遊戯王 INNOCENCE - Si Vis Pacem Para Bellum - (箱庭の猫)
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第1章 日常編 - Transfer -
TURN - 1 START OF THE NEW DUEL



 初投稿したポケモン小説の息抜きに作りました~!ごゆるりと。



 

- ボクはただ、平穏に生きたいだけなんだ -

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今朝はじめて袖を通したばかりの、新しい制服の胸ポケットから携帯端末(スマートフォン)を取り出して画面を開き、時間を確認する。待ち受けには『AM(午前) 7:35』と、デジタル文字で大きく表示されていた。

 

 まだ予定の登校時間まで、かなり余裕がある。少しくらい寄り道なんかしちゃっても、まぁ大丈夫だよね。

 

 いやぁ今日という日が楽しみ過ぎて、ボクにしては珍しく目覚まし時計のアラームをセットした時刻より、30分も早く起きちゃったからなぁ。うむ、偉いぞボク。ほめてつかわす。

 

 ……少し歩くと、壁一面が鏡張りになっているビルを発見した。ボクは鏡面の前に立ち止まって、そこに映し出された自分の身なりを再チェックする。

 

 

 

 やや癖毛があって、ところどころ毛先が跳ねている、銀色(ぎんいろ)の髪。前髪の長さは()(ぶた)にかかる程度。

 トレードマークと称して常日頃かけている、フレームが赤いメガネの奥から覗くのは、黒色の瞳。

 

 人からはよく童顔と言われる、生まれてこの方17年の付き合いになる、見慣れた丸い顔。

 

 服装は、これから通う学園の生徒であることを証明する、ピカピカの制服一式。

 白いラインが入った黒のジャケット。その下には白のワイシャツを着ていて、首元には青いネクタイを巻いている。

 ズボンはジャケットと同じ黒色で、新品なので折り目がクッキリと浮かんでいる。

 

 忘れ物も無し。うん、バッチリ!

 

 

 

 この日は運よく天候にも恵まれて、見上げれば雲ひとつない晴れ渡った青空が広がっている。

 燦然(さんぜん)と輝く太陽から降り注ぐ、眩しくも暖かい光がボクの身体を包容してくれている。

 

 そして、快晴に元気を貰っているのはボクだけでなく、この街…『ジャルダン』も一緒だ。

 

 

 

 正式名称『ジャルダン・ライブレ』。通称・ジャルダン。

 

 総人口・約34万人、総面積・約20平方キロメートル。(暇な時にウィキ○ディアで調べた。)※東京都新宿区と、ほぼ同じ人口と面積。

 

 方々(ほうぼう)で高層ビルが軒を連ねる、絵に描いた様な大都市だ。

 しかもどうやら、街は7つのエリアに分けられているらしく、ボクが主に暮らす事になったこの地区は、ジャルダンの都心部・『1番街(ばんがい)』と呼ばれている。

 

 これだけ広大な都市の中心部というだけあって、街は朝から驚く程の賑わいを見せている。駅前に行けば大勢の人々が往来しているし、ボクと同じ制服を着た学生の姿も、たくさん見受けられる。これで昼頃に繁華街でも寄ったら、人酔いして倒れてしまいそう。

 

 

 

 だけど、この街の最も特徴的なところは…

 

 行き交う全ての人間が『デッキ』と『デュエルディスク』を、常に肌身はなさず携行している…つまり『決闘者(デュエリスト)』であるということなんだ。

 

 

 

 『デュエルモンスターズ』

 

 8000種以上の(そのうち1万を超えるだろう)多種多様なカード群の中から、厳選した40枚のカードで山札(デッキ)を組み、モンスター、魔法、(トラップ)などを駆使して(たたか)う。ワールドワイドな人気を誇るカードゲーム。

 

 今や、このカードゲームはカードゲームの粋を超越して、世界を動かすレベルにまで発展している。プロにもなると、契約金が何百万やら何千万やら、時には億単位で支払われる事もあるんだとか。なんて言うか……すごい(語彙力)。

 

 

 

 そんなわけで決闘者(デュエリスト)が街中を闊歩しているのは、別に世界中どこに行っても日常茶飯事の光景ではあるけれど、この街(ジャルダン)は特に、デュエルの色が濃厚な気がする。

 

 何せ、『デュエルが全てを支配する街』とまで言われているのだから。

 

 無理もない。ここ数年のプロリーグに進出するデュエリストは、驚く事に6割がジャルダン出身。

 他の街で『デュエルチャンピオン』になったり頭角を現したりしてるのも、元はジャルダンの人間だったって事例が多いと聞く。

 

 それだけ、この街はデュエリストのレベルが高いんだ。

 

 …その分、デュエルの実力が低い人には、死ぬ程シビアな世界だけどね。

 

 

 

「トドメだ!ダイレクトアタック!!」

 

「うわああぁっ!?」

 

 

 

 聞き慣れた単語が耳を掠めた。次いで、轟音が鳴り響き、同時に誰かの悲鳴が聞こえる。

 

 すぐ近くで、こんな朝早くからデュエルが行われてるのか。さすがデュエルの街。

 それにしても今の音…相当、強力なモンスターの攻撃によるものだよね。……見てみよう。

 

 現場に急行すると、何やら怯えた様子で地面に座り込んでいる茶髪の少年と、そんな彼を見下ろして笑っている、若い男達の集団に出くわした。

 よく見ると双方ともに、ボクと同じデザインの制服を着ている。男達の方は、だいぶ着崩しているけれど。

 この状況を見るに、もうデュエルは終わっちゃったみたい…残念。

 

 

 

「ケッ!相変わらず(よえ)ぇーなぁ、(いち)()()!軽すぎて朝のウォーミングアップにもなんねーよ!」

 

「ぎゃはははっ!もうちょい優しくしてやれよ、ケンちゃん」

 

「バッカ、手加減してるっつの。コイツが歯応え無さ過ぎんの」

 

「うっ……ううっ…」

 

 

 

 『一ノ瀬』と呼び捨てにされた茶髪の男の子は身体を震わせて涙目になっていた。悔しさか恐怖か…たぶん両方かも。

 

 さっき、彼らの会話の中で『ケンちゃん』と呼ばれていた金髪の男が歩き出して、茶髪くんとの距離を縮めていく。彼が茶髪くんをデュエルで倒した相手か。

 

 金髪のケンちゃんは、自分の左腕に装着してあるデュエルディスクを右手の指先で操作し始める。それから茶髪くんを睨み付けて舌打ちした。

 

 

 

「……たった300DPかよ、小遣い稼ぎにもならねぇじゃねぇか」

 

 

 

 『DP』とは『デュエルポイント』。デュエルに勝利すると獲得できるボーナスポイントの事で、そのポイントを使えばカードパックや色々な物を購入できたり、サービスを利用できたりする。

 ボク達デュエリストにとっては世界共通の『お金』というわけだ。

 

 そして、加算されるDP(デュエルポイント)の額は、(おこな)ったデュエルの、いわゆる『質』によって左右される。

 

 

 

「話になんねーんだよ!いい加減そんなカスデッキ捨てて、もっと(つえ)ぇカード買えよ!」

 

「っ!……くっ、うぅ…!」

 

「無理無理!どーせ、そいつ負けっぱなしでDPスッカラカンだもんよ。ろくなカード買えねえって!」

 

「ブハッ!それもそうか!こりゃ失礼しちまったぜ、ギャッハッハ!」

 

 

 

 さっきから男達は言いたい放題の笑い放題。ガラの悪い連中だね。どこに行っても、こういう人種は居るものか……ん?

 

 

 

「……撤回…して…」

 

「あ?なんか言ったか雑魚(ザ コ)

 

「…ぼ…僕のデッキ、を…バカに、しないでくださいっ…!」

 

「「「…………」」」

 

 

 

 ……あーあ。

 

 

 

「はぁ?カスをカスっつって何が悪いんだよ?」

 

「ひっ…!」

 

 

 

 目の色が変わった金髪のケンちゃんは、右拳を固く握り締めて、茶髪くんの顔面を狙って殴りかかった。

 

 ……揉め事は好きじゃないんだけどな、しょうがない。

 

 

 

 ボクは2人の間に素早く飛び込んで、金髪のケンちゃんのパンチを、カバンから引っ張り出したデュエルディスクで受け止めた。カードが(けん)なら決闘盤(デュエルディスク)は盾ってね。

 

 

 

「ッ!?」

 

「!?」

 

「はい。ストップ」

 

 

 

 ボクが横から乱入したことで、茶髪くんも金髪のケンちゃんも目を丸くしていた。後ろで眺めていたケンちゃんのお仲間も同様だ。

 茶髪くんは何が起きたのか理解できてないみたいで呆然としている。

 一方、金髪のケンちゃんは一歩だけ後退して、ボクの出方を(うかが)いながらも再び殴撃(おうげき)の構えを取った。そうしてから、口を開いた。

 

 

 

「……誰だテメェ?…見ねぇ顔だな」

 

総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)。今日から君らと同じ、『デュエルアカデミア・ジャルダン校』に転入するんだ。ちなみに高等部2年生。よろしくね」

 

「あぁ?転入生?」

 

「そう。輝かしい転入初日に血を見るのは勘弁なんだ。しかも登校前になんてさ。そういうわけだから今回はこの辺で、お開きにしてもらえないかな?」

 

「…………」

 

 

 

 ボクの懇切丁寧(こんせつていねい)な要望に対して、金髪のケンちゃんは怖い顔のまま何も答えない。

 すぐに彼の友達も、ボク達の周りにゾロゾロと集まってきた。

 えーっと、右から順に、モブ1号、2号、3号と名付けよう。

 

 

 

「なんだぁクソガキ!!調子ノッてんじゃ…」

 

「待てよ」

 

 

 

 左端に陣取った、短い黒髪の巨漢・モブ3号の怒声を制止したのは、意外にも金髪のケンちゃんだった。

 

 

 

「良いぜ。お望み通り見逃してやろうじゃねぇか。ただし」

 

「…ただし?」

 

「テメェの持ってる、そのデュエルディスクとデッキを置いてけ」

 

「!!」

 

 

 

 そう来たか…ただでは解放してくれないみたい。

 

 

 

「おら、どうした?とっとと出せよ!言っとくが逃げようなんて思うなよ?」

 

 

 

 モブ3人が()ぐ様ボクを取り囲んで、退路を塞いだ。完全に逃げ場なしだ。

 どうせ、ここで素直に応じてデッキとデュエルディスクを明け渡しても、どの道ボクの事はボコボコにする算段なんだろう。

 

 チラッと横を一瞥(いちべつ)すると、茶髪くんが相変わらず震えながら、どうしたら良いか分からないと言った様相で、こちらを見ていた。

 この人達のターゲットはボクに変わっている。だから今の内に離脱すれば良いのに。腰でも抜けちゃったかな?

 

 ボクは目を閉じて、小さく()め息を()く。そして、ある提案をした。

 

 

 

「…デッキもディスクも、持ってかれるのは困るなぁ。どうかな金髪のケンちゃん。ここはひとつ、『デュエル』で決めるというのは」

 

「デュエルだと?…つか馴れ馴れしく呼んでんじゃねぇよ」

 

「ボクが負けたら言う通りにする。でも、ボクが勝ったら大人しく退散してもらうよ」

 

「…あ"ぁ?」

 

 

 

 最後は少し挑発的な言葉を()えて選んで、そう申し出た。金髪のケンちゃんは眉根を寄せて、明らかに不愉快そうな表情を作った。

 

 

 

「…おもしれーじゃねぇか。テメェが負けたら『土下座して謝る』も追加だ」

 

「お好きなように」

 

 

 

 OK、交渉成立だ。

 

 ボクは愛用のホワイトタイプ・デュエルディスクを、左腕に装着する。そのホルダーには、同じく愛用のデッキをセッティングした。

 ディスクを起動すると、カードをセットするプレート部分が展開して、デッキが自動(オート)シャッフルされる。

 ライフカウンターには、白い電子文字で『4000』と数値が表示される。これで準備は完了。

 

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください!そんなの無茶ですよ!」

 

「茶髪くんは下がってて、危ないからね」

 

「で、でも…」

 

「大丈夫だよ、上手くやるから」

 

「挑んでくるからには、ちったぁまともなDP稼がせてくれよぉ?テメェのデッキ売れば、少しは足しになるだろうがな」

 

「そう簡単に譲れるほど、ボクのデッキは安くないよ」

 

 

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 金髪のケンちゃん LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「ククッ、先攻は俺だ。手札から【融合(ゆうごう)】を発動!!」

 

「!」

 

「手札の【サイバー・オーガ】2体を融合!【サイバー・オーガ・(ツー)】、融合召喚!!」

 

 

 

 相手フィールドのモンスターゾーンに、融合モンスター【サイバー・オーガ・2】が立体映像(ソリッドビジョン)となって出現した。1ターン目から融合召喚か…しかも、こんな上級モンスターを…!

 

 

 

【サイバー・オーガ・(ツー)】 攻撃力 2600

 

 

 

「ま、また出た…サイバー・オーガ・2…!」

 

 

 

 ボクの背後で、茶髪くんが呟くのが耳に届いた。なるほど、これがさっきの爆音を起こした張本人か。納得。

 さしずめ金髪のケンちゃんの、エース・モンスターと言ったところかな。

 

 

 

「なら…そのモンスターを倒せば、このデュエルは貰ったも同然だね」

 

「ケッ、ほざいてろ!俺は更に、カードを2枚セットする!」

 

 

 

 裏側表示のカードが立体映像(ソリッドビジョン)としてフィールド上に現れる。

 伏せ(リバース)カードが2枚か。厄介だけど、これで相手の手札は(ゼロ)

 今、フィールドに出ているカードさえ何とかすれば、勝機は十分にある!

 

 

 

「先攻は最初のターン、攻撃する事は出来ない。俺はこれでターンエンドだ!」

 

「それじゃ、ボクのターン!デッキから、カードをドローする!」

 

 

 

 ディスクに差し込んだデッキの、一番上に重なっているカードを、1枚だけ引く。これでボクの手札は現在6枚。

 

 さて、ここからどうプレイングしていくか…。

 

 

 

「…………フッ」

 

「あ?なに笑ってやがる」

 

「…?」

 

 

 

 ボクは勝ち誇った様な、不敵な笑みを浮かべる。そして、手札の中から1枚のカードを勢いよく引き抜き、デュエルディスクの魔法・罠カードゾーンにセットして、それを発動した。

 

 

 

「ボクは手札から魔法(マジック)カード・【リロード】を発動!手札を全てデッキに戻してシャッフル!その後、戻した枚数分ドローする!」

 

「……は?」

 

「えっ…」

 

 

 

 ボクが無駄なキメ顔をしながら発動したカードを見て、この場にいたボク以外の全員が、拍子抜けと言いたげなキョトンとした表情を露にした。やめてくれよ傷つくな。

 

 手元に残った5枚のカードを全部デッキに戻すと、ディスクの機能によって、デッキが再びシャッフルされる。それが済むと、ボクは最初に戻した枚数分、つまり5枚のカードを、もう一度デッキからドローした。

 

 

 

「ギャハハハハハッ!!ダセーッ!初っぱなからそんなカードかよ!手札事故か!?」

 

「そうみたい。いやぁ今朝は調子がよろしくないみたいでさ。あはは」

 

「だ…大丈夫かな…この人…」

 

「聞こえてるよ~茶髪くん」

 

「ひゃい!?ご、ごめんなさい!」

 

 

 

 さぁ仕切り直しだ。新たにドローした手札の内容は……うん、悪くない。ここからが本番!

 

 

 

「ボクは【暗黒の竜王(ドラゴン)】を召喚!」

 

 

 

【暗黒の竜王(ドラゴン)】 攻撃力 1500

 

 

 

「ハッ!そんな古い雑魚モンスターで何が出来んだよ!」

 

「目に物を見せてあげるよ。魔法カード・【フォース】を発動!その効果で、サイバー・オーガ・2の攻撃力を半分にして、その数値分、暗黒の竜王(ドラゴン)の攻撃力をアップする!」

 

 

 

【サイバー・オーガ・2】 攻撃力 2600 → 1300

 

【暗黒の竜王(ドラゴン)】 攻撃力 1500 → 2800

 

 

 

「なにィ!?」

 

「バトルだ!暗黒の竜王で、サイバー・オーガ・2を攻撃!(ほのお)のブレス!!」

 

 

 

 ボクの攻撃宣言を受けて、暗黒の竜王が口から放った灼熱の炎が敵モンスターを襲う。

 

 

 

「させるかよぉ!(トラップ)カード・【攻撃の()(てき)()】を発動!」

 

「!」

 

 

 

 あのカードは『モンスターを破壊から守る』か『自分への戦闘ダメージを(ゼロ)にするか』。どちらか1つだけを選択して適用する防御トラップ。この状勢で選ぶ効果は恐らく…

 

 

 

「俺が使うのは1つ目の効果だ!サイバー・オーガ・2は、このバトルフェイズ中、戦闘では破壊されねぇ!」

 

「やっぱりね。でも、戦闘ダメージは受けてもらうよ!」

 

「ぐうっ!!…チィッ!くそが!」

 

 

 

 金髪のケンちゃん LP 4000 → 2500

 

 

 

 竜王の攻撃が見事ヒットして、サイバー・オーガ・2は全身を業火に包まれる。もちろん【攻撃の無敵化】の効果で戦闘破壊は出来なかったけど、その分ダメージは与えられた。

 

 

 

(ッ……す、すごいです、この人…!レベルの低いモンスターで上級モンスターに躊躇なく攻撃を仕掛けて、あんな(こわ)い人のライフまで削るなんて…僕には真似(マ ネ)できないです…!)

 

 

 

「フゥ、さすがに一筋縄じゃ行かないか。ボクはカードを2枚()せて、ターン終了」

 

(いて)ぇじゃねぇか…だが!これでサイバー・オーガ・2の攻撃力は元に戻る!」

 

 

 

【サイバー・オーガ・2】 攻撃力 1300 → 2600

 

【暗黒の竜王】 攻撃力 2800 → 1500

 

 

 

(…このままだと次のターン、サイバー・オーガ・2の攻撃で、ボクの竜王は破壊されてしまう……でも大丈夫。今ボクが伏せたカードは…(トラップ)カード・【(くさり)付きブーメラン】!)

 

 

 

 【鎖付きブーメラン】。攻撃してきた相手モンスターを守備表示にして、更に自分のモンスター1体の攻撃力を500ポイント上昇させる装備(そうび)カードとなる、特殊な(トラップ)

 

 このカードを使えば敵の攻撃を止められるだけでなく、竜王の攻撃力が上がって、2000ポイントになる。

 

 サイバー・オーガ・2の守備力は1900。次のボクのターンに、パワーアップした竜王で攻撃すれば倒せる。これで勝つる!

 

 

 

「俺のターン、ドロー!……ククッ、このターンで、早くもデュエルはお(しま)いだぜぇ!」

 

「えっ?」

 

「俺がドローしたのは、魔法カード・【リミッター解除】!発動!!」

 

 

 

【サイバー・オーガ・2】 攻撃力 2600 → 5200

 

 

 

「攻撃力が(ばい)になって…5200!?」

 

「それだけじゃないぜぇ?サイバー・オーガ・2が敵モンスターを攻撃する時、攻撃対象にしたモンスターの攻撃力の、半分の数値だけ、こいつの攻撃力が上がるのさ!」

 

「…ということは…」

 

「バトルだ!サイバー・オーガ・2!!あの雑魚を叩き潰せ!!」

 

 

 

 サイバー・オーガ・2の(きょ)()が暗黒の竜王に迫り来る。しかも特殊効果が発動して、ただでさえ(ケタ)外れに跳ね上がった攻撃力の数値に、竜王の攻撃力の半分が上乗せされた。

 

 

 

【サイバー・オーガ・2】 攻撃力 5200 + 750 = 5950

 

 

 

(攻撃力5950!?この攻撃が通ったらボクのライフは(ゼロ)!…だけど、そうはいかない!)

 

「ボクはリバースカード・オープン!【鎖付きブーメラ…」

 

 

 

 …………シーーーーーン…………

 

 

 

「メラ……ブーメ…ラ……ン……ん?んん???」

 

 

 

 伏せ(リバース)カードがオープンしない!?!?!?

 

 あれ?えっ、ちょっと待ってナニゴト!?何度スイッチ押しても反応が無いんですけど!!

 

 ディスクの故障?いや、メンテナンスは間違いなく万全だった(はず)…なのにどうして……はっ!?

 

 

 

(まさか…あの時、金髪のケンちゃんの(パンチ)を、ディスクで防御(ガード)したのが原因…?当たりどころが悪かったのかー!!)

 

「あぁ?何か言ったか?死ねやァ!!」

 

 

 

 ディスクの突然の不調にボクが狼狽(うろた)えている間にも、すでに敵の攻撃は、竜王の目前まで襲来(しゅうらい)していた。

 

 マズイまずいマズイまずいマズイ!!!!!

 

 

 

(さっき【リロード】や【フォース】が発動できたって事は、たぶん魔法は使える!頼む一生のお願い!!)

 

「リバースカード・オープン!速攻魔法・【非常食】!!ボクの魔法・(トラップ)ゾーンにある、もう一枚の伏せカードを墓地に送って、ライフを1000ポイント回復する!」

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 5000

 

 

 

「ムダな悪あがきしやがって…砕け散れ!!」

 

 

 

 サイバー・オーガ・2の攻撃によって、暗黒の竜王が撃破されてしまう。立体映像(ソリッドビジョン)とは思えない程の、凄まじい衝撃波がボクを襲った。ボクの身体は、その圧力に耐え切れず、後方に吹き飛んだ。

 

 

 

「うわあぁああぁっ!!ぐっ!?……(つう)ぅ…!」

 

 

 

 地面に背中からダイブする形で倒れ込み、身体を叩き付けた。めっさ痛い。

 

 

 

 セツナ LP 5000 → 550

 

 

 

「くっ…ライフが一気にレッドゾーン(・ ・ ・ ・ ・ ・)に入っちゃった…すごい威力…」

 

 

 

 なんとか上半身を起こしてディスクに目をやると、ライフカウンターに表示されている数字の色が危険(デッド)を報せる赤色(レッド)に変わっていた。残りライフ、たった550ポイントか……確かに…ちょっと危ないかも。

 

 

 

「だ、だだ、大丈夫ですか!?」

 

「おおっ、茶髪くん。平気平気。これくらい何てことないよ」

 

「ぎゃははは!無様だなぁおい!」

 

「威勢よく挑んできた割りに大したことねぇなあ!」

 

「往生際が(ワリ)いんだよ!とっとと諦めて降参(サレンダー)しなっ!」

 

 

 

 モブ1号・2号・3号が、口々に侮蔑の言葉をボクに吐きかけてきた。ボクは、そんな罵詈雑言(ばりぞうごん)を地面に座ったまま聞き流していた。

 その流れに乗じて金髪のケンちゃんも、ボクへの口撃(こうげき)を開始した。

 

 

 

「全くアイツらの言う通りだぜ、口ほどにもねぇな転入生。テメェはそこの雑魚を庇おうなんつー下らねぇ正義感で前に出てきて、結局こうやって2人(ふたり)なかよく俺らにカモられてる、甘っちょろいマヌケ野郎だ!」

 

「あぁーっ!?ボクの制服に汚れがあああっ!!新品だったのにー!(泣)」

 

「聞いてんのかテメェ!!」

 

「あっ、ごめんごめん。それで、何だっけ?」

 

「この…!……ケッ!テメェの実力はもう分かった。所詮ジャルダン(この街)でやっていけるレベルじゃねえ。恥の上塗りしたくなきゃあ、そんなカスデッキは捨てちまうこったな!ギャッハッハ!」

 

「…!」

 

 

 

 彼が最後に言い放った暴言がトリガーとなって、ボクの中のスイッチが入る音が聞こえた。

 

 

 

「…………なるほど、確かに許せないね。自分の事はともかく……命より大切な自分のデッキを侮辱されるって言うのは……」

 

「え…?」

 

 

 

 小声で喋ったから、(そば)に寄り添ってくれた茶髪くんにしか今の言葉は聞こえてなかったと思う。

 

 ボクはゆっくりと立ち上がり、制服を二度三度と軽く(はた)いて土埃(つちぼこり)を払った後、かけていた赤色のメガネを右手で外した。

 そして、()(がん)で相手を静かに見据える。

 

 

 

「…あんだ?その目は。まだやろってのかよ。つーか何カッコつけてんだよ!メガネ外して、ちゃんと前は見えてんのかー?ほ~ら、指は何本たってる~?」

 

「2本でしょ。心配しなくても、しっかり見えてるよ。メガネ(これ)伊達(だ て)だから」

 

 

 

 そう言ってボクは微笑(ほほえ)み、黒ジャケットの胸ポケットに、赤メガネを差し入れる。

 

 

 

「デュエル続行!!まだ君のターンだよ、金髪のケンちゃん」

 

「気安く呼ぶなっつってんだろーが!」

 

「ターンエンドかい?その場合、【リミッター解除】の効果によって、サイバー・オーガ・2は自壊(じかい)するよ!」

 

 

 

 ボクが告げると金髪のケンちゃんの口角がニヤリと邪悪に吊り上がった。

 

 

 

「だーからテメェはマヌケなんだよぉ!トラップ発動!【()空間(くうかん)物質(ぶっしつ)転送(てんそう)(そう)()】!!」

 

「!」

 

「サイバー・オーガ・2を、エンドフェイズまでゲームから除外する!」

 

 

 

 亜空間物質転送装置の効力で、サイバー・オーガ・2の姿が一瞬にしてフィールドから消失した。

 

 

 

「ターンエンドだ!この瞬間、除外したサイバー・オーガ・2が俺のフィールドに戻ってくる!」

 

 

 

 その宣言通り、わずか数秒でサイバー・オーガ・2はフィールド上に帰還した。攻撃力は初期値の2600に戻り、リミッター解除による自壊も行われない。

 

 

 

「ヒャッホゥ!これでリミッター解除のデメリット効果はリセットされて、サイバー・オーガ・2はフィールドに残り続けるぜぇ!」

 

「………」

 

「あわわ…こ、こんなの…もう、どうしようもないですよぉ…」

 

「テメェの場はガラ空き!手札は1枚!こっから一体どうしようってんだ?転入生!」

 

(……この1枚だけじゃ足りない…勝つ為には、あのカード(・ ・ ・ ・ ・)を引き当てないと!)

 

「ボクのターン……ドロー!」

 

 

 

 渾身の思いで、デッキからカードを引く。正に運命の…デスティニー・ドローだ!

 

 ……恐る恐る、ドローしたカードを見る。

 

 直後、ボクは目を見開いた。そして次第に、自然と、お腹の底から笑いが込み上げてくるのを感じた。

 

 

 

「…くっ、ははは……あははは!あはははは!!」

 

「えっ、ええ…?」

 

「…どうしちまったんだ?あの野郎」

 

「引いたカードがゴミ過ぎて、笑うしかねぇんじゃねーの?」

 

「ブホッ!マジ超ウケるわーそれ!」

 

 

 

「あはは!あははは……っはぁー……あぁもう、これだから大好きなんだよ。ボクのデッキは!」

 

「!?」

 

「さぁ行くよ!まずは【トレード・イン】を発動!手札からレベル8のモンスター1枚を墓地に捨て、その(あと)デッキから、カードを2枚ドローする!」

 

(!!よし、波に乗ってきた!)

 

「続いて【思い出のブランコ】を発動!墓地に眠る通常モンスターを1体、特殊召喚できる!ボクが呼び出すのは、さっき墓地に送ったモンスター、【ラビー・ドラゴン】!!」

 

 

 

 ボクのフィールドに、ウサギを彷彿とさせる、白くて長い耳を生やし、毛並みの柔らかそうな、モコモコした白い体毛を(まと)う巨大なドラゴンが召喚された。

 

 

 

【ラビー・ドラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

「こ、こ…攻撃力…!2950、だとぉ!?」

 

 

 

 金髪のケンちゃんと3人のモブは、驚愕の余り、開いた口が塞がっていない。これは良い優越感。ドヤ顔したくなる。

 

 

 

「ぐっ…だ、だがなぁ!サイバー・オーガ・2が倒されても、まだ俺にはライフが残るぜ!【思い出のブランコ】で召喚したモンスターはエンドフェイズに破壊される筈だ!そんなドラゴン、ただの一時しのぎにしかならねぇよ!」

 

「うん、そうなんだよね。そこで、このカードさ。【ボマー・ドラゴン】を通常召喚!」

 

 

 

【ボマー・ドラゴン】 攻撃力 1000

 

 

 

「バトル!ボマー・ドラゴンで、サイバー・オーガ・2を攻撃!」

 

「は…はぁ!?ははは!血迷ったかマヌケ野郎!攻撃力1000ぽっちの雑魚で、俺のサイバー・オーガ・2に攻撃!?自爆するつもりかよ!」

 

「いいや、爆発するのは君のモンスターも一緒(いっしょ)だよ」

 

 

 

 ボマー・ドラゴンがサイバー・オーガ・2に突貫した。この時、ボマー・ドラゴンのモンスター効果が誘発する!

 

 

 

「ボマー・ドラゴンが攻撃を行う時、お互いが受けるダメージは0!そして、ボマー・ドラゴンを戦闘で破壊した相手モンスターは、破壊される!!」

 

「なっ、なんだとォオオオオオ!!!?」

 

 

 

 ボマー・ドラゴンが大事に抱えていた謎の球体。その正体は言わずもがな、爆弾だ。

 それが大爆発を起こすと、爆風に巻き込まれたサイバー・オーガ・2は、ボマー・ドラゴン諸共(もろとも)こっぱ微塵に粉砕された。

 

 

 

「これで、今度は君のフィールドがガラ空きになったね」

 

「んな…バカな…!」

 

「チェックメイトだ」

 

「ひっ!」

 

「ラビー・ドラゴンで、プレイヤーに直接攻撃(ダイレクトアタック)!!『ホワイト・ラピッド・ストリーム』!!」

 

 

 

 ラビー・ドラゴンは咆哮(ほうこう)を轟かせると、口から純白に輝く光線を放つ。

 標的となった相手は為す術もなく、瞬く間に光の奔流(ほんりゅう)に飲み込まれた。

 

 

 

「うぎゃあああああっ!!!!」

 

 

 

 金髪のケンちゃん LP 0

 

 

 

「ボクの勝ちだね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュエルが決着した後、金髪のケンちゃんと他3名は速やかに退却していった。

 

 ひとまず一件落着っと。あー、まだ朝なのに、もう疲れちゃったよ。

 そうだ、壊れたデュエルディスクは早いとこ修理しないと。いつまでも(トラップ)が使用不能だと、デュエルに支障を(きた)す。そのせいで危うく負けるとこだったしね。アレは本当に心臓に悪かった。

 

 それにしても、久々にスリルのあるデュエルだったな。デュエルアカデミアに行ったら、もっと腕の立つデュエリストがゴロゴロ居るのかな?

 

 そんなことを、ボンヤリと考えながら、外していた赤メガネを掛け直していると、あの茶髪くんが話しかけてきた。なんか瞳がキラキラしてる気がする。

 

 

 

「あ、あの!ありがとうございました!!助けていただけて…!」

 

「気にしないで良いよ~?初登校の矢先に嫌なもの見たくなかったって、それだけだからさ。ところで怪我はない?茶髪くん」

 

「えっと…一ノ瀬です。(いち)()() ルイ」

 

「ルイくんかぁ。良い名前だね!ボクの事はセツナって呼んでくれて良いよ。改めてよろしくね」

 

「は、はい!ええ、えっと…その……せ、セツナ先輩!よよ、よろしくです!」

 

「先輩?なんか…こそばゆい響きだね、あはは。悪くないけど。ルイくんって、もしかして下級生?」

 

「あ、はい。一応…ジャルダン校の高等部1年生…です…」

 

「おっ!ボクの1個下なんだ?早くも後輩が出来ちゃったね、しかも学園に着く前から。あはは……は…は……。……ちょっと待って今(なん)()(小声)」

 

 

 

 端末で時間を確かめてみると、なんということでしょう。すでに始業の鐘が鳴る時刻まで、あと10分を切っているではありませんか!

 

 

 

「ぎゃあああ!!転入初日から遅刻なんてシャレにならない!急ごうルイくん!」

 

「ひゃあああ!!はいいいいっ!!」

 

 

 

 こうして、ボク・総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)と、茶髪くん改め、一ノ瀬 ルイくんは、2人そろって学園まで猛ダッシュするハメになった。

 

 あんな事があったのに、まだ部屋のベッドで起床してから2時間しか経過してないとか信じられない。

 

 なんだか今日は丸1日、いろいろな人達と出会って、いろいろなイベントに遭遇しそうな予感がする。

 

 まぁそれはそれで、けっこう楽しめそうだけど!

 

 

 

 





 アニメ新作・遊戯王VRAINS 楽しみですね!遊作くん可愛いよ遊作くん!(*´Д`*)hshs


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TURN - 2 Aimed Muzzle - 1


 デュエルはページの終盤からスタートです!( °ロ°)

 予想以上に長くなってしまったので前編・後編に分けました!



 

 次代のエリート決闘者(デュエリスト)を育成する教育機関・『デュエルアカデミア』。

 

 世界中に数多く点在する公共施設で、このデュエリスト人口が過密している巨大都市・『ジャルダン・ライブレ』にも、中高一貫の超・マンモス校が供給されている。

 

 そしてボクは今日から、その『デュエルアカデミア・ジャルダン校』に転入し、晴れて学園の生徒の仲間入りを果たす。所属は高等部2年生。筆記試験と実技試験を辛勝でパスしての中途入学だ。

 

 これからこの学び舎で、笑って泣いて、(みんな)と楽しく決闘(デュエル)しながら日々を過ごして、かけがえのない青春を謳歌(おうか)できるのかと思うと、期待に胸が高鳴る。

 ボク・総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)の切望した、自由で平穏な学園生活(スクールライフ)が今、始まるんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………の、(はず)だったんだけどなー……」

 

 

 

 広々とした館内に立ち尽くすボクの、悲し気な(ひと)(ごと)は、誰の耳にも届かないまま虚しく空中に霧散して消えた。

 

 突き刺さる十数の視線。

 ザワつく会場。

 徐々に増えていく観客(ギャラリー)の人数。

 たまに飛ぶ野次(ヤ ジ)

 何ならボクの方には、ゴミとかも飛んできてる。

 

 だけど今ボクが何よりも意識を向けているのは…(いな)、向けざるを得ないのは……

 

 それら全ての雑音(ノイズ)が霞む程の圧倒的な存在感(オーラ)を放ち、左腕に装着したデュエルディスクを構えながらボクと対峙する、一人の決闘者(デュエリスト)の存在だった。

 

 相手と同じくボクの左腕にも、すでにデュエルディスクが装着してある。

 

 そして、ボク達が立っている場所は、円形の最新式デュエルフィールド。

 (たが)いに所定の位置に着き、いつでも始められる(・ ・ ・ ・ ・)状態になっている。

 

 

 

 ど う し て こ う な っ た !!

 

 

 

 急展開すぎじゃない!?これが小説だったら、読者の置いてけぼりも甚だしいよ!

 

 

 

「おい!何をボーッとしてやがる、とっとと始めるぞ!」

 

 

 

 いつまでもボクが逡巡して、ディスクを起動しない事に気づいた相手が怒鳴り声を上げた。

 

 

 

「……分かったよ。お手柔らかに」

 

(…あーあ、こんな変な目立ち方したくなかったのに……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――― 半日前まで遡り、事の顛末を説明しよう。

 

 記念すべき最初の登校日から遅刻ギリギリで校舎内に滑り込むという、よくある漫画の1ページ目みたいな大ポカをやらかしたけど、運よく始業の時間には何とか間に合った。セーフだよね!?

 

 

 

総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)です。パンダとカレーが好きです。仲良くしてねぇ~!」

 

 

 

 と、言った具合に、笑顔で手をヒラヒラと振りながら簡単な自己紹介をして、教室中から鳴り響く温かい拍手を一身に浴びながら、担任の先生に指定された自分用の席に座る。おお、憧れの窓際だ。

 ここまで来ると、なんだか本当に漫画かアニメの主人公になった様な気分だ。正直ドキドキしたけど、上手いこと噛まずに喋れたぞ。ボク、グッジョブ!

 

 

 

 授業を一通り終えた後、お待ちかねの昼休みに突入した。生徒は学園の食堂で昼食を取るらしいのだけど、困った事に所在地が分からない。

 そこで、通りかかった女子生徒を一人つかまえて、案内してもらえないか頼んでみた。

 

 

 

「ふむふむ、なるほど。食堂が何処(ど こ)にあるか分からないと。OK、私についてきて!」

 

 

 

 その子は朗らかに笑って、快く道案内を引き受けてくれた。なんて優しい世界。

 

 

 

 彼女の名前は、黒雲(くろくも) 雨音(アマネ)

 

 背中まで伸ばした長い黒髪に、赤のメッシュが入ってるのが特徴で、両の瞳にも、綺麗な赤色を宿している。

 左耳には、3つもピアスが付いていた。

 陶器の様に白い肌の持ち主で、顔も可愛く、プロポーション抜群の美少女。

 そして胸も(おお)き…ゲフンゲフン!

 

 

 

「?どうしたの?」

 

「いや、なんでも……ところで黒雲(くろくも)ちゃんはさ…」

 

「『アマネ』で良いよ。クラスメートは(みんな)そう呼んでる」

 

「じゃあ、アマネ」

 

「わおっ。いきなり呼び捨てにされるのは初めてかも。チャラ男だね~総角(アゲマキ)くんは~!」

 

「あはは。ボクの事も、セツナって呼んでくれて良いよ?」

 

「りょーかい。セツナね。それで、話の続きは?」

 

「そうそう、アマネは今度の、選抜デュエル?には出場するの?」

 

 

 

 その情報は、授業の最中に先生から伝達された。

 

 『デュエルアカデミア・ジャルダン校 - 高等部・選抜デュエル大会』

 

 デュエリストであれば、誰でも一目で興味を惹かれる題名(タイトル)の通り、この学園に在籍する高等部の生徒、全員を対象にした大規模な催事で、生徒(ボク)達にとっては将来の進路に関係する、重要な一大イベントだ。

 

 何故なら、この大会には一般の観戦者だけでなく、世界中のプロ・リーグから、スカウトマンが集まり、時には現役で活躍するプロ・デュエリストや、リーグ代表者と言った、錚々(そうそう)たる顔触れも来賓する。

 

 つまり、大会で上位に勝ち進んだ者、優秀な戦績を残した者、ご高名(プロ)のお眼鏡(メガネ)(かな)った者などは、上手くすればスカウトされて、プロ入りを果たせてしまう可能性だってあるんだ。

 

 参戦するかしないかは個人の自由だけど、世界を目指すデュエリストにとっては正にチャンス。見逃す手はない。

 

 無論、そこまで順調には行かなくとも、勝てば勝つだけ、その成績は今後の為に、色々と有利な材料になる。

 

 特に、この『実力至上主義の学園・ジャルダン校』ではね。

 

 

 

「もっちろん!とっくに参加登録(エントリー)も済ませたよ!セツナは出るの?」

 

「ボクはねぇ~…正直まだ悩んでるんだよね……」

 

「へぇ~、珍しいね?この学園に入ってくる子は皆デュエル中毒(ジャンキー)で闘争心ギラギラだから、9割は即決で参加するのに」

 

「ボクは1割の方みたいだね」

 

「……クククッ!(よう)は怖じ気づいてるって事だろぉ!?転入生!!」

 

「!」

 

「あっ、君は今朝の…金髪のケンちゃん」

 

 

 

 突然ボク達の会話に参入して、目の前に立ちはだかる様に姿を現したのは、今朝ボクが学園に登校する前に、街中でデュエルした相手・金髪のケンちゃんだった。

 

 

 

「だから勝手に、アダ名で呼ぶなっつってるだろうがよ!俺はテメェと仲良くなった覚えはねえっ!…今朝はよくもやってくれたなァ…!」

 

「あ~、うん。そうだね…もしかして、リベンジ?」

 

「ちょっと、金沢(かなざわ)!転入してきたばかりの子に、何いきなり因縁つけてるの!?」

 

 

 

 アマネが(あいだ)に割って入り、金髪のケンちゃんを止めてくれた。

 そっか。彼、金沢(かなざわ)って名前だったんだね。初めて知った。

 

 

 

「チッ、黒雲(くろくも)か…!お前には関係ねぇだろ!」

 

「この子を食堂まで案内する役目を承ってるの。無視は出来ないわ。通行の邪魔だから、そこを退()いて」

 

「…………ッ!」

 

「…………」

 

「……ケッ、まぁいい。俺は伝言があって来ただけだからな」

 

「伝言?」

 

「転入生!今日の放課後、3年の教室に来やがれ!俺らの大先輩が直々に、テメェとのデュエルをご所望だ!」

 

「えっ、デュエル?3年と?……参ったなぁ…デュエルディスクは今、修理中なんだよね」

 

「ハッ、負けるのが(こえ)ぇからって言い訳か?逃げても構わねぇが…その場合テメェは勝負から逃げた臆病者として、『ランク・E』確定だ!!」

 

「…ランク・E…?」

 

「すぐに思い知るだろうぜ、この学園の恐ろしさをよぉ…!クックック」

 

 

 

 それだけ言い残すと、金髪のケンちゃん…(あらた)め、金沢(かなざわ)くんは、ボクとアマネの横を通り過ぎて去っていった。

 

 

 

「セツナ、あんなの気にしなくて良いからね」

 

「うん……でも、わざわざ3年の先輩がボクとデュエルしたいなんて……もしかして、ボクって早くも注目株!?」

 

「いや悪い意味でね!?やっかいな不良グループに、目を付けられたって事なんだよ!?…!…セツナ…(きみ)……転入早々、何しでかしたの?」

 

「ボクまで問題児(もんだいじ)扱いされてる!?」

 

 

 

 気を取り直して、再び食堂へと歩を進める道中、ボクはアマネに、ひとつ質問をした。

 

 

 

「ねぇアマネ先生。さっき金髪のケンちゃ…じゃなかった。金沢くんが言ってた『ランク・E』って?」

 

「あぁ。この学園の、面白(おもしろ)くないカースト制度よ。生徒のデュエルの実力を、上から順に『A・B・C・D・E』の5段階に分けて、ランク付けするの。最強は当然『ランク・A』。逆に最底辺が『ランク・E』。ランクが低い程、周囲の風当たりは強くなるし、ろくなことがないの」

 

(…なるほど…『デュエルの強さが全て』のジャルダン校には、おあつらえ向きのシステムだね…)

 

「ちなみに、アマネのランクは?」

 

「自慢じゃないけれど、B」

 

「うひゃー!勝てる気がしない!」

 

「3年にもなると、ランク・Aの化け物がゴロゴロいるわよ」

 

「ボクのランクは?いつ決まるの?」

 

「フフッ、それは今後の努力次第ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから先は、あっという間に時が流れていった。

 

 ようやく辿り着いた広すぎる食堂で、アマネと一緒に美味しい学食でお腹を満たすと、午後の授業は眠気に負けて睡眠学習。可愛い顔した美人の先生に、手刀(しゅとう)で叩き起こしてもらった。

 

 そうして気がつけば放課後が訪れていた。クラスメートは続々と下校の準備に取り掛かり、次々に教室を後にしていく。

 

 

 

(ふぅ、初日の全日程、終了っと。さて……行きますか)

 

 

 

 ボクはどうするかと言うと、昼間の金沢くんの呼び出しに応じて、3年生の教室まで(おもむ)く事にした。

 だって、ここですっぽかしたら、後日なにされるか分からないし。

 

 なにより、挑まれた決闘(デュエル)を受けず、相手に背中を向ける事は、ボクの決闘者(デュエリスト)としてのプライドが許さない。

 

 

 

(……ははっ、プライドかぁ。なんだかんだで、ボクもデュエリストだなぁ…)

 

 

 

 ボクの愛機(ディスク)は今朝の一件で故障してしまったので修理に出している。明日まで戻ってこない。

 

 仕方がないので、デュエルディスクは誰かから拝借するとしよう。どこかに貸してくれる親切な人は居ないものか…

 

 

 

「あっ!セツナ先輩!」

 

 

 

 廊下を歩いていると、少年らしき高い声に名前を呼ばれた。この声には聞き覚えがある。

 振り返ると、こちらにトテトテと駆け寄ってくる、茶髪の男の子と目が合った。

 

 間違いない。今朝、仲良しになった、(いち)()() ルイくんだ。

 

 

 

「やっ、ルイくん。半日ぶりだね」

 

「はい!先輩はこれから、お帰りですか?」

 

 

 

 ルイくんの背は低い。だからボクとの身長差で、必然的にルイくんは、ボクと視線を合わせる際、上目遣いになる。

 クリクリした丸い双眸(そうぼう)がボクを見つめる。その緑色の瞳には、純粋無垢な輝きを秘めていた。

 

 かわええのう、かわええのう。あっ、言っておくけど!ボクにアッチ(・ ・ ・)()は無いからね!

 

 

 

「んーっとね、ちょっと野暮用があって3年の教室に…あっ!」

 

(そうだ!この子がいてくれた!)

 

「ねぇルイくん!デュエルディスクって今、持ってる?」

 

「ディスク…ですか?いつも携帯してますけど…」

 

「さすが!ごめんなんだけど…少しの間だけ、それ貸してくれない?」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 --- 数分後。

 

 

 

「いやぁーっ!!どこ行くんですかセツナ先輩!?ここって3年生の校舎ですよね!?」

 

「そうだよ。ちょうど良いところにルイくんが来てくれて助かった。ボクのディスク、修理中だからさ」

 

「もしかして3年の人とデュエルするつもりなんですか!?というか何で(ぼく)まで連れて来られてるんですか!?」

 

「ルイくんを丸腰で帰らせたら危ないと思って。ほら、また誰かに絡まれたりしたら大変でしょ?」

 

「今の状況も同じくらい危険ですよー!やだー!助けてー!!」

 

「平気平気。これが終わったら、ディスクもすぐに返すからさ」

 

 

 

 というわけで、ルイくんから一時的にデュエルディスクを借用したボクは、元の持ち主であるルイくん本人も引き連れて、今回の決闘(デュエル)の相手…金沢(かなざわ)くん(いわ)く、『大先輩』とやらが待ち受ける、高等部3年生の教室に到着した。

 

 

 

「さぁ~て、鬼が出るか(じゃ)が出るか!」

 

「はわわわわ…!」

 

 

 

 腹は決まった。いざ、出陣!扉が自動で開いてくれたので、遠慮なく中に入らせてもらった。

 

 

 

「こんにちは~!金沢くんに呼ばれて来ました、総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)って言いま…ッ!?」

 

 

 

 挨拶(あいさつ)が終わらない内に、眼前に何かが(・ ・ ・)飛んできた。

 

 反射的に右手を動かして、それ(・ ・)が顔に直撃する寸前で、上手いことキャッチする。

 

 人差し指と中指に挟んで掴み取ったのは、1枚のカードだった。

 

 もしボクの反応が間に合わなくてカード(これ)が当たってたら、メガネのレンズが砕けてるところだった。

 いやはや危なかったよ。鬼でもなく蛇でもなく、カードが飛び出してくるなんて。

 

 

 

「せ、セツナ先輩…!?」

 

「……随分(ずいぶん)挨拶(あいさつ)だね…先輩?」

 

「まさか本当に来るとはな。逃げたかと思ったぜ」

 

 

 

 教室の奥で机の上に腰を落ち着けている、一人の男が口を開き、そう言った。

 

 カードの飛来してきた方向から見て、彼がこのカードをボクに投擲(とうてき)してきたのは明白だ。

 

 その男の周りには、数十人もの生徒が集まっていた。比率は男子の方が多いけど、中には女子の姿も見受けられる。

 誰も彼もが外見を派手に着飾っていたり、目付きが悪かったり、(いか)つい風体(ふうてい)の人間だらけで、素行も決して誉められたものではない。

 

 いかにも気性の荒そうな集団が教室を占拠していた。

 

 …あっ、思った通り、金沢くんも居た。あのモブトリオも。手を振ったら華麗に無視(スルー)された。

 

 皆一様(みないちよう)に、ボクとルイくんに視線を集中させて、ニヤニヤと笑みを(たた)えていた。

 うぅむ…なんとも威圧的で、一触即発な空間。

 

 

 

「お前が例の転入生か。金沢(かなざわ)と他の連中がやられたっつーから、どんな野郎が来るかと思えば……まさかこんなヒョロいメガネがお出座(で ま)しとはな!」

 

 

 

 出会い頭に突然カードを投げ飛ばしてきた、リーダー格の男が挑発的な台詞(セリフ)を吐く。すると周囲の男女から、ボクを小馬鹿にした様な笑い声が聞こえてきた。

 

 一方、ずっとボクの背中に隠れている涙目のルイくんは、声を震わせながらも言葉を口にした。

 

 

 

「らっ…ランク・A(・ ・ ・ ・ ・)の…!…九頭竜(くずりゅう)さん…!」

 

「!…ランク・A…?」

 

「さ、3年の中でも、特に上位に君臨する、エリート・デュエリストですよぉ…!」

 

「……へぇ…そんな凄い人から決闘(デュエル)の挑戦を受けるなんて光栄だね。でも、どうしてボクを?」

 

「…くくっ…」

 

 

 

 ルイくんが今しがた『九頭竜(くずりゅう)』と呼んだ男は、何やら笑みを浮かべると、座っていた机から()りて床に着地した。

 その後、ズボンのポケットに手を突っ込んで、ボク達の元まで歩いて近づきながら、また喋り出す。

 

 

 

「別に、ただの(ヒマ)つぶしさ。噂に聞く転入生がどれほどの腕前なのか見てやるのと、ついでに何も知らねぇ新人君に……学園(こ こ)でのルールってもんを、叩き込んでやろうと思ってな?」

 

 

 

 そこまで言い終わる頃には、すでに九頭竜(くずりゅう)くんは、ボクの目の前まで接近していた。

 威圧感(プレッシャー)が凄まじい…!というか…この人デカイ!

 

 そう、九頭竜(くずりゅう)くんは長身だった。軽く、180cm(センチ)以上はある。

 

 髪の色は(ムラサキ)で、髪型はウルフカット。

 褐色(かっしょく)の肌が印象的で、制服の上からでも、引き締まった体格をしているのが分かる。喧嘩(ケンカ)には、かなり慣れていそうだ。

 瞳は髪と同じく、両目とも紫色。

 よく見たら、顔立ちは端整(たんせい)で、鼻筋が通ってて目元は凛々(り り)しい。

 うん、普通にイケメンでした。最早モデルだよね?(うらや)ましい。

 

 顔や身長に多少の嫉妬心を覚えながらも、ボクは平静を装って言葉を返す。

 

 

 

「……それって、後半がメインなんじゃないの?九頭竜くん」

 

「……なるほど、(しつけ)のなってねぇクソガキってわけか」

 

 

 

 数秒間、ボクと九頭竜くんは(にら)み合った。

 

 すると、何か(わる)だくみでも思い付いたみたいに、九頭竜くんの口角が上がった。

 

 

 

「30分後に『第4デュエルフィールド』まで来い。せいぜい俺を楽しませろよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから場所を移り、ボクとルイくんは、学園の中庭で休憩していた。

 

 緊張の糸が切れたボクは、置いてあった青いベンチに座り込み、脱力して息を吐いた。

 

 

 

「はぁー、怖かった~!殴られやしないかとヒヤヒヤしたよ…」

 

(ぼく)は胃に穴が空きそうでした……セツナ先輩、本当に九頭竜さんとデュエルする気なんですか…?」

 

「ここまで来たら、もう敵前逃亡は出来ないよ。とにかく、やるだけやってみる」

 

「……先輩の、そういう前向きなところ、羨ましいです…」

 

「ははっ、物事を深く考え込んでないだけだよ。ボクの悪い(くせ)なんだ」

 

 

 

 ふと、数分前の出来事を思い返す。

 

 教室に入った途端に九頭竜くんは、ボクの顔を目掛けて、手裏剣(しゅ り けん)の如くカードを投げつけてきた。しかも、あの鋭い弾道と殺気…

 

 

 

(…本気で目を狙って投げてきた……思った以上に危ない人みたいだね…九頭竜くんは…)

 

「あーっ!!こんなところに居た!探したわよセツナ!」

 

「ん?」

 

 

 

 女の子の声だ。なんだか今日は色んな人に呼ばれるなぁ。

 

 ベンチに座ったまま振り向くと、昼休みにボクと友達になってくれた少女・アマネが走り寄ってきた。

 

 

 

「どうしたのアマネ?そんなに(あわ)てて」

 

(きみ)が3年の九頭竜に決闘(デュエル)を挑んだって、あちこちで話題沸騰(ふっとう)中なのよ。九頭竜(あいつ)の仲間が学園中に言いふらしてたわ」

 

「「ええっ!?」」

 

 

 

 ルイくんと驚きの声がハモった。というか挑戦してきたのは、あっちからなんだけどね…

 

 

 

「どうにも、大事(おおごと)になりそうね……なんせ、九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)と言えば、学園でも指折りの実力を持つ有名人だもの。そんな相手に、『転入初日から喧嘩(ケンカ)をふっかける無謀な挑戦者(チャレンジャー)が現れた!』なんて聞き付けたら、学園の生徒としては観てみたくなるものよ」

 

「……あぁ、そういうこと……」

 

「どういう事ですか?セツナ先輩」

 

「つまりは、ボクを客寄せパンダ(・ ・ ・ ・ ・ ・)にして、見世物(みせもの)デュエルがやりたいんだよ。九頭竜くんは」

 

「自分の力を周囲に誇示(こ じ)しながら、転入生(セツナ)に格の違いを思い知らせてやる為にね。趣味の悪い奴…!」

 

「…………」

 

「負ければ金沢の言ってた通り、最底辺(ランク・E)は確実……勝ち目はあるの?セツナ」

 

「……舐められたもんだね」

 

「せ…先輩…?」

 

 

 

「おかげで、(ガラ)にもなく火が点いちゃったよ。九頭竜くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、遂に約束の時間が訪れる。

 

 九頭竜くんに指定された『第4デュエルフィールド』に行き着くと、すでに十数人の生徒が観客席に待機していた。みんな暇人か!

 

 

 

「先輩!えっと…頑張ってください!」

 

「セツナ、武運を祈ってるわ。あの偉そうな先輩の鼻っ柱を、圧し折っちゃえ!」

 

「うん!行ってくるね、二人(ふたり)とも!」

 

 

 

 ルイくんとアマネの声援に励まされて、ボクは施設内の中心に設置された、円形のデュエルフィールドに登檀する。

 左腕には、ルイくんが貸してくれた、グリーン・タイプの決闘盤(デュエルディスク)を装着した。

 

 

 

「……新人歓迎会にしては大げさ過ぎない?九頭竜くん」

 

「なぁに、パーティーは盛り上がった方が良いだろう?」

 

 

 

 先に待機していた九頭竜くんは、ボクの顔を見るなり、不敵な笑みを浮かべた。

 彼の決闘盤(デュエルディスク)は髪色と同じ、パープル・タイプだった。

 紫色のディスクなんてオシャレだね、ボクも欲しい。

 

 時間と共に、ギャラリーの人数も少しずつ増えていく。でも残念な事に、その大半は九頭竜くんの味方なんだ。だから……

 

 

 

「見ろよ!ノコノコと公開処刑されに来たぜ!あのメガネボウズ!」

 

「逃げるなら今の内だぜー!」

 

「九頭竜さんは始まったら、泣いて謝っても許してくれねぇぞーっ!」

 

 

 

 こんな感じで、ボクに()りかかる野次や罵声や(あお)りも悪化してきている。この学園こわい。

 まぁ、良識ある普通の生徒も、何割か来場してるみたいだけど。

 なんか……動物園で、衆目に晒されてる生き物になった気分だ。

 

 それにしても、公式戦でもないのに、ここまで人を集客できてしまうなんて…さすがは『ランク・A - 九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)』、と言ったところか。

 

 エリートの称号は、ボクのメガネと違って伊達(だ て)じゃないってわけだね。

 

 

 

(……参ったなぁ…ボクは平穏に生活できれば、それで良かったのに…転入早々、こんな目立ち方する事になるなんて……)

 

「おい!転入生!何をボーッとしてやがる、とっとと始めるぞ!」

 

「分かったよ、お手柔らかに」

 

 

 

 天井(てんじょう)を見上げながら自分の運命を軽く呪っていると、一足早くディスクを起動した九頭竜くんに怒鳴られた。

 ボクも渋々、デッキをディスクに差し込んで、デュエルの準備に取り掛かる。

 

 

 

「勝負の前に忠告しておくが…このデュエルは『アンティルール』で(おこな)う!互いに1枚、レアカードを賭け、勝った側がそれを(いただ)く!」

 

「!」

 

(えええええっ!?この学園、賭けデュエル(アンティルール)()りなの!?聞いてないよー!)

 

「…OK(オーケー)、受けて立つよ」

 

 

 

 どうやら、絶対に負けてはいけない闘いらしい。今だけは真剣に臨まないとね。

 

 

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 九頭竜 LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「ボクの先攻!手札から、【デビル・ドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【デビル・ドラゴン】 攻撃力 1500

 

 

 

「更にカードを2枚セットして、ターン終了!」

 

 

 

 デュエルディスクの機能が働き、プレイしたカードから、モンスターが立体映像(ソリッドビジョン)となって、フィールド上に具現化する。

 続いて、その後ろにある魔法・罠カードゾーンには、2枚のカードが裏側表示でセッティングされた。

 

 先攻は最初のターン、ドローフェイズにドロー(デッキからカードを引く)が出来ないから、これでボクの手札は現状2枚。

 

 ボクはターン終了(エンド)を宣言し、九頭竜くんにターンを交代(チェンジ)する。

 

 

 

「ふん、何の面白(おもしろ)みもねぇ通常(ノーマル)モンスターか。俺のターン、ドロー!」

 

 

 

 九頭竜くんの手札が6枚になる。

 

 さて、ジャルダン校の上位(トップ)こと、ランク・Aの実力、見せてもらおうかな!

 

 

 

「俺は手札から、【可変機獣(かへんきじゅう) ガンナードラゴン】を攻撃表示で召喚する!」

 

 

 

可変機獣(かへんきじゅう) ガンナードラゴン】 攻撃力 1400

 

 

 

「なっ…!いきなり、レベル7のモンスターを!?」

 

「ガンナードラゴンは、攻守のステータスを半分にする事で、リリース無しで召喚できるんだよ!」

 

「…!そんな効果が…早速とんでもないものを出してきたね…!」

 

(でも……攻撃力1400なら、ボクのデビル・ドラゴンの方が僅差(きんさ)で勝ってる!)

 

「おっと、攻撃力の低さに安心してるなら早計(そうけい)だぜ?」

 

「えっ…?」

 

「手札から装備(そうび)魔法・【愚鈍(ぐどん)(おの)】を、ガンナードラゴンに装備する!このカードは、装備モンスターの攻撃力を1000ポイントアップし、更に効果を無効にする(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)!」

 

「!!」

 

 

 

「……マズイわねセツナ……早くもピンチよ」

 

「ど、どういうことですか…?黒雲さん…」

 

「ガンナードラゴンは自身の効果を無効化(む こう か)された事で、半減していた攻撃力が元に戻るの。しかも【愚鈍の斧】の効果で、その攻撃力に(プラス)1000ポイントが加算される…!」

 

 

 

【可変機獣 ガンナードラゴン】 攻撃力 1400 → 2800 + 1000 = 3800

 

 

 

「攻撃力……3800!?」

 

「バトルだ!ガンナードラゴン!!敵モンスターを殲滅(せんめつ)しろ!!」

 

 

 

 ガンナードラゴンの標的は、攻撃表示のデビル・ドラゴン。言うまでもなく、力の差は歴然だ。

 

 

 

(…悪いけど、そう簡単に()らせはしないよ!)

 

「ボクはリバーストラップ・【竜の転生】を発動!!」

 

「ッ!?」

 

「デビル・ドラゴンをゲームから除外し、手札の【ラビー・ドラゴン】を、攻撃表示で特殊召喚!!」

 

 

 

 巻き起こる(ほのお)がデビル・ドラゴンを包み込み、新たに【ラビー・ドラゴン】が召喚される。

 

 

 

【ラビー・ドラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

「やった!セツナ先輩のエースカードです!」

 

「でも…!」

 

 

 

「ほぉ?なかなか良いカードを持ってるじゃねぇか。だが装備カードでパワーアップした、俺のガンナードラゴンの攻撃力には及ばない!」

 

「…………」

 

「行くぜ…!ガンナードラゴンで、ラビー・ドラゴンを攻撃!!」

 

 

 

 九頭竜くんの攻撃命令を受け、ガンナードラゴンが攻撃を仕掛ける。ラビー・ドラゴンに照準を定め、レーザーガンを射出した。

 

 

 

「させないよ!もう1枚のトラップカード・【反転世界(リバーサル・ワールド)】を発動!効果モンスターは攻撃力・守備力が反転(はんてん)する!」

 

 

 

【可変機獣 ガンナードラゴン】 攻撃力 3800 → 2000

 

 

 

「!!…チィッ!」

 

(俺の攻撃宣言は完了している…ガンナードラゴンの攻撃は止まらない…!)

 

「お返しだ!」

 

 

 

- ホワイト・ラピッド・ストリーム!! -

 

 

 

 攻撃力の数値が相手を上回った、ラビー・ドラゴンの反撃が成功して、ガンナードラゴンは破壊された。

 

 

 

「ぐおぉあっ…!」

 

 

 

 九頭竜 LP 4000 → 3050

 

 

 

「ガンナードラゴン、撃破!!」

 

「くっ、調子に乗りやがって…!」

 

 

 

 ボクが九頭竜くんのモンスターを返り討ちにした瞬間、観客席が湧き上がった。

 

 

 

「ま、マジかよ!?あの新入り…!」

 

「ランク・Aの九頭竜さん相手に先制した…!?」

 

「しびれる~!」

 

 

 

 そんな驚嘆が会場のあっちこっちから聞こえてくる。

 

 

 

「……エリートにしては迂闊(うかつ)な攻撃だったね、九頭竜くん」

 

「なに…?」

 

「ボクからも言わせてもらうよ。せいぜいボクを楽しませてね!」

 

「…………てめぇ…!」

 

 

 

 さてと、まだまだ決闘(デュエル)は始まったばかり。ここからが腕の見せ所だ!

 

 

 

 





 To Be CONTINUED ... 後編に続く!


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TURN - 3 Aimed Muzzle - 2


 セツナ vs 九頭竜 決着です!デュエルシーンって難しいけど書いてて楽しいですね!( * °ω°)



 

 その日、『デュエルアカデミア・ジャルダン校』にて高等部1年生の担任を務め、未来ある若者に、正しき『デュエル道』を教え導くべく教鞭を振るうベテラン教諭・高御堂(たか み どう) (エイ)()の元に、興味深い速報が届いた。

 

 

 

 --- 『学園最強(ランク・A)九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)と、命知らずの転入生(ルーキー)が第4デュエルフィールドで決闘(デュエル)を始めている。』

 

 

 

 放課後、生徒達が口々に噂しているのを小耳に挟んだ高御堂(たか み どう)は、先程から妙に校内が騒がしい理由を推知し、整ったアゴ(ヒゲ)に指先を添えると、納得した(てい)で頷いた。

 

 

 

(……転入生……ふむ……あの子(・ ・ ・)が…ねぇ……)

 

 

 

 結果を何よりも重視し、『実力主義』を教育方針に掲げるこの学園に()いて、苛烈な競争を勝ち抜いた成績優秀者のみが(かん)する事を許される最上位(ト ッ プ)の称号。それが『ランク・A』。

 

 そんな栄誉ある位階を(いただ)生徒(エリート)決闘(デュエル)となれば、それだけでも学園中の注目を集めるには申し分ない話題(イベント)となる。

 自分が尊敬する生徒(プレイヤー)の応援に駆けつける、熱烈な追随者(フ ァ ン)もいれば、ランク・A(トップランカー)の座を奪う為に、彼等のデッキを研究して対策を練るという目的で、偵察に訪れる、熱い野心を秘めた生徒も複数いるからだ。

 

 だが今回の挑戦者は、学園に籍を置いて間もない中途入学の転入生。一見すると、勝敗の分かりきった、ミスマッチにも思えてしまう。

 

 それでも高御堂(たか み どう)は、その組み合わせに関心を寄せた。正確には、()転入生のデュエル(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)に着目した。

 

 それは恐らく、高御堂が誰よりも、転入生 --- 総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)の事を、知っていた(・ ・ ・ ・ ・)(ゆえ)に。

 

 

 

 気づけば彼の足は、誘われる様に『第4デュエルフィールド』まで向かい始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ごきげんよう、トレードマークは赤メガネ!総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)だよ!誰に名乗ってるんだろうね、ボクは。

 

 ただいま絶賛デュエル中。相手は、このジャルダン校の高等部3年生にして、学園の上位(トップ)と名高い硬派でイケメンな決闘者(デュエリスト)九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)くん。

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 九頭竜 LP(ライフポイント) 3050

 

 

 

「す、すごいです、セツナ先輩…!最強クラス(ランク・A)の九頭竜さんから、先にリードを奪うなんて…!」

 

「そうね……確かに今は、デュエルの主導権はセツナが握ってる様に見える。……けど…九頭竜は転んでも、ただじゃ起きない。そこが恐ろしいのよ…!」

 

 

 

(……ボクの場には上級モンスターの【ラビー・ドラゴン】が1体。対して、九頭竜くんの場は、さっきの戦闘で【ガンナードラゴン】が墓地に送られた事で現状ガラ空き……状況は一見ボクの優位に見えるけど……)

 

「…やりやがったな…このガキィィッ…!」

 

(まだ九頭竜くんのターンは続いてる……なんだか嫌な予感がするんだよね…)

 

「…そんな(にら)まないでよ、九頭竜くん。怖いから」

 

「ハッ!たかが【ガンナードラゴン】1匹(いっぴき)倒した程度で、勝った気になってんじゃねぇよ」

 

「…!……」

 

「お前が攻撃力で劣るラビー・ドラゴンを、わざわざ攻撃表示で出してきた時点で、(わな)を張ってる事なんざ簡単に予測できたぜ」

 

「……分かってて攻撃を仕掛けたって、そう言いたいの?」

 

「邪魔なトラップは早めに使わせときゃあ、後が楽だからな」

 

「だとしても、ここから一体どうするつもりさ?ランク・A」

 

 

 

 ボクが少し煽る様な言い方をしてみると、九頭竜くんは何やら、怪しげな薄ら笑いを浮かべた。

 

 

 

「見せてやるぜ!手札から【シャッフル・リボーン】を発動!」

 

「ッ!」

 

「墓地から(よみがえ)れ!ガンナードラゴン!」

 

 

 

【可変機獣 ガンナードラゴン】 攻撃力 2800

 

 

 

「わっ!また出た!?」

 

「だが【シャッフル・リボーン】で復活させたモンスターは、エンドフェイズに除外されちまう。だから、その前に有効活用させてもらうぜ!魔法(マジック)カード・【生け贄人形(ドール)】!!」

 

「!そのカードは…!」

 

「ガンナードラゴンをリリースし、手札からレベル7のモンスターを特殊召喚できる!俺が呼び出すのはこいつだ!リボルバードラゴン!!」

 

 

 

【リボルバードラゴン】 攻撃力 2600

 

 

 

「かっ…カッコイイ!!」

 

「言ってる場合じゃないですよ先輩ー!」

 

「リボルバードラゴンのモンスター効果発動!『ロシアン・ルーレット』!!」

 

 

 

 九頭竜くんが宣言すると、リボルバードラゴンの頭部と両腕を成す、計3丁の回転式拳銃(リ ボ ル バ ー)のシリンダーが勢いよく回り始めた。

 

 『ロシアン・ルーレット』という能力名からして、あの3つの弾倉には、それぞれ1発ずつ、銃弾が装填されてると推察できる。

 

 やがて、シリンダーは全て回転を止め、その内2つの銃身から『カチッ』『カチッ』と、小気味よい音が鳴るのが聞こえた。えっ、これって、まさか…!

 

 

 

Hit(ヒ ッ ト)だ!!吹き飛びな!ラビー・ドラゴン!!」

 

 

 

 リボルバードラゴンは両腕の銃口から、同時に弾丸を撃ち放った。耳を(つんざ)く銃声がフィールド全体に(とどろ)く。

 

 そして、2発の銃弾が瞬く間に、ラビー・ドラゴンの身体に被弾した。

 首と胴体を撃ち抜かれたラビー・ドラゴンは、爆発して消し飛んでしまった。

 爆風が真下に立っていたボクを襲う。

 

 

 

「うあっ…!?くっ…!」

 

(せっかく召喚したラビー・ドラゴンが…こんなあっさり…!?)

 

 

 

「ああっ!!先輩の切り札が!?」

 

「セツナ!?」

 

 

 

「ッ…!」

 

 

 

 ラビー・ドラゴンが破壊された事で、今度はボクのフィールドが(さら)()同然の状態になった。

 

 

 

「くくっ、他愛もねぇ。俺は最後に、カードを1枚セットしてターン終了(エンド)だ!」

 

 

 

 九頭竜くんの見事なカードプレイングで、ボク達のデュエルを見守っていた観衆が大いに盛り上がり、歓声が上がった。

 ついでに、ボクへの心ない野次なんかも激化してるけど、無視して自分のターンを開始する。

 正直そっちに意識を()く余裕すら、今は無い。

 

 

 

「ボクの…ターン……ドロー!」

 

 

 

「…悔しいけど、やるわね…九頭竜の奴。一瞬で形勢を立て直すどころか主導権まで奪い返すなんて…」

 

「これが…ランク・Aの力……うぅ…セツナ先輩…!」

 

「アマネ!ルイくん!二人(ふたり)とも心配しないで!すぐにまた巻き返してみせるさ!」

 

(……なんて強がってはみたけど……この手札じゃ、あのリボルバードラゴンは倒せない……今はターンを凌ぐしかない!)

 

「モンスターをセット!更にカードを1枚セットする!これで……ボクはターンエンド……」

 

 

 

 とうとう手札が(ゼロ)になった。今のボクに出来る事は、これが精一杯。

 外野から「いきなり弱気になってやがんの!」とか「最初の威勢はどうしたァ!」とか茶々を入れられるけど気にしない。

 

 

 

「なんだよ、自慢のエースモンスターが()られた途端に意気消沈か?面白くねぇ。俺のターン!ドロー!」

 

「………ッ…」

 

「…良いところで来やがったぜ。魔法(マジック)カード・【強欲で貪欲な壺】!デッキの上から10枚カードを除外し、その()2枚ドローする!」

 

(!!ここで手札増強カード!?ボクの方が欲しいよ!)

 

「……さぁて、まずはリボルバードラゴンの効果を、また使わせてもらうぜ!『ロシアン・ルーレット』!!」

 

 

 

 リボルバードラゴンの、3つの蓮根状の回転式弾倉(シ リ ン ダ ー)が再び高速回転を始める。

 

 あの黒光りする3丁の銃身の内、2つ以上のシリンダーで、弾丸を装填した薬室が銃口に入った時、リボルバードラゴンの効果が成立して(タマ)が発射される。

 それにより、前のターンで運悪くヒットしたラビー・ドラゴンの様に、ボクのモンスターは破壊されてしまう。

 正に生きるか死ぬか(デッド・オア・アライブ)。命を賭けた大博打(ギャンブル)だ。

 こんな危険な運試しを世界で最初に考え出した人は、相当クレイジーだったのでは!?

 

 そんな事を頭の片隅で思い見ていると、シリンダーの廻転が間もなく止まろうとしていた。

 

 

 

(確率は2分の1…!)

 

 

 

 (ひたい)を汗が伝う。ボクだけでなく、会場の誰もが固唾を飲んで、ルーレットの結果が出るのを待っていた。不発に終わってくれたら幸運(ラッキー)だけど…

 

 シリンダーが停止した。耳朶(じ だ)を打つ固い音が2つ。

 

 

 

「はははっ!2連続でHit(ヒ ッ ト)だ!食らいなぁ!!」

 

「!!」

 

 

 

 またもや2発の銃弾が撃ち込まれて、ボクが(しゅ)()表示でセットしたモンスターに命中した。裏向きのカードが粉々になり、爆煙と共にフィールドから消滅する。

 

 

 

「これで、お前を守る壁モンスターはいない!!撃て!リボルバードラゴン!『ガン・キャノン・ショット』!!」

 

 

 

 バトルフェイズに移行するや否や、リボルバードラゴンは次なる標的(ターゲット)のボク自身に狙いを付けて、3発の弾丸を撃発した。

 

 

 

(こんなの、実質2回攻撃(こうげき)してきてるみたいなもんだ…!えげつないモンスターを使うね…!)

 

 

 

 銃弾は全て、寸分の狂いも無い弾道を(えが)き、ボクの身体を容赦なく貫通した。重い衝撃が全身を駆け巡る。痛みが無いのが逆に怖い。

 

 

 

「ガッ…!」

 

 

 

 ボクは呻き声を上げ、たまらず床に片(ひざ)を突いた。

 やっぱり撃たれる系の攻撃は苦手だ。立体映像(ソリッドビジョン)と分かっていても、なんかこう……心臓にクる。

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 1400

 

 

 

「せ…先輩!!」

 

 

 

 ルイくんが悲痛な声で叫んだ。

 

 

 

「思い知ったか!ジャルダンは弱肉強食の世界だ!お前みてぇな弱小デュエリストが生き残れる程、(ぬる)かねぇんだよ!!」

 

「……く…ッ…」

 

 

 

 九頭竜くんが吠える。

 

 会場の皆には、この決闘(デュエル)は結局、九頭竜くんの勝利で幕を閉じ、ボクの敗北は(すで)に決定的だと判断されたらしく、序盤の盛況は何処(ど こ)へやら、つまらない試合(ゲーム)を退屈そうに傍観(ぼうかん)する様な、冷めた空気(ムード)が場内に漂い始めていた。

 

 

 

「うーわ、やっぱランク・Aは(つえ)ぇなぁー」

 

「あの転入生、九頭竜さんから先手を取った時は、もしや…と思ったけど…」

 

「まぁ最初から、結果は見え見えだったしな」

 

 

 

 達観、諦念、嘆息。

 

 デュエルの行方(ゆくえ)に関心を失った観戦者(ギャラリー)の何人かが席を立とうとした、その時だった。

 

 

 

「まだ分からないでしょっ!!!!」

 

 

 

 アマネの声が会場中に響き渡った。鋭くも芯があり、力強くも凛とした一声(いっせい)で、館内が数秒間、静黙(せいもく)した。急に音が消えて、訪れた沈黙が耳に痛い。

 

 

 

「あ……アマ…ネ…?」

 

「セツナ、ライフは1400も残ってる。戦意喪失するには、まだ早いんじゃない?」

 

「……アマネ…」

 

「黒雲さん…」

 

「ケッ、くだらねぇ。女に励まされてやがる」

 

 

 

「…はっはっは。なかなか盛り上がっているじゃないか」

 

「…あっ…!」

 

 

 

 出入り口の方から小さく拍手を打つ音と、年輩の男性らしき低い声が聞こえてきた。

 それに反応して、アマネとルイくんが背後を振り返ると、靴音を鳴らして二人の前まで歩いてくる、グレースーツを着こなした中年の男性と対面した。

 

 勿論(もちろん)ボクも、アマネの一喝に驚いて、そちら側に顔を向けていたので、彼が入場してきた事には二人と一緒に気づいた。

 

 男性は灰色(はいいろ)の短髪と、開いてるのか分からない糸目が特徴的で、生え揃った口髭(くちヒゲ)とアゴ(ヒゲ)は、手入れを施しているのか清潔感があり、とてもオシャレ。ダンディな紳士(ジェントル)を思わせる風貌をしていた。

 柔和な微笑みと穏やかな口調からは、全く荘厳(そうごん)さ等は感じず、むしろ見る者を安心させる、温和な雰囲気を(まと)っている。

 

 ボクは目を輝かせて、その人を、こう呼んだ。

 

 

 

「先生!!」

 

 

 

 そして、デュエルフィールドから飛び降りて男性の元まで駆け寄り、彼の左手を両手で掴んで上下に振った。

 

 

 

高御堂(たか み どう)センセー!!久しぶりー!実技試験以来だよね!?今日からよろしくねー!!」

 

「はっはっは。こらこら、今はデュエル中だろう?挨拶(あいさつ)は後で良いから、早くフィールドに戻りなさい」

 

「あっ、そうだった。急がないと!」

 

「……総角(アゲマキ)くん」

 

 

 

 (あわ)てて自分のフィールドに戻ろうと転回すると、ボクが『高御堂(たか み どう)先生』と呼称した男性に名字で呼ばれた。

 

 

 

「なに?先生」

 

「素晴らしいデュエルを、見せてくれたまえ」

 

「……うん!」

 

 

 

 満面の笑顔で返事した後、ボクはステージの手前で力いっぱい跳躍(ジャンプ)して、ひとっ飛びでフィールド上に帰還した。脚力には自信があってね。

 

 ……九頭竜くんは(イラ)立ちを(あらわ)にした表情で、ボクを(げい)()していた。(こわ)っ、今にも食い殺されそう。

 

 

 

「いやーごめんごめん。お待たせ、九頭竜くん」

 

「チッ!」

 

 

 

 アマネとルイくんが味方になってくれてるし、お世話になった高御堂(たか み どう)先生まで観に来てくれたんだもの。カッコイイとこ見せなくちゃ!

 

 

 

「デュエル再開!……さっきのリボルバードラゴンの直接攻撃(ダイレクトアタック)は効いたよ。だけど!転んでもタダじゃ起きないのは、ボクも同じだよ!」

 

「…!」

 

「リバースカード・オープン!【ダメージ・ゲート】!」

 

(!?…ダメージ・ゲートだぁ?)

 

「ボクが戦闘ダメージを受けた時に発動し、そのダメージの数値以下の攻撃力を持つモンスター1体を、墓地から特殊召喚できる!ボクが召喚するのは、さっき『ロシアン・ルーレット』で破壊されたモンスター・【プチリュウ】!」

 

 

 

【プチリュウ】 守備力 700

 

 

 

「何が出るかと思えば……そんな低級モンスターを苦し紛れで場に残すのが精一杯か!俺はカードを1枚セット!」

 

(…リボルバードラゴンの破壊(はかい)効果は1ターンに一度しか使えねぇ…まぁどうせ、あんなザコ1匹じゃ(ヤツ)には何も出来(で き)やしねぇよ!)

 

「ターンエンド!」

 

 

 

「……これで次は、セツナ先輩のターンですね……でも、ドローしても手札は1枚…ここから一体どうしたら……」

 

「ふむ…」

 

「…………ねぇ高御堂先生?こんな時に聞くのも(なん)だけどさ…」

 

「おや、どうしたかね?黒雲くん」

 

「さっき、セツナが『実技試験以来(・ ・ ・ ・ ・ ・)』だって言ってたよね?もしかして、セツナの試験デュエルで相手をしたのって、先生?」

 

「えっ、そうなんですか?高御堂先生」

 

「……うむ、ご名答。その通りだ。君達は、総角(アゲマキ)くんのデュエルを見るのはこれが初めてかね?」

 

「え?まぁ、うん」

 

(……(ぼく)は今朝、先輩に助けてもらった時に見たけど……わけを説明したら、ややこしくなりそうだから言わないでおこう……)

 

「そうか。では、その目で(しか)と見届ける事をオススメするよ。君達にとっても良い刺激になるだろう」

 

「「?」」

 

総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)…」

 

 

 

「ボクのターン!ドロー!」

 

 

 

「彼のデュエルは……予測不可能だ」

 

 

 

(…!やった!ボクの手にも来た!)

 

「魔法カード発動!【馬の骨の対価】!」

 

「!お前もドローカードか…悪運の強い野郎だ!」

 

「プチリュウを墓地に送り、2枚ドローする!」

 

 

 

 たった2枚、されど2枚。この手札から活路を見出だす!

 

 

 

「さて……」

 

 

 

 ここでボクは今朝のデュエルの時と同じく、赤メガネを外して、制服の胸ポケットに差し込んだ。

 

 レンズには度が入ってないから、視界に変化は無いけれど、()(がん)になると今まで以上に集中力が増すんだよね。なんとなく。

 漫画の主人公が闘い(バトル)の前に、マントやら上着やらをカッコ良く脱ぎ捨てるのと、意味合い的には一緒だ。男なら一度は憧れを(いだ)いたはず。

 

 

 

「それじゃあ始めようか!手札から【一時休戦】を発動!お互いにカードを1枚ドローし、次の相手ターンが終わるまで、互い(ボクら)が受けるダメージは全て(ゼロ)になる!」

 

「ふん…」

 

「続いて、ボクは【ドラゴラド】を召喚!モンスター効果で、墓地から【プチリュウ】を再び特殊召喚!」

 

 

 

【ドラゴラド】 攻撃力 1300

 

【プチリュウ】 守備力 700

 

 

 

「それで……プチリュウには何度も悪いんだけどさ、また墓地に()ってもらいたいんだ。ごめんね?」

 

 

 

 ボクが手札にあるカードを見せながら先に謝ると、プチリュウに凄く()(げん)な顔をされた。ごめん、ごめんて。

 

 

 

「次は活躍させるから!魔法(マジック)カード・【ドラゴニック・タクティクス】を発動!」

 

「!」

 

「フィールドのドラゴンを2体リリースして、デッキからレベル8のドラゴンを特殊召喚できる!現れろ!【トライホーン・ドラゴン】!!」

 

 

 

【トライホーン・ドラゴン】 攻撃力 2850

 

 

 

「なんだと!?こいつがこんなレアカードを!?」

 

 

 

「ほほぅ、まさかトライホーンとはねぇ」

 

「先輩すごいです!」

 

「よーし!やっちゃえセツナ!!」

 

 

 

「さぁ(あと)は攻撃あるのみだ!行け!トライホーン・ドラゴン!!リボルバードラゴンを攻撃!!」

 

 

 

 トライホーン・ドラゴンは両腕の鋭利な3本の爪で、リボルバードラゴンを引き裂こうとする。

 

 

 

「させるかよぉ!リバーストラップ・【重力解除】!モンスターの表示形式を変更する!」

 

 

 

【トライホーン・ドラゴン】 守備力 2350

 

【リボルバードラゴン】 守備力 2200

 

 

 

「あらら、上手く行かなかったかぁ……ざんねん。ボクはこれで、ターンエンド!」

 

「……驚いたぜ、トライホーン・ドラゴンか…良いじゃねぇか!お前ごときには勿体(もったい)ねぇ!アンティルールで俺が(いただ)くのは、そのカードだ!」

 

「……良いよ、ボクに勝てたらね」

 

「俺のターン!!」

 

 

 

「ど、どうしましょう黒雲さん…!このままだと、トライホーンが破壊されちゃいますよぉ…!」

 

「くぅ…すんなりと攻撃を通してはくれないのね…でも【一時休戦】の効果で、このターン、セツナにダメージは無いから…まだ1ターンはチャンスがあるわ!」

 

「そ、そうでしたね!よかった…」

 

「…果たして、本当にチャンスを与えてくれるかな?あの九頭竜くんが」

 

「……!」

 

「九頭竜くんのデッキは、確かに重量級モンスターが(ひし)めく、パワー(タイプ)の構築だが…決して単調な攻めのみで押し切る戦法(スタイル)などではない。それだけで『学園最強(ランク・A)』の座を、勝ち取れるわけがないからね」

 

「…じゃあ…九頭竜の真髄って一体…」

 

「初めて知った時は、私も目を見開いたよ」

 

 

 

「……くっくっく…引いたぜ…!俺の完璧な『コンボ』を成立させる、キーカードをなぁ!!」

 

「!?…コンボ…?」

 

「お前に今から……地獄を見せてやるよ!」

 

 

 

「…あの男…九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)は……IQ(アイキュー)200の頭脳を持つ、本物の天才デュエリストだ…!」

 

 

 

「俺がドローしたカードは【アームズ・ホール】!デッキの上から1枚を墓地に送り、デッキから装備カードをサーチできる!俺は【魔界の足枷(あしかせ)】を手札に加え、リボルバードラゴンに装備する!」

 

 

 

【リボルバードラゴン】 攻撃力 100 守備力 100

 

 

 

(えっ…リボルバードラゴンがパワーダウンした…!?)

 

「魔界の足枷を装備したモンスターは攻撃力・守備力が100になり、攻撃は封じられる」

 

「……わざわざリボルバードラゴンを弱体化させて、何を企んでるのさ…?」

 

「くくっ、これで良いんだよ!更に俺は、手札から【機械複製術】を発動!俺のフィールドにいる攻撃力500以下の機械族モンスターと、同名のカードをデッキから特殊召喚する事が出来る!!」

 

(!!そうか…この為にリボルバードラゴンの攻撃力を下げて…!)

 

「とくと味わえよ転入生…!俺の機械龍(マシン・ドラゴン)デッキの威力を!!新たに2体のリボルバードラゴンを、特殊召喚!!」

 

 

 

【リボルバードラゴン】 攻撃力 2600

 

【リボルバードラゴン】 攻撃力 2600

 

 

 

「リボルバードラゴンが……3体…!?」

 

 

 

 同じ大型モンスターがフィールドに3体も並ぶ圧巻の光景に、会場が再び熱狂した。

 

 

 

(だけど、その内1体は、魔界の足枷で弱体化している!少なくとも攻撃要員(よういん)にはなれない(はず)…)

 

馬鹿(バ カ)め!俺のコンボに(すき)なんざねぇ!!墓地にある【シャッフル・リボーン】の、2つ目の効果を発動!」

 

「なっ…!魔法(まほう)カードを墓地から(・ ・ ・ ・)発動!?なんて離れ(ワザ)を…!」

 

「フィールドに出ている【魔界の足枷】をデッキに戻し、1枚ドローする!」

 

 

 

 魔界の足枷が外れた事で、リボルバードラゴンのステータスが元に戻った。

 

 すごい…!1ターンで自分に有利な戦況を整え、デメリットは回避して、オマケに手札の補強まで…!

 九頭竜くんの抜け目ない戦略に、ボクは感服する他なかった。

 

 

 

「守備表示のリボルバードラゴンを攻撃表示に変更!」

 

 

 

【リボルバードラゴン】 攻撃力 2600

 

 

 

 3体のリボルバードラゴンが一斉に攻撃の態勢を取った。合計9つの銃口がトライホーン・ドラゴンとボクに向けられる。

 毎ターン、1体につき1回…計3回も『ロシアン・ルーレット』を撃てるってわけか。もう(イチ)(バチ)かの運試し(ギャンブル)どころか…ほぼ必中の銃殺刑じゃない。

 

 

 

「本当なら、このターンで撃ち殺してやりたいところだが…お前が発動した【一時休戦】のせいでダメージは与えられない…どの道『ロシアン・ルーレット』を使う意味もねぇ。なら普通に攻撃して、そのドラゴンだけでも消しておくぜ!!」

 

 

 

- ガン・キャノン・ショット!! -

 

 

 

「トライホーン・ドラゴン、粉砕!」

 

「ッ…!」

 

 

 

 頼みの綱だったトライホーン・ドラゴンまで破壊されて、いよいよ窮地に追い込まれてしまう。

 一時休戦のおかげで直接攻撃は(まぬが)れたけど、このままじゃ次のターンで確実に()られる…!

 

 

 

「案外あっけなかったな。シャッフル・リボーンのテキストに従い手札を1枚、除外する。これで俺はターンエンドだ!」

 

(さぁ足掻いてみせろよ転入生。俺のフィールドは磐石(ばんじゃく)だ!!)

 

「…………ボクの、ターン……」

 

 

 

 このドローで何も出来なかったら、ボクの負け。いよいよ崖っぷちだ。デッキに伸ばす右手が震えて、鼓動が高鳴るのを感じる。

 ……それでも、不安や恐怖は無い。震えだって()(しゃ)(ぶる)いだ。むしろ、こんな絶体絶命の状況を、楽しんでいる自分がいる…!

 

 

 

「ドロー!!」

 

 

 

 命運を分かつ、ディスティニードロー。……引いたカードは……

 

 

 

「…ボクの引いたカードは……【命削りの宝札】!」

 

(-!?こいつ…!またドロー効果を持つカードだと!?何なんだ、その無駄な引きの良さは!)

 

(7年も連れ添った、掛け替えの無い相棒(デッキ)だからね!追い詰められれば追い詰められる程、ボクのデッキは応えてくれる!)

 

「【命削りの宝札】の効果で、ボクは手札が3枚になる様にカードを引く。今、ボクの手札は(ゼロ)枚。よって、デッキから3枚ドロー!」

 

 

 

 このターン、ボクは【命削りの宝札】の効果により、特殊召喚を行えず、相手にダメージも与えられない。でも…この手札なら!

 

 

 

「ボクは魔法(マジック)カード・【スペシャルハリケーン】を発動!手札1枚をコストに、フィールド上の特殊召喚されたモンスターを、全て破壊する!!」

 

「なにっ!?」

 

 

 

 フィールド上空に雷雲が立ち込め、霹靂(へきれき)と暴風が全フィールド上を蹂躙(じゅうりん)する。

 九頭竜くんの場に存在する3体のリボルバードラゴンは、1体が【生け贄人形(ドール)】の効果で、他の2体が【機械複製術】の効果で特殊召喚(・ ・ ・ ・)されたものだ。

 

 

 

「つまり、これで3体のリボルバードラゴンは破壊される!!」

 

「くっ…ぐおおぉぉっ!?」

 

 

 

 フィールドを制圧していた上級モンスターが一掃(いっそう)された事で、九頭竜くんの場に残ったのは伏せ(リバース)カード1枚のみとなった。アレは1体目のリボルバードラゴンを召喚した後から、ずっとセットされているカードだ。

 

 

 

「ボクは……カードを1枚セットして、ターンエンド!」

 

 

 

 会場全体に、何やら(どよめ)きが広がっているのが分かった。ボクが劣勢を切り抜けた事が信じられないと言った様子で、ざわざわと。数ターン前までの熱い歓声とは毛色の異なる騒々しさが場内を包み込んだ。

 

 

 

「さっすがセツナ!」

 

「すごいです先輩!」

 

「はっはっは。天は彼を見放してはいなかった様だね」

 

 

 

「くそ…!よくも俺のリボルバードラゴンを…!ドローだ!」

 

(…チッ!出せるモンスターが手札にねぇ…!……屈辱だが…このターンは何も出来ねぇ……まぁいい…まだ俺には、()があるからな…!)

 

「…ターンエンドだ…!」

 

「…!?」

 

 

 

 意外にも、九頭竜くんは何も行動(アクション)を起こさずにターンを終えた。

 それを受けて、観客席には更に不穏な(ざわ)めきが増していく。こんな展開は恐らく誰も予想すらしていなかったんだろう。「有り得ない」という声が方々(ほうぼう)から聞こえてくる。

 

 

 

「セツナ!今が好機(チャンス)だよ!」

 

「ボクのターン!このスタンバイフェイズ、ボクのフィールドにモンスターが存在しない時、墓地に眠る【ミンゲイドラゴン】を特殊召喚できる!」

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 400

 

 

 

「…スペシャルハリケーンのコストで捨ててやがったか!」

 

「大正解。伏せ(リバース)カード・【闇の量産工場】を発動!墓地から通常モンスター2枚を手札に加える。ボクが戻すのは、【プチリュウ】と【ラビー・ドラゴン】!」

 

「!」

 

「ミンゲイドラゴンは、ドラゴン族モンスターをアドバンス召喚する時、1体で2体分のリリースとして扱える!ミンゲイドラゴンをリリースして、【ラビー・ドラゴン】をアドバンス召喚!!」

 

 

 

【ラビー・ドラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

「バトル!ラビー・ドラゴンで、九頭竜くんにダイレクトアタック!『ホワイト・ラピッド・ストリーム』!!」

 

 

 

 白銀(はくぎん)に煌めく破壊光線が九頭竜くんに炸裂した。

 

 

 

「ぐあああああああっ!!!」

 

 

 

 九頭竜 LP 3050 → 100

 

 

 

 今の一撃で、九頭竜くんのライフポイントは大幅に削られた。残り、100ポイント。もう風前の灯火だ。

 

 デュエルの流れが急変すると、またもや会場内に歓声が鳴り響いた。興奮からか集まった生徒達は次々に総立ちしていく。

 

 

 

「うおおっ!!おいヤバくねぇか!?これって、もしかして…!」

 

「まさかの番狂わせ…大物食い(ジャイアント・キリング)が来るか!?」

 

「あのランク・Aの九頭竜さんが……負けちまうのか…!?」

 

 

 

「…………俺が……負けるだと……?」

 

(……ふざけるな…!ふざけるなふざけるなふざけるなッ!!!俺が負けるわけねぇだろうが!!俺のプレイングは完璧だった!これは勝てる決闘(デュエル)なんだ!あんな転入生に俺が実力で劣るなんざ、絶対に有り得ねぇ!!)

 

「……九頭竜くん?」

 

 

 

 ラビー・ドラゴンの攻撃を受けて、体勢を崩していた九頭竜くんだったけど、フラつきながらも徐々に立ち上がってきた。

 

 ---…彼が顔を上げると、その眼は凄まじく攻撃的で、明確な敵意と殺気に満ちていた。

 ゾクッと、ボクの背筋が凍った。とうとう本気で怒らせたみたいだ。彼の刺すような気迫に気圧(け お)されて、足が無意識に後退(あとずさ)る。

 

 

 

「そうだ…最強は俺だ…!俺より(つえ)ぇ奴なんてのは……いたらいけねぇんだよ!!リバースカード・オープン!【ダメージ・コンデンサー】!!」

 

(ッ!?アレはボクの使った【ダメージ・ゲート】と同じ…!だから今まで発動しなかったのか!)

 

「手札を1枚捨て!俺が受けた戦闘ダメージの数値以下の攻撃力を持つモンスターを、デッキから特殊召喚するッ!!出やがれえぇぇっ!!【ブローバック・ドラゴン】!!」

 

 

 

【ブローバック・ドラゴン】 攻撃力 2300

 

 

 

「また破壊効果のあるモンスターを!?…ッ…ボクは1枚カードを伏せて、ターンエンド!」

 

「俺のターン!ドロー!」

 

(…【奈落の落とし穴】か…ちぃとばかし来るのが(おせ)ぇが良いカードを引いた…!)

 

「ブローバック・ドラゴンのモンスター効果!2分の1の確率で、相手のカードを破壊する!!」

 

 

 

 言うが早いかブローバック・ドラゴンの効果処理が行われる。その結果は…

 

 

 

「……Hit(ヒ ッ ト)だ…!ラビー・ドラゴンを破壊!!」

 

「くっ!?」

 

 

 

 ボクにとっては不幸にも、効果は成立。ブローバック・ドラゴンは1発の弾丸でラビー・ドラゴンを射撃し、無惨に破壊した。

 

 (うん)も実力の内とは言うけど、彼は本当に恐るべき相手だ。外れる可能性だってある『コイントス』効果を、リボルバードラゴンに続いて連続で成功させている。強運…いや、違う。

 

 九頭竜くんは、カードに選ばれているんだ。

 

 

 

「フッ、ははは…!はーっははははっ!!ざまぁみやがれ転入生!勝利の女神は俺に微笑(ほほえ)んだ様だなァ!!」

 

「……ッ」

 

「後はブローバック・ドラゴンで攻撃すれば、お前のライフは(ゼロ)になる…!理解したか?俺が最強だ!!」

 

 

 

 バトルフェイズ。ブローバック・ドラゴンの銃口がボクの心臓に照準を合わせた。

 

 

 

()れ!ブローバック・ドラゴン!!」

 

「……あいにく、ボクは諦めが悪くてね!トラップ発動!【ガード・ブロック】!ダメージを(ゼロ)にして、1枚ドローする!」

 

 

 

 戦闘ダメージを回避して、デッキから1枚カードを引く。

 

 

 

(…!このカードは…)

 

 

 

「くそがッ……しぶとい野郎だ!俺はカードを1枚セット!」

 

(もし奴が強力なモンスターを出してきても、今セットした【奈落の落とし穴】で叩き落とせる!次の俺のターンで、今度こそ確実に仕留めてやる!)

 

「ボクのターン!ドロー!」

 

 

 

 カードをドローした後、ボクは静かに目を閉じた。それから、言葉を紡ぐ。

 

 

 

「九頭竜くん。(きみ)とのデュエル、久々にスリルがあって、本当に楽しかったよ。……でも、今回は…ボクの勝ちだ!」

 

「……あぁ?」

 

 

 

 突然の勝利宣言をしてみせると、九頭竜くんの(ひたい)に青筋が浮かんだ。

 そんな事はお構い無しに、ボクは手札から1枚のカードを取り出して、彼に見せつける。

 

 

 

「覚えてるかな?このカードは、君がボクにプレゼントしてくれたカードだよ!」

 

「…なんだと…」

 

 

 

 そう、このカードは…ボクとルイくんが高等部3年生の教室にお邪魔した時、九頭竜くんから挨拶(あいさつ)代わりとか言って投げつけられた、あの(・ ・)カードだ。

 デュエルの直前、興味本意で自分のデッキに投入してみたんだけど、こんな土壇場で引き当てるとは思いもしなかった!

 

 

 

「出ておいで!【メガ・サンダーボール】!」

 

 

 

【メガ・サンダーボール】 攻撃力 750

 

 

 

「…!…この状況で、そんな雑魚(ザ コ)モンスターを攻撃表示だと?俺を舐めてやがるのか!!」

 

「いいや、真剣だよ!ボクは手札から魔法(マジック)カード・【財宝への隠し通路】を発動!このターン、攻撃力1000以下のモンスター1体は、相手プレイヤーに直接攻撃できる!」

 

「!?なっ…な…!」

 

「これで……チェックメイトだ!メガ・サンダーボールで、九頭竜くんに直接攻撃(ダイレクトアタック)!!『サンダー・ラッシュ』!!」

 

 

 

 (トゲ)の生えた球体が電撃を放ちながら九頭竜くんに突撃し、ビリビリと電流を浴びせかけた。

 

 

 

「うああああああッッッ!!!?」

 

 

 

 九頭竜 LP 0

 

 

 

 ボクの勝利で決闘(デュエル)が終わったのと同時に、割れんばかりの大歓声と驚嘆が混じり合って、場内を埋め尽くした。

 

 

 

「九頭竜さんが負けたぁーッ!?」

 

「あ、あんな…ランクも付いてねぇ転入生に…!」

 

 

 

 すっかり騒然としちゃってるけど……うん、そろそろ慣れた。

 

 九頭竜くんを見ると、床に両(ひざ)と両手を付けて項垂(うなだ)れていた。

 ボクは、そんな彼の側まで歩み寄る。渡さなきゃいけないものがあるからね。

 

 

 

「九頭竜くん。これは君に返すよ」

 

 

 

 そう言って、彼に【メガ・サンダーボール】のカードを差し出す。

 九頭竜くんが憎々しげな顔で、ボクを睨んだ。

 

 

 

「ッ…!ざけんな!誰が()るか!んな(クズ)カード!!」

 

「……そっか。じゃあ、このカードはアンティルールに(のっと)って、ボクが(もら)うね」

 

「…………!くそぉッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おめでとうセツナ!まさか本当にランク・Aに勝っちゃうなんてね!」

 

(ぼく)…感激しました!おめでとうございます!セツナ先輩!」

 

 

 

 戻ると、アマネとルイくんが祝福してくれた。いつ以来だろう。デュエルに勝って、誰かが誉めてくれるのって。久しく忘れてたよ、こんな嬉しい気持ち。

 

 

 

「ありがとう、アマネ!ルイくん!…あれ?高御堂先生は?」

 

「なんか…決闘(デュエル)が終わった途端に、どっか行っちゃったわよ?」

 

「ええーっ?先生にも誉めてほしかったのに…」

 

 

 

 まぁ後日どっかで会った時にでも抱き着けば良いか。そんな事を考えながら、ボクは勝利の余韻に浸った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……フフッ、総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)くんか……教師として贔屓(ひいき)はしないが…面白い子が入ってきたな」

 

 

 

 





 今回の最強カードは【メガ・サンダーボール】でした!!

 九頭竜くんはライバルキャラですね。またデュエルさせるのが楽しみです!


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TURN - 4 Break of Break


 だが俺はレアだぜ☆( `・ω・´ )



 

 『昼休み』

 

 それは、日々勉学に励むボク達『アカデミア(せい)』にとって、学園で過ごす日程の中でも最も楽しみな時間だ。

 ボクの場合は授業中に爆睡を決め込んだりするから言うほど真面目に受けてないけど。

 

 この解放された1時間を利用して、生徒達は午前中までの授業で消費した精神的・肉体的ライフポイントを回復するべく、食堂に行って美味(お い)しい料理を注文したり、

 使用可能な場所(スペース)を見つけては決闘(デュエル)をしたり、

 学園の敷地内で自由気ままに遊んだり、

 なんだかんだで気がついたら決闘(デュエル)していたり、

 クラスメートと室内で仲良く談笑したり、

 

 他には……決闘(デュエル)したり決闘(デュエル)したり、やっぱり決闘(デュエル)したりして、

 みんな思い思いに束の間の休憩時間を満喫する。

 そうして鋭気を養って、午後からの授業(ラストスパート)に臨むのだ。

 

 そして、その貴重な自由時間は、誰にも邪魔されるべきではないんだ。例え【おジャマトリオ】であろうと、人間の休息を(おびや)かす事は大変よろしくない。

 

 つまり何が言いたいかというと……

 

 

 

「……ボク今、食事中だからさ。デュエルの申し出は放課後にしない?」

 

 

 

 食堂で席に座り、大好物のカレーをスプーンで口に運ぶ姿勢のまま、ボクは自分の横に立ち並ぶ3人の男子生徒を見上げて、そう提案した。

 

 

 

「ふざけんじゃねえ。マグレで九頭竜さんに勝てたからって調子に乗ってんじゃねーぞ!このメガネ(ざる)!」

 

「そーそー。あんなもんマグレっしょ」

 

「だから俺達がテメェを、ぶちのめしに来てやったんだよ!」

 

 

 

 モブ1号、2号、3号。ボクは彼等(かれら)を、そう呼んでいる。

 ボクが学園に転入して、最初に決闘(デュエル)した在校生・金沢(かなざわ)くんと一緒に居た3人組だ。

 

 3号が言った九頭竜(くずりゅう)くんとは、この『デュエルアカデミア・ジャルダン校』に()いて、生徒の決闘者(デュエリスト)としての実力を5段階ランクに序列した階級制度(カ ー ス ト)の最上位、『ランク・A』に位置する天才デュエリストの事で、高等部3年に在籍している有名人だ。

 

 実は昨日、ボクは紆余曲折あって、その九頭竜くんと決闘(デュエル)をして運よく勝ってしまった。

 

 それにより、どうやら転入2日目にして、ボクの存在は学園中に広く知れ渡ってしまったらしい(アマネ談)。

 どうも朝から周りの視線がおかしい気がしたけど、成程(なるほど)そういう事か。

 益々(ますます)もって、よろしくない。ボクの平穏が現在進行形で乱されてきてる。

 

 はてさて、ひとまずはこの現状を、どう()り過ごしたら良いものか。

 今日の献立(こんだて)が『カツカレー』だと聞いて、昼食(ランチ)タイムの訪れを今か今かとソワソワ待望して、やっと食事にありつけたのに。

 まさか一口(ひとくち)目を頂く寸前で、よりにもよって、このモブ達とエンカウントするなんて…いよいよ本気で天を呪いたくなる。せめて完食した後に来てほしい。

 

 

 

(こうなったら……よし!ボクは特殊能力・【現実逃避】を発動!)

 

「あー、このカレールーの風味がたまらなく食欲をそそる…」

 

「聞けぇ!!」

 

「無視すんなゴラァァァッ!!」

 

(うん、ダメでした)

 

 

 

 【現実逃避】の効果はモブ3人組の【暴君の威圧】によって無効化されました。食事中はお静かに!

 

 

 

「相手してあげれば?セツナ」

 

「この声はアマネ」

 

 

 

 ボクの向かいの席に、赤色のメッシュが入った黒髪を揺らす、赤目の女の子が着席して、ボクに微笑(ほほえ)みかけた。

 

 黒雲(くろくも) 雨音(アマネ)。ボクと同じ高等部2年生の生徒で、最強(ランク・A)の次席、ランク・Bを叙位(じょい)している美少女。

 新顔のボクに学園の事を色々と教えてくれて、九頭竜くんとの決闘(デュエル)で追い込まれたボクを激励(げきれい)してくれた。面倒見が良くて(みんな)に親しまれてる、クラスの人気者。

 

 

 

「セツナなら、そんな奴ら楽勝でしょ?」

 

「楽勝って…買い被り過ぎじゃない?」

 

「モタモタしてたら、せっかくのカレーが冷めちゃうよ?」

 

「うぐっ…!……OK、分かった。そのデュエル受けるよ。モブ1号、2号、3号くん」

 

「モブッ…!」

 

「2ご…!」

 

「3ッ…!?」

 

 

 

 3人組はボクが付けた名前が気に入らないのか顔を(しか)めて、ワナワナと身体を震わせた。

 

 ここで更に、ボクは火に油を注ぐ。

 

 

 

「でも時間が無いから……3人まとめて、かかってきて!」

 

「「「………ッ!上等だコラー!!!」」」

 

 

 

 完全に激怒した3人組と共に食堂を(あと)にした。カツカレーは一時的に保管してもらいました。

 

 あーっ、お腹すいたなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、言うわけで。ボク達が決闘(デュエル)舞台(フィールド)に選んだ場所は、食堂の近くにある『多目的ホール』。ここなら決闘(デュエル)が終わったら、すぐに戻れるし、広さも申し分ない。

 

 付き添いで来てくれたアマネが壁に背を預けて腕を組みながら、ボクに話しかけた。

 

 

 

「セツナの方から『3面打ち』を言い出すなんてね。ちょっと意外かも」

 

「カツカレーの風味が()かってるからね」

 

(なに)その執念…」

 

 

 

 ホワイトタイプの決闘盤(デュエルディスク)を左腕に装着して、デッキを差し込み、起動させる。

 ようやく修理が完了して、帰ってきました我が愛機!

 朝イチで引き取りに伺ったら、ディスクが細部まで丹念に研磨されていて、新品と見違えるくらいピカピカになって戻ってきた。修理工(メカニック)のおじさんに心から感謝!

 

 

 

「野郎…さっきから余裕かましやがって…!」

 

 

 

 そう声を荒げるのはモブ3号。3人組の中で一番ガタイの良い大男(おおおとこ)で、名前は厚村(アツムラ)くんと言うらしい。

 

 

 

「つーか舐めてね?」

 

 

 

 今時のチャラ男っぽい軽薄な喋り方をするのがモブ2号。特徴は赤茶色の髪と、吊り目の三白眼。名前は平林(ひらばやし)くん。

 

 

 

「なぁ~に。こっちは3人がかりだ、万に一つも負けはねぇ!」

 

 

 

 言いながら、デュエルディスクを構えたのはモブ1号。サングラスを掛けており、髪色はアッシュグレー。名前は小森(こもり)くんだそうだ。

 

 

 

「3人とも準備は良い?始めるよ」

 

 

 

「「「「決闘(デュエル)!!」」」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 厚村(アツムラ) LP(ライフポイント) 4000

 

 小森(こもり) LP(ライフポイント) 4000

 

 平林(ひらばやし) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「ボクの先攻!」

 

 

 

 ターンは『ボク → 厚村くん → 小森くん → 平林くん』の順で一周する流れとなった。よって最初にプレイを開始するのはボク。なお、全プレイヤーのライフポイントは『4000』。

 

 

 

「まずはカードを3枚セット!そして、手札から【グレイ・ウィング】を召喚!」

 

 

 

【グレイ・ウィング】 攻撃力 1300

 

 

 

「バトルロイヤルルールにより、最初のターンは全員、攻撃できない。ボクはこれで、ターン終了(エンド)!」

 

 

 

 ボクが『ターン終了(しゅうりょう)』を宣言した事で、次は厚村くんにターンが回る。

 

 

 

「俺のターン!【ジャイアント・オーク】を召喚!!」

 

 

 

【ジャイアント・オーク】 攻撃力 2200

 

 

 

「カードを1枚伏せてターンエンド!」

 

(俺の伏せたカードは【落とし穴】!野郎が攻撃力1000以上のモンスターを召喚したら、その瞬間にドカン!っつーわけだ!)

 

 

 

 厚村くんのターンが終わった。次の手番は小森くん。

 

 

 

「俺のターン!【スカルナイト】を召喚!!」

 

 

 

【スカルナイト】 攻撃力 1000

 

 

 

「1枚カードを伏せて、ターンエンドだ!」

 

(セットしたのは【炸裂装甲(リアクティブアーマー)】!攻撃してきた相手モンスターを破壊する(トラップ)カードだ!)

 

 

 

 最後は平林くんのターン。

 

 

 

「俺のターン!【怨念のキラードール】を召喚!!」

 

 

 

【怨念のキラードール】 攻撃力 1600

 

 

 

「俺もカードを、1枚セットするぜ!」

 

(このカードは【次元幽閉】!敵の攻撃モンスターを、ゲームから除外する!)

 

「ターンエンド!」

 

 

 

 平林くんで一巡して、再びボクにターンが移る。ここからは互いに攻撃が可能となる。

 

 相手(がた)3人の場には、それぞれモンスター1体と伏せ(リバース)カード1枚か。

 

 

 

(…セツナがどう出るか…見物(みもの)ね。3対1の多勢に無勢で、どんな風に(たたか)うのか……昨日の決闘(デュエル)を観て以来、なんだか気になるのよね…彼のこと。あの九頭竜を倒す程の強さ……お手並み拝見と行こうじゃない…!)

 

 

 

「ボクのターン!ドロー!」

 

(…………この手札なら…行ける!)

 

「ボクは(トラップ)カード・【無謀な欲張り】を発動!」

 

「!…なんだありゃ?」

 

「アレは2枚ドロー出来る代わりに、次のドローフェイズを2回スキップするカードだな…!」

 

「小森くん、ご明察。でも、その効果を使う前に…もう1枚、手札から(・ ・ ・ ・)発動させてもらうよ!」

 

「!?」

 

「【無謀な欲張り】の発動に『チェーン』して、速攻魔法・【鈍重(どんじゅう)】を発動!」

 

「ど、鈍重(どんじゅう)!?」

 

「そう。効果の説明をしたいところだけど、(じつ)連鎖(チェーン)したいカードが(あと)1枚だけあるんだ」

 

「「「!!!?」」」

 

「2枚目の伏せ(リバース)カードをオープン!(トラップ)カード・【フルハウス】!!」

 

「なっ…!一気に3枚も発動するだと!?」

 

「このカードは、フィールド上の表側表示の魔法(マジック)(トラップ)カード2枚と、セットされている魔法(マジック)(トラップ)カード3枚を破壊する!!」

 

 

 

 ここまでに積まれたチェーンブロックの数は3つ。最優先で処理されるのは、最後に発動した【フルハウス】の効果からだ。

 

 

 

「ボクのフィールドで(オモテ)になっている【鈍重】と【無謀な欲張り】、そして、君達3人のフィールドに1枚ずつ伏せられている、合計3枚のリバースカードを破壊!!」

 

 

 

 ボクが指定した計5枚のカードは、一斉に破壊されて墓地へと送られる。

 

 

 

「うっ、うわぁあああっ!?」

 

「お、俺達の…!」

 

(トラップ)カードが…!?」

 

 

 

 ふむふむ。【落とし穴】に【炸裂装甲(リアクティブアーマー)】に【次元幽閉】か。

 フリーチェーンのカードじゃなくて良かった。途中で発動されたりしたら、【フルハウス】使えなくなるからね。

 

 さて、これで安心して攻撃できる。

 

 

 

「ボクのカードも破壊されたけど、効果は適用するよ。次は【鈍重】の効果で…えーっと、そうだね……平林くん!(きみ)の場の【怨念のキラードール】の攻撃力を、守備力の数値だけ低下(ダウン)する!」

 

 

 

【怨念のキラードール】 攻撃力 1600 → 0

 

 

 

「げぇ!攻撃力(ゼロ)!?」

 

「最後に【無謀な欲張り】で、ボクはカードを2枚ドロー!」

 

「ちょ…ヤバくね?トラップもねぇし…!」

 

「も、問題ねぇ!このターンさえ凌げば、奴は2ターンの間ドロー出来ねぇんだ!その隙に潰すぞ!」

 

「……安心して。この(ワン)ターンで、終わりにするから」

 

「…なに…?」

 

 

 

 - ここから先は、ずっとボクのターン!! -

 

 

 

「グレイ・ウィングは手札を1枚()てる事で、2回攻撃する権利を得る!」

 

 

 

 自分の手札から、カードを1枚、デュエルディスクの墓地(セメタリー)ゾーンに()れる。

 これで、グレイ・ウィングはこのターン、2回連続で攻撃する事が出来る。

 

 

 

「ボクは【エレメント・ドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【エレメント・ドラゴン】 攻撃力 1500

 

 

 

「さらに手札から、【復活の福音(ふくいん)】を発動!墓地の【ダークブレイズ・ドラゴン】を、特殊召喚する!」

 

 

 

 渦巻く業火の中から、ダークブレイズ・ドラゴンが姿を現す。

 さっき、グレイ・ウィングの効果を使用するコストとして、このモンスターカードを墓地に送っておいたんだ。

 

 

 

「墓地から復活したダークブレイズ・ドラゴンは、攻撃力が2(ばい)になる!」

 

 

 

【ダークブレイズ・ドラゴン】 攻撃力 2400

 

 

 

「攻撃力が…俺の【ジャイアント・オーク】を上回っただとぉ!?」

 

「驚くのはまだ早いよ!ここで、3枚目のリバースカード・【タイラント・ウィング】を発動!ダークブレイズ・ドラゴンの装備カードとなり、攻撃力を400ポイントアップする!」

 

 

 

【ダークブレイズ・ドラゴン】 攻撃力 2400 → 2800

 

 

 

「バトル!!ダークブレイズ・ドラゴンで、ジャイアント・オークを攻撃!『バーンズダウン・ヘルファイア』!!」

 

 

 

 ダークブレイズ・ドラゴンは(くち)の中から黒炎(こくえん)を放ち、厚村くんのフィールドにいる、ジャイアント・オークを焼き尽くす!

 

 

 

「ぐあっ!?ッ…この…!」

 

 

 

 厚村 LP 4000 → 3400

 

 

 

「ダークブレイズ・ドラゴンが相手モンスターを破壊した時、そのモンスターの攻撃力分のダメージを、相手プレイヤーに与える!」

 

「ぬぁにぃー!?ってことは…!」

 

「ジャイアント・オークの攻撃力分、2200ポイントのダメージを受けてもらうよ、厚村くん!」

 

「あぎゃああああああっ!!!?」

 

 

 

 厚村 LP 3400 → 1200

 

 

 

「そして!グレイ・ウィングで、厚村くんに直接攻撃(ダイレクトアタック)!!」

 

 

 

 グレイ・ウィングが(キバ)()き、厚村くんを容赦なく強襲する。

 

 

 

「ぐえぇあァ…!!がふ…!」

 

 

 

 厚村 LP 0

 

 

 

「あ、厚村ー!?」

 

(まず一人(ひとり)!お次は平林くんだ!)

 

「続けて、エレメント・ドラゴンで、怨念のキラードールを攻撃!!」

 

「うげっ!」

 

「エレメント・ドラゴンは、フィールド上に『炎属性』モンスターが存在する時、攻撃力を500ポイントアップさせる!」

 

 

 

【エレメント・ドラゴン】 攻撃力 1500 → 2000

 

 

 

 平林くんが操る【怨念のキラードール】は、【鈍重】の効果で攻撃力が(ゼロ)になっている。ダイレクトアタックと変わらない!

 

 

 

「ぎえぇーっ!!」

 

 

 

 平林 LP 4000 → 2000

 

 

 

「まだだよ!エレメント・ドラゴンの、もうひとつの効果!フィールドに『風属性』がいる場合、戦闘でモンスターを破壊した(あと)、二度目の攻撃が可能となる!」

 

「はぁーっ!?」

 

「エレメント・ドラゴン!平林くんに直接攻撃(ダイレクトアタック)!!」

 

「マジ()()ねえぇぇぇぇっ!!」

 

 

 

 平林 LP 0

 

 

 

「ま…まさか…こんな事が…!」

 

 

 

 厚村くんと平林くん、味方二人(ふたり)を立て続けに(うしな)った小森くんは、すっかり(ひる)んでしまっている。

 ボクはそんな彼の方に振り向いて、ニッコリと笑顔を見せた。

 

 

 

最後(ラスト)は、(きみ)だね!小森くん!」

 

「くっ…!何を言ってやがる!グレイ・ウィングにスカルナイトが()られたとしても、ダメージは300程度!まだ俺のライフは…」

 

「残念だけど、タイラント・ウィングを装備したダークブレイズ・ドラゴンは、このターン、もう一度モンスターに攻撃できるんだよ」

 

「んなアホなぁーッ!?」

 

「行け!ダークブレイズ・ドラゴン!!スカルナイトを攻撃!」

 

 

 

 - バーンズダウン・ヘルファイア!! -

 

 

 

「ぐわーっ!!」

 

 

 

 小森 LP 4000 → 2200

 

 

 

「戦闘破壊した事で、ダークブレイズの効果が発動!スカルナイトの攻撃力分のダメージを与える!『ブレイジング・ストーム』!!」

 

「あつぅーいッ!?」

 

 

 

 小森 LP 2200 → 1200

 

 

 

「チェックメイトだよ!グレイ・ウィング!小森くんに直接攻撃(ダイレクトアタック)!!」

 

 

 

 フィニッシュだ。この攻撃を止める(すべ)は無い!

 

 

 

「バカなぁああああッ!?」

 

 

 

 小森 LP 0

 

 

 

 デュエル決着!ボクが一息ついて、ディスクを腕から外していると、アマネが何やら驚いた表情を見せながら、(くち)を開いた。

 

 

 

(ワン)ターン(スリー)キル…!(なま)で見るのは初めてね…」

 

「んじゃ!ボクはこれで!」

 

「ええっ!?早っ!もう行っちゃうの!?」

 

「止めないでアマネ!カツカレーが…ボクを待っているんだ…!」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいしいー!デュエルの後に食べると、より格別だね!」

 

 

 

 急いで食堂に帰還したボクは無事にカツカレーと再会し、ようやくその味を堪能する事が出来た。

 それにしても、このカレー、冗談(ジョーダン)抜きで美味(う ま)い。じっくり煮込まれたルーは、スパイシーでコクと深みのある濃厚な味わい。サクサクの(ころも)(まと)った、ジューシーな(トン)カツは、一口(ひとくち)噛めば脂身の上品な甘味(あま み)(くち)いっぱいに広がって、ボクの味覚を喜ばせる。カレーとの相性も抜群だ。

 こんなにレベルの高いカツカレーなら、毎日でも、お金を払ってでも食べに来たいくらいだよ。

 

 

 

「フフッ、ほんと幸せそうに食べるね~。見てて和むよ」

 

 

 

 アマネは先程までと同じ席に座って、ボクと向かい合っている。彼女もボクのオススメで、カツカレーを注文していた。

 

 

 

「それはもう!今日はこの為に登校した様なものだし」

 

「納得。凄い美味しいよね、これ」

 

「あっ、セツナ先輩に黒雲さん!」

 

 

 

 声をかけてきたのは、茶髪で緑色の(ひとみ)可愛(かわい)らしい少年・(いち)()() ルイくんだった。所属は高等部1年生。ボクに初めて出来た後輩くん。

 

 

 

「おっ!ルイくん!となり()いてるよー!おいでおいで」

 

「はっ、はい!失礼します…!」

 

 

 

 若干オドオドしながらも、ルイくんはボクの(となり)椅子(イ ス)に腰を落ち着けた。

 彼の昼食は、どうやらサンドイッチらしい。たまごサンドと野菜(やさい)サンド。何ともヘルシーなメニューだけど、ひとつ気になったので、(たず)ねてみた。

 

 

 

「ルイくんは、サンドイッチが2個だけ?足りるの~?もっと食べなよ~」

 

「あはは……ぼく、DP(ディーピー)が少なくて…あまり高い献立(も の)は注文できないんです…」

 

 

 

 DP(ディーピー)と言うのは『デュエルポイント』の略称で、決闘(デュエル)をすると、その都度、デュエルディスクに加算されるポイントの事を言う。

 決闘者(デュエリスト)のみが扱える、今や全世界共通の通貨とされていて、コレが貯まると究極的には現金なしでも生活が出来てしまう。

 デュエルに勝利すれば当然より多くのDPを稼げるけど、負けてしまっても、一応(いちおう)デュエルを(おこな)ったという事実はあるので、(わず)かだがDPは貰える。もちろん勝った(ほう)と比べれば、(スズメ)の涙ほどしか()まらないけれど。

 

 この食堂では、食券も、そのDPで購入する必要があり、DPが足りないと注文(オーダー)できるメニューも限られてくるというわけだ。厳しい事に普通のお金では受け付けてくれない。まぁ決闘(デュエル)の学園だし、そこは仕方ないのかもね。

 

 

 

「そっか。じゃあ…」

 

 

 

 ボクはフォークに(トン)カツを(ひと)切れ刺して、ルイくんの口元に運んだ。

 

 

 

「はい。あーん」

 

「えぇえっ!?そ、そそそんな!悪いですよ!ぼ…ぼくなんかに…」

 

「まぁまぁ、先輩の(おご)りって事でさ。ほら、ルイくん細いし、これ食べてパワーを付けな。めっさ美味しいよ」

 

 

 

 ルイくんが思わず唾液を飲んだのが分かった。フフフッ、この垂涎(すいぜん)モノの(かお)りには(あらが)えまい。

 

 

 

「良いじゃん、(いち)()()くん。そういうのは遠慮せずに(いただ)くものよ。育ち(ざか)りなんだから、もっと食べないと大きくなれないよ?」

 

(…アマネが言うと説得力あるなぁ…)

 

 

 

 チラッと、アマネの大きな(むね)に視線が移ったのは秘密だ。

 

 

 

「は…はい…いただきます…!」

 

 

 

 ルイくんは、その小さな(くち)を頑張って開き、豚カツを(くわ)えた。食べやすい様にフォークで少しだけ押し込んでやろう。

 

 

 

「んむっ…もぐもぐ…」

 

 

 

 何これヤバイ可愛い!餌付(え づ)けしてるみたい!飼って良い?ルイくん飼って良い!?

 

 パシャリッ

 

 …シャッター音?が聴こえて、そちらを見ると、アマネが自分の携帯端末(スマートフォン)を横向きにして、ボク達の方に構えていた。どうやら、カメラモードにして、ボクがルイくんに豚カツを与えている光景を撮影している(よう)だ。

 

 

 

「……アマネ?何してるの?」

 

「あっ、気にしないで。保存保存っと」

 

「???」

 

 

 

 よく分からないけど、まぁいっか。ルイくんが豚カツを全て口内に含んだところで、フォークを放してあげた。

 ルイくんは(しばら)咀嚼(そしゃく)して飲み込んだ後、キラキラと目を輝かせ始めた。

 

 

 

「おいしいです!」

 

「でしょー?ここのカツカレーは絶品だよ!」

 

「この写真あとで友達に送ってやろー」

 

 

 

 それからは3人で仲良くお喋りしながら、昼休みの残り時間を心()くまで楽しんだ。あぁ幸せだなぁ、こういう平穏(へいおん)が欲しかったんだよ。ずっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 --- 九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)は抑え切れない怒りを(こぶし)に乗せ、校舎の壁を乱暴に殴り付けた。

 

 

 

「くそっ!!なぜ負けた…!なんでこの俺があんな奴に…!」

 

 

 

 悔恨(かいこん)の思いを吐き捨てながら固く握り締めた拳からは血が(にじ)み出て、白い床に赤色の点を打つ。

 

 昨日(さくじつ)、九頭竜が(みずか)ら観客を集めてまで強行した、総角(あげまき) 刹那(セツナ)との野良(の ら)デュエル。

 そこで味わった、言い様の無い屈辱。

 所詮(しょせん)は自分の足下にも及ぶまいと軽視していた、名も知らぬ転入生に敗北を喫した事で、彼の矜持(プライド)粉々(こなごな)に打ち砕かれてしまった。

 

 

 

(手を抜いた覚えはねぇ…俺のカードプレイングに落ち度は無かった筈だ…!なのに…どうして俺が負けなきゃならねぇんだ!)

 

 

 

「…おい!お前、九頭竜だろ?ランク・Aの」

 

 

 

 デュエルディスクを装着した男子生徒が九頭竜を呼びつける。しかし九頭竜は振り返るどころか何の反応も示さない。

 

 気配だけで、今の声の(ぬし)以外にも、数人が九頭竜の背後に立っているのが把握できた。そして、その誰もが九頭竜に対して、敵意や害意を()()もなく放っているという事も。

 

 

 

「へへへへっ…!転入生に負けちまう様な現在(い ま)のテメーなんざ怖かねぇ!」

 

「今まで散々コケにしてくれたな。今日でその称号(ランク)は返上してもらうぜ!」

 

 

 

 またか。と、九頭竜は心の中で独り()ちた。

 

 最強の座を欲しいままにしてきた人間は、一度(ひとたび)その戦績に黒星が付けば、たちまち周囲から非難や攻撃を浴びる。

 特に彼は気性の荒い性格も相まって、敵を作りやすかったので尚更(なおさら)だ。

 

 

 

「勝負しやがれ九頭竜!叩きのめしてやる!」

 

「こっちを向けよ!ビビってんのか!」

 

「………………あ"?」

 

「「「…ひっ!?」」」

 

 

 

 しかし腐っても学園最強(ランク・A)決闘者(デュエリスト)。こんな集団心理に頼って仕掛けてくる浅はかな連中に、遅れを取る事は有り得ない。

 

 

 

「撃ち殺せ…!【リボルバードラゴン】!!」

 

 

 

 - 結局5分とかからず、九頭竜は彼等(かれら)を、決闘(デュエル)で完膚なきまでに蹴散(け ち)らした。

 

 

 

「ひぃぃぃぃっ!?」

 

「すいませんでしたァァァァ!!」

 

 

 

「……チッ!こんな(むな)しい勝利は、生まれて初めてだ…!」

 

 

 

 情けない悲鳴を上げながら、蜘蛛(く も)の子を散らす様に逃げ去っていく生徒(敗 者)達。だが勝利を収めても、九頭竜の気持ちは晴れなかった。

 

 

 

(あんな雑兵(ぞうひょう)どもじゃ駄目だ!やはり、あの転入生に勝つしか…!)

 

随分(ずいぶん)と荒れているね、九頭竜」

 

「!…お前は…!」

 

 

 

 その時、一人の青年が九頭竜に声をかけた。

 

 青年はナチュラルショートの黒髪と、()んだ青色の(ひとみ)が印象的で、眉目秀麗という讃詞が相応(ふさわ)しい貴公子然とした顔立ちをしており、妙々(みょうみょう)たる風格を備えていた。

 

 

 

「……戻ってきてやがったのか……鷹山(ヨウザン) (カナメ)…!」

 

「ついさっきね。それにしても驚いたよ。久々に母校に帰ってきたら、お前が負けてるなんてさ」

 

「てめっ…!」

 

何処(ど こ)に行っても俺の(かわ)きを満たしてくれる決闘者(デュエリスト)は居なかったけど……これは期待できそうだ。もうすぐ『選抜試験』も始まるしな」

 

「……なんだと?」

 

「転入生・総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)か……彼なら俺を、(たの)しませてくれるかな?」

 

 

 

 青年・鷹山(ヨウザン) (カナメ)は、新しい玩具(オモチャ)を見つけた子供の様に、愉快そうな笑みを浮かべた。

 

 

 

 





 カツカレー美味しい(^q^)

 3対1って難し過ぎィ!!頭がパーンするところだったよ!!でもどうしてもやってみたかった( °ω°)

 感想など、お待ちしております!


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TURN - 5 Machinery Evils


 前回の第4話を投稿した翌日の昼食が『カツカレー』でした。なんだこの偶然。



 

「では!これより実技の授業を始めます!各自、位置に()いて!」

 

 

 

 広大な決闘(デュエル)フィールドに、女性の張った声が明瞭に響き渡る。

 号令を掛けたのは、ボクが所属している高等部2年生の担任を務める、美人と評判な、若い女の先生だ。

 

 現在ここには、ボクを含め、その2年生の生徒のみ(・ ・)が集められている。

 

 筆記と同等に重要、()つ、筆記以上に自身の評価を左右するのが『実技』の成績らしい。

 それ(ゆえ)、全員が普段とは目の色を変えて、これから()(おこな)われる授業に(のぞ)んでいた。

 自分達の決闘者(デュエリスト)としての強さ(レベル)を示す最大の要素・『階級(ランク)』にも関わってくる授業(も の)だから、当然と言えば当然かもしれない。

 

 この学園は、『プロの世界に最も近い』と世評が高いだけあって、トップ争いが特に激しい事でも有名だ。

 ランクが低い生徒(デュエリスト)は、たちまち(とう)()されてしまう。

 デュエルの負け星が重なると、それだけで立場が危ぶまれて、最悪の場合、ランクの降格(こうかく)も有り得る。

 だから、勝ち上がって、誰よりも上位(う え)を目指そうと、誰もが必死なんだ。

 

 何とも緊張感のある校風だけど、ボクは大好きな決闘(デュエル)が出来て、こうして平穏(へいおん)に暮らせるなら、それで良いって思ってる。やるからには楽しまなくちゃね!

 

 同級生の(みんな)は先生の指示を受けて()()りに移動を始め、それぞれ指定された番号が振ってある、長方形の決闘(デュエル)スペースへと足を運んでいく。

 ボクも決闘盤(デュエルディスク)を左腕に付けながら、あらかじめ先生に言い渡されていた、所定の位置に立つ。

 

 今、ボクの前に対峙しているのは、同学年の男子生徒だ。デュエルディスクを装着した左腕を、ボクに向けて突き出している。どうやら彼も、やる気満々(マンマン)みたい。

 

 

 

総角(アゲマキ)!ランク・Aの九頭竜(くずりゅう)に勝ったお前の実力、見せてもらおうじゃねーか!」

 

 

 

 ジャルダン校に転入して、今日で3日目。そろそろ、そういう覚えられ(かた)にも、()れてきちゃったな。

 

 

 

「お手柔らかに」

 

 

 

 それだけ言葉を返してから、ボクはディスクを起動させる。

 やる事は今までと何も変わらない。いつも通り、自分のデュエルをするだけだ!

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 --- 総角(アゲマキ) (セツ)()が授業での決闘(デュエル)奮励(ふんれい)している頃と、同時刻。

 

 学園の校舎内、別の場所でも、一人の青年が決闘(デュエル)を開始していた。

 

 

 

「……話にならないな。この程度で選抜試験に挑むつもりだったのか?」

 

 

 

 青年は(うるし)の様な黒髪(くろかみ)の下に(うかが)える碧眼(へきがん)で、対戦相手の男子生徒を静かに見据(み す)えながら、そう冷たく言い放つ。

 

 

 

「うっ…ぐ…!」

 

「本来のデッキでは瞬殺(しゅんさつ)してしまうからと、わざわざ適当に組んだ低レベルのデッキを使っているのに……俺のライフに、傷ひとつ付ける事も出来(で き)ないとは…」

 

「な…なんだと!?」

 

「もう終わりだ。モンスターで攻撃」

 

 

 

 青年が召喚したモンスターの攻撃によって、男子生徒のライフポイントは(ゼロ)となり、青年の完勝で決闘(デュエル)は決着した。

 

 

 

「……ッ…!」

 

 

 

 手も足も出ないまま完敗した男子生徒は、(ちから)なく(ひざ)を折り、圧倒的な実力差に打ちのめされて、ただ絶句していた。

 

 

 

「お前も失格(・ ・)だな」

 

 

 

 感情の無い冷淡な声色で、その一言を(くち)にした後、青年は(きびす)を返して男子生徒の前から立ち去ろうとする。だが青年(か れ)の足は、不意に停止した。

 

 そこには灰色(グレー)背広(スーツ)を折り目正しく着こなした、年長の男性が立っていた。

 男性は落ち着いた口調で、青年に話しかける。

 

 

 

「…今の決闘(デュエル)で、何人目(・ ・ ・)になるのかね?鷹山(ヨウザン) (カナメ)くん」

 

「……お久し振りです。高御堂(たか み どう)教諭」

 

 

 

 青年こと、鷹山(ヨウザン) (カナメ)は薄く笑みを(たた)えて、眼前に現れた男性の名を、高御堂(たか み どう)と呼んだ。

 

 

 

鷹山(ヨウザン)くん。(きみ)決闘(デュエル)(おこな)ったという生徒達が…次々に『選抜試験デュエル』の参加表明(エ ン ト リ ー)を、辞退していると報告があった」

 

「それは良かった。手ずから間引(ま び)きした甲斐(か い)があったというもの」

 

「……また例の『選別』か?」

 

「そう、選別(・ ・)です。俺は(かれ)()に、(おのれ)の力量を思い知らせてやっているのです。所詮(しょせん)は『選抜試験』を受ける、資格すらも無いとね。大会に弱者をのさばらせる事は、ジャルダン校の名声にも(ドロ)を塗りかねません」

 

「生徒には無限の可能性がある。その可能性の()を、無闇に潰すような真似(ま ね)を、私は教育者として、(かん)()する事は出来ん」

 

「……高御堂(たか み どう)教諭。貴方は結果に(おも)きを置く、ジャルダン校(この学園)()いて、実に珍しいタイプの教師だ。最弱(ランク・E)の生徒も差別せず、分け(へだ)てなく接している。そんな貴方を(した)う者も、逆に、理解の外だと批判する者もいる」

 

「…………」

 

 

 

 (カナメ)は再び歩き出し、高御堂の横を通り過ぎていく。

 

 

 

「俺が今回の選抜試験で、証明してみせましょう。『才能』の無い決闘者(デュエリスト)には、可能性など存在しないということを」

 

 

 

 すれ違い様に不穏な言葉を残して、鷹山 要は今度こそ、この場から姿を消した。

 

 高御堂は遠ざかっていく(カナメ)の靴音を聞きながら、小さく息を吐く。

 

 

 

(……やれやれ…相も変わらず末恐(すえおそ)ろしい男だな、鷹山 要…。…選抜試験が荒れる事にならなければ()いが……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 --- ごきげんよう、セツナです!デュエル開始から、早くも5ターンが経過したよ。

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 1900

 

 男子生徒 LP(ライフポイント) 750

 

 

 

 相手もなかなか()(ごわ)かったけど、この決闘(デュエル)は…ボクが貰った!

 

 

 

「行くよ!【ラビードラゴン】で、プレイヤーに直接攻撃(ダイレクトアタック)!!」

 

「うわぁあーっ!?」

 

 

 

 ボクのエース・モンスターの一撃が決まり、相手のライフポイントが(ゼロ)になった(こと)(しら)せる、ディスクの機械音が鳴った。やったー!何とか勝てたー!

 デュエルが終了した事で、立体映像(ソリッドビジョン)のモンスター達も消失する。

 

 

 

()決闘(デュエル)だったよ。ありがとう!」

 

 

 

「セツナは今日も絶好調みたいね」

 

「おっ、アマネ」

 

 

 

 クラスメートの()(れん)な少女・黒雲(くろくも) 雨音(アマネ)が話しかけて来てくれた。

 彼女も丁度、デュエルを終えたばかりの(よう)で、左腕には赤色(あかいろ)に光る、レッドタイプのデュエルディスクを装着していた。

 ……そう言えば、アマネの決闘(デュエル)って、まだ一度も見た事ないな。

 

 

 

「アマネの方は、どんな感じ?」

 

「さっきの決闘(デュエル)で、3連勝したところ」

 

「うへぇ~っ、凄いや!流石(さすが)は『ランク・B』だね!」

 

「ありがとう。……ねぇ、セツナ?もし良かったら今ここで、私と一戦(いっせん)…」

 

 

 

 アマネが赤い(ひとみ)でボクを真っ直ぐ見つめながら、何かを言いかけた、……その時だった。

 

 

 

「ア~マ~ネ~ちゃーーーん!!」

 

「ひゃあっ!?」

 

 

 

 突然アマネの背後から、何者かが飛び掛かり、彼女の大きな(むね)を、両手で鷲掴(わしづか)みにした。

 

 その正体は、ピンク色のショートヘアが印象深い女の子だった。アマネに負けず劣らず、可愛い顔をしている。

 

 

 

「ンフフ~!今日も()(ちち)ですな~、アマネたん?」

 

「ちょ、こら…!マキちゃん!やめてってば!」

 

 

 

 『マキちゃん』と名前を呼ばれた女の子は、アマネの制止の訴えを無視(スルー)し、張りがあって良い形をしたアマネの(むね)を、楽しそうに気持ち良さそうに、大胆な手付きで遠慮なく()みしだいて堪能(たんのう)している。

 

 

 

(なんと(うらや)ま…けしから……(うらや)ましいぞ!!)

 

 

 

 ボクの脳内で、理性より煩悩(ぼんのう)の方が(まさ)った瞬間であった。

 

 

 

「ほれほれ~どうじゃどうじゃ~?」

 

「んっ、もう…変な(さわ)(かた)しちゃ…や…あん…!」

 

 

 

 アマネの顔が真っ赤に染まり、次第に声も()(いき)()じりで、エロ……色っぽくなってきた。あっ、これはそろそろ離れとかないと、なんかマズイ気がする。

 

 

 

「あ、あはは…じゃあボクは行くから、後は二人(ふたり)で楽しんで…」

 

 

 

 右手を広げて軽く振りながら、そーっと後ろ歩きで退散しようとした瞬間、マキちゃんの目が(するど)い眼光を放ってきたのが分かった。

 

 

 

「特別大サービスだよ転入生くん!」

 

「きゃあ!?」

 

「わあっ!?」

 

 

 

 マキちゃんは元気な声でボクに告げると、アマネの背中を思い切り突き飛ばした。

 当然ボクとアマネは正面から衝突し、ボクは勢いに圧されて、後方へと身体が退()がる。

 

 (さいわ)()ぐ後ろは(カベ)だったので、ボクの背中は壁面(へきめん)にぶつかって止まり、アマネと仲良く床に倒れ込むという事態は()けられた。

 アマネに押し倒されるなら、それも悪くないとか思ったりしたけど、まぁとにかく良かった。

 

 ……でも、新たな問題が浮上した。

 

 ボクは今、アマネの身体を抱き止めている状態なんだけど、先程から、ボクの右手には、むにっと、(やわ)らかい感触が伝わってきている。

 

 恐る恐る、視線を下に落とすと……なんということでしょう。

 アマネの(むね)を、右手で(つか)んで、しっかりと(さわ)って、()んでいるではありませんか!

 

 しかもこれって状況的に、アマネがボクの手に(むね)を押し付けてきてるという…いやいや、何を言ってるの、ボク。

 

 

 

(や、(やわ)らか…!…あっ…女の子って、良いにおいがする…)

 

 

 

 恥ずかしながら、17年の人生で、ここまで異性と密着するという経験が全くと言って良いほど無かったので、そんな変態チックな感想を心中(しんちゅう)(いだ)いてしまっていると、アマネが顔を上げて、ボクと目を合わせた。上目(づか)可愛(かわい)いヤッター。

 

 

 

「い…いっ…!いつまで触ってんのよ!!」

 

「ごふうっ!?」

 

 

 

 アマネは、ボクが彼女の(むね)からずっと手を離さない(離せない)事に気づいて、羞恥(しゅうち)に身を震わせ始めたかと思うと、ボクの脇腹(わきばら)に左の(こぶし)で、ストレート殴打(パンチ)を叩き込んだ。見事に入った(・ ・ ・)ボクは、(たま)らずその場にうずくまる。

 

 

 

「アマネたん相変わらずスッゴいパンチだねー」

 

「こ…んの!変態セクハラ親父(オヤジ)!!そこに直れ!私が成敗してやる!」

 

「ななっ!?現役(げんえき)ピチピチの女子高生を親父(オヤジ)()ばわりとは、これ如何(い か)に!」

 

「デュエルよ!今日こそ叩きのめして…」

 

「んー…あたしも、アマネちゃんと()りたいのは山々なんだけど……ざんねん。先約が出来ちゃったみたい」

 

「え?」

 

 

 

「次!総角(アゲマキ)くんと、()(づき)さん!!ステージに上がってください!」

 

「……あれ……ボクの番…?」

 

「そういうこと。()(づき)ってのは、あたし。フルネームは()(づき) マキノって言うんだ!よろしくね、総角(アゲマキ)くん」

 

「マキノ、で、マキちゃんか。了解!ボクの事はセツナで良いよ。こちらこそ、よろしくね」

 

 

 

 まだ殴られたダメージは残ってるけど、早く行かないと怒られちゃう。ボクはマキちゃんに挨拶(あいさつ)をしてから、早足(はやあし)決闘(デュエル)スペースに直行した。

 

 

 

「アマネちゃん、ごめんね?アマネちゃんが(ねら)ってたセツナくん、横取りしちゃって」

 

「誤解を招く言い方は()めろー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、色々あったけど、気を取り直して決闘(デュエル)に集中しよう。

 ボクとマキちゃんは、互いのデュエルディスクを同時に構えて、臨戦態勢を取る。

 マキちゃんのディスクは髪とお揃いの、ピンク色だった。

 

 

 

「んーじゃ、始めよっか!セツナくん!」

 

「そうだね!」

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 マキノ LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「あたしの先攻!カードを1枚セット!さらに…【()(シン)アーク・マキナ】を召喚!」

 

 

 

()(シン)アーク・マキナ】 攻撃力 100

 

 

 

(…!攻撃力、たった100のモンスターを攻撃表示?……ボクの攻撃を誘ってるのかな…)

 

「あたしはこれで、ターン終了(エンド)!」

 

「ボクのターン、ドロー!」

 

(……おもしろいね。(きみ)(わな)に乗ってあげるよ!)

 

「ボクは【暗黒の竜王(ドラゴン)】を召喚!」

 

 

 

【暗黒の竜王(ドラゴン)】 攻撃力 1500

 

 

 

「バトル!【暗黒の竜王(ドラゴン)】で、【()(シン)アーク・マキナ】を攻撃!」

 

 

 

 竜王は大きく(ひら)いた(くち)から、炎の息吹(い ぶ)きを吐き出す。この攻撃が通れば、マキちゃんのライフは大幅に削れる。

 

 

 

「甘いよ!リバースカード・オープン!(トラップ)カード・【反転世界(リバーサル・ワールド)】!」

 

「ッ!?…なるほど…!そう来たか!」

 

「この(トラップ)の効果により、アーク・マキナの攻撃力と守備力は()()わる!」

 

 

 

【魔神アーク・マキナ】 攻撃力 100 → 2100

 

 

 

(竜王の攻撃力を越えられた…!)

 

「アーク・マキナの反撃!」

 

 

 

 攻撃力の差が逆転した事で、暗黒の竜王は、アーク・マキナとの戦闘に(やぶ)れて、破壊されてしまう。

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 3400

 

 

 

「くっ!…やるね…マキちゃん…!」

 

「アーク・マキナの、モンスター効果を発動!このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時、手札か墓地から通常モンスターを特殊召喚できる!あたしは手札から、【スロットマシーンAM(エーエム)(セブン)】を、特殊召喚!」

 

 

 

【スロットマシーンAM(エーエム)(セブン)】 攻撃力 2000

 

 

 

「げっ!?」

 

「フッフッフ。迂闊(うかつ)な攻撃だったねー、セツナくん」

 

 

 

 もしかして、これは非常にヤバイのでは?とりあえず、()をガラ()きにしてターンを渡すわけには行かない!

 

 

 

「…ボクはカードを1枚()せて、ターンエンド!」

 

「あたしのターン!ドロー!そして、このまま戦闘(バトル)!」

 

(はや)っ!?」

 

「まずは【アーク・マキナ】から、セツナくんに直接攻撃(ダイレクトアタック)!!」

 

 

 

 アーク・マキナの攻撃力は、【反転世界(リバーサル・ワールド)】の効力を受けて、2100にまで上昇している。しかも戦闘ダメージを与えると、新たに通常モンスターをフィールドに呼び出す事が出来(で き)る。

 常識的に考えて、攻撃を()めない理由は無い。

 

 

 

(…………でも、ここは……ライフで受ける!)

 

 

 

(はな)て!『ディストーション・ウェーブ』!!」

 

 

 

 重い衝撃波がボクを襲った。

 

 

 

「うああぁぁっ!!くっ…ッ…!」

 

 

 

 セツナ LP 3400 → 1300

 

 

 

「……なんだ、てっきり伏せ(リバース)カードで対抗してくると思ったのに…ブラフだったのかな?」

 

「…どう…だろうね…それより……アーク・マキナの効果は、使わないのかい?」

 

「フフン、上手(う ま)口車(くちぐるま)に乗せようったって、そうは行かないよ。大方(おおかた)、【激流葬(げきりゅうそう)】みたいな、召喚に反応する(トラップ)でも仕掛けてるんでしょー?」

 

「…!」

 

「お?図星かな?セツナくん」

 

「……はぁ…参ったな…ボクは律儀にマキちゃんの誘いに乗って攻撃したのに、(きみ)はボクの誘いを、あっさりと蹴ってしまうんだね…しくしく…」

 

「まっ、あたしに当たったのが運の尽きだったねー。セツナくんの初・黒星は、この()(づき) マキノが(いただ)くよ!【スロットマシーンAM(エーエム)(セブン)】で攻撃!『プラズマ・レーザー(キャノン)』!!」

 

 

 

 スロットマシーンが高圧電力の光線を発射する。攻撃力は2000ポイント。これを受けたら、ボクの敗北(ま け)だ。

 

 

 

 ……だけど、ボクは不敵に微笑(ほほえ)んだ。ボクの運は、まだ尽きちゃいない!

 

 

 

「誘いを蹴ってくれて、ありがとう!トラップ発動!【コンフュージョン・チャフ】!」

 

「なっ!?」

 

 

 

 ボクがリバースカードを発動した途端、スロットマシーンは攻撃の標的(ターゲット)を、味方(・ ・)のアーク・マキナに変更した。

 

 しかし攻撃力では、アーク・マキナが(わず)かに上。スロットマシーンは(ぎゃく)に撃破されて、墓地へと送られた。

 

 

 

「い…一体なにが…!なんで、あたしのモンスター同士が戦闘(バトル)してるの…!?」

 

(トラップ)カード・【コンフュージョン・チャフ】の効果だよ。2回目の直接攻撃が宣言された時、そのモンスターは、1回目に直接攻撃をしたモンスターと、バトルを(おこな)う!」

 

「くぅ…!」

 

 

 

 マキノ LP 4000 → 3900

 

 

 

「…もし、あたしが素直に、アーク・マキナの効果でモンスターを召喚していたら…?」

 

「そしたら、コンフュージョン・チャフを使っても(ふせ)ぎ切れなかった。多分ボクの負けだったよ」

 

「………フッ…フフフ…!」

 

 

 

 ボクが「あははっ」と、笑っていると、マキちゃんも大声で笑い出した。

 

 

 

「あははははっ!!変わった攻撃の()め方するね!良いよ!面白(おもしろ)くなってきた!あたしはカードを1枚セットして、ターンエンド!」

 

「ボクのターン!」

 

 

 

 ドローしたカードを横目で確認する。

 …おおっ!今日の手札は絶好調だね!

 

 

 

「手札から魔法(マジック)カード・【トレード・イン】を発動!手札の(やっ)(ぼし)モンスターを墓地に捨て、2枚ドローする!ボクは【ラビードラゴン】を墓地へ!」

 

「むっ…!上級レベルの通常モンスターを、墓地に落としたか…!」

 

「さらに【復活の福音(ふくいん)】を発動!この効果で、墓地から【ラビードラゴン】を特殊召喚する!」

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

「やっぱり!早速お出座(で ま)しかー!」

 

「セツナのフェイバリット…!」

 

「まだまだ!手札から【デビル・ドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【デビル・ドラゴン】 攻撃力 1500

 

 

 

「バトルだ!【ラビードラゴン】で、アーク・マキナを攻撃!」

 

 

 

 ラビードラゴンは(きら)めく白銀の光線を、アーク・マキナに向けて(はな)つ!

 

 

 

「行け!『ホワイト・ラピッド・スト…!」

 

「リバースカード・オープン!!」

 

「え"ぇーっ!?ちょ、せめて技名(わざめい)は最後まで言わせてよ!?ボク今、超ダサい奴じゃん!」

 

「トラップ発動!【ライジング・エナジー】!手札1枚をコストに、【アーク・マキナ】の攻撃力を、1500ポイントアップする!」

 

 

 

()(シン)アーク・マキナ】 攻撃力 2100 + 1500 = 3600

 

 

 

(攻撃力3600!?)

 

「またまた返り討ちだね!セツナくん!」

 

「くっ…!墓地の【復活の福音(ふくいん)】を除外する事で、破壊を無効にする!」

 

 

 

 以前、九頭竜(くずりゅう)くんとの決闘(デュエル)で、魔法(マジック)カードを墓地から発動する技術(ワ ザ)を覚えといたのが(こう)(そう)した。

 これで、ラビードラゴンは、フィールドに残存できる!

 

 

 

「でも戦闘ダメージは受けてもらうよ!」

 

「うぅッ…!!」

 

 

 

 セツナ LP 1300 → 650

 

 

 

「そして、ダメージを与えた事により、アーク・マキナの効果が再び発動!手札の通常モンスターを、特殊召喚する!」

 

 

 

【TM-(ワン)ランチャースパイダー】 攻撃力 2200

 

 

 

(今度は攻撃力2200か…!)

 

 

 

 デビル・ドラゴンでは太刀打(た ち う)ち出来ない。

 ここは早々(そうそう)に『バトルフェイズ』を切り上げて、『メインフェイズ(ツー)』に移行しよう。

 

 

 

「……ボクはカードを2枚セットして、ターンエンド…!」

 

「エンドフェイズに、ライジング・エナジーの効果は切れる」

 

 

 

()(シン)アーク・マキナ】 攻撃力 3600 → 2100

 

 

 

「あたしのターン!」

 

(…このターンで【デビル・ドラゴン】を攻撃すれば、あたしの勝ちだけど……あの2枚の伏せカードが曲者(くせもの)だねぇ……除去カード来い!)

 

「ドロー!」

 

(…!やった、キター!)

 

「【トラップ処理班 Aチーム】を召喚!」

 

 

 

【トラップ処理班 Aチーム】 攻撃力 300

 

 

 

「ッ…!(トラップ)を無効化するモンスター…!」

 

「その通り!この決闘(デュエル)もらったァ!【ランチャースパイダー】で、【デビル・ドラゴン】を攻撃!『ショック・ロケット・アタック』!!」

 

 

 

 ランチャースパイダーの頭部から、ミサイルが乱射される。

 

 

 

「速攻()(ほう)・発動!【(そく)(しん)(ぶつ)】!」

 

「えっ!(トラップ)じゃないの!?」

 

「ボクは【デビル・ドラゴン】を、墓地に送る!」

 

 

 

 デビル・ドラゴンがフィールド上から消滅し、その跡地に敵のミサイルが着弾した。

 攻撃対象を見失った【ランチャースパイダー】の攻撃は無効となり、攻撃対象の再選択、いわゆる『巻き戻し』が発生する。

 

 

 

「さぁ、どうする?マキちゃん」

 

「むぅ、セツナくんのイジワル。ラビードラゴンに攻撃力で(かな)うわけないじゃん。ターンエンドだよ」

 

「それじゃ、ボクのターン!ドロー!」

 

(…よし!これなら!)

 

「ボクは【思い出のブランコ】を発動!墓地から【デビル・ドラゴン】を特殊召喚!」

 

 

 

【デビル・ドラゴン】 攻撃力 1500

 

 

 

「そして、デビル・ドラゴンで、トラップ処理班を攻撃!」

 

 

 

 デビル・ドラゴンの吐いた火球が派手(ハ デ)な音を()てて爆裂し、トラップ処理班 Aチームは、跡形も無く消し飛んだ。

 

 

 

「うっ…!しまった…!」

 

 

 

 マキノ LP 3900 → 2700

 

 

 

「これで、処理班は消えた!ボクは(トラップ)カードを発動する!」

 

「うそっ!?このタイミングで!?」

 

伏せ(リバース)カード・オープン!【反転世界(リバーサル・ワールド)】!!」

 

「ええええっ!!あたしと同じカード!?」

 

「もちろん効果は知ってるよね?効果モンスターの【アーク・マキナ】は、攻守(ステータス)が反転する。つまり、元々の数値に戻るんだ!」

 

 

 

【魔神アーク・マキナ】 攻撃力 2100 → 100

 

 

 

「あたしの、アーク・マキナの攻撃力が…また、100に…!」

 

「ラビードラゴンで、アーク・マキナを攻撃!!今度こそ決めさせてもらうよ!『ホワイト・ラピッド・ストリーム』!!」

 

 

 

 二度目の正直!ラビードラゴンの攻撃は、ついにアーク・マキナを捉えた。

 

 

 

「チェックメイトだ…!」

 

「わあぁぁーっ!!」

 

 

 

 マキノ LP 0

 

 

 

「…はうぅ…負けちゃった…」

 

「危なかったー…!もうダメかと思った…」

 

 

 

 (から)くも勝利を(おさ)められた事に安堵して、ホッと胸を()()ろす。

 ギリギリの勝負は確かに楽しいけど、エネルギー消費が凄まじいから、けっこう疲れるね。

 

 

 

二人(ふたり)とも、お疲れさま。見応えのある決闘(デュエル)だったわよ」

 

「あ…アマネ…」

 

 

 

 アマネが普段(いつも)と変わらない笑顔で接してくれたけど、ボクは先刻(さっき)のラッキースケベが脳裏に(よぎ)って、何故(な ぜ)だか目を()らしてしまう。

 

 

 

「?…どうしたの?」

 

「い…いや、なんでも…」

 

「…………フフーン?」

 

 

 

 ボクがドギマギしていると、(となり)に来ていたマキちゃんが急に悪戯(イタズラ)っぽい笑みを浮かべて、ボクの耳元に顔を近づけ、こう(ささや)いてきた。

 

 

 

(どうだったー?アマネちゃんの……おっぱい♡)

 

「!!!?」

 

 

 

 顔が赤くなったのが自分で鏡を見ずとも分かった。マキちゃん…この小悪魔め…!

 

 

 

「じゃ、じゃあ!授業も終わったし!ボクはもう行くねぇー!!」

 

「えっ、セツナ!?どこ行くの!?」

 

「クスクス…かわいいー」

 

 

 

 脇目も振らずに決闘(デュエル)フィールドを走り去ったから、この時のボクは気づいていなかった。

 

 ボクの決闘(デュエル)を観戦していた、黒髪の青年(・ ・ ・ ・ ・)の存在に。

 

 

 

「……あれが総角(アゲマキ) (セツ)()か。……選抜試験まで、楽しみに取っておくつもりだったが……気が変わった。一足(ひとあし)先に、つまみ食い(・ ・ ・ ・ ・)させてもらうとしよう」

 

 

 

 





 ラッキースケベ回でしたー!!楽しかったー!!もっとヤりたい(ゲス顔)誰が何と言おうと今回の最大の見せ場はここです!という意気込みで書きました←
 マキちゃんグッジョブ!

 セツナ vs 要フラグが立ちましたね( °ω°)どうなることやら


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TURN - 6 the VERTEX


 アニメ遊戯王VRAINS ついに始まりましたね!!(今更)

 遊作くんに踏まれたい。罵られたい。すいません何でもないです待って行かないで!!!!



 

 おはよう。本日も晴天(せいてん)なり。

 

 ボクが『デュエルアカデミア・ジャルダン校』に在学してから、4日目の登校日が始まった。

 

 この黒い制服も、そろそろ着慣(き な)れてきたし、新天地での生活リズムにも順応できている。

 最初こそ色々あったけど、現在(い ま)は何とか落ち着いて過ごせてる。

 この調子なら、ここでは(・ ・ ・ ・)上手(う ま)くやっていけそうだ。

 

 黒の学生(カバン)を片手に、鼻歌を(まじ)えながら、すっかり歩き慣れた通学路を渡る。

 

 その道中、街中(まちなか)屹立(きつりつ)するビルの壁に高々と設置されている、大型ディスプレイの画面では、『○月△日、新カードパック発売!』と言う内容のCM(コマーシャル)を、アップテンポなBGMと共に放映していた。

 ボクは(なに)()なく足を止め、その映像を視聴してみる。

 新しいパックか……ボクのデッキにシナジーするカードは収録されているかな?今度、見かけたら買ってみよう。

 

 そんなことを考えながら、ついでに(今日の献立(こんだて)(カニ)クリームコロッケだった気がする。おかわり出来(で き)ないかな)とか心を(おど)らせながら、ボクは再び歩き出して、悠々(ゆうゆう)と学園を目指した。

 

 

 

 (しばら)くして、ようやく学園(目的地)に到着した。

 校舎内の長い(ろう)()を歩いていた時、誰かに後ろから、肩を軽く叩かれた。

 

 

 

「んー?」

 

「おはよ、セツナ」

 

 

 

 振り返ると、赤色(あかいろ)混じりの黒髪(くろかみ)(かぜ)(なび)かせながら微笑(ほほえ)む、可愛(かわい)い女の子と目が合った。

 

 黒雲(くろくも) 雨音(アマネ)

 たぶん今のところ、ボクにとっては(もっと)も仲の()友達(ともだち)だ。

 

 

 

「あぁ、おはよう、アマネ。今日も可愛(かわい)いね」

 

「なにそれー」

 

 

 

 少し気障(キ ザ)っぽい台詞(セリフ)を、挨拶(あいさつ)(あと)に付け加えてみると、アマネに可笑(お か)しそうに笑われた。

 

 

 

「……あっ、セツナ。ネクタイ曲がってるよ?」

 

「ありゃ?ホントだ」

 

 

 

 アマネに指摘された通り、ボクのワイシャツの首元に巻いてある、青いネクタイが微妙にヨレていた。

 気づかなかった。この状態で通学路を闊歩してきたのかと思うと、さすがに少し恥ずかしい気もする。

 

 

 

「ほら、じっとしてて」

 

「えっ?あ…!」

 

 

 

 ボクが自分で直そうとするより早く、アマネの綺麗な両手がボクの胸元に伸びてきて、手慣れた様子で、ネクタイを締め直してくれた。

 

 ……昨日、事故とは言え、アマネにラッキースケベをやらかしてしまった(けん)もあって、その(かん)ずっと彼女の(むね)に視線が引き寄せられていたのは()(みつ)です。

 いやいや、許してくれ。ボクだって思春期(?)の男子なんだよ。

 

 

 

「はい出来(で き)た。行こっか」

 

「あ…うん。ありがとう」

 

(本当に気が()く子だなぁ…アマネって)

 

 

 

 ネクタイの手直しが終わると、ボクはアマネにお礼を言った。正直、嬉しくて口元(くちもと)(ゆる)みそうになったけど、どうにか(こら)えた。

 

 その()二人(ふたり)で適当に談笑しながら、高等部2年の自分達の教室まで、一緒(いっしょ)に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さて、今日も一日(いちにち)平穏(へいおん)に生きられますように」

 

 

 

 ボクは辿(たど)り着いた教室の前で、そんな独り言を(つぶや)く。

 そうしてから、廊下と室内を(へだ)てる自動ドアを開き、入室した。

 

 

 

(みんな)おはよー!……あれ?」

 

 

 

 元気よく声を上げながら辺りを見渡した時、ボクは何かの()()(かん)に気づいた。

 どう言表(ことあらわ)すべきか…教室の空気が今までと何処(ど こ)か違う。

 クラスメート達は(みょう)にザワついているし、表情も、見るからに(おだ)やかじゃない。

 全体的に緊張状態と言ったところだ。

 ……今日って、筆記テストとか無かったよね?

 

 

 

「……お、おい…どうすんだよ…」

 

「なんで……あの男(・ ・ ・)が2年の教室に…!」

 

 

 

 ボクの手前で、二人の男子が小声で会話しているのが聞こえた。彼等(かれら)に尋ねてみるか。

 

 

 

「ねぇ(みんな)どったの?」

 

「「!?」」

 

「あ、総角(アゲマキ)!?」

 

「つ、ついに来てしまったか…!」

 

「???」

 

 

 

 二人はボクの顔を見るなり、オーバーリアクションで驚愕(きょうがく)した。それはもう、椅子(イ ス)から転げ落ちそうなぐらい(おお)袈裟(げ さ)に。

 ボクは全く(わけ)が分からず、頭の上に()(もん)()を、(みっ)つも浮かべていた。

 

 

 

「なになに?ボク(なに)かしたの?」

 

 

 

 そりゃあ、授業中に寝入(ね い)ってしまう事は多々(た た)あるけれど、(ひと)クラスをここまで剣呑(けんのん)な空気にしてしまう程の悪事なんて、仕出(し で)かした覚えは断じて無い!……はず。

 

 ボクが内心(ないしん)不安がってると、男子の一人が室内の奥を指さしながら、青い顔で、こう言った。

 

 

 

「お前の席…見てみろ…」

 

「席?…………!」

 

 

 

 言われた通りに自分の席を見てみると……

 

 

 

「……(だれ)?」

 

 

 

 本来であれば、ボクが使わせてもらっている、その席に、見知らぬ青年が()物顔(ものがお)(すわ)り込んで、小説らしき本を黙々(もくもく)()(ふけ)っていた。

 

 青年の特徴は、黒髪(くろかみ)青色(あおいろ)(ひとみ)

 目鼻立ちの整った、美形の色男だった。

 よほど読書に集中しているのか(ほとん)ど表情を動かさないし、一言(ひとこと)(しゃべ)らない。

 その静謐(せいひつ)(たたず)まいからは、クールでミステリアスな雰囲気が(かも)し出されていた。

 

 

 

「なっ…!鷹山(ヨウザン) (カナメ)!?どうして、あの人がここに…!?」

 

 

 

 同じく青年の存在を()(にん)したアマネが目を見開いて、一驚(いっきょう)した。

 

 鷹山(ヨウザン) (カナメ)。それが彼の名前らしい。

 

 

 

「アマネ、知ってるの?」

 

「知ってるも何も……ランク・Aの生徒にして、学園最凶(・ ・)決闘者(デュエリスト)よ…!」

 

 

 

 なるほど、最上位(ランク・A)か……あれ?

 

 

 

「最()って、九頭竜(くずりゅう)くんじゃないの?」

 

鷹山 要(あ の 人)の場合は『最凶(さいきょう)』なの」

 

「……なるほどね」

 

 

 

 ボクが言葉の意味を理解し、納得している横で、アマネは神妙な顔つきのまま、話を続ける。

 

 

 

鷹山(ヨウザン) (カナメ)……この学園で、中等部1年生の頃から、現・高等部3年に上がるまで、一度も決闘(デュエル)で負けた事が無いという、(ジャルダン)の生ける伝説よ。あまりの強さに(かれ)決闘(デュエル)をした者は、心を折られて二度と決闘(デュエル)が出来なくなる。学園の生徒だけでなく、プロの世界でも恐れられている……通称・(もっと)()(けん)決闘者(デュエリスト)…!」

 

「……うへぇ、おっかないね……で、どうしてそんな超人さんが…ボクの席に()()り返ってるの?教室まちがえたとか?」

 

「もしかしたら、セツナの(うわさ)を聞きつけて来たのかも……悪いことは言わない。関わらない方が良いわ」

 

「…………そうしたいところだけど、このままじゃボクが授業を受けられないからね」

 

「セツナ…!?」

 

 

 

 足を前に踏み出して、ボクは自分の席へと歩み寄っていく。周囲のざわめきが更に()した。

 どういうつもりかは……まぁ大体は察してるけど、とにかく、あの人との接触は()けて通れなそうだ。

 何時(い つ)までも席を占拠されてたら、ボクも困るしね。

 

 

 

「はじめまして」

 

 

 

 ボクは柔和な笑顔を見せて、青年・鷹山 要に声をかける。

 

 それに対して数秒間、無反応だった彼だが……おもむろに、(ひら)いていた小説を優しく閉じて、微笑(びしょう)しながら返答してくれた。

 

 

 

「……遅い登校だな。待ち()ねたぞ、総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)

 

 

 

 ()(せい)(てき)な口調で(しゃべ)りつつ、彼は席を立った。

 体格は長身(そう)()で、ボクより()(たけ)が数センチ高かった。

 付け加えて説明しておくと、ボクの身長は172センチ。

 

 彼の双眼(そうがん)が揺らぐ事なく、ボクを射抜(い ぬ)くかの(よう)に見つめてくる。

 心の底まで、全てを見透(み す)かされてしまいそうな……そんな錯覚(さっかく)(おちい)り、冷や汗が(ほほ)を伝った。

 

 

 

「まだ始業には()(ゆう)あるでしょ」

 

決闘(デュエル)だ。早く準備をしろ」

 

(はなし)の流れおかしい!!」

 

 

 

 彼は、(あお)に染まった『ブルータイプ』の決闘盤(デュエルディスク)を左腕に装着して、いきなり決闘(デュエル)を申し込んできた。

 そんなことだろうとは予測してたけど、にしても文脈ぶった切り過ぎでしょう!?

 もしや、この人……他人(ひ と)の話を聞かない性格(タイプ)

 

 

 

「……デュエルなら、いつでも大歓迎だけど、まず君の名前が知りたいな」

 

「もう(すで)に聞いているだろう」

 

 

 

 どうやら素直に名乗るつもりは無いみたいだ。

 ここでボクは、(かれ)の顔の前に、ビシッと人差し指を立てた。

 

 

 

「自己紹介は大切だよ?どこかの(だれ)かさん」

 

 

 

 強気に()んで、そう言い放つ。

 

 

 

((((なに挑発してるんだぁぁぁ!!あのアホはぁァァァァッ!!!?))))

 

 

 

 という、クラスメート一同(いちどう)の悲鳴が聞こえた気がしたけど、気にしない。

 

 

 

「……フッ、おもしろい男だな。良いだろう、俺の名は鷹山(ヨウザン)鷹山(ヨウザン) (カナメ)だ」

 

「カナメ…ね。覚えたよ」

 

 

 

 彼は…カナメは、自分の名前を(くち)にした(あと)、ふと思い立った(よう)に、教室の(まど)を全開にした。

 強い風が入り込んできて、ボクの銀髪(ぎんぱつ)(あお)られる。

 

 

 

教室(こ こ)では決闘(デュエル)するには相応(ふさわ)しくない。移動するぞ」

 

 

 

 言いながら、カナメは窓枠(まどわく)の敷居レールの上に足を掛けて、勢いよく身を乗り出した。

 それから……

 

 

 

「ついてこい」

 

 

 

 と、一言。そして何の躊躇(ちゅうちょ)もなく、窓から飛び降りた。

 

 カナメの姿が視界から消える。

 余談だけど、ここ、4階です。

 

 

 

「……どうするの?」

 

 

 

 アマネが問いかける。ボクの答えは決まっていた。

 

 

 

「行ってくるよ」

 

 

 

 それだけ言って、ボクはカナメを追いかけるように、窓の外へ飛び出した。

 

 上階から空中に飛翔したボクの身体は、重力に従って真下へと、一直線に下降していく。

 

 そのまま地面に着地して顔を上げると、カナメがデュエルディスクを構えながら()(おう)()ちして、ボクを待っていた。

 

 

 

「さぁ始めるぞ、総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)!」

 

「セツナで良いよ。楽しい決闘(デュエル)を……あれ?」

 

 

 

 左腕を一瞥(いちべつ)して、ボクは大変な事に気づいた。

 

 

 

(げっ!?ボク、ディスク付けてない!もしかして教室に忘れてきた!?)

 

 

 

 そう、ボクの左腕は完全に無防備(フリー)だった。ディスクが()いんじゃ、決闘(デュエル)なんて出来ない。

 やってしまった…!よりにもよって、決闘者(デュエリスト)にとっての(けん)である、デュエルディスクを置き忘れるなんて…!

 どうしよう。今から(もう)ダッシュで、4階の教室まで引き返す?

 ()(はや)それしかないのは分かってるけどさ……散々(さんざん)カッコつけといて、なんか()(チャ)()(チャ)カッコ悪いぞ、ボク。

 

 

 

「セツナ!!」

 

 

 

 ()(うえ)から、アマネの声が耳に届いたと思ったら、ボクの手元に(いと)しのホワイトタイプ・デュエルディスクが降ってきた。

 上手いこと受け取って、教室の方を見上げると、アマネが(まど)()しに、こちらを見下(み お)ろしていた。

 

 

 

「全く、もう……()まらないわね!」

 

「あはは……ありがとう!アマネ!」

 

 

 

 アマネが投げ渡してくれたディスクを左腕に装着する。

 これで準備は完了。気を取り直して、カナメとの決闘(デュエル)(のぞ)む。

 

 

 

「やぁやぁ、お待たせ」

 

「……お前は九頭竜を(くだ)す程の決闘者(デュエリスト)だ。いつもならサブのデッキを使うが……」

 

 

 

 カナメは右手に(ひと)つのデッキを(たずさ)え、それをディスクにセッティングした。

 

 

 

「特別に、俺の『本来のデッキ』で相手をしてやろう」

 

 

 

 彼が宣言した途端、上の教室が急に騒々(そうぞう)しくなった。

 

 

 

「マジかよ!あの鷹山 要の本来の(・ ・ ・)デッキ!?」

 

「まさかこんなところで拝めるなんて…!」

 

「ちょ、押すな押すな!落ちる!」

 

 

 

「……セツナ…気をつけてね…」

 

 

 

 本来のデッキか…つまりは、それだけボクの事を評価してくれてるってわけかな。だとしたら…

 

 

 

「嬉しいね」

 

「それと、もうひとつ。ハンデを付けさせてやる」

 

「ハンデ?」

 

「このデュエル、俺に1ポイント(・ ・ ・ ・ ・)でもダメージを(あた)えられたなら、お前の勝利(しょうり)で良い」

 

「ッ!?」

 

 

 

 普通に考えて(あま)りにも重すぎるハンデだ。

 バーンカード1枚で決着してしまう。

 そんな不利な条件を、わざわざ自分に課すなんて、よっぽど実力に自信と自負があるのか。

 

 

 

「……無傷(ノーダメージ)で、ボクを倒すつもり?…後悔しても知らないよ」

 

「あぁ、ぜひとも俺を後悔させてくれ。出来(で き)るものなら、な」

 

「ッ…!」

 

 

 

 おっと、いけない。熱くなるな、総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)よ。深呼吸、深呼吸。

 

 

 

「……期待に(こた)えられるよう、(がん)()るよ」

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 カナメ LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「ボクの先攻(ターン)!」

 

 

 

 先攻はボクに決定した。まずは最初に引いた、5枚の手札を確認する。

 

 

 

(……(しょ)()に【ラビードラゴン】と【ミンゲイドラゴン】。それに【二重召喚(デュアルサモン)】か……)

 

 

 

 悪くない…どころか最高の初手だ。

 早速ボクのデッキの切り札(エース)・【ラビードラゴン】が来てくれた!

 

 【ミンゲイドラゴン】は、ドラゴン族をアドバンス召喚する時、このモンスター1体で、2体分のリリース要員に出来る。

 そして【二重召喚(デュアルサモン)】は発動したターン、通常召喚を、2回まで(おこな)える。

 

 

 

(…【ミンゲイドラゴン】を召喚したあと【二重召喚(デュアルサモン)】を発動して、【ラビードラゴン】をアドバンス召喚すれば…早くも決闘(デュエル)の主導権を握れる!)

 

 

 

 そうと決まれば!と、ミンゲイドラゴンのカードに手をかけた時、ボクは何かを躊躇(ためら)って、ピタッと手の動きを()めた。

 

 

 

(でも……もし、カナメが除去カードを出してきたら…?)

 

 

 

 万が一、ここで召喚した【ラビードラゴン】を、返しのターンで相手(カナメ)に、()(かい)除外(じょがい)されたりしたら、ただ手札を3枚も消費しただけの、ディスアドバンテージで終わってしまう。

 

 オマケにモンスターが()なくなれば、相手に直接攻撃の好機(チャンス)まで与えかねない。

 

 攻撃が許されていない先攻1ターン目に、いきなり上級モンスターを召喚しても、相手は(いく)らでも対策を取れる。

 

 カナメがどんなデッキで、どんな戦術(タクティクス)()り出すのか()かっていない以上、今は敵の()(かた)(うかが)って、慎重に様子を見るべきか?

 

 

 

「……ッ…!」

 

(…ダメだ…!やっぱり危険すぎる…!)

 

「ボクはモンスターをセット!さらに1枚カードを伏せて、ターン終了…!」

 

 

 

 ミンゲイドラゴンを裏側守備表示で場に出して、念のため伏せ(リバース)カードもセットしておいた。

 

 

 

(ミンゲイドラゴンは墓地に送られても、ボクのターンに特殊召喚できる。これで、もしカナメの攻撃を受けてミンゲイドラゴンが破壊されても、まだ【ラビードラゴン】を召喚するチャンスはある!)

 

 

 

(……セツナにしては(めずら)しく、教科書(セオリー)(どお)りの1ターン目ね…。手札にエース・モンスター(ラ ビ ー ド ラ ゴ ン)を呼び出せる環境は揃ってたのに……流石(さすが)のセツナも、相手が鷹山(ヨウザン) (カナメ)だと、慎重になるのかしら…)

 

 

 

(よう)()()とは堅実な事だな。だが…そんな及び腰では、俺を(たの)しませるには程遠(ほどとお)いぞ。総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)

 

「…………」

 

「俺のターン。俺は手札を1枚、墓地へ送り、【炎帝(えんてい)()(しん)ベルリネス】を、特殊召喚!」

 

 

 

炎帝(えんてい)()(しん)ベルリネス】 攻撃力 800

 

 

 

「さらに【ベルリネス】をリリースし、【炎帝(えんてい)テスタロス】を、アドバンス召喚!」

 

 

 

炎帝(えんてい)テスタロス】 攻撃力 2400

 

 

 

「くっ…いきなり強力なモンスターを…!」

 

「墓地の【ベルリネス】の、効果を発動!このカードがアドバンス召喚の為にリリースされた時、相手の手札を確認する」

 

「なっ!?」

 

「そして、その中から1枚を選択し、エンドフェイズまで除外できる。さぁ見せてもらおうか!お前の手札を!」

 

 

 

 そんな効果があったとは…ボクは仕方なく、今ある3枚の手札を、全て相手に公開した。

 

 

 

「……なるほどな。【エレメント・ドラゴン】に【二重召喚(デュアルサモン)】。それと、【ラビードラゴン】か」

 

(うぅ…手札を見られるのって、なんか恥ずかしいな…)

 

「ならば俺は、【二重召喚(デュアルサモン)】を除外する!」

 

 

 

 カナメの指定したカードを、ゲームから取り(のぞ)く。

 どうせ、ターン終了と同時に戻ってくるのだから問題は無いけど、カナメに手の内を知られてしまったのは(いた)()だ。

 

 

 

「まだ終わりではない。【炎帝テスタロス】の効果発動!アドバンス召喚に成功した時、相手の手札をランダムに1枚、墓地に送る」

 

「また手札を…!?」

 

 

 

 テスタロスの効果で、手札の【エレメント・ドラゴン】が墓地に捨てられてしまう。

 

 

 

「それだけじゃない。捨てさせたカードがモンスターカードだった場合、そのレベル ×(かける) 100ポイントのダメージを、相手プレイヤーに与える」

 

「!」

 

「【エレメント・ドラゴン】のレベルは『4』。よって、400ポイントのダメージだ!」

 

「ぐう…っ!?」

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 3600

 

 

 

 ライフを先に減らされたか。だけど、運よく【ラビードラゴン】は手札に残った。

 このターンで【炎帝テスタロス】に破壊されるだろう【ミンゲイドラゴン】を、次のターンで復活させて、ラビードラゴンを召喚する!

 

 

 

「俺は更に、手札から魔法(マジック)カード・【二重召喚(デュアルサモン)】を発動する!」

 

「なっ…!ボクと同じカードを!?」

 

「これにより、俺は通常召喚を、もう(いち)()だけ(おこな)う事が出来る。【炎帝テスタロス】をリリース!」

 

(まさか…!またアドバンス召喚を…!?)

 

 

 

降臨(こうりん)せよ!【(ばく)(えん)(てい)テスタロス】!!」

 

 

 

 ()(れん)の炎を(まと)いながら、新たな帝王がフィールド上に顕現(けんげん)した。

 

 

 

(ばく)(えん)(てい)テスタロス】 攻撃力 2800

 

 

 

「ッ!…レベル8のモンスターを、リリース1体で召喚した…!?」

 

「【爆炎帝テスタロス】は、アドバンス召喚したモンスター1体のリリースで、アドバンス召喚が可能。そして、このモンスターにも、召喚時に発動する()(どう)効果がある」

 

「!!」

 

「相手の手札を確認し、1枚を墓地に捨てる!…最も、お前のその残り1枚の手札は、【ラビードラゴン】である事はもう(わか)っている」

 

 

 

 手札の【ラビードラゴン】のカードが炎に包まれて、焼失した。

 

 

 

「しまった…!」

 

 

 

 最後の1枚を(うしな)って、とうとうボクの手札は(ゼロ)になってしまった。

 

 

 

「さらに!この効果で墓地に送ったカードがモンスターだった時、そのレベルの数 × 200ポイントのダメージを与える!」

 

「…!ラビードラゴンのレベルは8…!」

 

「よって、1600ポイントのダメージを受けてもらう!」

 

「うああぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 セツナ LP 3600 → 2000

 

 

 

「まだだ!【爆炎帝テスタロス】が炎属性をリリースして召喚された場合、このダメージに(プラス)1000ポイントの、追加ダメージが発生する!」

 

「うっ…ぐ…!?」

 

 

 

 間断(かんだん)なく放たれた、追撃の火炎放射がボクを焼き尽くした。

 

 

 

「ぐあああああああっ!!!」

 

 

 

 セツナ LP 2000 → 1000

 

 

 

「セツナのライフが…1ターンで、3000も削られた…!?」

 

 

 

「はぁ…はぁ…!」

 

「バトル。爆炎帝テスタロスで、セットモンスターを攻撃!『エンペラー・エクスプロージョン』!!」

 

 

 

 球状の巨大な炎が撃ち込まれて、けたたましい爆発音を(ひび)かせながら炸裂した。

 

 

 

「うぅぅッッ…!!」

 

 

 

 攻撃を受けた裏守備(セ ッ ト)モンスター・【ミンゲイドラゴン】は、一瞬で(チリ)()して消え去り、爆風がフィールド全体に吹き荒れる。

 

 

 

「……俺はカードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 

「くっ…!」

 

「エンドフェイズに、【炎帝家臣ベルリネス】の効果で除外していたカード・【二重召喚(デュアルサモン)】がお前の手札に戻る」

 

「………!」

 

「…お前には失望した」

 

「…なにを…」

 

「【ミンゲイドラゴン】に【二重召喚(デュアルサモン)】。その2枚を駆使すれば、高レベルモンスターの【ラビードラゴン】を、前のターンで召喚できていた(はず)だ。だが……お前は俺の動きを必要以上に警戒し、その(こう)()を見す見す(のが)した。違うか?」

 

 

 

 うぐぐっ。違わないし、返す言葉も無い。

 確かに、1ターン目で【ラビードラゴン】を召喚していたなら……少なくとも、ここまで一方的に追い詰められる事はなかったかも知れない。

 

 結局、切り札を切るタイミングを先送りにした為に、こうして肝心の手札を奪われた上、絶体絶命の窮地に追い込まれてしまう結果となった。

 

 

 

(…『リスクを恐れて何もしない事こそが最大のリスク』……分かっていた(はず)なのに…ね……)

 

 

 

(あと)1ターンだけ、お前にチャンスをやる。このターンで、俺を(たの)しませてみせろ」

 

「……ボクのターン……は、ちょっと待って」

 

「?」

 

 

 

 デッキからカードをドローする前に、一旦ボクは、肩の(ちから)を抜く事にした。

 脱力し、深く息を吸って、ゆっくりと息を吐く。

 

 そうして呼吸と心拍を落ち着かせ、リラックスした(つぎ)は、掛けていた赤縁(あかぶち)眼鏡(メガネ)を取り外して()(がん)になり、集中モード(・ ・ ・ ・ ・)に入る。

 

 

 

「……うん。待たせたね、ここからが本番だよ!」

 

「…ほう…」

 

(この男…メガネを外したら、急に雰囲気が変わったな)

 

 

 

 もう大丈夫。無駄な(りき)みは解消された。

 

 そうだ。相手が誰であろうと、全身全霊を持って、自分の決闘(デュエル)をすれば()い。

 

 

 

(そして……勝つ!!)

 

「では(あらた)めて、ボクのターン!ドロー!」

 

(-!来たッ!やっぱり、いつも通りにやれば、ボクのデッキは(こた)えてくれる!)

 

「このスタンバイフェイズ!ボクの場にモンスターが居ない時、墓地の【ミンゲイドラゴン】を特殊召喚できる!」

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 400

 

 

 

「さらにリバースカード・オープン!(トラップ)カード・【無謀な欲張り】!ボクはカードを、2枚ドローする!」

 

「だがその代償として、お前は今後2ターンの間、ドローフェイズがスキップされる。苦肉の策だな」

 

「…いいや、勝利への活路だよ!ボクは手札から、【(りゅう)尖兵(せんぺい)】を召喚!」

 

 

 

(りゅう)尖兵(せんぺい)】 攻撃力 1700

 

 

 

「続いて手札より、【二重召喚(デュアルサモン)】を発動!」

 

「二度目の召喚(けん)を得たか。さて、次は何を見せてくれるんだ?」

 

「ミンゲイドラゴンは、ドラゴン族モンスターをアドバンス召喚する時、1体で2体分のリリースに出来る!」

 

「なるほど。新たな上級ドラゴンを引き当てたか」

 

「ボクは【ミンゲイドラゴン】をリリースし、【ダークブレイズドラゴン】を、アドバンス召喚!!」

 

 

 

【ダークブレイズドラゴン】 攻撃力 1200

 

 

 

「……何が出るかと思えば…レベル7で攻撃力1200程度のモンスターだと?」

 

「確かに、ダークブレイズ単体じゃあ、君の【爆炎帝テスタロス】には敵わない。でも他のカードとの連携で、ボクのドラゴン達は、更なる(ちから)を発揮する!魔法(マジック)カード発動!【ユニオン・アタック】!」

 

「!」

 

「竜の尖兵の攻撃力を、このターンのみ、ダークブレイズドラゴンの攻撃力に加える!」

 

 

 

【ダークブレイズドラゴン】 攻撃力 1200 + 1700 = 2900

 

 

 

「攻撃力が【テスタロス】を上回ったか…!」

 

「これがボクの決闘(デュエル)だ!!行け、ダークブレイズドラゴン!『バーンズダウン・ヘルファイア』!!」

 

 

 

 地獄の(ごう)()は、炎を(つかさど)る帝王すらも、灰塵(かいじん)()す!

 

 

 

「……ッ!やるな、爆炎帝(ばくえんてい)を焼き尽くすとは…!だが【ユニオン・アタック】の効果で、俺に戦闘ダメージは無い!」

 

戦闘ダメージ(・ ・ ・ ・ ・ ・)は……ねっ」

 

「…何が言いたい?」

 

 

 

 テスタロスが粉砕した後の、立ち込める爆煙(ばくえん)を吹き飛ばして、ダークブレイズドラゴンが咆哮(ほうこう)(とどろ)かせながら、その姿を現した。

 

 

 

「これは…!」

 

「ダークブレイズドラゴンが相手モンスターを戦闘で破壊した時、そのモンスターの攻撃力分の、効果ダメージ(・ ・ ・ ・ ・ ・)を相手に与える!」

 

「!!」

 

 

 

「そうか…!【ユニオン・アタック】は戦闘ダメージは(ゼロ)にしてしまうけど、効果ダメージなら与えられる!考えたわね、セツナ…!」

 

 

 

 これまで、ずっと余裕綽々で、()ました表情(か お)をしていたカナメだったけど、(つい)(かれ)の顔色を変える事が出来た。

 

 

 

「…ダークブレイズドラゴンの効果……発動!」

 

 

 

 - ブレイジング・ストーム!! -

 

 

 

 燃え盛る火柱がカナメを飲み込んだ。

 

 

 

「スゲー!総角(アゲマキ)の奴、鷹山(ヨウザン)の『(みかど)』モンスターを倒したぞ!」

 

「しかもダメージを与えたって事は…!」

 

「この決闘(デュエル)…自分にハンデを課した鷹山の…負け…!?」

 

 

 

 4階の教室が再び盛況する。ハンデか…言われてみれば確かにそうなるけれど…

 

 

 

「!?」

 

 

 

 突如、炎の中から一筋(ひとすじ)の光線が放出され、ボクの身体を(つらぬ)いた。

 

 

 

「がっ…!」

 

 

 

 ボクは糸の切れた人形の様に、その場に崩れ落ちる。地面に片膝(かたひざ)を突き、何が起きたのかも把握できず、ただ項垂(うなだ)れた。

 

 

 

 セツナ LP 0

 

 

 

「セツナ!?」

 

 

 

 アマネが驚いた声で、ボクの名を呼んだ。

 

 ……ライフポイントが(ゼロ)になった。つまり、ボクは負けたんだ。

 

 でも、一体なぜ?敗北したことは事実として受け入れる。けど、カナメはどんな方法で、ボクにダメージを?

 

 やがて、カナメの姿を覆い隠していた煙が晴れる。

 カナメはデュエル開始時と変わらず、そこに平然と立ち続けていた。

 

 

 

「…これがお前の決闘(デュエル)か。見届けたよ」

 

「…!?」

 

 

 

 カナメ LP 4000

 

 

 

「ライフが…減ってない…!?」

 

「惜しかったな。俺は【ダークブレイズドラゴン】の効果に対し、このリバースカードを発動していた(・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

 

 

 顔を上げ、目を()らして注視すると、カナメのフィールドでは、1枚の(トラップ)カードが表側表示になっていた。そのカードは…

 

 

 

「…【リフレクト・ネイチャー】…?」

 

「そうだ。このカードは効果によるダメージを、相手プレイヤーに()(かえ)す」

 

「……そういう…こと……」

 

 

 

 ダークブレイズドラゴンの効果ダメージ(ブレイジング・ストーム)を、ボクに反射させたってわけか。

 ()(かつ)だった。リバースカードの警戒を、完全に(おこた)っていた。

 

 

 

「…完敗…かぁ…」

 

 

 

 全身の力が抜けてしまったみたいだ。

 ボクは制服が汚れるのも構わず座り込み、空を見上げて、苦笑した。

 

 すると、カナメがボクの目前まで近づいてきた。

 

 

 

「見込み違いだった……と、言いたいところだが…お前は俺の予想を(くつがえ)すプレイングで、【爆炎帝テスタロス】を(ほうむ)ってみせた。その実力は評価に(あたい)する」

 

「……ご期待に()えたかな?」

 

「フッ…次に闘える日を楽しみにしているぞ、総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)

 

 

 

 そう最後に言い残して、カナメは立ち去っていった。

 ほんと、立ち(ふる)()いも言動も、(てっ)(とう)(てつ)()でクールな人だったなぁ。

 

 

 

「……そろそろ戻らないとね。授業が始まっちゃう」

 

 

 

 ボクはゆっくりと立ち上がって、ズボンに付いた土埃(つちぼこり)を手で払いながら、教室に急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……いつも以上に授業の内容が頭に入ってこないまま、気づけば(ほう)()()(むか)えていた。

 現在、教室の中には、ボク一人だけが残っていた。他には誰も居ない。

 十数分前までは、クラスメートの皆が帰宅の準備に取り掛かったり、卓上で、ディスクを使わない普通の決闘(デュエル)をして遊んでいたりと、バタバタしていたけど、今はそんな活況(かっきょう)も鳴りを(ひそ)め、教室は怖いくらいの静寂に包まれている。

 

 ボクはと言うと、何となくまだ帰る気に…というか動く気分にすらなれなくて、自分の席に腰を落ち着け、窓の外を茫洋(ぼうよう)と眺めていた。

 

 (うわ)(そら)で、机に頬杖(ほおづえ)をついていたボクの耳に、教室の扉が開く音が聞こえた。

 

 

 

「いつまで黄昏(たそがれ)てるのよ」

 

「…アマネ…」

 

 

 

 てっきり先に帰ったと思ってた。

 

 

 

「どうしたの?忘れ物?」

 

「そうね、忘れ物」

 

 

 

 アマネはボクの、()(うし)ろの席に座った。

 何を隠そう、そこが彼女の席だからだ。

 

 ……ほんの少しの沈黙を挟んで、アマネが会話を切り出した。

 

 

 

「よっぽど悔しいみたいね。負けたのが」

 

「……ははっ、そりゃあ、ねぇ」

 

 

 

 ストレートに心の傷を(えぐ)られて、思わず笑いが(こぼ)れた。

 

 

 

「……あれだけ(かん)()なきまでに叩きのめされたのは初めてだよ。本当、手も足も出なかった…」

 

「…………」

 

 

 

 デュエルを始めて、決闘者(デュエリスト)になって…敗北を経験したのは別に今回が初めてじゃない。今日までに、もう何百回と負けてきてる。

 

 ただ流石(さすが)に…あそこまで厳然(げんぜん)(ちから)の差を思い知らされてしまうと、感傷も一入(ひとしお)で身に()みる。

 

 

 

「世の中って広いね…あーあー、悔しいよー」

 

 

 

 譫言(うわごと)口走(くちばし)りながら、上半身を大きく()()らせると、椅子(イ ス)が後方に(かたむ)き、逆さまになった頭の天辺(てっぺん)が背後に置いてあるアマネの机にぶつかった。

 その拍子に、掛けているメガネが(ひたい)の方へと、ずり落ちそうになってしまう。

 

 あっ、ヤバイと思ったとき、アマネが右手の人差し指で、メガネのブリッジ(真ん中の部分)を押さえつけ、そのままクイッと(うえ)()げて、元の位置に戻してくれた。

 

 

 

「でも……セツナはここで折れる決闘者(デュエリスト)じゃないでしょ?」

 

 

 

 笑みを浮かべて、アマネはそう言った。

 

 ボクは両目を数回パチクリさせた後、同じように笑って身体を起こし、跳ね上がる様に()(せき)した。

 

 

 

「当たり前だよ。次はボクが勝つ」

 

 

 

 普段は『平穏(へいおん)主義』をモットーにしているくせに、カナメとの再戦を、待望(たいぼう)している自分がいる。これが決闘者(デュエリスト)(サガ)というやつだろうか。

 

 

 

「なら、選抜試験に出てみたら?リベンジするには良い機会かもよ」

 

「選抜試験…?」

 

 

 

 なるほど、その手があったか。きっと…いや、まず間違いなく、カナメも試験(そ れ)に参戦するだろう。

 

 

 

「……分かった。やってみるよ」

 

「あぁ(ちな)みに、エントリーの締め切り、今日までだから」

 

「ウェェェェッ!?早く言ってよー!!」

 

 

 

 驚きのあまり、声が裏返った。こうしちゃいられない!

 

 ボクは『選抜デュエル大会』の参加表明(エ ン ト リ ー)を申請するべく、全速前進で教室を走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…クスッ、ごめんねセツナ。今日までってのは(うそ)。これで、また(ひと)つ楽しみが増えたわ」

 

 

 

 





 というわけで、セツナの初めての敗北回でした!あんまり絶望感ないね!?

 セツナ(主人公)と、アマネ(ヒロイン)の絡みを書くのが楽しすぎて、その内デュエル無しで、ひたすら二人をイチャイチャさせる話とかも書きかねない…!

 うそです。ちゃんとデュエルもさせます!((o(°ω°)o))

 感想など、お待ちしております(о´∀`о)


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TURN - 7 Little Writer


 しばらく日常回が続くので、お話のリクエストを募集してみようかと思います!( °∀°)

 詳しくは、活動報告をご覧ください!

 コメントお待ちしております!



 

「ソウカドさん!ぜひ取材(しゅざい)をさせてほしいのです!!」

 

「…………()?」

 

 

 

 黒縁(くろぶち)の丸メガネを掛けた、黒髪ショートの女の子に、突然そう呼び止められた。

 

 数瞬ポカンとしていたボクだったけど、念のため辺りを見回してみる。

 この渡り廊下には現状、ボクと女の子しかいない。

 どうやら彼女が言う『ソウカド』とは、ボクの事らしい。

 そもそも、こんな至近距離で声をかけられた時点で、それ以外の可能性なんてなかったか。

 

 

 

「えーっと……ボクは総角(アゲマキ)って名前なんだけど…」

 

「ふあっ!?ご、ごめんなさいなのです!間違えたのです!」

 

 

 

 女の子は頭を…というより上半身を、90度ピッタシに傾倒(けいとう)して謝った。

 

 

 

「あははっ、良いよ良いよ。(めっ)()に見ない名字(みょうじ)でしょ?」

 

 

 

 『総角』って『ソウカド』とも読めちゃうしね。(むし)ろ、なんで『アゲマキ』なんて読み方をするんだって話だ。

 我ながら珍しい名字だなって、いつも思ってる。よく人から『なんて読むの?』とか聞かれるし。

 

 

 

「うぅぅ…インタビュイーさんの名前を思いっきり間違えてしまうなんて…こんなんじゃ新聞(しんぶん)()として失格なのです…」

 

「新聞部?」

 

「あっ!も、申し遅れたのです!わたし、中等部2年の(はや)() ()(ふみ)なのです!新聞部に所属しているのです!」

 

「へぇ~!(きみ)、中等部の生徒なんだ?制服の色が高等部(ボ ク ら)と違うんだね」

 

 

 

 ()(ふみ)ちゃんの制服のデザインは、青色のブレザーとスカート。白のブラウスの襟元(えりもと)には、赤色のリボンを(むす)んでいた。

 高等部の、落ち着いた色合いの制服(そ れ)と比較すると、割りと明るめな印象を受ける。

 

 しっかし中等部2年か。ということは、年齢は14歳くらい?若いなぁ。

 

 

 

(にしても、この学園って部活とかあったんだね)

 

「ところで、ボクに取材って言うのは?」

 

「は、はいなのです!実は今度の『ジャルダン校・選抜デュエル大会』に出場する生徒の方々(かたがた)から、特に注目すべき選手を、わたしたち新聞部の独断と偏見…ゲフンゲフン!とにかく、インタビューして回っているのです!」

 

「えっ…それでボクのところに来たの?」

 

「そうなのです!なんと言っても総角(アゲマキ)さんは、転入初日にあの九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)さんと決闘(デュエル)して勝利を(おさ)めたとあって、中等部でも一躍(いちやく)有名人なのです!選抜試験に参加すると聞いて、ぜひお話を(うかが)いたいと飛んできたのです!」

 

「うひゃあ、エントリーしたのは昨日(きのう)なのに、耳が早いね」

 

「情報を逸早(いちはや)く入手するのは、ジャーナリストの基本なのです!」

 

 

 

 嬉しそうに敬礼する()(ふみ)ちゃん。

 何か既視感があると思ったら、この小動物っぽさ……ルイくんに似てる気がする。

 実際ルイくんより背も低くて小柄だし。

 

 

 

「はぁ、なるほどねぇ。でも注目って…気恥ずかしいな。九頭竜くんに勝てたのだって、ほとんど運が良かっただけだし…」

 

 

 

 しかも昨日、同じランク・Aの鷹山(ヨウザン) (カナメ)くんに負けたばかりです。

 

 

 

「またまた、ご謙遜(けんそん)を。選抜試験の参加者には、あなたの参戦を喜んでいる人も大勢いるのですよ。九頭竜(ランク・A)に勝った総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)を倒せば、必然的に自分の称号(ランク)も上がると!」

 

「なんて嬉しくない喜ばれ(かた)!!」

 

「というわけなのでして、総角(アゲマキ)さんが(よろ)しければ、取材をお願いしたいのです」

 

「……まぁ、ボクで良ければ」

 

「ありがとうなのです!」

 

 

 

 インタビューとか生まれて初めてだな。ヤバイ、何故か緊張してきた。何を根掘り葉掘り質問されるんだろうか。

 

 ……と、ボクが身構えているのを余所(よ そ)に、記文ちゃんは自分の左腕に決闘盤(デュエルディスク)を装着した。

 ん?デュエルディスク?

 

 

 

「では総角さん!いつでもどうぞ、なのです!」

 

「えっ?なんで、ディスク付けてるの?」

 

「これが新聞部(わたしたち)の取材!名付けて、『インタビュー・デュエル』!!なのです!」

 

「インタビュー・デュエル?」

 

「この広大な学園内に、正確な情報を迅速にお届けする為に編み出した、新聞部の伝統デュエルなのです。デュエルを(おこな)う事によって、その相手の人物像を知るのです!」

 

「…それはまた何と言うか……デュエルの街(ジ ャ ル ダ ン)らしいやり方だね」

 

「もちろん、デッキの内容を(さら)(よう)な報道は一切しないので()(あん)(しん)を!プライバシーには最大限、配慮するのです!」

 

「そういう事なら…良いよ、やろっか。面白(おもしろ)そうだし」

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 ()(ふみ) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「では僭越(せんえつ)ながら、わたしの先攻なのです!まずは3枚()せるのです!」

 

(…!いきなり3枚の伏せ(リバース)カードか…)

 

「さらに!手札から【カードカー・(ディー)】を召喚なのです!」

 

 

 

【カードカー・(ディー)】 攻撃力 800

 

 

 

「そして、召喚した【カードカー・D】をリリースする事で、カードを2枚ドローするのです!」

 

 

 

 召喚された【カードカー・D】は、早くもフィールドから退場し、記文ちゃんは2枚のカードをデッキから引いた。

 

 

 

「この効果を使用した場合、わたしのターンは終了なのです」

 

「なら、ボクのターン。ドロー!」

 

 

 

 さぁて、始めますか。インタビュー・デュエルというのがどんなものか予想もつかないけれど、ボクはボクの決闘(デュエル)をするのみ!

 

 

 

「ボクは【竜の尖兵(せんぺい)】を召喚!」

 

 

 

【竜の尖兵(せんぺい)】 攻撃力 1700

 

 

 

「モンスター効果発動!手札のドラゴン族を1枚、墓地へ送る事で、【竜の尖兵】の攻撃力を、300ポイントアップする!」

 

 

 

【竜の尖兵】 攻撃力 1700 + 300 = 2000

 

 

 

「うっ!攻撃力2000なのです!?」

 

「バトル!記文ちゃんに直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

「くあぁ!」

 

 

 

 記文 LP 4000 → 2000

 

 

 

(あれ?すんなり通っちゃった。絶対リバースカードで妨害されると思ったのに…)

 

「……ボクはこれで、ターン終…」

 

「待つのです!リバースカード・オープンなのです!」

 

「えぇっ!?ここで!?」

 

永続(えいぞく)(トラップ)・【ウィジャ(ばん)】発動!!」

 

 

 

 記文ちゃんのフィールドに、不気味な(ボード)が出現した。

 盤面には、アルファベットと数字が羅列しており、青白(あおじろ)い手が盤上に置かれたプランシェットに、指先を添えていた。

 

 かわいい顔して、意外とホラーチックなカードを使うね。一体どんな恐ろしい効果が…

 

 

 

「【ウィジャ盤】は相手のエンドフェイズ(ごと)に、(いち)()()ずつ【死のメッセージ】を指し示すのです」

 

 

 

 そう記文ちゃんが言うと、青白い手が独りでに動き出して、プランシェットの中心に空いた穴の中に、『D』の文字を示した。

 

 

 

「!」

 

 

 

 するとフィールド上空に、『D』の文字が(えが)かれた、おぞましい霊魂(れいこん)の様なものが浮かび上がった。

 直感で、危険だと察知した。アレ(・ ・)は放置しておくと、何か取り返しのつかない事態を引き起こす!

 

 

 

「そして、このターンで最初に刻まれる文字は…これなのです!」

 

 

 

【死のメッセージ「(イー)」】

 

 

 

 プランシェットが移動し、奇怪な音を響かせながら、新たな文字をフィールドに(きざ)んだ。

 今度は「E」か…この【ウィジャ盤】は、ボクに何を伝えようとしているんだ?

 

 

 

「これで、残る文字は「A」「T」「H」の、三つなのです」

 

「A、T、H…?……はっ…!『DEATH(デ ス)』!?」

 

「その通り!なのです!『DEATH』の五文字が揃った時、死の宣告によって、あなたの敗北が決定するのです!」

 

「……!!」

 

 

 

 (こわ)ッ!!!!!

 ゾッとした!なんだそれ!?下手(へ た)なホラー作品より怖いんだけど!!

 

 

 

「つまり、ボクに残された時間は(あと)3ターン…」

 

「なのです!」

 

「ッ…!」

 

「わたしのターン、ドロー!モンスターをセットして、ターンエンドなのです!」

 

 

 

 守備モンスターをセットするだけの、たった(ワン)プレイで、記文ちゃんはボクにターンを渡してきた。

 

 狙いは【ウィジャ盤】の効果による『特殊勝利』。とすれば守りを固めてくるのは自明の理か。

 

 

 

(ともかく、今はあの【ウィジャ盤】を何とかしないとね…!)

 

 

 

 記文ちゃんは思った以上に、やり手みたいだ。楽しくなってきた。

 ペロッと上唇の(はし)を舐めて、ボクはカードをドローする。

 

 

 

「ボクのターン!」

 

(…!やった、このカードなら、ウィジャ盤を攻略できる!)

 

魔法(マジック)カード発動!【(わな)はずし】!」

 

「!」

 

「これで【ウィジャ盤】を破壊する!」

 

「させないのです!トラップ発動!【宮廷のしきたり】!」

 

「なっ!?」

 

 

 

 【罠はずし】の効果を【宮廷のしきたり】に(はじ)かれて、無効にされてしまった。

 

 

 

「【宮廷のしきたり】が()()る限り、永続(トラップ)を破壊する事は出来(で き)ないのです!」

 

「やっぱり対策はしてくるかー…そりゃそうだよね…」

 

(だったら…守りを打ち崩して、速攻あるのみ!)

 

「【フェアリー・ドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【フェアリー・ドラゴン】 攻撃力 1100

 

 

 

「行くよ!【竜の尖兵】で、壁モンスターを攻撃!」

 

 

 

 竜の尖兵の(あやつ)長槍(ながやり)が記文ちゃんの守備(セット)モンスターを刺し(つらぬ)く。

 裏側表示だったカードが反転し、そのモンスターの正体が明らかになる。

 

 

 

薄幸(はっこう)の美少女】 守備力 100

 

 

 

「げっ!?」

 

「フフフッ、その反応は知っているのですね!【薄幸の美少女】が破壊された時、相手モンスターの戦意を喪失(そうしつ)させ、バトルフェイズを強制(きょうせい)終了(しゅうりょう)するのです!」

 

 

 

 フェアリー・ドラゴンと竜の尖兵は、やる気を無くして戦闘不能となった。

 

 

 

「くっ…!ターン終了(エンド)…!」

 

「この瞬間!ウィジャ盤が三つ目の『メッセージ』をフィールドに(しる)すのです!」

 

 

 

【死のメッセージ「(エー)」】

 

 

 

「デッキから【死のメッセージ】カードを、魔法(マジック)(トラップ)ゾーンに置くのです」

 

 

 

 記文ちゃんは、デュエルディスクのサーチ機能で【死のメッセージ「A」】のカードを取り出して、それを魔法(マジック)(トラップ)カードゾーンにセッティングした。

 

 フィールドには「D」「E」「A」。すでに3つのメッセージが(なら)んでいる。

 五文字の全てが(そろ)うまで、残り2ターン。いよいよ本格的に余裕が無くなってきた……ん?

 

 

 

「…ねぇ記文ちゃん!もうカードをセットするスペース、無いんじゃない!?」

 

 

 

 よく見ると、記文ちゃんのディスクの魔法(マジック)(トラップ)ゾーンは、もう5枚のカードで埋まっていた。

 セット出来るカードの上限は、フィールド()(ほう)カードを(のぞ)き、通常5枚まで。

 その5ヶ所のスペース全部にカードが置かれていては、新たな『メッセージ』カードを出す事なんて出来ない。

 

 

 

「心配には及ばないのですよー、総角(アゲマキ)さん!わたしのターン!手札から、フィールド魔法・【ダーク・サンクチュアリ】を発動!」

 

 

 

 ディスクの『フィールド魔法カードゾーン』に、1枚の魔法(マジック)カードがセットされる。

 

 それと同時に、フィールド全域が(やみ)に覆われた。

 

 

 

「!これは…うげっ!?」

 

 

 

 赤黒(あかぐろ)(そら)に次々と、巨大な()(くち)(ひら)き出した。気持ち(わる)ッ!!

 

 

 

「【ダーク・サンクチュアリ】の効果で、わたしは【死のメッセージ】カードを、モンスターカードゾーンにも置くことが出来るのです!」

 

「!?」

 

「モンスターを1体セットして、ターン終了なのです!さぁ、あと2ターンしか残ってないのですよ!」

 

「やるね…ボクのターン!」

 

 

 

 こうなると、もう無駄にターンを浪費している(ヒマ)は無い。このターンで状況を打開しないと…!

 

 

 

(…記文ちゃんのフィールドには守備モンスターが1体のみ。ここで攻めない手はない!)

 

「【竜の尖兵】で、セットモンスターに攻撃!」

 

 

 

 再び【竜の尖兵】が先んじて攻撃を仕掛ける。

 攻撃力2000もあれば、(なみ)のモンスターなら倒せる。

 

 

 

邪霊破(スピリット・バーン)!!」

 

「うわっ!?」

 

 

 

 突如、竜の尖兵の身体から、幽霊(ゴースト)らしき何か(・ ・)が飛び出してきて、ボクを攻撃した。

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 3000

 

 

 

「…ッ…!?」

 

 

 

 死ぬ(ほど)ビックリした。ライフより心臓に(だい)ダメージだよ!

 

 

 

「【ダーク・サンクチュアリ】の、もうひとつの効果なのです!相手モンスターが攻撃する時、2(ぶん)の1の確率で攻撃(そ れ)を無効にし、そのモンスターの攻撃力の、半分のダメージを相手に与えるのです!」

 

「…でも、まだ【フェアリー・ドラゴン】の攻撃が残ってるよ!行け!」

 

 

 

 続けて【フェアリー・ドラゴン】の攻撃。ここは、ダメージ覚悟で(おく)さず攻める!

 

 

 

「すごい度胸なのですね!受けて立つのです!【ダーク・サンクチュアリ】の効果を発動!」

 

 

 

 来る…!当たりか外れか…確率は2分の1。なんだか九頭竜くんとの決闘(デュエル)を思い出すね。

 

 

 

「…ざんねん。邪霊破(スピリット・バーン)!!なのです!」

 

「うっ…!」

 

 

 

 セツナ LP 3000 → 2450

 

 

 

 またもや悪霊に強襲された。つくづくツイてない。

 結局このターンも、記文ちゃんのライフを減らせずに終わった。

 

 

 

「ターンエンド。あははっ、参ったなぁ。強いね、記文ちゃん」

 

「ウィジャ盤!効果発動なのです!」

 

 

 

 身の毛のよだつ怪音。耳に残りそうだから()めてほしい。

 

 

 

「デッキから【死のメッセージ「T」】を、モンスターゾーンに守備表示で特殊召喚!」

 

 

 

【死のメッセージ「T」】 守備力 0

 

 

 

「モンスター(あつか)いで召喚された【メッセージ】カードは、【ウィジャ盤】以外の効果を受けず、攻撃対象にもならないのです!」

 

 

 

 さぁ困ったぞ、いよいよ(がけ)っぷちだ。

 

 

 

「わたしのターンは…ドローだけして、終了するのです」

 

「遂にボクの最終(ラスト)ターンか…」

 

「そうなのです!あなたが『ターン終了(エンド)』を宣言した時、それは(すなわ)ち、この決闘(デュエル)の『ゲーム終焉(エンド)』を意味するのです!さぁ、あなたに残されたこの(ワン)ターンで何が出来るのか!見せてもらうのです、総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)さん!」

 

「……ボクのターン…」

 

 

 

 正直、中等部の子だからって、甘く見てたのかもしれない。

 

 フィールドに現存している【死のメッセージ】カードは「D」「E」「A」「T」の4文字。

 ここに(あと)1文字、「H」のカードが加われば、その瞬間にボクは、【ウィジャ盤】の死の宣告を受けて敗北する。

 

 勝利条件は

 1・【ウィジャ盤】を対処する。

 2・記文ちゃんのライフを(ゼロ)にする。

 

 以上、二通(ふたとお)りしかない。

 

 いずれにせよ、このターンで決闘(デュエル)の勝敗が決まる。

 

 

 

「…ゾクゾクするね……良いよ。先輩として、カッコイイ逆転(げき)披露し(み せ)てあげる!」

 

「負けないのです!」

 

「ドロー!」

 

 

 

 たった今ドローしたカードを横目で確認し、ボクは口角を上げた。そして早速そのカードを使用する。

 

 

 

「ボクは手札から魔法(マジック)カード・【左腕の代償】を発動!手札を全てゲームから除外し、デッキから()(ほう)カードを1枚、手札に加える!」

 

 

 

 4枚の手札を全て除外して、デッキから1枚のカードをサーチする。

 ボクが選んだ魔法(マジック)カードは…

 

 

 

「ボクは【()(ほう)(じょ)(きょ)】を手札に加え、発動!【死のメッセージ「A」】を破壊する!」

 

「なっ!?」

 

「フフッ、気づかないとでも思った?【死のメッセージ】カードは、1枚でも(フィールド)を離れた場合、【ウィジャ盤】もろとも全て消滅するんだよね?」

 

 

 

 これで記文ちゃんのコンボは途切れる(はず)

 

 

 

「甘いのです!(トラップ)発動!【悪魔の手鏡】!」

 

「ッ!」

 

「【魔法除去】の対象を、【ダーク・サンクチュアリ】に移し替えるのです!」

 

 

 

 ダーク・サンクチュアリの空間が粉々(こなごな)に砕け散り、元の景色へと戻った。

 【ウィジャ盤】を(こわ)すという、当初の(もく)()()は失敗に終わったけど、あの厄介(やっかい)な『邪霊破(スピリット・バーン)』が消えたのだから、僥倖(ぎょうこう)と捉えるべきだろう。

 

 

 

「【ダーク・サンクチュアリ】が消えても、モンスターゾーンに召喚した【死のメッセージ】は、フィールドに(とど)まり続けるのです!」

 

「なら!【フェアリー・ドラゴン】で、セットモンスターに攻撃!」

 

 

 

 フェアリー・ドラゴンの攻撃対象に選択された、セットモンスターが表側表示になる。

 

 

 

【執念深き老魔術師】 守備力 600

 

 

 

 相手モンスターの守備力より、フェアリー・ドラゴンの攻撃力の方が高い。

 戦闘(バトル)の結果、【執念深き老魔術師】は破壊された。……しかし。

 

 

 

「フッフッフー、引っ掛かったのです!【執念深き老魔術師】の、リバース効果!【竜の尖兵】を、破壊!」

 

 

 

 老魔術師が死に(ぎわ)(はな)った魔法攻撃で、竜の尖兵は滅殺(めっさつ)されてしまった。

 

 

 

「くっ…!」

 

「これで総角(アゲマキ)さんの場には、もう攻撃できるモンスターは残っていないのです!」

 

「…………」

 

(あと)は【悪魔の手鏡】が発動して()いたスペースに、最後の【死のメッセージ「(エイチ)」】を置けば、『DEATH』の五文字が揃い【ウィジャ盤】の効果が成立して、わたしの勝利なのですー!わーいわーい!」

 

「……それはどうかな?」

 

「えっ?」

 

「記文ちゃん。(きみ)唯一(ゆいいつ)悪手(ミ ス)は、【竜の尖兵】を破壊(・ ・)したこと!それがボクの逆転を可能にした!」

 

「なっ…!り、リバースカードも手札も無い状態で、何を言ってるのですか!?」

 

「【竜の尖兵】のモンスター効果!相手のカード効果で墓地へ送られた時、墓地からドラゴン族の通常モンスター1体を、特殊召喚できる!」

 

「ぼ、墓地から!?そんなの一体いつ……あっ!」

 

「そう。最初に竜の尖兵の効果で、手札から墓地に捨てたカードだよ」

 

「まさか…そこまで見越して…!?」

 

「現れろ!ボクのデッキの切り札(エース)!【ラビードラゴン】!!」

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

「これが総角(アゲマキ)さんの…エース・モンスターなのです…!?」

 

「モンスターゾーンに()る【死のメッセージ「T」】は、攻撃対象に選択できない。その場合、ボクの攻撃は、プレイヤーへの直接攻撃になる!」

 

「し、しまったのですー!!」

 

「チェックメイトだ!【ラビードラゴン】で、記文ちゃんに直接攻撃(ダイレクトアタック)!!」

 

 

 

 - ホワイト・ラピッド・ストリーム!! -

 

 

 

「なのですうぅぅぅッッ!!!?」

 

 

 

 記文 LP 0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュエル終了後、記文ちゃんは(なが)椅子(イ ス)に腰を下ろして休憩していた。

 ボクは近くの自販機で購入した、2本の缶コーヒーを両手に持ち、彼女の隣に座る。

 そして、1本を記文ちゃんに手渡した。

 

 

 

「はいコレ」

 

「ええっ!?良いのですか!?」

 

「楽しい決闘(デュエル)だったからね。そのお礼ってことで」

 

「あ、ありがとうなのです!」

 

 

 

 記文ちゃんは目を輝かせて缶コーヒーの(フタ)を開け、グイッと飲み始めた。見ていて実に微笑(ほほえ)ましい。

 

 

 

「それで、どうだった?インタビューの方は」

 

「はいなのです!とても良い記事が書ける気がするのです!ご協力、感謝なのです!」

 

「良かった。記文ちゃんの記事も楽しみにしてるよ」

 

 

 

 あっ、そろそろ授業の時間だ。早めに教室に帰るとしよう。

 

 

 

「じゃあ、ボクは行くよ。頑張ってね」

 

「もちろんなのです!……あっ!最後に(ひと)つだけ、お聞きしたいのです」

 

「なに?」

 

「今回の『選抜デュエル大会』への、意気込みを教えてほしいのです!」

 

 

 

 ふむ、意気込みかぁ…特に考えてなかったけど……それじゃあ、こう答えよう。

 

 

 

「打倒・鷹山(ヨウザン) (カナメ)。…かな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 記文ちゃんにインタビュー・デュエルを挑まれてから、数日が経過した。

 

 教室で端末をいじって暇潰(ひまつぶ)しをしていると、PDAの通知音が鳴った。何かを受信したらしい。

 

 PDAのメニューを開くと、一通のメールが届いていた。どうやら全校生徒に一斉送信された物のようだ。学園からのお知らせだろうか。

 

 メールのアイコンを指先でタップすると、内容が画面いっぱいに表示された。

 

 

 

「……あぁ、そっか。これって…」

 

 

 

 それは学園の新聞部が配信した、例の『選抜試験』に関する記事だった。

 タイトルは『第××回・選抜デュエル大会!!注目株に、突撃インタビューをしてみた!!』と、大々的に書かれている。

 先日、記文ちゃんが言っていたヤツだ。

 

 文面には、生徒達の(かお)写真(じゃしん)が名前順で、ズラリと並べられていた。この全員が試験に参戦する決闘者(デュエリスト)達なのか。こうしてみると壮観だね。なんか目がパチパチする。

 

 きっと、この中の何割かは、あの記文ちゃんのインタビュー・デュエルを受けたんだろう。

 凶悪な【ウィジャ盤】コンボに、さぞ苦しめられたに違いない。

 

 勿論(もちろん)ボクの名前と顔も、しっかりと掲載されていたよ。目を皿にして探すまでもなく、あ(ぎょう)で真っ先に見つかりました。

 マジでか!本当に載っちゃってるよ、ボク!まさかの新聞デビューだ!

