昔あるところに酒屋で泥酔している三人がいた。
一番左にいるのがらっきょうを食べながら隣の黒髪の少女に愚痴る茶髪の女、ピンク。
一番右にいるのが一際大柄な親父達が集まる居酒屋でも親父達がドワーフに見えてしまう程背が高くモデル体型の青髪の女、茨木和那。
真ん中で二人の間に挟むように無言でらっきょうをその口の中に放り込む黒髪女、芹沢真央。
その三人はある共通点があった。それは泥酔していたことでもなければ寝取られたということでもない。彼女達はヒーローであり所謂裏世界の関係者であるという事である。
「なんであいつは他の女と一緒にいるのよ〜……ちくしょーっ! 店主らっきょうおかわり!」
「ピンクはまだ希望があるからええで? ウチなんかアレやで? ヨリ戻して結婚してくれる思っとったら娘がおるから離婚出来へんいうんやもん。ウチの乙女心返せやーっ!」
「……よしよし」
そんな彼女達はヒーロー活動をしているせいか多忙な生活をしており、彼氏と付き合おうにも会える時間が極端に少ない。もし無理に会いに行けば彼氏を裏世界に巻き込んでしまい、彼氏が殺されてしまう。言動はどうあれ根が優しく、お人好しな彼女達がそんなことをするはずもなく、無理に会いに行く事はない。もっともピンクの彼氏は例外的に裏世界の事情に首を突っ込める立場だが、ピンクよりもヒーロー活動が出来ないので会える機会が少ない。
「あざしたっ!」
酒屋の親父が礼をし、真央に抱えられている二人を見送る。
「最悪……」
真央は二人を抱え、そう一言呟く。片やらっきょう臭いリア充の女。もう片や酒臭い電柱女。こんなのに付き合わされて真央の機嫌は飛ぶ鳥を落とす勢いで急降下中であった。
そんな事も知らない二人は先ほどとは別の酒屋を見つけ、目を輝かせた。
「もう一軒行こうよ〜! ブラック!」
ピンクがそう言って真央を揺する。因みにブラックとは真央の事であり、これは真央がピンク同様に戦隊モノのヒーロー、ポケレンジャーであるからだ。とはいえ真央はピンクを含め他のポケレンジャーとは違い人間がベースである為、かなり特殊な存在である。
「そやで〜リーダー! ウチもまだまだ行ける!」
和那もピンクに同調し、真央を揺すり、真央をそこに行かせようと誘う。
だが真央は怒りを見せるでもなく真顔で遠くを見つめていた。
「リーダー、どないした?」
それを見て和那は真央の異変に気付く。酔いが少しずつ醒めていき、真央に尋ねながら真央の向いている方向を見る。
「ちょっと〜無視しないでよ〜?」
空気の読めないピンクが二人に聞くが答えは別のものだった。
「ピンク、あれなんだがわかるか?」
「あん?」
「あそこにある鏡っぽいもんや!」
和那がピンクに尋ねた理由はピンクの能力にある。ピンクは全ての感覚器官が優れており脳波などの人間が感知出来ないものを感知したり、透視などの特殊能力がある。早い話が予知能力染みた情報収集力があると言っていい。
「えへへ〜……」
「(あかん、泥酔して会話が成りとっらん)」
だが流石の彼女もらっきょう-ポケレンジャーは全員らっきょうを食べると酔っ払ってしまうがその中でもピンクは酔っ払い易い体質-には勝てず泥酔したままであった。幸せそうな顔をしているのは彼氏の夢でも見ているのだろうか?
