理的だな。

「まず僕がウルトラマンに変身して街から離れながら注意を惹きつける。ガイはその間に奇械天使の大元・・・、大奇械天使ミカエルを倒してくれ」

 

 大奇械天使・・ミカエル。それが奴らの大元なのか。

「前回の襲撃と同じ・・・いや、僕らを警戒してるだろうからミカエルは千を超える大量の奇械天使たちを引き連れて地球へとやってくると思う。そして自身もその軍団を指揮するために姿を現す。大元さえ倒せればすべての奇械天使たちの活動が停止するはずだ」

 

「でもいくら注意を惹きつけるなんて言っても千を超える数を1人でだなんて・・・」

 

 いくらなんでも無謀過ぎる。

「君がミカエルの元へとたどり着くぐらいの時間は稼ぐ。まずミカエルの元まで行けたらヒカル君とショウ君と言ったかな?その2人を探すんだ。奇械天使はウルトラマンを自分達と同じ『光』だと判断していて、ウルトラマンにトドメを刺そうとしない。僕の時もここまでかと思った時に攻撃をしてこなかったことと僕らを仕留めるんじゃなくて捕まえようとしているところから、ヒカル君とショウ君は既に捕まっているのだと考えていいだろう」

 

 弧門さんもヒカルさんとショウさんが奇械天使によって掴まっているのではないかと思っていたか。

「俺はまだ直接会ったわけではないので分からないんですけど・・・そもそも奴らの目的は何なんですか?」

 

「僕も分かっているとは言えないけれど・・・奴らは地球人に対して『浄化する』と言っていた。何が目的かは分からないけれど・・・少なくとも奴らが行おうとしていることは地球人の抹殺と考えるのが自然だ」

 

 天使と名乗るロボット達が地球人の抹殺・・。浄化するって言ってるとなると・・・ただ地球を滅ぼしにきたってわけじゃないってことか。

「どっちみち地球人の命を奪おうってんなら、俺は光の戦士としてたとえ天使だろうと戦うだけだ」

 

「・・・僕も同じ想いだ。さて、話をしてる間に来たな」

 

 弧門さんが見上げている空を俺も見て見ると・・・白いロボット達が青空を埋め尽くしていた。奴らが奇械天使か。

「あの真ん中にいる蒼い天使、僕はあれがミカエルだと思っている」

 

 確かに真ん中には他とは違う蒼いボディに右手に剣、左手に盾を持っているという他とは違う印象を受けるロボットがいた。

「確かに・・・あれがミカエルの可能性が一番高そうですね」

 

「それじゃあいつは頼んだ!」

 

 そう言った弧門さんは懐から短剣状の変身アイテムであるエボルトラスターを取り出すと、鞘から本体を引き抜くことで弧門さんの体が光に包まれる。

「シュァ・・」

 

 光からは銀色に輝く光の巨人・・ウルトラマンネクサスさんが出てくると、ネクサスさんは任せたというように頷いて奇械天使達の軍勢に単身向かって飛んで行った。

「ネクサスさんが引きつけてくれているうちに・・・」

 

 今のうちにヒカルさんとショウさんを探そうと思った俺はギンガスパークとビクトリーランサーを取り出して2人の波動を探す。

「・・・おかしい。確かにこの地球にいるはずなのに」

 

 お2人の反応は確かに近い。この星にいることは確実だ。だが何かに阻まれているのかこれ以上の特定は不可能だった。

「デュァ・・ッ!」

 

 ネクサスさんは奇械天使の端末たちが放ってきたビームを避けつつも光の刃を飛ばして端末たちを切り裂く。しかし切り裂かれた端末は即座に復元されてしまった。

「・・・本体を破壊しないと端末は修復するんだったな」

 

「シュァっ!!」

 

 1機の本体に蹴り込みながらネクサスさんは赤い強化形態・・・ジュネッスへと変わると、そのまま本体を蹴り壊した。

「デュァ!!」

 

 その爆炎から出てきたネクサスさんは光線技のオーバーレイシュトロームで今撃破した本体とリンクしていた端末を撃破すると、1機の本体のもとにそれが従えている端末たちが集まる。そして集まった端末たちは形を変えて巨大なランチャーとなった。

『浄化スル』

 

 ランチャーを手にした本体はそれを地上へと向ける。

「あいつ、ネクサスさんは他に任せて地球の人達を優先する気か!」

 

 俺はすぐさまオーブカリバーを取り出して変身しようとするも、それよりも先に地上へと砲撃が放たれた。

「くっ・・間に合え!!」

 

 オーブへと変身した俺は砲撃から人々を守るために駆け出すよりも早く・・・ネクサスさんが動いていた。

「デュァァぁっ?!」

 

 上空で人々を庇うために砲撃を受けたネクサスさんは地上へと落下すると、地面に背中をつけた体勢でその姿を青く変化させる。確かデュナミストがなれるジュネッスは人によって1つずつでそれぞれ違うものなはずなのに・・・あの人は何で2種類に変化できてるんだ?

「・・・デュア!!」

 

 青いジュネッス・・・ジュネッスブルーとなっているネクサスさんは光の弓矢でランチャーごとその本体を撃ち抜き、それを撃破する。

「・・・ッ!」

 

 立ち上がったネクサスさんは俺に「任せた」とでも言うようにこちらを見ながら無言で頷くと再び空へと飛んで行った。・・・ネクサスさんは命がけで敵の注意を惹きつけてくれている。

「ネクサスさんの期待に応えるためにも、ミカエルを倒さないとな」

 

 ミカエル目掛けて飛び上がった俺は右手に光を集束させると、光の中から剣を引き抜く。戦士の頂で再度光を受けたことでウルトラマンの姿で使えるようになった巨大なオーブカリバーだ。

「オォォォォ・・・セイッ!!」

 

 新たな力・・・オーブカリバーを振るいミカエルを攻撃しようとするも、それはミカエルの持つ盾によって防がれてしまう。

「シュァ!!」

 

 右脚に光を集束させた俺はサマーソルトで楯を蹴り上げつつ、再びカリバーを振り下ろす。その一撃を受けたミカエルの胸部には大きな剣跡がついた。

「ジュッァ!!」

 

 俺はその部分目掛けてオリジウム光線を放つも、ミカエルは俺の光線を剣で切り裂く形で防ごうとする。

「ディァ!!」

 

 それに対して俺は光線を拡散させて範囲を広げ、剣を切り裂くだけでは防ぎきれない光線を浴びせるとそれには耐えられなかったミカエルは爆発し、青い部品が辺りに散らばった。

「よしッ!」

 

 地上に降りて変身を解いた弧門さんがガッツポーズをする。とりあえずミカエルは倒せた。結果的に順番は前後してしまったがヒカルさんとショウさんを探さないと・・・

「・・・ッ!」

 

 空中で活動を停止したままの奇械天使達に捕えられてるのではと見渡していると・・・先ほど破壊したミカエルの破片から人影らしきものが落ちていくのが見えた。

「シュァ!!」

 

 俺は急いでその人をキャッチすると・・・ビクトリーランサーが光に包まれてその人のもとへと飛んで行った。つまりこの人がウルトラマンビクトリーにライブしていたショウさんってことか。

「大丈夫ですかショウさん?」

 

「ま・・まだだ。気をつけろ・・」

 

 辛うじて意識があったショウさんは俺に注意を促したので後ろを振り返ってみると・・・ミカエルは倒したはずなのに再び奇械天使たちが動き出していた。

「なっ・・・ダぁっ?!」

 

 奇械天使達のビームが直撃した俺は地上へと墜落してしまう。・・・ショウさんを両手で包みながらバリアを貼っていたのでショウさんにはダメージはなかったが、大量のビームを一斉に受けて地面に叩きつけられた俺はオーブの変身が解かれてしまった。

「いったい・・・どうして・・」

 

 ミカエルは倒したはずなのに何でまだ奇械天使が動いているんだ?

「ミカエルは・・・倒したのも含めて3体になっている。俺とヒカルにある光の力をコアにして3体に増やされたんだ」

 

「だからすぐに奇械天使たちが再起動されたのか」

 

 ようやく奇械天使達がウルトラマンに変身する者達を捕えようとしていた理由が分かった。奴らは俺達を捕まえて軍団の中枢となるミカエルを量産しようとしているのか。ミカエルを量産できれば奴らの侵攻スピードは格段に強化される。大方の謎は解けてきたがもういくつか疑問が残る。奴らの目的や何処から来てるのかも気になるが・・・今気にしているのはそれじゃない。

「2体のミカエルのうち1体はヒカルさんだとして・・・残る1体のミカエルは誰が?」

 

 ミカエルのコアにされているのは光の力を持つ者だとすると・・・残る1体にもおそらく誰かが乗せられているはずだ。

「ガイも残る1体のことを気にしてると思うけれど・・・今はまずこの場を離れるぞ」

 

「そうですね」

 

 俺と弧門さんは既に手負いな上にショウさんはこれまで捕えられていたせいでかなり消耗させられていて戦える状態じゃない。それにこの辺りにこれ以上被害を与えるわけにもいかない。

「俺に掴まってください!」

 

 カリバーからの光で俺達3人を包み込むと・・・俺達はこの地球から一度飛び去った。

「ヒカル。済まない・・・」

 

 結局俺達はヒカルさんを救えずこの地球を守り切ることも出来ず・・・敗走する形になってしまった。

 




次回「トマト畑」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トマト畑

~~ジャグラー~

 

「・・・ここは・・」

 

 目を覚ますと見知らぬ天井が見えた。手足は動き痛みの感覚もある。どうやら死んであの世に逝ったというわけではないようだ。

「あっ!起きた!姉ちゃ~ん!流れ星の兄ちゃんが目を覚ました~!」

 

 流れ星って・・・俺のことか?そう考えていると部屋に茶髪で髪の長い女が入って来た。

「こらチヒロ、怪我人の前で騒いじゃ駄目でしょ。・・・ごめんなさい弟が五月蠅くて・・」

 

「いや・・構わん。お前が手当てをしてくれたのか?」

 

「驚いたわよ。洗濯物を干そうとしたらいきなり流れ星のように落ちてきたんだもん」

 

 落ちてきた・・・か。みたところここは戦っていた惑星ゴルコムではないようだが・・・。

「あっ、まだ名前を言ってなかったわね。私はモミジ。モミジ・キミエムよ。そっちが弟の・・・」

 

「僕はチヒロ・キミエム!兄ちゃんの名前は?」

 

「ジャグラスジャグラーだ。助けてくれたことは感謝する。ついでに聞きたいんだがここは・・・この星は何処だ?」

 

 名乗りを終えた俺はまずこの星のことを尋ねる。まずは自分の現在地を知らないと次の行動ができないからな。

「・・・この星には名前がないわ。昔は名前があったらしいけれど私達が捨てられてここにくる前にはとっくに名前なんてなくなってたわ」

 

「・・・なるほどな」

 

 捨てられたという言葉を聞いて大方察しがついた。ここは星自体がスラム街のようになってしまっていて、所謂『捨てられた星』なのだろう。ゴルコムが空に見えることからさほどあの星からは遠くないのだろうが・・・俺はあの爆発でここまで飛ばされてきたということか。

「ところでジャグラーさんは何処から来たの?何で流れ星みたいに落ちてきたの」

 

「何処からというと・・・あの星から飛んできたことになるな」

 

 俺はゴルコムを指さすと2人は納得したような反応をする。

「惑星ゴルコムね。確かあそこでもめ事が起きてるって聞いてたけど本当なの?」

 

「正確には起きていた・・だな。俺は連絡が取れなくなった先行部隊の安否確認のために単身であの星に向かった。そこで敵の襲撃を受けてここまでフッ飛ばされたってわけだ」

 

「ここまでって・・・え?何で生きてるの?」

 

 まぁそういう反応をするのは当然だな。俺自身ですらここまで吹き飛ばされて何で生きてるのか疑問に思っているほどなのだから。・・・いや、可能性があるとすれば命の樹の種を口にして体に変化が生じたことで魔人態になれるようになったことに加え、生命力が強まったと考えるのが妥当か。

「俺の体は生命力が強くなるように進化していた・・・ということだ」

 

 俺は一瞬だけ魔人態になってみせるも・・・姿を変えたところであまり驚かれはしなかった。

「あまり驚かないんだな」

 

「そりゃまぁ、姿を変えられる人ぐらい宇宙にゴロゴロいるからね」

 

「このスラムにも何人か変身できる人だっているし」

 

 確かに姿を変えられる宇宙人はザラにいて驚かれるのを期待したわけでもないが・・・ここまで反応が薄いと悔しいな。

「さて・・・俺はそろそろ行くとする。手当てをしてくれて助かった」

 

 2人に礼を告げた俺は立ち上がろうとするも・・・確かに生命力は強くはなっているが傷の治りが早まっているというわけではない俺はダメージのせいで身体をふらつかせてしまい、その場に膝をついてしまった。

「いくら生命力は強いって言ってもそうすぐそんな深い傷が治るはずないでしょ」

 

「無理しちゃ駄目だって。ほら!」

 

 俺は2人の肩を借りて再びベッドへと座らされる。

「お前ら・・・俺なんかを置いて大丈夫なのか?」

 

「何?私達が食べるものとかの心配をしてくれてるの?」

 

「・・・あぁ、俺1人ぶんお前らの食事が減らされるっては考えないのか?」

 

「今年は豊作だから1人ぐらい増えても大丈夫よ」

 

 窓の外を眺めてみると確かに畑がそれなりに広い範囲で耕されていた。

「随分と広い畑だな。お前達2人でやってるのか?」

 

「流石に2人だけでこの広さは無理よ。お父さんとお母さん、それとお爺ちゃんとお婆ちゃんの6人でやってるんだよ。この辺には私達家族しかいないけれどあの山を越えた先にも2家族住んでいる人達がいるんだよ」

 

 確かに2人だけでこの畑をどうにかするのは無理だとは思ったが・・・家族がちゃんといるんだな。

「うちはお爺ちゃんたちの代からスラムで暮らしていたからね。その頃はまだこの星にも名前があったらしいけど・・」

 

 そういえば生まれる前からこの星に名前がないとは言っていたが、随分と昔から名がないのだな。

「何故名前がなくなった?」

 

「詳しくは分からないけど・・・お爺ちゃんは天使がどうのこうのって言っていたね」

 

「・・・天使か」

 

 俺はそれでこの星に名前が無くなった理由に察しがついた。この星は奇械天使に一度滅ぼされた星なんだ。・・・そしてごく僅かに生き残った者達が再び田畑を切り拓いて命を繋いでいたということか。

「おっ、兄ちゃん目を覚ましたのか?」

 

 部屋の中に弟の方に似ている顔だちの筋肉質な男が入ってくる。おそらくこの2人の父親だろう。その後ろには2人の母親だと思われる姉の方に似た女が立っていた。

「助けてくれて感謝する」

 

「いいっていいって。困ったときはお互いさま。人間助け合って生きていかなきゃな」

 

「もうすぐお昼だけど、一緒に食べない?」

 

 ここまで家族揃ってお人よしなのは少ない生き残りだからこそ助け合って生きてきたからだろうな。

「助けられた身の俺が言うのもなんだが・・・お前達は随分とお人よしなんだな。俺は初対面だぞ?もう少し警戒したらどうなんだ?」

 

「確かにそう思うのはごもっともだ。だが助けるまではその人が良い人か悪い人なのかは分からないだろ?どっちか分からないならとりあえず助ければいいのさ」

 

「フッ・・・あんた等底抜けのお人よしだな」

 

 俺がクスリと笑うと家族4人が笑い返してくる。すると扉の向こうからトマトスープのような香りがしてきた。

「さて、飯ができたようだし昼にするか。オレはアックスってんだが兄ちゃん名前は?」

 

「ジャグラスジャグラーだ」

 

「ジャグラーだな。覚えたぜ。・・・立てるか?」

 

 俺はアックスの肩を借りて立ち上がると、食堂・・・いやこの場合は居間というべき場所に残る家族である爺さんと婆さんが既に座っていた。また自己紹介か・・・。

「助けてくれて感謝する。俺は・・・」

 

「ジャグラーだね。そっちでの話は聞こえてたよ」

 

 なんだ婆さん達にも聞こえていたのか。こちらとしても何度も自己紹介をさせられる手間が省けて助かる。

「まぁ、とりあえず座りな」

 

 爺さんにそう言われ、俺は一番近くの椅子に座る。すると2人の母親がトマトスープを出してきた。

「もしかしてこのトマトもそこの畑で育てたものなのか?」

 

「えぇ、今回はトマトが特に豊作でね。せっかくだからトマトスープにしたのよ。もしかしてトマトはお嫌い?」

 

「いや、そんなことはない。ただ随分な量を作っていたので少し気になっただけだ。これだけの量のトマトということは、この畑一面がトマト畑なのか?」

 

「えぇそうよ。ほら、冷めないうちに召し上がれ」

 

「・・・ならお言葉に甘えていただかせてもらおう」

 

 俺はそのスープをまずは一口頂く。ほう・・トマトの酸味の中に良く煮込まれたキャベツからの甘味が対立せずに共存している。

「どう?お口に合ったかしら」

 

「あぁ・・。名を失ったという星で作られたとは思えないほどにうまい。というより下手なシェフの作るスープよりもうまいぞ。他の星で店を開けるほどにな」

 

「あらあら、お世辞でも嬉しいわ」

 

 お世辞のつもりはないのだがな。

「・・・っ!」

 

 腹の減っていた俺は家族と会話もせずにスープを平らげる。

「おかわりはいかがかしら?」

 

「いただかせてもらう」

 

 再びよそってもらったスープをまたもすぐに食べ終えた俺はようやく我に返る。俺としたことがガイじゃないのに食い意地を張っちまうなんてな。

「はっはっはっ!随分と俺の嫁の飯を美味しそうに食べてくれたじゃないか!」

 

 食い意地を張ったところをこの家族に見せてしまうと・・・アックスが大声で笑う。

「さて食べ終わったところで・・・兄ちゃんはいったい何者なんだ?」

 

 笑うのをやめて真面目な表情になったアックスは俺にそう訪ねてくる。

「何者か・・・と聞かれると何者にもなれなかったものと答えるしかないな」

 

 光の戦士になれなかった俺は剣士としても失格で傭兵にもなりきれず・・・結局俺は何にもなれていない。

「ねぇお姉ちゃん。こういう感じにふらついてる人のことを何ていうんだっけ?フリーター?」

 

「フリーターとは少し違うと思うわね。強いていうなら・・・風来坊かしら」

 

 風来坊・・か。まぁ今の俺にはその辺が妥当か。

 

 

 

 

「ジャグラー。少しいいかい?」

 

 夕食を終えてから数時間が経過して家族のほとんどが寝静まった頃、爺さんが俺が借りている部屋へとやってきた。

「あぁ、構わないが・・・どうかしたのか爺さん?」

 

「ちょっと尋ねたいことがあってな。お前さん、傭兵か何かをやってたのか?」

 

 細目の爺さんは片目だけを開いて俺にそう訪ねてくる。

「確かにそうではあったが・・・よく気づいたな」

 

「血のニオイがしたからな。・・・だが殺す事に快楽を覚えてるってわけでもなければ、ただ人を殺すだけの機械に成り下がってるわけでもない。・・・いや、自分が戦う理由を探すために戦ってる感じか」

 

 ニオイだけでそこまで分かるなんてこの爺さん何者だよ?

「お前さんは何で自分を探しているんだ?」

 

「光の戦士に選ばれず・・・自分を見失った。だから自分が何者になるべきかを見出すために傭兵となった。それだけだ。だがまぁ・・・結局は傭兵にもなりきれなかったがな」

 

 何にもなりきれない半端もの。目指すべき先すらも見えない俺は・・・何処にもいけないし、何処にも居場所などない。

「ところで爺さんは何で血のニオイだけでそこまで分かったんだ?」

 

「なぁに・・・俺も昔はそういう仕事をしてきただけだ。そして心が折れたやつを何十人も見てきた。お前さんもそんな感じだったからな」

 

 この爺さんも戦場を経験したことのあるものだってことか。

「心が折れてる・・か。あながち間違ってはいないな。俺のようなものを見てきたのなら教えてくれ。俺はこれからどうすればいい?」

 

 俺のようなものを見てきたというのならその答えを知っているはずだ。

「今のままでいいんじゃねぇか?」

 

「何を言っている?今のままではいけないから聞いているんだろ?」

 

「言い方が少し悪かったな。・・・お前さんは自分がどうなるべきかを手探りで探しているだろう?結局は自分は自分という存在以上にななれないのだから、自分だけの答えを自分で見つけるしかないんだ。そうじゃなきゃ心はずっと折れたままだぞ」

 

 なるほど。たとえ手探りだとしても自分で見つけなければその答えに意味はないということか。

「お前さんがどうなるかはお前さんが決めろ。傭兵に戻るのも剣士として返り咲くも、再び光の戦士を目指すべく奮闘するのも・・・全てはお前さん次第だ。・・・さてと長話をしちまって悪かったな。まだ傷が癒えてないんだからしっかり休めよ」

 

 そう言った爺さんは部屋を後にする。

「すべては俺次第か」

 

 俺は爺さんのその言葉を考えながら惑星ゴルコムが見える夜空を見上げた。

 

 

 

~~ガイ~

 

「ハァっ!」

 

「ほう・・中々やるな」

 

 奇械天使達から敗走して惑星メルへと一時避難することになってから3日が経過した。このままでは奴らに勝てないと思った俺はウルトラマンの姿で振るうオーブカリバーを使いこなせるようになるためにも剣を使うウルトラマンに変身するショウさんと剣の訓練をしていた。

「どうやら剣の素人という訳ではないようだな」

 

 そりゃまぁ・・・ジャグラーからそれなりに鍛えて貰っていましたからね。

「1つアドバイスをしておいてやろう。お前がオーブとなっている時に扱うあの剣、あれは大剣というべき大ぶりのものだ。こんな木の棒を振り回すのとは仕様が違うぞ」

 

 確かにショウさんの言う通りだ。この木の棒を使った訓練ではオーブカリバーを扱うための練習にはなりきらない。

「ではどうすれば・・・」

 

「あの剣は特徴的な形をしているからな。しばらくは実戦で慣らしていくしか・・・丁度いい。実戦相手が来たようだな」

 

 ショウさんが気配に気づき空を見上げたので俺も空を見上げてみると、俺達を追ってきた奇械天使達が空を埋め尽くそうとしていた。

「ミカエルは・・・やっぱりいるな」

 

 奴らの司令塔であるミカエルがいることに気がつくと、懐にしまっていたギンガスパークが輝き出した。

「ギンガスパークが反応してる。あのミカエルの中にきっとヒカルさんが・・・」

 

「なるほど。・・・なら今回は3人で行くぞ」

『ウルトライブ・ウルトラマンビクトリー!』

 

「あぁ!」

 

 ビクトリーランサーから出現させた人形・・・スパークドールズをショウさんがビクトリーランサーにリードをする。すると惑星メーテルがある方角から光が飛んできた。するとショウさんは光に包まれるとともに飛んできた光と一つになった。ショウさんが再びビクトリーさんと1つになったんだ。

「僕達も行こう!」

 

それに続く形で弧門さんもエボルトラスターを鞘から引きぬく。

「えぇ!3人なら負けません!!」

 

 今度は絶対に負けない。俺は胸にその誓いを抱きながらオーブカリバーを空へと掲げてオーブへと変身を遂げると、弧門さんはネクサスさんへと変身し、ショウさんもビクトリーさんへとライブした。

「シュゥゥワッチ!」

 

「シュァ!」

 

「ゼェァ!」

 

 俺達は一斉に空へと飛び上がるとビクトリーさんは真っ先にミカエルの元へと向かう。

「ヒカルは俺が助ける。2人は他の奇械天使達を頼む」

 

「任されました!お気をつけて!」

 

 ビクトリーさんに他の奇械天使達を任された俺とネクサスさんは同時に光の刃を飛ばして牽制攻撃を仕掛ける。前回の戦いで本体を倒さないかぎり即座に復元してくるってのは分かってるんだ。ならそれなりの戦い方ってもんがある。

「オォォォォ・・・セイッ!」

 

 光の刃を飛ばしてそれを端末たちへと突き刺す。前回の戦いではただ斬ったり光線で壊したりしてすぐに復元されていたが、突き刺した状態だとその部分が復元はできないままなんじゃないかと思ったが・・・やっぱりだ。刺されたままの状態だと刃が邪魔をして復元がされていない。

「ダァッ!」

 

 端末たちが復元しきれない状態で動きを止めていた隙にネクサスさんはジュネッスブルーへと変化させ光の弓矢で複数の本体を一気に撃ち抜くと俺達の元へとやってきた奇械天使たちの半数以上がその機能を停止した。

「ヒカルを返してもらうぞ」

 

 ミカエルのもとまでたどり着いたビクトリーさんはその姿を青く変化させる。ビクトリーさんが自身の潜在能力を解放した姿、ウルトラマンビクトリーナイトだ。

「ゼィァ!!」

 

 ビクトリーナイトさんは聖なる力を宿す剣・・ナイトティンバーでミカエルへと斬りかかるとミカエルは盾でそれを防いだ。

「そう来ると思っていたぞ」

 

 そういったビクトリーナイトさんは地面から飛んできた剣を手に取る。もう1つの聖剣・・・シェパードンセイバー。守護獣シェパードンというショウさんの相棒だったという怪獣のスパークドールズをリードすることで呼び出すビクトリーさん最強の武器だ。

「これで決める!!!」

 

 シェパードンセイバーを振るうと・・それに対応しきれなかったミカエルは剣を剣と盾を弾き飛ばされて丸腰になった。

「フンッ!」

 

 ナイトティンバーでその頭部を貫いたビクトリーナイトさんはミカエルの胸部装甲を力づくではぎ取ってコアの部分を掴み取ってその中に入っていたヒカルさんを救い出した。

「ナイトビクトリウムシュート!!」

 

 ヒカルさんさえ助け出せれば後は用はないと言わんばかりにビクトリーナイトさんはすぐさまナイトティンバーの刃から発せられる光線でミカエルを粉砕すると、俺達を追ってきた奇械天使たちが全てその機能を停止した。

 

 

 

 

「悪い。助けられちまったな」

 

 奇械天使達との戦いを終えてから数時間後、無事に目を覚ましたヒカルさんはショウさんの肩を借りながらも俺と弧門さんのところへとやってきた。

「アンタがガイ、ウルトラマンオーブだな。話はショウから聞いたぜ。」

 

「もう聞いているんですね。・・・お預かりしてきたものです」

 

 俺はヒカルさんにギンガスパークを手渡す。するとまたも惑星メーテルの方角から光が飛んできてギンガスパークの中にその光が入った。

「ギンガも無事だったんだな。安心したぜ。・・・さてと俺は捕まっても途中までは意識があったんだが・・・最後のミカエルに乗ってるのが誰か分かったぜ」

 

「本当ですか?!」

 

「いやまぁ、人としての名前の方は分かんねぇけどさ。ウルトラマンとしての名前は奴らが言っていた。・・・ティガ。ウルトラマンティガってな」

 

 ウルトラマンティガさん。超古代から蘇った光の戦士だと聞いたことがある。まぁ直接はあったこともなければM78星雲のウルトラマンさん方と比べるとあまり資料が多いほうじゃないんであまり俺も知らないんだよな。

「俺達もティガにあったことは2回ぐらいあるんだけど・・・2回とも変身を解いた姿を見てないんだよな」

 

 ヒカルさんとショウさんは2回ほどティガさんと共闘したことはあるらしいが、そのどちらとも人としての姿を見ていないらしい。

「エタルガーが巻き起こした事件の時と大地とエックスの世界に助っ人に行って戦いを終えた後に合流した時だけだったな」

 

 大地さんとエックスさん?聞いたことのない名前だな。その人達もウルトラマンなのか?

「まぁとにかく・・・敵の大元はまだ分かっていないけれど僕らが次にするべきことは決まったね」

 

「そうですね」

 

 脱線しかけた話を修正した弧門さんに俺は頷く。・・・俺達が次にするべきこと。それは残り1体となったミカエルを打ち倒してその中にいるティガさんとなる者を助け出すことだ。

 




次回「小さな正義」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

小さな正義

本編が終了したので次回から10日に1度の投稿に変更します。


~~ジャグラー~

 

 ここに来てから7日目の朝を迎えた。朝日を浴びて目を覚ました俺は窓から畑の方を眺めてみると・・・トマト畑より向こうにある何も植えられていない畑で婆さんが腰重たそうに農作業をしているのが見えた。

「助けられた恩もあるしな・・・」

 

 恩を返すためにも農作業を手伝うことを決意した俺は外へと出て婆さんのもとへと向かう。

「おいおい、無理するなよ婆さん。代わってやるよ」

 

「おやジャグラー、怪我はもう大丈夫なのかい?」

 

「完治したという訳じゃないが・・・1週間も横になってたんだ。これ以上寝たままでいちまうと体がなまっちまう。手当ての礼ってのもあるがなまった体を動かすためにも少しぐらい手伝わせてくれ」

 

「そうかい。それじゃ手を貸してもらおうかねぇ」

 

 婆さんから鍬を受け取った俺は早速それを畑の土へと振り下ろす。しかし刀を振り下ろす時とはまるで違う筋肉を使うため、思っていたほど力が入らなく思ってたような動きが出来なかった。

「・・・っ」

 

「思ってた動きができないって顔をしてるね。鍬を持つのは初めてかい?」

 

「あぁ・・。今まで農業ってのはまるでやったことがなくてな。・・・良ければ鍬の使い方を教えてくれないだろうか?」

 

 今まで刀剣での訓練ばかりで鍬などは持ったことがなかった俺はそのことを見抜いた婆さんに正直にそのことを言った。何事にもその道のプロというものはいる。俺は農業においては素人どころの話ではない初心者だ。ならば素直に腕の立つ者の教えを乞うべきだろう。

「おや以外だねぇ。アンタみたいなのは素直に聞くようなタイプじゃないと思っとったんだが」

 

「買いかぶりすぎだ」

 

 少し前までの俺だったら確かに教えを請おうだなんて思えなかっただろうが・・・自分がそうするべきかすら分からなくなっていたこともあって頭がクリアになっていた俺はわりと素直に教えを請おうと思えていた。

 

 

 

「娘達がスラムのような場所って言ってたろ?だからたまにこんなふうなチンピラ共がやってくることがあるんだよ」

 

 なるほどな。確かに統治されていない星で助け合い生き抜いていかんとするのもいれば、略奪によって生き抜こうとするのがいるのは当然といえば当然だな。

「さてと・・今回は少し数が多めだが畑を守るためにも追っ払うか」

 

 そう言ったアックスはチンピラ共のもとへと進もうとしていたので俺はその肩を掴んだ。

「まぁ待てよ。助けられた礼だ。・・・あのチンピラの相手は俺がする」

 

 アックスの前に出た俺はそこら辺に落ちていた木の棒を拾い上げてチンピラどもの前へと歩いていく。

「なんだてめぇ?木の棒でどうするつもりだぁ?」

 

「病み上がりだがお前達なんぞこれで充分だ。・・・かかってこい」

 

「舐めやがってぇぇぇ!!」

 

「やってやんぞコラァァッ!」

 

 チンピラ共が一斉に俺に駆け出してくると・・・俺はまず正面からやってきたチンピラに足払いをして躓かせると後ろから殴り掛かろうとしていたチンピラに裏拳を決めた。

「いってぇ~!」

 

「こ、こいつ強いぞ」

 

 そりゃまぁお前らみたいなチンピラと長年訓練を積んできた俺とでは強さのレベルが違うのは当然だ。

「ビビんな!一斉にかかれば奴だって対応できないはずだ!」

 

 おそらくはリーダーだと思われる金髪で細身の男がそう他の奴らに指示をすると、一斉に十数人が俺に向かってくる。

「指示で動くのは構わんが・・・連携が取れてないぞ」

 

 そう教えてやった俺は身体を低くしてチンピラ共の攻撃を全て避けると木の棒を横に振るって全員を転倒させた。

「な、なんて強さだ・・・」

 

「命までは奪わないでおいてやる。そら、とっとと帰れ」

 

 俺がチンピラ共にそう言った途端、地面に大きな影が映るのが見えた。空に何かいると判断した俺は空を見あげてみると・・・空には鳥のような怪獣が俺達を狙うように周回しているのが見えた。

「あれは・・ラルゲユウスだったか?」

 

 何かの図鑑で見たことがある。あの鳥は古代怪鳥ラルゲユウス。空腹によって一気に巨大化する個体もいるという面倒な怪鳥だ。

「あれもこの星に流れ着いたやつだろうが・・・」

 

 中型ベゼルブよりは大き目だが大型というほどまでのサイズではない。あのサイズなら俺でも倒せなくはないな。

「まぁ・・・細かいことはどうでもいいか」

 

 今は畑に被害が出ちまう前に奴をぶっ倒さないとな。

「こ、こんな場所にまで怪獣が現れるなんて・・」

 

 モミジはここに怪獣が現れていたことに驚きながらも弟を守ろうと抱きしめるのを目にした俺は闇の中から蛇心剣を取り出す。

「大丈夫だモミジ。アレは俺がとっととぶっ倒してやる」

 

 そうモミジに言ってやった俺はラルゲユウスへと飛び上がるとその翼に一太刀を浴びせる。この落下コースなら畑に被害はほとんどないはずだ。

「いや・・・ほとんどじゃ駄目だな」

 

 絶対に被害があってはならない。そう考えた俺は右足だけを魔人態へと変化させてラルゲユウスを蹴り飛ばしてその落下コースをずらした。

「す・・・すげぇ・・」

 

 チンピラ共は俺の戦いぶりに驚くかのように口を閉じるのを忘れて見上げているのが視界に映る。ただ一太刀入れて蹴り飛ばしただけでここまで驚かれちまうと流石に気恥ずかしいな。

「ところでモミジ・・・お前鶏肉って食べたことはあるか?」

 

「え?まぁ家で育ててる鶏ぐらいなら・・・ここ2年は育ててないんで食べてはいないけど」

 

「なら喜べ。今日は鶏肉を食べられるぞ」

 

 地上へ着地しつつモミジにそう言ってやった俺は再び飛び上がるとラルゲユウスを切り刻んでやった。

「まぁ・・・こんなもんか」

 

 着地して刀を納めると同時に・・・周囲から歓声が響いた。

「アンタすっげぇな!あんなデカい鳥を空中で豚の丸焼きぐらいのサイズにまで切り刻めるなんて!」

 

「マジパネェっすわ!」

 

 先ほどまでチンピラとしてけしかけてきた奴らが手の平を裏返して俺に賞賛を浴びせてくる。すると倒れたままでいた金髪のリーダー格の男が立ち上がって俺へと近づいてきた。

「俺らの負けだ。まさか俺達と戦ってたときはまるで本気じゃなかったとはな」

 

 まぁ、お前達どころかラルゲユウスにもさほど本気にはなっていないがな。

「俺はこいつ等のヘッドをしてるエレインだ。アンタの名前は?」

 

「ジャグラー、ジャグラスジャグラーだ」

 

 名前を告げてやった俺はエレインに背を向けると辺りに散らばっているラルゲユウスだった肉を見渡す。流石にこの量の肉をあの家の家族だけで食いきるのは無理だな。食べきるより先に腐っちまう。

「おいエレイン。お前ら腹減ってたから畑を襲おうとしていたんだろ?」

 

「あぁ、だけどもうここは襲わない。アンタほどの相手に挑むほど俺達は無鉄砲な集まりじゃないしな」

 

「ならこの肉を半分ぐらい持って行け。なんせこの量の肉だ。7人で食べきるなんて無理だしな」

 

 俺は確認するように後ろに立つモミジの方を見ると、モミジは「それでいいよ」と言うように頷いた。

「恩に着る。・・・お前ら!ジャグラーの兄貴が肉の半分は持って行ってもいいと言ってくれた!兄貴に感謝して貰ってくぞ!!」

 

「「「ありがとうございます兄貴!!」」」

 

 エレインは俺に頭を下げると仲間達に肉を貰っていいということを伝えた。・・・というか何故俺がこいつ等に「兄貴」呼ばわりされなければならないんだ。

「俺を兄貴なんて呼ぶな。俺はお前らのボスなんぞになる気はないぞ」

 

「ボスじゃなくていい。アンタは『兄』と慕うに値する強さの男だ」

 

 それでお前らのボスと勘違いされたら俺が面倒なんだが。

「じゃあな兄貴。また来るぜ」

 

 おそらくこの「また来る」というのはまたここの畑を狙ってくるってわけじゃないんだろうな。

「来るのは構わないがここの畑は荒らすなよ」

 

 俺は立ち去るエレイン達にそう告げると先ほどまでモミジに守られていたチヒロが俺の元へと駆け寄って来た。

「すっごい強いんだな兄ちゃん!剣の動きがまるで分からなかったよ!」

 

 まぁ本気ではないとはいえ素人が見切れるような剣術を振るうつもりはないからな。

「兄ちゃん!俺に兄ちゃんの剣を教えてくれよ!」

 

「・・・・っ!」

 

 チヒロの発した言葉で俺は守り切れなかったあいつのことを思い出す。・・・拒絶するだけではなく俺が真面目に教えていればあいつは死なずに済んだかもしれない。何度もした後悔をまたもしてしまう。

