思いつき短編集 (先詠む人)
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一般人がカルデアに呼ばれてしまった件

 思いついた結果書いた作品で、しっかりプロット組まなかったから若干とっ散らかってるかも。
 Fateの二次創作ってやっぱり難しいですね。




「ムムムムム………」

 

「………先輩何しているんですか?」

 

 どうも皆さん。マシュ・キリエライトです。

 現在私たちがいるこのカルデアは第6特異点であるキャメロットを修復後、前人未到である紀元前へのタイムスリップ(要はレイシフトのことです)のために時間をかけて確実性を高めようとしています。

 そんな中、先輩がフラッと何か考え事をしながら召喚室に入っていくのを偶然目撃したので私も追いかけて召喚室に入りました。

 

 カルデアの最重要区画にあるこの召喚室の中は青色の筋が走り、私の宝具であって武器でもある盾を使って作った空間にも酷似しています。

 その空間の中で先輩は、その橙色の髪をかしげつつ座り込んで唸っていました。

 そんな先輩も私の声で私がいることに気が付いたのかこちらを振り返ります。

 

「あ、マシュ。大丈夫なの?体。」

 

 振り返り私のほほに手を当てながら優しい顔で先輩はそう尋ねてきたので

 

「はい。すこぶる元気です!!」

 

 と私は答えました。すると先輩は

 

「だったらいいや。それでなんでマシュはここに来たの?」

 

 と何かに納得したかのようなそぶりを見せた後、私がここにいる理由を尋ねてきました。

 

「先輩がこの部屋に入っていくのが見えたので何をするのだろうかと気になりまして…」

 

 私がそう先輩の問いに答えると先輩は

 

「この間三蔵ちゃんにね『あなたが今度召喚するときに縁ですごい人が呼ばれるかもね!』って言っていたから気になってね。それでつい…」

 

 と顔の前で指をつんつんしながら答えてくれました。かわいいです。

 

「それならば呼んでみますか?」

 

 私は召喚室に保存されている金色のお札を取り出しながら先輩に尋ねました。すると先輩は

 

「いいの!?」

 

 と顔を喜色で一杯にして私の方を見、そのまま私の手から金色の札をもぎ取るや否や即座に

 

「来いやぁぁぁ!!!!!」

 

 と、召喚室の中央にある光の筋にその札を投げ込みました。

 

 光の筋から光が広がります。

 もしこの召喚の際に概念礼装と呼ばれる武器にも防具にもそして道具にもなる過去の人たちの概念が物質化したものが出てくる際は一本の筋が部屋中に広がるのですが今私たちを囲むように広がっている光の筋は()()。そして爆発的に輝く光の柱。

 正直に言いましょう。異常事態(イレギュラー)です!!

 

「先輩!!」

 

 私は急いで霊装を身に纏い、現れた盾を片手に先輩をかばうように立ちました。

 

 盾の影から部屋の中心を見ます。

 未だに光り輝いている光の柱はそのまま収縮し、爆発ないしは消滅するのかと思われました。

 しかし、その光の柱は消えるのでも爆発するのでもなく、真っ白なセイントグラフを映し出して消失しました。

 

()()()()セイントグラフ…?」

 

 本来セイントグラフにはその召喚されるサーヴァントのクラスが表示されています。

 サーヴァントは基本的に剣を扱う剣士(セイバー)、弓を扱う弓兵(アーチャー)、槍を扱う槍兵(ランサー)の三騎士と魔術、場合によっては神代の魔法を扱う術師(キャスター)、数多くの宝具と呼ばれる武器を持つ騎兵(ライダー)、中東の暗殺教団の方が呼ばれるはずなのに古今東西の様々な暗殺者が呼ばれている暗殺者(アサシン)、多大なる強化を受ける代わりに狂ってしまう狂戦士(バーサーカー)の七つのクラスに所属しているそうです。まぁ、稀に裁定者(ルーラー)復讐者(アヴェンジャー)と呼ばれるエクストラクラスなるクラスに所属している方もいるそうですが、私はルーラーはジャンヌダルクさんと、アヴェジャーはジャンヌオルタさんにしかお会いしたことがありません。

 現時点で召喚されている他の方から聞いたところ他にもクラスはあるそうですが、聖杯戦争に呼ばれること自体がほぼないそうなのでクラス名はともかくセイントグラフの絵柄すら教えていただけませんでした。

 

 そんな中で本来ならばありえない真っ白なセイントグラフを見て呆然とする私の声に反応したというわけではないでしょうがそのセイントグラフは中心へと折りたたまれていくかのように丸まっていき、最終的に光の繭となって収まりました。

 

 その繭は静かに床へと着地し、そして繭がさらに光り輝いて消えたとき

 

「ンァ?どこ此処。」

 

 動きやすそうなジャージのズボンを穿き、フードのついたパーカーを着ている黒い髪の少年がそこにいました。

 

「こた!?なんであんたが召喚されてんの!?」

 

「あ、あんだよいきなりって立香おま!家の人心配してたぞおまえ急にいなくなったから!!」

 

 なんでしょうかこの混沌(カオス)は。その男の人の姿を見るなり先輩はその人の肩をがっしりと掴んで全力で揺さぶり、揺さぶられている男の人自身も揺らされながら先輩を見て驚いています。

 というか、先輩お知り合いなのですかこの人と。しかも急にいなくなったって何をしたんですか……。

 

「何があったんだい!?………って君は誰だい!?」

 

 あ、ドクターが召喚室にダ・ヴィンチちゃんを連れて駆け込んできました。

 

「いや、そっちこそ誰だよ。つーかこれって立派な誘拐事件だよなぁ?」

 

 青年は不敵な笑みを浮かべながら冷静に、慌てた様子で質問を投げかけたドクターの方を向いてそう答えました……

 

 

 

 

 

 

 

 次の日に学校も部活もないことをいいことに徹夜で床に胡坐をかいて画面を見続けながら手元のコントローラーを操作する。

 現在(いま)は冬休み。だからそれを理由にゲーム漬けでも別に問題はないだろう。

 

「くぅぅううううううう!!……………やっと終わった~~~!!!!!」

 

 クリア画面を見つつそう言いながら後ろへと寝転がろう………と思ったら見たことのない部屋に視界が急に変わっていた。

 徹夜のせいで半分寝ぼけた頭で思わずこう漏らす。

 

「んぁ?ここ何処?」

 

 と漏らした瞬間いきなり肩を揺さぶられ、なんだよと思いながらそちらの方を向くとそこには

 

「こた!?なんであんたが召喚されてんの!?」

 

 何故か鬼の形相でこちらを睨みつけながら俺の愛称を呼ぶ幼馴染の藤丸立香がいた。

 だけど、こいつが今ここにいるのは結構おかしい。だってこいつ冬休みに入る少し前あたりに

 

 

<カルデアという機関からバイトお誘いがかかったので行ってきます!!>

 

 という謎の書置きを残して失踪したからだ。失踪直後はうちにも警察がやってきたりして大騒ぎになったが、カルデアという組織のものと名乗る黒服を着た男性と緑色のコートを着た山高帽持ったうさん臭い男がアイツの家に来たのを見て以来騒がれなくなった。

 それを不思議に思ってアイツの家に行っておばさんたちに話を聞いてみたらどうも何かがおかしい。

 こう、普通に話しているはずなんだけど立香の話に移ろうとしたら露骨に話をそらされる。

 それがやけに引っかかったが、それまで普通に話していたはずのおばさんが唐突に台所から包丁を持ってきて研ぎだしたのでさすがにこれ以上深堀したらまずいと思い、俺はその場を撤退した。

 

 結局、何かが起きている。ということしかわからないまま俺は冬休みに突入し、そして徹夜でゲームしていたらこれだ。訳が分からない。

 訳が分からないから訳を知ってそうな奴に直接聞いた。

 

「あ、あんだよいきなりって立香おま!家の人心配してたぞおまえ急にいなくなったから!!」

 

 まぁ、揺さぶられながらの事だからまともに喋れてはいなかったが。ウプ、揺らされすぎて気持ち悪!!

 不意に沸いた吐き気をどうにか耐えていると白衣を着たあの山高帽の男ほどではなかったが少しうさん臭さを感じさせる立香よりも色は薄いもののオレンジ色の髪の男と、茶髪のナイスバディとでもいえばいいのだろうか。そんな体つきをした中世の西洋貴族とかが着てそうな服を着た杖を持った女性が部屋に駆け込んできた。

 

「ドクター!」

 

 立香がその男のことをそう呼んだ。ドクターってことは医者(Dr.)か。となると何か知ってる可能性がまぁまぁあるな。医療機関って色々大事な要兼ねてるってどっかで聞いたことあるし。

 そう思った俺はその男の方を見た。

 

 無意識のうちにほほが上がる。口端が吊り上がる。体の中で何かが昂るのを感じる。

 そして俺は俺が誰かとたずねてきた男に向けてこう告げた。

 

「いや、そっちこそ誰だよ。つーかこれって立派な誘拐事件だよなぁ?」

 

 

 

 

 それからいろいろとあって俺は体を調べられた結果、なんかサーヴァント?という存在に限りなく近いが、サーヴァントでもなく、普通の人でもないという禅問答にでも出てきそうな存在になっているらしい。

 つか、いつの間に半年以上経過していたとか人類は実は滅んでいるとかなんだかんだ言われたけど情報量が多すぎて半分も理解できなかった。

 

 そんな感じで絶賛混乱中の俺を置いてけぼりにしたままで事態(ストーリー)は進んでいく。

 

 なんか、俺が自室として与えられた部屋でぼーっと受け取った紙に聞いた内容を書いて整理している間に立香がうるく?とか言う過去に飛んでいた。

 

 なお、俺にはその過去に飛ぶ才能?適正?がないため同行は不可能らしい。

 

 んなこと真面目な顔で言われても知らんがな。なおさら訳が分からなくなるだけだった。

 

 そんなわけで。人が集まっているところにいても邪魔になるだけだと思った俺は簡単な軽食を作ってカルデアの職員に配る程度のできることをやったりしているうちにウルクから立香が帰ってきた。ただ、様子がおかしい。

 

 どうも何かを深く考え込んでいるようだった。

 

「どうしたよ。何かあったのか?」

 

 シャワールームにも立ち寄らず真っ先に帰って行ったアイツの部屋の扉を何のためらいもなく開け、真っ暗な部屋の中にいるであろう立香へと声をかける。

 

「…………何でもない。」

 

 帰ってきたのはか細い声だった。

 

「嘘だろ。何でもないならそんな声を出す奴なんかいねーよ。」

 

 俺はそう言いながら部屋の中に入って電気をつけようとする。すると

 

「つけないで!!」

 

 部屋の奥。ベッドの方から大きな声が聞こえた。

 

「………」

 

 真っ暗な部屋の中。ただ、何かが流れているかのような音だけが聞こえる。

 俺はその闇の中で少しの間目を閉じ、少しの間回想にふけった。

 

 あれは俺たちが小学校の低学年の頃だっただろうか。

 そのころの近所の家で結構大きめの犬が飼われてたんだが、その犬は立香にかなりなついていた。それこそ、車に轢かれかけた立香をかばって自分自身が撥ねられるほどに。

 その時も立香は今のようにへこんだ。それこそ、幻想のあの犬を見て大通りに飛び出すレベルまで精神的におかしくなっていた。

 だからこそ、俺が止めないといけない。

 あの時のように最悪殴ってでも。

 他人は俺のことを「傲慢だ」というかもしれない。ハ!傲慢で結構結構!!普段ならちょっと時間をおいて其のままだったら動いているが、今回の場合はそれどころじゃない。

 さっき管制室を覗いたときにドクターとかが話していた。「後数時間ほどで特定が済みそうだ」と。

 あと数時間。それまでに下手したら自殺をしかねない精神状況のコイツをどうにかしないといけない。だったら俺が動くしかなかった。このカルデアにいる人たちの中で一番付き合いが長い俺が。

 目を開き、即座に叫ぶ。

 

「甘ったれたこと言ってんじゃねーよ!!」

 

 そう言いながら俺は勢いよく扉のすぐそばにある電源装置(スイッチ)に拳を叩き付けた。

 

 部屋に明かりがともる。

 予想通り、ベッドのほうにはアイツの髪の色のように橙色の全身タイツみたいな服を着たままでベッドの上で布団を抱きしめる立香がいた。

 

「何がウルクであったのか俺は詳しく知らねぇ。だけど、これだけは言える。その今のお前を見てそのウルクで知り合った人はどう思うと思ってんだ!!」

 

「うるさいうるさいうるさい!!」

 

「癇癪か?いいぜ来いよ!あのときみたいに相手してやるよ!」

 

 そうして俺たちは通算1542回目の殴り合いを始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

「あんたはいつも正論を吐くから嫌い。」

 

 顔に若干のあざを残して立香はそう言った。

 

「ストッパーになるなら正論を履けなきゃ論外だからな。」

 

 俺はそんな立香を見ながら腰を伸ばし、時計を見る。

 

「さて、そろそろ時間だぞ英雄(ヒーロー)。最後の大勝負の準備して来いよ。」

 

 俺がそう言ったのと同時に通信機に通信が入った。

 

「先輩。大丈夫ですか?」

 

 通信機の投影ディスプレイに映し出されるのは立香を先輩と呼ぶマシュ・キリエライト。彼女は俺と違ってコイツと一緒に戦う権利と力を持っている。

 

 一方俺にはそれが……ない。

 

 宝具もない。戦う力もない。筋力とかそう言った身体能力は一般人に少し毛が生えた程度。

 魔術回路とか言うのも全然ないらしいし。お手上げ状態だった。

 

 だからこれ以降は彼女に任せよう。

 

 俺はそう思って部屋を出ようとした……その時だった。

 

 世界が揺れた。

 

「うぉ!?」

 

 慌てて窓がある廊下までカルデアの中を走り抜け、窓の外を見る。

 

 イカの足みたいなのに目ん玉大量にくっつけたのみたいなのが沢山このカルデアを押しつぶすかのように連なって建物を圧迫していた。

 

「嘘だろ!?」

 

 慌てて窓から離れる。

 

 メリメリという音とともに窓ガラスが破れ、建物の中に大量の触手が流れ込んでくる。

 俺はそれに追いかけられる形で管制室まで走ろうとした。

 

 しかし

 

「くそっ!!」

 

 この緊急事態にカルデアにいたトップであるロマニ・アーキマンは、立香が管制室に到着直後に安全を確保するために、断腸の思いで管制室までのすべての隔壁を閉ざしていた。

 

 よって、俺は味方の行動によって追い詰められることになる。

 

「諦めろ。」

 

「貴様たちは我らの功績の踏み台になればいいのだ。」

 

「抗う意味などない。」

 

「ましてや貴様は最期のマスターでもなく、ただのものでしかないだろう?なぜ生きようとする?」

 

 

 後ろからそんな声が聞こえた。

 俺は振り返る。

 

「そんなもん決まってる……生きたいからだ!!!」

 

 近くにあった不審者が侵入したときのために置いてある指す股を手に取り、構える。

 

「来いや触手ども!!一般人なめんな!!」

 

 そうして戦いは始まった…………………まぁ、どうにか耐えきったが。ぶっちゃけ、死ぬかと思った。実際のところその時点ではもう俺人理崩壊に巻き込まれて本当は死んでたわけだけど。

 腹に穴開いたし、右足とかもがれたし、左手の肘から先なくなったし。

 

 そんな感じで瀕死の状態で廊下に横たわっていたらそのまま体のあちらこちらから光の粒子が立ち上がり始めた。

 

「?」

 

 血が流れていくせいであまりはっきりとしない視界の中で右手を顔の前に掲げる。

 

 既に右手はほぼ光の粒子となり、輪郭がかろうじて見える程度しかなかった。

 

「終わったってことか……。ま、俺はここで死ぬんかね?」

 

 あぁ、もうほとんど光しか見えない。

 

 そう思った瞬間、俺の意識は白の光に包まれて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 右手にコントローラーを持ったまま、ガバッ!!!という音が似合いそうな勢いで起き上がる。

 

 左手の感覚がない。

 右足もまったく動かない。

 

 そして、無意識のうちに時計を見れば、電波時計は俺が最後に見た日から1年後の日付を表していた。

 

 

 

 それからしばらくして立香が一時帰国を許されたとか何とかでうちに来た。

 

「その杖。どうしたの?」

 

 立香は俺のベッドの横にある杖を指さしてそう言った。

 

「あの日以来、まったく右足が動かなくてな。そのせいで杖ついて生きてる。」

 

 俺が苦笑いしながら言うと、立香はうつむいて

 