「あれは危険……」
「それでリーダーどないする積りや?」
「もちろん消去する」
「ほいたらウチに任しとき。こういうのはウチの得意分野……って、あかん!」
和那と真央が話している間に青いパーカーの少年がそれに触れ、ズブズブと呑み込まれていくのが見え、和那は両足を掴んで止めようとする。
「うおっ!? なんやねんこれ!?」
鏡が和那ごと引き込み、和那も巻き込まれてしまう。そのことに焦った和那が二人を置き去りにしてその鏡の中に入る決意をする。
「ウチのことはかまへんから……ってリーダーもかい!」
しかし時遅く、すでに真央は鏡に半身突っ込んでいた。
「貴女を手伝おうとしたらこうなった」
「それならピンクはせめて……」
「あたしだけ置いてらっきょう食べに行くなんてずるいわよ〜? カズゥ〜!」
ピンクはそれどころか逃がさないと言わんばかりに腰にしがみついていた。
「ち、ちゃうわドアホーっ!」
和那が怒鳴るが酔っ払いが当然そんなことを聞く訳もなく、ヒーロー三人は銀の鏡の中に入っていった。
本来一人取り込むはずであった銀色の鏡はヒーロー三人を巻き添えにして消えた。
▲▼▲▼☆☆☆☆▼▲▼▲
銀の鏡の中で、少年は自分を助けようとした人達を見ていた。
「自分無事かいな?」
その中でもかなり目立つ特徴の女性、和那が少年に話しかけるとどもりながらも答えた。
「そ、それよりもアンタ達は?」
「そうか、自己紹介遅れたな。ウチは茨木和那や」
「芹沢真央。そこで寝ているのが桃井百花」
「zzz……」
「それじゃ俺も自己紹介するよ。俺は平賀才人。極普通の高校生だ」
少年こと才人は簡潔に自己紹介をした。
「ほなら才人君、自己紹介もしたことやし、身体に異変を感じるか確かめて。お姉さんからのお願いや」
「お姉さんというより八尺様」
因みに八尺様とは日本の妖怪であり身長大女の姿をした妖怪である。八尺様の八尺は身長の八尺-約243cm-であり、それにちなんで八尺様と呼ばれている。
「リーダー、茶化すな!」
真央がボソリと呟くのを聞いて和那が怒鳴る。
「リーダー?」
「ああ、ウチら三人一組のボランティアやっとるんよ。そのリーダーがこの芹沢さんっちゅうわけや」
「じゃあリーダーさん、これはドッキリなのか?」
真央は首を横に振る。
「才人君、これはドッキリでもなければ夢でもない。れっきとした現実や」
「どういうことだよ? この訳わかんねえ空間が現実だってのか? 冗談キツイぜ」
「残念ながらこれは現実や。さっきの様子から考察するとここは才人君が触れた鏡の中やな。詳しいことはピンクに聞けばわかるんやけど……寝とるしな」
「訳わかんねえよ! こんな空間が現実にあってたまるか!」
「あ、ちょい待ち!」
才人は和那の言うことも無視してその先へと向かい、消えた。
「しゃあない。リーダー、どないする?」
「追いかける。もしかしたら元に戻れるかもしれない」
「それもそうやな」
和那はピンクを背負い、真央と一緒に才人が消えていった先へと進むとその先には桃色掛かったブロンドの髪の少女が待ち伏せていた。
「アンタ達、誰?」
少女は一言、そう告げた。
という訳で無茶苦茶な展開かつ駄文でしたが今度ともよろしくお願いします。
自分の成長に繋がるように評価コメントの必要文字数を50文字以上とさせています。その代わり感想はフリーダムです。
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2話
「アンタ達、誰?」
ルイズ・フランソワーズ・ル・プラン・ド・ラ・ヴァリエール。矢鱈長ったらしいこの名前の持ち主ルイズは戸惑っていた。