「・・・蛇心剣だ」

 

「えっ?」

 

「俺の剣術の流派・・その名前だ。チヒロ、何でお前は俺の蛇心剣を教わりたいんだ?」

 

 あくまで俺の見立てだが・・・お前の爺さんは元戦士で全長期は俺よりも強いのは確実だ。いくら年で衰えているとはいえ人に指導してもらうのに適した相手だと思うが。

「今日・・・初めて怪獣を見たんだ。少なくとも俺が物心ついたときからこの辺りに怪獣は出たことがなかったからさ。でも他の場所では怪獣が出たなんて話をちらほら聞いててどうせ大したことないだろうって思ってた。だけど実際に目の前に出たら足がすくんで動けなかった」

 

「普通怪獣をみたらそんなもんだ。あまり気にするな」

 

「姉ちゃんに守られてるだけじゃ嫌なんだ。守られる自分じゃなくて誰かを守れる自分になりたい」

 

 誰かを守れる自分・・・か。

「チヒロ、お前は今何歳だ?」

 

「9歳だけど・・・」

 

 やっぱりまだそのぐらいか。

「持ってみろ」

 

「うん!・・・お、おもっ・・」

 

 俺は刃が鞘に収められたままの蛇心剣をチヒロに渡してみると、チヒロはその重さにバランスを崩しかけてしまう。

「それが刀の重さだ。・・・それを持てないようじゃお前に蛇心流を教えることは出来ないな」

 

「そんなぁ・・」

 

 チヒロから蛇心剣を返してもらった俺は婆さんの手伝いの続きをしようと背を向ける。

「お前が刀を片手でも持てるようになったら・・・ちゃんと教えてやるからへこむな」

 

「えっ!?本当に!!本当に教えてくれるの!」

 

「あぁ、片手で持てるぐらいに大きくなったらな」

 

 二度と同じ失敗は繰り返さない。そう思っていた俺は教えないで中途半端に見様見真似で技を使われるのではなく、しっかりと技を教えてやることを決意した。

「・・・ごめんねジャグラー。弟の無茶を聞いてくれて」

 

「別にこのぐらいは無茶なんかじゃない。というかお前は気にしてないのか?自分の弟が剣の道に進もうとしてるんだぞ?」

 

「心配してないって言えば嘘だけどさ。貴方が弟の師匠になってくれるっていうならきっと間違った道には進まないと思うんだ」

 

「買いかぶりすぎだ」

 

 俺は既に間違えた道に進んでしまったってのに・・・導いてくれるなんて期待されても困るんだがな。

「ところでさ、さっき弟が大きくなったらって剣を教えるって言っていたよね?」

 

「あぁ。言ったな」

 

 これはそれまでずっといる気なのかと聞かれるのだろうな。確かに部屋を一部屋借りたままずっと居候をするだなんてごく潰しもいいところだな。

「・・・ところでしばらくはこの星にいるつもりなんだが住めそうな空き家などはないか?」

 

「空き家?」

 

 この星を出ると俺は再び傭兵へと戻りまた罪もない命を奪わなければならない不毛な戦いに駆り出されるだろう。・・・そんな意味を持たない争いに俺はもうこの刀を振るいたくはない。だからこそしばらくはこの星で過ごすためにも屋根のある場所に住まわせてもらうとしよう。

「私達に遠慮して家を出ていった方がいいって思っているんでしょ?大丈夫だよ、遠慮なんかしなくて」

 

「そうだぞジャグラー!俺達はお前さんを助けたことを後悔してないどころか、こっちが感謝してるぐらいなんだ。お前さんのおかげでこの畑は守られたうえに今夜は久しぶりの肉だからな!」

 

 モミジとアックスは俺に感謝していると伝えてこの家にいていいと言ってくれた。

「父さんと姉ちゃんの言う通りだよ兄ちゃん!確かに蛇心流を教われるのはまだ先だけどさ、それまでに教われることはたくさんあるんだから、もっと教えてよ!」

 

「「「・・・・」」」

 

 チヒロにそう告げられた俺は奥にいる爺さんたちの方に確認するよう視線を向けると・・・3人は何も言わないがモミジ達と同じ意見だというように笑って頷いた。

「・・・ならその好意に今しばらく甘えさせてもらおう」

 

「うん。これからもよろしくね!ジャグラー!」

 

 

 

~~ガイ~

 

 ウルトラマンギンガことヒカルさんが無事ミカエルから解放された翌日、俺達はティガさんがエネルギー原として捕えられている最後のミカエルへと挑むために惑星メーテルへと向かって飛んでいた。

「まさかまたメーテルで戦いになっちまうなんてな・・」

 

 ギンガさんは再び惑星メーテルを戦いの舞台にしてしまうことに納得いかない反応をする。するとようやく見えてきたメーテルの一部が襲撃を受けてしまっているようで街が燃えてしまっているのが見えた。

「絶対に守るぞヒカル!」

 

「あぁ!!悪い2人とも!俺らは先に行く!」

 

 お2人はスピードを上げてすぐさまメーテルの地上へと飛んでいく。ギンガさんとビクトリーさんは俺達よりあそこの星に思い入れがあるんだ。一度絆を結んだ星を守りたいという想いが強くなるのは当然だ。

「僕達も急ごう」

 

「はい!」

 

 俺とネクサスさんもお2人に追いつこうと飛行速度を上げて大気圏を抜けると・・・既にもうギンガさんとビクトリーさんは奇械天使達との戦闘を始めていた。

「ギンガサンダーボルト!!」

 

 ギンガさんは雷の渦を端末たちへとぶつけると、それを受けた奇械天使たちの動きが不規則になった。天使と名乗っても機械仕掛けの天使。電気による攻撃はその活動を不安定にするほどに通用するようだな。

『エレキング!テイル!』

 

 右腕に怪獣の尻尾・・・ビクトリーさんの能力であるウルトランスでエレキングという怪獣の力をお借りすることで右腕にその力を纏うというものらしい。

「ゼィァ!!」

 

 ビクトリーさんはその電撃を纏わせたエレキングテイルを端末たちへと振るうと電撃の鞭を受けた端末たちが停止して本体の守りが手薄になった。

「本体は俺が倒します!シュァ!」

 

 本体へと飛び上がった俺はオーブカリバーを出現させると光の斬撃を飛ばして1体の本体を両断する。

「オォォォォ・・セイッ!!」

 

 そしてすぐさま後ろを振り返って背後に迫ってきた本体にカリバーを振り下ろして粉砕した。

「ショウ!」

 

「あぁ!力を合わせるぞ!」

 

 並び立ったギンガさんとビクトリーさんはそれぞれギンガスパークランスとシェパードンセイバーを出現させるとその切っ先に光を集める。

「「ギンガビクトリーアルティメイタム!!」」

 

 お2人の武器から放たれた光線は電撃によって活動不能になっていた端末ごと本体を数機撃墜した。すると大半の奇械天使達が敗れたことに反応した様子のミカエルはその姿を現してこちらにビームを放ってきた。

「シュァ・・!」

 

 ジュネッスとなったネクサスさんはバリアでそのビームを受け止めると光の刃をミカエルへと飛ばすも、その光の刃はあっさりと剣で切り裂かれてしまった。

「ギンガクロスシュート!!」

 

「ビクトリウムシュート!!」

 

 ギンガさんとビクトリーさんが同時に光線を放つとミカエルの両腕を破壊する。

「シュァ!!」

 

 光を纏った俺はミカエルへと突進し、そのままを貫く。

「・・・ッ」

 

 その手にはもちろんティガさんへと変身する人が取られられているコアを握りしめていた。

 

 

 

 

 

「ティガさん、大丈夫ですか?」

 

 ここに来ていたすべての機械天使の活動停止を確認した俺たちは変身を解いてコアを開いてみると・・・そこには12~3歳ぐらいの少年が閉じ込められていた。

「この少年がティガさんなのか?」

 

 まだ幼い少年がウルトラマンティガさんであるという事実に驚いていると、その少年が目を覚ました。

「あ、あれ?ここは?」

 

「大丈夫か?」

 

「は、はい。お兄さん達は?」

 

「俺はガイ。ウルトラマンオーブだ」

 

「俺は礼堂ヒカル。んで隣のがショウで少し向こうにいる人が弧門一輝さんだ」

 

 俺の後に続いてヒカルさんがショウさんと弧門さんのことを紹介してくれると、差し伸べた手を掴んでコアから出てきた少年は俺達に頭を下げてきた。

「僕は玉城ユウト。遺跡で拾ったスパークレンス・・だっけ?それでティガになれるようになって何度かエックスと一緒に戦ったことがあるんだけど・・・確かギンガとビクトリーは前にもあったことがあるよね?」

 

「あったことがある・・・?それにエックスと何度か一緒にって。もしかしてお前サイゴーグって怪獣が暴れた時にいたティガってお前だったのか?」

 

「うん!色々あってまたティガになれるようになったんだけど・・・助けを呼ぶ声に反応してティガに変身して宇宙に飛んでいたらいきなりこの世界に飛ばされちゃって・・・あのロボット達に負けて捕まっちゃってたんだ」

 

 この少年・・・ユウトはエックスさんというウルトラマンがいる次元世界から来たのか。

「はぁ・・はぁ・・無事だったんですね。ヒカルさん、ショウさん!」

 

 ユウトがエックスさんの世界から来たことに驚いていると、騒ぎを聞きつけたキョウがヒカルさんとショウさんの元に駆けつけてきた。

「俺達が死ぬわけねぇだろ」

 

「心配をかけてしまったようだな。すまん」

 

「いえ生きててくれて安心しました。・・・ですがこの星からは早く出ていってください」

 

 キョウは少し悔しそうに俺達にそう告げてきた。もしやと思った俺は周囲を見渡してみると・・・周囲にいた大人たちが俺達に敵意ある目を向けていた。

「あの目・・地球の人達と同じ・・・」

 

「先ほどの襲撃の時、奇械天使たちは僕達を襲えばウルトラマンは必ず現れる。という理由で攻撃をしてきたんです。ヒカルさんやショウさんに構ってもらった子供たちはいいのですが・・・ウルトラマンに良い印象を覚えていなかった方々はこのように・・」

 

 俺達のせいで戦いに巻き込まれたと考えて・・・俺達を敵視しているってわけか。

「ガイ、悔しいかもしれないが俺達のせいで再びこの星が被害にあってしまったのは事実だ」

 

「・・・でも・・」

 

 ショウさんは自分達のせいだと受け入れてこの場を去ろうとすると誰かが投げつけてきた石がその頭部にぶつかって血を流した。

「ショウさん?!」

 

「・・・構うな」

 

 そう言ったショウさんは傷口から垂れている血を気にせずに振り返るとこの場を去ろうと歩き出す。

「悪いなキョウ。・・・たぶん会えるのはこれで最後だ」

 

 背中に石をぶつけられながらもヒカルさんはキョウにそう告げる。キョウが俺達ウルトラマンに関わっていると批判させないため、もう会わないことにしたからだろう。

「・・・すみません。何度も助けてもらったのに・・・こんな形で・・」

 

 キョウはこんな形でお別れをすることとなることに涙を流す。本当は声をかけてやりたいが・・・キョウが周囲から敵視されないようにするためにも俺達は何も声をかけずに振り返ってこの場を去っていく。

「ガイ。僕らがどれだけみんなのために戦っても理解されないことは・・・僕達を怪獣たちと同じだと敵視する人も少なからずいる。だけど僕達はそれでも・・・」

 

「えぇ・・。分かっています」

 

 理解されなくても俺達は希望という名の光と・・・小さな正義を守るために戦う。俺達がウルトラマンであるかぎり。

 

 




次回「宇宙の浄化」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

宇宙の浄化

~~ガイ~

 

「中々情報が見つからないですね」

 

 惑星メーテルでの出来事から3日後、俺達は様々な星々を巡って機械天使の情報を・・・正確には機械天使に指示を告げる大元の存在の情報を集めようとしていたんだが・・・中々大元に行きつく情報を集めることはできていなかった。

「大元の名前が分からないんじゃ事件解決まではいけないんだよなぁ・・」

 

「・・・大奇械天使ミカエル。名前からそれっぽいのは大天使ミカエルだよな。・・・確か天使で一番階級が高いのって・・・」

 

 ヒカルさんはこのままじゃ事件解決をすることができないと困った表情をしていると弧門さんは天使の階級について考えていた。

「熾天使セラフィムというのが最も位の高い天使だったはず」

 

「確かにミカエルって名前を考えるとそれっぽい気がするよな」

 

 セラフィムというのが最有力候補だと考えながらも次の星へと移動しようとすると・・・いきなり空から赤い雷撃が飛んできた。

「「「「「ッ!!」」」」」

 

 俺達は一斉にウルトラマンへと変身してその雷撃から身を守る。すると空からはゆっくりとミカエルの4~5倍はある大きさの真っ白な球体が降りてきた。

『私はセラフィム。熾械天使セラフィム』

 

熾械天使セラフィム・・・それが機械天使を差し向けた大元ってわけか。

『光の戦士達よ。同じ光の者同士、私達が争う必要はありません。鎮まるのです』

 

 同じ光の者同士鎮まれだと?

「光の者同士っていうなら何故様々な星々に住む人々を苦しめているんだ!」

 

『苦しめてなどいません。この宇宙を浄化しているのです』

 

 宇宙の浄化?

『宇宙には多くの命があります。しかしその思考はまるでバラバラで争い事が絶えません。ならば争いの続く『文明』ある星の者を浄化して宇宙の意思を1つにするべきなのです』

 

 こいつ・・・サイキと同じで宇宙から意思を無くす形で1つにしようってやつか。いや、浄化って言葉に浸かっているがこいつの言う『浄化』はその星の文明・・・人々を滅ぼすって意味だ。

『全ての文明は一度全て浄化し、宇宙は私が統治する』

 

「黙って聞いてりゃふざけたことを抜かしやがって!」

 

 ギンガさんは右腕から白く輝く光の剣を展開するとセラフィムへと飛び上がってその刃を振るう。しかしその光の剣はセラフィムが展開したバリアによって防がれてしまった。

「みんな違ってみんないいんだよ!なんでそれが分からないんだ!!」

 

『自由意志など不要』

 

「この分からず屋が!!ギンガファイヤーセイバー!!」

 光の剣を紅く変化させ炎の剣へと変質させたギンガさんはバリアを力づくで壊そうとするも、そのバリアは砕けるどころか傷一つついていなかった。

「ビクトリウムエスぺシャリー!!」

 

 ビクトリーさんは光り輝く無数のエネルギー弾を各部のクリスタルから放ってギンガさんを援護するも・・セラフィムはバリアとともに少し後ろへと下がるぐらいでそのバリが砕けることはなかった。

『ウルトラマン・・光の戦士は我らと同じ導き手』

 

「同じってんなら俺らを捕まえてエネルギー原にしてくれたことについてはどういうつもりだ?」

 

『自由意思など不要。それは光の者も同じ』

 

 光すらも自由はいらないってことか。

「お前に・・・誰もみんなの自由を奪う権利なんてない!」

 

『権利など不要。我々にあるべき信念はただ一つ。正義のみ』

 

 飛び上がってオーブカリバーを振るった俺はセラフィムに自由を奪うなと告げるも・・・本人すら権利を放棄していたようだった。

「そんなもの、正義じゃない!」

 

 ティガさんは右脚に光を集束させてバリアの反対側から蹴り込むと、それをバリアで防げなかったセラフィムはバリアの位置がズレた。

「デュァ!!」

 

 そのチャンスを狙っていたネクサスさんはジュネッスへと変わると即座に光線を放ちセラフィムへと浴びせた。

「やったか?!」

 

「いいや・・少し掠ったぐらいだ」

 

 ギンガさんはネクサスさんの攻撃で倒せたかと期待するも・・・爆炎から少ししかダメージを受けていないセラフィムが出てきた。

「一番上の天使ってだけあってやっぱり他の天使達よりタフだね」

 

 ティガさんのいう通りセラフィムの強度は間違いなくミカエル以上だ。だがネクサスさんの光線で僅かにながらダメージはあるのだから俺達全員の光線でなら倒せなくはない相手のはずだ。

「1人では無理だとしても5人でなら何とかなりそうだ。一気に勝負をかけるぞ!」

 

 ビクトリーさんがそう告げると共に俺とギンガさんは着地する。

「「「「「ッ!!!」」」」」

 

 タイミングを合わせて一斉に光線を放つ。俺達はこの時・・・自分達の勝利を疑わなかった。

 

 

 

~~ジャグラー~

 

 あのチンピラ共・・・エレイン達の件から3日後、俺は今日も畑の手伝いをしていた。しかし今更ながら・・・今時全てを手作業で行う農業がある星があるとは思ってなかったな。

「トマトを美味しく育てるコツは厳しい環境においてあげる事。ギリギリまで水を与えずにおくと自然と旨味を蓄えるものなのよ」

 

「そうなのか」

 

 俺にトマトの収穫の仕方を教えてくれている婆さんはトマトの育て方をおしえてくれた。長年の知恵というべきか、流石長年農家を続けているだけはあるな。そう言ったことは何1つ知らなかった。

「水を与え過ぎてしまうとトマトが裂けてしまうからねぇ」

 

 トマト1つを育てるのにも相当手間がかかっているということか。

「トマトも人間も同じだ。辛く厳しい時期を乗り越えてこそより逞しくなる」

 

 爺さんの言いたいことが・・・何となく分かった。今はつらいかもしれないがそれを乗り越えれば強くなれると爺さんなりに俺に渇を入れているんだ。

「・・・まぁ、それを乗り越えられるかはお前さん次第だがな」

 

「そうだな・・。これはあっちに持っていけばいいのか?」

 

「あぁ、持って行ってくれ」

 

 俺は収穫し終えたトマトが入ったかごを持って倉庫へと歩いていくと、倉庫の前に数人の人だかりが見えた。

「はぁ・・・何しに来たんだお前ら?」

 

 その人だかりに見覚えがあった俺はそいつ等へと話しかける。先日のチンピラ共・・・エレイン達だ。

「お疲れさんッス兄貴!」

 

「「「お疲れ様です!!」」」

 

 エレイン達は俺のことを『兄貴』と呼びながら頭を下げてくる。理由を知らない奴がこの光景を視れば・・・俺はこいつ等のボスだと勘違いされてしまうんだろうな。

「お疲れのところ悪いんだが・・・手を貸してくれ」

 

「何かあったのか?」

 

 雰囲気的にこいつ等じゃ対処しきれない何かがあったようだな。手を貸すかどうかは別としてまずは話だけは聞いてやるか。

「実は俺らが今住んでいるエリアから2つ山を越えた海に海老みたいな体系をした尻尾が二つある怪獣が現れたんだ」

 

 海老みたいな見た目で尻尾が2つとなると・・・古代怪獣ツインテールか。

「その怪獣はゆっくりとだけど俺達のエリアに近づいてきていて・・・とてもじゃないが俺らじゃ手に負えない。だけどこの前のデカい鳥を剣だけで倒したアンタならと思って・・・アンタを頼ることにしたんだ」

 

 確かに生身で怪獣を相手にするとなればそれなりの訓練と実践を詰んでいなければいけないがこいつ等はそのどちらもないからな。俺に頼るというのは正しい判断だろう。

「他の仲間はどうした?お前らで全員じゃなかったはずだろう?」

 

 まさか避難させずにそこで待たせているだなんてことはないだろうな?

「俺らじゃ敵わないってのは分かってたから、ひとまずこの辺りまで逃げとけってのは伝えてるから大丈夫だとは思う。だが放っておいたら怪獣はこっちまできちまいそうなんだ。だから兄貴、何とかしてくれ」

 

 俺としてもこの辺りまで来られるのは遠慮してもらいたいからな。手を貸してやることにしよう。

「断片的な情報だがおそらく現れたのは古代怪獣ツインテールだろう。だとすると少し惜しいな」

 

「惜しい?」

 

「あぁ、幼体のツインテールは海老のような味がして食べることが可能なんだが・・・成体となると食えないことはないんだが・・・幼体の時ほどではなくて、せいぜい尻尾の部分となるんだ」

 

 以前試しに成体を食してみたことはあったが尻尾の部分以外は食えたもんじゃなかったな。

「兄貴、色んな怪獣を食ったことがあるんすか?」

 

「そんな訳ないだろ。食えるって情報があるものだけだ」

 

 ガイの馬鹿が食ってみたいってのに付き合わされて色んなのにチャレンジさせられたというのはあるが・・・俺はそこまで酷い雑食ではない。

「俺はまだこの星に来て日が浅く地理に疎い。お前らのアジトまで案内を頼む」

 

「ウッス!」

 

 トマトが入ったかごを倉庫へとしまった俺は一旦トマト畑にいる爺さんのところへと戻る。

「悪い。・・・ちょっと出てくる」

 

「・・・あぁ。見つかるといいな。お前の答え」

 

 爺さんに後押しされた俺はさっそくエレイン達とともにツインテールの移動予測地であるアジトへと向かおうとするとモミジとすれ違った。

「あれ?どっか行くのジャグラー?」

 

「あぁ、ちょっと海老を狩ってくる」

 

「え?海老を買ってくるの?この辺で海老を売ってるところってあったっけ?・・・まぁいいや。いってらっしゃい!まだ病み上がりなんだから気を付けてね!」

 

 ツインテールを狩ってくることをモミジに伝えたが何故だろうか?言葉のイントネーションに違和感を感じたんだが。

「あぁ。行ってくる」

 

 

 

~~モミジ~

 

「あぁ。行ってくる」

 

ジャグラーはこの間の人達と一緒に海老を買いに出かけてしまった。

「ジャグラーったらそんなに海老が食べたかったのかなぁ?」

 

 大方この間の人達が海老を売ってる場所を見つけて、その場所をジャグラーに伝えたらさっそく買いに出かけたって感じだとは思うけれど・・。まさかジャグラーの好物が海老だなんて思わなかったよ。

「この辺は山に囲まれてる場所で海からは遠いからね~。海老どころか海産物なんてそう簡単に手に入らないもん」

 

 魚を食べるとしたらせいぜい川魚ぐらいで、海のものを食べる機会はほとんどないからね。

「あれ姉ちゃん。兄ちゃんは何処にいるの?」

 

「ジャグラーならついさっきこの間の人達に案内されて海老を買いに行ったよ。よっぽど海老が食べたかったんだろうね」

 

「へぇ兄ちゃんって海老が好きなんだ」

 

 さぁて、今晩は海老を使った料理になると思うし・・・せっかくだからお母さんから海老の料理の仕方を教えてもらおうかな。

 

 

 

~~ガイ~

 

「くっ・・・逃がしたか」

 

結論的に言うと俺達はセラフィムに勝つことはできなかった。俺達が同時光線を放とうとした瞬間、セラフィムはロボット怪獣達を呼び出して俺達はそれらの対応に追われてしまった。俺達がキングジョーブラックやインペライザー達との戦いに追われている間にテレポートされて逃がしてしまった。

「だが敵の大元がどんな相手かは分かった。これは大きな収穫だ」

 

 奇械天使の親玉であるセラフィムの目的・・・それはこの宇宙の文明を浄化と称して滅ぼし、自身がその宇宙の『正義』になることだった。

「1体1体はさほど強力じゃないっぽいから別にどうにでもなるんだが・・・やっぱり問題は数だよな」

 

 本体さえ倒せれば端末たちも機能を停止するのだが・・・それを踏まえても数が多い。本体達を指揮していたミカエルは既にコアにされていたヒカルさん達を助け出す過程で3体全てを破壊したのでもういないのだが・・・セラフィムが前線に立つようになってしまったことで指揮能力は回復されるだろう。いや、それどころかキングジョーブラックやインペライザーといった奇械天使ではないロボット達を操作しているところをみるにより強力な指揮統率力があるとみていいだろう。

「・・・今にして思えばゼロさんはセラフィムに警戒されて足止めを受けることになったんだろうな」

 

 俺やユウトは光を受け取ったことで光の戦士へと覚醒し、ヒカルさん達3人はウルトラマンさん方と融合しているのでその身に光を宿す形となっている。だがゼロさんやM78星雲に住まうウルトラマンさん方は言わば『光そのもの』だ。なのでその姿で捕えてしまうとコアとして使うことが不可能だからだろう。最も人に擬態していたり応急措置として現地の人と一体化した場合はどうなるか分からないが・・。

「えっ?ゼロもこの宇宙に来ているのか?」

 

「えぇ、とはいえゼロさんはおそらくセラフィムが直接差し向けたと思われる大量のロボット軍団と交戦することになってしまっていて・・・おそらくこちらに合流することは難しいと思います」

 

 あの時はゼロさんが後押ししてくれたのもあるが大量のロボット達を「問題ない」と言っていたので任せてきたが・・・もし目的が本当に足止めだけだとしたらロボット怪獣たちの大半はそちらに回されているんだろうな。そうじゃなきゃこちらにまるでロボット怪獣がこないというのはおかしい。

「ゼロはウルティメイトブレスというので光のエネルギーは無尽蔵にあるらしいが、体力には限界があるはずだ」

 

「だとするとやはりゼロさんと合流するべきですね」

 

「待つんだガイ」

 

 俺はさっそくゼロさんが単身で戦うこととなった惑星ボレイドへと向かおうとオーブカリバーを掲げようとすると弧門さんに止められた。

「ゼロが足止めを受けているってことはそこにセラフィムはいないってことだ。だったらゼロのためにもロボット怪獣達を操作しているセラフィムを先に倒すべきだ」

 

「・・・弧門の言う通りだガイ。ゼロを信じているのなら俺達はゼロの元へと向かわないべきだ」

 

「安心しろって。ゼロはすっげぇ強いからよ」

 

 弧門さんに続いてショウさんとヒカルさんがゼロさんを信じてるなら行かないべきだと告げてきた。ヒカルさんとショウさんの言動から察するにゼロさんはお2人の信頼に足る以上の戦士なようだ。

「・・・分かりました。ロボット怪獣はゼロさんにこのまま任せて俺達はセラフィムを追いましょう。ですけどどうやってセラフィムを追えば・・・」

 

「奴は自分の事を『光』だと言っていた。ならば奴の場所を特定する術はある」

 

 そう言ったショウさんはビクトリーランサーを取り出した。

「俺とヒカルの持つビクトリーランサーとギンガスパークにはスパークドールズを探知する力がある。そしてガイの話を聞く限りでは俺とヒカルを・・・光を宿す者を探知するということもできたのだろう?なら・・・」

 

「なるほどな。ギンガスパークとビクトリーランサーならセラフィムの光を辿れるかもしれないってことか」

 

 ショウさんの話を理解したヒカルさんはギンガスパークを取り出すと、セラフィムの『光』を辿ろうと意識を集中する。

「行けそうですか?」

 

「分かんねぇな。こういうのはやったことがないからな」

 

「はい・・・」

 

 俺はお2人に集中させるために静かにするとギンガスパークとビクトリーランサーから光の線が放たれ、それが空を示した。きっとこの光の線の先にセラフィムがいるはずだ。

「行こうぜみんな。この宇宙の未来を守るためにな」

 

 ヒカルさんの言葉とともに俺達は『光の戦士』へと変身して光の線の先へと飛び立った。

 

 

 

~~ジャグラー~

 

「さっすがジャグラーの兄貴だぜ!あんなデカい海老をあんなにあっさりとぶっ倒しちまうなんてよぉ!」

 

 エレイン達のアジトにたどり着きそうになっていたツインテールを寸前のところで撃破した俺は戦利品としてツインテールの尻尾を持って帰りながら家路を辿っていた。エレインの下っ端連中はまるで自分のところのボスを褒め称えている。

「やめろ騒ぐな。あの程度の相手、騒がれるほどでもない」

 

「あの程度じゃ相手にならないってことかよ!さっすが兄貴だぜ!」

 

 確かにあの程度なら問題なく倒せるといった意味合いで言ったのは間違いではないのだが・・・逆に焚き付けてしまったな。

「しかしお前らは良いのか?別に尻尾の半分を分けてやってもいいんだぞ?

 

 俺はエレインに尻尾の半分を分けてやると話すも、エレインは首を横に振った。

「いやいや、尻尾以外のところを分けてもらっただけでも十分だって」

 

「だが尻尾以外のところはマズくて食えたものじゃないんだぞ?」

 

「俺らは農業や釣りなんかせず奪ったり盗んだりで生き延びてきたゴミみたいな連中だったからな。マズいものを食べてでも生き残ろうとしてきた俺らにとって『不味い』ってのは食べない理由にはなんねぇさ。流石に毒があるってんなら食わないけどよ」

 

 つまりこいつ等はあれか、このスラムと化した名もなき星でまともに働くこともままならず略奪行為でしか生きられなかった孤児たちの集まりというわけか。

「安心しろ。確かに不味いが毒があるわけじゃない。・・・ところで1つ言っておくことがある」

 

「あぁ、言いたいことは分かってるぜ兄貴。もう略奪なんかやめろって言いたいんだろ?」

 

「・・・あぁ。その通りだ」

 

「俺らはさ兄貴と出会って少し変われた気がするんだ。なんていうかよぉ・・・今まで奪うことしかできてなかった俺らは全員親を知らないってのもあって人の優しさってもんを一切感じたことがなかったんだ。だけど兄貴に出会って・・・あの家の連中に出会って食い物だけじゃなくもっと別の何かを・・優しさってのを教えられて思ったんだ。こういうのも悪くねぇなってよ」

 

 俺はまだ何も変わりきれてないってのに・・・こいつ等は俺と出会っただけで変わって来たということか。

「俺はまだ変われていないというのにな・・」

 

「何か言ったか兄貴?」

 

「・・・いいや。それよりお前達はこれからどうするつもりだ?略奪行為を止めるというのなら今後どうやって生きていくつもりなんだ?」

 

「そのことなんだが・・・最近この星にもそこそこ怪獣が現れるようになってきちまったからな。自警団的なのを立ち上げようと思うんだ」

 

 確かによほどのことがない限りこのような短期間で怪獣が連続して現れるというのはおかしい。しかもこれまでの反応から察するに少なくともモミジぐらいの世代では怪獣という存在すらもこの星に現れてなかったと思われる。

「そうか。無理はするなよ」

 

 俺はエレイン達にそう言い残して家路を急ぐ。

「えっ?兄貴は仲間になってくれないのかよ?!」

 

 むしろ何故仲間になるという前提で考えているんだ。

「自警団をするのはお前らだろ。それとも何だ?戦うのは俺だけか?」

 

「そういうわけじゃないけどよ・・・」

 

「だったら強くなれ。仲間として手伝いはしないがそれで死なれるというのも後味が悪いからな。お前達が鍛えるというのなら手を貸してやらんこともない」

 

 知り合った相手がみすみす死なれるというのは・・・もう見たくないからな。だが俺が常に戦うというのではこいつ等は決意以外は成長しないだろう。それでは強くなることなどできない。ならば俺は極力手を貸さず、よほどの相手でないかぎりは戦わないべきだな。

「そうか!ありがとな兄貴!」

 

「・・・あぁ」

 

 これぐらいの約束なら今の俺でもしていいだろう。そう自分に言い聞かせながらも俺はモミジ達が待つ家へと到着する。

「この香りは・・・」

 

 普段なら野菜スープの香りが漂ってくるはずだというのに・・・今日はいつもとは少し違う香りがあった。

「お帰りジャグラー!海老は買ってきた?」

 

「あぁ。狩ってきたぞ」

 

 俺はそう言いながら狩って来たツインテールの尻尾を見せてやると何故かモミジは「あれ?」とでも言うかのように首を傾げた。

「あれ?海老は?」

 

「こいつだ。ツインテールを倒してきた戦利品だ」

 

「・・・もしかしてだけどさジャグラーの言っていた海老っていうのはそのツインテールってやつ?」

 

「そうだが」

 

 どうやらモミジは俺の「狩ってくる」という言葉を「買ってくる」と勘違いしていたようで何だかガッカリしたような反応をしていた。

「・・・すまない。どうやら勘違いさせてしまったようだな」

 

「気にしないで。勝手に勘違いしたのは私なんだし。それよりさ、それを持ち帰ってきたってことはそれも・・・」

 

「あぁ、これも食べて問題ない怪獣だ。海老の味がするぞ」

 

「だから海老って言ってたのね!よかったぁ、今日ね!お母さんから海老の料理の仕方を教わってそれ用のソースも作ってたのよ!無駄にならなくて本当に良かったわ!」

 

 なるほど。この香りはそのソースの香りだったのか。

「ならばさっそく調理してもらうとするか」

 

 成体ということもあり味には少し不安はあったのだが・・・モミジの作ったソースは茹で上げたツインテールの尻尾に合っていて問題なく食すことができた。

 

 

 俺はこんな平和な世界が続けばいいと思うと同時に、自分はいつまでこのままでいるのかという不安を感じていた。

 




次回「変わらなくても」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

変わらなくても

~~ジャグラー~

 

「今日はこれぐらいにしておくか」

 

「「「ありがとうございました!」」」

 

 エレイン達が自警団を作ると宣言してから一月近くが経過した。俺はこの一月ほどエレイン達に稽古をつけてやっていて、今日もその稽古を追えてモミジ達の待つ家へと帰る準備をしていると稽古に浸かっていた道具を片付けているエレイン達の会話が聞こえてきた。

「聞いてくださいよエレインさん。ボベルが昨日向こうの山に山菜を取りに行ったらしいんですけどデカいナメクジみたいなのが出たらしいんすよ」

 

「デカいナメクジ?ボベルの奴あの図体でナメクジにビビったのか?」

 

「俺も最初はせいぜい指ぐらいの長さ程度のナメクジだと思って話を聞いていたんですけど・・・そのナメクジ、怪獣ってほどじゃないですけど人2人分ぐらいはデカかったらしいんですよ」

 

 人の2倍は大きさのあるナメクジだと?