「………ごめんね。私が召喚()んだせいだね。」

 

 と言うなり泣き出した。

 

「は?」

 

 その突然な展開についていけていないでいると

 

「あの日、三蔵ちゃんの言うこと真に受けて召還するんじゃなかった…。召喚()ばなかったらこたの霊記が破損して不自由になるなんてことなかったのに。」

 

「お前さっきから何言ってんの?」

 

 俺はそう言って立香の言葉を遮った。

 

「俺なんかただのゲーマーだぞ。そんな俺がどうなろうとお前には関係ねーし、それにお前の方が大変だろ。全世界の注目を集めてんだから。」

 

「でも、それは私が望んだことじゃない。私は英雄になんかなりたくなかった!!」

 

 そう言って頭を抱えていやいやと振る立香は今すぐにでも壊れてしまいそうで、そんな彼女を見て俺は

 

「………」

 

「いたぁ!?」

 

 無言で彼女の頭を殴りつけた。

 

「お前いい加減にしろよ。誰だって英雄になれるようなもんじゃない。だけど、お前はそう呼ばれてもおかしくないようなことを成し遂げたんだろ。」

 

「俺なんか英雄譚でなれることができても死人か村人Cだ。」

 

「それに、こんな体の俺でも英雄なんかになれなくても英雄(ヒーロー)にはなれるっつーの。一歩踏み出す勇気を持つだけだからな。」

 

 そう言いながら動かせる右手で立香の顔を弄り回す。

 

「だから、何かもう耐えられないようなことがあるなら俺に頼れ。お前の英雄(ヒーロー)ぐらいなら頼られたらなってやるっつーの。つか、何回目だよこの話。お前がちみぃ時からしてると思うぜ。」

 

「うっさい。」

 

 そう言いながらこちらを見る立香の目には生気が戻っていて、それを見て俺は

 

「元気になったんならさっさとカルデアにでも戻れよ。お前を待ってる人がいるだろ?」

 

 そう言って家から追い出した。

 

 家を少し離れたところでこっちを見てあっかんベーをするアイツにあっかんベーをし返す。

 

 ただ、夕日で赤く染まった立香の姿はまるで返り血を浴びているかのように見え、今後のアイツが心配になった。

 

 そして俺自身は俺自身で限界だった。

 元々、腹ぶち抜かれた際に内臓に大きなダメージが入っていたらしい。

 そのせいで俺はまともに動けない体になっていた。

 

 近づいてくる地面を見ながら思う。

 俺の幼馴染である藤丸立香の未来に、せめて俺が得ることができなかった分でも幸があふれることを。

 

 そう願いながら俺は瞼を閉じた。

 




変に思われたらどうしよ………


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魔法少女救命計画

 前回同様、アンケートを取ったときに上げていた魔法少女育成計画×仮面ライダーエグゼイドの作品です。

 やっている場面は元となった作品ではほんの十数ページで終わった箇所なのに、オリジナルの場面を加えたとはいえ、文字数は驚きの1万越え。

 そして主人公である彼が入ったことでいろいろと原作との違いが起きています。それはまぁ、お楽しみにしていてください。

 あと、今回実験的にとある箇所のみを限定して色を付けてみています。何かそちらについて意見がございましたら感想欄にでもお願いします。

 それではどうぞごゆっくりとお楽しみくださいませ。


 血のように真っ赤な夕焼けに左手をかざして目にかかるまぶしさを抑えようとする。

 

 真っ赤な夕焼けのせいで手が赤く染まっているようにも、逆光で黒くなっている中見える。普通なら、その光景に対する感想はそこで終わりだろう。

 だが、俺はその手が血まみれになっているところまでを幻視した。

 

「俺は……」

 

 黒いフード付きのコートに身を包む青年は崖際に一人で立ち続けながら呟く。

 

「俺は今でも信じてる。」

 

 誰に向けての言葉でもないその言葉を

 

「こんな血で手を汚しきってしまった俺でも”仮面ライダー”の名前を胸張って名乗れる日がいつか来ることを。」

 

 まるで自分自身に言い聞かせるかのようにそのかざした左手を握りしめながら

 

「………信じてる。」

 

 そう最後に呟くと青年は振り返り、崖際から去って行った。

 

 夕日が沈んでいく。

 水平線へと沈んでいく太陽で赤く染まった海は、彼自身がこれまで積み上げてきた罪を象徴するかのように赤から黒へと色を変えていった。

 

 

 

 鉄塔の上にある手すりに足をかけ、手すりの上に座っていた私は遅れてやってきた全体的に白で統一された薄い桃色の髪の少女へと話しかけた。

 

「スノーホワイト。さっき魔法の国から送られてきたメール見た?」

 

 スノーホワイト、遅れてやってきた白い魔法少女は私のその問いに対して

 

「ううん。見ないで捨てちゃった。」

 

 と、答えた。

 

 やっぱりかと思う。彼女はあの事件以降魔法の国のことを全く信用していない。それは私も同じだが。

 

 彼女が先ほど届いた命令(メール)を見ていなくてよかったと本心から思う。きっと彼女があのメールを見ていたら怒り狂うのは間違いなかったから。

 

 それに普段は魔法の国からの命令に従う私も流石にこの命令には従う気はさらさらなかった。

 

 魔法少女たちに魔法の国から配られる通信端末、マジカルフォンにさっき届いたそのメール。

 その中身は『つい最近その近辺で確認されたこの男を捕縛、連行せよ。最悪処分してもかまわない。』と言うもので、添付された対象の男の写真は私たち名深市の魔法少女たちにとって見覚えがありすぎる顔だった。

 

 今も開いているその画面をスノーホワイトから見えないように隠す。

 その写真に写っていたのは黒いフード付きのコートに身を包み、その画像を撮影したであろう使い魔の方へ向けて左手の人差し指を銃口、親指を撃鉄、残りの三本の指をグリップを模しているかのように構える青年の姿だった。

 

 彼には私も、スノーホワイトも返しきれない恩がある。

 それをあだで返すような真似だけはしたくなかった。

 

「何かあったの?」

 

 突然沈黙した私を心配したのかスノーホワイトが声をかけてくる。

 

「いや…なんでもない。それにメールの事なら気にしなくてもいい。私で何とかできる案件だから。」

 

 あの時散々傷ついた彼女をこれ以上傷つけないように私はうそをつく。だけど

 

「嘘……だよね。」

 

 彼女には嘘が通じなかった。彼女の固有魔法「困っている人の声が聞こえる」と言う魔法はこういう時に無意識のうちに困っていることを聞いてしまう。だから彼女にうそをつくことは不可能だった。

 

「彼がこの街に来てるんだね。」

 

 そう私に確認するかのように聞いてくる彼女に対して舌打ちこそしなかったけれどもよそを見ながらうなずくことで答えた。

 

「そして()みたいに彼を捕らえろって来たんだ?」

 

「あぁ。魔法の国(アイツら)は相変わらず自分たちに対抗できる存在を許容したくないみたいだ。あの時手を出すのが遅すぎた癖にそう言ったことだけは熱心にやってるから困る。」

 

 彼女の優しく問い詰める形で聞いてきたことに対して私自身も罪悪感を覚えながら彼女に自分のマジカルフォンを投げ渡す。

 

 投げ渡したマジカルフォンを危ない手つきで受け取り、開けたままだったメールの内容を見てやはり彼女は

 

「ふざけないで!!」

 

 と怒りに肩を震わせた。

 名深市に16人いる、いや今は”()()”と言った方が正しいか。その魔法少女の中で私と彼女が一番彼に恩を感じているのは間違いない。だけども、その私たち二人に恩人に仇を返せと命令されたらそれは誰だって怒るに違いない。

 

 そう考えたところで声が聞こえた。

 

「よ。」

 

 私たち二人以外の声が。

 

 声のした方を二人そろって私は手裏剣を、スノーホワイトはルーラを構えながら素早く向く。

 すると声のした方には

 

「いきなり物騒だな。ほれ、お土産的な感じでちょっと行った先で有名店のシュークリーム買ってきてるからそれ下ろせよ。」

 

 フードの中の顔を右手の人差し指で掻きながら左手に翠屋と書かれた箱を持つ彼が闇夜に紛れて立っていた。

 個人的にはその箱の中身は欲しい。かなり欲しいと思う。

 けれども、今先ほど受けた命令を受理している以上監視の目がこの辺りにあるのは間違いない。だから形だけでも彼とは戦うか何かをして立場を見せなければならない。

 

 横にいる彼女(スノーホワイト)もそう思っているのだろう。固有魔法を発動させている気配がある。だが、彼はこの状況に困っているだけで正直彼自身の弱点とかは聞こえないと思う。

 

 そうして膠着状態になっていると彼が突然

 

「ま、しゃーないか。そっちも立場があるだろうし、俺が何とかするかね。」

 

 と言って腰に蛍光グリーンをベースにして、ショッキングピンクで塗装された扉のようなものがついているバックルを腰に当てた。

 

 バックルから腰に巻き付くかのように黒いベルトが延びる。

 そして彼はコートの中から黒色の旧世代のゲームハードに使われていたかのようなカセットみたいなものを取り出した。

 

 無言で彼はそのカセットのスイッチを入れる。

 

ギリギリ チャンバラ!!

 

 その瞬間、三味線の音とともに大量の障子が彼の背後に現れたゲームのスタート画面のようなものから飛び出し、私たち二人の視界をふさいだ。

 

 そして障子の向こうで彼の声が聞こえた。

 

「変身」

 

 と。

 

 その次の瞬間、私の視界は上下へと延びる白い0と1で構成された光に包まれて真っ白に染まった。

 

<STAGE SELECT!!!>

 

 そう完全に視界が真っ白になる前にそんな音声が鳴っていた気がするが、相変わらずなこの奇妙な浮遊感に慣れることができないせいでしっかりと周りを確認する余裕なんかなかった。

 まぶしさに耐えられずにあの事件の最後の戦いで隻眼となってしまった目を閉じる。

 

 

 光に包まれたときにまぶしさから反射的に閉じた目を開けると、そこは日本庭園だった。

 枯山水に茶室、さらに少し周りを見れば日本家屋まである。彼は何度か私たちを巻き込んで今の行動を繰り返したことがあったが、この空間は初めてだった。

 

 そしてどうやら横にいるスノーホワイトもその光景に見とれていたらしく

 

「うわぁ~」

 

 と感嘆の声を上げている。私も素直にこのきれいな日本庭園を静かな気持で見ていた。

 

<ガッシューン!!>

 

 突如聞こえたその音で我を取り戻す。

 慌ててまた構えなおす私たち二人を見て彼は左手に相変わらずシュークリームが入っているとか言う箱を持ったまま私たちに背中を向け、

 

「ほら、上がって上がって。ここなら監視の目もないから。」

 

 そう言いながら茶室の扉をあけ放った。

 

「………」

 

「………」

 

 二人で顔を見合わせてから考える。

 そして

 

「「ご相伴にあずかります(!!!)」」

 

 結局私たちは二人そろってそのシュークリームをもらうことにした。彼が嘘をついているかどうかはスノーホワイトの能力でわかる。

 それに彼自身はうさん臭い能力(ちから)を持ってはいるものの信頼に当たる人物だというのを私たちはあの事件の時に知っていた。

 

 そう。この土地のゲームマスターをやっていた彼女の欲望で始まった()()()()()の時に。

 

 

 

「こんなのしかこのエリアでは出せなくて申し訳ないんだけど抹茶シュークリームだから大丈夫かな?」

 

 そう言いながら彼は抹茶を点てて渡してくる。

 

 確かに彼が言うように持ってきていたシュークリームは抹茶味で、彼が点てた抹茶と相性抜群だった。

 

「おいしいです!」

 

 横でそのシュークリームを食べてから抹茶を飲み、一息ついた様子の彼女が彼にそういうと彼は

 

「そかそか。よかった。」

 

 と言って顔をほころばせた。

 

 私もその顔につられて気持ちが温かくなる。

 しかし、ここまでは流されていたけれども彼に確認しないといけないことがあった。スノーホワイトにアイコンタクトを送る。彼女もそれに気づいたみたいで少し頷くと彼に話しかけた。

 

「それで大我さん。」

 

「何?あ、抹茶のお替りいる?」

 

「いただきます。なんでこの街に帰ってきたんですか?あの時、『俺はこの街にいない方がいいかも』って言って出ていきましたよね。それなのになんで?」

 

 そのスノーホワイトの言葉にシャカシャカと彼が抹茶を点てていた音が止まった。

 

 

 誰も何もしゃべらない空白の時間(とき)が流れる。

 しばらく彼自身何も話さなかったけれども、何かをためらっているかのように見えた。

 そんな彼を見てスノーホワイトは何かに気付いたみたいだけれど、私はなんで彼が躊躇しているのかわからない。

 

 しばらくの間口をパクパクさせていたが彼だったが、最終的に

 

「命日だから……な。彼らの……。」

 

 そう言って再び口を閉ざした。

 

「命日?……………っ!?」

 

 そしてその言葉で私は今日、何があった日か思い出す。

 

 あの日、まだ私たちがまだだれも手にかけていない無垢な魔法少女だったころ。

 今目の前にいる彼が必死になって逃げながら時間を稼ぎつつ対クラムベリーの突破口を探していたせいで、一度だけ戦闘しておきながらその後一向に姿を見せない彼にしびれを切らしたカラミティ・メアリが彼をおびき寄せるために大規模な大量殺戮事件を起こした日が数年前の今日だった。

 

「ここ数日はただ単に墓参りのために戻ってたんだ。それはもう今日の時点で済んだからまたどっかへ行くよ。」

 

 そう言って寂しそうに笑う彼はどこか儚げに見えた。

 

 魔法少女を救おうと必死になって彼女の目を自分自身に引き付けた結果、救おうとしていた魔法少女から狙われる羽目になった目の前にいる彼はあの日、私とトップスピードと一緒にいた。

 

 そして………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を閉じれば思い出すのはあの日の事。

 あの日救えなかった命の事ばかりだ。

 

 

 その日は命がかかった戦闘にあこがれを抱いて狂いきってしまったゲームマスターのクラムベリーがキャンディー争奪戦を引き起こさないように命がけでビートゲーマーレベル2で戦ってから数週間がたっていた。

 

 結局キャンディー争奪戦は発生してしまったが、脱落者が発生するのは俺を倒してからとなっていた。

 まぁ、その結果だけを見れば及第点と言うところだろうか。

 

 俺は16人の魔法少女全員と遭遇して生き延び、ルーラに関しては錫杖を奪い取ってへし折るという荒業で対応せざるを得なかったためにダメージを与えてしまったがそれ以外に魔法少女に関してはおおむね最初に建てたプラン通りにことを進めれていた。

 

 だが、こんなことになるとはちっとも思っていなかったんだ。

 まさか、俺を殺してさっさとキャンディーを手に入れるためにカラミティ・メアリが原作でもあったように高速道路を走る車めがけて銃弾を放ちテロを引き起こすなんて。

 

 気づいたときにはすでに手遅れだった。高速道路に殺戮の狼煙は上がっていた。

 

「くそっ!!」

 

 少し離れたところにある高速道路の方で燃え上がる黒煙を見て反射的に悪態をつく。そのまま背中側から取り出した橙色のガシャットを握りしめ、起動させようとしたところでガシャットを握っている右手を優しく、しかし強くつかまれた。

 

「おい、お前まさかあそこに行くつもりじゃないよな?」

 

 黒いとんがり帽子をかぶった魔法少女であるトップスピードはそう言って俺の目を見ている。

 その後ろにはこちらを横目で見ているその時はまだ隻眼隻腕となっていないリップルの姿があった。

 

「あぁ。あの場に誰か助けを求めている人がいるのは間違いない。それに、行かなくて後悔するなら行ってから後悔したいんだ。」

 

 トップスピードの青い目を見てそう俺が告げると

 

「ん~しゃーねぇ!付き合ってやるよ!リップル行くぞ!!」

 

 そう言って俺から手を離した彼女は箒をどこからか取り出し相棒である少女の名を呼んだ。

 

「………別に私たちが行く必要もないだろ。狙いはそいつなんだろ?」

 

「いいからいいから!!」

 

「チッ」

 

 わずかな間トップスピードとリップルは言い争っていたが、結局トップスピードの押しにリップルが根負けする形で決着がついた。

 

「ほら、お前も乗せてやろうか?」

 

「重量オーバーだろうが。こいつを乗せるなら私は降りるぞ。」

 

「あ、忘れてた…。一人で私たち同じ速度で行けるかい?」

 

 箒に乗ってこちらへと手を伸ばしてからそんな会話をする二人を見て俺は

 

「別に問題ねぇよ。俺にはこれがある。」

 

 そう言って握っているガシャットを持つ手を顔の前、正確に言うと顔の若干左前まで動かし、起動した。

 

 ジェットコンバット!!

