Metal Gear Fate/ Grand Order (daaaper)
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プロローグ

 

 

 

 

 

時が過ぎれば時代は変わる

 

 

時代が変われば…………一体何が変わるだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦争は変わった

 

世界は何もかもが情報化され、戦争経済という名の世界を回すための歯車に成り果てた。

 

理不尽を取り除くための発展途上国で起きる武装蜂起はいつの間にか先進国へ資本を捧げる“商品”となった

 

 

“商品”は管理されなければ単なるモノでしかない

 

“商品”を構成する物は人間で管理するのも人間だ

 

“商品”を売り利益を上げるにはコストパフォーマンスが重要なのは誰でも思いつく

 

それがたとえ命を貨幣として、賭け金として運用されるビジネスだとしても

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、戦争はビジネスとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロマンスという物語

 

・ある者達は王に忠誠を誓い、そして王と共に国が破滅していく

・ある者は人として生まれ、神に試練を与えられ勝手に失望されながらも、全ての困難を弾き貫き通した

・またある者は強く、優しく、そして忠義に厚く、その所為で忠誠を誓った者から疎まれ、殺された

 

それらの物語に登場する人物たちの騎士道や武勇伝・英雄譚に由来する精神的価値

 

彼らは熱狂的な恋と行為を魅せ、魅せられ、誰もが綺麗で、人々に美しいと語り継がれた物語を構成する

 

中には神という名の理不尽や、人の醜いモノが湧き出しいつの間にか憎悪にまみれた物語もある

 

だがそのどれもが例外なく戦場に立ち、そして読んだ人々の心を動かし感動させた

 

そして彼らは人々に英雄と称えれ、それぞれの物語の主人公となった

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし戦争は変わった

 

 

 

 

 

 

 

戦場には既に主人公という人々の心を動かし感動させる存在のしようは無く、英雄はいつか殺人者と成る時代

 

戦争は人々の心を満たすのではなく、資本主義社会を回す歯車の一部であり“商品”の一種

 

 

 

 

“戦場”は“市場”へと変わった

 

 

 

 

何もかもが情報化された社会

 

物語は文字に起こされ、本という形にパッケージされ書斎や図書館に並び管理される。

 

書斎を管理する人間は物語が読みたくなったら自身の記憶を元に書斎から本を取り出し物語を知る。

 

図書館なら、まず自動検索機の前に立ち読みたい本の名前を検索する

 

すると検索機は電子化された情報を管理しているサーバーにアクセスし何処に本があるかを利用者に示す

 

後は示された情報を元に本を探し出すだけで物語を知ることが出来る

 

読みたい本が無いとなれば検索機は立っている人間に本の予約を促す

 

その全てが高度に、複雑に繋がりあった電子による情報網でやり取りされ、借りた人物・借りられた本の名前を結びつけ誰が喜ぶかわからないビックデータとして管理される。

図書館でなくとも今はお金と電子による情報網に繋がりさえすれば本は手に入る。

 

この本を買った人物はこれも買う、あれも買う、ついでにこれが気になっている。

企業は勝手に蓄積されていくデータを元に誰かは知らない人間にこれ見よがしに商品を見せる。

そして嬉々として人々は両手を広げ広告に賛同する……片手はマウスかスマホを握ってるだろうが

 

 

 

 

 

 

その情報の流れとやり取りの対象が命に代わっただけだ

 

 

 

 

 

 

何もかもが情報化された社会

 

人々は名簿に起こされナノマシーンでパッケージングされ軍や民間軍事会社に搬入され管理される

 

軍を管理する人間は戦いたくなったら、又は戦う必要があれば命令を元に“軍人”を要望通り現地へ出荷する

 

だがこの方法はあまりにも高く付き、ほとんど採用される事は無くなった

 

代わりに軍人でも民間人でも無い

 

 

 

民間の軍事会社でパッケージングされた社員という“商品”が世界各地で生産され出荷され始めた

 

 

 

まず、民間軍事会社(PMC)はクライアントから仕事を受注する

 

するとPMCはナノマシーンによって管理された“商品”から、受注した仕事を分析し最適な“商品”を出荷する

 

 

 

「ええ、アフガニスタンですね、それならアフリカ系とヨーロッパ人はどうでしょう?

特にアフリカ系なら彼らに何の絡みもありませんから気にすることなく殺せますよ。

しかしそれだけでは不安でしょうからアパッチにLAVを3台ほど付けましょうか、それともハボックの方が好みですか?」

 

 

 

そんな具合に。

 

 

 

実際は莫大な過去のデータを管理しているサーバーから敵戦力と用意すべき戦力を予想するだけ

 

そして後は示された情報を元に適切な“商品”をピックアップし出荷するだけ

 

適切な“商品”が無ければクライアントが別のPMCに相談するだけ

 

その全てが高度に、複雑に繋がりあった電子による情報網でやり取りされ、クライアントと受注内容を結びつけ誰が喜ぶかわからないビックデータとして管理される。

 

この仕事内容ならこれだけの戦力で充分、この地域は〇〇人だからアフリカ系の“商品”を出荷すれば受注内容に支障が出ない、ついでにこの地域ではどうやらテロリストがいるらしい、なら彼らに銃を売ろう。

そんな勝手に蓄積し勝手に判断してくれる統計データを元に企業は動く貨幣をやり取りする

 

今の時代、相応の金と電子による情報網に繋がりさえすればその人の思い通りに出来る。

ふと、あの物語が読みたい、あの本が欲しいと思えば欲しいものを検索し〈カートに投入する〉を押すだけ。

後はプレミアム会員なら即日配送でその日のうちに届く、物によってはタダで読むことも出来る。

 

ふと、あの国を蹂躙したい、あの人を殺したいと思えばPMCのサイトを開き〈戦力を投入する〉を押すだけ。

後は追加料金を払えば即日対応でその日のうちに結果が届く、物によっては人々が歓喜に沸く。

 

 

〈カートに投入する〉ことも

 

 

〈戦力を投入する〉 ことも

 

 

同じ指でたったワンクリックで簡単に済ませる事の出来る世界

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦争は変わった

 

 

 

 

 

 

企業はより効率的な組織運用を求める存在

 

“商品”成り立たせる人間にはアップデートされたナノマシーンが注入され、精神や肉体を常にモニタリング

 

人件費を抑えるために労働力の安い国から大量に人々を採用し“消耗品”に仕立て上げる

 

そしてとにかく“商品”が消耗する仕事先に一番安い“消耗品”を出荷する

 

ひと月経ち、“消耗品”が劣化してきたら棚卸しの要領で“商品”を交換し新しい“消耗品”を出荷する

 

この時、決して劣化した“消耗品”は捨てない

 

戻ってきた“消耗品”をちゃんとメンテナンスし休暇を与えてやれば、何と一番安い“消耗品”から一級品の“商品”が生産されるからだ

 

もっとも、“消耗品”が現地で全て消耗した所で惜しくも何とも思わないが。

 

なら最初からそれなりの“商品”を仕立てあげれば良い

 

無料のFPSゲームはそれなりの子供たちが喜んでプレーしてくれる

 

画面に写し出される人間は敵を華麗に倒し、格好良くキメてくれる

 

12歳以上になった子供たちにはVRでFPSゲームをプレー出来る、もちろん無料で。

 

すると今まで画面に写し出されていた人間が隣にいる、格好良くキメている

 

 

 

そして何より・・・自分が格好良く、華麗に敵を倒している世界が広がる!

 

 

 

ひと昔前は画質によってゲームのクオリティは評価されていたがそれはあくまで昔の話

 

今の時代、VRによって現実とも区別がつかない品質の画像が360度に展開する事くらい家で出来る世界

 

敵を銃でヘッドショットし、ナイフで華麗に薙ぎ倒す

 

そんな風に遊べる世界

 

新しいナノマシーンを体に初めて投入し、居心地の悪い飛行機に揺られ飛ぶこと数時間

 

いつも通りに眼の前に敵がいる

 

いつも通り銃を相手も自分も持っている、ナイフもある

 

なら狙いを付けて引き金を引くだけ

 

 

 

いつも通り

 

 

 

スイカの様に弾け

 

 

 

目玉が飛び出て

 

 

 

敵の体が重力に抗うことなく崩れ落ちる

 

 

 

 

 

それが最初の殺人だとしても誰も気にしない、本人も何とも思わない

 

 

 

 

強いて言うなら少し生臭い

 

 

そう思うのもつかの間、すぐに新しい的が出てきたから今度はフルバーストで撃ち抜く

 

 

すると真横から駆け抜けて来た敵がいるのに気が付く

 

 

ナイフを抜き、振り向きざまに刃を相手の額に押し込みグリグリして刃を抜く

 

 

ヌチャヌチャと音を立てたのも一瞬、すぐに相手の邪魔な体を押して空になったマガジンを交換する

 

 

綺麗に敵を倒し、華麗にナイフで相手を倒した自分

 

 

そんな姿に酔いしれ、ゲームと同じ様にヘッドショットをきめて、撃ち抜き、ナイフを突き刺す

 

 

 

 

 

そこにはもう現実とゲームとの差はない世界

 

 

 

PMCがFPSゲームを無料で配布している世界

 

 

 

……そんな世界、それが当たり前になった時代

 

 

 

 

 

それが表の世界では起きていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな世界を変えようと、動いた者たちもいた

 

その者たちを阻もうと動いた者たちもいた

 

そしていつの間にかこんな世界を作っていた者たちは最後の蹴りをつけた

 

 

あらゆる物を、者を、モノを管理するシステムは破壊されかけたものの、結果は兵器を管理するシステムだけが破壊され、裏で世界を操っていたと言っても過言ではない存在は消されついに世界は平和への道を…………………………歩むことは無かった。

 

あまりにも経済を回す歯車の一部としては肥大していた戦争は、たかが全ての兵器を完全に掌握し管理していたシステムが壊れた程度では消えることは無かった。

民間軍事会社もいつの間にか立て直し、若干の規模縮小は有ったものの、さも当然に存在し続けた。

 

 

 

 

 

 

それでも…………………………………………それでも

 

 

 

 

 

 

それでも、世界はとりあえず生きていくには不便ではないと誰もが言える世界へと歩み始めていた。

アフリカの新興国はあまりにも疲弊しすぎた国内の実情に目を向けた。

裏で操っていた存在……もはやその名を知る人間は両手で数えるほども居ないが、その存在が消えたことによって世間は無意識下での情報操作は受けなくなり、より軍縮の声を上げた。

 

全てが情報、人も情報、命は本と何ら変わらないモノ

 

過去の偉人たちの逸話が、物語の主人公が、そんなモノが簡単に誰もが体験し体現出来る時代

 

だが世界は50年以上ものとある支配からようやく解放され、全く新しい世界へと歩み始める

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、思われていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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何か……いる?

 

 

 

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いや……違う

 

 

 

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俺は死んだはずだ

 

 

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後悔か……無いな

 

 

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そんな事を言われてもなぁ……過ちは認めるが、覆した所で俺が清々して何になる

 

 

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自己犠牲、か……そんな綺麗なもんじゃ無い、

と言うかだな……一体ここは何処だ、天国だとしたらあんたは神様かお偉いさんか?

 

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……随分と回りくどいが、要するに……ぁあ何だ……神様じゃ無いのか?

 

 

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いやっもう神で良いだろうソレは……ああわかった、とりあえず置いておこう、どうやら害は無さそうだしな

でだ、何で俺がそんな大層な場所に居る?

 

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・・・本当か?

 

 

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……まぁ連中が俺を良いように使っていたからか。

適当な伝記で俺を祭り上げてたが……確かにあいつらがわざわざ俺の伝記についてまでは消さないな。

しかし、そのお陰でこんなへんぴな場所にご招待された訳だ……面倒だな。

 

 

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世界の守護、英霊か……随分と立派なシステムが有ったもんだ

 

 

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そいつはお門違いだ。

聞く限りその英霊様は地球の危機に現れるんだろが、俺が関わっていたのはあくまで個人の危機だ。

それで核が発射されようとも所詮国や人類の自業自得って所だろう、俺が言うのも何だがな。

 

 

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ああ、だから恨んじゃいない。

むしろその提案を受け入れよう……まぁどうせ暇だ、それに俺を従える……マスターだったか?

それも自分で選べるって言うなら文句は無い、どの道文句は言えそうに無いしな。

 

 

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良いだろう別に、それが俺に害ある物ならさっさと逃げるが少なくとも面倒そうなだけみたいだ。

それにさっきも言ったがここから逃げるのも疲れそうだしな、良い鍛錬にはなるだろうが。

 

 

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ああそうだが……考えてみればあんたにまず迷惑がかかるか、そいつは悪かった。

だがここでは何をやっても良いんだろ?なら勝手に鍛錬でもしていよう、他の英霊って言うのも気になる。

 

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ああ了承した、別にここでの記憶が消えるだけで生きてた時の記憶までは消えないんだろ?

それなら別に文句は無い……まあ記憶までは消されれば文句も言えないんだろうが。

 

 

 

 

 

 

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2014年、世界は呪いにも等しい管理下から解放された。

 

解放された対象は全ての兵士たち

 

戦場に関わる人間であり人々

 

あまりにも多い管理対象、情報管制においては全人類が無意識のうちに管理下に置かれていた

 

その管理下から世界はあまり人々が認知していない間に解放された

 

それを管理していた人間はもはや人間では無かったのだろう

 

実際、管理していたのはある人物に魅せられ、その人の意思を、理想を叶えようとした人物を模倣したAI

 

 

 

 

 

だがそのAIが破壊される前

 

 

 

 

 

 

 

その情報管制によってある逸話が陽の目を見る事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それはナスターシャ・ロマネンコの著書『シャドーモセス島の真実』を塗り潰す勢いで世間に広く知られ、崇拝された

 

簡単に誰もが逸話を体験し体現出来る時代に

 

誰もが諦め絶望する状況下での任務を果たした男として

 

核戦争の危機から幾度も世界を救った男として

 

そこまではシャドーモセス島を生還した男と共通している

 

 

だが彼は

 

特殊部隊の存在を確立し

 

接近戦における技法を構築し

 

ある種の国の長となった男

 

 

 

そして何より、自らが撒いた種とはいえ悪しき1つの時代に蹴りを付けた男

 

 

 

彼の歴史は誰もが共感し感銘する様に湾曲され、隠された部分も多い

 

だが誰もがその存在を知った時、崇拝にも近い形で彼を、その英雄を讃えた

 

彼が活動していた時、彼は伝説の傭兵として名を馳せていた

 

そして尾びれがついていたはずの噂を上回る実力とカリスマをも備えていた

 

しかし、彼は決して自分が英雄だとは思わないだろう

 

何せ生前から彼は「英雄は大したものじゃない、周りが勝手に騒いでるだけだ」と言い切っている

 

 

だが彼の知るよしもない場所では

 

 

もはや人では認知することの出来ないその場所では

 

 

彼を“英霊”と

 

 

“英霊”の座に座す者と認めていた

 

 

彼の真名を知るものは極々僅か

 

 

情報化され情報解禁がなされても人々が彼の真名を知ることは無かった

 

 

だが人々はその男を

 

 

一人の英雄として、

 

 

伝説の人物として呼んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『BIG BOSS』と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……はぃ?先輩?」

 

「はい」

 

「……俺が?」

 

「はい」

 

「……えっと、とりあえずそれは置いといて……君の名は?」

 

「フォウ!」

 

「違うそうじゃない」

 

場所は変わり、

 

ここは人理継続保証機関カルデア。

場所は秘匿……とはなっているが、標高7000mだか8000mだかの高所にあり常に吹雪いている様な場所にあると言うのだけは断言できる場所。

そして、魔術と言う世間からすれば夢かフィクションの様なものを大真面目に利用している機関でもある。

 

 

魔術

 

 

それはまさに魔法……とは厳密には違う。

いや、実際は全く違う別のものだと既に定義されている、ただ単に存在が秘匿されていて世間には知られていないだけで実在し実現できる物なのだ。

魔術を扱う者達、魔術師は全ては根源へ至るために魔術を扱い、鍛錬し、探求する。

 

そもそも根源とは何か?

……はっきり言ってよく分からない、ただあらゆる者や物の全ての源・理を成すなにか。

文字に起こせばそんな物だろうか。

 

 

さて、そんなよく分からない物が人の一生のうちに見つかるだろうか?

 

 

答えは単純、否である。

だがそんな事で彼らは探求を止めない、その熱心さは狂気に等しい。

 

まず魔術師は根源へ至るための方法やアプローチを探す。

一生をかけて実行する。

そして子孫に根源へ至るために一生をかけてその探求を実行出来るよう教え、伝承し、探求させる。

 

……これを魔術師というのはひたすら繰り返している。

100年200年などまだまだ魔術師としての歴史は浅く、1000年以上も探求を続けている(させられている)一族も多い。

 

 

「えっと……まあ倒れてた所を助けてくれてありがとう」

 

「いえ、私はただ単に倒れてた先輩を介抱しただけですし、何より倒れている人がいて放っておくのはどうかと思ったので」

 

「あははは……聞いていて自分が情けない」

 

「フォウ!」

 

「……何、慰めてくれてるの?」

 

「フォ〜」

 

「おーここが良いのかここが」

 

「フォウさんがあんなにもあっさり懐いている……!」

 

多いのだ……が、この2人の少年少女は例外だ。

特にこの少年、白い毛むくじゃらのリスのようで、兎に似た長い耳を持ちケープを羽織っている四足歩行動物フォウを愛でている藤丸 立香(ふじまる りつか)は「ここの施設の人になんか熱心に誘われた」という随分と心配になる理由でここに連れてこられた“一般人”だ。

 

世間一般の常識と赤点を取らない程度の知力と運動能力を持つ……と言えばなんかカッコよさそうだが単純にこれと言って特筆することがまるでない、強いて言うなら秘匿するべき物とされる魔術を扱う機関に採用される理由があるくらいだろうか。

 

「で、サーヴァントがなんかスゴい事をした人達って言うのはわかるんだけど……結局何をするの?」

 

「……待って下さい先輩、まさか何をするのか本当に知らないんですか?」

 

「そうだけど」

 

「先ほど先輩が言ったのはてっきり気の利いたジョークかと」

 

「……倒れてた俺が言うのも何だけど、まず最初に自分の居場所を聞くことは変かな?」

 

訂正する、別に藤丸 立香は世間一般の常識程度は持ち合わせているが若干ズレている。

彼は彼女にこう聞いたのだ

 

 

 

「ここは・・・どこ?」と

 

 

 

「…………そんなことありませんね」

 

そしてそんな彼を先輩と呼ぶ彼女、マシュ・キリエライトは余りにも世界を知らなすぎた。

 

「小説にもよく倒れた人を介抱して、目を覚めればまずは『ここはどこ?私はだれ?』と聞くものですしね」

 

「ちょっと待って、俺は別に記憶喪失とかじゃ無いからっ」

 

「違うんですか?」

 

「違う違う、俺はそもそも誘われてここに来ただけで詳しい話は聞いてないんだ」

 

「そうなんですか……では私が簡単に説明しますね」

 

曰く、カルデアは未来における人類社会の存続を任務としている。

そのための観測モジュール:地球環境モデル・カルデアスやシバといったもので人類の未来を占うどころか直接観察していた。

 

ところが、ある時カルデアスから光が消えた

 

光とは人類が生み出す文明の産物、つまり人類が消えた事を意味した。

その原因を探るうちに2016年に人類は絶滅するという結果が得られたという。

その人類滅亡の原因を探るとシバは何と、過去である2004年の「日本のある地方都市」に「特異点」と呼ばれる観測不能領域を観測したという。

 

「……ん?それってどういう……」

 

「わかりません、ただカルデアの皆さんはこれが人類史を狂わせ人類を滅亡に追い込んだ原因だと仮定してようです」

 

「じゃあどうするのさ?」

 

「レイシフトです」

 

「レイシフト?……ああ、何かの実験にさっきまで参加してた気が」

 

「霊子ダイブですね、それによって過去に人を派遣することが可能です」

 

「へぇ〜……いつの間にかタイムトラベルが出来るようになったんだなぁ」

 

「そうですね」

 

ここは普通、人類が滅亡するだって!?

などと驚く物だと思う、だが実際に人類が滅亡すると聞かされてもまず誰も驚かない。

大体はへぇーと適当に流すか、それで?と何となく聞き返したり等、あまり本気にしない。

 

「……でも、過去に遡って解決できる物なの?」

 

「……そういえば先輩は一般人でしたね。

2004年のその地方都市では聖杯戦争は開かれたと言われてます」

 

「そのさっきも出てた聖杯って何なの?」

 

「……先輩は無神論者ですか?」

 

「えっ宗教的な物なの?」

 

「えっと……先輩は聖杯伝説というものを聞いたことは?」

 

「ああ、何でも夢が叶うっていうやつのこと?」

 

「ええそれです」

 

「……待って、聖杯戦争の聖杯ってまさか」

 

「はい、万物の願いを叶えるという夢のような物、奇跡をまさに表した物です」

 

「……何かスゴいことになって来たなぁ」

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

西暦2015年

 

ここカルデアでとある物語が始まる。

 

それは誰もが体験し体現できるような代物ではなく

 

いつの間にか英雄伝や戦争といったものに価値が無くなった時代

 

だがここでは価値あるものとして、過去の逸話を残した偉人たちに並ぶ

 

そして主人公となる物語

 

 

 

 

 

人理焼却に抗う余りにも未熟な少年と少女が時代を旅する物語

 

 

 

そして

 

 

 

「……そういえば葉巻は吸えるか?」

 

 

 

英雄の座に着いた一匹の蛇との物語

 

 

 




どうも、作者のdaaaperと言うものです。

……未だに大規模作戦が終わってないのに書いてしまった……

しかも《炎上都市冬木》まで書いてしまった……


……とりあえず、参考までにご報告を。

私は今年、受験を控えてしまった私は著しく執筆時間が削られてしまったため
4月からは全く執筆が出来なくなる可能性が極めてあります。

別作品でも報告させてもらったのですが、来年まで執筆活動を休むことにしました。
ただ、この作品は勢いとノリで一気に書き上げたものになっております。
また、FATE作品を私は網羅している訳ではありません。

ご意見・ご感想がありましたら感想欄にておしえていただけると作者自身の参考にも励みにもなりますので
書いていただけると嬉しいですm(_ _)m




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炎上汚染都市冬木:1

予想以上にお気に入り登録をしてくれるの方が多くて嬉しい作者です。
感想も1日足らずで4件も来るとは………

あと3話ほどは完成してるので、土日を挟んで投稿します。







「……ぁ、せん……ぱ………ぃ?」

 

『………………………………………』

 

「……ぁあやだぁ……死にたく……ない…………!」

 

『…………………!』

 

「っ!!」

 

 

あたりが燃えている

 

否、あたりが崩れ落ち、破壊され、燃えているといった方が正しい

 

 

人類を救うために集められたマスター適正者達は、人類を救うために2004年の地方都市冬木へレイシフトする…………ハズだった。

レイシフトのために各人専用の霊子筐体(クラインコフィン)というポッドに入った彼らはレイシフトによる人間シェイクを体験することなく体をシェイクされた。

 

具体的にはポッドの中が爆発し彼らの中身が混ざった

 

それと同時にカルデアの命とも言える発電区画、そしてレイシフトに備えていたカルデアのスタッフが一同に集まっていた中央管理室がまとめて吹っ飛んだ。

それによって何かが倒れてきた。

結果、レイシフトには直接参加する訳ではなかったマシュは爆発によって体も意識も飛ばされた後に潰された

奇跡的にも、その綺麗な顔と上半身だけは圧迫を免れたがそれは余りにも無価値で、命が尽きるのは誰の目にも明らかだった。

 

彼女が目を開けると、今回のレイシフトには参加しないハズの少年の姿があった。

恐らく自室から急いでかけて来たのだろう、大量の汗をかいていた。

 

 

いや、彼はとっくに力尽きていた

 

 

あたり一帯は炎に包まれている、すでに生存者など無く救助する対象など居ない。

 

……いや、彼女がいた

 

だが彼女の下半身は人が動かすには大きすぎる瓦礫によって挟まれ、マッシュされていた。

 

それでも彼女はまだ生きていた。

 

必死になって瓦礫を動かそうとした少年の手は傷だらけだった

 

だがひ弱な人間、ましてやこれと言って特徴のない一般人

 

彼に瓦礫を1人で退ける方法など持ち合わせて居なかった

 

かくして

 

 

 

《プログラムスタート、量子変換を開始します》

 

 

 

《レイシフト開始まで、3・2・1・・・・・全行程クリア、ファーストオーダー、開始します》

 

 

 

 

 

 

 

彼らはその場から焼却された

 

 

 

 

 

 

 

 

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……何だ、何かあったか?

 

 

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核か?

 

 

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……そんなこと出来るのか?

 

 

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出来るのか……ならあんたが止めれば良いんじゃないか?

 

 

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介入できない?

待て待て、なら実行犯はお前の邪魔が出来るって言うのか?

 

 

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そうか……で、俺にどうしろと?

 

 

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ぁあわかったわかった、早い話、要するにマスターと共に敵を倒せと。

 

 

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了解した、なら・・・って待て、俺はどうやってマスターとか言う奴の所に行けば良い?

 

 

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契約するのか……まぁ俺は上より下の方が性に合ってるしな、面倒事は勘弁だ。

 

 

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いや、俺がいつも面倒だと思うのはどちらかと言うと後始末の方でな……

 

 

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うるさい、とりあえずマスターと契約すれば良いんだな?

 

 

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向こうから呼びかけてからだと?

……まあ考えてみれば死んだ人間を呼び出すのに儀式のような物をするに決まっているか。

 

 

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その時、ある程度弱体化するのか。

まあ俺は接近戦さえ出来ればどうにかなるが……アサシン?勘弁してくれ、俺は殺し屋じゃ無い。

……そうなったらなったでどうにかするがな

 

 

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とりあえずは了承した、それに他の連中も参加するみたいだな。

誰なのかはさっぱりだが……まず俺がマスターの元に行けるかもこれだけいると怪しいがな。

だが準備しない訳にもいかんだろう、まずは戦略だけでも練っておくか。

 

 

……………………………………………………………………………………………………………………………

……………………………………………………………………………………………………………………………

 

 

わかった、黙っていよう。

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 

「………ぁ……………!?」

 

少し寝ていたのだろうか、目を覚ます

 

同時に意識が覚醒する

 

意識を失ってはいたものの、少年……立香は寝ていたと一瞬勘違いする程度の意識消失。

体に痛みは無く怪我はしている感じはしない。

ただ頭がグラグラする……だがそれでも動くのに支障が全くない、五体満足の状態だった。

 

今はカルデア

 

……しかも爆発騒ぎで中央管理室に駆け込んだハズッ!?

 

そしてこの場が火災現場だと思い出しすぐに体を起こす

 

 

「……ここは……どこだ……!?」

 

 

だがそこは見た事もない場所

 

別に彼が記憶を消失している訳ではない

 

目の間には廃墟とかした都市……それも日本でよく見る様なビル群が崩れ落ち、燃えている

 

しかもそれが見渡す限り、全体に広がっていた

 

本当にここは一体どこだろうか?

 

どこでも見かける横断歩道に交差点、そして信号機

 

だが信号機は一切動くことなく、点灯することなく、黒いまま

 

そのまま空を見上げるとその空までもが黒かった

 

いや、どこか赤みがかっていて天候が悪くなりそうで……見ている自分の気分が悪くなってきた

 

空を見るのを切り上げて辺りを再び見ていると……骨があった

 

「ガイコツ……!?」

 

当然、道端に骨が落ちていれば驚く

 

それがほぼ人骨として骨格がほぼ完璧な状態で残っていれば余計に驚く

 

それが突如としてスッと立ち、ゆっくりと歩いて来たら……大体パニックになる

 

「……………………」

 

だが立香はどうやらストレス耐性が強いタイプらしい

 

パニックも一種のストレス回避方法だが、同時にそれは場所によっては生命を危機に落としいれる

 

多くの人は危機的状況のストレスからパニックに陥り死に至るが、彼はストレスのお陰で極めて冷静になれた

 

「……とりあえず、逃げよう」

 

そして事前に有能な後輩から聞いた魔術の話

 

それから察するにあれは何らかの怪異……バケモノ

 

であれば自分が倒せる様な代物では無い

 

「……ん?」

 

すると先ほどまで見上げていた空から一筋の赤い光が飛び出した

 

その光の先は特に赤く光っている

 

やがてその光はこちらに向かって来て…………

 

「おいおい……冗談だろ……!?」

 

一直線に向かって来た

 

どうしようも無いが一般人である彼に回避方法など無い

 

そのまま光が全身に突き刺さる

 

 

「……………………?」

 

 

かと思われたが

 

 

何かが赤い光を防いでいる

 

 

・・・違う、盾を持っている人が自分を守ってくれている

 

 

その盾を持つ者は随分な薄着とは裏腹に、その身長より大きい盾を支えていた

 

 

その髪は薄いピンクのショートカットで……

 

 

「マシュ!?」

 

「はい、ですが詳しい話は後です、先輩は今は伏せていて下さい」

 

「う……うん」

 

突如、薄着でメガネを外しとても大きい盾を支えて現れた後輩に驚きながらも、それ以上に先ほどから天から降り注いで来る赤い光のせいで動くこともままならない。

何よりマシュの盾から離れれば簡単に死んでしまうこと位は想像できた。

 

女の子の後ろに隠れるという男としては屈辱的な状況だったが、背に腹は変えられず。

この場を凌ぐために後輩の背中を立香は見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず撤退したみたいですね……」

 

「マシュ……その格好は一体……」

 

「あっ……これは……その……っ!?」

 

 

きゃああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

 

 

「今の声は!?」

 

「マスター、指示を!」

 

「うん、わかっ……マスター?」

 

「ええ、そうです、先輩だけが唯一マスター適正者としてレイシフトしたんです。

ですから私は先輩のサーヴァントとしてここに居ます、私たちでこの状況を、人類の絶滅の原因を解決します」

 

「……なんかまだよくわかんないけど、とりあえず声がした方に行こう、とにかく情報収集だ」

 

「了解ですマスター。

さっきの声から察するにだいぶ危機的状況なはずです、距離も近そうですから急ぎましょう」

 

そう言って盾を担ぎながら走るマシュ。

その後ろを追う立香だが、重い荷物となってるであろう盾を持っているマシュの方が圧倒的に早かった。

 

「……こりゃ、鍛えなくちゃいけないなぁ……」

 

人類の危機というピンチにも関わらず、彼は主人公らしく随分と呑気なことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁああもうっ!何で私ばっかりこうなるのよ!!」

 

そう言いながら射撃のような魔術によって骸骨の敵を倒す女性。

白髪のロングヘアーのカルデアの所長……オルガマリー・アースミレイト・アニムスフィア

 

彼女は現在、絶対絶命のピンチに陥っている。

何せどこぞの一般人とは違い、敵に対する対抗手段はあるものの数が多すぎる、何せ20や30はいる。

 

射撃は距離を保ちつつ攻撃するには一番効率よく、かつ安全な手段だが、多くの敵を相手取るには不向きだ。

それこそフルオート射撃が可能な現代のライフルなら可能かもしれないが、所詮魔術による射撃。

速射はできても連射することは、少なくとも彼女には出来なかった。

 

そのため、走って逃げつつ近い敵を倒す引き撃ちしか彼女には方法が無い。

……が、彼女の靴はヒールだった

 

「ああぁ!!」

 

ヒールでマラソンなど、いくら魔術師でも、むしろ肉体的鍛錬をしていない魔術師ではキツい。

走って逃げるまでは良かったが、彼女はあまりにも体が弱かった。

 

「……もうっ!誰か助けてよ!!」

 

そしてメンタルも脆かった。

人間、パニックに落ちれば危機的状況に陥る、そしてブレる。

 

 

心情も、

 

表情も、

 

標準も、

 

 

飛びかかって来た骸骨に座りこみながらも射撃する……が全弾が微妙に標的にズレていた

 

「嘘でしょ!?」

 

そして骸骨の得物が彼女を切り裂く

 

……かと思ったが、何かが彼女に振り下ろされた刃物を防いだ

 

「……マシュ!?」

 

立香より早く走れるサーヴァントとなった、マシュだった。

マシュは自分より大きかもしれない盾を担ぎ、ふりまわしながら周囲にいた敵を言葉通り薙ぎ倒していた。

 

「大丈夫ですか……って所長!?」

 

「あなた一般人枠の……っ何でここに!?」

 

「詳しくはわかりませんが詳しい話は後ですっ!ここから逃げますよ!!」

 

「っあんたに言われなくてもわかってる!」

 

「マシュ!一通り片付けたら逃げる!追加で敵が来るかもしれないから早めに!!」

 

「了解しましたマスター!」

 

マスターである立香に答え、マシュは盾でありながら骸骨達を粉砕していった。

その間に一般人はさっさとこの場から立ち去る、ヒールを履いていて少し足が痛かったオルガマリーも素直に走って逃げた、それが今は一番だということ位は貴族である彼女も理解していた。

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

「……で、あなたはデミサーヴァントになってよりにもよって一般人である彼をマスターに仕立てたのね」

 

「はい、それ以外に私や先輩が生き残る方法はありませんでした」

 

「それに関しては今は良いわ、戦力は多いほうが良いですもの……それよりロマ二、そっちの状況は?」

 

《カルデアの施設の8割が消耗、破損、職員も犠牲になりました。

47人のマスター達は危篤状態、幸い死には至っていませんが全員を回復する術はありません。

先ほど所長の許可を得られたので緊急凍結で保存しました、補給さえ得られれば回復できるかと》

 

「そう……これならまだ弁明はできるわね……レフは?」

 

《レフ教授は……爆発の中心に居ましたので……》

 

「…………今は私がどうにかしないといけない訳ね。

気にくわないけどロマ二・アーキマン、あなたにしばらくカルデアを任せるわ、復旧作業と補給は頼んだわよ」

 

 

粗方の敵を倒し、落ちついた所でカルデアからの通信が入った。

どうやら魔術と科学の融合で、過去に遡っていても現代と通信することは可能らしい。

 

だが、事態はそれどころじゃ無かったらしい

 

通信相手であるロマ二・アーキマンは立香の部屋で仕事をサボる常習犯だが、そんな彼は一介の医師。

カルデア医療部門のトップではあるものの、カルデアは別に白い巨塔では無い。

はっきり言ってマスター適正のある魔術師達の方が偉そうで、実際偉かったりした。

 

 

そんな彼が指揮を執る必要に迫られていた。

 

 

状況はそれだけ悪かった。

現在わかってることを簡単にまとめると

 

・マスター適正も無く、レイシフトも出来なかったオルガマリーが何故かレイシフトし冬木にいる事。

・副所長にも等しいレフ教授は即死したと思われたが現時点ではまだ行方不明。

・他の部門のトップはすでに死亡が確認され、多くの職員も犠牲になっており、動けるのは20名程度

・マスター適正者は48名中47名が瀕死・危篤状態(なお、凍結保存により今は命に問題無し)

・現段階では施設の通信手段までやられたため救援を得るのはすぐには不可能。

 

あまりにも損害が多すぎた。

 

しかし、カルデア所長でありアニムスフィア家の当主でもあるオルガマリーからすれば一族の名に泥を塗り、さらにカルデアそのものが奪われる恐れがあった。

それは彼女には屈辱以外の何物でも無く、何らかの成果だけでも挙げなければいけない状況だった。

 

 

「……では、これより藤丸 立香とマシュ・キリエライト両名を探索員として特異点Fの探索を開始します」

 

《わかりました、検討を祈ります》

 

「……どうせSOS送ってもあなたは何も出来ないでしょっ」

 

《それはそうですけど……》

 

そう言っても何も出来ないのは事実。

無線を切り盛大にため息を吐くことしかロマ二もオルガマリーも出来なかった。

 

「所長、大丈夫ですか?」

 

「……これが大丈夫に見える?」

 

「いえ、ですがこの特異点を調査しなければなりません。

それが人類継続保証機関カルデアの使命だと私は思います……違いますか?」

 

「……あなたに言われると随分と突き刺さるわね。

わかってるわ、とりあえずこの特異点を解決してさっさとカルデアに帰らなきゃいけない訳ね。

何もせずに帰るなんて選択肢は私たちには無いわ、当分救援も来ないでしょうしね」

 

「救助は来ない……俺たちだけでどうにかしなきゃいけないんですね」

 

「一般人がなに一人前みたいなこと言ってるのよ!!」

 

「ええ!?」

 

「じゃあ聞くけど、あなたはこの特異点の解決法は何かわかるのかしら!」

 

「えっ?……えっと、確か聖杯戦争とかいう聖杯を巡る儀式がここで行われてて、そんな魔術をよく知らない俺が聞いてもビックリするような代物が何らかの鍵なんじゃないかと思う……思います!」

 

 

「……………………………………………………よろしい」

 

 

全くよろしくなかった。

“どうよ、庶民のあんたより私のほうが(ry”

とここで自信をつけて、所長や魔術師としての威厳を見せつけようとしていた。

ついでに言えば、彼女の無意識下では誰かに何かしらの形で褒めてもらうだとか上に見られたいという欲求が彼女の行動や言動に影響を与える程度にその欲求は強かった。

 

それがフルスイングで弾かれた

 

もっともそれは優秀過ぎる後輩サーヴァント(その時はサーヴァントでは無かったが)が彼に懐いていたことと、それを彼女は全く把握していなかった事にあるがそれを知らない彼女は勝手に悶えていた。

 

 

〔ちょっと!?何で一般人で平民のこいつから聖杯なんて言葉が出るのよ!!

まるで私が格好つけようとして「あっそれ知ってます」って素っ気なく返されたみたいじゃない!!

このままじゃダメだわ……アニムスフィア家の当主として面目がつかないわ……!〕

 

 

実際には家の面目どころか立香からすればオルガマリーの事を単純に偉い人と認識しているため、むしろ彼女の目の前で寝た前科もあり足を引っ張っていないと少し安心していた。

そして、マシュに至っては自分の知識がマスターの役に立ったと喜んでいる。

 

 

PRRRRRR!PRRRRRR!PRRRRRR!

 

 

そこに再び通信が入る。

恐らくDr.ロマンこと、ロマ二からの通信だろうが先の通信から五分も経っていないにも関わらず再び通信が入ったことを不思議にも思わず、勝手に赤っ恥をかいたと思っていたオルガマリーはすぐに応答した。

 

「何よしつこいわね!」

 

 

《すぐにそこから離れて下さい!早く!!》

 

 

「何事よ!?」

 

「っ敵影反応!……サーヴァントですっ!!」

 

「マシュ、敵の距離は?」

 

その情報に青ざめたオルガマリーだったが、それより早く立香が対応に動く。

名前からもわかる通り藤丸 立香は日本人、そしてそれなりにゲームを嗜んでいた。

RPG・アクション・戦略シュミレーション・パズル、あらゆるジャンルのゲームはプレーした。

 

そして何事にもまずは正確な情報が大事だというのも頭では理解していた。

未だに明確な死を実感していないことも相まって、とりあえず素人にしては及第点は取れる指揮を執った。

 

「まだ距離はありますが……すでに捕捉されているみたいです、接敵まで3分ほどかと」

 

「敵の強さは……わかんないね、とりあえず逃げに徹した方がいい感じかな」

 

《……何だか所長より頼もしく感じるけど立香くん、逃げるアテはあるのかい?》

 

「………どうにかなるんじゃ無いですかね?」

 

そして素人らしくどこから来るのかわからない自信もあった。

これには通信先のロマニやオルガマリーは呆れた。

 

「どうにかなる訳無いでしょ!!あぁぁ……こんな時にレフがいてくれたら良いのに……!」

 

「どうします先輩、時間はありませんよ」

 

「うーん……せめてマシュ以外にもサーヴァントが居れば……」

 

 

「「「それだ(です)!!」」

 

 

「ええ!?」

 

《立香くん、すぐにマシュの盾を地面に置くんだ!幸い霊脈は所長の足元だ!!》

 

「えっ、ぁあマシュ!」

 

「ハイ先輩!」

 

「それでどうするんです!?」

 

《所長確か聖晶石持ってましたよね!?それを——》

 

「わかってるわよ!!」

 

青ざめた顔や見栄や他諸々をどこかに捨てたらしい所長は随分と輝いた石を立香の手に握らせる

 

《・・・OK、英霊召喚システムともリンクしてる!

これで英霊召喚が可能になった、あとはマスターが……立香くんがその石をマシュの盾に入れれば君に応えてくれる英霊が君に力を貸してくれるはずだ!》

 

「先輩、早く召喚を!」

 

「そうよ!敵が来る前に早く!!」

 

「待ってマシュ!敵はまだ遠いの?」

 

「……いえ、もうすぐ側まで来てます」

 

「ドクターロマン、召喚にはどれ位時間がかかるの?」

 

《わからない……けど1分もかからない……と思う!》

 

「時間はギリギリか……マシュ、盾無しでは戦えない……よね?」

 

「っいえ!マスターのためなら——」

 

「無茶よ!今のあなたはデミサーヴァントになったばかり、聖杯戦争で召喚された英霊と武器なしで戦える訳が無いわ!」

 

「私は短剣も装備してます!無茶じゃありません!」

 

「無茶よ!!」

 

「所長!それにマシュも落ち着いて!マシュは短剣で敵と戦えるの!?戦えないの!?」

 

「戦えます!!」

 

「ちょっと!」

 

「所長は射撃が出来ましたよね!?」

 

「それが何!?」

 

「ならマシュと一緒に敵を足止めして下さい!!」

 

「はあ!?私に戦えって言うの!!?」

 

「それ以外に俺たちが出来る方法は無いでしょう!!

それともこのまま召喚する前に敵に殺されるかマシュが倒された後に殺されますか!?」

 

「っそれは………!」

 

「女性2人を囮に使うのは男として最低だけど今はそれしか無いんです!!」

 

「・・・っああもうわかったわよ!!

マシュ!私は支援攻撃と簡単な回復くらいしか出来ないわ!しっかり私を守りなさい!?」

 

「わかりました!」

 

「あくまで時間稼ぎだけで良いです!2人とも無理しないで!!」

 

「ぁああもう!!何で私だけこんな目に合うのよぉ!!」

 

 

マシュは敵を感知した方へ、時間稼ぎのために走った

 

その走った方向へやけくそになりながらも必死に付いて走るオルガマリー

 

一人残り、彼女たちのために、この特異点を解決するために英霊を召喚する立香

 

とにかく今はこの場を乗り切るために特異点に送られた3人は初めて3人で力を合わせていた

 

 

 

 

だが・・・・・・1つ目の交差点を右に曲がった瞬間、敵はもう居た

 

 

 

「あらぁ随分と初々しい、新鮮な獲物がいたわねぇ?」

 

 

「「……………」」

 

 

「あらぁ、あなた宝具が無いみたいだけど大丈夫かしら?

私は無抵抗のお人形をなぶり殺す趣味は無いのだけれど…………まあ可愛がれるから良いかしらね?」

 

「所長、下がっていて下さい」

 

「マシュ、行ける?」

 

「問題ありません……私はサーヴァントです!先輩や所長を守るためなら戦えます!!」

 

「……そう、なら遠慮なく殺らせてもらうわよ?」

 

時間稼ぎはそう長くは持たないとオルガマリーは余裕が無いながらも察していた

 

何せ彼女・・・マシュの足は小刻みに震えていた

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

「早くしてくれよ……!」

 

一方、1人残された立香は焦りながらも英霊の召喚を待っていた。

 

《システムフェイトが起動した!あとは召喚を待つだけだ!!》

 

ロマ二からの通信が入る

 

だがその直後、近くから派手な音と射撃音が聞こえた

 

どうやら思っていた以上に接近されていたらしい

 

時間稼ぎが無かったら対抗手段の無いこちらはまとめて倒されていただろう

 

 

英霊召喚が始まった

 

 

聖晶石を吸収した盾を媒介にカルデアにある英霊召喚システム・フェイトが動き出す

 

 

聖晶石が光り出しマスターである立香ごと周辺を照らす

 

 

やがて光は1つに収束し天に突き刺さるように伸びていった

 

 

そこから光は再び強くなり、光の帯となっていく

 

 

「早く……早く来いよ……!」

 

 

目を閉じ手を合わせ、すぐに終わるよう願う立香

 

 

そのせいでサーヴァントのクラスを見る事が出来なかった

 

 

そして光によって目が潰されることも無かった

 

 

神々しい光は集束し……いつの間にか消えていた

 

 

「……終わったのか?」

 

 

通信に反応は無い

 

 

英霊召喚の影響で通信が上手く出来ないのかもしれない

 

 

 

 

 

「……ほう、どうやら俺は一番乗りみたいだな」

 

 

 

 

 

そして耳にした

 

 

 

「……体に異常は無いな、これならまぁ、どうにかなるだろう」

 

 

 

声は渋い

 

 

高い声でも無い

 

 

美しい訳でも無い

 

 

いたって普通の男の声

 

 

 

「……おい坊主」

 

 

 

それなのに

 

 

 

聞き入ってしまう様な声

 

 

 

「おい坊主」

 

 

 

全く知らないのに……信頼出来る頼もしさを感じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……念のために聞くが……お前が俺のマスターか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その問いに目を開けて

 

 

 

 

 

初めて少年はその男を……英雄をみた

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

「あらあらぁ、宝具も無しで勝てるんじゃ無いの?彼女を守るのでしょう?

なら私の槍くらい捌ききれないでどうするのかしらっ!」

 

「ッ!!」

 

「マシュ下がって!」

 

オルガマリーの攻撃は決してサーヴァントを仕留める事は無い。

それでも注意をマシュから逸らし、マシュが切り込む空きくらいは与えていた。

 

 

だが相手はサーヴァント、しかも聖杯戦争で戦い慣れた敵

 

 

マシュはデミサーヴァント、ましてや戦いの経験など今まで一度も無く今は扱う盾も無い。

さらに支援しているのはマスターですら無い魔術師、同じ様に戦闘経験などほとんど無い。

その状況で連携などまともに出来るわけも無く、どちらかが相手の気を逸らすのが精一杯。

 

マシュが必死になって敵を引きつけ、オルガマリーは牽制する“以外に”2人で出来る事など無かった。

 

その程度戦い慣れている人間なら誰でもわかる、ましてやサーヴァントなら一度の立ち回りで大方予想つく。

実際、2人が相手しているサーヴァントも1度目の攻撃で2人が即席のコンビだと見抜いた。

だが一度だけ、たった一度魔術師の攻撃が大した物では無いとわかり攻撃を受けたところ、一瞬だけ怯んだ。

その隙に短剣持ちのサーヴァントに吹っ飛ばされた。

 

咄嗟に短剣だけは防いだがそれ以降は手加減するのを辞め、徹底的にサーヴァントの方を狙った。

魔術師の攻撃も一瞬怯むだけで大したダメージは無い、怯んだところにサーヴァントが突っ込んで来てもカウンターで返せる様に槍を構えた。

 

その結果、マシュとオルガマリーは防戦一方の戦いから完全な逃走に移行していた。

 

「マシュ、怪我は無い?」

 

「はい、ですが長続きするとは……せめて盾があればっ!」

 

「喋っている暇はあるのかしらっ!」

 

そう言って一直線に槍をマシュに突き刺す

 

対してその槍先からひたすら距離をとるマシュ

 

「なかなかの動きだけど……」

 

ひたすら回避に回っていたマシュ

 

 

その選択肢は間違っていなかった

 

 

 

 

 

「残念ね、あなた弱いわ」

 

 

 

 

 

 

回避方法がランダムだと思っていても無意識にパターン化していなければ

 

 

 

 

 

「………え?」

 

 

 

 

 

決着は突然訪れる

 

 

 

槍を避けたと思った瞬間、すでに目の前に槍が当てがわれていた

 

 

「マシュ!!」

 

 

オルガマリーが術式を展開し構える・・・があまりにも遅かった

 

 

今から撃っても確実にマシュの頭を槍が貫いている

 

 

この光弾が敵に当たっても一瞬だけ怯むだけで今度は自分が貫かれる

 

 

 

 

だが撃たないという選択肢は無かった

 

 

 

 

発砲

 

 

 

 

だがそれよりも早く

 

 

 

 

 

マシュの頭は

 

 

 

 

 

 

 

 

槍によって・・・・・・貫かれず、相手はマシュから退いた

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ一体なに者!?」

 

 

「なっ何?」

 

「わかりません……いきなり敵サーヴァントがこちらを見てますが……」

 

「マシュ!」

 

「マスター!?」

 

息を切らしながらもマシュの盾を担いで来た立香がその視線の先からやって来た。

 

「……そう、どうやらあなた、中々腕の良いマスターの様ねぇ?」

 

「ッマスターはやらせません!」

 

敵サーヴァントの狙いが自分たちから交差点から現れたマスターに変わったのを受け、マシュがサーヴァントとして立香のカバーに入る、もちろんオルガマリーも共に。

 

「ちょっと!?あんた——」

 

「黙って下さい所長、すでに事態は動いてますから」

 

「っあんたね——」

 

「マシュ、悪いけどあの槍の攻撃を弾くだけに専念して」

 

「わかりましたマスター」

 

「お喋りは……終わったかしらね!」

 

10m以上はあった距離が一気に縮まり目の前に槍が再びマシュの前に構えられる

 

だが今はサーヴァントとしての武器がマシュにはあった

 

その突きを盾をもって弾く

 

この盾は単なる攻撃程度で壊れるほど柔な物では無いとマシュは直感的に感じていた

 

二撃・三撃と繰り返し、向こうが大振りの横薙ぎを繰り出す

 

 

 

その大振りをあえて盾を直接動かし側面で槍を止める

 

 

 

「しまっ……!?」

 

 

 

 

そして見事に空いた敵の真正面に盾ごと突っ込むマシュ

 

サーヴァント化した彼女の筋力と盾の質量から産み出される純粋な物理エネルギー

 

それは敵サーヴァントを吹っ飛ばすには十分だった

 

 

 

「私だって……サーヴァントです!」

 

 

 

必死に逃げている間、観察していたのは彼女も同じだ

 

そして付け足すなら彼女が時間稼ぎのために短剣だけで挑んだ行為が敵の油断を誘引していた

 

所詮、盾が加わった所で……という思考が強固な盾持ちに対して大振りを振るうという悪手をやらかした

 

 

 

「……初々しすぎるのも癪に触るわね」

 

 

 

だが所詮、先ほどまで少女だった体での攻撃

 

ましてやデミサーヴァントになったばかりの彼女のスマッシュは完璧ではなかった

 

あくまで相手を弾き飛ばしただけ

 

相手に致命的なダメージを与える訳でも、相手の体勢を崩した訳でも無かった

 

敵サーヴァントは飛ばされながらも体勢を立て直し大したダメージを受けることなく着地した

 

 

 

 

 

「それなら……まとめて相手にしてあげる!」

 

 

 

 

 

 

「っ下がってください!」

 

「何だこれ!?」

 

「触っちゃダメよ!」

 

敵サーヴァントが髪をかき上げた瞬間、その髪が鎖となって空中を飛ぶ

 

その鎖はまるで“蛇”の様に動き3人の周りを取り囲んだ

 

 

 

「さあ、狩場は整いました……これであなたたちは私のもの……!」

 

 

 

逃げ場は無し

 

四方は相手の思い通りに動く鎖

 

盾は一方向からの攻撃しか防げない

 

 

 

「まとめて私の髪で絡め取って上げましょう……!」

 

 

 

こうなればもう向こうの思うがまま

 

鎖の上で余裕で笑みを浮かべられても3人にはもう有効な攻撃手段も脱出手段もなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「狩りは隠れながら行うものだ、素人が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間

 

 

 

 

 

敵の心臓……霊核……を貫く様に1発の弾丸が貫通した

 

 

 

 

 

 

「ガァッ……!?」

 

 

 

 

 

 

サーヴァントとはいえ首と心臓が急所であることに変わりはない

 

 

1発の弾丸でも頭や心臓部にある霊核を貫けばほぼ無力化されてしまう

 

 

だが地面に崩れ落ちたサーヴァントの霊核の大半が傷つけられただけで消滅には至っていない

 

 

 

 

 

「さっさと仕留めなかったお前が悪かったな」

 

 

 

 

 

1発の発砲

 

 

今度こそ弾丸は僅かに残された心臓部を完全に破壊した

 

 

 

 

 

 

 

「出直してこい、それと2度と戻ってくるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

そのまま敵サーヴァントは何も話すことなく光の粒子となって消えていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうやら倒したみたいです」

 

「って今のは狙撃でしょ!?」

 

「あっいえ今のは——」

 

「とりあえずは乗り切ったみたいだな、坊主」

 

『!?』

 

突然背後から渋い声。

振り返ってみると立香より背が大きい髭を生やし、片方に眼帯を掛けた男が立っていた。

 

「……あの、助けて貰ったのは凄く助かりましたけど……さすがに背後から来られるとビビります」

 

「そうか?……まあそこのお二人さんはそうか」

 

「ちょっふぁっぁあ!?」

 

「……さすがにこれは無いと思うが」

 

一難去ってまた一難、再び敵襲かと勘違いした彼女は

「ちょっと誰!?」と「ふぁああ!?」と「ぁあああああああ!!」が同時に出た。

……3つのうち後者2つは特に意味は無い。

 

「えっと……先輩の召喚した英霊でしょうか?」

 

「ああそうだ……そう言えば名乗ってなかったな」

 

そして何だかんだ優秀なマシュは冷静にその男に尋ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の召喚に応じてやって来たスネークだ、色々と新参者でな、よろしく頼むぞ、嬢さん達」

 

 

 

 

 

 

 




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炎上汚染都市冬木:2

作者です……

朝の10時から1時間半かけて左下の親知らずを抜いた作者です……

もう痛みと薬と消毒液で口がカオスです

何より……怖かった

だって終いには院長先生がわざわざ出てきたんですよ!?
いやもう……ヤダァ……まだ3本も残ってんのぉ……ヤダァ!

そんな訳で皆さん歯はお大事に(本当に)

※今日は長めです、時間があるときにお読み下さいm(_ _)m



「……スネークさん、ですか……?」

 

「ん、どうした?」

 

名乗り上げたその名前を妙に不思議がって……いや、どこか冗談めいて呟くマシュ。

その反応に不自然さを感じたスネークが聞き返す。

その問いに随分と言いにくそうな顔をした後、彼女は顔をこちらへわざわざ向けて話してきた。

 

「……あの、失礼を承知でお聞きしますがそれが真名……ですか?」

 

「……名前なんてどうでも良いだろう、それに俺は生前本来の名前で呼ばれた事なんざほとんど無かった。

それに俺自身もスネークと名乗っていた、まあ捨てた名でもあるが俺はスネークだ……ダメか?」

 

「あっいえ、ただその……まさか蛇と名乗られるとは思わなかったので」

 

「……今までそんな風に言われたことは一度も無かったな、それが普通の反応か」

 

「とりあえず、先ほどは助けて頂きありがとうございました」

 

「気にするな、敵を倒すのは当然だ、そうだろう?」

 

「そうですね」

 

「…………ついでにお前も出てこい、出なければ敵と見なすぞ」

 

「えっ?」

 

「何の事です?」

 

「気づいて無かったのか?……俺がここに召喚された時から俺たちを見ていた奴が居る」

 

「おっバレてたか?」

 

「……もともと他所からの視線には敏感でな、もっとも関心は俺よりこの娘のように感じたが」

 

「わかったわかった、正直に出てくるから勘弁してくれ」

 

そんな声が聞こえると4人の背後から両手を広げて現れた1人の男。

身長はスネークより高め、髪が青く、手にはその身長よりも長い杖、そして装飾品が多い。

話しやすい雰囲気はある……がまとっている雰囲気からは強さも感じた。

 

「まず先に言っておくが俺はあんたらとやり合う積もりは俺には無い。

それにいくらそこの嬢ちゃんが弱くても流石に2対1は今の俺にはキツイしな」

 

「それならまずは落ち着いた場所が欲しいな、流石に立ち話は俺は良くてもこいつらが可哀想だ」

 

「それもそうか、なら俺に着いてきてくれ、少し隠れるにはちょうどいい場所を知っている」

 

「だそうだが、マスター」

 

「えっぁ……はいお願いします」

 

「……こんなマスターで大丈夫かよ、おい」

 

「まぁ・・・どうにかなるだろう」

 

「へっどうせ俺には関係ねえしな、なら付いて来な」

 

流れに沿う形であっさりと返答したマスターに2人は若干呆れたが、お互いすでに敵では無いと直感していたために大して問題にはしなかった。

もっともスネークの方はどうやら楽は出来そうに無いとも直感的に思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……先輩?」

 

「ちょっと!待ちなさいよ!!」

 

ちなみに女性陣2人は若干蚊帳の外に放って置かれていた

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、10数分ほど歩くと青髪の男が言う隠れるのにちょうどいい場所……学校に着いた。

オルガマリーは最初の方は何やら騒いでいたがその道中、陥没した道があり青髪の男が

 

 

「ほら手を貸してやるよ」

 

「良いわよ別にっ」

 

「頑固なだけじゃモテないぜ、お嬢さんよっと」

 

「きゃっ!」

 

「…………なあ」

 

「なっ何よ……///」

 

「……お前さん、思ってたより重いな」

 

「・・・・・・はあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

『…………………………………………………』

 

 

という一幕があり、オルガマリーは口をそれ以来閉じた。

ついでにそんな女性の敵とも言える発言を行ったサーヴァントは3対1の状況に「フォウ!」

……3人と1匹 対1に追い込まれた。

 

そんな一幕がありながらも一行はとりあえずの休息を得る運びとなった。

 

 

「……なぁ、彼女は本当に重かったのか?」

 

「ぁあ?そうだが……」

 

「そうか……」

 

「?」

 

その後立香やマシュがオルガマリーのフォローに走る中、スネークはキャスターにそんな事を聞いていたが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと……まずは改めて、先ほどは助けて頂きありがとうございました」

 

「気にするな、さっきそこの嬢さんにお礼を言われて十分だ、それに坊主はマスターだろう?

それならお前は頭をわざわざ下げる必要も無いだろうに」

 

「いや、助けてもらって何も言わないのはどうかと……」

 

「……確かにな」

 

とりあえず一息つける場所についた一行は、まずマスターである立香のお礼参りで始まった。

もちろん物騒な物ではなく、普通に感謝の言葉を言うものだった……がサーヴァントからしてみればマスターを守るのは当然であり、マスターからしてみれば守られるのも当たり前のハズだ。

だがこの一般採用枠のマスターはいたって普通の家庭環境で育ち幸運にも常識という物を心得ている人間であるため、命を助けられたというのに何も言わないなどありえないことだった。

 

「マスターは人間らしい人間ですから」

 

「みてぇだな」

 

「それと……そう言えばそちらのお名前は?」

 

「そういや名乗って無かったな……だが坊主覚えとけ、真名ってのはサーヴァントにとってテメェが思っている以上に重要なもんだ、気安く聞くもんじゃねえ」

 

「っすいません!」

 

「…………本当に素直な奴だな、本当にこいつマスターか?」

 

 

そしてキャスターからしてみればマスターがここまで素直なのはありえないことだった。

 

 

「少なくとも俺がここに召喚されて、ここに居られるのはこいつのお陰みたいだがな」

 

「いやっそうじゃねえ。

大体マスターっていうのはな、捻くれてたり随分と無茶振りかましてくるような奴だぜ?

少なくともサーヴァントに鎌かけられて自分の非を認めるような奴じゃねえよ……」

 

「……何だお前随分と……いや、聞かないでおこう」

 

「ああ助かるぜ……でだ、まぁ俺のことはキャスターと呼んでくれ、大体聖杯戦争じゃサーヴァントのクラスで呼び合うのが通例だしな」

 

「勉強になります」

 

「……本当にマスターか?」

 

「お前、何回そのセリフを言うつもりだ?」

 

《会話の途中失礼するけど、そろそろこちらとしては本題が聞きたいのですが》

 

「あぁ?なんだそっちの魔術による連絡手段か」

 

「いや、単なる無線だと思うが」

 

そんなマスターと聖杯戦争に慣れているらしいサーヴァントとの物の見方に若干どころかだいぶ差があったがとりあえず情報のやり取りをし始める。

 

 

 

「・・・やっぱりおかしいわよ!!」

 

 

 

……かと思われたが、唐突にスネークに向かって指を指して向かって来た女性によって止められた。

先ほどまで口を閉ざしていた女性とは思えない声の大きさだった……原因はスネークにもあったりするが。

 

「所長!?」

 

「マシュ、ここは止めないで、これは大事なことよ!」

 

「えっと……所長」

 

「何よ!」

 

「大事なことだとはわかりました、けど唐突に大声を出して人に指を指すのはどうかと俺は思います」

 

「………………………」

 

《正論だ……正論すぎて所長が黙った……!》

 

「……わかったわ、では改めてお聞きします」

 

「言い直しても手遅れだと思うがな、聴こう」

 

「っ余計なことを……!」

 

「所長、落ち着きましょう、気にしていたら何も進みません」

 

「んっんん……では改めて、ですがまず最初にキャスターの方に聞きます」

 

「ああん?……アレか、俺がお嬢さんの——」

 

「おい、とりあえず最後まで聞いてやれ」

 

「……わかったよ」

 

「……あなたはここで行われてた聖杯戦争の参加者ですね?」

 

「まあな、もっとも他の連中はありゃ脱落というか何というか……」

 

「どういう意味?」

 

「まあ途中までは聖杯戦争をしていた……だが、いつの間にか聖杯戦争からすり替わってた」

 

「すり替わってた?妨害が有ったとかじゃ無いのか?」

 

「ああ違う、突然この街からまず人が消えた、俺たちのマスターを含めてだ。

残ったのは何故か……まあサーヴァントだったからだったんだろうが聖杯戦争で召喚された7人だけだった。

そこから真っ先に戦いを再開したのはセイバーだったんだが……さっきのサーヴァントは見ただろ?」

 

「まあ俺は一瞬だったがな」

 

「私や所長は時間稼ぎのために戦ってましたからそれなりには見てましたけど……」

 

「私も見たわ、けどそれが?」

 

「あいつらはあんな見た目じゃ無かった、少なくともあんな黒いサーヴァントじゃ無かった」

 

「……じゃあサーヴァントが変質したとでも言うの?」

 

「恐らくな、最もセイバーに倒されたサーヴァントが、だが」

 

「そんな……そんなこと出来るわけが」

 

「いいや、聖杯そのものが汚染されてんだ」

 

「……それじゃ聖杯そのものが変質してるって言うの?」

 

「そのものが変質してるかはわからねぇ、ただそのお陰で聖杯戦争は黒くならなかった俺 対他のサーヴァントになってやがる」

 

「そいつは……面倒だな」

 

「だがあんたらが来る前に黒いライダーとアサシンは倒した、残る敵はセイバーとアーチャーの2人だけだ」

 

「待って、バーサーカーのサーヴァントは?」

 

「アレは放っておけば害は無いぜ、ただ……相手にしたくねぇってのもあるがな」

 

《今回の特異点は聖杯そのものが原因ってことで間違い無さそうだね》

 

「ああ、このわけがわからねえ状況は間違いなく聖杯そのものが原因だろうよ。

その聖杯をセイバーはわざわざ守ってやがる」

 

「場所はわかるのか?」

 

「ああわかるぜ、ただアーチャーの奴がその外周で守ってやがる。

そいつをどうにかしてからだ、俺もあいつとの決着は付けたいからな」

 

「場所がわかっているなら話は早い、それなら休憩が終わり次第さっさと仕留めに行くと——」

 

敵の居場所がわかったならすぐに攻め入るべきと言うのは古今東西あらゆる戦況で共通する定石だ。

キャスターが話した間に全員休憩はできた、自分とキャスター、後はマシュがそれなりに動けば十分に勝機はあるだろうと判断したスネークは動き出すが……

 

「待ちなさい、まだ話は終わってないわ」

 

所長であり、この場では一応ここでは一番偉いオルガマリーはそれを止めた。

 

《所長、これ以上話すことは——》

 

「……ロマ二、あなたおかしいと思わないの?」

 

《所長が珍しくリーダーっぽい雰囲気を纏っていることですか?》

 

「違うわよ!」

 

「……今までそう言う雰囲気作りだと思ってたが、彼女はそういう扱いなのか?」

 

「えっと……俺はまだ所長のことをよく知りませんけど……多分」

 

「所長は頑張り屋さんですからね」

 

「違うわよっ!!」

 

「……お前ら、俺が言うのもなんだけどよぉ……話を最後まで聞いてやれよ」

 

《それもそうですね》

「それもそうだな」

「その通りですね……」

「所長、お話をどうぞ」

 

「揃いも揃って…………!」

 

「まぁからかった俺が悪かったが……俺の何がおかしいって言うんだ?」

 

「…………そもそも貴方はどこの英雄なの?」

 

先ほどまでからかわれていた雰囲気とは打って変わり、オルガマリーは真剣にスネークに問いただした。

その態度は一介の魔術師として纏う一種の気味悪いもので、彼女の真横にいる立香やマシュが驚いていることからいつもの彼女とは違うのだろう、それだけ雰囲気を変える必要が俺自身にあるらしいとスネークは察するが思い当たる節は無かった。

 

「どこの英雄といわれてもなぁ……俺は国を捨てて活動していたからな、説明するのが難しい」

 

「……じゃあ聞くけど、あなた近代の英雄?」

 

「そうだがそれがどうした」

 

「……待て、あんた近代の英雄なのか?」

 

「ああそうだ、そう言えばマスター達は2015年から来たんだよな?」

 

「なっあんた——」

 

「別に俺も大体予想してたぜ、別に未来から来たってこと位で俺はお前達を邪魔する気はどの道ねえよ、自分の時代以外に俺は深く立ち入らねえ。

あくまで俺はサーヴァント、兵器として俺はあんたらに力を貸すさ」

 

「……そう、それなら問題無いけど」

 

「しかし、私たちが2015年から来たことに一体なんの意味が?」

 

「本当に2015年から来たのか、なら俺が死んだのは去年だ」

 

 

 

 

『・・・・・・・・・はああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??』

 

 

 

 

 

「え……えっ?」

 

突然発生する大絶叫

耳を塞ぐのはたった2人、スネークと立香。

つまりこの場にいるそれ以外の人間とサーヴァント全員が絶叫し、明らさまに驚いていた。

 

「……おい坊主、これはどういう事だ。

所長はともかく、あの盾持ちの嬢さんに無線越しにいる男にキャスターまで叫んだぞ?」

 

「いや……うん、俺にもよくわからない」

 

「ちょっと待て!オメェ・・・ハァ!?」

 

「やっぱりおかしいわよっ!!」

 

「今回は所長の言う通りです……」

 

《これは・・・いやあり得るのか?》

 

「……おい誰か俺らに説明してくれ、全くお前達が驚いている理由がわからん」

 

この場にいる誰もが勝手に騒いでいた。

別に騒ぐこと自体は構わないのだが、それが自分が原因で騒がれているとなれば話は別になる。

何せ誰も説明しようとしてくれないのだ、それがマスターも知らないとなればそれなりに問題だ。

お陰でこの場にいない、オペレーターであるロマ二がそんな2人のために解説をし始めた。

 

《えっとですね……スネークさん、すいませんがもう少し質問しても?》

 

「構わんが」

 

《あなたは今回、ライダーのクラスで召喚されてますが何か逸話が?》

 

「ライダー?……まぁ良く馬には乗ってたが」

 

「そんなの私も良く乗るわよ!」

 

《……次に、あなたは国を捨てて活動してたと言いますが具体的にどこの国を捨てて何をしてたのですか?》

 

「国か?俺はアメリカで生まれたがその国から離れた、その後は世界各地で傭兵をしてた」

 

『傭兵!!?』

 

「……まぁ褒められる職業じゃ無いのはわかるが、そんなに驚くもんじゃ無いだろう」

 

《……所長、彼は平行世界から来たんでしょうか?》

 

「………いえ、それにしたっておかしいわよ。

無線通信、ましてや映像を通しての通信を普通だと思えるほどに科学技術が発達してる世界よ、傭兵ごときが英霊の座に就く訳がないわ」

 

「……俺は馬鹿にされてるのか?」

 

「ち、違います!所長が言ってるのはそういう意味ではありません!

英霊を降ろす、つまり召喚される英雄は英霊の座から召喚されます、ですが近代以降では英雄は存在しないんです!」

 

「……ここに居るけど」

 

「だ・か・ら!おかしいって言ってるのよ!!」

 

「「・・・おかしいのか?」」

 

「……むしろ有りえねぇ事なんだよ、近代じゃ」

 

「どう有りえないんだ?」

 

「えっとだな……っ何で俺が説明してんだ……!」

 

頭を抱えるキャスター、原因は魔術を知らないがために自身が特異であると自覚が無い英霊。

……これはきっと誰も悪い訳では無い、ただ巡り合わせが悪かっただけなのだろう。

そんな彼の複雑な心情を知らずとも、純粋な彼女はフォローに走った。

 

「簡単に言うと文明の発達で人類が人類を簡単に滅せる時代になったので、逆に世界を救う人間がとても多くなったので近代では英雄と呼ばれるのが極めて難しいからです!」

 

「え?……どういう事?」

 

「これだから一般人は……!!」

 

「ええ!?何で俺が怒られてるの!?」

 

「私の説明が下手だったんでしょうか……」

 

「いやっ!今のマシュの説明が簡単そうなのはわかりるけど!今のだけじゃ俺もスネークさんも——」

 

「いや俺は理解したぞ」

 

「ファッ!?」

 

「……それとお前達が驚く理由も大体理解した、確かに一介の傭兵が英雄と呼ばれるのは筋違いだな」

 

「ええそうよ」

 

「けどよ、こいつが英雄の座から招かれたのもどうやら事実らしいしな」

 

《そこなんだよねぇ……去年死んだ英霊の座にも登りつめた人物なら僕が知っててもおかしく無いし……》

 

「……待て、もしかしたらお前が知ってるかもしれないな」

 

《えっ……しかし、スネークなんて英雄僕はもちろんここに残ってる職員も知りませんよ?》

 

「それもそうか…………すまん、忘れてくれ」

 

「そう言えばあなた宝具は使えるの?」

 

「宝具か?……まあ馬が一匹出せるくらいだな」

 

「・・・それだけ?」

 

「ああ宝具に関しては今のところそれだけだ、もう少し生身に近い力さえ得られれば他にも色々出せそうだがとりあえずはそれだけだ」

 

「……まぁ現代の英雄なんてそんなものね」

 

「待って下さい所長、スネークさんは私が探知する前に私たちの真後ろに立ってました。

それに私が探知できなかったキャスターさんを見つけ出す程の実力者ですよ?」

 

「……確かにそうね」

 

「俺もまさかバレるとは思わなかったぜ、しかも気配じゃ無く視線でだ」

 

「……普通だと思うんだが」

 

「・・・普通かねぇ」

 

「ああ」

 

気配でお互い感知することのできるサーヴァントが、その気配を消すには幾つか方法がある。

一つはアサシンや一部のサーヴァントが持つ気配遮断のスキル、ランクによるが気配を悟らせない事が可能。

あとは魔術による簡単な結界によって自身の気配そのものを外に漏らさない形で悟らせない方法。

 

キャスターの場合はルーン魔術を空間に書き込み、それを自身を囲む形で気配を漏らさない様にしてランサーとの戦いを見ていた……が、視線まではさすがに遮断するのは出来ない。

出来なくはないがそれは単に殻に籠っているのと何ら変わらないため意味がない。

 

《ちなみにあなたの礼装は何です?見るとハンドガンにライフル、あとナイフに見えますが……》

 

「いや、それはあくまで俺が標準装備してる武器だ、あと持ってるのは無限バンダナと……迷彩服だな」

 

「迷彩服はいわゆる野戦服でしょうけど……無限バンダナとは?」

 

「これか?これは弾薬供給が∞になるだけだが?」

 

「・・・はい?」

 

「いや、だから弾薬を補給するバンダナだが」

 

「……スネークさんが何を言ってるかわかりません」

 

「いやっだから∞に弾薬がだな——」

 

「それって魔法じゃないの!?」

 

「…………試しに何か出せるか?」

 

「構わんぞ、確かスモークグレネードは……ああ、有った、これがただ出てくるだけだが……」

 

そう言って彼の腰にぶら下がっているバックパックからスプレー缶のような物を取り出した。

 

「……数えるか?」

 

「ああ、頼む」

 

「……1・2・3・4・5・6・7・8・9・10・11・12・13・14・15・16・17・18・19・20・21・22・23

24・25・26・27・28・29・30・31・32・33・34・35・36・37・38・39・40・41・42・43」

 

「待て待て待て!!いったい幾つ取り出すつもりだ!?」

 

「いや、気がすむまでだが……」

 

「わかった、わかったからもう良いしまってくれ」

 

「お前馬鹿か?これだけの大きさでこれだけの量の物がこのバックパックに入ると思うか?」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

《………………》

 

「どうした、全員して」

 

周りと無線越しにいる人間とサーヴァントが何やら物を言いたそうにこちらを見ていた。

……何人かからはむしろ軽蔑の眼差しも込められているが、別に悪いことを言った事も変な事を言ったつもりも無い、軽蔑の眼差しを向けられる理由なんぞ心当たりにも無かった。

 

《……とりあえず所長、力になってくれるみたいですし力不足という訳でも無さそうですから良いのでは》

 

「……先輩はどう思います?」

 

「俺?俺は別に何とも思ってないよ、少なくとも悪い人じゃないと思うけど。

悪い人が英霊の座にも居るのかは知らないけど、召喚した直後に俺がお願いしただけでマシュと所長を助けてくれたし」

 

「……良い悪いについては何とも言えねぇけど、少なくともこの男の実力は俺も認める。

何せあの黒いランサーが油断してたとはいえ俺がこいつの存在に気付く前にあいつの急所を射抜いてた。

正面からの戦闘は……まあ後で確かめるとして、少なくともハズレじゃねえと思うぜ」

 

「…………まっ害が無いなら別に良いけど」

 

他からそう言われてしまえば、疑っていた彼女も、所長としても彼を歓迎……とまではいかないものの認める他なかった。

例え彼女が認めなくともマスターとして契約しているのは立香であるためどうしようも無いのだが。

 

「何かすいません……俺もよくわかりませんけど、気分を害したなら謝ります」

 

「大丈夫だ、昔から怪しまれることには慣れている」

 

「……………………」

 

「それに警戒するのは指揮官として当然だ、彼女もまた優秀なんだろうな」

 

「っそんなに褒めても何も変わらないわよ!」

 

「問題ない、まぁあんたからの警戒心がこの探索中に解消できるかはわからんが全力は尽くそう」

 

「……そう……ならそろそろ出発しましょうか」

 

スネークの言葉に嘘は無い。

彼女は些細なことで気分が落ち込んだり不機嫌になったりと、人としてどうかと思う点はある、確かにある。

 

だが同時に彼女が備えている能力は評価している。

よく知らない魔術に関する知識は魔術師としてはもちろん、責任者として異常なものを異常だと見抜く力。

その異常さは自身もよく理解していなかったが、その本人すら認知していなかった異質さを公の場で指摘した行動は高く評価すべきだとスネークは見ていた。

 

彼女魔術師という部類においてどれだけの物かは知らないが少なくともそれなりに優秀、

命を預けるにはいささかメンタル面での頼りなさを強く感じるが、責任者としての自覚は文句無い。

むしろマスターである坊主……藤原 立香の方がお人好しすぎてこちらが心配する、その点彼女はある意味では話しやすい人間、そう彼女への印象を結論付けていた。

 

「ちっと待ってくれ、行く前に少し確かめたいことがある」

 

《?何でしょう?》

 

「ああ、さっき言っていた俺の戦闘能力か?」

 

「まあそれも有るが……」

 

「……なるほど、嬢さんの実力か」

 

「ああ、あんたは特に問題無さそうな気がするが……お嬢ちゃん、お前宝具が使えないだろ?」

 

「えっ?けどここに……」

 

「……すいません先輩、これはあくまで私にとっての武器です。

私は消えかけていたとあるサーヴァントと取引を交わしてデミサーヴァントになりました。

お陰で私は死ぬことを免れ、先輩と無理やり契約して先輩を助けることができました。

……ただそのサーヴァントからは真名を教えてもらえず、この武器がどんな武器なのかも私は知らないんです」

 

「それじゃあマシュは本来の力を出せないってこと?」

 

「……はい」

 

「本来ならマスターが召喚時にある程度わかるものだけど……そもそも魔術師じゃないならわかるはずも無いわね」

 

「えっ……じゃあ」

 

「そうよ、あなたが未熟だからというのもあるわけ」

 

「……だが宝具ってのは英霊を英霊たらしめるそのものだ。

嬢ちゃんがサーヴァントとしての力が有るなら必然的に宝具は扱えるはずだ、決して切り離すことが出来る様なもんじゃ無いからな」

 

「それでお前が手合わせしてやるのか?」

 

「ああ、本能が刺激されれば宝具は発動すると思うぜ」

 

「けどキャスターさん、危なく無いですかそれ」

 

「んな手加減くらいわかってる、俺もそんな馬鹿じゃねえよ」

 

「そうじゃ無くて……最初この街に来た時、赤い矢の雨を散々降らされたんですけど、そんな手合わせなんてしていたら狙われませんか?」

 

「……そういやアーチャーの野郎が動いてたな…………だが問題ねぇ、どうせ今頃セイバーの所に籠ってるハズだ、向こうはもう2人しかいねぇからな」

 

「問題無いマスター、仮に向こうが撃ってきたら俺が対処する」

 

「出来るんですか?」

 

「スナイパーの相手は散々してきた、一度向こうの奇襲が失敗すれば俺はそこから追跡できる。

それにカウンタースナイプも今の俺でも出来るからな……アサルトライフルは今のところ無いがな」

 

「……あんた本当にライダーか?」

 

「らしいぞ、俺もよくわからんが」

 

「そうかい……じゃあとりあえず外に移動だ、ちょうどいい広場もあるしな」

 

《周辺に敵サーヴァントの反応も無い、訓練にはちょうど良いだろうね》

 

「マシュは大丈夫?」

 

「ええ、私も先輩の盾として強くならないといけません、それにこのままでは敵のセイバーを相手にするのは厳しいでしょうし」

 

「そうね……宝具無しで相手するのはマシュじゃ厳しいわ、せめて敵の真名さえわかればある程度はどうにかなるかもしれないけど……」

 

「キャスターさんはそのセイバーの名前は知らないんですか?」

 

「知ってるぜ、それに教えても良いが……」

 

「俺たちの実力次第か?」

 

「……わかってるじゃねぇか」

 

「どういうことですかスネークさん?」

 

「さん付けはやめろ坊主……早い話、荷物が居ても足手まといならその荷物を捨てるか壊すかって事だ」

 

「それって……!?」

 

「まあ下手すれば消されるな」

 

『っ!?』

 

「おいおい、やる前からビビらせてどうすんだよ……つうか手加減するって言ったろ!」

 

「だがこのまま行ってもバテるのは目に見えてるだろうに」

 

「……まあな、特に嬢ちゃんは連戦したら心が潰れるだろ」

 

「ああ、嬢さんの動きを見る限り素人だ、何せあのランサーから逃げることすら難しそうだったしな、だからこそ使えない奴は置いていくしか無いだろう」

 

「……お前さん、随分と薄情だな」

 

「だが幸い彼女は盾持ちだ、お前の攻撃くらい捌けそうだがな」

 

「おいおい、俺にケンカ売ってんのかぁ?」

 

「まずお前はキャスターに向いてない、確実に前衛で殴り合うタイプのハズだ。

でなければ杖を槍術みたく両手で添えたりはしないだろう、まあ魔術使いってのがそうしないとは俺には断言できないが少なくとも貴重な道具だ、武器でない物をわざわざ槍みたく扱いはしないと思うが?」

 

「…………俺の本職はランサーだっつぅのに、つうか師匠から教わっただけでキャスターとかねぇだろ……」

 

「愚痴はそれまでにしておけ、とりあえず彼女を追い込んでやれ」

 

「……おうよ」

 

スネークの言葉に肩を落としながらも、このままではどうにもならない、特にマシュはまずサーヴァントの肉体を使いこなせていない、それには実践あるのみだと2人の戦士は体で知っていた。

さらにキャスターには、マスターの方にも戦闘経験をさせるという思惑もあったが当のマスターはそんなことに気付いているわけも無く、校庭に5人は移動した。

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

「・・・さて嬢ちゃん、こいつはあくまで嬢ちゃんに戦闘って行為に“慣れてもらう”だけだ。

マスターとサーヴァントはどんなに憎たらしくても関係は切れねえ、マスターがヤられちまえばサーヴァントは現界する事が出来ねえ、嬢ちゃんがヤられちまえばマスターはその後ヤられる……意味はわかるな?」

 

「はい、全力で行きます!」

 

「良い返事だ……おい坊主!」

 

「はっはい!」

 

「お前さんはどうやら魔術師じゃねえ見たいだが嬢ちゃんのマスターだ、しっかり指示出せよ」

 

「が、頑張りますっ!」

 

「……ここまで教えがいのあるマスターってのも珍しいけどな・・・じゃあ行くぜっ!!」

 

その合図と共にキャスターは野生の獣の様な気迫を纏、バックステップを踏む。

ただそれだけしかしていないが、マスターである立香はそのプレッシャーに煽られたらしい。

それではこの先何も出来ずに死ぬ。

だがマシュが盾を構えたことで彼も心構えが固まったのか、ほんの少し煽られただけですぐに立ち直った。

 

 

だがそんな少しの間はサーヴァントを相手にするには致命的だ。

 

 

「そんな呑気に突っ立ってて良いのかよ!」

 

 

瞬間、キャスターの振るった杖の軌道上に火の玉が出現し2人に襲いかかって行った。

まだまだ本気を出していないのか、火球は一般人でも捉えられる速さだった……避けられるかは知らないが。

 

 

「マシュ!」

 

「はい!」

 

 

その攻撃をサーヴァントであるマシュが立香の前に立ち、火球を盾によって防ぐ。

どうやら融合したサーヴァントの戦闘経験がある程度肉体に反映されているらしい。

 

だがそれだけでは不十分だ

 

 

「そりゃあ止められるか!ならドンドン行くぜぇっ!!」

 

 

キャスターが次の攻撃を始める。

その攻撃を必死に盾で食い止めながらマスターを守るマシュ……そして守られるだけのマスター。

 

 

そんな校庭で繰り広げられる3人の攻防を屋上から2人……スネークとオルガマリーはその戦闘を観察していた

 

 

「……ふむ、第一段階はどうにかクリアだな」

 

「何が第一段階よ……あれじゃ一方的に攻撃されてるだけじゃない」

 

「まあ今のところはな……だがまずは彼女の、マシュの役割を彼女自身の体で覚えさせる必要がある」

 

「……どういう事?」

 

「あんた、戦術的な知識はあるか?」

 

「……少しなら」

 

「ならマシュだけを運用するとしたらどうする?」

 

「そうねぇ……前線で敵の攻撃を受け止めて貰うかしら?」

 

「そいつはダメだ」

 

「はぁ!?」

 

「考えてみろ、雑魚ならまだ良いがマシュだけでキャスターを倒せるか?

仮に彼女が宝具を使えたとして、その一撃でキャスターを屠るほどの火力はあるのか?」

 

「…………無理ね、マシュは完全にディフェンスタイプのサーヴァントよ、いくら脆いキャスターだからってマシュが殴ったところで倒せないわ」

 

「そうだ、だから彼女はカウンター以外での攻撃手段はほぼ無い。

おそらくあのキャスターが距離を開けて遠距離攻撃に徹してるのはそれを彼女自身に気付かせるためだ」

 

盾持ちと呼ばれる者の立ち回りとは確かにオルガマリーが言った通り、前線で敵の攻撃を受け止め敵のヘイトを集める事が基本的な運用法だ、後方に下げれば強固な守りも可能になる。

 

だが同時に盾では敵を倒す事が出来ない

 

雑魚敵程度なら余裕だろうが、強者を相手にするにはあまりにも火力不足だ。

攻撃は最大の防御、防御は最大の攻撃とはよく言うがそれが出来るのはある程度実力差がある場合の限る。

特にジャイアントキリングでは、格下が格上を倒すためにひたすら最大火力で相手に攻撃し相手から攻撃させない事で倒すことも出来る……もっとも最大火力が維持できなくなれば確実に負けるのだが。

 

だが防御からの攻撃はカウンター以外では、自身ではなく他からの攻撃が要になる。

彼女が持っている脇差のような短剣もカウンターのための装備ではあるが、英霊と呼ばれる者たちは基本的にその全員が戦闘に慣れている。

特に三騎士と呼ばれるセイバー・ランサー・アーチャークラスで現界したサーヴァントは戦場での英雄である事が多い。

たかが盾を持ってるくらいでカウンターを許す程度の実力は持ち合わせていない。

 

そのため、今のマシュに求められてるのは確実に敵の攻撃を防ぎ敵の注意を自身に向ける事にある。

 

「……けど、マスターがあんなんじゃマシュはカウンターどころか攻撃に移れないわ。

距離があり過ぎて攻撃の間に接近しても、マスターを狙われて終わりよ」

 

「ああ、すでにマシュは自分の役割に気付いている、次はあの坊主の番だ……どう動く?」

 

マシュは賢い。

すでにスネークが言った通り、敵の攻撃を防ぐ事に特化しマスターを守りつつも何とかキャスターに近付こうとする……がキャスターは攻撃しながらも後退しているため攻撃のしようが無い。

 

 

「どうした!そのまま火を浴びるだけかぁ!?いつまで耐えられると思ってやがる!!」

 

「っっ!」

 

 

すでに攻撃手段は“2人”を狙う火球では無く、“マスター”を狙う火球へと変化していた。

マスターを狙っているため込められている魔力は人が気絶する程度の物だが、代わりに弾速が速い、そのためマスターを守るために盾を振るうマシュはその火球の軌道を見定めなければならず余計に疲労していく。

 

 

「……………」

 

だがマスターは、藤丸 立香は何も出来ない…………と諦めるほど柔な男では無かった

 

 

自身に迫り来る火の玉、当たればほぼ確実に自分は死ぬだろう(威力はキャスターが加減しているが)

 

それを必死に防いでくれるマシュ

 

そんな彼女を……自分より身長が低い少女をただ放って置くほど少年は甲斐性なしでは無かった

 

 

「マシュ!合図したらキャスターの方に突撃して!」

 

「な、本気ですかっ!?」

 

「大丈夫!俺も付いていくから!!」

 

「っわかりました!」

 

 

再び火球が襲いかかる

 

今までと同じ通りその火球はマスターを狙った的確なもの

 

その軌道を読み取り手に持つ盾でその火球を打ち消す

 

そろそろ辞めどきか……とキャスターが思った時

 

 

「マシュ!」

 

「ハイッ!!」

 

 

その場から一気にマシュが走り出してきた

 

ようやく動いた状況

 

だが防御捨てたという事はマスターの守りが無いという事

 

今の間合いならマシュはキャスターに攻撃できるが同時にマスターもやられる

 

 

 

「だあああああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

そのマスターがシールドと共に移動していなければ、だが

 

 

 

 

「・・・へっ!そう言うの俺は好きだぜぇ!!」

 

 

一瞬、あまりにも予想外に……予想外に出来るマスターに驚いたもののすぐにルーンを描く

 

今までは杖から火の玉が飛んでくる攻撃だったが今はそれでは足留めにならない

 

キャスターは後退しつつも彼らが踏むであろう場所に魔術を仕掛けていく

 

 

 

「……ほおぉ、あのマスターは以外とやるな、中々の度胸が有るじゃないか」

 

「…………………」

 

 

それはマシュも、キャスターも、スネークも、オルガマリーも予想していなかった。

一般人の、素人の、魔術師でも戦士でもないただの少年が自身の置かれている状況を見極め行動に移したのだ

実際にはマシュが動き辛そうにしているのに気付き、それならばマシュについて行けばいいという発想だったがそれでも自身のサーヴァントも動きに合わせるというのはたとえ魔術師でも難しい。

 

 

なにせ魔術師なら敵の脅威が及ばない場所で観戦した方が良いと判断・断定するからだ

 

 

「あの様子ならもう少しすればあのキャスターにもある程度攻撃できる様にはなるだろう。

それでも彼奴らが半人前なのには変わらんが……足手まといじゃ無いな」

 

「……一つ良いかしら?」

 

「言っておくがお前が実力不足だとは思わんぞ、俺は」

 

「・・・え?」

 

「俺は色んな奴を見てきた。

戦場で死にかけた所で巡り合った奴、世界平和を願っていた奴、純粋に力を求めて俺の下に来た奴、

研究者として助けを求めた奴、戦いにだけ身を投じた……まあ色々な奴が居たが……才能が無い奴も居た」

 

「……私の才能が無いとでも言いたいの?」

 

「俺は魔術って存在を死んでから知った、未だによくわかってはいないと言った方が正しい。

だが魔術師だろうが兵士だろうが人間という括りに変わりはない。

俺の経験からしてお前は、お前に無いものを求めてる、お前が求めてるものをあの坊主が持ってる」

 

「……ついさっき現界しただけのあなたに何がわかるのかしら?」

 

「お前がわざとらしく無いキャラを作ってるくらいは知っている」

 

「っあんたに何が——」

 

「わかる訳が無いだろう、そんなもの」

 

「はあ!?」

 

「それはお前自身とっくに気付いてるはずだ、俺から言わせればお前のあの坊主に対する態度は上司や上官として坊主の実力不足に対する物じゃない、単なる憂さ晴らしだろう?」

 

「……………………」

 

「だが勘違いするな、お前の言ってる事に間違いは無い」

 

「……言ってる意味がわからないんだけどっ」

 

「あの坊主が実力不足なのも、使えない人間なのも事実だろう。

だがそんなあいつを、あいつら2人を支えてやるのは誰だ?

聞くとあの坊主以外にマスターとしての適性がある奴はいないそうじゃないか。

そんな未熟者を教えてやれるのは誰だ?」

 

「……別に、また他のマスター適性をもつ魔術師を集めれば良いわ」

 

「それが難しいことくらい、組織の長であるあんたが一番分かってるんじゃないのか?」

 

「……………………」

 

「……まあ良い、だが一つだけ言わせてもらう。

お前が今出来ることは何だ?

お前が為すべきことは何だ?

自分の立場を守ることか?組織を守ることか?この特異点の解決か?

……もう一度言うぞ、お前が、いま、ここで、出来ることは何だ?」

 

「……………………」

 

その言葉にただ黙るオルガマリー。

彼女の心境は……探るのは無粋だと判断し話を切り上げる。

ちょうどマシュとマスターが一息つき、地べたに座っていた。

 

「……どうやらひと段落ついたみたいだな。

なら俺も合流するとしよう、お前さんも適当なタイミングで降りてこい、俺もキャスターもやりたい事が終われば移動するつもりだ、何なら迎えに来るが?」

 

「…………勝手に降りるわよ」

 

「そうか、ならそうしてくれ」

 

そう言って霊体化し屋上から去ったスネーク。

その場に立った1人残されたオルガマリーは空虚で一面灰色で黒い空を、街を見つめた。

 

「…………そんなこと、私だって………!」

 

 

 

ただ自身の事を忌々しく思いながら

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

「おお、いやぁ〜ここまで滾らせるマスターってのも珍しいな!」

 

「「はああぁぁぁ・・・」」

 

「…どうやら一皮剥けたみたいだが……そのおかげで放心させてどうする」

 

「いやぁ、ちっと本気が出したくなってな、つい」

 

「……まあ構わんが、とりあえずお前らは休んでろ、誰も文句は言わん」

 

「いやっ……はぁ……キャスターさんを……はぁ……倒せなきゃ……敵のセイバーなんてっ」

 

「おい、最初の目的をマスターが見失ってどうする」

 

「私も……まだ行けますっ!」

 

「そのガッツは後にとっておけ、それにこいつは俺らの味方でお前らが動ける様にわざわざ相手したんだ。

そもそも、今の坊主と嬢さんの動きなら時間稼ぎで良いところだろう」

 

「「………………」」

 

「だが十分合格だぜ、少なくとも嬢ちゃんもそこの坊主も俺の足を引っ張る様なお荷物じゃ無えよ」

 

「だそうだ、良かったな」

 

「「あ……ありがとうございます……!」」

 

「まっ、これからお前ら2人にもセイバー討伐を手伝ってもらうが……その前にお前ら2人に一つ見てもらうとしようかっ!」

 

「……何だ、俺ともやるのか?」

 

「当然だ!どっちかと言えばあんたの方に俺には興味がある……現代の英雄ってのがどんなもんだかな?」

 

「……言っておくが俺は俺が英雄だとは思ったことは無い、弱いとも思わないが……お前さんの御目にかかるような実力を持ち合わせてるかは保証できんぞ?」

 

「まぁそう言うなよ…………テメェ、まだ本気なんざ出してないだろ?」

 

 

瞬間

 

 

先ほどよりも大きくバックステップを取ったキャスター

 

だが先ほどまで纏っていた野性味あふれる獣の様な雰囲気から

 

獰猛な野獣がキャスターからは剥き出しだった

 

それはつまり、いままで本気を出してなかったのはキャスターの方であると素人の立香でもわかる

 

マシュも休憩のために息を抜いていたがそのプレッシャーから反射的に盾を構えた

 

先ほどまでキャスターと相手をした彼女が、マスターを守るという条件反射から取った行動だ

 

それほどまでにキャスターから醸し出される雰囲気は異質だった

 

 

 

だがそれ以上に異様だったのは

 

 

 

そんなマシュの本能が呼び起こされる様なプレッシャーを受けても

 

 

 

普通に葉巻を吸い始めた男だった

 

 

 

「……確かにキャスタークラスの英雄ではないな、後方支援の人間にそんな気迫は必要無い」

 

「俺には拳で殴るのが性にあってらぁ、杖なんかより槍寄越してくれってなっ!!」

 

その言葉通り、杖を槍の様に構えそのままスネークの方へ突っ込んで来た

 

俊敏Cとはいえ、英雄と呼ばれえ英霊の座に招かれた存在

 

その鍛えられた肉体がキャスターのそれでは無いのも有り、距離はあっという間に詰まった

 

デミサーヴァントであるマシュはどうにかキャスターの姿を捉えられたが、一般人のマスターには瞬間移動にも等しく彼からすればいつの間にかスネークの目の前に立っていたと言う印象だった。

 

 

構えられた杖はそのまま武器として、キャスターの得物として、そのままスネークへ襲いかかり

 

 

一瞬で勝負はついた

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

端から見ていた2人は言葉も出なかった

 

 

キャスターの杖さばきは見事の一言に尽きた

 

その先端は心臓を指し

 

光一線と突き刺さる

 

それはキャスターのもう一つの側面が持つ宝具の因果

 

一種の呪いの如く、見事に対象の心臓を刺し穿つ

 

 

 

 

 

・・・・・・様に思えた

 

 

 

 

否、実際に穿っていたハズだった

 

 

寸止めとはいえキャスターの得物は的確に相手の心臓を指していた

 

 

そう、指して“いた”

 

 

的確に、相手の服に、体にぴったりと突いて“いた”

 

だがいつの間にか隙間が“あった”、拳一つはある空間が先端と対象の体には“あった”

 

 

 

「見事な槍捌きだ」

 

 

 

その空間を杖が突き進む

 

 

だが対象の体に突くまでに軌道が修正される

 

 

杖は対象の右に逸れる

 

 

対象は左にズレる

 

 

それを確認し一旦退くことを選ぶ

 

 

地面から足が離れ

 

 

杖が手元に戻り

 

 

対象が目の前にいた

 

 

 

「……だが俺に接近戦は分が悪いみたいだな」

 

 

 

そしてそのまま彼の世界は

 

目の前の世界は回った

 

体は宙を舞い

 

背中から着地した

 

背中に走る衝撃

 

その衝撃自体は大したものでも無く、ダメージも無い

 

受け身も取った

 

 

 

だがそんな少しの間はサーヴァント相手には致命的だ

 

 

 

「勝負ありで良いか?」

 

「…………ああ、俺の負けだ」

 

 

 

キャスターの胸にはナイフが着けられている

 

あとはナイフを持つ対象次第で心臓が突かれるだろう

 

自身の杖は手元にはない

 

ルーン魔術で抵抗は出来るが……それはキャスター自身が望むものでは無かった

 

 

結果、相手…………スネークの勝ちで手合わせは決着がついた

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 

 

「……マシュ、今何が起こったの?」

 

「……私が見た限りだと、キャスターさんが接近してスネークさんの心臓を刺したかと思ったらいつの間にかキャスターさんの杖がズレてキャスターさん自体が投げ飛ばされてたとしか……」

 

「いやっそれは……うん……そうだけど」

 

「先輩が言いたいこともわかります……何でキャスターの体が宙に浮いていたのか……」

 

「うん……」

 

端から見ていた2人には出す言葉が無かった。

何せ見た事実が事実として理解することが不可能だったから。

 

まず瞬間移動の如く一瞬で近付いたキャスター、そして自身の杖のリーチを生かせる間合いから仕掛けた。

スネークの拳が届く事はなく、一方的にキャスターが攻撃できる間合い。

そして何より的確にスネークの心臓を突いたことから、決着は着いた……様に見えた。

 

だが実際には

 

・杖が心臓を突く直前に、杖自体の軌道がスネークのナイフによってズレていた

・いつの間にかスネークはキャスターの目の前にいた

・キャスターの間合いでは無く、眼前で拳が届く間合いにお互いがいた

・スネークは体術でキャスターの体を投げ、地面に落とした

・そのまま回避する隙を与えず、流れる様にキャスターの胸にナイフを構えていた

 

……以上がキャスターがスネークに仕掛けてから決着が着くまでの全て。

ちなみにマシュと立香が言葉に表せることが出来ないのは、あまりにも情報量が多い出来事が一瞬で行われたため、上記に書いた事は全て10秒足らずに起きていた。

もっとも2人は理解に追いついていないどころか、視認して理解すら出来てないこともあるのだが。

 

「……あんた本当に現代の英雄かぁ?