「その話、もう少し詳しく教えろ」

 

「兄貴っ!う、うすっ。・・・俺の知り合いのボベルってのが向こうの山に住んでいるんすけど、その山から動物が減ってるような気がするってボベルが山を探索したらしいんですよ。そうしたら人の倍ぐらいあるデカいナメクジが鹿を丸飲みにするのを見たらしくて」

 

「鹿を丸飲みにするほどのナメクジか」

 

 怪獣というほどの大きさではないが、鹿を丸飲みにしてしまう凶暴性はいつ人に危害が及んでしまうか分からないな。早急に手を打っておくべきだろう。

「エレイン、まだ『自警団』ではないお前達は動くな。そのナメクジは俺だけで対処する」

 

「水臭いことを言うなよ兄貴。確かに兄貴と比べりゃまだ弱いが戦えなくはないぜ」

 

 過信は自身を殺すことになるのでエレイン達にはまだ参戦してほしくはないのだが、巨大なナメクジがもし複数いたとするとを考えると俺だけで対処しきれない可能性もある。

「分かった。・・・エレイン達も来い」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

 

 

 

「さて・・・行くか」

 

 巨大ナメクジが出るという山に到着してすぐ、エレイン達には1人では行動させずに最低5~6人で行動するように伝えたのちにまず俺が先に山奥へと確かめに歩みを進めていると少し奥に人影が見えた。

「あれはまさか・・・」

 

 見知った横顔だと思った俺は急いでその人物へと近づいていくと・・・・背中に背負う籠に大量の薪を詰め込んでいたモミジがいた。

「あっ!ジャグラー!」

 

「・・・何故お前がここにいる?」

 

「えっ?そろそろ寒くなっていたから薪を集めにきたんだけど・・・ジャグラーはどうしてここに?」

 

 確かに冷えてきたが・・・寄りにもよって巨大ナメクジが目撃されているこのタイミングでここに拾いに来ているとはな。

「ここに怪物が出たらしくてな。・・・っ!!」

 

 いきなり飛んできた触手からモミジを庇った俺はそれが伸びている先へと視線を向ける。そこには確かに話に聞いていた通り大きいナメクジのような怪物がいた。

「スペースビーストか・・」

 

「スペースビースト?何それ?」

 

「恐怖や恐れなどの負の感情を好物とする宇宙の獣だ。危ないから下がってろ」

 

 モミジを俺の後ろに下げた俺は闇の中から蛇心剣を引き抜くと全身に『闇』を纏う。

「フンっ!!」

 

 魔人態へと姿を変えた俺は蛇心剣を振り下ろしてスペースビーストを真っ二つにする。

「大丈夫か?」

 

「う、うん。ありがと」

 

 しかしこんなところにまで何故スペースビーストが現れた?この宇宙にスペースビーストが現れるなんて報告は聞いていないぞ。

「兄貴!大丈夫か!?」

 

「俺は何ともない。お前らは大丈夫か?」

 

「何人かは怪我をしてるけど、兄貴に鍛えられたおかげで前より丈夫になったからな!死んじまったのはいないし、命に関わるような怪我はしてねぇぜ!」

 

「そうか・・」

 

 今にして思えばこれまで現れなかった巨大怪獣や今回は小さめの個体だったがスペースビーストが現れるなどとこの星に変化が起きている。それも俺がこの星に来てからだ。

「・・・しかしいったい何故?」

 

 命の樹の力を持つ俺に引き寄せられた。・・・というわけではなさそうだ。もしそうだとしたら奴らは真っ先に俺を狙ってくるはずだ。

「俺に・・・この星に引き寄せられてきたのではないとすると・・・他の星から逃げてきたという可能性もあるか」

 

 引き寄せられた考えを逆転させ、逃げてこの星にたどり着いた可能性を考える。この星ではなく他の星で何かがあった可能性をだ。

「奇械天使・・」

 

立て続けにこの辺りの星に異変が起きているとすれば・・・他の星々の生態系を滅ぼさんとしているのはおそらく奇械天使だろう。その過程で『恐怖』という感情に引き寄せられる形でスペースビーストがこの宇宙にも表れるようになってしまった。・・そう考えれば色々なことが繋がる。

「俺が変われてない間に・・・世界は変わっていくということか」

 

 

 

 

 

 その夜、俺は変わっていく世界に対して変わる事のできない自分に悩み・・・倉庫の前で雲がかかり星すら見えない夜空を見上げていた。

「どうしたのジャグラー?最近少し寒くなってきたんだからここにいたら冷えるよ?」

 

 俺に気づいたモミジはここにいては冷えると言って俺に声をかけてきた。

「この程度で体調を崩してしまうほどヤワじゃないことぐらい知ってるだろ?」

 

「まぁ・・・そうだけどさ・・。ところでジャグラーは何を悩んでいるの?」

 

 どうやら悩んでいるのが顔に出ていたようだな。・・いや、それでもこいつに隠し事はできなさそうだ。

「世界はどんどん変わっていく。これまでこの星にはいなかったはずの怪獣が現れるようになっちまったどころじゃなく、本来ならこの宇宙にいないはずのスペースビーストまで現れるようになっちまった。・・・いや、怪獣という突然の出来事でなくてもめくるめく時の中で世界はその季節を・・・天候を変化させていく。常に世界は変化し続けているというのに俺はここに来て何も変われていない・・」

 

 俺は変わっていく世界に対して変われない自分が嫌なことをモミジへと話す。

「ジャグラーはどうして変わろうとしているの?」

 

「俺は光の戦士となるために己を磨き上げた。だが俺は光の戦士には選ばれず・・・あげくある星を守るために、その星の者達の『希望』を斬った。その結果争いは収まりはしたが、その星の者達から敵として扱われた。俺の正義は間違いだったということだ。・・・俺はその後も失敗に失敗を繰り返し、戦士にも傭兵にもなれず・・・『光』からどんどんと遠のいた。・・・何にもなれないまま・・・ただ光から遠のき闇へと堕ちていく。俺はそんな自分が嫌だったんだ」

 

「なるほどね。・・・光の戦士ってのが何なのかはわからないけど、今の自分が嫌ってことなんだね」

 

今まで話してなかった俺の心情をモミジへと話すと・・・モミジからは予想もしなかった答えが返って来た。

「別に変わらなくてもいいんじゃないかな?」

 

「それはどういうことだ?」

 

「何が本当に正しくて何が間違ってるだなんて・・・やってる本人には分かりっこないでしょ?だったら正義とか悪だとか、光とか闇だなんてどっちでもいいじゃん」

 

 どっちでもいい・・・か。どちらかにならないといけない。そう考えていた俺にとってその答えは盲点というべきものであり、同時に革新的だった。

「ジャグラーは戦いたいから戦っていたんじゃなく、戦わないといけないから戦ってきたんでしょ?だけどそのしがらみから解放されちゃった。長い間戦いを続けていたから何をすればいいのか分からなくなっていたから傭兵になって・・・あんな怪我をしてここまで来ちゃった。これがここに来た経緯だったよね?」

 

「あぁ、その通りだ」

 

 モミジの言う通り・・俺は『光の戦士』になるために訓練に明け暮れて長きに渡って剣を振るい続けた。だからこそ俺は本当の意味で『俺の戦う理由』を見失っていた。

「わざわざまた戦いの毎日に戻らなくてもさ・・・いいんじゃない?ここにいてもいいんだよ?ジャグラーが望むなら・・ずっと・・」

 

 少し顔を紅くしながらもそう言ったモミジに俺は何かを言わなければと思い言い返そうとすると、チヒロがこちらへとやってきた。

「兄ちゃん!姉ちゃん!夕飯ができたよ!」

 

「う、うん!今行く!」

 

 モミジはチヒロを横切ってスタスタと先に家の中へと戻っていく。

「あれ?僕なにか邪魔しちゃったかな?」

 

「・・・さぁな」

 

 俺はモミジの言っていた言葉の意味を薄々は察しながらも・・・それを受け入れるかどうか悩みつつ家へと戻った。

 

 

 

~~ガイ~

 

「・・・探したぞセラフィム」

 

 俺達はギンガスパークとビクトリーランスから発せられる光の線を辿って名もない無人の星へとたどり着くと、そこにはセラフィムとともに大量の奇械天使たちがいた。

『個を捨てて共に歩む決意が決まったのですね』

 

「そんなはずないだろ」

 

「セラフィム。お前を倒しに来た」

 

 セラフィムによる支配からこの宇宙を守るために・・・俺達はそれぞれの宇宙からここまで来たんだ。

『光の者が光を倒すと言うのですか?』

 

「確かにお前は『光』に属するものだろうな。だがお前が行おうとしているのは間違った正義だ。暴走する正義を野放しにするわけにはいかない」

 

『ならば貴方達の正義を私に示してください』

 

 そう告げたセラフィムは奇械天使たちとともに大量のビームを放ってくる。

「ティガァァァァ!!」

 

「絆・・・ネクサスッ!」

 

『ウルトライブ・ウルトラマンギンガ!』

「ギンガァァァァァ!」

 

『ウルトライブ・ウルトラマンビクトリー!』

「ビクトリィィィィ!!」

 

「オォォォォォブ!!」

 

 俺達はそれぞれウルトラマンへと変身してビームを防ぎきると、その爆炎から出つつも光の刃を奇械天使たちへと飛ばした。

「シュァ!!」

 

「ゼィァ!!」

 

 復元しようとする端末たちの間を突き抜けて俺達はセラフィムのもとへと近づいていく。

「行くぞショウ!」

 

「俺達の絆、見せてやる!」

 

 ギンガさんとビクトリーさんはまるで共鳴するかのように輝きを増す。

「ギンガァァァァァ!」

 

「ビクトリィィィィ!」

 

「「ギンガビクトリー!!」」

 

 ギンガさんとビクトリーさん。お2人の光が重なり合うとその光の中からそれぞれの特徴を持つウルトラマンが現れる。あれがお2人が1つに融合したウルトラマン・・・ウルトラマンギンガビクトリーさんか。

「「シュァ!!」」

 

 体当たりをしてきた奇械天使を回し蹴りで蹴り飛ばしたギンガビクトリーさんは光を纏いながら奇械天使たちへと突撃すると、本体と端末の数を一撃で大きく減らした。

「「ウルトラマンゼロの力よ!」」

 

「「ワイドゼロショット!!」」

 

 ウルトラ10勇士全ての技が使えるギンガビクトリーさんはゼロさんの光線を放って更に奇械天使の数を減らす。

「ヒカルさん!ショウさん!ここは俺達に任せてセラフィムをお願いします!」

 

 ギンガビクトリーさんの力ならきっとセラフィムを倒すことが出来る。そう考えた俺はギンガビクトリーさんをセラフィムの元へと行かせることを考えた。

「分かった。なるべくすぐに終わらせて来る」

 

セラフィムの元へと向かって飛んだギンガビクトリーさんが飛び上がると、それを阻むように金色の龍の形をしたロボット・・・宇宙龍ナースが飛びかかって来た。

「シュァ!」

 

 そうはさせまいと紫色をした素早い姿・・・スカイタイプへと変わったティガさんは高速飛行で一気にナースとの距離を詰めるとすぐさま赤く力強い姿であるパワータイプへと姿を変えて燃え盛る右拳を叩き込んで地上へと突き落とした。

「この龍は僕が・・ッ!」

 

 ティガさんはナースの足止めをしてくれるそうなので俺達もなるべく奇械天使の数を減らしてギンガビクトリーさんの加勢に向かおうと思っていた矢先・・・『それ』は現れた。

『浄化スル』

 

 白いドラゴンのような見た目に両腕だけでなく尻尾にも鋭いクローがつけられているロボット怪獣は目の前に現れるなり俺とネクサスさんにそう告げてきた。

「デュァ!!」

 

 殴り掛かりながらジュネッスへと姿を変えたネクサスさんはその白いドラゴンへと拳を振るおうとすると盾のように大きいクローによって受け止められてしまう。

「シュァ!!」

 

 俺はネクサスさんとは反対側からオーブカリバーを振るい下ろそうとすると、俺のカリバーを白いドラゴンは尻尾のクローで挟む形で受け止めた。

「「・・・・ッ」」

 

 雰囲気で何とかなくヤバいとは気づいていたが・・・これは想像以上にヤバい奴だ。

「「シュァ!!」」

 

 俺とネクサスさんは蹴りを入れながら後ろへと跳び下がり、即座に光の刃を飛ばすも・・・白いドラゴンは赤く輝く魔法陣のようなバリアでそれを防ぐ。2人のウルトラマンの同時攻撃でも傷がつかないバリアか・・。こいつの防御能力はセラフィムと同じぐらいありそうだな。

「「っ?!」」

 

 腹部の赤いクリスタルから光線を放ってきたので俺とネクサスさんはそれを避けると、光線が当たった山には巨大な魔法陣が広がる。いったい何が起きるのかと思った瞬間・・・魔法陣の輝きとともに山が爆発し、地形が大きく変貌した。

「とんでもない破壊力をしてやがる・・」

 

「直撃したら不味いけれど・・・迂闊に避けるのも不味いね」

 

「ですね・・」

 

 既にセラフィムに浄化されてしまった後の星とはいえ・・・下手に避けると上でセラフィムと交戦してるギンガビクトリーさんや少し離れた場所でナースと戦うティガさんに当たりかねない。いやそれ以前にあれをバンバン撃たれたらこの星すらもいずれ壊れかねないぞ。

「・・・あの白いドラゴンは何だと思う?」

 

「新型機というよりも試作品を持ちだしてきたって感じですね」

 

 白いドラゴンのボディはまるでまだ完成品とは言えないような動くたびに今にも剥がれてしまいそうな装甲に長さもバラバラで各部からはみ出ている配線はまるで作り立てで調整を一切していない機体のように思える。

「もし本当に試作品だとしたら・・・あの兵器に付け入る隙はあるな」

 

「そうですね」

 

 あの白いドラゴンが俺達を倒すために持ち出してきた未完成品だとすると・・・その未完成さが付け入る最大の隙だ。

「デュァ!」

 

 ジュネッスブルーへと姿を変えたネクサスさんは光の剣を右腕に展開してその隙間目掛けて剣で突きかかろうとするも、魔法陣のバリアに阻まれてしまう。

「今だ!」

 

「オォォォォォォ!!」

 

 全身に光を纏った俺はバリアを展開している反対側から体当たりをぶつけようとするも・・・その攻撃もバリアによって受け止められてしまう。

『浄化・・世界ヲ浄化スル』

 

尻尾のクローで俺の首を掴みあげた白いドラゴンは再び光線を放とうと腹部のクリスタルにエネルギーを溜め始める。

「っ!!」

 

 その光線が放たれようとした瞬間・・・白いドラゴンは展開していたバリアを一度消してから放とうとしてきた。

「シュァ!!」

 

 このチャンスを待っていたと言わんばかりに駆け出したネクサスさんは光の剣でクリスタルを切り裂くと、白いドラゴンのパワーが鈍ったのかクローによる拘束からあっさりと抜け出ることができた。

「オォォォ・・・セイッ!!」

 

 カリバーで装甲の隙間を突き刺した俺は力づくでその隙間を広げると、力づくでその装甲を剥がす。

「デュァ!!」

 

 その装甲が剥がされた部分にネクサスさんは光の矢を打ち込むと白いドラゴンの動きが鈍る。今の一撃で配線のいくつかが断絶されたからだろう。

「シュァ!!」

 

 俺はつかさずオリジウム光線を装甲の剥がれている部分へと放つと・・・白いドラゴンは内側から爆発するように爆散した。

「タァッ!」

 

 パワータイプとなっているティガさんは全身を使って押さえつけているナースの尻尾へと光球を投げつけて、尻尾の一部を破壊する。

「ダァ?!」

 

 しかし暴れ狂うナースに引き剥がされてしまうと、ナースは再び空へと飛び上がった。

「ッ!!」

 

 再びスカイタイプへと変わったティガさんはナース目掛けて5連続で光弾を放つと、その光弾はナースの各部を撃ち抜いて爆散させた。

「・・・・タァッ・・」

 

 基本のマルチタイプに戻ると同時にカラータイマーが赤く点滅し出したティガさんが地上へと着地すると、俺とジュネッスへと変わったネクサスさんもその横に並ぶ。

「「「シュァ!!」」」

 

 そして残る奇械天使たちを同時光線で一掃すると・・・俺とネクサスさんのカラータイマーも点滅し出した。

「これで残るはセラフィムだけか・・・」

 

 俺は空で激闘を繰り広げているギンガビクトリーさんとセラフィムの戦いを見あげる。

「「ウルトラマンメビウスの力よ!」」

 

「「メビュームシュート!」」

 

 ギンガビクトリーさんはメビウスさんの光線技を放つも、セラフィムは翼で弾く形でその光線を撃ち消す。

「やっぱりシンプルな光線じゃバリアを貼られてなくても傷をつけられないか」

 

「どうするヒカル?フュージョンシュートで勝負に出るか?」

 

「・・・いや、あの技を出したら大幅に消耗しちまう。今はまだ粘ってみようせ」

 

「分かった。なら・・・」

『ウルトランス・ハイパーゼットン!シザース!』

 

 ゼットンの中でも特に強力な強化態であるハイパーゼットンをウルトランスしたギンガビクトリーさんはその右腕をハイパーゼットンの腕へと変化させる。

「「ショォラ!!」」

 

 ギンガビクトリーさんはその右腕を振り下ろすと・・流石にそれはマズイと思ったのかセラフィムは翼ではなくバリアでそのチョップを防いだ。

「「ゼィァ!!」」

 

 右腕から至近距離で火球を放ったギンガビクトリーさんはその反動で少し後ろへと跳び下がる。すると爆炎の中にはバリアでそれを凌ぎ切っていたセラフィムがいた。

「くっ・・・やっぱり大したバリアだな。これでもぶっ壊せないのかよ」

 

「いや・・よく見ろヒカル」

 

 ショウさんは何かに気づいた反応をしていたので俺も爆炎の中にいたままのセラフィムを見上げてみると・・・セラフィムのバリアには僅かながらヒビが出来ていた。

「至近距離のこいつでようやくか」

 

「奴のバリアも絶対ではないということだな」

 

「絶対じゃないってことが分かっただけでも十分だ!一気に畳みかけていくぜショウ!」

 

「ガレット!」

 

 一気に畳みかける宣言をしたギンガビクトリーさんは光を纏った体当たりを仕掛けるとバリアと激しくぶつかり合う。

「「タァァァァァァ!!」」

 

 バリアに連続パンチを叩き込むギンガビクトリーさんは右手に光を集めると左手を地面へと向ける。

「「シュァ!!」」

 

 ギンガビクトリーさんは右手にギンガスパークランスを握り、左手にシェパードンセイバーを手にするとその切っ先に光を集束させた。

「「ウルトラ十勇士の力よ!!」」

 

 光り輝く一剣一槍を持つギンガビクトリーさんの後ろに半透明な8人のウルトラマンさん方が出現する。その中にはこの場で戦うティガさんとネクサスさんの姿もある・・。あれはあくまでも光の力の虚像であって本人ではないはずだが・・・まるで本人達と思うほどの『光』を感じる。

「「ウルトラフュージョン・・・アルティメイタム!!」」

 

 8人のウルトラマンさん方がギンガビクトリーさんへと重なると一剣一槍から青白く輝く強力な光線が放たれる。その光線は5人の同時光線を防いでも傷一つ付かなかったバリアを砕いてセラフィムを撃ち貫いた。

『これが貴方達の正義ですね。・・・争いを生まない正義ではなく、命を守る正義。その考えは理解できなくはありません』

 

 命を守る正義が理解できるんだったら・・・どうして滅ぼす正義を選んだんだよ。

『光と闇は表裏一体。闇がある限り・・・光も常にあり続けます。完全に闇を宇宙から消滅させるには個の思想を消失させるほかないのです。ですが今は貴方達の示した『光』を認めて私の正義の敗北を認めましょう。ですが忘れないでくささい。宇宙に闇があるかぎり・・・私はいつかまた・・復活を・・』

 

 そう言い残したセラフィムは光の粒となって消滅する。俺達はセラフィムの掲げていた『正義』からこの宇宙を守りきれたんだ。

 




次回「夜明けの闇に」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夜明けの闇に

明けましておめでとうございます。今年も一定ペースで投稿していこうと思います。


~~ガイ~

 

「ん?何だあれ?」

 

 ギンガビクトリーさんがセラフィムを撃破してから数分後、空から蒼い光が俺達の前へと降りてきた。

「ハイ!お待たせ!」

 

 1人大量のロボット軍団と長い時間戦っていたはずなのにわりと元気そうなゼロさんだ。

「ゼロさん、結構な数と戦っていたはずなのにわりと元気そうですね」

 

「言っただろ。数と戦うのは慣れてるってな」

 

 慣れてるからってそこまでピンピンとしてるってのは驚きですよ。

「まぁ、そっちも無事に終わったようだな」

 

「えぇ、ゼロさんがロボット軍団を引き受けてくれてたおかげです」

 

「よせよ。褒めても何も出ないぜ!・・・とまぁ冗談はこれぐらいにしておくか。お前らのおかげでこの宇宙を壊そうとしていた奇械天使達は大方片付いた。だが戦場に投入される前で残ってるのもいる。指令を出せる奴は全部倒されてるから動くこともなさそうだが年のために俺はそれをぶっ潰してくる。それじゃあな!」

 

 ゼロさんはそう言い残して空へと飛び去っていくとヒカルさんとショウさんは互いに目を合わせて頷いた。

「俺達もそろそろ行くぜ」

 

「仲間が俺達の帰りを待っているからな」

 

 そういえばヒカルさんとショウさんはもうこの宇宙に2か月以上もいたんだったな。確かにそれほどいるとなると彼らの宇宙にいる仲間の方々も彼らを心配しているだろうな。

「ヒカルさんショウさん。・・・色々ありがとうございました」

 

「礼を言うのはこっちのほうだ。お前が来てくれなかったら俺達はミカエルに捕えられたままだったからな」

 

 俺はお2人にお礼をいうも、逆にお礼を言われてしまった。

「そういやユウトは帰り方は分かるか?」

 

「う~ん。分からないや」

 

「なら送ってやるぜ」

 

 帰り方を知らないユウトはヒカルさん達が送ってくれるようだ。

「それじゃ僕も行くよ。ガイ、いつか絆を紡いだ光の先で」

 

「えぇ。また何処かで」

 

 ヒカルさん達は一斉に光の戦士へと変身するとそれぞれの宇宙へと戻るために飛び去っていった。

「それぞれの仲間が待つ宇宙・・・か」

 

 いつか俺も仲間の待つ宇宙というものを見つけられることができるのだろうか。そう思った俺はふとジャグラーのことが頭によぎった。

「ジャグラーは今、何処にいるんだろうな」

 

 今回のミッションでは一度もジャグラーと会うことはなかった。きっと何処かの宇宙で生きているとは思うが・・・大切な仲間だからこそ心配になるものだ。

「きっとまた何処かで会えるよな」

 

 俺はきっと何処かでまたジャグラーと会えることを信じつつ、新たなミッションを受け取るためにO-50へと飛んで行った。

 

 

 この時の俺はまさかジャグラーがあのようになっていたとは考えもしていなかった。

 

 

 

 

~~ジャグラー~

 

 

 この星に居ついてから既に5年の時が流れた。エレイン達が築き上げた自警団はもはや『団』というよりも『隊』と呼べるほどまでに拡大され、今や俺の手を借りずとも中型ほどの大きさの怪獣なら倒せるようになるまでとなった。だからこそ俺は以前俺の剣術を学びたいといった目の前の相手に剣術を教えていた。

「もっと腰を低く構えろ」

 

「こ、こう?」

 

「下げ過ぎだ馬鹿」

 

 刀を持てるようになるまで成長したら蛇心流を教えてやる。そう約束していたチヒロに蛇心流を教えてやっている真っ最中なのだ。

「腰は下げても刀を持つ腕は下げずにその高さを維持しろ」

 

「わ、分かった・・」

 

 チヒロには俺の会得した蛇心流を全て叩き込んでやるつもりだ。俺の全てを叩きんだ後にチヒロが蛇心流を名乗っても良いと言える実力となったら・・・俺は蛇心剣をチヒロへと託し戦線から完全に退くことにしよう。

「刃の重みに負けるな。しっかりと止めろ。自分の足を斬ることになるぞ」

 

「う、うん!」

 

 だがまぁ・・俺が本当に引退できるのはまだ先になりそうだがな。

「さて、この辺にしておくか」

 

 チヒロの持っていた名もなき刀を預かった俺がそう言った途端、チヒロはその場に座り込んだ。

「あぁ~~。疲れたぁぁ」

 

「まったく・・。もっと体力をつけろ」

 

「鍬と刀じゃ使う筋肉が違うから疲れ方が違うんだよ。兄ちゃんだってここに来たばかりのころは農作業でこうなっていたじゃん」

 

「くっ・・」

 

 確かにそれは事実だが・・・仮にも師である俺にそう言い返してくるとはな。いい度胸をしているじゃないか。

「明日の訓練は今日の倍だ。覚悟しておけ」

 

「あっ!今絶対仕返しでそう決めたでしょ!大人げないぞ兄ちゃん!」

 

「うるせぇ。倍な訓練ぐらいこなしながれ」

 

 俺は明日の練習メニューを考えながらもチヒロとともに家路を辿っていると・・・家の方からはトマトスープの香りが漂ってきた。

「そういえば今年はトマトがたくさん取れていたな」

 

「去年は雨続きで結構な数が傷んじゃってたよね」

 

 別に傷んだものも食べれなくはないのだが・・・この畑は他の地域と物々交換するための野菜も育てているからなるべく状態が良くなければならなく、傷んでいるのでは交渉もできない。そのためどの野菜も状態が良いものがあまりなく、昨年はこの場所で取れるものばかりが食卓に並んでいたな。

「たっだいま~~!」

 

「おかえりチヒロ。それにジャグラーも!」

 

 家へと到着するとモミジが出迎えの言葉を告げてくる。

「お疲れジャグラー。今日はどうだった?」

 

「いつもと変わらない。まだまだチヒロは弱いままだ」

 

「ふふっ、そっか」

 

 今日もいつもと変わらない日を終えていく。以前は変われない自分に苛立ちを感じていたが、今ではこんな変わりばえのない日々に充実感を感じている自分がいる。本当にこのままここにい続けようと思ってしまっているほどに・・。

「まったく・・・。もう兄ちゃんは姉ちゃんと結婚しちまえよ」

 

「ハハっ!お前もそう思うよな!」

 

 チヒロは冗談交じりに俺とモミジをくっつけるような発言をすると2人の父親であるアックスもそれに便乗してくる。

「も、もう!何言ってるのチヒロ!お父さんも!!」

 

 モミジは顔を赤くしながら立ち上がると俺はどう思っているのかを確かめるようにチラチラとこちらに何度か目線を向けてくる。・・・少しからかってやるか。

「確かにそうすればこのままここにいることもできる。それも悪くないな」

 

「ほらジャグラーも困って・・・えっ?・・」

 

 俺の言葉を確かめるように振り返ったモミジは顔だけでなく全身を赤くしながら固まってしまう。

「・・・冗談だ」

 

「そ、そうだよね!冗談だよねぇ!・・・はぁ・・」

 

 モミジは冗談だということを納得しつつもため息をつく。さっきから忙しい奴だな。

「・・・ん?」

 

 外の何処かからか爆発音が鳴り響いてきた。

「ジャグラー・・・」

 

「・・モミジ達はここにいろ。俺は念のため確かめてくる」

 

 胸騒ぎがした俺は今の爆発音が何なのかを確かめに行くことを決めると皿に残っているトマトスープを一気に飲み干して席を立つ。

「兄貴!僕も行くよ!」

 

「お前は来るな。まだ蛇心流の習得を終えてないお前が来ても足手まといだ」

 

「えぇ・・・でもさ」

 

「万が一の時、家を守る奴がいなければ困るだろ」

 

「・・・うん。分かった」

 

 俺は着いてこようとしていたチヒロを説得して外へと出ると東に見える山の山頂に白い光が見えた。

「あそこか・・・」

 

 魔人態へと姿を変えた俺は光が消えないうちにその場所へと走り出す。すぐさまその山頂へとたどり着くとそこには青く丸い胴体に各部がまるで異なるツギハギの翼をつけたロボットがいた。

「この光・・・まさかコイツは・・」

 

 この宇宙に来て早々に一度だけしか出会ったことはなかったが・・・この強い『光』のオーラは嫌でも覚えている。間違いない・・・こいつは奇械天使だ。

「お前。奇械天使だな。何故この星に来た?」

 

『私はセラフィムのバックアップデータから復元されたセラフィムリブート。私の目的はただ1つ。宇宙の浄化のみ』

 

 相変わらずこの天使どもの目的は『浄化』か。

「風の噂で奇械天使はウルトラマンに倒されたと聞いていたが?」

 

 大方奇械天使を倒したのはガイやあいつに味方したウルトラ戦士共だと思うが・・・だとしたら何故ここにまた奇械天使がやってくる?

『闇がある限り光は潰えない。故に光の者である私は蘇る』

 

「1度は滅んだが・・・また蘇ったってことかよ」

 

 お前みたいな厄介天使は永遠に眠っていやがれ。

「兄貴!!」

 

 俺がセラフィムリブートと対峙しているとエレイン率いる自警団数十人が騒ぎを聞きつけてやってきてしまった。

「来るな!こいつは・・・」

 

 こいつはお前達の手に負える相手ではない。そのことを伝えようとした瞬間・・・セラフィムリブートはその目から赤く輝く光線をエレイン達目掛けて放った。

「兄・・」

 

 エレイン達がその光に包まれ周囲に爆風が吹き荒れる。俺は光線が撃たれた場所をすぐさま確認すると・・・そこには文字通り何もなく焦土が広がっていた。

「貴様ッ!!」

 

 俺は蛇心剣に紫のオーラを纏わせてその刃を振るう。しかしセラフィムリブートはバリアでその刃を受け止め、俺の刃が届くことはなかった。

「ぬぁぁぁっ?!」

 

 バリア越しに放たれた光線を間近で受けてしまった俺は地面に強く叩きつけられてしまい魔人態から元の姿へと戻ってしまう。

「ツギハギのくせして・・・なんていう威力だ・・」

 

 最上位の天使の名前を持っているだけはあり俺の蛇心流でも傷一つ付けられないバリアとウルトラ戦士の光線並の威力はある光線技・・。とてもツギハギの急ごしらえの性能じゃないぞ。

『浄化。この星を再び浄化する』

 

 数十年前にもこの星を浄化したことがある奇械天使は再びこの星を浄化しようとするつもりらしい。しかもセラフィムリブートが向かおうとしているのはトマト畑の方角・・つまりはモミジ達のいる方角だ。

「行かせるか・・・ッ」

 

 刀を杖にするようにして立ち上がった俺は再びセラフィムリブートに斬りかかろうとするも・・・身体がうまく動かなかった。

「何故身体が・・・?」

 

『私の攻撃は闇の力に対して絶対です。貴方がその身に宿すのは闇の力。動けなくなるほどのダメージを受けるのは当然です』

 

 俺の使っていた力が闇のものだったから・・・動けなくなってるってわけか。

「俺が闇のものってんなら・・・何故俺にトドメをささない?」

 

『貴方が使う力は確かに闇の力ですが、貴方は光の勢力にその身を置いている人物です。貴方はこちら側に来る資格があります』

 

「誰がお前らの仲間になんかに・・」

 

『私がこの星を浄化し終えるまで時間を与えます。それまでに答えを聞かせてください』

 

 味方にならないと告げようとするも、セラフィムリブートは俺の発言を無視してトマト畑の方角へと進み出した。・・・あいつ、自分の求める答え以外は聞くつもりもないのか。

「くそ・・・動けッ。動きやがれ!」

 

 俺はセラフィムリブートの光に侵されて動かなくなった身体を無理にでも動かそうとするも・・・数歩前に進むのがやっとだった。

『浄化』

 

 そう言い放ったセラフィムリブートはトマト畑へと光線を放つ。その光線が直撃してしまったトマト畑は収穫間近のトマトや来年のために種を植えた場所まで焦土にしてしまうだけではなく、モミジ達がいるであろう家まで半壊させてしまった。

「モミジ!!チヒロ!!」

 

 俺は光に侵されている身体を無理やり動かして半壊した家まで戻る。天井は吹き飛び家の中は瓦礫が錯乱してしまっているのが真っ先に視界に映ると・・・足元に赤い液体が広がって来た。大きな鍋が倒れてしまい、それに入っていたトマトスープが広がってしまっているんだ。

「・・・っ」

 

 大きな鍋の横には吹き飛んだ包丁が運悪く心臓付近に刺さり命を落としていたリナーシュと、瓦礫で頭を強打したせいで即死してしまっていた婆さんがいた。

「ジャ・・ジャグラーか?」

 

 奥の方から声が聞こえる。アックスの声だ。俺はすぐさま周囲を見渡すと瓦礫の下敷きにされている爺さんを助けようとしていたアックスを視界に写した。

「アックス!爺さん!」

 

 俺は未だに麻痺しているような感覚の身体を動かしながらも2人の元へと進む。

「ジャグラー。無事・・・そうじゃないがお前も生きてたんだな」

 

「あぁ。手を貸そう」

 

「・・・いや、儂はいい。既に両足の感覚がない。助けられたとしても歩くことなどできん。ここに捨て置け」

 

 どうやら爺さんは両足を失ってしまっているようで、助けられても足手まといになるからここに置いていけと言い出した。

「何を言っている。簡単に命を諦めるな」

 

 俺は爺さんのそれを拒んで爺さんを助けようとすると・・・爺さんは右の方を指さした。

「儂よりも・・・あの2人のことを優先しろ」

 

 爺さんの指差した先にはその場に横たわるモミジとチヒロの姿があった。

「モミジ!チヒロ!」

 

「大丈夫だ。2人とも大きな怪我もない。家が吹き飛んだ衝撃で気を失っちまってるだけだ」

 

 既にアックスが2人のことを確認していたらしく、ただ意識を失っているだけだと教えてくれた。

「ジャグラー・・・。家ごと畑をフッ飛ばした奴は・・・奇械天使だろ?」

 

 爺さん・・察していたのか。

「あぁ、奇械天使のセラフィムリブートってやつらしい」

 

「奇械天使は・・光ではないものを全て滅ぼそうとする。ここにいたら・・・みんな死んじまう。だから早く・・・あの2人を連れて逃げろ」

 

「・・・すまない」

 

 俺はモミジを背負うとアックスもチヒロを担いで急ぎ家の外へと出ると・・・既に家を支える柱のほとんどがやられていた家が完全に倒壊してしまった。

『命を浄化し、世界を浄化する。それこそが光の者である私の使命』

 

「っ!くっ?!」

 

 背後から赤い光に照らされたと思った瞬間、アックスは担いでいたチヒロを俺へと投げつける。それを受け止めたことで俺はその場に倒れてしまうと・・・アックスの上半身は赤い光に飲み込まれてしまい、腰から上が無くなってしまった。

「アックスまでか・・・」

 

 とうとうモミジとチヒロ以外が全員セラフィムリブートによって『浄化』されてしまうと・・・このタイミングで2人が目を覚ましてしまう。

「あれ?ジャグラー?・・ここは?確かいきなり強い衝撃が家まで伝わってきて・・・それで・・・」

 

「説明は後だ。今はまず隠れるぞ」

 

 まだセラフィムリブートが視界に映る範囲にいたので、まずは隠れる判断をする。こんな手負いの状態でこの2人を守りながら戦うなど・・・流石の俺でもできない。

「・・・いいか。落ち着いて聞いてくれ」

 

 セラフィムリブートが向かって行った方角とは真逆の方へと逃げると・・・俺は2人に何があったのかを話した。奇械天使のセラフィムリブートが現れたこと。その目的が宇宙の浄化であること。畑が焼き尽くされてしまったこと。そして2人以外の家族が全員『浄化』されてしまったことをだ。

「そんな・・・お父さんたちが・・・」

 

「嘘・・・だよね?嘘って言ってよ兄ちゃん?!」

 

「・・・守れなくてすまない」

 

 俺は2人に深々と頭を下げると2人はその場で泣き崩れてしまう。大切な家族を失ったのだから当然だ。・・・だがこのまま泣かせておくわけにはいかない。早くこの星から逃げなければ奴がここにまた来てしまう。

「モミジ、チヒロ。ここから・・・この星から逃げるぞ」

 

 少しずつ麻痺する感覚が収まってきた俺は魔人態へと変身すると2人へと手を伸ばす。

「逃げるって何処へ?・・・その奇械天使ってのはこの宇宙を浄化しようとしているんでしょ?だったら逃げ場なんてどこにもないじゃん・・」

 

「確かにこの宇宙にはないかもしれない。だがスターゲートと呼ばれる空間の歪みを潜れば別宇宙へと行くことができる」

 

 他の者達を見捨てるということになるが・・・せめて俺の剣が届く範囲の奴らは・・・こいつ等だけでも俺は守りたい。

「・・・生きてくれ2人共。お前達まで守れなかったら・・俺は・・・」

 

 俺は目の前の命を・・・数多く守れなかった。だがせめてこの2人だけは絶対に守り抜きたい。

「・・・行こう姉ちゃん」

 

 先に動いたのはチヒロの方だった。

「チヒロ?」

 

「お父さん達のためにも・・・僕らが生きないと駄目だ。お爺ちゃんやお父さんはそのために僕らを逃がしてくれたんでしょ」

 

 チヒロはアックスと爺さんの想いを確かに受け止めていたようで絶望しきっているモミジを説得する。

「まったく・・まだ弱い弱いと思っていたが・・・俺が思っていた以上にお前は強いな。チヒロ」

 

「・・・そうね。チヒロが頑張ろうとしているんだもん。お姉ちゃんの私がしっかりしてなきゃ駄目よね」

 

 悲しみを耐えて立ち上がったモミジは俺の手を取るとチヒロも俺の手を掴んでくる。

「行くぞ。手を離すなよ」

 

 俺は闇のオーラで2人を包んでいざ宇宙へと飛び立とうとした瞬間・・・

『闇の力を感知。浄化する』

 

「・・・え?」

 

 闇の力に反応したセラフィムリブートがこちらに向けて銃撃を放ち・・・モミジとチヒロの腹部を撃ち抜いた。

「モミジ!チヒロ?!」

 

 俺は魔人態から元の姿へと戻り崩れ落ちるモミジとチヒロに振り返る。

「ご、ごめん。撃たれちゃった・・」

 

「に・・兄ちゃん・・」

 

 2人の腹部からは大量の血が出ている。・・明らかに致死量だ。

「俺の・・俺のせいだ」

 

 俺が闇の力を使わなければセラフィムリブートは反応することなどなかったはずなのに。

「ジャ・・ジャグラーの・・・せいじゃないよ」

 

「モミジ・・?」

 

 モミジは今にも力尽きそうな声で俺に囁いてくる。

「ジャグラーは・・・私達を守ろうと動いてくれた。・・・だけどそれが・・・セラフィムに気づかれちゃっただけ・・・。ジャ・・のせ・・じゃな・・い」

 

「いい。・・・もう・・しゃべるな」

 

 既に目の光がなくなっていく。これ以上話していると体力がなくなりすぐにでもあの世に逝ってしまう。

「ジャグラー・・・好き・・だったよ。一緒にいられて・・幸せだった」

 

 その言葉を最後にモミジは帰らぬ人となってしまった。

「・・・お姉ちゃんが・・先だったんだね。・・・僕も・・もうすぐかな」

 

 モミジの最後を見届けたチヒロは自分ももうすぐ逝ってしまうのだと悟ったようにそう告げる。

「何諦めてんだよ。さっき自分で生きようって言っていたじゃんか。命を諦めるなよ!」

 

「ごめん兄ちゃん。・・・蛇心流の後継者になれなくて・・さ」

 

「そんなことはいい。それよりも生きてくれよ・・」

 

 生きてくれるだけで・・・俺にとっては救いになるんだ。

「そうしたいんだけどさ。・・・やっぱり無理そうだ。・・」

 

 最後に笑ったチヒロも・・・そのまま家族の元へと言ってしまう。

「ァァァァァァァァァァッ!!」

 

 そこからしばらくのことは覚えていない。再び俺の意識がはっきりとし出した時には全身が傷だらけながらも蛇心剣を握る自分自身と、その足元にはセラフィムだった残骸があった。怒りと悲しみに呑まれ・・力づくでこいつを破壊していたようだ。

「光ってのは世界を守るためなら・・・こんなに容赦なく命を奪うのかよ」

 

 頭がクリアになりつつあった俺は『光』について考える。光は世界を・・・命を守る存在なんじゃないのか?結局光も奪うことしか出来ないのか?