 

 ちょっとドキドキしながら、自分の欄を拝読してみる。

 

 

 

 『総角(アゲマキ) 刹那(セツナ) - 2年生

 

 ジャルダン校に彗星(すいせい)(ごと)く現れた、期待のダークホース!

 その卓越した予測不可能な戦術(タクティクス)には、記者も脱帽の一言!

 打倒・鷹山(ヨウザン) (カナメ)を宣言!果たして番狂わせなるか!?』

 

 

 

 …………(みじか)っ!!予想以上に簡潔明瞭だったよ!

 まぁこれだけの人数を特集してたら、一人(ひとり)一人(ひとり)そこまで詳細には記述できないか。

 ボクは別に問題ないけどね。載せてくれた事に感謝しなきゃ。

 

 

 

(…そう言えば、アマネやルイくんに九頭竜くん、あと、カナメは載ってるかな?)

 

 

 

 仲の良い友達や、知り合いの記事を探して、PDAの画面に夢中で指を走らせる。

 

 選抜デュエル大会か……せっかく参加するなら、とことん楽しまないとね!

 

 

 

 





 Q・インタビュー・デュエルって?

 A・奴をデュエルで取材せよ!

 まるで意味が分からんぞ!!


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TURN - 8 Beast Beat


 活動報告にて、リクエスト募集中でございます(*´∀`)♪

 どなたでも、お気軽にコメントくださいまし(・ω・。)



 

 頭を()で回される感覚に揺り起こされて、ボクは目を覚ました。

 微睡(まどろ)みの中に沈んでいた意識を、強引に覚醒させられて、薄く()(ぶた)(ひら)く。

 顔を上げると、ボクの銀髪をわしゃわしゃと乱暴に撫でくり回す、赤色のメッシュを混ぜた黒髪の少女・アマネの姿が寝惚(ね ぼ)(まなこ)(うつ)り込んだ。

 

 あぁ、そう言えば…ここ教室……学園だったね。

 

 

 

「…ん…やめてよアマネ~…髪型が乱れるぅ…」

 

「あ、やっと起きた。おはよう、セツナ。もう放課後よ」

 

 

 

 そっか。眠気に負けて机に突っ伏して、そのまま授業中に寝ちゃったんだ。

 周りを見れば、他のクラスメート達は(すで)に下校の準備を始めており、次々に教室から生徒の人数が減っていく。

 ボクも今日は、特に放課後の予定も無いし、まっすぐ帰ろっかな。

 

 

 

「ふあ…おはよ~…ねむっ…」

 

 

 

 小さく欠伸(あくび)して、手元に置いてあった赤縁(あかぶち)のメガネを取り、かけ直す。

 それから椅子(イ ス)に座ったまま、思いっきり背伸(せ の)びして、居眠りで()り固まった身体(からだ)を、軽く(ほぐ)した。

 

 

 

「結局、最後まで起きなかったわね。あんまり寝てばっかりだと成績に響くよ?」

 

「そうなったらアマネに助けてもらうから平気(へーき)

 

「はぁ…お気楽な(ヤツ)

 

「とか何とか言いながらも手を貸してくれるんだから、持つべきものは友達だよね~」

 

「調子に乗るなっ!」

 

「いてっ!」

 

 

 

 (ひたい)にデコピンされました。地味に痛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セツナさ、そんな(のん)()にしてて大丈夫なの?」

 

 

 

 教室を出て、二人で校内を歩いていた時、アマネがそんな質問をしてきた。

 

 

 

「成績の話?」

 

「じゃなくて、まぁそれもあるけど……『選抜試験』の話。記事、読んだわよ。あんな(・ ・ ・)大口(おおぐち)叩いたら、他の参加者が黙ってないんじゃない?」

 

 

 

 アマネの言った、『記事』については心当たりがある。

 

 選抜試験こと、『選抜デュエル大会』に参戦(エントリー)したボクは、数日前、学園の新聞部に所属しているという中等部の女子生徒・(はや)() ()(ふみ)ちゃんから『インタビュー・デュエル』を受けて、新聞部が配信した記事に掲載させてもらう(けい)()に至った。

 

 記事の内容は、『選抜試験』の参加者を特集したもの。

 

 その文面でボクは、最上位(ランク・A)にして学園最凶の決闘者(デュエリスト)と呼ばれている、ある(・ ・)生徒に対し、宣戦布告の意思を明言していた。

 

 『打倒・鷹山(ヨウザン) (カナメ)』と。

 

 

 

「うーん……そんなにマズイこと言ったかな?」

 

「出る杭を打とうとしてくる生徒は何人か来るかもね」

 

「げぇ…平穏じゃないのは()だなぁ…」

 

 

 

「それって、オイラみたいな奴のことを言ってんのかな~?」

 

「「!?」」

 

 

 

 何処(ど こ)からか人の声が聞こえた。ボクとアマネは周辺を見渡すけれど、誰も居ない。

 

 幻聴?いや、アマネも反応しているし…

 

 

 

「ここだよー。コ・コ」

 

 

 

 今度は廊下の窓を、コンコンとノックする様な音が耳に届いた。

 そちらに振り返ると、なんと窓の外の上部から、逆さまの上半身が宙吊りになって、顔を覗かせていた。

 

 

 

「ヤホッ☆」

 

 

 

 ぶら下がっていた人物は、ボクと目が合うと満面の笑顔を見せて、手を振ってきた。

 

 

 

「出たァァァーーーーッッ!!!?」

 

 

 

 あまりにも奇想天外な登場の仕方に度肝を抜かれたボクは、思わず絶叫して、アマネに抱き着いた。

 

 

 

「ちょ、セツナ!?」

 

 

 

 アマネは顔を赤く染めて動揺している。いきなり男に強く抱き締められたのだから当然か。

 

 両腕の中に、アマネの身体の感触が伝わってくる。

 その上、対面して抱擁(ほうよう)した事で、ボクの胸板には、アマネの大きな双丘が当たっていた。

 相変わらず柔らかい……って!こんな事してる場合じゃない!

 

 

 

「あっ!え、えっと、ごめん!」

 

 

 

 ボクは(あわ)てて彼女を解放する。危ない危ない。もう少し遅れてたら、また(・ ・)腹部に鉄拳(てっけん)を打ち込まれるところだった。

 

 

 

「ニハハッ!見せつけてくれんじゃーん。よっと!」

 

 

 

 一方、現れた男は、すぐ横の(ひら)いていた窓から身軽な動きで校舎内に飛び込み、華麗な着地を決めながら、(ゆか)の上に()り立った。

 

 ()(がね)(いろ)の短い髪と、(ケモノ)(よう)()()()が印象的で、小柄な体格の持ち主だった。

 

 ていうかここ4階だよね?どうやったら、そんなところに逆さ吊りになれるの!?アクションスターもビックリだよ!

 

 

 

「オイラは高等部3年の虎丸(とらまる) ()(すけ)!お前に決闘(デュエル)を申し込むぜ、メガネくん!」

 

虎丸(とらまる)…?まさか…『十傑(じっけつ)』の虎丸…!?」

 

 

 

 アマネは相手の名前を復唱すると、聞き慣れない単語を(くち)にした。

 

 

 

「『十傑(じっけつ)』?」

 

「セツナが知らなくても無理ないわね……『ジャルダン十傑(じっけつ)』…ランク・Aの生徒の中でも、特に(すぐ)れた実力を誇る、10人の天才決闘者(デュエリスト)()りすぐりのエリート集団よ」

 

「ニハハッ!お()めに(あずか)り光栄だねー!ちなみに補足するなら、メガネくんが(たたか)った、くーちゃんやカナちゃんも『十傑』だぜ~」

 

「えっ、誰それ?」

 

「たぶん…九頭竜(くずりゅう)鷹山(ヨウザン)のこと…だと思う」

 

「あの二人かぁ…納得」

 

「ピンポンピンポーン!大正解だぜ、お嬢ちゃん!」

 

「お嬢ちゃんは()めてよ。私は黒雲(くろくも) (アマ)()

 

「ボクもメガネくんじゃなくて、セツナって呼んでほしいな」

 

「んーじゃ、『アマネん』に『セッちゃん』ね!」

 

「「アダ名つけるの早ッ!!」」

 

 

 

 虎丸くんは「そんなことより」と前置きして、自分の左腕に、イエロータイプの決闘盤(デュエルディスク)を装着した。

 

 

 

「さぁ早く()ろうぜ!オイラはセッちゃんの噂を聞いてから、ずっとこの日を待ってたんだ!」

 

「……OK(オーケー)。デュエルなら(ことわ)る理由もないよ。やろっか」

 

面白(おもしろ)そうね。審判(しんぱん)()ねて、見物(けんぶつ)させてもらうわ」

 

 

 

 デュエルディスクを左腕に装着して、起動する。今回も頼りにしてるよ、ボクのデッキ!

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 虎丸(とらまる) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「オイラの先攻で行くぜ!【隻眼(せきがん)のホワイトタイガー】召喚!」

 

 

 

隻眼(せきがん)のホワイトタイガー】 攻撃力 1300

 

 

 

「カードを2枚()せて、ターン終了だぜ!」

 

「ボクのターン、ドロー!【デビル・ドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【デビル・ドラゴン】 攻撃力 1500

 

 

 

「へぇ~?」

 

「バトル!【デビル・ドラゴン】で、【ホワイトタイガー】を攻撃!」

 

「させねぇぜ!伏せ(リバース)カード・オープン!速攻魔法・【突進】!」

 

「あっ!?」

 

「ホワイトタイガーの攻撃力を、700ポイント上昇(アップ)する!」

 

 

 

【隻眼のホワイトタイガー】 攻撃力 1300 + 700 = 2000

 

 

 

「残念だったな!返り討ちだぜ!」

 

「うわーっ!しまった!……なぁんて、ね」

 

「なに?」

 

「手札から速攻魔法・【鈍重】を発動!」

 

「んおっ!?」

 

「【ホワイトタイガー】の攻撃力を、守備力の数値分ダウンする!」

 

 

 

【隻眼のホワイトタイガー】 攻撃力 2000 - 500 = 1500

 

 

 

 【ホワイトタイガー】と【デビル・ドラゴン】、双方の攻撃力は互角。戦闘(バトル)の結果は相討ちに終わった。

 

 

 

「んにゃろぉ…!やってくれんじゃん!」

 

「そっちこそ!ボクはカードを2枚セットして、ターン終了!」

 

 

 

(…二人とも…早速、火花を散らしてるわね。すごく楽しそう)

 

 

 

「オイラのターン!ドロー!」

 

(…おっ、来た来た!)

 

「【(おう)()ワンフー】を召喚!」

 

 

 

(おう)()ワンフー】 攻撃力 1700

 

 

 

「こいつがフィールドにいる限り、召喚・特殊召喚された、攻撃力1400以下のモンスターは破壊されるぜ!」

 

「ッ…!」

 

「行け!【王虎ワンフー】!プレイヤーに直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

 

 

 王の名を冠する虎が(キバ)()いて、ボクに襲い掛かってきた。

 

 

 

「ぐあぁ!うっ…!」

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 2300

 

 

 

「へっへーん!どうだ!」

 

「なかなか効いたよ……でも、ボクだってやられっぱなしじゃない!トラップ発動!【ダメージ・ゲート】!」

 

「!」

 

「ボクが受けた戦闘ダメージ以下の攻撃力を持つモンスター1体を、墓地から特殊召喚する!よみがえれ!【デビル・ドラゴン】!」

 

 

 

【デビル・ドラゴン】 攻撃力 1500

 

 

 

「デビル・ドラゴンの攻撃力は1500!【ワンフー】の効果には引っ掛からない!」

 

「にゃーるほどぉ。そんじゃオイラも」

 

「え?」

 

(トラップ)カード・【スリップ・サモン】!この効果で手札から、【魂虎(ソウル・タイガー)】を特殊召喚!」

 

 

 

魂虎(ソウル・タイガー)】 守備力 2100

 

 

 

「…あ、あれ?確か【魂虎(ソウル・タイガー)】の攻撃力って、(ゼロ)だよね?召喚(そんなこと)したら【王虎ワンフー】の効果で…」

 

 

 

 案の定、王虎ワンフーの効果が誘発(ゆうはつ)して、魂虎(ソウル・タイガー)は破壊されてしまった。

 

 

 

「ニハハッ、これで良いんだよ。自分フィールドの獣族モンスターが効果(・ ・)で破壊された時、1000ライフポイントを払う事で、【森の番人グリーンバブーン】を特殊召喚できる!」

 

 

 

【森の番人グリーンバブーン】 攻撃力 2600

 

 

 

「うそぉ!?そんなのアリ!?」

 

「ニハハハッ!オイラの(ほう)一枚(いちまい)(うわ)()だったなぁ!」

 

 

 

 虎丸 LP 4000 → 3000

 

 

 

 やられた…【ダメージ・ゲート】を使ったのが裏目に出た…!

 王虎ワンフーの効果を、こんな形で活用してくるなんて…!

 

 

 

「【グリーンバブーン】で、【デビル・ドラゴン】を攻撃!『ハンマークラブ・デス』!!」

 

 

 

 グリーンバブーンは、その巨体に見合った極太サイズの木製ハンマーを振り下ろし、デビル・ドラゴンを容赦(ようしゃ)なく叩き潰した。

 

 

 

「くっ…!」

 

 

 

 セツナ LP 2300 → 1200

 

 

 

「まっ、こんなもんだな。ターン終了(エンド)だぜ!」

 

「…フゥー……さすが『十傑』…と言ったところかな…」

 

 

 おちゃらけた言動とは裏腹に、一部の(すき)も無い攻撃的な戦術(プレイング)。恐るべき実力者だ。

 考えてみれば、カナメや九頭竜くんと同格って事なんだから、強いのは当たり前か。

 

 

 

「こうなったら、こっちも……全力全開で行かせてもらうよ!」

 

 

 

 ボクはメガネを(はず)して、全神経を決闘(デュエル)に集中させる。

 この状態だと、ボクの目付きが(するど)くなるらしいので、普段よりはイケメンになっていると信じたい。

 

 

 

「…!?」

 

(スンゲェー気迫…!いきなり豹変しやがった…!)

 

「ニハハッ!燃えてきたァ!!」

 

 

 

 虎丸くんも、ボクの変化に気づいたのか表情が真剣になった。

 ()(たん)、フィールドの空気がビリビリと震える。

 気を抜いたら一瞬で押し潰されてしまいそうな重圧(プレッシャー)を、虎丸くんは(はな)ってきた。まるで野生の猛獣を相手にしているかの様だ。

 

 だけど、(ひる)んでなんかいられない。ボクはデッキからカードをドローする。

 

 

 

「ボクのターン!ドロー!」

 

(…よし、これなら!)

 

「ボクは魔法(マジック)カード・【ソウルテイカー】を発動!【王虎ワンフー】を破壊!」

 

「ッ!」

 

「そして、相手のライフを1000ポイント回復する!」

 

 

 

 虎丸 LP 3000 → 4000

 

 

 

「…わざわざオイラのライフを元に戻すなんて、なに考えてんのさ?」

 

「こうするのさ。トラップ発動!【()(だん)(たい)(てき)】!相手のライフポイントが回復した時、相手モンスター1体を破壊する!」

 

「なにぃーっ!?」

 

「当然【グリーンバブーン】を破壊するよ!」

 

 

 

 グリーンバブーンが消滅して、虎丸くんのフィールドは文字通り、ガラ空きとなった。

 

 

 

「ぐうぅ…!先に【ワンフー】を消したのも、これが狙いか!」

 

「そう。【グリーンバブーン】は、自身が破壊された時には蘇生できないからね」

 

 

 

 ワンフーが居ない今なら、ボクは攻撃力の低いモンスターも、安心して召喚できる。この好機は絶対に(のが)さない!

 

 

 

「ボクは【レッサー・ドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【レッサー・ドラゴン】 攻撃力 1200

 

 

 

「バトル!【レッサー・ドラゴン】!虎丸くんに直接攻撃(ダイレクトアタック)だ!」

 

「うわあぁあっ!!」

 

 

 

 虎丸 LP 4000 → 2800

 

 

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

「チィ…!オイラのターンだ!」

 

 

 

 お互いの手札は(ゼロ)枚。でも、現状ではボクが優位に立っている。

 …の、(はず)なんだけど……相手は『十傑』。このまま黙っているとは思えないんだよな…。

 

 

 

「ドロー!」

 

(…!)

 

「ニハハッ、ラッキー!【命削りの宝札】を発動!」

 

 

 

 -!ここで手札を増やすカードが来たか…!

 

 

 

「オイラの手札は(ゼロ)!よって3枚ドローするぜ!」

 

 

 

 虎丸くんの手札が一気に(うるお)う。

 ヤバイ…これ下手(へ た)したら、負けるかもしれない。

 

 

 

「召喚!【焔虎(フレイム・タイガー)】!」

 

 

 

焔虎(フレイム・タイガー)】 攻撃力 1800

 

 

 

「行け!【焔虎(フレイム・タイガー)】!レッサー・ドラゴンを焼き尽くせ!」

 

「うあっ…!」

 

 

 

 【命削りの宝札】を発動したターン、ボクにダメージは無い。けど、状況は確実に悪化した。

 

 

 

「カードを2枚セット!オイラのターンは終了だ!」

 

「…ボクのターン……ドロー!」

 

 

 

 ()(かつ)にカード効果で【焔虎(フレイム・タイガー)】を破壊しようものなら、墓地に眠る【グリーンバブーン】が特殊召喚される。さて、どう動くべきか…

 

 と言っても、出来るのはこれぐらいだけど。

 

 

 

「ボクは……モンスターをセット!…ターン終了…」

 

「なら、オイラのターン!ドロー!【タイガー・アックス】を召喚するぜ!」

 

 

 

【タイガー・アックス】 攻撃力 1300

 

 

 

(ッ…モンスターが2体に…!)

 

「さらに伏せ(リバース)カード・【()(たけ)る大地】を発動して……バトルだ!【焔虎(フレイム・タイガー)】で、裏守備(セ ッ ト)モンスターに攻撃!」

 

 

 

 全身に炎を(まと)った虎…(いな)、虎の姿を(かたど)った、炎の(かたまり)(せま)ってきた。

 

 【焔虎(フレイム・タイガー)】の攻撃はダメージステップに入り、ボクがセットした守備表示モンスターがリバースされる。

 

 

 

軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】 守備力 800

 

 

 

「ニハッ、他愛もねぇ雑魚(ザ コ)モンスターだったか。撃破!」

 

「ぐっ…!」

 

 

 

 セツナ LP 1200 → 200

 

 

 

(…!?守備表示だったのに、ライフが減ってる!?)

 

「ニハハッ!【吠え猛る大地】の効果で、貫通(かんつう)ダメージを与えたのさ!」

 

「…!」

 

 

 

 貫通…守備表示モンスターを攻撃した時、対象の守備力を攻撃力が上回っていれば、その差分の戦闘ダメージを相手プレイヤーに与える、特殊効果か。

 

 

 

「でも!【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】は破壊された時、デッキから同名カードを特殊召喚できる!」

 

 

 

軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】 守備力 800

 

 

 

「悪あがきだぜ!()れ!【タイガー・アックス】!」

 

 

 

 巨大な(オノ)を振りかざす獣人の一撃で、軍隊竜(アーミー・ドラゴン)は全滅させられた。

 

 

 

「良かったなぁ?【タイガー・アックス】は獣戦士族だから、【吠え猛る大地】の効果を受けねぇぜ」

 

「ッ…!3体目の【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】を、特殊召喚!」

 

 

 

軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】 守備力 800

 

 

 

(…なんとかモンスターを場に残せた…)

 

「ニハハハハッ!オイラの攻撃は、この程度じゃ()まらないぜ!トラップ発動!【キャトルミューティレーション】!」

 

「!?」

 

「【焔虎(フレイム・タイガー)】を手札に戻し、同じレベルの獣族を手札から特殊召喚する!オイラの手札は【焔虎(フレイム・タイガー)】1枚。よって、こいつを再び召喚だ!」

 

 

 

焔虎(フレイム・タイガー)】 攻撃力 1800

 

 

 

「……!」

 

「バトルフェイズ中に特殊召喚された【焔虎(フレイム・タイガー)】には、当然2回目の攻撃権が与えられる!つまり、【吠え猛る大地】の効果で貫通ダメージが発生し、お前のライフは(ゼロ)となる!」

 

「くぅ…」

 

「これが…『十傑』の強さ…!」

 

「ニハハハッ!な~に、へこむ事ないぜ?オイラが強すぎたんだよ!」

 

 

 

 【焔虎(フレイム・タイガー)】が(うな)り声を響かせて、防御(ぼうぎょ)態勢(たいせい)の【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】を()(かく)していた。

 

 

 

「なかなか楽しかったぜ、セッちゃん!つーわけで、バトル!【焔虎(フレイム・タイガー)】の攻撃!」

 

 

 

 - いいや、まだ希望は残ってる!

 

 

 

(トラップ)カード・【パワー・ウォール】発動!」

 

「!?」

 

「デッキの上からカードを墓地に送る事で、1枚につき、500ポイントの戦闘ダメージを軽減する!ボクが受けるダメージは1000。よって、デッキから2枚を捨てる!」

 

 

 

 【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】は破壊されたけど、半透明の防壁(バリア)が展開されて、ボクを貫通ダメージから守ってくれた。

 

 それに、墓地には良いカード(・ ・ ・ ・ ・)も来てくれた。次のターンで、あのカードを引き当てれば…!

 

 

 

「しぶとい野郎だぜ…ターンエンド!」

 

「…ギリギリで上手(う ま)(しの)いでるわね」

 

「ボクのターン!」

 

(-!)

 

 

 

 ……ドローしたカードを一瞥(いちべつ)して、ボクは勝利を確信した。

 デッキに対する感謝の念と、逆転への活路を見出(み い)だせた喜びから、自然と顔が(ほころ)ぶ。

 

 ありがとう、ボクのデッキ。

 

 

 

「手札から【復活の福音(ふくいん)】を発動!墓地の【ダークブレイズドラゴン】を特殊召喚!」

 

 

 

 荒れ狂う烈火の奥底から、闇の竜が飛翔する。

 

 ダークブレイズドラゴン。

 

 【ラビードラゴン】、【トライホーンドラゴン】に次ぐ、ボクの第3の切り札だ。

 

 

 

「墓地から舞い戻った【ダークブレイズドラゴン】は、攻撃力が(ばい)()する!」

 

 

 

【ダークブレイズドラゴン】 攻撃力 2400

 

 

 

「なっ…いつの間に…!?」

 

「さっき【パワー・ウォール】を使った時に、だよ。それと、もう1枚……(トラップ)カード・【スキル・サクセサー】を、墓地から発動!」

 

「墓地から(トラップ)だと!?インチキ効果もいい加減にしろ!」

 

「ダークブレイズの攻撃力を、800ポイントアップ!」

 

 

 

【ダークブレイズドラゴン】 攻撃力 2400 + 800 = 3200

 

 

 

「攻撃力…3200!?」

 

「バトル!【ダークブレイズドラゴン】!『バーンズダウン・ヘルファイア』!!」

 

 

 

 標的は【焔虎(フレイム・タイガー)】。その灼熱の身体とて、ダークブレイズの炎を食らえば、ひとたまりも無い。

 

 

 

「ぐあぁあああっ!!」

 

 

 

 虎丸 LP 2800 → 1400

 

 

 

「ち、ちくしょお…!だがまだ、オイラのライフは…!」

 

「……チェックメイトだ」

 

「へ?」

 

「【ダークブレイズ】は、戦闘で破壊した相手モンスターの攻撃力分のダメージを、相手プレイヤーに与える!『ブレイジング・ストーム』!!」

 

 

 

 これこそが【ダークブレイズ】の真骨頂。爆炎が全てを吹き飛ばし、相手のライフを灰にする!

 

 

 

「うおああぁーーーッ!?」

 

 

 

 虎丸 LP 0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ちぇー、オイラが負けちまうなんてな」

 

「いや、本気で危なかったよ。一歩でも間違えたら、ボクが負けてた」

 

「ニハハッ!でもさ……良い決闘(デュエル)だったよな」

 

「うん。楽しかった」

 

 

 

 ボクが右手を差し出すと、虎丸くんは(こころよ)く、握手をしてくれた。……と、次の瞬間。

 

 

 

「うりゃ」

 

「いだだだだだだだっ!?」

 

 

 

 万力(まんりき)みたいな握力で、強く握り締められた。痛い痛い折れる折れる!なんか手がミシミシ言ってる!

 

 

 

「ニハハハッ!冗談だよジョーダン!決闘者(デュエリスト)にとって、手は命だもん」

 

「ば、馬鹿力め…!」

 

 

 

 やれやれ。おっかない野生児もいたものだ。

 涙目になりつつ、()かれた右手を優しく(さす)っていると、虎丸くんが(きびす)を返して歩き始めた。

 

 

 

「そいじゃー、オイラはもう行くわ」

 

「あ…虎丸くん!」

 

「ん~?」

 

「また、決闘(デュエル)しようね」

 

「……ニハハッ。おうよ!今度はオイラが勝つからな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 虎丸くんの背中を見送った後、ボクはメガネを掛け、床に放置していた自分の(カバン)を拾った。

 

 

 

「はぁー疲れた……お待たせ、アマネ」

 

「お疲れさま。どうだった?十傑との決闘(デュエル)の感想は」

 

「……う~ん…あんな強いのが他に…えっと?虎丸くんで3人目だから……あと7人もいるのかと思うと、(こわ)くて泣きそうだよ」

 

「…うそつき。そんな嬉しそうな顔しちゃって」

 

「あはは。バレた?」

 

 

 

 にやけてしまうのを隠し切れなかったみたいだ。流石(さすが)に、アマネの目は誤魔化(ご ま か)せないか。

 決闘者(デュエリスト)の本能って奴かな。正直に言うと、ワクワクしてる。

 

 

 

「さて、帰りますか」

 

「そうね」

 

 

 

 『選抜試験』を少しだけ、待ち遠しく感じながら、ボクはアマネと帰路(き ろ)に就いた。

 

 

 

 





 何故か思った以上に難産で、更新に一ヶ月近くもかかってしまった…!( °ω°)もうしわけない

 でも時間をかけた分、なかなか熱いデュエルになったのではないかと作者は思っております((o(°ω°)o))がんばった

 懐かしいカードを使わせるのは楽しい…!


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TURN - 9 A promise


 最近、『セツナトリップ』という曲が主人公・セツナのイメージソング、キャラソンにピッタリなのではと妄想しております。

 アップテンポで聴いてて楽しくなる名曲なので、ぜひ一度、聴いてみてください!(〃ω〃)
 曲名もそうだけど、歌詞がね、セツナっぽい!



 

 季節は初夏。草木が新緑に覆われて、涼風(すずかぜ)が吹き抜ける今日この頃。

 ボクが転入した『デュエルアカデミア・ジャルダン校』にも、いよいよ衣替えの時期が訪れた。

 

 朝。ボクは家の自室で、姿見用のスタンドミラーの前に立ち、自分の身だしなみを確認する。

 

 半袖(はんそで)の白いカッターシャツに、黒のスラックスという、クールビズな服装。

 襟元には、だいぶ(ゆる)めてるけど、青色のネクタイを巻いている。

 

 先週までは黒のブレザーを着用していたから、夏服バージョンの自分が何だか新鮮に思えた。

 これから秋口(あきぐち)までは、この格好で通学か。軽くて動きやすいけど、しばらく日焼け止めは()(ばな)せないね。

 

 

 

「忘れ物なし。じゃ、今日も行ってきます」

 

 

 

 ボクにとっての必需品(マストアイテム)である、赤色のメガネを掛けてから、ボク以外には誰も住んでいない一人暮らしの自宅に、出発の挨拶を告げる。

 

 行き先は勿論(もちろん)、ボクの新しい()(こう)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日前までは、ポカポカ陽気で過ごしやすい気温だったのに、今日は太陽が照りつけて、日差しが刺す様に降り注いでいた。

 まぁ(よう)するに……

 

 

 

「暑い…!」

 

 

 

 好天なのは喜ばしいけれど、こんな日はもう少し、(そら)に雲が欲しくなる。

 午前中でこれなのだから、正午になったら猛暑かも知れない。季節の変わり目は体調を崩しやすいと聞くし、皆さんも熱中症には気をつけて。

 

 

 

 学園の門を(くぐ)り、敷地内に入ると、前方に(した)しい同級生(クラスメート)を発見した。

 やや長めの、赤色を織り交ぜた黒髪。間違いない。アマネだ。

 ボクは小走りで彼女に近づいた。

 

 

 

「おはよう、アマネ!」

 

「ん?あぁ、おはよう。セツナ」

 

 

 

 アマネはボクと顔を合わせると、立ち止まり、笑顔で挨拶を返してくれた。

 暑さからか前髪の左側を、耳の後ろに掛けていたので、左耳に開けているピアスが3つとも丸見えになっていた。

 

 

 

「セツナ夏服、似合ってんじゃん」

 

「そう?ありがとう」

 

「なんかチャラ()っぽさが()してる」

 

「それ()めてる!?」

 

 

 

 アマネもボクと同じく夏服に着替えていた。

 下は黒のミニスカートで、上は白のオーバーブラウス。

 スタイルの良さが如実に(あらわ)れており、(むね)の大きさが特に(きわ)()っていた。

 

 

 

(おおっ……夏服…すごい破壊力…)

 

「……せいっ!」

 

「ぶっ!?」

 

 

 

 突然アマネの持っていた(カバン)がボクの顔面に直撃した。なんで!?

 

 

 

「な…なにを…」

 

「いや、怪しい視線を感じたから、つい」

 

「…………」

 

 

 

 あまり胸を凝視するのは()めておこう、うん。

 

 

 

「アマネた~ん!」

 

「わっ!?」

 

 

 

 と、今度は、ピンク色の髪が特徴的な女の子が駆け寄ってきて、アマネを背中から抱き締めた。

 不意に背後を取られたアマネは、ビックリして目を丸くしている。

 

 

 

「おはよう~!ンフフ、捕まえたゾ~?(いと)しのアマネたん」

 

「マ、マキちゃん…!」

 

 

 

 アマネが『マキちゃん』と、アダ名で呼んだ少女・()(づき) マキノちゃんは、捕獲したアマネの、スレンダーな()(たい)を、好き放題に触り始めた。

 あれ?この光景、なんかデジャヴ!

 

 

 

「ちょ、コラ!変なところ触るな!あと暑苦しい!」

 

「ダーメ。こんな(うす)()なアマネたんを前にしたら、ガマン出来ない~!」

 

 

 

 マキちゃんの両手が扇情的な動きで、アマネの身体を(あい)()する。

 左手は露出した太股(ふともも)に指先を(すべ)らせ、右手はブラウスの(すそ)の下から入り込んで、素肌に()れていた。

 (ほお)を赤らめて、くすぐったそうに身を(よじ)るアマネと、同じく顔を火照(ほ て)らせ、息を荒くしながら彼女の柔肌(やわはだ)をまさぐるマキちゃん。朝っぱらから、なんてエロス!!

 

 

 

「こ、の…ッ!やめんかい!」

 

(いた)ッ、いたたたッ!」

 

 

 

 しかし、そんな(いん)()な時間は、アマネがマキちゃんの手首を締め上げた事で、早くも強制終了した。

 

 

 

「ごめんって、アマネたん」

 

「もう。毎年この時期になると、すぐこうなんだから」

 

「毎年ヤられてるんだ……ホント(なか)いいね、ふたりとも」

 

「アマネたんとは中等部からの付き合いだからね~。ここだけの話、アマネたんのおっぱいがおっきいのは、あたしが日々(ひ び)()み続けて(そだ)てたから…」

 

「デタラメ言うな!」

 

 

 

 マキちゃんはアマネにツッコミを入れられると、ケタケタと楽しそうに笑った。

 

 ちなみに、マキちゃんの制服も、夏服に変わっていた。

 ただ、アマネと比べると、胸部(きょうぶ)の盛り上がりは(つつ)ましやかだった。

 ※決して貧乳というわけではない。

 

 なんて(くち)にしたら最後、何をされるか分からないので、心の奥深くに(とど)めておきます。

 

 

 

「とにかく、さっさと教室に行くわよ。暑いし早く冷房に当たりたい」

 

「そうだね、行こっか」

 

「ねぇねぇ、アマネたん。涼しい室内(と こ)でなら触っても良い?」

 

「却下!」

 

 

 

 外は蒸し暑いので、早めに教室に入って(りょう)を取ろうと、ボク達の足が校舎に向いた瞬間…

 

 

 

「お待ちなさい!!総角(アゲマキ) (セツ)()!!」

 

 

 

 突如、女性と思わしき、張りのある凜然(りんぜん)一声(いっせい)がボクの名を(さけ)んだ。

 

 ボクは呼ばれたので後ろを見ると、そこには一人の女子生徒が立っていた。

 

 髪の色は白に近い金髪で、ツインテールをドリル状に巻いた、派手(ハ デ)な髪型をしている。

 キリッと引き締まった目元に()える水色(みずいろ)(ひとみ)は、(おごそ)かな(まな)()しをこちらに向けていた。

 八頭身で脚線美、しかも巨乳という、ワガママボディ。

 その(れい)()な美貌は、偶然(ぐうぜん)この場に居合わせた(ほか)の生徒達の視線をも、すでに釘付けにさせてしまっている。

 

 

 

「あっ、ワニ(じょう)ちゃんだ」

 

 

 

 マキちゃんが(くち)を開いた。すると、目の前の美女は気を悪くしたのか眉根を寄せて、マキちゃんを(にら)みつけた。

 

 

 

「そこの下級生!その呼び方はお()めと言っているでしょう!(アタクシ)には、鰐塚(ワニヅカ) ミサキという名前がありましてよ!」

 

 

 

 彼女の口調や(ふる)()いからは、どことなく気品(あふ)れる、お嬢様の品格を感じた。

 なるほど、鰐塚(ワニヅカ)だから『ワニ(じょう)』か。

 

 

 

「マキちゃん、知ってる人?」

 

「有名人だよ?名門・鰐塚(ワニヅカ)財閥(ざいばつ)の一人娘。見ての通り美人さんだから、学園にファンクラブまで出来てるんだって」

 

「はあ~…なるほど。所謂(いわゆる)セレブってやつだね」

 

 

 

 イメージに(たが)わず、高貴な家柄の御令嬢でしたか。

 

 

 

「良かったわね、セツナ。また『十傑(じっけつ)』と闘えるわよ」

 

「えっ!この(ひと)も『十傑(じっけつ)』!?」

 

 

 

 アマネが何やらニヤニヤしながら、ボクの右肩に手を置いて、そう教えてくれた。

 

 『ジャルダン十傑(じっけつ)』。

 学園の生徒、一人ひとりに与えられる、5段階の階級(ランク)の最上位、ランク・(エー)

 それを叙勲(じょくん)している生徒(エリート)達の中でも、頭ひとつ抜きん出た、天才と称される十人の決闘者(デュエリスト)

 

 先週、デュエルした虎丸(とらまる)くんに引き続き、新たな『十傑』の登場ってわけか。

 

 

 

「朝から両手に花とは随分(ずいぶん)と浮かれておりますわね?ですが(アタクシ)がこうして出向いた以上、貴方(アナタ)(てん)()でいられるのも、ここまででしてよ!総角(アゲマキ) (セツ)()!」

 

 

 

 ボクを指さして、鰐塚(ワニヅカ)ちゃんは声を上げた。いやいや両手に花って…

 

 

 

「へぇ~?あたし達って、そういう関係に見える?」

 

「え、ちょ、マキちゃん!?」

 

 

 

 マキちゃんは目を細めて怪しく笑いながら、ボクの左腕に、自分の華奢(きゃしゃ)な両腕を絡めてきた。

 

 腕を組まれて身体を密着させられた事により、その、なんていうか…ボクの腕に、マキちゃんの(むね)の、(やわ)らかい感触が…

 

 

 

「えーっと…マキちゃんさん?…当たってる…」

 

「当ててるの♡」

 

 

 

 こういうのを小悪魔って形容するのか!マキちゃんはボクが困惑しているのを面白がって、更に胸を押し付けてきた。

 

 そして、それを見ていた鰐塚ちゃんは、鬼の様な形相に変貌していた。なんかドス(ぐろ)いオーラまで放出されてる!?ゴゴゴゴッて、擬音も聴こえる!

 

 

 

「……風紀委員会・代表である、この(アタクシ)の前で良い度胸ですわね?不純異性交遊など、(だん)じて認めるわけにはいきませんわ!」

 

「風紀委員だったの!?」

 

「構えなさい!(アタクシ)が直々に、性根を叩き直して差し上げますわ!」

 

 

 

 鰐塚ちゃんは、水色の決闘盤(デュエルディスク)を左腕に装着した。

 あまり状況は飲み込めていないけど……OK(オーケー)決闘者(デュエリスト)が向かい合ったなら、やることは(ひと)つだ。

 ボクは未だに引っ付いているマキちゃんを、やんわりと離してから、デュエルディスクを装着した。

 

 

 

「デュエルなら喜んで受けて立つよ、鰐塚ちゃん」

 

「言っておきますが!(アタクシ)虎丸(とらまる)のボウヤの様に、(あま)っちょろい決闘者(デュエリスト)ではなくてよ!」

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 鰐塚(ワニヅカ) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

(アタクシ)の先攻で(まい)りますわ。手札からフィールド()(ほう)・【忘却の(みやこ) レミューリア】発動!」

 

 

 

 鰐塚ちゃんの後面に古代都市が顕現し、フィールド全域が海に沈む壮観な光景が広がった。

 

 

 

「このフィールドでは水属性モンスターの攻撃力・守備力は、200ポイント上昇しますわ。(アタクシ)は【ライオ・アリゲーター】を召喚!」

 

 

 

【ライオ・アリゲーター】 攻撃力 1900

 

 

 

フィールド魔法(レ ミ ュ ー リ ア)の効果で、攻撃力アップ!」

 

 

 

【ライオ・アリゲーター】 攻撃力 1900 + 200 = 2100

 

 

 

「カードを1枚()せ、ターン終了ですわ」

 

「いきなり攻撃力が2000を越えてきたか……おもしろいね!ボクのターン!手札から、【プチリュウ】を召喚!」

 

 

 

【プチリュウ】 攻撃力 600

 

 

 

「ハッ、なんですの?その低級モンスターは」

 

「こう見えて意外と強いんだよ?魔法(マジック)カード・【財宝への隠し通路】発動!」

 

「!」

 

「この効果で、プチリュウは相手に直接攻撃(ダイレクトアタック)が出来る!さぁ見せ場だよ!行け、プチリュウ!」

 

 

 

 プチリュウは気合いの(こも)った(たい)()たり攻撃を、鰐塚ちゃんに仕掛ける。

 

 

 

「そんな安い攻撃を通すと思って?トラップ発動!【竜巻海流壁(トルネードウォール)】!」

 

「!」

 

 

 

 フィールドを飲み込んでいた海面から竜巻(たつまき)が発生し、プチリュウを軽々と弾き返した。

 

 

 

「【忘却の都 レミューリア】は、カード名を【(うみ)】としても扱いますわ。そして【竜巻海流壁(トルネードウォール)】は、【海】がフィールドに存在する限り、(アタクシ)が受ける全ての戦闘ダメージを、(ゼロ)に出来ますの」

 

「そう易々(やすやす)とは通らないかー……ボクは2枚のカードを伏せて、ターン終了!」

 

貴方(アナタ)ごときが(アタクシ)の身体に()れようなど、千年早くてよ。(アタクシ)のターン、ドロー!」

 

(……フッ。この決闘(デュエル)、瞬殺でしてよ!)

 

「【ライオ・アリゲーター】をリリース!【スパウン・アリゲーター】、アドバンス召喚!」

 

 

 

【スパウン・アリゲーター】 攻撃力 2200

 

 

 

「【レミューリア】のフィールド・パワーソースを得て、攻撃力アップ!」

 

 

 

【スパウン・アリゲーター】 攻撃力 2200 + 200 = 2400

 

 

 

「ッ…!」

 

「バトルですわ!【スパウン・アリゲーター】で、【プチリュウ】を攻撃!『スピニング・イート』!!」

 

 

 

 【スパウン・アリゲーター】の大顎(オオアゴ)が【プチリュウ】を丸飲みにしてしまう。

 

 

 

「うあ…ッ!」

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 2200

 

 

 

「エンドフェイズ時、スパウン・アリゲーターの効果により、墓地の【ライオ・アリゲーター】を特殊召喚しますわ」

 

 

 

【ライオ・アリゲーター】 攻撃力 1900 + 200 = 2100

 

 

 

(アタクシ)はこれで、ターン終了(エンド)。……先程から貴方、まるで手応えが無いですわね?九頭竜や虎丸に勝てたというのも、マグレだったのではなくて?」

 

「どうだろうね……ボクのターン!」

 

 

 

 相手の場には高攻撃力のモンスターが2体。どうやって戦況を打破しようかな…

 

 

 

「……それなら!ボクは(トラップ)カード・【戦線復帰】を発動!墓地から【プチリュウ】を、守備表示で復活させる!」

 

 

 

【プチリュウ】 守備力 700

 

 

 

「さらにカードを2枚セットして、ターンエンド!」

 

「またですの?弱小モンスターを何度出してきても、同じ事でしてよ!」

 

「…………」

 

(アタクシ)のターン!さぁ、覚悟なさい!【ライオ・アリゲーター】で、【プチリュウ】を攻撃!」

 

 

 

 【ライオ・アリゲーター】が【プチリュウ】を喰らおうと迫り来る。

 だけど、ボクの大切なモンスターを、二度もワニの(エサ)にさせはしない!

 

 

 

「リバースカード・オープン!【ハーフ・シャット】!この効果で【プチリュウ】は、攻撃力が半分になる代わりに戦闘では破壊されない!」

 

 

 

【プチリュウ】 攻撃力 600 → 300

 

 

 

「おおっ、セツナくん上手いね!守備表示なら攻撃力が下がっても関係ないし、これでこのターンの攻撃は(ふせ)げるよ!」

 

「…いや、まだよ…!」

 

 

 

 観戦していたマキちゃんとアマネの、そんな会話が耳に届いた。

 アマネが言った「まだ」の意味が分からずにいたけど、答えはすぐに出た。

 

 

 

無駄(ム ダ)足掻(あ が)きでしてよ!【ライオ・アリゲーター】は爬虫類族の攻撃に、貫通効果を付与(ふ よ)しますわ!」

 

「なっ…!」

 

 

 

 【ハーフ・シャット】の効力で、プチリュウの破壊は(まぬが)れたけど、貫通した戦闘ダメージがボクのライフを削った。

 

 

 

「ぐっ…!」

 

 

 

 セツナ LP 2200 → 800

 

 

 

「そして、これで終了(フィニッシュ)でしてよ!【スパウン・アリゲーター】の攻撃!」

 

「…!(トラップ)カード・【(ふく)()(よう)?】発動!」

 

「!?」

 

「このカードは相手に最大3枚まで、好きな枚数デッキからドローさせ、ボクは1枚につき、2000ポイント回復する!さぁ何枚引く?鰐塚ちゃん!」

 

「チッ…1枚で結構(けっこう)ですわ!」

 

 

 

 セツナ LP 800 → 2800

 

 

 

()(くだ)いておしまい!『スピニング・イート』!!」

 

「…!」

 

(耐えて…プチリュウ…!)

 

 

 

 【スパウン・アリゲーター】の攻撃を、【プチリュウ】が必死で受け止める。

 貫通ダメージでボクのライフは減らされたけど、何とか【プチリュウ】は守れた。

 

 

 

 セツナ LP 2800 → 1100

 

 

 

「やけにそのモンスターを(かば)うんですのね?ですが…貴方のおかげで(アタクシ)の手札には、素晴(す ば)らしいカードが来ましてよ」

 

「…?」

 

「装備カード・【()(どう)()(ちから)】を、【スパウン・アリゲーター】に装備!」

 

「ッ!」

 

「これを装備したモンスターの攻撃力は、自分フィールドの魔法(マジック)(トラップ)カードの枚数 × 500ポイント強化されますわ。(アタクシ)の場には合計3枚。よって、【スパウン・アリゲーター】の攻撃力は、1500ポイントアップ!」

 

 

 

【スパウン・アリゲーター】 攻撃力 2400 + 1500 = 3900

 

 

 

「攻撃力…3900…!?」

 

「次のターンで確実に仕留(し と)めてあげましてよ。ターンエンド!」

 

「…ボクのターン…」

 

 

 

 …そろそろ頃合いかな。

 

 ボクは掛けていた眼鏡(メガネ)を、ゆっくりと取り外すと…

 

 

 

「アマネ!」

 

「!」

 

 

 

 それをアマネに投げ渡した。アマネは少し驚いた顔をしながらも、上手にメガネをキャッチしてくれた。

 

 

 

「…いよいよ本領発揮?セツナ」

 

「うん。良い感じに身体も(あった)まってきた」

 

 

 

「?急にメガネ外して、どうしたの?セツナくん」

 

「そう言えば、マキちゃんって、あの状態(・ ・ ・ ・)のセツナを見るのは初めてだっけ?」

 

「…うん」

 

「こうなった時のセツナはね……かなり(すご)いよ」

 

 

 

「行くよ、ドロー!!」

 

「見苦しいですわね!この状況で、よもや勝算でもあるんですの?」

 

「…まぁね!」

 

「!…何をヘラヘラと…!」

 

「リバース(トラップ)・【無謀な欲張り】!次の自分のドローフェイズを2回スキップするのと引き換えに、カードを2枚ドローできる」

 

 

 

 これで通常のドローと(あわ)せて、3枚のカードをドローした。この4枚の手札を使って……勝つ!

 

 

 

「まずは魔法(マジック)カード・【(わな)はずし】を発動!【竜巻海流壁(トルネードウォール)】を破壊する!」

 

「!」

 

 

 

 永続(トラップ)・【竜巻海流壁(トルネードウォール)】が消滅した今なら、鰐塚ちゃんにも戦闘ダメージが通る。

 

 ついでに魔法(マジック)(トラップ)ゾーンのカードが1枚なくなったので、【魔導師の力】を装備している【スパウン・アリゲーター】の攻撃力も下がる。

 

 

 

【スパウン・アリゲーター】 攻撃力 3900 - 500 = 3400

 

 

 

「ボクは【エレメント・ドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【エレメント・ドラゴン】 攻撃力 1500

 

 

 

「たかが攻撃力1500程度で、何をなさるおつもり?」

 

「フフッ、驚かないでね?手札から速攻()(ほう)・【(うつ)()()(たて)()】、発動!」

 

「…!」

 

「この効果で、フィールドに()る装備カード1枚を、別のモンスターに移し替える事が出来る!(きみ)の【魔導師の力】、ちょっと借りるよ!」

 

「なんですって!?」

 

「【エレメント・ドラゴン】に【魔導師の力】を装備!鰐塚ちゃんの場には、魔法カードが2枚。よって攻撃力、1000ポイントアップ!」

 

 

 

【エレメント・ドラゴン】 攻撃力 1500 + 1000 = 2500

 

 

 

「そして装備カードを(はず)された、【スパウン・アリゲーター】の攻撃力は減少する!」

 

 

 

【スパウン・アリゲーター】 攻撃力 3400 → 2400

 

 

 

「くっ…(アタクシ)のカードを勝手に…!」

 

「まだだよ!魔法(マジック)カード・【(いっ)()()(せい)】を発動!【エレメント・ドラゴン】の攻撃力を、さらに1500、アップする!」

 

 

 

【エレメント・ドラゴン】 攻撃力 2500 + 1500 = 4000

 

 

 

「こ…!攻撃力4000!?」

 

「最後に【プチリュウ】を攻撃表示にして……バトルだ!【エレメント・ドラゴン】で、【ライオ・アリゲーター】を攻撃!」

 

「うぅ!」

 

 

 

 鰐塚 LP 4000 → 2100

 

 

 

「この…!よくもやってくれましたわね!?」

 

(もう許しませんわ…!少々(あなど)りましたが…次のターン、【スパウン・アリゲーター】で【プチリュウ】を破壊すれば、(アタクシ)の勝利でしてよ!)

 

「悪いけど、君が考えてる(よう)にはならないよ。鰐塚ちゃん」

 

「……はい?」

 

「【エレメント・ドラゴン】は、フィールドに風属性のモンスターが存在する時、2回目の戦闘(バトル)(おこな)える!」

 

「か…風属性…?まさか…!」

 

「君が散々、小馬鹿にしていた【プチリュウ】のおかげで、【エレメント・ドラゴン】は真価を発揮できるんだ」

 

 

 

 モンスター同士の(キズナ)の強さ。それこそがボクのデッキの、真骨頂でもある。

 

 

 

「【エレメント・ドラゴン】で、【スパウン・アリゲーター】を攻撃!『スパークル・スフィア』!!」

 

 

 

 【エレメント・ドラゴン】の放った、エネルギー(だん)が命中し、【スパウン・アリゲーター】は破壊される。

 

 

 

 鰐塚 LP 2100 → 500

 

 

 

「そ、そんな…(アタクシ)が…!」

 

「これで、チェックメイトだ!【プチリュウ】で鰐塚ちゃんに、ダイレクトアターック!!」

 

「キャアアァァーッ!?」

 

 

 

 鰐塚 LP 0

 

 

 

 【プチリュウ】は全身全霊のタックルで鰐塚ちゃんを吹き飛ばし、フィニッシャーとして、見事ラストを飾った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決闘(デュエル)が終幕すると、周囲の生徒達が騒然となった。

 あちゃ…また変な目立ち方したかな。

 

 (とう)の鰐塚ちゃんはというと、地面に座り込んで、悔しそうな表情を浮かべていた。

 このまま立ち去るのも気が引けるので、ボクは彼女に手を差し伸べる。

 

 

 

「立てる?鰐塚ちゃん」

 

「………ひとつ…お聞きしてもよろしくて…?」

 

「ん?」

 

「何故あそこまで…【プチリュウ】での攻撃に(こだわ)ったんですの?」

 

「…あー…うん。以前(ま え)にね、約束してたんだ。『次は活躍(・ ・ ・ ・)させるから(・ ・ ・ ・ ・)』、ってさ」

 

 

 九頭竜くんとの決闘(デュエル)では、ぞんざいな扱いをしてしまったからね。ボクは約束は守る男だ。

 

 ポカン、と、鰐塚ちゃんはボクを見上げた。かと思えば今度は急に笑い始めた。ボク何か可笑(お か)しなこと言ったかな?

 

 

 

「フッ、フフフフッ!なんですの?それ!」

 

(……カードをここまで大切にする決闘者(デュエリスト)がいたなんて……完敗ですわ…)

 

「…次はこうはいかなくてよ、総角(アゲマキ) (セツ)()

 

「フルネームなんて堅苦(かたくる)しいよ。セツナって呼んで?」

 

 

 

 ボクは鰐塚ちゃんの手を握って、優しく立ち上がらせ…

 

 

 

「セツナくんカッコ良かったよー!」

 

「うわっ!?」

 

 

 

 後ろから、マキちゃんが抱き着いてきた。完全に(きょ)を突かれたボクは、自分の身体を支えきれず、バランスを崩して前のめりに倒れ込む。

 

 

 

「ちょ、ちょっと!?きゃあ!」

 

 

 

 鰐塚ちゃんの短い悲鳴が()(まく)(たた)いた。

 次いで、ボクは鰐塚ちゃんを押し倒して、マキちゃん共々、地面に横になる。

 

 

 

「いったた…もう~。マキちゃん退()いてよ~」

 

「えへへ」

 

 

 

 けっこう勢い良く()()かっちゃったから、鰐塚ちゃんが怪我(ケ ガ)でもしてないか心配だ。

 

 早めに起き上がろうと、腕を動かした時、右の手の平に、柔らかい感触を覚えた。

 

 

 

「…………ん?」

 

 

 

 それに気づいた瞬間、ボクは全身が硬直した。

 

 ボクの右手は、鰐塚ちゃんの豊満な胸を、(わし)(づか)んで揉んでいた。

 

 指先に少し(ちから)を込めると感じる反発力。本能的に全神経が(てのひら)へと集中し、(ふく)()しに伝わる胸の触り心地を、(いや)(おう)でも堪能する。(きわ)めつけは、大胆に(はだ)()た胸元だった。恐らく転倒した際に、ブラウスのボタンが弾け飛んだんだろう。健康的で、きめ細やかな柔肌(やわはだ)が外気に(さら)されており、(あらが)いようもなく目線が引き寄せられる。暑さからか汗に()れた美肌が何とも魅惑的で、そのあまりにも艶麗(えんれい)な場景に、ボクは言葉を失い……

 

 

 

 …………。

 

 いやいやいや。

 

 なにを冷静に、おっぱい触った感想を、詳細に描写してるんだ、ボクは。

 

 

 

「~~~~~~ッ!!」

 

 

 

 鰐塚ちゃんの顔は、(すで)()(ダコ)みたいに真っ赤だ。肩を震わせ、涙目になっていた。

 

 

 

「け……ケ…!ケダモノォォーーーッ!!!」

 

「ぶはぁあーっ!?」

 

 

 

 鋭くも乾いた音が鳴り響く。

 (ほほ)に平手打ちを(たまわ)ったボクは、身体が数センチ(ちゅう)を舞った(のち)、地面を転がった。これ女の子のビンタの威力じゃなくない!?

 

 

 

「この()(らち)(もの)!野蛮人!やはり貴方の様な()(せん)決闘者(デュエリスト)を、のさばらせるわけにはいかなくてよ!」

 

 

 

 (あらわ)になった胸を隠しながら、鰐塚ちゃんは(まく)し立てる。

 

 気がつくと、ボクは数人の男子生徒に取り囲まれていた。あれ?全員、殺気の濃度が半端じゃないんですけど。

 

 

 

「彼らは風紀委員会が誇る精鋭にして、(アタクシ)の忠実な部下ですわ。やっておしまい!」

 

「「「ハッ!!!!」」」

 

「やっ、待って待って!これは不可抗力……うわぁーっ!!」

 

 

 

 学園中を追いかけ回された。正直、死ぬかと思った。

 

 最終的には決闘(デュエル)で倒して事なきを得たけれど、公衆の面前での事故だったため、しばらくボクに対する周りの印象は最悪でした…トホホ。

 

 

 

 





 金髪ツインドリル高飛車巨乳お嬢様かわいい( ^ω^)

 さて!衣替えもさせたし、次の記念すべき第10話は、リクエスト回になります!夏ですからね!

 リクエストは随時募集中!感想もお待ちしておりますですわ(?)


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TURN - 10 Seaside Encount


 記念すべき第10話!!

 今回はリクエスト頂いた、初の水着回です!

 ※この作品は、ギリギリ健全です。



 

 透明度の高い海と、どこまでも続く白い砂浜。突き抜ける様な青い空。

 

 ボクは浜辺で、ビーチパラソルの下に設置したサマーベッドに(あお)()けに寝転がり、さざ波の潮騒(しおさい)をBGMにして、心地よい昼寝を堪能していた。

 

 服装は、前を開いた白シャツ一枚に、紺色(こんいろ)のハーフパンツ。リゾートスタイルのアウトドアコーデで、バッチリ決めている。

 眼鏡(メガネ)も普段の赤メガネではなく、黒のサングラスを掛けてみた。

 

 気分は正に、南国でバカンスを満喫するセレブだ。

 

 

 

「……あぁ、癒される…。やっぱり夏と言えば海だね、ルイくん」

 

「そうですねぇ、セツナ先輩」

 

 

 

 (となり)でジュースを美味(お い)しそうに飲んでいる茶髪の少年・(いち)()() ルイくんと、そんな気の抜けた会話を交わす。

 

 ルイくんは水色のスウェットパーカーを羽織(は お)り、下は白のショートパンツを穿()いていた。

 裾口(すそぐち)から伸びる、細くて色白(いろじろ)太股(ふともも)だけを見たら、女の子と間違えてしまうかもしれない。だが男だ。

 

 

 

「まさか海水浴に誘ってもらえるなんて思わなかったです。…その……ありがとうございます」

 

「喜んでくれて良かったよ。言い出しっぺはマキちゃんだけどね」

 

 

 

 そう。なんと今日は(みんな)で、休日を利用して、海水浴に来ているんだ。

 

 切っ掛けは5日前。

 

 マキちゃんが唐突に、「そうだ、海に行こう!」、と、言い出したのが始まりだった。

 集まった(メン)()は、アマネとマキちゃんに、ボクとルイくんの計4名。ルイくんはボクが誘いました。

 

 ちなみに肝心の(じょ)()二人(ふたり)は今、更衣室にて、お着替え中。そろそろ戻ってくる頃だけど……

 

 

 

「お待たせー!」

 

「ごめんね、待った?」

 

 

 

 おぉ、ちょうど帰ってきたようだ。うたた寝していた意識を覚醒させて、上半身を起こす。

 

 

 

「…………わお…」

 

 

 

 思わず感嘆の声が漏れた。

 

 そこには全・男子諸君お待ちかね、水着姿の、アマネとマキちゃんが立っていた。

 

 アマネが着ているのは黒のビキニで、柄は無地。トップスは三角タイプで、ショーツは(ひも)パンだった。下着みたいなセクシーなラインに、ドキッとしてしまう。

 大きな(むね)、くびれのある細い(ウエスト)、しなやかな美脚。

 モデル顔負けのスタイルの良さを、水着の黒色が強調していて、とても似合っていた。肌も雪の様に白く、眩しい。

 

 マキちゃんも負けてはいない。

 ピンクと白のボーダー柄という、可愛(かわい)らしいデザインのビキニを身に(まと)っており、トップスはホルターネック。ショーツはアマネと同じく、(ひも)パンを穿()いている。

 形よく隆起した胸部や、キュッと引き締まった小さくて上向きなヒップ、流麗な曲線を(えが)く、すらりとした体型は、アマネに全く引けを取らない。

 

 ふつくしい……。気づけば、グラサンが()り落ちたのも(かま)わず、ボクは二人(ふたり)の大胆な格好に見惚(み と)れていた。

 ルイくんも、魅入(み い)って(われ)を忘れているみたいで、飲み物をドバドバと(こぼ)している。

 

 よし、この絶景は今の内に網膜(もうまく)に焼き付けよう。目の保養、目の保養。

 

 

 

「フフッ、さっきから見過ぎだよ~?セツナくんの、エッチ」

 

「ギクッ!?」

 

 

 

 マキちゃんに感づかれ、アマネにもジト目で睨まれたので、ボクとルイくんは急いで視線を逸らす。

 

 

 

「……あのさ、セツナ。…ちょっと…頼みがあるんだけど……いいかな?」

 

「頼み?」

 

 

 

 アマネは珍しく(しお)らしい口調でボクに言った後、パラソルの(かげ)に敷いておいたレジャーシートの上に、ゆっくりと腹這いで寝そべった。

 そして、どこか恥ずかしそうに顔を赤らめながら、その頼み事の内容を(くち)にする。

 

 

 

「せ、背中に……オイル、塗ってくれない…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在ボクは、うつ伏せ状態のアマネの(そば)にスタンバイしている。

 片手に持っているのは、マキちゃんから押し付けられたプラスチック製の容器で、中身はUVカット用のオイル。分かりやすく言うと、日焼け止めだ。

 

 アマネはビキニのトップスを外して、無防備な背中をこちらに晒している。

 シミひとつない健康的な美肌だ。これから、この素肌に両手で(じか)()れて、オイルを塗りたくっていくのか……って、いやいや、ちょっと待とうか。

 

 

 

「こ、こここ、こういうのは、女の子(マキちゃん)がやった方が良いんじゃないかな!?」

 

「マキちゃんは変なとこ触るからダメ」

 

 

 

 (ども)りながら(うわ)ずった声で提案してみたけれど、アマネにそれを一蹴された。

 まぁ、マキちゃんの場合は日頃の行いがアレ(・ ・)だから、彼女に任せたら絶対、ただ塗るだけじゃ済まなそうだしね……。

 

 

 

「アマネたんのイケズー」

 

「せ、先輩…ファイトです…!」

 

 

 

 マキちゃんは信用の低さに対して不満を吐きつつも、完全に面白がっている顔をしていた。

 ニヨニヨしてるもん!含み笑いを隠そうともしないもん!

 

 

 

「は、早くしてよ……」

 

「う…うん!じゃあ、塗るね…?」

 

 

 

 れれれ冷静になれ!ただ日焼け止めを塗るだけだ!アマネの艶肌(ツヤはだ)を、紫外線から守る為に必要な事なんだ!

 

 ボクは一呼吸おいて、適量のオイルを手に取り、それをアマネの背中に塗りつける。

 

 

 

「…ッ…ん…!」

 

 

 

 途端、アマネは身体を微かに震わせて、押し殺した様な声を発した。ボクは吃驚(ビックリ)して手を止めてしまう。

 

 

 

「だ、ダイジョウブ?」

 

「ん……大丈夫、だから……続けて…?」

 

 

 

 半裸で言われると意味深に聞こえて、心臓が()たないんですがアマネさん。

 

 恐る恐る、日焼け止めの塗布(と ふ)作業を再開する。

 背中の柔らかい肌触りと、オイルのヌルヌル感が手の平いっぱいに伝わってくる。

 ずっと触っていたい欲求に駆られたけど、アマネの(くち)からは断続的に「あん…!」とか「んぅ…!」と言った、()(いき)()じりの(なや)ましげな声が洩れるので、ボクの理性が崩壊する前に終わらせないと色々な意味でヤバイ。

 

 

 

「……むぅ~、セツナくん()れったーい!あたしが手本を見せてあげる!」

 

「えっ!?ちょ…!」

 

 

 

 突然マキちゃんが(しび)れを切らしたのか乱入してきた。

 ボクを押し退()け、光の早さでオイルを自分の手に垂らすと、瞬時にアマネの身体を揉み(ほぐ)し始める。

 

 

 

「ひゃあんっ!?」

 

 

 

 するとどうだろうか。先程まで必死に声を抑えていたアマネが耐え切れず、甲高い矯声(きょうせい)を響かせた。

 慣れを通り越して、洗練された手つきだ。これが長年の経験(?)の賜物(たまもの)か…!

 

 

 

「ほらほら。日焼け止めは満遍(まんべん)なく塗らないと、ムラが出来ちゃうでしょ?アマネたんは敏感肌なんだから、全身に(・ ・ ・)(くま)なく塗ってあげないと!」

 

「全…!?ま、マキちゃん!前は自分で塗るから良いって…!」

 

「ヌフフフフッ……アマネたーん、観念なさい!」

 

「あっ…!!」

 

 

 

 アマネの抗議も虚しく、マキちゃんはアマネの胸に遠慮なく右手を伸ばした。

 塗られたオイルが文字通り、潤滑油の役目を果たしているので、手は容易(たやす)く胸の谷間へと(すべ)り込んだ。

 

 マキちゃんはその態勢のまま、アマネを(あお)()けに引っくり返す。

 アマネは(すで)に、マキちゃんの手練手管で身体が()(かん)し、すっかり脱力してしまっている。

 あの気丈なアマネが抵抗する素振りすら見せない。

 

 

 

「さぁ、お次は前をマッサージしましょうね!」

 

「や、やめろこの変態……んんっ!?」

 

 

 

 マキちゃんはオイルにまみれた手を、アマネの柔らかな双丘に這わせる。

 最初は円を描く様に、ゆっくりと揉み回し、時には寄せて上げたり、優しく圧迫してみたりと、無駄に熟練された様々な技法(テクニック)を駆使して、重点的に胸を攻め……オイルマッサージをしている。

 

 マキちゃんの指先が()れる(たび)に、身体を痙攣(けいれん)させ、(もだ)えるアマネ。

 18禁ギリギリの展開だ。大丈夫なのかこれ。

 

 

 

「……先輩?前が見えないです……」

 

「る、るる、ルイくんにはまだ早いから!」

 

 

 

 (とし)の差が1歳しか違わない後輩に対して何を言ってるんだと我ながら思ったけど、彼には刺激が強すぎると判断したので、ルイくんの両目を手で覆い隠した。

 

 

 

 --- しばらく揉みしだいて、ついに満足したのか。マキちゃんはアマネの胸から手を離した。よかった、やっと終わ……

 

 

 

「さてと、残るは()だね!」

 

「 」

 

「 」

 

 

 

 …ってなかったあああああ!!!!

 

 再び日焼け止めオイルを手に付けるマキちゃん。最早その笑顔も悪魔にしか見えない。

 

 

 

「大丈夫だよ。怖くないよ。むしろもっと気持ちよくなれるよ」

 

「そ……そんなぁ……」

 

 

 

 流石のアマネも涙目になっていた。

 

 マキちゃんの魔の手がアマネに伸びる。

 あぁ!いきなりそんなところを!?ちょ、マズイですよマキちゃんさん!そんなことしたら見え【 自 主 規 制 (ピーーーーーーーー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、二人の官能的な絡み合いは、ようやく終了した。

 

 

 

「はいおしまーい!お疲れアマネたん」

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 

 結局、本当に全身にオイルを塗りたくられたアマネは、起き上がる気力も無いのか(いま)だ動けないでいる。

 

 粘度の高い液体で身体中を濡らし、赤い(ひとみ)(うる)ませ、(ほほ)を紅潮させ、乱れた呼吸に合わせて緩やかに()(ふさ)を揺らす姿は何とも、エロかった。

 

 ボクはというと、(おさ)えるのが大変だった。ナニをって、その……ねぇ…?

 

 と、とにかく!これでアマネの肌が日に焼ける心配はなくなった。当初の目的は果たせたし結果オーライ!……の、(はず)

 

 

 

「……ていうか!まだ海にも入ってないのに早くもヘトヘトにしてどうするの!?」

 

「フッフーン。アマネたんの身体を知り尽くした、このあたしの手にかかれば、ザッとこんなものよ!」

 

「褒めてないから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休日なだけあって、海岸は大勢の人々で賑わっていた。

 小さな子供や親子連れもチラホラ見かけるけど、全体的には、ボク達と同年代ぐらいだったり、二十代の男女の比率が多い印象だ。

 

 うん。やっぱり女の子の水着は良いものだね。

 そう言えば……以前、学園で決闘(デュエル)した、『十傑(じっけつ)』の鰐塚(ワニヅカ)ちゃんが水着を着たら、どうなるんだろう?

 グラマラスな体型(ボディ)してるからなぁ。きっと凄い破壊力に違いない。アマネやマキちゃんと、良い勝負だろうな。

 なんて事をボンヤリと考えていると、眼前に球体が飛んできた。

 

 

 

「どうおあっ!?」

 

 

 

 脊髄反射で両手を顔の前に出し、すっ頓狂な声を上げつつ、飛来してきた球体を間一髪で(はじ)く。

 危うく顔面に直撃して、グラサンが割れるところだった。ボクは余所見(よ そ み)していた意識を、瞬時にそちらへ引き戻す。

 砂浜に組み立てられたネット。空中で回転しているボール。

 あぁそっか。今は4人で、ビーチバレーをしてたんだっけ。

 

 

 

「アマネ!よろしく!」

 

「あいよ!任せな!」

 

 

 

 同じチームの相方であるアマネに、ボクが打ち上げたボールを託す。

 ネットで分断した反対側に立っているのは、ルイくん&マキちゃんのチーム。

 アマネの、「マキちゃんとは敵対したい」という明らかに私怨の混ざった希望に沿って、決定したチーム分けだ。

 

 

 

「食らえマキちゃん!積年の恨み、今ここで晴らす!」

 

(きみ)ら本当に友達!?」

 

 

 

 ついツッコミを入れてしまった。ひとまずそれは置いといて。

 

 アマネは空高く跳躍し、舞い上がったボールに右手を叩き付け、スパイクを打ち込む。

 弾丸の如き速度(スピード)で打ち出されたボールは、風を切り、相手コートの地面へと一直線に着弾。

 衝撃で巻き上げられた砂の量が、その威力を物語っている。

 ついでにアマネが入魂した、(えん)()(ねん)の強さも。

 

 

 

「うひゃあ~!これ本気で殺しに来てない?アマネたん」

 

「あわわわわわ……!」

 

 

 

 マキちゃんは()(かく)、ルイくんは今の一撃で、完璧に心が折れてしまったらしい。お気の毒に。

 

 

 

「ナイスショット!アマネ!」

 

「セツナこそ、ナイストス!でも他の女の子見てると怪我するわよ」

 

「うっ!バレてた!?」

 

 

 

 とりあえず得点は喜ぼう。ボクはアマネと、ハイタッチする。

 

 

 

「……あの二人お似合いだね~。ね?ルイちゃん」

 

「えっ?あ、はい……そう…ですね……ルイちゃん…?」

 

 

 

 ん?マキちゃんとルイくん、何の話をしてるんだろ?

 

 

 

「セツナ、サーブよろしく」

 

「あ、うん」

 

 

 

 おっと、今度はボク達のサーブで試合(ゲーム)開始か。

 ボクはボールを構えて、自陣のサービスゾーンに立つ。

 いくらビーチバレー用の柔らかいボールと言っても、男のボクが全力で打ったら、それこそ怪我させてしまいかねない。

 だから攻撃はアマネに一任して、ボクは彼女のアシストに専念しよう、そうしよう。

 

 

 

「んじゃ、行くよー?ほいっと!」

 

 

 

 なるべく軽めの(ちから)加減でサーブを打つ。

 ボールは山なりに飛んでいき、ネットを難なく越えて敵陣に到達した。

 この軌道なら、ルイくんの真上にピンポイントで落ちる。さぁ上手く返せるかな?

 

 

 

「わっ、わ、わ……!」

 

 

 

 ルイくんは(あわ)ただしく手を動かすだけで、ひどく狼狽(うろた)えている。うん、無理そうだ。

 

 

 

「ルイちゃん危なーい!」

 

「わあっ!ま、マキノさ…んむっ!?」

 

 

 

 そこへマキちゃんが颯爽とフォローに入り、ボールを代わりにレシーブしてくれた。

 しかし、斜め前に飛び込んだ際の勢いを殺せず、ルイくんと接触して、マキちゃんの胸の中に、ルイくんの小さな顔が埋まった。これが俗に言う、ラッキースケベか!

 

 

 

「おぉ、やるねぇルイくん。……ん?アマネどこ行った?」

 

「チャンスボール、貰った!」

 

「容赦なし!?」

 

 

 

 相手チーム2名が仲良く砂地に倒れ込んでいる事など意に介さず、アマネはマキちゃんが打ち返したボールを狙って、いつの間にか地を蹴り、ジャンプしていた。

 まるでバレーボールの経験者の様な美しいフォームだ。レーザービームばりの豪速球スパイクが再び炸裂するのか。マキちゃん逃げて超逃げて。

 

 

 

 --- ところがそうはならなかった。

 

 

 

「!?」

 

 

 

 突如、アマネがアタックしようとしたボールを、何かが刺し貫いた。

 注視すると、それは何枚ものカードだった。

 カードで串刺しにされたボールは砂浜を数回バウンドし、やがてボクの足下まで転がってくる。

 誰がこんな真似を?……というのは、考えるまでもなかった。すぐ近くに、犯人が現れていたからだ。

 

 

 

「あれー?アマネじゃねーの?久しぶりだなぁ~、おい」

 

 

 

 アマネの名を親しげに呼ぶのは、黒のアロハシャツを着こなした若い男。

 長い黒髪を、後ろの高い位置で束ねた髪型で、顔の左半分には刺青(タトゥー)が刻まれている。

 整えた顎髭(アゴヒゲ)を生やし、両耳に数個のピアス。下唇の端にも、リング型のピアスを一つ開けていた。

 インパクト抜群の外見をした、厳つい兄ちゃんだった。多分ボク達より年上だろう。タバコ吸ってるし。

 

 

 

「げっ……鯨臥(いさふし)…!」

 

 

 

 男の名前を『鯨臥(いさふし)』と呼びながら、何故か苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべるアマネ。

 どうやら知り合いみたいだ。

 

 

 

「ははっ、おいおい苗字(みょうじ)なんて余所余所(よ そ よ そ)しいぜぇ?昔みたいに『(オト)()』って呼んでくれよ。なぁ、アマネ?」

 

「…………」

 

 

 

 鯨臥(いさふし) (オト)()。それが男のフルネームらしい。

 

 親しいと言うよりは、馴れ馴れしい態度でアマネに近づく男…鯨臥(いさふし)

 対して、アマネが彼に向ける眼差しは、決して好意的なものではなかった。

 むしろ……敵を見る目。明確な敵意が込められている様に、ボクには思えた。友人…の線は薄そうだ。

 

 

「オトヤー、何してんの~?」

 

「おっ!ナンパ?しかもメッチャ良い女じゃん!」

 

「ズリーぜ、オトヤばっか!俺らにも分けてくれよ!」

 

 

 

 今度は鯨臥(いさふし)の仲間らしき、数人の若い男女がゾロゾロと此方(こちら)にやって来た。

 いかにも柄の悪そうな(ナン)()な集団は、鯨臥(いさふし)に詰め寄られているアマネに目を付けると、瞬く間に彼女を囲んでいった。

 これは……雲行きが怪しくなってきたかも…。

 

 その時、鯨臥(いさふし)(くち)(ひら)いた。

 

 

 

「ちげーよ、バーカ。こいつ、俺の元カノ」

 

「!?」

 

 

 

 うそぉ!!アマネって元カレいたの!?

 

 いや、アマネの恵まれた容姿を考えたら、彼氏の一人や二人いても、別に不思議な事ではないけど……。

 

 

 

「今さら何の用なの?私に」

 

「せっかくの再会だってのに、んな顔すんなよアマネ。また一緒に遊ぼうぜ?昔みてぇに、よぉ…?」

 

 

 

 ねっとりした声で語りかけながら、鯨臥(いさふし)は右手にタバコを持ち、アマネの肩を、左手で撫でた。

 --- ()めた方が良い。

 そう直感したボクは、二人の間に割って入ろうと足を踏み出した。すると……

 

 

 

「……!」

 

「……マキちゃん…?」

 

「…あ"ぁ…?」

 

 

 

 ボクよりも先に、マキちゃんが鯨臥(いさふし)の手を払い除けて、アマネを(かば)った。

 マキちゃんのあんな真剣な表情、初めて見た。なんだかんだでアマネとマキちゃんは、固い絆で結ばれた、親友なんだね。

 

 

 

「アマネちゃんが嫌がってるでしょ。どっか行ってよ」

 

「…………フハッ!」

 

「くくっ、どっか行け!だってよ?」

 

「つかこの子も可愛いじゃん。俺が貰っていー?」

 

 

 

 それでも連中は、一向に聞く耳を持たない。やはり(ボク)が仲裁するしか無さそうだ。

 

 ボクは先程ボールに突き刺さったカードを全て引き抜くと、それを鯨臥に向けて投げ飛ばした。

 

 

 

「!!」

 

 

 

 鯨臥は(とっ)()に反応して、上手いことカードをキャッチする。鋭い眼光がボクを睨み付けた。

 

 

 

「……何のつもりだ?手前(てめぇ)…!」

 

「返してあげたんだよ、君のカード」

 

 

 

 怯むなよ、ボク。こういう時は、少しでも弱腰になったら負けだ。常に()(ぜん)としていなくちゃ。

 

 

 

「ねぇ元カレさん。悪いんだけど、今日のアマネはボク達と遊んでるんだ。デートのお誘いは、また今度にしてもらって良いかな?」

 

「…!セツナ…?」

 

「……なんだと…?」

 

 

 

 アマネの肩に腕を回して、抱き寄せながら言い放つと、鯨臥の顔つきが急に(けわ)しくなった。明らかに機嫌を損ねているのが見て取れる。

 

 続けてボクは、この状況を切り抜ける、唯一の方法を提言する。それは……

 

 

 

「どうしてもって言うなら、そうだね……決闘(デュエル)で決めようよ。ボクと1対1で」

 

決闘(デュエル)だぁ?俺に勝てるつもりかよ」

 

「勝った方がアマネと遊べる。どう?簡単でしょ?」

 

 

 

 決闘者(デュエリスト)なら、受けざるを得ない交換条件だ。後は、ボクが負けなければ良い。

 

 

 

(……ケッ、バーカが。手前(てめぇ)を瞬殺するだけでアマネが手に入るなら、チョロいもんだぜ)

 

「おもしれーじゃねぇか。(かる)~く(ひね)ってやるよ、小僧」

 

 

 

 タバコを吐き捨て、首を鳴らしながら、余裕そうに笑う鯨臥。実力に相当な自信があるのだろうか。

 

 

 

「小僧は()めてよね。ボクの名前はセツナ。総角(アゲマキ) (セツ)()だよ」

 

「ちょ…セツナ!こんな奴ら相手にすることないって!」

 

「アマネは下がってて。マキちゃんも。ここはボクが(おさ)めるからさ」

 

「セツナくん…」

 

 

 

 ボクと鯨臥は適当な距離を空け、互いに決闘盤(デュエルディスク)を起動させる。まさか海に来てまで決闘(デュエル)する事になろうとは。

 

 勝負の前に、ボクはサングラスを取り外して、赤メガネに付け替えた。

 やっぱり決闘(デュエル)の時は、赤メガネ(こ っ ち)の方がやり(やす)いからね。

 

 

 

「準備オッケー。いつでも良いよ」

 

「身の程を教えてやるぜ、小僧!」

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 鯨臥(いさふし) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「俺の先攻だ!俺は手札から【ジェネラルデーモン】を墓地に捨てる事で、デッキから【万魔殿(パンディモニウム)(あく)()巣窟(そうくつ)-】を手札に加える!」

 

「…!悪魔の巣窟…!?」

 

「とくと(おが)ませてやるぜ…!フィールド魔法・発動!【万魔殿(パンディモニウム) -悪魔の巣窟-】!!」

 

 

 

 鯨臥がディスクのフィールドカードゾーンにカードをセットした瞬間、フィールドは海辺の景観ぶち壊しの、おぞましい空間へと変貌(へんぼう)()げた。

 

 

 

「ヒュー。オトヤの奴、(しょ)っぱなから【万魔殿(パンディモニウム)】かよ」

 

「あいつ、野郎(ヤロー)にはとことん容赦しねぇからな。ギャハハッ!」

 

 

 

 決闘(デュエル)を観戦していた鯨臥の仲間達が笑いながら話しているのが聞こえた。

 いきなり全開か……望むところだよ!

 

 

 

「俺は【ゼラの戦士】を召喚!」

 

 

 

【ゼラの戦士】 攻撃力 1600

 

 

 

「さらに【ゼラの戦士】をリリース!現れろ!【デビルマゼラ】!!」

 

「!」

 

 

 

 (けん)(ヨロイ)で武装した屈強な戦士は闇に飲み込まれ、邪悪な魔族と化した。

 

 

 

【デビルマゼラ】 攻撃力 2800

 

 

 

「【デビルマゼラ】の効果発動!召喚時、相手の手札をランダムに3枚捨てる!」

 

「ええっ!3枚も!?」

 

 

 

 デュエルディスクが自動で選出した3枚の手札を、泣く泣く墓地に送る。

 

 

 

(うぅ…【ラビードラゴン】も持ってかれた…!)

 

 

 

 せっかく手札に控えていた自慢のエースカードを、早くも捨て札にされた。嘆かわしい。

 

 

 

「カードを1枚伏せて、ターン終了だ。手前(てめぇ)のターンだぜ、小僧!」

 

「だからセツナだってば。ボクのターン、ドロー!」

 

 

 

 正直、最初のターンから手札を減らされたのは痛手だ。動きにかなり制限が掛かる。

 

 

 

(…まっ、やれるだけの事はやるよ)

 

「自分フィールドにモンスターがいない時、墓地から【ミンゲイドラゴン】を特殊召喚できる!」

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 400

 

 

 

 これで【ラビードラゴン】が手札にあれば、【ミンゲイドラゴン】をリリースしてアドバンス召喚できたんだけど……墓地に行ってしまったのでは仕方がない。

 

 

 

「さらに【ドラゴラド】を通常召喚!」

 

 

 

【ドラゴラド】 攻撃力 1300

 

 

 

「【ドラゴラド】が召喚に成功した時、墓地から攻撃力1000以下の通常モンスターを、守備表示で特殊召喚できる!出ておいで!【ヤマタノ(ドラゴン)()(まき)】!」

 

 

 

【ヤマタノ竜絵巻】守備力 300

 

 

 

 フィールドに、赤い竜の()(えが)かれた絵巻が出現する。

 

 

 

「ぎゃはははっ!!なんだそれ!今時そんなカード使ってるやつ見たことねぇよ!」

 

「さっきから雑魚(ザ コ)モンスターしか召喚してねーし!そんなんでよくオトヤに『決闘(デュエル)しろ』なんて言えたなぁ、ガキンチョ!」

 

 

 

 何が可笑(お か)しいのか下品な笑い声を上げる男達。失敬だな、こんなにカッコいいのに。

 

 

 

「あいつら…!」

 

「落ち着いて、アマネちゃん。セツナくんなら大丈夫だから」

 

 

 

 マキちゃんの言う通り。野次や罵声(こ ん な の)は九頭竜くんと決闘(デュエル)した時に、もう慣れてる。ボクは気にせず、ターンを続行した。

 

 

 

「ボクは手札から魔法(マジック)カード・【突撃指令】を発動!自分フィールドの通常モンスター1体をリリースして、相手モンスター1体を破壊する!」

 

「んだとぉ…!?」

 

「行け!ヤマタノ竜絵巻!!」

 

 

 

 絵巻の中の(ドラゴン)が実体化して、敵モンスターに突撃。【デビルマゼラ】を破壊した。

 

 

 

「ぐおっ…!馬鹿(バ カ)な……俺のモンスターがこんな雑魚に…!」

 

「ボクの可愛いドラゴン達をバカにすると、痛い目みるよ!」

 

「……だが残念だったな?伏せ(リバース)カード・オープン!【デーモンとの駆け引き】!」

 

「!?」

 

「俺のフィールドの、レベル8モンスターが墓地に送られた事で、デッキから【バーサーク・デッド・ドラゴン】を特殊召喚できる!来い!【バーサーク・デッド・ドラゴン】!!」

 

 

 

【バーサーク・デッド・ドラゴン】 攻撃力 3500

 

 

 

「攻撃力……3500…!」

 

 

 

 まさか【デビルマゼラ】すら、このモンスターを召喚する為の布石に過ぎなかったとは…!

 

 

 

「ッ…!ボクはカードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

「俺のターン!【バーサーク・デッド・ドラゴン】で、【ミンゲイドラゴン】を攻撃ィ!『ジェノサイド・カノン』!!」

 

 

 

 不気味な異容のドラゴンの口から、巨大な火球が放たれる。

 標的となった【ミンゲイドラゴン】は、爆破され消滅してしまった。

 

 

 

「うぅ…!ぐっ…!」

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 900

 

 

 

「せ、先輩のライフが…!?」

 

 

 

 たった一撃で、ライフを3(ケタ)まで削られた…!ディスクのライフカウンターに表示されている数字の色が赤に変わる。

 

 

 

「これで終わりじゃないぜぇ?【バーサーク・デッド・ドラゴン】は、相手モンスター全てに連続攻撃が可能!!」

 

「!?」

 

 

 

「そんな…!【ドラゴラド】に攻撃されたら先輩は…!」

 

「セツナ…!」

 

 

 

 バーサーク・デッド・ドラゴンは、再び口腔(こうくう)に炎を(あふ)れさせ、追撃の態勢で(あるじ)の命令を待つ。

 

 

 

「くっ……!」

 

「トドメだ小僧!【バーサーク・デッド・ドラゴン】の攻撃!!」

 

 

 

 自身の勝利を確信し、高らかに攻撃宣言をする鯨臥。

 

 --- だが……

 

 

 

『……………』

 

 

 

 突如、バーサーク・デッド・ドラゴンの動きが止まり、鯨臥(コントローラー)の指示に反して、攻撃を放棄した。

 

 

 

「……あん?…おい!どうした!!」

 

「…そのドラゴンの攻撃力、よく見てみなよ」

 

「!」

 

 

 

【バーサーク・デッド・ドラゴン】 攻撃力 0

 

 

 

「攻撃力(ゼロ)だと!?」

 

「「「!?」」」

 

 

 

 鯨臥は目を剥いて驚愕の声を挙げた。彼の仲間達も、状況に理解が追いついていない様子で、どよめきが起こっている。

 皆のリアクションの良さに満悦したところで、いよいよ(タネ)明かし!

 

 

 

「ボクはこの(トラップ)カード・【ゼロ・フォース】を発動していた!」

 

「…!て、手前(てめぇ)……そのカードは…!?」

 

「そう。【ゼロ・フォース】は自分のモンスターがゲームから除外された時、フィールドに存在する、全てのモンスターの攻撃力を、(ゼロ)にする!」

 

 

 

「除外って…先輩のモンスターは、いつ除外されたんですか…?」

 

「【ミンゲイドラゴン】だよ。あのモンスターは自身の効果で墓地から復活した場合、次にフィールドを離れる時には除外(・ ・)される効果を持ってるの」

 

 

 

 マキちゃん説明サンクス!ルイくんも納得して、緑色の瞳を輝かせていた。

 

 

 

「ダメージを優先して、絶対【ミンゲイドラゴン】から攻撃すると思ったよ」

 

「このガキ…舐めやがって…!」

 

 

 

 もちろん【ドラゴラド】も【ゼロ・フォース】の効果は受けている。だけど攻撃力(ゼロ)同士なら、相討ちにすらならない。

 正直、連続攻撃は予想外だったから、少し焦ったけどね。

 これでもし【ドラゴラド】から先に攻撃されてたら、負けてたわけか……あっぶな!!

 

 

 

【ドラゴラド】 攻撃力 1300 → 0

 

 

 

 バトルフェイズが終わり、ターンはメインフェイズ2に切り替わる。

 鯨臥は、脅威的な攻撃力を失った【バーサーク・デッド・ドラゴン】を見上げると、苛立たしく舌打ちして……

 

 

 

「チッ、使えねーな……役立たず(・ ・ ・ ・)が!」

 

「……!」

 

 

 

 あろうことか自分の為に戦ってくれている(しもべ)に対して、そんな暴言(コトバ)を吐き捨てた。

 

 

 

「なら、せめて生け贄(・ ・ ・)になりやがれ!魔法(マジック)カード・【()(しき)の下準備】を発動!デッキから儀式魔法と、儀式モンスターを手札に加える!」

 

「儀式…!?まさか…!」

 

「くくくくっ…!俺が発動する儀式魔法は……ウルトラレアカード・【ゼラの儀式】!!」

 

 

 

 !!【ゼラの儀式】…!?

 (レベル)の合計が8以上に揃うよう、自分のモンスターをリリースして、儀式モンスター・【ゼラ】を召喚する……儀式魔法の元祖と(うた)われた、伝説のレアカード…!

 

 

 

「俺はレベル8の【バーサーク・デッド・ドラゴン】を()(にえ)(ささ)げ、【ゼラ】を降臨(こうりん)させる!!」

 

 

 

 屍の龍が悲痛な叫声(きょうせい)を響かせながら、闇の業火に包まれる。

 

 そして、青白(せいはく)の巨躯に紫の外套(がいとう)を纏った、凶暴な魔物が新たに降臨。

 悪魔の巣窟(パンディモニウム)に、大地を揺るがす咆哮を轟かせた。

 

 

 

【ゼラ】 攻撃力 2800

 

 

 

「ヒャハハハハハッ!見たか小僧!これぞ悪魔族の中でも最強クラスのモンスター、【ゼラ】だ!!」

 

「……オリジナルは世界でも、3枚しか存在しないと言われる、究極のウルトラレアモンスター…!」

 

 

 

「なんでそんなカードを鯨臥(あいつ)が…!」

 

 

 

 アマネも、鯨臥が【ゼラ】をデッキに入れてる事は知らなかった様だ。つい最近ゲットしたのかな?……なんて、今はどうでもいいか。それより……

 

 

 

「……おもしろいね…!」

 

「はぁ?」

 

 

 

 伝説級のレアモンスター。相手にとって不足なし。

 ボクは微笑(ほほえ)みを(たた)え、【ゼラ】に敬意を表すつもりで、メガネを外して裸眼になった。

 最も、使い手である鯨臥とは、仲良くなれそうにないけどね。

 

 

 

「笑ってんじゃねぇよ小僧が!次のターン、ゼラの攻撃で息の根を止めてやるぜ、ターンエンドだ!」

 

「ボクのターン、ドロー!」

 

(よし!)

 

魔法(マジック)カード・【命削りの宝札】!ボクはカードを、3枚ドローする!」

 

 

 

 ……これなら十分にチャンスはある!

 

 

 

「カードを3枚セットして、【ドラゴラド】を守備表示に変更!」

 

 

 

【ドラゴラド】 守備力 1900

 

 

 

(バカめ、逃げられると思うなよ!)

 

「俺のターン!手札から()(ほう)発動!【『守備』封じ】!」

 

「ッ!守備封じの、カード……!?」

 

 

 

【ドラゴラド】 攻撃力 0

 

 

 

 しまった、ドラゴラドが攻撃表示に…!

 

 

 

「バトルだ!【ゼラ】よ、奴の雑魚モンスターを引き裂けッ!『デビルズ・クロー』!!」

 

(トラップ)発動!【ガード・ブロック】!」

 

 

 

 ゼラの鋭い鉤爪(カギヅメ)に切り裂かれて、ドラゴラドは破壊される。でも【ガード・ブロック】のおかげで、致命傷は免れた。

 

 

 

「……【ガード・ブロック】の効果によって、戦闘ダメージを無効にし、1枚ドローできる。さらに伏せ(リバース)カード・【()(せき)残照(ざんしょう)】を発動!このターン、戦闘で破壊された自分のモンスターを、墓地から特殊召喚する!」

 

 

 

【ドラゴラド】 攻撃力 1300

 

 

 

「くそッ、しぶとい野郎だ……ならば永続魔法・【波動キャノン】発動!」

 

「!」

 

 

 

 鯨臥の場に、魔導式の大砲が現れる。

 

 

 

「こいつは発動後に経過した、自分のスタンバイフェイズの数 × 1000ポイントのダメージを相手に与える!次の俺のターンで効果を発動すれば、手前(てめぇ)のライフは(ゼロ)になる!」

 

「……!」

 

 

 

 正真正銘、次がボクのラストターンってことか。

 

 

 

「これで俺のターンは終了だ!」

 

(雑魚の分際で手こずらせやがって……だが今度こそ終わりだ!)

 

「ボクのターン……ドロー!」

 

 

 

 この1ターンで勝負が決まる。

 

 最後のドロー。--- 引いたカードは…!

 

 

 

「……フフッ。ボクのデッキも、【ゼラ】と(たたか)いたがってるみたい」

 

「なに?」

 

「手札から魔法(マジック)カード・【思い出のブランコ】を発動!ボクが墓地から復活させるのは、【ラビードラゴン】!!」

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

「ば、バカな!俺の【ゼラ】の攻撃力を、上回るだとぉ!?」

 

「バトル!【ラビードラゴン】で、【ゼラ】を攻撃!『ホワイト・ラピッド・ストリーム』!!」

 

 

 

 【ラビードラゴン】の放った白き奔流が【ゼラ】を吹き飛ばす。

 

 

 

「ぐおぉぉあっ!?」

 

 

 

 鯨臥 LP 4000 → 3850

 

 

 

「さらに【ドラゴラド】で、直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

「ぐわああああっ!!」

 

 

 

 鯨臥 LP 3850 → 2550

 

 

 

「ぐっ、くそ…!調子に乗りやがって…!だが俺には【波動キャノン】がある!次のターンで……ッ!?」

 

 

 

【トライホーン・ドラゴン】 攻撃力 2850

 

 

 

「なっ…なな……何なんだこいつはぁあーっ!?」

 

「速攻魔法・【ライバル・アライバル】!バトルフェイズ中に一度、モンスターを通常召喚できる!」

 

 

 

 これはボクが3枚目に伏せていたリバースカード。

 【ラビードラゴン】と【ドラゴラド】の2体をリリースして、手札の【トライホーン・ドラゴン】を、アドバンス召喚したんだ。

 

 

 

「これでチェックメイトだ!【トライホーン・ドラゴン】!プレイヤーに直接攻撃(ダイレクトアタック)!!」

 

 

 

 トライホーンの強靭な爪が鯨臥を捉え、強烈な一撃を彼に浴びせた。

 

 

 

「うわああああああっ!!!?」

 

 

 

 鯨臥 LP 0

 

 

 

「やったー!セツナくんの勝ちだよー!」

 

「ひゃわっ!?ま、マキノさん…!」

 

 

 

 歓喜したマキちゃんが隣のルイくんを激しく抱き締めた。

 

 決闘(デュエル)が決着して、フィールド魔法も消失。悪魔の殿堂から、平和な砂浜へと帰還した。

 

 

 

「じゃあ、そういうわけだから。行こう?アマネ」

 

「……うん」

 

 

 

 アマネを連れて、皆で早々に立ち去ろうとした時だった。

 

 

 

「……認めねぇ……認めねぇぞ…!待ちやがれ!!」

 

「…!」

 

 

 

 鯨臥が怒鳴る。彼を含め、喧嘩(う で)に自信のありそうな男が数人こちらに迫っていた。

 

 

 

「へっ……最初から、こうすりゃ良かったんだ……!アマネは俺の(もん)だ……誰にも渡さねぇ…!」

 

 

 

 決闘(デュエル)で取り決めた約束をも(はん)()にする程、アマネに対して異常な執着を見せる鯨臥。

 

 まいったな……殴り合いとか苦手分野なんだけど。とりあえず、皆が逃げ切れる時間は稼がないと…!

 

 

 

「君達!何を騒いでいる!」

 

 

 

 警報と共に張りのある声が聞こえた。そちらを見ると、ヘルメットを被り、鈍色の制服を着込んだ人達が駆け寄って来ていた。

 

 

 

「やべぇ!『セキュリティ』だ!」

 

「オトヤ、逃げんべ!?(ニセ)のカード使ってんのバレたら…!」

 

「チィッ…!」

 

 

 

 あぁ、なんだ。あの【ゼラ】偽者(ニセモノ)だったんだ。希少なカードは()(ぞう)品や、複製品(レプリカ)も多く出回るって話は本当みたいだね。

 

 

 

手前(てめぇ)ら……(ツラ)ァ覚えたからなぁ!!」

 

 

 

 鯨臥は捨て台詞(ゼリフ)を吐いて、仲間共々、一目散に逃走していった。

 

 助かった……ありがとう、セキュリティさん。にしても、何であんな良いタイミングで…?

 

 

 

「フフン。こんな事もあろうかと、デュエル中にこっそり通報しといて良かったよ」

 

「マキちゃん!オメガGJ(グッジョブ)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一時はどうなる事かと肝を冷やしたけど、騒動は事なきを得て終結した。

 あの後、海の家で少し休憩を挟んで、ボク達は海水浴を再開した。

 

 

 

「アマネたーん!それー!」

 

「ちょ、冷たっ!やったな、マキちゃん!お返しだー!」

 

 

 

 女の子が水を掛け合う光景というのは、何故かくも美しいのだろう。気づけば、そんな感想を胸中に(いだ)いていた。

 もちろん、ボクとルイくんも一緒に海に入っているので、今は上着を脱いで、上半身だけ裸になっている。

 

 ……と、不意にマキちゃんがボクのところへやって来た。

 ボクと目線を合わせて、ニッコリと笑うと、ボクの掛けていた赤メガネを取り外した。

 

 

 

「……?マキちゃん?」

 

「アマネたんを助けてくれた、お礼だよ」

 

「ッッッッッ!?!?!?」

 

 

 

 マキちゃんはメガネを折り畳んで、それを自分の胸の谷間に差し入れた。……ええええええっ!!!?

 ボクのメガネがマキちゃんの胸にいいいい!?

 

 

 

「さぁ、どうぞ?」

 

 

 

 安定の小悪魔スマイルを披露しながら、マキちゃんは胸をボクに突きつける。二つの膨らみの間からは、愛用のメガネが飛び出していた。

 

 

 

(これを取れと!?)

 

 

 

 どう足掻いても、メガネを取り出そうとすれば必然的に胸にも指が触れてしまうんですが。しかし、いつまでも取らないわけにもいかない……ボクは覚悟を決めた!

 

 

 

「し…失礼しま~す……!」

 

 

 

 緊張で震える手を、ゆっくりとマキちゃんの胸へ伸ばす。水浴びで濡れた胸元が視界を支配して、ボクは生唾を飲み込んだ。

 もうちょい……あと少しで、メガネに指先が届く…!行け!取るんだ、ボク!男を見せろ!

 

 

 

「なにバカやってんのよ」

 

「「!!」」

 

 

 

 アマネが参上し、ボクとマキちゃんの頭に手刀を叩き込んだ。

 そして即座にマキちゃんの胸からメガネを取り上げ、ボクに手渡してくれた。安心したけど残念な気もするのは、どうしてだろう?

 

 

 

「えーん。良いところだったのにー」

 

「セツナ、あまりマキちゃんのペースに振り回されてると、いずれ大変な事になるから気をつけてね」

 

「経験者は語る、かな?アマネたん」

 

「むっ……!」

 

 

 

 急に赤面するアマネ。マキちゃんが言う『経験』とは何なのか…は、深く追究しない方が良さそうだ。

 

 え?メガネはどうしたのかって?そのまま掛けたに決まってるじゃない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、とうとう帰りの時刻が訪れた。

 水着から私服に着替え直したボク達は、荷物を片手に駅を目指して、のんびりと歩いている最中だった。

 

 

 

「楽しかったねー、ルイくん」

 

「は、はい!ちょっと怖い思いもしましたけど……」

 

「……セツナ。その事なんだけど…」

 

 

 

 アマネは立ち止まり、ボクと真っ直ぐ向き合った。そして、普段より柔和な表情で、言葉を紡ぐ。

 

 

 

「ありがとうね。助けてくれて……。凄く、嬉しかった」

 

「…!……あははっ、気にしなくて良いよ?友達なんだもの、(ほう)っておける(はず)、ないって」

 

 

 

 なるべく平静を装って、いつもの調子(ノ リ)で言葉を返す。

 内心……なんだかドキドキしてるけど、ね……。

 

 

 

 





 リクエストありがとうございました!!
 正直かなり攻めた気がしますが如何だったでしょうか?( ゜∀゜)

 やはり水着回は良いものですね!初めての試みでしたが楽しく書けました!
 でも気合い入り過ぎて、執筆に1ヶ月も掛かってしまいました。お待たせして、すいませんでした( ;∀;)

 感想、リクエストお待ちしております!リクエストには全身全霊で、『忠実』にお答えします!

 最後に一言。
 おっぱい!おっぱい!( °∀°)


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TURN - 11 vs DIABOLOS - 1


 今回は三月猫さまの小説・『遊戯王VRAINS 悪魔のカリスマデュエリスト』とコラボさせていただきました!!

 前編と後編の二部制でお届けします!デュエルは後編からとなります(。>ω<)
 初めての試みでとても緊張しておりますが、どうぞよろしくお願いします!



 

 平日、いつもの教室にて。次の授業が始まるまでの僅かな合間を縫って、ボクは鞄の中に入れておいた一冊の雑誌を取り出し、それを開いた。

 

 

 

「セツナが読書なんて珍しいね、なに読んでるの?」

 

 

 

 後ろの席に座って、暇そうにしている同級生(クラスメート)・アマネが尋ねてきた。ボクは雑誌を読み進めながら即答する。

 

 

 

「デュエルマガジンだよ、今週の」

 

「あぁ、そう言えば今日、発売日だっけ」

 

 

 

 プロ決闘者(デュエリスト)をインタビューした特集や、大会・イベント関連の開催情報、レポート(など)勿論(もちろん)、他にも新パックや、(ニュー)モデル決闘盤(デュエルディスク)の発売日、時には更新された禁止・制限リストから、エラッタされたカードの発表まで。

 『デュエルモンスターズ』に関する、世界中の最新情報を毎週お届けしてくれる人気週刊誌。それが『 DUEL(デュエル) - MAGAZINE(マガジン) 』。

 

 実は今朝、学園の購買部に立ち寄って買ってきたんだ。タイミングを逃すと、毎回すぐ売り切れちゃうからね。

 

 さて、今週はどんな内容になっているのかな……文字数の多い記事は後でじっくり読むとして、パラパラとページを捲っていく。

 --- すると、あるページに載っている写真が目に止まり……というか目に飛び込んできて、ボクはそれ(・ ・)を思わず凝視した。

 

 

 

「おおっ、何これ。コスプレ決闘者(デュエリスト)?」

 

「どれどれ?……すごい化粧ね。デスメタルってヤツ?」

 

 

 

 アマネも注目したこのページには、一人の決闘者(デュエリスト)の写真が紙面全体にデカデカと掲載されていた。

 

 まず何よりも印象的だったのは、その人物の容姿。

 

 顔面は白塗り、目元と唇は真っ黒。いわゆる『コープス・ペイント』と呼ばれる、派手なメイクを施していた。

 これだけでもインパクト抜群なのだけど、更には鎧みたいな漆黒の服装(コスチューム)に身を包み、禍々(まがまが)しいデザインの決闘盤(デュエルディスク)を装着していた。

 (キバ)のごとく鋭い歯を剥き出しにして口角を上げており、今にも地の底から響く様な不気味な笑い声が聞こえてきそうだった。こちらを睨みつける眼力は、見る者を完全に殺しにかかっている。

 デスメタルやブラックメタルのバンドでヴォーカルを務めていそうな、迫力満点の化粧と格好だ。子供に見せたら一発で泣くんじゃないかな。

 

 

 

「こういうパフォーマー路線の決闘者(デュエリスト)って、プロでも結構いるのよね。ここまで派手なのは、私も初めて見たけど」

 

「へぇ~、面白(おもしろ)そうだね。……ん?」

 

 

 

 写真のページの下半分には、被写体の強烈な見た目の雰囲気に合わせたのか、(イビツ)な文体で大きな見出し文が書き表されていた。ボクは興味を(そそ)られて、そのキャッチコピーを読み上げる。

 

 

 

「……『悪魔のカリスマデュエリスト』……ねぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某日、正午。

 (おびただ)しい数の車両が高速で行き交うハイウェイを、一台の移動販売車が走っていた。

 ドーナツのイラストが描かれた車体を操縦しているのは、意外な事に、小柄な女性。

 

 薄茶色(ライトブラウン)の長髪を三つ編みにした、少女と見違うほど幼げな顔立ちの運転手は、髪と同色の双眼で前方を真っ直ぐ見据えつつ、助手席に座る、藍色(あいいろ)の髪が特徴の少年に話しかける。

 

 

 

「もうすぐ到着するわよ、ユーゴ。……んも~、いつまで仏頂面してるのよぉ。イケメンが台無しよ?」

 

 

 

 女性の外見に似合った、高く可愛らしい声質が、少年の名を『ユーゴ』と呼ぶ。

 上機嫌でハンドルを握る女性と相反して、不機嫌そうに顔を(しか)めていた少年は、濃紺(のうこん)の瞳で彼女を一瞥すると、舌打ちしてから口を開いた。

 

 

 

「急に呼び出されて何の説明も無しに車に放り込まれて何時間も走りっぱなし、これでニコニコしてられるわけがないだろう。それともう1つ」

 

「なにかしら?」

 

「なぜ(おと)()さんまでついてきている」

 

「へ、(へい)()ああああっ!!私が一緒では不満でしょうか!?」

 

 

 

 少年と女性の背後から、ダークブラウンの髪を肩口まで伸ばした少女が涙目になって声を上げた。

 

 

 

「いや、そういう意味ではないが……というか今は車内だから問題ないが、くれぐれも屋外(そ と)では『陛下』と呼ばないでくれよ?オレの『正体』がバレたら、色々な意味で(・ ・ ・ ・ ・ ・)マズイんだ」

 

「もちろん心得ております!(ゆう)()くんの正体が『陛下』である事は、私達3人だけの秘密、トップシークレットですからね!()わば私達は運命共同体…!嗚呼(あ あ)……陛下の為ならこの()(くら) (おと)()、地獄まででもお供いたします!」

 

 

 

 少しばかり危ない気配を漂わせながら、一人で盛り上がっている少女を他所(よ そ)に、少年は運転席の女性に問いかける。

 

 

 

()()()さん、そろそろ教えてくれて良いんじゃないか?一体どこへ向かっていて、オレ達に何をさせる気なんだ?」

 

「『(あかね)ちゃん』って呼んでくれても良いのよ~?もしくは、お姉さんでも可!」

 

「阿久津さん(半ギレ)」

 

「やれやれ素直じゃないんだから……。これから私達が行く場所は、大都市『ジャルダン』。ユーゴも名前くらいは聞いたことあるでしょう?」

 

「ジャルダン……確か…『デュエルが全てを支配する街』、だったか…」

 

「そ。何でも近々、その街のデュエルアカデミアでね、プロさながらの大規模な大会が行われるらしいのよ。そ・こ・で!」

 

「この最新モデルのデュエルディスクを売り捌いて、荒稼ぎしようって事になったんです!」

 

 

 

 少女が運んできた大箱の中には、大量の紙箱が詰められていた。中身は全て、決闘者(デュエリスト)にとって欠かせない必須アイテム、デュエルディスクの最新版モデルだった。

 

 

 

「荒稼ぎ?なんでまた」

 

音羽(オ ト)ちゃんの学費を工面する為にね。私の商売と陛下(き み)のファイトマネーだけじゃ、どうしても厳しいところがあるのよ」

 

「それは世知(せ ち)(がら)い話だな……」

 

「ユーゴには、オトちゃんが売り子してる間の用心棒として同行してもらうわ。街で変な人に絡まれたりしたら大変だからね」

 

「安心しろ。アンタ以上の変人なんてそうそういない」

 

「おや?そんなにウチの特製フライヤーで、こんがり揚がりたいのかな?」

 

「冗談だ。とにかく用件は分かった。それならそうと乗せる前に言ってくれれば良いものを。拉致かと思って焦ったぞ……」

 

「フフッ、分かればよろしい。期待してるよ?『ディアボ(・ ・ ・ ・)ロス陛下(・ ・ ・ ・)』」

 

「ああ。……ん?ちょっと待て、なんだ今の含みのある言い方は。おい無視するな」

 

 

 

 女性の最後の意味ありげな台詞(セリフ)が気になったのか問い質す少年だったが、女性は「さぁ着いたよ、二人とも!」と言葉を被せ、強引に話を中断させてしまう。

 こうなったら何を言っても無駄である事は重々承知していた為、少年は諦めて、ため息をつくしかなかった。

 

 

 

(嫌な予感しかしない……)

 

 

 

 一抹の不安を胸中に抱きながら、少年・()(がみ) (ゆう)()は、新たな決闘(デュエル)の街へと降り立った。

 

 --- 二人の少年が邂逅を果たすまで、あと数時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いっけなーい!遅刻遅刻!」

 

 

 

 昼下がりの街中を大急ぎで走り抜けている、赤色のメガネを掛けた銀髪の男がいたらボクです、セツナです。

 真昼時よりは暑さも幾分か和らいだとは言え、まだまだ季節は夏真っ盛り。これだけ全力疾走したせいで、すでに身体は汗だくになっていた。

 

 アマネとマキちゃんとルイくんは、とっくに集合場所で待機中とのこと。盛大に寝坊をやらかしたせいで、約束の時間は余裕でぶっちぎり。早く行かないとアマネが怖い。さっき端末にメッセージで、笑顔の顔文字だけが送られてきた時は総毛立ったよ。

 

 あぁ、バイクの一つでも欲しいところだ。乗りながら決闘(デュエル)できるバイクとかだったら最高だね。

 なんて馬鹿(バ カ)げた事を頭の片隅で夢想しつつも、ようやく皆と待ち合わせる予定だった、街の駅前まで辿り着いた。

 

 いつ来ても相変わらず人が多いな、さすが都会。息も絶え絶えに三人を探して彷徨(うろつ)いていると、広場に何やら、人だかりが出来ているのを発見した。

 見世物か何か()ってるのかな?もしかしたらアマネ達も、ボクが来るまでの暇潰しとして、あの群衆(な か)に紛れているかも知れない。

 

 試しに近づいてみると、どうやら決闘(デュエル)が行われているみたいだ。ジャルダン(この街)では最早ありふれた光景だけど、これほどまでに注目度の高い決闘(デュエル)なんて、街の真ん中じゃ滅多に観れない。

 ……一体どんな大物が決闘(デュエル)を……

 

 

 

「オレは悪魔のカリスマデュエリスト・『ディアボロス』!!悪魔の決闘(デュエル)は、エンターテイィメントでなければならない!!」

 

「!?」

 

 

 

 観客(ギャラリー)に取り囲まれた中心で声高(こわだか)に名乗りを上げたのは、全身を黒の衣装で派手に着飾り、顔を白く塗りつくした、ヴィジュアル系を彷彿とさせる風貌の男だった。

 彼の声は、マイクも通していないのに広場全域に重く響き渡り、オーディエンスも割れんばかりの大歓声で、それに応える。まるでライブ会場の様な空間がそこには誕生していた。ゲリラライブというやつか。

 

 あの一度見たら忘れられない個性的なファッション……間違いない。この前読んだデュエルマガジンで特集を組まれてた決闘者(デュエリスト)、ディアボロスさんだ。人相(?)も雑誌に載ってた写真と一致している。

 

 ここ最近、デュエル界で頭角を表してきている、カリスマデュエリストと呼ばれる存在。

 その強烈なビジュアルに(たが)わず、相手を圧倒的な力で捩じ伏せ、叩き潰し、絶望の淵へと陥れる凶悪な決闘(デュエル)を持ち味とし、人々から恐れられる悪役(ヒール)のスタイルを貫いている。

 

 彼の徹底した『(あく)』の魅力に惹かれたファンは、自らを『下僕』と総称し、彼を『陛下』と呼び称え、崇拝さえしていると聞く。

 

 まさかこんな所で有名人をお目にかかれるなんて……凄いや、本物だ…!

 

 

 

「あっ!セツナ先輩!」

 

「ん?おおっ、ルイくん!アマネにマキちゃんも!」

 

 

 

 ボクを見るなり嬉しそうに駆け寄ってくるルイくんと、それに続いて歩いてくる、アマネ(アンド)マキちゃんのコンビ。良かった、やっと合流できた。

 

 

 

「もう、遅いわよ。セツナ」

 

「あはは……ごめんごめん。後でなんか奢るから許して?…ところでコレは何事なの?」

 

「なんかね~?あの『へいか』って人に決闘(デュエル)で勝つと、あそこで売ってるデュエルディスクが無料(タ ダ)になるんだって」

 

 

 

 マキちゃんが指さした先では、確かにボク達と同い年くらいの茶髪の女の子がデュエルディスクを販売していた。

 ちなみに売り場のすぐ横では、何故かドーナツの移動販売車が停車していて、ただいま絶賛営業中。

 店名は『ハートフルドーナツ』か。そう言えば久しく甘いもの食べてないな、ちょっと寄ってみよう。

 

 

 

「いらっしゃいませ~!」

 

 

 

 接客してくれたのは、髪が薄茶色で、調理帽とエプロンを身に付けた、かなり背の低い女の子だった。……女の子…だよね?

 

 

 

「あら、こう見えてもピチピチな大人のお姉さんだよ~?」

 

「心を読まれた!?」

 

「目を見れば分かるわよぉ。女のカンは、鋭いんだゾ☆」

 

 

 

 パチッとウィンクを決める、自称・大人のお姉さん。大人なのは揺れるほど大きく実っている、ボリューミーな胸だけでは?

 

 

 

「ま、まぁいいや。それじゃ……フレンチクルーラーふたつ、ゴールデンチョコレートをひとつ。あと、アイスコーヒーもお願いして良いかな。ここまで走ってきたから、のど渇いちゃって」

 

「はぁ~い!お姉さんに任せなさい!」

 

 

 

 ハイテンションで気さくな女性(ひ と)だなぁ、見ていて面白いかも。

 

 

 

「にしても……あの『ディアボロス』って人、すごい人気だよね。ここにお店を出してるって事は、お姉さんも彼のファンなの?」

 

「それはもちろん!今話題沸騰(ふっとう)中のカリスマデュエリストだからね!(きみ)決闘(デュエル)してみたら?陛下の洗礼を受けられる、またとない機会(チャンス)だよ~?」

 

「あはは、考えてみるよ。……あ、そうだ」

 

 

 

 ちょうど良いや。待たせてしまった皆に、ドーナツを奢ってあげるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あむ……おいしいですぅ」

 

「ね、美味しいよね。ここのドーナツ」

 

 

 

 エンゼルフレンチを夢中でかじるルイくんに同意する。ルイくんの一口(ひとくち)は、小動物みたいに小さかった。

 

 

 

「セツナくん、ドーナツごちそうさま~」

 

「悪いわね、セツナ」

 

「うぅん、気にしなくて良いよ」

 

(どうせ全額、DP(デュエルポイント)で払えたし)

 

 

 

 そう。自分が注文した物も含めて、全員分のドーナツとドリンクを購入したのだけれど、支払いは全てデュエルディスクに貯蓄されていた『DP』で(まかな)ったので、ぶっちゃけ痛くも痒くもなかったのだ。フハハハ(ゲス顔)。

 

 ボク達がドーナツを頬張っている真横では、まだまだディアボロス陛下のパフォーマンス決闘(デュエル)が続いていた。と言っても、このターンで決着がつくけれど。

 

 

 

「力の差を思い知るがいい!モンスターで直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

「ひっ…!あ、悪魔……ぎゃああああっ!?」

 

 

 

 敗者の断末魔の悲鳴と共に、またも陛下の完勝で決闘(デュエル)は終了した。

 今ので何人目だろうか。挑んでくる決闘者(デュエリスト)を、次から次へ容赦なく蹴散らしていく戦いぶりは、正に悪魔の所業と言い表すに相応しかった。

 ここまで陛下は、(いま)だ無敗。しかも間を置かず連戦を繰り広げたにも関わらず、疲労した様子が一切ない。本当に悪魔なんじゃないかと思えてくる。

 

 

 

「うひゃあ、圧巻だね。……あれ?マキちゃんは?」

 

 

 

 ふと気がつくと、ボクの隣でハニーディップを味わっていた(はず)のマキちゃんが姿を消していた。はて、何処(いずこ)へ?

 

 

 

「あーっ!これ、あたしがずっと探してたモデルのデュエルディスクじゃん!?」

 

 

 

 あ、いた。

 

 マキちゃんは茶髪の少女が売り子を務めている、デュエルディスクの販売コーナーへと足を運んでいた。

 

 

 

「マキちゃん、なにか良いのあった?」

 

「見てみてー!このパステルピンク!可愛くない!?ヤバくない!?」

 

「お目が高いね、お客さん!それはウチで取り扱ってる中でも、最新の女性向けモデルだよ!」

 

 

 

 売り子ちゃんが得意げに説明する。どうでもいいけど、Tシャツ一枚でツナギの上着部分を腰に巻いてるだけって、年頃の女の子にしては珍しい服装だね…?

 

 

 

「これ買います!いくら?」

 

「毎度あり!お値段はこれぐらいだよ!」

 

「げっ、高…ッ!あたしのDPじゃ届かない……」

 

 

 

 残念そうに肩を落とすマキちゃん。さすがに最新式ともなると、値段は優しくなかった様で。

 

 ……ん?待てよ……(ひらめ)いた!

 

 

 

「ねぇ売り子ちゃん。確か『あの陛下(ひ と)に勝てば無料(タ ダ)』だったよね?」

 

「そうだよ~!挑戦する?」

 

「えっ、セツナ?」

 

「先輩もしかして……」

 

「……ちょっと行ってくるよ」

 

 

 

 デュエルディスクを左腕に付け、両足に力を込めて跳躍。観客の皆さんの頭上を飛び越えて、ボクは陛下の()(ぜん)に着地した。

 

 周囲がざわめく。ボクと陛下の視線が交差する。それだけで、重苦しい威圧感(プレッシャー)がボクに()しかかってきた。あの、人間?ですよね?

 

 

 

「ほう、(いさ)ましい登場だな。オレの次なる相手はお前か」

 

 

 

 ニヤリと笑って腕を組み、堂々たる(たたず)まいで、ボクを見下ろす陛下(あくま)

 ヤバイ、超帰りたい!!下手を打ったら(ロウ)人形にでもされてしまいそうだ!

 

 でも、女の子の前では良いとこ見せたくなるのが男。ここで引き下がるわけにはいかない!

 重圧に押し潰されそうになるのを何とか堪えて、ボクは懸命に口を開く。

 

 

 

「挑ませてもらうよ、陛下殿(どの)!」

 

「よかろう。かかってくるが良い!」

 

 

 

 陛下がマントを(ひるがえ)してデュエルディスクを構えた途端、周りの観戦者(ギャラリー)、もとい陛下の『下僕』達が、一斉に熱狂する。

 

 

 

「うおおーっ!!陛下ァァーッ!!」

 

「陛下の(エン)()()デュエルが始まるぜぇーッ!!」

 

「ヒャッハー!決闘(デュエル)の時間だーッ!!」

 

 

 

 よーく見たら、陛下に感化されたのか同じ様な白黒メイクをしてる人がチラホラいるね。

 完全にアウェーな空気だけど、陛下の放つ存在感が凄まじくて、そっちに意識を持ってかれてるから大して気にもならなかった。ていうか気にしてる場合じゃない。

 

 

 

「セツナの奴、マキちゃんの為にわざわざ……」

 

「素敵!抱いて!」

 

「マキちゃん静かに」

 

 

 

 ディスクを起動、展開して、ボクも構える。勝てれば良し。負けても、カリスマデュエリストと手合わせ出来たって思い出にはなる。ただ、やるからには……例え相手が悪魔だろうと、全力で勝たせてもらうよ!!

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 --- デュエル開始より、時は少々さかのぼり……

 

 

 

「ここら辺が良いわね、駅前だから人通りも多いし。ここで始めましょう」

 

「了解です、(あかね)お姉さま!」

 

「……おい……ちょっと待て」

 

「どうしたの?ユーゴ」

 

 

 

 街の広場にキッチンカーを停め、この日の為に用意してきたという大量のデュエルディスクを売り捌くべく、いそいそと開店の準備に取りかかる阿久津さんと音羽さん。

 

 そんな二人の後ろで、オレは怒りに身を震わせながら大声を上げる。

 

 

 

「な・ん・で!オレがこの格好(・ ・ ・ ・)なんだよっ!!」

 

 

 

 生気を全く感じさせない白塗りの顔面。どす黒く染め上げた目元と口まわり。やたら細部まで意匠を凝らした、純黒のコスチューム。

 

 世間では『ディアボロス』と呼ばれている、その姿に、オレ・()(がみ) (ゆう)()は変装していた。

 

 

 

「陛下アアアアアッ!!!ついに真の姿を解放されたのですねッ!!人間の身体では、さぞ動き(づら)かった事でしょう!」

 

 

 

 オレの身体に抱き着いて、好意とも心酔ともつかない感情を暴走させるのは、()(くら) (おと)()さん。

 こう見えて優秀なメカニックで、オレと阿久津さんの活動を色々とサポートしてくれている。実はこの姿のオレ(デ ィ ア ボ ロ ス)の大ファンらしい。

 ていうか「人間の身体では」って何だよ。普段のオレは、音羽さんの中では仮の姿なのか?

 あとグイグイ密着してくるから、ずっと彼女の胸が当たってる。現在(い ま)はこんな怪しい風体をしているが、オレだって高校生なんだ。気になってしょうがないだろう。

 

 

 

「なんでって、決まっているでしょう?仕事(ビジネス)よ、ビ・ジ・ネ・ス♪」

 

 

 

 無駄に色気のある喋り方をするのは()()() (あかね)さん。

 オレ達が乗っている移動店舗・『ハートフルドーナツ』の店主(オーナー)にして、カリスマデュエリスト・ディアボロスのプロモーターでもある。何を隠そう、オレをディアボロス(こ ん な ふ う)にした、張本人だ。

 

 子供の様に低い身長と、高い声。しかし本人いわく、実年齢は二十歳(ハ タ チ)を越えているという、ある意味で謎の存在。

 その外見には不釣り合いな巨乳は、身長に割り振られていた筈の栄養を、全て胸に集中させたのではと疑うほど豊満に育っていた。

 

 

 

「他の街にも『ディアボロス』の存在を知らしめ、オトちゃんの生活費も稼ぐ。ついでに折角(せっかく)だから、ハートフルドーナツの売り上げも伸ばそうって戦略よ!」

 

「姑息な手を…!」

 

「商売上手と言ってほしいなぁ~」

 

 

 

 いつもながら勝手で強引な人だ。出会った当初から分かりきっていた事だが。

 

 

 

ジャルダン(この街)の住人は異常なほど決闘(デュエル)に積極的だから、ディスクもポンポコ売れるに違いないわ。ディアボロスの『目的』である広告塔の役目も果たせるし、私の店も(もう)かって、全員にメリットがある。まさに一石三鳥よ!」

 

「そう上手くいけば良いがな……」

 

「上手くいかせるのよ。陛下の力で、ね?」

 

 

 

 阿久津さんに促されて車外を覗いてみると、すでに大勢のファンが駅前に集結していた。道理で騒がしいと思った。

 

 

 

流石(さすが)はお姉さま!宣伝も抜かりないですね!」

 

「フフーン、私の手にかかれば、これぐらい朝飯前よ」

 

 

 

 音羽さんの称賛に気を良くした阿久津さんが胸を張ると、ふたつの膨らみが大きく揺れた。

 

 おっと、いかん。オレは今、真上 遊吾ではなく、最悪の悪魔・ディアボロスなのだ。いい加減スイッチを切り替えなくては。

 

 

 

「さぁ今日も派手に暴れてきなさい!ディアボロス!」

 

「ふん……言われるまでもない」

 

 

 

 聞こえてくるのはファンの『陛下』コール。ここまで来たら、やるしかあるまい。

 

 そこまで望むなら見せてやろう。

 このオレ、ディアボロスの(エン)()()デュエルを!

 

 

 

 





 陛下!カッコイイー!!

 前編を最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

 後編はいよいよ、陛下とセツナのデュエルが始まります!
 感想、評価、リクエスト等、お待ちしております(*´∀`)♪


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TURN - 12 vs DIABOLOS - 2


 大変!大変長らくお待たせ致しました!

 三月猫さまとのコラボ後編・ディアボロス陛下とセツナのデュエル回です!



 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 ディアボロス LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

 白昼堂々、街のド真ん中。集まった観衆の大歓声が沸き起こる中心で、ボクとディアボロス陛下の決闘(デュエル)が始まった。

 

 

 

「先攻は挑戦者(チャレンジャー)、お前にくれてやる」

 

「えっ、いいの?じゃあ陛下のお言葉に甘えて……ボクは【暗黒の竜王(ドラゴン)】を召喚!」

 

 

 

【暗黒の竜王(ドラゴン)】 攻撃力 1500

 

 

 

「カードを2枚伏せて、ターン終了だよ!」

 

「ほう、ドラゴンデッキか。おもしろい」

 

「……!」

 

 

 

 たった1プレイでボクのデッキを見抜いた!?……さすが『悪魔』と謳われた、カリスマデュエリスト。人間離れした洞察力だね…!

 

 

 

「オレのターン!手札より、【漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス) LV(レベル)(フォー)】を召喚!」

 

 

 

漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス) LV(レベル)4】 攻撃力 1000

 

 

 

 攻撃力1000?意外だな……これまでの決闘(デュエル)を見る限り、陛下のデッキは悪魔族が主体のビートダウンデッキ。序盤からパワーアタッカーがバンバン出てくるものだと思ってたけど……

 

 

 

「さらに魔法(マジック)カード・【フォース】を発動!【暗黒の竜王(ドラゴン)】の攻撃力を半分にし、その数値を【漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス)】の攻撃力に加える!」

 

 

 

【暗黒の竜王(ドラゴン)】 攻撃力 1500 → 750

 

漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス) LV(レベル)4】 攻撃力 1000 → 1750

 

 

 

「げっ…!?」

 

「戦闘開始だ!【漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス)】で、【暗黒の竜王(ドラゴン)】を攻撃!」

 

 

 

 魔法で攻撃力を増幅した【漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス)】の一撃を受け、暗黒の竜王が破壊される。

 

 

 

「くっ…!」

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 3000

 

 

 

「オレはカードを3枚伏せ、ターンを終了する」

 

 

 

漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス) LV(レベル)4】攻撃力 1750 → 1000

 

 

 

 陛下が先制したことで、彼のファンという名の『忠実なる下僕』達が、再び声を上げる。

 

 

 

「スゲーぜ陛下ァーッ!いきなり1000ポイントものダメージだぁ!」

 

「いいぞぉー!ぶっ殺せぇーッ!!」

 

 

 

 物騒な声援が飛び交う中、陛下の眼差しがボクを捉えた。その威圧的な視線が突き刺さるだけでも身震いしてしまう。

 

 

 

「どうした、お前のターンだ。まさかこの程度で終わりではないだろう?」

 

「…ッ…!…まだまだ!ボクのターン!」

 

 

 

 折れるな、気圧されたら負けだ。ボクは陛下のプレッシャーを振り払う様に、カードをドローする。

 

 

 

「…よし、悪魔には悪魔だ!手札から、【デビル・ドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【デビル・ドラゴン】 攻撃力 1500

 

 

 

「バトル!【デビル・ドラゴン】で攻撃!」

 

(トラップ)発動!【闇の呪縛】!」

 

「!」

 

 

 

 どこからともなく飛び出した鎖が【デビル・ドラゴン】を拘束して、動きを封じてしまう。

 

 

 

「この鎖に囚われたモンスターは攻撃力が700ポイントダウンし、攻撃も表示形式の変更も出来ない」

 

 

 

【デビル・ドラゴン】攻撃力 1500 - 700 = 800

 

 

 

「ッ……ボクは、これで……ターンエンド…!」

 

「オレのターン、ドロー。この瞬間、【漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス) LV(レベル)4】の効果が発動。このカードを墓地に送ることで、【漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス)】は【LV(レベル)(シックス)】へと進化する!」

 

「!?」

 

 

 

 漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス)の身体が突然変異を起こして、より凶悪な姿に成長した。その手には、一振りの(つるぎ)(たずさ)えている。

 

 

 

漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス) LV(レベル)6】 攻撃力 1700

 

 

 

「『LV(レベル)モンスター』…!?」

 

「その通り。魔王は倒した敵の魂を(かて)に、その力を増していく。オレは【悪魔のくちづけ】を【LV(レベル)6】に装備!攻撃力を700ポイントアップする!」

 

 

 

漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス) LV(レベル)6】 攻撃力 1700 + 700 = 2400

 

 

 

「さぁ行け、【漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス)】よ!【デビル・ドラゴン】を打ち倒せ!」

 

「そうはさせないよ!伏せ(リバース)カード・オープン!【竜の転生】!」

 

「むっ…!」

 

「【デビル・ドラゴン】を除外して、手札の【ボマー・ドラゴン】を、守備表示で特殊召喚!」

 

 

 

 呪縛から解き放たれた【デビル・ドラゴン】は炎に身を包み、仲間のドラゴンにその意志を託して、戦線から消え去った。

 そしてデビル・ドラゴンの魂を引き継いで新たに召喚されたのは、球状の爆弾を抱え持った竜・【ボマー・ドラゴン】。

 

 

 

【ボマー・ドラゴン】 守備力 0

 

 

 

「ボマー・ドラゴンを戦闘で破壊した相手モンスターは破壊される!攻撃を止めるなら、今の内だよ!」

 

「フッ……そんなものを悪魔(オ レ)が恐れると思ったか!()れ!【漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス)】!『制裁の剣(ソード・オブ・サンクション)』!!」

 

「!?」

 

 

 

 爆弾の存在を、まるで意に介していないのか。進化を果たした漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス)は何の躊躇もなく、ボマー・ドラゴンを(つるぎ)の一閃で切り裂いた。

 

 

 

(……!【漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス)】が破壊されない!?)

 

「残念だったな。漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス)は破壊したモンスターの効果を無効にする。よって【ボマー・ドラゴン】の効果は不発だ!」

 

「!……そういうこと…!」

 

「これで条件は満たされた。次のオレのターン、魔王は更なる進化を遂げる!ターン終了(エンド)!」

 

「ボクのターン……」

 

 

 

 これ以上レベルアップさせるわけにはいかない。このターンで形勢を立て直さないと……!

 

 

 

「ドロー!」

 

(-!来た、【ソウルテイカー】!これなら…!)

 

魔法(マジック)発動!【ソウルテイカー】!【漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス)】を破壊する!」

 

「甘い!リバース(トラップ)・【闇の取引】を発動!」

 

「!」

 

「オレのライフ、1000ポイントと引き換えに、相手が発動した魔法(マジック)カードの効果を、『相手はランダムに手札を1枚捨てる』に変更する!」

 

「えぇーッ!?」

 

 

 

 ディアボロス LP 4000 → 3000

 

 

 

 【ソウルテイカー】の効果テキストが書き換えられて、漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス)を破壊する目論見は失敗に終わった。代わりに陛下は自分の手札を捨てる事となる。

 

 

 

「オレの手札はこの1枚のみ、【闇より出でし絶望】。こいつは相手のカード効果で手札から墓地に送られた時、特殊召喚できる!」

 

 

 

【闇より出でし絶望】 攻撃力 2800

 

 

 

 陛下の背後から、おぞましい巨大な影が出現する。

 

 自分のモンスターを破壊から守った上に、新たな上級モンスターまで呼び出してくるなんて……!

 

 どれだけの策を講じても、陛下はその上を行く高度な戦術(タクティクス)で、ことごとく潰してくる。一部の隙も無い完璧なプレイングだ。

 学園の生徒で言えば、『ランク・A』は確実。いや、下手したら、それ以上。カナメに匹敵する強さかも知れない。

 

 

 

「……ボクはターンエンドの前に、カードを1枚伏せる」

 

 

 

 これで手札は(ゼロ)。場には2枚の伏せ(リバース)カードだけ。

 

 ……でも、まだ可能性は残ってる。次の陛下の攻撃さえ凌ぎ切れれば……。

 

 

 

「オレのターン、ドロー。………フッ」

 

「……!」

 

「スタンバイフェイズだ。【漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス) LV(レベル)6】の、効果発動!」

 

(来る…!)

 

 

 

 (つるぎ)の切っ先を天に向けて、高々と掲げる漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス)。蓄積した魔力を解き放ち、(みずか)らの肉体を限界まで強化する。

 

 

 

「見よ!これぞ魔王の最終進化形態!【漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス) LV(レベル)(エイト)】!!」

 

 

 

漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス) LV(レベル)8】 攻撃力 2800

 

 

 

 とうとう最後の進化を遂げた魔王。名前の通り、全身を漆黒の鎧で武装した悪魔が、大剣を振りかざして現れる。

 

 

 

「なんて迫力…!」

 

「光栄に思うがいい。魔王の真の姿を拝めた事をな」

 

(……奴のフィールドには伏せ(リバース)カードが2枚か……だが…問題ではない!)

 

「どんな(わな)を仕掛けて来ようと、全て捩じ伏せるだけだ!バトル!まずは【闇より出でし絶望】で直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

「………!」

 

 

 

 伏せカードを発動しようとして、とっさに踏み留まる。この(トラップ)の使い時は、ここ(・ ・)じゃない!

 

 ボクはそのまま無抵抗で、直接攻撃を食らった。大ダメージが身体を襲う。

 

 

 

「うあああああっ!!」

 

 

 

 セツナ LP 3000 → 200

 

 

 

「せ、セツナ先輩のライフが一気に…!?」

 

「次の攻撃が通ったら……セツナの負け…!」

 

 

 

「くっ……」

 

「少年よ、これが絶望だ。【漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス) LV(レベル)8】の攻撃!『蹂躙の大剣(セイバー・オブ・ドミナント)』!!」

 

 

 

 魔王の斬撃は黒い刃を型どった衝撃波となって、ボクに迫り来る。

 

 まさしく絶体絶命のピンチ。だけどボクは……

 

 

 

「……絶望?まさか」

 

 

 

 不敵に、笑う。

 

 

 

(トラップ)発動!【カウンター・ゲート】!」

 

「!!」

 

「相手モンスターの攻撃を、一度だけ無効にする!」

 

 

 

 ボクの前方に現出した光の(ゲート)によって、敵の攻撃が遮断される。

 

 その後、ボクはメガネを外して、シャツの胸元に掛けた。ちょっとオシャレ。

 

 

 

「……むしろ、面白(おもしろ)くなってきた。これで勝ったら実に気持ちいいだろうね」

 

(-!?……こいつ…!)

 

「………ッ!!」

 

 

 

(…!ユーゴが身構えた…?)

 

「……(あかね)お姉さま、陛下が今……」

 

「えぇ……あの銀髪くん、セツナって呼ばれてたっけ……これは面白いものが見られそうね…!」

 

 

 

 --- ボクはデッキの一番上のカードに手を伸ばして、ドローの体勢を取る。

 

 

 

「【カウンター・ゲート】の効果で、ボクはカードを1枚ドローする。そしてそれがモンスターだった場合、通常召喚できる!ドロー!」

 

(……ナイス!)

 

「引いたのはレベル3の【ポケ・ドラ】!この子を攻撃表示で召喚だ!」

 

 

 

【ポケ・ドラ】 攻撃力 200

 

 

 

「うひゃあーっ!!かーわーいーいーっ!!」

 

「マキちゃん静かに。気持ちは分かるけど」

 

 

 

 ちっこくて愛らしい見た目のドラゴンの登場に興奮するマキちゃんと、そんな彼女を(たしな)めるアマネ。可愛いもんね、しょうがないよね。ボクのデッキのマスコットです。

 

 

 

「【ポケ・ドラ】が召喚に成功した時、デッキからもう1枚の【ポケ・ドラ】を、手札に加える事が出来る!」

 

「……いいだろう、チャンスをくれてやる。その下級モンスター1匹から、この戦況を(くつがえ)せるならやってみるがいい!ターンエンドだ!」

 

「見せてあげるよ……ボクなりのエンタメデュエルをね!ボクのターン!!」

 

 

 

 たった今ドローしたカードを確認し、ボクは即座にリバースカードを発動する。

 

 

 

(トラップ)カード・【無謀な欲張り】!さらにカードを2枚ドロー!」

 

「ほう……賭けに出たな」

 

 

 

 陛下の言う通り、これは賭けだ。何故(な ぜ)ならこの(トラップ)を使うと、代償として以後2ターンの間、ドローが出来なくなる。このドローで、逆転のキーカードを引き当てられなかったら、ボクの敗北は確定的だ。

 

 手札が4枚に増える。……行ける…!

 

 

 

「勝てる!!」

 

「!」

 

「ボクは2体目の【ポケ・ドラ】を召喚!」

 

 

 

【ポケ・ドラ】 攻撃力 200

 

 

 

「さらに魔法(マジック)カード・【ドラゴニック・タクティクス】発動!フィールドの2体の【ポケ・ドラ】をリリースして、デッキからレベル8のドラゴンを特殊召喚する!」

 

「なにっ!?」

 

「現れ出ちゃえ!ボクのデッキの切り札(エース)!【ラビードラゴン】!!」

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

 甲高い咆哮を轟かせながら、フィールドに舞い降りた【ラビードラゴン】。その攻撃力に驚いたのか、陛下の下僕(ファン)が騒然とし始めた。

 

 

 

「な、なんだありゃあ!陛下のモンスターの攻撃力を上回るのか!?」

 

「そんなの有りかぁーっ!?」

 

 

 

「……おもしろい…!」

 

 

 

 当の陛下は焦りもせず、勝ち気な笑みを浮かべている。

 そうだろうと思ったよ。でも、今から度肝を抜いてあげる!

 

 

 

「お楽しみは、これからだ!ボクは永続魔法・【ドミノ】を発動!」

 

「!……【ドミノ】だと?」

 

「バトル!【ラビードラゴン】で、【漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス) LV(レベル)8】を攻撃!」

 

「ッ!」

 

「『ホワイト・ラピッド・ストリーム』!!」

 

 

 

 視界を覆い尽くす程の白き光の奔流が、漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス)を直撃した。

 

 

 

「ぐおおおおおおっ!!」

 

 

 

 ディアボロス LP 3000 → 2850

 

 

 

「そしてボクは……【ラビードラゴン】を墓地に送る!」

 

「…!なんだと…?」

 

 

 

 せっかく召喚できた上級モンスターを、わざわざ墓地送りにしたボクの行動が異常に映ったらしく、陛下は(いぶか)しげな視線をボクに向けてきた。フフッ、そんな顔しなくても、すぐに解るよ。

 

 

 

「さぁ……これが『ドミノ』だ!」

 

 

 

 ボクが宣言すると、さっきの戦闘(バトル)で【ラビードラゴン】に攻撃された【漆黒(ダーク)()魔王(ルシアス)】が、衝撃に耐え切れず足下のバランスを崩して後方に倒れ込む。

 そしてそのまま背後に居た【闇より出でし絶望】と衝突し、2体とも同時に破壊されて消滅した。

 

 

 

「ぐっ…!?オレのモンスターが……全滅だと…!」

 

「【ドミノ】は戦闘で相手モンスターを破壊した時、自分のモンスター1体を墓地に送ることで、相手モンスター1体を破壊できる!」

 

「……なるほど……正に『ドミノ倒し』のカードと言うわけか……だがその為にお前は、エースモンスターを失った!」

 

「それはどうかな?」

 

 

 

 ボクは手札の1枚を取り出して、パチッとウィンクを決める。

 

 

 

「なに…?」

 

「手札から速攻魔法・【銀龍の轟咆(ごうほう)】を発動!(よみがえ)れ!【ラビードラゴン】!!」

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

「まさか……これほどとは…!」

 

「カードが応えてくれたのさ……これで、チェックメイトだ!!【ラビードラゴン】!陛下に直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

 

 

- ホワイト・ラピッド・ストリーム!! -

 

 

 

「…………ッ!!」

 

 

 

 ラビードラゴンの二度目の攻撃が陛下に命中した。放った光線は爆発を起こして、(まばゆ)い閃光が陛下を見えなくする。

 

 

 

「へ……陛下が……負けちまったのか…?」

 

 

 

 観客の誰かが、そう声を漏らした。気づけば先程までの、ライブさながらの大盛況が嘘の様に、周りは急激に静まり返っていた。

 

 アマネもルイくんもマキちゃんも、ドーナツを売ってくれた小さいお姉さんも、ディスクを販売する売り子ちゃんも、陛下を応援していた下僕の方々(かたがた)も。

 誰もが固唾を飲んで、この決闘(デュエル)の行く末を見守る中……

 

 やがて光が消える。そこには腕を組んで、仁王立ちしている陛下の姿が。

 

 

 

「……見事だ。エンタメは相手にも見せ場を与えなければいかんからな、なかなか骨が折れる」

 

「-!?」

 

 

 

 ディアボロス LP 2850

 

 

 

「ライフが減ってない!?なっ……なんで…!」

 

「オレのフィールドをよく見るがいい」

 

「……!」

 

 

 

【バトルフェーダー】 攻撃力 0

 

 

 

 陛下のフィールドには、いつの間にかモンスターが召喚されていた。しかも、あのモンスターは……

 

 

 

「悪いがオレは今の攻撃で、手札から【バトルフェーダー】を特殊召喚していた。こいつは相手が直接攻撃を仕掛けてきた時に召喚でき、バトルフェイズを強制終了させる」

 

 

 

 ここに来て、そんな防御札を隠し持っていたのか…!

 一度は敗れたかに思われた陛下が驚きの返し手を披露した途端、オーディエンスの熱狂も、一気に再燃した。

 

 より勢いと声量を増して鳴り響く大歓声の()(なか)、ボクは悔しさを滲ませて歯噛みした。もう……ボクに出来る事は無い。

 

 

 

「……ターン…エンド…!」

 

 

 

 ターンが陛下に渡ってしまう。ライフ差は陛下に分がある上に、ボクは【無謀な欲張り】のデメリットでドローできない。……だけど、フィールドには【ラビードラゴン】がいてくれてるし、今の陛下の手札は(ゼロ)枚。

 

 

 

(可能性はある…!最後まで希望は捨てない!)

 

「……………」

 

(…ディアボロス(オレ)決闘(デュエル)して恐怖するどころか……未だに戦意を失わない相手は、この男が初めてだな……フッ、最初は気乗りしてなかったが…今日は()()()さんに連れて来られて、良かったかもな)

 

「少年。お前の名を聞いてなかったな」

 

「……セツナ。総角(アゲマキ) (セツ)()だよ」

 

「セツナか、覚えておこう。久々に楽しい決闘(デュエル)だった。敬意を表して、オレも全力の(エン)()()をお前に魅せよう!オレの……ターンッ!!」

 

「!」

 

 

 

 陛下がデッキからカードを引き抜いた瞬間、突風が周囲に吹き荒れた。

 悪魔が本気になった。その重圧が、ビリビリと肌に突き刺さる感覚に見舞われる。

 

 

 

「オレは魔法(マジック)カード・【強欲で貪欲な壺】を発動!デッキの上から10枚除外し、2枚ドローする!」

 

 

 

 ドローした2枚を確認すると、陛下は微笑して「良い引きだ」と呟き、空を指さした。

 

 

 

「ファン諸君に宣言しよう!オレはこのターンで決着をつける!!」

 

 

 

 その宣誓(せんせい)が起爆剤となり、観客のボルテージは最高潮に達した。

 ていうかなんか白塗り顔の人数が多くなってきてるのは気のせい?陛下の(あふ)れ出るカリスマ性は、通りかかった一般人をも(とりこ)にしてしまうのか。

 

 

 

「ウオオオオッ!!ついに来たぞ!」

 

「陛下の処刑宣言だああああッ!!」

 

「陛下の豪快な戦術を見せてくれええええっ!!」

 

 

 

「刮目せよ!悪魔の決闘(デュエル)を!リバースカード・オープン!【リビングデッドの呼び声】!復活しろ、【闇より出でし絶望】!」

 

 

 

【闇より出でし絶望】 攻撃力 2800

 

 

 

「そして……オレは【バトルフェーダー】と【闇より出でし絶望】をリリースして、アドバンス召喚!」

 

「こ、ここでアドバンス召喚!?」

 

「楽しませてもらった礼だ。お前には、オレのデッキの『最終兵器』によって葬られる栄誉を与えてやる!」

 

 

 

 フィールドに発生した闇の渦が、陛下の従えるモンスター2体を飲み込んだ。

 

 

 

「闇を纏いて現れよ!【魔王ディアボロス】!!」

 

 

 

【魔王ディアボロス】 攻撃力 2800

 

 

 

「魔王……ディアボロス……!?」

 

 

 

 天地を揺るがす咆哮と共に降臨したのは、陛下と同じ名を冠する闇黒(あんこく)の魔竜。

 ラビードラゴンとは対をなす黒き体躯と、真っ赤な眼光。この2体の(ドラゴン)が対峙する光景は壮観と言う他なくて……気がつくとボクは、心を奪われていた。

 

 

 

「す……凄い…ッ!」

 

「……くくっ、魔王の竜が降り立つには、この空の光は相応(ふさわ)しくないな。邪魔な太陽には消えてもらおうか!フィールド魔法・【ダークゾーン】!」

 

 

 

 今度は怪しげな暗雲が立ち込めてきて、太陽の光を(さえぎ)り、フィールド全体を落雷が襲った。

 その演出が余計に観客の興奮を煽るらしく、最早ここが街の駅前である事なんて、みんな忘れてしまっていた。何この終末感。

 

 

 

「【ダークゾーン】の効果により、【魔王ディアボロス】の攻撃力は、500ポイントアップする!」

 

 

 

【魔王ディアボロス】 攻撃力 2800 + 500 = 3300

 

 

 

「攻撃力……3300…!」

 

「これがオレの(エン)()()だ!行くぞセツナ!【魔王ディアボロス】で、【ラビードラゴン】を攻撃!!」

 

「…!」

 

「希望を打ち砕け!『殲滅(せんめつ)のディスペア・ストリーム』!!」

 

 

 

 魔竜が放った、黒く邪悪な光線。それに貫かれた【ラビードラゴン】の身体は、粉々に砕け散ってしまう。

 

 

 

「うわぁあああああっ!!」

 

 

 

 セツナ LP 0

 

 

 

 ライフが尽き、ボクの負けで、決闘(デュエル)は決着した。あと一歩……及ばなかったなぁ。

 

 

 

「あちゃ~、セツナくん負けちゃったかぁ。けど惜しかったよね、アマネたん」

 

「そうね。まっ、相手は現役のプロだし。かなり善戦したんじゃない?」

 

 

 

「うっ……ッ!?」

 

 

 

 しまった、フラついた拍子に足が(もつ)れた!

 

 

 

「あっ、とっ、とっ、わあっ!」

 

 

 

 バランスが崩壊して、覚束ない足取りで後ろに数歩下がる。立て直すこと叶わず重力に圧されて、身体が地面に背中から傾いた。

 コンクリートに打ち付けられるのを覚悟して、とっさに目を(つむ)ったけれど、誰かが倒れかけたボクの身体を支えてくれた。

 

 

 

「いたた……あれ?」

 

「よぉボウズ。大丈夫か?」

 

「ぃ!?」

 

 

 

 顔を上げると、白塗りの顔面が覗き込む様にボクを見ていた。ひえっ、ビックリして声が出ちゃった、ごめんなさい。

 抱き止めてくれたのは陛下のファンの男性だった。間近で見ると、更にド迫力なメイクだね……って、そうだ!お礼を言わないと!

 

 

 

「あ、ありがとう……」

 

「すげぇじゃねーかボウズ!陛下をあそこまで追い詰めるなんてよぉ!俺ァ鳥肌たっちまったぜ!」

 

「え?」

 

「おう!スゲー決闘(デュエル)だったぜぇー!」

 

「良いエンタメを見せてもらったぜ!」

 

「陛下相手にやるじゃねぇか!最高だったぜーッ!」

 

 

 

 次々と皆から賞賛の言葉を贈られて、次第に万雷(ばんらい)の拍手が沸き起こった。

 ポカンとしているボクを、白塗りのお兄さんが立ち上がらせてくれる。

 

 

 

「ほら、堂々と胸を張れよ。ボウズ」

 

「……!…えへへ……ありがとう、みんな!」

 

 

 

 ボクは手を振って、拍手に応える。なんだか照れるけど、素直に嬉しい。

 

 

 

「……フッ。今日も素晴らしき決闘(デュエル)だった!!また会おう、諸君!!」

 

「「「 陛下!! 陛下!! 陛下!! 陛下!! 」」」

 

 

 

 マントを(ひるがえ)して、ディアボロス陛下は颯爽と立ち去っていった。嵐のような人だったなぁ。いや、悪魔か。

 

 あっ、そう言えば……決闘(デュエル)に勝って、マキちゃんの欲しがってたデュエルディスクを無料(タ ダ)で譲ってもらうつもりだったんだ。

 負けちゃったんじゃ、ダメだよね……ボクは肩を落として、三人の元に戻った。

 

 

 

「ごめん、マキちゃん。勝てなかったよ」

 

「うぅん、気にしなくて良いよ。楽しい決闘(デュエル)も見られたし。ありがとうね、セツナくん!」

 

「そこのお二人!ちょっと待ちなよ!」

 

「「ん?」」

 

 

 

 ボクとマキちゃんを呼び止めたのは、あの茶髪の売り子ちゃんだった。

 

 

 

「銀髪くん!君の健闘を讃えて、特別にこのデュエルディスクを進呈します!どうぞ受け取って!」

 

 

 

 そう言って売り子ちゃんは、パステルピンクのデュエルディスクを箱に入れると、マキちゃんに手渡してくれた。

 

 

 

「えぇーっ!!ほ、本当に貰っちゃって良いの!?」

 

「もちろん!皆には内緒だよ?」

 

「ありがとうー!セツナくんのおかげだよー!」

 

「やったー!ありがとう売り子ちゃん!」

 

「良かったわね、マキちゃん」

 

「二人とも、すごく嬉しそうです」

 

 

 

 陛下に勝てはしなかったけど、マキちゃんの望みの品が手に入って、本当に良かった。

 

 

 

「……今度は負けないよ、陛下」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つ……疲れた……」

 

 

 

 阿久津さんの経営する移動販売車・『ハートフルドーナツ』の裏方に置いてある仮眠用のベッドに、オレはグッタリと寝転がった。ちなみに化粧(メイク)は洗い落として、衣装は床に脱ぎ捨ててある。

 

 そう、『悪魔のカリスマデュエリスト・ディアボロス』は、元の姿である()(がみ) (ゆう)()へと戻ったのだ。

 

 変身を解いたオレは、最後に戦った挑戦者……総角(アゲマキ) (セツ)()という名前の、銀髪で赤いメガネを掛けた少年との決闘(デュエル)を思い返す。

 

 そして……改めて肝を冷やす。

 

 

 

(危なかった!マジで危なかった!何なんだアイツは!あそこで【フェーダー】握ってなかったらマジで負けていたぞ!!)

 

 

 

 心臓に悪いなんてもんじゃない。公式試合なら()(かく)、野良デュエルで(同い年ぐらいの)学生に敗北するなど、悪魔(ディアボロス)のキャラ的に、あってはならない事だ。

 決して油断していたつもりはないが……よもや、あんな強者と当たるとはな。正直ヒヤヒヤしたぞ。

 

 

 

(……にしても……メガネを外した時の、あの男の豹変ぶりには驚いたな……)

 

 

 

 あれ程の気迫を出せる決闘者(デュエリスト)は、プロでも(まれ)だ。あいつは一体……

 

 

 

「お疲れさま~!ユーゴ~!」

 

「……阿久津さんか。あぁ、死ぬほど疲れた」

 

「はいこれ!コーヒーと、君の大好きなシナモンシュガーにチョコオールドファッション!」

 

「いただこう」

 

「わおっ、急に元気になったわね。さすがスイーツ男子」

 

 

 

 その呼び名は(いささ)か不本意だが否定は出来ない。この店のドーナツは、オレの大好物だからな。

 一口(ひとくち)かじる。美味い。やはり疲れた身体と脳には甘いものが一番だ。

 

 時折コーヒーを(すす)りながら休憩していると、不意に阿久津さんが口を開いた。

 

 

 

「楽しかった?」

 

「……何がだ」

 

「あのセツナくんって子との決闘(デュエル)だよ。ユーゴったら、途中から自分が『陛下』だってこと、忘れてたでしょ?」

 

「………………そんなことはない」

 

「今の()は何よ」

 

「まぁ、なかなか楽しませてくれる相手ではあったな」

 

「フフッ、やっぱり素直じゃないわね、ユーゴって」

 

 

 

 やれやれ…(かな)わないな。この人には何もかも、お見通しと言うわけか。

 

 しばらくして、用意した在庫を完売させた(おと)()さんが大喜びで戻ってきたので、目的を遂げたオレ達は、ジャルダン()()つ事にした。

 

 いつも通り、阿久津さんの運転で車は走り出す。若干の名残惜しさは感じたが、来たくなったらまた来ればいい。

 

 

 

「……総角(アゲマキ) (セツ)()…か。あいつとは、またいつか決闘(デュエル)してみたいものだ」

 

 

 

 きっと、そう遠くない内に。

 

 

 

 





 というわけで、初めてのコラボ回でした!三月猫さま、お声掛け本当にありがとうございました!とても楽しく書かせて頂きました!

 コラボのお誘いは、いつでもお待ちしております(*´∀`)♪


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TURN - 13 Double Ace


 な、なんとか10月中に投稿できたぞ……!(力尽きる)

 お久しぶりです、いつも読んで頂きありがとうございます( ;∀;)作者はちゃんと生きてます! 失踪はしませんよ!



 

 鰐塚(ワニヅカ) ミサキ。

 

 デュエルアカデミア・ジャルダン校の『十傑(じっけつ)』が一人にして、風紀委員長でもある彼女の事を、学園内で知らない者はまずいないだろう。

 

 群雄割拠を極めるジャルダン校において()の生徒を退(しりぞ)け、学園が認めた十人のエリートのみに与えられる特級 --- 十傑(じっけつ)の座を勝ち取った実力も()ることながら、容姿端麗、才色兼備としても有名で、男女問わず人気がある。有志によるファンクラブまで設立されている程だ。

 

 また、先述した通り風紀委員会にも所属しており、学園の治安維持に貢献して、数々の功績を上げている。

 一癖も二癖もある個性的な生徒が多く集まり、何かと問題の起きやすい学園側にとって彼女の存在は大きく、教師達からは高い評価を受け、厚い信頼を寄せられている。

 それ(ゆえ)、彼女の卒業を惜しむ声も多い。

 

 そんな彼女だが……実は今、ある悩みを抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

 学園の最上階、風紀委員室にて。

 

 黒い椅子(イ ス)に腰を下ろして、何やら浮かない(おも)持ちで、ため息をつく鰐塚(ワニヅカ)

 

 高級感の漂う椅子は(ひじ)置き&キャリー付きで、座り心地抜群のレザーチェア。

 生徒が座るには(いささ)贅沢(ぜいたく)にも思えるが、彼女が腰かけると違和感が無いどころか(むし)(サマ)になっている。そう感じさせるのは、(ひとえ)に彼女自身の纏う高貴な風格によるものだろう。

 ここだけの話、彼女が風紀委員長に就任した際、普通の椅子では品位に欠けると嫌がって、実家 --- 鰐塚財閥(ざいばつ) --- の財力に物を言わせ、20万円で購入した代物(しろもの)である事は、同じ風紀委員会のメンバーしか知らない。

 

 閑話休題。

 

 両手で頬杖を突き、視線は明後日の方向。

 トレードマークであるドリル状のツインテールを細い指先で弄りながら、心ここにあらずと言った様子の現在の彼女は、一般生徒が『鰐塚(ワニヅカ)』と聞いて真っ先に思い浮かべるであろう普段の高飛車な印象(イメージ)など影も形もなく、微かに伏せられた水色の瞳と物憂げな表情が、どこか儚げな魅力さえ生み出していた。

 

 同室の男子生徒2名はそんな鰐塚(ワニヅカ)を初めて見るのか、(なか)ば見惚れてしまいながらも、心配そうに彼女を見守っていた。

 

 その内の一人、やや長めに伸ばした茶髪の男子が、もう一人の黒髪の男子に小声で話しかける。

 

 

 

「なぁ、(ひろ)()……最近お嬢様、少し変じゃないか?」

 

「お前もそう思うか? 京川(けいかわ)。少しというか、だいぶ変だよな……」

 

 

 

 (ひろ)()と呼ばれた黒髪の男子は、声をかけてきた茶髪の男子の名を京川(けいかわ)と呼び、彼の言葉に同意した。

 

 この二人は風紀委員の中でも高い決闘(デュエル)の実力を誇り、鰐塚も特に信頼を置いている精鋭である。鰐塚とは同学年だが親しみと崇敬(すうけい)の念を込めて、彼女のことは『お嬢様』と呼んでいる。

 

 広瀬は続けた。

 

 

 

「ここのところ授業中も上の空だし、ずっとあの調子だ……まぁ、どんなお嬢様でも美しい事に変わりはないが」

 

「そこは激しく同感だ。しかし明らかに様子がおかしい……先日なんて、オムライスにイチゴジャムかけて、ソースを飲もうとしていたんだぞ」

 

「その次はタバスコを飲み干そうとしていたな……」

 

 

 

 数日前から度々(たびたび)見られるようになった鰐塚の奇行。それを思い返して広瀬と京川は、訝しげに眉を(ひそ)めた。

 

 このままでは風紀委員会の代表(トップ)として……ひいては学園1の美女として名高い彼女の威厳に、傷がつきかねない。

 彼女に心酔し忠誠を誓い、共に学園の秩序を保つべく戦い続けてきた彼らにとって、それは決して見過ごせる事態ではなく。

 なんとかせねばと頭を悩ませる二人。だが行き着く結論は、互いに一緒だった。

 

 

 

「お嬢様に異変が起き始めた原因……」

 

「……やはり、あいつ(・ ・ ・)か……」

 

「奴しかあるまい……!」

 

 

 

(( 総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)!! ))

 

 

 

 二人の脳裏に浮かんだのは、銀髪で赤色のメガネを掛けた、一人の男子生徒の存在だった。

 

 今年の夏前に中途入学してきて、その初日に鰐塚と同じく『十傑(じっけつ)』の一角と称される、九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)決闘(デュエル)(くだ)し、一気に学園中の()(もく)を集めた謎の転入生。

 

 そして……あの鰐塚にも黒星を付けただけに留まらず、あろうことか公衆の面前で彼女を押し倒し、胸を(わし)掴みするという()(らち)を働いた狼藉(ろうぜき)者である。(と、風紀委員会一同は認識している)

 

 

 

決闘(デュエル)で負かされた上に大勢の前で恥をかかされ……お嬢様は酷く傷ついているに違いない…!」

 

「お嬢様の屈辱を晴らすのも我ら副委員長の役目だ! 行くぞ京川!」

 

「おうよ広瀬!」

 

 

 

 広瀬と京川は即座に行動を開始した。

 勇んで室内を出ていく二人。後に取り残された鰐塚がそれに気づいたのは、数分後の事だった。

 

 

 

「……あら、広瀬? 京川? どこへ行ったのかしら……」

 

 

 

 ようやく我に帰った鰐塚。周囲を見渡せば、彼女の他には誰も居ない。すると鰐塚は(おもむろ)に、スカートのポケットから1枚の写真を取り出した。

 

 いつ何処(ど こ)で撮影したのだろうか。写真の中には、赤メガネを外して裸眼になっている、銀髪の少年の姿が。

 それをただジッと見つめながら、鰐塚は再度ため息を零し、頬を薄く紅潮させてポツリと呟いた。

 

 --- 写真に映る、彼の名前を。

 

 

 

「セツナさん……」

 

 

 

 ……そう、一言で言ってしまえば、鰐塚は写真の人物 --- 総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)に、()れてしまっていた。

 

 きっかけは彼に初めて決闘(デュエル)を挑み、敗北して地面に組み敷かれた、正にあの時。

 

 一体どこに惚れる要素があったんだと思われるかもしれないが、意外にも鰐塚には、異性に対する免疫(・ ・)というものが、ほとんど無かった。

 何故なら学園の男子にとって、鰐塚 ミサキは高嶺の花。

 常に副委員長の二人がボディーガードの様に付き従い、彼女に近づく悪い虫(・ ・ ・)を排除していた事も相まって、これまで男を寄せ付けずにいた……言い換えれば、男慣れしていなかったのだ。

 

 そんな彼女だ。男性に押し倒されるなど初めての経験だろうし、ましてや胸まで触られたとあっては、パニックで目を回してしまうのは必至。

 そうして混乱の()(つぼ)に陥ったところで鰐塚が見たのは、彼女の心を奪った張本人・総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)の、顔だった。

 それも、メガネを取った事で(謎の原理で)イケメン化していた彼の顔面が、鰐塚の眼前、吐息のかかる距離にまで接近していた。

 

 

 

『……大丈夫?(イケメンボイスで脳内再生)』

 

『キュン……!(恋に落ちる音)』

 

 

 

 一目惚れだった。そして、初恋だった。

 心臓(ハート)を矢で射抜かれるとは、こういう感覚なのかと、鰐塚は高校3年生にして、ついに身を以て実感した。

 

 最もその(あと)は動揺の余り、彼をひっぱたいて怒鳴り散らし、部下を(けしか)けてしまったが。それについても謝罪をしなければと考えてはいるものの、学年が違う上に風紀委員としての業務も忙しく、さらにこの時期は卒業後の進路相談なども重なって、なかなか会える機会に恵まれないでいた。

 

 

 

(……あの時、もう少し彼のお顔が近づいて来ていたら……もしかしたら、キ、キキ……『キス』と言うモノをされていたかもしれな……はうぅッ!?)

 

 

 

 そこまで想像したところで途端に羞恥心が込み上げ、ボンッと顔が熱くなるのを感じた。鏡を覗かずとも、耳までゆでダコになっているのが自分で容易に理解できた。

 

 

 

(キャーッ!! いけませんわっ、いけませんわー!! 気をしっかり()つのよ鰐塚 ミサキ!! これしきのことで狼狽(うろた)えては……!)

 

 

 

 顔を真っ赤にして頭を左右に振っている姿を、誰かに見られずに済んだのは幸いか。

 今まで味わった事のない感情に戸惑いを禁じ得ず、それからと言うもの、ずっとこの調子である。

 

 

 

「この胸の苦しさ……これが……『恋』、なのでしょうか……」

 

 

 

 セツナの写真を胸の内に抱いて天井を見上げ、どこか情緒的な独り言を口にする鰐塚。もしこの事実をファンクラブの男子達が知ろうものなら、総力を挙げて総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)を叩き潰さんと、動き出すことだろう。

 

 さて、そんな鰐塚の初々しい恋心など知る(よし)も無い広瀬と京川は、王城の様に広大なこの学園の中から、たった一人の生徒(ターゲット)を探し出すべく、校内を駆けずり回っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっ……くしゅん!」

 

 

 

 教室へと向かっている道中、なんだか急に鼻がムズムズしてきて、堪らずくしゃみをしてしまった。

 

 

 

「うーん……風邪かなぁ」

 

「誰かセツナくんの(ウワサ)でもしてるんじゃない?あたしも何個か聞いた事あるよ」

 

 

 

 一緒に歩いていた、ピンク色の髪をミディアムショートに揃えた少女・マキちゃんが、とても興味深い話題を持ち掛けた。

 

 

 

「えっ、噂って……例えばどんなの?」

 

 

 

 ボクは尋ねてから、さっき校内の自販機で買った缶コーヒーを開けて飲む。

 

 

 

「んっとね~、セツナくんは酷い女ったらしで、女子をとっかえひっかえして遊んでるチャラ男だってー」

 

「ブーーーーーッ!!!?」

 

 

 

 口に含んだコーヒーが吹き出た。なんて熱い風評被害!!

 

 

 

「ゲホッ、ゲホッ、なんで!? 言いがかりだよ!」

 

「セツナくん学園(こ こ)だと、男子より女子の友達が多いじゃん? だから勘違いされてるんじゃないかなぁ~」

 

「冗談でしょ、人をそんなプレイボーイみたいに……」

 

 

 

「その噂、案外真実だったかもな!!」

 

「「 ? 」」

 

 

 

 突然ボクとマキちゃんの前に、二人組の男子が現れた。一方は茶髪で、もう一方は黒髪。両者とも何やら腕章らしき物を左腕に巻いていた。アレって確か……

 

 

 

「どちら様?」

 

「俺は風紀委員会副会長・(ひろ)() (こう)()!」

 

「同じく風紀委員会副会長・京川(けいかわ) 俊介(シュンスケ)!」

 

(! 風紀委員……)

 

 

 

 黒髪が広瀬くんで、茶髪は京川くんか。うん覚えた。

 

 

 

「なるほど、風紀委員ね……道理で見覚えのある腕章だと思った。鰐塚(ワニヅカ)ちゃんは元気にしてる?」

 

「……! 貴様……我らのお嬢様を気安く…!」

 

「えっ……え?」

 

 

 

 そう言った広瀬くんの顔つきが鬼気迫るものに変わった。となりの京川くんも同様だ。なになに? 何か怒らせるようなこと言った?

 

 

 

(……今の発言はかなりチャラ男っぽかったよ、セツナくん)

 

 

 

「ようやく見つけたぞ総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)。お前を風紀委員会の名の元に、粛正してやる!」

 

「なんで!?(2回目)」

 

 

 

 出会い頭で(ヤブ)から棒に、粛正宣言を受けてしまった…!

 デュエルディスクを構える二人。となればこのまま決闘(デュエル)の流れだろうか。

 

 

 

「セツナくん今度は何やらかしたの?」

 

「やらかしてないよ! ねぇ副会長さん達。デュエルなら大歓迎だけど、粛正って何のこと?」

 

 

 

 まるで心当たりの無いボクの疑問に、京川くんが答えてくれた。

 

 

 

「知れたこと! お前を討ち倒し、鰐塚お嬢様の雪辱を果たす!」

 

「せ、雪辱……?」

 

「そうだ! 貴様のせいでお嬢様は、味覚も崩壊する程の心の傷を負ってしまわれたのだ!」

 

 

 

 と、広瀬くんが次いで告げてきた。

 

 ……あぁ、そう言えば……鰐塚ちゃんと決闘(デュエル)した後、スッ転んで思いっきり胸を揉んじゃったこと、まだちゃんと謝ってなかったかも。そんなに深く傷ついてたのか……

 

 

 

「そっか……それは悪い事しちゃったな……分かった、鰐塚ちゃんに会わせてよ。きちんと謝りたいからさ」

 

「なっ…なんだと……?」

 

(ダマ)されるな京川! この男は上手いこと言って、またお嬢様に近づく気なんだ!」

 

「そ、そうか! 危うく乗せられるところだった……このすけこましめが!」

 

「ええええっ!? ちょ、ボクはそんなつもりじゃ…」

 

「黙れ! 貴様をこの先へは一歩も通さん!」

 

「ここを通りたければ、我らを倒していけ!」

 

「いやボクら教室に戻ってたんだけど……」

 

「まぁ良いじゃん。相手してあげなよ、セツナくん」

 

「マキちゃん?」

 

 

 

 取りつく島もない二人に困り果てていると、マキちゃんが前に歩み出た。

 彼女の左腕には、先日『とあるイベント』で手に入れた、パステルピンクの可愛らしいデュエルディスクが装着されていた。

 

 

 

「あたしも手を貸すしさ、やろうよ」

 

「……タッグデュエルか。いいね、面白そう!」

 

「むっ……お前、見た顔だと思ったら、あの時そいつと一緒にいた女か」

 

「そうだよ、あたしは()(づき) マキノ。そっちが二人がかりなら、こっちも組ませてもらうよ。良いよね?」

 

「ふん、邪魔だてするなら女とて容赦はしない! 行くぞ京川!」

 

「おうよ広瀬!」

 

 

 

「「「「 決闘(デュエル)!! 」」」」

 

 

 

 セツナ × マキノ LP(ライフポイント) 4000

 

 広瀬 × 京川 LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「今回の決闘(デュエル)は『タッグフォースルール』みたいだね」

 

 

 

 『タッグフォースルール』。

 

 二人で一人分のフィールドとライフを共有する特殊なルールで、近年のタッグデュエルでは主流になりつつある形式だ。

 パートナーのカードをどう活用するかが勝敗の鍵を握り、息の合った連携が求められる。

 

 先攻は相手チーム、京川くんからスタートした。

 

 

 

「先攻はこちらが貰う! 俺のターン! 俺は【切り込み隊長】を召喚!」

 

 

 

【切り込み隊長】 攻撃力 1200

 

 

 

「こいつが召喚に成功した時、手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚できる! 来い! 【デイブレーカー】!」

 

 

 

【デイブレーカー】 攻撃力 1700

 

 

 

「まだだ! 【デイブレーカー】が特殊召喚された事で効果発動! 手札から新たな【デイブレーカー】を特殊召喚できる!」

 

 

 

【デイブレーカー】 攻撃力 1700

 

 

 

「当然その効果で、3体目の【デイブレーカー】も特殊召喚だ!」

 

 

 

【デイブレーカー】 攻撃力 1700

 

 

 

「一気にモンスターを4体も揃えた…!」

 

「俺はカードを1枚伏せて、ターン終了(エンド)!」

 

 

 

 先攻1ターン目から手札を全部使いきって、いきなり大量展開で場を埋めた京川くん。広瀬くんという頼れる相棒がいるからこそ、思い切ったプレイが出来るんだろう。

 

 次はマキちゃんにターンが移る。

 

 

 

「あたしのターンだね、ドロー! あたしは【ガトリングバギー】を召喚!」

 

 

 

【ガトリングバギー】 攻撃力 1600

 

 

 

「バトル! 【切り込み隊長】を攻撃!」

 

「くっ…!」

 

 

 

 広瀬 × 京川 LP 4000 → 3600

 

 

 

「やったね! カードを2枚伏せて、ターン終…」

 

「それを待っていた! エンドフェイズに(トラップ)発動! 【スリーカード】!」

 

「ッ!」

 

「このカードは自分のフィールドに同名モンスターが3体以上いる時に発動でき、相手フィールドのカードを、3枚破壊する!」

 

「えぇーっ!?」

 

 

 

 京川くんの場には【デイブレーカー】が3体。発動条件は満たしてる…!

 マキちゃんの召喚した【ガトリングバギー】と、2枚の伏せ(リバース)カードが破壊され、ボク達の場は、ガラ空きになってしまった。

 

 

 

(ヤバッ……【反転世界(リバーサル・ワールド)】が破壊されちゃった…!)

 

「フフッ、コンバットトリックでも狙っていたんだろうが、アテが外れたな」

 

「さすがは京川!」

 

「フィニッシュは任せたぞ、広瀬!」

 

「あぁ任せろ! 俺のターン!」

 

「うぅ……!」

 

「お前達のフィールドはガラ空き、もはや何も出来まい! 覚悟しろ! 3体の【デイブレーカー】で総攻撃!!」

 

 

 

 広瀬くんの指示を受けて、【デイブレーカー】達は一斉攻撃を開始した。3体の攻撃力の合計は5100。この攻撃が通ったら、ボク達のライフは(ゼロ)になる。

 

 でも、それを簡単に許すほど、マキちゃんは手ぬるい決闘者(デュエリスト)じゃない!

 

 

 

「させないよ! 手札から【速攻のかかし】を墓地に送って、バトルフェイズを終了する!」

 

 

 

 マキちゃんがカードを墓地に送ると、かかし型のモンスターが出現して、敵の攻撃を全て受け止めてくれた。

 

 

 

「チッ、凌いだか……ならば俺は【デイブレーカー】を1体リリースし、【カオス・マジシャン】をアドバンス召喚!!」

 

 

 

【カオス・マジシャン】 攻撃力 2400

 

 

 

「カードを1枚伏せ、ターンを終了する」

 

「おっ、ボクの番だね」

 

「ごめんねセツナくん…! なんにも残しておけなくて……」

 

 

 

 両手を合わせて申し訳なさそうに頭を下げるマキちゃん。ここは男として、しっかり挽回してあげないとね!

 

 

 

「大丈夫、こっから巻き返すよ! ボクのターン!」

 

 

 

 相手のフィールドにはモンスターが3体。しかも1体は上級モンスターで、オマケに伏せカードが1枚か。さて、どうするかな……

 

 

 

「それじゃ、ボクは【スピリット・ドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【スピリット・ドラゴン】 攻撃力 1000

 

 

 

「【スピリット・ドラゴン】で、【デイブレーカー】に攻撃!」

 

「バカめ! そいつより【デイブレーカー】の方が攻撃力が高い!」

 

「見くびってもらっちゃ困るよ、京川くん。【スピリット・ドラゴン】の効果発動! 手札のドラゴン族モンスターを墓地に送る事で、攻撃力を1000ポイントアップする!」

 

「なにッ!?」

 

 

 

【スピリット・ドラゴン】 攻撃力 1000 + 1000 = 2000

 

 

 

「行け、【スピリット・ドラゴン】! 『スピリットソニック』!!」

 

「そうはさせん! (トラップ)発動! 【六芒星(ろくぼうせい)の呪縛】!」

 

「!」

 

 

 

 広瀬くんが発動した(トラップ)によって、スピリット・ドラゴンは六芒星が(えが)かれた魔法陣に囚われ、動きを封じられてしまった。

 

 

 

「これでお前の攻撃はキャンセルされた! 残念だったな総角(アゲマキ)!」

 

「そう来たかー……バトル終了と同時に、スピリット・ドラゴンの攻撃力は元に戻る」

 

 

 

【スピリット・ドラゴン】 攻撃力 2000 → 1000

 

 

 

「ボクはカードを3枚セットして、ターン終了!」

 

 

 

 ここでターンが一周して、京川くんに2回目のターンが回る。

 

 

 

「俺のターン! よし…! 俺は【デイブレーカー】を1体リリース! 現れろ、壮烈なる騎士 --- 【聖導騎士(セイントナイト)イシュザーク】!!」

 

 

 

聖導騎士(セイントナイト)イシュザーク】 攻撃力 2300

 

 

 

「これで俺と広瀬のエースモンスターが出揃った! このターンで終わりにしてやる!」

 

「……!」

 

「バトルだ! まずは【イシュザーク】で、【スピリット・ドラゴン】を攻撃!」

 

 

 

 聖なる力を秘めた高等騎士が、白き大剣で【スピリット・ドラゴン】に斬りかかる。

 

 

 

「リバースカード・オープン! 速攻魔法・【ハーフ・シャット】!」

 

「!?」

 

「【スピリット・ドラゴン】は攻撃力が半分になる代わりに、このターン戦闘では破壊されない!」

 

「ハッ、無駄な足掻きだな! どの道この3体で攻撃すれば、お前達のライフは…」

 

「分かってるよ。だから、こうする! チェーンして速攻魔法・【非常食】発動! 【ハーフ・シャット】を墓地に送って、ライフを1000ポイント回復する!」

 

 

 

 セツナ × マキノ LP 4000 → 5000

 

 

 

【スピリット・ドラゴン】攻撃力 1000 → 500

 

 

 

「…チィッ、悪あがきを…! やれ【イシュザーク】! 『ブレイク・ダウン・ディストーション』!!」

 

「くっ…!!」

 

 

 

 セツナ × マキノ LP 5000 → 3200

 

 

 

 【ハーフ・シャット】のおかげで【スピリット・ドラゴン】は破壊されず、場に留まり続けてくれている。でも残りの敵モンスター達の、更なる追撃が待っていた。

 

 

 

「続いて【カオス・マジシャン】の攻撃!」

 

「『カオス・インパクト』!!」

 

 

 

 ()(すい)色の装束を身に纏った魔法使いの攻撃が、【スピリット・ドラゴン】とボク達のライフにダメージを与える。

 

 

 

「うぐっ…!! …ッ…!」

 

「大丈夫!? セツナくん!」

 

「平気…だよ、これくらい…!」

 

 

 

 セツナ × マキノ LP 3200 → 1300

 

 

 

「最後は【デイブレーカー】で攻撃!」

 

「ッ……!」

 

 

 

 セツナ × マキノ LP 1300 → 100

 

 

 

「くそっ、ギリギリで持ち堪えたか…! 俺はこれでターンエンドだ!」

 

 

 

【スピリット・ドラゴン】 攻撃力 500 → 1000

 

 

 

 ライフポイント100……! 危なかった~! なんとか(すんで)の所でマキちゃんに繋げられたね……ありがとう、スピリット・ドラゴン。

 

 

 

「ふう……ボクに出来るのはこんなところかな。後はよろしくね、マキちゃん」

 

「オッケー、ありがとうセツナくん。後はあたしに任せて! あたしのターン、ドロー!」

 

「……何なんだ奴らの余裕な態度は…!」

 

「気に食わないな……ライフすら風前の灯火で、この状況を(くつがえ)せるつもりか?」

 

 

 

「んーっと、どうしようかな……決めた! あたしは墓地の(トラップ)カード・【()(びと)のいたずら】を発動するよ!」

 

「なに! 墓地から!?」

 

「墓地で発動する(トラップ)だと!?」

 

「そっ。最初のターンに【スリーカード】で破壊されちゃった1枚だよ。墓地の【小人のいたずら】を除外して、このターン手札のモンスターのレベルを1つ下げる。これでレベル7のモンスターはレベル6になって、リリース1体で召喚できるようになったよ!」

 

「「!!」」

 

「【スピリット・ドラゴン】をリリースして、【ランチャースパイダー】をアドバンス召喚!!」

 

 

 

【TM-1 ランチャースパイダー】 攻撃力 2200

 

 

 

「は……ははっ、何が出てくるかと思えば、攻撃力2200程度、なんら問題ではない!」

 

「それはどうかなぁ~?」

 

「…?」

 

 

 

 出た! マキちゃんの小悪魔モードだ!

 

 

 

「手札から魔法(マジック)カード発動! 【右手に盾を左手に剣を】!!」

 

「!! そ、そのカードは!?」

 

「そう、フィールドのモンスター全ての攻撃力と守備力を、くるっと入れ替えちゃうカードだよ!」

 

 

 

聖導騎士(セイントナイト)イシュザーク】 攻撃力 2300 → 1800

 

【カオス・マジシャン】 攻撃力 2400 → 1900

 

【デイブレーカー】 攻撃力 1700 → 0

 

【TM-1 ランチャースパイダー】 攻撃力 2200 → 2500

 

 

 

「お……俺達のモンスターの攻撃力が…!?」

 

 

 

 愕然とする京川くんと広瀬くん。無理もないか、デイブレーカーなんて攻撃力(ゼロ)になっちゃったわけだし。

 

 たった1枚の魔法カードで戦況を引っくり返すとは流石マキちゃん!

 ここはひとつ、ボクも前のターンに自分が伏せた(トラップ)を使って、彼女のお役に立つとしよう。

 

 

 

(トラップ)発動! 【戦線復帰】! 墓地からマキちゃんの【ガトリングバギー】を、守備表示で特殊召喚!」

 

 

 

【ガトリングバギー】 守備力 1500

 

 

 

「そしてあたしは魔法(マジック)カード・【戦線復活の代償】を発動! 【ガトリングバギー】を再び墓地に送ってモンスター1体を蘇生し、このカードを装備する! あたしが復活させるのは、セツナくんの【ダークブレイズドラゴン】!!」

 

 

 

 禍々しく逆巻く黒い炎の中から、【ダークブレイズドラゴン】が地上によみがえり、咆哮を響かせる。

 

 

 

「な、なんだこのドラゴンは!? 墓地になんていつの間に…!」

 

「…! そうか貴様…! あの時【スピリット・ドラゴン】の効果で…!」

 

「大正解だよ広瀬くん。墓地から特殊召喚された【ダークブレイズ】は、攻撃力が2倍になる!」

 

 

 

【ダークブレイズドラゴン】 攻撃力 2400

 

 

 

「さぁこっちもダブルエースが揃ったし、いっちょ派手にやりますか!」

 

「そうだね、マキちゃん!」

 

「バトル! 【ランチャースパイダー】で【イシュザーク】を攻撃! 『ショック・ロケット・アタック』!!」

 

「【ダークブレイズドラゴン】で、【カオス・マジシャン】を攻撃! 『バーンズダウン・ヘルファイア』!!」

 

 

 

 乱射されたロケットランチャーの(だん)()と、万物を焼き尽くす地獄の業火が、標的となった聖騎士と魔法使いを、瞬く間に消し飛ばした。

 

 

 

「ぐあっ!」

 

「うおぉっ!?」

 

 

 

 広瀬 × 京川 LP 3600 → 2400

 

 

 

「さらに【ダークブレイズドラゴン】の効果発動! 戦闘で破壊したモンスターの、元々の(・ ・ ・)攻撃力分のダメージを与える! これで…」

 

「『チェックメイト』だ!!」

 

「ボクの決めゼリフ取られた!?」

 

 

 

- ブレイジング・ストーム!! -

 

 

 

「「うわあああああああっ!!!?」」

 

 

 

 広瀬 × 京川 LP 0

 

 

 

「イェーイ! あたし達の勝ちー!」

 

「やったねマキちゃん!」

 

 

 

 大喜びなマキちゃんとハイタッチ!

 

 

 

「ま……負けた……」

 

「俺と京川の最強タッグが敗れるとは……」

 

「じゃあそういうわけだから、ボク達はこれで」

 

「またね~!」

 

 

 

 無事に勝てた事だし、そそくさと退散してしまおう。打ち(ひし)がれている様子の二人に一言だけ言い残して、ボクとマキちゃんは歩き出した。

 

 すると……一人の女子生徒がやって来た。

 

 

 

「騒がしいと思ったら、こんなところで何をしているんですの? 広瀬、京川」

 

「「お、お嬢様!?」」

 

 

 

 あの白金に輝くツインドリル……見間違う筈もない。鰐塚ちゃんだった。後で会いに行こうと思ってた矢先に、あちらから来るなんて。

 

 

 

「あっ、鰐塚ちゃん。ちょうど良かった。この(あいだ)の事なんだけど……」

 

「せ、せせ、セツナさん!?」

 

「……ん?」

 

 

 

 ボクに気づいた途端、鰐塚ちゃんは何やら顔を真っ赤にして狼狽(うろた)え始めた。どうしたんだろう?

 

 

 

(なななななんでセツナさんがここに!? というか今(アタクシ)、彼のこと思いっきり名前で呼んでしまいましてよ! どどどどうしたら……え? この間? ああぁやっぱり(アタクシ)がした事にお怒りなのですわね……早くお詫びしなければ…!)

 

「あ、あ、あの……あばば…あげまきさん…! その……あの時は…」

 

「うん、あの時はごめんね。鰐塚ちゃんに酷いことしちゃって……」

 

「……え?」

 

「お詫びと言ったら何だけど……今度さ、食事でも奢らせてよ。駅前にオシャレなレストラン見つけたんだ。きっと鰐塚ちゃんも気に入ると思うから…」

 

「!?!!!!!?!?!!!?」

 

(こ、これってもしや……いわゆる『デート』のお誘い!? 男の人と二人きりでお食事……ま、まさかセツナさんは(アタクシ)のことを……!? そ、そんな…そんなの……!)

 

「……えっと……鰐塚ちゃん?」

 

「こ……心の準備がまだですわぁああああああっ!!!」

 

「えっ!? ちょ…!」

 

 

 

 鰐塚ちゃんは絶叫しながら走り去って行ってしまった。意外に足が速くて追いかける間もなかった。

 

 

 

「あちゃー……嫌われちゃったかな…?」

 

「……ははーん。あたし(わか)っちゃったかも」

 

「解ったって…何が?」

 

「罪な男だねぇ、セツナくんって」

 

「???」

 

 

 

 マキちゃんの言っている意味を把握できず、ボクは首を傾げた。……おや? 背後から殺気が……

 

 

 

「はっ!?」

 

総角(アゲマキ)お前……俺達の前で公然とお嬢様をナンパするとは良い度胸だな…!」

 

「その罪、万死に値する……やるぞ京川…!」

 

「おうよ広瀬…!」

 

「いや、待って、落ち着いて二人とも……」

 

 

 

 完全に怒髪天を突いている広瀬くんと京川くん。ヤバイ、ジリジリと壁際に追い詰められていく…! 助けてマキちゃん……

 

 

 

「あれ、マキちゃん!? どこ行ったの!? マキちゃーん!!」

 

 

 

 いつの間にかマキちゃんは、忽然(こつぜん)と姿を消していた。いち早く危機を察してエスケープしたな、あの小悪魔めぇえええっ!!

 

 

 

「「粛正してやるううううっ!!」」

 

「ギャーッ!?」

 

 

 

「クスクス……本当に見てて飽きないなぁ、セツナくんは」

 

 

 

 





 実はチョロインだった鰐塚ちゃんww

 タッグデュエル初挑戦の回でした! それぞれの見せ場を演出しつつ良い感じにフィニッシュまで持っていく為にアレコレ考えていたら、前回の投稿から1ヶ月以上も空くという、なんたるていたらく(´・ω・`)

 感想などお待ちしております(*´∀`)♪


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TURN - 14 WILD BROTHER


 あけましておめでとうございます!!(白目)

 日本は新春を迎えましたが当作品内はまだまだ夏真っ盛りです!

 今年もご一読いただければ幸いです、よろしくお願いします!



 

「ほら、ルイくん……(くち)、開けて?」

 

「わぁ……先輩の……おっきい……」

 

 

 

 どこか恥ずかしそうに顔を赤らめ、横髪を耳に掛けながら、おずおずと口を縦に(ひら)くルイくん。ボクはその綺麗な口内に、ボクのホットドッグを(くわ)えさせる。

 

 ……違うから!! 変な意味じゃないから!!

 

 学園の購買部で美味しそうなホットドッグが売ってたから買ってきて、ルイくんと二人で中庭のベンチに座って食べてただけだよ! ちなみに今は昼休み。

 

 それにしても、小さな口で懸命にホットドッグをもぐもぐしているルイくんの姿は正に小動物。

 今となっては、こうしてルイくんに餌付けするのが毎日の日課になっている。だって可愛(かわい)いんだもん。

 

 

 

「もぐもぐ……ん……はぁ……おいしかったです」

 

「フフッ、それは良かった。いい子いい子」

 

「えへへっ」

 

 

 

 残さず咀嚼(そしゃく)して、ゴックンと飲み込んだルイくん。ご褒美に頭を撫でてあげると、嬉しそうにはにかんだ。サラサラな茶髪は触り心地が良くて、いつまでもなでなでしていたくなる。

 

 

 

「……僕……セツナ先輩に出会えて良かったです。『ランク・E』の僕なんかに優しくしてくれたの、先輩が初めてだったから…」

 

 

 

 ボクの真横にちょこんと座るルイくんが、ふとそんな事を呟いた。照れているのか目線は自分の足下に向いており、その横顔は、ほんのりと頬を染めていた。

 ……フラグ立ちまくりなんですけど、これなんてギャルゲー? 攻略しちゃっていい?

 

 そう、ルイくんはこの学園においては最下層のカースト --- 『ランク・E』に位置する生徒だった。

 

 ここ、デュエルアカデミア・ジャルダン校の生徒達は、決闘(デュエル)の実力の高い順に『A』~『E』の5段階のランクで、厳正に格付けをされるシステムになっている。

 当然ながら、それがそのまま決闘者(デュエリスト)としての強さの度合いを示し、各々の成績にも影響するので、非常に重要な要素(ファクター)なんだそうだ。

 

 聞くところに寄ると、ランクが低ければ低いほど周囲の風当たりは強くなり、特に最下位(ランク・E)ともなると、それだけでドロップアウト(落ちこぼれ)のレッテルを貼られ、白眼視されてしまうんだとか。

 昨日まで仲の良かった相手が、ランクが下がった途端に距離を置き始めて、友情が崩壊した事例も珍しくないらしい。校風が校風だから仕方ないのかも知れないけれど、ひどい話だ。

 

 

 

「こんなに可愛いルイくんを白い目で見るなんて」

 

「か…かわいいなんて、そんな……」

 

 

 

 恥ずかしがってるルイくんも可愛い。どうしよう、すごく抱き締めたい。

 

 けどその前に……そろそろ本題に入るとしようか。

 

 

 

「……それで、話したい事ってのは?」

 

「は、はい! 実は……その……」

 

 

 

 さっきまでのデレデレしていたルイくんの表情が、一気に緊張で強張ったのが見て取れた。

 

 授業中、ボクの端末にルイくんから、『折り入って相談したいことがあるんです』という内容のメッセージが送られてきたので、こうして昼休みの時間を利用して合流したわけだけど……

 

 もし『実は僕……女の子なんです!』とか告白されたりしたら、どんなリアクションを取るべきか。何にせよ、せっかく後輩が頼ってくれてるんだ。先輩らしく、しっかり彼をフォローしてあげないと! そんな心構えで、ボクはルイくんの言葉に耳を傾けた。

 

 

 

「僕……選抜試験に出てみたいなって……思ってて…」

 

 

 

 あ、全然違った。ごめんよルイくん。性別を疑ったりして。

 

 

 

「選抜試験に?」

 

「は…はい……で、でも、やっぱり止めた方がいい……ですかね…? 僕、弱いから……出てもすぐ負けちゃうだろうし……」

 

 

 

 語尾がどんどん弱々しくなっていくルイくん。なるほど、そういうことか。

 

 確かに選抜試験こと『選抜デュエル大会』は、高等部の生徒であれば誰でも参加(エントリー)が可能で、ランクは関係ない。だからルイくんが学園側に申し出れば、それだけで簡単に参戦できる。

 ただ、踏み出す勇気がまだ足りなくて、誰かに背中を押してほしいんだ。

 

 となると、ボクが彼に言うべきことは……

 

 

 

「ルイくん、ボクは…」

 

「おいおい! 落ちこぼれのランク・Eが何か言ってやがるぜ!」

 

「選抜試験に出てみたいだぁ? ギャハハッ! 身の程を知れってんだ!」

 

 

 

 ボクの言葉は横から割り込んできた下品な笑い声に阻まれた。ボクとルイくんの和やかな時間を邪魔しやがって、このKY!

 

 誰だと思ってそちらを見れば、見知らぬ男子生徒が二人、座っているボクとルイくんを()(くだ)す様に立っていた。

 

 

 

一年(オレら)の中で一番弱いオメーが勝てるとでも思ってんのかよ!」

 

「あ…うぅ……」

 

 

 

 ……男子生徒の口振りから察するに、どうやら彼らはルイくんと同級生みたいだ。ルイくんは怯えて、すっかり縮こまってしまっている。

 こんな風に自分達よりランクの低い子を(おとし)める生徒は、学園のあちこちで何度か見てきた。その度に『皆もっと仲良くすれば良いのに』とか思いながらも、静観していたのだけれど。

 

 さすがに後輩が……友達が馬鹿にされているのを、黙って見過ごす事は出来ない。

 

 

 

「ねぇ、ちょっと今のは聞き捨てならな……ッ!?」

 

 

 

 立ち上がったボクの言葉が途中で止まったのは、目の前の男子生徒二人の背後に、より大きな人影が立っているのを目撃したからだった。

 いつの間にか現れた、巨人とも形容できそうな迫力を放つ大男は、何も気づいていない男子達の頭を真後ろから掴むと、いとも簡単に身体ごと持ち上げた。

 

 

 

「いっ、いてててっ!?」

 

「だ、誰だよ離せ!」

 

「……てめぇら……今なんつった?」

 

「「はぁ!?」」

 

「誰が落ちこぼれだってんだゴラァァァァアッ!!」

 

「「う、うわぁあああああっ!!!?」」

 

 

 

 大男は自身の身体を回転させ始めると、その遠心力を用いて、砲丸投げの要領で二人の男子生徒を軽々(かるがる)と投げ飛ばした。

 悲鳴を上げながら、空の彼方(かなた)へと消えていく二人。ボクとルイくんがポカーンとしながらそれを眺めていた時、フーッ、フーッ、と息を荒げていた大男が大声で叫んだ。

 

 

 

兄貴(・ ・)を馬鹿にする奴ァ! 俺が許さねぇっ!!」

 

「…………え? アニキ?」

 

「け、ケイちゃん!?」

 

 

 

 突如、大男が口にした『兄貴』という呼称。そして、そんな大男を『ケイちゃん』と呼んだルイくん。

 …………ボクの脳内で、通信制限を受けた端末(なみ)に遅い情報処理が(ようや)く終わり、合点がいった瞬間……ボクも、叫ばずにはいられなかった。

 

 

 

「ええええええええええっ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せ……先輩、紹介しますね。僕の弟の、(いち)()() ケイです」

 

「お、弟……」

 

「ちなみに中等部2年生です」

 

「14歳!? これで!?」

 

 

 

 ルイくんが教えてくれた通り、この大男とルイくんは、本当に実の兄弟らしい。

 

 弟くんの一番の特徴は、ツーブロックに刈り上げた、オレンジ色の短髪。また、何故だか不機嫌そうに仏頂面しているせいか、短い眉毛と鋭い目付きが強調されていて、近寄り難い雰囲気を纏っている。背丈は三つ年上のボクよりも高く、おおよそ180センチを越えている。ついでに言えば喋り声も、ボクやルイくんより低い。着ているシャツの半袖から伸びる両腕は、男二人を振り回せたのも納得(?)の太さ。中学生とは思えない程ガッシリとした、(たくま)しい身体つきと、ワイルドな外見を併せ持っていた。

 

 

 

「ごめん、失礼を百も承知で言ってしまうけど……あんま似てないね……」

 

 

 

 色白で華奢な兄・ルイくんと、筋肉質な弟・ケイくん。二人の共通点を挙げるとすれば……緑色の瞳くらいしか見当たらなかった。

 

 

 

「あはは……よく言われます。ケイちゃんは父方に似ちゃったみたいで…」

 

 

 

 ボクは心の中で密かに『母方、グッジョブ!』と叫んだ。

 

 その時、突然ケイくんのゴツイ手が、ボクの胸ぐらを乱暴に掴み上げた。

 

 

 

「てめぇそりゃ兄貴を馬鹿にしてんのか? あぁん!?」

 

「ぐえぇ……助けてルイくん」

 

「だ、ダメだよケイちゃん! 離して!」

 

 

 

 さすがに、お兄さんの言葉は聞き入れるのか。ケイくんはルイくんの制止にすんなり従ってボクを離してくれた。こ、殺されるかと思った……

 

 

 

「大丈夫ですか? セツナ先輩…」

 

「あ、あぁうん、大丈夫。ありがとうルイくん」

 

「セツ…? ……そうか……こいつが……」

 

「?」

 

「最近、兄貴が嬉々として話す『セツナ先輩』ってのァ、てめぇのことか!」

 

 

 

 眉間に(しわ)を寄せ、強面を更に(いか)つくしてボクを睨むケイくん。怖ええええええっ!?

 

 

 

「上等だ! 俺と決闘(デュエル)しろ! 兄貴が認めた男がどれほどのもんか、この俺が見定めてやる!」

 

「また随分と急展開だね……」

 

「セツナくーん!」

 

「騒がしいわね、何してるの?」

 

「あぁ、アマネ。それにマキちゃん」

 

 

 

 おぉ。お馴染み美少女コンビの二人が参られた。

 

 

 

「あー、実は今から決闘(デュエル)する流れになったっぽくてね…」

 

「誰と?」

 

「ルイくんの弟くんと」

 

「弟って……誰?」

 

「彼」

 

「…………うそぉ?」

 

 

 

 アマネはケイくんを一瞥すると、赤い瞳を丸くして驚嘆した。まぁ無理もないか。

 

 

 

「おい早く構えやがれ! どっちが兄貴に相応しいか、白黒つけてやろうじゃねーか!」

 

 

 

 すでにデュエルディスクを着け終えたらしいケイくんが、声を荒げて急かす。

 すると、マキちゃんが何やら興奮し始めて……

 

 

 

「お? おぉ!? これは一人の男の子を巡っての修羅場ってヤツかな~? 勝った方が意中の人をゲットできる……良いねぇ~! あたしそういうの大好きだよ!」

 

 

 

 何その薄いブックスが厚くなる展開。

 

 ていうか、ルイくんもどうして赤面してるのかな!?

 

 

 

「てめぇなんかに兄貴は渡さねぇ! 来い!」

 

「ややこしくなる言い方はやめて!?」

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 ケイ LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「俺から行かせてもらうぜ! 【剣闘獣(グラディアルビースト)ラクエル】を召喚!」

 

 

 

剣闘獣(グラディアルビースト)ラクエル】 攻撃力 1800

 

 

 

「さらに手札からフィールド魔法・【剣闘獣(グラディアルビースト)(おり)-コロッセウム】を発動!」

 

「!」

 

 

 

 地響きと共に地形が造り変えられていき、フィールドは広大で神秘的な、円形の闘技場へと一変した。

 

 

 

「おおぉ、すごい! コロシアムだ!」

 

此処(こ こ)は誇り高き剣闘士(グラディエーター)達が、魂を賭けてぶつかり合う戦いの場! 全力で行くぜ…! 俺とお前……どちらかが吹っ飛ぶまで!!」

 

「ケイちゃん、今日も絶好調だね……」

 

 

 

 ルイくんが苦笑を交えつつ独りごちた。どうやら弟くんの熱血漢ぶりは、平常運転のようだ。

 

 

 

「俺はカードを2枚伏せてターン終了だ!」

 

「……良いね、ボクもテンション上がってきたよ……! ボクのターン! ……それじゃあ、ボクは魔法(マジック)カード・【スター・ブラスト】を発動! このカードはライフを500ポイント支払う(ごと)に、手札のモンスター1体のレベルを1つ下げる。ボクは2000ポイント払う!」

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 2000

 

 

 

「いきなりライフを半分にしただと…?」

 

「これで、手札にある【トライホーン・ドラゴン】のレベルは、4つ下がってレベル4! リリース無しで召喚できるようになったよ!」

 

「!」

 

「さぁ出ておいで、【トライホーン・ドラゴン】!」

 

 

 

【トライホーン・ドラゴン】 攻撃力 2850

 

 

 

「で、でけぇ…!」

 

「バトル! 【トライホーン】で【ラクエル】を攻撃!」

 

「ッ! そうはさせねぇ! (トラップ)発動! 【ディフェンシブ・タクティクス】!」

 

 

 

 ラクエルを護るべく張られた強固な防御壁(バリアー)によって、トライホーン・ドラゴンの攻撃が弾かれてしまう。

 

 

 

「ラクエルの破壊を無効にし、戦闘ダメージを(ゼロ)にする!」

 

「あらら、防がれちゃったかー……」

 

「さらにこの瞬間、ラクエルの効果が発動!」

 

「ッ!」

 

「【剣闘獣(グラディアルビースト)】は戦闘を(おこな)ったバトルフェイズ終了時、デッキの中の新たな【剣闘獣(グラディアルビースト)】と入れ替わる事が出来る! 俺は【ラクエル】をデッキに戻し、【ムルミロ】を守備表示で特殊召喚!」

 

 

 

剣闘獣(グラディアルビースト)ムルミロ】 守備力 400

 

 

 

「ここでフィールド魔法・【コロッセウム】の効果!」

 

「!」

 

「【コロッセウム】はデッキからモンスターが召喚される度に、カウンターを乗せる! そしてカウンター1個につき、【剣闘獣(グラディアルビースト)】の攻撃力を100アップする! たった今【ムルミロ】の特殊召喚に成功した事で、まず1つ目だ!」

 

 

 

剣闘獣(グラディアルビースト)の檻-コロッセウム】 カウンター × 1

 

剣闘獣(グラディアルビースト)ムルミロ】 攻撃力 800 → 900

 

 

 

「まだまだァ! 2枚目の伏せ(リバース)カードを発動! 【ハンディキャップマッチ!】 その効果でデッキから、【剣闘獣(グラディアルビースト)エクイテ】を特殊召喚だ!」

 

 

 

剣闘獣(グラディアルビースト)エクイテ】 攻撃力 1800

 

 

 

「これにより【コロッセウム】に、2個目のカウンターが乗る!」

 

 

 

剣闘獣(グラディアルビースト)の檻-コロッセウム】 カウンター × 2

 

剣闘獣(グラディアルビースト)ムルミロ】 攻撃力 900 → 1000

 

剣闘獣(グラディアルビースト)エクイテ】 攻撃力 1800 → 2000

 

 

 

「モンスターが2体に増えた……」

 

「これで終わりじゃねぇぞ…! 【ムルミロ】が【剣闘獣(グラディアルビースト)】の効果で特殊召喚された時、フィールド上のモンスター1体を破壊する!」

 

「うげっ! そうなの!?」

 

「消し飛べ! トライホーン・ドラゴン!」

 

 

 

 【ムルミロ】が発射した水流の砲撃が直撃して、【トライホーン・ドラゴン】が早くも消滅する。わざわざ【ラクエル】よりステータスの低い【ムルミロ】を呼んだのはこの為か…!

 

 

 

「ほえー。自分のライフを大幅に削ってまで上級モンスターを呼び出した、セツナくんも凄いけど……」

 

「うん……それを一瞬で破壊した彼……ルイくんの弟も、流石(さすが)ね」

 

「…………」

 

 

 

 ……? 気のせいかな、マキちゃんとアマネの解説を聞いてたルイくんが、うつむいて暗い顔をしたのが目に入った。

 おっと、今は決闘(デュエル)に集中しなきゃ。ボクの場に現在、モンスターは居ない。このまま自陣を(から)にしておくのはマズイ…!

 

 

 

「やるね……なら! ボクは手札から【復活の福音(ふくいん)】を発動! 墓地の【トライホーン】を蘇生させてもらうよ!」

 

 

 

【トライホーン・ドラゴン】 攻撃力 2850

 

 

 

「チィッ! しぶてぇ野郎だ……!」

 

「あとはカードを2枚伏せて、っと。これでターン終了(エンド)だよ」

 

「俺のターン!」

 

(……確かに兄貴の言ってた通り、少しはやるみてぇだな……だがこんなもんじゃねぇぜ……! 俺の【剣闘獣(グラディアルビースト)】デッキの真の恐ろしさ、見せてやる!)

 

「魔法発動! 【剣闘訓練所(グラディアルトレーナー)】! デッキから【剣闘獣(グラディアルビースト)アンダル】を手札に加え、そのまま通常召喚する!」

 

 

 

剣闘獣(グラディアルビースト)アンダル】 攻撃力 1900 → 2100

 

 

 

 こっちには攻撃力で遥かに(まさ)る【トライホーン】がいるのに、わざわざ下級モンスターをサーチして攻撃表示…? 何か企んでるのかな……

 

 

 

「【剣闘獣(グラディアルビースト)】は決められたモンスターをデッキに戻すことで、【融合】カード無しで融合召喚できる!」

 

「なっ…! 【融合】を使わないで融合!?」

 

「俺は【剣闘獣(グラディアルビースト)アンダル】と、【ムルミロ】、【エクイテ】の3体を融合!!」

 

 

 

 ケイくんの指定したカード3枚がデッキに戻り、ディスクの機能で自動的にシャッフルされると同時に、3体の【剣闘獣(グラディアルビースト)】が渦を巻く様に一体化していく。

 

 

 

彷徨(さまよ)える(いにしえ)の剣闘士の亡霊どもよ。忠義の元に一つとなりて、怒れる『暴君』を呼び覚ませ! 融合召喚!! 来い! 【剣闘獣(グラディアルビースト)ネロキウス】!!」

 

 

 

剣闘獣(グラディアルビースト)ネロキウス】 攻撃力 2800

 

 

 

 コウモリを彷彿とさせる、六枚の翼を雄々しくはためかせ、紺色の鎧をその巨躯に纏った獣人が地上に降り立った。

 

 【融合】魔法カードを必要としない融合召喚……! これまでの『融合』の常識を覆す斬新な召喚方法に、ボクは驚きを隠せなかった。

 

 

 

「【コロッセウム】の効果で、攻撃力アップ!」

 

 

 

剣闘獣(グラディアルビースト)ネロキウス】 攻撃力 2800 → 3000

 

 

 

「ヤバッ、忘れてた……!」

 

「行くぜぇ……バトルだっ! 【ネロキウス】で【トライホーン・ドラゴン】を攻撃! ねじ伏せろ、『ティラニカル・アトロシティ』!!」

 

「! トラップ発……ッ!?」

 

 

 

 伏せておいたリバースカードを(とっ)()に発動しようとしたら、表側表示になる筈のカードの動作が途中で止まってしまった。何、また故障!?

 

 

 

「無駄だぁ! 【ネロキウス】の攻撃に対して、魔法(マジック)(トラップ)は発動できない!」

 

「あっ、そういうことか。故障じゃないみたいなら良かった……って、良くはなぁーーーい!?」

 

 

 

 (トラップ)で防ぐ事も(まま)ならず、【ネロキウス】の殴撃が、【トライホーン】を確実に捉えた。

 

 

 

「おっしゃあっ! 今度こそ【トライホーン】撃破ッ……あ?」

 

 

 

 ……戦闘に負けて墓地に行ったと思われたけど、まだ、トライホーンは破壊されていなかった。

 仕留めたかに見えた敵モンスターが、未だ場に留まり続けている状況に戸惑ったのか、ケイくんは激昂する。

 

 

 

「な、なんで【トライホーン】がまだ生きてやがる!?」

 

「……悪いね。墓地から【復活の福音】を除外して、【トライホーン】の破壊を無効にさせてもらったよ」

 

「!? どういうことだ! ネロキウスの効果で魔法は発動できねぇ筈だ!」

 

「この効果は『発動』ではなく『適用』だから、ネロキウスの効果に関係なく使えたってわけ」

 

(まぁ、ボクのライフは普通に減るけどね……)

 

 

 

 セツナ LP 2000 → 1850

 

 

 

「上手い事するわね、セツナの奴」

 

「くそっ、往生際の悪ィ……! 俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

「ボクのターン!」

 

 

 

「あの子すごいね~。セツナくん相手に圧してるよ~」

 

「……ケイちゃんは入学したての頃から頭角を表してましたから……今じゃもう、ランクも『B』まで上がってるんです」

 

「えっ! 中等部でもう『ランク・B』!?」

 

 

 

 ルイくんの言葉にマキちゃんは仰天して、アマネは感心した様子で「へぇ~」っと呟いた。

 ランク・Bって言ったら、高等部の生徒であるアマネやマキちゃんと、ほぼ同格の実力という事だ。確かにそれは凄い。

 

 

 

「……高等部に進学しても、未だに最底辺(ランク・E)の僕なんかとは……比べ物にならないくらい凄いんです、ケイちゃんは……」

 

「兄貴ッ!!」

 

「!」

 

 

 

 次第に声を震わせ、目元に涙が潤み始めたルイくんを激励(げきれい)する様に、弟のケイくんが叫んだ。

 

 

 

「兄貴ッ! そんな情けねぇこと言わないでくれよ! 兄貴は弱くなんかねぇ! 俺が保証する!」

 

「ケイちゃん……」

 

「……そうだよ、ルイくん。君は弱くなんかない。ボクもそう思う」

 

(だってルイくんは……)

 

 

 

 ---思い返せば、初めて会った時のルイくんと今のルイくんには、一つだけ決定的な違いがある。ボクも最近気づいた事なんだけどね。

 

 プライベートでも何度も遊ぶくらい仲が良くて、一緒にいる機会が多かったから、よくルイくんはボクの決闘(デュエル)を横で観戦していた。

 

 まだ知り合って間もない頃は、ボクが何かコンボを決めたり勝利したりすると、「すごいですセツナ先輩!」って誉めてくれたりもしたけれど、近頃はそれと同時に、また違った目でボクを見る様になっていた。もちろん良い意味で。

 

 その瞳に宿るのは……『戦意』。

 

 純粋に慕う相手に向けていたルイくんの眼差しは、いつしか、好敵手(ライバル)を見る眼に変わっていた。

 

 

 

(……そんな眼が出来る決闘者(デュエリスト)が、弱いわけがないよ)

 

「行くよ! リバースカード・オープン! 【タイラント・ウィング】!」

 

「!!」

 

 

 

 前のターン、【ネロキウス】の効果に妨害されて使えなかった(トラップ)を、ここで使用する。【トライホーン】の背中に光輝く両翼が生成された。

 

 

 

「トライホーンに装備して、攻撃力を400ポイントアップ!」

 

 

 

【トライホーン・ドラゴン】 攻撃力 2850 + 400 = 3250

 

 

 

「攻撃力が【ネロキウス】を越えやがった……!」

 

「この子もやられっぱなしは(しゃく)みたいでね。だから、お返しさせてもらうよ! 【トライホーン】で【ネロキウス】を攻撃!」

 

 

 

 爪を構え、咆哮を轟かせながら、今度は【トライホーン】が【ネロキウス】に逆襲する。同じ『暴君』の名を冠する翼を(ひるがえ)して。

 

 

 

「そんな攻撃などぉォォーッ!! 【ネロキウス】を対象に、速攻魔法・【剣闘獣(グラディアルビースト)の底力】を発動ォ! ネロキウスの攻撃力を、さらに500ポイントアップするっ!!」

 

 

 

 ケイくんも負けじと雄叫びを上げて対抗した。ネロキウスが彼の気合いに呼応する様に力を(みなぎ)らせ、自らの攻撃力を上昇させる。

 

 

 

剣闘獣(グラディアルビースト)ネロキウス】 攻撃力 3000 + 500 = 3500

 

 

 

「セツナのドラゴンの攻撃力を、さらに上回った……!」

 

「どうだっ! これで終わりだぁああっ!!」

 

 

 

「…………フフッ」

 

「!?」

 

(な……何を笑ってやがる……!?)

 

「すごいよケイくん、ここまでやるなんて。でもこの勝負は……ボクの勝ちだ! (トラップ)カード発動! 【奇策】!!」

 

(!! 2枚目の(トラップ)……! 【奇策】だと!?)

 

「手札のモンスターカード1枚を墓地に送り、そのモンスターの攻撃力分、対象モンスターの攻撃力を下げる! ボクは【ラビードラゴン】を墓地へ!」

 

 

 

剣闘獣(グラディアルビースト)ネロキウス】 攻撃力 3500 - 2950 = 550

 

 

 

「ね、ネロキウスの攻撃力が……!」

 

「切り裂け、【トライホーン・ドラゴン】!! 『イービル・ラセレーション』!!」

 

 

 

 悪魔の竜の強靭な爪が、暴君の体躯を容赦なく引き裂く。今まで一方的に攻撃を受けてきたせいで、最高値まで溜まったフラストレーションを、その一撃に全て込めて爆発させた様にも見えた。

 

 

 

「ぐうぅぅぅっ……!!」

 

 

 

 ケイ LP 4000 → 1300

 

 

 

「くっ……だが! ネロキウスは戦闘では破壊されねぇ!」

 

「それで良いんだよ」

 

「なに?」

 

「【タイラント・ウィング】の二つ目の効果! 装備モンスターはもう一度モンスターに攻撃できる!」

 

「も、もう一度って事は……まさか!?」

 

 

 

 トライホーンに装備された翼の光が更に強まった。対して、ネロキウスの武装する頑丈な鎧は、先のトライホーンの攻撃で亀裂が走り、半壊している。

 

 

 

「セツナ先輩……やっぱりすごい……!」

 

(いつもそうだった……先輩は相手がどんなに強敵でも臆さないで、どんなに追い詰められても諦めないで……最後には必ず、相手の上を行く戦術を繰り出して、勝ってきた……! こんなすごい人に僕の全力が……僕の決闘(デュエル)が、どこまで通用するのか……!)

 

「ッ……!」

 

(やってみたい……(たたか)ってみたい……! 先輩と!!)

 

 

 

 ……ルイくんの目が変わった。少し前までの自信喪失した弱気な目じゃない。覚悟を決めた……闘志に満ちた、いい眼をしていた。

 ボクは内心それが嬉しくて、つい笑みを溢した。何だかんだで、ルイくんも立派な決闘者(デュエリスト)なんだよね。

 

 

 

「さぁ、チェックメイトだ! 【トライホーン・ドラゴン】!! 【ネロキウス】に最後の攻撃!」

 

 

 

- イービル・ラセレーション!! -

 

 

 

 相手が弱体化した好機を逃さず、トドメの追撃! ネロキウス自身は破壊されなかったけど、衝撃で砕け散った鎧の残骸がケイくんに降りかかり、超過ダメージとなって彼を襲った。

 

 

 

「うっ……うがああああああああっ!!!」

 

 

 

 ケイ LP 0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、完璧に負けちまったぜ……。悔しいが……兄貴が認めるだけあって強ぇな、アンタ」

 

「セツナって呼んでくれると嬉しいな。楽しかったよ、ありがとう」

 

「だが今度は負けねぇからな! 覚えてやがれ!」

 

 

 

 お互いの健闘を称えて、ケイくんと固い握手を交わす。改めて触れると、すごく大きい手なのが分かった。

 

 

 

「さて……」

 

「……!」

 

 

 

 ボクは振り向いて、ルイくんと顔を合わせる。いつものルイくんなら恥ずかしがって視線を逸らしちゃうんだけど、---そこも可愛いんだけど---今は、揺らぐことなく真っ直ぐに、ボクの目を見つめていた。あれ、おかしいな、なんかボクの方が照れてきたぞ?

