紫炎.2の短編集 (紫炎.2)
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捻くれた彼と一直線な彼女の少し変わった学園生活
『捻くれた彼と一直線な彼女の少し変わった学園生活』


「終わりなき物語」、「規格外」を書かずに何をやっているのだろうか?

最初はバカとテストと召喚獣×めだかボックスです。

それではどうぞ。


『捻くれた彼と世話焼きな彼女の少し変わった学園生活』

 

太陽が燦々と照りつける昼休み。一人の少年が屋上で寝そべっていた。茶色髪に中性的な顔立ちの彼は何も考えずに、ただ寝ころんでいた。辺りは風が吹いており、心地よい昼下がりの風を運んでくる。時々鳥のさえずりが聞こえてくるだけで、昼寝をするのにはもってこいの場所だった。

そんな場所に一人の乱入者が現れる。屋上のドアを開けて、辺りをキョロキョロと見渡し、彼を見つけると、その乱入者は一直線に彼の元に向かっていった。無論、彼も乱入者には気づいており、その者が近づいてくるのに応じてどんどん不機嫌になっていく。

そうして彼と乱入者である彼女の距離が後一歩となった時、彼は目を開けて上からこちらを覗き込んでくる彼女の顔を見る。

 

「何の用だ?」

「貴様を連れ戻しに来た」

「何でお前が?」

「私以外に誰がお前を連れ戻しに来るのだ?」

「あーはいはい、そうですねー、『黒神めだか』」

「そうだぞ、『吉井明久』」

 

面倒くさそうに彼女に答える彼と凜とした声で咎める彼女。

 

今日も口調と顔立ちがアンバランスな彼、『吉井明久』は、完成されたとも言える美貌と気高さを持って話しかけてきた『黒神めだか』に対してどうでもよさげに応えていた。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

「私が連れ戻しに来なければそのまま授業に出ないつもりだっただろう」

「別に出たところで聞く気がないからどうでもいいだろう?」

「いーや、駄目だ。授業にはちゃんと出てもらうぞ」

「まったく……お前は俺のお母さんか?」

「お母さん? 私とお前は血縁関係じゃないだろう?」

「時々思うが、何でも出来るのに変なところで天然だよな、お前って」

 

軽口を言い合いながら廊下を歩く二人。昼休みなのでまだ、多くの生徒達は教室を出て、別のクラスの友達や部活仲間と喋っていたり、悪ふざけをしている時間帯である。そんな中、彼ら二人が通ると周りの生徒達は異質な組み合わせに少々戸惑いながら二人を眺める。

当然と言えば当然、この二人はいわゆる『劣等生代表』と『優等生代表』である。劣等生の方は吉井明久で優等生の方は黒神めだかである。世間一般に見てもあり得ないし、ましてや文月学園ではなおさらである。文月学園では学力に応じてクラス分けが行われており、その分けられたクラスごとに設備の差が大きく広がっている。学力によって一年間の生活環境が決まり、成績優秀者は優遇されることが多い。これにより、自然と教師や生徒の中で学力格差を意識するようになり、学校内の雰囲気もそれに準ずるかのように学力が高い者が低い者を見下すようになっている。

そんな学校において彼、吉井明久は劣等生代表とも言える称号『観察処分者』というこの上なく不名誉な称号を持つ人間である。これにより彼は悪印象を持たれ、積極的に関わろうとは誰も思わない。さらに彼には優秀な弟がおり、その弟の足を引っ張る最低な兄という悪印象しか浮かばないどうしようもない人間である。実際ある時までは事あるごとに兄の後始末をさせられていたので、文句のつけようがないのだが。

 

「ちゃんと午後からの授業の教材は持ってきているのだろうな?」

「持ってきてないと言ったら?」

「私の教材を貸してやる」

「そしたらお前のがないだろう?」

「大丈夫だ。教科書の内容は全部覚えている」

「お前の頭の良さの一割でも俺は欲しいよ」

「何てことはないぞ? ただ読めばいいのだからな」

 

さも当たり前のごとく言い放つ彼女、黒神めだかは『優等生代表』と言える人物である。転校してきてすぐのテストで、学園最高得点を叩き出し、運動神経も他の追随を許さない程だ。困っている人も見過ごせない性格で、彼女曰く「私は困っている人を助けるために生きている」と言わせる程のお人好しでもある。実際彼女は独自に“目安箱”というものを設置し、誰にも言えない悩みに真摯に取り組んでいる姿が多々見られる。これを優等生と言わずして何になるだろうか。

 

「放課後も目安箱を確認するぞ」

「頑張れよ~。俺は先に帰るからな」

「え?」

「え?」

「「……」」

 

お互いの言葉に二人して固まる。吉井明久は「嫌な予感が……」という引きつった表情で、黒神めだかは「何言っているんだコイツ?」という戸惑った表情で互いに硬直した。僅かな静寂が流れた後、予鈴のチャイムが鳴る。

 

「……ハッ!? 不味い! このままでは遅刻する!」

「グオォ!? き、貴様!? え、襟をひっぱ……!」

 

チャイムを聞いた黒神めだかは吉井明久の襟を掴んで慌てて走り出す。吉井明久は引っ張られるのと同時に首が絞まり、息が出来ず苦しんだ。この後も、走りながら吉井明久は離せと文句を言うが、教室に着くまで解放されることはなかった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

時間はあっという間に過ぎ、空は夕焼けに染まっていた。社会人も学生も家に帰ろうとしており、携帯を弄りながら歩く者がいれば、友達と話ながら歩く者もいた。吉井明久と黒神めだかの二人も彼らと同じように、夕焼けの街を歩いていた。

 

「全く、今日はお前のせいでロクな目に遭わなかった……」

「そうか? 私は今日も充実感溢れる一日だったぞ」

「へぇへぇ、そうですか。良かったですね~」

「うむ! こうして人のために役立つというのは良い物だ!」

「俺は犬に噛まれまくっただけだけどな」

「犬……わんちゃんか……」

 

犬という言葉が出た途端、黒神めだかは急に落ち込んだ。よく見ると吉井明久の服には至る所に破れた後があり、まるで猛獣と取っ組み合いをしたかのような有様であった。対する黒神めだかは傷一つない制服を着こなしていた。今回の目安箱の悩み相談で『ペットの犬を捕獲して欲しい』という依頼があり、その依頼を果たそうとしてこの有様になったのである。

 

「半分野生化していたから手こずったぜ」

「お前はまだ良いだろう? 私なんか……」

「全力で避けられていたもんな。傑作だったぜ、アレは」

「うぅ……なぜあんなに可愛いわんちゃんは私を避けるのだ……」

「知るかよ」

 

落ち込む黒神めだかを慰めるつもりも一切なく淡々と感想を言い切る吉井明久。傍から見て、この二人は本当に仲が良いのだろうかと疑いたくなる光景である。しばらくして黒神めだかが立ち直ると、二人はまた歩き出した。この後も二人は今日あったこと、目安箱のこと等を話ながら歩いていった。しばらくして、二人の目の前に年季の入ったアパートが見えた。二人はそのアパートに入っていき、二階に上ると吉井明久は一つのドアの前で止まる。

 

「それじゃあ、また後でな」

「後でって……お前、俺の部屋にはいるつもりか?」

「隣同士だから良いだろう?

「まぁ、別に問題ないが……ま、いいか。後でな」

「あぁ、また後でな」

 

そう言ってお互い吉井明久は202号室と書かれた部屋に入っていった。黒神めだかもそれを見送ると、隣の203号室に入っていった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

部屋に戻った黒神めだかはまず、靴を脱いで上がり、手洗いうがいをして、私服へと着替え始めた。着替え終わった後、学校用のバッグとは違うバックに今日やる分の教材と筆箱を詰め込み、いざ明久の部屋に、と意気込んだところに、タンスの上に飾ってある写真を見る。写真の中には小学生の頃の自分と笑顔の明久が居た。それを見て、黒神めだかは懐かしいのと同時に寂しい気持ちが溢れてくる。

 

この頃の自分はなぜ生きているのか、どうしてこんなにも退屈なのだろうかと考えていた。自分は他の子供達よりもずっと聡明で、世界というものを理解していた。最初は子供ながら「選ばれた存在なのだ」とかそんな事を考えていたが、多くの大人が自分と会う度に絶望していく様を見て、自分自身にも絶望していった。あの頃はどんどん諦観していく自分がいるのがよく分かる気がする。

しかし、小学生の頃明久と出会った。誰にでも明るく人が良い彼は、白けた目で世界を見つめる私に一生懸命話しかけてくれた。一緒に遊んでくれたり、思いも寄らない方法で笑わせてくれたりといった事であったが、それでも私には十分であった。そうして私の世界は広がっていったのだ。彼のようになりたい、誰かを救える力が欲しい。そう願って、中学に進学する時に別れ、それを実践していった。最初は戸惑うことがたくさんあったが、相手を理解していくのが嬉しくなっていき、どんどん誰かの力になっていった。いつしか感情を素直に表に出すことが出来るようになっていた。

そうして再会した高校一年のある日、彼は豹変していた。いつも明るかった笑顔が冷めた表情に、太陽のような暖かい雰囲気も冬の冷めきった雰囲気になっていた。何でも弟と派手に喧嘩をして、観察処分者として認定され、周りから見下されるようになり、さらに両親からも別の住居が与えられ、半分勘当状態になってしまったという。本人は改める様子がなく、誰も彼の味方をしなくなったのだ。そこからどんどん性格も変わっていき、いつしか誰も信用しなくなった少年が一人、生まれた。

そんな彼を見て、私は絶対に彼を、明久を助けたいと強く、想った。それを考えた時にはすでに実行に移し、明久と積極的に関わっていった。何度も拒絶されたが、それでも私は関わり続け、今では観察処分者の仕事をちゃんとやるようになり、勉強にもちょっとは前向きな態度を取るようになった。隙あればサボろうとするところは変わらないが。

……正直、これが正しいかどうかは分からない。これが彼のためになっているのかどうか不安でたまらなくなることもあり、心細くなることもある。だからといって、彼と関わるのをやめれば、それこそ私の心に、何よりも彼の心を裏切ることになる。それだけは駄目だ。そんなことをすれば、彼は二度と人を信じない。だから、関わることはやめない。それに……

 

「おい」

「ハッ!?」

 

あの時のことを思い出し、そこからずっと考え事をしていた黒神めだかに後ろから声がかかる。驚いて振り向くと、そこには私服に着替えた吉井明久がいた。彼はだるそうにリビングへの扉にも足りかかりながら、こちらを見ていた。

 

「いつになったら来るんだよ」

「す、済まない。少々懐かしいことを考えていてな」

「そっ。で、今回は何処やるんだよ?」

「う、うむ。今日はな……」

 

考え事を中断して、バックに入れた教材を取り出す。吉井明久はせっかくこちらに来たのだから、ここで勉強しようとリビングのテーブルの前に座り込む。黒神めだかも教材を取り出しながら、今日やる分を説明する。説明を受けながら吉井明久は勉強を始め、黒神めだかも問題の解き方などを教えていく。

夕焼けもなくなり、夜空が世界を包む。空には無数の星々と月が輝き、多くの家では家の明かりがつく。彼ら二人も例外ではなく、電気をつけて勉強を続けた。勉強を続ける中、黒神めだかはこう思う。

彼も元はとても優しく明るい人物だった。それがふとした拍子にこんな事になってしまったのだ。だからと言って、今の彼を私は否定しない。今の彼にも、あの時の優しさが戻るであろうことを信じ続ける。

黒神めだかはいつもそのことを考えて、不安を打ち消し、彼と向き合い続けた。そんな彼女の頑張りに応えるかのように、吉井明久はまた一つ問題を解いていった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

これは沢山のもしもが重なった物語、二人の少し変わった学園生活を描いた物語である。

 

 

 




読んでみて思ったけど、別にめだかボックスとクロスされる必要はないような気が……。
でも、何て言うかこういう絡みが書きたかったんだ!

次回はあるかどうか分からないけど、お楽しみに。


諸設定
吉井明久 ♂
文月学園の劣等生代表。初の観察処分者でもある。
ある時をきっかけに彼の人生は最底辺にまで落ち込み、その結果相当捻くれた性格になった。転校してきた黒神めだかにいつも振り回される人物でもある。ちなみに小学生の時に出会っているのだが、彼は全く覚えていない。

黒神めだか ♀
文月学園の優等生代表。学園からは明久の監視役と勝手にされている。
孤立している明久のことを放っておけず、彼を連れ回して目安箱の依頼を解決していっている。何があって明久がああなったのか、断片的なことしか知らないが、そんなことを気にせず、明久に関わっていっている。


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休む彼女の夢の理想郷

私は生きてるぞー!

