とある妖怪の運命操作 (rockzero21)
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§0 少女…上条レミリア

どうも、rockzero21と申します。これが初投稿となります。不定期ですができるだけなら週一でだしたいです。
また、今回は三人称視点から進みますが、§1からは一人称と混ざった感じになります。間違った部分があれば、お伝え下さると助かります。また原作に於ける暗部編、一通側、浜面側、御坂側は省き、上条側のみとなります。


まだ夏も此れからというある日、少女はあるファミレスの中で休憩していた。彼女は外人かと思うような紫みの銀髪を持ち、彼女の水兵服は生徒だということを示している。何故生徒が平日の昼間にこんな所に居るのかと言えば、彼女の高校は今日が終業式である為で、贅沢をしようと思った彼女が懐の寒さに気付き、ドリンクバーで時間を潰しているといった状態だ。

 

此処は学園都市。ある研究機関が街を覆うまでに巨大化し、学生の街となったと言われている。名の通り、中は学校と寮が立ち並び、生徒が此の都市の人口の大多数を占めている。また、中には外の三十年先と言われる科学力があり、街にはロボット、第二十三学区には音速旅客機があり、中では秘密の研究が行われていたりする。

 

「オイ、お前!ちょっと俺たちとイイコトしようぜ。」

ふと、そこに如何にも不良といった感じの声が聞こえてきた。少女が声の主を探してみると、少々離れた席において、ヤンキーの軍団が別の一人の少女をナンパしているのが見えた。普通の人であれば見て見ぬふりをするだろう。然し、此の貧乏少女は、何を思ったのかヤンキー軍団の方へ行き、メンバーの一人が「来んじゃねえ‼︎」と言うのも気にせず、逆に言い返した。

「貴方がナンパするのは自由だけれど、其れ以上やると言うならば、地獄を見ることになるわよ。」

其の凛とした透き通る声はヤンキー軍団を激怒させたようだった。

「テメェ死にてぇのかコラァ‼︎」

「私がしたのは警告であって、別に喧嘩を吹っ掛けた訳じゃあないのだけれど。」

「知るか‼︎表に出て来やがれ‼︎」

「えっ、ちょ」

そのまま彼等は外に出て行った。両者が対峙。

「オイ、そんな口叩くんなら俺たちを倒してみろよ。俺たちのボスはレベル3の発火能力(パイロキネシス)の能力者なんだぜ〜ェ。お前みたいなレベル0が勝てるものか‼︎」

などと彼等が煽ってくるのに対し、少女は足を思い切り踏ん張り、

 

 

その場から逃げた。

 

彼女が逃げた裏路地はヤンキーの独壇場である。然し彼女は其れを理解した上で裏路地に逃げていた。案の定入り口に一塊に集まっていた彼等は、一気に入った所為で少女を見逃してしまった。

 

「やれやれ、やっと巻けた。」

と少女が裏路地から出てきた。そこで初めて、ドリンクバーがまだ残っていたことを思い出し、「不幸ね」と呟いた。そして人の気配に気付き、振り返った少女の目に入ったのは、先程不良に絡まれていた少女だった。先程は気付かなかったが第七学区の名門校、常盤台中学の制服を着ているところから見るに、彼女は常盤台の生徒なのだろう。

「ヤンキーはもう何処かへ行ってしまったわ。」

すると常盤台の少女は不機嫌そうに言葉を返した。

「あんた、ひょっとして()()()()()のか分かってたんじゃないの?」

「其れってどういう…」

「惚けてないで。此の超能力者(レベル5)として無能力者(レベル0)のあんたに負けるなんてあたしのプライドが許さないのよ。」

「…人違いではなくて?少なくとも私と面識はなかった筈よ。私を斃しても雪辱にはならないわ。」

「もう関係ないわ。あたしは御坂美琴、常盤台のレベル5よ。そしてあんたと対戦する訳だけれども…ねぇ、レールガンって知ってる?」

レールガン、弾丸の両脇のレールに電流を流し、フレミングの両手の法則により加速させて打つ火器である。そのようなことを考えつ美琴を見ると、彼女はゲーセンのコインを指で弾いていた。そして人差し指指はU字型に曲げており…恐ろしい予想が少女の頭を駆け巡った。そして美琴の指が放電し始めたとき、彼女の()()()()()()()()()()という疑惑は確信へと変わった。

 

そう、此の街のもう一つの姿、其れは科学によって大成した超能力開発機関である。此処の生徒は、皆薬品による能力開発を受けており、又成績や格差も此れに関係してくる。能力者は強さによって無能力者(レベル0)から超能力者(レベル5)まで分けられており、御坂美琴の場合、超能力者(レベル5)電撃使い(エレクトロマスター)、固有名詞として超電磁砲(レールガン)の能力を持つ。その名の通り彼女は先の過程で打つレールガンを得意としていた。

 

果たしてレールガンが放たれた。然し此処で、少女は右手で咄嗟にガードした。たかが皮膚、全くの防御にならない筈だった。

 

だが然し、レールガンによる土煙が消えた後そこにいたのは、歪んだコインを右手で抑えている少女の姿だった。

「それよそれ。どうしてアンタみたいな無能力者(レベル0)が此のレールガンを止めれる訳⁉︎其れが気に食わないわ。」

(さっき)から質問の対象を間違えてないかしら。そういうことは先生にでも聞けばいいじゃない。其れと、若しかして最近よく絡まれるのって貴女の所為?そうなら止めて欲しいわ。」