 

 起動音が流れるのと同時に背後にジェットコンバットのゲームスタート画面が現れる。

 俺はそれを確認することなく某オレンジの鎧武者へ変身するかのように体を大きく回しながら左手を引き寄せ、まるで右腰に刀を納めるかのような動きをした後、叫ぶ。

 

「変身!!」

 

 引き寄せた左手にガシャットを持ち替えて大きく上に左手を振り上げる。

 

 そのまま持ち上げたガシャットを腰に巻いているゲーマドライバーの2スロットあるうちの中心に近い方に差し込み、左手を一度顔の右側へと動かし、勢いよく左横へと振りきった。

 

Let's game(レッツゲーム)! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! What's your name(ワッチャネーム)?>

 

 音声とともに体を囲むかのように現れた13個ある窓の中から勢いよく振った手を左側にあるオレンジ色の枠で囲まれたプレートへ叩き付ける。

 

 叩き付けられたプレートは<SELECT!>と言う文字が浮かび上がるのと同時に回転しながら光の粒子となって俺の体にまとわりついた。

 

 光の粒子が俺を包み終わった後そこには3頭身の白を基調としてオレンジ色の装甲で所々覆い、頭頂部を黒色のミサイルの弾頭のような形をした何かが立っていた。

 

「ぷ!」

 

 その姿を見たトップスピードがつい笑いをこらえきれなかったかのように笑う。箒の後ろに乗っているリップルはそんなトップスピードを冷めたような目で見てから、俺の方へあきれた視線を浴びせた。

 

 しかし、俺の動きはそこで止まらない。

 

「笑ってる暇があるなら置いていくぞ!戦術パターンⅡ!!」

 

 トップスピードたちがいる横を駆け抜けながら先ほど振り切った手でゲーマドライバーの扉のようになっているショッキングピンクのカバーについている持ち手を握り、引っ張る。

 

 扉のようになっているそのカバーは引っ張ったことで開かれ、その内側に置かれていたスクリーンを表出させた。

 

<ガッチャーン!! レベルアッーープ!!!>

 

ジェッート!!ジェッート!!コンバァットォー

 

 前へと駆けながら体を砲弾に見立て、この場から飛び出させるかのように飛び上がりながらドライバーのスクリーンから空間投影されたガシャットのクリアパーツにも描かれている画面へと踊りこむ。

 空間投影されたスクリーンを潜り抜け、音声が流れ終わるころには体を回転させながら俺の姿は3頭身だったレベル1から、ジェット機を模したようなレベル2へとレベルアップしていた。

 

 レベル2に変身したことで可能になった高速飛行で勢いよく高速道路との距離を詰め、一度通りすぎる。その際に廃ホテルのような建物の上を通過したが、そこに西部劇のガンマンのような恰好をした女性がスナイパーライフルらしき物体を構え、弾丸を放っているのが見えた。

 

「!?」

 

 空中でインメルマンターンを行い進路を反転、そのまま少し上に上がった高度から一気に廃ホテルを爆撃しにかかる。

 

 ジェットコンバットはもともと航空機で戦闘するゲーム。本来ならばレベル3用のガシャットとして使うのが正解なのだろうが、俺はレベル2用ガシャットを何故か起動できなかったためにこうしてレベル3ガシャットを使って変身していた。

 

「うらぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!」

 

 高速で両脇の方に現れているガトリングを乱射する。

 その弾はガンマン風の魔法少女、カラミティ・メアリへ数発中り、<Hit!>の文字を何か所も出現させた。

 

 一度、勢いがついているために通りすぎ、再びターンしようとしたところで

 

「ッ!?」

 

 ホテルの上の銃を構える()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 危険を感じて即座に飛行進路を変えて避けようとする。しかし……

 

 

 

 

<Hit!!>

 

「がっ!!」

 

 胸から火花が散り、残りの体力、HPを示すライダーゲージが勢いよく減少する。

 

 直撃弾の影響で俺はそのまま落下し始めた。しかも、直撃したのは胸のほうだけではなかったらしくゲーマドライバーが腰から離れてしまう。

 体から白い粒子が立ち上る。

 

<ガッシュート!!!>

 

 そんな音声が聞こえた。

 このままであれば俺は落下しながらカラミティ・メアリの追撃を受けて死んでいただろう。

 そう()()()()()()()()()()()()()()の話だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何やってんだ!バカ!!」

 

 黒い手袋に包まれた手が変身が解除されながら落下していく俺の手を掴み、勢いよくその場から離脱する。

 

「え?」

 

 その寸前に銃弾が被っていた俺のフードの留め具を掠りそれを破壊、スピードによる風で被っていたフードが外れ、フードで隠していた顔があらわになった。

 

 そんな状況で呆然とする俺を彼女は原作だとリップルをいつも乗せている時のようにそのまま自分の箒の後ろへ座らせた。

 

「勝手に突っ込んでしかも何で死に掛けてんだよ!アンタの話を聞いて私たちも協力するってさっき言ったばかりじゃねぇか!!」

 

 その場を少しだけ離脱したところで着陸し、俺を怒鳴りつける。

 

「………でも。俺は……」

 

「デモもなにもねぇ!!魔法少女に対抗できるのは魔法少女ぐらいだろ?アンタと言う例外を除いてはな。」

 

「それは事実だろう。けど、()()狙われてんだ。俺が動かないとアイツは。あの化粧無駄に濃いトリガーハッピーは止まらない!!それにあんたもあんただ。『半年は死ねない』ってさっき会った時言ってたよな。それって…」

 

 俺は振り向いた彼女の目を見てはっきりと告げ、さらに言葉を続けようとしたが

 

「おい黒フード、落ちたの拾っといた。受け取れ。」

 

 その言葉とともにこちらへと気の上を駆けながらやってきたリップルが俺の顔めがけてゲーマドライバーとジェットコンバットガシャットを投げつけてきて、そのままトップスピードと話し始めたことで続けようがなくなった。

 

 彼女自身の能力で確実に届いたそれをキャッチしながらつい耳を澄ます。

 遠くからは未だに爆音が聞こえている。

 

 魔法少女であるトップスピードとリップルの場合は五感が研ぎ澄まされるらしいから下手したら巻き込まれた人の悲鳴も聞こえているのかもしれない。

 

 一度目を閉じる。

 

 脳裏に浮かぶのはこの世界の中心は彼女たち魔法少女だからと中心に立たずに陰に徹しようとしていた自分。

 それは間違いじゃないだろう。実際陰に隠れながらクラムベリーの妨害と突破口探しを繰り返していたせいで俺の身体へのかなりダメージと引き換えに渇きを満たしたいという理由で襲われていた彼女を助けることができた。

 だけど、それでいいのだろうか?

 

 今俺は自分から死のゲームに首を突っ込んでむしろ被害を増加させているのかもしれない。

 

 今この時点で俺が最初に建てた()()()()()と言う条件は破棄されてしまっている。

 

 そして俺はすでにこの物語の中心人物の中にカウントされてしまっている。標的(ターゲット)として。

 

 

 真っ暗な部屋の中心にぽっかりと照らされているわずかな空間。

 

 そこに立っているのは現在15人となった魔法少女たち。

 

 それをそばからずっと見ていた俺だったけど

 

「俺も………

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()?」

 

 イメージの世界の中で俺は今、ライトによって照らされている円の中へ足を踏み込んだ。

 

 目を開き、イメージの世界から現実へと帰還する。その時、5()()()()()()()()()()が流れた気がした。

 

タドルクエスト!

 

バンバンシューティング!!

 

爆走…バイク!!!

 

タドールファンタジー

 

バンバンシュミレーション!!

 

 その瞬間俺の背後に5枚のゲーム起動画面が重なり、一瞬だけ宝箱やドラム缶、トロフィーが周囲に現れて消えた。

 

「な……なんだぁ?」

 

「……」

 

 周囲を見渡すと無言で武器を構えるリップルとそんなリップルにかばわれるかのように急に周囲に起きた現象に困惑しているトップスピードがそこにはいた。

 

「迷いとかは振り切れた。こっからは失敗なしで全部終わらしてやる。これは俺の責任だから。」

 

 そう言って最初はゆっくりと、だんだん全力疾走へと速度を変えながら歩を進める。後ろから聞こえる声も耳に入るだけで通り抜けていくだけだった。

 

 ザッザッ!!と茂みを掻き分けながら走る。

 

 そしてまだあの廃ホテルからそれほど離れた位置ではなかったのですぐに廃ホテルのそばについた。

 

 俺の爆撃で半壊した屋上の端の方で未だに狂乱の声を上げながら銃を乱射しているカラミティ・メアリの姿が見える。

 

 その姿を見てすぐに息を吸い込み、そして

 

「俺はここだ!だから関係ない奴らを巻き込んでんじゃねーよこのくそばばぁ!!」

 

バンバンシューティング!!

 

 叫びながら左手に握りしめる紺色のガシャットを銃を突きつけるかのように構え、起動スイッチを押し込んだ。

 

 軽快な音楽とともに背後に浮かび上がったバンバンシューティングの起動画面から大量の紺色と緑色でカラーリングされたドラム缶が飛び出し配置されていく。

 

「やっと来たのかい…待ちくたびれたよォ!!」

 

 屋上の方俺の声を聴いたカラミティ・メアリはそう叫びながらこちらへと照準を合わせた。

 

 その一方で俺は左手に持っていたガシャットを右手に持ち替え、持ち手のグリップに指を通して回しながら右から顔の左すぐ前へと動かし

 

「変身。」

 

 先ほどまでとは違って静かにそう言い、冷静にゲーマドライバーの内側のスロットへと握っていたガシャットを刺し込んだ。

 

Let's game(レッツゲーム)! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! What's your name(ワッチャネーム)?>

 

 音声がなり始めるのと同時にこちらへカラミティ・メアリの放った銃弾が跳んでくる。それに対して俺はガシャットを刺し込んでから右側へと突き出した右手を銃を構えるかのような形で突き出した。

 

<ガシャコン…マグナム!!>

 

 すると俺の周りに13個の窓とは別に銃の絵が描かれている窓が現れ、突き出している右手の前で実体化しながら止まるのと同時にそこに被さるかのようにライダーアイコンも重なって<SELECT!>の文字を躍らせた。

 

 完全に変身が終わる前に握りしめたガシャコンマグナムで跳んでくる弾めがけて速座に対応する。

 

 ガシャコンマグナムから飛び出した光弾はすべて的確に跳んできていた弾に直撃し、その弾を打ち消した。

 

「ふっ!!」

 

 それに安心することもなく、勢い良く廃ホテルの壁へと足をつけそのまま上へと駆け上がり始める。

 元々半壊していたこともあり、途中に足場となる出っ張りは何か所もあった。

 それらの中で屋上(うえ)へと最短距離で上がれる道筋を探しながら駆け上がった。

 

 駆け上がった屋上にはカラミティ・メアリが銃_確か某蛇のソリッドなゲームにも出てたAK47だったか?_を構えて立っていた。

 

 仮面の奥で一瞬だけ口の端を引きつかせながら即座にロールして射線から外れる。

 

「なんだいその丸っこい姿はァ。」

 

「っ!!」

 

 そう言いながらカラミティ・メアリが放った弾丸は俺のロールしながら車線を避けようとしている手元からガシャコンマグナムを弾き飛ばした。

 そのまま跳んできた第2射の威力で屋上の入口へと叩き付けられる。今回変身が解除されなかったのはただの運だろう。

 背中の痛みに耐えながら片膝を立ててしびれた右手を持つ俺の今の姿はスナイプレベル1。まぁ、丸っこいのは事実だし、三頭身だ。だからこそ思う。()()()()()()()()と。だが、()()()()()()()()()()と。

 

「分かっているのかい?坊主。」

 

 そんなことを俺が考えているとは露知らずそう言いながらカラミティ・メアリはこちらへと歩いてきた。

 

「カラミティ・メアリに逆らうな。」

 

 そして手に持ったトカレフで俺の眉間へと照準を合わせながら続ける。

 

「カラミティ・メアリを煩わせるな。」

 

 そうやって迫ってくる狂気に満ちた女の前で俺は左手でドライバーのグリップを握った。きっとこの不意打ちで得ることができるチャンスは……一瞬だけだ。

 

「カラミティ・メアリをムカつかせるな。」

 

 そして

 

「第弐戦術」

 

 俺のすぐ目の前までやってきたカラミティ・メアリが勝ち誇ったかのような笑みを浮かべた瞬間俺は握っていたドライバーのグリップを引っ張りスクリーンを開放した。

 

<ガッチャーン!!レベルアーップ!!>

 

ババンバン!バンババン!!(イェー!)バンッバンシューティングゥッ!!

 

 レベル1のみが纏っているといってもいい白い装甲を弾き飛ばしながらレベル2へと姿を変える。そしてそのまま横に飛びながらバンバンシューティンガシャットをドライバーから抜き出し先ほど弾き飛ばされたガシャコンマグナムへと刺し込みながらしっかり握りしめ、一気に迫りながら突き付ける。

 

 

 その一方で俺の殺気に反応するかのようにこちらへと俺がレベル2へ変身したときの光で目をやられた様子のカラミティ・メアリもこちらへ持っていた銃を突き出した。

 

「うぉおおおおおおおお!!!!!!!」

 

 

バンバンッ! クリティカル……フィニーッシュ!!

 

「あぁぁぁぁああああああああ!!!!」

 

 ターン!!

 

 

 廃ホテルの屋上で電子音と甲高い音が鳴り響く。

 

 

 立ったまま硝煙を燻ぶらせる銃口を俺へと構えているカラミティ・メアリに対してガシャコンマグナムをそれに交差するかのように左手で突き付ける俺。

 

 バタン

 

 何かが崩れ落ちる音がした。

 

 崩れ落ちたのは長い髪を幽鬼のようにぼさぼさに振り乱した女。

 最後に立っていたのは………………俺だった。

 

「はぁ………はぁ……」

 

 変身を解除し、肩で息を切らしながら震える左手を右手で抑え込む。

 

 俺はその日、初めて()()()()()

 

 その現実を認識し、体が震えだす。

 だけど、場はそれを待ってくれなかった。

 

 トプン

 

 何かが水に落ちる音が聞こえた。

 

 不意に感じた殺気に反応して反射的に右手にガシャコンバグヴァイザーをチェーンソーモードで展開しながら突き出す。

 

 すると先端に薙刀のような武器が直撃した。

 

「ん……失敗した。これじゃあルーラになれない。」

 

 水着にゴーグルをつけ、どう考えても普通なら痴女認定待ったなしの格好をした少女が薙刀のような武器を持って立っていた。

 

「スイムスイム……だったか?」

 

 俺がそう尋ねるも目の前の少女は俺の言葉を無視して

 

「たまたちと合流しなきゃ。言うことを聞かない手ごまって要らないよね。」

 

 そう言って床へと沈み始めた。そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その光景を見て、ふと思い出す。

 

(そう言えばトップスピードの死因って………マズイ!!)

 

 少し動かすだけでも激痛が走る体を無理やり動かして俺はオレンジ色のガシャットを再び起動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いきなり走って行った黒フードを追いかけようとトップスピードが箒に乗ろうとした瞬間、刀へと変身したミナエルを持ったユナエルが襲い掛かってきた。

 

「お前ら何やってんだよ!?今はそれどころじゃないだろ!」

 

 突然の襲撃に対してトップスピードが困惑の声を上げる。しかし、その声を無視して二人はなお襲い掛かってきた。

 

「魔法少女同士でつぶしあって何なるんだ!!」

 

「トップスピード無駄だ。こいつら……もう正気じゃない!」

 

「「アハハハハハハハ!!!」」

 

 苦無でこちらへと振り切られた刀を受け止めつつトップスピードをかばうように立つ。その際に周囲の人影を確認したが、今目の前にいる二人以外誰一人気配を感じることはなかった。

 

 その瞬間までは

 

 ザパァ!!

 

 ガキン!!!

 

 甲高い音が後ろから鳴り響く。先ほどまでよりもさらに力を込めてくるユナエルの腹を蹴り飛ばして振り向くとそこには

 

「やらせるかよ……」

 

 そう言いながらトップスピードへ振りかぶられた薙刀のような武器を右手に持った何かで受け止めている黒フードがいた。

 

「妊婦を殺させやしねぇよ!!!」

 

 そう叫びながら黒フードは左手に黄緑色のものを握りしめて勢いよく右手につけているものへそれを刺し込んだ。

 

ド・ド・ドレミファソッラッシッドッ! OK! ドレミファビィートォー!!