ましてやライダーなら なおさら接近戦じゃ無く突進とかそんなんじゃねえの?」

 

それはキャスターも同じらしく、結果に不満は無いもののスネークに疑問を呈していた。

 

「お前がどう思うかは知らんが、俺は現代に生きた一介の傭兵だ、ライダーだろうが俺が得意なのは接近戦だ

お前がわざわざ接近してきたおかげで、むしろ俺としてはやりやすかったがな」

 

「……お前、どうやって俺の杖の軌道を変えた」

 

「見えてただろう?まっすぐ俺の胸の向かって来てたからナイフで左にずらしただけだ」

 

「違ぇねぇ……………だが俺の杖は確かにあんたの体を突いたハズだった、手応えもあった、だが実際にはまだ突き刺してる途中だった……テメェ、一体どんなカラクリを俺に仕掛けた?」

 

「そう言われてもな……俺は普通にCQCを仕掛けただけだが」

 

「CQC?何だそれ?」

 

英単語3文字を言われたキャスターは当然それに興味を持つ。

だがそんな魔術など記憶にも心当たりも無く、なおさら疑問に持った……が意外な所から答えが出てきた。

 

「えっと……確かClose Quarters Combat の頭文字をとったもので、日本語に訳すなら近接戦闘術と言った所でしょうか」

 

「よく知ってるね、マシュ」

 

「はい、本だけはよく読んでますから」

 

「ならあれか、柔道とかそういう感じのやつか」

 

「キャスターさんの認識で間違いは無いかと……ただ」

 

「ああ……そんな体術だけで説明できるもんじゃ無えと思うんだが?」

 

「……そう言われてもなぁ」

 

そうあり得ないのだ。

仮に、仮に百歩譲ってキャスターの手応えは勘違いだとしても、だ。

一瞬で間合いを崩すのはわかる、だが素人とはいえマシュの攻撃を捌き切ったキャスターがこうもあっさりと技を掛けられるとは思えなかった。

キャスター本人も正面戦闘が不向きなクラスで現界したとはいえ、今現在の状態でもあっさりと投げ飛ばされるほど下手では無いと自負していた。

 

であれば考えられる可能性は2つ、

 

1つはキャスターが接近戦ではとても弱く、それを誰も自覚していなかったために負けた

 

もう1つは…………………………

 

 

 

《・・・・・・ああああぁぁぁぁ!!?》

 

 

 

マシュの解説から突然無線が入って来たかと思えば、ずっと見えていたらしいロマ二が突然叫んだ。

……わざわざ画面まで出して驚いたため、4人から睨まれるドクター。

 

《いやっそんなに睨まないでくれっ!僕が悪かったけど!!》

 

「……それでドクター、何かわかったのですか?わざわざ声まで出して」

 

《マシュのその言い方が一番きつい!

……いや、マシュが言ったおかげで一つ思い出したことがあってね》

 

「なにがですか、Dr.ロマン?」

 

「何がわかったんだよ軟弱男」

 

「……………………………………」

 

《軟弱って……いやその通りだけどっ……ウッウン…………彼の、スネークが一体誰なのかわかった》

 

「っ本当ですか!」

 

「……やはりバレるか、まあ隠す意味もここでは無いか」

 

「何だよ、あんた隠したかったのか?」

 

「……まあ事情があってな」

 

その気持ちはキャスター自身もわからない訳ではなかった。

どの英霊も、英雄として名を馳せているだけあり一般的にも英霊の間でも有名な者が多い。

だがどの英霊ににある程度、どころか大体が美談や誉れある話とともに、汚らわしく醜い伝承も多い。

この英霊も何かしら触れられたく無い物があるのだと予想するのには、キャスターも苦労しなかった。

 

《それなら……僕が言うのは差し控えますが》

 

「いや、構わん、どうせわかるのはあんたとこの嬢さんくらいだと思うしな」

 

「それでドクター、スネークさんは一体誰なんですか?」

 

気になるマシュはロマ二に躊躇なく聞く。

スネークの言葉にはロマ二も思うところがあるようだが、本人が話して構わないと言ったのだ。

それこそ、じゃあ喋らない、と言うのも英霊に対しても人としても失礼だろう。

 

 

《……まあ彼自身が良いというなら僕から言わせてもらう。

彼はCQCの創始者であり、冷戦の最中で世界を核戦争の危機から救い、その後傭兵として世界中に名を馳せた伝説の傭兵……現代としては十分な英雄だと言える、彼の名は称号として世界的にあまりにも有名だ》

 

 

「・・・ええ!?」

 

「マシュ、わかったの?」

 

「ハイッ!というか先輩はご存知無いのですか!?」

 

「えっ……何を?」

 

「つい最近情報が解禁されて話題になったじゃ無いですか!

CQCを産み出し、世界を何度も核戦争の危機から救い、その後傭兵として世界を渡り歩き、最後は兵士のために蜂起をしたあの伝説の人物ですよ!?」

 

「……ある意味では間違いでは無いがなぁ……」

 

「ん?」

 

ボソッとつぶやくスネークの言葉に反応したキャスターだったが、あえて何も言わなかった。

 

《まぁマシュの言う通りだけど彼が成し遂げた事は本を読んだり、軍事や医療に興味がある人間じゃないと詳しくは無いだろうからね……けどこの称号は知ってるんじゃないかな?

【BIG BOSS】って》

 

「あっ聞いたことあります、確か誰も傷付けずに任務を・・・・・エエエエエエエエエェェェェェェ!?」

 

「……あんた、有名みたいだな」

 

「まぁ……な」

 

《まさか英霊の座に就いているとは……》

 

ロマニの嘆きはもっともだ。

何せ近代どころか本当に現代の英雄、それこそマシュが言ったようについ最近、と言っても1・2年位前の事だが、それでも本当に最近知った英雄だった。

それも【BIG BOSS】の事は知っていて当然の様に思っていて、そもそも現代に英雄など存在するわけが無いという先入観の両方が強かったため気付くハズが無かった。

 

「俺は所詮一介の傭兵だ、まず魔術なんて存在も死んでから知った。

それに俺は生前の癖でな、英霊の座でも好き勝手やらせてもらってる、おかげで良い訓練になるんだが他の英霊にもあまり名は知られてなくてな、実際このキャスターもあまりピンと来てないしな」

 

「……BIG BOSSなんて名は聞いたこともねぇな、とりあえずわかる位だ」

 

《あくまでそこは2004年の冬木、まだ彼の情報は解禁されて無いからでしょう。

ですが現代の一般常識として彼の名は知られてます、一般人である立香君ですら知ってるほどですから》

 

「……俺はここじゃあんまり有名じゃねえからなぁ……だが——」

 

「お前がどこかの英雄なのはわかるが、そう言うな。

だが俺は英霊・英雄なんて器じゃ無い、単なる一介の傭兵、1人の戦士でしか無い。

……それでだ、坊主とあとそこにいる男にも言っておく」

 

「何ですか?」

《何でしょう?》

 

「……俺は確かにあんたらの言う【BIG BOSS】だ。

だがその名前は好きじゃ無い、それに俺が英霊の座に招かれサーヴァントとして現界できたのは世界を救ったからじゃない、現代に英雄がいない、世界を救うことはあまりに簡単だからだからな」

 

「……俺が聖杯から得た知識の限りじゃ、一度でも核戦争の危機から救うってのは随分と大変なことだと俺は思うがな」

 

「正しくは3回だがな」

 

『3回!?』

 

「……お前らは知らないだけで核戦争の危機ってのは俺が知ってるだけでも10は超える。

俺が知らないのも含めれば100は超えるかもしれん、だから俺はあの嬢さんの説明で納得できた。

たかが世界を救うってだけじゃ誰もが知る物語の英雄なんかと並べる訳がないとな」

 

『…………………………』

 

確かにオルガマリーは現代に英雄は存在しないと言った。

だがそれは文明の進歩によって神秘という“奇跡”が、人間によって介入し理解できる“現象”という代物へと落とし込められ、何より文明の進歩で誰もが世界を簡単に救う事が簡単になったから、と言う意味だ。

 

例えるなら、ある企業の会長が財力を使ってアマゾンの森林の伐採量を増やし狩り尽くす。

それだけで地球は滅亡する、そのようにいつどこでも人類/地球がピンチに陥いる可能性が現代にはある。

だが同時に、そんな森林伐採は許さない!という人や団体もいつでもどこでもいる。

結果として「世界を救う、なんて程度の事じゃあ現代では英雄とは呼ばれない」という状態となっており、誰も知らない内に世界を救っている(滅ぼさないように行動する)者は非常に大量に居ると言うわけだ。

 

この例えは良く使われる例えではある。

一般人である立香もマシュからこの話はサーヴァントを従わせるマスターとして聞いていた。

 

 

だが、一体誰が「核戦争なんざよくある事だ」と言わんばかりの事実があると受け入れられるだろうか?

 

 

森林伐採ならまだ例えでわかる。

だが、空想の話だと、自分には関係無い話だと単なる知識としてだけ知っていた核戦争。

そんな理不尽な出来事が一回どころか何十回、何百回と起きかけていたという事実。

 

突如舞い込んできたスネークの言葉に全員が言葉通り絶句した。

それがスネークの作り話の可能性も無いわけではないが、彼がわざわざ嘘を言う意味は無い。

……それなら聖杯戦争どころでは無い気もするが、これはもうどうしようも無い。

 

 

だが同時にそれでは彼が“英霊である理由”になっていない

 

 

「……だがお前」

 

「お前が言いたい理由はわかるがその理由をここで説明する気はない。

今はそれよりこの事態の解決の方が先だ、俺の身の上話なんかより人類の未来の方が優先度は高いだろう」

 

《……彼の言う通りだ、確かに彼が……スネークが何故英霊の座に至れたのかは気になるけど今はそれよりこの特異点の解決が先だ》

 

「・・・まぁ俺の身の上話はこれが終わってからでもしてやる、どうやら俺はこの問題が解決してもこの場から消える訳じゃ無さそうだしな」

 

「そのとおりよ」

 

その声がする方を見ると、カルデアの所長であるオルガマリーがいた。

どうやら自分が為すべき事はわかったらしい。

 

「私たちは人理継続保証機関カルデアの一員、であればこの特異点を解決し人類の未来を保証する事が第一。

改めて聞きます……藤丸立香、マシュ・キリエライト、私に力を貸して下さい」

 

「所長、俺はそもそも——」

 

「坊主、ここは普通に答えてやれ」

 

「でも……」

 

「おそらく私も先輩と同じ考えです、元から私は所長の部下です。

今は先輩のサーヴァントですが……それでも所長は所長です、それこそいまさらの事だと思いますが……」

 

「……うん、俺はそもそもよくわかって無いけど……人類のためにって言うより所長さんの力になりたいって言うのが今の心境です、最初から力を貸していたつもりでしたけど……力不足ですいません」

 

「…………………」

 

「まあそういう訳だ、俺ももちろん手を貸す」

 

「俺はそもそもこの狂った聖杯戦争を片付けたいだけだがな」

 

「……そうね、そんな事最初から決まってたわね」

 

「そういう事だ」

 

「……まっ、あんたらが少なくとも戦えるってのはよくわかった、これならあのセイバーとも戦えるだろうよ」

 

「そういえばお前は敵の名前を知ってるらしいな、相手の名はなんて言うんだ?」

 

「……あれは英霊の座に招かれた奴なら、奴の宝具を見ただけですぐわかる、あれはそういう物だからな」

 

「それで」

 

「……現代産まれのあんたらでも知ってるだろう。

ブリテンの王にして誉れ高き騎士の王、

王を選定する岩の剣の二振り目【約束された勝利の剣】という名の聖剣を持つ王」

 

「・・・それって」

 

 

「アーサー王だ」

 

 

その名は誰もが、世界中の誰もが知る聖剣の持ち主であり騎士王の名にふさわしい逸話を持つ伝説の王。

その名にマシュや立香、オルガマリーが戦慄する。

何せ伝説の王が敵として、それも三騎士の一角であり最強とも言えるセイバーのクラスで居座っているのだ。

 

 

セイバーの名に、かの王ほどふさわしい存在も居ない

 

 

そんな相手に自分たちは勝てるだろうか?

 

 

そう思わずにはいられなかった

 

 

 

 

 

 

「なんだ、それなら十分に勝てるな」

 

 

 

 

 

 

一匹の蛇を除いて

 




何かご意見・ご感想がありましたら作者の参考にも励みにもなります。
何かありましたら感想欄にて教えてくださいm(_ _)m


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炎上汚染都市冬木:3

どうも、いまだ歯が痛くて朝は飲むヨーグルトしか食べれない作者です。

……ちょっと待って、一週間経ってないのに何でもうお気に入り登録者数が3桁に届くの?
私が投稿してた方は3桁行くまで3ヶ月はかかったよ!?

皆さんに楽しんでもらえているなら何よりですm(_ _)m

そろそろ春休みが終わり、執筆時間がゼロになりそうですが、序章はすでに書き上げました。
あとはエピローグを2作ほど仕上げて今年の投稿はほぼ終わってしまいそうです……

前書きが長くなりましたが、ここまで多くの人に興味を貰えるとは思ってませんでした。
あとほんの少しではありますが、この作品にお付き合い頂けたら幸いです。

では本編どうぞ




「……ここに大聖杯がある、アーサー王もこの奥にいる」

 

「天然の洞窟に見えますが……」

 

「違うな、このクレーターは天然のものだろうがこの洞窟は人の手が加わってる。

天然の洞窟っていうのはここまで綺麗じゃない、人が歩くには随分と楽に歩けそうだ、それに中にはコンクリートらしき物も見えるしな」

 

「半分天然、半分人工の魔術師の工房ってところね……」

 

一行は決戦のため、キャスターの案内で聖杯があるという場所に来ていた。

そこは洞窟……それも相当な広さがあると見える洞窟だった。

 

「ピィッ!?」

 

「ん」

 

「フォウさ……!?」

 

「……敵だな」

 

「おお、言ってる側から信奉者の登場だ」

 

反射的にマスターである立香の前に立つマシュの視線の先には先ほど戦ったランサーの様に黒いサーヴァントがそこにはいた、どうやら残るキャスターが言っていたアーチャーのサーヴァントらしい。

そんな状況でキャスターは随分と挑発的にマシュの前に立った、……格好をつけたい訳ではないらしい。

 

「……私は彼女の信奉者になった覚えはないが」

 

「よく言うぜ、一体何からセイバーを護ってんだが」

 

「勝手に言え……だが相応の、具体的にはつまらん来訪者を追い返す程度の働きはさせてもらうがな」

 

「それは門番とそう変わらんと思うが」

 

「お前はっ……!?」

 

「……ん?」

 

「……まぁいい、勝手に言ってろキャスター、私は私がすべきことをするまでだ」

 

一瞬、スネークを見ていたがそれも一瞬、すぐに視線をキャスターに戻し……その後ろにいる盾持ちを見た。

そして自身の得物である弓を持ち、どこからか取り出した剣を番えた。

 

「……おい、まさかとは思うがあいつ……剣を矢の代わりにしてるのか?」

 

「えっ!?」

 

スネークの言葉に驚く立香

 

その瞬間、アーチャーからその剣が射出された

 

それは一直線に・・・マシュの顔面に向かっていた

 

すぐにマシュは盾を構えその矢を受けようとする

 

 

「エイワズ!」

 

 

だがその剣はキャスターの魔術によって消え去った

 

「……おいおい、何も俺を無視しなくても良いだろうよぉ?……良い加減俺らも決着を付けようぜっ!」

 

そう言ってルーン魔術を展開

 

そのまま火球がアーチャーの方へ飛んで行く

 

「ッチィ!」

 

とても迎撃が間に合わないため跳躍しそれらを回避するアーチャー

 

土煙と火煙がアーチャーの立っていた場所で舞い上がり姿が見えなくなる

 

その煙幕が晴れキャスターの姿を見る・・・前に1人の男が現れた

 

 

「……その程度、予想が付かないとでも?」

 

 

だがそれは戦闘での定石

 

煙幕で相手の目を眩ましその隙に接近する

 

それが遠距離からの支援攻撃を主にするアーチャーが相手ならなおさらだ

 

だが、このアーチャーは“剣を作る”という起源をもつサーヴァント

 

むしろ接近戦を得意とするアーチャーだった

 

手元に夫婦剣を携えその男に切り込む

 

その剣筋は本物であり奇襲をかけてきた相手を返り討ちにする

 

 

 

 

 

 

「その言葉、そのままお前に返す」

 

 

 

 

 

 

だが接近戦においてはその男の方が上手だった

 

 

 

顔前に切りかかったその右手は逸らされ刃が宙を斬る

 

 

 

相手を突き刺すその左手は完璧に受け止められ剣を取り上げられた

 

 

 

すぐに右で相手の首を狙いつつ左に新たな得物を携える

 

 

 

だがその右手も完璧に受け止められそのまま肩を外された

 

 

「ガァッ……!!」

 

 

痛みでつい声が出るアーチャー

 

 

だがすでに左手には新たな剣を携えていた

 

 

肩を外されたその痛みに関係なく左手の得物を相手に突き刺した

 

 

初見では幾つも宝具を手元に呼び出すとは誰も思わない

 

 

隙をついたその攻撃にアーチャーは手応えがあった

 

 

 

 

 

 

「その程度、誰でも思いつく」

 

 

 

 

 

 

だがそんなことはなかった

 

相手は剣で突き刺される前にアーチャーの体を突き放していた

 

あの手応えは幻想だったらしく、相手は全くの無傷だった

 

突き放された体はそのまま地面を滑る

 

そして3発の銃弾がアーチャーの顔面に着弾した

 

 

 

「すまんが容赦する余裕はこっちには無くてな、消えてもらう」

 

 

 

さらにナイフによって心臓を一突きされ、アーチャーは完全に仕留められた

 

 

大した抵抗も許されず、一本の剣を矢として放っただけで彼は消える

 

 

「……あんた………まさか…………!」

 

「ほお……お前は俺のことを知ってるのか?」

 

「……俺は……あん……た…に………ぁ…………」

 

「……………」

 

その言葉を最後にアーチャーは光の粒子となって消えていった、おそらく英霊の座へと還ったのだろう。

彼が自分を知っていたのに驚きつつも、スネークはキャスターの方へ歩いて行ったがその顔はあまり優れて無かった。

 

「すまんな、お前の決闘を邪魔して」

 

「構わねえよ、あいつよりあんたは強え、俺も接近戦じゃああんたには勝てねえ。

それに嬢ちゃんたちを消耗させるわけにも行かねえし、確実にセイバーの野郎を倒すためにはあいつに手間をかける暇は無かったからな」

 

「……お体の方は大丈夫ですか?」

 

「そう心配するな嬢さん、あのくらいなら問題無く仕掛けられる……問題はこの後の相手だ」

 

その言葉にマシュと藤丸立香は背筋を伸ばした。

何せ、この先には物語の主人公であり伝承の人物であるアーサー王が待ち構えているのだ。

何も思わない方がおかしいのだ。

 

「そういうあんたは大丈夫なのか?これから相手するのは正真正銘の化け物だぜ?」

 

「……なら聞くが、相手は所詮“人の形”をしているんだろ?」

 

「ぁあ?……ああ」

 

「ならそいつは“化け物じみて強い”だけだ、本物の“モンスター”っていうのは人が相手取るには随分と手間取るものを指すんだ、人の形をしているならそいつの体を投げ飛ばせなくは無い、ナイフで仕留められないわけじゃ無い……例外はいるが」

 

「…………そうだなぁ」

 

「ちょっと!?何で2人して不安にさせるようなこと言うのよ!?」

 

「居るものはいるからなぁ……俺の師匠とか」

 

「まぁわからんでも無い」

 

「ちょっと!!」

 

「……だが、セイバーの野郎は確かにそういう類のもんじゃあねえな」

 

「なら問題無いだろう、十分勝機はある」

 

世の中、確かに例外はある。

だが例外は英霊の中であってもごく稀だ、今回相手をするアーサー王はそういった意味では“王道”の類だ。

強いは強いが絶望的な相手ではない。

 

「……私がどれだけお二人の御力になれるかわかりませんが……精一杯マスターのサーヴァントとして努めさせて頂きます!」

 

「俺も……何をやれるかはわからないけど、精一杯頑張りますっ!」

 

そして未熟な二人にはその言葉だけで十分にやる気を満ちさせた。

その顔は覚悟を決めている顔だった。

心でどう思おうがそれだけの覚悟があれば大抵のことはどうにかなると、2人の英雄は知っていた。

 

だが、同時にその覚悟は少々間違えていることにも気付いた

 

「そんだけの覚悟があれば十分だ……が、坊主も嬢ちゃんも一つ間違えてんなぁ」

 

「「・・・えっ?」」

 

 

 

「俺達から言わせれば、アーサー王との戦い、重要なのはお前らの方だ」

 

 

 

そう言ってスネークとキャスターはその場の全員に簡単な流れを説明した

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 

 

 

一行は洞窟の中を進む……進むにつれて何か巨大な力を感じる事もできた

 

そしてソレはあった

 

「っこれは……!?」

 

「これって超抜級の魔術炉心じゃない!?何でこんな島国にこんな代物があるのよ!?」

 

「これが……大聖杯、なのでしょうか?」

 

「……来るぜ、王様がな」

 

「・・・ほぉ、どうやら面白いサーヴァントが居るみたいだな」

 

凛とした声、それが洞窟全体に響き渡る。

威厳があるその声は確かに王と呼ばれる存在の物に違いは無いだろう。

声がした方を見上げると、堤防の様にせり上がった魔術炉心に剣を携えた者が一人いた。

 

 

だが

 

 

「・・・女の人?」

 

「女性……ですね」

 

「待って、あれがアーサー王だと言うの?」

 

「そうだぜ、あれがブリテンの王であり誉れ高い騎士王と呼ばれるセイバー……アーサー王だ」

 

「……女の人だったんだ」

 

「まっ坊主が言いたい事も良くわかるが……覚悟決めろ」

 

「なんて魔力量なの……」

 

まず、アーサー王が女性であったという事実。

だがこれには、一般人である立香はいつかテレビで見た織田信長が女性だったというドラマを思い出し、敵ではあるものの大変だったんだろうなと勝手に思っていた。

 

それよりも、重要なのは……これだけの魔力を持つ敵を自分たちは倒せるのかどうかだ

 

そう思うマスターを守るために、マシュは盾を構えた

 

 

「……盾か……良いだろう、その守りが真実かどうか私が確かめてやろう!」

 

 

その宣言にも近い言葉と共に

 

騎士王は“飛んで来た”

 

 

「ッ後ろに下がってろっ!!」

 

 

そう言うが早くキャスターが火球を飛ばしセイバー自体を迎撃する

 

火球は全弾命中した……が、全くの無傷だった

 

 

「どうして!?」

 

「良いから下がるわよっ!」

 

 

勢い収まることなく

 

セイバーは弾丸の如く盾に向かって斬りかかった

 

 

「ゥッ!」

 

 

その威力は凄まじく、マシュの体は盾ごと空中を滑空した

 

体勢を崩すことは無かったがその衝撃は自分に直撃すれば即死するものだというのはマシュにもわかった

 

 

立香は、それに対して対抗手段の無い一般人は立ち竦むほか無かった。

だが事前に為すべきことがわかっていた魔術師は、一般人を後ろに引っ張り事前に用意していた魔術で飛んで来る粉塵や岩石から身を守っていた。

 

 

「……これから起こることに、あんたは“マスター”として覚悟を決めて見てなさい」

 

「……ハイッ」

 

 

彼女もまた自分に、彼に、何が出来るのかを理解し、何をするべきなのかを理解させた。

そして邪魔のならない場所で、マスターの役目を果たせる様セッティングした。

 

 

その間にも数撃マシュに打ち込む騎士王

 

その一発一発が重く、必死に盾に張り付いていなければ盾ごと吹っ飛ばされるとわかっていた

 

 

「いい加減俺のことも無視すんじゃねぇよっ!!」

 

 

だがその間にルーン魔術を展開し通常攻撃としては最大火力の火球を打ち出す

 

さすがにそれは自身にもダメージがあるとわかったのか、セイバーはマシュへの攻撃を止め一旦後退した

 

 

「良いか嬢ちゃん、あいつは魔力放出で体ごとぶっ飛んで来る、その威力は体験した通りだ。

それに加えて対魔力のスキルも高えから俺の攻撃もそう簡単に通らねぇ……となればだ」

 

「私が盾でセイバーさんの攻撃を受けている間にキャスターさんが攻撃ですね」

 

「そう言うこった……だがあの騎士王様はどうやら嬢ちゃんを崩しにくいと判断したみてぇだな」

 

「えっ?」

 

 

後退したアーサー王を見ると、とてつも無い魔力が集まっているのがわかった

 

どうやら一気にカタをつける気らしい

 

 

「応えようその瞳に…主を守らんとするその胸懐に……!」

 

 

騎士王の持つ剣が膨大な魔力を纏い、禍々しく圧倒的な黒い力を持つ剣と成った

 

規模は確実に対城兵器

 

どうやら宝具を解放してマスターごとまとめて始末するつもりらしい

 

 

「耐えてマシュ!」

 

 

あまりにも圧倒的なその迫力

 

それに耐えられずオルガマリーは盾を持った少女に叫んだ

 

……だが“マスター”である立香は隣で叫ぶ彼女と打って変わり、冷静に状況を捉えていた

 

(俺が出来ることは……マシュのマスターとして出来ること……)

 

 

 

「嬢ちゃん!この攻撃を耐えれば俺たちは反撃に移れる!必死になって耐えろよっ!!」

 

 

 

残念ながらキャスターにはマスターがいない

 

同じ様に騎士王の宝具を防ぐことも出来ない

 

 

だが隣にいる少女は違う

 

 

英雄でもなく、力があっても圧倒的に経験や鍛錬が足りていない

 

だが騎士王の聖剣を防ぎマスター達を守る力と覚悟はあった

 

・・・あとはこの少女が本気を出すだけだ

 

そうキャスターとなった御子は悟っていた

 

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!」

 

 

 

膨大な魔力を纏った黒い聖剣から圧倒的な質量がマシュに襲いかかった

 

 

 

だが彼女には十分な覚悟があった

 

 

 

自身の後ろで立っている二人を守るため

 

控えている仲間を守るため

 

自身が持つ盾が、自身が絶対の守り手と信じて彼女はその聖剣を真正面から捉える

 

 

そして何よりも彼女には

 

 

ここにいる自分よりも強い騎士王にも、キャスターにも無いものを持っていた

 

 

 

 

 

 

「令呪を持って命ずる!」

 

 

 

 

 

それは

 

 

 

 

「マシュ!宝具を展開!!」

 

 

人間らしいマスターが

 

 

信頼出来る自分の先輩がいるということ

 

 

そしてそんな彼が持つ絶対の命令権

 

 

「・・・見ていて下さいマスター!」

 

何よりそんな彼に、先輩に、マスターに、応える心があった

 

 

「宝具擬似登録・・・・・・・仮想宝具 擬似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)!」

 

 

そして応えられる力があった

 

盾から、彼女が待つ宝具から、仮想の壁そのものが展開された

 

「・・・こりゃスゲェな」

 

「あの盾は・・・!?」

 

その宝具にそれぞれが思うところはありながら

 

その宝具は完全に騎士王の攻撃を無力化した

 

聖剣の光は完全に消失し、騎士王とシールダーの間には洞窟の岩石が抉れているだけだった

 

 

だが同時に

 

 

「ッゥ……」

 

「「マシュ!?」」

 

「……流石にキツイか」

 

 

彼女には限界が来ていた。

 

後ろで控えていた二人は気付いて居なかったが、マシュはすでに心身ともに限界が来ていた。

特にランサーに対して時間稼ぎをした時点で彼女にかかっていたストレスは無垢な彼女には支えきれない代物だった、それこそ一般人なら発狂する程度には。

それでも彼女が壊れなかったのは、無垢だからこそ産まれた、ストレスに反発する守りたいという強い信念と彼女に憑依したサーヴァントの宝具があったからだ。

 

だがそれでも死という物が迫ってくる恐怖から耐えるにはあまりにも消耗していた。

キャスターとの模擬戦でその恐怖心をごまかしてはいたが、それでも応急処置でしか無かった。

水が溢れそうなコップの中身を移したところに蛇口から水をダブダブと注げばコップの中身は当然溢れる。

それこそ無尽蔵に注がれれば単なるコップで単なる水でもいつか流れてくる圧力からコップは壊れる。

 

 

それが魔力なら人の体など簡単に壊れる

 

 

「……………………………」

 

騎士王は再び聖剣を構え、膨大な魔力を纏わせる

 

「そんな!?宝具を連発するなんて不可能のハズよ!?」

 

「向こうは聖杯持ってんだ、魔力の無限供給くらい簡単だろうな」

 

「じゃあ何回でもあのビームが出せるってこと!?」

 

「だろうな」

 

立香もこれには流石に驚いた。

それこそ必殺技をインターバル無しで撃てるなどチート以外でも何物でも無い。

だがそんなチート相手に対してキャスターは冷静だった、そして立香も相手がチートじゃないかと指摘できる程度には余裕だった。

 

「……さて、ここからは俺たちの出番って訳だ」

 

「ほぉ、貴様が私の聖剣を止められるとは思えないが……その心意気だけは評価しよう」

 

「……元はといえばその剣も……まあ良いか、どうせ倒せば良いだけだ」

 

「だろうな、だがキャスターであるお前に私の心臓を貫けるとはとても思えないが」

 

「全くだ、今の俺とあんたじゃ相性が悪すぎる」

 

 

杖を構えるキャスター

 

腰を落とし両足を僅かにズラす

 

完全に槍を扱う構え、敵を貫くための構え

 

 

「“俺じゃあ”、な」

 

「・・・なに?」

 

 

ニヤリと笑うキャスター

 

その顔に不吉な何かを持ち前の直感で感じ取った騎士王はすぐに聖剣を放つ

 

約束された(エクスカリバー)——」

 

 

 

 

「なぁお姫様、すまんが俺と踊らないか?」

 

 

 

 

「!?」

 

だがその直前に右から声がかかる

 

急いで右を方を向く

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰もいない

 

 

 

 

 

 

「こっちだ、こっち」

 

 

真後ろを振り返る

 

 

今度は高速で剣を振るいながら

 

 

そこには・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰もいなかった

 

 

「そんな物騒なものを振り回して踊られても困る」

 

 

今度は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・捕まった

 

「なに!?」

 

「すまんが時間がもったい無いんでな、こちらからリードさせてもらう」

 

騎士王……いや彼女の手からは武器が取られ、既に集束していた魔力も霧散し、甲冑を着ているにも関わらず彼女は拘束されていた、後ろを見ようにも身動きが一切取れない。

 

「動くな、でなければお前の顔に傷が付く」

 

筋力Aであり、しかも魔力放出のスキルを持つ彼女なら拘束を解くくらい容易

 

……のハズだがどう抗っても拘束から逃れられない。

 

「キャスター!貴様私に何をした!?」

 

「ああ?俺は何もしてねぇよ……まぁそいつはあの盾持ちの嬢ちゃんと坊主の協力者だ」

 

「……アサシンのサーヴァントか」

 

「生憎、俺は暗殺者じゃないがな……吐け」

 

セイバーを拘束してる男はそのままの状態でナイフをセイバーの首に刺し向け尋問を始めた。

サーヴァント相手に尋問などほぼ無意味、情報は持ってるだろうが殺された所で聖杯を得る機会を逃すだけで死というものはあまり脅迫対象にならない。

 

「……一体私に何を話せと?」

 

「惚けるな。

そもそもここは聖杯戦争が行なわれていたはずだ、であればすでに聖杯を手にしたお前は願いの一つ叶えられるハズだ、わざわざこの場で安住している意味は無い、それこそ俺たちを待ち構えていたなら話は別だが」

 

「ふっ……所詮どう運命が変わろうと私一人ではどうにもならないというだけだ」

 

「わかるように言って欲しいが?」

 

「……なら一つ言っておこう……Grand Order」

 

「!?」

 

「……何が言いたい?」

 

「まだ聖杯を巡る戦いは、始まったばかりだということだっ!」

 

「ッ!」

 

おそらく自身が持つ魔力を全て開放した魔力放出。

このままでは流石に耐えられないと判断した拘束者は、セイバーを自分の背後に投げた。

それと同時に彼女は魔力放出を止めたが、同時に火球がセイバーを襲った。

 

「そんだけ魔力を放出した直後なら、俺の攻撃もよく通るだろうよ!」

 

「……話は終わりだな、さっさと寝ろ」

 

ダメ押しに、一匹の蛇はハンドガンをセイバーの顔に3発、さらにグレネードを一個放り投げた。

直後、爆発が起こりセイバーの辺り一体の土煙が立ち込めた。

その煙が消えた時……すでにセイバーの体は消えていった。

 

「……終わったか」

 

こうして騎士王は倒された。

 

最後に見えた騎士王の顔は……なぜかすごく、もの凄く不満そうな顔をしていた。

 

しかもその顔はスネークに向けられていた。

 

だがその顔が見えたのはキャスターだけで、当のスネークはさっさと後ろに控えているマスターとマシュの方に駆け寄っていた。

少なくとも、この後どうなるかを想像したキャスターは考えるのを止め、最後に彼らに声をかける事にした。

 

「……おっ、どうやら俺もお役御免らしい」

 

「キャスターさん!」

 

同じくキャスターの体も倒してきたサーヴァントのように、光の粒子となって消えていく。

そんなキャスターを心配したのか、マシュが声をかけるが……当のキャスターは嬉しそうだった。

 

「おう!最後に嬢ちゃんに呼ばれただけ良いご褒美だ……坊主にスネーク!あとは頼んだぜ!」

 

「そうか……まぁやることはやろう」

 

「ケッ、最後に格好つけやがって…………次に俺を呼ぶ機会があれば、ランサーとして呼んでくれ!」

 

そう言ってキャスターは満足そうに消えていった。

そしてセイバーが倒れていたであろう場所に、黄金に輝く物体が落ちていた。

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

「……キャスターとセイバーの消滅を確認しました、私たちの……勝利でしょうか?」

 

「まぁ随分と呆気ない勝利だがな、これでこの特異点の問題は解決したのかは知らんが」

 

《マシュ!藤丸君!どうやら君たちは聖杯を手にしたようだね。

こちらでも空間の歪みの解消を確認した、本当に良くやってくれた、そこにいるスネークも》

 

「そうか……だそうだが所長さん、このあとはどうする?」

 

「……………………………………」

 

「所長?」

 

「っそうね……ここに長居する気は無いわ、さっさとカルデアに帰るわよ!

ロマニ、すぐにレイシフトの準備よ、マシュはあそこにある聖杯を——」

 

 

パチッ、パチッ、パチッ、パチッ、

 

 

「……どうやら、まだ終わらんみたいだな」

 

「フォウ!」

 

「いや、まさか君たちがここまでやるとは……計画の想定外にして……私の寛容さの許容外だよ」

 

どこからか拍手と声が聞こえる。

見ると、最初にセイバーが立っていた場所と似たような場所に男がいた。

……その存在を訝しみながらも、スネークは銃をしまった。

 

「アレは・・・レフ教授!」

 

《レフ教授だって!?》

 

「……おい坊主、あの男を知ってるのか?」

 

「あっはい、レフ教授です、カルデアの技師ですが——」

 

「レフ……レフ!レフ!レフゥ!!」

 

「……所長に次ぐカルデアの重鎮です」

 

マシュが立香に変わり説明する中、思わない再開にオルガマリーは駆け出した。

 

それこそ久しぶりに再会した父親に駆けていく少女の様に。

 

「おい、だがあいつは……」

 

「レフ!良かった!あなたは生きていたのね!」

 

「やぁオルガ……君も大変だったみたいだね?」

 

「そうなの!もう訳がわからない事ばかりで……頭がどうにかなりそうだった……………………………………

けど!あなたがいればどうにかなるわ!!さあ一緒にカルデアへ——」

 

 

 

「・・・全く、予想外すぎて頭にくる……ロマニ、君にはすぐ管制室に来るよう言っただろう?」

 

 

《………レフ?》

 

「っ戻ってこい!・・・チッ!」

 

 

何か察したらしいスネークはオルガマリーに叫ぶが……当の少女はひたすらレフ教授へ走っている。

 

アレはもはや子犬と大差なく、周りの声など聞こえてないだろう。

 

 

 

「……君もだよオルガ」

 

 

「え?」

 

 

そこでようやく走るのをやめた少女、だがそこはあまりにも近過ぎで無防備であり、スネークも近付けない

 

 

「爆弾は君の足元に設置したのに……っまさか生きてるなんてねぇ」

 

「……レフ?」

 

 

そこでようやく違和感に気がついたのか、少女はレフがいる方を見上げる。

 

マシュや立香も違和感に気がつき、レフの方を見る。

 

 

「いや……生きているとは違うな……君はとっくに死んでいる、肉体はとっくにね!」

 

 

そこには……温厚な顔を持つ男ではなく、悪魔のような表情をして笑みを浮かべる男がいた。

 

 

「きみは生前、レイシフトの適性が無かっただろう?

・・・まさかポッドの外にいたからレイシフト出来たなんて馬鹿なことは言わないよね?」

 

「ちがう……の……?」

 

「言っただろう?君の肉体はとっくに死んだ!

肉体があったままじゃ転移できない、君は死んで初めてあれ程切望していた適性を手に入れたのだよ。

……そこにいる一般人の彼のようにね」

 

「そんなぁ……ウソ……」

 

「だから、君がカルデアに戻った時点で君は消滅する」

 

「!?消滅って……私が……!?」

 

 

そこでようやく少女はオルガマリーに戻った、だが目の前にいる男を未だにレフと見なしている。

 

 

「……坊主、奴が言ってることが事実なら彼女が死ぬっていうのは事実か?」

 

「えっ?えっと……」

 

《……本当です、おそらく所長は……魂だけがレイシフトしてそこにいるんだと思います》

 

「そうか……なら確認するが、彼女は“死んでいる”な?」

 

《……ええ》

 

「……坊主、頼みがある」

 

「何ですか?」

 

「恐らくだが——」

 

 

その間にスネークはこの場にいる二人や通信先の男から情報を引き出した。

それらから総合して一つの可能性を見つけた……が、まだ実行する時ではないと判断した。

だがその間にもレフと名乗る男は話を続けた。

 

 

「だがそれではあまりにも哀れだ…………そこで、生涯をカルデアに捧げた君に、最後の手向けとして今のカルデアはどうなっているかは見せてあげよう」

 

するとセイバーがいた場所にあった黄金の物体がレフの手元に突如飛んでいき、そのまま消えた。

 

そして彼の背後に太陽の様に赤い、地球儀の様なものが現れた

 

周辺には瓦礫も見える

 

 

それに見覚えがあるらしいオルガマリーは・・・ただ怯えていた

 

 

「うそ・・・よね・・・?アレはタダの虚像でしょ!?そうでしょレフ!?」

 

「ヒドイなオルガ……私がわざわざ君のために、時空を繋げてあげたんだ。

聖杯があればこの程度のことは簡単に出来るからね」

 

《……こちらでも確認した、確かに今カルデアとそこの空間は繋がってる》

 

「……………………」

 

「さぁよく見たまえアニムスフィアの末裔、これが貴様らの愚行の末路だ!」

 

「っ!?」

 

すると突如、オルガマリーの体が宙に浮いた

 

それこそ超能力の様に、何かに引っ張られるように

 

そのまま彼女の体は……あの太陽の様なものに吸い込まれるように向かっていく

 

 

「っちょっと!?一体何をする気!?」

 

「だから言っただろう、君への最後の手向けだよ……君の宝物とやらに触れるという、ね」

 

「・・・何を言ってるの!?だってカルデアスよ!?」

 

「ああそうだね、ブラックホールと何も変わらない、まぁ太陽かもしれないが」

 

 

そのまま彼女の体はレフを通り過ぎカルデアスに向かった

 

その先は……文字通り暗黒なのだろう

 

 

「そのまま、生きたまま無限の死を味わいたまえ」

 

「イヤァ!イヤァ!!助けてよぉ!!」

 

《マズい!このままじゃ所長が……!》

 

「っ所長!!」

 

「ダメです先輩!近付いたら先輩も……!!」

 

「坊主!」

 

 

立香がオルガマリーの元へ駆け出そうとするがマシュが手を取り止める

 

 

スネークも彼の前に立ち、行く手を阻む

 

 

いまさら人である彼が行っても

 

 

サーヴァントであるスネークが行っても

 

 

どのみち彼女に近付くことすら出来ないのは目に見えている

 

 

 

「どうして!どうして!?まだ誰にも褒められて無いのに!まだ何もして無いのに!!」

 

 

「オルガ……君はそこでずっと生きていればいいんだ……永遠の死とともにね」

 

 

「イヤアァァァァァァァァァァァァァァアァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

そのまま彼女の体……いや、魂は・・・・・カルデアスによって分子レベルに分解される

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

令呪をもって命じる!

 

 

 

 

スネーク!

 

 

 

 

彼女の“幽霊”を捕まえろ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・全ての哀れみ、俺に憑く力を少し貸してくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲しい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

哀しい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ

 

 

 

 

 

 

 

この世は哀しい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・されど彼女には戻る場所がある、か

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何?」

 

立香は令呪を使ってスネークに命じた。

令呪とはサーヴァントがマスターに従う絶対的な命令権。

 

それがたとえ物理的に不可能だとしても

 

サーヴァントに出来ることならその能力を飛躍的に高める

 

サーヴァントに出来ないものでも瞬間移動程度なら奇跡として可能にする

 

スネークはマスターの命に応えるため“彼”と“彼ら”の力を借りた

 

「……なにが起きている?何故動かない?

……まぁ良い、オルガ!君はとっくに死んでいる!さあ君の願いを叶えよう!さあカルデアスに——」

 

「黙ってろ、彼女は助けろと言っている、女性が助けを求めて無視とは最低だな?」

 

突然彼女が空中で止まったことに驚きながらも、レフがオルガマリーに話しかける

 

だがスネークが堂々とそんな彼に向かって喋り出す

 

「……ほざけ使い魔が、貴様にはなにも出来まい、近付いただけで貴様らもカルデアスに飛ばしてやろう」

 

「ぉお怖いな……だが彼女は“魂”そのものだ、肉体を持たない“幽霊”に等しい」

 

「………それが何だと言うのだね?」

 

「それなら“奴"の領分だ、奇跡も使い物にならん」

 

「なにが言いたい」

 

「単純だ、“あいつら”は彼女を捕まえた、それだけだ」

 

「……なに?」

 

「わからないなら黙っててくれ、俺は少し彼女に用がある」

 

 

それだけ言ってスネークはオルガマリーに尋ねる

 

 

「オルガマリー、お前はどうする」

 

「どうって!?」

 

「いま、お前はそいつに殺されかけてるが、どうする」

 

「助けてよっ!!私はまだ死にたくない!!」

 

「自分ではどうにも出来ないか?」

 

「だから助けてよっ!」

 

 

「・・・ふざけるな」

 

 

『!?』

 

「お前に意思はないのか、助けて欲しいのはわかる、だが自分でどうにか解決しようとしたか?」

 

「どうしようも出来ないじゃない!!」

 

「お前の近くに敵が居るのにか?」

 

「ふざけないで!!早く私を——」

 

 

「・・・・・ふざけてるのはどっちだ!!」

 

 

「……おやおや、仲間割れかい?君も大変だねオルガ」

 

「…………………」

 

 

「ふざけてるのは誰だ、お前を殺そうとしてるのは誰だ?」

 

 

「君はもう何もしなくていいんだ、オルガ」

 

「…………………」

 

 

「お前がいま為すべきことは!出来ることは!一体何だ!?」

 

 

「君はもう役目を果たしたんだ、もう君がすることは無いんだよ」

 

「………………」

 

 

「お前が!この坊主を守ったのは何故だ!?」

 

 

「オルガ、あの男が言っていることはデタラメだ、君はもう、大丈夫だ」

 

「…………………」

 

 

突然始めた問答

 

その意図にレフも、立香も、マシュも、ロマニも、誰もわからなかった

 

ただ、空中で静止しながら問答を受けていたオルガマリーはただ疲れたのか黙り込んでいた

 

 

「……残念だったな使い魔、彼女はもう私の暗示にかかってる、もう何も喋ることは出来んよ」

 

「そんなっ……所長!!」

 

「ダメです先輩っ!」

 

「………………………………」

 

「そうだ、所詮貴様らには何も出来ないのだよ、ただ貴様らはこの私に、2015年担当者の私に——」

 

 

「…………………よ」

 

 

「……オルガ?」

 

「……残念だったのはお前の暗示みたいだな」

 

「……………でよ」

 

「はぁ・・・オルガ、もう君には出来ることなど無い、だから目を閉じていればいい」

 

「もう一度聞くぞ嬢さん!お前がいま、為すべきことは、出来ることは、一体何だ!?」

 

「………ないでよ」

 

「オルガ、君はもう——」

 

「いい加減さっさと気付け!お前の今するべき事は何だ!?」

 

 

 

 

 

 

「ふざけ…………ふざけんなぁアァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 

 

 

 

心がブレれば照準がズレる

 

だが強い意志があればブレは収まり照準は合う

 

空中で浮きながらも彼女は

 

オルガマリー・アースミレイト・アニムスフィアは

 

決して的を外そうとせず

 

決して相手に屈しようとはせず

 

 

 

ただ単純に

 

 

 

ここで死にたくなど無かった

 

 

 

発砲

 

その魔力でできた塊は

 

寸分の狂いもなく

 

対象の頭に向かっていた

 

 

「……残念だが、私にそんな物は効かないよ」

 

 

だが対象は……レフは何も意味が無いかのごとく。

実際、彼にとっては何の意味も成さない彼女の魔術を消しとばしたらしい

だが彼女にとってそれは大いに意味にある行動だった。

 

「……良いだろう、連れて来い!」

 

スネークのその言葉通り

 

オルガマリーの体はゆっくりとスネークの方へ移動していった

 

それこそどこか天空の城のようにゆっくりと

 

「……貴様、一体何をした?」

 

「俺は何もしていない、ただ“奴"と“彼ら”が手伝っているだけだ」

 

「・・・まあいい、彼女は私を殺そうとした、なら殺せば良いだけだ」

 

そう言ってレフは手をかざし、何らかの攻撃魔術を放った。

それは素人が見ても恐ろしいもので魔術師である彼女にはそれが呪詛の類のものを集めたものだと判った

そして触れれば即死だと言うのも優秀である彼女は察した

 

だが

 

『……哀しい』

 

「……何!?」

 

 

何らかのモノがその呪詛を拒むかのように

 

その魔術は“完全に打ち消された”

 

「無駄だ、彼女が“魂”である以上一切の攻撃は“奴"によって無効化される」

 

「……貴様!まさか超能力者か!?」

 

「そんな訳が無いだろう……」

 

“奴”はスネークの言葉通りで魂を集めることに長けた者

 

だからと言ってスネークを率先して助けることは無い

 

ただ常に側にいて向こう側にいる

 

そうして死者の魂をいつも集めていた……こうして今も

 

「それとだな、お前は戦闘に慣れて無いようだから言わせてもらうが、そこにはセイバーが居た」

 

「ぁあ?ああ、知っているとも、あのセイバーは余計な手間を取らせた。

……そうだDr.ロマン、最後に忠告をしといてやろう、未来は消失したのでは無い、未来は焼却されたのだよ」

 

《……外部の連絡が取れないのはそもそも外部はもうすでに消え去って何もに無いからか》

 

「そんな……!」

 

 

「そういうことだ、お前らは進化の行き止まりで衰退するのでも、一族との交戦の末に滅びるのでも無い!

 

自らの無意味さに!自らの無能さに!

 

我らが王の寵愛を失ったが上に、何の価値も無いゴミくずのように跡形も無く燃え尽きるのだ!!」

 

 

随分と声高々に宣言したレフ、その内容はカルデアにいるスタッフも驚く内容だった。

その言葉には当然マシュや立香も驚き、絶望するような内容だった

 

 

・・・・・のだがそれ以上に

 

 

「・・・はぁ」

 

 

呑気に葉巻を吸い出した男がいて絶望などしなかった

 

 

「……お前、俺が言ったことを覚えてないだろ?」

 

「……ああ、聞こえてなかったのか?

ゴミくずと何ら変わらない存在ごときの言葉を私が覚えているとでも思ってるのか?」

 

「……そうか、ならその余計な手間を取らせたセイバーが何故最初にお前が立っている場所に居るかわかるか?」

 

「はぁ?そんなものどうでも良いだろう?」

 

「……そこが一番周りを見張るのにちょうど良いからだ」

 

「……ああ、確かにあの女はここで辺りを意味も無く見ていたな」

 

「……どうやらこれ以上は無意味だな、忘れてくれ」

 

「はっ!ああ、貴様らももうすぐ焼却される運命に変わりは無い!

貴様らはすぐに人理焼却の炎によって存在もろとも燃え尽きるゴミに変わりはない!!」

 

「…………………………」

 

「ハッハッ、ハッハッハッ、ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」

 

声高々に笑うレフ、それは完全に勝ったも同然の物だった。

 

 

 

だが考えても見て欲しい

 

 

 

見張りやすい場所というのはつまりアーチャーの様な狙撃屋が攻撃しやすい場所だ。

 

そしてスネークはセイバーとの交戦中、最初は全く関わってなかった

 

それは一体何故か?

 

 

 

 

 

 

 

「ならお前から燃え尽きろ」

 

 

 

 

 

 

 

横にオルガマリーが付いたのを確認し

 

葉巻を投げ捨て

 

胸から何かを取り出した

 

それは真ん中が赤いボタンだった

 

そして何の躊躇いもなくそのボタンを押した

 

 

 

瞬間、レフが立っていた場所ごと“崩壊した”

 

 

 

その威力は凄まじく、堤防の様に築かれていた土の山が“爆ぜていた”

 

騎士王の放つ聖剣の様な暴風がその場にいる全員を襲った

 

とてもその暴風には敵わず、マシュの後ろに立香とオルガマリーは隠れた

 

……が、スネークは飛んできた葉巻を取り、律儀に葉巻入れに燃えカスをしまった

 

同時に立香が持つ無線に叫んだ

 

「ドクター!レイシフトを実行しろ!恐らく洞窟が保たん!!」

 

《わっわかった!けど所長は……!?》

 

「安心しろ、彼女はとっくに固定化されている!」

 

《……んぁあわかった!けどそこの空間自体が間に合わないかも知れない!!》

 

「だったらさっさとやれ!

坊主!さっさとこの場から撤退するぞ!マシュは走れるか!?」

 

「ハッハイ!!」

 

「ならマシュは坊主を担いで走れ!俺はそこの所長を背負う!とっとと走れぇ!!」

 

そのままスネークは言うが早く、所長を担ぎ洞窟の出口へ走った。

それに釣られてマシュも立香を背負い走り出した、だがそんな中でオルガマリーは暴れだした。

 

「ちょっと!?レフは——」

 

「あれは多分生きてるだろうな!空間を繋げることが出来るならどうにかして逃げただろう!

だがおかげで俺らは洞窟が崩れる前に逃げれば問題無い!!」

 

「何で洞窟が崩れるのよ!?」

 

「崩れているのはこの空間では!?」

 

「俺が事前に仕掛けた爆薬だぁ!あのセイバーの仲間が他にいるとも限らんからな!事前に罠を張っていた!

洞窟ごと破壊する必要は無いと思っていたが嫌な予感がしてな!仕掛けておいて良かった!!」

 

「・・・じゃあスネークさんの所為なんですか?」

 

「…………そこは……ほら、あれだ……あのレフとかいう奴が現れなければ良かったんだが」

 

「それってつまりスネークさんの所為じゃないですか!!」

 

「っほらさっさと走れ!崩壊するぞ!!」

 

マシュの指摘から逃げるかのようにスネークはスピードを上げた。

 

その速さは少なくとも40代男性が出すような速さではなく

 

いくら俊敏Dとはいえマシュが置いていかれるのはいささか異常だった

 

「よし出口だ!踏ん張れよ!!」

 

目の間に出口が見えた

 

外は暗く、夜ではあったがとても輝いているように見えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして・・・・・・・彼らは・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUE

 




何かご意見・ご感想がありましたら作者の参考にも励みにもなります。
何かありましたら感想欄にて教えてくださいm(_ _)m


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炎上汚染都市冬木:エピローグ


どうも、今度は炎症によってほとんど口が開かない作者です

お昼になってネットに接続したらいつの間にかこの小説がオレンジ色になってました。
そしてお気に入り登録者数が150を超えてました。

・・・ありがとうございますm(_ _)m

残念ながら執筆時間が来週を持って消える私ですが来年の4月以降から執筆時間がきっと戻ると思われます。
すでに30件の感想を貰えて、個人的には大変有り難いことだぁ……と思いつつも、


今日の投稿を持って一旦休止になります、早過ぎますが……


しかし、来週にはもう2本投稿できると思いますのでご安心(?)下さい。
また、感想欄は見ておりますので何かありましたら感想欄にて教えてください。

改めて読者の皆さんに、
どうかあと一週間ほど相手にして頂き、1年ほど待って下さいm(_ _)m

前書きが長くなりましたが、本編をどうぞ


※この話にてスネークのパラメータが書かれていますので、ご確認下さい


 

 

 

暗闇の世界が目を開ける事で明るい世界へと変わる。

体に痛みはなく手のひらを、指を、両手を見る限り怪我はなく欠損も無い。

 

「……どうやらまだ生きてるみたいだな」

 

「その通りだよ」

 

「!」

 

その瞬間、意識を戦闘の物へとすり替え寝ていた状態から一気に飛び上がり声がした方から距離を取る。

 

周りは……病院だろうか、白を基調とした部屋でベットが一つある程度の質素な部屋だ

 

そして寝ていたであろうベットの横には2人いた

 

1人は男……だがそっちは見たことがある、その顔はあのキャスターに軟弱男と呼ばれていたそいつだ

 

もう1人は見た記憶は無い美人

 

だがどこかで、どこかで見たことがあるような気がしないでも無い

 

……とりあえずその2人が敵では無いのは確かなので両手を上げて首を振った。

 

「すまん、つい癖でな……悪かった」

 

「いやいや、むしろその反応の速さに私は感心するよ〜むしろ興味があると言ってもいい!」

 

……この声にも聞き覚えは無い。

だがこの声の調子にスネークは覚えがあった……そう、自分の所にいた研究開発班のメンバーだ。

どうやら彼女は結構な腕利きではある様だが……しばらく観察に徹した方が良さそうだと判断し話を続ける。

 

「ああ、むしろ突然声をかけた僕たちの方に非はあるからね。

さて……早速だけど色々と話がしたいことはお互いたくさんあるだろう、ここでは何だから管制室に移動しながらでも構わないかな?」

 

「ああ構わない、それより確認したいが……あのマスターと彼女たち2人は無事か?」

 

「……まだ意識は戻ってないが、1日休めばマシュも立香くんも目は覚めるだろう、ただ所長は……」

 

「ああ、そっちは問題無い、恐らく“奴”がどうにかしてくれる……その点も含めて話すとするか」

 

「そうだね……ならついて来てくれ」

 

そう言って、2人は部屋から出てスネークを案内し始めた。

廊下に出ると随分と広い施設だとわかる……なおさら病院に思えてきた。

 

「改めて、人理継続保障機関:カルデアにようこそ、我々はあなたを歓迎します……もっとも今は復旧作業中ですが」

 

「問題無い、俺はここから去る気も無い……流石に人理焼却なんて代物をどうにかする事は俺だけでは無理だ」

 

「ほうほう、そこら辺は賢いみたいだね?」

 

「……ところで彼女は誰だ?」

 

「ああ、彼女は——」

 

「私かい?私は万能の天才と呼ばれるダ・ヴィンチちゃんさ!」

 

「レオナルド・ダ・ヴィンチか」

 

「……あれ?以外と驚かないんだね?」

 

「かのアーサー王が女性だったんだ、今さら不思議でも無いだろう……天才とか呼ばれる奴は大体こんな感じだしな、大方……モナ・リザに成りたかったからそんな姿をしてると言ったところか?」

 

「ほぉ〜、私のような天才を何人も見たことがあるみたいだねぇ?」

 

「……あんたがどんだけ天才かは今はまだわからんが、優秀なクリエイターだと言うのはわかる。

実際、俺の仲間にはそういう奴が多かったからな」

 

そう、驚異的というか狂為的と言った方が正しそうな研究員は何人もいた。

中には女性の方が美しいからなんなら女に成りたかった、と語る部下もいたりした。

そんな縁で、《モナ・リザ》がレオナルド・ダ・ヴィンチの女体化という説を知っていたというのもあり大方そんな感じなのだろうと予想していた。

 

 

……出来ればあまり信じたいとは思いたくない予想だったが、その答えは今目の前で歩いている

 

 

「……その点を一つ、確認したい。

あなたは……あなたはCQCの祖であり、アウターヘブン蜂起をした張本人、BIG BOSSですか?」

 

唐突にそう聞いてきた軟弱男には脆さはあったが、弱さはなかった。

……まあ確かにその点はこの組織にとっては重要な事なのだろう、スネークは真面目に対応する事にした。

 

「まあな」

 

「ですがあなたは近代……どころか現代の人間です。

あなたがどんなに実力者であろうとも、現代の人間が英霊召喚で召喚される事はほぼ不可能なハズ。

……あなたは一体どうやって召喚に応じたのですか?」

 

「……どうやら思った以上に俺は例外的らしいな、だがそれを知ってどうする?」

 

「・・・え?」

 

「ふむ……あまり知られたく無い事なのかな?」

 

レオナルド・ダ・ヴィンチ こと、ダ・ヴィンチちゃんが探りを入れるように質問する。

だがスネークとしては別に知られたくないのではなく、喋りたくないだけだ。

 

「いや……まあ気分の問題だ、教えても構わないが……今は教えたく無いな。

だが俺はあの坊主に召喚された以上、あの坊主に従う、そしてあの坊主はここの所属するものだろう。

ならある程度俺もこの組織に従う必要があるだろう、俺はそれに抗うつもりは無いからそこは安心してくれ」

 

「……ロマン、どうやら彼は好意的な英雄みたいだ、別にその点は心配いらないだろう。

万能の天才である私が保証しよう」

 

「……それは保証になるのか?」

 

「なる!」

 

「そうか……で、実際どうなんだ?」

 

「……まあダ・ヴィンチちゃんが言うからには確かなんだろうね」

 

「ならよろしく頼む」

 

「ああ、こちらこそ」

 

「…………ねえ、何で私の言葉は信じないで彼の言葉はすぐ信じたんだい?」

 

「万能な技術者ほど人間関係で信頼できないものは無い」

 

「確かにねぇ……」

 

「ヒドイなぁ、私がそんな詐欺みたいな事をすると思うのかい?」

 

「…………………それは知らないが」

 

「今の妙な間は何だい!?」

 

全く疑う余地が無いわけでは無いが、彼……彼女が信頼出来るかどうかはロマンからの反応を見るに、それなりの前科があると見た方が良いだろう。

それでも技術の腕は確かなのは間違いないのも確かだろう。

 

「……でもひとつ、これからの為にも確認しないといけない事があるんだ」

 

「ん?何だそれは」

 

 

「君のスキルとパラメータだ」

 

 

そう言われて案内された場所は随分と現代的な場所。

見る限り通信設備と幾つものタッチパネル式の液晶にキーボード、職員は18人で今も彼ら3人が入ってきても誰として作業の手を止めていない。

 

そして正面のガラスがあったであろう吹き抜けの先には……太陽のような物体が浮いていた。

 

「あれは確か……カルデアス、とか言ったか?」

 

「ええ、惑星には魂があるとの定義に基き、その魂を複写する事により作り出された小型の擬似天体です

星の状態を過去や未来に設定する事ができ、現実の地球の様々な時代を正確に再現可能です」

 

「言ってみれば地球のコピーか」

 

「……驚かないんだねぇ、本当に」

 

「これ位なら幾らでも見てきた、人工知能とかな」

 

「なるほどねぇ……」

 

「……さて、まずは我々の話からしましょうか、こちらへ」

 

そう言われ、また歩くと今度は一つの研究室に案内された。

中は様々な物質に化学薬品、見たこともない何かがそこにはあった。

 

「……随分と薄いが、あの洞窟で感じた似たような雰囲気が漂ってるな?」

 

「たぶん魔力の事だろうね、まあここは私の工房さ」

 

「なるほど、ある種の研究室と工場を兼ね備えてるのか」

 

「……本当に良くわかるね」

 

「でだ、とりあえずは俺に関した事から片付けたい……俺のスキルとパラメータってのは何だ」

 

「……それはサーヴァントなら、わかってるだろう?」

 

「いやわかるが、何で俺のスキルとパラメータってのが気になるんだ?」

 

まずはそこだ。

スキルと言うのは各サーヴァントが持つ特技みたいなもの、パラメータはそれぞれのスペックだ。

スキル自体、スネークも自身が組織した軍隊で似たようなものを知っている。

 

「……まあ言っちゃ何だけど君がレイシフトでここに来て検査をしたんだ、身体的な意味でも魔術的な意味でもね」

 

「それでスキルっていうのはわかるもんなのか?」

 

「身体検査だからね、普通はわかるはずなんだけど……ねぇ」

 

「ん?わからなかったのか?」

 

「まあそういう訳だ、多分君のスキルの中に何かしら自分の情報を隠すスキルがあるんだと思う。

それが検査というものを一種の外敵からのアプローチとして発動したんだと思う」

 

「……じゃああれか、俺が自分で情報を言う必要があるのか?

だが俺は接近戦に強いってのと宝具ぐらいしかわからないぞ、それこそマスター権限ってのでマスターが自分のサーヴァントを解析する位しか方法はないだろう」

 

「そこでダ・ヴィンチちゃんの出番って訳さ!」

 

「………どうする気だ?」

 

「まぁまぁそう警戒しなくていいよ、多分君の体を“勝手に”解析したのがマズかったんだ。

少なくとも今は意識がある状態で、私たちのことを敵だとは認識していないだろう?

それならその妨害してると思われるスキルも発動しない、その状態で検査をするだけだよ」

 

「……俺はあまり検査は好きじゃないんだが」

 

「そうは言っても……一体何が出来て何が出来ないのか、どの位の戦力なのかを知るのがどれだけ重要かは

あなたならわかるはずです」

 

「……わかったわかった、それなら一つ注文だ」

 

「そう怖がらなくて良いさ!一瞬で終わるしね!」

 

「そうじゃない、そこの男に注文だ」

 

「……僕に?」

 

だが一つだけ、まずは解決したい問題がスネークにはあった。

自分には思い当たりのないらしいロマニはスネークの指摘に疑問で返したが、その注文内容は至ってシンプルだった。

 

 

「お前、言い方が嘘くさい、と言うより不自然だ。

聞いている方が違和感しか感じないから話し方を普通にしてくれないか、居心地が悪い」

 

 

「言われようがヒドイぞ!?」

 

「そうだ、そんな感じで構わない。

俺は単なる傭兵、実際サーヴァントだしな、気に食わなかったら文句を言うがへり下られてもやりにくい。

俺のことはスネークと呼んでくれれば問題ない、俺もその方がやりやすいしな」

 

「ほらぁ、やっぱり言ったじゃないか、君は話し方をわざわざ意識なんてしなくて良いんだよ」

 

「そうは言ったって相手は伝説の傭兵だよ!?

確かに王様とかとてつもなく偉い身分の人じゃないとはいえ年長者だよ!?」

 

「……お前の隣にいる奴も年長者だと思うが」

 

「彼は……ほら、ダ・ヴィンチちゃんだし」

 

「なるほどな」

 

「何がだい?私が何かした事が今まであったかい?」

 

何かが抗議している気がするが恐らく機能性だろう。

ここは機能的なものが多い、きっと何かが作動してる音に違いない。

 

「じゃあ改めてスネーク、とりあえず君の検査を始めよう、そこに立ってくれ」

 

「わかった」

 

「……ねえ君たち?ひどくないかなぁ、私は万能の天才ダ・ヴィンチちゃんだよ?」

 

「立ってるだけで良いのか?」

 

「うん・・・終わったよ、もう座ってくれて良いよ」

 

「………なぁ君たち、ここが私の部屋だって知ってるかい?」

 

「意外と早く終わったな?」

 

「いわゆるレントゲン撮影とほとんど変わらないからね。

実際マスター権限でのサーヴァントの解析もマスターがサーヴァントを観るだけだ、スキルやパラメータを見る程度ならそれなりの機材が必要なだけで大した手間じゃないんだ」

 

「…………ロマン、君が隠している柿ピー食べるよ」

 

「そうだスネーク、長話もなんだからそこにあるチーズでも食べながら話そう」

 

「ほお、チーズか」

 

「悪かったよ!今まで勝手にチーズを注文したり所長のマカロン食べたりロマニの歌舞伎揚げ食べたりマシュのメガネを改造したりしたけど!!

それでも私はただ単にみんなに楽しんでもらいたかっただけなんだっ!!」

 

「……ダメ人間だな」

 

「そうだねぇ」

 

さすがに同情の余地があるかと思っていたが……彼女が自白した内容を聞く限りだめだろう。

むしろ今白状したのがほんの一部でしかないのだろうと簡単に想像がついた。

……だからと言ってチーズで釣ったロマニもロマニでどうかと思うが、それで釣られたのが人類の万能の天才と呼ばれた逸材、英霊なのだが。

 

「それはそうと、俺のスキルとパラメータってのはどうなんだ?」

 

「うん、今プリントアウトしている……出てきたね、はいコレ」

 

「拝借する、と言っても俺に関した事だが」

 

「まあそうだね」

 

そう言いながらも渡された一枚の紙に書かれた内容を見る。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

対象:スネーク

真名:BIG BOSS

クラス:ライダー

 

▪︎パラメータ-筋力:B+/耐久:A/俊敏:B/魔力:E/幸運:E/宝具:C

▪︎クラススキル-対魔力:E/騎乗:C/保有スキル-心眼(真):B/カリスマ:A/射撃:A/クイックリロード:B/

/ゴースト:A+/対巨大:EX/死者の加護:EX/

 

 

【CQC(クロース・クォーターズ・コンバット】

▪︎ランク:C/種別:対人宝具/レンジ:1-2/最大捕捉:1人

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

【⚫︎⚫︎⚫︎(ーー⚫︎ーー⚫︎ーー-----)】

▪︎ランク:?/種別:???/レンジ:???/最大捕捉:不明

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「……なんだこれは、健康診断か何かか?」

 

「いや君のステータス……なんだけど……どういう事だ?」

 

「どれどれ…………ねえ、一つ確認していいかな?」

 

「なんだ」

 

「君って本当に現代人?」

 

「当たり前だろう、俺はつい最近まで生きていた…………とは言い難いが、去年死んだ。

9.11の同時多発テロやその首謀者がアメリカによって殺された事も知っている、あとロシアがオリンピックの裏側で侵攻をしてた事もマンハッタン沖でのタンカー沈没も知ってるぞ」

 

「……知ってる内容がアレだけど……うん、まぁとりあえず嘘じゃないみたいだ」

 

基本的に英霊は召喚されると、召喚した聖杯から現代の知識を与えられる。

これは各時代で生きた英霊たちが現代社会で生きていけるように、というある意味オカンの様な配慮と言える

ここで言う知識というのは召喚された現地の言語、そして生活に関わる社会的な一般常識だ。

 

もっとも

例えば日本で召喚された場合、食文化で言えば米という存在と箸の使い方や食べ方は知識として与えられる。

その一方で生前よく食べていたパンの方が好みだ、という英霊も多い。

そして、それぞれの英霊が現界した時には当然生前の記憶や知識も含まれている。

 

それらから考えるとスネークが持つ知識はとても聖杯が与える代物ではなく生前知っていた“記憶”と言える。

……彼の場合は生前、記憶や経験を記録されたといった方が正しいが。

 

「というかロマニやあのマシュとか言った嬢さん、あとマスターの坊主も知ってたみたいだが?」

 

「そう……なんだけどさ、なんか色々と天才である私の予想外なんだけど……うーむ……」

 

「具体的にはなんだ」

 

「……とりあえず僕の口から説明しよう」

 

勝手に自分の世界に入っていったダ・ヴィンチをしばらく放っておき、代わりにロマンが説明を始めた。

 

「まず、宝具の説明欄が無い」

 

「ああこれか、説明文だったのか」

 

「……ごっそり抜けてるなんてこと自体初めてなんだ。

それに加えてもう一つの宝具はそもそも効果が不明、説明文も無し、名前も意味不明」

 

「おい待て、名前が意味不明は無いだろう、確かに顔みたいになってるが」

 

「そう言いたくなるくらい おかしいからねぇ……その点何か思い当たることはあるかい?」

 

「思い当たることなんてあるわけ無いだろう」

 

「いや、あるはずだ。

宝具っていうのはサーヴァントの最終武装、生前の偉業を形にしたものだ、心あたりはあるはずだよ」

 

「…………なるほどな、そういう事か」

 

「どういうことだい?」

 

「まず、お前たちが知っている俺に関する情報は事実の一部に過ぎない」

 

「だろうね」

 

「いいや、お前が思っている以上に一部分に過ぎない。

そして俺は根本の部分、生前の行いで自分に関する情報を秘匿することが体に染み付いている。

……あまり詳しく言いたくないが、とりあえず仮に俺が許可をしても俺の重要な部分を他人は知ることが出来ないだろう……魔術的に合ってるかはわからんが一種の怨念に近いかもな」

 

「……そんなに知られたくないのか」

 

「本能的に思ってるんだろうな、それか俺の性かもしれんが。

実際、CQCに関して教えろと言ったら体で教える以外に方法は無い、口だけで説明できるもんじゃ無い」

 

「あっそういう意味なんだ」

 

「あくまで俺の予想だがな」

 

「……じゃあ宝具の説明部分が抜けてるって言うのは……」

 

「そもそも説明が出来ないからだろう。

もう一つの方は……宝具自体が情報を秘匿する効果があるんじゃないのか?」

 

「じゃあ、その効果に思い当たるところはあるんだね」

 

「あるな、俺自身の情報は……そういう風に扱われたからな」

 

「?……それはどういう意味だい?」

 

「……すまんがそれは言えん、教えてもいいとは思うが……ダメだな、教える気になれん」

 

「そうか……まあ君がしたく無いことを僕はどうすることも出来ないからね」

 

「諦めてくれると助かる」

 

そもそもスネークはCQCはスキルの一部だと思っていた、だが実際には宝具だったらしい。

もっともだからと言って何か変わるのかと言えば本人にしてみれば何も変わる事は無い。

そしてもう一つの宝具に関しては……はっきり言ってスネークはその宝具の名前も効果もわかっている。

 

だがその宝具を完全に扱うことが出来るかと言えば、今は不可能だとしか言えない。

原因は……不明だが、恐らくそもそもこのサーヴァントという体に慣れてないのだろうと当たりをつけていた

 

「そう言えばサーヴァントになるのは初めてなんだが、随分と体が変な感じだな」

 

「ああ、それは多分召喚したばかりだからだと思うよ」

 

「それはこの世界に来たばかりで慣れてないからか?」

 

「うーん……少し違うね。

本来の英霊召喚ではその英霊の全盛期の姿が召喚されるんだ、スネークの場合は……40代かな」

 

「ああ」

 

「まあ、それはあくまで“本来の英霊召喚では”なんだ」

 

「……なら、ここでは特殊なのか?」

 

「最初に紹介したけど、ここは人理継続保障機関:カルデアだ。

そして人理継続の実務を遂行するためにサーヴァントを召喚するんだけど、召喚に応じる英霊が友好的で必ず協力してくれるとは限らないんだ、下手をすればこっちが殺られてしまう可能性もある」

 

「そういう物なのか」

 

「そこでここの前所長、今の所長の父君は召喚したサーヴァントの霊基をある程度弱体化させて召喚するシステムを採用し製作した」

 

「なるほどな、一種の安全対策か」

 

「まあね、もちろん安全対策のためにサーヴァントを弱くしても、いざ戦う時にも弱いままじゃお互い問題が発生するのは目に見えてるからね、その対応策もある」

 

「ああ、単純に霊基を強くすればいいのか」

 

「……頭が良いんだね」

 

「商業柄、少ない情報からわかることを繋ぎ合わせて推測しない奴は死ぬ世界だったからな。

このくらい俺の部下たちもわかると思うが」

 

「……傭兵って筋肉モリモリで単細胞かと思ってたよ」

 

「まぁそういう奴もいない訳じゃないが、長生きする奴はだいたい頭は回るぞ」

 

ロマニの指摘はあながち間違えてはいないのだが、それはある意味偏見だ。

 

戦場で生き残れる者は、

だいたいがあらゆる情報をかき集めその情報から瞬時に判断出来るか、

あるいはそれが出来なくてもある一点に特化しその一点だけは誰にも負けないプロか、

はたまた引き際を間違えない小心者、別の言い方で勇気ある行動ができる天才。

 

だが……ロマニの筋肉モリモリの単細胞と言われてスネークが思い出したのは一人の男だった。

具体的にはパイプ一本で敵兵をぶん殴って殲滅したり、あらゆる銃を二丁持ちでフルオートでぶっ放したり、本人の言葉を信じると岩男(ビル8階建くらい)の相手を1人で倒したご老体。

 

 

……今思い出すとある意味で化け物だとわかった

 

 

「……………あのご老体も化け物だったか」

 

「どうしたのいきなり!?」

 

「ああすまん、お前が筋肉モリモリと言ったからな。

ふとある奴……と言っても俺より一回り年上だが、ある兵士を思い出してな」

 

「君が化け物呼ばわりするほどかい?」

 

「そうだな……フルオートのLMGを両腕に抱えて二丁まとめてぶっ放したり、パイプ一本で敵1個大隊と機械化歩兵を殲滅した位だが」

 

「…………ごめん、それ冗談でしょ?」

 

「いいや?実際俺は見たしパイプの扱いも一流だった、恐らくあいつなら俺が召喚された街くらいなら余裕で生き抜くだろうな、特異点の解決に繋がるかは知らないが」

 

「……そうか……そうかぁ……」

 

「大丈夫か?」

 

「……彼は本当に現代の英雄なのか?……実は転生して、天性の肉体を……けどそれならスキルに……」

 

「おい、聞いてるか?」

 

「……ていうか人間なのか……これも遺伝子の……いやいや……うーむ……」

 

「Dr.ロマン、一体どうした」

 

「っぁあ問題ない!スネークの霊基も後でダ・ヴィンチちゃんが強化してくれるだろうし!

気にせずに次に行こうかっ!……と言っても次もまた突っ込みどころが満載なんだけどねぇ……」

 

「答えてやるからさっさと言え」

 

「……まあスキルに関してだ。

対魔力や騎乗スキルはライダーとしてのクラススキルだし、保有スキルの心眼(真)やカリスマもわかる。

射撃やクイックリロードというのも君の銃器に長けた腕前がスキルとして付与されたんだと思う。

ただ……残りのゴーストとか対巨大とか、何より死者の加護とかっていう名前からして物騒なものが並んでるんだけど……これの説明はしてくれるかい?」

 

次はそれだ。

一体なにをどうしたらゴーストだとか対巨大だとか、何より死者の加護など得られるのだろうか?

湖の精霊のおかげで水面に浮けるのと同じ理屈だったりするのだろうか?

だとするとそれは加護ではなく呪いではないのか?

そういった考えが浮かぶのはある意味で当然のことだった、ロマニの個人的な興味本位の部分もあるが。

 

 

「ああこれか、むしろ俺としてはクラススキルとか他のスキルに関しての情報が欲しいがな」

 

「ああ、なら後でコピーで良ければスキル一覧を渡しておくよ」

 

「それは助かる、というかそういう一覧があるんだな」

 

「……wikiに載ってるから」

 

「………それで俺のスキルに関してか、まあ順番に行こう。

まずゴーストだが、恐らく俺が単独潜入を得意としてたからだろうな」

 

「確かに僕たちが知ってる内容でも君が単独で敵地に潜入していたとはあったけど……どうしてゴーストなんだい?」

 

「……俺の上司だった男が初めてのミッションで言った《お前は正真正銘のゴーストに成れ》ってな」

 

「それってどういう……?」

 

「そのままの意味だ。

その場に存在しているが、誰にも悟らせない、誰にも気付かれない、だからそこに存在していない存在。

単独潜入で求められる兵士はそういった存在だ、たとえ相手に何かしら干渉しても一切バレない存在。

それを表現するのにゴーストって言うのは一番しっくり来る」

 

例え真後ろを歩いていても気付かれない、ドアを通り過ぎても誰も気にしない。

例え人を排除しても誰も気付いていない、少し寝ていただけで誰も気にしない。

それが何者かの仕業など考えない、考えさせる証拠を与えない、痕跡が無い。

 

それがスネークが最初の潜入任務、Virtuous Mission(バーチャス・ミッション)で与えられた指標

 

確かに存在はしている、だが存在は知られない、だから存在していない、つまりゴースト。

 

「……じゃあ気配遮断みたいなものかな?」

 

「そんな大層なものじゃないと思うが……気配遮断っていうのは正面に立っていてもバレないんだろ?」

 

「まあね、言葉通り気配を外部に漏らさないように遮断してるから」

 

「俺の場合は死角にいると影が薄くなるだけだ、そんな超人的な事はできない」

 

「……けど、アーサー王の真後ろに立って声を掛けてたよね?」

 

「あのくらい普通だろう、俺としてはあいつの体に直接C4を仕掛けようと思ったがその鎧がどれだけ丈夫なのか判断できなかったからな、確実性を取っただけだ」

 

「そうなんだ……そうなのかぁ……」

 

考えてみてほしい、相手はかのアーサー王でサーヴァントだとはいえ女性である、人である。

だというのに目の前の男は敵だからという単純な理由で直接爆破しようとしていたと言う。

もはやハーグやジュネーブなど何もない……まぁサーヴァントに条約が適用できるかは怪しいのだが。

 

 

だとしても人体もろとも発破とは一体誰が思いつくだろうか。

 

 

 

むしろ発破より拘束する方が確実に仕留められるとかいう男はどうなのだろうか

 

 

 

「……まあとりあえず、君は噂どおり潜入も出来るわけだ」

 

「サーヴァント相手にも通じるかは知らないがな」

 

「……アーサー王を眩ましたなら問題ないんじゃないかなぁ!」

 

「いや、どんな敵がいるか知れたものじゃない、油断は出来ないだろう」

 

「………………」

 

君の方が知れたものじゃ無いよ、と言いたかったがそれを言っても何故か怒られる訳でもなく、

ただなんとなく「お前は何言ってるんだ?」と返されるような気がしたロマニは何も言わず話を進めた。

隣でブツブツなにか発してるのは機能性だろう、この部屋の仕様だろう。

 

「じゃあこの対巨大っていうのは?」

 

「それは多分メタルギアの事だろうな」

 

「メタルギアってあの核兵器を搭載した機械兵器のこと?」

 

「別に核兵器を搭載してるとは限らないがあれのほとんどはデカイ、それを何度も相手にしたからスキルにもなったんじゃないか?」

 

「それなら対メタルギアとかになりそうだけどね」

 

「それもそうだな……ああ、そういえばモンスターを狩ったこともあったな」

 

「そんなモンスターって、さっきの兵士みたいな相手を仕留めたからってスキルに関係は無いだろう?」

 

「いや、普通にドラゴンだが」

 

「「ドラゴン!?」」

 

突然の幻想種、それもドラゴンと来たら魔術師なら誰でも驚く。

そもそもドラゴンは神秘に満ちた時代でも希少な存在であり、素材としても一級品、そしてそれだけ強かった

だが神秘が薄まるにつれて、ドラゴンはおろか素材となりうる神秘の濃い魔物と呼ばれるものですらほとんど見つける事はできない、あの冬木でみた骸骨ですら本来は貴重な素材であり、現代で見ることなどとうに叶わないものなのだ。

せいぜい現代で現れるのは死徒、グールくらいだが……それはまあいいとしてドラゴンである。

 

そうドラゴン、そんな単語があろう事か現代の英雄であり傭兵だった男から出てきたのだ。

死んだ後、そして今も現在進行形で魔術の知識を仕入れている彼がドラゴンなんて言葉を自分から発するとは思えない、故に思考に没頭していたダ・ヴィンチですら反応した、それが事実なら放っておけない。

 

「君いまドラゴンって言ったよね?言ったよね!?言ったな!!?」

 

「いやっおい、何をそんなにお前は興奮しているだ?ロマニ、こいつをどうにか——」

 

「いまドラゴンって言ったよね!?なんで君からドラゴンなんて言葉が出るんだい?!

本当に君は現代の英雄なのかい!?実は古代ローマからテルマエから湧いてきたんじゃ……!?」

 

「お前が一番錯乱してどうする……」

 

「ねえ君、そのドラゴンってどれ位の大きさだい!?」

 

「どれくらいって言われてもな……15m以上はあったか?」

 

『…………………………』

 

「……今度はどうした」

 

『そんなのいる訳ないじゃないかぁ……』

 

 

唐突に残念がる2人。

それはそうだ、全長15m越えなどそもそもドラゴンとか言う前に生物として陸上で存在できるか怪しい。

世界最大級の生物であるシロナガスクジラは33m程あるが、それは浮力の効く海上でだからこその話。

基本的に10mを超えると生物は自身の体重で潰れるかまともに動くことが出来なくなる。

 

彼ら彼女らが想像していたのは体長が人と同じくらいか数メートルかのワイバーンに近いものを想像していた

確かに伝承ではそう言った化け物もいただろう……が彼が生きていたのは現代、そんなものが居れば瞬く間にどこかの軍が動く、神秘の濃度や現実的な問題でも小型のワイバーンの様な物を予想していた。

 

当然15mのドラゴンなど存在するわけが無い、と半ば呆れながら解説する運びとなった。

 

「いやそう言いたいのはわかるがな、実際にいるぞ?」

 

「いやいや、いくら天才の私でも現代で実現可能な事と不可能なこと位予想つくさ」

 

「天才なら予想つくだろうな、そりゃ」

 

「僕もダ・ヴィンチちゃんと同じ意見だ、いくらなんでも世の中実現できる事と出来ない事は分かれてる」

 

「人理焼却はどうなんだ、そこのところ」

 

「良いかい?この時代で、陸上で、そんな馬鹿でかい化け物が大暴れしてれば何処かしらの軍が動く。

そうなればすぐに世界が大騒ぎさ、そうでなくとも15m越えの生物なんてまともに動けないだろう。

そんなことも君はわからない訳じゃ無いだろう?」

 

「そもそも軍が無いがために俺らが動いたんだがな、それと15m越えのモンスターなんざそれなりにいるらしいぞ」

 

「らしいぞって……スネークは理屈では知らないと思うけどこの時代は神秘、つまり奇跡が科学によって証明されているんだ、だから幻獣みたいな怪物なんかも姿を消していった、いま残ってるのはせいぜいグール……ゾンビみたいな物くらいだ、時々小型のモンスターも報告されるけど滅多に発見されやしない」

 

「確かに小型のモンスターもいたが、馬鹿でかいのもいたぞ。

というかそんなに信じられないなら別に良いじゃないか、居た物は居たんだ」

 

『良くない!!』

 

ここでフォローする点は2つ。

 

1つはロマニやダ・ヴィンチが言う通り、神秘が極めて薄まった現代においては空想の物語に出てくるようなモンスターはほとんど残っていない、存在したことは魔術の世界で確認されてはいるがまず残ってない。

つまりスネークが語ってることは奇想天外なことであり、それ故に探求する価値があるためブレーキ役であるロマニですら興奮している、もっともいない事を前提に話は進めてるが。

 

そしてもう1つはスネークは実際にドラゴンを見た、と言うより自身の基地に襲撃してきたこともある。

ただ、このモンスターに関してはクリサリスと呼ばれたAI兵器の写真がUFOの存在を示す証拠として流失してしまった一件があったため、彼が指揮していた組織によって完全な隠蔽がなされたため世に残っていない。

襲撃してきたモンスターはコスタリカにも上陸したが、上陸したモンスターを倒す術がコスタリカには無かったためにスネーク達のところに依頼が来たため情報は今まで漏れてない。

 

 

つまり魔術の世界にいるこの2人どころか、普通誰もまず信じられないがドラゴンは現代で生きていた。

 

 

「……なら今度写真を見せる」

 

「写真があるの!?」

 

「いまは無理だ、だがさっきロマニが言っていた霊基の強化でもしかしたら可能になる……かもしれん」

 

「ダ・ヴィンチちゃん!」

 

「ごめん、今すぐには手を付けられない。

まずは施設の復旧と唯一のマスターである立香くんと所長であるオルガの復帰は最優先だ。

マスターである彼は多分明日には目を覚ますだろうけど……」

 

「……そう言えばそうだったね」

 

「冷静になったか……」

 

突如沸き起こった2人からの熱意と言葉の雨。

それらにスネークは素っ気なく返したが、彼らの一番の上司がまだ寝たきりだったのを思い出した二人は黙り切ってしまった。それを見てスネークは一先ず落ち着いた2人を見て安心した……が、彼女が寝ているのは“奴”のせいであることをまだ説明していないことを思い出し、目の前で黙りこけた2人に声をかけた。

 

「ところで彼女、お前たちの所長の事なんだが」

 

「オルガマリーのことかい?

彼女は君たちと一緒にレイシフトでちゃんと戻って来てたよ……流石の私も一体何処で受肉したんだかさっぱりでね、まるでサーヴァントみたいに魔力で出来た肉体で“何か”を包んでる。

おかげで命に別条は無いし、どうやらこの世界に留まれているみたいだけどねぇ」

 

「……何故か目を覚まさないんだ、投薬もしてみたが……効果があるかどうか……」

 

「それなんだがな、恐らく俺が原因だ」

 

「!?どういうことだい!」

 

「……そう言えば、君はレフがマリーをカルデアスに放り込もうとしたのを阻止したらしいじゃないか。

一体どうやったんだい?」

 

「……ほぼ確実に“死者の加護”だろうな、もっとも俺もいま名前を知ったが間違いない」

 

「詳しく聞こうか」

 

本腰を入れたダ・ヴィンチはそれなりに真剣に話を聞く態勢になった。

命に別条は無いとはいえ所長である彼女の容体は原因不明、それを知っているとなれば真面目にもなるらしい

 

「まぁ理屈自体は簡単だ。

俺は昔、まぁ縁あって降霊術に長けた“奴”と出会った、それから時折いわゆる幽霊が見えるようになった」

 

「それがスキルになったのかい?」

 

「みたいだな、名前には加護とついているが別に俺を直接守ってくれた事はないがな。

俺の命が関わっている状況下で少し手助けをしてくれたくらいだ」

 

「……それが所長とどういう関係が?」

 

「どうやら俺が死んだ後でもこいつらは俺の周りに居るらしくてな、こうして現界してもいた。

もう少し俺の霊基が強くなればある程度意思疎通も出来るような気もするが、あの時は坊主に令呪を切らせてこのスキルの効果が強くなったんだろう、それで所長を確保するように頼んだら動いてくれた」

 

「ふむ、つまり君は幽霊を操る超能力者ってことかい?」

 

「いや違う、どっちかといえばそういった超能力を扱える知り合いが今も居ると言った方が正しいな」

 

「そうかい……じゃあ彼女に効果があるかは一種の賭けに近かった訳だ」

 

「いいや、随分前に彼女が死んだ人間だというのは見当がついていた」

 

「えっ・・・ぇえ?」

 

「お前はっ……見てたなら覚えてるだろ、キャスターがあのお嬢さんを重いと言ったこと」

 

「えっあっぁあ、ああ覚えてる」

 

「あの時は俺にしか見えてなかったみたいだが、彼女の体には何人か取り付いていた」

 

「それってつまり、彼女はもう取り憑かれているってことかい?」

 

「違う、あくまで“付いて”いただけだ、別に何の意味も無い、言葉通りくっ付いていただけだ」

 

「その幽霊が付いていた分、重かったと?」

 

「多分な、別に生きてる奴でも肩が重くなるくらいはあるみたいだがその程度だ。

あのキャスターは性格は置いておくが人を見る目があった、人の体重を測り損ねることはない無いと思った。

そのときから当たりを付けててな、あのマシュっていう嬢ちゃんとはまた違う感じがしていたのもある」

 

「君がサーヴァントだからなのか、元からの素質なのか……本当に魔術を知らなかったのかい?」

 

「ああ」

 

「……そうかい、それで君はどうやってレフから彼女を助けられたんだい?」

 

「魔術に詳しくはないが、彼女が何かに引っ張られるように宙を浮いたのはあいつの魔術には違い無かった。

だがあれは多分物体を引っ張ったり動かしたりする代物だろう、ならそれに干渉する事も不可能じゃ無いだろうと直感的に思った、そこでマスターの令呪を切ってもらって干渉力を強化してもらったと言った所だ」

 

「まぁ理屈は通ってる、実際それが成功したんだろうね

じゃあ彼女がレイシフトしてちゃんと戻って来れたのはどうしてだい?」

 

「……そう言えば固定化、とかスネークは言ってたよね?」

 

「正しい言い方は俺にもわからんがな。

“奴”は死にかけた者の魂、っていうのかわからんがそう言った物を扱う力が強い……俺の感想だがな。

そして、“奴”は死んでからそれなりに時間が経っている人間でも蘇生させる事が出来る」

 

「……死者蘇生ってことかい?」

 

「なのかもしれん、俺も詳しくことはわからん。

だが“奴”は彼女を俺の横に連れてきた時、俺を見て頷いた、だから大丈夫だろうと思った」

 

「……じゃあ結局、何もわからないってことか……」

 

「それで今の所長の容体とどういう関係が?」

 

「“奴”は今頃、彼女と話でもしてるんだろう、あー・・・出来るかわからんがやってみるか」

 

そう言うとスネークは席を立ち、目を瞑っていた。

……側から見るとただ立って目を閉じているだけで何をやってるのかまるでわからない。

かく言う天才は見当が付いたらしいが、至って常識的で少し頭が良いロマニは突飛な発想には至らなかった。

 

「やはりお前らには見えないか……仕様がない、口で説明するか」

 

「・・・見えないって・・・まさか」

 

「お前らの目の前にいるぞ」

 

「なにが!?」

 

「死んだ兵士たちの魂、まぁ幽霊と言った方がわかりやすいか?」

 

「いや!いやいやいやいや!!カルデアになに持って来てるの!?

ていうかそんなあっさり卸せるというか出てきてくれる物なの!?」

 

「落ち着くんだロマン、とりあえずこいつを飲みたまえ」

 

「うん……うんそうだね、とりあえずは落ち着こう。

そうだよ、別に見える訳じゃないし見えなければいないのと同じだもんね」

 

「まあゴーストだからな」

 

「そう言うことだ、さぁ飲みたまえ、ちょうど喉も渇いただろう?」

 

「ありがとう、ダ・ヴィンチちゃん」

 

ダ・ヴィンチから渡されたコーヒーをもらい、一杯飲み目を閉じる。

コーヒーの苦みと酸味は目を覚ますのにも気を落ち着かせるには一番効く。

そしてコーヒーに含まれるカフェインは気管の拡張を促し血管を広げ脳への酸素と血液量を増やす。

結果、ロマンは気分が落ち着き一時的に幾分が頭の回転が良くなった。

 

 

 

「ふぅー……落ち着いたよ、ありがとうダ・ヴィn——」

 

 

 

 

「「「「「……………………………」」」」」

 

 

 

 

「・・・・・アア?」

 

 

 

 

「「「「「……………………………」」」」」

 

 

 

 

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!?!?

 

 

 

 

「どうした!?」

 

 

突然絶叫したロマニ。

そのまま椅子に思いっきり体重をかけて後ろに倒れた、幸い頭は打っていないが異常だ。

……何よりそんな同僚を見てニヤニヤしている者が異常だが。

 

 

「多分この薬が効いたんだねぇ」

 

「……その明らかに怪しい茶色い小瓶は何だ、劇薬でも混ぜたのか?」

 

「身内にそんな事はしないよ、これは人の目には見えない物を見えるようにする物さ。

本来は魔力そのものを見えるようにって目的で私が作ったんだけどね、少し改良して霊体化したサーヴァントも見えないかなぁ〜と思ったんだけど、いまピンッと来てね!試してみたらビンゴだよっ!」

 

「……おい」

 

「大丈夫さ、私もいま飲んだから問題ないさ」

 

「………そう言う問題じゃないと思うが」

 

“毒を入れたわけじゃない”、というのではなく“自分も飲んだから問題ないさ”と言う辺りから問題だ。

まず同僚を実験台の如く……もはや実験台として薬を仕込むこと自体大問題だろう。

恐らく彼女にとって身内に“劇薬”はアウトだが“薬”はセーフなのだろう、一体どこの製薬会社だ。

 

そも、その“薬”は安全なのだろうか?