彼女は使い魔召喚試験を実施し、使い魔を召喚するはずであった。しかし出てきたのは使い魔として異例な人間。それも4人。数だけで言えば周りの生徒達の4倍である。しかし見るからに平凡そうな少年少女が3人に大女が1人。そのうち平凡そうな少女の1人は爆睡している有様で頼りない。共通して言えるのは服の材質が似ていることくらいだった。
「はぁ……」
故にルイズの感情は困惑から落胆へと変わりため息を吐いた。
「ミスタ・コルベール! やり直しを要求します!」
頭が寂しい中年の教師コルベールにルイズがそう異議を申し立て、抗議するがコルベールは首を振った。
「我儘を言うんじゃありません。第一、4人も召喚出来たのだから1人くらい当たりが出てもおかしくないでしょう。それにミス・ヴァリエール、君は召喚に失敗して一体どれだけの時間を犠牲にしているのかわかっているのかね? そのことを考慮すると再召喚する機会なんてものは与えられない」
因みにこの会話は日本語や英語、地球にあった様々な言語とは違う言語で会話されている。故に凡人たる才人は何を言っているのかわからず、翻訳機を所持している和那や真央ですらも訛りが強い方言で会話をしているようにしか見えない。唯一理解出来そうなピンクは寝ているので論外である。
「わかりました……契約します」
「分かれば良いです。さあ全員と契約しなさい」
「全員とですか?」
「そうですぞ。始祖ブリミルも4人の使い魔を従えたというじゃないか。君もやるんですよ」
「う、うゥゥゥ…! ひ、1人じゃダメなんですか?」
「全員とやりたまえ、ミス・ヴァリエール」
ルイズは肩を落とし、爆睡している茶髪の少女に近づき、詠唱を始めた。
ブチュリ!
そんな生々しい音が聞こえ、ルイズはピンクにキスをする。それを見た三人は目を見開いてしまう。
「あんな美少女がレズかよ……」
特にショックを受けたのは巨乳大好き才人君であり、胸はともかく自分の好みドンピシャな美少女がレズに走っているとは思いもしなかった。
「いやいや才人君、よう考えてみいや。人工呼吸か何かの類いやろ。そう思わへんかリーダー?」
和那は混乱している!
「でもいい気味……」
「んぎゃーっ!!」
非リア充の真央がリア充のピンクがキスされた事に対して笑みを浮かべるといきなりピンクが叫び出し、ゴロゴロと転がった。
「ワレ、ピンクに何した!?」
和那はドスの効いた声でルイズの頭を掴み吊るし上げた。通常の人間であれば握力や腕力が足りず、吊るし上げることなど無理だが、和那の右手の握力は115kgもあり左手ですら3桁に迫る。故に体重の軽いルイズを頭から吊るし上げることなど容易いことである。
「ぱなしゃなさー!(離しなさい!)」
それを見たコルベールが咄嗟に杖を構え、ルイズを解放するように要求するが無駄だった。
「ああっ? 何言うてんのかわからんわ!?」
二人の会話は翻訳機で一応翻訳されていることにはされているが訛りがお互いに強い方言で翻訳されている為にコミュニケーションが成立せず、このように言い争うことになる。
「もう、いきなり何よ……」
ピンクが目を覚まし、起き上がると頭に文字が浮かび上がっていた。
「ピンク、お前その頭どないした?!」
ルイズを掴んだまま和那が指摘するとピンクは髪の毛を弄り、頭に異変がないかを確かめる。
「え? 頭?」
「額に文字が書かれている」
「嘘おっ!?」
ピンクは能力を発動させ、自分の額に書かれている文字を見つめる。その文字は一般人では訳がわからない言語で書かれていた。
「何よこれーっ!? これじゃ彼氏に会えないわよ〜っ!?」
ピンクは絶叫し、orzの体勢を取り泣いてしまう。
「で、あんたらピンクに何したんや?」
「そんまーにミシィ・ビャリェールをぱなしゃーてくりゃせ! そうすりゃオイラもぱなしゃ(その前にミス・ヴァリエールを離してください! そうしていただければ私がお話しします)」
「だからわからんて……」