色々なことがあって投稿が出来ませんでした。休みだってのに……。

それではどうぞ。


「起きろ」

「ふぎゃ!?」

 

何者かの衝撃により、私は目を覚ます。後頭部から叩かれたかのような痛みが走る。どうやら何かで頭を叩かれたらしい。

 

「人に仕事を任せておいて自分はのんきにお眠りか? 良いご身分だな」

「あ、あぁ、済まない。少しウトウトしていた」

「めだかさんでも疲れるんですね」

「自分から仕事を持ってきたんだぞ? 俺達に押しつけないでちゃんとやるんだな」

「ちょっとアキ、少し言い過ぎよ」

 

こちらを責めるように言う明久に対して、高貴先輩がフォローを入れながら、明久の言葉に対して美波が咎める。私はその光景を見てほほえましく思う。

 

「いや美波、明久の言うとおりだ。私の方から仕事を持ってきたんだ。持ってきた張本人が一番頑張らないとな」

「おーおー頑張れ、頑張れ。その分俺の仕事が減る」

「明久君。君は一人の女性に対してそんな言い方をしてどうも思わないのかい?」

「別にどうも思わないね」

「ちょっとアキ!」

「いいのだ二人とも」

 

明久の物言いに二人がいきり立つのを私が押さえる。全く、コイツは敵を作るような発言しかしないな。だが、知っているぞ明久よ?

 

「なら明久。お前がバックの中に隠している飲み物を私たちにくれないか?」

「はぁ? 何で俺がわざわざ……」

「きっちり人数分持ってきてくれて私は嬉しいぞ。お前が他人を思いやれるまでに戻ってくれているなんてな」

「べ、別にあれは……!」

「あ、本当に人数分ある」

「本当だ。助かるよ明久君」

「だぁー! てめぇらも勝手に人のバックを漁るんじゃねぇ!」

 

私の言葉に乗って美波と高貴先輩が明久のバックを漁ると、私の言葉通りにジュースが5本出て来た。そこから焦る明久に高貴先輩と美波がからかい始める。私は美波からジュースを受け取り、その光景を笑いながら眺めた。

 

その光景を見ながら私はふと違和感を感じた。何というか喉に魚の骨が突き刺さったかのような違和感である。何というか、今のこの光景は本来あり得ない光景のハズ……?

 

「……そういえば高貴先輩。あなたは確か箱庭学園に進学したのでは?」

「おや、お忘れですか? この阿久根高貴、めだかさんが文月学園に転校したと聞いて、自分も転校してきたんですよ?」

「本当、バカだよな。箱庭学園なら将来が約束されたのも同然だってのに」

「いいじゃない。一人の女性を追いかけて来るなんて、すごく男の前よ」

「好かれるのは悪くないが……そんな風に言われると恥ずかしいものだ」

「自信満々に言うんじゃねぇよ。それに美波、“男の前”じゃなくて“男前”だ」

 

言葉とは裏腹に自信満々に言い切る私に明久が突っ込みを入れる。美波もいいなぁ……とわかりやすい表情でこちらを見る。そういえば、高貴先輩は転校してきたのだったな。最初は明久とも啀み合っていて……あれ?

 

そう言えば明久と高貴先輩が啀み合っていたのはいつの話だ?

いや、そもそも……明久と高貴先輩が出会ったのはいつだ?

 

何かがかみ合わず、だんだんと記憶が混濁し始めて来た。そもそもここはどこだったか分からなくなってきた。見る限り生徒が何かしらの作業をする場所のようだが……。

 

「本当、最初はアキとめだかの“目安箱”が始まりだったのに、今では生徒会役員になって沢山の生徒の悩み相談とか引き受けるようになったわよね」

「その分どうでもいいようなことまで引き受けるしな、コイツは」

「まぁまぁ、それがめだかさんの美点だからね」

「そうか? 俺はよってたかって一人の女に群がるバカにしか見えねぇよ」

 

明久は呆れ返るような表情で高貴先輩のフォローをはね除ける。まぁ、確かに案件の中には「めだかさん、好きです!」とか「アキちゃん、ハァハァ」、「みなみんは俺の嫁」、「ウホッ、いい男(阿久根高貴)」なんてよく分からないものがあり、そのたびに明久と高貴先輩がその紙を思いっきり破いて、どこかに行くのだが。

 

って、そうではなくて!

私は頭を横に振り、現在の状況を整理する。恐らくここは文月学園の生徒会室で、私たちは生徒会役員として働いているところだ。そして私は仕事の最中に居眠りをしたのだろう。

 

「やはり可笑しいところなど何処にもないが……」

「どうした? ぶつぶつ独り言を言って?」

「いや、何でもない」

 

挙動不審の私を見て、明久が気遣ってくれる。こうやって気遣われると嬉しいものだ。あの少しばかり人間不信な明久が……明久が?

 

明久と私は再会してまだ、一ヶ月しかたっていないはずでは……だが、私は今は二年生で5月の中旬ぐらいで……さらに混濁する私の記憶にさらなる混乱が舞い込んでくる。突如、生徒会室のドアが開く。

 

『いやー、参ったよ。売店が混んでいて遅れちゃったー!』

「そうか、帰れ」

『あれ、いつにも増して明久ちゃんが冷たいよ。僕、何かした?』

「ッ!? 球磨川!?」

『うん? そうだけど……どうしたんだいめだかちゃん?』

 

バカな、球磨川だと!? な、なぜ奴がここに!?

 

『どうしたんだよめだかちゃん。いつぞやの時のように身構えちゃってさぁ』

「お前の存在が気に入らないんだろう」

「明久君、いくらなんでもそんなことは…………………ない……じゃないかなぁ?」

『美波ちゃ~ん、二人が僕をいじめるよ~』

「日頃の行いですよ、球磨川先輩」

 

今の一連の動きに私は目を疑う。高貴先輩はまだ分からなくもないが、明久と美波が仲が良いなどあり得ない。だって二人と球磨川は出会ってすらいないのだ。それこそ夢でしか……夢?

 

「……そうか、そうだったのか」

『めだかちゃん! 何に納得しているか知らないけど、助けて! 明久君が攻撃してくる!』

「うるせぇ! くたばれ球磨川!」

『僕はジュースちょうだいって言っただけじゃないか! 僕は悪くない! いや、本当に!』

「やれやれ、また始まった」

「本当、飽きないわよね」

 

明久と球磨川がじゃれて、美波と高貴先輩がそれを苦笑気味に見守っている。あぁ、本当に夢のような光景だ。私にとってこの光景は夢であり、理想である。

 

ひねくれ者の明久と理解しがたき球磨川、私を崇める高貴先輩に好きな人との接し方が分からなくなった美波。この四人がこうやって普通に笑いあったり、ふざけあったり、一緒に仕事したり……

 

「なんて素敵な“夢の理想郷”だ」

 

パキィ……

 

 

 ***

 

 

「起きろ」

「ふぎゃ!?」

 

額に鋭い痛みを走り、私は目を覚ます。痛む額を押さえながら前を見ると、シャーペンを構えた明久がいた。どうやらウトウトしていた私を、明久がシャーペンで突き刺したらしい。こいつ、女の子の扱いが本当にぞんざいになったな。

 

「眠り込んだ私も悪いのは分かる。だが、何もシャーペンを額に突き刺すことはないだろう?」

「眠り込む方が悪い。大体、休みにも関わらず押しかけてきたお前が言うか」

「放っておいたら、また賭博に行くだろう、お前は」

「他にやることがないし、仕送りも必要最低限しかねぇから自分で稼ぐしかないんだよ」

「なぜそこでアルバイトするという考えが出て来ないのだ」

 

私と再会した時も賭博場から出て来たところだったからな、こいつ。だから休みの日もコイツに目を光らせなければならない。明久は顔をそらし、時計の方を見る。釣られて私も見ると時間はもう昼食の時間になっていた。

 

「もうこんな時間か……じゃあ、今日の勉強はこれくらいにしよう」

「やっとかよ……毎度毎度ご苦労なこった」

「それほどでもない」

「褒めてねぇし……」

 

そう言うと明久は立ち上がり、台所の方に向かう。私は机の勉強道具を片付け、同じく台所に向かう。明久は冷蔵庫から何か適当にものを取り出している最中だった。

 

「ついでだからこっちで喰っていけよ」

「いいのか? 私の部屋の方が食材は豊富だが……」

「一々部屋を移動するのも面倒だろう? どうせお前のことだからこの後も何かするだろうし」

「うむ、昼食の後は目安箱に入っていた投書の処理をする予定だ」

「あっそ(今度こそ逃げ切ってやる)」

 

明久が空返事で答えるところ見て、コイツまた逃げる気だなと思うのと同時に逃げても捕まえてやると密かに決意する。その時、ふと寝ている時のことを思い出す。

 

「そう言えば明久、先程寝入ってしまった時に私は夢を見た」

「お前が? 年がら年中人助けしか頭にないお前が?」

「酷い言われようだがまぁいい。その夢はな、とても幸せな夢であった」

 

言うのと同時にさきほどの夢の中で感じた充実感が溢れてくる。球磨川がいたことは予想外だったが、それでも先程の夢はとても良い夢だった。

 

「そのまま夢の中で満足しとけばいいのに……」

「だがな、夢は所詮夢でしかないのだ。砂上の楼閣のように、目が覚めてしまえばそれは消え失せてしまうのだ」

「ふ~ん。じゃあそのまま諦めれば?」

「否! 私は夢を夢で終わらせる気はない! 現実にして見せようではないか!」

「はいはい、御託はいいから飯にするぞ」

「うむ!」

 

そうだ、夢で終わらせるものか。明久が普通に人の輪に入り込み、美波も同じように一緒にいる。高貴先輩も加わり、私にとってトラウマとも言える球磨川とも仲良くなれる。そんな光景が実現できたら、どれだけ良いことなのだろう。実際の現実は甘くないと言うことも分かっている。高貴先輩や球磨川が文月学園に来るという保証もない。

 

それでも、そんな何てことのない日常を明久と共に過ごしたい。

 

「……何一人で頷いていやがる」

「うむ! 明久よ、私は頑張るぞ! 夢に向かって!」

「はいはい、アホ言ってないで飯を食うぞ」

「うむ!」

 

出来たての焼きそばを台所から持ってきた明久と共に机に座り、お互いにいただきますと言って食べ始める。今日の焼きそばはソースの味が少し薄めだったことに気づくと、私は明久に味が薄いぞと私は文句を言った。

 




……う~む。やっぱりわざわざめだかボックスとクロスさせる必要ないな。
でも、めだかと明久の絡みが見たかったので、後悔はない。

今度は入れ替えネタとかやってみようかな?

投稿は相変わらずいつになるのやらですが。


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一直線少女が助けた片思い少女が想う捻くれ少年への想い

めだかボックスとのコラボ、第3弾です。今回が今までの中で最長になりました。本当は同じぐらいの分量で終わらせる予定だったのですが、書いていたら予想以上に長くなりました。

今回は変わってしまった彼の昔と今を思う一人の少女がメインです。

それでは、どうぞ。


「めだかさん! おはよう!」

「うむ、おはよう美波!」

「……」

「アキもおはよう!」

「……」

「返事しないか、明久」

「……へ~い」

 

冬の寒さが身にしみる、12月の日曜日の朝、二人の少女と一人の少年がデパートの前でお互いに挨拶する。もっとも少年のほうは嫌々ながらの返事だったが。

 

「もしかしてアキ、今日は買い物、嫌だった?」

「おう。どうして女子の買い物に俺が付き合わないといけないんだよ」

「どうせ部屋に引きこもるか、賭博するかの二つしかお前はしないんだからいいだろう」

「賭博じゃなく、生活費を稼ぐと言え。実際、そうなんだからな」

「賭博じゃなくてアルバイトしなさいよ」

 

嫌な態度を隠そうともせず悪態をつく少年に対して、二人の少女はため息交じりに呆れる。どうやら少年は家の中で一日を過ごす予定だったらしいが、一人の少女が強引に外に連れ出したようだ。

 

「明久の悪態は置いといて……美波、さっそく買い物に行くぞ!」

「あ、ちょっと、めだかさん! 待って!」

「行ってら~」

 

意気揚々にデパートに入っていく少女に続くように行くもう一人の少女。それを見送るように手を振る少年。二人を見送った後、少年はとっとと帰ろうとするが、それはできなかった。最初にデパートに入っていった少女が忘れ物したかのように少年の方に近づいていく。そして、盛大に首根っこを掴んだ。

 

「ぐえぇ!? て、てめぇ! 何をする!?」

「忘れるところだった。放っておいたら、お前は帰ってしまうからな」

「そんなこといいから、離せ!」

「よし! 改めて行くぞ!」

「ぐおぉ!? く、首が絞まる……!」

「あ、あはは……」

 

首根っこ掴まれながら少年を引きずっていく少女を見て、後から入っていった少女が苦笑いをしながら二人を待つ。

 

 

一直線な少女、黒神めだかと首根っこ掴まれ、窒息寸前の少年、吉井明久、苦笑いで二人を眺める少女、島田美波はデパートで日曜の休日を過ごしていく。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「く、くそ……黒神……てめぇ、少しは遠慮ってもんを考えろ……」

「なぜそんなに疲れているのだ?」

「めだかさん……そんなに大量に買った服を全部アキに持たしたら、そりゃ疲れるわよ」

「あ……変態のトレーニングに耐えたのだから、大丈夫だと思ったのだが……」

「めだかさん、変態が考えるトレーニングなんて受けちゃだめよ」

 