「万能の私が作ったんだ、万全だよ!」とか言われそうだが全く信用できない。

 

尊い犠牲を払い、スネークはここにいるレオナルド・ダ・ヴィンチを危険人物と断定した。

そんな危険人物はご機嫌になったのか目を閉じ椅子の上で回転していた。

 

 

このことをスネークは永遠にわすれないだろう

 

 

「……眠れロマニ、お前のことを俺は忘れない」

 

「僕は……別に死んでないだけ……だよね?」

 

「それはツッコミなのか?」

 

「うーん、思ったより副作用があっt——」

 

 

 

 

 

 

「「「「「U((・⊥・))U((・⊥・))U((・⊥・))U((・⊥・))U((・⊥・))U」」」」」

 

 

 

 

「エエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェッェェェェェェェェェェェェェェェェ!!?!?」

 

 

 

・・・わからない方がいるため、説明させてもらうと

 

 

 

ダ・ヴィンチちゃん薬を飲んでご機嫌

 

→目を閉じる

 

→ロマニ椅子から倒れる

 

→ダ・ヴィンチ目を開け状況確認

 

→自分の目の前で幽霊(5体)が《U((・⊥・))U((・⊥・))U》という感じでEXILEしてた

 

以上

 

 

 

「良くやった」

 

 

「「「「「( ̄^ ̄)ゞ( ̄^ ̄)ゞ( ̄^ ̄)ゞ( ̄^ ̄)ゞ( ̄^ ̄)ゞ」」」」」

 

 

「いやいやいや!?なんでビシッと敬礼してんの?!」

 

 

「「「「「(¬_¬)(¬_¬)(¬_¬)(¬_¬)(¬_¬)」」」」」

 

 

「なんで全員して目を逸らしてるの……?っていうかチューチュー◯レイン出来るんだ!!」

 

 

「「「「「(=´∀`)人(´∀`=)(=´∀`)人(´∀`=)(¬_¬)」」」」」

 

 

「なんか一人ボッチじゃないかなぁ!?」

 

 

「良くやった、戻って良いぞ」

 

 

「「「「「(`_´)ゞ(`_´)ゞ(`_´)ゞ(`_´)ゞ(`_´)ゞ」」」」」

 

 

「あっ消えていった……」

 

「……珍しくダ・ヴィンチちゃんが大声を出してた……」

 

 

これが伝説の傭兵《BIG BOSS》

あの万能の天才にしてカルデアの天災でありダメ人間のレオナルド・ダ・ヴィンチを絶叫させ大声でツッコミをさせるという快挙を自身のスキル(?)で可能にする男。

 

 

なお、そんな快挙絶対に彼は喜ばない。

 

 

「気は済んだか?」

 

「……死んでもあんなに表情豊かなもんなんだねぇ……」

 

「そんなにかい?僕は驚きすぎてあんまり良く覚えてないけど……とりあえず幽霊ってのは本当なんだね」

 

「まあな、もっとも俺は操れない、“奴”が降ろしてくれてるだけだが」

 

「その“奴”って言うのは?」

 

「ああ、降霊術を使える俺の…………知り合いであり戦友であり、命の恩人かもしれない」

 

「そうかい……いやぁ〜久しぶりに驚かせてもらったよ〜」

 

「……いや、肝心な事忘れてるけど、所長の容体はどうなんだい?」

 

「たぶん問題ないな、息さえしてれば勝手に起きる。

別に悪霊でも無いしな、俺では理屈は説明できないが大体俺の側にいるのはあんな感じだ。

早ければ今日、遅くともマスターたちが目を覚ます頃には起きるだろう、体の調子まではどうなってるかわからんが」

 

「そこら辺は問題無かったよ、ほぼ生身と同じだ」

 

「そうか、ならお前たちが聞くことは無いか?」

 

「私には山ほど聞きたいことがあるけどね、流石に復旧作業が先さ。

もっとも君のお陰でさっさと作業を終わらせる必要が出てきたけどね!」

 

「……まぁ俺としての魔術の知識は仕入れたい、暇になったらここに来るとしよう」

 

「本当かい!?」

 

「ああ、ならさっさと終わらせるんだな」

 

「そうかいそうかい、なら早速仕事をしよう!」

 

そう言うとダ・ヴィンチは意気揚々に部屋から出て行った。

その光景を見てスネークは溜息をついたが、一方のロマニは目を丸くした。

 

「……あのレオナルドが……仕事をするだって……?」

 

「何だ、あいつはサボリ魔なのか?」

 

「そうだね、少なくとも進んで仕事をし始めるタイプじゃ無いよ。

あくまで自分の興味と趣味の範囲内で仕事をしているタイプだ」

 

「なら腕は確かなわけだ……腕だけは」

 

「その通りだよ」

 

あの手のタイプは自他共に認める天才、やる事為すこと全て周りに影響を与える。

それが多くの人に役立てば仕事、迷惑をかければ煙たがられ、多大な迷惑を与えると事案になる。

……過去にそんなこともあったとスネークは思い出していた。

 

「さて……そろそろ僕も仕事に戻らなくちゃね」

 

「何だ、俺の相手は仕事じゃ無かったのか?」

 

「優先順位では同じくらいさ、ただ君とはこれから長い期間一緒にいることになる。

それならいま急いで聞くより時間をかけてそれとなく聞き出せば良い話だろう?」

 

「それを本人の前で言ってどうする」

 

「いや、だって君相手に腹芸なんて僕には無理だよ」

 

「……そうか、とりあえず人理の修復とやらに協力しよう、このまま座に戻ってもやる事は無いしな」

 

「随分な皮肉だねぇ」

 

「単なる事実だ、まぁよろしく頼む」

 

「……肩を外されたりしないよね?」

 

「おいおい……まあお前とは話しやすくなった、これから頼むぞロマニ」

 

「こちらこそ、僕の事はロマンとでも呼んでくれ、スネーク」

 

 

 

 

 

 

 

こうして人理修復の旅は始まろうとしていた。

 

 

 

マスターに降りかかるのは様々な困難と、数多くの名を馳せた英雄

 

 

 

彼一人ではとても敵わない相手、一般人にはどうしようもない相手だ

 

 

 

だが彼には頼りになる後輩が一人

 

 

 

 

 

そして・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「そういえばロマン」

 

「ん、さっそく何だい?」

 

「ここでは何処で葉巻は吸える?」

 

 

 

人を、世界を、時代を導いた一匹の蛇が仲間だった。

 

 





何かご意見・ご感想がありましたら作者の参考にも励みにもなります。
何かありましたら感想欄にて教えてくださいm(_ _)m。


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スネークのステータス

作者のdaaaperです。

感想欄にてスネークの設定がわかりにくく、混乱したという意見をいただきましたので、
改めてステータスを乗せて、追加に人物紹介のプロフィールを掲載します。

ただ、この作品ではスネークのプロフィールを重要な位置に設定しているため、完全な説明をしてしまうとストーリーのネタバレになってしまうため、今後の伏線として意図的に情報が不足している人物紹介になっております。

……伏線の回収が来年からになるという状況ですが、ものすごい歯痒さはご了承下さいm(_ _)m






対象:スネーク

真名:BIG BOSS

クラス:ライダー

 

▪︎パラメータ-筋力:B+/耐久:A/俊敏:B/魔力:E/幸運:E/宝具:C

▪︎クラススキル-対魔力:E/騎乗:C/保有スキル-心眼(真):B/カリスマ:A/射撃:A/クイックリロード:B/

/ゴースト:A+/対巨大:EX/死者の加護:EX/

 

 

【CQC(クローズ・クォーターズ・コンバット】

▪︎ランク:C/種別:対人宝具/レンジ:1-2/最大捕捉:1人

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

【⚫︎⚫︎⚫︎(ーー⚫︎ーー⚫︎ーー-----)】

▪︎ランク:?/種別:???/レンジ:???/最大捕捉:不明

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

人物:特殊部隊《FOXHOUND》の創設者であり、世界に点在するPMC(民間軍事請負会社)の祖となった組織

《MSF(Military Sans Frontieres)》の創設者で総司令官。

1964年に核戦争の危機から救ったことから【BIG BOSS】の称号を与えられた。その後、世界各地を傭兵として回り、伝説の傭兵と呼ばれる。

ヒトゲノム計画では彼の遺伝子から“ソルジャー遺伝子”と呼ばれる遺伝子が見つかり医学界にも貢献。

また近接格闘術【CQC】の創始者でもあり、この格闘術は世界中の軍隊で採用されている。

つい最近まで世間では名を知られていなかったが、情報解禁による開示により彼の情報が解禁。

彼の名は陽の目を見ることとなり、彼の功績・並びに格闘術が再評価されることとなった。

 

 

 

死後、英霊の座に着く事となりひたすら修行して居たらしい(本人の証言)が、人理焼却の危機に立ち向かう

カルデアのマスター藤丸立香に召喚された。本人が言うには「暇だったから召喚に応じた」とのこと。

召喚された後、“もう1人のスネーク”についてマシュから質問されるが本人は答えるのを少し渋りながらも

「アレは他人だ、コードネームは同じだがな」と返した。

詳しく聞くと、彼が指揮して居た部隊に一時期居た人物だという。

“もう1人のスネーク”はマシュが偶然見つけたのだが、【シャドーモセス島の真実】という題名で書籍化され一時期有名になっていた、だが後に国際指名手配のテロリストとなり世間ではあまり知られて居ない。

 



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幕間:戦力増強(訓練)

どうも、2日ぶりの作者です。
……いつの間にかお気に入り登録者が400に到達するらしいのですが、なんかもう……言葉がありません。

とりあえず、こんな試作品に興味頂きありがとうございますm(_ _)m

えぇー、明日から私は始業式という名の受験生が始まってしまうため次回の投稿を終えますと、
次回の投稿は来年になるのは確定しました(数学がヤバい)

こんなにも多くの方に興味を持って頂けただけでもありがたい事なのですが、私用で申し訳ありませんm(_ _)m
ただ、想像以上に反響がすごいので、受験が終わって“無事”に合格できましたら投稿を再開します。
それまでは気楽に、何か他の作品でも読みながら待って頂けたら幸いです。

まだもう一本だけは来週までに投稿できると思いますので、本編も含めてお楽しみ下さい。



※4/12現在、前話のステータス紹介が最新話です、ご了承下さい。



 

 

 

 

 

 

 

気がつくと彼女は目を覚めた

 

 

 

 

 

 

 

だが居場所がわからなかった

 

別に彼女は頭を打ったとか、麻酔銃を撃たれたとかそう言うものでは無い

 

あたり一帯は木が生育し、足元には水が張っていたのだ

 

明らかにあのあたり一面火の街となっていた冬木でも、病院の様に綺麗なカルデアでも無い

 

ましてや洞窟の中でも無い

 

 

「……一体ここは何処なの……?」

 

 

彼女……オルガマリー・アースミレイト・アニムスフィアは戸惑った

 

 

「死んだ……の?」

 

 

そう思えて仕方なかった

 

何せ辺りに木があるとは言え全く色味が無かった

 

言い方を変えれば生気が無かった

 

さらに言えば水辺で寝ていたのにもかかわらず服が濡れてなかった

 

だが足には水の感触は確かにある、そのため走るのは難しい

 

加えて道はただ一直線に続いていた、ただ水が張っている通路とも言えるが。

 

 

「死んで……るの?」

 

 

だが感触は随分と生々しいというか、はっきりとしている

 

少なくとも宙に浮いている様な感じはしない

 

「そういえばこの木……マングローブ?」

 

気付いてことと言えば辺りにあった木がマングローブであること

 

であれば恐らくこの水は海水であろうということ

 

 

それ以外は全て不明。

自分自身が生きているのか死んでいるのか、ここは何処なのか、いつの間にここに来たのか

そう云えばレフはなぜあんな事をしたのか、あの後どうなったのか……わからない事が多すぎた。

 

「はぁ・・・この後どうすれば良いのかしら」

 

とりあえず彼女は冷静だった。

確かに不安ではあるし、意味不明だし、何よりレフが意味不明だったがとりあえず自分はここにいる。

彼女はカルデアの所長であり、当然ながらレイシフトの仕組みも知っていた。

自我を消失しなければ意識のサルベージが可能だ、であればいつかカルデアに戻れるだろう。

 

それを知識として知っていた彼女はそれが楽観視だと気付くこともなく、とりあえず安堵していた。

 

「通信は……できるわけ無いわよね」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「なに!?」

 

その安堵はあっさり崩れた、何がしかの気配を彼女は察した。

だがあたり一帯を見回しても誰もいない、

 

誰一人

 

いない

 

「……一体だれ、答えなさいよっ!」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・悲しい」

 

 

 

だが確かに存在はしていた

 

 

「えっ……」

 

「・・・・・・・・・・・・・・哀しい」

 

「っ誰!?」

 

「・・・・・・・・・・この世は、悲しい」

 

そして“奴”は現れた

 

出てきなさいと言っていた彼女は虚勢を張っていたために驚いたがすぐに持ち直した

 

もっとも彼女は至って冷静なままだった

 

「……あなた、敵なの?」

 

「・・・この世は悲しい、哀しみで満ちている」

 

「……あなたは誰なのかしら?」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

「無視しないでくれるかしら?」

 

「・・・お前の心には哀しみで満ちている」

 

「っ…………」

 

「だがお前には声も上げられない者たちの声を聞く必要は無い・・・お前は何のために生きる」

 

「………………」

 

「・・・そうか・・・あの男の目は確かだな」

 

「あの男って……?」

 

「・・・この先を“いけ”、人の礎を担う少女よ、そこがお前の居場所だ、ここはお前の居場所ではない」

 

「……この先を行けばいいのね」

 

「・・・そして頼れ、私の・・・」

 

「頼れって……えっ?」

 

 

それだけ言い残して消えた

 

それもいつ消えていたのかまるでわからなかった

 

そしていつの間にか一人になっていたオルガマリーは呆然としていた

 

……が、それもほんの少しの間

 

 

「……この先をまっすぐ行けば良いのかしら」

 

 

人が目の前から消えたのにもかかわらず、至って冷静に道沿いに歩き始めた

 

その姿を見ている人間は誰もいなかった……ただ彼女を待つ場所へ戻るためにひたすら歩いた

 

 

 

この先を“生く”ために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……フンッ!」

 

一方カルデア内にて、

 

そろそろ目が覚めるであろうマスターを待つ一人のサーヴァント。

そこは、いわゆる訓練ルームと呼ばれるもので本来はマスター達が基礎鍛錬・サーヴァントとの連携を鍛える目的の随分と広いスペースだが、つい24時間ほど前にレフ教授による爆弾によってこの部屋を使う対象であるマスターはたった一人になってしまった。

 

当然ながら他の職員達は現在復旧作業に追われており、そもカルデア職員は訓練ルームを使う理由がない。

だがそんな場所があると知ったこのサーヴァントは、疲れない体を良いことにひたすら鍛錬に勤しんでいた。

 

もちろん一人で

 

「……うーむ、さすがに一人では体の軸のズレと重心移動しか確認できんな」

 

まず自分一人だけで体幹のズレと重心移動を客観的に確認する術が彼にはあるらしい。

だが付け加えると、サーヴァントは生前の最盛期の状態でこの世界に召喚されるため例え体を鍛えたとしても身体的なスペックは変化しない、召喚された時点で筋力:Dなら魔術によるバフ等が無ければ変化する事はない。

 

そのためサーヴァントが例え体を鍛えたとしてもあまり意味がない。

その時間があればマスターとの関係や連携を築いた方が良いのだ……が、このサーヴァント曰く

 

 

「良いか?例え筋力がこれ以上強くならないとしてもだ、体の動き・姿勢・状態をコントロールするためには身体を動かす以外に方法は無い。

今のところマスターや他のサーヴァントもいないとなれば自分自身を鍛えないでどうする?

例え霊体化だかステータスだか知らんが身体は動かすもんだ」

 

 

と語り、訓練ルームに入り浸っている。

……だからと言って1日近くナイフをひたすら振り回し身体を動かすと言うのはどうなのだろうか?

そして誰も止める術、というより暇が無いこのカルデアの状況は危機的な意味でも思考的な意味でも深刻だとここに付け加えておこう。

 

 

「おはようございます、スネークさん」

 

 

そんな訓練ルームというより鍛錬場となった場所に新たに一人の、しかも少女が入ってきた。

しかし彼女は一般的な少女とは違い、サーヴァントと憑依融合したデミ・サーヴァントと呼ばれる存在であり彼女がカルデア唯一のマスターとなった藤丸 立香の最初のサーヴァントだ。

 

スネークから見れば彼女はまだ経験則も力も実力も足りて無いが、力はある。

そして彼のもつ知識と記憶ではサーヴァントとしてもカルデアにいる時間からしてもある意味では彼女の方が先輩だが……スネークが下に見られる事はまず無いだろう。

 

「おお随分と遅い起床だな嬢さ……いやマシュか、思ったより元気そうで何よりだ」

 

「はい、先ほどドクターに診てもらいました、目立った怪我も無いですし、何より先輩も無事だそうです。

所長もじきに目覚めると伝えられました……って、スネークさんの方が知ってますよね」

 

「まあな、だが本人から直接元気だと言われた方が確実だ、とりあえず安心した」

 

「はい……ところで、一体何をしてるんですか?」

 

「……見てわからないか?」

 

「えっと……鍛錬をしているようには見えますが」

 

「そうだが」

 

「本当に鍛錬をしてるんですか!?」

 

「……何をそんなに驚いてるんだ」

 

「だってスネークさんは先輩に召喚されたサーヴァントです!鍛錬の意味は——!?」

 

 

「・・・おいマシュ」

 

 

「………………」

 

「……マシュ・キリエライト」

 

「……はい」

 

「お前は……鍛錬をなんだと思ってる?」

 

この時マシュ・キリエライトは思った

(あっ……わたし、まずいことを言ってしまった)と

純粋な彼女は相手がどう思ってるかはわからなくても、相手がどう感じているかは本能的にわかる。

 

スネークはこの時怒ってはおらず、彼女があまりにも理解していないことに呆れていたのだ。

……が、その呆れは彼女をビビらせるには十分だった。

何せ純粋無垢な少女にとって、お父さんから呆れられると言うのは見捨てられる……とまではいかないが、淋しさと不安を感じるものだ。

少年だとしても、だいぶ歳のいっているおじさんやおばさんから呆れられたら

(自分は何かしてしまったんだ)と感じてしまう。

 

マシュもこの例に漏れず、何か自分がやらかしたと考え次の発言で挽回しようとしていた。

……別に間違えてはいないのだが、発想的な意味で方向を間違えていた、そのため最初に彼女が発した言葉は

 

 

「すいませんでしたっ!」

 

 

という謝罪だった。

 

 

「……いや、俺は謝られる事はしてないぞ?」

 

 

そして待ったをかけるスネークだった。

 

 

「私はスネークさんに鍛錬の意味は無いなんて言ってしまいました、けどそれは人の自由ですし私が口を出すようなことじゃありませんでした……」

 

「……何か勘違いしてるぞ、お前」

 

「いえ、間違えてません、私はまだ先輩のサーヴァントとして未熟なのに——」

 

「待て待て待て、何か勘違いしてるぞ?

俺は別にサーヴァント化した今でも鍛えることに意味があると言いたいだけなんだが。

別にお前が未熟だとか、それだから口答えするなとかそういう意味は無い、むしろ意見を出してもらわなければ困る」

 

「・・・え?」

 

「いやまぁロマンの奴にも言われたがな、確かに今更鍛えたところでステータスは変わらんだろう。

だが俺から言わせてもらえば、ステータスはあまり重要じゃない」

 

「えっ?それは……どういう意味ですか?」

 

突然、自分が言ってることが違うと言われ、今度はステータスは重要じゃないと言い出した。

……一体この人は何を言い出すのかと彼女は思ったが、その言葉をあしらうことを彼女には出来なかった。

 

「そりゃあスキルは重要だ、一体何が出来て何が出来ないかを周りが知るのは戦術としても仲間との連携での意味でも重要だ。

……だがな、筋力だとか俊敏さだとか耐久っていうのは少なくともあまり意味がない、運と魔力に関しては俺の専門外だからなんとも言えんがな」

 

「どうしてですか!」

 

「どうしてだと思う」

 

「えっ?……それは…………」

 

「考えてみろ、一兵卒だろうと下士官だろうと将軍だろうと頭で考えて動けなければ自分が死んで仲間たちが死んでいくだけだ、頭も使え」

 

「………………………」

 

マシュは考える。

それこそ彼女はデミ・サーヴァントになる前は運動が苦手だった、代わりに本から大量の知識を仕入れた。

そしてその知識を繋ぎ合わせるくらいは出来る少女だった、だからスネークからの問いも簡単に答えられた。

 

「……例え力が強くても、早くても、硬くても、最低限の力があれば対処できるから、でしょうか?」

 

「ほう、何故だ」

 

「“柔よく剛を制す”という言葉があります、これは日本の柔術の根幹となっている理法ですが言葉通りなら柔

つまり柔術というのは勇ましさというのを制するという意味だと解釈できます。

私は書物からでしか知りませんが、柔術は徒手をもって相手を制する物です。

しかし日本人は……今はガタイの良い方もいますが昔はそうでもなかったハズです、それでも身長差やパワー差に関係なく相手を制することが出来たのはそういう術があるからじゃ無いでしょうか?」

 

「まぁ概ね間違えてはいない、ただ日本人とかは関係無いな。

例え相手の方が力が強くとも相手のその力を利用すると言った方が正しいな、ジュウドーでは重心移動のみで重力を制することが理想形だとも言われてるしな」

 

「確かにその様な話も聞きます……ですがそれでもサーヴァントにとっては重要なものでは無いでしょうか?」

 

「そうかもしれん、少なくとも楽に戦うには必要だな」

 

「はい」

 

「……だが相手のパワーとスピードが圧倒的ならそれにあった対応をすれば良い」

 

「……具体的にはどうするんですか?」

 

「相手の力が強く、抑えきれるもので無いなら受け流すなり弾くなりして利用すればいい。

相手が自分の2倍・3倍早く動くなら、自分は相手の2倍・3倍の間合いとタイミングを計れば良い」

 

「それは……確かにそうですが……」

 

「難しい、か?」

 

「違うんですか?」

 

「そりゃあ口で言うよりは難しいだろうな、だが実現不可能なことじゃ無い」

 

「……実現するにはどうしたら良いんですか?」

 

「おいおい、それだけ頭が回るならすぐに答えは出るだろう」

 

「……鍛錬、ですか」

 

「そういうことだ、世の中訳のわからん奴は多い、それこそ剣から魔力を放出する様な奴とかな」

 

「……そうですね……」

 

「だが全く手が付けられない訳じゃない。

相手が撃ってくる前に牽制し邪魔をする、相手の内側に入り決定的な一撃を加える、アウトレンジから一方的に攻撃する、他にも色々と発想だけは出てくる」

 

「ですが、あの聖剣の射程圏外からの攻撃と言うのは無理では?」

 

「かもしれん、だが世の中5kmからスナイピングするスナイパーなんざ五万といるぞ」

 

「50000人もいるんですか!?」

 

「……物の例えだ」

 

「あっなるほど……って5kmって大体人が見たときの地平線までの距離じゃないですか!?」

 

「そうだがいる奴はいるからな、俺の部下に」

 

「そうなんですね……」

 

実際、しっかりした装備と弾薬が用意されればこの男もその位やってのけるのだが。

何よりそんな狙撃を10kmマラソン(100mを16秒台)で走ったあとすぐにやってのけるのだが。

 

「だがあの時そんな芸当ができるやつはその場には居なかった。

それに加えて敵は洞窟の中に籠っていた、アウトレンジからの攻撃は不可能だった……が他は出来た」

 

「……確かにそうですね」

 

「俺は発想したことを実現できる様にするために訓練はあると思っている。

さっきも言ったが鍛錬は重要だ、例えステータスは変化の仕様が無いとしても経験は積める、想定外の事態も経験があればそれなりの対応ができる、それなりの対応ができればベストは無理だとしてもベターな結果は残せる、少なくとも一方的な失敗は犯さない」

 

「なるほど……」

 

「おそらくマスターが起きれば現状説明のあと、戦力の増強に移るだろう」

 

「新しい英霊の召喚ですね」

 

「そして、そいつらのほとんどは俺より強いだろう……が、俺はそいつらに一方的に負ける様な姿は晒したくは無いからな、こうして相手をイメージしながら体を動かしてる」

 

「そうだったんですね……」

 

いくら現代の英雄とはいえ、アーサー王と比べればスネークの身体的スペックは劣る。

神秘が濃かった時代の人間は、現代の人間よりも平均的に身体能力は高く、魔術的な意味でも強いらしい。

であれば当然、今後もスネークより強い英霊は当然現れるだろう……だが、蛇は存外しぶとい。

 

少なくとも一方的に攻撃され、蹂躙されるのを良しとするほどお人好しでは無い

 

 

そしてそんな彼の言葉は様々な面で未熟な少女には十分すぎる刺激だった。

 

 

「……スネークさん」

 

「それなら強くなれ」

 

「えっ?」

 

「大方、精一杯頑張ると言うんだろう?

生憎だがただ頑張ったところで報われない奴は報われない、それに結果はすぐには着いてこない」

 

「………はい」

 

「だが弱くなることは無い、どんな奴も最初は赤子だ。

それが運命とやらで選定の剣を抜いたり、マサカリを担いでクマを倒したりはするだろうが最初は弱い。

だが体を鍛え、経験を積み、そうして力を得てまた経験を積むことで強くなっていくもんだ」

 

「………………」

 

「幸いお前さんに力は最低限ある、体も経験を積めば勝手に変わっていくだろう、だがお前には圧倒的に経験が足りていない、多少の経験くらいなら俺でも与えられるが……どうする?」

 

「………はい!よろしくお願いします!!」

 

「良し、良いだろう、ならすぐに戦闘服にでも着替えるんだな」

 

こうしてスネークは格好の訓練相手を確保した。

 

……付け加えると、スネークとしては自身の訓練相手確保の目的もあったがそれ以上にこのマシュという少女を直接鍛える意味も十二分にあった。

スネークがマシュに言ったことはスネークの観察眼から得られた事実だ。

 

人はまず、戦うための最低限の力を必要とする。

ここでいう力とはいわゆる基礎体力であり、銃を持って走る・構える、戦闘を行うための強靭な足腰、

集団の場合ではこれに加え団体行動も加わるが、そう言った前提条件が必要になる。

この点に関しては、マシュはデミ・サーヴァント化したことで十分にクリアしていた。

 

だがそれだけでは強くは成れない

 

今度は経験を必要とする。

そして様々な経験から、どの様に相手を撃つのか・仕留めるのか、どの様に立ち回れば相手より優位に立てるのか、劣勢の状況とは一体どういう時か、その場合どうすればいいのか等々……とにかく知ることは多い。

 

こうした経験が“力の糧”となりやがて“強さ”として反映される。

だがその経験を強さに反映させるのは一つだけ絶対の条件がある。

それをまず彼女は覚えなければいけない。

 

 

「………着替えました」

 

「一瞬で着替えられるのか!」

 

「はい、私のこの服装は魔力が固まってできた様な物ですから、自分の意思で簡単に着替えられます。

もちろんこの盾もそうですけど……スネークさんは出来ないんですか?」

 

「そうだな……今は、出来ないな。

ただロマンやダ・ヴィンチが言っていた霊基の強化がある程度の物になれば不可能じゃ無さそうだ」

 

「そうなんですね」

 

「まぁそれは それとしてだ、早速やるが……準備は良いか?」

 

「ハイッ!」

 

「良いだろう、ならまずは準備体操からだ」

 

「あっはい」

 

「返事は?」

 

「ハイッ!」

 

……その前にマシュが軍隊の基本をしっかりと覚えてしまいそうだが

 

 

 

 

 

ーーー体操中……体操中……体操中……完了ーーー

 

 

 

 

 

「よし、体操は終わったな」

 

「はい……なんかもう疲れた気がしますが」

 

定番であるラジオ体操第一・第二(ただし1.5倍速)をし終えて、2人は向かい合っていた。

マシュの服装と装備は冬木で見たように、大きな盾と随分と露出が多い紫色の格好だった。

 

「まあ最初はそんなもんか」

 

「頑張ります……それで、まずは何をやるんですか?」

 

「簡単だ、とりあえず俺と連続で戦えばいい、宝具を使っても構わん」

 

「はぁ・・・はいぃ!?」

 

「良いか?まず強くなるのは死なないことだ。

どんなに力の糧となりうる経験を経ても死んでしまえば何の意味も無い。

故に素人がまず強者となるには早い話、生き残る術を知れば玉石混交であれ強くはなる。

そのため最初の訓練では走って逃げる方法を教えると老兵までになれたりするものだ」

 

「そんなもの……なのでしょうか?」

 

「所詮そんなものだ。

強敵、ましてや英雄なんて呼ばれてる奴らはそこに天性の才能だったりそれこそ運命的な何かがあったりするがな、だがそういった才能とか言われるものも膨大な経験があって活用できる。

……まぁ中には僅かな経験だけでものにする奴もいるが、そういう奴は天才とよばれる。

ここにも1人いるだろ、天才が」

 

「ダ・ヴィンチですか……確かに。

言われてみれば人間の寿命の中でも科学、数学、工学、博物学、音楽、建築、彫刻、絵画、発明、兵器開発、木工、解剖、自然科学、等の多数の分野に功績を残してますよね……」

 

「……お前の知識の豊富さには俺は賞賛に値すると思うがな。

だがこれから先、逃げ場など無いに等しいだろう、俺が身を置いていた戦場も、隠れる場所はあっても逃げ場など無かった、そして戦いは早々避けられないだろう、であれば何が必要だ?」

 

「逃げる訓練……ではなく、生き残る訓練、ですか?」

 

「そういうことだ、だが俺がお前に求めるのは別に高度なことじゃない。

とりあえず俺の攻撃を捌ききれ、それこそキャスターを相手に散々やっただろう?

今回はマスター無しに、お前と俺の1対1でひたすら戦う、どんなにVRが発展しようが体に叩き込むのが一番てっとり早い、俺の訓練にもなるしな」

 

「縛りは無いんですか?」

 

「俺の部下に徹底させていたのは《仲間にナイフと銃口は向けるな》だけだ。

基本的に攻め手も受け手もない、相手を完全に仕留められる状況に持って行ったら仕切り直しだ。

手加減の仕方や情けをかけずに徹底的に叩きのめすための訓練もあるが、基本的には自分の実力を全力で出せ

俺も容赦なくお前さんを投げる、お前も遠慮なく盾で殴ってこい、くれぐれも殺すなよ?」

 

「こ、殺しませんよっ!」

 

「まあ殺す気でかかってこい、そうでなければ訓練にならんからな、何時でも来い」

 

「……わかりました、マシュ・キリエライト!これより戦闘に移行します!!」

 

「かかってこい、容赦はしないがな」

 

双方の掛け声で2人の訓練は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアアアァァァァァァ!!」

 

マシュは盾を正面に構え一気にスネークに向かって突っ込む

 

同時にスネークは後ろに後退しつつ模擬戦用のゴムナイフを取り出す

 

そしてマシュは速度そのままに思いっきり盾を正面に突き出した

 

「確かにそれが基本だな」

 

「!?」

 

だが既に正面にスネークは存在せず

 

自身の真横に普通に立っていた

 

「っ!」

 

「そうだ、基本的に盾は相手の正面に構えろ」

 

当然攻撃が躱されたわけだがそれで終わりではない

 

すぐさま盾を真横に振り、スネークの方に向ける

 

「だがまだ無駄が多いな」

 

今度はマシュに向かってスネークが駈け出す

 

それはマシュの真横を取るものだというのは明らか

 

 

であれば

 

 

「・・・ここ!」

 

 

その進路上で盾ごとぶつかれば良い

 

相手が来るであろう完璧のタイミング

 

マシュは一瞬でその進路上に立ち今度は軽く盾越しに押し出した

 

タイミングは完璧で盾越しに押し出した手応えもあった

 

だがマシュは状況を確認せず一旦後退した

 

 

(キャスターさんも、あのアーサー王も欺いたんです、今の手応えも偽物だと考えれば……)

 

 

マシュの予想は正しかった

 

距離を取り盾越しにスネークが立っているであろう場所を見た

 

そこには・・・

 

 

「まぁまぁだな」

 

「!?」

 

「動くな、動けば首が飛ぶぞ」

 

「……いつの間に後ろに立ってたんですか?」

 

 

当然、スネークの姿はおらず

 

彼女の真後ろでナイフを構えていた

 

 

「完璧なタイミングでお前が盾で妨害してくるのは予想ついたからな、突き出してきた所でお前の盾ごと飛び越えた、人間の真上は死角、しかもお前が肩でその盾を押したからな、俺の姿は見えんだろう」

 

「……参りました」

 

「だが油断せず、すぐに距離をとったのは正しい。

相手に一撃を当てたらお前はすぐに敵から距離を取れ、追撃は周りにいる仲間がやってくれる」

 

「……真後ろに飛んだのも予想通りだったんですか……」

 

「いやっあれには驚いた、とっさに俺も後ろに飛んだが危うく下敷きになる所だった、中々やるな」

 

「全く嬉しくないです……」

 

「そう言うな、ホレッ、次行くぞ」

 

一切のインターバルなくスネークは再びマシュの正面に距離を取って立ち構えた

 

反省の時間は与えない

 

なぜなら体に経験を染み込ませるためだ

 

反省点をあげればスネークにだってある

 

だがそんな暇があれば体を動かし最適な動きを探しだせば良い

 

訓練が終わった後でも覚えている反省事項が重要だからだ

 

覚えていなくとも相手が第三者の目線で指摘してくれるからだ

 

そして彼女の訓練相手は人材を育てる点においては他の英霊より遥かに優れていた。

 

 

「……行きます!」

 

「ああ、かかってこい」

 

 

再び彼女は盾を構えスネークに接近する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると今度は盾ごと吹っ飛ばされていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

「よし、一旦休むか」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……あの……はぁ……はぁ……どう……はぁ……して……はぁ……」

 

「とりあえず休め、ほらマテ茶だ、飲んでおけ」

 

「はぁ……はぁ……ありがとう……ございます……」

 

「うーむ……デミ・サーヴァントになっても生身であることには変わらない、か。

サーヴァントだろうが生身だろうがあまり関係ないだろうが……オーバーワークには気を付けた方が良いな」

 

「グビッグビッグビッ・・・ぷはぁ!あぁ〜生き返りますねぇ!!」

 

「……随分と豪快だな」

 

豪快ではなく親父くさいとスネークは言いたかったが、珍しく遠慮し言い方を変えた。

彼はまだ知る由もないが、彼女と彼女に憑依したサーヴァントは父親が苦手、というより毛嫌いしている。

 

「はぁ〜……あっ、お茶ありがとうございます」

 

「気にするな、俺の装備の一部だ、幾らでも出せるしな」

 

「そうですか……ところでスネークさんは疲れてないんですか?」

 

「何を言っている、たかが3時間突き合っただけだろ」

 

「たかがって、生前もこんな風に訓練をしてたんですか!?」

 

「そうだな……さすがにそんな盾は使って無かったが組織を作った頃は丸一日相手にしていたこともあった。

だいぶデカくなった後も時折連中の訓練をしていたがな、それでも突き合うだけならまだ軽い方だな」

 

「……具体的に他に何をしていたか聞いても?」

 

「基本的にCQCと射撃訓練だ。

5km走ってすぐに突き合い、その後また走って今度はセーフハウスで突入訓練、また走って、その繰り返しだ

それ以外にもサバイバル・戦術的な座学と実戦、ヘリや装甲車を用いた物に紅白戦もやったか。

他にも色々だな」

 

「はあ・・・すごいですねぇ」

 

「ある程度の練度に全員がなるには必要だからな」

 

ちなみにスネークは言っていないが走って突き合い、走って突入し、の繰り返しは総重量15kgの“標準装備”を着用し、さらに自分の得物……つまり突撃銃や狙撃銃を携行しながら1日行う。

端から聞けば《マジかよぉ……》とドン引きするような内容だが、スネーク達からすれば当然のことだ。

何せ戦場ではそれなりの装備を背負い、1日どころか何日も通して活動する、もちろん銃を抱えて。

 

この訓練はスネークがかつて、組織した所では新米兵士に課せる訓練で、肉体と精神を鍛え上げる訓練でもあり、戦場での銃の扱いと環境に慣れる為の訓練でもある。

 

マシュにはこの手の訓練を必要としない……が精神と肉体が疲弊することには慣れる必要があった

 

“そういう経験”をする必要があった

 

「……さて、ひと休憩としては十分だろう、続きをやるぞ」

 

「ハイッ!」

 

「あーいたいた、2人とも管制室に来てくれ!」

 

「あっドクター、どうしました?」

 

「立香くんが目覚めた、それに所長もね、これから話があるから——」

 

「先輩が目覚めたんですね!?」

 

「……マシュ、お前さんは先に着替えて行っておけ、俺は少ししてから行く」

 

「ハイッ、今度また訓練をお願いします!」

 

「俺は基本暇だ、声をかけてくれれば何時でも相手してやる」

 

「ありがとうございます!ではまた後で!」

 

そう言って丁寧にお辞儀をした後、マシュは一足早く、そして一際早くトレーニングルームから出て行った。

それを見届けたロマニはその後ろ姿をみて頷いた後、スネークに声をかけた。

 

「スネークも来てくれよ、全員に重要な話だからね」

 

「もちろんだ……だがしばらくは若い連中が話していれば良いだろう、そこに首を突っ込む気は俺にはない」

 

「そうかい」

 

「それに……」

 

「それに?」

 

「……あのお嬢さん……所長に言い……説明する内容を考える必要があるからな」

 

「あっ……うん、僕はじゃ……先に行って時間を稼いでおくよ」

 

「まあすぐに行くが…………頼む」

 

その言葉に対して強く頷くことで返したDr.ロマンは管制室に向かって行った。

スネークは何もない天井を仰ぎ、ため息を吐き……葉巻に火を付ける。

 

「……面倒なことは勘弁して欲しいんだが」

 

書類仕事や報告といったものは口頭で済ませていた

 

久しぶりに思える面倒な案件にふと金髪サングラスを思い出した

 

 

「……さすがに虫が良すぎるな」

 

 

そう思いつつスネークはゆっくりと葉巻を吸いながら言い訳を考えていた

 




何かご意見・ご感想がありましたら、作者の参考にも励みにもなります。
何かありましたら感想聞にて教えてくださいm(_ _)m


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戦力増強(ガチャ)

どうもお久しぶりです、そしてさようなら、daaaperです……(−_−;)

今回の投稿をもちまして、今年の投稿はほぼ終了になるかと思われます。
今後の活動に関しては活動報告にてお知らせしてますので、お時間あればそちらもご覧下さい。

それでは本編どうぞm(_ _)m


 

人類最後のマスター、藤丸 立香が目を覚ましたのはカルデア爆発から始まり、冬木での騒動が解決してから1日たった正午だった。

幸いにもレイシフトは無事に完了し、五体満足で帰ってこれた。

そして、死んだとレフ教授に宣言されていたオルガマリー所長も、何故か無事に生還し意識を取り戻していた

 

こうしてカルデアの主要メンバーが無事に復帰したことで、一旦状況確認と今後の方針を決めるために一同はスネークを除いてカルデアの管制室に集まっていた。

 

「マシュも無事そうで何よりだよ」

 

「私も先輩が目覚めて良かったと思ってます」

 

「…………………」

 

「そう言えばマシュは、スネークと訓練してたんだって?」

 

「はい、私はまだまだ未熟なので色々と教わろうと思います」

 

「…………………」

 

「……俺もマシュに迷惑かけない程度には鍛えなきゃなぁ」

 

「先輩はマスターなんですから戦う必要はないんですよ?」

 

「…………………」

 

「あー……2人とも、そろそろスネークも来ると思うから話もほどほどにね」

 

『わかりました』

 

「……悲しいわ」

 

「所長!?」

 

「・・・ホォ〜」

 

そんな集まったメンバーの中で、2人で話していたマシュと立香は周りのスタッフのある意味癒しにすらなっていた……が、その中でただ浮かない顔を浮かべていたオルガマリーは唐突に発言した内容をロマニを焦らせた、ついでにダ・ヴィンチにネタを提供した。

そして、こんな状況でも手を休めることなく数少ないスタッフ達は作業に徹していた。

 

そんな雰囲気の中、管制室のドアが開き1人の男が入って来た。

 

「すまない、だいぶ遅れ——」

 

「あーーなーーたーーねぇ!!」

 

「……どうしたいきなり」

 

「どうした?じゃあ無いわよ!!」

 

「……おい、誰か説明してくれ。

別に俺は彼女を助けたことを誇るつもりは無いが、怒られる理由も無いはずなんだが」

 

「あー……それはねぇ」

 

「ヒントはマリーは小心者ってことかな」

 

「っ!」

 

「……ぁあ、“奴”に会ったのか」

 

「っええ会いましたよ!確かに会いましたよ!!

助けられたことには感謝してますっ!けど!幽霊に会わせるってどういう事よ!?」

 

「えっ?幽霊??」

 

「…あのなぁ、別に悪霊じゃ無かっただろ、それにお前さんのは俺はあくまで仲介人に過ぎないぞ。

俺の力じゃどうしようもなかったからな、マスターの令呪を使って力を貸してもらったに過ぎない。

文句は受け付けるが……別に助かったなら良いだろう」

 

「いやっスネーク、所長の命を助けてくれたのは僕たちとしても感謝しか無いけど……紹介相手が幽霊って大分嫌だよ」

 

俺には力が無いから力を借りた、まぁ相手は幽霊だがよろしくな。

……確かに喜べる内容では無い、しかも説明も無しに突然そんな事をされれば……まぁ怒りたくもなる。

 

ただ彼女の言動が、命を助けてくれた恩人に向ける物かはまた別問題だが

 

「まぁまぁ、マリーもスネークを責めるのはそこまでにしておきなよ。

少なくとも今の君は怪我も無い、魔術回路も生きている、それに君は……殺されかけたんだ、文句は言えないよ」

 

「……………………」

 

「おいおい、そう気にするな、助けようが見捨てようが文句は言われるもんだ。

生きてりゃ大体どうにかなる、それにさっきも言ったが俺は紹介しただけだ、力を借りただけだ。

それにこれからしばらく俺は世話になる方だ、事態も随分とデカイみたいだしな。

対処するのはマスターやサーヴァントである俺やマシュだが、その対処法を示すのはその嬢さんだろ?

なら上からの文句として受け取っておくだけだ」

 

「おやっ?怒らないのかい?」

 

「助けた奴から怒られるのは慣れてるんでな」

 

「……まぁ、助けてくれてありがとうございます、未だに信じられないことが多すぎるけれど……」

 

「そうだね……それらを含めて、立香くんにも関係あることだ、今の状況を確認しよう。

レオナルド、メインパネルを」

 

「はいどうぞー」

 

管制室のデカいメインパネルに拡大されたカルデアスが映し出される。

……それは最早地球模型と言うより太陽だが、それを映し出し、ロマニは状況をこの場の全員に説明した。

 

「冬木の特異点は立香くんのおかげで消滅した……が、代わりに新たな特異点が7つも発見された」

 

「7つも!?」

 

「……あのレフって奴が言ってた焼却、って言うのはあの街みたいに過去で街を破壊する事なのか?」

 

「いいや、そんな物じゃない。

おそらく人類の歴史そのものを破壊・改変する事で時空の乱れを生じ……やがて歪ませ人類史そのものをこの世界から消し去る物だと思う」

 

「まるでSFみたいだが……そんな悠長なことを言ってる暇は無いということか」

 

「・・・あれ、じゃあ何でカルデアは無事なんですか?」

 

「カルデアスのおかげだよ、カルデアスの磁場でカルデアは守られいるんだ」

 

「だが相手は時空を歪ませてるんだろ、いつまでその守りも持つんだ?」

 

「……7つの特異点の歪みがカルデアそのものを飲み込むまでになるのがいつまでかはわからない。

ただ、もっても多分……2年かな」

 

「2年……ですか」

 

「現在、カルデアのスタッフも8割近くやられた。

今も特異点の捜索・特定を行ってるけど、おそらく7つの特異点を特定するのは2年あれば十分だと思う。

ただ、7つの特異点を解消するのに2年で終わるかはわからない」

 

「ロマンの説明に付け加えれば、これから君が相手にするのは歴史そのものだ……君に人類の未来を背負う覚悟はあるかい?」

 

「……何か質問はあるかな、藤丸くん」

 

「……先輩」

 

はっきり言ってしまえば、この特異点を解決できるのはマスター適正があり、レイシフトが可能な藤丸立香

ただ1人。

だがそれは少年1人に背負わせるにはあまりにも大きすぎる案件、仮に大人だとしても、1人で解決できるような代物では無い。

 

 

 

時代を遡り歴史そのものを修復する、出来なければ人類は焼却され滅亡する

 

 

……滅亡の前に絶望するだろう

 

 

 

 

 

「うーん……けどまぁ、俺に出来るならやらなきゃダメでしょう」

 

 

 

 

 

だが案外

 

 

この少年は色々な意味で強かった

 

 

 

 

 

「っあなた!これからやる事わかってるの!?」

 

「詳しくはわかりませんよ、けど細かい指示は所長やここにいるみんなが出してくれるんですよね?

だったらあとは俺がそれを実行する、それだけでしょう?」

 

「それだけって……」

 

「それに、本当に俺だけだったらどうにもなりませんけど、実際にはマシュやスネークさんもいる。

それにここにいる全員がいれば特異点の解決ってどうにかなるんじゃないですかね?」

 

『…………………』

 

 

 

この少年の発言は何の根拠もなく、楽観の一言に尽きる

 

だが、1つ断言できるのは

 

今の言葉にここにいる多くの人間の心を救ったことだろう

 

 

 

「ハハハ!やっぱり君は主人公力があるねぇ!!」

 

「えっ?」

 

「随分と一人前な事を言うじゃないか坊主……いや、マスターか。

まあ確かに、お前の言う通りここにいる面子がいれば案外どうにかなるかもしれんな!」

 

「はあ」

 

「先輩……私は先輩がいてくれて良かったと心から思います。

改めてサーヴァントとして、先輩のために全力を尽くす事をここで誓います!」

 

「うん、俺としては誓われてもアレだけど……よろしくね、マシュ」

 

「はい!」

 

「……これは僕の思い過ごしだったかな」

 

「いやいや、流石の私もこれは予想外さ、君が予想できるわけが無い。

……どうやら私たちは幸運にも中々のマスターが生き延びたらしい、これはレフも予想してないだろうね」

 

「……お気楽過ぎよ本当にっ、考える方の身にもなって欲しいわね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 

 

かくして

 

カルデアは正式に人類史保護のため

 

所長であるオルガマリー・アースミレイト・アニムスフィアの指揮の下

 

レイシフトによる人類史の保護及び、奪還

 

そして各年代の聖杯と聖遺物の回収を実行する

 

歴史そのもの、幾多の英霊・英雄が相手となる戦い

 

とても人が扱い、行える業では無い

 

 

 

だが後に、このデタラメで無茶な戦いを実際に担ったマスターは語る

 

 

 

 

「俺1人だったらそもそも冬木で死んでましたけど……仲間が居れば何事もどうにかなると思いました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 

 

こうして、ダ・ヴィンチ曰く主人公力のあるマスター藤丸立香によって人類守護のため、

Grand Orderと呼ばれる運命と戦う禁断の儀式が始まった。

 

 

だが彼らが相手にするモノの本当の意味と壮大さを知るものはこの時はまだ居なかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……が、戦闘においてプロフェッショナルである英雄が召喚されたカルデア。

その英雄には真の英雄譚など存在せず、騎士の様に戦いに尊大な誇りを持っている訳でも無いが、こと戦闘においては数多の英雄よりも戦術的にも戦力的にも考え・行動することが出来る人材だった。

 

そのため、自分のマスターによって鼓舞されたカルデアに関しては安心していた。

……安心はしていたが、このまま進めてもあまりにも戦力不足であるのは明らかだった。

 

・基本的に絶対的な奇襲を基本とするスネーク

・火力の代わりに圧倒的な防御力を兼ね備えるマシュ

さらにマシュに関してはスネークによってより強固なものとなる為、現状でも守りにはあまり問題は無い。

だが今の実働部隊にはあまりにも火力が足りない、そもそも相手が聖杯を持っている以上何人でも召喚できると言うのなら人数があまりにも少な過ぎる、何よりサーヴァントを相手にするには今のメンバーでは決定打が欠けていた。

 

 

「それで、サーヴァントを召喚する必要があるだろ?」

 

「それに関しては抜かり無いわ、ここにはちゃんとした英霊召喚システムがあるのよ」

 

「ここで英霊召喚を行うんですね……そう言えばマシュに宿ったサーヴァントやダ・ヴィンチちゃんもここで召喚されたんだよね?」

 

「そうだよ、もっとも私が召喚された時はまだシステムが安定していなかったけどね」

 

「安定とかあるのか?」

 

「まあね、最初はよくわからないゴミなんかが出たしね」

 

「……英霊を召喚する為の物だよな?」

 

「だからこそ私は興味を持ったんだけどね!」

 

「どうしましょう先輩、せっかく集めた聖晶石がゴミと化すのは私は嫌なんですが……」

 

「いやっそれは……誰でも嫌だと思うよ」

 

その為まずは、1つ目の特異点に行く前に戦力増強の為にも何人かの英霊を召喚する運びとなった。

前回、スネークを召喚した時は緊急措置としての召喚だったにも関わらず正常…………かはいささか疑問だが、それでも召喚には成功した。

システム・フェイトの仕様上、召喚直後はある程度弱体化はされているがその分、霊基再臨という儀式を行うことで生前の、それこそ生身で全盛期だった実力を発揮することが出来る。

 

その召喚のためにはカルデアの電力と聖晶石と呼ばれる石で魔力を精製するだけで良い。

本来の聖杯戦争での召喚は聖杯からの魔力供給があるため、魔法陣を描き令呪が刻まれたマスターと呼ばれる者が決まった詠唱を読むことで召喚される、この時マスターは召喚のための魔力消費はないが、自分のサーヴァントを維持させるための魔力を供給するためにパスを作るため、それなりの魔力消費が発生するため、マスターには一応の負担が発生する。

 

だがここカルデアでは、マスター自身は一切の魔力消費が発生しない。

召喚はもちろん、サーヴァントを現界させるためやサーヴァントの真骨頂とも言える宝具を発動する時に必要とする魔力すらカルデアの電力によって賄うことが出来る。

さすがに聖杯のような無限供給みたく、宝具の連続開放は令呪を切らない限り無理だがそれでもマスター自身の資質に関係なくサーヴァントを運用することを可能にしている。

一般人である立香がカルデアに呼ばれたのも、魔術師でなくともマスターとしてレイシフトが出来れば誰でも良かったと言う召喚システムの優秀さも理由としてはある。

 

「しかしですよ先輩、こうしてダ・ヴィンチちゃんがここに来ていると言うことは、そう言う可能性もあるという事では?」

 

「……マジかぁ」

 

「違うな、この天災は面白そうだから来ただけだろう」

 

「随分と失礼なことを言うなぁ、確かに面白そうな気がしたから来たのは確かだけど万が一の可能性が有るからね、こうして立ち会う必要があるのさ」

 

「まぁレオナルドと同じ理由で僕も立ち会うんだけどね」

 

「私はここの所長だから当然よ」

 

「……一箇所にここの重要人物が集まるっていうのはどうなんだ」

 

「まあ俺は構わないですけど、なんか緊張するなぁ」

 

「まぁまぁそう固くならなくて良いよ、君は石をここで投げるだけで良いんだから」

 

その固くさせている原因であるダ・ヴィンチちゃんがニコニコと語りかける。

実際その通りではあるが、お前が言うなとロマニとオルガマリーは心の中で思っていたとか何とか。

 

「それで、あの綺麗な石はどこに……?」

 

「私が持ってるわ……もっとも、カルデアの倉庫もある程度やられて残ってる聖晶石はこれだけよ」

 

「8個かぁ……なら2体かな」

 

「4個で1人のサーヴァントを呼べるんですか?」

 

「本来なら電力だけで十分なんだけど、今のカルデアは自家発電だけで賄ってる。

さすがに召喚にだけ電力を割くわけにはいかないから、この魔力の篭ってる石で魔力を補う必要があるんだ」

 

「なるほど……」

 

「ああ、それ魔力の結晶だったか、ならちょうど4つ持っているぞ」

 

「本当ですかっ!?」

 

「ああ、あの洞窟で爆薬を仕掛けている時に見つけてな。

ちょうど4つ、それぞれ洞窟を支えていた部分に光っていてな、何かの罠かと警戒したがダイヤモンドにも見えてな、爆薬を設置しながら回収しておいた、これだろ?」

 

そう言ってスネークの手から出てきたのは確かに魔力が篭った聖晶石だった。

 

「うん、確かに聖晶石だね、これなら3体のサーヴァントを召喚できる」

 

「……あなた、幸運はEじゃなかったの?」

 

「そう言われてもな、有ったものを拾っただけなんだが」

 

「あっそう、けどこれで最低限の戦力は確保出来るわね」

 

「じゃあ石も集まったことだし早速始めようか、マシュ、盾をサークルの真ん中に置いて」

 

「わかりましたドクター」

 

そう答えてマシュが盾を召喚サークルの真ん中に置く、ちなみに彼女の格好は戦闘姿で露出が高めだが、彼女の盾はれっきとした宝具であり、触媒として様々な英霊の呼び寄せる呼び水としての働きを担う事が出来る。

 

「……あのスネークさん」

 

「スネークで構わん、どうした坊主」

 

「今必要なサーヴァントに攻撃力が必要なのはわかるんだけど……どんなサーヴァントが今は必要なの?」

 

「そうねぇ……遠距離攻撃の出来るアーチャーと前衛でランサーかしら?」

 

「……確かにそうだな、だがクラスの話を抜けばとりあえず足が速い奴は欲しいな」

 

「どうしてですか?」

 

「足が速いだけで偵察・奇襲・陽動、この3つを戦術として選ぶ事ができる。

俺も出来なくは無いが2人いればこの精度も高まる、どっちかが交代で常にマスターの横に居ながら偵察に走ることも出来るしな、まぁそれも含めるとランサーが都合が良いのは確かだ」

 

「じゃあまずはランサークラス、ですね」

 

「おいおい立香君、まるで自分はサーヴァントを選べるみたいな口ぶりだね?

まさかとは思うけど、サーヴァントの名前を言えばそのサーヴァントが出てくるとでも思ってるのかい?」

 

「いやぁ〜いくら主人公力が強い君でも……意外と出来るかな?」

 

「……レオナルド、からかうのもほどほどにね」

 

「いやっ俺、自分が欲しいものはあんまり当たらないんですけど、人が欲しいものって大体簡単に手に入るんですよ」

 

『・・・はっ?』

 

「いや、俺も不思議だとは思うんですけど、修学旅行で友達が美ら海のガチャを5回もやったせいで百円玉が切れて、代わりに俺がガチャを引いたら1発でその友達が欲しいのが出ましたし。

あとは毎年、人が多くて面倒くさいんですけど親と一緒に福引に行って大体2等か1等の商品が当たります。

他にもゲームセンターで15分くらい暇でメダルゲームしてたらジャックポットを引き当てたんですけど、時間が来たんで隣にいた家族連れで来てた子供にその台を譲ったりとか………ドクター?どうしました?」

 

「…………まあアレダヨォ!?!これはそんな安っぽいガチャガチャじゃなくて英霊の召喚ダシィ!

そんなご都合主義よろしく思い通りサーヴァントが出てくる訳が無い!そうだよねダ・ヴィンチちゃん!?」

 

「そうだ!世の中そんなに物欲センサーが仕事なんてする訳がナイヨッ!!」

 

「ド、ドクター!?目に光を取り戻して下さい!?ダ・ヴィンチちゃんもっ?!」

 

「……俺、なんか変なこと言ったかな?」

 

「まあ・・・なんだ、なんか有ったんだろ」

 

「はぁ・・・これだからダメ人間は……」

 

片方は《マギ☆マリ》のチケット抽選に敗れ、また片方は某運営を執拗に恨んでたりする。

特に某運営への恨みに関しては多くの同志がいる模様だが、それをスネークやオルガは知らない。

 

「……とりあえず坊主、これ以上面倒くさくなる前にさっさと終わらせるぞ、マシュを助ける意味でもな」

 

「そうだね……じゃあとりあえず1回目!」

 

 

そう言って4つの聖晶石を立香が召喚サークルの真ん中に投げた

 

 

するとスネークを召喚した時のように光が辺りを照らした

 

 

その光のおかげか、ハイライトが消えていた2人の目にも光が戻った

 

 

やがて光は収束し人影が見え始めた

 

 

前回のように切羽詰まっていないためか召喚が早いように感じる

 

 

そしてマスター権限で立香にはそのサーヴァントのクラスを見た

 

 

「あっランサーだ」

 

『・・・・・・え』

 

 

そして光が消え、人影が完全に人として姿を見せた

 

その姿は全身が青装束で手には確かに紅の槍を持った見た目からして戦士

 

纏う雰囲気は野性味があり、猛獣のような物を感じなくも無い

 

そしてその雰囲気と青髪には冬木に行った全員に覚えがあった

 

 

「おっと、今回はしっかりランサーみてぇだな……おお!やっぱ坊主か!」

 

「えっと……やっぱりあの時のキャスターさん、ですよね……?」

 

「そうだぜ、そういや俺はあん時ゃ名乗って無かったな、なら改めて名乗らせてもらうぜ。

俺はクー・フーリンだ、この前とは違って槍兵としてせいぜい務めるさ、いやぁ〜やっぱ槍は良いなぁ!」

 

「……本当にランサーを引き当てたわ、しかもアイルランドの大英雄……!?」

 

「お前……クー・フーリンだったか」

 

「ああそうだぜ、まぁこれからあんたともしばらく長い……まさか怖気付いたか?」

 

「まさか、アルスター伝説の英雄と肩を並べられるとはな……面白いもんだ!」

 

「なんだ!あんた話がわかるじゃねえか!

どっかの弓兵は未来の英雄らしいが俺を見たって嬉しがらねぇわ……そもあいつの考えも気にくわねぇが。

だがあんたとは何か上手くやっていけそうだ」

 

「そうか?まあよろしく頼む、もっとも俺も一介のサーヴァントだがな」

 

「そうだったな……おいマスター」

 

「はい、なんですか?」

 

「……まぁあれだ、お前がマスターだとは今も信じられねえけど、とりあえずよろしく頼むぜ?」

 

「こちらこそ、これからよろしくお願いします、クー・フーリンさん」

 

「…………本当にこいつがマスターなのか?」

 

「まだ言うか、それを」

 

「私からもこれからお願いしますね、クー・フーリンさん」

 

「おお嬢ちゃんじゃねえか!まっ、よろしく頼むわ!」

 

そう言って1人目、マスターが他のメンバーから求められた通りのランサーが、それも申し分の無い大英雄が、ここカルデアの戦力として仲間になった。

……仲間になったのは良かったが、

 

「……何で……なんでランサーが……?」

 

「……まあ確率的に7分の1だしぃ!クラスを言い当てるくらい!ある事だよねぇ!!」

 

「……所長、なぜかドクターとダ・ヴィンチちゃんが——」

 

「放っておきなさい」

 

「えっ、けど——」

 

「放っておきなさい」

 

「あっはい、わかりました」

 

若干2名、詳しく言えばカルデアの医療部門のトップと人類史における万能の天才が、うずくまりながら何かをブツブツ言っていた。

ちなみに言えばサーヴァントのクラスには例外があるために、別に一つのクラスを狙い当てる確率は7分の1では無かったりするが、万能の天才はそれに気付く事はなかった。

 

「……何であの軟弱男と随分な美女は悶えてんだ?」

 

「気にするな、俺にもよくわからん」

 

「えっと、なんか2人が可笑しくなってるけど……次はじゃあどんなサーヴァントが良いの?」

 

「あん?まだ召喚を続けんのか?」

 

「さすがに2人や3人だけでこれから先やっていけるとは思えない、最低でも6人は欲しいが今はあと2人だけしか召喚できないらしい」

 

「そういう話か」

 

「それで、次はどんな人が良いんですか?」

 

「ええっと……今ここに居んのは盾持ちの嬢ちゃんに、奇襲で敵なしのあんた、それと俺か。

……そういやあんた弓兵みたいな攻撃してたな、ならアーチャーはいらねえ、つうか絶対に勘弁だな!」

 

「どうしてだ、専門の狙撃手がいるに越した事は無いと思うが?」

 

「……アーチャーにはロクなやつがいねぇ、まだキャスターやライダーの方がマシだ」

 

「・・・だそうだ、坊主」

 

「そっか、まあとりあえずはキャスター、かな?」

 

「そう祈ってくれ」

 

「じゃあ……2回目、そーい!」

 

 

そう言って再び、4つの聖晶石を立香は召喚サークルの真ん中に投げた

 

 

するとスネークを召喚した時のように光が辺りを照らした

 

 

その光のおかげか、ハイライトが消えていた2人の目にも光が再び戻った

 

 

やがて光は収束し人影が見え・・・・・・

 

 

「っおい坊主!これってキャンセルとか出来ねぇか!?」

 

「はいぃ!?」

 

「……どうした急に」

 

「・・・あっ今度はアーチャーだ」

 

「っざっけんな!」

 

 

そして光が消え、人影が完全に人として姿を見せた

 

その姿は浅黒い肌に赤い外套を着込んだ白髪の男

 

先ほどのクー・フーリンと同じように戦士である事はその体から察する事ができた

 

そのクー・フーリンは頭を抱えていたが。

 

 

「………………………」

 

「……あれ?どこかで見た事があるような……?」

 

「あれだ、冬木で俺が倒したアーチャーだ、坊主はほとんど顔も見てないだろうがな」

 

「………………………」

 

「……あのぉー……初めまして、じゃなくて……僕のこと覚えてますか?」

 

「先輩、それはその……最初にかける言葉として正しいのでしょうか?」

 

「けど初めましてじゃないし……」

 

「………………………」

 

「……おいテメェ、良い加減喋れよ」

 

「……お前にそんな指図をされる覚えは私には無いんだが?」

 

「よく言うぜっ、ならさっさとマスターに挨拶しておけよ」

 

「……すまないマスター、簡単に自己紹介だけさせてもらう。

私はアーチャーのサーヴァントのエミヤだ、アーチャーともエミヤとも呼んでくれて構わない」

 

最初はダンマリを決め込み、クー・フーリンとスネークを見比べていたアーチャーのサーヴァントだったが、口を開けると随分と優しい口調でエミヤと名乗り挨拶してきた。

丁寧に挨拶をされたなら、こちらも丁寧に挨拶を返すべき、おばあちゃんに習った事を思い出しながら立香は自分も名乗っり、他のサーヴァントも簡単に紹介する。

 

「あっえっと、マスターの藤丸立香です、こっちはマシュ、あそこに立ってるのはカルデアの所長さんです。

あとそこに立っているのは——」

 

「ああよく知っている、そちらの眼帯を掛けているのがBIG BOSSで、そっちは青タイツだろう?」

 

「おい待てテメェ、何で俺のことは青タイツで終わらせてんだぁ……?」

 

あからさまな態度の違いにクー・フーリンが槍を構えそれをマスターとマシュで止める。

そんな光景になぜか喜ぶダメ人間2人に制裁を加える所長と周りが騒ぐ中、スネークは冬木で倒したこの弓兵が………エミヤが自分のことを知っていたことに驚きながらも、それは表情に出さずエミヤに近づき話を聞く。

 

「…………俺のことを知ってたか」

 

「まぁ私は少し特殊な未来の英霊でね。

……まだ自分でもガキだった頃、あんたの英雄らしい生き方なんかに随分と憧れたものでね」

 

「おいおい止してくれ、俺は英雄なんて器じゃ無い。

俺は単なる傭兵に過ぎない、お前の知っている俺の“情報”は都合の良い事実と話しか無い」

 

「それでも私はあんたに憧れていた、まさかここで憧れの傭兵と肩を並べて戦えるとは思わなかった」

 

「……まぁ別に悪い気はしないから構わんが、俺のことはスネークと呼んでくれ。

俺はその称号はあまり好きじゃなくてな、呼ばれるならスネークの方が好ましい」

 

「それは失礼した。なら改めて……スネーク、あんたと戦えることを光栄に思う」

 

「そいつはありがたい、どうやらお前は色々とサーヴァントとして慣れてるみたいだが俺は新参者でな。

その辺を含めてよろしく頼む」

 

「ああ、こちらこそ頼む」

 

そう言ってしっかりと握手をする2人。

……なぜクー・フーリンがアーチャーを毛嫌いしているかはスネークがわからないが、少なくとも悪い奴では無い、むしろクー・フーリンと同じように上手くやっていけるように思えた。

 

「おい、何でそっちには敬いがあって俺には遠慮がねぇんだよ……?」

 

「なら聞くが、私が今からお前に敬いながら喋れとでも言うのかね?」

 

「……いやナシだな、気持ち悪くて寒気がする」

 

「生憎同感だ、スネークは少なくとも俺が生きていた時に憧れてた存在だ。

だからこそ多かれ少なかれ敬う対象だ、お前にもそんな相手が一人や二人は居るだろう?」

 

「……まあな、最もお前にそんな相手がいるとは思いもしなかったがな」

 

「ふっ、それは確かにな」

 

そして口では何と言おうとも何だかんだ上手くやっている。

冬木でもそうだったが、随分と因縁があるらしいが……それは追々聞けることだろうとスネークも立香も思いつつ、最後の召喚を行うことにする。

 

「じゃあ次で最後だね」

 

「何だ、もう一体のサーヴァントを呼ぶつもりなのかマスター?」

 

「何でも今回は単なる聖杯戦争じゃ無いんだとよ、こりゃやりがいがあるってもんだぜ?」

 

「その様だな」

 

「えっと……スネーク、最後の一人だけどどんなサーヴァントが良いかな?」

 

「まあこれだけ運良くバランス良く揃ったからなぁ、これと言っては要望は無いぞ」

 

「ふむ……盾による前衛での陽動とランサーの一撃、スネークの奇襲に私の遠距離攻撃。

私もそこのランサー程では無いが接近戦はそれなりにこなせる、となれば回復役か圧倒的な攻撃力の持ち主かだな」

 

「とりあえずはまぁそんな感じだわな」

 

「……マシュは?」

 

「えっと、そうですね……エミヤさんが言った通りやはり回復のできるキャスターか、対城宝具を持った英霊の方でしょうか?」

 

「「・・・えっ」」

 

「……どうした、二人して」

 

「じゃあとりあえず!最後の召喚ホイッ!」

 

 

そう言って最後の4つの聖晶石を立香は召喚サークルの真ん中に投げた

 

 

すると召喚したのために光が辺りを照らした

 

 

その光のおかげか、理性や知性や智性なんかが消えていた2人にはオルガマリー鉄拳制裁によって星を見た

 

 

やがて光は収束し人影が見え始めた

 

 

「・・・なぁ、まさかとは思うが」

 

「ああ……これは確実に“彼女”だろう」

 

「……おい、2人して何で頭を抱えている」

 

 

 

そして光が消え、人影が完全に人として姿を

 

 

 

 

「【約束された勝利の剣】(手がスベッッタアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!)」

 

 

 

 

見せる前に真っ黒なビームが襲いかかって来た!

 

 

 

 

「っ先輩!!」

 

「マジかよ!?」

 

「っ!」

 

「【熾天覆う七つの円環】(ロー・アイアス)!」

 

 

そこからの行動はそれぞれ早かった

 

マシュは真っ先に立香の前に立ち、真名開放をせずに宝具を展開

 

マスターはもちろん全員をその攻撃から護る

 

 

クー・フーリンは驚きながらもすぐにマシュの宝具より後ろに下がり槍を構える

 

攻撃が終わり次第仕掛けるつもりらしい

 

 

スネークはマシュの宝具からはみ出ている所長たち3人の回収に動く

 

そこにエミヤも念のため宝具を展開しつつ加勢しロマンを回収

 

スネークが2人分を担ぎさっさとマシュの後方に戻った

 

 

ビーム攻撃自体はそれほどどうやら室内である事を配慮しているのかそこまで強力では無い

 

……洞窟内で全力を奮っていたのかも謎だが、少なくともこの部屋が崩壊するレベルではなかった

 

そしてマシュの宝具によって完全に相殺しているため被害は一切出ていなかった

 

やがて攻撃が止まり黒いが静まり代わりに膨大な魔力を漂わせた人影が見えた

 

・・・だがすでにこの場にいる全員がそのビーム攻撃を放った人物に心当たりがあり過ぎた

 

だがその本人は黙ったまま何もして来ない

 

 

 

「……………………」

 

マシュは次の攻撃が来ても良い様に宝具を展開、備えているために何も喋れなかった

 

 

「……おい、何か喋りやがれ」

 

場合によってはその心臓を貰い受ける、とは言わずクー・フーリンが語気を強め尋ねる

 

 

「全くだ、登場が随分と派手過ぎると思うのだが?」

 

そう言いながら両手に干将・莫耶を持ちエミヤが声をかける

 

 

「登場以前に仲間に宝具をぶっ放すとはどういう了見だ?」

 

すでに完全な敵対行動と認識したスネークはハンドガンにコンバットナイフを構える

 

 

「えっと……アーサー王、ですよね!」

 

そんな一触即発な雰囲気を醸し出している中、必死になって立香は声をかける

 

さすがにマシュより前に立つ勇気は無かったがマシュの隣に立ち慌てながらも交渉(?)する

 

 

 

「・・・ああ、すまない、何かしてしまったか?」

 

 

すると

 

まるで自分は何もしていないと言わんばかりの口調で黒い騎士王がトコトコ歩き出してきた

 

その格好はゴツい甲冑、では無くなぜかゴスロリのドレスだった

 

 

「いやっあのなぁ、気のせいじゃ無ければ《手がスベッタアアアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!》

とか言いながら聖剣が俺らに襲いかかって来た気がするんだが!」

 

「ならば気のせいだろうアイルランドの御子よ、まず私の聖剣が勝手に襲いかかって行くわけが、ましてや私が手を滑らせて自分の得物を取りこぼすとでも思うのか?」

 

「まさに暴君だな、こっちはそのおかげでこちらは走る羽目になったのだが」

 

「貴様がこき使われるのはいつものことだろう、とりあえずお前はご飯を寄越しなさい」

 

「……少なくともお前の宝具で事故が起きかけた、とりあえず敵じゃあ無いならマスターに謝ってくれ」

 

「なるほどそうか……我が名はアルトリア・ペンドラゴン。

問おう、貴様は私と共に歩むか?歩むんだな?良いだろう!それなら貴様も私に付き合うが良い!」

 

「あっ、えっ?」

 

「……とりあえず仲間になってくれたみたいです」

 

「とりあえずでは無い、正式な契約だマシュマロサーヴァント」

 

「私はマシュです!デミ・サーヴァントですから!!」

 

「これ・・・これあのあーさーおう?」

 

「所長!?」

 

なんかアーサー王と名乗る女性が出てきた、それはまぁ良い。

だが、かの騎士王が傲慢だとか食事第一だとか人に中々にユーモアがある名前を付けると誰が想像できるか?

・・・いやっ出来そうな引きこもり魔術師はいるが、それでもこの場で彼女をもう一つの側面だと知っている者以外では不可能だろう。

 

一般人でありマスターでもある立香にとっては、何か色々と凄い人が来た、で済んだ。

純粋であり知識で世界を知るマシュは、何か想像と違ったけど……まぁとりあえず、と断定した。

だが生粋の魔術師であるオルガマリーは、2人の様に一旦割り切ることが出来なかった。

 

マシュとは別に純粋、というより単純とも言えるオルガの心。

その心は召喚されたアーサー王……では無くアルトリアの言動と行動を目の当たりにした事によって、まるでサンタさんの正体を知ってしまった瞬間のように、信じる・信じないの前に思考が停止した。

 

「……おい、クー・フーリン」

 

「……まあアレだ、俺が良く知ってるあいつ……じゃねえなぁ」

 

「…………おい、エミヤ」

 

「言うな、私はあれがアルトリアだとは知っているがそれ以外は知らない」

 

「……おい、マスター」

 

「まあ良いんじゃないですか?少なくとも敵意は無いみたいですし色々と話は聞きたいですからね。

それに俺は別に怪我してないんで謝ってもらう必要も無いですし」

 

「そうか……それなら良いんだが……」

 

「何かマズいですか?」

 

「いや、坊主は俺らのマスターだ。今のお前の判断にこれといって反論は無いんだが……」

 

「?」

 

マシュは所長の介護のため立香やスネーク達より少し離れたところにいる。

さすがに所長の容体を気にしたロマニもフォローに入り、ダ・ヴィンチちゃんはいつの間にか消えていた。

そしてなぜかアルトリアもそちらへ体を向け、マシュの手伝いをしている……マシュをからかいながら、愉しんでいる様にも見えるが。

 

だがそんなアルトリアは時折こちらを見ることがあり、その視線の先は……スネークだった。

 

「……ぁあ、そういう事か」

 

「まっ、こうなるとは思ってたがな」

 

「おいクー・フーリン、お前はわかってたのか?」

 

「まあなっ、セイバーの野郎がお前のことを最後、随分と熱心に見てたからな」

 

「そうだったか……」

 

「あっあの?一体何の話ですか?」

 

「マスターにも関係ある話だからな、まぁ言ってしまえば……あの騎士王はどうやらスネークと戦ってみたいらしい、私が倒された後に一体何があったかは知らないが何か気に喰わない様子だ」

 

「えっ、スネークさんとまた戦いたがっているってこと?」

 

「そういうこった……それも結構マジで戦いたいみたいだぜあのセイバーは」

 

「えぇ……」

 

「・・・マスター、これは俺個人の質問だが、あいつと模擬戦をしても構わないか?」

 

「……やらないとダメ?」

 

「いいや、俺も彼女もあくまでサーヴァントだ。

彼女もいくら暴君でもさすがにマスターに逆らってまで戦おうとはしないだろう、第一端から戦う気だったなら召喚された時点で俺を襲ってくるだろうからな」

 

「いやおいっ、思いっきり宝具をぶっ放した気がするんだが……?」

 

「まぁ意図した物では無いだろう、殺気が篭っていた訳でもない、本人も自覚が無さそうだしな」

 

「そうだね……まぁドクターや所長に確認とってからだと思うけど、俺としてはやっても良いよ」

 

「そうか、ならやる方向で彼女とは話を進めるか……」

 

「「・・・本気か?」」

 

この時、因縁深いランサーとアーチャーはこの時ばかりは全く同じ信条だった。

まずあの黒いアーサー王が手を滑らせ宝具をぶっ放す訳がない、2人からすれば明らかにアレは意図的な行動だというのは明白で、実際その通りだ。

 

だが事もあろうに、このマスターとスネークはアレが事故だと言い、あっさり流した

 

それどころか、あの黒い騎士王と正面から戦うとも言い出した

 

しかもあろうことか、その戦闘すらマスターは仮ではあるもののあっさり許可した

 

2人はスネークという現代の英雄が、一体何をどう考えるかはまだ知らない。

だが2人はマスターらしくない、一般人の立香の思考なら予想できた。

そんなマスターの一般的な思考を基にすれば、自分の仲間であるサーヴァント同士を戦わせる事に積極的になる事はまず無い、殺し合いでは無いという前提だとしても少なくとも簡単に了承しない。

 

「何が疑問だ?」

 

「いやっ私から言わせて貰えば、あのセイバー相手に奇襲ならまだしも正面からの戦闘で勝ち目はあるのか?」

 

「まあ無くはない、ただ俺としては実験的な意味合いもあるな」

 

「うん、俺もスネークさんに確認したいことがあって……」

 

「あん?マスターも確認したい事があんのか?」

 

「……坊主が聞きたいことってのは何だ」

 

「その、スネークさんの銃ってあの鎧を貫通できるの?」

 

「…………わからん、だから確認する」

 

「じゃあやろう、俺もスネークさんがどれくらい戦えるか気になるし」

 

「……だろうな、俺もどれくらいできるもんかまだ良くわかってないからな、彼女なら申し分無い」

 

「じゃあそういう趣旨を伝えてドクターや所長に許可を採るね、ついでにセイバーさんにも伝えておくよ」

 

「……ああ、頼んだ」

 

そう言うとマシュが介抱している方へと走って行った、どうやらセイバーにもまとめて伝えるつもりらしい。

だが思ったより所長は重症らしく、だが何故かマスターはセイバーに連れられて、召喚ルームから出て行った

残ったのは過去・現在・未来の英雄だった。

 

「……あの坊主、マスターとしては置いといても、人としては中々やるな」

 

「そうか?ありゃマスターとしても結構やれると思うぜ?」

 

「まだ素人に変わりは無いようだが、その分教えがいのありそうなマスターだな」

 

「ふっ、違いない」

 

マスターとしては戦術や戦略的な知識は足りない、魔術に関してはド素人。

だが人としての観察眼と判断力は英霊から見ても“素人にしては”結構な代物だった。

これから磨きかかって行けば、様々な英霊と会話する程度ならなんの支障もきたさないだろう。

 

今の時点ですら、伝説の傭兵・アイルランドの御子・世界の守護者・反転した騎士王と話せて居るのだから

 

「・・・んでだスネークさんよぉ〜」

 

「ん、どうしたクー・フーリン」

 

「あんたがセイバーの野郎と戦うのは良いんだが……俺とも一戦やらねぇか?」

 

「・・・実は俺からも願っていたんだが、良いのか?」

 

「当たり前だ!むしろ俺としては願ったりかなったりだ、もともと俺は強い奴と戦えれば満足なんだ。

それに何だ、随分とデカイ問題がくっ付いて来る位なら必要経費だ」

 

「まさかお前の口から必要経費という文化的な言葉が出てくるとはな」

 

「お前は毎回皮肉を言わなきゃ気が済まねぇのか……?」

 

そんな将来が楽しみな……その未来が今は存亡の危機だったりするが……そんなマスターは置いといて、3人は自分たちの興味がある方へと走って行った。

特にクー・フーリンは、キャスターだったとはいえ自分を投げ飛ばしたスネークを実力のある者として認め、得意の槍を得たいま、改めて戦う気でいた、もちろん本気で。

 

「……お前ら、あの騎士王も含めて随分と長い付き合いに見えるが、何度か会ってるのか?」

 

「・・・まぁ何度か聖杯戦争が会ってだな、その都度顔を合わせているのだが……」

 

「・・・で、何故かこいつとは毎回毎回戦う羽目になってんだよ」

 

「それでお前は冬木で決着だとか言ってたのか」

 

「そう言うこった、まぁこの前はあんたのおかげで決着は付かなかったがな」

 

「それならお前ら2人で決着を付ける気は無いのか?」

 

「……私はそれ以上にスネークと戦ってみたいのだが?」

 

「こいつに同じだっ」

 

「なるほどな……わかった、なら打って付けのトレーニングルームがある。

さすがに決闘やら死合ならマスターに一言断りを入れなきゃならんだろうが、男同士の語り合いなら問題ないだろうしな」

 

「そいつは良いねぇ、久しぶりに熱くなれそうだぜ」

 

「あまり暑苦しいのは苦手なのだが……あんたが居るなら話は別だ」

 

「決まりだな、なら早速やるか?」

 

「おう」

「ああ」

 

 

こうして3人はトレーニングルームへと足を運び、満足するまで叩き合った。

 

ちなみにこの“語り合い”、スネークとクー・フーリンで1時間、スネークとエミヤで1時間、三つ巴で1時間、計3時間ぶっ通しで行われたのだが、この語り合いは本人たちにとっては素晴らしい物であったらしく、皮肉屋と槍使いは相変わらずだったが蛇を介するとそれなりに喋るようになり、蛇となら良く話す様になった。

 




何かご意見・ご感想があれば、作者の参考にも励みにもなります。
何かありましたら感想欄にてお知らせ下さいm(_ _)m

※お時間がありましたら私の活動報告も見て頂けると幸いです。


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第1章:邪竜百年戦争 オルレアン
プロローグ


どうも皆さん、お待たせしました、daaaperです!
……えっ?お前じゃ無くて作品を待っていた?ですよね……

そんな訳で、7/30に行われた模試もひと段落ついたので,
《Metal Gear Fate/Grand Order第1章:邪竜100年戦争 オルレアン》を投稿していきます!

先月末ごろに投稿した際に「長すぎる!」というコメントを関係各所と読者の皆さんに頂いたので、
本日は、前回投稿したばかりの作品を含め、合計3本、約5,000〜10,000字程に分割したものを投稿します。

……未だストックが全然出来ていないので、八月中に終わる気がしなくて怖いですが、
中途半端でもこの1ヶ月間、この作品に付き合って頂けたら幸いですm(_ _)m
それでは本編、どうぞ。



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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ンニャ?

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 

カルデアの管制室にて、現在の全戦力であるサーヴァント4人とデミ・サーヴァントであるマシュ。

そして人類の未来をあっさりと背負いこの場に立つマスターが集まった。

 

「さて集まったみたいだね、早速ブリーフィングを始めよう……って藤丸君、きみ大丈夫かい?

顔色、随分悪いけど……眠れなかったのかい?」

 

「あっいえ、むしろよく眠れたんですけど……なんか変な夢を見て」

 

「体調管理もマスターとしての仕事よ、ましてやあなたが戦闘ができる訳じゃ無いんだから」

 

「すいません……」

 

「本当に大丈夫ですか、先輩……?」

 

そんな6人を集め、今回のレイシフトを実行するにあたって事前の情報共有がなされる……のだが、肝心の彼らのマスターの顔色が悪かった。

さすがにぶっ倒れるほどの体調の悪さでは無いが、何やら悪夢にうなされた様な顔だった。

 

「……そうか」

 

「あーやっぱマスターなら見るかぁ〜」

 

「その様だな……スネーク、どうした?」

 

「……その……何だ……まぁ極限状態で寝れば変な夢の一つや二つは見るのは当然だ、生前俺も何度か見た」

 

今までの聖杯戦争の経験が豊富である三騎士3人組は、自分たちのマスターが何らかの“夢”を見たらしいと察しそれぞれそれなりの反応を見せた…………が、1名だけトラウマを思い出し何故かマスターに同情した。

 

 

これは心理学的推測でしか無いが、極限状態……特に生死の境……では当然ながら通常生活を送ることは出来ない、これは興奮状態による脳内でのパニックだと言うのは誰しもそれなりに想像つく。

 

だがこのパニックは言い換えれば《処理落ち》とも言えるという。

特に柔な新兵は恐怖で寝れず早死するのだが、これは過度なストレスが心を砕きそのまま身体を害した結果だ

一方、古参や生き残れる兵士はどんな状況でもそれなりに動き、それなりに食べ、最低限寝ることが出来る。

だがそれらは表面に顕著に現れていないだけであって実際には相当なストレスが常に掛かっており、脳内では常に興奮状態であったりするという。

 

この興奮は起きている時であればあまり影響は無いのだが、睡眠時の場合は意識の覚醒時よりも余計に影響を受けやすいという。

その影響がパニックのあまりキャパオーバーとなった脳の《処理落ち》によって夢を見る……らしい。

 

 

もっともこれは、スネークがある任務で医者から聞いた話だ。

スネークの場合は囚われた牢獄でコウモリに関する話が引き金となり、正真正銘の悪夢となった。

そのため、マスターが見た夢というのは、これからの戦いに対してのストレスによるものだろうとスネークは考えた訳だが

 

 

はっきり言って勘違いである

 

 

「……ちなみに藤丸君、具体的な夢の内容は覚えてるかい?」

 

「いや……なんと言うか……火焙り?」

 

『火焙り?』

 

「……なんか女の人が男の人に火をつけた、と言うか火がついたと言うか……周りにも人がいたような?」

 

「……少なからず私には当てはまらない内容だが?」

 

「俺もだ、火焙りなんざに縁はねえぜ」

 

「私も心当たりはない」

 

「……となると、スネークか?」

 

「何がだ?」

 

「ああ、まだ君には言ってなかったね。

マスターは契約したサーヴァントの過去を夢で見ることがあるんだ。逆にサーヴァントも見る可能性があるみたいだけど、藤丸君はこれだけのサーヴァントと契約してるからね」

 

「ちなみに聞くが、あんたが過去に見たって言う夢は何だ?」

 

「……わからん、ただ紅い世界でひたすらヒトではないナニカを殺して行く、……そんな感じだった」

 

「それは……また随分な悪夢だな」

 

「…………坊主、その周りにはどれ位人が居た、何か集会みたく何十人も周りを囲んでいたか?」

 

「うーん・・・何十人も居なかったと思うけど……せいぜい6人くらい、かなぁ」

 

「なら俺じゃない、仲間の手向けにダイヤモンドにする提案をしたらしいが、もっと大勢の仲間とだ。

6人程度の人数なら俺ではないな」

 

「……となると、一体誰の夢なんでしょう?」

 

「さあな、まぁマスターに害が無えなら問題ねえだろ」

 

「そのマスターの体調が悪そうなのだが?」

 

「あっいえ、問題無いです、動いてればそのうち治る程度です、わざわざ延期させるほど悪くは無いです。

と言うか、レイシフトに支障きたす程の体調不良なら起きる前にマシュやドクターにストップかけられますし」

 

「そうだね、数値としては何の問題も無い、多分精神的な面の問題だろうから、藤丸君が気にならないなら問題無いだろうね。……もちろん、こちらでダメだと判断した時は関係なくストップをかける」

 

「その時は従います、それがマスターとしての務めですよね、所長?」

 

「そうよ……まぁ今回は話してるうちに顔色も良くなってるみたいだし、問題無いわね。

それならロマニ、予定通りレイシフトの準備に入りましょう」

 

「わかりました、じゃあ予定通りブリーフィングに入ろう」

 

 

そう言ってロマニがパネルを操作し、カルデアの管制室のメインパネルを展開する。

正面には様々な情報が映し出され、全面に地図・地名・何らかの数値にグラフが描かれ、そして画面の一番上には《フランス・オルレアン》と大きく書かれていた。

 

 

「さて、今回の特異点だけど……場所はフランス、年は1431年だ」

 

「また随分な場所だな、もっとも私はフランスには言ったことないが」

 

「その年代だと……確か百年戦争の最中だな、しかもジャンヌ・ダルクが処刑された年か?」

 

「そうだね、一応正しければジャンヌ・ダルクの処刑から経った後だけどね。

……もっとも、レイシフトしないと本当に処刑された前か後かはわからないんだけど……」

 

「えっと〜……そもそも百年戦争とかジャンヌ・ダルクって誰ですか?」

 

 

現代生まれ、そしてそれなりの知識を有するスネークやエミヤはその年代を聞いてすぐに検討がついたが、それ以前にフランスについて詳しくない他の英霊や立香はその年に何が起こったかは知らなかった。

 

 

「マスターにわかりやすく説明すると、まず百年戦争ですが簡単に言ってしまえばイギリスとフランス間との戦争です。元々は王位継承問題に始まって複雑化し、領土問題にまで発展した戦争です」

 

「王位継承で百年間もずっと戦争してたの!?」

 

「いえ、何度か休戦もしてますし今回レイシフトする年もちょうど休戦中のハズですけど……どうなのでしょうか?」

 

「元々イギリスとしては領土の足がかりを作りたいってのもあったと思うがな、それに後年は大義名分としてしか使われてない、結果としては双方とも疲弊して君主が力を持つようになっただけとも言えるが」

 

「これだから蛮族はロクなことをしない」

 

「「お前がいうなっ!」」

 

「……色々あったんだな」

 

一人スネークから定期的に(毎朝)もらっているドリトスを一瞬で食べ終わったらしい暴食王は答えた。

実際、本来の彼女は大陸から渡ってきた野蛮人(ピクト人)を駆逐する最中の騒乱・荒廃で内政が荒れ、結果滅びた。その滅びを無きものとしようとしたIFの姿の一つとして横暴な暴君として君臨したブリテンの王が彼女だ。

 

そのため、彼女の発言は地味に重いのだが……暴君というよりジャンクフード好きの暴食者のイメージがあるため大して重篤に受け止められてない、実際彼女もそんな気は微塵もない。

 

「……なんかアルトリアさんの言葉には引っかかるけど、それでジャンヌ・ダルクって言う人は?」

 

「ジャンヌ・ダルクはフランス救国の聖女として知られて居ます。

彼女は単なる村の娘だったそうですが、ある日神様からのお告げを受けてフランスのために救国の旗を掲げ

立ち上がり、当時劣勢だったフランス軍は勢いを取り戻し、遂にはイギリス軍をフランスから追い出し講和にまで漕ぎ着けました。……しかし彼女自身はイギリスに囚われ異端審問にかけられ、様々な尋問を受け、最後には火炙りの刑に処せられたそうです」

 

「えっ……その人って村の娘って事は女の人でしょ?