 

 

 

「答えは出たみたいだね、ルイくん」

 

「……はい……!」

 

 

 

 小さく、でも、しっかりと頷くルイくん。迷いはもう、無いみたいだった。

 

 

 

「僕……参加します! 選抜デュエル大会に……! そこで、セツナ先輩と……闘いたい!!」

 

「……ずっと、その言葉を待ってたよ、ルイくん」

 

 

 

「あ……兄貴ィィィィィッ!!」

 

 

 

 うわっ、ビックリした。ルイくんの決意表明に心打たれたのか、ケイくんは滝のような涙を流して歓喜していた。暑苦しいけど、こういうノリは嫌いじゃない。

 

 ボクは右の拳をルイくんの前に差し出す。ルイくんは数秒間キョトンとしていたけれど、ボクの意図を察したのか慌てて自分も右手を握った。フフフッ、慣れてない仕草が何とも愛くるしい。

 

 

 

「その時は全力で決闘(デュエル)しよう。楽しみにしてるね!」

 

「はい!」

 

 

 

 そうしてボクとルイくんの拳が、コツンと合わさった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、セツナくんが勝ったって事は、ルイちゃんはセツナくんのモノになったって事で良いのかな?」

 

「「 マキちゃん静かに 」」

 

 

 

 





 新年最初の『チェックメイト』!!セツナがルイくんをひたすら愛でる回でした。

 なお、選抜デュエル大会編は、20話から開始する予定です!

 次回はアマネとセツナの絡みをゆるーく書いていこうかなと思っております( *´ω`)


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TURN - 15 in the RAIN


 前々回がセツ×マキ、前回がセツ×ルイと続いたので、今回はセツ×アマです!



 

 放課後、ボクとアマネは机の上にカードを広げて、卓上での決闘(デュエル)に興じていた。デュエルディスクを使わない決闘(デュエル)は、場所を選ばないし成績にも影響しないから、お遊戯感覚で気楽に出来るのが良いよね。

 

 

 

「んじゃ、【ラビードラゴン】で【堕天使マリー】を攻撃するよ」

 

「……私の負けね」

 

「たは~っ、何とか勝てた……」

 

 

 

 決闘(デュエル)が決着して、アマネは自分のカードを淡々と片付け始める。一手でも違えば負けてたのはボクだった。本当にギリギリの勝負だったよ。

 

 でも……

 

 

 

「? どうしたのセツナ? 不満げな顔して」

 

「……いつになったら、アマネの本当の(・ ・ ・)デッキと闘わせてくれるのさ?」

 

 

 

 アマネが今みたいな息抜きの決闘(デュエル)どころか、実技の授業でも使用していない、主力(メイン)デッキを隠し持っている事をボクは知っている。さっき使っていたのは所謂(いわゆる)ダミーデッキで、本人は適当に組んだって言うけど、それですらこんなに手強いんだ。アマネの本来の実力(デッキ)と手合わせしたら絶対にもっと楽しいに違いないのだけれど、彼女は(かたく)なに使おうとしない。何故なら、

 

 

 

「ダーメ。言ったでしょ? あのデッキは『選抜試験』用に調整したデッキだから、当日まで使わない事にしてるの」

 

「選抜試験、か……でも開催って確か、秋だよね?」

 

「そうね、あと1ヶ月ちょい。それまで楽しみにしてなよ。私もあのデッキでセツナと()るの、すっごい待ち遠しいけどガマンしてるんだから」

 

「……わかったよ」

 

「じゃあ私そろそろ行くね。メンテ頼んでたディスク、もうすぐ引き取りの時間だから」

 

「そういえば言ってたね。ボクも久々に挨拶だけして来よっかな、ヒマだし」

 

 

 

 鞄を持って教室を後にし、二人で目的の場所へと移動する。

 

 そこは学園の敷地内、校舎に隣接して建っている、大きな工房だった。ここでは主に、生徒達のデュエルディスクの修理、およびメンテナンスを依頼する事が出来る。しかも無料で。改造は校則で禁止されているから断られちゃうけどね。ボクも転入初日に金沢(かなざわ)くんと決闘(デュエル)して、ディスクを故障させちゃった時にお世話になったなぁ。来るのは随分と久しぶりだ。

 

 自動ドアを(くぐ)り抜けて中に入れば、大勢の職人さん達が作業に没頭していた。生徒総数4(ケタ)を誇るマンモス校であるこの学園で、ボク達が心置きなく決闘(デュエル)を楽しめるのも彼らのおかげ。敬礼。

 

 

 

「すいません、メンテナンスをお願いしてた黒雲(くろくも)です。ディスクの引き取りで来ました」

 

 

 

 アマネはボクと違って、目上の人とはちゃんと敬語で話せるから偉い。

 

 

 

「おぉ、待たせたな。ほれ、バッチリ仕上げておいたぜ、持っていってくれ」

 

 

 

 作業着を着た、短い(しら)()のお(じい)さんが出迎えてくれて、アマネに彼女が愛用しているレッドタイプのデュエルディスクを手渡した。ボクの時と同じで、まるで新品みたいにピカピカだった。相変わらず凄い腕前だ。ボクは手を振りながら、彼に挨拶する。

 

 

 

「おじさん、久しぶり」

 

「ん? おぉ、いつかの眼鏡(メガネ)ボウズじゃねーか。なんじゃ、またディスクおしゃかにしたんか?」

 

「いや、今日はアマネの付き添いで」

 

「おうおう、なんでぇ。こぉ~んなべっぴんさん連れて歩いて。ボウズも隅に置けねぇなぁ、このこの」

 

「あはは、からかわないでよ」

 

 

 

 アマネは照れているのか、こそばゆそうに頬を掻いていた。かわいい。

 

 

 

「どうよ、あれから。まだあの古い(かた)、使ってんのかい?」

 

「おかげさまで凄い調子いいよ。(トラップ)の認識だけ直してもらえたら良かったのに、まさか全部手入れしてくれるなんて」

 

 

 

 鞄の中から、ボクの愛機であるホワイトタイプのデュエルディスクを引っ張り出して見せると、アマネがディスクを指さして尋ねた。

 

 

 

「そういえばセツナのディスクって、ずいぶん昔の型だよね? 私も子供のころ使ってた気がする……」

 

「うん」

 

「俺もボウズがそいつを持ってきた時ぁ驚いたぜ。なんせもう十年以上も前の型だからよ、未だに使ってる奴がいんのかってな。しかもこんな若造が」

 

「十年ッ……! セツナ、それいつから使ってるの?」

 

「ん~……5、6年くらい前からかな」

 

「ワハハッ! それだけ長いこと使われてりゃあディスクも幸せじゃろうな! 冥利に尽きるってヤツじゃ」

 

 

 

 おじさんは置いてあった椅子にドカッと座り込むと、おもむろに懐から取り出したタバコに火を点けて吸い始めた。

 

 

 

「……おじさん、タバコ(それ)学園側に見つかったら怒られない?」

 

「バレなきゃ良いんじゃ。ナイショだぞ?」

 

「「 ………… 」」

 

 

 

 一服した後おじさんは、ボクとアマネに気を遣ってだろう、人のいない方向に煙を吐き出して、灰皿に灰を落としてから再び口を開く。

 

 

 

「……最近じゃあ、デュエルディスクも新しい型がポンポン造られてっからな。目移りして半年も経たねぇ内に買い替える奴なんかザラじゃ。そんな時代に、んな古ぼけた型を現在(い ま)でも使い続けてる若者(わかもん)は珍しい。つい昔の血が騒いじまったぜ」

 

「……よっぽど思い入れがあるんだね、そのディスクに」

 

「うん……形見なんだ。ボクにとって、大切な人の」

 

 

 

 ボクはディスクを大事に抱き締めて、そう答える。あれ……なんでこんな話してるんだろ。胸にしまっておこうって、決めた筈なんだけどな。

 

 

 

「形見?」

 

(ヤバッ、もしかしてこれって……セツナの触れちゃいけないところに触れちゃってる!?)

 

「じゃ、じゃあ行こっかセツナ! おじさん、ありがとうございました!」

 

「おう、気ィつけな」

 

「あっ、待ってよアマネ!」

 

 

 

 アマネが何やら慌てた様子で工房を出ていった。何か用事でも思い出したのかな? ボクも急いで後を追った。

 

 

 

(……私、セツナの昔の事って、まだ何も知らないなぁ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽が西に傾きかけた空に、入道雲が浮いていた。

 

 アマネと一緒にこうして下校するのも何度目だろう。昼夜を問わず常に賑やかな都心の街中を、ボクらは他愛ない会話を弾ませながら二人で歩いていた。

 

 

 

「それにしても、あっつ……」

 

 

 

 ボクは制服のシャツの胸元を引っ張って呟く。今日の気温は夏本番と言えるこの時期でも最高を記録したみたいで、もうずっと汗が止まらなくて参ってしまう。学園でも夏バテで何人か倒れてたっけ。ルイくんとか体力なさそうだから心配だな。大丈夫なのかな?

 

 

 

「言わないでよ、余計に暑くなるから」

 

「ごめんごめん。どっかコンビニ寄って、アイスでも買う?」

 

「私、ミントが良いな」

 

「ボクはバニラ派かなぁ……ん?」

 

 

 

 不意に、素肌に水滴が当たる冷たい感触。次いで、メガネのレンズにも水粒(みつぼ)が付着して濡れてしまう。

 もしや……と嫌な予感がしたのも束の間、ポツポツと(まば)らに降ってきた雨粒が徐々に勢いを増していき、やがて滝のような豪雨となって降り注いだ。

 

 

 

「うわっ、降ってきた」

 

「アイスどころじゃないわね……最悪」

 

 

 

 夕立とは、やられたよ。ひとまず何処かで雨宿りしなきゃ。ボクとアマネはアスファルトに溜まった水を蹴りながら走り出す。

 しばらくして、シャッターが閉まっている建物の軒先に雨よけ(オーニング)テントが張ってあるのを見つけたので、その下に避難させてもらう事にした。

 

 ここならどうにか雨を凌げそう……とは言ってもボクも彼女も、とっくのとうに全身びしょ濡れになっちゃってるけど。

 

 

 

(ていうかここまで来たならもう……すぐそこ(・ ・ ・ ・)なんだよね……)

 

「アマネ、大丈夫?」

 

「ハァ……ハァ……うん、平気……」

 

「……ッ!?」

 

(く、黒……!)

 

 

 

 アマネの着ている白シャツが雨に濡れたせいで、その下に着けている黒のブラジャーが透けて見えちゃってる……!! 更には上がった吐息に合わせて、アマネの豊かな胸が上下してるし、なんかもう色々と刺激が強すぎる! ボクは反射的に顔を逸らした。

 

 そう言えば水着も黒だったっけ……クールビューティーなアマネには、あぁいう大人っぽい色の下着もよく似合ってると思う。本人に言ったら確実に腹パン(作画崩壊)されるけど。

 

 

 

「すごいどしゃ降りね……まぁどうせ通り雨だろうからすぐ止むと思うけど」

 

 

 

 スカートを絞りながら呟くアマネ。水も(したた)る良い女。そこ、キモいとか言わない。

 確かに程なくすれば晴れそうだけど、この分だとまだまだ時間がかかりそうだ。それまでここでずっと立ち往生ってのもなぁ……仕方ない。

 

 

 

「アマネ」

 

「ん?」

 

「ボクの家、ここから近いけど……寄ってく?」

 

「えっ……?」

 

「そんなんじゃ雨が止むまで待ってたら風邪ひいちゃうよ」

 

(それに、こんなあられもない姿のアマネを、一人で帰すわけにもいかないし……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボクの家はアカデミアから徒歩圏内にある、何てことない普通のマンションの一室だ。玄関の鍵を開けて、その中にアマネを招き入れる。

 

 

 

「さっ、上がって」

 

「……お邪魔します」

 

「ちょっと待ってて、タオルと着替え持ってくるから」

 

(……まさかセツナの家に上がる日が来るなんて……)

 

 

 

 適当なお洋服と、濡れた髪や身体を拭く為のタオルを用意してアマネに手渡す。

 

 

 

「はいコレ。男物で悪いけど」

 

「むしろ女物なんて持ってたら問い詰めてるわ」

 

「乾燥機もあるから、濡れちゃった服とか入れていいよ」

 

「うん、ありがとう。ごめんね色々と」

 

「お気になさらず。服が乾くまで、ゆっくりしてってよ」

 

 

 

 アマネが着替えを済ませてる間に、ボクも部屋に戻って自分の制服を脱ぎ捨てる。それから髪を軽く拭いた後に部屋着を着て、鞄の中身を確認する。デュエルディスクは雨の日の決闘(デュエル)も想定して造られてる物だから、耐水性は抜群だ。壊れてる心配は無いだろうけど、一応点検しておくか。

 

 

 

「……問題なしっと。ふぅ……」

 

 

 

 ディスクは大丈夫だったので、ソファーに座り込んで一息。

 

 

 

(それにしても……誰かを自宅に呼んだのって、アマネが初めてだな……)

 

 

 

 メガネのレンズをクロスで拭き取っていると、アマネが部屋の扉を開けて入ってきた。が……今の彼女の格好に、ボクは目を奪われ硬直した。

 

 

 

「な、何よ……ジロジロ見ないでよ……」

 

「…………Oh……」

 

 

 

 アマネに着てもらったのはボクのTシャツだ。当然サイズが合ってないからダボダボなんだけど……胸、だけは逆にキツそうだった。大きく隆起した二つの膨らみによって、シャツにプリントされているパンダさんの顔が、横に平べったく伸びきっていらっしゃる。これがマキちゃんに育てられたおっぱいの破壊力か……!

 

 

 

「まぁ、座りなよ」

 

「ん……」

 

 

 

 ソファーをポンポンと叩いて、ボクの隣に座るよう促すと、アマネはそこに腰を下ろした。赤色のメッシュが入った黒髪から、良い香りがする。

 

 お茶を淹れてアマネに差し出す。窓の外では、まだ雨が降り続けていた。

 

 

 

「……セツナって一人暮らしなんだね」

 

「うん。ジャルダンのアカデミアに転入が決まった頃、1番街(こっち)に引っ越してきたんだ。近い方が通学に便利だからね」

 

「そうなんだ。セツナが以前(ま え)に居たアカデミアって、どんなところ?」

 

「……あー……至って普通の学校だったよ、うん」

 

「……?」

 

 

 

 ---脳裏に一瞬、あの時の記憶と、あの人(・ ・ ・)の姿が(よぎ)った気がした。

 そうだ、『あの日』も今日みたいな雨だった。

 

 

 

「…………あんな思いは二度とゴメンだ」

 

「何か言った?」

 

「いや、なんでもないよ。それよりさ、暇だし決闘(デュエル)でもしようよ」

 

「えっ、あ……うん、良いけど……」

 

 

 

 いけないいけない。小声とは言え、つい口を突いて出てしまった。

 

 

 

「……」

 

(セツナのさっきの表情……『あまり過去の事を詮索されたくない』、そんな顔をしてた……私と同じ……)

 

「よし、やろっか」

 

 

 

 ボクはテーブルの上にデッキをスタンバイして、いつもと変わらない笑顔でアマネと向かい合う。

 

 

 

「……えぇ、今度は負けないわよ」

 

 

 

 デュエル開始2ターン目。

 

 

 

「【ギフトカード】2枚発動。【堕天使ナース-レフィキュル】の効果でセツナに6000ポイントのダメージ。対戦ありがとうございました」

 

「 」

 

 

 

 後攻のボクがドローした途端に瞬殺されました。キュアバーン恐るべし。

 

 

 

「いやいやいや早すぎでしょ! ボクまだドローしかしてないよ!?」

 

「さすがに今のは私の初手が良すぎたわね。ノーカンで良いよ」

 

「むぅ、なんか悔しい……とりあえずもっかい!」

 

「そう来なくちゃ」

 

 

 

 お互いのデッキをカット&シャッフルして再戦。最初の手札となる5枚のカードを引きながら、ふと考える。

 

 

 

(……あぁ、少し分かったかも……なんでボクがアマネと一緒にいると安心できて、昔の事まで喋りそうになるのか…………ボクはアマネのことを、あの人と重ねて見ているんだ……)

 

「……ナ……セツナ!」

 

「!」

 

「どうしたの? ボーッとして。セツナの先攻でしょ?」

 

「あ、あぁごめん。えーっと、じゃあボクはこのカードを召喚して……」

 

 

 

 大丈夫。このままずっと平穏に暮らしていれば、ボクは大丈夫。

 

 もう大切なものを失いたくない。同じ過ちは繰り返さない。繰り返すもんか、もう二度と……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雨、止んだね」

 

「ホントだ。アマネの服もそろそろ乾いてる筈だよ」

 

「ん、着替えてくる」

 

 

 

 決闘(デュエル)に夢中で気づかなかったけど、雨はいつの間にか、すっかり降り止んでいた。窓ガラス越しに見える晴空(せいくう)は、夕日で赤橙(せきとう)色に染め上げられている。

 

 ジャルダン(この街)は何かと物騒だから女の子ひとりで帰すのも危ないし、途中まで送っていくとしよう。まぁ、アマネなら万が一暴漢に襲われたとしても、撃退できそうだけど。

 

 ……ふと、デスクの上に置いてある、1枚の写真立てが目に入った。ボクは伏せてあったそれを、何の気なしに引っくり返す。

 中に額装(がくそう)された写真には、綺麗な白銀の髪を背中まで伸ばした、一人の女性が写っていた。カメラ目線で儚げに微笑んでいる、美人と呼んで差し支えない顔立ちをしたその女性は、目元に赤色のメガネを掛けていた。

 

 

 

(懐かしいな……あれからもう、2年も経つのか)

 

 

 

 この写真は、ボクの宝物。ボクと『あの人』が共に過ごした、短くとも幸せだった思い出の証。

 

 そして……ボクが犯した『罪』を、一生忘れない為の……十字架だ。

 

 

 

「セツナ」

 

「っ……!」

 

 

 

 聞き覚えのある声がボクの名前を呼んだ。とっさに振り返ると、そこには『あの人』が---

 

 

 

「あ……アマネ……」

 

 

 

 ……いや、違った。身支度を終えたらしいアマネが、元の制服姿で立っていた。

 

 

 

「乾燥機、貸してくれてありがとうね。おかげで助かったわ」

 

「……うん。それは良かった」

 

 

 

 ビックリした……本当に今、アマネがあの人に見えちゃったよ。錯覚を起こすなんて、今日は疲れてるのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時間帯の駅前は、帰宅ラッシュで人がごった返している。アカデミアの生徒もちらほらいるけど、やはり夕方ともなると、仕事帰りの社会人の方が多く見受けられた。これだけ混雑してると、満員電車はまず不可避かもね……。

 

 

 

「見送りありがとね。じゃあ今日はこの辺で」

 

「気をつけてね? 痴漢とか……」

 

 

 

 特にアマネみたいなモデル顔負けの美少女は。

 

 

 

「平気よ、変なのが来ても(ひね)り潰せるから」

 

「ひえっ」

 

「それじゃ、また明日学園で」

 

「うん、バイバイ」

 

 

 

 アマネがこちらに背中を向けて歩き出す。……っと、思ったら、急に再び身体を反転させてボクと向き直った。

 どうしたの? ボクがそう聞こうとするより早く、アマネは言った。

 

 

 

「セツナ。過去に何があったか知らないけどさ……つらい時は、無理して笑わなくても良いんだよ?」

 

「…………!」

 

「じゃあね、バイバイ」

 

 

 

 手を振りながら、アマネは今度こそ雑踏の中へと消えていった。その背を見送った後、ボクは、手を降ろしてクスリと微笑む。

 

 

 

「大丈夫、無理なんてしてないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談だけど、あの後アマネに貸したTシャツを広げてみたら、胸の辺りだけ伸び伸びになってました。なんてことだ、ボクのパンダさんが。

 

 そんなこんながあった、翌日の朝。

 

 

 

「ふあ……おはよ、アマネ」

 

「おはよ、セツナ。……って、またネクタイ緩んでるし」

 

「うん、ありがとう、アマネ」

 

「もう私に直してもらう前提なのね……しょうがないなぁ」

 

 

 

 いや、自分でやろうと思えばネクタイ結ぶくらいちゃんと出来るんだよ? 出来るんだけどさ……なんとなく今日は、アマネにやってもらいたい気分だったんだ。

 

 

 

「…………」

 

「……何ニヤニヤしてんのよ、気持ち悪い」

 

「ぐえぇ……っ! 絞まってる絞まってる!」

 

 

 

 ネクタイを強く引っ張られて首元が締め付けられた。ちょっと調子に乗り過ぎたかな。

 

 すぐに緩めて結び直してくれると、アマネはボクの胸元を軽く叩いた。

 

 

 

「はい、出来た」

 

「ありがとう。悪いね」

 

「別に……セツナには昨日、世話になったから……お礼よ」

 

「そう言えば昨日は楽しかったね」

 

「「「!!!?」」」

 

 

 

 ピシッと、教室の空気が固まる音が聞こえた気がした。次いで、クラスメート全員の視線がボクの方に集中してきたのを感じた。

 

 

 

「なに? 何事?」

 

総角(アゲマキ)ィィィィイッ!! お、おおお前っ……! 黒雲さんと昨日なにしたんだ!?」

 

「ボクの家で一緒に遊んだだけだよ? 雨宿りも兼ねて」

 

「 」

 

 

 

 今度はクラスメートの男子達が、白目を剥いて固まった。女子も何故だかざわついているけど、ボク変なこと言ったかな? その時、真っ先にボクに詰め寄ってきた目の前の男子が突如、柔和な笑みを浮かべてボクの肩に手を乗せた。

 

 

 

「なぁ総角。朝のHR(ホームルーム)までまだ時間あるからよ、少し俺達と外で話そうか?」

 

「えっ、なんかスッッッゴイ嫌な予感しかしないんだけど」

 

 

 

 あれよあれよと男子達がボクの周りに群がってくる。逃げた方が良いと、直感がボクにそう告げた。ボクは自慢の脚力で、教室の天井ギリギリまで跳躍して彼らの頭上を飛び越え、そのまま廊下へと脱出した。

 

 

 

「あっ! 逃げたぞ!」

 

「くそぉ、すばしっこい! 追えー!」

 

 

 

「朝から騒がしいわね、もう」

 

「アマネたーん。昨日はセツナくんの家でお楽しみだったの?」

 

「マキちゃん隣のクラスでしょ、なんでここに居んのよ」

 

「えへへ~、アマネたんが足りなくて来ちゃった。それよりどうなの? どうなったの?」

 

「私が足りないって何よ……残念ながら、マキちゃんが喜びそうな展開は無かったわよ」

 

「な~んだ、つまんないの。あ、でも~……あたしもセツナくんのお(うち)に遊びに行きたくなっちゃったかも~」

 

(……セツナ、ご愁傷さま)

 

 

 

 おや? 突然(さむ)()が……。なんだか恐ろしい相手に目をつけられた様な気がするぞ?

 

 ひとまず、追いかけてくるクラスメートの皆を撒かないと。今日も色んな意味で退屈しない一日になりそうだ。

 

 気がつけばボクは楽しげに笑っていた。

 

 

 

 





 デュエリストにウフフな展開なんぞ無かった……orz

 切なくて甘い恋、とは行かなかったようです(黙

 今回ほんのちょっとだけ、主人公の過去に触れてみました。とは言え本格的に明らかにするのはまだまだ先なので、どうにかそこまで行き着けるよう執筆がんばります( ;∀;)

 次回はコラボ回になります!!


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TURN - 16 SPIRIT SUMMONER - 1


 この度、yunnnさんの作品、『遊戸 里香の表裏生活』とコラボさせて頂きました!! ありがとうございます!!

 デュエルは後編からスタートです!



 

 デュエルモンスターズにまつわる都市伝説と言えば、最も有名なのは『カードの精霊』の存在だ。

 

 この世界に数多あるカードの中には、描かれているモンスターが自我を持ち、デュエルディスクを介さずとも自らの意思で実体化できてしまう、『精霊』の魂が宿ったカードが実在すると言われている。

 

 昔から童話や御伽(おとぎ)話だったり、単なる噂話や説話と言った様々な形で、まことしやかに語り継がれている摩訶不思議な口承なんだそうだ。

 

 もちろん幽霊の(たぐい)みたいな存在(モ ノ)だから、一般的に人間の目には見えないとされているけれど、見える体質の人も稀にいるらしい。

 

 ボクも見たことは無かったので、正直カードに精霊が宿るなんて夢みたいな話は、今まで信じていなかった。

 

 ところが最近、それを完全に信じざるを得なくなった、信じられない様な経験をしたんだ。

 

 事の発端は、ある不思議な力を持った、二人の決闘者(デュエリスト)との出会いだった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日のアカデミアは、酷く不穏な空気に包まれていた。

 

 いや別に、またボクのクラスに変な人が現れたとかではないよ。今の状況をありのままに説明するなら……朝から学園のあちこちで、鈍色(にびいろ)の制服を着て帽子を被った人達……そう、警察(セキュリティ)が巡回していた。

 

 ただ事じゃないと一目で分かった。緊迫した空気が教室(こ こ)にまで伝わってきて、なんだか息が詰まる思いだ。でも担任の先生からの指示で、沙汰(さ た)があるまで待機させられているので退室は出来ない。

 

 どうしてこんな事態になっているのか……ボクは自分の後ろの席に座っている親友の少女、アマネに尋ねてみた。

 

 

 

「ねぇ、アマネ。一体これって何があったの?」

 

「……ついに学園(ウ チ)の生徒でも、『失踪事件』の被害者が出たんだって」

 

「失踪事件って……最近ニュースになってる、あの?」

 

 

 

 ここ数日メディアを騒がせている、『連続失踪事件』。

 

 すでに何人もの街の住民が、次々と行方不明になっているという恐ろしい事件だ。テレビで連日報道されていたから、ボクも観て知っていた。

 被害者の唯一の共通点は、決闘者(デュエリスト)であること。つまり犯人は、目的は謎だけど、決闘者(デュエリスト)ばかりを狙って(かどわ)かしている事になる。とは言えここは、『デュエルが全てを支配する街・ジャルダン』。決闘者(デュエリスト)じゃない人間を探す方が難しいので、標的(ターゲット)は全市民と言っても過言ではないだろう。

 

 

 

(なるほど、それでセキュリティが聞き込みに来たってわけか……)

 

 

 

 デュエル界でも名門と名高いジャルダン校の生徒が(さら)われたとなれば、学園の沽券にも関わるだろう。プロリーグも注目する『選抜デュエル大会』前に、こんな騒ぎが起きたとなれば尚更だ。先生達も対応に追われて大変そう。

 

 

 

「セツナも気をつけてね? アンタがいなくなったら、選抜試験の楽しみが減るから」

 

「えっ、心配する理由それ?」

 

 

 

 ……結局、今日は授業どころではなくなってしまった様で、セキュリティの調査が終了した午前中までで終業して、全校生徒は(すみ)やかに下校させられる仕儀(し ぎ)となった。昼食の献立、カレーだったのに……(涙)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……お腹すいた……」

 

 

 

 いつもよりだいぶ早い放課後を迎え、ボクは一人でトボトボと家路を歩いていた。時刻は昼。朝食を軽めにしか摂ってきてなかったせいもあって、さっきから胃がずっと、空腹を訴え続けている。

 外食でもしようかと考えたけど、先生には寄り道しないで真っ直ぐ帰れって言われたしなぁ。大好物のカレーが食べれなかったのもショックだったけど、何より午後に控えていた、実技の授業が潰れたのが残念でならない。

 

 

 

「あぁもう、不完全燃焼だよ。身体が疼いてしょうがない」

 

 

 

 決闘(デュエル)がしたい。一日に最低1回は決闘(デュエル)しないと満足できなくなるぐらいに、ボクも決闘中毒(デュエルジャンキー)になってきている。この街の空気に当てられたんだろう。

 

 

 

(こうなったら……ゲームで満足するしかない!!)

 

 

 

 そうと決まれば。携帯ゲーム機を取り出して、早速スイッチ・ON!

 プレイするのは、最近ハマっている決闘(デュエル)シミュレーションゲームで、巷では『カードゲームもできるギャルゲー』と評判(?)の人気作だ。個性豊かなキャラクター達の中から好きな子を選択して、それぞれ個別に用意されたストーリーを、決闘(デュエル)で進めていく。

 ちなみに今ボクが攻略しているのは、マキちゃんと同じピンク髪のツンデレっ子で、これが最高にかわい……コホン、なんでもない。

 

 

 

「いてっ。あ、ごめ……ん……?」

 

 

 

 しまった、ゲームの画面を見てたら前方不注意で誰かにぶつかった。謝ろうとして顔を上げると……目の前に、全身黒ずくめの衣服を纏った長身の男が立っていた。

 

 怪しい!!!!!!

 

 こんな真夏日にロングコートて!! 見てるこっちが暑くなる様な出で立ちも異常だけど、さらに不気味なのは、目深く被った黒いハットの下の顔面が、包帯でミイラみたいにグルグル巻きにされていた事だった。

 

 

 

『……こいつも決闘者(デュエリスト)か……ちょうどいい……』

 

「えっ……?」

 

 

 

 ミイラ男が何か言った……と思った次の瞬間---

 

 

 

『貴様の魂も、私が復活する為の糧としてやろう』

 

「!?」

 

 

 

 男がいきなり突き出した左腕が、ボクの身体を貫いた。

 

 

 

「がっ……!?」

 

 

 

 ゲーム機が手元から地面に落ちる。何が起きたのか理解が追いつかない。ただ感じるのは、身を焦がす程の激痛と耐え難い苦しみ。それに、何かを削り(・ ・ ・ ・ ・)取られる様な(・ ・ ・ ・ ・ ・)、得体の知れない感覚。

 このままじゃマズイ……! ボクは苦痛に悶えながらも必死に抵抗しようとして---

 

 

 

「ようやく尻尾を見せたな、悪霊!!」

 

『!』

 

 

 

 薄れかけた意識の片隅で聴こえた、凛とした女性の声。途端、ミイラ男の巨体が誰かに蹴り飛ばされて、ボクは気を失う寸前で、男の腕から解放された。

 

 

 

「ガハッ! はっ、ハァ……ハァ……!」

 

 

 

 その場に這いつくばって、肩で息をする。本気で死を覚悟したけど、どうにかまだ……生きてるみたいだ。

 

 

 

「大丈夫か? ボウズ。危ないところだったな」

 

 

 

 声をかけてくれたのは、刈り上げヘアーのイケメンな男性だった。よかった、助けが来てくれた。

 

 

 

「行くぞ、ゴウ。奴を回収する」

 

「あぁ、油断するなよ、里香(リ カ)

 

『……貴様ら……精霊回収者か……まぁいい。すでに半分は(・ ・ ・)吸収した。そこの餓鬼(ガ キ)はもう助からん』

 

 

 

 ……? なにを……言って……

 

 

 

「お前を回収して取り返せば済む話だ!」

 

『無駄だ女。まもなく私は完全復活を遂げる。そうなれば貴様らごときでは……私は止められん!』

 

 

 

 突如ミイラ男の周囲に、バチバチと電流が迸った。

 

 

 

「っ! また逃げる気か!? 待て!!」

 

 

 

 黒髪の女性が声を荒げて、ミイラ男を捕らえようと駆け出す。ところが男は強い光に包まれたかと思うと、一瞬にして姿を消してしまった。ひとりでに発光したり放電したり、最後はテレポートと来たか。ビックリ人間ショーでも観せられてる気分だ。

 

 

 

「……くそっ……! 瞬間移動なんてチート過ぎるだろう……!」

 

 

 

 悔しげに呟く女性。ボクは立て続けに突発した異常事態に頭が混乱するばかりだった。

 

 

 

(あっ、だめだ……意識……が……)

 

「! お、おいボウズ! しっかりしろ!」

 

 

 

 ミイラ男が消えた事で緊張の糸が切れたんだろうか。視界が霞んで、暗転して、そこでボクの意識は途絶えた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………目を覚ますと、見慣れない天井が視界一面に広がっていた。ボクの家じゃない。どうやらボクは、床に仰向けで寝かされていたようだ。なんだか(ぬく)いと思ったら、親切に毛布まで掛けられていた。

 誰が運んでくれたんだろう? あれから一体どうなった? あのミイラ男は何者だったんだ? 徐々に冴えてきた思考がぐるぐる渦巻くけれど、とりあえず月並みな台詞(セリフ)をひとつ。

 

 

 

「ここは……?」

 

「ここは私達が寝泊まりしている廃ビルだよ」

 

「!!」

 

 

 

 まさか返答が来るなんて思いもしなかったから、ビックリした。首を横に倒すと、あの時ミイラ男に蹴りを入れてくれた黒髪の女性が、仁王立ちしてボクを見下ろしていた。って、その位置に立たれると、スカートの中が見え……

 

 

 

(……なんだ、スパッツか)

 

「何を期待したのか知らないが、踏みつけられる前に起き上がる事をオススメするぞ?」

 

「ワカリマシタ!!」

 

 

 

 女性の笑顔に影が掛かったので、急いで上体を跳ね起こ……そうとしたら、手首に違和感を覚えた。思うように動かせない。

 毛布に隠れて見えなかったけど、何故か両手が荒縄で縛られて、ガッチリと拘束されていた。

 

 

 

「……これは一体なんのプレイ?」

 

「手荒なマネをしてすまない。だが君に逃げられたりすると、困る事情が出来てしまってな。やむを得ず、縛らせてもらった」

 

「事情って?」

 

「あぁ」

 

「おうボウズ、やっと起きたか」

 

 

 

 女性と一緒にいた、刈り上げのお兄さんもやって来た。この二人がボクを懐抱してくれたのか。

 

 それにしても、目を見張る程の美男美女コンビだ。お兄さんは爽やか好青年って感じだし、女性の方は身長が高い上にスタイル抜群で、大人びた雰囲気が何とも麗しい。肩まで伸ばした(ぬれ)()(いろ)の黒髪を左手で(なび)かせながら、女性は口を開いた。

 

 

 

「さて少年。目を覚ましたばかりで悪いが……今から君にとっては、突拍子もない話をさせてもらう。信じてくれと言っても難しいだろうが、これから話すことは全て事実だ。心して聞いてくれ」

 

「なんか怖いけど……うん、聞くよ」

 

 

 

 聞かなきゃ縄を(ほど)いてくれなさそうだし。ボクはどうにか上半身だけ起こして、彼女の話に耳を傾けた。

 

 

 

「結論を先に言わせてもらえば、少年……このままでは君は、間もなく死ぬ」

 

「いきなり死の宣告!?」

 

 

 

 どんな衝撃の真実を告げられても良いように身構えていたけど、第一声から予想の斜め上をゆく発言が飛び出してきて、見事に度肝を抜かれてしまった。女性は続ける。

 

 

 

「驚くのも無理はないさ」

 

「えーっと……なんでボクは死んじゃうんでしょーか?」

 

「うむ、それを説明する為にも、まずは『カードの精霊』について教えておく必要があるな」

 

「カードの精霊?」

 

「君も名前くらいは聞いたことがあるだろう?」

 

「そりゃあ、まぁ……決闘者(デュエリスト)なら誰でも知ってるんじゃないかな。見たことはないけど」

 

「信じ難いだろうが、カードの精霊は実在する」

 

「えっ! ほんとに!?」

 

「あぁ、そして君を襲った黒ずくめの男……アレもカードの精霊だ」

 

「あのミイラ男が……精霊……? じゃ、じゃあ! アレはモンスターってこと!?」

 

「その通りだ。残念ながら私達も、何のモンスターカードの精霊なのか……正体までは掴めてないがな」

 

 

 

 人間じゃなく精霊……それが本当だとしたら、あの光やら電流やら、魔法みたいな現象を起こせたのも頷ける。あまりに非現実的な話だけど、実際に目の当たりにしてしまった以上、信じるしかないのかも知れない。

 

 

 

(……ん? でも、ちょっと待って……)

 

「どうしてそのカードの精霊が、ボクを攻撃してきたの?」

 

「それはな、お前の魂を吸収して、本来の力を取り戻す為だよ」

 

 

 

 と、お兄さんが答えてくれた。

 

 魂? そう言えばあのミイラ男も、そんな様な事を言ってた気がする……糧にするとか復活がどうとか。

 

 

 

「感謝しろよボウズ。俺達が助けてなかったら、今頃お前も奴の一部にされていたところだ」

 

「げえっ……!」

 

 

 

 それは嫌すぎる。

 

 ボクが顔をひきつらせていると、女性が補足説明をしてくれた。

 

 

 

「ゴウが言った通り、奴の目的は人間の魂を狩り集め、自らの精神体を復活させること。特に決闘者(デュエリスト)が持つ『デュエルエナジー』は、最良のエネルギー源になるからな。今この街で起きている、連続失踪事件も奴の仕業だ」

 

「!!」

 

 

 

 もしやとは思ってたけど……事件の話を聞かされて、気をつけてねって言われた矢先に(くだん)の犯人とニアミスとか、こんなタイムリーな事ってある!?

 

 

 

「そして君も実は……奴に襲われた時、魂を半分ほど喰われてしまったんだ」

 

「なっ……!?」

 

「まだ肉体は(かろ)うじて維持できているが、いつまで()つか……このまま放っておけば、君の身体は直に消滅してしまう。だから私達が保護したんだ」

 

「…………そういう……こと……」

 

 

 

 ミイラ男に身体を貫かれた時の、あの奇妙な感覚は……ボクの魂を削って、取り込んでいたのか。

 

 

 

「だが安心してくれ少年。助かる方法が一つだけある」

 

「本当?」

 

「あの精霊が完全に復活する前に、決闘(デュエル)で奴を倒す。そうすれば奴に吸収された魂は全て解放され、消えてしまった人々も救い出せる。無論、君の奪われた魂もな」

 

決闘(デュエル)で……へぇ、カードの精霊も決闘(デュエル)するんだね?」

 

「当然だ。何たって、デュエルモンスターズの精霊だからな」

 

 

 

 カードのモンスターそのものと決闘(デュエル)か……それは是非(ぜ ひ)とも一戦(まじ)えてみたいかも、とか思っちゃったり。

 

 

 

「ところで決闘(デュエル)するのは良いとして……あの精霊、瞬間移動で何処(ど こ)かに消えちゃったじゃん。どうやって見つけ出すの?」

 

「任せておけ。その為に私達(・ ・)がいる」

 

 

 

 そう言うと女性は、1枚のカードを取り出して真上に掲げた。すると---

 

 

 

「来い! 【オッドアイズ・ドラゴン】!!」

 

「!?」

 

 

 

 二色(ふたいろ)(まなこ)を持つ赤い龍が、女性の背後に出現した。どう見てもデュエルディスクを使っていないのに、カードのモンスターが実体化するなんて……!

 

 

 

「私達は『精霊回収者』。精霊を使役し、精霊を解放する能力を持った者達だ」

 

「…………」

 

「……少年?」

 

「はっ!? ご、ごめん! 驚きのあまり時が止まってた!」

 

 

 

 初めて見るドラゴンの威容と迫力に魅了されて、放心状態になってしまった。

 目を凝らしてみる。幻覚じゃない……確かにモンスターが実体を伴って、自分の意思で動いている……! もはや感激すら覚える光景だ。両手が自由だったら端末のカメラ機能で写真を撮りたかった。

 

 

 

「良かったのか里香。正体をバラしちまって」

 

「こうなってしまっては、隠し通せるものでもないさ。そもそも別に隠してるわけでもないしな。全ては少年を助ける為だ」

 

「まっ、それもそうか」

 

「と、言うわけだ少年よ。君の魂を取り返す為に、そして、あの精霊を回収して事件を解決する為に、私達に協力してほしい」

 

「……分かったよ。ボクもまだ死にたくないからね」

 

 

 

 お互いの利害は一致している。手を組む理由としては充分だ。何より、こんな美人に頼まれたら断れない。ボクの命も懸かってるみたいだし。

 

 

 

「私は里香(リ カ)(ゆう)() 里香(リ カ)だ。よろしくな、少年」

 

「覚えた、里香ちゃん」

 

「おぉ、初対面の異性に下の名前で呼ばれたのは初めてだ。しかも『ちゃん』付けで」

 

「ははっ、見た目通りチャラいな、ボウズ」

 

「ボウズじゃないよ、ボクは総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)。セツナって呼んでくれて良いよ」

 

「セツナか、良い名前だな。俺は土方(ひじかた) (ゴウ)だ。俺の事も遠慮なく、ゴウと呼んでくれ」

 

「ゴウさんね、分かった」

 

 

 

 それぞれの自己紹介が済んだところで、ボクは未だ縄で縛られている両手首を軽く上げた。

 

 

 

「ねぇ、そろそろコレ外してくれない? (あと)が付いちゃうよ」

 

「おう悪い悪い。ジッとしてろよ」

 

 

 

 ゴウさんの投げたカードが手裏剣の様に飛んできて、縄をスパッと切り裂くと、そのまま壁に突き刺さった。

 切られた縄が(ほど)けて床に落ちる。ようやく拘束から解放された手首を優しく(さす)る。(さいわ)い痕はついていなかった。

 

 

 

「ん、ありがとう」

 

「……セツナ、君からは強者のにおいがする。腕の立つ決闘者(デュエリスト)が味方についてくれると、私達も心強い。協力を快諾してくれて感謝するよ」

 

「あははっ、そんな風に言ってもらえるなんて嬉しいな。ボクに出来る事があれば何でも言って。力になるよ」

 

 

 

 ボクは里香ちゃんと固い握手を交わす。()くして、全ての元凶であるミイラ男を捕らえるべく、ボクと、里香ちゃんと、ゴウさんの三人による、ちょっとの間の共同戦線が結成された。

 

 

 

 





 次回、後編では、あのキャラをお借りする予定です( ・∀・)フフフフ


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TURN - 17 SPIRIT SUMMONER - 2


 コラボ回・後編です!



 

「ねぇ()()ちゃん、本当にこんなところに居るの?」

 

 

 

 大都市ジャルダンの一番街。都会の喧騒から離れた場所に佇む、寂れた廃工場を見上げながら、ボクは黒髪の女性に確認する様に問いかけた。

 横に立って並んだ時に気づいたんだけど、この人、男のボクより背が高いんだよね。ちょっと悔しい。

 

 

 

「あぁ間違いない。この場所に精霊の気配を確かに感じる」

 

「俺達が街に放った精霊が、ここに奴が潜伏しているのを見つけ出してくれたからな。ようやく追い詰めたぜ」

 

 

 

 刈り上げた短髪が精悍な印象を与える、ナイスガイのゴウさんが、(てのひら)に拳を打ち付け、そう言った。

 

 

 

「……すごいや。精霊回収者って、そんなことも出来るんだね」

 

 

 

 里香ちゃんとゴウさんは『精霊回収者』と呼ばれる人達で、デュエルモンスターズの精霊と、心を通わせる事が出来るらしい。その能力を駆使して精霊達に協力を仰ぎ、ボクらが追っているミイラ男……即ち、連続失踪事件の犯人の居どころを、突き止めたというわけだ。

 

 

 

「よし……行こう、二人とも。ここから先は何が起きるか分からない。用心してくれ」

 

「おう」

 

「うん」

 

「……セツナ、君をこんな危険に巻き込んでしまって、すまないと思ってる。あの時、もう少し早く駆けつける事が出来たなら……!」

 

 

 

 あの時……ボクがミイラ男、もとい『カードの精霊』に襲われて、魂の半分を吸収されてしまった時の事を言ってるんだろう。里香ちゃんはそれに責任を感じているのか、握り締めた拳を震わせていた。

 

 ボクは微笑んで、そんな彼女の背中を優しく叩く。

 

 

 

「ここに来てそんな水くさいこと言わないでよ里香ちゃん。言ったでしょ? 力になるって」

 

「セツナ……」

 

「それに……あのミイラ男を放っておくと、次はボクの大切な友達まで狙われるかも知れない。それだけは絶対に嫌なんだ」

 

「どうやら、腹は決まったみたいだな」

 

 

 

 ゴウさんの言葉にボクは頷き、ホワイトタイプのデュエルディスクを左腕に装着する。これで戦う準備は整った。

 

 

 

「つーわけだ、里香よ。お前が変に気負う必要はねぇ。本人は見ての通り、やる気満々だぜ?」

 

「……そうか。ありがとう、セツナ。君の力、借り受ける!」

 

 

 

 意を決してボク達3人は、工場の内部へと足を踏み入れた。

 

 

 

 ……打ち捨てられてから、どれだけの年月が経ったのだろう。街の開発から取り残された廃工場は、いつ倒壊してもおかしくない程に老朽化していた。

 寂寥感(せきりょうかん)の漂う工場内を探索していくと、やがて一際(ひときわ)広い空間に行き着いた。どうやらここが最奥の様だ。でも、ミイラ男の姿は見当たらない。

 

 

 

「何も……ない?」

 

「いや、気配はこの場所からは消えていな……」

 

『フフフフ……! ネズミがノコノコと(おび)き出されたか』

 

「「「!!」」」

 

 

 

 どこからか響いた、男の不気味な声。聞き間違える筈もない……あいつだ!

 

 

 

『しかも喰いかけ(・ ・ ・ ・)()()までついてくるとはな。なんと都合の良い!』

 

「ッ……! それって、ボクのこと?」

 

「どこだ!! コソコソと隠れてないで出てこい!!」

 

 

 

 里香ちゃんが声を張る。すると何の前触れも無く、虚空に電流が発生して周囲に火花を散らした。そして、その激しい雷電の中から、黒い外套(がいとう)を着込み、顔に包帯を巻いた大男が出現した。

 

 

 

「出やがった……!」

 

『フフフッ、待っていたぞ、忌まわしき精霊回収者ども』

 

「待っていた? どういう意味だ!」

 

「こういう意味よ、里香」

 

「!?」

 

 

 

 錆び付いた鉄骨階段を、ヒールの足音を鳴らしながら一段ずつ降りてきたのは、髪と瞳が緑色で、里香ちゃんに負けず劣らずの美貌を誇る少女だった。

 

 

 

「なっ……! お前は……西(にし)() ()()!!」

 

「ハァ~イ。お久しぶりね、マイスイートエンジェル」

 

「その気色悪い呼び方はやめろ、何故ここに?」

 

「何故? 決まっているでしょう? 全ては貴女(アナタ)を手に入れる為よ。私は貴女を、私自慢の美少女コレクションに加える為なら手段を選ばない」

 

「美少女コレクション?」

 

「セツナは気にしなくていい」

 

「私はどうしたら貴女を私のモノに出来るのか、ずっと考えていた……そしたらこの精霊が『契約』してくれたわ。決闘者(デュエリスト)の魂を生け贄に捧げれば、彼が復活した暁には、私の望みを叶えてくれるって」

 

「-! なん……だと……」

 

「この街は良いわね、どこもかしこも決闘者(デュエリスト)がウヨウヨしてる。生け贄を集めるのは簡単だったわ。そして精霊あるところには、精霊回収者あり。騒ぎを起こせば里香なら必ず、私に逢いに来てくれると踏んだ」

 

「俺達はまんまと誘い込まれたってわけか……!」

 

「バカな事を……『悪霊』と契約するなど……それがどれほど危険な事か、分かっているのか!?」

 

「悪霊?」

 

「そういやセツナには説明してなかったな。奴の様に、人間や他の精霊に危害を加える精霊を、俺達は『悪霊』って呼んでるのさ」

 

 

 

 悪い精霊だから悪霊か、なるほど。

 

 

 

「あら、悪霊もなかなか役に立つものよ? こんな極上の獲物が手に入ったんだから」

 

 

 

 西野 万里と呼ばれた少女が指をパチンと鳴らした。すると──

 

 

 

「!?」

 

 

 

 天井から、鎖で拘束された女の子が何人も吊るされてきた。みんな意識を失っているのか反応が無い。着ている服は、デュエルアカデミア・ジャルダン校の制服だった。という事は……

 

 

 

「失踪事件の被害に遭った学園の生徒って、あの子達のことだったんだ……!」

 

「ウフフ、ジャルダンのデュエルアカデミアは美少女の宝庫だと聞いてたけど本当ね。よりどりみどりだわ~」

 

「このガチレズが」

 

「そんな顔しないで里香、すぐに貴女も仲間に入れてあげるわ。さぁ悪霊よ! 奴らを蹴散らしなさい!!」

 

『私に命令するな人間。言われるまでもない』

 

 

 

 ミイラ男がコートを脱ぎ捨て、包帯を取り去り、ついに正体を現した。

 

 

 

「!」

 

 

 

 その姿には見覚えがあった。スキンヘッドでスコープにガスマスク。このモンスターは、まさか……!

 

 

 

「サイコ・ショッカー!?」

 

『フフフッ、いかにも。私の名は……【人造(じんぞう)人間(にんげん)-サイコ・ショッカー】!!』

 

 

 

 決闘者(デュエリスト)なら誰もが知っているだろう、(トラップ)カードを完封する上級モンスターだ。

 

 

 

「よりにもよって、こんな厄介なモンスターが相手とはな……!」

 

『さぁ決闘(デュエル)だ! 一人残らず魂を喰らい尽くしてやる!』

 

「ッ……ここは私が行く!」

 

「ちょっと待って!」

 

 

 

 先んじてデュエルディスクを構えた里香ちゃんを止め、ボクは彼女の隣に立つ。

 

 

 

「サイコ・ショッカー。この決闘(デュエル)、こっちはボクと里香ちゃんの二人(タッグ)でやらせてもらうよ」

 

『なに?』

 

「ライフポイントは二人合わせて4000。フィールドも共有する。これなら文句ないでしょう?」

 

『……良いだろう。二人まとめて、我が復活の糧にしてくれる!』

 

「セツナ……」

 

「サポートは任せて、里香ちゃん」

 

「あぁ! 私達の力で、奴を粉砕する!」

 

 

 

「「『 決闘(デュエル)!! 』」」

 

 

 

 セツナ × ()() LP(ライフポイント) 4000

 

 サイコ・ショッカー LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

『私の先攻!』

 

 

 

 サイコ・ショッカーの前面に、5枚のカードが立体映像(ソリッドビジョン)の様にして具現化された。デュエルディスクを使っていないところを見るに、アレが彼の手札みたいだ。これがカードの精霊の決闘(デュエル)スタイルなのかな。

 

 

 

『私は【人造人間7号】を召喚!』

 

 

 

【人造人間7号】 攻撃力 500

 

 

 

『カードを3枚伏せ、ターンを終了する!』

 

 

 

 ターンがボクに移る。

 

 

 

「ボクのターン、ドロー!」

 

「セツナ、これはカードの精霊と魂を賭けた、いわば『闇のゲーム』だ。気を抜くなよ」

 

「分かってるよ、ゴウさん」

 

 

 

 この決闘(デュエル)には、ボク自身の命だけじゃなく、サイコ・ショッカーの後ろで捕らわれている女の子達と、これまでに魂を奪われ消えた、街の人々の命運も懸かっている。

 こんなの、ボクのキャラじゃないんだけどな……

 

 

 

(でも……なんでだろ。こんな時にボクは……)

 

「……なぁ、セツナ。私の勘違いだったら非常に申し訳ないが……もしかして、この状況を楽しんでないか?」

 

「あっ、バレた?」

 

「やっぱりか……顔がニヤけてたからな」

 

 

 

 あちゃー、()()に出てたか恥ずかしい。今度ポーカーフェイスの練習でもしとこ。

 

 

 

「……そりゃあ別に余裕こいてるわけじゃないよ、でも……ずっと伝説上の生き物だと思ってた『カードの精霊』を生で見れて、しかも決闘(デュエル)まで出来るって、凄い()()な体験だと思ってさ。……こんな時だってのに……ワクワクしてるんだ……!」

 

「セツナ……」

 

「ははっ、おもしれぇ奴だ。チャラい()()して、なかなか肝が据わってるじゃねぇか。なぁ里香?」

 

「……フッ、そうだな。それでこそ頼り甲斐がある」

 

 

 

 ボクは赤メガネを外して集中モードに突入する。絶対に負けるわけには行かないからね、最初から全力全開だ!

 

 

 

「さぁ行くよ! ボクは手札から魔法(マジック)カード・【予想GUY(ガイ)】を発動! 自分フィールドにモンスターがいない時、デッキからレベル4以下の通常モンスターを特殊召喚できる! ボクが召喚するのは、【デビル・ドラゴン】!」

 

 

 

【デビル・ドラゴン】 攻撃力 1500

 

 

 

「そして【ミンゲイドラゴン】を通常召喚!」

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 200

 

 

 

『2体のモンスターを揃えたか……』

 

「これで終わりじゃないよ。魔法(マジック)カード発動! 【ドラゴニック・タクティクス】!」

 

『!』

 

「フィールドの2体のドラゴンをリリースして、現れろ! 【ラビードラゴン】!!」

 

 

 

 白い体毛と長い耳を持つ巨大なドラゴンがフィールドに飛来した。

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

『ほう?』

 

「凄い……これがセツナのエースモンスターか……!」

 

「こんな序盤から呼び出せるとは、里香の見立て通り、ただ者じゃねぇぜ」

 

「てへへ」

 

 

 

 里香ちゃんとゴウさんの感嘆の言葉を受けて、ボクはつい頬が緩むのを感じた。いかんいかん気を引き締めなくては。メガネ外した意味がない。

 

 

 

「行くよ! 【ラビードラゴン】の攻撃! 『ホワイト・ラピッド・ストリーム』!!」

 

 

 

 ラビードラゴンが口から放った光線が敵モンスターに迫る。

 

 ──その時、サイコ・ショッカーが動いた。

 

 

 

『【人造人間7号】をリリースし、【死のデッキ破壊ウイルス】を発動!』

 

「なっ!?」

 

『相手フィールドと手札にある、攻撃力1500以上のモンスターを全て破壊する!』

 

 

 

 ラビードラゴンの身体がウイルスに侵食されていき、最後は粉々に破壊されてしまった……!

 

 

 

「ラビードラゴン!?」

 

『フフフッ、せっかく召喚したのに残念だったな。さぁ、手札を確認させてもらおうか』

 

「くっ……」

 

 

 

 やむを得ず、手札を公開する。

 

 今のボクの手札は、【トレード・イン】、【ガード・ブロック】、【ラヴァ・ドラゴン】の3枚。

 

 

 

『フフッ、【ラヴァ・ドラゴン】は攻撃力1600。墓地に捨ててもらおう』

 

「ッ……」

 

『【死のデッキ破壊ウイルス】の効果により、貴様はデッキから攻撃力1500以上のモンスターを、3枚まで破壊できる。どうする?』

 

「…………」

 

 

 

 墓地にモンスターを送っておけば、回収する手はいくらでもある。ここは……

 

 

 

「ボクはこの3枚を墓地に送るよ」

 

 

 

 デッキの中から【暗黒の竜王(ドラゴン)】、【エレメント・ドラゴン】、【竜の尖兵】を破壊し、墓地へと送った。

 

 

 

「……カードを1枚セットして、ボクはターン終了(エンド)

 

 

 

 言わずもがな、この伏せカードは(トラップ)カード・【ガード・ブロック】だ。サイコ・ショッカーにもバレバレだろうけど、場に出しておいて損は無い……はず。

 

 お次は里香ちゃんのターン。

 

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

「里香ちゃん! ボクのカード、遠慮なく使って!」

 

「ありがたく使わせてもらう! 墓地の【ミンゲイドラゴン】の効果! 私達の場にモンスターがいない事で、スタンバイフェイズに墓地から特殊召喚できる!」

 

 

 

 ボクのディスクの墓地(セメタリー)ゾーンから戻ってきた【ミンゲイドラゴン】のカードを取り出して、里香ちゃんに投げ渡す。

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 200

 

 

 

「そして【ミンゲイドラゴン】は、ドラゴン族をアドバンス召喚する場合、2体分のリリース要員として扱える。【ミンゲイドラゴン】をリリース!」

 

 

 

 【ミンゲイドラゴン】が光の渦に飲み込まれる。来るか、里香ちゃんのエースモンスター!

 

 

 

「現れろ! 雄々しくも美しく輝く二色(ふたいろ)(まなこ)! 【オッドアイズ・ドラゴン】!!」

 

 

 

 右の眼には赤、左の眼には(みどり)という、異なる虹彩(こうさい)の色を秘めた美しいドラゴンが地上へ降り立ち、コンクリートで囲まれた空間に、咆哮を轟かせた。

 

 

 

【オッドアイズ・ドラゴン】 攻撃力 2500

 

 

 

『精霊……!』

 

「そうだ! このドラゴンこそ私の精霊! かけがえのない、家族だ!」

 

 

 

 デュエルモンスターズが家族かぁ。確かに【オッドアイズ】と里香ちゃんの間には、固く結ばれた強い『絆』を感じる。

 

 

 

「バトル! 【オッドアイズ】でサイコ・ショッカーに直接攻撃(ダイレクトアタック)! 『スパイラルフレイム』!!」

 

(トラップ)発動! 【魔法の筒(マジック・シリンダー)】!』

 

「!?」

 

 

 

 二つの筒が空中に出現し、その内の一つ、こちらから見て左側の筒に、【オッドアイズ】の放った()(せん)状の火炎放射が吸い込まれていき、右側の筒から里香ちゃんを狙ってそれが発射された。

 

 

 

『【オッドアイズ】の攻撃を無効にし、その攻撃力分のダメージを貴様に与える!』

 

「里香ちゃん危ない!!」

 

「っ……! 手札から速攻魔法・【(ぼう)(ぎょ)(りん)】を発動!」

 

 

 

 4枚の板が付いた鉄製のリングが里香ちゃんの前で回転を始め、反射された炎を受け止めて里香ちゃんを守ってくれた。

 

 

 

「ふう……なんとか(しの)いだか。私のターンは終了だ!」

 

『私のターン!』

 

 

 

「……なかなかやるじゃねぇか、あの悪霊……里香とセツナの二人がかりをものともしてねぇ」

 

「フフン、当然よ。より精霊力の強い悪霊を選んで呼び覚ましたんですもの」

 

 

 

『ドロー! ……フフフフッ! ついに我が復活の時が来たようだな!!』

 

「!」

 

「まさか……!」

 

『私は【人造人間-サイコ・ジャッカー】を召喚!』

 

 

 

【人造人間-サイコ・ジャッカー】 攻撃力 800

 

 

 

『そして効果発動! このモンスターをリリースする事で、デッキから【人造人間】と名のつくモンスターを1枚、手札に加える事が出来る! 私は【サイコ・ショッカー】を手札に!』

 

「アレは、サイコ・ショッカー自身のカード!?」

 

「セツナ、気をつけろ……!」

 

『【サイコ・ジャッカー】の効果はまだある。相手の場に伏せられている魔法(マジック)(トラップ)カードを全て確認する!』

 

「なっ!?」

 

 

 

 ボクが前のターンにセットしておいた、1枚の伏せ(リバース)カードが開示されてしまった。

 

 

 

『フフフッ、やはり【ガード・ブロック】を伏せていたか。それこそ私の狙い通り!』

 

「っ! どういうこと……?」

 

『この効果で確認したカードの中に(トラップ)カードが在る場合、その数だけ手札の【人造人間】を特殊召喚できる!』

 

「「!!」」

 

 

 

 しまった、よかれと思って(トラップ)カードを伏せておいたのが裏目に出た……!

 【サイコ・ショッカー】のカードが表になった途端、そのカードから再び電流が発生して辺り一面に放電する。眩しくてまともに目が開けられない。

 

 

 

『出でよ! 【人造人間-サイコ・ショッカー】!!』

 

 

 

 今までプレイヤーとして立っていたサイコ・ショッカーが、今度はフィールドに……モンスターカードゾーンに姿を現していた。

 

 

 

【人造人間-サイコ・ショッカー】 攻撃力 2400

 

 

 

『フフフフフ……』

 

「ついに【サイコ・ショッカー】が……復活した……!?」

 

「いや……まだ私達の魂は吸収されていない。つまり完全な復活ではない」

 

『その通り! 貴様らの魂を取り込む事で、私の復活は完了する! 効果発動、トラップ・サーチ!!』

 

 

 

 サイコ・ショッカーの目元に付いているスコープから赤いレーザーが射出され、セット状態に戻っていた【ガード・ブロック】のカードに命中した。すると【ガード・ブロック】は発動できなくなってしまう。

 

 

 

『残念だったな。この私、【サイコ・ショッカー】が場にいる限り、全ての(トラップ)カードは無力と化す!』

 

「くっ……だがそれはお前も同じ事だ! それに、私の【オッドアイズ】の方が攻撃力は高い!」

 

『それはどうかな? 私は手札から【電脳増幅器】を、私自身に装備!』

 

 

 

 ヘルメットみたいな形状の機械がサイコ・ショッカーの頭部に装着された。

 

 

 

『これにより、私は【サイコ・ショッカー】の効果に影響されず、(トラップ)カードを発動できる!』

 

 

 

 ボクらだけが(トラップ)を封じられたってわけか。それズルじゃん!

 

 

 

(トラップ)発動、【エナジー・ドレイン】! 自分のモンスター1体の攻撃力・守備力を、相手の手札の枚数 × 200ポイントアップさせる!』

 

 

 

 里香ちゃんの手札は4枚。って事は、800ポイントアップか。

 

 

 

『おおおオオオオッ……! 我が力の増幅を感じるゥゥッ……!!』

 

 

 

【人造人間-サイコ・ショッカー】 攻撃力 2400 + 800 = 3200 守備力 1500 + 800 = 2300

 

 

 

「攻撃力が【オッドアイズ】を越えてきたか……!」

 

『バトルだ! 私自身で【オッドアイズ・ドラゴン】を攻撃! 電脳(サイバー)エナジー・ショック!!』

 

 

 

 サイコ・ショッカーの掌から撃ち出された球状のエネルギー弾が、【オッドアイズ】をいとも容易く粉砕した。

 

 

 

「【オッドアイズ】!! うあっ!」

 

「うぅ……!」

 

 

 

 凄まじい衝撃波……! サイコ・ショッカーが発動した【死のデッキ破壊ウイルス】の効果で、このターンはボク達にダメージは無いけれど、それでもここまでの威力だなんて、これ直撃したらヤバいんじゃない……!?

 

 

 

『ターン終了! エンドフェイズに私の攻守(ステータス)は元に戻る』

 

 

 

【人造人間-サイコ・ショッカー】 攻撃力 3200 → 2400 守備力 2300 → 1500

 

 

 

「っ……ボクのターン、ドロー!」

 

 

 

 【サイコ・ショッカー】……

 

 ひとたび召喚に成功すれば、それだけで場を制圧できる程の力を持つ凶悪なモンスター。ボクが過去に決闘(デュエル)した相手の中にも何人か使い手がいて、何度か(たたか)った事はあるけれど……毎回その厄介な効果と高い攻撃力には苦戦させられてきたっけな。

 

 なんて、懐かしんでる場合じゃないや。現状あのモンスターを退()かせられるカードは、ボクの手札に無い。となると……

 

 

 

「ボクは……1枚カードを伏せて、ターンエンド!」

 

『フッ、モンスターも呼べないとはな』

 

「ごめん、里香ちゃん」

 

「気にするなセツナ、私に任せろ! 私のターン!」

 

(……よし、これなら!)

 

魔法(マジック)カード・【左腕の代償】! 手札を全て除外し、デッキから魔法(マジック)カード1枚を手札に加える! 私が手札に加えるのは……【魔法効果の矢】!」

 

『なに!? そのカードは!?』

 

「発動!」

 

 

 

 魔力を込めた矢がサイコ・ショッカーに装備されている【電脳増幅器】に突き刺さり、破砕した。

 

 

 

『ぐっ、ぐああああああっ!!!?』

 

「この効果で魔法(マジック)カードは破壊され、お前は500ポイントのダメージを受ける!」

 

「しめた! 【電脳増幅器】がフィールドを離れれば、装備モンスター(サイコ・ショッカー)も破壊される!」

 

 

 

 サイコ・ショッカーは断末魔の叫び声を上げながら、瞬く間に消滅した。

 

 

 

「やったか?」

 

「里香ちゃん、それフラグ」

 

 

 

『まだだぁ……! 私は(よみがえ)る……邪魔などさせないぃ……!!』

 

「きゃあ!? な、なによこれ! 何をするのサイコ・ショッカー!?」

 

「西野!?」

 

 

 

 サイコ・ショッカーの声が聴こえたと思ったら、後ろで観戦していた緑髪の少女に異変が起きた。彼女の身体を霊魂の様なものが取り巻いていたんだ。

 

 

 

「あの悪霊まさか、あの女に取り憑いて……!?」

 

 

 

 ゴウさんが言った。精霊って人間に憑依できるの!?

 

 少女──万理ちゃんで良いかな──万理ちゃんは、為す術もなくサイコ・ショッカーに精神を乗っ取られて、一度ガクンと項垂(うなだ)れた後に顔を上げると、その両目は真っ赤に染まっていた。だんだん展開がホラー映画じみてきたのはボクの気のせい?

 

 

 

「フッ……フフフフ……さぁ、決闘(デュエル)を続けるぞ!」

 

 

 

 西野(サイコ・ショッカー) LP 4000 → 3500

 

 

 

「……完全に悪霊に憑かれたか……西野のバカ。だから言ったんだ」

 

「里香ちゃん、アレって何とか出来ないの?」

 

「恐らく……悪霊の復活が不完全な今なら、まだ救い出せる可能性はある」

 

「つまり、この決闘(デュエル)で勝てばいいと」

 

「そういうこと。感謝しろよ西野、ひとつ貸しだ!」

 

 

 

 まさか事件の主犯格まで助ける事になるとは。

 

 

 

「私のターン、ドロー! 【命削りの宝札】を発動! さらに3枚ドローする!」

 

(……フフフッ)

 

「私はカードを3枚伏せてターンエンドだ!」

 

 

 

 また3枚の伏せカードか。ようやく反撃の好機(チャンス)が巡ってきたっていうのに。

 

 

 

「ボクのターン! ……よし! 【フェアリー・ドラゴン】召喚!」

 

 

 

【フェアリー・ドラゴン】 攻撃力 1100

 

 

 

「伏せカードは怖いけど、ここは攻める! 【フェアリー・ドラゴン】で直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

「永続(トラップ)発動! 【デスカウンター】! 直接攻撃(ダイレクトアタック)によって戦闘ダメージを与えたモンスターを破壊する!」

 

「ッ!」

 

 

 

 【フェアリー・ドラゴン】の攻撃は止まらない。そのまま万理ちゃんにダメージを与えた。

 

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 

 西野(サイコ・ショッカー) LP 3500 → 2400

 

 

 

「この瞬間、【デスカウンター】の効果が発動! 【フェアリー・ドラゴン】を破壊する!」

 

「!」

 

 

 

 【デスカウンター】のカードから発射された光線に撃ち抜かれて、【フェアリー・ドラゴン】は消し飛んでしまう。

 

 

 

「っ……【フェアリー・ドラゴン】……!」

 

「やはり一筋縄ではいかないか。私のターン、ドロー!」

 

(……(トラップ)カード・【レインボー・ライフ】か……)

 

「私はカードを1枚伏せて終了だ!」

 

「ならば私のターン! 手札から【マジック・プランター】を発動! 【デスカウンター】を墓地へ送り、カードを2枚ドロー! さらに罠カード・【貪欲な(かめ)】! 墓地のカードを5枚デッキに戻し、1枚ドローする!」

 

 

 

 万理ちゃんの墓地から【人造人間-サイコ・ショッカー】、【人造人間-サイコ・ジャッカー】、【死のデッキ破壊ウイルス】、【魔法の筒(マジック・シリンダー)】、【命削りの宝札】の5枚がデッキに戻り、万理ちゃんはもう1枚カードを引いて、手札が3枚に増えた。どんだけドローする気!?

 

 

 

「そして私は【人造人間-サイコ・リターナー】を召喚!」

 

 

 

【人造人間-サイコ・リターナー】 攻撃力 600

 

 

 

「今度はこちらの直接攻撃(ダイレクトアタック)だ! 『電脳(サイバー)エナジーショット』!」

 

 

 

 小柄な人造人間が、体格に見合ったサイズのエネルギー弾を撃ち放つ。

 

 

 

「させないよ! (トラップ)発動、【ガード・ブロック】!」

 

 

 

 今の今まで【サイコ・ショッカー】のせいで使えなかった防御札を、ようやく発動できる。これで──

 

 

 

「かかったな! それを待っていた!」

 

「!?」

 

(トラップ)カード・【サイコ・ショックウェーブ】! このカードは相手が(トラップ)を発動した時に発動できる! 私は手札の魔法(マジック)カード・【エクトプラズマー】を墓地に捨て、デッキから機械族・闇属性・レベル6のモンスター1体を特殊召喚する!」

 

「機械族で闇属性でレベル6って、まさか……!?」

 

「そうだ、私が呼び出すのは当然──」

 

 

 

【人造人間-サイコ・ショッカー】 攻撃力 2400

 

 

 

「また出たか……【サイコ・ショッカー】……!」

 

 

 

 里香ちゃんが忌々しげに呟く。最初に【貪欲な瓶】で【サイコ・ショッカー】をデッキに戻したのはこの為か。それにしても、サイコ・ショッカーが場に出たのに万理ちゃんが正気に戻らないって事は、()()はあの状態のまま闘うつもりらしい。

 

 

 

「【サイコ・ショッカー】の効果により、(トラップ)カードは無効化される! 『トラップ・クラッシュ』!」

 

「しまった……!」

 

 

 

 【ガード・ブロック】が無効となり、里香ちゃんが伏せてくれていた【レインボー・ライフ】も使用できなくなった。そして(トラップ)をすり抜けた【サイコ・リターナー】の攻撃が、里香ちゃんに炸裂した。

 

 

 

「うぐっ……!」

 

「里香ちゃん!?」

 

 

 

 セツナ × 里香 LP 4000 → 3400

 

 

 

「だ、大丈夫だ、これくらい…… ──ッ!?」

 

「! ぼ、ボク達の身体が!?」

 

 

 

 ライフポイントが減った途端、ボクの身体の一部が綺麗さっぱり消失してしまった。里香ちゃんも同様だ。

 

 

 

「フフフッ、ライフポイントは600マイナス。その600ポイント分の肉体が、私の復活の為の生け贄となったのだよ」

 

「……っ……ライフが(ゼロ)になったら、肉体が完全に消えちゃうってわけか」

 

 

 

 そんな死に方は、死んでも御免こうむる。

 

 

 

「まだ私の攻撃は残っている! ()れ【サイコ・ショッカー】!!」

 

 

 

電脳(サイバー)エナジーショック!! -

 

 

 

 敵の標的は、またもや里香ちゃんだ。ボクは考えるより先に、身体が動き出していた。

 

 

 

「ッ!!」

 

「セツナ!?」

 

 

 

 里香ちゃんの前に立ち、両腕をこれでもかと言うくらいに広げて、彼女の盾となる。相当なダメージを食らう事を覚悟して、歯を食い縛った。

 そのまま【サイコ・ショッカー】が放ったエネルギー弾が、ボクに直撃する──

 

 

 

「里香!!」

 

 

 

 ──寸前、ボクの視界に、別の人影が飛び込んできた。横から現れた人影の正体は──ゴウさんだった。彼はボクと同じ様に両手を目一杯に広げ、次の瞬間、サイコ・ショッカーの攻撃を、その大きな背中で受け止めた。

 

 

 

「ぐあぁぁあっ!!」

 

「ゴウ!!」

 

「ゴウさん!?」

 

 

 

 苦悶の表情を浮かべつつも決して倒れず、上級モンスターの悪霊の一撃を、一身で受けきったゴウさん。攻撃が止むと、ボクは慌ててゴウさんの身体を抱き止めて支えた。

 

 

 

「ゴウさん大丈夫!? しっかりして!」

 

「がはっ! ……へっ、心配すんな……精霊回収者ってのは、精霊力に対してある程度……耐性があるもんだ……!」

 

「だからって悪霊の攻撃を生身で受ける奴があるか! 全く無茶をして……」

 

「里香、その言葉は、うぐっ……! セツナの方に言ってやってくれねぇか?」

 

「もういい喋るな……安静にしてろ」

 

 

 

 瀕死のゴウさんを床に寝かせた後、里香ちゃんは立ち上がって万理ちゃんに視線を向けた。正確には、万理ちゃんの中に宿っているサイコ・ショッカーを見ているのだろう。その眼には怒りが感じられた。

 

 

 

「よくも私の相棒を傷つけてくれたな……貴様は絶対に許さない!!」

 

「ふん。闘いの()(なか)に入り込んできた愚かな人間など、心配している余裕があるのか?」

 

「「っ……!!」」

 

 

 

 セツナ × 里香 LP 3400 → 1000

 

 

 

 ゴウさんがボク達を守ってくれたおかげで実際にダメージを受ける事は無かったけれど、二人で共有しているライフが一気に減少したのは事実。もうすでに里香ちゃんとボクの身体は、大部分が持ってかれていた(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

 

 

「フフフフッ! 貴様らに更なる絶望を与えてやろう! 【サイコ・ショッカー】を墓地へ送る!」

 

「!」

 

「見るがいい! これぞ我が最強の進化形態! 【人造人間-サイコ・ロード】!!」

 

 

 

【人造人間-サイコ・ロード】 攻撃力 2600

 

 

 

 新たに召喚されたのは、まさに【サイコ・ショッカー】の進化形と言うべき異様の存在だった。6本のコードらしき物が背中から伸びていて、()()のスコープが不気味さを倍増させている。

 

 

 

「この土壇場で、またとんでもないのを出してくれたね……」

 

「怯むなセツナ。どうにか私のターンまで繋げてくれ。後は私がやる」

 

「里香ちゃん……」

 

 

 

 (トラップ)は使えず、モンスターもいないと言う劣勢に追い込まれて、ライフだけでなく自分達の肉体までもが、文字通り風前の灯火となりかけている。それでも(なお)、里香ちゃんは真っ直ぐに相手を見据えていた。

 

 

 

「……分かったよ。ボクのターン! ドロー!」

 

 

 

 引いたカードを見て、ボクは微笑んだ。

 

 

 

「きっと来てくれると思ってたよ! 手札から【トレード・イン】を発動! 手札の【トライホーン・ドラゴン】を墓地に送って、カードを2枚ドロー! ……魔法カード発動、【黙する死者】! 墓地の【ラビードラゴン】を、守備表示で蘇生!」

 

 

 

【ラビードラゴン】 守備力 2900

 

 

 

「守備力2900か……壁モンスターを立てて時間を稼ぐつもりか?」

 

(だが無駄な事だ。【サイコ・リターナー】は直接攻撃(ダイレクトアタック)が可能なのだからな!)

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド。──フィニッシュ(チェックメイト)は任せたよ、里香ちゃん!」

 

「あぁ! 私のターン、ドロー!」

 

(……来たか……!)

 

「魔法発動! 【禁じられた聖杯】! モンスター1体の攻撃力を400ポイントアップし、効果を無効にする! 対象は【サイコ・ロード】!」

 

「ぬうっ!?」

 

 

 

【人造人間-サイコ・ロード】 攻撃力 2600 + 400 = 3000

 

 

 

「これで、(トラップ)カードへの制約は無くなった! セツナ!」

 

「うん! (トラップ)発動! 【竜の転生】! 【ラビードラゴン】を除外して、墓地から【オッドアイズ・ドラゴン】を特殊召喚する!」

 

「なに!?」

 

 

 

【オッドアイズ・ドラゴン】 攻撃力 2500

 

 

 

「おのれ……【ラビードラゴン】を蘇生させたのはこいつを呼び出す為か……だが! 攻撃力では【サイコ・ロード】に遠く及ばん! わざわざ貴様が強化してくれたからなぁ! フハハハッ!」

 

「それはどうかな?」

 

「……なんだと?」

 

 

 

 ここでボクは、1枚の伏せカードを発動する。それは、最初に【サイコ・ショッカー】を召喚された次のターンから、ボクがずっと伏せていた(トラップ)カード。

 

 

 

「リバースカード・オープン! 【燃える闘志】!!」

 

「!?」

 

「この(トラップ)を、里香ちゃんの【オッドアイズ】に装備する!」

 

 

 

 【オッドアイズ・ドラゴン】が、その身に紅蓮の炎を纏い、闘争心を燃え上がらせる。

 

 

 

「バトル! 【オッドアイズ】で【サイコ・ロード】を攻撃!」

 

「はっ、攻撃だと? 精霊回収者と言えど、所詮は愚かな人間か! 返り討ちにしろ【サイコ・ロード】!」

 

 

 

電脳(サイバー)エナジーインパクト!! -

 

 

 

 前身である【サイコ・ショッカー】の技よりも、格段に威力の増した高圧エネルギーの塊が、【オッドアイズ】に向けて放たれる。 ──しかし里香ちゃんは不敵に笑った。

 

 

 

「【燃える闘志】の効果! 相手フィールドに元々の攻撃力よりも高い攻撃力のモンスターが存在する時、ダメージステップの間、装備モンスターの攻撃力を倍にする!」

 

「なっ……ま、まさか!」

 

「そう、【サイコ・ロード】は【禁じられた聖杯】の効果で、攻撃力が上がっている。よって【オッドアイズ】の攻撃力は倍!」

 

 

 

【オッドアイズ・ドラゴン】 攻撃力 2500 → 5000

 

 

 

「攻撃力……5000だと!?」

 

「今、目を覚まさせてやるぞ西野! 行け! 【オッドアイズ・ドラゴン】!! その二色の眼で、捉えた全てを焼き払え!!」

 

 

 

- スパイラル・フレイム!! -

 

 

 

 二色の眼を光らせ、【オッドアイズ】は渦巻く炎を口から放つ。迫り来るエネルギー弾を貫き、かき消して、炎は【サイコ・ロード】を跡形も無く粉砕した。

 

 

 

「うおおおおおっ!?」

 

 

 

 西野(サイコ・ショッカー) LP 2400 → 400

 

 

 

「【オッドアイズ】が戦闘でモンスターを破壊した時、元々の攻撃力の半分のダメージを相手に与える! 『リアクション・フォース』!!」

 

 

 

 追撃にしてトドメの一撃を受け、万理ちゃんの身体が吹き飛ばされる。

 

 

 

「うぐあああああああっ!!!!」

 

 

 

 西野(サイコ・ショッカー) LP 0

 

 

 

「私達の勝利だ!!」

 

「やった! 勝った!」

 

「へへっ、やりやがった……さすがだぜ、二人とも」

 

 

 

 決闘(デュエル)が終了すると、ボクと里香ちゃんの身体もすっかり元に戻った。

 

 

 

「これで悪霊に奪われた人々の魂も解放されて、消えた住民達も戻ってくる筈だ」

 

「ほっ……良かった」

 

 

 

 里香ちゃんの言葉にボクが胸を撫で下ろして安堵していると、里香ちゃんは床に落ちていた1枚のカードを拾い上げた。

 

 

 

「それ……【サイコ・ショッカー】のカード?」

 

「……回収、完了」

 

 

 

 カードの精霊か……タッグで挑んでも手こずる程の強敵だったけど、なんだかんだで振り返ってみれば、楽しい決闘(デュエル)だったね。

 

 

 

「さて……とりあえず、あの子達を下ろしてあげなくちゃ。いつまでもあのままじゃ、かわいそうだし」

 

「そうだな」

 

 

 

 決闘(デュエル)中ずっと宙吊りにされていた人質の女の子達を、里香ちゃんと二人で拘束から解いてあげる作業が始まった。途中からゴウさんも、「もう復活した」とか言って手伝ってくれた。あれだけのダメージを受けたのに、タフな人だなぁ。

 

 

 

「ふう……セツナ、この子で最後だ」

 

「ありがとう里香ちゃん。みんな怪我は無いみたいだね」

 

 

 

 全員を助け出して命に別状はない事も確認した。これで一安心だね。後はセキュリティに連絡すれば何とかしてくれるでしょう。

 ちなみに万理ちゃんはどうしたかと言うと、里香ちゃんがふん縛って床に転がしてあります。

 

 

 

「にしても……あの女が言ってた通り、ジャルダンの女学生ってのは上玉が揃ってんなぁ。起きた子から順にナンパしてやりたいぜ」

 

「今日くらいは控えろ、フェミニスト」

 

 

 

 あ、ゴウさんってそういうキャラなの?

 

 

 

「冗談だって。おし、セキュリティには俺から連絡しとく。まぁ事情聴取とかメンドクセーから、俺達はトンズラするけどな」

 

「そっか。じゃあボクも帰……あ……あれ?」

 

 

 

 立ち上がって歩き出そうとしたら、急に身体の力が抜けて尻餅を突いてしまった。

 

 

 

「ど、どうしたセツナ!? 大丈夫か!」

 

 

 

 里香ちゃんが心配そうに駆け寄ってくれる。次の瞬間、ぐぅ~っと、腹の虫が盛大に鳴った。

 

 

 

「…………お腹が空いて力が入らない……」

 

「……」

 

「……」

 

 

 

 そう言えば今日の昼から何も食べてないんだった。緊急事態でそれどころじゃなかったのと、決闘(デュエル)に夢中で完璧に忘れてた。事件が終息して気が抜けちゃったのかな。

 

 

 

「……フッ、セツナ。腹が減るって事は、君の魂が肉体に帰ってきた証拠だ」

 

「……あははっ、なら良かった」

 

「やっぱり面白い奴だな、お前は」

 

 

 

 ボク達3人は、くたびれた様子で笑い合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セキュリティが廃工場に到着して、軟禁されていた女の子達を救出していくのを、ボク達は離れた場所で見守っていた。たぶん今ごろ万理ちゃんは逮捕されてるのかな。今回の大騒動の引き金となった張本人だからね。

 何にせよ今夜からは枕を高くして眠れそうだ。

 

 

 

「やれやれ、やっと終わったな。行こうぜ、里香」

 

「……あぁ」

 

 

 

 二人とも、もう行っちゃうみたいだ。悪霊を回収し終えて事件を解決したから、ジャルダン(この街)に留まる理由も無くなったんだろう。お別れの挨拶と、お礼をしておかないと。

 

 

 

「里香ちゃん、ゴウさん。本当にありがとう。二人のおかげで街は救われたし、ボクも死なずに済んだよ」

 

「こちらこそ感謝するよセツナ。君の協力が無ければ、きっと勝てなかった」

 

「短い間だったけど、一緒に決闘(デュエル)できて楽しかったよ里香ちゃん。……じゃあね」

 

 

 

 きっと、もう会えないかも知れない。

 

 

 

「あぁ……さよな──」

 

「オーーーホホホホホッ!!」

 

「「「!!!?」」」

 

 

 

 誰だこのちょっと感動的な別れのシーンのムードを邪魔する、甲高い笑い声の主は!?

 

 

 

「あっ……! 西野!?」

 

「ウフフ、また会ったわね。マイスイートエンジェル!」

 

「だからその不愉快な呼び方はやめろー!」

 

「あの女、あんな目に遭ってまだ懲りてねぇのか」

 

「ていうか、どうやってあの縄を抜けたの?」

 

「里香。今回は不覚を取ったけれど、次こそは貴女を私色に染めてアゲル。じゃ~ね~~~!」

 

 

 

 万理ちゃんは里香ちゃんに投げキッスをぶつけて、忍者の様な軽やかな身のこなしで退散していった。さっきまで悪霊の操り人形にされてたのに元気な人だね。

 

 

 

「里香ちゃん、なかなか熱心なファンがついてるね」

 

「違う。アレは粘着質なストーカーだ」

 

 

 

 ため息をついて肩を落とす里香ちゃん。ほんと、さっきまでの空気がぶち壊しだ。……まぁでも、しんみりするのは好みじゃなかったから、むしろ感謝するべきかな?

 

 

 

「じゃあ改めて……またね(・ ・ ・)、二人とも」

 

「……フフッ、そうだな。また会おう、セツナ」

 

「次はお前と決闘(デュエル)できるのを楽しみにしてるぜ」

 

「うん!」

 

 

 

 二人は爽やかな笑顔を残して立ち去っていく。

 

 さぁ、ボクも帰ろっか。ボクらの街へ!

 

 

 

 ──ジャルダンの街を恐怖と混乱に陥れた連続失踪事件は、こうして幕を閉じた。

 翌日のニュースによると、廃工場で保護されたアカデミアの生徒達を初め、今までに被害に遭った行方不明者が次々と発見され、無事に家族との再会を果たしたらしい。

 犯人は最後まで見つからなかったみたいだけど、それ以降、新たな被害者は出ておらず、数日後には事件は完全に風化していった。

 まぁ犯行が突然ピタリと止んだのは、その犯人が消えちゃった(・ ・ ・ ・ ・ ・)からなんだけど……

 

 全ての真相を知っているのは、ボクと、二人の決闘者(デュエリスト)だけ。

 

 

 

 ──また会おう、セツナ。

 

 

 

「うん。……きっと、また会えるよね」

 

 

 

 





 長らくお待たせしてしまいました! コラボ編、これにて完結です!!

 yunnnさん、改めてコラボのお誘いありがとうございました!!


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TURN - 18 Store Breaker


 実は今回、原作のキャラクターをお借りしました!

 知る人ぞ知る、あの御方です!



 

 意外かも知れないけど、ボクが住んでいる大都市『ジャルダン』の1番街には、カードショップは1店舗しか存在していない。

 何故かと言うと理由は明白で、そのたった一軒のカードショップがあまりにも大型な為、新しく増設する必要がないからだ。

 他の区域には小規模なショップがチラホラ見受けられるけど、ここ、カードショップ・『GARDEN(ガーデン)』は、1番街唯一(ゆいいつ)のカード販売店なだけあって、規格外にデカイ。なんせ、10階建てのビルひとつが、まるまるカード売り場として経営しているんだ。

 

 『決闘(デュエル)が全てを支配する街』と呼ばれている、ジャルダンにおいて、カードショップは言うまでもなく必要不可欠な施設だ。

 お目当てのパックや欲しいカードを探し求めて、はたまた、自分のデッキを強化するのに必要なカードを補充するべく、大人も子供も分け隔てなく街中(まちじゅう)決闘者(デュエリスト)が、この建物に足を運ぶ。他では売ってない様な高価なレアカードも置いてあるらしく、はるばる別の街から買いに来る客も大勢いる。それだけの集客数を余裕で収容できるんだから、この店のキャパシティの広さは驚異的だ。まさに『(ガーデン)』。

 

 もちろん店内には決闘(デュエル)スペースも完備してある。椅子に座って楽しみたい人の為に決闘(デュエル)テーブルも各階に置かれているし、最上階にはデュエルディスクが使える決闘(デュエル)フィールドも数台、設置されている。

 友達や初対面の人と決闘(デュエル)したりカードを交換(トレード)したり、決闘者(デュエリスト)同士で交流を深められるこの店は、決闘者(デュエリスト)御用達の憩いの場として街の人達に親しまれており、ジャルダンの名所の1つにも数えられている。

 

 さて、そんな名店にボクが何の用事で来ているかと言うと……

 

 

 

『レディース・アーンド・ジェントルメーン!! よくぞ集まってくれたなお前ら! これより、カードショップ・GARDEN(ガーデン)主催の決闘(デュエル)大会を開催するぞーっ!!』

 

「「「「おおおおおおおっ!!!!!!」」」」

 

「わぁ……すごい熱気」

 

 

 

 ビルの最上階──10階。決闘(デュエル)フィールドが設けられている階に何十人もの決闘者(デュエリスト)達が押しかけて、マイクを握った司会者さんの宣言に大歓声で応えた。毎日の様に繁盛している店だけど、今日みたいな日は倍以上の盛り上がりを見せる。

 

 そう。ボクは今、この店で定期的に開催される決闘(デュエル)の大会に参加している。休日で予定も無くて暇だったからね。フラッと立ち寄ってみたら面白そうなのがやってたから飛び入りしたんだ。

 えっ? いつものメンツはどうしたのかって? ……本日は、ぼっち参戦です。

 

 

 

「……あれ? セツナさんなのです!?」

 

「あっ、()(ふみ)ちゃん。久しぶり」

 

 

 

 語尾が独特な喋り方をする、黒い丸メガネを掛けた黒髪の女の子と出会った。名前は(はや)() ()(ふみ)ちゃんと言って、アカデミアの新聞部に所属している中等部の生徒だ。以前インタビューという名目で、一度だけ決闘(デュエル)をした事がある。【ウィジャ盤】デッキは恐ろしかったなぁ。あれ以来だから会うのは本当に久しぶりだ。

 

 

 

「偶然だね~。記文ちゃんも大会に参加するの?」

 

「それもあるのですが、今日は新聞部として、この大会の取材に来たのです!」

 

「取材かぁ、仕事熱心だね」

 

「はいなのです! お父さんの様な立派なジャーナリストになる為にも、シャッターチャンスは(のが)さないのです!」

 

「記文ちゃんのお父さんって、ジャーナリストなんだ?」

 

 

 

 ……記文ちゃんに似て、メガネを掛けてカメラとマイクを構えた中年のおじさんを想像してしまった。

 

 

 

『イィ~~~ッツ! タイム・トゥ・デュエル!!』

 

 

 

 っと、話してる内に大会が始まったみたいだ。広い室内の決闘(デュエル)フィールド全てで、それぞれの決闘(デュエル)が一斉に開始された。

 

 

 

「【モリンフェン】で【シーホース】を攻撃!」

 

「グワーッ!!」

 

 

 

「さすがジャルダンのカードショップ! どこもかしこも激しい決闘(デュエル)が繰り広げられてるのです~!」

 

 

 

 ハイテンションで会場内を駆け巡り、あちこちの決闘(デュエル)を見物して回る記文ちゃん。相変わらず元気そうで何より。

 

 確かにどの決闘(デュエル)も相当にレベルが高い。高度な戦術の応酬は、ギャラリーに混じって観戦しているだけでも楽しめる。でもやっぱり()()決闘(デュエル)を見てると、自分も早く()りたくなってくる。

 

 

 

「ボクの試合は……もう少し先か。ストレージでも漁ってよっかな」

 

 

 

 ストレージと言うのは、ケースの中に大量のカードが詰められている売り場の通称で、1枚10円とか30円で買えてしまう様な、レア度の低いカードが並んでいる。安物と言えど、掘り出し物が多いから侮れないんだよね。

 

 

 

「どれどれ? ……おっ、良いのあるじゃん」

 

 

 

 【D・D・クロウ】、【()()ガエル】、【魔導雑貨商人】……どれもこれも役に立つカードなのに、なんで安価コーナーに入ってるんだろう?

 

 昨今の決闘(デュエル)界はステータス至上主義。それ(ゆえ)、弱いカードは軽視されがちだ。どんなカードでも使い方次第だと思うけどなぁ。

 

 

 

「……カカカッ、無駄にデケぇカードショップですね兄貴?」

 

「ククク……さすがは決闘(デュエル)が支配する街と言ったところか。この店は絶対に頂くぜ!」

 

 

 

 ……? 今すれ違った三人組が妙な会話をしていた気がした。小太りな男と細身の男、それから(たけ)の長いコートを着て、頭にフードを被ったロン毛の男だ。見てくれからして怪しいけど、何者なんだろう?

 

 

 

「おっと、もうすぐボクの出番だ。急がないと」

 

 

 

 手に持っていたカードの束をストレージに戻そうとした時、ふと1枚のカードが目についた。

 

 

 

「これって……」

 

 

 

 ……直感で購入を決めたボクは、そのカードを取り出して、レジに持っていった。こういうのを衝動買いって言うのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──これでチェックメイト! 【ラビードラゴン】で直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

「うわあぁっ!? ま、負けたぁ……」

 

 

 

 ここまで順調に勝ち星を重ねて今ので三連勝。今日も調子が良いみたい!

 

 

 

「セツナさん安定の強さなのですー! この勢いだと優勝も狙えるのです!?」

 

「ありがとう記文ちゃん。あー、どうかな……」

 

 

 

 そりゃ優勝できれば嬉しいけど。試合を終え、ボクが決闘(デュエル)フィールドから降りると、すぐさま次に対戦を控えていた二人の決闘者(デュエリスト)が、入れ替わりで舞台に上がる。

 

 

 

(あっ……あの人はさっきの)

 

 

 

 壇上に立っていたのは少し前に見かけた、小太りでおかっぱ頭の男だった。よほど腕に自信があるのかイヤらしい笑みを浮かべている。

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……決闘(デュエル)は小太り男の一方的な展開(ワンサイドゲーム)で進行していた。

 

 

 

「【吸収天児】で攻撃!」

 

「うあぁーっ!?」

 

「カカカッ、どうした? もう手詰まりかい?」

 

「……あぁ……俺の負けだ……っ」

 

 

 

(決着か……運が悪かったね、対戦相手の人)

 

 

 

 あの人のデッキに小太り男のデッキは最悪の相性だった。

 

 

 

「あっ!」

 

「? どうしたの? 記文ちゃん」

 

「見たことある顔だと思ったら……あの人は確か、『ストア・ブレーカー』なのです!」

 

「ストア・ブレーカー?」

 

「以前、お父さんに教えてもらったのですが……カードショップの売り上げ金や、客のレアカードを奪って店を潰す、悪い人達なのです。ついにここもターゲットにされたのですね……!」

 

 

 

 そんなのがいるのか。要はあの三人を放っておくと危ないって事だね……

 ジャルダン屈指の人気店が潰れたりしたら街の経済的にも相当な痛手になるだろうし。騒ぎになる前に、それとなく司会者さんに伝えておこうかな。

 

 

 

「おい! もっと他に強い奴はいないのか! ひょっとしてこの店の最強は俺!? カカカカカッ!!」

 

「待つのですー!!」

 

「!?」

 

 

 

 記文ちゃんが突然このフロア全域に響く程の大声を発した。小太りの男が記文ちゃんを睨む。周りの客も、一斉に彼女へと視線を集中させた。注目に晒されながらも記文ちゃんは気丈に言い放つ。

 

 

 

「そこまでなのです、ストア・ブレーカー! カードショップを荒らす悪人には、正義の鉄槌を(くだ)してやるのです! セツナさんが!!」

 

「ボクッ!?」

 

 

 

 店中(みせじゅう)にデカイ声で正体をバラされて、さすがに計算外だったのか小太り男の表情が一気に険しくなった。

 

 

 

「ス、ストア・ブレーカーだって……?」

 

「聞いた事あるぜ、店の上前をはねたり客からレアカードを奪う連中だ……!」

 

「マジかよ、この店まで潰そうってのか……?」

 

 

 

 周囲の客の懐疑的な視線がストア・ブレーカー達に突き刺さる。完全にアウェーだ。これに耐えかねて退散してくれれば丸く納まるけど……

 

 

 

「チッ……兄貴、どうします?」

 

「ふん、いいだろう。受けて立ってやる」

 

 

 

 小太り男が兄貴と呼んだロン毛の男が、被っていたフードを脱いで素顔を見せた。目付きは悪いけどイケメンだった。どうやら彼がリーダー格みたいだ。

 

 

 

『あーーーーーっ!!』

 

 

 

 今度は司会者さんが驚きの声を上げた。どうでもいいけどマイクうるさい。

 

 

 

『こいつはカードショップ経営者の間でブラックリストに登録されていた……(ひゃく)のデッキを持つ決闘者(デュエリスト)! (もも)() ()(すみ)だ!!』

 

「百ぅ!?」

 

『そのひとつひとつが対戦相手のあらゆるデッキを想定して組まれた──アンチ・デッキ!』

 

 

 

 『アンチ・デッキ』……なるほど、さっきの決闘(デュエル)の相性が極端に悪かったのはそのせいか。

 

 

 

「ていうかこれ……本当にボクが決闘(デュエル)する流れなの?」

 

「セツナさんファイトなのですー! ストア・ブレーカーなんて、ガツンとやっつけちゃってくださいなのです!」

 

『頼むぞ少年! 私の店を守っておくれーっ!』

 

「ちょ、やめてよ司会者さんまで!」

 

「クククッ、確かキサマ、この大会で上位にランクインしていたな。私が勝った場合、キサマのデッキを頂くとしよう」

 

「! ……それは負けられないなぁ」

 

 

 

 やるしかないか。デッキもそうだけど、ボクもこの店には何度か(かよ)ってて気に入ってるから、無くなっちゃったら(さみ)しいし。

 

 ロン毛の男──(もも)()がコートを開くと、その内側にはいくつものデッキが納められていた。アレが百のデッキか、壮観だなぁ。

 

 

 

「さぁて、どのデッキを使おうかな? クク……こいつで行くか」

 

 

 

 百野は選択(チョイス)したデッキを抜き取ると、それをディスクに差し込んだ。恐らくはボクのデッキに対するアンチ・デッキだろう。だけど、()()を張られてると分かっていても、ボクはボクのデッキを信じて戦うよ。

 

 ボクと百野は決闘(デュエル)フィールドに上がり、同時にデュエルディスクを展開した。

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 (もも)() ()(すみ) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「ボクの先攻!」

 

(クククッ……キサマのデッキの『(カラー)』は、すでに今までの決闘(デュエル)()()()ている……!)

 

「カードを1枚セット! そして、【暗黒の竜王(ドラゴン)】を召喚!」

 

 

 

【暗黒の竜王(ドラゴン)】 攻撃力 1500

 

 

 

「フッ、やはりドラゴンか」

 

「………」

 

「私のターン! 【コストダウン】発動! 手札を1枚捨て、手札のモンスターのレベルを2つ下げる! レベル4となった【竜殺者(ドラゴン・キラー)】を召喚!」

 

 

 

竜殺者(ドラゴン・キラー)】 攻撃力 2000

 

 

 

「このモンスターが召喚された時、フィールドのドラゴン族モンスター1体を破壊する!」

 

「なっ!?」

 

 

 

 【竜殺者(ドラゴン・キラー)】の効果で、【暗黒の竜王(ドラゴン)】が早くも破壊されてしまう。

 

 

 

「バトルだ! 【竜殺者(ドラゴン・キラー)】で直接攻撃(ダイレクトアタック)! 『アサルト・スラッシュ』!!」

 

「うわあああっ!!」

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 2000

 

 

 

「くっ……!」

 

『おぉーーーっと! いきなりライフポイントが半分も削られてしまったぁーっ!!』

 

 

 

 店の存亡が危ぶまれてるのに実況はしっかりこなす司会者さん、MCの(かがみ)

 

 

 

「おやおや、こんなものかい?」

 

「いいや、まだだよ! (トラップ)カード・【ダメージ・ゲート】!」

 

 

 

【暗黒の竜王(ドラゴン)】 攻撃力 1500

 

 

 

「辛うじてモンスターを場に残したか。私はカードを1枚伏せてターン終了(エンド)だ!」

 

「ボクのターン! 【レッサー・ドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【レッサー・ドラゴン】 攻撃力 1200

 

 

 

「さらに手札から【ユニオン・アタック】発動! 【暗黒の竜王(ドラゴン)】に【レッサー・ドラゴン】の攻撃力を加える!」

 

 

 

【暗黒の竜王(ドラゴン)】 攻撃力 1500 + 1200 = 2700

 

 

 

「【竜殺者(ドラゴン・キラー)】に攻撃!」

 

 

 

 2体の竜の合体攻撃が決まり、【竜殺者(ドラゴン・キラー)】が撃破される。【暗黒の竜王(ドラゴン)】は前のターンの雪辱を果たせて溜飲が下がった様子だ。

 

 

 

「たかが【竜殺者(ドラゴン・キラー)】1体を倒すのに、ずいぶんとカードを使ったな?」

 

「……1枚カードを伏せて、ターンエンド!」

 

「私のターン、ドロー! ……クククッ、キサマに面白(おもしろ)いものを見せてやる」

 

「?」

 

「手札より、【竜破壊の(あかし)】を発動! デッキから【バスター・ブレイダー】を手札に加える!」

 

「!! バッ……【バスター・ブレイダー】!?」

 

 

 

 デッキから引き抜き、百野が見せつけてきたカードを見た途端、ボクは驚愕の声色で、そのカードの名を復唱した。観戦していた皆や司会者さんも驚いている様で、店内に大きなざわめきが広がった。

 

 

 

『なななななんとーっ!? 百野 真澄が手札に加えたのは、あの伝説の決闘王(デュエル・キング)()(とう) (ゆう)()も使っていたウルトラレアカード! 【バスター・ブレイダー】だぁぁぁぁっ!!!』

 

 

 

 司会者さんの実況を受けて観衆は一気に歓声を湧かせた。ストア・ブレーカーへの敵視など()()へやら。誰もが滅多にお目にかかれない稀少なレアカードを、拝めるかもしれないという期待を(いだ)いてか興奮していた。

 

 でも、ボクにも彼らの気持ちは凄く分かる。今、百野の手の内にあるカードには、それだけの存在価値があるんだ。

 

 ──決闘王(デュエル・キング)・武藤 遊戯。

 

 デュエルモンスターズの世界にその名を轟かせた初代王者。決闘者(デュエリスト)であれば、知らない者は一人もいない。

 そんな伝説の決闘者(デュエリスト)が使用していたカードとなれば、当然レア度も最高級。プロでも所有者は少ないと言われる程の貴重なカードなんだ。

 

 ……どうしてそれを彼が持っているのか……ボクは疑わしくなって、百野に尋ねた。

 

 

 

「……そのレアカードも()()から()ったの?」

 

「ククッ、あぁそうとも」

 

 

 

 やっぱり。

 

 

 

「奪われたカードで組まれたデッキが……決闘者(デュエリスト)に応えてくれるとも思えないけど?」

 

「そんなことは私に勝ってから言ってもらおうか! リバース(トラップ)・【戦線復帰】発動! 墓地から【トロイホース】を復活させる!」

 

 

 

【トロイホース】 守備力 1500

 

 

 

 【コストダウン】で捨てたのは、あのモンスターだったのか。

 

 

 

「【トロイホース】は地属性をアドバンス召喚する際、2体分のリリースに出来る」

 

(まさか……!)

 

「【トロイホース】をリリース! 出でよ、【バスター・ブレイダー】!!」

 

 

 

 その長身と同等サイズの大剣を軽々と操る屈強な剣士が、竜を狩るべく戦場(フィールド)に現れた。

 

 

 

【バスター・ブレイダー】 攻撃力 2600

 

 

 

「出たぁーっ!! 【バスター・ブレイダー】!!」

 

「カッケー! この目で見れる日が来るなんて……!」

 

「シャッターチャンス! 大スクープなのですーっ!」

 

 

 

 記文ちゃんまで熱狂する観客(ギャラリー)に紛れて無我夢中でカメラを構えてるし。連写の音がここまで聴こえるよ。

 まぁ無理もないか。ジャルダンでは強いカードや珍しいカードを所持しているだけでも、称賛に値するステータスになるからね。最も、そのカードに見合った実力が持ち主に伴ってなければ、「宝の持ち腐れだ」と笑われてしまうけど。ここはそういう街だ。

 

 

 

「【バスター・ブレイダー】の攻撃力は、相手フィールドと墓地のドラゴン族1体につき、500ポイントアップする!」

 

「!」

 

「今キサマの場にはドラゴン族が2体。よって攻撃力は、1000ポイントアップ!」

 

 

 

【バスター・ブレイダー】 攻撃力 2600 → 3600

 

 

 

「攻撃力3600……!?」

 

「まだだ! 私は手札から【竜殺しの(けん)】を【バスター・ブレイダー】に装備! 攻撃力をさらに700ポイントアップ!」

 

 

 

 【バスター・ブレイダー】の握る大剣が姿形を変えていく。

 

 

 

【バスター・ブレイダー】 攻撃力 3600 + 700 = 4300

 

 

 

『なんということだぁーっ! モンスター効果と装備魔法の効力が合わさり、【バスター・ブレイダー】の攻撃力が4300まで上昇したぞぉーっ!!』

 

「……っ」

 

『このままでは総角(アゲマキ)少年のモンスター、どちらに攻撃されてもライフが(ゼロ)になってしまう! ん? そうなったら私の店もオシマイ? ぬおーっ!! この歳で失業なんてしたくないぃぃぃぃいっ!!』

 

 

 

 なんか横で一人で盛り上がってる人がいるけど……そうか、これ負けたら責任重大の決闘(デュエル)だった。

 

 

 

「クククッ、呆気ないものだったな。──バトルだ!」

 

「ッ!」

 

「【バスター・ブレイダー】で【レッサー・ドラゴン】を攻撃! 『竜破壊の剣(ドラゴンバスターブレード)』!!」

 

 

 

 【バスター・ブレイダー】は鋭い眼光で【レッサー・ドラゴン】を捉えると、強化された大剣を高々と上段に掲げ、標的を切り裂こうと剣身を振り下ろす。

 

 

 

伏せ(リバース)カード・オープン! 速攻魔法・【(かい)()日蝕(にっしょく)(しょ)】!」

 

「!」

 

「この魔法効果で、フィールドの表側表示モンスターは全て裏守備になる!」

 

 

 

 ボクの場のモンスター2体と百野の【バスター・ブレイダー】が、一斉に表示形式を裏側守備表示に変更され、横向きの伏せカードへと姿を変えた。

 

 また、【バスター・ブレイダー】に装備されていた【竜殺しの剣】は、対象を失った事で破壊され墓地に送られた。

 

 

 

「……チッ、味な真似を」

 

『た、助かったぁ~……』

 

 

 

 司会者さんもホッと胸を撫で下ろしている。うん、それボクのセリフ。

 

 

 

「私はターンを終了する」

 

「エンドフェイズだね。【皆既日蝕の書】の効果で【バスター・ブレイダー】はリバースして、君は1枚ドローできるよ」

 

 

 

【バスター・ブレイダー】 守備力 2300

 

 

 

「ふん」

 

「ボクのターン、ドロー!」

 

(よし!)

 

「まずは【暗黒の竜王(ドラゴン)】と【レッサー・ドラゴン】を攻撃表示に!」

 

 

 

【暗黒の竜王(ドラゴン)】 攻撃力 1500

 

【レッサー・ドラゴン】 攻撃力 1200

 

 

 

「そして【レッサー・ドラゴン】に魔法(マジック)カード・【一騎加勢】を発動!」

 

 

 

【レッサー・ドラゴン】 攻撃力 1200 + 1500 = 2700

 

 

 

「なに!? 攻撃力が【バスター・ブレイダー】の守備力を越えただとっ!?」

 

「行くよ! 【レッサー・ドラゴン】で【バスター・ブレイダー】を攻撃!」

 

 

 

 パワーアップした【レッサー・ドラゴン】の攻撃が決まり、【バスター・ブレイダー】は破壊される。

 

 

 

「くそっ……! この【バスター・ブレイダー】がたかが低級ドラゴンごときに!」

 

「甘く見たね! お次は【暗黒の竜王(ドラゴン)】で直接攻撃(ダイレクトアタック)! 『炎のブレス』!」

 

「ぐあぁあっ!!」

 

 

 

 百野 真澄 LP 4000 → 2500

 

 

 

『ついに総角少年の攻撃が通ったァーッ!!』

 

「セツナさん凄いのですー!」

 

「いいぞー! ストア・ブレーカーなんてやっつけちまえーっ!」

 

 

 

「これで形勢逆転だね! ターンエンド!」

 

 

 

【レッサー・ドラゴン】 攻撃力 2700 → 1200

 

 

 

「調子に乗るなよ、私のターン!」

 

(せいぜい良い気になってな……このデッキには、まだ切り札があるんだよ!)

 

「私はカードを2枚伏せてターンエンドだ!」

 

「ボクのターン!」

 

 

 

 ……百野の場には壁となるモンスターはいない。このまま2体のドラゴンで攻撃すればボクの勝ちだけど、リバースカードが2枚か……ちょっと怖いな。

 

 

 

(ククッ、キサマが攻撃しようがしまいが……次のターンで私が勝つ事に変わりはない!)

 

 

 

 ──いや、行くしかない!

 

 

 

「【暗黒の竜王(ドラゴン)】の攻撃!」

 

 

 

 再び【暗黒の竜王(ドラゴン)】が百野に向けて口から炎を放つ。さぁ、どう出る!?

 

 

 

「フッ、リバースカード・オープン! 【破壊剣の追憶(ついおく)】!」

 

「っ!」

 

「私は手札の【破壊剣一閃】を墓地に捨て、デッキから【破壊剣の使い手-バスター・ブレイダー】を特殊召喚する!」

 

 

 

【破壊剣の使い手-バスター・ブレイダー】 攻撃力 2600

 

 

 

「これは……新たな【バスター・ブレイダー】!?」

 

「さらに! 速攻魔法発動! 【破壊剣士融合】!!」

 

「!!」

 

「【破壊剣の使い手-バスター・ブレイダー】は、フィールド上では名称を【バスター・ブレイダー】として扱う。私は【バスター・ブレイダー】と、キサマの場の【暗黒の竜王(ドラゴン)】を融合する!」

 

「なっ……ボクのモンスターを!?」

 

 

 

 ドラゴンと、それを破壊する宿命を背負った孤高の剣士。本来なら相容れない筈の二つの存在が、渦を巻く様にして混ざり合っていく。

 

 

 

「融合召喚!! 現れ出でよ! 【竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー】!!」

 

 

 

【竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー】 攻撃力 2800

 

 

 

 そうして召喚されたのは、竜と一体化した竜破壊の剣士(バスター・ブレイダー)。全身を白と蒼の鎧で武装し、竜の牙を思わせる巨大な(つるぎ)を携えている。

 

 

 

【レッサー・ドラゴン】 守備力 1000

 

 

 

(! 【レッサー・ドラゴン】が勝手に守備表示に!?)

 

「竜破壊の剣士の前に、ドラゴン族の攻撃と効果の発動は許されない!」

 

「くっ……」

 

「そしてこいつの攻撃力は、相手のフィールドと墓地のドラゴン1体につき、1000ポイントアップする!」

 

 

 

【竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー】 攻撃力 2800 → 4800

 

 

 

 攻撃力4800……!! ドラゴン2体分だけで最強クラスのモンスターに変貌した……!

 

 

 

「ククク……このモンスターには守備貫通効果も備わっている。分かるか? 次のターンでその()()ドラゴンを攻撃すれば、私の勝ちというわけだ!」

 

「……カードを2枚セット! ターンを終了するよ……」

 

「ハハハハハッ!! 戦意喪失してブラフを張るのが精一杯かぁ!?」

 

(まぁ仮に(わな)を仕掛けていても無駄だがな。私の墓地にある【破壊剣一閃】を除外すれば、【バスター・ブレイダー】を対象とした効果は無効に出来る!)

 

「私のターン! トドメだ! 【竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー】で攻撃!!」

 

 

 

 突貫してくる【バスター・ブレイダー】の進化形。斜めに切り払うつもりらしく、その剣撃は弧を描いて迫り来る。

 

 だけど、まだ終わりじゃない!

 

 

 

(トラップ)発動! 【ガード・ブロック】! ダメージを(ゼロ)にして、1枚ドローする!」

 

 

 

 【レッサー・ドラゴン】は倒されてしまったけど、ゲームエンドは何とか免れた。ボクはデッキから1枚カードを引く。

 

 

 

「チッ、さっさと負けていれば楽なものを」

 

「なに言ってるのさ──ここからが面白いんじゃない」

 

 

 

 メガネを取り外して上着の胸ポケットにしまう。これやると集中できて、カードの引きが強くなる気がする(・ ・ ・ ・)んだよね。所謂(いわゆる)『ルーティーン』ってやつだ。だったら最初から外せば良いじゃんって話だけど、すごい疲れるから頻繁には出来ないのが難点なんだ。

 

 

 

(……奴の場にモンスターはいないが、【竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー】は直接攻撃(ダイレクトアタック)は出来ない……だが手はある!)

 

「1枚カードを伏せてターンエンドだ!」

 

「ボクのターン、ドロー! まずは(トラップ)発動、【無謀な欲張り】! さらに2枚ドローする!」

 

 

 

 手札を4枚に増やす。このターンで状況を打開できなきゃ絶望的だ。さて……何を引けたかな?

 

 

 

「……おっ!」

 

 

 

 引いたカードの中の1枚を見て、ボクは小さく声を上げた。それはあの時、ボクが店内のストレージで偶然見つけて即買(そくばい)した、モンスターカードだった。

 

 一見ただの低レベルモンスター。でも、この子の力はボクのデッキで必ず役に立つ──直感的にそう確信して、新たにデッキに入れた1枚だ。良いタイミングで来てくれたね。

 

 

 

「歓迎するよ、新入りくん。──ボクはこのモンスターを召喚! 【コドモドラゴン】!!」

 

 

 

 ポンッとフィールドに現れた、つぶらな瞳が愛くるしい小型のドラゴン。【ポケ・ドラ】を彷彿とさせる可愛らしいモンスターの登場に、周りの皆は──ストア・ブレーカーも含めて──ポカンとした表情になった。

 

 

 

「可愛いのです~!」

 

「……キサマ、なんだその弱小モンスターは」

 

「カカカカッ!! もう勝てねぇと分かって勝負を投げたみてぇだなぁ! わざわざ、しかもそんなちっちぇードラゴンを召喚するなんてよぉ!」

 

 

 

 ……【竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー】の効果により【コドモドラゴン】は守備表示にされ、ドラゴン族が場に出た事で【バスター・ブレイダー】自身の攻撃力もアップする。

 

 

 

【コドモドラゴン】 守備力 200

 

【竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー】 攻撃力 4800 → 5800

 

 

 

『こここ、攻撃力5800っ!? この攻撃力の差は歴然だぁあーッ!!』

 

「ククッ、どうやら本気で諦めた様だな」

 

「……どうだろうね?」

 

「なに?」

 

「手札から魔法(マジック)カード発動! 【痛み分け】!」

 

「なっ!?」

 

「お互いに自分のモンスターを1体リリースする! ボクは発動コストとして【コドモドラゴン】をリリース! 君にも自分のモンスターを自分で(・ ・ ・)選んでリリースしてもらうよ!」

 

「ぐっ……!」

 

「──最も、君のフィールドには【竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー】しかいないから、選択の余地は無いんだけどね」

 

(自分で自分のモンスターをリリースだと……【破壊剣一閃】では無効に出来ない……くそっ!)

 

 

 

 百野がカードを墓地に送ると、【竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー】は光に包まれて消滅していった。百野は忌々しげに歯噛みする。

 

 

 

「そして、墓地に送られた【コドモドラゴン】の効果を発動! 手札のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚できる! 来て、ボクのエース、【ラビードラゴン】!!」

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

 空高く──とは行かず、店の天井ギリギリまで飛翔した【ラビードラゴン】の巨影が、百野を覆い尽くす。

 

 

 

「わぁ~、セツナさんの【ラビードラゴン】、久しぶりに見たのです~!」

 

「【コドモドラゴン】の効果を使ったターン、バトルは行えない。ボクはカードを1枚伏せてターンエンド! さぁ、君のターンだよ!」

 

「………フッ……クッ、ククク……!」

 

「?」

 

「バカめ! これで勝ったと思うなよ! リバースカード・オープン! 【リビングデッドの呼び声】!」

 

「!」

 

「よみがえれ! 【バスター・ブレイダー】!!」

 

 

 

 墓地からフィールドに舞い戻った、元祖【バスター・ブレイダー】。再びボクのドラゴンと対峙し、剣尖(けんせん)を差し向ける。

 

 

 

『なんとー! ここに来て【バスター・ブレイダー】が復活だぁーッ!!』

 

「本来ならキサマへの直接攻撃(ダイレクトアタック)要員として呼び出すつもりだったが……まぁいい。今、キサマのフィールドと墓地にはドラゴン族が合計4体。よって【バスター・ブレイダー】の攻撃力は、2000ポイントアップ!」

 

 

 

【バスター・ブレイダー】 攻撃力 2600 → 4600

 

 

 

「クククッ、今度こそ終わりにしてやる……!」

 

「っ……」

 

「私のターン、ドロー! ……ふん! 【バスター・ブレイダー】で【ラビードラゴン】を攻撃!!」

 

 

 

- 破壊剣一閃!! -

 

 

 

(勝った!!)

 

「……残念だったね」

 

「!?」

 

「リバースカード・オープン! (トラップ)カード・【不屈の闘士】!」

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950 + 4600 = 7550

 

 

 

「! 攻撃力7550だと!?」

 

 

 

 うわぁ、これはボクもビックリ。ここまで攻撃力が跳ね上がったのは初めてかも。

 

 

 

「【不屈の闘士】は自分の場のモンスターが1体だけの時、そのモンスターの攻撃力を、相手の場の攻撃力が一番低いモンスターの攻撃力分アップする!」

 

(くっ、対抗手段が……!)

 

「これでチェックメイトだよ! 【ラビードラゴン】の迎撃!」

 

 

 

- ホワイト・ラピッド・ストリーム!! -

 

 

 

 【バスター・ブレイダー】は白い光の奔流を浴びて、瞬く間に消し飛ばされた。そして光線は勢いを止めずに百野にまで直撃し、超過ダメージを彼に与えた。

 

 

 

「うわああぁぁっ!!」

 

 

 

 百野 真澄 LP 0

 

 

 

『決まったァァァァッ!! 勝者(WINNER)総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)ァアーッ!!』

 

「やったー! さすがセツナさんなのですーっ!!」

 

「あ、兄貴ィー!? そんなバカなぁ!」

 

 

 

 大歓声が店内を揺らす。あー疲れた。どうにか勝てて良かった~。正直こんな心臓に悪い決闘(デュエル)はもうやりたくないや……。

 

 百野は床に座り込んで、小太り男と細身の男に支えてもらっていた。ボクはメガネを掛け直すと彼らの前まで歩み寄り、百野の足下に落ちていた1枚のカードを拾った。ラストターンで百野がドローした唯一の手札で、【ラビードラゴン】の攻撃を食らって吹っ飛んだ拍子に手元から落としたカードだ。

 

 

 

(【ドラゴン・ライダー】か……あの局面で引いても、使いどころがなかったね)

 

「……その(・ ・)デッキが君を勝たせようと思っていたなら、ボクのカードを除去できるカードを引かせた(はず)だよ」

 

「なんだと……!」

 

「せっかく百個もデッキを扱える実力があるんだからさ、自分で1からデッキを作ってみなよ」

 

 

 

 それだけ言い残して、ボクは決闘(デュエル)フィールドから降りた。すると司会者さんがボクの両手をガッシリと握ってきた。

 

 

 

「ありがとう!! 君は我が店を救ってくれた恩人だーっ!!」

 

「わっ、そんな大袈裟な……」

 

「お前スゲー強ぇな! なぁ、次は俺と決闘(デュエル)しようぜ!」

 

「え?」

 

「なに言ってんだ、俺が先だ!」

 

「いや俺だ!」

 

「わたしもセツナさんにリベンジしたくなったのですー!」

 

「ええっ!?」

 

 

 

 どういうわけだか続々と挑戦者が増えてきている……いやいや多すぎ! この人数は手に負えないって! ただでさえ集中モードで決闘(デュエル)して消耗してるのに!

 

 

 

「ちょ、ちょちょ……ちょっとタンマーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんやかんやで最後の一人まで全員の相手をするハメになり、気づいたら本当に優勝していたのが今日のハイライト。マジで死ぬかと思ったよ。

 

 ちなみに優勝賞品は高額なDP(デュエルポイント)とレアカードでした。翌日、記文ちゃんの手により、この時の写真が学園のニュース記事に大きく掲載されて、余計に目立つ事になってしまったのはナイショ(苦笑)。

 

 

 

 





 というわけで、原作・遊戯王Rより、百野 真澄さんにご登場いただきました! タイトルで誰が出るのかバレバレでしたね(笑)

 今後も原作の様々なキャラを作品内でお借りする予定です!

 感想など、お待ちしております( ^ω^)


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TURN - 19 coffee time


 セツナよ、先に言っておく。今回のお前はほぼ空気だ。

 セツナ「えっ」



 

「選抜試験まで後2週間かぁ……」

 

 

 

 携帯端末で日付を見ながら、ボクはそう呟いた。

 

 時間というのは案外あっという間に過ぎていくもので、最初の頃は待ち遠しいとすら感じていた『選抜デュエル大会』が、気づけばもう間近まで差し迫っていた。

 

 あんなに暑かった夏も終わりが近づいてきて、徐々に日が沈むのが早くなっている。

 

 今年の夏を振り返ってみると、本当に色々な事があったなぁ。アマネ達と海に行ったり、カリスマ決闘者(デュエリスト)決闘(デュエル)したり、カードの精霊に襲われたり、カードショップの大会で優勝しちゃったり……あれ? ほとんど決闘(デュエル)ばっかりしてるのは気のせい?

 まぁ何にせよ、危ない目にも何度か遭ったけど、充実した濃い時間だったと思う。そうそう、この前は皆と一緒に、お祭りに行って遊んできたんだよね。楽しかったな~。アマネとマキちゃんとルイくんの浴衣姿、眼福だったよ。

 

 ──さて、思い出話はこの辺にしとこうか。

 

 そんなわけで今、学園の高等部の生徒達は、(きた)る『選抜デュエル大会』という大舞台に向けて、より一層決闘(デュエル)研鑽(けんさん)に励んでいる。

 かく言うボクも、学園最凶の決闘者(デュエリスト)鷹山(ヨウザン) (カナメ)にリベンジするって目標があるから、実技の授業に関しては真面目に取り組んでいる。筆記はいつもながら壊滅的だけど(遠い目)。

 ……そう言えば、カナメとは初めて決闘(デュエル)したあの日以来、一度も会ってないんだよね。普段ちゃんと登校してるのかな?

 

 アマネに聞いてみたところ、驚くべき答えが返ってきた。

 

 

 

鷹山(ヨウザン)? あぁ、あの人、学園側から全課程を免除されてるのよ」

 

「えっ!? それってもう授業に出なくても卒業できるってこと!?」

 

「そう」

 

「う、うらやましい……」

 

 

 

 ボクがそんな事になったら学食の為にしか学園に来なくなりそう。ムダに()()しいんだもん、あの食堂の料理。噂では、三ツ星レストランで働いていた元フレンチシェフが作っているとか。

 

 

 

「だから学園には滅多に来ないのよね。もし来てたら何か特別な用事か気まぐれか……あっ、確か駅前の喫茶店によく居るって聞いた気がする」

 

「へぇ、喫茶店かー……」

 

 

 

 なんか……優雅にコーヒーを飲みながら本を読んでる姿が容易に想像できた。

 

 

 

(放課後そこに寄ってみようかな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園から下校したボクは、ものは試しとアマネに教えてもらった喫茶店を探して、駅前へと寄り道してみた。端末で検索して表示されたマップを確認しながら歩き回り、すぐに目的の店の看板を発見する。

 

 

 

「ここか……『CAFE(カフェ) LA() MOON(ムーン)』」

 

 

 

 レトロモダンな雰囲気の、小さな喫茶店だった。目撃情報が正しければ、この中にカナメが居るかもしれない。そう思うと、妙に緊張してしまうのは何故だろう。

 ボクは意を決して、店の木製の扉を開けた。カランカランとベルが鳴る。店内は冷房が効いていて、残暑の日照りに晒された身体に心地よい冷風が染み渡る。店員の若いお姉さんに「いらっしゃいませ~! お好きな席へどうぞ!」と、声をかけられたので、軽く店内を散策する。

 

 BGMのクラシックの穏やかな音色が心を落ち着かせ、天井に飾られた絢爛(けんらん)なシャンデリアが、淡い光で店内を優しく照らしている。カウンターが一つと、テーブル席がいくつか配置してあり、窓際にはソファー席が置かれていた。

 

 そして──

 

 

 

「! ……あははっ、ホントに居たよ」

 

 

 

 その窓際の、黒い革張りのソファー席の一つに座って、一人静かにコーヒーを嗜んでいる、黒髪の青年を発見した。

 どっからどう見ても鷹山(ヨウザン) (カナメ)だ。我ながら自分の運命力が怖い。

 

 なんだか初対面の時と構図が似てるな。カナメが座ってて、ボクが立ってる。デジャヴを感じる。

 

 ボクはカナメの向かいの席に腰を下ろす。カナメは無言のまま伏せていた瞳を微かに(ひら)き、透き通る様な碧眼(へきがん)で、ボクの顔を見据えた。リアクション薄いって言うか、ほぼ無反応って……相も変わらず何を考えてるのか分からない人だね。

 

 

 

「驚かないの?」

 

「……今日はここに居れば、お前が来るような気がしたからな」

 

「……!」

 

 

 

 逆にこっちが驚かされた。メガネのレンズの奥でボクが目を丸くしていると、カナメは小さく笑みを浮かべて右手に持っていたコーヒーカップを口元に傾け、優雅に一口。イメージ通り、彼がコーヒーを飲む姿は、品があって(サマ)になっていた。

 

 

 

「お前もどうだ? さすがは『ブルーアイズ・マウンテン』。コクが違うぞ」

 

「ブルーアイズ・マウンテン?」

 

 

 

 ふと、テーブルの上に置いてある会計伝票に目が行った。そこに書かれていた金額を見た途端、ボクは目玉が飛び出すところだった。

 

 

 

「3000円!?」

 

 

 

 家計にバーストストリーム!! どんな高級豆を使ってるの、このコーヒー!?

 

 飲み終えたらしいカナメが通りかかった店員さんを呼び止めて、

 

 

 

「おかわりだ」

 

 

 

 まだ飲むんかい。

 

 

 

「じゃあ、ボクも同じのを一杯お願い」

 

 

 

 一杯3000円のコーヒーがどんな味なのか、すごく興味がある。

 

 数分後、テーブルには二杯のブルーアイズ・マウンテンが。

 恐る恐る一口。

 

 

 

「……おいしい……!」

 

 

 

 馥郁(ふくいく)とした芳醇な香り。口当たり柔らかで、苦味と甘味と酸味がバランス良く調和した絶妙な味わい。カナメの言う通り、コクが違う。

 

 

 

「……まだまだだな」

 

「えっ? ボクには()()すぎるくらいなんだけど?」

 

()()()決闘(デュエル)から更に(ちから)をつけた様だが……その程度では俺を(たの)しませるにはまだ足りない」

 

「あ、デュエル(そっち)の話?」

 

 

 

 ほんっと自分のペースで急に話題を変えるとこあるよね、カナメって。会話のキャッチボールならぬ、会話のドッジボール。

 

 ボクはカップを受け皿(ソーサー)の上に戻して、微笑みながら答える。

 

 

 

「次は──」

 

 

 

 !?

 

 心臓が跳ねた。喫茶店の外から突如、けたたましい爆音が飛び込んできた。ボクの声はそれに遮られてしまい(たま)らず耳を塞ぐ。『次は勝つ』ってクールに言い切ってやるつもりだったのに! なんかボクこういうの多くない!?

 

 どうやら騒音の正体は、バイクのマフラーを吹かした音みたいだ。それも1台や2台じゃなく、何台ものバイクが店の前にたむろして、好き放題にマフラーを空ぶかししている。暴走族か何かだろうか?

 

 静かなコーヒーブレイクを台無しにされて、他のお客さんは迷惑そうに顔をしかめている。店員さんやバリスタさんは、困った様子で窓の外を窺っていた。

 

 

 

「フゥ……騒々しいな」

 

「カナメ?」

 

 

 

 カナメは呆れた様に小さく息を吐くと、ゆっくりと席を立って、店の出入り口の方までスタスタと歩いていき、躊躇なく扉を開けて外に出ていった。ボクも急いで後を追う。

 

 

 

(うわ、うるさっ)

 

 

 

 外には案の定、バイク乗りの集団が我が物顔で公道に()まってバカ騒ぎしていた。ざっと十台かな。何もここで停まらなくたっていいのに。いや、どこだろうとダメだけどさ。

 

 ……ん? よく見ると騒いでいる男達に、一人の女の子が取り囲まれていた。緑色の髪をポニーテールに結んだ可憐な()で、着ている制服は、ジャルダン校の夏服だった。

 

 

 

「よぉーお嬢ちゃん、かわいいね~! 今から俺らと遊ばなぁい?」

 

「やっ……! 離してください……!」

 

「ヒュー! 声もかわえぇ~っ!」

 

「ギャハハハッ!」

 

 

 

 あちゃー、運悪く捕まっちゃったか。最近あぁいうガラが悪いの増えたから、帰り道では気をつけなさいって先生が言ってたっけ。

 

 女の子は涙目で震えている。これはセキュリティに通報待ったなしだな。ボクが端末を取り出した、その時──カナメが動き出した。

 

 

 

「おい」

 

「あん? ──ぎゃ!?」

 

 

 

 カナメは男の一人に声をかけたかと思うと、そいつが跨がっていたバイクを蹴り飛ばして、派手に転倒させた。

 

 バイク乗り達の注意が瞬時にカナメへと切り替わる。チャンスだ! ボクは僅かな隙を突いて、女の子の手を掴んで引っ張った。

 

 

 

「こっち!」

 

「あっ……!」

 

 

 

 女の子は無事に救出っと。一方のカナメは、やはりと言うべきか。チンピラ達の怒りを大人買いして、詰め寄られていた。

 

 

 

「なんだゴラてめぇ! ケンカ売ってんのか!!」

 

「女が逃げちまったじゃねぇかよクソガキがぁ!!」

 

 

 

 うひー、怖っ。頭に血が昇った男達が、カナメに暴言を浴びせかける。まさに四面楚歌だ。しかしそれでもカナメは、顔色ひとつ変えずに超然と言い放った。

 

 

 

「俺の前で(かしま)しく騒ぎ立てるな、不愉快だ。──さっさと消えろ」

 

「「「「っ!?」」」」

 

 

 

 ひと睨み。たったそれだけで、バイク乗りの男達は一瞬にして大人しくなってしまった。ボクまで背筋が冷たくなったよ……

 

 ビリビリと空気が震える中、チンピラの一人が思い出した様に慌てた声を出した。

 

 

 

「く、黒髪に青い眼……! こ、こいつ、まさか……あの鷹山(ヨウザン) (カナメ)か……!?」

 

 

 

 バイク乗り集団は一斉に狼狽する。相手はこの街(ジャルダン)の生ける伝説と称される決闘者(デュエリスト)。恐れを抱くのも無理ないか。

 

 

 

「……へっ、へへへっ、おもしれー」

 

「クランド!?」

 

 

 

 ドレッドヘアーと褐色肌が特徴の大男が、バイクから降りてカナメと対面した。仲間に『クランド』と呼ばれたその男は、左腕にデュエルディスクを装着して起動させた。どうやらカナメとやる気みたいだ。

 

 

 

「俺様がリーダーの(くれ)()() 蔵人(クランド)だ! さぁ構えろよ、鷹山 要! 叩き潰してやるぜ!」

 

(学園最凶だか何だか知らねーが、こんなガキに俺様が負けるわけがねぇ。こいつを負かせば俺様の名は一気にジャルダンに轟くぜ!)

 

「…………」

 

(この程度の相手に俺のデッキを使うまでもない……)

 

「そこの女」

 

「は、はいっ!?」

 

「デッキを貸せ」

 

「……え?」

 

 

 

 カナメは女の子のデッキを借りると、()()()()()()()()()()、それを自分の青色のデュエルディスクにセッティングした。

 

 バイク集団のリーダーを名乗った大男──クランドの顔がひきつる。

 

 

 

「テメェ……どういうつもりだぁ?」

 

「見れば分かるだろう。俺はこのデッキで相手してやると言っているんだ」

 

「ねぇ、カナメ。デッキレシピは見とかなくていいの?」

 

「必要ない」

 

 

 

 ボクの問いに涼しい顔で、キッパリと返答するカナメ。さも当たり前みたいにハンデを付けてきたカナメに対して、クランドは遂にぶちギレた。

 

 

 

「……な、め、や、がっ、てぇぇえっ!! 野郎ぶっ殺してやる!!」

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 カナメ LP 4000

 

 クランド LP 4000

 

 

 

「先攻は貴様にくれてやる」

 

「この……どこまでも馬鹿にしやがって……!」

 

「早くしろ。コーヒーが冷める」

 

「…………!!!!」

 

 

 

 火に油どんだけ注ぐ気なのカナメさん。見てる方がヒヤヒヤするよ。クランドの仲間も「おいおいおい」、「死ぬわあいつ」、とか言ってるし。

 

 

 

「お望み通りぶっ潰してやる!! 俺様は【ディスクライダー】を召喚!」

 

 

 

【ディスクライダー】 攻撃力 1700

 

 

 

「カードを1枚伏せるぜ! これでターン終了だ!」

 

「では、俺のターン。ドロー。……ふむ」

 

 

 

 6枚の手札を眺めながら、カナメは何やら考え事をしている。もしかして本当に知らないデッキなのかな?

 

 

 

「……なるほど。なら俺は、【ジェムナイト・ラピス】を召喚」

 

 

 

【ジェムナイト・ラピス】 攻撃力 1200

 

 

 

 現れたのは綺麗で可愛らしい宝石の様なモンスターだった。

 

 

 

「ハッ! んな雑魚モンスターで何が出来んだよ!」

 

 

 

 クランドの心ない言葉に元の持ち主である女の子は悔しげな表情を見せた。自分のカードを(けな)されるのは、誰だって良い気はしない。ボクは彼女の肩に手を置いて優しく話しかけた。

 

 

 

「大丈夫だよ。カナメを信じて」

 

「あ、あなたは……?」

 

「ボク? ボクは総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)。君と同じ、ジャルダン校の生徒さ」

 

「アゲマキ……あっ! もしかして『十傑(じっけつ)』の九頭竜(くずりゅう)さんに勝った転入生の!?」

 

「あははっ、その覚えられ方も懐かしいね」

 

 

 

 この子の為にも絶対に勝ってよね、カナメ。

 

 

 

「カードを2枚伏せてターン終了(エンド)だ」

 

「俺様のターン!」

 

(このクランド様を怒らせるとどうなるか……思い知らせてやるぜ!)

 

「俺様は(トラップ)カード・【強欲な(かめ)】を発動! カードを1枚引かせてもらうぜ!」

 

「好きにしろ」

 

「さらに魔法(マジック)カード発動! 【儀式の下準備】! デッキから儀式()(ほう)・【スカルライダーの復活】と、儀式モンスター・【スカルライダー】を手札に加えるぜ!」

 

 

 

 クランドは儀式召喚を使うのか……! 以前、海で戦ったアマネの元カレ、鯨臥(いさふし)を思い出すプレイングだ。心なしかキャラも似てる。

 

 

 

「そして【スカルライダーの復活】を発動! 手札の【アンサイクラー】、【ヴィークラー】、【トライクラー】の3体を墓地に送る!」

 

 

 

 生け贄となった、3体のモンスターの合計レベルは6。フィールドに落雷が発生し、どこからかブォンブォンとバイクのコールが爆音で聴こえてくる。

 

 

 

「狂い咲け! 爆裂音! カードの荒野に、戦慄の(わだち)を刻め!! ──儀式召喚!! 轟け! 伝説の爆走王・【スカルライダー】!!」

 

 

 

【スカルライダー】 攻撃力 1900

 

 

 

 アレが彼のエースモンスターらしい。クランドの仲間達の盛り上がりが異常だ。奏でる騒音が耳に響く。

 

 

 

「ハッハーッ! まだまだ飛ばすぜぇ! 手札から【カオスライダー グスタフ】を召喚!」

 

 

 

【カオスライダー グスタフ】 攻撃力 1400

 

 

 

「【グスタフ】の効果発動! 墓地の魔法(マジック)カードを2枚まで除外し、1枚につき300ポイント攻撃力をアップする! 【儀式の下準備】と【スカルライダーの復活】を除外だぁ!」

 

 

 

【カオスライダー グスタフ】 攻撃力 1400 + 600 = 2000

 

 

 

「さらに【ディスクライダー】の効果も発動だぁ! 墓地の(トラップ)カード・【強欲な瓶】を除外し、攻撃力を500ポイントアップ!」

 

 

 

【ディスクライダー】 攻撃力 1700 + 500 = 2200

 

 

 

 これでクランドのモンスターの攻撃力の総計は6100! 【ジェムナイト・ラピス】1体じゃ太刀打ちできない……!

 

 

 

「くっくっく……覚悟は出来てんだろうなぁ?」

 

「……」

 

「バトルだぁ! 3体のモンスターで総攻撃! 『暴走上等 参連(さんれん)悪辰苦(アタック)』!!」

 

 

 

 攻撃宣言を受けたバイクモンスター達が一斉に爆走を開始した。【ラピス】とカナメを()ね飛ばそうと、アクセル全開で突進する。

 

 

 

(トラップ)カード・オープン。【()(ぼく)の使者】」

 

「!?」

 

 

 

 水色の修道服に身を包んだ3人の女性が出現し、聖なる加護の力で敵の攻撃を全て受け止めた。

 

 

 

「そんな単調な攻撃は俺には効かない」

 

「ぐっ……たかが1ターン生き延びたぐれぇでいい気になってんじゃねぇ!」

 

 

 

 いやいや、カナメ相手に手札(ゼロ)でターンを渡すとか自殺行為だから。

 

 

 

「……やはり貴様の決闘(デュエル)には、鉄の意志も鋼の強さも感じられない」

 

「なにぃ!?」

 

「これ以上は時間の無駄だ。このターンで終わらせる」

 

 

 

 クランドとは対照的に、カナメは大袈裟な動きはせず、淡々とカードをドローする。……もう今のカナメは対戦相手(クランド)の事なんて、見てもいなかった。

 

 

 

(けっ! ハッタリだ……そうだ、ハッタリに決まってる! まだ状況は圧倒的に俺様が有利……)

 

「手札から永続魔法・【ブリリアント・フュージョン】を発動。デッキから【ジェムナイト・アレキサンド】、【ルマリン】、【エメラル】の3枚を墓地へ送り、この3体を融合する」

 

「! デッ、デッキのモンスターで融合だとぉ!?」

 

 

 

 3つの宝石が(まばゆ)い光を放ちながら1つになっていく。

 

 

 

「昼と夜の顔を持つ()(せき)よ。(いかずち)帯びし()(せき)よ。幸運を呼ぶ緑の輝きよ。光渦巻きて新たな輝きと共に一つとならん! ──融合召喚。現れよ、輝きの淑女──【ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ】!」

 

 

 

 神々しい輝きを纏う、気高くも美しい女騎士が、(つるぎ)を携え舞い降りた。

 

 

 

「【ブリリアント・フュージョン】の効果で融合召喚したモンスターは、攻撃力・守備力が(ゼロ)になる」

 

 

 

【ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ】 攻撃力 0

 

 

 

「は……はははっ! せっかく召喚しても、攻撃力(ゼロ)じゃどうしようもねぇなぁ!」

 

「手札の魔法(マジック)カード・【ジェムナイト・フュージョン】を墓地に捨て、【ブリリアント・フュージョン】の2つ目の効果を発動。攻撃力を元に戻す」

 

 

 

【ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ】 攻撃力 0 → 3400

 

 

 

「なんだとぉ!? 攻撃力3400!?」

 

「続いて【ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ】の効果発動。1ターンに一度、自分フィールドの【ジェムナイト】1体を墓地に送る事で、エクストラデッキから【ジェムナイト】の融合モンスター1体を、召喚条件を無視して特殊召喚できる。俺は【ラピス】を墓地へ送り、【ジェムナイト・プリズムオーラ】を特殊召喚。──『グラインド・フュージョン』!」

 

 

 

【ジェムナイト・プリズムオーラ】 攻撃力 2450

 

 

 

「【プリズムオーラ】のモンスター効果。手札の【ジェムナイト】をコストに、表側表示のカード1枚を破壊する。【ディスクライダー】を破壊」

 

 

 

 【ジェムナイト・プリズムオーラ】の操る円錐形の大槍(ランス)が【ディスクライダー】を刺突して破壊する。

 

 

 

「ぐおぉっ!! く、くそっ……!」

 

「そして、たった今墓地に捨てた【ジェムナイト・オブシディア】の効果を発動。こいつが手札から墓地に送られた場合、墓地のレベル4以下の通常モンスターを特殊召喚できる。【ジェムナイト・ルマリン】を蘇生」

 

 

 

【ジェムナイト・ルマリン】 攻撃力 1600

 

 

 

「す、すごい……! 初めて見る筈の私のデッキを、ここまで使いこなせるなんて……!」

 

 

 

 確かに女の子の言う通り。カナメはしれっと、凄い()()をやってのけている。慣れないデッキをミスもなく器用に回してここまでコンボを繋げるなんて、並の決闘者(デュエリスト)には不可能に近い。

 

 今度はカナメの場に3体のモンスターが揃った。これだけ展開していながら、まだ通常召喚権を残してるんだから驚きだよ。

 

 

 

「バトルだ。まずは【ブリリアント・ダイヤ】と【プリズムオーラ】で攻撃」

 

 

 

 【ブリリアント・ダイヤ】が【スカルライダー】を、【プリズムオーラ】が【カオスライダー グスタフ】を、それぞれ撃退した。クランドのフィールドは完全にガラ空きだ。

 

 

 

「ぐわあぁぁぁっ!!」

 

 

 

 クランド LP 4000 → 2050

 

 

 

「【ルマリン】で直接攻撃(ダイレクトアタック)

 

「ぎああぁぁあっ!?」

 

 

 

 クランド LP 450

 

 

 

 あれ、ライフポイントがギリギリ残っちゃったよ!? このターンで終わらせるって言ってたのに大丈夫なの……って、あぁ、そっか。

 

 

 

(まだカナメのフィールドには、伏せ(リバース)カードがもう1枚あったんだ)

 

「……俺の安らかな一時(ひととき)を邪魔してくれた罰だ。貴様には、より屈辱的な敗北を与えてやる」

 

「なっ……なにィ……!?」

 

(トラップ)発動、【ジェム・エンハンス】。【ブリリアント・ダイヤ】をリリースし、墓地の【ジェムナイト・ラピス】を復活させる」

 

 

 

【ジェムナイト・ラピス】 攻撃力 1200

 

 

 

「最後は貴様が雑魚と(ののし)ったモンスターの攻撃で、無様に散っていけ」

 

 

 

 小さなジェムナイトの少女が、クランドにトドメの一撃を放つ。

 

 

 

「うっ……うわああああああっ!!!?」

 

「これで────〝(おう)()〟だ」

 

 

 

 ……再認識したよ。これが学園最凶の決闘者(デュエリスト)鷹山(ヨウザン) (カナメ)──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プレイヤーのライフポイントが(ゼロ)になった事を告げる音が、デュエルディスクから鳴り、勝者と敗者が決定した。

 

 

 

 クランド LP 0

 

 

 

 決闘(デュエル)はカナメの圧勝で決着。完敗を喫したクランドは、地に膝と両手を突いて(うな)()れていた。

 

 

 

「馬鹿な……この俺様が……一度もダメージを与えられずに……!」

 

 

 

 あー、その気持ちスッゴい分かる。割りとガチで(へこ)むよね。

 

 他のバイク乗りの仲間達は、リーダーが手も足も出ないまま敗北したという信じ難い現実に戸惑っている様で、カナメを恐怖の対象と見て、怯えながら後退(あとずさ)っている。

 

 

 

「もう一度だけ言う。──今すぐ俺の視界から消え失せろ」

 

「「「「ひっ、ひぃぃぃぃぃっ!!」」」」

 

 

 

 まるで氷みたいに冷たい眼で()め付けられて、クランド含めたバイク集団は、悲鳴を上げながら()()の子を散らす様に退散していった。さぞカナメの存在がトラウマになったことだろう、ご愁傷様。

 

 やっと静かになったところで、カナメはディスクからデッキを取り出すと、それを女の子に返した。

 

 

 

「あっ、あの……!」

 

「フッ……美しいモンスター達を使うんだな。いつか戦える日を(たの)しみにしているぞ」

 

「……!!」

 

 

 

 カナメは女の子に背中を向けて歩き始めた。もう帰っちゃうらしい。

 

 

 

「……鷹山さん……!」

 

 

 

 おや? 女の子の様子が……

 女の子は返されたデッキを握り締めながら頬を赤らめ、目の中にはハートマークが浮かび上がっていた。

 

 アレか! カナメに『ほ』の字なのか!?(死語)

 

 

 

「わっ……私! ジャルダン校、高等部1年の宝生(ほうしょう) (アカ)()と言います! あ、ありがとうございました!!」

 

 

 

 (アカ)()ちゃんって言うのか。カナメの背に精一杯に声を投げ掛ける明里ちゃん。

 

 対するカナメはピタッと立ち止まり、振り返ると、こう言った。

 

 

 

「悪いが俺は……弱い奴の名など覚える気はない」

 

「──ッ!?」

 

 

 

 カナメが明里ちゃんを見る眼は、つい先程クランド達に向けたそれと全く同じ……酷く冷たいものだった。

 

 

 

「俺を倒せる自信がついたなら()()でも挑んでこい。(たの)しめたなら覚えてやる」

 

 

 

 さらっと無茶な条件を提示して、カナメは明里ちゃんを視界から外した。凍てつく様な威圧感から解放された明里ちゃんは、デッキをバラバラと地面に落とし、膝から崩れ落ちてしまった。かわいそうに。

 

 容赦ないなー、カナメったら。ボクはこちらに歩いてくるカナメに喋りかける。

 

 

 

「女の子にあんな顔しなくても」

 

「俺の知った事ではない」

 

 

 

 ズバッと言い切るカナメ。ボクは肩を(すく)めて苦笑した。

 

 ──すれ違い様、再びカナメが口を開いた。

 

 

 

「お前は俺を愉しませてくれるんだろうな? 総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)

 

(──! 名前を……)

 

「……フフッ、嬉しいね」

 

 

 

 多少なりとも認めてくれていたのかな? だけど、自分が負ける可能性なんて微塵も考えてない言い草だな。……ボクは顔を上げて答えた。

 

 

 

「いいや、次は勝つよ。今度は絶対に負けない」

 

「…………フッ、それは愉しみだ」

 

 

 

 短い会話を交わして、カナメは去っていった。次に会うのは選抜デュエル大会か……大見得を切った以上、カナメと当たるまでは誰にも負けられないね。

 

 さてと、そろそろ明里ちゃんを立たせてあげないと。ボクは未だに呆然としている彼女に手を差し伸べた。

 

 

 

「立てる? 明里ちゃん」

 

「っ! あ……は、はい……」

 

 

 

 明里ちゃんの手を取って、ゆっくりと立ち上がらせる。その後、地面に散らばったカードを1枚1枚、拾い集める。

 

 

 

「す、すみません、ありがとうございます……」

 

「気にしなくて良いよ。大事なカードが飛ばされたりしたら困るもんね」

 

 

 

 謝りながら明里ちゃんも、せっせとカードを回収していく。

 

 にしても本当に綺麗なモンスター達だなぁ、【ジェムナイト】シリーズ。融合モンスターこんなに種類あるんだ? あっ、【吸光融合(アブソープ・フュージョン)】発見。()()にテストで間違えて『アブソーブ』って書いちゃって、ケアレスミスで減点されたっけ。悔しかったなぁ。

 

 全部のカードを拾い終えて明里ちゃんに手渡す。欠けたカードは無いみたいだった、一安心。

 

 

 

「じゃあ、気をつけて帰ってね」

 

「はい!」

 

 

 

 深々とお辞儀して駅まで走っていく明里ちゃんを手を振って見送る。

 

 やれやれ。ちょっと寄り道しただけで、またトラブルに巻き込まれちゃったなぁ。決闘(デュエル)はしてないけど疲れたしボクも帰るか。……ん? 何か重大な事を忘れている気が……

 

 

 

「あ"っ!!!?」

 

 

 

 コーヒー代まだ会計してない!!!!!!

 ていうか、カナメ支払ってなくない!? このままじゃ無銭飲食になっちゃうよ!!

 

 

 

「はぁ……しょうがないなぁ、ここはボクが払っておくよ」

 

 

 

 自分で注文した分も合わせて、総額9000DP(デュエルポイント)か。さすがにちょっと痛い出費かも……

 

 

 

「あぁ、お代なら要らないよ。君達はあの迷惑な暴走族を追い払ってくれたからね、そのお礼って事で」

 

「ホント!? ラッキー!!」

 

 

 

 カナメの奴、さてはこうなるのを見越してたな?

 

 まぁ何はともあれ一件落着。終わり良ければ全て良し! ブルーアイズ・マウンテンは絶品のコーヒーだったから、明日アマネ達にも教えてあげようっと。

 

 

 

 





 これにて遊戯王INNOCENCEの第1章は終了です! まさかの章の最終話で主人公がデュエルしないというww

 まずはここまで読んで頂き、ありがとうございます!!
 感想が貰えたり、お気に入り登録数や投票も増えてきて、とても励みになります! コラボにまでお誘い頂けて、自分の作品を好いてくれる方々がいるという事実が高いモチベーションとなっております!

 次回からは、ついにやっといよいよ第2章・『選抜デュエル大会編』がスタートします!!

 アニメGXで言ったら、OPが『快晴・上昇・ハレルーヤ』から『99%』に変わるタイミングです!(?)
 もうすぐアマネやルイくんのデュエルが書けるよー! うおーん!( TДT)

 まだまだまだまだまだまだ続くセツナ達のストーリー。完結まで先は長いですが遅筆なりに頑張って書いていきます!

 これからも応援よろしくお願いします!

 P.S. 冒頭で軽く触れた夏祭りの話に関しては後々どこかで執筆する予定です。浴衣デートどうしても書きたいんじゃ(*´Д`)


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第2章 選抜デュエル大会編 - Battle Field -
TURN - 20 Commencement of Convention !!



 『選抜デュエル大会』編──開始!!



 

 規則的なアラーム音が熟睡していたボクの意識を叩き起こす。

 えーっと、どこ行ったボクの端末。直前まで夢見心地だった頭を働かせてモゾモゾと腕を動かし、部屋中に鳴り響く無機質な音の発信源を探索する。確か枕元のこの辺に……あ、あった。

 

 携帯端末を掴んで画面に表示されているアイコンをタップすると、ようやく目覚まし音がピタリと停止した。寝ぼけ(まなこ)で時間を見てみれば、ちょうど朝の7時。おはよう世界。

 

 カーテンの隙間からは爽やかな日の光が差し込んでいる。今日も良い天気みたいだ。

 上体を起こして、あくびを一つ。寝起きは良い方なので、すぐに布団から出てベッドを降りる。

 

 頭を掻きながら洗面所に向かう途中で、壁に掛けてあるカレンダーが目に入った。

 今日より前の日付には、全て黒の油性ペンで×(バツ)印が書き込まれている。そして()()の日付の欄には、同じ黒字で大きく、『選抜試験スタート!』と記入してあり、丸で囲んであった。

 

 そう。今日という日はボクにとって……いや、ボク達デュエルアカデミア・ジャルダン校の高等部の生徒全員にとって、一年間の中で最も重要な一大イベント──

 

 

 

 『選抜デュエル大会』の開催日、その初日なんだ。

 

 

 

「…………いよいよ始まるんだね」

 

 

 

 中途で転入して高等部2年からジャルダン校に通い始めたボクは、今年が初参戦となる。

 どんな景色が観れるんだろう。今からワクワクが止まらないよ。

 

 さっ、身支度を済ませましょうか。顔を洗って歯を磨いて服を着替えて、それから……寝癖を直して、ワックスを付けて髪型もバッチリOK!

 適当な朝ごはんを食べた後、ボクはハンガーに掛けておいた黒いジャケットを手に取り、白いワイシャツの上から重ね着した。

 

 夏が過ぎ去って、今の季節は秋。衣替えで再びこの制服を着る時季がやって来た。同色のスラックスや青色のネクタイと合わさって、シックな装いが気に入っている。

 

 最後にボクのトレードマークである、フレームが赤色の()()メガネを掛ける。これで身だしなみは整った。

 

 

 

「よし」

 

 

 

 デッキを腰のベルトに着けた革製のケースに仕舞い、デュエルディスクの入った鞄を肩に担いで登校の準備は完了。玄関で靴を履く。

 

 

 

「それじゃあ、行こっか」

 

 

 

 扉を開いて外に出れば、空は雲ひとつない抜けるような秋晴れだ。涼しい風が肌を撫で、癖っ毛な銀髪を揺らすのを感じながら、ボクは意気揚々と学園への一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──同時刻。

 

 シャワーを浴び終えた黒雲(くろくも) (アマ)()は、バスルームを出て裸身にタオルを巻いた。

 

 

 

「ふう……」

 

(ついに始まるのね……)

 

 

 

 セツナと同じく、アマネもこの日をずっと待ち焦がれていた。

 

 ──『選抜デュエル大会』、その当日を。

 

 結果次第ではアカデミア卒業後にプロ入りの道も確約される。生徒一人一人の、未来の決闘者(デュエリスト)としての人生を左右する、意義深い祭典だ。

 

 誰もがこの伝統ある大会で成果を出し、夢を掴むべく、日々決闘(デュエル)の腕を磨いてきた。勿論(もちろん)それは、アマネも例外ではない。

 

 

 

(去年は『十傑(じっけつ)』に負けて結果を出せなかったけど、今年こそは……!)

 

 

 

 彼女の脳裏に思い起こされるのは、昨年度の同大会で味わった、敗北の記憶。

 たゆまぬ努力で『ランク』を上げて中等部から高等部に進学し、念願の選抜試験への初出場を果たしたアマネだったが、格上の相手に惜しくも敗戦。あえなく予選で脱落した。

 

 筆舌に尽くしがたい悔しさだった。一時は才能の差に打ちのめされるも、しかしそこで折れる事なく、彼女は改めて精進を重ねた。

 

 そして一年後。アマネは遂に、最強のデッキを完成させたのだ。

 

 

 

「……このデッキがあれば、私は誰にも負けない」

 

 

 

 その言葉には、試行錯誤の末に組み上げた自分のデッキに対する厚い信頼と、確固たる自負が込められていた。

 

 待望していたセツナとの、本気の決闘(デュエル)にも心を躍らせながら、アマネが濡れた髪をドライヤーで乾かそうと、洗面化粧台の鏡の前に立った時──

 

 彼女の背後から突然、()()()の腕が伸びてきた。

 

 

 

「アマネた~~~~~ん!!」

 

「ッッッッッ!?!?」

 

 

 

 アマネに背中から抱きついた、ピンク色の髪を短めに切り揃えた少女の名は、()(づき) マキノ。アマネの同級生にして、親友(?)である。

 

 

 

「マママママキちゃん!? なんで居んのよ!?」

 

「ん~~~お風呂上がりのアマネたんは、いつにも増して良い匂い」

 

「人の話を聞い……あっ……!」

 

 

 

 アマネが虚を突かれて動揺している隙に、マキノはアマネが身体に巻いていたバスタオルを取り払い床に落とした。

 一糸まとわぬ、生まれたままの姿を晒したアマネの裸体を、マキノの両手が好き放題に這い回る。

 

 

 

「ハァハァ、アマネたんハァハァ」

 

「やっ、ちょ……やめ……! あ、んんっ……!」

 

 

 

 豊満な胸を鷲掴みにし、張りと弾力に満ちた柔らかな美乳を揉みしだく。そうかと思えば空いた片手は、くびれのある腰からスラリとした美脚の太腿(ふともも)までを、扇情的な手つきで(あい)()する。

 瑞々(みずみず)しく美しい肢体に十指を滑らせ、時に食い込ませ、その健康的な白い美肌の触り心地を思う存分に堪能する。

 

 

 

「おやおやぁ? おっぱいが最近また大きくなったのでは?」

 

「そ、んなことっ……あん……!」

 

「はぁ~……このボン・キュッ・ボンなボディライン……ふつくしい……」

 

 

 

 恍惚の表情を見せるマキノの魔の手から逃れようと、(なまめ)かしく身体をくねらせるアマネ。だが与えられる刺激によって彼女の頬は紅潮しており、振りほどこうにも上手く力が入らない。

 

 このままではマズイ──。アマネは(とろ)けかけた意識を、気力で覚醒させた。

 

 

 

「こっ、の……っ! セクハラッ!!」

 

「どひゃーっ!?」

 

 

 

 マキノが叩きのめされて、床に仰向けに臥せる。目を回して大人しくなったのを確認すると、アマネは丸出しの胸を腕で隠しながら、乱された呼吸を整えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、どうやって入ってきたのよ」

 

「えっ? そりゃあ針金で……愛の力だよ!!」

 

「今なんか物騒な単語が聞こえた気が……」

 

 

 

 不法侵入と猥褻(わいせつ)行為の詫びとして、マキノはアマネの両手の爪に、黒と赤のマニキュアを塗っていた。

 

 アマネは制服姿で()()に座って足を組み、マキノに爪を染めさせている。端から見れば女王様と、それに仕える侍女の様な構図であった。

 

 手際よくネイルケアを施しながら、マキノは言った。

 

 

 

「いよいよ始まるね」

 

「……そうね」

 

「アマネたんの新しいデッキがどんなのか、見るのが楽しみだよ」

 

「悪いけど、マキちゃんにだって負ける気ないから」

 

「あたしだって負けてやるつもりなんかないんだからね~?」

 

 

 

 二人は学園において、共に『ランク・B』の決闘者(デュエリスト)。中等部で知り合って以来の気が置けない仲であり、ずっと競い合ってきた好敵手(ライバル)でもある。(ゆえ)に戦う時は、お互い全力で勝ちに行く。アマネとマキノは顔を見合わせ、同時に笑みを浮かべた。

 

 

 

「はい出来たよ~!」

 

「ん。ありがとね」

 

 

 

 全ての爪に塗られたマニキュアが乾くのを待ってから、アマネは赤色のメッシュが入った長い黒髪を手で軽く(なび)かせた。

 

 

 

「行こう、マキちゃん」

 

「はぁーい!」

 

 

 

 平和な一悶着こそあったが、すでに気持ちは大会本番に向けて切り替わっていた。二人の美少女は学園へと歩を進める。片や妖しく光る赤い瞳に、片や可愛らしい桃色の瞳に、静かな闘志を秘めながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園に到着したボクは、校門を通り抜けて敷地内を悠然と歩いていた。

 

 やっぱり今日から選抜試験がスタートするとあって、周りの空気がいつもとどこか違う。なんて言うか……ピリピリしてる?

 

 

 

「邪魔だコラ!」

 

「きゃ!」

 

 

 

 前方を歩く数人の男子生徒の内の一人が、通りすがりの女の子を突き飛ばした。乱暴だなぁ、女の子は大切に扱わなきゃ。

 

 男子生徒達は全員、制服の色が黒だったから高等部の生徒らしい。

 一方、突き飛ばされた女の子は青色のブレザーを着てたから、中等部の生徒みたいだ。夏服よりも見分けがつきやすいね。

 

 

 

「中等部のガキんちょ共は退()いてた方がいいぜ!」

 

「今日、この学園は戦場と化すんだからよ!」

 

 

 

 戦場とは穏やかじゃないなー。まぁでも実際、それくらいの激戦は繰り広げられそうだ。

 

 

 

()()はない?」

 

 

 

 へたり込む女の子に右手を伸ばす。なんか前にもこんな事あったな。

 

 

 

「あ、ありが……っ!?」

 

 

 

 ボクの手を握った途端に女の子は目を見開いてボクを見た。この反応……もしかして、また『九頭竜くんに勝った転入生』うんぬん言われるのかな?

 

 

 

「あっ! あぁぁあのっ! 総角(アゲマキ)さん、ですよね!?」

 

「う、うん。そうだけど?」

 

「キャーッ!! 私、総角さんのファンなんです! サ、サイン貰っても良いですか!?」

 

「ファン!? えぇっ! サイン!?」

 

 

 

 突然の申し出にビックリして思考が追いつかない。ボクが困惑している間に、女の子はいつの間にやら色紙とペンをボクに差し出していた。

 

 

 

「お、おぉお願いしましゅ!」

 

 

 

 よっぽどテンパっているのか語尾を噛んでしまい、頭から煙が出るほど赤面する女の子。羞恥で腕をプルプルと震わせながらも、ボクが色紙を受け取るのをジッと待っている。

 

 ……これだけ健気に求められたら、応えないわけにはいかないね。

 

 

 

「うん……いいよ。貸して」

 

 

 

 ペンと色紙を借りると、女の子の表情は花が咲いた様に明るくなった。

 

 サインかぁ……まさか自分が書くなんて、考えた事もなかったな。

 どんな風に書こうかな? 普通にフルネームを漢字で書いても良いけど、画数が多いからなんかゴチャゴチャしそうだな……。ここはシンプルに、下の名前だけカタカナで『セツナ』って走り書きしちゃおうか。ボクの名前のイメージにも合うだろうし。

 

 そうと決まれば──ちょちょいのちょい!

 

 

 

「はい。これで良いかな? サインなんて初めて書くから、上手く書けてるか分からないけど」

 

「ふおおおおぉ……っ! 感激です! 感謝感激雨ありゃれでござんまするっ!!」

 

 

 

 うん。軽く日本語おかしくなってるけど、気に入ってもらえたみたいで良かった。

 

 

 

「あばばばっ、あとあと! 握手もしてもらえましぇんか!?」

 

「喜んで」

 

 

 

 ボクは快諾して、女の子と固い握手を交わす。さっき立ち上がらせる時にも手を掴んだから、実はこれで二度目だ。

 

 

 

(はわわ……大きい手……! 私、憧れの総角さんと、本当に握手してる!!)

 

「あっ……ありがとうございます総角さん!!」

 

「あははっ、別にセツナって呼んでくれて良いんだよ?」

 

「いっ、いいんですかっ!? で、でも私……ランク・Dだし……総角さんみたいな強い人にそんな馴れ馴れしいこと……」

 

「ランクなんて関係ないよ。じゃあ、ボクが呼んでほしいって言ったらダメ? ねぇ……セツナって、呼んで?」

 

「~~~~~っ!!」

 

 

 

 小首を(かし)げてウィンクしながら、そう言ってみた。ちょっとあざとかったかな?

 

 

 

「せ……せせっ、セツナさん!! 大会がんばってください応援してます!! ホントーにありがとうございましたぁぁぁぁぁっ!!」

 

「あ、ちょ……!」

 

 

 

 ボクがサインを書いた色紙を抱き締めながら、女の子は校舎に向かって全力疾走していった。心配してたけど、あの様子ならもう大丈夫そうだね。

 

 

 

(それにしても、ボクにファン、かぁ……)

 

 

 

 これが噂に聞く、モテ期ってヤツ?

 

 

 

「……あははは、いや~参っちゃうなぁもう~、あはははっ」

 

「何デレデレしてんのよ」

 

「セツナくんモテモテだね~」

 

 

 

 後ろから声をかけられて振り向くと、アマネとマキちゃんが仲良く並んで歩いてきていた。

 

 

 

「あっ、おはよう二人共。聞いてよ、さっきボクのファンだって子にサインをお願いされちゃってさ」

 

「後ろで見てたわよ、一部始終。それは良いけど、そんな緊張感のない顔してて大丈夫?」

 

「え? 何が?」

 

「……周り見てみなさいよ。セツナならもう気づいてるでしょ?」

 

「……うん」

 

 

 

 言われるがまま、周囲に目を走らせる。()()に着いた時から感じていた物々しい空気が、さらに重くなったのを察知した。特に高等部の他の生徒達は、皆一様に目をギラつかせて剣呑な雰囲気を醸し出している。

 

 

 

「さっきから決闘者(デュエリスト)特有の殺気みたいなのを感じるね」

 

「選抜試験は一度負けたらそこで終わりの勝ち抜き戦。ここにいる全員がライバルなのよ」

 

「セツナくんだけだよ~? そんなゆるーい顔してるの」

 

「えぇ~、そうかな? でも、マキちゃんも結構ユルくない?」

 

「あたしは朝イチでエネルギーを補給してきたから充電満タンだよ~!」

 

「?」

 

「…………」

 

 

 

 いつもながら元気なマキちゃんの後ろで、何やら気まずそうに視線を逸らすアマネ。若干、頬が赤くなってるのは気のせい?

 

 

 

「と、とにかく! セツナも今から気を引き締めておかないと足(すく)われるわよ! 私が倒す前に負けたら承知しないからね!」

 

「あははっ。分かってるよ、でも……」

 

 

 

 ボクは眼前に(そび)え立つ、外国の城をモデルにして設立されたかの様な、荘厳な校舎を見上げる。

 間もなくここで、プロリーグにも比肩する最大規模の決闘(デュエル)の大会が行われるんだ。

 

 思わず身震いする。ガラにもなく、ボクも燃えてきたみたいだ。

 

 

 

「──せっかくやるなら、楽しまなくちゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すっかり慣れ親しんだ教室に入ると、クラスメートの皆が普段と変わらず談笑していた。だけどやっぱり今日は目の色が違う。皆この大会で勝ち上がる為に、今まで頑張ってきたんだもんね。

 

 

 

「おっす総角!」

 

「おはよう、コータ」

 

 

 

 黄色い短髪の男子が挨拶をしてくれた。彼は川陽(せんよう) (こう)()くんと言って、快活な性格で何かと気が合う良い友達だ。愛称はコータ。ちなみにランクは『C』。

 付け加えると、夏にボクがアマネを自宅に呼んだ件について、真っ先に食いついてきた、例の彼である。

 

 

 

「へへっ、いよいよだな。もしお前と当たったら絶対に勝つからな!」

 

「ボクだって負けないよ!」

 

 

 

 それから数分後、担任の先生からの指示で、クラス全員が教室を出て移動する事に。

 

 行き先は、大会の『本選』の舞台となる会場──『センター・アリーナ』だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おぉ~っ、スッゴい広い。しかも超満員だね」

 

 

 

 場内を一望して見たまんまの感想を口にする。

 

 『センター・アリーナ』は学園1の占有面積を誇り、ジャルダン校の象徴とも言われている()()()()だ。内部の中央には広大な決闘(デュエル)ステージが設置してあり、その四方を階段状の観客席が囲んでいる。もし本選に進出したら、あんなところで決闘(デュエル)するのか……緊張しそう~。

 すでに会場の中は見渡す限り人、人、人……。溢れんばかりの先客で埋め尽くされ大賑わいとなっていた。きっとここに某大佐が居たら、「人がゴミのようだ!」と叫んでいた事だろう。この全てが高等部の生徒で、選抜試験の参加者なのか。

 

 自分のクラスが割り振られた座席の一つに座る。ここは2階席なんだけど、上には3階席と4階席もある。本選の日は高等部だけじゃなく、中等部の生徒達や一般の観戦客、それにマスコミも大勢この会場に押しかけるんだろう。

 

 

 

(開会式は9時からだから……もうすぐか)

 

 

 

 気分はライブが開演するのを今か今かと待ちわびる客だ。自然とソワソワしてくる。

 

 体感時間の長い数分間を経て……ついに、その時は訪れた。

 

 

 

『──これより、開会式を行います』

 

 

 

 予定時刻ピッタリに、アリーナ全域に届いた短いアナウンス。次いで場内が緩やかに消灯されて、暗闇と静寂が空間を支配する。

 

 

 

『校長より式辞を頂戴いたします』

 

 

 

 会場が僅かにざわついた。

 

 校長──。(おおやけ)の場に姿を現す事は滅多になく、こういう大きな式典でなければ顔も見れないという、謎多き学園の(おさ)

 ボクも実は、まだ一度も会っていない。一体どんな人なんだろう?

 

 中央のステージがスポットライトで照らし出された。

 

 いくつもの光が降り注ぐ中に、人が一人だけ立っていた。天井の大画面モニターに、そのご尊顔が高画質で映される。

 

 第一印象を一言で言ってしまえば──お(ばあ)ちゃんだった。

 白い髪は綺麗にセットされており、年相応に、ほうれい線がくっきりと浮かんでいて、ふくよかな顔立ちをしている。けれども、老いてなお目元は凛々しさを失っておらず、若い頃は相当な美人であった事が窺える。

 正直こう……ツルツル頭で(ヒゲ)を生やしたおじさんとかを勝手にイメージしてたけど、年齢しか当たってなかった。

 

 近くの席から何人かの女の子が「綺麗……」とか「ステキ……」とか呟くのが聞こえた。肌もツヤツヤで若々しいし、たぶん女性にとっては理想の年の取り方なのかも知れない。男のボクが言うのも変だけど。

 

 

 

『……未来ある若き決闘者(デュエリスト)の皆さん、おはようございます。校長の(たか)()(どう) (よう)()です』

 

 

 

 慈愛に満ちた優しげな笑みを絶やさないまま、自己紹介する校長先生。……ん? ()()()

 

 

 

「ねぇアマネ。今あの人、(たか)()(どう)って……」

 

「あっ、知らなかったの? 校長は高御堂 (エイ)()先生の妻よ」

 

「ええっ!? そうなの!?」

 

「しーっ! 声でかい!」

 

「あ、ごめん」

 

 

 

 驚いた。まさか校長と高御堂先生が夫妻だったとは。

 

 

 

『さて……今年度の大会参加者は報告によれば、512名』

 

「ごっ……!?」

 

 

 

 うっかりまた声が出そうになった。でも皆も少なからずどよめいてるからセーフセーフ。

 

 

 

『ですが、本選へと勝ち上がり、このセンター・アリーナの輝かしき舞台に立つ事を許される決闘者(デュエリスト)は──最大16名のみ』

 

「……!」

 

 

 

 つまり……496人が予選で敗退(リタイア)するわけか。これは思った以上に熾烈を極める、厳しい闘いになりそうだね。

 

 

 

『そして……その中のたった一人だけが、〝優勝〟という名の栄光を掴む事が出来るのです』

 

 

 

 校長先生のスピーチが進むにつれて、生徒達のざわめきが徐々に大きくなっていく。完全に焚き付けに来てるなこの人。

 

 

 

『我が学園が今や、プロリーグへの登竜門と言われているのは皆さんもご存じの通り。あなた達の決闘(デュエル)には、プロの世界も注目しています。これは大会であると同時に、世界があなたの実力を審査する()()でもあるということ、努々(ゆめゆめ)お忘れなく。ジャルダンの生徒としての自覚と誇りを持って、素晴らしい決闘(デュエル)を見せてくれる事を期待しています』

 

 

 

 言い換えれば、しょうもない決闘(デュエル)を見せたらそれ相応の評価が下るって事か。最悪の場合ランクの降格や落第も有り得そう。おっかないけど、それぐらいの心構えで臨まないと、すぐに蹴落とされそうだ。

 もちろん相手が誰だろうと、決闘(デュエル)で手を抜く気はないけどね。闘いの礼儀は分かってるつもりだ。

 

 

 

『……ホッホッホ。皆さん早く闘いたくてウズウズしているようですね。良いでしょう……それではここに、デュエルアカデミア・ジャルダン校──選抜デュエル大会の開催を宣言します!』

 

「「「「「オオオオオオオオオオォォォォォッ!!!!!」」」」」

 

 

 

 ついに闘いの火蓋が切って落とされたその瞬間、このだだっ広いアリーナをも震動させる程の、嵐の様な大歓声が沸き起こった。

 ずっと抑えていた、決闘者(デュエリスト)としての闘争本能。それを今こそと爆発させたのだろう。

 

 

 

「おっしゃあぁーっ!! やってやるぜ!!」

 

 

 

 コータも立ち上がって、ガッツポーズで声を張り上げた。

 

 ボクは叫ぶのが得意じゃないから大人しくしてたけど、高揚してるのは皆と一緒だ。ゾクゾクと武者震いが止まらないし、気づけば口角が上がっていた。

 

 ボクもすっかりこの街(ジャルダン)の住人だなぁー……。そんな事を、ふと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開会式は滞りなく終了。あの後、大会の大まかなルールについて説明を受けた。

 簡単にまとめると、こんな感じだ。

 

 ・選抜デュエル大会は、今日から7日間に渡って開催される。

 

 ・1日目~3日目までが予選。本選は4日目以降から開始。

 

 ・予選は『A』~『P』の全16ブロックに分けた、トーナメント形式で行われる。各ブロックで優勝した一人だけが、本選への出場権を獲得する。

 

 ・予選の第一試合は午前10時からスタート。以降30分ごとに、次の試合へと切り替わる。

 

 ・引き分けは両者敗北と見なす。敗者復活戦は無し。また、試合開始時間から5分以上経過しても、指定の決闘(デュエル)フィールドに出場しなかった場合は不戦敗とする。

 

 ・ルールとマナーを守って楽しく決闘(デュエル)しよう!

 

 

 

「16ブロックかぁ……多いねぇ」

 

「そろそろ予選の振り分けが通達される頃よ」

 

 

 

 アリーナを退場して校舎に戻ったボク達は、今はロビーに集まって、予選開始の時を待っていた。

 試合に備えてデッキの最終調整をしている生徒をチラホラ見かける。気持ちが逸っているのか、すでにデュエルディスクを腕に着けている人もいた。

 

 アマネはマキちゃんに引っ付かれてるし、コータは落ち着きなく動き回っている。

 ボクはと言うと、自販機で買ったホットミルクを飲んでいるよ。あったかくて美味しい。

 

 

 

「……とりあえず深呼吸して落ち着いたら? ルイくん」

 

「え"っ!? あっ、す、すいませ、すいません!」

 

 

 

 かわいい顔した茶髪の男の子──ルイくんに話しかける。ガッチガチに緊張していらっしゃる。合流した時からずっとこの調子だ。声も上ずってるし、足なんて生まれたての子鹿みたくなってる。

 

 大方、アリーナでの熱気に気圧されちゃったんだろう。少しでも肩の力を抜いてあげないと。

 

 

 

「ほらルイくん。ボクのホットミルクでも飲んでリラックスしなよ」

 

「は、はい! おっしゃる通り僕はカニカマです!」

 

「ダメだこりゃ」

 

 

 

「……あ! セツナくん、ルイちゃん! 来たよ予選の通知!」

 

 

 

 マキちゃんに言われてボクもルイくんも、手持ちのPDAを取り出す。受信していた1件のメッセージを開くと、左右対称のトーナメント表の画像が添付されていて、上部には『D-ブロック』と表記してあった。

 

 

 

「ボクはD-ブロックか……」

 

「ぼ、僕もD-ブロックです!」

 

「おっ! やったね! ボクの出番は何時からかな……って、一試合目!?」

 

 

 

 左側のトーナメント表の一番上に、ボクの名前があった。まさかのトップバッターか。

 D-ブロックの会場は第4決闘(デュエル)フィールドだから、10時までにそこに着いてなくちゃいけない。

 

 

 

(懐かしいな、第4決闘(デュエル)フィールド……転入初日に九頭竜くんと闘った場所だ)

 

「あっ! 僕、セツナ先輩の次……二試合目です!」

 

「ホントだ! てことはお互い今日勝てたら、明日当たれるじゃん!」

 

 

 

 これぞ天祐(てんゆう)と言うべきか。こんなにも早く、ルイくんと()れるチャンスが巡ってくるなんてね。

 

 

 

「ところでルイくんの緒戦の相手って誰なの?」

 

「えっと……────!?」

 

 

 

 ……あれ? ルイくんの顔がだんだん青く……

 自分のPDAで二戦目の組み合わせを確認してみよう。どれどれ?

 

 

 

「…………あっ(察し)」

 

「か……金沢(かなざわ)さん……です……」

 

 

 

 第二試合

 

 (いち)()() ルイ VS(バーサス) 金沢 (ケン)()

 

 

 

 金沢ってアレか、金髪のケンちゃんか!?

 ボクが初めて決闘(デュエル)した学園の生徒で、確かルイくんをイジメていたっていうグループの一人だ。

 

 ルイくんの肩が小刻みに震えている。無理もない。この子にとって金沢くんは、もはやトラウマでしかないんだから。

 

 

 

「あー……ルイくん、大丈夫?」

 

「……うっ、ぐす……ふえぇ……!」

 

「ガチ泣き!?」

 

「無理ですよぉ……! 僕なんかがあの人に勝てるわけないですぅ……!」

 

 

 

 うわーんと泣きついてきたルイくんを抱き締めて、頭を撫でて(なだ)める。髪の毛サラッサラで気持ちいい頬擦りしたい……けど、それどころじゃなさそうだ。

 

 

 

「おいおい! 見覚えあるチビがいると思ったら(いち)()()じゃねぇかよ!」

 

 

 

 噂をすれば何とやら。長めの金髪が目立つ、背の高い男子生徒がこちらに近づいてきた。言わずもがな、今ルイくんが最も会いたくないであろう人物──金髪のケンちゃんこと、金沢 健人くんだ。

 

 彼は後続に厚村(あつむら)くん、()(もり)くん、平林(ひらばやし)くんを引き連れていた。あの3人組とはボクが転入して間もない頃に、バトルロイヤル方式で決闘(デュエル)した事がある。

 

 

 

「ひっ……!」

 

 

 

 慌ててボクの背中に隠れるルイくん。金沢くんは明らかに敵意と悪意を孕んだ笑みを顔に張り付けて、ルイくんを見下ろした。

 

 

 

「プッ、ギャッハッハッハ!! 見ろよ! ビビって隠れてやがるぜ!」

 

「っ……!」

 

 

 

 金沢くんが笑い出すと後ろの3人もそれに続いた。

 対してルイくんは、涙を流して怯えたまま何も言い返せず、ボクの服を掴んでいる手の力を悔しげに強めた。

 

 

 

(ルイくん……)

 

「クククッ。てめぇがこの大会に出るって聞いた時は耳を疑ったがよぉ……運が良かったなぁ! 俺と当たったおかげで、大恥かく前に瞬殺してもらえんだからよ! ランク・Eの雑魚の決闘(デュエル)なんざ誰も興味ねぇだろうしなぁ!」

 

「──金沢!! アンタねぇ……!」

 

「アマネ」

 

 

 

 言いたい放題の金沢くんに流石にムカついたのか、アマネが代わりに声を上げた。

 でも、ボクはアマネの前に腕を伸ばして、彼女を制止した。

 

 

 

「セツナ……?」

 

「……ケッ! 一ノ瀬ぇ! てめぇはそうやって他人に守られてる腰巾着がお似合いだぜ!」

 

「っ! うぅ……!」

 

「おうコラ、メガネ野郎。首洗って待ってやがれ。そこの雑魚を片付けたら、次はてめぇの番だ!」

 

 

 

 今度は金沢くんはボクに絡んできた。やっぱり負けた事を根に持ってるのかな。

 ……この時ボクの中で、一つの確信が生まれた。ボクは静かに微笑むと、臆面もなく、こう言い放つ。

 

 

 

「それは無理かな~。だって……君、ルイくんに負けるもん」

 

「……あ"ぁっ……!?」

 

「せ……せんぱい……?」

 

 

 

 ビキッと額に青筋を立てた金沢くんと、潤んだ目をパチクリさせてボクを見上げるルイくん。

 

 

 

「ギャッハッハッハ!! 俺がこんなランク・Eのド底辺ヤローに負けるだぁ!? 知らねぇのか! そいつ今まで一度も俺に勝てた事ねぇんだぜ!?」

 

「そ、そうですよ……僕ずっと負けてばかりで……」

 

「なら、今日が初勝利の記念日だね」

 

「え……?」

 

 

 

 金沢くんは派手に舌打ちを鳴らして、苛立った様子で頭を掻きむしった。だいぶ機嫌を損ねたみたいだ。

 

 

 

「ほざきやがってクソが……。だったらてめぇの見てる前で、一ノ瀬(そいつ)を徹底的に痛めつけてやるよ!! ボロ雑巾(ぞうきん)にして二度と決闘(デュエル)できねぇようにしてやる!!」

 

「ひうっ……!」

 

「怖けりゃ逃げてもいいんだぜ、一ノ瀬。俺の不戦勝になるだけだからな! ギャッハッハ!」

 

 

 

 捨て台詞を残して金沢くん達は立ち去っていった。ルイくんがヘナヘナと床に座り込む。何故かボクの足を掴んで離さないけど。

 

 

 

「先輩……どうして、あんなこと……」

 

「セツナ、ルイくんに余計な重圧(プレッシャー)かけてどうすんのよ。金沢の奴はキレちゃったし」

 

「平気平気。ボクだって根拠なしに言ったわけじゃないよ」

 

「セツナくんって何気に鬼畜だねぇ~」

 

 

 

 絶望感に(さいな)まれて泣き崩れるルイくんの頭に、ボクは優しく手を乗せる。

 

 

 

「ルイくん、大丈夫だよ。今の君なら金沢くんにだって勝てる」

 

「えっ……()()……僕……?」

 

「さぁ行こう。もうすぐ大会が始まるよ」

 

 

 

 ルイくんの華奢な身体を担いで、ヒョイっと立ち上がらせる。軽っ!

 それから指先で涙を拭ってやり、最後にまた数回、頭をなでなでする。あ~この毛触りクセになりそう。てかもうなってる。

 ……少し落ち着いたらしく、ルイくんは泣き止んでいた。

 

 

 

「じゃあ、アマネもマキちゃんも頑張ってね」

 

「セツナとルイくんもね」

 

「本選で会おうね~!」

 

「俺もいるぞ!」

 

「そうだった、コータも」

 

「うおいっ!?」

 

「あはははっ」

 

 

 

 皆それぞれ自分達が闘う予選の会場に向かって、散り散りになっていく。

 

 

 

「さてと……」

 

 

 

 ボクは愛機であるホワイトタイプのデュエルディスクを左腕に装着し、腰のケースから愛用のデッキを取り出して、ディスクにセットした。

 

 

 

「行くよ、ルイくん!」

 

「は……はいっ!」

 

 

 

 いざ、ボク達も戦場(フィールド)へ!!

 

 

 

「…………ところで第4決闘(デュエル)フィールドって()()だっけ?」

 

「えっ」

 

 

 

 ルイくんがズッこけた。しばらく行ってないから忘れちゃった、テヘペロ。

 

 

 

 





 セツナ「ねぇ、ここで終わりとか酷くない?」

 はい。ようやく新章スタートしたけど、デュエルは次回からになります、すいません( ;∀;)

 セツナがサインを書くシーンで、どうしても某ファンサービスが脳内にチラつきましたww

 新キャラのコータくんは、実は15話のラストに出てました。あとカナメとセツナがデュエルした回で最初に出てたクラスメートも彼です。やっと名前が出るという(笑)


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TURN - 21 Burning soul


 毎回タイトルで悩むんですよね。なんで英語で統一したんだ自分……



 

 今年の『選抜デュエル大会』の予選は、全部で16ブロックに分けて挙行される。

 1ブロック(ごと)に参加者32名が集結し、左右16人ずつに別れたトーナメント方式で勝ち抜き戦を行う。そして、そのブロックで優勝した一人だけが予選を通過。『本選』出場の切符を手にする事が出来る。

 初日の試合数は片側のトーナメントだけで8つ。両方合わせて16試合。一試合(ワンゲーム)30分なので、全てのブロックを合計(トータル)すると、4時間で256試合!

 

 この日、全512人の決闘者(デュエリスト)が、それぞれの想いを胸に、最強の座を賭け激突する──!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予選『D-ブロック』会場──第4決闘(デュエル)フィールドにて。

 

 

 

「んじゃ、行ってくるね。ルイくん」

 

「セツナ先輩……頑張ってください!」

 

 

 

 ルイくんが鈴の()のような澄んだ声で、ボクにエールを送ってくれた。

 間もなくボクの緒戦が始まる。初めての選抜デュエル大会で、しかも予選1回戦の第一試合。全く緊張してないと言えば嘘になる。どういう空気感なのかも知らないぶっつけ本番なわけだから。

 

 だけど、それでも。ボクは自分のデッキを信じて全力で自分の決闘(デュエル)をする。──ただ、それだけだ。

 

 気分は上々。良い感じに集中してる。

 

 さぁ初陣だ! 満を持してボクは、闘いの舞台へと歩み出た。

 

 

 

「おおっ!! 出てきたぞ噂の転入生!!」

 

「今大会きってのダークホース・総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)だ!!」

 

「大会最初の決闘(デュエル)がいきなり期待の新星か! お手並み拝見といくぜ!」

 

「おわっ!?」

 

 

 

 なに!? なんか意外とギャラリー多いんだけど! 期待の新星って、ボクそんなに注目株だったの!?

 まぁでも、ここで初めて九頭竜くんと決闘(デュエル)した時に比べれば、まだやりやすいかな……

 

 

 

(いて)っ!?」

 

 

 

 空き缶が飛んできて頭に直撃した。当たった箇所を擦りながら観客席の方を見ると、()()にもな外見の男子が数人、怖い顔してボクを睨んでいた。

 

 

 

「なーにが噂のダークホースだ」

 

「死ね!」

 

 

 

 うわっ、中指立てられた。やっぱやり(づら)いかも! こないだの暴走族と言い、中も外も治安が安定しないなジャルダンって。もう慣れっこだけどさ。

 

 

 

「あわわわ……セツナ先輩……」

 

 

 

 会場の出入り口付近で心配そうにオロオロしているルイくんに、ヒラヒラと手だけ振って『大丈夫だよ』とジェスチャーする。

 

 出鼻くじかれた感あるけど気を取り直して……

 

 ボクが闘うフィールドの隣には、もう1つ決闘(デュエル)フィールドが設置されている。そちらでは反対側のトーナメントの第一試合が、こちらと同時に行われるみたいだ。

 

 声援と野次の入り交じる中で、ボクも自分の決闘(デュエル)フィールドに上がる。そこには、ボクの最初の対戦相手が、すでに待ち構えていた。

 

 腕を組んで仁王立ちしている、黒髪短髪の男子だった。眉毛が太くて目力が強い。猛々(たけだけ)しい雰囲気で、ザ・体育会系って感じだ。

 

 

 

「ハーーーハッハッハッ!! ついに来たな総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)くん!! 待っていたぞっ!!」

 

(声デカッ!?)

 

 

 

 彼はボクと目が合った途端に、大口を開けて豪快な笑い声を上げた。腹の底から張り上げてる様な、必要以上に大きい声がボクにぶつかってくる。声量あり過ぎて会場の外にまで漏れ聞こえてそう。

 

 

 

「俺は2年の猪上(いのうえ) (あつし)!! 次期十傑(じっけつ)候補の一人だ!! 同級生(タメ)同士よろしくな!!」

 

「! 次期十傑……」

 

 

 

 以前アマネに聞いた事がある。

 

 『次期十傑候補』──。読んで字の如く、次代の『十傑』の座を期待されている優等生を指す総称だ。

 つまり実力は現・十傑とほぼ同等ってわけか……これは早速、強敵の予感。

 

 

 

「……良いね、楽しめそうだ。よろしくね」

 

「おうっ!! 熱い決闘(デュエル)にしよう!!」

 

(あ、暑苦しい……)

 

 

 

 まさかルイくんの弟のケイくん以上の熱血漢がいたとは。背景が燃え盛る炎になってるし。

 

 おっと、そろそろ始まるから準備しないと。

 デュエルディスクを起動して、カードをセットするプレート部分を展開する。デッキが自動(オート)でシャッフルされて、ライフカウンターに『4000』と数値が表示される。予選開始時刻の10時まで、後……1分。

 

 猪上(いのうえ)くんと対峙し、時が来るのを静かに待つ。観客も空気を読んだのか、水を打った様に静まり返っていた。

 

 

 

(先輩……)

 

 

 

 後10秒……心地よい緊張感が心臓の鼓動を高鳴らせ、神経を研ぎ澄ませている。

 …………3、2、1──(ゼロ)

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 選抜デュエル大会・開戦!!

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 猪上(いのうえ) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「俺の先攻! 手札5枚ドローッ!!」

 

 

 

 決闘(デュエル)スタートの宣言が合図となって、再び客席で喝采が沸き起こる。

 お互いに初手のカード5枚を引く。果たして猪上くんは、どんな戦術を披露してくるのか……

 相手は来年の今頃には、十傑に名を連ねてるかも知れない決闘者(デュエリスト)。決して油断は出来ない。

 

 

 

「よぉし! 行くぞぉ!! 俺はフィールド魔法・【バーニングブラッド】を発動!!」

 

「!」

 

 

 

 地鳴りと共に猪上くんの背後に活火山が切り立ち、轟音を響かせ噴火した。

 

 

 

「おぉっしゃあっ燃え上がってきたぁぁぁあっ!!! ふるえるぞハート! 燃えつきるほどヒート!! おおおおおっ、刻むぞ血液のビート!!」

 

 

 

 なんかのマンガで読んだ気がするセリフを裂帛(れっぱく)の気合いで叫び出す猪上くん。とりあえず、ただでさえ高いテンションが更に上がったのは大いに伝わった。

 

 

 

「【バーニングブラッド】がフィールドにある時、炎属性の攻撃力は500ポイントアップし、守備力は400ダウンする!! 俺は【バーニングソルジャー】を召喚!!」

 

 

 

【バーニングソルジャー】 攻撃力 1700

 

 

 

「【バーニングブラッド】の効果で、攻撃力アップ!!」

 

 

 

【バーニングソルジャー】 攻撃力 1700 + 500 = 2200

 

 

 

 ──! 1ターン目から攻撃力2000以上のモンスターが出現した……!

 

 

 

「カードを2枚伏せてターン終了だ!! さぁ君のターンだぞ総角くん!! どっからでもかかってこぉい!!」

 

「ほんと元気な人だなぁ……ボクのターン、ドロー!」

 

 

 

 全体強化のフィールド魔法は厄介だけど、ここはありがたく使わせてもらおう。ボクの手札にも、炎属性はいるからね!

 

 

 

「ボクは【ラヴァ・ドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【ラヴァ・ドラゴン】 攻撃力 1600

 

 

 

「【ラヴァ・ドラゴン】は炎属性。【バーニングブラッド】のフィールドパワーソースを受けて、攻撃力がアップする!」

 

 

 

【ラヴァ・ドラゴン】 攻撃力 1600 + 500 = 2100

 

 

 

「ほうっ! 俺のフィールド魔法を有効活用してくるか!! だが攻撃力は【バーニングソルジャー】の方がまだ上だ!!」

 

「分かってるよ、だからもう1枚。装備魔法・【ドラゴンの秘宝】を【ラヴァ・ドラゴン】に装備! 攻撃力300ポイントアップ!」

 

 

 

【ラヴァ・ドラゴン】 攻撃力 2100 + 300 = 2400

 

 

 

「ぬっ!?」

 

「バトル! 【バーニングソルジャー】を攻撃!」

 

 

 

 火山を棲み処とするドラゴンが、口腔から溶岩の(たま)を吐き出して攻撃を仕掛ける。

 すると猪上くんは、歯を見せてニヤリと笑った。

 

 

 

(トラップ)発動っ!! 【燃える闘志】!!」

 

「げっ!?」

 

(しまった、あのカードは……!)

 

「この(トラップ)は発動後、装備カードとなる! 【バーニングソルジャー】に装備!!」

 

 

 

 熱く燃える特殊部隊の工作員が、闘志を爆発的に(みなぎ)らせる。

 

 

 

「ふんぬおぉぉぉおっ!! み、な、ぎっっってきたぜぇぇぇぇぇっ!!!」

 

「いやなんで君まで漲ってるの」

 

「【燃える闘志】の効果ッ! 相手の場に攻撃力(パワー)アップしたモンスターが存在する時、装備モンスターの攻撃力はダメージステップの間、元々の攻撃力の倍になるっ!!」

 

 

 

【バーニングソルジャー】 攻撃力 2200 → 3900

 

 

 

「迎え撃て!! 【バーニングソルジャー】!!」

 

 

 

 【バーニングソルジャー】は闘魂を奮い立たせて、目までメラメラと燃えている。そして手に持つ湾曲した刀剣で、【ラヴァ・ドラゴン】の(はな)った溶岩を真っ二つにすると、そのまま突撃して【ラヴァ・ドラゴン】本体をも切り裂いた。

 

 

 

「くっ……!」

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 2500

 

 

 

「ハーーハッハッハッ!! フィールド魔法は相手モンスターにも影響を及ぼす! 君がそれを利用してくる事など予測済みだっ!!」

 

「……ッ」

 

 

 

 この人……ただ熱いだけじゃない。フィールド魔法のデメリットを逆手に取って、きっちり戦略を立てて来てる。さすがは次期十傑候補。

 

 

 

【バーニングソルジャー】 攻撃力 3900 → 2200

 

 

 

「……ボクは魔法(マジック)カード・【一時休戦】を発動! お互いに1枚ドローして、次の相手ターンが終わるまで、全てのダメージを(ゼロ)にする!」

 

「俺のターンの攻撃に備えたか! うむっ! いいだろう!!」

 

「カードを2枚伏せて、ターン終了(エンド)!」

 

「うおしっ! 俺のターンだ! ドローッ!! 俺は【超熱血球児】を召喚だっ!!」

 

 

 

【超熱血球児】 攻撃力 500

 

 

 

「当然【バーニングブラッド】の効果を受けて、攻撃力がアップするぞっ!」

 

 

 

【超熱血球児】 攻撃力 500 + 500 = 1000

 

 

 

「それだけではない!! 【超熱血球児】は他の炎属性1体につき、1000ポイント攻撃力をアップする!!」

 

 

 

【超熱血球児】 攻撃力 1000 + 1000 = 2000

 

 

 

 また攻撃力が倒し(がた)い数値に……! しかもあのモンスターは炎属性が増える度に強くなるのか。早いとこ対処しなきゃ。

 

 

 

「ダメージを与えられない以上、攻撃する意味はない! ターンエンドだ!!」

 

 

 

 ここで【一時休戦】の効果は終了する。

 

 

 

「ボクのターン!」

 

 

 

 さーてと、困ったぞ。猪上くんの場に【燃える闘志】がある限り、ボクは迂闊にモンスターを強化できない。【バーニングソルジャー】を戦闘で破壊するには、元々の攻撃力が2200より高いモンスターを出す必要がある。

 

 

 

(……ひとまず今は守備で凌ぐしかない!)

 

 

 

「ボクはモンスターを裏守備でセット! さらに1枚カードを伏せて、ターンエンド!」

 

「どうしたどうしたぁ! もっと熱くなれよぉぉぉぉっ!! 俺のターン! ドローッ!!」

 

 

 

 このターンから猪上くんの猛攻が始まる。耐え切れなければ最悪ボクの負けだ。

 

 

 

「俺は【スティング】を召喚!!」

 

 

 

【スティング】 攻撃力 600 + 500 = 1100

 

 

 

「炎属性が場に出た事で、【超熱血球児】の攻撃力が更にアーップ!!」

 

 

 

【超熱血球児】 攻撃力 2000 + 1000 = 3000

 

 

 

「攻撃力3000……!」

 

「バトルだぁ!! 俺の炎を受けてみろ!! 【バーニングソルジャー】で、守備モンスターを攻撃ッ!!」

 

 

 

 セットしていたモンスターは【ヤマタノ(ドラゴン)絵巻】。為す術もなく破壊されて、絵巻が焼き払われる。

 

 

 

「今の攻撃で発動しなかったという事は、その伏せカード達はブラフか!? それとも直接攻撃に対して反応する(トラップ)か!?」

 

「……さぁ、どうだろうね?」

 

「いずれにせよ関係ない!! 俺のモットーは〝猪突猛進〟!! 前進あるのみだぁーっ!!」

 

 

 

 【超熱血球児】が(トゲ)の生えた金属バットを素振りして、攻撃の指示を待っている。

 

 

 

「うおらぁーっ!! 【超熱血球児】でっ! プレイヤーに直接(ダイレクト)アターックッ!!」

 

 

 

「──惜しかったね、猪上くん。伏せ(リバース)カード・オープン! 【ガード・ブロック】!」

 

「むっ!?」

 

「戦闘ダメージを(ゼロ)にして、カードを1枚ドローできる!」

 

 

 

 正解は、『ダメージを無効にする』(トラップ)でした。【超熱血球児】の渾身のバッティングは空振りに終わり、ボクは手札を補充する。

 

 

 

「ハハハハッ! やってくれたな! だが俺の攻撃はまだ残っているぞ!! 【スティング】で直接攻撃だ!! 『オーライ! ヒノタマソウル! アタック!!』」

 

 

 

 巨大な火の玉のモンスターがボクに体当たりしようと迫り来る。

 ボクは一瞬、自分の足下に伏せられている、2枚目のリバースカードに視線を送った。

 

 

 

(【戦線復帰】……! 今発動すればこの攻撃は防げる……でも、ここで【ラヴァ・ドラゴン】を蘇生しても、【バーニングブラッド】に守備力を下げられて破壊されるだけ……それなら!)

 

 

 

 逡巡したけど、ボクは相手の攻撃を通す判断をした。炎の(カタマリ)が激突して、身体を焼かれる。

 

 

 

「ぐっ……うああああっ!!」

 

 

 

 セツナ LP 2500 → 1400

 

 

 

「さらに【超熱血球児】の効果を発動ッ!! こいつ以外の炎属性を墓地に送る(ごと)に、500ポイントのダメージを与える!!」

 

「なっ……!」

 

「もう一度【スティング】を喰らわせてやるぜ!! かっ飛ばせ!! 【超熱血球児】!!」

 

 

 

 【超熱血球児】はバットをフルスイングして、【スティング】を野球のボールの様に打ち飛ばした。打球となった【スティング】が、狙い通りボクに直撃する。

 

 

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

 

 

 セツナ LP 1400 → 900

 

 

 

 ライフポイントは残り3桁。セーフティラインを越えてしまった。デュエルディスクに表示されたライフ数値の色が赤に変わる。

 

 

 

「っしゃあーーーッ!! ナイスバッティンッ!!」

 

 

 

 拳を握って快哉(かいさい)を叫ぶ猪上くん。観客席からも歓声が聞こえた。

 

 

 

「おいおいさっきから一方的だぞ、どうした期待の新星!」

 

「まさか予選1回戦で早くも敗退かー!?」

 

「やっぱ九頭竜さんに勝てたのはマグレだったんじゃねぇのかー!?」

 

 

 

 ……うーむ。好き放題に言われちゃってるなぁ。侮っていたつもりはなかったけど、ここまで追い詰められるとは。

 

 

 

「炎属性が1体減った事で、【超熱血球児】の攻撃力も下がる!」

 

 

 

【超熱血球児】 攻撃力 3000 → 2000

 

 

 

「これで俺のターンは終了だ!!」

 

「……ボクのターン」

 

 

 

 【バーニングソルジャー】を【超熱血球児】の効果で打たなかったのは、それをする事で【超熱血球児】の攻撃力が1000に下がって、反撃されるのを防ぐ為か。次のターンで新たな炎属性を召喚して、トドメを刺せば良いんだからね。

 

 ──でも、どうにか首の皮一枚つながった。このボクのターンで、劣勢を(くつがえ)す!

 

 

 

「猪上くん」

 

「ぬ?」

 

「君がそこまでボクとの決闘(デュエル)に燃えてくれてるなら、ボクもちゃんと応えないとだよね」

 

 

 

 ボクはメガネを外して裸眼になり、(ひら)けた視界に猪上くんの姿を真っ直ぐ捉える。雑念を捨て去り、全身全霊を以て決闘(デュエル)に没頭できる状態を作り上げた。

 

 

 

「……!!」

 

「ここからが本当の勝負だよ!!」

 

「──おうっ!! ようやく熱くなってきたな!!」

 

「ドロー! まずは(トラップ)発動! 【戦線復帰】! 墓地の【ラヴァ・ドラゴン】を、守備表示で特殊召喚!」

 

 

 

【ラヴァ・ドラゴン】 守備力 1200 - 400 = 800

 

 

 

【超熱血球児】 攻撃力 2000 + 1000 = 3000

 

 

 

 フィールド魔法・【バーニングブラッド】の効力によって守備力がダウンした上に、炎属性を出した事で【超熱血球児】の攻撃力も3000に戻った。

 けれど問題じゃない。【ラヴァ・ドラゴン】の真価は、守備表示でこそ発揮されるんだ。

 

 

 

「【ラヴァ・ドラゴン】のモンスター効果! 守備表示のこのモンスターをリリースする事で、手札と墓地からレベル3以下のドラゴンを特殊召喚できる! 出ておいで! 【ヤマタノ(ドラゴン)絵巻】! 【プチリュウ】!」

 

 

 

【プチリュウ】 守備力 700

 

【ヤマタノ(ドラゴン)絵巻】 守備力 300

 

 

 

【超熱血球児】 攻撃力 3000 → 2000

 

 

 

 フィールドに2体のモンスターが出揃う。この時を待っていた……いよいよ出番だよ、ボクのデッキのエース!

 

 

 

「そしてこの2体のドラゴンをリリース! 【ラビードラゴン】を、アドバンス召喚!!」

 

 

 

 白くて柔らかい体毛に覆われた巨躯を持ち、ウサギの様な長い耳を生やしたドラゴンが、両翼を羽ばたかせ舞い降りた。

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

「やった! 先輩のエースモンスターです!」

 

「おおおぉ!! それが君の切り札か!!」

 

「【ラビードラゴン】で、【超熱血球児】を攻撃! 『ホワイト・ラピッド・ストリーム』!!」

 

 

 

 【ラビードラゴン】の大きく開かれた口の中から、白い光線が放出される。

 

 

 

「うむ! 見事な闘志だ!! しかし……詰めが甘い!! (トラップ)発動! 【業炎(ごうえん)のバリア -ファイヤー・フォース-】!!」

 

「!?」

 

「この(トラップ)は相手の攻撃モンスターを全て破壊し、その攻撃力の合計の半分のダメージを俺が受け、同じ数値分のダメージを相手にも与える!!」

 

 

 

 渦を巻く業火の防壁(バリア)が【ラビードラゴン】の光線を防ぎ、それに炎を上乗せして跳ね返した。

 このまま【ラビードラゴン】が破壊されたら、お互いに攻撃力の半分、1475ポイントのダメージを受けて、ボクのライフが(ゼロ)になる……!

 

 

 

「俺の勝ちだぁーっ!!」

 

「セツナ先輩!?」

 

「そうは……させないよ!! カウンター(トラップ)! 【白銀のバリア-シルバー・フォース-】!!」

 

「なんだとっ!?」

 

 

 

 【ラビードラゴン】を護る様に白銀の竜巻が発生し、業炎のバリアに反射された光線を(はじ)き返した。

 

 

 

「【シルバー・フォース】はダメージを与える(トラップ)を無効にし、相手の場の、表側表示の魔法(マジック)(トラップ)カードを全て破壊する!」

 

「全てだと!? という事は……【バーニングブラッド】と【燃える闘志】までもが!?」

 

 

 

 白銀のバリアが(はじ)いた光線が分散して、猪上くんの場の【業炎のバリア -ファイヤー・フォース-】と【燃える闘志】、そして【バーニングブラッド】を、一斉に破壊した。

 

 

 

「【バーニングブラッド】が消えた事で、炎属性の攻撃力は元に戻る!」

 

 

 

【バーニングソルジャー】 攻撃力 2200 → 1700

 

【超熱血球児】 攻撃力 2000 → 1500

 

 

 

「ぐうっ……!」

 

「これで【ラビードラゴン】の攻撃は有効! 行け!!」

 

 

 

- ホワイト・ラピッド・ストリーム!! -

 

 

 

 再度【ラビードラゴン】は光線を放ち、ついに【超熱血球児】を吹き飛ばした。

 

 

 

「うおおおおおっ!!」

 

 

 

 猪上 LP 4000 → 2550

 

 

 

 (トラップ)カードには若干……というか、かなり肝を冷やしたけど、やっと猪上くんのライフを削れた。

 これで相手フィールドのカードは【バーニングソルジャー】1体のみ。形勢は逆転できたはず。

 

 

 

「ボクは最後にカードを1枚セット! これでターンエンド!」

 

「……ハッハッハッハ……」

 

「? 君のターンだよ? 猪上くん」

 

「ハァーーハッハッハッハッハッ!! (たかぶ)る! 昂るぞぉ!! そうだ!! 決闘(デュエル)とはやはりこうでなくてはなっ!! 魂と魂のぶつかり合い!! それこそが俺の全身からアドレナリンを掻き出し! この身体の中の血液を沸騰させるぅ!!」

 

「う、うん、分かった、分かったから」

 

「俺のターン(DAー)!! ──ッ! よおっしゃあぁぁっ!! 俺の熱血デッキの最強モンスターを引いたぜっ!!」

 

「……!」

 

「手札から魔法(マジック)カード・【スター・ブラスト】発動!! このカードは手札のモンスターのレベルを任意の数だけ下げる事が出来る! ただし、俺はその数 × 500ポイントのライフを支払う!」

 

 

 

 猪上 LP 2550 → 50

 

 

 

「一気にライフを50まで減らした!?」

 

「俺は手札の、【ヘルフレイムエンペラー】のレベルを5つ下げる!!」

 

「!」

 

 

 

 確か【ヘルフレイムエンペラー】のレベルは9。5つ引いたらレベル4になって、リリース無しで召喚できる!

 

 

 

「来い!! 【ヘルフレイムエンペラー】!!」

 

 

 

 フィールド全体に灼熱の炎が巻き起こり、激しくうねる猛火は、やがて巨大な魔獣の威容を(かたど)った。獅子の頭部に人型の上半身。下半身は4本脚で、大きな翼を広げて尻尾を生やしている。それはさながら神話の生物──ケンタウルスを彷彿とさせる姿だった。

 

 

 

【ヘルフレイムエンペラー】 攻撃力 2700

 

 

 

(ここに来て、こんな上級モンスターを……!)

 

「でも、攻撃力なら【ラビードラゴン】の方が……」

 

「そいつはどうかな!! 俺の手札には──2枚目の【バーニングブラッド】があるのだっ!!」

 

「なっ!?」

 

「発動ッ!!」

 

 

 

 猪上くんは最後の手札に【バーニングブラッド】を温存していたのか……! 再びフィールド上に火山が屹立(きつりつ)する。

 

 

 

【ヘルフレイムエンペラー】 攻撃力 2700 + 500 = 3200

 

【バーニングソルジャー】 攻撃力 1700 + 500 = 2200

 

 

 

「ハッハッハ! どうだぁーーーっ!! これで【ヘルフレイムエンペラー】で【ラビードラゴン】を倒し! 【バーニングソルジャー】で直接攻撃(ダイレクトアタック)すれば、今度こそ俺の勝ちだっ!!」

 

「っ……!」

 

「バトルッ!! 【ヘルフレイムエンペラー】の攻撃!! 『猪上ファイヤー』!!」

 

「い……猪上ファイヤー!?」

 

 

 

 技名はアレだけど、威力は絶大だ。【ヘルフレイムエンペラー】の口から放たれた火炎放射が【ラビードラゴン】を襲う。

 

 ──そう来ると、思っていたよ!

 

 

 

「リバースカード・オープン! 【燃える闘志】!!」

 

「なにぃ!?」

 

「言ったでしょ。君の熱意には、ちゃんと応えるって!」

 

 

 

 前のターン、ドローフェイズでこの(トラップ)を引き当てた時は、ボクも驚いた。ボクのデッキから猪上くんへの、ちょっとした意趣返しだ。

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950 → 5900

 

 

 

「攻撃力、5900だとっ!?」

 

「チェックメイトだ!! 【ラビードラゴン】の迎撃!!」

 

 

 

- ホワイト・ラピッド・ストリーム!! -

 

 

 

 【ラビードラゴン】は戦意を滾らせ吼え猛ると、白光の奔流を放射した。初撃よりも遥かにパワーを増した極太サイズの光線が、半人半獣の魔物に擬態した猛炎を飲み込み、消滅させる。

 

 

 

「どわああああああっ!!!!」

 

 

 

 猪上 LP 0

 

 

 

 決闘(デュエル)は決着。カードの立体映像(ソリッドビジョン)が消え、フィールドの景色は元に戻る。沸き上がる歓声を聞きながら、ボクは息を吐いて胸を撫で下ろした。

 

 

 

(ホッ……良かった、勝てた)

 

「くっ……ハーーーッハッハッハッ!! ちくしょう完敗だっ!! だが熱く楽しい決闘(デュエル)だったな!! 次こそは俺が勝ぁつ!!!」

 

「ボクも楽しかったよ。また()ろうね、猪上くん!」

 

「おうっ!! 俺の分まで勝てよ!!」

 

 

 

 猪上くんと笑顔で固い握手を交わす。……手汗スゴッ……

 まぁ、実際手に汗握るギリギリの勝負だったのは違いない。初日からこれとかこの大会ハードモード過ぎない?

 

 何はともあれ、どうにか1回戦を突破できた。メガネを掛け直しながら決闘(デュエル)フィールドを降りると、ルイくんがトテトテと女の子走りで駆け寄って来てくれた。

 

 女の子走りで駆け寄って来てくれた。(大事なことなので2回言いました)

 

 

 

「せ、先輩! おめでとうございます!」

 

「うん、ありがとう。危うかったけど何とか勝てたよ」

 

 

 

 ルイくんの小さな肩に、ボクは優しく手を乗せる。

 

 

 

「さっ、次はルイくんの番だよ」

 

「…………はい……!」

 

 

 

 彼の声は微かに震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時進行していたもう片方の一試合目も終わり、続いてD-ブロック第2試合の時間が刻々と近づいてきていた。

 

 

 

「うっ……うぅ……」

 

「ルイくん、もう少しだよ。がんばって」

 

 

 

 緑色のデュエルディスクを抱き抱えたルイくんは、会場の入場口からだいぶ離れた位置で、ずっと立ち尽くしていた。細い足は小刻みに震えるばかりで、床に固定されたかの様に前に進まない。

 

 気持ちは分かる。場内に入って一度(ひとたび)フィールドに立てば、待っているのは今まで散々ルイくんをイジメてきた、あの金沢(かなざわ)くんだ。尻込みするなって言う方が酷だろう。できる事なら逃げ出したいとすら考えているかも知れない。

 

 ルイくんのランクは学園で最も弱いとされる『E』。

 対する金沢くんは、それより2つも格上のランク・『C』。その上ルイくんが何度も決闘(デュエル)させられて、全戦全敗している相手だ。

 実力の差は明白。あまりにも分が悪い。

 

 

 

 ──だけど、それは少し前までのルイくんだったら、の話。

 

 この数ヶ月……選抜試験本番に向けて、彼の決闘(デュエル)の特訓に付き合ってきたボクには分かる。

 

 ルイくんには素質がある。最大の弱点である精神面(メンタル)の弱ささえ克服できれば、化ける可能性を十二分に秘めている。

 その為にも必要なのは、『やれば出来るんだ!』という実感と、それに基づく自信。そう、彼に足りてないのは自信だ。

 金沢くんとの決闘(デュエル)に勝利できた時、ルイくんはきっと、大きな成長を遂げられるだろう。

 

 ……とは言え、このままじゃ決闘(デュエル)どころか、出場する前に不戦敗(リタイア)になりそうだね。

 よし。ここはひとつ、ボクの秘伝の(ワザ)で、ルイくんの不安と緊張を(やわ)らげて差し上げよう。

 

 

 

「ルイくん、こっち向いて」

 

「えっ……ひゃあぁ!?」

 

 

 

 ボクは両腕を広げて、ルイくんを正面から抱き締める。突然ハグされて顔を真っ赤に染めるルイくん可愛いいいいいいいいいっ!!!!

 

 にしても()っそ!! 身長も低くて、腕の中にすっぽりと納まるサイズ感! 華奢な体格だから本気で(ちから)を込めたらボクでも折れそうだ。

 

 

 

「はわわわっ、せ、せんぱい……?」

 

「昔さ……ボクの大切な人が、ボクがルイくんみたいに不安や恐怖に押し潰されそうになった時……いつもこうして、抱き締めてくれたんだ」

 

「……!」

 

「そうすると不思議と安心してくるんだよね……どう? 落ち着いた?」

 

「……」

 

 

 

 ルイくんはボクの胸板に、ポスンと顔を(うず)めた。アカン、可愛すぎて悶絶しそう。

 

 

 

「ふあ……あったかいです……セツナ先輩の胸の中……あったかい……」

 

 

 

 ん"んんんんんんんんんんんっ!!!(悶絶)

 もうやめて!! ボクのライフは(ゼロ)よ!!