 

 そんなリズミカルな音声が流れた次の瞬間薙刀のような武器に触れていた右手につけた何かが甲高い音を立て、武器を弾いた。

 

「らぁぁぁああ!!!!」

 

 そして黒フードはそのままやけに明るい黄色の光を放っているその右手の何かを前後を回転させながらスイムスイムに突き付けた瞬間……

 

 黄色い色で可視化された衝撃波が周囲一帯に撒き散らされる。

 

 そしてスイムスイムは勢いよく吹っ飛んでいき、それに対して黒フードはその場に崩れ落ちた。

 

 ユナエルたちは一瞬何が起きたのかわかっていないようだったが、次の瞬間スイムスイムの飛んで行った方へ跳んで行った。

 結局私は唯一の友人が殺されかけたその時、何もできなかった。

 守ったのは標的で、追われるはずの男だった。

 

 

 

 

 

「ぼちぼちかな。」

 

 私があの日のことを思い出してふと感傷に浸っていると目の前にいる彼はそう言って立ち上がった。

 

 あの後、トップスピードが引き取ってしばらく経ってから回復した様子を見せた黒コート_大我と私たちはその後も戦い続けて最終的に全員生き残った。

 

 今はトップスピードは産休として魔法少女活動をお休み中で、横にいるスノーホワイトの友人であるラ・ピュセルとハートゴア・アリスも魔法少女として活動している。

 他の魔法少女は記憶の消去を願って舞台から降りたものもいるが、彼との戦闘で命を落としたものもいた。

 

 それが原因で彼は今も魔法の国から追われている。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()と言うのが原因で。

 

 ラ・ピュセルは一度その命令が来た時の対応の違いのせいでスノーホワイトと大喧嘩し、今も仲違いしたままだ。

 その一方でハートゴア・アリスはスノーホワイトの意見に何も言わずに従い、私が動けないときは彼女とコンビを組んでいる。

 

「シュークリームはスノーホワイト。君に渡しておくから他のみんなにもよろしく言っといて。あと、リップルはあんまり無茶しすぎんなよ。一応トップスピードの家に先にあいさつしに行ってきたけどトップスピードが心配してたぞ。」

 

 そう言ってニヤリと笑ってから彼はずっとつけていたドライバーを外す。

 

 電子音が聞こえ、世界が縦に引き伸ばされる。

 

 数瞬の瞬きの果てに私たちはさっきの鉄塔の上に立っていた。

 

 ふと、殺気を感じてそちらを向く。

 そこには大きな大剣を持った少女が立っていた。

 

「黒フード、お前を捕縛する。」

 

 その少女の名はラ・ピュセル。

 今は魔法の国の警備部門についた今もなお彼を狙う魔法少女の一人。

 彼女が大我のことを黒フードと呼ぶのは単純に彼の名前を知らないから。

 

 彼の名前を知っているのはトップスピードと私、そしてスノーホワイトとハードゴア・アリスの4人だけ。

 

 彼自身があまり名前を知られるのを良しとしていないから私たちも彼の名前を外では呼ばない。

 

「無礼を承知で言うけれども命令は受けているだろう?スノーホワイト、手伝ってくれ。頼む。リップル、君もだ。」

 

 そう言ってラ・ピュセルは大剣を上段に構え、大我の動きに注視していた。

 

 変身のために少しでも動けばすぐに行動する。そんな無言のプレッシャーがかかっているそんな状況でも目の前にいる大我は余裕そうにしている。

 

「…………」

 

 いや、案外そうでもないらしい。目が泳いでいた。

 

 そして………

 

「ま、下手にやりあうよりかこっちのほうがましか。」

 

 そう言うなり彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()いるまま

 

<PERFECT PUZZLE!!>

 

 そんな音声を背後で鳴らして

 

「変身」

 

Dual UP(デュアルアップ)!!>

 

<Get the glory in the chain. PERFECT PUZZLE!!>

 

 青を基調として見慣れない姿に変身した。

 

「逃げるは恥だが、負けではないってな。」

 

 そして変身するなり大量のメダルを自分の目の前に壁を作るかのように集め、動かし、

 

<透明化!><ステルス化!><高速化!>

 

 そんな音が壁の向こうから聞こえたかと思うと次の瞬間

 

「くッ!!逃げられたか!!」

 

 壁に大剣を叩き付けて強引に向こう側を見たラ・ピュセルが文句を言った通り彼はその場から消えていた。

 

「じゃあな。また…………いつか。」

 

 ふと、肩に手を置かれ、声をかけられた感じがして振り返る。

 そこには誰もいなかったが、確かにそこには誰かが立っていた証があった。

 

 地面には<See you next game!!>と何か鋭いもので彫られたかのような跡がくっきりとついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて、始めるとするかね。」

 

 名深市で彼女たちに会ってからかれこれ3週間がたっていた。

 

 今俺の立っている高台の真下では様々な魔法少女たちが戦おうとしている。

 

 その中には偶然巻き込まれた結果魔法少女になり、死にたくないからと剣を取っている知り合いもいた。

 

 「助けられる命を救うためにこの命をかけよう。

 

 

…………命は命でしか救えないのだから

 

 そう呟きながら高台を飛び降り、砂煙を上げながら着地する。

 

 困惑する両陣営の間に立ち、大量の返り血が染みついて若干くすんでしまったゲーマドライバーを左手に持って掲げ、腰に当てる。

 

 そして………

 

マキシマムマイティX!!

 

 「マックス大変身!!!」

 

<マキシマムガシャット!!>

 

<ガッチャーン!!><レベルマァッッックス!!>

 

<最大級のパ~ワフルボディ~ダリラガーン!!ダゴスバーン!!>

 

マキシマムパワーーX(エェックス)!!

 

 泣きながら戦う魔法少女たちがいる限り、俺の戦いは終わらない。いや、終わることは……ない。

 

「俺の名前はセイヴァー。終わってしまう運命を俺がつなぐ!!!」

 

 たとえ誰にも認められないとしても。たとえ知り合いに後ろから刺されたとしても。俺は……戦い続ける!!!




 もともとこの短編のコンセプトになったのは以前活動報告(https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=138687&uid=116136)で上げた同じサークルの友人と話しているときに思い付いた案が元になっています。
 恐らくこの作品が一番現在連載に近いのかな?今書いている短編の三作品の中で。

 感想、評価をお願いします。

 それとまほいくファンの人やそれ以外の方にもわかりやすいように時系列を整理して書いておきます。

 魔法少女たちが16人になったことで土地が持たないという名目の元でファブが1週間に一人魔法少女が脱落するという発表を行う。それによって各魔法少女たちはキャンディー集めに奔走し始める。
 それとほぼ同時期に転生者大我名深市入り。情報を集め、クラムベリーの隠れ家を特定する。目的はクラムベリーが持っている管理端末の奪取。

 森の音楽家クラムベリー(魔法少女育成計画の無印の作品の黒幕)が大我(ビートゲーマー)の襲撃にあい、互角に戦った上に逃走まで成し遂げたことによって大我を強者と認め、興味を持つ。

 全魔法少女に一斉連絡でクラムベリーが”黒いフードの男”に襲われたことをふぁぶが連絡、そしてその連絡の際にキャンディーを一番持っていなかったねむりんを消去。
 魔法少女たちにキャンディーがなくなったらいなくなるという危機感を覚えさせる。
 それと同時に大我にその時1位だったスノーホワイトが持っている数と同じ数のキャンディがかけられる。

 全魔法少女が動き出す中、クラムベリーが「しばらくの間鍛えたいから脱落はなくていいわ」と言ってゲームのルールを変更。その関係でルーラ脱落回避。

 キャンディーによる脱落はしばらくの間実質無くなったもののファブが必要以上に煽ることで徒党を組んだ魔法少女たちによる大我の包囲網がほぼ完成。一方その大我はゲームエリアと現実世界を行き来することで襲撃を極力回避していた。
 その一連の襲撃の中でルーラの杖をロボットゲーマ―に変身して戦った際に折る。ルーラはその際のけがでしばらくの間行動不能に。スイムスイムは奇襲して全力で戦場から殴り飛ばし、双子天使はたまが最初に仕掛けていた罠に逆に落として土で埋めた。
 たまにはおびえているところを目の前で変身を解除して頭をなでるだけで特に何もせずにその場を去る。
 カラミティ・メアリとは襲撃の際にチャンバラゲーマーレベル2で散々弾を切り裂いて逃げたので一方的な因縁が生まれる。

 いつラ・ピュセルが殺されるのかいまいち覚えていなかったためラ・ピュセルの近くで隠れて警戒に徹する。予想通り鍛えるのを終えたクラムベリーが慣らしと称してラ・ピュセルを襲撃したのでビートゲーマーレベル2になって乱入。
 その戦闘の際にレベル5ガシャットであるドラゴナイトハンターZを解禁。ハンタービートゲーマーレベル5となってギリギリ競り勝つ。その後、クラムベリーから逃げた結果トラックに轢かれかけたラ・ピュセルをコンバットゲーマーに変身した状態で掬い上げるかのように救出。

 高速道路から少し離れたところで人身事故が起き、それにたまたま居合わせたのでロボットゲーマーレベル2になって車に押しつぶされていた人を救出。その際に偶然近くを飛んでいたトップスピードたちがそれを見つけ、しばらくの間監視。
 救出後、トップスピードが箒に乗ったままフレンドリーに話しかけ、逃げようとする大我をリップルが足止め。
 大我としても今まで戦闘になっていない魔法少女は貴重な情報源にもなるため結局根負けして情報共有をしていた……

ところで短編本編となっています。

 その後の展開はまぁ、いつか連載で書くときにでも考えます。
 少なくとも現在情報が出ているムテキまでは出す予定。
 クロノスはわからないけどあまりにもチート仕様だったら出さない可能性が高いです。

 それでは。次回までお元気で。


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狭間

前にTwitterでアンケートを取ったやつの最後になります。

題材は艦これです。
てか、これコンセプトにしたのが思ったよりもクソ難しかった。
続きかくの大変だと思う。いやマジで。


 海面(そら)が高い。

 

 演習の際に何故か混ざっていた実弾の砲撃を受けて大破どころか轟沈判定レベルの傷を負ったオレの体は沈んで行っていた。

 

 無意識のうちに光指す海上の方へ手を伸ばす。

 手袋が外れてしまったその手は傷だらけだけれども見た目相応のみずみずしさを持った少女の手だった。

 

(あぁ、なんで俺沈んでんだろう。殺し合い強制させられてんだろう。)

 

 端からどんどん欠けていく視界の中でふと思う。

 

(なんで俺はオレになったんだろう………)

 

 そう思いながら真っ暗になった世界の中に映ったのはあの日の記憶だった。

 

 

 

 体感時間自体では一月前。

 アニメイソに行ったときにそのチラシを俺は偶然手に入れた。

 

「江田島で艦これのイベント?日にちは……明日!?あ、でも明日もバイトねかったわ。よし行ける。」

 

 そうと決断したら一直線。

 家にそのチラシを持って帰り、俺はその日の夜のうちに準備をまとめた。

 

 そして翌日。

 

 広島駅の方から広島港を目指して朝早くに自転車をこいで本通りを抜ける。

 

 ごみ収集車が店先に置かれたごみを回収している本通りのアーケードを抜け、市電が走っている少し長めの横断歩道を渡らずに左へと曲がる。

 まだ朝早いのもあってドコデモの本通り店の上にある電光掲示板はその光を灯していない。

 

 季節的に冬なのもあり、自転車をこぐことで荒くなった吐息は白く、激しく口から出ている。

 

 そのまま自転車をこぎながら平和大通りを渡ったところで空が白み始めた。

 

「やべー、急がねぇと船の時間間に合わなくなる。」

 

 そう言いながらホテルや店やコンビニが並んでいる大通り沿いを自転車で走り続け、約十分後市役所の前を通過した。

 

 市役所の前を通過してなお、自転車をこぎ続ける。

 目指す場所はまだまだ先にある。

 

 通りの真反対に消防署があるのを横目に見つつ、さらに南下する。

 

 すでに空の色は紺から白へと変わっていた。

 

「よっと。」

 

 宇品へとつながる橋のすぐ近くにある信号が赤へ変わったので停止する。

 ペダルにかけていた両足を地面につけず、左足だけを地面につけて立ち体重を左に寄せ、本来ならばアウトだがスマホを操作して艦これに繋ぎ、遠征を回収する。

 

 その時、プー!!!とトラックの警笛(クラクション)が遠くで鳴っていたが音自体が小さかったのもあって無視していた。

 

 艦これで遠征を回収し終えたのと同じタイミングで待っていた信号は青に変わった。右と左を確認する。曲がろうとする車も、信号無視しようとしている車もどちらもいない。だが、後ろから継続的に聞こえているその音はどんどん大きくなっていた。

 

「?どういう事だ?こんな朝っぱらから迷惑な」

 

 スマホをジーパンのポケットに入れながらそう思い、振り返った瞬間だった。

 

 

ゴシャッ!!

 

 鈍い音とともに視界が反転する。

 そのまま宙に浮かんだ俺の視線が最後にとらえたのは目の前に迫る某社のエンブレムだった。

 

 

グチャッ!

 

 エンブレムと俺の鼻が当たったのではないかと思う距離まで近づいたとき、何かがつぶれるような音とともに俺の視界は真っ赤に染まり、そのまま今度は黒へと変わった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「しれぇ~。バニラっておいしそうな名前の海域なのにここつらいよ~。」

 

『我慢してくれ。そこにいるはずだって彼女が言うんだ。』

 

「わかったぁ~。みんな~捜索続行だって~。」

 

「えぇ~!!メンドくさっ!!」

 

「ねぇ、何度ここにきて何度あの姫級と戦わなきゃいけないの!?」

 

「まぁ、仕方があるまい。ここは腹をくくれ。」

 

「そっか~、一番提督と仲がいい時津風でもダメかぁ~。」

 

 黒い大きな破片舞い散る海の上でそう喋りながら手に持った砲塔のようなもので破片を退けつつ、海の上を進む様々な服装、髪の色の少女たち。

 

「……?これって………」

 

 その中で、薄い青のような銀髪の少女がとある破片を除けた際に何かを見つけた。

 

「こちら弥生。みんな………件の子見つけたかも。ただ、少し変だから知ってる子いたらこっちに来て。」

 

 少女、、弥生は通信機越しにそう呼びかける。

 

 弥生の視線の先には赤毛でアホ毛、そのきれいな額が割れて血を流している()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うどう見ても艦娘とは思えない出で立ちの少女が浮いていた。

 

「お待たせしました。萩風到着です……って嵐!?」

 

 弥生がその少女がそれ以上沈まないように肩を貸して引き起こしていると紫髪をサイドポニーにした少女が弥生に近づき、弥生が肩を貸している少女を見て驚いた。

 

「やっぱり?」

 

 弥生がそう聞くと、サイドポニーの少女、萩風は

 

「はい。でもなんで艤装も制服も身につけてなくて別の服を着ているの………?」

 

 首をかしげながらそう答えた。

 

ザッザザーおーい。例の嵐って子は見つかったかー?』

 

「あ、はい見つかりました。一応。」

 

『歯切れが悪いな。とにかく見つかったのなら一度帰投してくれ。こちらでモニターしている限り加賀と長門がそろそろ燃料がやばい。帰る分を考えたらこれが限界だ。』

 

「わかりました。とにかく、一度彼女を連れて鎮守府に帰還しましょう。話はそれからです。」

 

「ええ。」

 

 そう言ってから銀髪の少女と紫髪の少女は力なく項垂れている赤毛の少女を両方から挟んで肩に手を通し、海上を進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

「うぅん……」

 

 おでこの辺りにチリチリするものを感じて目を覚ます。

 

「あれ?……オレ…。」

 

 そう言いながら体を起こそうとしたが、その時違和感を覚えた。(あれ?俺の声ってこんなに高い声だったか?)と。

 

 無意識のうちに喉の方へ手を伸ばす。

 

 喉には熱はない。至って普通に生きていたら発する程度の熱しか喉には熱がなかった。

 

(てっきり扁桃腺が腫れたからこんなことになってるのかと思ったんだが……というか、なんで俺は死んでないんだ?)

