新人潰しのトンパ (kamitateki)
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第277期ハンター試験開始直前

 屋上で寝転べば、くそったれなほど、に清々しい青空が、俺を見下してきやがった。

 雲ひとつない晴天の青空。俺がこのくそったれな世界にきてから、はや35年がすぎたが、しかし、この空は今も35年前も変わらずに存在をしていて、いつまでも俺を見下ろすのをやめることはない。

 それにこの世界に生まれて、いや生まれる前からのこの空が、存在しているとなると、せめて汚らしく濁ってくれるようタバコを吸うことにした。どうせならあの蒼もタバコのヤニで黄ばみはしないかと、ありえない空想を立てながら。

 一本二本とタバコをふかしていると、階段に貼られた俺の円にだれかがふれるのがわかった、おれも人気者になったものだなと自嘲し、気にせず3本目のタバコに火をつける。

 相手の人数は3人か。丁度火をつけたタバコのかずと同じことがおれにとっては無性におかしかった。ゆっくりとタバコをふかしながら、そいつらの到着をまつ。まったく、今時絶も満足にできないとは悲しくなるね。そう思っていると、扉が勢いよく開かれた、会わられたのは黒いスーツを見にまとった筋骨隆々のおとこたちである。

 そのなかの一人が、俺をみつけると大きな声でさけんだ。

「みつけましたよ、トンパさん。早く一次試験の準備に入ってください。」

 まったく、そんな大きな声で叫ばなくても聞こえているよ。

 俺は仕方がなくこしをあげると、その黒服たちの側に行き、見上げながら。

「いくから、案内しろ」

「はい‼」

 そういって案内を促した。その俺の声に震えながら黒服のひとりが大きく返事を返す。

 全くなにをこんなにチビで中年のおっさんをびびってんのだか、理解ができなくて仕方ないね。俺よりもよっぽどあの化け物ジジイの方が怖いだろうに。

 俺は黒服の様子に苦笑しながら、一度くそったれな空を見上げると、三本目のたばこを踏み消す。

 それにしても、今回はどんな雛鳥が集まっていることやら、若いって言うのはいい。高く高くあの忌々しい空に羽ばたけるのだから。

 まぁ、でも、どんなに高く飛べても、落ちる時は一瞬だ。だからこそ、その顔をしっかりと見てやらなければな、翼をもがれた鳥がどんな顔をするのかをよ。

「さて、今回はどれだけのこすかな。」

 俺の一言に黒服たちがびくつくが、それを無視して俺は歩むのであった。

 トンパが屋上から過ぎ去ったあと、残った黒服たちが話し始めた。

「おい、見たかよあの顔」

「ああ、あれ絶対、何かやらかすぞ」

 彼らも立派ハンターである。しかも協会所属の。しかしながら彼らからしても、先ほどの小さな中年ハンターは別格の、いや彼らからすれば恐怖の象徴であった。

 彼のハンターの名前はトンパ、その経歴は飛び抜けたものではない、20歳でハンター試験に合格すると、そのまま協会専属として過ごしてきたハンターである。確かに20歳でハンターとは非常に若いし、ハンターとしてみればすぐさま協会所属とは、少し毛色の変わったものではあるが、だからと言って恐れられるような経歴ではない。では、何故彼が恐れられるのか、それは、彼の異名にあった。

 "新人潰しのトンパ”

 彼は協会専属となってからいままで、ハンター試験の試験管をこなしてきたのだ、その時についた異名がこれである。彼が試験管となってから、ハンター試験の合格者は減り、重傷を負う人が大きく増えたのだ。

 ただでさえ、ハンターの数は少ないそんななか合格者が全くでないのでは。どんどんとハンターが減ってしまう。この状況にハンター協会も重いこしをあげ、釘をさした。

 だが、ここでトンパが試験管を降ろされるとはなかった、何故ならばそもそも率先して試験管を受けるハンターが存在せず。トンパの存在自体がハンター協会にとっては非常に助かるものであったからだ。