 

 この愛くるしい生き物の抱き心地を、まだ堪能していたかったけど、もう試合まで時間がないし、何よりこれ以上はボクの身が()たない。色々な意味で。

 名残惜しいけれど腕を離して、ルイくんを解放する。男同士で抱き合ってるとこ誰かに見られなくて良かった。いや、ルイくんは女顔に見えなくもないから、ギリセーフ……かな? マキちゃん辺りに目撃されたらしばらくネタにされてたかも。

 

 ルイくんの可愛さに悶え過ぎて、(ほお)が緩むのを必死に(こら)えながら、ポーカーフェイス()を取り繕って、ボクは口を開いた。

 

 

 

「……ルイくん。ボク達が初めて会った日のこと、覚えてる?」

 

「……はい。あの時は助けてくれて、本当にありがとうございました」

 

「あの時、金沢くんにデッキをバカにされた時、ルイくん言い返してたよね」

 

 

 

 自分自身はどれだけ罵倒されても言われっぱなしだったルイくんが、自分の愛するデッキを侮辱された途端、初めて反論したんだ。

 〝僕のデッキをバカにしないで!〟って。

 

 

 

「その気持ちさえ忘れなければ、今の君なら負けないよ」

 

「……!」

 

「2回戦で、待ってるよ」

 

「はい……! 行ってきます!」

 

 

 

 小走りで会場に向かって駆けていくルイくん。ハグが効いたみたいで一安心。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 ……ちょっとだけ、昔の()()を思い返しちゃった。

 

 さて、ボクも応援席に移動するとしますか。──頑張ってね、ルイくん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

「これこれ。廊下を走ってはいけないよ」

 

「あっ……(たか)()(どう)先生……!」

 

「ついに出番だね、(いち)()()君」

 

「……はい……」

 

「……うむ、とても良い眼をしている。迷いのない、強い決闘者(デュエリスト)の眼になった」

 

「僕が……強い……?」

 

「勇気を振り絞り、自らの意志で挑戦する道を選んだ君に、教育者として私から1つアドバイスだ。──ライフポイントが残っている限りは、最後までカードをドローしなさい。諦めなければ、きっとデッキは応えてくれる」

 

「先生……!」

 

「楽しんできたまえ」

 

「──はい! ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 観客席の最前列に並ぶ椅子の1つに、腰を下ろす。ここならルイくんの決闘(デュエル)がよく見える。

 

 

 

「兄貴ィィィィィッ!! 応援に来たぜっ!! って、まだ始まってねぇのかよ!!」

 

 

 

 ……非常に聞き覚えのある大声が会場内に()(だま)した。他の観客(ギャラリー)から奇異の目の集中砲火を浴びながら来場したのは、果たしてルイくんの弟・一ノ瀬 ケイくんだった。

 オレンジ色の短い髪が余計に人目を引いているけど、ケイくんはそんな周囲の視線なんて()()にも掛けず、最前の空いている席を目指してか堂々と階段を下りてきた。

 

 

 

「おーい、ケイくーん。こっちこっち~!」

 

「んあ? あっ! セツナの(あに)さん!! チワッス!!」

 

「あ、(あに)さん? なにそれ……」

 

「俺は認めた男にはそう付けるんすよ。ご無沙汰してます」

 

「嬉しい様な()めてほしい様な……」

 

 

 

 ボクの隣にドカッと座り込むケイくん。デカイな~、相変わらず。これで中2ってのが未だに信じられない。着てる制服は青色だから疑いの余地は無いんだけどさ。

 

 中等部の生徒は大会に参戦(エントリー)は出来ないけれど、見学は自由らしい。他にも青い制服を着た生徒をチラホラ見かける。

 

 

 

「ケイくんが応援してくれるなら、ルイくんも心強いと思うよ」

 

「いよいよ兄貴のデビュー戦っすからね! 観ないわけにはいかねぇぜ!」

 

「あー、いたいた。セツナ! っと……あぁ、ルイくんの弟くんね。久しぶり」

 

「あ、アマネ」

 

「チッス! 黒雲(くろくも)(あね)さん!」

 

「な、何よ(あね)さんって……アマネで良いわよ」

 

 

 

 アマネもやって来て、ケイくんの隣の席に腰かけた。

 

 

 

「アマネって確か『N-ブロック』の一試合目だったよね? どうだった?」

 

「決まってるでしょ、楽勝よ」

 

「さすが」

 

 

 

 まぁアマネが1回戦でつまずくわけないよね。ちなみにマキちゃんは『M-ブロック』の二試合目が出番だった筈だから、ルイくんと同じくそろそろ準備をしている頃かな。

 

 

 

「そういうセツナは? まさか負けてないわよね?」

 

「何とか勝てたよ。いやぁ~手強かったなぁ」

 

「なら良し」

 

「──おっ! 出てきたぜ!」

 

 

 

 急にケイくんが手前の柵を掴んで身を乗り出した。決闘(デュエル)フィールドに目線を落とすと、二試合目の組み合わせに選ばれた参加者(デュエリスト)達が、続々と登場してきていた。

 広い場内に2つ(へい)()された決闘(デュエル)フィールドの一方では、男女の対戦ペアが互いの健闘を祈って握手をしている。

 

 そしてもう一方には……

 

 

 

「よぉ一ノ瀬ぇ、逃げなかったのは誉めてやるぜ?」

 

「っ…………」

 

 

 

 余裕どころか、完全に相手を舐めきっている様な、リスペクトの欠片(カケラ)も感じられない(いや)しい笑みを浮かべている金沢くんと、反対に表情が険しく、試合前からいっぱいいっぱいと言った様相のルイくんが向かい合っていた。

 

 

 

「……っ……は……ぁ……」

 

(……? なんかルイくん、様子が変だな……)

 

「兄貴ィーッ!! かっ飛ばせぇーっ!!」

 

 

 

 ……やっぱり妙だ。ケイくんの、アマネが耳を塞ぐくらいデカイ声援にも、ほとんど反応を示さない。顔色は悪いし動きもぎこちない。

 

 

 

「自分がどんなに身のほど知らずか思い知るんだなぁ!!」

 

「──ッ!」

 

 

 

 デュエルディスクを共に構える二人。さぁ始まるよ、D-ブロック二試合目。

 ルイくん……君の力を、見せつけてやれ!

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 ルイ LP(ライフポイント) 4000

 

 金沢(かなざわ) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「先攻はてめぇにくれてやるぜ。さっさとカードを出しな!」

 

「は、はい……!」

 

 

 

 覚束(おぼつか)ない仕草で5枚の手札を引くルイくん。

 ダボッとした大きめな制服を着ているので、身の丈に合わない長さの(そで)が手の甲まで覆っており、俗に言う、萌え袖になっている。その袖口から出ている小さな指先だけで、カードを持つ姿は実に愛らしい。

 

 

 

(ど、どうしよう……早く何か、カードを出さないと……で、でも……!)

 

「チッ! おいこらぁ!! なにチンタラしてやがる! とっととカードを出せっつってんだよ!!」

 

「ひっ……!」

 

 

 

 痺れを切らした金沢くんが怒鳴る。少しの間の長考くらい待ってあげなよ。

 ビクついたルイくんは、焦った様子で手札から1枚のカードを抜き出した。

 

 

 

(ダメだよルイくん、冷静にならなきゃ……!)

 

「ぼ、僕は、このカードを!」

 

 

 

【バニーラ】 攻撃力 150

 

 

 

 まるっこい体型をした小さくて可愛らしいウサギが、人参(ニンジン)(かじ)りながら出現した。

 直後、ルイくんは顔面蒼白になる。

 

 

 

「あっ……!」

 

「あっちゃ~、ルイくんったら……」

 

 

 

 ボクは思わず頭を抱えた。本来【バニーラ】は守備力が2050もある優秀な壁モンスターだ。それをみすみす攻撃表示で棒立ちさせるなんて、普段のルイくんなら絶対に有り得ない。

 これはアレだね……すっかり()()()()()

 

 

 

「ぷっ、ギャッハッハッハッハッハ!! バッ、【バニーラ】を攻撃表示だぁ!? おいおい、一ノ瀬! いきなり笑わせに来てんじゃねーよっ!」

 

 

 

 無遠慮に吹き出して哄笑する金沢くん。他の観客も、ルイくんと【バニーラ】を指さして笑っていた。

 

 

 

「あんにゃろおぉぉぉ……! 俺の兄貴を馬鹿にしやがってぇぇぇぇっ……!」

 

「ケイくん落ち着いて」

 

 

 

「で? 次はどうすんだよ? やることねぇならとっととターンエンドしな!」

 

「す……すいません……ターン、エンドです……」

 

 

 

 ルイくんは肩を落として、か細い声でターンの終了を告げた。笑われた恥ずかしさからか、すでに涙目になっている。

 

 

 

「ケッ、相変わらず歯ごたえのねぇ。俺のターン!」

 

(どうせ俺の勝ちは決まってるからな。存分に遊ばせてもらうぜ)

 

「俺は【サイファー・スカウター】を召喚!」

 

 

 

【サイファー・スカウター】 攻撃力 1350

 

 

 

「うっ……!」

 

「攻撃表示ってのはなぁ、こういうモンスターを出すんだよ! 行け! 【サイファー・スカウター】! 奴の雑魚モンスターを蹴散らせ!」

 

 

 

 【サイファー・スカウター】はスナイパーライフルで【バニーラ】をロックオンし、狙撃した。弾丸が命中した【バニーラ】は無情にも粉砕され、ルイくんも爆風に見舞われる。

 

 

 

「わあぁぁぁぁ!?」

 

 

 

 ルイ LP 4000 → 2800

 

 

 

 衝撃の余りバランスを崩して、あっさりと尻餅を突いてしまうルイくん。その拍子に手札のカードが落ちて、バラバラと床の上に散らばった。

 

 

 

「一ノ瀬ぇ! てめぇなんざ俺の敵じゃねぇ!!」

 

「っ……くうっ……」

 

 

 

 見下し、嘲り笑う金沢くんを、ルイくんは怯えた目で見上げる事しか出来なかった。

 

 

 

 





 セツナ、1回戦突破!

 ルイくん、いきなり負けそう! ガンバッテー!!(`;ω;´)

 どうしてもルイくん戦の序盤を導入部分としてここまで書きたかったので、少し長くなりました。
 ルイくんの可愛さが天元突破して、セツナが悶え苦しんだ回になりました(笑)

 【ラビードラゴン】も【バニーラ】も同じパックに入っていたの、運命的な何かを感じますね(?)


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TURN - 22 Law of the Jungle


 1ヶ月ぶりです。またまた遅くなりましたー!!( ;∀;)

 ルイきゅん vs 金髪のケンちゃん戦、決着です!



 

 『弱肉強食』。

 

 ジャルダン・ライブレという街を形容するには、まさしく相応(ふさわ)しい言葉だ。

 

 この街は決闘(デュエル)に飢えている。

 闘争心を持て余した決闘者(デュエリスト)達が、()()き肉(おど)る闘いを求めて、この街に(つど)う。

 いつしかジャルダンは、『決闘(デュエル)が全てを支配する街』と呼ばれる様になり、多くのプロ決闘者(デュエリスト)を世界に輩出した事で、決闘(デュエル)界でも名を知らぬ者はいない巨大都市へと発展を遂げた。

 

 (カネ)も地位も名誉も、この街では、決闘(デュエル)の勝者・強者のみが全てを手に入れる。

 逆に敗者・弱者は、強者に喰われ奪われ、全てを失う。

 (ほっ)するならば、勝てばいい。極めてシンプル、(ゆえ)に、真理である。

 

 だからこそ──金沢(かなざわ) (ケン)()にとって、自分よりも格下の(いち)()() ルイという少年は、格好の玩具(オモチャ)だった。

 

 

 

「ギャッハッハッハ!! てめぇ(よえ)ぇなぁ!」

 

「うぅ……!」

 

 

 

 デュエルアカデミア・ジャルダン校が制定した、生徒の決闘者(デュエリスト)としての実力を示す、『ランク』という5段階の階級(カースト)制度。

 その最下層、ランク・Eに格付けされたルイは、気弱で臆病な性格も災いして、金沢達に目をつけられた。

 

 

 

「おらよっ! 【サイバー・オーガ】でトドメだ!」

 

「うわあああっ!!」

 

 

 

 機械の巨体(カラダ)を持つ凶暴な鬼の攻撃によって、ルイのライフが(あっ)()なく(ゼロ)になる。

 ろくな抵抗も出来ず、最後まで良い様に(もてあそ)ばれるだけの、屈辱的な完敗だった。

 

 

 

「おいおい。いくらランク・Eっつっても弱すぎだろ。どんなデッキ使ってんだ? 俺が鑑定してやるよ!」

 

「あっ……!」

 

 

 

 金沢は仲間にルイの身体を抑え込ませて動けなくすると、彼のデュエルディスクから、デッキを乱暴に取り上げた。

 

 

 

「かっ、返してください!」

 

「うるせぇな! ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ! いいかぁ? 俺は決闘(デュエル)に勝った! ()けた野郎は勝った人間の言う事は何でも()かなくちゃならねぇんだよ!!」

 

 

 

 何とも無茶苦茶な言い分だが、そんな強引な主張もこの街(ジャルダン)では(まか)り通ってしまう。

 特に結果を重視する実力主義のアカデミアには、勝てば官軍、負ければ賊軍という考えが深く根付いており、下位ランクの生徒は上位ランクの生徒に逆らえない縦社会が形成されていた。

 

 誰かが言った。弱さとはそれだけで罪である、と。

 

 

 

「……チッ、しけてんなぁ。ろくなカード持ってねぇ」

 

「お……お願いです……返してください……」

 

「あぁん?」

 

「ぐすっ……た、大切なカードなんです……だから……」

 

 

 

 涙を流しながら懇願するルイ。彼の細腕(ほそうで)では、金沢の仲間達の拘束は振りほどけない。こうして泣いて慈悲を乞う事しか出来ない哀れな敗者を見下ろして、金沢は気分を良くしたのか意地の悪い笑みを見せた。

 

 

 

「ほらよ、返すぜっ!」

 

「!!」

 

 

 

 ゴミでも投げ捨てるかの様にして、金沢はルイのデッキを、持ち主の目の前にバラまいた。

 そして拘束から解放されたルイは、急いで地面に散らばったカードに手を伸ばす。

 

 だが──ルイの指先が触れる直前で、金沢がそのカードを足で踏みつけてしまった。

 

 

 

「あっ……あああぁ……!」

 

「ケッ! なぁにが大切なカードだ! 男の腐った野郎みてぇによぉ!」

 

 

 

 グリグリと靴底で踏みにじられるカード。ルイは慌てて金沢の足を掴む。

 

 

 

「や、やめてくださ……」

 

(さわ)んじゃねぇ!!」

 

「っ!」

 

 

 

 金沢は空いている方の足で、鬱陶(うっとう)しそうにルイの頭を蹴っ飛ばした。

 

 

 

「おー、痛そっ」

 

「ケンちゃん容赦ねぇ~」

 

「くくくっ」

 

 

 

 固い地面にうつ伏せで倒れ込むルイを、金沢の仲間達は面白(おもしろ)おかしく見物していた。

 何人か他の生徒が通りかかったが、イジメの現場を目撃はしても、誰もルイを助けようとはしてくれない。

 それどころか、ルイに対して冷ややかな視線を向ける生徒さえ少なくなかった。

 学園から最弱の劣等生の烙印を押された生徒に手を差し伸べる者など、一人もいなかったのだ。

 

 

 

「ランク・E風情が気安く触ってんじゃねぇぞ!」

 

「っ……うぅ……」

 

「てめぇが弱ぇのが(ワリ)ィんだぜ? 悔しかったら俺に1回でも勝ってみろってんだ。まぁ無理だろうけどな、ギャッハッハ!」

 

 

 

 気が済んだのか飽きたのか、金沢達はゲラゲラと笑いながら立ち去っていった。

 

 後に取り残されたルイは、頭の痛みを堪えながら身体を起こし、金沢に踏まれたカードを拾う。

 (いた)めつけられ、ボロボロになったカードを見て、ルイは涙声で「ごめん……」と呟いた。

 

 

 

「みんな……ごめんね……僕が……僕が弱いから……」

 

 

 

 自分ひとりが(ののし)られ、暴力を振るわれるだけで済むなら、まだ耐えられた。しかし、命より大切なデッキを(おとし)められ、あまつさえ傷つけられる事だけは、決して許せるものではない。

 それでも、(ケン)()も苦手で決闘(デュエル)も負け越しのルイには、カードの(かたき)を討つ事も、勝利してカードに喜びを与える事も出来なかった。

 一部では中等部の優秀な弟と比べて、兄のルイを嘲笑する声も聞こえていた。唯一の救いは、その弟が兄を見放さず、味方でいてくれた事か。ルイは無力な自分が酷く惨めに思えて、悔しくて仕方なかった。

 

 1枚1枚、辺りに散乱したカード達を拾い集めるルイの(ほほ)に、再び一筋(ひとすじ)の涙が伝った。

 

 

 

(僕が……もっと強かったら……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 選抜デュエル大会・予選1回戦──2試合目。

 

 

 

 ルイ LP(ライフポイント) 2800

 

 金沢(かなざわ) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「ルイくん……」

 

 

 

 最初のターンのプレイングミスが原因で早くもライフを削られたルイくんは、決闘(デュエル)フィールドに尻餅を突いた姿勢のまま、立ち上がれなくなってしまっていた。

 

 ボクと同じく、ルイくんにとっても初めて参加する選抜試験。

 ただでさえ緊張している上に観客席からの衆人環視という重圧(プレッシャー)にまで晒される中、彼が最も恐れている、あの金沢くんを相手取らなくてはいけないという手厳しい状況下。

 会場の張り詰めた空気感に飲み込まれている精神状態に、追い討ちをかける様な先制攻撃を受けた事で、ルイくんの心が折れてしまったとしても、不思議ではなかった。

 

 

 

「なんだぁ? もう腰抜かしちまったのか一ノ瀬ぇ?」

 

「あっ……う……」

 

「ハン! だったらさっさと降参(サレンダー)しちまうんだな! 今なら認めてやっても良いぜ?」

 

「……!」

 

 

 

 ルイくんの視点が左腕に着けられた緑色のデュエルディスクに移る。

 サレンダー……敗北を認め、デッキの上に手を置く事で降参の意を示し、自らのライフを(ゼロ)にする行為。

 それをしてしまえば、ルイくんは──

 

 

 

「兄貴ィ!! 負けるなァァーーーッ!!!」

 

「「「 !!!? 」」」

 

 

 

 決闘(デュエル)が始まる前よりも一際(ひときわ)デカイ声で、ケイくんが叫んだ。

 当然そのソウルフルなシャウトは場内に余すところなく響き渡り、ルイくんは勿論(もちろん)、金沢くんや他の観客の生徒達、さらには逆サイドの決闘(デュエル)フィールドで対戦していた二人までをも振り向かせた。

 ……あぁ、うん。隣に座ってたボクが一番ダメージ大だよ。耳がキーンてするよ。

 アマネはケイくんの行動を予測してたのか、耳を塞いで上手く(のが)れていた。やりおる。

 

 

 

「……ケイ……ちゃん……」

 

「この大会でセツナさんと()るんだろ!? 兄貴その為に今まで頑張ってきたじゃねぇか!! そんなゲス野郎なんかサクッとぶっ倒してやれっ!!」

 

「……ッ!!」

 

「あんだとあのデカブツ……!」

 

 

 

 ……ここはボクもケイくんに(なら)って、先輩として可愛い後輩にエールを送るとしようかな。

 声を張るのは苦手だけど、少しでもルイくんの(ちから)になれるなら、やってみせよう。

 ボクは座席から立ち上がって、大きく息を吸った。

 

 

 

「ルイくん!! がんばれ!! ボク達がついてるよ!!」

 

「……セツナ先輩……!」

 

「そうよ! まだライフを少し削られただけ! こっから巻き返しよ!!」

 

「アマネさんも……みんな……!」

 

(みんなが僕を応援してくれてる……こんな……ランク・Eの……落ちこぼれの僕なんかの事を……)

 

「おーおー、泣かせるじゃねぇか。だがこいつが立ち直れるわけ……あ?」

 

 

 

 ルイくんは床に落としたカードを1枚ずつ拾い上げると、ゆっくりと腰を上げて身体を立たせていく。

 

 

 

(不思議だ……さっきまで頭が真っ白で足も震えていたのに……みんなのおかげで、気持ちが軽くなってきた……)

 

「……ありがとうございます……」

 

 

 

 そうして、彼は立ち上がった。折れかけた心を奮い起こさせて。

 デュエルディスクを構え直し、金沢くんと再び対峙する。

 

 

 

「サレンダーは……しません……!」

 

「……ペッ! てめぇらの(くせ)ぇ友情ごっこにゃあ()()が出るぜ! まだやるってんなら……なぶり殺される覚悟は出来てんだろうなぁ!!」

 

「──ッ!」

 

「俺はカードを1枚伏せて、ターン終了(エンド)だ!」

 

「ぼ……僕のターンです! ど、ドロー!」

 

 

 

 決闘(デュエル)が再開される。ルイくんはまだ緊張が残ってるっぽいけど、今なら大丈夫だろう。

 

 

 

「すぅ……ハァ……」

 

(落ち着いて、僕……とにかくまずは、今の手札で出来る事を探すんだ……!)

 

「……僕は、モンスターを裏守備表示でセットして……カードを1枚伏せて、ターン、終了です……!」

 

「へっ、チキン野郎め! チマチマ守備表示とはよ!」

 

「くぅ……!」

 

 

 

 あぁも事ある(ごと)()(かく)めいた言動が頻発してくると、ルイくんもやり(づら)そうだね……

 

 

 

「そんじゃ俺のターンだ! フィールドの【サイファー・スカウター】をリリースし、【()(どう)ギガサイバー】召喚!」

 

 

 

【魔導ギガサイバー】 攻撃力 2200

 

 

 

「っ……!」

 

「バトルだ! 【ギガサイバー】で守備モンスターを攻撃! 『サイバー・スワイプ』!」

 

 

 

 攻撃を仕掛けられた裏守備(セット)モンスターがダメージステップ時に反転して表側表示になり、正体を現す。

 

 

 

【ブークー】 守備力 500

 

 

 

 伏せられていたのはレベル2の通常モンスター。【ギガサイバー】の攻撃力には(かな)わず、あっさりと破壊されてしまう。

 

 

 

「うあっ……!」

 

「てめぇのデッキにはザコしかねぇのは分かってんだよ! 揃いも揃って使えないゴミカードばかりって事はなぁ!!」

 

「ッ……」

 

 

 

 確かにルイくんのデッキは、レベル3以下のモンスターしか入っていない『ローレベル』デッキ。

 

 単体では非力な低レベルモンスターを、魔法(マジック)(トラップ)でサポートしながら闘う、非常にコンボ性の高いデッキだ。ハッキリ言って、使いこなすのは超ムズい。

 

 ルイくんと何度も決闘(デュエル)してきた金沢くんに把握されてるのも、当たり前の話か。

 

 

 

「おらぁ! てめぇのターンだぜ! さっさと次のザコを出しな! 出た(そば)から順に踏み潰してやるからよ!」

 

「くっ……」

 

(でも……僕には金沢さんに見せていない戦術がひとつだけ……それに賭けるしかない……!)

 

「モンスターを伏せて……終了です」

 

「俺のターン! 【ギガサイバー】! 奴のザコモンスターを蹴散らせ!」

 

 

 

 ターンが移ると間髪入れずに攻め込んでくる金沢くん。

 次に破壊されたのは、【ウェザー・コントロール】だった。

 

 

 

「僕は……モンスターを守備表示です……!」

 

「どうしたぁ? 守ってばっかじゃ俺には勝てねぇぜぇ!」

 

 

 

 またもや【ギガサイバー】の攻撃が炸裂する。今度は【ララ・ライウーン】が破壊された。

 

 守備表示だから戦闘ダメージを受ける事もなく、何とか凌ぎ切れているけど、いつまで()つか……

 

 それにこの会場……敵はどうやら、金沢くんだけじゃないらしい。

 

 

 

「なんだよあいつ? さっきから防戦一方じゃねーか」

 

「つまんねぇ決闘(デュエル)してんじゃねぇぞ!」

 

「どうやったらあそこまで役に立たないカードばかり集められるんだ?」

 

 

 

「ッ……!」

 

 

 

 周囲から浴びせかけられる、心ない()()

 

 近年のデュエルモンスターズでは、スピード感のある一進一退の攻防や、高度な戦略の応酬、モンスター同士の派手な戦闘などが見栄えも良く、人気が高い。

 反面、ルイくんの様なスローペースの決闘(デュエル)は、地味で退屈とか盛り上がりに欠けると言った理由から世間ウケが悪く、敬遠されがちだ。

 

 大型モンスターで畳み掛ける金沢くんの豪快な戦術とは対照的に、ここまで目立った動きを見せていないルイくんに対して、とうとう客席からブーイングが飛び始めた。

 

 マズイな……ルイくんが益々(ますます)アウェーになっていく。

 本人は沈痛な(おも)()ちながらも必死に耐えているけれど、この空気はかなり(こた)えている筈だ。

 

 オマケに金沢くんには手の内を知られているし……この決闘(デュエル)、色々な意味でルイくんに不利な要素が多すぎる。これが神が与えた試練だって言うなら、神様ってのはなかなかイイ性格をしているね。

 

 あと、違う意味で()()()もマズイ。

 

 

 

「あんにゃろうども好き勝手言いやがってぇ~~~~~っ!!」

 

 

 

 ケイくんが爆発寸前だった。今にもルイくんに()()を飛ばした生徒達に殴りかかりそうな勢いで、両手で掴んでいる鉄柵がミシミシと音を立てている。

 

 

 

「落ち着きなよ、ケイくん」

 

「兄貴を目の前でコケにされて、黙ってられっかよ!!」

 

「そのお兄さんの顔を見てみな」

 

「…………!」

 

「まだルイくんの戦意は消えちゃいないよ」

 

(それどころか……何か()()()()って顔してるね)

 

 

 

「……僕の、ターン……ドロー!」

 

(──! このカードなら、もしかしたら……!)

 

「ぼ……僕は……【ハッピー・ラヴァー】を召喚します!」

 

 

 

【ハッピー・ラヴァー】 攻撃力 800

 

 

 

「はぁ? 攻撃表示だぁ? まさかそんなザコで、俺の【ギガサイバー】と()ろうってのか」

 

 

 

 (あなど)ってるね、金沢くん。でも、下級モンスターが上級モンスターに勝てないなんて、誰が決めた? 甘く見てると痛い目に遭うよ。

 

 

 

「──僕は手札から、【下克上の首飾り】を、【ハッピー・ラヴァー】に装備します!」

 

 

 

 小さな天使に()()(レツ)なデザインの首飾りが装飾された。今のところ、ステータスに変化は見られない。

 

 

 

「カードを1枚、伏せて……永続魔法・【弱者の意地】を発動! バ……バトルです! 【ハッピー・ラヴァー】で、【魔導ギガサイバー】を攻撃します!」

 

 

 

 これまで、ずっと攻められっぱなしだったルイくんが、初めて自分から攻撃を仕掛けた。

 

 

 

「ハッ! とうとう追い詰められておかしくなりやがったか! そいつより【ギガサイバー】の方が攻撃力は……」

 

 

 

【ハッピー・ラヴァー】 攻撃力 800 → 2800

 

 

 

「なにぃぃっ!?」

 

「撃ち抜いて! 『ハートビーム』!!」

 

 

 

 【ハッピー・ラヴァー】は(ひたい)のハート型の模様からビームを放出して、見事【魔導ギガサイバー】の撃破に成功した。

 

 

 

「一ノ瀬てめぇ! 一体なにをしやがった!?」

 

「【下克上の首飾り】は、装備モンスターが自分よりレベルの高いモンスターと戦闘(バトル)する時、その攻撃力を、レベルの差1つにつき、500ポイントアップさせます……!」

 

 

 

 この場合、【ギガサイバー】と【ハッピー・ラヴァー】のレベル差は4。よって2000ポイントアップしたわけだ。

 

 

 

「チィッ……!」

 

 

 

 金沢 LP 4000 → 3400

 

 

 

「おぉっしゃあ!! さすが兄貴! ついに野郎のライフポイントを削ったぜ!!」

 

(や、やった……! 初めて僕のカードで、金沢さんのモンスターを倒せた!)

 

「【弱者の意地】の効果! 手札が(ゼロ)枚で、自分の場のレベル2以下のモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した時、カードを2枚ドローします! ……もう1枚カードを伏せて、ターン終了です!」

 

(このガキ……調子に乗りやがって!)

 

「俺のターンだ!」

 

(──! ククッ……!)

 

「その装備カードさえありゃ、俺が迂闊に攻撃できねぇとでも思ってんだろうが……残念だったな! 俺は【サイバー・レイダー】を召喚!」

 

 

 

【サイバー・レイダー】 攻撃力 1400

 

 

 

「こいつが召喚された時、装備カード1枚を破壊する! 【下克上の首飾り】を破壊だぁ!」

 

「ッ!」

 

 

 

 【ハッピー・ラヴァー】が装着していた首飾りが粉々に砕かれる。金沢くんもランク・Cなだけあって、やるね。早々に対処してきたか。

 

 

 

「なぁ~にが下克上だ。最底ランクの分際で、(イキ)がるんじゃねぇよ! バトルだ! 【サイバー・レイダー】で攻撃!! 『サイバーナックル』!!」

 

 

 

 やっぱりね。ルイくんを完全に舐め切ってるから、伏せ(リバース)カードの警戒は(おこた)ると思ったよ。

 

 

 

(今です!)

 

「永続(トラップ)・【窮鼠(きゅうそ)の進撃】を発動します!」

 

「ッ!?」

 

「レベル3以下の通常モンスターが相手とバトルする時、僕のライフから払った数値分、相手モンスターの攻撃力をダウンします!」

 

 

 

 ルイ LP 2800 → 2100

 

 

 

【サイバー・レイダー】 攻撃力 1400 - 700 = 700

 

 

 

 上手い! 今度は敵モンスターを弱体化させて、攻撃力の優劣を逆転させた! マキちゃんも得意とする『コンバット・トリック』だ!

 

 

 

「ぐっ……くそっ……!」

 

「『ハッピー・バーニング』!!」

 

 

 

 可愛らしい天使の口から炎が吐き出されて、【サイバー・レイダー】は焼き尽くされた。そんな技まであったんだ。

 

 

 

「ッ……!!」

 

 

 

 金沢 LP 3400 → 3300

 

 

 

「おぉ……すげっ」

 

「案外やるじゃん、あのランク・E」

 

 

 

 良い調子だ。徐々に決闘(デュエル)の流れがルイくんに傾きつつある。観客の見る目も僅かに変わり始めてきた。

 

 

 

「っしゃあーッ!! 見たかってんだ、パツキン野郎!! 兄貴ィ! そのまま押し切っちまえ!!」

 

「……いや、まだ勝った気になるのは早いわよ」

 

「え"っ!?」

 

「アマネの言う通りだね。金沢くんの強さはこんなものの筈がない。ランク・Cは、伊達じゃないよ」

 

 

 

 ボクも闘った事があるから分かる。金沢くんは、まだ実力の底は見せていない。何より、彼の切り札である【サイバー・オーガ・(ツー)】が、まだ出てきていない。

 

 

 

「気をつけてね、ルイくん……!」

 

「……っ」

 

 

 

「──プッ、くくくっ!」

 

 

 

 ……? 金沢くん(がわ)の応援席に座っていた三人の生徒が何やら吹き出して、ニヤニヤと愉快そうに笑っていた。

 

 大柄な体型の厚村(あつむら)くん、細身で三白眼の平林(ひらばやし)くん、(さか)()った髪型とサングラスが特徴の()(もり)くんの三人組だ。

 仲間の金沢くんが不利になってるのに何が()()しいんだろう? そう疑問に思った矢先、小森くんが口を開いた。

 

 

 

「おーい! ケンちゃん! いつまで遊んでやってんだよ?」

 

「ぶはっ!」

 

「ダハハッ!」

 

 

 

「……くっくっくっ……あぁ、そうだな。そろそろ本当の力の差ってもんを思い知らせてやるか!」

 

「!!」

 

 

 

 金沢くんの雰囲気が変わった……!

 さしずめ、ここからが本番と言ったところか。

 

 

 

(トラップ)発動! 【バイロード・サクリファイス】!」

 

「!」

 

「自分のモンスターが戦闘で破壊された時に発動。手札から【サイバー・オーガ】を特殊召喚できる!」

 

 

 

【サイバー・オーガ】 攻撃力 1900

 

 

 

「さ……【サイバー・オーガ】……!」

 

 

 

 ルイくんの顔が一気に青くなる。風向きが怪しくなってきたな、ちょっとヤバいかも。

 

 

 

「さらに手札から【サイクロン】を発動! ウザッてぇ【窮鼠の進撃】を破壊するぜ!」

 

「っ! あぁっ!?」

 

 

 

 【窮鼠の進撃】のカードが暴風に吹き飛ばされて除去されてしまう。

 

 

 

「……変ね」

 

「えっ?」

 

「手札に【サイクロン】なんて隠し持ってたなら、さっき【サイバー・レイダー】で攻撃した時、ライフコストだけ無駄に払わせて【窮鼠の進撃】を破壊できたはず……」

 

「……【バイロード・サクリファイス】を発動するために、わざと使わなかったとか?」

 

「それなら【魔導ギガサイバー】が倒された時点で発動できたはずよ。そもそも【サイクロン】を場に伏せておけば、装備カードを破壊して【ハッピー・ラヴァー】を返り討ちに出来た」

 

「あ、そっか。……て事は、もしかして……」

 

「えぇ。金沢の奴、今まで手を抜いてたわね……!」

 

 

 

 アマネは眉を(しか)めて(けわ)しい表情を作った。誰だって手加減されてたと分かれば良い気はしない。こういうのを舐めプ(舐めたプレイ)とか言うんだったか。

 

 

 

「バトル続行! 【サイバー・オーガ】で、【ハッピー・ラヴァー】を攻撃!」

 

「!!」

 

 

 

 【サイバー・オーガ】の豪腕による強烈な殴撃(おうげき)が、【ハッピー・ラヴァー】を叩き伏せて粉砕した。

 

 

 

「うぐっ……!」

 

 

 

 ルイ LP 2100 → 1000

 

 

 

「おいおい、ちょっと本気出してやったらコレかよ?」

 

「……!」

 

「くくっ、だがこれだけで終わらねぇぞ! さぁらぁにぃ! 魔法(マジック)カード・【融合徴兵】を発動! ショータイムの始まりだぁーッ!!」

 

「「「 イエーッ!! 」」」

 

 

 

 急に盛り上がる三人組。金沢くんも観客が味方についてるのを良い事に、この決闘(デュエル)は自分の独壇場だと思っているのか、すっかり得意になっている様子だ。

 

 

 

「エクストラデッキの融合モンスターを相手に見せ、その融合素材を1体、デッキか墓地から手札に加える! 俺が見せるのは当然【サイバー・オーガ・(ツー)】! デッキから、【サイバー・オーガ】を手札に加えるぜ!」

 

 

 

 2枚目の【サイバー・オーガ】!? という事は、まさか……!

 

 

 

「くくくくっ、とくと見やがれぇっ! 手札から【融合】を発動!」

 

「!?」

 

 

 

 やっぱり。すでに手札に【融合】まで控えていたのか……!

 

 

 

「フィールドと手札の、2体の【サイバー・オーガ】を融合! ──融合召喚! 現れろ! 【サイバー・オーガ・2】!!」

 

 

 

【サイバー・オーガ・(ツー)】 攻撃力 2600

 

 

 

「あっ……あ……!」

 

 

 

 ついに【サイバー・オーガ・2】が召喚された……

 ルイくんにとって、最もトラウマを刻み込まれたであろうモンスターが。

 

 

 

(ルイくん……これは越えるべき壁だよ。君の手で倒すんだ!)

 

 

 

「まだまだぁ! お楽しみはこれからよぉ! 魔法(マジック)カード・【おろかな埋葬(まいそう)】を発動! デッキからモンスター1体を墓地に送る!」

 

 

 

 わざわざデッキの中からモンスターを墓地へ? 今度は何をするつもり……──そうか!?

 

 

 

「そして手札から、【()(しゃ)()(せい)】発動! たった今【おろかな埋葬】で墓地に送った、【サイバー・ダイナソー】を特殊召喚!!」

 

 

 

【サイバー・ダイナソー】 攻撃力 2500

 

 

 

 【サイバー・オーガ・2】、1体だけでもキツイのに、ダメ押しで上級モンスターが更にもう1体……!

 これだけの布陣を整えられる手札でありながら、今の今まで温存してたのか。

 

 

 

「ギャッハッハッハッ!! 理解したかぁ? 一ノ瀬。てめぇなんざいつでも潰せたんだよ!」

 

「っ……!」

 

(僕は、ただ……遊ばれてた……だけ……)

 

 

 

 ガクッと、ルイくんの(ひざ)が折れかけた。

 

 

 

「この俺を倒せると本気で思ったのかぁ!? 手ぇ抜いてやってるとも知らずに、ちょっと抵抗できたぐれぇで喜んでやがるてめぇの姿、マジで爆笑もんだったぜ! ギャーーーッハッハッハッハッ!!」

 

 

 

 ──!!

 

 調子に乗って侮蔑の言葉を思うがまま浴びせかける金沢くんの言動に、とうとう()()()ケイくんが、鉄柵をバキリと握り潰した。

 

 

 

「ウガァァァーーーッ!! もう許せねぇあのクズヤロー!! 俺がぶちのめして──」

 

()めてアマネ」

 

「はいよ」

 

「ぐへっ!?」

 

 

 

 今まさに決闘(デュエル)フィールドに乱入する5秒前だったケイくんの脇腹に、アマネの鋭い蹴りが突き刺さった。すごい音がしたけど気のせいだよね!

 どうやら()()()みたいで、ケイくんは(うめ)き声を上げながら床に崩れ落ち大人しくなった。危ない危ない。

 にしても、ガタイの良い屈強な大男を、キック一発で沈めるとは流石(さすが)アマネさん。恐ろしい子。あとケイくんごめんね。

 

 

 

「どうだっ! 反撃してみろやぁ!」

 

(っ……ムリだ……やっぱり……僕なんかじゃ勝てな……)

 

「ルイくん!!」

 

「──ッ!!」

 

 

 

『2回戦で、待ってるよ』

 

 

 

(……そうだ……! 僕は……!!)

 

(トラップ)発動! 【オーバーリミット】!」

 

「ッ! あ"ぁ?」

 

「ライフを500ポイント払って……このターン戦闘で破壊された、攻撃力1000以下の通常モンスターを、墓地から特殊召喚します!」

 

 

 

【ハッピー・ラヴァー】 守備力 500

 

 

 

 ルイ LP 1000 → 500

 

 

 

「チッ、しつけぇなぁ……今さら無駄なあがきしてんじゃねぇよ! ザコはザコらしく、大人しく負けろ!!」

 

「…………っ! いやだ!!」

 

「!?」

 

「ルイくん……」

 

「あ……兄貴ッ……!」

 

 

 

 ルイくんのあんなに大きな声、初めて聞いた。

 

 

 

「もう少しなんです……憧れの人が……すぐそこで待ってるんです……! ここで負けるわけにはいかないんだ!!」

 

「はぁ? まだ俺に勝つ気でいやがんのか? この状況で、てめぇごときに一体なにが出来るってんだよ!」

 

 

 

「……フッ、あの時と一緒だね」

 

 

 

 ボクは目を閉じてそう呟いた。

 なんかデジャヴを感じると思ったら、このシチュエーション……ボクが転入初日に金沢くんと決闘(デュエル)した時と似ているね。

 

 次のルイくんのドローで、全てが決まる。これがラストターンだ。

 

 

 

「…………っ」

 

(僕の手札は、モンスターが1枚だけ。勝つ為には、()()()()()を引き当てるしかない……!)

 

 

 

『──ライフポイントが残っている限りは、最後までカードをドローしなさい』

 

 

 

「僕のターンです……」

 

 

 

 静かに告げ、デッキの一番上のカードに指先をかけるルイくん。

 そして──

 

 

 

(僕は、僕のデッキを信じる……お願い……来て!)

 

「──! ドローッ!」

 

 

 

 渾身の思いで、デッキからカードを引く。まさに運命の……デスティニー・ドローだ!

 

 

 

「……!」

 

(来た……来てくれた!!)

 

 

 

『諦めなければ、きっとデッキは応えてくれる』

 

 

 

「……ありがとうございます……先生……みんな……!」

 

 

 

 ルイくんの頬に、涙が伝ったのが見えた。けれども、口元は笑っていた。

 

 

 

魔法(マジック)カード・【トライワイトゾーン】を発動!」

 

「!」

 

「僕の墓地からレベル2以下の通常モンスター3体を特殊召喚します! 来て! 【ブークー】! 【ウェザー・コントロール】! 【ララ・ライウーン】!」

 

 

 

 本の姿をした不思議な魔法使い。傘を持った雪ダルマ。電気を帯びた雲のモンスターが、フィールド上に(よみがえ)る。

 

 

 

「へっ! ワラワラと沸いてきやがる。またザコモンスター(そいつら)を守備で並べて時間稼ぎでもするつもりかぁ? 所詮ランク・Eの……」

 

「いいえ、僕のモンスターは……全て攻撃表示です!!」

 

 

 

【ブークー】 攻撃力 650

 

【ウェザー・コントロール】 攻撃力 600

 

【ララ・ライウーン】 攻撃力 600

 

【ハッピー・ラヴァー】 攻撃力 800

 

 

 

「はぁあっ!?」

 

「ダハハハッ! あいつ勝てねぇと分かって()()になりやがったな?」

 

「ブホッ! マジ超ウケるわぁ~それ!」

 

 

 

「あ、兄貴、なに考えてんだよ……っ!? どれか1体でも攻撃されたら、お仕舞いじゃねぇか……!」

 

「本当にそう思ってる?」

 

「は……? セツナの(あに)さん、なに言って……」

 

 

 

「さらに【サンダー・キッズ】を召喚です!」

 

 

 

【サンダー・キッズ】 攻撃力 700

 

 

 

「だから、そんなザコを出してどうしようってんだっ!?」

 

「僕のカード達は……ザコなんかじゃありません!」

 

「っ……!」

 

「……自分フィールド上に、レベル2以下の通常モンスターが5体揃っている時、発動できるカードがあります」

 

「なんだと?」

 

「──行きます! リバースカード・オープン! 【弱肉一色】!!」

 

 

 

 あの魔法(マジック)カードは、ルイくんが【弱者の意地】を発動する直前に伏せていたカード!

 

 突如、金沢くんの場にいる2体のモンスターに異変が起きた。機械で造られた強固なボディに何の前触れもなく亀裂が走り、全身が少しずつ崩壊していく。

 

 

 

「な、なんだこりゃあ!? 俺のモンスター達が!!」

 

「【弱肉一色】は、お互いの手札と、フィールドのレベル2以下の通常モンスター以外の、全てのカードを破壊します!!」

 

「なにっ! す、全てだとぉーっ!?」

 

 

 

「なるほど……ルイくんは、このカードの発動を狙っていたのね」

 

「スゲー! スゲーぜ兄貴ィーッ!!」

 

 

 

 やがて金沢くんの【サイバー・ダイナソー】と【サイバー・オーガ・2】は、残骸と化して消滅した。ルイくんが発動していた【弱者の意地】も破壊される。

 後に残ったのは、ルイくんの元に(つど)った低レベルモンスター5体のみとなった。

 

 

 

「お……俺の場が……がら空きっ……!?」

 

「バトルです!! 全モンスターで、プレイヤーに直接攻撃(ダイレクトアタック)!!」

 

 

 

 小さな(あるじ)の宣言を受けて、5体のモンスター達は一斉に進撃を開始する。

 5体それぞれの固有の攻撃が、身を守る手立ての無い金沢くんへと、一点集中で放たれた。

 

 

 

「ひっ……うぎゃああああああああああっ!!!?」

 

 

 

 金沢 LP 0

 

 

 

 確かに聞こえた。金沢くんのライフポイントが(ゼロ)になった事を報せる、ディスクの音が。

 

 決着が訪れたその瞬間、会場が騒然とした。

 

 

 

「うおぉーっ!? 信じらんねぇ!」

 

「勝ちやがったぜあのランク・E!!」

 

「相手はランク・Cだったってのにマジかよ!?」

 

 

 

「んな……バカ……な……!」

 

 

 

 一番信じられないのは負けた金沢くん本人だろう。フラフラと後退りしたかと思うと、今度は自分が尻餅を突いて、茫然自失してしまった。

 その様子を()()で見ていた三人組も、口をあんぐりと開けて目を点にして固まっていた。

 

 

 

「ッ…………!!」

 

「ウソ……だろぉ……?」

 

「け、ケンちゃんが……あんな奴に……!」

 

 

 

「っしゃあぁーーーーーっ!! 兄貴が勝ったァァーーーッ!! ゲフッ!?」

 

「あちゃ、少し蹴りが強すぎた? ごめんね」

 

 

 

 歓喜の雄叫びを上げた瞬間、アマネの蹴りのダメージで再びダウンしたケイくんを横目に、ボクは鉄柵に足を乗せると、そのまま下へと飛び降りた。

 

 

 

「……僕が……勝った……の……?」

 

 

 

 そして、未だ勝利の実感が湧かないのか呆けた顔で立ち尽くしているルイくんを、後ろから勢いよく抱き締めた。

 

 

 

「ルイくーん!」

 

「ひゃわあっ!?」

 

 

 

 ビックリして目を丸くするルイくん、安定の可愛さだね、うん。

 一旦ルイくんを離して、彼の細い双肩に両手を置いて正面から向かい合い、ボクは笑顔で言った。

 

 

 

「おめでとう、ルイくん。君の勝ちだよ!」

 

「──!! ……うっ……ううぅ……!」

 

「?」

 

「うわああああああんっ!!」

 

「おわぁ!?」

 

 

 

 緑色の綺麗な瞳から大粒の涙を流して、ルイくんは大泣きしながらボクに抱きついてきた。

 

 

 

「うえええええんっ!」

 

「おーよしよし。頑張ったね、ルイくん」

 

(フフッ、かわいい奴め)

 

 

 

 ボクはルイくんを抱き止めて、頭を優しく撫でる。

 今だけは泣かせてあげよう。初めての勝利の感動に、浸らせてあげよう。

 きっと、ルイくんのデッキも喜んでいるよ。

 

 

 

 金沢くんの敗因は、言うまでもないけど、ルイくんを見くびり過ぎて手を抜いたプレイングをした事だ。

 ルイくんが大会の為に努力を重ねて成長して、実力の差が(せば)まっていた事にさえ気づかず、最後まで油断し続けていた。その(おご)りと過信が敗北を招いたんだ。さながら、ウサギとカメの童話だね。

 

 金沢くんはルイくんのカードをゴミだと言った。

 でもそれは違う。

 この決闘(デュエル)が、この世界に不要なカードなんて無い事を証明した。

 

 どんなカードにも存在する以上、必要とされる力がある。

 使えないと散々なじられたカードにだって、強い相手を倒せる可能性が秘められているんだ。

 

 改めて初勝利おめでとう、ルイくん。そして、ボクとの約束を果たしてくれて、ありがとう。

 

 

 

 一ノ瀬 ルイ・予選1回戦──突破!

 

 

 

 





 ルイくんの初デュエル&初勝利回でした! オメデトー!!(`;ω;´)

 あれれ~? ルイくんがセツナより主人公してる?

 やはり最後は諦めない人間が勝つ。そんなお話でした。
 なんて言いつつ、作者は今年の異常な暑さに負けて、夏バテで執筆意欲すら持ってかれてましたorz
 ものすごい時間をかけて一話を書き上げて、ようやく投稿ボタンを押せた時の嬉しさと達成感は半端ないですね(*´・ω・`)b

 金沢は何度も何度もザコとばかり……他の言葉を知らないのk(ry

 さてさて、セツナとルイくんのデュエルはどうなるのでしょうか。書くのが今から楽しみです!


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TURN - 23 RIVAL ARRIVAL


 今回のデュエルはカナメさんです! セツナとルイくんの対決は次回から!

 関係ないですが、デュエルリンクスに5D's実装おめでとうございます!! 『おい、デュエルしろよ』が決めゼリフになるとはww



 

 ルイくんが金沢(かなざわ)くんとの決闘(デュエル)で逆転勝利を収め、選抜デュエル大会、予選1回戦を突破。

 ()()、予選2回戦1試合目で、ボクと当たる事が確定した。

 

 別のブロックでは、マキちゃんやコータも勝ち上がり、順調に2回戦へとコマを進めていた。

 

 数時間後には大会初日に組まれた試合は全て消化され、512人もいた参加者は、この日1日で半数に絞られた。

 

 勝ち残った生徒の喜びの声と、敗退した生徒の悔恨に満ちた嘆きとが混じり合う中、1日目の予選は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それじゃあ、ルイくんの初勝利と、ボク達の2回戦進出を祝って──カンパイ!」

 

「「「「「 カンパーーーーイ!!!! 」」」」」

 

 

 

 昼下がり、街中のファミレスにて。

 

 ボクとアマネとマキちゃんとコータ、それからルイくんとケイくんの(いち)()()兄弟を含めた計6名でテーブルを囲い、各自が注文したドリンクが全員分揃ったところで、ボクが乾杯の音頭を取り、皆でグラスを打ち付け合う。

 

 

 

「ルイちゃんオメデトー!」

 

「あ、ありがとうございます、マキノさん。皆さんも……僕の為にわざわざ、本当に……」

 

「変に(かしこ)まる事ないんだよ? なんたってルイくんは、本日の主役なんだから」

 

 

 

 ボクはそう言いながら、ルイくんが肩から掛けている、『本日の主役』と書かれた(たすき)を指さす。

 

 

 

「こ、これはマキノさんが……」

 

「はーい! あたしがド○・キホーテで買ってきましたー!」

 

 

 

 マキちゃんが(いつもの事ながら)急にどっか行ったと思ったら、スキップしながらやたらキラキラした笑顔でこの(たすき)を持って戻ってきた時は、ルイくんもボク達も苦笑いしてたよね。

 

 

 

「良いじゃねーか兄貴、似合ってるぜ!」

 

「よ、喜んでいいのかな……」

 

「あははっ、ケイくんらしい不器用な褒め方だね」

 

「だ、誰が不器用だとぉーっ!?」

 

「でも、嬉しいよ。ありがとうケイちゃん」

 

「えっ!? お、おう、気にすんな! 兄貴の勝利を祝うのはトーゼンだろ?」

 

 

 

 ケイくんが「打ち上げしよーぜ!!」と叫んだのがキッカケで開かれた、今回の祝勝会。

 他の大会参加者から見たら、たかが予選で一勝した程度で(おお)()()なって思われるかも知れないけど、ルイくんにとってあの一勝は、今までずっと負けっぱなしだったコンプレックスを克服し、金沢くんへの雪辱を果たす事の出来た、偉大な一勝なんだ。

 会場で嬉しさの余り号泣して、後で落ち着いたら恥ずかしさが込み上げてきたのか耳まで真っ赤になっていたのは、ここだけの話。

 

 

 

「お金ならもちろんボクらが出すし、今日は好きなだけ食べてって良いよ」

 

「ええっ!? そ、それはさすがに悪いですよ!」

 

「気にしない気にしない。ほら、何でも頼みな?」

 

 

 

 メニュー表をルイくんに手渡すと、ケイくんと二人で食い入る様にしてページを捲り始めた。本当に仲の良い兄弟だなぁ。微笑(ほほえ)ましい。

 

 

 

(……なんで……なんで総角(アゲマキ)がアマネさんの隣なんだァァーーーッ!? しかも()(づき)も隣で両手に花って、どういう事だァァーーーッ!! ちくしょおぉぉ……アマネさんとお近づきになれると思って参加したのにぃぃぃ!)

 

「……? コータ、どうしたの?」

 

「うえっ!? や、なな、なんでもねーぜ!?」

 

(そこ代われ!! くっそー、総角(アゲマキ)……お前にだけは負けねぇぞ!)

 

 

 

 ……なんか向かいの席でケイくんの隣に座ってるコータから、おぞましいオーラが出てるのは気のせい?

 

 

 

 ────しばらくして、テーブルには皆の注文した、色とりどりの料理がところ狭しと並べられていた。

 パスタにピザにオムライス、ポテトにスープにサラダにグラタン、カレーにステーキにハンバーグ!

 

 

 

「僕オムライス大好物なんですよ~」

 

 

 

 と、言いながら、スプーンで一口(ひとくち)分すくったオムライスを、小さな口に運んで幸せそうに味わうルイくん。

 

 の、隣では。

 

 

 

「血が足りねぇ……!」

 

 

 

 と、ケイくんが肉厚なステーキにフォークを突き立てて、大口開けてガッついていた。

 

 教えてもらわなきゃ、この二人が血の繋がった兄弟だなんて、誰も予想だにしないだろう。オムライスをチビチビと食べている小動物の方が年上で兄だと知ったら、さらに驚くに違いない。

 

 ボク達もお互いの料理を味見し合ったりして食事を楽しみながら、時間も忘れて会話に華を咲かせていた。

 

 やがて話題はルイくんを(ねぎら)い誉めちぎり、その天使の様な可愛さに全員で悶える内容から、今日観戦した他の決闘(デュエル)について語る流れに変わっていった。

 

 

 

「今日一番スゴかった試合と言えば?」

 

 

 

 マキちゃんが切り出した。真っ先に手を上げて答えたのはケイくん。

 

 

 

「兄貴!!」

 

「それ以外で」

 

「ぬぅん」

 

「やっぱ……鷹山(ヨウザン)だろ」

 

「鷹山ね」

 

「カナメだね」

 

「ですね……」

 

 

 

 満場一致で初日の最優秀賞は、鷹山(ヨウザン) (カナメ)に決定した。

 今思い返しても、あの人の決闘(デュエル)は凄まじかった……

 

 時間は、選抜試験の予選1回戦の、最後の試合まで(さかのぼ)る──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ボク達6人は、予選A-ブロックの会場である、第1決闘(デュエル)フィールドを訪れていた。

 

 

 

「なっ……なんじゃこりゃあぁぁぁっ!?」

 

 

 

 ケイくんが素っ頓狂な声を上げて仰天したのも無理はなかった。

 場内の座席はほぼ全て埋まっていて、まるでテレビで観るプロリーグの試合並みに大盛況していたんだ。

 

 

 

「スッゲ満席!? これ予選の初日だよな!?」

 

 

 

 コータも興奮気味に声を(はず)ませながら、キョロキョロと辺りを見渡している。

 

 これほどの注目度の中で今から始まるのは、予選1回戦・第8試合。

 出場するのは『ジャルダン十傑(じっけつ)』の称号を持ち、『学園最凶』という二つ名で恐れられている決闘者(デュエリスト)──鷹山(ヨウザン) (カナメ)だ。

 

 ボクが再戦(リベンジ)を誓ったライバルの初陣(ういじん)。見逃す手はない。

 席が空いてなかったので、仕方なく立ち見する事にした。

 

 ……5分ほど経過した頃だろうか。

 

 

 

「「「 ──オオオオオオオオオオッッッ!!!! 」」」

 

「!」

 

 

 

 前触れなく突如として沸き起こった、オーディエンスの大歓声。

 それは、この会場に詰めかけた観衆の大半が目当てにしていた選手が、ついに姿を現した事を知らせていた。

 

 入場口を抜けて、ひとり決闘(デュエル)フィールドへと歩を進めているのは、ミディアムショートの黒髪と碧眼(へきがん)が特徴的な美形の青年。

 

 大会1日目にして満員の生徒達で(あふ)れた観客席と、その集客数に比例した大音量の歓声にも全く動じず、むしろいつも通りだと言わんばかりに、彼は慣れた様子で平然と舞台の上に立った。

 

 

 

「出やがったぜ、学園最凶……!」

 

「やべぇッスね……こっから見ててもゾッとしちまう……」

 

(カナメ……)

 

「そう言えばアマネたん。ヨーザンさんの対戦相手って誰だったっけ?」

 

「んーっと、あぁ、猿爪(ましづめ)ね。2年の猿爪(ましづめ) ()(いち)

 

 

 

 アマネがPDAを操作しながら答えた。どのブロックで何試合目に誰が出るのかは、全て端末で確認できる。

 

 

 

「2年? 大丈夫なの? カナメ相手に」

 

「ただの2年じゃないわ。ランク・Aで、しかも次期十傑(じっけつ)候補よ」

 

「あ、じゃあボクが(たたか)った猪上(いのうえ)くんと(おんな)じか」

 

「やたら自信家で鼻持ちならねぇ野郎だが……悔しいけど腕は確かだ」

 

 

 

 苦々(にがにが)しい表情でコータが言った。あの猪上(いのうえ)くんと遜色(そんしょく)ないレベルの腕前だとすると……もしかしたらカナメでも、足を(すく)われる可能性があるかもね。

 

 少し遅れて、カナメが入ってきたのと反対側の入場口から、その猿爪(ましづめ)くんが登場した。

 

 髪型はオシャレに刈り上げたモンキーボウズで、髪の色はレッドブラウン(赤茶色)。細身で背丈はカナメと変わらないぐらい。目付きが鋭く、ニヒルな笑みを浮かべている。コータの言う通り、自信満々って感じの顔つきだ。

 

 

 

「……なるほど、かなりやるね。強いよあの人は」

 

「先輩、見ただけで分かるんですか?」

 

「ん~……なんとなく、だけどね。長いこと決闘(デュエル)やってると、見れば相手の強さは大体分かる様になってきた」

 

「す、すごいです……それにカッコいい……!」

 

 

 

 ルイくんが両目をキラキラさせて、尊敬の(まな)()しでボクを見つめてきた。しかも上目遣いで。やめてルイくん、その技はボクに効く(照)。

 

 

 

「キキキッ! 相手が学園最凶だろうと誰だろうと、俺の敵じゃねーっつーの!」

 

 

 

 おおっ、カナメに臆するどころか余裕の発言。何か勝算があるのだろうか。

 猿爪くんも決闘(デュエル)フィールドに上がり、カナメと正面から向かい合う。

 

 

 

鷹山(ヨウザン) (カナメ)! この俺がオメーの無敗神話に幕を下ろしてやるっつーの!」

 

(俺のデッキには、オメーを封殺する()()()()()が入ってるっつーの! キキキッ!)

 

「……()(たく)はいい。さっさと始めるぞ」

 

 

 

 カナメは猿爪くんの宣戦布告を軽く聞き流し、右腕に着けたブルータイプのデュエルディスクを起動、展開させる。

 

 

 

「キッ! すぐに吠え面かかせてやるっつーの!」

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 カナメ LP(ライフポイント) 4000

 

 猿爪(ましづめ) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「俺の先攻だっつーの! 俺は【ファイターズ・エイプ】を召喚ッ!」

 

 

 

【ファイターズ・エイプ】 攻撃力 1900

 

 

 

「さらに魔法(マジック)カード・【生け贄人形(ドール)】! 【ファイターズ・エイプ】をリリースし……」

 

 

 

 召喚されたばかりの【ファイターズ・エイプ】が、奇妙な人形に姿を変えられてリリースされる。

 

 あの()(ほう)カードはモンスター1体をコストに、手札からレベル7のモンスターを呼び出せる……十傑の九頭竜くんも使っていたカードだ。

 デメリットとして、この効果で特殊召喚されたモンスターは、そのターン攻撃できないけれど、先攻1ターン目であれば何ら問題じゃない。考えたね。

 

 

 

「出でよ! 【エンシェント・クリムゾン・エイプ】!!」

 

 

 

 そうして現れたのは──肌の赤い巨体に黒く頑強な鎧を纏い、巨大な(けん)と盾で武装した、金色(こんじき)のたてがみを持つ(サル)の戦士。

 

 

 

【エンシェント・クリムゾン・エイプ】 攻撃力 2600

 

 

 

「おー、1ターン目からいきなり上級モンスターを召喚かぁ」

 

「セツナはビビっちゃって出来なかったプレイングね」

 

「うっ……!」

 

 

 

 アマネの言葉がグサリと刺さった。ボクがカナメと初めて()った時の苦い記憶が思い起こされる。我ながら、らしくない決闘(デュエル)をしてしまったと反省しているよ。

 

 早速フィールドに現れた大型モンスター。その迫力に、観客席からは歓声が飛び交う。

 それに気を良くしたのか猿爪くんは、「キキキッ」と個性的な笑い声を漏らすと、手札のカードを1枚、魔法(マジック)(トラップ)ゾーンにセットした。

 

 

 

(こいつでオメーの息の根を止めてやるっつーの!)

 

「カードを2枚伏せて、ターン終了(エンド)だっつーの!」

 

 

 

 早くも手札を全部使い切って、理想的な盤面を整えた猿爪くん。

 並大抵の決闘者(デュエリスト)じゃ、これを攻略するのは困難だけど……さて、カナメはどう出るかな?

 

 

 

「……俺のターン、ドロー」

 

(今だッ!!)

 

「永続(トラップ)発動! 【生贄(いけにえ)封じの仮面】!!」

 

「──!」

 

 

 

 猿爪くんのフィールドに、不気味な仮面が出現した……!?

 

 

 

「キキキキッ! どうだぁーッ!! このカードがある限り、お互いにいかなる場合でも、カードをリリースできないっつーの!」

 

「…………」

 

「鷹山! オメーのデッキは『アドバンス召喚』によって効果を発揮する【(みかど)】モンスターを中心に構成されている! つまりその為に必要な『リリース』さえ封じてしまえば、オメーのデッキは完全に死んだも同然っつーわけだっつーの!!」

 

 

 

 リリースを封じる、これが猿爪くんの秘策だったのか……!

 確かにこれならカナメの戦力を大幅に削れる。

 

 

 

(キキッ、となれば次は特殊召喚を狙ってくるよな? だがそれも無駄だっつーの! 俺の場には、【奈落の落とし穴】も伏せてあるんだからなぁ……!)

 

「キィーーーッキッキッキッ!! もはや手も足も出まいっつーの!」

 

(勝てるッ!! ここで鷹山 要を倒せば、無条件でプロ入りが約束される!! それだけじゃねぇ! 学園最凶を倒した俺の名はジャルダン全土に知れ渡り、俺がこの街の頂点に立つ!! 富も名声も全て手に入り、俺の時代が来るっつーの!!)

 

 

 

 あからさまに有頂天な猿爪くん。一方、戦術の主軸となるアドバンス召喚を禁じられた、カナメ本人のリアクションはと言うと──

 

 

 

「…………フゥ」

 

 

 

 ……(あき)れ返った様な、ため息、だった。

 

 

 

「分かった……」

 

「はん?」

 

「貴様の決闘者(デュエリスト)としての腕は、所詮この程度」

 

「……っ……ッ!? なっ……なんだとッ!?」

 

 

 

 一瞬、何を言われてるか理解できなかったのか、猿爪くんは目に見えて動揺している。

 

 

 

「そんなに俺にアドバンス召喚されるのが嫌なら、望み通りにしてやる。俺は【トレード・イン】を発動。手札の【(ばく)(えん)(てい)テスタロス】を墓地に捨て、カードを2枚ドローする」

 

 

 

 手札の交換が完了すると、カナメは目を閉じて、こう告げた。

 

 

 

「これでもう、俺の手札に上級モンスターは無い」

 

「!?」

 

 

 

 ……もしかしてカナメ、アドバンス召喚どころか、【帝】を使わずに闘うつもり?

 

 

 

「お、オメー! 一体どういうつもり──」

 

「俺は【炎帝(えんてい)()(しん)ベルリネス】を通常召喚」

 

 

 

【炎帝家臣ベルリネス】 攻撃力 800

 

 

 

 あれ? 手札を捨てれば特殊召喚できる【ベルリネス】を、わざわざ通常召喚?

 

 

 

「手札の【氷帝(ひょうてい)家臣エッシャー】は、相手の場に魔法(マジック)(トラップ)カードが2枚以上ある時、特殊召喚できる」

 

 

 

【氷帝家臣エッシャー】 攻撃力 800

 

 

 

「さらに墓地の【テスタロス】を除外し、【邪帝(じゃてい)家臣ルキウス】を特殊召喚」

 

 

 

【邪帝家臣ルキウス】 攻撃力 800

 

 

 

「な、何体召喚する気だっつーの!?」

 

「まだだ。【()(てい)家臣ランドロープ】を特殊召喚」

 

 

 

【地帝家臣ランドロープ】 攻撃力 800

 

 

 

「その効果により、貴様のモンスターを裏側守備表示に変更する」

 

「キッ!?」

 

 

 

 【ランドロープ】が地面に拳を叩き込んだ衝撃で、【エンシェント・クリムゾン・エイプ】が怯み、裏側守備表示になってしまった。

 

 

 

「ぐっ……だが! オメーのモンスター共の攻撃力じゃ、【エンシェント・クリムゾン・エイプ】は倒せねーっつーの!」

 

「手札から【抹殺(まっさつ)の使徒】を発動。そのモンスターを破壊し、ゲームから除外する」

 

 

 

 金髪を長く伸ばし、甲冑に身を包んだハンサムな騎士が、裏側表示の【エンシェント・クリムゾン・エイプ】のカードを(つるぎ)でスパッと両断した。

 

 

 

「キィーーーッ!?」

 

 

 

 これで猿爪くんを守る壁モンスターはいない。

 

 

 

「バトルだ。全モンスターで総攻撃」

 

 

 

 カナメのフィールドに出揃った4体の家臣が、(あるじ)(めい)(もと)に一斉攻撃を開始する。

 

 炎を放ち、冷気で凍て付かせ、落石を降らし、闇の魔力を浴びせ、猿爪くんのライフを800ポイントずつ着実に奪っていった。

 

 

 

「ウギャーーーーーッ!!!?」

 

 

 

 猿爪 LP 4000 → 800

 

 

 

「く、くそぉ……!」

 

「これで終わりだ。魔法(マジック)カード発動、【サンダー・クラッシュ】」

 

 

 

 ──!! 【ベルリネス】を特殊召喚しなかったのは、最後の手札でトドメを刺す為……!

 

 

 

「俺の場のモンスターを全て破壊し、1体につき、300ポイントのダメージを、貴様に与える」

 

「なにィィーーーッ!?」

 

「……〝(おう)()〟だ」

 

 

 

 4体のモンスター全てが雷撃と化して、猿爪くんを襲った。与えるダメージは、1200ポイント。

 

 

 

「ギエエエェェェーーーッ!!!」

 

 

 

 猿爪 LP 0

 

 

 

 勝敗が決して会場が急激に沸く。たった2ターン。時間にして(わず)か3分足らずの短期決戦だった。

 

 

 

「ち、ちくしょお……完璧にやられちまったっつーの……」

 

「……貴様には最初から何も期待してなかったが……やはり俺のデッキの調整にすらならなかったな」

 

「ッ……!」

 

「凡人の(あさ)()()で、俺に勝てると思うな」

 

「お……俺が……凡人……!? ガハッ」

 

 

 

 メンタルにまでトドメを刺された猿爪くんは、ショックでひっくり返ってしまった。まぁ、相手が悪かったね……

 

 にしても、本当にアドバンス召喚しないで勝っちゃったよ。しかもワンターンキルって。

 同じランクでも、ここまで実力(チカラ)の差があるものなのか……やっぱり、カナメの強さは──次元が違う。

 

 

 

「ッ、カァ~……2年とは言え、仮にも次期十傑候補を、低レベルモンスターだけで瞬殺かよ……」

 

「スゲーな! 兄貴と同じ勝ち方だぜ!」

 

「ぼ、僕あんな風に闘えないよ……」

 

「サルくんボッコボコだったね~。お気の毒~」

 

「リリースを封じたくらいじゃ、鷹山にはハンデにもならないのね……」

 

「でも、今の決闘(デュエル)のおかげで、ひとつだけ(わか)ったよ。──カナメに下手なメタ張りは通用しない」

 

 

 

 勝つ為には、自分の決闘(デュエル)で挑むしかない。

 

 ……それからしばらく後に、カナメと猿爪くんの隣の決闘(デュエル)フィールドで行われていた試合も終わり、生徒達はゾロゾロと下校する事に。

 

 そして今の打ち上げに至る、というわけである。

 

 

 

「なぁ総角(アゲマキ)、本当にあの鷹山 要に勝てるつもりなのか?」

 

「……さぁね、でも……負ける気は毛頭ないよ」

 

「……お前のそういうところは素直に尊敬するわ」

 

「まぁ、とにもかくにも、まずは明日(あした)の2回戦に集中しなきゃ。他に気を逸らしながら勝てる相手じゃないよ──ルイくんは」

 

「!!」

 

 

 

 唐突にルイくんに視線を向けてみると、ルイくんは少しビクついて肩が跳ねたものの、すぐに顔つきが真剣になり、ボクを見つめ返した。

 

 闘志の宿った、ライバルを見る眼で。

 

 

 

(……力強い眼だね……これはボクも()めてかからないと)

 

 

 

 ランク・Cの金沢くんに勝ったという経験値で、ルイくんは著しい成長を遂げた筈。

 元々ポテンシャルを秘めているルイくんだ。今回の勝利で唯一足りなかった自信をつけた事で、その才能が開花したとしても、不思議じゃない。

 

 

 

「明日は楽しみにしてるよ、ルイくん」

 

「はい……僕もです、セツナ先輩!」

 

「私もマキちゃんも1試合目だから、二人の対決を観れないのは残念だけど、頑張ってね。応援してるわ」

 

「ルイちゃーん。セツナくんに遠慮しないで、勝てそうだったら勝っちゃって良いからね~?」

 

「か、勝てるかどうかは分からないですけど……がんばります!」

 

「セツナの(あに)さん。(ワリ)ィが明日(あした)は兄貴の応援をさせてもらうぜ」

 

「分かってるよ、ケイくん。全力でルイくんを応援してあげて」

 

「おっしゃーっ!! 兄貴!! 今日は鋭気を養う為にもガッツリ喰おうぜ! 肉だ肉ッ!!」

 

「ご、ごめん……もうお腹いっぱい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──気づけば2時間以上も店に滞在していた。(えん)もたけなわだけど、そろそろお開きにしようか。

 

 

 

「「「「「「 ごちそうさまでしたー!! 」」」」」」

 

 

 

 会計はボク達2年生4人で割り勘した。ケイくんがステーキをおかわりで6枚も食べるもんだから結構かかった。そりゃ、あれだけの大食漢ならここまで大きく育つのも納得だね。しかも「これでも抑えてる方だ」って言うんだから、恐ろしい食欲だよ。

 

 そのまま駅前で皆と解散して、ボクは家路についた。まだ夕方か……早く明日にならないかな~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、(いち)()() ルイは寝つけずにいた。

 

 

 

(……うぅ……眠れない……)

 

 

 

 いよいよ()()は、待ち望んだ憧れの先輩──総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)との決闘(デュエル)

 緊張と高揚で、どうしても目が冴えてしまうのは、致し方ない事と言えた。

 

 ベッドから身を起こして、机に置いてあった自分のデッキを手に取る。

 周囲にどれだけ『弱い』、『使えない』などと()き下ろされ、傷つけられ、負け続けても、決して手放さず、彼の元を片時も離れなかった、かけがえのない大切なデッキ。

 

 中身を1枚ずつ丁寧(ていねい)に確認していき、【バニーラ】のカードを引いたところで不意に、ルイの手が止まった。

 

 

 

「…………あっ……うぅん、大丈夫。ちょっとドキドキして眠れないだけだから」

 

 

 

 それは、誰に対しての言葉なのだろうか。

 

 ルイは顔を横に向けたかと思うと、何も無い虚空に話しかける様にして、独りで楽しげに喋り始めた。

 

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「今日はごめんね、焦って攻撃表示で出しちゃって…………許してくれるの? フフ、ありがとう」

 

 

 

 ルイが彼しか居ない筈の暗い室内で、誰かとの会話らしき言葉を紡いでいた時──

 

 

 

「ふわぁ~~~。あふっ……んあ?」

 

 

 

 トイレから戻ってきた弟のケイが、大あくびしながら自室に戻って寝直そうとしていた。すると、ルイの部屋の前を通り過ぎた際に、ケイは兄の話し声を聞き取った。

 

 

 

(……? 兄貴……こんな時間に誰かと電話か?)

 

「……今日勝てたのは、みんなが僕を信じて応えてくれたおかげだよ。本当に、ありがとう。……あはは、そんなにくっつかないでよ」

 

 

 

 身体に小さな動物でも擦り寄ってきたのか、端から見れば不自然な体勢を取るルイ。

 

 

 

「明日はきっと、今日よりも楽しい決闘(デュエル)が出来ると思うから……みんな、がんばろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 選抜デュエル大会2日目・予選2回戦。

 

 D-ブロック1試合目──総角 刹那 vs 一ノ瀬 ルイ

 

 

 

「……約束を果たしに来ました。セツナ先輩」

 

「待ってたよ、ルイくん。──楽しい決闘(デュエル)をしよう」

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 





 マンガ版GXの最終回みたいな締めになりました(笑)

 というわけで、次回ようやく仲良しな先輩後輩の真剣勝負です!

 |ω・`)<9月中に間に合って良かった……


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TURN - 24 GIANT KILLING


 ダーク鬼塚だった頃のお前は、もっと輝いていたぞ!

 冗談はさておき、お久しぶりです。2ヶ月ぶりです。なんたるていたらく!!

 セツナ vs ルイくん、(執筆期間的な意味で)ついに決着です!!



 

「……先輩は、その…………決闘(デュエル)(きら)いになったり、()めたいって思った事とか……ありますか?」

 

 

 

 いつだったか。ルイくんがボクに、そう尋ねてきた事があった。選抜試験の本番に備えて近所の公園で彼の決闘(デュエル)の特訓に付き合っていた時だったのは覚えてる。

 何度か相手をした後、休憩を取ってベンチに隣り合わせで座って缶コーヒーを飲んでいたら、そんな質問をされたんだ。

 

 ボクがキョトンとしていると、ルイくんは何を思ったか急にアタフタし始めた。

 

 

 

「あっ! す、すいません変なこと訊いちゃって……忘れてくださ──」

 

「あるよ」

 

「えっ……ええっ!?」

 

 

 

 よっぽど意外だったみたい。まぁそうだろうね、今のボクは普通に決闘(デュエル)だいすきっ子だし。

 

 ルイくんから視線を外して、ボクは続けた。

 

 

 

「嫌いにもなったし、辞めようとも思った。でも結局、ボクは決闘(デュエル)から離れられなかったなぁ……」

 

 

 

 ベンチの背もたれに寄りかかって、しみじみと語る。ふと目線を上にやれば、澄み切った青空が広がっていた。

 

 

 

「ま、今はもう受け入れてるし、むしろそのおかげでジャルダンの皆と出会えたわけだしね」

 

 

 

 再びルイくんと目を合わせ、彼の頭を優しく撫でる。

 

 

 

「ルイくんもそうだし、アマネやマキちゃん、コータにケイくん。他にもたくさんの友達に恵まれて、毎日決闘(デュエル)を楽しめて。──ボクは幸せだよ。だから決闘者(デュエリスト)として生きる道を選んだ事は、何も後悔していない」

 

「先輩……」

 

「ごめんね。ルイくんの聞きたい答えじゃなかったかも」

 

「い、いえ、ありがとうございました! それに……嬉しいです。僕も、先輩と出会えて本当に良かった……」

 

「ッ……カワイイ」

 

「えっ?」

 

 

 

 (たま)らず顔に手を当てて身悶える。もう人目を(はばか)らず抱き締めてやろうかと思ったけど、ルイくんが困っちゃうだろうから()めといた。

 

 

 

「それで、ルイくんは? 決闘(デュエル)やめたいなーって思った事あるの?」

 

「…………はい……僕、昔から全然勝てなくて、ケイちゃんみたいな才能も無いし、向いてないのかなって……」

 

 

 

 ポツリポツリと落ち込んだ声で胸の内を明かすルイくん。ずっと芽が出ないまま、(つら)い思いをしてきたんだね……。

 

 ルイくんは自分のデュエルディスクに差していたデッキを抜き取ると、両手で大事そうに握り締めた。

 

 

 

「諦めようとも思ったんですけど……やっぱり僕も……デッキは手放せませんでした……」

 

「…………」

 

「僕は……強くなりたいんです……! いつまでもケイちゃんに守られてばかりなのは嫌だ……! 僕だって強くなって、ケイちゃんが誇れる様な立派な決闘者(デュエリスト)になりたいんです!」

 

 

 

 ルイくんの秘めていた激情が、(せき)を切った様に(あふ)れ出した。

 

 この時の彼は、決闘者(デュエリスト)ならば誰もが通るであろう『道』の、真っ只中に立っていた。

 

 人間どんな事でも初めは初心者。決闘(デュエル)だって、──カナメみたいな例外はあるけれど──最初から勝てていた決闘者(デュエリスト)なんてそうそういない。

 負けて、悔しい思いをして、それでも敗北から何かを学んで、また挑戦する。

 そうやって努力と実戦経験を積み重ねていく事で、決闘者(デュエリスト)は少しずつ強くなっていくんだ。

 

 ただ、なかなか成果が出ないと成長が実感できなくて挫折し、そのまま道半(みちなか)ばで諦めてしまう人も多い。

 そこで歩みを止めずに前に進めるかどうかが分かれ目になるわけだけど。

 

 でも──

 

 

 

「ルイくんなら大丈夫だよ」

 

 

 

 ボクはデッキを握るルイくんの小さな手の上に、そっと両手を重ねた。

 

 

 

「……先輩……?」

 

「ルイくんは必ず強くなれる。ケイくんだって言ってたじゃん、君は弱くないって」

 

 

 

 上を目指す向上心、勝利への渇望、そして何より、決闘(デュエル)を愛する心が消えていないのなら。

 

 

 

「だってルイくんは、ボクよりも……誰よりも決闘(デュエル)が大好きなんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──初日から激戦が繰り広げられた選抜デュエル大会1日目が終了し、日付が変わって今日は2日目。まもなく予選2回戦の幕が上がろうとしていた。

 

 ボクとルイくんはD-ブロックの会場である第4決闘(デュエル)フィールドで顔合わせをした。

 

 

 

「……約束を果たしに来ました。セツナ先輩」

 

「待っていたよ、ルイくん」

 

 

 

 ……うん。昨日(きのう)と違って、会場の空気に()()されている感じはしない。どうやら腹は(くく)った様だね。

 

 

 

「兄貴ィィーッ!! ファイトだぁーっ!!」

 

「ケイちゃん、ありがとう~!」

 

 

 

 おぉ。ケイくんの声援にも、ちゃんと手を振って応えられてる。

 

 

 

「……先輩……決闘(デュエル)の前に、ひとつだけ……いいですか?」

 

「ん、なんだい?」

 

「あの、どうしても最初にお礼を言いたくて……。僕……正直この大会で、本当に先輩と闘えるなんて思ってなかったんです……出来たら良いなぁ、くらいにしか……」

 

「……」

 

「でも……そんな僕の為に先輩は特訓に付き合ってくれて、皆も応援してくれて……そのおかげで僕は昨日(きのう)金沢(かなざわ)さんに勝つ事が出来ました」

 

「あれはルイくんの実力だよ」

 

「いえっ、僕ひとりだったらきっと諦めてました……皆が支えてくれたからこそ勝てたんです。本当に……ありがとうございました」

 

 

 

 にこやかな笑顔を浮かべて、ルイくんはボクに右手を差し出した。

 

 

 

「そして今日、僕は憧れのセツナ先輩に……僕の全てをぶつけます!」

 

「……フフッ、ルイくんも成長したね。良いよ……かかっておいで!」

 

 

 

 ボクも微笑みながらルイくんの手を取り、固い握手を交わす。

 

 

 

「楽しい決闘(デュエル)をしよう!」

 

「はい!」

 

 

 

 お互いに所定の位置に着いて向かい合う。1試合目の開始時刻の午前10時まで後1分。

 

 ボクはホワイトタイプのデュエルディスクを、ルイくんはグリーンタイプのデュエルディスクを、同時に展開した。

 

 さぁ……始めようか!

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 ルイ LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

 とうとう実現した、ボクとルイくんのガチンコバトル。観客もノリ良く歓声を上げてくれている。

 

 

 

「行けぇぇーっ!! 兄貴ィィーッ!!」

 

「僕の先攻です!」

 

(……【バニーラ】、僕に(ちから)を貸して!)

 

「僕は……モンスターを裏守備表示でセット! さらにカードを2枚伏せて、ターン終了です!」

 

「ボクのターンだね。ドロー!」

 

(あの守備モンスター……【バニーラ】かな?)

 

「ボクは──【フェアリー・ドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【フェアリー・ドラゴン】 攻撃力 1100

 

 

 

「バトル! 【フェアリー・ドラゴン】で、守備モンスターを攻撃!」

 

 

 

 竜の妖精が突進し、特に妨害も無くダメージステップに突入。攻撃対象となった裏側表示のカードが反転して、その正体を現す。

 

 

 

【バニーラ】 守備力 2050

 

 

 

「守備モンスターは【バニーラ】! 守備力は2050です!」

 

(でも、先輩がその事に気づいてない筈がない……!)

 

(やっぱりね!)

 

「おっと! それならボクはここで速攻魔法を発動するよ! 【死角からの一撃】!」

 

「!!」

 

「この効果で【バニーラ】の守備力を、【フェアリー・ドラゴン】の攻撃力に加える!」

 

 

 

【フェアリー・ドラゴン】 攻撃力 1100 + 2050 = 3150

 

 

 

「【バニーラ】の守備力を越えられた……!」

 

「行け! 【フェアリー・ドラゴン】!」

 

 

 

 パワーアップした【フェアリー・ドラゴン】の体当たりが決まり、【バニーラ】は吹っ飛ばされた。なんか小動物を攻撃するのって罪悪感あるなぁ。

 

 

 

「うぅ……!」

 

「……ルイくん。ボクにとってルイくんは、可愛い後輩でもあり大切な友達だよ」

 

 

 

 それはもう、お持ち帰りしたいくらい……おっと何でもない。

 

 

 

「でもそれと勝負は別。ボクにもこの大会で勝ち進みたい理由があるからね。手加減なしで行かせてもらうよ!」

 

「……!」

 

(本気だ……先輩は、全力で僕と闘ってくれてる……!)

 

「……望むところです! (トラップ)発動、【エンジェル・リフト】!」

 

「おっ?」

 

「墓地から【バニーラ】を復活させます!」

 

 

 

【バニーラ】 攻撃力 150

 

 

 

「……フッ」

 

(良い()()してるよルイくん。やっぱり金沢くんに勝った事で、一皮()けたみたいだね)

 

「そうこなくっちゃ。ボクはカードを1枚伏せて、ターン終了(エンド)!」

 

 

 

【フェアリー・ドラゴン】 攻撃力 3150 → 1100

 

 

 

「わざわざあんなザコモンスターを場に戻して、なに考えてんだ?」

 

「やっぱランク・Eなんかじゃ相手にならなそうだな」

 

「……グギギギッ……!」

 

()えろ俺……! 兄貴の念願の決闘(デュエル)を邪魔するわけにはいかねぇ……!)

 

「へっ、見てな……こっから兄貴の巻き返しだぜ!」

 

 

 

「──僕のターンです! ……すぅ……ハァ……」

 

(落ち着いて僕……誰に何を言われても……僕は僕のやるべき事を、僕の決闘(デュエル)をやればいい! 冷静に、次の一手を考えるんだ……!)

 

「僕は……魔法(マジック)カード・【スケープ・ゴート】を発動します!」

 

「!」

 

「この効果で、4体の【羊トークン】を生み出します!」

 

 

 

 ルイくんのフィールドに丸くて小さい羊が4体も生成された。

 赤・青・黄・ピンクと1匹ずつ毛色が異なり、眠っているかの様な安らかな表情で、ふわふわと浮かんでいる。

 

 

 

【羊トークン】 守備力 0

 

【羊トークン】 守備力 0

 

【羊トークン】 守備力 0

 

【羊トークン】 守備力 0

 

 

 

 ……ん? 何やら観客席が騒がしいな。

 

 

 

「アホかあいつ? 普通【スケープ・ゴート】は相手のバトルフェイズに使うもんだろ」

 

「自分のターンで使ったら、デメリット効果で他のモンスターを召喚できなくなるってのに」

 

「カードの正しい使い方も理解できてねーのか? さすが最弱のランク・Eだな(笑)」

 

 

 

 ……聞こえてきたのはルイくんのプレイングを冷笑した非難の声。ヤバイなー……何がヤバイって、(おも)にケイくんが。

 

 

 

「んぐぐぐぐぐぐぐぐっ……ッ!!」

 

 

 

 ほら、ここから見ても分かるくらいに怒髪天を突いてる。暴れ出す事はないと信じたいけど、ストッパー(アマネ)も居ないしなぁー。見ていておっかないよ。

 

 今ルイくんを笑った人達、自分の幸運に感謝しなよ? ケイくんが我慢してくれてるおかげで、現在進行形で命拾いしてるんだから。

 

 

 

「あらら、言いたい放題に言われちゃってるねぇ~。でも……これで終わりじゃないでしょ? ルイくん」

 

 

 

 当のルイくんはと言うと、そんな周囲の批判に動じる事なく、真っ直ぐにボクを見据えていた。メンタルもだいぶ鍛えられた様だ。

 

 

 

「はい……行きます! リバースカード・オープン! 【トークン謝肉祭】!」

 

「!」

 

「この(トラップ)は、トークンが特殊召喚された時に発動します。フィールドのトークンを全て破壊し、相手に破壊した数 × 300ポイントのダメージを与えます!」

 

「くっ!?」

 

 

 

 羊トークンが全て消滅し、【トークン謝肉祭】のカードの立体映像(ソリッドビジョン)から光線が放射され、ボクに直撃した。

 

 

 

「うわあぁっ!! ッ……!」

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 2800

 

 

 

「や、やった……決まった!」

 

「よっしゃあっ!! いいぞ兄貴ィ!!」

 

 

 

 ボクのライフが減少した途端、またもや観客がざわめき始めた。だが今度は、さっきまでとは真逆の反応だ。

 

 

 

「お、おいマジかよ!? ランク・Eのくせにあの総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)に……」

 

「先制したっ……!?」

 

「トークンにあんな使い方があったのかよ!?」

 

 

 

 どんなもんだい! ルイくんは凄いだろう!? って、やられてるボクが得意げになるのも変か。

 

 さぁてルイくん。観客の度肝を抜いたところで、お次は何を見せてくれるのかな?

 

 

 

「……僕は【バニーラ】を守備表示に変更して……」

 

 

 

【バニーラ】 守備力 2050

 

 

 

「1枚カードを伏せてターンエンドです!」

 

「ボクのターン! ……おっ、良いところに来てくれるね。【ミンゲイドラゴン】召喚!」

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 400

 

 

 

「さらに【二重召喚(デュアルサモン)】発動! これで二度目の召喚権を得た」

 

「まさか……!」

 

「そのまさかだよ。ボクは【ミンゲイドラゴン】を、2体分としてリリース!」

 

(来る……先輩のエースモンスターが!)

 

「出ておいで! 【ラビードラゴン】!!」

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

「ッ……!」

 

「今度の攻撃は強烈だよ? 防ぎ切れるかな!」

 

 

 

 【ラビードラゴン】は翼を(ひるがえ)しながら、口腔に光を集めて攻撃態勢に入る。

 

 

 

「【ラビードラゴン】で【バニーラ】を攻撃! 『ホワイト・ラピッド・ストリーム』!!」

 

 

 

 夢のウサギさん対決だ! 【ラビードラゴン】が【バニーラ】に向けて光線を──

 

 

 

「わっ、わ、わっ! えーっと、リバースカード発動です! 【スーパージュニア対決!】」

 

「!?」

 

「【ラビードラゴン】の戦闘を無効にします!」

 

 

 

 ……放たず、に、口の中で静かに光を消滅させて、攻撃をキャンセルした。長い耳をショボンと垂らして、ちょっと残念そう。

 

 

 

「へぇ、これを防ぐんだ。やるじゃん」

 

「まだです! その後、先輩の場の一番攻撃力が低い攻撃表示モンスターと、僕の場で一番守備力の低い守備表示モンスターで戦闘を行います!」

 

「なんだって!? という事は……!」

 

 

 

 今、ボクのフィールドで最も攻撃力が低いのは【フェアリー・ドラゴン】……!

 

 

 

「僕の場のモンスターは1体だけ……【バニーラ】と【フェアリー・ドラゴン】でバトルです!」

 

「げっ!」

 

 

 

 【フェアリー・ドラゴン】が勝手に動き出して、強制戦闘を開始する。

 しかし【バニーラ】の強固な守備力には歯が立たず、あの柔らかそうなまん丸ボディに、タックルを跳ね返されてしまった。

 

 

 

「あちゃ~、そう来たかぁ」

 

 

 

 セツナ LP 2800 → 1850

 

 

 

「バトルフェイズは終了だね。ボクはこれでターンエンド……ん?」

 

 

 

 何やら【バニーラ】がひどく嬉しそうに、短い両手(前足?)をパタパタさせながら飛び跳ねて、ルイくんに何かアピールしている。なんだこの生き物、可愛すぎでは。

 

 

 

「あはは……【バニーラ】は活躍できて嬉しいみたいです。──わっ!?」

 

 

 

 急に【バニーラ】がルイくんに飛びついた。ルイくんはビックリしながらも上手く抱き止める。

 

 

 

「もう、嬉しいのは分かるけどはしゃぎ過ぎだよ。よしよし」

 

 

 

 【バニーラ】の頭を撫でながら幸せそうに顔を(ほころ)ばせるルイくん。

 

 なんだこれぇぇぇぇぇっ!!!!

 ただでさえ可愛いルイくんが可愛いモンスターをもふもふなんてしたら可愛さ2倍どころか可愛さの天元突破でもはやこの世の天国が広がってるんですけどぉぉぉぉっ!?

 

 ダメだもう可愛いを通り越して(とうと)い。尊いが過ぎて浄化されて昇天しそう。

 え? なに? 死ぬの?(ボクが)

 

 ル イ く ん マ ジ 天 使 !!

 

 

 

「あっ、ご、ごめんなさい僕のターンですね! ほら戻って、【バニーラ】」

 

「……ルイくんはもうちょい自分の可愛さを自覚してほしい……」

 

「?」

 

 

 

 また可愛らしく小首を傾げて……くっ、ダメだダメだ! 気を取り直せボク! 危うくルイくんのペースに呑まれるところだった。今回の相手は色々な意味で恐ろしい強敵だな。

 

 

 

(【ラビードラゴン】……こうして向かい合うと、すごい迫力……! さっきは何とか凌げたけど、このターンでどうにかしないと……!)

 

「ど……ドローです!」

 

(──! やった、これなら……!)

 

魔法(マジック)カード・【光の()(ふう)(けん)】を発動します!」

 

「!」

 

 

 

 上空からいくつもの光の(けん)が降り注ぎ、ボクのフィールドを制圧してドラゴン達の動きを止めた。

 

 

 

「これで先輩は3ターンの間、攻撃宣言が出来なくなります!」

 

「ここで【光の護封剣】か……大した引きだね」

 

「……カードを1枚セットして、ターンを終了します」

 

「ボクのターン!」

 

 

 

 【光の護封剣】がある限り、ボクのモンスターは動けない……。

 

 

 

「【フェアリー・ドラゴン】を守備表示にして、ターンエンド!」

 

 

 

【フェアリー・ドラゴン】 守備力 1200

 

 

 

 ボクのエンド宣言と同時に光の剣が何本か消失した。

 

 残り2ターン。

 

 

 

「僕のターンです……ドロー!」

 

(……!)

 

「永続魔法・【凡骨(ボンコツ)の意地】を発動します! ドローフェイズにドローしたカードが通常モンスターだった場合、そのカードを相手に見せる事で、もう1枚ドローできます」

 

 

 

 通常モンスター中心のルイくんのデッキには、おあつらえ向きのカードだね。

 

 

 

「ボクのターン、ドロー! ──【デビル・ドラゴン】召喚!」

 

 

 

【デビル・ドラゴン】 攻撃力 1500

 

 

 

「……ターンエンド」

 

 

 

 光の剣の数がさらに減っていき、もう片手で数えられる程度しか残っていない。

 

 ……残り1ターン。次のボクのターンが終われば、【光の護封剣】の効果は切れる。そうなれば、ボクのモンスター達の総攻撃がルイくんを襲う。

 

 

 

(どうする? ルイくん)

 

「僕のターン……ドロー!」

 

(──来た!)

 

「僕が引いたのは【ウェザー・コントロール】! 通常モンスターです! 【凡骨の意地】の効果でもう1枚ドロー!」

 

 

 

 さすが。引くべきところで引いてくる。デッキがルイくんの想いに応えてくれているんだ。

 

 

 

(トラップ)カード・【凡人の施し】! デッキから2枚ドローして、手札の通常モンスター1枚を除外します! 【ウェザー・コントロール】を除外!」

 

 

 

 手札(ゼロ)の状態から、一気に3枚も補充してきた……!

 

 

 

「……魔法(マジック)カード発動! 【迷える仔羊】!」

 

 

 

 ルイくんの場に【スケープ・ゴート】の【羊トークン】と同じ、丸い羊のモンスターが2匹出現した。1匹は真っ白、もう1匹は肌色っぽい色をしている。

 

 

 

【仔羊トークン】 守備力 0

 

【仔羊トークン】 守備力 0

 

 

 

「カードを2枚伏せて……ターンエンドです」

 

 

 

 ──態勢は整えた、って感じかな?

 結局ここまで目立った戦況の変化はなかったけど、ボクの直感が言っている。これは嵐の前の静けさだと。

 

 恐らく【光の護封剣】が消えた次のターンから、息もつかせぬ激しい攻防が始まる……!

 

 

 

「ボクのターン!」

 

 

 

 いいよルイくん。ボクも真っ向から迎え撃つ!

 

 

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド! そして……このエンドフェイズで【光の護封剣】の効果は終了する」

 

「……!」

 

 

 

 ついに全ての光の剣が消え去り、ようやくボクのモンスターは護封剣の拘束から解き放たれた。

 

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 

 

 引いたカードを見た瞬間、ルイくんの顔つきが変わった。やっぱり仕掛けてくる気満々だ。

 

 

 

「──行きます!」

 

「来い!」

 

「手札から魔法(マジック)カード・【ミニマム・ガッツ】発動! 自分のモンスターを1体リリースし、相手モンスター1体の攻撃力を(ゼロ)にします! 対象は【ラビードラゴン】!」

 

「!」

 

 

 

 【仔羊トークン】の1匹が【ラビードラゴン】に突撃してきた。衝撃で【仔羊トークン】は消し飛び、【ラビードラゴン】は弱体化する。

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950 → 0

 

 

 

「なっ……!」

 

「さらに永続(トラップ)・【暴走闘君(とうくん)】発動! 僕の場のトークンは攻撃力が1000ポイントアップし、戦闘では破壊されなくなります!」

 

 

 

【仔羊トークン】 攻撃力 0 + 1000 = 1000

 

 

 

「【仔羊トークン】を攻撃表示にして──バトルです! 【ラビードラゴン】に攻撃!」

 

 

 

 2匹目の【仔羊トークン】も続けて【ラビードラゴン】へと突貫した。ボクに止める手段はない。そのまま攻撃が通り、【ラビードラゴン】は破壊されてしまう。

 

 

 

「くっ……!」

 

 

 

 セツナ LP 1850 → 850

 

 

 

「──【ミニマム・ガッツ】の効果を受けたモンスターが戦闘で破壊され墓地へ送られた時、その元々の攻撃力分のダメージを相手に与えます!」

 

「ッ!?」

 

「っしゃあっ! これが決まれば兄貴の勝ちだぁッ!!」

 

「いいや、まだだよ! 速攻魔法・【非常食】! ボクの場にセットされている、もう1枚のリバースカードを墓地に送って、ライフを1000回復する!」

 

「でも……1000ポイントだけじゃ足りませんよ!?」

 

「分かってるさ。チェーンして(トラップ)発動! 【副作用?】!」

 

「!」

 

「カードを1枚から3枚まで、好きな枚数引きなよ。ボクはその数 × 2000ポイント回復させてもらう」

 

「っ……1枚ドローします!」

 

「オーケー。これでボクは合計3000ポイントのライフを得る!」

 

 

 

 セツナ LP 850 → 3850

 

 

 

 ライフポイントが危険域(デッドゾーン)を脱出。直後、【ミニマム・ガッツ】の効果による膨大(ぼうだい)なダメージが、ボクに与えられた。

 

 

 

「うあああああっ!!」

 

 

 

 セツナ LP 3850 → 900

 

 

 

「ッ……ふう、危ない危ない。(かろ)うじて、ライフを(たも)ったよ……!」

 

「……さすがです先輩……だけど今のドローで、良いカードが引けました!」

 

「えっ?」

 

魔法(マジック)カード・【トークン復活祭】! トークンを全て破壊して、同じ数までフィールドのカードを破壊します!」

 

 

 

 最後の1匹だった【仔羊トークン】が破壊される。

 

 

 

「【デビル・ドラゴン】を破壊!」

 

「うわっ!」

 

 

 

 そして【デビル・ドラゴン】も除去され、ボクの場には守備表示の【フェアリー・ドラゴン】1体が残るのみとなった。

 

 

 

「ターンエンドです!」

 

 

 

 まさかいきなりゲームエンドに持っていこうとするなんてビックリしたよ。それにトークンをここまで巧みに使いこなすとは、やるね。しかも【バニーラ】を立ててボクの反撃にも備えてる。抜かりないプレイングだ。

 

 

 

「……あはっ、面白くなってきた!」

 

「──!」

 

 

 

 ボクはメガネを外して集中力を全開にする。

 やっぱり体力を温存しながら勝とうなんて甘かった。

 

 

 

(ついに先輩がメガネを……ッ……なんて気迫……! これが先輩の真の姿……!)

 

「ボクのターン! ドロー!」

 

(……【ドラゴニック・タクティクス】か……)

 

 

 

 これを使うにはドラゴンが2体必要。となると……賭けに出るしかなさそうだね!

 

 

 

「ボクは手札から魔法(マジック)カード・【モンスター・スロット】を発動!」

 

 

 

 カードのイラストに(えが)かれている緑色の怪物が出現した。

 

 

 

「この効果で、ボクはレベル4の【フェアリー・ドラゴン】と同じレベルのモンスターを墓地から除外!」

 

 

 

 墓地に眠るレベル4モンスター・【デビル・ドラゴン】を取り除く。

 すると、【モンスター・スロット】の怪物の大きな目がスロットのリールを投影し、それを回転させる。

 直後、最初に停止した左のリールには、効果の対象に選択した【フェアリー・ドラゴン】が。次に停止した中央のリールには、除外した【デビル・ドラゴン】が表示された。

 

 

 

「そして、デッキから1枚ドローして、そのカードが同じレベル4のモンスターだったら、特殊召喚できる!」

 

 

 

 頼んだよ、ボクのデッキ。

 

 

 

「ドロー! ──よし!」

 

 

 

 スロットの右端のリールが止まる。映し出された図柄は、レベル4の【エレメント・ドラゴン】。

 

 

 

【エレメント・ドラゴン】 攻撃力 1500

 

 

 

「さらに【ドラゴニック・タクティクス】発動! ボクの場の2体のドラゴンをリリースして、デッキからレベル8のドラゴンを特殊召喚する!」

 

 

 

 【フェアリー・ドラゴン】と【エレメント・ドラゴン】が巨大な竜を(かたど)ったチェスの(コマ)へと姿を変えた。そしてこの二つの駒が光に包まれていく。

 

 

 

「現れろ! 【トライホーン・ドラゴン】!!」

 

 

 

【トライホーン・ドラゴン】 攻撃力 2850

 

 

 

「セツナ先輩の……2体目のエース……!」

 

「バトルッ! 【トライホーン・ドラゴン】で、【バニーラ】を攻撃!! 『イービル・ラセレーション』!!」

 

 

 

 悪魔の竜が【バニーラ】目掛けて鋭い爪を振り下ろす。そう、悪魔だから小動物に対しても情け容赦が一切(いっさい)ないのだ。

 大丈夫だよ痛いのは一瞬だけだから! 【トライホーン】、せめて一思いにお願いします!

 

 

 

「──リバースカード・オープン! (トラップ)カード・【好敵手(とも)の記憶】!!」

 

「ッ! そのカードは!?」

 

「そうです。先輩が……僕に譲ってくれたカードです!」

 

 

 

 数日前──

 

 

 

「ルイくん、これあげる」

 

「えっ……? い、良いんですか!?」

 

「うん。そのカードはきっと、ルイくんの役に立つと思う」

 

「あ……ありがとうございます!! 大切に使わせてもらいますね!」

 

(先輩からカードを貰えた……嬉しい……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──【好敵手(とも)の記憶】の効果! 相手の攻撃モンスターの、攻撃力分のダメージを受けます!」

 

 

 

 【トライホーン】の爪は【バニーラ】をすり抜け、後ろに立っていたルイくんを貫いた。

 

 

 

「うわぁっ!!」

 

 

 

 ルイ LP 4000 → 1150

 

 

 

 やっとルイくんのライフを減らせた。だけどこれは……!

 

 

 

「くぅ……! ……そして、そのモンスターを除外します!」

 

「!」

 

 

 

 せっかく(バク)()を打ってまで呼び出した【トライホーン】が早くも退場させられてしまった。

 

 

 

「この効果で除外されたモンスターは、次の相手ターンのエンドフェイズに、僕の場に特殊召喚されます!」

 

「……やっぱり……君は凄いよ……!」

 

(今まではダメージを恐れて保守的なプレイングしか出来なかったルイくんが、自分のライフを犠牲にしてまで攻められる様になってる……!)

 

 

 

 なんだろう、胸が熱くなる。テンションが上がる。集中力が極限まで高まっていって、気持ちがハイになる!

 こんな……攻撃はことごとく防がれて、ライフポイントも残り少ない……一瞬の油断が命取りになるギリギリの状況なのに……!

 

 

 

「──楽しいね! ルイくん!!」

 

「はい! ──先輩!!」

 

 

 

 ボクもルイくんも、笑っていた。他の事なんて何も考えられないくらいに、この決闘(デュエル)を笑顔で楽しみ、全神経を(そそ)いで奮闘していた。

 互いに一歩も退()かない真剣勝負。終わってほしくないとさえ思う自分がいた。

 

 

 

「……兄貴が……あんなに燃えてる……! ッ……! ガンバレェェーーーッ!! 兄貴ィィィィィッ!!!」

 

 

 

「ボクは魔法(マジック)カード・【超再生能力】を発動! このターン中に手札から捨てたかリリースしたドラゴン族の数だけ、デッキからカードをドローする! ボクは【ドラゴニック・タクティクス】の効果で2体リリースしたから2枚ドロー! ……これでターンエンドだよ」

 

(先輩の場にはリバースカードも無い……今がチャンスです!)

 

「僕のターン、ドロー! ──【マジック・プランター】発動! 【暴走闘君】を墓地に送って、2枚ドローします!」

 

 

 

 ルイくんもドロー増強か……ボクの頬に冷や汗が伝った。今度は何が来る?

 

 

 

「……! 先輩、この決闘(デュエル)……僕の勝ちです!!」

 

「!?」

 

「【バニーラ】を攻撃表示!」

 

 

 

【バニーラ】 攻撃力 150

 

 

 

「そして、これで決めます! 魔法(マジック)カード発動! 【トライアングルパワー】!!」

 

 

 

【バニーラ】 攻撃力 150 + 2000 = 2150

 

 

 

「ッ! 攻撃力が2000ポイントもアップした!?」

 

「先輩のフィールドはガラ空き! この攻撃で、勝負アリです!」

 

 

 

 急激にパワーを増した【バニーラ】が、全速力でこちらに突っ込んでくる。ボクのライフは僅か900。食らったらひと溜まりもない。

 

 

 

「今度こそ兄貴の勝ちだっ!!」

 

「まだまだ! こんな熱い決闘(デュエル)、簡単には終わらせない! 手札から(トラップ)カード・【タイフーン】を発動!」

 

「て、手札から(トラップ)を!?」

 

 

 

 ルイくんは驚愕に目を見開いた。荒れ狂う暴風が、フィールド上で猛威を振るう。

 

 

 

「【タイフーン】は相手の場に魔法(マジック)(トラップ)カードが2枚以上あり、自分の場には存在しない時、手札から発動できる! フィールドの表側表示の魔法(マジック)(トラップ)カード1枚を破壊する! ボクは【エンジェル・リフト】を破壊!」

 

「しまっ……!」

 

 

 

 【エンジェル・リフト】のカードが吹き飛ばされた事で、その効果で蘇生していた【バニーラ】も一緒に破壊される。

 

 

 

「くっ……!」

 

(【バニーラ】……ここまで頑張ってくれて、ありがとう……!)

 

「ダァーッ! くそっ、惜しい! けどまだ行けるぜ兄貴!」

 

「僕はカードを1枚伏せてターンエンドです!」

 

(場がガラ空きでも攻撃を止めてくるなんて、先輩の決闘(デュエル)は本当に先が読めない……でも……だからこそ面白い!)

 

「……ボクのターンだね……」

 

「はい……この先輩のターンが終われば、【好敵手(とも)の記憶】の効果で、【トライホーン・ドラゴン】が僕の場に復活します」

 

 

 

 そうなったらボクの勝ち目は薄くなる……いや、このターンで何も出来なかったら、もうその時点で敗北は確定的だと言わざるを得ない。

 ドローする前に、1枚だけある自分の手札を見る。残念ながら、現状では全く使い道のない()(ほう)カードだった。

 ……あれ? これってもしかして……詰んでる?

 

 

 

(ヤッバ……ルイくん強すぎ……!)

 

 

 

 絶体絶命、その四文字が頭を(よぎ)る。

 ルイくんの成長速度は、ボクの予想を遥かに超えていた。

 誰がどう見ても不利に追い込まれているのはボクの方だ。散々ルイくんに後ろ指を指していた観客達も、すっかり彼を見る目が変わっていた。

 

 

 

「す、スゲー! あのチビ、マジで勝っちまうぜ!?」

 

「本当にあいつランク・Eかよ!?」

 

「昨日ランク・Cに勝てたのはマグレじゃなかったってのか!?」

 

 

 

「……へっ、へへへ……! 見たかっ!! これが俺の兄貴の……(いち)()() ルイの実力だぁ!! 覚えとけッ!!」

 

(セツナの(あに)さんは間違いなく全力だ。だが兄貴がそれを上回っているんだ!)

 

 

 

 カードを引こうとデッキに手を伸ばした時、ボクは異変に気づいた。

 

 

 

(っ……! 手が……震えてる……)

 

 

 

 ……悔しいけど、認めるしかないね……。ボクはビビってる。

 真価を発揮したルイくんに、恐怖を感じているんだ。

 

 なら……その恐怖を乗り越えてやろうじゃないか!

 

 

 

「──ッ! ドロォーッ!!」

 

 

 

 震える手を無理矢理に動かして、一呼吸で勢いよくカードを引き抜いた。

 うぅ~っ、目を開けるのが怖い!

 恐る恐るドローしたカードを横目で確認する。

 

 

 

(!!)

 

 

 

 この……カードは……!

 

 

 

「……フッ、ははっ、ははははっ!!」

 

「!」

 

(先輩のこの笑い方、見覚えがある……初めて会った時と同じ……まさか!?)

 

「はは……本当に強くなったね、ルイくん。君に敬意を(ひょう)して、見せてあげるよ。ボクのデッキの……()()()切り札(エース)をね!!」

 

「──!! よ、4枚目!? まだ切り札を持っていたんですか!?」

 

「そう。ボクのデッキには【ラビードラゴン】、【トライホーン・ドラゴン】、【ダークブレイズドラゴン】を含む、全部で5枚のエースカードが入っているのさ!」

 

「5枚の……エース……!」

 

 

 

 デッキが託してくれた最後の希望、無駄にはしない。切実に()(ごり)惜しいけど、このターンで決着をつける!

 

 

 

「でも今の先輩に上級モンスターの召喚なんて……あっ!?」

 

「気づいたみたいだね。墓地の【ミンゲイドラゴン】の効果を発動! 自分のスタンバイフェイズに自分フィールドにモンスターが存在しない時、自身を特殊召喚できる!」

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 400

 

 

 

「そして再び【ミンゲイドラゴン】を、モンスター2体分としてリリース!」

 

 

 

 ()(ばゆ)い閃光が【ミンゲイドラゴン】を包み込んでいく。

 

 

 

「──【ホーリー・ナイト・ドラゴン】を、アドバンス召喚!!」

 

 

 

 (きら)びやかな光と共に降臨したのは、紫がかった白い体躯に神秘的な輝きを纏う、美しい竜だった。

 

 

 

【ホーリー・ナイト・ドラゴン】 攻撃力 2500

 

 

 

「わぁ……綺麗……!」

 

「これで、チェックメイトだ!! 【ホーリー・ナイト・ドラゴン】、ルイくんに直接攻撃(ダイレクトアタック)! 『シャイニング・ファイヤー・ブラスト』!!」

 

 

 

 神聖な力を秘めたドラゴンの口から、白く燃え盛る炎が放たれた。

 

 

 

「兄貴ィ!?」

 

「……先輩の言ってた通りでした。僕、やっぱり決闘(デュエル)が大好きです! だから……勝ちたい!! (トラップ)発動! 【ドレインシールド】!!」

 

「!」

 

「攻撃を無効にして、その攻撃力の数値だけ、自分のライフを回復します!」

 

 

 

 半透明のバリアが炎を防御してルイくんの身を守った。

 

 

 

 ルイ LP 1150 → 3650

 

 

 

「やった、防ぎ切れました! これで僕の──」

 

「それはどうかな?」

 

「!?」

 

「ルイくんの全力、確かに受け止めたよ! 手札から速攻魔法発動! 【ダブル・アップ・チャンス】!!」

 

「──ッ!」

 

「モンスターの攻撃が無効になった時、そのモンスターの攻撃力を倍にして、二度目の攻撃を可能にする!」

 

 

 

【ホーリー・ナイト・ドラゴン】 攻撃力 2500 → 5000

 

 

 

「す……すごい……!」

 

(やっぱり……強くてカッコいいなぁ、先輩は……。僕もいつか、セツナ先輩みたいな決闘者(デュエリスト)に……)

 

「今度こそチェックメイトだ!! 【ホーリー・ナイト・ドラゴン】!!」

 

 

 

- シャイニング・ファイヤー・ブラスト!! -

 

 

 

 一撃目よりも威力が倍加された聖なる炎によって、この激戦にとうとう──終止符が打たれた。

 

 

 

「ッ…………!!」

 

 

 

 ルイ LP 0

 

 

 

 決闘(デュエル)の終了と同時に大歓声が沸き起こった。ボクは勝てた……のか……。

 

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 

 

 気が緩んで我に帰ると、凄い汗をかいていたし、ドッと疲れが出てきた。それだけの熱戦だったんだね。

 

 ルイくんを見てみると、女の子座りで床に……あれれー? おかしいぞ~? 女の子座りって男子の骨格だと出来ないんじゃなかったっけー???

 

 

 

「立てる?」

 

 

 

 手を差し伸べる。ルイくんは項垂れていた頭を上げて、ボクの手を掴んで立ち上がった。

 

 

 

「……えへへ……負けちゃいました。もう少しだと思ったんですけどね……」

 

「今回はボクの運が良かっただけだよ。もう何度も負けると本気で思ったもん」

 

「でも……っ……今の僕の全部を出し切れたので、悔いはないです」

 

 

 

 目尻に涙を浮かべて今にも泣きそうなのを堪えながら、ルイくんは頑張ってボクに笑顔を向けた。

 

 

 

「負けたのに気分が良いなんて、こんな気持ち、初めてです……。対戦ありがとうございました、セツナ先輩」

 

「……うん。ボクの方こそ、ありがとう。本当に心の底から楽しい決闘(デュエル)だったよ!」

 

 

 

 冗談抜きで、ここ最近の決闘(デュエル)の中で一番楽しかった。

 

 そうだ、これだから決闘(デュエル)は辞められないんだ。

 

 

 

「……凄い見応えのある決闘(デュエル)だったな」

 

「あぁ、どっちが勝ってもおかしくなかったぜ」

 

 

 

 どこからか、パチパチと手を叩く小さな音が。それは徐々に大きくなっていき、やがて、盛大な拍手となった。

 

 

 

「いい決闘(デュエル)だったぞー!!」

 

「やるじゃねぇか!」

 

「えっ……え?」

 

「……もうルイくんをバカにする奴はいないよ。君は自分の強さを、自分自身で証明したんだ」

 

「……~~~~ッ!」

 

 

 

 おっと、そろそろ涙腺(るいせん)が限界かな?

 

 

 

「せんぱぁぁぁあい!!」

 

「あはは。良かったね、ルイくん」

 

「兄貴ィィィィィッ!! 最高だったぜぇぇぇぇえっ!!!」

 

 

 

 兄弟そろって号泣しちゃって。

 ボクは観客席に手を振りながら、ルイくんは何度も何度も頭を下げながら、大健闘を讃える拍手に見送られて会場を後にした。

 

 

 

 総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)・予選2回戦──突破!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ここで一度、時間はセツナとルイが接戦を繰り広げた1試合目の、開始直前まで遡る。

 

 時を同じくして、遠く離れた第14決闘(デュエル)フィールドでは、N-ブロックの予選が始まろうとしていた。

 

 会場の決闘(デュエル)コートに立っているのは、長く伸ばした黒髪に赤色のメッシュが入った美少女と、ベージュ色のマッシュヘアが特徴の、整った顔立ちの青年。

 

 

 

「フフフッ……『元・十傑(じっけつ)』のこの僕に勝てるかな?」

 

「勝たせてもらうわ。こんなところで立ち止まるわけにはいかないの」

 

 

 

 N-ブロック1試合目──黒雲(くろくも) 雨音(アマネ) vs (わし)() 秀隆(ひでたか)

 

 ──デュエル・スタンバイ!

 

 

 

 





 長かった……書きたい展開が多すぎて今まで以上に時間がかかりました。大変お待たせ致しました。

 一応解説を。セツナが【ラビードラゴン】を召喚したターンに【超再生能力】を使わなかったのは、その時まだ手札になかったからです。引いたのは次の、【フェアリー・ドラゴン】を守備表示にして終了したターンのドローフェイズでした。

 話の中でセツナが「ここ最近で一番楽しいデュエルだった」と語っていますが、作者自身も今までで一番書いてて楽しかったです!
 やはり互いが全力で闘い合って、勝っても負けても後腐れのないデュエルというのは、観るのもやるのも楽しいものですね(*´・ω・`)b

 現在、作中で誰よりも著しい成長を遂げているルイくん。惜しくも大会は敗退してしまいましたが、彼の今後に期待です。

 次回はようやく、アマネのデュエル初披露の回になります!
 感想や評価などお待ちしております(*´∀`)


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TURN - 25 Red Eye


 あけましておめでとうございます!!

 今月発売の新パックに【雲魔物(クラウディアン)】と【魔弾】の新規が来てて歓喜している箱庭の猫でございます(*´∀`)

 本年もマイペースに執筆を楽しんでいく所存です。何卒よろしくお願い申し上げます!

 新年1発目はアマネたんです!



 

 ──後5分で試合開始だ。

 

 アマネは深く息をついて、自分の中から雑念を消していく。

 

 今日の最初の対戦者は、昨日の予選1回戦の様に生易(なまやさ)しい相手ではない。

 

 『元・十傑(じっけつ)』──(わし)() 秀隆(ひでたか)

 

 現在はその座を降りているとは言え、かつてはこのデュエルアカデミア・ジャルダン校のトップ10(テン)にまで成り上がるという輝かしい実績を遺していたのは事実。

 

 昨年(さくねん)度の選抜デュエル大会の予選で当時の十傑(じっけつ)(やぶ)れ、辛酸(しんさん)()めさせられたアマネにとっては、正に難敵(なんてき)と言えた。

 

 そうでなくとも、(わし)()は学園の最上位である『ランク・A』に位置する決闘者(デュエリスト)。『ランク・B』のアマネとは、ワンランクの格差がある。

 このたった一つの差が、両者の間に広がる実力の差を厳然に示していた。

 

 しかし、恐れをなして()(けん)するなどと言う選択肢は、初めから彼女には毛頭ない。

 今大会の為に修練は積んできた。今の自分なら、格上(ランク・A)とも十分に渡り合える筈だ。

 

 何より、相手が強ければ強いほど燃えるのが、黒雲(くろくも) 雨音(アマネ)という決闘者(デュエリスト)なのだ。

 

 

 

「ふう……よし」

 

集中力(コンセントレーション)に乱れ無し。後は──勝つだけ!)

 

 

 

 (しん)()に染まったレッドタイプのデュエルディスクを装着し、アマネは、いざ戦地へと足を踏み入れた。

 

 

 

 ……会場内に観戦者は二十人前後。予選2日目ならば、まだこんなものだろう。初日に全席を埋め尽くす鷹山(ヨウザン) (カナメ)の異常性が改めて(うかが)い知れる。

 

 

 

「おや、僕の対戦相手は君かい? 嬉しいねぇ。こんな綺麗なお嬢さんと()れるなんて」

 

 

 

 一足早く決闘(デュエル)コートの上で待ち構えていた一人の男が声をかけてきた。

 

 男の外見は、ベージュカラーの髪をマッシュショートに切り揃え、ワックスで毛を立たせて束感を主張した爽やかな髪型に、女子ウケの良さそうな甘いマスクと、スラリとした高身長。

 

 第一印象はハンサムな好青年だが、アマネは反射的に警戒心を(いだ)いた。

 ──()()()、この手の男はどうにも好かない。

 似たタイプのセツナは何故かすんなりと受け入れられたのだが……。

 

 

 

「初めまして、だねぇ? 僕は3年の(わし)()だ。よろしく」

 

「……2年の黒雲(くろくも)です」

 

「フフフ、君も運がないねぇ。この僕と当たってしまうなんて。お気の毒だが君の今年の選抜試験はここで終わりさ。何せ僕は元──」

 

「知ってますよ、鷲津 秀隆(ひでたか)さん」

 

「ん?」

 

「現・十傑、狼城(ろうじょう) (アキラ)に負けて、その座を()()()()元・十傑。……でしょ?」

 

「っ……! 狼城(ろうじょう)……狼城ォ……ッ! あ、あいつだけは……絶対に許さん……!」

 

 

 

 最初の澄まし込んだ態度は()()へやら。整った顔を歪ませ、あからさまに機嫌を悪くする鷲津。その反応を見て、ビンゴ、とアマネは思った。

 

 挑発も立派な戦略だ。

 鷲津の地雷を敢えて踏みつける事で彼を逆上させ、冷静さを失わせるのが狙いだったが……期待通りの効果は得られた様だ。

 

 

 

「──フッ、ククッ! 君は礼儀正しい子だと思っていたが、どうやら(しつけ)が必要らしいねぇ!!」

 

(勝つ! 私は必ず本選に行く!)

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 アマネ LP(ライフポイント) 4000

 

 (わし)() LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「僕から行くよ! 僕は【ホルスの黒炎竜(こくえんりゅう) LV(レベル)(フォー)】を召喚!」

 

 

 

【ホルスの黒炎竜 LV(レベル)(フォー)】 攻撃力 1600

 

 

 

「【ホルス】デッキ……!」

 

「さらに【レベルアップ!】。進化しろ【ホルス】!」

 

 

 

【ホルスの黒炎竜 LV(レベル)(シックス)】 攻撃力 2300

 

 

 

(1ターン目から……やってくれるわね)

 

「カードを2枚伏せてターン終了(エンド)だ!」

 

 

 

 伏せられたカードを見下ろして、アマネは微かに眉を潜める。

 

 

 

(イヤな予感……。【ホルスの黒炎竜】に加えて、もし()()()()()まで使われたら……)

 

「さぁ、君のターンだ、かかってきたまえ。最も、元・十傑のこの僕に勝てる筈もないけどねぇ? フフフフッ」

 

「勝たせてもらうわ。こんなところで立ち止まるわけにはいかないの」

 

「おいおいよしてくれよ。ランク・Bの君がランク・A、それも元・十傑の僕に勝つだってぇ? 僕はねぇ、デュエルモンスターズじゃ全国大会に出場する程の腕なのさ。まっ、君とはレベルが違うってゆーか」

 

「……イラッとくるわね、あいつ」

 

 

 

 同期生の猿爪(ましづめ)を彷彿とさせる高慢ぶりだが、先にケンカを売ったのはこちらなので、それ以上の反論はしなかった。

 

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 

 

 ディスクにセットされているのは、この大会で結果を出す為に一年間かけて組み上げた〝最強のデッキ〟。

 今度はもう絶対に負けない。満を持して、アマネは動き出す。

 

 

 

「私は【ヴァンパイア・レディ】を召喚!」

 

 

 

【ヴァンパイア・レディ】 攻撃力 1550

 

 

 

「へぇ? 【ヴァンパイア】デッキか」

 

「バトル! 【ヴァンパイア・レディ】で【ホルス】を攻撃!」

 

「おいおい! 攻撃力は【ホルス】の方が上だぞぉ?」

 

「分かってるわよ。モンスターの攻撃宣言時、手札から【ヴァンパイア・フロイライン】を、守備表示で特殊召喚できる!」

 

 

 

【ヴァンパイア・フロイライン】 守備力 2000

 

 

 

「【フロイライン】の効果! 自分のアンデット族モンスターが戦闘するダメージ計算時に、100の倍数のライフを払う事で、そのモンスターの攻撃力と守備力を、払った数値分アップする! 私は、1000ポイントのライフを捧げる!」

 

 

 

 アマネ LP 4000 → 3000

 

【ヴァンパイア・レディ】 攻撃力 1550 + 1000 = 2550 守備力 1550 + 1000 = 2550

 

 

 

「攻撃力が【ホルス】を越えた!?」

 

吸血鬼(ヴァンパイア)は私の(ライフ)(かて)として、(ちから)を得る! 行け! 【ヴァンパイア・レディ】!!」

 

 

 

 紫の衣装で着飾った吸血鬼の淑女(しゅくじょ)が黒炎竜を襲撃する。

 

 

 

「この僕に先制攻撃とは、生意気にも程があるねぇ!! 速攻魔法・【禁じられた聖槍(せいそう)】を発動!」

 

「!?」

 

 

 

【ヴァンパイア・レディ】 攻撃力 2550 - 800 = 1750

 

 

 

(攻撃力が下がった……!?)

 

「返り討ちだよ! 『ブラック・フレイム』!!」

 

 

 

 【ホルス】はその名の通り黒い炎を口から放ち、【ヴァンパイア・レディ】を一瞬にして焼き尽くした。

 

 

 

「くっ……!」

 

 

 

 アマネ LP 3000 → 2450

 

 

 

「残念だったねぇ! 格下が格上に楯突くからこうなるのさ!」

 

「っ……1枚カードを伏せて、ターンエンド」

 

「このエンドフェイズ、戦闘で相手モンスターを破壊した【ホルス】は、【LV(レベル)(シックス)】から【LV(レベル)(エイト)】に成長する! 現れろ! 【ホルスの黒炎竜 LV(レベル)(エイト)】!!」

 

 

 

【ホルスの黒炎竜 LV(レベル)(エイト)】 攻撃力 3000

 

 

 

 早くも第3段階にして最上級【LV(レベル)】へと進化を遂げた【ホルスの黒炎竜】。最高クラスの攻撃力も()る事ながら、何よりも厄介なのは、その恐るべきモンスター効果だ。

 

 【LV8】の最大の能力──それは、魔法(マジック)カードの発動を無効にし、破壊する事。

 しかもノーコストで『1ターンに一度』等の制限も無く、また効果の発動は強制ではなく任意なので、コントローラーは問題なく魔法を使え、相手の魔法は何度でも無効化できるというわけだ。

 

 

 

「……!」

 

「フフフッ、ありがとう。君が攻撃してきてくれたおかげで、進化させる手間が省けたよ」

 

「それはどうも……」

 

「僕のターン! 【ホルス】で【ヴァンパイア・フロイライン】を攻撃ィ!」

 

「ッ……! (トラップ)発動! 【(やみ)呪縛(じゅばく)】!」

 

「無駄だよ!!」

 

「!」

 

「永続(トラップ)・【王宮のお()れ】!! このカード以外の全ての(トラップ)を無効にする!!」

 

「ぐっ……!」

 

(やっぱり……!)

 

 

 

 アマネの()(ねん)が当たってしまった。

 【王宮のお触れ】。【ホルス】デッキを相手取るなら必然的に警戒しなければならないカード。

 そして今、このカードと【ホルスの黒炎竜 LV(レベル)(エイト)】が場に出揃った時点で、相手の魔法・(トラップ)を完封する強固なロックコンボが完成した事になる。

 

 

 

「よって【闇の呪縛】の効果は無効となり、バトル続行! 『ブラック・メガフレイム』!!」

 

 

 

 【ホルス】の最終形態が放つ黒炎が【ヴァンパイア・フロイライン】を襲う。

 

 

 

「──【フロイライン】の効果を発動! ライフを1000ポイント払って、【フロイライン】の守備力を1000アップする!」

 

 

 

 アマネ LP 2450 → 1450

 

【ヴァンパイア・フロイライン】 攻撃力 600 + 1000 = 1600 守備力 2000 + 1000 = 3000

 

 

 

 吸血鬼の令嬢は差していた傘を盾にする事で【ホルス】の炎を防ぎ、(かろ)うじて身を守った。

 

 

 

「だろうね。だがいつまで凌ぎ切れるかな? 君のライフが尽きるのは時間の問題さ」

 

(……悔しいけど、あいつの言う通りね……このままじゃジリ貧だわ)

 

「ターンエンドだ。さぁどうする? 【ホルスの黒炎竜 LV8】と【王宮のお触れ】、この2枚が場にある限り、君は魔法も(トラップ)も使えない! 果たして打つ手があるかなぁ?」

 

「私のターン!」

 

 

 

 4枚の手札に目を通しながら、アマネは思案する。

 

 

 

(今の私の手札にあるモンスターで召喚できるのは、これ1枚だけ……でも【フロイライン】の効果でライフをギリギリまで削って強化しても、【ホルス】の攻撃力には届かない……魔法カードは使えないし……)

 

「おいおい長考し過ぎじゃないかぁ? 早くこのターンを終わらせてくれないかなぁ?」

 

(……ここはひとまず、守りを固めるしかない。必ず突破口はある!)

 

「私はモンスターをセットしてターンエンド!」

 

「フハハハッ! 散々悩んだ末に逃げの一手か! 僕のターン! たっぷりと味わうんだなぁ、持たざる者の悲しさを」

 

「……っ」

 

「バトル! もう一度【ホルス】で【フロイライン】を攻撃だ! 『ブラック・メガフレイム』!!」

 

 

 

 再び迫り来る黒き炎。伏せカードもない──(いな)、あったとしても発動を封じられている現状では、【ヴァンパイア・フロイライン】自身の効果で、ライフをコストに守備力を強化するしか対抗手段は残っていない。

 

 

 

「…………ッ!」

 

 

 

 しかし──アマネはそうしなかった。火炎放射が直撃し、【ヴァンパイア・フロイライン】は一撃で粉砕される。

 

 

 

「なんだ、効果は使わないのか」

 

「悪い?」

 

「悪くはない……と、言いたいところだが……ざぁんねん! 判断を(あやま)ったねぇ!」

 

「!?」

 

「手札から速攻魔法・【レベルダウン!?】発動! この効果により【LV8】をデッキに戻し、墓地の【LV6】を特殊召喚する!」

 

 

 

 黒炎竜の身体が変異を起こし、1段階前の姿に逆戻りしていく。

 

 

 

【ホルスの黒炎竜 LV(レベル)(シックス)】 攻撃力 2300

 

 

 

「行けぇーっ! 【LV6】! 裏守備モンスターを攻撃! 『ブラック・フレイム』!!」

 

 

 

 退化したと言えど、【LV6】は並みのモンスターなら十分に破壊できる攻撃力を備えている。その追撃の炎がアマネの場にセットされた守備モンスターを瞬く間に飲み込んだ。

 

 破壊される直前、攻撃対象となった裏側守備表示のモンスターが反転(リバース)し、実体化する。現れたのはコウモリを模した杖を握る、魔法使いの様な出で立ちをした吸血鬼だった。

 

 

 

「ハハハハハッ!! 快感だねぇ!! 手も足も出ない相手をいたぶるのはぁ!!」

 

「……手も足も出ない……? それはどうかしら?」

 

「んん?」

 

「確かに【ホルスの黒炎竜】と【王宮のお触れ】のコンボは強力。けどそのコンボには弱点があるわ。それは、モンスター効果までは無効に出来ない事!」

 

「!!」

 

「破壊された【ヴァンパイア・ソーサラー】の効果発動! デッキから【ヴァンパイア】カード1枚を手札に加える! 私が手札に加えるのは──【ヴァンパイア・ロード】!」

 

「はっ……ハハッ! 何かと思えばただのカードサーチか! だがレベル5のモンスターをわざわざ手札に入れてどうする? 君のフィールドはガラ空きだぞ」

 

「今に分かるわ」

 

「ふん、何を企んでいようが僕の勝利は揺るがない!」

 

(だが念には念を入れ……)

 

「モンスターを守備表示で出す! エンドフェイズだ。モンスターをバトルで破壊した事で、【ホルス】は再び【LV8】に進化する!」

 

 

 

【ホルスの黒炎竜 LV(レベル)(エイト)】 攻撃力 3000

 

 

 

「どうだぁ! この鉄壁の布陣を破る事など不可能!!」

 

「私のターン、ドロー! 墓地の【ヴァンパイア・ソーサラー】を除外して、効果発動! このターン、【ヴァンパイア】をリリースなしで召喚できる!」

 

「なにぃ!?」

 

「【ヴァンパイア・ロード】を召喚!」

 

 

 

 漆黒(しっこく)外套(がいとう)(まと)いし美青年の吸血鬼がフィールドに降り立つ。

 

 

 

【ヴァンパイア・ロード】 攻撃力 2000

 

 

 

「さらに【ヴァンパイア・ロード】をゲームから除外し、【ヴァンパイアジェネシス】を特殊召喚!!」

 

 

 

 【ヴァンパイア・ロード】の姿が消え、新たに出現したのは、紫色の巨躯を誇る強大な魔獣。〝創世記〟を意味する『ジェネシス』の名を持つ事から、吸血鬼(ヴァンパイア)()()と思われる。

 

 

 

【ヴァンパイアジェネシス】 攻撃力 3000

 

 

 

「こ、攻撃力3000だと!?」

 

「【ヴァンパイアジェネシス】のモンスター効果! 1ターンに一度、手札のアンデット族モンスター1枚を墓地に捨てる事で、そのモンスターよりレベルの低いアンデット族を1体、墓地から特殊召喚する!」

 

 

 

 アマネが墓地に送ったカードは【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】。レベルは7。

 

 

 

「眠りから目覚めなさい! 【ヴァンパイア・レディ】!」

 

 

 

【ヴァンパイア・レディ】 攻撃力 1550

 

 

 

「バトルよ! 【ヴァンパイアジェネシス】で、【ホルスの黒炎竜 LV8】を攻撃! 『ヘルビシャス・ブラッド』!!」

 

 

 

 唸り声を上げながら攻撃体勢に入る【ヴァンパイアジェネシス】。次の瞬間、その姿は血の奔流へと変わり、黒炎竜を直撃する。

 

 両者の攻撃力は互角。爆発に巻き込まれて2体同時に消滅し、バトルは相討ちに終わった。

 

 

 

「そ、そんなバカな……僕の切り札が……!」

 

「さらに【ヴァンパイア・レディ】で、守備モンスターを攻撃!」

 

 

 

 セットモンスターは【ホルスのしもべ】。攻守共に僅か100のモンスター。戦闘破壊は容易だった。

 

 

 

「く、くそっ……! 元・十傑のこの僕が、こんな奴に!」

 

「……何度も何度も『元・十傑』とばかり……他の言葉を知らないわけ?」

 

「なんだと?」

 

「ハッキリ言ってあげる。そうやって過去の栄光に(すが)ってばかりいる様な決闘者(デュエリスト)に──私は負けない」

 

「──ッ! 黙れえぇぇぇぇっ!!! 黙れ黙れ黙れ!! お前なんかに()の何が分かる!!」

 

「……本性が出たわね」

 

「俺のタァァァーン!! 【レベル調整】を発動! 相手に2枚引かせ、墓地の【LV】モンスターを特殊召喚! 戻ってこい! 【ホルスの黒炎竜 LV8】ォ!!」

 

 

 

【ホルスの黒炎竜 LV(レベル)(エイト)】 攻撃力 3000

 

 

 

「フゥー、フゥー……く、くくくっ! せっかく倒したと思ったのに残念だったねぇ! 【レベル調整】で召喚したモンスターは効果が失われ、このターン攻撃できない……だが次のターンで、確実にお前のモンスターを吹き飛ばす!」

 

「…………」

 

「この大会は、俺が十傑に返り咲く最後のチャンスなんだ!! それをランク・Bごときに邪魔されてたまるかぁぁぁぁっ!!」

 

「……フフッ」

 

「……な……なっ、何が()()しいんだぁぁぁ~~~っ!!!?」

 

 

 

 綺麗にセットした髪を掻き乱し、半泣きで(わめ)き散らす鷲津。もはやイケメンは見る影もなくなっていた。根が小心者である事をこれ以上ない程さらけ出した彼を見て、アマネは哀れみさえ覚えた。

 

 

 

「悪あがきね。魔法を破壊できない【LV8】なんて、怖くも何ともないわ」

 

「なっ、なにぃぃぃ~~~っ!?」

 

「あなたの器はもう知れたわ。私のターン! 来て、【ヴァンパイア・ベビー】!」

 

 

 

【ヴァンパイア・ベビー】 攻撃力 700

 

 

 

「手札から永続魔法・【ヴァンパイアの領域】を発動! 1ターンに一度、ライフを500払う事で、通常の召喚に加えてもう一度【ヴァンパイア】を召喚できる」

 

 

 

 アマネ LP 1450 → 950

 

 

 

「【ヴァンパイア・ベビー】をリリースし、【ヴァンパイア・グリムゾン】召喚!」

 

 

 

【ヴァンパイア・グリムゾン】 攻撃力 2000

 

 

 

「い……いくらモンスターを並べようと、【ホルス】の足下にも及ばないぞ!」

 

「フィールド魔法発動! 【ヴァンパイア帝国(エンパイア)】!」

 

 

 

 決闘(デュエル)フィールドの景色が作り変えられていき、西洋の街並みが築かれる。上空には(あか)く光る満月が浮いており、街を不気味に照らし出している。

 

 

 

「なななな……なんだこれはぁ!?」

 

「さらに魔法(マジック)カード・【威圧する()(がん)】発動! 攻撃力2000以下のアンデット族1体は、このターン直接攻撃(ダイレクトアタック)ができる!」

 

「ダッ!?」

 

「バトル! 【ヴァンパイア・レディ】で、プレイヤーにダイレクトアタック!」

 

 

 

 【ヴァンパイア・レディ】の魔眼に(ひる)んだ【ホルス】は身動きが取れず、鷲津への直接攻撃を許した。

 

 

 

「【ヴァンパイア帝国(エンパイア)】の効果により、アンデット族の攻撃力はダメージ計算時のみ500アップする!」

 

 

 

【ヴァンパイア・レディ】 攻撃力 1550 + 500 = 2050

 

 

 

「ぎゃあああっ!!」

 

 

 

 鷲津 LP 4000 → 1950

 

 

 

「【ヴァンパイア・レディ】が戦闘ダメージを与えた時、相手は私が宣言した種類のカードを1枚、デッキから墓地に送らなければならない! (トラップ)カードを宣言するわ」

 

「くっ……お、俺のデッキには、後2枚の【王宮のお触れ】しか入ってない……!」

 

「だと思った」

 

 

 

 鷲津のデッキ内から2枚目の【王宮のお触れ】が墓地に捨てられる。万が一にも墓地で発動するカード等を落とされる危険性もあったが、(トラップ)を封殺する【王宮のお触れ】をキーカードとしているなら、他の(トラップ)は投入していないだろうとアマネは踏んだ。実際、その予測は的中した様だ。

 

 

 

「【ヴァンパイア帝国(エンパイア)】の二つ目の効果! 相手のデッキからカードが墓地に送られた時、手札かデッキから【ヴァンパイア】を1枚墓地に送り、フィールドのカード1枚を破壊する!」

 

「なんだってぇ!?」

 

「デッキから【ヴァンパイアの使い魔】を墓地へ。私が破壊するのは当然──【ホルスの黒炎竜 LV8】!!」

 

 

 

 黒炎竜が粉々に砕かれて消え去った。これで鷲津を守るものは無い。

 

 

 

「それと【ヴァンパイアの領域】の効果も発動するわ。【ヴァンパイア】が相手に与えた戦闘ダメージ分のライフを回復」

 

 

 

 アマネ LP 950 → 3000

 

 

 

(奴の場にはモンスターがもう1体……攻撃されたら俺の負けじゃないか!!)

 

「フィニッシュよ! 【ヴァンパイア・グリムゾン】で──」

 

「ま、待てっ!! いや待って! 待ってください!!」

 

「……なによ」

 

「な、なぁ頼む、後生だ。勝ちを譲ってくれないか!?」

 

「はぁ?」

 

「たた、タダでとは言わない! 俺……僕のパパは大企業の社長で凄い金持ちなんだ! 君が望めばいくらでも出してくれる! ほ、ほら、この小切手に好きな金額を書いてくれ!」

 

「……アンタ、自分が何を言ってるか分かってるの?」

 

「頼むこの通りだ! き、君、2年なんだろ? まだ来年が残ってるじゃないか、そうだろう? なっ! それでいいだろう!?」

 

 

 

 ……呆れて物も言えないとはこういう事なのかと、アマネは過去に類を見ないほど(あっ)()に取られた。

 この()に及んで何を言い出すのかと思えば、あろうことか決闘(デュエル)の勝利を金で売ってくれなどと、戯言(たわごと)を抜かしてのけたのだ。

 オマケに、『お前には来年があるから良いだろ』と実に身勝手で横暴な物言い。これが公式の大会でなかったら、今この場で彼の胸ぐらを掴んで怒鳴りつけていたかも知れない。

 

 

 

「……だから?」

 

「ヒィ!?」

 

 

 

 アマネの赤い眼が鷲津を睨む。恐れをなした鷲津は情けない悲鳴を上げながら堪らず腰を抜かした。

 

 

 

決闘(デュエル)()()だって真剣勝負よ! 誰だろうと手加減はしない! 【ヴァンパイア・グリムゾン】でダイレクトアタック!!」

 

 

 

【ヴァンパイア・グリムゾン】 攻撃力 2000 + 500 = 2500

 

 

 

「な、何故だぁぁぁぁっ!? 絶対無敵の完璧なデッキの筈なのに!! 俺が負けるわけがないのにぃぃぃぃっ!!」

 

「完璧なデッキなんて存在しないわ。どんな戦術にも、穴はあるものよ」

 

 

 

 大鎌(おおがま)を携えた、死神(しにがみ)()(まが)えてしまいそうな風貌の吸血鬼が、その鎌を勢いよく振り下ろし、泣き叫ぶ鷲津の身体を容赦なく斜めに切り裂いた。

 

 

 

「そんなああああっ!!」

 

 

 

 鷲津 LP 0

 

 

 

 散らばった小切手と共に床に()した鷲津。どうやらショックで気絶したらしく、スタッフにズルズルと引き摺られていった。

 もはや十傑がどうこう以前に決闘者(デュエリスト)とさえ呼べない無様さだ。これだけの醜態を衆目に晒してしまっては、彼の今後の処遇が危ぶまれるが……まぁそこはどうせ大企業の社長の父親とやらに泣きついて、金の力で解決するのだろう。いずれにせよ、アマネには何の関係もない話だ。

 

 勝者を讃える歓声を一身に浴びながら、アマネは長い黒髪を手で払いつつ会場を後にした。

 

 

 

(あーあ、あんなしょうもない男に追い詰められてた自分がムカつく……でも……)

 

格上(ランク・A)に勝てた……やっぱりこのデッキは強いわ。これなら私は……」

 

 

 

 そこまで言いかけた所で、アマネの口が止まった。

 

 

 

「……ううん、()()()()()を言うのは、この大会で現・十傑に勝ってから!」

 

 

 

 今日は次に3回戦が控えている。勝って(かぶと)()を締めよ。まだ予選は──選抜デュエル大会は始まったばかりだ。

 

 

 

 黒雲(くろくも) 雨音(アマネ)・予選2回戦──突破!

 

 

 

 





 そんなわけで、アマネたんのデッキは【ヴァンパイア】でした! 25話にしてようやくメインヒロインが初デュエル披露という……物語の構成は計画的に!(プロットさえ書いた事ない)

 そして自分で書いていて、「作者は鷲津に何か恨みでもあるんか?」と言うくらい鷲津が酷い事にww 実は某ラノベの噛ませ犬キャラがモデルなんです。ヒントは『ジャンケンで決めよう!』。

 本文中の
 4枚の手札に目を通しながら、アマネは思案する。←この時の手札は
【ヴァンパイアジェネシス】
【ヴァンパイア・ソーサラー】
【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】
【ヴァンパイアの領域】
でした! 軽い事故ですね(笑)ドローしたのが【領域】だったのですが【LV8】のせいで腐り、ちょっとピンチだったのです。

 その後のラストターン、手札を全部使いきってフィニッシュまで持っていく流れは我ながら上手く書けたかなぁと思っています(*´∀`)【帝国】がデッキの【ヴァンパイア】も落とせる効果で本ッッッ当に良かった!

 ではでは、また次回! 今年は最低月1更新は目指していきたいなぁ~。


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TURN - 26 Serpent's Bite


 ハーメルンに夜間モードがある事を、今さっき知りました(歓喜)



 

 選抜デュエル大会・予選2回戦。

 

 N-ブロックにてアマネが元・十傑(じっけつ)(わし)()を打ち破った頃──M-ブロックでは、()(づき) マキノが苦戦を()いられていた。

 

 

 

「っ……!」

 

 

 

 マキノ LP(ライフポイント) 600

 

 

 

「フフン、アタイの実力、思い知ったかい?」

 

 

 

 蛇喰(じゃばみ) LP(ライフポイント) 3300

 

 

 

 マキノと相まみえているのは、明るく鮮やかな赤紫色の髪を腰まで伸ばした女生徒。

 女性としては長身でスタイルも良く、制服越しでも出るところはしっかり出ている(すぐ)れたプロポーションの持ち主。シャツのボタンを胸元まで大胆に開けているので、魅惑的な谷間が強調されている。

 キツめながら端整な面差しから受ける印象に(たが)わず、気が強く男勝りでサバサバした性格をしているのが見受けられた。

 

 

 

「うん、思い知った。さっすが次期十傑候補の一人……ジャバミン!」

 

「だからその変なアダ名はやめなっつってんだろい!! 蛇喰(じゃばみ)! 蛇喰 紫苑(アザミ)だよ!」

 

 

 

 口調も容姿も大人びているが、マキノと同い年である。

 

 

 

「え~? ジャバミン可愛いじゃんジャバミン」

 

「えぇい! だったらこうしようか! この決闘(デュエル)にアタイが勝ったら、二度とその名で呼ぶんじゃないよ!」

 

「むぅ~、それを言われちゃうと……」

 

決闘(デュエル)の上での約束は死んでも守る! それが決闘者(デュエリスト)(じん)()ってモンさね!」

 

「まっ、いいよー。要は勝てば良いんでしょ?」

 

「ライフがギリギリのくせして、ずいぶんと余裕じゃないのさ。だがこれでも吠え面かけるかい!! 魔法(マジック)カード・【スネーク・レイン】! 手札を1枚捨てて、デッキから爬虫類(はちゅうるい)族を4枚、墓地に送る」

 

「わざわざデッキのモンスターを減らした……?」

 

「今からアタイの真打ちを見せてやんよ──フィールドの【ナーガ】と、墓地の爬虫類族を全て除外し! 【邪龍(じゃりゅう)アナンタ】を特殊召喚!!」

 

「!」

 

 

 

 フィールドに、七つの頭を持つ巨大な(ヘビ)の魔物が現れる。

 真ん中の頭部だけは龍の姿をしており、その威容は見る者全てを(おのの)かせた。

 

 

 

【邪龍アナンタ】 攻撃力 ?

 

 

 

「わっ! なんかすごいの出てきた!」

 

「【邪龍アナンタ】の攻撃力・守備力は、除外した爬虫類族の数 × 600ポイントとなる。アタイが除外したのは全部で8体。よって【アナンタ】の攻撃力は──」

 

 

 

【邪龍アナンタ】 攻撃力 ? → 4800

 

 

 

「4800!?」

 

「これで仕舞いだよ! 【アナンタ】! 【アーク・マキナ】を喰っちまいなっ!!」

 

 

 

 七つ首の一本が(あぎ)()を開き、機械仕掛けの悪魔を丸飲みにするべく襲いかかる。

 

 

 

()(シン)アーク・マキナ】 攻撃力 100

 

 

 

「そう簡単にやられるもんか! 永続(トラップ)発動! 【強制終了】!」

 

「!」

 

「【アーク・マキナ】を墓地に送って、バトルフェイズを終了するよ!」

 

 

 

 【アーク・マキナ】が消え去り、捕食対象を失った大蛇(だいじゃ)の牙は何もない(くう)()む。

 

 

 

「ほう、しぶといねぇ。ならこいつはどうだい! 永続魔法・【黒蛇病(こくじゃびょう)】!」

 

「!?」

 

「【黒蛇病】はアタイのスタンバイフェイズ毎に、互いのライフに200のダメージを与える。しかもこのダメージは2回目以降、どんどん倍になっていくのさ!」

 

「っ……てことは……」

 

「もうアンタに猶予は残されてないって事さね!」

 

「……はは……ちょっとヤバイかも」

 

「さらにエンドフェイズに【アナンタ】の効果発動! フィールドのカード1枚を破壊する! 【強制終了】を破壊!」

 

「うっ!」

 

 

 

 厄介な防御(ふだ)は手早く処理。次期十傑候補に選ばれるだけあって、無駄の無い周到なプレイングだ。

 

 

 

「ターン終了(エンド)だ。いよいよ年貢の納め時ってヤツだね!」

 

 

 

 これでマキノの場は、モンスターも伏せカードも無い完全なガラ空き状態。しかも手札はたったの1枚。

 一方、蛇喰は手札こそ(ゼロ)だが、場には最強クラスの攻撃力を得た上級モンスター・【邪龍アナンタ】と、毎ターン互いのライフを削る永続魔法・【黒蛇病】を揃え磐石の態勢。

 ジリジリとマキノを崖っぷちに追い詰めていた。

 

 

 

「まだ勝負はこれからだよ! あたしのターン、ドロー!」

 

(──! …………)

 

「…………ターンエンド」

 

 

 

 ポツリと落ち込んだ声で小さく紡がれた終了の宣言。

 何のアクションも起こさなかった。いや、起こせなかったのか。

 両腕を力なく下げ、目を閉じて(うな)()れているマキノの姿は、普段の天真爛漫な彼女からは想像もつかない。

 劣勢を打開できるカードを引き当てられず、戦意喪失してしまったのであろう事は、蛇喰はもちろん観客達にも(よう)()に見て取れた。

 

 

 

「……恥じる事はないさ。アンタはここまでよく(たたか)った。時には(いさぎよ)く諦めるのも、また美徳さね」

 

「……」

 

「アタイのターン! そぉら、【黒蛇病】が身体を(むしば)むよ」

 

「うぅ……っ!」

 

 

 

 マキノ LP 600 → 400

 

 蛇喰 LP 3300 → 3100

 

 

 

「安心しな、今楽にしてあげるよ!」

 

 

 

 蛇喰の双眸(そうぼう)が見開かれ、眼光が獲物を捉えた蛇の様にギラつく。

 

 

 

「【アナンタ】でダイレクトアタック!!」

 

 

 

 襲い来る邪龍。喰われれば言うまでもなくオーバーキルは必至。

 しかしマキノは瞑目(めいもく)を維持し、()(じろ)ぎひとつしない。覚悟を決めたのか。はたまた蛇に(にら)まれた(カエル)のごとく、恐怖で動けないのか。

 いずれにせよ、伏せ(リバース)カードすらセットしていないマキノには、もはや(あらが)(すべ)などない。せめて1枚でも伏せておけばブラフにもなっただろうが時すでに遅しだ。

 

 この決闘(デュエル)はもう終わった。観客の誰もがそう悟った。

 

 大蛇は眼前の無抵抗な少女を格好の餌と見定め、容赦なく鋭い牙を剥く。観戦していた他の女子生徒の中には、(むご)たらしい光景が広がるのを予感してか、反射的に顔を逸らす者も数名いた。

 すでに勝利を確信し、蛇喰の口元は薄く笑んでいる。そのまま【アナンタ】の牙がマキノを()(じき)に──

 

 

 

 ──する、筈だった。

 

 

 

「な~んちゃって♡」

 

 

 

 悪戯(いたずら)っぽく舌を出し、ピースをして、ウィンクまで決めるマキノ。

 小悪魔を思わせるその(ちゃ)()()たっぷりな振る舞いは、明らかに邪龍に捕食されるのを、ただ静かに待っていた哀れな餌のものではなかった。

 

 

 

「手札から【速攻のかかし】を捨てて、効果発動!」

 

「!?」

 

 

 

 突如、両手に木の棒を握った()()()の形をした機械が飛び出し、マキノを(かば)う様に【アナンタ】の前に立ちはだかる。

 

 

 

「ダイレクトアタックを無効にして、またまたバトルを強制終了だよ!」

 

 

 

 【アナンタ】はプレイヤーの盾となった【速攻のかかし】を粉々に噛み砕いて破壊したが、肝心のマキノは取り逃がす結果となり、口惜しそうに首を引っ込めた。

 

 

 

「へへーん、あたしを食べようだなんて十年早いぞ☆ バイバ~イ!」

 

「チィッ! 本当にしぶとい……!」

 

(マズイね……このままターンを終わらせちまうと、【アナンタ】の効果でアタイのカードを破壊する羽目になっちまう。【黒蛇病】は残しといた方が良いしな……仕方ない!)

 

「アタイはカードを1枚伏せる。そしてエンドフェイズ。【アナンタ】の効果で、この伏せカードを破壊する」

 

 

 

 伏せられた(トラップ)カード・【ダメージ(イコール)レプトル】が、即座に破壊される。

 【邪龍アナンタ】のカード除去効果は、必ず発動する強制効果。(ゆえ)に今回の様に、状況次第では自分のカードを破壊しなければならなくなるという欠点がある。

 

 

 

「あたしのターンだね」

 

「今更どうしようってんだい? アンタのターンが終われば、アタイのターンで【黒蛇病】のダメージが2倍になって、どの道アンタのライフは尽きるんだよ」

 

 

 

 そう、マキノの残りライフは400。【黒蛇病】が次に与えるダメージもピッタリ400。

 このターン中に【黒蛇病】を退(しりぞ)けでもしない限り、間違いなくマキノに次のターンは無いのだ。

 運よくそれを対処できたとしても、今度は【邪龍アナンタ】の攻撃が待ち構えている。壁モンスターを出せなければ、結局は敗北を()けられない。

 

 詰まるところ、ただ1ターン延命しただけに過ぎず、戦況は依然として絶望的。

 

 だがマキノは……──それでも笑う。

 

 

 

(アマネたんやセツナくんなら、絶対に諦めないよね……だったら、あたしだって負けてらんない!)

 

「行くよ! ──ドローッ!!」

 

「……! まさかまだ勝つ気でいるってのかい? 不可能だよそんな事は!」

 

「……あたしにも、まだツキがあるみたいだよ」

 

「!」

 

「デッキの上から10枚を裏側表示で除外して、【強欲で貪欲な壺】を発動! カードを2枚ドロー!」

 

「この土壇場でドロー増強かい! 大した引きじゃないのさ……!」

 

 

 

 新たに引いた2枚のカードを確認した途端、ニカッと歯を見せてマキノは笑った。

 

 

 

「この決闘(デュエル)……あたしの勝ちだよジャバミン!」

 

「なにィ!?」

 

魔法(マジック)カード・【死者蘇生】! 墓地の【スロットマシーン】を復活!」

 

 

 

 コイン作動式の賭博用ゲーム機型ロボットがフィールドに帰還し、再起動を果たす。

 

 

 

【スロットマシーンAM(エーエム)(セブン)】 攻撃力 2000

 

 

 

「装備カード・【重力砲(グラヴィティ・ブラスター)】を【スロットマシーン】に装備! このカードは1ターンに一度、装備モンスターの攻撃力を400アップできる!」

 

 

 

【スロットマシーンAM-7】 攻撃力 2000 + 400 = 2400

 

 

 

「たかが2400が何だって言うのさ。【アナンタ(こっち)】は倍の4800だよ!」

 

「チッチッチ、甘いよジャバミン。【重力砲(グラヴィティ・ブラスター)】を装備したモンスターがバトルする時、相手モンスターの効果は無効になる!」

 

「なっ──!?」

 

 

 

 装備カードによってグレードアップした【スロットマシーン】の右腕部分の大砲が、【アナンタ】に照準を合わせる。

 

 

 

「つまり! 効果が無効化された【アナンタ】の攻撃力は──(ゼロ)!」

 

 

 

【邪龍アナンタ】 攻撃力 4800 → 0

 

 

 

「バカな!?」

 

 

 

 【アナンタ】の様に元々の攻撃力、及び守備力が決まっていない──『?』と表記されている──モンスターは、自らの効果でその能力値を調整する。

 すなわち()()の無効化は、モンスター自身の無力化と同義。

 

 

 

「いっけーっ!! 【スロットマシーン】で【アナンタ】を攻撃! 『プラズマ・レーザー・グラヴィティ・ブラスト』!!」

 

 

 

 砲口から、強力な重力波を伴った高圧電力の塊が射出された。

 

 

 

「くそっ……!」

 

(止められない……! だが【アナンタ】が破壊されても、アタイのライフはまだ残る! このターンさえ凌げば【黒蛇病】の効果で──)

 

「手札から【リミッター解除】を発動!」

 

「!?」

 

 

 

【スロットマシーンAM-7】 攻撃力 2400 → 4800

 

 

 

「こ、攻撃力、4800だって!?」

 

「【アナンタ】と同じ攻撃力で、お返しだよ!!」

 

 

 

 機体の安全装置を解除した事で、【スロットマシーン】の撃ち放ったレーザー砲の出力は最大となり、威力が倍増する。

 ……が、やはり反動もまた大きく、掛かる負荷に耐え切れず砲身に()(れつ)が走っていた。

 

 それは限界(リミット)を越えたパワーを発揮できる代わりに、代償としてターン終了時に自爆してしまう、(まさ)に片道切符の特攻。

 

 自らの命と引き換えに放たれた光線は邪龍の七股に分かれた(けい)()穿(うが)ち、バラバラに粉砕した。

 

 

 

「くっ……うあああああっ!!」

 

 

 

 蛇喰 LP 0

 

 

 

「やったー!! 逆転勝利ーッ!!」

 

 

 

 軽快に飛び跳ね、くるくると身体を回転させ、勝利の喜びを全身で表現するマキノ。ライフをギリギリまで削られてからの一発逆転。決闘者(デュエリスト)にとって、これほど気持ちの良い勝ち方もない。

 

 

 

「……チィッ! アタイも焼きが回ったね」

 

 

 

 悔しげに歯噛みしつつも、蛇喰は勝者に歩み寄り、そっと手を差し出す。

 

 

 

「あそこから引っくり返すたぁ、やるじゃないか。完敗だよ」

 

「ありがとう。良い決闘(デュエル)だったね、ジャバミン!」

 

「……フッ、負けちまったもんは仕方ない。好きに呼ぶが良いさね」

 

 

 

 マキノは(こころよ)く蛇喰の手を取り、固い握手で互いの健闘を称え合った。

 ……そして、その手が()かれた次の瞬間──

 

 

 

「た・だ・しっ!」

 

「むぎゅうっ!?」

 

 

 

 蛇喰がマキノの頭に腕を回して、強引に抱き寄せた。彼女の豊満な胸がマキノの顔に押し当てられる。

 

 

 

「むぐぐぐ……くるちぃ……!」

 

「フフフッ、アタイに勝ったんだ。次でコケたりしたら承知しないよ?」

 

「むっ! 負けにゃいもーん!」

 

(本選でアマネたんと決着つけるまではねっ!!)

 

 

 

 観月 マキノ・予選2回戦──突破!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セツナ、アマネ、マキノの3回戦進出を皮切りに──

 

 各会場の2回戦の試合プログラムは着々と進行していった。

 

 

 

 第5決闘(デュエル)フィールド──E-ブロック・2試合目。

 

 

 

「──【(おう)()ワンフー】でダイレクトアターック!!」

 

「うわぁーっ!?」

 

「ニハハハーッ! オイラの勝ちー!」

 

 

 

 十傑・虎丸(とらまる) ()(すけ)・予選2回戦──突破!!

 

 

 

 第8決闘(デュエル)フィールド──H-ブロック・2試合目。

 

 

 

「覚悟はよろしくて?」

 

「うぅ……!」

 

「バトル! 【スパウン・アリゲーター】で、【ゴブリン突撃部隊】を攻撃!」

 

 

 

【スパウン・アリゲーター】 攻撃力 2200

 

【ゴブリン突撃部隊】 守備力 0

 

 

 

「【ライオ・アリゲーター】の効果で、貫通ダメージを受けてもらいますわ!」

 

 

 

- スピニング・イート!! -

 

 

 

「どわぁあーっ!!」

 

「お嬢様の圧勝だ!」

 

「さすがは鰐塚(わにづか)お嬢様!!」

 

「フフッ、口ほどにもなくてよ」

 

(セツナさんは必ず本選まで勝ち上がってきますわ。そこであの時の再戦を……そして、ワタクシが勝った(あかつき)には、こ、ここ、告白──)

 

「はうぅっ!?」

 

「……おい広瀬、お嬢様がまたいつもの発作を……」

 

「あぁ……突然赤面なされたかと思えば、あの様に取り乱し始めてしまわれている……一体どうなさったと言うのか……」

 

 

 

 十傑・鰐塚(わにづか) ミサキ・予選2回戦──突破!!

 

 

 

 第2決闘(デュエル)フィールド──B-ブロック・2試合目。

 

 

 

「撃ち殺せ──【リボルバー・ドラゴン】!!」

 

 

 

- ガン・キャノン・ショット!! -

 

 

 

「ぐあああああっ!?」

 

「つ、強ぇ……圧倒的……!」

 

「これが学園最強……九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)……!」

 

「一時は例の転入生に負けて失墜も危ぶまれたが……実力で権威を取り戻したな……!」

 

 

 

「……ケッ、他愛もねぇ」

 

(今年が最後の大会だ……今度こそ鷹山(ヨウザン) (カナメ)を、この手で倒す!! ついでに俺に土を付けやがった、あの忌々(いまいま)しいクソガキもな!)

 

 

 

 十傑・九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)・予選2回戦──突破!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして続く3試合目──

 

 

 

「……そろそろ時間ね。ンフッ、楽しみだわ」

 

 

 

 C-ブロック会場・第3決闘(デュエル)フィールドにて、新たな十傑の一角が動き出そうとしていた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっほーセツナだよ。なんだか久しぶりだね。

 

 ボクは今、ルイくんとケイくんと一緒に第3決闘(デュエル)フィールドに向かっているところだよ。

 これからそこで、ボクとアマネのクラスメートのコータの試合が始まるんだ。せっかくだから応援しに行こうと思ってね。

 

 ちなみにさっきまではB-ブロックの九頭竜くんの決闘(デュエル)を観てたんだ。会場が近かったからさ。数ヶ月ぶりに顔を見た気がするけど、相変わらず強かったね、彼。そして相変わらずのイケメンだったね。

 

 

 

「…………ん? アレって、コータ?」

 

 

 

 お目当ての会場に到着すると、入場口の前で何やら立ち尽くしている黄色の髪の男子生徒を発見した。コータだ。どうしたんだろう?

 

 

 

「ヤベーよ……ヤベーよヤベーよ……!」

 

 

 

 ……まるで某リアクション芸人みたいに「ヤベーよヤベーよ」と繰り返してる。とりあえず声をかけてみよう。

 

 

 

「何がヤバいの?」

 

「どうおわぁっ!? な、なななんだ総角(アゲマキ)か!! おお(おど)かすんじゃねーよっ!!」

 

「いやそんなに驚くかってこっちもビックリしたよ。どうしたの?」

 

「へっ!? やや、べ、別に何でもねーぜ!? 次の相手が十傑だからビビってるとか、そんな事は断じてねぇぜ!?」

 

「……あー、うん。なんかもういろいろ(わか)っちゃったよ」

 

「ッスね」

 

「ですね……」

 

 

 

 コータは嘘がヘタっと。んで、運悪く十傑に当たってしまって、緊張とプレッシャーでガクブル状態というわけか。

 ボクは彼の肩にポンッと手を置いて微笑みかける。

 

 

 

「大丈夫だよ、コータの強さはボクが一番よく知ってる。自信もって」

 

「俺お前に負けっぱなしだけどな」

 

「なんならハグしてあげよっか? リラックスできるおまじない」

 

「やめろ気色(ワリ)ィッ!!」

 

 

 

 さぁボクの胸に飛び込んでおいでと言わんばかりに両腕を広げたのに全力で拒否られた。ルイくんなら喜んで抱き着いてくるんだけどな。ちょっとショック。

 

 

 

「セツナの(あに)さん、さっきから逆効果ですぜ」

 

「ごめんごめん。それで? 相手は十傑の何て人?」

 

「……蝶ヶ咲(ちょうがさき) (ヨウ)()。イロモノ揃いの十傑ん中でも、特にぶっ飛んだ奴だ……!」

 

「あら、アタシの名を呼んだかしら?」

 

「!」

 

 

 

 ()()()()()が聴こえ、振り返ると……そこには長身(そう)()()()()が立っていた。

 

 やや長めな紺色(こんいろ)の髪。くっきり二重(ふたえ)(まつ)()の長い切れ長の眼。その中に浮かぶ濃紺(のうこん)(ひとみ)。鼻筋も通っていて肌も白い。同じ男ながら、綺麗な人だなぁと素直に思った。

 

 ──そう、男なのだ。どこからどう見ても男なのだ。着ている制服だって男子のそれだし。

 なんだけど…………

 

 

 

「あらあら、どうしたのよ、皆して固まっちゃって。()()()の美しさに()()れちゃったのかしら? ま、突然こんな()()に声をかけられちゃ、無理もないわね」

 

 

 

 喋り口調がモロに女性なんだ。もしや、これが俗に言う、オカマ!? オネエ系というやつか!?

 

 

 

「な、なんであんたがここに……!」

 

 

 

 コータが戸惑いを隠せない様子で問いかける。

 

 

 

「変な質問ね。今からここで試合するんだから当然でしょう? 見たところ、アナタが対戦相手みたいね。ランク・Cなんかが相手じゃ正直あんまり(たぎ)らないけれど……可愛がってあげる」

 

(~~~~~ッ!!!?)

 

 

 

 ……きっと今コータ、服の下は凄い鳥肌なんだろうな。

 

 

 

「そ・れ・よ・り」

 

「っ!」

 

 

 

 こ、今度はこっちに近づいてきた!? この手の人種に偏見は無いけど何故だか警戒してしまう……

 

 

 

「アナタが噂のセツナちゃんね?」

 

「セ、セツナちゃん? うん、そうだけど……」

 

「ビックリ~、こんな子があのキョーゴちゃんを倒しちゃうなんて。アナタって有名人よ」

 

「ちょ、顔が近い……!」

 

(キョーゴちゃん? あぁ九頭竜くんか……)

 

「にしても……ふぅん? 近くで見ると、けっこう童顔で可愛いわねぇ。……タイプよ♡」

 

「ギョッ!」

 

 

 

 ゾゾゾゾーっと背筋に(さむ)()が走った。数秒前のコータの気持ちが痛い程よく分かったよ。

 

 

 

「アタシの事は気軽に『ヨウカちゃん』って呼んで。本選でアナタと会えるのを楽しみにしているわ。じゃあね、セツナちゃん」

 

 

 

 去り際にウィンクを送って、彼女……ではなく、彼は、入場口の奥へ優雅な足取りで消えていった。なるほど、確かにぶっ飛んだ人だった。

 

 

 

「驚いた……本当にいるんだね、あぁいう()()って」

 

(あに)さん、完璧に目ぇつけられちまいましたね」

 

「怖いこと言わないでよケイくん」

 

 

 

「っ……ちっくしょう、あのオカマ野郎……! 俺なんか眼中にねえってか!」

 

 

 

 壁を殴り、(あなど)られた悔しさをぶつけるコータ。

 

 

 

「あわわ、お、落ち着いてくださいぃ……」

 

「そうですぜ川陽(せんよう)センパイ! 当たってても始まらねぇ!」

 

「けどよぉ……!」

 

「──何してるのよ皆? そんなとこで(たむろ)して」

 

「おー、アマネにマキちゃん」

 

「やっほー!」

 

 

 

 次にやって来たのは、お馴染み仲良し美少女コンビだ。二人とも無事に勝ち進んだらしい。

 

 

 

「アマ──あ、いや、黒雲さん!?」

 

「ボクが呼んだの。一緒にコータを応援しようって」

 

「そういう事。頑張ってね、川陽くん」

 

「……ッ!!」

 

(アマネさんが……俺を応援してくれてるうううううううっ!!!!)

 

「やります!! 俺! 絶対に勝ってみせますよ!! どおりゃあぁぁぁぁっ!! 待ってやがれオカマ野郎ォオオオオオッ!!!」

 

 

 

 コータは急に元気になったかと思うと、叫びながら会場内へと全速力で突っ走っていった。凄まじい切り替えの早さだね、ボクも見習おう。

 

 

 

「アマネたんがやる気スイッチ押したおかげで、すごい気合いだね~」

 

「何の話?」

 

「まぁ何はともあれ元気になったみたいで良かった。ボク達も観客席に行こっか」

 

 

 

 





 マキちゃん小悪魔全開!!

 男勝りな姉御肌と、男の身体に生まれた乙女が同時に登場する、ある意味濃い(?)回になりました(笑)

 そして名前だけはやたら出てた九頭竜くんも、久々にちょこっと再登場でした!
 虎丸くんや鰐塚ちゃんも相変わらずでしたね、なんだか懐かしい気持ちです(*´∀`)

 次回はコータ vs オネエ! デュエルスタンバイ!


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TURN - 27 Friend Ship


 お花畑でほっこりしてるリボルバーちゃん可愛い。



 

 ゾロゾロと観客席に移動したボク達5人の(がん)()には、決闘(デュエル)フィールドに立つコータの姿があった。

 

 彼と相対しているのは『十傑(じっけつ)』と呼ばれる、学園でも(じっ)()に数えられる強豪の内の一人──蝶ヶ咲(ちょうがさき) (ヨウ)()こと、ヨウカちゃん。

 

 ちゃん付けしてるけど女の子ではなく、オネエ言葉で話す立派な男性だ。それも無駄に顔が良い美青年である。

 

 コータはイエロータイプのデュエルディスクに、ヨウカちゃんはネイビータイプのデュエルディスクに、各々(おのおの)のデッキを同時にセットする。

 オートシャッフル機能が作動し、デッキをこまめに混ぜる。

 

 

 

「カラダのシャッフルはアナタが勝ったあと♡」

 

「いやマジで気持ち悪いんでやめてもらっていいスかっ!? カタカナで『カラダ』とか言うな!!」

 

 

 

 もしかしてヨウカちゃんってガチなのかな? ……考えるのはやめとこう、うん。なんか怖くなってきた。

 

 

 

「コーター! がんばれーっ!」

 

川陽(せんよう)くんファイトー!」

 

(あ、アマネさん……!)

 

「コータくーん! アマネたんにカッコイイとこ見せてやれー!」

 

「ちょバッ! み、()(づき)の奴、余計な事を……!」

 

「なんで私限定なのよ?」

 

「ムフフ、アマネたんが魔性の女って事だよ~」

 

「? 大丈夫なのマキちゃん、熱でもあるんじゃない?」

 

「いやいや……」

 

(そうだ……ここで十傑を倒せば、アマネさんの評価は間違いなくウナギ登り! 見ていてくださいアマネさん! 男・川陽 (こう)()、やってやります!!)

 

「……へぇ? アナタ、あのアマネちゃんって()が好きなのね?」

 

「うっ!? な、なんで分かった!?」

 

「女の勘よ♡」

 

「あんた男だろーがっ!!」

 

(クスッ、分かりやすい子ね。嘘がつけないタイプかしら)

 

「そ、そんな事より、とっとと始めるッスよ!」

 

「せっかちねぇ、まぁいいわ。アナタが勝ったら好きにしていいわよ、朝まで♡」

 

「全力で遠慮しときます!!」

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 コータ LP(ライフポイント) 4000

 

 蝶ヶ咲(ちょうがさき) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

 試合開始だ! お互いに手札を5枚引く。

 

 ヨウカちゃんの実力は未知数。入場口で初めて会った時に感じた雰囲気からしても、相当な手練れなのは間違いない。一体どんなデッキを使うのか──

 

 ……ん? 気のせいかな、コータが手札を見つめたまま硬直してる様な……

 

 

 

(……なっ……ぬぁんじゃこりゃあああああっ!? か、完ッ全に──手札事故ッッッ!!)

 

 

 

 ……まさか……ねぇ? ボクは双眼鏡でコータの手札を覗いてみた。

 

 

 

「…………うわ……コータやっちゃってる……」

 

((((あぁ……))))

 

 

 

 コータの身に降りかかった悲劇を説明するには、この言葉だけで事足りるだろう。全てを察したアマネ達は哀れみの目でコータを見ていた。

 

 

 

(おいおいおいおい何でよりによってこんな大事な試合で事故るんだよ!! 相手は十傑だぞ!? 死ねってか!? 俺に死ねってか!?)

 

「どうしたの? また固まっちゃって」

 

「ッ! ……………………完璧な手札だ!!」

 

「今の()は何よ」

 

「う、うるせぇ! 何でもねーよ! せ、先輩が先攻で良いッスよ!」

 

「あら、レディファースト? 紳士なのね」

 

「だからあんた男だろーがっ!!」

 

 

 

 決闘(デュエル)開始の時点で、すでにヨウカちゃんのペースに飲まれかかっちゃってるなぁ。大丈夫かなコータ。

 

 

 

「ではアタシのターン。手札から、フィールド魔法・【(もり)】を発動」

 

「!」

 

 

 

 木々が二人を取り囲んでいき、殺風景なフィールドは鬱蒼(うっそう)(しげ)った森へと景色を一変させた。

 

 

 

「この森の中では、昆虫、獣、植物、獣戦士族の攻撃力・守備力は、200ポイントアップする。さらにアタシは【プリミティブ・バタフライ】を特殊召喚」

 

 

 

【プリミティブ・バタフライ】 攻撃力 1200 + 200 = 1400

 

 

 

「このカードは自分のフィールドにモンスターがいない時、特殊召喚できるわ。そして【プリミティブ・バタフライ】をリリースし、魔法(マジック)カード・【アリの増殖(ぞうしょく)】を発動。2体の【兵隊アリトークン】を特殊召喚」

 

 

 

【兵隊アリトークン】 攻撃力 500 + 200 = 700

 

【兵隊アリトークン】 攻撃力 500 + 200 = 700

 

 

 

「まだまだ。続いて【対空(たいくう)(ほう)()】を召喚」

 

 

 

対空(たいくう)(ほう)()】 攻撃力 0 + 200 = 200

 

 

 

 蝶々にアリの次は、お花と来たか。ヨウカちゃんのデッキは昆虫族と植物族が中心の構成みたいだね。

 

 

 

「へっ! それっぽっちの攻撃力なんか怖くもなんともねぇぜ!」

 

「ボウヤ、アタシの()(れん)なモンスター達を甘く見てると、痛い目に遭うわよ」

 

「だ、誰がボウヤだとぉ!? 俺には川陽 光太って名前があんだよ!」

 

 

 

 気をつけてコータ。仮にも十傑クラスの決闘者(デュエリスト)が、何の意味もなく攻撃力の低いモンスターを並べるとは思えない。

 

 

 

「【対空放花】の効果発動。自分の昆虫族モンスター1体をリリースする事で、相手に800ポイントのライフダメージを撃ち込む」

 

「なに!?」

 

「1体目の【兵隊アリトークン】をリリース」

 

 

 

 花の中心から長く伸びる柱頭の根元に兵隊アリが飛び乗る。

 

 

 

「アナタのハートを撃ち抜いてアゲル♡」

 

「なんでいちいち言い回しが気持ち悪いんだよ!?」

 

BANG(バンッ)

 

 

 

 ヨウカちゃんが人差し指をコータに向けてピストルを撃つ様な仕草をしたのを合図に、【対空放花】に装填された【兵隊アリトークン】が砲弾と化して発射され、コータの身体を撃ち貫いた。

 

 

 

「ぐはっ!!」

 

 

 

 コータ LP 4000 → 3200

 

 

 

「弾はもう一発残ってるわよ?」

 

「ぐっ……」

 

 

 

 2匹目の【兵隊アリトークン】もリリースされて、【対空放花】に撃ち出される。

 

 

 

「うわぁ!!」

 

 

 

 コータ LP 3200 → 2400

 

 

 

「ま、ほんの挨拶代わりってところね。アタシはこれでターン終了(エンド)よ」

 

 

 

 凄いや、攻撃の出来ない先攻1ターン目から、いきなりライフを半分近くまで削ってきた。これが挨拶代わりだなんて恐ろしい。

 だけどこれはチャンスだ。ヨウカちゃんの場に残ったのは攻撃力200の【対空放花】1体と、フィールド魔法のみ。

 もしかするとコータを試す為にわざと隙を作った可能性もあるけど、何にせよ反撃するならこの好機を逃す手はない。

 

 ところが……そんな肝心な時にコータの手札はと言うと……酷い有り様だった。

 

 

 

(ち、ちくしょおぉぉ……これじゃまともにモンスターも出せねぇ……! どうにか後攻は取れたが、このドローで何とかしねぇと……!)

 

「ど、ドロー!」

 

(──!! き……キターーーーッ!! 天はまだ俺を見捨ててはいなかった!)

 

魔法(マジック)カード発動! 【打ち出の()(づち)】! 手札を任意の枚数デッキに戻して、その枚数分ドローする!」

 

「いきなり手札交換カード? なんだ、手札事故だったのね」

 

「んなっ! そ、そんな、そんなこここと、あ、あるわけねぇだるるぉ!?」

 

「どうでもいいから早くしなさい? 女を待たせる男なんてサイテーよ?」

 

「だからあんたは男ッ……あーもう! 分かったよ! 俺は手札を全部交換だっ!」

 

 

 

 気持ちは分かるよコータ。ボクも金沢(かなざわ)くんとの決闘(デュエル)で初手が事故って、やむなく最初に【リロード】使った時は「ダセーッ!」って笑われたもん。

 

 

 

(頼むぞ~、俺のデッキ……)

 

「ドロー! …………よ、よし、よし! これなら行けるぜ! こっからが本番だ!」

 

「まだ始まってすらいないじゃない」

 

「うるせーっ! 俺は【(でん)()メン-単三型(たんさんがた)】を召喚!」

 

 

 

 乾電池にオレンジ色の頭と手足を取り付けた様な、ユニークなデザインのモンスターが現れる。

 

 

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 0

 

 

 

「あらあら、アナタこそ攻撃力(ゼロ)のモンスターしか呼べないじゃない」

 

「先輩こそ、俺のイカしたモンスターを舐めてかかると痛い目見るぜ! 【電池メン-単三型】の効果! こいつは自分フィールドの【単三型】が全て攻撃表示の時、1体につき、1000ポイント攻撃力をアップする!」

 

 

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 0 → 1000

 

 

 

「バトルだ! 【単三型】で【対空放花】を攻撃! 『バッテリー・パンチ』!!」

 

 

 

 【電池メン-単三型】は拳に電気を帯びて、【対空放花】に渾身(こんしん)のパンチをお見舞いした。

 

 

 

 蝶ヶ咲 LP 4000 → 3200

 

 

 

「静電気ね、この程度」

 

「へっ、言ってろよ」

 

「川陽くーん! その調子ー!」

 

(ふおおおおっ!! アマネさんが俺に声援を送ってくれてる!! ゆ、夢じゃないよな!?)

 

「…………痛い。夢じゃない!!」

 

「???」

 

 

 

 自分のほっぺをつねって、訳の分からない事を叫び出すコータに、さすがのヨウカちゃんも若干困惑したみたいだ。

 

 

 

(スゲーぞ俺! あの十傑にダメージを与えられた! やれば出来るんだ、俺!)

 

「フハハハーッ! 参ったか! ターンエンドだ!」

 

 

 

 ヤバイなー、コータの悪い癖が……割りとすぐ調子に乗っちゃうタイプだから。

 

 

 

「あら生意気。アタシのターン──ドロー」

 

 

 

 カードを引き抜く右腕や、手札を扱う指先まで、ヨウカちゃんの動きの一つ一つが、ダンスを踊る様に流麗で、思わず目を奪われてしまう。

 

 

 

決闘(デュエル)とは『美』。闘いは華麗でなければならないのよ」

 

「……知らねーッスよ、んなもん」

 

「なら教えてアゲル。アタシは【共鳴虫(ハウリング・インセクト)】を召喚」

 

 

 

共鳴虫(ハウリング・インセクト)】 攻撃力 1200 + 200 = 1400

 

 

 

「うげっ! 攻撃力が【単三型】より強いだと!?」

 

「【電池メン-単三型】を攻撃──『ハウリング・プレッシャー』!」

 

 

 

 耳を(つんざ)く強烈な音波攻撃を浴びて、【単三型】が砕け散った。

 

 

 

「くそっ……!」

 

 

 

 コータ LP 2400 → 2000

 

 

 

「ターンエンドよ」

 

「っ……俺のターン!」

 

(……! おっしゃあっ! ようやく運が向いてきたぜ!)

 

「へへっ、今から俺の必殺コンボを見せてやるぜ!!」

 

「あら、そう。楽しみね」

 

魔法(マジック)カード・【充電器(バッテリーチャージャー)】! ライフを500払って、墓地の【単三型】を特殊召喚!」

 

 

 

 コータ LP 2000 → 1500

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 0 → 1000

 

 

 

「そしてぇ! 見て驚け! こいつが俺の必殺カードだ! 速攻魔法・【地獄の暴走召喚】!!」

 

「!」

 

「相手フィールドに表側表示のモンスターが存在し、俺のフィールドに攻撃力1500以下のモンスター1体を特殊召喚した時に発動! その同名モンスターを手札・デッキ・墓地から、可能な限り特殊召喚できる! さらに2体の【単三型】を、特殊召喚だぁ!!」

 

 

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 0

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 0

 

 

 

 場に3体の【単三型】が集まった! これが何を意味しているかと言うと──

 

 

 

「なるほど……それがアナタの狙いってわけね」

 

「さすが十傑、察しが良いじゃないスか。そう! 【単三型】は全て攻撃表示! つまり同じ【単三型】1体につき、攻撃力が1000ポイントアップする! よって3体の攻撃力は──」

 

 

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 1000 → 3000

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 0 → 3000

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 0 → 3000

 

 

 

 攻撃力3000のモンスターが3体!

 その驚異的な展開力を見て、観衆も大いに盛り上がりを見せた。

 

 

 

「す、すごいです! 一気に形勢逆転ですよ!?」

 

(あに)さん! 攻撃力3000の3回攻撃って事件ですぜ!」

 

 

 

 ルイくんとケイくんも同様に驚嘆の声を上げた。

 コータのこのコンボには、ボクも何度も苦しめられたっけ。本当、波に乗った時の爆発力は尋常じゃない。

 

 

 

「どうだっ! これが俺の最強コンボ──名付けて、『アルティメット電池メン』だ!!」

 

「アルティメット電池メン? うーん……」

 

「ビミョ~」

 

 

 

 アマネとマキちゃんの評価はイマイチだった。コータ(いわ)く、コンボ名の由来は、伝説の【青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)】が3体フィールドに揃った、あの有名なシーンが元ネタらしい。

 

 

 

「行っくぜー! バト──……へ?」

 

 

 

共鳴虫(ハウリング・インセクト)】 守備力 1300 + 200 = 1500

 

共鳴虫(ハウリング・インセクト)】 守備力 1300 + 200 = 1500

 

 

 

「えっ……お、おい! なんであんたのモンスターまで増えてんだ!?」

 

「自分のカードの効果をお忘れかしら? 【地獄の暴走召喚】は、アタシにも特殊召喚の権利があるのよ」

 

「あっ!」

 

 

 

 コータ……完全に忘れてたね……

 

 

 

(しまったぁ~~~! 普段これ使って相手に特殊召喚される事ってあんましないから、すっかり抜けてたぜ!)

 

「だ、だったら戦闘で破壊するまでだ! まずは攻撃表示の【共鳴虫(ハウリング・インセクト)】を攻撃!」

 

 

 

- バッテリー・パンチ!! -

 

 

 

「……」

 

 

 

 蝶ヶ咲 LP 3200 → 1600

 

 

 

 自分のモンスターが倒されてライフが半減しても、ヨウカちゃんは全く動じず涼しい顔をしていた。

 

 

 

「【共鳴虫(ハウリング・インセクト)】が戦闘で破壊され墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下の昆虫族モンスター1体を特殊召喚できる。アタシは【共振虫(レゾナンス・インセクト)】を召喚」

 

 

 

共振虫(レゾナンス・インセクト)】 守備力 700 + 200 = 900

 

 

 

(ちい)せー虫がワラワラと……構うもんか! 2体目の【単三型】で【共振虫(レゾナンス・インセクト)】を攻撃! 必殺! 『バッテリー・キック』!!」

 

 

 

 2体目の【単三型】の電流を纏った飛び蹴りが、鈴虫のモンスターに炸裂する。

 

 

 

「【共振虫(レゾナンス・インセクト)】にも効果があるわ。この子がフィールドから墓地へ送られた時、デッキからレベル5以上の昆虫族を手札に加える事ができる」

 

「リクルートの次はサーチか……」

 

「どうするの? 最後の1体で、【共鳴虫(ハウリング・インセクト)】を攻撃する?」

 

「………」

 

(あのモンスターを破壊しても奴はノーダメージな上、新たな虫を呼ばれるだけだ……)

 

「攻撃は……しねぇ。ターンエンドだ!」

 

「フフッ、おりこうさん」

 

(さすがにそこまで短絡的ではない様ね)

 

(……押している……ハッキリと俺が押している! だってのに……奴の落ち着き払った態度は何だ!?)

 

「アタシのターン。【共鳴虫(ハウリング・インセクト)】を1体リリース。──【女帝(じょてい)カマキリ】をアドバンス召喚!」

 

 

 

 前肢(まえあし)が鋭利な刃物になっている、巨大なカマキリが出現した。

 

 

 

【女帝カマキリ】 攻撃力 2200 + 200 = 2400

 

 

 

「でけぇ!?」

 

「【共振虫(レゾナンス・インセクト)】の効果で手札に加えたカードよ」

 

「くっ、だが俺の【電池メン】達の方が攻撃力は上だ!」

 

「甘いわね。手札から装備魔法・【()()(つき)機甲鎧(インセクトアーマー)】を【女帝カマキリ】に装着! 攻撃力を700ポイントアップ!」

 

 

 

【女帝カマキリ】 攻撃力 2400 + 700 = 3100

 

 

 

「なに!? 攻撃力3100!?」

 

「さぁ、華麗なる闘いを。【女帝カマキリ】で【単三型】を攻撃! 『エンプレス・サイズ』!!」

 

 

 

 一刀両断。【女帝カマキリ】の大鎌は【単三型】の1体を、容赦なく真っ二つに切り裂いた。

 

 

 

「くうぅっ……!」

 

 

 

 コータ LP 1500 → 1400

 

 

 

「【単三型】が1体減った事で、残る2体の攻撃力もダウンするわ」

 

「──!」

 

 

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 3000 → 2000

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 3000 → 2000

 

 

 

「ターン終了。さっ、アナタのターンよ?」

 

「……ちくしょう……!」

 

(やっぱ……強ぇわ十傑……勝てる気がしねぇ……! ここまでなのか俺は……!)

 

「──がんばれーっ!! コータァーッ!!」

 

「!!」

 

 

 

 ボクは立ち上がり、精一杯声を張り上げて、コータにエールを送る。友達がピンチで(くじ)けそうな時に、黙ってなんかいられない!

 

 

 

総角(アゲマキ)……」

 

「まだまだ行けるよコータくーん!!」

 

「ライフはまだ残ってる! 諦めるのは早いわよー!」

 

「観月……アマネさん……!」

 

 

 

 皆もボクと一緒に、コータへ声援を投げかけてくれた。

 

 

 

「こっから巻き返しですぜ川陽センパイ!!」

 

「が……がんばってくださいー!」

 

「……お前ら……!」

 

(そうだ……ルイだって、自分より2つもランクの高い金沢相手に、最後まで諦めないで勝ったんじゃねぇか! 先輩の俺が情けねーとこ見せてちゃ……示しがつかねぇよなっ!!)

 

「俺は……諦めねぇ!! 勝負はこれからだぜ!!」

 

 

 

 そう、その意気だよ、コータ。君のデッキには、まだ逆転の可能性が残されてる!

 

 

 

「……美しい友情ね。ちょっとだけ、羨ましいわ」

 

「行くぜ! 俺の……タァーーーンッ!!」

 

(アマネさんにカッコいいとこ見せるんだろ俺! 下なんか向いてる場合じゃねぇぞ!!)

 

「──! よっしゃ来たぜ! 俺は【単三型】を1体リリース!」

 

「! アドバンス召喚……!?」

 

「俺のデッキのエースを紹介してやるぜ! ()でよ! 【超電磁稼働ボルテック・ドラゴン】!!」

 

 

 

 一筋(ひとすじ)の落雷と共に、コータの熱い想いに応えるかの様に現れたのは、ドラゴンを(かたど)った大型ロボット。コータが最も愛用する切り札だ。

 

 

 

【超電磁稼働ボルテック・ドラゴン】 攻撃力 2400

 

 

 

「……攻撃力2400ぽっちのモンスターがエースカード? 拍子抜けね」

 

「そいつはどうかな? 【ボルテック・ドラゴン】の効果発動!」

 

 

 

 【ボルテック・ドラゴン】の胸部に、召喚の為にリリースした【電池メン-単三型】が装着された。すると、【単三型】に蓄電(ちくでん)されたバッテリーが【ボルテック・ドラゴン】の機体に充電され、パワーが急上昇していく。

 

 

 

「【電池メン-単三型】をリリースして召喚した【ボルテック・ドラゴン】の攻撃力は、1000ポイントアップする!!」

 

 

 

【超電磁稼働ボルテック・ドラゴン】 攻撃力 2400 + 1000 = 3400

 

 

 

「攻撃力3400──!?」

 

 

 

 レベル5としては破格の攻撃力だ。

 しかし引き換えにフィールドの【電池メン-単三型】が1体だけとなり、その攻撃力が1000に下がる。

 

 

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 2000 → 1000

 

 

 

「まだまだぁ! 手札から速攻魔法・【急速充電器(クイックチャージャー)】発動! 墓地の【電池メン】を2枚、手札に戻す! 俺は2体の【単三型】を手札に戻し、さらに【二重召喚(デュアル・サモン)】を発動! その効果で【電池メン-単三型】を1体、もう一度通常召喚だ!」

 

 

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 0

 

 

 

「場に2体の【単三型】が揃った事により、それぞれの攻撃力は再び2000になる!」

 

 

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 1000 → 2000

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 0 → 2000

 

 

 

 上手い! これで準備は整った、いよいよコータの猛攻が始まる!

 

 

 

「覚悟しろよ、この(ムシ)野郎!! 【ボルテック・ドラゴン】で、【女帝カマキリ】を攻撃! 『ボルテック・カノン』!!」

 

 

 

 【ボルテック・ドラゴン】は体内にチャージした電力を口の中から放出し、それを食らった【女帝カマキリ】は全身が()()して破壊された。

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

 蝶ヶ咲 LP 1600 → 1300

 

 

 

「おぉし! この布陣なら、もう怖いものなしだぜ! 【単三型】で【共鳴虫(ハウリング・インセクト)】を攻撃だ!」

 

「ッ! 破壊された【共鳴虫(ハウリング・インセクト)】の効果発動!」

 

「へっ! 今さらどんな虫が来ようが──」

 

「デッキから──【(だい)()バッター】を特殊召喚!」

 

 

 

【代打バッター】 攻撃力 1000 + 200 = 1200

 

 

 

「!」

 

(マジかよ……よりによって【代打バッター】だと!?)

 

 

 

 あのカードは確か、フィールド上から墓地へ送られた時、手札の昆虫族モンスター1体を特殊召喚できる効果を持っていた筈。

 わざわざこのタイミングで、しかも攻撃表示で出してきたって事は、十中八九、手札に強力な昆虫族が控えている……!

 

 

 

(俺の攻撃を誘ってやがるのか?)

 

「フフ……どうしたの? 攻撃すれば良いじゃない」

 

「くっ……! …………」

 

(奴の1枚だけ残った手札……1ターン目からずっと持っているあのカード……怪し過ぎる!)

 

 

 

「明らかに何かあるわね……」

 

「攻撃するかしないか、悩み所だね……」

 

 

 

 アマネとボクが呟く。ここで【代打バッター】を破壊すれば戦闘ダメージは与えられる。でも、そうするとヨウカちゃんは新たなモンスターを呼び出せてしまう。下手したら【ボルテック・ドラゴン】以上の上級モンスターが待ち構えている恐れだってある。

 

 

 

(フフッ、アナタが攻撃しようがしまいが……アタシの勝利に揺るぎはないわ)

 

「……っ」

 

(落ち着け俺、これは(わな)だ……! 焦らなくても、次の俺のターンで3体目の【単三型】を召喚すれば、攻撃力3000クラスのモンスターが4体並ぶ! ここで勝負を急がなくても、圧倒的に俺の有利……!)

 

「くっそー、邪魔くせぇバッタだぜ! 俺はこれで──ターンエンドだ!」

 

 

 

 悩んだ(すえ)、コータは攻撃の手を止めた。果たしてこの判断が(きち)と出るか凶と出るか。

 

 

 

「そう……残念。もっと積極的な子かと思ったんだけど。アタシのターンね」

 

「……!」

 

「【レッグル】を召喚」

 

 

 

【レッグル】 攻撃力 300 + 200 = 500

 

 

 

「アナタがその気じゃないなら、自分で動くしかないわね。【代打バッター】、【電池メン-単三型】に負けてらっしゃい!」

 

「なんだと!?」

 

 

 

 攻撃力の劣る【代打バッター】が自ら【単三型】に攻撃を仕掛けた!?

 当然バトルの結果は【単三型】の勝利。【代打バッター】は自滅してしまう。

 

 

 

 蝶ヶ咲 LP 1300 → 500

 

 

 

「負けるって分かってて攻撃してくるかよ普通!?」

 

「……ボウヤ、いえ、コータちゃん」

 

「んなっ……! コータちゃん!?」

 

「誉めてあげるわ、思った以上に楽しかった。だから、ご褒美に……アタシもイイモノ見せて──ア・ゲ・ル♡」

 

「!?」

 

「墓地に送られた【代打バッター】の効果発動! 手札から昆虫族1体を特殊召喚できる!」

 

 

 

 ヨウカちゃんが最後の手札に手をかけた。何が来る……!

 

 

 

「現れなさい! 【究極変異態・インセクト女王(クイーン)】!!」

 

 

 

 ──!! なに……このモンスターは……!

 

 それは【女帝カマキリ】をも遥かに上回る巨体を誇る、異形の怪物だった。

 上半身は人形(ひとがた)──より具体的に言うと、人間の女性の胴体みたいな作りなんだけど、腕……と言うより前肢が4本も生えていて、その先端は青色の鉤爪(かぎづめ)になっており、頭頂部には三又に分かれた一本の(ツノ)が真ん中に堅く突き出し──さながら王冠(おうかん)を連想させる──、さらに()(つい)の触角が長く伸びている。

 下半身は大きく膨張した腹部が一際(ひときわ)存在感を放ち、見るからに強靭な二本の後ろ足が、その巨体を支えている。そして背中側の赤い(トゲ)(ふし)くれ()った前翅(まえばね)(ひら)くと、下から左右2枚ずつ、半透明の後ろ(ばね)が広がった。

 

 昆虫の女王と呼ばれるのも納得の、一度見たら忘れられない迫力満点なビジュアルだ。

 

 

 

【究極変異態・インセクト女王(クイーン)】 攻撃力 2800

 

 

 

「こ……こんなのいたのぉーっ!?」

 

「【森】の環境適応力(フィールド・パワーソース)を得て、攻撃力200ポイントアップよ」

 

 

 

【究極変異態・インセクト女王(クイーン)】 攻撃力 2800 + 200 = 3000

 

 

 

「うぐぐ……っ! だがなぁ! まだ俺の【ボルテック・ドラゴン】の方が攻撃力は上だぜ!」

 

「アタシのお目当てはその子じゃないわ。バトル! 【究極変異態・インセクト女王(クイーン)】で、【電池メン-単三型】を攻撃!」

 

「──! し、しまった!」

 

「『クイーンズ・ヘル・バースト』!!」

 

 

 

 女王様の口が縦にガパッと開かれ、奥から破壊光線が放たれた。

 標的となった【単三型】は、一瞬にして消し飛んでしまった。

 

 

 

「うわぁあああっ!!」

 

 

 

 コータ LP 1400 → 400

 

 

 

 マズイ! 直接攻撃できる【レッグル】で攻撃されたら……!

 

 

 

「このまま【レッグル】のダイレクトアタックで終わりにしてあげても良いけれど……それじゃあ美しくないわね。最後はアタシのエースモンスターで、トドメを刺してあげるわ」

 

「な……なに言ってんだ! そのモンスターはもう──」

 

「【究極変異態・インセクト女王(クイーン)】の効果。攻撃したダメージステップ終了時、自分フィールドのモンスター1体をリリースする事で、続けて相手モンスターに攻撃できる!」

 

「連続攻撃だと!?」

 

「当然アタシは【レッグル】をリリース」

 

 

 

 うげっ、女王様、【レッグル】を食べちゃった……! ルイくんが口元を手で押さえて涙目になっちゃったじゃないか!

 

 聞きたくない咀嚼(そしゃく)音を響かせ、見るに()えない食事シーンを披露しながら味方の虫を飲み込んだ女王様が、甲高い叫び声を上げる。

 お世辞にも『美しい』モンスターとは言えない気がするんだけど、ヨウカちゃん的にはセーフなの!?

 

 

 

「アナタの場に残った最後の【単三型】は、攻撃力が1000にダウンする」

 

 

 

【電池メン-単三型】 攻撃力 2000 → 1000

 

 

 

「あ……あぁ……!」

 

「せめて美しく散りなさい。【究極変異態・インセクト女王(クイーン)】! 2体目の【単三型】に攻撃!」

 

 

 

- クイーンズ・ヘル・バースト!! -

 

 

 

 2発目の砲撃によって【電池メン-単三型】が全滅する。そして、コータのライフポイントも……

 

 

 

「どわあああああああっ!!!」

 

 

 

 コータ LP 0

 

 

 

「アタシの勝ちね。また()りましょう」

 

 

 

 大の字で伸びるコータに一瞥(いちべつ)を与え、ヨウカちゃんは颯爽(さっそう)決闘(デュエル)フィールドを後にした。

 

 やっぱり十傑だね。圧巻の強さだったよ。

 

 

 

「コータくん負けちゃったね~」

 

「……なぁ、ひとつ思ったんスけど、【代打バッター】が出てきた後、あらかじめ【単三型】を1体守備表示にしとけば、まだ生き延びれたんじゃねぇスか?」

 

 

 

 ケイくんの疑問に答えたのはアマネだった。

 

 

 

「無理ね。【電池メン-単三型】は、1体でも表示形式を変更すると、全ての【単三型】の攻守が(ゼロ)になってしまうのよ。そうすると、攻撃力(ゼロ)の【単三型】を棒立ちさせる事になる」

 

「っ……! てこたぁ、つまり……」

 

「そう。この決闘(デュエル)……どう転んでも蝶ヶ咲さんの勝ちだったのよ。川陽くんには(こく)な言い方だけどね」

 

「…………!」

 

「まぁでも、あの十傑のヨウカちゃんのライフを500まで削ったんだ。善戦だったと思うよ」

 

 

 

 ボクがそう言ってパチパチと拍手すると、皆も続いてコータに拍手を送った。

 

 

 

「お疲れコータ! 良い決闘(デュエル)だったよ!」

 

漢気(おとこぎ)見さしてもらいましたぜ川陽センパーイ!!」

 

「……っ……お、お前らぁ~……!」

 

「カッコ良かったわよ! 川陽くん!」

 

「!!」

 

(アマネさんに!! カッコいいって!! 言われたアアアアアアッッッ!!!)

 

「……? なんか急に元気になったわね川陽くん」

 

「やっぱりアマネたんは魔性の女だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、次の4試合目まで順調に消化し、予選2回戦は全て終了。

 時計の針は12時を指し、今は昼休み。生徒達は食堂でランチを摂っていた。3回戦に勝ち進んだ生徒は、次の闘いに向けて鋭気を養っている。

 一方で、ここの食堂の高品質な料理が喉を通らない程に浮かない顔をしている生徒や、中には泣いている生徒もチラホラ見かけた。きっと運悪く負けてしまった人達なんだろう。

 

 ボクの隣に座っているコータも、そんな感じだ。

 

 

 

「ちっくしょおぉぉぉ……」

 

「コータ、いつまで泣いてんのさ。ほら、ボクのカツカレーのカツ1個あげるから元気出しなよ」

 

()()って嫌がらせか!!」

 

「何が!?」

 

 

 

 さっきまでアマネに励まされたのが嬉しかったみたいだけど、今になって悔しさが込み上げてきたらしい。注文した塩ラーメンが、ちっとも減っていない。

 

 無理もないか。もう少しで勝ててたかも知れないんだもの。

 

 

 

総角(アゲマキ)ィ~っ、ぜってー俺の(かたき)取ってくれよぉ~?」

 

「ヨウカちゃんと当たったらね。まずその前に本選に行かないと」

 

「…………なぁ」

 

「ん?」

 

「俺が諦めかけた時……声、かけてくれたよな。皆も応援してくれてさ……正直、アレがなかったら俺……サレンダーしちまってたかも知れねぇ」

 

「コータ……」

 

「……ありがとな。(ちから)をくれてよ」

 

「…………まっ、礼はいいから前に貸した牛丼代、返してね?」

 

「それ今言うなぁ~~~っ!」

 

「あはは、ほら早く食べないと、ラーメン伸びちゃうよ」

 

「うっせ!」

 

 

 

 気を持ち直して食欲が戻ったのか、勢いよく麺をすするコータ。こういう立ち直りの早いところが彼の長所だよね。

 

 

 

「──今度は俺が()()としてお前を応援する番だ! 負けんじゃねーぞ、総角!」

 

「うん、がんばるよ!」

 

 

 

 さぁて、好物のカレーでお腹を満たした後は……午後から予選3回戦の始まりだ!

 

 

 

 





 おぉ! 久々に文字数が一万字以上!

 今回、特に悩んだのが【究極変異態・インセクト女王(クイーン)】の描写でした。こ、これをどう文章で書き表せと!?

 コータはDMで言えば城之内くん、VRAINSで言えば島くんポジですね。彼は作者的にも扱いやすいので好きです(笑)←おい
 セツナもコータの反応が面白くて弄ってるところありますねw

 いずれカッコいいとこ見せる時が来るのでコータの今後の活躍にご期待ください! 果たしていつになるかなー(遠い目)


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TURN - 28 Ghost Boy


 ずいぶんと久しぶりに主人公のデュエルを書いた気がします。



 

 昼食を済ませたボクは、しばしの休憩を挟んだ後、再び第4決闘(デュエル)フィールドに(おもむ)いていた。

 

 そろそろ選抜デュエル大会の予選3回戦・1試合目が開始する時間だ。

 

 3回戦──トーナメントの形式上で言えば、準々決勝。

 当たり前だけど勝ち進めば進むほど、次は同じ様に勝ち抜いてきた実力の持ち主と当たる事になる。つまり突破の難易度も上へ行くにつれ、どんどんと高くなっていく。

 2回戦のルイくんとの決闘(デュエル)で、だいぶ消耗しちゃってるけれど……まぁ何とかなるでしょ。

 

 ……おっ、ステージの向こう側から階段を(のぼ)ってくる人影が。いよいよ対戦相手とご対面だ。ランク・Bの2年生だそうだけど、今回はどんな決闘者(デュエリスト)と闘えるのかな──

 

 

 

「──い"っ!?」

 

「クヒッ、クヒヒヒヒヒ……オマエが俺の相手だなぁぁ~~~……!」

 

 

 

 だらんと長く伸びた黒髪で顔の半分が隠れている不気味な男が、これまた気味の悪い笑い声を漏らしながらやって来た!?

 普通にビビった! 何この人!? 今にもブラウン管テレビの中から這い出てきそうなんだけど! どこかから『きっと来る~♪』って聞こえてきた気もする!

 

 

 

「俺の名はぁ……()(こつ)(ざき)……死骨崎 (カバネ)だぁ……。クヒヒ、オマエ、知ってるぞぉ……総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)……だろぉ?」

 

「う……うん。知っててもらえて光栄だよ」

 

 

 

 長すぎる前髪の隙間から覗く、ハイライトの消えた黒い(まな)()しが、ボクをジッと見つめてくる。

 これボク呪われない? 大丈夫? まさか7日後に死ぬヤツじゃないよね?

 

 ゆらりゆらりと、ゾンビみたいな奇怪な動きで歩く死骨崎くん。顔色は青白いし、明らかに不健康な痩せ方をしていて見てて心配だ。ほんっと、ジャルダンって、色んな人がいるなぁ~……。

 

 そう言えば、こんな噂を聞いた事がある。

 かつてデュエルアカデミア本校──孤島に設立された、世界で最初のデュエルアカデミア──に、『デュエルゾンビ』と呼ばれる者が大量発生した事件があったらしい。

 彼らは決闘者(デュエリスト)を見つけると、条件反射で決闘(デュエル)を挑み、何度倒されても立ち上がって、休む間もなく次から次へ大勢で押し寄せ、やがてターゲットが(ちから)尽きるまで決闘(デュエル)し続けるという。そしてデュエルゾンビに負けた人間は、彼らと同類になってしまうんだとか。

 まぁ眉唾(まゆつば)な都市伝説だけど、ちょうど死骨崎くんみたいな感じなのかな?

 

 

 

「クヒヒヒ、さぁ決闘(デュエル)だぁ……お前に本当の恐怖というものを味わわせてやるうぅぅっ……!」

 

「……お手柔らかに」

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 ()(こつ)(ざき) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「セツナの(あに)さん!! そんな不気味ヤロー、サクッと倒しちまってくだせーっ!!」

 

「がんばってくださーい!」

 

 

 

 (いち)()()兄弟が客席からボクを応援してくれている。コータはどうしたのかって? 『アマネさんの勇姿を見に行くのが先だ!』だってさ。

 

 

 

「ボクの先攻(ターン)! ボクは【ラヴァ・ドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【ラヴァ・ドラゴン】 攻撃力 1600

 

 

 

「カードを1枚伏せて、ターン終了(エンド)!」

 

 

 

 至って月並みな出だし。まずは、これで様子見ってところだね。

 

 

 

「……俺のタァーン……ドロォ~……。クヒヒヒ、俺は魔法(マジック)カード・【融合(ゆうごう)】を発動ォ~!」

 

「!」

 

 

 

 細長い指でカードを摘まみ取り、どんよりとした暗い声で、死骨崎くんは発動を宣言した。

 まさかの、いきなり融合と来たか。はてさて何を出すのかな? 何となく想像つくけどさ……。

 

 

 

「【魂を削る死霊(しりょう)】と【ナイトメア・ホース】を手札融合ォ……──融合召喚ッ! 現れ出でよ! 【ナイトメアを()る死霊】!」

 

 

 

【ナイトメアを駆る死霊】 攻撃力 800

 

 

 

 現れたのは馬の霊魂(れいこん)(また)がり、紫のローブに身を包んでいる、(なが)()の大鎌を握った死神らしきモンスター。

 うわぁ、やっぱり見かけ通り、オカルティックなカードを使ってくるね。

 

 関係ないけど魂を削ると聞いて、以前カードの精霊に魂を奪い取られて、命の危機に(ひん)した事があったのを思い出した。あの時ボクを助けてくれた『精霊回収者』の二人は元気にしてるかな?

 

 

 

「さらにぃ、フィールド魔法・【アンデットワールド】発動ォ!」

 

「──! うわっ……何ここ……!」

 

 

 

 フィールド全体が荒廃しきった、おどろおどろしい空間へと変貌した。

 枯れ切った樹木(じゅもく)には、いくつもの顔と(おぼ)しき模様が浮き彫りになっていて、地面は大量の骸骨(ガイコツ)で埋め尽くされ足の踏み場も無い。あの赤い池は血の池だろうか?

 地獄があるとしたら、こんな世界なのかな? 嫌だなぁ……死んだら天国に()けますように。

 

 

 

「ここは死者の世界……全ての命は死に絶え、生きた(しかばね)と化すのだぁ……!」

 

「……? 何を言って……──!?」

 

 

 

 途端、【ラヴァ・ドラゴン】に異変が……!

 肉体が見る見る内に朽ちていき、やがて無惨な屍へと成り果ててしまった。皮膚は溶け落ち、ところどころ骨とか見えてて、かなりグロい。

 さらには──カードの種族がドラゴン族ではなく、アンデット族に変わっている。

 

 

 

「これは……!?」

 

「【ナイトメアを駆る死霊】は、相手プレイヤーに直接攻撃(ダイレクトアタック)が可能……行けぇ! 【ナイトメアを駆る死霊】ッ! 奴の魂を刈り取れぇ!!」

 

「うげっ!?」

 

 

 

 なんと【ナイトメアを駆る死霊】は【ラヴァ・ドラゴン】をすり抜けて、そのままボクに突撃してきた! そっか幽霊だからか……!

 

 振り下ろされた鎌の切っ先が、ボクの身体を()()()りにする。

 

 

 

「うわあっ!」

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 3200

 

 

 

「【ナイトメアを駆る死霊】がダイレクトアタックに成功した時……相手はランダムに手札を1枚捨てるぅ……!」

 

「えっ、ちょ、あーっ!?」

 

(しまった、【ホーリー・ナイト】が……!)

 

 

 

 死霊は自陣に戻る間際に、ボクの手札を1枚、勝手に持ち去っていってしまった。

 しかも墓地に送られたのは、ボクのデッキの5枚のエースカードの1枚──【ホーリー・ナイト・ドラゴン】だった。

 だけど幸いな事に、ボクの手札にはレベル7・8のドラゴンを蘇生できる魔法(マジック)カード・【復活の福音(ふくいん)】がある。これを使って【ホーリー・ナイト・ドラゴン】を(よみがえ)らせれば……

 

 

 

「クヒヒヒ……墓地のドラゴンを復活させる事はできないぞぉ……」

 

「え?」

 

「そのカードをよく見てみろぉ」

 

「……もしかして……」

 

 

 

 まさかと思いデュエルディスクの画面を操作して、墓地ゾーンに置かれたカードを確認してみると──

 そのまさかだった。【ホーリー・ナイト・ドラゴン】の種族がフィールドの【ラヴァ・ドラゴン】と同じく、アンデット族に書き換えられていた。

 

 

 

「そんな……墓地のモンスターまで!?」

 

「クヒヒヒッ! 言った筈だぁ! ここは死者の……アンデットの世界だと! 【アンデットワールド】の中では、フィールド・墓地のモンスターは全てアンデットと化し、さらに互いにアンデット族モンスター以外は、アドバンス召喚できないっ!」

 

「!!」

 

 

 

 それじゃあボクは上級ドラゴンの召喚を封じられた上、【復活の福音】の様な、ドラゴン族専用のサポートカードが全て使えなくなったって事!?

 

 

 

「クヒヒ、お前みたいに種族を統一しているデッキには、まさに天敵だろぉ?」

 

「くっ……」

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだぁ……」

 

「……ボクのターン、ドロー!」

 

 

 

 さてどうしたものか。あの厄介なフィールド魔法をどうにかできるカードは、まだ手札に無い……。

 仕方ない。ひとまず先に、【ナイトメアを駆る死霊】を何とかしないと。

 たとえモンスターの種族が変わっても、攻撃はできるからね!

 

 

 

「バトル! 【ラヴァ・ドラゴン】で、【ナイトメアを駆る死霊】を攻撃! 『マグマ・ショット』!!」

 

 

 

 ゾンビになってもドラゴンとしての闘争本能までは死んではいない。文字通り、腐ってもドラゴンというわけだ。

 【ラヴァ・ドラゴン】が口内から灼熱の溶岩を放つ。……あれ? 幽霊に物理攻撃って効くの?

 

 

 

「無駄だぁ! 【ナイトメアを駆る死霊】は、戦闘で破壊されない!」

 

「でもダメージは受けてもらうよ!」

 

 

 

 案の定、溶岩は【ナイトメアを駆る死霊】を何も無かったみたいに通過して、奥に立っている死骨崎くんに流れ弾となって直撃した。

 

 

 

「ぐえぇっ! ク、クヒヒ……」

 

 

 

 死骨崎 LP 4000 → 3200

 

 

 

 戦闘破壊は失敗したけど、ライフは並んだ。

 こうなると【ナイトメアを駆る死霊】は、次のターンで守備表示かな。

 

 

 

「ボクは1枚カードを伏せてターンエンド!」

 

「俺のタァーン……クヒヒ、良いカードを引いたぁ……!」

 

「!」

 

魔法(マジック)カード・【死者への手向け】! 手札を1枚捨て……【ラヴァ・ドラゴン】を破壊するぅ!」

 

 

 

 【ラヴァ・ドラゴン】が包帯で全身をグルグル巻きにされて地中へと引きずり込まれた……! (むご)い殺し方をするなぁ。

 

 

 

「バトルだぁ! 【ナイトメアを駆る死霊】で、ダイレクトアタックゥ!!」

 

 

 

 再び馬を走らせ、鎌を振り回しながら突っ込んでくる死霊。これ以上ボクの手札を持ってかれても困るので、今度は止めさせてもらうよ!

 

 

 

(トラップ)カード・【カウンター・ゲート】発動! ダイレクトアタックを無効にする!」

 

「クヒ、あがくねぇ……」

 

「それだけじゃないよ。その後、デッキから1枚ドローして、それがモンスターなら通常召喚できる! ドロー!」

 

(──ラッキー!)

 

「【暗黒の竜王(ドラゴン)】召喚!」

 

 

 

【暗黒の竜王(ドラゴン)】 攻撃力 1500

 

 

 

 ナイスタイミングで来てくれたとこ非常に申し訳ないけど……

 召喚された【暗黒の竜王(ドラゴン)】は、【アンデットワールド】の影響を受けて徐々に全身が腐敗していき、グロテスクな生きた死体と化してしまう。

 ()()、ボクのカッコいいドラゴンが(泣)。

 

 

 

「悪運の強い……ターンエンドォ」

 

「ほっ。ボクのターンだね」

 

「……クヒヒ……クヒヒヒヒヒヒ……!」

 

 

 

 ……? 何だろう、あの今までと()(しき)の違う意味深な笑い方は……さっきから自分のデュエルディスクを凝視してニタニタしてるし……というか白目()いてて怖い!

 なんか彼と決闘(デュエル)してると、ボクのSAN値がガリガリ削れてく。

 

 

 

「……ドロー!」

 

「クヒャーーーッハッハッハッハッハッ!!!」

 

「っ!?」

 

 

 

 心臓止まった!! 絶対寿命が縮んだよ!?

 あまりにも突発的に狂笑(きょうしょう)を上げ始めた死骨崎くん。

 かと思ったら今度は、長髪を振り乱しながら両手を天に掲げ出した。

 

 

 

「──聴こえるッ、聴こえるぞぉ!! この地に彷徨(さまよ)う死霊どもの(えん)()の声が! キサマを恐怖のどん底に陥れたいと叫んでいるぅ!」

 

「そんな声ちっとも聴こえないけど……」

 

「今ここに! 死の世界の『王』が甦るっ!!」

 

「!」

 

 

 

 空気が急激に張り詰めた。()(かん)が身体中を駆け巡り、肌が(あわ)()つ。

 

 何かが──とても恐ろしい『何か』が、現れようとしている……!

 

 でも一体どこから? どうやって? 死骨崎くんの手札は(ゼロ)なのに──

 

 

 

(──はっ! 墓地!?)

 

 

 

 そうか。死骨崎くんは、デュエルディスクの()()を見ていたんだ!

 だとすると、あの時【死者への手向け】を発動した際に捨てた手札が……!

 

 

 

「出でよ! 【死霊王 ドーハスーラ】!!」

 

 

 

 立ち込める暗雲の中から姿を現し、死屍累々の世界に降り立ったのは、(ムクロ)の鎧を胸部と双肩(そうけん)に纏い、蛇の胴体を持つ威容の存在。その右手には、(イビツ)な意匠を凝らした金色(こんじき)(つえ)を握り締めている。

 

 

 

【死霊王 ドーハスーラ】 守備力 2000

 

 

 

 ドクロの(ひたい)に第3の()──()(がん)(ひら)き、ボクを(にら)みつけた。

 すると観客席の方から、ルイくんの悲鳴混じりの声が耳に届いた。

 

 

 

「ひゃあぁ!? こ、怖いよぉ……!」

 

「落ち着け兄貴! 俺がついてる!」

 

「クヒヒヒヒヒヒッ!! 【ドーハスーラ】はフィールド魔法が存在する時、スタンバイフェイズに墓地から守備表示で特殊召喚できるのだぁ!」

 

「うっ……!」

 

 

 

 なんて威圧感……! ルイくんが怖がるのも無理もない。

 これが死骨崎くんのエースモンスターか。

 

 

 

「──ッ!」

 

 

 

 ボクは(とっ)()にメガネを外す。

 危なかった……()()してなかったら今頃、【ドーハスーラ】の圧力に飲まれてた。気を持ち直して、決闘(デュエル)を続行する。

 

 

 

(守備力2000で攻撃力2800か……コレが使えれば倒せたんだけどな……)

 

 

 

 チラッと手札にある【復活の福音】を見遣る。【アンデットワールド】のせいで【ホーリー・ナイト・ドラゴン】を復活できず、死に札になっている。

 

 

 

(……そうだ、あのカード! あのカードが来れば、この状況を打破できる!)

 

 

 

 なら、それを引き当てるまでの辛抱だ!