 

 比較的冷静に自分の状態を考えている最中にふと最後の記憶を思い出す。

 どう考えてもあの音と、体をつんざくかのように奔った痛みは重傷を負う程度で済むとは到底思えない。

 それを考えたら俺が死んでないのはおかしいと思う。

 

(訳が分かんねぇよ。)

 

 そう思いながら先ほど起こしかけた体を再び起こそうとしたときにふと視界に赤い毛の束が目に入った。

 

(赤毛…?邪魔臭いな…)

 

 元々冬でもかなり短い感じに髪を切ってもらっていた俺からしたらそんなところに毛の束があるというのはうっとうしいことこの上なかった。

 不快な感情を体全体から発しながら体を起こす。それから目にかかるその赤毛の束を除けようとしていたのだが……

 

(下に下がった?というか、この毛……俺の毛?」

 

 目にかかっていたその束は俺が体を起こすと重力に引かれるかのように視界の下の方へ降りていき、最終的に肩にかかる程度の所で落ち着いた。

 

「どういうことだ……?」

 

 そう呟きながらクルリとカールがかかったその毛をいじる。

 そして毛をいじりながら周囲を見渡そうとしたタイミングで自分の服装が白の入院着に変わっていることに気が付いた。

 

「………ここって……病院なのか?」

 

 相変わらず口から出る声のキーの違いに違和感を拭えなかったが、そのまま周囲を見渡したところで2mほどだろうか。かなりの高さがある鏡が置いてあることに気が付いた。

 

(俺の体……どうなってんだ?見るも見られない姿になってたらどうしよう…)

 

 そう思いながらベッドの上で体を鏡がある方へ回し、ベッドを降りる。

 足の裏からは突き刺さるかのような冷えが感じられ、俺が生きているということを実感させた。

 

「さむっ……」

 

 ほとんど条件反射でそんな声が出てしまう。

 

 肩をすくめたときに胸に違和感を覚えたが気のせいだろう。いや、気のせいであってほしいと内心祈りながら鏡の前に立った。

 

 現実を現実と認識できずに崩れ落ちる。

 

 鏡に映ったのは若干勝気な瞳の赤毛の子供。

 頭の上には某最終信号さんみたいにアホ毛がぴょこんと立っており、その瞳は炎を中に光らせているかのようにわずかに陰を持った赤だった。

 

 呆然と力なく項垂れたまま恐る恐る手をそこへと近づける。

 

 スカッという何も触れないときに聞こえるその音がすべてを物語っていた。

 

「嘘だろ……」

 

 結局体をあちこち触って分かったのは、あるはずの場所に息子(あるもの)がなくて、ないはずの(もの)が地味についていることだけだった。

 ついでに言うと、興味本位で胸を触っていたら地味にあるだけだというのに感度がよかったみたいで腰が抜けて動けなくなった。

 

「まずここが一体何処かっていう以前の問題で()()()()()()()()()()……」

 

 鏡の前で仰向けに倒れたまま息を荒げつつそう呟く。

 鏡に映っていた子供、いや、少女の名前は嵐。

 ほほが異常に痩せこけているものの、今のこの姿は俺と同じ名前を持つ陽炎型駆逐艦の十六番艦の()()と呼ばれる少女のものだった。

 

「あ、目を覚ましたみたいですね?」

 

 そのまま床に倒れこんだまま息を整えていると少し離れたところから声が聞こえた。

 声のした方へ視線を向ける。逆光ではっきりと姿は見えなかったけれどもこちらにやってくる人影は明石さんのように見えた。

 

 

 

 

 

 

「はい、バイタルチェック完了です。一応今日は安静にしていてね。提督にあいさつに行くのは明日でもいいでしょ。」

 

 腰が抜けて動けなくなっていた俺をお姫様抱っこで担ぎ上げて明石さんはベッドまで運び、それからいろいろと器具を使って俺の体を検査した。

 

「はぁ……。」

 

 若干こんなゆるくていいのか?と呆れながらうなずく。そんな俺を見て明石さんは

 

「とりあえず寝ておきなさい。」

 

 と言いながら布団をかけて部屋を出て行った。

 

 医務室と呼ぶには異様に重い音を鳴らしながら扉が閉まる。

 しかし、扉の向こうで明石さんが

 

「やっぱり深海棲艦に体を半分以上作り変えられていたみたいだから消耗がやっぱり激しいわね……。これ戦後解体処理しても元の生活に戻れるのかしら?しかもその上で異端個体(イレギュラー)の可能性もあるってなんでうちの鎮守府はそう言った艦娘が多いの……?」

 

 と嘆いているのが聞こえていた。

 

「イレギュラー……俺が?しかも深海棲艦にってどういうことだ…?」

 

 

 そう部屋で一人首をひねるがその問いに答えをくれる人はいなかった。

 

 

 そうして始まった鎮守府での生活は中身が男なのが原因で萩風に何度も怒られ、矯正され、最終的に他の鎮守府に所属している嵐よりも大分男勝りでスカートじゃなくて短パンを履いた嵐が出来上がっていた。

 

 スカートなんて防御力なさそうなの着たくないし、一回スカートを強制的に萩風に着させられたけどその時にオレを見て発情したながもんに襲われたから二度と着ないって誓った。

 

 同じ鎮守府に所属している艦娘からはオレ、木曾さん、天龍さんの三人でイケメン三人衆とか言われているのを野分が呆れながら言ってきたので知った。そんなわけだけど、オレからしたら男だった時に習慣づいていたことをしてるだけなので別に何も思うこともなく。

 そう返すとまた野分にあきれた表情を浮かべられたりしたりしていた。

 

 そうして俺は今演習で轟沈レベルのダメージを受けて沈んだ………はずだった。

 

 かなり重い瞼を開ける。

 轟沈した(しんだ)はずなのに死んでなかった。生きてた。

 そう安堵しながら右手を動かす。すると、見慣れない手になっていることに気が付いた。

 

「?」

 

 骨張り、長い間眠っていたのだろうか筋張った上に皮膚のキメがかなり荒くなっている。

 

「え…」

 

 声が低い。

 

 その事実に何故か恐怖を覚えながら恐る恐る首を動かす。

 すぐ横にあった窓ガラスには包帯で左半分のほとんどを覆われているとはいえ、一月ぶりに見た俺の顔がそこにはあった。

 

「どういうこと……だ?」

 

 そう呟くも、その答えは得ることができない。そうして俺が痛む体を無理やり動かしてベッドに体を起こしていると、ガシャンと大きく、甲高い音がした。

 

「!?」

 

 演習で神通さんたちに叩き込まれたせいで身についた反射速度で音がした方を見る。

 音がしたのは部屋の入口の方で、看護師が俺を驚きの目で見ていた。

 

()()()()目を覚ましたんですか!?」

 

 そう言いながら俺の元へづかづかと歩いてくる。

 

「っ……(どういうことだよ…)」

 

 萩谷。それは俺がオレである前、元々21年間名乗ってきた名字だった。

 

 焦った様子で俺の元へ歩いてくる看護師を見つつ、俺からしたらさっきまで駆逐艦嵐として生きていたのにいきなり萩谷嵐として世界を認識させられたせいで俺も困惑しきっていた。

 

 それから数日の間はめぐるましく過ぎた。

 

 医者がやってきて自分が受けたケガの説明を受け、左目は恐らく見えなくなっている可能性が高いこともその時に言われた。

 俺はどうやら一月の間昏睡状態になっていたらしい。

 その関係もあって経過観察がしたいからしばらくの間安静にしておきなさいとのことだったのでベッドの上で何もせずに外を見て過ごす。

 

 正直、医者からの説明を受けながら駆逐艦嵐として過ごした一月は死に掛けたせいで見た夢だったのだろうかと思ってしまった。

 

 しかし、俺はここから困惑し続けることになる。

 

 女性と男性ではトイレが違う。

 お風呂ももちろん違う。

 

 しかし、無意識のうちに駆逐艦嵐として萩風に矯正された体は女性トイレや女湯の方へ足を向けてしまう。

 女湯に今も駆逐艦嵐が浸かっているのかと思って………

 

 そうやって看護師たちに今度は叱られながら一週間が過ぎていた。

 

 明日からリハビリが始まるとのことだったのでモチベーションにでもしようと思って乗っている車いすを押して最上階へと上がり、外を見る。

 

 最上階のガラスから見る外は景色がよく、海が光っていた。

 

 ……………が。

 

「ん?」

 

 一瞬遠くの瀬戸内海が()()見えた気がした。その時だった。

 

「カハッ!?」

 

 突然胸が苦しくなる。さらに何故か本来ないはずの夢だと思っていた駆逐艦嵐として過ごしていたときに夜、夜戦だぁ!!と突然部屋に押し寄せてきた川内にいじられたときのように女の秘所があるあたりが異様に熱くなる。

 

 股と胸に手を当てながら車いすの上から崩れ落ちそうになる。崩れ落ちそうになりながらぐるぐると回り出した世界を見つめる。だが、最終的に俺は痛みに耐え切れずに崩れ落ちた。

 

 そして世界が暗転する…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………のどが苦しい

 

「コフッ!?」

 

 苦しさから解放されようと目を開けると、腹に一撃くらわされて肺に入っていた息を無理やり吐きださせられた。

 

「ゲホッ!!ゲホッ!!オェーーー!!」

 

 それだけでもかなり苦しいのに無理やり目の前にいる誰か_像がぼやけてよく見えない_が俺ののどの方に手を突っ込んだせいで胃液でも吐いているんじゃないかと内心思うほど咳き込んだ。

 

「嵐、大丈夫?」

 

 そう言いながら誰かが俺の背中に布をかけた。

 

 そんな中で俺はしばらくの間体を上下させながら息を整えていたが、ふと気づいた。

 

(あれ?俺の手ってこんなにちいさ………え?)

 

 俺自身の手が駆逐艦嵐の時のように小さく、瑞々しくなっているように見えた。

 

「状況終了。萩風、嵐の様子は?」

 

 そう言いながら刀を持った緑色のコートを着た少女が歩いてくる。

 

「はい、木曾さん。左手の二の腕に書かれていたコードの通りうちの嵐みたいです。よかった……」

 

 横から紫髪の少女が抱き着いてくる。やっとわずかに動くようになってきた左手で目にかぶさっている?ようにまとわりついてくる粘液みたいなのを拭うと視界がはっきりとしてきた。

 

 目の前にはコートに身を包んだ少女、木曾さんが改二状態で立っていた。

 横を見ると萩風、その少し横を見ると手を痛そうに振りながらこっちを見る野分。

 

「え…?どういう事………」

 

 そう呟いたオレの問いに対して木曾さんが

 

「お前、演習で敵艦隊に紛れ込んでた内通者に轟沈(ころ)されたんだよ。そんで沈んで行ったからあわててうちの司令官がまるゆたちに回収させに行ったらそのままうわさでしか聞いたことがない深海棲艦にお前が吸い込まれていったっていうから大慌てだったんだぞ。」

 

 どうやらオレはあの時やはり轟沈判定。要は死亡宣告されていたらしい。そんで、そのまま謎の深海棲艦に吸い込まれた?どういう事?

 

 そう疑問に思っているのを表情からでも気づいたのか、木曾さんはこうつなげた。

 

「その深海棲艦はな、艦娘が轟沈したっている状況が確認された海域にいるって噂がある奴だったから大至急で救出作戦をはじめてな。」

 

「それで今作戦成功。と言うところよ。まだ、この中から脱出する必要があるけどね。」

 

 木曾さんの説明を補足するかのように萩風はそうつなげた。

 

「それじゃあ脱出するぞ。萩風、右に行ってくれ。俺は左の肩の方にまわるから。」

 

 そこまでで説明はもう十分だろとでもいうかのように木曾さんは俺の左の方に回ってオレの左手をもって自身の肩に回す。

 

 萩風もそれに続くかのようにオレの右手を持ちながら、

 

「早く鎮守府に帰ってお風呂に入りましょ?何時までも裸じゃ寒いでしょ?」

 

 そう言ってしっかりと俺の手を握った。

 

「もぅ訳が分かんないよ…」

 

 オレは運ばれる最中、そう小さい声でつぶやいた。

 

 大きな光が差し込むところから外に出てそのまま木曾さんに背負われて鎮守府に運ばれる。

 

 鎮守府についたら俺はそのまま入渠ドックへと連れていかれ、萩風に体を洗われる。

 鏡に映るのは裸の()()()()の姿。

 

 オレはまた、駆逐艦嵐になってしまっていた。

 

 体中にまとわりつく粘液をしっかり丁寧に洗い流され、萩風に肩を貸してもらいながらドックへ浸かる。

 

 オレはそのタイミングで安心してしまったのか、徐々に瞼が落ちて行く………

 

 

 

 

 

 瞼を開く、ベッドの上だ。

 横を見る。ガラス窓に映っていたのはオレではなく、俺の姿。

 

 俺は再び萩谷嵐へと戻っていた。

 

「どういうことだよ……」

 

 手を顔にかぶせるかのように起き、そう漏らす。

 

 訳が分からなくなってきたせいで何も考えたくなくなった俺は再び目を閉じた。

 

 

 

 

「嵐!!嵐!!ここで寝ちゃダメよもぅ!!」

 

 揺さぶられる感覚がして目を開ける。目の前には焦った表情を浮かべる萩風がいた。

 

「はぎぃ……オレもう何もかもわかんなくなってきたよ……」

 

 そう言って萩風の胸元へ倒れこむ。もにゅんと言う男なら嬉しいと前に同じサークルの友人が言っていた感触を顔全体に感じるが、そんなのを楽しむ余裕もなく俺は再び意識を暗転させた。

 

 目を開けると再び駆逐艦嵐(オレ)萩谷嵐()になっている。

 

 再度目を閉じれば萩谷嵐()駆逐艦嵐(オレ)になって萩風が俺のパジャマを着せようとしていた。変にフリフリがついている奴を。

 

 

 それを見ながらふと呟く

 

駆逐艦嵐(オレ)/萩谷嵐()の現実はどちらが正しいんだ?」

 

 萩谷嵐と言う青年の人生は駆逐艦嵐が艦娘の嵐となる前に見ていた夢にすぎないのか?

 それとも、俺が昏睡状態になったせいで何かが起きたのか?

 

 そう考えだした時点で『おれ』と言う自己は崩壊し始めていた……。

 

 始まったそのカウントダウンは止まることを知らない………………

 




感想、評価待ってまーす。
感想を見て連載化するどうかある程度は決めようと思っていますので、そこのところよろしくお願いします。(二次創作系をまとめた部誌にはあとで全部寄稿する予定)


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魔法少女救命計画_魔王と提督

すいません。いやほんとに。書きたくなってアンケートしてるのにむらむらしました。
それで怒られるかもしれませんが一言。

………Twitterで行ったアンケートの結果出る前だったし別に書いてもかまわんのだろう?