デパート内のベンチで休憩を取る明久を見て、めだかは心底不思議そうにしていた。美波としても、めだかの買い物の量は異常なので、明久の苦労はわかっているつもりだ。

 

三人は今、ゲームセンター前のベンチで休憩していた。と言っても疲れているのは明久だけで、めだかと美波はそこまで疲れていない。なぜ明久だけが疲れているのかと言うと、めだかと美波が買ったもの(主に服)を明久が全部持っているからだ。これが二着、三着だけならまたしても、めだかが美波と明久に対するプレゼントと称して、あれもこれも買っていくため、両手一杯どころか、両腕、しまいには首も使って、持っているのだ。しかも連続で6軒も回っている。これで疲れなければ、そいつは超人とかの何かの類だろう。

 

「トレーニングを受けたからって、疲れるもんは疲れるんだよ!」

「そうか……だが、女性の買った物は男性が持つものだと、私は聞いたのだが?」

「だからって限度があるだろ!?」

「や、やっぱりウチも少しは持ったほうが……」

「いい。こうなったら別の手段を使うまでだ」

 

不思議そうに首を傾げるめだかに対して、さすがにやりすぎたかなと思う美波は、少しは持つと申し出た。だが、明久はその申し出を断り、荷物を全部持って、どこかに行こうとする。

 

「む、単独行動は禁止だぞ、明久」

「ここまで来て勝手に帰りゃしねぇよ。少しゲームセンターで時間を潰してろ」

「アキ、大丈夫なの?」

「大丈夫だから、安心しろ」

 

明久がそう言うと、荷物を持って一階に降りていった。残された二人のうち、美波は大丈夫かなと心配するが、めだかは降りていく明久を見届けると美波の方に振り向く。

 

「まぁ、明久がああ言っているんだ。私達は私達で時間を潰そう」

「う~ん……そうね。じゃあ、そうしましょ」

 

めだかの言葉に頷き、美波はめだかと一緒にゲームセンターに入っていった。ゲームセンターにはクレーンゲームやシューティングゲーム、レースゲーム、プリクラと様々なものがあり、それぞれのゲームに色々な人たちが集まっていた。めだかはその中でも、シューティングゲームの中のガンシューティングの方に向かっていった。

 

「めだかさんってこうゆうゲームをするの?」

「いや。だが、明久がよくこうゆうゲームをやっているのを見ていてな、本人がいない間にやろうかと思ってな」

「どうして? 一緒にやったほうが楽しいじゃないの?」

「一緒にやるとな、明久のやつ『お前、下手だな』と必ず一回は貶してくるのだ」

「そ、そうなんだ……」

 

めだかを貶しながらゲームをやっていく明久の姿を想像し、美波は苦笑いで納得した。前の明久ならそんなことはないが、今の明久なら容易に想像がつく。めだかは早速100円を入れるとゲームを始める。最初のうちは持ち前の才能で難なく1ステージ目をクリアするが、2ステージ目で一気にダメージを喰らうようになった。

 

「ぬ、く、この……!」

「あ、喰らっちゃった」

「こ、この……まだまだ……あっ!」

 

あとちょっとでボス戦という所でライフが全部失くなってしまい、ゲームオーバーになってしまった。まさかのガトリング銃搭載のジープが突撃してきたのである。咄嗟だったので反応できず、やられてしまった。

 

「ぐわぁー! くそ! あとちょっとだったのに……!」

「でも、初めてでこれだけできるってすごいわよ! さすがめだかさんよね!」

「なんだよ。結局2ステージでくたばってんじゃねぇか」

「きゃあああ!? ア、アキ!? いつ来たのよ!?」

「こいつが無様にゲームオーバーになったときだ」

「一番情けないところを見られたということか……」

 

めだかにフォローを入れようとしたとき、いつの間に美波の後ろに来ていた明久が髪を掻きながら呟く。いきなりの登場に美波は驚き、めだかは悔しそうに歯噛みした。その明久だが、あれほどあった荷物が一つもなく、身軽になっていた。

 

「お前、荷物はどうした?」

「全部郵送してもらったに決まっているだろう? あれだけの量、ずっと持てるか」

「それならいいが……そこまで言うなら明久、お前の実力を見せてもらおうか」

「へっ、これぐらいワンコインで全クリしてやる」

 

そう言うと明久はめだかからコントローラーを受け取り、100円を入れる。お金を入れるのと同時にゲームが始まった。明久はやはり言うだけあってか、現れる敵を即座に撃ち抜き、敵の直撃弾を即座に回避する。一目で上手なことが分かる。

 

「わぁ……アキ、上手ね」

「むぅ……なぜこんなに出来るのだ」

 

明久がゲームをする様子を後ろで眺める二人。美波は素直に感心し、めだかは悔しそうにしていた。

 

「おい見ろ。あの少年、さっきからノーダメージだぞ……?」

「知らねぇのか? あの少年、結構このゲームセンターに通っている奴だぞ?」

「すげぇ……このゲームでノーダメージって相当難しいだろ」

 

しばらくすると、明久のプレイを見て、多くの人が足を止め、見入っていた。当の本人である明久はそんなことは露知らずとゲームを進めていく。

 

「……本当違うなぁ」

「ううむ、確かに違うな。どうやったら、あんなに上手くできるのだ?」

「あ、いや、そうじゃなくて……」

 

美波の言葉にそうだなと賛成するめだかに、美波は咄嗟に否定する。彼女はゲームのことではなく、別のことで違うと思っていたようだ。

 

「今のアキってこう……」

「ゴーイングマイウェイ?」

「そう言うのかな? ともかく、そんな感じで……やっぱり前と違うんだな……って思っちゃうの」

「転校生ゆえ文月学園における前の明久とはどういった感じだったかは知らないが、確かに変わったと言えば変わったな」

「えぇ……こうやって今のアキを見ていると昔のアキはもう戻ってこないのかな……って思っちゃって……」

 

俯きながらため息をつく美波を見つめるめだか。めだかもその気持ちは分からないわけでもなかった。自分も思い出の中の明久が変わってしまったことにショックを受けたからだ。

 

美波がめだかと知り合ったのはめだかが転校してきて、2ヶ月がたった頃だ。サッカー部の新人戦における助っ人依頼が終わり、目安箱が本格始動し始めていた時のこと、めだかはいつも通り目安箱の投書を明久と共に解決していった。

 

そんなときだ。「一対一で相談に乗ってほしい」と美波からの投書があったのは。彼女の要望通り、めだかは美波と一対一で会い、そして相談に乗った。内容はとても簡潔だった。

 

『“今”のアキと仲良くなるにはどうすればいいのか』

 

話をよく聞いてみると、彼女は明久と同じクラスで、明久と友達だったようだ。しかし、明久が観察処分者に認定されたあの日から、周りが明久を貶し始めた。『出来損ない』、『弟の足を引っ張る屑』等と周りは彼を罵り、優秀な弟を保護し、愚かな兄を罵倒した。

 

明久が責められる中、美波は何も出来なかった。言葉が通じず、クラスの中で浮いていた自分と友達になってくれた彼に何も出来ず、ただ変わっていく様を見ることしか出来なかった。彼はそんな人じゃない、彼は私を助けてくれた優しい人なのだ。そう言いたかったのに、また孤立するのが怖くて何も言い出せなかった。自分のために、彼を守らなかったのだ。

 

結果、彼は孤立し、不登校になった。周りは彼がいなくなったことを何とも思わず、いつも通りの日々になったが、美波の中には深い後悔だけが心に残っていた。

 

「今のアキって、とても活き活きしているっていうか、何ていうか……とにかく自分にすごく正直になった感じで……」

「確かに自分に正直にはなったな。これ以上にないほどに」

「いや、前のアキも結構正直だったけど、でも自分勝手じゃなかった」

「……今の明久は不満か?」

「ううん。今のアキもアキだもの。そこは変わらないって分かっているもの」

 

あの日を思い出しながら、今の明久を見つめる美波。もうすぐゲームも終わりに近づき、ラスボスらしき男と明久は戦っていた。

 

「あ、もうすぐ終わるみたい」

「むぅ……本当にコンティニューなしでここまで来てしまったな」

「ホントすごいわねぇ、アキって……あ、勝った」

 

二人が話している内に明久はラスボスに止めを刺し、ゲームクリアした。その瞬間、見ていたギャラリーから歓声が上がる。

 

「うぉおおお! すげぇ! 本当にノーコンティニューでクリアしやがった!」

「俺、初めて見たぜ!」

「マジかよ……俺、ブログに上げよ」

「ふぅ……まぁ、ざっとこんなもんか」

 

今だ歓声上がる中、明久はコントローラーを台に戻し、一息つく。ゲーム中、ずっと集中し続けていたのだ。その疲労は大きいだろう。

 

「美波、確かにアイツは良い意味でも、悪い意味でも変わった」

「えっ? えぇ、それはそうだけど……」

「だがな、変わらないところもちゃんとあるぞ?」

 

それに今のアイツは照れ屋だからな、と言ってめだかは今だ歓声が続く人混みに紛れ込み、明久を迎えに行く。美波は急にどうしたんだろうと思いながら、こちらに戻ってきた二人に声を掛けた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「ただいまー」

「お帰りです、お姉ちゃん!」

 

買い物から帰ってきたウチを迎えたのは妹の葉月だった。小学生らしく、とても元気で自慢の妹である。

 

「お帰り、美波」

「おぉ、帰ったか」

「お母さん、お父さん、ただいま」

 

自室に戻る前に、手洗いうがいをして居間に行くと、そこには夕飯の準備をしているお母さんと、TVのニュースを見ているお父さんがいた。ニュースにはいつものアナウンサーが今日のニュースを読み上げているが、ウチにはちんぷんかんぷんな日本語が並んでいて、全く意味が分からなかった。

 

「お姉ちゃん、お友達との買い物はどうでしたか?」

「いつも通りよ。まぁ、一人新記録を更新していたけど」

「ほぉ、ゲームセンターにでも行っていたのか?」

「ううん、荷物持ち」

「荷物持ちの新記録って一体……?」

 

ゲームセンターでのノーコンティニューも確かに新記録だけど、ウチにとっては体全体使って荷物持ちしていたアキの方が印象に残った。漫画でしか見たことないけど、本当にあんな持ち方ってあるんだと思った。

 

「まぁ、楽しんでいたようで良かったわ。ついこの間まで美波、元気がなかったもの」

「そうだな。何か悩んでいたようだからな」

「でも、今のお姉ちゃんは元気一杯です!」

 

心配そうにする両親とは対照的に笑顔で話す葉月を見て、やっぱり心配掛けていたんだなぁと思う。やっぱり、ウチって顔に出やすいのかな?

 

「じゃあ、ウチ荷物整理あるから部屋に戻るね」

「そう。じゃあ、ご飯ができたら呼ぶからね」

「はーい」

 

荷物整理のために自室に行った。自分の部屋に戻ると、そこには今日の買った分、めだかさんからのプレゼントがあった。割と多いので、これは大変だなと思う。

 

「……あれ?」

 

ふと目線を机の方に向けると、そこには見慣れない箱が置いてあった。大きさとしてはそこまで大きくないが、リボンでちゃんと巻かれている。気になって最初にこの箱を開けてみることにした。しっかりと巻かれているように見えたリボンは簡単にほどけ、箱を開けた。

 

「あ……これって……」

 

中に入っていたのは写真立てを持ったノイちゃんのぬいぐるみだった。写真にはウチとめだかさん、そしてアキの三人でとった写真が飾られていた。よく見ると、箱の中にメッセージカードが一緒に入っていた。気になって手に取って、内容を読んでみる。

 

 

『来年もよろしくな  吉井明久』

 

 

内容は一言、アキから一言だけのメッセージ。来年も一緒に遊ぼうという、ウチに対するメッセージだった。その瞬間、ウチは再びあの日のことを思い出した。

 

めだかさんに対して、まるで懺悔のごとく話したウチの話を聞いて黙り込むめだかさん。何を考えているのか分からないが、もしかしたらウチに対して怒っているのかも知れない。めだかさんはアキと一番仲良しだから。だから、見て見ぬふりをしたウチが許せないのだろう。

 

そんなことを考えていると、突如めだかさんはウチの手を引っ張って、どこかに連れて行こうとした。戸惑うウチを強引に引っ張りながらめだかはウチに話しかけた。

 

『お前の気持ちはアイツに謝りたい、また仲良くなりたい。そうなのだろう?』

『心が決まっているのなら、話は早い。私がアイツの前にお前を連れて行く』

『後はお前の素直な気持ちをアイツにぶつけてやれ。そうすれば、アイツは絶対に応えてくれるから』

 

力強く、励ますかのようなその言葉は、悩むウチを勇気づけてくれた。そして、屋上につき、丁度昼寝していたアキの下に辿り着いた。めだかさんがアキに一声声を掛けるとアキは渋々と起き上がり、二人が向かい合った。

 