戦争だから処刑はまだわかるけど……わざわざ火炙りにしてまで殺したの?しかも異端審問ってあんまり良いイメージが無いんだけど……」

 

「それは彼女が“聖女”として当時から見られて居たからだろうな」

 

「“聖女”として?」

 

マスターである立香の疑問にエミヤが答える。

 

「ああ、そうだ。

私やマスターは現代で生まれたおかげであまり印象が強く無いが、それでも神という存在は絶対的だろう?」

 

「うん、……まぁ神様や仏様には時々祈ったりはするけど」

 

「ましてや昔は神という存在は民衆にとっても支配者にとっても今とは比べものにならない程神聖な物だ。

それこそ宗教の扱いを間違えれば国が滅びる程度には、だ」

 

「うん、けどそれがどうジャンヌ・ダルクと繋がるの?」

 

「考えても見てくれマスター。

イギリスとしては普通に戦争をして居たのに、ある日突然一人の女性に戦局を覆された。

しかも彼女は『これは神のお告げです』と言っていたとしたら、イギリスの印象はどうなる?」

 

「……あっ、イギリスが神様に歯向かってるみたいだね」

 

「そういう事だ、実際にイギリス軍はジャンヌ・ダルクという“聖女”の存在で休戦とはいえ負けた。

ましてやそれが神からのお告げをもらった“聖女”が原因だとすれば、当時なら国民には隠し通せても国外や兵士には隠しきれない《イギリスは神に逆らったから負けた》と。

外交的にも内政も荒れるだろう、何せ神に逆らったというレッテルはあまりにも巨大すぎる。

何もかもが神罰だと捉えられる」

 

「……じゃあ、せめてその印象を払拭するために火炙りにしたっていう事?」

 

「もっと理由は複雑だ坊主」

 

ジャンヌ・ダルク

名前くらいは知っている彼女もまた英雄であり、英霊の座に至った存在だ。

だが生前の彼女の最後は利用されるだけ利用され、結果だけ見れば祖国に売られたと見れなくも無い。

それに関してスネークが補足する。

 

「色々と諸説はあるがな、実際にイギリスは彼女を捕らえて……まぁ酷い尋問にかけたかはわかってないらしい」

 

「そうなんですか?」

 

「フランスとしてもギリギリだった戦局が覆ったとはいえあまりにも疲弊していた、ジャンヌ・ダルクによって実質的に勝てたとは言え、戦争を続けることは不可能に近かっただろう。

良く女性としての尊厳を踏み躙る行為をされたと言われてるが、確かフランスから出た文書からは、

《なぜ彼女を蹂躙しなかった》という抗議文書があったという話まであると聞いた事がある。

……それが事実かどうかは判断できんが……少なくともフランスとイギリスの両国は戦争の継続は望んでいなかっただろう。

それに元は領土問題も絡んだ王位継承問題だ、フランスを悪く言うつもりは無いが……それだけの政治的な隙が当時あった訳だ。だがそれもイギリスという敵を倒せば、フランスは国民を統治する力によってその隙を埋める。

……だがジャンヌ・ダルクは兵士にとって神聖視されるほどの英雄だ、支配者としては好ましい相手じゃ無い

何せ神の言葉を聞きフランスを、自分たちを救った彼女の事を大勢の人間が尊んでる。

そしてイギリスはどうにかして神に背いた賊軍という印象だけは払拭したかっただろうしな、そこに敵に捕らわれた噂の“聖女”、双方ともに戦う余力は無い。

多額の負債と消したい存在だけが双方に残った、ならば……互いの利益になることを選ぶ」

 

「捕まって不憫な目にあっただけじゃ無いってこと?」

 

いつの時代も力ある者は人によって排除される。

戦士はその命を奪う力が人々の畏怖を誘い、信仰・崇拝に近い信頼を得た聖人は聖職者や貴族の妬みを生み、“危ない”と言う単純かつ最もそうな理由で処刑される。

 

ジャンヌ・ダルクの場合、一度捕まりはしたものの、直接イギリス軍に捕まった訳では無い

 

「確かに……フランスは身代金さえ払えば保護できたと思います、けど実際にはイギリスが身代金を払い、彼女の身柄を確保しましたし、その後の異端審問も彼女には当時から認められていた弁護士をつける権利があったにも関わらず、弁護者抜きで行われましたし……」

 

「そうなんだ………英雄って大変なんだね」

 

『・・・・・・・・』

 

「っいやちょっと……あんた妙な所で勇気あるわね」

 

自分たちのマスターは一般人だと頭ではわかっていたが……まさか自分たちが大変だったと言われる日が来るとは思わなかった、何せ否定の仕様が無い、だが頷く訳にもいかず。

 

というか、仮に一般人であっても

 

・人妻スキーや略奪愛人間によって崩壊していった円卓を抱えたり、

・寵愛を受けたいがためにゲッシュを用いて我が物にしようとした女によって殺され、

・正義の味方になろうと務めた姿を恐れられた為に殺され、抑止と言う名の掃除屋として使い殺されたり

等々の過去を抱えた者に直接「大変だったね」とあっさりと言えるかっ!と言う話である。つい最近カルデアに召喚された3体は特に思い当たることが大きかったのか、何とも言えない表情を浮かべていた。

 

「……いいか坊主」

 

「うん?何スネークさん?」

 

「お前が言ったことに間違いは無い。

もっとも俺は英雄だと思った事は一度も無いが……ここに召喚された奴らは間違いなく本物の英雄だ。

お前が持ってる以上の逸話に実力、それらと同じくらいに語られたく無い話もある」

 

「それは……スネークさんも?」

 

「当然だ、もっとも語りたくなんぞ無いがな、それに当然ながらここにいる連中も全員そうだ。

ただ、……その醜い部分を隠そうとも消そうとも俺らはしない」

 

「どう言う意味?」

 

「お前はジャンヌ・ダルクを含め俺らの事を苦労した人間だと思ってる。

その心は悪く無い、むしろ俺には出来ない心づかいだ……だとしても同情は決してするな。

こいつらは本物の英雄だ、こいつらが為してきた全てがこいつらの全ての情報だ。

例えそれが後世まで語り継がれた美談だろうと、人様に胸を張れるもんじゃなくともそれらがこいつらの今を構成してる、もちろん俺もだ。

だがお前の同情はその語り継がれてきた英雄達を殺すことになる」

 

「………………」

 

「そのっスネークさん、マスター……先輩の心遣いが間違ってると?」

 

「いいや、心遣いそのものじゃ無い、その扱い方だ。

坊主含めてそうだが、俺たちは綺麗な物に目を向け醜いものには目を背け瞑る、だが実際には目を背けようが気付かなかろうが存在している事に変わりは無い。

……だからな坊主、例え人様に胸を張れない事とも決して否定するな、それはこいつらを否定する事になる。

自分たちが為してきた事に責任を持たず、逃げるような奴は英雄に成れん。例えそいつが英雄と言われるほど強くともそれは単に独りよがりで強いだけだ。

残した結果を婉曲し否定するのは…………そいつの存在を否定し、殺すのと同じだ」

 

 

スネーク、真名BIG BOSS。

彼は自分の師を殺し、その師の理想を叶えようと動いた元上司の行為に共感できなかった。

実際には、その上司は“社会そのもの”を作り上げた……いや、作り変え人々の無意識に入り込ませ、国家に溶け込み全人類を基とした強大な社会基盤として君臨した…………だが、その社会基盤は“国家”を中心とした世界から、戦争を前提とした“経済”を基にした社会基盤として文字通り暴走した。

 

彼はその暴走が始まる前に“兵士”を基にした“国家”によって対抗しようとしたが、結局は殺され利用された。

 

 

思い返せば、全てが自分が最愛の人を手に掛けた事から始まっている

 

10年近くその師を想い、さまよっていた

 

その中で見つけた信念と組織は潰された

 

多くの犠牲者も出た

 

それでも“自分”は再び甦り、為すべきこと為に動いた

 

だが時代に殺され・・・利用され

 

 

そして再び甦った

 

 

その時、時代はもう終わっていた

 

仲間は自分だけを残して既に消えていった

 

あとは仲間が、蛇を名乗ったもの達が削りに削り、最後に残った1を無に還すだけだった

 

 

だからこそ

 

その行為を消すつもりは無い

 

なぜなら偽りの息子達は世界を破壊し、世界を救い、そして解放した

 

自分が半世紀前に作ってしまった世界を覆う檻を彼らは破壊した

 

それら全ての原因は、どう言い換え伝えられようとも、その元凶は自分だ

 

自分の師は自分に殺される前から時代に殺されることが決まっていた

 

 

そして

 

その師は

 

元凶は

 

後世に伝えられ無いよう社会基盤によって良いように・・・作り変えてあった

 

 

「俺はそういう意味で既に殺されている、だがそれは俺が負けたからに過ぎない。

だが少なくとも、ここにいるお前のサーヴァントは殺されることを望んではいないハズだ」

 

「じゃあ俺は皆んなに失礼なことをしたってこと?」

 

「あ〜・・・俺は気にしちゃいねぇけど……なぁお二人さん?」

 

「「……………………………………………」」

 

「これからお前が相手にする英霊も同じだ、例えそいつが俺らの敵だとしても同情はしてやるな。

俺らの敵だからこそ俺らは相手にする、相手取る力もある。だが、そいつの存在を否定する理由までは無い。

どういう訳で敵対するかはわからんが……自分の責任はそいつら自身でとるだろう」

 

このマスターは歴代の聖杯戦争を見返しても断言できるほど弱い、だが同時に強いと腐れ縁のある3人は直感スキルが無くとも感じていた。

もっともその内の2人は主にスネークの言葉に思うところがあったどころか耳を貫通して心に突き刺ささったのかクー・フーリンの言葉に頷くことも出来ず、顔を逸らしていたが。

 

そんなスネークにロマンが神妙な面持ちで尋ねた。

 

「・・・君はその……責任を取れたのかい?」

 

「舞台に立たせてくれた連中のおかげでな、だがそいつらは俺が蹴りをつける前に死んだ」

 

「……それでも、後悔してないのかい?」

 

「死にたいと思っていた奴は1人もいない、ただ俺たちが作ったモノを0にする為に動いた。

何事も無かったことには出来ない、それをすれば俺に関わった奴らの全てを亡き者にするのと変わらん。

そいつらの記録を記憶にも残さないのはそいつらを殺すことと変わらない、なら俺が生かすしかない。

それが償いになるとも思ってないが……出来る事をしない理由は無い」

 

「そうか……なら僕から言うことは無いかな」

 

そう言って静かに聞いていたロマンも、それだけ言って下がった。

ダ・ヴィンチもスネークの言葉を否定するつもりは無いらしく、同じように静かに聞いていた。

 

「……なんかよくわからないけど、悲しいことも嫌な事も忘れちゃいけないって事で良いのかな?」

 

「あんた、本当に勇気あるわね……!」

 

そして何となく理解したらしいマスターと、さっきから危ない発言にツッコミを入れる所長。

なんだかんだ一般人でギリギリ未成年である彼には完璧な理解は難しかった。

それでもその言葉が持つ意味を素直に理解しているだけ、十分だと書いておこう。

 

何せこの世界ではこんなハズでは無かったと無謀な夢を願った過去の自分を殺すと願い、

私が間違っていたと、自分自身の代名詞である剣を抜くことを無かったことにする事を願った、

そんな英霊が実は居たりする訳だ。

 

 

そんな英霊はスネークの言葉に当てはめれば……独りよがりな自殺志願者だと言えるだろう。

 

 

もっとも、片方は自分なりの答えを得たらしく、また今回の召喚は世界を救う戦いだと言うことで本人には珍しく乗り気でこの戦いに挑んでいたり。

片や本来の側面がどこぞの高校生に惚気たおかげで自分の為すべき型を見つけたらしく、自らを殺す事はこのカルデアでは起こらないだろう………まあどこの誰かまではここで書く事ではないので、詳細は読者に放任する。

 

「まっそれが俺らのマスターらしいけどなっ、そう気にすんな所長さん、お前も気にしちゃいねぇだろ?」

 

「まあな、素直に話を理解してるなら問題ない、その認識で間違いはないぞ坊主。

……それで、そこのエミヤとアーサー王はどうして黙ってるんだ」

 

「えっ……エミヤ先輩……?何で俯いてるんですか……?」

 

「……ぁぁ、気にしないでくれ」

 

「あっ、アルトリアさんもなんかプルプル震えてますけど……?」

 

「………………………………………」

 

「……嬢ちゃん、そっとしといてやれ、戦う時になりゃあ元に戻るだろうからよ」

 

「マシュ大丈夫だよ、俺もみんなが強いって事は知ってるし、わざわざありがとう」

 

「そうですか……まあマスターが言うのでしたら、私も心配しすぎでしたね」

 

「そうだよ、だってスネークさんが言ってたじゃないか。

英霊は逃げないって、ちゃんと責任をとれる人たちで独りよがりじゃ無いって」

 

「「……………………………………………」」

 

「と、とりあえずマスターよぉ!随分と脱線しちまったみてぇだし、この軟弱男の話の続きを聞こうぜ!」

 

「……まぁ確かに話がだいぶズレたしな、すまんなロマン」

 

「ん、けど重要な事だったからね、僕は気にしてないさ。

それに英霊で無くとも人として大切な所だと思うしね、それに時間はあるから問題無いよ。

さて、一区切り付いたみたいだし今回の目的を説明したら早速レイシフトに移るよ、問題無いかな藤丸君?」

 

「はい、みんなも問題無いかな?」

 

「鼻からその予定だしな、いつでもイイぜ」

 

「俺もだ、もっとも俺の場合は坊主をマシュと護衛するくらいだがな」

 

「ああ、私はいつでも構わないが?」

 

「付いていこう、マスター」

 

「……どうやら全員問題無いみたいだね、なら簡単に今回の目的だけ説明してフランスに行ってもらうよ」

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 

 

《ブリーフィングから1時間後、管制室にて》

 

 

 

「・・・うん、レイシフトも上手く行ったみたいだね」

 

「前回のように爆破されて、コフィンにも入らず、突然のレイシフトでは無いからね。

これで失敗して意味消失なんてしたら笑いの種にもならないさ」

 

「…………本当に笑えないし、地味にあり得た事なんだから勘弁してくれ……」

 

「まぁそう気に病む事じゃ無いさ」

 

「これだから天才は……」

 

ブリーフィングを終え準備も完了した藤丸立香は、デミサーヴァントで霊体化できないマシュと共にフランスへレイシフトした。

幸い他所からの物理的・魔術的干渉もなく、無事に成功したらしい、数分のうちに連絡が来るだろう。

……もっとも霊子ダイブによる独特のめまい、もといダイブ酔いは避けられないと思われる。

 

「それに今の私の興味は彼にだいぶ割かれているしね〜」

 

「……彼って、スネークの事かい?」

 

「君も感じてるだろ、彼が特殊なことくらい」

 

「…………まあね。わざわざ隠し事が有るって認めてるし、だからと言って誰とも話さないわけじゃ無い。

むしろ反転した騎士王と普通……かはわからないけど、少なくとも問題はなさそうだ。

それに何というか……想像していた以上に人間味があるよね」

 

「まぁ〜かのアーサー王が女性だった訳だし伝承の印象と本物が違うのは良いんだけどね〜」

 

「じゃあ君は何が気になってるんだい?」

 

「そうだなぁ、ロマンにもわかるように言えば……彼の在り方さ」

 

「……何が言いたいのさ」

 

珍しく、という訳でも無いが、それでも随分と真面目に語ったダ・ヴィンチにロマンも真面目に向き合う事にした。

幸い藤丸達が活動するまでは僅かながらも時間はある、他の職員も気になったのか2人の話に耳を傾け、パネルが発する音が幾分か小さくなって行った。

 

「まあ近代どころか純粋な現代の英雄なんて私自身びっくりなんだけどね。

エミヤみたく、抑止力との契約者ならまだわかるけど、まさか本当に私達と同じ英霊になれるとは流石の私も予想外だったけれど、彼の存在自体が独特じゃないか」

 

「……まあ、他の英霊と比べても随分と芯がしっかりしてる気がするけど……」

 

「何を言ってるんだい?むしろ彼の存在自体は真逆じゃないか」

 

「真逆?」

 

そう質問すると

 

いつもの様に何でも達観してわかってる余裕からか。

 

はたまたそんな事もわからないのかロマン君、とでも煽りたいのか。

 

カルデアのサーヴァントであるダ・ヴィンチは一杯コーヒーを飲んで満足そうに微笑んでこう言った

 

 

 

 

「だってそうだろう?彼の発言した内容、在り方はまるで幽霊そのものじゃないか」

 

 

 

 

 




何かご意見・ご感想があれば、作者の参考にも励みにもなります。
何かありましたら、感想欄にてお知らせくださいm(_ _)m

※次の投稿は 本日の12:00です


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邪竜百年戦争オルレアン:1-1

本日2本目、どうぞ〜





 

 

「……っぁあ、…………フランス……なのかな?」

 

「大丈夫ですかマスター?」

 

「ああうん、………すごい目眩がするけど………」

 

「おいおい、そんなんで大丈夫かよホントによ」

 

七つの特異点のうち最初の特異点、フランス。

人理修復のための第一歩として2人の少年少女は歩み始める………まぁそのうち片方はレイシフトによる急激な浮遊感と加速感覚によって酔った為に足取りはあまりよろしくなかったりするが、酒による酔いでは無いためすぐに治ると思われる。

 

「それにしても随分と広い場所に出たな」

 

「確かにな、こっちは見えんがお前の弓兵の目からしてそっちに敵はいるのか?」

 

「・・・少し先に砦らしきものがある、そこから数人の兵士がこちらに向かってきてるな」

 

「斥候か、距離は」

 

「行軍速度からして十分ほどだが?」

 

「おい坊主……は今は無理か、だが今はとにかく情報だ。

俺の独断ですまんがエミヤ、周辺偵察を兼ねて先行してくれ、あいつのの守りはマシュにランサーのクー・フーリンもいる、斥候からは俺が情報を引き出すから手は出さんでくれ」

 

「……私が言うのもなんだが、相手は人間とはいえ武装した兵士だ、まともに取り合ってくれるとは思えないのだが?」

 

「心配するな、お前が知らないだけで敵と語り合うのは慣れている、俺の組織のほとんどが敵地にいた連中だ、ナイフを向けられようが話は出来る」

 

彼が組織していた軍事組織は極めて異様だった。

カリブ海の海上プラントを拠点としたソレは、コスタリカに居座っているアメリカ人を追い出して欲しいと言う依頼から始まり、囚われた現地人はもちろん敵であるアメリカ人を中心とした組織だった。

当然隊員たちは元敵同士、中には実際に敵対した同士がいるのもざらだった……が内乱は一切起こらず、むしろ結束していた。

なぜなら彼ら全員にとってスネークの組織に、仲間に、家族に成れたことが誇りでありその誇りを汚す行為を誰もがお互いに許さなかったのだ。

 

……まぁ、実際には他にも隊員たちが作り始めた憲兵隊が強すぎたり、戦闘担当の隊員たちより研究畑の連中の方がむしろクレイジーで副司令を色々と苦しめていたり、それ以上に総司令官が無茶ばかりでそれを全員でバックアップしていたから等々、理由はあったりする。

 

「そうか、まぁあんたがそう言うなら私も異論は無いがね、ならとりあえず周辺の偵察は任せてくれ」

 

「ああ頼む、何かあったら……そう言えば無線が無いが、坊主とはパスが繋がってるんだったか?」

 

「もっとも今のマスターは魔術師としては毛も生えて無い、彼と直接のやり取りのしようが今の所無い」

 

「そうか……まあ何かあれば矢文でも飛ばしてくれ」

 

「ふっ了解した、なんなら風車もつけておこう」

 

「お前はいつから黄門様の忍びになったんだ?」

 

「…………何であんたがそのネタを知ってるんだ」

 

「人生楽ありゃ何でもあるだろ」

 

「……行ってくる」

 

「ああ頼んだ」

 

この弓兵の涙の後に虹が出るのかはさておき、スネークはだいぶマシになって来たマスターの世話をしているマシュとその周りにいる他のサーヴァントに声をかける。

 

「とりあえず……五体満足でフランスに来れた訳だが坊主、カルデアと通信を取らないか」

 

「そうですね、では私がマスターの代わりに連絡します、それまで寝てて下さい」

 

「ごめんねマシュ、もう少しで多分まともになれるから」

 

「フン、情けないぞマスター、アレくらい耐えられない様ではこれからの旅はやっていけないぞ」

 

「まあ見た感じ、俺らのマスターは本当に素人みたいだからなぁ。

魔術に関してもそうだが、体つきも体さばきも素人だ、全くもって戦いには向いてねえな」

 

「ハハハ、これでも毎日鍛え始めたんだけどね……」

 

「まっ、そう一朝一夕に強くなられちゃ俺らの立つ瀬が無えしな、そう焦んな」

 

「フォウ!」

 

「フォウも来てたの!?」

 

何だかんだで調子が戻って来た藤丸。

ちゃっかり来ていたフォウに驚きつつもカルデアに連絡を取っていたマシュが連絡が取れたらしいのでそちらを対応する事にした。

 

「先輩、ドクターと連絡が取れました」

 

「うんありがとう……ところでみんなさ、アレって何だろ?」

 

「アレって…………!?」

 

 

突飛押しもなく空を指差した自分たちのマスターに可笑しさを感じつつも空を見ると

 

 

そこには極大な光輪があった

 

 

《やぁ藤丸君、どうやら無事フランスに………ってみんなしてどうして空を見上げてるんだい?》

 

「ドクター、映像を送ります、あれは何ですか?」

 

「ん?・・・アレは——何らかの魔術式か?しかも衛星軌道上に・・・」

 

「おいおい、あんなの俺の師匠でも無理だぜ……」

 

「そもそも、宇宙に魔術式が書けるのか?」

 

「それは……問題無えな、さすがに本職ほどの力は無えけど今の俺も空中にルーンを固定することは出来る。

別段空に術式を組み込むこと自体は出来るぜ」

 

「だが上空10,000メートル以上の高高度にどうすれば描けると言うんだ?」

 

「……そこなんだよなぁ」

 

「マーリンなら……大方女だけを盗撮する様なロクでも無いものに違い無いだろう」

 

「よりにもよって盗撮ですか!?」

 

《さすが宮廷魔術師だ、趣味が悪い。

もっともあれが盗撮目的だとは思えないけど……詳しくはこちらで調べる、間違いなく未来消失の一端だろうけど幸い君達に害がある訳では無さそうだ、君たちはまずは霊脈を探してくれ》

 

「……かの花の魔術師が盗撮魔だとは信じたくありませんが——」

 

「マーリンはイタズラ好きで女好きのクズだ、はっきり言って英霊となったこの身でも関わりたく無い」

 

「・・・とにかく、ドクターの言う通り私たちがすべき事は多いです。

周辺の探索、この時代の人間との接触、召喚サークルの設置、……何よりこの時代が特異点となった原因の調査と解決です」

 

「改めて言われると……結構やることが多いんだね」

 

「はい、それでも出来ることから一つずつ片付けていくしかありません」

 

「まぁ千里の道も一歩からだからね、着実にやっていこうか。

………クー・フーリンさんやオルタさんにスネークさん、それにマシュも。

俺に出来る事は少ないけど、人類のために……って言うと壮大だから、俺たちのために力を貸して欲しい」

 

「…………先輩」

 

 

未来消失、人理焼却、

 

普通そんなことが起きれば、そもそんな事態に巻き込まれれば何も認識することも無く実質的に死ぬだろう。

だがここにいる少年は運良く生き残り、そして世界と歴史を相手に戦うことになった。

仮にこの戦いに優秀な魔術師や守りの要が加わったとしても、たかが1人や2人では決して戦えない。

 

 

「任せろっ!それが本来俺らサーヴァントと役回りだっつーの!

むしろ前線に進んで出て行って俺らと渡り合えるマスターって方が可笑しいんだ。

……それでもお前は俺らのマスターだ、んなら俺らが手を貸すのもお前がやれる事をやるのも当然だろ?」

 

 

「そこの犬に同じだ、召喚された時から私はお前のサーヴァント、なら私が剣を取るのは当然だ。

マスターはマスターらしく後ろでそこのマシュマロの後ろに隠れて居ればいい」

 

 

「今更何を言う、もっとも俺はせいぜい奇襲をかけるか逃げるかの二択くらいしか選択肢は無いがな。

……それでもここに呼ばれたならやれる事をするしか無い、なら今から始めるしか無い、何ならお前の稽古も付けてやろうか“マスター”?」

 

「・・・みんな」

 

若干過去の愚痴を混ぜ、皮肉を交え、当然のことの様に、3騎のサーヴァントは答えた。

まずマスターとしてこの少年に呼ばれ、応じた時からとっくに決まっていた。

 

そんなある意味感動的だったりする訳だが。

黒い騎士王は何か思いついたらしく、いつもより幾らか可笑しそうに笑いながらマスターに言ってやった。

 

「ふっ悪いがマスター、最終回を飾るにはまだ早いぞ?それにアーチャーの事を忘れてはいないか?」

 

「・・・・・・あ」

 

「ハッ!あいつにはお似合いだ!!」

 

「……すっかり私も忘れてました……」

 

「……すまんエミヤ、俺が独断専行で偵察に行かせた所為だ……」

 

「だ、大丈夫だよ!エミヤさんも力貸してくれるし!むしろ今も力を貸してくれてるってことでしょっ!」

 

《藤丸君……それはいくら何でも見苦しい言い訳じゃ無いかなぁ……》

 

「フォー………」

 

「フォウさんも、“何をやってるんだ”っておっしゃってます」

 

「アハハハ……」

 

アーチャーエミヤ

思ったよりあっさり自分のマスターに存在を忘れられる、南無。

 

「ついでにマスター、早速私たちの仕事の様だが切っても良いか」

 

「・・・えっ?」

 

「っ周りを囲まれています!数10!!」

 

《いつの間にッ!?ってか喋りすぎててこっちも周辺を見てなかった!!》

 

「とりあえずドクター、これって倒しちゃっても大丈夫なの?」

 

《まっまぁそこは隔離された世界だから倒しちゃってもまずタイムパラドックスは起きないから戦っても問題はないと思うけど……って流血沙汰はマズイと思うなぁ〜!?》

 

「ですよね……オルタさん、それとクー・フーリンさん、峰打ちで仕留められる?」

 

「造作もない、ただ少々手間だ」

 

「まぁ心臓貫かなきゃ良いだけだろ?」

 

《発想が物騒な2人だ!?》

 

「ま、待ってください!相手は人間、ヒューマンです!まだ話し合いで解決出来るかと——」

 

「Ennemi attaque!!!」

 

「……話し合いが何かと言ったか?」

 

「・・・何でもありませんアルトリアさん。

そうでした、1431年のフランスの地で英語が通じる訳がありませんでした」

 

「そういう問題じゃないと思うけど……」

 

 

 

《こ、こうなったら僕の小粋なジョークで………が、凱旋門で自害せんもーん!》

 

 

 

「……………………………………………………………………………………………………」

 

「「「「…………………………………………………………………………………」」」」

 

『……………………………………………………………………………………………………』

 

《……あっアレ?》

 

 

「Tout manquer l'épée!Je pense que ma mère-pays a été insultée‼︎Veuillez joindre!」

(総員抜剣!何か我が祖国をバカにした声が聞こえた気がするぞ!!)

 

ドクターは普通にフランス語なんて喋れない。

当然フランス兵にもロマンが言った言葉を一言一句理解できた者はいない……が、馬鹿にされた気がした。

突然現れたこの集団に対する警戒度はマックスとなり、当然剣を抜いた。

 

「……ドクター、後で話があります」

 

《アッハイ》

 

「……それよりどうすんだマスター、あの軟弱男のせいでこうなっちまったわけだが」

 

「流石に現地人を傷つけるのはマズイけど……抑えるためにも一旦戦うしかないかな」

 

「それが一番早いだろう、もっとも私たちにしてみればいささか手間だが」

 

「っ来ます、マスター!」

 

そう言いつつも、黒い聖剣を構え相手にする気の黒い騎士王。

その横に同じく、得物である紅い槍を構え集団を相手取ろうとする青い槍兵。

どちらも一級のサーヴァントであり、集団戦にも慣れている、1分もあればフランス兵らしきこの集団を完全に沈黙させられるだろう。

 

それでも、向こうはこちらの戦力を正当に認識できていない。

故に2人が構えた時点で向こうも完全な戦闘態勢に入り、彼らに迫ろうとしている。

それを悟ったマシュが盾を構えマスターを守りに入る。

 

「お前ら、構えを一旦解け」

 

「何?」

「あん?」

 

「坊主、30秒くれ」

 

「えっ、ッスネークさん!?」

 

一言二言、完全にヤル気になっていた2人と自分のマスターに声をかけ、マシュが驚くも気にせず、スネークは1人前に立った。

当然警戒していたフランス兵はそちらに最大限の注意を向け、剣を構えつつジリジリと近づいて行く。

 

 

だが、

 

 

「Je suis désolé.Nous sommes des voyageurs, il n'y a aucune intention d'accueillir.

Excusez-moi si vous me faites un malentendu, car diverses choses étranges se produisent.

Vous ne connaissez pas non plus?」

 

「………え?」

 

「C,C'est notre ligne!En premier lieu, d'où viens-tu⁉︎」

 

「... Malheureusement j'ai abandonné le pays,Maintenant, je suis membre d'une petite brigade.」

 

「……おいセイバー、あいつが何言ってるかわかるか?」

 

「……お前も召喚されたなら多少はわかるだろう」

 

「まあなっ、だが訛りが無さすぎじゃねえか?俺には早過ぎて聞きとりにくい」

 

「生憎私もだ、旅人だと言ってるみたいだがな」

 

「...... OK, nous ne sommes pas très occupés maintenant, mais je ne veux pas me battre.」

 

「J'apprécie votre compréhension, heureusement, nous sommes des brigades.

Nous pouvons également fournir des fournitures.」

 

「...... OK, guide-moi vers notre fort, alors parlons en détail.」

 

「Merci」

 

最後に誰もがわかるフランス語をスネークが言うと、周りを囲んでいた騎士らしき者たちは多少警戒しながらもその剣を下ろし、砦に向かって歩き始めていった。

サーヴァントや管制室で状況を把握しているロマン、カルデアに来ることが出来る程度には英語が話せる立香

そして勉強熱心なマシュ、その場に遭遇した全員にそれなりの言語能力がある。

 

だが唐突な流暢なフランス語に対して滑らかに対応できた者はいなかった。

それだけ雰囲気が一触即発で、戦闘体勢だったと言うのもあるが、わかりやすい……英語と似た発音の……単語以外わからなかっただけでもある。それだけスネークのフランス語は現地に馴染んでいた。

 

「おい坊主、とりあえず交渉で戦闘は回避した。

俺たちは旅人で旅団ということにしておいた、何だか変な事が起きてるとカマをかけたが思ったよりアッサリ俺の話を受け入れた、どうや……随分と静かだが、俺を見てどうした?」

 

「いっいえ、何というか……素晴らしいフランス語だったなと」

 

《う、うん。僕がやらかした事だから何とも言えないけど……それにカルデアの自動翻訳を起動する前に話が終わっちゃったから全部は把握して無いけど、それでも随分と流暢なフランス語だった。

あの状況で話しかけるスネークもだけど、よくフランス語が話せたね》

 

「現地語調達は諜報の基本だ、生前……と言ってもつい最近の話だが、大体の言語は話せる。

もちろん日本語もな」

 

「……傭兵というイメージは筋肉だらけのガタイのいい方達ばかりだと思ってましたが……」

 

「まぁならず者のイメージが強いのは否定しないが、実際に脳筋のやつはあまり生き残れない。

強いやつは大体自分で考え状況把握ができる奴だ、バカは早く消えるだけだからな」

 

「その通りだ、考え無しはすぐにやられてしまうぞ、マシュ、マスター」

 

「あっ、エミヤさん」

 

「「………………………………」」

 

「……マスター、そしてスネーク、どうして私から顔を背ける?」

 

「まっ気にすんなアーチャー」

 

何故か、本当に何故か珍しく、同情的に声をかけ肩を叩いてきたクー・フーリンに妙な感じがしたものの、たいした事では無いと判断し、エミヤが簡単な報告を続ける。

 

「とりあえず周辺には他に拠点は無さそうだ、もちろん敵らしいものも居ない。

……まさか本当に話し合いで解決させるとは思わなかったが」

 

「わざわざ戦う理由も無いだろ、それに連中も戦う意思はあまり無いらしいしな」

 

「? それはどういう事でしょう?」

 

「あの者らの纏う雰囲気でわからないかマスター、あれは敗走した兵たちが纏う物だ」

 

「えっ?」

 

「どちらかと言えば疲弊している兵士たち、だがな。

どちらにしろ坊主にはわからないだろうが……連中、未だに“戦ってる”」

 

「それは……まだ百年戦争が続いてるって事?」

 

《それは無いよ、1421年なら既に休戦協定がイギリスとは結ばれている。

多少の小競り合いならまだしも、兵士たちが疲弊するほどの戦闘が起こるとは思えない》

 

「前方にある砦は随分とボロボロだったがね。あれでは最低限寝るだけの場所としか言えない」

 

それはつまり、砦としては全く機能してないという事だ。

それだけの被害を今もなお受けているらしい。

 

「……とりあえず事情を聞こう。

今何が起こってるのか、それだけでもわかれば聖杯が関わってるある程度の目処も立つだろうし」

 

「先輩の意見に賛成です、とりあえず今はフランス軍の兵士さん達について行きましょう」

 

素人であれ戦士であれ英雄であれ、全くの情報も無しに暴れまわろうとするほど愚かでは無い。

まずはスネークが作ってくれた足がかりを頼りに、一行はフランス兵に着いて行き、砦へと向かった。

 

 

 

 

 




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邪竜百年戦争 オルレアン:1-2

本日ラストです。
次回の投稿は……来週のどこかになるかと思われます。
首を長ーくして、他の作品でも見ながらお待ち下さいm(_ _)m


 

「……詰まる所、王は殺されオルレアンでは虐殺、しかもそれらは数日前に処刑されたジャンヌ・ダルクが蘇ってやったと?」

 

「ああ、俺はオルレアン包囲戦に式典にも参加してあの聖女さまの顔も見た。

………だから間違いない、見た目がとても違っているがあれは聖女さまに違いない」

 

道中、骸骨との戦闘も交えながらも、クー・フーリンと

砦へと着いたカルデア一行は、スネークが何処からか出してきたレーションをエサ……もとい交換材料と交流の足がかりとして使い、落ち着いてフランス兵から話を聞くことが出来た。

 

その結果、ジャンヌ・ダルクが処刑された後蘇り、フランス王シャルル7世を殺害しオルレアンを占拠、さらに虐殺も各地で行なっているらしい。

コレはフランスという国家の崩壊であり、自由と権利を主張し始める国家が消えることを意味する。

つまり過去改変には十分すぎるターニングポイントであるという事だ。

 

※察してるかもしれないけど、カルデアの自動翻訳を適用してみんな誰でも理解できる言語にしてるよっ!

byロマン

 

「あんたらもさっさと逃げたほうがいい、この国はもうそんなに持たないぞ」

 

「そうだな……だが少しばかり用がある、それが終わり次第さっさとずらかるとしよう。

それに食料に余裕はあるからな、俺たちの心配より自分たちの身を心配しとけ」

 

「…………それもそうだ」

 

「……他の連中は違うが、俺は国を捨てた。

産まれた国はあるが故郷はない、だがお前やお前らには守りたいと思える場所があるんだろ?」

 

「……ああ」

 

「ならその心と場所を大事にしろ、生きていれば大抵どうにかなる。

壊された街も時間をかければ復興する、そのためには生きている人間の力が必要だ、そのために……何が大事かは言わなくてもわかるだろ」

 

「……命あっての人生だ、何があろうが生き残ってやるさ」

 

「その意気だ、生きるという意志さえ無くさなければ生き残れるもんだ、生きる意志を無くした奴が生き残れる訳がないからな」

 

「…………悪いな、あんたらは旅人なのにこっちが元気付けられちまった」

 

「気にするな、俺として情報が得られただけで釣りが来る、別段大したこともしていないしな」

 

「いや、あんたに元気付けられたのは確かだ、その……ありがとな」

 

「ふっ……ならもう少し休ませてくれ」

 

「ああ、一向に構わない、何かあればすぐに伝える」

 

そう言って互いに握手をし、スネークは一室から出る。

砦の廊下は負傷兵に溢れ、脚を引きずりながら歩き、所々に包帯で巻かれた体が道に置かれていた。

その光景自体を見慣れているスネークは歩みを止めず、そのまま仲間達が集まってるであろう砦の入り口へと着いた。

 

そこには周辺警戒の任を直接マスターから与えられたエミヤとアルトリア・オルタが居た。

 

「どうだ」

 

「……わざわざ聞くか騎士王、これで聞いていたんだろ?」

 

そう言って指で耳の部分を押さえるスネーク。

立香が事前にダ・ヴィンチちゃんから貰っていた魔術と科学を応用した通信機だ。

時を超え、時空を超え、声を届けることが可能なダ・ヴィンチ工房印の代物だ。

……尚、この存在を知った時、マスターに事前に渡しておけとスネークは文句を言っていた。

 

今もエミヤは周辺警戒に徹しながら無線に耳を傾けている。

 

「しかしお前の考えまではわからん」

 

「それもそうだ、ならマスター達が戻ってきたらだな……それにしてもまだ食料を配ってるのか?」

 

「いや、マスターとマシュ嬢が負傷兵たちを見かねてな。

ルーン魔術を使えるクー・フーリンを連れて重症兵だけを治しに行った」

 

「……まぁ問題は無いか、流石に医薬品を置いていく訳にはいかん。

だからと言ってあの坊主とマシュに見捨てろという訳にもいかんしな、まあやり過ぎなければ良いだろう」

 

「甘すぎるマスターだ、あのアイルランドの御子もわかって付き合ってるから問題無いだろうがな」

 

「そのマスターの判断自体認めたのはお前もじゃないのか?」

 

「……私には直接関係のない事までわざわざいう必要があるか?」

 

「それもそうだが……どうやら帰ってきたみたいだな」

 

すると砦から見慣れた3人が戻ってきた。

その足取りや身なりがしっかりしていることから、大した問題は発生しなかったらしい。

……もっとも、アイルランドの大英雄が付き添っている相手に大立ち回りを演じろというのが難しいが。

 

《どうやらみんな揃ったようだね、なら一旦情報の整理だ。

まず、今回の特異点の原因はジャンヌ・ダルクによるもの、それで間違いないみたいだね》

 

「うん、聞いてて気になったのは見た目が変わっていたって兵士の人が言ってたことだけど……」

 

「だな、治療した兵士も言ってたぜ『ジャンヌ・ダルクが悪魔と契約した』ってな」

 

「生前は聖女として生き、死に際に魔女だと言われ、死後に悪魔と取引し聖女ではなくなった……とは思えん。

魔術というのをあまり知らんが、その世界でも蘇生魔術ってのは禁忌とかなのか?」

 

《まぁ色々と小説化はされてるからある程度スネークも検討がついてると思うけど、古来から死者の蘇生は試みられてきた。

試みられてきた。

けど、そのどれもが完全な成功には至っていない。わかりやすいのがフランケンシュタインとかかな》

 

「ならこの時代のジャンヌ・ダルクが蘇った可能性は低い訳か」

 

「付け加えるなら、そのジャンヌ・ダルクさんは強すぎる人の様なものや、ワイバーンを使役してるようです」

 

「マシュからワイバーンを召喚する魔術があるって聞いたときはびっくりしたけどね……。

けど、この時代の魔術でもそれって難しいことなんだよね?」

 

「ああ、マスターの時代に比べりゃここはまだ魔術のレベルは高えけどな。

それでも竜種を召喚できるレベルの魔術は無理だろ、それに関しては軟弱男の方が専門じゃねえの?」

 

《僕の名前は軟弱男で決定なんだね……それはそうと、ドラゴンやワイバーンの使役はその時代でも無理だろうね、古代でもドラゴンの使役はそれなりに高位の魔術だったみたいだし。

けどそれも、ジャンヌ・ダルクの復活も含めて聖杯があれば可能だろう》

 

「ロマン、それはジャンヌ・ダルクが蘇ったのではなく、サーヴァントとして現界しているという意味か?」

 

《あっ……ウ〜ン、まだ現段階じゃ断定は出来ないかな。

ただ、スネークや藤丸君が聞いた髪や肌の色が変わってると言うのが……》

 

今のところ、この特異点を作った原因は間違いなく蘇った(?)らしいジャンヌ・ダルクだろう。

そして、本来虐殺など絶対にしない、聖女とまで呼ばれた彼女が虐殺を行ったのが事実であれば、それは……

 

「……どうした、私を見て」

 

「お前みたくオルタ化してる可能性が高い、と言いたい」

 

「……なるほど、まあ確かに私の“本物”と呼ばれる方は、性格も良く、崇高で完璧な——」

 

「「いや、それは無い」」

 

「…………続けてくれ」

 

「……私でも、このように圧政を敷く暴君という側面がある、もっとも“if”に過ぎないがな。

それでもこの私になる可能性が“本来の私”にもあった訳だ」

 

《言うなればジャンヌ・ダルク・オルタ、か。

確かにそれならありえるね、これがレフの仕業なら随分と性格が悪いな》

 

「……とりあえず、これからの指針はオルレアンを目指す、で良いのかな?」

 

「そうですね、そのためにも今はまず霊脈の確保かと思います」

 

《じゃあ決まりだ、君たちの南西b——待て!急速に接近してくる反応があるぞ!しかも多い!?》

 

《噂をすればだな、こちらでも視認した、東から大量のワイバーンだ。

どうやらここの兵士が疲弊しているのはあれを相手取っているからの様だ》

 

「敵襲!敵襲!!」

 

ロマンが叫んだ直後、馬に乗った伝令が声を張り上げる……がその声に反応できるほどの余裕はフランス兵には無く、既に士気が擦り切れている。

それでも傷だらけの武器と体を引きずり戦闘態勢に入って行く。

 

「エミヤ、数はわかるか」

 

《……おおよそ50だ》

 

「だそうだが坊主、撤退か、それとも——」

 

「ここで迎撃!連戦で悪いけどクー・フーリンさんとオルタさん!!」

 

「全くもって入れ食いだなっ!俺の望み通りで最高だがなっ!!」

 

「これでも貴様の剣と誓った身だ、それにこの程度、食前酒にもならん」

 

「エミヤさんは戻ってきて周りの兵士さん達も含めてカバーして下さい!

代わりにスネークさんは周辺警戒をお願いします、マシュは俺の護衛お願い!」

 

「叩き込んだ甲斐があったなロマン、上出来だ!」

 

《ああ!所長なんかよりよっぽど頼り甲斐がある!!《!?》》

 

「了解しましたマスター!」

 

無線から何か聞こえた気がしなくも無いが、今は目の前のワイバーンの群れである。

既に誰でも目に見えるくらいにまで接近しており、フランス兵達も隊列を組み応戦する構えだ。

一方で、今まで散々な目にあっているらしいクー・フーリンは、自由に戦闘できることから、言葉通り先鋒で一番槍を担うため、颯爽とその群れに突っ込んで行きその後をアルトリア・オルタが追う。

 

そんな中、エミヤがいる砦の高所にスネークはいた。

 

「数が少なければ俺でもこいつでどうにかできるが……こういう時にアサルトライフルが無い」

 

「確かに、そのボルトアクション式のライフルでは効率的とは言えないな。

もっとも、遠距離での扱いまで取られると私の役目がなくなってしまうのだがね」

 

事前にダ・ヴィンチちゃんやロマン、ほかカルデアのスタッフに各英霊達に魔術に戦術・戦略に関して詰めに詰め込まれた立香は、持ち前の妙な度胸と器用さが相まって、中々の指示を出せている。

エミヤを合流させスネークを見張りに回したのも、スネークの武器が空を飛ぶ集団には向いていないと判断したからだった。

 

「そうか?お前は十分接近戦でもいけるだろう」

 

「流石にランサーとセイバー程ではないさ……だが、アーチャーとしての仕事はしよう」

 

「そうしてやれ、あの坊主とマシュの弱点は優しさだが弱くはない。

そこら辺はむしろあの騎士王の方がわかってるだろうしな、それにまだ脆い」

 

「わざわざあんたに言われるまでも無い、精々その目で私の活躍でも視界の端にでも収めてくれ」

 

「わかった、何かあれば知らせる」

 

了解だ、と言わんばかりに右手を軽く挙げ答えると、エミヤはそのまま飛び降りた。

既に先鋒2人が突き刺し、切り込み、多くのワイバーンを相手にしている。

おかげで大多数がその2人によって仕留められているが、取りこぼしも少なからずある。

 

だがそれも、一匹であれば陣形が整っているフランス兵でも相手取ることができ、集団で襲ってきてもエミヤが集団で襲うことを許さず、時にはマシュがシールドバッシュで弾き飛ばしている。

 

「この分なら……問題ないだろう、現地の兵士も士気は落ちているが技量は本物だな」

 

本来15世紀に存在するはずのない、ドラゴンの亜種であるワイバーン。

多少小さいとは言え、それを相手取るのに飛び道具無しで戦う難しさをスネークはよく知っている。

……サーヴァントならかくや、その相手をこの時代の人間である兵士が出来ている事に素直に驚いていた。

 

《火を吐かないだけこいつらはまだマシだな》

 

《そんなのお前のところの赤い竜くらいだろうよっ!》

 

無線をオンにして話す先鋒のやり取りを聞き、炎を吐く竜など数えればそれなりにいるだろうと思いつつも、周辺を見渡す。

 

「…………ロマン、いま暇か」

 

《何だい?まぁ藤丸君が思った以上にしっかりしてて、他のサーヴァント達が戦ってるから僕は安心して観ていられるけど……あっアレかな?話し相手かい?》

 

「違う、俺の周辺……正確には俺の左後方に何か居ないか?視線を感じる」

 

《視線を?ちょっと待ってくれ……………うん、確かに反応がある、それも2体だね、ただ……》

 

「どうした?」

 

《ぁあ、一体は反応からして小動物、っぽいんだけど反応がはっきりとしてるんだ。

けどもう一体は恐らくサーヴァントなんだけど……こう、反応が小さいと言うかハッキリしないんだ。

小さい方はハッキリと分かるからなおさら変なんだよね》

 

「霊核が壊されてるのか?」

 

《ごめん、そこまではわからない、それに敵かどうかも——》

 

「いや、殺気をまるで感じない。

……むしろ、出て来るタイミングを逃してどうしようか悩んでいる猫の様な健気さを俺は感じる」

 

《・・・視線でそこまでわかるものなの?》

 

「まあ健気さは俺の直感だがな、だが今もこうして隙を与えてはいるが仕掛けてこないあたり、少なくとも話は分かりそうな相手ではある」

 

《……一応言っておくけど、1人で相手をするのはどうかと思うよ?》

 

「問題ないだろう、とは言うがまだ情報が出揃ってないからな。

とりあえず向こうが落ち着き、エミヤが暇になったら俺1人で向かう、無論背後に控えてもらうがな」

 

《それなら問題無いね、幸い既にワイバーンの数は10を満たない。

こちらで周辺のモニタリングはしておくから、もうエミヤくんと一緒に行っていいと思うよ》

 

「……みたいだな、なら俺が声をかける、すまんが周りの監視は頼んだぞ」

 

《任せてくれ、それくらいしか僕には出来ないしね》

 

「そんなことは無いだろう、あの坊主が上手くやれてるのはお前さんの手心もあるだろうに」

 

《それは・・・まぁ、もっとも僕もあそこまですぐに上手くやれるマスターになるとは思わなかったけど》

 

「それだけお前も坊主も良く出来てる証拠だ、くれぐれも敵を見逃すことの無いように頼む」

 

《藤丸くんを褒めつつ僕には遠回しにプレッシャーを……!?》

 

こちらから言わせれば、モニタリング位ちゃんとやれと言う話だ。

……もっとも、ステルス戦闘機みたく誤魔化のきく自分やアサシンが相手ならあまりあてには出来ないが、監視の目が無いより断然マシである。

 

手慣れた無線機をいじり、無線の周波数をエミヤ個人の周波数に変える。

 

「エミヤ、俺の方で未確認の反応が2つ出た、すまんがバックアップを頼めるか?」

 

《了解した。なに、そこからならマスターもあんたの援護も出来るさ、すぐに移動する》

 

「……なら側面に回るとするか」

 

未だ自分の方を確認している2体に不審がられ無い様、一旦砦の奥に引っ込んだ様に見せかけ相手の死角に入り、そのまま相手が潜む南西部の森へスネークは潜んで行った。

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

「・・・戦闘終了です、マスター」

 

「うん、まぁクー・フーリンさんとオルタさんがやってくれただけで俺は何もして無いけどね」

 

「あ?んな事ねえぞマスター、お前はちゃんと俺とこいつに“戦え”って命令したじゃねえか?」

 

「えっ?けどそれは当たり前じゃ……」

 

「んな訳あるか。

確かにマスターがサーヴァントを戦わせるのは当たり前だけどよぉ……大抵は自由にやらせてくれねぇ。

思惑やら私情やら何やらが無駄に絡まって、全力出すなとか殺すなだとか気分の乗らねえ命令ばっか出しやがる」

 

「それはお前の運の無さだと思うがな」

 

「うっせぇな、テメェも“戦うな”って言われてたんじゃねえの?」

 

「…………さて、何の事だか」

 

「あ〜忘れてたフリですか、まっ俺には関係ねえから構わねえけどよっ」

 

「・・・アレッ?エミヤさんは?」

 

《すまないなマスター、私は一旦後方に下がらせてもらった》

 

「あん?それはスネークの役目だろ、何でお前がそこに居んだ?」

 

《そのスネークが僕たちを観ていた存在に気付いてね、少し前からエミヤくんに一応の支援を頼んでその存在とのコンタクトを試みているよ》

 

《そう言う訳だ、言っておくがスネークの方は無線でも応答しない、ついでに私からも目視出来ない》

 

「はぁ!?それでお前がどうやって支援するんだ!?」

 

《……私も文句の1つくらい言いたいが、ハッキリ言ってスネークの方が上手だ。

彼のスキルなのかもしれないが……弱いがサーヴァントらしい気配はこの場所からもわかるが、スネークの気配は探ってもまるで掴めん、カルデアの方の反応からもロストしたそうだ》

 

「……あいつ、本当はアサシンなんじゃねぇか……?」

 

《うん、僕もそう思うよ。

気配遮断スキルならこちらの魔力反応からも消えるのはわかるんだけど……何で動体検知も出来ないかなぁ…》

 

「……とりあえず、その俺たちを見ていたっていう人たちの場所はわかるんだよね?」

 

《ああ、それは僕の方でも確認できている、その砦から南西方向にある森の方だ、ちょうど霊脈もそこにある》

 

「ではマスター、スネークさんがその不明存在とコンタクトした後、合流しますか?」

 

「そうだね、流石にスネークさんも敵じゃ無いってわかれば連絡してくるだろうし……けどその前に……」

 

「?何かすることでもありましたか?」

 

「何言ってるのマシュ、フランス兵の人達に挨拶くらいした方がいいでしょ?」

 

「あっそうですね、一言だけ声をかけておきましょう」

 

そう言って、先輩とともに砦に向かい別れの挨拶をしに行った2人。

 

((((礼儀正しいなぁ…………))))

 

そんな一般人らしいマスターに対しては時代と性別を超え、その場に居合わせた者たちの心は通じ合っていた。

 

(……いやぁ〜、あんな良い子にあんな良いマスターに会えたなんて)

(マスター……その道は確かに正しいが、一度間違えば俺の様に……)

(あれがマスターねぇ……まっ、過ぎちまったもんは仕方ねえ。……にしても、ありゃ気付いてんのか?)

(甘過ぎる奴だ…………“彼の者”が託しただけはあるわけだ)

 

 

……それぞれの心情と事情は全く噛み合っていなかったが。

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

「……ふぅ、どうやら無事に終わった様ですね」

 

「……………………………………………………………」

 

「あっいえ……はぁ、しかしこの後はどうしましょう。

確かにほぼ無傷で彼らが戦いを終えたのは幸いです、喜ばしい事でしょう……ですけど出るタイミングを逃してしまいました……まるで出番を取られてしまった気がしなくも無いのですが……。

そもそもこの事態は一体どうなってるのでしょう?それにこの子は一体……?」

 

「……………………………………………………………………………………………………………」

 

「……ここで止まっていても仕方ありませんね、とりあえずここから移動しましょう。

幸い野宿をするには適した場所です、翌日からはオルレアンに関しての情報を——」

 

「その前にまず周辺の状況確認じゃ無いか、お嬢さん?」

 

「ヒャアァァ!?」

「ニャアァァ!?」

 

「……そこまで驚く必要は無いだろう」

 

一方その頃、スネークはまさにその不明存在とコンタクトしていた。

……まぁそのやり方が突然背後に現れると言う心臓に悪い以外の何者でも無い代物だが。

 

「あっえっその、決して怪しい者ではありませんっ!!」

 

「俺やフランス兵のことを見守っていたにも関わらず変な事を言う奴だな」

 

「…………あなた、サーヴァントですか?」

 

瞬間、立ち上がりスネークから距離を取る不明存在1。

具体的には金髪と旗を持つ白い鎧を纏った……少女と言うには色々と育っている美人だ。

だが少なくともやはり召喚された英霊らしい、スネークが自分の事に気付いていたと知った途端戦闘態勢に

入った。

 

もっとも、その間合いは確かに槍の様に扱うであろう旗の間合いではあるが、本職のランサーとして現界したアイルランドの大英雄をも相手取れるスネークにはなんの戦術的優位性も無い。

だがその手の技術は本物ではあるらしい。

 

「ああ、まあな。

少なくとも俺たちは嬢さんに敵対する意思は無い、ついでに先ほどここに来たばかりでな、色々と情報を知りたい……話を聞く限りお前もこの事態の解決に動きたい様だったが、どうだ?」

 

「……失礼しました、これでも私もサーヴァントですので普通の人にはバレませんので」

 

「それは悪いな、隠れんぼに関しては俺の方が上手だ」

 

「隠れんぼですか……なかなか面白い事を言いますね?」

 

「そうか?」

 

実際、この伝説の傭兵以上に“隠れる”事に関して右に出るものはいない。

であれば逆に、隠れている相手を見つける事も大抵の相手なら容易い事だ。

 

「ええ、だって子供っぽくありませんか?」

 

「……こっちは本気なんだがな。

まあファーストコンタクトとしては上出来か、それなら先に名前を名乗るか。

俺の名前はスネークだ、クラスはライダーとしてこの場にいる……まぁほとんどの英雄には知られて無いがな」

 

「えっ、そんな真名を……」

 

「そんな大した事じゃない、むしろ俺が隠れんぼ好きのおじさんだと美人に思われ続ける方が大事だ」

 

「……ふふ、それもそうですね。

それでは私も・・・我が名はジャンヌ・ダルク、クラスはルーラー、貴方にお会い出来て嬉しいです」

 

「……ほぉ、まさかこんな所で聖女様に会えるとはな」

 

これには素直はスネークは驚いた。

何せ年頃であろうお嬢さんがまさか英霊であり、あのジャンヌ・ダルクだとは信じてはいなかった。

……もっとも、勘と見当は付いてはいたのだが。

 

「意外ですか、ならこれも神のご配慮なのかもしれませんね」

 

「……さあな、生憎俺は神様は声は届けても手は貸さん存在だと思ってるからな、居るのかもしれんが」

 

「そうですね、私の口からは我が主は確かに居ると思います、としか言えませんから」

 

「……驚いた、説教でも食らうかと思ったんだがな」

 

「では逆に聞きますけど、1人の田舎娘が突然神の声を聞いた!と言われて貴方は信じますか?

私なら言っている本人を少し心配しますよ」

 

「……そいつは随分な皮肉に聞こえるんだが」

 

「ええ、そうかもしれませんね。ですが一般的にはそう思われる事くらい私も理解してます。

なら神の声以前に存在自体を他人にとやかく言う資格は誰にも無いでしょう?」

 

「……なるほど、かの聖女様から俺はありがたい言葉を得た訳か、サーヴァントになるのも悪く無いな」

 

「ふふふ、貴方は本当に面白いですね」

 

「そいつは光栄な事だ。

……さて、こうして話せる相手だとは十分にわかった訳だ、俺のマスターや仲間と合流するとしよう。

嬢さん……いや、ジャンヌ・ダルク、あんたも一緒に来てくれるとありがたい」

 

「ええもちろんです、それと私の事はジャンヌで構いません・・・それと」

 

「なんだ?」

 

「“この子”も一緒に連れて行って構いませんか?

どうやら一緒に召喚された様なのですが、私には心当たりもなくて……」

 

「この子?どこにいる」

 

「恐らく先ほど驚いてしまったので地面に……あっ出て来ました!」

 

こうしてスネークはまず、不明存在1:フランスの救国の聖女、ジャンヌ・ダルクとのコンタクトに成功した。

 

「・・・おい」

 

「はい、どうかしましたか?」

 

「あれは……本当にお前と同時に召喚されたのか?」

 

「ええ、多分ですけど私がここに召喚された時に隣にいたので……どうかしました」

 

「・・・俺はあいつを知っている」

 

「そうなんですね・・・・・・えっ!?」

 

 

そして2人の目線の先には不明存在2がいた。

 

 

その体と同じくらいのバックパックを背負い

 

しっかりと背筋を伸ばし

 

耳と尻尾を生やし

 

体には毛で特徴的な模様が描かれている

 

首回りは白く、胴には茶色いジャケットを羽織りベルトで胸元を締めている

 

そして黒いゴーグルを掛け

 

白いひげを生やし

 

黄色いヘルメットを被っている

 

 

一体お前はどうやって耳を生やしているんだと言いたくなる存在

 

お前はどうやって素材を集めてきているんだと言いたくなる存在

 

そしてなんだかんだ可愛らしい存在

 

されどその生存能力と探検家としての技術は本物

 

伝説のジィに仕込まれたネコ……いや違う

 

 

 

「トレニャー!トレニャーじゃ無いか!!」

 

 

「…………ンニャ!」

 

 

 

 

トレジャーハンター、トレニャーである。

 

 




何かご意見・ご感想があれば作者の参考にも励みにもなります。
何かありましたら、感想欄にてお知らせ下さいm(_ _)m


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邪竜百年戦争オルレアン:2-1

今回は説明メイン、戦闘などない。
例によって長くなったので二分割で提供……やばい、全然ストックがなくてやばい。

そんなわけで今日明日で説明会を開いたら来週までお待ち下さいm(._.)m


※改行が気持ち悪いと書かれたので調べたところ、
スマホの縦スクロールで見ると確かに変な改行で読みにくいことを発見しました。

現状ではiPadで書いてるため、自分のスマホで現在訂正作業中ですが、
もしスマホで見る際はお手数ですが横にして見るのをおすすめしますm(_ _)m




「……では、ジャンヌさんは噂の“竜の魔女”とは違う側面のジャンヌさんなのですね?」

 

「ええ、私も先ほど現界したばかりで詳細は分かりませんが、ここには私とは別のもう1人のジャンヌ・ダルクがいる様です」

 

カルデア一行は、ジャンヌ・ダルクと接触したスネークからの無線で森の中の霊脈でキャンプを張ることにした。

そして現在、カルデアのマスターである藤丸立香とそのサーヴァントであるマシュ・キリエライトの2人が

ジャンヌと情報を交換した。

 

「そして俺たちはこの歪んだ歴史を修正しに来たんだ」

 

「……なるほど、ではあなた方は聖杯戦争とは無関係なのですね」

 

「一応は、もっとも歴史の歪みの原因であろう聖杯の回収が目的なのでそう言う意味では全くの無関係では無いのですが……」

 

「お気になさらないで下さい、私はルーラー、聖杯に願いはありません。

それに聖杯戦争そのものを否定しませんが、今回の聖杯戦争は正常では無い様です、それに世界そのものが焼却されているとなれば余程のこと。

であれば、その事態に対応してるあなた方にも聖杯を得る権利も有るのでしょう」

 

「ご理解感謝します、マドモアゼル・ジャンヌ」

 

その結果わかったのが、まずジャンヌ・ダルクが2人召喚されているらしいと言うこと。

次にこちらのジャンヌ・ダルクは歴史通り、今のフランスを救いたいと言うこと、主にこの2つだ。

一見少ない様に見えるが、現地の協力者がいると居ないとでは勝手と苦労が違う。

それが今回の特異点の当事者との関係者でもあればなおさらである。

 

カルデアとジャンヌ・ダルクの最終的な目的は違うが、フランスを救う点では共通点がある。

故にカルデアは聖女:ジャンヌ・ダルクに協力を要請、彼女もこれを快く許諾し、立香との仮契約も結んだ。

こうして初日は、ワイバーンという予想外の敵は出現したものの、順当に特異点解決の足がかりを掴むことができた。

 

いま現在は、夜になったこともあり、適当な場所を見繕い無事にキャンプを張っている。

 

 

 

《………ところで、みんなが突っ込もうとしないから僕が言うけどさ……あの“ネコ”は何なの?》

 

 

 

いや、1つ問題があった。

 

 

 

「それが私にもわからなくて……」

 

いや、一匹いた。

 

「ドクター、ネコは直立二足歩行をするものですか?私が本で見た限りではフォウさんと同じ様に四足歩行だったと記憶してますが……」

 

「いや……まあ二足歩行はしないよね普通」

 

「私も……こんな動物は見たことがないな」

 

「そこの弓兵に同じだ、俺も見たことがねえ……ってどうした騎士王様よ?」

 

「…………………………」

 

全員がキャンプファイヤーを囲む中、視線の先にはその円の中に平然と紛れているヘルメットとピッケルにスコップを装備しているネコらしき動物がチョコンと立っている。

・・・若干1名はなぜかジッとそのネコらしき動物を見ているが、その視線の隣にはなぜか蛇がいた。

 

「スネークさんはお知り合いらしいのですが……」

 

《えっ、スネークはその猫の正体を知ってるの?》

 

「何だ知らないのか?トレニャーだ」

 

《・・・ウン、ごめん、僕は知らないや》

 

「と言うかトレニャーって名前でしょ?その……ネコみたいだけど、どう言う存在なの?」

 

「何だ、坊主はアイルーも知らないのか?」

 

「いやっマスターどころか俺らの誰も知らねぇよ!」

 

「そうか、まぁ俺も最初は知らなかったからな、もっともチコの奴は知っていたが。

とりあえずトレニャー、自己紹介してやれ」

 

「ンニャ!ニャニャ、ンゴ〜ウーニャ、ニャーニャ、ニャニャニャッニャ!」

 

「だそうだ」

 

 

 

《『イヤッわかんねぇよっ!?(わかりませんよ!?)』》

 

 

 

「フォォォォォウゥゥ!!!」

 

 

 

フォウさんは激怒した、かの謎生物からセリフを奪わねばならぬと決意した。

 

そもそもネコの気持ちなどフォウさんにはわからぬ。フォウさんはカルデアの謎生物である。

 

マシュの肩に、胸に乗り、時折どこから現れる魔術師(笑)から逃げて暮らして来た。

 

けれでも、自分の立場と出番には1匹分くらい敏感だった。

 

このままでは自分の立ち位置とかキャラとか出番が奪われると直感した。

 

「……そこの小動物が、ものすごい剣幕で俺に文句を言って来てるんだが」

 

「フォウさん!?大丈夫ですよ!フォウさんには私がいます!!」

 

「フォォォォウ!フォオオォォォォォォ!!」

 

「……無駄に賑やかだな」

 

「・・・そうだ、クー・フーリン、私たち、2人は、見回りに、出た、方が、良いと、思うのダガ」

 

「・・・ソウダナ、すまんマスター、俺ら、2人は、少し周りを、見渡してくる」

 

「あっうん、じゃあお願い」

 

「「任せろ」」

 

そして若干2名はその場から早々に離脱した。

……2名とも直感スキルなど持ち合わせていないはずだが、この場にいてはダメだと何かが言っている気がした

 

残りの暴食王はジッとトレニャーを見つめている。

 

「お二人が言葉通り、目にも見えない速さで周辺を見回りに行きました……」

 

《うん、2人ともこの場から逃げたかったんじゃないかなぁ……》

 

「何か言ったか?」

 

《いや何も!・・・それで、本当にその……何だっけ?トレニャーについて教えてくれ》

 

「そうは言ってもな……俺も説明したことがないからな、少し待ってくれ」

 

そう言ってトレニャーの顔を見るスネーク。

それに釣られて、トレニャーも見上げる様にスネークの顔を見る。

 

「……そう言えばスネークさんはトレニャーさんの言葉を理解している様ですが、スネークさんもトレニャーさんの言葉を話せるんですか?」

 

「ん?ああまぁな、現地語調達は諜報の基本だからな」

 

《現地語がネコ語ってどう言うことなの……?》

 

「えっとじゃあ、試しに喋って頂けませんか!」

 

「ああ、構わんぞ……ウニャ、ウニャンニャウニャ、ウニャー」

 

「ニャニャ、ニャニャニャッニャニ!ニャーニャーニャーニャ、ニャニャ」

 

『……………………………………………………………………………………』

 

「ニャニャ、ウニャーニャニャニャ」

 

「ニャニャ」

 

「ニューウニャ、……ふむ、ならそう説明しよう……どうしたお前たち、俺を見て」

 

「いえっそのっ…………何というかっ……!」

 

「はいっ……ジャンヌさんが……おっしゃりたい事は私もっ……わかりますっ……!」

 

想像してみよう。

良い歳した40代の髭面のおじさんが真面目な顔で可愛らしいネコっぽい動物にウニャウニャ言っている場面を

……はっきり言ってシュールすぎる絵である、人によっては変人だと断じるだろう。

 

 

だがお年頃な女性陣2人にとってはこの絵面は笑いのツボだったらしい

 

 

「スネークさんってやっぱりすごいんだね」

 

「そうか?」

 

「うん、だって何を言ってるか全然わかんないし!」

 

「…………そうか」

 

《……僕からは何も言わないよ》

 

「ニャー」

 

「……………………フォウさん」

 

「フォウ?」

 

「……頑張れば私もフォウさんの言葉を……」

 

「ファァ!?」

 

想像してみよう。

良いお年頃の美少女が微笑み ハニカミながら可愛らしい生物であるフォウさんにフォウフォウ言ってる場面を

……はっきり言ってイロイロ来るものがある絵である、人によっては紳士な対応に追われるだろう

 

個人的にはナニかしらコスプレをした状態でやって頂けると更に良いと思うのだが、どうだろうか?

 

「色々脱線しそうだが話を戻すぞ、このトレニャー、アイルーについてだったな?」

 

《う、うん。僕たちの誰もが知らないからね、唯一知っている君から説明してもらわなきゃね。

そのトレニャーの言葉も当然理解できない訳で》

 

「それもそうだな……でだ、まず最初に俺も今さっき知った事なんだが」

 

「?何でしょう?」

 

「前にあったときは違かったんだが……おい、トレニャー」

 

 

 

「ニャー!オイラのニャはトレニャー、見ての通りトレジャーハンターニャ!

トレニャーはトレニャーニャ!ネコでもアイルーでもないニャ!」

 

 

 

「……という訳で、こいつは普通に人の言葉を話せるぞ、安心してくれ」

 

『………………………………………』

 

 

スネークの言葉で場が静まり帰った、パチパチと火の音だけが辺りに響く。

 

だが彼女たちの中では何かがバチバチ言っているらしい、ゆっくりと女性陣3人が立ち上がった。

 

「うん?どうしたお前たち?

・・・待てマシュ、なぜ盾を構える?そっちの聖女様はなぜ旗を構えている?

ついでにそこの騎士王はどうしてトレニャーを獲物を見る目で見ている?」

 

《あーこうなることをあの2人は察したんだね、多分色んな経験から》

 

そしてスネークとトレニャーの周りを囲んだ

 

「ニャニャ!?なぜにニャーたちは囲まれてるのニャ!」

 

「それは——」

「だって——」

「お前の——」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「最初から喋ってくれれば良かったじゃないですかっ!!」」

 

 

 

 

「その毛並みをモフモフさせろおおおおおォォォォォォ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜにニャーだけが言われるのニャアー!!?」

 

「何故ってお前……喋らなかったからだろう……あの騎士王の方は知らんが」

 

「フォッフォッフォッ(ザマァ)」

 

「オイラの悪口が聞こえるニャァ!!」

 

「知らん」

 

 

 

こうして突如、1対3のバトルロワイヤル(?)が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

付け加えると、スネークは視線がトレニャーに集中しているのを良いことに早々に離脱した

 

とても良くできたマスターはそれを許し、普通に座って食事をしていた

 

ついでにロマンからは人としてどうなの何とか言われたが、そも相手はアイルーなので多分問題ない

 

というかスネーク自身が気にしていない

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 

 

こうして数十分の格闘の末、3対1の数の暴力によってタコ殴り……は流石にしていないが、それなりの仕返しとOHANASHIをトレニャーに対して行った3人は意気揚々に食事にありついていた

 

 

訳がなかった

 

 

「ハァ〜〜疲れたのニャハァ〜ン」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……トレニャーさん………速すぎませんか…………?」

 

「地中に……潜る……とか、セコく…………ありません………?」

 

「うむ、この毛並みは素晴らしい、やはり私の目に狂いは無かったな」

 

「ニャハァ〜」

 

「そう言えないお前、トレジャーハンターなのにいつも小綺麗だな」

 

「ニャハハ〜」

 

「……しばらく自由に弄ってやれ」

 

「無論そのつもりだ」

 

《うん、それは良いんだけど……そのネコ本当に何?》

 

「ネコじゃないニャ!トレニャ〜にゃぁ〜(⌒▽⌒)」

 

「……そこら辺は俺が代わりに説明する」

 

そう言って、黒い甲冑を着込んだ騎士に もふもふ されているナゾ生物の解説を始めた。

 

「まず最初に言うが、こいつは死なん」

 

『・・・・・・えっ?』

 

「ああ、別に不死身ではないぞ?

だが銃を撃とうが大剣で切られようが貫通矢を食らおうが死なん、一旦地中に退避して回復して戻ってくる」

 

《いや待て待て待て、そんな超生物がいるわけ無いだろう!?》

 

「何なら今見せてやろうか?」

 

《もっと嫌だよ!?》

 

「……まぁ俺もここであまり発砲はしたくない、それに死なんだけで痛くない訳じゃ無いしな。

次にこいつはちょっと特殊でな、トレニャーはさっきも言ったがトレジャーハンターだ、それも別の世界からはるばるやって来てな、俺も一度水先案内を頼んだ、そして宝を見つけるのが得意だ」

 

《ああもう滅茶苦茶だ……って言うかスネーク自身もその別の世界に行ったのかい!?》

 

「いや、俺は怪物の島に案内されただけだ、そこで色々と戦って素材を調達したがな。

そこはある意味で宝の島だったな、聞く話じゃアンとメアリーの2人も上陸したらしい」

 

《お宝探しっておとぎ話じゃあるまいし………それで宝って一体どんな?》

 

「確か……轟竜の重牙や核竜の粘液、あとお前がとってくるのは大竜玉とか言っていたか?」

 

「そうニャ……というかオイラ、ポッケ村から出発したはずニャのにいつの間にかここに居たのニャー、隣にはそのお姉さんがいたニャ」

 

「そう……ですね、私も召喚された場所がフランスだとわかっておどろきましたが、それ以上にこのネコさんが居たのでびっくりしました……というか!喋れるなら喋れるって言ってください!!」

 

「……オイラが言うのもあれニャンだけれど、今まで人の言葉を喋れなかったのに、突然喋れるようにニャったら普通ビビると思うのニャ……知らない事だらけなのに何故か知ってる事にニャってるし……」

 

《・・・とりあえず、順番に。

まず、トレニャー自身は聞く限り別の世界から来たみたいだけど、“聖杯”そのものの存在は“もう”知ってる事なんだね?》

 

「そうニャー……まぁオイラ、戻ってもポッケ村じゃ仕事あんまりないから願いなんてそんないにゃ……」

 

《なんてリアル過ぎる話なんだ……!》

 

「お前、まだ仕事ないのか」

 

「……ぜんぶオイラの自業自得なのニャ……モンニャン隊なんて作らなきゃ良かったニャ……」

 

「……とりあえず私が慰めてやる」

 

「ンーニャー」

 

《……どこの世界でも、世知辛いのは変わらないんだね……》

 

「その様ですね……」

 

まずネコもどきが働いてる事に既に驚くことをやめた状況に驚くべきだろうが、そんなツッコミを入れられるのはこの場には居なかった、見回り(本気)の2人も戻ってくる気配がない。

だが、まだ時代を超え無線でやり取りを勝手に聞いて居た天災はトレニャーとスネークの言葉を聞き逃さなかった。

 

《ところで、大竜玉って聞こえたんだけど私の気のせいかな!》

 

《なっレオナルド!?君部屋に篭ってなんかやってたんじゃないの!?》

 

《この天才が珍しいものをみすみす見逃すと思うかい?》

 

「・・・オイラ、この声の主は知らニャいけど、関わりたくニャいニャ!」

 

「流石だな、実際あいつに捕まったら解剖されるぞ、お前」

 

「その時は遠慮なく相手にピッケルを突き刺すニャ」

 

《私はそんなにマッドサイエンティストじゃないよ?》

 

《確かにそんなレベルの研究者じゃないね、それでご用件は?》

 

《そうそう、まずそのネコ》

 

「だからオイラはトレニャーニャァ!!」

 

《まあトレニャーが言って居たことが本当だとして。

まあ君がトレジャーハンターだから貴重な素材は手に入れられるとしてだ。

そこの聖女、ジャンヌ・ダルクが唐突に召喚されたことを踏まえると、私としてはそこのトレニャーがこの時代に召喚された理由の仮説が立てられるんだ》

 

唐突にビシッと画面越しに指をトレニャーに向けるダ・ヴィンチちゃん。

それを見て呆れながらロマンが口を出す。

 

《召喚された理由?それは聖杯によって……あれ?どうして召喚できたんだろ?》

 

「……確かに、聖杯があったとしても召喚者、つまりマスター無しでの召喚は本来不可能なハズ。

それなのにジャンヌさんは召喚されましたし、そもこのトレニャーさんは……英霊では無いですよね……」

 

「……冬木の場合は先にマスターが居たんだったか?」

 

「その通りですスネークさん、その後何らかの原因でああなった様ですが……」

 

「……生憎、お前たちと戦った記憶はしっかりと残っているが、どうしてああなったかの理由は私の知った事では無いぞ」

 

「うん、じゃあ立てられる仮説って何?」

 

《ようやく全員、私の話を本気で聞く気になったね》

 

「そも、お前のいつもの振る舞いが原因だが……まぁ良い、続けてくれ」

 

《それでは私から簡単に説明しよう、もっともあくまで仮説であって断定できる代物じゃ無い。

それを証明する証拠もあまり無いしね》

 

そう言いながらも全員が自分の話を聞く事おかげで機嫌が良さそうに、万能の天才が解説を始めた。

 

《まずは通例通りの召喚だ。

マシュが言った通り、マスターがいて初めて英霊召喚が行える、そこに付け加えて英霊召喚のために必要な膨大な魔力を賄うもの、私達ならカルデア、普通は聖杯がこれに該当する》

 

「さらにそこに聖杯戦争が本来なら加わるんだよね?」

 

《その通りだ藤丸君。

だが今回発生し、君が巻き込まれたこの人類史修復という作業は聖杯戦争とはかけ離れている。

何せ既に“何者か”によって聖杯が用意されそれが既に利用されている、その結果私達が動いてる訳だからね》

 

「人類史の焼却……ですか?」

 

《もっとも本来の聖杯を降ろすための戦いでは無いだけで、別の意味では聖杯戦争とは言えるだろうけどね。

まっ、それは個人の認識によるだろうから話を戻すよ。

さっきの兵士たちが言ってたことから恐らく、というか間違いなく黒ジャンヌは聖杯を使ってサーヴァントを召喚してるんだろう、使役していたとかいう目撃談を含めてね」

 

「なるほどな、そのジャンヌ・オルタはどこぞの魔術師に召喚でもされた訳だ」

 

《もっともレフの言い方からして協力者がいるのも確かだ、レフがやったとは決めつけら無いけどまあ、その線で問題は無いだろう。

むしろ問題なのはまず1つ、どうやってそこにいるジャンヌダルクが召喚されたか、だ》

 

「…………どうして、でしょう?」

 

「召喚された本人ですら理由がわからない訳だが……ジャンヌ・オルタの逆か?」

 

「? 逆とは?」

 

「単純だ、お前を召喚したのがこの異常事態を解決しようとしてる奴……まぁ少なくとも俺たちの敵ではない第三者による召喚の可能性だ……が、ほぼ無いな」

 

「えっ、だってそれだったらほとんど説明が付くと思うんだけど……」

 

「・・・あのなぁ坊主、人理焼却でほぼ人類は完全に消えた状況で、一体誰が動けるんだ?」

 

「・・・確かに」

 

「……まぁどこぞかにいるのかもしれん神様ならどうにかしてくれそうな物だと信じたいが、それなら焼却される前に動いてくれって話だ」

 

「それを言われると耳が痛いですね……」

 

「なに、あんたが気にすることじゃ無い、ただ単にいるかもしれない味方は存在しない、それだけだ」

 

《その通りだ、私もスネークと同じく第三者による実質的な私たちへのフォローによる召喚では無いと考える》

 

「それじゃあ何なの?」

 

《単純さ、聖杯そのものによる召喚さ》

 

その言葉に一瞬フリーズする立香の頭、だがすぐに再起動しおかしいと指摘する。

 

「っけど普通、召喚者が居ないとそもそも召喚できないんじゃ無いの?」

 

《そうだよ、“普通なら”》

 

「……まぁ普通じゃ無いだろうな、この状況は。

何せごく一部の年代以外全てが消失、いや焼却されてるんだからな、それに加えて聖杯戦争と銘打っておいて既に聖杯の担い手は決まってる訳だしな」

 

《ああ、その結果特異点が発生してる訳だ、時代の修復力では敵わないほどの時代の歪み。

だが“敵わない”だけで修復力自体は今も働いている訳だ》

 

「えっと……結局、ダ・ヴィンチちゃんはなにが言いたいの?」

 

「…………時代の修復力に聖杯そのものが関わることはあるのか?」

 

《流石だね、もっとも私の答えとしてはアリ、だ。

ロマンが事前に説明してたと思うけど、ぶっちゃければ人1人が死んだところで特異点は発生しない。

タイムパラドックスとかは起きるだろうけどそれはあくまで関わった当事者の時間軸においてだけだ。

だって地球からすれば、他の人間からすれば未来永劫関わることがほとんど無いだろう?時間も殺された人物が関わらない様に流れていき、やがて殺された人物が生きて居た場合と同じ運命を辿らせる。

もちろん、百年単位の話にはなるだろうけど》

 

「しかし、歴史的に重要な人物であればそうとは限らない、という事ですよね?」

 

《その通りだマシュ君。

それも国家滅亡、文明破壊といった物であれば人類の未来自体も消せるだろう、それこそ15世紀のフランスに大量のワイバーンを召喚したりね》

 

「という事は・・・ごめん、全然ジャンヌさんが召喚された理由に繋がらないや……」

 

「先輩、恐らくですがその時代の修復力とも言える力が聖杯に働きかけてジャンヌ・ダルクを召喚したんだと思います」

 

《もっとも、聖杯自体が召喚したと私は思うけどね、その修復力自体が特異点という状況によってあまり上手く働いて居ない可能性が高いから》

 

「じゃあジャンヌさんが召喚されたのは……ジャンヌさん自身を止めるためってこと?」

 

「…………そうなる、のでしょう」

 

「随分な運命だなこれは、まるで聖杯に意思があるみたいだが」

 

「聖杯自体に意思はあると思います、実際の聖杯戦争でも聖杯自体がマスターを選び令呪を渡しますから」

 

「自分のツケは自分で払え、という訳か」

 

だとしたら、だとしても、当事者としてやりにくい。

何せ自分自身、それも自分の醜い部分と戦う必要がある訳だ、それも自分自身にもまた存在する相手と。

その心中を察することが出来るのは……この場では過去を変えようとした暴君位だろう。

 

「・・・つまり私が来たのは私自身のカウンター、という事ですか」

 

《そうだろうね、でなければ聖杯戦争の調停者であるルーラーなのにこの場に召喚された説明が難しい。

もっとも単独顕現のスキルでもあれば別だけど》

 

「……まさかとは思うが、トレニャーが来たのは何らかのカウンターか?」

 

「ニャ?」

 

《そういう事だと私は思うよ。

もっとも君の話を聞くと、過去には自分からこの世界にやって来たこともあるみたいだから何とも言えないけれどね》

 

「おいおい、ここでモンスターハントをする羽目になるのは勘弁だぞ……」

 

「オイラは素材が取れればいいニャ……けどウラガンキンはだけは勘弁して欲しいニャ……」

 

「安心しろ、現場監督はここには居ない、それに火山がここらには無い、何ならオーヴェルニュにでも行くか?」

 

「あそこは火山ではありませんよ?それにここからだいぶ南ですし……」

 

「勘弁ニャ!」

 

(((なんで地元の人が知ってる火山の名前を知ってるんだろう)))

 

この手の知識(世界中の地理や言語)に関しては意外と博識なスネークである。

もっとも、組織の中に詳しい奴がごまんと居て、酒をかわしながら散々聞いた話でもあるが。

というか、無駄にトレニャーとその筋の人間から聞いたおかげでモンスターの知識まで備わってる。

 

「……それはそれとして、本当にそうなら俺は火力不足だな」

 

「それは………」

 

「本当にモンスターが現れるニャ?」

 

「モンスターってワイバーンみたいな奴のこと?」

 

「何を言ってるニャ!あんなのザコだニャ、数がいると面倒だけど一匹一匹は大したことないニャ」

 

「だな、問題なのは大型が出て来た時だ」

 

《大型ってスネークが言っていたドラゴンのこと?》

 

「ああ、正しくは竜種だがな」

 

「せめてドスランポスニャらまだオイラでもどうにかニャルけど……」

 

「まぁその時はその時だ……もっともランチャーやロケット系が今の俺には無いが黒い聖剣に紅い呪槍、それに加えて宝具使いまでいる、全体としての火力は申し分ない、そうだろ?」

 

「……やはりバレてたか」

 

「まだあんたの方が化け物ぽいがな」

 

「俺は蛇だからな、あながち間違いではないかもしれんが」

 

そう言いながら自分の背後から現れた男2人に当然のように声をかける。

他のサーヴァント達も気付いていた様だが、気付いていなかった立香とマシュは素直に驚いた。

 

「……あーマスターあれだが、嬢ちゃんはやっぱまだまだだな」

 

「仕方あるまい、つい最近まで文学少女だったろうからな、だがマスターの盾としては頂けないな」

 

「うっ、すいません……」

 

「そこまでにしておけ脱兎二匹、マシュマロに対するそれ以上の圧力は、このピッケルの制裁が下ると思え」

 

「ウサギにするな!!」

「つうかこいつと同じとかありえねぇっ!!」

 

「お前らさっきまで見回りしてだだろうが、2人で」

 

「「一体誰が原因だと思ってる(やがる)……?」」

 

「……思うけど、エミヤさんとクー・フーリンさんってそこまで仲悪くないよね」

 

「そうですね、これが男の友情……という奴でしょうか?」

 

「フォーン」

 

「ただ単に反りが合わないだけニャ、というかオイラのピッケル!!」

 

人どころかフォウ君とトレニャーにまで突っ込まれるウサギ二匹。

……片方一名は犬のような気もするが。

 

 

「…………ところで、上空から何か降りて来ているのだが大丈夫かね?」

 

『上空?』

 

突然、弓を取り出し空を指差すエミヤ。

つられて全員が上を見ると……そこには確かに、僅かに漏れる月明かりの中、何かがゆっくり降りて来ているのが見えた。

 

「ドクター、周辺の反応は何かある?」

 

《周辺?……あっ、今反応した!ってこれ上空3000mからだって!?》

 

「……あの、気のせいじゃなければここに向かって来てる気がするんですが」

 

《えっちょっと待って……計算完了!あと90秒でちょうどそこに到達する!》

 

「まさか敵にでもバレちまったか?」

 

「それより、あれの中身が爆弾なら面倒だぞマスター」

 

「そうだよね……仮にそうじゃなくてもこのままこっちに来るのは不気味だし、先に落とした方が——」

 

「待て待て、今確認した、悪いがあれは恐らく俺の宝具だ」

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ!?』

 

 

「……そう言えばまだ確証が得られず言ってなかったな、まぁ説明が面倒だ、直に見てくれ」

 

そう言って何事もない様に座り騎士王の上で再び にゃーにゃー(⌒▽⌒)していたトレニャーに餌付けするスネーク。

その光景自体は微笑ましいものだ、が周りは何とも思いきれない思いをしていた。

 

とりあえずアルトリア(黒)がトレニャーを再びいじって90秒を過ごした

 

 

 

 

〈90秒後〉

 

 

 

生身のいたって普通の人間でもわかるくらいそれは近付いてきた。

それはパラシュートが付いていた段ボールだった、しかも人一人が入れる位の余裕はある。

バサっという音とともに段ボールは投下され、そのまま地面に着くかと思われたパラシュートは空中で燃えて消えた。

 

《なっ魔力反応が無いのに消えただって!?》

 

「そりゃあこいつは科学的なものだからな、魔術も何も関係ない、というか俺の仲間に魔術関係者はいなかったな」

 

「魔術師は身分を隠すのでわからなかったのでは?」

 

「うーん、よく知らないけど知られたく無いならまず傭兵にならないと思うけど……?」

 

「あっ……///」

 

「……しかし、魔術使いの一人くらいは紛れてそうなものだがね」

 

「俺のところの諜報班の諜報能力を知らんから言えることだな……はっきり言って俺自身、俺の部隊は一体どうやってるかの詳細を知らんところの方が多い、あのパラシュートの仕組みも詳しい事は俺も知らない」

 

《科学は行き過ぎると魔法と変わらないって言うけど、本当にそうなのかも……》

 

「そいつはブーメランだな、俺から言わせてもらえれば英霊だとかレイシフトの方がよっぽど魔法に思えるが俺の思い違いか?」

 

「あっそれは俺も思う」

 

《それを言われると僕は何とも言えないけれど……それより、君の宝具の方が気になるかなぁ?》

 

「ああ、そうだな」

 

そう言ってスネークは落ちてきた段ボールに近寄り

 

 

そのまま体ごと入った

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・は?』

 

一瞬の間

 

その次には先ほどまでは装備していなかったライフルを背負ったスネークがいた

 

ついでにダンボールは土となって消えた

 

「おお、カズのやつわざわざM16のロングバレルにサプレッサーを着脱式にしたか。

出来ればロケット系も欲しかったが……まぁ潜入するときの邪魔にもなるか、それにスタンを新調できただけも十分だろう、これから先必ず必要になる」

 

そのままライフルを前へ持ち替え、何かをブツブツ言い始めた。

……この場ではスネークがどんな感想を抱いてるのかがわかるものは誰1人としていなかった。

 

「えっと……スネークさん、とりあえずマスターの俺や他の奴にもわかる様にも説明してくれないかな?」

 

「……そうだったな、つい柄にもなく興奮してしまった」

 

((柄には合ってると思うがな……))

 

若干犬猿の仲なはずのウサギ2匹が全く同じ心情を抱いていたが、誰にもわかる事なくスネークの宝具(?)解説が始まった。

 

「まあこいつはさっき言った通りだが俺の宝具の…………まあ使用法の一種だ。

この間、解析で不明だった顔の部分の宝具は、俺の組織・部隊の運用を宝具化した物だ」

 

《君の組織……と言う事はMSFかい?》

 

「……まあ俺が作った軍隊ではあるがな」

 

「つまりあんたの私兵ってことか?」

 

「そうなる……そしてあいつらは随分と優秀みたいでな、こっちの無線で今まで連絡を取れなかったが情報はくれるらしい」

 

そう言って手から白いものを取り出す、それは数枚に分けて書かれている手紙らしい。

……らしいが文字が無い。

 

「スネークさん、その紙には私がお見受けする限り文字が書かれて無いのですが……」

 

「そうだな、だが遊び心溢れた連中だ、大方こうするんだろ」

 

ヒラヒラとなびく紙をキャンプファイヤーに近付け、そのまま紙が焦げないよう紙を炙る。

 

「あっ、炙り出し!」

 

「そう言うことだ、どうやらそれなりの遊ぶ暇さえあるらしい」

 

そう言いながらもどこか嬉しそうに手紙を炙っていくスネーク。

同じく昔、お婆ちゃん家でやった懐かしい光景に嬉しそうに観ている立香。

ついでにエミヤもどこか懐かしそうである……が他の英霊たちはこう言う炙り出しには縁がなかったのか驚いている、特にマシュとジャンヌは全く同じ顔をしていた。

 

具体的には何故文字が浮かび上がって来るのかと、手紙を下から見上げ観察していた。

 

そんなこんなで。

キャンプファイヤーの周りは一旦顔芸大会にもなっていたが誰にも気付かれることなく終わった

 

「……良し坊主、読め」

 

「えっ俺?スネークさん宛ての手紙じゃないの?」

 

「わざわざ〈拝啓、俺たちのBOSSのマスターとそのサーヴァントへ〉と書かれてるなら俺はついでだろう」

 

「……ホントだ、一番最初にそう書かれてる」

 

《ハァーわざわざご丁寧にどうも・・・って何で藤丸君や召喚したサーヴァントのことまで知ってるんだい!?》

 

「それも含めて書いてるだろ、良いから読んでくれ坊主」

 

「うん……じゃあ失礼して」

 




p.s
お気に入り登録者がいつの間にか1000人を超え、UAは40000人を超えました。
いつの間に!?

……本当にありがとうございますm(_ _)m
本当に本当にありがとうございますm(_ _)mm(_ _)m
だからと言って何もお返し出来ないのですが……どうしよう。

・・・とりあえず、八月までに書き上げよう!
・・・ウン、書き上げたい、書き上げられたら……イイナァ。
そんなこんなで、未だ不定期更新ですが、これからも楽しんで頂けたら幸いです(`_´)ゞ


何かご意見・ご感想があれば作者の参考にも励みにもなります。
何かありましたら感想欄にてお知らせ下さいm(_ _)m



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邪竜百年戦争オルレアン:2-2

お待たせしました、次回の投稿はまた来週!



〈拝啓、俺たちのBOSSのマスターとそのサーヴァントへ。

まずは、唐突なバルーンと段ボール配送に詫びを入れる、人騒がせなのは重々承知だがこちらとしても挨拶をする術とタイミングがなかった、 最初に謝罪する。

 

さて、まずは誤解解消も兼ねて俺たちの自己紹介といこう。

この手紙を書いてる俺自身の名前はカズヒラ・ミラー、そこにいるスネークの軍隊、MSF《Militaires Sans Frontières》の副司令を務めている、MSFについては……詳細は書くと長いからBOSSに託す。

 

次に俺たち自身の状況だ。

BOSSにしかわからないだろうがほとんどが1974年のMSFだ、メンツはその時とほとんど変わってない。

ただ科学技術に関しては現代、2015年代までの一般的な物も使用・加工可能だ。

現在、急ピッチで研究開発班が総力を結集してそちらとの情報交換を可能にしようとしてるが、現段階では間に合わなかった。そのため、ワームホールを応用してBOSSの武器とともにこの手紙を添えた。さすがに人を遣わせる勇気は無いからな。

 

ついでに軟弱男Dr.ロマンが心配するだろうからこっちが先に説明するが、BOSSの持ってる端末から一部の情報だけはやり取り可能だった、そこから読唇術と映像解析でサーヴァント・聖杯戦争・人理焼却に関する大まかな内容を把握しただけだ、そちらのシステムにはまだ入り込んで無い。

 

それと現状俺たちが出来る支援についてだ。

総合的に判断すると、俺たちはBOSSの宝具として何処かの人理焼却とは関係ない次元空間に取り込まれてる。

今の所、俺たちが生きていく上では何の問題もないが隊員たちはBOSSの支援をしたがっている。

現段階では装備や武器の補給と移動手段の提供のみしか確実にそっちの世界へ届けることは出来ない。

メタルギアに関しては研究開発班が改造している、恐らくフランスにいる間には間に合わないだろう。

ただ、諜報班の見立てでは霊基再臨によってBOSSとの繋がりが強くなれば物資だけでなく人員の派遣や支援砲撃も可能になると推測している、そこら辺はそっちの人間が専門だろう。

それとBOSSの端末のアップデートを用意した、この手紙を読み終えたらBOSSに渡してやってくれ。

 

最後になるが、俺たちはBOSSの軍隊だ。

だがBOSSがマスターであるお前に就くなら俺たちもお前のために動く、遠慮なく使ってくれ、微力ながら俺たちの出来ることをしよう。何か疑問や質問があればBOSSに聞いてくれ…………山猫より〉

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

「……これで終わりみたい」

 

「Militaires Sans Frontières……国境なき軍隊、ですか」

 

「ああ、もっともMSF自体は既に瓦解しているがな」

 

《いやっ藤丸君!それにみんな!確かに丁寧なお手紙を貰ったけどおかしいよねぇ!?

まずスネークが持ってた端末自体しらなかったけど、ワームホールって書かれてるんですけど!?》

 

「何を言ってるんだロマン、ワープくらい普通だろう」

 

《エ、エミヤくん!?》

 

「まぁ世の中あらゆる宝具を取り出せる宝物庫が空間から出てくるもんだし気にすることねえって」

 

《……エェー》

 

実際、エミヤは宝具で異空間を展開するためそんなにおかしい話では無いと判断した。

他の2人はまずびっくり玉手箱の如く宝具を射出してくる金ピカ野郎を知っているため、不自然だとは思わないらしい……ジャンヌ・ダルクやマシュはあまりピンと来てないらしく、まずそんなに驚いていない。

 

「……それで、スネークさんの宝具はこの手紙にある通り、物資の支援が受けられるってこと?」

 

「まぁそうなるな、もっとも坊主や他の連中には食料と医療物資以外ではあまり役に立たんがな」

 

《それでもどこに行っても食料に困らないのは凄いことだと思うよ?

サーヴァントならまだしも、藤丸君やマシュは人間だからね、水と食料が尽きれば死んでしまうんだから》

 

「それもそうか」

 

「それならまずは送られてくる食料がマズくないか確認する必要があるな、早速注文するべきだと私は思うのだが」

 

「……一利はあるが、人の宝具を出前とおなじ感覚で使うのはどうかと思うのだがね?」

 

手紙を読み終えて早々、暴食王がアップを始めました。

それに付き添う赤い弓兵(笑)がアップを止めました。

 

「そういえば、先輩が読んでいた手紙では紙をスネークさんに渡して欲しいと書かれてませんでしたか?」

 

「あっそう言えばそうだったね」

 

「そうだな……坊主、お前はSFは好きか?」

 

「えっ、急にどうしたの?」

 

「良いから答えろ、お前さんは近未来的なものは好きか?」

 

「好きか嫌いかで言われたら……嫌いな男の子はいないでしょっ」

 

「そうか?ならその手紙を持ってろ、良いものを見せてやる」

 

「「??」」

 

そして、良いことを思いついた典型的な含んだ笑みを浮かべながら、スネークは腰のホルスターから何かを取り出した、それはとても四角く、それでいてちょうど手のひらサイズに収まっていた。

その物体が気になるのか、年頃で好奇心旺盛なマシュはもちろん、他のサーヴァントも様子を見守る。

 

「おい坊主、その手紙を俺に見せるように持ってくれ」

 

「あっこんな感じ?」

 

「そうだ、そのまま持っておけよ」

 

そう言うとスネークはその四角い物体にくっついているボタンを押した。

するとその箱から透明なスクリーンが3Dで飛び出してきた。

 

「えっ何これ!?」

 

「これは……小型のプロジェクター、ですか?」

 

「少し違うな、こいつは……iDroid、あらゆる情報のやり取りが可能な携帯情報端末だ」

 

「えっじゃあこれスマホなの?」

 

「そんな安ぽい物じゃないぞ、よく見とけ坊主」

 

自慢げに語りながら、スネークが端末を立香が持ってる手紙へ向ける。

 

 

すると突然、端末からビームらしきものが飛び出し手紙の内容を読み取っている!

 

しかもその絵がものすごくカッコいい!

 

小型端末に3D液晶、加えてビームである!!

 

 

《All information up dating……up dated……clear,this iDroid is the latest state.》

 

 

「先輩!この機械喋りましたよ!喋りましたよ!!」

 

「すげぇ……まるで映画みたいだ……」

 

「そうだろう、そうだろう?

他にも周辺のマップにリアルタイムでのフルスクリーンでのやり取りも出来るぞ!当然画質は4Kだ!!」

 

「「スゴい!!」」

 

《…………イイなぁ、スゴくイイなぁ……!》

 

《コラ、私が作った方がより良いものを作れるんだけど?》

 

《……だってあれ少なくともダ・ヴィンチちゃんの改造したスマホより性能良いよ?

しかも3Dグラフィックのプロジェクター機能に、多分ネットワークに繋げたらリアルタイムで常に情報更新出来る代物だよ?しかも4Kだからその場で解析も——》

 

「……とりあえずロマン、無線を一旦切れ。

私はまだわかるが、他のサーヴァントでは話について行けない、そっちの話はそっちでしてくれ」

 

《あっうん》

 

《聞いてるかいロマニ?そもそも私は万能な——》

 

私には知った事では無いが…………これが終わったら、彼は試作機を使わされるのだろうな。

とエミヤは勝手に思っていた。

一方で、一通り語り終わったスネークは満足そうに、立香とマシュは何故か少しトリップしていた。

 

「先輩〜・・・私たち、いま近未来に来ているのかもしれません」

 

「俺もそう思うよ・・・マシュ〜」

 

「いやっ、ここは思いっきり過去だと思うが……」

 

「そう野暮なことを言うなスネーク、少年少女には・・・時にこんな時も必要だろう?」

 

「……まぁわからんでも無いがな、だがそんな少年少女はそろそろ寝る時間じゃ無いか?」

 

「確かにな、嬢ちゃんはデミ・サーヴァントだからまだ問題ねえけど……流石にマスターはな。

いくら俺でも無理強いさせるつもりは今は無えよ」

 

「私も同じだ、それにマスターが崩れてしまったら私たち全員の戦力ダウンに繋がる」

 

「……とりあえず、マスターだけ寝かしつけるか、すまんがマシュ、マスターを寝袋まで運んでやってくれ」

 

「はい〜、さぁ先輩〜寝ましょう〜」

 

まだ若干トリップしてるらしいマシュだが、足取りはしっかりとしている。

もう少しすれば元どおりになるだろう・・・羞恥心の波に襲われながら。

その足取りをまるで母親の言うに、慈愛に満ちた笑みで見守るエミヤ、その顔を不気味がるクー・フーリンとアルトリア、そして直立二足歩行でその二人を観察するトレニャーの三竦みが出来上がっていた。

 

 

「……ところで、私からも1つ質問しても良いですか?」

 

「ん、俺にか。当然構わんが……どうかしたか?」

 

「いえ、それほど大した事では無いのですが……何故“Militaires Sans Frontières”と言う名前を?

“国境なき軍隊”……私の勘違いでなければ、普通の傭兵集団であればこんな名前を付けないと思うのですが……」

 

「じゃあどんな名前だ?」

 

「えっ?えっと……血濡れた……いや、オール……うーん……」

 

「いやっ、そんな本気で考えなくて良いぞ」

 

「えっ!?いやっえっと……はいぃ……」

 

「……お前さん、本当に町娘みたいだな」

 

「ははは……お恥ずかしい限りです」

 

「・・・マシュ・キリエライト、ただいま、帰って来ました//」

 

「おう、マスターの様子はどうだった?」

 

「もうぐっすりです、私が寝かしつけたらすぐに寝てしまいました」

 

「まあ結構疲れていただろうからな、だが明日も早い。

それに明日からは各地を移動して情報を収集する、ありがたいことにこの時代をよく知るガイドも居るわけだしな」

 

「ええ、そうですね、お力になれることは少ないかもしれませんが、案内は任せて下さい」

 

「はい、お願いします……すいません、私も眠くなってしまったので寝てもよろしいでしょうか?」

 

「ああ、お前“も”慣れない野営にこの旅だ。

火の番と周りの警戒は俺たちでしておく、安心して寝ておけ」

 

「ありがとうございます、ではみなさんお先に……」

 

そう言ってマシュは そそくさとその場から離れ、自分のキャンプに入っていった。

帰って来たと言った時から顔が赤く、オドオドしていたのは火が怖かったのだろうと思ってあげることにした英霊たちだった。

 

「あの娘、さっきのことを引きずってるようだニャー、顔が赤かったニャ」

 

「フォウフォウ」

 

……英霊たちだけだった。

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 

「……マシュも寝たか」

 

「本当は起きていられるのだろうがまあ結構だ、私だけでも十分守れるしな」

 

「素直に疲れていたんだろうとでも言えば良いものを……」

 

「何か言ったかコック」

 

「いいや何も……それで、まだ話はあるんだろう聖女さん?」

 

「………………………」

 

良い子が寝静まり、五体の英霊が同じ火を囲む。

この場でそれをもうありえない事だと突っ込む野暮な者はいない……少年少女がいては作れない、独特の雰囲気が漂い始めた。

その雰囲気を察したのか、トレニャーは周りの収集物を集めるニャ、と言ってすぐこの場を離れた。

 

「……まず、皆さんに告白することがあります」

 

「ふむ、聞こう」

 

やがて観念したのか、はたまた元から覚悟が決まってたか。

ジャンヌ・ダルクが口火を切った。

 

「…… 私というサーヴァントの召喚がイレギュラーだったか、それとも——わたしが数日前に死んだばかりの地に召喚されたからでしょうか、今の私には“記録”に触れることができません」

 

「“記録”……それはつまり英霊の座からの情報がお前さんには無い、と?」

 

「ええそうです」

 

「仮に情報が無くとも、貴様も戦う事は出来るだろうに、わざわざ告白する必要も無いだろう」

 

「……その言い方はどうかと思うがね、だが確かに戦闘に支障は無いはずだ」

 

「だな、サーヴァントとして戦えるなら問題ねえだろ」

 

「まあお前の動きは本物だ、例え情報のバックアップが無くともサーヴァントは戦える様だしな。

少なくとも俺への構えは本物だったが?」

 

「ええ、確かに私は今もジャンヌ・ダルクです、戦った記憶も経験もしっかりと覚えています。

……ですが、“英霊としての記憶”が私にはありません」

 

「……何だそれは?」

 

深妙な面持ちで告白するジャンヌ・ダルク。

だがその内容に全く理解できなかったスネークは普通に聞き返した。

その反応に、“無理もないですよね”、と笑いながらもジャンヌ・ダルクは話し続けた。

 

「私も上手く説明できないんですけど……その、今の私はサーヴァントの新人の様な感覚なんです」

 

「…………………」

 

「先に言ったように、今の私には英霊の座からの情報に触れる力すらありません。

故に“サーヴァント”として振る舞うことが難しい、それこそまるで、生前の初陣の時のような気分なんです。

マシュさんは救国の聖女と私のことを言いましたが、今の私にはその力はありません。

なのでその……あなた方の足手まといになるのでは、と」

 

本来、聖杯戦争での英霊召喚では聖杯からの様々な情報のほか、時間軸の概念のない英霊の座からサーヴァントとして現界した際の記録を得て召喚される。

確かに生前の記憶はある、だが今のジャンヌ・ダルクには“サーヴァント”としての記憶が一切無かった。

 

「……私が言うことでは無いが、別に気にすることでは無いはずだ。

少なくとも、足手まといということは無いさ、何せここは正しく君の本拠地だろう?」

 

「俺は何とも言えねぇけどな、別に戦えればそれでいいだろ?」

 

「ハッ、戦闘狂の民族ならそれで構わんのだろうがな」

 

「ああそうだぜ?

そりゃ周りに迷惑かけてりゃ流石にどうかと思うけどよ、別に人様に迷惑かけてるわけじゃねえんだ。

むしろ新人なら、変に気張ってやらかす心配も無えだろ?」

 

「ふん、そもそも戦いになればここにいる者共に比べれば素人だろう。

足手まとい云々前に、比較すること自体が間違っているだろうに」

 

「ははは……」

 

アルトリア・オルタのストレートな言葉に苦笑するジャンヌ。

確かにセイバーである騎士王、ランサーにアイルランドの大英雄、アーチャーに抑止力の代行者と、正面戦闘においては主力となる三騎士と聖女様とを同じ土俵に立たせること自体が間違いではある。

例外はあれど、この3人と戦力で比べるのは確かにお門違いではある。

 

「……もう少し言い方があるだろうがお前ら・・・ならここにいる全員に質問するぞ」

 

「えっええ」

 

「構わないが?」

 

「おっ何だ?」

 

「……続けろ」

 

確かにお門違いではあるが、それでは相手が萎縮するか自虐的になるだけである。

ため息を吐きながらスネークは自分を見つめる4人に単純な質問をする。

 

 

「聞くが、今ここにいる中で一番足を引っ張っているのは誰だ?」

 

『………………………………………………………………………………………』

 

その言葉に全員一旦唸る。

もっともジャンヌ・ダルクだけは少々深妙な顔を作っていたが。

 

「あー……アレか、あのネコか?」

 

「言っておくがトレニャーはマシュとジャンヌ・ダルクとそこの騎士王3人に追いかけられて平気な顔してたがな」

 

「……ありゃネコじゃねだろ」

 

「ではアレかな、私かね?」

 

「ああ確かに、弓兵のくせに突っ込む貴様かも知れないな」

 

「馬鹿言うな、後方支援と俺たちの調理は一体誰がするんだ?」

 

「……そうだった」

 

「いやっ忘れてたのかよ……」

 

「…………やはり、私……ですかね?」

 

「・・・・・・はぁ」

 

他三役がどうにかしようと役を演じてる(上手くは無い)があまり効果はなく、そのままジャンヌが自嘲気味に言葉を発する、その言葉にため息を吐きながらスネークはあっさりと言った。

 

 

 

「単純だろう、一番足を引っ張っている、いや戦力にならないのはマシュだろうが」

 

 

 

「・・・えっ?」

 

「………ほぉ、あの盾使いが一番使えないと言うか………?」

 

聖女が驚き、同時に騎士王が顔を上げそれぞれがスネークを見つめる。

 

片方は意外のあまりに信じられない様に見つめ、片方は睨みを利かせている。

 

だがスネークは気にもせず淡々と話し続ける

 

「ああ、はっきり言ってまだ三流もいいところだ。

さっきもそこの二人の接近にも気が付かなかったしな、未熟で危なっかしいだけだ」

 

「ま、待って下さいっ!