(あの時の怖い体験に比べたらこれ位、なんてことないよね………)

 

 ()()()()()から2年。高校に入り、元々気弱な性格が原因でいろいろといじめられたりすることがあるけれど、私は特に動じることもなく、普通にしていた。

 

 2年前、今でこそ学業が忙しくて変身すること自体が少なくなったけれども私は魔法少女だった。

 

 まるで飼い主の言うことをよく聞く犬のように言われたことだけをやってただ、恐怖に震えているだけの日々だった。………あの日までは。

 

 目を閉じれば思い出す。

 

 戦場に充満する殺気。

 

 必死に駆けずり回って逃げる私たちの目の前を走る弾丸。

 

 唐突に、しかも大量に表れた頭をオレンジ色の被り物で覆い隠した人型の化け物。

 

 そして………

 

 

 

紫色のコートを振りながらこちらへと殺気を向ける戦士のことを。

 

 

 正直、あの時急に彼がああならなかったら私を含めてあの場にいた全員が死んでいたと思う。

 あの時感じたのはそれぐらいの恐怖だった。

 その時の恐怖に比べたら今こうやって髪を染めていかにもぐれてますよ~なんて感じの女子に()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 なぜなら私はもう本当の死の恐怖を知ってるから。

 

 だからと言って彼女のようになるつもりはないし、もう二度とあの恐怖に対面するのは嫌だと思うけれども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日の記憶は途中でぷっつり切れて、一部思い出せない。

 

 ただ、何が起きたのか。それに関しては想像が簡単にできた。

 元々、俺はそうなる()()()()()()()()()()()()()()してきていたからだ。

 

 あの日は、偶然夢の中でねむりんに遭遇して話し相手になってもらったのはよかったのだが、目を覚ます前にねむりんが既に脱落済みだということを聞かされたために、自分自身の無力さへのいら立ちでストレスがかかっていた。

 

(いらいらしていても仕方がない。気持ちを切り替えよう。)

 

 そう思って俺は避難所としていたゲームエリアの教会から出てエリアを解除し、そのまま名深市の夜の商店街をふらふらとうろつき歩いていた。

 

 ふらふらと歩き彷徨う中で人が集まっていく公園を見つけ、その公園へと俺も入っていく。

 その公園の中心には大きめな広場と噴水があり、噴水の根本。要は水が出てくるところに光源があるのかは知らないがそこから噴き出す水の筋が光っていた。

 

「奇麗だなぁ~ってブェ!?散ってきたし!!」

 

 いつも被っているフードを夜なのもあって被らずに噴水のすぐ近くをうろついていたので、顔に若干の水しぶきをモロに浴びながらそう呟く。

 

 その時きれいな噴水の様子を見て少しだけ気持ちが楽にはなっていたが、それでも脱落デスゲームを止められなかったという事実は俺に重くのしかかっていた。

 

「………結局、俺は何を成し遂げれたんだ……?ゲームが始まった以上殺し合いに発展するまで時間がないじゃないか…。」

 

 少なくとも()()()()()()()()()()()()()()()()

 これだけが確実な成果で、それと対比して俺が背負ったものは何か。

 魔法少女たちに狙われる羽目になったこと。そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 意味もなくただ、拳を振るうのは獣でしかない。

 そう考えていたからこそ俺は短期決戦でクラムベリーから管理用端末を奪って破壊し、魔法の国へ連絡が行くようにすることで結末を変えようとしていたのにそれすらできなかった。

 

 管理用端末は未だクラムベリーの手の中。

 ファブはクラムベリーとグルだからゲームを終わらせようなんて考えるはずがない。

 

 未だにリズミカルに噴き出している噴水から離れ、近くにあった自販機にお金を入れ、青いフィルムが張られた清涼飲料水を購入する。

 

 そのペットボトルの飲み口のふたを開けようともせずに俺はそれを

 

「でりゃ!!」

 

 結構全力で公園内にあった多目的ホールの屋上の方の若干上空へ投げつけた。

 

 宙を舞うペットボトルは回転しながらその高度を上げていく。

 

「ふぅ。妊婦の夜歩きはあまり推奨できるようなもんじゃねーぜ。」

 

 投げたペットボトルの行き先を確認せず、自分でもかっこつけたセリフだとは思うが、そう言い残してから俺は再びフードを被り、歩き出した。

 

 今日は何の日だっけ……原作を読んだのもかなり前だったこともあり時間軸を忘れかけた頭で考える。

 

 そしてふと思い出した。

 

 原作通りなら今日この瞬間。ヴェス・ウィンタープリズンがルーラ一派との戦闘で死ぬ。そしてその流れを受けてシスターナナも後々ゲリライベントの際にウィンタープリズンの変身前の姿である雫さんがプレゼントしたか受け取ったかかどっちか忘れたのだが、そのマフラーで首をつって自殺する。

 

「やべ!?俺肝心なこと忘れてんじゃねーか!!」

 

 慌ててそう叫びながら黄緑色のガシャットを取り出し、腰にはゲーマドライバーを巻かずに起動スイッチを押し込んだ。

 

<シャカリキスポーツ!!>

 

 背後に自転車を駆るような影があるシャカリキスポーツのスタート画面が出てくるのと同時にどこからか蛍光黄緑色とショッキングピンクに基本フレームとタイヤを塗った自転車がすっと俺の前に出てくる。

 

「急がねーと!!」

 

 そう言いながらハンドルをもってペダルに足をかけ、一気に漕ぎ出した。

 

 

 

 

 ルーラたちが根城にしている西門前町にある廃寺院の場所は以前襲撃された際にわかっているから迷わずに行くことができた。

 

 未だに戦闘音は聞こえない。

 ウィンタープリズンの魔法は確か「壁を作る」か何かそう言った能力だったはずだ。アニメだと地面が思いっきり隆起していたのを時間とともに徐々に欠けつつある記憶の中で覚えている。

 

 廃寺院の入口の陰に隠れて中を覗き込む。

 

 そこには

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………()()()()()()()

 

 

 無意識のうちに詰めていた息をゆっくりと吐きだしながら門扉へと背中を預けて脱力する。

 

「よかったぁ・・・」

 

 そう零し、気を緩めた俺の精神(こころ)

 

「ほぅ。何がよかったのか説明してくれないか?」

 

 脱力しているせいで垂れていた頭の上から聞こえてきた声によって一気に引き締められた。

 

「!?」

 

 はっ!と下げていた頭を上げる。その瞬間俺の心臓の位置めがけて放たれた貫手を認識し、それをかわすために俺は横へと飛んだ。

 

 もはや壊れかけてぼろぼろになっていた扉に貫手が突き刺さり、衝撃で寺院の中の方へとぶっ飛ぶ。

 

「嘘だろおい!!問答無用かよ!?」

 

 そう文句を言いながら腰にゲーマドライバーを当て、ガシャットを入れているコートの背中側から使い慣れているギリギリチャンバラガシャットを取り出そうとするが

 

「お前はナナに危害を加える可能性がある。それにお前はクラムベリーやルーラの一派に対してかなりの傷を負わせてもいる!そんなことをするような奴は魔法少女である私たちのだ!!」

 

 そう言いながらウィンタープリズンが足元にあった小石を蹴り飛ばし、

 

「っ!!」

 

 その石がコートから引っ張り出したばかりのガシャットを握っている右手に当たったことで、痛みで握っていたガシャットを取りこぼしてしまった。

 

 慌てて左手で落ちて行くガシャットを握りしめようとする。

 だが、俺とガシャットとの間にウィンタープリズンは壁を作り俺がガシャットを拾うのを妨害した。

 

「ナナっ!!」

 

「分かっています!!」

 

 壁の向こうへ先ほどまでウィンタープリズンのすぐ横にいたシスターナナが駆け寄って行こうとするのが見える。

 

「やらせるか!!」

 

 俺はそれを見た瞬間壁に手をかけ、一気に壁を乗り越えた。

 

 しかし、壁の向こうは廃寺院の境内の中。壁を乗り越え、転がりながらガシャットを確保し、そのまま境内の中へと入っていった俺が見たのは

 

「獲物はっけーん!」「はっけーん!!」

 

 片翼同士で二人そろって一対の羽をもつ双子天使と

 

「狩り………開始。」

 

 前回は首にかけていたゴーグルを今回は目につけているそのままの姿で大通りを歩けば痴女認定待ったなしの水着を着た少女と

 

「あわわわわわ……」

 

 未だ、混乱の極みに至っているらしいかわいい犬のような被り物を被ったなんといえばいいのだろうか、犬を擬人化したらこうなりましたみたいな恰好をした少女が並んで立っている光景だった。

 

「チッ!!まずいなこりゃ…」

 

 無意識のうちに舌打ちと悪態をつく。

 その理由はこのメンツに並んでルーラまで来たら最悪すぎる状況になるからだった。

 ルーラの魔法は錫杖?とでもいえばいいのだろうか。それを持った状態で特定のポーズをとって命令することで発動する。

 ただ、その命令はポーズをとり続けている間のみに効果があり、もしポーズが崩れると命令は実行されなくなる。

 

 しかし、そうだとしてももし俺に「動くな」、あるいは「すべての持ち物を出し、それらを説明してから自害せよ」なんて命令が魔法付きで発動された場合どうしようもなくなる。

 

 後者の場合は説明をしている途中で運よく魔法が解ければ御の字だが、前者の場合は動けなくなっている間に殺されでもしたらGAME OVER(オシマイ)だ。

 ただ、幸いなのはルーラの魔法にはさっきも言った通り制約があるということ。だが、それを踏まえてもルーラの魔法は危険すぎる。

 

 そのため、俺は魔法(それ)を警戒して前の襲撃の時に真っ先にルーラの錫杖を半分に折り砕き、腹に全力で拳をぶつけたのだった。

 

「今日は女王様は来てないんだなぁ!」

 

 その場で急いで握りなおしたガシャットをいつでも起動できるようにしつつ、煽るように並ぶ彼女たちへ告げる。

 

 もし、この場にルーラが隠れていればそれで出てくると思ったのだが……どうやらいないようだ。何も言ってこない。その結果に安心して今度こそ変身しようとガシャットを構えたその時だった。

 

「いいえ。いるわよ。」

 

 すぐ後ろの方から若干ハスキーな、けれどもどこか艶がある声が聞こえた。

 

 (嘘だろ!?さっきまで誰もいなかっただろうが!?)

 

 反射的にその場から5メートル以上離れるために距離を取ろうとしながらガシャットを起動しようとスイッチを押し込もうとする………が、少し遅すぎた。

 

 

「ルーラの名のもとにおいて命ずる。()()()()()()よ、動くな!!」

 

 

 ある意味最強の固有魔法が発動する。

 

 そして命令された俺は動けなくなる………はずだった。

 

「?なぜ発動してない?」

 

 逃げるために動いた体勢の状態で命令を受けたために魔法がきちんと発動していれば俺はピクリとも動けず、そのままの体勢で転んで地に落ちる。

 しかし、俺はそのまま体勢を整えながら着地していた。

 

(そうか、名前!!!)

 

 目の前でルーラがこぼした疑問に対して俺は内心ある答えを導き出す。

 

 ルーラの固有魔法の発動に必要なのは4つの制約のクリアだけだと俺はずっと前世の頃から思っていた。

 だが、恐らく誰もが気付いていなかった隠し条件である命令を受ける対象者の名前。その条件を満たすために必要な俺の名前は誰にも教えていないし知っている人もいないために条件として認めら(クリアさ)れない。

 

(だから今のルーラの魔法に俺がやられることはないってことか!!)

 

 そうと気づいてすぐにサッと足を振り回していつものマントの上からさらにマントを被っているルーラが持っている錫杖?を蹴り飛ばし、そこからガシャットを起動しながら一気に距離を置く。

 

<ギリギリチャンバラ!!>

 

 三味線の音をベースにした和風の起動音が鳴り響き、背後に現れたスタート画面から周囲に大量の灯篭が現れ、設置される。

 

 そして俺はルーラと、スイムスイムたちから距離を置いて体勢を低くし、ガシャットをドライバーの内側のスロットへ差し込んだ。

 

Let's game(レッツゲーム)! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! What's your name(ワッチャネーム)!>

 

 そうして俺が変身したのは戦国時代の武士がしていた甲冑をデフォルメしたかのように見えるずんぐりむっくりな姿。

 

 チャンバラゲーマーレベル1。

 

 変身後、周りをよく確認し、隙を見出してこの状況から抜け出そうと動き出す……その時だった。

 

 俺の両端から何の前触れもなく壁が突き出してくる。

 

「!マズい!!」

 

 武器を展開して壁を切り裂く?いや、ガシャコンスパローを展開している間に壁でできた檻が閉じる。

 そう思いながら逃げ場を探し、視界の端にこちらへと迫ってくるウィンタープリズンを捕らえた俺は前には進めないと判断して後ろの方へと逃げ出そうとした…………が

 

「くそっ!」

 

 その時点でもう俺を囲むかのように背後にも前にも壁がせりあがり、四方を囲まれて逃げ場がなくなっていた。

 

(だったら上に!!)

 

 そう思い踏ん張った……その瞬間だった。

 

「逃がすとでも思ったのか?」

 

 その声とともに俺の体は囲うように生えた壁から出てきた大量の壁によって仰向けになった状態で押しつぶされる。

 

「く……そ……っ!!」

 

 胸を壁で押しつぶされて呼吸がうまくできない。そんな中でも必死に生き延びるためにドライバーのカバーを開いてレベルアップしようとした………その時だった。

 

「やらせない。」

 

 そんな声とともに腰につけていたゲーマドライバーが刺さっていたガシャットごと盗られる。

 

 視界の端でスイムスイムが俺のゲーマドライバーとギリギリチャンバラのガシャットを両手に持って再び地面へと潜っていくのが見えた。

 

「マジかよ……」

 

 変身が解除されながらどうしようもない現状に絶望する俺へ向かって俺の前までゆっくりとやってきて邪魔になる壁を破壊したウィンタープリズンは

 

「悪魔よ………死ね!!」

 

 そう言いながら目の前の敵(おれ)へと貫手を放った。

 

 

 

 

 加速した世界の中で貫手が迫ってきている。

 

 きっとこのままだとその手は俺の心臓を貫くだろう。

 

 だけど、なんで俺が殺されないといけない?

 俺はただ、魔法少女たちが死ぬ運命を変えたかっただけなのに。

 約束を果たしたかっただけなのに。

 俺は誰も殺してなどいないのに。

 確かに傷つけはしたが俺自身も殺されたくなかったから相子だろうに。

 

  

 そう考えている中で徐々に近づく明確な

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のイメージ。

 

 

 俺の記憶はそこで一度途絶える。その後、俺の記憶が始まったのは次の日の朝。

 どこかの廃墟の中で俺のことをおびえながらも大事そうに抱きかかえている白い少女の膝の上だった。

 

 

 

 ただでさえクラムベリーがゲームを始めるのを妨害できなかったせいで生じてしまった、自分のふがいなさへの怒りによるストレス。それが尋常じゃないほど溜まっていた俺は、その死のイメージが原因で俺の中に眠っていたものをたたき起こしてしまった。

 

 本来ならば()()がこの「魔法少女育成計画」の世界に存在することはありえない。

 俺と言う転生者(イレギュラー)がいたことにより生じたそいつの存在。

 

 そいつの名は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 この間会ったときにも謝られたからわかったけど、(たいが)はまだあの時の事を気にしていた。

 

 ウィンタープリズンが押さえつけられた黒フード(かれ)の心臓を貫き、首元に手を当てて確実に絶命したのを確認してから押さえつけるのに使われていた壁を解除する。

 

 そして

 

「倒した。」

 

 そう言って立ち上がった………その時だった。

 

「これで私たちみんな助かりますね!」

 

 シスターナナが嬉しそうに大きな声で言う。私は人が殺される、ましてやおばあちゃんが死んでから唯一頭をなでてくれた黒フード(かれ)が殺されるのを見たくない。私はそう思ったから耳をふさいでしゃがんでいた。だからこそその声が聞こえて顔を上げたときに偶然気づいた。

 

「あれ?」

 

 心臓が貫かれた黒フードの胸からは血が噴き出していた。だけど、その傷跡から飛び出すのが徐々に血からオレンジ色の粒子みたいなのに変わる。そしてそれが大量に出てきて今度はその傷をふさいでいった。

 

 さらに

 

「ヒッ!!」

 

「どうしたのたま………ってウソ。」

 

「ウィンタープリズンどういうことだよ!!」

 

「え……」

 

「イタタタ……嘘でしょ!!」

 

 目を赤く光らせた黒フード(かれ)がゆったりと、それこそゾンビみたいに立ち上がる。

 

「どういうことだ?確実に息の根を止めたのに!!」

 

「ウィンタープリズン何なのこれ!怖いわ!!」

 

 全員が困惑する中で黒フード(かれ)

 

「お前ら戦う気がない奴相手に数で押さえつけた上に縛りプレイ強要するなんてつまらないことするなよ。」

 

 そう言いながら両手を困ったかのように持ち上げながら首を振った。

 

「こいつはお前ら相手に本気で戦えない。まぁ、()()はいるみたいだがな。」

 

「だ~か~ら、俺が、戦う。」

 

 そう言って黒フード(かれ)は最初コートの中から青い大きな何かを出そうとしたけれども、

 

「あ、この人数差ならこれでもいいかもな!」

 

 そう言って小さい子供が新しいおもちゃを与えられたかのような満面の笑みを浮かべながら赤い何かを取り出した。

 

「ドライバーは……そうか。盗られたのかー。ブレイブになれるかと思ったんだがな~仕方ない。なら、こっちでいいか。」

 

 そう言いながら取り出した赤い大きな箱みたいな何かは小さい窓が2つと、黄色い円盤がついていた。

 

「そこのお前。」

 

 箱みたいなものを右手の中でもてあそびながら黒フード(かれ)はウィンタープリズンを指さす。

 

「お前はさっき俺のことを悪魔って呼んでたよなぁ?」

 

「そうだ!私たちを襲って生き残るのを邪魔する。しかも最初は甘言を言いながら近づいてきたそうじゃないか!そんなことをするような奴を悪魔と呼ばずしてなんという!!」

 

 指を指されたウィンタープリズンは堂々とそう答えた。すると

 

「悪魔ねぇ……ちょっと違うんだよな。」

 

 黒フード(かれ)はくっくっと蔑むかのようにこちらを見て笑いながらそう言った。

 

「何がおかしい!!」

 

 彼がとる行動を見て気に障ったのかウィンタープリズンはそう怒鳴る。

 

「あぁ、失礼失礼。だって、俺は悪魔なんかじゃない。今の俺のことを正しくいうなれば()()だからな。」

 

 そう言いながら彼は握っていた箱みたいなものの黄色い円盤がこちらへ向くように突き出した。

 

 

「さぁ、俺を楽しませろよ。」

 

 彼が左手の人刺し指で黄色い円盤を90度回す。

 

<~♪~><タドールファンタジー

 

 すると彼の背後に魔王のような影が構え、そして足元が燃えているような画面が展開された。

 

Let's going King of Fantasy!!