「此の学園都市第三位が無能力者(レベル0)に遇われるなんて恥晒しにも程があるわ。効かないって言うんなら此れを食らいなさい‼︎」

そう言うが早いか、美琴は側にあった缶の塵箱をひっくり返し電流を流して爆発させた。其れ自体は小規模なものだが、問題は破片だ。大量の缶は右手では防げず、ぶつかるしかない。美琴はそう考えた。しかし少女はこれもまた矢張り無傷だった。いや、それは何かで防いだというよりそもそも()()()()()()()のだった。そのまま少女は手元の腕時計に目を合わせると

「あっ‼︎もう少しでタイムセールじゃない。こんなところで道草食っている場合じゃなかったわ。」

「待ちなさい‼︎名前だけでも教えなさい‼︎」

すると少女は面倒臭そうにこう答えた。

「レミリア…上条レミリアよ。」

「レミリア、だって?日本人らしかぬ名前ね。」

「この姿を見てそう言えるかしら。これでも純日本人の親から苗字も遺伝子も引き継いだ人よ。」

そういうと少女…上条レミリアは急いでその場をあとにしていった。

 

 

此れは『運命』の物語。運命とは、ある人によれば世界という概念が出来たときに決められた全ての事柄と言われている。又、特定の人物の心を物に宿る神が読み、其れを反映した結果と説明する人もいる。何れにせよ、運命には何人(なんびと)たりとも抗うことはできない。ただ、若し運命を操る者が居たならば、何を想い、何をするだろうか。其れは運命にも分からない

 

 

科学と魔術、そして運命が交差する時、物語は始まる。

 




運命操作(ディスティニーオンザレール)
 lv:5〜6相当
 過去現在未来の指定したことを必ず起こるようにする。本人の自由にでき且つ明確な意思がないと使えない。但しそれによるパラドックスが起こる可能性も。また上条の不幸は取り消せない。意識して発動せずとも周囲を奇妙な運命に導く効果もあり、上条が普通に生活できるのはこのため。ただ、不運な運命へも導く。

幻想殺し(イマジンブレイカー)
 lv:0
 原作と同じ。上条は運命操作の無意識下効果とも安全装置とも考えている。


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§1(1) 魔導書との邂逅

大変遅れましたが少々書く時間がなくて…あと上条の台詞が大変だったので。また、同日、新作を公開するかも…今後とも宜しくお願いします。今回に限らず話の構成はトレスっぽいこともあり楽ですが、口調を合わせるためにほぼそのまま…ということも。
 其れと言い忘れましたが、この作品は作中においてラッキースケベを超す程度の猥談が行われる可能性があります。登場人物たちは日常の一場面と捉えていますが、苦手な方は右足を前にだし、踵を軸に半回転したのち、足を揃えて進むことをお勧めします。


 此処は寮の一室。そこまで広くはないが、部屋は片付いておりそこまで窮屈さが感じられない。カチッ、カチッという独特な二天府式時計が快いリズムを奏でる。文月の猛暑もこの部屋だけ心なしか和らいでいるようだった。

 そんな長閑な雰囲気を破ったのは枕元の携帯から流れる電子音だった。私ーー上条レミリアは其処で寝惚け眼のまま電話をとった。

「上条ちゃーん、上条ちゃんは馬鹿だから補習です。」

担任の小萌先生からの連絡網(ラブコール)だった…不幸ね。

 そう、不幸。私は生まれつきずっと不幸が付き纏っている。世の中には人間万事塞翁が馬という言葉があるが、私の場合兵役を免れたと思ったら病床まで襲撃が来たくらいの不運さだ。否、不運というより、もう其れは呪いの域にまで達しているのではなかろうか。

 まあ補習があるというのなら受けない訳にはいかない、と私は考え、先ず腹拵えをすべきと冷蔵庫を開けると温風と共に腐敗臭。先日超連装砲とかそんな名前の奴の所為で、雷が起こっていたらしい、家電の殆どが落ちていた。気分転換にでもと布団を干すことにし、私は着替えて今さっき入っていた布団を運び出した。キャッシュカードは破壊されており、インスタント拉麺は現在下水道を漂っている。今日は朝食抜きの様だ。御空はこんなに青いのに御先は真っ暗…声に出ていたかしら。如何にもこうにも、せめて此のシーツの様に先の見通しがつけばなぁ。

 ん、私はまだシーツなど干してはいない筈。だとしたら『此れ』は何なのだろうか。よく覗き込むと其れは少女だった。其の姿を見るにシスターなのだろう。顔は外国人の様で、英語のスピーキングで何故かサンスクリット語しか出ず、そうと分からなかった英語教師に鎖国を推奨された私は少し不安を覚えた。すると彼女の口から何やら言葉が聞こえてきた。

「……ォ…………………」

 オ?