「くそっ!ふざけるな・・・ふざけるなぁぁぁぁぁ!!」

 

 俺が求めていたものは・・・光はこんなことしか出来ないのなら・・。

「俺はもう・・・光などいらない」

 

 光を捨てることにした俺はモミジ達の亡骸をトマト畑だった場所の真ん中へと埋めてやった。

「すまない・・・。俺がもっと光を見限って闇を受け入れていればお前達が命を奪われずに済んだかもしれないってのにな」

 

 俺が今の今まで闇に染まり切りたくはない。光の戦士でなくとも光に属するものでいたいという想いを捨てきれてなかったばかりに・・・闇を受け入れてさえいれば奇械天使を即座に倒せていただろうに・・。

「すべては俺が弱かったせいだ。光の戦士にもなれず闇を受け入れきれてなかった俺の弱さが招いた結果だ。・・・本当にすまない」

 

 モミジ達の墓に謝った俺は1人夜明けの太陽へと向かって歩き出した。

 




次回「宝石の魔女と盗人小僧」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

宝石の魔女と盗人小僧

~~ガイ~

 

「今回はこの宇宙か・・」

 

 奇械天使の件が解決後に訪れた宇宙での新たなミッション。それはオーブカリバーの真の力を引き出すための4つのエレメントを4つの宇宙を巡って手に入れるというものだった。

「この宇宙では確か・・・土のエレメントだったな」

 

 それぞれのエレメントが何処の宇宙の何処の星にあるのか教えてくれたのは有難いが・・・宇宙は広大だ。どの星にあるのかが分かっていたとしても、その星がどのあたりにあるのかまでは分からない。

「確か宝石惑星コボルってところだったよな」

 

 初めて来る宇宙での星探し・・・。以前ならジャグラーがサポートしてくれてたどり着けたはずの道なりも1人で旅をする俺ではその星にたどり着くのにも苦労していた。

「今までなら怪獣の気配や他の光の戦士の気配でたどり着けたんだがな・・」

 

 今回は他の光の戦士や怪獣の気配がまるでない。平和というのは良い事だと思うが・・・やっぱり何か目印が欲しいよな。

「仕方ない。この星の人に話を聞いてみるか」

 

 何処にコボルがあるのか分からない以上誰かに話を聞いてみるべきだと判断した俺は適当な星へと着地して人を探してみる。

「なんていうか・・鉱山惑星って感じだな。この星は・・」

 

 歩いてみると・・・この星は鉱山業が盛んなようであちこちで採掘作業が行われていた。

「すまん。・・流れ者なんだが、この星はいったい?」

 

「なんだ兄ちゃん。知らずにここに立ち寄ったのかい?この星はコボル。宝石惑星で有名な惑星だぜ」

 

 俺は近くの装飾屋にこの星のことを尋ねると・・・いきなりビンゴだった。

「豊かな鉱脈資源と宝石の加工技術で繁栄している星で、銀河の富裕層が集まってくるんだよ。そんで巨大なネオンが輝くあそこで宇宙カジノも林立してるんだけどよ・・。貧富の差も激しくて近頃どんどん治安が悪くなってきてるんだ」

 

 確かに貧富の差が激しくなると治安が悪くなってしまうのはどこの星でもよくある話だ。

「最近じゃ『この星に破滅が近づいている』だなんて予言をする奴も現れてるらしくてな。こんな場所で商売をするこっちも溜まったもんじゃねぇよ」

 

 そう愚痴った店主は「話すことは話したから金を払え」と言わんばかりに右手で金を要求してくる。

「あり合わせはなくはないが・・・この星の金じゃなくても大丈夫か?」

 

 俺はとりあえずO-50の金を渡すと、少し迷ったような顔をされたが一応受け取ってはくれた。

「せっかくだし1つ忠告しといてやるよ。あのデカい建物あるだろ。あそこには近づかない方がいいぜ?」

 

「別に行く予定はないが・・・何でだ?」

 

「あそこには魔女が出るって噂があるからな。因縁を付けられると石にされちまうって噂もあるんだぜ」

 

 魔女に石か・・。念のために探りを入れてみるか。

「ところで・・・さっきから何のつもりだ?」

 

 この星に到着したときから観察されているような視線が気になっていた俺は店長が教えてくれた建物へと向かう前に後ろを振り返ってその視線を向けてくる相手に声をかけた。

「・・・気づいてたんだ」

 

 物陰からは14~5歳ほどの少年が出てきた。

「俺はシューティー。アンタは何者なんだ?この辺のものじゃないよな」

 

「あぁ、O-50って星から来たガイだ。それで・・・?お前は何で俺を付けていたんだ?」

 

「そんなん決まってんだろ!」

 

 俺へと駆け出してきたシューティーは俺の懐から財布を抜き取った。

「生きるためだよ!!」

 

「そういや言っていたな。貧富の差が激しくて犯罪が多発しているって・・」

 

 あんな子供すらスリをしないと生きられないほど差があるのか。

「だがまぁ・・・だとしてもスリを見逃すわけには行かないよな」

 

「は、はっやぁ・・」

 

 すぐさま駆け出した俺はシューティーへと追いつくとその肩を掴んで財布を取り戻す。

「まったく・・・こんなことをしてたらなぁ・・」

 

 俺はシューティーに説教をしようとした途端、俺達をいきなりギャング集団が取り囲んだ。

「お前達は何だ?」

 

「アンタに恨みはねぇがクライアントの頼みでな。お前をぶっ潰すのとそこの坊主が持ってる宝石をかっさらわせてもらうぜ」

 

 いきなり俺を狙ってくるか。俺が魔女のことを調べようとしているからなのか、それとも俺が光の戦士であることを知っているからなのか。

「いや、俺のことよりも・・・」

 

 先ほどギャングの1人はシューティーが持っている宝石を奪うと言っていたな。

「お前、俺の前にもどっかからか宝石を盗んだりしたんだろ?」

 

「・・・お、お前には関係ないだろ」

 

 どうやら盗んだらしいな。だがそれを返したらこいつは見逃される・・・なんて雰囲気じゃなさそうだ。

「かかれぇぇ!!」

 

 雇われのギャングたちは一斉に俺へと駆け出してくる。

「お前らの雇い主は噂の魔女か?」

 

「だったらどうした?」

 

 俺はギャングたちの攻撃を避けつつも雇い主が誰なのかを尋ねる。薄々は察していたがやっぱり魔女がこいつ等を雇ったのか。

「オォォ・・セイッ!」

 

殴り掛かって来たギャングの1人に背負い投げを決めると、2人がかりで俺を取り押さえようとしてきた。

「フンっ!」

 

 だが『光』に選ばれた時から身体能力が向上している俺はあっさりとその拘束を振りほどいて、取り押さえている間に殴り掛かろうとしていた男の拳を掴んだ。

「ぐっ・・なんだてめぇは?」

 

「やっぱり雇い主から詳しいことは聞いてないのか。・・」

 

 男の拳を離すとギャング達は俺から距離を取り始める。

「お前達の雇い主の名前は?」

 

「ムルナウ・・魔女ムルナウだ」

 

 勝ち目がないことを察してくれたギャング達は雇い主である魔女の名前を教えてくれるとこの場から去っていく。

「ムルナウ・・か」

 

 噂の魔女の名前がムルナウという名前だとは分かったが・・・それでもまだ情報が足りないな。

「シューティー。お前はムルナウのところから何を盗んだんだ?」

 

「俺は魔女のところから宝石なんて盗んでない。別のところからだ」

 

 別の場所から盗んだ?

「この星じゃ有名な天文学者のジグってところから盗んだんだよ。これ」

 

 そう言ったシューティーは盗んだ宝石を取り出す。見たところ普通の宝石のようだが・・・なんで天文学者の宝石を魔女が回収しようとしているんだ?

「・・・今考えても仕方がないか。・・・シューティー、もうスリはするんじゃないぞ」

 

 シューティーにもうスリはするなと注意をした俺は魔女がいる建物へと歩き出す。するとシューティーはまたも俺を付け出した。

「なんで付いてくる?」

 

「アンタに付いていけば金目のものが手に入りそうだからね」

 

 こいつまだスリに懲りてないのか。

「・・・っ!」

 

「うわっ、さっきよりも速い・・っ」

 

 俺は全速力でムルナウの待つ建物へと駆け出すと、それでもシューティーは追いかけようとしてくる。振り切ることは簡単だが、このまま建物まで付いてくるとなると1人にしておくのは危ないな。

「はぐれるな。それとスリはするなよ」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

 はぐれないこととスリをしないことを条件に付いてくることを認めてやると、調子のいいシューティーはテンションをあげながら俺に付いてくる。

「・・・ここだな」

 

 俺とシューティーは魔女がいるという建物の前まで到着すると、その門が『どうぞ入ってきてください』と言わんばかりに開かれた。

「警戒心ゼロかよ」

 

 シューティーのいう通り、まるで俺達が入ってきても問題ないとでもいうかのようだ。

「行くぞ・・」

 

「応さ!」

 

 中へと入っていくと・・・使用人の姿が所々にあるだけで警備らしい警備がまるでいない。

「よく来たわね。ガイさん」

 

 最上階にある奥の部屋までたどり着くと、その奥には1人の女が椅子に座って俺達を待ち構えていた。

「お前が魔女・・・ムルナウか」

 

「えぇ、間違ってはいないけれど宇宙魔女賊ムルナウ。そう名乗らせて頂くわ」

 

 宇宙魔女賊ムルナウと名乗った女は手にした花に息を吹きかけるとそれは宝石へと変わってしまう。

「お前の目的は何だ?」

 

「私は美しいものが好きなの。宇宙にはたくさんの美しいものがある。そんな美しいものを美しい姿のまま近くに置いておきたいというのは当然でしょう?」

 

 なるほど。つまりはた迷惑な収集家ってことか。

「ガイと言ったわね。貴方は宝石が美しいのは何故なのか分かる?それは死んでいるからよ。生きているものは信用ならない上にうるさいことばかり。宝石は自分の輝きだけで満ち足りた、透き通った小さな世界。そこは誰も入れない。だからこそ私の冷たい肌にも似合うのよ」

 

 インチキ魔術師が随分と大それたことを企んでいるな。

「今宵はここまでのようね。また会いましょう、光の戦士さん」

 

 俺が光の戦士であることを見抜いていたムルナウは魔法でこの場から転移してしまった。

「逃げられしまったか・・」

 

 ムルナウに逃げられてしまった俺はアジトから出ると、空に浮かぶモニターで気になるニュースが流れた。

『臨時ニュースです。巨大な彗星、バルサス6がコボルに接近しつつあると報告がありました。天文学者のジグ博士によると衝突までの期限は1週間のようで、住民の皆さんは速やかに避難をしてください』

 

 そう、巨大彗星がこの星に直撃してしまうというニュースだ。俺がこの星に向かって飛んでいるときにそれらしいものはなかったはず。だとしたらこの星に向かって飛んできているものは何だ?

「退け!!早くこの星から逃げなきゃならんのだ!」

 

「私は生き延びてやるぞ!」

 

 彗星がぶつかるというニュースに動揺する富裕層の住民たちは鉱山である土地や財宝を手放してこの星から次々と去っていく。

「なぁ聞いたか。この状況で宝石やら土地を買いまくってる投資家がいるって話」

 

そんな中、その下落した資産をタダ同然で買い取る投資家の話を耳にした。そこから聞こえてきた投資家の名前に俺とシューティーは驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

~~シューティー~

 

「ふっふっ。馬鹿な資産家共が慌てふためいているなぁ」

 

 オイラとガイの旦那は噂の投資家の屋敷へとやってくると・・・その投資家は絶賛活動中だった。

「邪魔するぜ。・・・ジグ博士」

 

「なっ?!何者だお前達は?!」

 

 俺達はその投資家の前に姿を現す。その投資家というのは俺が宝石を盗んだ相手であり、天文学者でるジグ博士だったんだ。

「お、お前は私から宝石を盗んだ・・・」

 

「あぁ、こいつが盗んだ宝石を返すために来たんだ」

 

 ガイは俺を前へと押し出して、宝石を返すように指示してくる。

「なるほど。君が少年を捕まえてくれたというわけか。感謝するよ」

 

「・・・ん・・」

 

「ふぅ、これであの計画がバレることは・・」

 

 俺は渋々宝石をジグ博士へと渡すと、ジグ博士は安心しきったのかそんな言葉を口走った。

「あの計画ってのは何だ?ジグ博士?」

 

「あっ!いや、こっちの話だ?!」

 

「もしかして・・・その宝石に埋め込まれていた記憶チップのデータのことか?」

 

「な、なぜそのことを!?」

 

 ガイが記憶チップのことを話すとあからさまにジグ博士が動揺した。

「資産家たちが資産を捨ててこの星を去っていく中、1人の投資家がその資産を買い占めてるって噂を耳にしたんだ。それで気になってこいつが盗んだっていう宝石を調べてみたら・・・記憶チップがこれに組み込まれていたんだよ」

 

「そのデータなんだけどさぁ・・巨大ホログラム装置の設計図だったんだよねぇ。惑星サイズのものを映し出せるさ」

 

 そう、つまりあの宝石は偽の巨大彗星を映し出すホログラム装置を作り出すための設計図で・・・ジグ博士はこの星の資産を全て買い占めようとしていたってことだ。

「もう住民たちにはあれがホログラムだって伝えてあるぜ。まだ半信半疑だけど、ここにある装置をぶっ壊せば・・・事件解決だろ?」

 

「くっ・・・そんなことはさせん!かくなる上は・・」

 

 ジグ博士は自身の後ろにある装置を破壊させないと、装置の前に立つと別の装置のスイッチを押した。するとこの研究所から何かが出てくるような揺れを感じた。

「いったい何が?!」

 

 オイラは窓から外を確かめてみると・・・研究所のハッチからは戦車のように乗った怪獣が出てきた。

「やれ!恐竜戦車!!この星のもの達をここから追い出せ!」

 

 ジグ博士は恐竜戦車というものに指示をする。

「強硬手段に出やがって!」

 

 

~~ガイ~

「強硬手段に出やがって!」

 

 俺はオーブカリバーを空へと掲げてウルトラマンオーブへと変身をすると、恐竜戦車の前に立った。

「シュァ!」

 

「あいつ・・・何かデカい巨人になりやがった。・・・どうなってんだ?」

 

 シューティーは俺が変身したことに驚いているようだが、今はそっちを気にしている暇はないな。

「オォォォ・・セイッ!」

 

 俺は町へと向かおうとしている恐竜戦車を正面から受け止めて押し返そうとするも・・・キャタピラは止まることなく押され出してしまう。

「オォォォォォ!!・・・オァ?!」

 

 気合いを入れた俺は少しずつ恐竜戦車を押し戻し始めた途端、恐竜戦車は急にバックをしたせいで俺はその場に転倒してしまう。

「デュァ・・・?!」

 

倒れてる俺に対して恐竜戦車は幾度となく尻尾を叩きつけてくる。

「そうだ!そのままその巨人を倒してしまえ恐竜戦車!」

 

「このぉ!!」

 

 ジグ博士にアッパーを決めて一撃でノックアウトにしたシューティーは再びこちらへと視線を向けてきた。

「ガイ!そんな戦車に乗ってるだけのやつなんかとっととぶっ倒しちゃえよ!」

 

 まったく。言ってくれるぜ。

「シュァ!!」

 

 尻尾を両腕で掴んだ俺は思い切りそれを振り回して恐竜戦車から一旦距離を取る。そしてすぐさま恐竜戦車の背中に飛び乗り、背中から何度も叩いた。

「ダァッ!」

 

 光の刃をキャタピラ目掛けて飛ばすと・・・キャタピラが切れて恐竜戦車の走行が不安定となった。

「オォォォ・・・シュァ!!」

 

 その動きが鈍っている隙をついて恐竜戦車目掛けて光線を放つ。すると恐竜戦車も芽から光線を放つことで対抗してこようとしてきた。

「ハァッ!!」

 

 俺は両腕を広げることで光線を拡散することで恐竜戦車に光線を浴びせると、それに耐えられなくなった恐竜戦車は爆発した。

「おっしゃぁ!!」

 

 シューティーは俺の勝利にガッツポーズを取ると、ノックアウトされたジグ博士が意識を取り戻す。

「あの残骸・・。まさか私の恐竜戦車が敗れたのか・・」

 

 俺が変身を解いてシューティーとジグ博士のもとへと戻ると、恐竜戦車が敗れた事実を知ったジグ博士はその場に膝をつく。

「社会不安をかきたてて資産家からその資産を奪うってお前の計画もここまでだ」

 

「あらあら、やっぱり失敗しちゃったのね」

 

 少し手前に魔法陣が出現したかと思うと、その魔法陣からはムルナウが現れる。

「やっぱり・・・。お前ら組んでいたってことか?」

 

「えぇ、彼の計画に賛同した私は彼に恐竜戦車を与えたのだけれど・・・まぁ所詮金に目を眩んだような男はこの程度ね」

 

「き、貴様も宝石のために私と組んだのだろうが!?」

 

「貴方は所詮自分のためだけのお金でしょう?でも私は貴方とは違うわ。美しいものを美しいままに・・・そう!私がしているのは宇宙のためなのよ!」

 

 自分の宝石集めは宇宙のためと言い張ったムルナウは魔法陣を展開した右手をジグ博士へと向ける。

「貴方、もう要らないわ」

 

「っ!!」

 

 ジグ博士に対して放たれた魔力の弾丸を俺はオーブカリバーで切り裂く。

「あら?その男を何故庇うのかしら?」

 

「お前こそ・・・何でジグ博士を撃とうとした?」

 

「言ったでしょう。もう要らないからよ」

 

 要らなくなったからと先ほどまで仲間だったはずの相手をあっさりと見限るってのかよ。

「だけどまぁ、いいわ。計画が失敗した以上はもうこの星を出ることにしましょう」

 

「逃がすと思うか?」

 

 俺はムルナウを捕まえようと前へと出ると・・・ムルナウはその足元に魔法陣を展開した。

「ガイさん。・・・いえ今はこう呼びましょう。ウルトラマンオーブ・・・。貴方の光の戦士としての姿はとても美しかったわ。いつか貴方を宝石にして必ず手に入れるわ」

 

 最後にそう言い残したムルナウは魔法陣の輝きとともにこの場から姿を消してしまう。

「また逃げられちまっったか・・」

 

 俺はムルナウを取り逃がしてしまったことにため息をついていると、シューティーが鼻歌交じりにこちらに近づいてきた。

「まぁ、そう落ち込むなって。そんなガイに良い物があるぜ」

 

 シューティーの手には黄土色の宝玉が握られていた。

「さっきムルナウがガイに話しかけてる間にこっそりと拝借したんだよ」

 

「お前またスリを・・・もうしないって約束しただろ!」

 

「オイラはそんな約束をしてはいないぜ」

 

 こいつ・・。

「お前なぁ・・・」

 

 俺は再びシューティーを叱りつけようとするとオーブカリバーが宝玉に反応をする。まさかこれが土のエレメントってことか。

「これが土のエレメントってことか・・」

 

「もしかしてこれがガイの探してたものなのか?だったらこの星を守ってくれた礼にやるよ」

 

「・・・・・」

 

 シューティーはその宝玉を俺に付き出してくる。こいつが盗んだもの・・・というのが少し癪に障るがひとまず俺はそれを受け取った。

「これは・・・こうすればいいのか?」

 

 土のエレメントが宿る宝玉を手にした俺はオーブカリバーを取り出すと・・・その宝玉は光となってカリバーへと取り込まれていく。するとカリバーに土のエレメントのシンボルがカリバーへと刻まれた。

「っ・・!!」

 

 その瞬間、オーブカリバーを通して俺は新しい技の使い方を理解した。どうやら俺は土のエレメントの力を解放する技・・・オーブグランドカリバーを習得したようだ。

「残り3つのエレメントを・・・こうやって習得しろってことか」

 

 集めにいくか。残り3つのエレメント!

「じゃあなシューティー。もうスリはするなよ」

 

「何だよ?もう行くのか?」

 

「あぁ、他のエレメントも集めないといけないミッションがあるからな」

 

 俺はそう言いつつこの星を去ろうと光を広げるとシューティーが光の中に入って来た。

「せっかくだ!オイラも行くぜ。どうせここにいてもスリし続けるだけのつまらない人生だ!それよかだったらアンタと一緒に旅に出てトレジャーハンターをするほうが楽しそうだ!」

 

 別に俺はトレジャーハンターじゃないんだが・・。

「はぁ・・・しょうがないな」

 

 いまいち納得しきれてないが・・・一人旅するよりはと思ってしまった俺はシューティーとともに次の宇宙へと飛び去った。

 

 

 のちに俺はこの判断を激しく後悔するとは・・・この時の俺は想像もしていなかった。

 




次回「よっしゃラッキー!究極の救世主」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

よっしゃラッキー!究極の救世主

~~ガイ~

 

「よし、到着したな」

 

 土のエレメントを手にした俺は惑星コボルで付いてくると言い出したシューティーとともに火のエレメントがあるという火山惑星ガヌンへとやってきた。

「うわぁ~、この星はなんつうか蒸し暑いなぁ~」

 

「まぁここは火山惑星って言われてるぐらいあちこちで火山活動が活発な星だからな。気をつけろよ」

 

 俺とシューティーはひとまずこの火山道を抜けようと歩いていると・・・大地が揺れた。

「地震?それとも噴火か?!」

 

「いや・・・あれは・・」

 

 山の下を見て見ると胴体が赤く、右腕が銀に右脚が金。左腕が翼がついたピンクに左脚がオレンジという構成パーツがバラバラなロボットが巨大な歯車のようなものを背負ったロボット3体を相手に戦っていた。

「あれは・・・いったい?」

 

 

 

~~ラッキー~

 

 俺はラッキー。ジャークマターからこの宇宙を取り戻すために仲間と一緒に戦っているんだ。

「さっすがに3体同時は厄介ですね」

 

「だが勝てない相手じゃない」

 

 ワシピンク・・ラプターの言葉にサソリオレンジのスティンガーが反応した。そうした途端に俺達のボイジャーが合体してるキュウレンオーが2体のモライマーズに掴まれちまった。

「ちょ~とピンチかもね」

 

「動けん・・」

 

 テンビンゴールドとヘビツカイシルバー、バランスとナーガも動けなくされたことを気にしていると左腕を掴んでいたモライマーズが倒れた。

「苦戦してるな。伝説的助っ人に来たぞ」

 

「よっしゃラッキー!助かったぜツルギ!」

 

 ホウオウソルジャーこと鳳ツルギが助っ人に来てくれたおかげでもう1体も振りほどけた。

「このまま反撃だ!・・・ぬぁっ!?」

 

 反撃しようとした途端、キュウレンオーの両足が動かなくなっちまった。

「スティンガー!ナーガ!」

 

 俺は2人に呼びかけてみたけど・・・2人の反応がない。俺はキュウレンオーの両足を見て見ると、キュウレンオーの両足がブロンズ像のようになってしまっていた。

「ナーガ!?」

 

「スティンガーさん!?」

 

 ラプターとバランスも2人の異変に気づいて声をかけたけどやっぱり反応がない。それどころかキュウレンオーはブロンズ化は未だ侵攻していて、とうとうシシボイジャーもブロンズ化し始めた。

「ラッキーさん!急ぎキュウレンオーから脱出を!」

 

「くっ、分かった!」

 

 俺がシシボイジャーから脱出するとラプターとバランスはそれぞれキュウボイジャーの合体を解除してブロンズ化から逃れる。

「ちっ、流石に全員とまでは行かなかったか」

 

「犯人はお前か!」

 

「気づかれたか。・・まぁ2人をブロンズにしただけ十分か」

 

 サソリボイジャーの近くに青い変な奴がいたことに気づいた俺は剣を持ってそいつに駆け出す。だけどそいつは俺が近づいてきたことに気づくなり逃げていきやがった。

「くそっ!逃げられちまった」

 

「ラッキーさん!ツルギさんがピンチです!」

 

「ツルギが?」

 

 俺はツルギの乗っているギガントホウオーを見上げてみると、その片足から少しづつブロンズ化が進んでいたことに気づいた。さっきの奴が逃げ際に何かしていったんだ。

「くっ・・思うように動けん・・」

 

 このままじゃツルギまでやられちまう。そう思った瞬間・・・

「シュァ!!」

 

空から光り輝く星がギガントホウオーの前に降り立った。

「っと。・・・なんてこった。こいつはとんだ伝説だぞ」

 

 ブロンズ像になりつつあるギガントホウオーから脱出してきたツルギは光から出てきた巨人を見上げて驚いている。

「ツルギさんはあの巨人を知っているんですか?」

 

「あの巨人はウルトラマン。俺様の伝説よりも古くからある伝説の戦士だ」

 

 300年前救世主として伝説を残したツルギがもっと古い伝説っていうなんて・・・本当に凄い伝説なんだな。

「宇宙の危機に現れる光の巨人・・・ウルトラマン。俺もこの目で見るのは初めてだ」

 

 光の巨人の伝説、ウルトラマンか。

 

 

 

~~ガイ~

 

「シュァ!!」

 

 オーブへと変身した俺はカラフルなロボットを操作している奴らへと加勢することを決め、オーブカリバーを歯車を背負ったようなロボ達へと振るう。1体1体はさほど強くはないが3体同時に相手をするとなると少し面倒だな。

「ガイ!俺の星で手に入れた新しい力を使ってみろよ!」

 

 戦いを見上げてるシューティーは新しい力を使ってみろと俺に叫んでくる。そうだな、せっかくだから使ってみるか。

「ッ!」

 

 歯車のようなロボットのミサイルをバリアで防いだ俺はカリバーのリングを回して土のエレメントの力を解放する。

「オーブグランドカリバー!!」

 

 土の力を解放したカリバーの刃を地面へと突き立てる。その刃から発生した2つの光線は地面を伝うように左右から3体のロボット達へと向かって行く。その2つの光線を受けた2体が爆発して、1体だけが残った。

「シュァ!!」

 

 その残る1体に向けてオリジウム光線を放ち撃破した俺は変身を解いてシューティーの元へと戻ろうとすると・・・

「うわぁぁぁぁぁっ!?」

 

 シューティーの悲鳴が聞こえた。

「シューティー!」

 

 俺はすぐさま変身を解いてシューティーのもとへと戻ると・・・肩から下がブロンズ像に変化してしまっていたシューティーがいた。

「あの青いのに・・・やられちまった。わる・・い・・」

 

 シューティーは犯人へ視線を向けながら完全にブロンズ像になってしまう。ブロンズ像にできる宇宙人といえば・・・あの宇宙人だよな。

「何故シューティーをブロンズ像にした。ヒッポリト星人!」

 

「何故と聞かれると・・・目撃者は消すのは基本だから、ぐらいだな」

 

 ヒッポリト星人。地獄星とも言われるほど苛烈な環境のヒッポリト星の住民で、個体によってはヒッポリトカプセルとかいう道具を使わなくても触れた相手をブロンズ像へと変化させられると聞くが・・・こいつがそのタイプだったか。

「とはいえキュウレンジャーとウルトラマンの2つの戦力を相手に1人で挑むほど俺も愚かじゃない。火の宝玉を手に入れることが最重要なのでな」

 

 そう告げたヒッポリト星人は煙幕で目くらましをしてきたので、俺はブロンズ像にされるのを避けるために煙よりも後ろへと下がる。そして十数秒ほどで煙がなくなった場所には既にヒッポリト星人の姿がなくなっていた。

「火の宝玉・・・あのヒッポリト星人もエレメントを狙ってるのか」

 

「・・・探したぞ。光の戦士」

 

 背後から声が聞こえたので振り返ってみると2人の人間と1人の機械生命体。そして1人のアンドロイドが立っていた。

 

 

 

~~ラッキー~

 

「初めましてガイ。私の名はショウ・ロンポー。話はラプターから伺ってるよ。みんなを助けて下さりありがとう」

 

「こちらこそどうも」

 

 ウルトラマンオーブに変身していたガイをオリオン号に招き入れると、指令はガイと握手を交わした。

「確認させて頂きたいんだけど・・・スティンガーとナーガはそのヒッパタク星人を倒せば元に戻るんだね」

 

「指令。ヒッポリト星人です」

 

「・・・ヒッポリト星人を倒せば元に戻るのだね?」

 

 少し真面目かと思ったが名前を間違えてる辺りやっぱりいつもの指令だ。

「はい。ヒッポリト星人を倒すことでブロンズ化は解除されるはずです」

 

「ですがそのヒッポリト星人の逃げた場所は・・・」

 

「確かに逃げ帰った場所は分からないが、あいつが手に入れようとしているのは分かります」

 

「何だって。それは本当かい?」

 

 ショウ指令の言葉に頷いたガイは短剣を取り出してくる。

「これはオーブカリバーと言って俺がウルトラマンに変身する時に用いるアイテムです。俺はこれに4つのエレメントを刻むために別宇宙を巡る旅をしていてここに来たんです。さっきの星には火のエレメントがあるんですけど・・・あのヒッポリト星人も何故かエレメントを狙っていたんです」

 

「よっしゃラッキー!つまりそのエレメントを目指せばヒッポリト星人もやってくるってことだろ!ならやることは1つだ!!」

 

「そうだね。・・・ガイ君。私達にそのエレメント探しを協力させてもらってもいいかい?」

 

「むしろこちらが助かります」

 

 俺達キュウレンジャーがガイのエレメント探しに協力することが決まると、ショウ指令はさっそくと言わんばかりに出撃メンバーを決めるルーレット・・・キューレットを取り出してきた。

「それじゃさっそく今回のメンバーを決めるよ!」

 

 キュータマをキューレットに入れて指令がそれを回す。そしてそこから出てきた五個のキュータマでメンバーが決められるんだ。

「今回のメンバーは僕ちんにラッキー、ツルギとハミィに小太郎だね」

 

「コタロウか。ベゼルブの時に同じ名前の地球人と行動を共にしたことがあったが、こっちの小太郎はシューティーと同じぐらいな年だな」

 

 どうやらガイは別の宇宙で小太郎と似たような名前の奴と一緒に行動したことがあるらしく、その名を聞いて懐かしんでいた。

「ラプターはオリオンシップからエレメントの座標を教えてくれ。ガルとバランス、チャンプは万が一のことも考えてブロンズにされてるナーガ達の見張りを頼む」

 

 ツルギの言葉に4人が頷く。

「ちょっと~そういうのは指令の僕ちんの仕事でしょ~。はぁ・・まぁいいや。とりあえずその通りってことでさっそく作戦開始だ!」

 

 

 

 

~~ガイ~

 

「ラプターが波長から割り出したポイントはもう少し先の辺りらしいな」

 

 わし座系のアンドロイドだというラプターがオーブカリバーの波長から火のエレメントがある場所を割り出してくれた場所へと歩いていた。

「それにしても熱いねぇ。ねぇ一休みしない?」

 

 絶賛活動中の火山近くを歩いてることもあって汗も酷く、指令は一旦ここらで休憩を提案してきた。

「そうだな。エレメントは火山口の辺りのようだからもっと熱くなるだろう。ここらで水分を取ったほうがいい」

 

「キタコレ!お水お水っと」

 

「っ!ちょっと待ってくれ。大勢の足音が聞こえる」

 

 みんなが休憩に入ろうとしたタイミングで俺は大勢の足音がこちらへと近づいてきていることに気づいた。すると身構えている俺達の前にヒッポリト星人と20人ぐらいの戦闘員たちがやってきた。

「キュウレンジャーとウルトラマンか。お前達がここに来るという事は・・・やはりお前達も火の宝玉が目的か。ならば貴様らはここで俺が足止めをするしかないな」

 

 足止めってことはあいつの仲間も火のエレメントに向かってるってことか。

「ラッキー、ガイ。あいつ等は俺様達に任せてお前達は先に行け」

『ホウオウキュータマ!』

 

「足止めの足止めだ。2人共行くよ!」

『リュウキュータマ!』

 

「「オッキュー!」」

『カメレオンキュータマ!』

『コグマキュータマ!』

 

 ツルギは盾に収められている剣に、ショウ指令は杖に、そして小太郎とハミィは左腕につけているガントレットにキュータマをセットする。

『カモンザチェンジ!』

『『『セイザチェンジ!』』』

「「「スターチェンジ!!」」」

 

「ガリョウテンセイ!」

 

 それぞれのトリガーを引いた4人は星を纏うかのようにそれぞれ戦士としての姿へと変身を遂げる。

「シノビスター!カメレオングリーン!」

 

「ビッグスター!コグマスカイブルー!」

 

「ドラゴンマスター!リュウコマンダー!」

 

「スペースバスター!ホウオウソルジャー!」

 

 ツルギ達が変身した戦士達はそれぞれ名乗りを上げる。

「究極の救世主!宇宙戦隊!」

 

「「「「キュウレンジャー!」」」」

 

 4人がポーズを決めつつ全員でキュウレンジャーと名乗るとホウオウソルジャーが手に持っている剣の刃をヒッポリト星人へと向けた。

「括目せよ。伝説が始まるぜ!」

 

「すまん!任せた!」

 

 俺とラッキーは4人にヒッポリト星人達の相手を任せて先を急ぐ。

 

そしてもうすぐレーダーに反応があった場所に到着するというところに2人の異星人が俺達の目の前に降りてきた。

「は~い!君がガイ君だねぇ!依頼主から君の話は聞いているよぉ!僕はガピヤ星人のサデスだよ!」

 

 何だかテンションの高いのが話しかけてきた。

「君ってウルトラマンなんだって?強いんだって?僕を熱くさせてくれよぉぉ!!」

 

 勝手に盛り上がっているサデスは手にした光線銃で俺を撃って来たので、俺はそれを避ける。

「ほらほら!避けるだけじゃ気持ちが伝わってこないよ!」

 

「ガイ!」

 

 ラッキーは俺に手を貸すつもりで駆け出そうとしていると、もう1人の異星人がその行く手を阻んだ。

「お前は・・・?」

 

「儂はジャークマターのロージック。ヒッポリト星人とサデスの雇い主だ。ウルトラマンの相手はあの者に任せるとして、こちらは予定通りキュウレンジャーを相手にさせてもらおう」

『シシキュータマ!』

『セイザチェンジ!』

「スターチェンジ!」

 

 ラッキーもガントレットにキュータマをセットするとすぐさまトリガーを引いてキュウレンジャーとしての姿へと変わる。

「スーパースター!シシレッド!」

 

 シシレッドへと変身して名乗りを上げたラッキーは3つの武器を組み上げて剣にすると、その刃をロージックへと向ける。

「お前の運!試してやるぜ!」

 

「若造め。試せるものなら、試してみろ!」

 

 シシレッドとロージックは互いに剣を交えながら問いかける。

「お前らは何で火のエレメントを狙ってる!」

 

「あの火の宝玉は強力な力を秘めている。それを利用したいと思うのは当然だろう?あの力さえあれば俺はジャークマターで更にのし上がることができるからな」

 

 やっぱり力を秘めてるものが狙われるのはどの宇宙も同じか。

「お前の出世のために火のエレメントを譲れるかよ!」

 

「おっ!剣で勝負かい!いいよ!剣で熱く語り合おう!!」

 

 オーブカリバーを取り出した俺は刃に力を込めて長剣に変化させる。するとサデスは意気揚々とナイフを取り出してきた。それにしてもこいつ・・・暑苦しいな。

 

 

 

 

~~ツルギ~

 

「残るはお前だけだ。ヒッポリト星人」

 

 インダベー達を全員倒した俺達はヒッポリト星人を四方から取り囲む。

「ならばこれでどうだ?」

 

ヒッポリト星人はいきなり数十メートルはある巨大な姿に変化する。

「行くぞ2人共!」

 

「「オッキュー!!」」

『『『セイザゴー!』』』

『リュウテイオー!』

 

 ショウ指令のリュウボイジャーと小太郎のコグマボイジャー。そしてハミィのカメレオンボイジャーが合体してリュウテイオーとなる。

「まさに龍が翼を得るが如し」

 

「お前もブロンズ像にしてやる!」

 

 ギガントホウオーがブロンズ像にされちまってる俺はその戦いを見上げる。奴自身の実力はフクショーグンと大差ないが、あのブロンズに変えちまうって能力が何よりも厄介だ。

「悪いが君に触られたくはないのでね、距離を取らせてもらうよ」

『ギャラクシー!』

 

「「「リュウテイオー!メテオブレイク!」」」

 

 開幕から必殺技をぶちかましたリュウテイオーの攻撃を受けたヒッポリト星人はそれなりのダメージを受けて膝をつく。流石にあまりダメージを与えてない初手からメテオブレイクじゃトドメまでは持って行けなかったか。

「ならばこうだ!」

 

 リュウテイオーの合体が解除されたかと思うと、ショウ指令の乗るリュウボイジャーが獲物を締め上げる蛇のようにヒッポリト星人へと絡みついた。

「さぁ!ブロンズ化できるものならやってみろ!!」

 