 

 高らかに鳴り響くラッパのような音と一緒に流れる声はうるさい。

 

 そんなことを考えていると画面から昔のRPGに出てきそうな鎧のような何かが出て来て宙を舞っていることに気が付いた。それを確認することもなく彼は一度その握った箱みたいなものを顔のすぐ横に近づけ、親指で円盤のような物の後ろの箱自体についているスイッチを押し込む。

 

デュアルアップ

 

Satan appeared!

 

Say "MAOU"

 

TADDLE FANTASY!

 

 その音声が鳴るのと同時に先ほどから宙を舞っていた鎧が彼にかぶさった。

 

 まるでゲームをあまりしない私でも知ってるような魔王がゲームから出てきたかのような既視感を覚える。

 メタリックなダークバイオレットのスーツに身を包み、ごてごてとした所々に鋭い鎧をまとい、その上にマントを羽織っている彼は正しく”魔王”と言ってもいい姿だった。

 

 私はその一連の流れに見とれていて呆然としていたが、他の人たちも同様だったらしく動けないでいた。

 

「さて、古き王の言葉を借りようとするかね………『虐殺タイムだ』。殺さないけどな。」

 

 そう言って彼は勢いよくこちらへと突っ込んでくる……と言うわけではなく、左手を開き、マントを開く。

 その瞬間マントの中から大量の頭をオレンジ色の被り物で覆った何者かが沢山出て来て私たちを襲い始めた。

 

「ハハハハハハハハ!!!」

 

 高笑いをしながら彼はこちらへと歩いてくる。

 そんな彼を見てスイムちゃんは武器を片手に地面に潜った。

 

 地面を水の中にでもいるかのように泳ぐスイムちゃんが彼をきっと倒す。そう私はつい思っていた。だけど……

 

 

「そこだな。」

 

 

 彼は急に高笑いをやめて左手を横に構え、何かをし始める。

 

 一体何を?そう思った瞬間構えた左手に直視できないほどの光を放つ弾が形成される。

 そして彼の背後から襲い掛かったスイムちゃんへその弾を押し付ける。

 

ぶっとべよガキ。あと、さっきとった俺のドライバー返せよ。」

 

 その光弾を腹部に押し付けられたスイムちゃんが吹っ飛んでいく。どうやらあの光の玉は雷だったようで飛んでいくスイムちゃんから黒い煙が出ていることに私は気づいた。

 

「スイムちゃん!」

 

 慌ててスイムちゃんが飛んで行った方に走る。

 

「行かせ………う~ん。」

 

 私がスイムちゃんが飛んで行った方向へ走り出そうとすると一瞬だけ黒フード(かれ)はこちらへと攻撃しようとしたが、私の姿を見るのと同時にピシりと固まったかと思うと、

 

「こっちにするか。」

 

 そう言ってから一度腰の方についていたホルスターに差し込んでいた赤っぽい色をした箱のようなものを取り出し、今度は黄色い円盤部分を180度回す。

 

<~♪~><バンバンシュミレーション!!

 

 彼の背後に今度は昔テレビの潜入取材の企画を視ていた時に見たレーダーの画面のような背景に、帽子をかぶった影が敬礼している姿が映る画面が浮かび上がる。

 

I ready for Battleship!I ready for Battleship!

 

 後ろの方からそんな音声が流れ出す中、魔王のような姿をしたまま彼は

 

「もっと激しく行こうぜ。」

 

 そう言って横向きに銃を構えるかのようにその箱を持ち、

 

「さぁ、戦闘開始だ!」

 

 そう言って先ほど魔王のような姿の変身したときと同様に、箱についているスイッチを押し込んだ。

 

デュアルアップ

 

Enemy is coming!

 

Shotdown their BANG BANG SIMULATIONS!

 

 スイッチを押し込むのと同時に出てきた軍艦のような鎧が魔王のような鎧を光へと還元し、黒いスーツに変わった彼にかぶさる。

 

 被さると同時に軍艦が展開して盾に、大砲に、そしてターゲットサイトに。

 

 最終的にそこに立っていたのはありとあらゆる武器を一つに詰め込んだのではないかと疑いたくなるような大量の砲台を体中に設置している存在だった。

 

「ひゃっほ~い!!」

 

 彼はそう言いながらその両の手に握った砲口から大量の砲弾の雨あられを私たちに降り注がせる。

 

 とっさにウィンタープリズンが(シェルター)を作り、その中にシスターナナが隠れる。

 その際にシスターナナはルーラの手を引いて砲弾の雨から逃げていた。

 

 ユナちゃんたちがどうなっているのか?そんなことを気にする余裕は今の私にはなくって、このままだと危ないと思ったスイムちゃんの方へと必死に足を運んでいた。

 

「スイムちゃん!!」

 

 戦闘区域からほんのり少しだけ離れたもともとこのお寺にあったお庭の枯れ池の中にスイムちゃんは体のあちこちからピリッパリッと音を立てて放電しながら痙攣していた。

 

「今から穴を掘って安全な場所を作るから!!」

 

 そう言ってスイムちゃんを枯れ池の中から助け出して地面に爪をサッと掠らせる。

 

 すると魔法が発動して大きな、だけど私が考えた通りの穴が掘れ、その中に私はスイムちゃんを担いで入った。

 

 真っ暗な闇の中で外の轟音だけが鳴り響く。

 

 息を殺して放電しなくなってもいまだにダメージが抜けてないスイムちゃんをかばう様に穴の中に入っていると轟音が突如止んだ。

 

「?」

 

 ふと疑問に思って穴から出る。すると

 

 

 ただでさえ荒れ果てていたこの廃寺院の庭がまるで絨毯爆撃にでもあったかのようにぼろぼろとなっている様子と

 

「くっ……」

 

「ウィンタープリズン、大丈夫?」

 

「この件は借りにしといてあげるわ。」

 

 半壊したドーム状の物体から這い出してきたルーラたちと

 

「俺は………こんなことがしたいんじゃない!」

 

「い~や、お前がしたいのはこういう破壊だろ?だったらルールに則ってやりたいようにすればいいじゃないか。」

 

 庭の中心で一人、赤と緑色のオーラを交互に出しつつ、一人二役でもしているかのように絶叫しながら頭を抱えてかぶりを振っている黒フード(かれ)の姿だった。

 

「俺は………俺はぁあああああああああ!!!!」

 

 叫びながら彼はさっきルーラちゃんから取り返したライトグリーンで塗装された大きめのバックルを腰に当てる。

 

「破壊者や殺戮者じゃなくてライダーになりたいんだぁあああああ!!!」

 

 親に見捨てられた幼子のように悲痛な叫びをあげながら彼は立ちあがり、そして腰に巻き付いたバックルの横についているホルダーみたいな物体に勢いよく左手を叩き付けた。

 

<STAGE SELECT!!>

 

 彼の周りに十数個の窓が浮かび上がる。

 

 そしてそれらの窓が数回、動いたと思ったら彼はその場から0と1の数字を模したかのような光だけを残して霞のように消えた。

 それと同じタイミングで今を好機と判断したのか左肩をかばいながら勢いよく襲い掛かっていたウィンタープリズンの攻撃が空を切る。

 

「……逃げられたか。」

 

 そう言って立ち尽くすウィンタープリズンの言葉に誰も返そうとしなかった。

 

 みんな無言でその場から立ち去っていく。

 私は彼の叫びの意味が分からなくてしばらくその場でへたり込んでいたけれど、ルーラに

 

「たま。ついて来なさい!!今回のことを反省して次へとつなぐわよ!!!」

 

 と魔法付きで怒られたことで漸く立ち上がってルーラの後ろについて歩きだした。

 

 その次の日の夜に、今現在生存している魔法少女たち全員が集められてのチャットが開かれた。

 

 ☆ファブさんが魔法の国に入国しました。

 

 ファブ:昨日、一度件の黒コートが死亡したとの報告があったけれども実際どうだったんだぽん?

 

 ウィンタープリズン:確かに一度殺したのだが……

 

 ルーラ:即座に復活して私たちを攻撃してきたわ。何なのよあれ。ウィンタープリズン、あなたきちんと殺し損ねていたんじゃなくて?

 

 ウィンタープリズン:馬鹿なことを言わないでくれ

 

 カラミティ・メアリ:なんだい?あの男死なないのかィ?

 

 ラ・ピュセル:私たちは一度一から考え直した方がいいのではと最近思ったんだ。クラムベリーが私を襲った件についてもまだ納得のいく説明を受けていないしな

 

 クラムベリー:あら?その件につきましては大変申し訳ありませんでした。一番最初にあの男と戦ったのは私だったのもあってかなりのダメージを受けたのでそのリハビリも兼ねてです。

 

 ファブ:雑談はそこまでにして欲しいぽん

 

 ファブ:ところで魔法少女の皆さん。

 

 ファブ:我々魔法の国も彼の脅威に対抗するために新たなアイテムを皆様に送ることにしました。

 

 ファブ:欲しい方はファブまで後程直接メッセージを送るぽん。キャンディーと引き換えに渡すぽん。

 

 ファブ:それじゃあ、シーユー

 

 ☆ファブさんが魔法の国から出国しました。

 

 スノーホワイト:すいません。

 

 スノーホワイト:この後ちょっと相談したいことがあるから集まれる人は集まってほしいんですけど…

 

 トップスピード:わかった!どこに行けばいいんだ?

 

 ラ・ピュセル:いつもの鉄塔の所でいいか?

 

 リップル:私は行かないからな

 

 たま:私も行ってもいいですか?ルーラ様

 

 ルーラ:好きにしなさい

 

 トップスピード:いいじゃん行こうぜー

 

 ラ・ピュセル:たまは初めて行くところになるから私が直接門前町まで迎えに行こう。

 

 ラ・ピュセル:いつも君たちが集まっている廃寺院でいいかい?

 

 たま:はい、よろしくお願いします。

 

 ☆たまさんが魔法の国から出国しました

 

 開いていたマジカルフォンを閉じる。

 

「行かなきゃ行けない気がするのはなんでだろう……」

 

 その予感に疑問を覚えながら犬吠埼珠から変身してたまになった私はいつもの廃寺院へと家を抜け出して向かった。

 

 まさか、ラ・ピュセルに連れられて向かった彼女とスノーホワイトがいつも集まっているという鉄塔の上で蝙蝠みたいにぶら下がってだらけながら白いゲーム機で遊んでいる黒フード(かれ)がいるなんて思ってもいなかったけれど……

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁさぁ、ゲームが面白くなってきたじゃないか。」

 

 その男は彼の()で他をあざ笑うかのような笑みを浮かべつつそう呟く。

 

「まさか、俺がエムみたいになるとはねぇ…」

 

 様々な色のラインが走っている黒いコートを着て、ぼさぼさの髪を整えようともしない男はそのままその場に座り込み、どこからか取り出した白いゲーム機を操作し始めた。

 

「これから面白いことになりそうだ。」

 

 そう言いながらゲームに没頭し始める男の横にはメタリックグリーンで塗装された大我がいつも使っているバグヴァイザーの色違いのようなものと、黒地に翠のラインなどが入れられ、『KAMENRIDER CHRONICLE』と書かれたガシャットが置かれていた………

 

 

 

 See you next game ?

 

 




感想、評価等よろしくお願いします。

それと、Twitter、そして活動報告で行ったアンケートの結果なんですが、ほんとに思い付きで書いただけだった「一般人がカルデアに召喚されてしまった件」が一位になりました。(想定外)

個人的な予想ではTwitterで「一般人」が一位になるのは自分のフォロワーさんの傾向から予想するのは楽だったんですが、まさかの活動報告でもぶっちぎりの一位!!

と言うわけで、多分全プロット書き直しで下手したら一般人が逸般人になるかもしれませんがいつか書こうと思います。

書きやすさで言ったら

魔法少女救命計画>狭間>カルデアに一般人が召喚されてしまった件

なんですけどねー。いや本気で。


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鎮守府住まいの雑ざりもの

第2段投票終わったのに気付いてなかったけど暇な時間ちょくちょく見つけて書いてたのができたから行きまーす。
一発目はお題:艦これにアマゾンズS2の千翼くんみたいなのをぶち込んでみる。です。
映像化したら多分最初の十分ぐらいかな、コレ。


「提督、制圧完了しました。敵勢力完全に沈黙しています。」

 

 ぼろぼろになった廃墟の中で各種様々な色をした髪を持つ様々な少女たちが廃墟を探索している中で、その中の一人、素朴な雰囲気を身に纏う黒髪のセーラー服を着た少女が耳に手を当てて虚空へと声をあてていた。

 

 

「……はい。わかりました。これにて撤退しますね。」

 

「吹雪ちゃ~ん。提督さんなんて言ってたっぽい?」

 

 どこかへと声をあてるのを終えたのか、耳から手を放した少女、吹雪へ碧眼の金髪少女が抱き着きながら尋ねる。

 

「ちょっと夕立ちゃん、いきなり抱き着かないでよ。もぉ~。」

 

 と、抱き着かれた吹雪は抱き着いた夕立に対して少し不満そうに口では言いながらその顔は満足そうにしていた。

 

「ある程度探査も終わっただろうから撤退だって。さ、鎮守府に帰ろ?」

 

 そう言ってその廃墟から夕立に抱き着かれたまま吹雪は退去しようとする。しかし

 

「吹雪ちゃ~ん!!夕立ちゃ~ん!!ちょっとこっち来て欲しいにゃしぃ!!」

 

 少し離れたところからそんな呼び声がかかり、二人は顔を見合わせた。

 

「今の睦月ちゃんの声だよね。」

 

「そうっぽい。どうするの?」

 

 顔を見合わせ、話す二人を急かすかのように呼び声の主、睦月の声はどんどん大きくなっていく。

 

「お~い!!お~いってばぁ!!もぅ、なんで来てくれないの!!」

 

 そして最終的に吹雪たちがいた部屋の奥の方にあった半壊した扉の影からほほを膨らませながら睦月は顔を出した。

 

「ねぇ、こっち来てよ!!なんでか赤ん坊がいるんだよ!!」

 

「「え!?」」

 

 そう言いながら姿を見せた睦月の胸元には睦月型の制服の上着にくるまれた髪の色を含めて真っ白な赤ん坊が眠っていた。

 

「睦月ちゃん、その子何処にいたの?」

 

 大事そうに赤ん坊を抱える睦月に吹雪が問いかけると

 

「こっち!!」

 

 少し膨らませた頬を縮ませて睦月は再び姿を扉の影へと移す。それを吹雪も夕立も追いかけた。

 

 少女たち3人は睦月の先導の元、廃墟の中を移動する。

 

「ここ。」

 

 吹雪たちがいた部屋を睦月の先導に従って歩き始めてから数分後、とある重厚そうな扉がある部屋の前で睦月は止まり、吹雪たちの方を向いた。

 

「ここも壊れてるっぽい?」

 

 その扉の様子を見て夕立はそう呟く。実際重厚そうな扉は半壊し、扉としての体はなしてはいるもののもはや動かすことはできなさそうな様子だった。

 

「ここの近くを歩いていたら泣き声が聞こえたの。だからそこの隙間から入ってみたらこの子が泣いてたんだ。」

 

 睦月はそう言いながら赤ん坊を大事そうに抱えたまま扉の隙間へと入っていく。扉の隙間は少女たちにとっては余裕で通り抜けれそうなほどのサイズであった。

 

「危ないよ睦月ちゃん!」

 

 ぽろぽろと破片を落とし、今にも崩壊しそうな扉の隙間を何の躊躇もなくくぐっていく睦月の姿を見てそう苦言を漏らしながらも吹雪はそれについて部屋へと入っていき、夕立は何も言わずに楽しそうな様子で部屋へと入って行く。

 

 

 

 

「これって……」

 

「うん。私も最初見たときは驚いたよ。」

 

「………もう死んでるっぽい?」

 

 部屋に入って少女たちが見たもの、それは心の臓を貫くかのように鉄骨が刺さり、もうすでに物言わぬ存在へとなっている少女のような姿のものと、それを固定するかのように部屋の中央に設置されている分娩台のようなものだった。

 薄暗い部屋の中でその存在を見た衝撃も冷めやらぬうちに吹雪は睦月へ心に浮かんだ問いを尋ねる。

 