 そんなトンパだからこそ釘は刺されたが、辞めさせられなかった。そしてこのことは彼にとっては僥倖であり、ハンター協会にとっては悲劇であった。

 釘を刺されたトンパは、方針を転換することにする。合格者がでないこと、重傷者がでることが問題ならば、それ以外の点で痛めつける。つまり精神を追い込んでやればいいのだと。

 その結果、合格者はもとにもどり重傷者は大きく減った。精神に異常をきたすものの増大とともに。

 ただでさえ過酷で、殺伐としていた試験が、さらに陰険さと憂鬱を併せ持ってしまったのである。

 もちろん良識あるハンターたちは彼の試験に、異をとなえた。だが、ハンター協会はそれには取り合わなかった。その程度を耐え着れないものがハンターになろうとするのが悪いのであると、文句があるのならば君たちが試験管をやればいいと。それに対してハンターたちは口を噤むしかなかった。そもそもハンターという人種は求める者がありそれを追い求めることで手一杯なのである。その点トンパは異色のハンターなのであった。

 このような結果と経緯から新人潰しトンパが生まれ完成したのである。

 つまり、彼が試験を受け持ったここ15年にハンターになったものはその洗礼をうけているのだ。恐怖するなと言う方が酷であろう。

「今回はどれだけつぶされるんだ」

「俺実はいまだに、あの時のことが夢によみがえるんだよ」

「俺もだ」

 屈強で強靭なハンター達がいまだに、夢に見るほどの試験とはいったいどういったものなのだろうか。

 

 

 俺が俺をトンパと自覚したのは五つくらいのことであったか、なんてことはないどこでもあるような話さ。階段から足を滑らして落ちて頭を打った、ただそれだけさ。な、よくある話だろ? 

 それからの俺の人生は変わる……、わけがないよな。

 当時の俺は5歳のガキだぜ?

 自分の中に知らない知識があったからって、それを不自然に思う頭んかねぇ。

 俺はそのまま輝かしい青春を謳歌したわけだ。

 しかしながらちょっとだけ変わったことがある、それが念てわけさ。

 念を知らないって? そうだろうなお前じゃ一生かかっても知ることはできねぇだろうよ。

 俺もそうなるはずだった。

 しかしながら俺は幸運なのか不幸なのかこの存在を知っちまった。

 そして、知っちまったが最後、ガキにとってはこれほどのおもちゃはなかったわけだ。

 だって考えてもみろよ。もしかしたら空を飛べるかもしれない能力たぜ? 誰よりも早く走れる能力だぜ? ガキの俺にしてみればこれほど魅力のあるものはなかったわけだ。

 それはもうそっちのけで練習をしたわけよ。

 自分だけの必殺技が手に入る。手を抜けるわけがないだろう。

 さらには、俺にはそれを効率的に鍛えるための方法も頭の中にあったわけだ。

 ガキの俺はどうやら素直でね、忠実にそれを行ったんだよ。そう漫画の中の主人公が行うような特訓を忠実に毎日にな。ガキってのは怖いものでね、一度やると決めれば全開でやり通しちまう。そう空っぽになるまでな。

 何よりも子供ってのは運が良くできているらしくてな、漫画のような無茶をしても俺の身体にはがたが来なかったわけだ。

 なに? 漫画を読まないってお前それは人生損してるよ、あんな面白いものはないのに。

 まぁ、べつにそれはいいか、何が言いたいかと言うと、俺はその漫画のような効率のいい訓練を5歳のころから続けてきたわけだ。

 わかるかこの意味が? わからなくてもいい。ようはこれがお前と俺との差になったわけだ。なんてことはない俺は幸運だっただけなのさ。

 そして、お前は不運だっただけさ。

 さてと、一次試験もだいぶ人数が減ってきたな。おい、見ろよ全員今にも倒れそうな顔をしてるぜ。

 なあ、笑えるだろ?