コルベールは和那の言葉を理解しているが逆に和那はむちゃくちゃな訛りのコルベールの言葉を理解していなかった。
「その禿げたおっさんはカズが持っている女の子を離せば、事情を話すって言っているわ」
「ホンマかいな……」
和那は胡散臭いものを見るような目でピンクを見る。
「私からすればなんでこんなに丁寧に話しているのにわからない方がおかしいわ」
「そらどういうこっちゃねん?」
「このルーンのせいね。翻訳機能が働いているみたいで翻訳機よりもずっと正しく翻訳しているわ」
「もしかしてそのルーンはそれだけ?」
ここまで口を挟まなかった真央が口を挟むとピンクが首を振った。
「これはあくまで副次的な効果にしか過ぎないわ」
「本命は?」
「ありとあらゆる道具の使用用途を知る……みたいな効果よ」
「みたいな?」
「大方そんなものだと思ってくれればいいわ。それより貴方、この子は何をしたの?」
「じ、じちゃ……(じ、実は……)」
〜コルベール説明中〜
「なるほど、つまりルイズちゃんは魔法学院の昇格試験で使い魔を召喚するつもりが私達四人を呼び出してしまったと。それで止む無く私達を使い魔にしようとした訳ね」
「ゆうとーりだぎゃ(仰る通りです)」
「そういうことらしいわよ。リーダー、カズ、少年」
「……そう」
「そらまたけったいなことに巻き込まれたなぁ」
「マジかよファンタジー!?」
真央、和那、才人の反応はそれぞれ、静かに受け入れる、頭を掻く、絶叫するの三者三様であった。
「ところで帰る方法は?」
「ありゃーせん(ありません)」
それを聞いた四人が絶句した。
「ふ、ふざけんなーっ!!」
そして最初に意識が戻ったのは才人で、今にもルイズに掴みかからんばかりに詰め寄る。
「今すぐ戻せ!」
「落ち着かんかい!」
意外にも和那がルイズに詰め寄った才人を引き剥がした。
「才人君、ここで怒鳴ったところでしゃーない。帰る手段はウチらで見つけなアカンちゅうこっちゃ」
「でもどうやって?」
「それは後で考えればええやろ? 今は従うしかあらへんよ」
「俺はこいつの使い魔になるのはゴメンだ!」
才人がそう告げ逃げだそうとすると真央が腹を殴り、才人を力ずくで止めた。
「ぐっ!」
殴られた才人は腹をくの字に曲げ、膝をついた。
「今貴方は会話も出来ない状態。ましてや非力な私にも劣る。そんな状態で生活するのは不可能」
「ほ、ほな。ルイズ、この少年にやっちゃってぇな」
和那がルイズにアイコンタクトを送り、目で口に出したことを伝えるとルイズにそれが伝わり、詠唱を始めキスをして契約する。
「ぐぎぃィィっ……」
才人は左手と腹を抑え、痛みを堪える。次第に才人の左手の甲に文字が映し出された。
「ウチらもサクッとやって契約しようや。どうせ使い魔言うても大したことあらへんやろうし」
「……」
ルイズは和那と真央にも契約し、前代未聞のキスのバーゲンセールが終了すると真央は右手に、和那は胸に文字が刻まれる。
「そ、それでは魔法学院に戻りましょう」
「は、はい……」
一悶着あった後、コルベールが魔法学院に戻るように指示するとボロボロになった生徒達が力なく返事を返した。
「全く、スケベなガキンチョどもめ。ウチの身体見てええんはあいつだけや」
その一悶着というのはコルベールがルーンをメモして写そうとしたことである。コルベールが和那のルーンをメモしようとするが和那のルーンは胸に刻まれている。コルベールはどうしたものかと迷っていたが、生徒達が和那の胸目当てにルーンをスケッチしようと立候補し、和那にボコられてしまったのが真相である。
「よかったー、俺を殴ったのが和那さんじゃなくて」
その一方、才人は和那ではなく真央の拳で済んだことを安堵していた。
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