「ねぇ、睦月ちゃん。」

 

「なぁに、吹雪ちゃん。」

 

「その子、()()()()()()()()()()の?」

 

 その問いを聞いて睦月は、黙って股を開いたまま絶命している少女のようなものの股の下、未だに青い液体が床に染みている場所を指さして

 

「そこ。」

 

 とだけ告げた。その答えを聞いて吹雪は恐る恐る睦月に尋ねる。

 

「じゃあその子……深海棲艦じゃないの?」

 

 深海棲艦。

 それは20世紀終盤に突如現れた謎の存在であり、人類の敵である。

 既存の兵器はまったく通じず、某大国が最後の手段として禁じられた兵器である核に手を出したにもかかわらず無傷でその猛威をいなした。

 最初に現れてから1年もたたぬうちに人類の海上ライフラインをほぼすべて破壊。とある島国は海上運搬による輸入に大半のものを頼っていたために経済に壊滅的被害を受けることになった。

 ライフラインを破壊して海を制したのち、深海棲艦は地球の残りの2要素、空と陸を攻め始めた。

 最初に襲われたのは最初に核を使用した某大国だった。

 東海岸から侵略は始まり、数月もたたぬうちに某国の生存者たちは大陸の中央部へと追い詰められていた。

 追い詰められていたのは日本もまた例外ではない。

 始めて深海棲艦の存在が確認された日から数日もたたぬうちに沖縄、九州、北海道、そして四国と言った本州を除いたすべての地域が深海棲艦によって陥落。

 通信網も破壊され、生存者は見込めないという状況になっていた。

 

 海上自衛隊がもしかしたらいるかもしれない生存者を救うために必死に活動するもその結果は数多くの死者を生むことにしかつながらなかった。

 

 そして普段は穏やかな瀬戸内海は深海棲艦の砲弾の雨によって赤と黒に染まりきるほどの被害が本州でも見られるようになったころ、とある存在が現れ、戦力差はひっくり返ることになる。

 

 第2次世界大戦時に戦っていた艦を主にする船舶の魂をその身に受け継いだ少女たち、艦娘たちの存在がとある漁村で確認されたのだ。

 それ以降日本は、艦娘たちと協力、提督と呼ばれる存在とともに制海権を取り戻しはじめ、それに成功した。

 日本が制海権を取り戻したのと同時期に別の国でも艦娘は確認されていた。しかし、国ごとによってその扱いは異なり、それが原因で国が滅んだものもあった。

 ユーラシア大陸に覇を連ねた某大国がそのいい例だろう。

 その国は艦娘を道具とみなし、協力ではなく支配をたくらんだ。

 その結果艦娘たちによる反抗運動が発生、最終的に深海棲艦に国と言う概念が揺らいでいるすきを突かれ、一部艦娘を残し国は崩壊。

 生き残らされた艦娘たちは敵勢力の真っただ中に取り残され、洗脳改造されて敵兵力の一員として利用される、またはクローン体を生むための母体として利用されることになった。

 最初に深海棲艦になされるがままだった現状をひっくり返すきっかけを生んだ日本のシステムはその事件以降参考されるようになり、日本には各種様々な国からそのノウハウを盗むために艦娘たちが送られるようになる。

 日本はそれを分かっていながらも受け入れていき、現在の日本の各鎮守府にいる艦娘たちをファイリングしていくと第2次世界大戦時の立場や因縁など関係ないとでも言わんばかりの多国籍軍みたいな状況になっている。

 

「そうかもしれないけど……」

 

 吹雪のその問いに対して黙ったまま、睦月は上着に包み、胸元で抱えている赤ん坊を見る。

 

「すぅ……」

 

 胸元にいる赤ん坊は自分が見つけたときとは打って変わって静かに寝息を立てている。

 

「パッと見た感じただの赤ん坊だよ?」

 

 そう二人の方を見て告げる睦月の顔は慈愛に満ちていた。

 

「う~ん、確かにそうだけど……兎に角司令官さんに連絡してみるね。」

 

 そんな睦月の様子を見て毒気が抜かれたのか、ふんわりとした表情で吹雪は耳へと手を伸ばし、司令官へ通信を始めた。

 その一方でずっと吹雪に抱き着いていた夕立は静かに吹雪のそばを離れ、すでに絶命している深海棲艦のすぐそばへと近づいていた。

 

「この深海棲艦ってどう見ても()()っぽい…。」

 

 夕立を含めて今この部屋にいる3人はなんだかんだと言って高練度であるためにまだ誰も到達できていない海域に挑む際は艦隊に起用されることが多い。

 そのため、目の前で何故か()()()()()で絶命しているレ級が暴れている姿を海域で見たことが何度もあった。

 しかし、彼女はこのような穏やかな死に顔を魅せるレ級を見たことが今までなかったのである。

 

「なんで、このレ級は穏やかな顔をしているの?」

 

 そう呟く彼女に答えをくれる者はだれ一人いなかった。

 

 カツーンカツーン

 

 そんな中通信によってこの部屋に来るように指示を受けたのか、部屋の外に誰かが近づいてくる音がした。

 

「誰か来たっぽい?………でも、来たのは(だぁれ)?」

 

 夕立が虚空へとそう尋ねたのには理由があった。

 今この廃墟を調べているのは艤装を出したり消したりするにあたって一番燃料等の消費が少ない駆逐艦娘のみである。

 確かに駆逐艦娘の中にはハイヒール型のブースターを履いている少女もいるが、今回の艦隊にはその少女たちは編成されていなかった。

 しかし、廃墟に響いたのはハイヒールを履いた者が歩くときに頻繁に発せられる甲高い音。

 

 警戒しながら夕立は艤装を召喚し構える。睦月はそれに気づいいてすぐに夕立の後ろへと回った。

 吹雪は未だに通信に集中しているために気付いていなかったが、睦月が引っ張って気づかせ、通信を一度止めさせた。

 

 そして吹雪も黙ってから数秒後。扉の隙間の向こうで、何かが止まった。

 

「…………」

 

 扉の隙間が狭いためか、その全身の姿は見えない。しかし、一部だけでも見えたその姿は真っ白な素肌に黒い服だった。

 

「…………」

 

 ゴクリとつばを飲む音が静かな部屋に響き渡るが、何も起きない。

 結局数秒ほどしてからその影はその場から立ち去って行った。

 

「「「はぁ~~~」」」

 

 3人そろってその場に座り込む。そして顔を見合わせて笑った後、吹雪は通信を再開した。

 数秒後、通信を終えて二人の方を向く。

 

「司令官はその子を保護しろってさ。あと、そのレ級の遺体もできればでいいから持って帰ってきてほしいって。」

 

遺体(これ)も?」

 

「うん。胎生の深海棲艦って初めて聞いたから研究所に回して解剖して研究してもらうんだってさ。」

 

「へ~。」

 

 そう吹雪と夕立が話しているのをしり目に睦月は胸元にいる赤ん坊をゆっくりと揺らしながら

 

「よかったね。」

 

 と、呟いていた。

 

 しかし、誰もまだその時は知らなかった。

 この赤ん坊が後に対深海棲艦との戦いを大きく変えることになるとはまったく思ってもいなかったのだ。

 

 数年後、見つかった島の元の名前を取って神無(かんな)と名付けられた少女は母譲りの雷の艤装と、レ級の艤装を身に着け、纏い、深海棲艦との戦いに身を投じることになる。

 そして、戦争は終結へと加速していくことになった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————————————————————————————————————————————————————————————————

 

 

 設定としてはAmazon premiamで配信されてた仮面ライダーアマゾンズのシーズン2をもとに考えています。

 この作品で神無は仁さんと七羽さんの息子である千翼ポジションであるのと同時に悠ポジションもかねたものとして考えています。

 神無がレ級から生まれた経緯はこんな感じです。

 元々艦娘雷として活動していた少女が提督と恋に落ち、ケッコンカッコカリしたのちに神無をおなかの中に授かり、前線から退いていたのが深海棲艦に拉致されてそのままレ級に改造された。

 神無がお腹の中にいた状態で改造されたことが原因で神無は深海棲艦と艦娘、その両方の性質を持つことになりました。

 なので、レ級の艤装をつけることもできますし、雷として活動することもできます。

 鎮守府側のコールサインはホントに艤装次第で変わります。

 お腹の中にいたときに母親に巻き込まれる形で改造されたというのと、生まれるのと同時に母親である雷は死亡しているので母親の顔など全く覚えておらず、鎮守府のみんなを家族として認識しています。

 母親の改造された元雷であるレ級は本文中にも書いてましたが、心臓を崩壊した建物の鉄骨によって貫かれたせいで死亡しています。

 改造された際に雷としての記憶などはすべてなくしてしまっていましたが、自分が母であるという認識だけは脳をいじられても変わることはなく、徐々に膨らんでいくお腹を愛おしそうに見ていたので他の深海棲管たちからは不気味がられ、短編最初の艦娘側の襲撃時には廃病院となっていた建物の分娩台に拘束される形で放置されていました。

 幸いなことに、産気づいてから艦隊の攻撃が始まったため、無事に神無を出産できましたが、その成長を見ることはかないませんでした。

 神無の父親である提督も元雷が拉致されたときにすぐそばで一緒に拉致されたためにレ級の艤装の生体パーツの材料として使われ、既に死亡していますが、その意思だけは表に出てこないとはいえ艤装に残りました。

 そのため、神無がレ級の艤装を纏った場合父親と母親。その両方に守られることになります。

 なので、神無はどちらかと言うと雷の艤装よりはレ級の艤装を無意識のうちに好んで使っています。

 

 




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他の人とかがよくやってる本文欄でPCとスマホの両方で見てもキレイに線を入れる方法ってどうやるんだろうか……


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覚・醒

SSSS.GRIDMANが放送されてから1年後くらいまで暇見つけては書いてた作品っす

書きかけてる状態でダイナゼノンが発表されてそれがメインで登場させる予定だったダイナドラゴンを基にしたキャラとまる被りしてしまったことによるガン萎えで書くのやめちゃったんです
一応2000字近く書いてはいたので投稿できる状態でいつまでも放置しておくのは何となく気が引けてここに供養としてぶち込みます。

まぁ、一応今度ユニバース公開されるし今月末には劇場総集編公開されるから強ち時期違いでもないし…


俺は、忘れないだろう。あの数か月間の間のことを。

 

例え今の俺が何者で、そしていつ消えるものかどうかわからない存在だとしても関係ない。()()()()()()()のは間違いないのだから。

 

空を見ながら、ふと俺はあの日のことを思い出した。

あの、よく晴れた夏空の始まりの日のことを。

 

 

 

「おーい裕太。お前今日こそはやれよ~」

 

「ちょっ!カズ!!やめろよ恥ずかしいって!!」

 

学校帰りにそう言って友人の佑太の首を後ろから絞める。

 

「こう言うのは長引けば長引くほど恥ずかしさとかでできなくなるんだって!思い立ったらすぐ行動。こういう色事はちゃっちゃとケリつけちまえ!!」

 

「ケリつけろって……そんなのゲームとか勉強じゃないんだからそんなこと言われても…」

 

「ほら、宝田さんち行こうぜ。確かあっこジャンクショップだったろ?俺もどっちにしろ見てみたいもんあーし行こうぜ早く!」

 

「行こうぜって……」

 

「ほれほれはよはよ」

 

後ろから裕太を押しながらジャンクショップに向かった。その選択は間違ってたのだろうか。それに関しては俺はいまでもわからずにいる。

 

そんな風に校門を出る俺たちからはるか遠く離れた空で、一つの星が6つに分かれて飛び散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれ、俺ここで待ってるからちゃきちゃき行きなって」

 

ジャンクショップ絢と書かれた店のすぐ近くで行きたくないとゴネだした裕太を半ば無理やり押し出すかのように俺は店内の方へと進ませ、そこから少し離れたところでスマホをいじりながら待っていた。

 

スマホをいじりながら店内の様子を横見していると裕太はどうやら宝田さんに上手く思いを伝えられたらしい……が、

 

「ごめんちょっと返事貰う前に外の空気すわしてくれないかな!!」

 

少し離れたところに居る俺にも聞こえる声でてんぱったかのようにそう言って裕太は店から外に出て来てしまった。

 

「お前何やってんの!?」

 

そんな唐突な裕太の行動に小さく文句を言いながら慌てて俺が裕太の方に行こうとした……その時

 

「は…?」

 

俺はその場で動けなくなった。その理由は何故か。簡単だ決まっている。

目の前で裕太の頭に何か小さな光が直撃し、裕太がバタリと音を立てて倒れたのを目視してしまったからだった。

 

「裕太!?」

 

半ば悲鳴を上げるかのように裕太に近寄り、すぐに口元に手を当て、呼吸があるかを確認する。

幸いなことに呼吸は正常に行われており、そして脈を図ってみたがそちらも普通だった。

裕太が一応脈とか普通なことを確認した俺は大きな声で店内へと呼びかけた。

 

「宝田さんちょっとこっち来て!!」

 

「…?って宮田君じゃん。どうしたの……って響君!?」

 

宝田さんはそう言って俺の方を見る。それに対して俺は

 

「わからん。ただ、なんか急に倒れた。」

 

そうとだけしか答えられなかった。何せ裕太の頭に光が直撃して急に倒れましたなんて言ったら俺がおかしな人だと思われるような気がしたからだった。

 

「……とりあえず、このまま寝かしておくのもあれだし……宮田君響君の家分かる?」

 

宝田さんはそう言って俺の方を向くが俺は

 

「すまん。俺アイツんち行ったことないからわかんねーし、アイツんちの親確か今旅行中か何かで家空けてる。」

 

「そうなんだ……はぁ。仕方ないなぁ……とりあえず響君家に寝かせるから手伝って。」

 

そう言って宝田さんはくるっと振り返り、店内の方へと帰って行った。

 

「………」

 

俺はチラッと裕太の方を見る。ぱっと見ただ寝ているようにしか思えない。だけど俺はどうしてもアイツの頭に直撃した光のことが頭から離れずにいた。

 

「……ちょっとゆれっぞ。」

 

しかし、今ここで考えていても仕方がないし、どうしようもない。そう考えなおして俺は裕太の肩を担いで持ち上げた。

 

宝田さんの案内に従って店内側の入口から生活空間側の方へと入らせてもらう。そこの奥の方にあったソファに裕太を俺は寝かせた。

 

「そんで宮田君どうするの?なんで近くに居たのかは知らないけど。」

 

裕太を寝かせると同時にそう言った問いかけが飛んできたので俺は

 

「店ン中のもの見たいんだけどいいか?」

 

宝田さんにそう声をかけて立ち上がった。

 

 

 

「……さっきまでここにこんなのあったか?」

 

宝田さんに声をかけてから店内側の入口に一度戻り、そこから店内に出たときに入口の喫茶カウンターのすぐ近くにあったジャンク品のかなりデカいパソコンに気付いて俺はそう零した。

 

よくよく思い返してみる。さっきここを通ったときにこれはあったか?

 

………あった気もするし、なかった気もする。

 

「うーん……」

 

急に自分の中に降ってわいた疑問に俺は答えを見いだせず、その場でうんうん唸ることしかできなかった。

 

「……ん?」

 

その時、チカッとジャンク品のパソコンの画面の下にあるボタンが光った気がした。

 

「……今……光った?」

 

そう呟きながら俺は光った気がしたボタンを押し込んだ。

 

「………何も起きない……か。」

 

ボタンを押し込んでも画面に何かが映ることはなく、そして目の前のジャンク品は動く素振りすら見せずにいた。

 

「………んーー」

 

「何してんの?」

 

「うぉぁ!?」

 

目の前のジャンク品に集中していたせいで周囲の警戒が薄れており、そのせいで急に横から声を掛けられてびっくりして俺は大きな声を上げてしまった。

 

「そんなにびっくりしなくてもいいじゃん。それよりも、響君起きたよ。」

 

「あ、そーなん?ほいじゃ、面拝みに行きますかね」

 

俺がそう言うと宝田さんは変なものを見たかのような顔をして

 

「たまに思うけど宮田君さ~変な言葉遣いするよね。顔を面とか言ったりさ。」

 

そう言ってきたが、俺はあっけらかんと

 

「そんなん言われても俺の場合は親が親だしなぁ…」

 

そう答えると心当たりがあったのか宝田さんは額に手を当てて

 

「あー……そう言えば前の授業参観の時に特攻服着た人来てたけどあれ宮田君の関係者なの?」

 

「そうだけど?」

 

問いかけに対する俺の返しにさらに疲れたような顔をした。

 

「で、裕太どこなの?」

 

 




コメントとかいただけたら幸いです


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