確かにマシュさんは皆さんと違いデミ・サーヴァントですが——」

 

「デミ・サーヴァントだろうが無かろうが弱い奴は弱い、単純だろう、一体何が間違っている?」

 

「……私は弱きものは嫌いだ、だがあの小娘が弱者だと決めつけるのはいささか早慶すぎだな」

 

「俺は今の話をしている、今のマシュは俺に正面切っても勝てん、それが事実だ」

 

「ですが……ですが……!」

 

「何だ?何か言いたいことがあるなら言ってみろ」

 

男2人は察したらしく、スネークには何も言わずただ見るに徹している。

だがその態度は騎士王にはどうでも良いという現れに見え、より一層スネークに睨みを利かせていた。

よく見れば自身の聖剣の柄を握っている。

 

そんな下手すれば一触即発な雰囲気が漂い始めた中で、かの聖女は言葉を詰まらせながらも答えを言った

 

 

「彼女は………一生懸命に頑張っているでしょう!?」

 

 

「そうだな、ならお前も俺らも同じだろう」

 

「・・・あ」

 

「……ここまで誘導すれば流石にわかるか」

 

今の一言で全てを悟ったらしいフランスの聖女は、それこそ憑き物が落ちた様に表情を豊かにする。

……もっともその表情は、まるで肝心で簡単なことをうっかり忘れて恥ずかし過ぎて顔を真っ赤にした女学生の様だったが。

 

そんな触れないで欲しい状態になった聖女様など気にせず、スネークは続ける。

 

「そうだ、マシュは未熟でこの中にいるメンツでは一番弱い、それは事実だ。

だがそれをわざわざ気にするメンツもここには居ない、ましてや彼女を見下すなんざ論外だ。

仮に今のお前が救国の聖女だろうが無かろうが、この国にいる同胞を救える力はあるだろう。

少なくとも目の前にいる非力な人間の1人くらいは救えるはずだ、ならその時点で人の役に立ってるだろう」

 

「そう……でしたね、今の私には彼らと・・・“私自身”と戦う術があります」

 

「……随分とスッキリした顔になったな、もっとも誰も自分自身と戦いたいとは思わないがな」

 

「……ふふっ、このタイミングでそんなことを言いますかっ?」

 

「逆にどのタイミングで言えるんだ?」

 

「いや、何も言わないのが正解だと思うがね……」

 

「…………………」

 

若干一名、乗って乗せられたのが気に食わなかったのか黙っているがそっとしておこう。

 

「……ついでに言うがな、マシュは正真正銘の初陣だぞ」

 

「えっ、そうなのですか?」

 

「ああ、色々とほぼ事故同然でデミ・サーヴァントになったのが彼女だからな。

俺の感じだと本来の力の3割くらいしか発揮して無いな、アレは……違うか?」

 

「……さあな、生憎私はあまり彼女とは関わってないのでな、詳しくはわからん。

だが本来の力を振るえていないのは確かだろうな」

 

「そう言うわけだ……戦闘経験はあるがそれも僅かだ、つまりお前の方がよっぽど先輩だ」

 

「そんなッ!私はまだ19歳ですよっ!」

 

「マシュ嬢は16歳だがね」

 

「あっ……ということは私の方がお姉さんということですねぇ」

 

「なんで嬉しそうなんだ、お前」

 

マシュの年齢を聞いた途端、ジャンヌ・ダルクの顔がニヤァ〜とした。

……失礼、まさに慈愛を含んだ微笑みを浮かべた。

 

想像してみてほしい。

 

金髪ロングのお姉さんを、マシュマロなボディの美少女がお姉ちゃんと呼んでいたり。

 

それをヨシヨシと前髪をポンポンしてあげているお姉さんの絵を。

 

大勝利だ!

これには金髪サングラスも大喜び。

ついでにそんな金髪サングラスのマフィアなSPやその愉快な仲間たちも大喜びだろう。

 

わからないなら知らない方がよろしい。

 

「……そういえば、サーヴァントってのは一体歳はどうなんだ?」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

わからない方がよろしい。

 

だが若干全員、スネークの言葉に乗っかってしまい自分の年齢を考えてしまった

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

「…………数えるのは辞めだ」

 

『だな(ですね)』

 

 

結論。

そもそも女性に年齢を聞くのはタイヘンシツレーなのだ、英国紳士の辞書にもそう書かれてる。

 

 

「ちなみにオイラは〇〇歳を超えてから数えるのを辞めたニャ」

 

『・・・えっ?』

 

「……お前のところは随分と長寿だからな」

 

「ニャッ!」

 

確かに、かの世界では300歳を優に超える種族がいたりするわけで、実はトレニャーも……なんて話である。

せっかく真面目に終わるかと思われたジャンヌ・ダルクの告白は、やはり伝説のトレジャーハンターによって全部持って行かれた。

 

こうしてフランスの1日目は焚き火と土から帰って来たトレニャーのにゃは〜(⌒▽⌒)と共に終わった。

 




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邪竜百年戦争オルレアン:3-1

今回は短め、次回は明日のお昼頃。

私は最近になってやっとこさFGOをプレーし始め、今から第6章。
この小説は・・・終わるかなぁオルレアン(´-`)




 

 

「もう少しでラ・シャリテです。

ここでオルレアンの情報が得られない場合はもう少しオルレアンへ近付かなければいけませんが……」

 

「諜報なら任せろ、その手の情報は兵士と商人に聞くに限る。

幸い昨日の段ボール輸送の中に食料がそれなりに入っていた、旅人になりすまして情報の交換くらいはしてくる」

 

《流石は現代で軍隊レベルの傭兵だ……アレ、傭兵って諜報活動もするの?》

 

「ドクター、私はスネークさんの話を聞く限りだともはや傭兵家業という枠に収まらない活動をなされている気がします」

 

「フォーウ……」

 

「確かにおミャーさん、普通のハンターさん並みには戦えて賢くてかっこいいニャッ!」

 

「賢いってより、妙に器用で物を知ってるって感じだがな、こいつ」

 

「伝説の傭兵だから、というだけでは無いだろうな」

 

「未だに私はこいつがアサシンだと疑ってるぞ」

 

「「それには同意見だ」」

 

「……おい3人衆、お前ら実は仲良いだろ」

 

「「「そんな訳がないだろ」」」

 

「「「って真似をするなっ!!」」」

 

「すごいです先輩!まるで90年代漫画のような典型的なボケです!!」

 

「うん、なんでマシュが興奮してるのか俺にはわからないかなぁ……」

 

「フォーウ!?(誰だマシュを毒したのは!?)」

 

「……今さらですが私、皆さんと共に行動できて何だか安心してます」

 

「今言うか、それを」

 

トレニャーが色々カミングアウトした翌日、一行は情報収集のため昨日世話になった砦から最も近いと言う街ラ・シャリテに向かっていた。

一緒に行動を共にする事となったフランスの聖女:ジャンヌ・ダルクは最初、兵士たちが自分を見て黒い魔女だと判断してしまう可能性が高いため、どうするべきか悩んでいた様だがその問題は藤丸たちと合流したことによって解消された。

 

何よりカルデアには現代の伝説の傭兵までいるのだ。

確かに魔術では今よりも昔の時代であればあるほど発展しているだろうが、諜報においては古代より現代の方が手数が違う。何より経験が違うのだ。

スネークが得意とする潜入とは少々違うが、それでも地元民から情報を聞き出す程度造作も無い。

 

《……ん、ちょっと待ってくれ、君たちの向かう先にサーヴァントが検知された。

場所は……ラ・シャリテ、君たちの目的地だね》

 

「ドクター、そのサーヴァントは動いてますか?」

 

《うん街の中に——って早い!どんどん遠ざかって行く……ダメだロストした!》

 

「……坊主、行くなら急いだ方が良いかもしれん」

 

「えっ?」

 

「フォウ!フォーウ!」

 

「何ですかフォウさん、空を見ろって・・・煙?」

 

「! 急ぎましょう……!」

 

「ジャンヌさん!?っとりあえずクー・フーリンさんジャンヌさんに着いて行ってあげて!!」

 

「おうよっ!」

 

誰よりも早く駆け出したジャンヌ・ダルク。

不完全な召喚だったとはいえ身体能力は高く、俊敏Aも伊達ではなく一団を置いて行く。

すぐにクー・フーリンを援護に回し、一行は急ぎ目的地であったラ・シャリテに向かう。

 

「貴様ライダーなのだろう!なら馬の1匹2匹呼べないのか!!」

 

「呼べるが生憎時間がかかる、この距離なら走り終えた頃に到着するだろうな」

 

「っ事前に呼んでおけ!」

 

「今度からそうしよう、すまんがエミヤ!坊主らを頼む!」

 

「任せろっ!先に行け!」

 

言うが早くスネークも一団を飛び出しクー・フーリンの後を追い、同じように魔力放出によってアルトリア・オルタもついて行く。

 

「何だ、お前も付いてくるのか」

 

「お前に付いてきた訳ではない、邪魔者をマスターのために先に排除しようと思っただけだ」

 

「……おそらく間に合わんがな」

 

「だろうな、もっとも私はマスターにその瞬間を見せつける気はないがな」

 

「……それもそうだ」

 

敵勢力らしい反応が街から移動した、そしてその街からは煙が出ている。

加えてその敵は虐殺を行って来ているという……であればその街がどうなってるかはある程度想像つく。

その残骸をある程度“マシ”にするくらいの暇はあるだろう。

 

《チッ……連中、相当 手慣れてやがる》

 

「どうした」

 

《……ここは全滅だ、誰1人残っちゃいねぇよ》

 

「……坊主、どうする」

 

《…………このまま全員ラ・シャリテで合流、もしかしたら生存者もいるかもしれない。

それに何か出がかりも掴めるかも》

 

「行っておくがマスター、どこぞの槍兵はお前に遠慮して言わなかったが、あの街は皆殺しだ。

加えて死んだばかりだ、手がかりもあるだろうがそれ以上に——」

 

《わかってる、だけど目を背けて何も進展しないんじゃ意味がないよ。

…………それにジャンヌさんもいるんだ、その街の人たちをそのまま放っては置けないよ》

 

「……そうか、それがお前の意思なら構わん」

 

「……了解だ。なら俺と騎士王も先に入っている、お前らはゆっくり来い、何かあればコールする」

 

《僕も周辺状況を見てみるよ、生体反応があれば教える」

 

「了解だロマン」

 

クー・フーリンからの無線で、街はほぼ全滅したのが確定した。

何より無線機から一度もジャンヌ・ダルクの声が聞こえなかった、恐らく藤丸が考えている様に生存者を捜索しているのだろう……が、かの槍兵が手慣れていると断定したのだ、敵がみすみす見逃す様な甘い相手だとも思えない。

 

「……相変わらず甘すぎるマスターだ、探しても無駄だろうに」

 

「だが同時に意思が硬い、わざわざ聖女がいるから街の住人の世話をすると言ったんだ、むしろそのまま無視した方が誰も文句を言わないのにだ」

 

「……その甘さがいつか身を危険に晒すかもしれんがな」

 

「その時はその時だ、そうさせない様にするのが俺らの役回りでもあるがな」

 

「……さっさと行くぞ蛇め、燃やされた街に長くいる理由はない」

 

「わかった」

 

スネークもこの暴君の意見には同意する、マスターの甘さはいつか必ず危険を招く。

だが同時に、自身もまた手の届く範囲で為してきたことだ、その優しさはいかなる危険を鑑みても価値あるものだとも知っている。

確固たる意思がある、それは安っぽく言ってしまえば頑固だとも言える。

 

 

 

だが意思ある行動にこそ遺した者は、残された者は、

 

 

存在を、価値を、それぞれ見いだせるのだから。

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

それから十分ほど。

エミヤが無線を聞いて察したらしく、マシュと藤丸を歩かせてやって来た。

 

「コレは……ヒドい……」

 

「……………………………」

 

「ああ来たか、生きている者は居なかった、この街は全滅だ」

 

《うん、生体反応は無かった、それに……》

 

「それにどうしたの?」

 

「死んだ一部はゾンビ化して襲って来た、加えてワイバーンがそれを餌に戻って来てな。

……恐らくそういう焦土作戦なんだろう、街を破壊し死者を蘇らせ味方のエサにする」

 

「もっとも飛んで来たトカゲはセイバーと俺らで倒した。

……さすがに俺も死んだ人間とはいえ無視できるほど人が出来てるわけじゃねえからな」

 

「なんか……すいません」

 

「マスターが謝る事じゃねえよ、悪りぃのはこれをやってのけた奴だ」

 

なんだかんだ一般人マスターの扱いに慣れて来たクー・フーリン。

彼自身もまた虐殺の現場を見慣れているが、さすがに戦いに慣れて居ない少年少女にこの光景を見せるのは初めてだった。

その行為自体に抵抗を感じない訳ではないが、この光景を見せる必要があるのはわかっていた。

 

「いまジャンヌ・ダルクが向こうで死者の弔いをしてる、お前もしてやれ」

 

「うん、わかった……行こうマシュ」

 

「はい先輩」

 

そう言って2人がジャンヌ・ダルクがいる方へ歩いて行く。

……その足取が早かったのは気のせいではないだろう。

 

「何か変わったところはあったか?」

 

「いいや、今のところは無いな……だが今日の夜頃に戻すかもしれん」

 

「まぁ人の良すぎるマスターだ……ここに残ってた体は丁寧に殺されたわけじゃねえ。

ある程度は集めてあの聖女さんに任せはしたが……体が残ってないのも多い」

 

ラ・シャリテと呼ばれて居た街は完全に壊されて居た。

そこに居たであろう人々はモノに還り、人々が暮らし使って居たであろう建物は瓦礫と成り果てた。

中には瓦礫に見えるモノもあった……それだけ相手は人々に手間をかけたらしい。

 

「……張本人に虐殺の意味を問うほど、俺は聖人じゃないが、こいつはあまりにも不自然すぎないか?」

 

「何をいうかと思えば・・・そも、虐殺に自然も不自然も無いだろう、現代の英雄であればむしろ理解してる者だと思ったが?」

 

「……私としてはコメントしづらいがね、だがセイバーのいう通りだ、一体何が不自然だと?」

 

「さすがに坊主の前じゃ刺激が強すぎるから言えなかったが……どの遺体も何度も刺されている」

 

「ああ、槍みてぇなのでブスッてな、それがどうした」

 

そんな瓦礫から見えるモノのほとんどが一撃の即死ではなく、四肢のどこかを必ず穿たれ、胴に幾つもの穴を開けられていた。四肢が無事だったモノは生きる屍と化し、他はワイバーンのいいエサになっていた。

 

「街の発展具合や遺体の数を見る限り、この街の人口はおおよそ1000人程だ……だが1000人もいる。

生憎槍や剣に関しては俺は素人だが、それでもこれだけの人数を短時間で処理するのは手間だろう。

……言い方が悪いが、全員焼死ならまだわかるが、こうまで徹底的に穴を開ける理由がわからん。

サーヴァントとは言えわざわざ時間をかけて虐殺をする理由がわからん」

 

「……まあ確かに、銃を使うならまだしも短時間でこれだけの人数をこうまでするのはサーヴァントとは言えそれなりの手間がかかるな」

 

サーヴァントは英霊にまで至った存在である。

その能力はそれぞれ大きく違いがあるものの、基本的に一般人より強いのは確かだ。

だがそれも強いだけであり、質が高いだけだ。

 

「別に短時間でこれだけの人数を始末したとは限るまい、夜中から殺していたのだろう」

 

「いや死後硬直からして1時間……ネクロマンサーに操られた場合はわからんが、どう見積もっても3時間ほどしか立っていない、今日の日の出は5:47分、少なくともここを襲ったのは夜明け以降だ」

 

「……なら向こうには多くの敵がいるという訳だ」

 

「そうなるだろう、冥福を祈り終えたらすぐに移動した方が良いな」

 

集団戦ならまだしも、作業ならば人数が多く無い限りいくらサーヴァントとは言え一人当たりの作業量が増え、時間が多少短縮されるだけであって楽ができる訳では無い。

それが何度も何度も体に穴を開けるのであれば尚更だ。

 

であれば

 

相手に大量虐殺専用の宝具を持っているサーヴァントがいるか、そもそもサーヴァントの数が多いかの二択。

そして可能性としても、脅威度の高さとしても相手の人数が多いことを前提とした方がいい。

 

「・・・ニャニャ!!何かこっちに来てるニャ!?」

 

《む?——本当に来てる!?高速で北西部から接近中!さっきまでいたサーヴァントだ!!》

 

「数は」

 

《数は五騎!でも何だって居場所がバレたんだ!?》

 

「大方ワイバーンが帰ってこなかったのを不自然に思ったんだろ、それか召喚獣なら殺されたかどうか位はわかるのかもな、とりあえず坊主無線は聞いてたな?」

 

《うん、ちょうどジャンヌさんのお祈りも終わったよ。

この状況なら・・・撤退かな、迎撃するには相手が未知数過ぎるしここで戦闘はキツイ……と思うかなぁ》

 

「ハッキリしろ!」

 

《ハイッ!ここで戦うのは厳しいと判断して——》

 

《……私は問い質したい……!》

 

《……えっ?》

 

《ここで逃げても何も得られません。

これをやったのは確かに“私”なのでしょう、ですが何故このような所業を行えたのか……それだけがわかりません。

せめて真意だけでも問い質さなければ……!》

 

突然とんでも無いことを言い出すジャンヌ・ダルク。

確かにそれは本人からすれば重要なことだろう、何をどう考えても“本人”には何故この様な事をしたのかまるでわからないのだから。

 

「待て、貴様の我が儘で私たちだけならともかくマスターを巻き込むのは承服できない、残るなら貴様一人で残れ」

 

だがそれはワガママ以外の何物でもない。

 

それくらい彼女にも分かっている、故に

 

《……わかりました》

 

《ジャンヌさん!?》

 

《確かに私の我が儘です、それで皆さんを危険に巻き込むのは私の望むものではありません》

 

《ちょちょっと!?もうすぐそこまで来てるよ!?》

 

突然起きた意見の齟齬。

どこの現場でも良く起こることだが、戦場においては致命的だ。

短時間で答えを出せなければ集団は全滅する。

 

「ちょっと黙ってろロマン、それで坊主は結局どうするんだ」

 

《…………ジャンヌさんはどうしても逃げない?》

 

《ええ》

 

《……アルトリアさんは俺が危険だから残りたくないんだよね?》

 

「いいや、単に我が儘に手間をかける理由も付き合う理由も無いからだ」

 

《じゃあ理由があれば良い?》

 

「……私としては何故ここの住民が何度も刺されてまで殺されるほど恨みを持たれているのか見当がつかないがそれだけだ、他に気になることなど——」

 

《なら相手にそれを直接聞ければ良いよね!?》

 

「……まあ上手くやれるなら、だが」

 

《ジャンヌさん》

 

《もちろん聞き出してみせます、“私”が何故ここまで酷いことをしたのかを“私”も知りたいですから》

 

《なら俺たちはジャンヌさんの援護をするよ、それで良い?》

 

《いいえ、皆さんを巻き込むことはできません。

アルトリアさんの言う通り私だけを残して逃げて下さい、私は後から——》

 

《とりあえず皆集合、マシュは俺と一緒に。

どうなるかはわからないけど、戦闘は避けられないだろうから臨機応変に対応するしか無いけどお願い!》

 

「決まりだな、早い話がここで情報聞き出して相手の首を刎ねりゃ良いだけだ」

 

「お前はマスターの言葉を聞いてなかったのか?臨機応変に対応するのだろう?

そもお前は敵将がわざわざ出てくるとでも思ってるのかね?」

 

「何を言っている、まとまっているなら私の剣で纏めて吹っ飛ばせば良いだけだろう」

 

「・・・お前も話を聞いてないな」

「・・・お前馬鹿じゃねえの?」

 

「ワイバーンが来たニャらオイラが仕留めてやるニャ!……人間は勘弁ニャ」

 

《み、皆さん!?ですから——》

 

「馬鹿かお前は」

 

《!?》

 

無線機に怒鳴る……こともなく、スネークは淡々と救国の聖女を馬鹿呼ばわりした。

 

「今から逃げたところで俺らが逃げ切れるわけが無いだろう。

それに一人残した所で一対五で戻って来られるわけが無いだろうが、どのみち俺らにも情報が必要だ。

その情報を引き出せる奴を見捨てるのは愚策だ」

 

《・・・ありがとうございます》

 

「感謝するならそう判断したそこにいるマスターに言え、マスターに。

……それに美人をみすみす見殺しにでもすれば夢見が悪い、俺の仲間にも文句を言われるんでな」

 

「ほぉ、あんた好みか?」

 

「いいや?手を貸せる人間に手を貸さないのはどうかと思うだけだ。

……すまんが坊主、俺は奇襲を仕掛けたい、一旦隠れるが構わないか?」

 

《わかった、けどジャンヌさんが喋り終えるまでは待って》

 

「当然だ、向こうが仕掛ける直前に俺も動く、合図は出せんが戦闘が始まればお前の指示にある程度従うから安心しろ」

 

《じゃあスネークさん以外は全員集合、どう来るかわからないけど相手は五騎、こっちは6騎いる。

油断はできないけど……知恵は事前にもらったし、とにかくよろしくお願い!》

 

「なら俺は一旦隠れる、お前らのことは見えているから安心しろ、最も俺の出る幕は無いかも知れんがな」

 

「無論だ、お前は戦闘が始まってもずっと隠れろ、五騎の相手は十分だからな」

 

「願わくはそうありたいな、ならよろしく頼んだ」

 

騎士王の皮肉を楽させる励ましの言葉と受け取り、スネークはそのまま瓦礫となった街に潜って行った。

 

「・・・いや待てよ、何で瓦礫で見えなくなった瞬間からあいつの気配が消えたんだよ!?」

 

「わかったかね、昨日私はこれを援護しろと言われたのだが」

 

「……やはりアサシンだろう、あいつは」

 

《うん、こっちでも反応をロストした……死角に入れば影が薄くなるって言ってたけど、そういうレベルの代物じゃ無いよねこれ、影が薄いくらいで動体検知からも消えるわけ無いし》

 

「だがとりあえずはあのジャンヌ・ダルクの援護だろう、スネークを除いて五対五とは言えマスターが被害を被っては話にならない」

 

「もっともあの盾の嬢ちゃんがマスターの防衛に専念してくれりゃ俺らでカバー出来るけどな」

 

「とにかく行くぞ、あの聖女に文句の1つ言いたいが……その暇はなさそうだ」

 

こうして口論は落ち着き、一行はフランスで最初のサーヴァント戦を迎えることになった。

 

 

 

 

「・・・オイラ、どこにもカウントされて無いのニャ・・・ニャー」

 

「フォウ、フォー」

 

「……まずお前は戦えないと思うニャ」

 

「フォアァ!?」

 

 

 

 




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邪竜百年戦争オルレアン:3-2

 

 

スネークが瓦礫の街に潜んで1分ほど経った後、再びトレニャーが反応した時、それらは上空から現れた。

一人は黒い貴族服をまとった男、一人は刺々しいドレスを纏い仮面をつけている淑女、一人は随分と露出度の高い修道服を着た女、一人は羽帽子を被った剣士……だが中性的だった。

 

そして一人はカルデア一行と共にいるフランスの救国の英雄、ジャンヌ・ダルクにあまりにも似ていた。

だがその表情は、乗って着たワイバーンを飛び降り見上げたジャンヌ・ダルクの無表情とジャンヌ・ダルクはとても似ても似つかないものだったが。

 

 

 

「……っ!」

 

「・・・ああ、なんて事かしら。

まさかこんなことが起こるなんて一体誰が想像したかしら」

 

「…………………………………………」

 

「ねえお願い、誰か水を、誰か水を私の頭にかけてあげてちょうだい。

ヤバいッ、ヤバいの!本気でおかしくなりそうだわ!あまりにも滑稽で笑い死んでしまいそう!!」

 

(そのまま死んでも構わんのだがね)

(やめとけ、後ろの連中も警戒してるぜ、今じゃねぇ)

(……………………)

 

今まで何かと関わりのあったこの三騎士、いつもは互いに いがみ合い皮肉を言い合っているが戦闘となれば話は別だ。

それぞれ思うことはありながらも、アイコンタクトで意思疎通を図る程度は造作もなかった。

そんなやりとりの中で黒いジャンヌ・ダルクは笑いながら話し続ける。

 

「ハハハハハ!……本当に…………本当にこんな小娘にしかすがるしかなかった国とか、ネズミの国よりも劣ってたのね。ねえジル、あなたもそう——って、そうだったわ、ジルは連れて着てなかったわ」

 

「貴方は……貴方は一体誰なんですか!?」

 

「・・・はぁ、それはこちらも同じですよ。

……ですがそうですね、そちらより上に立つものとして答えてあげましょう。

私はジャンヌ・ダルク、この地で処刑され再び蘇った救国の聖女ですよ、“もう一人の私”」

 

「……馬鹿げたことを、私は聖女では無い、故に貴方も聖女であるはずがない。

ですがそれは過ぎたこと……私が知りたいのはただ1つ・・・なぜこの街を襲ったのです」

 

「……何故?

逆に聞きますけど、わざわざ貴女がすでに理解していることを何故私にまで言わせるのです?」

 

「わかる訳が無いでしょう!

なぜ何の罪もない、ここに住んでいた人々を襲ったのです!!」

 

「……白々しい、それとも属性が変転しているとここまで鈍くなるのでしょうか?

そんなもの、単にフランスを滅ぼすために決まってるでしょう、私はサーヴァントなのですから物理的に潰して行くだけでこの国を滅ぼせるもの、当然でしょ?」

 

「バカなことを……!」

 

「・・・ジャンヌ・ダルク 、お綺麗な心をお持ちの聖女さま?バカなのは 愚かなのは私たちでしょう?

何故、こんな国を救おうと思ったのです?何故、こんな愚者たちを救おうと思ったのです?」

 

「それこそ決まっているでしょう!私は人々のために——」

 

「人々!それはただ裏切り、唾を吐いたニンゲンと言う名のクズでしょう!?」

 

「っそれは——!」

 

「私はもう騙されない!裏切りを許さない!!……そもそも、もう主の声も聞こえない。

主の声が聞こえない、と言うことは主はこの国に愛想を尽かしたと同じことでしょう?

なら私がこの私が滅ぼします、主の嘆きを私が代行します」

 

「っそれのどこが代行なのです!?」

 

確かに無茶な道理だ。

神の啓示を得ていたこの国の聖女が神の声を聞かなくなった、つまりこの国に救う価値などない。

だからこの国を滅ぼす代行者となる……まるで筋が通りそうもない。

だが彼女の意思は本物だと言うことはこのやり取りを外から見ていたサーヴァントは、特に一般人である藤丸には理解できた。

 

「マスター!」

 

「……うん、ジャンヌさん、これ以上は無駄だよ、あの人は……あのジャンヌ・ダルクは本気だよ」

 

「っですが——」

 

「あら、もう一人の私よりそっちの人間のほうがよっぽど理解が早いじゃない。

そうよ、私が、私こそが成長した私なのよ、

そしてこれが死んで新しい私となったジャンヌ・ダルクの救済方法、この主に愛想を尽かされた価値もない国を死者の国として作り変える……まぁ貴女には理解できないでしょうね!いつまでも聖人気取りで憎しみも喜びも見ないフリをして人間的成長を全くしなくなったお綺麗な聖処女さまには!!」

 

「な……!」

 

《いやっサーヴァントに人間的成長を求めて良いものなの?せめて英霊的霊格アップとか……あっでもしょj——》

 

「殺す」

 

「えっ・・・ファッ!?ちょっ、コンソールが燃えだしたぞ!?

あのジャンヌ・ダルク睨むだけで相手を呪うのか!?」

 

「いやっ今のはロマンが悪いと思うけど……」

 

『………………………………………』

 

何とも言えない空気が流れる。

見ると向こうのサーヴァントも何とも言い難い雰囲気を醸し出している。

本人たちは…………顔が赤いのはきっとそれぞれの怒りとかそんな感じのが表情に出てるのだろうきっと。

 

「…………貴方は本当に“私”なのですか?」

 

「……呆れた、なんて醜い正義心かしら、この憤怒を理解する気が無い。

ですが私は貴女を理解しました、今の貴女の姿で私と言う英霊の全てを知った。

所詮貴女はルーラーでもなければジャンヌ・ダルクですら無い、私が捨てた単なる残り滓よ!」

 

「……!」

 

「ええそうよ、貴女は単なる田舎娘。

何の価値もない、ただ過ちを犯すために歴史を再現しようとする亡霊よ!

・・・バーサーク・ランサー、バーサーク・アサシン、その田舎娘を始末しなさい。

他は残りのサーヴァントを相手しなさい、ああそこの理解の早い人間は見逃してあげても良いわ、そいつは私のことを理解してるみたいだしそもそもフランス人じゃないもの」

 

「マスター!」

 

「うん……ジャンヌさん構えて、来るよ」

 

「っはい!」

 

無論ここで見逃して貰おうなどと他のサーヴァントは当然ながら藤丸も考えていない。

戦わざる得ないなら戦う、当然の理屈だ。

それぞれのサーヴァントが構え、ジャンヌ・ダルクには確かに2体のサーヴァントが付いていた。

 

「・・・ふん、舐められたものだ、わざわざそこの田舎娘に二人も割き、こちらには数的不利で挑むか。

確かにそこの田舎娘も馬鹿かもしれんがお前も大概バカだな」

 

「・・・ハァ?」

 

黒いジャンヌの顔が赤いのは怒りで間違いないだろう。

 

「聞こえなかったのか?

貴様の随分と長い思想や感想などどうでも良いが、指揮官としては二流……いや、つい最近まで素人だった私たちのマスターよりも酷いものだな」

 

「・・・バーサーク・ランサー、こちらに加わりなさい、特にあの黒い騎士を八つ裂きにしなさい!」

 

口角が思いっきり上がってる黒アルトリアをみて若干引くクー・フーリン。

一体どっちが悪役なのかわからない……確かにラスボスではあったが。

 

「……よろしい、ではアサシンよ、彼女の全てを食らって構わない、余はこちらを頂こう」

 

「まぁなんて贅沢かしら。

かの聖女の美しい血を浴び、その臓を潰し喰らう……一体どれほど私を美しくしてくれるのかしら?」

 

「おいおい、カニバリズムかよ……」

 

「そう嘆く暇はないぞランサー、どうやらこちらにもわざわざ差し向けて来るようだ」

 

「へっ、そいつは良い……こっちから仕掛ける手間が省けるってもんだぜ」

 

「マシュはジャンヌさんのカバーもお願い」

 

「了解ですマスター!」

 

「アラ良いの?今からならそこの騎士さえ残せば見逃してあげるわよ?」

 

「……仲間を置いて逃げれ無いし、それに俺たちはこの時代を修復しに来たんだ、逃げに来た訳じゃない!」

 

「・・・そう、良いわよ、なら私が相手してあげる」

 

状況が動く

 

ジャンヌ・ダルクはアサシンの相手を、

 

アルトリアはランサーの相手を、

 

クー・フーリンとエミヤには剣士と修道女が、

 

そして藤丸とマシュは黒いジャンヌ・ダルクを相手にする。

 

「マシュ、とにかく耐えて、時間さえ稼げば他の人がカバーに入ってくれるから」

 

「了解しましたマスター!マシュ・キリエライト、対サーヴァント戦に移行します!」

 

「ふーん……貴方のサーヴァントが随分なことを言ってくれたけど、あいにく貴方もバカじゃないの?」

 

「マスターは馬鹿正直なだけです!」

 

「!?」

 

まさかの後輩サーヴァントからの発言に驚く立香。

マシュの発言からして恐らく自分のフォローをしてくれたのだろうが……彼女は素直なだけだ。

深い意味は無いだろう、無いったら無い。

 

「ハハハッ!馬鹿は馬鹿でも馬鹿正直ですって!?…………なら私がその正直な心を折ってあげるわよ」

 

 

すでに他のサーヴァントたちはそれぞれ離れて戦闘を始めている。

バーサーク・アサシンの相手をするジャンヌは相手の攻撃を回避しつつ機会を狙っている、向こうは宝具を使おうとしてるのか接近を試みているが、リーチの長いジャンヌの旗によって防がれている様だ。

 

 

アルトリアは一番遠くでランサーの相手をしている……が思った以上に相手も上手いらしい。

かの騎士王の剣撃をその手に持つ槍で受け流し、お返しと言わんばかりに薙ぎ払う。

もっともその程度で隙を晒すほど反転した常勝の騎士もまた弱く無い、だが膠着状態ではある。

 

 

一番激しいのはエミヤとクー・フーリンの2人だ。

エミヤは最初の一撃は弓を使っていたものの、修道女がキャスターの様に手に持つ十字架で遠距離攻撃を仕掛けて来ることから、すぐに夫婦剣に切り替え切りかかった。

 

そこを相手の剣士に邪魔されるも構わず突撃、脇を貫くかと思われた剣士の一突きは紅の槍によって弾かれる

 

「っテメェそんぐらい自分で避けろっ!」

 

「お前なら十分間に合う間合いだっただろう!」

 

「お前なんざを助ける意図はねえっよ!!」

 

と軽口を叩いてはいるものの、その連携は卓越したもの。

一方が前衛・後衛ではなく、常に相方の攻撃の間を埋める様に相手に仕掛けていく。

その相手もそれなりに連携が取れている様に見えるが、長年(?)の因縁ある2人には及ばない。

 

 

「……まあ大口叩くだけはあるみたいね、今の所拮抗してるみたいだし」

 

「…………………」

 

「けど・・・それって貴方達を助ける暇も無いってことよ?」

 

「マシュ」

 

「ハイッ!」

 

そしてマスターとマシュも戦闘に入る、相手は黒いジャンヌ・ダルク、竜の魔女となった救国の聖女。

その素肌は病的に白く、反対に着込み装備する装束と旗は黒い。

頭数は二対一だが実質的には一対一。

 

それでも・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・勝機はあった

 

「覚悟はできたかしら?まあ覚悟が無くてもどのみち容赦しないけれど——」

 

 

 

 

「・・・全く、結局はあの嬢さんとあんまり変わらんな、まずは周辺警戒から始めろ」

 

 

 

 

「ッ!?」

 

背後から突然かけられる声

 

だが未だに気配を全く感じない

 

当然の様にジャンヌ・ダルクは背後を振り返る

 

 

「とりあえずまぁ……アレだ、頭を冷やせ」

 

「・・・えっ?」

 

 

そしてフリーズした

 

何せ目の前には見覚えのない眼帯のオッサンが立っているのだ

 

・・・違うそうじゃない

 

そのおっさんが手に持つ物がおかしかった

 

 

その手に持つ物は

 

単純に赤く、

 

丸く、

 

取っ手があり、

 

上部が解放された円筒状で、中に液体を入れるやつ

 

「えっ、なんでバケt——」

 

 

バッシャアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ

 

 

俗にバケツ……ジャンヌは読めなかったが、黒く達筆な文字で《消火用》と書かれたバケツ

 

中身にはなぜか氷まで入っている氷水をそのおじさんは躊躇なく竜の魔女の頭からぶっかけた

 

 

「どうだ、お前最初に頭に水かけろとか言ってだだろ?

まあお前さん随分とおかしいことを口走ってたからな、ちょっと頭冷やせ、冷静になれば大体の事はわかる」

 

 

 

「………………………………………………………………………」

 

「「…………………………………………………………………」」

 

『………………………………………………………………………』

 

《……………………うわぁ、場が冷え切ったよ本当に》

 

 

もはや衝撃映像である。

あまりの衝撃に戦闘中だった全サーヴァントが一旦止まった、いや固まった。

何せ背後から容赦なく消火用バケツいっぱいの氷水を本人の要望通り頭へぶっかける人間がどこにいようか?

 

「・・・あの、スネークさん・・・一体なにを……?」

 

 

いた

 

 

と言うかここにいた、サーヴァントではあるが実行してしまう人間が

 

 

「ん、わからないかマシュ?この聖女……いやジャンヌ・ダルクと名乗ってる黒いのが白いのに向かって言ってだだろ〈頭から水をかけてほしい、おかしくなりそう〉ってな」

 

「ええ、聞いてました、私もマスターもみなさん全員聞いてました。

……ですが、私の少ない人生経験を持ってしても、あれは冗談というか皮肉といいますか、そう言った類のものかと思われます」

 

「いやマシュ……突っ込む所そこ……?」

 

「……なるほど確かにそうかもしれん」

 

《いやそうだと思うよ……》

 

どうにかこの場にいないおかげで固まってはいないロマンが辛うじて突っ込む

 

「だが俺はこの黒いのがおかしいと思った、だからキンキンに冷やした水をかけてやった」

 

「誰が……誰がおかしいですって!?」

 

「お前以外に誰がいるこの馬鹿が!」

 

「チョッ———!?」

 

 

バッシャアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ

 

再び竜の魔女を襲う氷水。

 

もはや何も言うまい、と言うか言えない。

ポタッポタッと水が滴る音がこのフランスの廃墟で響いた。

 

おかしい、本来屋外で、ましてや戦闘中なのであれば水の滴る音など聞こえるはずが無いのだが。

 

「……先輩、これが水の滴るいい女、と言う奴でしょうか?」

 

「絶対違うし、ここで使う言葉じゃないよねマシュ!?」

 

『………………………………………………………………………』

 

再び膠着する戦場、いや固まる空気。

コレどうしようかと誰もがわからず、とりあえず目の前で相手をしていた自分の敵を見る……が、その相手もどうしようかと敵なのにアイコンタクトで聞いてくる始末である。

とりあえず今は動かない方がいいだろうと敵味方問わず全会一致で決まり、構えてるフリだけして様子を見守ることにした。

 

「……どうやら冷え切ったみたいだな」

 

《この場の空気がね……》

 

おかしい、こんなはずじゃなかった、一体誰が原因だ。

 

「…………何ボサッとしてるのよ」

 

「ん?」

 

一体誰が原因だ?

 

「…………さっさと!さっさとこのジジィを捕まえなさいよおおぉっ!!」

 

「ジジィ?・・・一体誰の事だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その叫びが命令だったからだろうか

 

黒いジャンヌ・ダルクに従う五騎のサーヴァントは一瞬にして

 

オッサン……スネークの元に、召喚主ごと囲む形で転送された

 

 

かくして、オッサンVSサーヴァント5体という構造が出来てしまった。

 

 

「「ッ!!」」

 

いち早く気付いたジャンヌ・ダルクとクー・フーリンが駆け出す。

 

だがその俊足を持ってもまず間に合わない間合いだった。

 

少なくともスネークに一撃を加える猶予はあたえた。

 

 

「マシュッ!」

 

「ハッハイ!」

 

続けて一番近いマシュが駆け出す……が、気付くタイミングが遅すぎた

 

藤丸の令呪発動も間に合わない

 

 

「さて……死になさい」

 

単純で明快な殺害宣告

 

他のサーヴァントも駆け出すもやはり出遅れた

 

紳士が

 

淑女が

 

修道女が

 

剣士が

 

魔女が

 

容赦なく蛇を仕留めんと中心に向かって一撃を放つ

 

 

だが相手は接近戦において最強の傭兵だった

 

 

「遅い」

 

手に持つバケツを前にいる剣士へ

 

そのまま目の前に迫る旗を右に避ける

 

「マズッ」

 

「ッ!」

 

そのまま旗は背後にいる黒い紳士の眼前で止まる

 

そのまま槍は黒い魔女の胸で止まる

 

互いに相手を仕留め損ね固まる

 

「くっ付いてろ」

 

固まった魔女を一瞬拘束

 

旗を落とし槍をもつ紳士へ投げ飛ばす

 

「 」

 

ナイフを取り出し振り向きざまにナニカを弾く

 

同時にハンドガンを取り出し撃つ

 

放たれた弾丸はまっすぐ……サーベルの持ち主である剣士の顔めがけ飛ぶ

 

だがそれも一瞬、すぐに回避される

 

構わず追撃

 

相手もサーベルで高速で二撃・三撃とカウンターを狙う

 

だが何処ぞの両手持ちで魔力放出のよりぶっ飛んで来る聖剣と比べれば重くない

 

突きをナイフで右肩へいなし接近

 

CQCの間合いに完全にいれた

 

右足で相手の膝を蹴る

 

傾いた体はそのまま吸い付く様にスネークの胸へ

 

右手で相手の肩を押す

 

サーベルを落とさせ拘束する

 

「ッ!?」

 

「どうしたッ」

 

マジックでも見た様な顔をして、と最後まで言わずその場で拘束をキャンセル

 

地べたに寝かせ十字架を持ったまま突っ込んできた修道女に構える

 

「セェッ!」

 

十字架が眼前を通り越す

 

本来ならありえない光景だが驚く暇はない

 

そのまま間合いに入った修道女

 

突っ込んで来た勢いそのまま剣士の腹の上に叩きつける

 

「ガアァッ!?」

 

「ッチ!」

 

これで4人 残るは

 

「……気配遮断なら上手くやれ」

 

背後へ振り向きハンドガンの全弾を撃ち込む

 

当然の様にまっすぐ飛ぶ弾丸

 

だが何も無いはずの空中で潰れる

 

見ると人を模した像が現れ、次に淑女がその背後から現れる

 

それを気にするでもなくスネークは駆けつけてくるマシュの方へ駆ける

 

それでスネークの役目は果たした

 

だがいち早くやられた黒ジャンヌがいち早く復帰しスネークに肉薄する

 

「さっきのお返しよっ!!」

 

「さっきと同じ言葉を返す」

 

「ッ!」

 

背後から迫る気配

 

すぐに振り返り迷わず旗を振り下ろす

 

その振り下ろされた穂先が純白の旗と交わり火花を散らす

 

「大丈夫ですか!」

 

「今度からはもう少し早くカバーに入ってくれ」

 

「ええそうですね、“おじさん”」

 

「……よしてくれ」

 

「何を悠長に話してるのかしらっ!」

 

一旦下段に構え相手の旗をかち上げ、距離を取る黒いジャンヌ・ダルク。

その勢いのまま滑りながらも下がるジャンヌ・ダルク。

 

その隙を追撃しようと敵のランサーが動く・・・が

 

「させねえよッ!!」

 

「……さすがに甘くは無いか」

 

同じ様に横合いから紅い槍が突き込まれる、敵ランサーは追撃を断念し紅い槍を払う。

紅い槍の操者……クー・フーリンはそれ以上の追撃をする気は無いらしく、そのままスネークらと合流、マシュが盾を地面に突き立てることで藤丸・スネーク・クー・フーリンと敵の間に壁を作り、そのマシュの隣に旗を掲げ同じ様に境界線をジャンヌが作る。

 

「すまんな坊主、少しアドリブを入れた」

 

「いや……うん、けどまぁ……問題はない、かなぁ……」

 

「……アレをやって、そりゃねえよ」

 

「そう言うな、それともう少し時間はあるか?」

 

「うん、それは問題無いよ……けど何をする気?」

 

「おいおいそう怪しがるな、別に変な事はしない、ただ言いたいことを言ってやるだけだ」

 

「……まあそれなら、けど煽りは無しだよ」

 

「了解だ」

 

再びこちらと構えんとする五騎のサーヴァント。

バーサーク・ランサーと呼ばれていた紳士と修道女は姿が見えない他のサーヴァントを警戒しているらしい。

その他のサーヴァントはまるで仇でも見るかの様に歩み出てきたスネークを睨む。

 

「……今更敵だどうだと言うつもりはないが……そこまで睨まれる様なことをした覚えはないぞ」

 

「「え」」

 

「なんだ、マシュとお前はわかるのか?」

 

「………スネークさん、後でお話が」

 

「了解だ、だが今はあっちのお前の方だ」

 

「・・・私に何よ」

 

何故心当たりがないのか謎だが、とりあえずそれは置いておき。

訝しげながらも黒ジャンヌは聞いてきた……イライラしているのかもしれないが。

 

「とりあえずもう一度言っておくが……頭を冷やせ、今のお前は何もかもが空っぽだ」

 

「何を言うかと思えば……私の何が空っぽだと言うの?」

 

「そんなことを一々敵である俺が言うと思うか?

まあ誰にでもわかるのはお前の頭が空っぽだと言う事だろうが」

 

(スネークさん!?)

 

つい先ほどマスターと了承したことをあっさり破る伝説の傭兵。

こちらのジャンヌも驚いているが向こうのジャンヌ・ダルクは……口角が引き攣っているが先ほどまで一方的にやられた事を学習したのか、その場で事を荒げず、スネークに言い返す。

 

「ハッ!そんな売り言葉に私が買い叩くとでも思ったの?

私そもそも文字も読めないのよ、頭が悪いと言われればその通りよ」

 

なお手とか足とかはプルプル震えている模様、きっと武者震いだろう。

 

「いや、頭が悪いかどうかは知らん、ただ“空っぽ”だ」

 

「……どう言う意味よ」

 

「なら一つだけ聞いておく、お前が街を破壊するのは、フランスを蹂躙する理由はなんだ」

 

「・・・ハアァ?そんなのそこに居る私の絞りカスにも言ったでしょう?

もうすでに私に主の声が聞こえない、これほどの悪業をして居るのに……つまりこの国は主から愛想をつかされた、この国に価値など無い、鼻からこの国に救済される価値など無かった、故に破壊します」

 

「……お前は気付いていないのか?」

 

「・・・何を」

 

「いや、気付いて居ないフリか?」

 

「だから何よ!?」

 

「……まあどちらでも構わんが、ただ自分の憎しみだけで中身の無いその振る舞いはお前自身を殺すぞ」

 

「……一体誰が殺すのかしら」

 

「さあな、少なくとも俺じゃ無さそうだ。

……俺が言えることは言った、あとは自分自身で見つけてみろ」

 

「何を言ってるか私にはさっぱりわからないのだけれど……まあ良いわ、どうせこの国は終わりよ。

私が全てを蹂躙してこのフランスを沈黙する死者の国に作り変えるだけです」

 

そして帰りますよ、と自分たちのサーヴァントたちに命令する、どうやら撤退する気らしい。

それでも何をしでかすかわからないジジィが居るため背中を晒したりなどの隙は無い。

 

「なっ逃げるのですか!?」

 

「逃げる?何を言うのです?

これから別の街を焼くだけです、ここに長居して居ても無駄ですし居る意味もありません。

私自身の収穫はありましたが、それも絞りカスがいたと言うだけの話。

それにここで決着を付けるには少々戦力不足ですから」

 

「っ!!」

 

違う、撤退ではなく次の街へ移動するらしい。

確かにここで争っても向こうは戦力が減るだけ、目的が言っている通りフランスの蹂躙ならここで争う意味は一切ない、ここを離脱し別の街を襲った方が良いだろう。

 

その意味を理解したジャンヌが駆け出そうとするが、その前にスネークが肩に手を掛け留める。

 

「落ち着け」

 

「っですが!」

 

〔もう坊主が手を打った、とりあえずマシュと宝具の準備をしておけ〕

 

「……わかりました」

 

駆け出しそうなジャンヌにだけ聞こえるように言うと、スネークは踵を返しマスターがいる方へ戻って行く。

そのマスターもゆっくりと頷いていた。

 

「アラ?見逃してくれるのかしら?」

 

「追撃したいのは山々だが……あいにくマスターからの命令だ、俺はここから動けん」

 

「あっそう……なら失礼させてもらうわよ」

 

「ただ伝言だ」

 

「……何よ」

 

スネークはマシュから一歩程下がった所で振り返り、最後の伝言を伝える。

 

「まずお前らが乗ってきたワイバーンな、全てこいつが処理した」

 

「素材が大量ニャ!!」

 

そう言うなり、スネークの足元からヘルメットがポコっと現れる。

そこからピッケルと大量の鱗やら牙やら爪やらを掲げたネコ・・・トレニャーが飛び出てきた。

 

「・・・だから?私はいくらでもワイバーンを呼べるのよ」

 

「らしいな」

 

スネークはそう言って懐から葉巻を取り出し、ライターに火を点け、おもむろに吸い出した。

その余裕そうに一服している姿にイラつきながらも、なにをされるかわかったものじゃない黒ジャンヌはおとなしく待って居た。

その姿を見てスネークは、口に咥えた葉巻を指に挟み、煙を吐く。

 

……何故かため息も混じった煙を吐いて、一言吐いた

 

 

 

「ならあの闇に飲まれろ」

 

 

 

スネークが指をさす方向……スネークから見て左の方向に一筋の光が立っていた

 

いや違う

 

アレは一筋の“闇”だった

 

「っ宝具!?」

 

規模からして対城宝具

 

いま黒ジャンヌらは一纏まりになって居る

 

このままなら全員まとめて座に帰るだろう

 

すぐに危機的状況だと判断したジャンヌは宝具を展開し威力を相殺する

 

吼え立てよ、我が(ラ・グロンドメント・デュ)——!?」

 

 

 

壊れた幻想(ブロークンファンタズム)

 

 

 

同時に連続した爆発が黒ジャンヌらの周りで巻き起こる

 

当然宝具は開帳できず、その代わりに放たれる光を飲む闇の奔流

 

 

 

 

「卑王鉄槌、極光は反転する……光を呑め!約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!!」

 

 

 

 

敵に迫る最強の聖剣が放つ魔力の粒子は正に魔力の塊

 

カルデアが今放てる最大火力

 

その一撃が光を呑み、一帯を敵味方関係なく呑み込む

 

 

「偽装登録完了……宝具展開します!」

 

「我が旗よ、我が同胞を守りたまえ!我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)!!」

 

 

その余波をマシュとジャンヌの宝具によって完全に無効化する。

 

それでも当然ながら直線上に存在した瓦礫は闇に消され、余波で粉砕されていく

 

 

「飛ぶ飛ぶ飛ぶニャ!!飛んじゃうニャハ!?」

 

「おうっと、捕まえた」

 

「ニャー……死ぬかと思ったニャ」

 

 

その余波をモロに受け、吹っ飛んで言ったトレニャーをクー・フーリンが危なげなくキャッチする。

 

そんな中で、スネークはマスターの命令通りその場から動かず立っていた。

 

……やがて暴風は止み始め、膨大な闇はたち消え、粉塵が舞い、あたりは静寂に包まれて行く。

 

再び懐を探り、携帯タバコ消しを取り出し咥えた葉巻を仕舞う。

 

 

「やったの……でしょうか?」

 

「マシュ、それフラグだからやめようか」

 

「あれを喰らって生きてたらどうしようも無いがな」

 

「スネークさんはわざとやってるよね?」

 

 

何故だろうか、藤丸のツッコミスキルがここ数十分で格段に上がった気がするのは。

もっとも、その対象のほとんどがスネークだったりする訳だが。

 

そんな「やったか!?」とか「あれを喰らって生きてはいまい……」などと定番を口にした所為だろうか。

粉塵が晴れると、そこにいたであろう五騎のサーヴァントは消えていた。

それこそ微塵の痕跡も無く。

 

「……おいロマン、これは倒したのか?」

 

《……いいやこちらで観測した限り、エクスカリバーの光には呑み込まれたけど五騎のサーヴァントは全員無事だった、その後4騎のサーヴァント反応が消えて残った一騎は何かに乗ってその場を離れて行った。

多分なんらかの宝具で短時間だけ攻撃を無効化したんだと思う、その後に令呪で他のサーヴァントを転移させたジャンヌ・ダルクがワイバーンを召喚して逃げたんじゃ無いかな》

 

「……敵に防御様の宝具を持ったサーヴァントなんて居た覚えが無いですけど……」

 

「可能性があるのは修道女格好のサーヴァントだが……まあ取り逃がしたのはしょうがないな」

 

どうやら完全に撤退したらしい。

だがロマン曰く、聖杯があるとはいえルーラーが何体ものサーヴァントを何回も令呪を使って転移させたなら相当な消耗があっただろうと言う、とりあえず今日は追撃は不可能だろうと推測されるらしい。

 

その間に締めを飾った黒い騎士王とナイスアシストをした赤い弓兵が合流した。

 

「どうだったマスター、最大火力で放ってやったぞ。

……まあ生憎あまり手応えはなかったがな、せいぜい1人かすった位か、一体でも仕留めたかったが」

 

「けどありがとうアルトリアさん、多分しばらくは派手に向こうも動けないだろうし」

 

「……貴様の力になれたならそれでいいがな、そう悠長に構えても居られないのは事実だろう」

 

「だな、向こうは聖杯持ちだ、一時的な休戦状態にはなるんだろうが——」

 

「休戦は次の戦いの準備期間だ、大方向こうも戦力増強に走るぞ」

 

「うーん……やっぱりエミヤさんに追加で宝具を使ってもらった方が良かったかな……」

 

「そこまでにしておけ坊主、反省点ならそこの騎士王にも俺にも沢山ある。

だがここで止まる暇は無い、今は初陣でここまで指揮を取れた事を自身にして前を見ろ、お前は十分指揮官として優秀な部類だ、まだまだ半人前だがな」

 

「……そうだね、今は特異点の解決だもんね」

 

「そうだぞマスター。君はまだ未熟だが、少なくとも私が君と同じ年だった時より遥かに優秀だ、もっとも私から言わせてもらえるなら……少々不気味な位だがね」

 

「えぇ……何でエミヤさんから気味悪がられなきゃいけないの……」

 

「そういじめてやるなエミヤ」

 

「そうだな、ほどほどにしておこう」

 

こうして初日の戦闘は敵の撤退という形で終了した。

得られた成果は敵もまたジャンヌ・ダルクであることと、敵の目的、そして藤丸のマスターとしての力量と言ったところだろうか。

 

「ニャー!?素材がばら撒かれたニャー!!」

 

「・・・そういえば、何だかんだあのネコ、とんでもねえ活躍じゃねえか」

 

あとトレニャーがいつの間にかやってのけたワイバーン狩り(?)による素材だろうか。

 

「おいトレニャー、何もそんなに必死にならなくても大丈夫だろう、素材は逃げたりしない」

 

「オイラ、バックパックにワイバーンの新鮮なお肉を入れたから早く食べたいのニャー!」

 

「よし探すか!!」

 

「私も手伝おう」

 

あと肉、ついでに食欲。

 

 




どこかの王妃様のセリフを奪っていくスタイル、そのせいでスネークにとばっちり。

何かご意見・ご感想があれば作者の参考にも励みにもなります。
何かありましたら感想欄にてお知らせ下さいm(_ _)m。


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邪竜百年戦争オルレアン 4−1


お久しぶりです、そして初めましての方は……いるのかな?
そんなこんなで、どうもdaaaperです。
無事に大学受験は終わり、結果は桜ではなく梅が咲いた結果でしたが個人的にも周りの方からもアリだと言葉を得ながら過ごしています。

引っ越し、大量の書類の山、教科書購入、入学式の準備、その事前ガイダンス等々、
新大学生を問わず、新一年生、新社会人はこの時期大忙しですなぁ、かくゆう私もそうなんですが(笑)

そんな訳でまだ安定して投稿できませんが、3万字ほどかきあげたので一週間ほどかけて投稿を再開しようと思います。
本当はフランス編の終盤まで書き上げてから投稿しようと思ったのですが……



読者の反応が無いとツライね!!



本っっ当にモチベーションが上がらない!
1日千字じゃフランスが終わらない!
みんな、感想書いて!そしたらめっちゃ早く書くから!

……感想書いていただけるだけで作者というのは単純で書くスピードが上がったりなんだりします。
その分、出版とかしている方の場合、半端では無いプレッシャーを会社とか編集さんからかけられるとか。
それでも嬉しいものはやっぱり嬉しいです。

今日の朝、FGO開いたらついにアナスタシアが来るとか。
本当に四月に来るか不安でしたが思ったより予告通りに第2章は開始できそうですね。
それまでの暇つぶしのお供になれば作者としては幸いです。

それでは、前書きが長くなりましたが本編をどうぞ。





※半年以上放置なのに全話のあらすじなんて作ってません、
お手数ですが記憶が曖昧でしたら前話、又はフランス編から見て最新話を読むことをオススメしますm(__)m


 

 

 

カルデア一行はラ・シャリテを離脱、その後次の街を目指して南下していた。

ロマンの予想通りなのか黒ジャンヌからの追撃も無く、朝方の遭遇戦以降はワイバーンとの全く戦闘も無く、陽も沈みかけていた。

 

その間にジャンヌから襲って来たサーヴァントについての情報を得ようとしたがあまり多く無かった。

ルーラーとして一応現界している彼女だが、黒いジャンヌが言っていたようにある意味搾りかすである今の彼女は十全の力を発揮できないため、ルーラーの特権である真名看破もまた発揮できなかった。

ただ、それでも確かに“彼女”は“私”であること、そして他のサーヴァントには全員狂化のスキルが付与されているのはわかったらしい。

 

 

「…………………………」

 

「そろそろ夕暮れ時だ、ここらで拠点を張って休んだ方が良いだろう。

ここからなら朝に動けばすぐ次の街に向かえるだろうしな、そうだろうお嬢さん」

 

「…………………………」

 

「……ジャンヌさん?」

 

「・・・ハッハイ!何ですか!?」

 

「大丈夫?さっきからずっと黙ってるけど……」

 

「あっいえ、心配はいりません、ただ先ほどの戦闘で疲れただけですから」

 

「そっか、じゃあここら辺で今日は休もう、ここからなら次の街も近い?」

 

「ええ、そうですね」

 

「なら決まりだな、俺は枝を取ってくる、いくぞトレニャー」

 

「ついでにお肉も焼くニャ」

 

「待て貴様ら、私も付いて行く」

 

「待てお前ら」

 

このまま放っておけば勝手にパーティーが始まるだろう、焼肉である、当然マスターを放っておいて。

そうなれば招集はできても収集が付かなくなるのは(弓兵の目にだけ)明らかだった。

 

「どうしたエミヤ、お前も来るか?」

 

「いや違う……そのワイバーンの肉、私が調理しても構わないだろうか?

なに、燃料を取りに行っている間に下ごしらえはしておこう」

 

「……おミャーさん、ハンターさんじゃニャいのにワイバーンのお肉調理できるのかニャ?」

 

「問題ない喋るネコ、こいつは皮肉屋ではあるが料理の腕だけは一流だ、私が保障しよう」

 

「料理だけじゃ無いだろう……まあ確かに、こいつの料理はうまいな」

 

「じゃあ預けるニャッ!」

 

そう言うとトレニャーはバックパックを下ろし、ガサゴソいじると生肉をポンッと取り出した。

 

「……まさかとは思うが、生肉をそのまま入れて居たのかね?」

 

「衛生的だニャ?」

 

「待て待て、生肉をそのまま入れて置いてそもそも新鮮な訳が……なん……だと……?」

 

「とりあえず肉は無事だな、なら俺たちは適当に薪を取って来る、いくぞトレニャー」

 

「ハイニャー!」

 

エミヤがまるで先ほど捌いたかのように新鮮で身の締まっている良い肉に心の中で震えている中スネークとトレニャーは森へ入って行く、当然アルトリアは残った、枝などわざわざ取りに行く王などいるはずがない。

 

《うん霊脈も近いね、そこから少し南の方にあるよ》

 

「じゃあサークルの設置も今のうちにしておこうか」

 

「あっそれなら私も付き添います」

 

「それなら私はテントと肉の下ごしらえだな」

 

「テントの方は俺がやるぜ、こう言う時にルーンは便利だからな」

 

なんだかんだ自ら動くサーヴァント達。

これでも世界中を旅したり戦士だったりするので野宿には当然なれている、それぞれの得意分野に別れて野宿のための作業を進めて行く。

 

「ふん、なら私はゆっくりと待つとするか」

 

「「いや働けよ」」

 

だが王様は食べるだけが取り柄である。

……と言うのは本人も流石に無いと思ったのか、周辺の状況を見るのに邪魔な木を切り倒していく。

それならスネークとかは別に取りに行かなくても良かったんじゃないかと思うも、言うのも面倒だと思ったエミヤは投影したフライパンとまな板で肉の調理に取り掛かる。

 

「じゃあ俺たちも行こっか」

 

「はい先輩」

 

「……ええ」

 

やることをやるのは自分たちも。

自分だけ楽しようという発想はない藤丸は、マシュとジャンヌを連れて召喚サークルを設置しにいく。

……それだけなら楽だろ、というのは野暮なツッコミである。

 

実際の所、カルデアとの強力なラインである召喚サークルは一応必要ではあるが、スネークの宝具の方が便利かつ品揃えが良かったりするのも事実だ、それに物資の不足もスネーク曰くまず心配しなくていいらしい。

だが同時にスネークは

「俺が常にいるとは限らんだろう、ならサバイバル技術は必須だ」

とマスターである藤丸や、デミ・サーヴァントとはいえ生身であるマシュに(食料調達の意味で)生き残る術を教え、自身もまたできる限り現地調達が出来るならばそちらを選ぶと公言した。

これには他のサーヴァントも同意した。

 

 

 

……まぁ若干一名、飯はよこせと譲らなかったのだが

 

 

 

〈回想〉

 

『それほど便利な宝具なのなら定期的に食料を運ばせるくらい造作もないだろう?』

 

『だがお前さんのためだけに使うのはなぁ……』

 

『良いから発注しr——』

 

『あっ、あのアルトリアさんっ、スネークさんに迷惑かけるなら調達した食料はアルトリアさんの分だけ抜きと先輩が——』

 

アルトリア、一瞬のうちに藤丸の元へ馳せ参じる。

 

『私は貴様の剣だ、それ以上でもそれ以下でもない、ただ貴様のためだけに力を振るう。

そんな貴様の剣は定期的なメンテナンスが必要不可欠だ、具体的には燃料が必要だ、それも膨大なな。

燃料が不足すれば満足に力を発揮できないのは当然だろう、貴様も当然知ってるハズだ、自然の摂理だ。

だから私から食事を奪うということはつまり私に自害しろと言う事と同義だ、それでもマスターであるお前は私がこの傭兵に食事を頼む代償に食事をするなというのか……!?』

 

藤丸、ビビることもなく淡々と答える。

 

『いや、食べちゃいけないとはさすがに言わないよ?

ただ人に迷惑かけてまでわざわざ皆んなで採ってきた食料を一緒に食べないで、アルトリアさんがレーションを一人で食べるなら、俺たちもアルトリアさん抜きで——』

 

『一体いつから私がスネークに頼んでまで食事を提供させると言った、そんなことは言ってない。

そも私はスネークに頼んですらいない、迷惑などかけてないぞ!……だからマスター、食事を、だなっ』

 

『スネークさんに何だって?』

 

『っ何を言っている、私はスネークに迷惑など——』

 

『な・ん・だ・っ・て・?』

 

『…………………………………』

 

『……とりあえず、勘弁してやれ坊主』

 

〈回想終了〉

 

 

 

などというやり取りもあり、これによって暴食王はより一層マスターに忠誠(?)を誓う事となった。

ちなみに黒くなった騎士王をここまで手綱を握ったのは藤丸が初めてだとエミヤはニコやかに、かつ爽やかな笑顔でマスターに語った。

ついでにスネークはマスターにドリトスの支給はどうするか聞いた際、鬼のような顔(裁定者の談)でスネークに迫ったが、あくまで両者の間で決めた事なのだからとマスターがあっさりOKを出したことで、その忠誠心はより強固なものになった。

 

ついでにスネークには若干当たりが優しくなった……かもしれない。

 

 

「けど、ワイバーンのお肉って食べれるのかな?」

 

「どうでしょう、私は食べたことがないので……ただ、ワニの肉は地域によっては食べられているようですし、ワイバーンも・・・」

 

「………………………」

 

「いやどんな地域にワイバーンを食べるほどの環境があるのさっ」

 

「それもそうなのですが……トレニャーさんの国?とか」

 

「……ありえるかも」

 

「………………………」

 

〔……先輩〕

 

〔うん、なんかジャンヌさん落ち込んでる……?〕

 

〔どう……しましょう?〕

 

〔マシュ、パス〕

 

「ええ!?」

 

「どっどうしました!?」

 

「あっいえっ!?えっ……ええっ!あそこに鳥がいたのでびっくりそとんですぅ!!」

 

「そ、そとんです?」

 

「マシュ、噛んでる噛んでる」

 

「あっ///」

 

別にマシュが謝る必要は何一つ無いのだが、テンパってしまっているマシュがそれに気付くはずもなく。

そもそも人を思いやることはあっても、それをどうにかしようと行動する経験自体彼女にはあまり無かった。

 

「……ふふ、やっぱり私、皆さんと一緒に居れて嬉しいです」

 

「やっぱりってことは……やっぱり何か悩んでました?」

 

「……ええ、もう一人の、竜の魔女となった“私”。

確かに彼女はもう一人の私でありジャンヌ・ダルクなのは間違いありません……ただ」

 

「ただ、信じられない?」

 

「……例え私が彼女の絞りカスだったとしても、私があの様な姿になったとしても、この国にあそこまで恨みを持つとは思えないのです」

 

そう言って再び暗い表情に戻るジャンヌ。

その表情を見て藤丸は思ったことをそのまま本人に向かって言うことにした。

 

「えっと、俺が言って良いことかはわかんないけど……ジャンヌさんはフランスを恨んでないの?」

 

「……そう、ですね。

私は確かに裏切られたでしょう、それに嘲弄もされたでしょう、それだけのことをされたなら恨みを持つのも多くの人からすれば当然でしょう。

……ですが私には、この国が、この国の人々がいた、生き残った……それだけで満足だったのです。

この国に仲間が居た、だから私がこの国を、祖国を恨むことは絶対にありえない」

 

「けど……あのジャンヌさんはフランスを恨んでた、よね……?」

 

「……先輩に同じです、私も黒いジャンヌさんの話を聞く限り、処刑された恨みを元に復活したかの様な印象を受けました。

実際には気配からしてサーヴァントなのは間違いないですから、正確には復活ではないですが……」

 

「ええ、間違いなく“彼女”はサーヴァントです。

…………ですが未だにアレが“私”だとは……到底信じられないのです」

 

「……………………………」

 

一般に、ジャンヌ・ダルクの生涯を聞き、特にその最後を聞けば無念の最後だろうと。

裏切りにも等しい事をしたフランスに対して恨みは当然持つだろう、そう思うだろう。

だがその本人はルーラーとして英霊の座に就き、それによって“自身の周りに起きていた全て”を知っても尚、恨みを持つことはなく主へ祈りを捧げ万人に博愛をもたらす事を選んだ。

 

それが自分だと・・・思っていた

 

だがあの黒いジャンヌ・ダルクは、竜の魔女はこの国を、人々を恨み、そして復讐を果たそうと未来を壊す規模で人々を虐殺し街を蹂躙し国土を荒らしており、この国を死者の国に変えるとまで宣言した。

強大な力を持つとどんな人でも狂うことは彼女も理解している、それは自分自身でも例外では無いとも。

 

だが果たして、恨みを持つかと聞かれれば・・・否である。

 

それなのに“私”は強い怨みを持って存在していた、それが彼女にとって一番の疑問であり、

 

同時に認めたくない事実だった。

 

「今の私は存分に戦うことは出来ませんが目の前にいる同胞を守る力はあります、この国を救い世界を救うために戦うことも厭いません、その意味でも私はあなた達と一緒に入れて嬉しいです。

……だが同時に私はこの国を破壊している、それがどうしても私は許せない」

 

「…………ねぇジャンヌさん。

確かにジャンヌさんは何も恨んで無かったんだと思うし、今もそう思ってるならそうなんだと思うよ」

 

「……先輩?」

 

「藤丸さん……?」

 

「けど・・・同じくらい恨みに恨んだジャンヌさんもいたんじゃ無いかな?」

 

「それは……ありえません」

 

「うん、ありえないかもしれない、少なくとも俺の目の前にいるジャンヌさんはそうだと思うよ。

けどジャンヌさんは人間だから、無意識のうちに人を恨んだりしたのかもしれない。

いま仲間になってるアルトリアさんも、本来はあんなに口は悪く無いんだってエミヤさんは言ってた。

アルトリアさん自身も、私は本来の私が選ぶはずのなかった選択をした自分だって言ってた、そういう存在も英霊の座には居るんだって。

ジャンヌさんがジャンヌさん自身を許せないのは当然なんだから、その…………」

 

「?」

 

「……遠慮しなくて大丈夫です、私は何を言われても怒りません」

 

「…………こんなことジャンヌさんに言うの色々な人に怒られそうだけど、あの黒いジャンヌさんもやっぱり自分なんだって認めてあげた方が良いと思うんだ」

 

「「……………………………………………」」

 

マシュが言った、自分のマスターは正直だと。

実際、藤丸立香という魔術と関わりの無かったこの人間は一般人であり特筆することは特にない。

ただ幸運なことに、彼には常識が備わっていて、加えて素直な少年だった。

 

 

 

「だって今のジャンヌさん・・・小学生みたいだし」

 

 

「「・・・・・・・・・・・・・え?」」

 

 

 

 

ただ世の中、モノは言いようである。

 

素直な少年も言い方を変えれば馬鹿正直である。

 

 

 

 

「あっあの先輩っ?いま何とおっしゃったのか聞き取れ無かったのですが……」

 

「だからさ。怒られるかもしれないけど、黒いジャンヌさんもここに居るジャンヌさんもジャンヌさんなんだから悩んでもしょうがないと思うんだ。

確かに認めたく無いのは分からなくも無いけど……それって怒られる事しちゃったり、やりたいくない事をやらされる小学生がイヤイヤって言ってるのと一緒でしょ?」

 

「え、えっと……つまり先輩は、ジャンヌさんがまるで嫌なことから逃げてる小学生みたいだ、と……?」

 

「うん」

 

「そ、そうですか……」

 

思い返してみれば……まあ確かにジャンヌ・ダルクの発言は何となく否応にも認めようとしない駄々っ子にも思えなくも無い。確かに自分とは違う“自分”……それがましてや愛している国を破壊し人々を虐殺するような“自分”など誰でも認めたくなど無いだろう。

 

だがそれはダメだと藤丸はすでに教えられていた。

 

「だって実際には目を背けようが気付かなかろうが存在している事に変わりは無い。

たとえ敵でも失礼だし目を背けちゃいけないことなんだって、だから英雄は英雄って呼ばれる。

嫌なことから目を背けてるだけなら、それは独りよがりなだけでしょ?」

 

「っ………」

 

「だからさジャンヌさん……小学生みたいって言う言い方が正しいのかあまりわかんないけど、ジャンヌ・ダルクっていう英霊はいま俺たちの目の前にいるジャンヌさんでもあり、いまフランスをメチャクチャにしてるジャンヌさんでもあると思うんだ」

 

「………………………………………………」

 

 

この時ジャンヌ・ダルクは、側にいた2人は分からなかったが、先に言った言葉通り怒らなかった。

 

何も言わなかった。

 

言えなかった。

 

何せ自分より歳下である少年に諭されたのだ

 

しかも自分が考えてもいなかった

 

……いや、見ようとしなかった事実を知らされたのだ

 

 

「……ってスネークさんが言ってたでしょ?」

 

「あっ・・・確かにレイシフト前におっしゃってましたね」

 

「っ今のはあの人の言葉なのですか!?」

 

「うん、スネークさんから教えられたんだ。

“俺たちは綺麗な物に目を向け醜いものには目を背け瞑る、だけど実際には目を背けようが気付かなかろうが存在している事に変わりは無い”ってね、だから嫌なことでも忘れちゃいけないんだって」

 

「そう………………ですか」

 

「……マスター霊脈につきました、召喚サークルを設置します」

 

「あっうん、お願いマシュ」

 

いつの間にか歩き着いていた場所にマシュが盾を置く。

瞬く間に青い光が瞬き、カルデアとのラインが構築された。

本来ならここでロマンかダ・ヴィンチちゃんが出てくるが……なぜか今は誰も出てこなかった。

 

「……私は、聖女ではありません」

 

代わりに藤丸の隣にいるジャンヌさんが語り始めた。

マシュが一瞬藤丸を見るも誰も止めるわけもなく、ルーラーであり半端なサーヴァントは口を続けて動かす。

 

「私はこの国の田舎で育った単なる田舎娘です。

藤丸さんやマシュさんは私を聖女と思われるかもしれませんが、そうでは無いのです。

私は祖国を救わんと旗を取りました、それは事実です。

ですが……取ったのが旗であっただけで戦わなかった訳では無いのです、この手は血で染まりました」

 

「「……………………………………………………」」

 

「それでも私は構わなかった。

祖国を、この国を、この国の人々を救えるのであれば、私は旗を手に取り戦場を駆け、この旗を振りました、そこに後悔はありません……ですが私は構わなかった、考えもしなかった、自分の行いがどれほどの犠牲の上で成り立つものかを」

 

その言葉に半端なものは無かった。

 

ただ強く、ハッキリとした意志が言葉の1つ1つに宿っていた。

 

ただそこで、ジャンヌ・ダルクだけが話していた、それだけだ。

 

「……だから聖女じゃない?」

 

「ええ、私が聖女と呼ばれるのは結果論に過ぎません。

ただ自分が信じたことのために旗を振り、そのために多くの犠牲を出した、そんな小娘を聖女と呼ぶには少々物騒過ぎますから。

そんな元々は物騒な小娘が私なんです、“ああいう私”がいてもおかしくないのかもしれませんねっ」

 

そう言い、微笑みながら語るジャンヌにはもうすでに、“自分”から目を背ける様な少女では無かった。

そこにはサーヴァントが、半端では無い“確かな”英雄がいた。

 

「……やっぱり英霊ってすごい人たちなんだね」

 

「?それはどういう意味です?」

 

「だってさ、俺だったら逃げたり見えないフリをすると思うよ。

けどジャンヌさんはあっさり認めた、それってすごく立派で難しい事だと思うんだ」

 

「……そうかもしれませんね」

 

「それにさ、確かにジャンヌさんは本人が言うなら聖女じゃ無いと思うよ。

けどさ、英霊として、サーヴァントとして呼ばれるってことは生きていたジャンヌさんを知っている人達が居て、そんな人達が何百年も『こんな事をしたスゴイ人が居たんだ』って語り継いで来たって事でしょ?

アルトリアさんとかクー・フーリンさんは500年以上だけど、ここに居るジャンヌさんもそれだけ多くの人が覚えていたいって思ったからここに今ここに居られる人なんだなぁ……って」

 

「そ、そんな風に言われると、私の事を褒めてくれてるのは嬉しいですが恥ずかしいですよっ!」

 

「……けど先輩の言いたいことはわかります。

アルトリアさんやクー・フーリンさんは、その武勇がそれこそ千年も語られて私たちでも知っています。

スネークさんは功績とカリスマ性を世界中に知らしめてました。

エミヤ先輩は少々特殊ですが……それでも沢山の人に感謝されたんだと思います。

そしてジャンヌさんは・・・なんと言うか、そのっ、武勇とは違いますけど、その心……というか在り方が、英霊としてここに居られる……のだと思いますっ!」

 

「だから恥ずかしいですってっ!」

 

 

 

 

英雄になるには“証”が必要だ、と誰かが言った。

 

 

 

 

サーヴァントとは特殊な使い魔であり、人類史に刻まれた影、死者の記録帯であるという。

英霊とは、神話や物語等の様々な形で伝承された物によって人々からの信仰・想念を生み、それらが一種の精霊として“カタチ”となった存在だ、と面倒な言い回しで説明できる。

 

簡単に言えるなら、多くの人々が認識し記憶している人物が実際に現れ“カタチ”になったのが英霊だ。

それ故に、英霊はそれ相応の知名度と(善し悪し関係なく)信仰がなければそもそも存在しない。

 

確かに本人が言うなら、藤丸達の目の前にいるジャンヌ・ダルクという女性は聖女などでは無いのだろう。

だが、数百年の時を経てもなお彼女の存在は世界的に知られており、また“救国の聖女”として存在している。

実際には、アルトリアの例のように伝承と本人とには事実と異なる部分は多々あるだろう。

 

 

だが何百年も《聖女:ジャンヌ・ダルク》として伝えられて来た事実は変わらない、それ相応の理由があるのだ

 

 

それこそ、例え自分の事を自分だと認められず逃げているのはまるで小学生の様だと言われても、その事実らを真正面から受け取り立ち上がる程度、彼女にしてみれば造作もない事なのだ。

……ただ、真正面から褒めちぎられることには耐えられないらしいが。

 

 

「そんな照れることでもないと思うけど……」

 

「は、恥ずかしいものは恥ずかしいですよ……」

 

「そんな可愛く言われても……」

 

「カワッ……//」

 

可愛がられるのもダメらしい。

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

「・・・!?いま何か壮絶である意味では危険なフラグが立った気がするのだが……!」

 

「それより早く肉を調理しろ、燃料は十分だろう」

 

「……今更だが、テメェが木切るならスネーク達は薪を取りに行く意味無くねぇか?」

 

「そうだな」

 

「……言っておくが、マスターが来てから焼き始めるからな?」

 

「いい心がけだ料理人、だが私たちのマスターに何かアレば事だろう。

先にある程度毒味をしておく必要はあるだろう、その役は私が相応しいのではないか、ん、ん?」

 

「これだから暴食王は……!」

 

「犬じゃねえんだから少しくらい待てよ……」

 

「お前が犬と言うか」

 

「アァ?」

 

 

 

 

 

 





次回は明後日、水曜日を予定しています。
要望が多ければ早く投稿する、かもしれないです……といってもあと4話分くらいしかストック無いけどね!

何かご意見、ご感想があれば作者の参考にも励みにもなります。
何かありましたら感想欄にてお知らせ下さいm(._.)m


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邪竜百年戦争オルレアン:4-2


予告通り2本目を投下、残弾2!……生産量はお察し下さい。

励ましの言葉、よく帰ってきたぞと、こここうした方が良いのではというご意見、そして誤字あるぞと(笑)
多くの方から感想、報告、ご意見を頂けてただただ嬉しい限りです。
忙しいだろうから満足いくものが書けたらで良いですよとアドバイスも頂けました。

でもまぁ、とりあえず出来ちゃってるやつはある程度投下して、また溜まったら投稿するスタイルで5月までは行こうかと。
……改めて、定期更新はしている人はスゲェと思う次第です。

とりあえず次の投稿も明後日、金曜日を予定してます。
その先はわからんですが……首を長くして待っていてくださいm(._.)m

では本編どうぞ、




 

〈前回までのあらすじ〉

 

ジャンヌさん落ち込む

藤丸くん褒めちぎる

ジャンヌちゃん照れる

紅茶レーダーが反応(!?)

暴食王が肉を求める←いまコッコッ

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

「……いま、いい雰囲気で淡いピンク色になるかと思ったら突然食欲が勝った気がするニャー」

 

「何を言ってるんだお前は、さっさと仕掛けろ」

 

「ニャー?そう思ったダケにゃ〜」

 

「そうか」

 

時を同じく、スネークとトレニャーは話しながらもセッセと燃料となりそうな物を拾っていた。

片やサーヴァントで傭兵でサバイバルの達人である蛇。

片やこの世界とは比べ物にならない大自然で平然と生きてきた一族のトレジャーハンター。

 

この2匹にすれば、15世紀初頭のフランスにある森林地帯など単に見通しが悪いだけである。

ここは毒を心配する必要もない、敵が巡回して居るでもない。

 

突然クルペッコ先生から指導を受けて一乙もしない、

イノシシな感じのファンゴな奴もいない。

ワイバーンはいるもののその気配は今は無くただ自分の足元と周辺を気にするだけで良いのだ。

 

「……まあこんなもんで十分だろう、そっちはどうだトレニャー」

 

「問題ないニャ!」

 

「だな、なら戻るぞ」

 

すでに収穫は十分だと判断した2匹はやる事を終え、燃料となる枝や薪をこれまたトレニャーがどこからか取り出したロープで括り、それを背負い真っ直ぐ野営地まで戻って行く、もちろん警戒は欠かさず右側のホルスターからすぐに銃を抜ける様にしながらだが。

ちなみにライフルはキャンプ地に置いて来ている。

 

 

……ちなみにトレニャーが曰く、

「トレジィ印のロープニャ!これだけでなんでも釣ることも吊ることも連ることもデキる」

らしい、これにスネークは

「つまりは丈夫なんだな」の一言で済ませた模様。

 

 

「……そういえば、お前は帰れるのか?」

 

「……わかんないニャ、でもいつもみたいにタブン帰れるニャ。

おミャーさんと会った時もそんな感じだったし問題ないと思うニャ」

 

「そんなもんか」

 

「そんなモンニャ、トレジャーハンターに当てはないんだニャ……悪い勘は当たるけどニャ」

 

「ハハッ、奇遇だな俺もだ」

 

「ニャハハッ、それでもオイラが手伝える限りでは手を貸すニャー」

 

とはいえ、ただ薪を背負い森の中を往復する程度は楽であるのに変わりはなく。

警戒を怠ることは無いものの、気楽な雰囲気を感じさせながら2匹は話を続ける。

 

「手伝える限りか、まあ確かにお前にサーヴァントの相手は少しな。

モンスターを相手取っているだけでも十分助かるわけだが」

 

「というかオイラから言わせればあれはモンスターとは・・・ニャ」

 

「……どうした」

 

「…………モンスターでハンターが死ぬのはしょうがないニャ、古龍で村が壊されるのはどうしようもないニャ。

だけどここで死んでるのはどうしようもなくないニャ。

オイラには難しいことはわかんないケド、おミャーさん達が間違ってないのはわかるニャ。

それだけでオイラがここに居るには十分ニャ、手伝える事も多いしニャ」

 

「…………そうか」

 

モンスターが闊歩して居る世界。

そこにはハンター・ライダーと呼ばれる職種が存在し、時に英雄として彼らは強大なモンスターと戦う。

だがそれらの強大なモンスターは人々を理不尽に襲う災害に等しく、時に恐怖をもたらし、命を奪い、村々を壊滅させる。

 

そんな世界に生きるトレニャーにとって、命は簡単に消えるものだと言うのは知っている事だ。

だがそれはあくまで“どうしようもない”場合に限ると考えている。

決して誰かの意思で命が消されることは良いことでは無いと考えている。

 

 

だって自然現象と違って命が消されるのを自分たちで止められるのだから

 

 

「それにここでもお宝は満載ニャ!

剥ぎ取り放題なら文句ないニャ、だからオイラは出来る限りおミャーさん達についてくニャ」

 

 

もっとも、トレニャー自身はこの様にまとめていない。

うまく表現できず“どうしようもなくないニャ”の一言で自分なりにまとめている。

だがそんな一言からでもスネークは十分に理解した。

 

 

「……そいつはお前らしいな」

 

「ニャニャ、それは褒めに預けるお言葉だニャ〜?」

 

「それを言うなら光栄だ、と言うだけで良いと思うがな」

 

「・・・ニャ〜?」

 

「にゃー」

 

「…………そうなのかニャ?」

 

「ああ」

 

「……そうなのかニャ……」

 

「まあ気のするな、大した間違いじゃないにゃ」

 

「ニャニャ、語尾が移ったニャ〜?」

 

「にゃー」

 

 

 

かたや傭兵、かたやトレジャーハンター。

住む世界が職業的にも次元的にも違うが、どちらも命をかけているのに変わりはない。

だからなのか、妙に気が合う2匹だった。

 

 

 

「……うん、すごく良い話をしているし聞いてる僕たちも頷くばかりなんだけど、いい加減そろそろ僕達解放されてもいいと思うんだ!ていうかせめて彼女だけでも解放してくれないかな!?」

 

「ニャー」(⌒▽⌒)

 

「ニャじゃなくてさぁ!!」

 

「うるさいぞ、捕まったんだから大人しくしろ」

 

「うん、一体何をどうしたら僕達が捕まる理由があるんだかわからないんだけどねぇ!」

 

「俺たちを森に入る前から尾行して俺たちが2人になった途端後ろから近づき、トレニャーを攫おうとした奴らが一体何を言っている?」

 

「あれはマリーの勝手だからでねぇ!?」

 

そんな2人(?)は現在、怪しい2人組みもついでに連れていたりする。

具体的には1人は男、さっきから文句を……と言うよりは事実を述べているだけなのだが、その見てくれと物言いから全く相手にされていない。

そんな彼を容疑者①と呼称し、手首に縄を巻き、自力で歩かせている。

もう1人はなぜ尾行するのにその服装なんだと心の中でスネークが突っ込む程度に派手な紅いドレスを着ている女、と言うよりかはレディーと言った方が適切かもしれない。

そんな彼女を容疑者②とし、寝かせたままスネークが薪と一緒に担いでいる。

 

そんな2人組みがどうして連れられているのかといえばスネークがついさっき言った通りではあるのだが、

順を追って説明すると

 

(気づいて居た者は)視線を気にせずそのまま森へ

薪を取りに行く……と、視線が近づいてきた

猫が女に攫われた

敵対したため無力化、拘束

キャンプに薪と共に連行

 

と言う具合だ。

 

「違う!ぼくは無実だ!!」

 

「ニャァ!!だいぶ事実と違うニャ!!」

 

「ん?何が違う??」

 

 

(気づいて居た者は)視線を気にせずそのまま森へ

“トレニャー”と薪を取りに行く……と、視線が近づいてきた

“トレニャー”女に攫われた

敵対したため無力化、拘束

キャンプに薪と共に連行

 

 

「オイラは猫じゃ無いニャぁ!!」

 

「すまん、悪かった」

 

「そうじゃ無くてねぇ!!?」

 

「……うるさいと思って来てみれば、お前たち一体何をしている?」

 

とにかく尾行している奴が2人いて、なんか来たから捕らえた、言い忘れていたがもう1人は気絶させている

以上。

そんな2匹と2人組みが騒ぎながら来たお陰で黒い騎士王様が来た、後ろには青いタイツ兄さんも居る。

 

「ん、見てわからないか?」

 

「わからないかニャ?」

 

「……髭面の眼帯男が少女を一人攫って来た様だが」

 

「人聞きの悪い事を言うな、気絶させて連れて来ただけだ、そこの連れも一緒にな」

 

「それは誘拐と何が違う?」

 

「・・・身代金を要求する相手がいないな」

 

「そう言う問題じゃねぇと思うんだがなぁ……そんなべっぴんさんなら尚更だがよ」

 

「……冷静に突っ込んで無いで誰か助けてくれないかなぁ」

 

残念かな、ここにまともな人はそんなに居ない。

ついでに言えば、今気絶しているお連れさんも可愛いからと勝手に飛び出して可愛がる程度にまともじゃ無かったりするが……それが最早デフォルトだとわかってしまっている連れである。

 

「霊脈を確保してきまし——何事ですか!?」

 

「マシュ?一体何を——ヒト!?」

 

「…………………」

 

ここでマシュと藤丸、ジャンヌらが合流した。

……何故だろうか、ジャンヌが一瞬スネークを何とも言えない目で、若干蔑みながら見ていた気がするが。

そんなスネークは無力化した彼女をお姫様抱っこ……などでは無く、右肩に相手の顔、左肩に足を回し大変持ち運びやすい状態で立っている、何とも言えないのは仕方がない。

 

しかもちゃんとドレスの中が見えない様に服を押さえているあたりが特に。

 

しかも気絶している女性、である。

 

「まぁ落ち着け坊主もマシュもな、とりあえずこいつから説明させてやるからエミヤの所に集まれ」

 

「えっと、えっええっ、わかりましたっ」

 

「あとランサー、悪いがこの薪を運んでくれないか?」

 

「んあ、構わねぇぞ」

 

そう答えてクー・フーリン、もといランサーがスネークの背負っていた薪をルーンで、トレニャーが持つ薪は背負いササっとキャンプの方へ運んだ。

この時結構な隙がスネーク達に有ったがもう逃げるつもりも無いのか、逃げたら酷い目に遭うのが目に見えたのか、この連れの男は何もしなかった。ついでに答え合わせをするならば、逃げようとした時点でトレニャーがピッケルを刺しスネークが無力化、それがダメだった場合はランサーが刺殺する、いたってシンプルだ。

 

「……一応言っておくが別に俺は攫って来たわけじゃ無い、向こうがトレニャーを攫おうとしたのを捕らえただけだ」

 

「そ、そうなんで——」

 

「これは冤罪だぁ!!」

 

「先輩、なんだか事件の匂いがします!」

 

「マシュ、とりあえず良い子なのはわかったから落ち着こう、ね?」

 

「………………」

 

何故だろうか、余計に混乱させた気がするが。

具体的にはジャンヌが絶対零度で虚ろな目でスネークを見ているようである。

もっとも原因は純粋で素直な性格の女性だったり、随分と気が滅入って必死に叫んだ(叫んでしまった)男のが原因だったりする訳だが、突っ込んだら負けだろう。

 

とりあえず叫んだ容疑者(?)はトレニャーに小突かれ黙らされた。

そして適当な切り株に容疑者②を下ろしたスネークはとりあえずマシュに面倒を見るよう頼み自身は小突かれた男の目の前に腰を下ろした。

ちなみに女性陣は容疑者②の方の介護にあたり、エミヤは全人数分の食事を用意し始めた。

 

「……さて、色々と雑な扱いをして悪いな、もう少し付き合ってくれ」

 

「……自覚あったのかい」

 

「そりゃな、幾ら連れとはいえ女の方を先に手を出す結果になったからな、出来れば何もせずに連れて来たかったが……あれが手取り早かったからな」

 

そう言って手首に巻きつけた紐を外し座るよう容疑者①に促す。

その間にランサーが様子を見ながらスネークに当然ながら質問する。

 

「なぁ、とりあえず聞くがよ、一体何があった?」

 

「ほら、説明してやれ」

 

「……確かにこの時を待っていたけれど、こんな感じで話を振られても——」

 

「ほらさっさと話せ、でないと尋問する羽目になる」

 

「本っ当におっかないね!!」

 

吐かぬなら、吐かせてしまえ、ホトトギス

情報は大事だと昔から相場は決まっているのだ。

 

「……僕は吟遊詩人じゃないんだけど……説明させて頂きますよ」

 

「ああ、さっさと話せ」

 

「…………僕たちは君達があの竜の魔女と戦ってる所を見てたんだけど、まぁ僕たちが援護する間も無かったけど、でもまぁそれで君たちの後ろを付いて来たんだよ」

 

「んあ、後ろから付いて来てたのテメェらだったのか?」

 

「後ろから2人も付いてきてたの!?」

「後ろから付いてきてたのバレてた!?」

 

「……ああ、坊主は気付いて無いだろうな、他の連中は全員——」

 

「後ろからこの方達が来てたんですか!?」

 

「……坊主とマシュ以外は気付いてただろうな」

 

まあ未熟であるマスターやマシュが気付かなかったのはしょうがないだろう。

とりあえずマシュに尾行の仕方と気配の扱いについて教えるかと思いながら容疑者に話を促す。

 

「……うん、で続きなんだけど、マリア……あっ彼女マリー・アントワネットなんだけど——」

 

「この方はマリー・アントワネット王妃なのですか!?」

 

「うん、ついでに自己紹介するなら僕はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトさ。

……なんでここに居てこうなっているのかは皆目見当が付かないけど」

 

「あなたがあのアマデウス・モーツァルトなのですか!!?」

 

「……うん、全然話が進まないなぁ」

 

「とりあえず、だ、話が終わってからまとめて質問してくれな、マシュ」

 

「あっ……すいません」

 

「イイねぇ、素直な子は嫌いじゃないよ〜」

 

「オイ」

 

「はい続きだね調子に乗りましたっ!

……でだ、まぁ後ろから付いて来たのは良いものの、この森に入ってからそこの男と猫が——」

 

「ト・レ・ニ・ャ・ー!」

 

「……トレニャーが薪集めを始めたら、マリアが……その、ねぇ」

 

「オイラ、あの女の人に攫われたニャ」

 

『えっ』

 

瞬間全員の目が女性陣に介抱されているマリアことマリー・アントワネットへ、そしてアマデウスに向けられその視線に刺される事になった彼は端的に言ってビビった。

ついでにアルトリアはトレニャーを担いだ。

 

「待って!事実だけど待って!!」

 

「まぁ事実だな、もっともその理由が不明だが」

 

「あぁ〜……多分僕の予想だと、そのトレニャーが……可愛くて愛でたかったんだと思うよ」

 

「……それだけか?」

 

「それだけだと思いますよ!だから殺気を飛ばさないで頂けますか!?」

 

ランサーが脅しついでに殺気を飛ばすも余計にビビるだけ。

これでは尋問以前に口も聞けなくなるとスネークが止める、ただ脅せば良いという物でも無い。

 

「止してやれランサー……こいつは戦いの素人みたいだしな」

 

「へいへい」

 

「……なんかもう疲れたんだけど」

 

「ほら、もう少しで終わりだろうに」

 

「・・・はぁ、わかったよ。

それでマリアがモフモフし始めたのは良いんだけど、半ば奇襲でそのトレニャーが暴れてその男が銃をマリーに突きつけてね、トレニャーを離すように言ったんだけど……彼女、頑固だからヤダと宣言したんだよ」

 

「……なんか俺、聞く限りそちらが悪い気がして来たんだけど」

 

「うん、僕が言うのも変だけどそれには同意する、本当に悪かった」

 

もういい加減許してやれば良いじゃないと思ってる読者の方々。

ついでになんでこいつ素直に謝ってんだ、キャラ崩壊じゃね?と思うかもしれない。

だがもう少しだけ付き合って欲しい。

 

ついでに彼が珍しく素直に謝るのは彼がチキンで自らの命の危機が眼前に広がってるため、実際こちらというか彼女が悪いし願わくは減罪を求め謝罪している、断じて自分が悪いとは考えて無い。

 

「それで宣言した彼女は撃たれて倒れて……まぁこんな状況になりました、ハイ」

 

「そんな感じだったニャ」

 

「全員理解できたか?」

 

どうやら怪我人……という怪我人も居なかったが女性が1人気絶させられるという最早事案だろうと思われた事態だったが、蓋を開けてみればどうやら大した事は無いらしいとこの場にいる全員が理解はした。

理解はしたが当然の疑問をルーラーでもあるジャンヌがスネークに尋ねた。

 

「……あの質問なのですが、要するに王妃はトレニャーさんを攫おうとしたと言うよりなにかお互いの勘違いの結果な気がしますが……」

 

「まぁ……俺にも落ち度があるのは否定せん」

 

「俺からも質問があるんだけど……何でマリー・アントワネット王妃が気絶してるの?」

 

「うん?それは僕が説明したじゃないか」

 

「いや、だって嫌だって言った後何かあったんでしょ?」

 

「いや、無かったよ」

 

「えっ?」

 

「えっ?」

 

「……どうした、坊主」

 

「あの、もしかして、スネークさん……問答無用で撃ちました?」

 

 

 

「ああ」

 

 

「えっ、ある意味当然だと思うけど」

 

 

 

『………………………………………………』

 

 

 

どうしようか、何か根本的に間違えてた気がする。

具体的にツレはクズでこの傭兵、思ったよりヤバい奴だったのかもしれない。

 

「おいおい、わかってると思うが俺が撃ったのは麻酔銃だぞ、流石に実弾は撃ってない、それに俺も問答無用で女を撃つ趣味は無い」

 

「じゃあどうして撃ったのですか?」

 

「そりゃあこの男が走って逃げたからな、こっちも相応の対応を取った」

 

「えっ!僕が原因なの!?」

 

 

 

・考えてみよう

 

敵になるかもしれない2人組みのうち1人が仲間を形だけとはいえ拘束、

 

そしたらなんか1人が逃げ出した、何を仕出かすかわからない。

 

手は二つ、見逃すかすぐにさっさと目の前の事態を処理するか、そんなものわかりきった事だ。

 

付け加えるなら、スネークは生前から出来るだけ殺害という手段は最後に回していたため動きは早かった。

 

つまり麻酔銃を瞬時に抜きトレニャーを顔の所まで持ち上げていた彼女に向かって撃ち込み逃げた男を得意のCQCで拘束し紐で縛り上げた。

 

 

 

結論:連れの男がクズだった

 

 

 

「……なるほど、敵対するかもしれない相手が逃亡を計った、それなら話はわかります」

 

「・・・アレ、これは僕がピンチなのかな?」

 

「それはどうだかな、このマスターの采配に寄る」

 

「……勘弁してくれぇ、僕はやりたい事をやるクズな音楽家なだけなんだぁ」

 

「いやそれが問題だと思うがな、で、どうする坊主」

 

そして一般人であり一般常識持ちのマスターである藤丸の判断、というか判決はシンプル!