めだかさんは一言、二言明久に言うと、さっさと退散していった。そして、屋上にはウチと、ウチを面倒くさそうに見るアキの二人が残った。急に二人っきりにされ、どうしようと悩み、俯いてしまったが、意を決してアキと向かい合う。そして、一言。

 

『アキ、ごめんね』

 

その後はもう止まらなかった。助けられなくてごめん、離れていってごめんと謝罪の言葉だけが溢れていった。止まることなく続く謝罪の言葉は、今までウチの中で燻り続けていたものを洗い流すかのように溢れていく。そして、出す物を全部出した後、最後に一言。

 

『また、友達になってくれる?』

 

一番伝えたかった言葉を言い、アキを見る。ウチの言葉を聞いたアキは呆然としており、何を言えばいいのかわからないという表情をしていた。ウチはとにかくアキの言葉を待った。待つ時間がまるで、永遠にも感じる程長く感じ、何を言われるのか、怖くて仕方がなかった。いきなり来て、自分のことばっか言って……。

 

『お前の気持ちは分かった』

 

考えが悪い方向に流れ始めた時、アキが一言言った。その声に顔を上げてアキを見る。アキは少し困ったような感じで頭を掻きながら、こちらを見ていた。頭を掻くのをやめると、こちらを真っ直ぐに見据える。

 

 

『Tu ne voudrais pas devenir mon amie?』

 

 

「……うん」

 

あの言葉を聞いて、ウチは不覚にも泣いてしまった。アキが、私に一生懸命伝えようとした言葉を覚えていてくれたのだ。そして、何よりも嬉しかったのだ。

 

あの時の言葉を覚えててくれたことが。

 

「そうよね」

 

人形を抱きしめながら、ウチはもう一度思い出す。アキは変わってしまったけど、変わらなかったところもあった。だから、私は決めた。

 

 

アキはアキだ。それは変わらない。そんなアキと一緒にいたい。

 

 

「来年もよろしくね、アキ」

 

人形を抱きしめながら呟き、来年もまた一緒にいようと心に思った。捻くれてしまったけど優しい彼と、そんな彼ともう一度友達になれたきっかけを作ってくれた彼女のことを想いながら。

 

 

日が沈み、夜の帳が辺りを包む中、一人の少女は彼からのプレゼントを抱きしめながら、雪が降り始めた空を窓から見上げた。また明日、二人に逢えることを想いながら、月を見上げるのであった。

 




どうでしたか?

今回は明久を想う美波がメインでした。

色々と迷いましたが、「私と友達になってくれませんか?」はフランス語にしました。なお、これが一番の訂正点です。

それでは、またの機会に。


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バカの進化形はハジケリスト
バカの進化形はハジケリスト


すごい久々に投稿した気がします。

今回はバカテスとボーボボのクロスです。まぁ、色々と変更点がありますが。

それではどうぞ。

諸設定
バカテス側
・吉井明久と吉井理人の双子であり、明久が兄、理人が弟。
・理人は明久の今までの不祥事に呆れ返っており、明久を敵視している。
・お互いに険悪のまま、A vs Fクラスの戦いが始まる。

ボーボボ側
・バカテスワールドにマルハーゲ帝国が元々あった設定。
・ボーボボはピーマン帝国を壊滅させた後、世界各地を回り、残党狩りと悪の目を詰んでいた。
・他の9極戦士は各々の生活をしている。



プロローグ:今日は鬱ですか? いいえ、ハジケ日和です!

 

「では、両名共準備はよろしいですか?」

 

高橋先生のかけ声と共に僕たちFクラスとAクラスから代表の5人が前に出る。Aクラス側はこちら側に、というよりも僕に対して敵意むき出しで睨んできている。

(居心地悪いなぁ……)

心の中でそっとそう思いつつ、一回戦の選手としてそのままさらに前に出る。

 

僕たち2-Fクラスは教室の設備をかけて、Aクラスと戦おうとしている。本来は試召戦争の予定だったのだが、こちら側の提案で一騎打ちの形式になった。だが、Aクラス側、というよりも双子の弟、理人に「これまでFクラスの所業は目に余るモノがあるゆえ、勝って、絶対に制裁を与える」と宣言された。これによって、完全にAクラスと敵対してしまったのである。

 

「明久、わかっているな?」

「はいはい、分かっているよ」

 

雄二からの言葉を適当に受け流し、僕は対戦相手である理人と向き合う。理人は相変わらずこちらを睨みつけている。実を言うと、理人だけではなくAクラス全員、果ては味方であるはずのFクラスからも睨みつけられている。なぜかというと、理人の発言を受けて「兄なんだからちゃんと教育しとけよ」というFFF団の誰かが呟いたことから周りに波及し、現在に至る状態だ。

 

(本当に居心地悪いなぁ……)

 

雄二からも予め、捨て駒として使うとのことは受けているため、幾分か楽だが、他のみんなからの視線を受けてやはり辛いものがある。

 

「よくまぁ、今まであれだけのことをやれたな」

「えっ、うん……まぁね」

「そこまでして勝ちたい理由は分からないが、さすがにやりすぎだよ。あんたは」

「………」

「返事ぐらいしたらどうだ?」

「……そーだね」

 

理人がこちらに話しかけてきたので、こちらも適当に返事をして対応する。理人はこちらを非難するかのように僕をじっと睨みつけていた。その視線を受けて僕は見えもしない空を見上げようとした。窓から見える外の風景は晴れているから、きっと空は青空だろう。

 

(なんか、面白くないなぁ……)

 

高校生になってから何か、毎日が面白くない。色々なことに悩んだり、勝手に犯人に仕立て上げられたり、家族との仲が悪くなるし……

 

(もっとハジけるような出来事が起こらないかなぁ……)

 

何もかもがどうでもいいような気がしてきて、やけくそ気味になってきた。ぼんやりと高橋先生の試合開始の合図が聞こえたため、僕は適当に試験召喚獣を召喚した。

 

「サモン!」

「……サモン」

 

この時、僕は本当に少し自暴自棄に陥っていて、何を思っていたのか定かではない。だが、後にこの日のことが忘れられない出来事になるとは思いもしなかった。

 

理人の召喚獣は日本の昔の戦国武将のような格好をして、日本刀を構えている。対する僕の召喚獣は……ってあれ?

 

出てくるはずの召喚獣が出て来ず、白い煙が目の前を覆い尽くしていた。予想外の事態に焦るが、追い打ちをかけるかのように何かの音が聞こえてきた。

 

ブロロロロロ……

 

「……バイク?」

 

それも一つや二つじゃない。もっとたくさんのバイクの音がする。いったい何だろうと思っていると徐々に煙が晴れていった。

 

ブロロロロロロ!

そして、晴れた先には謎の野菜集団がこちらに向かってとばしてきた。

 

「何事ぉおおおおおおお!?」

「ぜんたーい! 止まれ!」

 

先頭のにんじんのかけ声と共にバイクに乗った野菜集団は止まった。その拍子に十字架にかけられていたアフロの男が地面にべちゃっとたたきつけられる。

 

「次、ピーマン残したら承知しねぇぞ……撤収!」

 

そういって野菜集団は去っていった。

 

ドゴーン!

 

途中、教室内の机や椅子を引いたり、理人やクラスメートを全員轢いていったことなど、僕は知らない。

 

「だって……ピーマンしょっぱいじゃん……」

「……そ、そうなんだ」

 

そう言ってボロボロのアフロの男は荒れ果てた教室で気絶した。周りも僕以外、全員バイクに轢かれたため、荒れ果てたAクラスの教室の中、一人ぽつんと立ちつくす僕であった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

「はぁ~……」

「どうした、そんなにため息をついて」

「どうしたじゃないよ……ってなに普通に話しかけてきてるわけ!?」

「なに!? ○ロント語だと!? お前……やるな(ゴクッ)」

「違うし!? それとそんなことで戦慄するな!」

 

商店街を歩きながら僕は先程のアフロマンにツッコミを入れていた。

 

あの後、僕はとりあえず後から来た鉄人に事情を話した後、鉄人から「もう帰っていいぞ」と言われ、いつもより早めに帰宅した。その時、召喚フィールドが消えるのと同時に、このアフロマンも一緒に消えたのだが、何故か普通に僕に話しかけてきている。というよりも先に家にいた。

 

 

回想

「ただいま~って言っても誰もいなかったけ」

「おう、おかえり。今、荷物整理していたところだぞ」

「へぇ~。そうなんだ……ってなんでいるの!?」

「おっ、これ冬の新作「パタポリン」じゃねぇーか」

「ちょっと! かってに僕のコレクションを触らないで!」

「よーし! これだけあれば高い金になるな!」

「えぇ!? 売る気!? 僕のコレクション、売る気!?」

「ついでにこれも売るか」(大人向けの参考書)

「ぎゃああ!? 何出しちゃってるの!?」

回想終わり

 

こうして謎のアフロマンに殆どのゲームを売られてしまい、売ったお金で食べ物を買っている最中であった。ホント、災難だよ……。

 

「そもそもあんた、誰なの?」

「俺か? 俺の名前はボボボーボ・ボーボボという旅の者だ。まぁ、気軽にボーボボと呼んでくれ」

「そう? じゃあさ、ボーボボさん」

「気安く呼んでんじゃねえぇえええ!!」

「えぇええええ!?」

 

じゃあどう呼べばいいんだよ!?

 

「まぁ、普通にボーボボと呼んでくれ」

「え、それってさっきと変わらないんじゃ……」

「まぁまぁ、いいから、いいから」

「じゃ、じゃあボーボボ」

「は~い、な、に?(キラッ☆」

(ウザッ)

 

ぶん殴りたい衝動を抑えつつ、僕はボーボボに色々聞いてみることにした。

「ボーボボは一体何者なの?」

「俺はこの世界の毛の平和を守る者だったり、なかったりする者だ」

「どっちだよ! 毛の平和って何?」

「昔マルハーゲ帝国という国があっただろ?」

「あぁ、そう言えば……」

 

僕が丁度中二の頃、マルハーゲ帝国という大きな帝国があった。この国は絶大な勢力を誇っていた国で、ここ日本にも侵略をしていた。マルハーゲ帝国は国の象徴としてつるっぱげにする「毛狩り」を行っていた。新帝王決定戦においてマルハーゲ帝国は崩壊したが、後にネオ・マルハーゲ帝国、大ピーマン帝国と世界征服を目論む国が次々と現れたが、これもいつの間にか崩壊している。

 

「あいつらは全ての毛の平和を乱す奴らだった。そういう奴を見つけて、俺は……」

「俺は?」

「土下座して戦いをやめさせていたんだ」

「まさかの土下座交渉!? よく生きていたね!?」

「辛かった……土の味と足の重さはもう沢山だ……」

(どうか……どうか戦いをやめてください!)

(しょうがねぇ~な、まったく、よぉ!)ゲシッゲシッ!

(ヒィイイ! 申し訳ありません!)

「回想が予想以上に酷い!? ていうかマジでやっていたの!?」

 

涙を流しながら語るボーボボの話は予想以上に悲惨だった。本当にこんな風に生き延びていたとしたら、ある意味ものすごい人なのだろう。

 

「こうして俺は戦いをやめさせて、毛の平和を守っていった」

「守れたの!? こんなんで守れたの!?」

「守れるワケねぇーだろうが!」

(ですよねー!)

 

結局のところ、ボーボボが何者なのか、よく分からなかったが、話を聞く限り、悪い人じゃないみたいないみたいだった。とりあえずさっさと買い物を済ませようと思ったその時であった。

 

ドゴーン!

 

「えっ!?」

「何だ!?」

 

商店街の入り口の方で爆発がおこった。それと同時に叫び声も聞こえてくる。

 

「さぁ、毛狩りの始まりだー!」

「家借りだと!?」

「字が違う!? ていうか毛狩りって、マルハーゲ帝国は滅んだんじゃあ……」

 

耳を疑う叫びの後、悲鳴が聞こえてきた。そしてその悲鳴は徐々にこちらに近づいてきている。

 

「こっちに向かってきている!? に、逃げないと……」

「上等だ。毛狩り隊は全員ぶっ潰す!」

「ちょ、駄目だよ、ボーボボ! 相手は毛狩り隊だよ!?」

「安心しろ、明久。こうみえて俺は強い(?)からな」

「疑問系じゃん! なおさら心配だよ!?」

「何!? ボーボボだと!?」

 

僕がボーボボを引っ張って逃げようとした時、急に毛狩り隊が一斉にこちらを見た。やばい……やられる。そう思ったが、何だか様子がおかしい。

 

「ま、まさかアレがボボボーボ・ボーボボだというのか……?」

「嘘だろ……おい……」

「もう駄目だ……お終いだぁ……」

「勝てるわけがないよぉ……」

「う(ピーーーーーー」

 

どうやらボーボボを見て驚いている模様。最後の一人なんかリバースしている。正直、見なきゃ良かった。

 

「へっ、なに言ってんだ。ボボボーボ・ボーボボがなんぼのもんじゃい!」

「そうべぇ、そうべぇ!」

「何でエセ地方弁がいるんだよ! わけがわからないよ!」

「そこまで注目されると……正直照れる」

「ぶっ殺せぇーーーーーー!」

 

かけ声と共に一斉に毛狩り隊がこちらに迫ってきた。

 

「わ、来た! ど、どうしよう!」

「落ち着け明久。とりあえずこれを被っとけ」

 

そう言うとボーボボは僕に何かを被せた。見てみるとそれは僕の髪の色と同じ色の長髪のカツラだった。

 

「……なにこれ」

「よっしゃー! 覚悟しろ、毛狩り隊!」

「ねぇ、ちょっと! なにこのカツラ!? しかも取れないんだけど!?」

 

僕の文句を余所にボーボボは勇ましく毛狩り隊に向かっていった。僕はそんなボーボボを追いかける。

 

「いくぜ、鼻毛真拳奥義、鼻毛激烈拳!」ズバーン!