 あの状況でブロンズ化させてしまえばヒッポリト星人は身動きできなくなるが・・・

「浅はかだったな!」

 

 ヒッポリト星人は俺達と同じ大きさに戻ってリュウボイジャーの締め上げから逃れる。

「そんじゃ後はよろしく!」

 

 ブロンズになりつつあるリュウボイジャーからショウ指令の声が聞こえてくる。・・・なるほど。そういう作戦か。

「ふん、ただ自分からブロンズになりに来ただけではないか」

 

「いいや、悪くない策だったぞ。おかげでそのサイズのお前が目の前だからな」

『『『ギャラクシー!』』』

 

「「オールスターフィニッシュ!」」

 

「フェニックスエンド!」

 

 それぞれキュウボイジャーから降りてきた小太郎とハミィとともに必殺技を撃ちこむ。ショウ指令がここまで考えていたかは分からないが、そのサイズに戻ってくれたおかげで俺様達の攻撃が通ったぞ。

「グッドラック!」

 

 ヒッポリト星人が爆発をするとブロンズになりつつあったリュウボイジャーが元通りになった。おそらく今頃はスティンガー達もブロンズ化が解け始めているだろう。

「後はお前達に任せたぞ。ラッキー、ガイ」

 

 

 

 

~~ガイ~

 

 俺がサデスと剣のせばつり合いをしているすぐ近く、シシレッドはロージックに苦戦を強いられていた。

「何でお前が火のエレメントを狙ってる?」

 

「先ほども言ったが火の宝玉に宿るエネルギー量は相当なものだ。それでジャークマターで伸し上がるため・・・否、ジャークマターのトップへと昇り詰めるためだ!」

 

 トップとは随分とデカく出たな。

「究極の救世主だかなんだか知らんが、ジャークマターに挑むとは愚かなことを。さぁ、あの世で語るがいい。いずれドン・アルマゲからその座を奪い、この宇宙を支配する者の名をな」

 

「ふざけんな!宇宙は誰のものでもない!宇宙はみんなのものだ!」

 

 そう告げたシシレッドは他のキュータマよりも大き目な天体型のキュータマを取り出した。

『ワッツアップ!サイコーキュータマ!』

『スーパー!セイザチェンジ!』

「スターチェンジ!」

 

 他のキュータマよりも大きめなキュータマをガントレットへとセットしたシシレッドは星々の輝きを身に纏って白い戦士へと変わる。

「ミラクルスター。シシレッドオリオン」

 

 しし座とオリオン座、2つの正座の力を身に纏った戦士ってことか。

「お前の運、試してやるぜ」

 

 剣を手にしたシシレッドオリオンは背中のマフラーで相手を絡めとると自分へと引き寄せる。

「何のぉ!!」

 

 引き寄せた先に待ち構えていた剣をギリギリで避けたロージックはすぐさまシシレッドオリオンへと駆け出した瞬間・・・それぞれの星座の紋章から大量の武器が出現した。

「ぬぁ?!」

 

 ロージックはショウ指令の持っていた杖から放たれた光弾を受けて後ろへと飛ばされると、それぞれの武器が一斉にロージックへと飛んでいき攻撃を仕掛ける。

「トドメだ」

『オールスター!』

 

 シシレッドオリオンがサイコーキュータマを操作すると周囲に宇宙の星空を模したエネルギーが広がった。

『オールスターギャラクシー!』

「インフィニッシュブラスト」

 

 そしてその星々の輝きが一斉にロージックへと放たれると、星々の輝きを受けたロージックは爆発して残るはサデスのみとなった。

「雇い主が倒れたがまだ続けるか?」

 

「何言ってるんだい?僕は熱い戦いがしたいから雇われていたんだよ!熱い戦いができるなら今更雇い主なんてどうだっていいんだ!さぁ!熱い戦いを続けよう!」

 

 雇い主の生死などどうでもいいと語ったサデスはナイフを構えて俺へと駆け出してくる。俺はカリバーの柄を両手で握って身構えていると・・・

「のぅ!?」

 

 俺のすぐ手前で少し大きめの石に躓き、頭から俺へと突っ込んできた。

「・・・・」

 

 それを避けるとサデスはそのまま俺の背後の火山口へと落下していき、マグマの中にダイブしてしまった。

「あつ、あっつ!燃える燃える燃えて来てるよ!うぉぉおぉぉぉ!?」

 

 サデスはどんどんマグマの中に沈んでいく。俺・・・避けただけでほとんど何もしてないぞ。

 

 

 

 

 

 ツルギ達と合流後、俺達は6人で周囲にそれらしいものがないか探し出した。

「キタコレ!これが火のエレメントってヤツかな?」

 

「よっしゃラッキー!やったなハミィ!」

 

 ハミィが見つけた赤い宝玉を俺の方へと持ってきてくれるとラッキーとハミィがハイタッチをする。

「それで・・・その宝石をどうするの?」

 

 小太郎は火のエレメントをどうするのかと聞いてきたのでオーブカリバーを取り出した。

「このエレメントをオーブカリバーに刻むんだ」

 

 ハミィから受け取った火のエレメントをオーブカリバーへとかざすと、エレメントはオーブカリバーへと入っていき火のエレメントが刻まれた。

「よし。これで残るエレメントは2つだな」

 

 残るエレメントは水と風の2つだな。

「お~い!ガイ~!」

 

 火山を降りるとブロンズ化が解かれたシューティーが同じくブロンズ化が解かれたキュウレンジャーたちとともにやってきた。

「その様子じゃもうエレメントは手に入れたんだな」

 

「あぁ、次は風のエレメントのところに行こうと思う」

 

 風のエレメントのある宇宙へ向かうことを決めた俺はキュウレンジャー達へと振り向く。

「ありがとうキュウレンジャー。みんなのおかげでこの火のエレメントを手に入れることができた」

 

「お礼を言うのはこっちだぜ。ガイのおかげでナーガとスティンガー元に戻れたんだからな」

 

 互いにお礼を言いあった俺とラッキーは握手を交わす。

「また会おう、キュウレンジャー」

 

「あぁ、それまでに俺達はこの宇宙をジャークマターから取り戻す。平和な宇宙で会おうぜ!」

 

 ラッキーの言葉に頷いた俺はオーブカリバーを空へと掲げ、俺とシューティーはそれから放たれた光に包まれる。

「一緒に戦えてラッキーだったぜ!!」

 

 俺達は空へと浮かび上がりながらもキュウレンジャーが手を振るうのが見えなくなるまで彼らを見ていた。

 




次回「アイムア仮面ライダー」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アイムア仮面ライダー

~~ガイ~

 

「よっしゃ到着!」

 

 俺とシューティーは風のエレメントがある次元宇宙の地球へとやってくると、シューティーはさっそく周囲を見渡す。

「へぇ!随分と色とりどりな星じゃんか!オイラの採掘惑星とはまるで違うな!」

 

 シューティーが見たことある惑星は採掘惑星と火山惑星だけだったからな。こういった星を見るのは新鮮なのだろう。

「いてっ・・・なんか棘みたいなのが刺さったような・・」

 

 何かが刺さったような感覚を感じたらしいシューティーは首筋をさすった瞬間・・・

「うっ・・・!」

 

 いきなりシューティーが倒れた。

「シューティー?どうしたシューティー!!」

 

「うぅ・・・」

 

 何者かに毒を盛られたのか?いや、俺達はこの宇宙に来て間もない。この地球で俺達を狙うようなのはいないだろ。そう考えると無差別に行った行為で・・・偶然シューティーがその被害者になったと考えるのが妥当か。

「永夢あそこ!人が倒れてるよ!」

 

 1組の男女がシューティーが倒れている事に気づいてこちらへと走ってくる。

「貴方達は?」

 

「僕は宝条永夢。ドクターです!」

 

 ドクター・・医者か。

「私はポッピーピポパポ。って永夢!これ見たことないウイルスだよ」

 

「確かに見た事ないバグスターウイルスだ」

 

 髪がピンク色のカラフルな衣装を着た女性・・・ポッピーは道具でシューティーをスキャンするも、それは彼らにとっても未知なウイルスだったようだ。

「だけどまずは患者からバグスターを切り離さないと。緊急オペを始めます」

 

 そう言った永夢は黄緑色の道具を腰に装着して桃色のカセットのようなものを取り出した。

「えっ?ここで?」

 

「大丈夫。少し下がってて」

 

『マイティアクションX!』

「患者の運命は・・・俺が変える!変身!」

『レッツゲーム!メッチャゲーム!ワッチャゲーム?ワッチャネーム?アイムアカメンライダー!』

 

 永夢の性格が変わったかと思うと、永夢はカセットを黄緑色の道具にセットしてその姿をずんぐりむっくりな白い姿になった。

「えと・・その姿は?」

 

「これか?この姿は仮面ライダーエグゼイド。レベル1だ!」

 

 よく分からないがその姿がシューティーからウイルスを取り除くための手術をするための姿だってことは分かった。

『ステージ!セレクト!』

 

 周囲の風景がいきなり変化して海岸になる。ワープ?いや、ネクサスさんのメタフィールドのように特殊な空間を展開したのか。

「っ?!」

 

 シューティーの身体は湧き上がって来た肉団子のようなモンスターへと変貌してしまう。これが2人の言っていたバグスターっていうウイルスか。

「タァッ!」

 

 エグゼイドはハンマーでバグスターの頭部を叩きつつバグスターの背後に回り込むとそこにあったブロックを殴って壊して、その中にあった大きいメダルを取り込んだ。

『分身!』

 

「「「「「いっくぜぇ!!」」」」」

 

 5人に分身したエグゼイドはそれぞれ違う動きでバグスターを翻弄しつつも確実にダメージを与える。そして分身が解除されて1人に戻るとまた次のアイテムを取り込んだ。

『マッスル化!』

 

「オラァァァッ!!」

 

 一瞬だけ膨張したエグゼイドは力強く振り下ろしたハンマーをバグスターに叩き込む。するとバグスターが爆発して、爆炎からシューティーが出てきた。

「シューティー!」

 

「待って!まだ手術は終わってないよ!」

 

 俺はシューティーに駆け寄ろうとするとカラフルな女にそれを止められた。

「切除は終わったけど、バグスターがあの子の身体から分離しただけでまだ倒せてないの」

 

 彼女がそう言った途端、シューティーの身体からは髑髏怪獣レッドキングのようなものが出てきた。

「まるで怪獣みたいなバグスターだね」

 

「あぁ。未知のバグスター相手でも負けるつもりはない。大変身!」

『マイティジャンプ!マイティキック!マイティアクションX!』

 

 エグゼイドの装甲が吹き飛んだかと思うと・・・そこからはピンク色のボディに8等身の姿へと変化した。

「レベル2で勝負だ!」

『ジャッキーン!』

 

 ハンマーを剣に変形させたエグゼイドはそれでレッドキング似のバグスターに斬りかかるも、その重たい拳を喰らって激しく吹き飛ばされた。

「永夢!」

 

「いってぇ~。レベル2じゃ無理か」

 

「当然だ。レッドKINGのレベルはXに設定しているからな」

 

「誰だ!」

 

 俺は背後から聞こえてきた声に反応して振り返る。そこには亡霊のような異星人であるゴース星人が立っていた。

「何だあの植物みたいなの?バグスター・・・じゃないよな?」

 

 宇宙人の存在を認知していないこの星の人間にはそりゃよく分からない存在だよな。

「私はゴース星人ガウラス。そのバグスターをそいつに感染させたのは私だ」

 

「お前が犯人か!」

 

 オーブカリバーを取り出した俺はそれでゴース星人へと斬りかかろうとすると、俺より先に白い継ぎ接ぎのボディをした仮面ライダーがエグゼイドと同じ武器で斬りかかった。

「ようやく見つけたぞぉ!!貴様が私の製作中だったガシャットを盗んだ犯人か!!」

 

「黎斗!」

 

「黎斗さん!」

 

「檀黎斗神だ!」

 

 クロトと呼ばれていたその仮面ライダーは檀黎斗神だと訂正しながらも刃を避けるゴース星人に何度も剣を振るっている。

「いったいどうしてここに?」

 

「昨晩何者かにハッキングを受けてな、製作中だった大怪獣バトルのゲームデータが盗まれてしまったのだ。私はそのハッキングした相手を探っていたのだが・・・まさか宇宙人が私のゲームデータを盗んでいたとはな」

 

 クロトという人物はゴース星人に剣を振るいながらもデータが盗まれたことを少し嬉しそうに語る。

「黎斗嬉しそうだね」

 

「私のゲームは地球を飛び出して宇宙に認められたのだからな!嬉しいに決まっているだろう!・・・だが私の開発したゲームを盗み出すというのは気に入らん!そのゲームは私のだぁ!!」

 

「うっとおしい。レッドKING!一旦この場は引くぞ!」

 

 ゴース星人の命令でレッドKINGは地面を強く叩き土煙を周囲に広げると・・・その場からワイアール星人とレッドKINGの姿は無くなっていた。

「逃げられたか」

 

 変身を解いた永夢とクロトは俺達の元へとやってくる。

「あの宇宙人への反応を見る限り君らもこの星の人間ではないのだろう。事情は・・・おそらく知らないだろうが話を聞かせてもらおうか」

 

 

 

~~永夢~

 

「なるほど。風のエレメントというものを探しに地球に」

 

 僕はガイさんからそれぞれの属性のエレメントを巡る宇宙の旅をしていることを聞かされた。何だかRPGみたいな話だ。

「ウルトラマン・・・宇宙にはそういった存在もいるのか」

 

 黎斗さんはガイさんの語る『ウルトラマン』という存在に興味を抱いていた。この人の事だ。きっとウルトラマンを主題としたゲームを作ろうとするに違いない。

「そちらの話も大方理解しました。この地球にはゲーム医療というものが存在して永夢達CRのドクターはそのゲーマドライバーとガシャットと呼ばれる道具でゲーム病と呼ばれる病気を治療しているんですね」

 

 ガイさんの言葉に僕は頷く。するとガイさんは黎斗さんの方に視線を向けた。

「それでその大怪獣バトルというのはどのようなゲームなんですか?」

 

「うむ。大怪獣バトルというのは私がバグスターとなる前に人気テレビ番組とコラボが決まり制作することが決まったゲームだ。しかし私が社長ではなくなったことでその企画がお蔵入りしていて、不覚にも私もつい先日までそのことをすっかり忘れていた。そのことをふと思い出した私は再び大怪獣バトルの製作を開始して後はガシャットにデータを送り込めば完成というところで・・・」

 

「ゴース星人にデータが盗まれたってわけだね」

 

 ポッピーの言葉に黎斗さんは頷いた。

「私の企画段階ではレベルはその番組のシリーズが51周年ということで51にしていたはずだが・・・あの宇宙人は私の許可なくゲームデータに手を加えたようだ」

 

「たとえ相手がレベルXでも宇宙人だとしてもやることは変わりません。患者は僕が救います」

 

 僕はレッドKINGのウイルスに感染しているシューティー君へと視線を向ける。たとえ地球人じゃなくても患者なら救うだけだ。

「永夢!緊急通報だよ!目撃情報からしてレッドKINGだと思う!」

 

「分かりました!すぐ向かいます!」

 

「俺も・・・!!」

 

 ポッピーから緊急通報があったことを聞いた僕はガイさんとともに緊急通報があった場所へと向かうと・・・そこではゴース星人の指示でレッドKINGが町を破壊して歩く姿があった。

「仮面ライダーエグゼイド、やはり来たか。・・・まだ目的は達成されていないというのに・・。レッドKING、ここは任せた」

 

「待て!」

 

 僕らはゴース星人を追いかけようとするとレッドKINGにそれを阻まれてしまう。

「・・・まずはレッドKINGを倒さないとダメか」

 

「ならばあれの切除は俺達に任せろ」

 

 後ろから聞こえた声と足音に反応して振り返ると、そこにはブレイブ・ファンタジーゲーマーレベル50とスナイプ・シミレーションゲーマーレベル50にレーザーターボ・シャカリキバイクゲーマーレベル0の3人がやってくるのが見えた。

「ポッピーと神から話は聞いたぜ。俺らも乗ってやろうじゃないの」

 

「エグゼイド、お前ははやく大元をぶっ倒してこい」

 

「すみません。お願いします!」

 

 飛彩さん達にレッドKINGを任せた俺達はワイアール星人を追いかけた。

 

 

 

~~ガイ~

 

「えぇい!うっとおしい!」

 

するとゴース星人は逃げるのを観念したようにいきなり俺達に振り返った。

「お前を倒してこれ以上感染が広がるのを食い止める!患者の運命は・・・」

『マイティブラザーズXX!』

 

「「俺達が変える!!」」

『ダブルガッシャット!』

 

 永夢から声が二重に聞こえたかと思うと目がそれぞれ橙色と青に輝いた。

「だ~~~い・・・変身ッ!」

『ダブルアップ!』

『俺がお前で!お前が俺で!ウィァー!マイティ・マイティブラザーズXX!』

 

 変身時の発光から出てきた永夢は・・・橙色のエグゼイドと蒼いエグゼイドの2人になっていた。分身?・・・いや違う。完全に2人になっている。どうなっているんだ?

「待ってたぜ永夢。ようやく出番だな」

 

「それじゃ行こうかパラド!」

 

「「超協力プレーでクリアしてやるぜ!」」

『ステージセレクト!』

『ガシャコンブレイカー!』

『ガシャコンキースラッシャー!』

 

 どうやら橙色側はパラドという人格らしく、蒼い方が永夢の人格のようだ。2人のエグゼイドは戦いの場を宇宙へと変えるとそれぞれ剣を手にしてゴース星人へと斬りかかる。

「くっ・・・かくなる上は・・」

 

 即座に2人がかりでは不利と判断したゴース星人は手に持っていた大怪獣バトルのガシャットを自分へと突き刺して取り込んだ。

「私自身が大怪獣となり・・・お前達を葬り去ってくれるわ!」

 

 ゴース星人は一瞬でデータ化するとともにその姿を暴君怪獣タイラントのような姿に変化させた。

「ガァァァァァ!!」

 

「何だかあれ、理性無くなってないか?」

 

「そうっぽい。パラド!レベルを上げていこう!」

 

「そうこなくっちゃな!」

 

 2人のエグゼイドはタイラントと一旦距離を取るとそれぞれ違うガシャットを取り出す。

「「Max大変身!」」

『最大級のパワフルボディ!ダリラガーン!ダゴズバーン!マキシマムパワーX』

『赤い拳強さ!青いパズル連鎖!赤と青の交差!パーフェクトノックアウト!』

 

 蒼いエグゼイドはロボットのようなものに乗り込んでパワフルなボディなエグゼイドになると橙色のエグゼイドは赤と青の交差した戦士の姿になった。

「マキシマムマイティゲーマーレベル99と・・」

 

「仮面ライダーパラドクス。パーフェクトノックアウトゲーマーレベル99だ」

 

 最大レベルとなった2人は同時に拳を叩きこむ。その一撃に怯んだタイラントは口から炎を吹き出してきた。

「そう来たか!」

『反射!』

 

「オラァァァッ!」

 

 前へと出たパラドクスはアイテムを使用してタイラントの炎を跳ね返すとエグゼイドが右腕を伸ばして殴りつける。

「凄いコンビネーションだな」

 

「当然だ。俺達は2人で1人だからな」

 

 2人で1人・・か。そう言えばさっきガシャットからも『俺がお前でお前が俺で』とか聞こえていたな。

「パラド。フィニッシュは必殺技で決まりだ」

『MAXIMUMMIGTTY!CRITICALBREAK!』

 

「あぁ!心が躍るな!」

『PERFECTKNOCKOUT!CRITICALBOMBAR!』

 

 エグゼイドとパラドクスは同時にキックを叩き込むと、タイラントは爆発してワイアール星人は本来の姿に戻る。

「あれ?ゲームクリアが出ないぞ?」

 

「こ・・・これで勝ったと思うなよ。大怪獣バトルのゲーム病を拡散させて地球を支配する計画は捻挫したが・・・貴様らだけでも葬り去ってくれる!」

 

 しつこく立ち上がったゴース星人はガシャットを空へと掲げると人間サイズのタイラントのようなゲームキャラではなく、本物の巨大なタイラントへと変身した。

「うわデッカ・・!」

 

「まさかあのゲームから本物の怪獣を呼び出すとはな。後は俺に任せろ!」

 

 オーブカリバーを空へと掲げた俺はオーブへと変身してタイラントの前に降り立った。

 

 

 

~~飛彩~

 

「フンッ!」

 

 俺のメスに胸部を切られたバグスターはその場に背中から倒れ込む。

「いくらレベルXとはいえこちとらウイルスを抑制できる俺と魔王サマがいるんだ。負けるわけねぇだろ」

 

「おい、俺をハブるな」

 

 元無免許医は監察医にのけ者にされたことに対して口を出すとバグスターはまだ立ち上がってきた。

「やっぱ見た目通りタフだな」

 

 監察医は存外生命力の高いバグスターに呆れてため息をついた途端、バグスターの姿が黒く変色した。

「何だこいつ。黒くなり・・・うおっ!?」

 

 黒くなったことに反応した元無免許医はバグスターに殴り飛ばされて強く壁へと叩きつけられてしまった。ただ色が変化したのではなく、強化されたということか。

「正真正銘の未知・・・レベルXってことかよ」

 

 タイヤを投げつけた監察医だったが、そのタイヤはバグスターに殴り返されてしまう。

「っと・・・。ありゃパワーだけじゃなくて外殻の硬度も変わってるぞ」

 

 殴り返されたタイヤをキャッチした監察医は硬度も変わっていると診断する。

「・・・たかが力と硬さが上がっただけだろ」

 

「そうだ。それなら騒ぎ立てるようなことではない」

 

 このような相手、俺達は何度も乗り越えてきたのだからな。

「術式レベル100!」

『辿る歴史、巡る歴史、タドルレガシー!』

 

「とっておきを使ってやる。変身!」

『ライダークロニカル』

『アガッチャ』

『天を掴めライダー!刻めクロニカル!今こそ時は極まれり!』

 

「そういう流れ?いいぜ。ノッてやるよ」

『爆走独走激走暴走爆走バイク!』

『アガッチャ!』

『シャカットリキットシャカリキスポーツ』

 

「オペを終わらせるぞ」

『TADOL!CRITICALSTRIKE!』

 

「これでミッションコンプリートだ」

『BANBAN!CRITICALFIRE!』

 

「ノリノリで行こうじゃないの」

『BAKUSOU!CRITICALSTRIKE!』

 

 元無免許医がバグスターへと向けて銃撃を撃ち込むと、監察医は出現させたバイクに跨って体当たりを決める。

「ハァァァァァっ!」

 

 そしてトドメに俺がキックを叩き込むとバグスターは爆発してオペは完了した。

『GAMECLEAR!』

 

 爆炎の中からはゲームクリアの文字が浮かび上がってくる。これで患者のゲーム病は治っただろう。

「残るはゲーム病を振りまいた元凶だけか」

 

 残る処置は任せるぞ。小児科医。

 

 

 

~~永夢~

 

「シュゥァ!」

 

 巨大な銀色の巨人・・ウルトラマンオーブに変身したガイさんは巨大な怪獣を相手に苦戦を強いられていた。さっきのバグスターが巨大化して強くなったというよりは、あの巨大な方が本来の戦闘力なんだろうな。

「オーブ1人に任せるわけにはいかないよな。永夢!お前も行って来い!」

『巨大化!』

 

「えっ?・・・」

 

 パラドクスは俺に巨大化のエナジーアイテムを発動してくる。そういうことか。やってやろうじゃないか!

「ハイパー・・・大変身!」

『輝け流星の如く!黄金の最強ゲーマー!ハイパームテキエグゼ~イド!!』

 

 俺はレベルを超えた最強の姿、ムテキゲーマーに変身しながら右腕を空へと突き上げ、オーブと同じサイズまで巨大化する。

「オーブ!超協力プレーでクリアしようぜ!」

 

「ッ!」

 

 オーブは俺の言葉に頷くと怪獣に駆け出してその喉元にチョップを叩き込む。俺も瞬間的に距離を詰めて肘内を怪獣に叩き込んだ。

 

 

 

~~ガイ~

 

「シュァ!」

 

「オラぁっ!!」

 

 怯んでいるタイラントの隙を突き、同時に蹴り込んでタイラントの鎌を砕く。俺だけじゃタイラントの鎌を砕くなんて無理だっただろうに・・・この巨大化した金色のエグゼイドはとんでもない力っぽいな。

 

「オーブ!フィニッシュは必殺技で決めるぜ!」

『HYPER!CRITICALSPARKING!』

 

「あぁ!」

 

 エグゼイドが必殺技を発動する体勢を取ったので俺もオーブカリバーのリングを回転させて火のエレメントの力を解放する。

「ハァァァァァっ!!」

 

「シュァ!」

 

 タイラントに黄金に輝く飛び蹴りを叩き込んだエグゼイドに続き、俺は炎の円を描いてその炎の輪をタイラントへと飛ばす。するとその炎の輪は回転してタイラントを火の玉で包み込んだ。

「オーブフレイム・・・カリバァァァ!!」

 

 炎の結界に包まれるタイラントにカリバーで一太刀を決めた瞬間、炎の中には大量の『HIT』という文字が浮かび上がってきた。そして炎の結界の内側でタイラントが爆発すると、解放された炎の結界からは『GAMECLEAR』の文字が浮かんできた。

「やったなオーブ!」

 

 俺とエグゼイドはハイタッチをするとともに変身を解くと、大草原となっていた戦いの場が公園の噴水近くへと戻る。すると変身を解かずに待機していたパラドクスがベルトからガシャットを引き抜いて変身を解いた。ややモジャモジャした髪にそれなりに高い身長、永夢と1つの存在なはずなのに容姿は違うんだな。

「やったな永夢!」

 

「あぁ!」

 

「あの植物人間は燃えてなくなっちまったけど、これは拾っといたぞ」

 

 パラドはゴース星人が使っていたガシャットを永夢へと渡してくると・・・ガシャットからはいきなり黄緑色の輝きを放った。ガシャットから分離した光は球体となって俺の手元へと飛んでくる。

「これは・・・風のエレメント?」

 

 その球体は黄緑色の宝玉・・・風のエレメントだったのだ。

「探してたものがゲームクリア報酬で出てきたのか?よかったじゃんか」

 

 たぶんゴース星人がガシャットの材料として風のエレメントを使用してたんだと思うが、何でゲームクリアで出てきたんだ?

「それは私のおかげだ」

 

 声に反応して振り返るとクロトさんが後ろに立っていた。

「私の作品であるガシャットに本来ないものが入っていたのでな、摘出するためにガシャットロフィー扱いの設定にさせてもらった」

 

 なるほど。本来の開発者であるクロトさんの細工のおかげか。

「神の恵みだ。有難く受け取れ」

 

「それでは・・・」

 

 素直に風のエレメントを受け取ることにした俺はオーブカリバーに風のエレメントを刻みつける。これで残るエレメントは水のエレメントのみになったな。

「ガ~イ!」

 

 無事ゲーム病が治ったシューティーが俺のもとへと駆け足でやってくる。

「ま~たオイラがいない間にエレメントをゲットしてたんだな」

 

 前回に引き続きシューティーがいない間にエレメントをゲットしていた俺にシューティーが突っかかってくる。俺はそれをスルーしつつ永夢とパラドの方に視線を向ける。

「ありがとう仮面ライダー。君達のおかげでシューティーのゲーム病が治った」

 

「患者を治すのは当然さ。僕らはドクターだからね」

 

「またいつか機会があれば・・」

 

「あぁ、今度は患者じゃとしてじゃない形で会えることに期待するよ」

 

 俺は永夢達を別れを終えるとシューティーとともにまた次の宇宙へと向かった。

 




次回「水の神殿」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

水の神殿

ブレイブ繋がりで唐突に復活してくるとかやっぱりキョウリュウジャーはブレイブだぜ。


~~ジャグラー~

 

 水の惑星ヌオック。95%が海に覆われたこの星では僅かに点在する島々を巡って領地を争う抗争が長年に渡って続いているらしい。

「ここも・・・争いが絶えないか」

 

 どの星も何処の宇宙も命の奪い合いが絶えない。強い者が生き残り、弱い者が淘汰されてしまう。

「奴らは自分こそが正義だと思って行動しているのだろうな」

 

 正義というものが世界に存在している以上争いが無くなることはないだろう。

「光の後ろには影ができる。闇でなければ光は消せない」

 

 俺は『闇』として奪うことしかできない『光』を消す。そうすることがモミジ達にできる俺の唯一できる償いだからだ。

「何ボーっとしてるんだジャグラー!置いてくぞ!」

 

 現在俺は再び星間連合に所属している。奇械天使で通信機が壊れてしまった俺は星間連合から死んだと思われていたんだが、モミジ達と永遠の別れを終えた俺は名もなき惑星を出るなり星間連合に発見された。療養中で5年もの間動けない状態だったと言い訳とともに復活してきた奇械天使を倒したことを伝えると、単独で倒したことが評価をされてしまい、傭兵から行動隊長の1人にまで伸し上がってしまった。

「今回のミッションは・・・水のエレメントを探すことか」

 

 上からのミッションはこの水の惑星で水のエレメントと呼ばれる宝玉を手に入れることだ。なんでもエレメントと呼ばれるシロモノには強大な力を宿している宝玉らしい。

「星間連合のことだ。そのエレメントとやらのエネルギーを何らかに利用しているんだろうな」

 

 たとえ何かに利用していたとしても俺の取るべきことは変わらない。

 

 

~~ガイ~

 

「ここが最後のエレメントがある惑星なんだな」

 

 惑星ヌオックに到着するなりシューティーは周囲を確認した。

「本当に水だらけなんだな」

 

「水の惑星で通っているぐらいにはな」

 

 とはいえこの星の何処に手がかりがあるのやら。

「いや、ヌオックならもしかしたらあの人がいるかもしれないな」

 

 俺の故郷O-50からこの地に移住した人を俺は知っている。その人を当たってみることにしよう。

 

 

 

 

 

「お久しぶりです。マシューさん」

 

「おおガイか。久しいのぉ」

 

 数時間後、俺とシューティーは人づてに場所を聞いてマシューという爺さんのところを尋ねていた。マシューさんは俺やジャグラーと同じくO-50の出身であり、ハーモニカで故郷の曲を伝授してくれた恩師でもある人だ。

「儂がここに移住する前にあったのが最後じゃから7年ぶりじゃな」

 

「そうですね」

 

「ところで・・・ここには何用で来たのじゃ?世間話をしにきたというわけではあるまいて」

 

 俺はマシューさんにこれまでの経緯を話し、そのうえで水のエレメントのことで何かを知らないかを尋ねてみた。

「・・・ふむ、水のエレメントをか。もしかすると神殿にあるかもしれんのぅ」

 

「神殿?そんなのあるのか?」

 

 採掘を主な産業としていた星の出身であるシューティーには神様を祀るって文化がなかったんだな。

「うむ、水の神殿にあるかもしれん。とはいえもう数十年前に廃れてしまって、今では古びた神殿のダンジョンと化しているがのぅ」

 

 神殿のダンジョンか。今も神殿として人もいたのなら取りに行きにくかったが、それなら行っても大丈夫そうだな。

「神殿はここから東に行った先に浮かんでおるが・・・3体の怪獣が神殿近くに住み着いておるので誰も近づけんようになっておるのじゃ」

 

「怪獣ならガイが何とかできるよな」

 

「・・・まさかお主がオーブの光に選ばれるとはのぅ。儂はてっきりジャグラーが光に選ばれると思っておったわ」

 

 やっぱりマシューさんもジャグラーの方がオーブに選ばれると思っていたようだ。

「なぁガイ。ジャグラーって誰だ?」

 

 そういえばシューティーにはまだジャグラーのことは話していなかったな。

「むっ・・そういえばジャグラーは一緒ではないのか?てっきりお主らは2人で行動をしていると思っておったんじゃが」

 

「・・・今は俺とジャグラーは別々に動いているんです」

 

「そうか・・」

 

 マシューさんは俺の表情から察してくれたようでこれ以上ジャグラーについて何も聞いては来なかった。

「それじゃ・・・俺達はその神殿に行ってきます」

 

「うむ、ここ最近星間連合とやらがこの辺りをうろついているので注意するんじゃぞ」

 

 星間連合って言えばM78星雲のウルトラマンさん方が属する宇宙警備隊のようにだ次元の宇宙に兵隊を派遣したり、依頼品を依頼主に届けたりするような巨大な何でも屋のような組織だよな。それがこの辺りをうろついてるってことはこの星の抗争に加担しようとしているのか?

 

 

 

 

~~シューティー~

 

「うっわっ・・。確かに怪獣が3体もいるな」

 

 神殿近くまでボートでやってきたオイラとガイは神殿近くを泳いでいる3体の怪獣に視線を向けた。

「ぺスターにタッコング。ガマクジラ・・だったか?」

 

「知ってるのかよガイ?」

 

「キャンプで暇な時間を利用して資料を読んだりしてたからな」

 

 オイラが飯食ったらすぐに寝てた間に勉強していたのかよ。全然気づかなかったぜ。

「それで?奴らはどんな怪獣なんだよ?」

 

「油獣ぺスター。ヒトデ・・・って、お前は鉱山惑星出身だから知らないか。とにかくヒトデっていう海の生物を2体繋ぎ合わせたような怪獣で石油を常食にしてる怪獣だ」

 

 石油を常食って・・・随分とリッチなやつだな。

「んじゃあの丸いのは?」

 

「オイル怪獣タッコング。オイルが好物な怪獣であの皮膚はかなり硬いらしい」

 

 オイルが好物って・・・こいつ等どんだけ油好きなんだよ。

「ってことはあの変顔してるがガマクジラってことか」

 

「ガマクジラは真珠を食べちまう怪獣だ」

 

 真珠ってあれだよな。海の貝って生き物から取れる宝石みたいなのだよな。どいつもこいつもリッチな食事をしやがって。

「ところでガイ、何でさっきから奴らが何を食べるのかしか語ってないんだよ?」

 

「偶然だ・・・」

 

 食うことが好きなガイのことだ。どうせあいつ等が何を食うのかしか覚えてなかったんだろうな。

「そんじゃ俺はここで待ってるからとっとと倒してきてくれよ」

 

 このままじゃオイラじゃ神殿に近づくこともできないからな。

「しょうがないな。波にさらわれないよう気を付けろよ!」

 

 そう言ったガイはオーブに変身して海に飛び込んだ。

「シュァ!!」

 

「うわっ!?」

 

タッコングにアッパーを決めたオーブが水面から勢いよく出てくる。そのせいでオイラは海水を頭から思い切りかけられてしまった。

「おいガイ!もっと波をたてないように戦えよ!!」

 

「・・・シュァ・・」

 

 オーブは「それは無理だろ」とでも言うかのようにこちらに目線を向けてくる。

「オォォォシュァ!!」

 

 海面にあがって来たぺスターに蹴りを決めて海の底へと戻す。もちろんオイラはそのせいでまた海水を頭からかぶることになってしまった。

「だ~か~ら~さ~あ~!!」

 

  今度はガマクジラが海面から顔を出してきてオーブに噛みつくと・・・オーブは剣を出現させてその背に刃を突き立てた。

「そういや地球で手に入れたのは風のエレメントだったよな・・」

 

 風の力を解放すれば間違いなく突風やら暴風が巻き起こるよな。そんなの使われたらオイラの乗ってるこの船、間違いなく沈んじまうよ。

「ガイ!風の力は駄目だかんな!使うなよ。絶対使うなよ!」

 

「・・・・っ」

 

 オイラの言葉に頷いたオーブは剣のリングを回転させた。

「フリじゃねえからな!絶対風は使うなよ!」

 

「シュァ!!」

 

 一応分かってくれていたオーブは火の力を解放してガマクジラを丸焼きにする。そのせいで海水の温度が急上昇したが、これぐらいの熱さならまだ問題ない。

「そらそら!あと2体だぞ!」

 

「シュァ!!」

 

 オーブはぺスターを掴みあげると空へとぶん投げた。

「デュァ!」

 

「うわっと・・・」

 

 そして落下しつつあるぺスターに光線を浴びせて爆発させる。たしかにそれなら水をかぶることはないけど、衝撃で船が大きく揺れた。

「やっべ逆さになる!?」

 

 船にしがみついた俺は何とか転覆しそうになるのを体重をかけることでこらえる。鉱山惑星育ちのオイラは泳いだことなんてないんだから、海に落ちたら溺れちまうっての。

「だから波をたてないように戦えって!!」

 

「・・・・」

 

 オーブは「だからそれは無理だって」とでも言いたげに振り返ってくる。確かにこっちも無茶ぶりだって自覚してるが、やってもらわないと困る。

「オォォォ・・」

 

 右手から光を放つと、その光は船を包み込む。どうやら簡易的なバリアっぽいな。

「最初からこれをやっといて欲しかったぜ」

 

「シュァ!!」

 

 剣を振り上げてタッコングを空に打ち上げたオーブはすぐさま剣のリングを回転させて風の力を解放した。

「オォォォォ・・・シュァ!!」

 

 オーブの斬撃によって巻き起こった竜巻はタッコングを飲み込むと、タッコングが爆発して怪獣が3体とも倒された。

「おっと・・」

 

 竜巻と爆発の衝撃で船も当然揺れたがバリアのおかげでそれも緩和されていて、転覆しそうになるほど揺れることはなかった。

「ったく・・・戦ってるあいだはもう少し静かにしててくれよ」

 

 バリアが消えるとオーブの変身を解いたガイが船に降りてくるとオイラにそう言ってきた。

「いやさぁ、こんなバリアあるなら最初からやってくんない?船が沈みそうになったり色々ピンチだったんだぜ?」

 

「できるかどうか分かんなかったが、何となくやってみたらできたもんだからな。最初からだなんて無理だっての」

 

 何となくでやってたのかよあのバリア。

「ほら、とにかく神殿に入るぞ」

 

 船を神殿近くまで寄せて神殿の中へと入る。既に廃れた神殿と聞いていたからてっきり真っ暗なのかと思っていたけど、入った瞬間に通路の明かりがついた。

「どうなってんだこれ?」

 

「魔術的な何かかもしれないな。俺にもよく分からない」

 

 分からないけどあまり気にしてもいないガイは通路を進んでいく。

「・・・シューティー気を付けておけ」

 

「えっ?何を・・」

 

 ガイが足元を指さしたのでオイラは床に視線を向ける。

「ただの床じゃん」

 

 てっきり罠でも仕掛けられてるもんだとも思ったが、何の変哲もないただの床だった。

「よく見ろ。俺達以外の足跡があるんだよ。それもかなり真新しいものがな」

 

「あっ!マジだ!」

 

 確かに数人の足跡があった。この新しさから考えて、俺らが神殿に入る直前ぐらいだと思う。

「これってもしかしてあれじゃね。星間連合とかいう奴ら・・」

 

「あぁ。俺もそう思う」

 

 オイラもガイも同じことを思っていた。ガイがオーブになって怪獣達と戦っている間にオイラ達よりも先に神殿に入っていたのは星間連合の連中だと。

「ここに星間連合の連中が来てるってことは・・・目的は水のエレメント?」

 

「かもしれないな。エレメントは強力な力が宿っている結晶体だ。欲しいと思う奴らがいてもおかしくない」

 

 実際火山惑星ではそれを手に入れようとしていた奴らがいたらしいし、星間連合が依頼で手に入れようとしててもおかしくない。そう考えたオイラ達は先を急ぐと広い部屋が見えてきた。

「貴様、何をする!?」

 

「星間連合を裏切るのか?・・ぐぁぁっ?!」

 

 広い部屋からは何やら星間連合が揉めているような声が聞こえてきたので、オイラとガイは慎重に部屋を除き込むと・・・そこには星間連合の仲間を斬り倒して、1人虚無感漂う雰囲気で立っている男がいた。

「久しぶりだなぁ、ガイ」

 

 

 

~~ガイ~

 星間連合が揉めているような声が聞こえたので俺とシューティーは恐る恐る部屋を確認してみると、そこには俺が良く知る人物が立っていた。

「久しぶりだなぁ、ガイ」

 

「ジャグラー!」

 

 サイクイーンの戦い以降1年ほど会えていなかったジャグラーがいた。

「えっ?あの人が?」

 

「ジャグラスジャグラー。お前と出会う少し前ぐらいまで一緒に旅をしていた相棒だ」

 

「少し前・・か。俺はお前をサポートしないと決めてから10年が過ぎているがな」

 

 俺が様々な次元宇宙を旅している間に10年も俺と時間の差があるのか?