 

 

 

「ボクはカードを2枚伏せる! そして【暗黒の竜王(ドラゴン)】を守備表示にして、ターンエンド!」

 

 

 

【暗黒の竜王(ドラゴン)】 守備力 1200

 

 

 

「クヒヒ、いよいよ手が無くなったかぁ?」

 

「さぁ……どうだろうね?」

 

「俺のタァーン。【ドーハスーラ】を攻撃表示ッ!」

 

 

 

【死霊王 ドーハスーラ】 攻撃力 2800

 

 

 

「バトルッ! まずは【ナイトメアを駆る死霊】で、奴にダイレクトアタックゥ!」

 

 

 

 同じモンスターによる()(たび)の直接攻撃。ボクはそれを──無抵抗で受けた。

 

 

 

「ぐあっ……!」

 

 

 

 セツナ LP 3200 → 2400

 

 

 

「クヒヒヒ! ダメージを与えた事で効果発動ォ! お前の手札を破壊するぅ!」

 

 

 

 ボクの最後の手札を死霊が奪い取ろうとした時──【ドーハスーラ】の(たずさ)える杖に装飾された菱形(ひしがた)の宝石が、何やら怪しげな光を放ち始めた。

 

 

 

「この瞬間! 【ドーハスーラ】の効果発動ォ! フィールドのアンデット族が効果を発動した時、その効果を無効にするか、フィールド・墓地のモンスター1体を除外するか、どちらかを選んで適用するぅ! 俺は当然──【暗黒の竜王(ドラゴン)】を除外だぁ!」

 

「!!」

 

 

 

 謎の閃光を浴びた竜王の姿がフィールドから()き消されてしまう。

 

 

 

「や、ヤベぇぜ兄貴! (あに)さんのフィールドに、モンスターがいなくなっちまった!」

 

「……ううん……きっと、セツナ先輩なら大丈夫……!」

 

「兄貴……?」

 

 

 

 チェーンの逆順処理によって後回しにされた、【ナイトメアを駆る死霊】の手札破壊も遂行され──ちなみに捨てられたのは【トレード・イン】──、ボクは手札のカードと、フィールドのモンスターを全て失った。

 

 

 

「クヒヒヒヒッ!! もはや勝負は決まったなぁ!」

 

「っ……」

 

「そうだ、もっと怯えろぉ! 人が恐怖に(おのの)く姿は(たま)らねぇぜぇ!」

 

 

 

 このまま【ドーハスーラ】の直接攻撃を食らえば、ボクのライフは一撃で尽きる……!

 

 

 

「トドメだぁっ!! 【ドーハスーラ】で攻撃ィ! 『バロールの魔眼』!!」

 

 

 

 見開かれた額の魔眼が漆黒の光線を放射した。

 ボクは青ざめた表情を浮かべる。死骨崎くんからすれば、負けを悟って恐怖に怯える敗者の顔に見えた事だろう。

 

 

 

「やられる!!」

 

「クヒヒヒヒッ!! 終わりだぁぁあっ!!」

 

「──なーんてね☆」

 

「ッ!?」

 

(トラップ)発動! 【コンフュージョン・チャフ】!」

 

 

 

 ウィンクを決めたボクが発動したのは、先攻1ターン目にセットした(トラップ)カード。ずっと使う機会を待っていたのさ。

 

 

 

「君のモンスター同士でバトルしてもらうよ!」

 

「クヒッ!?」

 

 

 

 【ドーハスーラ】はボクへの攻撃を取り止め、最初にダイレクトアタックを仕掛けた【ナイトメアを駆る死霊】を新たな標的に選ぶ。

 【ナイトメアを駆る死霊】は魔眼のビームに貫かれるが、自身に備わっている耐性により、破壊はされなかった。その代わり死骨崎くんへの超過ダメージは、きちんと発生する。

 

 

 

「ギエエエエエエッ!!!?」

 

 

 

 死骨崎 LP 3200 → 1200

 

 

 

「うぐぅぅ……! お……おのれぇ……モンスターを除外されるのは、計算の内だったと言うのかぁ……!」

 

「君が【ドーハスーラ】を出してきた時から、そっちの狙いなんてお見通しさ!」

 

「よ、よくもぉ……この恨み晴らさずでおくべきかぁ!」

 

「ボクのターン!」

 

 

 

 ドローしたのは【移り気な仕立屋】。違う、このカードじゃない……

 でも、もう一度だけチャンスはある!

 

 

 

(トラップ)カード・【無謀な欲張り】! さらに2枚ドロー!」

 

 

 

 これで意中のカードを引けなきゃ絶望的──どうだっ!

 

 

 

「…………フフッ、引いたよ」

 

「んん?」

 

「もう君のターンは回ってこないよ!」

 

「なんだとぉ!?」

 

魔法(マジック)カード・【魔法除去】発動! 【アンデットワールド】を破壊する!」

 

 

 

 そう、ボクはこのカードを待っていたんだ。

 【アンデットワールド】が浄化され元の()(さら)なフィールドに戻る。やっと陰鬱(いんうつ)で重苦しい世界から抜け出せた。あー、空気が美味しい。

 

 

 

「お、俺の世界があぁぁっ!」

 

「これでボクの墓地のモンスターは、全てドラゴンに戻る!」

 

「ぐぎぎぎぎぃ……!」

 

「リバースカード・オープン! 【復活の福音】! 墓地からレベル7、または8のドラゴンを特殊召喚する!」

 

 

 

 残念ながら【ナイトメアを駆る死霊】を止める手立ては無かったので、【復活の福音】を捨てられる前に、あらかじめ場に伏せておいて正解だった。

 

 

 

「さぁ本日の主役の出番だよ! 【ホーリー・ナイト・ドラゴン】!!」

 

 

 

【ホーリー・ナイト・ドラゴン】 攻撃力 2500

 

 

 

「つ、ついにドラゴンの復活を許してしまったぁ……!」

 

「おっしゃ! これで【ナイトメアを駆る死霊】を攻撃すりゃあ、(あに)さんの勝ちだっ!!」

 

「バトル! 【ホーリー・ナイト・ドラゴン】で、【ナイトメアを駆る死霊】を攻撃!」

 

 

 

 聖夜の竜が天高く飛翔し、攻撃の態勢に入る。すると、死骨崎くんが口角を上げた。

 

 

 

「クヒヒヒヒッ!! かかったなぁ!」

 

「!」

 

(トラップ)発動! 【地縛霊の(いざな)い】! 攻撃対象を【ドーハスーラ】に変更するぅ!」

 

 

 

 霊の手招きに導かれた【ホーリー・ナイト・ドラゴン】は、誘われるまま【ドーハスーラ】へと標的を移し変えた。

 

 

 

「【ドーハスーラ】よ! 返り討ちにしてやれぇぇぇっ!!」

 

「そう来たか……でも残念だったね! 手札から速攻魔法・【鈍重】を発動!」

 

「なにぃ!?」

 

「【ドーハスーラ】はその守備力分、攻撃力がダウンする!」

 

 

 

【死霊王 ドーハスーラ】 攻撃力 2800 - 2000 = 800

 

 

 

「そ、そんなバカなぁ!」

 

「チェックメイトだ!! 行け、【ホーリー・ナイト・ドラゴン】! 『シャイニング・ファイヤー・ブラスト』!!」

 

 

 

 聖なる炎が死霊の王を焼き払う!

 

 

 

「ギヒャアアアアアッ!!!」

 

 

 

 死骨崎 LP 0

 

 

 

「先輩が勝ちました!」

 

「やったぜ(あに)さーん!!」

 

 

 

 勝てた事に安堵していると、死骨崎くんはどこからか(わら)人形と五寸釘を取り出した。あの、死骨崎さん? 何かなその縁起のよろしくないグッズは。

 

 

 

「ゆ……許さないぃ……! 呪ってやる、オマエを呪ってやるうぅ……!」

 

「いや呪わないで!? 決闘(デュエル)なんだからさ!」

 

「……クヒヒヒ、冗談だぁ」

 

「え?」

 

決闘(デュエル)の借りは決闘(デュエル)で返す……次は負けないぞぉ……クヒヒヒヒヒヒ……!」

 

 

 

 よ、良かった。呪われずに済んだみたいだ。彼が言うと全く冗談に聞こえなかったから本気で焦ったよ。

 

 とにもかくにも、これで予選の準決勝に進出か。明日の2試合を勝ち抜けば、ついに本選出場だ!

 

 

 

 総角 刹那・予選3回戦──突破!!

 

 

 

 





 死骨崎って岩手県にある岬の名前らしいですね。

 というわけで、最近あちこちで活躍なされている【ドーハスーラ】様に、こちらでも出演して頂きました!

 ちなみにセツナの「なーんてね☆」は、ブルーエンジェルの真似です☆


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TURN - 29 BLACK DRAGON


 今回はサクッと書けました!



 

「【ヴァンパイア・ロード】で、【ダーク・キメラ】を攻撃!」

 

「ぐはーっ!!」

 

 

 

 アマネ・予選3回戦──突破!!

 

 

 

「【TM-1 ランチャースパイダー】で、【バロックス】を攻撃ーっ!」

 

「うぎゃーっ!!」

 

 

 

 マキノ・予選3回戦──突破!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アマネとマキちゃんも勝ったってさ」

 

 

 

 端末が受信した2件のメッセージを読み上げ、ボクは我が事の様に嬉しくなり微笑む。

 ルイくんとケイくんも、彼女達の勝利を喜び合った。

 

 

 

「すごいです! 皆さん順調に勝ち進んでますね」

 

「この調子で明日(あした)も連戦連勝ですぜ(あに)さん!」

 

「果たしてそう上手くいくかな?」

 

「あん?」

 

 

 

 ひとりの見知らぬ男子生徒が卒然と声をかけてきた。制服の色から、所属は高等部だと(わか)った。

 

 真っ赤な髪と真紅の瞳という派手な外見で、身長や体型はボクと対して変わらないけど、またしてもイケメンだった。

 前々から思ってたけど、この学園の顔面偏差値、高過ぎじゃない? 正直ちょっと(へこ)む……。

 

 ……それにしても、何故だろう。

 こちらに向けられた彼の視線からは、明確な〝敵意〟が感じ取れる。

 それも純度100パーセントの敵意。少なくとも友好的に話しかけてきたわけではなさそうだ。

 

 ケイくんもそれを察知したのかメンチを切りながら彼に絡み出す。

 

 

 

「誰だテメェ。どこの組のモンだ、あ"ぁ?」

 

 

 

 いや言い方がヤクザ。

 

 

 

「俺は2年の(ごう)(えん)() 龍牙(りゅうが)だ。退()けデカブツ、キサマに用はない」

 

「んだとゴラァ!! ケンカ売ってんのかっ!」

 

「け、ケイちゃん! いきなりそんな失礼だよ!」

 

「むっ……兄貴に言われちゃしょうがねぇ」

 

 

 

 ルイくんがケイくんの腕を両手で掴んで必死に引き止めると、ケイくんは素直に従った。やはりケイくんの一番のストッパーは兄のルイくんだね。さすがお兄ちゃん!

 

 

 

「……ほう。キサマ確か2回戦で、そこの男と対戦していたランク・Eだな?」

 

「えっ!? あ、はい……」

 

 

 

 そこの男ってのは、ボクの事か。

 ケイくんにくっついてオドオドしているルイくんを見て、豪炎寺くんは鼻を鳴らした。

 

 

 

「ふん、こんな落ちこぼれに苦戦する様では、キサマの実力もたかが知れてるな。なぁ、総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)?」

 

「──!」

 

「えっ……!」

 

「っだと……!」

 

 

 

 ボクはともかく、よりによってケイくんの前でルイくんを侮辱するなんて、地雷を踏むどころか全力で蹴り飛ばす様な()(こう)だよ。

 

 

 

「テメェもういっぺん言ってみろぉ!!」

 

 

 

 当然の如くケイくんが激昂して、豪炎寺くんに掴みかかろうとする。こうなると恐らくルイくんでも止めきれない。ボクはケイくんの肩を、強く掴んだ。

 

 

 

「ケイくん、ストップ。大会期間中に揉め事起こしたら停学じゃ済まないよ」

 

「止めねぇでくだせぇ(あに)さん! 今のだけは聞き捨てならねぇ!!」

 

 

 

 ところが、ボクとルイくんが懸命にケイくんを制止しているというのに、豪炎寺くんはお構い無しに火に油を注いできた。

 

 

 

「何か間違った事を言ったか? 実戦経験のなさが露骨に現れた、哀れなほど薄っぺらな──」

 

「撤回して」

 

「……なに?」

 

 

 

 これ以上、豪炎寺くんに好き勝手言わせるわけにはいかない。

 ケイくんが彼を殴ってしまわない為にも。そして何より、ルイくんの為にも。

 ボクだって、友達を悪く言われて黙ってられるほど、出来た人間じゃない。

 

 

 

「ボクの事は何とでも言えばいい。でもルイくんを……ボクの友達を(おとし)めるのは許さないよ」

 

「先輩……!」

 

「ルイくんは君が思ってる様な決闘者(デュエリスト)じゃない。──撤回して」

 

(ッ……! (あに)さんのこんな顔、初めて見たぜ……)

 

「……断る。……と言ったら?」

 

「……力ずくでも」

 

 

 

 ピリピリした一触即発の空気の中、互いに睨み合う。

 

 

 

「──ふん。ならば力で俺を従わせてみせろ」

 

()るのかい? じゃあ場所を移して──」

 

「慌てるな、俺はこのあと試合が控えているのでな。()()の準決勝で相手をしてやる」

 

 

 

 なるほど、次の試合の出場者だったのか。というか……

 

 

 

「……まるで自分が勝つのは決まってるみたいな言い草だね」

 

「当たり前だ。俺が負けるなど有り得ない」

 

 

 

 この自信家を通り越して傲慢(ごうまん)()(そん)のきらいがある態度、カナメがデジャヴるなぁ。

 

 

 

「よく見ておけ総角。()()()のキサマに、俺が『本物』を教えてやる」

 

(半端者……?)

 

 

 

 言いたい事だけ言って、豪炎寺くんはボク達の前から立ち去った。どうにか暴力沙汰に発展せずに場が収まって良かった。結局ルイくんへの失言を取り消してくれなかったのは釈然としないけど。

 

 

 

「くそっ、あの野郎……兄貴をコケにしやがって……!」

 

「気にしなくていいからね、ルイくん」

 

「は、はい……ありがとう、ございます……」

 

 

 

 ルイくんの頭を撫でて励ます。またカナメの試合でも観に行くつもりでいたけど、予定変更だ。

 あそこまで大見得を切った豪炎寺くんのお手並み、しかと拝見させてもらおうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予選3回戦・2試合目。この日最後の決闘(デュエル)が行われようとしていた。

 

 豪炎寺くんの相手は、どうやら女の子らしい。ここで勝った方が明日(あした)、ボクと闘う事になる。

 双方、デュエルディスクを展開する。豪炎寺くんのディスクの色は、彼の髪と同じ(しん)()だった。

 

 

 

「よろしくね」

 

「ふん」

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 (ごう)(えん)() LP(ライフポイント) 4000

 

 女子生徒 LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

 先に動いたのは豪炎寺くんだ。

 

 

 

「先攻は俺が(もら)う! 俺は【黒竜(こくりゅう)(ひな)】を召喚!」

 

 

 

【黒竜の(ひな)】 攻撃力 800

 

 

 

 赤色の卵の殻を破って、黒い竜の雛が鳴き声を上げながら顔を出す。

 

 

 

「わぁ、かわいいですね」

 

 

 

 可愛いもの()きなルイくんが目を輝かせる。そんな君こそ可愛いよ!

 

 

 

「いや、アレは……侮れないよ」

 

「さらに俺は【黒竜の雛】を墓地へ送り、効果発動! 手札から──【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】を特殊召喚する!!」

 

「!?」

 

 

 

 レッ、レッドアイズだって!?

 

 

 

「出でよ! 【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】!!」

 

 

 

真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】 攻撃力 2400

 

 

 

 それは、【黒竜の雛】が成長を遂げた姿──

 純黒に染まった体躯に、持ち主と同じ真紅の眼。

 世界中の決闘者(デュエリスト)達が、あの【青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)】に次ぐ伝説のドラゴンと恐れ(うやま)い、()決闘王(デュエルキング)()(とう) (ゆう)()の生涯の()()──城之内(じょうのうち) (かつ)()が愛用した切り札としても知られる、幻のレアカードだ。

 

 マニア価格ならプレミアムで数十万円は(くだ)らない最上級モンスターの登場に、観客席から驚愕と興奮に満ちた大歓声が沸き起こる。

 ボクも気づけば立ち上がって、レッドアイズの勇姿に釘付けになっていた。

 

 

 

「すごい……!!」

 

 

 

 感動で総身が打ち震えた。まさか生で拝める日が来るなんて……!

 

 

 

「──俺は魔法(マジック)カード・【黒炎弾(こくえんだん)】を発動! このターン、【レッドアイズ】の攻撃を放棄する代わりに、その攻撃力分のダメージを与える!」

 

 

 

 そもそも1ターン目にバトルはない。カードのデメリットを上手く回避した、実に理に(かな)った戦法だ。

 【レッドアイズ】が黒き炎を口の中で(あふ)れさせる。いきなり2400ものダメージか。

 

 

 

「くっ……でも次のターンで、そのドラゴンを倒してやるわ!」

 

「次のターンなどない!!」

 

「!?」

 

「手札から速攻魔法・【連続魔法】を発動! 手札を全て捨て、このカードの効果を【黒炎弾】と同じにする!」

 

「えっ……ま、まさか……!」

 

「合計4800のダメージを食らえっ!!」

 

 

 

 豪炎寺くんが最後の手札を捨てると、【連続魔法】のカードの立体映像(ソリッドビジョン)が2枚目の【黒炎弾】に切り替わる。

 

 結果、放たれた黒炎の塊は──2発!!

 

 

 

「きゃあああぁぁーっ!?」

 

 

 

 女子生徒 LP 0

 

 

 

「せ、先攻1ターンキル……!」

 

 

 

 ボクの口から愕然とした声が(こぼ)れた。

 開始1分足らずの決着。あまりに一瞬の出来事に観客は言葉を失い、場内は【レッドアイズ】が召喚された時の盛り上がりが嘘の様に静まり返っていた。

 

 

 

「そ……そんな……ウソ……こんなの、ウソよ……! うわあぁあぁぁああぁっ!!」

 

 

 

 突きつけられた残酷な現実を受け入れられず、女の子は泣き崩れてしまう。

 すぐに受け入れろという方が無理な話だろう。ましてや選抜デュエル大会という、年に一度の大事な舞台で、何もさせてもらえずに負けたんだ。そのショックは計り知れない。

 とは言え、豪炎寺くんに非は無い。彼は勝つ為に全力を尽くしただけだ。

 

 

 

()()()いぞっ!!」

 

「っ!?」

 

 

 

 すると豪炎寺くんが突然、泣いている女の子を怒鳴りつけた。

 

 

 

「そうやって無様に泣き(わめ)けば結果が変わるのか? 誰かが(なぐさ)めてくれるとでも思ってるのか!!」

 

「ヒッ……!」

 

「甘ったれるなよ!! 耳障りで不快なだけだ!! 見苦しい姿を晒して決闘(デュエル)(けが)すな!! キサマに──決闘者(デュエリスト)を名乗る資格など、無い!!」

 

「うっ……あ……」

 

「全く、キサマの様な軟弱者を見ていると、虫酸が走──」

 

「豪炎寺くんッ!!」

 

 

 

 ボクは(ガラ)にもなく声を荒げてしまった。

 豪炎寺くんが(イラ)()つのも分からなくはないし、いくら彼は悪くないと言っても、さすがに限度がある。もう見ていられない。

 

 

 

「言い過ぎだよ。そこまで責め立てる必要がどこにあるの?」

 

「……フッ」

 

 

 

 客席から見下ろすボクを、豪炎寺くんはビシッと指さし、こう言った。

 

 

 

「次はキサマだ!! 総角 刹那!!」

 

「…………!」

 

 

 

 ──数分後、隣の決闘(デュエル)フィールドの2試合目も、若干やりづらそうな空気を感じつつ終了した。

 

 こうしてD-ブロックの大会2日目は、気まずいムードと後味の悪さを残しながら、お()()みたいに粛々(しゅくしゅく)と幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夕方、ボクはアマネに電話をかけていた。

 

 

 

『豪炎寺? もしかして豪炎寺 龍牙のこと?』

 

「そうそれ。明日その人と()る事になったんだけどさ、どんな人かアマネ知ってたりする?」

 

『珍しいわね、セツナが対戦相手の事を知りたがるなんて』

 

「ちょっとね」

 

『……豪炎寺、ねぇ……。まぁ知ってるには知ってるわよ。去年同じクラスだったし。そうね、一言で説明するなら……彼は次期十傑(じっけつ)候補の〝筆頭〟よ』

 

「筆頭?」

 

 

 

 次期十傑候補ってのは、何となくそんな気がしてたから予想的中だけど、筆頭と来たか。またカッコいい称号だね。

 

 

 

『つまり次期十傑候補の中で……もっと言えば、私達2年の中で、一番強い生徒って事になるわね。現・十傑で言えば──鷹山(ヨウザン) (カナメ)と同格ってところかしら』

 

「──!!」

 

 

 

 強い強いとは思ってたけど、アマネにカナメと同格と言わしめる程の実力者だったとは。

 でも逆に言えば、その豪炎寺くんに勝てた時、ボクはカナメにも匹敵するレベルまで腕を上げたと考えていいのかな。

 

 

 

『あと、これはあくまで私の印象なんだけど……豪炎寺は私の知る限り、最もジャルダンの人間らしい決闘者(デュエリスト)だと思うわ』

 

「え? それってどういう──」

 

『アマネたーーーん!! 誰と通話してんのー? あたしというものがありながら浮気かなー!?』

 

 

 

 おう、ビックリした。この明るい声は……

 

 

 

「あ、マキちゃんも居たんだ?」

 

『う、うん。いつもの事なんだけど、急に(ウチ)に押しかけてきて──』

 

『あ! セツナくん? やっほー、マキちゃんだよー!』

 

「やっほー。元気そうで何よりだよ、マキちゃん」

 

『ハァハァ、アマネたんはいつ嗅いでも良い匂いだなぁ~。クンカクンカスーハースーハー』

 

『ちょ、や、コラ! 変なトコ触るなぁーっ!!』

 

「……あー、なんか……おジャマだったみたいだね。ごめん切るよー」

 

 

 

 ブレないねぇ、マキちゃんは。

 通話を終えた端末を枕元に(ほう)り、ボクも(あお)()けでベッドに寝転がる。

 

 

 

「ふう……」

 

 

 

 豪炎寺くん……次期十傑候補・筆頭、か。

 彼のエースは【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】と見て、まず間違いないだろう。

 伝説のレアカードと闘えるのか……相手にとって、不足なしだ。

 

 

 

「フフッ……楽しみだなぁ」

 

 

 

 あんな事があっても、やっぱりそう思わずにはいられない。ボクも大概(たいがい)筋金(すじがね)入りの決闘(デュエル)バカなのかも。

 

 ボクのドラゴンデッキと、豪炎寺くんのドラゴンデッキ。

 

 ドラゴン対ドラゴン──果たして、どちらが上かな?

 

 

 

 





 次回、セツナ vs 豪炎寺

 ファンデッキ vs ガチデッキ!!

 豪炎寺は『OCGの大会にいたら絶対に当たりたくない奴』をイメージして書きました。思った以上に嫌な奴になった(汗)

 珍しくおこだったセツナくん。たぶんマジギレしたら超こわい。


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TURN - 30 Timmy, Johnny, and Spike - 1


 ついに30話!!(遅い)あと、お気に入りが50まで増えました! 嬉しいです! ありがとうございます!!

 今回、予想以上に長くなったので久々に二話に分けました!



 

 (ごう)(えん)() 龍牙(りゅうが)はその深き赤を(たた)えた双瞳(そうどう)に映る光景に、耐え(がた)い不快感を覚えていた。

 

 視線の先では、赤縁(あかぶち)のメガネを掛けた銀髪の少年と、少女に思える顔立ちだが、男子指定の制服を着た茶髪の小柄な生徒が決闘(デュエル)(おこな)っている。

 

 彼の(けん)()の対象は、もっぱら銀髪の少年だった。理由は少年が扱うカードにある。

 

 

 

「ボクは【フェアリー・ドラゴン】を召喚!」

 

「【ミンゲイドラゴン】召喚!」

 

「【デビル・ドラゴン】を召喚!」

 

 

 

 少年の繰り出すモンスターは、ほとんどが低級のコモンカードばかり。

 魔法や(トラップ)にしても、ドラゴンデッキとはシナジーが薄い上に使い道に(とぼ)しく、そのカードである必要性や意義が感じられない。

 自分ならまず採用しないどころか、見向きさえしないであろうカードが散見された。

 

 【ラビードラゴン】や【トライホーン・ドラゴン】と言った、エースカードらしき上級モンスターはまだマシだが、他に有能な上位()(かん)カードなどいくらでもあるというのに、何故わざわざ弱いモンスターや、性能が低く、汎用性(はんようせい)や実用性に欠ける、使いづらいカードをデッキに投入しているのか……

 本気で勝とうとしているのなら、あの様な構成は有り得ない。豪炎寺には少年の神経が全く(もっ)て理解できなかった。

 

 だが現実として、少年はそんなトンデモデッキで、学園最強と名高い九頭竜 響吾に土をつけ、他にも二人の十傑を打ち負かすという快挙を成し遂げ、高い勝率を維持している。

 その事実が、余計に豪炎寺の苛立ちに拍車をかけ、はらわたを煮えくり返らせた。

 

 

 

「くだらん……!」

 

(くだらんくだらんくだらんっ!! 奴は決闘(デュエル)を舐めているのか!? あんな、たかがランク・Eごときに手こずる中途半端なデッキなど、俺は(だん)じてドラゴンデッキとは認めない! あの男は……俺達ドラゴン使いの恥だっ!!)

 

 

 

 腹立たしげに吐き捨て、内心で激しく(いきどお)る豪炎寺。

 元より彼は、所謂(いわゆる)『ファンデッキ』と呼ばれる(たぐい)のデッキを、(ひど)く忌み嫌っていた。

 

 ファンデッキ──勝つ為と言うより、(しゅ)()(しゅ)(こう)やロマン、何らかのテーマに沿って構築された、楽しむ事を主とした娯楽的な要素が強いデッキ。

 それは彼にとって自らのポリシーにして、ここ、デュエルアカデミア・ジャルダン校の校訓でもある『勝利至上主義』に反した、ぬるま湯に浸かった半端者のデッキ。

 しかもそれが自分と同じドラゴンデッキで、あまつさえそんな勝敗を度外視したデッキを使って勝利を重ねている、この総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)という少年が、豪炎寺は心底、気に食わなかったのだ。

 

 

 

「今に見ていろ。キサマの()()ドラゴンデッキなど、俺の〝真のドラゴンデッキ〟で、粉々に打ち砕いてくれる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 選抜デュエル大会──3日目。

 

 一戦一戦が濃密で()(れつ)でスリリングだった予選も、いよいよ今日が最終日。

 残る試合は準決勝と決勝のみ。本選に出場する権利を勝ち取れるのは、この()(れつ)な2連戦を制した、たった一人だけだ。

 

 まずは準決勝。

 D-ブロックにてボクと対戦するのは同学年の男子生徒。名前は豪炎寺 龍牙くん。

 

 次期十傑(じっけつ)候補の筆頭という、(ほま)れ高い肩書きを持つ、高等部2年のエース。

 アマネをして学園最凶の十傑──鷹山(ヨウザン) (カナメ)と同格と言わしめた強者(つわもの)にして、伝説の【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】の使い手でもある。

 

 正直、勝てるかどうか問われたら、自信を持って『勝てる』とは答えられない。

 だけどボクは楽しみで仕方ない。なんたって、〝伝説〟と闘えるんだから!

 おかげで昨夜はクタクタだったのに、待ち遠しくてやけに眠気が浅かったよ。

 

 試合開始は午前11時30分。

 今、会場内では反対ブロックの準決勝が、11時から先に始まっている最中だ。

 準々決勝までは隣の決闘(デュエル)フィールドを用いて同時に進行していたけど、準決勝は違うらしい。オマケに次の出場者──つまりボクと豪炎寺くんは、決勝の前に相手のデッキを知れてしまうのはフェアじゃないという事で観戦できないんだとか。

 

 そんなわけで、ボクは会場の外に締め出されて、ルイくんとケイくんと一緒に(ヒマ)してます。

 メガネのレンズを拭いたり、端末を弄るしかやる事がないや。

 

 

 

「ふあ……ヒマだなぁ~」

 

「なんか……緊張感ないですね、先輩……」

 

「肝が据わってるっつーか(のん)()っつーか……相手は次期十傑候補の筆頭なんですぜ? そんな緩くて大丈夫なんすか?」

 

「うーん……最初は緊張してたけど、なんか慣れた」

 

「慣れるものなんですか……僕なんて自分が出るわけでもないのに、何故だかドキドキしてきました……」

 

「じゃあリラックスさせてあげる」

 

「ひゃわぁ!?」

 

 

 

 ぎゅうっとルイくんを抱き締める。イイにおいだなぁ、クンカクンカ……おっと、昨日のマキちゃんと同じ事しちゃってるぞボク。あの後あの二人どうなったんだろう?

 

 ルイくんとじゃれていると、会場内から歓声が聞こえてきた。そろそろ決闘(デュエル)が終わった頃かな。

 

 

 

「んじゃ、ボクも行きますか」

 

 

 

 デュエルディスクを左腕に()める。これだけで気が引き締まるね。

 

 

 

「……(あに)さん!」

 

「ん? なんだいケイくん」

 

「本当は俺があの野郎をぶちのめしてやりたいところだが……(あに)さんに託すぜ。──勝ってくれ!! 絶対に!」

 

「ケイちゃん……」

 

「もちろんだよ、任せといて!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして──決闘(デュエル)フィールドの上で、ボクと豪炎寺くんは顔を見合わせていた。

 準決勝ともなると、観客の数も増してて大にぎわいだ。それともみんな豪炎寺くんの【真紅眼(レッドアイズ)】が目当てなのかな?

 

 

 

「やぁ、今日はよろしくね、豪炎寺くん」

 

 

 

 右手を差し出して握手を求めると、豪炎寺くんの顔つきが一気に(けわ)しくなった。(こわ)っ。

 これでもかと言うくらい()(けん)(しわ)を寄せてボクを(にら)んでくる。純度100パーセントの敵意も、昨日よりさらに濃くなった気がした。

 

 

 

「……同じドラゴンデッキ使い同士、楽しい決闘(デュエル)をしよう」

 

 

 

 ルイくんを()(ざま)(けな)した事を許したわけではないけれど、決闘(デュエル)決闘(デュエル)だ。お互い楽しくやれれば、それが一番だとボクは思ってる。

 

 

 

「……楽しいだと? ふざけるな!!」

 

「いてっ!?」

 

 

 

 豪炎寺くんは怒鳴りながら左手を振り上げて、ボクの右手を思いっきり(はじ)いた。

 

 

 

「キサマの様な半端者がドラゴン使いを名乗るなどおこがましい!! 虫酸が走るわ!!」

 

 

 

 あらあら、ずいぶんと喧嘩腰な事で。

 ボクに背中を向けて豪炎寺くんは自分の立ち位置に着く。ボクも手を(さす)りながら同じ様にした。

 

 

 

「俺はキサマを絶対に認めない!! 完膚なきまでに叩き潰してやる!!」

 

「いいよ。君がボクの何が気に入らないのか知らないけど、ボクも全力で相手になる!」

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 (ごう)(えん)() LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「先攻は俺だ!」

 

 

 

 さーて、早速問題だ。

 もし豪炎寺くんの手札が昨日と同じなら、【黒炎弾】と【連続魔法】のコンボで先攻ワンターンキルが成立して、ボクは瞬殺される……!

 

 

 

「……俺は【アレキサンドライドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【アレキサンドライドラゴン】 攻撃力 2000

 

 

 

 【黒竜の(ひな)】じゃない。どうやらワンキルは免れたみたいだ。

 

 

 

(ほっ、良かった)

 

「ふん。ワンターンキルなどなくとも、キサマごときを()じ伏せるなど造作もない! カードを1枚伏せて終了だ!」

 

(簡単に倒してしまってはつまらん……キサマだけは、圧倒的な力の差を思い知らせた上で、徹底的に叩き潰す! 二度とふざけたデッキでドラゴン使いなどと名乗らせないようにな!)

 

「この決闘(デュエル)で俺がキサマに! 本当のドラゴンデッキとは何かを教えてやる!!」

 

「──! へぇ……それは楽しみだね。ボクのターン!」

 

 

 

 【アレキサンドライドラゴン】……レベル4で攻撃力2000もあるのか。強いな~。

 下級モンスターながら、下手な上級モンスターにも(まさ)る打点の高さは脅威的だ。これが効果モンスターなら何らかのデメリットが付きものだけど、通常モンスターだから使い勝手の良さもピカイチ。序盤の戦力としては申し分ない優秀なアタッカーだ。

 

 デッキパワーはあちらさんに分があると見て、間違いないかな。

 

 

 

「まっ、上手くやるさ。ボクはモンスターをセット! さらに2枚のカードを伏せて、ターン終了(エンド)!」

 

「ハッ、ドラゴン使いを自称しておきながら守りの一手か。所詮キサマはその程度という事だ。このドラゴン使いの恥さらしが!!」

 

「……君のターンだよ」

 

「言われるまでもない! 俺のターン、ドロー!」

 

(……フッ、勝利の女神は俺に微笑む。いつ()()なる時も)

 

「俺は【伝説の黒石(ブラック・オブ・レジェンド)】を召喚!」

 

 

 

伝説の黒石(ブラック・オブ・レジェンド)】 攻撃力 0

 

 

 

 鮮紅(せんこう)色の輝きを放つ、黒い卵の様な石が出現した。ん? 卵? もしかして……

 

 

 

「このモンスターをリリースし、デッキからレベル7以下の【レッドアイズ】モンスター1体を特殊召喚できる!」

 

「!!」

 

「現れろ! 我が最強のしもべ──【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】!!」

 

 

 

 卵の(から)がひび割れていき、やがて赤色の閃光を撒き散らしながら粉々に砕ける。光が消えると、そこには──あの赤き眼の黒竜の姿があった。

 

 

 

真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】 攻撃力 2400

 

 

 

 会場全体に咆哮(ほうこう)(とどろ)かせる黒竜。それに応える様に、観衆の熱狂が(ほとばし)る。

 

 すごい……! こうして真正面から見上げると、その威圧感は昨日観客席で眺めていた時とは比べ物にならない。

 

 ──ボクがまだ子どもだった頃に、遠く離れた()()()町で開催された、(かい)()コーポレーション主催の決闘(デュエル)大会・『バトルシティ』。

 そのダイジェストを収録した『バトルシティ編』のDVDを()り切れるほど再生して、【青眼(ブルーアイズ)】や【真紅眼(レッドアイズ)】の活躍するシーンを何度()返した事か。

 

 それが今、テレビ画面の中でしか見れなかった憧れのドラゴンの1体が、ボクの目の前に!!

 

 

 

「ほあぁぁぁ……!」

 

「……兄貴、なんかセツナの(あに)さん、すげぇ幸せそうな()()してねぇか?」

 

「たぶん……感動してるんだと思う」

 

「──俺は手札から【黒鋼竜(ブラックメタルドラゴン)】を【真紅眼(レッドアイズ)】に装備! 攻撃力を600ポイントアップする!」

 

 

 

真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】 攻撃力 2400 + 600 = 3000

 

 

 

 おっとと、恍惚(こうこつ)に浸ってうっとりしてる場合じゃなかった。至上の喜びを噛み締めたボクは、気を引き締め直して決闘(デュエル)(のぞ)む。

 何やらモンスターを装備して、【真紅眼(レッドアイズ)】の攻撃力が3000の大台に乗ったらしい。

 

 

 

「バトルだ! まずはその目障りな守備モンスターを消し去ってやる! 【アレキサンドライドラゴン】で攻撃! 『クリソベリル・バースト』!!」

 

 

 

 金緑石の(うろこ)が眩しい神秘的なドラゴンが、翠緑(すいりょく)に煌めく光線を口から放つ。

 攻撃を受けた裏守備モンスターは【プチリュウ】。守備力700では到底耐え切れず、吹き飛ばされてしまう。

 

 

 

「ふん、壁にもならない(クズ)モンスターが! 【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】! 怒りの黒き炎で奴を料理してやれ! 『黒炎弾』!!」

 

 

 

 追随して真打ちの【真紅眼(レッドアイズ)】が攻撃に入る。

 黒く燃え盛る炎の砲弾がボクに炸裂し、身を焦がす。

 

 

 

「うああああああっ!!!」

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 1000

 

 

 

「せ、先輩っ!?」

 

(あに)さんのライフが一気に3000も……! なんつー破壊力だよ……!」

 

「うっ……ぐう……っ」

 

 

 

 強すぎる衝撃に、堪らずボクは片膝(かたひざ)を突いた。

 これが【真紅眼(レッドアイズ)】の必殺技・『黒炎弾』……

 一度で良いから体感してみたいとは思ってたけど、いざ味わってみると、想像の倍以上の威力だ……!

 

 

 

「2枚もカードを伏せていて何もできないとはな。全く拍子抜けだ」

 

「……フ、フフッ、あはははっ! 楽しくってたまらないよ!!」

 

「なに?」

 

「伝説のドラゴン相手にボクのデッキがどこまで通用するか……ここからが本番だよ!」

 

 

 

 膝を立たせ、いつもの様にメガネを外し、ボクはデッキからカードを引く。

 

 

 

「ボクのターン、ドロー! ……カードを1枚伏せる! さらにモンスターをセット! これでターンを終了するよ」

 

「あのセツナ先輩が防戦一方だなんて……」

 

「くだらん……俺のターンだ! 弱小モンスターだらけの似非ドラゴンデッキめ! キサマの(もろ)さを見せてやる……!」

 

「……ボクのデッキがエセだって?」

 

魔法(マジック)カード・【紅玉(こうぎょく)の宝札】を発動! 手札からレベル7の【レッドアイズ】モンスター1枚を墓地に捨て、2枚ドローする! 俺は【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】を墓地へ!」

 

「なっ……! 2枚目!?」

 

「【真紅眼(レッドアイズ)】が1枚だけだと誰が言った?」

 

 

 

 観客が(どよ)めくのも意に介さず、豪炎寺くんはカードを2枚引き、次の手を進める。

 

 

 

「さらに【紅玉の宝札】は、デッキからも【レッドアイズ】モンスターを墓地へ送る事ができる。俺は、3枚目の【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】を墓地に送る!」

 

「まさか……【真紅眼(レッドアイズ)】を3枚も持ってるの!?」

 

 

 

 その希少価値の高さ故、滅多に世に出回らないと言われる幻の超レアカード。1枚所有してるだけでも凄いのに、それを3枚も……!

 

 

 

「……クク、準備は整った。キサマに今から地獄を見せてやる!」

 

「……!」

 

「俺は【アレキサンドライドラゴン】をゲームから除外し、このドラゴンを特殊召喚する! 出でよ! 【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】!!」

 

 

 

 銀色の光沢を帯びた鋼鉄の装甲を全身に纏う、【真紅眼(レッドアイズ)】の進化形とも言うべき新たな黒竜がフィールドに舞い降りた。

 

 

 

【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】 攻撃力 2800

 

 

 

「【レッドアイズ・ダークネスメタル】の効果発動! 1ターンに一度、手札または墓地から、ドラゴン族モンスター1体を特殊召喚できる! 墓地より現れよ! 2体目の【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】!!」

 

 

 

真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】 攻撃力 2400

 

 

 

「まだだ! キサマの地獄はこれからだ! (トラップ)発動! 【レッドアイズ・スピリッツ】! 墓地の【レッドアイズ】モンスターを復活させる!」

 

「ッ! も、もしかして……」

 

「そうだ……俺が呼び出すのは──3体目の【真紅眼(レッドアイズ)】!!」

 

 

 

真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】 攻撃力 2400

 

 

 

「【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】が……フィールドに3体……!!」

 

 

 

 最強の黒竜が4体も並び立つ光景は、圧巻──としか言い様がない。

 1体でも十分過ぎる程の重圧(プレッシャー)が、4乗にもなってボクの一身に降り注ぐ。もう少し心が弱かったら、たぶん折れていたかも知れない。

 

 この怒涛の展開力……これが豪炎寺くんのドラゴンデッキの、真の力か……!

 

 

 

「クックックッ……ハーッハハハハッ!! 格の違いを思い知ったか! 所詮、面白半分で組んだファンデッキなど、勝つ為に組み上げた『本物』のデッキの前では紙束も同然! 何の役にも立たないのだっ!!」

 

「…………」

 

「今キサマの場にはザコモンスターが1体……すでに勝利は俺の手中に収まった!! 無様に消し飛ばされる前に、今なら降参(サレンダー)を認めてやっても良いぞ?」

 

「……サレンダー、ねぇ……」

 

 

 

 確かに今のボクの心(もと)ない盤面とライフじゃ、何を言われても仕方ない。でも、それでも──

 

 

 

「……あいにく、ボクはどんな決闘(デュエル)でも、サレンダーだけは〝絶対に〟しないって決めてるんだ。だって、そんな事したら……ボクを信じて一緒に闘ってくれた、このデッキの想いを裏切る事になる。それだけは、何があってもしたくない」

 

 

 

 そう、サレンダーはデッキへの裏切り行為──だから。

 

 

 

「だから、ボクは諦めない。ライフが(ゼロ)になる、その時まで──絶対に!」

 

「……ふん、心がけだけは大層なものだな。ならば望み通り! 力で叩き潰してやる!!」

 

「!」

 

「バトル! 【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】で、守備モンスターを攻撃! 『ダークネス・メタル・フレア』!!」

 

 

 

 バチバチと帯電する赤い光の球体が撃ち放たれる。標的にされた裏側表示のモンスターが正体を見せる。

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】 守備力 200

 

 

 

「消えろザコがぁ!!」

 

「速攻魔法・【ハーフ・シャット】! 【ミンゲイドラゴン】は攻撃力が半分になり、このターン戦闘では破壊されない!」

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 400 → 200

 

 

 

 前のターンに引いていた魔法(マジック)カードが【ミンゲイドラゴン】を守ってくれた。危ない危ない。この攻撃を通しちゃったら、【真紅眼(レッドアイズ)】3体の攻撃を防ぐ手段なんてないからね、ボクの負けだったよ。

 

 

 

「チッ、悪あがきを……ターンエンドだ!」

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 200 → 400

 

 

 

「ボクのターン、ドロー!」

 

(……おっ)

 

「【一時休戦】を発動! お互いに1枚ドローして、次の相手ターン終了時まで、互いに発生する全てのダメージを(ゼロ)にする!」

 

「またその場しのぎのカードか……見苦しいぞ!」

 

「さっ、君も1枚引きなよ」

 

「俺に指図するな!」

 

「さてと、どうしよっかな……ん? ……フフッ」

 

 

 

 閃いちゃった。ボクは口元に()(えが)く。

 

 

 

「……何を笑っている?」

 

「君の【真紅眼(レッドアイズ)】達を倒す方法を思いついたよ」

 

「なに?」

 

「見せてあげる! 魔法(マジック)カード・【思い出のブランコ】発動! 墓地から【プチリュウ】を、攻撃表示で特殊召喚!」

 

 

 

【プチリュウ】 攻撃力 600

 

 

 

「さらに手札から、【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】を召喚!」

 

 

 

軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】 攻撃力 700

 

 

 

「ふん、それがどうした。ザコをいくら並べようと、俺の【真紅眼(レッドアイズ)】の足下にも及ばん!」

 

「果たしてそうかな?」

 

「!」

 

(トラップ)カード・【アルケミー・サイクル】発動! このターンのエンドフェイズまで、ボクのフィールドにいる全てのモンスターの元々の攻撃力を、(ゼロ)にする!」

 

 

 

【プチリュウ】 攻撃力 600 → 0

 

【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 400 → 0

 

軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】 攻撃力 700 → 0

 

 

 

「あ、(あに)さん!! なに考えてんだよ!?」

 

「キサマ……一体なんのつもりだ!!」

 

「この効果で攻撃力が(ゼロ)になったモンスターが戦闘で破壊され、墓地に送られる(たび)に……ボクはデッキから1枚ドローする」

 

「──! そうか……【一時休戦】の効果で、このターンのダメージは(ゼロ)……キサマ、自分の手札を補強する為に、ザコ共を自爆特攻の(コマ)として利用する気か?」

 

「そんな使い捨てみたいな真似しないよ。言ったでしょ? 【真紅眼(レッドアイズ)】を倒すって」

 

「どういう事だ?」

 

「こういう事さ! ──手札から魔法(マジック)カード・【ジェノサイド・ウォー】、発動!」

 

「!?」

 

「このターン、戦闘を(おこな)ったモンスターは全て、バトルフェイズ終了と同時に破壊される!」

 

「なんだとっ!?」

 

「【ミンゲイドラゴン】を攻撃表示!」

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 0

 

 

 

「さぁ反撃開始だ!! まずは【ミンゲイドラゴン】で、【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】を攻撃!」

 

 

 

 さっき攻撃されたお返しと言わんばかりに、民芸品の竜が黒鉄(くろがね)の巨竜に突撃する。

 

 

 

「チィィィッ! 返り討ちだ!!」

 

 

 

- ダークネス・メタル・フレア!! -

 

 

 

 【レッドアイズ・ダークネスメタル】の放ったエネルギー弾が直撃し、【ミンゲイドラゴン】は敢えなく破壊されてしまう。

 

 

 

「……当然【一時休戦】の効果で、ボクへの戦闘ダメージは(ゼロ)だよ」

 

「くっ……!」

 

「そして【アルケミー・サイクル】の効果で、1枚ドロー! 続けてバトルだ! 【プチリュウ】で、攻撃力3000の【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】を攻撃!」

 

 

 

 今度は【黒鋼竜(ブラックメタルドラゴン)】を装備した、最も攻撃力の高い【真紅眼(レッドアイズ)】に【プチリュウ】が仕掛ける。

 その小さな身体で果敢に黒竜に挑む勇ましい姿には、わずかな迷いも感じられない。

 

 

 

「こざかしい!! 『黒炎弾』!!」

 

 

 

 しかし(ちから)の差は歴然。禍々(まがまが)しい黒炎が【プチリュウ】を一瞬にして焼き払った。

 

 

 

「っ……この瞬間【アルケミー・サイクル】の効果が発動、1枚ドローする。まだまだ行くよ! 【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】で、2体目の【真紅眼(レッドアイズ)】を攻撃!」

 

「何度やろうと同じ事だ! 『黒炎弾』!!」

 

 

 

 攻撃力2400の【真紅眼(レッドアイズ)】2体の内、1体を、剣や槍を持ち、盾と(ヨロイ)を身につけた人形(ひとがた)の竜が群れを成して強襲するも、炎の球の爆裂に巻き込まれて、軍隊は全滅させられた。

 

 

 

「──【アルケミー・サイクル】で1枚ドロー! さらに【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】は戦闘で破壊された時、デッキから仲間を呼ぶ!」

 

 

 

軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】 攻撃力 700

 

 

 

「最も、新しく召喚されたモンスターは【アルケミー・サイクル】の効果の外。破壊されても、もうドローできないけどね」

 

(こいつ……!)

 

「これで最後だ……! 2体目の【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】で、3体目の【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】を攻撃!」

 

 

 

 二組(ふたくみ)目の軍隊が出撃する──だが、やはり最上級ドラゴンには歯が立たず、『黒炎弾』の一撃を受けて無残にも(チリ)となる。

 

 

 

(……ごめんね、みんな……)

 

 

 

 ボクは目を閉じて、ボクの為に散っていった仲間達に心の中で謝辞を送った。

 覚悟の上ではあったけど、大切なモンスター達に自滅を命ずるのは、いつだって心が痛い。

 

 

 

「……【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】が破壊された事で、デッキから同名モンスターを特殊召喚する」

 

 

 

軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】 守備力 800

 

 

 

「そして──」

 

 

 

 ボクは右手を軽く掲げると──

 

 

 

「バトル……終了!」

 

 

 

 パチン、と、指を鳴らした。次の瞬間──

 

 

 

「!!」

 

 

 

 その指鳴らし(スナップ)を合図に【ジェノサイド・ウォー】の効果が適用。ボクのモンスターとバトルした豪炎寺くんの4体の黒竜が、一斉に爆発を起こして消滅した。

 

 

 

「ぐおおおおおっ!! バカな……! 俺のモンスターが、全滅っ!?」

 

「ね? 攻撃力が高ければ勝てるわけじゃないんだよ、決闘(デュエル)ってのは」

 

「この……っ!」

 

 

 

 ありがとう、みんなの犠牲は無駄にならなかったよ。

 

 この決闘(デュエル)で豪炎寺くんに教えてあげよう。

 どんなに弱いとされるカードやマイナーと()()される様なカードでも、組み合わせ次第で強いカードや、強いデッキにだって勝てるって事を!

 

 

 

 





 セツナがなんかカッコいいぞ……?

 豪炎寺くん活き活きしてて書いてて楽しいw ちなみに彼のイメージは漫画版の不審者……もとい黒咲さんです。

 本当は豪炎寺に【ダムド】も使わせたかったんですが、それだと墓地闇3体除外してセツナの場ガラ空きにしてダイレクトアタックで勝っちゃうなぁ、という事で、泣く泣くお蔵入りになりました。また出番があれば使わせたいな……

 次回は後半戦! 予選・準決勝、決着です!


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TURN - 31 Timmy, Johnny, and Spike - 2 


 4月から【レダメ】禁止!? 困る!!(豪炎寺くん涙目)

 【サンダー・ボルト】が制限復帰!? 高騰不可避!!

 ハッ、すみません。今回のリミットレギュレーションが色々と衝撃的過ぎて取り乱してしまいました。

 セツナ vs 豪炎寺 後半戦です! どうぞ!



 

『勝って当たり前みたいなデッキを使って、何が面白いの?』

 

 

 

 ──黙れ。

 

 

 

『誰が使っても勝てるデッキなんてつまんねーだろ』

 

『勝ちに固執して、カッコ悪い』

 

決闘(デュエル)は勝ち負けだけが全てじゃないよなー』

 

 

 

 ──ふざけるなっ!! キサマらそれでも決闘者(デュエリスト)か!!

 

 ──強い者が認められる……! それがジャルダン……それが決闘(デュエル)ではなかったのか!?

 

 ──アカデミアに入学してから常に勝つ事だけを考え、勝つ為のデッキを構築し、そして勝利の実績を積み重ねてきた……

 そうやって次期十傑候補の筆頭という地位まで、()()()登り詰めた!

 

 ──だと言うのに何故だ!? 何故勝てば勝つほど否定されるのだ!!

 

 ──〝勝利〟を追い求める事の、一体何が悪いと言うんだっ!!

 

 

 

『こっちはファンデッキなんだから、ガチデッキ相手じゃ負けて当然でしょ』

 

『ガチデッキは(つえ)ぇ強ぇ! パワーカード連打はさすがにゲームになりませんね! そりゃ勝ちますわな!』

 

 

 

 ──奴らは負ければ口を揃えて『デッキのせいだ』と言い訳を並べ立て、(おのれ)の無能さを棚に上げる。

 ──反吐が出る! どいつもこいつも、決闘者(デュエリスト)風上(かざかみ)にも置けないクズばかりだ!

 

 ──……いいだろう……キサマらが俺の決闘(デュエル)を否定するのなら、俺もキサマらの紙束デッキを、()()けた決闘(デュエル)を、キサマらの全てを否定してやる!!

 

 ──半端な気持ちで決闘(デュエル)の世界に入り込んだ者がどうなるか……骨の(ずい)まで思い知らせてやる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィールドを制圧していた3体の【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】、そして【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】を、【ジェノサイド・ウォー】のコンボで一掃。豪炎寺くんのフィールドは一瞬にしてガラ空きとなり、ボード・アドバンテージの差は覆された。

 

 正直もうちょっと【真紅眼(レッドアイズ)】を眺めてたかったけど仕方ないね、決闘(デュエル)だもの。

 

 

 

「おのれ……この俺の【レッドアイズ】に、ザコを(けしか)けるとは……!」

 

 

 

 (ごう)(えん)() LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「まだ勝負はこれからだよ、豪炎寺くん」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 1000

 

 

 

「セツナ先輩すごいです!!」

 

「伝説の【真紅眼(レッドアイズ)】を、あっさり倒しちまうなんて……さすがは俺の兄貴が()れた男ですぜ!!」

 

「ほ、惚れたなんて、ケイちゃんやめてよ……!」

 

 

 

 えっ!? なになに! 今マキちゃんが聞いたら飛んで喜びそうな台詞(セリフ)が聞こえた気がするんだけど! もっかい言って!?

 

 

 

「……【黒鋼竜(ブラックメタルドラゴン)】がフィールドから墓地へ送られた場合……デッキから【レッドアイズ】カード1枚を手札に加える。俺は──【真紅眼融合(レッドアイズ・フュージョン)】を手札に」

 

 

 

 【真紅眼融合(レッドアイズ・フュージョン)】? 【レッドアイズ】専用の融合魔法か……まだ何か狙ってるみたいだね……

 

 

 

「……確か、豪炎寺くん言ってたね? この決闘(デュエル)で本当のドラゴンデッキってのが何か教えてやるってさ」

 

「……それがどうした」

 

「じゃあボクは、どんなに弱いカードでも、使い方次第で強いデッキにも勝てるって事を教えてあげるよ。この決闘(デュエル)でね!」

 

「……っ! キサマ……!」

 

 

 

 【アルケミー・サイクル】の効果で自分のモンスターの命と引き換えに補充した3枚の手札……このカード達の使いどころが勝敗を左右する。大事に使わないとね。

 

 

 

「ボクはカードを2枚伏せてターンエンド!」

 

「どこまでも勘に障る奴だ……調子に乗るなよ半端者が! 俺のターン! 俺は墓地の【伝説の黒石(ブラック・オブ・レジェンド)】の効果を発動! 墓地から【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】をデッキに戻し、このカードを手札に加える!」

 

「ッ! という事は……また【真紅眼(レッドアイズ)】が出てくるの!?」

 

「残念だが【伝説の黒石(ブラック・オブ・レジェンド)】の1つ目の効果はこのターン使えない。だが俺には次の手がある! 魔法(マジック)カード・【真紅眼融合(レッドアイズ・フュージョン)】を発動!!」

 

「──! 早速来たか……!」

 

「手札の【真紅眼(レッドアイズ)凶星竜(きょうせいりゅう)-メテオ・ドラゴン】と、デッキの【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】を融合!!」

 

「デッキのモンスターまで融合素材に!?」

 

 

 

 最初に【真紅眼(レッドアイズ)】をデッキに戻したのは、この為か……!

 

 

 

(あか)()を持つ黒竜よ。(わざわい)をもたらす凶星をその身に宿し、森羅万象を滅ぼす流星となれ!! ──融合召喚!! 現れろ、レベル8! 【流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン】!!」

 

 

 

 身体の至るところから炎を噴き出した、【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】の融合体が上空に羽ばたく。胸部には融合素材となった【真紅眼(レッドアイズ)の凶星竜-メテオ・ドラゴン】の頭部と翼が残されており、まさに隕石と合体した【真紅眼(レッドアイズ)】と言えた。

 

 

 

【流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン】 攻撃力 3500

 

 

 

「攻撃力3500!? これが君の奥の手ってわけか……!」

 

「【流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン】は、融合召喚成功時に手札・デッキから【レッドアイズ】モンスターを墓地に送る事で、そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手に与える事ができる。……が」

 

「そう。【一時休戦】の効果で、このターン、ボクにダメージは無い」

 

「ならば──そこでチョロチョロしている鬱陶(うっとう)しいザコを()()らしてやる!!」

 

「!」

 

「【流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン】! 【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】を攻撃! 『メテオ・インフェルノ』!!」

 

 

 

 【流星竜】が咆哮を響かせると、天から無数の隕石が降り注いだ。隕石はフィールドを思うがまま蹂躙し、やがて守備表示の【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】の頭上に墜落(ついらく)。跡形もなく粉砕した。

 

 

 

「うわあぁっ!! くうっ……!」

 

 

 

 うひゃあー、たまげた。最近の立体映像(ソリッドビジョン)技術の向上具合は本当に凄まじいね。迫力と衝撃にリアリティーが有りすぎて、これを生身で食らったらと考えるとゾッとする。

 

 

 

「俺は1枚カードを伏せてターンエンドだ!」

 

(ククッ、俺が伏せたのは(トラップ)カード・【メテオ・レイン】。キサマに逃げ場は無い!)

 

「俺は負けない……! 〝勝利〟のみを追及し続けたこの俺が! 遊び半分で決闘(デュエル)しているキサマに負けるなど、あってはならないのだっ!!」

 

「…………ねぇ、豪炎寺くん」

 

「なんだ?」

 

「──最後に決闘(デュエル)を〝楽しい〟って思ったの……いつ?」

 

「……なんだと……!?」

 

「いや、いつもそんな風に肩肘(かたひじ)張って、苦しそうに決闘(デュエル)してるのかなって思ってさ。ちょっと気になってね」

 

「ふざけるなぁ!!」

 

「!」

 

決闘(デュエル)は真剣勝負だ!! 俺は今まで、決闘(デュエル)に〝楽しさ〟などと言うくだらない()()を求めた事は、ただの一度もないっ!!」

 

「……本当に?」

 

「やはりキサマも同じか……! 楽しければ勝ち負けはどうでもいいのか!?」

 

「誰もそんなこと言ってないよ」

 

「……なに?」

 

決闘(デュエル)なんだもの、勝ちに行かなくてどうするのさ。誰だって負けるのは嫌だろうし、ボクだって負けるよりは勝ちたい」

 

 

 

 そうでなきゃ人目につく場所で堂々と『打倒! 鷹山(ヨウザン) (カナメ)!』なんて宣言したりしない。

 ()()()……カナメに手も足も出せないまま負けた悔しさは、今でもボクの胸中に残り続けてる。

 このままじゃ終われない。

 もう一度カナメと闘いたい。

 次こそは勝つ!

 そんな内なる衝動が、ボクをこの大会に駆り立てたんだ。

 

 

 

「勝とうとするのはボクにとって()()。ボクは、その上で決闘(デュエル)を楽しみたい。言うなれば、楽しんで勝ちたいんだ!」

 

「……楽しんで勝つ……だと……!?」

 

「だからボクは豪炎寺くんの決闘(デュエル)に対する想いを否定はしない。むしろ決闘者(デュエリスト)として当たり前の欲求に正直なところはリスペクトしたいくらいさ」

 

「ッ……何が言いたい!?」

 

「だけど、皆が皆ボク達みたいに勝ちたいと思って決闘(デュエル)しているわけでもないと思うんだ。価値観は人それぞれ。だから君も……他の誰かのデッキや決闘(デュエル)を、否定しないであげてくれないかな?」

 

「……!」

 

(俺の決闘(デュエル)をリスペクトする、か……そんな事を言ってくる奴は初めてだ……)

 

「……ならば……俺に勝ってみせろ! キサマの言う、楽しんで勝つ決闘(デュエル)とやらで! この俺を打ち倒してみせろ!!」

 

「オーケー。男と男の──いや、決闘者(デュエリスト)決闘者(デュエリスト)の約束だよ。ボクのターン!」

 

 

 

 そう、ボク達は決闘者(デュエリスト)

 そしてここは、決闘(デュエル)で全てを決める街・ジャルダン。

 

 白黒つけたい時は、何よりも決闘(デュエル)に限る!

 

 

 

「このスタンバイフェイズに墓地の【ミンゲイドラゴン】の効果を発動! 自分フィールドにモンスターがいない場合、攻撃表示で復活できる!」

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 400

 

 

 

「続いて(トラップ)カード・【無謀な欲張り】発動! カードを2枚ドロー!」

 

(──! これは……!)

 

(……確か奴の【ミンゲイドラゴン】は、ドラゴン族限定で2体分のリリースとして使えた筈……この局面で復活させてきたという事は……)

 

「フフッ……行くよ豪炎寺くん!」

 

(来るか!)

 

「ボクはこのモンスターを召喚する──攻撃表示でね!」

 

 

 

【ポケ・ドラ】 攻撃力 200

 

 

 

 ポンッと出てきたのは、小さくて愛らしいドラゴンの子ども。木の実を美味しそうにかじる姿は実に愛嬌たっぷりで、見ていると決闘(デュエル)の緊張感さえ(ほぐ)れて気持ちが(なご)んでくる。なんならずっと見てられる。

 

 

 

(なにっ!? 攻撃表示!? まさか……まさか攻撃力200の最弱モンスター・【ポケ・ドラ】だとぉぉぉっ……!!)

 

「くっ……ククク……! キサマが勝負を諦めるのは自由だ……だがよりによって、そんなザコモンスターを出すとは……!」

 

「……」

 

「そいつはデュエルモンスターズの中でも最も攻撃力の低い、最弱最低レベルのカード。そんなカードをデッキに入れている奴など見た事がない……そのカードに我々の決闘(デュエル)を汚す、侮辱の意味が込められているのなら、俺はキサマを許さん!」

 

「それは違うよ、豪炎寺くん。このカードこそ、君の【メテオ・ブラック】を倒す為のキーカードなのさ!」

 

(な、なんだと……!)

 

「さぁ、お楽しみはこれからだ! この子が召喚に成功した時、デッキから2枚目の【ポケ・ドラ】を、手札に加える事ができる! さらに魔法(マジック)カード・【トランスターン】を発動! 自分フィールドのモンスター1体を墓地に送り、そのモンスターと種族・属性が同じで、レベルが1つ高いモンスター1体を、デッキから特殊召喚する! ボクはフィールドの【ポケ・ドラ】を墓地に送って、デッキから【ラヴァ・ドラゴン】を、守備表示で特殊召喚!」

 

 

 

【ラヴァ・ドラゴン】 守備力 1200

 

 

 

「続けて【ラヴァ・ドラゴン】の効果! 表側守備表示のこのモンスターをリリースする事で、手札と墓地からレベル3以下のドラゴンを、1体ずつ特殊召喚できる! 出ておいで! 2体の【ポケ・ドラ】!」

 

 

 

【ポケ・ドラ】 攻撃力 200

 

【ポケ・ドラ】 攻撃力 200

 

 

 

「有象無象がゾロゾロと……!」

 

「さらに! 手札から魔法(マジック)カード・【ドラゴニック・タクティクス】発動!」

 

 

 

 フィールドに並んだ2体の【ポケ・ドラ】の姿がチェスの駒へと変わる。

 

 

 

「【ポケ・ドラ】2体をリリースして、デッキからレベル8のドラゴンを特殊召喚する! 現れろ! 【ラビードラゴン】!!」

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

(ほう、ようやくマシなモンスターを出してきたか……)

 

「お次はエース対決と行こうか」

 

「ふん! だが【メテオ・ブラック】の攻撃力には届かん!」

 

「だったら届かせるまでさ。いよいよこのカードを使う時が来た!」

 

 

 

 そう言ってボクは、自分の足下に伏せられたリバースカードに手を(かざ)す。

 

 

 

「それは最初に伏せたカード……!」

 

「そのとーり。(トラップ)カード・【守護霊のお(まも)り】発動! 【ラビードラゴン】の攻撃力を、エンドフェイズまで自分の墓地のモンスター1体につき、100ポイントアップする!」

 

 

 

 墓地に眠る仲間のドラゴン達の魂が、【ラビードラゴン】に力を与えていく。

 

 

 

「ボクの墓地のモンスターは、7体。よって攻撃力は、700ポイントアップ!」

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950 + 700 = 3650

 

 

 

「バカな! 【メテオ・ブラック】を越えただとっ!?」

 

「まだまだ行くよ! (トラップ)発動! 【恐撃(きょうげき)】! 墓地のモンスター2体を除外し、フィールドの攻撃表示モンスター1体の攻撃力を、ターンの終わりまで(ゼロ)にする! 対象はもちろん──【メテオ・ブラック】!」

 

 

 

 除外するのは【ポケ・ドラ】2体。

 さっき【メテオ・ブラック】が【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】を攻撃した時に発動しても良かったんだけど、せっかく攻撃力を(ゼロ)にするなら戦闘破壊もしておきたいと思ってね。じゃないとほら、もったいないし。

 

 2体の【ポケ・ドラ】の霊魂が【メテオ・ブラック】を取り巻いて、【ラビードラゴン】の時とは逆に、力を奪っていく。

 

 

 

【流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン】 攻撃力 3500 → 0

 

 

 

「こ、このザコ共があぁぁぁっ!!」

 

「バトル! 【ラビードラゴン】で、【流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン】を攻撃! 『ホワイト・ラピッド・ストリーム』!!」

 

 

 

 白い光の奔流が隕石と化した竜を葬り去る!

 強化した【ラビードラゴン】の攻撃力の数値が、まるまる超過ダメージとなって豪炎寺くんのライフを直撃する。

 

 

 

「うぐあああああっ!!」

 

 

 

 豪炎寺 LP 4000 → 350

 

 

 

(よし! 後は【ミンゲイドラゴン】で攻撃すれば──)

 

「まだだぁ!!」

 

「っ!」

 

「【メテオ・ブラック】がフィールドから墓地へ送られた事で、効果発動ッ! 墓地の通常モンスター1体を特殊召喚できる!」

 

(負けてたまるか……! 勝つのは俺だっ!!)

 

「よみがえれ──【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】!!」

 

 

 

真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】 守備力 2000

 

 

 

 【真紅眼(レッドアイズ)】か……また拝めて嬉しいよ。

 再びフィールドに舞い戻った伝説の黒竜は、主人を守る様に防御の態勢を取る。

 

 

 

「クククッ……終わりだ総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)! 次のターン、【真紅眼(レッドアイズ)】で【ミンゲイドラゴン】を攻撃すれば、キサマのライフは尽きる!」

 

「…………」

 

「これで解っただろう……? 楽しんで勝つなど、半端者の甘えに過ぎないという事が! 決闘(デュエル)は〝勝利〟が全てだ!! 勝たなければ何の意味もないのだっ!!」

 

 

 

 勝たなきゃ意味ない……か。なるほど、昨日アマネが言っていた、『豪炎寺くんは最もジャルダンの住人らしい決闘者(デュエリスト)』ってのは、こういう事だったんだね。

 

 確かにジャルダンのアカデミアの理念は『勝利至上主義』。結果を重視した教育方針で、強い決闘者(デュエリスト)()()が優遇される世界だ。

 だからこそ『ランク』という制度で、下位に格付けされた者を冷遇する事で生徒達のお尻に火をつけ、常に()()を目指す意欲を育てさせる。

 

 豪炎寺くんの勝利への貪欲さは、そうしたシビアな環境に、特に色濃く影響を受けている事から来ているのかも知れない。

 

 ──だけど。

 

 

 

「……悪いけど、君に次のターンは回ってこないよ」

 

「なに!?」

 

「手札から速攻魔法──【竜の闘志】発動! 君が特殊召喚したモンスターの数だけ、【ラビードラゴン】は攻撃回数を増やす!」

 

「連続攻撃だとっ!?」

 

「【ラビードラゴン】!! 【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】を攻撃!!」

 

 

 

- ホワイト・ラピッド・ストリーム!! -

 

 

 

 追撃で放たれた光線を受けた【真紅眼(レッドアイズ)】は、光に飲み込まれて消滅していく。

 

 

 

「うおおおっ!!」

 

(こ、これが本当にファンデッキの強さなのか……!?)

 

 

 

 【真紅眼(レッドアイズ)】が撃破され、とうとう豪炎寺くんを守るものは何も無くなった。

 いや、1枚だけ伏せカードがセットしてあるけど、これだけ攻めて発動してこないって事は心配しなくていいだろう。タブンネ。

 

 

 

「……チェックメイトだ」

 

「ぐっ……!」

 

「【ミンゲイドラゴン】で──プレイヤーにダイレクトアタック!!」

 

 

 

 トーテムポールを模した小型のドラゴンが、豪炎寺くんに突進攻撃を決め、この決闘(デュエル)のフィニッシャーとなった。

 

 

 

「ぐわぁあぁぁーっ!!」

 

(バカな……この俺が……負けるだと……!)

 

 

 

 豪炎寺 LP 0

 

 

 

「ボクの勝ちだね!!」

 

 

 

 決着がつき、広い場内が歓声に包まれる。

 チラリと客席に目をやると、ルイくんとケイくんがハイタッチしながら大喜びしてくれていた。

 ハイタッチと言っても背の高いケイくんがルイくんに合わせて(かが)んでいるので、端から見れば、大きなお兄さんが小学生くらいの男の子と手を合わせてあげてる、微笑ましい光景になっていた。

 実際は小さい方がお兄さんなんだけどね。あぁもういちいち可愛いなぁ!

 

 

 

「くそぉ!!」

 

 

 

 ガンッと固い音が聞こえて振り返ると、豪炎寺くんが床を拳で殴りつけていた。

 

 

 

「何故だ!! 何故俺が負けたんだっ!?」

 

「……今回は勝利の女神がボクに微笑んでくれただけだよ。あの土壇場で【竜の闘志】が手札になかったら、負けてたのはボクだった」

 

「ふざけるなっ!! これは勝つ為のデッキだったんだぞ!!」

 

「君のデッキが弱いわけじゃないよ。どんなに強いデッキでも、勝つ時もあれば、負ける時もある。たまたま今日がその時だった──それだけの事じゃないかな」

 

「っ……! ちくしょう……!」

 

 

 

 悔しさを噛み締め(うな)()れる豪炎寺くんに、ボクはスッと右手を差し出した。

 

 

 

「──決闘(デュエル)を通じて、君の【真紅眼(レッドアイズ)】に対する愛情が伝わってきたよ。そして、本当は君も決闘(デュエル)が大好きなんだって事も」

 

「……! 俺が……決闘(デュエル)が好きだと……?」

 

「うん。……好きだからこそ、そこまで勝ちにこだわって、本気になれるんだよ。でも、最初は君にだってあったんじゃないかな? 決闘(デュエル)を純粋に〝楽しい〟と思う気持ちが……」

 

「…………っ」

 

「真剣勝負も良いけどさ、ボクとの決闘(デュエル)も楽しんでくれた?」

 

 

 

 顔を上げ、ボクと目を合わせた豪炎寺くんは、少しの()を置いた後、握り過ぎて血の(にじ)んだ拳を()いて、ゆっくりと手を伸ばした。

 

 

 

(……ハッ!?)

 

「~~~っ! 敵の情けなど受けん!!」

 

「いてっ!?」

 

 

 

 そのまま快く握手──かと思いきや、またしても手をひっぱたかれた。本日二度目。

 

 

 

「負けた俺が楽しいわけがないだろう!! 俺は帰らせてもらう!」

 

(素直じゃないなぁ……)

 

 

 

 お(かんむり)な様子で決闘(デュエル)フィールドを足早に降りていく豪炎寺くん。……と、その足が急に止まった。

 

 

 

「……総角 刹那!!」

 

「ん?」

 

「俺に勝った以上、次の決勝で敗れる事は断じて許さん!!」

 

「……あはは、なんだそんな事か。言われなくても、必ず勝つよ!」

 

「……ふん、それでいい」

 

「?」

 

 

 

 最後に何か呟いてた気がするけど聞き取れなかった……まぁいいか。

 

 豪炎寺くんの背中を見送ってから、ボクも観客の皆に笑顔で手を振りつつ退場した。

 

 次は、いよいよ決勝戦か。長かった様な、あっという間だった様な……

 とにかく本選まで後一歩だ。ここまで来たら、絶対に負けたくない!

 

 待っていなよ、カナメ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……決闘(デュエル)を楽しむ、か……」

 

(認めたくはないが……確かに奴との決闘(デュエル)の中で、俺は自分の心が踊るのを感じた……こんな感覚、久しく忘れていたな……)

 

「ふん……完敗というわけか。だが次こそは俺が勝つ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 12時から1時間の休憩時間(インターバル)を終え、ようやく予選の最終試合・決勝戦の始まる時刻が訪れた。

 

 昼食もしっかり済ませ、身体も十分に休めた。というか早く()りたくて、普段は短く思えてしまう昼休みが、ずいぶんと長く感じられた。

 

 入場してみると、観客の数は準決勝よりもさらに増えていた。同じく決勝進出を果たしたアマネやマキちゃんも、今頃はこうして大観衆に囲まれているんだろうか。

 

 デュエルディスクを着けて決闘(デュエル)フィールドに足を踏み入れる。

 そこにはすでに、予選最後の対戦相手が待ち構えていた。

 

 ボクは驚き、目を剥いた。

 

 

 

「──! 君は……!」

 

「お久しぶりです、総角先輩」

 

 

 

 ボクの前に立っていたのは、ポニーテールにした緑色の髪が特徴的な少女──

 

 

 

(アカ)()ちゃん……!?」

 

 

 

 以前、暴走族に絡まれていたところをカナメとボクで助け出した、高等部1年生の女子生徒──宝生(ほうしょう) (アカ)()ちゃんだった……!

 

 

 

 





 今回は『ガチデッカーとファンデッカーの価値観の違い』をテーマに書いてみました。

 セツナも言っていた様に、デュエルに対する考え方は人それぞれなので、ガチデッカーさんもファンデッカーさんも、互いのデッキを否定せず、自分のデッキに愛を持って全力でデュエルできれば、それがTCGの理想なのではないかと思うのです。(掲示板の荒れ具合を見るに、相容れるのはなかなか難しそうですが)

 価値観を押しつけず、負けてもデッキのせいにして言い訳したりせず、思いやりの心で遊べたら良いですね。
 思想はどうあれ、カードゲームが好きという部分は、全プレイヤー共通のはずですから。

 ルールとマナーを守って楽しくデュエルしよう!


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TURN - 32 Jewelry Knights


 デュエルのシーンって難し過ぎィ!
 これを毎週作ってるアニメスタッフさん本当すごい……毎週ジャンプで描いてた原作者様も本当すごい。



 

「驚いたなぁ、こんなところで会うなんて」

 

 

 

 ボクは目の前に立つ緑髪(りょくはつ)ポニーテールの女の子に、そう声をかけた。

 

 

 

「覚えててくれて光栄です」

 

「あはは、女の子の顔と名前は忘れないよ」

 

「あの時は助けて頂けて……本当にありがとうございました」

 

 

 

 彼女は宝生(ほうしょう) (アカ)()ちゃん。高等部1年生の生徒だ。

 半月ほど()()だったかな。ボクがカナメに会う為に訪れた喫茶店の前で、暴走族に絡まれてしまった彼女を助けたのが初対面だった。

 最も暴走族を追い払ったのはカナメで、ボクはほぼ空気だったけど。そう言えばそれが切っ掛けで、明里ちゃんはカナメに『ほ』の字(死語)になっていた様な。

 

 

 

「それにしても、1年生で予選の決勝まで来るなんて凄いじゃん! 明里ちゃんって強いんだね!」

 

 

 

 1年って事は、彼女もこの大会は今年が初めての参戦の筈。留年してなければ。ごめん冗談です。

 

 

 

「えへへっ、ありがとうございます。私の憧れたカナメさ……鷹山(ヨウザン)さんに認めてもらいたくて、頑張りました」

 

 

 

 ……喜べカナメ。この子は将来有望だぞ。

 

 

 

「先輩と同じブロックって知った時、もし勝ち進めたら闘う事になるかも知れないなって思ってたんです。やっぱりそうなりましたね」

 

「悪いけれど……手加減とかはできないよ?」

 

「望むところです」

 

 

 

 明里ちゃんは、にこやかに握手に応じてくれた。ええ子や……

 互いに距離を取り、デュエルディスクにデッキをセットする。

 

 選抜デュエル大会──予選・決勝戦。

 本選への切符を賭けた、最後の大一番だ!

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 宝生(ほうしょう) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「私の先攻です!」

 

 

 

 確か明里ちゃんは、【ジェムナイト】デッキの使い手だったね。

 宝石の輝きを秘めた、美しい騎士(ナイト)達。カナメが暴走族のリーダーと対戦した時に彼女のデッキを借りてたから、一度その強さは見させてもらっている。

 果たして本来の持ち主は、どんな戦術(タクティクス)を披露するのかな。

 

 

 

「私は魔法(マジック)カード・【ジェムナイト・フュージョン】を発動! 手札の【ジェムナイト・ラピス】と、【ジェムナイト・ラズリー】を融合します!」

 

「!」

 

 

 

 【ジェムナイト】専用の融合魔法か。いきなり仕掛けてくるとはね。

 

 

 

「神秘の(ちから)秘めし(あお)き石よ。いま光となりて現れよ! ──融合召喚! レベル5! 【ジェムナイトレディ・ラピスラズリ】!!」

 

 

 

【ジェムナイトレディ・ラピスラズリ】 攻撃力 2400

 

 

 

 深い青色の衣装を身に纏った、女性の【ジェムナイト】が現れる。その胸の中央には、青く光る球状の()(せき)が埋め込まれていた。

 

 

 

「【ジェムナイト・ラズリー】は効果で墓地に送られた場合、墓地の通常モンスターを1枚、手札に戻す事ができます。私が戻すのは当然【ラピス】。さらに墓地にある【ジェムナイト・フュージョン】の効果! 墓地の【ジェムナイト・ラズリー】を除外して、このカードを手札に戻します!」

 

 

 

 これでもう一回【ジェムナイト】の融合が狙えると……

 

 

 

「そして【ラピスラズリ】の効果発動! 1ターンに一度、デッキ、またはエクストラデッキから、【ジェムナイト】モンスター1体を墓地に送り、フィールドに存在する、特殊召喚されたモンスターの数 × 500のダメージを、相手プレイヤーに与えます!」

 

「っ!」

 

「私はデッキから【ジェムナイト・クリスタ】を墓地へ! 今フィールドにいるのは【ラピスラズリ】1体。ダメージは500ポイントです!」

 

 

 

 【ラピスラズリ】の胸の輝石から青い光線が発射され、ボクを貫いた。

 

 

 

「うぐっ!」

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 3500

 

 

 

「やるね、明里ちゃん」

 

「フフッ、総角(アゲマキ)先輩みたいな強い人に誉めてもらえるなんて嬉しいです」

 

「……そう言えば君のランクって何?」

 

「『B』ですよ?」

 

「なるほど、納得」

 

 

 

 豪炎寺くんの1つ下だからって決して油断はしない。決闘(デュエル)は何が起こるか最後の最後まで分からないからね。

 

 

 

「私は【ジェムナイト・ラピス】を通常召喚!」

 

 

 

【ジェムナイト・ラピス】 攻撃力 1200

 

 

 

「カードを1枚伏せて、ターンを終了します」

 

「ボクのターン! ボクは【スピリット・ドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【スピリット・ドラゴン】 攻撃力 1000

 

 

 

「【ジェムナイト・ラピス】を攻撃!」

 

「攻撃力はこちらが上なのに……!?」

 

「【スピリット・ドラゴン】は手札のドラゴン族を1枚捨てる(ごと)に、1000ポイント攻撃力と守備力をアップする!」

 

 

 

 手札から【ダークブレイズドラゴン】を墓地に送る。これで【スピリット・ドラゴン】の攻撃力は2000!

 

 

 

【スピリット・ドラゴン】 攻撃力 1000 + 1000 = 2000 守備力 1000 + 1000 = 2000

 

 

 

「『スピリットソニック』!!」

 

 

 

 激しく吹き荒れる暴風が【ジェムナイト】の少女に迫る。

 

 

 

「甘いですよ、先輩! (トラップ)カード・【ジェム・エンハンス】発動!」

 

 

 

 ──! あの(トラップ)はカナメも使っていた……!

 自分フィールドの【ジェムナイト】を1体リリースして、墓地の【ジェムナイト】を特殊召喚するカード!

 

 

 

「【ラピス】をリリースし、墓地から【ジェムナイト・クリスタ】を特殊召喚!」

 

 

 

 【ラピス】が墓地に消えて入れ替わりで出現したのは、水晶の生えた西洋の甲冑で全身を包んだ屈強な騎士。

 

 

 

【ジェムナイト・クリスタ】 攻撃力 2450

 

 

 

 レベル7。【ジェムナイト】の最上級モンスターか……もう手札にモンスターカードが無いから、これ以上【スピリット・ドラゴン】の強化はできないし……。

 

 

 

「しょうがない。バトルはキャンセルするよ」

 

(ここまで見越して【クリスタ】を墓地に送っておいたのか……)

 

 

 

 さすが初出場にして予選の決勝戦まで勝ち上がってくるだけあって、よく考え抜かれたプレイングだ。

 

 

 

「ボクはカードを2枚セットしてターン終了(エンド)。【スピリット・ドラゴン】の能力値は元に戻る」

 

 

 

【スピリット・ドラゴン】 攻撃力 2000 → 1000 守備力 2000 → 1000

 

 

 

「私のターンです。ドロー!」

 

(……その気になれば、このターンで総角先輩のライフを(ゼロ)にできる……けど先輩の場には、伏せカードが2枚……ここは勝負を焦らず、着実に──)

 

「【ラピスラズリ】の効果! デッキから【ジェムナイト・ガネット】を墓地に送って、特殊召喚されたモンスター1体につき、500のダメージを与えます!」

 

「っ……」

 

「フィールドに特殊召喚されているのは【ラピスラズリ】と【クリスタ】の2体。よって1000ポイントのダメージです!」

 

 

 

 またもや青色の光線がボクの身体に命中した。しかも初撃より威力が上がっている。

 

 

 

「ぐあぁっ!」

 

 

 

 セツナ LP 3500 → 2500

 

 

 

(くっ……じわじわとボクのライフを削っていくのが狙いか……!)

 

「1枚カードを伏せて、ターンエンドです」

 

 

 

 ボクのリバースカードを警戒してか、攻撃はしてこなかった。【ラピスラズリ】でダメージを与えられるから、無理に攻める必要もないんだろう。

 

 

 

「ボクのターン」

 

(とにかく【ラピスラズリ】を何とかしなきゃ)

 

「ドロー! ──!」

 

(【ソウルテイカー】……よし、これなら!)

 

魔法(マジック)カード・【ソウルテイカー】発動! これで【ラピスラズリ】を破壊する!」

 

 

 

 ただし引き換えに相手のライフを1000も回復させちゃうのは痛いけど、【ラピスラズリ】を放置してたらどんどん自分のライフを減らされて苦しくなる。背に腹は変えられないって事で。

 

 

 

「そうは行きません! カウンター(トラップ)・【マジック・ジャマー】発動!」

 

「ッ!」

 

「手札を1枚捨てて、【ソウルテイカー】の発動と効果を無効にし、破壊します!」

 

 

 

 【ソウルテイカー】のカードが効力を打ち消され砕け散る。ウルトラレアカードと評判の【マジック・ジャマー】なんて持ってたんだ……やられた。

 

 

 

「そう簡単には行かないか……ボクは【スピリット・ドラゴン】を守備表示にして、ターンエンド」

 

 

 

【スピリット・ドラゴン】 守備力 1000

 

 

 

「私のターン! 【ラピスラズリ】の効果! デッキから【サフィア】を墓地へ──先輩に1000のダメージです!」

 

「ぐっ!」

 

 

 

 セツナ LP 2500 → 1500

 

 

 

「そして墓地の【ラピス】を除外し、【ジェムナイト・フュージョン】を墓地から手札に戻します!」

 

「そっか、【マジック・ジャマー】のコストで……」

 

「そういう事です。カードを1枚伏せてターン終了です!」

 

 

 

 あくまでも攻撃や余計な展開は控え、【ラピスラズリ】を守りながら現況を維持して効果ダメージで削り切る算段みたいだ。

 このままだと、後2回【ラピスラズリ】の効果を使われるだけで、ボクのライフは簡単に(ゼロ)になってしまう。取り返しつかなくなる前に、早いとこ対処しとかないと。

 

 手札は魔法(マジック)カードが2枚。その内の1枚は、使うのに通常モンスターが必要。それを引き当てれば、活路を見出だせる可能性がある!

 

 

 

「ボクのターン……ドロー!」

 

(──来た!)

 

「ボクは【レッサー・ドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【レッサー・ドラゴン】 攻撃力 1200

 

 

 

「そして、【馬の骨の対価】を発動! 通常モンスターの【レッサー・ドラゴン】を墓地に送り、2枚ドローする!」

 

 

 

 新たに引いた2枚を確認する。……これは……賭けだね。

 

 

 

「ボクはカードを2枚伏せ、ターンエンド!」

 

「私のターン、ドロー!」

 

(──【ジェムナイト・オブシディア】……この子を【クリスタ】と融合させれば【ジルコニア】が出せる。それから【オブシディア】の効果で、墓地の【サフィア】か【ガネット】を蘇生すれば、【ラピスラズリ】で与えるダメージは1500。先輩のライフは(ゼロ)になる!)

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 

 明里ちゃんは自分の手札とボクのフィールドを交互に見つめて、何やら黙考している様子だ。

 伏せカードが増えた事で彼女の警戒心はさらに増した筈。さぁ、どう来る?

 

 

 

(……でも……もし【激流葬】や【落とし穴】だったり、何らかの(わな)を伏せられていたら? 下手に動いて【ラピスラズリ】を破壊されたりしたらマズイ……どうする? リスクを取ってでもこのターンで仕掛けるべきか、それとも……)

 

「っ……! 私は──【ラピスラズリ】の効果を発動!」

 

「!」

 

「デッキの【ジェムナイト・ルマリン】を墓地に送り、先輩に1000ポイントのダメージを与えます!」

 

 

 

 【ラピスラズリ】が光線を放射する。

 もうこれで四度目──ボクは、無抵抗でそれを受けた。

 

 

 

「ッ……!」

 

 

 

 セツナ LP 1500 → 500

 

 

 

(何もしてこなかった……これなら次のターンで勝てる!)

 

「ターンエンドです!」

 

「……ふう、良かった」

 

「?」

 

「今のターンで君がもう1体モンスターを特殊召喚してたら、ボクの負けだったよ」

 

「えっ……!?」

 

「賭けはボクの勝ちだね! (トラップ)発動! 【竜の転生】!」

 

 

 

 【馬の骨の対価】でドローして伏せた、1枚目の(トラップ)を今こそ使う!

 【スピリット・ドラゴン】が炎に包み込まれていき、やがて新しい竜へと生まれ変わる。

 

 

 

「【スピリット・ドラゴン】を除外して、墓地の【ダークブレイズドラゴン】を特殊召喚!」

 

 

 

【ダークブレイズドラゴン】 攻撃力 1200

 

 

 

「墓地から復活した【ダークブレイズ】は、攻撃力・守備力が倍になる!」

 

 

 

【ダークブレイズドラゴン】 攻撃力 1200 → 2400 守備力 1000 → 2000

 

 

 

「しまった……!」

 

「ボクのターン! 【タイラント・ウィング】発動! 【ダークブレイズ】に装備して攻守を400ポイントアップ!」

 

 

 

 【ダークブレイズ】の黒い皮膜の両翼が光に(おお)われる。これも【馬の骨の対価】で引いていた(トラップ)だ。

 

 

 

【ダークブレイズドラゴン】 攻撃力 2400 + 400 = 2800 守備力 2000 + 400 = 2400

 

 

 

「バトル! 【ダークブレイズ】で【ラピスラズリ】を攻撃! 『バーンズダウン・ヘルファイア』!!」

 

 

 

 地獄の業火が【ラピスラズリ】を焼き尽くして消し灰にする。

 

 

 

「くうっ!?」

 

 

 

 宝生 LP 4000 → 3600

 

 

 

「【ダークブレイズ】は戦闘で破壊したモンスターの、元々の攻撃力分のダメージを与える! 『ブレイジング・ストーム』!!」

 

「──!」

 

 

 

 【ダークブレイズ】は再び口を大きく開き、今度は明里ちゃんに炎の息吹きを浴びせかけた。

 

 

 

「きゃああああっ!!」

 

 

 

 宝生 LP 3600 → 1200

 

 

 

「さらに【タイラント・ウィング】の効果で、【ダークブレイズ】は【クリスタ】にも攻撃できる!」

 

「くっ……!」

 

「『バーンズダウン・ヘルファイア』!!」

 

 

 

 間断なく3発目の業火が放たれる。クリスタルを散りばめた白銀(しろがね)の甲冑は、炎に呑まれ一瞬にして黒焦げとなった。

 

 

 

「うぅっ!」

 

 

 

 宝生 LP 1200 → 850

 

 

 

「よし! これでまた【ダークブレイズ】の効果が発動! 【クリスタ】の攻撃力分のダメージを受けてもらうよ!」

 

 

 

- ブレイジング・ストーム!! -

 

 

 

 与えるダメージは2450。決まれば明里ちゃんのライフは(ゼロ)。ボクの勝ちだ!

 

 

 

「これでチェックメイト──」

 

「まだです!!」

 

「!?」

 

「カウンター(トラップ)・【フュージョン・ガード】! ランダムに融合モンスター1枚をエクストラデッキから墓地に送り、効果ダメージを無効にします!」

 

 

 

 ディスクが自動で選定して墓地に送り込んだのは、【ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ】だった。

 そして半透明の薄い壁が【ダークブレイズ】の炎を防ぎ、明里ちゃんを守った。

 

 

 

「あちゃ、残念。チェックメイトにならなかったか。ボクは1枚カードを伏せてターンエンド! このエンドフェイズに【タイラント・ウィング】は破壊される!」

 

 

 

【ダークブレイズドラゴン】 攻撃力 2800 → 2400 守備力 2400 → 2000

 

 

 

「っ……」

 

(最悪だ……! やっぱりあの時、リスク覚悟で勝負に出るべきだった……!!)

 

「……いえ……まだ終わってません!」

 

 

 

 彼女の目は死んではいなかった。その意気だよ明里ちゃん。まだまだ楽しめそうだ。

 

 

 

「行きます! 私のターン──ドローッ!」

 

(【パーティカル・フュージョン】……! ダメ……フィールドに融合素材が揃ってない……!)

 

「くっ……」

 

(いや……まだ最後のチャンスが残ってる!)

 

「私は魔法(マジック)カード・【貪欲(どんよく)(つぼ)】を発動! 墓地のモンスターを5枚デッキに戻してシャッフル。そのあと、2枚ドローします!」

 

 

 

 【ガネット】、【サフィア】、【ルマリン】、【クリスタ】はメインデッキに、融合モンスターの【ブリリアント・ダイヤ】は、エクストラデッキに帰還した。シャッフルが終わると明里ちゃんは追加で2枚のカードを引く。

 

 

 

(お願い、起死回生のカードよ──来て!)

 

「……! やった!!」

 

「!」

 

「【ジェムナイト・フュージョン】発動! 手札の【クリスタ】、【オブシディア】、【アレキサンド】を融合します!」

 

「ここに来て【ジェムナイト】のトリプル融合!?」

 

 

 

 明里ちゃんの諦めない心に、デッキが応えたんだ。

 【アレキサンド】の金緑石、【オブシディア】の黒曜石、そして【クリスタ】の水晶が出現し、宙に浮かび上がる。

 

 

 

「昼と夜の顔を持つ魔石よ。鋭利な漆黒よ。()()のまなこと一つとなりて、新たな光を生み出さん!」

 

 

 

 3つの宝石が渦を巻きながら混ざり合っていく。

 

 

 

「──融合召喚!!」

 

 

 

 明里ちゃんが両手を組み合わせるポーズを取ると、一体化した宝石が虹色の光を放った。綺麗だけど眩しい!

 

 

 

「現れよ、全てを照らす至上の輝き! レベル9! 【ジェムナイトマスター・ダイヤ】!!」

 

 

 

 融合素材の【クリスタ】に似通った白銀(しろがね)の甲冑で武装し、裏地が赤いマントを羽織った巨体の騎士が、七色の宝石を埋め込んだ大剣を軽々と振るいながら現れた。

 

 

 

【ジェムナイトマスター・ダイヤ】 攻撃力 2900

 

 

 

 攻撃力2900! 【ブリリアント・ダイヤ】に次ぐ、エース級モンスターのご登場か。

 

 

 

「【マスター・ダイヤ】の攻撃力は、墓地の【ジェム】モンスター1体につき、100ポイントアップします! 今、私の墓地には【ジェムナイト】が4体。よって攻撃力400アップ!」

 

 

 

【ジェムナイトマスター・ダイヤ】 攻撃力 2900 → 3300

 

 

 

「3300……!」

 

「ですが【マスター・ダイヤ】の能力は、これだけではありません! モンスター効果、発動! 1ターンに一度、墓地のレベル7以下の、【ジェムナイト】融合モンスター1体を除外し、エンドフェイズまでそのモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得ます! 私は【ラピスラズリ】を除外!」

 

 

 

【ジェムナイトマスター・ダイヤ】 攻撃力 3300 → 3200

 

 

 

「これで決めますっ! 【マスター・ダイヤ】がコピーした、【ラピスラズリ】の効果発動!」

 

「まさか……!」

 

「そうです、フィールドには特殊召喚されたモンスターが2体……デッキから【エメラル】を墓地へ送って、先輩に1000ポイントのダメージです!」

 

 

 

【ジェムナイトマスター・ダイヤ】 攻撃力 3200 → 3300

 

 

 

 【マスター・ダイヤ】がクリスタルで出来た両手で大剣の柄を握り、切っ先を天に向けて掲げる。すると、剣身に埋め込まれている7つの宝石が上から順に光り始めた。

 アレを食らうわけにはいかない! ボクはディスクのスイッチを押して、リバースカードをオープンする。

 

 

 

「カウンター(トラップ)発動! 【黒板消しの罠】!」

 

「なっ!?」

 

「ダメージを与える効果を無効にする!」

 

 

 

 (つるぎ)を振り下ろす直前、【マスター・ダイヤ】の頭に黒板消しが落下した。

 ビックリした【マスター・ダイヤ】は手元が(わず)かに狂い、そのまま振り下ろした(つるぎ)から三日月型の衝撃波が飛ばされるも、ボクには当たらず真横ギリギリを通過していった。か、間一髪……

 

 

 

「そして君には手札を1枚、捨ててもらうよ!」

 

「っ……分かりました」

 

 

 

 1ターン前にこの(トラップ)を引いていたおかげで助かった。我ながら悪運が強い。

 効果ダメージは失敗に終わり、手札も全て失った。こうなったら明里ちゃんが打てる手は、もう二つに一つだ。

 

 

 

(攻撃……が通れば、私の勝ち……だけど伏せカードが……)

 

 

 

 ──悪いが俺は……弱い奴の名など覚える気はない──

 

 

 

「──!!」

 

(そうよ……何を躊躇(ためら)ってるの? さっき思い知ったばかりじゃない……リスクを恐れて動かない事こそリスクだって……! ──ここで怖じ気づく様な決闘者(デュエリスト)を、カナメさんが認めてくれる筈がない!!)

 

「ッ……バトル!! 【ジェムナイトマスター・ダイヤ】で、【ダークブレイズドラゴン】を攻撃ッ! 『ダイヤモンド・プリズム・ソード』!!」

 

 

 

 意を決した明里ちゃんは、ついに、この決闘(デュエル)で初めての攻撃宣言を(くだ)した。

 宝石の王の名を冠する騎士が、【ダークブレイズ】に斬りかかる。

 

 ──この時を待っていた!

 

 

 

「永続(トラップ)・【デプス・アミュレット】! 手札を1枚捨てて、攻撃を無効にする!」

 

 

 

 ちょうど1枚だけ残っていた手札の魔法(マジック)カード・【二重召喚(デュアルサモン)】を墓地に捨てる。初手から握ってたけど、結局使用する機会がなかった。

 骨と髑髏(ドクロ)で作ったチェーンに色とりどりの宝石を繋ぎ合わせた禍々(まがまが)しいデザインの首飾りが現れ、バリアを張って【マスター・ダイヤ】の大剣を受け止めた。

 

 

 

(やっぱり罠を仕掛けてた……でも【マスター・ダイヤ】さえ生きてれば、まだ勝機はある筈!)

 

「……今まで攻撃してこなかった明里ちゃんの判断は正しかったよ」

 

「えっ……?」

 

「ボクの本当の狙いは、これさ! ──(トラップ)発動! 【反発力】!」

 

「っ!? そ、そのカードは……!」

 

「このカードは攻撃表示のモンスターへの攻撃が無効になった時に発動し、その時バトルしたモンスター2体の攻撃力の、差分のダメージを相手に与える!」

 

「そんな……! 【マスター・ダイヤ】と【ダークブレイズ】の攻撃力の差は……900!?」

 

「今度こそ、チェックメイトだね」

 

 

 

 宝生 LP 0

 

 

 

「私の……負け……」

 

 

 

 ライフポイントが尽きた事を通知する音を、明里ちゃんのデュエルディスクが鳴らした。

 敗北を悟った明里ちゃんは、糸の切れた人形の様にガクリと座り込む。両者のモンスターの立体映像(ソリッドビジョン)も消え、決闘(デュエル)が終了した事を周囲に知らしめた。

 

 

 

「あ、(あに)さんが勝った、のか?」

 

「セツナ先輩の……勝ちですっ!」

 

 

 

 割れんばかりの大歓声が場内を満たす。ボクは勝利を実感した途端、無意識に拳を握り締めていた。

 

 

 

「……っ……悔しいですが、完敗です」

 

 

 

 ボクが手を差し出そうと歩み寄る前に、明里ちゃんは自力で立ち上がった。

 彼女の黄緑色の瞳が微かに潤んでいるのを、ボクは気づかないフリをした。

 

 

 

「対戦、ありがとうございました、総角先輩。そして……本選出場おめでとうございます」

 

「こちらこそ、ありがとう明里ちゃん。楽しい決闘(デュエル)だったよ」

 

「私もです。……本選でカナメさんに会ったら、よろしく伝えてください。私の事なんて、覚えてないかも知れませんが……」

 

「お安い御用さ。ところで、やっぱり呼び方は『カナメさん』なんだね?」

 

「はうっ!? わ、忘れてください!」

 

 

 

 赤面し出して狼狽(うろた)える明里ちゃん、可愛い。

 

 

 

「頑張ってね、応援してるから」

 

「ど、どういう意味ですかもうー! からかわないでください!」

 

 

 

 うん、あんまし弄り過ぎるのも良くないよね。このくらいにしとこう。

 でも応援しているのは本心だよ。明里ちゃんの恋が実りますように。

 

 さて、これで明日からはいよいよ本選だ。カナメと同じ舞台に立てる──そう考えると、何だか胸がドキドキしてきた。

 

 

 

 セツナ・予選D-ブロック──優勝!!

 

 

 

 





 アークファイブの融合召喚のポーズ、カッコよくて好きです。

 今回のデュエルの教訓は、リスクを恐れて動かない方がリスク。後でリスクを取る覚悟を決めても手遅れになっている場合が多いという事ですね(自戒)。
 かと言って何も考えずにリスクを取るのも無謀だし、塩梅が難しいねんな。

 まぁそれはともかく、ついに予選終了です! 予選でここまで話数を使ってたら、本選はどれだけ長くなるのやら……

 次回は小休止の回にして、34話から本選スタートです!

 P.S.光津 真澄ちゃん可愛い。


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TURN - 33 ALL-STAR


 十傑だよ! 全員集合ーッ!!

 結局平成の内に更新できなかったよちくしょー!!



 

 デュエルアカデミア・ジャルダン校、主催──『選抜デュエル大会』。

 その予選トーナメント・D-ブロックの決勝戦(ファイナル)

 

 セツナは宝石の騎士・【ジェムナイト】を操る決闘者(デュエリスト)宝生(ほうしょう) (アカ)()の堅実な戦法に追い詰められるも、彼女の慎重さの裏をかき、お得意の斬新で意外性のあるコンボを駆使して逆転。

 見事、予選を優勝で飾り、本選の出場権を勝ち得た。

 

 そして同時刻……他のブロックでの決勝も、次々と決着を迎えようとしていた──

 

 

 

「……!」

 

 

 

 アマネ LP 1700

 

【ヴァンパイア・ロード】 攻撃力 2000

 

 

 

「どうだ俺の鉄壁は! これだけ守備を固めれば、もはや俺にダメージを与えるなど不可能!」

 

 

 

 男子生徒 LP 4000

 

【ライトレイ・マドール】 守備力 3000

 

【マシュマロン】 守備力 500

 

【光の追放者】 守備力 2000

 

 

 

 光属性の壁モンスターで徹底的に守りを固める防御型デッキ。

 さらに【光の追放者】の効果で、墓地に送られるカードは全て除外され、それがアマネを苦しめていた。

 ()()に不死の吸血鬼(ヴァンパイア)と言えど、ゲーム自体から取り除かれてしまえば蘇生のしようもない。その為、思う様なプレイができずにいたのだ。

 

 

 

「確かに大した防御力ね……でも、突破口はあるわ!」

 

「なに?」

 

「魔法発動! 【威圧する()(がん)】! このターン、【ヴァンパイア・ロード】は直接攻撃(ダイレクトアタック)できる!」

 

「っ!」

 

「バトルよ! 行け、【ヴァンパイア・ロード】!」

 

「させるか! 永続(トラップ)発動! 【光の()(ふう)(へき)】!」

 

「!?」

 

「このカードの発動時に1000の倍数のライフを払う! そしてこのカードが存在する限り、払った数値より低い攻撃力の相手モンスターは攻撃できない! 俺は3000ポイントのライフを払う!」

 

 

 

 男子生徒 LP 4000 → 1000

 

 

 

 顕現した光の壁は、(さなが)ら男子生徒の陣地を防衛する城壁。捧げられたライフポイントに比例して強度を増し、【ヴァンパイア・ロード】の進撃を阻んだ。

 

 

 

「くっ……ターン終了(エンド)……!」

 

 

 

 これで敵モンスターはおろか、相手プレイヤーへの直接攻撃をも封じられてしまった。

 アマネは苦虫を噛み潰した様な表情を見せ、渋々ターンを明け渡す。冷静さこそ失ってはいないが、度重なる妨害を受けて、相当フラストレーションが溜まっているのが窺える。

 

 一方、男子生徒は対照的に、したり顔で意気揚々とカードを引く。払った代償こそ大きかったものの、より強固な鉄壁を築き上げた事で、すっかり安心しきっていた。

 そして、たった今ドローしたカードが彼に勝利を確信させた。

 

 

 

「フフフ、だが守るだけではないぞ! 出でよ俺のエース! 【ガーディアン・オブ・オーダー】!!」

 

 

 

【ガーディアン・オブ・オーダー】 攻撃力 2500

 

 

 

「こいつは自分のフィールドに光属性が2体以上いる時、特殊召喚できる!」

 

「攻撃力2500……!」

 

「バトルだ! 【ガーディアン・オブ・オーダー】で、【ヴァンパイア・ロード】を攻撃!」

 

「うぅっ!!」

 

 

 

 アマネ LP 1700 → 1200

 

 

 

()()まで来て……負けるもんですか……! 私は絶対に本選に行くのよ!! 私のターン、ドロー!」

 

(──!)

 

「……私は【ヴァンパイア・レディ】を召喚」

 

 

 

【ヴァンパイア・レディ】 攻撃力 1550

 

 

 

「カードを1枚伏せて、ターン終了(エンド)

 

「いよいよ手が無くなった様だな? 言い忘れていたが、俺は女が相手でも決して容赦はしないぞ。このターンで終わらせてやる! 俺のターン!」

 

「……ええ、このターンで終わるわ」

 

「ん?」

 

「──あなたの敗北でね!!」

 

「なにぃ!?」

 

(トラップ)発動! 【破壊指輪(リング)】!」

 

 

 

 【ヴァンパイア・レディ】の左手の人差し指に、小型の爆弾が付いた指輪が()められた。

 

 

 

「【破壊指輪(リング)】は自分フィールドのモンスター1体を破壊して、お互いに1000ポイントのダメージを与える!」

 

「な、なんだとっ!?」

 

「【光の護封壁】でライフを削ったのが(アダ)になったわね! ……悪いわね、【ヴァンパイア・レディ】」

 

 

 

 アマネの謝辞に【ヴァンパイア・レディ】は口元に笑みを浮かべ、『構わない』と言う様に手を軽く振って応えた。

 直後、指輪がサイズに見合わぬ大爆発を起こし、爆風がアマネと男子生徒を同時に襲う。

 

 

 

「ッ……!」

 

「うわぁああああっ!?」

 

 

 

 アマネ LP 1200 → 200

 

 男子生徒 LP 0

 

 

 

「……私もひとつ言い忘れてたけど……私が一番得意な戦術は、効果ダメージなの」

 

(勝った……ついに本選まで来れた……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マキノ LP(ライフポイント) 500

 

 男子生徒 LP(ライフポイント) 2000

 

 

 

「行っくよーっ! あたしは【鬼タンクT-34】と【ガトリングバギー】をリリースして、【TM-1 ランチャースパイダー】をアドバンス召喚!」

 

 

 

【TM-1 ランチャースパイダー】 攻撃力 2200

 

 

 

「へっ! それがどうした! いくら強いモンスターを出してきたところで、俺の【死霊ゾーマ】を攻撃した途端、お前は終わりだ!」

 

 

 

【死霊ゾーマ】 守備力 500

 

 

 

「う~ん、確かに【ゾーマ】を戦闘で破壊したら、その効果であたしが【ランチャースパイダー】の攻撃力分のダメージを受けて負けちゃうけど……だったら、戦闘以外で破壊しちゃうだけだもんねー!」

 

「なに?」

 

「魔法発動! 【ブラック・ホール】! フィールドのモンスターを全部破壊だぁーっ!」

 

 

 

 フィールド中央の空間が(ゆが)み、巨大な黒い渦が発生。光すら飲み込む引力で、全てのモンスターを吸い込もうとする。

 

 

 

「【ブラック・ホール】だと!? だ、だが! せっかく召喚したお前のモンスターも巻き添えだぜっ!」

 

 

 

 【死霊ゾーマ】が【ブラック・ホール】に呑まれて消えていく。同じ様にマキノの【ランチャースパイダー】も、渦に引きずり込まれたものと思われたが……

 

 

 

「……!? な、なんでだ!? なんで【ランチャースパイダー】が破壊されてねぇんだ!?」

 

「フッフッフー。あたしは【ブラック・ホール】にチェーンして、永続(トラップ)・【ポールポジション】を発動していたのさ!」

 

「ポ……【ポールポジション】だとぉ!?」

 

「このカードの効果で、フィールドに存在する、攻撃力が一番高いモンスターは魔法の効果を受けなくなる。だから【ランチャースパイダー】は生き残れたってわけ」

 

「ば、バカな……!」

 

「さぁバトルだよ! 【ランチャースパイダー】で、プレイヤーにダイレクトアタック! 『ショック・ロケット・アタック』!!」

 

 

 

 クモ型の巨大戦闘兵器がロケットランチャーによる絨毯(じゅうたん)爆撃を男子生徒にお見舞いした。

 

 

 

「どひゃああぁ~~~っ!?」

 

 

 

 男子生徒 LP 0

 

 

 

「やったーっ!! 勝っちゃったよあたしーっ!!」

 

 

 

 こうして、N-ブロックではアマネが、M-ブロックではマキノが優勝を果たし、共に念願の本選進出が決定した。

 

 さらにA-ブロックでは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした? もう終わりか?」

 

「く、くそっ……!」

 

 

 

 カナメ LP 4000

 

 京川(けいかわ) LP 600

 

 

 

 学園最凶・鷹山(ヨウザン) (カナメ)と、風紀委員会副会長・京川(けいかわ) 俊介(シュンスケ)決闘(デュエル)が終盤に差し掛かっていた。

 

 

 

「まだだ……! 鰐塚(ワニヅカ)お嬢様の右腕として、このまま黙ってやられるわけにはいかない!」

 

「おい!! お嬢様の右腕は俺だぞ!!」

 

「うるさいぞ(ひろ)()! 準決勝で敗退した奴は引っ込んでいろ!」

 

「なんだとぉぉぉっ!?」

 

「行くぞ鷹山! 本当の勝負はここからだ!」

 

「……」

 

(トラップ)発動! 【トゥルース・リインフォース】! デッキからレベル2以下の戦士族を特殊召喚する! 来い! 【ヒーロー・キッズ】!」

 

 

 

【ヒーロー・キッズ】 守備力 600

 

 

 

「【ヒーロー・キッズ】の効果! こいつが特殊召喚に成功した時、デッキから同名カードを任意の数だけ特殊召喚できる! さらに2体の【ヒーロー・キッズ】を特殊召喚だ!」

 

 

 

【ヒーロー・キッズ】 守備力 600

 

【ヒーロー・キッズ】 守備力 600

 

 

 

「そして俺のターン! 3体の【ヒーロー・キッズ】をリリース! ──アドバンス召喚! 現れろ、稲妻(イナズマ)の戦士──【ギルフォード・ザ・ライトニング】!!」

 

 

 

【ギルフォード・ザ・ライトニング】 攻撃力 2800

 

 

 

「それがお前のエースモンスターか。だが攻撃力は俺の【爆炎帝(ばくえんてい)テスタロス】と同じ。相討ちだな」

 

 

 

【爆炎帝テスタロス】 攻撃力 2800

 

 

 

「それはどうかな? 今から目に物を見せてやる! 【ギルフォード・ザ・ライトニング】の、効果発動!」

 

 

 

 筋骨たくましい剛健な剣士が、背負った大剣を片手で引き抜き、天に切っ先を向けた。次の瞬間──

 

 

 

「『ライトニング・サンダー』!!」

 

 

 

 剣身から雷電が(ほとばし)り、カナメの場の【爆炎帝テスタロス】に落雷して消滅させた。

 

 

 

「………」

 

「見たか! 【ギルフォード・ザ・ライトニング】には、3体のリリースで召喚された時、相手モンスターを全て破壊する特殊能力があるのだ!」

 

「……なるほどな」

 

(っ……こいつ……! この状況で、顔色ひとつ変えないだと……!)

 

「余裕ぶりやがって……これを食らっても涼しい顔していられるか!! 【ギルフォード・ザ・ライトニング】で、ダイレクトアタック! 『ライトニング・クラッシュ・ソード』!!」

 

 

 

 自身の身の丈ほどもある大剣を構え、【ギルフォード・ザ・ライトニング】が切り込む。

 しかしカナメは眉ひとつ動かさず、腕を組んだまま平静とした声音で告げた。

 

 

 

「……ここまでよく頑張ったと褒めておいてやろう。だが、もうお遊びは終わりだ」

 

「なに!?」

 

「永続(トラップ)発動。【()(げん)帝王(ていおう)】」

 

(トラップ)だとっ!?」

 

「このカードは発動後モンスターカードとなり、俺のフィールドに特殊召喚される」

 

 

 

【始源の帝王】 守備力 2400

 

 

 

(トラップ)モンスターを壁にしたか……ならばそいつを蹴散らすまで!」

 

「フッ……浅はかだな。俺が一時しのぎなどの為に、こいつを発動するわけがないだろう」

 

「っ!?」

 

「2枚目の永続(トラップ)・【連撃(れんげき)の帝王】を発動。このバトル中に、アドバンス召喚を行う」

 

「俺のターンのバトルフェイズにアドバンス召喚だとっ!? インチキ効果もいい加減にしろ!」

 

「【始源の帝王】をリリースし、【雷帝(らいてい)ザボルグ】を召喚」

 

 

 

【雷帝ザボルグ】 攻撃力 2400

 

 

 

「【ザボルグ】が召喚に成功した時、モンスター1体を破壊する。俺は【ギルフォード・ザ・ライトニング】を破壊」

 

「なんだとっ!?」

 

「目には目を。(いかずち)には(いかずち)を返すとしよう」

 

 

 

 (かみなり)(つかさど)る帝王の放った雷撃(らいげき)が、稲妻の戦士をいとも容易く粉砕した。

 

 

 

「ぐわあっ!!」

 

(そ、そんなバカな……俺の戦術が全く通じない……! (いっ)()(むく)いる事すらできないのか……!?)

 

「さぁ次はどうする?」

 

「くっ……!」

 

(俺の手札は【イシュザーク】1枚……もう……何もできない……どのみち次のターン、【ザボルグ】のダイレクトアタックで、俺のライフは……)

 

 

 

 もはや打つ手はない。詰みだ──京川の心は、この時点で完全に折れてしまった。

 

 実力にはそれなりの自負があった。たゆまぬ努力の末、学園のトップランカーにまで駆け上がり、目の前の鷹山 要と同じく十傑の一人である、鰐塚 ミサキに腕を買われ、相棒の広瀬と共に風紀委員会の副委員長に着任という目覚ましい躍進(やくしん)を遂げた。

 

 だから──例え相手が学園最凶の決闘者(デュエリスト)でも、もっと善戦できると思っていた。

 もしかしたら運が向いて、勝ててしまうかも知れないと、そんな棚ぼたも心のどこかで期待していた。

 いや、それが高望みなのは分かっている。しかし、だとしても、少なくとも対等には渡り合える筈だ、と……そう考えていた。

 

 だが甘かった。現実は、あまりに非情であった。

 こちらの戦術はことごとく潰され、対等どころか1ポイントのダメージさえ与えられないではないか。

 

 強い……強すぎる……

 

 この男と自分の間には、どれだけ努力しても埋まらない、絶対的な『才能』の差があるのだ。

 

 ──闘志の炎が消えた京川は膝を折り、デュエルディスクにセットしたデッキの上に、そっと手を乗せた。

 その行為が意味するのは、降参(サレンダー)。敗北を認め、自らのライフを(ゼロ)にする……

 

 

 

 京川 LP 0

 

 

 

「俺の……負けだ……」

 

「……ふん。()()()最初から最後まで、つまらない決闘(デュエル)だったな」

 

「っ……!!」

 

(やはり……だと……! お、俺は……俺は闘う前から……!)

 

 

 

 対戦者が白旗を掲げた事で、このブロックの決勝は、カナメの優勝で幕を降ろした。

 やがて、満席になっても溢れ返るほど詰めかけた観客達の、興奮気味な歓声が沸き起こる。

 

 

 

「すげぇ……ランク・Aがまるで子ども扱い……」

 

「バッカお前、それどころじゃねぇよ! 鷹山のライフ……見ただろ?」

 

「今年も一度もライフが減らないまま、無傷で予選突破……これで3年連続──ノーダメージでの本選出場だ!!」

 

「こんなの今まで聞いた事ねぇぞ……!」

 

「とんでもねぇ奴と同じ時代に生まれちまったぜ……!」

 

 

 

 カナメに対する()(けい)や驚嘆、賛美の言葉が方々(ほうぼう)で飛び交う中、当の本人はそれらを全く気にも留めず、また、自らが成した異例の偉業にすら何の感情も持たず、平然と場外へ消えていった。

 

 極めて順当に本選へと駒を進めたカナメだったが、彼にとっては何の事はない、至極当然の結果であった。今のカナメが(いだ)いている想いは勝利の喜び、などではなく──

 

 

 

(渇く……こんな決闘(デュエル)では満たされない……)

 

 

 

 退屈。ただそれだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ~っ、賑やかだねー」

 

 

 

 ボクが居る場所はどこかと言うと、なんと学園の敷地内に建てられている、パーティー会場の中。

 

 広々とした絢爛(けんらん)豪華なホール内では、高そうなスーツで正装した大勢の人々が、グラス片手に歓談を楽しんでいる。ちらほらカメラも見かける事から、マスコミ関係者も多く来ているみたいだ。

 ちなみにボクの格好はと言うと、瀟洒(しょうしゃ)な背広ではなく、普段通りの制服。黒のブレザーだから、さほど浮いてはいない。と思う。

 

 ──昼間、決勝戦で明里ちゃんに勝ったボクは、このパーティーの招待状を受け取った。

 なんでも選抜試験の予選で優勝した生徒──つまり、本選に出場する選手は全員招待されているらしい。

 そして今からここで、その本選のトーナメントの組み合わせを決める、抽選会を開催するんだそうだ。

 

 

 

「セツナ!」

 

「やぁ、アマネ。マキちゃんも」

 

「ヤッホー!」

 

「セツナも来たのね、おめでとう」

 

「ありがとう。二人もね」

 

 

 

 本選で彼女達と闘えるのが楽しみだ。

 

 ……ん? 何やら背後に誰かが立ってる気配が──

 

 

 

「会いたかったわ、セツナちゃん♡」

 

「!」

 

 

 

 (あで)のある低い声で(ささや)かれたと思ったら、突然、お尻を撫でられた。

 

 

 

「うひゃ!?」

 

 

 

 全身の産毛が急激に逆立ち、脊髄(せきずい)反射で飛び退()く。

 そこでボクは痴漢の正体を見た。紺色の髪を揺らす、長身の()()だった。

 

 

 

「ヨ、ヨウカちゃん……!?」

 

「ハァイ、予選2日目以来ね。また会えて嬉しいわ」

 

 

 

 蝶ヶ咲(ちょうがさき) (ヨウ)()。C-ブロックでコータを倒した十傑。そして、オカマである。

 

 

 

「アナタ、イイお尻してるわね。ウフフ♡」

 

「 」

 

 

 

 繰り返すけど、この人は男で、オカマである(震え声)。

 

 

 

「さっすがセツナくん、オトコにもモテモテだね!」

 

「いやマジやめてマキちゃん。ボクにソッチの趣味ないから」

 

「えぇ~本当かな~? いつもルイちゃんとイチャイチャしてるじゃ~ん」

 

「ルイくんをそんな目で見た事ないからね!?」

 

 

 

 確かにルイくんは可愛いけど! お持ち帰りしたいとか弟に欲しかったとか何千回と思ったけど!

 あ、あれ? おかしいな、いや、まさか、そんな筈は……

 

 

 

「あぁーっ!! クマ(にい)それオイラの肉ーっ!!」

 

「じゃかあしいっ!! 早いモン勝ちじゃあっ!!」

 

「?」

 

 

 

 騒がしいな……どうしたんだろ?

 

 

 

「──!?」

 

(デカッ!?)

 

 

 

 なんだアレ!? スキンヘッドでタンクトップ姿の巨漢がテーブルに並んだ料理をガツガツと(むさぼ)り食ってる!

 早食い選手権みたいな一心不乱な食いっぷりに、周りの人達ドン引きしてる!

 

 

 

「あらあら、リキオちゃんにキスケちゃんね? 華やかなパーティーの場で美しくないわよ」

 

「むおっ?」

 

「あ、ヨウ(ねえ)

 

 

 

 ヨウカちゃんが呆れた様子で話しかけると、巨漢は厚切りローストビーフを口に(くわ)えたまま振り向き、その巨体の影から()(がね)色の短髪の小柄な男の子が、ひょっこりと顔を出した。

 

 彼は知ってる。ヨウカちゃんと同じ十傑の、虎丸(とらまる) ()(スケ)くんだ。そんなところにいたんだ。

 

 

 

「おう、蝶ヶ咲。お前さんも来とったか。んん? 横のメガネは確か……」

 

「おっ! セッちゃんじゃーん! おひさー! オイラのこと覚えてるー?」

 

「もちろん覚えてるよ虎丸くん。相変わらず元気そうだね」

 

「リキオちゃん、この子が総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)ちゃんよ。アナタも名前くらいは聞いてるでしょ?」

 

「おうそうじゃったそうじゃった! なるほど、お前さんが九頭竜を負かしたっちゅー噂の転入生か!」

 

 

 

 ヨウカちゃんに『リキオちゃん』と呼ばれた大男が、ズンズンと大股で歩いてボクの前まで接近してくる。

 

 えっ、ウソ、立ち上がると想像以上にデカ……デカ過ぎない!? ケイくんや九頭竜くんよりもさらに……2メートルは越えてる!!

 

 しかも体格は、ボディビルダー顔負けの超・筋肉質。とても同じ高校生とは思えない。

 上着がタンクトップ1枚だけという、TPOガン無視の服装だから、丸太の様に極太な上腕二頭筋がありありと見える。決闘者(デュエリスト)にそんな筋肉必要なんですかねぇ……

 

 

 

「ワシは3年の熊谷(くまがい) (リキ)()っちゅー(モン)じゃ。よろしくのぉ」

 

「う、うん。よろしく、熊谷くん」

 

「ふぅむ……しっかし細いのぉ。ちゃんと(メシ)は食っておるんか?」

 

 

 

 熊谷くんは自分のアゴに大きい手を添えながらボクを見下ろした。彼のアゴは縦に二つに割れていた。

 いやいや、君が大き過ぎるんだって。

 

 

 

「むっ、細いとは失礼な。ボクだって脱いだら凄いんだよ!」

 

「脱ぐなっ!!」

 

 

 

 ネクタイをほどいてシャツを開こうとしたら、アマネに頭をひっぱたかれた。

 うん、ナイスツッコミ。正直ノリに任せて脱ごうとしてたから、止めてくれなかったらどうしようかと思ってた。

 

 

 

「ガッハッハッ!! 面白い奴じゃ!」

 

 

 

 野太い声で豪快に笑う熊谷くん。ところで、ボクはさっきからソワソワしているんだ。どうしてかって? それは──

 

 

 

「ね、ねぇ熊谷くん。ちょっと腕……触ってみてもいい?」

 

「ん? おう、構わんぞい」

 

 

 

 快諾を貰ったので、恐る恐る熊谷くんのぶっとい二の腕に触れてみる。こんなムキムキな身体を見たら誰だって触ってみたくなるんじゃないかな。ならない?

 

 

 

「……うっわー、すごく固いし、おっきい……」

 

「ガッハッハッ! そうじゃろぉそうじゃろぉ! 毎日(きた)えとるからな!」

 

 

 

 質感はもはや鉄のそれだ。ここまで鍛え上げるのに、一体どれほどの年月を費やしたんだろう。

 

 

 

「……ねーねーアマネたん。セツナくんってもしかしてー……」

 

「……さすがにそれは無いでしょ、たぶん……」

 

「でもあたしも触りたーい! 触らせてー!」

 

「あ、ちょっと、マキちゃん!?」

 

 

 

 マキちゃんも一緒になって、熊谷くんの豪腕をベタベタと触り始める。ついでに腹筋も。

 

 

 

「わぁーホントだぁ! 太いし固ぁーい!」

 

「よぉーし! それじゃあワシの特技を見せてやろう! 二人とも、ワシの腕に捕まれい!」

 

「「?」」

 

 

 

 言われた通り、ボクは熊谷くんの右腕に、マキちゃんは左腕にしがみつく。

 

 

 

「しっかり捕まっとるんじゃぞぉ~? フンッ!!」

 

 

 

 その状態のまま、熊谷くんは両腕を目いっぱい振り上げた。当然ボク達の身体も持ち上げられ、足が床を離れて宙に浮く形になる。

 

 

 

「「おぉ~~~っ!?」」

 

「ガッハッハッハッ! 軽い軽い!」

 

 

 

 有り余る筋力を披露した熊谷くんに、周囲で見ていた人々は感嘆しながら拍手を送った。

 

 

 

「──ハハハッ。いつ見てもスゲー筋肉だなぁ、リキオ」

 

 

 

 と、そこへ見知らぬ青年が声をかけてきた。

 

 細身で背が高く、スマートな美男子だった。もうイケメンはお腹いっぱいだよ……

 

 特徴は癖っ毛が目立つ長めな灰色の髪と、両の耳たぶに付けた小さなトランプ型のピアス。右耳には赤のダイヤ。左耳には黒のスペード。

 あと何故か指先で、ルービックキューブをクルクル回している。

 

 そしてその青年の(かたわ)らに二人、背格好の似た男子生徒が立っていた。

 

 一人は笑ってるかの様に細められた糸目が印象的で、髪は黒みがかった短い茶髪。

 

 もう一人は見たところハーフだろうか? 外見は金髪リーゼントと、三人の中で一番ハデだ。

 

 

 

「おう、お前さん方もやっぱ来ておったか。ガッハッハッ、ますます本選が楽しみになってきおったのぉ」

 

「そんで? そこにぶら下がってるメガネくんが、噂に聞く総角 刹那くん?」

 

 

 

 灰髪の青年がボクの名前を呼んだ。ボクとマキちゃんは熊谷くんの腕を離して着地する。

 

 

 

「そうだけど、君は?」

 

「おっと失礼、自己紹介が先だったな。オレぁ3年の狼城(ろうじょう) (アキラ)ってんだ。よろしくな」

 

 

 

 見かけはチャラそうだけど、気さくなお兄さんって感じだね。

 

 

 

「狼城くんか。こちらこそよろしく」

 

「んで、こっちのキツネが豹堂(ひょうどう) 武蔵(ムサシ)

 

「ウハハ。だ~れがキツネやねん」

 

「こっちのリーゼントが(いぬ)() ベンジャミンだ」

 

「ハロー! ミーの事は『ベンジャミン』と呼んでくれ。Nice to meet you !!(よろしく!)」

 

「豹堂くんにベンジャミンくんだね。よろしく」

 

 

 

 熊谷くんも含め、みんな強者のオーラがビンビンでいらっしゃる。

 

 

 

「……もしかして、みんな十傑だったりする?」

 

「おっ、正解。一目で見抜くたぁ、なかなかやるじゃねぇのよ」

 

 

 

 狼城くんはニッと笑って肯定した。

 今ここに集まっている十傑は全部で6人か。

 残るは鰐塚(ワニヅカ)ちゃんに九頭竜くんにカナメ……で、9人。

 最後の一人は、まだ会った事ないな。一体どんな人なんだろ。

 

 

 

「そこを退()けい! ()の道を塞ぐとは無礼であるぞ!」

 

「あ、ごめん……余?」

 

 

 

 張りのある声が背中にぶつけられた。そちらに顔を向けると、腰まで伸びた朱色(しゅいろ)の長髪を(なび)かせながら仁王立ちしている青年と目が合った。例によってこれまた美形なんだけど、よっぽどボクが邪魔なのか仏頂面になっている。

 

 

 

()が高いぞ貴様! 控えおろう! 余は誇り高き(オオトリ)一族の末裔(まつえい)(オオトリ) 聖将(キヨマサ)であるぞっ!!」

 

「え、えぇーっと?」

 

 

 

 この場合「ははぁ~っ」って言って、しゃがむのが正解なのかな?

 ボクがリアクションに困っていると、狼城くんが凰くんの肩を抱いた。

 

 

 

「よっ、キヨマサ」

 

「ムッ、狼城。馴れ馴れしいぞ」

 

「そーツンケンすんなよ。十傑同士、仲良くやろうぜ?」

 

(!)

 

 

 

 どうやら凰くんこそが最後の十傑らしい。にしても……

 

 

 

(本当にいたんだ、一人称が『余』の人って……)

 

 

 

 ボクは謎の感動を覚えた。

 

 

 

(……ううぅ、目の前にセツナさんがいるのに話しかけづらいですわ~~~っ!)

 

「おやおや~? どうしたんですかワニ嬢さーん」

 

「きゃ!? あ、貴女はセツ……総角さんと一緒にいた……!」

 

「どうもー、観月 マキノです☆」

 

「おどかさないでくださいまし……! それとその呼び方はお止めと言った筈でしてよ!」

 

「まぁまぁ、そんな事より~」

 

「な、なんですの?」

 

「知ってますよ~。セツナくんとお友達になりたいんでしょ?」

 

「んなっ!? な、なななな、何を!?」

 

(うひゃー、分かりやすい反応。こんなにイジり甲斐のある人だったなんて)

 

「手伝ってあげましょうか?」

 

「え?」

 

「まずは連絡先の交換から!」

 

「ちょ!? 引っ張らないでくださらない!?」

 

「セツナくーん!」

 

「ん?」

 

 

 

 マキちゃんの声だ。あ、鰐塚ちゃんも一緒にいる。

 

 

 

「やぁ鰐塚ちゃん、久しぶりだね」

 

「あ、は、はい! ごごごご機嫌(うるわ)しゅう!?」

 

「それではごゆっくり~」

 

(観月さんんんんんっ!? 今ここで二人っきりにされても困りますわぁーっ!!)

 

「あれ? マキちゃん行っちゃった。どうしたんだろ?」

 

 

 

 まぁいいや、あの子がフラフラと()()かへ消えちゃうのはいつもの事だし。

 

 鰐塚ちゃんと向かい合う。相変わらず綺麗な人だ。心なしか初めて会った時の刺々(トゲトゲ)しい雰囲気が(やわ)らいで、可愛さが増した気もする。

 

 

 

「っ……!」

 

(こ、こうなったら……ヤケですわ!)

 

「あ、あの! セ……総角さん!!」

 

「なんだい?」

 

(まずは連絡先の交換から……でしたわね!)

 

「っ……そ、その……もしよろしければ、わ、ワタクシと──」

 

 

 

 鰐塚ちゃんが何かを言いかけた時だった。場内が緩やかに消灯され、直後、奥にあるステージがライトアップされた。

 

 

 

『皆様お待たせ致しました。只今より、デュエルアカデミア・ジャルダン校・選抜デュエル大会──本選トーナメントの抽選会を開催します!』

 

 

 

 マイクを持った司会の挨拶に、来賓の人達が拍手で応える。

 

 

 

『それでは早速ですが、本選に出場する選手の皆様は、ステージ上にお集まりください!』

 

「だってさ。行こ、鰐塚ちゃん」

 

「え、えぇ……」

 

(キーッ!! なんて()の悪さですの!? 貴重なチャンスでしたのに!!)

 

「……あっちゃー、ワニ嬢ちゃんダメだったかー」

 

 

 

 ボク達が登壇すると、砲列していたカメラのフラッシュが待ってましたとばかりに一斉に焚かれた。

 まさか自分がテレビに映る日が来るなんて夢にも思わなかった。しかもこれ生中継なんだって。みんな観てるー?

 

 

 

『3日間に(わた)り行われた熾烈な予選を通過し、本選に勝ち進んだ16人の決闘者(デュエリスト)達です! 今年は2年生が4人、3年生が12人! 特に3年は、なんとあの『ジャルダン十傑』が全員揃い踏みという豪華ラインナップ!! 例年を上回る激戦を魅せてくれる事でしょう!!』

 

 

 

 1年生は全滅で、4分の3が3年か。さすが最上級生、レベルが高い。

 壇上に続々と本選の出場者が参列する。十傑が全員来ているなら、()()()()も現れる筈──

 

 

 

(……! ようやくお出ましか……)

 

 

 

 その二人が登場した途端、会場が(にわか)にざわついた。あちこちから『来た……来た……』と声が()(だま)する。

 

 片や紫色の髪と瞳に褐色の肌が特徴的な、厳つい雰囲気だけど端整な顔立ちの美男子──九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)

 

 

 

「ケッ!」

 

 

 

 片や黒髪で、氷の様に冷たい碧眼(へきがん)を持つ美青年──鷹山(ヨウザン) (カナメ)

 

 

 

「…………」

 

 

 

 学園のツートップが注目を一気に独占し、この場の空気は彼らに持ってかれた。

 

 

 

貫禄(かんろく)あるねぇ、二人とも……まるでプロみたい)

 

 

 

 これでついに十傑のメンバー全員が一堂に会した。

 野生児にお嬢様にオネエにマッチョに色男に関西弁にハーフに王族にヤンキーに……学園最凶。

 キャラの濃い(メン)()が勢揃いで、何というか……凄い絵面だ。

 

 

 

『では2年生から順に、一人ずつ紹介していきましょう! まず、彗星(すいせい)の如く現れ、選抜デュエル大会初参加にして本選出場! 今大会のダークホース──総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)!!』

 

(うわ、いきなり来た!?)

 

 

 

 気の利いたパフォーマンスとかはできないので、とりあえず一歩前に出て笑顔で手を振っておいた。

 

 

 

妖艶(ようえん)な美貌で対戦相手を惑わすクールビューティー! 黒雲(くろくも) 雨音(アマネ)!!』

 

「わ、私そんな風に見られてたの?」

 

『可愛い見た目とは裏腹に狡猾(こうかつ)戦術家(タクティシャン)! ()(づき) マキノ!!』

 

「イエーイッ!」

 

 

 

 どこか気恥ずかしそうなアマネと、満面の笑顔を咲かせてダブルピースするマキちゃん。

 

 

 

『2年生最後の一人は次期十傑候補! 自称・東海の人喰い(ザメ)──鮫牙(サメキバ) (ジョー)!!』

 

「シャアッ!!」

 

 

 

 モヒカンヘアーで鼻ピアスを付けた、奇抜な風貌の男が声を上げた。

 

 

 

「どいつもこいつもオレサマの牙で食い散らかしてやるぜ!」

 

 

 

 そう言い放ち、鮫牙くんはニヤリと笑うと、鮫の牙の様に鋭く(とが)ったギザギザの歯を、自慢げに見せつけた。

 今さらだけど十傑も次期十傑候補も、本当イロモノ揃いだよね。

 

 

 

『続いて3年生の選手の紹介です! 一人目は今年で二年連続の本選出場! IQ180の頭脳を誇る秀才決闘者(デュエリスト)──()() 和正(かずまさ)!!』

 

「フッ」

 

 

 

 3年生で最初に紹介を受けたのは、掛けているメガネを指先でクイッと押し上げたインテリ風の青年。髪は深緑色で、前髪をセンター分けしている。

 

 

 

『二人目は3年目の大会出場にして、今年ついに本選進出! 不屈のチャレンジ・スピリッツ──(おお)() (さぶ)(ろう)()!!』

 

()()ッ!!」

 

 

 

 茶髪を後ろで結んだ精悍な顔つきの好青年が声を張る。横目でも、その瞳には熱い情熱が秘められているのが感じ取れた。

 

 

 

『さぁここからはアカデミアが認めた十人の強豪──〝十傑〟の紹介です!』

 

 

 

 途端に賑わう場内。ボク達、あからさまに前座扱いされてるね。

 

 

 

『野生の勘で決闘(デュエル)を制する超天然決闘者(デュエリスト)──虎丸 喜助!!』

 

「ニハハハーッ!」

 

『十傑の紅一点! 気高き絶世の美女──鰐塚 ミサキ!!』

 

(これが終わったらすぐにセツナさんのところに行きますわよ!)

 

「あら、紅()()だなんて心外ね。アタシだってココロはオンナよ?」

 

「貴方はニューハーフでしょう?」

 

『蝶のように舞い、蜂のように刺す! 戦場に咲く一輪の華──蝶ヶ咲 妖華!!』

 

「チュ♡」

 

決闘(デュエル)は常にパワー勝負! 剛力(ごうりき)()(そう)──熊谷 力雄!!』

 

()オオオォォォォッ!!」

 

 

 

 身長2メートル越えの巨人が吠える。存在感は抜群だ。

 

 

 

『未だ底を見せない笑顔の勝負師──豹堂 武蔵!!』

 

「ウハッ、なんや照れるわ~。まっ、よろしゅう」

 

『海外からの刺客! 犬居 ベンジャミン!!』

 

「地獄で会おうぜ、ベイベー!」

 

『伝統ある(オオトリ)一族の末裔──凰 聖将!!』

 

「うむ」

 

『去年の選抜デュエル大会、第3位! 通称・トリックスター! 狼城 暁!!』

 

「どーも」

 

 

 

 3位!? 驚いた……まさかカナメや九頭竜くんに次いで、トップ(スリー)に君臨していた実績があるなんて。

 

 

 

『そして……去年、一昨年と2年連続、準優勝。学園最強の二つ名で恐れられた天才決闘者(デュエリスト)──九頭竜 響吾!!』

 

 

 

 九頭竜くんは不機嫌そうにしかめっ面をしているだけで、何の反応も示さない。

 

 

 

『最後は優勝候補筆頭! 選抜デュエル大会2年連続優勝! 今年は前代未聞の3年連続ノーダメージでの予選突破を達成! いよいよ今年、大会3連覇に〝王手〟をかけた、ジャルダンの生ける伝説と呼ばれる無敗の決闘者(デュエリスト)!! またの名を、学園最凶──鷹山 要!!』

 

 

 

 ちょっとちょっと。カナメだけ無駄に持ち上げ過ぎじゃない? 贔屓(ひいき)だ贔屓。

 ほら、他のみんな何かピリピリしてるよ。九頭竜くんなんて殺気立ってるし。おっかないおっかない。

 

 にしても、今年優勝したら3連覇って凄いな。そりゃ世間の注目度も期待値も高いわけだ。

 

 

 

『それでは、今年(こんねん)度の本選出場者を代表して、鷹山選手に挨拶を頂きましょう!』

 

 

 

 カナメがマイクスタンドの前に立つ。はてさて何を言い出すやら。

 

 

 

『……挨拶か……ちょうどいい機会だ、ひとつだけ言わせてもらおう。俺にとってこの大会は──ただの暇潰しに過ぎない』

 

「!!」

 

 

 

 わぁお、いきなり爆弾発言。華やかなパーティー会場は、一瞬にして殺伐とした空気に包まれた。

 

 

 

『何故なら俺に勝てる決闘者(デュエリスト)など、この学園には一人も存在しないからだ。まぁ何人か(たの)しめそうな奴はいるがな……故に俺がお前達に望む事は、たった1つだ。少しでも、俺の退屈を紛らわせられるよう努力してくれ。──諸君の健闘を祈る』

 

 

 

 ……!! いやぁ、言うねぇ……諸君の健闘を祈る、なんて、大会に参加する側のセリフじゃないでしょ。大口を叩かせたら右に出る者はいないね。

 大胆不敵な物言いに圧倒されたのか拍手は起こらなかった。カナメの挨拶という名の挑発は、他の選手を()()させるには十分な効き目を発揮した。

 

 

 

「……ニハハ。オイラ達も舐められたもんだね」

 

「気に入りませんわ……!」

 

「あらあら、言ってくれるじゃない」

 

「ガッハッハッ! 上等上等っ!」

 

「ずいぶん見くびられたもんやな~?」

 

「Oh~!! こういうの日本語で『ケンカ売ってる』って言うのかい?」

 

()(そん)な……余が叩き潰してくれる!」

 

「ヒュウ♪」

 

「くだらねぇ……鷹山を倒すのはこの俺だ!」

 

 

 

 十傑を始め、みんなカナメに対し憤りや敵意を露にしている。学園きっての一大イベントである選抜デュエル大会を暇潰し呼ばわりしたとなれば、反感を買うのは当然と言えば当然だ。誰もが特別な想いを(いだ)いて、この大会に臨んでいるのだから。司会者さんも困った顔してる。

 

 

 

『あ……ありがとうございました……そ、それではこれより、トーナメントの組み合わせを決定したいと思います!』

 

 

 

 司会者さんは気を取り直して、十枚とちょっとくらいのカードの束を取り出した。

 

 

 

『今から私がここにあるカードをシャッフルして1枚ずつ横に並べます。カードの枚数は16枚。選手の皆様には、この中から好きなカードを1枚だけ引いて頂きます!』

 

 

 

 ……なるほどね。

 

 

 

『カードには1から16まで、番号が描かれています。その番号によって組み合わせが決まります!』

 

 

 

 要するにくじ引きか。誰と当たるかは自分のドロー運で決まると。

 でもどうせなら、ブルーアイズのビンゴマシーンとか使えば面白いのに。

 

 

 

『では名前を呼ばれた選手から順に一人ずつカードを引いてください。まずは鷹山選手!』

 

 

 

 カナメからスタートして、一人ずつテーブルの上に並んだカードを引いていく。次はボクの番だ。

 

 

 

「……んじゃ、ボクはこれ」

 

 

 

 選んだのは、たまたま手近にあった1枚。番号は……

 

 

 

(10番……右のブロック、5試合目か)

 

 

 

 もしカナメが『9番』を引いていれば、緒戦で当たれる。さぁどうなる……?

 

 

 

『──それでは皆様! カードを表にしてください!』

 

 

 

 一斉にカードをオープンする。結果は──この通り。

 

 

 

【選抜デュエル大会・本選──トーナメント1回戦】

 

 第1試合 鷹山 要 vs 大間 三郎太

 

 第2試合 鮫牙 丈 vs 豹堂 武蔵

 

 第3試合 九頭竜 響吾 vs 壬生 和正

 

 第4試合 蝶ヶ咲 妖華 vs 虎丸 喜助

 

 第5試合 熊谷 力雄 vs 総角 刹那

 

 第6試合 黒雲 雨音 vs 犬居 ベンジャミン

 

 第7試合 凰 聖将 vs 観月 マキノ

 

 第8試合 狼城 暁 vs 鰐塚 ミサキ

 

 

 

『トーナメント1回戦の組み合わせが決定いたしました!!』

 

(えぇ~~~~~っ!?)

 

 

 

 ボクは膝から崩れ落ちたい気分になった。カメラの前なので、どうにか(こら)えたけど。

 カナメ……よりにもよって反対側のブロックって……じゃあカナメと()るには、決勝戦まで行かなきゃならないって事ぉ~!?

 やっとの思いで()()まで来たのに、気が遠くなる話だ……トホホ。

 

 

 

(まぁでも……いっか)

 

 

 

 同じ右ブロックに、アマネとマキちゃんもいるからね。

 ……ん? これ、カナメと九頭竜くんは左のブロックという事は……

 

 

 

「……フッ、なるほどな。九頭竜、どうやらお前との学園での最後の決戦は……準決勝に決まった様だ」

 

「ハッ! どこだろうと関係ねぇ。今度こそテメェを撃ち殺してやる!!」

 

「……おうおう、お前ら、俺達なんて眼中にねぇって言い草だな?」

 

 

 

 二人の会話に割って入ったのは、大間くんだ。隣では壬生くんがメガネを上げながら立っている。

 

 

 

「鷹山! お前の最初の相手は俺だって事を忘れんな? あんまし余裕ぶっこいてっと、痛い目に遭うぜ!?」

 

「貴様もだ九頭竜。この私の頭脳を甘く見るなよ?」

 

 

 

 おー、どこもかしこも本選は明日からなのに、早くも火花を散らしてるよ。

 

 

 

「ガッハッハッハッ!! 早速お前さんと()れるとはのぉ! 手加減はせんぞぉ総角!!」

 

「もちろん。楽しもうね、熊谷くん!」

 

(私の相手は十傑の犬居か……望むところよ!)

 

「ユーみたいなステキなレディと闘えるなんて、ミーはシアワセだね!」

 

「ウハ~、鷹山の旦那と同じブロックかいな。こりゃ参るわ~」

 

「シャアッ!! 〝最強〟の座も〝最凶〟の座も、全部オレサマが頂くぜぇ!!」

 

(せせせ、セツナさんと同じブロックですわぁ~!! カメラが無かったら飛び上がっていたかも……!)

 

「ふーん? ま、いーんじゃね?」

 

「フフ……キスケちゃんなら相手にとって不足なし……ネ♡」

 

「ヨウ姉が相手かー! 負けないかんねー!」

 

「余の緒戦は小娘か」

 

「お手柔らかに~♪」

 

 

 

 もうこうなったら本気で優勝するつもりで挑むしかないね。この際、行けるところまで行ってやるさ!

 

 

 

 





 ついに十傑が出揃いました。全員クセが強い(白目)
 何名か名前で使用デッキバレそう。

 キャラが多いと書き分けが本当に大変ですな(汗)
 一応セリフだけでも、どのキャラが喋ってるか分かる様に普段から気をつけて書いていますが、もし『このセリフ誰や!!』という箇所がありましたら遠慮なくご指摘ください。

 P.S.令和でもどうぞよろしくお願いします!


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TURN - 34 Unbreakable spirit !!


 安定の遅筆……3ヶ月ぶりです、作者は忙しいですが元気です。

 今回ちょっと長いです。あと後書きも長いです。後書きは読まなくても大丈夫です←

 そしてまた主人公が空気です。

 セツナ「えっ」



 

 (はや)() (ふみ)(あき)は週刊誌『DUEL(デュエル) MAGAZINE(マガジン)』の出版社に勤める敏腕(びんわん)ジャーナリストである。

 この日、彼は新人社員の後輩を引き連れて、ある場所へと取材に向かっていた。

 

 

 

「は、早瀬さん待ってくださ~い!」

 

 

 

 カバンを抱えた若い女性が慌ただしげに早瀬の後を追う。

 

 

 

「遅いぞ(あら)()。ジャーナリストはスピードが命だ。モタモタしてると貴重なスクープを(のが)しちまうぞ」

 

「今日は今まで以上に気合い入ってますね~?」

 

「当たり前だ。何せ今日からアカデミアで、どでかい大会が始まるんだからな」

 

「選抜デュエル大会、でしたっけ?」

 

「あぁそうだ。俺の可愛い可愛い愛娘(まなむすめ)の、()(ふみ)(かよ)ってる学園だ」

 

「早瀬さん、また親バカ発動してますよ~」

 

「やかましい。そら、着いたぞ」

 

 

 

 二人の目線の先に在るのは広大な敷地を有する学園だ。その校舎は呆れ返るほど巨大にして高層。それを仰ぎ見る新井の口がポカンと開きっぱなしになったのも無理はない。

 

 

 

「でっかぁ~……! これ本当に学校ですか!? どこかの城ですよ、まるで!」

 

「プロリーグと同じ規模の大会を校内でやろうってんだからな。こんなにデカイデュエルアカデミアは、世界中探してもここだけだろうよ」

 

 

 

 校門を潜ると多くの学生の姿が。ここにいる全員が将来の決闘(デュエル)界を担う、プロ決闘者(デュエリスト)のタマゴなのだ。

 この学園は中高一貫校で、制服の色が中等部は青、高等部は黒と分けられている。その目に優しい配色が、奥に(そび)える(まな)()の白を基調とした外装をバックに、シックなコントラストを表現している。

 未来ある若者達の活力(あふ)れる鮮やかな場景。もし画家が見れば筆を取らずにはいられない事であろう。気づけば新井も手持ちの一眼(いちがん)レフを構えてシャッターを切り、眼前に広がる青春の1ページを写真に収めていた。

 

 すれ違う生徒達から物珍しそうな視線が二人に浴びせられる。自分より年下しかいない空間に新井はすっかりドギマギしてしまっているが、彼らの倍は生きている早瀬は逆に慣れたもので、気にした様子もない。

 

 

 

「おはよう、ルイくん、ケイくん」

 

「あ、セツナ先輩。おはようございます」

 

「おはようごぜぇやす! セツナの(あに)さん!」

 

「朝から元気だねーケイくん」

 

「先輩、今日からいよいよ本選ですよね。応援してます!」

 

「ありがとうルイくん、頑張るよ。それじゃあ今日も張り切って行こっか!」

 

「わわっ!?」

 

「そういや(あに)さん、昨日テレビ観ましたぜ。堂々としててカッコ良かったですぜ!」

 

「そう? 照れるなぁ、あはは」

 

 

 

 赤いメガネを掛け、黒のブレザーを纏った銀髪の少年が、同じ色の服装の、茶髪で背が低い生徒──女子かと思ったが、スカートでなくスラックスを履いているので、どうやら男子の様だ──の細い肩に腕を回し、髪がオレンジ色で青い制服を着ている大柄な男子と共に、3人で談笑しながら校舎内へと歩いていく。

 うら若き学生達の仲睦(なかむつ)まじい姿を眺め、新井は微笑みながら感慨深げに呟く。

 

 

 

「良いですね~、学生って。私もあんな青春を送りたかったなぁ~」

 

「発言が(とし)()くさいぞ新井」

 

「んなっ!? 私だってまだ二十代前半ですしーっ!!」

 

「どうでもいいからさっさと行くぞ」

 

「あっ! 待ってくださいってば~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早瀬と新井が足を運んだ場所は、ドーム状の建造物。そこは校内に多数ある決闘(デュエル)ステージの中でも、最大規模の面積を誇るフィールド──その名も、『センター・アリーナ』。

 

 ジャルダン校の象徴として世界に広く知れ渡っている施設であり、街の観光名所の1つにも数えられている。

 生徒達は毎年ここで秋季に行われる、『選抜デュエル大会』の本選に出場し、優勝する事を学園生活における最大の目標として掲げ、日々研鑽(けんさん)を積む。

 これこそ、この学園がプロリーグへの登竜門と呼ばれる所以(ゆえん)。まさに生徒達にとっては夢の舞台、憧れの地なのである。

 

 (もっと)も……ここ3年間は鷹山(ヨウザン) (カナメ)という一人の生徒の台頭によって、他の生徒の優勝は望み薄となり、せめて本選に出たという実績だけでも残そうと、全体的に消極的な姿勢になってしまっているのが実状だが。

 

 記者専用の入場口を通過した二人の視界に、広く(ひら)けた場内に多くの来場者が殺到している賑わしい光景が飛び込んできた。

 

 

 

「うーわー、すごい人! こんな中で決闘(デュエル)するなんて緊張しそうですね~! 私だったら足ガクブルですよ~」

 

「おぉ~」

 

 

 

 中央に設置された決闘(デュエル)フィールドを包囲する四方の観客席が、大会開始1時間前にして、すでにほぼ満席という客入りの良さ。

 また、生徒用に仕切られた座席も空席を見つけ出すのが困難なほど埋まっており、大会期間中は登校の義務も無い生徒達がこれだけ集まるという事から、この『イベント』の人気と重要性が窺い知れる。

 それは何年もこの大会を取材してきたベテランの早瀬さえも目を見張るほどの盛況ぶりだった。

 

 

 

「やはり今年は『黄金(おうごん)世代』がいるだけあって、盛り上がりが例年の比じゃねぇな」

 

「黄金世代?」

 

「なんだ新井。ウチで働いてるくせに、そんな事も知らないのか?」

 

「うぐぐ」

 

「──鷹山(ヨウザン) (カナメ)。この名前くらいは、さすがにお前も知ってるだろ?」

 

「そりゃーもちろん知ってますよ! ジャルダンの生ける伝説! 学園最凶! でしょ? この街に居たら、嫌でも噂は聞きますよ!」

 

「そう。その鷹山 要を筆頭に、今年の『十傑』は過去最強の(メン)()と言われている。黄金世代とまで呼ばれる程にな」

 

「じゃあ……優勝はその黄金世代の中の誰か、ですかね?」

 

「どうかな……恐らく今年も優勝は鷹山で決まりじゃないか?」

 

「そうなんですか?」

 

 

 

 早瀬はおもむろに自分のカバンを漁ると、一枚の紙を取り出して新井に手渡した。

 

 

 

「面白いもん見せてやる。鷹山の()()()()()の時の通算戦績だ」

 

「? ……──!?」

 

 

 

 それを見た途端、新井の全身を戦慄が駆け抜けた。顔色は青ざめ──

 

 

 

「は、早瀬さん……これっ、て……!」

 

 

 

 声は震えた。新井もジャルダン(この街)で生活している以上、実力はそこそこだが一応は決闘者(デュエリスト)(はし)くれ。その彼女から見ても、そこに書かれているのはあまりに非現実的な──平たく言えば、()()()()()数字だった。

 (そら)()か見間違いであってほしいと(なか)ば祈る様な気持ちで新井は目を(こす)るが、しかし何度穴が空くほど見直しても、紙面に記された文字列は、信じ難い現実は変わらない。

 

 

 

 『681戦 681勝 (ゼロ)敗』

 

 

 

 繰り返すが、これは鷹山 要が中等部1年生の時点──すなわち、当時13歳の少年が残した実績である。

 

 異常──としか言い様がない。(なに)せ勝率だけなら、()決闘王(デュエル・キング)をも(しの)いでいるのだから。

 数年前、若冠12歳にして全米チャンプの座に輝いた天才少女、レベッカ・ホプキンスが話題を呼んだが、鷹山 要は彼女に次ぐ──いや、それ以上の逸材(いつざい)に違いないと、アカデミアは勿論(もちろん)、ジャルダン全土が色めき立った。

 

 その後の5年間も今日(こんにち)に至るまで、彼の戦績に黒星が点く日はただの一度も無かった事は、もはや語るまでもないだろう。

 

 

 

「奴の強さは普通の物差しで計れる様なもんじゃねぇ……完全に別次元なんだよ。俺には他の出場者が気の毒に思えて仕方ないね」

 

 

 

 神妙な顔つきでそう話す早瀬の頬を、一筋の冷や汗が伝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──(こく)一刻(いっこく)と時計の針は進み、ついに開始予定時間を指し示した。

 

 

 

『エビバディリッスン!! ついに! デュエルアカデミア・ジャルダン校主催! 選抜デュエル大会本選──アリーナ・カップの開催だぁーーーッ!!』

 

 

 

 アフロヘアーに星形サングラスという、ディスコやクラブのダンサーにいそうなパンチの効いた格好の男性が、片手に握り締めたマイクを通し、ハイテンションな声で祭りの始まりを高らかに宣言する。

 

 途端、それに応える様にして、満員の会場内で爆発的に沸き起こる大歓声。

 待ちわびていた観客一人ひとりの期待と興奮に満ちた喝采が大合唱となって鳴り響き、ドームを揺らす。

 

 いきなり急上昇した観衆の熱気に圧倒される新井だったが、隣でカメラを構える早瀬に気づいて本来の目的を思い出し、急いで自らの仕事に従事する。

 

 

 

『ジャルダンのナンバーワンを決める、年に一度の決闘(デュエル)の祭典!! 果たして、今年の頂点の座を掴み取る決闘者(デュエリスト)は誰なのか!? (なお)、実況は(わたくし)、カードショップ・GARDENの店長、マック()(とう)がお送り致します!』

 

 

 

 そう、彼こそがジャルダンの一番街で経営している唯一のカード販売店・『GARDEN』の店長を務める──人呼んで、マック伊東である。

 アカデミアとは古い付き合いで親交が深く、長年この大会のMCを担当しており、街ではちょっとした有名人だったりする。

 余談だが実は学園のOBらしい。

 

 

 

『それでは早速、本選の出場者を紹介しよう!! 総勢512人の参加者が集う厳しい予選を勝ち抜き、見事このセンター・アリーナの舞台に立つ資格を得た、誇り高き16人の戦士達だぁーっ!!』

 

 

 

 スモークが吹き上がる派手な演出を合図に、より熱量を増した歓声と万雷の拍手に迎えられながら、十数名の人影がゲートの奥から入場。舞台に続々と集まっていく。

 

 その先頭を涼しい顔で切る黒髪の青年こそ、早瀬が優勝候補と(もく)した決闘者(デュエリスト)──鷹山 要。

 新井は先程見せられた、彼の無敗の戦績表が想起し、固唾を飲んだ。

 

 出場者が全員ステージ上に立ち並ぶと、一人ずつ大画面のモニターに顔を映される。

 

 鷹山 要

 九頭竜 響吾

 虎丸 喜助

 鰐塚 ミサキ

 蝶ヶ咲 妖華

 熊谷 力雄

 狼城 暁

 豹堂 武蔵

 犬居 ベンジャミン

 凰 聖将

 大間 三郎太

 壬生 和正

 鮫牙 丈

 総角 刹那

 黒雲 雨音

 観月 マキノ

 

 500人超の挑戦者が潰し合う、戦争さながらの激闘を生き残り、狭き門を突破した16人。

 カナメと九頭竜に代表される十人の精鋭・『十傑』の黄金世代に加えて、鳴り物入りの新星・総角 刹那を始め、強力な新人(ルーキー)が参戦。

 

 一癖(ひとくせ)二癖(ふたくせ)もあり、個性的でアクも強く、話題性抜群のオールスターが集結した。

 

 彼らは予選で夢(なか)ばにして散っていった敗者達の想いを背負って、この場所に立っている。

 忘れてはならない──この大会の通称は『選抜()()』。

 つまりこれは今ここに集まっている観客だけでなく、各メディアや現役のプロまでもが注目を寄せる、大規模な()()()なのだ。

 自分の決闘(デュエル)が全世界発信の元、厳正に()()される。今年で2回目以降の出場となる経験者ならいざ知らず、初出場の選手にとって、その緊張と重圧(プレッシャー)は計り知れない。

 

 しかし世間の目に晒される中で決闘(デュエル)するなど、プロの世界では当たり前の事。

 連年、多くのプロを輩出し、現代の決闘(デュエル)界に強い影響力を持つ超名門・ジャルダン校の生徒としても、決して無様な姿は見せられない。

 

 

 

『さぁ役者は出揃った! 今年も最高の決闘(デュエル)を我々に見せてくれ! まずはトーナメント1回戦・第1試合! 鷹山 要 vs 大間 三郎太!!』

 

 

 

 モニターがトップバッター2名の顔写真を映し出した瞬間、またもや割れんばかりの歓声が起こった。

 それもその筈。今大会における〝最注目株〟の決闘(デュエル)を、早くも拝めるのだから。

 

 

 

『なんと! 初戦からあの学園最凶・鷹山 要がお出ましだぁーッ!! これはいきなり波乱の予感だぞぉーっ!』

 

 

 

 MCの実況が観客を更に煽り、掻き立てる。

 フィールドにはカナメともう一人、対戦相手の大間 三郎太のみが残った。

 他の選手は退場し、控え室に移動する。

 

 

 

「……たぶん、観客の皆さまは、初戦でアンタと当たった俺を可哀想だとか思ってるんだろうな」

 

 

 

 大間がデュエルディスクを左腕に着けながら、カナメに話しかけた。

 

 

 

「だがな、俺はむしろラッキーだと思ってるぜ。アンタは覚えていないだろうが、俺は去年の選抜試験……予選の決勝でアンタに負けたんだ」

 

「…………」

 

「あと一歩ってところでアンタに負かされて、死ぬほど悔しくて……アンタにリベンジする事、そして今年こそ本選に行く事だけを考えて、この1年間努力してきた……そして今! 俺はついに念願のアリーナ・カップ出場を果たし! こんなにも早くリベンジマッチの機会に恵まれた! 俺は最高にツイてるぜ!」

 

「……言いたい事はそれだけか?」

 

「っ……! あぁ十分だ、後は決闘(デュエル)で因縁を晴らすまで!!」

 

 

 

 両者デュエルディスクにデッキを装填し、起動。カードをセッティングするプレート部分を展開。

 デッキがオートシャッフルされ、ライフカウンターが『4000』と数値を表示する。

 

 

 

『さぁいよいよ記念すべきアリーナ・カップ初戦! チャレンジャー・大間は、ディフェンディング・チャンピオン、鷹山 要にどう立ち向かうのか!? イ~~~ッツ! タイム・トゥ──』

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 カナメ LP(ライフポイント) 4000

 

 大間 LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

 大歓声が降り注ぐ中、大間の先攻で緒戦の()(ぶた)は切って落とされた。

 

 

 

「俺の先攻で行くぜ!」

 

(あぁちくしょう……まだ心臓がバクバク言ってやがる……中1の頃から6年間、ずっと目指してきたんだもんな、ここに立つ事を……)

 

 

 

 大間は追憶(ついおく)する。

 『選抜デュエル大会』。

 今、まさに自分が立っているこの舞台で、毎年繰り広げられてきた激戦を、羨望(せんぼう)(まな)()しで観戦していた中等部時代を。

 いつか自分も、あの最高のステージで決闘(デュエル)するんだと、それだけを夢見て積み重ねてきた、これまでの血の(にじ)む様な努力を。

 青春の全てを決闘(デュエル)に捧げてきた6年間を。

 

 そして、とうとう最終学年の高等部3年生へと進学した今年。

 〝不屈のチャレンジ・スピリッツ〟で、ついに最後のチャンスを掴み予選優勝。

 ようやく本選出場を決め、積年(せきねん)の悲願を達成した。

 この6年間は無駄ではなかった。自分の努力が報われた喜びに打ち震え、涙さえ流しながら快哉(かいさい)を叫んだ。

 

 だからこそ──許せない。

 昨日のトーナメント抽選会での、言うに事欠いてアリーナ・カップを『ヒマ潰し』などと吐き捨てた、あの鷹山 要の発言を。

 球児が甲子園を目指す様に、誰もが自分の夢を叶えるべく死に物狂いで目指す栄光の舞台を、この男は公然と侮辱したのだ。

 

 予選で完敗を喫した去年の雪辱に加えて、奴を倒す理由がもう1つ増えた。

 

 こいつにだけは絶対に──負けられない!

 

 

 

「俺は【不屈闘士レイレイ】を召喚!」

 

 

 

【不屈闘士レイレイ】 攻撃力 2300

 

 

 

 獣の両脚と尾を持つ偉丈夫がフィールドに立つ。筋肉の隆々とした浅黒い肉体に刻まれた無数の傷跡は、長きに渡り闘いの中で生き続け、どんな強敵を前にしても、どんな困難に直面しても決して屈する事なく、(あま)()の死闘を乗り越えてきた歴戦の闘士である証。

 それは(さなが)ら、大間自身の生き様を体現しているかの様でもあり──

 

 

 

「このモンスターは俺が人生で初めて手にしたカードだ。以来ずっと一緒に闘ってきた……永遠のマイフェイバリットカードなのさ! ──俺は相棒のこいつと共に! 必ずお前を倒す!!」

 

「ふん……」

 

「俺はカードを2枚伏せ、ターン終了(エンド)!」

 

「……俺のターン、ドロー」

 

 

 

 カナメがデッキの上からカードを1枚引く。ただそれだけの所作で、会場は騒然とした。

 

 

 

『さぁ大間選手、いきなりレベル4で攻撃力2300という破格のパワーを持つモンスターを出して、プレッシャーを掛けてきたぁ! これに対し鷹山選手はどう打って出るのかっ!?』

 

 

 

 観客の心理を的確に代弁する、MC・マック伊東の実況。

 決闘(デュエル)界に限らず、あらゆる勝負事の世界において、頂点に君臨する者は『勝って当たり前』という一方的な期待を周囲から背負わされ、常に〝勝利〟を義務づけられる宿命にある。

 たとえ相手が誰であろうと、断じて敗北は許されない。圧倒的な強さで(もっ)てして、完膚なきまでに敵をねじ伏せる──〝最強〟の座に相応(ふさわ)しい活躍を求められるのだ。

 

 ましてや常勝無敗を地で行く『学園最凶』・鷹山 要が万が一にも〝負けた〟となれば、メディアや世間はこれでもかと騒ぎ立て、彼の築き上げた権威は失墜を免れないだろう。

 

 ……しかし、当のカナメ本人は、それほどの重圧と重責を一身に受けても顔色ひとつ変わらない。

 元々の気質と器量、そして勝ち続けてきた自信(ゆえ)か。

 プレッシャー(そんなもの)はどこ吹く風と、至って平常心で冷静沈着に、プレイに着手する。

 

 

 

「俺は【氷帝(ひょうてい)()(しん)エッシャー】を特殊召喚」

 

 

 

【氷帝家臣エッシャー】 攻撃力 800

 

 

 

「このカードは相手の魔法・(トラップ)ゾーンに2枚以上カードがある時、手札から特殊召喚できる。そして【エッシャー】をリリースし、【氷帝(ひょうてい)メビウス】をアドバンス召喚」

 

 

 

【氷帝メビウス】 攻撃力 2400

 

 

 

「出やがったな……【(みかど)】!」

 

「【メビウス】がアドバンス召喚に成功した時、魔法・(トラップ)カードを2枚まで破壊する。よって貴様の伏せカードは全て──」

 

「それはどうかな! カウンター(トラップ)発動! 【(たたみ)(がえ)し】! 召喚時に発動する効果を無効にし、そのモンスターを破壊する!」

 

 

 

 召喚されたと同時に(あっ)()なく砕け散る氷帝。

 それを目撃した瞬間、マック伊東は大袈裟に身を乗り出した。

 

 

 

『なな、なんとぉーっ!? 大間選手! 鷹山選手の強力モンスターである【帝】を、あっさりと破壊したぁーッ!!』

 

 

 

 上級モンスター召喚により、いよいよカナメの容赦ない蹂躙が始まるかと思われた矢先。まさかの展開に観客席でも驚きの声が広がった。

 

 

 

「どうだ! そう易々(やすやす)とやらせはしないぜ!」

 

「……なるほど。俺は2枚カードを伏せ、ターンエンドだ」

 

 

 

 フィールドにモンスターは無く、伏せカードのみ。

 普通なら焦ってもおかしくない場面だが、やはりカナメは動じない。

 

 

 

「エースモンスターを破壊されたのに、ずいぶんと余裕じゃねぇか」

 

(まっ、んなこったろうと思ったがよ)

 

 

 

 とは言え、それくらいは大間の想像の埒内(らちない)であった。

 

 

 

「俺のターン!」

 

(よし、行ける!)

 

「一気に畳み掛けてやる! 俺は【漆黒(しっこく)の戦士 ワーウルフ】を召喚!」

 

 

 

【漆黒の戦士 ワーウルフ】 攻撃力 1600

 

 

 

「【ワーウルフ】か……バトルフェイズ中の(トラップ)の発動を封じるモンスターだったな。ならばバトル前に、永続(トラップ)を発動」

 

「なに!?」

 

「【()(げん)の帝王】。この(トラップ)をモンスターゾーンに特殊召喚する」

 

(トラップ)モンスターか……!」

 

 

 

【始源の帝王】 守備力 2400

 

 

 

『あぁーっと! 守備力2400! 【不屈闘士レイレイ】の攻撃力を、100ポイント上回っている! さすが鷹山選手、抜かりない!』

 

「チッ……」

 

「そしてこのモンスターを特殊召喚した場合、手札を1枚捨て、属性を宣言する。俺は『水属性』を宣言。これにより【始源の帝王】の属性は、水属性となる」

 

「……ヘッ!」

 

「?」

 

「その程度で止められると思うなよ! 手札から装備魔法・【()(どん)(おの)】を発動! 【レイレイ】に装備!」

 

 

 

 【レイレイ】の手に鉄製の(せん)()が握られる。

 

 

 

「【レイレイ】の攻撃力を1000アップし、効果を無効にする!」

 

『おぉーっと! 大間選手も負けてはいない! これで【レイレイ】の攻撃力は3300! 【始源の帝王】の守備力を大幅に越えたぁーッ! しかもそれだけじゃない! 【レイレイ】の効果を無効にした事で、攻撃後、守備表示になってしまうというデメリットまで打ち消した! 実に合理的な戦法だぁーッ!!』

 

「見たか! 今の俺は去年までの俺とは違うんだ!」

 

「フッ……」

 

「ん……? 何が()()しい?」

 

「その程度で俺を出し抜いた気になるとは滑稽(こっけい)だ」

 

「なんだとっ!?」

 

(トラップ)発動──【ダーク・アドバンス】」

 

「っ!」

 

「自分の墓地から攻撃力2400以上、守備力1000のモンスター1体を手札に加える。俺は【氷帝メビウス】を手札に。──その()、手札から同じ条件を満たすモンスター1体を、攻撃表示でアドバンス召喚できる」

 

「なっ……! まさか、また【メビウス】が出てくるのか!?」

 

「その通りだ。ただし──〝最上級〟のな」

 

「!?」

 

「【始源の帝王】は同じ属性のモンスターをアドバンス召喚する場合、1体で2体分のリリースにできる。水属性となった【始源の帝王】をリリース。レベル8の水属性・【凍氷帝(とうひょうてい)メビウス】を、アドバンス召喚」

 

 

 

 突如フィールドに強烈な冷気が渦巻く。

 立体映像(ソリッドビジョン)と解っていながらも、大間の身体は(さむ)()立った。

 

 

 

「現れろ──【凍氷帝メビウス】」

 

 

 

 顕現せしは氷を(つかさど)る帝王──その最上級形態。

 

 

 

【凍氷帝メビウス】 攻撃力 2800

 

 

 

『なんという事だぁーッ!! あわや上級モンスターを破壊され大ピンチかに見えた状況すら、最上級モンスター召喚の為の布石に変えてしまうとは! 恐るべし鷹山選手!!』

 

「【凍氷帝メビウス】がアドバンス召喚に成功した事で効果を発動。フィールドの魔法・(トラップ)カードを3枚まで破壊する」

 

「ぐっ……!」

 

「俺は貴様の【愚鈍の斧】と、2枚目の伏せカードを破壊」

 

「くっそーっ、みすみす破壊されてたまるかよ!」

 

(伏せカードは【鎖付きブーメラン】……ちともったいねぇが、せめて【メビウス】は守備表示にさせてもらうぜ!)

 

(トラップ)発動! 【鎖付きブーメラ──」

 

「無駄だ。水属性モンスターをリリースしてアドバンス召喚した、【凍氷帝メビウス】が破壊するカードは発動できない」

 

「なにっ!?」

 

「凍てつき、砕けろ。『ブリザード・デストラクション』」

 

 

 

 身を切るほどの(かん)()が吹き(すさ)び、【レイレイ】に装備される筈だった【愚鈍の斧】と、大間が伏せていた(トラップ)カード・【鎖付きブーメラン】を氷付けにして破砕した。

 モンスター強化は叶わず当初の目論見は破綻し、それどころか一瞬で戦況を引っくり返される始末。

 決闘(デュエル)趨勢(すうせい)は大間に(かたむ)きかけたかに思われたが、その(じつ)、初めからカナメの掌上(しょうじょう)で踊らされていただけだったのだ。

 

 

 

「くそっ……!」

 

「チェーン終了。さぁ、次はどうする?」

 

「……なら……手札から【一時休戦】を発動! お互いに1枚ドローする!」

 

『ここで大間選手、一度態勢の立て直しに入った! 【一時休戦】の効果で、次の鷹山選手のターンが終わるまで、両者が受けるダメージは全て(ゼロ)になる! 果たしてこの判断が吉と出るか凶と出るか!』

 

「……俺は、カードを1枚伏せる! これでターン終了だ」

 

 

 

 大間のプレイングに新井は何やら気になる点があったのか首を(かし)げた。

 

 

 

「あれ? 【レイレイ】を守備表示にしとかなくて大丈夫なんですか?」

 

「そりゃオメェ、守備力0なんだから鷹山がモンスターを増やしてきたら全滅しちまうだろうが」

 

「あ、そっか」

 

「記者の腕だけでなく、決闘(デュエル)も素人なんだな、お前は」

 

「ガーン!? シ、シロート……」

 

 

 

 ターンがカナメに移る。

 

 

 

「俺のターン。……少しは歯応えがあると思ったが……貴様の決闘(デュエル)には(やいば)のごとき鋭さも、弾丸のごとき威力も感じられない。……欠片(カケラ)もな」

 

「なんだと……!?」

 

「バトルだ。【メビウス】で【ワーウルフ】を攻撃」

 

「!!」

 

「『インペリアル・チャージ』」

 

 

 

 前触れもなく巻き起こった猛吹雪は【凍氷帝】の力で発生させたもの。

 絶対零度の冷気を自らの巨体に纏い繰り出される帝王の突貫。

 その標的となった【ワーウルフ】の肉体は瞬く間に氷結し、ガラス細工の様に粉々に砕かれ消し飛んだ。

 

 

 

「うわあああっ!!」

 

『なんと凄まじい破壊力だぁーッ!! しかし! 【一時休戦】の効果で大間選手にダメージは無い!』

 

「カードを2枚伏せてターンエンド」

 

「っ……まだまだぁ! 俺のターン、ドロー!」

 

(──この時を待ってたぜ……)

 

「バトルだ! 【レイレイ】で【メビウス】を攻撃!!」

 

 

 

 主人にして唯一無二の相棒である大間の宣言に応え、【不屈闘士レイレイ】は一切の躊躇なく、勇猛果敢に【凍氷帝メビウス】へ(いど)みかかる。

 

 

 

『これはどうした事かぁーっ!? 攻撃力では明らかに【レイレイ】の方が劣っているぞぉーっ!!』

 

「……血迷ったか」

 

「いいや……」

 

 

 

 一見、勇気と無謀を取り違えた命知らずの特攻にしか思えない。例えるなら巨象と(アリ)の闘い。どちらが蟻かは一目瞭然だ。

 

 だが大間とて、そんな事は百も承知。全幅(ぜんぷく)の信頼を寄せるデッキのエースカードであり、固い絆で結ばれた〝相棒〟を、むざむざ死地に追いやる真似はしない。

 

 【レイレイ】が【メビウス】の(ふところ)に入ったタイミングを見計らって──

 

 

 

(今だっ!!)

 

 

 

 彼は取って置きの札を切る。

 

 

 

(トラップ)発動! 【不屈の闘志】!! 俺の場のモンスターが1体だけの時、その攻撃力を、相手フィールドで最も攻撃力の低いモンスターの、攻撃力分アップする!」

 

『鷹山選手の場にいるのは【メビウス】1体のみ! よって攻撃力、2800ポイントアップだぁーッ!!』

 

 

 

【不屈闘士レイレイ】 攻撃力 2300 + 2800 = 5100

 

 

 

『こ、攻撃力5100ゥーッ!?』

 

「行け相棒!! その(こぶし)氷河(ひょうが)を砕けっ!! 『ダイナミック・インファイト』!!」

 

 

 

 闘魂を(みなぎ)らせ、持てる力の全てを込めた渾身の殴撃(おうげき)が【メビウス】を打ち倒す──

 

 筈だった。

 

 

 

「……(やす)い戦略だ。()()にも等しい」

 

「!?」

 

(トラップ)発動、【無力の証明】。自分フィールドにレベル7以上のモンスターが存在する時、相手フィールドのレベル5以下のモンスターを全て破壊する」

 

 

 

 それは、全身全霊を賭けて一騎討ちに(のぞ)んだ勇者を嘲笑(あざわら)うかの様な、あまりに非情な宣告。

 拳が帝王に届く寸前で、闘士はその身を無残に散らした。

 

 

 

「相棒ォ!?」

 

()()は、気高き帝王に()れる事すら許されない」

 

「ぐっ……!」

 

(くそぉ……ダメなのか……! やっぱり俺じゃ、こいつには……才能には勝てないのか……!!)

 

 

 

 ──っ!?

 ──今……俺は何を考えた……?

 

 無意識の内に心に差した(かす)かな(かげ)り。

 それが戦意の揺らぎから生じた弱音であると自覚した大間は、奥歯を噛み締め、必死にその雑念を振り払い、自らを奮い起たせる。

 

 

 

(違うっ!! 諦めるもんか……まだ決闘(デュエル)は終わってねぇっ!!)

 

「俺は……! カードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

「俺のターン。──バトル。【メビウス】でプレイヤーに直接攻撃(ダイレクトアタック)。『インペリアル・チャージ』」

 

 

 

 二度目の突進が今度は大間を狙う。

 

 

 

「させるか! (トラップ)カード・【万能地雷グレイモヤ】発動! こいつで【メビウス】を破壊するぜ!」

 

 

 

 【メビウス】が大間の陣地に踏み入った瞬間、足下に仕込まれていた地雷が作動。大爆発を起こし、けたたましい轟音を場内に響かせる。

 最新鋭の3Dシステムによる、海外のアクション映画さながらの迫力と臨場感は、大会の初戦を飾る花火としても申し分なく。

 度肝を抜かれた観衆のボルテージは、さらに(たかぶ)った。

 

 

 

「どうだっ!!」

 

「…………」

 

 

 

 ──しかし、またも大間の作戦は失敗に終わる。

 ドームの天井にまで達するほど立ち込めている爆煙の中から、なんと無傷の帝王が飛び出し、迫ってきたのだ。

 

 

 

「バカな!? アレを食らって生きてるだと!?」

 

(トラップ)カード・【帝王の(とう)()】を発動した。これで【メビウス】は自身の効果が無効となる代わりに、あらゆるカード効果を受けない」

 

「そんな……っ!」

 

 

 

 あらゆるカードの効果を受け付けない。

 すなわち、戦闘で勝つ以外に対処する(すべ)が無い──ほぼ無敵と言っても過言ではない耐性を付与された氷の帝王。

 その進撃を止める手立てを失った大間は、敢えなく吹き飛ばされる。

 

 

 

「うっ……ぐわああああああっ!!」

 

 

 

 大間 LP 4000 → 1200

 

 

 

『決まったァァーッ!! この一撃は強烈だぁ!!』

 

「俺はカードを1枚伏せ、ターンを終了する」

 

 

 

 まるでアクセルを踏み込んだ大型車と真正面から衝突したかの様に、数メートル後方まで飛んでいき、床を転がる大間。

 一方、カナメはそのショッキングな光景に目もくれず、淡々と事務的に自分のやるべき事を済ませ、ターンの終わりを告げた。

 

 大間は苦しげに呻きながらも気力を振り絞り、どうにか立ち上がる。身体を叩きつけた衝撃で髪留めが外れたらしく、長い前髪が垂れ下がっていた。

 

 

 

『さぁ大間選手、いよいよ後が無い! フィールドはガラ空き! 手札も(ゼロ)! まさに絶体絶命だぁーッ!!』

 

「お……俺の……ターン……」

 

(ダメだ……勝てねぇ……レベルが違い過ぎる……!)

 

 

 

 再び、そして急速に、負の感情が大間の心を蝕んでいく。

 それでも──まだ闘志の炎は燃え尽きてはいなかった。

 

 

 

(っ……ざけんな……やっとの思いでここまで来たんだぞ……! こんな……こんな情けない形で終わってたまるかよっ!!)

 

 

 

 膝が折れるのを意地で踏ん張り、気合いで立ち上がらせる。

 

 大間の憧れた伝説の決闘者(デュエリスト)達は、勝敗が決するまで何があっても絶対に諦めなかった。

 だから自分も、可能性が1%でもある限り、勝負を捨てない。

 何より大間の人生において、最初で最後の『夢の舞台(アリーナ・カップ)』。

 このまま宿敵に掠り傷ひとつ負わせられずに、オメオメと敗退するわけにはいかない。

 

 

 

「俺はこの引きに、決闘者(デュエリスト)の全てを賭ける!!」

 

 

 

 ──このドローで必ず逆転してみせる!

 大間は決死の覚悟を決める。希望さえあれば、奇跡は起こると信じて。

 

 

 

「ッ──! ドロォォーーーッ!!」

 

 

 

 勢いよくデッキの上から、1枚のカードが引き抜かれた。

 

 果たして──

 

 

 

「…………っ……! ──!?」

 

(なっ……! 【千年(せんねん)原人(げんじん)】っ……!)

 

 

 

 勝利の女神は大間を完全に見放した。

 

 ドローしたのは、レベル8の通常モンスター・【千年原人】。

 大間の切り札である最上級モンスターだが、フィールドにリリース要員もいない現状では、召喚など到底不可能。

 

 ──外した……!

 大間は目の前が真っ暗になった。

 同時に、これまでずっと彼を支えてきた()(とう)不屈の精神が、初めて折れる音を聴いた。

 

 

 

(ちくしょう……なんでだよ……!)

 

「ちくしょう…………ちくしょおおおおおおっ!!」

 

 

 

 悔しさのあまり喚叫(かんきょう)する大間。

 自分が決闘者(デュエリスト)として凡人である事。『十傑』に選ばれるほどの才覚が無い事は自覚していた。

 それでも、努力は裏切らない。努力は才能を凌駕(りょうが)する。そう信じて、腐らず、投げ出さず、不退転の決意で艱難(かんなん)(しん)()を乗り越えて、ここまでやってきた。

 

 その結末がこれだと言うのか。あんまりではないか。

 こんなにも自分の運命を呪った事はなかった。

 

 だが、そんな大間に対し、カナメは一切の配慮もなく冷徹に告げる。

 

 

 

「どうした。何も出来ないならさっさとターンを終わらせろ。もしくは降参(サレンダー)するんだな」

 

「ッ……!」

 

(俺は……)

 

 

 

 カナメの言う通り、すでにこのターンで……(いな)、この決闘(デュエル)で大間に出来る事は、ターン終了と口にするか、サレンダーするかの二つに一つ。

 

 

 

「…………俺に、手はねぇ……ターン、エンドだ……」

 

 

 

 大間は、前者を選んだ。辛うじて残っていた決闘者(デュエリスト)としてのプライドが、脳内からサレンダーという選択肢を消したのだ。

 

 もう勝負は決まった。どうせ負けるならせめて、有終の美を飾ろう。

 ライフが(ゼロ)になる、その瞬間まで、最後まで堂々と立って負けよう。

 そうでなければ、自分に夢を託して予選で敗れ去ったライバル達に顔向け出来ない──と。

 

 実況も空気を読んだのか閉口(へいこう)し、会場内は(にわか)に静まった。

 

 そうして、カナメのターンが始まる。

 

 

 

「……俺のターン、ドロー」

 

 

 

 ──さぁ、一思いにトドメを刺してくれ。俺は逃げも隠れもしない。

 大間は目を閉じ、決闘(デュエル)の終幕を(もく)して待った。

 

 すると──

 

 

 

「──俺は【凍氷帝メビウス】を、守備表示に変更」

 

「なにっ!?」

 

 

 

【凍氷帝メビウス】 守備力 1000

 

 

 

「そしてカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 

 

 それは観客も実況も、早瀬や新井も、もちろん大間も予想だにしない展開だった。

 

 

 

『こ……これは一体どういう事かぁーっ!? 鷹山選手、後はこのターンでダイレクトアタックするだけで勝てるという絶好のチャンスをみすみす(のが)して、ターンを終了してしまったぁぁーっ!?』

 

「お、お前……何のつもりだっ!?」

 

「次の俺のターンまで、生かしておいてやる」

 

「はぁっ!?」

 

「分からないか? お前にチャンスをやると言っているんだ。ただしそれは──」

 

 

 

 カナメは右手の人差し指を立て、続ける。

 

 

 

「1ターン。さぁ、残された1ターンで俺を(たの)しませろ」

 

「なっ……!」

 

 

 

 その時、大間は再び『音』を聴いた。

 それは自分の中の何かがブチリと()()()音。

 次いで沸々(ふつふつ)と込み上げてきたのは、どす黒く、脳を焼いてしまいそうなほどに熱い──『怒り』と呼べる感情だった。

 

 

 

「ふっ……! ふざけるなぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

 大間の激昂も(むべ)なるかな。

 確実に勝てる状況で、()()()見逃すなど、相手を舐め切った()(ろう)に他ならない。その様な情けをかけられて、誰が喜ぶというのか。

 これは決闘(デュエル)という神聖な儀式を冒涜(ぼうとく)する、決闘者(デュエリスト)にあるまじき行為だ。

 

 

 

「ドロォーッ!!」

 

 

 

 乱暴にカードを引く大間の怒りに、ようやくデッキが応えた。

 

 

 

(来たっ!)

 

「【(いにしえ)のルール】発動! 手札からレベル5以上の通常モンスターを特殊召喚する! 出ろ! 【千年原人】!!」

 

 

 

 一つ目で髪が赤く、肌の青い巨人が出現した。

 ブーツを履き、カバンを肩に掛け、いくつもの武器を装備している。

 

 

 

【千年原人】 攻撃力 2750

 

 

 

『なんとぉーッ!! この土壇場で大間選手が召喚したのは、入手困難な超ウルトラレアカード・【千年原人】だぁーッ!! 私の店でもレプリカしか置いていなぁーい!!』

 

「こいつが俺の切り札だ! 俺を舐めた事を後悔させてやる!」

 

「ほう……【千年原人】。よくその程度のカードで虚勢(きょせい)が張れたものだ」

 

「!」

 

「こんなカード、俺は36枚持っているよ……」

 

「うるせえっ!!」

 

(倒す! こいつだけは、死んでもぶっ倒すっ!!)

 

 

 

 カナメはリバースカードを2枚セットしているが、頭に血が昇り冷静さを欠いた大間の目には入らない。

 激情に任せて、怒鳴る様に攻撃命令を(くだ)すのみ。

 

 

 

「バトルだっ! 【千年原人】! 奴のモンスターをぶちのめせっ!! 『ギガ・クラッシャー』!!」

 

 

 

 【千年原人】は【不屈闘士レイレイ】の無念を晴らすと言わんばかりに拳を握り締め、【凍氷帝メビウス】を打擲(ちょうちゃく)すべく強襲する。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 意外にもカナメは動かなかった。

 巨人の放った鉄拳は、驚くほどあっさりと帝王にクリーンヒット。

 大砲で撃たれた氷山の如く、その巨躯を撃砕した。

 

 

 

『き、決まったァァーッ!! 大間選手、この試合ついに反撃に成功したァーッ!!』

 

「ハァ……ハァ……どうだ……俺の実力を思い知ったか!! 鷹山 要ッ!!」

 

「ふん……たかが1ターンのバトルを制したくらいで浮かれるとは……やはりお前ごときでは、俺を愉しませるには程遠いな」

 

「っだと……!」

 

「俺のターン。遊びは終わりだ。このターンで始末してやる」

 

『おーっと、ここで鷹山選手の勝利宣言だっ! ここからどうやって勝つつもりなのか、私には見当もつかないぞぉーっ!?』

 

「俺は墓地の魔法(マジック)カード・【帝王の(とう)()】の効果を発動する」

 

 

 

 カナメの突飛な宣言を聞いて、誰もが目を見張り、耳を疑った。

 

 

 

魔法(マジック)カードを墓地から発動するだと!?」

 

 

 

 驚く大間。

 それは観戦していた早瀬と新井も同様だ。

 

 

 

「墓地から!? マジかよ……!」

 

「墓地から魔法って……アリなんですかそれ!?」

 

『ぼぼぼ、墓地から魔法(マジック)カードを発動したぞっ!?』

 

 

 

 挙げ句、実況までもが驚愕する。

 あんなカードいつの間に墓地にと困惑していた大間だったが、すぐに思い出した。

 

 序盤で召喚された(トラップ)モンスター・【始源の帝王】の効果を発動するコストとして、カナメが手札を捨てていた事を。

 

 

 

(あの時か……!)

 

「このカードと墓地の【帝王】と名のつく魔法・(トラップ)1枚を除外し、フィールドにセットされたカード1枚を破壊する。俺は【帝王の凍志】を除外。破壊するのは──」

 

 

 

 言いかけて、カナメは自分の足下を指さす。そこにあるのは、2枚ある伏せカードの内の1枚。直後それが破壊され墓地に送られた。

 その行為の意図を悪ふざけと取ったのか、大間が声を荒げて噛みつく。

 

 

 

「自分のカードを破壊するだと!? てめぇ、どこまでふざけてやがるっ!?」

 

「発想の(まず)しい貴様には想像もできまい。──破壊した(トラップ)カード・【黄金(おうごん)邪神(じゃしん)(ぞう)】の効果を発動。このカードはセット状態で破壊された時、フィールドに【邪神トークン】を生み出す」

 

 

 

【邪神トークン】 攻撃力 1000

 

 

 

「そしてこのトークンをリリースし──【氷帝メビウス】をアドバンス召喚」

 

 

 

【氷帝メビウス】 攻撃力 2400

 

 

 

 再臨(さいりん)する凍氷帝の前身──【氷帝メビウス】。

 

 

 

「チィ、また出やがったか……! だが攻撃力なら【千年原人】の方が上だ!」

 

()鹿()め。だから発想が貧しいと言うんだ」

 

「っ!?」

 

(トラップ)発動、【サンダー・ブレイク】。手札を1枚捨て、【千年原人】を破壊する」

 

 

 

 実体化した【サンダー・ブレイク】のカードの立体映像(ソリッドビジョン)から電撃が放出され、【千年原人】に命中。これを破壊した。

 

 

 

「うっ、うわあぁぁっ!?」

 

『またも大間選手のモンスターが全滅ぅーっ!! し、しかし、【サンダー・ブレイク】を伏せていたのなら、前のターンで【千年原人】を破壊して【凍氷帝メビウス】を守れた筈! 何故あのタイミングで発動しなかったのかぁーっ!?』

 

 

 

 実況の疑問に、カナメは酷薄(こくはく)な笑みを浮かべて答えた。

 

 

 

「そのつもりだったが……相手があまりにも必死で哀れだったのでな。せめて最後に華を持たせてやる事にしたのさ。──()()()()()

 

「っ……!!」

 

 

 

 大間は思い知った。自分は今まで、ただ遊ばれていただけなのだと。

 

 群雄割拠のジャルダン校に籍を置いて、早6年。

 競争が激しく、ランクの格差から上下関係にも厳しい(タテ)社会の荒波(あらなみ)に、6年間も揉まれて生きてきた大間のキャリアは、十分に上級者と言えるものだ。

 それが鷹山 要の前では、まるで子ども扱い。

 この男にとって大間との決闘(デュエル)は単なる退屈しのぎに過ぎず。

 先刻の彼の言葉を借りるならば、児戯にも等しいイージーモードのゲームでしかなかったのである。

 

 

 

「バトルだ。【氷帝メビウス】でダイレクトアタック。『アイス・ランス』」

 

「──ッ!!」

 

「〝王手〟だ」

 

 

 

 氷帝は手元に生成した氷の槍を投擲(とうてき)。大間の身体を貫き、トドメを刺した。

 

 

 

「ぁ……!」

 

 

 

 プライドをズタズタにされ、心が絶望に飲み込まれた大間は、その場に崩れ落ちる。

 

 涙すら、流れなかった。

 

 

 

 大間 LP 0

 

 

 

『け……決着ゥゥーーーッ!! 勝者(ウィナー)・鷹山 要ぇぇぇぇぇッ!!』

 

 

 

 ギャラリー達が大歓声でカナメの完勝を称賛する。

 

 

 

『やはり強いっ! 圧倒的強さっ!! 計算された策略、的確な判断力! タフな精神力、恵まれた容姿! 全てを兼ね備えた、勝つべくして勝つ完璧なる決闘者(デュエリスト)!! これこそ学園最凶! 鷹山 要だぁあぁーーーッ!!』

 

 

 

 実況のベタ褒めなMCが終わらない内に、カナメは座り込んで放心している大間に一瞥(いちべつ)もくれず、ステージを降りて退場していった。

 

 係員が大間は自力では動けないと判断したのか、二人がかりで彼を立たせ、支えながら場外へ連れていく。

 

 この会場に、敗者である大間を笑う者はいなかった。むしろ同情を寄せる者が多かっただろう。

 相手が鷹山 要では仕方ない──それがこの決闘(デュエル)を観ていた人間全員の共通認識だった。

 

 

 

「……すごい決闘(デュエル)でしたね、早瀬さん……」

 

「あぁ……」

 

「でも……あの大間くんって子が気の毒に思えてきました……何だか()哀想(わいそう)です」

 

 

 

 悲痛な(おも)()ちで新井は言った。

 ふと、早瀬がヒゲの生えたアゴに手を添えながら(くち)を開く。

 

 

 

「……ひとつ、思い出したぜ」

 

「え?」

 

「鷹山には〝学園最凶〟って肩書きと別に、もう1つ呼び名があったんだ。通称・『最も危険な決闘者(デュエリスト)』……! 決闘(デュエル)した相手を次から次へ()()()()に追いやった事からつけられた……奴の悪名(あくみょう)だ」

 

 

 

 ──大間が6年の歳月をかけて積み上げてきた『努力』。そして彼がずっと追い求めてきた『夢』。

 それら全てを無情にも、『才能』ひとつで踏み潰し、鷹山 要は、今日も息をする様に盤石の勝利を収めた。

 

 

 

 鷹山 要・本選トーナメント1回戦──突破!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲートを抜け、無機質な空間に一定のリズムで靴音を響かせながら、(もと)()た通路を歩くカナメ。

 

 ──今回の決闘(デュエル)もつまらなかったな。

 ──早く九頭竜と()りたいものだ。

 ──とりあえず、いつもの喫茶店に寄ってから帰るか。いや……

 

 存外平和的な思考を巡らせつつ、出口に向かう道中……

 

 ──カナメの足が不意に止まった。

 理由は彼の進行方向に見知った顔の少年が、壁に背を預けて立っていたからだ。

 

 

 

「やぁ」

 

「…………」

 

 

 

 銀髪に赤メガネ。人好きのする柔和な微笑み。

 

 カナメが九頭竜の次に注目している決闘者(デュエリスト)──総角 刹那である。

 

 

 

 





 作者コメント & いいわけフェイズ

 初めての地の文がオール第三者視点。今回は大間がひたすらかわいそうな回でした(泣)

 大間くん、作品が違ったら主人公になってたかも知れない……
 元々、カナメの噛ませ犬として名前すらテキトーに考えた捨てキャラだったのですが、書いてる内に彼の王道熱血努力家キャラに惹かれて、お気に入りになってしまった次第です。この作品そういうキャラ多い(笑)

 それにしても登場する度にカナメさんがどんどんゲスになっていってる気が……(汗)

 あ、気づいた人いるかもですが今回、Arc-Vの第7話のセリフがちょくちょく入ってます(笑)
 カナメに至っては、ネオ沢渡さんとユートのセリフ両方とも使ってるというww

 仕事が繁忙期に突入して忙しいいいいっ!
 なんか執筆のモチベーション上がらないいいいっ!
 大間のデッキ決まらないいいいっ!
 小説書くのって難しいいいいっ!!

 とか何とか言ってたら、あれよあれよと3ヶ月も経過していました。はい。いいわけです(土下座)

 来年は遊戯王のアニメも新シリーズが始まるらしいし、作者も少しは気合い入れねば。VRAINSが完結するまでにどこまで進めるかな……

 ダラダラと駄文失礼しました。また次回!


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TURN - 35 SHARK ON


 遊戯王wikiに『採用する価値は低い』って書かれたカードほど使ってみたくなる作者です。(お久しぶりです)



 

「1回戦突破おめでとう、カナメ」

 

 

 

 センター・アリーナの内部、決闘(デュエル)リングへと続く長い通路。

 大間くんとの試合を終えて戻ってきたカナメに、ボクは(ねぎら)いの言葉をかけて微笑(ほほえ)んだ。

 彼のコバルトブルーの(ひとみ)が静かにボクを見据え、お互いの視線が交差する。

 

 

 

「……そんな事を言いに来たわけではないだろう?」

 

 

 

 おっと、お見通しか。なかなか鋭い慧眼(けいがん)をお持ちで。

 ボクは寄りかかっていた壁から背中を離し、口角を(ゆる)め、(ガラ)にもなく真面目な顔をしながら一言。

 

 

 

「……さすがに、ああいう決闘(デュエル)はどうかと思うよ」

 

「……なんだ、説教でもしに来たのか」

 

「そんなんじゃないけどさ」

 

 

 

 ついさっきまで、ボクは本選出場者用の控え室に設置された大型モニターで、他の選手達と一緒にトーナメント1回戦の第1試合──カナメと大間くんの決闘(デュエル)を観戦していた。

 

 カナメの規格外の強さに大間くんは手も足も出ず、あっという間に追い詰められていった……そこまではいい。

 

 問題は決闘(デュエル)の終盤。

 起死回生のカードを引き損じ、モンスターも伏せカードも出せないまま敗北が確定した大間くんに対し、カナメはあろう事か『1ターン待ってやる』と言い放ち、わざとトドメを刺さずに自分のターンを終え、見逃した。

 

 その()の大間くんの(おこ)りようと言ったら凄まじかった。結局、健闘むなしく返しのターンで負けてしまったのだけれど。

 

 あの時の大間くんの気持ちが、ボクには痛いほど分かる。

 

 例えどんなに実力の差があったとしても、手を抜かれたりして嬉しい決闘者(デュエリスト)はいない筈だ。あからさまに下に見られてるってわけだから。

 

 その上、相手の心を徹底的に折る様なカナメのやり(くち)を観て、どうしてもボクは苦言を(てい)さずにはいられなくなってしまった。

 

 

 

「……あんな、相手をおちょくるみたいな決闘(デュエル)は、ボクは好きじゃない」

 

「お前の好みなど知った事ではない。どんな決闘(デュエル)をしようと俺の勝手だ」

 

 

 

 うっ、ごもっとも。正論ではある……けど。

 

 

 

「だからってアレは、相手を舐め過ぎだよ」

 

「やめてほしいと言うのなら(ちから)で従わせてみせろ。できるものならな」

 

「っ……」

 

「俺は自分より弱い決闘者(デュエリスト)の言う事を聞くつもりはない」

 

 

 

 ダメだ、取りつく島もない。二の句が継げなくなったボクを尻目に、カナメは再び歩き出してボクの横を通り過ぎていく。

 

 

 

「……お前の言う通りだ。俺は相手を舐めている」

 

「え?」

 

 

 

 そのまま帰ってしまうかと思いきや、カナメはまたも足を止めて、そう切り出した。

 

 

 

「そうすれば相手は(いか)り、(いきどお)り、果ては俺を憎み、俺を殺す気で挑んでくる。さっき潰したあの男の様にな」

 

「……」

 

「そしてそれで良い。そうでなくては──俺が(たの)しくない」

 

「!」

 

 

 

 自分が楽しむ為なら例え嫌われても、それこそ殺意や復讐心まで向けられたとしても構わない……むしろ望むところだ、と。

 

 ボクは全てを察した。と言うより、彼の背中が雄弁に物語っている。

 

 ──カナメは、渇望しているんだ。

 

 自分を愉しませてくれる相手を。

 自分の──全力を引き出させてくれる強者を。

 

 そして、その果てに……

 

 

 

「…………」

 

 

 

 道理で()()として敵を増やす様な態度や発言を繰り返すわけだ。この人に何を言っても無駄みたいだね……仕方ない。

 

 

 

「……分かった。そういう事なら、お望み通りにしてあげるよ」

 

「なに?」

 

「君に決闘(デュエル)で勝ってあげる」

 

「…………」

 

 

 

 カナメがこちらに振り返る。無表情なのは変わらないけど、その透き通った碧眼(へきがん)には今どんな感情が宿っているんだろう。

 

 

 

「前に喫茶店でも、そう言ったでしょ?」

 

「……面白い。ならば決勝まで勝ち上がってこい。口先だけではないと証明してみせろ」

 

「もちろん。ていうか君こそ決勝行くまでコケちゃダメだよ? あはは、これで途中で負けたら超ダサいね、ボクら」

 

「フッ、有り得ないな。誰に口を利いている」

 

「君にだよ、鷹山(ヨウザン) (カナメ)くん」

 

「──待っているぞ、総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)

 

 

 

 ボクは返事の代わりにウィンクを返す。そこで会話は今度こそ終了し、カナメはとうとう立ち去っていった。

 

 ……あーあ、益々(ますます)もって優勝するしかなくなっちゃったな。これでもし初戦敗退とかしちゃったらどうしよー。少なくともカナメには顔向けできなくなるし、下手したら……いや確実に、二度と相手してもらえなくなるね。

 

 とにもかくにも、やるしかないや。頑張ろっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ!! 第1試合の興奮が未だ冷めやらぬ中! いよいよ第2試合の開始だぁーッ!!』

 

 

 

 MCの人(マック伊東さんだっけ?)の溌剌(はつらつ)な声がドーム全体に()()えと()(だま)する。まさか『GARDEN』の店長さんが実況だなんて知った時はビックリしたよ。

 

 あ、そうそう。ただいまボクは控え室ではなくて、生徒用の観客席をウロウロしてる最中なんだ。もちろんアマネとマキちゃんも一緒にいるよ。

 数分前ルイくんに端末でメッセージ送って、この辺にケイくんと二人で座ってるって聞いたんだけど……どこにいるかな~?

 

 

 

(あ、いたいた。目立つな~、あの髪)

 

 

 

 満席間近な客席の奥の列、左から数えて三つ目の席に座る、オレンジ色の短髪が目に留まった。

 間違いない、ケイくんだ。分かりやすい目印があって助かった。よく見れば彼の左隣には見慣れた茶髪──ルイくんもちょこんと座っている。

 そしてルイくんの横、列の端っこが空いていた。さらにその真後ろにも、ちょうど二人分の空席。ラッキー!

 

 階段を降りて、ボクはルイくんの隣に。アマネとマキちゃんは二人分の席に腰を降ろした。

 

 

 

「よっと」

 

「アマネたん、お先にどうぞ~」

 

「ありがと」

 

「あ、皆さん、こんにちは」

 

「チッス!」

 

「チーッス。席確保しててくれたの? ありがとう」

 

(あに)さんと先輩方の為なら御安い御用ですぜ!」

 

「先輩、控え室にいなくて平気なんですか?」

 

「良いの良いの。ボク達みんな試合は午後からだし、頃合いを見て行くよ。それに、あそこはどうも息が詰まるんだよね……」

 

「ねー」

 

「?」

 

 

 

 いやホント酷いもんだよ。言っちゃえば全員が敵同士みたいなメンバーが密室に集められて、ただでさえどこかピリピリしてたのに、カナメがあんな決闘(デュエル)をするもんだから余計に拍車がかかって空気が重苦しくなってるの。ずっと居たら気が変になりそうだったから、三人で逃げてきちゃった。

 

 

 

「にしても、ここからの景色はいつ見ても壮観だね~」

 

 

 

 予選1日目の開会式以来の眺めだ。ここで観る決闘(デュエル)はさぞ絶景だろうね。

 

 

 

『選手入場ォーッ!! みんな! 拍手で迎えてやってくれぇーっ!!』

 

 

 

 向かい合う二つのゲートから二人の決闘者(デュエリスト)が出てくると、ボク達を含め観客は一斉に両手を打ち鳴らす。

 

 

 

『自称・東海の人喰い(ザメ)! その鋭い牙で、歯向かう獲物を根こそぎ喰い尽くす! 2年・次期十傑候補──鮫牙(サメキバ) (ジョー)!!』

 

「シャアアアアアッ!!」

 

 

 

 髪がモヒカンで鼻にピアスの付いた派手で厳つい見た目の青年が、見事なまでに生え揃った(えい)()なギザ歯を剥いて、高らかに吠える。

 

 

 

『対戦相手に心理を悟らせぬ笑顔の仮面! 果たして今回はどこまで底力を魅せるのか!? 3年・十傑──豹堂(ひょうどう) 武蔵(ムサシ)!!』

 

「ウハハ。ご丁寧(ていねい)にドーモ」

 

 

 

 対するは、にこやかに細められた糸目と吊り上がった口唇(こうしん)で表情を固定した、ダークブラウンのミディアムショートヘアの青年だ。

 

 両者とも実力は未知数。はてさて、どんな決闘(デュエル)になるのかな?

 

 

 

『みんな準備は良いか!? これよりトーナメント1回戦・第2試合! 鮫牙 丈 vs 豹堂 武蔵!! イ~~~ッツ! タイム・トゥ──』

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 鮫牙 LP(ライフポイント) 4000

 

 豹堂 LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「ほな、後輩くんから先でえぇで」

 

「シャハッ! 先輩の優しさってヤツかぁ? それとも余裕かぁ? どっちにしろ後悔するぜぇ! オレサマの先攻(ターン)!」

 

 

 

 確かに先攻が有利とも言われる現代の決闘(デュエル)で、わざわざ進んで後攻に回るのはハンデと言えなくもないけど……うーん、豹堂くんの笑顔からは何を考えてるかさっぱり読めない。

 

 

 

「オレサマは永続魔法・【ウォーターハザード】発動! オレサマの場にモンスターがいない時、手札からレベル4以下の水属性モンスター1体を特殊召喚できる! 出やがれっ! 【ビッグ・ジョーズ】!」

 

 

 

 激しく打ち寄せる津波の中から、1匹の鮫が勢いよく飛び出してきた。(アゴ)や背ビレが機械で出来ているのか金属製で、銀の光沢を帯びている。

 

 

 

【ビッグ・ジョーズ】 攻撃力 1800

 

 

 

「さらに【サイバー・シャーク】を通常召喚!」

 

 

 

【サイバー・シャーク】 攻撃力 2100

 

 

 

 お次はサイボーグの鮫がお出ましだ。

 

 

 

『なんと!? レベル5のモンスターをリリースも無しに召喚したぁーッ!!』

 

「こいつは自分フィールドに水属性がいる時、リリース無しで召喚できる! これでオレサマはターン終了(エンド)だぁ!」

 

「なーるほど、頭ええやん自分。ワイのターン、ドロー」

 

 

 

 どうやら鮫牙くんのデッキは水属性が主体みたいだね。豹堂くんはどう出るのかな。

 

 

 

「ほんならワイも永続魔法、行くで。──【(ろく)()の門】を発動や」

 

「!?」

 

 

 

 今度は地響きがフィールドを揺らし始め、やがて豹堂くんの後ろに堅牢な城門が()り上がってきた。

 

 

 

「このカードはワイが【六武衆(ろくぶしゅう)】を召喚・特殊召喚する度に、『武士道カウンター』を2つ置く。ワイは【六武衆-ザンジ】を召喚」

 

 

 

【六武衆-ザンジ】 攻撃力 1800

 

 

 

「さらに、【六武衆の()(はん)】を特殊召喚や!」

 

 

 

【六武衆の()(はん)】 攻撃力 2100

 

 

 

『おぉーっとォ!! 豹堂選手も負けじと2体のモンスターを揃えたーっ! しかも奇しくも攻撃力は2体とも相手と互角だぁーッ!!』

 

「【師範】は自分フィールドに【六武衆】が()る時、手札から特殊召喚できるんやで」

 

「てめぇ……さっきからオレサマの真似ばっかしやがって!」

 

「しゃーないやん、手札に来てもうたんやもん。ともかくこれで、【六武の門】にカウンターが4つ乗ったで」

 

 

 

【六武の門】 武士道カウンター × 4

 

 

 

「ここで【門】の効果を使わせてもらうで! 武士道カウンターを2つ取り除き、【ザンジ】の攻撃力を500アップや!」

 

 

 

【六武の門】 武士道カウンター × 4 → 2

 

【六武衆-ザンジ】 攻撃力 1800 + 500 = 2300

 

 

 

「もういっちょ! 残り2つのカウンターも使って、今度は【師範】を強化や!」

 

 

 

【六武の門】 武士道カウンター × 2 → 0

 

【六武衆の師範】 攻撃力 2100 + 500 = 2600

 

 

 

「な、なんだとぉーっ!?」

 

「さ~て、戦闘開始と行こか? 【ザンジ】で【ビッグ・ジョーズ】を! 【師範】で【サイバー・シャーク】を! それぞれ攻撃!!」

 

 

 

 薙刀(なぎなた)を構えたサムライと歴戦の老兵が2匹の凶暴な鮫を一刀両断した。映画みたいで何かカッコいい!

 

 

 

「ギシャアァーッ!?」

 

 

 

 鮫牙 LP 4000 → 3000

 

 

 

「鮫の刺し身いっちょあがり~っと。ワイはカードを2枚伏せてエンドや。【ザンジ】と【師範】の攻撃力は元に戻る」

 

 

 

【六武衆-ザンジ】 攻撃力 2300 → 1800

 

【六武衆の師範】 攻撃力 2600 → 2100

 

 

 

 プレイングは似ていても、豹堂くんの方が一枚(うわ)()だった。これが2年と3年の、1年間のキャリアの差か。

 

 

 

「ち……ちきしょう……! オレサマのターンだ!」

 

(──!!)

 

「ッシャア!! 来たぜオレサマの切り札!!」

 

「お? えぇカード引けたんか、おめっとさん」

 

「そうやってヘラヘラ笑ってられんのも今の内だぜ! まずは【デプス・シャーク】を召喚! こいつはオレサマの場にモンスターがいない場合、リリース無しで通常召喚できる!」

 

 

 

【デプス・シャーク】 攻撃力 1400

 

 

 

「さらに魔法(マジック)カード・【大波(おおなみ)()(なみ)】発動! オレサマの場の水属性モンスターを、全て破壊するっ!」

 

 

 

 召喚されたばかりの【デプス・シャーク】が、高さ10メートルはありそうな荒波に飲み込まれてしまった。

 

 

 

「そして破壊した数と同数まで、手札の水属性モンスターを特殊召喚できる! 出やがれっ! オレサマのデッキの最強モンスター! 【エンシェント・シャーク ハイパー・メガロドン】!!」

 

 

 

 【デプス・シャーク】を沈めた高波の中から、新たな鮫が姿を現した。これまでのとは比較にならないほどの、まるでクジラみたいな超大型サイズ。そのド迫力にボクだけでなく、みんな目を見張り驚嘆の声を上げた。

 

 

 

【エンシェント・シャーク ハイパー・メガロドン】 攻撃力 2900

 

 

 

「ウッハー、まーたずいぶんとゴツいのが来おったで」

 

「バトルだぁ! 【ハイパー・メガロドン】で【六武衆-ザンジ】を攻撃ッ!! 『メガトン・ファング』!!」

 

 

 

 未だフィールドの上を好き勝手に暴れ回る津波に乗って、鮫のお化けが大口を開けながら迫り来る。波の勢いもあってか巨体に見合わない猛スピードだ。いかに屈強なサムライと言えど、とても太刀打ちできそうにない。

 

 

 

「……すまんの、【師範】」

 

「!」

 

 

 

 その時、【ハイパー・メガロドン】に狙われた【六武衆-ザンジ】を庇う様に、【六武衆の師範】が2体の間に割って入った。

 【師範】は【ザンジ】の代わりに【メガロドン】の餌食となり、あえなく丸飲みにされてしまう。

 

 

 

「なんだァ!? てめぇ何しやがった!?」

 

「【ザンジ】の、ちゅーより【六武衆】の共通効果やな。味方の【六武衆】を身代わりにして、破壊を免れる」

 

「チッ、だがダメージは受けてもらうぜ!」

 

「ッ……!」

 

 

 

 豹堂 LP 4000 → 2900

 

 

 

「──シャハッ! そしててめぇがダメージを受けた事で、【ハイパー・メガロドン】の効果を発動だ!」

 

 

 

 鮫牙くんはニヤリと歯を見せて不敵に笑い、そう宣言した。次の瞬間──

 

 

 

「!」

 

 

 

 なんと【ハイパー・メガロドン】が再び動き出した。またもや【ザンジ】に牙を剥き、ついに補食に成功。【師範】同様ひと飲みで喰らった。

 

 

 

「シャハハハッ! 驚いたか! これが【メガロドン】の効果だぁ! 相手に戦闘ダメージを与えた時、相手モンスター1体を破壊する!」

 

「ありゃりゃ、結局みんなやられてしもた」

 

「シャアアアア形勢逆転ッ!! 波に乗った今のオレサマはちょっとやそっとじゃ止まらねぇぜえっ!」

 

 

 

 ……前言撤回。鮫牙くんも負けていなかった。次期十傑候補に選ばれるだけはある。

 

 

 

「オレサマはクランドさんをコケにしやがった鷹山の野郎をぶちのめさなきゃなんねぇんだ! てめぇなんぞに負けてたまるかよっ!!」

 

 

 

 クランド? ……あぁ、思い出した。カナメと喫茶店で会った日に出くわした暴走族のリーダーだっけ。カナメが(アカ)()ちゃんのデッキを借りてボコボコにしてたね。

 そう言えばあの場に鮫牙くんに似たモヒカンがいたようないなかったような……?

 

 

 

「これでオレサマはターンエンドだぁ!」

 

「おっと、せやったらここで伏せカードを発動しとくで。永続(トラップ)・【神速(しんそく)()(そく)】。効果は、まぁ……後のお楽しみっちゅー事で」

 

「あぁ? なんだそりゃ」

 

『さぁ(まさ)に一進一退の攻防! 果たして軍配はどちらに上がるのか!?』

 

「ワイのターン、ドローや。……お! 早速とはツイとるわ。【神速の具足】の効果! ドローフェイズに引いたんが【六武衆】やったら、そのまま特殊召喚できる。出陣やで、【六武衆-ニサシ】!」

 

 

 

【六武衆-ニサシ】 攻撃力 1400

 

【六武の門】 武士道カウンター × 2

 

 

 

「シャハッ、何かと思えばただの召喚効果かよ。そんなモンスター、オレサマの【メガロドン】の前じゃ小魚も同然だぜっ!」

 

「まぁ見とき、こっからおもろいもん見したる。(トラップ)発動、【六武衆推参(すいさん)!】。墓地から【ザンジ】を復活や!」

 

 

 

【六武衆-ザンジ】 攻撃力 1800

 

【六武の門】 武士道カウンター × 4

 

 

 

「ほんで【六武の門】の効果や。今度はカウンターを4つ、全部使うで」

 

 

 

【六武の門】 武士道カウンター × 4 → 0

 

 

 

「4つ取り除いた場合の効果はデッキか墓地から【六武衆】を手札に加える。ワイは墓地から【師範】を回収──からの、もっかい特殊召喚や!」

 

 

 

【六武衆の師範】 攻撃力 2100

 

【六武の門】 武士道カウンター × 2

 

 

 

「くそっ、しぶとい奴らだぜ……! だがなぁ! 仮に【門】の効果でパワーアップしようが、この【ハイパー・メガロドン】には届かねぇぜ!」

 

「ちゃうちゃう、もう【門】は使わへん。必要あらへんからな」

 

「あ? どういう意味だ?」

 

「このターンでワイが勝って(しま)い、いう意味や」

 

「なっ……んだとぉ!?」

 

 

 

 ここでまさかの勝利宣言。【六武の門】も使わずにこのターンで勝つって……一体どうやって?