「ぎゃああああああ!!」

「鼻から出た鼻毛で毛狩り隊を倒したーーー!?」

 

あまりの光景に驚くばかりである。ていうか、土下座交渉じゃなかったの!?

 

「ボーボボ……今のって……」

「今のは鼻毛真拳。鼻毛を操って攻撃する真拳だ」

「そ、そうなんだ」

「てめぇら! よくもやってくれたな!」

 

あまりの事実に驚いていると、誰かが声を掛けてくる。声の方を向くとそこには額に体調らしき男がいた。

 

「てめぇら……よくも俺の部下をやってくれたな」

「だ、だれ……?」

「俺か? 俺は「話なげぇええええ!」ぐはぁ!?」

「えぇえええええ!?」

 

名乗ろうとした瞬間、敵がボーボボに仕留められてしまい、そのまま敵は気絶してしまった。結局、この敵が誰なのか分からずじまいだった。

 

「ボ、ボーボボ。いくら何でもひどいんじゃ……」

「いや、これでいい」

「な、何で?」

「こいつは使い捨てキャラだからな」

「そうなの!? いや、だからって名前ぐらい名乗らせてあげようよ!?」

 

ボーボボの言葉に驚く明久。気づけば彼はずっとボーボボに振り回されていたのであった。

 

こうして鼻毛の貴公子、ボボボーボ・ボーボボと観察処分者、吉井明久は出会った。その先に新しい日常と戦いが待ち受けていることは誰も知ることはなかった。

 

続くんじゃね?

 




ギャグって難しいですね。



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バカの進化形はハジケリスト2

前回のあらすじ

「おのれ、ザイガル! よくも松本さんの命を!!」
「ハッハッハ! 来るがいい、ボボボーボ・ボーボボよ! 貴様の命を刈り取ってくれる!!」

魔王ザイガルによって命を奪われた相棒、松本さん!
その敵を討つため光の勇者ボーボボは最後の戦いに挑む!


「って、違――――う! デタラメを書くなぁーーーー!!」


※松本さんは出ません。


第二話:今日は楽しいショッピング♪ ママ、僕おやつがほし~い!

 

「いらっしゃいませ~」

「さて、さっさと買い物を済まそうっと」

 

毛狩り隊が襲ってきた日から翌々日。日曜日の夕飯の為に今日は大型デパート「強奪デパート」に来ていた。名前に反して、お値段がお手頃価格で売られていることで有名だ。

 

「明久、今日の夕ご飯は何なんだ?」

「今日はピーマンの肉詰めとその他諸々」

「え~、ピーマンがあるの~?」

「我が儘言わない。いい大人が好き嫌いするって格好悪いよ?」

「やだやだ! ピーマンなんてしょっぱくて苦くて臭くてドロドロしていてレーズン臭くてやだー!」

「ピーマン一つでぼろくそな言い様だね!? ていうかレーズン関係ないよ!?」

 

店内でピーマンが嫌だと駄々こねる大の大人が一人。傍から見たら異様としか言い様がない光景に周りの人たちもヒソヒソと遠ざかっていく。正直、すごい恥ずかしい。

 

「ちょ、ボーボボ、やめて! 周りの人が見ているから!」

「やだやだやだー! ピーマンなんてやだやだやだ!」

「だからやめてってば!!」

「わかった」

「あっさりやめた!? じゃあさっきの駄々コネはなんだったの!?」

「何となくやってみた。いや~大の大人がするもんじゃないな」

「じゃあすんなやぁ!?」

 

頭を掻きながら平然と言い放つボーボボに僕はツッコミを入れる。やっぱりボーボボは意味が分からない。これ以上ここにいてもしょうがないので、僕とボーボボは食品売場に向かった。ここで僕はボーボボにお小遣いの300円を上げて、一人で買い物を始める。ボーボボが「よっしゃー! ヤンバルクイナ買ってくるぜ!」と言ってどっかに消えていった。

 

あれからボーボボは僕の家に居候することになり、夢の一人暮らしは夢幻のごとく崩壊した。まぁ、いつもボケ続けていると言うわけではないが、それでも隙あればボケるので思わずツッコミを入れてしまっている。

 

(まぁ、それぐらいなら問題ないんだけどね)

 

家の中が明るくなったり、この頃良いことがなかったからいい気分転換にもなったので、それは別に良いことだ。だが、僕の頭を悩ませているのはボーボボのことではない。

 

「ママ、あの人、髪の毛がなが~い」

「そうね~」

「うぅ……」

 

そう、ボーボボに被せられたカツラが取れないのである。おかげでカツラと地毛と同時に洗うことになり、ものすごく大変なのだ。さらに町中ではどうゆうワケか女の子と間違えられるし。

 

「秀吉もこんな気持ちだったのかなぁ……」

 

男なのに外見だけで女と間違えられるのってやっぱり辛い。僕の顔は365度、どこからどう見ても男の子なのに。

 

「まぁ、気にしてもしょうがないよね。さて、食材食材っと……」

 

気を取り直して買い物をすることにした。今日はピーマンの肉詰めに野菜炒め煮といった具合にする予定だ。野菜が若干多いが、まぁ、大丈夫だろう。

 

「まずはピーマン。次にキャベツに……あ、もやしが安い。買っとこ」

 

なるべく質が良く、安い商品を買っていく。今日は安売りが多くあるので、あっという間にカゴの中身が一杯になっていく。

 

「これぐらいかな? おっと、糸こんにゃくを忘れていた」

 

ふと思い出し、練り物のコーナーに向かう。糸こんにゃくは色々と使えるから便利なんだよね。カゴを持って練り物のコーナーに着くと糸こんにゃくを見つける。

 

「あった。糸こんにゃくっと」

「お嬢さん」

「はい?」

 

糸こんにゃくを取ろうとした時、いきなり呼びかけられたので声がした方に向く。

 

 

そこにはこちらを凝視するオレンジの物体とゼリーの物体がこちらを見ていた。

 

 

(……は?)

「お嬢さん、今日はこんにゃく料理かい?」

「偉いねぇ、その年でよ」

 

商品棚に鎮座する形容しがたき何かを前にして僕の頭はフリーズした。

 

(えっ、何、えっ? 何……これ……)

「俺達さぁ、普通なら100円のところだけど今なら10円なのよ」

「10円よ、10円! 安いと思わないあなた!?」

 

何か喋っているけど目の前の事実に頭がついていけず、理解を拒んでいる。というよりもコイツら何?

 

「買い時よぉ! ところ天の助がお買い得よぉ!」

「今ならストラップも付いてきて……お嬢さん、聞いている? 人の話?」

 

オレンジの物体が何か叫んでいるが、やっぱり耳に入ってこない。これほどの衝撃はあの暴走族型野菜集団以来の衝撃だ。

 

「おい、嬢ちゃん」

「えっ!? は、はい。何でしょうか……?」

 

急に呼びかけられ、我に返った。どれぐらい意識が飛んでいたのか分からない。だが、ゼリーとオレンジの物体はこちらを見ていた。

 

「「人の話聞けやぁーーーーーーー!!」」

「ひぃーーー! すみませーーーん!」

 

いきなり怒鳴られて思わず女の子のような悲鳴が出たということも、今回ばかりは仕方がないと僕は思う。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

『ありがとーございましたー!!』

「……はぁ~」

 

デパートから多くの歓声と共に送り出されたというのに、僕の気分は晴れない。どうしてかは目の前の二人のせいである。

 

「やったよー! 僕、買われたよー!」

「苦節数十年、ようやく……ようやく俺は普通の客に買われたのだ!」

 

オレンジの物体こと首領パッチ、ゼリー状改めところ天の何かことところ天の助の二人は周りの人がいるのにも関わらず、バンザーイと大喜びしている。買われたことがそんなに嬉しいのだろうか?

 

「結局コイツらのせいで夕ご飯は買えなかったし……」

 

コイツらに目を付けられた後、カゴの中にあった商品は片っ端から捨てられてコイツらだけを買わされてしまったので、この後またどこかのスーパーで買い物をしなければならない。商品券を大量にもらえたのが、せめてもの救いだ。

 

「ゲヘヘ、お嬢さんよ。アンタは良い買い物したぜ~? 何せこの首領パッチを買ったんだからな?」

「しかもこのところ天の助というまっこと美味な食べ物を買ったんだぜ? あんたいい目しているよ?」

「うぅ……」

 

しかもこいつら、予想以上に鬱陶しい。さっきからこっちに迫ってきては、こうやって絡んでくるのだ。正直、ボーボボ以上だ。

 

「また買い直しか……」

「お~い、明久~」

 

その時、後ろからボーボボの声がしたので振り向くと、そこには満面の笑顔をしたボーボボがいた。すごい、恨めしい。

 

「お帰り……」

「見ろよ、この見事なヘラクレスオオカブト」

「何でカブトムシ!? ヤンバルクイナを買いに行ったんじゃなかったの!?」

「ばっか、おめぇヘラクレスオオカブトだぞ!? 男の子の夢じゃねぇか!」

「うるせぇ! こっちは変な生物を買ってしまって落ち込んでいるんだよ! ツッコミさせんなやぁ!」

「変な生物?」

 

怪訝そうに聞いてくるボーボボにアレと言って指を指す。そこには「乙女のエチケット!」と叫んでタマネギを擦りつけているアホ二匹がいた。その二人を見た瞬間、ボーボボの顔色が変わる。

 

「お、お前らは……!」

「「お、お前は……!」」

 

三人はお互いを見た瞬間、カブトムシを僕に預けてドラマさながらに駆け寄っていった。

 

「首領パッチ~、天の助~!」

「「ボーボボ、ボーボボ~!」」

「あ、その二人のせいでまた買い直しだから」

「なにやってんだテメーらーーー!!」

「「ぎゃあああああああああああ!!」」

 

感動の再会と思いきや、僕の一言で生物二匹はぶん殴られた。何と見事な右ストレートに左ストレートが綺麗に入った。そのまま三人は喧嘩し始めた。

 

「人の邪魔してんじゃねー!」

「うるせー! テメーだけ目立とうたってそうはいかねーぞ!」

「そうだそうだ! 俺達にだって目立つ権利はあるんだよ!」

「バカばっかだね……本当……」

「まぁ、そうしょうげるなよお嬢さん」

「うん……そうだ……キィアアアシャベッタァアアアアア!?」

 

いきなりカブトムシが喋ったので驚いてカブトムシが入っていたケースを手放してしまった。ゴトリと地面に落ちるケース。その瞬間、筋肉ムキムキになってヘラクレスオオカブトがケースから人間サイズで出て来た。

 

「痛てぇな、おい! 何をしやがる!?」

「ヒィイイイ! すみませーん!」

「あー、痛てぇ。ホント痛てぇ。こりゃ、捻挫か打撲したぜ、絶対。どーしてくれるんだよ?」

「ご、ごめんなさい……悪気はなかったんです……」

「ゴメンで済むとおもってんのか!? おい!?」

(だ、だれか……助けて……)

 

今まで祈ったことのない神様、仏様、「ところ天」様……。誰でも良いから、この変な生き物から助けて……。腰が抜けて、うまく身動きができない。その間に奴は近づいてくる。

 

「とりあえず慰謝料500万は(ポンポン)あぁん!?」

「なにやってんだお前」

「調子に乗っているな、この新人」

「締めるか」

 

そう言うと三人はチンピラカブトを空中に放り投げると三人も一緒に飛び上がる。そしてもみくちゃになった後。

 

「「マッスルドッキング!!」」

「「ぐはぁ!!」」

「えぇーーー!? 首領パッチも!?」

 

こうして、チンピラカブトと何故か天の助を退治した二人はお互いに手を合わせて「やったなボボ肉マン」「あぁ、テリの助」とやりきった感じで締めた。

 

「えっと……とりあえずボーボボ。助けてくれてありがとう」

「気にするな」

「俺達は偉大なるグレートの意志を継いだだけだからな」

「誰だよ……グレートって……」

 

これ以上はあまり変なのに関わりたくないため、さっさと夕飯のおかずを買って帰ろうと思ってデパートの方を見たその時、デパートの屋上からビームが放たれた。

 

「ビーム!?」

「こいつに落書きしようぜ」

「『私はオカマです』って書こうぜ」

「内容がヒド!? ってそれどころじゃない!」

 