「ガイ、お前はまだオーブの光からのミッションを続けているのか?」

 

「・・・あぁ。ここには水のエレメントを手に入れるために来たんだ」

 

「そうか。なら・・・お前は俺の敵だ」

 

 そう告げたジャグラーは『闇』の中から蛇心剣を取り出してくる。

「ジャグラー?本気なのか?」

 

「嘘を言う理由が何処にある」

 

 ジャグラーが蛇心剣の刃を振り下ろしてきたので、俺はオーブカリバーでそれを受け止める。

「ジャグラー・・・どうして?」

 

「俺は今現在星間連合の一員として動いている。今回の任務は水のエレメントと呼ばれるものを回収することだ。・・・とはいってもたった今裏切ったばかりだがな」

 

 なるほど、譲ってくれるって考えはないってことか。だがなんで星間連合をいきなり裏切ったりしてるんだ。少なくとも裏切ったっていうならジャグラーが水のエレメントを必要としている理由はないはずなのに。

「ジャグラーお前何で?・・・お前の正義は何処に行ったんだ?」

 

「正義対正義、力対力。すべては闇だ。光なんて何処にある?・・・俺はもう疲れたんだ。始まりはお前だったからこそ、最後もお前で終わらせないとな」

 

「疲れた?終わらせる?お前まさか・・・」

 

「ほら、見ろよ」

 

 一旦距離を取ったジャグラーは神殿の天井を破壊して夜空の星を指さすと、その場所はひときわ強い光を放っていた。

「ダイヤモンド新星の爆発だ。俺達の決着に相応しいんじゃないか?」

 

「分かった。・・・決着をつけようジャグラー」

 

 それぞれ別々の道に行くことになった。そのきっかけを作っちまったのは・・・俺だ。ジャグラーはここで俺との『縁』を断ち切るつもりなんだ。ジャグラーは俺が求めている水のエレメントを所持することで俺と戦う理由を作っている。ジャグラーがそれを望むなら・・・きっかけを作ってしまった俺は決着をつけてやらねばならない。

「シューティー、もっと危ないから離れてろ」

 

「あ、あぁ・・・」

 

 シューティーを離れさせた俺はカリバーを構えると、気だるそうに

「ハァっ!」

 

「ヌンッ!」

 

 オーブカリバーと蛇心剣、俺とジャグラーの刃がぶつかり合い交差する。身体能力としてはウルトラマンに選ばれた俺の方が上回っているが、剣術の腕前ではジャグラーの方が数段上だ。

「もっと本気を出せ光の戦士!」

 

「ぐっ・・・ダァッ!」

 

 力任せにジャグラーの剣を振り払った俺はすぐさま前へと出て蹴り込んだ。

「がはっ!?」

 

「しまった。やりすぎた!」

 

加減をせずに蹴り込んだせいでジャグラーは神殿の壁を突き抜けて海まで吹き飛ばされてしまうと・・・ジャグラーは魔人態の姿で海から跳び上がってきた。

「そうだ。それでいい」

 

 神殿に足をつけると同時に魔人態から元の姿へと戻ったジャグラーは再び蛇心剣を構える。

「お前をこれ以上傷つけたくはない。・・・だから次の一撃で決めさせてもらう」

 

「いいだろう、全身全霊を持ってかかってこい!」

 

 俺はカリバーの刃に光を宿すと、ジャグラーも蛇心剣に闇を集束させる。

「「ハァァッ!!」」

 

 光と闇・・2つの斬撃がぶつかり合う。すると一瞬だけジャグラーの圧が消えたような感覚がしたので俺は一気にカリバーを振り切った。

「ぐは・・・っ」

 

 その一撃はジャグラーの胸に切り傷をつける。ジャグラーの斬撃のおかげで威力がだいぶ落ちていてよかった。このまままともに飛んでいればジャグラーは間違いなく命を落としていただろう。ところで・・・

「ジャグラー・・・お前・・」

 

 お前最後の瞬間・・・手を抜いたな。

「俺の負けだ。・・さぁ終わらせてくれ」

 

 俺にやられて・・・トドメを刺されるために。

「・・・俺の目的は水のエレメントだ。お前の命じゃない」

 

 ジャグラーに背を向けた俺は水のエレメントがあるであろう奥の部屋へと足を進めて出す。

「ふざけんな。情けをかけるつもりか?」

 

「先に情けをかけたのはそっちだろ。・・・お前、ワザと俺に倒されようとしていたな」

 

「・・・気づいてたか」

 

 何年お前に稽古を付けさせられたと思ってる。ジャグラーの強さは誰よりも俺が理解できているつもりだぜ。

「気づいてるなら・・・終わらせてくれよ」

 

「俺には・・・できない」

 

 そんなことできるはずもない。

「俺は言ったはずだ。その甘さが弱さに繋がると。その甘さを捨てて今すぐ俺を斬れ!」

 

「絶対に斬らない!」

 

 オーブカリバーを投げ捨てた途端、転送装置でやってきた星間連盟の数人がジャグラーを取り押さえた。

「何だお前ら?ジャグラーをどうするつもりだ?」

 

「俺はミッションに失敗したうえに裏切り行為もしたからな・・・そりゃこうなるだろ」

 

 取り押さえられているジャグラーは足元に落ちている水のエレメントを蹴って俺の方に転がしてくる。もう奥の部屋からジャグラーが回収していたのか。

「お前の勝ちだろ。受け取れよ」

 

「ジャグラー・・」

 

 俺が水のエレメントを拾い上げた瞬間、ジャグラーは星間連合によって連行されてしまった。ジャグラーなら自力で脱出できるとは思うが・・・今のジャグラーにその意思があるんだろうか?

「いや、俺がジャグラーを信じないでどうするんだ」

 

 きっとジャグラーなら闇に落ちきらないだろう。少なくとも俺はそう信じている。

「・・・これで最後のエレメントだな」

 

 ジャグラーから切り替えて投げ捨てたオーブカリバーを拾い上げる。そしてそれをオーブカリバーにかざして水のエレメントの力を刻み込む。

「これで4つのエレメント全ての力がオーブカリバーに宿ったんだよな」

 

「あぁ・・」

 

 4つのエレメントを得たことで俺の頭の中に新たな技のヴィジョンが浮かんできた。水のエレメントの技であるオーブウォーターカリバーと、4つのエレメントと俺自身の力を全て解放した必殺技のオーブスプリームカリバーだ。

「やったなガイ!」

 

「あ、あぁ・・」

 

 俺は4つのエレメントを揃えたことで完成したオーブカリバーを確認する。これでミッションであるエレメント集めは終えたはずなのに、オーブの光は次のミッションを伝える兆しを示そうとはしてなかった。

 




次回「ブラックホールを盗んだ男」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ブラックホールを盗んだ男

~~ジャグラー~

 

 惑星484。そこは重力が強い極寒の惑星であり、巨大な収容所として星間連合が管理している惑星だ。裏切り者の俺は今からそこに投獄されようとしている真っ最中だった。

「下手な真似はするなよ。この場で撃ち殺さないといけなくなっちまう」

 

 目隠しをされているが声だけは聞き取れる。この男の声、以前戦場であったことがあるな。・・・思い出した。10年ぐらい前に死に欠けの少女にトドメを刺しやがったあの男か。

「する気にもなれん」

 

 だが今の俺には憎む気持ちはおろか抵抗しようと思う気すら湧いてこない。

「ここは重力波と堅硬な壁に囲まれている場所で絶対に脱出不可能だ」

 

絶対に脱出不能って言われる場所こそ脱出されちまうもんだぜ。とでも言い返そうかとも思ったが、こいつにそんなことを言っても何の意味もない。そう考えながら俺の入れられる牢獄へと歩かされていると何やら強い気配を感じ取った。

「何か強い気配が近づいてるな。何だこいつは?」

 

「むっ、気づいたのか。まぁお前ほどの使い手なら無理もないか。この銀河系で最も危険な存在と言われている奴もお前と同じタイミングでここに収容されようとしているんだよ。見えないと思うが隣の船に超重合金カプセルの中に入れられてな」

 

 超重合金カプセルとは裏切り者の俺よりも厳重だな。そう思っていると隣の船からドンドンという金属を凹ませるような音が鳴り響いてきた。

「おい、そいつを入れてるのは本当に超重合金で作られたカプセルなのか?ヤバい音が聞こえたぞ」

 

 そんな危険な奴と同日に収容されるとは俺もツイてないな。

「さて、この辺りまで来たならもう目隠しもいいだろう」

 

 道のりを悟らせまいとつけられていた目隠しが俺が入れられる牢屋の前で外される。せっかくなのでその厳重管理されてる奴の顔でも拝んでみるとするかね。

「・・・どんな怪力だ?あの中に入ってるのは」

 

 後ろを振り向いてみると蛇心剣でも斬ることのできないはずの超重合金が大きく歪んで裂け目ができていた。

「怪力じゃない。超能力だ」

 

「超重合金は硬いだけではなく超能力の類も阻むことができるはずだぞ。そんなことができるはずが・・・」

 

 俺を取り押さえている男が額に冷や汗を掻く。信じがたいがそれほど強力な超能力を持つもののようだ。

「あいつはいったい何をしたんだ?」

 

「なんでも元はとある国の姫様だったらしいが、その姫様の脳波は異次元とリンクしていて高エネルギーを放出したり、超能力であんなことをしたり、挙句の果てには次元を歪ませて怪獣を召喚し出すこともできるようになったらしい。そんでそれにビビった両親がここに追放したってわけだ」

 

「なるほどな」

 

 実の娘とはいえ危険な力を持つものは恐怖の対象として追放する・・か。家族だというのなら守ってやるべきだと思うがな・・。

「おっと昔の仲間だからってベラベラしゃべり過ぎちまったな。そろそろ牢屋に入ってもらうぜ」

 

「あぁ・・・」

 

 俺は牢屋の中に片足を入れると同時に頭上に『闇』を展開する。

「・・月落とし」

 

 そしてその闇の中から刃がむき出しの蛇心剣を落とすと、俺を押さえていた男は咄嗟に後ろに下がる。落下してきた蛇心剣の刃で手錠を壊した俺は地面に刺さったそれを引き抜くと男にその刃を振り下ろした。

「ジャグ・・・がはっ・・?!」

 

 男を斬り倒した俺は囚われの姫様とやらが入ってるカプセルへと歩き出す。・・・そういえばあの男の名前、最後まで思い出せなかったな。

 

 

 

 

~~ビランキ~

 

 優しかったはずの両親・・王様と王妃様に裏切られた私は脳波遮断装置の仮面がつけられたうえに超重合金カプセルなんて厳重なものに入れられて牢獄に幽閉されようとしていた。

「きっといつか運命の王子様が私を助け出してくれる。そして私は運命の王子様と結ばれて熱いキスを交わすのよ」

 

 恋に憧れている私はカプセルの中で1人妄想する。ロマンチックな出会いを求めていたあまりうっかり力を暴走させてしまった私はお城に怪獣を召喚しちゃって、故郷の星を崩壊寸前まで追い込んじゃったの。最初のうちは突然現れた怪獣だと私を庇ってくれていた両親も星が半壊した頃から手のひらを返して私を責め出して、私の身柄は星間連合って組織の預かりになることになったの。

「斬られたくなかったら下がってろ」

 

 カプセルの向こう側からそんな声が聞こえてきたので私は後ろに下がる。するとカプセルごと私に付けられていた脳波遮断装置の仮面が切断された。カプセルと仮面が壊されたことで外に出られた私は、助け出してくれた殿方へと頭を下げた。

「ありがとうございます。ようやくお会いできましたね、私の王子様」

 

 

~~ジャグラー~

 

「ありがとうございます。ようやくお会いできましたね、私の王子様」

 

 境遇に同情するところがあったから何となく助け出してやったが・・・いきなり何だこいつは?

「俺はお前の王子様なんかじゃない。ジャグラスジャグラー、星間連合を裏切ってここに入ろうとしているような奴だ」

 

「わ、私を助けてくださろうと星間連合を裏切ったのですね」

 

 どう解釈したらそんな発想に至るんだ?

「はぁ・・・まぁいい。お前は早くここから逃げるがいいさ」

 

「ジャグラー様はお逃げにならないのですか?」

 

「逃げる理由がないからな」

 

 逃げたところで行く当てもなければ逃げてしようと思うこともない。ただ命尽きるのを待つだけだ。

「行きたいとは思わないのですか?」

 

「思わないな。むしろ死に場所を求めているぐらいだ」

 

 その死に場所と決めていたはずの場所から否定されてここに来たんだがな。

「・・・そういえばお前、怪獣を呼び出したりできる力があるって聞いたが」

 

「はい。どうしてそれができるのかは自分でも良く分からないですが・・・」

 

 ここで囚人たちを解放して怪獣を暴れさせれば間違いなくガイはやってくるだろう。そんな状況を作りあげればガイは俺に殺意を向けてくるはずだ。

「俺の死とともに奴の光を黒く染めるのも悪くないか・・」

 

 ガイの光を黒く染める。そう決意した俺は囚われていた姫様に視線を向ける。

「そういやお前の名前を聞いていなかったな」

 

「申し遅れました。私はビランキと申しますわ。今後ともよろしくお願いいたしますジャグラー様」

 

 

 

 

~~ガイ~

 

 水のエレメントを巡ったジャグラーとの戦いから一月ほどが経った。新たなミッションを言い渡されないまま星々を転々として怪獣事件を解決する旅をしていた。そんなある日俺とシューティーは星間連合に呼び出されて惑星484付近で待機している宇宙船へと招かれた。

「それで・・・俺達がここに招かれた理由とやらをそろそろ教えてくれませんか?」

 

 星間連合はウルトラマンをあまり良く思っていない者達が多いと聞いているから、星間連合へ勧誘・・というわけではないはずだ。とはいえ強制連行されるようなこともしてはいないし、ここに連れてくる時の対応も強制連行ではなく客人を招くような対応だった。

「ウルトラマンオーブ・・・ガイと言ったかね?君はジャグラスジャグラーと旧知の中だそうじゃないか」

 

 連合の議長だというギルエラという初老の男性は俺とジャグラーについてある程度の調べは終えていることを伝えてくる。

「ジャグラーに何かあったんですか?」

 

「ジャグラスジャグラーは惑星484の囚人たちを解放し、その者達と結託して惑星を占領してしまったのだ」

 

 あのジャグラーがそんなことを・・・?

「脱獄不可能とうたわれたあの場所は難攻不落の要塞と化してしまった。更には怪獣を召喚してしまう力を持つビランキを利用してバルンガという怪獣を呼び出し、ブラックホールを作り出す大量破壊兵器『バルンガボム』を精製して連合を脅迫してきたのだ。その公証人として要求してきたのが・・・」

 

「俺ってわけか・・」

 

 ジャグラーが大量破壊兵器を作り出すだなんて・・・にわかには信じがたいな。確かにジャグラーは正義として戦うことに疲れたとは言っていたが、破壊兵器を作っちまうほど墜ちるようなタマじゃないはずだ。

「分かりました。その交渉役・・・引き受けます」

 

 直接会ってあいつの真意を確かめてやらないとな。

 

 

 

 

 交渉船が惑星484へと到着し、俺は単身ジャグラーが交渉に指定してきたという場所へと進んでいく。すると後ろから俺を追いかけてくるような足音が聞こえてきた。

「水臭いじゃんかガイ!オイラを置いていくとはどういう領分だ?」

 

「シューティーお前・・・っ、付いてくるんじゃない!ここは脱獄犯が徘徊している囚人無法地帯なんだぞ!!」

 

 俺はシューティーに注意するも、シューティーはまるで悪びれた素振りをみせずに近寄ってくる。

「そんなこと言うなって!危険だなんて今更だろ!」

 

「・・・っ」

 

 確かにここまで様々な怪獣や宇宙人と遭遇して何度もシューティーが危機に陥ることがあったりしたが・・・だからといって今回も大丈夫だとは限らない。

「ほら!先に進むんだろ。置いていくぞ!」

 

 こっちの心配を他所にシューティーは勝手に通路を突き進んでいく。俺は付いてきてしまったものは仕方ないと諦めて、シューティーの同行を認めることにして先へと進み始める。

「なんだここ?まるで迷路みたいだな」

 

 脱出不可能な牢獄とは伊達ではなく、中は入り組んだ迷路のようになっていた。そしてその行く先々で脱獄した星人たちや封印されていたであろう危険生命体たちが俺達の行く手を阻んできた。

「ハァっ!!」

 

 俺はそれらの相手を倒しながら進んでようやくジャグラーが指定してきたエリアへと到着する。

「ハァ・・ハァ・・手荒い歓迎をしてくれたな、ジャグラー」

 

「ベゼルブの時と比べればここまでの道のりぐらい大したことはないだろう。・・・よく来たなガイ」

 

 エリアの中央でコーヒーを飲みながら待っていたジャグラーの背後にはバルンガボムと思われる巨大な爆弾が設置されている。

「お前らも飲むか?淹れたてだぜ?」

 

 ジャグラーは俺達にもコーヒーを薦めてくるが、俺達は首を横に振る。

「そうか・・」

 

 少し残念そうな反応をしたジャグラーは夜空を見上げる。

「この殺風景な牢獄惑星にも1つだけいいことがあった。見ろよ、黄金に輝くオーロラだ。・・・だが美しい世界ももうすぐ終わる。このバルンガボムがすべてを終わらせてくれる」

 

「そんなことはさせない。俺が止める!」

 

 これ以上ジャグラーに罪を重ねさせない。そう決意をした俺はオーブカリバーの刃をジャグラーへと向ける。

「面白い。・・・コイツは荒れるぜ。止めてみな」

 

 そう言い残したジャグラーは奥へと消えていく。そしてそこには1人の少女が残っていた。あの娘がビランキっていう超能力を扱える姫様か。

「ジャグラー様の邪魔をする輩は私が許さない!!」

 

 ビランキは俺を見るなり敵意を向けてくる。この短期間でジャグラーにあそこまで泥酔しているのか?そう思っているとビランキは自由を歪ませて怪獣を呼び出した。

「ギャンゴか・・」

 

 脳波怪獣ギャンゴ。周囲の人間の脳波を受信することで様々な姿に変化できる怪獣・・・だったな。

「ガイ!あいつだけじゃないっぽいぞ!」

 

 シューティーが次元の歪みを指さすと、そこからはさらに地底怪獣テレスドンにキングゲスラ、アーストロンといった合計6体の怪獣が現れた。

「ガイ!」

 

「分かってる」

 

 俺はオーブカリバーを空へと掲げてオーブへと変身する。バルンガボムが起爆するまであと4分ほどしかないってのにこいつ等の相手もしないといけないとはな。

「爆弾の解除はオイラに任せとけ!」

 

「待て!危険だシューティー!?・・・シュァ!!」

 

 シューティーはバルンガボムがある冷却水のプールへと飛び込んでいく。こうなったらこいつ等を3分でケリをつけてバルンガボムを解除するしかない。そう決意した俺は怪獣達へと駆け出してカリバーを振るう。

「オォォォ・・セァッ!!」

 

 

 アーストロンの角を切り裂いた俺はテレスドンを蹴り飛ばすと即座に風のエレメントの力を解放する。

「シュゥゥゥァ!!」

 

 オーブウインドカリバーでキングゲスラとギャンゴに大ダメージを与えるとゴメスとケルビムが飛びかかって来た。

「ダァッ!!」

 

 それを振り払った俺は水のエレメントの力を解放して、水を纏った斬撃オーブウォーターカリバーでその2体を斬りつけた。

「シュァ!!」

 

「きゃぁ!?」

 

 オリジウム光線を拡散させて6体の怪獣たちにそれを浴びせる。その光線を浴びた怪獣達が一斉に爆発するとその衝撃でビランキも空調ダクトへと吹き飛んでいく。だが今はビランキよりもシューティーの方だと思った俺は変身を解くと、すぐさまバルンガボムへと振り返る。

「オォォラァっ!」

 

プールの中にいるシューティーはメインシャフトのコードを引きちぎろうとしていた。

「ぐっ・・・あぁぁぁぁ!?」

 

 バルンガの重力波で辺りが揺れた瞬間、施設が歪んでしまい高圧電流がプール全体に流れてしまいシューティーは感電してしまった。

「シューティー!!」

 

「オイラのことはいいから早く爆弾を!!」

 

 俺はシューティーを助けるためにプールへと飛び込もうとすると、バルンガボムの方を優先するように叫ばれた。

「くっ・・・!ハァっ!!」

 

 カリバーでコードを叩き切ると・・・爆破5秒前で爆弾は解除された。

「大丈夫かシューティー!」

 

「さ、さすがガイだぜ・・」

 

 既に瀕死の状況のシューティーに駆け寄ると・・・シューティーはまるでこれで最後だとでもいうかのように話しかけてくる。

「いつも足手まといだったからさ・・・ようやく役に立てた気がする・・ぜ」

 

 そう言い残したシューティーの手が力尽きるように崩れ落ちる。息は・・・まだある。だが危険な状態であることに変わりはない。そう思っていると複数人の足音が近づいてきた。

「爆弾が停止されたのを確認して突入して来ました。救護班もまもなく到着します!」

 

 どうやら連合の突入部隊のようだ。

「救護班にシューティーを任せるよう伝えてくれ・・・」

 

 まもなくやってくるという救護班に任せることにした俺は単身で奥の階段へと進み、階段を登っていく。

「ジャグラー・・・ッ!」

 

怒りを抑えきれない俺は最上階で待っていたジャグラーを睨みつける。

「お前は甘い。お前に・・・お前と俺にかかわった人間は全員不幸になる。お前の正義も俺の正義も・・・二流でしかない。二流の正義は悪よりもタチが悪い。お前も俺も・・・同じだ」

 

「俺は・・・違うッ!!」

 

 俺は怒りに身を任せてジャグラーを殴り倒す。そして倒れているジャグラーを何度も何度も殴りつける。

「ハハハハハッ!そうだ!その目を見たかったんだ!」

 

「っ!」

 

 血へどを吐きながら高笑いするジャグラーにトドメを刺そうとしたところで俺はようやく正気を取り戻す。そしてジャグラーを突き放すと俺に追いついた突入部隊がジャグラーを取り押さえた。

 

 

~~ビランキ~

 

 惑星484での戦いからまもなくして私とジャグラー様は星間連合に拘束されてしまった。

「こうなってしまってはいますが・・・私は幸せです。だってジャグラー様と何処までも一緒にいられるのだから」

 

 私は全身が拘束されているジャグラー様の方へと視線を向けると1人の看守がクスクスと笑った。

「生憎だがお前たちは別々の次元に追放されることになる。二度と会えるとは思えんがね」

 

「いやぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ジャグラー様の別々の場所だなんて・・・二度と会えないような場所に送られるだなんてお断りよ!!

「誰にも邪魔はさせない。燃え上がる私の・・この恋を!!」

 

 脳波遮断ヘルメットを超能力で粉砕すると、宇宙船の船体が壊れ始める。隊員たちがSOSを送ろうとする中、船体が爆発する。

「ジャグラー様・・・?」

 

 爆発の最中、1人ですでに拘束を解いていたジャグラー様は爆炎の中何処かへと消えていく。

「何処へ行くの?私の王子様・・?」

 

 私はジャグラー様に手を伸ばそうとするも私自身の動揺で次元が歪んでしまい、私はその次元の歪みに呑まれてしまった。

「必ず・・・必ずジャグラー様の元に参りますから!」

 

 

 

~~ガイ~

 

 O-50へと帰還した俺は戦士の頂でオーブの光の前に立つ。

「シューティー・・」

 

 シューティーは星間連合の医療班の迅速な対応で一命を取り止めた。だがシューティーの義手にでもしないかぎり両腕は動かすことはできないという医師の判断を聞き・・・俺はこれ以上シューティーを危険な旅に巻き込むわけにはいかないと思い、別れを告げずに星間連合にシューティーを置いてきた。

「これが正しい判断とは思わないが・・・少なくともこれ以上シューティーを俺の旅に巻き込むわけにはいかない」

 

 俺が巻き込んでしまったせいでシューティーは両腕を動かせなくなってしまった。俺はもうシューティーに合わせる顔がない。だからもう俺はシューティーとは二度と会わない。そう決意するとオーブの光は俺に新たなアイテムを授けてきた。

「これは・・・オーブリングっていうのか」

 

 光の文字には光のリング・・・オーブリングの詳細が書かれていた。どうやらこのオーブリングはウルトラマンさん方の光の力をカード化させ、そのカードを組み合わせることでフュージョンアップをもたらすという伝説のアイテムらしい。

「そして今度の相手は・・・魔王獣か」

 

 魔王獣、それはオーブリングを持ってしてのみ対応できる強大な力を持つ怪獣のようでそれが活動を開始したらしい。魔王獣の根源は大魔王獣マガオロチというモンスター銀河から飛来してひとつの星に寄生、星のエネルギーを喰らい尽くすと卵となって次の星へと移動する怪獣のようだ。そしてその卵・・・マガ魂は太陽系第三惑星として誕生したばかりの地球へと飛来して地中深く産み付けられた。マガ魂のエネルギーは地球誕生時に発生したのエレメントと結びついて6体の魔王獣を誕生させてしまった。その地に訪れたウルトラマンさん方はまだエレメント定着が不安定だった地球に大きな影響が出ると判断して、魔王獣達を倒すのではなく封印という形を取ったようだ。

「俺のミッションは大魔王獣マガオロチから地球を守ること・・・か」

 

 

 

~~ジャグラー~

 

 飛行船が爆発する最中、俺は『闇』に飲まれる形で逃げることに成功してO-50へと帰還しようとしているガイを・・・追い新たなミッションと力を授かる光景を目の当たりにした。

「ガイィィィ!!」

 

 新たなミッションのために別宇宙へと飛び去っていくガイに声を荒げる。俺の中の闇が抑えきれず、ガイにこの怒りをぶつけたい気持ちが抑えきれなくなっているからだ。

『宇宙で最も邪悪な心を持つ者よ』

 

 何処かからか声が聞こえた気がした。

「俺か?俺を呼んでいるのか?」

 

 俺を呼ぶような声に反応し、歩き出すと・・・先ほどまでガイがいたオーブの光の前に闇のリングが浮かんでいた。

「お前が・・・俺を呼んだのか?」

 

『そうだ。この狂った世界を楽しめ』

 

 闇に手をかざした瞬間・・・俺の手にはガイが受け取ったオーブリングとそっくりなものが握られていた。闇のリング・・・ダークリングか。

「ハハハ・・・ヒャハハは!いいだろう!俺も!ガイも!世界を闇に食わせてやる!!」

 

 本当の意味で闇を掴み取った俺はガイを追って地球へと向かうことにした。待っていろガイ。闇のお楽しみは・・・ここからだ。

 




次回「名状しがたき神」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

名状しがたき神

~~ダーナ~

 

「これは私が若い頃出会った不思議な人のお話なの」

 

 床に臥せっている私は孫たちに私がまだ若い頃に出会った不思議な男性の話をする。

「ケネティ・ブギ・・・今では死の丘と呼ばれているこの場所もね・・昔がかなり人がたくさんいて活気があったのよ」

 

「本当なのお婆ちゃん?」

 

「えぇ・・。とはいえある出来事で町は滅茶苦茶になって多くの人々がこの地を離れてしまったけどねぇ」

 

 私はあの人の話とともに・・・数十年前に起きた出来事のことを語り始めた。

 

 

 

~~ガイ~

 

 オーブの光から新たなアイテムのオーブリングを受け取った俺は、それと同時に受けたミッションのために地球へとやってきていた。

「この地球は・・・まだ余り文明が進んでいないんだな」

 

 これまで来た別次元の地球とは違ってこの次元の地球はまださほど文明が進んでいないようで乗り物といえば馬ぐらいで建物はほとんど木材や煉瓦で組まれた程度のものばかりだった。のちに知ったのだが時代は紀元前1800年とのことだ。

「ここがイシュタールか」

 

 俺はこの辺りではかなり活気のある場所・・・都市イシュタールへとたどり着く。イシュタールは馬車が通れる道路や水道、住居群が整備されている都市であり、どうやらここは綺麗好きなイシュタール民は大規模な公衆浴場もあるようだ。

「さてと・・・しばらくは情報集めからだな」

 

 

 

~~ダーナ~

 

 私は浴場で働いているダーナ。12の頃からお父さんの浴場で働き始めて7年が経ったんだけどここ半年ぐらいからこの町の人ではない人がここに通い始めた。

「ようっ!」

 

「今日も来たのねガイさん!」

 

 その人の名前はガイ。いまいち掴みどころがない性格の人で、調べものをするためにこの地へとやってきたらしい。私はまだこの地に来たばかりの彼の世話を焼いているうちに友達となったの。

「そういえば近頃この辺りで変な宗教が流行り出したのよねぇ」

 

「変な宗教?」

 

「何だか世界はもうすぐ崩壊するだのなんだの語っているマガ宗教がさぁ」

 

 最近、謎のオーロラ現象や暦にない日食が起こったりして不安になる気持ちは分かるけどさ・・・世界がもうすぐ滅ぶ前触れだなんて大げさだよね。そのことをガイさんに話すと、ガイさんは最初のうちは笑って聞いていたけど途中から険しい表情になった。

「もしかしたらその主教に俺の調べてるものの手がかりがあるかもしれないな」

 

「宗教に調べてるものが?」

 

 そういえばガイさんって何を調べにここに来たんだろう?聞いた事がなかったな。

「教祖の名前は知ってるか?」

 

「うん。教祖の名前はニャルラ・ト・ホテップって言う全身に包帯を巻いている怪しげな人らしいの」

 

 

~~ガイ~

 

 全身に包帯?火傷か何かをしたのか?・・・もしそうじゃないとしたら姿を隠さないといけない理由があるってことだ。例えばそう・・俺と同じくこの星の住人ではない者が教祖をしている可能性とかな。そう考えた俺はさっそくそのホテップという人物が開いている集会へと足を運んでみた。

「この世界はいずれ滅ぶ」

 

 本当にミイラ男のような風貌の人物は人々に末世思想を説いている。

「永劫の太古より名状しがたき神・マガタノゾーアによって・・」

 

 今あの男は何と言った?マガタノゾーアと口にしていなかったか?