「おなかへった」

 今お腹減ったと聞こえたのは気の所為だろうか。

「おなかへった」

「……」

「おなかへった、って言ってるんだよ。」

 少なくとも日本語が喋れるのは間違いない様だ。そして彼女の言動から察するに、

「つまり、貴女は行倒れであると言いたいのかしら。」

「倒れ死に、ともいう。」

「……」

「おなかいっぱいご飯を食べさせてくれると嬉しいな。」

そう言われ私は動かず部屋を見回した。するとこの前貰ったが口をつけていない焼き蕎麦麺麭を取り少女に差し出した。とても酢く(私は御飯派であるため食せず放置していた)到底食えたものでもない。ただ人というものは飢えた時は本能的に食料を欲するものだ。此の腐った麺麭も食べてくれるだろう。そしてその味のために私は関わり合いにならず済むだろう。今思えば食物を寄越さないべきだった。少なくとも此処までの考えは確かであり正しかった。ただ、一つの誤算…此奴の異様なまでの食欲を除けば。

「ありがとう、そしていただきます。」

 其の儘奴は、丸ごと、私の手も巻き込み、口を閉じた。そして私を不幸が襲った。

 

「まずは自己紹介をしなくちゃいけないね。」

「默れ。貴女は私の質問に答えさえすれば良い。」

「私の名前はね、インデックスって言うんだよ。」

「默れと言ったのが聞こえなかったかしら。其の頭カチ割って直接入力しても良いのだけれど。それでインデックスだって?僞名ね。もし本名だというならば其の名をつけた人の氣が知れないわ。恐らく貴女が目録だか配列(array)だかを操る力でも持っていたんじゃない?」

「見ての通り教会の者です、ここ重要。あ、バチカンじゃなくてイギリス清教のほうね。」

「……(何かが切れる音)」

「あっ、インデックスってのは禁書目録のこと。魔法名ならDedicatus545だね。」

「やっと聞く氣になったようね。で、何?『捧げられてしまった』だっけ?というより日本語(ひのもとことば)で喋ってくれないかしら。それに此方の事情も分かって貰いたいわ。」

私はこれから補習に行かなければならない。此のようなところで油を売っている場合ではない。そもそも人っ子一人とて匿う気すらない。名前?どうでもいい、どうせ必要なくなるのだから。これも私の不幸が運んで来たものかしら。本当にジェンガ艦橋でもあるんじゃないかと疑いたくなるわ。

「それでね、このインデックスにおなかいっぱいご飯を食べさせてくれると嬉しいな。」

「シスターならもう少し遠慮というものを辨えなさい。というより人の家に上がりこんで食㕝を作ってやったらどう考えても此處に住み着くつもりでしょう。此の五月蠅いシスターに好感度を上げられでもしたらバッドエンドルート眞っ逆(massacre)さまで死ぬ未來がみえるわ。」

「えっと…流行語(スラング)、かな?何を言っているかわからないかも。」

 さすがにこういう知識はないのだろう。流石外国人。このまま外に出てその辺にでもいる蝉でも食って食いつないで欲しい。かなり美味そうだし。

「けど、このまま外に出たらドアから三歩で行き倒れるよ?」

「鄰人にでも助けて貰いなさい。貴女は餓鬼なだからきっと好待遇よ。」

「そしたら最後の力を振り絞ってダイイングメッセージを残すね。君の似顔絵付きで」

「な、何ッ?貴様ァァァァ。」

「仮に誰かに助け出されたら、そこの部屋に監禁されてこんなにやつれるまでいじめ倒されたって言っちゃうかも。……こんなコスプレ趣味を押し付けられたとも言う。」

「この尼‼︎こんな姑息な手を使いやがって。眞面で殺そうかとも思ったわ。分かった、何か作れば良いんでしょ。」

 と言いつつ私は平鍋を持って考え事を始めた。彼女からは、『学園都市の匂い』がしない。少なくとも外の者であることは確実だ。だが、此処で学園都市の環境がネックになる。普通の人なら大学が立ち並ぶ街を想像するだろうが、此処は逆に学校の()()街があると言った感じだ。否、学校というにも程遠い。此の都市の中は外より数十年の先の技術が使われている。そして其の技術を出さないために周囲は高い壁で囲まれ、出るにも入るにも認証が必要。不正に入ったら、三台の静止衛星により其の姿がとらえられ、学園都市の侍所である警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)に捕まる。そんな中此処まで来たのだとすれば、例の88cm砲(ビリビリ)による異常気象が功を成したのだろうか。

 そう考えながら生塵を加工して野菜炒めという名の残飯を作り。インデックスに与えた。コンポストには十分使えるようだ。

「ところで」ブラウスを着ながら私は聞いた。「何故貴女はベランダの手すりに引っ掛かっていたのかしら。非現実的な考え方なのだけれど。風に吹かれて引っ掛かったとかはないでしょう。」

「…、間違ってはいるけど似てるかも。屋上から屋上へ飛び移る時に落ちたんだよ。」

「何故そんな藝當をしていたのかしら。メリットとデメリットが釣り合わないわ。」

「でもそうするしかなかったんだよ、追われてたからね。」

 

 

 …彼女、追われていると言ったの?