 

 

 

「バトルや! 【六武衆-ザンジ】で【ハイパー・メガロドン】を攻撃!」

 

「はぁ!? バカかてめぇ! わざわざ自滅しに来やがった! 喰ってやれ【メガロドン】!!」

 

 

 

 攻撃力では【ハイパー・メガロドン】の方が圧倒的に上。結果は火を見るより明らかだ。

 

 案の定【ザンジ】は【メガロドン】の口の中に自ら飛び込む形となり、またもや食べられてしまう。

 

 

 

 豹堂 LP 2900 → 1800

 

 

 

「シャハハッ! 勝てねぇと分かっておかしくなりやがったか!」

 

「そいつはどうやろな?」

 

「あん?」

 

 

 

 突如、【ハイパー・メガロドン】に異変が起こった。頭部から何か先の尖った細長い棒が生えてきたんだ。注視すると、それは【ザンジ】の武器である薙刀だった。

 

 

 

「ッ!? な、何がどうなってんだぁ!?」

 

「【ザンジ】の効果や。自分のフィールドに【ザンジ】以外の【六武衆】が()る時、攻撃したモンスターをダメージステップ終了後──破壊する!」

 

 

 

 脳天を貫かれた【ハイパー・メガロドン】はバチバチとショートを起こして大爆発。口内に閉じ込めていた【ザンジ】もろとも、跡形も無く吹き飛んだ。

 

 

 

「オ、オレサマの【メガロドン】がぁぁぁぁぁっ!?」

 

「あっけないもんやったな。さぁ行け、【ニサシ】!」

 

 

 

 【ザンジ】が敵と刺し違えて開いた突破口から、二刀流のサムライが切り込む。

 

 

 

「【ニサシ】は味方に他の【六武衆】が()れば、2回の攻撃が可能や! かましたれ、『連続斬り』!」

 

「ぐはぁっ!?」

 

 

 

 鮫牙 LP 3000 → 200

 

 

 

「トドメは【師範】、任せたで」

 

 

 

 最後は【六武衆の師範】が鮫牙くんを一刀の(もと)、斬り伏せる。

 

 

 

「ギシャアアアアアッ!!!」

 

 

 

 鮫牙 LP 0

 

 

 

『決着ゥーーーッ!! 勝者(ウィナー)・豹堂 武蔵ィィィィッ!!』

 

「なかなか楽しかったで。十傑(ワイら)(あと)()ぐにはちぃーと足りへんけど。まぁまた来年がんばりや、ほなな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……【六武衆】……やっかいな展開力ね」

 

「相手にしたらメンドくさそーだね~」

 

 

 

 真後ろの席から、アマネとマキちゃんのそんな会話が耳に入った。確かに今の決闘(デュエル)を観ただけでも、豹堂くんの洗練された戦略性と実力の片鱗(へんりん)が見て取れた。

 しかも恐らくあのデッキの本当の強さはあんなものじゃない。全力で回したら、もっと凄い事になってると思う。

 

 こんなハイレベルな()()達と、これからボクも闘うのか……

 

 

 

「……あ、次って九頭竜くんの試合じゃん」

 

「私達はこのまま観てくけど、セツナはどうする?」

 

「もちろん観るよ。でもまだ全然時間あるな……ちょっとトイレ行ってこよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~♪」

 

 

 

 トイレを済ませ、洗った手をハンカチで拭きながら、ボクは鼻歌交じりに廊下を歩いていた。

 

 すると──

 

 

 

「よぉ」

 

「?」

 

 

 

 目の前に見覚えのある男子が二人、ボクの行く手を阻む様に立ちふさがってきた。

 

 黒い短髪の大男・厚村(あつむら)くんと、赤茶色の髪に三白眼の吊り目が印象的な、平林(ひらばやし)くんだ。

 

 そして背後にも気配を感じて振り返れば、やっぱりと言うべきか。

 

 アッシュグレーの髪をオールバックにして、サングラスを掛けた小柄な男・()(もり)くんに、何やらニタニタと嫌らしい笑みを浮かべている、通称・金髪のケンちゃんこと、金沢(かなざわ)くんの二人が立っていた。

 

 この4人に絡まれるとか面倒事の予感しかしないんですけど……

 

 

 

「……何か用?」

 

「ちょいと(ツラ)貸せや」

 

 

 

 金沢くんが実に簡潔に用件を()べた。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 狭い廊下で進路も退路も(さえぎ)られ、正に八方塞がりの状態。

 

 拒否権は……無さそうだ。

 

 

 

 





 関西弁が怪しくてすいません……

 なんかこのままスムーズに大会が進むのも面白くないなーと思ったので、一悶着入れてみる事にしました、ふへへ(^q^)

 セツナには生け贄になってもらおう(ゲス顔)

 気絶させて軟禁コースも考えたんですが今後の展開なども踏まえて今回はお蔵入りになりました。またの機会に←おい

 男の縛りプレイとか誰得だよだって? 安心してください。遊戯王ではよくある事だ!!


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TURN - 36 Good Luck


 ギリッギリ年内に間に合ったぞおおおおっ!!(大晦日)

 モタモタしてる間にVRAINSも終わってしまいましたが、来年から始まる新シリーズの『遊戯王SEVENS』が今から楽しみです! 主人公かわいい!!



 

『センター・アリーナにお集まりの紳士淑女の諸君!! 選抜デュエル大会・本選──アリーナ・カップは楽しんでくれてるかっ!! いよいよお待ちかね、第3試合が、はーじまーるぞぉーーーッ!!』

 

 

 

 選抜デュエル大会・本選──『アリーナ・カップ』会場──センター・アリーナ。

 

 まだまだ疲れを見せないMC担当・マック伊東の、よく通る力強い声がマイク越しに鳴り渡り、オーディエンスを全力で(あお)り立てる。観客達も負けじと歓声を轟かせ、会場内の熱気は天井知らずに高まっていく。

 

 そんなお祭り騒ぎの()(なか)、学園の生徒限定で用意された客席の端に座る一人の女子生徒が、携帯端末を片手に顔を(しか)めていた。

 

 

 

「…………遅い! どこで道草食ってんのよセツナのヤツ! もう試合も始まるってのに!」

 

 

 

 この大会の出場者でもある、黒雲(くろくも) 雨音(アマネ)だ。友人の総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)がトイレに行くと言って席を外したきり、かれこれ20分以上も戻ってこない事に業を煮やしていた。

 

 

 

「メッセージも電話も反応ないし!」

 

「腹でも(くだ)したんすかね?」

 

「ちょ、ちょっとケイちゃん!」

 

 

 

 アマネの前列の席に座っている男子生徒・(いち)()() ケイの発言を(とが)める様に、兄であるルイが弟の名を呼ぶ。

 

 

 

「だとしても電話も出ないってのは変だよね~?」

 

 

 

 そう口にしたのはアマネの隣で座席の(ひじ)掛けに頬杖(ほおづえ)をついている少女・()(づき) マキノだ。

 

 セツナは次の試合も観戦すると確かに言っていた。だと言うのに何の音沙汰も無いまま帰ってこないというのは、アマネ達にとってはどうも()(しん)に思えてならなかった。

 もし気が変わったり都合が悪くなったのなら、必ずその(むね)を連絡してくる筈だ。彼がそういう大事な連絡を(おこた)った事は、今まで一度もなかった(たまに寝坊はするが)。

 そう考えるからこそ、(みな)マキノの言葉にも説得力を感じていた。

 

 

 

「な……何かあったんですかね?」

 

 

 

 ルイが不安げに呟く。よほどセツナの安否を心配しているのか微かに声が震えていた。

 

 

 

「心配し過ぎだぜ兄貴! セツナの兄さんなら大丈夫だって!」

 

「う、うん、そうだよね。でも……」

 

「……私、セツナを探してくる」

 

 

 

 言うが早いかアマネは席を立つ。

 

 

 

「あたしも付き添うよー」

 

「あ、じゃあ僕も……」

 

「ううん、ルイくんとケイくんはここにいて。もしかしたら後でセツナがひょっこり戻ってくるかも知れないし」

 

「えっ、でも……」

 

「そういう事でしたら(あね)さん、俺と兄貴で行きやすよ。姉さん(がた)は選手なんですから、ライバルの試合は観といた方が良いんじゃ……」

 

「そのライバルに何かあったのかも知れないのに、ジッとなんかしてられないわ」

 

「まっ、セツナくんの事はお姉さん達にまっかせーなさいっ!」

 

「……分かりやした、気をつけてくだせぇよ」

 

「もし先輩が戻ってきたら連絡します」

 

「うん、お願い。じゃ、行ってくるわね」

 

「またね~♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここで時間は、アマネとマキノがセツナの捜索を開始する、その数分前まで(さかのぼ)る。

 

 この時、(くだん)のセツナ本人はと言うと、所謂(いわゆる)ピンチに直面していた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 金沢(かなざわ)くんに思い切り突き飛ばされ、ボクは背中を壁に打ち付けた。けっこう痛い。

 

 

 

「てめぇよぉ、マジで調子乗ってんじゃねーぞ、あ?」

 

 

 

 ドスを効かせた声で凄む金沢くん。すぐ側には彼といつもつるんでいる厚村くん、小森くん、平林くんの3人が、ボクを囲む様にして立っているので、逃げ道は無い。

 

 ボクは完全に袋のネズミというわけだ。平静を装ってはいるけれど、内心では正直、かなり困り果てていた。

 

 

 

(ツイてないな……まさかこんな目に遭うなんて)

 

 

 

 つい10分ほど前、トイレからセンター・アリーナの観客席に戻ろうとしたボクは、途中で運悪く彼らに捕まり、そのまま会場の外へ強制的に連れ出されてしまった。

 

 それも……わざわざこんな(ひと)()の無いところに。まぁ、()()()()()をするなら目立たない場所の方がやりやすいからなんだろうけど。

 

 ……何だか懐かしいな。ボクがアカデミアに転入した初日の朝、通学路でルイくんと初めて会った時も、似た様な状況だった。

 

 さて、どうやってこの窮地を切り抜けよう。残念ながらボクはケンカの腕はからっきし。4対1の殴り合いじゃ、万に一つも勝ち目は無い。

 

 

 

「いつもいつも女(はべ)らせてイチャつきやがってよぉ、ウザってぇんだよ」

 

「別にイチャついてるつもりはないんだけどね」

 

「舐めた口聞いてんじゃねーぞゴラァ!!」

 

 

 

 金沢くんがボクの胸ぐらを掴み上げる。

 

 

 

「わわっ、ちょ、暴力反対!」

 

「るっせーよ! 俺はなぁ、前からてめぇのそのスカした態度が気に食わなかったんだよ!」

 

「……だったらこんな乱暴な真似しないで、決闘者(デュエリスト)なら決闘(デュエル)で挑んできなよ」

 

「あぁ?」

 

「それとも……一度負けたボクに勝つ自信が無い?」

 

「……!!」

 

 

 

 我ながら分かりやすい挑発だと思う。でも肉弾戦──俗に言う、リアルファイト──が不得手なボクに残された打開策は、やっぱりどう考えても()()しかなかった。

 そもそも揉め事は全部決闘(デュエル)で解決するのがこの街の暗黙の了解だし。

 

 金沢くんだって不良である前にデュエルアカデミアの生徒だし、何よりデュエルが支配する街(ジャルダン)決闘者(デュエリスト)だ。この誘いには乗ってくる筈……!

 

 

 

「……へっ、良いぜ。やってやろうじゃねぇか」

 

 

 

 おぉ、ほら、やっぱり。何だかんだ言っても金沢くんも筋金入りの決闘者(デュエリスト)──

 

 

 

「なんて──なッ!!」

 

「っ!?」

 

 

 

 いきなり服を引っ張られたと思ったら、ガラ空きの鳩尾(みぞおち)に、(ひざ)()りを叩き込まれた。

 

 

 

「うっ……かはっ!」

 

 

 

 横隔膜(おうかくまく)を突き抜ける重い衝撃に一瞬、息が止まった。立っていられなくなって地面にうずくまり、何度も咳き込みながら耐え難い痛みに悶え苦しむ。

 

 そんなボクを見下ろして4人はゲラゲラ笑うけれど、苦痛のあまり気にする余裕も無い。

 

 

 

「ギャッハッハッ! いい気味だぜ!」

 

「おいケンちゃん、顔とか目立つとこは狙うなよ?」

 

「そーそー、(あと)残ったらメンドーじゃん?」

 

「こいつには()()()()()(けん)してもらうんだからな」

 

(っ……?)

 

 

 

 今、小森くん、なんて言ったの……? ボクが棄権って……

 

 

 

「分かってらぁ。おら、こっち向けよ」

 

「くっ!」

 

 

 

 呼吸困難に陥り悶絶しているボクの髪を、金沢くんが(わし)(づか)みして引っ張り上げる。

 頭だけ無理やり上向きにさせられ、しゃがんでこちらを見下ろしている金沢くんと目が合った。

 

 

 

(あぁもう……せっかく気合い入れて髪セットしたのに)

 

「くくくっ、ひでぇ顔だぜ。ざまぁねぇなぁ、期待のダークホース様よぉ?」

 

「っ……良いの……? こんな、事して……ボクが学園側に告げ口したら……一発でアウトだよ?」

 

「はぁ? ──ギャッハッハッハッ!! てめぇホントに自分の立場が分かってねぇんだな?」

 

「……?」

 

「おうオメーら、始めんぞ」

 

 

 

 その金沢くんの言葉を待ってましたとばかりに、他の3人がニタリと()んで一斉にボクに襲い掛かってきた。

 

 

 

「うわっ!?」

 

 

 

 抵抗する暇も無く身体を(あお)()けに倒され、ボクは地面に大の字になる。

 

 

 

「おら、暴れんじゃねぇよ」

 

「何す──むぐっ!?」

 

 

 

 厚村くんの大きい手で口を塞がれる。両腕は厚村くんと平林くんに抑えつけられて動かせなくなった。体重もしっかり掛けられてるし、ボクの腕力ではどう()()いても振り(ほど)けそうにない。

 

 

 

「俺らが口封じしねぇと思ったかよ」

 

 

 

 金沢くんがそう言って立ち上がり、ポケットから端末を取り出したのを見て、ボクは猛烈に嫌な予感がした。

 

 

 

「くくくっ、今日からてめぇは俺らの()(れい)になんだよ」

 

(な、何するつもり……)

 

「お~っし、撮影準備完了~。いつでも良いぞ」

 

「おう」

 

 

 

 金沢くんの口振りからして、端末のカメラモードを起動してボクに向けているのは明らかだ。

 

 

 

「へへっ、そんじゃ大人しくしてろよ~」

 

「──っ!?」

 

 

 

 直後、一人だけ手の空いていた小森くんが、いきなりボクのズボンのベルトに手をかけて外し始めた。

 ゾッと()(すじ)()(かん)が走る。

 

 

 

(ちょ、それは本気でシャレになんないって……!!)

 

 

 

 もうさすがにここまで来たら、これから何をされるのか、彼らが何を企んでるのかなんて、嫌でも想像がつく。

 さっき小森くんが言ってた『棄権』がどうこうってのも、ボクを(おど)してアリーナ・カップを辞退する様に仕向ける腹なんだろう。

 

 

 

「ん"んーっ!!」

 

 

 

 何にせよこのままじゃマズイ! ボクは両足をバタつかせて必死に抵抗する。

 

 

 

「いって! このヤロ、暴れんなっつの!」

 

 

 

 こんな状態じゃ自力での脱出は無理だ。どうにかして助けを呼ばなくちゃ……!

 

 

 

「おい! 大人しくしねぇと一ノ瀬も同じ目に遭わせんぞ!」

 

「!?」

 

(っ……ダメだ、ルイくんや他のみんなまで巻き込むわけには……!)

 

「……っ」

 

「ははっ、友達想いだねぇ。そうそう、良い子にしてりゃあすぐに終わっからよぉ、へへへっ」

 

 

 

 再び小森くんの手でベルトがカチャカチャと音を立てて緩められ、ついに完全に外されてしまう。

 

 

 

総角(アゲマキ)ィ……お前ホント可愛いなァ……こいつでお前を世界の人気者にしてやるぜ!」

 

 

 

 金沢くん何わけの分からないこと言ってるの……!?

 

 

 

「さぁ~て、楽しい楽しい撮影会の始まりだぜー!」

 

 

 

 いよいよ小森くんはボクのズボンのウエスト部分に両手を掛ける。

 このまま彼らの良い様にされるしかないのか……! ボクは目をギュッと強く(つむ)って、身体を(こわ)()らせる事しかできなかった。

 

 そしてそのまま勢いよくズボンがずり下ろされ──

 

 

 

「ぐぎゃっ!?」

 

 

 

 ……? 何? 今の声……

 ボクがうっすら目を開いた瞬間、状況は一変した。

 

 

 

「あ? ──!? なっ、て、てめぇは……ぶべらっ!?」

 

 

 

 今まさにボクのズボンを脱がそうとした小森くんが後ろへ振り向いた途端、その顔面に誰かが蹴りを入れて彼を吹っ飛ばしたのが見えた。

 

 事態が全く飲み込めないけど、とりあえず視線を上方に移す。そこでボクの双眸(そうぼう)は驚愕で見開かれた。

 

 

 

「キサマら……神聖なアカデミアの地で何をやっている?」

 

 

 

 炎を思わせる()(れん)の髪に、こちらを射抜く様に見下ろす鋭い赤眼(せきがん)

 見間違える筈もない……彼はボクが選抜試験の予選で闘った相手──

 

 

 

豪炎(ごうえん)()……くん……?)

 

「お、お前は!? 次期十傑(じっけつ)候補の……!」

 

「ご……豪炎寺 龍牙(りゅうが)!?」

 

「ぐっ……おい何ボサッとしてんだてめぇら! とっととそいつをぶちのめせ!!」

 

 

 

 予想だにしなかったであろう人物の乱入に厚村くんと平林くんが狼狽(うろた)えていると、何故か地面に倒れていた金沢くんが起き上がり、二人に指示を出した。

 

 どうやらボクが目を閉じていた一瞬の間に、豪炎寺くんが金沢くんを襲撃したらしい。あの「ぐぎゃっ」って声はその時のものだろう。

 

 

 

「お、おうっ!」

 

「てめぇ舐めてんじゃねーぞっ!!」

 

 

 

 二人がボクを解放して豪炎寺くんに殴りかかる。何だか知らないけど助かった。今の内にボクも起きよう。

 

 

 

「っらぁ!!」

 

 

 

 先に厚村くんが殴りつけようとする。けれども、

 

 

 

「ふん……」

 

 

 

 豪炎寺くんはそれをいとも簡単に(かわ)して──

 

 

 

(のろ)いわっ!!」

 

「っ!? ごっ、はぁ……!」

 

 

 

 無防備となったボディにカウンターパンチを打ち込んだ。モロに入ったのか巨体の厚村くんがワンパンでノックアウトされる。

 つ、強い……! 素人目にも相当ケンカ慣れしているのが(わか)る、無駄な動きの無い身のこなしだ。

 

 

 

「死ねやぁ!!」

 

「──! 危ないっ!」

 

 

 

 ボクはとっさに声を上げた。平林くんが豪炎寺くんの背後から飛びかかるのが見えたからだ。

 

 

 

「馬鹿め」

 

「もがっ!?」

 

 

 

 ところが豪炎寺くんはとっくに気づいていたらしく、当たり前みたいに平林くんの顔を片手で鷲掴みして奇襲を阻止した。

 

 

 

「不意討ちならもう少し気配を消すんだな」

 

「ひっ……!」

 

 

 

 そのまま近くの壁に平林くんの頭を容赦なく思いっ切り叩きつけた。うわ、痛そう。すごい音したよ今。

 

 

 

「おげっ……!」

 

 

 

 豪炎寺くんが手を離すと、平林くんの身体はズルズルと力なく崩れ落ちていった。白目を剥いてるけど気絶してるだけみたいだ。良かった生きてた。

 壁は今の一撃で大きく陥没(かんぼつ)してしまい、深い穴ぼこが衝撃の強さを物語っている。これ下手したら死んでるって。

 

 ボクは立ち上がっていそいそとベルトを締め直す。小森くんを一瞥(いちべつ)すると、グラサンが無惨に粉砕していて、鼻血を出しながら伸びていた。あらら、こっちもダメそうだ。

 

 

 

「豪炎寺くん……どうしてここに?」

 

「会場の中でキサマがこいつらと一緒にいるのを見かけただけだ。妙だと思って後を()けてみれば案の定だったな。全くこの程度の連中に手も足も出ないとは情けない」

 

「うっ、手厳しい……ケンカは苦手なんだよ」

 

「さて……残るはキサマか」

 

「なっ……なっ……!」

 

「安心しろ、キサマは決闘(デュエル)(ほうむ)ってやる。この俺が直々(じきじき)にな」

 

 

 

 豪炎寺くんは左腕に、自身の髪とお揃いの真紅に塗られたデュエルディスクを装着した。

 

 

 

「どうした、かかって来るがいい。俺を口止めする最後のチャンスだぞ?」

 

「くっ……クソッタレがぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 セツナの危機に現れた豪炎寺が金沢と決闘(デュエル)を開始した頃──

 

 センター・アリーナ内でも、新たな闘いの幕が上がろうとしていた。

 

 

 

『さぁ選手入場だっ! この学園に、延いてはこのジャルダンの街に、この男の名を知らぬ決闘者(デュエリスト)がいるだろうか!? そう! その男こそ! ()の学園〝最凶〟・鷹山(ヨウザン) (カナメ)唯一(ゆいいつ)匹敵する、もうひとつの学園〝最強〟!! IQ(アイキュー)200の頭脳と天性の決闘(デュエル)センスを兼ね備えた、まさに百年に一人の天才──九頭竜(くずりゅう)! 響吾(キョウゴ)だぁーーーッ!!』

 

 

 

 大手のプロリーグと遜色ない規模を誇るドームの、中心部を占める大舞台。

 そこに立つ、紫色の髪と瞳に褐色の肌が特徴的な、180センチは優に超えた長身の青年を、大歓声が歓迎する。

 

 制服はだらしなく着崩し、ネクタイを巻いてすらおらず、スラックスのポケットに両手を突っ込んでいる(たたず)まいは(はた)から見れば悪印象であり、外見だけで判断するなら、およそ善良な生徒とは思えない。

 

 彼こそが実況の紹介にあった通り、ジャルダンの生ける伝説・鷹山 要と双璧(そうへき)を成す希代の逸材(いつざい)

 

 〝最凶〟に並ぶ〝最強〟──九頭竜 響吾である。

 

 顔立ちは本人の言わずと知れた凶暴性を可視化させた様な強面(こわもて)だが、しかしパーツの一つ一つが高い水準で構成され、美しく整っている。

 その(いか)めしい風貌ながら端整なルックスが大画面のモニターにクローズアップされると、女子生徒や観客の女性達から黄色い声が沸き上がった。

 (てん)()の才能に加えて容姿まで秀麗(しゅうれい)。もはや『神に選ばれた人間』と言っても過言ではない。

 非の打ち所があるとすれば、傍若無人(ぼうじゃくぶじん)()とする気性の荒さぐらいか。果たして何人の観衆が『天は()(ぶつ)を与えず』ということわざを、否定したくなった事だろう。

 

 だが……どれほど熱のこもった声援も、九頭竜当人の心には……

 

 ──ただ、(むな)しく響くだけだった。

 

 

 

「……ケッ、くだらねぇ」

 

(どいつもこいつも二言(ふたこと)目には鷹山を引き合いに出しやがって……今に見てやがれ。ジャルダンの頂点は二人もいらねぇって事を、今年こそてめぇらに知らしめてやる!)

 

『そしてその学園最強に対するは! 今年でアリーナ・カップ2年連続出場となる秀才! IQ180の頭脳派決闘者(デュエリスト)()() 和正(かずまさ)ッ!!』

 

「ふん……」

 

 

 

 次に名を呼び上げられたのは深緑色の髪を短く切り揃え、細いフレームのメガネを掛けた痩身(そうしん)の男子生徒。

 制服を一切の乱れもなくきちっと着用しており、時折メガネのブリッジを指先でクイッと押し上げ、位置を調整する仕草と相まって、九頭竜とは正反対の真面目で理知的な雰囲気を(かも)し出している。

 

 

 

「つくづく不愉快な事だ。貴様の様に()(ぼう)な人間が、知能指数ではこの私より(すぐ)れているというのだからな」

 

「あぁ?」

 

「だが決闘(デュエル)における知略では、私は貴様を遥かに凌駕している。この試合でそれを証明してみせよう。──九頭竜 響吾。学園最強の看板は、今日限り下ろしてもらう」

 

 

 

 強気に宣戦布告し、壬生はメガネを再び押し上げた。

 

 

 

「……ハッ、ゴチャゴチャうるせぇな。てめぇなんざ()()から眼中にねぇんだよ。()(たく)並べてる暇があんならとっとと構えろ、すぐに撃ち殺して終わらせてやる」

 

「っ……! 言ってくれるな不良()(ぜい)が。今に後悔させてやろう……その(おご)りが貴様の敗因となるのだ!」

 

『共に明晰な頭脳を持つキレ者同士! この知能戦を制するのは果たしてどちらなのか!? それでは第3試合、イ~~~ッツ! タイム・トゥ──』

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 九頭竜 LP(ライフポイント) 4000

 

 壬生 LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「私のターン! 私は魔法(マジック)カード・【(しん)()(ほどこ)し】を発動! デッキからカードを3枚引き、手札から【森羅】を含む2枚のカードをデッキの一番上に置く! 私が置くのは1枚目が【森羅の()()り ピース】、2枚目が【森羅の(かげ)(ほう)() ストール】!」

 

「……」

 

「さらに手札からフィールド魔法・【森羅の霊峰(れいほう)】を発動!」

 

 

 

 フィールドの景色が辺り一面に草木の叢生(そうせい)する樹海へと変わり、壬生の背後には日本三霊山の一角を彷彿(ほうふつ)とさせる神々(こうごう)しい高山(こうざん)屹立(きつりつ)する。

 

 

 

『おぉーっと壬生選手、開始早々フィールド魔法を展開! いきなり飛ばしていくぅーっ!』

 

「【森羅の霊峰】の効果! 1ターンに一度、自分のメインフェイズに、手札または自分フィールドの植物族モンスター1体を墓地へ送り、デッキから【森羅】と名のつくカード1枚を選択し、デッキの一番上に置く事ができる! 私は手札の【森羅の隠蜜(おんみつ) スナッフ】を墓地に送り、デッキの中の【森羅の葉心棒(ようじんぼう) ブレイド】を一番上に置く!」

 

(……チマチマとデッキ操作しやがって……何する気だ? 単に欲しいカードを呼び込んでるだけじゃなさそうだが……)

 

「ここで【スナッフ】の効果発動! このカードが手札、フィールドから墓地へ送られた場合、自分のデッキの一番上のカードをめくり、それが植物族だった場合は墓地に送る!」

 

「──! ハッ、なるほどな……そういう事かよ」

 

「ほう……早くも私の狙いに気づいたか。その洞察力は誉めてやろう。私がめくったカードは当然──植物族モンスター・【森羅の葉心棒 ブレイド】! このカードはカード効果でデッキからめくられ、墓地に送られた場合、手札に加える事ができる! そして【ブレイド】を通常召喚!」

 

 

 

【森羅の葉心棒(ようじんぼう) ブレイド】 攻撃力 1900

 

 

 

「私はカードを1枚伏せ、ターンを終了する」

 

『壬生選手、実にトリッキーな動きで盤面を整えた! さぁこれに対し九頭竜選手はどう打って出るのか!? 注目の九頭竜選手のターン!!』

 

「俺のターン。──【ツインバレル・ドラゴン】召喚!」

 

 

 

 神聖な山の(ふもと)に樹木が茂り連なる自然豊かな大地には似つかわしくない、拳銃(ピストル)型の頭部を持つ機械の龍が現れる。

 

 

 

【ツインバレル・ドラゴン】 攻撃力 1700

 

 

 

「こいつが召喚された時、相手のカード1枚に2発の弾丸を撃ち込む。2発とも当たれば成功だ、そのカードを破壊する」

 

 

 

 【ツインバレル・ドラゴン】の銃身に弾丸が装填(そうてん)される。

 

 

 

「ふん、早速お得意のギャンブルか……いつ見ても貴様の戦法は理解に苦しむな。決闘(デュエル)は99%の知性が勝敗を決する。運が働くのはたった1%に過ぎん! 運に勝負を預けるなど、私に言わせれば愚の骨頂!」

 

「運に預けるだぁ? 何ズレたこと言ってやがる」

 

 

 

 そして上下二連の銃口を【森羅の葉心棒 ブレイド】に突きつけ──

 

 

 

「俺が外すわけねぇだろ」

 

 

 

 2発の銃弾を発砲。狙い通りの弾道を描き、標的となった森の戦士に見事命中した。

 

 

 

「ぐおっ!? 馬鹿な……!」

 

『九頭竜選手、一か八かのギャンブル効果を当たり前の様に当ててきたぁーッ!!』

 

「勘違いしてるみてぇだから1つ教えといてやる。運なんてのは頼るモンじゃねぇ、引き寄せるモンだ。自分(てめぇ)の意のままにな」

 

「おのれ……! マグレで当てた程度で良い気になるなよ! 【森羅】モンスターが墓地へ送られた時、手札から【森羅の賢樹(けんじゅ) シャーマン】を特殊召喚できる!」

 

「!」

 

「現れろ! 【森羅の賢樹 シャーマン】!!」

 

 

 

 召喚されたのは高々と(そび)え立つ巨木。その幹には、繁茂する枝葉と同じ緑色の立派な髭を生やした、荘厳(そうごん)な表情の顔があり、鼻には丸メガネらしき物を掛けている。

 

 

 

【森羅の賢樹(けんじゅ) シャーマン】 攻撃力 2600

 

 

 

『なんと! 開始2ターン目にして早くも壬生選手のエースモンスターが登場だぁーッ!! 九頭竜選手ピーンチ!』

 

「フフッ、礼を言おう九頭竜。貴様のおかげで私のデッキの切り札(エース)を召喚できた」

 

 

 

 壬生はしてやったりと言いたげに得意気な笑みを浮かべると、またもやメガネを押し上げる。

 

 

 

「ケッ、いちいち()(ざか)しいんだよ。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

「この瞬間! 【森羅の霊峰】の効果発動! 相手のエンドフェイズにデッキの一番上をめくり、植物族なら墓地へ送る!」

 

「……! チッ、確かてめぇのデッキの一番上は……」

 

「そうだ、私がめくったカードは【森羅の施し】によって手札からデッキの上に置いた──【森羅の影胞子 ストール】! このカードがデッキからめくられ墓地に送られた場合、魔法(マジック)(トラップ)ゾーンのカード1枚を破壊する! 対象は当然、貴様の伏せカードだ!」

 

 

 

 笠が燃えている赤い(たけ)のモンスターが飛び出し、九頭竜の場に伏せられたリバースカード目掛けて大きな火の玉を放ち、爆砕した。

 

 

 

『あぁーっと! これは驚くべき展開だっ! 九頭竜選手の伏せカードが破壊され、場にはモンスター1体のみ! 対して壬生選手の場には最上級モンスター! よもやあの学園最強が圧されているとでもいうのか!? 壬生選手、反撃のチャンス到来──…………えっ?』

 

 

 

 瞬間、マック伊東は我が目を疑った。

 

 それもその筈。【ストール】の火球が伏せカードを吹き飛ばした事で立ち込めた爆煙が晴れた時……

 

 そこにはいつの間にか、頭部と両腕に巨大な回転式拳銃を装備した、黒鉄(くろがね)の龍が姿を現していたのだから。

 

 

 

【リボルバー・ドラゴン】 攻撃力 2600

 

 

 

「なっ、なにっ!? 【リボルバー・ドラゴン】だと!? どういう事だ!!」

 

「……くくっ」

 

 

 

 これには壬生も驚きを隠せず狼狽する。一方で九頭竜はほくそ笑み、したり顔でタネを明かし始めた。

 

 

 

「かかったな! てめぇが破壊したのは(トラップ)カード・【やぶ蛇】! こいつは相手の効果で破壊か除外された時、デッキからモンスターを呼び出せるのさ!」

 

「!!」

 

「【ストール】をデッキの上に仕込んだ時から、てめぇの考えてる事なんざお見通しなんだよ!」

 

「わ、私の戦略を……逆手に取ったというのか……!?」

 

「くくくっ、礼を言うぜ。てめぇのおかげで俺も切り札を召喚できたんだからな」

 

「ぐっ……!」

 

『さ、さすがは九頭竜選手! 転んでもタダでは起きないーっ!』

 

 

 

 九頭竜の攻撃を止め、一気に勝負の流れを掴もうとした矢先に、エースモンスターの召喚を許してしまった。

 自分の戦術を逆に利用された屈辱に、壬生は奥歯を噛み締める。

 

 

 

(やってくれるな九頭竜め……だが私には次の手がある!)

 

「その程度で私を出し抜いたなどと思うなよ! 私のターン、ドロー! フィールド魔法・【森羅の霊峰】の効果により、手札から【ピース】を捨て、デッキの中から【森羅の水先(みずさき) リーフ】を一番上に置く!」

 

「……」

 

「そして【シャーマン】の効果を発動! デッキの上をめくり、植物族であれば墓地へ! 当然めくるのは【リーフ】! こいつがこの条件で墓地に送られた場合、モンスター1体を破壊する! 消え去れ【リボルバー・ドラゴン】!!」

 

「!!」

 

 

 

 頭が葉の形をしたモンスターが発射した水鉄砲を浴びて、【リボルバー・ドラゴン】は消滅してしまう。

 

 

 

「チッ……」

 

「せっかく呼び出した貴様のエースも(はかな)い命だったな。バトルだ! 【シャーマン】で【ツインバレル・ドラゴン】を攻撃! 『ウィップ・オブ・シルバン』!!」

 

 

 

 大木は地に張り巡らせた太い根を触手の様にうねらせ、銃器の竜を刺し貫き破壊した。

 

 

 

 九頭竜 LP 4000 → 3100

 

 

 

『決まったぁーッ!! 先制は壬生選手ッ!!』

 

「どうだ九頭竜! 私は貴様の様に運に頼りなどはしない! 知力を駆使し、策を張り巡らせ、着実に、確実に勝利を掴む!」

 

「……誉めてやるぜ、この俺にかすり傷を負わせられた事はな」

 

「ほざけっ! 私はこれでターンエンドだ!」

 

「良いのか? 本当に。それがてめぇのラストターンになるんだぜ?」

 

「なんだと……!?」

 

「俺のターンだ、ドロー!」

 

(ふん、私の動揺を誘っているのか? だが仮に貴様が【シャーマン】を破壊できたとしても、私の場には【森羅の恵み】が伏せてある。これを使えば──)

 

 

 

 瞬間──

 

 

 

「!?」

 

 

 

 一筋の閃光が壬生の足下に伏せられたカードを撃ち抜いた。

 

 

 

「なにっ!?」

 

(伏せカードが破壊された!?)

 

魔法(マジック)カード・【ナイト・ショット】。相手のセットした()(ほう)(トラップ)カード1枚を破壊する。この効果に対しててめぇは対象のカードを発動できねぇ」

 

「くっ……」

 

「これで目障りな伏せカードは消した、心置きなくてめぇを撃ち殺せるぜ。手札から【シャッフル・リボーン】発動。よみがえれ──【リボルバー・ドラゴン】!」

 

 

 

【リボルバー・ドラゴン】 攻撃力 2600

 

 

 

「またそいつか……だが【シャッフル・リボーン】で特殊召喚したモンスターは効果が無効となり、エンドフェイズに除外される」

 

「よく知ってるじゃねぇか。正解の褒美におもしれぇモンを見せてやるよ。魔法(マジック)カード発動! 【融合(ゆうごう)】!」

 

「!」

 

「【リボルバー・ドラゴン】と手札の【ブローバック・ドラゴン】を融合! 現れろ、レベル8──【ガトリング・ドラゴン】!!」

 

 

 

 起動せしは見るからに凶悪な巨体の兵器。長く伸びる頭部と両腕には、その名の通り複数の砲身が環状に並ぶ回転式の機関銃──通称・ガトリング砲を備え付けた竜と思わしき頭を持ち、三つ首の様相を呈している。

 

 

 

【ガトリング・ドラゴン】 攻撃力 2600

 

 

 

「っ……なんと禍々(まがまが)しい……!」

 

「くくくっ……さぁ、今から死ぬか生きるかのスリリングなギャンブルを始めようじゃねぇか」

 

「!?」

 

「【ガトリング・ドラゴン】の効果発動! 1ターンに一度、3回コイントスを(おこな)い、(オモテ)が出た数だけフィールドのモンスターを破壊する! 頭の良いてめぇなら、この意味が(わか)るだろ?」

 

「……! まさか、貴様……!」

 

「そうよ──【ガトリング・ドラゴン】の破壊効果は強制効果……そして今、フィールドには俺とてめぇのモンスターが1体ずつ。つまりこの状況で表が2回以上出た場合、こいつ自身も消し飛ぶってわけさ」

 

「正気か貴様!? よもや表が出るのを1回のみに(とど)められるつもりでいるのか!? そんな思い通りに行く筈など──」

 

「言ったろうが、俺が()()()()()()ってよ。行くぜ……てめぇのモンスターだけが死ぬか、あるいは2体とも仲良くくたばるか、それとも全部(ハズレ)で両方生き残るのか……運命のコイントスだ!」

 

 

 

 九頭竜のデュエルディスクの画面に表示された3つのコインが一斉に跳ね上がり、着地すると二、三度バウンドしながらクルクル回る。

 

 

 

(狂っている……正気の沙汰ではない……! 普通そこまで自分の運を信じ切れるものなのか……!?)

 

「…………」

 

 

 

 実況さえも固唾を飲んで沈黙し、場内に緊張が走る中──コイントスの結果が発表される。

 

 

 

「……表1つ、裏2つ。──()()()だ」

 

「──!? ばっ、ば……馬鹿なぁーっ!?」

 

 

 

 【ガトリング・ドラゴン】の右腕の機関砲が火を吹いた。間断なく鳴り続けるけたたましい銃声と共に幾百(いくびゃく)の弾丸が高速で連射され、大樹を無惨にも穴だらけにして撃破する。

 

 

 

『す、凄まじいぃーッ!! 九頭竜選手、宣言通り奇跡的な確率を引き当てたぁーッ!! この男は、運さえも自在に操れるというのかっ!?』

 

「終わりだな、インテリ野郎」

 

「ぐっ……!」

 

「バトルだ! 【ガトリング・ドラゴン】で直接攻撃(ダイレクトアタック)! 『ガトリング・ショット』!!」

 

 

 

 3本の首が全て、壬生に砲口の束を向け、大量の銃弾を斉射する。

 

 

 

「この瞬間、速攻魔法発動! 【リミッター解除】!」

 

 

 

【ガトリング・ドラゴン】 攻撃力 2600 → 5200

 

 

 

(こ、攻撃力、5200だとっ!?)

 

「ぐわあああああっ!!」

 

 

 

 威力を倍増させた鉛弾のシャワーを全身に浴びてしまう壬生。満タンだったライフポイントは、一瞬にして底をついた。

 

 

 

 壬生 LP 0

 

 

 

『決まったァァーッ!! 九頭竜選手のワンショットキルが炸裂ぅーッ!! 勝者(ウィナー)・九頭竜 響吾!! 準々決勝進出決定ーッ!!』

 

「ま……負けた……この私が……」

 

(私の計算が……私の知略が……『運』などと言う不確定要素に敗れたというのか……!)

 

「そのご自慢の脳みそにしっかりと刻み込んどけ。──俺が〝最強〟だっ!!」

 

「っ……!」

 

(九頭竜 響吾……こいつは……計算外の男だ……!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして……()しくも同じタイミングで、会場外にて行われていたこちらの決闘(デュエル)も決着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひっ、ひぃぃ~っ!」

 

 

 

 金沢 LP(ライフポイント) 500

 

 豪炎寺 LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「キサマにも決闘者(デュエリスト)としてのプライドが欠片(カケラ)でもあるのなら! (いさぎよ)く散れぇ!!」

 

 

 

黒炎弾(こくえんだん)!! -

 

 

 

「ほぎゃあああああっ!?」

 

 

 

 金沢 LP 0

 

 

 

 豪炎寺くんのエースモンスター・【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】の攻撃が、金沢くんを焼きつくした。

 さすが次期十傑候補『筆頭』。いつ見ても惚れ惚れする強さだ。

 

 

 

「ふん、他愛もない」

 

「ありがとう豪炎寺くん。本当に助かったよ」

 

 

 

 もし彼に助けてもらわなかったら本気で大会を辞退するハメになっただろうし、下手したら人生が終わるところだったかも知れない。うぅ、想像しただけでまた鳥肌が。

 

 

 

「勘違いするな。俺は俺を倒した男がくだらない形でアリーナ・カップから消えるのが許せなかっただけだ。そうでなければ誰がキサマなど」

 

「あはは……借りが出来ちゃったね」

 

「こんな事は一度きりだ。次は無いと思え」

 

 

 

 それだけ言い残すと、豪炎寺くんは先に帰っていった。

 

 

 

「……じゃ、ボクも戻ろっか。いってて、あーもう……思っきし蹴ってくれちゃって」

 

(……あっ)

 

 

 

 まだ痛む(ふく)()を抑えつつセンター・アリーナに戻ろうとした時、ボクはとても大変な事を思い出した。

 

 すぐさまポケットにしまっていたスマート端末を引っ張り出す。

 画面には何件もの着信とメッセージ受信の通知が表示されていた。全部アマネからだ。

 

 

 

「ヤバイ……どうやってごまかそう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……『端末をトイレに忘れて、女の子と話し込んでた』、ですってぇ~……っ!?」

 

「う、うん……ソーナノ」

 

 

 

 腕を組んで仁王立ちしているアマネの前で、ボクは何故か正座させられて冷や汗をダラダラ流していた。

 まさか男に集団で襲われました、なんて言えるわけもないので、口から出任せで適当な弁明をしてみた結果がこれです。

 アマネは口角は上がってるけど目が笑ってない。完全にお怒りだ。

 

 

 

「なーんだ、心配して損した~」

 

 

 

 アマネと一緒にボクを探してくれていたマキちゃんは、頭の後ろで両手を組みながら呆れ顔でため息混じりにそう言った。

 

 

 

「アンタねぇ! 試合前だってのに気が抜けてんじゃないの!? どんだけ心配したと思ってんのよ! アンタのせいで九頭竜の試合も見逃しちゃうし!」

 

「本当に悪かったって~。反省してるから、このとおり。ね?」

 

 

 

 手を合わせながら眉は八の字に下げて謝るボク。女の子に嘘をつくのは忍びないけど、本当の事を話してまた面倒事に発展するのは避けたいし、今回ばかりは仕方がない。

 

 というかマズイ、そろそろ両足の感覚が無くなってきた……

 

 

 

「上目遣いやめろ! それで許されるのはルイくんだけ!」

 

「うっ、それは激しく同感」

 

「ハァ……まぁ無事に見つかったからもういいわ、さっさと戻るわよ」

 

「セツナくん、あとでジュース(おご)ってね~♪」

 

「うん……心配かけて本当にごめんね。探しに来てくれてありがとう、二人とも」

 

「……別に……友達なんだから当然でしょ」

 

「おっ! アマネたんのデレいただきました~!」

 

「うっさい! デレてない!」

 

 

 

 マキちゃんに茶化され、ムキになって否定するアマネだけど、ほんのり顔が赤らんでいる様に見えた。

 本当、良い友達に恵まれてるな、ボクは。

 

 

 

「ほら行くわよ! ルイくんとケイくんもアンタのこと心配してたから、ちゃんとお礼言っときなさいよね!」

 

「うん、分かっ──たッ"!?」

 

「「?」」

 

 

 

 立ち上がろうとした途端、ふくらはぎに(にぶ)(しび)れが走り、上半身が前のめりに倒れ込んだ。あ、足がジンジンして力が入らない……これはもしや……!

 

 

 

(お、遅かったかぁ~っ!)

 

「およ? もしかして足痺れた?」

 

「セツナ……つくづくアンタは()()を呆れさせる天才ね……」

 

「ご、ごめん、ヘルプミー……」

 

「つついてあげよっか? うりうり!」

 

「ちょ、待っ!? それダメ──アァ~~~~ッ!!」

 

 

 

 マキちゃんはオモチャを見つけた子供みたいに目をキラキラ輝かせて、ケラケラ笑いながらボクのふくらはぎを指でつついて遊び出すのであった……

 

 

 

 





 超久しぶりの九頭竜のデュエルでした! いろいろと懐かしかったです。

 あと金沢が使った例のセリフ、ガマンできなくて入れてしまいました(笑)

 そう言えばリンク召喚もろくに知らない頃にこの小説を書き始めたんでしたっけ。あの頃と比べたら少しは上達してると良いな(*´ω`*)

 さてさて来年からは新ルールの『ラッシュデュエル』とやらが導入されるらしいのですが、今度はどうなるのでしょうか。とりあえず作者はアニメのキャラデザがすでに好みなので放送が待ちきれないです!

 来年もきっと遅筆かもですが気が向いた時にでもご一読いただければ幸いです。皆さま、よいお年を!


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TURN - 37 Eat or be Eaten


 あけましておめでとうございます!(3月)

 今年も相変わらずの遅筆っぷりですが、気が向いた時にでもセツナ達の物語にお付き合い頂ければ幸いです!



 

「はぁ……ひどい目に遭った、色んな意味で」

 

 

 

 金沢くん達にリンチされかけ、アマネに説教され、マキちゃんに痺れた足を突っつかれ、心身共にぐったりと疲れ果てたボクは、やっとの思いで選抜デュエル大会・本選の会場──センター・アリーナの観客席に戻ってこれた。

 

 

 

「あっ、セツナ先輩!」

 

(あに)さん! どこ行ってたんスか、心配しやしたぜ!」

 

「ただいまー。ごめんね二人とも」

 

「聞いてよ~、セツナくんったらナンパなんかしてたんだよ~?」

 

「いやナンパはしてないよ!?」

 

「え~? でも女の子とお喋りしてたんでしょ? ナンパじゃなかったら何やってたの?」

 

「うっ……」

 

 

 

 あんまり否定すると、変に追及されちゃうな。マキちゃんって勘が鋭いし、これ以上この話題は広げないでおこう、うん。アマネやケイくんが事実を知ったら、金沢くん達に殴り込みに行きかねない。

 

 

 

「ま、まぁ、ちょっと話し込んじゃってさ、あはは……」

 

(あに)さん……こんな日まで緊張感ねぇッスね」

 

「でも先輩が無事で良かったです」

 

「ありがとう」

 

 

 

 座席に腰を下ろして、ほっと安堵のため息をつく。本当、一時はどうなるかと思ったよ、まさかあんな事されるなんて……助けてくれた豪炎寺くんには心から感謝だね。

 

 

 

「あ、ところでどうだった? 九頭竜くんの試合」

 

「予想通り、九頭竜の圧勝でしたぜ。さすが学園最強……圧巻の強さでした」

 

「やっぱりかぁ~」

 

 

 

 九頭竜くんの決闘(デュエル)は次こそは観ておきたいな。もしかするとカナメを倒して決勝に上がってくるかも知れない強敵だし。いや、その前にボクが決勝戦まで勝ち進める様に頑張らなくちゃなんだけどさ。

 

 

 

「そろそろ第4試合が始まるわね」

 

 

 

 アマネが手に持つ携帯端末に視線を落としてそう言った。確か4戦目の組み合わせは……

 

 

 

「ヨウカちゃんと虎丸(とらまる)くんだっけ」

 

「えぇ、両方とも十傑(じっけつ)ね」

 

「……そう言えばボク、十傑同士の決闘(デュエル)を観るのは初めてかも」

 

「そうなの? じゃあ良い機会ね。十傑レベルの決闘(デュエル)は……()(もの)よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──さぁさぁさぁさぁ!! 待たせたな諸君! お次は第4試合の始まりだッ!! 本日の前半戦、最後の試合! 全力で盛り上げてってくれぇーッ!!』

 

 

 

 安定のハイテンションな煽動(せんどう)で観客を沸かせ、会場内を温めてくれる実況のマック伊東さん。

 止めどない拍手と歓声に迎えられながら、二人の生徒がメインステージに登壇(とうだん)した。

 

 

 

『第4試合の出場者は、なんと両者共に十傑!! まず一人目は、冴え渡る動物的勘を()(かん)なく発揮し、フィールドを縦横無尽に駆け巡る生粋(きっすい)の野生児! 3年・虎丸 ()(すけ)ぇぇーーーッ!!』

 

「ニハハハーッ! やぁーっとオイラの出番だぜーッ!」

 

 

 

 短い()(がね)(いろ)の髪と小柄な体躯が印象的な男の子が、その場で飛び跳ね、空中で身体を縦に1回転させた後、華麗な着地を決めた。

 アクションスターもビックリの身のこなしだ。SAS○KEに出たら優勝できそう。

 

 

 

『そして二人目! その野生児に対するは、蝶の様に舞い蜂の様に刺す、(うるわ)しきナイスガイ! 人呼んで〝戦場に咲く一輪の華〟! 3年・蝶ヶ咲(ちょうがさき) (ヨウ)()ァァーッ!!』

 

「ん~、ナイスガイも悪くないけれど……どうせなら乙女って言ってほしかったわ。アタシ、ココロは女だから♡」

 

 

 

 美形で長身の青年が長めな藍色(あいいろ)の髪を(なび)かせると、観客席から黄色い声援が飛び()った。

 オネエ口調で喋る変わった()()だけど、女の子にはモテるみたいだ。

 

 

 

『今大会初の十傑同士の決闘(デュエル)! これは注目の一戦になりそうだ! それでは皆、準備は良いか!? イ~~~ッツ! タイム・トゥ──』

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 虎丸(とらまる) LP(ライフポイント) 4000

 

 蝶ヶ咲(ちょうがさき) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「ぃよーしっ、オイラの先攻だよん! オイラは【(おう)()ワンフー】を召喚!」

 

 

 

(おう)()ワンフー】 攻撃力 1700

 

 

 

『これは虎丸選手、いきなり厄介なモンスターを出してきたー! 【王虎ワンフー】が場にいる限り、攻撃力1400以下のモンスターを召喚、及び特殊召喚すると、たちどころに破壊されてしまうのだぁーっ!!』

 

「ニハハハッ。ヨウ姉の虫デッキには、まさに天敵だろ~?」

 

「……」

 

 

 

 そうだ、予選でコータとの決闘(デュエル)を観た時、ヨウカちゃんは攻撃力の低い昆虫族や植物族を多く使っていた。確かに【ワンフー】の効果はよく刺さる筈。

 

 

 

「オイラはカードを3枚伏せて、ターン終了(エンド)!」

 

「ではアタシのターン、ドロー」

 

 

 

 (なめ)らかな手つきとダンスの様に流麗な動き(ムーブ)で、デッキからカードを引くヨウカちゃん。

 1ターン目から召喚を制限されたも同然の状況で、どう打って出る?

 

 

 

「……ンフッ、甘いわねキスケちゃん。確かに【ワンフー】ちゃんの効果は厄介だけれど、アタシがそれを利用するとは考えなかった?」

 

「にゃ?」

 

「アタシは【代打バッター】を召喚!」

 

 

 

【代打バッター】 攻撃力 1000

 

 

 

「んげっ!? そいつは!」

 

「この子の攻撃力は1000。よって【ワンフー】ちゃんの効果が発動するわ」

 

 

 

 フィールドに大型犬ほどもあるサイズのバッタが出現するも、【ワンフー】のモンスター効果を受けて即座に破壊される。

 

 

 

「【代打バッター】の効果発動! この子がフィールドから墓地へ送られた時、手札から昆虫族1体を特殊召喚できる。現れなさい──【究極変異体・インセクト女王(クイーン)】!!」

 

 

 

【究極変異体・インセクト女王(クイーン)】 攻撃力 2800

 

 

 

 出たな変態女王。いつ見ても強烈なビジュアルをしていらっしゃる。

 

 

 

『おぉーっと蝶ヶ咲選手! 【王虎ワンフー】の効果を逆手に取り、早くも最上級モンスターを召喚したぁーッ!!』

 

「ぐぬぬぬっ……! そう来たか~!」

 

「詰めが甘かったわね。さぁ行くわよ、美しき闘いを──」

 

「待った! (トラップ)カード・【()(かく)する咆哮(ほうこう)】を発動!」

 

「!」

 

 

 

 【ワンフー】に吠えられた女王様は、(ひる)んで動きを止めた。

 

 

 

「このターン、ヨウ姉は攻撃宣言できないぜ!」

 

「あら残念。仕方ないわね、アタシはこれでターンエンドよ。そしてこのエンドフェイズ、【女王(クイーン)】はフィールドに卵を産みつける」

 

 

 

 ヨウカちゃんの言葉通り、【究極変異体・インセクト女王(クイーン)】は卵を産み落とし、その中から1匹の幼虫が()()した。

 

 

 

【インセクトモンスタートークン】 守備力 100

 

 

 

「フィールドに他の昆虫族が存在する場合、【究極変異体・インセクト女王(クイーン)】の効果で、アタシの昆虫族は相手の効果の対象にならず、効果では破壊されない。さっ、アナタのターンよ、キスケちゃん」

 

「っ……!」

 

『虎丸選手、何とかこのターンは(しの)いだが、勝負の流れは今や蝶ヶ咲選手に傾いている! 果たしてここから対抗策はあるのだろうか!?』

 

「……ニハハッ、おーもしれっ。やってやろーじゃん!」

 

 

 

 盤面だけを見れば虎丸くんが不利な状況。だと言うのに彼は、ニカッと八重歯を見せつける様に口角を上げて笑った。

 

 

 

「オイラのターン、ドローッ!」

 

(おっし!)

 

「行っくぜ~ヨウ姉。今度はこっちの番だ! オイラは【ワンフー】をリリースして──【百獣王(アニマル・キング) ベヒーモス】をアドバンス召喚!!」

 

 

 

 新たに呼び出されたのは、紫の(たてがみ)()(つい)(つの)を生やし、肌がピンク色の筋肉質な巨体を持つ四足歩行の獰猛(どうもう)な獣だった。

 

 

 

「へへーん、どうだ! こいつがオイラの切り札だ!」

 

『おぉーっと虎丸選手も負けじと最上級モンスターを召喚だぁーッ!! しかも、レベル7のモンスターをリリース1体で召喚だとぉーっ!?』

 

「【ベヒーモス】の召喚はリリース1体でも出来るんだぜー! そん代わし、攻撃力は2000に下がっちゃうけどね!」

 

 

 

百獣王(アニマル・キング) ベヒーモス】 攻撃力 2000

 

 

 

「そんで【ベヒーモス】の効果発動! 召喚する時リリースしたモンスターの数だけ、墓地の獣族を手札に戻せる! オイラは【王虎ワンフー】を戻すよん!」

 

「虎の王の次は百獣の王と来たか……でも、その攻撃力じゃアタシの女王には勝てないわよ?」

 

「ニヒヒッ、そりゃあどうかにゃ~? 手札から魔法(マジック)カード・【野生解放】を発動!」

 

 

 

 【ベヒーモス】は大気をビリビリと震わせるほどの咆哮を轟かせながら、全身の筋肉を限界まで膨らませ、力を(みなぎ)らせる。言うなれば、バーサーカー状態(モード)だ。

 

 

 

百獣王(アニマル・キング) ベヒーモス】 攻撃力 2000 → 3500

 

 

 

「攻撃力3500……!?」

 

「【野生解放】で【ベヒーモス】の守備力分、攻撃力をアップしたんだぜ! さぁ狩りの時間だ……!」

 

(来るわね……)

 

「バトル! 【ベヒーモス】で──そこの()っこい虫を攻撃!」

 

「えっ!?」

 

 

 

 虎丸くんが攻撃対象に選んだのは、【究極変異体・インセクト女王(クイーン)】ではなく、まさかの【インセクトモンスタートークン】だった。これにはさすがのヨウカちゃんも驚きの声を上げた。ボクも目を剥いたし恐らく誰もが意表を突かれた事だろう。

 

 

 

「この瞬間! 永続(トラップ)カード・【吠え(たけ)る大地】を発動! 【ベヒーモス】の攻撃に、貫通効果を加えるぜーッ!」

 

 

 

 アレはボクと()った時も使っていた(トラップ)か。何だか懐かしいね。

 【ベヒーモス】の太い前足が産まれたばかりの幼虫を容赦なく踏み潰した。その衝撃で発生した余波が多大な貫通ダメージとなってヨウカちゃんを襲う。

 

 

 

「くっ……!」

 

 

 

 蝶ヶ咲 LP 4000 → 600

 

 

 

「よっしゃあっ! 【吠え猛る大地】の効果で相手が貫通ダメージを受けた時、相手モンスター1体の攻撃力と守備力を、500ポイントダウンする! 下げんのはお前だ! んーっと……【きゅーきょくなんちゃらクイーン】!」

 

 

 

【究極変異体・インセクト女王(クイーン)】 攻撃力 2800 - 500 = 2300 守備力 2400 - 500 = 1900

 

 

 

(アタシに大ダメージを与えて【女王(クイーン)】を弱体化させる為に【幼虫(トークン)】を? ……だとしても()せないわね)

 

「どういうつもりかしら? 【野生解放】の効果を受けたモンスターは、エンドフェイズに破壊されてしまうんでしょう? 【インセクト女王(クイーン)】の攻撃力を下げたところで、【ベヒーモス】が場に残らないなら意味がないじゃない」

 

「うんにゃ、ところがそうはならないんだよな~」

 

「……?」

 

(トラップ)発動! 【キャトルミューティレーション】!」

 

「──! そのカードは……!」

 

「自分の場の獣族1体を手札に戻して、同じレベルの獣族を特殊召喚する! オイラは【ベヒーモス】を戻して……もっかい【ベヒーモス】を召喚するぜっ!」

 

 

 

百獣王(アニマル・キング) ベヒーモス】 攻撃力 2700

 

 

 

『う、上手いっ!! これで【野生解放】のデメリットを回避し、下がった攻撃力は元に戻り、さらにバトルフェイズ中の特殊召喚という事は、2回目の攻撃が可能となる! 虎丸選手、十傑の称号に相応しい見事な戦術(タクティクス)を見せつけたぁーッ!!』

 

「なるほど……それがアナタの本当の狙いだったのね」

 

 

 

 【究極変異体・インセクト女王(クイーン)】には、他の昆虫族が場にいる時、昆虫族をカード効果から守る能力があった。

 最初に【インセクトモンスタートークン】を破壊したのは、【女王(クイーン)】を【吠え猛る大地】の対象にする為……!

 ここまで考えて先にトークンから攻撃したのか……すごい!

 

 

 

「行っけぇ【ベヒーモス】!! 今度の獲物はあのでっかい虫だっ! 『キングス・ファング』!!」

 

 

 

 強靭な牙で【インセクト女王(クイーン)】の胴体を喰い()()る【ベヒーモス】。

 百獣の王と昆虫の女王の一騎討ちは、百獣の王に軍配が上がった。

 

 

 

「っ!」

 

 

 

 蝶ヶ咲 LP 600 → 200

 

 

 

「惜っしぃ~~~! 削り切れなかったかぁ! まぁいーや、オイラはこれでターンエンドだぜ!」

 

『ななな、なんとハイレベルな闘いだーっ!! 蝶ヶ咲選手が勝負の主導権を握ったかと思えば、次のターンには虎丸選手があっさりと形勢を引っくり返してしまった!! 互いに一歩も退()かない! これがジャルダン校のトップランカー・十傑同士の決闘(デュエル)!!』

 

 

 

 場内はすっかり興奮の()(つぼ)と化していた。こんなスリリングなクロスゲーム、そうそう見られない。普段から十傑の決闘(デュエル)は生徒に人気があったのも頷ける。

 

 

 

「……やるわねキスケちゃん。アタシのターンよ」

 

 

 

 一転して今度はヨウカちゃんがピンチだ。

 【吠え猛る大地】がある限り、守備表示でモンスターを出しても、ダメージは()けられない。それに虎丸くんの手札には、【ベヒーモス】の効果で墓地から回収(サルベージ)した、【王虎ワンフー】も控えている。

 

 

 

「ドロー!」

 

(【レッグル】……このカードじゃダメね……今の手札じゃ【ベヒーモス】を倒す手段は無い……ならば一か八か!)

 

「アタシは速攻魔法・【リロード】を発動! 手札をデッキに加えてシャッフルし、その枚数分のカードをドローするわ!」

 

「むむっ!」

 

「ンフッ、アタシもキョーゴちゃんみたいに、運を引き寄せてみせようかしらね……ドローッ!」

 

 

 

 ヨウカちゃんは一気に4枚のカードをデッキから引き、それらを横目で確認した直後──口元に薄く笑みを浮かべた。

 

 

 

「……あと一歩だったわね、キスケちゃん。どうやら勝利の女神は……アタシに微笑んだみたいよ」

 

「──っ!?」

 

 

 

 突如、【ベヒーモス】に異変が起こる。

 何やら呻き始めたかと思うと、体内から青い色をした百足(ムカデ)の様な生き物が肉を突き破って飛び出し、【ベヒーモス】の身体中を這いずって(まと)わり付いたんだ。そのグロテスクな光景に観客は悲鳴を上げる。

 

 

 

「【ベヒーモス】!? な、なんだよこれ! どうしちまったんだぁ!?」

 

『いっ、一体何が起きているんだぁーっ!?』

 

「手札の【寄生虫パラノイド】は、フィールドのモンスター1体に装備できる。この子に寄生されたモンスターは種族が昆虫族になる。そして昆虫族となった【ベヒーモス】を対象に……魔法(マジック)カード・【超進化の(まゆ)】を発動!」

 

 

 

 虫に寄生された【ベヒーモス】が今度は金色の輝きを放つ巨大な繭に包み込まれる。

 

 

 

「ああっ! 【ベヒーモス】が!?」

 

「楽しませてくれたお礼よ、昆虫族最強のモンスターを見せてあげるわ。──産まれなさい! 【究極完全態・グレート・モス】!!」

 

 

 

 繭の中から、変態女王に匹敵する大きさの()が、(ハネ)を広げ鱗粉(りんぷん)()き散らしながら誕生した。

 (もと)日本チャンプのインセクター()()も使っていた、昆虫族では攻撃力・守備力共に最高のステータスを誇るモンスターだ。

 

 

 

【究極完全態・グレート・モス】 攻撃力 3500

 

 

 

『なんとぉーっ!! 現れたのは昆虫族の中でも最強と言われる伝説級のレアカード・【究極完全態・グレート・モス】だぁぁぁぁっ!!』

 

「ぐぐぐっ……!」

 

「まだよ! 装備カード扱いの【寄生虫パラノイド】が墓地へ送られた場合、手札にあるレベル7以上の昆虫族を、召喚条件を無視して特殊召喚できる! お次は【究極変異体】の()()をお披露目よ。──【インセクト女王(クイーン)】!!」

 

 

 

【インセクト女王(クイーン)】 攻撃力 2200

 

 

 

 ()()みたいな6本の足に、赤い前翅(まえばね)刺々(トゲトゲ)しい外骨格。名前こそ変態女王と同じだけど、姿形が所々(ところどころ)異なる虫が現れる。

 これまた羽蛾さんのデッキにも入っていたモンスターだ。バトルシティ編のDVDで観た!

 

 

 

「【インセクト女王(クイーン)】の攻撃力は、フィールドにいる、自身を含む昆虫族1体につき、200アップする」

 

 

 

【インセクト女王(クイーン)】 攻撃力 2200 → 2600

 

 

 

 虎丸くんの場は【吠え猛る大地】以外には伏せカードもセットされていない完全な無防備。もはや勝負は決まったね……

 

 

 

「バトルよ! 【究極完全態・グレート・モス】で直接攻撃(ダイレクトアタック)! 『モス・パーフェクト・ストーム』!!」

 

 

 

 【グレート・モス】は翅を羽ばたかせて突風を巻き起こし、虎丸くんを軽々と吹き飛ばす。

 

 

 

「うぎゃあぁぁぁーっ!?」

 

 

 

 虎丸 LP 4000 → 500

 

 

 

「──【インセクト女王(クイーン)】は自分のモンスターを1体リリースしなければ攻撃できない。アタシは【究極完全態・グレート・モス】を捧げるわ」

 

 

 

 うげっ、【インセクト女王(クイーン)】が【グレート・モス】を食べちゃった。

 あーあ、召喚条件が厳しすぎて滅多に拝めない激レアモンスターだったのに、もう見納めかー。にしてもやっぱりヨウカちゃんの美しさの基準って、よく分かんないや。

 

 

 

【インセクト女王(クイーン)】 攻撃力 2600 → 2400

 

 

 

「これでオシマイよ。【インセクト女王(クイーン)】の攻撃! 『クイーンズ・ヘル・ブレス』!!」

 

 

 

 縦に大きく開かれた【インセクト女王(クイーン)】の口内から、怪光線が放たれた。

 

 

 

「せめて美しく散りなさい」

 

「っ……ぎにゃああああああっ!!」

 

 

 

 虎丸 LP 0

 

 

 

『決着ゥゥーーーッ!! 勝者(ウィナー)・蝶ヶ咲 妖華ッ!!』

 

「フゥ……久々にドキドキしたわ」

 

「くっそぉぉーーーっ!! 負けたぁぁーーーッ!!」

 

 

 

 絶えず鳴り続ける拍手と歓声の中、ヨウカちゃんは前髪を掻き上げながら息をつき、虎丸くんは大の字で仰向けになって、悔しげに叫んだ。

 

 両者の実力は互角。どっちが勝ってもおかしくない接戦だった。ボクは他の観客に混じって拍手を送り、二人の健闘を讃える。

 

 

 

「良い決闘(デュエル)だったね、アマネ」

 

「そうね」

 

「あんなの見せられたらボクも燃えてきちゃったよ」

 

「その前に昼食の時間よ、食堂に行きましょ」

 

「あ、そっか」

 

 

 

 今から1時間のお昼休憩を挟んで……午後の最初の試合は──ボクと十傑の熊谷(クマガイ) (リキ)()くんだ。

 さっきまで色々あって消耗しちゃってるし、まずは美味しいランチで鋭気を養ってこなければ。今日の献立(こんだて)は何だろな♪

 

 

 

 





 今回のタイトルの意味は『喰うか喰われるか』です。(間違ってたらお恥ずかしい)
 獣族 vs 昆虫族のマッチアップにはピッタリなタイトルかと思いまして。

 次回は超久々に主人公のデュエルです!


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TURN - 38 CHIKARA is POWER


 筋肉は全てを解決してくれる(至言)



 

 選抜デュエル大会・本選──『アリーナ・カップ』の1日目。

 

 午前中の4試合が全て終了し、残すは午後の4試合のみとなった。

 今はその合間のランチタイムという事で、ボクら生徒は平時と変わらず、学園内の大食堂に集まって昼食を()っている。

 

 午後の最初の試合──第5試合目がボクの出番だ。それに備えて、午前中の()()決闘(デュエル)さえしてないのに消耗した体力を回復する為にも、しっかり食べてエネルギーを補給しておこう。

 

 アマネ、マキちゃん、ルイくんの3人にボクも同席して、お馴染みの4人組で食卓を囲み、談笑を交えつつ食事を楽しんでいた。

 ケイくんは中等部の生徒なので、中等部用の食堂に行ってる為、不在。

 

 『勝つ』という願掛けも兼ねて注文したカツカレーのトンカツを頬張っていると、アマネの(はし)が止まっている事に気づいた。

 

 

 

「アマネどうしたの? もしかして食欲ない?」

 

「あ、ううん。そういうわけじゃないんだけど……もうすぐ試合だって思うとちょっとね……」

 

「アマネたんでも緊張するんだね~、珍しい~。あたしがセツナくんに(なら)って、ハグでリラックスさせたげよっかぁ? グフフフ」

 

「絶対ハグだけで済まない気がするから遠慮するわ」

 

 

 

 両手の指をワキワキと動かしながらジリジリ迫り来るマキちゃんをいなして、アマネはトマトで煮込んだ鶏肉(とりにく)を箸で摘まんで口に運ぶ。美味しそう。

 

 

 

「……セツナもマキちゃんも、そんな呑気にしてて良いの?」

 

「「 ? 」」

 

「私達全員、これから『十傑(じっけつ)』と闘うのよ。ビビってるよりはマシなのかも知れないけど、少しは気を引き締めといた方が良いんじゃない?」

 

 

 

 アマネの最もな意見に、ボクは咀嚼(そしゃく)していたライスを飲み込んでから答える。

 

 

 

「うーん、それは言えてるけど、ご飯の時くらいはねぇ?」

 

「そうそう、アマネたんも今から気ぃ張ってたら本番の前に疲れちゃうよ~?」

 

「……まぁいいわ」

 

 

 

 早々(はやばや)と話を区切って、アマネは最後の鶏肉を食べ終えた後、紙パックのトマトジュース(200ml)を飲み干した。

 アマネの好物はトマトと血の滴る肉類で、ニンニクが苦手らしい。吸血鬼かな?

 

 

 

「ごちそうさま。私デッキの調整してくるから」

 

「あ、うん。また後でね」

 

「行ってら~」

 

 

 

 席を立ち、トレーを持って食器の返却に向かうアマネを見送ると、ルイくんが呟いた。

 

 

 

「なんだか……ピリピリしてましたね、アマネさん」

 

「アマネたんは去年の選抜試験、十傑に負けて予選落ちしてるからね~。本気でプロを目指してるあの子にとっては、越えなきゃいけない壁にぶつかってるって感じかな~?」

 

「そうだったんですか……」

 

「まっ、そういうあたしはその1個前の試合で、アマネたんに負けたんだけどさ」

 

「えっ、そうなの!?」

 

「うん。だからあたしにとって今年の選抜試験は、アマネたんにリベンジするチャンスでもあるんだよね」

 

 

 

 ボクがカナメにリベンジするのと同じ理由か。

 

 

 

「あ、もちろんセツナくんとも決着つけるつもりだから覚悟しといてね~?」

 

「望むところだよ。ボクもマキちゃんやアマネと闘いたいし、今日はみんな絶対に勝とうね!」

 

「てわけで、あたしも験担(げんかつ)ぎにカツいただきま~す!」

 

「あーっ!? ボクのトンカツなのにーっ!」

 

「ほら、あたしのエビフライあげるから交換(トレード)しよ♪」

 

(しっ)()だけじゃん!」

 

 

 

 そんなこんなで(なご)やかな時間はあっという間に過ぎ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──いよいよアリーナ・カップの後半戦が始まろうとしていた。

 

 

 

総角(アゲマキ)選手、間もなく出場の時間です。入場口前にて待機をお願いします」

 

「はーい」

 

 

 

 スタッフさんに呼ばれたのでソファーから立ち上がる。

 

 

 

「セツナくんがんばー!」

 

「負けるんじゃないわよ」

 

 

 

 アマネとマキちゃんのエールにVサインで答えて、ボクは控え室を出る。

 

 

 

「行ってくるね!」

 

 

 

「……ワニ嬢ちゃ~ん、声かけとかなくて良かったんですかぁ~?」

 

「よよよ余計なお世話ですわっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『諸君ッ!! しっかりと昼飯は済ませてきたかーっ!? 間もなく選抜デュエル大会・本選! アリーナ・カップ1日目の後半戦を始めるぞぉーッ!!』

 

「「「「 おおおおおおおおおおっ!!!!!! 」」」」

 

 

 

 実況を担当するマック伊東さんのマイクを介した大声と、お腹を満たして元気いっぱいになったのだろう観客の皆さんの前半に劣らない大歓声が、入場口で合図を待つボクの鼓膜を叩く。

 

 

 

(……さすがに緊張してきたな……)

 

 

 

 心臓が強く脈打つ。ボクは深呼吸すると左腕にデュエルディスクを取り付け、決闘王(デュエル・キング)リスペクトで腰のベルトに付けた黒いケースから引っ張り出したデッキを、それにセッティングした。

 

 

 

『それでは第5試合の出場者の紹介と行こう! みんな拍手で迎えてくれっ! まずは今年の新人(ルーキー)の中でも注目度ナンバーワン! 聞いて驚け! なんと今年この学園に転入してきたばかりでありながら、アリーナ・カップ出場を果たした期待の新星だッ! 2年・総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)ァァーッ!!』

 

「たはは……そんな大層なもんじゃないって」

 

 

 

 スモークに焚かれた道を落ち着いた足取りで歩き、大観衆の前に姿を見せた途端──爆竹みたいにけたたましい拍手の音と、より熱量を増した歓声がボクを出迎えた。

 

 

 

「っ……!」

 

(すごっ……こんな中で決闘(デュエル)するのか……!)

 

 

 

 当たり前だけど、のしかかってくる重圧(プレッシャー)は予選とは比べ物にならない。身も心も揺さぶられて頭が真っ白になりそうだ。

 

 固唾を飲んで、胸に手を当てて、出来る限り気持ちを乱さない様に(つと)めながら、ボクは何とか中央に待つ決闘(デュエル)フィールドまで到着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セツナが入場し、決闘(デュエル)フィールドに立つ姿を、場内3階席の通路から黒髪の青年が静かに見下ろしていた。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 鷹山(ヨウザン) (カナメ)

 

 この街(ジャルダン)では言わずと知れた、『学園最凶』の異名を取る天才決闘者(デュエリスト)

 

 そんな彼に、一人の生徒が歩み寄り声をかけた。

 

 

 

「アンタが他の奴の試合を観るなんて珍しーじゃねぇのよ?」

 

「……狼城(ろうじょう)か」

 

 

 

 髪が灰色の(よう)姿()端麗(たんれい)な青年。

 

 名は、狼城(ろうじょう) (アキラ)

 

 カナメと同じく、ここ、デュエルアカデミア・ジャルダン校が、トップクラスの実力を有する決闘者(デュエリスト)だと認めた、十名の生徒にのみ授与される一流の証──『十傑』の称号を持つ最上級生にして、去年の選抜デュエル大会・第3位という功績を収めた傑物(けつぶつ)である。

 

 

 

「そんなにあのメガネのルーキーちゃんが気になんの?」

 

「あぁ……まぁな。あの男は面白い決闘(デュエル)をする」

 

「ふ~ん? アンタがそこまで注目するたぁね……んじゃ、オレもお手並み拝見させてもらおっかな?」

 

 

 

 そしてセツナに注目しているのは彼らだけではない。

 

 同じ頃、メディア関係者専用の撮影フロアでは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来た来た! 来ましたよ(はや)()先輩! 総角くんです!」

 

「うるせぇぞ(あら)()。はしゃぎ過ぎだ」

 

「だって私、総角くんがタイプなんですよ~! めちゃくちゃ可愛くないですか!?」

 

「男に男が可愛いかどうかなんて分かるか。……つうかお前、朝校門通った時いただろ、そいつ」

 

「えっ、ウソッ!? どこに!? 全然気づかなかった悔し~~~っ!」

 

「お前な……」

 

(だがまぁ確かに……あの〝学園最強〟・九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)に勝ったっつう転入生の事は俺も気になってたからな……どんなもんか、見せてもらうとするか)

 

「私のジャーナリストとしての勘が告げています。総角 刹那くん……彼は要チェックです!」

 

「新人が何いっちょ前に言ってんだかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そしてその対戦相手はぁーっ! 人呼んで剛力無双!! どんな時でも(チカラ)で全てを押し通す! ジャルダンで最も力技を極めた筋肉モリモリマッチョマン!! 3年・十傑! 熊谷(クマガイ) (リキ)()ォォーッ!!』

 

 

 

 向こう側に見える入場口を、噴出したスモークが覆い隠す。その煙幕から、スキンヘッドの大男が抜け出てきた。

 

 ゴツい身体つきで上背(うわぜい)は2メートル以上あるだろう巨漢が大股で歩いてくる。

 1つ気になるのは……昨日、トーナメント抽選会で初めて会った時はタンクトップ一丁だったのに、今は普通に制服を着ている事だ。体格のせいか、だいぶピッチピチだけど。

 

 

 

「ガッハッハッ! お前さんと闘うのを楽しみに待っとったわい! よろしくな総角(アゲマキ)よ!」

 

「セツナで良いよ。こちらこそよろしくね、熊谷くん」

 

 

 

 熊谷くんと握手。ボクのより一回り大きい手に握り潰されるんじゃないかとヒヤヒヤしたけど、一瞬『ミシッ』て言った程度で骨は無事だった。ちょっと痛かった。

 

 

 

「ふい~~~っ。全く、この制服っちゅうもんはどうにも着苦しいわい」

 

「?」

 

 

 

 おもむろに息を大きく吸った熊谷くん。すると次の瞬間──

 

 

 

「ほおぉぉぉぉぁぁぁああああ"あ"あ"あ"っ"!!!!!!」

 

「!?!?!?」

 

 

 

 ()(たけ)びを上げ始めた熊谷くんの巨体をピッチリ包んでいたシャツとブレザーのボタンが(はじ)け飛び、()()はビリビリと張り裂け、破れていく。

 

 やがて制服は(こま)()れになり、筋肉の(カタマリ)と化した上半身が(さら)け出された。

 ラリアットしたら人の首なんて一発でへし折れるんじゃないかってぐらい膨張した太すぎる腕や、バッキバキのシックスパックに割れた腹筋と分厚い胸板を、惜し()もなく衆目に見せつけている。

 

 

 

(き、筋力で服を破くって……どこの暗殺拳法の使い手!?)

 

『きッ、強烈なデモンストレーションだッッ!! これ見よがしの逆三角形ッッ!! 強さとは力だッッ! 強さとは筋肉だと言わんばかりの!! 剛力無双……否、もはや怪力無双! こんな怪力は見たことがないッ!!』

 

 

 

 これがしたくてわざわざ制服を着てきたのか……こんな威嚇の仕方されたら野生の(クマ)だって逃げ出しそう。

 

 

 

「さぁ~て……おっ(ぱじ)めようかのぉっ!」

 

「あはは……お手柔らかにね」

 

 

 

 デュエルディスクの決闘(デュエル)モードを()()にする。まさか半裸のマッチョと向かい合う日が来るとは思わなかったよ。

 

 

 

『試合開始前から早くもプレッシャーをかける熊谷選手! 十傑の一角として、ニューフェイスに年季の差を見せつけるのか!? それともスーパールーキー総角選手が古豪に引導を渡すのか!? 注目の一戦、刮目して見よ! イ~~~ッツ! タイム・トゥ──』

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 熊谷(クマガイ) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「どれ、先攻は後輩に譲ってやるとするかの。どっからでもかかってきんしゃい!」

 

「それじゃあ先輩の厚意に甘えさせてもらおうかな、ボクのターン!」

 

 

 

 十傑と闘うのは久々だ。会場の熱に浮かされてるのか不思議とテンションが上がるのを感じる。

 

 

 

「最初から飛ばしていくよ! ボクは魔法(マジック)カード・【予想GUY(ガイ)】を発動! デッキから【暗黒の竜王(ドラゴン)】を特殊召喚!」

 

 

 

【暗黒の竜王(ドラゴン)】 攻撃力 1500

 

 

 

「さらに【ポケ・ドラ】を召喚!」

 

 

 

【ポケ・ドラ】 攻撃力 200

 

 

 

「この子が召喚に成功した時、デッキから【ポケ・ドラ】を手札に加える! そして【ドラゴニック・タクティクス】発動! 2体のドラゴンをリリースして──デッキから【ラビードラゴン】を特殊召喚!!」

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

『総角選手、魔法(マジック)カードを駆使して先攻1ターン目からエースモンスターの召喚に繋げたぁーッ!! (じつ)に堂々たる立ち振舞い! とてもアリーナ・カップ初出場とは思えないっ!』

 

「今日もよろしく頼むよ相棒。ボクはカードを1枚伏せて、ターン終了(エンド)!」

 

「ほほぉ、やりおるわ。さすが九頭竜の奴を倒しただけはあるのぉ。ワシのターンじゃ、ドロー!」

 

 

 

 こっちは準備万端。さて、熊谷くんはどんな決闘(デュエル)をするのかな?

 

 

 

「ワシは【モンク・ファイター】を召喚じゃい!」

 

 

 

【モンク・ファイター】 攻撃力 1300

 

 

 

「さらに【モンク・ファイター】をリリースし、【マスターモンク】を特殊召喚じゃあっ!!」

 

 

 

【マスターモンク】 攻撃力 1900

 

 

 

 (たくま)しい体格をしたハンサムな青年が、ムキムキのおじいちゃんに急成長を遂げた。だけど思ったほど攻撃力の高いモンスターは出してこないな……

 

 

 

「手札から魔法カード・【一騎加勢】を発動!」

 

 

 

【マスターモンク】 攻撃力 1900 + 1500 = 3400

 

 

 

(いやそんな事なかった!?)

 

「まだじゃ! ワシは【マスターモンク】に、【伝説の黒帯(くろおび)】を装備! そしてバトル! 【マスターモンク】で【ラビードラゴン】を攻撃じゃっ! 『マスター・ドロップキック』!!」

 

 

 

 黒帯を腰に巻いた老練の格闘家が、両足で【ラビードラゴン】に飛び蹴りを食らわせて粉砕した。

 

 

 

「うぐっ……!」

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 3550

 

 

 

「ガッハッハッ!! 決闘(デュエル)とは(ちから)! 力こそパワー!! パワーでワシに勝とうなど、百年早いわっ!」

 

「力こそパワーて……同じじゃん」

 

 

 

 脳筋(のうきん)もここまで極まれば下手な戦術より驚異的だね……

 

 

 

「ここで【マスターモンク】に装備した【伝説の黒帯】の効果! 装備モンスターが戦闘で破壊した相手モンスターの、守備力分のダメージを与える!」

 

「!? うわぁっ!」

 

 

 

 【ラビードラゴン】を撃退したあと、【マスターモンク】はそのままボクの前に着地して、強烈なキックでボクを蹴り飛ばした。蹴られるのはこれで2回目だ、暴力反対!

 

 

 

 セツナ LP 3550 → 650

 

 

 

「じゃがこれで終わりではないぞぉ! 【マスターモンク】は一度のバトルで2回攻撃が出来るんじゃ!」

 

「ウソぉ! そんなのアリ!?」

 

「あっけないもんじゃったのぉ。トドメじゃ【マスターモンク】! セツナに直接攻撃(ダイレクトアタック)ッ!!」

 

『この攻撃が決まれば終わりだぁーッ!!』

 

「っ……(トラップ)発動! 【カウンター・ゲート】!」

 

 

 

 ゲート状のバリアが出現して、【マスターモンク】の追撃を(さえぎ)ってくれた。

 

 

 

「ほぉ、防ぎおったか」

 

「ふう、危ない危ない……【カウンター・ゲート】はダイレクトアタックを無効にした後、デッキから1枚ドローして、それがモンスターだったら攻撃表示で通常召喚できる。ドロー!」

 

(……おっ)

 

 

 

 【命削りの宝札】を引いた。モンスターではなかったけど十分ありがたいカードだ。

 

 

 

「……何も出さんところを見ると、召喚できるモンスターは引けなかった様じゃな。ワシはカードを2枚伏せてターンエンドじゃ! 【マスターモンク】の攻撃力は元に戻る」

 

 

 

【マスターモンク】 攻撃力 3400 → 1900

 

 

 

「ボクのターン!」

 

 

 

 にしても厄介なモンスターだな……2回も攻撃できる上に【伝説の黒帯】の効果で守備モンスターを破壊してもダメージを与えてくる……何とかして退(しりぞ)けないと!

 

 

 

(今ドローしたのは【竜の転生】……これを使えば!)

 

「ボクは【ポケ・ドラ】を召喚!」

 

 

 

【ポケ・ドラ】 攻撃力 200

 

 

 

「その効果でデッキから3枚目の【ポケ・ドラ】を手札に──」

 

「させぬわっ! カウンター(トラップ)・【見切りの(ごく)()】! 相手の墓地にあるカードと同名のカード効果を相手が発動した時、それを無効にし破壊する!」

 

「っ!?」

 

 

 

 【ポケ・ドラ】が破壊されサーチ効果も封じられた。ボクが2体目を召喚するのは読まれてたってわけか……!

 

 

 

「何をするつもりじゃったか知らんが、ワシに小細工は通用せんぞ」

 

「みたいだね……ならボクはカードを2枚伏せて、魔法(マジック)カード・【命削りの宝札】を発動! 手札が3枚になるようドローする!」

 

 

 

 一気に3枚の手札を補充。引き換えに相手は発動ターン中ダメージを受けず、自分は特殊召喚ができなくなるから、ボクはこのターンもうモンスターを出せないけれど、問題はない!

 

 

 

「ボクは、もう2枚カードを伏せてターンエンド! このエンドフェイズに【命削りの宝札】の効果で、ボクは手札を全て捨てる。と言っても、1枚しかないけどね」

 

『これで総角選手の場には4枚の伏せカード! モンスターはいないが迂闊には踏み込めない布陣となった! さぁどうする熊谷選手!』

 

「ふん、面白い。ワシのターン、ドロー! バトルじゃ! 【マスターモンク】でダイレクトアタック!」

 

欠片(カケラ)も躊躇してない!?」

 

「ワシが伏せカードなんぞにビビると思ったかぁ! 今度こそ(しま)いにしちゃる!」

 

「いいや、まだだよ! 速攻魔法・【銀龍の轟咆(ごうほう)】を発動! 墓地から【ラビードラゴン】を復活!」

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

「なんじゃとっ!? おのれ……バトルは中止じゃ! ワシはこのままターンエンド!」

 

(よし、今がチャンスだ!)

 

「ボクのターン、ドロー! バトル! 【ラビードラゴン】で【マスターモンク】を攻撃! 『ホワイト・ラピッド・ストリーム』!!」

 

「やらせはせん! 永続(トラップ)発動! 【()(こう)格闘(かくとう)()】!」

 

「!」

 

「【マスターモンク】は戦闘では破壊されず、相手モンスターの効果も受けん!」

 

 

 

 【ラビードラゴン】がさっきやられたお返しと言わんばかりに全力で(はな)った光線を、【マスターモンク】は両腕を交差させた体勢で受け止めた。

 

 

 

「そう来たか……でもダメージは受けてもらうよ!」

 

「チィッ!」

 

 

 

 熊谷 LP 4000 → 2950

 

 

 

 本当はこのターンで畳み掛けたかったけど……しょうがない!

 

 

 

(トラップ)カード・【竜の転生】! 【ラビードラゴン】を除外して、墓地から【トライホーン・ドラゴン】を特殊召喚!」

 

 

 

【トライホーン・ドラゴン】 攻撃力 2850

 

 

 

「ぬっ! そうか……【命削りの宝札】で捨てたのはこやつじゃったか!」

 

「大正解。【トライホーン】、【マスターモンク】を攻撃だ! 『イービル・ラセレーション』!!」

 

 

 

 悪魔の竜が鋭い爪を振るい、三日月の形状に(かたど)られた衝撃波を飛ばす。捨て身で全て受け切る【マスターモンク】。だけど熊谷くんにも斬撃は届いた。

 

 

 

「ぐぬうぅぅぅっ!!」

 

 

 

 熊谷 LP 2950 → 2000

 

 

 

「ボクはカードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

『ライフ差はまだ熊谷選手に()があるが、徐々に総角選手が追い上げてきた! このまま押し切れるかーっ!?』

 

(どうかな……十傑がこのまま黙ってるとは思えない……!)

 

「……クックックッ……ガッハッハッハッ!! 面白くなってきたわっ! それでこそワシも──闘い()()があるっちゅーもんじゃ!」

 

 

 

 ──! 目付きが変わった……やっぱり本番はここからか!

 

 

 

「行くぞぉ! ドゥオロォーッ!!」

 

「!」

 

「──手札から魔法発動! 【ゴッドハンド・スマッシュ】! バトル! 【マスターモンク】で【トライホーン・ドラゴン】を攻撃ィ!」

 

「攻撃力はこっちの方が高いのに攻撃!? っ……迎撃だ【トライホーン】!」

 

 

 

- イービル・ラセレーション!! -

 

 

 

()オオオオオッ!! 耐えろ【マスターモンク】!!」

 

 

 

 熊谷 LP 2000 → 1050

 

 

 

「【孤高の格闘家】の効果により【マスターモンク】は破壊されん! そして! ここで発動した【ゴッドハンド・スマッシュ】の効果! このターン、【マスターモンク】とバトルしたモンスターを、ダメージステップ終了と同時に破壊するッ!!」

 

「なっ──!?」

 

 

 

 【マスターモンク】は『イービル・ラセレーション』を力ずくで突破し──

 

 

 

「叩き込めっ! 『ゴッドハンド・スマァァァッシュッ』!!」

 

 

 

 そのまま【トライホーン】との間合いを詰め、渾身の正拳を炸裂させた。

 

 

 

「【トライホーン】!?」

 

「さぁ、【マスターモンク】には二度目の攻撃が残っとるぞ! こいつを(かわ)せるかっ!?」

 

「うっ……」

 

 

 

 あの~、おじいちゃん……殺気を放ちながら拳をボキボキ鳴らすの()めてくれる? 怖いから。

 

 

 

「観念せぇぇぇっ!! 『マスター・パンチ』!!」

 

「──ボクはカナメと闘うんだ……こんなところで負けられない! (トラップ)発動! 【副作用?】!」

 

「なぬっ!? なんじゃあそのヘンテコなカードは!?」

 

「相手に1枚から3枚まで、任意の枚数ドローさせて、1枚につき2000ポイント回復するカードさ。さぁ好きなだけ引きなよ熊谷くん!」

 

小癪(こしゃく)なカードを使いおる……ならワシは1枚ドローじゃ!」

 

(ですよねー!)

 

 

 

 セツナ LP 650 → 2650

 

 

 

 ライフを回復した直後に【マスターモンク】がボクを殴りつける。

 

 

 

「ぐうっ!!」

 

 

 

 セツナ LP 2650 → 750

 

 

 

「全くしぶといのぉ。ワシはカードを1枚伏せてターンエンドじゃ!」

 

(礼を言わせてもらうぞいセツナよ……お前さんのおかげで良いカードを引けたわい!)

 

「ボクのターン……」

 

 

 

 今更ながら、十傑って強いな、やっぱり。いよいよ崖っぷちに追い詰められた……

 手札(ゼロ)、場にはモンスターもいないし、魔法・(トラップ)ゾーンに伏せてある2枚のカードは、相手の攻撃を()めるタイプの効果じゃない。

 

 ──このターンが勝負どころだ!

 

 

 

「行くよ熊谷くん……」

 

 

 

 ボクは──メガネを外して、カードをドローする構えに入る。

 

 

 

「──!?」

 

(な、なんじゃ……! この、刺す様な気迫は……!?)

 

「ドローッ!!」

 

 

 

 ……この魔法カードは……!

 

 すっっっごく良いタイミングで来てくれたねッ!!

 

 

 

「手札から魔法(マジック)カード・【闇の量産工場】発動! 自分の墓地にある通常モンスターを2枚、手札に戻す! ボクは【トライホーン・ドラゴン】と【暗黒の竜王(ドラゴン)】を手札に! そしてリバースカード・オープン! 魔法(マジック)カード・【トレード・イン】!」

 

「!」

 

「手札のレベル8モンスター・【トライホーン】を再び墓地に送って、カードを2枚ドローする!」

 

 

 

 実を言うと【トレード・イン】は初手から握っていて、【命削りの宝札】を発動する前に【竜の転生】と一緒に伏せておいたんだ。やっと使えたよ。

 

 

 

「……ボクは【暗黒の竜王(ドラゴン)】を召喚!」

 

 

 

【暗黒の竜王(ドラゴン)】 攻撃力 1500

 

 

 

「熊谷くん。このドラゴンが君を倒す!」

 

「ほおぉっ! 抜かしおるっ! やれるもんならやってみぃ!」

 

「勝負だ! まずは手札から速攻魔法・【鈍重(どんじゅう)】を発動! 【マスターモンク】の守備力分、攻撃力をダウンする!」

 

 

 

【マスターモンク】 攻撃力 1900 - 1000 = 900

 

 

 

「小僧ッ……!」

 

「さらに装備カード・【進化する人類】を【暗黒の竜王(ドラゴン)】に装備! 自分のライフが相手より少ない時、装備モンスターの元々の攻撃力は2400になる!」

 

 

 

【暗黒の竜王(ドラゴン)】 攻撃力 1500 → 2400

 

 

 

「これで攻撃が通ればボクの勝ちだ。バトル! 【暗黒の竜王(ドラゴン)】で【マスターモンク】を攻撃! 『炎のブレス』!!」

 

 

 

 暗闇(くらやみ)に生息する竜の王が口から炎を吐き出した。さぁどう出る!?

 

 

 

「甘いわあっ!! 言った筈じゃっ! パワーでワシに勝つのは百年早いとっ!! (トラップ)発動! 【ライジング・エナジー】!」

 

「!!」

 

「手札を1枚捨て、このターンのみ、モンスター1体の攻撃力を、1500ポイントアップする! ワシは手札から2枚目の【マスターモンク】を墓地に捨て、フィールドの【マスターモンク】をパワーアーップ!!」

 

 

 

【マスターモンク】 攻撃力 900 + 1500 = 2400

 

 

 

『これで両者の攻撃力は互角だぁーッ!! しかし……!』

 

「そうじゃ! 永続(トラップ)・【孤高の格闘家】の効果で、【マスターモンク】は相討ちでも破壊されん! 破壊されるのは【暗黒の竜王(ドラゴン)】だけじゃ!」

 

「……!」

 

「そうなれば【マスターモンク】に装備した【伝説の黒帯】の効果が発動し、お前さんのライフは尽きる! この決闘(デュエル)……ワシの勝ちじゃあっ!!」

 

 

 

 弱体化していた【マスターモンク】がパワーを増幅させ、拳圧(けんあつ)で炎を押し返しながら【暗黒の竜王(ドラゴン)】目掛けて突っ込んでくる。

 

 それを見てボクは……

 

 

 

 ──上唇(うわくちびる)(はし)をペロッと舐めて、笑った。

 

 

 

「君ならそう来ると思ったよ!」

 

「なぬっ!?」

 

「ボクはこの瞬間を待ってたんだ! (トラップ)発動! 【燃える闘志】! このカードを【暗黒の竜王(ドラゴン)】に装備する!」

 

「も、【燃える闘志】じゃとっ!?」

 

「相手フィールドに元々の数値より攻撃力が上がってるモンスターがいる場合、装備モンスターの()()()攻撃力は、倍になる!」

 

 

 

 【暗黒の竜王(ドラゴン)】の元々の攻撃力は、装備した【進化する人類】によって、2400に()()()()()()()。つまりそれが2倍になったら──

 

 

 

【暗黒の竜王(ドラゴン)】 攻撃力 2400 → 4800

 

 

 

「よ、4800じゃとぉぉおっ!?」

 

「チェックメイトだッ!!」

 

 

 

 勢力を増した炎が【マスターモンク】の拳圧に()り勝ち、そのまま熊谷くんもろとも飲み込んだ。

 

 

 

「ぬあああぁぁぁぁあっ!!」

 

 

 

 熊谷 LP 0

 

 

 

『決まったァァーッ!! ウィナー・総角 刹那ッ!! 準々決勝、進出ぅーッ!!』

 

「ふう~……勝ったぁ」

 

 

 

 勝てた喜びを噛み締めると同時に、安堵のため息が漏れる。

 

 もし熊谷くんが【ライジング・エナジー】じゃなくて、普通に攻撃を妨害する(トラップ)(なん)かを仕掛けてたら、十中八九ボクが負けてた。

 きっと熊谷くんの事だからコンバットトリックを狙ってくるだろうと踏んだのが的中して本当に良かった。

 

 

 

「こ、このワシが力負けするとは……っ。……フッ……ガァーッハッハッハッ!! 参った! ワシの完敗じゃ!」

 

「対戦ありがとう、熊谷くん。楽しかったよ」

 

「おうっ! 最高の決闘(デュエル)じゃったわ、ありがとのぉ!」

 

 

 

 熊谷くんともう一度、固い握手を……交わすのはちょっと怖かったので、なるべく力を抜いてもらう様お願いしてから手を握り合った。なのにまたボクの右手が(きし)む音がしたんですがこれは一体。

 

 何はともあれ、これで決勝まで一歩前進だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~、マジでリキオに勝っちゃったよ。やんなぁ、あいつ」

 

 

 

 上階にてセツナの試合をカナメと共に観戦していた狼城が、感心の(こも)った(こわ)()で勝者を称賛した。

 

 

 

「それにアンタの言ってた通り、おもしれー決闘(デュエル)するじゃん。──()()()()()()()()()()()……なぁ、カナメ?」

 

「……まだだな」

 

「ん? なんか言ったか? ……って、おーい。んだよ、もう帰っちまうのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早瀬先輩! 総角くん勝ちましたよ~!」

 

「だからはしゃぐな、みっともねぇ。見れば分かるっての」

 

(まさかこれほどの奴がいたとはな……なんで今まで無名だったんだ?)

 

「……こいつは新井の言う通り、要チェックかもな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セツナくん勝ったみたいだね~」

 

「そうね。まぁあいつが負けるなんて思ってなかったけど」

 

(次は私の番……勝てば明日、セツナと闘える……)

 

「……アマネたん?」

 

(去年の二の舞には絶対にならないわ……例え、相手が十傑だろうと──必ず勝ってみせる!)

 

 

 

 





 当初の予定では……

 作者「ラストターンは【ライジング・エナジー】に【あまのじゃくの呪い】をチェーンさせて逆転させよう」

 遊戯王wiki「【あまのじゃく】はダメステじゃ発動できんで」

 作者「ファ!?」

 投稿する直前で知りました。危なかった……修正がホント大変でした。
 結果的には熊谷のパワーを、セツナがさらに上回る展開にできたので、【燃える闘志】に変更して正解でした。

 やはり遊戯王は一見複雑そうだけど複雑だぜ!


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TURN - 39 UNDEAD SHOWDAWN


 世間は大変な事になっておりますが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか?

 作者は先日、虫歯の治療で奥歯をドリルでガリガリやられましたが何とか元気です。
 歯は大切にした方が良いです、マジで。(泣)



 

「はふぅ~~、今日はもう疲れたよ……」

 

 

 

 熊谷(クマガイ)くんとの決闘(デュエル)に何とか運よく勝てたボクは、アリーナ・カップ出場者用の控え室に戻るなり、置いてあるフカフカなソファーの上に倒れ込んだ。

 

 ただでさえ金沢くん達に襲われて()(へい)させられた身体を押して、あんな衆人環視の中、メガネを外す事で発動する集中モードまで使って、やっと勝利を(つか)み取ってきた帰りなもんだから……緊張の糸が切れて気が(ゆる)んだ途端、疲労感がマックスに達してもうクッタクタ。このまま寝落ちしそうな勢い。

 

 

 

「おかえり~。だいぶお疲れだね~」

 

「観ててヒヤヒヤしたけど、勝てて良かったわね。おめでとう」

 

 

 

 マキちゃんとアマネが(ねぎら)ってくれた。ボクはゴロンと寝返りを打って仰向けになる。

 革張りの高級な質感は実に寝心地が良い。ちょっとウトウトしてきたかも……

 

 

 

「ありがとう二人とも……いやぁ~、緊張したよ」

 

「そんな風には見えなかったけどね~。ねーワニ嬢ちゃん!」

 

「んなっ!?」

 

 

 

 急にマキちゃんに話題を振られたのは、プラチナブロンドの長髪を縦ロール状のツインテール……所謂(いわゆる)、ツインドリルに結んだ美少女・鰐塚(わにづか) ミサキちゃん。

 

 彼女はボクと目が合うと何やら顔を赤くして、オロオロと狼狽(うろた)え出した。どうしたんだろう?

 

 

 

「っ……わ、わわ、ワタクシに勝ったのですから、とと、トーゼンでしてよ!?」

 

「あはは、ありがとう。鰐塚ちゃんも頑張ってね」

 

「~~~~~っ!!」

 

(せせせ、セツナさんに応援されましたわ~~~!!)

 

 

 

 ……? 本当にどうしたんだろう? 鰐塚ちゃん。

 

 

 

「……それから、アマネもね。一足先に、明日(あした)の準々決勝で待ってるよ」

 

「……当然よ。首を洗って待ってなさい。すぐに追いついてあげるから」

 

 

 

 強気に言い切るアマネ。と、その時──

 

 

 

HA()HA()HA()! オモシロイ事を言うねレディー。Me(ミー)に勝てるつもりなのかい?」

 

「「 ! 」」

 

 

 

 アメリカンリーゼントの金髪が目立つ、ハーフっぽい顔立ちの青年に話しかけられた。彼は次の試合に出場する選手。つまりアマネの対戦相手だ。名前は確か……

 

 

 

「犬居……ベンジャミンくん?」

 

「OH! イエス、ザッツライ! 覚えててくれて嬉しいよ。あのミスター・マッスルマンに勝つとはなかなかやるね、シルバーボーイ!」

 

「シルバーボーイて。ボクの名前はセツナだよ。えーっと……マイネームイズ、セツナ?」

 

 

 

 ワタシ英語ワカリマセン。

 

 

 

「…… I intend to do that, senior. I'll get the win.(そのつもりですよ先輩。勝たせてもらいます)」

 

(え、英語!? アマネ喋れたの!?)

 

「Wow !? Your English is very good !! Your pronunciation is so clear that it's hard to believe you're Japanese.(ワオ!? 英語()()いね! 日本人(ジャパニーズ)とは思えないくらい発音がキレイだ)」

 

「Thank you,sir. I feel more confident when I am complimented by people from English-speaking countries.(ありがとうございます。英語圏の人に誉めてもらえると自信がつきますね)」

 

「──But I'm sorry, but I'm also not going to let the pretty lady victory this tournament. I'll fight it to the best of my ability.(だが悪いけど、Meもこの大会の勝利ばかりは()(れん)なレディーと言えど譲る気は無いんでね。本気でやらせてもらうよ)」

 

「Bring it on.(望むところです)」

 

 

 

 凄いやアマネ。外国人と流暢(りゅうちょう)に英会話してる。

 う~ん、ちらほら聞き取れる単語はあるけれども……ダメだ。なんて言ってるのか、まるで意味が分からんぞ。

 

 

 

「アマネって英語喋れるんだね、ビックリしたよ」

 

「そりゃあプロになったら世界中の決闘者(デュエリスト)と闘う事になるんだし。最低限、英語ぐらいは話せないと苦労するでしょ」

 

 

 

 確かに。毎年プロリーグに多くの卒業生を輩出しているこの学園も、グローバルな決闘者(デュエリスト)を育てる為、外国語の教育には決闘(デュエル)の次に力を入れているからね。

 

 世界共通語である英語はもちろん、他にも自分が習得したい国の言語を、自由に選択して授業を受けられるシステムまで導入されている。

 別にプロ決闘者(デュエリスト)を目指してるわけではなくても(ボクもそうだけど)、他国の人とスムーズに意志()(つう)できるスキルというのは、身につけておけば将来いろんなところで役に立つ。なので生徒には好評らしい。

 ジャルダン校が現代決闘(デュエル)界のメジャーとして、名を()せている理由の1つだ。

 

 ……あ、そう言えばボクこの前の英語のテスト赤点ギリギリだったなぁ~、そろそろヤバイのでは?

 

 なんて地味に焦りを感じ始めていると、ドアをノックする音が聞こえた。

 

 

 

(いぬ)()選手、黒雲(くろくも)選手。出場の準備をお願いします。入場口に移動してください」

 

「はい」

 

OK(オーケー)!」

 

「アマネたんファイトー!」

 

 

 

 スタッフの呼び出しを受けた二人がデュエルディスク片手に退室していく。

 直前、ボクはアマネにこう言った。

 

 

 

「アマネ! 思いっきり楽しんできな!」

 

「……!」

 

 

 

 アマネはクスッと微笑むと──

 

 

 

「待たせたわね、セツナ。今から見せてあげる。──私の本当のデッキをね!」

 

 

 

 そう言い残して、扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あー、あー、テステス、ん"ん"っ。さぁ~て(みな)のもの! そろそろ第6試合の時間だぞぉ~! トイレは済ませてきたか? 盛り上がる準備はできてるかぁーーーッッ!?』

 

 

 

 控え室に残ったボク達は、百インチ以上はありそうな超大型の液晶ディスプレイが、無駄に高画質でモニタリングしてくれる会場内の模様を観戦していた。これ値段いくらするんだろ。

 

 そのウン十万はくだらなそうな高級テレビの前に設置されたソファーの上で、ボクはマキちゃんと鰐塚ちゃんに挟まれる形で腰を下ろしている。

 気分はもはや映画鑑賞だ。購買でポップコーンでも買ってくれば良かったな。

 

 

 

(はわわわっ、セツナさんが隣に!? ちちち、近いですわ~っ!)

 

(ほらほらワニ嬢ちゃんがんばって~!)

 

 

 

 ……未だに顔が赤いまま目を回している鰐塚ちゃんと、何が面白いのかニマニマ笑っているマキちゃん。状況が上手く掴めないんだけど、教えて偉い人。

 

 ちなみにもう一人……ボク達の位置から見て、斜め右に置かれた別のソファーには、朱色の長髪が眩しい美男子が、足を組んでふんぞり返っていた。

 次の第7試合でマキちゃんと闘う十傑の一人──(オオトリ) 聖将(キヨマサ)くんだ。

 

 彼を含めた4人で試合の開始を待っていた時、誰かが扉を開けて入室してきた。

 

 

 

「ウイーッス」

 

「あ、おかえりー、狼城(ろうじょう)くん」

 

 

 

 癖毛な灰色の髪を掻きながら入ってきたこのイケメンは、狼城(ろうじょう) (アキラ)くん。

 凰くんと同じ十傑で、第8試合に出場する鰐塚ちゃんの相手だ。

 

 

 

「おっ、なんだよセツナ君。両手に花たぁ(スミ)に置けねぇなー」

 

「あはは、良いでしょ。狼城くんも混ざる?」

 

「いんや、(せめ)ぇからいーわ。オレぁこっちで寝んぜ」

 

 

 

 狼城くんは凰くんの真向かい──ボクから見て斜め左──にあるソファーに仰向けで寝転がり、頭の後ろで両手を組むと、人目も(はばか)らず大あくびした。

 

 自分の部屋みたいに(くつろ)いでいらっしゃる。なんと言うか、自由な人だなぁ。去年のアリーナ・カップ、第3位に輝いた強者の余裕ってヤツだろうか。

 

 

 

『よぉーーーしッ!! みんなまだまだ元気だな! その調子で残り3試合、最後まで全力で盛り上げてってくれよぉ! では早速だが選手入場だッ!!』

 

 

 

 お、始まった。例のごとくスモークが噴かれて選手に入場を(うなが)す。

 

 

 

『さぁまずはクールビューティーなルーキーの紹介だ! その()(ぼう)()ることながら、強豪ひしめく予選を勝ち抜いてきた実力は折り紙つき! 2年・黒雲(くろくも) 雨音(アマネ)ぇぇーッ!!』

 

 

 

 画面に映し出された入場ゲートの奥からアマネが姿を見せると、歓声に混じって指笛(ゆびぶえ)の音も聴こえてきた。

 

 赤いメッシュが入った鮮やかな黒髪を揺らし、ファッションショーでランウェイを歩くモデルの様に悠然(ゆうぜん)と、(よど)みない足取りで決闘(デュエル)フィールドへ歩を進めている。

 表情は真剣そのもので、特に気負った様子とかは見受けられない。

 

 

 

「カメラさんもっと下! アマネたんのパンツが見えない!」

 

「マキちゃん静かに」

 

 

 

 アマネがステージに立った頃を見計らって、反対のゲートもスモークを噴き出した。

 

 

 

『だが今日の相手は予選の時とは一味も二味も違うぜっ! なんてったって学園屈指の上位ランカー・トップ()()! デュエルモンスターズの本場、米国(アメリカ)からやって来た、サイコーにクールな決闘者(デュエリスト)だッ! カモーン! 3年・十傑──(いぬ)() ベンジャミィーンッ!!』

 

 

 

 ベンジャミンくんのご登場だ。決闘(デュエル)フィールドに立ち、カメラに向かって顔の横で二本指をビシッと立てたポーズを決めて、ウィンクしたところがアップで映される。

 

 ふと、ボクはある事を思い出して(くち)(ひら)いた。

 

 

 

「十傑かぁ~。でも確かアマネって、予選で元・十傑の人に勝ったって言ってたよね?」

 

「うん、名前はえーっとね~……(わし)()さん、って言ったかなぁ?」

 

「元とは言え十傑に勝てた実績があるなら、きっと大丈夫だね」

 

「くだらんな」

 

「「 ! 」」

 

 

 

 凰くんが突然そう言ってきた。

 

 

 

「鷲津は親の七光りに胡座(あぐら)をかいていただけの出来損ないだ。所詮は十傑の面汚(つらよご)しに過ぎぬ。奴ごときに勝ったところで何の自慢にもならん」

 

「そう~そ。あいつを十傑から蹴落としてやったのぁオレなんだけどよ、ぜーんぜん大した事なかったわ」

 

 

 

 と、狼城くんも目を閉じたまま追随(ついずい)する。

 

 

 

「ふーん……」

 

 

 

 ボクはその鷲津って人の顔さえ知らないけど、ここまでディスられてると不憫に思えてきちゃうね。

 

 

 

『両者、同時にデュエルディスクを展開する! いつでもOKという構えだ! それじゃあ行くぞ! アリーナ・カップ1日目・第6試合! イ~~~ッツ! タイム・トゥ──』

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 アマネ LP(ライフポイント) 4000

 

 ベンジャミン LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

お先にドウゾ(ゴー アヘッド)、ハニー。レディファーストだ」

 

「……どうも。私のターン!」

 

『先攻は黒雲選手に決まった様だ! さぁ前の試合に続いて新世代の番狂わせは起こせるかっ!? 注目の1ターン目が今スタートだッ!!』

 

 

 

 そう、ボクにとっても注目の1ターン目だ。なんたって、さっきアマネが言った通り……

 

 

 

「やっと拝めるね……アマネの『本当のデッキ』が」

 

 

 

 これまで選抜試験の為に温存しておきたいという理由で、(がん)として見せてくれなかった彼女の真の実力を……今日、ようやく()の当たりにする事ができる!

 

 

 

「──私は【ヴァンパイア・レディ】を召喚!」

 

 

 

【ヴァンパイア・レディ】 攻撃力 1550

 

 

 

 紫の衣装で着飾った、(あや)しい魅力に(あふ)れる美女が召喚された。

 『ヴァンパイア』って日本語で『吸血鬼』って意味だよね。という事は、もしかして……

 

 

 

「さらに手札から永続魔法・【ヴァンパイアの領域】を発動! 1ターンに一度、ライフを500払う事で、もう1体【ヴァンパイア】を通常召喚できる!」

 

 

 

 アマネ LP 4000 → 3500

 

 

 

「【ヴァンパイア・ソーサラー】召喚!」

 

 

 

【ヴァンパイア・ソーサラー】 攻撃力 1500

 

 

 

 続けてアマネは、とんがり帽子を被りローブに身を包んだ、魔法使いみたいな格好のモンスターを呼び出した。片手に携えた(ロッド)の先端には、赤い球体を埋め込んだコウモリの彫刻が施されている。

 

 なるほど……アマネのメインデッキは、【ヴァンパイア】デッキだったのか!

 

 

 

「私はカードを1枚伏せ……永続魔法・【補充部隊】を発動して、ターン終了(エンド)

 

(これで迎え撃つ準備は整ったわ。あとは相手の出方次第……!)

 

「ヒュー♪ ヴァンパイアとはクールなモンスターを使うね! そんじゃ──Meのターン」

 

(なんだ? この手札は……)

 

「ドロー!」

 

(……おいおいこれじゃあ……Meの勝ちじゃないか!!)

 

『お次は犬居選手のターンだ! 本場()()みの決闘(デュエル)を見せてくれッ!!』

 

「OH,YEAH!! Meはフィールド魔法・【ヴェンデット・ナイト】を発動するぜ!」

 

「!」

 

 

 

 突如ベンジャミンくんの周りをビル群が埋めつくし、天井に映写された夜空の立体映像(ソリッドビジョン)に、サーチライトがいくつも()し込んだ。

 そして地面には何故か、(ゆう)()鉄線(てっせん)を巻きつけた(へい)輪状(りんじょう)に仕切られた、墓地が広がっている。

 

 

 

「【ヴェンデット・ナイト】の効果発動! ワンターンに一度、手札を1枚捨てて、デッキから【ヴェンデット】モンスター1体を手札に加える! Meは【ヴェンデット・ストリゲス】を墓地に捨て、デッキから儀式モンスター・【リヴェンデット・スレイヤー】を手札に加えるぜ!」

 

 

 

 聞き慣れない名前のモンスターカードを見て、ボクは首を傾げた。

 

 

 

「【ヴェンデット】? 初めて見るカードだね」

 

「あれ? セツナくん知らないの? 海外で最近出た新しいカードだよ~」

 

「へぇ~」

 

 

 

 海の向こうには、まだまだボクの知らない未知なるカードがたくさんあるんだね。

 

 

 

「さらに今墓地に捨てた【ストリゲス】の効果発動! このモンスターが墓地へ送られた場合、手札の【ヴェンデット】カード1枚を相手に見せる事で、自身を特殊召喚できる!」

 

 

 

 達者な日本語で宣言し、さっき手札に加えた【リヴェンデット・スレイヤー】を、もう一度アマネに公開するベンジャミンくん。アマネは確認したらしく、コクリと(うなず)いた。

 

 

 

「カムバック・ヒアッ! 【ヴェンデット・ストリゲス】!」

 

 

 

 ベンジャミンくんの足下の墓場から、鳥みたいな怪物が何体も這い出てきて、鳴き声を上げながら翼をはためかせ空中に飛び立った。

 

 

 

【ヴェンデット・ストリゲス】 守備力 2000

 

 

 

ただし(バット)、この効果で特殊召喚した【ストリゲス】は、フィールドを離れた場合、除外される。続けて【ヴェンデット・レヴナント】を通常召喚!」

 

 

 

【ヴェンデット・レヴナント】 攻撃力 1800

 

 

 

 次に現れたのは何人もの人間だった。

 と言っても普通の人間ではない。

 みんな肌が青白くて生気を感じられない上、腕とかは異形に変異していて、人のそれとはかけ離れている。

 

 見た目を一言で言い表すなら……ゾンビだ。

 

 ゾンビの男女が集団で(うめ)きながら、墓場をフラフラさ迷っている。何だかバイ○ハザードみたい。

 

 

 

「さぁこっからがショータイムだ! Meは手札から儀式魔法・【リヴェンデット・ボーン】を発動!」

 

(──! やはり来たわね……!)

 

「Meが儀式召喚するのはレベル(シックス)の【リヴェンデット・スレイヤー】! Meはレベル(トゥー)の【ストリゲス】と、レベル(フォー)の【レヴナント】をリリース!」

 

 

 

 フィールドにワラワラと集まっていた生ける(しかばね)達が、【リヴェンデット・ボーン】のカードに吸い込まれていく。

 

 

 

「儀式召喚!! カモン! 【リヴェンデット・スレイヤー】!!」

 

 

 

 降臨した儀式モンスターは、【レヴナント】と同じく人形(ひとがた)の【ヴェンデット】。

 

 引き締まった肉体にマントを羽織り、両腕には鋭利な刃が生え、眼は赤い炎が揺蕩(たゆた)っている様に見える。

 背中からは繋ぎ合った人骨らしき細長い棒が5本、さながら触手みたいに伸びていて、その先端にも腕のと同じ刃物が取り付けられていた。

 いかにも肉弾戦が得意そうな偉丈夫(いじょうふ)だ。

 

 

 

【リヴェンデット・スレイヤー】 攻撃力 2400

 

 

 

 ……それにしても、なんでわざわざ【レヴナント】を召喚してから儀式の素材にしたんだろ? 手札からでもリリースはできたと思うけど……

 基本1ターンに1回きりの通常召喚の権利を、ここで行使する必要があったんだろうか?

 

 

 

『ででで出たァァーッ!! 犬居選手のエースモンスターが早くもお出ましだぁッ!!』

 

「クールだろ? Meの大好きなアメコミのダークヒーローがモチーフなんだぜ」

 

(攻撃力2400……!)

 

「くっ……!」

 

さぁ行くよ(ヒアウィ・ゴーッ)! 【リヴェンデット・スレイヤー】で、【ヴァンパイア・レディ】を攻撃(アタック)!」

 

 

 

 いよいよダークヒーローとヴァンパイアの激突だ。

 

 

 

「この瞬間、【リヴェンデット・スレイヤー】の効果発動! こいつがバトルするダメージ計算時に、墓地からアンデット族を除外する事で、攻撃力を300アップする! Meは【レヴナント】を除外!」

 

 

 

【リヴェンデット・スレイヤー】 攻撃力 2400 + 300 = 2700

 

 

 

「っ!」

 

「地獄で会おうぜ、ベイベー。──『ドレッド・アックス』!!」

 

 

 

 【リヴェンデット・スレイヤー】の腕にくっついている刃が、【ヴァンパイア・レディ】を切り裂いた。

 

 

 

「うあっ……!」

 

 

 

 アマネ LP 3500 → 2350

 

 

 

「くっ、【補充部隊】の効果発動! 私が受けたダメージ1000ポイントにつき、1枚ドローする!」

 

「それぐらい問題ない(ノープロブレム)サ。さぁ~て……今からYou(ユー)に、【ヴェンデット】デッキの真の恐ろしさをレクチャーしてあげよう!」

 

「真の恐ろしさ……?」

 

「イエス。【ヴェンデット】の効果モンスターは共通の効果を持ってるのサ。1つはさっきの【ストリゲス】みたいに、特定の条件をクリアする事で墓地から特殊召喚(リボーン)できる効果。アンドもう1つは──【ヴェンデット】の儀式モンスターを儀式召喚する為に、フィールドからリリースされた場合……その儀式モンスターに、新しい効果を()()する効果だ!」

 

「!!」

 

(わか)るかい? 例えば【ストリゲス】をリリースして儀式召喚された【スレイヤー】は、相手に戦闘ダメージを与えたダメージ計算後、デッキから1枚ドローして、手札を1枚捨てる効果を得る!」

 

 

 

 説明しながらベンジャミンくんは、実際にカードを引いて手札を交換した。

 

 得心が行った。道理で召喚権を使ってまで、【ヴェンデット】を場に並べてから儀式したわけだ。

 

 

 

「──さらに! 【スレイヤー】の見せ場はこれで終わりじゃあない! フィールド魔法・【ヴェンデット・ナイト】の効果を発動!」

 

「!?」

 

「【ヴェンデット】が相手モンスターを戦闘(バトル)で破壊した時、自分の墓地から【ヴェンデット】モンスター1体を除外する事で、そのモンスターは相手モンスターに続けて攻撃(アタック)できる! Meはさっき捨てた【ヴェンデット・コア】を除外!」

 

 

 

 あのモンスターは【ストリゲス】から()()された【スレイヤー】の効果で、墓地に捨てていたカード……!

 

 手札とフィールドの状況次第で、何回でも攻撃できるって事か。なんて強力なコンボだ……!

 

 

 

第2(セカンド)ラウンドと(しゃ)()()もうか! 【スレイヤー】で【ヴァンパイア・ソーサラー】をアタック! サイコロステーキにしてやれ! 『ドレッド・テンタクル・ナイフ』!!」

 

 

 

 【スレイヤー】は、背中に生やした全ての刃を手足の(ごと)く自在に操り、【ヴァンパイア・ソーサラー】を八つ裂きにした。

 

 

 

「っ……!」

 

 

 

 アマネ LP 2350 → 1150

 

 

 

「……戦闘ダメージは1200。【補充部隊】で1枚ドローするわ。そして破壊された【ソーサラー】の効果発動! このモンスターが相手によって墓地に送られた場合、デッキから【ヴァンパイア】カードを1枚、手札に加える。私が加えるのは……【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】!」

 

おっと(ウップス)、モンスターがいなくなっちまった。このターンのヒーローショーはここまでみたいだな。Meはカードを1枚セットして、ターンエンドだ!」

 

 

 

 ターンを終えても、【スレイヤー】が自身の効果で上昇させた攻撃力は、元に戻らなかった。どうやら永続的な強化らしい。

 闘う度に墓地のアンデット族を除外する事で、どこまでも力を増していくモンスター……かなり厄介だね。

 

 

 

『あ、圧倒的ィィィッ!! 犬居選手、たった1体のモンスターで、敵モンスターを全滅させてしまったぁーッ!』

 

「犬居の必勝パターンに入ったか。もはやあの小娘に勝ち目はあるまい」

 

 

 

 そう断言した凰くんに、マキちゃんが「むっ」と(くちびる)(とが)らせ反論する。

 

 

 

「アマネたんは負けないもん!」

 

「ふん、奴と貴様は確かランク・Bであったな? 格下が格上を……それも、学園に選ばれし最上位である十傑を討とうなど、おこがましい。身の程を知れ愚か者」

 

「むう~っ!」

 

「……ボクはランク・Eの子が、ランク・Cに勝ったのを見た事があるよ」

 

「なに?」

 

決闘(デュエル)に『絶対』は無いし、ランクの差なんて関係ない。──きっとアマネがそれを証明してくれるよ」

 

「……戯言(たわごと)を」

 

 

 

 画面に視線を戻す。やられっぱなしで終わるほどヤワじゃないよ、彼女(アマネ)は。

 

 

 

「さぁ、Youのターンだぜ。セニョリータ」

 

「……私のターン……ドロー!」

 

(とにかく【スレイヤー】を何とかしないと……!)

 

「私は墓地の【ソーサラー】を除外して、効果発動! このターン、レベル5以上の【ヴァンパイア】をリリース無しで召喚できる! 現れなさい──【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】!!」

 

 

 

 長い銀髪で背中からはコウモリの羽根に似た翼を広げ、お腹を大胆に露出した、妖艶(ようえん)な女性の吸血鬼が舞い降りる。

 

 

 

【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】 攻撃力 2000

 

 

 

「モンスター効果発動! 召喚時、または自分が他の【ヴァンパイア】を召喚した時、このモンスターより攻撃力の高い相手モンスター1体を装備できる!」

 

「ワッツ!?」

 

「私は【リヴェンデット・スレイヤー】を、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】に装備!」

 

「そいつはさすがにノーセンキューだ! (トラップ)カード・【ヴェンデット・リボーン】発動! 相手モンスター1体をリリースする!」

 

「なっ!?」

 

 

 

 突然フィールドの床を突き破って大量のゾンビが湧き出し、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】のスレンダーな身体に、我先にと群がっていった。

 

 

 

「っ……なら! (トラップ)発動! 【ヴァンパイア・シフト】! 自分のフィールドカードゾーンにカードが無く、自分フィールドのモンスターがアンデット族のみの場合に発動できる! デッキからフィールド魔法・【ヴァンパイア帝国(エンパイア)】を発動する!」

 

 

 

 アマネの周囲に続々と建ち並ぶ家々と、それらを見下ろす様に奥から(そび)え立つ堅牢(けんろう)な城。

 できあがったのは、どこか西洋を思わせる城下町。上空に浮かぶ満月の真っ赤な光によって、不気味に照らされている。

 

 ベンジャミンくんサイドの、人工の光源で()(あん)を明るく照らし出すコンクリートジャングルとは対称的な、ホラーチックな町並みだ。

 

 

 

「その()、墓地から【ヴァンパイア】1体を、守備表示で特殊召喚する! よみがえれ……【ヴァンパイア・レディ】!」

 

 

 

【ヴァンパイア・レディ】 守備力 1550

 

 

 

「……やるね(ノット・バッド)。発動条件を満たせなくなる前に発動して次に繋げたか。だが【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】には消えてもらうよ!」

 

 

 

 ゾンビ達に引きずり込まれて、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】は地中深くへと沈んでいってしまった。

 

 

 

「そしてリリースしたモンスターと同じレベルの【ヴェンデットトークン】を、Meのフィールドに特殊召喚する!」

 

 

 

【ヴェンデットトークン】 守備力 0 レベル 7

 

 

 

「チェーン終了だ! ここで【スレイヤー】の新たな効果を発動! フィールドの【レヴナント】をリリースして儀式召喚された【スレイヤー】は、ワンターンに一度、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体を除外できる! グッバイ、【ヴァンパイア・レディ】!」

 

 

 

 せっかく蘇生した【ヴァンパイア・レディ】が、今度は除外という形で再び退場させられた。

 

 

 

「くっ、そんな効果があったなんて……!」

 

(でも、まだ手は残ってる!)

 

「手札から魔法(マジック)カード・【おろかな埋葬(まいそう)】を発動! デッキからモンスター1体を墓地に送る! 私は【ヴァンパイア・ロード】を墓地へ! さらに手札から【死者蘇生】発動! 復活しなさい! 【ヴァンパイア・ロード】!!」

 

 

 

 美人に続いて現れた吸血鬼は、漆黒のマントを(まと)った美青年だった。

 

 

 

【ヴァンパイア・ロード】 攻撃力 2000

 

 

 

「続けて魔法(マジック)カード・【威圧する()(がん)】を発動! 攻撃力2000以下のアンデット族モンスター1体は、このターン直接攻撃(ダイレクトアタック)ができる!」

 

なんだって(ワッダッヘェール)!?」

 

「バトルよ! 【ヴァンパイア・ロード】でダイレクトアタック! 『暗黒の使徒』!!」

 

 

 

 【ヴァンパイア・ロード】がマントを(ひるがえ)すと、中からコウモリの群れが飛び出して、ベンジャミンくんに襲いかかる。

 

 

 

「ここで【ヴァンパイア帝国(エンパイア)】の効果発動! アンデット族が戦闘するダメージ計算時、その攻撃力は500アップする!」

 

 

 

【ヴァンパイア・ロード】 攻撃力 2000 + 500 = 2500

 

 

 

「アウチッ!!」

 

 

 

 ベンジャミン LP 4000 → 1500

 

 

 

『ついに黒雲選手が犬居選手のライフを削ったァーッ!!』

 

「【ヴァンパイア】が相手に戦闘ダメージを与えた場合、【ヴァンパイアの領域】の効果で、その数値分のライフを回復するわ!」

 

 

 

 アマネ LP 650 → 3150

 

 

 

「さらに【ヴァンパイア・ロード】が戦闘ダメージを与えた事で、モンスター効果発動! 相手は私が宣言した種類のカードを1枚、デッキから墓地に送らなければならない! 私は……(トラップ)カードを宣言!」

 

「……オーライ。それじゃあMeは、そうだな……【ヴェンデット・リユニオン】を墓地へ送ろう」

 

「この瞬間! 【ヴァンパイア帝国(エンパイア)】の二つ目の効果を発動! 1ターンに一度、相手のデッキからカードが墓地へ送られた時、自分の手札、またはデッキから、闇属性の【ヴァンパイア】モンスター1体を墓地に送り、フィールドのカード1枚を破壊する!」

 

「!!」

 

「デッキから【ヴァンパイアの眷族(けんぞく)】を墓地へ送り、【リヴェンデット・スレイヤー】を破壊──と、行きたいとこだけど……確か先輩の墓地にある【リヴェンデット・ボーン】は、除外する事で【スレイヤー】を破壊から守る効果がありましたよね?」

 

「ッ……なんだい、気づいてたのか」

 

「なら私は……【ヴェンデット・ナイト】を破壊!」

 

 

 

 ベンジャミンくんのフィールドに所狭しと林立していた()(てん)(ろう)が全て崩落し、大都市は見る見る内に壊滅していった。

 

 

 

「オーーーノォ~~~ッ!?」

 

(よし! これで一番厄介(やっかい)な連続攻撃は封じたわ!)

 

「墓地の【ヴァンパイアの眷族】は、自分フィールドの【ヴァンパイア】カード1枚を墓地に送る事で、特殊召喚できる。私は【ヴァンパイア帝国(エンパイア)】を墓地に送る!」

 

 

 

 今度はアマネが築き上げた吸血鬼の帝国も消滅していく。

 

 正しい判断だ。ベンジャミンくんの【ヴェンデット】もアンデット族だから、バトルになったら相手モンスターまで攻撃力が上がってしまう。これ以上フィールドに【ヴァンパイア帝国(エンパイア)】を残しておいてもメリットは無い。

 

 

 

「そして【眷族】を特殊召喚!」

 

 

 

 白い毛並みに(おお)われた1匹の(オオカミ)が出現する。その半身は黒い(かすみ)みたいに揺らめいていて、実体を成していなかった。

 

 

 

【ヴァンパイアの眷族】 守備力 0

 

 

 

「【眷族】の効果発動! このモンスターを特殊召喚した場合、ライフを500払う事で、デッキから【ヴァンパイア】と名のつく魔法・(トラップ)カード1枚を、手札に加える!」

 

 

 

 アマネ LP 3150 → 2650

 

 

 

「私は(トラップ)カード・【ヴァンパイア・アウェイク】を手札に加える! そしてカードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

「やってくれるね、スウィート……! Meのターン……ドロー!」

 

(──! ナイス!!)

 

「BOOYAH!! ラッキーカードを引いたぜ!」

 

「っ!?」

 

「Meは【ヴェンデット・アニマ】を召喚!」

 

 

 

【ヴェンデット・アニマ】 攻撃力 0

 

 

 

「そして儀式魔法・【リヴェンデット・バース】を発動! フィールドのレベル(セブン)となった【ヴェンデットトークン】と、レベル(ワン)の【ヴェンデット・アニマ】をリリース!」

 

(これは……新たな儀式モンスター!?)

 

「──儀式召喚!! カモン! 【リヴェンデット・エグゼクター】!!」

 

 

 

 背中から伸びる2本の太い触手。腕に生えた大型の刃。

 【スレイヤー】を進化させた様な新しいダークヒーローが、首に巻いた青いマントを風に揺らしながら参上した。

 

 

 

【リヴェンデット・エグゼクター】 攻撃力 3000

 

 

 

「攻撃力、3000……!」

 

「こいつがMeのデッキの真打ちサ! 【エグゼクター】はモンスターゾーンに存在する限り、カード名を【リヴェンデット・スレイヤー】として扱う! さらに相手は、【エグゼクター】以外のMeのカードを効果の対象にできない!」

 

(【スレイヤー】と同名って事は……破壊しようとしても、墓地の【リヴェンデット・ボーン】に守られるのね……!)

 

「バトルだ! まずは【スレイヤー】で、【ヴァンパイア・ロード】をアタック!」

 

 

 

 【スレイヤー】が【ヴァンパイア・ロード】を打ち倒す。ご丁寧に【補充部隊】で引かせないよう、与えるダメージの低い方で攻撃してきた。

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

 アマネ LP 2650 → 1950

 

 

 

「ネクスト! 【エグゼクター】で【ヴァンパイアの眷族】をアタック! 『ドレッド・クロス』!!」

 

 

 

 【エグゼクター】は両腕を交差させる様に振り下ろすと、エックス字型の衝撃波を飛ばして、【ヴァンパイアの眷族】を(こま)()れにした。

 

 

 

「【ヴェンデット・アニマ】をリリースして儀式召喚された【ヴェンデット】儀式モンスターは、バトルで破壊したモンスターを除外する!」

 

(っ……【眷族】は自身の効果でも除外されるから関係ないけれどね)

 

「【ヴェンデット・ナイト】さえ破壊されてなければMeの勝ちだったが……まぁ仕方ない。Meはこれでターンエンドだ!」

 

(【リヴェンデット・バース】で儀式召喚した【エグゼクター】は、次のターンのエンドフェイズに破壊されちまうが、Meの墓地にある【リヴェンデット・ボーン】を除外すれば、()()(まぬが)れる! まさにパーフェクト! 勝利の女神はMeに微笑んでるぜ!)

 

『黒雲選手、何とか首の皮一枚繋がったが、完全に崖っぷちまで追い込まれたっ! このターンがラストターンとなってしまうのかぁーっ!?』

 

「……!」

 

 

 

 アマネの手札は(ゼロ)。フィールドにモンスターも無し。実況の言う通りだ、もはや後がない。

 「終わりだな」、と、凰くんが呟いた。

 

 

 

「格下にしてはよく頑張った様だが、これが現実である」

 

「いや、まだ勝負は決まってないよ」

 

「ハッ、笑わせる。この()に及んで奴に何ができると言うのだ?」

 

「アマネの()を見れば分かるよ。アレは……」

 

 

 

 諦めた眼では決してない。

 かと言って……ただ奇跡に期待しているだけの眼でもない。

 

 ボクには見覚えがある。あの眼は、予選でルイくんが金沢くんと闘った時に見せたそれと同じ……

 

 

 

「──(なに)かを()()()()()眼だ」

 

 

 

「……私のターン……」

 

(確かに状況は崖っぷち……でもひとつだけ。ここから〝逆転勝利〟を狙える手が……ひとつだけある!)

 

 

 

 ゆっくりと、アマネはデッキの上に右手の指先を掛ける。

 画面越しに観ているボクにまで緊張が走った。マキちゃんも食い()る様に親友の命運を見守っている。

 

 

 

(その為には……あのカードを引き当てるしかない!)

 

 

 

 アマネ……自分のデッキを信じて。

 信じれば──必ず応えてくれる!

 

 

 

(お願い、私のデッキよ……応えて!)

 

「ドローッ!!」

 

 

 

 勢いよくカードを引き抜いたアマネ。結果は……!?

 

 

 

(っ……──! 来たッ!!)

 

「……フフッ」

 

 

 

 ……? 今、アマネ……笑った?

 

 

 

「犬居先輩」

 

「ンン?」

 

「どうやら勝利の女神は……私に微笑んだみたいですよ」

 

「!?」

 

(トラップ)発動! 【ヴァンパイア・アウェイク】! デッキから【ヴァンパイア】1体を特殊召喚する! 現れなさい! 【ヴァンパイアの使い魔】!」

 

 

 

【ヴァンパイアの使い魔】 守備力 0

 

 

 

「【使い魔】を特殊召喚した場合、500ポイントのライフを払って、デッキから【ヴァンパイア】モンスター1枚を手札に加える事ができる!」

 

 

 

 アマネ LP 1950 → 1450

 

 

 

「私は──【ヴァンパイア・レッドバロン】を手札に加える!」

 

「レベル(シックス)のモンスターだって? どういうつもりか知らないが……【スレイヤー】の効果発動!」

 

「!」

 

当然(オフコース)、使うのは【レヴナント】の効果だ! 【ヴァンパイアの使い魔】を除外するぜ!」

 

 

 

 空間に穴が開き、コウモリの大群を全て吸収してしまった。

 

 

 

「……!!」

 

 

 

 アマネの赤い双眸(そうぼう)が、驚愕に見開かれる。

 

 

 

『あぁーーーっ!? なんという事だ!! これではせっかく手札に加えた【レッドバロン】を、アドバンス召喚できない! 黒雲選手、いよいよ万事休すかぁーっ!?』

 

残念だったね(トゥー・バッド)! デッド・エンドだ!!」

 

 

 

 誰もがアマネの詰みを予感した事だろう。ところが──

 

 

 

「……そう来ると思ってましたよ」

 

「……ッ?」

 

 

 

 アマネは予想に反して、勝ち気な笑みを浮かべてみせた。

 

 

 

「私のデッキの最大の弱点は『除外』です。予選でそれをイヤってほど思い知らされました。だから……ちゃんと対策は用意してきたんです!」

 

「!?」

 

「手札から速攻魔法・【異次元からの埋葬】を発動! 除外されているモンスターを、3体まで墓地に戻す! 私が戻すのは、この3体!」

 

 

 

 【ヴァンパイア・ソーサラー】、【ヴァンパイアの眷族】、【ヴァンパイアの使い魔】がアマネの墓地に戻される。

 

 

 

「そして墓地に戻した【ソーサラー】を再び除外して、効果発動! これにより【ヴァンパイア・レッドバロン】を、リリース無しで通常召喚!」

 

 

 

 現れたのは真っ赤なたてがみの馬を駆り、円錐形(えんすいけい)の槍と甲冑(かっちゅう)で武装した騎兵。

 

 

 

【ヴァンパイア・レッドバロン】 攻撃力 2400

 

 

 

「さらに! 墓地の【ヴァンパイアの使い魔】の効果! 自分フィールドの【ヴァンパイア】カード1枚を墓地に送り、自身を特殊召喚する! 【ヴァンパイアの領域】を墓地へ!」

 

 

 

【ヴァンパイアの使い魔】 攻撃力 500

 

 

 

(SHIT! 【スレイヤー】の除外効果はもう使えない……!)

 

「そして、【レッドバロン】の効果を発動! 1ターンに一度、ライフを1000ポイント払う事で、自分フィールドの他の【ヴァンパイア】モンスター1体と、相手モンスター1体のコントロールを入れ替える!」

 

 

 

 アマネ LP 1450 → 450

 

 

 

「私が入れ替えるのは──【ヴァンパイアの使い魔】と、【リヴェンデット・エグゼクター】!」

 

 

 

 アマネに指定された2体が、それぞれ相手のフィールドに移動する。

 切り札を奪われ、代わりに攻撃力の低いモンスターを送りつけられた。これにはベンジャミンくんも頭を抱えて動揺する。

 

 

 

「オーマイガ!? オーマイガァァ~~~ッ!!」

 

 

 

 【エグゼクター】は他のカードを相手の効果の対象にさせない効果を持ってるけれど、【エグゼクター】自身に耐性は無い。

 さすがアマネ、そこを突いてきたか!

 

 

 

「最後は先輩の大好きなダークヒーローの攻撃でフィニッシュにしてあげます。【リヴェンデット・エグゼクター】で、【ヴァンパイアの使い魔】を攻撃!!」

 

 

 

- ドレッド・クロス!! -

 

 

 

 アマネの支配下に置かれた【エグゼクター】は、ベンジャミンくんの場に移った【ヴァンパイアの使い魔】を、一撃で1匹残らず消し飛ばした。

 

 

 

()()()()()()~~~~~ッ!!」

 

 

 

 ベンジャミン LP 0

 

 

 

『決着ゥゥーーーッ!! ウィナー・黒雲 雨音ッ!! 絶体絶命からの、一発・大逆転勝利ィィィィッ!!』

 

「っしッ!!」

 

(勝った! ついに十傑に勝てたッ!!)

 

 

 

 ガッツポーズして満面の笑顔を見せるアマネ。本当に嬉しそうなのがひしひしと伝わってくる。

 

 

 

「やったぁーーーッ!! アマネたんが勝ったぁーッ!!」

 

「やったー!」

 

 

 

 ボクはマキちゃんと両手でハイタッチしながら、二人で我が事の様にアマネの勝利を喜び合った。

 

 

 

(セツナさんとハイタッチ……キーッ! 羨ましいですわぁ~っ!)

 

「おーおー勝っちゃったな、あのお嬢ちゃん。なぁ? キヨマサ?」

 

「ぐっ……! タヌキ寝入りか狼城、貴様……!」

 

 

 

「OH……ジーザス。まさかMeが負けるなんて……」

 

「対戦ありがとうございました、犬居先輩」

 

「……やれやれ。もうちょっとで勝利の女神を()()き落とせたのに、あと一歩のところでフラれちまったぜ。──コングラッチュレーション、ミス・クロクモ!」

 

 

 

 互いの健闘を(たた)えて握手を交わす、アマネとベンジャミンくん。観客に(なら)って、ボク達も画面の向こうへ惜しみない拍手を送った。

 

 

 

「It was a happy duel !!(楽しい決闘(デュエル)だったよ!)」

 

「Likewise.(私もです)」

 

 

 

「犬居め、格下に不覚を取りおって……」

 

「アマネたんとセツナくんは準々決勝進出か~。う~~~、燃えてきたぁーっ! あたしも負けてらんないね!」

 

「ふん。()は犬居の様に手ぬるくはないぞ」

 

 

 

 おもむろにソファーから立ち上がった凰くんは、制服の内ポケットに手を入れると、1枚のカードを取り出して、マキちゃんに突きつけた。

 

 

 

「覚悟するがよい小娘よ。一族に代々(だいだい)受け継がれし、この『神』のカードの(ちから)で、格の違いを余が直々(じきじき)に思い知らせてくれる!」

 

「「 !? 」」

 

 

 

 か……『神』のカードだって!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……今の決闘(デュエル)で確信したわ……やっぱり、このデッキは強い! これなら自信を持って言える……)

 

「──このデッキなら……今の私ならセツナにだって……それに……九頭竜(くずりゅう)鷹山(ヨウザン)にだって勝てる!」

 

 

 

 





 英語あんまり自信ない……

 【ヴェンデット】が強すぎてどうやってアマネに勝たせたものか悩みすぎて、お脳が焼き切れるかと思いました(゜∀。)

 無意識だったんですが、今回のお話、22話のルイくん vs 金沢と、展開がちょくちょく似ていましたw
 ルイくんと同じ『何かを狙っている眼』って部分は意識してたけど、【おろ埋】からの【死者蘇生】は金沢もやってたし、「あのカードを引き当てるしかない」ってセリフは完全に偶然の一致でした。
 ここまで構図が似るとは……もしや、ヒロイン繋がり?(違)


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TURN - 40 GOD PHOENIX


 また3ヶ月も空こうとは……何度目かのお久しぶりでございます。

 ここ最近ドタバタしていたのがようやく落ち着いてきたので、何とか8月中に更新が間に合いました(´・ω・`; )ホッ



 

 い……今なんて言ったの、(オオトリ)くん……!

 

 その手に持ってるカードが……『神』のカードだって!?

 

 目を丸くするボクとマキちゃんを見て気を良くしたのか、凰くんは自分が『神』のカードだと称した1枚のカードを(ふところ)にしまうと、したり顔で口を(ひら)いた。

 

 

 

「ふふん、『神』の威光に恐れをなしたか。尻尾を巻いて逃げ出すなら今の内であるぞ、小娘よ」

 

「…………」

 

「マキちゃん……?」

 

「……『神』のカードだか()のカードだか知んないけど……」

 

 

 

 マキちゃんはさっきの試合でのアマネと同じ様に勝ち気な笑みを浮かべ──

 

 

 

「そんなのであたしがビビると思ったら大間違いですよ!」

 

 

 

 凰くんをビシッと指さして、そう言い返した。

 虚勢を張ってる風には見えない。どうやら心配無用だったみたいだね。

 

 

 

「貴様ッ……! ……よかろう。ならば試合で(おの)()(そん)を、存分に後悔させてやるまでよ!」

 

「そっちこそ、あたしの事をか弱い女の子だと思ってたら、後悔しますよ?」

 

 

 

 バチバチと火花を散らす二人。

 

 にしても……『神』のカード……か。

 

 もしアレが本当に、ボクの想像してる『神』のカードなんだとしたら……次の試合は壮絶な闘いになりそうな予感……!

 

 

 

「ふう……ただいま」

 

「おっ、アマネお帰り~」

 

 

 

 数分後、ベンジャミンくんとの試合を終えて準々決勝に勝ち進んだアマネが、控え室に戻ってきた。

 

 

 

「アマネたんおかえりーッ!!」

 

「わっ!? ちょっと、マキちゃん……!」

 

 

 

 アマネに飛びついて、ギュッと抱き締めるマキちゃん。帰宅した飼い主を大喜びで出迎えるペットみたいで微笑ましい。

 

 

 

「準々決勝進出おめでとう、アマネ」

 

「ありがとう、セツナ」

 

「アマネたんおめでと~っ! あとね、パンツが鮮明に映ってたよ~!」

 

「え"っ"!?」

 

「ほらマキちゃん、しょうもない嘘つかないの」

 

「てへへ~、ごめんごめん」

 

「なんだ……ビックリさせないでよ。危うくカメラマンを半殺しにするところだったわ」

 

(( そっちのがシャレになってない!! ))

 

「……見させてもらったよ、アマネの本当のデッキ。まさか【ヴァンパイア】とはね、恐れ入ったよ」

 

「ええ。私にとって、これ以上のデッキは無いわ」

 

 

 

 アマネの操る【ヴァンパイア】デッキ……初見でも、その恐ろしい強さは十二分に(うかが)い知れた。

 

 アンデット族らしく、墓地に置く事で真価を発揮する吸血鬼。

 ひとつアクションを起こせば連鎖的に別の効果が次々と発動する高度な戦術(タクティクス)

 

 明日の準々決勝、ボクはこんな()(ごわ)い相手と闘うのか……気を引き締めとこ。

 

 

 

「──凰選手、()(づき)選手。間もなく第7試合の開始時間です。出場の準備をお願いします」

 

 

 

 それからまた数分後。

 いつもの様に係員さんが、次の試合に出場するマキちゃんと凰くんを呼び出しに来た。

 

 

 

「よーっし! 行ってくるね!」

 

「行ってらっしゃい!」

 

「マキちゃん頑張れーっ!」

 

 

 

 会場へ向かった二人に手を振って見送ると──アマネに話しかけられた。

 

 

 

「……そうそう、セツナには礼を言わないといけないわね」

 

「ん? 何の事?」

 

「私が試合に出る前、『楽しんできな』って言ってくれたでしょ?」

 

「あー、うん、言ったね」

 

「アレのおかげで肩の(ちから)がだいぶ抜けた気がしたのよね。……正直、緊張してたから……あのままだったらガチガチなまま舞台に立ってたと思う。──だから、ありがと」

 

「……あはは、なんか言わなきゃと思ってとっさに出た言葉だったんだけど……力になれたなら良かったよ。どういたしまして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──アリーナ・カップ1日目もいよいよ大詰め!! 第7試合も君達一人一人の声援で、大いに盛り上げてくれたまえッ!!』

 

 

 

 今日のトーナメントも気づけば残り2試合。

 ボクは引き続き控え室のソファーに腰かけ、ハイビジョンのライブ中継を観戦している。隣にはマキちゃんに代わってアマネが座った。

 もちろん鰐塚ちゃんも一緒にいる。やっぱり顔は赤いままだけど。そして狼城くんは今度こそ爆睡した。

 

 回を重ねる(ごと)(おとろ)えるどころか、ますます盛り上がっていく歓声で場内も温まってきた頃、MCのマック伊東さんが高らかな選手入場のコールで、今回のメインキャストを招き入れた。

 

 

 

『さぁ元気いっぱいにオーディエンスに手を振りながらステージへ現れたのは、今年のルーキー最後の一人! (ちまた)では天真爛漫(てんしんらんまん)な小悪魔と評判の美少女決闘者(デュエリスト)! 2年・観月 マキノォォーッ!!』

 

「イエーイッ!」

 

 

 

 アイドルさながらに笑顔を振り撒いて、カメラに気づくとウィンクを決めたマキちゃん。可愛い。

 これだけの大舞台に立っていても緊張を()(じん)も感じさせず、いつものマキちゃんらしく振る舞っている。

 普段から彼女が怖いもの知らずなのはよーく知ってたけれど、その可憐なルックスに()らない(きも)()わりっぷりに、ボクは改めて感服した。

 

 

 

『そしてそしてぇーっ! その小悪魔ちゃんと相見(あいまみ)えるはぁーッ! 十傑の一人にして、伝統ある凰一族の末裔!! 3年・十傑──(オオトリ) 聖将(キヨマサ)ァァーッ!!』

 

 

 

 続けてマキちゃんの真向かいに(ひら)いているゲートから、凰くんが入場する。

 長く伸びている朱色の髪を歩く(たび)に揺らしながら、威風堂々と決闘(デュエル)フィールドに足を踏み入れた。

 

 

 

「──えっ……セツナ……今、なんて?」

 

「『神』のカードだよ。さっき本人が言ってた」

 

「まさかそんな……()()に『神』のカードの所有者が居るなんて、聞いた事ないわよ!?」

 

「うん、ボクもまさかって思った。でもあの自信……ハッタリではなさそうだよ」

 

「信じられない……!」

 

「あ、そうだ。ねぇ鰐塚ちゃん」

 

「ひゃいっ!?」

 

「鰐塚ちゃんは何か知ってる? 凰くんが持ってるって言う『神』のカードの事」

 

 

 

 同じ十傑である彼女なら、あのカードの正体を知ってるかもしれない。そう思い立って尋ねてみた。ところが……

 

 

 

「あ、あ、あの、えーっと、そ、それはですね……!」

 

(あわわわ、そ、そんなに真っ直ぐ見つめられたらワタクシ……!)

 

「……? どうしたの鰐塚ちゃん? なんか今日ずっと変だよ?」

 

(貴方のせいですわーっ!!)

 

「……セツナ、他の選手の手の内を別の選手に聞くのは感心しないわよ」

 

「それもそっか。ごめん鰐塚ちゃん、今のは忘れて」

 

「えう……そ、そうですの?」

 

 

 

 この試合で今に拝めるんだ、楽しみにしておくとしよう。

 

 

 

『イ~~~ッツ! タイム・トゥ──』

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 マキノ LP(ライフポイント) 4000

 

 (オオトリ) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「余の先攻でよいな?」

 

「よいぞぉ~♪」

 

「っ……貴様、余を侮辱するかっ!!」

 

「まーまー、良いから早く始めてくださいよ~」

 

「無礼者め……容赦はせぬぞっ! 余は【ネフティスの(まも)り手】を召喚!」

 

 

 

【ネフティスの(まも)り手】 攻撃力 1400

 

 

 

「モンスター効果発動! 1ターンに一度、自分の手札を1枚選択し、破壊する!」

 

 

 

 凰くんの手札が1枚、墓地へ送られる。自分の手札を破壊だなんて珍しい効果だなぁ。

 

 

 

「その()、手札からレベル4以下の【ネフティス】モンスター1体を特殊召喚できる! 現れよ、【ネフティスの(みちび)き手】!」

 

 

 

【ネフティスの(みちび)き手】 攻撃力 600

 

 

 

「【導き手】の効果発動! 自分フィールドのモンスター1体と、このカードをリリースする事で、手札、またはデッキから──『神』を召喚する!!」

 

「!?」

 

 

 

 ま、まさか、先攻1ターン目からいきなり『神』!?

 

 

 

「余は【導き手】と【護り手】を『神』への生け贄に捧げ──デッキより、【ネフティスの鳳凰神(ほうおうしん)】を特殊召喚!!」

 

 

 

 2体の女性モンスターが、巻き起こった炎の(うず)に包まれ消滅する。

 

 

 

「──()でよ!! 【ネフティスの鳳凰神】!!」

 

(来る……!)

 

 

 

 その炎は、まるで翼を広げる巨大な鳥の様な形状を()し……やがて炎の中から2本の腕を持ち、下半身に両翼を生やした、黄金(おうごん)鳥獣(ちょうじゅう)が姿を現した。

 

 

 

【ネフティスの鳳凰神(ほうおうしん)】 攻撃力 2400

 

 

 

『いきなり出たァァーッ!! これぞ凰選手のエースモンスターにして、神と呼ばれた伝説のカード・【ネフティスの鳳凰神】だぁぁーっ!!』

 

 

 

 神々(こうごう)しい鳳凰の(いなな)きに呼応して轟く、観客の皆さんの大歓声。これには早速エースを召喚してみせた凰くんも、ご満悦の表情。

 

 ──ところが、対戦相手のマキちゃんは何というか……すごくげんなりした顔をしている様に見えた。

 

 

 

「えぇ~~~……『神』のカードって言うから『三幻神(さんげんしん)』を期待してたのに~、普通のモンスターじゃないですかぁ~」

 

「なっ!?」

 

 

 

 ……正直ボクも同感だったけど、そういうのハッキリ言えちゃうマキちゃんホントすごい。

 

 『三幻神』というのは、ある3枚のカードを指す総称で、カード名はそれぞれ──

 

 【オシリスの天空竜】

 【オベリスクの巨神兵】

 【ラーの翼神竜】

 

 これらは『神のカード』とも呼ばれていて、決闘者(デュエリスト)なら知らない者はいない伝説のカードなんだ。

 

 ボクも『バトルシティ編』のDVDで、この3体の『神』が激突するシーンを観て打ち震えてた。懐かしいなぁ。

 

 ……というか冷静に考えてみれば、そんな(まぼろし)のレアカードを、いくら十傑とは言え一介(いっかい)の学生が持ってるわけがないか。

 

 

 

「何よ驚いて損した……おかしいと思ったのよ、『三幻神』のカードは、今は3枚とも『決闘王(デュエル・キング)』が持ってる筈だもの。セツナが紛らわしい言い方するから」

 

「えー? それは凰くんに言ってよ。ボクだって勘違いしちゃったんだから」

 

 

 

 まぁそれは置いといて。モニターに視線を戻すと、やはりと言うべきか凰くんは【(いか)れるもけもけ】みたいにカンカンだった。

 

 

 

「お、おのれ小娘ぇぇっ!! 余だけでなく、我が一族の『神』をも侮辱するかぁ!! その()(そん)、万死に値する!」

 

「んー? 別に侮辱したつもりは無いんですけど~」

 

「えぇい(くち)(つつし)め無礼者! 貴様は凰一族を敵に回したのだっ、断じて許さん!」

 

「うえぇ、なんかめんどくさい人~」

 

「余はこれでターンを終了する! さぁ貴様の──」

 

 

 

 言い終わらない内に──突如『それ』は起こった。

 

 

 

「!?」

 

 

 

 何の前触れも無く、突然【ネフティスの鳳凰神】に、落雷が直撃したんだ。

 

 

 

「なにぃ!?」

 

『うおおおっ!? こ、これは一体何事だぁーっ!?』

 

「小娘っ、貴様の仕業か!? 何をしたぁ!!」

 

 

 

 激昂する凰くんに対し、マキちゃんはニカッと笑って1枚のカードをお披露目した。

 

 

 

「【サンダー・ボルト】♪ 早いけどセンパイの大好きな神サマには退場してもらいましたよ~」

 

 

 

 マキちゃんもマキちゃんで、いきなり鬼畜なカードを出してきたね……!

 

 【サンダー・ボルト】。これ1枚を発動するだけで、何のコストもデメリットも無しに、相手フィールドのモンスターを全て破壊できる。

 デュエルモンスターズ黎明(れいめい)()から存在する魔法(マジック)カードにして、モンスター除去効果の元祖。当時の決闘者(デュエリスト)達は、ほぼ必ずデッキに投入していたと言われるほどの、これまた伝説的なカードだ。

 ()()では考えられないそのシンプルかつ強力な効果(ゆえ)に、長年リミットレギュレーションで『禁止カード』に指定され、公式の決闘(デュエル)では使用できなかった……のだけれど──

 

 なんと最近それが解禁されて、デッキに1枚までなら入れられる『制限カード』へと(かん)()されたんだ。

 当然のごとく決闘(デュエル)界は震撼(しんかん)し、この学園でも話題騒然(そうぜん)となったのは記憶に新しい。

 

 一気に市場価値が高騰(こうとう)して入手困難になっていた激レアカードなのに、よく持ってたねマキちゃん。

 

 

 

「サ、【サンダー・ボルト】だと……! 小癪(こしゃく)な真似を……!」

 

「ふっふーん、誉め言葉だね。小癪な決闘(デュエル)をさせたら、あたしの右に出る決闘者(デュエリスト)はいませんよ!」

 

 

 

 マキちゃん、それって自慢するとこなのかな……?

 

 

 

「あたしは【ガトリング・バギー】を召喚!」

 

 

 

【ガトリング・バギー】 攻撃力 1600

 

 

 

「ほんでバトル、行くよー! センパイに直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

 

 

 バギーに装備された機関銃が火を噴いた。

 

 

 

「ぐおぉっ!!」

 

 

 

 凰 LP 4000 → 2400

 

 

 

『先制は観月選手だぁーッ!!』

 

「どんなもんですか! あたしはカードを2枚伏せて、ターン終了(エンド)でーす!」

 

 

 

 快調な滑り出しを決めたマキちゃん。この勢いで押し切れればいいけど……

 

 相手は十傑だ。一筋縄で行くとも思えない。

 

 

 

「……ランク・B(格下)の分際で余に傷をつけるとは……だが愚かだな小娘。貴様は神の怒りに触れたのだ!!」

 

「──!?」

 

「余のターン! ──よみがえれ我が神よ!!」

 

 

 

 再びフィールドに炎が発生した。そしてさっきと同じく自在に(うごめ)き始め……

 

 ──破壊された筈の【ネフティスの鳳凰神】が、マキちゃんの眼前に現れた。

 

 

 

【ネフティスの鳳凰神】 攻撃力 2400

 

 

 

「えっ、えーっ!? なんでぇ~~~っ!?」

 

『なんとーっ!? たった今破壊されたばかりの【ネフティスの鳳凰神】が、もう復活したぁーッ!!』

 

「ふははは! 見たか! これぞ神の能力(ちから)!! 【ネフティスの鳳凰神】は効果によって破壊され墓地へ送られた場合、次の余のターンのスタンバイフェイズに、フィールドへ舞い戻るのだ!!」

 

「何それーっ!? 聞いてないんですけど~っ!」

 

「さらにそれだけではない! 【鳳凰神】はその効果で復活した時──フィールドの魔法(マジック)(トラップ)カードを全て破壊する!!」

 

 

 

 蘇生した【ネフティスの鳳凰神】が翼を広げた途端、渦巻く炎がマキちゃんの魔法・(トラップ)ゾーンにセットされていた2枚のカードを燃やしにかかる。

 

 

 

「その2枚の伏せカードには消えてもらう!」

 

「うわわわわっ!?」

 

 

 

 炎に飲まれて破壊されたのは、【光の()(ふう)霊剣(れいけん)】と【魔法の筒(マジック・シリンダー)】。

 

 うわーこれは痛い。せっかく良い(トラップ)を伏せてたのに発動前に除去されちゃうのは精神的にもキツいものがある。

 

 

 

「おっと危ない。伏せカードの1枚は【魔法の筒(マジック・シリンダー)】だったのか、()(ざか)しいカードを伏せていたな」

 

「ぐぬぬぬ~っ」

 

「続いて墓地より、【ネフティスの悟り手】の効果を発動!」

 

 

 

 あのカードは前のターンには出てきてなかった。てことは【ネフティスの護り手】の効果で、手札から破壊して墓地に送っていたカードか。

 

 

 

「このモンスターも【鳳凰神】と同じく、効果で破壊され墓地へ送られた場合、次の余のターンで復活する事ができる!」

 

 

 

【ネフティスの悟り手】 攻撃力 600

 

 

 

 効果による破壊をトリガーとして、自身の効果を発揮するカード群か。手札からわざわざ『破壊』って形で墓地に送ったのを見て何かあるとは思ってたけど、面白いデッキを使うね。

 

 それでいてなかなか厄介だ。マキちゃんが()(かつ)に破壊効果を使うと、逆に凰くんを有利にしてしまいかねない。

 

 

 

「バトルだ! 【ネフティスの鳳凰神】で【ガトリングバギー】を攻撃!」

 

「!」

 

「受けよ! 『裁きの炎』!!」

 

 

 

 【鳳凰神】が口から放った灼熱の炎を浴びた【ガトリングバギー】は、ガソリンに引火したのか派手に爆砕した。

 

 

 

「わあっ!!」

 

 

 

 マキノ LP 4000 → 3200

 

 

 

「ふははは! 神の怒りを思い知ったか!! さらに【ネフティスの悟り手】でダイレクトアタック!」

 

()ったーいっ!」

 

 

 

 マキノ LP 3200 → 2600

 

 

 

「さて、バトルは終了だが──メインフェイズ(ツー)で【ネフティスの悟り手】の効果を発動する。余の手札を1枚破壊し、墓地より【ネフティスの護り手】を、守備表示で特殊召喚!」

 

 

 

【ネフティスの護り手】 守備力 200

 

 

 

「ただしモンスター効果は無効化される。余はカードを1枚伏せ、ターン終了だ!」

 

「……ムフフ、いいねぇ張り合いが出てきたね~! あたしのターン!」

 

 

 

 マキちゃんの目の色が変わった。いよいよ()()モードだ。

 

 にしても……と、ボクは呟く。

 

 

 

「厄介なモンスターだねぇ。効果で破壊しても復活してくるとなると……バトルで倒すか手札に戻すか……あとは除外するとか、かな?」

 

「私だったら奪い取るわね」

 

「わーお……アマネらしい」

 

 

 

 さぁ、マキちゃんはどう攻略する?

 

 

 

「──あたしはまず、【強欲で貪欲な壺】を発動! デッキの上から裏側で10枚除外して2枚ドロー! さらに──【()(シン)アークマキナ】を召喚!」

 

 

 

()(シン)アークマキナ】 攻撃力 100

 

 

 

 おっ、この局面であのモンスターを出してきたという事は、──()()が来るかな?

 

 

 

「ふん、攻撃力たかが100では、守備表示の【護り手】すら倒せぬぞ。勝てぬと見て勝負を捨てたか?」

 

「チッチッチッ、甘いですぞ~、センパイ♪」

 

「なに?」

 

「手札から魔法発動! 【右手に盾を左手に剣を】!」

 

 

 

【魔神アークマキナ】 攻撃力 100 → 2100

 

【ネフティスの鳳凰神】 攻撃力 2400 → 1600

 

【ネフティスの悟り手】 攻撃力 600 → 600

 

【ネフティスの護り手】 守備力 200 → 1400

 

 

 

「なんだとぉ!?」

 

 

 

 そう、マキちゃんにとって攻撃力の差なんて、あってない様なもの。モンスター同士の殴り合いは彼女の()()()だ。

 

 

 

「バトル! 【アークマキナ】で【ネフティスの鳳凰神】を攻撃!」

 

「くっ! 永続(トラップ)発動! 【ネフティスの覚醒(かくせい)】! 【ネフティス】の攻撃力を300アップする!」

 

 

 

【ネフティスの鳳凰神】 攻撃力 1600 + 300 = 1900

 

【ネフティスの悟り手】 攻撃力 600 + 300 = 900

 

【ネフティスの護り手】 攻撃力 200 + 300 = 500

 

 

 

「でもまだ攻撃力はこっちが上ですよ! 『ディストーション・ウェーブ』!!」

 

 

 

 機械仕掛けの悪魔が酷く(ひず)んだ音波を響かせ、鳳凰を粉砕する。

 

 

 

「ぐわっ!!」

 

 

 

 凰 LP 2400 → 2200

 

 

 

「戦闘で破壊しちゃえば、もう『神』が復活する事はないですよね!」

 

「くっ……!」

 

「この瞬間【アークマキナ】の効果はっつどーうっ! 相手に戦闘ダメージを与えた時、手札から通常モンスター1体を特殊召喚できる! 出ておいで! 【TM-1ランチャースパイダー】!!」

 

 

 

【TM-1ランチャースパイダー】 攻撃力 2200

 

 

 

「レベル7……最上級モンスターだと……!」

 

「【ランチャースパイダー】で【ネフティスの悟り手】を攻撃ぃーッ!」

 

 

 

- ショック・ロケット・アタック!! -

 

 

 

 クモ型の殺戮(さつりく)マシーンが、民族衣装の様な格好をした美女を標的に定め、ミサイルを乱射。爆撃で()()()(じん)に吹き飛ばした。

 

 

 

「うぐああああっ!!」

 

 

 

 凰 LP 2200 → 900

 

 

 

『おぉーっと! 観月選手の凄まじい猛追により、凰選手のライフが早くもデッドラインを超えてしまったぁーっ!!』

 

「わぁーい! 今日のマキちゃん絶好調ォ~ッ!!」

 

 

 

 やるなぁマキちゃん。十傑をここまで圧倒するなんて……本人も大はしゃぎのご様子だ。

 

 

 

「なんかスゴいね今日のマキちゃん。もしかして本当にこのまま勝っちゃうんじゃ……」

 

「……いや、どうかしらね」

 

 

 

 アマネの表情は、やや(けわ)しかった。

 確かに十傑が相手なら、この後まだもう一悶着(ひともんちゃく)ありそうな気もする。

 果たしてエースモンスターを完全に攻略された凰くんは、次にどんな手を打ってくるのだろうか……

 

 

 

「あたしはカードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

 

【魔神アークマキナ】 攻撃力 2100 → 100

 

【ネフティスの護り手】 守備力 1400 → 200

 

 

 

(くそっ、余としたことがなんたる有り様だ! 凰一族の末裔たる者が、二度も『神』の破壊を許してしまうとは……! これ以上、一族の(めい)()に泥を塗るわけにはいかん。必ずこのターンで形勢を引っくり返してくれる!)

 

「余のターン……」

 

(神よ……我に勝利を!!)

 

「ドローッ!!」

 

(……──!)

 

「……ふっ、くっくっくっ……ふははははっ!」

 

「っ!? えっ、今度は何!?」

 

()()、神よ……感謝します。……小娘、よもやここまで余のライフを削れようとはな、素直に誉めてやろう。──だが悔いるがいい……今のターンで余を倒し切れなかった事をな!!」

 

「!?」

 

「このスタンバイフェイズ! 墓地より【ネフティスの祈り手】の効果を発動!」

 

 

 

 あ、忘れてた。そう言えばさっき【悟り手】の効果で、また手札を破壊してた!

 

 

 

「【祈り手】が効果で破壊された場合、次の余のスタンバイフェイズで、デッキから【ネフティス】と名のつく魔法、または(トラップ)カード1枚を手札に加える事ができる! 余は魔法カード・【ネフティスの希望】を手札に加え、──発動!」

 

「!」

 

「余のフィールドの【ネフティスの覚醒】と、貴様の伏せカードを破壊する!」

 

「むむっ! ほんじゃその前に発動させてもらいますよっと! (トラップ)カード・【重力解除】! フィールドの表側表示モンスター、全ての表示形式を変更します!」

 

 

 

【魔神アークマキナ】 守備力 2100

 

【TM-1ランチャースパイダー】 守備力 2500

 

【ネフティスの護り手】 攻撃力 1400

 

 

 

 攻撃力の低い【アークマキナ】が狙われないよう備えてたのか。さすがマキちゃん抜かりない。

 

 

 

「……チッ、まぁよかろう。どのみち、このターンで貴様は終わりなのだからな!」

 

「!」

 

「【ネフティスの覚醒】が破壊された事で、二つ目の効果を発動する! 手札かデッキ、または墓地から、【ネフティス】モンスター1体を特殊召喚する! 再び地上に舞い戻れ、──【ネフティスの鳳凰神】!!」

 

 

 

【ネフティスの鳳凰神】 攻撃力 2400

 

 

 

 危ないとこだったねマキちゃん。【重力解除】を伏せてなかったら大ダメージだ。

 

 

 

「うえ~、せっかくバトルで倒したのに、また~!?」

 

「……ここでこのカードを引くとはな……よもや小娘、貴様ごときに……、──『神』の究極の姿を拝ませる事になろうとは!!」

 

「!?」

 

 

 

 究極の姿!? 【ネフティスの鳳凰神】には、まだ上があるって言うのか……!

 

 

 

「魔法発動、【儀式の下準備】! デッキより儀式魔法カード1枚と、そのカードに名前が(しる)された儀式モンスター1枚を選択し、手札に加える!」

 

「儀式……!」

 

「そして手札に加えた儀式魔法・【ネフティスの(りん)()】を発動! レベル8・【ネフティスの鳳凰神】を、儀式の生け贄に捧げる!」

 

 

 

 ()(たび)フィールド(じょう)で燃え広がる火炎。ただ今度は【鳳凰神】の時と違って、炎の色が青白(あおじろ)かった。

 

 

 

「儀式召喚!! 降臨せよ、レベル8──【ネフティスの蒼凰神(そうおうしん)】!!」

 

 

 

 炎の塊は【ネフティスの鳳凰神】を青く塗り潰した様な、巨大な鳥へと姿を変えた。翼や頭部、尻尾の辺りからは、絶えず青白い炎が噴き上がり続けている。

 

 

 

【ネフティスの蒼凰神(そうおうしん)】 攻撃力 3000

 

 

 

「こ、攻撃力3000~ッ!?」

 

「【蒼凰神】の効果発動! 1ターンに一度、余のメインフェイズに、手札及び我がフィールドに()る表側表示の【ネフティス】カードを、任意の枚数破壊し、同じ数だけ相手モンスターを破壊する! 余は手札の【ネフティスの(まつ)り手】と、フィールドの【ネフティスの護り手】を破壊し、貴様のモンスター2体を破壊する!!」

 

 

 

 【ネフティスの蒼凰神】が両翼を羽ばたかせると、青い熱風が吹き(すさ)び、マキちゃんのモンスターは全て灰と化してしまう。

 

 

 

『あぁーーーっ!! 観月選手のモンスターが全滅してしまったぁーっ! 伏せカードも無い! これは絶体絶命だぞぉ~っ!?』

 

「っ……!」

 

「フフフ、散々手こずらせてくれたが最早これまでであるな。これより神に(あだ)なした愚か者に神罰(しんばつ)(くだ)す! せいぜい()()()うがいい!!」

 

 

 

 【蒼凰神】は口の中に青い炎を溢れさせ始めた。砲撃の用意は万全だ。

 

 

 

「【蒼凰神】の攻撃! 『蒼炎(そうえん)の神罰』!!」

 

 

 

 マズイ、これが通ったらマキちゃんの負けだ……! ボクは思わず立ち上がった。

 

 

 

「マキちゃん!!」

 

「大丈夫よ、セツナ」

 

「えっ……?」

 

 

 

 やけに落ち着いたアマネの声。直後、マキちゃんが動いた。

 

 

 

「墓地から【光の護封霊剣】を除外して、効果発動! このターン、相手はダイレクトアタックできない!」

 

 

 

 (まばゆ)い光の剣に阻まれ、【蒼凰神】は放とうとした炎を直前で消し去った。

 

 

 

「チィッ! 最初に【鳳凰神】の効果で破壊していたカードか……だが、所詮は1ターン延命しただけに過ぎぬ。余のターンは終了だ!」

 

『さぁ観月選手、状況はまさに首の皮一枚! 果たしてこのターンで逆転できるのだろうか!?』

 

 

 

 手札(ゼロ)、フィールドには1枚もカードが無い。もう【光の護封霊剣】は使えない上、モンスターを引いたところで【蒼凰神】の効果で破壊されたら壁にもならない。

 

 言うまでもなく、マキちゃんの命運は次のドローで決まる!

 

 

 

「……行くよ。あたしのターン、──ドロー!」

 

(──! ……)

 

「……カードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

 

 カードを伏せただけで、あっさりと終わってしまったマキちゃんのターン。モンスターではなかったのが幸いかも知れない。何のカードを引いたんだろう。

 

 

 

「ふん、あくまでサレンダーはせぬか。ならば望み通り、今度こそ神の一撃にて葬り去ってくれようぞ! 余のターンである!」

 

(……【鳳翼(ほうよく)の爆風】か。【サイクロン】でも引ければ良かったが……)

 

「……」

 

「……」

 

(奴の伏せカード……仮にモンスターを破壊する(トラップ)だったとしても、【蒼凰神】は自身の効果で次の余のターンが来れば復活する、恐れる事はない。何より、たかが伏せカード1枚に臆して攻撃を躊躇(ためら)うなど、十傑として……(いな)それ以前に、──余の決闘者(デュエリスト)としてのプライドが許さぬ!!)

 

「トドメだ小娘! 神の前に(ひざまず)け! 『蒼炎の神罰』!!」

 

「!!」

 

 

 

 ついに放たれた、青く燃えたぎる火炎放射。今回は止められる事なく、どんどんマキちゃんとの距離を詰めていく。

 

 

 

「──この決闘(デュエル)もらったぁーッ!! (トラップ)発動! 【(やみ)よりの(わな)】!!」

 

「なにっ!?」

 

「自分のライフが3000以下の時、1000ポイントのライフを払って発動!」

 

 

 

 マキノ LP 2600 → 1600

 

 

 

「このカードは墓地の通常(トラップ)1枚と同じ効果になる事ができる! あたしが使うのは──【魔法の筒(マジック・シリンダー)】!!」

 

「っ!? し、しまったぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 【闇よりの罠】のカードの立体映像(ソリッドビジョン)が【魔法の筒(マジック・シリンダー)】に切り替わる。

 次いで空中に出現した2本の筒の片方に【蒼凰神】の炎が吸い込まれ、もう片方から凰くん目掛けて、それが発射された。

 

 

 

「うわああああああっ!!!」

 

 

 

 凰 LP 0

 

 

 

『決着ゥゥーッ!! ウィナー・観月 マキノ!! 土俵(どひょう)(ぎわ)からの1発大逆転ーッ!!』

 

「へへん、やったね!」

 

 

 

 Vサインするマキちゃんの満面の笑みを、モニターがアップで映したのを観て、ボクは安堵から胸を撫で下ろし、ソファーの背もたれに全体重を預けた。

 

 

 

「ほっ……マキちゃん勝ったか良かった~。観ててヒヤヒヤしたよぉ」

 

「ほんと……ギリッギリだったわね。でも良かったわ」

 

 

 

 あと一歩というところで予想外の反撃を食らい逆転負けした凰くんのショックは相当なものだろう。床に膝と両手を突き、(こうべ)を垂れていた。

 

 

 

「バカな……有り得ぬ……余が格下に敗北するなど……!」

 

「……控え室でアマネたんの試合を観てた時、セツナくんが言ってたじゃないですか。『決闘(デュエル)に絶対は無いし、ランクの差なんて関係ない』って」

 

「……くっ……認めるしかあるまい……余の完敗である」

 

「対戦ありがとうございました、凰センパイ♪」

 

『これで2年生は4人中3人が準々決勝進出! しかも3人とも十傑を倒しての勝ち上がり! スゴい! 今年のルーキーは、去年にも負けず劣らずの(つぶ)ぞろいだぁーッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──次で今日の試合もラストか。

 

 出場するのは未だにソファー1(きゃく)を占領して(すこ)やかな寝息を立てている狼城くんと、未だにボクの隣で赤い顔して固まっている鰐塚ちゃんだ。

 

 

 

「次だね鰐塚ちゃん。頑張ってね」

 

「はうっ!?」

 

(そ、そうでしたわ! いつまでもセツナさんの匂いを堪能している場合ではなくてよ! 切り替えなくてはいけませんわ!)

 

「いっ、いい、言われるまでもありませんわ! ワタクシの勇姿を(しか)と見届けなさい!」

 

「もちろん。楽しんできてね」

 

「ッ~~~~~!!」

 

(セツナさんに見守られながら決闘(デュエル)するなんて……ぜっっったいに負けられませんわ!!)

 

 

 

 鰐塚ちゃんの決闘(デュエル)を久々に見れるし、狼城くんがどんなデッキを使うのか興味深い。

 

 第8試合も楽しみだ。

 

 

 

 





 タイトルはこれしかないと思いました。

 さて、次回の鰐塚 vs 狼城を投稿したら、その次は一旦デュエル無しの日常回を挟もうと考えております。

 まだどんな話にするかは決めていませんが、もしリクエスト等もらえましたら嬉しいです!
 活動報告の『リクエスト募集』にて随時募集中でございます(*‘ω‘ *)


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TURN - 41 Trick Star


 タグにボーイズラブを追加しました。念のため……



 

狼城(ろうじょう)くん、起きなって。そろそろ時間だよ?」

 

「…………zzZ」

 

 

 

 選抜デュエル大会・本選のトーナメント1回戦。

 その最後の試合が始まる時間まであと少しだと言うのに、それに出場する選手である狼城(ろうじょう) (アキラ)くんは、前の試合からずっとこの控え室のソファーに寝転んで、気持ち良さそうに眠りこけていた。

 スヤスヤと夢心地で、全く起きる気配がない。

 

 

 

「ほら、ろぉーじょ~くーん! 起きないと不戦敗だよー?」

 

 

 

 ちょっと強めに肩を揺する。このまま起きなかったら、スタッフさんに叩き起こしてもらおうか……

 

 

 

「……んあ?」

 

「お、やっと起きた?」

 

 

 

 うっすらと狼城くんのまぶたが(ひら)きかける。

 長いまつ毛の下から覗いた()き通るグレーの瞳と目が合って──

 

 

 

(ッ……!)

 

 

 

 何故だか少し、ドキッとした。

 

 イケメンと至近距離で見つめ合うのは何と言うかこう……心臓に悪い。

 男のボクでこれなんだから女の子だったら卒倒するんじゃなかろうか。

 

 

 

「……おはよう、狼城くん。もうすぐ試合だよ」

 

「……あ"ー……もうそんな時間か……」

 

 

 

 ()だるそうに身体を起こして、あくびしながら灰色の髪を片手で掻き乱す狼城くん。眠そう。

 

 

 

「相変わらずだらしがありませんわね貴方(あなた)は。それでも十傑(じっけつ)ですの?」

 

 

 

 ボクの横に立っていた鰐塚(わにづか)ちゃんが、狼城くんに苦言を(てい)した。

 

 身体の正面をボクに向けて、胸の下で腕組みしているものだから、メロンみたいに大きく(みの)った二つの膨らみが強調されていて、目のやり場に困る。

 

 ……事故とは言え、アレを()んだんだよなー、ボク。

 柔らかかった……って、いかんいかん! 今は消え去れ煩悩(ぼんのう)

 

 

 

「あー、オレ寝起き頭回んねーんだよなぁ。…………」

 

「? どうなさいましたの? ワタクシの顔に何かついてまして?」

 

 

 

 寝ぼけ(まなこ)で鰐塚ちゃんを見上げていた狼城くんは、次の瞬間、驚きの行動に出た。

 

 なんと──いきなり鰐塚ちゃんのスカートの下に手を入れて、そのまま思い切り腕を振り上げ、バサッと大きく(めく)り上げたんだ。

 

 

 

「「「「 !!!? 」」」」

 

 

 

 スカートに覆われていた絶対領域が余すところなく外気に(さら)され、隠れていた下着と、その下から伸びる、ガーターベルトを付けた白い太ももが全て(あらわ)になる。

 

 これには油断し切って無防備だった鰐塚ちゃんはもちろん、ボクとアマネとマキちゃんもビックリ仰天だ。

 

 

 

「キャアッ!?」

 

 

 

 即座に両手を下ろしてスカートを抑えつける鰐塚ちゃん。

 その(かん)わずか1、2秒程度だったけど、ボクの目は赤メガネのレンズ越しに、彼女の穿()いていたショーツを自慢の視力ではっきりと(とら)えていた。

 

 

 

(し、白のレース……!)

 

「おーおー、さすがイイとこのお嬢サマは高そうなパンツ穿いてんなぁ?」

 

「なななな、なんですのぉーーーっ!!」

 

「ぶっ!」

 

 

 

 当然ながら鰐塚ちゃんは(おこ)って、狼城くんの端正な顔に、本気と書いて()()平手打ち(ビンタ)をお見舞いした。

 

 

 

「あらら、狼城くん大丈夫?」

 

()っときなさいよセツナ。自業自得よ」

 

「ねぇねぇセツナくん、何色だった? 何色だった?」

 

「マキちゃん静かに」

 

 

 

 ほっぺたに手形の紅葉(もみじ)がくっきりと付いた狼城くんは、痛そうにそこを(さす)りながらソファーからゆっくり立ち上がった。

 

 

 

「くぅ~、今のァ効いたぜ。おかげで目ぇパッチリ覚めたわ」

 

「……もしかして眠気覚ましてもらう為にセクハラしたの?」

 

「セ、セツ……総角(アゲマキ)さん! みみみ見まして!?」

 

「えっ!? っ……いっ、いや、見てない……よ?」

 

 

 

 今日何度目かの赤面をしながら睨み付けてくる鰐塚ちゃんから視線を逸らしつつ、そう答えた。

 

 本当は、ピンク色の小さなリボンが付いたランジェリーをガン見してしまったんだけども……

 でもここでバカ正直に「はい見ました」なんて言って、女の子を傷つけたりしたら大変だ。

 

 ところが狼城くんが空気を読まずに異議を申し立ててきた。

 

 

 

「おいおい嘘つくなよセツナ君。オマエの髪と(おんな)じ色だったろ?」

 

「いやボクの髪は白じゃないよ! これは銀髪──」

 

「おや~? 誰も『白』だなんて言ってねーんだけどなぁ?」

 

「ハッ!?」

 

 

 

 か、カマをかけられたぁ~~~っ!!

 

 やられた……こうなってはもう白状するしかない。

 

 

 

「うぅ……ごめん、ホントは見ちゃった」

 

「~~~~っ!!」

 

(うぅぅ~! セツナさんに下着を見られてしまうだなんて……! こんな事なら、もっと良い物を穿いてくるんでしたわ~!)

 

「──鰐塚選手、狼城選手。間もなく第8試合の開始時間です。準備をお願いします」

 

 

 

 ほっ、良いタイミングでスタッフさんが来てくれた。助け船だ。

 

 

 

「あいよー」

 

 

 

 狼城くんが気の抜けた返事をして、先に部屋を出ていこうとする。

 

 その時すれ違い様に、鰐塚ちゃんの肩にポンと手を置いた。

 

 

 

「せいぜい頑張れよ、()()()()にイイトコ見せれる様にさ」

 

「っ──!?」

 

 

 

 小声で何か(しゃべ)ってたみたいだけど、よく聞き取れなかった。

 

 ただ鰐塚ちゃんがすごい勢いで狼城くんの方へ振り返ったのを見るに、もしかすると彼女をまた怒らせる様な事でも言ったのかも知れない。

 

 

 

「なっ、なな……!」

 

()()貴方がそれを!?)

 

(──って、言いたげな顔してんなぁ。んなもん見てりゃあ誰だって分かるっての。最も、()()は気づいてねーみてぇだけど。おもしれぇ~)

 

「んじゃ、また後でな。ミサキ(じょう)

 

 

 

 こちらに背中を向けたままヒラヒラと手を振って、狼城くんは退室していった。

 

 

 

「ぐぐぐっ……覚えてらっしゃい!」

 

「鰐塚ちゃん、行ってらっしゃい」

 

「っ! は、はい! 行って参りますわ、セツ……あ、アゲマキさん!」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヘイヘイヘーイ!! みんな元気かぁっ!? そろそろ第8試合の始まる時間だぜぇっ!! ついにアリーナ・カップの初日、最後の試合だ! 長い様であっという間だった気がするぜ、ラスト声出してくれるかぁーいっ!?』

 

「「「「 おおおおおおおおおおっ!!!! 」」」」

 

 

 

 センター・アリーナの場内は、バンドのライブの終盤みたいな盛り上がり具合を見せていた。

 

 ボクとアマネとマキちゃんも、最後の試合は(なま)で観戦しようという事で控え室を出て、今は生徒用の観客席に3人並んで座っている。

 ソファーでくつろぎながらテレビ中継を観ているのも良かったけれど、やっぱり現場の方が臨場感は段違いだ。

 

 

 

『良いねぇ、お前ら最高だッ!! そんじゃあ、選手入場と行こうか! 本日のトリを飾ってくれるのは、この二人だァァァァッ!!』

 

 

 

 (ほとばし)る熱狂の(もと)、中央の決闘(デュエル)ステージを挟む形で対称の位置に開いた2つのゲートから、それぞれ一人ずつ生徒が入場した。

 

 

 

『第4試合と同じく、今回もまた十傑同士の激突だっ!! 一人はこの学園の風紀委員長も務める才色兼備の令嬢! 3年・十傑──鰐塚(わにづか) ミサキィィーーーッ!!』

 

 

 

 高い位置でまとめたプラチナブロンドのツインテールを()(せん)状に巻いた、華やかな髪型の美少女がステージに現れる。

 すると男子生徒の何割かが野太い大歓声を張り上げた。

 

 

 

「あぁ鰐塚さん、今日も綺麗だなぁ~!」

 

「鰐塚様ぁ~! 俺と決闘(デュエル)してくれ~!」

 

「意識()けぇぇぇ~! 俺達のレベルじゃ、同じフィールドにも立てやしないぞ!」

 

 

 

 やっぱ学園1の美女と(うた)われるだけあって、男子からの人気すごいな鰐塚ちゃんは。そう言えば今思い出したけど、ファンクラブもあるんだってね。

 

 

 

「「 お嬢様ァーッ!! 」」

 

 

 

 ボクらの座席の近くで、見覚えのある男子二人が立ち上がり、鰐塚ちゃんにエールを送った。

 

 

 

「お、(ひろ)()くんと京川(けいかわ)くんだ」

 

「なんか久々に見たね~」

 

 

 

 黒髪が広瀬くんで、茶髪が京川くん。

 

 鰐塚ちゃんと同じ風紀委員会のメンバーで、二人とも副委員長らしい。

 だいぶ前にマキちゃんと組んで、彼らとタッグデュエルをした事があったっけ。

 

 

 

「今年も貴女の実力と!」

 

「美しさを!」

 

「「 全世界に知らしめるのです!! 」」

 

 

 

 ……相変わらずだね、あの二人も。

 

 

 

『そしてもう一人はぁーッ! 驚くなかれ、去年のアリーナ・カップ第3位!! 〝トリックスター〟の二つ名で知られる奇才の決闘者(デュエリスト)! 3年・十傑──狼城(ろうじょう) (アキラ)ァーッ!!』

 

 

 

 鰐塚ちゃんの真向かいから歩いてきたのは、制服を着崩し、両耳にトランプのピアスを付けた灰髪(はいはつ)の色男。

 

 こちらもやはりと言うべきか女子ウケは相当なもので、黄色い声援がひっきりなしだ。

 

 美男美女が顔を突き合わせる。

 モニターに映されたその場面を観て、()になるなぁと、感想を(いだ)いた。

 

 

 

「──先ほどはよくも(はずか)しめてくれましたわね……叩き潰される覚悟はよろしくて?」

 

「なんでぇ、勝負パンツじゃなかったのかよ? そりゃ()リーことしたな」

 

「そういう問題ではなくてよ!?」

 

 

 

 両雄、同時に左腕のデュエルディスクを起動させ、構える。

 

 鰐塚ちゃんは水色のディスクを。

 狼城くんは、灰色のディスクを。

 

 ……いよいよだね。

 

 

 

『さぁ始まるぞ、本日のファイナル! 選抜デュエル大会・本選──アリーナ・カップ1回戦・第8試合! 鰐塚 ミサキ vs 狼城 暁!! イィ~~~ッツ! タイム・トゥ──』

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 狼城(ろうじょう) LP 4000

 

 鰐塚(わにづか) LP 4000

 

 

 

 闘いの幕は上がった。

 ……ところでボクには1つ、気がかりな事が。

 

 

 

「鰐塚ちゃん大丈夫かな? さっきの狼城くんのセクハラで、冷静さを欠いてなきゃいいけど」

 

「ん~~、冷静さは今日ずーっと前から欠いてたと思うよ~?」

 

「え? どういうことマキちゃん?」

 

「さぁねぇ~~~? なんでだろうねぇ~~~?」

 

「?????」

 

 

 

 何やら含みのある物言いが引っ掛かったけど、追及してもはぐらかされそうなので()めた。

 

 

 

(──見ていてくださいまし、セツナさん!)

 

「先攻はワタクシですわ! フィールド魔法・【伝説の(みやこ) アトランティス】発動!」

 

 

 

 地響きと共に、海底に沈んでいた古代都市が地上(フィールド)へ浮上した。

 

 

 

『鰐塚選手、いきなり仕掛けてきたぁーッ!! 【伝説の都 アトランティス】は水属性モンスターの攻守を200アップさせ、さらに手札の水属性のレベルを1つ下げるという特殊な効果を持ったフィールド魔法ッ!!』

 

「ワタクシはレベル5から4となった、【スパウン・アリゲーター】を通常召喚!」

 

 

 

【スパウン・アリゲーター】 攻撃力 2200 + 200 = 2400

 

 

 

 おぉ久々に見た、鰐塚ちゃんのエース。開始早々プレッシャーをかけていくね。

 

 

 

「カードを2枚伏せ、ターン終了ですわ!」

 

(伏せカードの1枚は【波紋のバリア -ウェーブ・フォース-】。これでワタクシは万全ですわ!)

 

「イイねぇ張り切ってんじゃん。──ほんじゃ、オレのターンだなっと」

 

『先攻1ターン目から上級モンスターを繰り出した鰐塚選手! これに狼城選手はどう応戦するのかっ!?』

 

 

 

 さぁ、去年の選抜試験・第3位、──お手並み拝見だ。

 

 

 

「ドロー。……オレはカードを1枚伏せて、ターン終了(エンド)だ」

 

「なっ!? カードを伏せただけですって!?」

 

 

 

 予想だにしない展開に鰐塚ちゃんは驚き、他の観客達も(どよ)めいた。

 

 

 

『なななんとぉーっ!! これはどうしたことか! 狼城選手、伏せカードを1枚セットしただけでターンを終了してしまったぁーッ! まさか手札事故かぁーっ!?』

 

 

 

 いや、仮にもこのハイレベルな大会で第3位まで登り詰めた実績を持つほどの人が、手札事故なんてそうそうやらかすとは思えない。

 

 鰐塚ちゃんも同じ考えなのか激昂(げきこう)した。

 

 

 

「貴方ワタクシを舐めてますの!?」

 

「そーカッカすんなよ、やってみりゃ分かっから。ほら、ミサキ嬢のターンだぜ?」

 

「くっ……ワタクシのターン、ドロー!」

 

(茶番に付き合ってられませんわ、速攻で終わらせますわよ!)

 

「【ライオ・アリゲーター】召喚!」

 

 

 

【ライオ・アリゲーター】 攻撃力 1900 + 200 = 2100

 

 

 

「バトルですわ! 【スパウン・アリゲーター】で、直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

 

 

- スピニング・イート!! -

 

 

 

 二足歩行のワニが狼城くん目掛けて突進。

 巨体を高速で回転させながら、牙を剥き出しにして襲いかかる。

 

 

 

「ぐおっ!!」

 

 

 

 狼城 LP 4000 → 1600

 

 

 

 多大な衝撃で狼城くんの上半身が、大きく()()った。

 伏せカードを発動するのかと思いきや、それすら無く……不気味なぐらいあっさりと、攻撃が通った。

 

 

 

「ワタクシを舐めてかかった事を後悔なさい……! この攻撃がトドメの一撃でしてよ!」

 

 

 

 とは言え、こんな好機を逃す人もそうはいない。

 

 鰐塚ちゃんはここで決着をつけるべく、迷わず追撃を宣言する。

 

 

 

「【ライオ・アリゲーター】で、ダイレクトアタック!!」

 

「──もうちょい冷静になれよ、ミサキ嬢」

 

「っ!?」

 

「オマエらしくもねぇ。その一手を、オレが許すとでも思ったか?」

 

「ま、まさかここで!?」

 

 

 

 もしこのタイミングであの伏せカードを発動するんだとしたら……

 

 ──! そ、それってひょっとして!

 

 

 

(トラップ)発動、【コンフュージョン・チャフ】!」

 

「【コンフュージョン・チャフ】!?」

 

「ワニ同士、仲良く()()()()()な」

 

 

 

 予感が的中した。

 

 【コンフュージョン・チャフ】は、一度のバトルフェイズで相手が2回目の直接攻撃(ダイレクトアタック)を宣言した時、その攻撃モンスターを、1回目に直接攻撃(ダイレクトアタック)した別の相手モンスターと強制的に戦闘(バトル)させる、一風(いっぷう)変わった(トラップ)カードだ。ボクもデッキに入れていて、よく助けてもらってる。

 

 いくつもの金属片がバラ撒かれ、【ライオ・アリゲーター】を撹乱(かくらん)

 【ライオ・アリゲーター】は本来の標的だった狼城くんを見失い、代わりに味方の【スパウン・アリゲーター】を獲物に見定め、飛びかかった。

 

 これに【スパウン・アリゲーター】は対抗して【ライオ・アリゲーター】の胴体に噛みつき、(アゴ)(ちから)だけで持ち上げると、そのまま地面に叩きつけた。

 

 バトルは【スパウン・アリゲーター】の勝利。しかしその結果によって損害を(こうむ)るのは、当然【ライオ・アリゲーター】の持ち主である鰐塚ちゃん自身だ。

 

 

 

「くっ……()(そく)な手を……!」

 

 

 

 鰐塚 LP 4000 → 3700

 

 

 

「ですが甘くてよ! (トラップ)発動! 【激流(げきりゅう)()(せい)】! 今のバトルで破壊された【ライオ・アリゲーター】を墓地から特殊召喚し、貴方に500のダメージを与えますわ!」

 

 

 

 上手い! 鰐塚ちゃんも見事な切り返しだ。

 これなら呼び戻した【ライオ・アリゲーター】でもう一度攻撃すれば、今度こそ勝てる!

 

 ……と、思った次の瞬間──

 

 

 

「!?」

 

 

 

 どういうわけか、確かに発動した筈の【激流蘇生】が、元のセットされた状態に戻ってしまった。

 

 

 

「はい残念。手札からカウンター(トラップ)・【レッド・リブート】を発動したぜ」

 

「て……手札から(トラップ)ですって!?」

 

「こいつはライフを半分払えば手札からでも使える便利なカードなのさ」

 

 

 

 狼城 LP 1600 → 800

 

 

 

「【激流蘇生】の発動を無効にして、再セットさせてもらったぜ」

 

「この……!」

 

(屈辱的ですわ……ワタクシがここまで手の平で踊らされるだなんて……!)

 

「そう睨むなよ。そん代わしミサキ嬢は、デッキから(トラップ)を1枚セットできるぜ。さっ、好きなのを伏せな」

 

「ッ……ならワタクシは、──【激流葬(げきりゅうそう)】をセットしますわ!」

 

 

 

 【激流葬】──モンスターが召喚されると、たちどころにフィールドのモンスターを全滅させる恐るべき(トラップ)

 

 無論、狼城くんにもバレてはいるけど、逆にそれがモンスター召喚への牽制(けんせい)になり()る。少なくとも、上級モンスターは出しづらくなった筈。

 最悪【スパウン・アリゲーター】を【激流葬】に巻き込む結果になったとしても、即座に【激流蘇生】で復活できる。

 

 まだまだ鰐塚ちゃんの優勢は(くつがえ)ってはいない! ……と、思う。

 

 

 

「……ワタクシはこれでターンエンド」

 

 

 

 ターンを明け渡された狼城くんは、おもむろに左手で頭を掻き始めた。

 

 

 

「ふーん……【激流葬】ねぇ……。まっ──関係ねーけどな」

 

「っ……!!」

 

(なんですの……この悪寒は……!)

 

「オレのターン、ドロー。まずオレは手札から、装備魔法・【悪魔のくちづけ】を発動。【スパウン・アリゲーター】に装備する」

 

「!?」

 

 

 

 悪魔の美女が出現して、【スパウン・アリゲーター】の顔にキスを落とした。

 

 

 

【スパウン・アリゲーター】 攻撃力 2400 + 700 = 3100

 

 

 

『おーっと! これはトリックスター、またもや予想外の手を打ってきたぁーッ! わざわざ鰐塚選手のモンスターを強化してしまうとは!』

 

「……どういうつもりですの?」

 

「んでもってこいつを、──【魔法除去】!」

 

「はぁ!?」

 

 

 

 鰐塚ちゃんが()頓狂(とんきょう)な声を上げたのも無理はない。

 

 いきなり相手モンスターに装備カードを付けてパワーアップさせたかと思ったら、今度はそれを自分で破壊してきたのだから。

 

 一見(いっけん)無駄なプレイングばかりで狙いが読めない……何を企んでいる?

 

 

 

【スパウン・アリゲーター】 攻撃力 3100 → 2400

 

 

 

「フィールドから墓地へ送られた【悪魔のくちづけ】の効果。オレのライフを500払って、デッキの一番上に戻す」

 

 

 

 狼城 LP 800 → 300

 

 

 

「あ、貴方! 先ほどから一体何がしたいんですの!?」

 

「さらにカードを1枚伏せる。……これで、準備完了だ」

 

「!」

 

「行くぜ? 手札から魔法発動。【大逆転クイズ】!」

 

「っ! そ、そのカードは!?」

 

「発動時にコストとして、オレの手札とフィールドのカードを全て墓地へ送る」

 

 

 

 狼城くんの手に残った最後の1枚と、直前にセットした伏せカードが墓地へと消える。

 

 

 

「今からオレは、自分のデッキの一番上にあるカードの種類を当てる。当たったらオレとミサキ嬢のライフは入れ替わるって寸法だ」

 

「デッキの一番上……ま、まさか!」

 

「そうさ。オレの回答は、『魔法(マジック)カード』! そんで正解は……」

 

 

 

 狼城くんがデッキの一番上を(めく)る。

 

 

 

「──さっきオレがデッキの上に戻した、装備魔法(マジック)カード・【悪魔のくちづけ】だ!」

 

「そんな……!」

 

「つーわけでクイズはオレの正解(アタリ)だ。まっ、出来レースだけどな」

 

 

 

 狼城 LP 300 → 3700

 

 鰐塚 LP 3700 → 300

 

 

 

『なぁんて事だぁーッ!? 狼城選手の巧妙な戦術(タクティクス)によって、ライフポイントが入れ替えられてしまったではないかぁーッ!! 一転して鰐塚選手のライフが風前の灯火に!』

 

「ぐっ……で、ですが! それが何だと言いますの!? これで貴方の手札は(ゼロ)、フィールドにもカードは残ってなくてよ!」

 

(次のターンで手札の【クロコダイラス】を召喚して総攻撃すれば、ダメージはピッタリ3700! ワタクシの勝利ですわ!)

 

「もう貴方にできる事は何も──」

 

「んじゃオレ上がんね、おつかれ~」

 

「えっ!? ちょっと!」

 

 

 

 あろう事か狼城くんは決闘(デュエル)中にも関わらず、自分のデュエルディスクからデッキを抜いて、鰐塚ちゃんに背を向け、帰り始めた。

 

 

 

「ふざけるのも大概(たいがい)になさい! まだ試合は終わってなくてよ! それともサレンダーなさるおつもり!?」

 

「いーや、もう終わりだよ。オレの勝ちでな」

 

「な、なにをバカな……!」

 

「さっき【大逆転クイズ】で墓地に送った伏せカードな、ありゃ【黒い(ブラック)ペンダント】ってんだ」

 

「ブ……【黒い(ブラック)ペンダント】? それって……!」

 

「優等生のオマエなら、どんな効果か知ってんだろ? つまり──」

 

 

 

 【黒い(ブラック)ペンダント】って装備魔法だったよね? 効果は装備モンスターの攻撃力を500アップと、もう1つ……

 

 ──! フィールドから墓地へ送られた時、相手に500ポイントのダメージを与える……!

 

 

 

「──『ゲーム・オーバー』だ」

 

 

 

 鰐塚 LP 0

 

 

 

「ぁ……!」

 

 

 

 デュエルディスクからライフポイントが(ゼロ)になった事を(しら)せるアラームが鳴った。

 敗北を悟った鰐塚ちゃんはガクッと膝を折り、その場に座り込む。

 

 

 

「……まっ、悪く思うなよ」

 

 

 

 狼城くんが舞台を降りた頃、数秒だけ静まり返ったドーム内に……

 

 

 

『……あ、けっ、決着ゥゥーーーッ!! ウィナー・狼城 暁ッ!!』

 

 

 

 MCのマック伊東さんによる試合終了のコールがマイクを介して響き、やや遅れて観客が歓声で呼応した。

 

 

 

『あまりに一瞬の出来事で私とした事が、ろくに実況できていなかったぁーっ! 同格の鰐塚選手を、よもや魔法(マジック)カードのみで瞬殺とは! 恐るべしトリックスター・狼城 暁ッ!!』

 

「お……お嬢様ァーッ!?」

 

「おのれ狼城ォォッ! よくもお嬢様を!」

 

「とにかくお嬢様の元へ急がねば! 行くぞ京川!」

 

「おうよ広瀬!」

 

 

 

 バタバタと席を立って走り去っていく、風紀委員・副会長コンビを横目に見送りつつ、ボクは(くち)(ひら)いた。

 

 

 

「……【大逆転クイズ】にこんな使い方があったなんてね……」

 

 

 

 もしも自分があんな風に、わけの分からないまま、気づいたら負かされていたとしたら……考えただけで背筋が凍る。

 

 

 

「──ねぇセツナくん、あとで励ましに行ってあげたら?」

 

「え? ボクが?」

 

「うん。セツナくんに(なぐさ)めてもらえれば、ワニ嬢ちゃんも元気になるんじゃないかな」

 

(なんたって惚れた男だからね~)

 

「……いや、今は京川くんと広瀬くんに任せるよ、それに……」

 

「それに?」

 

「ほら、たぶんボクってさ……彼女に嫌われてると思うから」

 

 

 

 ボクがそう言うとマキちゃんは急に目を点にして……

 

 

 

「……ハァ"ァ~~~~~ッ(クソデカため息)」

 

「えぇっ!? なんでっ!?」

 

(なんで女慣れしてるくせにこういうとこは鈍感なのかな~……)

 

「これはかな~り時間かかりそうだよ~、ワニ嬢ちゃん」

 

「???」

 

 

 

 ……それにしても、さっきマック伊東さんも言ってたけど、同じ十傑の鰐塚ちゃんを一度もバトルしないどころか、1体のモンスターも出さずに(くだ)してしまうだなんて……

 

 狼城 暁くん、か……下手したらカナメ以上に、底の知れない決闘者(ひと)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『1回戦から白熱した決闘(デュエル)を見せつけてくれた、アリーナ・カップ!! きっと()()の2回戦も、熱い試合を()せてくれるだろう! それでは! 今日の興奮と感動を胸に! トゥービィー・コンティニュード!! シーユー!』

 

 

 

 ──こうしてアリーナ・カップ1日目の全行程が終了した。

 

 ゾロゾロと会場から退席していく観衆に混じって、ボク達3人も出入り口を目指す。

 

 その道中、ボクは呟く。

 

 

 

「結局、狼城くんがどんなデッキを使うのか、よく分かんなかったね」

 

 

 

 ()いて(わか)った事と言えば、魔法・(トラップ)の扱いに()けているって事ぐらい。

 

 

 

明日(あした)あの人と()るんでしょ、あたし~。手こずりそうでヤダなぁ~」

 

 

 

 珍しくぼやくマキちゃん。でも今の言い方は──

 

 

 

「手こずりそうでも負ける気はない?」

 

「もちのろんだよ!」

 

 

 

 そうこう話している内に、会場の外へ出た。

 

 まだ昼下がりを少し過ぎた時間帯。周囲は大勢の人々で賑わっている。大会の熱気に当てられたのか、そこかしこで決闘(デュエル)勃発(ぼっぱつ)して、軽くお祭り騒ぎとなっていた。

 

 

 

「私はもうこのまま帰るけど、二人はどうする?」

 

「そうだねー、ボクも特に予定とか無いし、帰るかな~。(色々あって)クタクタだし」

 

「ねぇねぇねぇ! 祝勝会しようよ祝勝会!」

 

「マキちゃん静かに──……祝勝会?」

 

「浮かれるのは早いわよマキちゃん。まだ1回戦突破しただけでしょ?」

 

「そうだけどさぁ~。念願のアリーナ・カップに出れて、しかも十傑に勝ったんだよ? もっとこう……勝利の喜びを分かち合いたいじゃん!」

 

「まぁ、めでたい事ではあるよね。ボクは構わないよ」

 

「ちょっとセツナまで……」

 

 

 

 渋るアマネにマキちゃんが引っ付いて、さらにせがむ。

 

 

 

「ね? 良いでしょアマネたん。こんな早い時間に帰ってもヒマなだけだしさ~。ね? ね?」

 

「っ……ハァ……分かったわよ」

 

「やったー!」

 

「なんだかんだ言ってもマキちゃんには甘いよね、アマネって」

 

「うるさいわね」

 

「それじゃあ決まりだけど、どこでやるの? どっかお店に入る?」

 

「う~~~ん、そうだね~……」

 

 

 

 しばし悩んだ(すえ)、何か閃いたらしく、マキちゃんの頭上で豆電球が光った。

 

 

 

「セツナくんの家に行こうよ!!」

 

「ええっ!? ボクん()!?」

 

()()から近いんでしょ? お菓子とかジュース持ち込んでさ!」

 

「セツナさえ良ければ、私は良いわよ」

 

「ん~……」

 

「あれれ~? もしかしてぇ~、見られたら困るものでも置いてあるのぉ~?」

 

「いやそんなの無いよ!?」

 

「大丈夫だよセツナくん。一人暮らしの男子の家に、エロ本があっても何もおかしくないよ」

 

「んななななっ!? そそ、そんなの置いてないしっ!!」

 

(……ねぇ、アマネたん見た? 今の反応~)

 

(えぇ、十中八九あるわね)

 

「てわけで今からセツナくんの自宅にレッツゴー!!」

 

「そうね、なんか私も楽しくなってきたわ」

 

「えぇーーーっ!?」

 

 

 

 こうして(なか)ば強引な感じで、ボクの家にて祝勝会を(ひら)く運びとなった。

 

 けどまぁ、これと言って断る理由も無いから、()っか。

 

 

 

 





 皆さんはどの辺で「あ、こいつ【大逆転クイズ】使う気だな」と気づきましたか?

 次回はデュエル無しの日常回になります!


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TURN - 42 HOME PARTY


 ※注意。

 今回、冒頭から、BL描写あります。

 そこまでガッツリではないかもですが、ボーイズラブ的な表現が苦手な方はごめんなさい!

 少しでも無理だと感じられた場合は、ブラウザバック推奨です!



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ……はぁ……ルイ、くん……」

 

「はぁ、はぁ……あん……セツナ……せんぱいっ……うぅ……ッ!」

 

 

 

 ボクの(した)で、(ほほ)を紅潮させたルイくんが悶える様に息を乱している。

 

 お互いの吐息がかかるほどに顔を近づけているから、ルイくんの()(すい)色の瞳が潤み、目尻に涙が溜まっているのもよく見える。

 

 彼女の……間違えた、彼のこんな表情を見るのは初めてだった。やっぱり、どんな顔をしててもルイくんは可愛いなぁ。

 

 ずっと見ていたい欲求に駆られたけど、これ以上ルイくんに負荷をかけるのはかわいそうなので何とか抑えた。

 

 なにせ今、ルイくんは両足を大きく(ひら)いた恥ずかしいポーズを取らされていて、ボクがその(また)(あいだ)に身体を割り込ませて覆い被さり、腰の辺りだけ密着しているという体勢だ。

 

 ボクの腰を前後に動かす(たび)に、ルイくんの浮いた足腰がビクッと震える。

 

 

 

「あうっ……!」

 

「っ……ごめんルイくん、痛かった?」

 

「はぁ……はぁ……だ、大丈夫、です……でも、んっ……! つらい……です……!」

 

 

 

 ルイくんの小さな(くち)からは、いつもよりワントーン高くて熱のこもった甘い声が断続的に漏れている。

 ただでさえ男にしては高めで中性的だった声質が、もう女の子のそれにしか聞こえない。ルイくんこんな色っぽい声も出せたんだね。

 

 女顔の可愛らしい後輩が、切なげな視線をこちらに向けながら(あえ)いでいるのを見てると、心なしかこっちまで熱が高まってきてゾクゾクしてしまう。めっちゃ良い(にお)いもするし。

 

 ── 正直ボクの方も……

 

 

 

(くっ……キツイ……!)

 

 

 

 もう、下半身が限界に近い。ガクガク言ってる。

 

 

 

「せん、ぱい……僕、もう……!」

 

 

 

 ヤバイ、ルイくんが先に果てそうだ。だから……だから……!

 

 

 

「── は、早く次、進めてよマキちゃん!」

 

「えへへ~、ごめんごめん。二人があんまりエロい雰囲気になってて見入っちゃってた~」

 

 

 

 ずーっと横でニヤニヤしながら眺めていたマキちゃんに、必死で催促する。

 

 彼女は円形の薄い板を手に持っていた。

 『スピナー』という名前のその板には、赤・青・黄色・緑の4色に分かれた丸印が4個ずつ、合計16個(えが)かれており、円の中心にプラスチック製の針が付いている。

 

 一方ボクとルイくんの下には、スピナーと同色の丸印が全部で24個並列(へいれつ)した、大きなマットが敷かれていた。

 ボクら二人はその上に乗り、それぞれ自分の両手両足を並んだ印の中から1ヶ所ずつ……すなわち一人4ヶ所の印の上に置いている、と言った状態。

 

 ── そう、ボク達は今、ツイスターゲームという遊びに(きょう)じている真っ最中なのだ。

 

 簡単にルールを説明すると、まず審判(しんぱん)役の人がスピナーの針を回し、針が指し示した手、または足と、色を読み上げる。

 例えば審判に「左手を青」と言われたら、プレイヤーは指示通りに左手を、6つある青色の印の内1つに乗せる。

 指示に従えなくなるか、(ひざ)(ひじ)、お尻など、手足以外の身体の部位をマットに付ける、もしくは倒れた方が負け。

 シンプルだけどバランス感覚と耐久力が物を言う、結構ハードなゲームだ。

 

 どういう(けい)()でこれで遊ぶ事になったかと言うと、話は数十分前まで(さかのぼ)る──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マンションのエレベーターに乗り込み、目的の階で降りる。

 

 慣れた足取りで自分が入居している部屋の前までたどり着き、ポケットから(カギ)を取り出して玄関のドアを解錠(かいじょう)し、開ける。

 

 いつもと何ら変わらない帰宅。ただ、今回この部屋に入るのは、ボク一人だけではない。

 

 

 

「さっ、上がって」

 

 

 

 ボクはそう言って振り返り、後ろで待っていた5人の友達を、我が家へ招き入れる。

 

 アマネ、マキちゃん、ルイくん、ケイくん、そしてコータ。

 

 これだけの人数を(うち)に上げるのは今日が初めてだった。アマネは以前、一度だけ来た事があったね。

 

 

 

総角(アゲマキ)お前……こんな良いとこ住んでんの!?」

 

 

 

 コータがリビングを見るなり率直な感想を告げた。

 

 マンションの(かど)()()で、バス・トイレ別の2LDK。

 高校生が一人で暮らすには、いささか広すぎて贅沢(ぜいたく)な物件だなと我ながら思う。

 

 

 

「おっ! こっちは寝室(しんしつ)だね? さぁ~て、エロ本は()()かなぁ~?」

 

「ちょ、マキちゃん!?」

 

 

 

 慌てて寝室へ駆けつけると、すでにマキちゃんは室内に侵入してベッドの下を覗き込んでいた。

 

 

 

「う~ん……何にも無い!」

 

「さすがにそんなベタなとこには隠さないよ……」

 

「こらマキちゃん、あんまり人様の部屋を(あさ)るんじゃないわよ」

 

「ちぇ~、つまんないの」

 

(……フフフ、甘いよマキちゃん。こんな事もあろうかと……絶対に見つからない場所に隠しといたからねッ!!)

 

 

 

 ……いや、うん、言わんとする事は分かるよ。ボクだって健全(?)な男子高校生なんです。

 

 ま、まぁそれは置いといて。

 実は今回ボクの家に5人もの友達が集まったのには、あるめでたい理由があるんだ。

 

 ── ボク達の(かよ)うデュエルアカデミア・ジャルダン校が主催する、ジャルダン(この街)最大の決闘(デュエル)祭典(さいてん)……その名も── 『選抜デュエル大会』。

 

 学園の生徒が(つちか)ってきた全てを試される、大がかりなテストでもあるこの大会の本選── 通称・『アリーナ・カップ』のトーナメント1回戦を、ボクとアマネとマキちゃんは無事に勝ち抜く事ができた。

 

 それを祝して、マキちゃんの提案でボクの家に集まり、祝勝会を開く流れになったんだ。

 

 せっかくだからと、ボクがルイくんとケイくん、それからコータも誘って、総勢6人でコンビニに立ち寄ってジュースとお菓子をたくさん買い込み、そのまま我が家へ直行── かと思いきや。

 

 途中でマキちゃんがド○キに寄り道して、このツイスターゲームを買ってきた為、自宅で広げて今に至る。というわけである。

 

 

 

「兄貴ィーッ! 気張れぇーっ!」

 

「じゃあ次、セツナくん。右足を黄色!」

 

「お、オーケー……!」

 

 

 

 ルイくんの左太ももを(また)いでいた右足を気合いで浮かせ、ボクの視点で左から2列目にある黄色の印へと足先を移動させる。

 

 よし、あともう少し……! ところが──

 

 

 

「いっ!?」

 

 

 

 一瞬、気が緩んだせいか、左足を滑らせてしまった!

 

 右足は中空にあった為、下半身の支えを完全に(うしな)ったボクの身体は、重力に押されてガクンと真下に倒れ込む。

 

 ── 当然ルイくんを下敷きにしてしまう形で。

 

 

 

「んむっ!?」

 

 

 

 くぐもったルイくんの声が耳に入る。

 と、同時にとっさの判断で、ボクはルイくんの後頭部に右手を回した。

 

 直後、下の階に響きそうな鈍い音を()てて、ボクとルイくんの身体がマットの上で(かさ)なった。

 その際ルイくんの頭を(かば)った右手が固い床に当たって、手の甲に衝撃と鈍痛が走る。痛いけどギリギリ間に合って良かった。

 

 

 

 …………ところで、あの、その、そんな事より、えーっと……

 

 先ほどからボクの(くちびる)に、フニフニと柔らかくて温かい『なにか』が押し付けられてる感触がしてるんだけど……

 

 え? これってまさか……ウソだよね? えっ、誰かウソだと言って?

 

 

 

「はーい! セツナくんの負── ……け?」

 

 

 

 近寄ってきたマキちゃんの声が固まった。

 

 そこでボクの両目は反射的に見開かれ、何が起こったのか判明する。

 今ボクの口を塞いでいるのは……

 

 ── ルイくんの口だ。

 

 ボクはルイくんを押し倒して、彼の唇に、自分の唇を深く重ねていた。

 

 (よう)するに、男同士で、ガッツリと『キス』してしまっていたんだ……ッ!!

 

 

 

「…………っ」

 

 

 

 ボクの人生における()()()の事態に(なか)茫然(ぼうぜん)としつつも、ゆっくりと唇を離して数秒間の口づけを終える。

 

 その途端ボクは、事の重大さをようやく察して(はじ)かれた様に身体を跳ね起こした。

 そしてボクとルイくんは──

 

 

 

「「 〇Χゑ☆◆♂#ω△■ッ!?!? 」」

 

 

 

 と、二人一緒に声にならない悲鳴をリビングに響かせた。

 

 

 

(えっ、な、ボク今、き、キス……ルイくんと……し、しちゃったの!? えええっ!?)

 

 

 

 ボクは口元を手で覆って、同性とキスしたショックからか大混乱に(おちい)る。

 普段決闘(デュエル)ですらこんなにパニクる事そうそう無いのに……てか顔が熱い!

 

 すると、間近でボク達のキスの現場を目撃したマキちゃんが、ワナワナと身を震わせて……

 

 

 

「……セ……セ、セッ……! セツ × ルイ! キターーーーーッ!! リアルBL展開キタァァァァァッ!!」

 

 

 

 何故か大興奮し始めた。

 そんなマキちゃんの横で、アマネ、コータ、ケイくんの3人は冷ややかな目でこちらを見ていた。

 

 

 

「セツナ……いくらなんでもそれはナイわよ」

 

「マ、マジでやりやがった……!」

 

「あ、兄貴……なんつーか、大丈夫か?」

 

 

 

 最後のケイくんの言葉で我に帰り、慌ててルイくんの安否を確かめる。

 

 

 

「る、ルイくん! ごめん大丈夫!?」

 

 

 

 どう考えても大丈夫なわけないのに、そんなこと聞いちゃうくらいボクもテンパってるみたいだ。

 

 ルイくんは足を開いた格好のまま顔が真っ赤になっていて、涙をポロポロと流して半泣きしながら恨めしげにボクを見つめ、震えた声で言った。

 

 

 

「は……はじめてだったのに……!」

 

 

 

 うわああああああやってもうたあああああっ!!!!!?

 

 

 

「キャーッ!! セツナくんがルイちゃんを襲ってるぅーッ!!」

 

MA☆TTE(まって)!! これは事故だっ!!」

 

「おう、(あに)さん……やってくれやがったな」

 

「ハッ!?」

 

 

 

 ケイくんが立ち上がり、ボクを怒りの形相で見下ろしながら、拳をバキボキと鳴らした。

 

 

 

(しまった、ルイくんのセ○ムが発動した……!)