「砂漠の彼方にはね、この地が開拓されるよりも遥かな昔に邪神ガタノゾーアを光の巨人が封印したっていう伝説があるのよ」

 

 勝手に俺に付いてきていたダーナがイシュタールの地に残る伝説を教えてくれる。半年ぐらいイシュタールに住んでいたがそんな伝説聞いた事なかったな。

「聞いた事なかったな、それ」

 

「一部の血筋だけに受け継がれている伝説だったから、あまり広がっていなかったのよ」

 

 一部の血筋のみってことはダーナもその血筋なんだな。

「御救いください。どうか御救いください」

 

 人々は邪神から助かりたいと祈り出す。

「この地球でのファーストミッションはこのイシュタールでのようだな」

 

 かつてこの地に訪れた光の戦士が封印した闇の魔王獣・・・マガタノゾーアの復活を阻止すること。それがこの地球でのファーストミッションのようだ。

 

 

 

 

「宇宙の光と闇のバランスが崩れ始めたから封印の力が弱まったんだと思うが・・・まだ封印に決定的なダメージはないようだな」

 

 集会があった翌日、俺はマガ教徒に変装してホテップの神殿の周囲をぶらつく。確かにこの地に闇の魔王獣が封印されているような邪気は感じ取れた。その封印エネルギーは今すぐ崩壊してしまうほど弱まっているわけではないのだが、何かきっかけとなる力が加われ場壊れてしまいそうな状態ではある。

「ん?」

 

 神殿の壁へと近寄った途端、神殿の壁が崩れてミイラ怪獣ドドンゴが現れた。

「シュァ!!」

 

 俺はすぐさまオーブへと変身するとオーブフレイムカリバーで一気に焼き払い、それを撃破する。

「怪獣が現れたってことは・・・やっぱりあの包帯男はこの星の人間じゃなさそうだな」

 

 変身を解いた俺はホテップがこの星の人間ではないことを確信しつつ、神殿の奥へと進んでいった。

 

 

~~ホテップ~

 

 ガイ・・・ウルトラマンオーブによって仕掛けていた罠であるミイラ怪獣ドドンゴが撃破される。無論想定の・・いいや、計画の範囲内だ。

「さぁ、集まれ。闇のパワー」

 

 ドドンゴの闇の力をダークリングへと集めると、闇の力は1枚のカードへと変化する。これで封印解除に必要なカードは集まった。

「ありがとよ。ガイ」

 

 

 

~~ガイ~

 

 何とか神殿の奥までたどり着いた俺は教祖であるホテップが呪文を唱えている真っ最中なところにやってくる。

「夜になお騒めくものよ。古の名状しがたき神よ。この怪獣達の力を喰らい、悠久の眠りより目覚めたまえ!」

 

 呪文を唱え終えたホテップは赤い輪のようなものを取り出す。

「あれは・・・オーブリング?」

 

 ホテップが手にしているそれはまるで俺が所持しているオーブリングそっくりなものだった。あのリングが何なのかは分からないが・・・ホテップはそのリングに怪獣のカードをかざさせてはいけない。そう思った俺はそれを止めようと駆け出した。

「儀式の邪魔をしないでもらおうか」

 

 教祖へと迫ろうとすると数体のミイラ達が俺の行く手を阻んできた。

「くっ・・・邪魔をするな!!」

 

 オーブカリバーから光を放ち、ミイラ達の邪気を浄化した俺は屋上へと駆けていくホテップを追いかける。

「ドドンゴ・・」

『ドドンゴ!』

 

 先ほど倒したばかりのドドンゴ・・・その闇の力がホテップの持つリングに蓄えられる。

「エンマーゴ、キングオブモンス」

『エンマーゴ!』

『キングオブモンス!』

 

 そして蓄えられた闇の力を神殿へと放たれると・・・黒い霧が神殿から溢れ出始めた。

「う・・うわぁぁぁあっ!?」

 

 信者たちが次々と闇に飲まれていく。その闇に飲まれてしまった人々は人の姿を保てなくなり闇と一つになるように消えていった。

「まずいッ・・・!」

 

 このままではイシュタールの人々が闇に飲まれて命を落としてしまう。そう思った俺はオーブカリバーによる斬撃で壁を壊して神殿の外へと出るとすぐさま町の方へと駆け出した。

 

 

 

~~ダーナ~

 

「なんか空が曇ってきたなぁ」

 

 浴場の仕事をしていた私は曇って来た空を見上げる。さっきまで晴れていたのに急にこんなに曇るなんて・・・。

「そろそろ雨が・・いいや、嵐が来そうだなぁ」

 

 そう思った途端、黒い雲がイシュタールの空を包み込み雷の音が響き渡った。間違いなく大荒れになるね。

「ダーナ!!」

 

 嵐がくると予想しているとガイが慌ててやってきた。

「どうしたのガイ?そんなに慌てて・・・」

 

「今すぐここから逃げろ!!」

 

「え?いきなりなんで?」

 

 確かに嵐が来そうだけど・・・嵐なら建物の中にいたほうが安全だと思うけど。

「・・・邪神マガタノゾーアの話は本当だった。マガタノゾーアが復活してしまった」

 

「えっ?ガイもあの怪しい宗教を信じちゃったの?」

 

 ガイまであのホラ話を信じてしまったのかと私は仕事を再開しようとすると、大きな地響きとともにマガ教の神殿から貝のような蛇のような名状しがたい何かが姿を現した。

「まさかあれが・・・」

 

「あぁ、闇の魔王獣。マガタノゾーアだ」

 

 あの名状しがたい怪物がマガタノゾーア・・。

「もしかしてこの嵐はあれが復活したから?」

 

「あぁ。だが問題なのは嵐じゃない。・・・あれだ」

 

 ガイが神殿の方を指さしたので私は窓から顔を出して外を確認してみると・・・黒い霧のようなものが神殿の方から町へと迫ってきているのが見えた。

「あれは何?」

 

「・・・マガタノゾーアが出している闇だ。詳しくは俺も良く分からないが、あれに触れちまった人が次々と死んじまうのを神殿で見た。だからそれを伝えるために急いで戻って来たんだ」

 

 見てきたってことは・・・もうあの信者たちは闇に飲まれて・・。

「分かった。この辺りの人達を避難させるね」

 

「任せた」

 

 私にこの辺りの避難を任せたガイはマガタノゾーアの方へと駆け出して行く。

「何処に行くのガイ?」

 

「俺にはやらないといけない事がある。避難は任せたぞ!」

 

 そう言ったガイの背中がどんどん遠ざかっていく。・・・これが私とガイの最後の会話となった。

 

 

 

 

~~ガイ~

 

 

 

 ダーナに避難誘導を任せた俺は都のすぐ近くまで迫った闇の目の前までやってくる。すると興味本位で闇に触れようとする人だかりが視界に映った。

「それに触れるな!!」

 

「えっ?」

 

 真っ先に触れようとしていた男が俺の方を振り向いた途端、闇は動きを速めて人だかりの半数が一瞬にして闇に取り込まれてしまった。

「ひぃぃぃっ!?」

 

 その光景を目の当たりにした残りの人々は我先にと逃げ出していく。それに押し倒されてしまった少女は足を擦りむいたらしく、泣きじゃくっているところに闇が迫った。

「ハァっ!!」

 

 オーブカリバーから光を発することで僅かに闇の侵攻を鈍らせた俺はその隙に少女を背負って闇から離れて人々が避難しつつある丘まで運ぶ。

「ここにいればしばらくは大丈夫なはずだ。・・・もしやばそうならここの人達と逃げるんだぞ」

 

「分かった。助けてくれてありがとう」

 

 少女のお礼を聞いた俺は丘から飛び降りながらオーブカリバーを掲げてオーブへと変身して、神殿へと飛んでいく。

「ジュっ!?」

 

 その過程で闇へと飛び込んだ瞬間・・・全身が焼けるような痛みに襲われた。この闇は人を闇に溶かしてしまうだけでなくウルトラマンの身体にまでダメージを与えてしまうほど強力なもののようだ。

「シュァァァッ!!」

 

 この闇の中で長期戦はマズイ。そう判断した俺は急いで先へと進みマガタノゾーアの目の前へと着地した。

「ッ!!」

 

 マガタノゾーアは俺が着地をした直後に触手を伸ばして先制攻撃を仕掛けてくる。

「シュァ!!」

 

 俺はその触手をカリバーの刃で切り裂きながら一歩また一歩と前へと出ると、マガタノゾーアもゆっくりと町の建物を壊しつつ前進してくる。

「オォォォ!!」

 

 マガタノゾーアは触手の一本一本ですら強力な力を持っている。あれに絡めとられてしまえばそう簡単に振り解くことは難しいだろう。光の聖剣であるオーブカリバーの切れ味でなければ今の俺では切り裂くことすら敵わないほどにな。

「シュァ!ダァッ!!ジュァ!!」

 

 一瞬でも気を緩めてしまえば触手に掴まってしまう。そう思いながらカリバーを振るって何とか触手を凌いでいると胸のカラータイマーが赤く点滅し出してしまった。

「ジュァ!?」

 

 カラータイマーに気を取られてしまった俺はマガタノゾーアが放った雷を受けて後退させられてしまうと、マガタノゾーアは更に前へと進んできた。

「っ・・・!」

 

 これ以上進まれたらダーナ達が避難している丘にまで闇が到達してしまう。これ以上マガタノゾーアを進ませてはいけない。ここで絶対にマガタノゾーアを食い止めないと・・。

「デュァァァァァ!!」

 

 俺はオーブグランドカリバーを放つも、2つの光線はあっさりとマガタノゾーアから放たれた雷に撃ち消されてしまう。おそらく4つのエレメントの力を個別に放ったところで今のように撃ち破られてしまうだろう。もちろんオリジウム光線もだ。

「・・・・ッ」

 

 だとすれば使うべき技は1つ。俺とオーブカリバーに宿る全てのエレメントを解放して放つオーブスプリームカリバーだ。だが俺は4つのエレメントを集めこの技を習得してから今まで一度もその技を放ったことがない。ただでさえエレメントを解放した技はどれも強力な技だっていうのに、その全てを解放するとなるとどれほどの威力になってしまうんだろうか?

「迷ってる暇はないな」

 

 迷っている時間なんてない。今はこの技を確実に命中させることに集中しないとな。

「シュァ!!」

 

 オリジウム光線をマガタノゾーアの頭部へと撃ち込んで目くらましをした俺は空へと飛び上がる。すると伸びあがってきた触手が俺を追ってくる。

「オォォォォ・・・セイッ!!」

 

 俺はカリバーからの斬撃で触手を切り裂きつつ更に加速してそれを振り切る。そしてカリバーのリング部分を1回転させて4つのエレメント全ての力を解放する。

「ジュァ!!」

 

 そしてカリバーを空へと掲げて俺自身の力もその刀身へと集束させる。

「オーブスプリーム・・・カリバァァァァ!!!」

 

 空に光の円を描いた俺はその刀身をマガタノゾーアへと向けて光線を放つ。その光線は俺の想像をはるかに上回る威力でマガタノゾーアは何とか撃破できたのだが、爆発の衝撃は凄まじく建物は崩れ、高熱で溶けてしまった砂はガラスのようになってしまうほどだった。

「・・・・っ」

 

 オーブの変身を解いた俺はその光景を見て唇を強く噛む。いくら魔王獣であるマガタノゾーアが圧倒的な強さを持っていたとはいえ、これほど強力な技を制御せず力任せに振るってしまったからだ。

「オーブスプリームカリバー。これを制御できるようにならなきゃいけないな」

 

 この力を制御できるようにならなければいつかこれ以上の被害を出してしまうだろう。より一点に力を集束させて放てるようにさえすれば周囲にこれほどの被害を出さずにすむはずだ。

「こんな時・・・」

 

 こんな時誰かが戦い方を教えてくれたら・・・ついついそう考えてしまう。そんな考えては駄目だ。俺はこれから1人で魔王獣達の復活を阻止しないといけないんだから。

「ん?」

 

 力を制御しきれずに弱気になっていた俺はマガタノゾーアの角となっていたクリスタルに光が灯っていることに気づいた。確か魔王獣達はそれぞれかつてこの地球にやってきたウルトラマンさん方が封印したんだったな。

「つまりあの光が魔王獣を封印していたエネルギーってことなのか?」

 

 クリスタルの中に光の封印エネルギーが宿っているのではと勝手に予想していると懐にしまっていたオーブリングが発光していることに気づく。

「オーブリングは光の力をカードにすることができるってんなら・・・あのクリスタルの中にある封印エネルギーもそうできたりするのかもな」

 

 俺はオーブリングをクリスタルへとかざしてみる。するとクリスタルは光の粒子へと変化してオーブリングへと集まり出した。

「これは・・・」

 

 集まった光の粒子が1枚のカードとなったので、俺はそのカードを手に取って確認する。

「マガタノゾーアを封印していたのはティガさんの力だったのか」

 

 古の力を宿す光の巨人、ウルトラマンティガさん。以前奇械天使との戦いではユウトという少年がティガさんの力を受け継いでウルトラマンティガとして戦っていたな。だけどマガタノゾーアを封印したティガさんとユウトのティガはたぶん違う気がする。

「っと・・・」

 

 オーブリングから飛び出たかと思うと、その光は俺の腰で形を成した。

「これは・・・カードホルダーか?」

 

 どうやら集めたカードをしまうためのカードホルダーのようだ。俺はさっそくそのホルダーにティガさんのカードをしまうとまだウルトラマンに選ばれる前から所持していたハーモニカを取り出す。

「町を守り切れなくてすまない・・」

 

 既にまともに人が住めるような町ではなくなったイシュタールに俺はせめてもの手向けとしての想いを込めて故郷の曲を演奏しながらこの地を去っていく。

「ガイ!」

 

 背後からは俺がこの地を去ろうとしていたことに気がついたダーナが俺を呼び留めようと叫んでいたが・・・これ以上は互いに別れが辛くなると思った俺は振り返らないままこの地を去っていった。

 

 

 

 

~~ホテップ~

 

 ウルトラマンオーブ・・ガイが闇の魔王獣マガタノゾーアを新たな光線を繰り出して撃破した。

「今の光線・・・4つのエレメントとオーブとしての力も同時に解放していたな」

 

 4つのエレメントとウルトラマンとしての『光』の力。そして本人が気づいていたかどうかは知らないが『闇』の力も合わさった6つの属性全てを宿した大技、それがあのオーブカリバーから放たれていた。

「4属性はカリバーに宿ったエレメントの力、光の力はオーブとしての力だとすると闇の力は・・・」

 

 闇の力は奴自身の心の闇・・・と考えるのが自然だろう。

「ガイ・・・。お前の心が闇に染まりきる時が楽しみだぜ」

 

 ガイに姿を悟らせないために包帯を巻きつけていたが・・・もうその必要はない。そう判断した俺は包帯を棄てて素顔を晒した。

「これからもお前を苦しめてやるよ。このジャグラスジャグラーがな・・」

 

 

~~ダーナ~

 

 私が最後にガイを見たのは砂漠の向こうだった。ハーモニカという異国の楽器を演奏しながら去っていくガイ。その姿を見送ってから長い年月が過ぎた。

 

 

 

「それが・・・不思議な人・・ガイさんの最後の思い出なのよ」

 

 私は孫たちにガイとの思い出を語り終える。今ではこの地の古老となり・・・もうすぐ寿命が尽きてしまう前にこの思い出を誰かに話すことができてよかった。

「・・聞いてくれて・・ありがとうねぇ」

 

 まだ幼い孫たちがお礼を言われたことを疑問に思う中、私の息子や娘たちは私の命が消えようとするのを悟り涙を流し始める。夫に先立たれて早10年。もう充分に生きた。悔いはない・・・訳ではない。

「ガイ・・・貴方は今何処で何をしているの?」

 

 もう一度・・・あの人に会いたい。既に目が見えなくなってきた私がそう願った途端、誰かが私の手を握るのを感じた。

「ここにいる。君の手を握っている」

 

 懐かしい声が聞こえた。耳が遠くなっているけれど・・・この声、聞き間違えはしない。ガイの声だ。

「良かった。・・・また・・会えた・・」

 

 

 

 

~~ガイ~

 

「良かった。・・・また・・会えた・・」

 

 そう言い残してダーナは息を引き取った。ウルトラマンとしての力を手にしたことで不老長寿となってしまった俺にとって・・・このような別れがいつかは訪れるものだとは理解していた。頭では理解していたが・・・やはり耐え難い思いがこみ上げてくる。

「あの・・・貴方は?」

 

 ダーナの親族が不振そうに俺に話しかけてくる。まぁ確かに親族からしたら見知らぬ相手がいきなり押しかけてきたんだからこういう反応をされるよな。

「ダーナの古い知り合いだ。・・・邪魔をしたな」

 

 彼らにそう言い残した俺は風のようにその場を去っていく。俺はそんな出会いと別れを繰り返しつつ魔王獣復活を阻止するために世界を駆け巡る。その行く先々で様々な怪獣やこの地を侵略してきた宇宙人達と戦い・・・、時折ゼロさんに応援を頼まれてM78星雲のウルトラマンさん方と協力して事件を解決し、気づけば数千年の歳月が流れていた。

 




次回「ルサールカからの手紙」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ルサールカからの手紙

~~ガイ~

 

 闇の魔王獣マガタノゾーアとの激闘から数千年が経過した。あれから俺はこの地球で暴れる怪獣達や侵略に訪れる異星人達と幾度となく戦い続けた。光に選ばれて不老長寿となっていたこともあり・・・この数千年で様々な出会いと別れを経験してきた。時にはゼロさんに頼まれて別宇宙へと飛んで光の国の方々とともに事件を解決したこともあった。そういえば光の国の方々は万年単位で生きると聞いたが・・・やはり地球に長く滞在したというウルトラマンさん方もこんな別れを経験して来たんだろうな。

「おっと・・・変なとこに出ちまったな」

 

 考え事そしながら歩いていると、気づけば深い森の中にいた。

「できれば今日中に目的地にたどり着きたいんだがな・・・」

 

 俺はポケットから一通の手紙を取り出す。先日俺宛に宇宙配達で届けられた手紙だ。それには『この地は怪獣に狙われている。助けて欲しい』と書かれていた。

「それが本当なら一大事だが・・・」

 

 もしかすれば俺を快く思っていない異星人の罠の可能性もある。警戒しておくに越したことはないな。

「とりあえず・・・早く森を抜けないとな。・・・っ!?」

 

 早く森を抜け出そうと走り出した途端、俺は見えない何かに頭をぶつけて尻もちをついてしまう。これは・・・バリアか?

「何でこんなところにバリアがあるんだ?」

 

 こんな森の中にバリアがあることの理由を考えていると強い揺れとともに鳥たちが一斉に飛び立った。

「いったい何が・・・?」

 

 俺は周囲を見渡してみるとバリアの方へと向けて怪獣が迫っているのが見えた。

「あれは確かキングザウルス・・・とかいうのだったな」

 

 5~600年前にキングザウルスとは戦ったことはあるからさしずめあれはキングザウルス二世といったところだろう。奴の角はあらゆる光線を防ぐバリアを張れるんだよな。以前戦った時はそれに苦戦させられた。

「だけどもう戦い方は覚えてる。早めにケリを・・・」

 

 キングザウルス二世を倒そうとオーブカリバーを取り出そうとした途端、キングザウルス二世は熱線を放ってバリアを破壊しようとしてきた。

「バリアの向こうに行こうとしているのか?」

 

 もしかしてこのバリアの向こうに手紙の場所があるのかもしれないな。

「もう少しだ。もう少しでバリアだぞ」

 

「うんっ・・・」

 

 オーブカリバーを空へと掲げて変身しようとするとバリアに向かって走っている親子が視界に映った。するとキングザウルス二世はその親子へと向けて熱線を放ってきた。

「アンジュ!?」

 

「ハァァッ!!」

 

 父親が10歳ぐらいの娘を庇う体勢を取ったところで、熱線と親子の間に俺が割って入る。そしてカリバーから発したバリアで熱線を防いだ。

「大丈夫ですか?」

 

「すまぬ、助かった」

 

「う・・うん・・」

 

これがウルトラマンである俺とルサールカの地に移住したエスメラルダ王国の国王であるエメラルド・ロマノワと姫様であるアンジェリカ・ロマノワとの出会いだった。

 

 

 

 

~~エメラルド~

 

 

 外交の都合でバリアを張っている国の外へと出ていた私とアンジュは偶然にもキングザウルスと遭遇してしまった。我々の乗っていた馬車や親衛隊たちもキングザウルスにやられてしまい、まさに絶体絶命という時・・・

 

「大丈夫ですかか?」

 

「すまぬ、助かった」

 

「う・・うん・・」

 

 1人の青年が私達親子を助けてくれた。

「お主はいったい・・?」

 

「話はあとで・・。まずはキングザウルス二世を倒してきます」

 

 そう告げた青年は手にしている剣から光を放つと、青年は光の巨人へと姿を変える。

「あの者・・ウルトラマンだったか」

 

「ウルトラマン?」

 

 娘であるアンジュは初めて聞く単語に首を傾げる。

「アンジュには話したことがなかったな。・・・宇宙には1つの伝説があるのだ。宇宙が危機に瀕した時に現れるという光の戦士の伝説がな。私もアンジュぐらいの頃、あの戦士とは違うがその姿を目にした時があったな」

 

 私が目撃したことがあった光の巨人は・・・2本の大きな角を生やし赤いマントを羽織った巨人だった。人生で2度もウルトラマンを拝むことになるとはな。

「シュァ!!」

 

 光の巨人はキングザウルスの広げているバリアを跳び越えて光を纏ったキックを叩き込む。するとその一撃で角が折れたキングザウルスはバリアを展開することができなくなった。

「デュァ!!」

 

 その隙を見逃さなかった光の巨人は両腕を十字に重ねて光線を放ちキングザウルスを撃破する。

「・・・お待たせしました」

 

 キングザウルスを倒し終え元の姿へと戻った青年は私達の元へと戻ってくる。

「助けてくれてありがとう。私はこのバリアの向こうにある王国、エスメラルダの国王エメラルド・ロマノワ。そしてこっちが娘のアンジェリカだ」

 

「っ!」

 

 普段は人見知りをしないはずのアンジュが珍しく私の背に隠れてしまう。ウルトラマンに怯えている・・・というわけではなさそうだが、接し方に困っているようではあるな。

「俺はガイ。ウルトラマンオーブです。ここにはこの手紙を受け取り、やってきました」

 

 ガイ・・ウルトラマンオーブと名乗った青年は手紙を私に見せてくる。この筆跡は私の妻であるホノカの字だな。確かホノカの父はかつてウルトラマンとともに旅をしたことがあると言っていたが・・・それ故にガイを頼ったのだろう。

「ふむ、この地へと来てくれたということは・・」

 

「えぇ。怪獣がこの地を狙いやってくるというのならぜひ協力させてください」

 

 

 

 

~~アンジェリカ~

 

 お父さまがウルトラマンに変身していた男の人を城に招き入れた。私は目の前にいる本物の勇者のような人にドキドキしてしまって、最初に何をどうしゃべればいいのか分からずにずっとお父さまの後ろから彼を眺めていた。

「では改めてお礼を言わせてくれ。私と娘を助けてくれた事、心より感謝する」

 

「私からもお礼を言わせてください。夫と娘の命を御救い下さりありがとうございます」

 

 玉座に座ったお父さまは深々とガイに頭を下げたら、お母さまも頭を下げた。

「いえ。俺はウルトラマンとして当然のことをしたまでです。ところで・・・あの手紙はいったい誰が?」

 

「私です」

 

 お母さまはガイに手紙を送ったのは自分だと名乗り出た。

「私の名はホノカ・ロマノワと申します。どうぞお見知りおきを」

 

「俺のことは・・・どうして?」

 

「貴方の活躍は既に亡くなった父から伺っておりました」

 

「ホノカさんの父は俺を知っていたんですか?」

 

「はい。父はかつて貴方と旅をしたことがあると私がまだ幼い頃何度も語ってくれました」

 

 私が生まれる前に亡くなったお爺さまはどうやら昔ガイと冒険したことがあったらしい。あれ?ってことはガイは今何歳なの?

「私の父親の名前はシューティー。別宇宙の鉱山惑星出身の人です」

 

「シューティー・・だって?」

 

 

~~ガイ~

 

「シューティー・・だって?」

 

 俺はホノカさんの父親の名前を聞いて驚きのあまり声を挙げてしまう。その名を忘れるはずもない。・・・かつて共に旅をした大切な仲間の名を・・。

「父は怪我でガイさんと旅が出来なくなってから両腕を義手にし、しばらく星間連合で活動をしていたらしいのですが、この宇宙で母と出会いこの宇宙に留まる決意をしたらしいのです」

 

 そうか・・。あいつはここで自分なりの旅の答えを得たんだな。

「シューティーの最後は?」

 

「父はこの地を守護する戦士として長年戦っていましたが星間連合で作られた義手はこの地では修理できなかったので・・・錆が毒のように身体を蝕んで衰えて・・・娘が生まれる二月ほど前に・・」

 

 あいつにとっての孫が生まれる前にこの世を去ったのか。あいつがこの星にいるとは知らなかったとはいえ・・・仲間の最後に立ち会うことが出来なかったのは悔しいな。それも話を聞くかぎりではだいぶ辛そうな最後というのは・・。

「父は最後に・・・いざという時には貴方を頼るように言い残してこの世を去りました」

 

 あいつが俺を頼りに・・・か。

「最後にあいつが俺を頼ってくれたなら・・・尚更ここを守らないといけないな」

 

 オーブカリバーを取り出した俺はそれを上に掲げる。

「今は亡きシューティーに誓おう。俺はあなた達を・・・この国を必ず守ると」

 

 騎士が己の剣にかけて守り抜くことを誓うように俺もオーブカリバーの光とシューティーにかけてこの国を守ることを誓う。

「感謝する。光の戦士よ」

 

 

 

~~ジャグラー~

 

「このバリアの向こうにエスメラルダの国があるのか・・」

 

 ルサールカの地にやってきた俺は偶然にも長年探し続けていた地球へと移住してきたエスメラルダ王国を発見した。だがその土地はバリアによって見えなくしているどころか、怪獣や悪しき心を持つ相手を通さないようにされていた。そのせいで俺もバリアを超えることができない。

「バリアの内側からぶっ壊してやろうと思ったが・・・そう簡単に上手くはいかないようだな」

 

 このバリアを破るには強力な光属性の怪獣をぶつけるしかない。それも魔王獣クラスの怪獣をだ。

「城の攻略に必要な怪獣は選択の余地がなく光の魔王獣マガゼットンということになる。そして俺の幸運たるやルサールカの地にマガゼットンが封印されている」

 

マガゼットンの封印さえ解ければいいのだが、生憎俺の手持ちの怪獣カードの中には1枚も光属性を宿す怪獣がいない。倒された瞬間の怪獣へとダークリングをかざせばその怪獣の力を宿した怪獣のカードを手に入れることができるのだが、カードを確認するまでその怪獣がどんな属性かは分からない時もある。火や水は分かりやすいが風や光は他と比べて分かりにくいのが多い。というよりも本当にお前はその属性かと疑える奴らばかりだ。

「最初はまずカード集めをするべきだが・・・マガゼットンを復活させるためにも倒すべき怪獣に闇の力を注ぐわけにはいかない。即ち俺がその怪獣達を倒してはいけないということだ」

 

 そう・・・あくまでも「俺が」だけどな。

「俺が倒しては駄目というのなら、ガイに怪獣を倒させてやればいいだけのことだ」

 

 問題はその怪獣をどうこの地に誘導するかだ。

「いや・・・その必要もないのか」

 

 理由は知らないがこのバリアの向こう側にある国は怪獣に狙われているようだ。光属性を持つ怪獣が来るのを気長に待つとしよう。

「俺はただガイに倒された怪獣の力を集めているだけで充分だな」

 

 俺は先ほどガイに倒されていたキングザウルス二世の力を回収すると・・・それは光属性のカードとなった。

「これは幸先がいいな」

 

 以前闇の魔王獣であるマガタノゾーアを倒した時に気づいたが、魔王獣は封印を解除する際に最低3枚は同じ属性を持つ怪獣の力が必要なようだ。そしてキングザウルス二世のカードを手に入れたことで残りは2枚となった。

「たとえ光属性の怪獣でなくても、後々他の魔王獣たちを解放するための力が集まるからな。気長に待たせてもらうとするか」

 

 

 

~~エメラルド~

 

「シュァ!!」

 

 ウルトラマンオーブ・・・ガイがこのエスメラルダ王国を守護してくれるようになってから3年の月日が流れた。次々と現れる怪獣を相手に今日もあの戦士はこの国を守るために戦っていた。

「オォォォ・・セイッ!・・ジュァ!?」

 

 オーブが苦戦を強いられている怪獣の名はプリズ魔。光怪獣とも言われるこの怪獣の最大の特徴はあまりにも生物的ではないその外見だ。まるで結晶体のようなその怪獣はプリズ魔光線という光線を放つ。その光線を浴びた人間は結晶体に変化させられてしまい、あの怪獣に取り込まれてしまうか光の粒子となって消滅してしまう。事実あの光線を浴びて奇跡的に生還した兵はまもなくして身に纏っていた鎧や服などを残して肉体が消滅してしまったのだ。

「して・・・プリズ魔に何か弱点はあるのか?」

 

「少々お待ちを・・」

 

 私はこの国の学者であるアルシエルに助言を求めると、アルシエルはすぐさま研究室の資料を漁り出した。

「これですね、光怪獣プリズ魔。強い光をエネルギー原にしている怪獣であり、その特性上夜間でしか活動できないのです。弱点は絶対零度のような超低温と記録が残されていますね」

 

 ふむ、超低温か・・。

「絶対零度を再現することは可能とする武装はあるか?」

 

「以前開発した絶対零度砲アブソリュートならそれが可能ですが・・・これほど国に近い距離で放つのは危険が伴います」

 

 ここから放ち支援をするのは危険ということか。

「つまりアブソリュートを撃てる距離まで離れさせればよい・・・ということなのだな」

 

「えぇ、確かに可能ですが・・」

 

 ならば答えは決まりだ。

「私自らが囮となってプリズ魔を誘導する!」

 

「なっ!?王自らとは・・・危険です!おやめください!」

 

 アルシエル自ら囮になると告げると当然止めにかかってくる。

「だがこのままではオーブがやられてしまうのだぞ」

 

「ですが・・・」

 

「なら自分が囮になります!」

 

 私が囮になろうとしていると1人の兵が自分が囮になると名乗り出てくる。

「お前は・・・?」

 

「第2部隊所属のキリュウです。自分が明かりであの鉱物のような怪獣を誘導します」

 

 まだ若いというのになんと勇敢な青年だ。

「確かにここ数年運動をなさらずやや小太りになりつつある王よりも成功率は高そうですね」

 

「アルシエル、何か言ったか?」

 

「い、いえ何も!?」

 

 こいつ学者の仕事をクビにしよう。

「ではキリュウよ。プリズ魔の誘導の任、お主に任せるぞ!」

 

「はい!」

 

 

 

~~キリュウ~

 

 王様に誘導の任を任せてもらった自分は両手に明かりを携えて聖剣の勇者様が戦っているプリズ魔の背後へと回り込む。

「こっちだプリズ魔!!」

 

 両腕を大きく振ってプリズ魔に自分を気付かせる。これならいけそうだ。

「よし来い!」

 

 明かりを上へと掲げながらプリズ魔をバリアから遠ざけだす。するとプリズ魔は自分に向けて光線を放ってきた。たしかあの光線に当たると取り込まれるか消滅してしまうかだったよな。

「ぬぁ!?」

 

「シュゥァ!!」

 

 聖剣の勇者様はバリアを張ることでその光線を防いでくれる。アブソリュートを放てるまではもう少し離れてもらわないといけない。

「あと少し・・もう少し・・・」

 

 自分は必死になって距離を取ると、城の方から黄緑色の光が点滅するのが見えた。

「アブソリュートを発射できる距離に到達した合図だな」

 

 あの合図が見えたら数分でアブソリュートが発射されると説明された。なので自分は数分のうちに王国のバリアまで戻らなくてはならない。

「っ!」

 

 聖剣の勇者様も「早く逃げろ」とでも言うように頷いていたので、自分はすぐさま王国へと走り出す。

「シュァ!!」

 

 腕を十字に重ねて光線を放った聖剣の勇者様だったが、その光線はプリズ魔の結晶のような体に吸収されてしまう。確か王様とアルシエルさんとの会話でエネルギー原が光だなんて言っていたな。

「光線技が効かない相手ってことなのか」

 

 聖剣の勇者様の必殺技である光線系統が効かない。となるとやっぱり決め手になるのはアブソリュートになるのか。

「ふぅ、ギリギリセーフ」

 

 何とかバリアの内側にある王国に帰還できると・・・帰還を確認されると同時にアブソリュートがプリズ魔目掛けて発射される。聖剣の勇者様はそれを空を飛ぶことで安全圏内へと避けるとアブソリュートを受けたプリズ魔は体が氷漬けになるとともにその半分が粉々に砕ける。

「やったか?」

 

 アブソリュートによる攻撃で勝利した。そう思った瞬間、体が半分なままのプリズ魔は氷から解放されるやいなや聖剣の勇者様に光線を放ってきた。

「セイっ!」

 

 聖剣の勇者様は剣を振り払うことで光線を撃ち消す。すると聖剣の勇者様は自ら光となってプリズ魔の中へと飛び込んだ。

「シュゥゥゥワッ!!」

 

 プリズ魔も体がひび割れたかと思うと、爆発して粉々に砕けると同時に聖剣の勇者様が飛び出てきた。

「ハァ・・・ハァ・・」

 

 バリアの手前に倒れ込んだ聖剣の勇者様は光の巨人としての姿から人の姿へと戻る。

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「あぁ、かなりギリギリだったけど何とかな」

 

 どうやら聖剣の勇者様でもプリズ魔の中へと飛び込んで内側から破壊するというのはかなり無茶な策だったようで上半身を起こすのがやっとなほどまでに消耗していた。

「ありがとう。お前が王国からプリズ魔を離れさせてくれたおかげで奴が凍りつけられた。あれがなかったら俺はプリズ魔から出られなかったと思う」

 

「い、いえ・・自分は・・」

 

「そう謙遜するな」

 

 自分はそこまで大したことはしていない。そう言おうとしていると王様がこちらへと歩いてきた。

「私からも礼を言わせてくれ。お前が名乗り出てなければガイもこの国も危うかった。感謝する」

 

「も、勿体なきお言葉。感謝致します!」

 

「さて、一段落したところで戻るとするか。此度の宴はお前達が主役だぞ」

 

 聖剣の勇者様に肩を貸した自分はバリアの中にある城へと歩いていく。

「ん?」

 

 何となく背後から視線を感じたような気がした。だけどまぁ、聖剣の勇者様のご帰還なのだから嫌でも注目を浴びるものだろうと思い、自分はバリアを潜り抜けて城へと戻っていった。

 

 

 

 

~~ジャグラー~

 

「ご苦労だったな、ガイ」

 

 ウルトラマンオーブがプリズ魔を倒してくれたおかげで必要な光の怪獣カードが残り1枚となった。

「ふむ。あいつの活躍のおかげでだいぶ怪獣のカードも集まったな」

 

 数年間ガイはバリアの向こうにある王国を守り続けてくれているおかげで俺はただ倒された怪獣の力を回収するだけな簡単な作業を繰り返し今では十数枚ほどの怪獣カードを手に入れていた。

「しかし何故このルサールカっていう場所に怪獣が集まってくるんだ。あのバリアの向こうの国には何がありやがる」

 

 惑星エスメラルダはエメラル鉱石のエネルギーを様々な用途に使っているのは知っているが、この宇宙の惑星エスメラルダは既に大きな戦いで壊滅し、鉱石もほとんどなくなったと聞いている。だとしたら怪獣達がわざわざ狙いに行くようなエネルギーはないはずなのだが・・・。

「そう謙遜するな」

 

「ん?」

 

 そんな時、俺は偶然にもエスメラルダ王家を見かけた。

「そうか・・。そういうことか」

 

 数年間このバリアの周囲にいたが今まで見かける機会がなかったエスメラルダ王家、その気配を感じられる距離にいたことで俺はようやく答えにたどり着いた。

「エスメラルダ王家が身に宿すエネルギーはエメラル鉱石と同質のエネルギー。怪獣達はそれを求めてこの地へとやってきていたのか」

 

 王家が身に宿すエネルギーを求めて怪獣達がやってくる。その事実を知らない国の民達はそのせいでバリアの外を自由に出歩けなくされる。

「この事実を知った時・・・あの国はどうなっちまうのかな?」

 

 人は真実を求める生き物であると同時に真実を知る事で絶望する生き物だ。真実を知った王国の民たちはどう騒いでくれるかな。楽しみだぜ。

 




次回「ルサールカより愛を込めて」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ルサールカより愛を込めて

~~ガイ~

 

 プリズ魔を何とか撃破できてから半月ほどが経過した。

「ねぇガイ。いっつも演奏してるその曲は?」

 

 俺がハーモニカを奏でているとアンジェリカがこの曲のことを尋ねてきた。最初の頃は話しかけても物陰に隠れてしまっていたアンジェリカだがそれは最初の1~2か月程度で済み、今では普通にアンジェリカから話しかけてくれるようになった。それどころかここ最近は2人きりでいる時には親しい人が呼ぶ『アンジュ』と呼ぶように言ってくるようになってしまっている。

「これか?これは俺の故郷の曲なんだ」

 

 数千年も帰っていない故郷の曲。

「へぇ、でもそのハーモニカ、だいぶボロボロだね」

 

「言われてみれば確かにボロボロだな。300年前作ったばかりなんだけどなぁ」

 

「えっ!?300年も使い続けていたの!?そりゃボロボロになるでしょ。ねぇガイ!これをあげる!」

 

 そう言ったアンジェリカは俺が使っていたハーモニカより少し大きめのハーモニカを手渡してきた。

「それね。この前私が作ったんだ!」

 

「へぇ・・。アンジュが自分で・・」

 

「・・ごめん。ちょっと不格好だよね。やっぱりもっとちゃんとしたのを・・」

 

「いや、これでいい。アンジュが作ってくれたものなんだろ。お姫様からの貰い物を無碍になんてしないさ」

 

 アンジェリカが作ってくれたハーモニカを受け取った俺はさっそくそれを使って演奏してみせた。

「・・・うん。何度聞いてもいい曲だよね」

 

「アンジュ。そろそろ時間なんじゃないのか?」

 

アンジェリカが13歳となってからいよいよ次期女王としての公務や外交などを始めるようになった。そしてそろそろその公務の時間というわけだ。

「え~、もう?・・・それでは行ってくるのじゃ」

 

 普段はそんな話し方をしないアンジェリカだが、女王と普段の自分を切り替えて行動するためにまずは形からということでとりあえず仕事中の喋り方を威厳があるようにしてみているらしい。・・・だがまだ14歳になったばかりのアンジェリカには喋り方を変えたところでそれほど威厳があるようには感じられないな。

「・・頑張れアンジェリカ」

 

 

 

 

~~ジャグラー~

 

 バリアの外、城の中庭を見下ろせる大きな樹から今日もお姫様といるガイの様子を眺めていた。

「え~、もう?・・・それでは行ってくるのじゃ」

 

「・・頑張れアンジェリカ」

 

 ガイの愛しのお姫様は仕事のためにわざわざ口調を変えて城の中へと戻っていく。ガイと監獄惑星で決別してから数千年・・俺は幾度となくガイを絶望させてやろうと様々な手を使った。しかし現状はなんだ?俺が1人闇を彷徨い、ガイは人々に称えられ栄光の道を歩んでいる。

「オーブの光に選ばれなかっただけでこうも俺達の運命は違うものなのか?」

 

 悔しさと妬ましさの感情に包まれているとバリアへと向けて怪獣が歩いてくるのが見えた。

「超コッヴか・・」

 

 宇宙戦闘獣超コッヴ。元々のコッヴはさほど危険な怪獣ではないが様々な条件が重なってパワーアップされたのが超コッヴだ。

「シュァ!!」

 

 ガイはいつも通りウルトラマンオーブへと姿を変えてバリアの外で超コッヴとの戦闘を開始し始める。

「オォォォォッ!!」

 

オーブの振るう剣が超コッヴの鋭い爪を切り裂く。超コッヴもかなり強い怪獣だというが、これまで数千年間怪獣達と戦いを繰り広げただけはあり超コッヴに引けを取らない戦いぶりをする。

「まぁこれから光の魔王獣を解放するつもりなんだから、あれぐらいの相手にピンチになるようなら話にならんがな」

 

「オーブフレイムカリバー!!シュァ!!」

 

 火のエレメントの力を解放して炎の輪で超コッヴを包み込み、今回もオーブの活躍によって怪獣が撃破される。

「ふん・・・」

 

 俺は倒された超コッヴのエネルギーをダークリングで回収すると、そのエネルギーは超コッヴのカードとなる。それも3枚目となる光属性の怪獣カードだ。

「ふふ・・これでようやく3枚目の光が集まったな」

 

 光の魔王獣が封印されている場所はこのルサールカだと確定している。つまりあとは3枚の光属性の怪獣カードを生贄に捧げ、光の魔王獣を解放するだけだが・・・ただ封印を解除するだけでは芸がない。

「やはりあいつの目の前で光の魔王獣を解放してやらないとな」

 

 

 

 

~~アンジェリカ~

 

 ガイがこの王国にやってきてから6年の時が経っていた。初めて見たときから私はガイに心惹かれるものを感じていた。それが一目ぼれだったと自覚したのは13の誕生日を迎えた頃だ。

「帰ってきたぞ!聖剣の勇者様だ!」

 

「勇者様!!」

 

 国を守る兵達が怪獣を倒して城へと戻ってきたガイを称える。

「よくやったなガイ!褒めてつかわす!」

 

 私は兵達の前ということで女王様口調でガイを褒め称える。

「お褒めに預かり光栄です。姫様」

 

 普段はお父様とお母様以外に敬語で話さないガイも私の威厳を保ってくれようと敬語で返してくる。

「聖剣の勇者様さえいてくれてばどんな怪獣が来ても安心だよな!」

 

「あぁ!聖剣の勇者様が負けるはずないからな!」

 

 ガイが負けるはずがないと疑わない兵達は『無敵の英雄』として見ている。もちろん私やお父様もこの時は確かにそう思っていた。・・・そう、この時までは・・。

 

 

 

 

 

「ねぇガイ。ちょっと話があるんだけど・・・いいかな?」

 

「え?・・・まぁ、構わないが・・」

 

 17歳の誕生日を明日に控えた私は夕食を食べ終えたガイを中庭へと飛び出した。

「それで話っていうのは何なんだ?アンジュ」

 

 2人きりの時はアンジュと呼ぶように約束させているガイは私に呼び出した理由を尋ねてくる。

「あのねガイ、お父様やお母様と昨日話して・・・もしガイがいいっていうなら・・」

 

「ん?何だよもったいぶって?」

 

 もったいぶってるんじゃなくて恥ずかしくて言いにくいんだよ。前から思っていたけどガイってそういうところは鈍いよね。昔っからそうだったのかな?