 おっとすまねぇお前は笑えなかったよな、今それどころじゃないもんな。

 なに、やさしい俺が二次試験会場には連れて行ってやるよ、それが俺のバディであるあんたの特権だからな。

 まぁ、どうせもう聞こえちゃいないだろうがな。

 



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第277期ハンター試験開始

 第277回ハンター試験、この試験にメンチはブハラとともに受験生としてこの会場に来ていた。

 彼女らの目的は世界にあるあらゆる美食を食べること、そのことのために便利なハンターライセンスを取りに来たのである。メンチとブハラにはこの試験を受かる自信があった。何故ならば彼らはライセンスを持たずとも、美食のために危険な地域へと何度も繰り出し、生きて帰ってきているからである。そんな彼らからすれば、たかが試験など何するものぞというものであった。

 今回の会場は、有名な山の麓にある平原のど真ん中であった。

 そこには様々な格好の受験生が集まっていた。多種多様な人種、様々な年齢、ただ共通して言えることは、皆がここにたどり着く程度には優秀であるということであった。けれども、メンチがさらっと見たところ自分たちほどの実力者はあまりいないようであった。 そのことに合格が出きりだろうと自信を深めるメンチとブハラ。

 到達率1万分の1といってもこの程度である。

 案外簡単にライセンスをゲットできるのでは思うのであった。

 そんな彼らに声を掛ける者がいた

「綺麗ですね、お嬢さん」

 それは女性として平均的な身長を持つメンチからしても小さな、中年の男性であった。 平凡な見た目のどこにでもいるような、中年の男性である。その男性がメンチに話しかけてきたのだ。

 メンチは何を当たり前のことをと、その男の言葉を無視する。しかし、その男は気にもせずにやにやと人のよさそうな笑みを浮かべてメンチに話しかけ続ける。

「まさかこんなに可憐なお嬢さんが受けに来るとは」

 その言葉にメンチは憤りを感じた。確かにメンチは若く、それでいて非常に人の目を引く美少女である。大きな瞳に艶のある桃色の髪、美食ハンターを目指しながら、いや、だからこそしっかりと引き締まった身体、そのすべてが異性から見れば魅力的に見えるものであった。しかし、そのことで舐められるほど実力が低いつもりもなかった。

 うざったい中年に何か言ってやろうと口を開けかけるメンチ、だが男はそれにタイミングを合わせるのかのようにあるものを取り出す。

「どうぞ」

 渡されたのは缶ジュースであった。どこから出したのかキンキンに冷えたリンゴのジュースが目の前に差し出される。

 突然のことにキョトンとしてしまい、受け取ってしまうメンチ。男はそんなことを気にせずブハラにも缶ジュースを渡すのであった。受け取るブハラ。

 それに満足したのか、中年男はそれではと言って彼らの前からいなくなってしまうのであった。

「なんなのよあれ」

 受け取った缶ジュースを見ながらメンチはそう呟くのであった。

 

 

 どこからかゴーンゴーンと大きな鐘の音が平原に響き渡った。

 どうやら、締め切りの時間が来たらしい。ざわめいていた受験者たちが静まり返る。メンチとブハラも気を引き締める。

 周りにいた黒服たちが受験者たちの前に出て並び始める。

 ずらりと微動だにしない完ぺきな整列をする黒服たち。

 彼らが並び終わると、一人の黒服が前に出て大きな声で叫んだ。

「以上で、第277期ハンター試験を締め切りとする。今回の受験者数は210名」

 全体を見渡しながら叫ぶ黒服。

「では、受験生の皆様に今回の試験管をご紹介します」

 黒服がそう言うと受験者の塊の中から一人の男が出てきた。

「あ!?」

 出てきた男見てメンチは驚いた。それは、その男が先ほど話しかけてきた男であったからだ。

 周りの受験者たちもざわめく。どうやら彼は他の受験者にもメンチたちと同じように、缶ジュースを渡していたようであった。そのような人物が試験管。あまりのことにメンチは考えるのをやめた。

 その中年の男がゆっくりと黒服たち真ん中に立つ。そして、

「さて、諸君ハンター試験への到達おめでとう。俺の名はトンパ、今回の一次試験の試験管を務めさせていただく良しなに」

 受験者たちを嘗め回すように見渡しながらそう自己紹介するのであった。

 その顔はニマニマと笑いまるで、これからいただく獲物を見定めるようなものであった。先ほどの人のよさそうな中年男性とは全く異なる印象が、受験者たちに与えられる。

「さて、まず一次試験について説明させてもらおう」

 一通り獲物の吟味を済ませたのか、いやらしい笑みを一旦ひっこめながら試験管のトンパが説明を始める。

「お前らには、まず受けるか受けないかを選ぶ権利が与えられる、何故ならばここから先は死んでも自己責任の試験だからだ。だから、もし絶対に死にたくないというやつがいればここで申し出てくれ。後ろにいるこいつらが、ちゃんと無事に自宅まで届けてくれるからさ」