 

怪きは罰せず、ただし調査のため拘留

 

「・・・・・・拘束で」

 

「了解だ」

 

「えっちょっ——」

 

そうなれば話は早い。

腰を上げトレジー印のロープで容疑者の体を締め上げるスネーク、手慣れているからか10秒で終わった。

 

「……ねぇ、早くない?普通もっと遠慮して少し時間かかるよね?」

 

「生憎俺は傭兵でな、縛るのも締め上げるのも得意だ、まぁこっちの方が手間が掛からないんだがな」

 

そう言って腰から取り出したのは、鉄製で出来た輪っかの物、間が鎖で出来た拘束物。

扱う専門家はワッパと言ったりする。

 

そう手錠である。

 

「スネークさん……何で手錠なんて持ってるの?」

 

「生前から標準装備だ、何かとこういう事態は起きるんでな」

 

「な、なるほど」

 

「……それより坊主、そっちのお姫様はどうだ」

 

「……君、丁寧なのか雑なのかさっぱりわからないんだけど」

 

そんな容疑者から被告人になりそうなアマデウスの発言は放って置かれスネークの質問にアルトリアが答えた。

 

「どうも何も麻酔が随分効きすぎて起きる気配が無いな、サーヴァントに効く程の薬効があるのも驚きだが」

 

「お前の鎧も俺の銃は貫通はするからな、別に不思議じゃ無いだろう?」

 

「ホザけ、初見殺しなだけだろうに」

 

「それは否定せん、だが目を覚まさせるのは簡単なハズだが……どうやって起こしてる?」

 

「いえ、どうも何もずっと待ってるだけですが……」

 

「なら声を掛けながら何回か肩を叩いてやれ、すぐ起きる」

 

「な、なるほど、やってみます」

 

素直な子の代表者、マシュ・キリエライトは初めて覚醒させる経験をする。

結果は……まぁ、まるで教科書に書かれているお手本のように段々と声を大きくしていき、肩をトントンからドンドン、そしてガツンガツンと叩いていき目を覚ましたお姫様と仲良く頭をぶつけたとさ。

 

 





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邪竜百年戦争オルレアン 4-3

すまない、今日はすっごく短め。
そして戦闘も無い、なぜならこれ以降が受験終了後の作品だからなっ!
……というわけで、今回のお話はリハビリがてらに書いただけの物になります。

また、来週から大学が始まるため次話投稿の予告が出来ません。
いつのまにか投稿されていると思われますのでご了承下さいm(_ _)m




仲良く頭をゴッツンコさせた少女(?)達。

それは同時に眠りについていたお姫様が無事……では無いが、とりあえず目を覚ましたという事だ。

 

「す、すいません!アタマ大丈夫ですか!?」

 

開幕から敢えて言おう、マシュの頭の方が大丈夫なのだろうかと。

しかしそんな誤解を招きそうな発言など気にもせず本物のお姫様、マリー・アントワネットは華やかに、

……遠回しな比喩ではなく本当に華のように可憐で自由なんだとアマデウスは後に語る。

 

「フフフ、私は大丈夫よ、それよりそちらの方こそ大丈夫かしら?」

 

「ハッハイ!私は問題ありません!」

 

「それは良かったわ〜!……それはそうとここはどこか説明して下さる?」

 

そう言うとゆっくり起き上がり辺りを見渡す彼女。

彼女の視界に広がるのはぶつかった少女に焚き火と奥で何かを調理している男性、あと連れである縛られている変態と眼帯をつけている男に紅い槍を持つ戦士、美しくも強い金髪の女性が2人、そして……

 

「ああぁ!ネコちゃん!!」

 

猫じゃなくてトレニャー!と言うまでもなく飛びつこうとするお姫様。

ただ残念ながらそのネコちゃんを抱えていたのは強いと思った金髪女性であり、実際彼女は同じ王でも騎士王であり、同時にモフモフ好きな暴食王である。

 

「残念だが貴様がこれをモフることは許されん、素直に諦めよ」

 

「いいじゃない良いじゃない!だってその子可愛いじゃない!!」

 

「それは否定しない……だがまずは自分の立場を理解した方が良いのではないか?

具体的にはあそこに貴様の連れが縛り上げられている訳だが」

 

「あっそれは良いのよ、彼はそういう事をしてしまったという事でしょう?」

 

「マリア!?」

 

これは自分だけ助かろうとしたからだろうか?

それとも彼女が全面的に悪くて自分は無関係なんだとアピールした事が悪かったのか!?

そう思い叫ぶ彼女の連れであり変態であるアマデウス。

 

……なら自業自得じゃないかと突っ込んではいけない。

彼女の中でそう思わせる程度に彼に前科があるのも事実だが、実際のところ彼女の行動のツケを彼が払わされている状況でもある。

 

まぁ自分一人で逃げ出そうとした彼が結局悪いんじゃ・・・と思えなくもない。

 

「……とりあえず坊主、どうする?」

 

「……直接話しを聞くしか無いよねぇ」

 

これがアマデウス本人やスネーク達から何も話しを聞いていなかったら別だが、双方の誤解(あと逃走)によってもたらされた事故だろうと結論が見えており、その事故の原因はこのお姫様ではと思われる現状、彼に全てをなすりつける形でカタをつける気にはなれず、藤丸はとりあえずマリー・アントワネットから話を聞く事にした。

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

主文:アマデウス・モーツァルト、及びマリー・アントワネット両名ともに無罪。

 

 

そんな感じでトレニャー誘拐未遂(?)事件……というか事故はカタがついた。

王妃からの聴取は彼女自身が故意で連れ去る意思がそもそもあったのか、トレニャーの解放を拒んだ理由の解明に焦点が当てられた。

 

当初は王家ということもあり、機嫌を損ねたり頑固かもしれないと心してかかった一般常識持ちの藤丸だったが、マシュからこんな風に私たちは理解しているのですがと一通りの概要を説明した所、自分が浮かれ過ぎていたと彼女はスネークとトレニャーに謝罪。

そして自分のせいで捕まっていたアマデウスにも謝り、謝られたアマデウス本人も困惑する羽目に。

 

まぁ怪我人も居ないしこちらとしてもサーヴァントだし、戦力増強に一応繋がるからという判断のもと、2人を仲間にする方向でそんなに時間がかかることも無く決着がついた。

……スネークが麻酔銃を撃ったことを謝ると

「そんな経験滅多にできないから問題ないわ!」とこれまたアッサリ許された。

……けどそういう問題じゃないんじゃ……と思うも口に出さず密かに心にしまった藤丸だった。

 

そこから更に付け加えるなら、マスターである藤丸やトレニャー自信が許したこともありトレニャーを思う存分モフモフし始めたお姫様、大変ご満悦であられる。

対してすごく、大変、大変すごくご不満になった王様であったが、ワイバーンのお肉でトントンになった。

その分体重もトンに近づいt——(ここから先は文字が存在出来ない)

 

 

「それで、とりあえず腹ごしらえを済ませてくれたおかげで私は約半年ぶりに言葉を発することが出来るわけだが……これでとりあえず今日すべきことは終わったかね?」

 

そう言いながらエミヤは汚れた食器やフライパンを洗う……事も無く彼の魔術で作られたものなので洗う必要は無く、

全員が食べ終わった頃に勝手に消えていった。

実際には腕を組みながらスネークに話しかけているだけだった。

 

なお、クー・フーリンも交えているが話しかけようとはしない。

 

「夜襲を仕掛ける相手も居ないしな、仕掛けられる可能性は捨てきれんがそれは常だしな、特別すべきことはもう無いな」

 

《いつのまにかサーヴァント二体を仲間にしてるあたり、僕としては何とも言えない気持ちなんだけどねぇ。

……けど藤丸君が無事で何よりだ》

 

「なんだロマン、俺たちのことを信用して居なかったのか?」

 

《そういう意味じゃないけど!?》

 

わかってる、ただ単に心配だっただけだろう、それでもからかうのが人というものである。

実際のところ、一段落着くまでカルデアと連絡を取るタイミングが無かったとはいえ、その報告がだいぶ遅れていたのも事実だ。いくらサーヴァントが4体いるとはいえそれだから安心できるほどの状況では無い。

……とは言っても陣営としては申し分なく、更には弱体化されているとはいえルーラーであるジャンヌダルクも居る、周辺環境のモニタリングはカルデアでも当然して居るわけで、奇襲を受ける可能性は油断さえしなければ良い程だ。

それ自体ロマンはわかってるだろうが、心配なものは心配なのだ。

 

「……まぁ心配になるのはわかるがな。

オイ坊主、とりあえず明日の予定を決めてさっさと寝る準備しておけ」

 

呼ばれて焚き火の近くでマシュとジャンヌの2人を交えながら話していた藤丸が男三人衆に顔を向ける。

 

「そういえばもうそんな時間……って明日の予定?」

 

「私が言うのも何だがねマスター、私たちは情報を集めるためにあの街に向かった。

それは何のためだ?」

 

「・・・あっ、黒いジャンヌダルク……」

 

「ああ、実際やっこさんがここでの犯人で間違いねぇだろうな、どう見ても」

 

「つまりこの特異点の原因は明らかになった。

次に私たちがすべきことは敵であるあのジャンヌ・オルタになる訳だ」

 

《聖杯の回収が絶対の目標に変わりはないからね。

もっとも彼女からはまだ聖杯の在りかについての情報は得られていないから、単純に彼女を倒せばいいって訳でも無いけど、ワイバーンやサーヴァントを召喚して使役してるなら確実に彼女が持ってると見て間違い無いよ、先の戦闘でも彼女から聖杯の反応は有ったし》

 

「それでだ、話は戻るが明日はどうするか、お前が決めろ」

 

そうスネークに言われて深妙な顔を作る藤丸。

だがそれは数秒程で、段々と首が傾き始め、指で軽く頰をかく。

 

「……えっと、ごめん、どんな選択肢があるのかな?」

 

《そりゃそうなるよねぇ……》

 

「ハイ、今言われて見て考えてはみましたが……具体的にどうとは……」

 

「なんだマシュに我がマスターは何をすべきかわからないのか」

 

「? アルトリアさんはわかるんですか?」

 

「当然だ」

 

そう言って、話し合いを話半分に聞きながらトレニャーをいじり続ける王妃を横目に置きながら自慢げに、かつ王の風格を漂わせながら深く頷く騎士王。

そして答えは単純だと目の前にいる自身のマスターに口を開けた。

 

 

「私の聖剣でオルレアンにある敵の根城ごと吹っ飛ばす」

 

 

訂正する、思ったより脳筋のお言葉だった。

 

 

「それって……どうなの……?」

 

「なに心配はいらないぞ、追加でそこの弓兵で爆破、まばらに残った敵は呪いの朱槍でカタをつけ、後の残りで残敵狩りだ」

 

更に訂正する、この騎士王思ったよりちゃんとした脳筋だった。

 

「ま、待って下さい!それでは——」

 

「あらかじめ言っておくが私は敵に容赦はしない。

手っ取り早く、かつ簡単で結果が出ることのなにが悪い」

 

「っ……」

 

「それに私たちはあくまでも人理修復のために来た、決して復讐の邪魔をしに来た訳では無い」

 

「っ私はこの国に復讐なんて——!」

 

「あくまで今のはアルトリアさんの意見であってそれを実行するとまだ俺は決めてないよ?」

 

ここでイザコザでも起きるかと思いきや藤丸が強引に止めに入った。

そのまま騎士王にまず事実だけ確認する。

 

「最もこれが私はベストだと考えているのも事実だが」

 

「それとジャンヌさんへの意見も別だよね?」

 

「……そうだが」

 

「ならほかの人の意見を聞くよ、それで良いねジャンヌさん?」

 

「……ええ、構いません」

 

「なら遠慮なく言わせてもらうけど、その単純な作戦自体は僕自身嫌いじゃないけど、些か早計過ぎないかなぁ?」

 

女性2人が口論になりかけるも、中々の器用さで藤丸が場を収めた後、アマデウスが遠慮なく発言する。

意外とこの男、クズではあるが聖女と騎士王が作った空気を気にせず言葉を発する程度に度胸が……いや気にしないタチらしい、しかも反対意見である。

 

「ほお、まさか音楽家に反論されるとは思わなかった」

 

「物の一つや二つ言えなきゃ、邪魔してくる貴族や全然聴き入らない聴衆と借金取りを相手に生活できないからね。

まぁ僕のことは良いとして、仕掛けるにしても早過ぎると思うんだけど」

 

「俺も反対だな。まず聖杯回収が目的だがお前さんの宝具だと回収に手間がかかる。

それに戦果確認も難しくなる。加えてそもそもオルレアンに向こうの戦力が集まってるかも怪しい。それに向こうに一度宝具を喰らわせたからな、居たとしてもワイバーンで逃げられたら意味がない」

 

「……あぁそうだな」

 

音楽家に傭兵の2人の反論に若干不貞腐れる騎士王、本当に大丈夫なのだろうか

(主に王としての矜持とか)

だが当然反論には反論で返す。

 

「だが他にどんな選択肢がある、当然貴様は考えがあっての事なんだろうな?」

 

「選択というより同時並行だな。

一つは相変わらず情報収集、特に相手の活動と被害状況が主だな、明日はまだ休みかも知れんが回復すれば今以上に動くはずだ、ある程度は被害を無視する他ないが放っておく理由は無いだろう?」

 

「ええ、傷ついている人々を無視する事は出来ません」

 

「私もジャンヌ・ダルクと同じよ、時代が違うというだけで民を見捨てるなんて出来ないわ」

 

「それと追加で戦力の増強だな」

 

《あー……悪いけど聖晶石が無いと追加の召喚は……》

 

「いやっ、そこの2人の様に何故か召喚された、まぁ野良のサーヴァントでも言えばいいか、そんなのが他にもまだ居るだろう。それなら仲間に引き入れた方が良いだろう、少なくとも向こうに回られるのは困る。普通の人間なら色々と面倒はあるが、サーヴァントなら戦力が増えて困る事はない、いずれ相手にするにしても頭数は有った方が良いだろう」

 

「確かに私たちと同じような人が居てもおかしく無いわね!それに新しい人が増えるのは良い事だわ!!」

 

「もっとも彼が言う通り敵に回られたら面倒な事この上ないんだけどねぇ」

 

たとえ速攻による強襲にしても、後で戦うにしても戦力が多いに越した事はない。

必ず居ると決めつけはられないが、まだ仲間になってくれるサーヴァントが居る可能性はある。

そんなサーヴァントが敵に回られる可能性もあるわけで、おいそれと攻勢に出る訳にも行かない。

 

ちなみにどこかのジャンクフードファイターは自分よりなんか良い感じの意見を出した傭兵に負けたと勝手に思いふくれています。

そんなファイターを紅いのと青いのが笑みを浮かべて心から祝福してます。

 

「では明日からはサーヴァントの方を探す、という事ですね先輩?」

 

「そうだね、もっとも簡単に見つけられる気はしないけどねぇ……」

 

そう言いながらも目標が決まったからか笑みを浮かべる藤丸、それを見てマシュや他のサーヴァントたちもホッと息を吐く。

最年少だとは言え、自分たちのマスターである彼が与える影響は意外と大きいのだ。

一方でスネークはジャンヌに尋ねた。

 

「ここからだと近いのはそうだな……ディジョンか?」

 

「そうですね、ラ・シャリテよりは離れて居ますがそれ以上に栄えています。

何かしらの情報は得られるでしょう……もっとも、無事ならの話にはなってしまいますが」

 

「そう心配するな、なんざ俺が言っても意味はないが少なくともディジョンまで行動範囲にはまだ入って無いだろう」

 

「……何故そう思うのです?」

 

「飛んできたワイバーンの移動速度だ。

直接見た限りだと時速60km、まぁもう少し早く飛べそうな気がするがそれでも最高時速で100kmだろう。

オルレアンからラ・シャリテは直線距離で150km、ディジョンの場合は250km、ついでラ・シャリテからディジョンの距離は150kmだ。

ラ・シャリテを襲ったのが今日だが、その移動時間を考えれば早くても1時間半、巡航速度を考えれば2時間はかかってる、ディジョンはそこから更に倍だ。

街を破壊する時間も考えれば一つの街で活動して帰るだけで1日終わる」

 

「……ですが更に遠くの街を襲ってから私達を襲った可能性もありますよね?」

 

「あり得なくは無いがまずここの軍を攻撃している、実際俺たちが最初に会った砦も襲っているわけだしな。

ずいぶんな理由ではあるが執念はあのホンモノだ、それでも街を襲うには相当な時間と労力が必要になる、それに反撃も一応喰らう。

単なる田舎娘でもまずは脅威のある方を処理するのが普通だろう、そのついでに民間人も襲うんだろうが、それでも近場から段々と広げていくのが自然だ」

 

「……なるほど」

 

《じゃあ決まりだね、明日はここから南にあるディジョンに行こう》

 

こうしてカルデア一行はフランス2日目を(やっと)終えた。

 

 




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邪竜百年戦争オルレアン:5

どうも、5月になったけど執筆時間が習慣化出来ておりませんdaaaperです。

……大学の授業って難易度の偏りが激しいんですねぇ……もうテストがありますよ(遠い目
おかげで、次話は出来ておりませんm(._.)m
詳しくは少ししたら活動報告をあげようと思いますのでそちらをご覧ください。

注意!

一応ホラー……かも、苦手な人は注意をお願いします



ねぇ、どうして……ねぇ?

 

ねぇ、どうしてみんなを〇・・〇○の?

 

ねぇ、どうしてあなたは・・・・・

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

気が付くと街が燃えていた、そこに俺は立っていた。

しかもこの街には見覚えがあった、“あの街”だ、黒いジャンヌと会ったあの。

しかも見た時とは違う、まるで特異点Fの冬木のように建物が燃えていた。

 

 

 

けど徹底的に違うのは

 

 

 

「まって!その子だけは殺s——アアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

女の人の声が在る、どうやら目の前で子供を殺されたらしい

 

 

「はっ、ハハッ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh」

 

もう壊れた男が在る、その声もやがて喉が裂けて声にならなくなっていた

 

 

「…………………………」

 

ヒトが有った、ソレに左腕は無く顔には大量の破片が刺さっていて右眼は潰れてる

 

 

そして俺が立っている、ただ立っているだけ。

周りには人が在って、ヒトが有った。

 

そんな人やヒトが沢山ある、そこら中に溢れている。

けど誰が動いているのか、壊しているのか、殺しているのか、まるでわからない。

そんな中で俺はただ立ってる、立って見逃されている。

 

 

「ねぇ、どうして」

 

「えっ」

 

 

そんな事は無かった。

 

そんな事は無かった。

 

ただ一人、いつの間にか目の前に立っていたのか少女がこっちを見ていた。

その間にも時間は流れているし、周りの建物は炎に包まれているから頰が熱い、

当然どんどん人は死んでいく。

 

「ねえぇ?どうしてぇ?」

 

「……えっ?」

 

でもその子と俺は変わらない。

いつの間にか立っていた少女に今度は目を向く。

淡いピンクのワンピースらしき服に赤い靴、ただ片方の靴がどこかにやったらしい。

それにワンピースの袖口も焦げて……

 

「こわい、こわいのぉ……」

 

「そうだっ…よ……ね……?」

 

その少女は泣き出しそうな声で呟いた。

 

 

慌ててその子の顔を見て目を合わせようとして・・・その子に目は無かった

 

 

「ねぇ、どうして」

 

 

その少女には目が無かった。

 

 

「どうしてみんなしんでるの?」

 

 

眼球が無かった。

 

 

「ねぇ、どうしてあなたは・・・・・・生きてるの?」

 

 

ただただ黒かった。

 

 

「ねぇねぇ・・・・・・なんであなたなんかが生きているの?」

 

 

自分の体が彼女へ引きずりながら近く。

 

 

「ねぇ、ねぇ、ねぇ、・・・・・・なんで?

 

わたし、なんで目が無いの?

 

・・・・・ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、

 

ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ

 

ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無ぇ無ぇ無ぇ無ぇ無ぇ無ぇ無ぇ無ぇ無ぇ無ぇ無ぇ無ぇ無ぇ無ぇ無ぇ無ぇ無ぇ無ぇ無ぇ無ぇ無ぇ無ぇ無ぇ無ぇ無ぇ無ぇ

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無ぇ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただゆっくり

 

 

 

 

 

何も無い空間に引き込まれていく様だった

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

《……うんバイタルも問題ない、脳波も睡眠時のものに戻った、けど一体どういう……》

 

「あれだけの死体を見たんだ、極度のストレスによる夢遊病……だったら良かったが、どうにも干渉を受けていたみたいだな」

 

《っ!?観測データからも、そもそも君が彼を見ていても変化は無かっただろう!?》

 

「それだけ偽装が上手いらしい、俺も今わかったくらいだ、もっとも確証って程じゃないが」

 

《……それで藤丸君は無事なのかい?》

 

「それはデータ通りだ、もう終わったらしいが」

 

 

翌日の行動も決め、話が終わり寝始め数時間後、すでに翌日になった。

その間にマシュも仮眠(藤丸のサーヴァントとして中々寝ようとしなかったが)させ、見回りは相変わらずクー・フーリンにエミヤ。

そして女性陣は思いっきりガールズトークに、スネークは罠設置に走った。

ただアマデウスだけは普通に寝ていた。

 

だが明日の予定が今日の予定になった頃、藤丸は突然テントから出た

この時マシュもたまたま起き出して来たので、声を掛けたのだが返事がない。

寝ぼけているのかと思ったが、女性陣も無視してゆっくりと歩く様子が不気味に感じた直後、ロマンから通信が入った。

 

曰く藤丸君の脳波が少し変なんだけど大丈夫かな、と。

 

ロマンやカルデアからすれば寝ているはずなのに脳波から覚醒状態の兆候があったらしい。

それも何か気になるなぁ程度の物で、マシュが起きたからついでに、という程度だった

……が、嫌な予感がしたマシュは急いで女性陣に助けを求めた。

 

話を聞いた騎士王はとりあえず声を掛けるがこれも無視。

確かにおかしいとなり、ゆっくりと歩き続ける藤丸を持ち上げ無理やり座らせた。

話をしようと(マシュが声を掛けた時も開いていた)目を見ても、焦点が合わず黒目がただ広がっているだけだった。

その間にスネークが話を聞きつけ戻ってきた途端、スイッチが切れた様に首をカクンとさせ本当に寝てしまった。

 

一瞬マスターが死んでしまったかと思ったマシュだが、騎士王から息も脈も有ると言われ、先ほどロマンからも問題ないと言われてホッとしていた。

 

それはこの場にいる誰もが多かれ少なかれ感じていたことでもあるが、とにかく落ち着いた所で今度は藤丸を持ちあげ、マシュに託した騎士王がスネークに尋ねた。

 

「……それで、何故貴様がマスターが干渉を受けていたとわかった?

そもそも誰からの干渉だ、魔術的な干渉なら私の対魔力スキルでわかるぞ」

 

「私もアルトリアさん程じゃありませんけどわかるわよ〜?」

 

「私もルーラーとしての力はあまりありませんが、魔術的な干渉ならすぐにスキルでわかります……魔術が行使された感じは有りませんでした」

 

「一応僕もキャスターだから最低限わかるけど、そんな感じはしなかったけどね」

 

「あらアマデウス、起きてたの?」

 

「もちろんさ、もっともこれだけの騒ぎがあれば流石に体を起こすさ」

 

もっとも寝ながら少女たちの声をタダで、しかも間近で聞けてそれに妄s——(以下略)

な事をしていたが、そんなことを言った瞬間に聖剣のサビになりその頭部に風穴が開く気がしたので一切余計な事は話さないが。

 

「それで、貴様は何故わかった?」

 

「俺のスキルで坊主にくっ付いて、いや取り憑いていた奴を引き剥がした。

……まぁ正しくは別の所にいかせたのかも知れんが」

 

《・・・もしかして、死者の加護かい?》

 

「まぁな、“奴”が勝手に現れて坊主に近づいた後に坊主が寝たからな」

 

「うん、さらっと流したけど君随分と物騒な加護を持ってるんだねぇ……」

 

「名前だけだ、効果は俺の知り合いが死んだ奴を適当にするってだけで俺自身がどうこうする事はできん、令呪を使えばある程度頼めるがな」

 

「思った以上に適当だね!?」

 

「……ではスネークさんは死んだ人々が見え、今回は藤丸さんに“いた”のが見えたと?」

 

「まぁ俺のスキルで勝手にどうにかしてくれただけだ、実際に何をしたのかはわからない

わかるのは坊主に近づいたのがいた事だ、坊主が憑かれやすいかもしれん。

あと今回のやつは随分とうまい奴だったらしいって事くらいだな」

 

「出来ればその藤丸さんの所に来たオバケさんに会って見たかったわね」

 

「それはやめた方が良いと思うよマリア、勝手に彼を何処かに“行かせよう”とした奴なんだから。あと君、そもそもゴーストとは相性悪いだろう?」

 

「……それで、先輩は大丈夫なんでしょうか?」

 

「基本的には問題ないはずだ。

まず坊主本人がどう思ってるか、何を見たかにもよるが、幸い一人じゃ無いからな。

それでも心配なら、起きたら後ゆっくりお前が聞いて見てやれば良い、それだけで効果的だろう」

 

「……なるほど、わかりました。

では先輩が起きたら私から先輩に聞いてみます、時間があるときにゆっくりと」

 

「そうしておけ」

 

実際、その坊主も喜ぶだろうしな、とは伝えない。

余計な事は言わないのが吉なのだ、特に女性相手には。

今現在、マシュマシュな太ももの上に頭を乗せられて寝ている少年とその少女。

 

邪推でもありお節介でもあり下世話でもあるアドバイスだが心の中で思う分には害はない、本音と建て前だ。

 

 

そんなやや深刻そうなトラブルも一転して淡い様相を呈してきた。

それを見守るのはフランス王妃に聖女、男装の麗人として認識された騎士王、

おまけで変態クズの音楽家とほぼ40代で眼帯持ちの傭兵とやや偏った面子ではあるが。

 

 

 

ガザガサ

 

 

 

「やっとヒロインと主人公ッポクなったニャ」

 

「フォーフォ(早くくっ付けば良いのに)」

 

……偏った面子だった。

 

 

 

 

 

 

《そんな空気を壊すようで悪いが敵襲だ!しかも数が多いぞ!!》

 

だが淡い色というのは思いのほか他の色に染まりやすく、そしてすぐに風化してしまう

焦った声でロマンが通信機から吠える。

 

《こちらである程度迎撃する、だがワイバーンがいくつか抜けるのは間違いない》

 

《大した事はねぇが無駄に数が多いなっ!》

 

すでに外回りのエミヤとクー・フーリンは対処しているようで、無線機越しで何かが空気を切り裂く音が聞こえていた。

 

「マシュ、坊主には悪いが目を覚ませてやれ、マスターとして仕事だ」

 

「わっわかりましたセンパイッ!センパイッ!!すみませんが戦闘ですっ!!!センパイ——」

 

「事前に仕掛けたトラップで地上はほぼ問題無いが流石に空中まではな。

この中でワイバーンを相手取る自身があるのは……」

 

「私くらいだろうな」

 

マシュがバシバシ藤丸を叩く中、騎士王だけ手を挙げる。

 

「僕等は前線は張れないからね、支援なら任せてくれ」

 

「そうねー、私も惹きつけるくらいなら出来るわ〜」

 

「ではお二人は私がお守りします」

 

そんなこんなで頭を抱えながらもただならぬ気配を感じて目を覚ます藤丸。

そして、その予感が当たっていると告げるマシュ。

 

「…うっ……!緊急事態ッ!?」

 

「夜ですがおはようございます先輩、そしてその通りですマスター」

 

「お目覚めだな、とりあえず目の前の事態にまずは対処するぞ坊主」

 

「すでにエミヤさんやクー・フーリンさんが迎撃してますがワイバーンが何体か逃したと連絡がありました」

 

「っ…………ならアルトリアさんが先鋒で!

戦う場所は周りが暗いからここからあまり離れ過ぎないように、他の人は基本的にアルトリアさんの支援で!」

 

「おやっ、思った以上に出来るマスターだね、これは僕も負けてられないぞー」

 

「もう人としてあなたは負けてるわよ、アマデウス」

 

「うん、知ってた」

 

《来るよ!ワイバーン、三体だ!》

 

 

ロマンが通信機から再び叫ぶと、その通りの数のワイバーンを焚き火の僅かな光のおかげで捉えた。

 

 

「援護する、真ん中に突っ込め」

 

「言われるまでもない」

 

 

その瞬間にスネークは背負う銃(M16)の銃口をワイバーンの目に向け2発発泡した。

 

フルオートモデルのアサルトライフルから放たれた弾丸は焚き火によって僅かに照らされた夜空を飛び出し、その空を飛ぶワイバーンの目を貫いた。

 

目を潰されたワイバーンが暴れながら墜落する、その仲間がやられたからなのか、はたまた威嚇のためなのか、残る二体のワイバーンがスネークや藤丸たちがいる焚き火に向かい吠える様に唸る…… が、そこに聖剣を握る騎士だけが居なかった。

 

「失せろ」

 

かの騎士王はその体を同じ夜空に浮かせ、

 

しかし弾丸と違いワイバーンに対して致命的な一撃を与えんと右手に夜空よりもはっきりと黒いその聖剣を

 

未だ飛ぶワイバーンのうちの一体の頭部へ真正面から叩き込む。

 

さらにそこから振りかぶった勢いに合わせ自身の魔力放出によって加速し、頭部に叩き込んだ剣を軸にワイバーンの頭部に難なく乗り、首から喉へ突き刺した。

唸り声も出せずに2体目のワイバーンも墜落しはじめる。

 

その間に初手と同じ要領で3体目のワイバーンも片目をやられるも、さすが竜種の亜種と言うべきなのか、

同じ手は喰らわんと弾丸は回避していた……が、焚き火から今度は同じ髪色を持つ確かな英雄が消えていた。

 

「さすがに仕留めきれませんが…… 」

 

そう言いながらもジャンヌは自身の持つ旗で器用に飛び移り、頭を揺らしながら引きはがそうと暴れるワイバーンを無視し、残ったその目を手に持つ旗で潰し飛び降りた。

両目を失ったワイバーンはやはりすぐに墜落し、それでもなお暴れるがやがて夜より黒い剣がその首を断つように地面に振りかざされると、頭部がゴトッと重い音を立てながらも地に落ち、切り離された下部も数秒後には力尽き動くことをやめた。

 

「お見事です、流石に旗で首を落とすことはできませんから」

 

「そう言う貴様も田舎娘の割にはずいぶん器用だったな、騎乗スキルがある訳でもあるまい?」

 

「アハハ、なんと言いますか……馬に乗る感じでいけるかなぁ〜と」

 

「……馬に乗った経験があるのか?」

 

「無いですね、元帥がよく乗ってたので見よう見まねです」

 

「……それ以上にワイバーンの首を切って目を抉るなんて事をアッサリやった彼女たちの方が怖いんだけど」

 

「ああ、俺らはいらない気がしてきたな」

 

最初にスネークが落としたワイバーンは地上に残っていたアマデウスやマリー・アントワネット・マシュで文字通り囲んで殴っていた訳だが、その間にジャンヌが目を抉り騎士王であるアルトリアは2匹も切り倒した訳である。

単純な効率を考えれば彼女たち2人に任せていた方が早かったかもしれない。

というか早い。

 

「そんな事は無いと思います、最初にワイバーンが倒されたお陰で他のワイバーンは動きがわかりやすくなってますし、いくらアルトリアさんでも3匹をまとめて相手にすれば無傷では無かったでしょうし」

 

「うん、俺もそう思うよ、今いる人たちの中でちゃんとした遠距離攻撃が出来るのはスネークさんだけだし、魔術的な援護はアマデウスさんだけだから」

 

「そう言われれば俺もやりがいがある、ありがとうなマシュ」

 

「っいえ、あくまで私が感じた事です!」

 

「・・・あ〜、これ面倒かも」

 

そんな男衆……といっても2人だけだが、そんな2人を励ますマシュと藤丸。

いくら傭兵と作曲家という一癖も二癖もある人間でも素直な言葉は無視できない、それが少年少女の物ならなおさらである、もっとも音楽家の方は照れているように感じるが。

 

「あらアマデウス、素直じゃないのねぇ」

 

「ああマリア、それより優雅で素晴らしい言葉の続きを聞く暇はなさそうだ」

 

「ん?それはどういう……っ何か後ろから来るぞ」

 

何かアマデウスの様子がおかしいとスネークが思った直後iDroidが罠の作動を報告する。

それはエミヤやクー・フーリンらがいる方向とは真逆の方向に設置したものでもあった。

 

《っ大量のモンスターとは真反対から反応が2つ!しかもサーヴァント!?》

 

「なるほどな、これは確かに面倒だ」

 

「だろ?」

 

「わかったのか?」

 

「これでも音楽を作ってただけで英霊になったらしい僕だよ?

数キロ先の音を聞き取る事くらい訳ないさ、それこそ女性の息遣いなら尚更ね」

 

「……変態だな、情報としては信用できそうな分なおさらだ」

 

「しょうがないわ、彼にとってその変態な耳と感性が彼そのものだもの」

 

「あの……敵のサーヴァントがもの凄い勢いで迫っているのですよね?

ゆっくり話していて大丈夫なんでしょうか……?」

 

「女で反応2つならまぁ相手は絞り込めた、真名はわからんがこれだけ居ればどうにかなるだろうしな。

油断出来んし見知らないサーヴァントの可能性もあるが……」

 

《こっちの観測データからだとあの場にいたサーヴァントと同じ反応はしているよ。

もっとも確定できないしもう直ぐそばまで来てるんだけどねぇ!!》

 

「だそうだ、そう心配するなマシュ」

 

「は、はぁ……」

 

スネークが何故か心配そうに聞くマシュに問題ないと答える。

アマデウスの変態性を抜きにして相手が女で反応が2つなら、昼間襲って来たアサシン・ライダーにほぼ間違いない。

セイバーの可能性も否定出来ないが。

 

「私の啓示スキルが反応したのですが……」

 

《っものすごい魔力反応!間違いなく宝具だぞ!?》

 

「・・・前言撤回だな」

 

「あー派手なのが1発来るのかぁ……」

 

「っマシュ!!」

 

「了解ですっ!宝具展開します!!」

 

男2人が何故か頭を抱える中、藤丸がマシュの名前を叫びそれに答え彼のサーヴァントとして宝具を発動する。

その姿を後ろからみる王妃様、その顔は好みの花を見つけた時の少女の様に華やかだった。

その隣にいるジャンヌは対照的に、一切油断せず前方から来るであろう敵とその宝具を警戒する。

 

「仮想宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)!」

 

愛知らぬ哀しき竜よ(タラスク)!」

 

マシュの宝具展開から一瞬の間を置いたかと思われた時、

 

焚き火の光が届かない暗い森の一部から突如巨大な物体がカルデア一行にブッ飛んで来た

 

そんな物が宝具として飛んで来るとは思いもしなかったのかマシュは一瞬怯むも、

手応えからその物体自体が自身の宝具を貫通するほどではないと判断すると宝具展開を維持する。

その間にアマデウスは最後方へ下がり、スネークが僅かな光の中でその物体が何か観察する。

 

「こいつは……カメにも見えるが……」

 

「DDなオンラインで見たことあるニャ、もう少しデカかった気がするけどニャー」

 

「ああ、詳細までは語れそうに無いな」

 

「ニャー」

 

いつのまにかちゃっかりとスネークの足元に現れたトレニャー。

その右前では結構余裕が無いように……と言うより宝具で防げるとはいえ、飛んで来た物体にメンタル的に余裕が無いため盾の後ろで顔を地面へ背けているマシュだ。その様子がキツそうに耐えている様に見えるだけだ、まぁ耐えているのは確かだが。

だがそのカメの様な何かもトレニャーが現れてすぐに、英霊が霊体化した時の様に消えてしまった。

 

「っタラスクがさっさと逃げるなんてどうして……まあ良いわ、こっちももう限界だし」

 

そして消えた先から、焚き火の光でギリギリ判別出来る程度の距離に露出の多い修道女が立っていた。

その手には相変わらずデカい杖が有るが、それと同じくらい籠手も目につく。

 

《反応が1つになった、どうやらさっきの生き物が彼女の宝具の様だ、それに——》

 

「タラスクと確かに言ったな、それに修道女……と言うよりキリスト教関連と言えば、マルタ以外に思いつかないが」

 

「ええそうよ、私はマルタ。こっちとしては余裕が無いのだけれど」

 

「開幕から宝具を向けて来る時点で余裕があるとも見えなく無いんだがな」

 

「いいえ、違うのよそこのヒゲの人、私はあとはあなたと・・・戦うだけ、それだけっ——!」

 

そう言うが早く、6本の足と硬い甲羅をもつドラゴンを従える修道女……否、聖女マルタが突っ込んで来た。

真っ先にターゲットになったのは先頭にいたマシュ……ではなくそのやや後ろでタラスクを観察していたスネークだった。

宝具を解放した直後だったからか、自身を守るために盾を構えていたマシュは反応が遅れスネークのカバーに入れなかった。

 

 

だがそれが致命的な失敗になることはなかった

 

空中から拳を振り下ろそうとしている聖女を捉えつつ、前方に飛び込みその拳を回避する

 

それと同時にマスターに向かって叫ぶ

 

 

「マスター!セイバー下がらせてアーチャーの奴を呼んでこい!!」

 

「っわかった!」

 

 

振り下ろされた拳は地面を陥没させていたが、そこから今度は杖を掲げ何かを呟いている

 

それを見てすぐに左腰からハンドガンを取り出し一発撃つ

 

マズルフラッシュが僅かにマルタの顔を見せるもそれは一瞬であり、彼女は気にもせず杖をスネークにかざす

 

その姿を見てすぐにまた駆け出す……も、スネーク自身の周辺が爆ぜた

 

・・・が、それは大盾によって防がれた

 

 

「よりにもよって魔術かっ……助かった、マシュ」

 

「スネークさん、援護しますっ!」

 

「時間を稼ぐぞ、俺らは下地を作る」

 

 

初撃を許したとはいえ、シールダーである彼女にすればスネークを守るのは当然だ

 

幸いマスターである藤丸はいまジャンヌや他のサーヴァントに守られている

 

その事実について心で引っかかるものが彼女にはあったが、それについて今彼女は気にしない

 

2発目の魔術を打とうと杖を構えているマルタに向かい走り出すマシュ

 

その後ろに隠れ同じように馳けるスネーク

 

また同じように杖を掲げた途端、今度はマシュ自身が爆ぜた

 

・・・その様に見えるも、実際にはマシュの持つ盾の周辺が爆発しただけであまりダメージは無かった

 

 

「随分と頑丈ねっ」

 

「ハアアァァ!!」

 

 

その爆ぜた爆風から手に持つ盾を正面に思いっきり押し出すマシュ

 

その向かいにはマルタが居る

 

だがそれを見ても特に驚くこともなく当然のように、

 

杖を地面に突き刺し、それを取っ掛かりにそのシールドバッシュを回避する

 

その回避先に向かって再びスネークは近距離で発砲する

 

・・・だがそれも対して気にすることも無く

 

マシュの左側面に回っているマルタは杖をそのままに思いっきりその側面へ飛び込む

 

 

「セエェィッ!!」

 

 

だが、

 

側面に回り、

 

飛び込まれる、

 

それはマシュがすでに何度も訓練した、させられた事だ。

 

 

聖女とは思えぬ拳が自身の側面突き出された瞬間

 

マシュは左に向かって盾を振りかざしその拳の軌道に合わせる

 

そのタイミングは完璧であり、盾は人体でも脆い箇所である手首を狙っていた

 

「ッ!」

 

僅かに目を見開いたマルタ

 

だがそれは驚きでは無かった

 

自身の拳の軌道をズラし、振るわれた盾と自身の籠手を合わせる

 

「ッ!?」

 

「っ!」

 

普通ならそれでも手首は壊れる

 

だが英霊が、英霊が身につける籠手が普通では無いのは当然で

 

止められた時点で引くべきマシュは一瞬ながら固まった

 

 

だが一瞬の隙があれば英霊にとっては十分

 

 

 

互いに息を飲んだ

 

 

 

一方は驚きで、一方は・・・踏み込むために

 

 

 

ガラ空きになっていたマシュの右側に容赦なく足が食い込む

 

 

その見事な足蹴りはモロに彼女の体へ入り、蹴りの勢いそのまま飛ばされた

 

 

しかし相手は1人では無い

 

飛んだマシュを見送る事なく杖のそばに立ち“相手”を確認するマルタ

 

同様にマシュの状態を気にする事なくただ相手に銃口を向けたままのスネーク

 

互いに一歩踏み込んでも拳は届かない空間が広がっている

 

 

「彼女の心配はしないのかしら、味方でしょう」

 

「だからこそだ、蹴りで沈むほどヤワじゃ無い」

 

「そう……私もそのオモチャで死ぬことは無いわよ」

 

「みたいだな」

 

 

そう言いながらも銃口は向けたまま

 

だが事実、これまで2発発砲したものの一切のダメージを与えていない

 

それどころかマルタ自身何も感じていない

 

聖女マルタというサーヴァントが持つスキルによるものだろうとあたりを付けるスネーク

 

たしかにオモチャ呼ばわりも仕方がない

 

 

「聖女っていうのは思ったよりヤンチャなんだな」

 

「そんな事はありません」

 

「少なくとも彼女を吹っ飛ばしたあの蹴りは見事の一言だ」

 

「それはどうも」

 

 

藤丸たちは飛ばされたマシュの方に集まっている。

一応王妃様と音楽家の2人がこちらを見守ってはいるが、介入する気はなさそうで、マシュの方に意識は向いていた。

もっともスネークにすればその2人に介入されても手間がかかるのみで、マルタからすれば対して手間は変わらないと捉えていた。

 

 

「……頃合いだな」

 

「随分と余裕そうですね、もっともそうでなければ困るのですが」

 

「そうか……まあそうだろうな、なら出向いてきた相手に答えてやるのが順当だろう」

 

 

その言葉に疑問を感じるも気にすることでも無いと油断せず構えるマルタ

 

 

だが対するスネークは・・・銃口を自然と下ろした

 

 

ごくごく自然な動作で武器を下ろした

 

その行動に驚く……こともなく、より警戒し構え直すマルタ

 

だが構え直すあいだに目線を落とし銃をいじったスネークはやる事を終えた

 

顔をマルタの方に上げ右手から何かを放り投げる

 

焚き火の漏れ火だけが唯一の光源であるこの森の中

 

マルタは物体を見て、認識して、すぐ右に避けた

 

投げられた物体は緩い弧を描き彼女の顔があった所を通過する

 

その間も決して油断せず向かいにいる男を見ていた

 

 

 

・・・ハズだった

 

 

 

だが実際には姿そのものを見逃していた

 

 

 

視界の左側から違和感

 

顔を向けるとそこにいた、立っていた

 

 

「ッ」

 

 

すぐに牽制のために左ジャブを放つ

 

 

その左腕は弾かれ 体も僅かにつられ右に傾く

 

 

重心がズレたお陰で体重が乗った右足を軸に左足で蹴り回す

 

 

スムーズな流れで力の乗った左足は遠心力も加わる

 

 

その足先は寸分の狂いもなく側頭部を直撃する

 

 

 

確かにそう見えた

 

 

 

瞬間

 

 

 

彼女自身の足先と相手の側頭部に僅かな空間が“あった”

 

 

 

その隙間に相手の右腕が入り込む

 

 

 

そして自身の左足は完全に止まった

 

 

視界が回る

 

背中に衝撃

 

聞こえる炸裂音と見える火花

 

 

「下地は完成だな、悪いがここで一旦区切らせてもらうぞ」

 

「っそんなオモチャ……で……?」

 

「頃合いだな、投げ飛ばされても立とうとする女は初めて見た」

 

「な……んに…………よ…………」

 

 

視界が狭く、より黒く、暗くなる

 

頭をやられたのだと思い全身に力をいれる

 

それすらも出来ない体になっていた

 

 

「……すま・・な・・ら・・・ろ」

 

 

 

何か言われているようだがそれも聞き取れない

 

 

 

ただ暗い視界の中で

 

 

 

 

火花を見て

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・そこまでが、

 

ただそれだけが、

 

彼女が、マルタが認識できた事だった。

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 

 

「……アレッ!?スネークさんもう倒したの!?」

 

「ん、ああ、こっちの準備は整った。

マシュの方はどうだ、心配するほどヤワじゃないのは知ってるが結構な勢いで吹っ飛んだからな」

 

「私はこうして無事です、問題ありません」

 

こうして、外野が目を離している隙に敵であったマルタを倒したスネーク。

マシュの無事も確認し終えると同時にセイバーがお使いから帰ってきた、その騎士王の後ろには確かにアーチャーであるエミヤがおり、共に外周で迎撃していたクー・フーリンの姿もあった。

 

「おいマスター、アーチャーを呼んできたぞ」

 

「うん、ありがとう……って言ってももう終わっちゃったけどね」

 

「いいや、生憎私の仕事はここからなんだよ、マスター……とは言え、駆け付けたにも関わらず敵が倒れていると言うのは何とも言えない物だがね」

 

「悪いな、だがこれが一番手っ取り早い、適材適所だ」

 

「ふっ、その台詞をあなたから頂けるとはね、まぁこちらとしても異存はない訳だが」

 

「……ホント、テメェがその口調になると気味が悪いな」

 

「だろうな、私はお前にこの言葉は使わないようにしているしな」

 

「言ってろっ」

 

何だかんだ言いながら気があう紅茶と青タイツ。

確かにいつもと違う言葉使いの彼に違和感はあるが不自然ではない。

……客観的に見れば青タイツの方はケルト神話における無双の戦士であり、伝承通りの力を発揮すれば掛け値無しで最強と呼べる英雄なのだが…………

 

「……それで、何で彼女は消えてないのかそろそろ誰か説明してくれない?」

 

「そうだな、これ以上掘り下げると色々と……まぁ何だ、面倒というか、理不尽な気分になりそうだしな。

とりあえず、お前たち2人には説明する必要はあるか」

 

「……なんだか君とは会話しているように見えて、実は別のことを気にしているような気がするんだけど」

 

「気にするな。おい坊主、この2人に説明してやれ」

 

「そうっだね、ぜんぜん話して無かったし……って言っても、エミヤさんから話した方がいい気が……」

 

「構わない、むしろマスターとしてちゃんと役目を果たした方がいいのでは?」

 

「……わかった、じゃあ説明するね」

 

自身のサーヴァントの手の内を他のサーヴァントに説明するマスターとはこれいかに。

そんな視線をアマデウスがエミヤ当人に向けるも、その本人はフッという顔で頭を横に振るばかり。

その顔は一瞬、かの音楽の天才をも殺意の波動に目覚めさせるものだったが、それも一瞬。

表情から分かる情報としては、こんなマスターだから諦めろ、ということらしい。

 

「えっと、この森に入ってくる途中でジャンヌさんがわかったことを教えてくれたんだ。

その内容が、あの黒いジャンヌに従ってるサーヴァントは全員狂化スキルを付けられてる……とか?」

 

「……なんで君、疑問形なのさ」

 

「悪いね、生憎私たちのマスターは最近まで魔術も知らなかった素人なんだ、むしろ良く適応できてると私は思うが」

 

「そいつに関しては俺も同感だなっ、中々面白いマスターだぜ?」

 

「ハハハ……力不足で申し訳ない」

 

「……うん、僕は一応キャスターだけど、生前含めてここまで素直な子も珍しい、ていうか見たことないよ。

……単純でわかりやすい奴なら知ってるけど」

 

「あら、それは一体誰のことかしら〜?」

 

「少なくとも君の事じゃないよマリア、っていうか君は単純だけどアクティブ過ぎて逆にわからないさ」

 

『・・・あぁ〜』

 

単純なのにわからないとはこれ如何に……と、言いたいが。

見知らぬ相手から可愛い、という理由だけでササッと相手から可愛い奴を盗む位にはアクティブ、しかも理由は単純だ……それを予想できたらむしろ才能である。

 

「……そろそろ話を戻そうか」

 

「そうだね。

えっと、それで狂化スキルが付けられてるから本来なら味方にすることはできないって話だったんだよ」

 

「まぁそうだろうね、出来るなら縛り付けておく方法くらい施すよね、僕でもするくらいだ」

 

「けど、だった、という事はその対策があるのよね?」

 

「それが彼ってことかい?」

 

「ああ、その通りだ」

 




ちなみに、スネークさんがマルタに投げたのはマガジンです。
そして薬室に装填してあった物を発砲、その後リロードして最後に1発撃ちました。

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邪竜百年戦争 オルレアン:6

ウーム、執筆時間がまとめて確保できない。
そんな作者ですm(_ _)m

通学時間帯は鬼混みなので、一応帰宅時にちょくちょく書いているのですが、
それを毎日やるわけにも少々行かず、なかなか難航しております。

ただ、執筆をやめるというのは無いので気長〜にお待ち下さい




「……っ」

 

明朝、

 

鬱蒼とした森の中ではまだ暗い、だが木々の隙間からは確かに朝日が入り始めていた。

 

あと30分もすれば森の中も薄暗く、やがて明るくなるだろう、そんな時間帯だ。

 

そんな鬱蒼とした森の中に、その場には相応しくない女性が横たわっていた。

 

「……夜明け?」

 

しかし案ずることなかれ、彼女は生身の人ではない。

 

実体も、肉体も、感覚も、感性も、確かに存在する。

 

だがそれはあくまで仮初めの姿、エーテル……魔力で編み込まれた物質に過ぎないサーヴァントだ。

 

「…………なんで私、フツーに朝を迎えてるの……?」

 

・・・などと真面目に文字で表現すると深刻そうな気がしなくもないが、本人は至って冷静……というか呑気にそんな言葉をポツリと呟くことができる程度に平穏な森だ。

もっとも、幻想種であるワイバーンが空を飛んでいたりする事態は起きてたりするのだが。

そんな状況のフランスだが、そんな状況を招いた原因も彼女は知っている、そして覚えていた。

 

「・・・って、寝ている場合じゃ——!?」

 

先ほどまでの呑気な気分は吹き飛び、一気に眼が覚める。

 

同時に体を勢いに任せて飛び起こし、地面に二本足で立つ……が

 

「おー起きたか」

 

同時に敵であるはずの眼帯の傭兵が自分の目の前に立っていたではないか、

 

しかも陽気に片手を上げ彼女の方に会釈までしている。

 

「……なぜこちらに挨拶を」

 

「ん?……ああ、目覚めたばかりで感覚がそのままのつもりか」

 

「……どういう意味?」

 

「落ち着いてよーく俺を見てみろ、そうすればわかるはずだ」

 

「………………」

 

どうやら本当に挨拶をしただけの様だ

 

だが今の自分自身の状況はよくわかっている

 

目の前の敵に対してすぐに怒りや殺意といった感情が勝手に——

 

「……何も感じない……?」

 

「そんな事はないと思うが……むしろ狂化付与されていた時より思考しやすいはずなんだが……」

 

「……なるほど、どうやら何か私の体にしたようね?」

 

「・・・聖女っていうのは、頭が回るんだか気が回らんのか……」

 

「どういう意味よっ?」

 

「いいや、気にするな……まあ概ねお前が予想している通りではある。

もっとも俺は下地を準備しただけで、実際にやったのは別の奴だがな、それも含めて色々話さないか?」

 

そういうと、眼帯の男は親指を後ろに軽く差す。

彼の後ろに目をやると、キャンプの火の跡がある、その周りには木々や切り株も点在している、最近木が切り倒されたのかその周辺だけにはよく朝日が入り明るい。

その光景を見て、その女性は……マルタは昨夜、ここで戦ったのだという事をしっかりと思い出した。

 

「……どうした、こっちに来い」

 

「ん、悪いわね少し思いだしていた——」

 

 

その時!

 

マルタが顔を向けるとそこには不思議な光景が広がっていた!!

 

点在していた切り株はどうやら椅子の様に使っていた様だ。

 

そしてそこには皿が1つあり料理も置かれている、自分用に用意してくれたらしい。

 

少し距離があるがここからでも美味しそうに見える。

 

 

その切り株の横では、切り株と同じくらいの大きさの生物が料理をモグモグと食べていた

 

 

「…………ハ?」

 

「……おいトレニャー」

 

「・・・・・!」

 

 

その生き物は眼帯男に声をかけられた途端、これでもかという速さで首を回した

 

 

マルタは思った、なにコレかわいい

 

 

「・・・トレニャー」

 

 

 

「・・・コレはコレステロールダメージですニャ、いたしかたないのですニャ・・・!!」

 

 

 

「そうか、恐らく事実だろうがお前の体の状態を報告されてもな。

それと迷惑を被っているのは彼女だ、悪い事をしている自覚があるなら素直に謝れ」

 

「ニャー!!」

 

そして知ってるものからすれば珍しく、

 

本当に随分素直に謝る黄色いヘルメットを被ったネコ、その真名 トレニャーはペコっと頭を下げる

 

「……愉快な子ね」

 

「そうか?」

 

「少なくともタラスクよりは可愛げはあるわよ」

 

『姐さん!?』

 

……どうしてだろうか、どこからか悲痛な声が聞こえた気がする。

だがそんなものはないと誰も気にする事なく、とりあえずトレニャーはマルタにモフられる事で許された。

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

「それで、結局わたしは今どういう状況なのかしら?」

 

そう言いながら切り株の上に座りながらトレニャーをモフるマルタ(決して丸太の上では無い)とその反対側で同じように腰掛けるスネーク。

用意されていた食事は

すでに手をつけられてしまったし、一応サーヴァントだから必要って訳でも無いから良いわよ?

と言うので、彼女自身がエサを与えながら弄んでいる。

 

その絵面は中々絵になる、というか冗談抜きに彼女は聖女なので教会のステンドグラスか宗教壁画にでもなりそうな物である、それほど様になっていた。

……もっとも膝の上に乗っかっているのは幻想種よりも幻想的と言うか何というか、野生的な世界の一族の

トレジャーハンターなのだが。

 

そのトレジャーハンターはニャー(=^ェ^=)とご満悦である……主にエサにだが

 

「手っ取り早く……というか、俺も専門的には説明できないが、俺たちの仲間の1人に魔術的な繋がりを一切断ち切る宝具があってな」

 

「あ〜もう大体把握したわ、その宝具で私とあの女との契約を無効化したわけね、おかげで狂化も外れてるわけね」

 

なお、現在その宝具を持ったアーチャーやそのマスター達は、無駄に人数がいても邪魔になるだけだからと、森の外れでいつでも出発できるように待機している。

もちろん、スネーク達に何かあればすぐに対処できるよう伏兵はいるが。

 

「いや、狂化スキル自体はお前自身が解除した」

 

「……どう言う意味よ」

 

「そのままの意味だ、そいつの宝具は……まぁ劣化版でな、あくまで契約を切るだけでな。

スキルそのものまでは切れないそうだ」

 

「けど、元に私はこうしてあなたと話せてるわよ、殴りたいけど」

 

「それは勘弁願いたい、もっとも機会があれば是非手合わせ願いたいがな」

 

「・・・はぁ〜、悪いわね、あいにくこの姿では拳は使わないことにしているの」

 

「……思いっきり俺たちの仲間を蹴り飛ばしていたはずなんだが」

 

「狂化スキルのせいよ、OK?」

 

もっとも、拳ではなく足ではある。

だがこれ以上の追求はよろしくない、そう直感的に判断したスネークはスキル解除の話に戻す。

 

「……そうだな、その狂化スキルだがさっきも言った通りお前自身が解除した。

そも、お前自身自分で意思を制御できる程度には対抗できてただろ、そのおかげでこっちもお前を仲間にできそうだと目処がたった訳だしな」

 

「よく分かったわね?まあ結構ギリギリだったのだけれど、ていうか最初からわかってたの?」

 

「知っているだろ、こっちにも聖女がいてな、それにわざわざ自分から突っ込んできていながら自分の名前を名乗って、しかも昼間での戦闘が不完全燃焼だったのか俺をわざわざ指名までしてただろう」

 

「……そう言えばそうだったわね」

 

「それに数的不利の状況に自ら突っ込んできた時点でな」

 

「…………なんか恥ずかしくなってきたわ」

 

「何をいまさら」

 

実際にはジャンヌが狂化スキルのが付与されていると説明した時、

エミヤが自分の宝具……ではないが手段の1つに破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)の話をした。

ただ、あくまであのジャンヌ・オルタと向こうのサーヴァントの繋がりを断ち切る事しかできない事、

それに仮に狂化スキルを解除できても仲間になるかはわからないと、エミヤとクー・フーリンから説明があった。

 

ただそれを踏まえてジャンヌは、修道女の格好である彼女なら自力で解除出来るかもしれない、彼女の名前はわからないが彼女がこのような行為をする英霊ではないことはわかる、と言った。

その意見に乗っかったのがスネークで、あの女と俺が戦えば鬱憤が晴れてついでにスキルも勝手に、それこそ浄化するんじゃないか?と語った。

一行は最初、そんなまさか、と思ったのだがマスターである藤丸が

 

「けど、ムシャクシャしてる時って大体人か物にぶつかると大人しくなるよねぇ……正しいことかは微妙だけど」

 

と言ったところ、その場にいた全員が否定できなかった、ジャンヌすら苦笑いであった。

結果、その修道女は聖女マルタその人であり、あながち仲間にするのも的外れでないため物は試しとスネークが彼女の相手をする事で仲間にするための下地を作った次第であった。

 

一応、マシュは蹴られたあの時、散々スネークとやっていた事なので防御は間に合ったのだが、蹴られた方が彼女を助けられるのでは?と思ってしまっていたりする。

もちろん、あのタイミングで止められた驚きも大きかったようだが。

 

「まあ結果的に一応あのジャンヌ・ダルクからは解放できた、そのままだと座に帰るだけだったから俺たちのマスターと仮契約の状態にもしてあるんだが……この後はどうする?」

 

「それをわざわざ聞く?」

 

「俺もそうだが、俺たちのマスターは押し付けるのが嫌いでな?」

 

「……わかったわ、こっちも虐殺なんてゴメンよ、そちらが断っても着いて行くつもりだったわ」

 

「そいつは頼もしいな、ならマスターのところへ案内する、時間も惜しいしな」

 

「そうね、なら挨拶はその時ね」

 

「ああ、よし行くぞトレニャー」

 

そういうと、スネークは腰を上げ他のサーヴァントが待つ森の外れの方に体を向ける。

同様にマルタも腰を上げようとして、それより先にトレニャーが膝から飛び降りる。

同時にマルタの方に体をクルッと向ける。

 

「?どうしたの?」

 

「お姉さーん!もう話が終わったから出てきてもイイニャ〜!移動するニャー!!」

 

「・・・お姉さん?」

 

「ンニャ、おミャーさんはお姐さんニャ?」

 

「……どうしてかしら、何か決定的に違う気がするのだけれど」

 

「気にするな、それよりトレニャーの言う通りだ、出てきても良いんじゃないか?」

 

スネークは振り返りそう声をかける

 

それにつられてマルタも後ろを振り返ると・・・先ほどまで自分を使役していたそっくりの聖女がいた

 

「アハハ……別に隠れてた訳じゃないんですよ?」

 

「ンミャ?お姉さんはこのお姐さんが暴れた時にいたんじゃなかったかニャ?」

 

「っトレニャーさん!!」

 

「フフッ、良いのよ、それくらいわかってるわ」

 

「……あのなぁトレニャー、世の中言わなくても良いこともあるんだぞ?」

 

「ケド、オイラ知ってるニャ、何にも言わなかったせいで死んじゃった英雄さんのお話」

 

「まあコミュニケーションが重要なのは否定せんがなぁ。

……そうだな、ただここは俺たち2匹は邪魔になりそうだ、すまんが先にトレニャーを連れて坊主のところに行ってる」

 

そう言うとトレニャーはニャニャーンと走りながらカバンをユッサユッサ揺らしスネークのとなりに落ち着く

そのスネークは2人の聖女を置いてサッサと歩き始めている。

 

「・・・えっ?あのちょっと!?」

 

「せっかくの“先輩”だろ、30分くらいは待ってるよう伝えておくがあまり遅くなりすぎないようにな」

 

そう言って振り返りもせず、片手を上げ手を振ると本当にそのままトレニャーを連れて行ってしまった。

 

残ったのは聖女に位があるかは知らないが、金髪の“後輩”と拳の“先輩”である姐さんだった。

 

 

 

「……えっと、あの……そのっ」

 

「そんなオドオドしなく大丈夫よ、普通のあなたで良いわ、って言うより自分も聖女であらんとはしていたけれど」

 

「そうなんですか……?」

 

「あなたも似たようなものでしょう?」

 

「……そうですね、もっともマルタ様の様に信仰の人とは私は言えませんが」

 

「っマルタ様はやめてっ、恥ずかしいわ」

 

「そっそうですかっ?」

 

「……あなた、ジャンヌ様ってあの紫髪の子に言われたい?」

 

「そっそんなっ///」

 

 

 

 

……それから30分ほど、歴史に残る聖女の2人は話し合ったらしい。

 

 

もっともその内容は聖女としてではなく、出身の違う2人の田舎娘によるものだった・・・かもしれない

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 

 

「これから行くべき目的地はまっすぐリヨンよ」

 

時刻は日没まであと10時間くらい、といったところ。

カルデア一行は悪竜タラスクを鎮めた水辺の聖女:マルタを仲間として迎えた。

もちろんフランスにいる間だけの仮契約ではあるが、心強いサーヴァントであり味方である。

また、彼女は龍の魔女と化したジャンヌとの契約を切り、付与された狂化を(手助けはしたが)自力で解除したため、記憶も失っていなかった。

 

その彼女が言うに、現在黒いジャンヌは自身の魔力や体力を回復するためにオルレアンに籠っているという。

……と同時に最強の龍を召喚・使役する準備も進めていると言う。

 

「リヨン……ディジョンよりさらに南だな、そこにサーヴァントがいるのか?」

 

「間違いなくいるわね、人々の噂ではひとりその街で守護している剣士が居るってね」

 

「たかが人々の噂、と言うつもりは無いが……信用できると?」

 

「実際、リヨンに結構な数のワイバーンを送り込んだけど全滅したのよ。

それで、本当はあなた達と会った時、本来ならあのまま移動して夜に奇襲をかける予定だったのよ。

……まぁ、実際にはその聖剣で危うく全員座に帰るところだったけれど」

 

「ふっ、もっともそっちが宝具で防がなければとっくに終わっていただろうな?」

 

「しょうがないでしょ!彼女の令呪で強制されたんだから!

……まあそのおかげで、彼女も休むことを強いられて拘束力が薄らいだから、偵察するって体であなた達に追いついてやられるついでに情報をあげようと思ったら、契約が切れて仲間になれたわけなのだけど」

 

「アルトリアさんっ」

 

「事実だ、別に非難したわけではない、もっとも防がれるとも思わなかったが」

 

「令呪でタラスクの強度を上げたもの、……それでも流石に全員を対象に守るにはギリギリだったけれど」

 

そう言いながら騎士王に笑顔で語るマルタ。

その顔に他意はなく、アルトリアもふっと顔を背けるだけに終わった。

 

「……それで、行き先はリヨンに変更になったみたいだけど、ここからだとザッと250km近くはあるわけだけど、移動手段はどうするの?」

 

『・・・・・あっ』

 

じゃあ移動するかぁ〜となった矢先、目的らしい目的が出来たのは良いが、肝心の移動手段が無い。

その事を確認するのは音楽家のアマデウス、彼はクズではあるが無能では無い。

別に旅が嫌いなわけでもなく、むしろ好きな方である彼だが、流石にサーヴァントとは言え200km以上も徒歩で移動するのは勘弁だった。

しかも相手は空中を飛べるワイバーンを使役している、いつもでも悠長に歩いていたら街が滅ぼされ、目的のサーヴァントも倒されてしまう。

 

「えっと、マリーさんはライダーでしたよね?」

 

「そうなのだけど、ごめんなさい……私の宝具は1人乗り用だから……」

 

「じゃあマルタさんは——」

 

「タラスクは移動にはあまり向いてないわよ」

 

「ですよねぇ……」

 

移動手段に秀でていると言えばライダーなのだが、今いる主なライダーは全員を移動させられる手段を持ち合わせていない。

ジャンヌやクー・フーリンは走っても早いがそれではまず意味がない。

 

けどライダーはまだいる。

 

「ん、車で良いなら出すぞ、運転は俺だが」

 

「クルマ出せるの!?」

 

「当たり前だ、俺もライダーだぞ?」

 

《この時代に車を召喚しても良いものなのか……?》

 

《ウーム……まぁ宝具の一種なんだろうしOKなんじゃない?》

 

《(この天才思考放棄しやがった……!)》

 

一体いつから無線越しでも人の心情を表現できるようになったのだろうか。

そんなメタはさておいて、ロマンのツッコミは敢え無く天才の一言OKで済まされた。

……こんな調子の責任者でカルデアは大丈夫なのだろうか。

 

「……とりあえずお聞きしますが」

 

「どうした聖——いやジャンヌ・ダルク?別に気にすることでも無いはずだが」

 

「あのですね?この時代に車なんてオーパーツを出すのは問題があるのでは……と」

 

「問題ないだろ。

一応この世界、というより特異点と言った方が正しいのか、まぁとにかく一種のパラレルワールドだろ?

なら正史には残るまい、それに市街地を走らすわけでもないしな、誰にも迷惑はかからんしむしろ使わない方が迷惑をかけることになるだろう」

 

「それはそうなのですが……」

 

《えっとねぇ……まぁダ・ヴィンチが良いって言ったから一応問題ないと思うけど……カルデアから車は技術的にも物理的にも不可能なんだけど、本当に車が……?》

 

「本当ならヘリが一番なんだがな……あいにくパイロットまでは出せなくてな」

 

『ヘリ!?』

 

思ったよりこの傭兵、アクティブだ!

というより15世紀のフランスにあって良いものでは無いだろう、ワイバーン程ではないかもしれないが。

 

「……まあとにかくアシだ、もうすぐ到着するぞ」

 

「・・・えっ!?もうクルマくるの!?」

 

「ああ、とりあえずクー・フーリン」

 

「あん?なんだよ」

 

「霊体化でもしておけ、頭に落ちてくるぞ」

 

「……オイオイ、マジか」

 

頭上を確認すると、箱型の物体がパラシュートにぶら下がりながらも確かに……というかもうクー・フーリンの30m位先にあった。

実は車に乗るのを心の中で少し楽しみにしていたが、相変わらず運が無ぇ……と、また心で嘆きながら霊体化した、ついでに隣にいたエミヤも実は似たような心境で霊体化していたりする。

 

「……なんだか、クー・フーリンさんとエミヤさんが残念な表情を浮かべながら消えて言ったのですが……」

 

「そうだね……乗りたかったのかもねぇ……」

 

「……あのなぁマシュ、大の大人が、ましてや英雄になった奴が車に乗りたいと思う訳無いだろ。

子供じゃあるまいし」

 

((・・・・・・・・・))

 

「……フッ」

 

そのスネークの発言に何故か笑みを浮かべてアルトリア・オルタも霊体化した。

そんな騎士王の顔を見た王妃様は無邪気にニッコリと笑う。

その隣で密かに、心の中で、2人の男に向かい鎮魂の祈りをとりあえずあげる音楽家。

 

そんな心理的なやりとりが実は展開されていた中でも、車は地上へと降りていた。

やがて車は地面へと接地、サスペンションが車重で少し働くもすぐに元に戻り、吊していたパラシュートは車体が接地した瞬間に燃えて跡形もなく消えた。

 

車両は緑と黒を主とした迷彩が施された4WDで、外見からしてまさに軍用車と言える物。

すぐにスネークは車両を点検する。

……とは言っても外装に異常は無く、内装は5人乗りでビニール製の座席だが普通の仕様ではなく、リクライニングができる様になっていた。恐らく研究開発班が旅慣れしていない人物を想定して改造したことが伺えた。

 

もちろん、他にも改造&アタッチメントが追加されているが。

 

「車両自体に問題は無いな、あとは走らせるだけだが……坊主とマシュは乗らざるを得ないわけだが、他は全員霊体化出来るよな?」

 

「・・・すいません、私は少し……」

 

「ジャンヌさん、透明に成れないの?」

 

「すいません、一応藤丸さんとの仮契約で魔力量は補えているのですが、霊体化をしようとしてもうまく出来ないと言いますか……」

 

「ならジャンヌ・ダルクもか……一応あと1人は乗れるが、そっちの三人は大丈夫か?」

 

「せっかくだから乗ってみたかったのに……」

 

「こんな所で文句を言っても意味がないだろうマリア。

そういう訳だ、僕たちははぐれサーヴァントだけど霊体化出来るから問題ないよ」

 

そう言って手を振りながら消えるアマデウス、それに付いていくように仕方なく、仕方な〜く霊体化するマリアことマリー・アントワネット。

 

「ん、それじゃ私もしばらく静かにしているわ」

 

「そうしてくれ、もっとも周辺の警戒もしといてくれ」

 

「当然よ」

 

そう言うと、満足した顔で聖女:マルタもまた霊体化した。

現在残るは(正しくは実体化しているのは)生身である藤丸とマシュ、そしてスネークと霊体化出来ないというジャンヌの4人となった。

 

「あの、興味本位でお聞きするのですが……スネークさんは運転できるのですか?」

 

「心配するな、運転もできるし免許も持っていた、事故起こすヘマはしないから安心しろ」

 

「ハイッ、運転よろしくお願いします!」

 

「うん、お願いスネークさん」

 

「わ、私からもよろしくお願いします」

 

マシュ・藤丸・ジャンヌの順でスネークに安全運転を願う3人。

そのスネークは片手を軽く挙げることで答え、車に乗りこむ、もちろん運転席だ。

 

「…………聞くんだがマスター」

 

「?どうしたの?」

 

「…………お前、どこに座る」

 

「えっ・・・・・・あ・・・・・・助手席で」

 

「了解だ」

 

こうして(なにかから)未然に救われた藤丸はサッサとスネークの隣に乗り込み、

その後ろに女性2人が乗りこむ。

そしてその間には黄色いヘルメットとリュックサックを担ぐネコが座っている。

 

「オイラも忘れてないかニャ?」

 

「忘れてないぞトレニャー」

 

「……一体いつの間に座っていたんですか」

 

「?オイラふつうに乗り込んだニャ」

 

「そ、そうですか……」

 

「よし、出すぞ」

 

こうして15世紀フランスに四輪駆動の軍用車が、傭兵と聖女と少女と一般人を乗せてフランスの大地を約250km南下しはじめた。

 




本来なら、護衛対象は助手席ではなく後部座席、
しかも後部座席の両サイドを人なんかで固めるのが一般的。
……だけど、美人2人に挟まれるのは・・・ねぇ?

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邪竜百年戦争オルレアン:7

やぁ。失踪してるかと思われているであろうけど、
ちょっと大学で色々あって小説をかくモチベを削られていました、ごめんなさいm(_ _)m

夏休みに入り、少し時が経ち、回復できたので投稿を再開します。
……とは言っても、昨日から書き始めて中々文字数が書けず、書き進まず、
リハビリ段階ではあるのですが。

けど夏休み期間中にフランスだけは終わらせようと思います。
ひとまず本編を、どうぞ





そろそろお昼時だろうと言った所。

そんな時刻になった15世紀フランスには場違いな4WDの装甲板や窓枠といったものを外した軍用車がリヨン近くにたどり着いた。

途中で野盗や脱走兵とぶつかる、と言ったこともなく、大変平和なドライブとなった。

スネークの召喚(手配)した車は軍用車にもかかわらず快適な旅を提供し、二時間半ほどの移動ではあったものの、藤丸やマシュの腰が痛くなる、と言ったことも起きなかった。

 

「よし街道の外れに止めるぞ、これ位の距離ならバレないだろう」

 

そういうと車を減速させ、街道の外れに車を停めたスネーク。

エンジンを切りドアを開け地面に降りる。

同様に助手席にいた藤丸や、後部座席に座っていたマシュとジャンヌも降りてきた。

それと同時に流石に3時間近くやることが無かったからか(もちろん警戒はしていたが)、霊体化していたサーヴァントたちもすぐに現れた。

 

「……今更なんだが、お前たちは霊体化してどこに居たんだ?」

 

「それを今さら考慮するのかね?」

 

「それもそうか、悪いな変なことを聞いて」

 

「いや〜これだけ早く移動できると楽だね〜、いくらでも楽器も運べそうだし」

 

「私はもう少しゆっくり景色を楽しみたかったわ」

 

「……マリア、今はそんな暇ないんだから」

 

「私は思いっきり飛ばしてみたいわね」

 

若干一名マイペースなお嬢様と、スケバンな気がしなくも無い聖女の反応が見られるが全員問題はなさそうだ

目的の街、リヨンはすでに目の間に見えており、歩いて15分も掛からず到着できるだろう。

 

「一応確認するが、車内に忘れ物は無いな?」

 

「……うん、何も残ってないよ」

 

「わかった坊主、とりあえず下がってくれ」

 

「あの、スネークさん?」

 

「ん、なんだ」

 

「たしかに街道からは外れてるけど、このままにして置いて大丈夫なの?

一旦戻すとかした方が良いんじゃないの?」

 

いくら迷彩が施されているとはいえ、何かの拍子に現地人が見つけてしまう可能性はもちろんある。

それに空を飛ぶワイバーンが飛来すれば興味を持って壊されかねない。

いくら宝具だとはいえもったいない、と思った藤丸の感性は相変わらず一般人のそれだ。

 

「問題ないすでに対策済みだ、少し離れてろ」

 

が、思うところはスネークも同じであり、そして彼の部下たちも同じである、故に当然対策が施されている。

言われた通り車から離れた藤丸を確認したスネークは、普通の調子でくるまに“命令”した。

 

「ビークル、ステルス迷彩」

 

《Roger that.》

 

そう答えると、車は消えた。

その光景を見た藤丸とマシュは目を丸くする。

 

「!?」

 

「車が一瞬で消えました!スネークさん一体何が!?」

 

「言っただろうステルス迷彩だ、よく見れば車の輪郭はわかるが遠くからならまずバレないだろう、それこそ双眼鏡でもあれば話は別だが——」

 

「何ですかコレ!?コレさえあれば怖がられずにヒツジをモフモフ!ヤギを“狩れる”じゃ無いですか!!」

 

「……そうだな」

 

訂正する

 

目を丸くするどころか頭がアフォーの子になった金髪少女が居た。

 

あだ名は確か聖処女だったハズだ。

 

「……にしても、俺が知らない間にだいぶ迷彩効果が高くなったな」

 

《……ねぇ、さっきまで時速100km前後で走ってた車のエンジンって熱いよね?なんで熱源反応が消えるの?》

 

「ん?光学迷彩は普通、赤外線や紫外線も同化させるだろ?」

 

《えっ!熱光学迷彩!?コレ攻殻○動隊なの!!?》

 

残念、コレはFateとMGSのクロスオーバーである。

 

《……魔力反応がゼロ、動いてるならパッシブレーダーでわかるけど駐車してる時はこっちからは観測不可能って規格外すぎない?》

 

「いや、規格通りだが……」

 

むしろ変な改造をしてヒャッハァー!!してないだけマシなのだ。

……具体的には、いつの間にフランスが舞台のタクシー映画を見たのか

『そうだ、空を飛べばいいんだ!』とか言い出して即刻改造を施していない程度にマシである。

 

「・・・ロマンだな」

 

「ああ、貴様と同じ感想というのが些か気に食わんが同感だ」

 

「……なんでオメェら頷き合ってんだ」

 

そして心はガラス製の少年と、本元の青い方でバイク乗車経験ありの王様は素晴らしいものを見たと満足し、その隣で青タイツのお兄さんが気味の悪いものを見るかのようにその2人を見る。SAN値チェックは無い。

 

「……まぁこれで問題ないだろう、サッサとサーヴァントを見つけるぞ」

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

「キャー!!“竜の魔女”よ!?遂にここにも襲いに来たんだわ!!」

 

街に入った瞬間の第一声はこれだった。

……確かに街に入る前に見かけた人たちも、キョロキョロこちらをまるで不審者の様に見ていたが、どうやら不審者はこちらの方だったらしい。

まぁそんなツッコミがフランス市民に受け入れられるほどの余裕も無いのだが。

 

《しまった!なんかいい感じに聖女マルタが仲間になったり和やかムードが続いてたから忘れてたけど、街にいるフランス市民にしてみればジャンヌは街を襲う存在でしか無いぞ!?》

 

「す、すいません……私自身すっかり忘れてました……」

 

「いえ、ジャンヌさんは悪くありません、私も忘れてましたから……」

 

「変装できる服も用意すべきだったか……」

 

マシュとスネークが結構真剣に反省し始める。

もちろんその間にリヨンにいる“竜の魔女”の区別がつかない市民は我れ先にと逃げ出す。

 

「って、これじゃサーヴァント探しが……!」

 

「いや、むしろ効率的ではあるぞマスター」

 

当然、当初の予定であるサーヴァント探しなど進むわけが無く、焦る藤丸だったが、そんなマスターにエミヤが何も問題が無いように声をかける。

 

「それってどういう……?」

 

「ああ!騒がしいから向こうから駆けつけてくれるのね!」

 

「いやっ……まぁ君のどこまでもポジティブな考えはいつになっても恐れ入るけど、そんな白馬の王子さまみたいなものじゃ無いと思うぞ?

むしろ——」

 

「……なんの騒ぎかと駆けつけて見ればまさかジャンヌ・ダルクがこの街に入って居るとはな」

 

むしろ問答無用で切りつけられるんじゃ、

とアマデウスが言おうとしたところで白馬ではなく、むしろ黒く白馬の王子さまでは無く、黒を基調とした鎧を身に纏う男が現れた。

その雰囲気からしてサーヴァントでありセイバーだろう。

 

「……ついにこの街にも来た様だが、この街の住人に手を出すなら——」

 

「待ってください!私たちはカルデアの者です!

竜の魔女と呼ばれてるジャンヌ・ダルクを倒す仲間を集めにここに来ました!」

 

「……そこに居るのがそうじゃないのか」

 

「こちらのジャンヌさんは真っ白です!竜の魔女なジャンヌさんは真っ黒です!!」

 

「マシュ……そんな説明で信じてくれるわけが——」

 

「ふむ、確かにな」

 

「信じた!?」

 

意外っ!それは理解!!と、藤丸は驚いた

だが向こうの黒い剣士は実際に剣を収めた。

 

「何もそんなに驚くことでもあるまい、ここに来る途中から少し違和感があった。

この街には既に襲われた街からきた人々もいる。そんな彼らが逃げれたのは竜の魔女が来たと騒ぎになった所から離れていたかららしい、ワイバーンも空を飛んでいたが自分が住む街の反対側の入り口に集まっていたそうだ。逆に言えば離れていた人々以外はやられた様だがな。

だがお前たちはワイバーンもつき従えていないし、まだ暴れてもいない」

 

と、中々の推理で藤丸たちが少なくとも竜の魔女の一団では無いと理解してくれたようだ。

念のために構えていたカルデア一行もその警戒を緩める。

 

「よ、良かった……話がとてもわかる相手で」

 

「そうよアマデウス、あなたの考えすぎなのよ」

 

「きみはもう少し考えた方がいい気もするけどねマリア」

 

「アマデウス……あの音楽家の?ならそちらはマリー・アントワネットか」

 

「・・・サーヴァントの真名がこうも簡単にバレるのはどうなんだ?」

 

「別に困ることは無いから、俺はいいと思うよ?」

 

「いやっあのなマスター……いやっ、やっぱ良いわ」

 

昨日の夜ではスネークが連れてきたこの2人に対して真名がバレないようスネークとクー・フーリンはわざわざクラス名で呼び合っていたのにも関わらず、その連れてきた2人の真名はアッサリばれるというこの事態。

しかし別に聖杯戦争って言っても、その聖杯を回収しちゃうから関係ないよね?の精神で行くマスターからすればあまり問題ではないようだ……通常の聖杯戦争なら聖杯を回収しちゃうという発想の時点で問題なのだが。

 

「……すまない、ここで立ち話をしていると人々の迷惑になってしまう、場所を変えても良いだろうか?」

 

「え……あっハイ!すぐに移動します!」

 

「そ、そう慌てなくても大丈夫だ、そんなに遠くはない」

 

マシュがスワッ!と返事をして駆け出そうとするのを防いだ後、怯えている街の人々に大きな声で

『彼らは敵ではない!例の竜の魔女に襲われ逃げてきた者たちだ!』と伝える黒い剣士。

最初はその言葉でざわついていたものの、一行が別段抵抗することもなくこの街を守る剣士に従っている姿を見て、住人たちも『竜の魔女がこんなところにいたら、もう殺されている』と、結論づけ、段々と元通りの落ち着きを取り戻していった。

そんな街の様子を見てスネークが尋ねる。

 

「……なかなか信頼されているみたいだな」

 

「そういう訳でもない、いつのまにか召喚されどうしようかと悩んでいる時にたまたまこの街が襲われているのを見た、そして助けた、それ以来ここにいるだけだ」

 

「でもあなたのお陰で助かりました、ありがとうございます」

 

実際助かったのは事実であり、何よりお互い争うことが無かったことに感謝し、ジャンヌは頭を下げた。

そこの青タイツのお兄さん、なんか残念な顔しない、戦いが全てではありません。

 

「…………なに、生前から人の願いを叶えることが仕事だった、それだけさ。

さて、一応ここが私がこの街の長から街の治安維持……と言っても主にワイバーン狩りだが、そのために借りている言うなれば詰め所だ」

 

黒い騎士のその顔が、過去の自分を思い出したのか僅かに変化したのをその隣にいたスネークは見逃さなかったが、他のメンツはやや後ろにいたからかその変化に気づくこともなく、何よりスネークがそれに触れる理由もないため大人しく案内された詰所に入る。

中は最初にフランスに降り立った際に立ち寄ったボロボロになった砦、その中にあった見張り塔の様な石造りで高さのある建物だった。

そして軍事施設……まして詰め所特有の生活感とは違う独特の痕跡がそこら中に散らばっていた。

 

「小さめな椅子に机、そしてベッドは無い、だが随分と貰い物が多い様だな?」

 

「街の者がくれるのだ、私は……まぁお前たちが知っての通りサーヴァントだ、食べなくとも問題ないのだが、街のものにそう言っても理解されない。私は食べなくても大丈夫だからと言っても彼らにとっては貴重な食料をくれるのだ」

 

「そうなんだ……やさしい人たちなんだね」

 

藤丸の言葉にマシュも頷く……が、同時に黒い騎士はその言葉を素直に受け取るのが恥ずかしかったのか、それとも別の理由からか、自らの顔をわずかに2人から背けた。

だがすぐに正面を向き、思い出したかのように話を続けた。

 

「……そう言えば自己紹介がまだだったな。

私はジークフリート、ニーベルンゲンの歌に出てくる、といえばわかるだろうか」

 

《聖剣バルムンクを振るい、邪竜ファヴニールを倒した万夫不当の大英雄、聖剣としての知名度はエクスカリバーに劣るかもしれないけど、その実力は竜を倒したことからも本物だよ》

 

「……すまないが、まずそのそちらに居る白いのと黒いのとの違いから説明してくれないか、私は全く情報を掴めていないんだ」

 

そう言われ、一瞬スネークの方を見る藤丸だったが、当のスネークは説明するのは面d——自分は適任ではないと判断し、他に振った。

 

「それもそうだな、ならマスターとマシュ、それに本人が説明した方が早いだろ」

 

「そうしてくれ、簡単で構わない」

 

そんなスネークの思わ——配慮に気付くことなく、黒い騎士……ジークフリートは彼らのマスターに話を促す。

そして簡単で構わないという言葉に考え込む藤丸、数瞬考える。

 

Q. どうすれば簡単に教えられるだろうか?

 

「・・・簡単に話す方が難しいので、一から話しても構わないですか?」

 

A.うん、ちょっと無理

 

「……すまない私の配慮が足りなかった、1からで構わない、教えてほしい」

 

一同は思った

 

このサーヴァント、藤丸(マスター)と同じくらい素直だ、と

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

とりあえず話は済んだ。

幸いにも黒い騎士……もとい、セイバーであるジークフリートは、話ができるサーヴァントだった。

そして思考もまともで、目の前にいるジャンヌはまず本物で、いまフランスで暴れているジャンヌはまた違う存在であるという説明にも理解を示した。

そして軟弱男……もとい、カルデアのドクターロマンの存在も知った。

 

「それで……ここからどうする気だ?」

 

なんだかんだで話も落ち着いた頃、ジークフリートがカルデア一行に尋ねた。

その質問の意図がわからなかったマシュが尋ね返す。

 

「どうするとは……どういう意味でしょう?」

 

「ジャンヌ・オルタを倒すのは分かる、それに関しては私も出来る限り手を貸そう。

ただ・・・わたしにはこの街を守らなければいけない、共に移動することはできない」

 

「それは……そうですね、いくら相手を倒すためとはいえこの街を守っているのは現状ジークフリートさんただ一人です、ここから去るわけにも行かないでしょうし——」

 

「だからといって、1人置いて行ったところで勝てる相手でも無いからな。

こっちはマルタやお前を入れて10体のサーヴァントはいる……が、うち2名は前線で張り合えないが」

 

そう言うスネークの言葉にマリー・アントワネットはニコニコと、アマデウスは手と首を横に振る。

 

「あいにく僕は音楽家だし彼女はフランス王妃だ、武勇なんてないさ……ほんとマリアはともかく、なんで僕なんかが英霊になれたんだか」

 

「それに対して向こうはわかってるだけでもジャンヌ・オルタを含めて4人だ」

 

「ふむ……それならこれからすぐにここを発って一気に攻める——」

 

「いや、そういう訳にも行かない」

 

戦力にして約倍の人数がいるのなら、一旦留守にしてでも一気に攻め込んだ方がこの街を守る点では合理的だと判断したジークフリートの判断は間違えではない、加えて自ら攻めの提案を出したことに関心しながらも、それはできないとスネークは反論した。

 

「……それはどうしてだ?」

 

「気持ちはわかるけれど向こうは聖杯を持ってサーヴァントを召喚してるの、私もそうよ。

加えて私が死んだ……実際には契約を切ってこっちに移っただけだけど、少なくとも私が倒されたと思ってるなら新しいサーヴァントをすでに召喚してるハズよ」

 

いくらバカであったとしても、カルデア一行だけでデミサーヴァントを含めて5体いるのだ。

それは向こうも既に知っている、聖杯と時間がある以上戦力の増強は既にされているだろう。

実際にはそこから現地にいるサーヴァントも含めるとさらに倍のサーヴァントがいるとはいえ、向こうは更に倍々にいる可能性だってある。

 

「そう言うわけだ、一点突破も選択肢の1つではあるが確実じゃない、それに襲うにしても相手が全員いるとは限らん。それこそジャンヌ・オルタが生き残ればまたサーヴァントを召喚されるだけだ」

 

「……なるほど、今まで俺一人で仕掛けるわけには行かなかったが、オルレアンを攻めるにしてもこのままでは“足りない”というわけか」

 

「戦力も情報もな、加えてこの街の安全を確保しながらだとすればなおさらだ」

 

実際、このまま攻勢に出ても勝機はある。

それこそアルトリア・オルタが言っていた様に、自身の宝具でオルレアンを吹っ飛ばした後にエミヤが追撃、それでも残る残党はクー・フーリンのゲイボルグや藤丸たちで倒せばいい。

ただ、それを実行するにしても聖杯を持つジャンヌ(マルタの証言で聖杯はジャンヌが持っている事はわかった)を倒すことが最低条件だ。逃げられるのもそうだが、攻勢を仕掛ける際にいなければ何の意味も無い。

 

それに向こうにはルーラーとしてのスキルがあるため、仮にオルレアンにジャンヌ・オルタがいたとしても、奇襲する前に気付かれる、加えて敵も戦力増強が予想される。そうなれば迎撃されるのは間違いなく、そんな条件下では戦力はあればあるほど良いわけで、竜殺しの英霊の力を借りないわけにはいかない。

 

《そうなると……やっぱり情報収集と戦力の追加かなぁ》

 

「そうか、となるといくつかの街に協力を求めることから始めるか、幸い人数は多いしな」

 

「……ん、ほかの街もまだ残っているのか?」

 

「ああどうやらその様だ。最も私はここから離れていないから実際の所はわからないのだが、街の人々の中にはここ以外にもいくつか選択肢があったらしい、1つはここから西にあるらしい」

 

「西の町……どこのことでしょうか?」

 

「……すまない、俺はこの国には詳しくなくてな……すまない」

 

「い、いえ!ジークフリートさんが謝ることではっ!」

 

「ここから一番近い街というと……ティエールか」

 

「そうね……って何であなたが知ってるのよ」

 

「地理の把握は戦略上重要だ、大体の地名と地形は把握してるからな」

 

「・・・待って、それってフランスのってことよね?」

 

「いや全部だが」

 

「全部!?」

 

マルタが唐突に叫ぶので随分と驚くもんだなと思うスネーク。

まぁすごい事だろうが、スネークの創設した部隊の性質上、世界中を文字通り股にかけていた。

別にスネーク本人が世界中を回ったわけでは無いが、それでも自分の隊員たちが現地に行くのならと物知りな隊員と適当に話していたらいつのまにか覚えていた。

もっとも、任務のたびに詳細な地形等は確認するため、意味がないといえば無いし、その時からの癖でフランスに行くことが決まった時点で調べただけ……と当の本人は思っている。

 

そんなこんなで、一行は二手に分かれてさらなる戦力増強を見込んで各街を訪ねることにした。




何かご意見・ご感想があれば作者の参考にも励みにもなります。
何かありましたら感想欄にてお知らせ下さいm(_ _)m。


ついでに。
簡単な感想でもつい作者は嬉しくなります。
今まで感想も返せていませんでしたが、これから返しながら執筆していきます。
とりあえずは夏休みの間、よろしくお願いします!



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邪竜百年戦争オルレアン:8

やあ、連投出来たよ。
このまま1週間ぐらい続くと……いいなぁ
なお、区切りがいいので今回は結構短めです、ご容赦を。

・・・あ、あしたも挙げるから!本当にあげるカラっ!!




リヨン出立 5時間30分後、フランス南西部 ボルドー 10:21

 

「……よし、そろそろ到着だ。何か問題がある奴はいるか?」

 

リヨンでジークフリートと無事に合流したカルデア一行は翌日、リヨンの街の住人から得た情報を元にリヨンから西にあるティエールとボルドーと呼ばれる街に出向くことになった。

だが、ティエールまではリヨンから556km、車を使っても5時間以上はかかるため、捜索隊を2つに分ける事に。

 

その分け方もどこかのお姫様が「くじ引きが一番よっ!」と言いだし、まぁそれで良いかと一同合意。

その結果

・ティエール捜索 藤丸・マシュ・アルトリア・アマデウス・マルタ

・ボルドー捜索 スネーク(運転手)・トレニャー・ジャンヌ・マリー となった。

 

なお、エミヤとクー・フーリンはジークフリートと共に留守番となった。

またテメェと同じか、お前に言われる筋合いは無い、と互いに言い合うもティエールじゃないだけマシか、と渋々(本当に渋々)居残る事になった。

 

そんな訳で、スネークは女性2人と探検家1匹を連れて5時間ほどドライブをしてボルドーに出向いた。

なお、道中でワイバーンが襲ってきたが全てトレニャーによって素材と化しました。

本人(本猫?)はホクホク顔です。やっぱり窓枠がないと狩るのが楽らしい。

 

「素材がいっぱいニャー!ポッケ村に帰ったらこれで色々作れるのニャ!」

 

「私たち2人も問題ありません」

 

「ええ、ご心配下さってありがとう!ところでトレニャーさんに質問なのだけれど〜」

 

「ハイニャー!」

 

「トレニャーさんが居るところの世界ってワイバーンがいっぱいいるのかしら?

さっきもあっさりとワイバーンをピッケルで刺していたけれど」

 

「ああ、それ私も気になります」

 

「ニャ?あの飛んで来るやつはランポスより弱いニャ、群れて来ないし」

 

「「ら、らんぽす?」」

 

あと10分もせずに到着するのだが、ここでふとそんな質問をする王妃さま。

それにつられて隣のお友達も、後部座席からズイッと助手席にいるトレニャーに尋ねた。

だが帰ってきた言葉が分からず、思わずハモった。

 

ぜったいかわいい

 

「あーあれだ、カンガルーみたいな格好ですばしっこい奴だ」

 

「「かんがるー?」」

 

「……わからないなら恐竜版のオオカミだと思ってくれ、1匹1匹は弱いが群れで襲って来る」

 

「ああ!囲って殴るように連携して来るんですね!たしかにそれは厄介です」

 

「……まぁそうだ」

 

聖女とは決闘でもしなければいけないのだろうか。

発想が不良のソレとあまり変わらないような気がしなくもないが、一対一なんて知った事じゃないと言わんばかりの戦い方を始めた張本人でもあることを思い出したスネークは突っ込むことを放棄した。

 

「というか、こいつがきた世界にはとんでもない竜がそこらじゅうで歩いてる世界だ。

共存している、と言ったほうが正しいがな」

 

「とんでもない竜と言うと……マルタ様のタラスクさんの様な?」

 

「アレよりもデカイし凶暴なのもいれば小さいがすばしっこい奴、邪魔する様に頭突きをかまして来る奴、色々だ」

 

 

ファンゴまじで・・・マジで・・・!

 

カニ風情がぁ・・・!!