「ホントはちゃんと飛び移れるはずだったんだけど、飛んでる最中に背中を撃たれてね。ゴメンね。落ちる途中で引っ掛かったみたい。」

「擊たれた…大丈夫なの?」

「うん?ああ、傷なら心配ないよ。この服、一応『防護結界』の役割もあるからね。」

 防護結界?電磁バリアだか防弾チョッキだかと同じようなものなのかしら。ただ少なくとも其の言葉が戯言ではないのは確かだ。だとすれば彼女の裏に何があるのか。しかしこの笑顔の少女からは何も読み取れない。しかし、八階の屋上から落ちてきて、本来ならアスファルトに打ち付けられるところを運良くベランダに引っ掛かった、それは紛れもない事実。其れだけは理解できた。

「おいしいね、この料理。でもさりげなく酢で味付けしてるのがにくいね。」

なるほど、此処に居座るというならお前は今日から残飯処理機だ。

 

「で、貴女は何に追われていたのかしら。」

「名前はわかんないなぁ。連中はそこまで名前に意味を見出してないからね。」

「連中、とは?」

「魔術結社だよ。」

 一瞬何を言ったか分からなかった。

「魔術結社?私は空想の話をしているのではないのよ。」

「私のこと馬鹿にしてるね。」

「ええ、生憎ね。ただ、その類のものに對して耐性があることは自負しているわ。此の街には所謂發火能力(パイロキネシス)透視能力(クレアボヤンス)等の『異能の力』があるから。ただ其れは飽くまでも科學の産物、魔術と聞くと急に現實味が薄れるわ。」

 そう、『異能の力』。常識人なら其れを即座に否定するだろう。しかし此の街は違った。此の街の学生は能力の強弱はあれど、皆何かしら能力を持っている。レミリアとて例外ではない。彼女の右手には幻想殺し(イマジンブレイカー)という『異能の力』であれば総て打ち消す能力がある。尤も其れは別の『能力』のカモフラージュみたいな物だが。

「此の街には、藥品打ったり腦信號を弄ったりすれば能力が得られる。それ以上聞かれてもどうとも言えないわ。貴女が崇拜しているという神樣にでも聞いてみなさい。少なくとも此の街では當然なの。當然だ當然です、とさらに弎段活用で強調しておくわ。」

「…でも魔術だって当然だよ。』

「なら魔術は何をどう變化させて發動しているの。能力はそれがきちんと理論立てて説明されているわ。」

「……、けど魔術はあるもん。」

 流石に言いすぎたもしれない。彼女は魔術こそが中心と考え生きてきたのだろう。

「まぁ私も頭ごなしに否定する気はないわ。それで、何故追われていたの。」

「私が禁書目録であり、十万三千冊の魔道書を手にいれるためだと思うな。」

「解説を弎行で。」

「えっと…魔道書っていうのは、まぁ魔術のやり方とでもいえばいいかな。

 つまりそれを見られるってことはどんな魔術も使えてしまうわけ。

 その魔道書を私が持っているから狙われたんだよ。」

「で、その魔道書はどこに。」

「そんな表だったところにはないよ見られちゃまずいし。」

「うー☆流石にそこまで信じきることはできないわ。」

利己的であるものの信頼はできない。ひょっとすれば彼女の空想のこととも考えられる。

「超能力は信じるのに魔術は信じないなんて変な話。そもそも能力が使えるのがそんなに偉いの。そんな天然を捨てた合成着色がそんなに偉いの。」

「……そのて點については全く同意ね。別に能力の有無がそのまま優劣につながる譯ではないわ。ただ根據が明確なだけ。それに能力を《《持っているが使えない》》人だっている。それでよ、私も無能力者(レベル0)とはいえ能力を持っているわ。異能の…幻想の力であれば神のシステムだろうと何だろうと打ち消す代物で、私はこの能力を幻想殺し(イマジンブレイカー)と呼んでいるわ。ドラッグ何かに因るものじゃあない、天然素材(生まれつき)よ。若し䝿方が魔導具か何か持ってきてくれれば實演できるんだけど。」

「だったらこれを使うといいんだよ。」

と言ってインデックスは胸を突き出し、所謂『胸を張る』体勢となった。胸に詰め物でも仕込んでいるのだろうか。然し其れは小さく、少なくとも現状着衣中である私の胸は初期位置で、明らかにインデックスの其れを超えている。

「この服!これは『歩く教会』っていう極上の防御結界で、トリノ聖骸布をコピーして縫目一つ一つにこだわって作られた、『服の形をした教会』なんだよ。」

「でもそんな代物をぶっ壞していいのかしら。」

「さっきもいった通りこの術式は法王級だからね。」

それなら、と言いつつ私は彼女の服に手を近づけた。成る程、縫目が相互作用を起こしている様だ。魔術は本當にあったのだと感心しつつ私は部屋の隅にある槍を手に取り

 

 

彼女に向けて振るった。始めインデックスは状況が読めないと言った風に戸惑いの表情を浮かべたが、それは本の僅かな間だけだった。というのも

 

 

瞬間彼女の霊装が破けたから。

 瞬間、私は頭に激痛を覚えた。

 

 

 インデックスは先ほどから安全ピンで修復作業に取り掛かっている。幸か不幸か壊れたのは各々を繋ぎ止める糸だったらしい。一方私は外的衝撃を原因とする頭痛がやっと収まり始めたところだった。インデックスの方にもう一度顔を向けると、修繕が終わったとみられる彼女は安全ピンだらけの修道服を見せつけてきた。然し其の得意げな仕草とは裏腹に、彼女は今にもドーンといった擬態語が付きそうな表情で此方を睨んできた。まるで新手の幽波紋使いが攻めてきたとでも言わんばかりに。