 

「例えセツナの兄さんでも、俺の兄貴を(けが)す事は許さねぇ……!」

 

「はわわわわ……!」

 

「だ、ダメだよケイちゃん! セツナ先輩だって、わざとじゃないんだから!」

 

「け、けどよぉ兄貴! 良いのかよ!? 初めてだったんだろ!?」

 

「そ、それは、そうだけど……」

 

 

 

 カァァッと再び赤面して伏し目になるルイくん。

 

 このまま後輩に庇われていては先輩として……いや、男として立つ瀬が無い!

 

 

 

「本ッッッ当にごめんっ!!」

 

「先輩!?」

 

 

 

 ボクはフローリングに頭を強く打ち付け、ルイくんに土下座した。取り返しのつかない事をしでかしたんだから当然だ。

 

 

 

「お~、修羅場ってるねぇ~」

 

「マキちゃん、あんまり茶化さないの」

 

「せ、先輩、頭を上げてください。何もそこまでしなくても……」

 

「いや、ルイくんを傷物にしてしまったんだ。責任を取らせてほしい。ボクにできる事なら何でもする!」

 

「ん? 今『何でもする』って言ったよね?」

 

「マーキーちゃん」

 

「んもぅ~っ、分かったよぉアマネた~ん」

 

「……分かりました、じゃあ……まずは頭を上げてください」

 

「………」

 

 

 

 ルイくんに言われた通り、頭だけを上げる。

 目の前に立つルイくんは涙目のまま眉を(ひそ)め、ほっぺをプクッと膨らませていた。

 

 お、怒った顔さえ可愛い……だと……!

 

 ルイくんはしゃがんで、ボクの左右の頬を、その小さな両手で包み込む様に優しく挟んだ。

 

 

 

「むにゅ?」

 

「もう、こういう事をしたら『めっ』、ですよ?」

 

「────!?」

 

 

 

 ポカーン……

 

 

 

「僕は怒ってないですから、これで仲直りです。……どうしました?」

 

「ぐっ……! ん"、ん"ん"っ……!!」

 

(かっ、可愛すぎて……心臓が破裂しそう……!)

 

 

 

 (たま)らずダンゴムシみたいに(うずくま)り、ビクンビクンと痙攣(けいれん)しながら身悶える。

 

 『めっ』は……『めっ』は反則だよルイくんんんんっ……!

 

 

 

「る、ルイちゃん、マジ天使……! ガクッ」

 

「あ、観月も死んだ」

 

「いっ、今のはスゴい破壊力だったわね……私も危うく死にかけたわ……」

 

「さ、さすがは兄貴だぜ……! 俺まで怒る気が失せちまった……」

 

 

 

 ルイくんのおかげで、どうにか事態は収束してくれたみたいだね……助かったぁ~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 続いてマキちゃんが、アマネとツイスターゲームをやろうと言い出したけど即答で却下されたので、ボク達はジュースで乾杯してからお菓子を広げて談笑していた。

 

 

 

「……あ、ねぇ見て見てルイくん! このカード、ルイくんのデッキに使えそうじゃない?」

 

 

 

 ボクは『デュエル・チップス』というポテチの袋に付録されていたカードをルイくんに手渡す。

 

 

 

「【ポテト(アンド)チップス】? わぁ、可愛いモンスターですね」

 

 

 

 ルイくんも可愛いよと言いたいところだけど、本人はそう言われるといつも複雑な(おも)()ちになるのを知っているので、心の中で(とど)めた。

 

 

 

「レベル2だからルイくんなら使いこなせるんじゃないかな。あげるよ」

 

「え? (もら)って良いんですか?」

 

「もちろん。さっきの詫びも兼ねてね」

 

「もう気にしなくて良いですのに……でも、ありがとうございます!」

 

 

 

 ルイくんは嬉しそうにカードを両手で受け取った。気に入ってもらえた様で何より。

 

 

 

「なぁアゲマキ! 決闘(デュエル)しようぜ!」

 

「おっ、良いね。やろっかコータ!」

 

「へへっ、そう来なくちゃな。やっぱあんな大会ずっと観てたら()りたくてウズウズしちまうぜ!」

 

 

 

 決闘(デュエル)と言ってもディスクを使って立体映像(ソリッドビジョン)を出すには、家の中は狭いし危ないので、カーペットにデッキを置いてのプレイだ。

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

「……結局デュエってるし~。ホントに好きだね~、セツナくんも」

 

「仮にも明日(あした)の対戦相手が横にいるってのに緊張感ない奴ね。それを言ったら私もだけど」

 

「あ、そっか。でもアマネたん、半年以上もセツナくんの決闘(デュエル)見てたんでしょ? もう手の内とか知り尽くしてるんじゃない?」

 

「……それがそうでもないのよ」

 

「え?」

 

「セツナのデッキには、あいつが『エース』と呼んでるカードが5枚ある。()わば切り札ね」

 

「あ、それあたしも知ってる~。【ラビードラゴン】でしょ、【トライホーン】でしょ、【ダークブレイズ】でしょ? それから、えーっとぉ~……」

 

「【ホーリー・ナイト・ドラゴン】よ。前に私と()った時に1回だけ使ってきたわ」

 

「そうなの? それは知らなかったなぁ~。んで、あと1枚は?」

 

「分からない。最後の1枚だけは、まだ私も見た事がないの」

 

「あー……なるほどぉ」

 

「……まぁでも、何が来ようが私は必ず勝つわ。── ()()()にだけは……絶対に負けない」

 

「……ふ~ん? じゃあ、あたしは明後日(あさって)の準決勝でリベンジできるのを楽しみにしとくよ~」

 

「えぇ、望むところよ」

 

 

 

 ……アマネとマキちゃんが楽しげに会話してる ── 内容は決闘(こっち)に夢中だったから聞き取れなかったけど ── (そば)で、ボクとコータの決闘(デュエル)も白熱していた。

 

 

 

「── よーし! ボクはこのターン、モンスター2体をリリースして……【ラビードラゴン】を召喚!」

 

「なにっ!?」

 

「攻撃!」

 

「……くそっ! 俺の【ボルテック・ドラゴン】がやられてライフ(ゼロ)だ!」

 

「やったーッ! コータに圧勝~ッ!」

 

「くう~っ! なんで俺はこう……カードの引きが悪いんだぁ~!?」

 

「引きじゃないでしょコータく~ん。腕の差だよ~」

 

「どういう意味だ観月ィーッ! くっそぉ~っ、もう1回だアゲマキ!」

 

「うん、良いよ! そうだ、せっかくだしケイくんとルイくんも混ざらない? バトルロイヤルやろうよ!」

 

「ぼ、僕達も!?」

 

「良いッスね、面白そうだ!」

 

 

 

 ── とまぁこんな感じでワイワイしながら楽しい時間を過ごしていたら、あっという間に時刻は夕方に差し掛かろうとしていた。

 

 もう日が落ちるのも早くなってきた季節なので、(えん)もたけなわ、暗くなる前に帰ろうという事で、祝勝会はお開きとなった。

 

 

 

「お邪魔しやした(あに)さん!」

 

「おじゃましました!」

 

「じゃあ、また明日ね、セツナ」

 

「うん、また明日。コータ、しっかりと女の子を送ってあげてね」

 

「お、おっおう! まま任しとけ!」

 

(うおっしゃああああっ!! アマネさんと一緒に帰れるううううっ!! どうせなら二人っきりが良かったけど!)

 

 

 

 玄関先で手を振り、みんなを見送る。

 

 

 

「バイバ~イ」

 

「アマネたん、まったねぇ~♪」

 

「…………ん?」

 

 

 

 何か違和感を覚え、横を見ると、マキちゃんが当たり前の様にボクと共にみんなへ手を振っていた。

 

 

 

「あれ? マキちゃん? なんでいるの?」

 

「んじゃ、シャワー借りるね~」

 

「ちょ、ええっ!? まさか泊まってくつもり!?」

 

「当ったり前でしょ~? せっかく学園の近くなんだも~ん」

 

「いや……ていうか着替えは!?」

 

「下着の替えは持ってきてるよ~ん」

 

「肌着は?」

 

「セツナくんの借りるからへーきへーき♪」

 

「サイズ合わないでしょ!?」

 

 

 

 言ってる()にマキちゃんは、脱衣場に入り込んでいった。

 

 

 

「行っちゃった……」

 

「セツナ」

 

「あえっ!? や、やぁアマネ、どうしたの? なんか忘れ物?」

 

「私の親友に手を出したら、タダじゃおかないからね」

 

「なんでそうなるのさ!?」

 

 

 

 釘を刺しに来たアマネが帰っていった後、ボクは取り急ぎタンスから引っ張り出してきたTシャツと短パンを持って脱衣場へ向かった。

 

 浴室の中からはシャワーの音とマキちゃんの鼻歌が聴こえる。

 彼女の脱いだ制服と下着に目が行ったのはナイショね……

 

 

 

「マキちゃーん。着替え置いとくね」

 

「はーいありがとう~♪ ねぇねぇ~、今あたし全裸だよ~! 今がチャンスだよ~?」

 

「な゛っ、何がチャンスなのか知らないけど遠慮しておくよ~!」

 

(この扉の奥に裸のマキちゃんが……)

 

「…………」

 

「お? 今、想像したね~?」

 

「!! さ、さぁ何の事やら、あははは(汗)」

 

 

 

 ごめん正直めちゃくちゃ想像した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後……リビングのソファーに腰かけて、テレビを観ていると、ボクの服を着たマキちゃんがバスタオルでピンク色の髪を拭きながら入ってきた。

 

 

 

「ふう~、サッパリした~」

 

「……やっぱり大きいね」

 

「え? 何が? おっぱい? や~ん、セツナくんたらやらしい~」

 

「違うよ服だって! ブカブカじゃん!」

 

 

 

 案の定、男物のLサイズは女の子には大き過ぎた。

 

 ただ、シャツの胸元はマキちゃんの豊満な胸で盛り上がっていて、プリントされているパンダさんのイラストが横に伸ばされていた。……あれ? なんかアマネが初めて(うち)に来た時とデジャヴるな。

 

 

 

「てっきり裸ワイシャツをご所望かと思ってたけど、ふ~ん? セツナくんはこっち派だったか~?」

 

「ワイシャツじゃ袖が長くて邪魔になるかと思っただけだよ」

 

(それに裸ワイシャツなんて刺激的な格好で居られたら、ボクが困るし……いろいろと)

 

 

 

 そう思ってTシャツを着てもらったんだけど、これはこれで……

 

 

 

「これがセツナくんの匂い……くんかくんか」

 

「か、嗅がないでよ!? 恥ずかしいよ!」

 

「ムフフ、現役JKの匂いをたっぷり付けといてあげるから感謝してよね~?」

 

()(づら)の犯罪臭がスゴい……」

 

「髪(かわ)かして~」

 

「はいはい」

 

 

 

 ドライヤーの温風をマキちゃんの濡れた髪に当てる。

 

 

 

(……こうしてると、甘えん坊な妹ができたみたいだね)

 

 

 

 そう考えると何だか愛らしく思えてきて、ボクはクスッと微笑んだ。

 

 

 

「熱くない?」

 

「ん~、大丈夫~」

 

 

 

 マキちゃんは髪が短めだから、綺麗なうなじをずっと見てられる。

 

 

 

(無防備だなぁ……)

 

 

 

 ボクがもう少し堪え性の無い男だったら、何をしてたか分からないよ?

 いや、もちろんアマネに殺されたくはないから何もしないけどさ。

 

 

 

「はい乾いたよ」

 

「ありがとね~ん」

 

 

 

 その()二人で夕食を済ませてからボクもシャワーを浴びた。

 マキちゃんが「お背中お流ししましょうか~?」と言って、また入ろうとしてくるのを丁重にお断りしながら身体を洗い終え、バスタオルで拭いて部屋着を着て、髪をドライヤーで乾かした。

 

 リビングに戻るとマキちゃんはソファーに体育座りして、携帯端末を(いじ)っていた。

 

 ……と、ここでボクはある事に気づく。

 

 

 

「……ん? んんんっ!?」

 

「どしたのセツナくん?」

 

「な、なんで下脱いでるのマキちゃん!?」

 

 

 

 マキちゃんは履いてた筈の短パンを脱いでいた。

 ダボダボなTシャツの(すそ)から伸びている、素肌を惜し気もなく()き出しにした生足の、しなやかな太ももが眩しい。

 これ正面に回ったら絶対パンツ見えちゃうよね……!

 

 

 

「あ、ごめ~ん。やっぱずり落ちちゃうから脱いじゃった。そこに畳んで置いてあるから」

 

「脱いじゃったって……女の子が一人暮らしの男の家で、そんなに肌(さら)してたら危ないよ?」

 

「なになに? もしかしてあたし襲われちゃう? きゃ~っ!」

 

「襲わないよ!?」

 

 

 

 冷蔵庫を開けて、祝勝会で飲み切れずに余ったペットボトルを取り出し、開栓して飲む。

 あ~、お風呂上がりのジュースは美味し──

 

 

 

「フフフ、あたしは別に大歓迎だよ~? セツナくんが()()()って言うなら」

 

「ンゴフッ!?」

 

 

 

 マキちゃんの爆弾発言を食らって、飲んだものを盛大に吹き出した。

 

 

 

「ゲホッ! な、なに言い出すのさ!?」

 

「あははは! セツナくん面白ーい!」

 

 

 

 か、完全にからかわれてる……!

 

 

 

「で、シたいの? セツナくんは」

 

「し、しないよ」

 

「え~? こんなチャンス滅多にないよぉ? (のが)しちゃっていいの~?」

 

 

 

 イタズラっぽく笑いながら誘惑してくるマキちゃん。久々に小悪魔全開だ。

 

 

 

「そ・れ・と・も~……」

 

 

 

 理性をフル稼働させて必死に自制心を保とうとするボクに、マキちゃんはソファーから立ち上がってダメ押しを仕掛けてきた。

 

 

 

「マ、マキちゃん!?」

 

 

 

 ボクの右腕に自分の両腕を絡ませて抱きつき、胸を押し当ててきた。

 

 

 

「あたしの身体って……魅力ない?」

 

「ッ……!」

 

 

 

 魅力がないなんてとんでもない!

 

 腕から伝わる柔らかい感触。さらに体格より一回(ひとまわ)り大きいサイズのシャツを着ている為、下着をつけていない胸の谷間が露出していて、視覚からもボクの理性を崩しにかかる。

 オマケに上目遣いで桃色の瞳を潤ませて誘ってくるというトリプルコンボをお見舞いされては、男なら誰もが魅了されること間違いなしだ。

 

 

 

「や……でも……アマネに手を出すなって言われたし……」

 

「いいじゃん♪ そんなの黙ってればバレないよ~」

 

「そ、そんな……!」

 

 

 

 本気なのか!? ボ、ボクは一体どうすれば……!

 

 脳内で悪魔が(ささや)く。本人が良いって言ってるんだから、この際イケるとこまでイってしまえよ、と。

 ()(ぜん)食わぬは男の恥だぞ、と。

 

 途端に身体の芯に熱が集中するのを感じた。

 思わず喉を鳴らす。ボクが沸き起こる情欲に負けそうになりかけた、その瞬間──

 

 

 

「……ぷっ、あははははっ! ごめんごめん、冗談だよ~!」

 

「……え?」

 

「いや~、あんまりセツナくんの反応が面白いからさぁ、ついからかいたくなっちゃった」

 

「っ……はぁ~~~~っ」

 

 

 

 一気に緊張が緩んだボクは、ソファーの背もたれにグッタリと()()して長いため息をついた。テレビでよく観るタチの悪いドッキリを受けた気分だ……

 

 ホッとした、けど……ちょっと残念な気もしてしまうのは、男の(さが)ってヤツだろうか。

 

 

 

「今は大事な選抜試験中だもん。あたしだってそれくらい(わきま)えてるよ」

 

(それにワニ嬢ちゃんにも悪いしね~)

 

「良かった……それを聞いて心底安心したよ……」

 

「プププ、期待しちゃった?」

 

「……あれだけ誘っておいてその言い草はないよマキちゃん……」

 

「ごーめんって~! 顔真っ赤っかで可愛かったよぉ~?」

 

「むう~~~っ」

 

 

 

 むくれるボクの頬を、マキちゃんはカラカラと笑いながら指でプニプニつついた。あぁ、なんかルイくんの気持ちが少し分かったかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくマキちゃんと一緒にテレビを観たり、雑談や、今日の大会の感想と明日への意気込みとかを語り合ったり、ルイくんとキスした事故をネタに『薄いブックスが厚くなる~♡』とか()()されたりしている内に、気づけば()()けてきた。

 

 ふと時計に目をやる。もうこんな時間か。ボクは小さくあくびをした。

 

 

 

「ふあ……そろそろ寝るかな~」

 

「あたしも寝る~」

 

 

 

 との事なので二人で寝室に入り、クローゼットから敷き布団を取り出して床に敷く。

 

 

 

「マキちゃんはベッド使っていいよ」

 

「わぁ~い! ふかふか~!」

 

 

 

 嬉しそうにベッドの上で寝転ぶマキちゃん。

 

 室内を消灯してボクも敷き布団で(とこ)に就く。

 

 

 

「おやすみ、マキちゃん」

 

「……ねぇ、一緒に寝ないの?」

 

 

 

 ……またヤバイこと言い出したよ、この子は。

 

 

 

「と、隣で寝てるじゃん」

 

「分かってるくせに~。同じベッドでって事だよ~」

 

「……こ、この期に及んで、まだ誘惑するの?」

 

「え? 普通に添い寝するだけだよ?」

 

「あ……」

 

「一体ナニをされると思ったのかな~? セツナくんのエッチぃ~♡」

 

「うぅ……マキちゃんのイジワル……」

 

「冗談だってば~。ね、何もしないからさ、一緒に寝ようよ?」

 

「…………」

 

 

 

 い、良いんだろうか? 付き合ってるわけでもない女の子と同衾(どうきん)なんてしちゃって……

 

 

 

「来ないならあたしがそっちに夜這いしちゃうよ~?」

 

 

 

 ……どうやら拒否権は無いらしい。

 

 

 

(── ち……近すぎる……!)

 

 

 

 シングルのベッドに男女が(とも)()したら、当たり前だけど狭い!

 

 さっきリビングでくっつかれた時以上に、互いの身体が密接に寄り添い合っている。

 これなんてラブコメ? こんなの、ドキドキして寝れる気がしない……!

 

 

 

(……あ……でも……もう眠い……)

 

 

 

 意に反して早くもウトウトしてきた。

 よっぽど疲れてたみたいだね……これならすぐに眠れそうだ。

 

 今日は本当に長くて濃い1日だったな……

 

 そのまま睡魔に身を(ゆだ)ね、ボクは重いまぶたを静かに閉じた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……セツナく~ん……寝た?」

 

「スゥ……スゥ……」

 

「…………」

 

(おやすみのチュウ♡)

 

「ん……」

 

(フフ、かわいい寝顔♪)

 

 

 

 





 デュエル無しと予告しておきながら、ちゃっかりデュエってた……

 はい。と言うわけで、とうとう作者やらかしてしまいました。ルイくんごめんよおおおお;;

 本作を書き始めた当初は、遊戯王だしあんまりBLとか、性的な表現は避けた方が良いのかもと考えてたんですが、結局ガマンできませんでした……orz


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TURN - 43 SAMURAI vs Emperor - 1


 ※また注意。

 冒頭が若干エロくなってしまいました。あとまたBL的な表現が入ってしまいました。デュエルは終盤から始まります。

 これがキャラが勝手に動くという現象か……(?)



 

 むにゅん。むにむに。

 

 

 

(…………あれ……なんだろう……この柔らかいの……)

 

 

 

 微睡(まどろ)みに漂うおぼろげな意識で、ボクは自分の右手が何かを()んだ触感を知覚した。

 

 柔らかくて、それでいて張りと弾力があって……少し力を込めてみると、()()が沈み込むのが分かる。

 

 触り心地の良さに、夢中でそれを揉みしだいた。

 

 どれくらいそうしていただろう……

 

 

 

(あれ……ここだけ飛び出して……ちょっと固い……)

 

 

 

 ふと、手の平に小さな突起物が当たる感触がした。

 

 本当にこれは何なんだろう?

 そろそろ正体を確かめようと、閉じていたまぶたをゆっくり開く。

 

 最初はボヤけていた視界が徐々にクリアになり、とうとう手の先にある何かを鮮明に認識した。

 

 

 

(…………え?)

 

 

 

 そこに()ったのは、ピンク色のミディアムショートヘアの美少女── ()(づき) マキノこと、マキちゃんの、可愛らしい寝顔だった。

 

 ボクと同じ布団を被って(すこ)やかな寝息を立てている。

 

 

 

(……あー、そっか。泊まりに来てたんだ)

 

 

 

 思い出した。昨夜、この家で選抜デュエル大会の祝勝会を開いた後、急に泊まるって言い出したんだっけ。

 そうだそうだ。それで()()曲折(きょくせつ)あって、一緒に寝る事になったんだ。

 

 

 

(── って、そうじゃなくて!!)

 

 

 

 ここでボクの頭は冷や水を顔に浴びた時みたいにパチッと覚醒する。

 

 つまりさっきからずーーーっとボクが触り続けていたのは……!

 

 

 

(む、胸……!!)

 

 

 

 布団に覆われて見えないけど、手の位置と感触からして、間違いなくボクはマキちゃんの胸を鷲掴(わしづか)んでいる。現在進行形で。

 

 しかも……シャツを着ていた筈なのに、それを触ってる触覚は無い。

 

 人肌の体温が、(じか)に手の平いっぱいに広がっているというか──

 

 

 

(ま、まさか!?)

 

 

 

 イヤな予感がしてガバッと飛び起きた拍子に、布団が捲り上がる。

 

 その下から(あらわ)になったマキちゃんの上半身は── 服を着ていなかった。

 

 (きぬ)の様に(なめ)らかで瑞々(みずみず)しい肌が。

 鎖骨の下から上向きに、大きな曲線を(えが)く丸い双丘(そうきゅう)が。

 その頂点に低く突き出た、小さな桜色の(つぼみ)までもが。

 

 余すところなく、(さら)け出されていた。

 

 

 

(お……おっぱ……!)

 

「にゅわぁぁぁぁあ~~~~~っ!?」

 

 

 

 ()くして、なんとも情けない悲鳴を上げながら、ボクはベッドから転げ落ちたのであった。

 

 

 

「……ん……寒~い……」

 

 

 

 急に布団を剥がされたマキちゃんは、モゾモゾと身体を丸めて身震いした後、()(だる)そうに起き上がった。

 

 

 

「あ、セツナくんおはよ~。……何してんの?」

 

「お、おはよう……じゃなくて! なんで服着てな── って、パンツまで穿いてないし!?」

 

 

 

 そうなのだ。マキちゃんはどこからどう見ても生まれたままの姿……すなわち、全裸だった。

 

 

 

「だってあたし寝る時は裸だも~ん」

 

「ていうか隠して! その……ぜ、全部、見えてるから!」

 

 

 

 両手を前に出して目を()らすも、悲しきかな男の本能には(あらが)えず……視線はマキちゃんの(いっ)()まとわぬスレンダーな()(たい)にチラチラと向いてしまう。

 

 彼女は髪が長くないので、マンガみたいに大事なところが前髪で上手いこと隠れたりしない。

 

 その為、今みたいにベッドから降りて、目の前で仁王立ちして──

 

 

 

「んん~~~っ」

 

 

 

 と、バンザイしながら大きく伸びをされようものなら、マキちゃんの裸体が全て見えてしまう。

 

 ぽよんと揺れる()(ふさ)も。

 つるつるの(ワキ)も。

 キュッとくびれのある腰も。

 おへそと、その下……()(ふく)()の中心も──

 

 

 

(っ~~~!!)

 

 

 

 ()()まで視線が下降したところで、さすがに今度こそ顔を(そむ)けた。

 

 

 

(あ、朝から刺激が強すぎる……!)

 

「は、早く服着て!」

 

「は~い♪」

 

「お、お尻をこっちに向けないで!」

 

 

 

 小さいお尻を突き出して、見せつける様にフリフリと振ってきたので、急いで寝室から脱出する。

 

 わざとか!? わざとやってるのか!?

 

 おかげさまで眠気なんてオゾンより上まで吹っ飛んだ。

 洗面所に逃げ込んだボクは、蛇口(じゃぐち)の水を流したまま口元を右手で覆って固まっていた。

 

 

 

(……うっわぁ~~~っ……! 女の子の(なま)の裸……ガッツリ見ちゃったよ……)

 

 

 

 網膜(もうまく)を通り越して脳裏にまで焼きついてしまった。

 どうしよう……今日の試合中にマキちゃんの裸がチラついて、プレイングが乱れて負けるとかなったらアホの極みだ。しかも対戦相手はアマネだし。

 

 ……ふと、右手をジッと見つめてワキワキさせる。

 

 寝ぼけていたとは言え、この手でマキちゃんの胸を揉み続けていたのか……

 

 も、もしかすると、一晩中……

 

 

 

(っ……ダメだダメだ! 切り替えなきゃ!)

 

 

 

 何度も顔に水をかけて煩悩を洗い流す。

 

 

 

「……よし! もう大丈夫──」

 

「セツナく~ん、このエッチな表紙の本は何かな~?」

 

「ギャーーーーッ!! なんでッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日はアリーナ・カップ2日目。

 

 開会は午後なのでボクとマキちゃんは、午前中はボクの家でゆったりと過ごし、昼前に登校した。

 

 教室に入ると、クラスメート達が挨拶とエールを送ってくれた。今日も張り切っていこう。

 

 

 

「うぃーっす、アゲマキに観月」

 

「おはようコータ」

 

「おはよ~」

 

「よぉよぉアゲマキィ~……」

 

「?」

 

 

 

 コータが何やらニヤニヤしながら、ボクと肩を組んできた。

 

 

 

「夕べはどうだったんだよ~?」

 

「どうって……何が?」

 

「とぼけんなよ、観月が泊まってったんだろ? 何かなかったのかよ?」

 

「……別に何もなかったよ」

 

「な、なにぃ~~~っ!? 女子と一つ屋根の下で一晩過ごしといて、何のイベントも無かったってのか!?」

 

 

 

 本当はエロゲ……もとい、ギャルゲーみたいなイベントが盛りだくさんだったよ……

 

 

 

「ま、まさかお前……実は()()()系か? そういやルイとキスしてたし……」

 

「違うから!? 恥ずかしいこと思い出させないでよ!」

 

 

 

 ルイくんとキスは確かにしちゃったけど、アレは事故だからね!?

 

 

 

「セツナ、おはよう」

 

「あ、おはよう、アマネ」

 

「……」

 

「ん?」

 

 

 

 アマネはジッとこっちを見てきたかと思うと、突然ボクの首元に顔を近づけてきた。

 

 

 

「ア、アマネッ!?」

 

「……マキちゃんの匂いがする。あんた何かした?」

 

「ええっ!?」

 

 

 

 い、言えない……! 一緒に寝た上に胸を揉みまくって全裸まで見て、ついでに性癖(せいへき)も把握されたなんて……!

 

 

 

「ウフフ、熱い夜だったよ~、アマネたん」

 

「マキちゃゃゃゃゃんッ!?」

 

「あんなに激しかったの……あたし初めて……♡」

 

 

 

 頬を赤らめてうっとりした様な笑顔を見せるマキちゃん。こ、この小悪魔ちゃんはホントにもう~~~っ!

 

 

 

「……ふ~~~ん?」

 

「ご、誤解だよアマネ! これには深い()()が……!」

 

「へぇ、どんな理由があるっての? 詳しく聞かせてもらっていいかしら?」

 

 

 

 ヤバイ、アマネの紅い眼が笑ってない!

 

 

 

「言ったわよね? マキちゃんに手を出したら許さないって」

 

「いや! 手は出し──! ……た、かも知れないけど……」

 

「ちょっとこっち来なさい!!」

 

 

 

 ボクのネクタイをアマネに掴まれ、力強く引っ張られる。

 

 

 

「うわ、ちょ、待って……!」

 

 

 

 よろけながら連行されるボクを見て、クラスメート達はざわついた。

 

 

 

「なに? ()()ゲンカ?」

 

「お、ついに修羅場か? 生きて帰ってこいよ~」

 

(アゲマキの奴……いいなぁ~! 俺もアマネさんに引っ張られてぇ~!)

 

 

 

 うぅ、みんなの視線が痛い……こういう目立ち方が一番苦手なんだよね。

 

 そのまま教室を出ると、廊下の(すみ)まで連れてかれた。

 マキちゃんも憎たらしいほどニコニコしながら同行してきている。

 

 

 

「……さて、弁明があるなら言ってみなさい」

 

「あー、なんと言うか……いや、手を出したと言っても……いっ、一線は越えてないんだよ。本当だよ?」

 

 

 

 怖い顔しているアマネの後ろで、マキちゃんが笑いを(こら)えてるのが目に入った。女の子じゃなかったら文句の一つでも言ってやりたいところだ。

 と言うか何が悲しくて、こんな浮気性のダメ男みたいな弁解をしなきゃならないのか……

 

 

 

「……本当に?」

 

「う、うん、本当の本当に!」

 

「……そう、なら良いわ」

 

「ありゃ? 案外あっさり許すねアマネたん」

 

「どうせまたアンタが変なイタズラしたんでしょ?」

 

「アハッ☆ バレた?」

 

 

 

 ペロッと舌を出してウィンクし、あざといポーズを取るマキちゃん。アマネは呆れたと言った感じで、ため息をついた。

 

 

 

「セツナ、()()にも言ったと思うけど……あんまりマキちゃんを調子に乗らせると、いつか大変な事になるわよ」

 

「そ、そうだったね。心するよ」

 

「じゃ、そろそろ行くわよ二人とも」

 

「どこに?」

 

「決まってるでしょ、控え室」

 

 

 

 あ、そっか。試合に出場する選手は開会の前に集合しとかないといけないんだっけ。

 

 アマネについていこうとした時、マキちゃんが呟いた。

 

 

 

「信頼されてるね~、セツナくん」

 

「えっ? そうなの?」

 

 

 

 マキちゃんは人差し指をクイクイ曲げながら、ボクの顔を見上げてきた。

 

 耳を貸せって事か。

 ボクが頭を差し出すと、マキちゃんは耳元で、こう(ささや)いてきた。

 

 

 

(シたくなったら、いつでも言ってね♡)

 

「ッ!!!?」

 

 

 

 ボフンと顔を赤くし、(くち)をパクパクさせるボクを置いて、マキちゃんは鼻歌交じりに小走りでアマネの元へ駆け寄った。

 

 

 

(んなななっ……! またなんてこと言い出すの、あの子はぁ~~~っ!?)

 

「セツナ、何してるの? 置いてくわよ」

 

「あ、う、うん……今、行くよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 控え室には、すでにボクら3人以外の出場者が全員揃っていた。

 

 豹堂(ひょうどう)くん、ヨウカちゃん、狼城(ろうじょう)くんに、九頭竜(くずりゅう)くん。

 

 そして……カナメ。5人とも3年生で、十傑(じっけつ)だ。

 

 

 

「おっ、やっと来おったな? ルーキーズ」

 

 

 

 最初に声をかけてきたのは、糸目でダークブラウンのショートヘアの青年── 豹堂 武蔵(ムサシ)くんだ。

 

 

 

後輩(2年)先輩(3年)より後に来るんは感心せんで~?」

 

「ごめんごめん。つい話し込んじゃってさ」

 

「ウハハ。なんや、試合前にイチャついとったんか?」

 

 

 

 冗談めかす豹堂くんに、ボクは苦笑いしか返せなかった。

 

 

 

「狼城センパーイ。今日はよろしくです~」

 

「ん? おぉ~……── って、んんっ!? 今日の相手お嬢ちゃんか!? てこたぁキヨマサのヤツ負けたのかっ!?」

 

 

 

 気づいてなかったの!? まぁ狼城くん寝起きだったからね、あの時。

 

 

 

「カナメ、おはよう。いや、こんにちはかな?」

 

「あぁ、こんにちは」

 

「……!」

 

「どうした?」

 

「いや……カナメって普通に挨拶できたんだなって……」

 

「フッ、これでも礼節はそれなりに心得ているつもりだ。お前と違って敬語も使えるしな」

 

「……それを言われちゃぐうの()も出ないね……」

 

 

 

 次はカナメと向かい合う位置のソファーを独占してふんぞり返っている、九頭竜くんに挨拶する。

 

 

 

「九頭竜くんも、こんにちは」

 

「あ"ぁ?」

 

(こわ)っ! やっぱりダメか……)

 

「セツナちゃ~ん? アタシには挨拶してくれないのかしらぁ?」

 

「ひえっ!?」

 

 

 

 紫がかった暗めな青色の髪を(なび)かせる美()()── 蝶ヶ咲(ちょうがさき) (ヨウ)()ちゃんに、背後から抱き締められた。

 

 

 

「や、やぁ、ヨウカちゃん。こ、こんにちは……」

 

「あら、思ったよりイイカラダしてるじゃない」

 

 

 

 ヨウカちゃんの右手がボクの胸板をまさぐり、左手は脇腹から腰にかけて、いやらしい手つきで撫で下ろして、挙げ句お尻まで揉んできた。

 

 

 

「ちょ、どこ触って……あっ……!」

 

「フフッ、やっぱりイイお尻してるわぁ~。……フウッ♡」

 

 

 

 さらには耳に、息を吹きかけられた。

 

 

 

「ひゃああぁっ!?」

 

 

 

 ゾワワワッと全身に鳥肌が立つ。

 しかも今のボクの甲高(かんだか)い悲鳴を、この部屋に居る全員に聞かれたと思うと、スゴく恥ずかしくなってきた。

 

 

 

「ンフッ、顔も声もカワイイわねぇ~。どう? 今夜オネエさんと、『イイコト』しなぁ~い?」

 

「い……イイコトって?」

 

「決まってるでしょ~? 夜の決闘(デュエル)よ♡」

 

「え、遠慮しておくよぉ~ッ!」

 

「あ、蝶ヶ咲センパイ聞いてくださいよ~。セツナくん昨日、後輩の男の子と──」

 

「マキちゃんお願いだから静かにッ!!」

 

 

 

 こんな状況でそれを(ばく)()されたら、色んな意味で大変な事になる!! 特にカナメにだけは絶対に知られたくない!

 

 

 

「あーあ、捕まっちったかセツナ君。ごしゅーしょーサマ」

 

「ろ、狼城くん助けて~!」

 

「オレに構わず続けてくれや」

 

「そんなぁ~!?」

 

 

 

 狼城くんは愉快そうにニヤけながら静観しているだけで、明らかに助ける気ゼロだ。

 

 

 

「ア、アマネ……!」

 

 

 

 こうなれば最後の希望!

 恐らくこのメンツでは一番の常識人であろうアマネに救いを()おうと、彼女の名を呼ぶ。ところが──

 

 

 

「気に入ってもらえて良かったわね♪」

 

「アマネまでぇぇーッ!?」

 

 

 

 残酷なくらい良い笑顔で突き放された。もしかしてマキちゃんに手を出した罰!?

 

 

 

「怖がらなくてイイわよぉ? すぐ気持ち良くシてアゲルから」

 

 

 

 耳元でそんな色っぽい低音イケメンボイスで喋られると、ゾクゾクしてしまう。

 

 

 

「ジュルリ♡」

 

(ひええっ!? 耳元で舌なめずりしないでぇーッ!)

 

 

 

 続いてヨウカちゃんは、ブレザーの下に差し入れた右手の指先で、ワイシャツ越しにボクの胸の突起を探り当てると、それを(いじ)くってきた。

 

 

 

「っあッ!?」

 

 

 

 弱い痺れみたいな感覚が胸から走り、身体がビクッと小さく跳ね、変な声が漏れた。

 

 自分でも滅多に手が()れないところを初めて他人に(さわ)られて、未体験の感覚に困惑する。

 

 

 

「ちょっとヨウカちゃ── ひゃんッ!?」

 

 

 

 これにはさすがに本気で抗議の声を上げようとするも、突起をこねくり回されたり指の腹で押し潰されるせいで、ほとんどまともに言葉が出ない。

 

 

 

「ンフフ。感じちゃってカワイイ♡ ココが弱いのね?」

 

「かっ、感じてなんか……!」

 

「蝶さん真っ昼間からキツイもん見せんといてやぁ~。男同士でチチ()()うとるん見せつけられても女子しか喜ばへんて」

 

「あら心外ねぇ~、ムサシちゃん。アタシだってココロは女子よ? それにこの子の反応ったら初々(ういうい)しくて、ついイジメたくなっちゃうわぁ~♡♡♡」

 

()おおおおっ!! オネエ系イケメン攻めと、ノンケの童顔メガネくん受け! また薄いブックスが厚くなるよアマネたん! ごちそうさまです!」

 

(……私も悪ノリしちゃったけど、そろそろセツナがかわいそうだし()めた方が良いかしら)

 

「あん♡ 逃げちゃダーメ♡ そんなに嫌がられたら、ますますコーフンしてきちゃうわ♡」

 

「やだやだ! 誰か助けてぇーっ!!」

 

 

 

 ガシャンッ!!!

 

 

 

(──!?)

 

 

 

 突然ガラスの割れる様な音が鳴り、騒がしかった室内は一瞬にして静まり返った。

 

 同時にボク達の視線は、音の発生源に集中する。

 

 そこには── 九頭竜くんが片足を、テーブルの上に乗せていた。

 

 そして履いている(くつ)のカカトの下では、飲みかけだったグラスが粉々に壊れた状態で転がり、破片を卓上に散らしている。

 一目で彼が踏み砕いたんだと(わか)った。

 

 

 

「……ギャーギャーうるせぇぞバカどもが。遊び半分で来てんなら帰りやがれっ」

 

 

 

 その怒声は張り上げたわけでもないのに、部屋中に重く響いた。

 

 

 

「……ごめんねぇセツナちゃん。ついヒートアップしちゃったわ」

 

 

 

 ヨウカちゃんがパッと両手を離してボクを解放してくれた。

 

 

 

「あ、うん……」

 

 

 

 ……これは九頭竜くんが助けてくれたと解釈して良いのかな?

 

 それにしても、なんか選抜試験が始まってから、ろくな目に遭ってない気がするな……いや、今に始まった事ではないか……

 

 

 

「……一刻(いっこく)も早く俺を倒したいという顔だな、九頭竜」

 

 

 

 目の前でグラスが叩き割られてもビクともせず、平然と紅茶を味わっていたカナメが、ティーカップを受け皿に置いて九頭竜くんにそう話しかけた。

 

 

 

「……あ?」

 

(あせ)らなくとも、()()になれば闘えるだろう? 最も、お前が今日の試合に勝てばの話だがな」

 

「……どういう意味だ鷹山(ヨウザン)てめぇ……俺が万が一にも敗けるとでも思ってんのか?」

 

「目の前の相手に集中できなければ、な」

 

「なんだと……!」

 

 

 

 二人の間に一触即発の空気が流れる。するとそこに、ヨウカちゃんが割って入った。

 

 

 

「カナメちゃんの言う通りよぉ、キョーゴちゃん? 今日のアナタの相手は、ア・タ・シ♡」

 

 

 

 キレ気味な九頭竜くんに臆するどころか気安く近づくヨウカちゃん。彼……いや、彼女(?)も、大したタマだ。

 

 

 

「アタシとのお楽しみの最中に、他のオトコの事なんて考えちゃヤーよ?」

 

「寄るんじゃねぇ、クソオカマ野郎が。てめぇなんざとっとと撃ち殺してやる」

 

「……あらあら、怖い」

 

 

 

 ヨウカちゃんは自分の唇に指先を当てて妖艶(ようえん)微笑(ほほえ)んだ。

 二人して九頭竜くんを変に(あお)らないでよ。おっかないなぁ……

 

 と、その時ドアがノックされ、スタッフさんが入ってきた。

 

 

 

「── 皆さま、おはようございます。間もなく開会しますので、第1試合出場者の豹堂選手と鷹山選手は、会場に移動してください」

 

「お、もう時間かいな。ほな行こか、鷹山の(だん)()

 

「あぁ」

 

 

 

 呼ばれた二人はデュエルディスク片手に控え室を出ようとする。

 

 

 

「しっかし、カナメと当たっちまうたぁ、クジ運悪ぃな、ムサシ」

 

「ホンマやで~、勘弁してほしいわぁ~」

 

 

 

 狼城くんとそんな会話を交わした後、豹堂くんは去り際、ボク達の方に横顔だけ向けて……

 

 

 

「でもまぁ見とき。ワイかて十傑の(はし)くれや」

 

 

 

 口角を吊り上げ、ずっと閉じられていた瞳をうっすら(ひら)き、細目の中から鋭い眼光を覗かせ── こう告げた。

 

 

 

「大人しゅう旦那の噛ませ犬で終わる気なんぞ、さらさら無いで」

 

「っ……!!」

 

 

 

 途端にボクの総身はビリビリと打ち震え、冷や汗が頬を伝った。

 

 豹堂くんの放つ、強烈な威圧感に当てられたんだ。

 

 

 

(スゴい闘気……! カナメと遜色ないレベルの……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『レディース・エーン! ジェントルメェ~~~ンッ!! デュエルアカデミア・ジャルダン校・主催! 選抜デュエル大会・本選── アリーナ・カップ! トーナメント2回戦のスタートだァァァァッ!!』

 

 

 

 控え室の大画面テレビにセンター・アリーナの観客席を埋め尽くすオーディエンスが、大歓声を上げる様子が映し出される。

 

 

 

『おぉ~~~っ! 昨日に負けず劣らずの大盛況ッ! 今日もその調子で最後まで盛り上がってこうぜぇッ!! そんじゃあ早速、第1試合の出場者を紹介するぞっ! 拍手で迎えてくれぇーッ!』

 

 

 

 昨日と同じくスモークによる派手な演出を合図に、歓声と拍手に歓迎されながら、本日のトップバッター2名が入場した。

 

 

 

『まず一人目は言わずと知れた〝学園最凶〟! 今日も我々に、その常軌を(いっ)した強さを見せつけるのか! 3年・十傑! 鷹山 要ェェーッ!!』

 

 

 

 いきなり優勝候補が登場して場内は大いに沸き立った。そして反対側からは、豹堂くんも姿を見せる。

 

 

 

『だがしかーしッ! 今日の相手は一味(ひとあじ)二味(ふたあじ)も違うぜ! なんてったって鷹山選手と同じく十傑の称号を持つ決闘者(デュエリスト)! トーナメント1回戦では次期十傑候補生をも瞬殺した実力も()ることながら、敵に心理を悟らせぬ笑顔のポーカーフェイスが曲者(くせもの)だ! 3年・十傑! 豹堂 武蔵ィィーッ!!』

 

「ウハハー。実況さん、あんま持ち上げんでくれやぁ~。これでワイが瞬殺されたらこっ()ずかしいやんけ」

 

「ならせいぜい瞬殺されないよう頑張ることだ。そうだな……5ターンも()てば、上出来と言って良いだろう」

 

「……ほぉーん? ワイを負かすんに5ターンもかからんっちゅーんか? ── あんたはあんたで、あんまワイを見くびん方がええで?」

 

 

 

 双方、デュエルディスクを起動させる。

 カナメが十傑と決闘(デュエル)するのを見るのは、今日が初めてだ。正直カナメが負けるところは想像し(がた)いけど、一体どうなることやら。

 

 

 

『鷹山選手にとっては(こん)大会では初めての十傑との試合! 1回戦の様に磐石な勝利を収めるのか! はたまた豹堂選手の大どんでん返しが拝めるのか!? それでは行くぞ! アリーナ・カップ2回戦・第1試合! 鷹山 要 vs 豹堂 武蔵!! イィ~~~ッツ! タイム・トゥ──』

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 カナメ LP(ライフポイント) 4000

 

 豹堂(ひょうどう) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「先攻はワイやな。手札から永続魔法・【六武衆(ろくぶしゅう)の結束】を発動や! このカードは【六武衆】が召喚・特殊召喚される度に、『武士道カウンター』を1つ置く!」

 

 

 

 豹堂くんのデッキは【六武衆】という、サムライ系のカードを主体に構築されている。

 昨日の鮫牙(サメキバ)くんとの試合で見せた脅威的な展開力が、果たしてカナメにどこまで通用するか。

 

 

 

「ほんで初陣(ういじん)はお前や。── 召喚! 【六武衆-ヤリザ】!」

 

 

 

 青色の鎧兜(ヨロイカブト)に身を包んだ武士が出陣した。得物の長い(やり)を軽々と振り回し、青白く発光する穂先を、カナメに(いさ)ましく差し向ける。

 

 

 

【六武衆-ヤリザ】 攻撃力 1000

 

【六武衆の結束】 武士道カウンター × 1

 

 

 

「ワイはカードを2枚伏せて、ターン終了(エンド)やで」

 

「……【ヤリザ】か。過去にも【六武衆】使いとは何人か闘った覚えがあるが……そいつをデッキに入れている奴は初めて見たな」

 

「こいつかて六武の家紋()()った立派なサムライや。舐めとると怪我すんで?」

 

「面白い……俺のターン」

 

『さぁ注目の鷹山選手のターンだ! これまでの対戦相手は誰ひとり寄せ付けず、順風満帆(じゅんぷうまんぱん)に勝ち進んできた学園最凶だが、果たして同格の十傑を相手にどう闘うのか!?』

 

「── 手札より、【雷帝(らいてい)()(しん)ミスラ】の効果を発動。このモンスターを特殊召喚する」

 

 

 

【雷帝家臣ミスラ】 守備力 1000

 

 

 

(特殊召喚……いきなりカマす気やな)

 

「そして相手フィールドに、【家臣トークン】を特殊召喚する」

 

「!」

 

 

 

【家臣トークン】 守備力 1000

 

 

 

「さらに【ミスラ】をリリースし── 【雷帝ザボルグ】をアドバンス召喚」

 

 

 

【雷帝ザボルグ】 攻撃力 2400

 

 

 

「来おったな……!」

 

「【ザボルグ】を召喚した時、モンスター1体を破壊する。俺は【六武衆-ヤリザ】を破壊」

 

「させへんで! カウンター(トラップ)発動! 【六尺瓊勾玉(むさかにのまがたま)】! 自分の場に【六武衆】がおる時、相手が発動した破壊効果を無効にし、そのカードを破壊する!」

 

 

 

 【雷帝ザボルグ】の放った(いかずち)は無力化され、逆に【ザボルグ】が破壊された。

 

 

 

「……なら俺はカードを2枚伏せる。これでターン終了だ」

 

『おぉーっと! 豹堂選手、早くも攻め込むかに見えた鷹山選手の動きを、たった1枚の(トラップ)カードで止めてしまったァーッ!! さすがは十傑! いかに相手が学園最凶と言えど、思い通りには行かせないッ!』

 

「ふい~っ、危ない危ない。1ターン(しの)ぐだけでもヒヤヒヤもんやで、ホンマ」

 

 

 

 口を(とが)らせ、腕で(ひたい)の汗を(ぬぐ)う仕草を見せる豹堂くん。ヒヤヒヤと言いつつも、まだ余裕がありそうだ。

 

 

 

「ほな、ワイのターンや、ドロー! 【六武衆-ニサシ】を召喚!」

 

 

 

【六武衆-ニサシ】 攻撃力 1400

 

【六武衆の結束】 武士道カウンター × 2

 

 

 

「武士道カウンターが2つ乗った【六武衆の結束】を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

(……チッ……あの伏せカードをどうにかできるカードが来ぃひんな、しゃーない)

 

「【家臣トークン】を攻撃表示や!」

 

 

 

【家臣トークン】 攻撃力 800

 

 

 

『ここで豹堂選手が攻勢に出たァーッ! 【六武衆-ニサシ】は自分フィールドに他の【六武衆】がいる時、2回の攻撃が可能! 3体のモンスターで計4回の直接攻撃(ダイレクトアタック)が全て通れば、総ダメージは4600!! 鷹山選手のライフポイントを上回るッ!』

 

「ワイにトークン送りつけたんは失敗やったな?」

 

「そう思うなら、攻撃してみるといい」

 

「………」

 

(ハッタリ……ちゅうんは考えにくいわな、旦那に限って。まぁ(わな)を張っとるんやったら、今の内に使わせとけば被害は最小限で済む。そうでないなら、ワイの勝ちや!)

 

「行くでぇ鷹山ッ! まずは【ヤリザ】でダイレクトアタック!」

 

「……単調な攻撃だ。リバースカード・オープン」

 

(ッ! やっぱなんか仕込んどったか!)

 

(トラップ)モンスター・【()(げん)の帝王】を特殊召喚」

 

 

 

【始源の帝王】 守備力 2400

 

 

 

『鷹山選手、(トラップ)モンスターを盾にしたー! この手があったかぁ~ッ!』

 

「残念だったな。そのモンスター達ではこいつは倒せない」

 

「……残念? そらこっちのセリフやで」

 

「なに?」

 

 

 

 攻撃は中断されるかに思えた。

 ところが次の瞬間── 【六武衆-ヤリザ】は、驚きの行動に出た。

 

 

 

「!」

 

 

 

 眼前に立ち塞がった【始源の帝王】の真横を、すり抜けてしまったんだ。

 

 

 

『ス、スルゥーーーッ!? 【六武衆-ヤリザ】、敵モンスターを無視して鷹山選手に突っ込んだァーッ!!』

 

「知らんかったみたいやな! 【ヤリザ】は味方の【六武衆】がおる時、ダイレクトアタックできるんやで!」

 

 

 

 障害を突破した【ヤリザ】は、見る見る内にカナメとの間合いを詰めていく。

 

 

 

『こ、これはまさかぁーっ!?』

 

 

 

 そのまま【ヤリザ】の槍が── カナメの身体を刺し貫いた!

 

 

 

「……!」

 

 

 

 カナメ LP 4000 → 3000

 

 

 

『ッ……き、決まったァァァァッ!! ついに! 今大会、初めて鷹山選手のライフが削られたァァーッ!!』

 

 

 

 大興奮な実況に釣られて観客もスタンディングオベーションを起こした。

 

 ボクの知る限りでも、カナメがダメージを受けるどころかライフが初期値の4000から変動するところすら、今まで見た事は無かった。

 

 

 

「言うたやろ? 舐めたらアカンて」

 

「…………フフッ……」

 

「ん?」

 

「見事だ、豹堂」

 

「っ……!!」

 

 

 

 カナメの顔つきが変わった。画面越しでも押し潰すかの様なプレッシャーがビシビシと伝わってくる……!

 

 

 

「今回は少しばかり(たの)しめそうだ」

 

 

 

 いよいよカナメが……本気になった──!

 

 

 

 





 マキちゃんが全裸になったりセツナがオカマに襲われかけたり、カナメに初めてダメージを与えたのがまさかの【ヤリザ】だったり、色々と濃ゆい回になった気がします(´゚ω゚`)

 次回、【帝王】vs【サムライ】決着です!


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TURN - 44 SAMURAI vs Emperor - 2


 珍しくスラスラ書けました! ただ、いつもより4000字ほど短いです(´・ω・`)



 

 カナメ LP(ライフポイント) 3000

 

()(げん)帝王(ていおう)】 守備力 2400

 

 

 

 豹堂(ひょうどう) LP(ライフポイント) 4000

 

六武衆(ろくぶしゅう)-ヤリザ】 攻撃力 1000

 

【六武衆-ニサシ】 攻撃力 1400

 

()(しん)トークン】 攻撃力 800

 

 

 

『これは開始早々とんでもない事が起きてしまったァァーッ!! 今大会、予選から全ての試合を、無傷のパーフェクトゲームで勝ち抜いてきた〝学園最凶〟・鷹山(ヨウザン)選手! しかし! たった今! とうとうそのライフポイントが、ダメージを受けて減ってしまったァァァァァッ!!』

 

 

 

 マイクを握り締めたMC・マック伊東さんの、興奮で(はず)んだ大声が、センター・アリーナ全体に響き渡る。

 

 カナメが決闘(デュエル)でダメージを受けた。

 

 それは会場に集まった観客を、一人残らず驚愕させるには充分過ぎるほどの、衝撃的な一大事だった。

 

 だけども……控え室でボク達が中継映像を介して観ている、熱狂渦巻く場内の決闘(デュエル)フィールドに立つカナメの対戦相手── 豹堂 武蔵(ムサシ)くんの表情は……

 

 

 

「………」

 

 

 

 ()(えが)く糸目と口唇(こうしん)で、飄々(ひょうひょう)とした笑顔に固定されたままではあるものの、自分の成し遂げた快挙に浮かれているというよりは、どこか心(もと)ない神妙な面持ちをしている様に、ボクには感じられた。

 

 何せ── さっき【六武衆-ヤリザ】の直接攻撃(ダイレクトアタック)を食らってから、カナメの雰囲気が一変(いっぺん)しているんだ。

 

 

 

「……いつ以来だろうな。九頭竜以外に、俺に傷を負わせた決闘者(デュエリスト)は」

 

 

 

 冷たいながらもどこか(たの)しげな笑みを浮かべるカナメは、今までに感じた事が無いくらい、重い威圧感を(はな)っていた。

 

 テレビ画面越しですらゾッと戦慄(せんりつ)して()()されるんだから、現場で真正面からそのプレッシャーに(さら)されている豹堂くんが、笑顔を(たも)てているのがスゴい。

 

 

 

「……アカンなぁ……眠れる()()を叩き起こしてもうたか?」

 

「どうした? もう終わりか?」

 

「……終わりに決まっとるがな。ワイは戦闘(バトル)を終了して、カードを2枚伏せてターン終了(エンド)や」

 

 

 

 高い守備力の(トラップ)モンスターを壁として出された事で、一斉攻撃でフィニッシュに持ち込む目論見は失敗に終わったけれど、豹堂くんは伏せカードを増やして盤面を整えた。抜かりないね。

 

 

 

「では俺のターン、ドロー。……せっかく(たの)しくなってきたんだ、── 簡単に潰れてくれるなよ?」

 

「ッ……!」

 

 

 

 相手の攻撃に合わせて【始源の帝王】を発動……ここまでは昨日の大間くんとの試合と同じ流れだ。

 火のついたカナメは、ここからどう動くのか……

 

 

 

「── 俺は手札より魔法(マジック)カード・【汎神(はんしん)の帝王】を発動。手札の【帝王】と名のつく()(ほう)、または(トラップ)カード1枚を捨て、2枚ドローする。さらに墓地から【汎神の帝王】を除外して、もう1つの効果を発動。デッキから【帝王】魔法(マジック)(トラップ)カード3枚を相手に見せる。そして、その中から1枚を選ばせ、そのカードを手札に加える」

 

「なんや、ワイが決めてエエんか?」

 

「俺が見せるのは……この3枚だ」

 

 

 

 【帝王の烈旋(れっせん)

 【帝王の(とう)()

 【帝王の開岩(かいがん)

 

 

 

「さぁ、好きなカードを選べ」

 

「……またやらしいカードばっか持ってくるやんけ」

 

(さぁ~て、どないしよか。まず【烈旋】はナシやな。こっちのモンスターをリリースされるとか冗談やないで。それに【凍志】も……昨日の試合観とった感じやと、使われたらメンドーそうやな。となると消去法で……)

 

「── ワイは【帝王の開岩】を選ぶで!」

 

「良いだろう。残りの2枚はデッキに戻す」

 

 

 

 これでカナメの手札は4枚。

 

 

 

「俺は手札に加えた永続魔法・【帝王の開岩(かいがん)】を発動する。そして【始源の帝王】をリリースし、【()(てい)グランマーグ】をアドバンス召喚」

 

 

 

【地帝グランマーグ】 攻撃力 2400

 

 

 

 これは……新しい【(みかど)】モンスターか! 他の【帝】と比べると一際(ひときわ)デカイ。まるで岩山だ。

 

 

 

「ここで【帝王の開岩】の効果発動。アドバンス召喚に成功した時、1ターンに一度、そのモンスターとカード名が異なる攻撃力2400、守備力1000、または攻撃力2800、守備力1000のモンスター1枚を、デッキから手札に加える。俺は……【(ごう)地帝グランマーグ】を手札に」

 

「【グランマーグ】の進化形かいな……!」

 

「まだだ。【地帝グランマーグ】をアドバンス召喚した場合、セットされたカード1枚を破壊する。俺は、お前が伏せた左の伏せカードを破壊」

 

 

 

 【地帝グランマーグ】はどこからともなく大岩を出現させ、それを手も触れずに(ちゅう)に浮かせると投擲(とうてき)し、豹堂くんの伏せカードを粉砕した。

 

 

 

(っ……! 【六武衆推参(すいさん)!】が破壊されてもうたか……!)

 

「なんだ、ただの蘇生カードか、当てが外れたな。── まぁいい、バトルだ。【グランマーグ】で【六武衆-ヤリザ】を攻撃。『バスター・ロック』」

 

 

 

 再び大砲の弾の様にして発射された岩石が、【ヤリザ】を直撃する。

 

 

 

「ぐおわっ!?」

 

 

 

 豹堂 LP 4000 → 2600

 

 

 

「ターンエンド」

 

「っ……ウッハハッ、参るでホンマ。もうちょい優しくしてやぁ?」

 

『きょ、強烈な鷹山選手の反撃ィーッ!! あっという間に主導権を握ったァーッ!』

 

 

 

 これがカナメの本気……!

 

 上級モンスターの【グランマーグ】を従え、手札には【帝王の開岩】でサーチした最上級モンスターまで控えている。

 

 豹堂くんの場のモンスターでは太刀打ちできない。戦力の差は歴然だ。

 

 

 

「……ワイのターンやな……」

 

(ワイが伏せとる【六武派二刀流】……こいつさえ使えれば旦那のカードを手札に戻せるっちゅうのに、【家臣トークン】がおるせいで発動条件が満たされへん……ホンッマ邪魔やでこいつ!)

 

「まっ……たられば言っとってもしゃーない。ドローしてから考えるわッ!」

 

(──!)

 

「……ウハハ。ええところに来おったで、── 『大将』!」

 

 

 

 その時── 豹堂くんが歯を剥いて笑みを深め、開眼(かいがん)した。何か良いカードを引けたのだろうか。

 

 

 

「待たせたなぁ鷹山の旦那。お望み通り……こっから愉しませたるで!」

 

「……ほう?」

 

「ワイは【六武衆-イロウ】を召喚!」

 

 

 

【六武衆-イロウ】 攻撃力 1700

 

 

 

「ほんで手札から速攻魔法・【六武ノ書】を発動や! 【ニサシ】と【イロウ】をリリースして── デッキから【大将軍 ()(エン)】を特殊召喚ッ!!」

 

 

 

 二人のサムライの魂を受け継いで新たに戦場へ現れたのは、真っ赤な甲冑(かっちゅう)を纏い、日本刀を手にした(よろい)()(しゃ)

 

 

 

【大将軍 紫炎】 攻撃力 2500

 

 

 

「攻撃力2500……それがお前のエースモンスターか」

 

「せや、カッコええやろ? 旦那の【帝王】とワイの【サムライ】、一騎討ちと行こうやないか! 【紫炎】で【グランマーグ】を攻撃! 『(おう)()絶刀(ぜっとう)(てん)()(ざん)』!!」

 

 

 

 一閃(いっせん)──。【紫炎】が振るった刀は、見事【グランマーグ】の巨体を一刀両断した。

 

 

 

「っ……!」

 

「【紫炎】の刀に斬れぬもの無しや。敵将、討ち取ったり!」

 

 

 

 カナメ LP 3000 → 2900

 

 

 

「どうや、ちっとは愉しめたか? ワイは【家臣トークン】を守備表示にしてターンエンドや」

 

 

 

【家臣トークン】 守備力 1000

 

 

 

『豹堂選手、すぐさま巻き返したァァーッ!! これでまだまだ勝負は分からなくなったぞぉ~ッ! 果たして軍配(ぐんばい)はどちらに上がるのかッ!?』

 

 

 

 スゴいや豹堂くん。あのカナメと、互角に渡り合ってる……!

 

 こうなるとカナメの手札にある【剛地帝グランマーグ】は死に札になりかねない。何もできなければ、ジリ貧で追い込まれる事になる。

 

 どうする、カナメ……?

 

 

 

「……俺のターン」

 

「過ぎてもうたなぁ? 5ターン」

 

「……フッ……そうだな」

 

 

 

 カナメは「ドロー」と宣言して、デッキからカードを引く。

 

 

 

「お前を(あなど)った事は素直に()びよう。だがこの決闘(デュエル)── 勝つのは俺だ」

 

「!?」

 

「忘れたのか? 俺の手札には、【地帝グランマーグ】を超える、最上級の【(みかど)】がある事を」

 

「── っ! ……何を言うとんねん。フィールドもガラ空きで、どうやって【剛地帝】を呼び出すっちゅうんや。言っとくが【紫炎】が表側表示である限り、旦那は1ターンに一度しか、魔法・(トラップ)は発動できひんで」

 

 

 

 豹堂くんの言う通りだ。カナメの場にモンスターは(ゼロ)。しかも【紫炎】の効果で1回しか魔法・(トラップ)を使えない縛りの中、どんな手を使ってレベル8のモンスターを召喚する気なんだろう……

 

 

 

「教えてやろう。── 俺は手札より装備魔法・【再臨(さいりん)の帝王】を発動。墓地から【グランマーグ】を効果を無効にして守備表示で特殊召喚し、このカードを装備する」

 

 

 

【地帝グランマーグ】 守備力 1000

 

 

 

「そして【再臨の帝王】を装備したモンスターは、1体で2体分のリリースとして扱える」

 

「なんやとっ!?」

 

 

 

 予想だにしない手を打たれて、とうとう豹堂くんの笑顔が崩れた。

 

 

 

「【地帝グランマーグ】をリリースし、現れろ── 【剛地帝グランマーグ】」

 

 

 

【剛地帝グランマーグ】 攻撃力 2800

 

 

 

『でででで、でかぁぁーーーいッ!? なんだこの巨人わぁーっ!?』

 

「【剛地帝グランマーグ】の効果発動。アドバンス召喚に成功した場合、フィールドにセットされたカードを2枚まで破壊する。俺は、お前の場の伏せカード2枚を破壊」

 

「っ!」

 

 

 

 豹堂くんの伏せカードが全て破壊された。

 セットしていたのは(トラップ)カードの【中央突破】と、【六武派二刀流】だった。

 

 

 

「さらに地属性をリリースしてアドバンス召喚した場合、カードを1枚ドローできる。── 俺は今ドローした【地帝家臣ランドロープ】の効果を、【大将軍 紫炎】を対象に発動。このモンスターを特殊召喚する」

 

 

 

【地帝家臣ランドロープ】 守備力 1000

 

 

 

「そして【紫炎】を、裏側守備表示に変更する」

 

「なっ……!?」

 

 

 

 【紫炎】の姿が消失し、カードを裏返して横向きに伏せた状態にさせられた。

 

 

 

「これで俺は新たな魔法・(トラップ)の発動が可能となった」

 

「ぐっ……!」

 

「手札から【シールドクラッシュ】を発動。【家臣トークン】を破壊する」

 

「どわっ!」

 

(し、【紫炎】やのうてトークンを破壊やと……!?)

 

「これで終わりにしてやる。(トラップ)発動、【破壊神の(けい)()】。相手の守備モンスターを破壊したターン、俺のフィールドのレベル8モンスター1体は、2回攻撃できる」

 

「2回やとっ!? そんなんアリかっ!?」

 

 

 

 カナメはこの(トラップ)の発動を狙ってたのか……!

 

 

 

「バトル。【剛地帝グランマーグ】で、セットモンスターを攻撃。『バレッジ・ロック』」

 

 

 

 【剛地帝グランマーグ】は地鳴りを起こしながらいくつもの岩石を浮遊させ、一斉に射出した。単純に【地帝グランマーグ】の攻撃よりも弾数(たまかず)が増えただけだけど、威力は見た目通り絶大だ。

 

 セットされていた【紫炎】が反転して再び姿を現すも、直後に落石の下敷きになってしまう。

 

 

 

「うおおおっ!?」

 

『す、凄まじい破壊力だァァーッ!! 豹堂選手のフィールドが、完全に(さら)()と化してしまったァァーッ!!』

 

「トークンを攻撃しても良かったが、帝王が家臣を手にかけるのもどうかと思ってな。それにエースモンスター同士を闘わせた方が映えるだろう?」

 

「い、意外なとこで気が回るやんけ……」

 

「続けて【グランマーグ】で2回目の攻撃。── ()()()だ。プレイヤーにダイレクトアタック」

 

 

 

 【グランマーグ】は今度は自身の足で、敵陣への進撃を開始した。

 一歩踏み出す(たび)自重(じじゅう)で地面が揺れている。さながら怪獣映画みたいな迫力だ。ボクが豹堂くんの立場だったらトラウマになってそう。

 

 やがて【グランマーグ】は、豹堂くんを足下に見下ろせる距離まで接近すると、片腕をゆっくりと掲げて……

 

 

 

「〝王手〟だ、豹堂。この俺に二度も傷をつけたこと……(ほこ)っていいぞ」

 

「っ……!!」

 

 

 

 ── その巨大な(てのひら)を振り下ろし、豹堂くんを頭上から叩き潰してしまった。

 ボクは思わず「うわっ」と言いながら目を(つむ)る。

 

 ……立体映像(ソリッドビジョン)が消え、攻撃の衝撃で発生した煙が晴れると……

 そこには【グランマーグ】の平手でペシャンコにされた豹堂くんが、大の字で伸びていた。

 

 

 

 豹堂 LP 0

 

 

 

『決着ゥゥーーーッ!! ウィナー・鷹山 要ッ!! 連続ノーダメージ記録は途絶えたが、やはり今回も学園最凶の快勝で幕を閉じたァァーッ!!』

 

 

 

 決着を迎えて観客が沸き返る中、カナメはいつもの様に、早々(はやばや)と立ち去る──

 

 かと思いきや。

 

 

 

「立てるか?」

 

 

 

 豹堂くんに歩み寄り、手を差し伸べていた。

 

 

 

「……! ……意外やなぁ……旦那は負かした奴なんか目もくれんと思うとったんやけど」

 

「なに、愉しませてもらった礼だ」

 

「……ウハハ。学園最凶にそこまでしてもらえるなんて光栄や。── おおきにな」

 

 

 

 豹堂くんはヘラリとした笑顔に戻り、カナメの手を取って立ち上がった。観客からは万雷の拍手が二人に送られる。

 

 今日はカナメの意外な一面がたくさん見れて、何だか新鮮だったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局、カナメの勝ちかぁ~」

 

 

 

 ボクはカナメの座っていたソファーに、背中を預けて呟いた。

 

 

 

「でも、あのカナメちゃんに2回も攻撃を通せたのはスゴいわよねぇ。── 先を越されちゃったわね、キョーゴちゃん?」

 

「ケッ、んなこたぁどうでもいいんだよ。()()を倒すのはこの俺だ」

 

「……フフッ……そう?」

 

 

 

 ヨウカちゃんが目を細めて妖しく笑う。

 九頭竜くんの今の発言は、言外(げんがい)に「今日の試合も自分が勝つ」と言っている様に聞こえた。

 本当にカナメ以外眼中にないって感じだね。でもヨウカちゃんだって腕は確かだ。その自信が命取りにならなければ良いけれど。

 

 ── しばらくして、勝ち上がったカナメが控え室に戻ってきた。

 

 

 

「あれ? お帰りカナメ。てっきりもう帰ったのかと」

 

「少し用があってな。── 九頭竜」

 

「あ?」

 

「準決勝で待っているぞ」

 

「……!」

 

「それだけ言いに来た。では、失礼する」

 

 

 

 用件を済ませるとカナメは、扉を閉めて帰っていった。

 狼城(ろうじょう)くんが小さく笑みを(こぼ)し、ポツリと一言。

 

 

 

「だとさ」

 

「……ふざけた野郎だ。言われるまでもねぇよ」

 

 

 

 ……カナメ、わざわざ九頭竜くんを焚き付ける為に戻ってきたのかな?

 

 

 

「よっぽど楽しみみたいね、カナメちゃんも。ムサシちゃんとの決闘(デュエル)でテンション上がっちゃったのかしら。あんなに目を輝かせてるあの子は初めて見たわ」

 

「そうなの?」

 

「でもねキョーゴちゃん。(いと)しのカナメちゃんとランデブーしたいなら、その前に、アタシというおじゃま虫を退(しりぞ)けなくちゃね♡」

 

「黙ってろオカマ野郎。邪魔する奴は撃ち殺す」

 

 

 

 九頭竜くんとヨウカちゃんが火花を散らす。

 数分後に始まる自分達の試合に向けて、互いにボルテージを高め合っているのが見て取れる。

 

 学園最凶の次は学園最強か。

 ヨウカちゃんとどんな決闘(デュエル)を見せてくれるのか、楽しみだ。

 

 

 

 





 狼城「今回オレのセリフ3文字だけかよ……」

 アマネ「私とマキちゃんなんて一言も喋ってないんですけど」


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TURN - 45 UNDER the GUN


 予想ですが、あと10話~12話くらい書けば大会編は完結するかも……長ッ!!



 

『さぁ! 第1試合の興奮冷めやらぬ中、トーナメント2回戦・第2試合の開幕だッ!!』

 

 

 

 センター・アリーナのだだっ広い場内。

 その中央に設置された、四角形の決闘(デュエル)フィールド。

 

 カナメと豹堂くんに続いて現在その盤上で対峙しているのは──

 

 紫色のウルフカットに褐色の肌を持つ強面(こわもて)なイケメン・九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)くんと、紺色(こんいろ)のセミロングヘアにこれまた九頭竜くんにも引けを取らない美形と長身を誇る、自称・男の身体に生まれた乙女(おとめ)の、蝶ヶ咲(ちょうがさき) (ヨウ)()ちゃん。

 

 例のごとくボクを含めた他の出場者は、控え室の高級テレビでカメラのライブ中継を通して、会場の模様を視聴している。

 

 

 

「九頭竜くんの決闘(デュエル)を観るのは久々だなー。ボク昨日は見逃しちゃったし」

 

「女子と話し込んでたせいでね」

 

「うっ」

 

 

 

 アマネに痛いところを突かれて口ごもる。本当の事は口が裂けても言えない……

 

 

 

「で、どんな子とどんなお話してたの~?」

 

(マキちゃんその話題を掘り下げないでええええっ!!)

 

「え、えーっと、その……」

 

『第1試合と同じく、学園のもう一人の頂点に同格の十傑(じっけつ)が挑む!! 前回同様、トップランカー同士の組み合わせに、観客もハイレベルな闘いを魅せてくれる事への期待が高まっているッ! そんじゃあ始めるぜ! アリーナ・カップ2回戦・第2試合! 九頭竜 響吾 vs 蝶ヶ咲 妖華!!』

 

「あっ! 始まるみたいだよ!」

 

「あ、はぐらかした~」

 

『イィ~~~ッツ! タイム・トゥ──』

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 九頭竜(くずりゅう) LP(ライフポイント) 4000

 

 蝶ヶ咲(ちょうがさき) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「俺の先攻だ! 手札から【融合(ゆうごう)】発動! 【リボルバー・ドラゴン】と【ブローバック・ドラゴン】を手札融合! ── 融合召喚! 現れろ、レベル8! 【ガトリング・ドラゴン】!!」

 

 

 

【ガトリング・ドラゴン】 攻撃力 2600

 

 

 

 いっ、いきなりゴツいのが出てきた!

 機関銃を頭部に生やした三つ首の機械龍(マシン・ドラゴン)。かなり強そうだ。

 

 

 

『おぉーっと! 九頭竜選手、1回戦ではフィニッシャーとなった【ガトリング・ドラゴン】を、今回は先攻1ターン目で召喚したァァーッ!! 初っぱなからトップギアで飛ばしてきたぞぉーッ!』

 

「俺はカードを2枚伏せて、ターン終了(エンド)だ!」

 

「一刻も早くアタシを倒したいみたいね?」

 

「てめぇのターンだ、さっさとしろ」

 

「あらあら、せっかちな男はモテないわよ?」

 

(恐い顔しちゃって……アタシなんて通過点としか思ってないのが見え見えね。でもねキョーゴちゃん……眼前の敵から視線を逸らして勝てるほど、決闘(デュエル)は甘くないわよ?)

 

「アタシのターン、ドロー」

 

 

 

 いつ見てもヨウカちゃんの決闘(デュエル)中の所作は、(ゆう)()で華麗だ。思わず()()られる。

 

 

 

決闘(デュエル)とは『美』。闘いは美しくなければなら──」

 

「さっさとしろっつってんだっ!!」

 

「あん。もう、そんなに怒鳴ることないじゃない。── アタシはモンスターをセット。そして……カードを3枚伏せて、ターンエンドよ」

 

 

 

 九頭竜くんとは対称的に、ヨウカちゃんの1ターン目は至って静かに終わった。相手の場に攻撃力2600もあるモンスターがいたんじゃ、序盤はそうせざるを得ないか。

 

 ……でもあの3枚の伏せカード……絶対何か(わな)を仕掛けてるよね。

 

 

 

「ケッ、守備固めか。だが無駄だぜ! 俺のターン! 【ガトリング・ドラゴン】の効果発動! 3回コイントスして(オモテ)が出た数だけモンスターを破壊する!」

 

 

 

 デュエルディスクのコイントス機能が(はじ)き出した結果は── 裏・表・裏。

 

 

 

「オラァッ! ()()()だ! てめぇのモンスターを破壊するぜ!」

 

「!」

 

 

 

 真ん中の首が機関銃を乱射して、ヨウカちゃんのセットモンスターをハチの巣にした。

 

 一切の躊躇なくギャンブル効果を使って、ピンポイントで相手モンスターだけを狙い撃ちしてみせた九頭竜くんの度胸と強運に感服しながら、ボクは呟く。

 

 

 

「おぉ~、相変わらず当たり前みたいに当ててくるね」

 

「ホントどうなってんのかしらね。あの人が外したとこなんて見た事ないわ」

 

 

 

 アマネの言葉に、ボクは転入初日の九頭竜くんとの決闘(デュエル)を思い出す。

 あの時は【リボルバー・ドラゴン】の『ロシアン・ルーレット』を連続でヒットさせてきて、ギリギリまで追い詰められた。もう半年近くも前の事なんだね、懐かしい。

 

 

 

「── 【共振虫(レゾナンス・インセクト)】が墓地にイッた事で効果発動。デッキからレベル6の【インセクト・プリンセス】を手札に加えるわ」

 

「バトルだ! 【ガトリング・ドラゴン】で直接攻撃(ダイレクトアタック)! 『ガトリング・ショット』!!」

 

 

 

 お次は全ての首による一斉掃射だ。弾丸の雨がヨウカちゃんに降り注ぐ── かに思えたが……

 

 

 

「フフ……おバカさん。── (トラップ)発動、【ライヤー・ワイヤー】!」

 

「っ!?」

 

(トラップ)だとっ!?)

 

「墓地の【共振虫(レゾナンス・インセクト)】を除外し、【ガトリング・ドラゴン】を破壊」

 

 

 

 【ガトリング・ドラゴン】の足下から鋭利な(トゲ)がたくさん付いたクモの巣が、トラバサミの要領で飛び出した。

 まんまと罠に捕らえられた【ガトリング・ドラゴン】は、機体にグサグサと棘が突き刺さり、爆発を起こして粉砕してしまう。

 

 

 

『なんということだァァーッ!! せっかく大量の手札を消費してまで融合召喚した【ガトリング・ドラゴン】が、あっさりと破壊されてしまったぁーッ!! 九頭竜選手、これはかなりの(いた)()を負わされたぞぉーッ!』

 

「チッ……!」

 

「ンフ♡ こんな(わな)にかかるなんて、アタシはアナタを買い被り過ぎてたようね、キョーゴちゃん?」

 

「あ"ァ……!?」

 

「勝ちを急ぐあまり攻め手が単調よ。アナタらしくない」

 

「うるせぇっ!! 余計なお世話だっ!」

 

 

 

 ボクもヨウカちゃんと同意見だ。今の九頭竜くんは、妙に焦ってる様に見える。

 3枚もリバースカードが伏せてあったら、(トラップ)を張られてる可能性はボクでも考慮(こうりょ)できた。

 ところがさっきの九頭竜くんには、それを警戒した様子がまるで見受けられなかった。

 

 

 

「そう……残念ね。せっかくカナメちゃんやアタシが『忠告』してあげたのに」

 

 

 

 忠告……思い当たるのは第1試合が始まる前……控え室での彼ら二人とカナメの会話──

 

 

 

 ── 「焦らなくとも、明日になれば闘えるだろう? 最も、お前が今日の試合に勝てばの話だがな」

 

 ── 「どういう意味だ鷹山てめぇ……俺が万が一にも負けると思ってんのか?」

 

 ── 「目の前の相手に集中できなければな」

 

 ── 「アタシとのお楽しみの最中に、他の男のことなんて考えちゃヤーよ?」

 

 

 

 ……九頭竜くんは、ヨウカちゃんとの決闘(デュエル)に気持ちが乗ってない── 集中し切れてないって事なのかな?

 

 

 

「除外された【共振虫(レゾナンス・インセクト)】の効果。デッキから【インセクト女王(クイーン)】を墓地へ送るわ」

 

「っ……俺はターンエンドだ」

 

「アタシのターン」

 

(フフ、学園最強ってのも大したことないわね。こういう攻撃的な子に限ってカンタンにアタシの戦術にハマるわ)

 

「アタシは【プリミティブ・バタフライ】を特殊召喚!」

 

 

 

【プリミティブ・バタフライ】 攻撃力 1200

 

 

 

「そして【バタフライ】をリリースし── 【インセクト・プリンセス】をアドバンス召喚!」

 

 

 

 4本の腕を持ち、背中に蝶々(ちょうちょ)の羽根を広げた、女性の人型の昆虫モンスターが舞い降りる。

 

 

 

【インセクト・プリンセス】 攻撃力 1900

 

 

 

「さぁ、華麗なる闘いを。【インセクト・プリンセス】でダイレクトアタック! 『ステム・シャワー』!!」

 

 

 

 【インセクト・プリンセス】は羽根をはためかせ、突風を巻き起こした。

 

 

 

「バカが! てめぇこそ単調な攻撃だぜ!」

 

(わな)には罠だ!)

 

(トラップ)発動! 【炸裂装甲(リアクティブアーマー)】!」

 

 

 

 攻撃モンスターを破壊する(トラップ)!?

 

 

 

「カウンター(トラップ)・【魔宮(まきゅう)(わい)()】!」

 

「なんだとっ!?」

 

「甘いわね、キョーゴちゃんの(トラップ)は無効にさせてもらうわ。その代わり1枚ドローさせてアゲル。サービスよ」

 

「チィッ!」

 

 

 

 【炸裂装甲(リアクティブアーマー)】を無効化され九頭竜くんが1枚引いた後、【インセクト・プリンセス】の攻撃が九頭竜くんに通った。

 

 

 

「ぐあっ!」

 

 

 

 九頭竜 LP 4000 → 2100

 

 

 

『なんと! 先制したのは蝶ヶ咲選手だッ! 九頭竜選手、一気にライフポイントを半分近く持っていかれたァーッ!』

 

「クソがァッ! (トラップ)カード・【ダメージ・コンデンサー】発動! 俺が受けたダメージは1900! 手札を1枚捨て、攻撃力1900以下のモンスター── 【ツインバレル・ドラゴン】をデッキから特殊召喚!」

 

 

 

【ツインバレル・ドラゴン】 攻撃力 1700

 

 

 

『しかぁーしっ! 九頭竜選手も転んでもタダでは起きないッ! すぐさま後続(こうぞく)のモンスターを呼び出したッ!』

 

「【ツインバレル】の効果発動! コイントスを2回(おこな)い2回とも表なら、相手のカードを破壊──」

 

(トラップ)発動! 【迷い風】! 特殊召喚された【ツインバレル】の効果は無効となり、攻撃力が半減するわ!」

 

「なっ!?」

 

 

 

【ツインバレル・ドラゴン】 攻撃力 1700 → 850

 

 

 

『なんと! 蝶ヶ咲選手はこれにも即座に対応! スゴいッ! あの学園最強を完封しているゥーッ!!』

 

 

 

 【迷い風】……【ガトリング・ドラゴン】に使わなかったのは、【共振虫(レゾナンス・インセクト)】を墓地へ送らせ、効果で上級モンスターを手札に呼び込み、さらに【ライヤー・ワイヤー】で仕留める為か。先を見越した戦略性の高いプレイングだ。

 

 

 

「イラッと来るぜ……やたら備えが良いじゃねぇか……!」

 

「フフ、アタシは用心深いの。少しは見習うべきね、キョーゴちゃん。── アタシはカードを1枚伏せて……永続魔法・【(むし)()けバリアー】を発動」

 

「!」

 

 

 

 九頭竜くんのフィールドに、光るラインが(いく)()にも張り巡らされた。

 

 

 

「ここでそいつを出してくるってこたぁ……」

 

「まっ、さすがにバレバレよね。さぁ、アナタのターンよ」

 

 

 

 二人の言っている意味がイマイチ()み取れなくて、ボクはアマネに尋ねた。

 

 

 

「どういうこと? アレって昆虫族の攻撃を封じるカードでしょ?」

 

「……すぐに分かるわよ」

 

 

 

 九頭竜くんにターンが移る。

 

 

 

「俺のターン!」

 

「永続(トラップ)発動! 【DNA改造手術】!」

 

「チッ、やっぱな……」

 

「この(トラップ)の発動時に種族を1つ宣言する。アタシは『昆虫族』を宣言。これでこのカードが場にある限り、フィールドのモンスターは全て昆虫族となるわ」

 

 

 

 【ツインバレル・ドラゴン】のボディに羽根やら触角やらが生え出して、新種の昆虫みたいな姿に変異した。

 

 アマネの言った通り、この時点でボクは全てを理解して、手の平にポンと握り拳を置いた。

 

 

 

「なるほど~! これで九頭竜くんのモンスターは【虫除けバリアー】に引っ掛かって攻撃できなくなったってわけか。頭良いね、ヨウカちゃん」

 

「昆虫デッキでは割りとメジャーなコンボよ? 逆に知らなかったのが驚きだわ」

 

「セツナくん遅れてる~」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

 

 不勉強でお恥ずかしい……。【寄生虫パラサイド】と【虫除けバリアー】のコンボなら、バトルシティ編のDVDで観て知ってたんだけどね。

 

 

 

「フフ、攻め手を封じられたアナタに勝つ手段は残されているのかしら?」

 

「……俺は【ツインバレル】を守備表示に──」

 

(っ! 守備表示にできねぇだと!?)

 

「無駄よ。【インセクト・プリンセス】の分泌(ぶんぴつ)するフェロモンには、虫の攻撃本能を刺激して興奮させる効力があるの」

 

 

 

 要するに攻撃表示を強制するって事ね。

 【DNA改造手術】で種族を変えたのは、この為でもあったのか。

 

 これで九頭竜くんは、攻める事も守る事もできなくなったわけだ。

 

 

 

「ロック完成。どう? アタシのインセクト・コンボ……完璧でしょう?」

 

「っ……俺は、1枚カードを伏せて、ターンエンドだ……!」

 

『あ、あの学園最強が何もできないっ!? 勝負のペースを蝶ヶ咲選手に握られているゥーッ!』

 

「そうそう、イイ子ね。アナタはただ、されるがまま……アタシに身を(ゆだ)ねればイイのよ♡」

 

 

 

 っ~~~~~ッッ!?

 

 

 

「どったの? セツナくん」

 

「さ、寒気が……」

 

 

 

 舌なめずりするヨウカちゃんを観て、ボクは数十分前に自分が身体を触られまくった恐怖の記憶がフラッシュバックして、総毛立った。

 

 

 

「アタシのターン!」

 

(今のキョーゴちゃんは罠にかかったエモノ同然。じっくりたっぷり、ねっとり料理してアゲルわ)

 

「【プリンセス】で【ツインバレル】を攻撃!」

 

「くっ!」

 

 

 

 九頭竜 LP 2100 → 1050

 

 

 

「戦闘で昆虫族を破壊した【プリンセス】は、攻撃力が500アップするわ」

 

 

 

【インセクト・プリンセス】 攻撃力 1900 + 500 = 2400

 

 

 

「ターンエンドよ」

 

『く、九頭竜選手のライフポイントが、4分の1まで削られたァーッ!? 対して蝶ヶ咲選手は(いま)だ無傷! 一体誰がこんな展開を予想できただろうか!? ライバルである鷹山選手の待つ準決勝を目前にして、学園最強・九頭竜 響吾は、()()で終わってしまうのかァァーッ!?』

 

 

 

 九頭竜くんの敗色が徐々に濃くなっていく。まさかこうも一方的になるなんて……

 

 【DNA改造手術】がある限り、九頭竜くんのモンスターは【虫除けバリアー】に(はば)まれ、攻撃できない。

 かと言って裏側守備表示で凌ごうにも、攻撃されればダメージステップで表側表示に反転して、【インセクト・プリンセス】の効果(フェロモン)で攻撃表示に変えられ、ダメージは避けられない。

 さらに【プリンセス】は戦闘を(かさ)ねる(ごと)に自身の効果でどんどんパワーアップしていき、手がつけられなくなってくる。

 

 ヨウカちゃんの戦術には死角が無い。確かに完璧なコンボだ。

 

 九頭竜くんは完全に── (せっ)()詰まってしまった。

 

 

 

「……ねぇ狼城くん。九頭竜くんは本当にこのまま負けると思う?」

 

「ん? さぁなァ……けどまぁ、もう一悶着(ひともんちゃく)ぐれぇはあんじゃねーの? 九頭竜(あいつ)は伊達や酔狂で、『学園最強』なんて大層な名前で呼ばれてるわけじゃねぇからな。少なくとも、やられっぱなしで大人しくしてる奴じゃねぇよ」

 

 

 

 ……再び液晶モニターに目を向けると、ヨウカちゃんが何やら観客席をグルリと見回していた。誰か探してるのかな?

 

 

 

「……おい……何してやがる?」

 

「別に? カナメちゃんも、どこかで観てるのかしらって思っただけよ」

 

「っ!!」

 

「アナタとの決闘(デュエル)をあんなに楽しみにして、『準決勝で待つ』なんて伝えにまで来たカナメちゃんが、今のアナタを見たら何て言うかしらねぇ?」

 

「……!」

 

「残念だけど、アナタの大好きなカナメちゃんは、アタシがいただく事になりそうね」

 

(……クソッタレ……ムカつくが、てめぇの言う通りだったぜ、鷹山……)

 

 

 

 うなだれる九頭竜くん。しかし数秒後……

 

 

 

(今は── このオカマを撃ち殺す!! それだけを考えろっ!)

 

 

 

 ── 急に、何かを決意した様に、顔を上げた。

 

 

 

「── !?」

 

(キョーゴちゃんの空気が変わった……?)

 

 

 

 九頭竜くんの目付きが、さっきまでの気負いや焦りを感じさせるそれとは明らかに違う。

 今にも目の前の相手を()(さつ)しそうな、あの鋭い眼光は……ボクと闘った時にも見せたものだ……!

 

 

 

「鷹山 (カナメ)は俺の()()だ……てめぇなんぞに渡しゃしねぇぞっ!!」

 

「……フフ、少しは目が覚めたのかしら? でも例えキョーゴちゃんと言えど、この戦況をひっくり返すのは不可能よ」

 

「ハッ、もう勝ったつもりかよ? ……俺はこんなところでグズグズしていられねぇんだ!」

 

 

 

 そして九頭竜くんはデッキの一番上に指先をかけると──

 

 

 

「言った筈だぜ、蝶ヶ咲……。邪魔する奴は── 撃ち殺すっ!! 俺の……! タァーンッ!!」

 

 

 

 裂帛(れっぱく)の気合いでカードを引き抜いた。

 

 

 

「っ……! フフ……ビシビシ感じるわ、アナタの闘気(オーラ)。やっとアタシと向き合ってくれたわね」

 

「俺は墓地の【()(かん)融合】を除外して、効果発動! 墓地から【ガトリング・ドラゴン】をエクストラデッキに戻し、1枚ドローする!」

 

「【置換融合】? ……なるほど、【ダメージ・コンデンサー】のコストで捨ててたのね」

 

「……行くぜ。俺は手札から魔法(マジック)カード・【シャッフル・リボーン】を発動! 俺のフィールドにモンスターがいない時、墓地のモンスター1体を、効果を無効にして復活させる! よみがえれっ、【ブローバック・ドラゴン】!」

 

 

 

【ブローバック・ドラゴン】 攻撃力 2300

 

 

 

 九頭竜くんが蘇生させたモンスターを見て、ボクは不思議がり、アゴに指先を添えながら小首を(かし)げ、その疑問を口にした。

 

 

 

「あれ? 【リボルバー・ドラゴン】なら【インセクト・プリンセス】より強いのに、なんで【ブローバック】なんだろう?」

 

 

 

 効果は無効になった上、【虫除けバリアー】のせいで攻撃もできないとは言え、攻撃力2600の【リボルバー・ドラゴン】なら、壁として役に立てる筈。

 なのに強化された【インセクト・プリンセス】に攻撃力で劣る、【ブローバック・ドラゴン】を選んだ理由がボクには掴めなかった。

 

 すると、またアマネ先生が、ボクの疑念を解消してくれた。

 

 

 

「セツナ、【シャッフル・リボーン】の効果を忘れたの? あのカードで蘇生したモンスターは、エンドフェイズに除外されちゃうのよ」

 

「あ、そっか。すっかり忘れてた。……え? じゃあ、このタイミングで使う意味ない── あっ!」

 

「気づいたみたいね。九頭竜はセツナとの決闘(デュエル)の時も、あのカードから次の展開に繋げていた……。貴重な手札を無駄撃ちするほど、あの人はバカじゃないわ。何か策があるわね」

 

 

 

 この状況を(くつがえ)す、突破口を()()だしたのだろうか。

 

 ボク達が話している間にも、映像の中では【DNA改造手術】の影響で、【ブローバック・ドラゴン】の種族が改変されている。

 その様子を眺めながら、ヨウカちゃんは強気に言い放つ。

 

 

 

「── 何を召喚したところで、【DNA改造手術】と【虫除けバリアー】のコンボの前には無力よ!」

 

「関係ねぇよ。このターンで、てめぇのコンボを打ち砕くんだからな!」

 

「なっ……なんですって!?」

 

「手札から魔法発動! 【トランスターン】! 【ブローバック・ドラゴン】を墓地に送り、こいつよりレベルが1つ高いモンスターを、デッキから特殊召喚する!」

 

「【ブローバック】はレベル6……まさかっ!」

 

「出やがれっ! レベル7・【リボルバー・ドラゴン】!!」

 

 

 

【リボルバー・ドラゴン】 攻撃力 2600

 

 

 

 ついに来た! 九頭竜くんのエースモンスター! アレが3体並んで出てきた時は、心が折れそうになったよ。

 

 なるほど。墓地から復活させるんじゃなくて、デッキから新しく『2体目』を召喚してしまえば、効果は使えるし除外もされない。

 さすがはIQ(アイキュー)200。考えたね……!

 

 だけど【リボルバー・ドラゴン】も例に漏れず、【DNA改造手術】によって、光沢を帯びた黒くてカッコいいメタルボディが(いびつ)な音をたてながら、昆虫の様相に変容させられる。

 

 インセクト・コンボを打ち砕くと豪語していたけど、一体どうするつもりなんだろう?

 

 

 

「永続(トラップ)・【銃砲撃(ガン・キャノン・ショット)】発動! さらに【リボルバー・ドラゴン】の効果! 『ロシアン・ルーレット』!」

 

 

 

 【リボルバー・ドラゴン】の頭部と両肩に備わる3機の銃砲のシリンダーが、高速で回転を始める。

 あの弾倉に6つ空いた穴の1つにだけ、弾丸が込められている。それが銃口の位置で停止したら、発砲されるという寸法だ。危ないので()い子は()()しないでね。

 

 やがてルーレットは止まり……カチッと、固い音が── 2つ。

 

 

 

「2つのルーレットが的中! HITだ! 【インセクト・プリンセス】を破壊ッ!」

 

「!!」

 

 

 

 【リボルバー・ドラゴン】の頭の主砲と右肩の副砲が同時に引き金を引く。

 

 爆音の銃声を奏でながら撃ち放たれた2発の銃弾に、【インセクト・プリンセス】が被弾した。

 

 

 

「くぅ……やってくれるわね……!」

 

「まだだ! 【銃砲撃(ガン・キャノン・ショット)】の効果発動! 1ターンに一度、3つの効果の中から、コイントスで表が出た数に応じて効果を適用する! 今の【リボルバー・ドラゴン】の効果で出た表の数は、2回。よって適用される効果は2つだ!」

 

「!」

 

「まず1つ目! てめぇに500ポイントのダメージを与える!」

 

「くっ!」

 

 

 

 蝶ヶ咲 LP 4000 → 3500

 

 

 

「そして2つ目の効果は……相手フィールドのカードを1枚破壊だっ!!」

 

「!?」

 

(しまった、【改造手術】が……!)

 

 

 

 【DNA改造手術】が破壊された事で、九頭竜くんのモンスターの種族は、元の機械族に戻る。

 

 

 

「これで()(ざわ)りな【虫除けバリアー】を突破できるぜ」

 

「くっ……」

 

「バトルだ! 【リボルバー・ドラゴン】でダイレクトアタック!」

 

 

 

- ガン・キャノン・ショット!! -

 

 

 

 次は全ての銃身がヨウカちゃんに砲口を向け、連続で射撃した。

 

 

 

「がはっ……!!」

 

 

 

 撃ち抜かれたヨウカちゃんは倒れはしなかったけど、美麗な顔を苦悶に(ゆが)めた。

 

 

 

 蝶ヶ咲 LP 3500 → 900

 

 

 

「ターンエンドだ!」

 

『形勢逆転ーッ!! 九頭竜選手、見事な戦術(タクティクス)で蝶ヶ咲選手のロックを破り、ついに大ダメージを与え、ライフの差で僅かにリードしたァーッ! ここからが学園最強の本領発揮だと言わんばかりの、()(とう)の反転攻勢だァァーッ!!』

 

「っ……あそこから盛り返すなんて、ヤるじゃないキョーゴちゃん……! アタシのターン、ドロー!」

 

(──! フフッ……来た!)

 

「魔法発動、【命の水】! アタシの場にモンスターがいない時、墓地のモンスターを攻撃表示で特殊召喚するわ! 【インセクト・プリンセス】を復活!」

 

 

 

【インセクト・プリンセス】 攻撃力 1900

 

 

 

(より攻撃力の(たけ)ぇ【インセクト女王(クイーン)】じゃなく、こいつだと? 野郎、何を考えてやがる……?)

 

「アタシもキョーゴちゃんのマネっこさせてもらうわね。── チュッ♡」

 

 

 

 ヨウカちゃんは最後の手札に、軽く()れるだけのキスを落とすと、そのカードをディスクの魔法・(トラップ)ゾーンに差し込んだ。

 

 

 

魔法(マジック)カード・【()()】! 【インセクト・プリンセス】をリリースし、レベルの1つ高い昆虫族モンスターを、デッキから特殊召喚するわ!」

 

「なんだとっ!?」

 

「現れなさい! レベル7・【究極変異態・インセクト女王(クイーン)】!!」

 

 

 

【究極変異態・インセクト女王(クイーン)】 攻撃力 2800

 

 

 

 九頭竜くんと似た方法で、ヨウカちゃんの真の切り札が召喚された……!

 

 

 

「【リボルバー・ドラゴン】を攻撃! 『クイーンズ・ヘル・バースト』!!」

 

 

 

 変態女王の放った怪光線を浴びて、【リボルバー・ドラゴン】は消滅。爆煙が九頭竜くんのフィールドを覆い尽くした。

 

 

 

「……ッ!」

 

 

 

 九頭竜 LP 1050 → 850

 

 

 

「ウフフフッ、【リボルバー・ドラゴン】撃破ッ! 勝負は見えたわね、キョーゴちゃん!」

 

『なっ、なんてことだァーッ!! ここに来て、エースモンスターを失ってしまうとは! 九頭竜選手、もはやこれまでか──……って、んん?』

 

「……あら?」

 

 

 

 ヨウカちゃんとマック伊東さん、そして別室のボク達は、有り得ないものを目撃した。

 

 濛々(もうもう)と立ち込める煙の中に── 【リボルバー・ドラゴン】と思わしきシルエットが浮かび上がってきたんだ。

 

 

 

「なっ……ウソでしょ!? 確かに破壊した筈……── っ!?」

 

(いえ、違う! アレは【リボルバー・ドラゴン】じゃないわ! 一体……!?)

 

「……見せてやるよ。こいつが俺のデッキの真打ち……」

 

 

 

 煙は次第に晴れていき、影の正体を(さら)け出す。

 

 それは── 【リボルバー・ドラゴン】がフォルムを変形させたかの様な威容のマシン・ドラゴンだった。

 

 

 

「── 【デスペラード・リボルバー・ドラゴン】だッ!!」

 

 

 

【デスペラード・リボルバー・ドラゴン】 攻撃力 2600

 

 

 

「これは……【リボルバー・ドラゴン】の進化形!?」

 

「こいつは自分フィールドの闇属性・機械族モンスターが破壊された場合、手札から特殊召喚できる! そしてモンスター効果、発動! 『ロシアン・ルーレット』!! バトルフェイズ中に一度だけだが、HITした回数まで表側表示のモンスターを破壊するぜ!」

 

 

 

 回転する3つのシリンダー。

 

 数秒後、全てのルーレットが止まり── 頭部のシリンダーからガチッと音が鳴った。

 

 

 

「── HITだ。やっぱよ、虫は好かねぇ」

 

 

 

 撃ち出された弾丸は【究極変異態・インセクト女王(クイーン)】の胴体を貫通し、風穴を開けた。

 

 

 

「ア、アタシの女王(クイーン)が……!」

 

「さらに【銃砲撃(ガン・キャノン・ショット)】の効果で500のダメージ!」

 

「っ!!」

 

 

 

 蝶ヶ咲 LP 900 → 400

 

 

 

「終わりだ蝶ヶ咲。── 俺のターンの攻撃!!」

 

 

 

- ガン・キャノン・フルバースト!! -

 

 

 

(そんなバカな、ここまで来て……このアタシが負けるなんてっ!?)

 

 

 

 砲弾サイズの巨大な鉛弾(なまりだま)が3発。全弾命中したヨウカちゃんのライフは、風に飛ばされた花びらの様に、(はかな)く散った。

 

 

 

 蝶ヶ咲 LP 0

 

 

 

「思い知ったか……俺が最強だッ!!」

 

『け……決着ゥゥーーーッ!! ウィナー・九頭竜 響吾!! 一時は()()評に反して劣勢に立たされた九頭竜選手だったが、()(たん)()で学園最強の意地を見せつけ、勝利をもぎ取ったァァーッ!!』

 

 

 

 劇的な逆転勝利に観客は大喝采を起こした。

 ……正直に言うと、カナメと九頭竜くんの決闘(デュエル)も見てみたいと思ってたから、彼が勝って安心した自分がいる。

 

 

 

「……フゥ……完敗、ね……美しい逆転劇だったわ、キョーゴちゃん」

 

「………」

 

 

 

 ヨウカちゃんが握手を求めて手を差し出すも、九頭竜くんはそれに応じず、彼に背中を向けた。

 

 

 

「……礼は言わねぇぞ」

 

「え?」

 

 

 

 そのまま九頭竜くんは、一足(ひとあし)先に舞台から引き上げていった。

 

 

 

「……フフッ、アタシは何も言ってないのに……。全く、素直じゃないんだから♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~、スゴかったね九頭竜くん」

 

 

 

 パチパチと拍手しながら、ボクは試合の感想を簡潔に述べる。

 

 あそこまで頭に血が(のぼ)っていたにも関わらず、後半から一気に追い上げて、反撃を物ともせず押し切ったのは圧巻の一言に尽きた。

 

 

 

「……さて、次はいよいよ私達の番ね、セツナ」

 

 

 

 そう言って、アマネはボクと目を合わせた。

 彼女の溢れんばかりの戦意を宿した紅い瞳が、ギラついた視線でボクを()()いた。

 

 

 

「……そうだね、待ちくたびれたよ」

 

 

 

 アマネの剥き出しの闘志を受け止めた事でボクもスイッチが入ったのか、心が(いさ)(ふる)うのを感じる。

 

 今日は昼休憩が無くて良かった。あんな熱い決闘(デュエル)を観た後で1時間もお預けされてたら、せっかく点火した熱意が冷めちゃうからね。

 

 

 

「負けないわよ」

 

「こっちこそ」

 

 

 

 互いに勝ち気な笑みを見せ、短い会話を交わす。

 

 決闘者(デュエリスト)の闘争本能ってヤツだろうか。早くアマネと最高の決闘(デュエル)を楽しみたくてウズウズしてきた。

 (はや)る気持ちを抑えながら、ボク達は静かに、『その時』が来るのを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ── 会場を後にした九頭竜は、一直線に伸びた長い通路を一人歩いていた。

 

 

 

(ずいぶん手間取っちまったが……ようやく追いついたぜ鷹山。覚悟してやがれ!)

 

 

 

 途中で差し掛かった横に抜ける分かれ道を無視して、真っ直ぐ通過しようとした、その時──

 

 

 

「お前なら必ず勝つと思っていたよ」

 

「!」

 

 

 

 突然かけられた声に引かれて、分かれ道の方へ振り向くと、九頭竜にとっての因縁(いんねん)の相手である黒髪・碧眼(へきがん)の青年── 鷹山(ヨウザン) (カナメ)が、壁を背にして、そこに立っていた。

 

 

 

「……鷹山……まだ居やがったのか、てめぇ」

 

「見事な決闘(デュエル)だったぞ、九頭竜」

 

「……うるせぇ。てめぇに誉められたところで、嬉しくもなんともねぇよ」

 

「そうか? ……まぁ無理もないか。お前は俺に勝たなければ、名実ともに『最強』を証明できないんだからな」

 

「………」

 

「分かっているんだろう? お前は、俺とは別の意味で『学園最強』と呼ばれているが……俺がいる限り実質的にはナンバー(ツー)でしかないというのが、世間の大半の認識だ。そんな目の上のコブである俺に誉められても、素直に喜べな──」

 

 

 

 カナメの言葉は、着ている制服の胸ぐらを、九頭竜に掴まれた事で(さえぎ)られた。

 

 

 

「……珍しくよく喋るじゃねぇかよ、あぁ?」

 

「………」

 

 

 

 力任せに引き寄せられ、至近距離で凄まれる。

 常人なら目を白黒させて(しか)るべきだが、カナメは眉ひとつ動かさず、全てを見透かすかの様な澄み切った青い瞳で、自分より10センチばかり背の高い九頭竜の相貌(そうぼう)を見上げている。その視線に揺らぎは()(じん)も無い。

 

 それが九頭竜を、さらに(イラ)()たせた。

 

 

 

「てめぇ……どこまで俺を()()に見やがる気だ……っ!!」

 

「勘違いしている様だな。俺はお前を下に見た事など一度も無い。そう思い込むのは、まだお前が俺に勝てていないからじゃないか?」

 

「──ッ!!」

 

 

 

 いよいよ九頭竜の空いている拳に力が(こも)る。このスカした(ツラ)を今すぐ殴りつけてやりたいという衝動が沸き起こった。

 

 しかし……それが愚行である事など、九頭竜とて百も承知。

 

 

 

(……チッ)

 

 

 

 (ゆえ)に爆発しそうな怒りを抑え込み、舌打ちさえ心の中に(とど)め、九頭竜はカナメの胸ぐらから手を離した。

 

 そして代わりに── 凶暴な笑みを顔に張り付ける。

 

 

 

「ハッ! わざわざ俺にケンカ売る為に居残ってたのかよ? ずいぶんとヒマなんだなぁ、学園〝最凶〟」

 

 

 

 皮肉めいた放言(ほうげん)を返し、カナメの横を通り過ぎる。

 

 

 

「上等だ鷹山。首を洗って待ってやがれ……今度こそてめぇを撃ち殺して、俺の『最強』をこの街に知らしめてやるよ」

 

 

 

 振り返らず、歩を進めながら宣戦布告をし、九頭竜は通路の奥へと消えていった。

 

 一人その場に残されたカナメは、乱れた襟元(えりもと)を直すと微笑みを(たた)え──

 

 

 

(たの)しみにしているぞ、九頭竜」

 

 

 

 ()()に迫った、この大会で最も待望していた好敵手(こうてきしゅ)との決戦に(ひそ)かに胸を踊らせ、独り言を呟いた。

 

 

 

 





 【置換融合】が在ってくれたおかげで、書きたいイメージ通りのデュエルシーンが書けました。
 ありがとう【置換融合】、ありがとう、コナミ神( ;人;)

 久々に熱いデュエルが書けた気がします。遊戯王で個人的に一番好きなのが逆転劇なので楽しく執筆できました。

 そしてお気づきの方もいたかも知れませんが、今回は原作14巻の『遊戯 vs 孔雀 舞』戦をオマージュしました。
 九頭竜は使用カードからしてキースっぽくなってますけどね(笑) 遊戯王Rのキースのセリフまで言ってますし。

 次回はセツナ vs アマネ。トーナメント2回戦では一番書くのが楽しみだったので、気合いが入ります!


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TURN - 46 A Rival Appears! - 1


 やっと主人公とヒロインのガチのデュエル回です!

 え? ヒロインはルイくんじゃないのかって? 何の事だ、まるで意味がry



 

 ── 数ヶ月前。

 

 

 

「セツナはどうして選抜試験に出る事にしたの?」

 

「えっ?」

 

 

 

 学園の食堂でランチを楽しんでいたら、アマネが(やぶ)から棒にそんな事を()いてきた。

 

 

 

「いや、誘ったのは私なんだけどさ……。セツナの一番の望みは『平穏に暮らすこと』なんでしょ? なのによく参加する気になったなって。……そんなに鷹山(ヨウザン)に負けたのが悔しかった?」

 

「あー……うん」

 

 

 

 ハンバーグを(ひと)切れ食べて飲み込んだ後、フォークを皿の上に置いて、ボクは口を開く。

 

 

 

「それもあるけど、一番は……『面白そうだから』、かな?」

 

 

 

 明るい笑顔でボクが答えると、アマネは()()かキョトンとした。

 

 

 

「……アマネ?」

 

「あ、ううん、何でもない。……まぁ、そんな事だろうなとは思ってたわ。そもそもジャルダン(この街)に来る時点で、あんたも私達と同じで、()()()()()()()なのよ」

 

「ボクは面倒事は嫌いだけど、お祭りとか、楽しそうなイベントは好きだからね~。……あとは、まぁ……『期待』かな?」

 

「期待?」

 

「そう、ちょっとした期待。……まっ、それは別に良いんだ。── ごちそうさま」

 

 

 

 しっかり完食して手を合わせてから、ボクはトレーを持って席を立つ。

 

 

 

「えっ、ちょっと何よそれ。気になるじゃない」

 

「ごめんごめん、こっちの話だから。……聞かなかった事にして?」

 

「……?」

 

 

 

 危ない危ない。やっぱりアマネの前だと、つい余計な事を口走(くちばし)っちゃいそうになっていけないね。

 

 ── 決して誰にも話さないと誓った筈の、ボクの過去の事を……

 

 

 

(……両親がボクを見つけてくれるかも知れないから、なんて……アマネに話す事じゃないよね……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「── 総角(アゲマキ)選手、黒雲(くろくも)選手。入場口に移動してください」

 

「お、やっとだね」

 

 

 

 控え室で待機していたボクとアマネを係員さんが呼びに来た。たかが数分の待ち時間が、えらい長く感じたよ。

 

 

 

「じゃ、行こっか。アマネ」

 

「えぇ」

 

「お二人とも頑張ってねぇ~」

 

 

 

 マキちゃんのエールに手を振って応え、ボクはアマネと一緒に部屋を出た。

 

 ── 会場を目指して通路を歩いている最中、ふと、アマネが話し始める。

 

 

 

「……セツナ、私は私の夢の為にも、この大会で何としても結果を出す。容赦(ようしゃ)はしないから覚悟してなさい」

 

「夢……」

 

(そうか、アマネの夢はプロになること……)

 

 

 

 そこでボクの心に迷いが生じ、足が止まった。

 2、3歩ほど前進したアマネも立ち止まり、不思議そうな顔でボクの方に振り返る。

 

 

 

「セツナ?」

 

(……もし、ボクが勝ったとしたら……アマネの夢を潰す事になるんじゃないか……?)

 

 

 

 ボクがこの選抜デュエル大会に参戦した動機は、何となく楽しそうだなって言う好奇心と、カナメにリベンジするのにちょうどいい機会かもって思ったから。── それだけだ。

 

 あとは()いて言えば……ボク個人の、ささやかな『期待』。

 

 言ってしまえば、ただの自己満足なんだ。アマネのこの大会に懸ける想いの重さとは、比ぶべくもない。

 

 そんなボクがアマネの……友達の夢を邪魔する様な事をしていいのか……いや、普通に考えれば、いいわけがない。

 

 そう思ったら、どうしたらいいか分からなくなってきた……

 

 

 

「……セツナ」

 

 

 

 アマネに呼び掛けられ、ハッと我に帰る。

 

 

 

「あ、ごめん……えっと……」

 

 

 

 何を言ったら良いものか悩んでいる時だった。アマネが間近に歩み寄るや否や──

 

 ボクにデコピンしてきた。

 

 

 

「あ(いた)っ!?」

 

 

 

 ジンジン痛む(ひたい)を両手で抑えながら、ボクは抗議の声を上げる。

 

 

 

「な、何すんのさ急に~っ!?」

 

「あんた今、つまんないこと考えたでしょ?」

 

「……え?」

 

「大方、自分が勝ったら私に悪いかも、とか思ったんじゃない?」

 

「うっ……よ、よく分かったね……エスパー?」

 

「それくらい半年も友達やってたら察しはつくわよ。……ハァ……私も見くびられたものね。あんたを焚き付けようと思って(タン)()切ったのに、(かた)()かしだわ」

 

 

 

 ビシッとボクを指さして、アマネは続けた。

 

 

 

「安心しなさいセツナ。今日の決闘(デュエル)は絶対に私が勝つんだから!」

 

「……!」

 

「だいたいね、今の私はあんただけじゃなく、九頭竜(くずりゅう)や鷹山にだって勝てる自信があるのよ。変に気を遣う余裕なんて与えないから、余計な心配しないで。……手ぇ抜いたりしたら許さないわよ」

 

 

 

 ハッキリと言い切るアマネに、ボクは驚いて目を見開く。

 あの自信に満ち(あふ)れた表情……()()えと輝く(あざ)やかな赤色の(まな)()しは、彼女の言葉がハッタリではないと証明していた。それほどの(ちから)を、今のアマネはつけてきているって事か……

 

 

 

「……そうだね……」

 

 

 

 カナメには(おお)()くんとの試合で手を抜いた事に文句を言ったくせに、自分がアマネに遠慮して、全力を出すのを躊躇(ためら)うだなんて……間違ってた。

 

 

 

「ありがとうアマネ。おかげで腹が決まったよ」

 

「……良い顔に戻ったわね、その意気よ」

 

(そうよセツナ。あなたの決闘者(デュエリスト)としての百パーセントの力! そして最大限の誇りを賭けてもらわなきゃ……私が()()()()勝つ意味がないもの!)

 

「でも顔に傷つけるのは()めてほしかったかなぁ……」

 

「大丈夫よ、ちゃんと前髪で隠れるとこに当てたから」

 

「そ、そういう問題?」

 

 

 

 談笑しながら歩いてる内に、気づけば別々の入場口に向かう分岐点へと到着した。

 

 

 

「じゃあ、また後でね」

 

「えぇ」

 

 

 

 一言(ひとこと)だけのあっさりとしたやり取りを最後に、ここで一旦ボク達は二手に別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして──

 

 セツナとアマネが退室した後、控え室に残された()(づき) マキノは、退屈を(まぎ)らわそうと、ソファーを寝床にしている灰色の髪の青年・狼城(ろうじょう) (アキラ)に話しかける。

 

 

 

「あーあ~、とうとう二人っきりになっちゃいましたね、狼城センパイ。ヒマだなぁ~」

 

「そうか? オレぁやっと静かになって落ち着くぜ」

 

「……ねぇねぇ、センパイ。センパイはセツナくんとアマネたん、どっちが勝つと思います?」

 

「ん~? ……そうだなぁ……どっちかと言やぁ、セツナ君だな」

 

「ほうほう」

 

「そう言うお嬢ちゃんはよ?」

 

「あたしはアマネたんに1票!」

 

「へぇ? まっ、ベンジャミンに勝つぐれぇだし? あの姉ちゃんも相当やるみてーだけどよ……オレの見立てじゃ、ポテンシャルはセツナ君のが上だぜ?」

 

「フッフッフ~。センパイは、アマネたんの『本性』を知らんのですよ」

 

「本性?」

 

「この決闘(デュエル)で見れると良いですね~」

 

(さぁ~て……セツナくんはアマネたんの隠された本性を引き出せるかなぁ~?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『早くも本日のトーナメントは後半戦に突入ッ!! 残り2試合も、みんなの決闘(デュエル)を愛する気持ちを込めて、目一杯盛り上げていこうぜェェーッ!!』

 

「「「 おおおおおぉぉぉぉっっっ!!!! 」」」

 

 

 

 決闘(デュエル)を愛する気持ちか……。良いこと言うね、マック伊東さん。

 

 入場口の手前でお呼び出しを待つボクは今一度、深呼吸をしてコンセントレーションを整えた。

 

 

 

『さぁ! 観客の熱き視線が集まる中、一人目の選手の登場だ! 飛ぶ鳥を落とす勢いで快進撃を続ける新進気鋭のダークホース! 2年・総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)ァァーッ!!』

 

 

 

 おっと、まずはボクからか。

 場内に足を踏み入れると、歓声と拍手がボクの全身を叩く様に降り注いだ。

 2回目なら慣れるかと思ってたけど……うん、普通に緊張するね。

 

 ボクが決闘(デュエル)フィールドに立ったタイミングで、再びマック伊東さんの大声が響く。

 

 

 

『そして二人目の選手は、そのアゲマキ選手のクラスメート! ランク・Bながら1回戦では十傑(じっけつ)に勝利! 確かな強さと美貌を兼ね備えた()(だか)き美少女決闘者(デュエリスト)! 2年・黒雲(くろくも) (アマ)()ェェーッ!!』

 

 

 

 前方の最奥(さいおう)に見えるゲートから、アマネがこちらに歩いてくる。

 

 舞台に上がり数分ぶりにボクと対面すると、赤色のメッシュを刻み込んだ黒い長髪を、手でなだらかに払った。その(うるわ)しい仕草に客席が沸く。

 

 

 

「……待たせたわね、セツナ。ようやく私の本当のデッキで、あなたと闘える」

 

「うん、ボクもずっと楽しみにしてた。ワクワクして試合開始が待ちきれないよ」

 

 

 

 ……スゴい気迫だねアマネ。肌がビリビリするよ。

 

 ボクも彼女も気合いは充分。いつでも準備オーケーだ。

 開戦のゴングが鳴るのを、今か今かと待ち兼ねている。

 

 この数ヶ月間、ボクとアマネは良き()()として、そして良きライバルとして、しのぎを削ってきた。

 

 今こそ、その集大成を思う存分ぶつけ合う時だ!!

 

 

 

『両選手から(ほとばし)る熱気が、実況席にいる私の元まで届いているぞ! これは(こう)試合(ゲーム)が期待できそうだ! ── アリーナ・カップ2回戦・第3試合! 総角 刹那 vs 黒雲 雨音!! それでは皆さん、ご唱和ください! イィ~~~ッツ! タイム・トゥ──』

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 アマネ LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「私の先攻!」

 

(……セツナ、この大会であなたに勝つ事が、私の目標の1つだった……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ── 総角 刹那と初めて会った時から、黒雲 雨音は気づいていた。

 

 

 

(……強いわね、この人。ただ者じゃないわ)

 

 

 

 アマネほどの実力者ともなれば、一目見るだけでも相手の力量はおおよそ推察(すいさつ)できる。

 

 一見(いっけん)チャラチャラしていて、女にだらしのないひょうきん者だが……

 その実、『本物の強者(きょうしゃ)』のみが(まと)える、特有の空気を(かも)し出している。

 

 セツナが九頭竜との決闘(デュエル)で追い詰められた時、声を大にして激励したのは、彼の力の底が見たいという想いからだった。

 

 そして── セツナは本当に、あの九頭竜 響吾(キョウゴ)に勝ってしまった。

 

 運に助けられた部分もあるだろうし、九頭竜がセツナを(あなど)っていたとは言え……それまで鷹山 (カナメ)以外には負けなしだった、〝学園最強〟の決闘者(デュエリスト)を倒したセツナを見て……アマネは驚愕と同時に確信した。

 

 

 

(セツナは……私に無いものを持っている……。── 天性の素質を……!)

 

 

 

 言うなれば、セツナは九頭竜やカナメを始めとした、『十傑』ランクの生徒と同じ……『天才』の領域に居る決闘者(デュエリスト)なのだ。

 

 まず間違いなく、来年には十傑の座に就いている事だろう。そう思わせるほどの才覚を秘めている。

 

 この時アマネの中で、セツナに対する燃え(たぎ)る様なライバル心が()()えた。

 

 セツナに自分の全力をぶつけて、勝ちたい。

 彼を越える事ができれば自分は……──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……いいえ、勝ちたいじゃないわ……。── 私はセツナに勝つ!! そうすれば私は決闘者(デュエリスト)として、さらなる高みに(のぼ)る事ができる!!)

 

「行くわよセツナ!」

 

「来いアマネ!」

 

 

 

 さぁーて、どう来るかな。

 

 アマネとは(いく)()となく対戦してるけど、【ヴァンパイア】デッキと()るのは初めてだ。

 

 加えてボクの手の内は、恐らくほぼ全て知り尽くされてる。

 厳しい闘いになりそうだね……

 

 

 

(でもボクの手札には早速【ラビードラゴン】が来てくれてる。このカードを出せれば……)

 

「まずは1枚伏せる!」

 

「── ! いきなり伏せカード……!」

 

「そして、私はこのターンで、()(ほう)カードを使うわ」

 

「魔法カード?」

 

「そのカードは……── 【手札抹殺(まっさつ)】!」

 

(なっ……【手札抹殺】!?)

 

「プレイヤーは全ての手札を捨てる! あんたもよ、セツナ!」

 

 

 

 手札を捨てる……

 【ラビードラゴン】を……捨てるっ!?

 

 

 

(ガーーーーーン!?)

 

「フフッ、その()()を見るに、よっぽど良いカードを持ってたみたいね」

 

「うぐっ……!」

 

「当ててみようかしら? 【ラビードラゴン】でしょ」

 

「……大正解。やっぱりエスパーなんじゃないの、アマネって」

 

 

 

 アマネは手札を3枚捨て、3枚ドロー。

 ボクは5枚捨て、5枚ドローする。

 

 

 

「まだ私のターンは終わってないわ! 伏せカード・オープン! 魔法カード・【死者蘇生】!」

 

「!」

 

「墓地から【ヴァンパイア・スカージレット】を特殊召喚!!」

 

 

 

 中世ヨーロッパの貴族の様な衣装(いしょう)を着こなした、銀髪のハンサムな紳士が現れた。手には赤い宝玉を装飾した、1本の杖を握っている。

 

 

 

【ヴァンパイア・スカージレット】 攻撃力 2200

 

 

 

「【スカージレット】の効果発動! このモンスターを召喚・特殊召喚した場合、ライフを1000払い、墓地の【ヴァンパイア】を特殊召喚する!」

 

 

 

 アマネ LP 4000 → 3000

 

 

 

「私が特殊召喚するのは── 【ヴァンパイア・ロード】!!」

 

 

 

 続けて召喚されたのは、黒いマントと水色の髪がトレードマークの吸血鬼。

 

 

 

【ヴァンパイア・ロード】 攻撃力 2000

 

 

 

「ただし、この効果で特殊召喚したモンスターは、このターン戦闘(バトル)できないわ」

 

 

 

 そもそも1ターン目にバトルはできない……

 やるね、デメリットを上手いこと()けてきた。

 

 

 

「さらに! 墓地の【ヴァンパイア・グレイス】の効果発動! アンデット族モンスターの効果で、自分フィールドにレベル5以上のアンデット族が特殊召喚された時、2000ポイントのライフを払い、墓地から自身を特殊召喚する!」

 

 

 

 アマネ LP 3000 → 1000

 

 

 

「現れなさい! 【ヴァンパイア・グレイス】!」

 

 

 

【ヴァンパイア・グレイス】 攻撃力 2000

 

 

 

 3体目の吸血鬼は豪奢(ごうしゃ)な王冠とドレスで着飾った、お年を召されている貴婦人。

 左手に赤ワインが注がれたグラスを持ち、右手には【ヴァンパイア・スカージレット】の物とは異なる形状の、赤くて丸い宝石を付けた杖を携えている。

 

 

 

『黒雲選手、先攻1ターン目から攻撃力2000以上の上級モンスターを3体も並べてきたァーッ!!』

 

「私はカードを1枚伏せる」

 

「上級モンスター3体に、伏せカードか……盤石の態勢だね……!」

 

「これぐらいで驚くようじゃ、まだまだね。まだ次の手があるわ!」

 

「っ!」

 

「【ヴァンパイア・グレイス】の効果! 1ターンに一度、私が宣言した種類のカードを1枚、相手はデッキから墓地へ送る! (トラップ)カードを墓地に送ってもらおうかしら」

 

「……了解だよ」

 

 

 

 デュエルディスクのタッチパネルを指で操作し、画面に映るデッキの中のカードを、1枚1枚スライドさせる。

 

 どれにしようかな……よし、これだ!

 

 

 

「ボクは【スキル・サクセサー】を墓地に送るよ」

 

(墓地でも効果を使える(トラップ)か……面倒なのを落とされたわね)

 

「まぁいいわ。私は手札から魔法カード・【至高の木の実(スプレマシー・ベリー)】を発動! 自分のライフが相手より少ない時、2000ポイント回復する!」

 

 

 

 アマネ LP 1000 → 3000

 

 

 

「これで私はターンを終了するわ」

 

『黒雲選手、抜け目ない! 万全の布陣を敷き、代償として失ったライフも回復して、相手を迎え撃つ準備は万端だ! さぁ、アゲマキ選手はどう打って出るのか!?』

 

 

 

 ……自分のデッキの弱点を把握して、(おぎな)う手段を用意してる。今さらながら、アマネはデッキの組み方が本当に上手い。

 

 

 

「ボクのターン、ドロー!」

 

(……今の手札じゃアマネのモンスターには敵わない……ここはひとまず、守備に徹するとしよう)

 

「ボクはモンスターをセット! そしてカードを2枚伏せる! これでターン(エン)──」

 

「この瞬間! (トラップ)カード発動!」

 

「っ!? このタイミングで!?」

 

「永続(トラップ)・【血の沼地】!」

 

 

 

 ボクの伏せたリバースカード2枚が、血の海……いや、沼の底に沈んでしまった!

 

 

 

「グロっ!?」

 

 

 

 良いのこんなのテレビに映して!? 子供が観たら泣くよ!?

 

 

 

「これでその2枚の伏せカードは、2ターンの間、使い物にならなくなったわ」

 

「くっ……」

 

「私のターン!」

 

(セツナのプレイングは予測不可能。動きを()めてる今の内に、速攻で決める!)

 

「バトル! 【ヴァンパイア・スカージレット】で、守備モンスターを攻撃!」

 

 

 

 【スカージレット】が杖を振ると先端の宝玉から光線が放たれ、ボクの裏守備モンスターに炸裂した。

 

 

 

『ああっと! アゲマキ選手を守る唯一のモンスターが消えてしまったァーッ! しかも黒雲選手の場には、まだ攻撃力2000のモンスターが2体! その上、アゲマキ選手の伏せカードは発動を封じられ、攻撃を止める手立てが無い! 2体の直接攻撃(ダイレクトアタック)が通ったら終わりだぞぉーっ!?』

 

「……もっと楽しめるかと思ったけど……所詮、あんたもここまでね」

 

「…………それはどうかな?」

 

「── !?」

 

 

 

 ボクのフィールドに()()からともなく、剣と盾を装備した二足歩行の竜の軍隊が出現した。

 

 

 

軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】 守備力 800

 

 

 

「なっ……【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】!?」

 

「そう。さっき君が倒した【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】の効果で、デッキから仲間を呼んだのさ」

 

「チッ……相変わらず、人の予想の(なな)め上を行く奴ね……!」

 

「そんなに焦らないでよ、アマネ。まだ決闘(デュエル)は始まったばかりだよ?」

 

「……フフッ、そうね」

 

(あんたの敗北へのカウントダウンもね……)

 

「【ヴァンパイア・ロード】で【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】を攻撃! 『暗黒の使徒』!」

 

 

 

 【ヴァンパイア・ロード】はマントの中からコウモリを大量に放ち、【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】を襲わせた。

 

 

 

「っ! ── 破壊された【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】の効果で、デッキから3体目の【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】を特殊召喚!」

 

 

 

軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】 守備力 800

 

 

 

「【ヴァンパイア・グレイス】で攻撃!」

 

 

 

 最後の【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】まで破壊されたけど、どうにか無傷で乗り切れた。

 危ないところだった……【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】がいてくれなかったら、本当にこのターンで終わってたよ。

 

 

 

「バトル終了。── そして【スカージレット】の効果発動!」

 

「!」

 

「このモンスターがバトルで破壊したモンスターを、可能な限り私のフィールドに特殊召喚する!」

 

「なんだって!?」

 

「あんたの【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】は頂くわ!」

 

 

 

軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】 守備力 800

 

 

 

 アマネの元に【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】が復活し、彼女の前に(ひざまず)いた。

 そしてアマネが妖しく微笑んで差し伸べた手を隊員の1体が取り、(こうべ)を垂れる。

 ボ、ボクのドラゴンがアマネに寝返っちゃった……!

 

 

 

「これでセツナのモンスターは、【ヴァンパイア】の忠実な(しもべ)となったわ。ターンエンドよ」

 

(【グレイス】の効果は【ヴァンパイア帝国(エンパイア)】も無い現状じゃ、無理に使う必要はないわね。また厄介なカードを墓地に送られても困るし)

 

「ボクのターン!」

 

(!)

 

「……フフ、いつまでも防戦一方じゃ、カッコつかないよね」

 

「!!」

 

 

 

 ちょっと早いけど、ボクは掛けている赤メガネを外して裸眼を(さら)す。

 

 

 

「……早いわね、もう本気モード?」

 

「もちろん。次はボクが攻めさせてもらうよ!」

 

「── ! ……望むところよ、どっからでもかかってきなさい!」

 

 

 

 アマネは夢とプライドを賭けて、全力でこの決闘(デュエル)に臨んでいる。

 

 だからボクも、一人の決闘者(デュエリスト)としてアマネに敬意を(ひょう)し、全身全霊を(もっ)て、彼女の闘志にしっかり応えないとね!

 

 【血の沼地】の効果で、ボクがセットした伏せカードは次のターンまで使えない……

 

 でも、手札から新たに発動するカードは別だ!

 

 

 

「ボクは手札から魔法(マジック)カード・【二重召喚(デュアルサモン)】を発動! そして【ミンゲイドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 400

 

 

 

(【ミンゲイドラゴン】に【二重召喚(デュアルサモン)】……来るわね!)

 

「さらに【ミンゲイドラゴン】を2体分としてリリース! 【ホーリー・ナイト・ドラゴン】を、アドバンス召喚!!」

 

 

 

 ライトパープルの体躯を(きら)めかせる威光を放ちながら、神聖な竜が吸血鬼達の前に舞い降りる。

 

 

 

【ホーリー・ナイト・ドラゴン】 攻撃力 2500

 

 

 

「墓地の【スキル・サクセサー】を除外して、【ホーリー・ナイト】の攻撃力を800アップ!」

 

 

 

【ホーリー・ナイト・ドラゴン】 攻撃力 2500 + 800 = 3300

 

 

 

「攻撃力3300……!」

 

「バトル! 【ホーリー・ナイト】で【ヴァンパイア・ロード】を攻撃! 『シャイニング・ファイヤー・ブラスト』!!」

 

 

 

 触れた者を浄化する聖なる炎が、【ヴァンパイア・ロード】を一瞬にして焼き尽くした。

 

 

 

「くうっ!」

 

 

 

 アマネ LP 3000 → 1700

 

 

 

「ボクはカードを1枚伏せて、ターンエンド! 【ホーリー・ナイト】の攻撃力は元に戻る」

 

 

 

【ホーリー・ナイト・ドラゴン】 攻撃力 3300 → 2500

 

 

 

『アゲマキ選手、最上級ドラゴンを繰り出し、数の不利に攻撃力の高さで対抗ォーッ! 黒雲選手に傾きかけた勝負の流れを、イーブンに持ち直したァーッ!』

 

「そうこなくっちゃね……! 私のターン!」

 

(ッ! 良いところに来てくれたわ……!)

 

「このスタンバイフェイズで【血の沼地】は消滅するわ」

 

 

 

 血みどろの沼が徐々に消えていき、ボクの伏せカード3枚が浮上する。

 

 ほっとして胸を撫で下ろす。伏せカードが解禁されて安心したってのもあるけど、アレをずっと見てたら気分が悪くなりそうだったから、やっと無くなってくれて良かった……

 

 

 

「安心するのは早いわよセツナ」

 

「えっ……?」

 

「魔法発動! 【ヴァンパイア・デザイア】! 私のフィールドから【軍隊竜(アーミー・ドラゴン)】を墓地へ送り── よみがえりなさい! 【ヴァンパイア・ロード】!」

 

 

 

【ヴァンパイア・ロード】 攻撃力 2000

 

 

 

「あらら~っ、お早いお帰りで……」

 

「さらに【ヴァンパイア・ロード】を除外して、【ヴァンパイアジェネシス】を特殊召喚!!」

 

「!!」

 

 

 

 肌が紫色の筋骨隆々な巨人が現れる。今までの【ヴァンパイア】とは一線を(かく)す凶暴なビジュアルに、ボクは()()を覚えた。

 

 

 

【ヴァンパイアジェネシス】 攻撃力 3000

 

 

 

『黒雲選手も最上級モンスターを出して応戦してきたァァーッ!! 前半の十傑同士の決闘(デュエル)にも見劣りしない迫力と、高度なプレイングの応酬(おうしゅう)! この接戦を制するのは果たしてどちらなのかァァーッ!?』

 

「ここからが本番よ、セツナ!」

 

「………」

 

 

 

 攻撃力2500 対 3000か……

 

 

 

「良いね……面白くなってきた!」

 

 

 

 





 実は初手で軽く事故ってたアマネたん(ボソッ)

 しかし、それを感じさせないくらい堂々とした立ち回りができてこそプロ!


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TURN - 47 A Rival Appears! - 2


 セツナ vs アマネ ライバル対決、決着です!!



 

 ……空気が張り詰める。

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

【ホーリー・ナイト・ドラゴン】 攻撃力 2500

 

 

 

 アマネ LP(ライフポイント) 1700

 

【ヴァンパイアジェネシス】 攻撃力 3000

 

【ヴァンパイア・スカージレット】 攻撃力 2200

 

【ヴァンパイア・グレイス】 攻撃力 2000

 

 

 

『── アゲマキ選手と黒雲(くろくも)選手、双方のエースモンスターが(にら)み合い、フィールドには観客も(かた)()を飲むほどの緊迫感が漂っているッ!! 攻撃力では【ヴァンパイアジェネシス】が(まさ)っているが、アゲマキ選手は伏せカードを3枚もセットしている! 果たしてこのエース対決は、どのような結末を迎えるのかッ!?』

 

(セツナ……あなたという、一流の決闘者(デュエリスト)凌駕(りょうが)して、私は決闘者(デュエリスト)の高みへ登り詰めてみせる!)

 

 

 

 MCのマック伊東さんが実況してくれた通り、【ヴァンパイアジェネシス】の攻撃力は3000。ボクの【ホーリー・ナイト・ドラゴン】の攻撃力を上回っている。

 

 でも、ボクの場には伏せカードが3枚。不用意に攻撃は仕掛けられない筈……

 

 

 

(だけどきっとアマネなら……)

 

(……張ってるわね、(トラップ)を。私の手札に伏せカードを除去できるカードは無い……攻撃すべきか否か……)

 

「…………フッ」

 

 

 

 ── ! アマネが目を閉じて薄く笑った……

 

 

 

(何を迷う必要があるのかしら。リスクを恐れてたら勝てる決闘(デュエル)も勝てない……セツナなら、きっとそう言う筈よ。── ここで逃げるわけには行かない!!)

 

(っ! 来るっ!!)

 

「バトル!! 【ヴァンパイアジェネシス】で、【ホーリー・ナイト・ドラゴン】を攻撃!!」

 

 

 

 数秒の硬直を経てアマネが出した答えは、攻撃の決行だった。

 

 

 

「『ヘルビシャス・ブラッド』!!」

 

(──ッ! 消えたっ!?)

 

 

 

 【ヴァンパイアジェネシス】の姿が消え、瞬時に赤黒い奔流が押し寄せてきた。

 

 やっぱり(わな)を承知で踏み込んでくるか……!

 

 

 

「受けて立つよ、アマネ! リバースカード・オープン! (トラップ)カード・【聖なる(よろい) ミラー・メール】!」

 

「!?」

 

「【ホーリー・ナイト】の攻撃力を、【ヴァンパイアジェネシス】と同じにする!」

 

 

 

 【ホーリー・ナイト】の全身を、鏡張りのアーマーが包み込んだ。

 

 

 

【ホーリー・ナイト・ドラゴン】 攻撃力 2500 → 3000

 

 

 

「迎え撃て! 【ホーリー・ナイト・ドラゴン】!!」

 

 

 

- シャイニング・ファイヤー・ブラスト!! -

 

 

 

 迎撃(げいげき)の聖なる炎が血の激流と正面衝突。

 拮抗(きっこう)した力は激しい押し合いの末に相殺(そうさい)し、【ヴァンパイアジェネシス】と【ホーリー・ナイト・ドラゴン】を、同時に消し飛ばした。

 

 

 

『す、凄まじい衝撃だァァーッ!! 両者のモンスターが共に消滅ゥーッ!!』

 

「くっ……まさか同士討ちさせてくるなんて……!」

 

「良くやったよ、【ホーリー・ナイト】。── この瞬間、(トラップ)発動! 【泥仕合(ドローゲーム)】! 自分と相手のカードが同時に破壊された場合に発動! お互いに2枚ドローする! さぁ、アマネも」

 

「……えぇ」

 

(なるほど……本当の狙いはコレだったのね)

 

「でもこっちにはまだ2体いるのよ! 【スカージレット】で直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

 

 

 自軍のモンスターを失って、今度こそ無防備になったボクの(すき)を突こうと、【ヴァンパイア・スカージレット】が手に持つ杖を掲げる。

 

 そこでボクは笑みを浮かべて、3枚目の伏せカードを発動させた。

 

 

 

(トラップ)カード・【戦線復帰】! 墓地の【ラビードラゴン】を、守備表示で特殊召喚!」

 

「っ!」

 

 

 

 お待たせ、相棒。やっと出番だよ!

 

 

 

【ラビードラゴン】 守備力 2900

 

 

 

「そう来たか……バトルはキャンセルよ」

 

『アゲマキ選手、またもや黒雲選手の猛攻を防ぎ切ったァーッ!』

 

(【ラビードラゴン】の召喚は許してしまったけど……セツナのおかげで私の手札は3枚に増えた。これならまだ勝算はある!)

 

「私はカードを2枚伏せ……永続魔法・【悪夢の拷問(ごうもん)()()】を発動してターンエンド!」

 

 

 

 【悪夢の拷問部屋】? なんか、名前からしてヤバそうなカードが出てきたな……

 一体どんな効果なんだろう?

 

 

 

「ボクのターン! 【ラビードラゴン】を攻撃表示!」

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

 相手の場には伏せカードが2枚か……

 でも、アマネが()(かん)に攻めてきたのに、ボクが逃げ腰になってたら、男が(すた)るってもんだよね!

 

 

 

「バトル! 【ラビードラゴン】で【スカージレット】を攻撃! 『ホワイト・ラピッド・ストリーム』!!」

 

(フフ……かかった!)

 

「永続(トラップ)発動! 【拷問車輪】!!」

 

「っ!?」

 

 

 

 今まさに攻撃しようとするところだった【ラビードラゴン】の背中に、禍々(まがまが)しいデザインの巨大な車輪が真上から乗っかってきた。

 

 

 

「残念だったわね。【拷問車輪】がある限り、対象モンスターは攻撃できず、表示形式も変更できない。さらに私のスタンバイフェイズ(ごと)に、あんたに500ポイントのダメージを与えるわ」

 

「くっ……カードを1枚伏せて、ターンエンド……!」

 

(伏せたカードは【()(ぼう)な欲張り】。これをいつ使うかが勝負の分かれ目だ! もしタイミングを見誤(みあやま)ったら、ボクは負ける……!)

 

「私のターン! (トラップ)発動! 【サディスティック・ポーション】! このカードは発動後、装備カードとなるわ。【ヴァンパイア・スカージレット】に装備!」

 

 

 

 【スカージレット】の身体にトゲ付きの首輪と腕輪が装着された。

 

 

 

「このカードの効力は、すぐに分かるわ。── 【拷問車輪】の効果! 500のダメージを与える!」

 

 

 

 【ラビードラゴン】にのし掛かっていた【拷問車輪】が動き出した。

 回転する車輪に付いた鉄製の(トゲ)が、【ラビードラゴン】の白い毛皮と肉を削る。

 

 あまりの激痛に、【ラビードラゴン】は(たま)らず悲鳴を上げた。

 

 

 

「うあっ……!」

 

 

 

 ボクも耐えかねて(うめ)く。

 み、見てるだけで痛い……!

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 3500

 

 

 

「フフフッ、イイ声で()くのね」

 

「アマネなんか変なスイッチ入ってないっ!?」

 

「さて、セツナ……」

 

 

 

 いつの間にかアマネの手には、長い(ムチ)が握られていた。

 

 

 

「えっ、アマネさん、そのムチは何?」

 

「歯ァ食い縛りなさいッ!」

 

 

 

 アマネはそのムチを大きく振るい、()()()よい破裂音と共に、ボクの身体を強く打った。

 

 

 

()ったぁッ!?」

 

 

 

 セツナ LP 3500 → 3200

 

 

 

「な、何いきなり!? ボクにソッチの趣味ないんだけどっ!?」

 

「【悪夢の拷問部屋】の効果よ。相手に効果ダメージを与える(たび)に、300ポイントの追加ダメージを与える」

 

 

 

 あー、なるほど。何が悲しくてこんな大舞台で、公開SMプレイを受けなきゃならないんだと思ったら、効果を処理してたのね。

 

 ……あれ? それってつまり……

 

 

 

「……あの~、スッゴい怖いこと聞くけどさ……もしかしてその【拷問部屋】の効果が発動する度に、アマネがボクをムチでしばくわけ?」

 

「当たり前でしょ?」

 

「…………」

 

 

 

 アマネは目を細めて嗜虐(しぎゃく)(てき)な笑みを見せ、ムチをペロリと舐めた。や、やる気満々だ……!

 

 しかも彼女の表情は、ほんのり紅潮(こうちょう)して、どこか恍惚(こうこつ)としている様にも思える。

 

 おかしいな……アマネってこんな子だったっけ……? ボクの知ってるアマネと違う気が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、控え室にて──

 

 

 

「……なぁ、お嬢ちゃん。アレが試合前に言ってた、姉ちゃんの『本性』ってヤツか?」

 

「そうですよ~、狼城(ろうじょう)センパイ♪ アマネたんはああ見えて、実は隠れサディストなんですよ~! いやぁ久々に見たな~。アマネたんの『ド(エス)モード』!」

 

「…………おっかないねぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ── まさかアマネにこんな性癖(せいへき)があったなんて……てんで予想外だったよ。

 

 道理で時々、(くさり)とか手錠(てじょう)とか拘束(こうそく)具を、真剣な()()で見てると思った……!

 

 

 

「ここで【スカージレット】に装備した【サディスティック・ポーション】の効果! 相手に効果ダメージを与えたターンのエンドフェイズまで、装備モンスターの攻撃力を、1000アップする!」

 

 

 

【ヴァンパイア・スカージレット】 攻撃力 2200 + 1000 = 3200

 

 

 

「3200っ!?」

 

「安心しなさい。本当はもうちょっと()()()()()()()けど、今日のところは、ここまでにしといてあげる! 【スカージレット】で【ラビードラゴン】を攻撃!」

 

「うっ……! 【ラビードラゴン】……!」

 

 

 

 セツナ LP 3200 → 2950

 

 

 

「【拷問車輪】は対象モンスターがいなくなった事で破壊される。さらに【グレイス】でダイレクトアタック!」

 

 

 

 吸血鬼のマダムが、その手に持っている杖の赤い宝玉から放たれた光線を、ボクに浴びせた。

 

 

 

「うわあああああっ!!」

 

 

 

 セツナ LP 2950 → 950

 

 

 

(つ、強い……!)

 

 

 

 これがアマネの真の実力(ちから)か……!

 

 脅威的な展開力と高い攻撃力で攻めまくって、オマケに効果ダメージも活用して徹底的にライフを削ってくる。

 この大会の為に温めてきたデッキなだけあって、(れん)()は相当なものだ。

 

 

 

「そしてバトル終了と同時に【スカージレット】が倒した【ラビードラゴン】は、私のフィールドに特殊召喚されるわ!」

 

「!?」

 

(そ、そうだった!)

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950

 

 

 

「そんな……ボクの相棒まで……!」

 

「フフッ、自分の切り札(エース)を奪われた気分はどう? 私は永続魔法・【遮攻(しゃこう)カーテン】を発動してターンエンドよ。【スカージレット】の攻撃力は元に戻る」

 

 

 

【ヴァンパイア・スカージレット】 攻撃力 3200 → 2200

 

 

 

『おぉーっとォッ! とうとう試合の均衡(きんこう)が崩れた! アゲマキ選手、2体目のエースモンスターも失い大ピーンチッ!』

 

 

 

 いや、まだボクの手札には……3枚目の切り札がある!

 

 

 

「ボクのターン、ドロー! 墓地の【ミンゲイドラゴン】を、自身の効果で特殊召喚!」

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】 攻撃力 400

 

 

 

「っ! まさか……!?」

 

「再び【ミンゲイドラゴン】をモンスター2体分としてリリース! アドバンス召喚! 【トライホーン・ドラゴン】!!」

 

 

 

【トライホーン・ドラゴン】 攻撃力 2850

 

 

 

『なんとアゲマキ選手、すかさず新たな最上級モンスターを召喚してきたァーッ!! 互いに毎ターン、大型モンスターを交互に出し合い殴り合う! これぞ『デュエルモンスターズ』の原点とも言うべき、豪快(ごうかい)決闘(デュエル)が繰り広げられている!! テレビ()えする見せ場の連続に、観客の興奮も収まらないッ!!』

 

「バトルだ! 【トライホーン】で【スカージレット】を攻撃! 『イービル・ラセレーション』!!」

 

 

 

 悪魔の竜が両手の巨大な爪を武器に、吸血鬼の紳士へ襲いかかる。

 

 

 

「甘いわね、セツナ」

 

「!?」

 

 

 

 突然、黒くて長大(ちょうだい)なカーテンが【トライホーン】の斬撃を(さえぎ)った。

 

 カーテンは容易(たやす)く切り裂かれたものの、【トライホーン】の爪は【スカージレット】にギリギリ届かなかった。

 

 

 

「これは……!?」

 

「【遮攻カーテン】を墓地に送って、破壊を無効にしたのよ」

 

「くっ……でもダメージは受けてもらうよ!」

 

「ッ! ……このくらいどうってことないわ……!」

 

 

 

 アマネ LP 1700 → 1050

 

 

 

「……ボクは1枚カードを伏せて、ターンエンド」

 

 

 

 またしても【スカージレット】を倒し損ねた……!

 

 

 

「私のターン! このターンで()()をつけてあげるわ! ── バトルよ! 【ラビードラゴン】で、【トライホーン・ドラゴン】を攻撃ッ!! 『ホワイト・ラピッド・ストリーム』!!」

 

 

 

 ……ボクが子どもの頃、【青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)】に憧れて名付けた【ラビードラゴン】の技名を、アマネの口から聞ける日が来るとはね。

 

 だけど、その攻撃は()めさせてもらう!

 

 

 

(トラップ)発動! 【びっくり(ばこ)】!」

 

「!?」

 

「このカードは相手モンスターが2体以上いる時に発動できる。【ラビードラゴン】の攻撃を無効にする!」

 

 

 

 大きな青い宝箱の中から、赤色のマジックハンドがビヨヨ~ンと飛び出した。

 【ラビードラゴン】は自慢の長い耳がピーンと立つほどビックリして、攻撃を中断する。

 

 

 

「その()、攻撃したモンスター以外の相手モンスター1体を墓地へ送り、その攻撃力か守備力の内、高い方の数値分だけ、攻撃モンスターの攻撃力をダウンする! ボクは【ヴァンパイア・スカージレット】を墓地へ!」

 

「!」

 

 

 

 そのまま【びっくり箱】のマジックハンドは【スカージレット】を引っ捕まえると、【ラビードラゴン】目掛けて投げつけた。

 ごめんよ相棒……今だけは許しておくれ。

 

 

 

「これで【ラビードラゴン】の攻撃力は、2200ポイントダウン!」

 

 

 

【ラビードラゴン】 攻撃力 2950 - 2200 = 750

 

 

 

 これでようやく厄介な【スカージレット】を退(しりぞ)けられたし、【ヴァンパイア・グレイス】の攻撃力は【トライホーン】には及ばない。

 

 ふぅ、前のターンに【びっくり箱】を引けてて良かった。どうにかこのターンも(しの)げ──

 

 

 

「【ラビードラゴン】と【ヴァンパイア・グレイス】をリリース!」

 

「えぇーっ!?」

 

「アドバンス召喚!! 現れなさい── 【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】!!」

 

 

 

 背中に生えたコウモリの羽根を羽ばたかせ、(つや)やかな銀髪を腰まで伸ばした、絶世の美女が現れた。

 

 

 

【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】 攻撃力 2000

 

 

 

 昨日のベンジャミンくんとの試合でも召喚していた、【ヴァンパイア】の最上級モンスターだ。

 

 あの時は控え室のモニター越しだったし、一瞬で退場しちゃったから気づかなかったけど……

 こうして目の前で見ると……なんか雰囲気が、アマネに似てる?

 

 

 

「召喚成功時に効果発動! このモンスターより攻撃力の高い相手モンスター1体を装備できる! 私が装備させるのは当然── 【トライホーン・ドラゴン】!」

 

「なっ!?」

 

 

 

 【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】は、両手を広げると、どこか()(わく)的な微笑(びしょう)を浮かべて、紫色の瞳を(あか)く光らせた。

 

 すると、【トライホーン】の両目も同色の光に染まり、(いざな)われるかの様にアマネのフィールドへ移動してしまう。

 

 

 

「あぁーっ! 【トライホーン】が!?」

 

「そして装備したモンスターの攻撃力分、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】の攻撃力をアップする!」

 

 

 

【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】 攻撃力 2000 + 2850 = 4850

 

 

 

「攻撃力……4850……!」

 

 

 

 ぐぬぬっ、ボクのモンスターを次から次に……!

 

 けど正直、【トライホーン】の気持ちは分かる。そりゃあ、あんなお腹と下乳(したちち)を露出した美人に誘惑されたら、ボクだってホイホイついていく自信がある!(?)

 

 敵を(とりこ)にし、隷属(れいぞく)させる吸血鬼か……

 いつだったか、マキちゃんをして『魔性の女』と言わしめた、アマネらしい戦術と言えるかも。

 

 

 

「ターンエンド! さぁ、あなたのターンよ、セツナ!」

 

『アゲマキ選手、もう後が無いっ! もはやこれまでかぁーっ!?』

 

「……ボクのターン……」

 

 

 

 このドローで、全てが決まる……!

 

 

 

「ドローッ!!」

 

(── !!)

 

(【ミンゲイドラゴン】も除外された今、上級モンスターの召喚はほぼ不可能。仮に出せたとしても、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】の攻撃力はそう易々(やすやす)と越えられない。……勝てる!!)

 

「………」

 

(【プチリュウ】……ダメだ、このカードじゃ……【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】は倒せない……!)

 

 

 

 引いたカードはレベル2の通常モンスター・【プチリュウ】だった。

 もう1枚の手札は、発動条件を満たしていない魔法(マジック)カード……

 

 もはや選択の余地は無い……

 

 今こそ勝負どころだ!

 

 

 

「リバースカード・オープン! 【無謀な欲張り】!」

 

「!」

 

(しまった、【無謀な欲張り】を伏せてたなんて……!)

 

「次のドローフェイズを2回スキップする代わりに、2枚ドローする!」

 

 

 

 起死回生のカードよ、── 来て!

 

 

 

「……!」

 

 

 

 4枚の手札とフィールドの状況を(かんが)みて、ボクはここからどうやったら逆転できるかを思案する。

 

 ……閃いた。たぶん過去最大の(おお)(バク)()になるけど、まだ(いち)()の望みがある!

 

 

 

「……アマネ。これがボクのラストターンだ」

 

「……! 諦めるって事かしら?」

 

「いいや、このターンが君に勝つ── 最後のチャンスって意味さ!」

 

「!?」

 

「行くよアマネ! ボクは【プチリュウ】を召喚!」

 

 

 

【プチリュウ】 攻撃力 600

 

 

 

「今さらそんな低級モンスターを出して、どうするつもり!?」

 

「こうするのさ。ボクは【プチリュウ】をリリースして、手札から()(ほう)カード・【モンスターゲート】を発動!」

 

 

 

 空間が渦巻き状に(ゆが)み、丸い大穴が(ひら)く。その中に【プチリュウ】が吸い込まれていった。

 

 

 

「このカードは自分のモンスター1体をリリースし、デッキの上から通常召喚可能なモンスターが出るまでカードを(めく)って、出たモンスターを特殊召喚できる!」

 

「……へぇ、それがセツナの最後の希望ってわけね、面白いじゃない」

 

 

 

 と言っても、モンスターならどれでも良いというわけではない。

 

 ボクが勝つ為には【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】を戦闘で破壊する以外に、もう方法は無い。

 

 

 

(そして、デッキに残ったモンスターの中で【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】を倒せるのは……あのカードだけだ!)

 

 

 

 引き当てるしかない! 確率は限りなく低いけど……ボクは自分のデッキを信じる!

 

 

 

「1枚目! ()(ほう)カード・【移り気な()(たて)()】を墓地に送る! 2枚目! (トラップ)カード・【アルケミー・サイクル】! これも墓地へ! ── 3枚目!」

 

(!)

 

 

 

 3枚目に引いたカードの絵柄が視界の(はし)に映った瞬間──

 

 

 

 ボクは── 勝利を確信した。

 

 右手に持ったカードを、天高く突き立てる様に掲げ、アマネに宣言する。

 

 

 

「……ボクの勝ちだ、アマネ」

 

「なっ……!?」

 

『こ、ここでアゲマキ選手! 突然の勝利宣言だァーッ!!』

 

「そう言えば、アマネにはまだ見せてなかったっけ? ボクのデッキの5枚のエース……その最後の1枚を!」

 

「ま、まさか……この局面で、それを引き当てたって言うの!?」

 

「本当は決勝戦まで隠し玉として取っておきたかったんだけどね……こうなったら仕方ない。── 見せてあげるよ!」

 

 

 

 ボクはデュエルディスクのモンスターカードゾーンに、そのカードを勢いよくセットする。

 

 

 

「現れろ! レベル6──」

 

 

 

 【モンスターゲート】の中から、1体のドラゴンが飛び出す。

 

 (まん)()して、現れたのは──

 

 

 

「【ホワイト・ホーンズ・ドラゴン】!!」

 

 

 

 その名の通り、頭に1本の白い(ツノ)を生やした、真っ赤な体躯の翼竜(よくりゅう)だった。

 

 

 

【ホワイト・ホーンズ・ドラゴン】 攻撃力 2200

 

 

 

「これが……セツナの5枚目のエース……!」

 

「【ホワイト・ホーンズ・ドラゴン】の効果発動! このモンスターを召喚・特殊召喚した場合、相手の墓地にある魔法カードを5枚まで除外し、1枚につき300ポイント攻撃力をアップする! ── 『アブソーブ・スペル』!!」

 

 

 

 アマネの墓地から【手札抹殺(まっさつ)】、【死者蘇生】、【ヴァンパイア・デザイア】、【遮攻カーテン】を除外。

 

 

 

「除外した魔法カードは4枚! よって【ホワイト・ホーンズ・ドラゴン】の攻撃力は、1200ポイントアップ!」

 

 

 

 4枚の魔法カードの効力を、【ホワイト・ホーンズ・ドラゴン】はその白い角に吸収し、自らの魔力として蓄積(ちくせき)させる。

 

 

 

【ホワイト・ホーンズ・ドラゴン】 攻撃力 2200 + 1200 = 3400

 

 

 

「っ……でも! まだ【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】の方が攻撃力は上よ!」

 

「手札から速攻魔法・【鈍重(どんじゅう)】を発動! 【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】の守備力分、その攻撃力をダウンする!」

 

 

 

【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】 攻撃力 4850 - 2000 = 2850

 

 

 

「そ、そんな……っ!」

 

 

 

 そう。この攻撃力2850を越えるモンスターを出したかったんだ。

 

 そして【ラビードラゴン】が墓地に行った今、それが可能だったのは……この【ホワイト・ホーンズ・ドラゴン】のみ!

 

 

 

「バトルだッ! 【ホワイト・ホーンズ・ドラゴン】で、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】を攻撃! 『ホーン・ドライブバスター』!!」

 

 

 

 蓄えた魔力は【ホワイト・ホーンズ・ドラゴン】の口から光線として放射され、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】の()(ごま)にされた【トライホーン・ドラゴン】を撃破した。

 

 

 

(ごめんね、【トライホーン】……)

 

「うぅ……っ!」

 

 

 

 アマネ LP 1050 → 500

 

 

 

「この……! ── 【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】の効果発動! 自身の効果でモンスターを装備していたこのカードが墓地に送られた場合、墓地から特殊召喚できる!!」

 

 

 

 自身が()(なず)けた【トライホーン・ドラゴン】を身代わりにして、直撃を(まぬが)れた【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】は、空中で背中の羽根を広げ、ゆっくりと地上に降り立つ。

 

 

 

【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】 攻撃力 2000

 

 

 

(次の私のターンで【ヴァンパイア】を召喚できれば、また【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】の効果を使って、【ホワイト・ホーンズ・ドラゴン】を装備できる!)

 

「まだ終わらないわよセツナ!!」

 

「……悪いけど、もう終わりだよ。アマネ」

 

「っ!?」

 

 

 

 ボクは手元に残った最後の1枚に視線を落として微笑む。

 ようやくだ。やっとこの魔法カードが発動できる!

 

 

 

「速攻魔法・【竜の闘志】!! 【ホワイト・ホーンズ・ドラゴン】は、もう一度攻撃できる!」

 

「……!!」

 

「チェックメイトだ、アマネ!! 【ホワイト・ホーンズ・ドラゴン】の攻撃ッ!!」

 

 

 

- ホーン・ドライブバスター!! -

 

 

 

 【ホワイト・ホーンズ・ドラゴン】の2回目の攻撃で── ついに【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】を倒せた……!

 

 

 

「っ……! ……私の………負けよ……!」

 

 

 

 アマネ LP 0

 

 

 

『決着ゥゥーーーッ!! ウィナー・総角 刹那!! 息もつかせぬシーソーゲームを制し、最後まで立っていたのは、アゲマキ選手だァーッ!!』

 

(……敗因は私の(ぼん)ミスね……最後、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】を守備で出していれば……)

 

 

 

 アマネはデッキの一番上のカードを、おもむろに引いた。

 

 

 

(……【ヴァンパイア帝国(エンパイア)】か……なんだ、どのみち負けてたのね……)

 

「アマネ……」

 

「……フッ……何よ、その顔。勝ったのはあんたよ。胸を張りなさい」

 

 

 

 アマネは普段と変わらない微笑みを(たた)える。ボクに心配させないようにだろうか……

 

 分かってる。勝者が敗者の事を憂慮(ゆうりょ)するのは失礼だって。だけど……

 

 

 

「ここで負けたぐらいで、私の夢が終わると思ってるの?」

 

「……!」

 

 

 

 そのアマネの言葉を──

 

 

 

「……ううん、思わない」

 

 

 

 ボクは首を横に振って否定した。

 

 アマネは強い。きっと自分の夢を実現できる。

 

 

 

「楽しい決闘(デュエル)だったよ、アマネ」

 

「こちらこそ。次は負けないわよ、セツナ」

 

 

 

 ボクも笑顔になって、アマネと握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セツナとの激闘を終えたアマネは自分が入場したゲートへと引き返し、通路の壁に寄りかかって息をついた。

 

 

 

「はぁ……悔しいけど……私もまだまだって事ね……」

 

(分かってた筈なのに……セツナの本当の怖さは、大一番(おおいちばん)になればなるほど発揮する、あの異常な引きの強さだって……)

 

 

 

 アマネが試合の内容を振り返って反省をしていると、ポケットの中の携帯端末が弱く振動した。

 

 

 

(……?)

 

 

 

 端末を取り出して画面を開くと、1件のメッセージを受信していた。

 

 送り主は親友の()(づき) マキノだった。

 メッセージのアイコンを指でタップし、内容を確認する。

 

 

 

『アマネたんドンマイ! 良いデュエルだったよ! あたしがアマネたんの代わりにセツナくんをガツンと負かしてくるから、応援よろしくね☆』

 

 

 

 顔文字も付けた愛嬌(あいきょう)のある文面で、そう書かれていた。

 

 アマネは「フフッ」と小さく笑みを(こぼ)す。すると、涙が一筋(ひとすじ)(ほお)を伝った。

 

 その(しずく)を手で(ぬぐ)い……アマネは、会場の方に顔を向ける。

 

 

 

(頑張ってね……セツナ、マキちゃん)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ! いよいよトーナメント2回戦の最後の試合が始まるぞッ!!』

 

 

 

 早いもので今日の試合は次がラストだ。

 ボクとアマネは控え室に戻る理由も無いので、空いた観客席に座って決闘(デュエル)フィールドに立つマキちゃんを見守っている。

 

 マキちゃんの対戦相手は、十傑(じっけつ)の狼城 (アキラ)くん。

 

 1回戦では同じく十傑である鰐塚(ワニづか)ちゃんを、魔法(マジック)カードを駆使した巧みな戦法で圧倒した、『トリック・スター』の異名を持つ(いま)だ底知れない実力者だ。

 

 

 

「んじゃ、まっ、よろしくな。お嬢ちゃん♪」

 

「お手柔らかに~♪」

 

『トーナメント2回戦・第4試合! 狼城 暁 vs 観月 マキノ!! イィ~~~ッツ! タイム・トゥ──』

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 





 と言うわけで、セツナの最後の切り札は【ホワイト・ホーンズ・ドラゴン】でした!

 アマネとルイくんのデュエルの共通点
 ・二人ともセツナを目標にしていた。
 ・この試合に勝てば次はセツナと当たるという状況。
 ・【トライホーン・ドラゴン】を奪う。(ルイくんは未遂)
 ・セツナの新たなエースモンスターによる連続攻撃で敗退。

 意図したわけではなかったんですが、アマネとルイくんには似通った部分があるのかも?
 性別も男勝りな女の子と、女の子みたいな男の子ですし。いや、それは関係ないか。


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TURN - 48 Shall we DANCE?


 ギリギリ年内に間に合ったぁぁぁぁっ!!



 

『さぁ始まるぞッ! 選抜デュエル大会・本選── アリーナ・カップ! トーナメント2回戦・第4試合! 狼城(ろうじょう) (アキラ) vs ()(づき) マキノ!! イィ~~~ッツ! タイム・トゥ──』

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 マキノ LP(ライフポイント) 4000

 

 狼城(ろうじょう) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「行きますよぉ~、狼城センパイ! あたしの先攻(ターン)!」

 

 

 

 ついにトーナメント2回戦、最後の試合が始まった。

 

 狼城くんの実力は未知数……気をつけてねマキちゃん。

 

 

 

「あたしはモンスターをセット! さらにカードを2枚伏せてターン終了(エンド)です!」

 

「お? なんでぇ、意気込んでた割りにゃあ慎重じゃねーの。んじゃオレのターンな、ドロー」

 

 

 

 さて、狼城くんは今回、どう動くのだろうか? 昨日(きのう)と同じく伏せカードをセットして終わるのか、それとも──

 

 

 

「……オレは手札を1枚捨て── 【THE() トリッキー】を特殊召喚」

 

「!」

 

 

 

THE() トリッキー】 攻撃力 2000

 

 

 

『おぉーっとッ! 狼城選手、今回は1ターン目からモンスターを繰り出したァーッ! それもレベル5のモンスターを、リリース無しでの召喚だぁーっ!』

 

「やっぱし去年と同じ……【魔法使い族(マジシャン)】デッキでしたか!」

 

「んで、リバースカードを2枚セット。攻撃──」

 

「!!」

 

「……しないでおこっと。ターンエンドだぜ」

 

「センパイだって慎重じゃないですか~っ!」

 

 

 

 マキちゃんの伏せカードを警戒したのか、攻撃は取り()めた狼城くん。

 何だかのらりくらりとしている彼を見て、ボクの隣に座るアマネが(いぶか)しげに呟いた。

 

 

 

「やる気あるのかしら、あの人」

 

「う~ん、どうだろねぇ~……」

 

 

 

 豹堂(ひょうどう)くんに似て飄々(ひょうひょう)として掴みどころが無いって言うか……何を考えてるか分からない人だからなぁ。

 

 だからこそ──

 

 

 

「……何をしてくるか、サッパリ()()()()よね」

 

「……!」

 

(それって……)

 

 

 

 3ターン目、マキちゃんのターンだ。

 

 

 

「あたしのターン、ドロー! そっちが来ないなら、こっちから行きますよ~っ! 反転召喚! 【()(シン)アーク・マキナ】!」

 

 

 

()(シン)アーク・マキナ】 攻撃力 100

 

 

 

 おぉ、早くも来た、マキちゃんの十八番!

 

 

 

「おーおー、守備力2100もあったのかよ。攻撃しなくて正解だったな」

 

「バトル! 【アーク・マキナ】で【THE トリッキー】を攻撃!」

 

『こ、攻撃力たったの100で、攻撃力2000の【THE トリッキー】に攻撃ぃーっ!?』

 

「………」

 

「この瞬間、(トラップ)発動! 【反転世界(リバーサル・ワールド)】! 効果モンスターの攻守を入れ替えます!」

 

 

 

 やっぱりあの(トラップ)を仕掛けてたか。

 早速マキちゃんお得意の攻守逆転戦術・『コンバット・トリック』が決まった。これで【THE トリッキー】を倒せる!

 

 

 

「ははぁん。やっぱ(わな)を仕掛けてやがったな? ── なら!」

 

「「 カウンター(トラップ)・【トラップ・ジャマー】!! 」」

 

(なに……!?)

 

 

 

 す、スゴい偶然!? 二人とも全く同じカードを発動した!

 

 

 

(トラップ)をカウンターしてくる事は読んでましたよ。センパイの【トラップ・ジャマー】は無効にさせてもらいます! よって【反転世界(リバーサル・ワールド)】の効果は、有効!」

 

 

 

【魔神アーク・マキナ】 攻撃力 100 → 2100

 

【THE トリッキー】 攻撃力 2000 → 1200

 

 

 

「『ディストーション・ウェーブ』!!」

 

 

 

 サイボーグの悪魔が(ひず)んだ音波を響かせ、奇怪な格好のマジシャンを撃破する。

 

 

 

「っ……!」

 

 

 

 狼城 LP 4000 → 3100

 

 

 

「センパイは魔法(マジック)カードを使うのは上手いみたいですけど……(トラップ)を使わせたらあたしの右に出る決闘者(デュエリスト)はいないですよッ!!」

 

「……ふ~ん? おもしれー女」

 

 

 

 自分の【トラップ・ジャマー】を発動できるように、()えてバトルフェイズに入ってから【反転世界(リバーサル・ワールド)】を使ったのか。やるね、マキちゃん。

 

 

 

「【アーク・マキナ】が相手に戦闘ダメージを与えた事で、効果発動! 手札から【スロットマシーン】を特殊召喚!」

 

 

 

【スロットマシーンAM(エーエム)(セブン)】 攻撃力 2000

 

 

 

「行っけーッ! 狼城センパイに直接攻撃(ダイレクトアタック)! 『プラズマ・レーザー(キャノン)』!!」

 

 

 

 【スロットマシーン】の右腕の砲口から高出力のレーザーが放たれ、狼城くんに命中した。

 

 

 

「うおおおおっ!!」

 

 

 

 狼城 LP 3100 → 1100

 

 

 

『観月選手、開始3ターン目にしてあっという間に狼城選手を追い込んだァァーッ!!』

 

「……あたしはカードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

「……フゥー、今のァ効いたぜ。なかなかやるねぇ、お嬢ちゃん。キヨマサに勝っただけはあるぜ」

 

「えへへ~、それほどでも~」

 

「オレも……ちぃとばかし火ィ点いちまったわ」

 

「……っ!」

 

 

 

 狼城くんの雰囲気が、今までと明らかに違う……! カナメや九頭竜くんに匹敵するほどの闘気が、観客席にまで痛いくらいに伝わってくる。いよいよ本気になったみたいだね……!

 

 

 

「オレのターン、ドロー! ── 【ジェスター・コンフィ】は、手札から攻撃表示で特殊召喚できる」

 

 

 

 狼城くんが次に召喚したのは、小太りな玉乗りピエロだった。

 

 

 

【ジェスター・コンフィ】 攻撃力 0

 

 

 

(攻撃力(ゼロ)? なんか怪しいのが出てきたね~……)

 

「さらに手札から魔法(マジック)カード・【ワンチャン!?】発動。オレの場にレベル1モンスターがいる時、デッキからレベル1モンスターを1枚、手札に加える。そのカードもしくは同名カードをこのターン中に召喚できなかった場合、オレはエンドフェイズに2000ポイントのダメージを受ける。── オレが手札に加えるのは……【ジェスター・ロード】。そんでこいつを通常召喚だ」

 

 

 

【ジェスター・ロード】 攻撃力 0

 

 

 

 ……マキちゃんの上級モンスターを前に攻撃力(ゼロ)のモンスターを2体も並べてきた……

 またトンデモコンボを狙っているのかな……?

 

 

 

「さてと、このままじゃ次のお嬢ちゃんのターンで、こいつらは攻撃されちまう……。そこでコレだ── 【光の()(ふう)(けん)】!」

 

「!?」

 

 

 

 (そら)から()(そそ)いだいくつもの光の(つるぎ)に足止めされ、マキちゃんのモンスターは3ターンもの間、攻撃を封じられてしまった。

 

 

 

「ぐぬぬっ……!」

 

「最後にカードを1枚伏せて、オレのターンは終了だ」

 

 

 

 これで狼城くんの手札は尽きた。

 

 あのピエロ達を守る為に【護封剣】まで使ってきたんだ、何かありそうだね……

 

 

 

「あたしのターン、ドロー!」

 

(むぅ……モンスターが来ない……)

 

「ここで(トラップ)を使わせてもらうぜ。【捨て身の宝札(ほうさつ)】発動」

 

「!」

 

「自分フィールドのモンスター2体以上の攻撃力の合計が、相手フィールドの一番低い攻撃力のモンスターよりも低い場合、2枚ドローする」

 

 

 

 狼城くんの場にいる2体のモンスターは、どちらも攻撃力(ゼロ)。合計しても(ゼロ)のままだから【捨て身の宝札】を容易に発動できる。

 

 攻撃力(ゼロ)である事を、こんな形で活かしてくるとは……

 

 

 

「手札を増やされちゃったかぁ~……あたしは、カードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

「この瞬間── 【ジェスター・コンフィ】のモンスター効果!」

 

「!」

 

「自身の効果で特殊召喚された【ジェスター・コンフィ】は、次の相手のエンドフェイズに、相手モンスター1体と一緒にそれぞれの手札に戻る」

 

 

 

 【ジェスター・コンフィ】が手を振りながら煙と化して消え去ると、同時に【スロットマシーン】までドロンと姿を消してしまった。

 

 

 

「えぇ~っ!? 【スロットマシーン】が手札に戻っちゃった……!」

 

 

 

 【ジェスター・コンフィ】に、そんな効果があったのか……!

 

 しかも次のターンで再び特殊召喚すれば、また同じ効果が使える。なかなかに厄介なモンスターだ。

 

 

 

「オレのターンだ、ドロー」

 

 

 

 さっき狼城くんは手札を全部使い切ってたのに、もう前のターンと同じ4枚に戻った。

 

 

 

「……どうやらこのターンで終わっちまいそうだな」

 

「え?」

 

「オレはカードを2枚伏せ、手札から【ソウルテイカー】発動! この効果で【アーク・マキナ】を破壊!」

 

「っ!」

 

「そしてお嬢ちゃんのライフを1000回復するぜ」

 

 

 

 マキノ LP 4000 → 5000

 

 

 

「これで場のモンスターは、【ジェスター・ロード】だけになったな」

 

「……? それがどうかしたんですか?」

 

「聞いて驚け。【ジェスター・ロード】の効果! フィールドにこいつ以外のモンスターがいない時、フィールドの魔法(マジック)(トラップ)ゾーンのカード1枚につき、攻撃力を1000アップする!」

 

「っ! て、事は……!」

 

「オレの場には【光の護封剣】と伏せカード2枚。お嬢ちゃんの場にも伏せカードが2枚。よって【ジェスター・ロード】の攻撃力は……」

 

 

 

【ジェスター・ロード】 攻撃力 0 → 5000

 

 

 

「こ、攻撃力5000~っ!? 冗談は顔だけにしてよぉ~っ!」

 

「さて、楽しいショーはオシマイだ。── 【ジェスター・ロード】! ダイレクトアタックで幕を引きなッ!」

 

 

 

 細身のピエロが5つの火の玉を器用にジャグリングしながらマキちゃんに迫っていく。

 

 

 

『この攻撃が通れば観月選手のライフは、ワンショット・キルで(ゼロ)になってしまうっ!!』

 

「なんの! (トラップ)発動! 【敵襲警報-イエローアラート-】!」

 

「!」

 

「相手の攻撃宣言時、手札からモンスターを特殊召喚できる!」

 

 

 

【スロットマシーンAM(エーエム)(セブン)】 攻撃力 2000

 

 

 

 マキちゃんのフィールドに、【スロットマシーン】が再び現れた。

 

 

 

「センパイが【スロットマシーン】を手札に戻してくれたおかげですよ!」

 

「……なるほどねぇ。【ジェスター・コンフィ】の効果を逆手に取ったのか」

 

「フィールドに新たなモンスターが召喚された事で、【ジェスター・ロード】の攻撃力は、(ゼロ)になる!」

 

 

 

【ジェスター・ロード】 攻撃力 5000 → 0

 

 

 

「へぇ? やるじゃん」

 

「ふぅ~、間一髪(かんいっぱつ)。バトルフェイズ終了ですね、【スロットマシーン】は手札に戻ります」

 

 

 

【ジェスター・ロード】 攻撃力 0 → 4000

 

 

 

「んじゃオレは【ジェスター・コンフィ】をもっかい特殊召喚して──」

 

 

 

【ジェスター・コンフィ】 攻撃力 0

 

【ジェスター・ロード】 攻撃力 4000 → 0

 

 

 

「ターンエンドだ」

 

「また出たな~、この……どんぐりピエロ!」

 

「なんじゃそりゃ」

 

『これで観月選手がモンスターを召喚しても、エンドフェイズにまた手札に戻されてしまう! そうなれば、再び【ジェスター・ロード】がパワーアップ! 実にクレバーでトリッキーな戦術! トリック・スター・狼城 暁、その本領を、ついに発揮だぁ~~~ッ!!』

 

 

 

 低レベルモンスターだけで、ここまでマキちゃんを追い込めるなんて……!

 

 この奇想天外で予測不可能な戦術。これが狼城くんの真髄(しんずい)か……!

 

 

 

「アマネ……これってけっこうヤバイんじゃない?」

 

「……いえ、モンスターを召喚しなければ、【ジェスター・コンフィ】の効果は不発になるわ。そうすれば【ジェスター・ロード】も攻撃力は0のまま。少なくとも、新たなモンスターを召喚されない限り、攻撃される心配はない筈……」

 

「あ、そうか。それなら次のターンは凌げそうだね」

 

「【光の護封剣】で攻撃もできない現状では、それが最善の手だと思うわ」

 

 

 

 マキちゃんも、その事には気づいてる筈。

 

 

 

「さぁ~て、お嬢ちゃんはどんな踊りを披露してくれんのかな?」

 

 

 

 【ジェスター・ロード】と【ジェスター・コンフィ】が、マキちゃんを挑発するかの様にケラケラと(わら)う。

 

 

 

「ぐぬぬっ……思い通りに踊らされてたまるもんですか! あたしのターン!」

 

(! ラッキー!)

 

「【強欲で貪欲な壺】! その効果で、デッキの上からカードを10枚、裏側で除外して、2枚ドロー!」

 

 

 

 まだマキちゃんにもツキは残されてたみたいだ。このドローで何か打開策が見つかれば良いけど……

 

 

 

「…………イイコト思いついちゃった~♪」

 

 

 

 何やら目を細めて、ニカッと笑ったマキちゃん。彼女がこういう笑い方をする時は、大抵よからぬ事を考えてる時だ。

 

 

 

「あたしは【アイアイアン】を召喚!」

 

 

 

 両手にシンバルを持った、猿のオモチャのアイアイバージョンみたいな、ゼンマイ仕掛けのロボットが出現した。

 

 

 

【アイアイアン】 攻撃力 1600

 

 

 

「ちょ、何やってんのよマキちゃん!? 攻撃できないのにモンスターなんか出したら……!」

 

 

 

 アマネが慌てた声を上げる。マキちゃんは一体どうするつもりなんだろう?

 

 

 

「モンスター効果発動! 【アイアイアン】は自分のメインフェイズに一度、攻撃力を400アップします!」

 

 

 

【アイアイアン】 攻撃力 1600 + 400 = 2000

 

 

 

「ただし、この効果を使ったターンはバトルできない!」

 

「【護封剣】で攻撃できねぇのを上手く利用したか。だがいくら攻撃力を上げたところで、【ジェスター・コンフィ】の効果で手札に戻るだけだぜ?」

 

「フッフッフ~、それはどうかな? ですよ☆」

 

「なに?」

 

「あたしはカードを1枚伏せて……手札から永続魔法・【(おう)()神殿(しんでん)】を発動!」

 

「!」

 

「1ターンに一度、(トラップ)カードをセットしたターンに発動できる! あたしは今伏せた(トラップ)カード・【(はか)()らし】を、はっつどォーうッ!」

 

「【墓荒らし】だと?」

 

「この(トラップ)は相手の墓地にある魔法(マジック)カードを1枚、手札に加える事ができちゃいます! センパイの墓地から、【ソウルテイカー】をいただきです!」

 

 

 

 墓荒らしの()(びと)が、狼城くんの墓地に置いてある【ソウルテイカー】を奪い取って、(かな)()り声で笑った。

 

 

 

「そしてすかさず【ソウルテイカー】発動! 破壊するのはもちろん── 【ジェスター・コンフィ】!」

 

 

 

 【ジェスター・コンフィ】が消滅し、引き換えに狼城くんに1000ポイントのライフが与えられる。

 

 

 

 狼城 LP 1100 → 2100

 

 

 

「だが【墓荒らし】で奪ったカードを使った場合、お嬢ちゃんは2000のダメージを食らうんだろ?」

 

「あっ」

 

 

 

 えっ、その反応は……

 

 もしかして、素で忘れてた?

 

 

 

「あばばばばばっ!」

 

 

 

 マキノ LP 5000 → 3000

 

 

 

「くっ……やってくれましたね、センパイ!」

 

「いやオマエが勝手に自滅しただけだろ」

 

「とにかく! これでセンパイのコンボは崩れました! あたしはターンエンドです! さぁ、次はセンパイが踊る番ですよ~?」

 

「……おンもしれぇ……このオレを踊らせようってのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ── セツナとアマネの二人とは別の観客席で、一人の女子生徒が難しい顔をしながら、狼城とマキノの試合を静かに観戦していた。

 

 

 

(気をつけなよ、観月……)

 

 

 

 赤紫色の長髪が特徴的な、スタイル抜群のグラマーな少女。

 

 彼女の名は蛇喰(じゃばみ) 紫苑(アザミ)。今大会の予選でマキノと対戦した、次期十傑候補の一人である。

 

 そんな蛇喰の脳裏には今、過去に初めて狼城の決闘(デュエル)を観た時の記憶が思い起こされていた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ── それはある日の事。

 

 たまたま学園内にある決闘(デュエル)フィールドの近くを通りかかった蛇喰は、場内から漏れ聴こえてくる歓声を耳にした。

 

 

 

(何だい? 騒がしいね……)

 

 

 

 よほど注目度の高い決闘(デュエル)でも行われているのだろうか? 蛇喰が興味本意で()()の様子を(うかが)うと……

 

 

 

「!?」

 

 

 

 決闘(デュエル)フィールド上空で、1体の巨大なドラゴンが翼を広げていた。

 

 

 

【ホルスの黒炎竜 LV(レベル)(エイト)】 攻撃力 3000

 

 

 

(こいつは【ホルス】!? しかもあいつは……確か、十傑(じっけつ)(わし)()!)

 

 

 

 鷲津 LP 4000

 

 

 

 ドラゴンを従えているのは、ベージュ色のショートヘアの美青年・鷲津 秀隆(ひでたか)

 大型モンスターを召喚した事で優越感に浸っているのか、満足げな笑みを浮かべている。

 

 

 

(相手は誰だい?)

 

 

 

 その鷲津の対戦者は、癖毛な灰色の髪を持つ、鷲津に引けを取らない美貌の男子生徒。

 蛇喰は当時、まだ彼の名を知らなかったが、身に纏う雰囲気からかなりのやり手である事は(ひと)()で見抜いた。

 

 

 

「1ターン目からずいぶんと張り切ってんなぁ、ヒデタカの()っちゃんよぉ」

 

 

 

 狼城 LP 4000

 

 

 

「フフフ、僕の実力を思い知ったかい狼城? 【LV8】がフィールドにいる限り、君が発動した魔法(マジック)カードの効果は無効化される!」

 

「なるほどねぇ。そんで永続(トラップ)・【王宮のお()れ】がある限り、オレぁ(トラップ)カードも使えなくなっちまったってわけか。まさに絶体絶命だな」

 

「その通りだ。フフッ、理解が早いじゃないか」

 

 

 

 攻撃力3000の最上級モンスターを前にして、魔法も(トラップ)も封じられるという、圧倒的に不利なハンデを背負わされた状況。並みの決闘者(デュエリスト)なら、絶望してもおかしくない。

 

 

 

(こりゃあ、決まりかねぇ……)

 

 

 

 蛇喰でさえそう思った。ところが──

 

 

 

「まっ、さすがって言っとこうか。1ターンでここまでやるってのァな」

 

「ナメてもらっては困るねぇ。君になど、みすみす負ける僕ではないよ!」

 

「ナメてんのは、オマエの方だぜ」

 

「ふん。この布陣で、僕を倒せるとでも?」

 

「話になんねーな、楽勝だぜ」

 

 

 

 狼城は全く臆していないどころか、余裕の表情だった。

 

 一体どこからそんな自信が出てくるのか。興味をそそられた蛇喰は、この決闘(デュエル)を見届ける事にした。

 

 

 

「オレぁ手札を捨て── 【THE トリッキー】を特殊召喚」

 

 

 

【THE トリッキー】 攻撃力 2000

 

 

 

「さらに【ジェスター・コンフィ】も特殊召喚するぜ」

 

 

 

【ジェスター・コンフィ】 攻撃力 0

 

 

 

「ターンエンドだ」

 

「フッ、ハハハハッ! なんだいそれは? 余裕ぶった割りにザコモンスターしか呼べてないじゃないか!」

 

「オマエのレベルに合わせてやったんだよ。さっさと来いよ」

 

「なに……!? こ、この選ばれし十傑の一人である僕に向かって、どこまでもナメた口を……! 後悔させてやる!! 僕のターン! 【ホルスの黒炎竜 LV8】よ! あのザコを粉砕しろっ!!」

 

 

 

 いきり立つ(あるじ)の指示を受け、【ホルス】は口の中から炎を吐き出し攻撃する。

 標的は当然、攻撃力(ゼロ)の【ジェスター・コンフィ】。

 

 

 

「墓地の(トラップ)カード・【仁王立ち】の効果発動!」

 

「!?」

 

「このカードを除外する事で、このターン、オマエの攻撃対象はオレが決める事ができる。【THE トリッキー】に対象を変更だ!」

 

 

 

 放たれた火炎は方向を変え、【ジェスター・コンフィ】から()れて【THE トリッキー】を消し飛ばした。

 

 

 

「………」

 

 

 

 狼城 LP 4000 → 3000

 

 

 

「チッ、【THE トリッキー】を召喚する際に、捨てていたカードか……」

 

「【王宮のお触れ】は墓地で発動する(トラップ)にゃ意味ねーからな。詰めが甘いぜ、十傑サマよ?」

 

「ふん! それがどうしたと言うんだ! たかが1ターンを凌いだだけでイイ気になるなよ。()(ぜん)僕の優位に変わりは無い! ターンエンドだ!」

 

「……あーあ、せっかくチャンスをくれてやったってのに。やっぱオマエはその程度だったか」

 

「……えっ?」

 

「今のターンで【ジェスター・コンフィ】を処理できなかったのが、オマエの敗因だ」

 

「っ!?」

 

 

 

 言外に勝利宣言をする狼城。そして次の瞬間──

 

 

 

「【ジェスター・コンフィ】の効果発動! 自身の効果で特殊召喚された【ジェスター・コンフィ】は、相手のエンドフェイズに相手モンスターと共に手札に戻る!」

 

「なっ……!」

 

「あばよ、【LV8】」

 

 

 

 【ジェスター・コンフィ】と【ホルスの黒炎竜 LV8】が、同時にフィールドから消え失せた。

 

 

 

「なにィィィィッ!?」

 

(せ、せっかく召喚した【LV8】が、そのまま手札に戻されただとぉぉぉっ!?)

 

「オレのターン。オレはカードを3枚伏せ── 【ジェスター・ロード】を召喚」

 

 

 

【ジェスター・ロード】 攻撃力 0

 

 

 

「【ジェスター・ロード】、ダイレクトアタックしてやんな」

 

「は……ははっ! 攻撃力(ゼロ)でダイレクトアタック? 何を考えてるんだか!」

 

「チッチッチ。【ジェスター・ロード】の攻撃力は、フィールドにこいつ以外のモンスターがいない場合、魔法(マジック)(トラップ)カード1枚につき、1000アップするんだぜ。今、オレとオマエの場に出ている魔法(マジック)(トラップ)は合計4枚。つまり……4000にアップだ」

 

 

 

【ジェスター・ロード】 攻撃力 0 → 4000

 

 

 

「なっ……なんだとォォォォォッ!?」

 

「『ゲーム・オーバー』だな、坊っちゃん」

 

 

 

 【ジェスター・ロード】は火の玉を4つ出現させると、一斉に鷲津目掛けて投げつけた。

 

 

 

「そんな、バカなぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 鷲津 LP 0

 

 

 

「言っただろ? 楽勝だって」

 

 

 

 誰の目にも鷲津が優勢かに見えた決闘(デュエル)

 しかし(フタ)()けてみれば、狼城が鷲津を一蹴(いっしゅう)する結果に終わった。蛇喰の他に観戦していた生徒達は驚嘆(きょうたん)と歓声を上げる。

 

 

 

「つーわけで、今日から十傑の座はオレのもんだ。負け犬はとっとと失せな」

 

「こ、この僕が負けるなんて……ウソだぁ~~~っ!」

 

「あっ、そだ。実はよ、前からオマエに言いてぇ事があったんだよ」

 

「えっ……?」

 

「オマエ、弱いだろ」

 

(ガーーーーーンっ!?)

 

 

 

 目の前でいとも簡単に十傑のイスを奪い取った狼城に、蛇喰は畏怖の念を禁じ得なかった。

 

 

 

「……こいつはまた、とんでもないヤツが出てきたねぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……狼城の真価はこんなもんじゃない筈さね。油断するんじゃないよ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレのターン! ── 伏せカード・オープン! 【二重魔法(ダブルマジック)】!」

 

「!」

 

「このカードは手札の魔法(マジック)カード1枚を捨てて発動する。オレが捨てるのは、【大逆転クイズ】」

 

(うわ、ワニ嬢ちゃんを瞬殺した極悪カードじゃん!? 良かったぁ~、使われなくて)

 

「相手の墓地の魔法(マジック)カードを1枚、オレのフィールドで発動する事ができる」

 

「えぇ~っ!? ()()のカードを勝手に使うなんて……汚いですよ!」

 

「1ターン前に自分がやったコト忘れてね? ── オレが使わせてもらうのは……【強欲で貪欲な壺】だ!」

 

「っ!」

 

 

 

 狼城くんの空いている魔法・(トラップ)ゾーンに、マキちゃんの【強欲で貪欲な壺】が発動される。

 

 

 

「良いカードだよなぁコレ。デッキの上から10枚除外して、2枚引くぜ」

 

「むぅ……」

 

「オレは【ジェスター・ロード】をリリースし、【魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)】を召喚!」

 

 

 

魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)】 攻撃力 2000

 

 

 

「攻撃力は同じ2000……相討ち狙いですか?」

 

「ざんねん、不正解。オレは手札から魔法(マジック)カード・【おとり人形(にんぎょう)】を発動!」

 

「!?」

 

「相手の()(ほう)(トラップ)ゾーンにセットされたカードを1枚確認し、そのカードが(トラップ)なら、強制発動させる。そして発動タイミングが正しくなかった場合は、効果を無効にして破壊するのさ。── さぁ見せな! その伏せカードを!」

 

 

 

 マキちゃんの場に1枚だけ残っていた伏せカードが、強制的にリバースされる。

 

 セットしていたのは……永続(トラップ)カード・【闇の増産工場】だった。

 

 

 

「……チッ、【闇の増産工場】か。発動タイミングは合ってるな」

 

「この際だから使っちゃえ! 【闇の増産工場】の効果! 1ターンに一度、自分の手札かフィールドのモンスター1体を墓地に送り、1枚ドローする! 手札の【スロットマシーン】を墓地へ!」

 

「【おとり人形】は発動後、墓地へ送らずデッキに戻す」

 

「フフッ、魔法(マジック)カードを1枚ムダにしちゃいましたね」

 

「構わねぇよ、本命は()()()だからな」

 

 

 

 そう言って狼城くんは、自身が従える【魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)】を、親指(おやゆび)()した。

 

 

 

「え?」

 

 

 

魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)】 魔力カウンター × 1

 

 

 

「ま、魔力カウンター!? いつの間に!」

 

「【魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)】は魔法(マジック)カードが発動する度に、魔力カウンターを1つ置く。そしてカウンター1個につき、攻撃力を200ポイントアップする!」

 

 

 

魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)】 攻撃力 2000 → 2200

 

 

 

「ヤッバ……!」

 

「バトルだ。【魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)】で、【アイアイアン】を攻撃!」

 

「うぅっ!」

 

 

 

 マキノ LP 3000 → 2800

 

 

 

「ターンエンド。どうやら、この舞台(フィールド)で踊り続けるのは、お嬢ちゃんの方だったみてぇだな?」

 

「……勝った気になるのは、まだ早いですよ?」

 

「強がんなよ。もうお嬢ちゃんに勝ち目はねぇ。降参(サレンダー)したらどうだ?」

 

「嫌ですよ、もったいない。例え勝ち目が無くっても、最後まで諦めずに闘った方が、高く評価してもらえるかもじゃないですか」

 

 

 

 そうだ、すっかり失念してた。

 

 この大会の通称は『選抜試験』。学園のテストの一環だったんだ。

 

 

 

「そうでなくても、あたしはサレンダーなんかしません! ── あたしの……タァーンッ!!」

 

「……良いぜ、見せてもらおうじゃねぇか。お嬢ちゃんのラストダンスを」

 

「あたしは手札から【マジック・プランター】を発動! 自分フィールドの永続(トラップ)カード1枚を墓地へ送り、デッキから2枚ドローする!」

 

魔法(マジック)カードを発動したな! 【魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)】にカウンターが乗るぜ!」

 

 

 

魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)】 魔力カウンター × 2 攻撃力 2200 → 2400

 

 

 

「……【闇の増産工場】を墓地に送って、2枚ドロー!」

 

 

 

 よし、手札が3枚もあれば、まだ(ゆう)()はある!

 

 

 

(……この手札なら!)

 

「カードを1枚セット! 【王家の神殿】の効果で、永続(トラップ)・【強化蘇生】を発動! 墓地から【アーク・マキナ】を復活させます!」

 

 

 

【魔神アーク・マキナ】 守備力 2100

 

 

 

「このカードで特殊召喚したモンスターはレベルが1つ上がり、攻守が100アップします!」

 

 

 

【魔神アーク・マキナ】 レベル4 → 5 攻撃力 100 + 100 = 200 守備力 2100 + 100 = 2200

 

 

 

「壁モンスターで時間稼ぎってか? 芸のねぇこって。そんなんじゃ(どう)()は務まんねぇぜ」

 

「あたしは道化じゃありませんよ! さらにカードをもう2枚伏せて、ターンエンドです!」

 

『ここで3ターンが経過した! 【光の護封剣】の効果が切れる!』

 

 

 

 ようやくロックを解かれ、次のターンからマキちゃんの攻撃が可能となった。

 

 

 

「さぁかかってきてください! この戦略を読み切ったら、ハダカ踊りを踊ってあげますよ!」

 

(……2枚の伏せカード……か。おもしれぇ)

 

「オレのターン。【魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)】の効果発動! 魔力カウンターを2つ取り除き、相手モンスター1体を破壊する!」

 

 

 

魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)】 魔力カウンター × 0 攻撃力 2400 → 2000

 

 

 

「【アーク・マキナ】を破壊だ!」

 

「永続(トラップ)発動! 【デモンズ・チェーン】!」

 

「!」

 

 

 

 悪魔の鎖が【魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)】を縛り付けて、動きを封じた。

 

 

 

「これで【魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)】は攻撃できず、効果も無効になります!」

 

「……がんばるねぇ~。ターンエンドだ」

 

「あたしのターン……ドロー!」

 

(!!)

 

「来たァーーーッ!! 今からセンパイに面白いものを見せてあげますね!」

 

「へぇ? よっぽど良いカードを引けたみてぇだな?」

 

「自分の墓地のモンスターが機械族だけの時、このモンスターは特殊召喚できる! 出ておいで! 【ネジマキシキガミ】!!」

 

 

 

【ネジマキシキガミ】 攻撃力 100

 

 

 

 キツネのお面を被り、両肩からゼンマイのネジが伸びている、着物姿のカラクリ人形が現れた。

 

 

 

「レベル8で攻撃力100だと? 確かに面白いステータスだが……何を考えてやがる?」

 

「フフッ、大抵の人はこの子の攻撃力だけを見て(あなど)るんですけど、センパイは違うみたいですね、さすがです! ── 【ネジマキシキガミ】の効果発動! 1ターンに一度、相手モンスター1体の攻撃力を、ターンの終わりまで(ゼロ)にします!」

 

 

 

魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)】 攻撃力 2000 → 0

 

 

 

「なにィ!?」

 

「バトル! 【ネジマキシキガミ】で、【魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)】を攻撃! 『ジンツウリキ』!!」

 

 

 

 【ネジマキシキガミ】の放った念力を浴びて、【魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)】は【デモンズ・チェーン】の鎖もろとも粉々に砕け散る。

 人形対決は【ネジマキシキガミ】の勝利だ。

 

 

 

「チッ……!」

 

 

 

 狼城 LP 2100 → 2000

 

 

 

「やったーッ! あたしはこれで、ターンエンドです!」

 

「……こりゃあ……ちぃとヤベーかもな」

 

 

 

 狼城くんのフィールドにモンスターはいない。マキちゃん、このまま押し切っちゃえ!

 

 

 

「オレのターン、ドロー……」

 

(……!)

 

「ククッ……ハハハハハッ!!」

 

「!?」

 

「惜しかったな、お嬢ちゃん。なかなか見応えのあるショーだったが……そろそろ舞台から降りる時間の様だぜ」

 

「えっ……!」

 

「この決闘(デュエル)は── オレの勝ちだ」

 

「!!」

 

 

 

 突然、勝利を宣言した狼城くん。マキちゃんは驚いて目を剥いた。

 

 

 

「手札から魔法(マジック)カード……【思い出のブランコ】を発動!」

 

「っ!」

 

「自分の墓地から通常モンスター1体を特殊召喚できる」

 

「で、でも! センパイの墓地に通常モンスターなんて……!」

 

「よ~く思い返してみろよ。あっただろ? 一度だけ、通常モンスターを墓地に送れた機会が」

 

「……? ── あっ!」

 

 

 

 ── 『オレは手札を1枚捨てて、【THE トリッキー】を特殊召喚』

 

 

 

「あの時に……!」

 

「正解だ。さぁ、本日の主役の出番だぜ! ── 現れろ、【コスモクイーン】!!」

 

 

 

 現れたのは、大きな(かんむり)の様な被り物を頭に乗せた、妖しいオーラを漂わせている女性のモンスターだった。

 

 

 

【コスモクイーン】 攻撃力 2900

 

 

 

「攻撃力、2900……!」

 

「綺麗だろ? こいつがオレのデッキのエースだ。【コスモクイーン】の攻撃で【ネジマキシキガミ】を倒せば、与える戦闘ダメージは2800ポイント。そんでオマエのライフもピッタリ2800。── これで、幕引きだな」

 

「くぅ……!」

 

「バトルだ。【コスモクイーン】で、【ネジマキシキガミ】を攻撃! 『コズミック・ノヴァ』!!」

 

 

 

 【コスモクイーン】は胸の前に黒いエネルギーの球体を生成し、両手を突き出してそれを発射した。

 

 

 

(トラップ)発動! 【パワー・フレーム】! 相手モンスターの攻撃を、無効にします!」

 

「!」

 

「その()、【パワー・フレーム】は【ネジマキシキガミ】の装備カードとなり、戦闘を無効にした、相手モンスターとの攻撃力の差だけ、攻撃力をアップします! 【ネジマキシキガミ】と、【コスモクイーン】の攻撃力の差は、2800!」

 

 

 

【ネジマキシキガミ】 攻撃力 100 + 2800 = 2900

 

 

 

「……なるほど。そんで次のターンに【ネジマキシキガミ】の効果で、オレのモンスターの攻撃力を(ゼロ)にして、アップした攻撃力で叩く腹だったっつーわけか」

 

 

 

 【思い出のブランコ】で蘇生させたモンスターは、エンドフェイズに墓地へと戻る。

 

 攻撃力2900となった【ネジマキシキガミ】で狼城くんにダイレクトアタックすれば、マキちゃんの勝ちだ!

 

 

 

「認めてやるよ。確かにお嬢ちゃんの(トラップ)の扱いはピカイチだ。……が。魔法(マジック)に関しては、オレのが一枚(うわ)()だったな!」

 

「!?」

 

「伏せカード・オープン! 速攻魔法・【ダブル・アップ・チャンス】!」

 

 

 

 ── !! アレは、ボクのデッキにも入っている魔法(マジック)カード!

 

 

 

「このカードはモンスターの攻撃が無効になった時に発動できる。そのモンスターは2回目の攻撃が可能となり、ダメージステップに攻撃力が倍になる!」

 

「ウソ……!?」

 

「バトル続行だ── 【コスモクイーン】! もう一度【ネジマキシキガミ】に攻撃しろ!」

 

 

 

- コズミック・ノヴァ!! -

 

 

 

【コスモクイーン】 攻撃力 2900 → 5800

 

 

 

「『ゲーム・オーバー』だ、お嬢ちゃん」

 

 

 

 1発目の倍近いサイズに膨張した2発目のエネルギー弾が、ついに【ネジマキシキガミ】に炸裂する。

 

 マキちゃんの受けるダメージは、2900ポイント……!

 

 

 

「わああぁぁーっ!!」

 

 

 

 マキノ LP 0

 

 

 

『決着ゥゥーーーッ!! ウィナー・狼城 暁!! 魔法のエキスパートと(トラップ)のエキスパートの対決を制したのは、魔法のエキスパート── トリック・スター! 狼城 暁だァァァァッ!!』

 

「……はぁ……負けちゃったか~」

 

「2年にしちゃあ、やるじゃねーのよ。ちょっとヒヤヒヤしたぜ」

 

 

 

 狼城くんが差し伸べた手を取ってマキちゃんは立ち上がり、そのまま握手を交わす。

 

 

 

「セツナくんは手強いですよ~? あたしよりも、ずーっとね」

 

「……そいつァ楽しみだな」

 

 

 

 ……マキちゃんと狼城くんの健闘を拍手で讃えながら、ボクはアマネに話しかける。

 

 

 

「二人とも良い決闘(デュエル)だったね、アマネ」

 

「……やっぱり似てるわね」

 

「? 似てるって、何が?」

 

狼城(あの人)決闘(デュエル)……セツナに似てる気がするのよね」

 

「えっ、ボクに?」

 

「さっきセツナが『何をしてくるかサッパリ読めない』って言ってたから、もしやとは思ってたんだけどね」

 

「……そうなのかな……?」

 

 

 

 確かに【ダブル・アップ・チャンス】とか【ソウルテイカー】とか【思い出のブランコ】とか……それから昨日の試合では【コンフュージョン・チャフ】や【魔法除去】と言った、ボクも愛用しているカードをちらほら使ってたけど。

 

 

 

「まぁ私が見た限りではそう思えたってだけよ。何にせよ、明日(あした)は面白い決闘(デュエル)が観れそうね」

 

「そっか……明日のボクの相手は狼城くんかぁ。しんどいな~」

 

「とか言ってる割りに、楽しそうじゃない」

 

「あ、バレた? あはは」

 

 

 

 うん、正直ワクワクしてる。十傑な上に去年の第3位で、しかもボクと似た様な決闘(デュエル)をする相手……

 

 どんな決闘(デュエル)ができるのか、明日が楽しみだよ。

 

 

 

『さぁこれにてトーナメント2回戦は全て終了し、準決勝に勝ち進んだ4(きょう)が出揃った!! この中から決勝戦への切符を手にするのは、果たして誰なのか!? ()()の闘いも壮絶を極めること間違いなし! みんな期待して待っていてくれッ! それでは今日の興奮と感動を胸に! トゥービーコンティニュード! シーユー!!』

 

 

 

 





 切りが良いので何とか今年中に投稿できて良かったです。
 急ピッチで書き上げたので、いつも以上に粗が目立ってるかも……

 来年からは準決勝! いよいよ選抜デュエル大会編も大詰めです!

 皆さま、よいお年を!


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TURN - 49 SEMI-FINAL


 あけましておめでとうございました!(3月)

 今年もマイペースな更新頻度になりそうです。完結は何年後になるやら……



 

「うえぇ~~~ん! 負けちゃったよアマネたぁ~~ん! (なぐさ)めてぇ~~ん!」

 

「わ、分かったからあんまり引っつかないで……」

 

 

 

 狼城(ろうじょう)くんとの試合に惜しくも敗退してしまったマキちゃんは、ボク達と合流するなり、アマネに走り寄って泣きついた。

 

 普段くっつかれた時は文句を言って押し退()けるアマネも、さすがに今回ばかりは気が引けたのか、困った顔をしつつもマキちゃんを抱き止めてあげている。

 

 

 

「お疲れマキちゃん。良い決闘(デュエル)だったよ」

 

 

 

 ボクはアマネの胸に顔を(うず)めるマキちゃんに、内心うらやましいと思いながら(ねぎら)いの言葉をかける。

 

 本当に紙(ひと)()の勝負だった。ラストターンで狼城くんが【ダブル・アップ・チャンス】を使ってこなければ、勝っていたのはマキちゃんだったのだから。

 

 まぁでも当のマキちゃんは今がチャンスと言わんばかりに、アマネの胸の谷間にグリグリと顔を突っ込んで「ぐふふふふふっ」とか言ってるので、たぶん大丈夫だろう。

 

 

 

「ほらマキちゃん、帰るわよ」

 

「え~っ、なんか冷たくな~い? あたしガンバったんだよ~? 頭撫でてよしよししてよぉ~」

 

「んなっ……!」

 

「アマネ、今くらいは甘やかしてあげなよ」

 

「っ……よ、よしよし。よくやったわよ」

 

 

 

 アマネは仕方なしとため息をついて、マキちゃんの頭を優しく撫で回す。

 

 

 

「これでいい?」

 

「……まだ足りなぁ~い」

 

「も、もう!」

 

 

 

 どうにもこの甘えん坊ちゃんは、簡単には引き()がせそうにないね。

 

 

 

「今日はアマネたん()に泊まるぅ~」

 

「はぁ? ……全く、しょうがないわね。夕飯は何食べたい?」

 

「お肉ぅ~」

 

「あはは、アマネがなんかお母さんみたい」

 

「うっさいわね。せめてお姉さんって言いなさいよ」

 

「ママ~、おっぱい吸わせて~」

 

「あんたも悪ノリすな!」

 

 

 

 激戦の後とは思えないほど平和な会話を交えつつ、ボク達は校内に残る用事も特に無い為、今日のところはそろそろ下校する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせルイくん、ケイくん」

 

「あ、セツナ先ぱ~い!」

 

「チッス!」

 

 

 

 一緒に帰る為に待ち合わせしていた一ノ瀬兄弟の元へ到着すると、ルイくんがパァッと明るい笑顔をこちらへ向けて、嬉しそうにトテトテと駆け寄ってきた。

 

 彼はボクを見かけると、いつもこうして(そば)に来てくれる。あ~可愛い。尻尾が見える。

 

 

 

「フフッ、いい子いい子」

 

 

 

 ルイくんの頭をなでなでしてあげると、上目遣いでボクの顔を見て「えへへ」っとはにかんだ。天使だ、地上に舞い降りた天使だ。

 

 いや~良かった。昨日(きのう)の祝勝会の一件で嫌われちゃってたら、どうしようかと思ったよ。

 

 

 

「先輩、準決勝進出おめでとうございます!」

 

「おめでとうごぜぇやすッ! (あに)さん!」

 

「ありがとう二人とも」

 

「セツナくんだけズル~い! あたしもルイちゃんなでなでする~!」

 

「ひゃ、マ、マキノさん!?」

 

 

 

 マキちゃんがルイくんを後ろから抱き締めて、さっき自分がアマネにしてもらった様に頭を撫でながら()でてるのをよそに、ケイくんがボクに話しかけた。

 

 

 

「ところで(あに)さん、さっき兄貴と話してたんスけど……」

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お~、ここいつの間にできてたんだね」

 

 

 

 ボク達5人が()()いる場所は、学園からほど近い駅前に新設された、大型ショッピングモール。

 

 ボクがこの街に引っ越してきた時からずっと建設中だったものが、先日ついにオープンしたらしい。

 

 ルイくんとケイくんに「帰りに寄らないか」と誘われたので、せっかくだから見に来てみたというわけだ。

 アマネとマキちゃんも、「帰宅に使う駅のすぐ側だし、もう負けちゃってヒマだから」という理由で付き添ってくれた。

 

 とりあえず小腹も空いたし、まずは案内板を頼りにフードコートへ向かう事に。

 

 すると真っ先に目についたクレープのお店を、マキちゃんが指さして声を(はず)ませる。

 

 

 

「あっ! クレープ屋さんあるよ! タピオカもあるって! タピろタピろ~!」

 

「タピオカって……あのカエルの(タマゴ)みてぇのが入ってる飲みモンッスか?」

 

「ケイくんその例えは()めた方が良いかも……」

 

 

 

 なんて言ってる間に、マキちゃんはアマネを連れてそそくさとクレープ屋に直行した。そこそこ並んでるからボクらも急いで後に続こう。

 

 ……数分後、各自の注文したクレープとタピオカを持って、ボク達は空いていた丸テーブルを囲み、おやつの時間としゃれ込んだ。

 

 

 

「ん~、おいし~! やっぱクレープと言えば、バナナチョコホイップだよね~!」

 

 

 

 本当に美味しそうにクレープを頬張るマキちゃん。幸せそうで見てるこっちも和む。

 

 

 

「俺はこういうの滅多に食わねぇんスけど、なかなかイケるッスね」

 

「ケイちゃん普段はお肉ばかり食べてるもんね」

 

「兄貴ももっと肉を食おうぜ。んで、筋トレしてでっかくなりゃあよ、女に間違われる事もなくなるぜ?」

 

「そ、そうかな?」

 

 

 

 もしルイくんがケイくん並みに大きくなったら……いや、正直そのままでいてほしいかも……

 

 ……あっ。

 

 

 

(クリームついてる……)

 

「ルイくん、ジッとしてて」

 

「え?」

 

 

 

 ボクはルイくんの口元についたホイップクリームを指先で(すく)い取ると、それを舐めた。

 

 

 

「……ん、()()し♪」

 

「っ~~~!?」

 

 

 

 ボクが唇の端を舐めて微笑みかけると、急にルイくんの顔が真っ赤になった。

 

 

 

「は、恥ずかしいことしないでくださいよぉ~っ!」

 

「えぇっ!?」

 

((( バカップル…… )))

 

 

 

 ルイくんの気に(さわ)っちゃったかな。

 ボクが「ごめんね」と謝ると、彼は困った様な照れた様な表情で許してくれた。

 

 

 

(アマネたんアマネたん! 口にクリームつけて! 今がチャンスだよ!)

 

(やるわけないでしょバカ!)

 

(え~? つまんないの~。……そうだ!)

 

「……ねぇねぇ、セツナく~ん」

 

「なぁにマキちゃ ── んんっ!?」

 

 

 

 呼ばれて振り向いたボクの目の前で、マキちゃんが制服の胸元を開き、チラリと見えるピンクのブラジャーに包まれた豊満な胸の谷間に、クレープの生クリームを乗せていた。

 

 

 

「あたしもクリームついちゃった~。取って~?」

 

「絶対わざとでしょ!?」

 

「ほら、は・や・く~」

 

 

 

 マキちゃんは前屈(まえかが)みでグイグイと近づき、谷間に挟んだ白くてドロドロの液体を見せつけてくる。

 今朝ボクが散々揉みまくった胸である事も相まって、ボクの視線は否応(いやおう)なく釘付けになってしまう。

 

 い、良いんだろうか……? いや、早く取ってあげないと、誰かにこんなとこ見られたら色々マズイし……そもそも本人が頼んでるんだから、これは合意、そう、合意の上であって ──

 

 

 

「食べ物で遊ぶんじゃないの」

 

「あいたっ!」

 

 

 

 その時、アマネがマキちゃんの頭に軽めのチョップを叩き込んで止めてくれた。た、助かった……

 

 

 

「てへへ~、ごめんごめん」

 

 

 

 するとマキちゃんは、なんと自分の手で胸の谷間をむにぃっと広げながら、もう片方の手を使って中の白濁液(はくだくえき)……もといクリームを()き出し始めた。

 

 

 

「やぁ~ん、奥まで入っちゃってベトベトするぅ~」

 

(エ、エロい……っ!!)

 

 

 

 指につけたクリームをペロリと舐めるマキちゃん。そのエロチック過ぎる行動に、またしてもボクは見入ってしまう。

 

 ふと一ノ瀬兄弟に目を向けると、ケイくんはほんのり顔を赤らめてマキちゃんの胸をガン見し、ルイくんは「はわわわっ」と狼狽(うろた)えながら両手で自分の顔を覆い隠すも、指の隙間からチラチラと(のぞ)いているのがバレバレだった。

 

 ……うん、やっぱりルイくんも男の子なんだね。()()だか安心したよ。

 

 ティッシュも駆使して何とか胸を綺麗にしたマキちゃんは、きちんとシャツのボタンを留めてリボンを付け直した後、携帯端末を取り出した。

 

 

 

「は~いみんなこっち向いて~!」

 

 

 

 高く掲げた端末を自分の方に向けて、それを見上げながらタピオカドリンクの容器を持った手でピースするマキちゃん。

 

 画面はカメラモードになっていた。どうやら集合写真を撮りたいみたいなので、ボク達もカメラの枠に納まる様に身を寄せ合って端末を見つめた。

 

 

 

「はい、チーズ☆」

 

 

 

 シャッター音が鳴る。

 

 撮れた写真をマキちゃんが確認して、「よく撮れてるよ~!」と見せてくれた。

 

 一番手前で良い笑顔で写っている撮影者のマキちゃん。

 その後ろには、タピオカのストローを口に(くわ)えてカメラ目線のアマネと、やや身を乗り出して、これ見よがしにタピオカを差し出し微笑むボク。

 そして右手にクレープ、左手にタピオカのルイくんと、その横で何故か眉間にシワを寄せているケイくん。

 口角が少し上がってるので、たぶん本人は笑ってるつもりなのかも?

 

 手ブレも無く、とても良い写真が撮れたと思う。まさしく青春を切り取った思い出の1枚だ。

 

 

 

「あはは、ケイくん顔怖いよ~」

 

「ど、どんな()()すりゃ良いか分かんなかったんスよ!」

 

「イ○スタ()え~♪ 後でみんなに送っとくね~」

 

 

 

 そんな感じでスイーツと談笑を満喫した後は、腹ごなしにゲームセンターで遊んだり、アパレルショップで服を見て回ったり、アマネが入った試着室を()けようとするマキちゃんをボクら3人で必死に止めたり……

 

 一部だけだったけど、モール内をみんなで仲良く散策してから解散したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ── そして翌日。

 

 選抜試験は6日目を迎え、会場であるセンター・アリーナには、例のごとく大勢の観客が詰めかけていた。

 

 

 

『ハローエブリワンッ!! 皆さんお待ちかね! アリーナ・カップ、準決勝(セミファイナル)の時間がやって来たぞッ!! すでに会場は超満員! 興奮の()(つぼ)と化しているっ!! 今日は2試合で終わってしまうが、その分全力で盛り上がっていこうぜぇーッ!!』

 

 

 

 今日も今日とてMCのマック伊東さんが観客を盛り上げ、場内をこれでもかと温めてくれている。

 その様子を、ボクはいつもの控え室……ではなく、観客席の後ろの出入り口に通じる通路に立って、柵に腕を乗せた姿勢で眺めていた。

 

 なんてったって、これから始まる第1試合の対戦カードは、あのカナメ vs(バーサス) 九頭竜(くずりゅう)くんだ。

 

 この決闘(デュエル)だけは、どうしても(なま)で観ておきたいからね。

 そしてボクの隣には、その次の第2試合でボクと闘う、狼城(ろうじょう) (アキラ)くんも一緒にいる。

 

 

 

『まずはここまで勝ち残ってきた4人の決闘者(デュエリスト)を改めて紹介しよう! 今年の4(きょう)は、こいつらだァーッ!!』

 

 

 

 会場の巨大モニターに、カナメ、九頭竜くん、狼城くん、そしてボクの顔写真がデカデカと表示された。な、なんか気恥ずかしい……

 

 ていうか女性陣の歓声がスゴいなぁ。確かに他の3人は少女マンガから出てきたのかってぐらいイケメンだから納得だけど。

 

 ついでに言えば、身長もこのメンツではボクが一番低いんだよね。ボクだって一応172センチあるのに……あ、なんか落ち込んできたかも……

 

 

 

「? どーしたよセツナ君? 目が死んでんぜ?」

 

「いや……みんなの顔面偏差値が高過ぎて……ちょっと(ヘコ)んでる……」

 

「なーに言ってんだよ。オマエだって、けっこー綺麗な顔してんぜ?」

 

「そ、そう?」

 

『見よっ、これぞまさにイケメンパラダイスッ!! 黄色い声援が凄まじいッ! ここは一体どこのホストクラブだぁ~~~っ!?』

 

「ほれ、実況のオッサンもあー言ってんじゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ── その頃、セツナと狼城の位置から少し離れた観客席にて。

 

 

 

「う~~~ん」

 

「どうしたのマキちゃん? 難しい顔して」

 

「あの4人だったらセツナくんは総受けかな~? アマネたんはどう思う?」

 

「聞くんじゃなかったわ」

 

 

 

 などという会話が繰り広げられていた事を、当の本人達は知る(よし)もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さてさて! イケメン達の登場に会場の興奮も最高潮に達したところで、早速本日の第1試合を始めようかッ! 選手入場ッ! カモォーンッ!!』

 

 

 

 マック伊東さんの合図を受けて、2つある入場ゲートの片方が、青い照明に照らされる。

 直後、スモークの噴出に触発され、観客席全域から拍手喝采が沸き起こるのと同時に ──

 

 一人の青年が、場内へと足を踏み入れた。

 

 

 

『一人目は優勝候補筆頭! その名を聞くだけでこの学園の……()いてはこの街の誰もが恐れ(おのの)くだろう! もはや説明不要の若き天才決闘者(デュエリスト)! 通称・学園〝最凶〟!! 3年・十傑(じっけつ) ── 鷹山(ヨウザン) (カナメ)ェェーッ!!』

 

 

 

 名前を呼ばれた黒髪の青年 ── カナメは、足取り軽やかに決闘(デュエル)フィールドへと歩みを進める。

 

 ……心なしかモニターに映るその表情が、今日はどこかワクワクしている様に、ボクには思えた。

 

 カナメが舞台に立ち、続けて九頭竜くんの入場を待っていた時、狼城くんがボクに喋りかけた。

 

 

 

「……そーいやよ、さっき控え室で会ったキョウゴの顔、見たか?」

 

「……うん」

 

 

 

 昨日までの九頭竜くんは常時ピリピリしていて、不用意に近づいたら噛みつかれそうだったけど……今日は真逆で、怖いくらいに落ち着いていた。

 

 本当に全神経をカナメとの決戦に集中させているのが皮膚感覚で伝わってきて、とても話しかけられなかった。

 

 

 

「オレが声かけても、『あ"?』とかも言わねーでガン無視されたわ。あんなキョウゴの()()ァ見たのぁ初めてだな」

 

「そうなんだ……」

 

 

 

 と、話してる(あいだ)に、カナメと反対側の入場口を紫色のライトが照らし出した。

 

 今回の照明の色は二人のイメージカラーに合わせたのかな?