ビームはチンピラカブトに落書きをしようとしているボーボボ達に向かってきている。二人は気づいておらず、このままでは危ない。僕は二人に向かって走り出した。

 

「危ない! 二人とも!」

「「うおぉ!?」」

「がっ!?」

 

二人を突き飛ばしたが、その瞬間ビームの直撃を喰らってしまう。喰らった衝撃で意識が徐々に薄れていく。薄れる意識の中、ボーボボが心配そうにこっちに向かってきているのが見えたが、首領パッチは一生懸命メイクしている姿が見えた。

 

何でメイクしてんだよ……そう思いつつ、僕の意識は闇へと沈んでいった。

 

 

◇◆◇

 

 

「明久―――!」

 

ビームの直撃を喰らい倒れていく明久にボーボボは急いで駆け寄る。気絶した明久を炊きあげると、明久の額に『抜』という人文字が浮かんでいた。

 

 

 

気が向いたら続くと思う。




ギャグは本当に難しいですね。


知らない人のための諸設定。

吉井明久
文月学園2年Fクラス所属の生徒で誰にでも明るく、他人のために一生懸命になれる少年。原作の主人公で、彼の周りにはいつも彼を含めたバカ騒ぎが起こっている。

ここから本小説の追加設定
家族内では地位が低かったため、せめて理人の前では兄らしくしたいと思っていたのだが、貧乏くじをよく引く運の悪さと、頑張ろうとして空回りするということが重なった結果、だいぶ理人に迷惑をかけてしまった。
そのため、自分自身にあまり自信を持てず、自暴自棄になりかけていた。そこにボーボボが現れたため、現在彼に振り回されている。


ボボボーボ・ボーボボ
毛の王国出身の7代目鼻毛真拳伝承者。全世界の毛の平和のために現在も戦っている。
ハチャメチャで且ついい加減な性格ではあるが、胸の内に秘めた正義感は熱い。鼻毛真拳という明らかにおかしい技を使うが、これでマルハーゲ帝国といった敵を倒している。
今回は明久の召喚獣召喚に呼ばれ、明久の元に馳せ参じ、明久と共に生活している。
ちなみに彼のこれまでのことを説明すると、それだけで笑えるので、皆さんもぜひ彼のことを調べてみて欲しい。


首領パッチ
ハジケ組の親分にして生粋のハジケリスト。
俺様的な性格で、ボーボボ同様ハチャメチャである。彼に対しては今後に期待。


ところ天の助
元毛狩り隊Aブロック隊長にして、コンビニで10円で売られていた何か。
目立ちたがり屋ではあるが、痛い目に遭うのは嫌らしく、戦闘にはあまり出たがらない。ちなみに彼は一応分類として「ところ天」という食品であるため、食べられるのだが、賞味期限切れでマズイらしい。ちなみにゼリーがちょっと含まれている。
彼に関しても今後を期待。


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バカの進化形はハジケリスト3

あらすじ
ノベロン星人の攻撃によって地球は未曾有の危機に陥っていた。誰もが絶望する中、たった一人立ち上がる者がいた。人々の希望を一心に背負い、敵をなぎ倒していく姿を見て彼らは彼のことをこう呼んだ……。
救世主……と。
これはノベロン星人と戦う救世主、「ところ天の助」とその仲間達の勇姿を描いた壮大な物語である。







「いや、そんな物語じゃないからね!?」



第三話:これってデジャブ? ならば出陣じゃー!

 

 

「やばいよボボ美! この娘、死んじゃったんじゃないの!?」

「そうよ、きっとそうよ!?」

「落ち着きな、パチ美、天子」

「「だって!」」

 

ビームの直撃を喰らって横たわる明久の近くでボーボボとパチ美、天子はなぜかスケ番スタイルになって話し合っていた。

 

「このことは3人だけの秘密だよ。バラしたらアンタらもタダじゃおかないからね」

「でも……やっぱり駄目よ!」

「そうよ、天子の言う通りよ! 警察に自首しましょう!」

「アタシに意見するんじゃないわよ」

 

自首を促すパチ美と天子だったが、ボボ美は聞く耳を持たず逆に剣玉を構えて脅してきた。

 

関東スケ番連合の頂点に立つスケ番グループ『昇天天使(エクスタシー)』のヘッド、ボボ子。そんなボボ子のやり方に付いていけなくなっている自分に苛立ちを感じるパチ美と天子であった……。

 

その夜、二人はパチ美の家に集まり今日のことを話し合っていた。

 

「不味いことになったわよね、パチ美」

「そうよね……あの娘の霊とか出ないかしら……心配だわ」

 

二人は今日の昼のことを話し合っていた。やはり気になっているらしい。

 

プルルル、プルルル。

 

とそこにパチ美の携帯が鳴った。

 

「誰から?」

「ちょっと待ってね……ボボ子からだわ。(集会の誘いかしら?)」

 

何気なく携帯を手に取り、もしもしと電話に出る。

 

「パチ美助けて!! 助け……ぎゃあああああああ……ブツン!」

「ボボ子!? どうしたのボボ子!!?」

 

電話に出るとボボ子の悲鳴が響き、突如として切れる。パチ美は安否を確認しようとしたが電話は通じず静寂だけが残る。

 

「どうしたのパチ美!? まさか……!」

「はわわ……」

 

天子も悲鳴に驚いてパチ美に尋ねるが、パチ美にも何が何だか分からずにいた。

 

「まさか……あの娘の幽霊が……!」

「ウソ……どうしよう、天子!」

 

夜の部屋に響く二人の困惑とした声。

 

ガチャ!

 

「「誰!?」」

 

急に開いたドアの方に二人が振り向くとそこには大型の豆電球がいた。

 

「オ・ハ・ヨ・ウ・ゴ・ザ・イ・マ・ス」

「「いやぁぁぁぁぁぁ!! 体が光っているぅ!!」」

 

ガシャーーーン!!

 

「エナジーバスター!」

 

突然窓からロボットが現れて豆電球を破壊した。パチ美と天子はそのロボットを見て驚く。

 

「大丈夫? パチ美、天子?」

「あんたはボボ子!?」

「あんた、ロボットだったの!?」

 

そう、何を隠そうロボットは自分たちのリーダー、ボボ子だったのだ。だが二人には驚いている時間はない。

 

「説明は後よ。ギャラット軍が攻めてくるわ」

 

そう、この3人はこれから始まる壮大な宇宙大戦に巻き込まれたばかりなのである……

 

次回、エナジーバスター。第二話「星の声」

君は宇宙を体験する……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何やっているの?」

 

まぁ、新しい番組が始まるわけもなく、明久はすでに目を覚ましていた。大層な攻撃の割には怪我一つない状態であるが。

 

「よぉ明久、目を覚ましたか。自分の額見てみ?」

「額? 何があるって言うのさ……」

 

そう言われて明久は鏡を探し、天の助が鏡代わりになるのでそれを利用して、額を見る。そこには敗者の刻印がごとく『肉』ならぬ『抜』の一文字が浮き出ていた。

 

「うそぉ!? 何コレ!?」

「天の助先生! この症状は一体なんでしょうか?」

「うむ、首領パッチ君。これはじゃな……アクマイト光線じゃ」

「なわきゃねーだろ!」

「ぶへぇ! ふっといてそれはねぇだろ!?」

「どうしよう! 拭いても取れない!」

 

首領パッチとところ天の助の小芝居を無視して額の文字を消そうとするが、拭いても拭いても取れない。困惑する明久を見て、ボーボボはこの現象に覚えがあった。

 

「これはまさか!」

「その通りだボーボボ」

「き、貴様は……!」

 

突如、声がしてその方向を見るとそこには紫色の肌をして、とがった耳のハゲがいた。彼の名は……

 

「「「大谷先輩!!」」」

 

……ではなく、毛狩り隊Cブロック所属ゲチャッピである。

 

「それは毛抜きビーム。これを食らった者は後10時間で全ての髪の毛が抜け落ちる……その女は出しゃばりすぎたな」

「えっ……!?」

 

そう言われて明久は即座にハゲになった自分を想像した。

 

想像

『アッハッハッハッハッハッハ!?』

「おい明久!? な、何だその劇的ビフォーアフターは!?」

「は、腹が……腹が……!?」

「出家でものかのぉ!?」

「あ、明久君……プッ。あ、す、すみま……ププッ!」

「あ、アキ……あんた……アッハッハッハ!」

『アッハッハッハッハッハッハ!』

想像終わり

 

「嫌だぁああああああああ!!」

「状況を理解したようだな! 次は貴様だボーボボ!」

 

混乱する明久を余所に、ゲチャッピは毛抜きビームをボーボボに向かって放つ。ボーボボは混乱する明久を宥めようとしていてそれに気づかない。

 

「危ないボーボボ、吉井!」

「「うおぉ!?」」

「GU☆WA!?」

「「首領パッチ!?」」

 

ボーボボと明久を庇って首領パッチがビームの直撃をくらう。ビームの直撃をくらった首領パッチはそのまま倒れてしまう。

 

「首領パッチ! 大丈夫か!?」

「うそ……僕たちを庇って……!」

「おい、しっかりしろ! 首領パッチ!」

「ちっ、また避けられたか!」

 

倒れた首領パッチに駆け寄る三人。ゲッチャッピも本命のボーボボに当たらず悔しそうにしている。そして毛抜けビームの効果で額に文字が浮き出てきた。

 

『チューナー ☆3』

 

「「遊戯王!?」」

「よし! 後は任せろ首領パッチ!」

「いけ、ボ星!」

「あぁ、クロの助!」

 

驚くゲチャッピと明久を余所にボーボボと天の助は意気揚々とデュエルの用意をしていた。そしてボーボボの反撃が始まる。

 

「俺は手札から『濡れた雑巾☆2』を召喚! 更に『濡れた雑巾』の効果により『水の入ったバケツ☆3』を特殊召喚する!」

「何一つ期待できない素材だ!?」

「☆の合計は8つ! まさかボ星、ここでアレを召喚するのか!?」

「な、何が出てくるんだ!?」

「チューナーモンスター、首領パッチ(☆3)に雑巾(☆2)とバケツ(☆3)をチューニング!」

 

ボーボボの言葉と共に首領パッチは3つの光の輪に変化する。そこに雑巾とバケツが入り込む。

 

「集いし願いが、新たに輝く星となる! 光射す道となれ! シンクロ召喚! 飛翔せよ! スターダスト・ドラゴン!」

「スゴイの召喚した!?」

 

ボーボボの言葉と共に雑巾とバケツが光り、その姿を別のものに変化していく。光が収まるとそこには胸と肩に水晶体が付いた白と水色を基調とした銀色の竜が登場した。

 

「響け! シューティング・ソニック!」

「ぎゃあああああああ!!」

(うわぁ~、開幕ブッパだ……ていうか、完全にパクリじゃん……)

 

現れた竜の一撃により、ゲチャッピは倒れた。ゲチャッピが倒れると銀色の竜もいなくなった。

 

「あれ、首領パッチはどうなるの?」

「呼んだか?」

「あれ!? 君、シンクロ召喚の素材になったんじゃなかったの!?」

「あぁ、俺って墓地に行ったらフィールドに特殊召喚できるのよ」

「何その不死身……下手したらずっと生きていられるじゃん……」

 

墓地に行ったハズの首領パッチは自身の効果によって蘇ったらしい。まぁ、普通に考えてこいつが死ぬとは考えられないが。

 

「でも、どうしよう……額の文字が消えない……」

「その毛抜けビームには、確か解毒剤があったはずだ。それさえあれば治るのだが……」

「別にいいんじゃねーの? ただ禿げるだけだろ」

「あぁ?」

「ごめんなさい」

 

首領パッチの言い方に明久が半キレで睨みつけると、首領パッチはすぐに謝った。どうやら本能的に恐怖を感じたらしい。

 

「つーか、何で毛狩り隊がいるんだよ?」

「恐らく残党かなにかだろう。まだ根絶やしにしてないからな」

「素で恐ろしいこと言わないでよ」

「おい! コイツ、何かのメモもっているぜ!?」

 

ボーボボと天の助で話し合っていると、首領パッチがゲチャッピの懐からメモ帳みたいなものを取り出していた。どうやら追いはぎ的なことをしていたらしい。

 

「何が書いているんだ?」

「えーと……お、これとか結構重要じゃね?」

「どれどれ……」

 

ペラペラとページをめくっていると、首領パッチが何か見つけたらしく、そのページで止める。僕たちも気になって覗いてみるとそこにはこんなことが書いてあった。

 

にんじん 5本

キャベツ 1玉

牛乳 1本

ゲームソフト 何か

 

「ただのお使いのリストじゃん……ってあれ? 下の方に……」

 

新Cブロック基地 ここらへん

 

(……どこらへんだよ)

「なるほど、なるほど……分かるかぁ!」

「ぶへぇ!?」

 

意味が分からず、ボーボボは近くにいた天の助に八つ当たりした。天の助にしてみれば、ただ迷惑なだけである。

 