「ガイ・・この国の王様に・・・」

 

 この国の王様になる気はない?そう尋ねようとした途端、中庭から見える空に怪しい黒い雲が広がった。

「ガイ!」

 

「あぁ、ただの自然現象じゃないな。アンジュは絶対外に出るなよ!」

 

 そう言い残したガイは事の真相を確かめるべくバリアの外へと駆けていく。

「まだ大事な事・・・言えてないのに・・・」

 

 言いたいけど言えなかった事、恥ずかしく照れくさくて言えなかった事・・・この想いを大切な人に告げることが出来なかった。

 

 

 

 

~~ジャグラー~

 

「やっぱりお前か!ジャグラー!!」

 

「ようガイ。デート中だってのに呼び出して悪いなぁ」

 

 夜だってのに中庭デートをしてやがったガイに苛立った俺は水属性の怪獣カードであるぺスターの力を発動して天候を操作してガイをバリアの外へとおびき寄せた。その誘いに乗ってくれたガイは素直にバリアの外へと出てきてくれた。

「何をする気だジャグラー」

 

「何をする・・・か。そんなことは1つしかないだろう」

 

 俺はガイの目の前でダークリングを取り出してみせると、ガイはそれを驚いた反応を見せる。

「それはイシュタールでホテップが・・・あの包帯の正体はお前だったのか」

 

「鈍いなぁ。光の戦士だってのにお前は鈍すぎる。よくそれでオーブなんかをやれているなぁ。・・・このリングはダークリング。ガイ、お前の持つオーブリングと対になる存在だ」

 

「対だと・・。お前、イシュタールでの時のようにまた魔王獣を復活させる気なのか?」

 

「当然だ。そのためにこの地でお前が倒す怪獣達の力を集め続けたんだからな。お前のおかげでそれなりに溜まったぞ!」

 

 ガイにこれまでこの地で集めた怪獣カードを見せびらかした俺はそのうちの3枚以外をポケットへとしまう。

「キングザウルス二世」

『キングザウルス!』

 

「プリズ魔・・」

『プリズ魔!』

 

「させるか!!」

 

 俺がダークリングに2枚のカードをリードするとガイは光の魔王獣の復活を阻止しようと俺に殴り掛かってくる。

「ぐっ・・!もう遅いッ・・・」

『超コッヴ!』

 

 ガイの拳を避けずに受けた俺は後ろに倒れそうになりながらも3枚目の怪獣カードをリードする。

「さぁ現れろ!!光の魔王獣マガゼットン!!」

 

 3体分の光のエネルギーをルサールカの空へと放つ。すると暗雲から落ちてきた落雷とともに青白く輝く光の魔王獣、マガゼットンがテレポートでルサールカの地に現界した。

「くっ・・!!オーブグランドカリバー!!」

 

 ガイはオーブカリバーを空へと掲げてウルトラマンオーブへと姿を変えるとほぼ同時に土のエレメントの力を解放してマガゼットンへと攻撃を仕掛ける。

「ゼェェェトォォン」

 

 大地を辿る2つの光線がマガゼットンへと迫っていくと、マガゼットンは全身を包み込むバリア・・ゼットンシャッターで左右から迫る光線をあっさりと受け止めた。

「シュァ!!」

 

 ならば先にバリアを砕こうとオーブカリバーを構えたオーブはマガゼットンへと剣を振るおうとするも、マガゼットンは右腕で剣を受け止めて左脚でオーブを蹴り倒した。どうやら格闘能力も光の戦士と張り合える・・・いや、上回るほどのものらしい。

「オーブウインドカリバー!!」

 

 オーブは風のエレメントの力を解放して竜巻を巻き起こしてマガゼットンを空へと飛ばした瞬間・・・マガゼットンはテレポートですぐ地上に戻って来た。

「オァ・・!?」

 

「ゼェェトォォン」

 

 風のエレメントの力でもまるでダメージになっていないマガゼットンに驚いたオーブは警戒して数歩後ろへと下がるとオーブカリバーのリングを1回転させる。

「全てを解放するオーブスプリームカリバーを使う気か?」

 

 オーブスプリームカリバー・・・それはガイが変身するウルトラマンオーブ最強の光線技だ。カリバーに宿る4エレメントと自身に宿る光と闇を全て解放することで放たれる光線は凄まじい破壊力があり、個別のエレメント攻撃が通用しなかった闇の魔王獣であるマガタノゾーアを一撃で撃破したほどだ。

「だがあいつはあの技をマガタノゾーアとの戦い以降使っていなかったはずだ。・・・どういう心境の変化だ?」

 

 マガタノゾーアとの戦いから数千年間、ガイはその技の威力に怯えてかあれ以降一度たりともオーブスプリームカリバーが使われることがなかった。今それを再び使おうとしているのだからついつい俺もビビッてしまう。

「っ・・・」

 

 せっかくスプリームカリバーを使うと思ったのだが、やはりオーブはあの技を使いこなせる自信がないようでその動きを止めてしまった。

「どうせ後ろのお姫様たちを巻き込んじまうってビビったんだろうな」

 

 自分のせいでバリアが壊れ、王国にまでダメージを与えてしまうかもしれない。どうせあいつはそんなことでビビッて手を止めたんだろう。心境が変化したかと思えば結局いつも通りだ。

「ジュァ!?」

 

 攻撃を躊躇ったところにマガゼットンの火球を受けたオーブはバリアのすぐ前に倒れ込む。

「ゼェェトォォン」

 

 その倒れているオーブへとマガゼットンは胸部に光を集めながらゆっくりと近づいてくる。

「シュァ・・・」

 

 立ち上がったオーブはバリアの向こう側にある城を守るつもりなのか守りの構えで身構える。

「ゼェェトォォン」

 

「ダァ・・・ッ!?」

 

 身構えてるへとマガゼットンは溜めていた光弾を放つ。その一撃はオーブの変身を解くとともに王国を包んでいたバリアを粉々に砕いた。

 

 

 

~~アンジェリカ~

 

「ダァ・・・ッ!?」

 

 これまでどんな相手にも負けることのなかったオーブが負け、王国を守っていたバリアも砕かれた。その事実は国の民達はおろか城の兵を動揺させるには充分だった。

「そんな・・・無敵の聖剣の勇者様が負けるなんて・・・!?」

 

「しかもあと数百年は大丈夫って言われてたエメラル鉱石のエネルギーで形成されていた光のバリアまで壊されちまった。・・・どうなるんだよこれ?」

 

「もう駄目だ。おしまいだぁ・・」

 

 既に戦意喪失してしまっている兵達の何人かは既に『生きる』ことを諦めてしまっているのまでいる。

「皆の者!諦めるでない!!あれを見よ!!」

 

 兵達の前へと立ったお父様は立ち上がろうとするガイを示す。

「聖剣の勇者は・・・ガイはまだ諦めてはいないのだぞ!我らが生きることを諦めてどうする?」

 

 お父様の言う通りだ。私達が諦めたらそれこそ終わりだ。

「とはいえバリアが破られてガイが満足に戦えないのは事実。兵達は民を最優先で避難させよ。この城は放棄する!!」

 

 この城を放棄する。・・・お父様の言葉で周囲にどよめきが走る。

「王よ。城を放棄するなどと・・・」

 

大臣は城を放棄する発言に抗議しようとするも、お父様は首を横に振った。

「命あってこそ、民がいてこその王国だ。城など壊れても建て直すことができる。まずは生き延びることを、命を守ることを優先するのだ!!」

 

「「「「ハッ!」」」」

 

 士気を取り戻した兵達はすぐさま避難誘導をするために城下へと駆け出して行く。するとガイが一度私達の元へと戻って来た。

「王様、王妃様。アンジェリカ・・・。奴は必ず倒す。だからここから早く離れてくれ」

 

「ガイよ。何か策はあるのか?」

 

「1つ策があります。俺が用いる最強の技、オーブスプリームカリバーなら勝機があります」

 

「もしかして・・・さっき使おうとしていた技?」

 

 ガイは私の問いかけに頷くと聖剣を取り出した。

「オーブカリバーに宿る4つのエレメントと俺に宿る力を全開放して放つ必殺技・・それがスプリームカリバーです。ですがさきほどは自分がその技を使う事でバリアを壊し、王国に被害が及ぶのではないかと思って躊躇ってしまいました」

 

 どうやらその技はあまりにも強力過ぎてガイが躊躇ってしまうほどのもののようだ。

「ですが次は躊躇わず放ちます。ですからそれを放つ前に・・・」

 

「ふむ・・。このルサールカの地から離れて欲しいというわけか」

 

 頷いたガイはゆっくりと歩いて王国へと入ってくる怪獣の方へと向き直す。

「奴は光の魔王獣マガゼットン。これまでこの地に現れた怪獣とは格が違う相手です。・・・ですがこの国のみんなが逃げるぐらいの時間は稼いでみせます」

 

「・・・っ」

 

 そう告げたガイは再びマガゼットンという怪獣へと挑もうと歩き出すと、私は無意識のうちにガイの袖を掴んで止めていた。

「姫様?」

 

「ガイ、絶対帰ってくるよね?」

 

 まだ兵達がいるにも関わらず、私は『次期女王』としてではなく1人の女として問いかける。ガイが・・・愛しい人が帰ってこないかもしれないと不安になってしまったからだ。

「あぁ、必ずマガゼットンを倒して帰ってくる」

 

 そう言ったガイはまだ民が逃げ切っていない城下へと責めるマガゼットンへと駆け出しながら聖剣を空へと掲げて再び光の戦士へと姿を変えた。

「頑張って・・・ガイ。必ず・・必ず帰ってきて」

 

 ガイと約束した「必ず帰ってきて」という約束は守られることはなかった。

 

 

~~ガイ

 

 

「ゼェェトォォン」

 

 ジャグラーによって封印が解かれた青白く輝く光の魔王獣マガゼットンに対して俺はオーブへと変身すると再び戦いに挑んだ。しかし俺のすぐ後ろには守るべき国があり、それを巻き込まないためにも力を抑えていたので押しきれずに苦戦を強いられていた。

「シュァ!!」

 

 力を抑えて戦わないといけないうえに国の人達が逃げ切るまで時間を稼がないといけない。

「ジュァ・・・」

 

 光の斬撃を飛ばすと全方位バリアで防がれ、近づくと力強いカウンターを受ける。かといって距離を取り過ぎてもテレポートで距離を詰められたり、最悪王国を守っていたバリアを一撃で粉砕するほどの光弾を放たれてしまう。時間を稼ぐとは言ったものの八方ふさがりなのは確かだ。

「・・・ッ!」

 

 ルサールカの森を抜けたところから青と赤の光が交互に点滅するのが見えた。万が一の時の避難完了の合図だ。これでオーブスプリームカリバーを使える。

「オォォォ・・・セイッ!!」

 

 マガゼットンに光を纏ったカリバーを振り下ろすも、やはりバリアによって弾かれてしまう。

「シュァ!!」

 

 続けざまに光線を放つと、マガゼットンはゼットン特有の光線吸収能力を用いてそれを吸収してしまった。だがあれには吸い切れる限界というものがある。オーブスプリームカリバーならその限界を超えてマガゼットンにダメージが通るはずだ。

「・・・・」

 

 確かめるべきことは確かめることができた。スプリームカリバーを確実に命中させるにはやつが攻撃をしてきた直後・・・そう、光弾を撃った直後を狙うしかない。バリアや吸収ならどうにかなるがテレポートをされたら元も子もないからな。だからそのチャンスがくるまで・・・耐えるんだ。

 

 

~~アンジェリカ~

 

「ガイ・・っ」

 

 ガイがマガゼットンの攻撃をひたすら受け止めていた。きっと何か策があってのことだと思うが・・・私はいても経ってもいられなくない気持ちでいっぱいだった。

「アンジュ、気持ちは分かるが耐えるのだ」

 

 お父様は険しい表情をしながらもガイの勝利を信じて戦いを見上げている。でもやっぱり私は・・・

「やっぱり私は・・・ッ!!」

 

「アンジュ!!」

 

「アンジュ様!!」

 

 私はお父様や兵達の制止を振り切って城へと戻ろうと駆けていく。するとルサールカの森に入る直前にお母様と出くわしてしまった。

「行くのね・・アンジュ」

 

「・・・はい、お母様」

 

 どうやらお母様は止める気がないようで、通すように道を開けてくれる。

「止めないのですね」

 

「・・・えぇ。止めても無駄だというのは分かってるわ。私の娘だもの」

 

「ありがとう。お母様」

 

 お母様にお礼を告げた私は急ぎ城へと戻っていく。・・・これがお母様との最後の会話となった。

 

 

 

~~ガイ~

 

「何をしておるのじゃガイ!しっかりせい!」

 

「アンジェリカ!?」

 

 城にはどういうことか一度避難させたはずのアンジェリカがいたので俺は驚いて動きを止めてしまう。

「ゼェェェトォォォン」

 

「デュァ!?」

 

 その隙を突かれて俺はマガゼットンの光球をまともに受けてしまい、その場に転倒してしまう。そしてその攻撃の余波は城にまでダメージを与え、城は崩れてしまい炎上してしまった。

「アァァァ・・うわァァァァ!!!」

 

 俺は怒りに身を任せながらもオーブカリバーの力の全てを解放してマガゼットン目掛けオーブスプリームカリバーを放つ。怒り任せに放たれたスプリームカリバーは制御できなくなり、俺のエネルギーのほとんどが一気に持っていかれてしまう。

「グゥゥウ・・・ジュァ!?」

 

 しかしそのエネルギーにオーブカリバーの方が先に限界へとたどり着いてしまい、オーブカリバーは粉々に砕けてしまった。

「っ!?」

 

 暴走したスプリームカリバーの一撃はマガゼットンを撃破するとともに大爆発を巻き起こす。その爆発は王国を包み込み、ほんの数分前まで綺麗な街並みがあった場所は廃墟と化してしまった。

「アァ・・アァァァァァァ!!」

 

 オーブカリバーを失ったため変身を維持出来なくなったが、そんな事を気にするよりも周囲を見渡してアンジェリカを探すことを優先する。

「アンジェリカ!返事をしてくれアンジェリカ!・・・アンジュうぅぅぅぅぅ!!」

 

 どれだけ探しても崩れた城にアンジュの姿は見えない。

「・・・・」

 

 守りたいと思っていた人を失い・・俺自身も聖剣を失ったウルトラマンとなることができなくなった。

「・・・・っ」

 

 マガゼットンのマガクリスタルから光の封印エネルギーを抜き取る。そのエネルギーは光の力を宿す1枚のカードへと変化する。

「ウルトラマンさん・・・」

 

 栄光の初代・・怪獣退治の専門家と呼ばれるウルトラマンさんのカードだ。俺に残されたものはオーブリングに加えてウルトラマンさんのカードとティガさんのカードのみ。仲間、守るべき場所、守りたかった人、守るための力。それらのすべてを失ってしまった。

 




最終話「太陽と三日月」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

太陽と三日月

~~ジャグラー~

 

「何やってんだかなぁ・・・俺・・」

 

 オーブとマガゼットンの戦いの最中、爆炎に飲み込まれようとしているエスメラルダ王国のお姫様を俺は何故か助けてしまった。何故助けてしまったのかは分からない。ただ身体が勝手に動いてしまったからだ。

「俺にはもう『光』なんてないと思っていたんだがな・・・」

 

 奇械天使にあいつ等を殺されたときから俺は光を捨てて闇に身を投じたつもりだった。だというのに俺は助けてしまった。

「息をしてない。・・・おい、しっかりしろ」

 

 森の外まで離れた俺はこいつの容体を確認する。火傷自体はほとんどなかったが、その強い衝撃や一酸化炭素中毒のせいで既に意識は失われて呼吸をしていなかった。

「くっ・・・」

 

 俺は蘇生措置を試みるも・・・とうとう心臓も停止してしまう。

「死ぬな・・。死ぬな」

 

 その姿がモミジと重なって見えた俺は魔人態へと姿を変えるとその生命エネルギーをそいつに分け与えた。

「ハァ・・・ハァ・・・」

 

 おそらく今ので命の樹の力で不老長寿となっている俺の体の寿命が数百年縮んだだろう。だがこれで間違いなくこいつの生命力は回復傾向に入ったはずだ。

「・・・ん・・?」

 

お姫様が目を覚ました時、そいつは俺に微笑みかけてきた。俺はそれを見て安堵してしまい・・・自分でもわけが分からずその場から逃げてしまっていた。後々知ったことだが、蘇生した姫様は命を繋ぎ止めた代わりに王国での記憶を全て失ってしまっていたらしい。それがお姫様にとって良い事なのか悪い事なのかは俺には分からないしどうでもいい。ただ生きてさえいればそれで・・・・。

 

 

~~ガイ~

 

 

 

 ルサールカの地でマガゼットンと死闘を繰り広げてから50年ほどが経過した。アンジェリカを救う事が出来なかった俺は後悔と罪悪感から逃げるように王国があったルサールカから去っていった。俺は王国に居つく前と同じく地球のあちこちを転々としながらも怪獣や侵略者たちと戦う日々を過ごしていた。いや・・・同じではないな。1つ大きな違いがある。今の俺にはオーブカリバーがないことだ。数千年間オーブに変身するために使っていたオーブカリバーは怒りに身を任せた一撃のせいで砕けてしまった。

「だが力を完全に失ったというわけじゃない」

 

 目の前にいる円盤生物ノーバを見上げた俺はオーブリングを取り出すと、それを前へと突き出す。すると俺の周囲は宇宙空間のような世界に包まれた。インナースペース、オーブリングの力を引き出す特殊な空間だ。

「ウルトラマンさん!」

『ウルトラマン!』

 

 まずはマガゼットンとの戦いで手に入れたウルトラマンさんのカードをオーブリングにリードする。するとウルトラマンさんの力が形づいた虚影が俺の左側に出現した。

「ティガさん!」

『ウルトラマンティガ!』

 

 続けてマガタノゾーアとの戦いで手に入れたティガさんのカードをリードするとティガさんの力が形づいた虚影が右側に出現した。

「光の力、お借りします!」

『フュージョンアップ!』

 

 オーブリングを持つ左手を空へと突き上げるとともにウルトラマンさんとティガさんの巨影が俺へと重なる。そして俺はウルトラマンさんとティガさんの光をお借りしてこれまでのオーブとは違う新たなオーブの姿へと変身を遂げた。

『ウルトラマンオーブ!スぺシウムゼぺリオン!』

 

 オーブ・スぺシウムゼぺリオン。これまでの銀と赤、そして黒が主体だった姿と違って赤と紫が主体となったオーブだ。

「シュァ!!」

 

 

 これまでのオーブとは違い、オーブカリバーがないためエレメントの力を使うことは出来なくなった代わりに多彩な光線技とティガさんのタイプチェンジ能力を瞬間的に発動させることで状況に合わせた戦術を取れるようになっている。

「現れましたね。ウルトラマンオーブ!」

 

 ノーバの中にいるブラック指令は俺が現れたことに反応すると、ノーバは触手を俺へと伸ばしてくる。

「スぺリオン!光輪!」

 

 俺はそれを光輪を投げつけることで切り裂くと体を紫色に発光させてスカイタイプの能力を瞬間的に発揮してノーバとの距離を一気に詰めた。

「なっ!?早いっ!?」

 

「オォォォ・・・セァッ!!」

 

 今度は体を紅く発光させることでパワータイプの力を瞬間的に発揮し、ノーバにアッパーを叩き込んだ。

「のぁ!?」

 

 そのアッパーでノーバの中にいたブラック指令がノックアウトされたらしく、ノーバは次はどうすればいいのか分からなくなりアタフタとし始める。・・・地球侵略をしに来たとはいえまだ実害を出したわけでもないし、今回は見逃してやるとするか。

「シャットダウンプロテクト」

 

 光のバリアでノーバを包み込んだ俺はそのままそれを地球の外へと運んでいく。するとその過程でブラック指令が意識を土地戻した。

「・・・オーブ、何故トドメを刺さない?」

 

「まだ実害が出てないからな。今回は見逃してやるが、今度また地球をどうかしようとしたら許さないからな」

 

「・・・私は諦めんぞ。地球を征服しスーパースターとなるまでは」

 

 地球を征服できたらスーパースターなのか?

「侵略する前に地球を見て回ってみろ。地球にはうまい飯がいっぱいあるぜ」

 

 そうブラック指令に話した俺は地球へと戻り変身を解く。

「ブラック指令も地球の良さを知ってくれるといいんだが・・・」

 

 ブラック指令のように侵略しにくる異星人が当然多いが、異星人すべてが侵略者というわけじゃない。俺のように地球を守るために来ている者やエスメラルダの住民のように移民してくるもの達もいる。単純に観光をしにくるものもいたりと目的は様々だ。

「たくさんの奴らにあったな」

 

 この数千年で様々な出会いと別れがあった。知り合った地球人は先に寿命で力尽き、知り合いになれた異星人は倒さねばならないほど危険な計画を企てていた侵略者で・・ということもあったそして何より絶対に守り抜くと誓った大切な人を守ることができなかったこと。その別れが・・・最もつらかった。そんなことを二度と起こさないために・・・俺は今日も戦っているんだ。

「さてと・・・今日の宿はどうするかな?」

 

 地主というものになったので収入自体はあるがルサールカでの一件以降俺は一定の場所に住み続けることを辞めた。人との関わりも極力控えるようにもし始めた。俺と関わった場所も狙われてしまう可能性もある。・・・いや、俺のせいで傷ついてしまうのが辛いからだ。守るどころか巻き込んでしまい傷つけてしまう俺は本当に『光』の戦士なのだろうか?そんなことを考えながらも俺は宿で一泊を過ごした。

 

 

 

 

 

「今日は久しぶりに日本に向かってみるとするか」

 

 翌日、宿を出た俺は100年ぶりぐらいに日本へと向かうことを決めた。日本は他の国と比べてやたらと怪獣の出現率が高く、別宇宙の地球での戦いもほとんどが日本での戦いだったほどだ。幸いこの地球の日本は多くの怪獣がまだ封印された状態だったり休眠期だったりと目立った活動は確認できていない。

「異星人は・・・今はどれぐらいいるんだろうな」

 

 日本は少し前まで同じ地球人同士の争いの舞台となっていた。今では復興の道を辿って経済的にも安定した頃合いだと聞くが・・・今はどれぐらい他の星の奴らがいるのだろうか。

「変身すればひとっとびなんだが・・・地球の軍隊も以前より設備が整ってきたからなぁ」

 

 迂闊に空を飛んでいると航空権やら何やらで軍に攻撃されちまうようになった。まぁ普通に飛行機に乗っていけばいい話なんだが。

「おいアンタ。今異星人とか変身すればとか言っていなかったか?」

 

 どうやら俺の独り言が黒いコートの男に聞かれていたようだ。

「えと・・お前は?」

 

「悪い悪い。俺はオーロック。まだあまり知名度はないがMIBの仕事をしてるもんだ」

 

 MIB、聞いたことがある。確か地球にやってくる異星人を秘密裏に管理する組織・・・だったな。

「MIBって秘密の組織だろ?そんな簡単に俺に打ち明けていいのか?」

 

「お前さんには大丈夫だろ。俺は名乗ったぜ。お前さん、名前は?」

 

 さっきの独り言で少なくとも地球人ではないと判断されたようだ。

「俺はガイ。別の宇宙にあるO-50って惑星から来た」

 

「別宇宙!マルチバースって奴か」

 

「知ってるのか?」

 

「職業柄名前だけはな。それでどうしてここに来たんだ?」

 

 俺は魔王獣の復活を阻止するために地球へと来て、既にそのうちの2体を倒したことを話した。

「なるほど魔王獣ねぇ。地球にはそんなものがいるのか」

 

「・・・信じてくれるのか?」

 

「はっきし言って半信半疑だが、実際怪獣が各地に現れたのが巨人に倒されたって話はよく聞く。こっちで捕まえた奴らはその巨人のことを揃って『ウルトラマンオーブ』ってのはお前さんってこと」

 

 出来れば正体は極力隠したいが、相手はこの地球ではそれなりに大きい組織の人間だ。ここは下手に嘘をつかない方がいいな。

「確かに俺がオーブだが・・・」

 

「ようやく見つけたわよ」

 

「お前は・・・ビランキ」

 

 背後からの声に振り返ってみると・・・そこには以前監獄惑星で出会ったことのある少女がいた。確か少女の名はビランキ。何処かの国のお姫様だったようだが異次元と脳波がリンクしていて超能力や異次元から怪獣を飛び出すことができるということで幽閉されることになった悲劇のお姫様だ。だが何故姿が変わっていないんだ。別の次元だから時間の流れにズレがあるとしても俺はこの宇宙に来てから数千年は流れてるんだぞ。ビランキが別の時間を生きていたにしてもそれなりの時間は経過しているはずだぞ。

「誰だあいつ?」

 

「強力な超能力を持つ相手だ。その力で怪獣も呼び出してしまうからな」

 

「マジかよ」

 

 オーロックはそれを聞いた途端少し引き下がる。

「何故お前がここにいる?」

 

「愛しのジャグラー様を探してこの宇宙に来たのよ。あなたがいるということはこの宇宙にジャグラー様がいるということでしょう?」

 

「・・・確かにこの星にジャグラーはいるが・・・」

 

 まさかジャグラーを追ってこの宇宙まで来るとはな。

「やっぱりいるのね。ジャグラー様はあなたを不快に思っている。邪魔に思っている。愛しのジャグラー様の邪魔をするあなたは私がやっつけてやる!あなたさえいなければジャグラー様は私に振り向いてくれる!!」

 

 愛をこじらせた様子のビランキは時空を歪ませるとそこから怪獣を出現させた。

「おい何か出てきたぞ!!」

 

「あれは・・・ガイモスか」

 

 妖邪剛獣ガイモス。竜のような外見に真っ二つに割れた頭部から別の頭部が生えたような姿をした怪獣で怪力と火炎弾を武器にする怪獣だときく。

「風の噂で聞いたわよ。あなたはウルトラマンに変身するための剣を失っているそうじゃない。ガイモス!あの男を踏みつぶしなさい!」

 

 ビランキの指示に従ったガイモスはノシノシと町へと迫ってくる。

「変身できなくなったって・・・どうやってあいつを倒すんだ?」

 

 変身できないと聞いたオーロックは当然俺が戦えないのではと確認を取ってくる。

「確かにオーブカリバーは失っちまったが・・・変身できなくなったってわけじゃないぜ」

『ウルトラマン!』

『ウルトラマンティガ!』

 

 そう言った俺はオーブリングを取り出すとすぐさま2枚のカードをリードする。

「光の力、お借りします!」

『フュージョンアップ!』

『ウルトラマンオーブ!スぺシウムゼぺリオン!』

 

「その姿は・・・あなたはいったい?」

 

 ビランキはスぺシウムゼぺリオンとなった俺を見て「何故変身できる?」と言いたげに動揺した反応を見せる。

「俺の名はオーブ!闇を照らして悪を討つ!」

 

 ウルトラマンオーブ。そう名乗れる自信がなくなっている俺はそう口上を述べるとガイモスへと構える。

「剣がなくても変身できるからって調子に乗らないで!ガイモス!!」

 

 ガイモスは火炎弾を放ちながら俺へと前進してくる。俺も火炎弾を円状のバリアで防ぎながら距離を詰めていく。

「シュァ!!」

 

 バリアを解いた俺はガイモスの振るってくる右腕を屈むことで避けつつパワータイプの力を発揮してガイモスの腹部にストレートを決める。

「ダァッ!!」

 

 ガイモスが至近距離で放ってきた火炎弾をスカイタイプの力を発揮して横に回り込む形で避ける。

「スぺリオン光輪!!」

 

 両肩から放たれた火炎弾を光輪で相殺するかたちで防ぐ。そして続けざまに光輪を放って腹部のチューブのような部分を切断した。しかしこのタイミングでカラータイマーの点滅が始まってしまった。

「ジュァ・・・!?」

 

胸のカラータイマーが赤く点滅し始めると、体にダルさを感じた。すると光の虚影であるウルトラマンさんとティガさんが俺の体から抜け出てしまいそうになった。オーブリングを用いて変身する姿はあくまでも光の力をお借りしているだけの仮初の姿。オーブカリバーを用いて変身していたオーブオリジンは3分ほどというだけで多少の無理はできたが、スぺシウムゼぺリオンは中々に無理が効かない。残り1分ほどになるとそれぞれの力の維持が難しくなり抜け出そうになってしまうんだ。

「次の一撃で決める!」

 

 残り時間はほとんどない。スぺシウムゼぺリオンでの必殺光線で確実に決めてやる。

 

「スぺリオン・・・光線!!」

 

 右手を上へと掲げつつ左腕を横に広げてエネルギーを集束させると、その腕を十字に重ねて光線を放つ。放たれた光線はガイモスへと直撃し、その体を撃ち貫いた。撃ち貫かれたガイモスは爆発して周囲に肉片が散らばる。

「くっ・・。覚えてらっしゃい!!」

 

 自らの力で次元を歪ませたビランキはその歪みへと消えていく。今回は諦めて撤退してくれたようだ。

「シュァ・・・」

 

 スぺシウムゼぺリオンの変身を解いた俺は地上へと着地すると周囲を確認する。うっすらとジャグラーの気配を感じた気がしたので近くにいるのかと思ったが・・・どうやら気のせいだったようだ。

「お疲れさん。どうやら本当にお前さんがウルトラマンオーブだったようだな。そんでお前さんはこれからどうするつもりなんだ?」

 

「・・・日本に向かおうと思う。あそこには多くの怪獣が眠っている状態で、いつ目が冷めちまうか分からない状態だ。たぶんもう目が覚めてもおかしくない時期だから一応確認しに行ってみるつもりだ」

 

「そうか。何か困ったことがあったら連絡してくれ」

 

 そう言ったオーロックは連絡先が書かれたメモを手渡してくる。

「俺はいつかにMIBから独立して新しい組織を作り上げようと考えている。怪獣や宇宙人を撃退、監視するって組織じゃなく・・・共存や共生していけるような組織を作りたいと思ってる」

 

「・・・似たような理想を実現にしつつある人を知ってる。きっとあなたもいつかはできるはずだ」

 

 俺はムサシさんのことを思い出しながらオーロットにそう語ると空港へと向かい歩き出した。

 

 

~~オーロック~

 

「ガイ・・・ウルトラマンオーブか」

 

 互いの事情もあってそれほど多くのことは話すことは出来なかったが、あいつが悪いヤツじゃないことはすぐに分かった。だがそれ故に多くの辛いことを1人で背負い込んで、1人で潰れていこうとしていることも理解できた。

「ガイに・・・ウルトラマンだけに戦わせはしない。共に戦い、共に生き・・共に平和な世界を築き上げる組織を作らないとな」

 

 まだ独立した組織には程遠いが・・・組織の名前にようと思っている言葉は決めている。

「BraveRescueGuardians。勇敢なる守護者の助け」

 

 俺達が守るのは人々の命だけじゃない。この星に生きるみんなじゃないと駄目なんだ。守りし者へと手助けを。

 

 

 

 

 

 それから約20年後、俺の意見に賛同してくれる者達が集まりBRGという組織が誕生することとなり後の世で戦うウルトラマンオーブとともに戦うようになったのはまた別の話だ。

 

 

~~ビランキ~

 

「あの・・聞いてほしいんだけど・・私・・」

 

 オーブに負けてしまった私はジャグラー様に弁解するため、ジャグラー様が現在拠点としている家・・・というよりは小屋のような場所までたどり着く。もう夜が明けようとしている時間帯にも関わらず起きていたジャグラー様はコーヒーを入れようとしていた。

「久しぶりだな。・・・夜明けのコーヒー。一緒に飲むか?」

 

 そう言ったジャグラー様は私のぶんもコーヒーを入れてくれた。

「はい!」

 

 私を責めることなくコーヒーを入れてくれたジャグラー様の行為に甘えることにし、椅子へと座る。ジャグラー様と別れてから何があったのか・・・語りたいことは山のようにある。

「・・・あ、あれ・・何だか眠く・・」

 

 コーヒーを口にした途端、何だか急に睡魔に襲われた。ジャグラーさまが睡眠薬を飲ませるはずもないし、次元を何度も超えてきたから自分でも気づかないうちに疲労が溜まっていたのかしら?

「も、申し訳ありませんジャグラー様。少し・・休ませてください」

 

間もなくして私はその場で眠ってしまう。

 

 

 

「あれ?ここは?」

 

目を覚ますとそこはジャグラー様といた小屋ではなかった。それどころかジャグラー様とオーブがいた地球という星ではない別の星だった。

「これは・・・ジャグラー様からのかしら?」

 

 私の手には一通の手紙が握られていた。その手紙の内容を確認してみると・・

『俺に付いてくるな Jより』

 

 と書かれていた。

「ジャグラー様の馬鹿。私、絶対に諦めませんから」

 

 私は何処までもジャグラー様を追いかけます。たとえ次元が違えど、生きる時間が違えど・・・絶対に諦めません。

 

 

 

~~ジャグラー~

 

 

 ビランキを別宇宙の適当な星に放置してから50年の月日が流れた。俺は偶然立ち寄った地で風の魔王獣マガバッサーの封印を発見して、それを解き放とうとしていた。

「バルタン」

『バルタン星人!』

 

「べムスター」

『べムスター!』

 

「ペギラ」

『ペギラ!』

 

 3枚の怪獣カードをダークリングへとリードして、その力を封印の土地へと送り込む。蒼く巨大な鳥のような姿をした魔王獣・・・風の魔王獣マガバッサーが封印から解き放たれた。

「さぁマガバッサーよ。好きなだけ飛び回れ」

 

 マガバッサーは羽ばたくだけで様々な土地に竜巻を巻き起こすとしったようなことが太平風土記に書かれていた。インターネットってのは便利だな。調べればそう言った情報が簡単に調べられる。

「さてと・・・一仕事終えたしコーヒーでも飲みに行くとするか」

 

 封印が解かれたマガバッサーが飛んで行った方角は・・・日本か。

 

 

 

 

 俺はこうして日本へと向かうことを決めた。まさかそれによって俺とガイの運命が大きく動き出すとは・・・この時は考えてもいなかった。

 

 

 

 

~~ガイ~

 

 

「各地の竜巻騒ぎ・・・風の魔王獣が復活したのか」

 

 風の魔王獣マガバッサーの封印が解かれたことを察した俺は雲行きが悪くなりつつある空を見上げる。すると空に青く巨大な鳥が東へと飛んでいくのを見かけた。

「方角的に・・・マガバッサーが飛んで行ったのは東京の方だな」

 

 マガバッサーが飛んで行く先が東京だと気づいた俺はハーモニカを奏でながらさっそく東京へと向かい始めた。

 

 

 

 




 ULTRAMISSION ORB 完。物語はウルトラマンオーブ 天駆ける星の祈り歌へと続いていきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。