「ねぇ、先の責任は私にあるのかしら。」

「…あれだけのことがあったのにどうして平然としているの!」

「少なくとも此れを使うよう言ったのは䝿女だし、私は再弎確認したわ。其れに、無能力者の私に文字通り鎧袖弌觸にされたのだから、寍ろ着ていた方が危險だったんじゃない。PCにウイル○バスターだけ入れて完璧だと思い込むようなものよ。」

「もっと意味が分かるような身近な例で「英吉利王女のメアリーは、此れが厡因で女王の暗殺計畫がばれて處刑されたわ。」……ッ。」

早々に論破されて不機嫌な様。

「…、いい、出て行く。」

此処で彼女の退室発言が出た。此方としては生塵の量が減るので置いておきたいが、同時に居候を抱え込む羽目になるので願ったり叶ったりだ。ならば、と会話の中で準備した荷物を持って補習に行こうかとしたら戸の枠にしたたかに足の小指を打つけ、其の拍子にポケットから携帯電話が落ちて混凝土の床に当たって液晶が罅割れ、更に手摺に掴まろうとしたところで夏場珍しい静電気を受け、以上の行動で筋肉に異常が生じたのか、脚が攣った。

「…不幸ね…扶桑お姊樣。」

「ふそう、てのが誰かは知らないけど、その手があるんなら不幸なのは仕方ないね。」

「…何ッ、もう一度言って、説明も交えて。」

「詰まりその手が幸福というオカルトを万々消しちゃっているんだよ。抑もその手を持ったことが不幸かも。」

幸福は消すのに不幸は消さないことに対して少々疑問に思ったが、一先ず理由が分かっただけ良かった。

「其れで、䝿女は此れから如何するのかしら。」

「取り敢えずイギリス清教の教会に行く。」

「教会は、この邊にはないかもね。此の國の人は、特定の宗敎を訫仰するって感覺が薄いから。」

「へ?」

「元々科學の街な上、日本では宗敎の融合が進んでるから。例を擧げると、神道の七五弎に十字(伴天連)敎の結㛰式、佛敎の葬式と弌生に日夲の三大宗教を総て経験しているわ。其れに神仏混淆で出雲大社などにも仏壇があったり。あと英吉利清教の教会がそもそも少ないのは貴女も知っての通りよ。まぁ精々頑張りなさい。」

そう声かけして私と少女はそれぞれの目的地へ向かった。

 

 此処で私は幾つか失念をしていた。先ず、相手側は見失った私の部屋を探すだろうこと。そして、意地でも教会を探すべきだったということ。彼女の記憶が断片的且つ曖昧なものだということ。彼女を追うのは敵とは限らないということ。最後に……運命とは切っても切れない鎖の様な物だということ。




上条レミリア(かみじょう れみりあ、Kamijo Remilia)
16歳 高二
 其の容姿は白人の少女でインデックスをそのまま成長させた様にも見えなくもない。だが親は純日本人であり、また彼らは遺伝子的にも親子関係が認められている。神は菫がかった銀髪で話を追うにつれ伸びていく。
体は原作の幼女体系とは違いグラマラス。背は青ピや土御門ほど。メラニン色素の少ない白い肌をしているが、紫外線に弱いという訳ではないし、ましてや太陽から身を隠してきた訳でもない。
 人に傲慢な態度をとったりはするが、其れなりに熱血的。生まれつきの不幸体質だが、人を不幸から救うことについてはよかったと感じている。
 タイトルからしてだが、彼女は生粋の吸血鬼である…が血を吸わなければ生き残れない訳ではない(ドーピングにはなる)し、太陽が苦手な訳でもない。トマトジュースを好いているが、吸血とは全く関係ない。また、レベル0の妹がいる。

能力
幻想殺し レベル0
 其の名の通り『幻想』に対して右手で触れれば消滅させられる。後述の運命操作により一部対象外。
運命操作 レベル5〜6相当
 詳しくは前話を参照。これによってノーリスクで一部の術式が組み立てれる。これにおいて幻想殺しは効かないが、別の人の立てたものなら壊せる。


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§1(2) 日常との別れ

少し学校の方で論文投稿がありこんな時間になりました。現在艦これの二次作品とゼロの使い魔、デアラの二次(前に言ったものとは別)等一話やプロローグができたのですが、筆が進まず推敲してから出します。

2018-3/2-22:46……タイトル修正


「小萌先生ー、上ヤンが窓の外の女子テニス部のヒラヒラに夢中になっていまーす。」

 物思いにふけっていたが急にそんな声が聞こえて前を見ると、私を見る周囲と何故か御立腹の小萌先生がいた。

「上条ちゃん? ちゃんと補習受けないと先生怒っちゃいますよ?」

これは確定で地雷を踏み抜いたな。このまま長ったらしい説教に付き合うのも悪くはないが、どうせならここでビシッと言ってやりたい。

「失礼しますが小萌先生、其れでは何故補習を受ける必要があるか説朙していただけますか。」

「それは…上条ちゃんが記憶術の単位が足りないからですよう。」

「成る程、其れは私も同意見です。然し、結局私は無能力者でしかないただの弌般人…零に幾ら掛けても零なんです。」

「でも先生は皆んなのためを思って……」

「いえ、少なくとも私は先生の氣持ちを蔑ろにしようという譯ではありません。現に先生の指導により進步した生徒もいることでしょう。私が言いたいのは、彼等は無能力者といえど能力を持っている、然し其れが表に現れていないだけということです。其れに對し私は真に無能力者であり、私に敎えるのは此の街の外の人物に記憶術を行うのと同じです。」