「おい、お前ら! こっちを見ろ!」

「何だよ……今考えているから」

「駅名に『新Cブロック基地』って書いてあるぞ!」

「うそぉ!?」

 

首領パッチの発言に驚いて、明久は思わず近くの駅で駅名を確認する。すると確かに“新Cブロック基地前駅”と書かれていた。

 

(電車で行けるのかよ……)

「でかした、首領パッチ! すぐに乗るぞ!」

「おうよ! 俺が人数分の切符を買うから、お前らは改札口の前にいろ!」

「わ、わかったよ!」

 

首領パッチの指示に従い、明久と天の助、ボーボボは改札口で首領パッチを待つ。少しすると首領パッチが人数分の切手を持って、こちらに来る。

 

「切符を買ったぞ!」

「よし、すぐに乗るぞ!」

 

切符を受け取り、四人はすぐさまホームに駆け込み、電車に向かう。

 

『まもなく電車が出発します。ご乗車のお客様はお急ぎください』

「まずいよ! もう電車が出ちゃう!」

「飛び乗れ!」

 

ボーボボの指示に従い、四人は電車に飛び乗った。間一髪、間に合い、電車に乗車することが出来た。

 

「はぁ~、危なかった」

『駆け込み乗車はおやめください』

「あはは……まぁ、しょうがないか」

 

電車の中で駆け込み乗車を注意するアナウンスがかかり、まぁ、しょうがないかと僕たち四人は笑って流す。まぁ、これでハゲることもないかなと安堵した。

 

 

『ご乗車いただきありがとうございます。この電車は“ハレルヤランド”、直通でございます』

 

 

「……え?」

 

安堵した瞬間、明久は耳を疑った。“新Cブロック基地”ではなく“ハレルヤランド”。しかも直通という放送に。明久とボーボボ、天の助は首領パッチを慌ててみると、首領パッチはガッツポーズして言い放つ。

 

「お前らも行きたかっただろう?」

 

やけに格好良く決めて首領パッチは言い放った。この態度にイラッときたボーボボと天の助は当然のごとく首領パッチに殴りかかった。

 

「「なにやってんだテメェー!!」」

「ぎゃあああああああああああ!!」

「ハ、ハハ……ハハハ……ふぅ」

 

殴り合いを始める三人を余所に、禿げる未来が確定した明久は現実に耐えかね、ついに意識を手放したのであった。

 

 

 

 

続いたら運命的な感じがする。



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バカの進化系はハジケリスト4

勢いってすごいですね。勢いだけでギャグってできるものなのかな?

それでは、どうぞ。

……これってもう連載になってない?


第4話:サボリとは! 己の淵より湧き出るものであり、生物古来の本能である!

 

「お~す」

「おはようなのじゃ」

「おはよー坂本」

 

朝のいつもの時間帯に登校すると、そこには同じクラスメートの秀吉と島田がいた。二人は何か話し合っていたようだ。

 

「月曜は相変わらず憂鬱だな」

「お主、今の教室の惨状を見ても余り動じないとは……」

「負けは負けだからな。次勝ちゃいいし」

「ウチはこんなの嫌よ」

 

秀吉と島田に言われて教室を見渡す。相変わらずボロい畳にひび割れた窓で、変わったところと言えば卓袱台がみかん箱になり、元々酷かった環境が余計に悪くなってしまった。

 

「これもそれもあそこで明久が召喚獣の召喚を失敗するからだ」

「それ以前から負けフラグは立っていたと思うのじゃが」

「ていうか、あれって本当に失敗だったの?」

 

あの騒動の後、「どうせAクラスが勝っていた」という学園長の勝手な判断でFクラスの敗北が決まった。だが、実際に戦っていないので設備のランクダウンは卓袱台だけで済んだ。それでもルールにより3ヶ月間、試召戦争はできなくなってしまったが。

 

「あの時、何が起こったのかよく分からなかったのじゃが……」

「俺もだ……明久に確認しようにも『雄二に構っている暇はない!』と言って、話も聞こうともしねぇ」

「アキにかぎって忙しいとかはないと思うけど……」

「おはようございます、皆さん」

 

明久のことについて話していると、そこに一人の少女が挨拶する。声がする方を向くと、そこにはピンク髪の少女、姫路瑞希がいた。どうやら今、登校してきたようだ。

 

「おはよー、瑞希」

「おっす、姫路」

「おはようなのじゃ」

「皆さん集まって、何を話していたんですか?」

「あぁ、明久(バカ)についてちょっとな」

「今、明久と書いてバカと読まんかったか?」

 

アイツのことをバカと言って何が悪いのだろうか?

俺は心底不思議の思い、秀吉を見る。秀吉は「お主という奴は……」とため息混じりに言って呆れていた。何故だ?

 

「明久はこの頃思い悩んでいたのじゃぞ? 少しは思いやってはどうじゃ?」

「無理だな。アイツが弟の教育を間違えるからあんなことになったんだ。むしろ責任を取って欲しいもんだ」

「いくら何でも言い過ぎじゃない? アキだってお兄さんとして頑張っていたわけだし……」

「その結果がアレだ。そもそも俺が煽るまでもなく、他の連中が騒いでいただけだからな」

「明久君、大丈夫でしょうか……」

 

明久のこと考えて不安げになる姫路と島田。秀吉も不安げな表情だ。俺からすれば、あの意味不明な状況について説明しろってことぐらいだ。

 

「……明久のことだから、どうせいつもの調子で来る」

「よぉ、ムッツリーニ。お前も明久を心配しているのか?」

「野郎のことなど心配しない」

「これ以上にない程に断言したな」

「お前ら、席に着け」

 

ムッツリーニも来て、これからのことを話そうかと思った矢先、何故か鉄人がFクラスにやってきた。何故担任でもない鉄人がやってくるのだろうか?

 

「あれ? 何で西村先生がFクラスに?」

「そのことも含めて説明してやるから席に着け」

 

鉄人を敵に回しても良いことはないので、素直に席に着くことにした。全員が席に着いたところで鉄人が話を始める。

 

「さて、お前ら。各々疑問があると思うが、まず何故俺がFクラスに来ているのか説明しよう」

「そうだ、何で鉄人がFクラスにいるんだよ」

「俺達の担任は高橋先生だろ?」

「バカ、大岩先生だ」

「つーか、担任っていたっけ?」

「お前らは……そんなんだからBクラス、Dクラスに勝ったのも奇跡と言われるんだぞ」

 

若干数名のバカ共の発言に呆れる鉄人。そういえば、俺らの担任って誰だ?

全く思い出せねぇ。

 

「いいか、今回の一連の試召戦争。確かにお前らはよくやった。Fクラスがここまでやるとは正直思わなかった。だがな、いくら『学力が全てではない』と言っても、人生を渡っていく上では強力な武器の一つなんだ。全てではないからといって、ないがしろにしていいものじゃない」

「それは分かったが、何で鉄人がわざわざFクラスに来てまで話すんだよ」

「それはな、今日から俺がFクラスの担任になるからだ」

『なにぃっ!?』

 

いきなりの衝撃発言にFクラス男子一同全員が悲鳴を上げる。当然だ、補習の鬼と言われている鉄人がFクラス担任だと!? ありえねぇ!?

 

「何せA級戦犯の坂本と観察処分者の吉井兄がいるクラスだ。二人は特に念入りに監視してやるから覚悟しろ」

「そうはいくか! 鉄人の監視の目をくぐり抜けて、いつも通りの生活を送ってやる!」

「……お前には悔い改めるという発想はないのか」

「……そういえば、まだ明久が来ておらんの?」

 

ため息混じりに呟く鉄人の後に、ふと思いついたように秀吉が明久がまだ来ていないことに気づく。そういえばあのバカ、まだ来ていないな?

 

「さっそくアイツは遅刻か……誰か、連絡を受けている奴はいないか?」

「アイツのことなんか知るかよ」

「弟の教育もロクに出来ないもんな」

「ふと思ったけど、吉井って女装したら可愛くね?」

「TSなら考える」

「お前……天才か?」

「……いないようだな」

 

誰も明久のことについて知るものはいないらしく、鉄人は俺の方を見る。

 

「坂本、一回だけ携帯で電話することを許可してやる。吉井に掛けろ」

「何で俺が……」

「補習時間を吉井兄の分、加算するぞ」

「今すぐ電話を掛けますのでお待ちください西村先生」

 

俺は快く鉄人の頼みを聞き、自前の携帯電話で明久に電話する。決して補習時間が延びるのが嫌だからではない。3回コールが鳴った後、明久が電話に出る。

 

『雄二? 何、突然?』

「おい、明久。今何時だと思っていやがる。もう学校、始まってんぞ?」

『いや、そんなことは雄二に言われなくても分かっているよ』

「だったら早く来い。鉄人がお前を待っているぞ」

『そうは言っても「おーい明久、何処に行くか決まったか?」だから待ってって、もう……』

「……お前、今どこにいる?」

 

何やら要領を得ない会話をする明久を不審に思うのと同時に、一緒に聞こえてくる遊園地のBGMに疑問を持った俺は場所を尋ねる。コイツ、今どこにいやがるんだ?

 

『え~と「いや~二回目とはいえ、今日は毛狩り隊関係なしに楽しめるから良いよな、ハレルヤランド」ちょっ!?』

「……はぁ?」

『三人とも「だよな。この間は俺、悲惨な目にしかあわなかったし」あ、雄二! 後で電話するから!』

「あ、おい! ちょっと待て!」

 

気になる言葉が聞こえたため、そこを追求しようとしたが、切られてしまった。ツーツーと音が鳴り響く中、全員が俺を見る。俺に視線が集中する中、俺は鉄人に対して先程のことを言う。

 

「……明久は今、ハレルヤランドにいるそうです」

「……なに?」

「おい、ハレルヤランドって?」

「お前、知らないのか? 世界一のテーマパークで有名な遊園地だよ」

「一時期、ところ天ランドっていう変なのに乗っ取られたって聞いたぜ?」

「そこからまた再建したとも聞いたぜ」

「……そうか、そんなに吉井兄には補習が必要か」

『ビクゥッ!?』

 

ザワザワと全員が騒いでいると、教壇の方からとてつもない気配を感じた。全員驚いてそちらを見ると、そこには周囲の景色を歪ませる程のオーラを放つ鉄人がいた。

 

「無断欠席だけでは飽きたらず、テーマパークで遊ぶとは……学生というものを舐め腐っているな……」

「な、何じゃ……この鉄人のオーラは……」

「い、今まで見たことがない……」

「ア、 アキ……一体どうなるの?」

「少なくても無事じゃ済まないだろうな……」

 

こりゃアイツ、死んだな……と心の中で明久に合掌した。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

ゾクッ!

 

な、何だ今の悪寒は!? 今までで感じたことがないぞ!?

 

「どうした明久?」

「また禿げているかどうかが心配か?」

「あぁ?」

「すみませんでした」

 

首領パッチが余計なこと言ったため、睨みつけて黙らせた。全く、コイツはどうして余計なことを言うのだろう。

 

電車を間違えた後、気絶した僕が次に目を覚ましたのはハレルヤランドのホテルの一室だった。最初は呆然としていたが、重要なことを思い出したのと同時に、洗面所に駆けだした。何せ、毛抜きビームなんてものを喰らっていたのだから。

 

洗面所の鏡で恐る恐る自分の頭を見ると、そこにはいつもの長髪ヘアーが残っていた。あれっと不思議に思い、額を見ると『抜』という文字がちゃんと消えていた。どうゆうことだろうと首をかしげていると、ベッドのある部屋から悲鳴が聞こえ、そちらの方に行く。すると、そこには大量の毛を抱えた首領パッチがいた。

 

「う、嘘だ……まさか、明久の奴。髪の毛と一緒に消えてしまったのか……」

「い、いや、あの、首領パッチ……実は……」

「だーひゃひゃひゃ! だせぇ、マジだせぇ! 髪の毛と一緒に消えるってバカじゃねぇの!?」

「………」

「プークスクス! いやー、つまりよ。ここから俺が主役ってことだろ! 何せ本来の主役がいなくなったからな!」

「………」

「あーでも、禿げた明久はちゃんと見たかったな、本当。絶対笑いものだったぜ、プッ!」

「(プツンッ!)」

 

その後のことは良く覚えておらず、気がつけば首領パッチを血祭りに上げていた。途中入ってきた天の助とボーボボ曰く、まるで伝説の超サイヤ人のごとく、首領パッチをしばいていたらしい。

 

「その後は……どうしたんだっけ?」

「その後、レントゲンを撮った結果、お前に被せたカツラが地毛になったようだ」

「正直ホラーだろ、それ」

 

確かにホラーだけど、結果的に禿げなかったので良しとした。初めてこの意味不明なカツラに感謝した気がする。

 

「さて、これからハレルヤランドを回る予定だが……」

「いや、帰るよ」

「「「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!?」」」

「長い! しかも鬱陶しい!」

 

僕の帰る発言に過剰なまでに驚く三人。そこまで驚くことだろうか。

 

「何でだよ!? テーマパークだぞ!? 来たら普通遊ぶだろ!?」

「今日は平日。僕、学校」

「いいじゃねぇか、一日ぐらいサボっても」

「下手にサボったら鉄人に締められるからイヤ」

「「「ブー! ブー!」」」

「文句言わない!」

 

文句を言う三人を強引に捻じ伏せて、僕は駅の方に向かう。本当は僕だって遊びたいけど、こんなところで遊んだらなけなしのお金がすぐに吹っ飛ぶ。そしたら、また塩水生活に逆戻りだ。こんな問題児三人抱えた状態でそんな生活をしたくない。下手したら倒れる。

 

「ほら、帰るよ」

「しょうがないか……元は首領パッチのせいでここに来たんだからな」

「またの機会ってことにするか」

 

僕の呼びかけに応じてボーボボと天の助が渋々ながらも続く。なんだかんだ言っても、最後はちゃんと言うこと聞いてくれるので、こちらも助かる。また、駄々こねられても面倒くさいし。

 

「イヤァアアアアアアアアアアアア!!!!」

「うわぁ!? 何事!?」

「禁断症状だ!」

 

突然悲鳴を上げた首領パッチに驚いてそちらを向くと、この世の終わりのごとくムンクになっていた。ボーボボが禁断症状というけど、何の!?