 

 

 

『さぁ二人目の選手の入場だ!! こちらも鷹山選手と同じく、今や言わずと知れた十傑の決闘者(デュエリスト)! そして恐らくこの学園において、鷹山選手と唯一互角に渡り合える、もう一人の天才だッ! だが去年と一昨年(おととし)は決勝戦で鷹山選手と激突するも、あと一歩及ばずの準優勝! ── しかし! 彼は折れなかった!! 何度負かされようと、この男だけは鷹山選手を倒す事を諦めなかった! そして今日! この準決勝の舞台で、執念(しゅうねん)のガンマンは最後のリベンジマッチに挑むッ!! 人呼んで学園〝最強〟!! 3年・十傑 ── 九頭竜 響吾(キョウゴ)ォォーッ!!』

 

 

 

 熱のこもったMCに呼応して(とどろ)く大歓声の中、長身で髪が紫の色黒な青年 ── 九頭竜くんが舞台に上がり、カナメと向かい合う。

 

 

 

「………よぉ」

 

「やっとこの時が来たな九頭竜。お前との最後の決戦、心から待ちわびていたぞ」

 

「………」

 

「どうせなら今年も決勝戦で当たりたかったがな……まぁ、こればかりは仕方がない。……今日はお前がこの学園で俺を倒す、最後のチャンスだ。せいぜい俺を愉しませ ──」

 

「ゴチャゴチャうるせぇよ」

 

「!」

 

「俺はお喋りしにここに来たんじゃねぇ……。 ── てめぇを撃ち殺しに来たんだっ!!」

 

 

 

 ── !!

 

 いきなり、場内の空気が一変した。

 

 カナメ一人にだけ向けられている筈の、九頭竜くんの殺気。

 その()()で、この中にいる全員が()()されて、押し黙ってしまった。

 

 ボクもゾクッと肌が(あわ)()ち、(たま)らず震え上がる。

 

 

 

「お? ビビっちゃった? セツナ君」

 

「ちょ、ちょっとビックリしただけだよ」

 

 

 

 なんで狼城くんは平気そうなんだか。

 カナメじゃなきゃ、あんなの食らったら絶対に口から泡を吹いて気絶してるよ。

 

 

 

「おい実況っ!!」

 

『い"っ!?』

 

「何ボサッとしてやがる! とっとと決闘(デュエル)開始の宣言をしろっ!!」

 

(は、はい九頭竜さんっ!)

 

決闘(デュエル)開始ィィィィィッ!!』

 

「行くぞぉッ!!」

 

「フッ……せっかちなことだな。……良いだろう。来い ──、九頭竜」

 

 

 

 二人は同時にデュエルディスクを起動させる。

 

 いよいよ満を持して ──

 

 『学園最強』と『学園最凶』、()(ゆう)を決する時が来た!

 

 

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 カナメ LP(ライフポイント) 4000

 

 九頭竜 LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「……鷹山」

 

「なんだ?」

 

「 ── 俺は後攻を取らせてもらうぜ」

 

「! ……ほう?」

 

 

 

 決闘(デュエル)スタートから5秒足らずで、九頭竜くんの予想外な宣言が飛び出し、観衆をざわめかせる。

 

 

 

『なっ、なんとぉ!? これは珍しい! 九頭竜選手が自ら後攻を選択したぁーっ!?』

 

「どうやら昨日の蝶ヶ咲との試合で少しは反省できた様だな。では、俺の先攻(ターン)

 

 

 

 この大会で ── そしてボクが知る限りでも ── 初めてカナメが先攻を取った。

 カナメは手札を抜き取り、ディスクにセットする。

 

 

 

「俺はモンスターをセット。そしてカードを2枚伏せ、ターン終了(エンド)だ」

 

『鷹山選手もこれまた珍しく、無難な初動で先攻1ターン目を終えたっ! さぁ九頭竜選手はどう動くのか!?』

 

「俺のターンだ…… ── ドローッ!」

 

 

 

 九頭竜くんは勢いよくデッキからカードを引き抜くと、それをそのままディスクに、叩きつける様にセットした。

 

 

 

「俺のカードはこいつよ!」

 

 

 

(エー)-アサルト・コア】 攻撃力 1900

 

 

 

 ── !? アレは、今までの【機械龍(マシン・ドラゴン)】とは明らかに違う……見た事ないモンスターだ……!

 

 

 

「くくくっ、覚悟しな! この俺の進化した【機械龍(マシン・ドラゴン)】デッキで、てめぇを地獄に送ってやるぜッ!!」

 

「……お前の進化したデッキか……。── 潰しがいがありそうだ」

 

 

 

 





 ようこそ、ホストクラブ【JARDIN(ジャルダン)】へ。
 当店のトップ4をご紹介します。

 No.1 カナメ
 No.2 響吾
 No.3 アキラ
 No.4 セツナ

 さぁ、あなたは誰を指名しますか?

 ※フィクションです。

 セツナと狼城はホストでもやっていけそう(笑)


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TURN - 50 FATED RIVAL - 1


 ついに50話まで来ましたァーッ!!

 50話目にして、この二人の決戦を書けるとは……何とも(おもむき)があって、テンション上がりますなぁ。



 

 アリーナ・カップ6日目。

 

 準決勝・第1試合 ── カナメ vs 九頭竜(くずりゅう)くんの決闘(デュエル)は、開始早々(そうそう)、意外な展開を見せた。

 

 まず九頭竜くんが自分の意志で後攻を選択して、さらに ──

 

 

 

「俺のターン行くぜ! このモンスターを召喚!」

 

 

 

(エー)-アサルト・コア】 攻撃力 1900

 

 

 

 今まで使っていた竜の姿をした銃器・【機械龍(マシン・ドラゴン)】とは、似ても似つかない新たなモンスターを召喚してきたんだ。

 

 

 

「よく聞け鷹山(ヨウザン)ッ!! 学園〝最強〟・九頭竜 響吾(キョウゴ)が、この進化したデッキでてめぇを撃ち殺してやるぜっ!!」

 

「フッ、面白い……。ならば、どれほどの進化を遂げたのか……この学園〝最凶〟・鷹山 (カナメ)が試してやる」

 

 

 

 カナメ LP(ライフポイント) 4000

 

 九頭竜 LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ── 鷹山 要と、九頭竜 響吾。

 

 決闘(デュエル)が全てを支配する街・ジャルダンにおいて、それぞれ『学園最凶』と『学園最強』の異名で恐れられている、デュエルアカデミア・ジャルダン校のツートップ。

 

 そんな二人が初めて出会ったのは、今から5年ほど前…… ── 中等部1年の時分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 ── 【リミッター解除】発動! 撃ち殺せ、【リボルバー・ドラゴン】!」

 

「ぐわああああっ!?」

 

 

 

 九頭竜のエースモンスターの一撃により、対戦相手はライフポイントを一瞬で(ゼロ)にされ敗北する。

 

 

 

「そ、そんなバカなっ……この俺が中坊なんかに……!」

 

「ケッ、この程度が高等部の実力かよ。三流もいいとこじゃねぇか」

 

 

 

 そう、当時13歳の九頭竜が一蹴(いっしゅう)したのは、自分より3つも歳上の、高等部1年生だった生徒。

 

 本来であれば勝つどころか闘う事さえ叶わない年齢差の相手を、赤子の手でも(ひね)る様に圧倒してみせた中等部の少年に、周囲で観戦していた生徒達の誰もが戦々恐々(せんせんきょうきょう)となった。

 

 

 

「す、スゲぇ……高等部の先輩をワンショット・キルかよ……なんなんだあいつ……!」

 

「な、なぁ、お前ちょっと挑んでみろよ」

 

「じょ、冗談じゃねぇ! あんな強くて怖そうなの、勝てっこねぇって……!」

 

 

 

 ()()の視線を向けてくる生徒達。

 そんな彼らを鬱陶(うっとう)しく思った九頭竜が睥睨(へいげい)すると、生徒達は(おび)えて、()()の子を散らす様に逃げ去っていった。

 

 それを見て九頭竜は、優越感から笑みを(こぼ)す。

 

 

 

「……ハッ」

 

(どいつもこいつもヘボ決闘者(デュエリスト)……。これなら俺が学園の頂点(トップ)()んのも、そう遠くねぇな)

 

 

 

 この時点で彼は確信した。自分に勝てる決闘者(デュエリスト)など、この学園には存在しないと。

 

 しかし……

 

 その自信は次の瞬間、粉々に打ち砕かれる事となる。

 

 

 

「……あ?」

 

 

 

 九頭竜の耳に届いたのは、歓声。

 

 目を向ければ、そこには大勢の生徒達が集まり、何やら熱狂していた。

 決闘(デュエル)が行われている様だとすぐに分かった九頭竜だったが、言うまでもなく、アカデミ(ここ)アでは(ごく)ありふれた光景だ。

 興味は湧かず、九頭竜はその場を通り過ぎようとした。 ── ところが……

 

 

 

「スッゲーっ!! なんて強さだっ! ()()()()中等部なんだろ!?」

 

「さっきの奴もヤバかったけど、()()()()()()()()()()()ッ!!」

 

( ── !?)

 

 

 

 ()()(うま)の生徒達が発した今のセリフを、聞き捨てる事はできなかった。

 

 何せ、間違いなく「さっきの奴」というのは、九頭竜本人の事を指して言っているのだから。

 

 それはすなわち自分と同じ中等部に、()()()()()強者(きょうしゃ)として、注目されている決闘者(デュエリスト)がいるということ。

 

 

 

(どういうことだ!? どこのどいつだっ!!)

 

 

 

 最強を自負する九頭竜にとっては、到底ガマンならない事態だ。

 

 

 

「どけっ!! 邪魔なんだよっ!!」

 

 

 

 彼は激情に駆られるまま、(むら)がるギャラリーを押し退()ける。

 

 そして、そこで目にしたのは ──

 

 

 

「 ── 〝(おう)()〟だ。【水陸(すいりく)の帝王】で直接攻撃(ダイレクトアタック)

 

「う、嘘だっ! 俺は『十傑(じっけつ)』なんだぞっ!? それがこんな中等部のガキなんかに ── うわああああっ!?」

 

 

 

 小柄な黒髪の少年が、ちょうど決闘(デュエル)に勝利した場面だった。

 

 

 

「……こんなものか、学園が認めた10人のエリート……十傑とやらの実力(チカラ)は。期待外れだったな」

 

 

 

 周りが興奮気味に騒ぎ出す()(なか)にも関わらず、少年が静かに(つむ)いだ一言を、九頭竜は確かに聞き取った。

 

 

 

(まさか……あの十傑を倒したって言うのか!? こんなガキが……!)

 

「この程度が学園のトップクラスなら、俺が頂点に立つ日も、そう遠くないな」

 

(!!)

 

 

 

 自分が高等部1年の凡百(ぼんびゃく)な生徒を負かして得意になっていた横で、目の前の少年は最上級生にして最高ランクの実力者を相手に完勝し、さらには自分を差し置いて、この学園の頂点に立つと言い放った。

 

 

 

( ── 気に入らねぇっ!!)

 

 

 

 九頭竜がキレるには、もはや充分過ぎる理由だ。

 

 

 

「おいてめぇっ!!」

 

 

 

 気づけば九頭竜は、立ち去ろうとする少年を、怒鳴り声で呼び止めていた。

 

 

 

「………俺のことか?」

 

 

 

 対し少年は、九頭竜の怒声にさして驚いた様子も見せず、ゆっくりとそちらへ振り向き……

 

 突然不躾(ぶしつけ)に怒鳴りつけてきた色黒の男子生徒を、その鮮やかな青い瞳で見据えた。

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 少年と目が合った、その途端 ── 九頭竜の総身は戦慄(せんりつ)に打ち震えた。

 

 

 

(こいつ……(つえ)ぇ……! 俺が今までに()った誰よりも……!)

 

 

 

 九頭竜も(よわい)13にして、すでに一流と言っても差し支えない実力を備えた、百戦錬磨の決闘者(デュエリスト)。相対するだけでも、敵の力量は計り知れる。

 

 だが ── (いま)だかつて、ここまでのレベルは見た事がなかった。

 

 生まれてこの方、決闘(デュエル)もケンカも負け知らずで、常に周りの人間を屈服させ、怖いもの無しだった九頭竜に……

 人生で初めて、他者への『恐れ』を経験させるほどの()()などと言うのは……!

 

 最も、当人がそんな屈辱的な事実を認められる筈もなく ──

 

 

 

(っ……ふざけんな……この俺がこんな奴にビビるわけねぇだろうがっ!! そうだ、最強は俺だ……! 俺より強ぇ決闘者(ヤツ)なんてのは、いたらいけねぇんだよっ!!)

 

 

 

 そう自分を鼓舞し、九頭竜は(いさ)ましく()える。

 

 

 

「 ── 俺と勝負しろっ!!」

 

「…………良いだろう、相手になってやる」

 

 

 

 かくして ── (のち)に学園の双璧(そうへき)を成す、二人の絶対強者の……最初の決闘(デュエル)が幕を開けた。

 

 結果は……

 

 

 

「っ……!!」

 

 

 

 九頭竜 LP(ライフポイント) 0

 

 カナメ LP(ライフポイント) 1800

 

 

 

(俺が……負けたっ……!?)

 

 

 

 初めて味わった敗北のショックに、九頭竜は(ひざまず)き、(ひど)く打ちひしがれた。

 

 

 

「あー、やっぱこうなるかぁ」

 

「そりゃそうだよな、良い線行ってたけど」

 

「やっぱり、十傑に勝つ様な奴に勝てるわけがねぇよな」

 

「……ぐっ……!」

 

 

 

 決闘(デュエル)を見届けていた他の生徒達は、思い思いの感想を口にする。

 その言葉の一つ一つが九頭竜のプライドをズタズタにしているとも知らずに。

 

 そんな九頭竜に少年は歩み寄ると、そっと手を差し伸べた。

 

 

 

「そう気を落とすな。ここまでライフを削られたのは初めてだ。少なくとも ── さっき倒した、()()()()()(たの)しめたぞ」

 

「……あ"ぁ……!? ざけんなっ!! 哀れみのつもりかてめぇ!!」

 

 

 

 九頭竜は少年の手を乱暴に振り払うと、怒りと気力で闘志を震い起こし、フラつきながらも立ち上がる。

 そして血走った眼で少年を()めつけ、再びデュエルディスクを構えた。

 

 

 

「もう一度だぜっ……もう一度、俺と闘えっ……!」

 

「………」

 

(フッ……まるで飢えた猛獣だな)

 

「断る。今のお前では、これ以上は愉しめそうにないのでな。どうしてもと言うのなら、腕を磨いて出直してこい」

 

「くっ……くそがぁ……!」

 

 

 

 少年の率直な物言いに、反論の余地は無く……

 食い下がれなくなった九頭竜は、ただただ拳を握り締め、歯噛みする他なかった。

 

 

 

「……てめぇ……名前は?」

 

「……鷹山。鷹山 要だ」

 

「鷹山か……覚えとくぜ。俺は九頭竜……九頭竜 響吾だ!! 忘れんなよ……てめぇを撃ち殺す男の名だっ!!」

 

 

 

 ここでようやく、お互いの名前を知った二人。

 

 そして九頭竜の宣戦布告を受けた少年 ── 鷹山 要は、口元に手を当てた上品な仕草で、何故だか笑い出す。

 

 

 

「フッ、フフフッ……」

 

「てめぇ! なに笑ってやがるっ!!」

 

「いや、すまない。この俺に負けても(なお)、そこまで噛みついてくる奴も初めてだったものでな。……面白い。やはりお前は他の奴らとは違う。これは期待できそうだな……気に()った」

 

 

 

 カナメはそれまで冷めた眼差しとポーカーフェイスで固定していた表情を(ほころ)ばせ、心底楽しそうな笑みを(たた)えると、九頭竜の横を通り抜ける。

 

 

 

「良いだろう……覚えておいてやる、九頭竜 響吾。自信がついたならいつでも挑んでこい。 ── 愉しみにしているぞ」

 

 

 

 最後にそれだけ言い残し、カナメは決闘(デュエル)フィールドを後にした。

 

 

 

「……鷹山 要……」

 

(今に見てやがれ……必ずてめぇを撃ち殺して、俺の前に這いつくばらせてやるっ!!)

 

 

 

 この時より、九頭竜 響吾と鷹山 要は、追う者と追われる者の深い因縁で結ばれる事となった。

 

 それから5年の月日が流れ……

 

 ついに二人は、この学園での『最終決戦』の時を迎える ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………思い出すな」

 

「あ?」

 

「覚えているか九頭竜? 俺とお前が、初めて決闘(デュエル)した時の事を」

 

「……忘れたくても忘れらんねぇよ、今思い出してもムカつくぜ。てめぇの()()を舐め切った態度は、あの頃から全く変わってねぇな」

 

「そうかも知れないな。だが九頭竜……お前から感じる決闘者(デュエリスト)としての闘気と殺気は、あの時よりもさらに()ぎ澄まされ、鋭さを()している。……俺は嬉しいよ。この学園で、お前の様な男に巡り会えた事が」

 

「……くだらねぇ。そういうとこがムカつくっつってんだ」

 

「だからこそ、お前が総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)に負けたと聞いた時は本当に驚いた。俺以外の奴にやられるとは、弱くなったかと心配したが……」

 

「俺と()ってる時に他の奴の名前なんざ出してんじゃねぇよ、殺すぞ」

 

 

 

 ……えーっと……ボク達は今、何を聞かされてるんだろう? ノロケ話?

 

 

 

「フッ……これは失礼した、続けてくれ」

 

「 ── 俺は手札から永続魔法・【前線基地】を発動! メインフェイズに一度、手札のレベル4以下のユニオンモンスター1体を特殊召喚できる! 出撃しろ、【(ビー)-バスター・ドレイク】!」

 

 

 

(ビー)-バスター・ドレイク】 攻撃力 1500

 

 

 

「さらに魔法(マジック)カード・【アイアンドロー】を発動! 俺のフィールドのモンスターが、機械族の効果モンスター2体のみの時、カードを2枚ドローする!」

 

 

 

 九頭竜くんの右手に鋼鉄のグローブが装着され、その手で2枚デッキから引いた。

 

 

 

「まだまだ行くぜッ! 【B-バスター・ドレイク】のモンスター効果発動! 【アサルト・コア】に【バスター・ドレイク】を合体!」

 

 

 

 2体の機械(マシーン)モンスターがロボットアニメさながらの変形合体を始めた。

 

 

 

『これぞユニオンモンスターの真骨頂! 自らを装備カードとして、別のモンスターに装備できるのだッ!』

 

「バトルだッ……! 【アサルト・コア】で攻撃!」

 

 

 

 【A-アサルト・コア】がカナメの裏守備モンスターに、ビームライフルの照準(しょうじゅん)(さだ)めた。

 

 

 

「永続(トラップ)発動、【連撃(れんげき)の帝王】」

 

「!」

 

『あぁーっとッ! やはり鷹山選手は(わな)を仕掛けていたァッ!! 【連撃の帝王】は、相手のメインフェイズ及びバトルフェイズにアドバンス召喚できる、まさに【(みかど)】デッキには打ってつけの(トラップ)カードッ!!』

 

「俺のデッキの特徴を踏まえて、後攻有利と見たのだろうが……詰めが甘いな、九頭竜。 ── 俺はセットモンスター・【カイザー・サクリファイス】をリリースし……現れろ、【雷帝(らいてい)ザボルグ】」

 

 

 

雷帝(らいてい)ザボルグ】 攻撃力 2400

 

 

 

「チッ、出やがったか……!」

 

「【カイザー・サクリファイス】をリリースしてアドバンス召喚に成功した時、このカードは手札に戻る。そして【ザボルグ】の効果。召喚に成功した場合、モンスター1体を破壊する。 ── 消え去れ、【アサルト・コア】。『デス・サンダー』」

 

 

 

 【ザボルグ】は天から(いかずち)を落とし、【アサルト・コア】に命中させた。

 

 ところが……落雷による煙が晴れると、消滅したのは装備されていた【B-バスター・ドレイク】だけで、【アサルト・コア】はまだフィールドに生存していた。

 

 

 

「……装備した【バスター・ドレイク】を身代わりにさせてもらったぜ。さらに【バスター・ドレイク】がフィールドから墓地へ送られた場合、デッキからユニオンモンスターを1枚、手札に加える事ができる。俺は【(シー)-クラッシュ・ワイバーン】を手札に」

 

「……なるほど、俺への対策は万全ということか」

 

「当たり前だろうが。てめぇと何年()ってきたと思ってやがる。てめぇを一番分かってんのは俺だけなんだよ。 ── 俺はカードを1枚伏せて、ターン終了(エンド)だ!」

 

『さぁ九頭竜選手、鷹山選手に上級モンスターの召喚を許しはしたが、(ひる)む事なくすぐさま態勢を立て直した! まずは、互角の滑り出しと言ったところ! 果たしてこの(あと)は、どの様な展開になるのだろうかぁーッ!!』

 

 

 

 ……カナメにとって、九頭竜くんのデッキ変更(チェンジ)は、たぶん予想外だった筈。

 逆に九頭竜くんは、カナメのデッキを知り尽くして圧倒的なアドバンテージを得ているかも知れない。

 

 この決闘(デュエル) ── 九頭竜くんの新しい戦術が、カナメにどこまで通用するか……そこが勝敗の分かれ目になりそうだ。

 

 

 

「俺のターン。【ザボルグ】で【アサルト・コア】を攻撃。『ローリング・サンダー』」

 

 

 

 【ザボルグ】は(てのひら)から雷撃(らいげき)を放ち、今度こそ【アサルト・コア】の撃破に成功する。

 

 

 

「っ……!」

 

 

 

 九頭竜 LP 4000 → 3500

 

 

 

『おぉーっとッ! この試合、最初にダメージを受けたのは、九頭竜選手となったァ!』

 

「……ケッ、たかが500程度のライフ、くれてやるよ」

 

「ずいぶんと余裕だな?」

 

「【アサルト・コア】が墓地へ行った事で、効果発動だ。墓地からこいつ以外のユニオンモンスターを1体、手札に加える。俺は【バスター・ドレイク】を加えるぜ」

 

 

 

 これで九頭竜くんは次のターン、【前線基地】も使って、また2体のユニオンモンスターを並べられる。

 

 

 

「……俺はカードを1枚伏せ、モンスターをセット。ターンエンドだ」

 

 

 

 あのセットモンスターは間違いなく、【カイザー・サクリファイス】だろうね。

 放置しておくと、またアドバンス召喚の為のリリース要員になりかねない。地味に厄介なモンスターだ。

 

 

 

「俺のターン! 【C-クラッシュ・ワイバーン】を召喚!」

 

 

 

(シー)-クラッシュ・ワイバーン】 攻撃力 1200

 

 

 

「さらに【前線基地】の効果で、もう一度【バスター・ドレイク】を特殊召喚!」

 

 

 

【B-バスター・ドレイク】 攻撃力 1500

 

 

 

「くくくっ……鷹山。今からてめぇに、おもしれぇモンを見せてやる!」

 

「ほう、それは愉しみだ」

 

「俺はフィールドの【クラッシュ・ワイバーン】と【バスター・ドレイク】、そして墓地の【アサルト・コア】をゲームから除外し ── こいつらを合体融合する!!」

 

「!」

 

 

 

 おぉ、今度は3体で合体か!

 

 【アサルト・コア】の砲身の右側に【バスター・ドレイク】が、左側に【クラッシュ・ワイバーン】がドッキングし、さながら2つの首と()(つい)の翼を持つ、1体の機械(マシーン)モンスターが誕生した。カッ、カッコいい!

 

 

 

「融合召喚!! レベル8・【(エー)(ビー)(シー)-ドラゴン・バスター】!!」

 

 

 

【ABC-ドラゴン・バスター】 攻撃力 3000

 

 

 

『こ……攻撃力3000~ッ!?』

 

「それがお前の新たなエースモンスターか……」

 

 

 

 墓地のモンスターまで素材に出来て、その上【融合】カードを必要としないだって!?

 こうも手も無く最上級モンスターを呼び出せるのか、進化した九頭竜くんのデッキは……!

 

 

 

「モンスター効果発動! 【ABC】は1ターンに一度、手札を1枚捨てる事で、フィールドのカード1枚を除外できる! 失せな! 【雷帝ザボルグ】!」

 

「……誰に(くち)を利いている。速攻魔法・【帝王の(ごう)()】を発動」

 

「!!」

 

「【ザボルグ】をリリースし、【ABC-ドラゴン・バスター】の効果を、このターンの終わりまで無効にする」

 

 

 

 【ザボルグ】は自分の身体に(カミナリ)(まと)わせ、【ABC-ドラゴン・バスター】に突撃した。

 除外される前に、カードのコストとして墓地に送って有効活用するとは、抜け目ないね。

 

 

 

「その()、俺は1枚ドローする」

 

「ハッ、しゃらくせぇ! 【ABC-ドラゴン・バスター】! 奴の守備モンスターを蹴散らせっ! 『A・B・C トランセンド・バスター』!!」

 

 

 

 文字通り(さん)()一体(いったい)となった、巨大戦闘機の放つレーザー砲が、カナメの裏守備モンスター・【カイザー・サクリファイス】を撃砕(げきさい)する。

 

 

 

「……!」

 

「オラァどうした鷹山! てめぇの実力(チカラ)はこんなもんじゃねぇだろ!」

 

「……フフッ、さすがだ九頭竜……。お前の決闘(デュエル)の輝きは誇っていい。称賛に(あたい)する」

 

「あぁ? まだ余裕があるって言いてぇのか!」

 

「お前のその輝きに応える為にも、俺も全力で行かせてもらおう。俺のターン」

 

 

 

 ……いよいよカナメも、スイッチが入ったみたいだね。

 

 

 

「……手札より永続魔法・【進撃(しんげき)の帝王】を発動。このカードがある限り、俺のフィールドのアドバンス召喚されたモンスターは効果の対象にならず、効果では破壊されない」

 

(……うぜぇカード出してきやがったな……どうする、消しとくか?)

 

「………」

 

「……チッ! 【ABC】の効果! 手札を捨てて、【進撃の帝王】を除外するぜ!」

 

「!」

 

『え、永続魔法まで除外されたァーッ!? あの効果は相手ターンでも発動できるのか!? なんと恐るべき制圧力ッ!!』

 

 

 

 ……! いや、これは ──

 

 

 

「あぁ、そう来るだろうと思っていた」

 

「!?」

 

「【進撃の帝王】はただの(おとり)だ。お前はこのターン、もう()()効果を発動できない」

 

「てめぇ……わざと使わせやがったのか!」

 

「その通りだ。これで心置きなく、本命(こいつ)が使える。 ── 俺は手札から装備魔法・【再臨(さいりん)の帝王】を発動。墓地の【雷帝ザボルグ】を効果を無効にして特殊召喚し、このカードを装備する」

 

 

 

【雷帝ザボルグ】 守備力 1000

 

 

 

「そして装備モンスターをアドバンス召喚の為にリリースする場合、1体で2体分として扱える。【雷帝ザボルグ】をリリースし……現れろ ── 【(ごう)雷帝(らいてい)ザボルグ】」

 

 

 

 カナメも負けじと最上級クラスのモンスターを召喚した。

 【雷帝ザボルグ】よりも、さらに(ワン)ランク上を行く、雷を司る帝王のご登場だ。

 

 

 

(ごう)雷帝(らいてい)ザボルグ】 攻撃力 2800

 

 

 

「【轟雷帝ザボルグ】の効果。アドバンス召喚した場合、モンスター1体を破壊する。対象は当然 ── 【ABC-ドラゴン・バスター】だ」

 

「っ!」

 

「『サンダー・デストラクション』」

 

 

 

 いくつもの稲妻(イナズマ)が【ABC】めがけて撃ち放たれる。

 

 

 

(クソがぁ!)

 

「【ABC】! 分離しろっ!」

 

 

 

 破壊される直前、【ABC】は合体を解除。

 バラけた3体が九頭竜くんのフィールドに帰還した。

 

 

 

【A-アサルト・コア】 守備力 200

 

【B-バスター・ドレイク】 守備力 1800

 

【C-クラッシュ・ワイバーン】 守備力 2000

 

 

 

「おっと、かわされたか……まぁいい。永続(トラップ)発動、【真源(しんげん)の帝王】。ターン(ごと)に一度、自分の墓地から【帝王】と名のつく魔法・(トラップ)カードを2枚デッキに戻し、1枚ドローできる。俺は墓地より、【再臨の帝王】と【帝王の轟毅】を戻し、ドロー。 ── バトルだ。【轟雷帝ザボルグ】で、【アサルト・コア】を攻撃。『インペリアル・ライトニング』」

 

 

 

 名の通り轟轟(ごうごう)と雷鳴を響かせ……【轟雷帝ザボルグ】は、再び稲妻を降らせて【アサルト・コア】を粉砕した。

 攻撃力が一番高いからか、もう3回も雷に打たれてる【アサルト・コア】。そろそろ()(びん)に思えてきた。

 

 

 

「チィ……!」

 

「カードを1枚伏せ、俺のターンは終了だ」

 

(上等じゃねぇか……ぶっ潰してやるッ!!)

 

「俺のターンだ! ……鷹山、【ABC】が消えて良い気になってんのか知らねぇがな……(あめ)ぇよッ!」

 

「……!」

 

「墓地の【()(かん)融合】を除外して、効果発動! 墓地から【ABC】をエクストラデッキに戻し、1枚ドローする!」

 

 

 

 ── ! そうか、【ABC】の効果のコストとして、あらかじめ墓地に送ってたのか!

 これでまた【ABC】の召喚が可能になった。転んでもタダでは起きないってわけだね。

 

 

 

「俺は【バスター・ドレイク】と【クラッシュ・ワイバーン】をリリースし、【()(へん)機獣(きじゅう) ガンナードラゴン】をアドバンス召喚!」

 

 

 

【可変機獣 ガンナードラゴン】 攻撃力 2800

 

 

 

「さらに! 墓地の【A】、【B】、【C】 ── 3体のユニオンモンスターを除外し、【ABC-ドラゴン・バスター】を再び合体召喚だッ!!」

 

 

 

【ABC-ドラゴン・バスター】 攻撃力 3000

 

 

 

「モンスター効果発動! 手札を1枚捨て、【轟雷帝ザボルグ】を除外だ!」

 

「!」

 

 

 

 【轟雷帝ザボルグ】の姿がフィールドから消えて無くなる。

 これでカナメの壁モンスターは居なくなった。九頭竜くんにとっては恐らく、またとない大チャンスだ。

 

 

 

「このターンで撃ち殺してやる ── バトルだっ! 【ABC】でダイレクトアタック!!」

 

 

 

- トランセンド・バスター!! -

 

 

 

 ()()一人に撃つには行き過ぎた破壊力のレーザーが放射され ── あっさりと、カナメを直撃した!

 

 

 

「っ……ぐあぁっ!」

 

 

 

 カナメ LP 4000 → 1000

 

 

 

 倒れはしなかったものの、カナメの身体は大きく後退させられた。靴の爪先(つまさき)から一直線に伸びる()(さつ)の跡が、カナメを押した圧力の重さを物語(ものがた)っている。

 

 

 

『き、決まったァァーーーッ!? なんと凄まじい一撃! 鷹山選手のライフが、一気に3000も削られてしまったァァーッ!!』

 

「っ……!」

 

 

 

 でも次の瞬間、さらに驚くべき事が起こった。

 

 衝撃に耐え切れなかったのか、カナメが体勢を崩し ──

 

 

 

「くっ……!」

 

 

 

 そのまま、床に片膝(かたひざ)を突いてしまったんだ。

 

 

 

『なっ……なっ、なんという事だァァァッ!? あの鷹山選手が、対戦相手の前で(ひざまず)いてしまったっ!! こ、こんな事が有り()るのかァァーッ!?』

 

 

 

 マック伊東さんの口振りから察するに、きっとカナメのこんな姿を見た者は、今まで誰もいなかったんだろう。

 観客席は一気に騒然とし、何なら軽くパニックになりかけていた。

 

 

 

「…………素晴らしい……ッ!」

 

 

 

 ── !

 

 

 

「この痛みだ……この痛みこそが俺を本気にさせるッ……!」

 

 

 

 その時、カナメが顔を上げ……今まで見た事のない笑みで、表情を(ゆが)ませていた……!

 

 

 

 





 今回は九頭竜とカナメの馴れ初め……ではなく、過去編も交えての頂上決戦パート1でした!
 この二人の過去については、これだけ語れば事足りるでしょう。

 最後のカナメさんは、マンガ版の黒咲さんみたいな顔芸をイメージして頂ければと思います(笑)

 次回、因縁の対決 ── ついに決着です!


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TURN - 51 FATED RIVAL - 2


 運命の二人……もとい、宿命のライバル対決、決着です!



 

『コレはとんでもない事が起きてしまったぁ~~~っ!! これまで数多(あまた)決闘者(デュエリスト)(かん)()なきまでに叩き伏せ、(ひざまず)かせてきた学園〝最凶〟・鷹山(ヨウザン) (カナメ)選手が! 今ッ! もう一人の学園〝最強〟・九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)選手の前に、跪いてしまっているではないかぁ~~~っ!!』

 

 

 

 カナメ LP(ライフポイント) 1000

 

 九頭竜 LP(ライフポイント) 3500

 

【ABC-ドラゴン・バスター】 攻撃力 3000

 

()(へん)機獣(きじゅう) ガンナードラゴン】 攻撃力 2800

 

 

 

 九頭竜くんの【リボルバー・ドラゴン】に次ぐ新たな切り札 ── 【ABC-ドラゴン・バスター】の直接攻撃(ダイレクトアタック)を受けたカナメは、ライフポイントを4分の3も失った上、今MCのマック伊東さんが実況した通り……片膝(かたひざ)を地につけ、(こうべ)を垂れてしまっていた。

 

 今まで誰が相手だろうと、顔色ひとつ変えず、余裕の表情で勝ち続けてきた、あのカナメがだ。

 

 そしてカナメの対戦者にして、彼の膝を折った張本人こと九頭竜くんは、そんなカナメを見下ろすと……

 

 

 

「………くっ……ククッ! ── ハハハハハハハハッ!!」

 

 

 

 心の底から愉快そうに、大口を開けて笑い出した。言っちゃ悪いけど……あんなに凶暴な笑顔は初めて見た……!

 

 

 

()(ざま)だなぁ鷹山ッ!! どんな気分だぁっ!? てめぇが散々()(くだ)してきた敗者(ヤツら)と、同じ目線で俺を見上げるのはよぉっ!! ハァーッハハハハハッ!!」

 

「…………」

 

 

 

 九頭竜くんが笑いたくなるのも無理はない。彼は2体の最上級モンスターを従え、ライフポイントもカナメの3倍以上。

 オマケに手札もまだ2枚あるから、1枚だけでも残しておけば、手札コストと引き換えに相手ターン中にもカードを除外できる【ABC】の効果を、次のカナメのターンで確実に発動可能。

 

 対してカナメはモンスターも場に居なければ手札も(ゼロ)。発動済みの永続(トラップ)2枚と、伏せカード1枚がセットしてあるだけだ。

 

 これってもしかして……もしかしちゃうの!?

 

 

 

「ヒュー♪ こりゃスゲぇ。やるねぇ、キョーゴのヤツ」

 

 

 

 ボクと一緒に観戦している、髪色がアッシュグレーで両耳にトランプのピアスを付けた二枚目 ── 狼城(ろうじょう) (アキラ)くんが口笛を吹いた。

 

 

 

「……ねぇ、狼城くん」

 

「ん?」

 

「カナメ……負けちゃうと思う?」

 

「なんでぇ、見守る彼女みてーに心配そうな(ツラ)してよ。負けてほしくねぇってか?」

 

「そ、そりゃあ、まぁ……カナメにリベンジしたくて、ここまで来たんだし……」

 

 

 

 ボクは頭の後ろを軽く()いて、バツが悪そうに答えた。

 

 

 

「ほぉ~? つまりオレぁ眼中にねぇと」

 

「あっ、ち、違うよ!? そういう意味じゃなくて!」

 

「ハハッ、わぁってるって、ジョーダンだよ。……まっ、どうなっかはオレにも分かんねっけどよ、このまますんなり()()がつくたぁ、キョーゴも思ってねーんじゃね?」

 

「………」

 

 

 

 舞台に視線を戻すと、ずっと(うな)()れていたカナメが……何やら肩を震わせていた。

 

 

 

「………素晴らしい……」

 

「あ?」

 

「この痛みだ……この痛みこそが俺を本気にさせる……! フッ……フフフ……ハハハハッ……!」

 

 

 

 そして……ゆっくりと身体を、左右にフラフラ揺らしながら立ち上がった。すると ──

 

 

 

「 ── ハハッ、ハハハハッ! フハハハハハハハッ!! 素晴らしいッ!! 素晴らしいぞ九頭竜ゥッ!!」

 

「っ!?」

 

 

 

 こ、今度はカナメまで笑い始めた!?

 

 天井を(あお)ぎ見たカナメの、異様な高笑いが会場内に響き渡る。

 数秒後、それが止まったかと思うと、カナメは息を大きく吸って首をガクンと下げ、九頭竜くんに顔を向けた。

 

 ……その表情は口角が吊り上がり、目はこれでもかと言うくらい見開かれて、ゾッとするほど()(えつ)(ゆが)んでいた。

 

 

 

「そうだコレだァッ!! この全身が焼けつく様な、極限の勝負ッ!! これこそ俺が待ち望んでいた決闘(デュエル)だッ!! 素晴らしいッ!! 九頭竜、お前は俺の期待を、遥かに上回ったんだッ!!」

 

 

 

 ……カナメって、あんな笑い方もするんだね……ちょっと、というか……かなりビックリしたよ。

 

 

 

「どんな気分だと()いたな九頭竜ッ!? 最高だッ!! あぁ、実に最高な気分だよッ!! ハハハハハハッ!!」

 

「……チッ! ふざけた野郎だ……。何を(わめ)こうが、てめぇはこのターンで終わりなんだよっ!! ()れ! 【ガンナードラゴン】!!」

 

「フフフッ、九頭竜……! 俺のフィールドを、よく見てみろ!」

 

「!?」

 

 

 

 ボクは一瞬、自分の目を疑った。

 

 さっきまで九頭竜くんのフィールドにいた筈の【ABC】が……

 

 いつの間にか ── カナメのフィールドに瞬間移動していたんだ。

 

 

 

【ABC-ドラゴン・バスター】 攻撃力 3000

 

 

 

「なっ……バカな!? なんで俺の【ABC】が、てめぇの場に居やがる!?」

 

(トラップ)カード・【痛恨(つうこん)(うった)え】を発動させてもらった! このカードはダイレクトアタックを受けた時に発動し、相手フィールドで最も守備力が高いモンスターのコントロールを、次の俺のエンドフェイズまで得る事ができる! ただし、効果は無効となり、攻撃もできないがな」

 

「てめぇ……っ!」

 

『よ、鷹山選手、九頭竜選手のモンスターを壁とする事で追撃を防いだァーッ!』

 

 

 

 3体のユニオンモンスターを合体させて融合召喚した【ABC】には、逆に分解して元の3体に戻れる第2の効果があったけど、それを使えるのは相手ターンだけ。

 コントローラーである九頭竜くんのターン中なら、カナメのカード効果をサクリファイス・エスケープで回避する事はできない。

 

 カナメはダイレクトアタックされるのを想定して、この(わな)を張っていたのか……

 

 

 

「……俺はこれで、ターン終了(エンド)だ……!」

 

「どうした九頭竜! もっと減らせ! もっと俺を(たの)しませてみせろぉ!!」

 

「うるせぇっ!! てめぇのターンだ、さっさとしやがれっ!!」

 

「フフフフッ……ここからが本当の決闘(デュエル)の始まりだッ!! 俺の……タァァーンッ!!」

 

 

 

 いきなりハイテンションになったカナメは、普段の彼からは想像もつかないほど大仰(おおぎょう)な動きで、カードを引き抜いた。

 

 

 

「俺は手札から魔法(マジック)カード・【命削りの宝札】を発動ッ!! 俺の手札は(ゼロ)枚。よって3枚ドローするッ!」

 

(野郎……こんな時に引きが冴えてやがる……!)

 

「まぁだだァッ!! 【マジック・プランター】発動ッ! 【連撃の帝王】を墓地へ送り、さらに2枚ドローするゥ!!」

 

「連続ドローだとっ!?」

 

「当然だ! 俺のデッキには、手札増強カードを大量に入れてあるのだからな!」

 

(クソッタレがっ……! あのクソガキと同じ様な真似しやがって!)

 

『なんと恐るべき引きの強さ! 鷹山選手、(ゼロ)だった手札をあっという間に4枚まで増やしたァーッ!』

 

「さて、手札の補強は済んだ……。 ── 始めようか九頭竜ッ!!」

 

「!」

 

「手札から速攻魔法・【帝王の烈旋(れっせん)】を発動! このターン、アドバンス召喚する場合、自分のモンスターの代わりに相手モンスターを1体リリースできる!」

 

「なにっ!?」

 

「俺はお前の【可変機獣 ガンナードラゴン】をリリースし! 【風帝(ふうてい)ライザー】をアドバンス召喚ッ!!」

 

 

 

【風帝ライザー】 攻撃力 2400

 

 

 

「【ライザー】の効果発動! 召喚に成功した場合、フィールドのカード1枚をデッキの一番上に戻す! 俺が戻すのは……【ABC-ドラゴン・バスター】!!」

 

「!?」

 

「だが! 融合モンスターはメインデッキには戻らず、エクストラデッキに戻る! 『バウンス・ウィンド』!!」

 

 

 

 【風帝ライザー】の起こした突風に煽られて、カナメのコントロール()にあった【ABC】は、九頭竜くんのデュエルディスクへと飛ばされる形で帰された。

 

 どうして【ABC】をリリースしなかったんだろう? ボクはその疑問を口に出す。

 

 

 

「わざわざ九頭竜くんのエクストラデッキに戻すなんて……あんな事して何の意味が ──」

 

「分かんねーのかセツナ君よぉ? これで、もっぺん【ABC】を召喚すんには、また1から素材を揃えなきゃいけなくなったんだぜ」

 

「あっ……!」

 

「 ── が、肝心の素材モンスターは、とっくに3体とも除外しちまってる。……まっ、【異次元からの埋葬(まいそう)】とか使えば別だけどよ。ともかくこれで……」

 

 

 

 ……【ABC】は、ほぼ封じられたも同然……!

 

 あれだけ感情的になってても、カナメの冷静な判断力は健在ってわけだね。

 

 

 

「さらに俺は【真源の帝王】の効果を発動! 墓地の【連撃の帝王】と【帝王の烈旋】をデッキに戻し、1枚ドローする!」

 

 

 

 これでカナメはこの1ターンで、通常のドローと合わせて7枚もカードを引いた事になる。

 

 

 

「【命削りの宝札】を使ったターン、お前にダメージは与えられない。俺はカードを1枚伏せ……永続魔法・【アドバンス・フォース】を発動してターンエンド! エンドフェイズに【命削りの宝札】の代償として、手札を全て捨てる」

 

 

 

 最後に1枚だけ残った手札を墓地へ送って、カナメのターンは終了した。

 

 

 

「さぁ九頭竜! お前のターンだッ!」

 

「ケッ、言われるまでもねぇよ! 俺のターン!」

 

( ── ! ククッ、分かってんじゃねぇか、俺のデッキよぉ)

 

「【強欲で貪欲な壺】を発動! デッキの上から裏側で10枚カードを除外し、2枚ドローだ!」

 

『あぁーっとッ! 九頭竜選手も負けじと手札を4枚に増やしたぁ!』

 

「俺がてめぇに遅れを取るなんざ有り得ねぇんだよっ!! 手札から【シャッフル・リボーン】発動! 復活しろ ── 【ガンナードラゴン】!」

 

 

 

【可変機獣 ガンナードラゴン】 攻撃力 2800

 

 

 

「まだだっ! 墓地の【シャッフル・リボーン】を除外して効果発動! 俺はフィールドの【前線基地】をデッキに戻し、もう1枚ドローするぜ!」

 

(……よし、来やがったな。次はお前の番だ!)

 

「行くぜ、バトルだ! 【ガンナードラゴン】で【風帝ライザー】を攻撃!」

 

「くくくっ、そうだ! その調子だ!」

 

 

 

 【ガンナードラゴン】は頭部と車体の砲身から、計4発の砲弾を射出した。

 

 半分は【風帝ライザー】に被弾し、もう半分は超過ダメージとしてカナメを狙う。

 

 だけど標的となったカナメは身を(かば)うどころか、むしろ歓迎するかの様に両腕を目一杯に広げて、自分の身体を撃ち抜かせた。

 

 

 

「ハハハハハハハッ!!」

 

 

 

 う、撃たれながら笑ってる……!

 

 

 

 カナメ LP 1000 → 600

 

 

 

「さらに魔法(マジック)カード・【生け贄人形(ドール)】を発動! 【ガンナードラゴン】をリリースし、手札のレベル7モンスター・【リボルバー・ドラゴン】を特殊召喚!!」

 

 

 

【リボルバー・ドラゴン】 攻撃力 2600

 

 

 

 ── ! この流れは……ボクと決闘(デュエル)した時と、全く同じ……!

 

 

 

『出たァァーッ!! 九頭竜選手を象徴するエースモンスター・【リボルバー・ドラゴン】ッ!! 【シャッフル・リボーン】の効果でエンドフェイズに除外されてしまう【ガンナードラゴン】を、更なる上級モンスター召喚の布石にするとは、なんという高度なタクティクス! さすがIQ200は伊達じゃないッ!』

 

「【リボルバー・ドラゴン】か……フフフッ。やはりお前と言えば、そのモンスターだな」

 

「俺はターンエンドだ。除外した【シャッフル・リボーン】の効果で、手札を1枚除外する」

 

 

 

 スゴい……なんて高次元な闘いだ……! 一瞬でも(すき)を見せた方が負ける……!

 

 だと言うのに……いや、だからこそか。

 

 

 

「フフフフフフッ、ハハハハハハッ!! アーッハハハハハッ!!」

 

 

 

 カナメは、今が幸せの絶頂と言わんばかりに、また半狂乱で笑い声を上げた。

 

 

 

(たかぶ)る! 昂るぞぉ!! 九頭竜、お前との決闘(デュエル)はいつだってそうだった! 知略と精神を張り巡らせた、ギリギリの闘い! それが……常にこの俺の限界を引き出してきたッ!!)

 

「俺のタァ"ーンッ!!」

 

九頭竜(おまえ)の存在が、俺の全身からアドレナリンを掻き出し! この身体の中の、血液を沸騰(ふっとう)させるゥ!!)

 

「リバースカード・オープンッ! 永続(トラップ)・【()(げん)の帝王】ッ!!」

 

 

 

【始源の帝王】 守備力 2400

 

 

 

「【アドバンス・フォース】の効果により、レベル7以上のモンスターをアドバンス召喚する場合、レベル5以上のモンスター1体をリリースして召喚できる!」

 

「チッ! レベル8の【(みかど)】を引きやがったか……!」

 

「その通りッ! 俺はレベル6の【始源の帝王】をリリースし ── 現れるがいいッ! 【烈風帝(れっぷうてい)ライザー】!!」

 

 

 

【烈風帝ライザー】 攻撃力 2800

 

 

 

 どこからともなく吹き込んだ強風と共に現れたのは ── 風の帝王、その最上位。

 

 

 

「アドバンス召喚に成功した事で、【烈風帝ライザー】のモンスター効果発動ォ! フィールドのカード1枚と、自分または相手の墓地のカード1枚を、好きな順番でデッキの上に戻す! 俺が戻すのは ── お前の場の【リボルバー・ドラゴン】と、俺の墓地にある【マジック・プランター】!」

 

「っ!」

 

「『リジェクション・ウィンド』!!」

 

 

 

 【ABC】の時と同様、【リボルバー・ドラゴン】も暴風に巻き込まれてフィールドから消し飛ぶ。

 そして九頭竜くんとカナメは、【烈風帝ライザー】の効果対象となった自分のカードを、それぞれのデッキの一番上に戻した。

 

 

 

『なんとっ!? これで九頭竜選手の場は、ガラ空きだぁーっ!!』

 

「ぐっ……!」

 

「バトルだァッ!! 俺の渇きを受けてみろ九頭竜ッ! 【烈風帝ライザー】で、ダイレクトアタックッ!!」

 

 

 

 次に【烈風帝ライザー】は、自分の身体に烈風を(まと)わせると、自らが竜巻(たつまき)となって九頭竜くん目掛けて飛んでいく。

 

 

 

「吹き(すさ)べっ! 『インペリアル・ストーム』ッ!!」

 

 

 

 九頭竜くんの手前の床に激突した【烈風帝ライザー】。硬い盤面をも(えぐ)る衝撃が、巻き上がった()(れき)と共に九頭竜くんを吹き飛ばした。

 

 

 

「ガァァァァァッ!!」

 

 

 

 九頭竜 LP 3500 → 700

 

 

 

『九頭竜選手に痛恨(つうこん)の大ダメージィィィッ!! その上、次にドローするカードは【リボルバー・ドラゴン】と確定している! これはいよいよ、勝負が見えたかぁーっ!?』

 

「 ── っ!!」

 

 

 

 そのままステージ上に背中から叩きつけられる ── かと思いきや……

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

 九頭竜くんは、空中で体勢を立て直して見事に着地し、(かが)んだ姿勢のままスライディングで後退(こうたい)しつつ、徐々に勢いを殺して停止した。

 

 そして直後 ──

 

 

 

「…………勝負が見えただぁ……?」

 

 

 

 怒りの形相(ぎょうそう)で、彼は叫ぶ。

 

 

 

「ナメんじゃ……ねぇぞぉォォォオッ!!」

 

「!」

 

『ヒィッ!?』

 

(トラップ)発動っ! 【ダメージ・コンデンサー】!!」

 

 

 

 激昂しながら九頭竜くんが発動したのは、後攻1ターン目にセットしていた伏せカード。

 

 

 

「手札を1枚捨て、俺が受けた戦闘ダメージ ── 2800以下の攻撃力のモンスターを、デッキから特殊召喚っ! 出やがれぇぇぇっ!! 【デスペラード・リボルバー・ドラゴン】!!」

 

 

 

【デスペラード・リボルバー・ドラゴン】 攻撃力 2800

 

 

 

『お……おぉーっとぉ! 九頭竜選手、やはり転んでもタダでは起きないッ! またもや鷹山選手に対抗するかの様に、こちらも【リボルバー・ドラゴン】の進化版である、【デスペラード・リボルバー・ドラゴン】を召喚したァァーッ!!』

 

 

 

 マック伊東さんの(うわ)()った声での実況に、狼城くんが一言(ひとこと) ──

 

 

 

「しかも、そんだけじゃねーぜ?」

 

 

 

 と、付け加えた。

 

 

 

「 ── デッキからモンスターを召喚した事で、俺はデッキをシャッフルさせてもらう!」

 

「っ! ほう……!」

 

『う、上手いっ!! これで次のドローカードは分からなくなった!』

 

 

 

 なるほど~! 器用な(かわ)し方をするなぁ、九頭竜くん。

 

 

 

「言ったろうが鷹山っ! 俺がてめぇに遅れを取るなんざ、有り得ねぇってよぉっ!!」

 

「フフフッ、そうでなくてはッ……本当に最高だよ、お前は……!」

 

「【デスペラード】の効果発動! 『ロシアン・ルーレット』!!」

 

 

 

 【デスペラード・リボルバー・ドラゴン】は、頭と両腕のピストル(リボルバー)のシリンダーを回転させる。

 

 ルーレットの結果は……九頭竜くんの豪運(ごううん)が最大限に発揮された、驚異的なものとなった。

 

 

 

「 ── ルーレットは、3つ全てHIT(ヒット)だっ!!」

 

「なんと……っ!」

 

「【烈風帝ライザー】を撃ち殺せっ!!」

 

 

 

 1発の銃弾が、【烈風帝ライザー】を貫く。

 

 【ガトリング・ドラゴン】とは違い、当たった数『まで』表側表示モンスターを選んで破壊する効果なので、3つヒットしても破壊は1体だけで(とど)められるというわけだ。

 

 

 

「ハッ、他愛もねぇ! 【デスペラード】のルーレットが3つ全て当たった時、俺は1枚ドローできる!」

 

「この局面で……さすがだな。俺はターンエンドだ」

 

『ま、またまた形勢逆転ーッ!? しかも! 鷹山選手の場にはモンスターも伏せカードも無い! これでは次の九頭竜選手の攻撃を止める事は不可能っ! ま、まさか!? ついに鷹山選手の無敗神話が、今日ここで打ち破られてしまうと言うのかぁぁぁっ!?』

 

「俺のターンッ!! ── 終わりだな、鷹山ッ!!」

 

「……!」

 

「バトルだ! 【デスペラード・リボルバー・ドラゴン】で、鷹山にダイレクトアタック!! 『ガン・キャノン・フルバースト』!!」

 

 

 

 【デスペラード】の銃口が全てカナメに向けられ、一斉に引き金が引かれようとした ── まさにその寸前。

 

 

 

「 ── 墓地から【光の護封霊剣】を除外し、効果発動! お前はこのターン、ダイレクトアタックできない!」

 

「なっ!?」

 

 

 

 アレは(オオトリ)くんとの試合でマキちゃんも使っていた(トラップ)! そうか、あの時に……!

 

 

 

「っ……【命削りの宝札】で捨てたカードか……俺はカードを2枚伏せる!」

 

(俺が伏せた1枚目は【スクランブル・ユニオン】。こいつを使えば、次の俺のターンで【ABC】に繋げられる!)

 

「ずいぶんと手こずらせてくれやがったが……そろそろ(ねん)()の納め時だなぁ、鷹山ッ!」

 

(あと少しだ……あと少しで! 俺の弾丸が奴の心臓に届くッ!!)

 

「ターンエンドだっ!!」

 

 

 

 このターンは外したけれど、まだ九頭竜くんはカナメを十分、射程圏内に捉えてる。再び九頭竜くんのリーチだ。

 

 

 

「……俺のターン、ドロー。 ── 再び【マジック・プランター】を発動。【真源の帝王】を墓地へ送り、新たに2枚ドローする」

 

 

 

 そう言えば【烈風帝ライザー】の効果で墓地から戻してたね。

 

 カナメは何を引いたのか。果たしてあの2枚で逆転できるのか……

 

 この場で二人の決闘(デュエル)を観ている誰もが、カナメの一挙一動に注目し……気づけば会場全体が沈黙に包まれていた。

 

 

 

「………フゥ……残念だ。もう少し愉しみたかったのに」

 

「あぁ? どういう意味だ」

 

「 ── 惜しかったな、九頭竜」

 

「なにっ!?」

 

 

 

 そ、それって……まさか勝利宣言!?

 

 静まり返っていた観客席に、期待の込められた歓声が広がっていく。

 

 

 

「お前は前のターンで、俺を撃ち殺すべきだったんだ。残念だが……今回もあと一歩、及ばなかったな」

 

「っ……!」

 

(ケッ! 精々(せいぜい)今の内に勝った気になってやがれっ!! 仮にてめぇが攻撃してきたところで、2枚目の(トラップ)・【炸裂装甲(リアクティブ・アーマー)】で返り討ちだ!)

 

「行くぞ九頭竜……ラストターンだっ!! 俺は墓地に送った【真源の帝王】の効果を発動! 墓地から【帝王】と名のつく魔法・(トラップ)カード1枚を除外し、このカードを通常モンスター扱いとして、守備表示で特殊召喚する! 俺は墓地の、【始源の帝王】を除外!」

 

 

 

【真源の帝王】 守備力 2400

 

 

 

「そして【真源の帝王】をリリースし ── ……あぁ、実に()(ごり)惜しいよ……こいつを出す事で、この愉しい時間が終わってしまうのだから」

 

(野郎っ、一体……何を出す気だっ!?)

 

 

 

 カナメは、召喚の手を止めて閉じていた瞳を……

 

 ── 意を決した様に(ひら)き、右手を天に(かか)げた。

 

 

 

「現れろ ── 【邪帝(じゃてい)ガイウス】!!」

 

 

 

 突如カナメのフィールドに黒く禍々(まがまが)しい闇の波動が発生し、その中から頭に2本の角を生やした、邪悪なオーラを放つ【帝】が召喚された。

 

 

 

【邪帝ガイウス】 攻撃力 2400

 

 

 

「【ガイウス】の効果発動! 召喚時、フィールドのカード1枚を除外する! 俺は【デスペラード・リボルバー・ドラゴン】を除外!!」

 

「!?」

 

「【エクスクルージョン・ダーク】!!」

 

 

 

 【邪帝ガイウス】が手の平で生成した漆黒の球体を、【デスペラード・リボルバー・ドラゴン】に投げ放つと、【デスペラード】はそれに吸い込まれてしまった。

 

 

 

「俺の【デスペラード】がっ!?」

 

(くそっ……だが、まだだっ! 奴が攻撃してくれば ──)

 

「【邪帝ガイウス】の更なる効果! 除外したカードが闇属性モンスターだった場合、相手に1000ポイントのダメージを与える!!」

 

「なっ……なんだとぉっ!?」

 

 

 

 続けて【ガイウス】は両手の間に再度、球状の黒いエネルギーの塊を作り出した。

 

 九頭竜くんのライフは700。1000ポイントものダメージを食らったら……!

 

 

 

(ふざけんな……! ここまで……ここまで来て……! まだ俺は鷹山に届かねぇってのかっ!?)

 

「〝王手〟だ……九頭竜ッ!!」

 

 

 

 【ガイウス】の投擲(とうてき)した闇のエネルギー(だん)が、九頭竜くんに直撃し ── ()ぜる。

 

 

 

「ぐああああああああっ!!!」

 

 

 

 九頭竜 LP 0

 

 

 

「鷹山っ……てめぇぇぇぇっ……!!」

 

「……最高に愉しい決闘(デュエル)だったぞ、九頭竜 響吾」

 

 

 

 ………学園〝最凶〟と、学園〝最強〟。

 

 二人にとっての最後の頂上決戦は……こうして、突然の結末を迎えた ──

 

 

 

『 ── け……けっ、決着ゥゥーーーッ!! ウィナー! 鷹山 要ッ!! 壮絶な死闘の末に勝利をもぎ取ったのは、学園〝最凶〟!! 鷹山選手だァァァァッ!!』

 

 

 

 勝者の名が声高(こわだか)に告げられた途端、観客は爆発的に拍手喝采を起こす。

 

 そんな中、試合が終わって普段の落ち着いた表情に戻ったカナメは、九頭竜くんとの距離を半分ほどまで縮め、言葉をかける。

 

 

 

「………九頭竜……この最後のアリーナ・カップで、お前と闘えて良かった」

 

 

 

 カナメの声かけに、九頭竜くんは膝を突いたまま……何も答えない。

 

 

 

「……改めて礼を言う。そして……さよならだ、九頭竜」

 

 

 

 言いたい事は全て言い終えたのか、カナメは九頭竜くんに背を向け、立ち去ろうとした。

 

 でも、その時 ──

 

 

 

「 ── 待ちやがれっ!!」

 

「!」

 

 

 

 九頭竜くんがカナメをいきなり呼び止めた。その声量に圧倒されてか、興奮していた観客達も、ピタリと押し黙る。

 

 

 

「……てめぇ……まさかこんなところで終わりだと思ってねぇだろうな……!」

 

 

 

 九頭竜くんは、ゆっくりと立ち上がりながら、こう続ける。

 

 

 

「次は……世界だっ!! 次はプロリーグで俺と闘えっ!! ()()でてめぇを撃ち殺して……俺の〝最強〟を全世界に証明してやるっ!!」

 

「………」

 

「逃げられると思うなよ……! どこまでも追い続けてやる! 次こそてめぇに……勝つ!!」

 

 

 

 あと一歩のところで逆転負けさせられて、心がポッキリ折れてもおかしくない筈なのに……

 

 九頭竜くんは落ち込むどころか、すぐさま立ち直って、カナメにリベンジの意志を()(ぜん)と示してみせた。

 

 彼の決意表明を受けてカナメは ──

 

 

 

「……良いだろう。それでこそ、俺が初めて好敵手(ライバル)と認めた決闘者(デュエリスト)だ。 ── 愉しみにしているぞ、九頭竜 響吾」

 

 

 

 そう、どこか嬉しそうに微笑みながら言葉を返して、舞台を降りていった。

 

 すると観客席のどこかから、誰かがパチパチと手を打ち鳴らす音が耳に入り……

 

 それをきっかけに他の観客も、一人また一人と手を叩き始め、間もなくこの場内で今の試合を見届けた、ほぼ全ての人達に(でん)()し ── 万雷(ばんらい)の拍手へと拡大した。

 

 もちろんボクも二人の健闘への惜しみない賛辞を込めて、拍手を送る。

 

 

 

「……スゴい決闘(デュエル)だったね、狼城くん」

 

「あぁ……良いモン観さしてもらったわ」

 

 

 

 本当……名勝負と言って過言じゃない、素晴らしい決闘(デュエル)だった。

 

 互いに一歩も譲らず、ターン毎に戦況の優劣(ゆうれつ)が二転三転する……息つく暇も無い激烈(げきれつ)なシーソーゲーム。

 観てるこっちまで緊張して、手に汗握りっぱなしだったし、(いま)だに心臓がドキドキしてる。

 

 次に続くボク達の試合の前に、良い刺激を貰えたよ。

 

 

 

「にしても、次は世界で勝負か……九頭竜くんの執念も相当だねぇ。何がそうさせるんだろ……」

 

「……昔、誰が言ったか忘れたけどよ……こんな話を聞いたぜ」

 

「ん?」

 

(いわ)く、カナメは『()()()()()天才』で、キョーゴは『()()()()天才』 ── なんだってよ」

 

「進化する……天才?」

 

「いつか、限界まで進化したキョーゴがカナメと()ったら……勝つのは果たして、どっちかねぇ?」

 

「……!」

 

「まっ、オレにゃあ関係ねーけど。行こうぜセツナ君。そろそろ戻んねーと、スタッフにどやされちまう」

 

「……うん……そうだね」

 

 

 

 控え室へ戻っていく狼城くんにボクもついていき、まだ歓声の止まない会場を、ひとまず後にした。

 

 ── 準決勝か……いよいよカナメの待つ決勝戦まで、あと1マスだ!

 

 

 

 





 だが奴は……弾けた。

 帝王、ご乱心の回になってしまいました(笑)いつか「グォレンダァ!!」とか言わせてみたいけど無理だろうなぁ。

 下書きの段階ではカナメのライフが残り100の鉄壁まで減らせたんですが、それだと色々と不自然だったりミスが発覚したので、試行錯誤の末、この形で決着と相成りました。
 回を重ねる毎にデュエルシーンが難しくなってきてる気がするお……( ´ω`)

 ではまた次回!


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TURN - 52 Clowns Laughing At You - 1


 【ドリーム・ピエロ】と【ウッド・ジョーカー】と【仮面道化】……どうして魔法使い族じゃなくて戦士族なんや……

 狼城に使わせたかった……(泣)

 【2021/10/06 追記】 狼城が使った【奇跡のマジック・ゲート】を【精神操作】に変更して、その後のデュエルの内容も一部修正しました。

 【奇跡のマジック・ゲート】に破壊耐性付与の効果があるのをすっかり見落としていた……



 

 アリーナ・カップの準決勝(セミ・ファイナル)・第1試合 ── 鷹山(ヨウザン) (カナメ)九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)決闘(デュエル)は、鷹山 要の勝利で大盛況の内に幕を閉じた。

 

 あれほどの激闘……最高潮まで沸き上がった観客達の興奮が早々(そうそう)に冷めるわけもなく、次の試合の開始を待っている間、観客席ではそこかしこで、第1試合の内容について人々が熱く語り合っていた。

 

 そしてそれは観客に限らず、ここに集まっている報道陣の人間も同様だった ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(はや)()さ~んっ! スゴかったですねさっきの決闘(デュエル)ぅーッ!!」

 

 

 

 雑誌記者の腕章(わんしょう)を二の腕に巻いた二十代前半と思わしき女性が、同じ腕章を付けている中年の男性に、興奮気味な口調で試合の感想を告げた。

 

 

 

「声がデケぇぞ(あら)()。気持ちは分かるがちと落ち着け」

 

 

 

 (はた)から見ると、親子かの様な二人のやり取りを漏れ聞いた周囲の記者達は、微笑(ほほえ)ましそうにクスクスと笑う。

 

 

 

「ほれ見ろ、人目があんだからもう少し大人しくしとけ。生徒と間違われて追い出されても知らねぇぞ?」

 

「あ、すいませ~ん……でもでも! 観客も今まで以上にスッゴい盛り上がりだったじゃないですか~! あんなプロ並みの決闘(デュエル)を観せられて、興奮するなって方が無理ですよ~!」

 

「……まぁ確かにそうだな……俺も内容が()すぎて、決勝戦を観てる気分だったわ。これでまだ準決勝だってんだからな……」

 

「ですよね!? そしてそしてー! 次はいよいよ私の()しのセツナ君の出番! 全力で応援しちゃいますよ~!」

 

「またオタクが発動してるぞ新井。今は仕事中だ、抑えろ。……にしても、今日の相手は『十傑(じっけつ)』の狼城(ろうじょう) (アキラ)か……さすがに今回ばかりは相手が悪いだろうな」

 

「大丈夫ですッ! なんてったってセツナ君は、1回戦で同じ十傑に勝ってるんですから!」

 

「あのなぁ……仮にも相手は去年のアリーナ・カップ第3位 ── 〝トリック・スター〟だぞ? それに……」

 

「それに?」

 

「……昨日(きのう)一昨日(おととい)の試合を観てて思ったが……どうもあのセツナ君ってのは、腕は良いが場当たり的なプレイングが目立ってて、いかんせん安定さに欠ける。正直なんであんな危なっかしい闘い方で、ここまで勝ち上がれたのか不思議なくらいだ」

 

(まぁ、だからこそ……あの意外性に()んだ、相手にとっちゃ予測しづらい決闘(デュエル)ができるんだろうけどな)

 

「むっ、むむむぅ~! いくら早瀬さんでも、セツナ君をディスるのは許しません!」

 

「別にディスっちゃいねぇよ。ただ客観的に見た印象を()べたまでだ。はっきり言って、持ち前のセンスに頼った荒削(あらけず)りな戦術が通じるほど、狼城は甘い相手じゃない」

 

「むぅ……」

 

「……そうむくれるな。何も絶対勝てないと言ってるわけじゃねぇんだ。 ── 決闘(デュエル)に『絶対』なんて、ねぇんだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くしゅん!」

 

「どしたんセツナ君、()()? つか可愛いくしゃみだな」

 

「あー、ごめん狼城くん。誰か噂でもしてるのかな……」

 

 

 

 ボクは今、次に自分が出場する準決勝・第2試合の始まる時間まで、狼城くんと二人っきりで仲良く雑談しながら、係員さんが呼びに来るのを(ひか)え室で待っていた。

 

 向かいのソファーに座る狼城くんは、さっきからずっとルービックキューブを組み立てて、ヒマを潰している。

 ボクと喋ってる間も彼の両手は一切の(よど)みなく、スピーディーにキューブを(いじ)くり回し続けていた。

 

 

 

(……お? メッセージ、誰からだろ)

 

 

 

 ボクの携帯端末にメッセージが届いたので開くと、()()に作った『メッセージグループ』に、友達からの応援の言葉がズラリと(つづ)られていた。

 

 実はこれ、最近実装された端末の新機能で、グループに招待したメンバー全員に、一括(いっかつ)でメッセージを送れてスゴく便利なんだ。

 

 ちなみにこのグループのメンバーは、ボクとアマネとマキちゃん、そしてルイくんとケイくんとコータの6人で、グループ名はマキちゃんが提案した、『ファミレス仲良し連合』。

 

 由来は選抜試験1日目に、ルイくんの初勝利を祝ってファミレスで乾杯した時のメンツだからだそうで、何名か微妙な反応を示したものの、最終的にまぁいいかって感じで採用された。

 

 

 

(フフッ、なんか嬉しいなぁ、こういうの。 ── 『ありがとうみんな、がんばるよ!』……送信っと)

 

「おーおー、なぁにニヤニヤしてんのよ? 彼女からの応援メッセージかぁ?」

 

「へっ!? そ、そんなニヤニヤしてた!? ていうか彼女とかじゃないし!」

 

「ハハッ、照れんな照れんな。……つーかさ、セツナ君って、本命とかいんの?」

 

「え?」

 

「女とっかえひっかえしてるって噂で聞くけどよ、本命の子はいねーのかって話」

 

「ま、まだそんな風に言われてるんだ……ボクはそんなんじゃないし、本命どころか恋愛的な意味で好きな子は、まだいないよ」

 

「……ふーん?」

 

「な、なにその意味ありげな『ふーん』は?」

 

「うんにゃ? オレぁてっきり、あの黒髪のエロい身体(からだ)した(ねえ)ちゃんと、デキてんのかと思ってたわ」

 

「ア、アマネは友達だよ!」

 

「そうかい。そいつぁ何よりだ」

 

「?」

 

(良かったなミサキ嬢。まだフリーだってよ)

 

 

 

 ボク達が年頃の男子らしい話題でボーイズトークしていた時、不意にドアがノックされた。

 

 

 

総角(アゲマキ)選手、狼城選手。間もなく試合開始です。準備と待機をお願いします」

 

 

 

 入ってきたのはもちろん、ボクらを呼びに来てくれたスタッフさんだ。

 

 

 

「あ、うん。行こう、狼城くん」

 

「おう」

 

 

 

 狼城くんは返事してから、机の上にルービックキューブを置いた。

 

 ふとそれに目をやると……

 

 

 

「!」

 

 

 

 なんと6つの面が全て、同じ色に揃えられていた。

 

 

 

「 ── ほんじゃ、まっ……行こうか」

 

 

 

 そう言ってボクと目を合わせ、静かに微笑んだ狼城くんから……凄まじい威圧感が放たれた。

 

 

 

「っ……!」

 

 

 

 昨日(きのう)マキちゃんとの試合を観客席で観てた時に感じた、あの身を切る様なプレッシャーを目の前でかけられて、たちまちボクは戦慄(せんりつ)する。

 どうやら……彼もスイッチが入ったみたいだ。

 

 

 

「手加減はしねーぜ?」

 

「……望むところだよ」

 

 

 

 ゴクッと生唾(なまつば)を飲んでそう答え、再び狼城くんと会場まで移動する。

 

 今回も今までと同じく……いや、下手したら今まで以上に厳しい闘いになるのは間違いないね……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『 ── 第1試合の熱気がまだ冷めやらぬ中ではあるが、いよいよ第2試合の時間だッ!! これが本日最後の試合! みんなその高まった熱量を、次の闘いにも存分に注いでくれッ!! それでは! 選手入場ォォーッ!!』

 

 

 

 始まったか……。いつもの流れで、スモークがゲートの周りを覆い尽くしたのを合図として、ボクは場内へ踏み()った。

 

 

 

『まず現れたのは、今年の4強の中で唯一の2年生!! ()(とう)の快進撃は(とど)まる事を知らず、ついにこの準決勝にまで(コマ)を進めた驚異の新鋭(しんえい)だ! 2年・総角 刹那(セツナ)ァァーッ!!』

 

 

 

 おぉ、スゴい歓声。正直カナメと九頭竜くんの試合に比べたら、盛り上がりは(ひか)えめになるかと思ってたけど、全然そんな事なかったや。

 

 

 

(……カナメもどこかで観てるのかな?)

 

 

 

 お礼の意味を込めて観客席に手を振りながら決闘(デュエル)フィールドに到着すると、()もなく対戦者(がわ)の入場口からも、次の選手を出迎えるスモークが噴き出した。

 

 

 

『だが! そんなスーパールーキーの前に、最後の難関(なんかん)が立ちはだかる!! 人呼んで〝トリック・スター〟!! その異名に(たが)わぬ変幻自在のトリックプレイは、誰にも予測不可能! 果たして今日は我々に、どのようなショーを魅せてくれるのか!? 3年・十傑 ── 狼城 暁ァァーッ!!』

 

 

 

 ── 不敵な笑みを浮かべる狼城くんが、スラリとした長い(あし)で軽快にこちらへ歩いてくる。

 

 やがて舞台に上がった狼城くんは、ボクと向き合うと何故か小さく笑った。

 

 

 

「ハハッ、『最後の難関』だってよセツナ君。……イイねぇ、一度言ってみたかったセリフがあんだ」

 

 

 

 狼城くんは、シックなデザインが渋い、グレータイプのデュエルディスクを左腕に装着して起動させた(あと)、ボクにこう宣言した。

 

 

 

「 ── ここを通りたけりゃあ、オレを倒してからにしなッ!」

 

「……!」

 

 

 

 彼の勝ち気な言葉で、ボクの闘争心にも火が()いた。高揚(こうよう)感から自然と口角が上がり、ボクは威勢よく自分のディスクを構える。

 

 

 

「通らせてもらうよ、狼城くん!」

 

『さぁ両選手、共にいつでも決闘(デュエル)に入れる構えだ! 決勝戦の切符を勝ち取るのはトリックスターか!? それともスーパールーキーか!? ── アリーナ・カップ準決勝・第2試合! 総角 刹那 vs 狼城 暁!! イィ~~~ッツ! タイム・トゥ ──』

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 狼城(ろうじょう) LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「ボクの先攻(ターン)! 魔法(マジック)カード・【予想GUY(ガイ)】を発動! デッキから【デビル・ドラゴン】を特殊召喚!」

 

 

 

【デビル・ドラゴン】攻撃力 1500

 

 

 

「さらに【ラヴァ・ドラゴン】を通常召喚!」

 

 

 

【ラヴァ・ドラゴン】攻撃力 1600

 

 

 

(あとは次のターンで2体をリリースして……手札の【ホーリー・ナイト】を召喚だ!)

 

「カードを1枚伏せて、ターン終了(エンド)!」

 

「オレのターン! 【()(どう)()】召喚!」

 

 

 

【魔道化リジョン】攻撃力 1300

 

 

 

 ……狼城くんのデッキは、モンスターが魔法使い族のみで統一された、魔法使い族(マジシャン)デッキ。

 

 魔法(マジック)カードと(トラップ)カードを巧みに操り、エキセントリックな戦術で相手を翻弄(ほんろう)する(さま)は、まさしく〝トリック・スター〟と言ったところ。

 

 とりあえず一番警戒すべきなのは……やっぱり【大逆転クイズ】だね。あのカードは本当におっかない。

 

 

 

「 ── 【魔道化リジョン】の効果で、オレはこのターン……魔法使い族をもう1体、アドバンス召喚で場に出せる」

 

「っ!」

 

 

 

 しまった、先を越されたか!?

 

 

 

「【リジョン】をリリース! 上級サイコキネシス使い(サイコキニート) ── 【ミュータント・ハイブレイン】召喚!!」

 

 

 

【ミュータント・ハイブレイン】攻撃力 0

 

 

 

「………えっ?」

 

(攻撃力1300のモンスターをリリースして召喚したのが……【ハイブレイン】……? 攻撃力(ゼロ)?)

 

 

 

 ……いや……あのモンスターから感じる、ただならない邪気(オーラ)……

 わざわざこの局面で出してきたんだ、きっと何かある……!

 

 

 

「墓地に送られた【リジョン】の効果で、オレはデッキから ── 【コスモクイーン】を手札に加えるぜ」

 

「!!」

 

 

 

 【コスモクイーン】……! マキちゃんとの決闘(デュエル)でフィニッシャーになった、狼城くんのエースカードか……!

 

 これはちょっと、開始2ターン目にして雲行きが怪しくなってきたかも……

 

 

 

「さてと……行くぜセツナ君。 ── バトル!」

 

(っ! 来るっ!?)

 

「【ハイブレイン】の攻撃! 『テレキネシス・ハンド・フォース』!」

 

 

 

 【ミュータント・ハイブレイン】は、念力(ねんりき)か何かで半透明の腕を2つ作り出して、こちらへ伸ばしてきた。

 

 

 

「【ハイブレイン(こいつ)】ぁ念動力(テレキネシス)の手で、相手モンスターを(あやつ)る事ができる。ターゲットは【ラヴァ・ドラゴン】だ!」

 

 

 

 『ハンド・フォース』が【ラヴァ・ドラゴン】の頭部を掴んで捕らえる。

 

 すると【ラヴァ・ドラゴン】は、その手に身体を無理やり動かされて、【デビル・ドラゴン】の方へと向かされた。

 

 

 

「なっ……!?」

 

「【ラヴァ・ドラゴン】で【デビル・ドラゴン】を攻撃!」

 

 

 

 【デビル・ドラゴン】は味方からの攻撃を受けて、倒れてしまう。

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

 セツナ LP 4000 → 3900

 

 

 

「安心しな。バトルフェイズが終われば、コントロールはオマエに戻るぜ」

 

「っ……ボクのモンスター同士で闘わせるなんて……いきなりトリッキーな()()をしてくるね……!」

 

 

 

 そう言えばトーナメント1回戦で、鰐塚(ワニヅカ)ちゃんにも同じ様な事してたっけ。

 

 

 

「誉め言葉と受け取ってやんよ。……おっと、忘れずに伏せ(リバース)カードを2枚伏せておくぜ。ターンエンドだ」

 

『早くもアゲマキ選手に100ポイントのダメージ! たかが100、されど100! この差が(のち)の展開に与える影響は(はか)り知れない!』

 

 

 

 実況さんの言葉はごもっともだ。ボクは改めて気を引き締める。

 

 

 

「ボクのターン、ドロー!」

 

(攻撃力(ゼロ)の【ハイブレイン】が攻撃表示のまま……今がチャンスだ!)

 

「行くよ狼城くん! 【ラヴァ・ドラゴン】で、【ハイブレイン】を攻撃!」

 

 

 

 【ラヴァ・ドラゴン】が燃え盛る溶岩(ようがん)を吐き出す。

 

 

 

「まっ、そう来るわな。(トラップ)発動、【迎撃(げいげき)準備】! 【ハイブレイン】を裏側守備表示にするぜ!」

 

「あっ!?」

 

 

 

 【ハイブレイン】が裏側表示でセットされた事で姿を消す。

 攻撃は止められず、そのままダメージステップに突入。攻撃対象となっていた【ハイブレイン】は、再び表側表示になった。今度は守備で。

 

 

 

【ミュータント・ハイブレイン】守備力 2500

 

 

 

 【ラヴァ・ドラゴン】の攻撃は、【ハイブレイン】が張ったバリアに弾かれてしまう。

 

 

 

「うぐっ……!」

 

 

 

 セツナ LP 3900 → 3000

 

 

 

「攻撃力(ゼロ)で、棒立ちさせとくわけねーじゃん」

 

(やられた……!)

 

「おーい何やってんだぁーっ!」

 

「しっかりしろぉーっ!」

 

「何の用意もせず攻め込むなよーっ!」

 

『アゲマキ選手、立て続けに二度目のダメージ! これには観客もブーイングだぁーっ!』

 

 

 

 うっ、情けないところを見せて申し訳ない……

 

 

 

「ほらほらどうしたセツナ君よぉ? そんなんじゃカナメに追いつけねーぜ?」

 

(……落ち着け、ボク。……うん、大丈夫)

 

伏せ(リバース)カードをさらに1枚セット!」

 

 

 

 ボクのモンスターが1体だけなら、【ハイブレイン】も攻撃はできない。ひとまずはこれで様子見かな。

 

 

 

「よし、ボクはターンを終了するよ」

 

「………」

 

(リバースカードが2枚か……まぁ一応確認しとくかね)

 

「ちょい待ち、オレぁエンドフェイズに(トラップ)を発動するぜ。 ── 伏せカード・オープン! 【マインド・ハック】! ライフを500払って、オマエの手札と場の伏せカードを見せてもらおうか!」

 

「えっ……?」

 

 

 

 ディスクのスイッチは何も押してないのに、ボクの魔法・(トラップ)ゾーンにセットしていたカードが、2枚とも勝手にオープンした。

 

 

 

 狼城 LP 4000 → 3500

 

 

 

「ちょ、ちょっとぉ!?」

 

「ほれ、早く手札も見せなって」

 

「っ………」

 

 

 

 こっちのモンスターを操るだけに飽き足らず、手札と伏せカードを覗き見してくるなんて……

 

 仕方ない……ボクは渋々(しぶしぶ)、自分の手札を公開した。

 

 手札は【ホーリー・ナイト・ドラゴン】と【ヤマタノ(ドラゴン)絵巻】の2枚。両方モンスターカード。

 

 そして伏せカードは、(トラップ)カード・【副作用?】と、【聖なる(よろい) -ミラーメール-】だ。

 

 

 

「ふむふむ、ほぉ~? 手札はとりま、【ホーリー・ナイト】を警戒しときゃ良いとして……【副作用?】たぁ、またマイナーなカード入れてんねぇ~。まぁオレがドローできんのはありがてぇから、いつでも使ってくれて良いぜ。 ── それよか【-ミラーメール-】は地味に邪魔だな。さて、どーすっか……」

 

(うぅ……手の内を見られるのって、なんかスゴく恥ずかしいな……)

 

「……決めたぜ」

 

「!」

 

「オレのターン、まずはカードを1枚セット! そんで ── 【闇・道化師のサギー】召喚!」

 

 

 

【闇・道化師のサギー】攻撃力 600

 

 

 

 ── ! あのモンスターは知ってる……

 決闘王(デュエル・キング)・武藤 遊戯の永遠のライバル ── (かい)() ()()もデッキに入れていたカードだ……!

 

 けど、攻撃力では【ラヴァ・ドラゴン】の方が(まさ)ってるのに攻撃表示なんて……今度は何をするつもりなんだろう?

 

 

 

「さらに手札から魔法発動。【精神(そう)()】!」

 

「!」

 

(ワリ)ぃなセツナ君。もっかい【ラヴァ・ドラゴン】借りるぜ?」

 

 

 

 またもや【ラヴァ・ドラゴン】のコントロールを、狼城くんに奪取(だっしゅ)された。

 

 

 

「ま、またボクのモンスターを……! て言うか狼城くん、さっきからこっちのカード勝手に触り過ぎじゃない!?」

 

「立派な戦術と言ってほしいねぇ。何にせよ、これでオマエの場はガラ空きだ。モンスターがいねぇんじゃあ、【-ミラーメール-】も使い道ねぇよなぁ?」

 

「くっ……」

 

「バトルだ、【サギー】で直接攻撃(ダイレクトアタック)! 『ダーク・グライド』!」

 

 

 

 【サギー】は闇のエネルギーを圧縮させた球体で、ボクを攻撃した。

 

 

 

「ぐあっ……!」

 

 

 

 セツナ LP 3000 → 2400

 

 

 

 マズイ……ボクのライフが着々(ちゃくちゃく)と削られていく……!

 

 

 

「続けて【ラヴァ・ドラゴン】でダイレクトアタック! ……と、行きてぇとこだが……残念ながら【精神操作】で奪ったモンスターは攻撃できねぇ。オレぁターンエンドするぜ」

 

 

 

 エンドフェイズで【精神操作】の効果は切れ、【ラヴァ・ドラゴン】は無事にボクの場へ帰ってきた。二度もフィールドを往復させられて本当お疲れさま……

 

 にしてもヤバいな……狼城くんの場にはモンスターが2体(そろ)った。(ほう)っておいたら次のターン、【魔道化リジョン】の効果で手札に加えていた、【コスモクイーン】を召喚されてしまう……何とかしなくちゃ!

 

 

 

「ボクのターン!」

 

(さっきは失敗したけど、今度こそ!)

 

「バトル! 【ラヴァ・ドラゴン】、【闇・道化師のサギー】を攻撃だ!」

 

「 ── くくっ」

 

 

 

 【ラヴァ・ドラゴン】の発射した溶岩が【サギー】に迫る。

 

 

 

「残念だね、セツナ君」

 

「!」

 

 

 

 ところが ── 攻撃が当たる寸前、【サギー】の姿が一瞬にしてフィールド上から消え去った。

 

 

 

(なっ……消えた!?)

 

(トラップ)カード・【フォーチュン・スリップ】。【サギー】は次のオレのスタンバイフェイズに、時間移動した」

 

「じ、時間移動だって……!?」

 

「時間移動した【サギー】にダメージは与えらんねぇ。【コスモクイーン】の召喚を()()したかったんだろうが、無理だったねぇ」

 

「っ……ボクは、モンスターをセットして、ターンエンド……!」

 

「あーあ。結局2体とも残っちまったなぁ?」

 

「くぅ……」

 

「ほんじゃ、オレのターンだ。このスタンバイフェイズで、さっき除外した【サギー】が戻ってくる」

 

 

 

【闇・道化師のサギー】攻撃力 600

 

 

 

 一足先に狼城くんのターンへタイムスリップしていた【サギー】が、フィールドに帰還するや否や ──

 

 

 

『キャハハハハッ★ キャハッ★ キャハハハハッ★ ハハハ★』

 

 

 

 ボクを指差して高い声でケラケラと嘲笑(あざわら)ってきた。な、なんかヤな感じ……

 

 

 

「さぁ……ショータイムだ。 ── 【ハイブレイン】と【サギー】をリリース! 【コスモクイーン】をアドバンス召喚ッ!!」

 

 

 

【コスモクイーン】攻撃力 2900

 

 

 

『出たァァーッ!! 狼城選手のエース・【コスモクイーン】!!』

 

 

 

 とうとう切り札を出されちゃったか……でも、こっちの場には【-ミラーメール-】が伏せてあるのは狼城くんも分かってる筈。()(かつ)に攻めては……

 

 

 

「【コスモクイーン】で攻撃 ── の前に……手札より速攻魔法発動! 【(ふう)()の矢】!」

 

「!!」

 

 

 

 突然、無数の矢の雨が降り注いできて、ボクの伏せカード2枚を串刺しにした。

 

 これじゃ発動できないっ……!

 

 

 

「おやおや……よっぽど重要なカードだったかな?」

 

「ぐっ……よく言うよ、知ってたくせに……!」

 

「くくくっ、これで安心して攻撃できるな。 ── 【コスモクイーン】! 【ラヴァ・ドラゴン】を攻撃しろ! 『コズミック・ノヴァ』!!」

 

 

 

 宇宙を統べる女王は、巨大で黒いエネルギーの塊を【ラヴァ・ドラゴン】にぶつけ、一撃で粉砕する。

 

 

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

 

 

 セツナ LP 2400 → 1100

 

 

 

(つっ……強い!)

 

『【コスモクイーン】の強烈な攻撃が決まったァァーッ!! どうしたことか!? あのアゲマキ選手が、まるで歯が立たないっ! 一方、狼城選手はアゲマキ選手の攻撃をヒラリと(かわ)し続け、ライフも自らのカードコストで支払った500ポイントしか減っておらず、未だ余裕の表情! 戦況はもはや、トリック・スターの独壇場(どくだんじょう)だぁーッ!!』

 

「相手が悪かったなぁ、セツナ君。どうする? 諦めてサレンダーするってんなら、認めるぜ?」

 

「……あいにく、ボクの辞書に『サレンダー』とか『諦める』って文字は無くてね!」

 

 

 

 そうだ、ここまで来て負けられない。

 

 今が正念場だ ── 意を決してボクは、メガネを外す。

 

 集中モードに切り替わり、自分の身体から闘気が(せき)を切った様に(ほとばし)るのを感じながら、対峙する狼城くんを(せい)()した。

 

 

 

「っ!! ……ハハッ、こりゃスゲぇ……カナメが一目(いちもく)置くわけだわ。……ゾクゾクするぜ……!」

 

「ボクのターン……ドローッ! ── ボクは【ヤマタノ(ドラゴン)絵巻】を反転召喚!」

 

 

 

【ヤマタノ(ドラゴン)絵巻】守備力 300

 

 

 

「さらに手札から魔法(マジック)カード・【馬の骨の対価】を発動! 通常モンスターの【ヤマタノ(ドラゴン)絵巻】を墓地に送って、カードを2枚ドローする!」

 

「ここに来て手札増強か……持ってんねぇ」

 

「……ボクはカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

「なんでぇ、本気モードになったって割りにゃあ、そんだけか? オレのターン、ドロー」

 

(……このターンで攻撃すりゃ、オレの勝ちだが……あの3枚目の伏せカードが()(ざわ)りだな)

 

「どうしたの狼城くん? ボクはこの通り、丸腰だよ?」

 

 

 

 言いながら、わざとらしく両手を広げて、ボクは狼城くんを(あお)ってみせる。

 

 

 

「……ハッ、このオレを挑発するたぁ良い度胸してんじゃねーの。……オーケー、乗ってやんよ。【コスモクイーン】でダイレクトアタック!」

 

 

 

- コズミック・ノヴァ!! -

 

 

 

 来たね……! 【コスモクイーン】の攻撃力は、2900。ボクのライフは残り1100。

 

 伏せカードの1枚 ── 【副作用?】で回復して持ち(こた)えるって手もあるけど、ここは新たに伏せた、3枚目を使うとしよう!

 

 

 

「 ── (トラップ)発動! 【カウンター・ゲート】! ダイレクトアタックを無効にして、デッキから1枚ドローする!」

 

 

 

 引いたカードは……やった!

 

 

 

「そのカードがモンスターだった時、攻撃表示で通常召喚できる! ドローしたのは、【ミンゲイドラゴン】! 召喚!」

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】攻撃力 400

 

 

 

「ケッ、何が丸腰だよ。つーか、つくづく悪運の(つえ)ぇこって。カードを伏せてエンドっと」

 

「ボクのターン!」

 

 

 

 【ミンゲイドラゴン】が来てくれたのは本当にラッキーだった。おかげで前のターンに引き当てた、このモンスターが出せる!

 

 

 

「【ミンゲイドラゴン】を自身の効果で、モンスター2体分としてリリース! 【ラビードラゴン】をアドバンス召喚!!」

 

 

 

 ウサギに似た長い耳と白い体毛を持ったドラゴンがフィールドに着地する。

 

 

 

【ラビードラゴン】攻撃力 2950

 

 

 

「バトル! 【コスモクイーン】を攻撃!!」

 

 

 

- ホワイト・ラピッド・ストリーム!! -

 

 

 

 【ラビードラゴン】は口から光線を放ち、【コスモクイーン】を撃破した。

 

 

 

「チッ……!」

 

 

 

 狼城 LP 3500 → 3450

 

 

 

「やっとダメージが(とお)ったね」

 

「……やってくれんじゃん」

 

 

 

 さぁ、ここから反撃開始だ!

 

 

 

 





 今回のタイトルは、2014年に公開された映画・『ピエロがお前を嘲笑う』から引用させていただきました。

 【マインド・ハック】も、それにちなんで使わせました。


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TURN - 53 Clowns Laughing At You - 2


 あ、あけましておめでとうございます、そしてお久しぶりです……!(震え声)

 遅筆なのはいつもの事とは言え、さすがに今回は時間がかかり過ぎました(汗)

 ※前回のデュエルの内容を一部修正した為、セツナの手札が2枚増えてます。



 

「【ラビードラゴン】で攻撃! 『ホワイト・ラピッド・ストリーム』!!」

 

 

 

 ボクの自慢の相棒である【ラビードラゴン】の必殺技が、狼城くんの切り札(エース)モンスター・【コスモクイーン】に炸裂(さくれつ)した。

 

 

 

「【コスモクイーン】撃破ッ! やっとダメージが通ったね」

 

「へっ…… やってくれんじゃん」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 1100

 

 狼城 LP(ライフポイント) 3450

 

 

 

『おぉーっとォッ!! あわや敗北かと思われたアゲマキ選手が、ここでついに反撃に出たッ! 果たしてこのまま押し切れるかっ!?』

 

 

 

 いやぁ~正直ボクも、「あっ、これ下手したら負けるかも」って焦ったけど、なんとか巻き返せて良かっ──

 

 

 

「勢いづいたとこ悪ぃけどな…… 詰めが甘いぜ、セツナ君」

 

「!?」

 

(トラップ)発動、【復活の墓穴(はかあな)】! オレのモンスターが戦闘(バトル)で破壊された時、互いに自分の墓地からモンスター1体を、守備表示で特殊召喚できる。ただし、表示形式の変更はできなくなるがな」

 

「えっ、ボクのモンスターも復活させてくれるの?」

 

「オレぁ当然── 【コスモクイーン】を呼び戻すぜ」

 

 

 

【コスモクイーン】守備力 2400

 

 

 

「じゃあボクは【ラヴァ・ドラゴン】を!」

 

 

 

【ラヴァ・ドラゴン】守備力 1200

 

 

 

「ボクはこれで、ターン終了(エンド)!」

 

 

 

 結局【コスモクイーン】は戻ってきちゃったか…… けれど、決闘(デュエル)の流れはボクの方に傾いてきている筈。

 

 

 

「オレのターン。……オレ、リキオとセツナ君の決闘(デュエル)観てた時よぉ……」

 

(リキオ? あぁ、熊谷(クマガイ)くんの事ね)

 

「── セツナ君にちぃとばかし、親近感(しんきんかん)を覚えたんだよな」

 

「親近感?」

 

「そっ。なんつーの? 根本的(こんぽんてき)なデッキの仕組みってヤツ? オレとよぉーく似てたもんだからよ。── それと…… 引きの強さもな」

 

「!」

 

 

 

 そういえば昨日(きのう)、アマネも言ってたっけ…… ボクと狼城くんの決闘(デュエル)スタイルは、どこか似てるって。

 

 

 

「オレぁ【ミスティック・パイパー】を召喚!」

 

 

 

【ミスティック・パイパー】攻撃力 0

 

 

 

「モンスター効果発動だ。こいつをリリースして、デッキから1枚ドローする」

 

 

 

 出てきたばかりの笛吹きおじさんが10秒足らずで退場してしまう。

 ……何故かサムズアップしながら。

 

 

 

「んで、ドローしたのがレベル1のモンスターだったら、ボーナスでもう1枚ドローできる。── オレが引いたのぁ【ジェスター・コンフィ】、レベル1だ。つーわけで、もう1枚引かせてもらうぜ」

 

 

 

 これで狼城くんの手札も2枚…… それに、今ドローしていたモンスターは見覚えがある……!

 

 

 

「【ジェスター・コンフィ】を特殊召喚!」

 

 

 

【ジェスター・コンフィ】攻撃力 0

 

 

 

「さらに装備魔法・【ワンダー・ワンド】を、【ジェスター・コンフィ】に装備!」

 

 

 

【ジェスター・コンフィ】攻撃力 0 + 500 = 500

 

 

 

 ……【コスモクイーン】が攻撃表示にできないとは言え、わざわざ攻撃力(ゼロ)のモンスターに装備? しかも上昇値は500ポイントって……

 

 

 

「オレの目的はモンスターの強化じゃねーよ。【ワンダー・ワンド】の効果発動! 装備モンスターとこのカードを墓地に送る事で、カードを2枚ドローする!」

 

「なっ……!? またドローするの!?」

 

「言ったろ? オマエと同じで、オレも引きの強さにゃあ、ちぃとばかし自信があんのよ。── くくっ。しかも、最高のカードが来てくれやがったぜ」

 

「っ……!」

 

「しっかし驚いたぜ。まさか後輩相手に、こいつまで使う事になるたぁな」

 

 

 

 狼城くんの口振りからして…… どうやら、彼も奥の手を引いたみたいだ……!

 

 

 

「行くぜ…… オレぁ【コスモクイーン】を墓地へ送り── 【コスモブレイン】を特殊召喚ッ!!」

 

 

 

 【コスモクイーン】と入れ替わる様に舞台上(ステージ)へ現れたのは、ワインレッドのマーメイドラインのドレスに青い外套(がいとう)を重ね着し、とんがったフードを頭に被った人形(ひとがた)のモンスター。

 着物みたいに広い袖口(そでぐち)から伸びる、薄い紫色の細腕(ほそうで)には、身の丈ほどもある長大な杖を携えていて、その()で立ちは魔女を彷彿(ほうふつ)とさせる。

 

 

 

【コスモブレイン】攻撃力 1500

 

 

 

「【コスモブレイン】の攻撃力は、召喚時に墓地に送ったモンスターのレベル × 200ポイントアップする! 【コスモクイーン】はレベル8、よって1600のアップだ!」

 

 

 

【コスモブレイン】攻撃力 1500 + 1600 = 3100

 

 

 

「さっ…… 3100っ!?」

 

「バトルだ。【コスモブレイン】で【ラビードラゴン】を攻撃! 『コズミック・サージ』!!」

 

( ── っ! どうして!? 【-ミラーメール-】が伏せてあるのに……!)

 

 

 

 ボクのフィールドには、攻撃反応型の(トラップ)が1枚伏せてある。その事は狼城くんも、事前に【マインド・ハック】で覗き見(ピーピング)してきたんだから知ってる筈なのに……!

 

 

 

(っ…… 考えてるヒマは無いか!)

 

(トラップ)発動! 【聖なる鎧 -ミラーメール-】! 【ラビードラゴン】の攻撃力を、【コスモブレイン】と同じにする!」

 

「手札から速攻魔法・【禁じられた聖槍(せいそう)】発動! このターン、【ラビードラゴン】は攻撃力が800ダウンし、他の魔法と(トラップ)の効果を受けなくなるぜ!」

 

 

 

【ラビードラゴン】攻撃力 2950 - 800 = 2150

 

 

 

「しまった……!?」

 

「消し飛びなッ! 【ラビードラゴン】!!」

 

 

 

 【コスモブレイン】が手に持った杖を高々(たかだか)(かか)げると、衝撃波が()(もん)状に広がって、【ラビードラゴン】を粉砕した。

 

 

 

「うあぁっ!」

 

 

 

 セツナ LP 1100 → 150

 

 

 

『アゲマキ選手がやっとの思いで召喚した上級モンスターが、あっさりと破壊されてしまったァァーッ!! これは精神的にもかなり(こた)えるダメージだぁっ!』

 

「せっかくこっからって時に残念だったなぁ? これでオレぁターンエンドするぜ」

 

『エースモンスターを失いライフも残り150! 並みの決闘者(デュエリスト)なら折れてもおかしくない絶望的状況だが…… どうするアゲマキ選手!?』

 

「くっ…… まだ終わりじゃないよ! ボクのターン、ドロー!」

 

「イイねぇ、その調子でまだまだ張り切ってくれよ。カンタンに終わっちゃあ、つまんねーからな」

 

「………」

 

 

 

 【コスモブレイン】…… まさか【コスモクイーン】の上を往く切り札を隠し持ってたとはね…… さて、どうしたものか……

 

 

 

「── 【ラヴァ・ドラゴン】の効果発動! 守備表示のこのモンスターをリリースして、手札と墓地からレベル3以下のドラゴン族を特殊召喚する! よみがえれ! 【ミンゲイドラゴン】!」

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】守備力 200

 

 

 

「そして手札からは、【プチリュウ】を特殊召喚!」

 

 

 

【プチリュウ】守備力 700

 

 

 

「ハッ、なるほどねぇ? てこたぁ次に出てくんのは…… アレだな?」

 

「その通りだよ。── 再び【ミンゲイドラゴン】をリリース! レベル7の【ホーリー・ナイト・ドラゴン】を、アドバンス召喚!!」

 

 

 

【ホーリー・ナイト・ドラゴン】攻撃力 2500

 

 

 

『アゲマキ選手、エースを倒された直後にすぐさま新たな上級モンスターを召喚したァーッ!! さすがここまで勝ち上がってきた期待の新星! まだまだ闘志の炎は消えていないッ!!』

 

「だが、そいつの攻撃力じゃあ【コスモブレイン】にゃ勝てねーぜ?」

 

(そうなんだよね……)

 

「……ボクは手札から装備魔法・【ドラゴン・シールド】を【ホーリー・ナイト】に装備!」

 

 

 

 【ホーリー・ナイト】の(からだ)に頑強な装甲(アーマー)が装着された。

 

 

 

「これで【ホーリー・ナイト】は戦闘・効果で破壊されず、バトルによる互いへのダメージは(ゼロ)になる!」

 

「守備を固めてきたか。(ねば)るねぇ」

 

「……ターンエンド……!」

 

「オレのターン、ドロー。……くくっ、オレぁ【ジェスター・ロード】を召喚!」

 

 

 

【ジェスター・ロード】攻撃力 0

 

 

 

「【コスモブレイン】の効果発動! 1ターンに一度、自分フィールドの効果モンスター1体をリリースし、手札・デッキから通常モンスター1体を特殊召喚する! オレぁ【ジェスター・ロード】をリリース!」

 

「っ!」

 

「くくくっ、オレがデッキから呼び出すのぁな…… こいつだ」

 

「!?」

 

 

 

【コスモクイーン】攻撃力 2950

 

 

 

「なっ…… 2体目の【コスモクイーン】!?」

 

「驚いたかい? オレのデッキには、【コスモクイーン】が2枚入れてあるんでね」

 

『なんという事だぁぁーっ!? この局面で、高攻撃力の上級モンスターが2体!! 狼城選手、ただでさえ土俵際(どひょうぎわ)スレスレのアゲマキ選手を、さらに容赦なく追い詰めていくぅーッ!』

 

「いよいよショーのクライマックスってとこだなぁ?」

 

「っ……!」

 

「バトル! 【コスモクイーン】で【プチリュウ】を攻撃! 『コズミック・ノヴァ』!!」

 

「うぐっ……!」

 

 

 

 【ホーリー・ナイト】は【ドラゴン・シールド】で守られているから、攻撃される心配はない……

 

 とは言えこのままじゃジリ貧だ、どうする……!

 

 

 

「ターンエンドだぜ。さぁ~て…… そのドラゴン1体で、どこまで()つかねぇ?」

 

「ボクのターン…… ドロー!」

 

(── よし!)

 

「手札から【トレード・イン】を発動! 手札のレベル8モンスター・【トライホーン・ドラゴン】を墓地に送って、新たに2枚ドローする!」

 

 

 

 良いタイミングで【トライホーン】が来てくれたおかげで、やっと発動できた。

 

 そのうえ、今ボクが引いたこのカード…… コレを上手く使えば、もしかしたら……!

 

 

 

「……ボクは、カードを2枚伏せてターンエンド!」

 

「なんでぇ、そんだけか? もうちょい見応えがねぇと客が盛り下がっちまうぜ?」

 

 

 

 大丈夫…… 勝機はある。

 

 あとは必要なピースさえ揃えれば…… それまで耐えてくれ、【ホーリー・ナイト】……!

 

 

 

「オレのターン! ……くくっ、なぁセツナ君よぉ」

 

「ん? なんだい?」

 

「オマエはそのシールドさえあれば、ダメージを(ふせ)げると思ってるみてぇだが…… 果たしてそうかな?」

 

「っ……!?」

 

「手札から魔法(マジック)カード・【ミスフォーチュン】発動! このターン、オレの攻撃を放棄する代わりに、相手モンスター1体の元々の攻撃力の、半分のダメージを相手に与える! 対象は当然── 【ホーリー・ナイト】だ!」

 

「!!」

 

 

 

 マズイ…… 【ドラゴン・シールド】は、効果ダメージまでは(ゼロ)にできない! そこを上手いこと突いてきたか……!

 

 【ホーリー・ナイト】の攻撃力は2500。その半分って事は、受けるダメージは1250ポイント。食らったら終わりだ──

 

 

 

「くっ! (トラップ)発動! 【副作用?】!」

 

『アゲマキ選手、ついに最後の命綱を使ったァーッ! 【副作用?】は相手に最大3枚まで、任意の枚数ドローさせ、1枚につき2000ポイントも回復できる、ハイリスク・ハイリターンな(トラップ)カードだぁッ!』

 

「もち、オレが引くのぁ1枚だけだ」

 

 

 

 セツナ LP 150 → 2150

 

 

 

「来いよ、【ホーリー・ナイト・ドラゴン】! 『シャイニング・ファイヤー・ブラスト』!!」

 

「えぇっ!?」

 

 

 

 狼城くんに技名(わざめい)を叫ばれて、【ホーリー・ナイト】はボクの指示なしに、聖なる炎を狼城くんに向けて吐き出した。

 

 ところが炎は【ミスフォーチュン】のエフェクトによって、狼城くんを覆う様に張られたバリアに跳ね返され、ボクを直撃する。

 

 

 

「うわああああっ!!」

 

 

 

 セツナ LP 2150 → 900

 

 

 

「ま、またボクのカードを勝手に……」

 

「悪いねぇセツナ君、オマケにこんな良いカードまで引かせてくれてよ」

 

「!」

 

魔法(マジック)カード・【貪欲な壺】! 墓地からモンスターを5枚デッキに戻して、2枚引くぜ」

 

 

 

 ぐっ、よりによって、またドロー増強カードを引かれてしまった……

 

 狼城くんは墓地に眠る【魔道化リジョン】、【ミュータント・ハイブレイン】、【コスモクイーン】、【ミスティック・パイパー】、【ジェスター・コンフィ】の5体をデッキに戻してシャッフルし、2枚のカードを引く。

 

 

 

「これでオレぁターンエンドだ」

 

(くくっ…… 次のオレのターンで、このショーは幕引きだ。なんせオレの手札にゃあ…… 【()(ほう)(せき)採掘(さいくつ)】がある! こいつで墓地の【ミスフォーチュン】を回収してもっかい発動。それで『ゲーム・オーバー』だ!)

 

 

 

 バトルがダメなら効果ダメージと来たか……

 

 こっちの出方に対応して臨機応変に戦法を変えてくる。さすが〝トリック・スター〟と呼ばれるだけあるね……!

 

 カナメの待つ決勝まで、あと一歩なのに…… その一歩が遠い……!

 

 

 

(でも…… 諦めるもんか!)

 

「ボクのターン、ドローッ!」

 

 

 

 ── ! 来た、まず1枚! あともう一声(ひとこえ)……!

 

 

 

(トラップ)発動! 【無謀な欲張り】! この効果で、さらに2枚ドローする! ただしそれと引き換えに、次の自分のドローフェイズを2回スキップする!」

 

「知ってるぜ、昨日も使ってたもんな。くくっ、良いカードが引けると良いな?」

 

 

 

 引けなければ…… ボクの負けだ。絶対に引き当ててみせる!

 

 

 

「ドローッ!!」

 

 

 

 ── !

 

 

 

「……フフッ、狼城くん。── たった今、勝利のピースが全て揃ったよ!」

 

「!」

 

「この1ターンに、ボクの命運を賭ける!!」

 

「……へぇ? おもしれぇ、お次はどんな踊りを見せてくれんのかな?」

 

「手札から魔法(マジック)カード発動! 【思い出のブランコ】!!」

 

「っ!」

 

「効果の説明は…… ()らないよね? なんせ君も昨日、使ってたんだから。── 墓地から【ラビードラゴン】を特殊召喚!」

 

 

 

【ラビードラゴン】攻撃力 2950

 

 

 

「さらに! 【DMZ(ディーエムゼット)ドラゴン】を通常召喚!」

 

 

 

【DMZドラゴン】攻撃力 0

 

 

 

「【DMZ】の効果発動! 1ターンに一度、自分の墓地のレベル4以下のドラゴン族モンスター1体を、攻撃力500アップの装備カード扱いとして、自分フィールドのドラゴン族に装備できる! ボクは墓地の【デビル・ドラゴン】を、【ホーリー・ナイト】に装備!」

 

 

 

【ホーリー・ナイト・ドラゴン】攻撃力 2500 + 500 = 3000

 

 

 

(……なんのつもりだ? 【ラビードラゴン】を強化すりゃあ【コスモブレイン】にも勝てるってのに、わざわざダメージを与えらんねぇ【ホーリー・ナイト】に装備するたぁ……)

 

「── そして手札からもう1枚、()(ほう)発動! 【即神仏】! 【DMZ】を墓地へ!」

 

「なんだと?」

 

『こ、これはどういう事か!? アゲマキ選手、召喚したばかりのモンスターを即座に墓地へ送ってしまったぞぉっ!?』

 

「……オレの真似っこのつもりか? さっきから何を企んでやがる? とことん食えねぇ野郎だぜ」

 

「それはお互い様でしょ? さぁ── ここからはボクのショータイムだよッ!! バトル! 【ラビードラゴン】で攻撃!」

 

「あん? 【ホーリー・ナイト】じゃねぇのか?」

 

「攻撃するのは…… 【コスモブレイン】!!」

 

「!?」

 

『ま、またしてもどういう事かぁーっ!? よりにもよって【コスモクイーン】ではなく、攻撃力で負けている【コスモブレイン】に攻撃ィーッ!?』

 

 

 

 ボクの攻撃宣言に応えて、【ラビードラゴン】が飛翔し、攻撃の構えを取る。── ここだ!

 

 

 

「そしてこれこそが、ボクを勝利に導く希望のカード!! ── (トラップ)カード・オープン! 【燃える闘志】!!」

 

(【燃える闘志】だと!? ヤッベ……!)

 

「このカードを【ラビードラゴン】に装備! 相手フィールドに元々の攻撃力より高い攻撃力のモンスターがいる時、装備モンスターの攻撃力は、ダメージステップの間だけ倍になる! つまり── 【コスモブレイン】の事さ!」

 

 

 

- ホワイト・ラピッド・ストリーム!! -

 

 

 

【ラビードラゴン】攻撃力 2950 → 5900

 

 

 

 【ラビードラゴン】は数ターン前に倒されたお返しとばかりに、【コスモブレイン】を白銀の光線で吹き飛ばした。

 

 

 

「くそっ……!」

 

 

 

 狼城 LP 3450 → 650

 

 

 

「続けて【ホーリー・ナイト】で、【コスモクイーン】を攻撃! 『シャイニング・ファイヤー・ブラスト』!!」

 

 

 

 【ホーリー・ナイト】も再び(くち)から火炎を放射して、【コスモクイーン】を撃破する。

 

 

 

「っ……! だがな! 【ドラゴン・シールド】の効果でオレにダメージは無いぜっ!」

 

(危ねぇ危ねぇ…… 一瞬ヒヤヒヤしたが、どうにか凌ぎ切ったな。次のターンが来れば、オレの勝ちだ!)

 

「この瞬間! 墓地の【DMZドラゴン】を除外して、効果発動! 【ホーリー・ナイト】の装備カードを、全て破壊する!」

 

「!」

 

 

 

 【ホーリー・ナイト】に装備していた【デビル・ドラゴン】と【ドラゴン・シールド】が破壊され、その身を守っていたアーマーは砕け散る。

 

 

 

「これで【ホーリー・ナイト】は、もう一度だけ続けて攻撃できる!!」

 

「なっ…… 連続攻撃だとっ……!?」

 

「確かに似てたねボクら。考える事は一緒だったよ」

 

 

 

 ラストターンでモンスター1体の2回攻撃── ()しくも昨日の狼城くんと同じ戦術を取る結果となった。

 

 

 

「装備カードを失った事で、【ホーリー・ナイト】の攻撃力は元に戻る!」

 

 

 

【ホーリー・ナイト・ドラゴン】攻撃力 3000 → 2500

 

 

 

「チェックメイトだッ!! 【ホーリー・ナイト・ドラゴン】で、狼城くんにダイレクトアタック!!」

 

 

 

- シャイニング・ファイヤー・ブラスト!! -

 

 

 

 さっきは【ミスフォーチュン】に弾き返された炎が── 今度こそ、狼城くんのライフポイントを焼き尽くした。

 

 

 

「っ……!! ……チッ…… もうちょいだったのによっ……」

 

 

 

 狼城くんは…… 悔しさを(にじ)ませつつも、笑みを浮かべていた。

 

 

 

 狼城 LP 0

 

 

 

『けっ、決着ゥゥーッ!! ウィナーッ! 総角 刹那ッ!! まさに驚きの展開ッ!! アリーナ・カップ初参戦のルーキーが、去年の第3位、〝トリック・スター〟を(やぶ)り、とうとう決勝戦にまで勝ち進んだァァーッ!!』

 

「やったぁッ!!」

 

 

 

 嬉しさのあまりガッツポーズして声を上げてしまったボクは、直後に「ハッ」となって気恥ずかしさから目線を下げた。

 

 だけど勝てて嬉しいのは本当だし、ここで喜ばない方が相手に失礼な気もするし、しょうがないよね、うん。

 

 

 

「あーあ、まさかオレが負けっとはな。カナメが注目するわけだぜ」

 

 

 

 後ろ髪を掻いて呟く狼城くんに、ボクは右手を差し出す。

 

 

 

「対戦ありがとう、狼城くん。楽しかったよ」

 

「おう。オレも楽しかったぜ、あんがとな」

 

 

 

 ボクらが握手を交わすと、観客は拍手と歓声で讃えてくれた。

 

 

 

「決勝進出、おめっとさん」

 

「!」

 

 

 

 狼城くんはボクの背中を手の平で軽めに叩くと、ステージから降りるべく歩き出した。

 

 

 

「じゃーな。明日(あした)も精々、がんばれよ」

 

 

 

 去り際、こちらに背を向けたままヒラヒラと手を振って、そう言い残していく狼城くん。彼なりの激励(げきれい)、なのかな。

 

 

 

「うん…… 頑張るよ」

 

 

 

 ボクは胸の前で、拳を固く握る。

 

 やっと…… やっとだ。ついに決勝まで来れたんだ。

 

 

 

「ようやく追いついたよ── カナメ」

 

 

 

 メガネを掛け直し、ポツリと独り言を口にする。

 

 ()()の対戦相手にして…… この大会で、ボクが最も闘いたかったライバルに向けて──

 

 

 

 





 似た者同士だからか、チートドロー合戦になってしまった。いや、これもいつもの事か……


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TURN - 54 UNDERDOG MENTALITY


 選抜デュエル大会編も、いよいよ決勝戦!!

 でも、その前に……



 

 総角(アゲマキ) 刹那(セツナ)── 『アリーナ・カップ』、決勝進出!!

 

 デュエルアカデミア・ジャルダン校が、毎年秋季(しゅうき)に開催する伝統行事(ぎょうじ)にして、ジャルダン最大の規模を誇る決闘(デュエル)イベント・『選抜デュエル大会』。

 

 その本選となる決勝トーナメント── アリーナ・カップの決勝戦(ファイナル)に、半年ほど前に転入してきたばかりで、今年が初めての参戦となる新入生が勝ち上がったと言うニュースは、アカデミアの全校生徒や教師のみならず、街の住人達にも大きな驚きと興奮を与えた。

 

 なにせこれは2年前…… 当時まだ1年生でありながら、十傑(じっけつ)を含む数多(あまた)の上級生達を()()らし、決勝の舞台で対戦した── あの鷹山(ヨウザン) (カナメ)九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)以来の快挙なのだ。

 

 加えて、そんなセツナを決勝にて待ち受けるのが、その二人の内の一人── 鷹山 要だと言うのだから、期待値が最高潮に達した観客達に、眠れぬ夜を過ごさせたのも無理からぬ話というもの。

 

 ── そして準決勝から(いち)()明け……

 

 学園の高等部に在籍する生徒達の中から、総勢500人超が参加(エントリー)し、1週間に渡って激戦を繰り広げてきた大会は……

 

 ついに千秋楽(せんしゅうらく)となる、(なの)()目を迎えたのだった──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今年の大会期間中は連日晴天(せいてん)に恵まれ、最終日も雲ひとつない秋晴れの(もと)、多くの観客がアリーナ・カップの会場である『センター・アリーナ』に詰めかけていた。

 

 (みな)、常勝無敗の絶対王者に、新進気鋭のスーパールーキーが挑むという、新鮮な構図の対戦カードに興味津々(しんしん)で、カナメとセツナのどちらが勝つかで賭けに興じる者も散見される。

 

 そんな大(にぎ)わいな会場前の様子を…… 隣接(りんせつ)する校舎のルーフバルコニーから、一人の青年が茫然(ぼうぜん)と眺めていた。

 

 

 

「………」

 

 

 

 長く伸びた茶髪を無造作に下ろしたその青年の名は── (おお)() (さぶ)(ろう)()

 

 カナメやセツナらと同じく、今年のアリーナ・カップに出場していた選手であり、学年は3年生。

 

 去年、一昨年(おととし)と予選で(ちから)及ばず脱落するも決して(くじ)けず、持ち前の不屈の闘志で(おのれ)を鼓舞して立ち上がり、三度目の正直でついに本選へと勝ち進んだ、()(とう)不屈の決闘者(デュエリスト)である。

 

 しかし、宿願を果たした喜びも束の間……

 

 満を持して臨んだ1回戦・第1試合において、カナメに圧倒的な才能の差を見せつけられた挙げ句、あからさまに手を抜いたプレイングで、オモチャ同然に(もてあそ)ばれた末、(いっ)()(むく)いる事すら叶わず── 惨敗(ざんぱい)

 

 彼にとって一度きりだったアリーナ・カップは、初戦敗退という無念の結果を残し、(わず)か1日で幕を閉じたのであった……

 

 

 

「総角 刹那…… 初出場で決勝か…… ははっ、スゲぇな…… 俺みたいな凡人とは、大違いだ……」

 

 

 

 乾いた声で笑い、自嘲(じちょう)気味な独り言を呟く大間。

 

 自分が六年も前から出場を(こころざ)し、やっとの思いで辿(たど)り着いた憧れの舞台に、噂に聞いていた転入生は、一度目の参戦で到達した。

 それどころか決勝戦にまで勝ち登り、あの鷹山 要と優勝を巡って決戦する……

 

 もはや大間には嫉妬心など通り越して、眩しく思えてくる存在だ。

 

 (もっと)も今や大間の心は、すでに嫉妬の炎すら灯らないほど、燃え尽きてしまっていたのだが……

 

 

 

「……こんなところで何を黄昏(たそがれ)ている?」

 

 

 

 不意に大間の背中に、男の声がかけられる。

 

 それを聞き取った大間は驚くでもなく、むしろこの声の主を待っていたとばかりに目を閉じた後、ゆっくりと後ろへ向き直り、話しかけてきた男の名を呼んだ。

 

 

 

「……おう、()()…… (ワリ)ぃな、急に呼び出して……」

 

 

 

 大間と対面したのは、深緑色の短髪をセンター分けにし、メタルフレームのオーバル型メガネをかけた理知的な男子生徒── ()() 和正(かずまさ)

 

 大間とは同級生で、彼もまたアリーナ・カップ出場選手の一人だった。

 九頭竜に敗れて大間同様、1回戦で敗退しているが、昨年(さくねん)に引き続き2年連続で本選への出場を経験しており、決闘(デュエル)の実力では、十傑にも引けを取らない。

 

 壬生はメガネのブリッジを人差し指でクイッと上げ、レンズ越しに切れ長の目で大間を見据えると喋り始める。

 

 

 

「ふん…… なんだその姿は? ずいぶんとみすぼらしくなったものだな、大間。まるで(おち)()(しゃ)だ」

 

「ははっ…… そうかもな。……落武者か…… 今の俺にはピッタリな言葉だぜ……」

 

 

 

 普段は長髪を後頭部でひとつに(たば)ねるのが大間のヘアースタイルなのだが、今は髪を()う気力さえ無いのか、毛先が(ちから)なく垂れ下がっている。

 おまけに前髪の隙間から覗く目は、死んだ魚の様に(にご)っていて生気が無い。その有様(ありさま)はまさに、精も(こん)も尽き果てた落武者を彷彿とさせる。

 

 本選初日までの、(あふ)れんばかりに(たぎ)らせていた(とう)()など、壬生には()(じん)も感じ取れなかった。

 

 

 

(……あの目は見覚えがある…… 鷹山 要に負けて心を折られた者は、(みな)同じ様な目をしていた。まさか大間までこうなるとはな……)

 

 

 

 ……期せずして、両者ともに沈黙する。

 

 二人の周囲に他の人影は無く、冷たい風の吹く音だけが、ルーフバルコニーに虚しく響く中……

 

 ── 先に大間が、重い(くち)(ひら)いた。

 

 

 

「………壬生…… お前にだけは、言っておこうと思ってな」

 

「ん?」

 

 

 

 そう話を切り出した数秒後── 大間は衝撃的な一言を口にする。

 

 

 

「……俺さ…… ── 決闘者(デュエリスト)を、辞めようと思う」

 

「っ……!?」

 

 

 

 突然、決闘者(デュエリスト)引退を表明した大間。これには壬生もさすがに驚いた様で目を剥いた。

 

 

 

「なんか…… もう分かっちまった…… 俺みたいな凡人が、どれだけ努力しても…… 才能には勝てっこねぇんだって……」

 

「………」

 

「あとで校長に退学届け出して、街も早めに出て実家に帰るつもりだよ…… すまねぇな、壬生…… こんな形で、お別れになっちまって……」

 

 

 

 訥々(とつとつ)物哀(ものがな)しく別れの挨拶を告げられた壬生は、見開いていた双眸(そうぼう)を細め、もう一度メガネを指先で押すと、呆れた様にため息をついた。

 

 

 

「ふぅ…… 何を言い出すかと思えば…… よほど鷹山に負けたのが(こた)えた様だな。貴様の口から、そんな泣き言を聞かされる日が来ようとは」

 

「あぁ…… 正直、自分でも驚いてるよ」

 

 

 

 大間は再び壬生に背を向け、組んだ腕をバルコニーのフェンスに乗せてから話しを続ける。

 

 

 

「ずっと…… 憧れの決闘王(デュエル・キング)や伝説の決闘者(デュエリスト)達みたいになりたかった…… 努力すれば、天才にだって勝てるって信じて、頑張ってきた…… でも結果はこのザマだ」

 

「………」

 

「結局どんなに努力したって、才能が無きゃ報われない…… それが現実だよ。()()のやってきた事は…… 全部、無駄だったんだ……」

 

 

 

 らしくもない後ろ向きな言葉ばかりが大間の口を()く。学園最凶を相手に、最後まで勇猛果敢に闘い抜いた不屈のチャレンジャーの面影は、もはや欠片(カケラ)も残っていなかった。

 

 あの試合で決闘者(デュエリスト)としてのプライドをズタズタにされ、長年の努力が水泡(すいほう)()したショックは、大間の心に深い傷を刻みつけ、かつての彼を支えてきた雑草(だましい)をも根こそぎ刈り取り、失意のどん底へと突き落としていた様だ。

 

 ── だが……

 

 ここで壬生が『ある事』に気づき、大間へひとつの疑問を投げ掛ける。

 

 

 

「……そう言いながら()()── デッキを持ち歩いている?」

 

「!!」

 

 

 

 壬生の言う通り── 大間は腰のベルトに提げている革製のケースに、デッキを収納し携帯していた。

 

 

 

「退学届けを出すだけならば、デッキなど必要ない筈だ。決闘者(デュエリスト)を辞めると言うのなら、尚更(なおさら)な。── 何故まだ手放していない?」

 

「………っ」

 

「全く…… つくづく呆れた奴だ」

 

 

 

 ここで壬生は()(たび)メガネを押し上げ、大間に呼びかける。

 

 

 

「おい。こちらを向け、大間」

 

「……?」

 

 

 

 言われるがまま大間が振り返ると、壬生は左腕にデュエルディスクを装着し、デッキを差し込んでいた。

 

 

 

「みっ、壬生? 何を……!」

 

「貴様もさっさと構えろ。大方、その足下のカバンには、デュエルディスクも入れてあるのだろう?」

 

「っ!」

 

「本気で退学すると言うのなら止めはしない。貴様の人生だからな。── だが、ならば最後に…… 私と闘えっ!!」

 

「……!」

 

「貴様との腐れ縁に、この決闘(デュエル)でピリオドを打たせてもらう」

 

「っ…… だけど俺は、もう……!」

 

「問答無用!!」

 

「!?」

 

「行くぞ大間っ! ── 決闘(デュエル)!!」

 

 

 

 壬生 LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

 大間がディスクを準備するのも待たず、壬生は一方的に決闘(デュエル)を開始してしまう。

 

 

 

「ま、待ってくれ壬生っ! 俺は……!」

 

「私のターン! 私は魔法(マジック)カード・【(しん)()(ほどこ)し】を発動! デッキからカードを3枚引き、その()手札から【森羅】と名のついたカードを含む、2枚をデッキの上に戻す! ── 私は【森羅の(かげ)(ほう)() ストール】と、【森羅の()(かん)() シトラ】を戻す!」

 

 

 

 【ストール】、【シトラ】の順に、手札からデッキの上にカードが差し込まれる。

 一見、次に引くカードを相手に教えてしまうデメリットに思えるが……

 

 この行為が何を意味するか── 壬生と(いく)()となく闘ってきた大間は、嫌と言うほど知っていた。

 

 

 

「さらに手札から、【森羅の(はな)()() ナルサス】を召喚!」

 

 

 

【森羅の(はな)()() ナルサス】攻撃力 1800

 

 

 

「このモンスターを召喚した時、デッキの一番上のカードをめくり、それが植物族モンスターだった場合、墓地へ送る!」

 

「……! 今、壬生のデッキの一番上にあるカードは確か……!」

 

「そう── 【森羅の蜜柑子 シトラ】だ。このカードは植物族モンスター。よって墓地に送る。そしてこの瞬間、【シトラ】の効果を発動! このモンスターがデッキからめくられ、墓地に送られた場合、私の場の植物族モンスターの攻撃力・守備力を、300アップする!」

 

 

 

【森羅の花卉士 ナルサス】攻撃力 1800 + 300 = 2100 守備力 1000 + 300 = 1300

 

 

 

(くっ…… いきなり攻撃力2000越えのモンスターが出てきやがった……!)

 

 

 

 デッキの一番上にあるカードを、めくる効果をトリガーとして、真価を発揮する──

 

 これこそ壬生の操る、【森羅】デッキの真骨頂。

 

 独特かつテクニカルな戦術性の為、使いこなすにはそれなりの技量が求められるが……

 

 秀才決闘者(デュエリスト)と名高い壬生は、そのIQ180の頭脳で(もっ)て、手足のごとく自在に駆使する事ができる。

 

 

 

「私はカードを3枚伏せ、ターン終了(エンド)! さぁ貴様のターンだ!」

 

「っ……」

 

(やるしかねぇのか…… でも……!)

 

 

 

 辞めると決めた決闘(デュエル)を強要され、困惑し逡巡(しゅんじゅん)する大間に、壬生が容赦なく詰め寄る。

 

 

 

「聞こえなかったのか? 貴様のターンだと言っている。まさかデッキとディスクを持ってデュエルアカデミアの地を踏んでいながら、挑まれた決闘(デュエル)から尻尾を巻いて逃げるつもりか?」

 

「そ、そんなこと言われてもよ……」

 

「ふん…… (みじ)めだな。無様な負け犬のまま学園を去ろうとは…… こんな凡骨(ぼんこつ)決闘者(デュエリスト)が相手だったならば、鷹山の奴が手を抜いてやりたくなるのも、納得というものだ」

 

「っ!!」

 

 

 

 壬生のぶつけた挑発的な言葉は、大間にアリーナ・カップでカナメから味わわされた、屈辱の記憶をフラッシュバックさせた。

 

 

 

「……あぁ、くそっ、分かったよっ……! そこまで言うんだったら── ()ってやるっ!!」

 

 

 

 逆上した大間は、ついにカバンの中からデュエルディスクを引っ張り出し、左腕に取り付けてデッキをセットし、起動する。

 

 

 

「俺のターン…… ドローっ!」

 

 

 

 大間 LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

「俺は【漆黒(しっこく)の戦士 ワーウルフ】を召喚!」

 

 

 

【漆黒の戦士 ワーウルフ】攻撃力 1600

 

 

 

「さらに【()(どん)(おの)】を装備して、攻撃力1000アップだっ!」

 

 

 

 【ワーウルフ】の得物が赤い(けん)から鋼鉄の斧に切り替わる。

 

 

 

【漆黒の戦士 ワーウルフ】攻撃力 1600 + 1000 = 2600

 

 

 

「これで【ナルサス】の攻撃力を上回ったぜ!」

 

「………」

 

「バトル! 【ワーウルフ】で【ナルサス】を攻撃っ!」

 

(── チッ、なんと単調な攻撃だ、バカ者め……!)

 

(トラップ)発動! 【()(じん)(おお)竜巻(たつまき)】! 【愚鈍の斧】を破壊する!」

 

「なっ!?」

 

 

 

 ところが竜巻に斧を吹き飛ばされた事で、【ワーウルフ】の攻撃力は元に戻り、【ナルサス】より下回った。

 

 

 

【漆黒の戦士 ワーウルフ】攻撃力 2600 → 1600

 

 

 

「【ナルサス】! 【ワーウルフ】を迎撃(げいげき)せよっ!」

 

 

 

 武器を失い()(しゅ)空拳(くうけん)となった【ワーウルフ】を、【ナルサス】が右手に握るロングソードを振るって斬り伏せた。

 

 

 

「ぐわっ……!」

 

 

 

 大間 LP 4000 → 3500

 

 

 

「……どういうつもりだ、大間?」

 

「えっ……?」

 

「【漆黒の戦士 ワーウルフ】には、バトルフェイズ中の(トラップ)の発動を封じる効果があった筈だ。それをわざわざ【愚鈍の斧】で無効化するなど…… 何を考えているのだと訊いている」

 

「あっ……!」

 

 

 

 壬生の鋭い指摘で自分が()(さく)(ろう)した事に気づかされた大間は、ぐうの音も出なくなり歯噛みする。

 

 

 

(ちくしょう…… 【ワーウルフ】の効果を忘れるなんて、どうかしてたぜ……)

 

「くっ…… 俺は、カードを1枚伏せて、ターンエンド……」

 

「ならばエンドフェイズに永続(トラップ)発動! 【森羅の滝滑(たきすべ)り】! このカードが表側表示で場にある限り、私はドローフェイズにドローする代わりに、デッキの上のカードを1枚めくる! そのカードが植物族モンスターなら墓地へ。それ以外なら手札に加える!」

 

「!」

 

「そして私のターン! 【滝滑り】の効果により、カードをめくる! ── めくったカードは植物族モンスター・【森羅の影胞子 ストール】! このカードを墓地へ送り、そのモンスター効果を発動! 貴様の伏せ(リバース)カードを破壊する!」

 

「うわっ!?」

 

(しまった、【グレイモヤ】が……!)

 

「……【万能地雷グレイモヤ】か。前のターンに私が【ストール】をデッキに仕込んでいた事は、貴様も承知していた筈だ。だと言うのにみすみす(トラップ)を伏せて、まんまと破壊されるとは…… 呆れて物も言えないな」

 

「っ……!」

 

(お、俺は…… また凡ミスを……!)

 

「バトルだ! 【ナルサス】で直接攻撃(ダイレクトアタック)っ!!」

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

 

 

 大間 LP 3500 → 1400

 

 

 

「私はターンを終了する」

 

「ぐっ…… 俺の…… ターン……!」

 

(っ…… 思考が、まとまらねぇ……! 俺は今まで、どうやって決闘(デュエル)してた……?)

 

 

 

 大間は視界が(ゆが)む感覚に(おちい)っていた。思考力が鈍り、使い慣れている筈の自分のカードのテキストさえ、頭に入らない。

 

 

 

「俺は…… 【漆黒の(ひょう)戦士パンサーウォリアー】を召喚っ……!」

 

 

 

【漆黒の豹戦士パンサーウォリアー】攻撃力 2000

 

 

 

「……良いのか? それで?」

 

「なにっ……!?」

 

「攻撃力では【ナルサス】に劣る上、自分のモンスターをリリースしなければ攻撃自体できない【パンサーウォリアー】を、この局面で召喚したのには何か狙いがあるのだろうな?」

 

「うっ……!」

 

 

 

 とにかく何かモンスターを召喚しなければという焦燥(しょうそう)に駆られて、またしても大間は悪手(あくしゅ)を打ってしまった。

 

 

 

(ど、どうする……!? 何か手を…… ── っ!)

 

「て、手札から、【一時休戦】を発動だ!」

 

「……互いにドローし、一時的にダメージを防ぐ魔法か。ならばチェーンして(トラップ)カード・【コザッキーの研究成果】を発動。自分のデッキの上のカードを3枚確認し、任意の順で元に戻す。……ふむ」

 

 

 

 壬生は3枚の確認を済ませると、順番を入れ替えてデッキの上に戻した。その後【一時休戦】の効果で、互いに1枚カードを引く。

 

 

 

「……ターン、エンドだ……」

 

 

 

 運よく【一時休戦】が手札にあったおかげで次のダメージは(まぬが)れたものの、大間は貴重な1ターンを、(ろう)()と言わざるを得ない(かたち)で終了した。

 

 

 

「………貴様っ……!」

 

 

 

 見るからに精細に欠けるプレイングを続ける大間に対し、壬生は(いら)()ちを(つの)らせ……

 

 

 

「このっ…… 大バカ者がぁっ!!」

 

「っ!?」

 

 

 

 とうとう、激昂した。

 

 

 

「私のターン! 今から貴様の不甲斐なさを思い知らせてやるっ! 【森羅の滝滑り】の効果で私はデッキから── 【森羅の水先(みずさき) リーフ】をめくり、墓地へ! そしてこの瞬間! 手札にある【森羅の賢樹(けんじゅ) シャーマン】の効果を発動! 【森羅】モンスターが墓地へ送られた時、手札のこのカードを特殊召喚できる!」

 

「── !? そ、そんなカード、いつの間に手札に……!」

 

「貴様が引かせたのだっ! 【一時休戦】の効果でなっ!」

 

(っ!)

 

「現れよっ! 【森羅の賢樹 シャーマン】!!」

 

 

 

【森羅の賢樹 シャーマン】攻撃力 2600

 

 

 

「それだけではない! デッキからめくり墓地に送った、【リーフ】の効果も発動する! 【パンサーウォリアー】を破壊!」

 

「ぐあっ!? 【パンサーウォリアー】……っ!」

 

「……もし前のターンで【一時休戦】が手札に無ければ、この時点で貴様の敗北は確定していた……」

 

「……!」

 

「貴様がこんな()()けた決闘(デュエル)をするとはな…… 失望したぞ、大間」

 

「うっ…… あっ……」

 

 

 

 自分の浅はかさを痛感させられた大間は、両の(ひざ)をガクッと折り、(うな)()れてしまう。

 

 

 

「くそっ…… ちくしょうっ……! やっぱりダメなんだ…… 俺はもう…… 闘えない……! 俺は決闘者(デュエリスト)失格なんだっ……!」

 

「………」

 

 

 

 無力感に(さいな)まれた大間の目から、悔し涙が(したた)り落ちる。

 

 ……すると、そんな大間の痛ましい姿を(けわ)しい顔つきで見ていた壬生が──

 

 

 

「………大間。去年の私の選抜試験の戦績を覚えているか?」

 

 

 

 (ヤブ)から棒に、そんな事を問いかけた。しかし大間は下を向いたまま、何も答えない。構わず壬生は続ける。

 

 

 

「── アリーナ・カップ、初戦敗退だ。相手は鷹山 要。3日前の貴様と、全く同じだった」

 

 

 

 奇しくも大間と同じ相手に、同じ1回戦で敗北を喫していたと話す壬生。続けて彼は、こう語る──

 

 

 

「私も今の貴様の様に、屈辱と絶望を味わい、打ちひしがれた。だが…… 去年の予選の決勝で鷹山に敗れても尚、諦めず努力を続ける貴様を見て思ったのだ。── こいつには負けられない、とな」

 

「……!」

 

「私は…… 私には無い『努力の才能』を持っていた貴様を…… 尊敬していたのだっ……!」

 

「!?」

 

 

 

 それは大間の知る限りで、最も意外な相手からの、全く予想だにしない言葉だった。大間は驚いた目で壬生を見上げる。

 

 

 

(壬生っ……! お前が…… 俺にそんな事を言うなんて……!)

 

「そんな貴様が今、私の目の前で…… 去年の私の様に全てを投げ出そうとしている……! 私にはそれが到底(とうてい)(かん)()できないっ!!」

 

 

 

 ずっと内に秘めていた本心を明かしていくに連れて、壬生の(こわ)()は段々と、感情的になっていく。

 

 ── 会った当初は、ただの単細胞だと見(くだ)していた。決闘(デュエル)の腕前も頭の出来も、自分とは比べるに(あたい)しない()鹿()だと。

 

 だが…… 周りの同級生達が、実力(ランク)至上主義の学園の激しい競争に次第についていけなくなり、さらに鷹山や九頭竜と言った、純然たる天才の存在を()の当たりにした事で、与えられたランクの差に才能の限界を感じ、自身の可能性を狭い(わく)組みに閉じ込めてしまう中──

 

 格付けなどに囚われず百折(ひゃくせつ)()(とう)の精神で、ひたすら愚直に上を目指し続ける大間の姿勢を見て、いつしか壬生は彼を内心、リスペクトする様になった。

 

 どれだけ高い壁が立ちはだかろうと、例え他人からなんと言われようと、自分を信じて夢に向かって邁進(まいしん)する── 誰にでもできる事ではない。

 

 人並み外れた熱量と努力量で、決闘者(デュエリスト)の高みへ登っていく大間の背中が、壬生には眩しかった。

 

 だからこそ今── 眼前(がんぜん)で変わり果てた姿を(さら)している大間は、とても見ていられるものではなかった。

 

 道(なか)ばで立ち止まって自暴自棄になり、努力じゃ才能に勝てないだの、現実は才能が全てだのと、負け犬根性の染みついた弱音を大間が口走っているのが、この上なく我慢ならなかったのだ。

 

 (ゆえ)に壬生は、大間に発破をかける。

 

 

 

「いつか貴様は私に言ったな? 『バカだろうと凡人だろうと、決闘者(デュエリスト)としての闘志が熱い奴が、最後に勝つんだ』と! あの時の大間 三郎太はどこへ消えたっ!! 私が〝ライバル〟と認めたのは、そんな簡単に決闘者(デュエリスト)の誇りを失う様な── 弱い男ではなかった筈だっ!!」

 

「!!」

 

 

 

 付き合いは長いが価値観の(そう)()から衝突する事が多く、馬が合うとは言い(がた)間柄(あいだがら)だったあの壬生が、こんな自分に尊敬の念を抱き、しかもライバルだとまで言ってくれた──

 

 そんな壬生の(しっ)()激励(げきれい)は、(ふさ)ぎ込んでいた大間の胸を強く打った。

 

 

 

「っ…… 俺は…… 俺はっ……!」

 

 

 

 大間は握り拳を震わせ、奥歯を噛み締めると、(ひざまず)いていた両足の片膝(かたひざ)を立たせ、まるで()し掛かる重力に(あらが)うかの様に踏ん張りながら、ゆっくりと上体を持ち上げ、全身を直立させていく。

 

 そうして、あらん限りの力を振り絞って立ち上がった直後──

 

 

 

「── うおおおおおおおぁあああああああっっ!!!」

 

「!?」

 

 

 

 突如、()(たけ)びを上げ始めた。そして腹の底から声を吐き切ったかと思うと──

 

 

 

「っ!!」

 

 

 

 今度は固めていた拳で、自分の顔を本気で殴った。

 

 

 

「……はぁ…… はぁ……」

 

「………」

 

 

 

 再び大間の首が、ガクリと前に倒れる。

 

 次いで大間は上着のポケットからヘアゴムを取り出し、髪を頭の後ろに(まと)めて、慣れた手つきでひとつ結びした(あと)……

 

 

 

「フゥー……… ── うしっ!」

 

 

 

 気合いの入った一声(ひとこえ)を発すると同時に、勢いよく顔を上げた。

 

 (みずか)ら殴りつけた頬は赤く腫れているが、その表情は憑き物が落ちた様に晴れやかで、瞳には今の今まで失われていた、不屈の闘志が復活していた。

 

 

 

「── (ワリ)ぃな壬生。みっともねぇとこ見せちまってよ…… おかげで…… 目ぇ覚めたぜ!」

 

「……フッ…… そうだ、その眼だ大間」

 

「さぁ行くぜ! こっからが本当の勝負だッ!!」

 

「良いだろう── 決闘(デュエル)を続行する! 私は【シャーマン】のモンスター効果を使い、デッキの上を1枚めくる! 私がめくったカードは、【森羅の実張り ピース】! このモンスターがデッキからめくられ、墓地へ送られた場合、自分の墓地からレベル4以下の、植物族モンスター1体を特殊召喚できる! 私は【ストール】を特殊召喚!」

 

 

 

【森羅の影胞子 ストール】守備力 2000

 

 

 

「これで私はターンエンドだ! さぁ来い! 大間!」

 

「おうよっ! 俺のターン…… ドローッ!」

 

 

 

 壬生に活を入れられ(ふん)()した大間は、ちぐはぐなプレイしかできなかった先ほどまでとは、別人だった。

 

 迷いが吹っ切れた事で脳内にかかっていたモヤはすっかり消散し、クリアになった思考を目の前の決闘(デュエル)に集中させ、次に打つべき最善手(さいぜんしゅ)を判断できる。

 

 

 

「俺の引いたカードは── 【手札抹殺】! お互いに手札を全て捨て、その枚数だけドローする!」

 

「むっ……! 私は1枚だ」

 

(── ! ほぉ、ここでこのカードが来るか)

 

「俺は3枚捨てて、3枚ドロー!」

 

(よし、来たぜ!)

 

「手札から【思い出のブランコ】を発動! 1ターンのみ、墓地の通常モンスターを特殊召喚できる! 俺が召喚するのは、たった今【手札抹殺】で墓地に送った── 【千年原人】だっ!!」

 

 

 

【千年原人】攻撃力 2750

 

 

 

「バトル! 【千年原人】で【シャーマン】を攻撃ッ!」

 

 

 

- ギガ・クラッシャー!! -

 

 

 

 【千年原人】は背負っていた巨大な斧を(ちから)任せに振り下ろし、(まき)割りの要領で【シャーマン】を両断した。

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

 壬生 LP 4000 → 3850

 

 

 

「っしゃあッ!! 決まったぜッ!」

 

「……フッ…… やってくれたな」

 

「俺はカードを2枚伏せて、ターンエンド! この瞬間、【千年原人】は墓地に戻る!」

 

「やっといつもの貴様に戻れた様だな。これでようやく、まともな決闘(デュエル)ができそうだ。── 私のターン! ドローフェイズに【森羅の滝滑り】の効果で、ドローせずカードをめくる! ……めくったのは速攻魔法・【魔導書整理】。よって私の手札に加える!」

 

 

 

 【森羅】モンスター以外をめくった場合は、実質ドローカードを相手に公開するだけとなり、情報アドバンテージを与えてしまうのが【森羅の滝滑り】の欠点だが── 今回は見せても問題にならないどころか、むしろ壬生からすれば好都合なカードを引けた様だ。

 

 

 

「【魔導書整理】発動! デッキの上のカード3枚を確認! その後、順番を入れ替えて戻す!」

 

 

 

 壬生は続けて3枚めくると── 小さく笑みを(こぼ)した。

 

 

 

「フフッ…… 感謝するぞ、大間」

 

「ん?」

 

「貴様が【手札抹殺】を使ってくれたおかげで…… 私のデッキの最強のカードが、手札に舞い込んだのだからな!」

 

「なにっ!?」

 

「見せてやる……! 私はフィールドの【ナルサス】と【ストール】をリリースし── 【森羅の仙樹(せんじゅ) レギア】を召喚ッ!!」

 

 

 

 壬生の背後に、紅葉(こうよう)緑葉(りょくよう)()い茂る樹冠(じゅかん)を被り、数本の(つる)を枝に絡めて垂らした巨木(きょぼく)屹立(きつりつ)する。

 

 根元にしめ縄を巻き付けた極太の(みき)には、彫りが深い老人と(おぼ)しき人面を有しており、樹齢(じゅれい)の永さを(うかが)わせる。また、その(ひたい)部分には、赤い球体が埋め込まれていた。

 

 

 

【森羅の仙樹 レギア】攻撃力 2700

 

 

 

「レ、レベル8……! 【森羅】の最上級モンスターかっ……!」

 

「【レギア】の効果発動! 自分のメインフェイズに一度、デッキの一番上をめくる! そのカードが植物族ならば墓地へ送り、1枚ドローできる!」

 

「っ! そうか、この為にさっき、【魔導書整理】を……!」

 

「その通りだ。私は『運』などという不確定要素には頼らない! 私がめくるカードは── 【森羅の番人 オーク】! このモンスターを墓地へ送り、1枚ドロー! そして【オーク】の効果も発動させる! 墓地より植物族モンスター1体を、デッキの一番上に置く事ができる! 私は【シャーマン】を置く!」

 

(これで次の私のターン、【滝滑り】で【シャーマン】を墓地に送り、その効果で墓地から【森羅の施し】を回収する!)

 

「さて、準備は整った…… あとは攻撃するのみだ。── この一撃を受け切れるか大間っ!!」

 

 

 

 壬生が右手を高く掲げた途端、【レギア】の額の紅玉(こうぎょく)が発光し、樹冠から無数の葉が飛散する。

 

 直後、ユラユラと宙を舞う葉が一枚、また一枚と発火し始め、やがて葉は全て火の玉と化した。

 

 

 

(来るっ……!)

 

「バトルだ…… 【レギア】でプレイヤーにダイレクトアタック!」

 

 

 

 そして── 壬生は真上に伸ばしていた右手の人差し指と中指を、大間に差し向けた。

 

 

 

「食らえっ!!」

 

 

 

- シルバン・バレッジ!! -

 

 

 

 その動作を合図に、大量の火の玉が一斉に大間へと飛来する。

 

 

 

(さぁ、どう出る大間!)

 

「── (トラップ)発動! 【ディメンション・ウォール】!」

 

「!?」

 

 

 

 ところが火の玉は、空間に浮かび上がった透明な障壁に(はば)まれた。

 さらには壁面に着弾した(そば)から次々と沈み込み、消えていく。

 

 

 

「この戦闘で俺が受けるダメージを、そっくりそのままお前にお返しするぜッ!」

 

 

 

 次の瞬間、壬生の頭上に新たな障壁が出現し、そこから先ほど吸収した火の玉の雨が降り注いだ。

 

 

 

「ぐおおおおおおっ!!?」

 

 

 

 壬生 LP 3850 → 1150

 

 

 

(ぐっ……! 私とした事が…… まさかこれほどのダメージを受けるとはっ……!)

 

「……フッ、大間に偉そうな口を利いておきながら、私もまだまだと言うわけか…… だが次のターンこそトドメを刺してやる! ターンエンドだ!」

 

「………俺のターンだな」

 

(手札とモンスターは(ゼロ)、戦況は崖っぷち…… ── へっ、なんかあの時と似てるな、この状況……)

 

 

 

 何の因果か。アリーナ・カップでカナメと(たたか)った時と、(こく)()した展開に至った事に気づき、大間はこれも運命のイタズラかと微笑(びしょう)する。

 

 

 

(いや── 試されてんのかな…… あん時、俺は…… やっぱ鷹山には勝てねぇのかもって、途中で諦めそうになってた…… 決闘者(デュエリスト)が先に気持ちで負けてたら、デッキが応えてくれるわけねぇのによ……)

 

 

 

 ディスクに差し込んだ愛用のデッキを見つめ、大間は一番上のカードに指先で触れる。

 

 

 

(だけど…… もう(おそ)れないっ! 俺のデッキよ、俺はお前達を信じる……! また俺と一緒に── (たたか)ってくれッ!!)

 

「俺はこの引きにっ! 決闘者(デュエリスト)の全てを賭けるっ!!」

 

「……!」

 

「行くぜ…… っ! ── ドロォォーッ!!」

 

 

 

 あの時と同じく、デッキに命運を(ゆだ)ね、一切の躊躇(ちゅうちょ)なくカードを引き抜く。

 

 ── そして、ドローしたカードを視界の端で捉えると……

 

 

 

 大間は── 嬉しそうに微笑(ほほえ)んだ。

 

 

 

「ありがとう…… 俺のデッキ」

 

「!」

 

「俺は── 【不屈闘士レイレイ】を召喚ッ!!」

 

 

 

【不屈闘士レイレイ】攻撃力 2300

 

 

 

 大間がこの土壇場で引き当てたのは、彼が昔から〝相棒〟と呼び、最も信頼するフェイバリットカードだった。

 

 喪失(そうしつ)していた戦意を取り戻した大間の熱い想いに── デッキが応えたのだ。

 

 

 

「……壬生。お前は俺を尊敬してたって言ってくれたよな? 俺も、お前の事を…… ずっとスゲー奴だって思ってたんだ」

 

「……!」

 

「俺ってバカだからよ…… お前みたいに頭使った、計算ずくの決闘(デュエル)はできねぇ。いつだって、この相棒の【レイレイ】達と一緒に、気合いと根性だけで押しまくってきた…… ── そいつはこれからも変わらねぇッ!!」

 

「なに?」

 

「バトルだっ! 【レイレイ】で、【森羅の仙樹 レギア】を攻撃ッ!」

 

「攻撃だとっ!? バカな…… 攻撃力では【レギア】の方が上── っ!?」

 

 

 

 そこまで言いかけた途端、壬生の脳裏に()()感が芽生え、3日前のアリーナ・カップで大間がカナメに、コレと同様のシチュエーションで攻撃を仕掛ける映像が脳内で再生された。

 

 

 

(そうだ、確かあの時、大間は──)

 

「貴様…… まさかっ!?」

 

「あぁ、そのまさかさッ! リバースカード・オープン! (トラップ)カード・【不屈の闘志】!!」

 

「っ!」

 

「俺の場のモンスターが1体だけの時、その攻撃力を、相手フィールドで一番攻撃力が低いモンスターの、攻撃力分アップする!!」

 

(まずいっ……! 伏せカードの【森羅の恵み】は、手札コストが無ければ発動できないっ……!)

 

 

 

【不屈闘士レイレイ】攻撃力 2300 + 2700 = 5000

 

 

 

「攻撃力…… 5000だと……!?」

 

「俺はもう、一歩も引かないッ!! これが俺の決闘(デュエル)だぁっ!!」

 

 

 

- ダイナミック・インファイト!! -

 

 

 

 【レイレイ】は固く握り締めた鉄拳で、【レギア】の額に光る()(いろ)の玉を殴打した。

 

 

 

「いっけぇぇぇぇえええええっ!!!」

 

『おぉおおおおおおおっっ!!!』

 

 

 

 大間が張り上げた声に、【レイレイ】も最大限の声量で呼応する。

 

 そして、渾身の力で叩き込まれた【レイレイ】の殴撃(おうげき)は──

 

 額の玉に亀裂を走らせ、そのまま巨木もろとも、粉々に打ち砕いた。

 

 

 

「ぐっ…… うおおおおおおおっ!?」

 

 

 

 壬生 LP 0

 

 

 

「かっ…… 勝った……! ── おっしゃあああああっ!!」

 

 

 

 勝利の喜びを両手のガッツポーズで体現する大間。

 

 一方、壬生はメガネを指で押し上げつつ、大間に歩み寄る。

 

 

 

「……私の負けだ。見事な決闘(デュエル)だったぞ、大間」

 

「へへっ、お前もまた一段と強くなったよな、壬生。……っと、そうだ」

 

 

 

 ふと自分のカバンから、一封の白い封筒を取り出した大間。表紙には『退学届け』と縦書きされている。

 

 

 

「こいつはもう…… ()らないな」

 

 

 

 それを大間は、なんら迷う事なく破り捨てた。

 

 

 

「………」

 

 

 

 風に乗って青空へ飛び去っていく()(へん)を仰ぎ見る大間の顔つきは、実に清々(すがすが)しいものだった。

 

 

 

「良かったのか?」

 

「あぁ…… お前のおかげで、自分の本音に素直になれた気がするよ。── やっぱり俺、まだ決闘(デュエル)を辞めたくない…… プロ決闘者(デュエリスト)になるっていう夢を、諦めたくなかったんだ」

 

「ふん、そうだろうと思っていたさ。でなければ私の挑発に乗るわけもない。── 貴様が決闘(デュエル)を受けた時点で、まだ貴様の闘志は完全に死んではいない事は確かめられた。あとはそれを叩き起こしてやるだけだ。全く…… 手間を取らせてくれる」

 

「ははっ、面倒かけちまってすまねぇな」

 

 

 

 いつもの快活な性格に戻れた大間は、壬生と肩を組んで足取りも(かろ)やかに歩き出す。

 

 

 

「行こうぜ! 決勝戦を見届けによ!」

 

「あぁ」

 

「そんで終わったら世話かけた礼に、なんか奢らせてくれや」

 

「では2番街にある三ツ星レストランの高級フレンチを頂こうか」

 

「……わ、(ワリ)ぃ。なるたけ安いとこで頼む」

 

「フッ…… 冗談だ。それより貴様はまず、保健室で湿(しっ)()でも(もら)ってこい。その腫れた顔は見るに()えん」

 

 

 

 かくして、ひとりの若者が()(せつ)から立ち直り、一時は諦めかけた夢を再び追いかけるべく、気持ちを新たに一歩前へと踏み出した。

 

 そしてこの(あと)、ほどなくして……

 

 

 

 ── ついにアリーナ・カップの頂上決戦が、幕を開ける!

 

 

 

 





 大間って『努力の天才』なところが、ナルトのロック・リーっぽいなと思ったので、主にリーを参考にして今回は書かせていただきました。

 ちなみに作者がナルトで一番好きなキャラも、リーです。カッコいいし面白いし努力家なの憧れるし、声も良い!

 いつか大間の努力がカナメの才能を上回る日が来るかも……?


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TURN - 55 FINAL DUEL - 1


 お久しぶりです! まさか1年も更新を途絶えさせてしまうとは……!

 大変お待たせしてしまいましたが、今回は2万字の大ボリュームでお届けさせていただきます! 楽しんでいただければ幸いです!



 

 アリーナ・カップ決勝戦── 当日。

 

 現在、その開催地であるセンター・アリーナの場内では……

 

 九頭竜(くずりゅう) 響吾(キョウゴ)狼城(ろうじょう) (アキラ)による、3位決定戦が行われていた。

 

 

 

「── 食らいやがれ狼城! 【リボルバー・ドラゴン】で攻撃だっ! 『ガン・キャノン・ショット』!!」

 

「ぐおっ……! っ…… へへっ…… やるねぇキョーゴ」

 

 

 

 〝学園最強〟 VS(バーサス) 〝トリック・スター〟。

 

 ジャルダン校きっての実力を(ほこ)両雄(りょうゆう)が繰り広げる激戦に観客は熱狂し、たとえ3位を決めるだけの試合であろうと全力で奮闘(ふんとう)する二人へ敬意を払い、心からの声援を送り続けていた。

 

 決闘(デュエル)開始時から互いに一歩も(ゆず)らず、()(かく)に渡り合ってきた両者だったが……

 

 ここで── 狼城が切り札を切る。

 

 

 

「お次ぁこっちの主役のお()()()と行こうか── 出番だぜッ! 【コスモクイーン】ッ!!」

 

 

 

【コスモクイーン】攻撃力 2900

 

 

 

「ちぃっ……!」

 

「【リボルバー・ドラゴン】にはご退場願おうか。【コスモクイーン】で攻撃! 『コズミック・ノヴァ』!!」

 

「っ!! くそがっ……!」

 

 

 

 九頭竜 LP(ライフポイント) 1000 → 700

 

 

 

『おぉーっとッ!! 狼城選手の鮮やかな反撃が決まったァーッ! 九頭竜選手のエースモンスターが倒され、形勢は一転だぁーッ!!』

 

(ちっ…… さすがに手こずらせやがる……!)

 

「オレぁカードを1枚伏せて、ターン終了(エンド)だ! ……くくっ、どうやら去年の準決勝の再演は、オレの勝利で幕引きにできそうだな。── なぁ? キョーゴちゃんよぉ?」

 

「……あ"ぁっ?」

 

「ここでリベンジを果たして、アンタの〝学園最強〟っつー大層な(ふた)つ名も、オレが頂戴(ちょうだい)してやるぜ!」

 

 

 

 (しば)()がかった言動で勝利宣言をした狼城に対し、九頭竜は激昂(げきこう)するかと思いきや──

 

 

 

「……ハッ! んな二つ名(もん)、欲しけりゃくれてやるよ。どうせ今の俺には、もう必要ねぇからな」

 

「おっ? なんだよ諦めちゃう感じ? キョーゴらしくもね──」

 

「笑わせんな」

 

「っ……!?」

 

 

 

 九頭竜がその一声(ひとこえ)を発した途端に、空気がビリッと張り詰めた。

 

 

 

「俺は奴を…… 鷹山の野郎を撃ち殺すまで……! 誰が相手だろうが── 負けてる場合じゃねぇんだよっ!!」

 

「!」

 

「俺のターン! 【(エックス)-ヘッド・キャノン】召喚!」

 

 

 

【X-ヘッド・キャノン】攻撃力 1800

 

 

 

「さらに【前線基地】の効果で、【(ワイ)-ドラゴン・ヘッド】を特殊召喚!」

 

 

 

【Y-ドラゴン・ヘッド】攻撃力 1500

 

 

 

「まだだっ! 【アイアンコール】発動! 墓地の【(ゼット)-メタル・キャタピラー】を特殊召喚!」

 

 

 

【Z-メタル・キャタピラー】攻撃力 1600

 

 

 

「一気に3体も並べただと……! しかもこいつらは……!」

 

「どうやら知ってるみてぇだな? 行くぜッ! 【X】、【Y】、【Z】を合体させ──」

 

 

 

 3体の戦闘機が機体を分離・変形させ、下から順に【Z】、【Y】、【X】と、(かさ)なり合って連結していく。

 

 

 

「合体召喚ッ! 【XYZ(エックスワイゼット)-ドラゴン・キャノン】!!」

 

 

 

【XYZ-ドラゴン・キャノン】攻撃力 2800

 

 

 

「【XYZ】……! 【ABC】に次ぐ、新たな合体モンスターのお出ましかっ……!」

 

「永続(トラップ)発動! 【X・Y・Z ハイパーキャノン】!」

 

「!」

 

「こいつは俺のフィールドに【XYZ-ドラゴン・キャノン】が存在する場合、自分と相手のターンで、異なる効果を発動できる! 俺のターンの効果は、除外された自分のユニオンモンスター1体をデッキの一番下に戻し、1枚ドローする効果だ! 俺は【Y】と【Z】をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

「手札を全部使い切った(そば)から、もう補充しやがった……!」

 

「さらに! 【XYZ】のモンスター効果を発動! 手札を1枚捨てる(ごと)に、相手のカード1枚を破壊する! 俺はこの2枚を墓地に送り、てめぇの【コスモクイーン】と、伏せカードを破壊するぜ!」

 

「なにぃ!?」

 

「撃ち殺せ! 『ハイパー・デストラクション』!!」

 

 

 

 【X】の双肩(そうけん)の主砲、【Y】が開いた口腔(こうくう)、そして【Z】のキャタピラ上部から伸びた砲身から、レーザー砲が斉射(せいしゃ)され、狼城の【コスモクイーン】と、伏せカードを粉砕した。

 

 

 

「うおぉっ!?」

 

(ヤッベぇ、頼みの(つな)だった【魔法の筒(マジック・シリンダー)】まで……!)

 

「くっ、やられたぜ…… さっき手札を2枚増やしたのは、このためってわけかい」

 

「これで、フィールドは(から)だ! 直接攻撃(ダイレクトアタック)ッ!!」

 

 

 

- X・Y・Z ハイパー・キャノン!! -

 

 

 

 追撃で撃ち放たれた合計5発のレーザーが、丸腰の狼城に全弾命中する。

 

 

 

「ぐあぁっ!!」

 

 

 

 狼城 LP(ライフポイント) 0

 

 

 

『決着ゥゥーッ!! ウィナー・九頭竜 響吾!! 今年(こんねん)度のアリーナ・カップ第3位は、九頭竜選手に決定だぁーッ!!』

 

「……あーあ、オレぁ今年は4位止まりか…… けどまっ、楽しかったぜキョーゴ。3位おめっとさん」

 

 

 

 狼城が九頭竜に笑いかけながら、握手(あくしゅ)を求める。

 

 

 

「……くだらねぇ」

 

 

 

 しかし九頭竜は狼城の手を取らず、そう吐き捨てて(きびす)を返した。

 

 

 

「あれま、やっぱ3位なんかじゃ喜べねぇってかい?」

 

 

 

 どこか茶化すような口調での狼城の問いに、九頭竜は振り返ることなく、こう答えた。

 

 

 

「3位だろうが1位だろうが…… ()()に勝たなきゃ何の意味もねぇんだよ」

 

「……!」

 

 

 

 九頭竜が決闘(デュエル)フィールドから立ち去っていくと、独り残された狼城は「ヒュウ♪」っと口笛を吹く。

 

 

 

「好きだねぇホント。つくづく(いち)()なこって。……さてと──」

 

 

 

 そして、(いま)だ歓声の()まない観客席を眺め回すと……

 

 

 

「まっ、(ぜん)()としちゃあ上出来かね」

 

 

 

 満足()に呟いて、西洋の貴族に伝わるボウアンドスクレープと呼ばれる作法で、(うやうや)しく一礼(いちれい)をした。

 

 さながら、ショーを締めくくる道化師(ピエロ)のように。

 

 観客は死闘を演じた両選手への、称賛の意を込めた惜しみない拍手で、狼城の()()に応える。

 

 

 

「── ほんじゃ、フィナーレは主演のお二人に任せて…… 出番を終えた演者は、とっとと(そで)()けるとしますかね♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3位決定戦が九頭竜の勝利で幕を下ろし、大会はいよいよ、終幕の決勝戦を残すのみとなった。

 

 決闘(デュエル)フィールドを四方から望む、階段状に傾斜(けいしゃ)した座席は、出場者であるセツナとカナメの入場を今か今かと待ち()ねる観戦者で、全て()まっている。

 

 その一角(いっかく)にて、(こん)大会に参戦していた高等部2年の生徒──

 

 鮫牙(サメキバ) (ジョー)蛇喰(じゃばみ) 紫苑(アザミ)猿爪(ましづめ) ()(いち)の3人が(とな)り合って座り、ざっくばらんに(かた)らっていた。

 

 

 

「なぁ蛇喰の(あね)()。どっちが勝つと思うよ?」

 

「そうさねぇ…… あのセツナって子も、かなりのやり手だけど…… 正直、学園最凶が負けるところなんて、アタイには想像できんわさ」

 

「キキッ! ()(もん)だな鮫牙!」

 

「あん?」

 

「んなもんトーゼン、鷹山が勝つに決まってるっつーの! なんせこの俺と互角に()り合った奴なんだからな!」

 

「シャシャシャシャッ! なぁ~にが互角だよ? 一方的にボコられてただけじゃねぇか!」

 

「キッ!? うるせぇっつーの! 俺を舐めてっと承知しねぇっつーの! このニワトリ頭っ!」

 

「ニ、ニワトリだとぉ!? エテ公てめぇ! そりゃモヒカンに一番言っちゃなんねぇ禁句だぞゴラぁっ!!」

 

 

 

 座席から身を乗り出して、火花を散らしながら(にら)み合う鮫牙と猿爪。

 

 その(あいだ)に挟まれた蛇喰は、柳眉(りゅうび)(さか)()てると両手を高く上げ……

 

 

 

「うるさいよアンタら!」

 

「ムキャッ!?」

 

「おぶっ!?」

 

 

 

 二人の後ろ首に腕を回してグイッと引き寄せた。

 鮫牙と猿爪の顔は、蛇喰の豊満な胸に強く押し当てられる。

 

 

 

「いででっ! 何すんだっつーの離せっ!」

 

「い、いや、オレサマはもうちょいこのままッ……!」

 

「全く…… これから大一番の決闘(デュエル)が始まるってんだ。しょうもないケンカなんかしてないで、アンタ達もしかと見届けな!」

 

「ウィッス姉御!」

 

「わ、分かったから離せっつーの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、蛇喰ら三人とは別の客席には……

 

 

 

 虎丸(とらまる) ()(スケ)

 

 蝶ヶ咲(ちょうがさき) (ヨウ)()

 

 豹堂(ひょうどう) 武蔵(ムサシ)

 

 (いぬ)() ベンジャミン

 

 (オオトリ) 聖将(キヨマサ)

 

 ── 学園が定める実技の成績ランキングにおいて、最高位の序列(じょれつ)とされるランク・Aの中でも、上位10名にのみ(おく)られる『十傑(じっけつ)』という称号を(かん)する、5人の生徒が居並んでいた。

 

 

 

「ムシャムシャ…… ヨウ(ねえ)~、ポップコーンそろそろ無くなりそうだから買いに行って良い? もぐもぐ」

 

「食べながら喋るなんて美しくないわよ、キスケちゃん。それに今から買いに行ったら、どんなに急いでも試合開始は見逃しちゃうけど良いのかしら?」

 

「ん~~…… じゃあいいや!」

 

「ウハハッ、食い()よか決闘(デュエル)のが大事か。()()もやっぱし決闘者(デュエリスト)やな」

 

HEY(ヘイ)、タイガーボーイ! Me(ミー)にもソレ食わしてくれよ?」

 

「ダーメー! コレはオイラのーっ!」

 

「えぇい騒がしい! 少しは大人しくできぬのかっ!」

 

「まぁええやん凰。祭りは賑わったモン()ちやで~?」

 

「ふん、くだらぬ。そもそも決勝戦の結果など、(はな)から見えておる。九頭竜との準決勝ほど、見応えのある試合になるとは思えぬがな」

 

「なんや、凰はセツナ君じゃ、鷹山の旦那には勝てへん言うんか?」

 

「当然であろう。ましてやあの少年は過去に一度、鷹山に(やぶ)れていると聞く。ならば格付けは鷹山が上と決まっておるではないか」

 

「それランク・Bの女子に負けたキヨっちが言っても説得力なくね~? もぐもぐ」

 

「ぐぬっ……! だ、黙れ虎丸! アレはほんの少し油断していただけだ!」

 

「まっ、凰の見立てもごもっともやで。ワイが耳にした限りでも、大半はお前と同意見やったわ。なんせ唯一の対抗()や言われとった、九頭竜も負けてもうたわけやしなぁ」

 

「……そう言う貴様はどうなのだ、豹堂よ」

 

「ん? ワイか?」

 

「2回戦で鷹山と(たたか)った貴様から見て、あの少年に勝ち目があると思うか?」

 

「んん~~~…… 分からん!」

 

「なに?」

 

 

 

 豹堂のあっけらかんとした返答に、凰は()(げん)そうに眉を寄せる。

 

 

 

「確かに旦那は化けモンやった。あの強さはもう、学生レベルなんぞとうに超えとるやろなぁ…… 少なくともワイなんかとは次元が違ったわ。── せやけどな、凰…… ひとつ肝心なことを忘れてへんか?」

 

「何をだ」

 

「セツナ君は、その鷹山の旦那と対等に張り合うどころか、あと一歩のとこまで追い詰めおった── あの九頭竜に一度、勝っとるんやで」

 

「……そんなことは言われずとも分かっておる。だがそれはマグレの勝利だったと、風の噂に聞いておるぞ」

 

「ウハハッ、またまたぁ~~。九頭竜がマグレが起きたぐらいで負かされるタマとちゃうの、お前かてよう知っとるやないか」

 

「フフッ、ムサシちゃんの言う通りね。そもそもキヨマサちゃんだって、なんだかんだ言っても気になるから、ここにいるんでしょう?」

 

「ちっ…… 好きに言うがよい」

 

HA()HA()! ズボシだったか? フェニックスメン」

 

「まっ、ちゅうわけで、ワイにはこの決勝戦がどないなんのか、てんで予測がつかんわ。けどひょっとしたら…… 鷹山の旦那が一泡(ひとあわ)吹いてまうところが拝めるかも知れへんやろ?」

 

 

 

 豹堂は、にこやかな曲線を(えが)いて閉じられた糸目を細く(ひら)き、話題の両雄がもうすぐその盤上にて相見(あいまみ)える、無人の決闘(デュエル)フィールドを見下ろした。

 

 

 

「── 期待しとるでぇ? ルーキー君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 観衆が思い思いに幕間(まくあい)の時間を過ごす頃──

 

 間もなく始まる最終戦の模様をカメラに納めるべく(つど)った、テレビクルーの一員である若い女性記者が、(はず)んだ声で中年の男性記者に話しかけた。

 

 

 

「そろそろ時間ですね、(はや)()先輩! 私もう待ち切れないですよ~!」

 

「そうだな、(あら)()。……ところで…… なんだ? その変な団扇(うちわ)は」

 

「へ?」

 

 

 

 早瀬の言う通り新井は、両手に1枚ずつ団扇を握っていた。

 

 その()(がみ)には『セツナ君ファイト!!』や、『ウィンクして!』などと、ポップな字体で書かれている。

 

 

 

「とりあえず没収だ」

 

「あーーん! なんでですかぁ~っ!?」

 

「アイドルのライブ観に来てんじゃねぇんだぞ! 仕事しろ仕事!」

 

「むぅ、分かってますよ~。ちゃんとやる事はやります。セツナ君があの学園最凶を倒して優勝するところを、バッチリカメラに納めてみせますよ!」

 

「……お前、本気でセツナ君が勝つって信じてるのか?」

 

「当たり前じゃないですかぁーッ! あの〝トリックスター〟にだって勝ったんですよ!?」

 

「あぁ確かにな。俺もこの()に及んでセツナ君の実力を(うたが)ったりはしねぇよ。ただな……」

 

「ただ?」

 

「よく考えてみろ、新井。今日の決勝を観に来た観客は…… 鷹山 要の優勝に期待している人が大半のはずだ」

 

「そうなんですか?」

 

「ジャルダン校史上(しじょう)初の、アリーナ・カップ3連覇…… 鷹山がそれを達成して、この街に伝説が生まれる瞬間を、誰もが見たがってんだ。セツナ君は、(なか)ばアウェーな空気の中で、〝学園最凶〟と闘うことになる……」

 

「あっ……!」

 

「生半可なプレッシャーじゃねぇぞ。並みの決闘者(デュエリスト)なら数ターンと()たず潰れてる…… ── まっ、これでもしセツナ君が勝てば、あの鷹山に初めて勝った決闘者(デュエリスト)ってんで、それもまた伝説になるだろうけどな」

 

「……ですよね! セツナ君なら、きっと伝説になれますよねッ!!」

 

「都合の良い部分だけ取り上げやがって…… そんなんじゃジャーナリストとしては、まだまだ半人前だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「── セツナ、カードのチェックは万全(ばんぜん)?」

 

「うん。バッチリだよ、アマネ」

 

 

 

 (ひか)え室で九頭竜くんと狼城くんの試合を見届けた後、ボクは入場ゲートの近くに待機していた。

 

 あの部屋、()(ごこ)()よくてけっこう気に()ってたから、(はい)れるのは今日で最後かと思うと、ちょっと(さび)しかったな。

 

 ……今頃、カナメも反対側の入場口で、出番を待ってることだろう。

 

 もうすぐだ…… もう間もなく…… ボクとカナメの決勝戦が始まる……!

 

 

 

「あー、なんかドキドキしてきた……」

 

「いよいよね。セツナなら勝てるわよ、きっと」

 

「が、頑張ってください、セツナ先輩!」

 

「ぶちかましてくだせぇ! セツナの(あに)さん!」

 

 

 

 アマネ、ルイくん、ケイくんが、三者(さんしゃ)三様(さんよう)のエールを送ってくれた。

 

 今ボクの(そば)には、この3人にマキちゃんとコータも含めた、5人の友達がついていてくれている。

 マキちゃんが結成(?)したグループ・『ファミレス仲良し連合』のメンバーが、一堂に(かい)していた。

 

 

 

「スゥ…… フゥー………」

 

 

 

 ボクが今日何度目かの深呼吸をすると、マキちゃんがからかうように話しかけてきた。

 

 

 

「セツナく~ん、今ので深呼吸何回目~? やっぱ緊張してるんだ~?」

 

「そ、そりゃあするでしょ…… だって初めての参加で本当に決勝戦まで来ちゃったし…… しかも相手は前回ボロ負けした、あのカナメだよ?」

 

「さすがのアゲマキでも、やっぱ今回ばかしは緊張するか」

 

「うん…… さっきから心臓もバクバクしちゃってて…… ほら、触ってみてよ」

 

「!?」

 

 

 

 ボクはコータの手首を掴んで、その手の平を、ボク自身の胸に当てさせる。

 

 

 

「コータの手、おっきいね…… どう? 感じる?」

 

「っ~~~! お、おう、ホントだスゲーな……! も、もう良いだろ!?」

 

「待ってコータくん! そのまま! 動いちゃダメッ!!」

 

「ちょ、なに撮ってんだよ()(づき)!?」

 

「んっ……!」

 

「アゲマキも変な声出すんじゃねぇーっ!!」

 

「コー × セツいただきました~! ごちそうさまで~すッ!」

 

「……この場に蝶ヶ咲先輩がいたら大喜びしそうね」

 

 

 

 とまぁ、冗談はこれくらいにして……

 

 

 

(……参ったな…… まだ手が震えてる……)

 

 

 

 そう、ここに来てからボクの手は、ずっと緊張で震えっぱなしだった。

 

 いや、これはただの緊張って言うより……

 

 

 

(こわ)がってるのかな…… カナメと闘うのを……)

 

 

 

 情けない話だけど…… あれほどカナメとの再戦を熱望していたにも関わらず、いざその時が来たら急に()()づいてきた。

 

 どうやらボクは自分が思ってた以上に、カナメに負けたのがトラウマになってたらしい。

 

 ただでさえ実力の差では向こうが格上なのに、それに加えてこっちはこれまでの試合で、手の内をほぼ全て(さら)していて不利な立場にある。

 

 この上、気持ちでまで負けてるようじゃ…… (たたか)ったところで、まともな勝負にすらなりそうにない。

 

 どうしたものかと困り果てていると──

 

 

 

「……せっ…… 先輩!」

 

「ん? どうしたのルイく── わっ!?」

 

 

 

 今度はルイくんがボクの胸に飛び込んできて、ひしっと()きついた。

 

 いつもながらルイくんの身体(からだ)って、(やわ)らかくて良い匂いがする……!

 

 

 

「キャーッ! ルイちゃんったら大胆~ッ!」

 

「えっと…… ルイくん?」

 

「あ、あの、その…… 先輩、僕が金沢さんと決闘(デュエル)する前…… こうして、抱き締めてくれたので……」

 

「抱いてくれたのでッ!?」

 

「マキちゃん静かに」

 

 

 

 ルイくんが赤らめた顔を上げて、上目遣いで心配そうにボクを見つめた。

 

 

 

「ど、どうですか? 緊張…… (やわ)らぎましたか……?」

 

「ッ~~~~!!」

 

 

 

 なっ、なんだこの愛くるしい生き物は……! 間違って地上に落ちてきた天使なんじゃないか?

 

 ……ボクはルイくんの頭をなでなでしながら、(ほお)のゆるんだ笑顔で答える。

 

 

 

「フフフフッ、ルイくんありがとう~! すっごく緊張が(ほぐ)れたよ~、えへへへぇ~ッ」

 

「解れ過ぎてゆるゆるのデレデレじゃない。大丈夫なの?」

 

「── おーおー、見せつけてくれんじゃん」

 

「!」

 

 

 

 ボクら6人の誰でもない声が聞こえた。この声は確か……!

 

 

 

「狼城くん!?」

 

「よっ」

 

 

 

 やって来たのは、さっきまで九頭竜くんと3位決定戦で闘っていた、狼城 暁くん本人だった。

 

 

 

「あ、狼城センパイだ~。こんちわ~」

 

「おう、お嬢ちゃんもいたんか」

 

「狼城くん試合お疲れ様。良い決闘(デュエル)だったよ」

 

「どーも。会場はしっかり(あった)めといてやったぜ、兄弟(きょうだい)

 

「き、兄弟?」

 

「おうよ。オレが兄貴分で、セツナ君は弟分な」

 

 

 

 な、なんか勝手に兄弟に認定されちゃった……

 

 

 

「あはは…… じゃあ狼城の兄貴って呼んだら良い? それとも…… お兄ちゃん?」

 

「ハハッ、それも悪かねぇけど、そこは兄弟って呼んでくれや。そっちのが(サマ)になんだろ?」

 

「そっか。分かったよ、兄弟」

 

「セツナくんの(くち)から『お兄ちゃん』なんて萌えワードを聞ける日が来るとは……! 狼城センパイ、妄想ネタの提供、感謝でありますッ!」

 

「おいおい嬢ちゃんよぉ~、オレとセツナ君で(うす)い本とか作んなよ~?(笑)」

 

「ボ、ボクもできればやめてほしいかな、それは……」

 

(にしても、兄弟、か……)

 

 

 

 ── 昔も、そんな感じの間柄(あいだがら)だった〝親友〟が、一人(ひとり)いたっけな。

 

 

 

(……〝(かれ)〟は今どこで、何をしてるんだろう……)

 

「ん? どうかしたか?」

 

「あっ、ごめん狼城くん。なんでもないよ」

 

「つーかセツナ君よぉ、試合前に女3人も(はべ)らせてイチャつくたぁ、ずいぶん余裕じゃねーのよ?」

 

「べ、別にイチャついてるわけじゃ…… えっ? ()()?」

 

「ん? そっちのお嬢ちゃん二人に、さっき抱き合ってたそこのチビッ子で3人だろ?」

 

「えぇっ!?」

 

 

 

 ルイくんが狼城くんに(ゆび)()されて驚いた声を出す。またもや女の子と間違われてショックを受けたみたいだ。

 

 この流れ、もはや恒例(こうれい)になりつつあるけど…… 可愛い後輩のためにも、誤解はきちんと()いてあげよう。

 

 

 

「えーっとね狼城くん? ルイくんは実は男の子なんだよ。こう見えてね」

 

「……はっ? 男? こんな女顔してんのにっ!?」

 

「こんな可愛い子が女の子のはずがないでしょ? まぁ気持ちは激しく分かるけどね」

 

「というかなんで男子の制服を着てるのに、みんな気づかないのかしら?」

 

「アマネたんだって最初は勘違いしてたじゃ~ん」

 

「うっ、そ、そうだったわね……」

 

 

 

 それだけルイくんの(おさな)くて愛らしい顔立ちと、()(がら)華奢(きゃしゃ)な身体つきが、彼は女の子だって先入観を与えちゃうのかも知れない。

 

 ところが狼城くんは、まだ信じられていないみたいで……

 

 

 

「いやいや、オレの目をごまかそうったって、そうはいかねーよ」

 

 

 

 ズイッとルイくんに急接近する狼城くん。そして──

 

 

 

「どれどれ?」

 

「きゃっ!?」

 

 

 

 なんと、いきなりルイくんの胸をわし(づか)んで、()みしだき始めた。

 

 

 

「おっ、可愛い声じゃん」

 

「やっ、あ、あの……!」

 

「ちょ、狼城くん!?」

 

 

 

 感触を確かめるように、いやらしい手つきでルイくんの胸板(むないた)を、ふにふにとまさぐる狼城くん。

 

 

 

「ん~、確かに胸は男みてーにペタンコだがよ…… この柔らかさは男の身体じゃねーぞ?」

 

「あっ、んうっ…… (いた)っ……!」

 

「お、おいてめぇっ! 兄貴に何しやがるっ!? 痛がってんじゃねぇか離せやっ!」

 

 

 

 ケイくんが狼城くんを引き()がして、ルイくんを助けてくれた。

 

 ルイくんはケイくんの後ろに隠れると、顔を半分だけ(のぞ)かせ、涙目になってビクビクしてる。

 

 

 

「なんでぇ、良いじゃんよ別に減るもんじゃねーし。むしろデカくなんべ?」

 

「いや、ルイくんは男の子だから胸は大きくならないって……」

 

(……なんで私は1日に二度も、男が男の胸を揉むシーンを見せられてるのかしら……)

 

「つかオマエ今、『兄貴』っつった? なに? オマエとそのカワイ子ちゃんも兄弟分なのか?」

 

「『分』じゃねぇっ! れっきとした、血を分けた(じつ)の兄弟だっ!」

 

「……マジで? うわ、似てねぇ~」

 

「てめっ……! ケンカ売ってんのかっ!?」

 

「ケイくん、どうどう」

 

 

 

 こんなところで揉められちゃ(かな)わないので、ボクはあわてて(あいだ)に入ってケイくんをなだめる。

 

 

 

「ルイくん大丈夫?」

 

「は、はいっ……」

 

「怖かったよね、よしよし」

 

(おび)えた()()も可愛くてそそるねぇ~。キスしたくなってくるわ」

 

「「 キッ……!? 」」

 

 

 

 狼城くんの爆弾発言を受けて、ボクとルイくんの(うわ)()った声がハモった。

 

 ボクは、3日前に自宅でルイくんのファーストキスを奪ってしまったあの事故の記憶が、(のう)()でその感触まで、鮮明に思い起こされてしまう。

 

 

 

「はうぅっ……!」

 

 

 

 ルイくんも同じことを思い出したのだろうか。赤くなった顔を両手で隠して、可愛らしい声で鳴いた。

 

 

 

「ろ、狼城くん! あんまりルイくんを怖がらせちゃダメだよ?」

 

「ハハッ、ジョーダンだっての。男ぁ(オオカミ)なんだぜ、子ウサギちゃん。気ィつけな」

 

(うぅ…… 僕だって男なのに……)

 

「── ガッハッハッ!! なんじゃ狼城、お前さんまで来ておったかッ! みんな考えることは同じじゃのうッ!」

 

「!」

 

 

 

 これまた聞き覚えのある声が飛んできた。この野太い笑い声は忘れようもない──

 

 

 

「あっ、熊谷(クマガイ)くん!」

 

「おうッ! 1回戦以来じゃな、ボウズ!」

 

 

 

 ちょっと背伸びすれば通路の天井に余裕で手が届きそうな長身を、()(あつ)い筋肉の(よろい)で包み込んだスキンヘッドの巨漢(きょかん)── 熊谷(クマガイ) (リキ)()くんが、ボク達の前に姿を見せた。

 

 

 

「そうだね、どうしてここに?」

 

「決まっておろう、お前さんを応援しに来たんじゃ! ワシに勝った男が鷹山と()り合うっちゅうんじゃからのぉ!」

 

「そうなんだ、ありがとう熊谷くん!」

 

「ちなみに── 来たのはワシだけではないぞぉ」

 

「えっ?」

 

 

 

 熊谷くんはニカッと笑って、自分の後方を親指で指した。

 

 何だろうと思い、そっちに目を()ると、そこには──

 

 

 

「アゲマキさーん! お久しぶりなのですー!」

 

「よぉッ!! 燃えているか我が友よッ! 熱血だぁーッ!!」

 

「クヒヒヒッ…… 決勝進出を(のろ)いに…… じゃない。(いわ)いに来てやったぞ~」

 

「アゲマキ先輩! こんにちは!」

 

(な、なんでこんなに人が多いんですのぉ~っ!?)

 

 

 

 新たに5人── ボクと顔見知りの生徒が、勢揃(せいぞろ)いしていた。

 

 (はや)() ()(ふみ)ちゃん。

 

 猪上(いのうえ) (あつし)くん。

 

 ()骨崎(こつざき) (カバネ)くん。

 

 宝生(ほうしょう) (アカ)()ちゃん。

 

 そして、鰐塚(ワニヅカ) ミサキちゃん。

 

 全員ボクが、過去に一度は決闘(デュエル)したことのある知り合いだ。特に猪上くん、死骨崎くん、明里ちゃんとは、今回の選抜試験の予選で対戦してる。

 

 

 

「みんな!?」

 

「アゲマキさん! 決勝進出おめでとうなのです! 初出場で決勝戦! しかも相手はリベンジを(ちか)った、あの鷹山 要さん! ついにこの日を迎えた今のお気持ちを、ぜひお聞かせくださいなのです!」

 

 

 

 ケイくんと同じ中等部の生徒である、丸メガネを掛けた黒髪の少女── 記文ちゃんがいの一番に駆け寄ってきて、溌剌(はつらつ)な声でボクに質問を投げかけた。

 

 そう言えば彼女は新聞部の部員だったね。それでインタビューがしたいってわけか。

 

 さて、なんと答えたものかな……

 

 

 

「そうだね…… 正直スゴく緊張してるけど、ここまで来たからには、全力を尽くそうと思うよ」

 

「おぉーッ! ステキなコメントありがとうなのですー!」

 

「ぬおおおおッ!! その意気だアゲマキ君ッ! だが俺との予選で見せた君の闘志は、まだまだそんなものではなかったはずだ! もっと熱くなれよぉぉぉぉおッッ!!!」

 

 

 

 次はボクと同級生で、次期十傑候補の一人に選ばれている、黒い短髪に太い眉毛と、たくましい体格が特徴の熱血(かん)── 猪上くんが、グイグイと迫りながら激励(げきれい)してきた。

 

 この昔の少年マンガみたいな暑苦しいノリは相変わらずだね…… 元気そうで何より。

 

 

 

「う、うん、そうだね、がんばるよ」

 

「ン熱血だあああああッ!! うおーッ! うおーッ! うおーったらうおーッ!!」

 

「あはは…… ありがとう、猪上くん」

 

 

 

 スゴいや、本当に猪上くんの全身から炎がメラメラと燃え上がってる…… ように見えてきた。

 

 火傷(やけど)しそうな熱量に()()されて、それとなく離れると、今度はボクの背後から──

 

 

 

「クヒヒヒッ……」

 

「わっ!?」

 

 

 

 猪上くん同様ボクの同級生である、顔の半分を長い黒髪で覆い隠した、()せぎすで(ねこ)()な少年── 死骨崎くんが、おどろおどろしい(こわ)()で、ボクに笑いかけた。

 

 

 

「ビ、ビックリしたぁ~…… どうしたの? 死骨崎くん」

 

「クヒヒッ、お前にコレをやろう……」

 

 

 

 死骨崎くんはボクに、シルバーのアクセサリーらしき物を手渡した。

 

 ピラミッドを逆さまにしたような、(せい)()(かく)(すい)の小さな装飾品に、チェーンを繋げてある。

 

 なんだか、決闘王(デュエル・キング)()(とう) (ゆう)()さんが、いつも首から下げていた金色のアイテムを、アクリルキーホルダーほどのサイズに縮めたみたいなデザインだった。

 

 

 

「コレは?」

 

「なぁに、優勝()(がん)()(まも)りみたいなもんさぁ…… コレを身につけると、悪いモノを寄せつけなくなると言われていてなぁ…… 本来なら金を取るところだが…… 決勝進出の記念に特別にタダでやるぞぉ、クヒヒヒ」

 

「……そっか、ありがたく(もら)っておくね」

 

 

 

 早速ネックレスを首に掛けてみる。

 

 

 

「……フフッ、なんか遊戯さんになった気分だよ」

 

「クヒヒッ、よく似合ってるじゃないか…… 気に入ってもらえたようで何よりだぁ、健闘を祈ってるぞぉ~? クヒヒヒヒヒヒッ……」

 

 

 

 ボクがワイシャツの内側にネックレスをしまってると、続いては学年が1つ下の、緑色の髪をポニーテールに結んだ女の子── アカリちゃんが声をかけてきた。

 

 

 

「アゲマキ先輩、決勝戦がんばってくださいね! 応援してます!」

 

「アカリちゃんもありがとう。でも意外だね? 君はてっきり、カナメを応援するんだと思ってたけど」

 

「も、もちろんカナメ様も応援してますよ? でもたぶん、あの人は私のことなんて覚えてなさそうだし…… それに何より、私と予選で闘った人が決勝まで行ったんです。あいさつしないわけにはいかないじゃないですか」

 

「あはは、それは嬉しいね。アカリちゃんの分まで、がんばってくるよ!」

 

「はい! ……それにしても……」

 

「?」

 

(……黒雲(くろくも)さんも観月さんも鰐塚さんも…… みんな、胸が大きくてうらやましい……! 私なんて、Bカップしかないのに……!)

 

 

 

 アカリちゃんの目線の先では、プラチナブロンドの長髪を両サイドでまとめて、ドリル状の縦ロールに巻いた髪型が印象的な令嬢(れいじょう)── 鰐塚ちゃんが、狼城くんと会話していた。

 

 

 

「いよぉミサキ嬢。1回戦ぶりだな」

 

「っ! ろ、狼城…… アナタまでいらしてたのね……」

 

「相変わらず胸デケーな、揉ませろよ?」

 

「なっ!? ち、近づかないでくださいまし! この俗物(ぞくぶつ)っ!」

 

「くぅ……! これが胸囲(きょうい)の格差社会ですか……!」

 

「ど、どうしたのアカリちゃん?」

 

 

 

 自分の胸に手を当てて、どこか(くや)しげな表情でそう呟いたアカリちゃん。

 

 何のことを言ってるのかはよく分からなかったけど…… とりあえず、ボクも鰐塚ちゃんにあいさつしとこう。

 

 

 

「こんにちは、鰐塚ちゃん」

 

「はうっ!?」

 

「君もボクの応援に来てくれたの?」

 

「そうだっつってたぜ、セツナ君」

 

「ちょ、ちょっと狼城!? なんで貴方が答え──」

 

「そうなんだ! ありがとう鰐塚ちゃん!」

 

 

 

 ボクは両手で鰐塚ちゃんの右手を優しく握って、お礼を言う。

 てっきり彼女には嫌われてるものとばかり思ってたから、なおのこと嬉しかった。

 

 

 

「あっ、あ、あわわわわわっ!?」

 

(セセセセ、セツナさんの手ががががっ!? ワタクシの手ををををっ!?)

 

「あれ? 鰐塚ちゃん? 顔が赤いけど大丈夫?」

 

「はふん……!」

 

 

 

 鰐塚ちゃんは耳まで真っ赤になったかと思うと、突然フラついて(あお)向けに(たお)れそうになる。

 

 

 

「わっととっ!? 危ない!」

 

 

 

 ボクはとっさに鰐塚ちゃんの背中に右腕を回して、身体を()(かか)える形で受け止めた。

 

 左手は彼女の右手をまだ握っていたので、まるで鰐塚ちゃんと社交ダンスでも踊ってるみたいなポーズになってしまう。

 

 そして鰐塚ちゃんはと言うと…… 首をガクンと()()らせた体勢のまま、起きる気配がない。

 

 どうやら気絶している様だ。ひょっとして手を触られたのが、気を失うほど嫌だったとか? だとしたらまた悪いことしちゃったな……

 

 

 

「おぉーッ!! (さわ)やか美少年のスーパールーキーと、学園のマドンナのワルツ!! 大スクープなのですーッ!」

 

「ちょ、記文ちゃん!? 撮らなくていいから!?」

 

 

 

 ミラーレス一眼(いちがん)カメラのシャッターを、()()として切りまくる記文ちゃん。

 

 マ、マズイ…… こんなところを撮られた写真が出回りでもして、鰐塚ちゃんの側近(そっきん)(ひろ)()くんと京川(けいかわ)くんに見られようものなら、きっとタダじゃ済まない……!

 

 と、その時──

 

 

 

「ダメでしょ、セツナを困らせちゃ」

 

「うひゃ!? お、大きいのです!?」

 

 

 

 アマネがカメラの前に立ちはだかって、撮影を()()してくれた。

 

 あの身長差だと、レンズにはアマネの胸がドアップで映り込んだことだろうね。

 

 

 

「本人が嫌がってるんだから、写真は消してあげなさい」

 

「は、はいなのです! アゲマキさん、ごめんなさいなのです! あまりにも()える()だったもので、撮らずにいられなかったのです!」

 

 

 

 アマネに(さと)された記文ちゃんは、素直に謝ってペコリと頭を下げた。

 

 

 

「ありがとうアマネ、助かっ──」

 

「エロ戦車出撃ィーッ!!」

 

 

 

 狼城くんの大声が、ボクの言葉を(さえぎ)った。

 

 彼はどこから持ってきたのか、T字型の長い定規(じょうぎ)の先端で、アマネのスカートを目一杯めくり上げた。

 

 

 

「キャーーーっ!?」

 

 

 

 黒いレースの下着に包まれた、アマネのお尻が丸見えになる。

 

 

 

「ヒュー♪ 黒たぁマセてんねぇ? にしても、良いケツしてんなぁ」

 

「うへへへッ、ナイスです狼城センパイ!」

 

 

 

 マキちゃんも、狼城くんの両肩を掴んで真後ろに並び、一緒になって(わる)ノリしていた。

 

 仲良いね、この二人…… 自由奔放(ほんぽう)な性格同士、気が合うのかな。

 

 

 

「何すんのよ変態っ!!」

 

「ぶべらっ!?」

 

 

 

 案の定アマネは(おこ)って、グーパンで狼城くんを制裁(せいさい)した。

 

 鰐塚ちゃんにも同じイタズラしてたけど、狼城くんってスカートめくりが好きなのかな?

 

 ちなみにその鰐塚ちゃんは、すぐに意識を取り戻した。彼女いわく、手を握られたのは別に嫌じゃなかったらしくてホッとした。

 

 

 

「あ、あの野郎っ……! く、くく、黒雲さんに、な、な、なんてことしやがるっ……! 俺だってまだ、あの絶対領域の中は見たことねぇのにぃぃぃっ……!!」

 

 

 

 血涙(ちなみだ)を流すコータの肩に、ボクはポンと手を置く。

 

 

 

「まぁまぁ落ち着きなよコータ」

 

「うるせぇーっ!! お前もちゃっかりガン見してやがったなぁ!? うらやま…… けしからんぞアゲマキぃーっ!!」

 

「わぁーっ!? あれは不可抗力だよーっ!」

 

「ガッハッハッ! しっかし驚いたわい! お前さん、なかなか人望があるのぉ!」

 

 

 

 コータにヘッドロックをかけられていると、熊谷くんが豪快に笑い出した。

 

 

 

「えっ? そ、そうかな?」

 

「そうじゃとも。でなきゃこんな大勢で、わざわざ応援のために駆けつけたりせんわ。これもお前さんの人柄(ひとがら)賜物(たまもの)じゃろうて!」

 

「な、なんか照れるなぁ~、あははッ」

 

(……あ、でも……)

 

豪炎(ごうえん)()くんは来てない…… か」

 

 

 

 予選の準決勝で当たった次期十傑候補の筆頭── 豪炎寺 龍牙(りゅうが)くんの姿は、残念ながら見当たらなかった。

 

 まぁ、彼がボクを応援してくれるってのは…… 考えづらいか。

 

 

 

「アゲマキ選手! 間もなく入場です!」

 

「あっ、もうそんな時間?」

 

「良かったねセツナくん。リラックスできたみたいじゃん」

 

「えっ? ……!」

 

 

 

 マキちゃんに言われて気づいた。

 

 いつの間にか…… 手の震えは、すっかり止まっていた。

 

 

 

(………)

 

 

 

 ボクはフッと笑みをこぼして、集まってくれた12人に呼び掛ける。

 

 

 

「みんな!」

 

 

 

 みんなは水を打った様に静まった。

 

 そしてボクは震えの止まった手を強く握り締め── 一言(ひとこと)、みんなに(はげ)まされて固まった決意を込めて、宣誓(せんせい)する。

 

 

 

「決勝戦…… 勝ってくるねッ!」

 

『『『 おうッ!!! 』』』

 

 

 

 みんなが声を揃えて(こた)えてくれた。

 

 

 

(……本当に…… この学園に来て良かった……!)

 

 

 

 ボクは身体の底から(ちから)が沸き起こるのを感じて、同時に嬉しさで胸いっぱいになり、つい顔が(ほころ)んでしまう。

 

 

 

(── よし! 行こう!)

 

 

 

 気を引き締めて、一人一人とハイタッチしながら、入場口へと歩を進めていく。

 

 そして── 最後にアマネと手を合わせる際、彼女はボクに微笑(ほほえ)みかけた。

 

 

 

「セツナ、行ってらっしゃい」

 

「……!」

 

 

 

 アマネの(くち)からその言葉を聞いたボクの目に、一瞬──

 

 昔お世話になった〝ある女性〟の顔が、アマネに(かさ)なって見えた。

 

 

 

(……懐かしいな)

 

 

 

 あの人も今のアマネみたいに優しい笑顔と声で、『行ってらっしゃい』って言って、いつも見送ってくれてたっけ……

 

 

 

「……うん。── 行ってきます!」

 

 

 

 元気よくそう答えてアマネとハイタッチすると、ボクはいよいよ決戦の舞台へ続くゲートに、足を踏み入れた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『── レディース・アーンド・ジェントルメーンッ!! 待たせたな諸君! 時は来た! これより選抜デュエル大会・本選、アリーナ・カップ! 決勝戦の(まく)()けだァァァァッ!!』

 

 

 

 本選1回戦から今日までの4日間──

 

 大会の司会進行を(つと)め、そのパッションあふれる実況と解説で、イベントを盛り上げるのに一役(ひとやく)買っていた、MC担当のマック伊東さん。

 

 最終日も安定のハイテンションで、開幕(かいまく)(おん)()を取ってくれた。

 

 

 

『例年に負けず(おと)らず、数多(あまた)の名勝負を生み出してきた今年のアリーナ・カップも、ついにファイナルを迎える時が来たァァーッ!! 泣いても笑っても、これが正真正銘、ラスト・デュエル!! この(ねん)に一度のビッグイベントを締めくくる頂上決戦を、共に結末まで見届けようぜエビバディーッ!!』

 

「待ってましたァーッ!!」

 

「期待してるぞぉーッ!!」

 

「最高の決闘(デュエル)を見せてくれぇーッ!!」

 

 

 

 詰めかけた観客も全員一丸(いちがん)となって、割れんばかりの歓声を(とどろ)かせる。

 アリーナはすっかり、最高潮の熱気に満ちていた。

 

 

 

『イェーイッ!! それじゃあオーディエンスのボルテージもマックスに(たっ)したところで── お待ちかね! 長い長い闘いを勝ち抜き、今日この場で優勝を争う、二人の決闘者(デュエリスト)を呼び(むか)えようッ! 一人目は、この少年だッ!!』

 

 

 

 場内が暗転し、ボクの入場するゲートをスポットライトが照らし出した。やっぱり今日も、一番手はボクか。

 

 

 

『〝黄金(おうごん)世代〟と評された、歴代最強クラスの十傑メンバーが全員集結した今年のアリーナ・カップ! そんな強豪ひしめく、過去最高にハイレベルなトーナメントを勝ち上がり、晴れて決勝進出を果たしたのは! 驚くことに今回が初の参戦となる、高等部2年の転入生だったッ!! まさに〝超新星〟と呼ぶべき、新世代のナンバーワン・ルーキー!! その名は、2年── 総角 刹那ァァーッ!!』

 

 

 

 名前を呼ばれてボクが歩み出ると──

 

 

 

『『『 キャアーーーッ!! セツナくぅ~~~んッ!!! 』』』

 

「わぁ!? なになにっ!?」

 

 

 

 大歓声に混じって、女の子達の黄色い声援が、そこかしこから聞こえてきた。

 

 

 

『今大会での目覚ましい活躍と、その端整(たんせい)なルックスで多くの女性ファンを獲得したアゲマキ選手の登場に、熱烈な声援が飛び交っている! くぅ~ッ! モテモテでうらやましいぞこんちくしょ~ッ!!』

 

「あ、あはは…… いつの間にこんなことになってたんだ……」

 

 

 

 応援席に笑顔で手を振りつつ、ボクは決闘(デュエル)フィールドに立つ。

 

 数秒後、今度は逆サイドの入場口に舞台照明が集中した。

 

 

 

『そしてッ! 快進撃の果て、ついに頂点まで(のぼ)り詰めた超新星を、玉座(ぎょくざ)にて待ち受けるのは! 今年いよいよ大会3連覇に〝王手〟をかけた、無敗のディフェンディング・チャンピオン!! 最後の防衛戦を制覇し、前人(ぜんじん)()(とう)の偉業を()()げ、この街の歴史に、その(めい)()を刻むことができるだろうかッ!? 3年・十傑! またの名を── 〝学園最凶〟!! 鷹山 要ェェーーーッ!!』

 

 

 

 左腕にブルータイプのデュエルディスクを着けた、黒髪碧眼(へきがん)(れい)()()(ぼう)の青年が、悠然(ゆうぜん)とした足取りで堂々の入場を果たす。

 

 

 

(カナメ……!)

 

 

 

 ボクの(ほほ)を冷や汗が伝い、思わず息を飲む。

 

 

 

「カナメ様ァーッ!!」

 

「カッコイイーッ!!」

 

「こっち向いてぇーッ!!」

 

 

 

 カナメはボクと違って声援には一瞥(いちべつ)もくれず、獲物を狙い澄ました(たか)の様に鋭い(まな)()しをボクにだけ向けたまま、ステージへと上がってきた。

 

 

 

(……うぅ、そんな見ないでよ……)

 

 

 

 男のボクでも()()られちゃう美男子に穴が()くほど見つめられてると、こっちが目を()らしたくなってしまう……

 

 いや、耐えろボク、ここで逸らしたら負けだ……!

 

 

 

「……初めて会った時以来だね。こうして決闘(デュエル)するために、君と向かい合うのは」

 

「……そうだな」

 

 

 

 あの時も思ったけど、カナメが放つ()()の迫力は、圧巻の一言に尽きる。

 

 このそびえ立つ山みたいに圧倒的な存在感…… 歴戦のプロ決闘者(デュエリスト)さながらの貫禄(かんろく)だ。本当に18歳?

 

 

 

「フッ……」

 

「? どうしたの?」

 

「控え室ではずいぶんと緊張していたようだが…… 俺に負けたトラウマは、無事に吹っ切れたようだな」

 

「うっ……! バレてた?」

 

 

 

 ボクは後ろ髪を軽く()いて苦笑する。

 

 なるべく(つと)めて平静を(よそお)ってたつもりでいたけれど、カナメの慧眼(けいがん)にはお見通しだったか……

 

 

 

「あれだけの大口を叩いておきながら、今さら臆病風(おくびょうかぜ)に吹かれたかといささか()(ねん)していたが…… 安心したぞ。どうやら、退屈な決闘(デュエル)にはならずに済みそうだ」

 

「……ここに来る前、友達にたくさん勇気を分けてもらったからね」

 

 

 

 ついさっきまで、しっかり臆病風に吹かれてましたとは言えない……

 

 でも、みんなが背中を押してくれたおかげで、ボクの中の弱気は解消できた。

 

 今はむしろ試合開始が待ち切れなくて、ウズウズしてるぐらいだ。

 

 

 

「── お待たせ、カナメ。約束通り、君に勝ちに来たよ」

 

「待っていたぞ、総角 刹那。よくぞ()()まで勝ち残り、俺への挑戦権を勝ち取った」

 

 

 

 カナメは自分のデュエルディスクから、デッキを取り外してボクに差し出してきた。

 

 

 

「?」

 

(ほう)()だ。お前に俺のデッキを、シャッフルさせてやる」

 

「えっ…… 良いのッ!?」

 

 

 

 光栄だなぁ……! カナメのデッキを触らせてもらえるなんて……!

 

 ボクは目を輝かせて、デッキを手に取った。

 

 すると、その途端──

 

 

 

「っ……!!」

 

 

 

 デッキからほとばしる、持ち主と遜色(そんしょく)ない(すさ)まじいオーラを肌で感じ取り、ボクは戦慄(せんりつ)を覚えた。

 

 

 

(スゴいっ…… コレがカナメのデッキ……! 40枚のカードの(たば)が、(なまり)みたいに重く感じる……!)

 

「……あ、そうだ、ちょっと待って」

 

 

 

 カナメのデッキをシャッフルする前に、ボクも自分のデッキをカナメに手渡した。

 

 

 

「ボクだけ自動(オート)シャッフルじゃ(あじ)()ないし、公平(フェア)じゃないからね。良かったらカナメに混ぜてほしいな」

 

「あぁ。良いだろう」

 

 

 

 ボクとカナメはデッキを交換すると、ヒンズーシャッフルと呼ばれる一般的な手法で、カードを切り混ぜていく。

 

 

 

『おぉーっとッ! これはなんとも(いき)な展開ッ! 両選手、互いのデッキをカット・アンド・シャッフル!!』

 

 

 

 海馬コーポレーションの技術の()(やく)(てき)な進歩で、今やデッキのシャッフルは、デュエルディスクが自動で(おこな)ってくれる。

 

 だからこそ昨今(さっこん)決闘(デュエル)界では、わざわざ対戦相手に自分の(たましい)のこもったデッキを渡して、決闘(デュエル)の勝敗を左右すると言っても過言ではない不可欠な行為であるシャッフルを、()()の手に(ゆだ)ねるというのは……

 

 相手のことを、魂を(たく)せる決闘者(デュエリスト)だと認めている── そんな意味合いが込められているんだ。

 

 優勝が()かった大事な試合で、そこまでしてくれたカナメの心意気に、ボクもちゃんと誠意で応えないとね。

 

 

 

(フフッ、なんだかバトル・シティの決勝戦みたいで、テンションが上がるね)

 

(……このデッキ、ずいぶんと使い込まれているな。持ち主がカードを心から大切にしているのがよく分かる…… カードもまた、持ち主に全幅(ぜんぷく)の信頼を寄せ、固い絆で結ばれているようだ。── フッ…… まさしく決闘者(デュエリスト)(かがみ)だな)

 

 

 

 数回シャッフルした(のち)、お互いにデッキを相手に返し、受け取った自分のデッキを、再度それぞれのデュエルディスクにセットした。

 

 正直あのカナメのデッキを触ってると思うと、入場前とはまた別な意味で手が震えた。うっかりカードを落としたりしなくてホント良かった……

 

 

 

「念入りにシャッフルしておいたか? 俺が手札事故を起こすように願いながらな」

 

「そんなので勝てても嬉しくないよ。君に本気を出させた上で勝たないとリベンジにならないしね」

 

「安心しろ、俺にとっては今年が最後のアリーナ・カップだ。その決勝戦で手を抜く気など毛頭(もうとう)ない。── 望み通り…… 全力で相手をしてやる」

 

「!!」

 

 

 

 カナメの目付きが変わり、サファイアの様に(あお)(きら)めく眼光で、ボクを()(すく)めた。

 

 

 

(っ……! なんて威圧感っ……!)

 

 

 

 九頭竜くんのプレッシャーが弾丸で撃ち抜いてくるような鋭さなら、カナメのそれは、上から押し潰してくる重圧って感じだ……!

 

 ボクはたまらず打ち(ふる)える。だけどこれは、(おそ)れおののいたわけじゃない。

 

 ── ()(しゃ)(ぶる)いだ。

 

 

 

「……良いねッ、ゾクゾクしてきたよ……!」

 

 

 

 カナメの闘気にあてられて、ボクも決闘者(デュエリスト)としての血が(たぎ)ってきた。

 

 ボクって平和主義者を自負してる割りに、決闘(デュエル)に関しては意外と好戦的だったみたい。

 

 

 

「そう来なくっちゃッ!!」

 

 

 

 自分も闘気を全開にして、カナメに思う存分ぶつけたい。

 

 そんな衝動に駆られるがまま── ボクは、かけている赤メガネを取り外した。

 

 決闘(デュエル)を始める前から〝このモード〟に入るのは、たぶん初めてかも。

 

 

 

『お、おぉぉ……っ!? す、凄まじいッ! アゲマキ選手と鷹山選手、両者の闘気が激しくぶつかり合って、会場の空気をビリビリと震わせているぅーッ!!』

 

「……フフッ、九頭竜にも引けを取らない猛々(たけだけ)しい気迫だな。俺の心が(いさ)(ふる)う……」

 

 

 

 カナメは口角を()り上げ、愉快そうな微笑(びしょう)を浮かべた。

 

 

 

「上出来だ。今のお前なら、俺の本気を受け切れるかも知れないな」

 

「ご期待に添えるようがんばるよ。── 楽しい決闘(デュエル)をしようね、カナメ」

 

「それはお前次第だ、総角 刹那。お前の持てる力、その全てを尽くして── この俺を(たの)しませてみせろ」

 

(あはは…… いっそ清々(すがすが)しいくらいに上からだなぁ)

 

 

 

 ── あいさつもそこそこに、ボクはカナメとの間隔(かんかく)を空けて自分の定位置で立ち止まると、ホワイトタイプのデュエルディスクを起動した。

 

 これで準備は完了…… あとはこの決闘(デュエル)を制するだけだ!

 

 

 

『さぁ役者が揃って、舞台は(ととの)った! この決闘(デュエル)、どちらが勝っても、我々は伝説の爆誕(ばくたん)()の当たりにすることになるだろうッ!!』

 

 

 

 今、(ふたた)び── 〝学園最凶〟の決闘者(デュエリスト)(いど)む!!

 

 

 

『アリーナ・カップ・トーナメント決勝戦!! 総角 刹那 VS(バーサス) 鷹山 要!! イィ~~~ッツ! タイム・トゥ──』

 

「「 決闘(デュエル)!! 」」

 

 

 

 セツナ LP(ライフポイント) 4000

 

 カナメ LP(ライフポイント) 4000

 

 

 

 決戦の火蓋が切られた瞬間── 満員の大観衆が一斉に拳を突き上げ、喝采(かっさい)を巻き起こした。

 

 ここまでヒートアップされちゃったら、盛り下がるようなプレイは見せられないね……!

 

 

 

「先攻は挑戦者(チャレンジャー)であるお前からだ」

 

「オーケー、ボクのターン!」

 

(……! この手札…… フフッ、なるほどね)

 

 

 

 まさかそう来るとは。カード達も、なかなか粋なことをしてくれるね。

 

 

 

「行くよカナメ! ボクは── 【ミンゲイドラゴン】を召喚!」

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】攻撃力 400

 

 

 

「【ミンゲイドラゴン】か…… 確か前回の決闘(デュエル)では、守備表示で出していたな」

 

「覚えててくれてたんだ? まだ数ヶ月前の話だけど、なんだか懐かしいね…… あの時は()(おく)れしたプレイで君をガッカリさせちゃったけど…… 今回は違うよ!」

 

「ほう?」

 

「【ミンゲイドラゴン】をリリースして── 手札から魔法(マジック)カード・【モンスターゲート】を発動!」

 

『アゲマキ選手、いきなり仕掛けてきたァーッ! 【モンスターゲート】は、通常召喚可能なモンスターが出るまでデッキをめくっていき、出たモンスターを特殊召喚するカード! 果たして今回は、どんなモンスターが飛び出すのかぁーッ!?』

 

「なるほど…… だが半端なモンスターを引けば、敗北に繋がりかねないぞ?」

 

 

 

 カナメの忠告に、ボクは不敵な笑みを返す。

 

 

 

「それはどうかな?」

 

「なに?」

 

「敗北に繋がるかどうかは── やってみれば分かるさ!」

 

 

 

 言いながらボクは、1枚目のカードを思い切り引き抜く。

 

 

 

(!)

 

 

 

 そして、そのカードが何かを確認…… ()()()()()、目を閉じてほほ笑んだ。

 

 

 

(来てくれると思ってたよ── 相棒!)

 

 

 

 そう、確認なんて必要ない。

 

 見なくても〝あのカード〟だと確信したボクは、なんら躊躇(ためら)うことなく、1枚目のカードをディスクのモンスターゾーンにセットした。

 

 

 

「出ておいでッ! 【ラビードラゴン】!!」

 

 

 

 ボクの呼び掛けに応えるように── 白い体毛をまとった耳の長い飛竜(ひりゅう)が、フィールドに()り立った。

 

 

 

【ラビードラゴン】攻撃力 2950

 

 

 

『なっ、ななななんとぉーーーッ!? アゲマキ選手、まさかの1枚目で! し、しかも! 引いたカードを()()()()に場に出し、見事エースモンスターを引き当てたァァーッ!! まさに天性の引きの強さ! これぞアゲマキ選手を(いく)()も勝利へと導いてきた、彼の最大の武器! 〝デスティニー・ドロー〟だァァーッ!!』

 

 

 

 カードに()れた瞬間、伝わってきたよ。

 

 【ラビードラゴン】の── 魂の鼓動が!

 

 

 

「ボクのデッキも、カナメとまた闘える日を楽しみにしてたみたい」

 

「……フッ…… いつもながら、大胆かつ予想外なことをしてくる奴だ。実におもしろい」

 

 

 

 最高に幸先(さいさき)の良いスタートが切れた。今日は今まで以上に絶好調みたいだ。

 

 

 

「ボクはカードを2枚伏せて、ターン終了(エンド)!」

 

「相手にとって不足はない…… じっくりと愉しもうか── 最後の決闘(たたかい)を!」

 

 

 

 





 ※セツナくんはフォレッセ・ドローの使い手ではありません。

 カナメが入場するシーンでハーモニカでも吹かせようかと考えましたが、さすがにやめときました(笑)

 それにしても、これだけ女の子が集まっていながら、パイタッチされたのが男2人だけとはこれいかに(?)

 約1年ぶりの投稿だったので、作者も緊張のあまり手が震えました……


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