此処まで言っておけば大丈夫だろう。生徒の癖に教育方針につべこべ言うなとも思うかもしれないが、今の時代授業が双方向であるべきなのは自明の理だろう。

 などと考えていたのが今から六七時間前のこと。現在私は長い長い補習を終え、帰路についている。さてこんなに長引いてしまったのは、あの時の提言により小萌先生が泣き出してしまったことが発端だった。若し彼女が普通の女教師だったとしたら大人気ないで済む話だった。然し小萌先生は体格の物凄く小さい、所謂合法ロリだった。御蔭で私に味方する者はいなくなり、さらに補習が終わると皆に失態を晒してしまったのが恥なのか、はたまた教育方針を否定されたのが気に食わなかったのか、小萌先生により二、三時間の説教と目隠しポーカー、通称すけすけ見る見るをさせられた。尤も此処は運命操作の独壇場、高位の役を次々と揃えて言った。然し其れが小萌先生の気に触れたらしく此の時刻までさせられた。いや、負けていても同じだっただろう。つまり

「不幸ね……」

呪うべき物といえば其れしかないだろう。運命は捻じ曲げられても自分の不幸は捻じ曲げられないとは御笑いね。何処ぞの航空戦艦さんや五航戦の姉の方ならどうにかなるかしら……

「あっ、いたいた。この野郎! ちょっと待ちなさ……ちょっと! アンタよアンタ! 止まりなさいってば!」

 私が後ろの声に気づかなかったのは、野郎呼ばわりと考え込みの所為である。然しここでどうして自分が其の野郎の対象だと気づけるだろうか。さて、私が声の主を見てみると中学生ほどの背丈、着ている常盤台の制服からそうとわかる。そして黄赤の短髪、ときて其の正体が分かった。

「あら、ビリビリ中学生じゃない。」

「ビリビリいうな。私は「御坂美琴、でしょう? 確か常盤台の超能力者で第弎位。能力は……射出弓弩(カタパルト)……だったかしら。」超電磁砲(レールガン)よ。どこをどうやったら間違えるのかしら。」

「御免なさい。瑞々の改裝をやる豫定だったから……」

「瑞々って何よ……いやそうじゃなくて、私はアンタに用があるのよ!」

はぁ、どうしてだろう。何か彼女に悪いことでもしたのだろうか。そう思って私は初めて出会ったときから思い出していった。

 彼女と出会ったのは何も昨日一昨日の話ではない。半月前くらいだろうか、私が不良に絡まれている彼女を良かれと思って助けたのだが、其れは地雷原の人型爆弾だったらしい。そして其の爆弾が周囲の地雷を機能不全にしつつ爆発したものだから当然右手で止めた。そしたら勝手に対抗心を燃やされ、其れから度々戦いをふっかけられている。名前は昨日知ったばかりだが。其れはともかく帰着するのは、

「不幸ね……此ればかりはどうにも……」

「ねぇアンタさっきから不幸不幸言ってるけど、昨日爆発した缶を幸運にも避けたじゃない。」

「あぁ、あれ? あれならちゃんと當たったわよ。」

「当たったって、あれを食らったら一溜まりもないわよ。」

「ええ、缶ならそうでしょうね。でも缶とは言ってないわ。」

「え、どういうこと?」

「ところで、リサイクルセンターって行ったことあるかしら。あそこ街で囘收した缶甁を別の原料にしているのだけれど、何かジュースの混ざった嫌な匂いがするのよね。」

「あっそう…ひょっとしてまさか」

「其のまさかよ。あら、もうすぐタイムセールの時閒ね。其れじゃあ私は歸るわね。」

「あっはい、さよなら……って、っざけてんじゃねーぞこの野郎!」

 頭にきた御坂が地面を足で叩くと周囲に電気が漏れ出てくる。御願いだからやめてほしい、さらに不幸を被れというのか。あと野郎呼びもだ。ほらみんな携帯が使えなくなって困ってるし、ロボットも壊しちゃったじゃないか。

「ふん。どうよこれでアンタも戦う気になーーむぐ、んんんん……」

「(默ってなさい。あと野郎じゃなくてせめて女郎にしてくれないかしら)」

これ以上やっているようじゃあどうにも聴衆と警護団の注目を引きつけるようであまり好ましくない。ということで御坂の口を手で塞ぎ、耳打ちするように話した。さて此れからするのは、

「……ぷはぁ、私に何を……いない⁉︎」

『エラーNo.100231-YF。電子テロの……」

そりゃあ逃げ出すに決まってるじゃないか。

 さっきは酷い目にあった。若し早く帰れたらこんな事しなくて良かったのに。然し此の状況で家に帰れたのは一番の幸運といえよう。ただ此の時『家に帰るまでが遠足』という言葉をすっかり忘れていた。私は家の前で屯っている幾台かの掃除ロボットを発見した。さて、AIがとち狂ったのかとも思ったがそうではなかった。中心を覗き込むと確かに掃除の対象が見えた。然し此の時私は息を飲んだに違いない。というのも、其れは今朝別れたはずのインデックスだった。