 

降りてこいよ空の王者(笑) といったコメントはお控えください。m(__)m

 

「じゃあじゃあ!あの黒い騎士様はドラゴンスレイヤーだけれど、そんな人がいっぱいいるのね!」

 

「ハンターさんのことかニャ?」

 

「そうなるな、もっとも俺自身も直に見たことが無いが」

 

「ハンター、ですか」

 

「ああ、聞いた話だと色々な武器を使うらしいが俺の様な近代兵器じゃない。

まあボウガンみたいな飛び道具はあるらしいがな?どうやら剣やら槍やら弓で怪物を狩るらしい」

 

「おミャーさんもティガレックスならいけるニャ?」

 

「武器がこいつだけじゃあなぁ、撃退はできるだろうが……」

 

そう言って、自分の足元のやや右に置かれた小銃を一瞬見下げるスネーク。

空の王者と違い、地上を這うあの竜ならば一応いまの自分が持つ突撃銃でも対応できる……がそれでも狩り切る自信は無い、せいぜい追い返すのが関の山だろうと考える。

せめてRPG、できるならカールグスタフの1つでもあれば話はまた違うが、と思いながら。

 

「止まりなさい!貴公らが悪しき竜で無ければ!」

 

すると前方から大きな声が聞こえてきた、よく見ると道の真ん中に鎧を纏った人影が見え、道を遮っていた。

その運転手も素直にその言葉に同意しスピードを落とす。

 

「ん、どうやら探す手間が省けそうだな、とりあえずジャンヌ・ダルク」

 

「はい」

 

「お前が返事をしてやれ、それが早い」

 

「えっあっ……ごめんください!あなたはサーヴァントでしょうか!」

 

・・・まあ間違いではない、別に知らない土地に出向いての開口一番が『ごめんください』は間違いでは無いが、サーヴァントの言うセリフか否かは悩む所だ。これがマシュなら納得できるのだが……いや、初陣の様な感じだと言うから別に問題は無い……ないだろう。ないよ。

 

「ええ、私の名前はゲオルギウス、ここの街の守護を任されている者です。あなた方が敵対する意図が無いのはわかりました、良ければその馬から降りて来て頂けますか?」

 

「……とのことですが」

 

「相手は守護聖人だ、招かれたなら断る理由はないだろう」

 

そう言って車のエンジンを切り、車を降りるスネーク。

それに合わせてジャンヌやマリーも降車し、道に立つ英霊:ゲオルギウスの方へ歩いて行った。

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

「連携、ですか」

 

「戦力が揃えばこっちも攻勢に出れる、幸いこっちには火力がある……が、一回手の内を見せた。

向こうはそう簡単に隙を与えてくれないだろう、そのために出来るだけ向こうの戦力を分断する必要がある、そのために頭数が必要でな」

 

カルデア一行が立てた作戦の大まかな概要はこうだ。

 

敵本陣に向けて火力を持って薙ぎ払った後、電撃戦を仕掛ける

 

そう、早い話が脳筋作戦である。

もっともこの手段は一度相手に用いてしまっている。向こうもそれを阻止しようとしてくるはずだ。

そのためには早い話囮を多数用意して宝具を解放する隙を作るしか無い、令呪を使うにしてもだ。

ある程度オルレアンに接近し、敵ジャンヌが逃げる前に仕留める。そのためには戦えることもそうだが、出来るだけ多くの敵を引きつける必要がある。

 

「なるほど、それならば私も役に立てそうですね」

 

「では!」

 

「ええ、わたしもそちらに合流しましょう。

幸い、と言っていいのかここは一度襲撃を受けました、その時はどうにか退散させましたが2度目は厳しい。

そう判断しすでに市長には住民の避難を始めてもらっています、それも今日中には終わります。

住民たちの避難が終わり次第、貴方達とともに移動しましょう」

 

「決まりだな、なら俺はマスターたちに連絡する、今日中にリヨンに戻れるだろう。こっちもかの聖ジョージに直接守られるとなれば心強い」

 

「守ることが英霊としてのわたしに求められていることですからね。

この街の人々を守り、そしてこの国の人々を守るためにあなた方を守ります」

 

「まぁ、素晴らしい殿方ね!」

 

「ははは、かの王妃にその様なお言葉を頂けるとは」

 

車を光学迷彩で隠した後、こちらも名乗りとりあえず理解を得た。

ジャンヌ・ダルクが名乗ろうとしたところ、あまり話さない方がよろしいでしょうとゲオルギウス本人の口から話され、それはなぜかと聞いて見ると本人には直感スキルがあるらしく、道の真ん中で立っていたのも、鉄の箱馬でやってきた自分たちのことを敵では無いと瞬時に直感したかららしい。

『敵であればすでに攻撃していました』とは本人談。

 

何はともあれ、無事に当初の目標通りサーヴァントを味方につけることができた。

あとはリヨンに戻り——

 

《っ繋がった!》

 

「ん、ロマンか。いまサーヴァントと合流してな——」

 

《今すぐそこから退避して!サーヴァントと超極大な生命反応が猛烈なスピードで近づいてる!!》

 

「なに?」

 

無線から聞こえて来た情報がとんでもないことだと思いつつ、すぐに無線をiDroidのスピーカに繋げる。

 

「すまんロマン、もう一度言ってくれ」

 

《とにかくすぐに退避だ!サーヴァントに超巨大なナニカが接近してる!!あと10分もしないでくるぞ!?》

 

「なんと……!?」

 

「落ち着けロマン、サーヴァントは何体かわかるか」

 

《そんなのいいからともかく——》

 

「いいか、落ち着け、俺らが撤退するにしても敵の情報が必要だ。もう一度聞く、サーヴァントは何体だ」

 

《……うん、ごめん、取り乱した……》

 

そう言うと通信機の向こうで深呼吸をしたロマンは状況を詳しく伝え始めた。

 

その情報はこの場にいる者にとって大変良くないものだった。

 

《サーヴァント反応は3体、それに加えてサーヴァントを超える生命反応。

これが全部、今君たちのいるボルドーに向かっている、到着は10分後、オルレアンの方から来ている》

 

「ゲオルギウス、住人の避難はいつ完了する」

 

「まだ終わりません、せめて午前中一杯はかかるかと」

 

「ロマン、マスター達はこっちに向かってるか?」

 

《少し前に連絡した、クー・フーリンが走って向かってる、けどすぐは無理だ》

 

「令呪による転送はできないのか?」

 

《無理だ、サーヴァントを呼ぶ寄せることはできるけど、それは令呪で位置座標を固定してるからだ。

見える範囲なら誤差だろうけど、行ったこともない場所にサーヴァントを移動させるのはできない》

 

「そうか、ゲオルギウス」

 

「なんでしょう」

 

「2時間で避難を終わらせてくれ、その間の時間を稼ぐ」

 

「なんと……!?」

 

「そんな無茶です!それなら——」

 

「ジャンヌ・ダルク、お前はゲオルギウスに付け」

 

「何故ですか!?」

 

「お前が迎撃にでればヘイトが高まる、それにお前がここにいるのを知れば向こうはなりふり構わず街を攻撃しないとも限らない」

 

「ですが——!」

 

それではあまりに無謀だ。

たった一人でサーヴァント三体に正体もわからない何かを相手にするなど不可能だ……たとえそれが死ぬことが前提だったとしても。

いくらカルデアで召喚されたために倒された後でも再召喚が可能だとはいえ、この場で一人で戦いに挑んだところで意味がない。

 

故にジャンヌ・ダルクはスネークに抗議し、そのスネークはマリー・アントワネットを見て言った。

 

「王妃様、すまんが援護頼む」

 

「あら、わたし?」

 

「頭数が多い方がいい、だが住人を守る数も必要だ、が出せないならおたくを頼るしかないからな」

 

「そこは身を呈して守ってくれるのではなくて?」

 

「使えるものはなんでも使う、余裕があれば話は別だが」

 

「・・・良いわ!わたしだってただのおてんば娘じゃないってアマデウスに教えないといけないと思ってた所なの!」

 

「マリー!?」

 

だが、無謀だと思っているのはジャンヌだけではなく、スネーク自身もそう思っていた。

故にこの場にいるもう一人のサーヴァントであるマリー・アントワネットに力を借りることにした。

 

この場で戦えるサーヴァントはスネーク以外ではジャンヌとゲオルギウスだろう。

だが、ジャンヌが出れば向こうは何も考えず遠慮なしに街を襲う可能性がある。

なにせもう一人の“自分“である彼女を見下しているフシがある、それこそこの国を救おうとしている彼女に見せつけるように街を直接襲うかもしれない。

それに、ゲオルギウスが戦いに出て行ってしまえば避難誘導はスムーズに進まない

それこそ今いるメンツ全員でで向かってきている敵を倒しきれる保証もない、最善なのは追い払うか援軍を待つまで時間稼ぎをすることなのだ。

最低でも街の住人を避難させさえすれば街を破壊されても問題はない。

 

故に王妃である彼女と共に敵を迎撃し、残りの2人でさっさと住人を避難させてもらうのだ。

 

「いいのジャンヌ、これは戦いよ。確かにこんな戦いは生前のわたしは経験したこと無いけれど、ただの女の子じゃなくってよ?」

 

「それに専門家もいるしな、サーヴァントの相手さえできれば時間は稼げるだろう」

 

「それはそうですが……」

 

前線を張れないだけで、全く戦えないわけではない。

それにフランスの民が目の前で襲われているのに自分は何もしないで放置するほど、この王妃様は冷酷ではない。

むしろ人々のために自分を犠牲にする程度のことはやるのが彼女である。

 

その頑固さは田舎娘である聖女でも同じだろう。

 

「……わかりました、避難誘導が終わり次第わたしもそっちに行きます」

 

「2時間だ、2時間以内で避難を終わらせてくれ、それ以上持たせる自信は無い」

 

「なら私たちは住民の避難誘導を始めましょう、行きますよジャンヌ・ダルク」

 

「頼む、なら俺たちは北部で迎撃する、すぐに移動するぞ」

 

「ええ!」

 

《確認するけど君たちだけ避難は……しないんだね?》

 

「悪いなロマン」

 

それぞれが移動を始める。

ゲオルギウスとジャンヌはボルドーにいる住人を避難させるため街の中へ、スネークとマリーは出来るだけ街に被害を出さないよう車で街の北部へ。

幸いオルレアンはボルドーから北東の方向にある、方部に広がる畑に誘導は十分出来るだろう。

 

《けど……その場に留まれば——》

 

「馬鹿言うな、ここで死ぬか、あの空っぽ女に負ける気はない、それに逃げるのも癪だからな」

 

そう無線に答えると、止めてある車に走り出すスネークとマリー。

出来るだけ街から離れ、ボルドーから住人が避難するまでの時間稼ぎをする。

そんな条件の中、若干汗を滲ませながらシートに乗り込みエンジンを付ける。

 

「念のため確認するがあくまで時間稼ぎだ、倒れさえしなければどうにでもなる、とにかく耐えてくれ」

 

「ふふ、大丈夫よ。これでも耐久に関しては自信があるのよ」

 

「そうか、よろしく頼む」

 

ライダークラスの傭兵とフランス王妃の2騎のサーヴァントが、防衛戦に挑む。

 

 

 




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オマケ

「……おや、そちらは……」

「おいらはトレニャーニャ!」

「・・・汝は竜!」

「ニャァ!?」

「……まああながち的外れでは無いがな」


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邪竜百年戦争オルレアン:9


か、書けたぜ……そして残弾が無いぜぇ……!
もっとも皆さんから感想を頂けているので今週中には次話を上げられそうです。

頑張る……ガンバル٩( ᐛ )و



時代違いではあれど、今この場では場違いではない4WDの軍用車がフランスを疾走する。

それを操るのは傭兵である眼帯の男と、フランス国王ルイ16世の王妃。

双方ともにサーヴァントとして現界した存在だが、同時にボルドーを襲おうとする復活した(とされる)ジャンヌ・ダルクから避難する住民のために時間稼ぎをするために、街から北部にある……有名なブドウ畑の方へ向かっていた。

 

「っこいつはロマンの言っていた通りだな」

 

「そうね、私でも感じられるわ」

 

車を飛ばし、出来るだけ街から離れた……が、それでも5km程度だろう。

そしてカルデアからの連絡から10分が経ち、“サーヴァントを超える超極大な生命反応”が戦いの素人であるマリー・アントワネットですら感じられていた。そして直接その姿が車の進む先の空に見えていた。

 

「……見たことないやつだな」

 

「まあ、随分と大きいわね!」

 

《この反応からして幻想種だとは思ってたけど……!!》

 

幻想種:

本来、伝説や神話において登場し文字通り幻想の中にのみ生きるモノ。故に使役はおろか目撃することは不可能に近い。だが人理が焼却されたいま、この世界の裏側にしかいないはずの幻想種が出てくるのは難しくない。そして幻想種を使役することが可能な力を持つものが聖杯を使い、それらを使役するのも不可能ではない

 

 

それがたとえ

 

 

《だからってドラゴンはないでしょう!?》

 

 

グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!

 

と、大気を揺るわす怒声とも叫び声とも違う音が響く。

その音を合図にスネークはハンドルを切り、車を停め、その音を発する元凶がいる空を見上げる。

見上げた先にある極大な黒い影の背中には一度見た黒い聖女が居た。

 

「アラ?こんな所にいたのですか、私たちの邪魔でもするつもりで?」

 

「邪魔も何もお前が勝手に来ただけだろう、むしろ出迎えだ」

 

いまだ車に乗りながらジャンヌ・オルタの声に返事をするスネーク。

その後ろでマリー・アントワネットもジャンヌに声をかける。

 

「あら、彼女がもう1人のジャンヌ?」

 

「……どなた様かしら」

 

「ふふ、私はマリー・アントワネット!もう1人のあなたのオトモダチよ、ジャンヌ・ダルク」

 

「あの汚わらしい私とトモダチ……だから何です、私を止めに来たとでも?」

 

「……いいえ、あなたを止めることはわたしには出来ないわ」

 

「ハッ、でしょうね。どうせあの女ともただお互いに慣れあっただけでしょう。

所詮ただの田舎娘と嫁いだ箱入り娘、そして周りに裏切られて最後には殺された同じ運命、違うかしら」

 

「そうね……けれど、単なる女じゃなくってよ」

 

「そう・・・じゃあ死になさい」

 

その瞬間、後部座席に乗っていたマリーの後ろから、首筋に向かって大ぶりな剣が振り下ろされる——

 

「わけないだろう」

 

「!」

 

——代わりに後部座席の後ろにある外装が突如開き、一斉に火を吹いた

 

剣を振り下ろそうとしていた人影は間一髪、車を蹴ることでその場から回避した

 

同時にスネークは足元に置いたM16の単射で3発避けた人影に撃つ

 

だが上空から飛んで来た別の影がその弾丸を弾き飛ばした

 

「大丈夫か」

 

「問題はないわ……けど」

 

「けど何だ」

 

「……ビックリするから、今度から事前に教えてくれると嬉しいのだけれど」

 

「それだと敵も欺けないからな、まあ諦めてくれ」

 

そう言いながら銃を構え車から降り、車両後部から突如展開された対空銃座6丁の様子を見つつ敵を伺う。

敵の数は後方から奇襲して来たのと上からいま落ちて来たので2体、そして上のデカいドラゴンにその背中乗っているジャンヌの計4体。奇襲を仕掛けた方は大きめな剣を持ち、もう一方は黒い騎士という表現そのままの格好をしている、だが一番の脅威はデカいドラゴンで間違い無いだろう。

 

「さて、早速戦闘だが王妃様、戦いたい相手はいるか?」

 

「そうね、ならいま襲って来た彼ね」

 

「ほう、まさか要望があるとは思わなかったが……知り合いか?」

 

「あなたの様に博識ならこう言ってもご存知かしら、わたしが靴を踏んでしまった人よ?」

 

「・・・何とも縁があるもんだな」

 

「そうね、それは向こうも同じじゃないかしら」

 

「なら俺は黒騎士とあのドラゴンの相手をする。生憎余裕も無いからな、出来るだけ援護もするが倒すのは任せるぞ」

 

「援護していただけるだけ十分よ、むしろ大丈夫なの?」

 

「あくまで時間稼ぎだからな、むしろあの男の相手を頼んだぞ」

 

その言葉にニコッと微笑み、それで返事をするマリー・アントワネット。

一方でその顔を一瞥した後、M16を背中に回しハンドガンとナイフを取り出すスネーク。

 

「ああ、まさかこの様にして君に会えるなんて……!」

 

「……あいつの相手はお前に任せる、どうもやってられん」

 

「ふふ良いのよ、けど加わりたかったら良いのよ?」

 

「ARrrrrr……」

 

「バーサーカーの相手の方がマシだ」

 

「ハッ!わざわざあなた達と戦う理由は無いのよ!やりなさいファヴニール!」

 

だが地上にいるサーヴァントを一切無視するジャンヌ・ダルクのその言葉に呼応する様に、

 

再び雄叫びをあげたドラゴン……ファヴニールは口をスネーク達に向けながら大きく開けた

 

《ファヴニール!?それってっいうか高魔力反応!!》

 

「だろうな!」

 

「けどこのまま向こうの味方も巻き込んでしまうわよ?」

 

「御構いなしなんだろ」

 

ファヴニールの口元から大きな赤い炎が湧き、それが地上にいる者たちめがけて向けられた

 

「……それで、この後はどうなっちゃうのかしら?」

 

「あなたたちはここで消し炭になる、それだけよ!」

 

勝った!と言わんばかりの決めポーズを向けるジャンヌ・ダルク

 

返事に対して首を傾けたままのマリー・アントワネットは隣の傭兵に顔を向ける

 

その傭兵も返事はわかりきってると言わんばかりにため息を吐きながら首を横に振る

 

 

それは諦めのため息

 

 

「けどそれじゃダメなのニャ」

 

 

——な訳が無く

 

 

 

空にいるファヴニールの真上

 

目と鼻の先にある太陽の真上に丸い影がぶら下がっていた

 

「空中投下ですニャ!」

 

丸い影はファヴニールの真上から落下し

 

 

炸裂した

 

 

「!?」

 

 

それは誰の驚きだろうか

 

独特な高周波が炸裂した場から発せられ

 

ドラゴンの雄叫びよりもはるかに不快な音が辺りの空間に響き渡る

 

地上にいるサーヴァントたちは耳を抑え下を向く

 

最も近くで聞いた巨大なドラゴンはその巨体をくねら急激に地面へ落下していく

 

その巨体からゆっくり落ちているように見えるが、その速度は見た目以上であり

 

わずか数秒で地面に激突する

 

「よくやった」

 

だが地上にいるサーヴァントの中で唯一こうなることを予想していた傭兵は

 

巨体が落ちていく間に黒騎士に音なく接近した

 

 

この騎士の真名からして本来は一瞬の隙も見せることは無い

 

だがバーサーカーであること、

 

使われた兵器が屈強なハンターですら耳鳴りを起こすものだったこと、

 

それが予期せぬタイミングで使われたこと、

 

これらの条件が合わさり、敵から視線を外すという隙を晒した

 

そしてそれがこの黒騎士にとって致命となった

 

 

 

音も立てず

 

見ることもできず

 

感知することもできなければ

 

それは存在しないに等しい

 

 

 

黒騎士は背後から拘束され頭頂部を軽く抑えられながらやや上を見上げる

 

そうして開いた頸部にナイフが刺さる

 

左から右へ引き裂かれる

 

そのまま優しく背後へ倒され仰向けになる

 

もうすでにこの騎士は動くことが出来なかった

 

「……r…………thr……」

 

「悪いな」

 

そう言ってハンドガンを取り出したスネークによって仰向けになった黒騎士は

 

甲冑が空いている部分からハンドガンを3発、霊核がある部分へ向けて放たれた

 

パンッパンッパンッと乾いた音が続く

 

そうして黒騎士は淡い光となって消えっていった

 

魔術と縁のない傭兵でもサーヴァントとなったせいか、直感的に目の前の敵が座に帰ったことがわかった

 

そこに巨大な物体が落下したことによって地面が揺れる

 

数瞬を置いて風と粉塵が舞い上がり地面を這うようにして一気に広がる

 

このタイミングで続けてフランス革命を見届けた男へ接近しようと試みる

 

だが向こうから先に近づいて来ていた

 

「流石にバレるか」

 

「こっちもタダでやられる訳にいかないんだ」

 

相手が処刑刀を構えスネークに迫る

 

後ろに退避せず姿勢を低くし懐に潜る

 

間合いを詰められると悟り歩みを遅める相手

 

だが、かの騎士王からも初見殺しと言わせたのがスネークだ

 

剣や槍の間合いを維持することが出来なければCQCの間合いに入られる

 

ただ歩みを遅めただけでタイミングをズラせることは無い

 

「エーイッ!」

 

「ッ!」

 

そこに魔力の塊が相手にぶつかった

 

大したダメージでは無さそうだが、それでも直撃したようで驚き大きく距離をとった

 

「大丈夫、邪魔じゃ無かったかしら?」

 

「むしろ助かる、あとの相手は頼んだぞ」

 

「ええ、貴方はあの大きいドラゴンをお願いします」

 

「任された」

 

大きなドラゴン……ファヴニールが墜落したのは今いる場所から200mほど先に落下している

 

一旦車に寄った後、その落下地点に向かった

 

その時、背後では何やら王妃と処刑人との間でやり取りがあるようだったが、今は気にせず目の前にいるドラゴンの撃退に思考を集中させていた……そのついでにあの空っぽの馬鹿女をどうしたものかと考えながら。

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

「・・・ッイッタ!?一体なにが起きたのよ……」

 

ザクザクザクザクザク

 

「?なんの音よ……」

 

ザクザクザクザクザク

 

「……待って、なんでファヴニールが落ちてるのよ!?」

 

「ニャ?音爆弾はそういうもんだニャ?」

 

「爆弾って・・・ハッ?」

 

「ニャッ?」

 

一方、ファヴニール墜落現場ではなんとも奇妙なというか随分とノンキな雰囲気が流れていた。

 

 

そも、ファヴニールとそれに乗っていたジャンヌがどのような経緯を経て状況に陥っているかというと、まずスネーク達が停車する前の走行中の車から飛び出したトレニャーはスネークから“借りた”改造済みの空中機雷をファヴニールの鼻先付近で設置。そのあとテキトーなタイミングでブーメランをフルトンに当てて吊り下げてあった物……音爆弾を落とし炸裂させた。

 

空中機雷とは対ヘリコプター用の携行兵器で、風船のようなフルトンと呼ばれるものに接触することで炸裂する爆弾を吊るしたもの。改造版は吊るす爆弾が外され、換装が可能になっている、それがたとえよくわからない袋で出来たものでも、確実に空中に吊り上げられる。

 

そして吊り下げた音爆弾はどれほどの代物かというと、一般人が目覚まし時計代わりに使ったら泡を吹いて半日気絶したとか、その音圧は砂漠の地面に波紋を作り上げるとか、屈強なハンターですら気を抜いていると耳鳴りがするという。逆にハンターは気構えていれば耳鳴りも起こさないし、そもそも鼓膜も破れないという。ハンタースゲー。

 

そんなびっくりドッキリ兵器の効果は見ての通り、空中に飛んでいたドラゴンを一時的に行動不能にさせることで落とし、その炸裂地点の近くにいたジャンヌを失神させドラゴンから放り出され、地上にいるサーヴァントですら耳を抑えた。ハンタースゲー。

 

 

話を戻して現在、トレニャーは落下したファヴニールに乗り『なんか採取できる場所ないかニャー』と考えながらせっせと鱗を採ったり掘ったり設置したりしていた。そこにサーヴァントだからなのか結構早くジャンヌが目を覚ましたところである、説明終わり。

 

「・・・なんだってこんな所に猫が……?」

 

「オイラはトレニャー!」

 

「・・・・・・」

 

「……ニャ?お姉さんどうしたニャ?」

 

「な、なっ、」

 

「?」

 

「なんでネコが喋るのよ!?」

 

「ニャ!オイラはネコじゃあ無いニャッ!!」

 

「喋るネコがいる訳無いでしょう!?」

 

「だからネコじゃ無いんだニャァ!!」

 

「普通のネコがファヴニールの上に乗っかってる訳がないでしょう!?」

 

「じゃあオミャーさんも普通じゃないニャー!?」

 

「そ、それは……!」

 

 

「まあそいつは空っぽだからな、あの白い方も結構普通じゃないんだろうが」

 

 

その言葉にハッとし、そして別の方向から聞こえて来た声に反応する。

すぐに落とした旗を手に持ち、ネコからも声が聞こえて来た方からも距離を取るため倒れているファヴニールに飛び移る。

 

「……やっぱりあなたでしたか、ここまで仕出かしてくれたのは」

 

「半分はな、もう半分はトレニャーだ」

 

「ニャニャー」

 

「それで何ですか?私をこの場で殺すと?」

 

何事もなかったように、竜の魔女としてこのフランスを蹂躙している者として敵に話しかける——

 

「いや、なに平然を装ってるんだ?お前トレニャーの言葉に動揺してただろうに」

 

「っどうよなんてっ知ってません」

 

「…………そうか」

 

なんてことは出来なかった。

心の中ではキョドリながらも、表情には一切出さないように努めるジャンヌ・ダルク。

確かに表情には出さなかった……がアクセントとか文字とかで簡単にバレる、しかも表情は凛として何事も無かった様な普通の顔をしているのだ、大変シュールである。これにはスネークも流石に流した。

 

「……それで、あの街をそのドラゴンで焼こうっていうのか?」

 

「ええ、そのつもりでした」

 

「つもりでした?」

 

「そうです目的が変わりました、いま、ここで、あなたを殺します。ファヴニール!」

 

倒れていたファヴニールが再び起き上がり始めた。

それも、先ほどまでは感じられなかった怒気の様なものがファヴニールから感じられた。

 

「……一応聞くが、こいつはお前が召喚したのか?」

 

「そうよ、いまさら怖気付いた訳じゃないでしょ?」

 

「ならお前が“竜の魔女”と呼ばれているとおり、こいつはお前が使役しているデカい竜なんだな?」

 

「そうと言ってるじゃない」

 

完全に立ち上がり復活したファヴニールをその足元で見上げながら頷くスネーク。

その隣にはちゃっかりとトレニャーもいる。

 

「……なら討伐対象だな」

 

「・・・ハァ?」

 

「トレニャー、行ってくる」

 

「じゃあオイラ逃げるニャー!」

 

「ハァ!?」

 

そんなジャンヌ・オルタの驚く声など無視してトレニャーは地面に潜ってどこかに行ってしまった。

 

その一方でスネークは銃を構えファヴニールの頭に標準を合わせる。

 

「・・・ハッ!そんな豆鉄砲を構えたところで潰されるだけよ!!」

 

「そいつはどうだかな…………やれるならやってみろ、小娘」

 

「ッ踏み倒してしまいなさいファヴニール!!」

 

 

グアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!

 

 

主人の言葉に了承したらしい巨大な邪竜は

 

足元にいるヒトに向かって自身の前足を掲げる

 

重量があるものが相応の高さから落ちてくればそれだけでエネルギーは膨大になる

 

それこそヒトを潰す程度ならこのドラゴンからすれば簡単なことだろう

 

掲げたところから力や魔力を込め

 

さらに竜の魔女によって強化された前足は振り下ろされた

 

未だに動くことのない的の頭に向けて

 

何も考えることなく

 

考える必要もなく

 

当然のように直撃した

 

それによって先ほど空から落下したほどではないが砂埃が舞い上がる

 

 

「・・・ふん、大したことないじゃない」

 

 

砂埃によって地面は未だに見えない、だがこれでサーヴァントとはいえタダで済んでいるはずが無い。

自分が仮にファヴニールに踏みつけられたとしたら無事でいる自信はまず無い、それに今は自分とファヴニール自身もがバフを掛け振り下ろしたのだ、即死していてもおかしくない。

それに、真名看破は効かなかったが彼が持つ武器から20世紀の英霊であることはわかっていた。なぜ20世紀の人間が英霊になっているのかと一瞬気にはなったこともあったが、それ以上に今は騎士王やアイルランドの大英雄である光の神子ならまだしも、例のマスター(藤丸 立香)とほぼ同じ年代の人間であることに安心していた。絶対に踏み潰されて無事で済むようなスキルなど持ってるはずがないからだ。

 

「……さて、バーサーク・アサシンの方は——」

 

と、竜の魔女は思っていた。

だが自分が召喚したサーヴァントの様子を見よう視線を動かしたとした時、彼女は気付いた。

だんだんと砂埃が晴れてファヴニールの足の根元が見え始めてようやく気づけた。

 

 

ファヴニールの足が振り下ろされていない

 

 

いや、正しくは振り下ろし“切れてない”のだ

 

前足の根元の様子からして、地面に足が付いているにしては角度がついているのだ

 

同時に彼女へ違和感が流れ込む

 

「な、なんでファヴニールが困惑してるのよ……?」

 

竜の魔女である彼女は竜を使役できる

 

そして竜の感情や状態の変化にも敏感に対応できる

 

故にファヴニールが何かに困惑していることに気付いた

 

「なっどうしたのよ、あの男ならあなたが潰した——!?」

 

と言い切る前に彼女の体が揺れた

 

いや、ファヴニールの体が動いていた

 

「ッファヴニールッ!!」

 

体が揺れた瞬間、嫌な予感が走りすぐに行動に移す

 

ファヴニールに再びバフをかけさらに令呪も使い筋力までも強化する

 

だが揺れはさらに大きくなりファヴニールの困惑も増していく

 

 

そして遂に予想していなかったことが起きてしまう

 

 

 

「ハイダラアアアアアアアァァァァァァ ァ ァ ァ ァ ァ!!!!!」

 

 

 

地面から意味不明の声が聞こえた直後

 

 

ジャンヌ・オルタが乗っていた邪竜は

 

 

その前足が持ち上げられ体を真横に倒された

 

 

 

 

「……デカい化物(モンスター)相手は俺も心得がある、少しは本気を出したらどうだ」

 

 





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邪竜百年戦争オルレアン 10

おまたせして申し訳無いです
少々話の統合性とか小出しにするべき情報の修正などを行ったため、
先週中にはとか言っておきながら今週になりましたm(_ _)m

それと、今週は大学で用事があり(補講じゃあねぇ!)投稿は9月になりそうです。
けど9月中にフランス編が終わりそうなので、そこそこ待っていただけると幸いです、では本編をどうぞ。




20世紀、そして21世紀を生きた人間。

文字に起こせばそんな人間はいくらでもいるしこれから増えていくだろう。

だがこの世界において存在する魔術の常識、何より英霊というシステムにおいてこれらの人間の殆どが残念な部類に入る、とされるだろう。

なぜなら現代において、魔術に関わるもの達が大事にする神秘というものは科学という相反するものによって薄れつつあり、それによって魔術は衰退している。それは同時に彼らの価値観においては非常に“残念な”ことだからだ。

だからこそ魔術師は一般人を下に見たり、選民思想的な思考から他の魔術師と比べたがるのが大変多いのだが……その話はここでは重要では無いので、読者個人がもし気になったら調べて欲しい。

 

さて、この場で重要なのは『魔術世界において現代人は弱い』という常識があることだ。

その常識はサーヴァントでも当てはまり、古ければ古いほど強いとは言えないが近現代生まれのサーヴァントは神秘が薄れているためにそもそも人数が少なく、何より強力なサーヴァントでは無いという認識がある。

たとえ神槍とあだ名される八極拳の達人でも、神話の英雄のように地形を変えるような力技を繰り出すわけでは無い……星の開拓者の場合は例外だろうが、そんな人物は人類史の中で極々わずかしかいない。

 

何より彼女には、ルーラーとして召喚されたジャンヌ・ダルクには真名看破というスキルによってそういった自身の脅威となりうるサーヴァントかどうか詳細に判断することができる。それにもう1人の方は全くなにも知らないが、竜の魔女として振る舞う彼女には聖杯から与えられた知識もある。その知識から、あのバケツの水をぶっかけてきた眼帯男の持つ武器は銃と呼ばれるものであり、それも20世紀後半に作られた銃であることもわかった。

 

あのマスターに付き従っていた他のサーヴァントならわからないが、たかが武器がなければ一般人と大差ないようなサーヴァントが一人でこの邪竜をどうにか出来るはずが無い、そう彼女は思っていた。

 

 

思っていた

 

 

だが実際は

 

 

「まっず——!」

 

 

自分が使役する邪竜は“体を持ち上げられ”

 

“真横に倒された”

 

グアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァ!?

 

再び砂埃があたり一帯に舞い上がり、そこにファヴニールの咆哮が聞こえる

 

だがその咆哮は驚きに満ちたものだった

 

その気持ちは当然ながらルーラーであり使役するジャンヌ・ダルクも同じだった

 

「……デカい化物相手は俺も心得がある、少しは本気を出したらどうだ」

 

その倒されたドラゴンの真正面にはただ立っている眼帯をつけた蛇が立っていた

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

「・・・やってやろうじゃないの……!!」

 

やられたからにはやり返す。

先ほどまでは先日ただ一方的にやられたことへの憎しみから殺すと言ったが、今の彼女の心には悔しいという感情で満たされ、目の前にいる男へ反撃に出ることしか頭に無かった。どう在ろうとも彼女は負けず嫌いなのだ。

 

幸いファヴニールは怯まされたり倒されたりはしているものの、ダメージはさほどなく全力で攻撃できる。そして自分自身も受けたダメージというダメージは無い、ならやることは1つ。

 

「その口を叩くだけのことはあるようですね、なら私も遠慮しません……これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮……!」

 

「!」

 

吼え立てよ、我が憤怒!(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)

 

味方であったバーサーカーが倒され、自分やファヴニールが受けた屈辱を糧としたことで威力を上げた自身の宝具を解放する、同時に令呪を切りファヴニールを強化しサーヴァントの宝具に近い攻撃を繰り出せるようにする。その間に彼女の宝具として空中に具現化した杭が正面に立つ男へと、スネークへと襲いかかる。

 

「宝具か……問題ない」

 

空中に現れたその杭の数は100以上

 

それらを全て視界に入れる

 

それら全てが一挙に降り注いでくる

 

 

まるで雨のように……だが雨はいつか止む

 

 

ジャンヌ・ダルクが放った杭が迫る

 

それら全てが段々と遅く感じる

 

視界がクリアに

 

迫る杭の全てが自身への直撃コースでは無い

 

周辺にばら撒かれるものも多い

 

それらは省く

 

スライディングでは確実に当たる

 

 

なら・・・・・・取り除けば良い

 

 

久しぶりに感じる反射(リフレックス)

 

 

反射状態(リフレックス・モード)に入った瞬間に体感時間は急激に遅くなる

 

 

そこに自分の武器を使う

 

 

迫り来る杭が右腕を穿つ……その直前に杭は自分の間合いに入る

 

 

右肩を後ろに捻らせ躱す

 

 

頭に落下してくる杭を左手で弾く

 

 

そこに10本以上の杭が来る

 

 

瞬時に前方へローリング

 

 

その先には杭が突き刺さりに迫る

 

 

「CQC」(クローズ・クォーターズ・コンバッド)

 

 

宝具解放:CQC

その効果は接近戦における圧倒的優位性を確保する・・・そんな物では無い。

本来はあらゆる武術を統合し昇華させた結果でしかなかった。

 

だがそこに“とあるモノ”が加わった。

 

 

その結果

 

 

自分の間合いに入ったものを思い通りに動かせることが可能になった

 

 

それが人であろうと高速で近づく杭であろうと制御下に置く

 

 

100本を超える杭は一挙に地面へと突き刺さり、その全てが一瞬で躱された

 

 

「なんで当たらないのよッ……!」

 

「そらっ、俺からもくれてやる」

 

 

するとスネークは自分の持つ突撃銃を背中に回し代わりに別の武器を背中から取った。

それは緑色の筒だったが一瞬でその筒をさらに伸ばし標準器を立てファヴニールの頭に向け撃った。

撃たれたのは銃弾なんかよりもはるかに大きい弾頭だった。

 

「そう何回もやらせるわけないでしょう!」

 

ただやられっぱなしなのは気が済まない。

再び具現化させた杭をその弾頭が描く軌道上に飛ばし、ジャンヌ・ダルクは距離をとる。

 

「やりなさい!!」

 

再び起き上がり、すでに強化しいつでも攻撃できる状態であったファヴニールが動きだす

 

胸に刻まれた青い紋章が輝きを増す

 

青い光は邪竜の口へと上がっていき急激に力が蓄えられている

 

そして爆発的なドラゴンブレスを——

 

「それは流石に死ぬからな、もう1発だ」

 

——吐かれると流石にマズイので事前に頼んでおいた仕込みを使う

 

使い捨てであるロケットランチャーを捨て素早くリモコン取り出しそのままボタンを押す

 

遠隔装置は誤作動なく機能しランプが点灯する

 

直後ファヴニールの背中が爆破された

 

「っ汝の道はすでに途絶えた!」

 

また何か仕掛けられたと思いつつもジャンヌ・ダルクは宝具とは別に新たに杭を数本出しスネークにぶつけ

 

それと同時に駆け出し腰に差した黒い剣を抜く

 

そんな相手が接近しているのを視界に入れつつ空中から向かって来る杭を処理する

 

数は6本

 

スネークを中心に円を描き一気に降り注ぐ

 

その隙間を縫うように体を捻り、それでも直撃する前方二本をCQCで後方へ去なす

 

「そこッ!」

 

だがスネークは二本の杭を去なしたために二本の手は正面に無い

 

その隙に剣を突き出した

 

突き出した剣先は相手の心臓

 

いくら化物みたいなサーヴァントでも霊核である心臓と頭をやられれば死亡する

 

それに突き出した剣を去なすことは出来ない

 

 

もっとも

 

 

「両手が使えなかったら躱せないとでも思ったか?」

 

 

確かに手を使わなければ去なせないが躱せないわけではない

 

 

脇の間では突きも意味が無い

 

 

スネークがやった事は極めて単純だ。

ただ両手を挙げたままの状態で剣幅分だけ腰を横に動かす事で上体を横にズラし、突き出した剣を脇に挟んだだけだ……と書くのは本当に単純だが、この動作を迫り来る杭を処理した瞬間の無防備な状態から一瞬で突き刺して来たのに対して、その一瞬より早くやったのだ。もちろんジャンヌの持つ剣の刃はスネークの左の二の腕と肋骨部分に当たっているが野戦服が出血を防いでいる。

 

「あんたバケモノなのっ……!?」

 

距離は50cmほど

 

すでに剣の間合いでは無くその剣が封じられたいま有効なのはナイフか体術の類だ

 

焦ったジャンヌは空いている左手でスネークの顔面を殴ろうと拳を突き出す

 

だがこの間合いにおいてスネークは遥か上を行く

 

スネークは脇を挟んでいない右腕で突き出された左手を内側へ弾く

 

すると弾かれた左手は身長差からやや斜めになっていた右腕の方へとスライドされ

 

その左肘が剣を持つ右手首の部分に当たる

 

同時に内側に動かした右腕で未だ剣を持つジャンヌの右手をはたき同時に剣を挟んでいた左腕を解放する

 

黒い鎧をまとい籠手もあるとはいえ十分な衝撃は生じれば手に持つものを落としてしまう

 

それがナイフだろうが剣だろうが神造宝具だろうがスネークには関係ない

 

ジャンヌの持つ剣を落とした事で彼女の姿勢は左腕がやや前にある状態で右腕に乗っかり、右に捻った前傾姿勢となった、その状態はとても不安定であり、言い換えれば大変投げやすい状態だと言える。こうなってしまえば彼女に支配権は無い。

 

そんな姿勢になった彼女を正面に捉えているスネークは広げた左腕で合わさっている彼女の両腕を、右腕を彼女の首に押し付け同時に押し出し自分の右側へと倒した。ジャンヌは両腕が重なったままそれなりのスピードと自分の体重が乗ったまま倒され左肩から地面へと激突した、当然受け身も取れないまま。

 

「ッ!!」

 

「お前がそれを言うか」

 

結果彼女は左肩を脱臼、鎖骨を骨折した、そう言う投げ方をしたのだから当然なのだが。

それでもフランスを恨み滅亡させんと実行している彼女の意思だけはとても固く、倒され激痛が走ろうとまだ動く右腕を動かし起き上がってやり返そうとする。

 

だがそうしようと右腕を動かした瞬間、彼女の体をなにかが持ち上げそのまま連れ去る。

 

「えっ、なに!?」

 

「嫌な予感がすると来てみれば……ジャンヌ、危ないところでしたね」

 

「ジル!?」

 

「聖処女よ……迎えに上がりました、此度は引きましょう」

 

それは突如現れた一体のサーヴァントが召喚した海魔だった。

その海魔は凄まじい勢いでスネークの後ろからジャンヌを回収した1体と、そのスネークへ奇襲をかけた1体の計2体がいたが、奇襲をかけた方はスネークがナイフを振り抜きハンドガンを撃つことで倒されていたがジャンヌの体は支障なく回収された。

 

「ッいいえ、あなたが援護してくれれば勝てるわっ!!

相手は2体のサーヴァントのみ、こちらはバーサーク・アサシンにファヴニールと——」

 

「残念ですがジャンヌ、アサシンはやられてしまいました」

 

「そんなっ——!?」

 

「どうにか仮初めの肉体だけ回収しましたが……とにかく、ここは引くしかありませぬ、態勢を立て直すためオルレアンへと戻りましょう」

 

「っけどあいつだけでも——!」

 

「……ジャンヌよ、ルーラーであるあなたならカルデアの援軍が来ていることがわかるはずです」

 

「っっっ!」

 

「あなたはあなたを裏切ったこのフランスという国を壊すことが目的のハズ、決してあのサーヴァントを倒すことではありません……竜の魔女よ、判断を」

 

「・・・どうやら冷静さを欠いていたようです、ありがとうジル、あなたにはいつも助けられてばかりね」

 

「いえいえ、不肖ジル・ド・レェ、あなたの手助けをすることしか出来ませぬ故」

 

「そう…………ではファヴニールはここで暴れさせて置いていきます、それとあなたの海魔を大量に置き土産としておいていきなさい、ワイバーンで逃げますよ」

 

「ええ、ではっ!」

 

突如あらわれたサーヴァントはその声に大きく頷き、手に持つ本を広げ先ほど召喚した海魔を数百体スネークの周りに召喚した。

 

「っ逃すかぁ!」

 

「悪いわね、アンタだけは殺したかったけどそれはまた今度よ」

 

ワイバーンを呼び出し逃げようとするジャンヌ達に向けて再びロケットランチャーを撃とうとするが召喚された海魔が肉壁となって標準の邪魔をし、さらにおまけとしてワイバーンがスネークの頭上から急降下して来た。

 

頭上の脅威に気付いたスネークはあえなくジャンヌの追撃を断念、目標を急降下中のワイバーンに変え撃った。その弾頭は見事命中しワイバーンは力なく落下する、そして生じた爆風は肉壁となっていた海魔を吹き飛ばしたため再びワイバーンにのるジャンヌ達の姿を見つける、だがすでに飛び立つ寸前だった。

 

「……ああ、それとずっっっと隠れていた聖女さまに言っておきなさい、あなたは所詮見て見ぬフリをしているだけってね」

 

「…………」

 

こちらに向けて発するその声は確かに聞こえていたが、返事をする気にはスネークはなれなかった。

その代わりとして背中から銃を取り飛び立つ寸前のジャンヌ達に向けて発砲する。

だがその弾丸はさらに召喚された海魔によって遮られてしまった。

 

「邪魔くさい!」

 

「どうぞ遠慮なさらず!数だけは無限にありますので!!」

 

その間にジャンヌの乗ったワイバーンは飛び立ち、一気に急上昇していく。

それを視界に入れながらもさらに増えた海魔を目の当たりにし、額に汗を流すスネーク。いくらファヴニールを持ち上げることができても、素手ではこの海魔を倒すことはできない。

それにCQCも触手を掴むこと自体難しく、そもそも対象が人型でもないため有効的ではない。

 

そう考える間にも残されたファヴニールは爆破からも復帰し、活動を再開してボルドーの街へと歩みはじめた。どうやらジャンヌは助けに来たサーヴァントに言われた通り、スネークを倒すことではなくフランスを壊すこと目的を達成するために、街で暴れるようファヴニールに命令したようだった。

 

「ッ流石に囲まれるか……ん」

 

百合の王冠に栄光あれ(ギロチン・ブレイカー)!」

 

海魔の包囲網がスネークを包もうとしていた中、ガラスの馬が海魔の中心に突進して来た。

その馬にのる馬主はスネークにまたがるようにジェスチャーで促すと、素早くスネークがその馬の後ろにまたがり、直後ガラスの馬は海魔の包囲網から飛び出した。

 

「おっと……助かった、どうやらそっちは思った以上に上手くいったようだが」

 

「ふふっ、だから言ったでしょう?私、耐久力には自信があるの……ところで」

 

「ああそうだな、こいつをどうしたもんだか」

 

空中をかけるガラスの馬の眼下には海と見間違える量の海魔が広がっており、さらにその海の横には巨大な竜がゆっくりと歩きながらボルドーへと向かっていた。

 

「トレニャーさんがどうにかできないかしら?」

 

「無理だ、ファヴニールだけならどうとでもなるが大群を相手にするのには向いてない、一応海魔もモンスターだろうが……キツイのには変わらない」

 

そう話しながらその大群より一足早く2人はボルドーの街の入り口へとたどり着く。

すると避難誘導をしていたゲオルギウスとジャンヌがその場にいた。

 

「避難誘導は終わったのか?」

 

「あれだけの騒ぎを起こしてくれましたからね、そのおかげで皆さん急いで逃げてくれました。

数名ほど転んでしまいましたが、全員軽症でジャンヌさんが手当てをしてくださりすでに全員避難しました」

 

「それで状況は……」

 

「まあ見ての通りだ、あと少しで仕留められたがジル・ド・レェが現れてジャンヌ・オルタを回収して逃げていった」

 

「なっ、ジルが!?」

 

「詳しい話はあとだ、そいつは置き土産に大量の海魔、ジャンヌ・オルタはファヴニールを置いていった。

幸い避難が終わってるからこのまま街で暴れられてもいいが……」

 

「このまま放っていくわけにはいきませんね」

 

避難誘導が開始されて約1時間半、ファヴニールが派手に暴れたおかげか住人達はすぐに避難を開始し、ジャンヌがパニックを起こさないよう誘導した結果、スムーズな避難となり、住人達の避難は予想よりやや早く完了した。

 

だが、召喚されている海魔を放置すればその避難している住人に追いつく可能性もあり、何よりファヴニールという巨大な邪竜を放っておいていいことがあるはずがなく、ここで仕留める必要があった。時間や被害といった制約がなくなったとはいえ、両方を仕留めるには今いる面子では火力不足だった。

 

《そんな君たちに朗報だ!援軍が到着したよっ》

 

《おうっ到着したぜぇ!》

 

そう無線機から聞こえると、また空中から何か落ちてくる。

よく見る前に落下して来そうだったので、スネークはスペースを空けた、その場所にクー・フーリンは着地した……が、その左腕にはマスターである藤丸が抱えられていた。

 

「ホイ到着っ……と、おいマスター?大丈夫か〜?」

 

「・・・うっぷ」

 

《うん、僕無茶だって言ったんだよ?自動車どころか英霊のなかでも早いってされてるクー・フーリンに抱えてもらって移動だなんて無茶だって……》

 

「いや……まあ普通酔うだろうな」

 

「鍛えてない割によく耐えたと思うぜ?」

 

「……とりあえず坊主、少し休め」

 

「……(コクコク)……」

 

「……それでクー・フーリン、お前あの海魔の大群をどうにか出来るか?」

 

「出来るぜ、手取り早く済ませたいなら俺の宝具を使えばいい」

 

「ならそれで行こう、ファヴニールの方は……本職は間に合うか?」

 

「おう、流石にいますぐ令呪を使うといくら何でも魔力の変化があるからな。それでも少し休めばすぐに来れるだろうよ」

 

「ならもう少し時間稼ぎか、なら海魔は頼む」

 

「ああ、任せろや」

 

「では私も海魔相手の手助けをしましょう」

 

「おお?けど俺の宝具を何回か撃てば終わるぜ?」

 

「それでもある程度的はまとまっていた方が良いでしょう、わたしには敵の意識を私に集中させるスキルがありますので」

 

「そうか、なら頼むわ、自前の魔力でも十分だが乱発しちゃマスターの負担になっちまうからな」

 

クー・フーリンはそう言うと朱槍を抱えながらその場で深く伸脚し、準備を始める。

一方でゲオルギウスは一足先に街から少し離れた場所へ海魔達を誘導するためにファヴニールとは反対側の方へ走り始めた。

 

「トレニャー!」

 

「ハイニャー!」

 

「あのデカいのをもう少し相手にするぞ」

 

「ニャニャ!狩りかニャ?」

 

「いや、狩り切るのは別のやつだが、あのデカいのが街に来るのを防ぐぞ」

 

「ニャー、ラオシャンロンと同じニャ?」

 

「そう言うことだ」

 

そしてスネークは地中から掘って出てきたトレニャーを呼び出し、時間稼ぎをするため、ファヴニール相手と再び戦うため移動を開始する。幸いファヴニールは地上を歩いているため移動は遅く、時間稼ぎなら十分可能だった。それに残るマリーとジャンヌは目を回している藤丸の手当てをしているため、ドラゴンブレスを放たれないようにすれば良いだけだ。

 

だが、そんな巨大な竜よりも早く海魔の波が街に届こうとしていた。

 

「では……守護を願う人々を私は守ると誓おう!」

 

その波をゲオルギウスが自身のスキルである守護騎士によって街やファヴニールがいる場所とは別の方向へと向かせる。

 

「おうおう、随分とまぁ群れてやがる……まぁ1匹だろうが外さねぇけどなっ……!」

 

そしてクー・フーリンは跳躍し手に持つ朱槍に全力の力を込め、思いっきり振りかぶりその大群へと宝具を放つ

 

「受けとんなぁ!突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)!」

 

ゲイ・ボルグは本来必殺必中の因果逆転を起こすことができるという物では無い。

真価を発揮する本来の扱い方は特殊な跳躍術である鮭取りによる足からの投擲だと言う、それによりゲイ・ボルグは30の必中の鏃となるという。

 

もっともこれは伝説・伝承上の話であり、英霊としてランサークラスで召喚されたクー・フーリンが投擲を行う場合は手から投擲され、30の鏃になることなく、マッハ2で飛翔する1本の槍として炸裂弾のように一撃で大軍を壊滅させる対軍宝具となる。これは本人が言うには

 

『あーあの投げ方なぁ……いや、30どころかもっと分裂させられるぜ?威力も上げてな。けどアレなぁ……回収がめんどくせぇんだよ、いちいちルーン描くのがなぁ〜、俺の師匠みたく冥界に繋げる門があれば楽なんだけどよ』

 

とのこと。

 

だが対軍宝具に分類されている通り、一気に飛翔した朱槍は対象が誘導されていたこともあり、3つほどの塊となっていた海魔の大群のうちの1つの中心で命中、直後爆発しその塊は蒸発した。

 

「よっしゃ、あと2回で済むな」

 

「す、すごい宝具ですね……」

 

「まあなっ(まぁ師匠にバレでもしたら殺されそうだが……)」

 

「?何か言いました?」

 

「いやなんでもねぇ、それより嬢ちゃん、マスターはもう大丈夫か?」

 

「あっハイ、もう立てるかと」

 

「・・・フゥー、少し死ぬかとオモッタ」

 

「悪りぃなマスター、けどこれが最速だぜ?」

 

「そうだね、おかげでなんとか付いたしっと」

 

そう答えるとマスターである藤丸はヨイショと立ち上がり、右手をかざした。

 

「令呪をもって命ずる!ジークフリートさんっ来て!」

 

瞬間、藤丸の右手に刻まれていた令呪の一画が消え、その直後藤丸の右側の空間が歪み、そこから藤丸に名前を呼ばれたジークフリートが突如現れた。

 

《よしっ成功した!藤丸くんのバイタルも問題ない!》

 

「……まさかこのような所でまたこいつと会えるとは思わなかったが……これが私の役割だろう、一度で決める」

 

「おたくの因縁の相手なんだろ?そんな獲物を横から取ったりは俺はしねぇよ、早くあそこの2匹を楽にしてやれ」

 

「……そうだな」

 

その竜殺しの視線の先にはファヴニールの足元で懸命に足止めしている2匹が——

 

「膝だ!とにかく膝を壊せば大体時間は稼げる!」

 

「ニャァ!?そんな部位破壊あったかニャ!?」

 

「とにかく足を狙え!逃げないようにしろ!」

 

「けどこいつもう逃げようがないっていうか、逃げる気がニャい気が……」

 

「倒しきる直前に逃げられたら素材が剥げないだろっ!!」

 

「それは困るニャ!もっとヒザを壊すニャ!!」

 

「そうだぁっ!!」

 

——懸命に足を破壊しようとしている2匹がいた、ウン

 

「……もう、あの2人……2人?に任せれば良いのではないだろうか」

 

「いやっ……まぁ気持ちはわかるがな、あいつらがあのデカブツを仕留めきるには時間がかかっちまうし——」

 

「そうか、これ以上描写するのを省くために私が宝具を放つのが一番という訳か」

 

「そういう意味じゃねえよ!?」

 

「そうか……なら私の存在も意味があると言うものだ……!」

 

「なんでそうなんだよっ!?なんでカッコ良くなってんの!?」

 

「黄金の夢から覚め、揺籃から解き放たれよ……邪竜、滅ぶべし! 幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!」

 

「……いやっ、まああいつら欲で動いてるけどよ……」

 

もうどうでも良いやっどうとでもなれぇ〜、と言わんばかりの投げやりの態度でクー・フーリンは再度、投げ槍の姿勢へと変化させ後ろを見ないことにした。別にダジャレでは無い。

 

「!!トレニャー退避だ!」

 

「ハイニャー!!」

 

そして何故かカッコいい感じになってしまったジークフリートは、富の呪いにかかった邪竜を葬り去るために真名解放し、まだファヴニールの足元に味方がいるけど宝具を放つ。その放たれた方の2匹はすぐに危険を察知、トレニャーは地面に潜りスネークはファヴニールの巨体を盾にするためファヴニールの後方へと走った。

 

退避を始めて数秒の時が経ったあと、ジークフリートが放った宝具の青い光がファヴニールを襲う

 

伝説の再現は伝説の通りとなり、覆すことはできない

 

放たれた竜を殺す黄昏の剣気は邪竜を飲み込み葬り去る

 

そのことを理解しているのかファヴニールは直撃をくらい叫び続ける

 

「さらばだ邪竜よ……また会える気がするがな、それも別の形で」

 

因縁の竜に向かってそう声をかけると、竜も最後にまた叫び、そして力尽きた。

 

頭を垂れ、何もできなくなった邪竜はブレスを吐くことなくサラサラと魔力の粒子となった消えていった

 

こうして15世紀のフランスでドラゴン退治が達成された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニャニャ!?素材が!素材が剥ぎ取れず消えていくニャァ!?」

 

「まあ諦めろ、あれは魔力で縫われた仮初めの肉体らしいしな」

 

「けどオイラ、モンスターのお肉は攻撃すればするほどお肉は美味しくなるってどこかの世界で聞いたのニャ……もったいないニ——」

 

「急げトレニャー!まだ足の部分なら残ってるぞ!!」

 

「ニャー!!」

 

 

 

※ダメでした

 

 




何かご意見・ご感想があれば作者の参考にも励みにもなります。
何かありましたら感想欄にてお知らせ下さいm(_ _)m。


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邪竜百年戦争オルレアン:11

し、新年明けましておめでとうございます。

そしてごめんなさいm(__)m
今年初の投稿で謝罪する作者がいるだろうか、いやここに居る。
というわけでお久しぶりです。
ひとつ前の話をタップすると9月という文字が見えるでしょうが機能性です。

嘘です、本当です、本当にお待たせしました。
大学生活が急激に忙しくなり、執筆・投稿するタイミングを完全に失ってました。
詳細については今日の18時頃に活動報告をあげようと思いますのでそちらをご覧ください。

とりあえずまずは本編をどうぞ。





()邪竜ファヴニール を倒したその夜、一行はボルドーにいたメンバーを車に乗せリヨンの街へと戻っていた。昼過ぎにボルドーを発ったため、リヨンに到着した時には夕御飯を食べる時間にとっくになっていた。

 

「・・・ニャァ」

 

「・・・残念だったな」

 

「・・・ニャァ」

 

「……こいつらいつまでため息吐いてんだよ」

 

そして行きと同じように5時間ほどのドライブだったわけだが、その5時間をかけて2匹のネコとヘビはひたすらため息をついていた。どうやらトレニャー曰く、モンスターの肉は攻撃すればするほど美味しくなるらしく、爆破に叩きつけ、挙句にジークフリートの宝具を喰らったファヴニールはさぞ美味しいハズ……と思ったものの、実際にはファヴニールはモンスターではあるが幻想種であり、倒されると血肉は残さず、幻として消え去ってしまうのだ。

この点はサーヴァントでも似ている部分があるが、サーヴァントの場合は魔力によって体が形成されてはいるものの血は出る、ただし体がある程度傷害されたり脳や心臓をやられると霊核が破壊され消えてしまう。

そんなわけで、どっちみち幻想種のお肉を味わうことなんて出来ないわけだが何故かこの2匹は本気で残念がっている、それこそ5時間ほどずっと。

 

「スネークさん、そんなに食べたかったの?」

 

「……いや、食べることが出来ないのはわかっている、所詮仮初めの体に過ぎなかっただろうしな」

 

「それなら——」

 

「だが食べてみたら!あれだけ攻撃すれば!!とてつもなく美味かったかもしれないだろう!!?」

 

「……そう、ダネ……」

 

《どうしよう……藤丸くんの目が……!》

 

人である藤丸もそうだが、幾多の戦場を駆け抜けた英雄や革命の渦中に放り込まれた王族も思った、

この眼帯の男は一体なにを言ってるのだろうかと。

 

そも、攻撃すればするほど美味しくなるなど誰も聞いたことがなかった。無線を通じて他のサーヴァントにも聞いたが、エミヤやマルタ、カルデアにある本を読み漁ってるマシュでさえもそんな話を聞いたことが無いという。エミヤに至っては『そんな肉叩きじゃあるまいし……』とのこと。

 

「そんなに落ち込んでどうすんのよ!明日はあの女の城に攻め込むんでしょ!」

 

「そうですよマスター。この清姫、美味しいお肉が食べれないのは残念ですが……」

 

「あんたまで何言ってんの!?」

 

そしてなんか爬虫類がみたいなのが2人街のなかで藤丸に話しかけているが、そのうちの尻尾が出てるチビッコいピンク色の髪をした方が言ったように、明日カルデア一行は現地で仲間になったサーヴァントとともにオルレアンへ進撃することを移動中に決定した。

 

理由は2つ、1つは極めて巨大な邪竜であるファヴニールが倒されたこと。どうやらワイバーンと同様にジャンヌ・オルタが召喚したようだが、召喚されたワイバーンをある程度使役していたのはファヴニールだったらしく、ボルドーからリヨンに戻るときも混乱しているワイバーンの個体や一匹で孤立しているものが多かった。

(ある意味で)専門家であるトレニャーが(落ち込みながらも)言うには、大声で指示を出していたのがファヴニールだったらしく、その大声が消えたため個体ごとに好き勝手に動いていると言う。

 

そしてもう1つはオルレアンに戻ると、ジャンヌ・オルタが言ったこと。

スネークが報告したジルとは、ジャンヌがいうには向こうからすれば軍師のような役割をしているだろうとのことで、そのジルの言葉なら私は聞くだろうとのこと。そのジルからの言葉をうけてオルレアンで態勢を立て直すと言ったなら明日は確実にオルレアンにいるだろうとジャンヌ自身が強く断言したこと、この2つをもって藤丸は正面突破を選び、ほかのサーヴァントたちも同意した。

 

つまり明日が決戦である。

 

「……そんな訳で夕飯な訳だが、そこの落ち込んでいるペアはワイバーンのお肉は口合わないかね?」

 

「「食べる(ニャ)!!」」

 

「あいつら、食い意地がはりすぎで単純すぎるだろう」

 

そう言うのは黒き騎士王である。

 

「……片手にワイバーンの肉ともう片方にパン抱えて口を膨らませてる君に言われてもな」

 

「(モッキュモッキュ)…………一体なんのことだ」

 

「一口全て食べきった……だと……!?」

 

訂正する、めちゃくちゃよく食べる暴食王である。

彼女にかかれば両手いっぱいの肉とパンなど一口で食べ終わる、それをしないのは何となくであって、理由があれば速攻どころか神速に迫る勢いで食べることなど、紅い弓兵の瞬きも許さずに実行可能なのだ(なお盗み食いはバレる模様)。

 

「アレかな?君たちって大食い選手の団体なのかな?」

 

「アマデウス、あなたが言うの?」

 

「え、なんでさ?」

 

「あなたよく飲むでしょうに」

 

「……さて、僕は飲もうかな」

 

「ダメよ」

 

そしてそんな英雄達とは本来は縁もゆかりもない音楽家にも、こと酒飲みという点で勝るとも劣らないことを知っている王妃様は事前に手を打つため、やり取りをしていた。そのやり取りには別も思惑もあったりするが。

 

「はぁ、全くもって賑やかね、これでも明日攻勢かけるっていうんだからビックリだわ」

 

「ふふ、けど楽しく賑やかです」

 

「……そうね」

 

そして聖女2人組みはそんな一行の騒ぎを聞いているうちに、自分たちも楽しみたくなったのかゾロゾロと出てきた街の人々を見ながらそんな言葉を投げかける。もっとも、街の人たちは酒と軽食を片手にジークフリートやマシュに話しかけ、同じ街の人たちと話しているだけで、ドンチャン騒ぎをしているわけではない。まだ人に迷惑をかけるほど夜も遅くない、幸い月も満月ほどではないが軽くお酒を飲んだ程度でこけるほど暗くもない。

 

「さて、私も少し参加しようかしら」

 

「そうですか……」

 

「あら、あなたは参加しないの?」

 

「アハハ、何というか……」

 

「……良い?あなたは彼女とは違うわ、それも根本から」

 

「・・・エッ?」

 

「だって彼女……若い頃の私とそっくり過ぎてヤバい」

 

「……え」

 

「なんであんなにそっくりなのよ……だから召喚されちゃったのかしら」

 

「えっあの……え、マルタ様ってあんなに口が悪かったのですか?」

 

「そうじゃないわよ!!……っあ、いやっ、そうわけでは、いやそういう面もそうなのだけど……」

 

「……ふふっ、すいません、ついイジワルを」

 

「っぁあもう……その様子なら大丈夫そうね」

 

「ええ、私はマルタさんと似たような町娘です」

 

「……そうね」

 

それだけ言うとマルタは街の人ごみへと向かっていった、どうやらオロオロしているマシュを助けるようだ。

一方でジャンヌはワイバーンの肉のおかげですっかり元気になった2匹がいるカルデア一行の方へ歩いていった。

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

同時刻:フランス、オルレアン城にて

 

城の窓辺でただ外を眺める女が一人。

満月では無いものの、足元を照らすには十分な月光がその窓辺を照らす。

 

彼女が漆黒の鎧を纏っているからなのか、聖女だからなのか、竜の魔女だからなのか、“彼女だから”なのか

確かなのはその姿はとても綺麗だった。

 

だがその姿を正しく見ることできる者がこの場には誰もいなかった。

 

「……ジャンヌ、ジャンヌよ」

 

「ああジルですか……何です?」

 

「恐らく、明日カルデアの者たちは攻めて来るでしょう、ファヴニールが倒されましたからね」

 

「そうね……ですが」

 

「ええ、間に合います。幸い触媒は事前に用意してあります、それに“縁”も。どれもこれも貴女の幸運の賜物です」

 

「……あなたが幸運と言いますか」

 

「ええ、ええ!もちろんですとも!!なぜなら神はおらずとも個々にあなたが居る!そしてここに存在している!!……それだけで十分奇跡でございましょう?そしてそんな貴女自らが手繰り寄せたのです、これを幸運と言わずなんと言いましょう」

 

それが当たり前のことだと、当然であると疑わずジル・ド・レェは竜の魔女にただ事実を伝える。

内容は側から見れば狂信者のそれでしかないが、それこそが彼が考え、感じ、信じている事実だからだ。

 

「……そうね、私がバカだったわジル」

 

「そんなことはございませんジャンヌよ。

……もし貴女(竜の魔女)がバカだというのなら、それは貴女(ジャンヌ・ダルク)です、救おうと尽力しその身を捧げ、そして裏切ったこの国を守ろうとする貴女(聖処女)でしょう」

 

それが、それだけが彼にとっての事実である。

 

そう言い切ってジル・ド・レェは、自身が持つ本から一枚の紙切れをジャンヌへと手渡す。

それを受け取り、目を通し……軍師であり、生前から頼れる相方である彼に竜の魔女は言う。

 

「……わたし、文字読めないんだけど……?」

 

「ええ、ですから事前にジャンヌには音読で覚えていただきました」

 

「ならこの紙はいらないのでは……」

 

「いえ、いえいえ。

その紙は重要な触媒なのです、そしてその紙には歌詞が書かれている。歌詞の書かれた紙は手に持ち歌うために存在します。たとえ歌詞を覚えていたとしても手に持ち、書かれた歌を歌うことで意味をなすのです」

 

「そう……では私は召喚を急ぎます。例え竜殺しがいようと、騎士王が居ようと、わけのわからない奴が居ようと……全て無意味よ」

 

「ええ、そしてそれこそ貴女が目指す境地、ワイバーンや竜種による楽園をこの地に築くこと!

竜の巣となり不毛の地と化したフランスを破綻させること!!」

 

「そうね……竜同士が際限なく争い、そして世界を破綻させる。

そのために最適な状況を作った私はたしかに幸運かもしれません、やはりあなたに助けられて、ですが」

 

そう言いながら竜の魔女は唄いはじめる

 

その歌はジルがかの盟友から受け取った本とは“別に”新たに受け取ったと言うとある歌詞

 

宝具ではないが召喚に使う祝詞であるという

 

そんな歌が書かれた紙をもち、竜の魔女は歌詞を読み上げ始めた

 

 

 

「数多の竜を駆逐せし時

伝説はよみがえらん

数多の肉を裂き 骨を砕き 血を啜った時

彼の者はあらわれん

土を焼く者

鉄を溶かす者

風を起こす者

木を薙ぐ者

黒炎を生み出す者

喉あらば叫べ

耳あらば聞け

心あらば祈れ

天と地とを覆い尽くす

彼の者の名を

天と地とを毒で覆い尽くす

彼の者の刀自をも

 

数多の竜を駆逐せし時——」

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

「……ニャ?」

 

「ん、どうしたトレニャー」

 

「………オイラ、わかったニャ、ここに来た理由」

 

「……なんだ、言ってみろ」

 

「・・・その肉くれニャー!!」

 

「だと思った」

 

シュバッという音を立て、一瞬でスネークが手に持つ皿のにあるお肉へと飛び立つトレニャー。

だが相手は歴戦の傭兵、団体で食べていればそんな輩が沸くのは世の常である……もっとも、総司令官であり自分たちのBOSSでもあった彼の皿にあるものを取ろうとするのは古参の幹部連中かいい感じのバカ(研究開発班)くらいではあるのだが。

そんなわけでトレニャー の奇襲作戦はあっさり躱され、コロコロと体が転がっていく。

 

「おいおい、まだ食べるのかね?」

 

「そうニャー、明日はオイラも頑張るニャー!」

 

「……バカにできない事実だからな、ならこれも付け加えてやろう」

 

そう言ってエミヤはトレニャーに追加でソーセージをあげる。じつはリヨンのソーセージはこの地の郷土料理として有名なのだ。そも、フランスにおいては14世紀に屠殺方法から紹介されたソーセージの作り方が紹介された本が出版されているほどである。当然うまい。

 

「ンニャ!……それでオミャーさん、お願いがあるんだにゃ」

 

「ん、俺にか?」

 

「とりあえずコレをあげるニャ」

 

「ならそのソーセージもくれ」

 

「どうぞなのニャ」

 

「なん……だと……!?」

 

あまりのトレニャーの行動に驚きを隠せず、

 

アルトリアは刮目した

 

まさか野生のネコ(というには色々無理がある)が

 

他のものに食料を分けるとは思いもしなかったからだ。

 

だって自分はしないから。

 

……そんな姿を見つけたエミヤは追い討ちをかける。

必死に心の中の動揺を隠している(気でいるが何だかんだ縁のある人間にはバレバレな)彼女にスタスタと近づく。近づいて来る彼に気付いた黒き冷酷な騎士王は顔を地面に伏せスッと目を閉じる。

 

反抗の構えである。

 

「さて、騎士王よ」

 

「…………」

 

「そこに子供達がいるわけだが、君のもつソーセージを見ているわけだが?」

 

「……………………」

 

「ちなみにマスターも君の様子を見ている——」

 

「!?」

 

「——かもしれん」

 

「…………食べたいか?」

 

コクコクっとものすごい勢いで頷く子供達。

 

 

数秒後、彼女の分とは別のソーセージが藤丸やエミヤによって提供された。

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

「フゥ〜」

 

「食い過ぎたか、マシュ」

 

「あっスネークさん、スネークさんも大丈夫ですか?」

 

「当然だ、俺がそう落ち込むと思うか?」

 

「ハハハ……5時間ずっと落ち込んでた気がするのですが」

 

「気のせいだ、気にするな」

 

1〜2時間後、そこそこのお祭り騒ぎになっていた街も子供達が眠くなって来たと家に帰り始めるのを切っ掛けに、お母さんやお姉さんたちが帰り始め、残っていても意味がないと思ったのか男たちも帰り、リヨンは再び静かになった。いま街で起きて活動しているのはジークフリートと見張っているサーヴァントや、今こうして街中を歩いているマシュと言った具合だ。

 

「……しかしお前たちが仲間にしたあの2人、随分と特徴的だったな、まぁどっちも竜絡みだったが」

 

「そうですね……スネークさん、清姫さんが竜だとご存知なのですか?」

 

「知ってるも何も、清姫って名乗った時に清姫伝説の清姫だろうと思ったからだが」

 

「……なぜ日本の説話を?」

 

「ん、傭兵ってのは意外とジャンルを問わず情報を仕入れられる所だからな、俺の部隊が特殊だったのもあるだろうが部隊の中に日本人がいたからな」

 

「では、その日本人の方に聞いたのですね?」

 

「……まぁそうだな」

 

実際は色々と違う。

1つ、スネークの部隊は傭兵部隊ではなく諜報・兵站・武力等が統合され運営されていたため、一国の軍隊レベルだった。そのため様々な情報が入って来るし、そんな部隊の長であるスネークのところには自然と報告や雑談という形で情報が入っていたりする。トレニャーやモンスターに関する話の情報源はコレだ。

 

……清姫伝説は、とある金髪グラサン野郎があまりにも女関係でひどすぎるので、少し懲らしめるための警告のために嫉妬や色物の怨念伝説的なのを調べた時にたまたま出て来たのだ。なお、その金髪グラサン野郎はそんなささやかな警告を無視し、金髪グラサン野郎自身が隊員のためと言って作ったサウナで隊員の女とおっぱじめたので制裁を受けた。やはり説話を無視してはダメなのだ。

 

だがそんな話、少女であるマシュに聞かせる気は毛頭なく、一応日本人に教えられたというのも間違いではないのでスルーした。

 

「そろそろ寝ておけ、明日は早朝から移動、そこからは一気に攻め込む、攻めてる途中でお前が倒れたら一大事だからな」

 

「大丈夫です、先輩は守り切ります、それに守るのは私だけじゃなくジャンヌさんやマルタさんもいますから」

 

「そりゃな、だが体調面だけはどうしようもできんぞ」

 

「それもそうですね」

 

そう言うマシュの顔はわずかに下を向いていた。

伊達に部隊メンバーの全員の顔と名前を覚え続けていた男ではない。他人の心の変化には敏感だ。

 

「……いいかマシュ、怖いのは当然だ」

 

「・・・わかりますか?」

 

「まあな。ほかの連中はどう声をかけたもんだか悩んでたようだが。エミヤはお前にオマケをしてたようだが」

 

「そういえば……欲しそうだったので少しアルトリアさんにあげましたが」

 

「そういえばトレニャーをみて驚いてたが……まあいい、でだマシュ」

 

「……怖いです、だってあれだけの人があっさり死んで、しかもあんなに大きいドラゴンも出てきました」

 

ロマンが無茶だと言ったのはクー・フーリンに担いでもらい移動することもそうだが、マスターである藤丸自身が戦場のど真ん中に突っ込むという行為そのものを危惧したからだ。もっともそんな親心的心配はアイルランドの大英雄が一蹴した『俺らのマスターの願いにケチつけんな』と。

 

「幸い相手がファヴニールだった、ジークフリートを仲間にできてなかったら正直危なかった。

それに大急ぎで来てくれたお前の先輩のお陰でな」

 

結果として令呪を使うことで自分のサーヴァントを退避させるのではなく、増援の、しかもドラゴンスレイヤーという最適な剣士を呼び出すことで、相手の最大戦力であろう巨大な邪竜を倒すことができた。コレに関しては誰も避難することもない、あの状況で考えられる最大の成果であり最適解であろう。

 

「俺があのファヴニールを倒した後にトレニャーにC4を仕掛けさせたお陰で竜の息吹(ドラゴンブレス)を吐かせることはなかったが……一度でも吐かれていたらマズかった。あそこまで妨害がうまくいくとも思ってなかったからな」

 

あの時、ボルドーの街には邪竜のブレスを完全に防ぐ術をもつサーヴァントはいなかった。ジャンヌの宝具で減衰はできただろうが、それでも被害は確実に出ていただろう。マシュがいれば話は別だっただろうがそのマシュは別行動の藤丸と共にしていた。それに時間稼ぎも当初は2時間だったが結局1時間で相手の援軍が来てしまった。

 

同時にこちらも大軍宝具持ちの援軍が来たとはいえ、あのままクー・フーリンの援軍も来なかった場合、召喚された海魔によってそれこそ押し切られていたかもしれない。

 

「だが藤丸は、俺たちのマスターは来た、早まったタイムリミットに間に合ってな。それにファヴニールをあの場で倒せた」

 

だがそれを藤丸は変えた。

猛スピードで駆けつけたクー・フーリンの存在を感知した相手は海魔とファヴニールを囮として逃げ、その囮に苦戦を強いられるところを一方的に倒せたのだ、その功績は勲章ものである。

実際に勲章をあげる者はいないが、少なくともマスターの勇気ある行動として彼の後輩もカルデアに召喚されたサーヴァントも認めている。

 

「……ですが私は戦っていません」

 

だが当の本人は認めていない。

 

「そうだな」

 

自分を英雄だとは考えない

 

「…………あの時、私は…………先輩についていけませんでした」

 

「移動手段がなかったからな」

 

「……違うんです……あの瞬間…………怖くなってしまったんです」

 

「…………」

 

「…………先輩が行くとおっしゃった時、私は…………どうしたらいいかわからなくなりました」

 

マスターの盾になるという役目を一度果たせなかった、それはマシュにとって大きな壁となっていた。

 

「先輩を守るのが私の役目だと言うのは分かっていますっ!けど…………それでも…………」

 

 

恐怖のあまり体が、声が出せなかった『私もついて来ます』と

 

 

「…………こんな、こんな怖いという感情だけで何もできないサーヴァントを——」

 

 

 

マスターは必要としない

 

 

「それは違うニャ?」

 

 

それは違う

 

 

 

「・・・え?」

 

「おミャーさんは頑張ってるニャー」

 

「と、トレニャーさん……?」

 

「おミャーさんはここにいるニャ」

 

「…………はい」

 

「おミャーさんは逃げて無いニャ、あの男の子もそうニャ。怖くてもここにいるニャ」

 

「……………………」

 

「それ以上にすごいことがあるかニャ?」

 

通りすがりのアイルーは知っている、力ないモノは逃げると。

 

そして同時にトレニャー は知っている、逃げてない彼女は英雄の証をもう持っていることを

 

「………………」

 

「……いいかマシュ、怖いと思っていない奴はここに1人もいない」

 

「それは……スネークさん、も、ですか?」

 

顔を下に向けているが、それは声音が震えていることからなんとなく悟ったスネークはやや顔をそらし、月明かりが出ている方へと向けた。誰にでも、見られたくない顔くらいある。そしてスネークは質問に答えた。

 

「俺だけじゃない、この場にいる誰もが感じていることだ」

 

「で、ですが——」

 

「人が心に思ってることが全部お前にわかるのか?」

 

「そ、それは……」

 

「わかる訳がない、わかりようが無いからな、だが全部じゃなくとも理解することはできる」

 

そう言って葉巻を取りだ——そうと思ったが、彼女に葉巻の煙を吸わせるわけにもいかないと思い、ヒゲを触るだけにとどめた。

 

「理解……ですか?」

 

「ああ、言葉や表情を通してな。

俺やほかの連中も、お前も含めて、全員恐怖は感じていたし感じている。だがもしお前がそう見えないなら見えないだけだ」

 

「それは……皆さんは見せないように努力しているということなのでしょうか」

 

「……俺たちは英霊だ、そしてお前もそんな英霊の1人の魂を宿している。

たとえ怖いと感じようとやれることを、やるべきことをやってるだけだ。乱暴な言い方をすればやせ我慢してるだけだ」

 

「そ、そんな風にはとても……」

 

「見えないだけだ、それにトレニャーも言っていた通りこの場に居るだけで十分だ。

……それでも足りないと思うならやれる事を増やせばいい、そのくらいの手伝いを惜しむ奴はカルデアにはいない」

 

「……私は、皆さんや先輩の迷惑をかけてまで、旅をしていいのか不安です。先輩のサーヴァントとして頑張ろうという一心でこのフランスに来ました。けど実際にはアルトリアさんやスネークさんを始め、ほかのサーヴァントの方々に頼ってばかりで……」

 

「それは、そう思えるならお前にとってはそうなんだろうな」

 

「…………」

 

「だが実際にお前の行為を評価するのはお前自身じゃない、他のやつだ。

仮に……そうだな……ジャンヌのお前に対する評価を上げれば『一生懸命頑張っている』だったか」

 

「……え」

 

「彼女が合流した日の夜の話だ、確かに彼女はそう言った。

仮にお前がサーヴァントとして三流で、この場に居る誰よりも弱かったとしても、だ。お前が頑張っていることは少なくともフランスの救国の聖女は知っている、もちろんほかの連中もだ。だれもがお前を未熟だと知っている、誰もがお前が頑張ってることも知っている。知らないなりに、怖がっているなりに、慣れてないなりにな」

 

「……………………」

 

「お前はまだ世界を知らないし慣れてないだけだ、そう焦るな」

 

「……私は先輩のサーヴァントになれるでしょうか……?」

 

「・・・ハァ」

 

そんなマシュの出した声にため息を吐くと、スネークはマシュの方へと振り返りパチンっと彼女の頭を叩いた。

 

「アタッ!?」

 

「バカ言うな、お前は最初の、藤丸のサーヴァントだろ。冬木で俺が召喚される前からあいつを守っていただろ」

 

「そ、それは……」

 

「明日は決戦だ、こっちも全力で攻めるが向こうも抵抗するだろう。

俺たちが攻撃している間はどうしてもマスターへの意識は薄まる、その間お前がいるだけで俺たちは遠慮なく戦えるんだ、そうは今のお前には思えないだろうがな」

 

「…………」

 

「意味ない事はこの世に1つもない、お前がここに居る意味も、俺がここにいる意味も、だ」

 

「そしてオイラがここにいる意味もあるニャ!」

 

スネークの言葉にトレニャーはスワッと立ち上がり片手を空へと突き上げた。

結構カワイイ。

 

「そうだな」

 

「…………ふふ」

 

そして結構シュールである、だって格好がヘルメットとピッケルにリュックサックを背負った猫なのだから。

 

「お前がここにいる意味を見出すのには時間がかかるだろう、だがそれでも充分時間はある。

ここで旅を終わらせる気もない、とにかく明日は決戦だ、緊張も怖いと言う感情もあるだろうがあんまり気負い過ぎるなよ、今日はそろそろ寝ておけ」

 

「……ありがとうございますスネークさん、なんだか気持ちが楽になりました」

 

「それなら上々だ。もう一度言うがお前が感じている事は何の不思議でも異常でもない、普通のことだ。

怖いと感じているなら、それを自覚し、その上で自分がどうしたいかを考えればいい。怖いと感じてる事を俺に打ち明けた時点で、お前はその恐怖という感情に飲み込まれる事は無い。気張っていけ」

 

「……ハイッ!マシュ・キリエライト、頑張ります!!」

 

「いやっそう気負わなくて良いんだが……まぁいい」

 

「じゃあオイラ、音楽の人のところに行くニャ!」

 

「?アマデウスさんのところにですか?でしたら私もご一緒します、ついでに案内も」

 

「ニャ!お願いするニャ!」

 

「ならトレニャーは頼む、ならまた明日な」

 

「はい、お任せください、行きましょうトレニャーさん」

 

「ハイニャー!」

 

こうしてスネークは町の外へと、その反対方向へとマシュとトレニャーは歩いて行った。

明日はこのフランスでの最後の日、決戦である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしてトレニャーとマシュが歩き去って行く背中を見て、やっと葉巻を吸えると思ったスネークは胸ポケットから葉巻を取り出し、ライターに火をつける——-前に立ち止まり、通り過ぎた脇道へ振り返らずに声をかける。

 

「……ところで、いい加減葉巻を吸いたいんだが、いつまで俺を見ている気だお前は」

 

「フン、別になにもない、ただあの小娘に貴様が何かしないか気になっただけだ」

 

「……随分とわかりやすい、不器用な王様だ」

 

「おい待て、私は完璧な王だぞ、一体どこの誰の意見だ」

 

「評価をするのは自分自身じゃなく自分以外の誰かであり時代だ、自分の身内を心配するが声を掛けるのを戸惑う上司は十分不器用だろうと俺が思ったまでだ。わかりやすい、というか単純ってのはエミヤの話だが」

 

「よし貴様には情報提供の見返りにこの聖剣のサビになるか私の拳のサンドバックになるかを選ばせてやろう」

 

「お前に俺は殴れん」

 

「ならミンチにしてやろう、この聖剣でな」

 

「そう簡単に宝具を抜くな、それと街中では勘弁してくれ、それかやるならエミヤな」

 

「……それもそうだな」

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

同時刻:リヨン郊外にて

 

「!?いまとてつも無く理不尽な目にあわされた気がするのだが……?」

 

「そんなもんいつもの事だろうが?俺らは大体不幸な目に合うだろうに……まあ俺は何か起きたら逃げるがな」

 

「……その矢避けの加護はいつまで持つかな?」

 

「待て、あの女の宝具(ルールブレイカー)を構えるな、そいつは俺に効く」




何かご意見・ご感想があれば作者の参考にも励みにもなります。
何かありましたら感想欄にてお知らせ下さいm(_ _)m。


次話投稿はすぐにでもできるのですが話の流れの関係上、来週の日曜日に投稿するのを予定しています。


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邪竜百年戦争オルレアン:12-1


有言実行。

とは言っても今回は文字数少なめです。
物足りないと思いますが、ご容赦ください。

我慢できな買った場合は、復刻イリヤコラボを周回しましょう。
きっと来週の日曜日になっているはずですよ。




レイシフト5日目、現地時刻09:21

 

オルレアンから南約15km地点

 

《もう車で20分もかからない、ルーラーの探知範囲まではもう少しあるけど……》

 

「向こうの警戒網にいつ引っかかっていてもおかしくないな」

 

《安心しろ、斥候してるが敵の反応はねぇよ、ワイバーンの1匹も見当たらねぇ》

 

《それがむしろ怪しい気がするがね、まぁこちらは引き続き先行し警戒する》

 

戦力はマシュを含めてサーヴァントが13人、それとトレニャーである。

このメンバーで一気にオルレアンを攻め、戦いを終わらせる。目標は敵ジャンヌ・ダルクの撃破と彼女が持っている聖杯の回収、歪みの根幹である聖杯の回収を忘れてはいけないことと無線を通じて早朝ロマンやダヴィンチから伝えられた。

 

現在カルデア一行は藤丸・マシュの2人を始め、スネーク・ジャンヌ・トレニャー・清姫が車に乗り、アルトリア・アマデウス・マリー・マルタ・ジークフリート・ゲオルギウス・エリザベート バートリーの7人は霊体化し、エミヤとクー・フーリンは毎度おなじみになってきた斥候を担っている。

 

「ここまで仕掛けてきて来ないという事は、このまま……」

 

「そう上手くはいかないと思うぞ坊主、向こうはこっちが今日攻めて来るくらいは想定しているはずだ」

 

「そうなの?」

 

「俺ならそうするからな」

 

「先輩、相手はファヴニールという最大戦力を倒され、そのためにワイバーンという向こうの歩兵とも言える戦力を統率する力が小さくなってしまいました。おそらく相手のジャンヌさん自身もある程度統率できるハズですが、それでも戦力が低下してしまい、それを私たちが知ってしまったことも把握してるでしょうから……」

 

「そっか、自分たちで言えばエミヤさんやクー・フーリンが倒されたみたいなものだもんね」

 

()()()()

 

「……先輩、間違いではないですが……」

 

かわいそうだからやめてあげて。

 

《・・・ッ!》

 

《ッ宝具!?そっちに向かっているぞ!!》

 

そんなやり取りをしている矢先、無線の向こう側にいる2人から空気を変える無線が。

宝具の言葉を聞いた瞬間にスネークはアクセルを吹かしハンドルを切り、クー・フーリンらがいる方を見る。

 

その視線の先からは豪雨のような光の矢が向かって来ていた

 

光の矢が降り注ぐであろう範囲も広い、だが標的は先ほどまでの車の進行方向であるようだ

 

それでもその効果範囲から逃れるにはギリギリだった

 

「マスター伏せろッ!他も対ショック!!」

 

スネークが言った直後、車の後方に大量の光の矢が降り注いで来る

 

それもサーヴァントによる宝具のため威力も高く、藤丸たちが乗る車にその振動が伝わる

 

しかもその振動が近づいて来る

 

《このままじゃ追いつかれる!!》

 

「敵の宝具を止められるか!」

 

《こっちの邪魔すんじゃねぇよ!》

 

ロマンが叫ぶ、スネークが無線に尋ね、クー・フーリンが吼える。

その声にロマンは自分が怒られたと一瞬勘違いしたかもしれないが、そんな事はこの場の誰も気にする事なかった、どうやら宝具を放った相手を捉えたらしい。

 

《こちらで相手する!そっちは先に行ってくれ!》

 

「わかった、さっさと合流してくれ!」

 

《了承した!》

 

「坊主このまま突っ切るぞ、ここからは連戦だ」

 

「うん!マシュも頼んだよ」

 

「ハイッ、先輩を守り切ります!」

 

「っこの清姫のことも忘れないでくださいまし?」

 

「うん、お願いね!」

 

相手を捉えたクー・フーリンに代わり、スネークに対してエミヤが無線で指示を出す。

先ほどまで迫っていた光の矢も止み、向こうで戦闘を始めたらしい。だが一瞬でケリがつくわけではない、故にマスターである藤丸を連れているスネークたちを先に行かせることにしたようだ。その考えを汲み取り、スネークはスピードを緩めることなく車をさらにオルレアンへと走らせる。

 

《襲って来たサーヴァントの反応は君たちの北東3km位にいるけど、どんどん離れて行ってる、どうやら先行してた2人が引き離してくれてるみたいだ》

 

「その間にさっさと近づくぞ、途中から車を捨てる必要があるかもしれんが」

 

「襲って来るとしたら、前に見たサーヴァント?」

 

「分からん、さっき襲って来た奴のクラスはアーチャーだろうが、そんなサーヴァントはいなかったからな、おそらく追加で召喚したんだろうな」

 

「じゃあ……向こうも備えてる?」

 

「まあな、それに襲って来るのが一体な訳がないだろうしな」

 

そう言いながら車を疾走させ、オルレアンを目指す。

未だ城は見えないが目標には一気に近づいている、だがここから先は10km圏内に入る。ルーラーはそのクラス特性上、自身の10km四方にいるサーヴァントの位置を正確に探知できる。気配遮断を持つアサシンの場合は具体的な位置はわからないがそれでも存在する事を感知できる。当然、車で移動している藤丸の周りにいるサーヴァントもバレている。

 

「っあと何分くらいで着くの!?」

 

「あんまり喋るな坊主、舌噛むぞ、まあ車だけなら10分だ」

 

(コクコクッ)

 

《っ森林地帯を抜けるよ!そこからは街だ!》

 

「包囲戦で壊れてるがな」

 

オルレアンの南部に位置するオリヴェは森林地帯や湖などの自然を有するが、オルレアンにほど近いこの地区はオルレアン包囲戦において大きく破壊された。現在ではロワール渓谷の一部として世界遺産に登録されもいるが、まだ戦果が過ぎて程なく、しかもワイバーンやサーヴァントを従えた竜の魔女がフランスで暴れているこの特異点では廃墟と化している。

 

「……マズイな」

 

《どうしたの!?》

 

「いや、ここから先オルレアンに行くには川を2つ渡る必要がある、そのために橋を渡る必要があるが……」

 

「おそらく確実に待ち構えてますね、向こうはこちらの位置を常に捕捉できますから、待ち伏せを外すことはまず無いですし」

 

まだ川そのものは見えていないが、南部からオルレアンに行くには最低でも1つ川を越える必要があり、最短ルートの場合は2つ超えなければ行けない。実際、オルレアン包囲戦初期……イングランドが優勢だった時、敗走したフランス軍はイングランド軍の追撃を避けるためアーチを爆破した記録が残っている。スネークが危惧しているのはその再現である。

 

「それならまだ良いが、橋を渡っている時に爆破されたらたまったもんじゃ無い」

 

「それは……どうでしょう、爆薬は軍が持ってる物ですから向こうの私が持っているかは……」

 

「大丈夫よ、向こうは爆発物を持ってないわ」

 

その心配をジャンヌは疑問視し、突如現界したマルタが完全否定した。

 

「どうして言い切れる?」

 

「彼女、サーヴァントとワイバーンを召喚して戦力は十分だと判断していたもの。それに爆弾を調達する手段も理由も向こうには無いもの」

 

「だがサーヴァントが橋を壊す可能性もあるだろう」

 

「そうね、けど私が知っている限りではそんな橋を破壊するほど派手なことができるサーヴァントは居ないわ。それは話したわよね」

 

「シュヴァリエ・デオン、ヴラド三世、カーミラの三人だったか」

 

「ええ、追加のサーヴァントがいれば話は別だけれど。それに向こうの雰囲気からして橋を壊すって考えはそもそも無いと思うわよ、彼女の目的はこの国を破壊しきること。……召喚されてすぐ、この国の兵士を襲いに行ったもの」

 

「そうか」

 

《……うん、予想通り君たちの前方の橋にサーヴァント反応が1つあるよ、反応からしてセイバーだ》

 

「戦闘だ、スピードを緩めるぞ」

 

「そのまま無視して行けない?」

 

「敵が行かしてくれると思うか坊主」

 

「……だよね」

 

そう言って車のスピードを落としたスネークは橋の手前で車を止め、サイドブレーキをかけ車を降りた。

それ続いて藤丸、それを守るようにマシュ・清姫が並び、ジャンヌも車を降りると霊体化していた7体のサーヴァントも姿を表した。

 

一方で、一行の向かい側では橋の中央で立っている騎士が立っていた。

 

「……敵の私が言うのも何だけれど、君たち多過ぎじゃない?」

 

「戦術の基本だ、そうでなければ俺たちはオルレアンに攻め入らない」

 

「それもそうだ……これはハズレを引いたなぁ、援軍も来なさそうだし……」

 

そう悲観した言葉を言いながらもサーベルを構えこちら側全員を相手をするかの様に睨む

 

「あの……それこそ敵である自分が言うのもおかしい話ですけど、このまま見過ごしてはもらえませんか?」

 

「おい坊主——」

 

だが藤丸は、それでも向こうからすれば圧倒的不利な状況であるからこそ、わざわざ戦う意味は無いと思い交渉を持ちかける。そんな彼の言葉をスネークが止める前にデオンが答えた。

 

「……残念だけどそれは無理だ。私は君たちの敵で竜の魔女に召喚されたサーヴァント、狂っていようが狂わされていようが私はフランス王家と彼女に忠誠を誓っている。それに…………私は騎士だ、戦いから逃げる事は決して無い」

 

それを最後に本気で殺気を飛ばし、臨戦態勢に入ったデオン。

 

 

その殺気は騎士の誇りを侮辱した藤丸への憤りか

 

今の状況への怒りか

 

自分自身への不甲斐なさか

 

竜の魔女への、フランスへの思いか

 

 

それは当の本人にもわからない。

だが、ただの事実として、今カルデア一行と橋の上で相対している白百合の騎士の騎士は守るためではなく、カルデア一行と戦うために殺気を放っていた。

 

「……彼女、本気ね」

 

「……マリア、確か君——」

 

「いいの、彼女は今は敵、そして私たちは彼女の敵、それだけよ」

 

その姿を後ろから密かに見るフランスの王妃と音楽家。

車が止まった時からこの二人は一団の後ろに回った……正しくはマリーが後ろに行き、それにアマデウスが付いていっただけだが、それをわざわざ指摘するものはいなかった。

 

「マスター、ここは私に一人に任せてくれないか」

 

「アルトリアさん……」

 

そんな中、黒き騎士王が藤丸に進言した。

 

「念のために聞くが私が一人であの“騎士”と戦うことに文句がある者は」

 

首を縦に振るものはいなかった。

 

騎士に騎士王が相対することに苦言を呈する者はこの場にいなかった。

 

この場にいる全員で襲いかかっても結果は同じだが意味が違うことをほとんどがわかっていた。

 

「マスター、許可を」

 

「……うん、けど長引かせないであげて」

 

「承知した」

 

そう答えるとかの騎士王は一人で橋の上にいる騎士の元へ向かう。

 

いまだその騎士からは殺気が溢れているが、それでも少しは驚きがあった様だった。

 

「……なぜ一人で」

 

「ふん、生憎聖女や聖人はいるが騎士を名乗る者は私しかいないからだ。敵である貴様がこの国の騎士を名乗り以上、私もブリテンの王として貴様を倒すのが王道だと思った、それだけだ」

 

それだけ言うと騎士王は黒き聖剣の切先を下に向け、柄頭を胸に持ち、堂々と名乗りを上げた

 

「我が真名はアルトリア・ペンドラゴン、我らの主の道を切り開くため、敵である貴様を倒す!」

 

「……私の名はシュヴァリエ・デオン・ド・ボーモン、フランスとフランス王家に誓い、君らを倒す!」

 

 

 

互いの宣誓がおわり、一瞬の静寂が訪れる。

 

 

 

両者ともに思う

 

 

 

勝負は一瞬で終わる、終わらせる

 

 

 

黒き騎士王が飛び、白百合の騎士に斬りかかる。

 

振り下ろされた聖剣は魔力放出の勢いも合わさり相手の体ごと引き裂く

 

だがそれは直撃した場合に限る

 

デオンはサーベルを相手のわずか左斜めにズラす

 

振り下ろされた聖剣はサーベルの右側を滑り勢いをそのままにいなされる

 

そのまま騎士王の頭部へと突き出した

 

突き出されたサーベルはたしかに聖剣使いの頭部へと吸い込まれ

 

そして聖剣の鍔で弾かれた

 

「ッ!」

 

「この私の首はそう安くない」

 

僅かな厚みしか持たない鍔にサーベルの切先を一切のズレなく真正面から合わせなければ弾かれる事はまずない

 

僅かでもズレがあればサーベルの切先は鍔によって軌道をずらされるだけで終わる

 

だが実際には聖剣を逆手に持つ事でサーベルは弾かれ、白百合の騎士の体は後ろへと押される

 

その隙を突き、逆手に持たれたまま黒い聖剣は白百合の騎士の胴を薙ぎ払う

 

薙ぎ払われた聖剣はしかし、宙を切り

 

当の騎士は後ろに押された反動に抗わず地面へと倒れ薙ぎ払われた聖剣を見逃し後方一回転、起き上がり距離を取る

 

だがそこから間を置く事なくデオンは間合いをゼロにしサーベルで敵を貫いた

 

それに対し騎士王は真正面を向き右手で聖剣を掲げ、袈裟斬りの要領で振り下ろした

 

 

 

・・・再び静寂が訪れる

 

 

 

白百合の騎士によるサーベルで確かに貫かれた相手は右脇腹をスカートアーマーごと抉っていた

 

 

黒き騎士王によって確かに切られた相手は……左肩から右腰かけてハッキリと切り口が描かれ腹部から血が溢れた

 

 

そのまま両者は腹部を抑えたが、橋の上で立つ者と橋上で腹ばいに突っ伏す者との違いが出た。

何よりそこから歩き始めた黒き騎士王と、赤く染まり動けなくなった白百合の騎士ではあまりにも差があった。

 

「……ぁあ、健勝で何よりだ……」

 

「馬鹿を言うな、脇腹に傷ができた、何が健勝だ」

 

「……それ…もそうだ」

 

黒く重い甲冑を着ている騎士王と、鎧も装甲もない服を着ている白百合の騎士とでは真っ向勝負で不利なのはわかりきっている。確かに素早さでは有利を取れるが、真っ向からの突きと斬りとの勝負ではその有利も働かない。ましてや相手は騎士王とまで呼ばれた彼女である、それがわからなかったハズがない。

 

「なぜ決着を急いだ」

 

「…………なんのことかなぁ」

 

アルトリアはデオンの片方の肺を確実に斬った。

すでに呼吸だけでも苦しく困難なハズだが、それでもとぼける余裕をみせた。

 

「……ああ、これでようやく呪いも解ける……負けるのは……恥だけど……君たち……倒されてよかったよ」

 

「…………」

 

それを最後に、真っ赤に染まった白百合は白い光の粒子となって消えた。

橋の上に残ったのは黒き騎士王だけだった。

 

「……終わったぞマスター、要望通り短時間で終わらした」

 

「アルトリアさん、その傷っ」

 

「大した傷ではない、すぐ治る、それより早くオルレアンに向かうべきだろう」

 

「で、ですが……」

 

「本当に大丈夫なんだね?」

 

「私の回復量は並みじゃないからな、まあ少し休ませろ」

 

そう言うとアルトリアはさっさと霊体化して消えた。

 

「……さっさ移動するぞ、すでにほかのサーヴェントが先回りしているだろうからな、その2体を倒して本拠地に殴り込みだ、行くぞ」

 