 そう言うとトンパは受験生たちを見渡した。もちろんここに来た受験生の中にその程度の脅しで受験を辞退する者などいなかった。その様子を見てトンパは嗤った。

「いいねぇ、バカな雛たちばっかりだ、やっぱりこうでなくっちゃ、みんな自分が落ちるとも死ぬとも思って嫌がらねぇ」

 当たり前のことであろう。落ちると思って受験にくる奴などいない、こいつの頭は大丈夫かとメンチは心配になった。そもそもである、あのような小さな中年の男が試験管とはハンター試験とはかなり簡単なものなのではないかと錯覚までしてしまう。

「おい、そこのちびよ。ほんとにあんたが試験管なのか」

 同じように思ったのだろう、一人の体格のいい男性が、トンパに向かってそう言った。 その言葉に黒服たちが、ざっと前に出てトンパをかばう。

 いきなり前に出てきた黒服たちに、少し腰が引ける受験者の男性。

 その腰が引けている姿に、おびえるくらいなら何も言わなければいいのにと、メンチは思った。そして、トンパと呼ばれた中年の男を見ながら、あのように守られるということは、彼はハンターではなく採点係なのではとメンチは思った。そう考えれば彼の先ほどの行動も納得がいくものである。あの缶ジュースも人となりなど何かを調べるための試験だったのではないかと。

 そう考えるとあの受験生の男の行動は全く持って理のない行動であると。採点官に何を言っても無駄であろうそう考えるメンチ。

 しかし、その予想は裏切られるのであった。黒服たちをかき分けトンパが前に出て来たのだ。無造作に文句を言った受験生の前に立つ。そして、

「俺が、試験管なことに納得がいかないだって」

 そう嗤いながら問いかけた。

「そ、そうだよ、お前みたいなのが試験管なんて間違えだろ、後ろの黒服の方が試験管に見えるんじゃねかぁ」

 初めは黒服におびえていたが、黒服たちが何もしないとわかると強気にトンパをなじる受験生の男。

 まったく、くだらない。

 たとえ彼が試験管であろうがなかろうが、彼の行動はどう見てもよい行動とは思えない、受かりたいならばここはおとなしくしておくのが正解ではないかと、メンチはその男を内心馬鹿にする。

 それよりも、これで他が不利になったらどうするのよ。

 馬鹿の行動で困らせるのは馬鹿だけにしてほしい、それが偽らざるメンチの本音であった。

 はやくおわらないかな

 メンチがそう考えた時である。

 大きな爆音が周囲に響き、文句を言っていた男性が砕け散った。

 草原を流れうる爽やかな風と共に、脳漿と肉片、血液があたりにまき散らされる。

 そして、その先には拳を突き出した形でトンパが立っていた。

「言い忘れていたが、俺の言うことは絶対であり、俺をけなすのは死だ。今更遅いがな」

何事もなかったかのように嗤いながらトンパは言う。

 突然のことに受験者たちは呆然とするしかなかった。目の前でいきなり人が死ぬそれを目の当たりにした受験生たち。さすがはこの試験会場に到達したものであるから取り乱すことはなかったが、しかし自分たちの考えが間違っているのを理解させられた。

 誰も見えなかったのである。トンパがその男を殴ったことが。そもそもが殴っただけで人とはあのように爆砕するのであろうか。人間が行ったとは思えぬ現状に困惑する受験者たちただ、これで分かったことがある。

 試験は、もう始まっているのだと。

 そしてあの男は紛れもなく私たちの試験管だと。

「さて、一人減っちまったが早速一次試験に取り掛かるぞ」

 大きく嗤いながら告げるトンパに。メンチはこの試験が一筋縄ではいかないことを理解するのであった。

 



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