 私はとりあえずロボットを蹴散らし彼女の容態を見た。まだ傷口は真新しいが傷の大きさにより可也の出血が見えた。どうも彼女は出血性ショックで命を失ったようだ。

「早くポリ公(アンチスキル)に連絡を入れる必要があるわね。然し誰がこんな事を。」

「え、僕たち『魔術師』だけど?」

 聞き慣れぬ声が耳に入った。

 

 




此の小説における警察組織について
 此の小説に於いての学園都市は自衛団と警察が両方存在する。然し警察は個体での活動より自衛団と組んでの活動が主。
アンチスキル
 此の小説では原則片仮名表記。学園都市所属の教師によって作られる対能力武装集団。其の為、高レベル者は対応できないが、前述の警察と組んでの活動などの特徴がある。
ジャッジメント
 同様に原則片仮名表記。此方は学生によって作られる。能力によって犯罪の対策をしている。其れゆえアンチスキルに比べると検挙率は上がるが、体が弱い子供に荷を負わせるという点もある。片仮名なのはルビが面倒な為。


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§1(3) 魔女狩りの王との対戦

なかなか文章が出ず困窮していたので、できるうちにやってしまおうと続けて書いていきましたが、これも投稿はいつになる事やら。


 其奴を一言で言い表すには私の国語力が足りなかった。然し私の語彙力で敢えて言い表すとすれば、丁度不審者という言葉が当てはまるであろう。確かに其の長いコート、無駄につけられた指輪、バーコードのような刺し青とどこをどうとってもそうとしか見えない。見たところ黄人ではないようだ。身長は長いが年齢はインデックスと同等といったぐらいか。一番感じるのは所謂『異物感』だ。一番重要なのは自分を知り相手を知ること、其の後者が欠落していた。

「あ〜、これはまた随分と派手にやっちゃって。神裂のことだから安心してたんだけどねぇ。」

成る程、インデックスは別に此処で切られたわけじゃない、別のところで負傷したのを私に助けを求め此処まできたということだろう。

「詰まり、貴方達がインデックスを負傷させたと、そういうことね。」

「ああ、尤も殺すつもりはなかったんだけどね。彼女の服には防護結界が働いているはずだったんだがそれが働いてなかったんだ。今帰ってきたのもその件。昨日かぶっていたフードを探しにきたんだ。」

探しにきたという割には的確な場所をついている。そりゃあそうだろう。インデックスのフードにも魔力があった筈。詰まり其れを追ってきたということだろう。インデックスは其の確保のためにきてしまったということか、わざわざ会って間もない此の少女の為に。

 自分の体の中に熱いものが溢れ出ていた。其れがなんなのか、怒りか悲しみか後悔か、自分へかインデックスへか魔術師へか、分からない。然し、其の熱が刻々と増えているのは確認するまでもなかった。

「其れで? 何か此の子に用事でも有ったのかしら。」

「そうか、君は知らなかったのかな。この子は『Index-Librorum-Prohibitorum』、この国でいう禁書目録だ。教会の言う邪本悪書、読むだけで魂が汚れていくと言う本。彼女は其れを完全記憶能力で盗み見て行っているというわけ。彼女は十万三千冊の本を記憶に所有しているのさ。まぁ魔法が使えないようにプロテクトがかけられているんだけど。」

「其れで其の十萬册余を奪いに來たと。」

「いや、僕たちの目的は彼女の保護だ。君もわかっているようだが使える奴らに渡ったら不利益なんでね。」

「へぇ、成る程……」

相手は此れで結論づいたとでも思っているのかもしれない。然し其れは私にとって逆に明確な倒す意味としかならなかった。

「だったら、貴方は『倒すべき人間』ね。」

「僕が何を言ったのかわか「精々貴方みたいな単細胞には此處までしかできなかったというわけね。部下の再敎育を至言するわ。」

「どういうことだい? 何か問題でもあると言うのかい。」

「寧ろ此れが問題ないっていうんだったら、白々しいにもほどがあるわ。若しくは母國語の理解できない飛んだ阿呆か。『保護しろ』と言われて逆に『攻擊する』なんて役人として失格よ。」

「あっちからも対抗してきたからね。だったらこっちも攻撃せざるを得ないだろう。」

「そんな考え方しかできないから単細胞なのよ。いいわ、私が手夲を見せてあげるわ。」

「だとしたらこちらも名乗っておく必要があるな。本名はステイル=マグヌス、まあここではFortis931とでも名乗っておこう。」

其の名に私は無意識にインデックスが名乗ったDedicatus545と照らし合わせていた。此れは彼女曰く、

「其れが貴方の魔灋名かしら。尤も、用灋はわからないけどね。」

「ふぅん、じゃあ教えようか。僕たち魔術師ってのは魔法を使う時に真名を使ってはいけないらしく、こっちの魔法名、語源は……「强者、といったところかしら。」その通り。ただこれは僕たちの世界では……殺し名として使っているのさ。」

その言葉を聞き、真っ先に身を引く。どうやらその判断は正しかったらしい。

炎よ(Kenaz)ーー巨人に苦痛の贈り物を(PurisazNaupizGebo)

言うが早いかステイル=マグヌスは手にした煙草を放り、其れは火の奔流となって襲いかかってくる。其れが止まっていれば恐らく剣の姿が見えただろうがそんなもの判断する余裕すらなかった。恐らく二千度など優に超えていたことだろう、そんなもの浴びれば丸焦げにされる前に流動体になっていることだろう。だからこそ、インデックスを背負った私の形はひるませるのに十分だった。