そう言ってスネークは車に飛び乗り、エンジンを吹かす。

その音に慌てて藤丸やマシュも乗り込み、ついでに清姫もちゃっかり藤丸の隣に乗ろうとしてマシュにガードされている間に助手席に藤丸が乗り、ならその隣か上に乗らんと清姫が動こうとした瞬間にシュタッとトレニャー が藤丸の膝上に乗っかり、清姫がウギャーとなりつつある中。

 

ジャンヌは車に乗る前に霊体化しようとしていたマリーに声をかける。

 

「マリー、先ほどの相手は……」

 

「ええ、私はよく知っているわ。彼女がどれほどこの国を想っているのかも、だから彼女が倒されて安心していることもっ。だから後であの騎士さんに感謝しないと、ありがとうってね?」

 

「そうですか……てっきり落ち込んでるものかと」

 

「ウーン……残念って気持ちはあるけれど、それでもやっぱり彼女らしく戦って、そして倒されたから良かったって想っているわ。だって大人数で倒してしまったら、あまりにも悲しいもの」

 

「そ、そうでしたか……」

 

「?どうしたのジャンヌ?そんな後ろめたい顔をして?」

 

「いっいえ!あ、私も早く車に乗らなきゃっ……!」

 

言えない、

実は『どうして一騎打ちなんでしょう?ここにいる全員で倒してしまえばいいのに』と実は思っていたなんて。けどなんか意見する雰囲気じゃなかったから言わなかっただけだなんて。マリーと知り合いっぽいから、慰めようかと思っていたけど、むしろ私が意見してたら彼女が悲しんでいただなんて思っても見なかった彼女は、このことは墓場まで持っていこうと心に決めた。サーヴァントに墓場はあまり無いのだが。

 

「ロマン、エミヤ達はどうしてる」

 

《……どうやら敵はあの派手な宝具を何回か撃とうとしたみたいだからだいぶ離れてる、多分それが目的だと思うし君たちが次の橋に向かうまでにはまず間に合わないと思う》

 

「まぁそれをわざわざ無線で言ってこないところから察するにすぐに合流する腹づもりみたいだがな。よし出すぞ」

 

 

 

 




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邪竜百年戦争オルレアン:12-2

おまたせしました。
先週に続いて戦闘シーンとなります。



デオンとの戦闘から数分後、オルレアンから南西2km ロワール川にて

 

カルデア一行は敵本拠地であるオルレアンまで文字通りあと一歩までのところまで来ている。一行から見える川はロワール川であり、その川の向かい側には敵の城までも見えていた。だがその手前にある一行が渡らなければいけない橋の上には敵サーヴァントが2体の反応があり事前に離れた場所で車を降り橋へと向かった。

 

《やっぱりサーヴァント、しかも前に戦った相手だ!》

 

「……なるほど、あの騎士は先に逝ったか」

 

「まあそうでしょうね……それで残っているサーヴァントがこれだけいるなんて、彼……いや彼女ではどうしようもなかったのでしょうね……まぁ彼女が死なず、敵なのには驚きなのだけれど」

 

そうため息を吐きながら視線を飛ばすカーミラの先には、死んだと思っていた水辺の聖女が立っていた。

対して視線を受け取った聖女はお返しと言わんばかりにメンチを切る……ことなく、ただ静かに2体のサーヴァントを見つめるだけだった。そんな聖女の視線が気に食わなかったのか、不機嫌そうに顔を背けたが、ヴラド3世がただ言葉を出す。

「そう言うな、所詮我らは化け物であり悪役、相対するのが敵であれば殺すのみ」

 

それだけ行って2人……2体の吸血鬼は、片方は血濡れた貴婦人として、片方は黒き王から鬼となった串刺し公としてそれぞれの獲物を持ち構えた。先ほどまでの戦闘と違い、一切会話の余地は無かった。

 

「……やっぱり倒すしか無いんだね」

 

「さっさと下がってろ坊主、さっきとは違って向こうはなりふり構わずくるぞ」

 

「マスターは私の後ろに、必ず守り切ります」

 

「ええ、私も護衛に回りましょう」

 

そう言いながらマシュとゲオルギウスの二人は藤丸を連れ後方に下がる。

先ほどまで戦ったデオンとは違い、殺気はそれほど濃く無い、だがデオンの殺気は己の中にある迷いを断つ意味もあったかもしれない。だがこちらは作業するかのように一切の躊躇なく戦うことを選んだ。向こうが圧倒的な数的不利であることもそうだろうが、逆に言えば向こうはとにかく暴れるだけで良いのだ。

 

気負う責任も、命も、目の前に立つ2体の化け物には無い。

 

「っじゃあ私は私を相手させてもらうわよ子イヌ!!」

 

「えっ一人で相手するつもり!?」

 

「そりゃそうよ!色々言いたいことあるけど、とにかくムカつくんだもの!!」

 

そして、昨日仲間になったばかりのエリザベートは敵アサシンであるカーミラを相手取る、というかそれ以外のことを視界に入れておらず、藤丸の質問にも答えていなかった。そんなアイドルはその勢いのまま、まだ分断もしていない化け物2体相手に突っ込んでいった。

 

「ッあのうるさいトカゲ女、いきなり突っ込んでいったぞ!?」

 

それに驚いたのは後方支援に回ろうとしていたアマデウス。

音楽家が前線に出張るわけにもなれず、そも前線を張れるサーヴァントがいるこの状況でわざわざ前に出る理由もないことから自然と後方に回ろうとしていただけだが、それでも彼なりに後方支援要員として、何故かキャスターとして現界したなりに魔術による支援をしようとした矢先の出来事。

 

 

 

当然ながら突っ込んでいったアイドル(えりちゃん)にもバフをかけようとしていたが、かかっていない。

 

 

 

「っ清姫!」

 

「はぁ……いくらあの駄竜とはいえそのまま死なれても寝覚めが悪いですし。それにますたぁのお願いですから…………すこし頭を冷やしなさい!」

 

「あっ前衛陣は一時退避!」

 

突っ込んで行ったエリザベートをとりあえず援護するため、藤丸は(何故か)近くにいた清姫に攻撃指示を出す……と同時に、シャアッ!と舌を出した彼女を見て、彼女自身の宝具を思い出し、自分たちの一番前で立っていたスネークとアルトリアの2人に向けて退避命令を出す。

 

直後、横にいた清姫は扇子を取り出したかと思うと蒼き竜となり、橋の上に立つ者たちに襲いかかった

 

「転身火生三昧!」

 

本人の思い込みという力だけで竜に転身する、という人類史における伝承を見返しても中々出来る者が少ない芸当をやってのける彼女の宝具はその伝承上にある竜になるという物で、その体で締め付け、広範囲にいる敵を焼き尽くす……まぁ逆に言ってしまえば、効果範囲内にいるものであれば味方であろうがなりふり構わず攻撃するという意味で。

 

「キャアアァァァ!?熱いわよ!!?味方の見分けもつかないのアンタ!!?」

 

「……そういえば清姫さんはバーサーカーでしたね」

 

「そういうことだ」

 

そんな訳で、突っ込んで行ったアイドルは突っ込んで来た竜に燃やされるという、少し事故な気がする場面を見て清姫のクラスを思い出すマシュと、その飛び散る火の粉で葉巻に火をつけようとするスネーク。そんなことをするスネークを見て、アルトリアは呆れ、ジークフリートは変わらず険しそうな顔をしていたが、敵もろとも焼蛇になりそうなアイドルはそれどころじゃなかった。

 

「ああ私がバカだったわよ!っていうか向こうは無傷だけどぉ!?」

 

「・・・えっ!?」

 

アイドルとしてはそれどころじゃ無かったが、サーヴァントとしての仕事は果たすらしい。

そんなエリザベートの言葉を聞いて驚くマスター。一方で葉巻を諦めた傭兵と黒き騎士王は自然と反応する。

 

「……行くぞ、私に合わせるだけでいい」

 

「そうしてくれ、俺はお前に合わせるだけだ」

 

「同じセイバーだが俺はドラゴンスレイヤーだからな、任せる」

 

「ふん、良くほざく」

 

直後、清姫の吐いた炎が作った煙が晴れ、代わりに骨肉、砂などありとあらゆる物質で出来た杭が強固な防壁のように橋の上に展開され、炎はその杭を燻らせるだけで橋の向こう側へ届いておらず、その杭から新たな杭がいくつも飛び出す。

 

「フンッ」

 

だがそれらの杭は全て黒い極光の剣が振り落とす

 

それでも防壁そのものに変化は無く、吸血鬼に被害は無い

 

愛知らぬ哀しき竜よ(タラスク)!」

 

その杭の壁に向けて巨大な質量を持つ竜種が高速回転しながらアルトリアの頭上を飛んで行き、そのまま壁の中央部を削り喰い破りそのままマルタも突入した。

 

全員が大きく空いた壁から橋の向こう側が見えるようになる

 

・・・がそこに敵は見えない

 

「ズルイと思わないことね、こっちに余裕は無いのよ」

 

「アラ?」

 

吸血の貴婦人は一行の一番後ろに現れた。

最後尾には援護、もとい前線で戦えないサーヴァントが集まっている。カーミラもその経歴とクラスがアサシンであることから殴り合うタイプのサーヴァントでは無いが、奇襲であれば一番後ろにたむろっているサーヴァントを相手にする程度なら問題ない。突っ立っていたマリーに向かい異様に伸びた爪で切りつける。

 

「ッ!」

 

何拍か遅れてアマデウスが反応するもとっくに遅く、格好良く割り込むことも出来ず、彼女が割かれる瞬間を見ることくらいしか出来なかった。

 

ガキンッ、という音が響く

 

「そう簡単に……やらせはしません!!」

 

「ジャンヌ……!」

 

「ッチ」

 

護国の旗はフランスの王妃を吸血鬼から守り、鋭い爪を弾いた。

流れるはずだった鮮血の代わりにマリーの目に映ったのは、きらびやかに風になびく金髪だった。

 

そんな金髪の主であるジャンヌは競り合っている穂先から旗の柄でカーミラの顔面を突き狙う。

だが、元から数的不利を承知で突っ込んだカーミラは奇襲が失敗し、しかも自分で相手しなければならない相手が増えたことも相まって、ジャンヌが旗を回転させた時点で大きく後ろに跳躍し、回避する。

 

「マリー大丈夫ですか、ケガは」

 

「ふふ、まさか私を守ってくれる騎士様がジャンヌなんて」

 

「っエェ?」

 

「ふふふ」

 

マリー・アントワネットがサーヴァントとして召喚されると、彼女のスキルとして自分を守る騎士たる人物を引き寄せる。……そのスキルのお陰で音楽家である彼も召喚されたのかは不明だが、少なくとも今の場面で引き寄せた騎士はジャンヌだったようだ。それが王妃様本人にはおかしかったらしく、自分で笑っているらしい。

 

「ぁあ、彼女はいつも通りだから問題ないと思うよ……まぁマリアが言う通り守るために駆けつけたのは君だけどね」

 

「そ、そうですか……」

 

「全く、これだから人数が多いのは嫌なのよ……」

 

その一方で、失敗するかもしれない、程度に考えていた奇襲が敵を増やす形で失敗したことにため息を吐くカーミラ。今の彼女の奇襲によって10人近くものサーヴァントが敵である自分のことを見ている、しかも見ている全員を相手にする必要があるというのだからため息も出る。

 

「……こんな役目、狂っているとか以前の問題よね」

 

「ですが、それでも貴女は降参することは無いのでしょう」

 

「……ふ、そうね。あなたの言う通りよ、そう考えればどうせ私は狂っているのでしょうけど……降参しないわ、私たちはね」

 

「・・・・・・」

 

ため息を吐きながらも言葉を紡ぐ吸血鬼に対し、まっすぐな視線をぶつけるジャンヌの言葉に、何かを思い出したのかフッと微笑み言葉を返すカーミラ。その顔に引っかかりを覚えたジャンヌ。

 

「マシュ!マスターを守れ!!」

 

「ハイッ、何がなんでも——」

 

「違う!!」

 

「……えっ?」

 

「ッ!失礼!!」

 

直後、後ろから先ほどまで最前線だった一行の最後方からスネークが叫ぶ

 

続く言葉にフリーズしたマシュ

 

防御に関して直感が働くゲオルギウスはすぐにその場から藤丸とマシュの2人をそれぞれを片手で掴み、スネークやアルトリアがいる方へ無理やり引き摺り走った。

 

直後、藤丸が立っていた足元が裂けて橋に穴が空き、先ほどタラスクによって破壊されたものよりも太く丈夫な木材や金属でできた杭が再び壁のように橋の下から突き出る。そしてさらに壁から1本の杭が2人引きずるゲオルギウスを狙い飛び出す。

 

「っマスターッ!」

 

だがマシュが復帰するには十分な時間が稼がれた。

あのまま立っていたなら時間以前にそこで終わっていただけだが、その未熟な部分は実際にスネークとゲオルギウスによってフォローされた。そして未熟ならば、彼女は、彼女がすべきことをするだけである。

 

ゲオルギウスはマシュを掴んでいた手を離し、そのマシュは手に持つ盾を自分たちの後方から迫る杭に向け、真っ向から抑えつける。

 

「クッァアアァァ!!」

 

ぶつかっても勢いが収まらない杭だったが、マシュの気合いによって杭の進行方向は右直角に曲げられ橋の縁を破壊して止まった。だがそれでも警戒を怠らず、追撃が無いか確認しながらマシュは盾を構えながら後ろに下がり、ゲオルギウスと藤丸に合流する。

 

すでにゲオルギウスは藤丸を連れスネーク達と合流しており、遅れて最初に壊された杭から(どうにか)戻ってきたエリザベートや清姫・マルタも合流していた。……が状況は芳しくなかった。

 

「分断、されましたね」

 

「向こうは何人だ?」

 

「マリーさんとアマデウスさん、あとジャンヌさんの3人かな……」

 

「それだけか」

 

「すぐに向こうに合流したいですが……」

 

ゲオルギウスが淡々と事実を確認する。強固な杭によって橋は半分ほどに分断され、藤丸はじめ多くのサーヴァントがいるこちら側に対し、向こう側には三体のサーヴァントしかおらず、それもほとんど碌に戦えない2人と弱体化されているルーラーであるジャンヌだけである。故にすぐにこの杭を破壊して向こう側に合流するべきだ……が。

 

「しかもよりによって私が向こうにいるんでしょ!?だったらさっきみたいに壊しちゃえば——」

 

「はぁ・・・あなたはそこまでアホなんですかぁ?」

 

「はああァ !?さっさと壊すに越したことないでしょ!壊さない方がバカよ!!」

 

「アホは貴様だトカゲ娘」

 

「と、トカッ——!?」

 

「悪いがお前が一方的に悪いな、そのままあの壁を貫通させる攻撃をして、向こうにいる連中が無傷か?」

 

「・・・あ」

 

「そういうことですよ。それにアレ、宝具レベルで生成されてますよね?それなら宝具を使わないとまず壊せないでしょうから」

 

「それに相手もこっちの自由にはさせてくれる気はさらさら無い、という話だ」

 

エリザベートがサッサと杭をぶっ壊そうと提案するが、それを全員が否定する。

さらにスネークが橋を分断した杭に視線を向けると、そこには黒い貴族服を着た王が槍を携え待っていた。

 

「言ったはずだ、余は化物であり敵であれば殺すのみである。それが例え気に食わぬ傀儡の身であろうとな」

 

そう言って現れたヴラド3世はゆっくりと一行の方へと歩み始めた。

 

《ッ!?急激な魔力上昇!なりふり構わず襲ってくるぞ!!》

 

「だろうな、立ち止まればあの杭で串刺しだ」

 

血塗れ王鬼(カズィクル・ベイ)!」

 

「ッ動いてとにかく回避!!」

 

言われるまでもなく、と言った風ながらも藤丸やサーヴァント達はその場から跳びのき、走る。

直後、それぞれが居た橋下から杭が穿たれる。もちろんそれら全ては回避されるが、それぞれの回避先にさらに杭が飛び出てくる。サーヴァント達はとりあえず回避できてるが、

 

「ちょっ、これ際限無いわけ!?」

 

「だろうな、そういう伝承があるサーヴァントだしな、それに向こうからすればジャンヌらがやられるまでの時間稼ぎも兼ねてるだろう」

 

「なんか考えは!?」

 

そう藤丸が叫ぶ最中も敵の宝具である杭は彼らを襲い続ける。

このままではジリ貧、になる立場は向こうだがあまりにも時間がかかりすぎる。それに加え時間がかかればこちらにも被害が出かねない、隔たれた向こう側へと行く必要もある。

 

「……黒き騎士王よ頼みがある」

 

「ほう、どうした竜殺し」

 

「すまないが俺を、その剣であの杭を超える程度に打ち上げてくれ」

 

「……正気か?」

 

「ああ」

 

「確実にアレの餌食になるぞ」

 

「俺もサーヴァントだ、策はある」

 

「・・・マスター、私がジークフリートを向こうに飛ばすが構わないな?よし飛ばす」

 

「はぇ!?チョッ——」

 

この状況を打開するにはこちら側の敵であるヴラド3世を速攻で倒すか、強固な杭“だけ”を破壊して無理やり合流するか、の2択。だが、反対側に取り残されているサーヴァントの援護に即行くことができれば一応の問題はないとも言える。

 

「誇りに思え、この剣に乗り、ましてや斬り上げられ無傷の人間は貴様が初めてだ」

 

「……すまない、だが……そうだな、真後ろから斬りつけないでくれ」

 

「ッ行け」

 

腹を地面に向け、空にも腹を見せている聖剣に片足を引っ掛ける足場として乗せたジークフリートは、持ち主の言葉にいつも通り一言詫びながらも自身の弱点に関する注文をした。その言葉に対しアルトリアは自身の筋力とさらに魔力放出で高速で剣を振り上げることでしっかりと応え、ジークフリートのオーダー通り、背中を斬りつけることなく彼を強固な杭の高さまで打ち上げた。

 

「それを余が許すとでも思ったか」

 

そして、予想された通りヴラドが飛び越えようとするジークフリートの軌道上に杭を打ち込む。

 

「それを私たちが邪魔しないとでもお思いですか?」

 

だがジークフリートを狙った杭を清姫が扇子からの炎で薙ぎ払う

 

「っ悪く思わないでよねっ!!」

 

その炎に紛れてエリザベートが突入し懐に潜り込み、マイクを兼ねた竜骨槍をヴラド3世の顔に打ち込む。

それに対し彼は至って冷静に、自身の持つ槍で彼女の槍を側面から弾き、自身に向けられた穂先を脇にすり抜けさせ、その勢いのまま自分の槍を振り下ろす。

しかし、元から筋力がCしかないエリザベートは槍が敵の脇へと外れた時点で背中を向け、自分の尻尾で頭をかち割ろうと振り下ろされた槍を弾いた。

 

「……っ」

 

だがジークフリートの体はちょうど壁の真上へと到達していた。

それを確認したヴラド三世は直後、彼の体を貫かんと杭でできた壁が急速に進展させ、ジークフリートに直撃する。

 

「ジークフリートさん!?」

 

「心配するな、よく見ろ坊主、あいつは無事だ」

 

「えっ?……えっ!?」

 

「心配させてすまない、だがこれが一番早い、こちらは俺に任せてくれ」

 

そう言うと猛スピードで杭で突かれ先ほどの壁の高さよりはるか高くに打ち上げられたジークフリートは無傷でさらに高くなった壁の向こう側へと消えていった。

その間にエリザベートはさっさと懐から離脱し一行が集まる橋のたもとへと避難する、だってマジ怖いんだもん(本人談)

 

《ど、どうやら伝承通り彼の体は攻撃を受け付けないみたいだよ、多分体がそういう宝具——》

 

「解説は後!こっちの被害は!?」

 

「今のところゼロだな」

 

「けどキリがないです、一気に攻めるか意表でも突かないと……」

 

「奇襲か、だが見通しが良過ぎる、それに裏にも回れん」

 

どうにか速攻で倒す必要性が無くなったものの、ヴラド3世をこちら側にいるメンツで倒すことに変わりはない。ただ敵は橋の上におり、その後ろには壁があるために後ろに回り込むことが物理的に難しい。さらに正面から攻め込もうにも波状的に杭が橋から飛び出してくる為にまず接近できない。

 

いまはジークフリートが向こう側へと飛んで行った為に、様子見なのか敵は杭は飛び出して来ず、壁の前に槍を構えて立っているが、橋の向こう側にいる味方が倒されればすぐに後ろから攻められることになる。

 

「……強硬手段だが考えがある、結構無茶だが」

 

「なに、タラスクで問答無用に押し通るの」

 

『姐さん、それはダメって言ってたっス』

 

「まぁ……似たようなもんだ」

 

『!?』

 

タラスクはおどろいた、けど誰もツッコマない、だって姐さん以外には聞こえてないんのだから。

 

「……一体何をする気?」

 

「実は仕込みはできている、やるならこのタイミングなんだが」

 

「仕込みって、スネークさん本当に何するの?」

 

「……確実な隙を作る、そこを一気に攻めてくれ」

 

「短期決戦?」

 

「ああ、とにかくあいつを仕留められる奴が一気に攻めてくれ、そうでなきゃ向こうが有利だ。なにせオスマン帝国の進行を数的不利で退けた英雄だ、この状況は向こうからすれば好条件になるだろうしな」

 

「なら・・・アルトリアさんとマルタさんかな?」

 

そう藤丸が確認し2人を見ると、その2人は頷いて答えた。

 

「なら決まりだな、それと派手に合図するまで橋に近寄るな、特にマスターはな」

 

「……なんとな〜く今までので予想できたけど、うん、任せるよスネークさん」

 

そのやり取りをし、スネークだけが橋のたもとからヴラド3世がいる橋の中央へと近付く。

 

1人だけ近づいてくることを奇妙に感じながらも、何か考えているのはわかりきった事だったために気にすることはなかった。そも、ヴラド3世やカーミラからすれば自分たちが圧倒的不利な状況下で無理やり戦っていることが前提である。

聖杯からの魔力供給によってどれほど宝具を使っても自然消滅することは無いが、それでも言ってしまえば制限がないだけである。特にヴラド3世はその伝承上……本人はその一部を忌み嫌っているが……少数で大多数を相手することで真価を発揮するのに対し、カーミラはまず武勇や殲滅するといった話は無く、血の貴婦人という伝承から生まれた吸血鬼という無辜の怪物というだけである。単なる人なら人数が多くとも有利が取れるがサーヴァント相手ではただただ不利なだけである。一応、後方で控えるであろう女サーヴァントを狙ったが、先にジークフリートが加わったために、そう長くは続かないだろう。

 

 

だが、それが自分たちに投げつけられた役であるゆえに、化け物として振る舞う。

 

 

「ほう、あの中で一番人に近いサーヴァントであるお前が余の前に一人で立つか」

 

「おかしいか?」

 

「否、貴様だけで今さら余を相手にするとは思わぬ。あの中で一番奥に立っている者に近い時代で生きていたであろう人間と相対すると思わなかっただけである」

 

「ああ……そう言われれば確かに俺とマスターはあまり変わらんからな、それにお前を倒しきる術を俺自身は持ってない」

 

そう言ってスネークは手に持つM16を一瞬見なおす。

セイバーやランサー・バーサーカーのように、武器は自分も持っているが自分の武器は自分の筋力に依存していない。全く自分の力を使わない訳ではないが、それでも他のサーヴァントと比べれば特殊ではある。それに武器を使わず自分自身でいま目の前に立つ敵を倒せても、倒しきることはスネークにはできない。

 

「……だがまぁ……なんだ、この場に立つサーヴァントは俺だけだ、サーヴァントはな」

 

「・・・なに」

 

単純に、スネークはほかのサーヴァントと比べて決定打に欠ける。

実際、これまでのフランスや冬木での戦いも敵を倒したのではなく倒すためにアシストをした、と言った方が正しい。橋の上でも何かをした訳ではない、ただ素晴らしい相方が働いただけである。

 

「この橋はお前の宝具のおかげで穴だらけになった。向こう側も巻き込むかもしれなかったがその心配も無くなったからな、遠慮なくやらせてもらう」

 

そういうとスネークはポケットから機械を取り出した。

 

それは真ん中が赤いボタンだった

 

「ッ!」

 

物を取り出すという動作にとっさに反応した敵に流石と思うスネークだったが、ことブツを取り出しボタンを押す・引き金を引くといった動作を確実に素早く行うことに関して自信がある。

 

実際、ヴラド3世はスネークに対して何かをしようとした直後、体制を崩された

 

それは一瞬で目の間にスネークが接近した、訳ではなくボタンを押したことにより正常に橋裏に設置されたC4爆弾が起動した結果である。

 

「爆発、か」

 

「ただの爆発じゃない、足元を見ろワラキアの君主」

 

「ッ!」

 

彼らが立つ足元は橋である、

それも石でできた橋であり、

ヴラド3世の伝承によって宝具となった杭によって穿たれている、

 

当然ボロボロであり……建築工学に基づき炸薬量を調節し設置された爆薬を用いれば

 

「スイミングの時間だ、少し季節外れだがな」

 

「ニャニャァ!」

 

橋の真ん中だけを落とす程度造作もない。

 

加えて強固に作られさらに高くなった壁も問題ない、橋のたもとやスネークらが立つ方向へも倒れることなく、全ては瓦礫として川上側へと倒壊・落下し、石材とともに灰色の爆煙と大きな水しぶきを作りあげた。

 

そして当然、スネークやヴラド3世も川へと落下する。

 

その間に数発スネークは発砲するも、英霊の名は伊達ではなく頭部へと迫る弾丸を槍で弾き飛ばし1発だけ腹部へと命中する。もっとも、吸血鬼と言う名の化け物となっているヴラド3世に弾丸を1発だけ打ち込んだところで大したダメージにはならない。

 

やがて川へと落下し、わずかに沈むもスネークは瓦礫をかき分け、水面に顔だけを出し敵がいるであろう方向を見ながら後ろ向きで岸辺へと泳ぐ。その速度は遅かったが、対して敵の対応はさらに遅く、水中に沈んでいた。

 

(ッ流水!)

 

ここで召喚されているヴラド三世は自身がドラキュラであることを認めている状態である。当然ドラキュラの伝承上の特徴である頑丈さや怪力・吸血といったものを併せ持つが、同様に伝承上の弱点も一部、今回の召喚では引き継ぎ、というのは彼からすれば正しくないが持っている。一部、というのは日光下では弱い・燃えるということは無いし炎に弱いということも無い(実際に活動できており、召喚者が炎を扱うもデメリットを受けていない)だがサーヴァントとして召喚された英霊は知名度や伝承に能力を引きづられる存在である。

 

化け物であることを自覚しているカーミラやヴラド3世は日中で活動できることから吸血鬼としての弱点を、本人らはもちろん召喚者であるジャンヌもあまり気にしていなかったが、吸血鬼としての弱点を一切持っていないわけではない。

 

スネークはとある理由から吸血鬼について研究した。それこそ『吸血鬼はただのよくできた作り話だ』と結論づけるために23枚程度のレポートを自力で書き上げ、反論に対しては、相手がただ聞いた話を口にしているならその相手を(口で)丸め込み、相応の知識と文献を読み込んだ上で信じている相手には(口で)完膚なきまで叩きのめす程には研究した。

 

故に、吸血鬼は禊と関連する流水に弱いこともスネークは知っており、それが現実となった。

 

もっとも、宗教や土着信仰により魔物によっては水面を歩くものもあり、吸血鬼もそんな魔物の一種だが、そも人の形をしているものが水面に浮かべるとは考えにくく、少なくとも吸血鬼となったヴラド3世は水面を歩けないらしく、自分の装備や服によって沈んでおり、さらに若干ながら敏捷と筋力のパラメータが若干落ちていた。

 

だが窒息死することはない、なぜなら沈み切ったために水中を歩けるからだ。

別に泳げないというわけではない、それにオルレアンの南を流れるロワール川の水深は3mもない、水面にもすぐに顔を出すことは可能でしばらく水中にいても酸素はもつ。

 

愛知らぬ哀しき竜よ(タラスク)!」

 

そこに、聖女の宝具が繰り出される

 

突如水中を泡立てながら高速で接近する物体はただでさえ動きにくい流れのある水中にいるヴラドに直撃する。だが、例え弱点とされる流水に浸かったところで耐久力にたいしてデメリットが発生していたわけではない。吸血鬼と呼ばれる所以である不死性にも似た耐久力の高さを発揮し、無理やり体を削られながらその回転を使い水面へと一気に浮き上がりそのまま体を打ち上げてもらう形で水中から脱し空中に上がった。

 

身体中に肉と骨がむき出しとなっている箇所があるが回復すればまだ十分に戦えた。そう、戦えた。

 

「落ちて沈み打ち上げられて空を飛ぶか、吸血鬼も大変なようだな」

 

「ッ!」

 

だがその水面には一人の剣士が聖剣を構え待っていた。

別に化け物でなくとも、例えば湖の精霊の加護を受けたものであれば水面を歩くことが出来る。それが海だろうが川だろうが関係ない、それが別の側面として現界した場合でも。

 

「蹴散らす」

 

手に持つ黒い聖剣を下段に構え、水面を蹴り空中にいる敵を空中でぶつかるように切り上げカーミラやジャンヌらがいる反対側の橋のたもとへと吹き飛ばす。

先ほど爆破された橋が作った瓦礫による水しぶきほどでは無いが、土煙を上げ地面を転がっていく。

 

「な、なんか飛んできた!?」

 

「っ気をつけて下さい、まだ倒しきっていません」

 

「下がっていろ」

 

魔力放出によって叩きつけられた聖剣は吸血鬼の胸を下から切り上げ、その肉と骨を絶った。

切りつけられた肉体は骨も絶たれたことによってさらに臓物もむき出しになろうとしているが、それでもまだ死なない。戦闘続行のスキルが効いているのだ。

 

「…………」

 

それだけの傷を負ってもなお、地面を転がったままであってもヴラドの目が虚ろになることは無く生気を宿していた。ただ、その目でカーミラを探そうとするもその姿を見つけることはできなかった。

 

「……すでに彼女は倒れた、残るのはお前だけだ」

 

「……だからどうした、余は悪魔であり貴様らの敵である、敵である余にあやつが倒れたことを教えて降伏するとでも思ったか」

 

「いいや、お前は王で仲間を大切にする奴だと思った、だから教えただけだ」

 

「…………」

 

転がっている敵に対してジークフリートは見下ろしながらもそう伝える。

その言葉を聞き、ただ空を見上げたあと、そっとヴラドは腰を上げ武器を構えた。その起き上がる動作は、立ち上がる姿は、とても王としての気品や、化け物としての畏怖も霧散していた……が、騎士としての誇りはいまだ纏っている。

 

「余を倒すか、竜殺し」

 

「……ああ」

 

「ならばこれ以上の言葉は不要、ただ剣と槍を交えるのみ」

 

「そうだな」

 

両者ともに思う

 

 

勝負は一瞬で終わる、終わらせる

 

 

奇遇にもそれは、さきに決着がついた騎士同士の戦いと同じだった

 

 

竜殺しは黄昏の剣を構え、王である吸血鬼は護国を担う槍を構え

 

 

そして互いに仕留めにかかる

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

「……どうにか倒せたな」

 

《さあいよいよ最期の相手だ、君たちがいるところからもう見えてるだろうけど、オルレアン城、そこに彼女と元帥はいるよ。カルデアからも確認できる》

 

「なら……仕留めよう、ここからは作戦通りに、だよね?」

 

「指示するのは貴様だ、まあその通りだが」

 

「そ、そっか……」

 

 

同日 現地時刻 11:13

 

2体の吸血鬼であるサーヴァントをオルレアンの手前で倒しきったカルデア一行は人である藤丸のために一息ついていた。なにせヴラド三世の宝具である杭をひたすら回避していたのだ、途中マシュやゲオルギウスに担がれてはいたものの、ただ担がれているだけでも即死級の攻撃を回避するための動きのため、心身ともに疲れる。

 

 

「フム、結局私は何もしませんでしたな」

 

「そんな事はない、おたくのフォローがなければマシュもマスターも最初ので串刺しだった。守護騎士の名は伊達じゃないのを見させられた」

 

「そういえばそうでしたな、ですがこのような騎士でも役立てて何よりです」

 

「ジークフリート、そっちはどうだった、最後お前さんが仕留めたのはわかったが」

 

「ああ、こちらはそちらほど手こずることは無かった……もっとも、もう少し遅ければ誰か1人は確実に宝具でやられているところではあったが」

 

「宝具……鉄の処女か」

 

「残念ながら……と言うのは間違いだな。幸いにも宝具が発動する前に俺が介入出来た、おかげで宝具の名前までは分からなかったがその逸話からして女性に対して強力な攻撃なのだろう」

 

「正直、彼が飛び込んで来なかったらマリアかジャンヌのどちらかは倒されてたと思うよホント」

 

「分断されるとは思っても見なかった、すまない」

 

その間に女性陣は女性陣で集まり先程までの戦闘を振り返り、情報共有をしていた(マスターもそっち側)。そうなると偵察で2人ほどいなくなっているお陰で3人しかいない男衆も自然と集まり、先の戦いについて労う。そんな場でも謝罪するジークフリートにアマデウスが突っ込んだ。

 

「イヤイヤ、あれは予想とか事前の予防とかっていう話じゃないでしょ、ていうか君が謝ることでも無いし」

 

「強いて言うなら油断だな、今度から後衛の守りも考えた方が良いがそれは全体の問題だ。反省しだしたらキリがない、それにまだ相手は残ってるしな」

 

実際のところ、スネーク自身も反省点を見つけている。具体的には最初の杭での攻撃を避けるようマシュに対して声を発した時。あの時はとっさに『マスターを守れ』と言い、それに対して律儀にマシュが返答したことに『違う』と怒鳴ってしまいマシュは固まり動けなくなった。

結果としてはゲオルギウスによって助けられたものの、最適解ではなかった。もっとも戦術や戦略において最悪の事態だけは避けるため、保険や安全装置は何重にも用意しておくものであり、今回のゲオルギウスの存在はそういったある種の安全装置が働いたとも言えるが、『運が良かった』と言ってしまう方が今回は正しいのかもしれない。

 

いずれにしても反省会を開くのはこの場ではないと考えを断ち切り、スネークは離れた場所に置いてある車を呼び出すと女性陣に囲まれている藤丸へと声をかける。

 

「そろそろ休憩も十分だろう、さっさと乗れ坊主」

 

「あっうん、行こうマシュ!」

 

「はいセンパイ!」

 

「他も休めるだけ休んでおけ、10分もかからず着く」

 

スネークは藤丸、マシュ、ジャンヌの霊体化することの出来ない者……とちゃっかり藤丸の隣に座ろうとする清姫が乗車したのをため息をしながらも確認し、ステアリングを握りアクセルペダルを踏む。

 

《スネーク、聞こえるか》

 

「エミヤか、聞こえるぞ、こっちは敵を突破したこれからオルレアンに乗り込む、そっちはどうした」

 

《ああ、宝具を連発していたサーヴァントは倒した……随分と離れてしまったが》

 

「すぐに合流できるか」

 

《問題ない、もっとも私たちが合流する意味があるか微妙だが。それでもあの槍兵はバッ……随分と急いでそっちに向かっているさ》

 

「そう言うな……まぁ獲物を残す理由もないが」

 

《だろうな、とにかく私たちを待つ理由は無いさ、そちらで終わらせておいてくれ》

 

「だと良いがな、了解した」

 

一行は最終決戦となるオルレアンへと向かう。

 




何かご意見・ご感想があれば作者の参考にも励みにもなります。
何かありましたら感想欄にてお知らせ下さいm(_ _)m。

また、来週は大学の関係で忙しいため投稿をおやすみさせて頂きます。


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邪竜百年戦争オルレアン:13

お久しぶりです。daaaperです。
このお話は、去年の2月に完成していましたが、
実生活のいろいろで本当はお蔵入りにしようとも考えたのですが、

新しく二次創作の小説を書き始めたので、生存報告がてら、こちらの方を投稿させていただきます。
後日、新しい小説も投稿しますので、首を長ーくしてお待ちください。
では、本編をどうぞ



 

1431年 6月〇〇日

フランス ロワレ県 オルレアン,現地時間 11:30

 

オルレアン城下にて

 

「……攻撃が、飛んでこない?」

 

「みたいだな、向こうは籠城するのを選んだか」

 

《冬木で検知した同じ反応がある、間違いなく聖杯だ。その反応と同じところにサーヴァントの反応もある》

 

わずか数分のドライブを経て、カルデア一行はオルレアンに突入し竜の魔女であるジャンヌ・ダルクらが拠点としている城元へとたどり着いた。全員が車を降りるのを確認するとスネークはiDroidを取り出し、車を回収させた。

……その方法が車の真上にワームホールが開き、車が浮き上がって物理的に消えていくという近未来どころかいつの技術だと突っ込みたくなるアレだったが、誰一人突っ込まなかった。初見であろうエリザベートですら『あ、金ピカと似たことできんるんだこのオジサン』程度の認識である。

 

そして、そんな結構な質量のある物体がどこかへと吸い込まれる光景よりも気になることがあるのか、ジャンヌ・ダルクは手を顎に当てあからさまに首を傾ける。その光景にマシュが突っ込む。

 

「えっとジャンヌさん?何か変なことでも……?」

 

「あっいえ、大したことでは無いのですが……らしく無いなぁ〜と」

 

「らしくない、とは?」

 

何か隠している、というよりは理解しがたいと感じているらしいジャンヌ

ダルクにマシュは続けて首を傾けた。

 

「えーとですね、こんなこと私が言うのも変なのですが、“私”なら籠城なんて絶対にしないなぁ〜と」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「はい、たとえ数的不利でも敵陣に突っ込んでさっさと逃げるのが私ですから」

 

「そ、そうなんですか……」

 

史実のジャンヌ・ダルクが実際に敵陣に向かって突撃、先陣を切っていたという記録は残っている……そして奇襲・夜襲は当たり前、捕虜となった敵兵の殺害命令、そして15世紀から本格的に普及し始めた城壁を破るための大砲を世界で始めて火器として対人に向けて使用したという過激な実績。あと並行世界というか外典のような世界では敵の根城を攻撃するために魔術の秘匿など御構い無しに戦略爆撃機やミサイル、さらには米軍が保持している『神の杖』……文字だけで説明すれば『運動エネルギー爆撃』……の使用を提案するという割と結構周りがドン引きする強硬派である。

 

そんな割と脳筋な彼女に言わせて見れば。

 

「ええ、橋の上にサーヴァントを配置させ時間を稼ぎ、その間にジルに大量の海魔を召喚させて、私自身も聖杯を持っているなら追加の戦力を召喚して決戦を挑みます。その追加戦力が私たちに宝具を撃ってきた一体だけだとはとても思えません」

 

という話だった。

 

「で、では私たちは罠にハマっていると!?」

 

「あっそれはありえません。わたし、罠にかけるなんて難しいことできませんから」

 

そして至極もっともな疑問から焦るマシュをよそにあっさりジャンヌは否定する。

……それはそれでどうなんだろうと思うマシュと藤丸とその仲間たちだが、スネークはあえて当然の疑問を訪ねることにした。

 

「……先程から気になる話をしているが、なら“お前”ならこの状況でどうするんだ?」

 

「単純です、室内での戦闘に向いているサーヴァントを用意するか——」

 

「よく来たわねあなたたち!!」

 

と、そこで上空からよく通る声が聞こえてきた。

全員が上を見ると、どこから登って上がったのか城の一番上にある三角形みたいな屋根を片手でつかんで堂々と仁王立ちをしてこちらを見下す黒い姿が見えた。

 

「……室内じゃなく、屋根の上で宣戦布告するのか?」

 

「い、いくらなんでもこんな事まで想像できません!憧れますけど!!」

 

(憧れるんだ)

 

彼女の素直な感想に若干わからなくもない藤丸だったが、そうじゃないよなと思い直しこちらをカッコよく見下ろしている竜の魔女を再び見上げる。

 

「…チョット無視するんじゃないわよ!」

 

そんなカルデア一行が私を無視して何かやってると感じたのか、若干キレ気味に竜の魔女であるジャンヌは吠えた。

 

「……それで、竜の魔女様がそんなところから何の様だ」

 

「ふっ、貴方達に最後の言葉をわざわざ掛けに来たのよ」

 

「ハッよくほざく、こっちはお前をわざわざ倒しに来たのだが?」

 

そんな竜の魔女に対して、黒い聖剣を肩に担いで思いっきり煽るアルトリア。まるで不良である……学校の窓ガラスを跨ぎ、窓のヘリで威張っている黒服で銀髪の聖女と黒く輝く聖剣を肩に担いで構える王さま・・・うんレディースかな?

 

それにしたって、随分と若干黒いジャンヌ・ダルクにあたりが強いアルトリアオルタである。

 

「あっそ、けど残念ね“女王様”?どう頑張ってももう無駄よ、だって私の計画はもうとっくに終わってるのよ!“あなた達のおかげ”でね!!」

 

「・・・えっ?」

 

その言葉に藤丸は驚く。とっくに終わっているという話もそうだが何より自分がいつのまにか手を貸したという事が信じられなかった。それはマシュも同じだったようで、他のサーヴァント達も表情に出すほどでは無いがその言葉を耳にし訝しんでいる。すぐにスネークは無線を起こす。

 

「おいロマン、この特異点はもうとっくに崩壊してるのか」

 

《い、いや特に変化は無いよ!?それ以前にこれといった変化も無い!》

 

「なら嘘、っていう訳でも無いだろう……それで、お前ならどうするんだ」

 

スネークは地上にいるジャンヌに尋ね、その答えは至ってシンプルだ。

 

「……先程は言えませんでしたが、私なら“もっと強い“のを出します」

 

「それって——」

 

「ファヴニールよりも大きい竜ってこと!?」

 

「……恐らくは」

 

「…………」

 

ジャンヌの発言に、実際にファヴニールをみたゲオルギウスやジークフリートは驚きを隠せない。あれ以上の竜など想像がつかないからだ。タラスクを知っているマルタや、竜を見たことのない他のサーヴァントの面々も少なからずヤバいのが出てくることを察した。

……その一方でスネークはどこか納得している。

 

「……今さら気づいたってもう遅いわよ、すでに召喚は終わってるわ、あとは私が言葉を紡げばそれで終わり」

 

「で、ですが私たちはそんなことに協力した覚えなど——」

 

「ああソレ?……そうねどうせこの場で終わりだもの、1から丁寧に説明してあげるわ」

 

そんな中、マシュが当然の疑問を問う。

そんな特異点の解決が目的である自分たちが、逆に崩壊の方へ、敵の手伝いをしていたなど思い当たる節もなく到底信じられないのだ。だが実際に敵であるジャンヌ・ダルクはここから彼らに感謝している。

 

そして何一つ嘘を言ってはいない。

 

「そうねぇ……あなた達にはむしろ感謝してるわ、ここまで材料が揃うなんて思わなかったもの」

 

「材料……?」

 

「ええそうよ?まず最初に私が竜の魔女であること、そのおかげか知らないけどワイバーンや竜にまつわるサーヴァントを私は召喚したわ……まぁそこにいる聖女様が死んでないことには驚いたけれど、正直どうでもいいわ」

 

「・・・あーアレ知ってるわ僕……まじでヤバいやつだコレ」

 

「?どういうことアマデウス?」

 

「……良いかいマリア、普通サーヴァントが寝返ったら大きな戦力ダウンだ。

ただでさえ十人以上のサーヴァントがこっちに居て、向こうは彼女ともう1人だけだぜ?なのにあれだけ大口叩けるのは現実逃避で頭がやられたか本命があって本当に余裕があるときだけさ」

 

「じゃあ彼女は本当に余裕があってあなたは頭がやられたことがあるということね!」

 

「……ウン、そうだ」

 

せっかくシリアスな低い声で発言したのに、自分の信用値が低すぎるせいでいらぬ真実をまたマリーに知られてしまったことを諦めながら、それをもきにする余裕がないレベルでヤバいとアマデウスは顔を歪ませる。その顔が本当に余裕がないと悟った王妃様も、微笑みながらも周りに様子を気にしてキョロキョロし始めた。

 

「ちょっと待ってください!竜にまつわるとはどういう意味です!?たしかにマルタさんはそうですが——」

 

「そのままの意味よ、最初に倒れたバーサーカーは竜殺しの逸話が。

あなた達がさっき倒してくれた4体のサーヴァント、ヴラド3世とデオンは竜騎兵とドラゴン騎士団でしょう?それもカーミラとアタランテには化け物の因子、つまりモンスターよ」

 

「アタランテ……?」

 

「エミヤ達が相手してた奴だろう」

 

スネークはそう答えながら屋根に立つ竜の魔女を見る。

今の一行で有効に遠距離攻撃ができるのは銃を持つ彼だけ。一応アマデウスや同じライダーであるマリー・アントワネットも出来ないことは威力など無いがたかが知れている。火力の点ではスネークも一撃必殺の武器を持っているわけでは無いが、膝を狙えば屋根から相手を落とすことくらいは自信があった。

 

だが、彼女を撃ち上げる形でクイックショットするには条件が厳しい。何より外せば即戦闘になる。確実に狙えるタイミングか、せめて外した際の退避手段が揃わなければ迂闊に手が出せない。

 

そんな算段をスネークはつけながらも、彼女は余裕そうに歩き語り出す。

 

「そしてあんたがどんなタネでやったのか知らないけど、そこの男が倒したファヴニールは幻想種、それも竜。

……それはそれで腹立たしいけど、これは全部原料でしかないわ。野菜を放っておいてもただ枯れて、腐って、消えるだけ。私が召喚したサーヴァントも所詮魔力の塊に竜に関わる逸話が付いてるだけ、所詮放っておけば倒されようが何されようが、魔力が切れてただ消えるだけ。けど加工すれば触媒と燃料になる」

 

「触媒と燃料……?」

 

意味がさっぱりわからない藤丸は、どういうことなんだろうと少し考えるもさっぱりわからない。魔術については一般素人ではないマシュでもあまりピンと来てないようだが、勘の鋭いサーヴァントや、カルデアでモニタリングしている者たちは嫌な予感と予想が立った。

 

《……藤丸くんたちが倒したサーヴァントの魔力を聖杯に注いで竜を召喚する気か!?》

 

「だからあの女、ファヴニールで味方ごと俺らを焼き払うのにも躊躇しなかったわけか」

 

「っそんなことできるの!?」

 

「た、たしかに聖杯は万能の願望機、しかもファヴニールの召喚も成功してますから——!」

 

「そういうこと、しかも本来なら7体のサーヴァントの魔力が聖杯に注がれることで願望機として機能するそうじゃない」

 

《藤丸くん達が倒したサーヴァントは……バーサーカー・ヴラド三世・シュヴァリエ デオン・カーミラ・アタランテの5体、それとファヴニール・・・6体しか居ないぞ!?》

 

「・・・ああ、忘れてたわ。サンソンとかいうアサシンも居たわね。もっともそこの王妃様に散々やられたせいで仮初めの肉体しか残ってなかったからそのまま魔力に還したわ」

 

「っ」

 

「……あいつ」

 

竜の魔女の説明に一瞬マリーは顔をしかめそうになり、わずかに口元を誤魔化すようにズラした。そのわずかな変化を見逃せなかったアマデウスは、竜の魔女への嫌悪か、はたまたどこかの執行人に対しての愚痴なのか。ただ、少なからず隣にいる彼女が反応したから彼もそんな言葉を漏らしたのは間違いない。

 

「そういうわけで、あなた達のお陰で私はファヴニールより強い竜を……いいえ!竜の王をここに呼ぶわ!!」

 

「……あれはもうダメですわ、完全にふっ切れて全部破壊する気満々ですよますたぁ?」

 

「じ、じゃぁわたし達このままじゃヤバいじゃない!?」

 

《君たちどころかこの国、いや特異点が崩壊だ。そのままカルデアに戻れないついでに人理も崩壊する……!》

 

そんな中、たった1人勘の鈍いサーヴァントはやっと今自分たちが置かれてる状況がやばいことに気づいたらしく慌てふためく。同時に藤丸もとっくに決めていた覚悟をさらに踏み込み、そこにアルトリア・ベンドラゴンが後押しする

 

「命令を出せ、マスター」

 

「っ令呪解放!ジークフリート!アルトリア!それぞれ宝具を解放!!」

 

「私にあわせろ竜殺し、外せば殺す」

 

「だろうな……!」

 

急速に膨れ上がる魔力が全てそれぞれが持つ魔剣へと注がれる。

それにより二柱の魔力は天を貫き、あたり一帯を暴風で包み込みながら急速に広がり、さらに魔力を増強させていく。

 

事前のプランでは各個撃破、その後聖杯回収だったがそんな悠長なことを言ってる場合ではない。

ゆえに令呪を二画切り、速攻で城ごと敵をぶっ倒し、聖杯の回収は後回しにする。この場で最悪なのは聖杯を破壊してしまうことでは無く、この特異点もろとも人理が崩壊してしまうこと。そのことについてマスターはよく理解していた。

 

「っ今よジル!」

 

だが、邪魔されることくらいジャンヌ、といよりも元帥であるジルは分かっていた。

だからこそ姿も現さず、カルデア一行が仮に対城宝具を放とうとも竜の魔女だけは生き残れる程度に威力を減衰させる程度の海魔を大量に召喚できるよう準備していたのだ。

 

「ここであの化け物か!!」

 

まるで塔のように突如オルレアンの城の目の前に築かれた……いや、積まれた海魔は竜の魔女の姿をカルデア一行から完全に隠す。その竜の魔女と一行の直線上には二振りの魔剣が構えられており、完全にジルの思い通りになった。

このままでは最悪の事態竜の王の召喚を招くだろうとその場の誰もが察した。

 

「っただで済ます気なんてサラッサラ無いのよッ!星のように!『愛知らぬ哀しき竜よタラスク』!」

 

だが積まれただけの海魔は文字通り肉壁でしか無い。キャスターであるジルの宝具によって召喚された生物とはいえ、その宝具の出典・性質上、一個一個の個体が強力なわけでも硬いわけでも無い。そんな肉壁の塔に風穴を開けることはサーヴァントも万全であれば宝具を使えば余裕だ。

 

タラスクによって塔に一つの大きな穴が開く。

すぐに塞ごうと、穴の周囲にいる海魔がモゾモゾと動き出すが、肉塊ごと潰すことなど造作もない。

 

「・・・?・・・ッ!!?」

 

「っマスター・・・?・・・先輩ッ!?」

 

 

サーヴァントとマスターが万全の状態であれば、だが。

 

 

「汚らわしいモノですね、私も焼き払いま——」

 

「!? ちょ、っアンタストップ!ストーーップ!!」

 

「……何ですかトカゲ」

 

「子犬の様子がおかしいのよ!」

 

「え……」

 

清姫はエリザベートを睨むジト目から、見開いた両眼を後ろにいるはずの藤丸の方へと変えた。

すると胸を思いっきり押さえつけ前のめりに倒れこむ彼の姿があった。

 

《魔術回路に異常値ッ!それとバイタルも不安定になってる!!》

 

「先輩っ!!」

 

「落ち着けロマン、マシュもだ。坊主、痛いのはどこだ」

 

「む、むね……」

 

「OKだ、喋れるなら致死性のものじゃない、呼吸も苦しいわけじゃなさそうだ、ゆっくり呼吸しろ」

 

「ッッ!二人ァ宝具ッ!!」

 

「喋るな」

 

ここで仕留めなければいけないと感じている一般人は、胸痛に耐え大声で頼みの2人に指示を出す。そのせいでさらに痛みが増し胸を押さえスネークに怒られる藤丸。

だが、そこまでやられて、頼られて、なにもしないで何が英雄か。少なくともマスターが倒れている前で魔剣を握る2人の英霊はその期待に全力で応える。

 

「まだ未熟なマスターだ、無理はさせられん、ここで決めるぞ」

 

「元からそのつもりだ、長引かせる気は元からない……!」

 

「ほお……ただ謝るだけの奴かと思っていたがそんな顔もできるか」

 

「ただ苦しむ顔を見たくないだけだ、俺のせいでそうなるならなおさらだ」

 

「……そうか」

 

それだけ答えると輝きを増した二柱は2人の英雄が余力を考えず自前の魔力も注ぎ込み全力でたたきつけることを示していた。

 

「邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る。撃ち落とす!」

「卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め!」

 

 

『『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!』『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!』』

 

 

聖剣であり魔剣ともいえる二振りが、

 

それぞれの魔力を帯びたまま、目の前に立ちはだかる肉塊ごと全力でオルレアンに叩きつける

 

 

「反動くるぞぉ!!」

 

《宝具は使っちゃダメだ!藤丸くんの状態が悪くなる!!》

 

「なら対ショック姿勢!」

 

「ソレどんな姿勢だい!?」

 

「地べたに張りつけ!!」

 

「ッマスターは私の後ろに……!」

 

「我が旗よ。我が同胞を守りたまえ!」

 

「ニャニャッ!」

 

叩きつけられた青と漆黒の光は暴力的にフランスの大地を抉りながら竜の魔女が立つ城へと襲いかかった。

スネークはすぐに匍匐姿勢になり五体投地するように腹ばいになり、頭部両手で守る。ほかのサーヴァントもそれぞれの持つ得物やスキルで自分の身を守り、藤丸の周囲はマシュとジャンヌが固めた。

 

 

直後、周辺に圧倒的な暴風と粉塵とが混ざり合った嵐を巻き起こり、カルデア一向にも襲いかかる。

 

 

その嵐の元は肉塊へとも襲いかかり、さらに二色の柱が追撃する。

最初は真正面から受け切ったものの、肉の壁はやがて吹き飛びながら蒸発していき、そのまま形を崩していきながらオルレアンの城へと激突した。城と二本の柱に挟まれ何か奇声をあげる海魔だったが、暴風によって誰の耳にも届かず、そのまま潰され、蒸発していく。さらに二柱の勢いは止まらず、そのまま城の外壁を破壊する。

片方は竜特攻を持つ対軍宝具、もう片方は対城宝具であり、その威力・相性は今置かれている条件下において発揮できる最大火力となる。その分類名の通り、漆黒の光は城を完璧に攻略していた。

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

やがて嵐はやみ、スネークはマスターの様子を確認する。

 

「マシュ、マスターの様子はどうだ?」

 

「い、一応安定、しているように見えます!」

 

周りのサーヴァントも他のサーヴァントを確認しながら、周囲を確認する。かの聖剣使いの2人の姿は確認できたが、まだ前方の城があったであろう場所の様子は砂埃で分からない。そんな中、ロマンが藤丸の状態を説明する。

 

《多分魔力欠乏症だ。サーヴァントを運用するための魔力は全てカルデアの発電によって賄ってるから召喚者の魔力量に依存しない、あくまで藤丸くんは君たちを繋ぎ止めるパイプだけど……》

 

「パイプでも過剰に流れれば損傷する、それが慣れてない状況下での連続運転ならなおさら、か」

 

《幸い、少しでも休めばすぐに復帰できる。バイタルもさっきまでは不安定だったけど今は安定してる、君たちを現界させるくらいなら問題はないよ。流石に宝具を撃たせるわけにはいかないけど》

 

「ですが、その心配は——」

 

「よせ、まだ仕留めたか分からん。おい、そっちは大丈夫か?」

 

「……ああ、私は問題ない」

 

「……すまない、正直私は休みたい、これ以上の戦闘は難しい」

 

マシュはまだよくわかっていない因果律の調整方法の定番をしようとしたところでスネークは冷静に止めに入り、前線で宝具を全力で放った2人の確認をする。竜殺しは本人も申告した通り、剣を地面に突き刺しながら肩で息をしており、弱点である背中を晒している状態だった。仕留めるなら絶好の瞬間だろうが、それをわかっている周り……といってもフリーで動けるのはゲオルギウス・マルタ・スネークの3名のみだが、その背中をカバーしいつでも攻撃を防ぎ、すぐはんげきが出来るようになっている。

 

一方のアルトリア・オルタはそれと比べると余力があるように見え、自力で立っており息も上がっておらず、ジークフリートと同様に地面に剣を刺してはいるものの、両手で柄を持ち構えているだけだ……が、実際は宝具を撃つのはもちろん魔力放出でかっ飛ぶ余力も残っていない。もちろん自衛やジークフリートの背中を守る程度は出来るが、そのジークフリートの背中を気にする余裕が無いお陰で、今その背中をカバーすることができていない。

 

「まあ無理はするな、坊主の側に居てやれ、ここから先は俺らが出張る」

 

「……すまない、頼んだ」

 

「私は頼んでいない」

 

「お前もだ騎士王、無茶して無駄に魔力を消費してあいつに迷惑かける方がお前にとっては癪だろう」

 

「…………フン」

 

そう言ってジークフリートは素直にゲオルギウスに付き添われながら、騎士王は不機嫌そうにゆっくりと後ろに下がり、代わりにスネークとマルタが前に出る。

2人の前方に広がっていた土煙は晴れていき、暴力的に通り過ぎた光の柱の爪跡が現れた。

 

城はほぼ全壊。

一柱ではなく二本による同時攻撃だったため、左右末端は全て消し飛び、城の中央部は衝撃波で砕け散り、中央にあった土台の一部、それも宝具が直撃した方とは真逆の最後方の部分だけが原型を留めているだけで、他は全て瓦礫と粉塵になっている。

 

だがそこに肉塊や血の跡はなく、死んだり倒れたりした痕跡は残っていない。

 

「……あいつはどこかしら」

 

「正しくはあいつら、だが……そういえばもう1人はどこにいる?」

 

《さっきの宝具のお陰でそこの空間の魔力量がすごい、おかげでこっちのレーダーでもサーヴァント反応がわからない、もちろん君たちの位置も正確に把握できてない。けど、聖杯の反応は確かにあるよ、どうやら君たちの前方みたいだけど……》

 

「ならアレの後ろよね」

 

そう言ってマルタが指差すのは、唯一残った土台。

そこ以外に姿を隠す場所などなく、何よりワイバーンを誰も見てはいないが、あの嵐と衝撃波の中ではワイバーンもろくに飛べない。そのワイバーンの死体も見当たらないとなれば隠れているに違いない。

 

「……おかしいな」

 

「何がよ?」

 

「……嫌な予感がする」

 

「え、ちょっ、ちょっと!」

 

スネークは敵が投降してくることも、制止を待つこともなく、M16を構えながら急ぎ残った土台部分の裏側を確認する。すると、やはりと言うべきかそこに敵の姿はなく、ただのスペースしか無かった……が、代わりに一人分幅がある穴が空いていた。

深さを確認することもなく、スネークは腰から下げているグレネードのピンを引き抜き、時間差で2個投げ入れる。

 

「一体なん——穴?」

 

「離れろ、爆発する」

 

「ん」

 

慌ててマルタも付いてきたが、すぐに離れるように促す。

爆発という言葉に驚きもせず、かの聖女はさっさと穴から離れ、手に持つ得物……ではなくて杖を構えいつ敵が出ていてもいいよう備えた。それはスネークも同様で、銃の狙いを穴の付近に固定する。

だが穴からは何も出てくることはなく、数秒がたったあとに小さな爆発が2回続いた。

 

「おかしい」

 

「だから何がよ、それこそ彼女が消えたのはこの穴に逃げ込んだんでしょ」

 

「よく見ろ、この穴は湿っていない、少なくとも掘られてから1日以上は経っているだろう。それに俺たちが感じたグレネードの爆発があまりにも小さい、お前も揺れは感じなかったよな?」

 

「え、ええ」

 

「だとすればこれは単に縦穴を掘った代物じゃないといことだ。日本ではタコツボと言ったか、少なくともそういった簡易的な塹壕ではなさそうだ」

 

そう言いながらスネークが銃を構えながら穴を覗く。だが穴の奥底は視認することが出来ず、陽の光は途中から途切れ、グレネードが爆発したのは確認できる範囲外だとしかわからなかった。

 

「そうなるとこの穴の中に入る……わけにはいかないわよね」

 

「地下に要塞、は言い過ぎだろうが、いわゆる工房が作られてるだろうからな……こう言う時にドローンでもあればよかったんだが」

 

《そうだねぇ、索敵用のツールはカルデアでも用意してなかったなぁ、検討の余地ありだね》

 

《けど確実にその先に敵である竜の魔女であるジャンヌ・ダルクはその先に……》

 

「問題ない、この手の専門家が俺たちの仲間にいるからな」

 

「専門家?」

 

「おいトレニャー 」

 

「ニャニャッ!」

 

そうスネークが地面に向かって呼ぶと、ポコっと土が盛り上がり、バサァとトレニャーが黄色いヘルメットをつけたまま、地面から顔だけを出して現れた。

 

「すまんがそこの穴の先を見てきてくれないか、俺たちじゃ入った瞬間にバレるが、お前ならバレずにこの穴の先がどうなってるかわかるはずだ」

 

「わかったニャ!みて戻ってくればイイニャ?」

 

「頼む」

 

「ニャッ!」

 

ビシッと背筋を伸ばした猫(のように見える)はそう言って再び地面に潜っていった。

トレジャーハンターでありアイルーでもあるトレニャーは、別に爆発部設置のプロではない。独自のルートで探索することが可能で、かつ静音率・生存率が100%なのだ。もっともこのスキルをスネークの様な方法ではなく、宝物をゲットするために使っているわけだが。

 

「……本当に大丈夫なの?」

 

《うん、あまりにも自然な流れで止めなかったけど、僕も心配になってきだぞ……》

 

「問題はない。あいつには無線機も渡してある、それにモノを発見する、案内することに関してあいつはプロだ。すぐに連絡が来るはず——」

 

「タイヘンニャアアアァァァァ!!!!!!!」

 

「……思ったよりも早かったな」

 

《早すぎじゃない?》

 

「どうしたのネコさん?そんなに慌てて?」

 

すぐに連絡が来るどころかもう戻ってきたトレニャー。

流石のスネークもこれには何も言えず、ロマンもこれってどうなのさと言わんばかりの表情をしている。とりあえずマルタは、はじめてのおつかいで家を出発できない子を相手する様に優しく声をかけた。

 

「すぐ逃げるニャッ!!」

 

「・・・なに?」

 

「あのお姉さんデッカイモンスターといたニャァ !!」

 

《デカいッて、ファヴニールよりも!?》

 

「おミャーも逃げるニャ!!」

 

トレニャーは早々に地面に潜り、その場から逃げ出し始めた。

やり取りを無線を通して聴いていたメンツは、その大きさに驚いていたが、スネークはトレニャーをよく知っているからこそ、言葉の本質を見抜き、すぐに車を藤丸の近くに呼び戻した。

 

「坊主!すぐに撤退だ!!」

 

《ッ地下から超強力な反応!?彼女がいっていた竜の王か……!》

 

「とにかく城から離れる!」

 

「ここで仕留めきればいいんじゃないの!?」

 

「無理だ!トレニャーがデカいと言った、つまりあの女が召喚したのはファヴニールより強い!!」

 

《そりゃデカいなら強いよね!!》

 

「違う!!野生の本能でデカいと言っただけだ!ファヴニールを見て素材としか思わなかったあいつが逃げた!そういうレベルだ!!」

 

トレニャーはこの世界とは別の世界からやってきた生物であり、極めて生命力の強い動植物がそこかしこにいる自然界でサバイバルしてきた一族の一員である。ハッキリ言ってファヴニール程度の化け物ならいくらでも見慣れているし、素材でしかない。

だが素材どころか生き残ることすら難しい化け物もまた見慣れている。

 

敵わない時は逃げる、トレニャーはわかっているのだ。

 

「……すまない、余力を残しておけば」

 

「そう言ってる暇はありません!すぐに車に!!」

 

「霊体化できるやつはそうしろ!他は車に乗れ!」

 

「わ、わかった!!」

 

一時的に体調が悪くなった藤丸だが、どうにか復帰した。

だが誰かが魔力を大量に消費すれば、またすぐに状態は悪くなるだろう。だからこそスネークはこの場にとどまらず、一旦距離を置くことを選んだ。

車には藤丸やマシュ、ジャンヌに体力を消耗しているジークフリートが乗車した。

 

「ここに救世の旗を再び掲げよう!ここに集え!ここで率いられよ!ここで統べられよ!!なぜなら彼女がここにいるのだから!!」

 

「ジ、ジルの声!」

 

「全員乗ったな!?出すぞ!!」

 

車を一旦ワームホールで返していたのが幸いし、宝具の荒らしの被害にあうこともなかった軍用車両はスムーズにエンジンがかかり、アクセルを一気にベタ踏みされても急発進した。

 

《・・・ハアアァァァ!?》

 

「どうした!」

 

《こっちの計器の異常を疑いたいくらいだよ!!生命反応がもはや測定不能って!?》

 

《ッ観測は維持!絶対に藤丸くんとマシュの存在証明は途切れさせないでよ!》

 

その間にも事態は悪くなる一方らしく、ロマンは叫び、ダヴィンチはまじめに指示を飛ばしていた。その超巨大な生命力はサーヴァントを始め、藤丸ですらわかる代物になってきていた。それに比例する様に、地面が揺れはじめ、城があった土台部分が盛り上がりはじめた。誰が見ても城があった場所から何かが出てくるのは明白だ。

 

「い、一体何が出てくるの!?」

 

「分からん!いくらか検討はつくが、どれも面倒な相手だ!!」

 

「検討がつくんですか!?」

 

「トレニャーが逃げたならトレニャーの世界にいるモンスターで間違いない!」

 

「そ、そんな別世界の生き物を彼女は召喚できたんでしょうか!?」

 

「触媒と聖杯さえあればできるだろうな!それでも竜に関わるサーヴァントだけで召喚できるとは考えにくいが……」

 

「ニャア!」

 

「と、トレニャーさん!?」

 

「こっちに乗った方が安全だニャ、どうにか間に合ったニャ!」

 

ここで、車体のドア部分からトレニャーが這い上がってきた。

野生の勘は自力で逃げるよりも、スネークらが乗る物体に張り付いた方が安全かつ確実だと判断したらしく、地面を潜って早々に合流していたらしい。

 

「車の下に張り付いてたか……お前、あのモンスターの正体わかるか?」

 

「真っ暗で何にも分からニャかったケド、とにかくデカかったニャ!!」

 

「リオレウスと比べるとどっちがデカい?」

 

「オイラがさっき見た方がまだデカいニャ!!」

 

「そうか、なら——」

 

「すまないが何か出てくるぞ!」

 

後部座席で座らされているジークフリートがそう報告する。

いまだ魔力が回復しきっておらず疲れてはいるが、ただならぬ気配から無意識に剣を握る力が強まっていた。なによりファヴニール以上の竜の気配がそうさせていた。姿はまだ盛り上がった土で見ることができないが。

 

「……何だろう、アレ」

 

《間違いなく竜の反応だけど……なんなんだこの反応……!?》

 

「これほどまで強力な竜がいるのか……」

 

「悪いがファヴニールは確かに強い、だがトレニャーの世界からきたモンスターは、あの竜よりも強いのがもっといる」

 

そう言いながらも車はさらにスピードを上げながらも、大きく弧を描くように城の外周を走る。ここで離脱した場合、召喚された竜は好き放題に暴れ始めるだろう。そうなれば打つ手がない。急いで離脱したのは様子見もあるが、藤丸の体調を考慮したのと、距離を取った方がまだ柔軟に対応できるために過ぎない。

 

決して逃げるためでは、ない。

 

「……倒せるんでしょうか」

 

「倒すしかない、ただでさえ今のフランスはワイバーンで荒らされてる。そこに竜の王が放たれてみろ、それこそ終わりだ。ましてやトレニャーの世界の竜はさっきも言ったが厄介な性質を持つ奴が多い、聖杯によるバックアップもそこに乗っかればもはや手がつけられない」

 

《……安全を考えれば今すぐ藤丸くんを一旦帰還させたいけど》

 

《ダメ、そうしたらもう聖杯回収どころか人理修復も失敗する、ここで決めるしかないよ》

 

カルデアの観測チームもここで逃げれば全て手遅れになることを見抜いていた。

なにせ、ロマンが計器の異常だと信じたいと言ったように、いま竜の魔女が召喚したと見られる竜の生命反応は、カルデアのあらゆる情報を拾う事象記録電脳魔・ラプラスのデータを基に、霊子演算装置・トリスメギストスによって観測データを分類しているにもかかわらず、測定不能を示した。

 

それはつまり、地球上で今まで同等のものが観測されたことがないほどまでに生命力にあふれているのだ。

 

その事実に気づいているマシュは、弱音を混じらせながら呟くのも無理はない。それに対してスネークも励ますことはなく、為すべきことを言うだけだった。一方で藤丸はマスターとしてどうしたらいいのかを彼なりに考えていた。

 

「こんなこと聞いたら怒られるかもしれないけど……ジークフリートさん」

 

「……何だろうか」

 

「ジークフリートさんの宝具で倒せる?」

 

「……致命傷は与えられるが倒しきることは難しい、それはかの騎士王でも同じだろう」

 

「貴様、勝手なことを言うな」

 

「事実だろう」

 

「…………」

 

霊体化した状態でアルトリアは抗議するも、深く追撃できない、つまりはそう言うことだ。だがそれをあまり気にすることなく、藤丸はさらに考える。

 

「……クー・フーリンの即死宝具で仕留められる?」

 

「悪りぃなマスター、そいつの期待にはちと答えられそうにねぇわ」

 

「随分と久しいなマスター」

 

「あ、クー・フーリン、エミヤさんも」

 

そこに斥候二人組が走りながら合流し、エミヤの方は車のドアに手を引っ掛け体を車の外で預けていたがクー・フーリン。

どうやら2人ともやや着ているものがボロがあったがそれほど消耗はしていない様子で、余裕そうな雰囲気を醸し出していた。だがマスターの提案に対して随分と消極的な意見を出したのはクー・フーリンだった。

 

「え、それでクー・フーリンの宝具じゃダメなの?」

 

「ダメ、じゃぁないがな?俺の知ってる限りあの手のバケモンは心臓ぶっ刺したところで死なねぇんだわ」

 

「そうなの!?」

 

「それは貴様ぐらいだ……と言いたいが、私も同じ見立てだ。まだ全容は把握できてないが、これほどの力を持つ竜ともなれば即死する可能性は低い。もっとも、十分致命傷は与えられると思うがね」

 

「……令呪でジークフリートさんの宝具を撃ってもらった後に、クー・フーリンの宝具のコンボでいける?」

 

「おっ、最初の騎士王様の作戦通りになったな?」

 

「何が言いたいランサー?」

 

「別に?」

 

そう言って挑発的に何もないところへ向けて喋るアイルランドの御子。

しかし、その場にいる誰もがその何もないはずの空間で黒いライオンがいるのを幻視したとかしないとか。

 

「ちなみにだがマスター、エクスカリバー・モルガンを使わない理由は何かね?」

 

「え、多分ジークフリートさんはこのまま戦わせるのはきつそうだけど、宝具なら令呪のバックアップさえあれば撃てそうだから。アルトリアさんに宝具を撃ってもらってもいいけど、ジャンヌ・ダルクを倒さないといけないから、その時のための戦力温存……って、なんで笑ってるの!?」

 

「いいや、中々に考えていたようだからね」

 

「…………」

 

だがすぐにライオンは大人しくなったとかなんとか。

 

「イイぜ、そういう流れに任せていく感じは嫌いじゃない、むしろ好ましいぜマスター」

 

「私も異論はない、まだ戦おうとしている邪魔をするほど私は落ちブレてもいない」

 

「プランは決まったな、なら気分良く宝具がぶっ放せるよう他全員でバックアップだな」

 

作戦、というよりやる方法と流れが決まってしまえば、あとは勝手にやれる程度に戦いに慣れている英霊たちが具体的にプランを決め始める。

その一方で藤丸は一般人らしい心配を投げかけた。

 

「仮に……ここで決められなかったどうしよう?」

 

「坊主が心配する……ことだろうがその時はそのときだ、できることをやる以外ない。もし心配なら見届けながら考えろ」

 

「……わかった!」

 

「とにかくジークフリートの周りを固めろ、宝具を撃った後には回復させるために離脱だ」

 

「ならあらかたのサーヴァントは彼の背中を守りましょう、私の旗は癒しの効果もありますすし」

 

「じゃあ彼を私の馬に乗せればいいわね!」

 

「追撃は俺も付いていく、ほかにいるか?」

 

「私もいくわ……ちょっとあの娘ぶん殴んないと気が済まなくなってきたし」

 

「ニャニャ!姿が見えるニャ!!」

 

作戦は決まった、ジークフリートの宝具で致命傷を与え、クー・フーリンの呪いの朱槍でとどめを刺す。双方ともに狙いを外すことは許されないが、外すことはまず無い。問題になるのはこの二段階の攻撃で1匹の竜を仕留められるのかということ。

 

 

その相手となる竜は——

 

 

「……黒?」

 

「いや、紫色と黒だ、大きさはファヴニールの方が高さがあるが、全長で20m以上はありそうだが——」

 

「トレニャー、アレは……」

 

「……ニャ、オイラは見たことないニャ」

 

「だが居たよな、伝承で伝わる伝説で、“黒龍”が」

 

「ニャア」

 

「何、黒竜って?」

 

「……分からん、だがこいつの世界ではこういう伝説がある」

 

そう言ってスネークはとある伝説の一節を暗唱しだした。

それは運命の戦争、あるいは避けられぬ死を意味する伝説の黒龍。

 

 

数多の飛竜を駆逐せし時

伝説はよみがえらん

数多の肉を裂き 骨を砕き 血を啜った時

彼の者はあらわれん

土を焼く者

鉄【くろがね】を溶かす者

水を煮立たす者

風を起こす者

木を薙ぐ者

炎を生み出す者

 

 

 

その者の名は ミラボレアス(運命の戦争)

 

 

 

 

 

 

 




何かご意見・ご感想があれば作者の参考にも励みにもなります。
何かありましたら感想欄にてお知らせ下さいm(_ _)m。

なお、本文中の黒龍・黒竜の違いは誤字ではありません。

※活動報告にて、今後のdaaaperの活動について書きました。
気になる方はそちらをご覧いただけましたら幸いです。


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邪竜百年戦争オルレアン: 14

「ハハハ!勝った!勝ったわジル!!ついさっきまではどうなるかと思ったけれどコレは勝ったわ!こんなの相手にして倒せる奴なんていないわ!!」

 

「ええ、エエ!そうですともそうですとも!我々が、ましてやコレほどの竜を召喚できるあなたが負けるはずなどありません!」

 

現地時刻 11:45

かの竜らが地上へと現れた瞬間……彼女たちが言うところの竜の王を召喚した時点で彼らの中で勝敗は決した。彼ら2人はステータスの幸運がともにEランクである。逆にここまで思い通りに進んだのは、ジル・ド・レェの狂気に満ちている発言の通り、奇跡の賜物といって過言ではなかった。何より召喚した竜の王は竜の魔女からみても最強の竜だった。なにせファヴニールと比べても数倍強く、さらに竜の息吹(ドラゴンブレス)のみならず多彩な攻撃ができて、しかも動きが早いのだ。

 

コレを上回る生物なんていないわ!とジャンヌ・オルタは満足し、これらを召喚しさらに支配下に置いた私すごい!!と完全に舞い上がっていた。

 

 

 

時間を少し遡り、ジャンヌ・オルタらがあの嵐をどう凌いだのか。

早い話、スネークが見つけて推測を立てた通り、オルレアン城の地下に空間を作り魔術的な工房を作っていた。なぜそんな大それたことをしたかといえば、先の竜の王の召喚を行うためだった。

『そんな儀式めいたことをして……』と思ったジャンヌではあったが、先に説明した竜に関するサーヴァント等の魔力を触媒として、地下にそれらの触媒を供え、竜の魔女である彼女が事前に用意された歌詞を歌い上げ、竜の王を喚ぶという行為は儀式以外の何物でもない。邪神やら眷属やらを召喚するのと決定的に違うのは、完全に自分の制御下に置くことができると言う点くらいで、まさに儀式である。

 

話を戻して。

ジルの指示によって事前に目立つ場所……彼女は屋根の上を頑なに譲らなかったりしたが……で待機。敵であるカルデア一行が通ってくるであろう場所に自身の支配下にあった3体のサーヴァントを配置し、遠距離から宝具(エクスカリバー)を撃たせないために遊撃に1人を当てさせた。

 

そして『あいつらに倒されて死ね』と命じた。その理由とともに。

 

結果として4体のサーヴァントは見事に勤めを果たし、純度の高い燃料と触媒となった。

想定外だったのは初動の段階で遊撃を任せていたサーヴァントが計画通りに動けず、斥候2名を相手する羽目になったことだが、斥候が先にこちらに来ようとしていたため、護衛に控えさせていたワイバーン全てをそちらに回した。どうせ全て倒されるなら、召喚する時間稼ぎのついでにその倒されたワイバーンたちすらも燃料にすれば良い、それによって私たちは詩の通りの最強の竜を呼べる。ジルのその判断に従った。

 

結果としてこちらが2人だけだと踏んでカルデアは宝具をぶっ放すことも無くノコノコと城に近づいてきた。本当なら屋根の上で最期の詠唱をする予定だったが、カルデアのマスターが令呪を切り宝具の同時使用というキチガイ染みたことをやってくれたせいで、本来は空気穴のために開けておいた大きめの穴に飛び降りることで嵐からは避難した。

 

こうして書き上げると運が良かっただけではあるが、運も実力のうちである。地上で召喚しなかったおかげで、未だカルデア側は召喚した竜の王の正体が正確に把握できていない。もし地上にいたならば専門家によってすぐに正体を見破られていただろう。……見破られても苦戦することは必死の竜を召喚したのも事実だが。

 

「そうよね!そうよねジル!?……これで本格的にこの国を、フランスという名の愚かな土地を沈黙する死者の国へと変えることができるわ、そうよねジル?」

 

「そうですとも我が聖処女よ……これほどの竜を従えられる貴女が間違っているはずがない!この奇跡はまさしくジャンヌ・ダルク以外に起こせるはずがない!!」

 

「そうね、今だけは私を褒め称えることを許します。……ですがまだ終わりではありません」

 

「おや、それはそれは私としたことが。しかし連中も呆れ目が悪い、もはや勝ち目などないと言うのに」

 

「ハッ!それはそうでしょう、彼らはまだチャンスがあると信じているのですから。向こうにかつてファヴニールを屠った竜殺しがいるんですもの、頼り甲斐も勝機もあると言うもの。……もっとも、頼られた方はその期待に答えられるとも、見えているのが全てとも限りませんが」

 

「全く嘆かわしい……このまま逃げれば命はまだ助かると言うのに」

 

「英雄様ですもの?逃げるなんてできないでしょう、それにここで逃げたところで何も残りませんが。もっともこちらに向かってきたところで私が何も残しませんが」

 

そう言うと距離を取り、カルデアのマスターを乗せて外周を走っていた箱型の物体が急速にこちらに向かってきていた、どうやら最後の攻勢に出てきたらしい。なんて無駄なことを……そう思いながらも竜の魔女は、黒い鎧を太陽で光らせながら召喚した竜の元へと近づく。それを目にしたジルは、その後ろで跪き、指示を乞うた。

 

「では……竜の魔女よ、ご指示よ」

 

「……私の理想を否定するものたちを皆殺しにしなさい!特に私そのものを否定する私を徹底的に!!」

 

彼女は指示を出した。

自分の理想である死者の国を作り出すために皆殺せと、まるで自分の理想であるかのように。

 

「・・・承りました、我が聖処女よ」

 

そう答えたのを確認した竜の魔女は、後ろを振り返り確認することもなく召喚した竜の王にさらに近づき指示を出し始めた。そしてジルは立ち上がり、おもむろに魔道書を取り出しページをめくる。

 

「……ああ、やはり私は間違いではなかった……間違いではなかったのだ……!」

 

彼女の前では、竜の魔女の前ですら見せたことがないような顔を浮かべる。それは狂気に飲まれた顔でも、狂喜からきた破顔した顔でもなく、ただただ泣きじゃくった様なクシャクシャにさせた顔だった。

 

「私の願いは果たされた!さあ我が主よ!!我々に御身の祝福を!!さすれば私は貴方が望む世界を実現しましょう!!!」

 

時はきた。狂喜はすでに満ちた。

希望は此処にあり、望みは叶い、後は彼女の道を邪魔する愚者どもを殺すだけ。

……かの竜を、詩にあった通りの“彼の者”を本当に召喚できた、これこそ神の祝福であり彼女の奇跡である、ならばもはや負けるはずがない。ジルは何度もその奇跡を確認し、満足し、確信していた。

 

 

 

普通なら考えそうな、ここまでの偶然への見返りや報いというものをまるで考えることもなく

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

例の竜は現在身動きせず、ただ居るだけだが、召喚された竜の王はファヴニールと同様に翼があるが“デカい”。実際には体長が20m以上はあるもの、大きさそのものはファヴニールよりやや大きい程度。

しかし、紫がかった黒を全身に纏っているという見た目とその場にいる誰もが感じ取れる程のあまりにも巨大な生命力がデカさという印象を生き物全てに印象付けている。

 

「全員準備はいいな?特に坊主とマシュ」

 

「よっしゃー!もう当たって碎けろ!」

 

「ダメです先輩!?そんなに興奮したら血圧が上がります!それに砕けちゃダメですって!!」

 

《ふざけてる場合じゃないよ?》

 

軽口を言える程度には回復した藤丸とカルデア一行は最後の攻勢を開始した。

ある意味で、ここで止められなければもうどうしようもないと言う状況が藤丸を壊したともいえるが、発狂しているわけでも、混乱やパニックに陥ってるでもなく、武者震い的なもので触発されて少しおかしくなっているだけで、話も聞いているし言動も……言動はおかしいが、問題ない。

 

「元気そうで何よりだ……ここでいい、止めてくれ」

 

「わかった」

 

車はかの龍がやや大きく見える場所、仮に標的が急に向かってきても藤丸だけでも逃がせるだけの猶予を持たせたところで停車した。逆に言えば他のサーヴァントがどうなるかはわからないわけだが、これ以上距離を空ければ致命的な致命傷を与えられないと竜殺しの直感は告げていた。

すぐにジークフリートは降り、藤丸やマシュ・ジャンヌも降りると、霊体化していたサーヴァントたちも一斉に実体化し周りに現れる。車に乗っているのは運転しているスネークとマルタのみ。

 

《……藤丸くんのバイタルは安定してるけど、いつ悪化するかわからない。だから極力魔力の消費は控えて欲しい。もっとも藤丸くん自身の身に危険が及ぶようなら別だけど……》

 

「ご安心を、守護聖人として彼を守り通しましょう」

 

「マスターがヤバくなる前に仕留めろってこった、まぁ化け物倒すのはアレだが速攻は得意だしな」

 

そう言いながら朱槍を軽く振り回し、トーンと音を鳴らすランサー。

車に乗っているよりも自分で走った方が早いため車には乗っていないが、スネークらとともに龍を追撃。いや、正しくは追撃するクー・フーリンにスネークらが車でついていき、サーヴァントである竜の魔女や魔術師を仕留めるのがスネークらの役割だ。どちらにしろ、クー・フーリンが龍を仕留めるのに重要な役割を果たすことには変わりない

 

「確認するね、ジークさんが最後の令呪で宝具を撃つ、その後にクー・フーリンの刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)であの竜に留めを刺す。あとはさらに召喚される前にあのジャンヌと変なのを倒す」

 

「安心しろマスター、あれだけ的がでかけりゃハズしはしねぇよ。こいつがぶっ放して俺がここで終わらせる、それだけだ」

 

「……本当なら私の手で仕留めたいところだが、私では終わらせそうにない、よろしく頼む」

 

「そう言いなさんなって、俺だけだと骨が折れんだ、お互い確実に効率よくやろうや」

 

なんてことを言って笑いながらジークフリートの肩を叩くクー・フーリンに気負いは一切見られなかった。考えてみれば絶対絶命なんて状況は、彼からすれば日常の一部に過ぎなかったのだろう。仲間が全滅しそう程度なら不安になることもないのだろう。その姿にハッとしたのか、エミヤが顔を見上げゆっくりと近づいて行く。

 

「ランサー……お前……」

 

「あァ?どうしたそんな深妙な顔して・・・らしくねぇぞ?」

 

「いや…………まさかお前の口から効率だとか確実だとか建設的な言葉が出るとは思いもしなかった」

 

「テメェは俺を煽る以外の言葉はねえのか!?」

 

「いや、本当に純粋な驚きなんだが……」

 

「だったら尚更タチ悪いわ!!」

 

そう言いながらもこの2人の言葉からは心から嫌悪している感じは無い。……互いに嫌いな節はあるが、相手の嫌味を言い合える距離にあるのがこの2人の関係性であるとも言える。

 

「……今更だけど、エミヤさんってクー・フーリンだけ態度が違い過ぎない?ていうか知り合いなの?」

 

「・・・腐れ縁、と言うべきかわからないがそこのランサーとはいつも会っているといだけだ」

 

「……会う機会なんてそんなあるの?」

 

「それについてはまた今度語るとしようかマスター、いまは目の前のことが先決だ」

 

エミヤは弓を投影すると剣のようなものを軽くつがえ、竜の王がいる方を見据える。

この場にいる誰よりもいい目(鷹の瞳)をもつ弓兵の目には、今から相手取るモンスターの側に同じく黒い魔女がいるのが見えた。

 

「向こうもこちらを相手するようだ、ジャンヌ・オルタはあの龍の隣にいる。叛逆されないかと期待したが……どうやら完全に手なづけているようだ」

 

「わかりやすくて良いこった……そっちの宝具が合図だ、ぶっ放したら俺が走り始める」

 

「後続のことは気にするな、速攻で仕留めてくれ」

 

「言われるまでもね、っうか早くしねぇと俺が全部仕留めるからな?」

 

「それだと助かる、坊主の体調的にもな」

 

「……おまえさんを煽っても意味ねぇか、なら遠慮なくやらせてもらおうかねぇ」

 

朱槍を一度回転させクー・フーリンは一行の先頭に立ち、穂先を下へ向け、構える。それは同時に姿勢を低くし、重心を下げ一瞬で最高速度を得るための瞬発力を得るための姿勢。この体勢から生み出されるスピードが決して狙いを外さず、ただ一刺で仕留め切る所以でもある。

 

「……こっちはいつでもイケるぜ、始めなマスター」

 

「・・・ジークフリートに命ずる!宝具を解放!俺たちの道を切り開いてくれ!!」

 

最後の令呪が藤丸の手から消え爆発的な魔力がジークフリートに流れ出す

 

同時に竜殺しの聖剣から天を貫く青き光が溢れ出す

 

「……いいだろう、その願い、俺が叶える!」

 

1度目の生では願いを持たず、それ故に自身も周りをも破滅させた。

 

それ故に、だからこそ彼は、サーヴァントとして生を受けたなら、

 

「邪悪なる竜は失墜し」

 

自身が生前に唯一望んだ正義のためにその剣を振るう。

令呪によってジークフリートに満ちた魔力が全てブースターとして宝具に使用され、天を貫いていた青い光の輝きが増したのを合図に、青装束の槍兵の構えが解かれる。

 

「世界は今落陽に至る!!」

 

「ッ」

 

「撃ち落とす!『幻想大剣・天魔失墜』バルムンク!!」

 

大地を断つかのように黄昏の剣が振り下ろされ、土を弾き飛ばし大地を抉り空間を裂きながら光線が、ガレキと化した城に召喚された竜へと一直線に突き進む。だが、宝具を用いて攻撃しているにもかかわらずこちらの狙いである黒龍は回避することもなくその場で佇んでいる。実際にジークフリートが繰り出した宝具を黒龍は認識しているがそのまま受け止めること決めたらしい。

 

瞬間、

 

大地ごと抉りとばし来た青い光は1匹の黒龍を捉える

 

黒い体躯ごと切り裂かんと辺りに光が弾け飛ぶ

 

一方の黒龍は宝具の効果から抗うかのように叫び、光を浴び続けている

 

 

ヴィイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 

「「・・・ん(ニャ)?」」

 

《効いてるぞ!あの竜の魔力が弱まっ——》

 

「すまない!やはり仕留めきれないようだ!!」

 

《ええ!?そんな?!》

 

「いいや本当さ、殺しきれてない」

 

 

黄昏た空はやがて夜を向かえる。

青い光が途切れ始めた途端、黒龍が羽ばたかせたかと思うと叫びは咆哮へと変わり、土煙が凄まじく舞い上がりその漆黒の姿を城の瓦礫ごと隠したのを鷹の目が見届ける。その壁の様にも見える砂嵐は魔術によって目を強化することもできない藤丸でもみることができた。

 

ただその場に在り続けるその龍は、なるほど確かに幻想種であるドラゴンでありとてつもない化け物だろう

 

竜殺し1人では有利を取れても殺しきれないのは確かだ

 

なにせ竜殺しは一匹の竜を相手にしたが化け物を何匹も相手にしたわけではない

 

ましてや“竜”殺しであって“龍”殺しではない

 

 

だからどうした

 

 

「穿つは心臓、謳うは必中……!」

 

何も一人だけで化け物を相手取る理由はない、使えるものはなんでも使えば良い

 

協力する、と言えば恰好が悪いなら共闘とでも言えばいい

 

一帯に舞がっていた凄まじい黒い土煙のカベに朱槍の光一閃の軌跡が描かれる

 

青装束を身にまとった槍兵の得物は、例え対象物が直接見えなくとも的を外さない

 

真名解放によって砂の壁を貫通した一閃はただ砂嵐の中にある心臓を穿つ

 

 

「刺し穿つ死棘の槍『ゲイ・ボルク』!!」

 

 

呪いの朱槍は確かに1つの心臓を穿ち、その感触をクー・フーリンへと確実に伝えた。

 

《おうさぁ!》

 

「ッ!」

 

同時に無線に流れた“音”で仕留めたことを把握したスネークは、車を急発進させる。車に同乗するのはジャンヌとマルタの聖女2人である。

 

「あの竜は仕留めたわね」

 

「……だが、どういうことだ」

 

「どうしたのよ?」

 

「まだ確証はない……無いが、明らかにおかしい」

 

「さっきからおかしいって、一体何がよ」

 

シフトチェンジをしながら3人と一匹を乗せた4WDの車両は龍の元へと迫っていくが、運転するスネークは明らかな違和感を感じていた。なぜそんな違和感を感じるのか、トレニャー にスネークは尋ねた。

 

 

「・・・さっきのあいつの咆哮、いや声だが……」

 

「だから一体何よ」

 

「アレが砂を巻き上げる直前にしたあの咆哮・・・俺は聞いたことがある」

 

「・・・はあァ !?」

 

「き、聞いたことがあるってどういうことです!?」

 

突然トンデモないことを言い出したスネークを聖女2人が身を乗り出して問いただす。

だがスネークはあくまで端的に事実を確認するように言葉を続けた。

 

「そのままの意味だ。もっとも聞いたことがある気がする、と言った方が正しいが……!」

 

その時、スネークは鋭い視線を前方の砂嵐の中から浴びた。ハンドルを思いっきり左に切り当然ながら車に乗っていれば慣性の作用で右に体が振り回される。

 

「ちょっ、もう少し優しく運転しなさいよ!」

 

「ッエミヤ!クー・フーリン向かって範囲攻撃できるか!?」

 

《……なに?》

 

「早くしろ!アレはまだ倒せていない!!」

 

《——I am the bone of my sword!》

 

スネークからの後方支援要請に対してエミヤは投影魔術によって応えた。

無線からながれてきた詠唱の数瞬後、走らせている車の後方から数射の剣が砂嵐の中へと飛翔し、爆発する。

 

「だ、大丈夫なんですか!?あの中にはまだ——」

 

「味方のFFに当たるような奴じゃないだろうそれに・・・捕まっていろ!!」

 

ジャンヌがクー・フーリンの心配をするが、構うことなく砂嵐の中を注視していたスネークは再びハンドルを切る、それも先ほどよりもデタラメに。そのせいでリアタイヤは滑り車はドリフトの様な状態で急激にスピードが落ちる。

 

それによって——嵐の中から飛来してきた火球が車の右側で炸裂した

 

「ッアツイな!」

 

「ちょっと何いまの!?」

 

「竜からの攻撃だ、竜の息吹(ドラゴンブレス)じゃないが——来るぞ捕まれ!!」

 

スネークが説明する暇もなく、すかさずギアを変えて車を急反転、今度はタイヤを滑らせずに全ての摩擦をタイヤに伝えスピードを上げ始める。

直後、今度は三つ連続で火球が車の方へと飛んで来た。それらは車が加速していなければ確実に直撃していたコースであり、的確に前後の逃げ場を塞いでいたが、スネークらが乗る車には熱だけが届くだけに留まった。

 

《今の火の玉なに!?》

 

《悪りぃ!肝心なところでトチッッたぁ!!》

 

マスターの声が無線越しに聞こえてくるが、同時にクー・フーリンの声も届いた。そしてどちらも声に余裕がない。

 

《ッ!?トチッたってどう言う——》

 

「クー・フーリン、2匹いたな?」

 

《ああ、1匹は確実に当てたが俺が当てたのは1匹だけだ、もう1匹はジークフリートのが当てたが仕留め切れてねぇ》

 

「2匹もいるってわけ!?」

 

「そうなる・・・しかも最悪なことに単なる竜じゃない」

 

《・・・ニャー》

 

わずかに無線から悲しそうなトレニャーの鳴き声が聞こえてきた。

その意味をスネークは悟ったが、ほかのサーヴァント達は先ほどジークフリートやクー・フーリンが宝具を放った場所から膨れ上がる魔力に反応する。

 

《ッなんだこの反応!?もはや生命反応どころじゃない、もはや魔力そのものだぞ!?しかも聖杯とまるで違う!!》

 

「“竜”だ、ワイバーンの意味でのな、それも——」

 

《うん間違いないね、その上で確認するけど君は最悪な竜と言ったミラボレアス 、だったかな?それじゃない個体、しかも二体いるわけだけど、検討がついているわけだね?》

 

「ああ、ほぼ間違いない、あの色合いは初めて見るがな」

 

“黒龍”の予想通り、漆黒の体ではあるものの、記憶を遡ればあの咆哮は確かに“竜”である。

そして記憶通りの“竜"であり、さらにもう1匹ここにいるというならば、『チコ』の話でしか知らなかった夫妻だろう。それも黒いというのであれば……二つ名だろうと。

 

「簡潔に言う。あれの名前はリオレウスとリオレイア、番のワイバーンみたいな竜だ、しかも通常個体じゃない」

 

《通常個体の定義も気になるけどね!?》

 

ドクターがもっともなツッコミをするが、スネークは当然のように反論する。

 

「いいや、あれはその中でも特殊な個体だ、色も違うが強さが段違いだろう。その強さに畏怖を込めてあの個体には二つ名が付いてるらしい」

 

「二つ名……?」

 

「そうだ」

 

「ハハハハハ!勝ったわ!!これであなたたちに勝ち目はないわ!!!」

 

砂嵐の中から声高々に竜の魔女が宣言する。

その声音は一切の疑いもなく自分自身の勝利を信じており、実際にその通りの存在が彼女の側にはいた。宣言直後に砂嵐は晴れ、先ほどの紫黒色の個体が・・・黒いナニかと共に現れた。

 

「本当に2体もいる!」

 

「あれほどの力を持った竜が2体、なぜ争わない……!?」

 

「ッ先輩は我々の後ろに!」

 

その巨体は離れた場所にいる藤丸たちからも確認でき、ジークフリートは驚きを隠せなかった。なにせ彼が知る竜とは欲望の権化となった悪竜であり、そんな存在が仮に同時に出現したのなら仲間割れをするのが当然だと経験から知っている。

だが、今出現している竜は彼の知っている、いや、この場に召喚され現界しているサーヴァントたちの常識からはかけ離れた世界からやってきている。それを知っているのは……

 

「間違いないニャ!あれはリオレウスとリオレイヤに違いないニャ!!」

 

「……道理で聞き覚えがあるわけだ」

 

《スネーク、手短に教えておくれ・・・あの竜は何なんだい?》

 

かの万能の天才はあくまで冷静に、しかし声音からは好奇心とそれ以上の危機感が混ざった焦りがたしかに伝わってきた。そしてスネークは言葉を返した。

 

「『黒炎王』リオレウス、『紫毒姫』リオレイアだ」

 

 




まさかのこっちの方が先に書き上がりましたので、投稿させていただきます。
けど、中途半端に終わりそう、本当に申し訳ない。

何かご意見・ご感想があれば作者の参考にも励みにもなります。
何かありましたら感想欄にてお知らせ下さいm(_ _)m。


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