「生憎と、そんな炎じゃ巨人どころか人すら傷つけられないんじゃないかしら。それに此処には其れぐらい兩手が埋まるくらいにはできる人がいるわ。」

其の言葉は半分嘘でもう半分は本当だ。此の程度大能力者の発火能力で発現できるが其れを避けれるかは怪しいところだ。とは言え、相手の動揺を促すには最適の応えだった。私はそのまま彼の傍を突っ切り、ついでに炎の剣に裏拳を当て跡形もなく消した。

 然し其の一方で、ステイル=マグヌスも素人ではない。元々両者ともに攻撃を受けていないのだから、反撃に回るのは容易であった。

「ーー世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ。それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり。それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり。その名は炎、その役は剣。顕現せよ、わが身を喰らいて力となせ。」

 私の知る筈もない伴天連の術を唱えた後、其処には文字通り炎という名のプラズマ体から成る二米近くの巨人が現れた。火達磨のスレンダーな方といってもいいかもしれない。尤も魔術であると分かった以上右手を使うに限る、其れが唯一の有効打であり決め手であるからだ。今回も例外でない、其の筈だった、実際出した手は其の炎を消していた。然し其れが第六感だったのか、若しくは運命操作がそうさせたのか、或いは私の感覚が其の微細な違いを捉えていたのか。何に為よ私が後方へ飛び退いたことは選択肢としては正解だったと言えよう。其の巨人は瞬く間に再生していった。即ち前からは防ぎようのない敵、後ろからは魔術師に追われていることになる。文字通りの万事休すの中、私の体は逆電流を流した極性コンデンサのような音を出し下界へ吸い込まれていった。

 

 どれだけ経っただろうか。夕方に帰ったにも拘わらずまだ日が落ちていないということは直ぐ後か、若しくは二十四掛けるk(k∈ℕ)時間後か。珍しく壊れていない腕時計で確認する(そういえば色々あって箆棒な耐久力の物を作ってもらったんだった、至近距離での水爆からマリアナ海溝、王水から宇宙線に耐えるレベルの)と当日、つまりどうやら一時間どころか精々十秒ほどだったようだ。さて体制を直そうと試みると……嗚呼、丁度今朝のインデックスと同様の状態のようだ。全く、不運だとか悪運だとかには強いものだ。私達は再び地面の感覚を得た。さて……どうしようか……

 ステイル・マグヌスは決着はついたと確信した。何処の組織の下っ端かは知らないが、自分の実力は過大評価するまでもなく此れで当然と感じていた。だから驚愕した、蘇りではないかと疑った、然し其処には足を地につけた私がいた。

「な、なぜ生きている?」

「生憎と惡運には强い體質でね。」

そう言いながら私は炎神の脇腹に拳を放つ。然りて水を放ったように消えていった。

「まさか、ルーンを⁈ なぜ分かった?」

「貴方、自分で考えるって㕝をしたらどうかしら。まあいいわ、敎えてあげる。此の炎神は建物の外には弌寸たりとも出てこなかった。詰まり外か中の何れかに結界が仕掛けてあったと考えられるわ。そして、私が出られるところを見ると後者と斷定できる。其の上で要因を探せば其れしかないわ。」

「だが全て回収するには時間が……」

剛ッという音とともに渾身の右ストレートが魔術師に突き刺さった。そして一言。

「敎える譯ないじゃない。」

 

 私は空腹に達した腹をさすりつつ道を急いでいる。行き先はつい数時間前に癇癪を起こされた小萌先生の自宅。何故其処かといえば御告げを聞いたからだ、神でもなく、かといって手帳を破る眼鏡君でもなく、其処のシスタークリーナーからだが。一応教師たちは超能力を持たないため魔法を使える訳だ。そう、此方側には人命救助という大義名分があるのだから彼女とて断る訳にも行かない筈だ。そして現在眼下には古ぼけた集合住宅がある。表札には『小萌』、如何やら正解のようだ。私は呼び鈴を鳴らした。

「濟みませーん、上条ですけどー。」

……返事がない。居ないのか、居留守か、寝てるのか、其れともマジに屍なのか? 再度呼びかける。

「濟みませーん。」

矢張りない。此奴は強行手段だと、私は突入の覚悟を決めた。そして取っ手に手をかけ……開いてるじゃない。取り敢えず「御邪魔します。」と一声かけ入ると……答え3。自棄酒で寝ていたようだ。

 どうもこんな状況で仲のぎくしゃくしたロリっ子教師の煙ったい室内で麦酒の缶に埋もれた姿は見たくなどない。其れは先方も受動態に置き換えれば同じようで、魔術の邪魔ということもあって追い出された。まあ腹ごしらえもしていなかったしと自販機で汁粉と御田を買って頂くことに決めた、尤も此の暑い盛りでそんなの売っているのなんか無さそうだが。そうして外出したものだが……如何したことだろう、私は現在、頭一つも身の丈のある女性と対峙していた。




ステイル・マグヌス
 十四歳の少年にしてヘビースモーカー且つ魔術師。炎にまつわる魔法を使う。また魔法名の通り強さを絶対なものとするあまり、裏ルートでの攻略には対応しきれないことが多い。

汁粉・御田
 常盤台の近くの自販機には置いてあると思われる。


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