 

「おっぱいビーム、おっぱいビーム」

「遊べないと分かったショックでおかしくなったんだ!」

「それだけで!? いくらなんでもおかしくなりすぎだよ!?」

「チロチロリン、チロチロリン……」

「こうなったら首領パッチは何をやらかすか、全くわかんねぇぞ!?」

「いやコイツ、元から意味不明「色男ッ!!」ぐへぇ!?」

 

ボーボボと天の助の二人と話していると、突然首領パッチが右ストレートを僕の鳩尾に叩き込んできた。いきなりのことで反応できず、直撃を食らってしまう。右ストレートをくらって倒れる僕を首領パッチが担いでどっかに連れて行く。

 

「まずいぞ! 今の首領パッチは何をするかわからない! 追いかけるぞ!」

「おう!」

 

薄れいく意識の中、ボーボボと天の助が僕を担いで走る首領パッチを追いかける姿が見えた。そして、僕は一言、思って意識が途切れる。

 

こいつ、何気に強かった……

 

 




今回はバカテス側の要素を多くしましたが、どうでしたか?

次回も考え付いたら、書きますので。


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バカの進化形はハジケリスト5

プライベートの都合上、今年も忙しく投稿がこんなに間が空いてしまいました。

今回の話は・・・・・・新キャラ、そしてコイツのために明久の髪を長くした。

それでは、どうぞ。


第5話:デジャブのようで、デジャブじゃない新キャラ達の進撃。

 

「・・・・・・う~ん」

「おや、気がつかれましたか?」

 

目を覚ますと、そこはよく風が吹く場所だった。周りには細いものしかなく、後は青空しか見当たらない。声がした方を向くと、そこには優しい雰囲気を醸し出す男の人がいた。

 

「いつまで経っても目を覚まさないものですから、少し心配になっていたところですよ」

「はぁ・・・・・・そうですか」

 

柔らかな物腰で話しかけてくれたおかげで、少し落ち着いた。落ち着いたところで、状況を整理しよう。

 

バカ(首領パッチ)のせいで、ハレルヤランドに来てしまったので、早々に帰ることにしたのだけど、バカ(首領パッチ)にまたも妨害されて、気絶して・・・・・・気づいたここにいました。

 

・・・・・・全部バカ(首領パッチ)のせいじゃないか。

 

「あのやろう・・・・・・」

「何かありましたか?」

「いえ、お気遣いなく・・・・・・って、あなたは・・・・・・?」

「あぁ、そういえば自己紹介がまだでしたね」

 

そう言うと、彼は笑顔で自己紹介をした。

 

「初めまして、私はシロ。あなたに一目惚れをしたものです、プリンセス」

 

・・・・・・うん?

 

「ちなみに、ただいま私の真拳の効果により、貴方の記憶は徐々に消えていっていますのでお覚悟のほどを」

「あの・・・・・・」

「はい、何でしょうか?」

 

自己紹介や何やらまずいことを言ってきているけど、そんなことは重要じゃない。この人、さっきなんて言った?

 

「あの・・・・・・」

「はい、何でしょう?」

「今、何て・・・・・・」

「私の真拳で記憶を消していると言ったのですが・・・・・・」

「いえ、そうじゃなくて・・・・・・」

 

すごく重要だけど、やっぱりそこじゃない。

 

「さっき、一目惚れしたって・・・・・・?」

「はい。言いましたよ」

「僕、男ですよ?」

「それが、何か?」

「いや、同性・・・・・・」

「なるほど、そうゆうことですか」

 

そう言うと彼はクスリと笑い、とても爽やかな笑顔で言い放った。

 

「愛さえあれば性別など関係ありません!」

 

・・・・・・・・・・・・

 

「変態だぁあーーーーーーーーーーーー!!?」

 

 

 

◇◆◇

 

 

遡ること数時間前。

 

「明久、目を覚まさねぇな~」

「割と強くいったからな~、もうちょっと耐えられると思ったんだけどな~」

「んーーーーー!! んーーーーー!!」

 

天の助を車代わりにして移動するボーボボと首領パッチ。明久が目を覚まさないので、とりあえず色々なアトラクションをまわったのだが、ツッコミ不在のため、いまいちテンションが上がらず仕舞いだった。

 

えっ? 天の助の状態?

 

うつ伏せのまま、滑走してスピード調節のため、口に紐を噛ませていますが何か?

 

「なぁ、財布の金。そろそろなくなりそうだしよ~、成金野郎にたかりに行こうぜ?」

「そうだな~、そうするか。というわけでスピードアップ!!」

「(グキッ!!)」

 

勢いよく紐をつり上げた時、嫌な音がした。何の音かと見てみると天の助の後頭部?から魂が抜け出ていた。

 

「(スゥ~~~・・・・・・)」

「あれ、どうした天の助?」

「おい、何か出てるぞ?」

「「・・・・・・ま、いっか」」

 

ドガン!

 

「「ぎゃあーーーーーーー!!」

 

天の助が幽体離脱したせいで、カーブできずそのまま柱に衝突した。まぁ、当然の結果と言える。

 

「いてて・・・・・・やっちまったな。交通違反になるか、これ?」

「人殺し! この人殺し!」

 

蘇った天の助が何か言っているが、ボーボボは軽く無視した。とりあえず周りを見渡してみると、そこには見覚えのあるタワーが建っていた。

 

「このタワーは確か・・・・・・」

「おい! ボーボボ!」

 

思い出そうとするボーボボに天の助が焦り声で声を掛ける。何だと思いながら振り向くと、そこには気絶した明久を抱きかかえる青年がいた。

 

「んだぁテメェ!? どこの組の者だコラ!?」

「話には聞いていましたが・・・・・・どうやって一瞬で服装を変えたのですか?」

 

ボーボボのにらみに対して冷静に返す青年を見て、天の助はコイツは強いと本能で感じた。何より、人間だし。

 

「ぎゃああああ! 俺が黒くなるぅーーー!?」

「・・・・・・話には聞いていたが、本当に謎生物だなコイツ」

「首領パッチ!?」

 

他の方では首領パッチが黒髪の青年に黒く染められていた。

 

(え、え!? まさか、次は俺!?)

「あ、よいしょっと(ズバァ!!)」

「ぎゃああああ!」

 

周りの仲間が次々にやられるところを見て、次は俺の番なのかと思っていた天の助に一人の少年が大剣を用いて真っ二つにした。

 

「わーい。一人撃破」

「それがどうした!?」

「えぇ!? 何でしゃべれるのぉ!?」

「それはよくある」

 

天の助はところてんである。なので、真っ二つにされても死なないのだ。

 

「てめぇら、一体誰だ! バカ三兄弟じゃないな!?」

「初めましてミスターボーボボ。私たちは絵心三兄弟です」

「俺は次男のクロ」

「私は長男のシロ」

「そして僕は三男のオレンジです」

「何でオレンジ!? そこは間取って灰色にしろよ!?」

「嫌ですね、普通自分の息子に灰色なんて名前をつける親なんていますか?」

(正論で返した・・・・・・だと!?)

 

急に正論で返されてしまい、戦慄する首領パッチと天の助。ボーボボはそんなことお構いなしに明久を抱きかかえるシロに言葉を投げかける。

 

「このタワーは確かバカ三兄弟がいたはずだが?」

「あぁ。彼らならリストラされました」

「リストラだと?」

「えぇ。ガムの噛みすぎで顎が壊れたそうで」

「えぇ!? 何それ!? バカじゃねーの!?」

「実際は俺とオレンジでズタボロにしたせいで、裏方にまわっただけだ」

「それはそれで怖えぇよ!?」

「ていうか、そろそろ戻れや黒ボックリ!」

「ぎゃあああ! ボーボボ、てめぇ!?」

 

いつまでも黒いままの首領パッチに腹が立ったボーボボは蹴りを入れる。コイツ、理不尽。

 

「つーかよ、そろそろ明久をこっちに返せよ」

「嫌です。彼女はこちらの人質ですので」

「・・・・・・うん?」

「だから、人質です。あなたたちをこのまま野放しにしていてはこちらの損害が大きくなる一方ですから」

「だからよ、さっさと帰れよ。そうすればコイツは無事に返してやるよ」

「断る。こっちも成金野郎に金を5億程せびる予定だからな」

「おい、何だその金額は」

 

あまりにも理不尽な金額に思わずクロはツッコミを入れた。コイツ、どれだけ酷いのか。

 

「そちらは帰る気はないと・・・・・・仕方ありません。では、強制退去してもらいましょうか」

「あ、じゃあ俺は田舎に帰る予定がありますので」

「てめぇに実家はねぇだろうが!」

「ぎゃああああ! 嫌だ! 戦いたくない! だって、人間で新キャラだぜ!? 絶対強いに決まっているじゃねぇか!」

「アンタって子はそれでもレギュラーキャラなの!? お母さん、悲しいわ!」

「お前、俺の母親じゃねぇだろへぶぅ!」

 

逃げようとする天の助をボーボボと首領パッチが強引に押しとどめる。それを見てクロは「こんな奴らに前任者は負けたのかよ・・・・・・」と内心思った。

 

「力尽くでも私たちと戦ってもらいますよ。カラー真拳秘奥義・・・・・・」

「あっ、待て! 明久に何をする気だ!?」

「人中白紙!」

 

シロが抱きかかえた明久に対して手をかざすと白い絵の具が明久の全身を覆った。だが、白くなったのは足下のみ。

 

「この真拳は時間制です。足下の白色が徐々に上に上がっていき、全身が白くなったとき・・・・・・」

「どうなるんだ!?」

「記憶が全部消えます」

「「「なにぃーーーーーーーー!!?」」」

 

衝撃の事実に驚く三人。それもそうだ、記憶がなくなるということは今までの思い出がなくなると言うことだ。三人は明久との思い出を思い出す。

 

「明久・・・・・・!」

(あぁ・・・・・・僕の秘蔵のコレクションが・・・・・・(大人の教科書類を全部売られて悲しんでいる明久の隣で大金を手に入れて喜ぶボーボボ))

「お前、素で酷いな!?」

「この野郎・・・・・・!」

(おーほっほっほっ! 主人公はこの私なのよ!!(隅っこでハンカチを加えて悔しがる明久を尻目に声高らかに喜ぶ首領パッチ))

「いや、絶対ねつ造だろコレ!?」

「おのれ・・・・・・!」

(今日の主食はところ天だよ(ところ天料理を持ってくる明久とわーいと喜びながら集まる天の助と首領パッチ、ボーボボ))

「「変なねつ造してるんじゃねぇー!!」」

「へぶぅ!?」

「・・・・・・(汗)」

 

あまりのねつ造に切れたボーボボと首領パッチが天の助に殴りかかる。その様子を見てクロは呆れ、シロとオレンジは楽しげに見ていた。

 

「フフフ・・・・・・面白い方々ですね。ですが、早くしないと本当に記憶を失っちゃいますよ?」

「ハッ! そうだった!」

「おい、さっさと明久を返しやがれやぁ!」

「待て、首領パッチ!」

 

シロの言葉に焦った首領パッチがシロに殴りかかる。そこにオレンジが割り込む。

 

「カラー真拳奥義・・・・・・」

「ハッ、何の真拳か知らないが俺を止められると思っているのかよ!」

「標識マグナム~♪」

「色関係ねぇじゃねかへぶぅ!?」

 

オレンジの手から突如『止まれ』の標識が現れて、首領パッチをすごい勢いで倒れ込んだ。急に現れたため、止まれずそのまま攻撃を食らう。

 

「首領パッチ!? くそっ、今のは一体何だ!?」

「簡単ですよ。オレンジが即座に空間に色つけをして、それをそのまま攻撃に転用した・・・・・・ただ、それだけです」

「嘘だろ!? じゃあ、あいつら全員それができるってことかよ!?」

「そういうことだ・・・・・・」

「くそ、やっかいな・・・・・・!」

 

さらなる衝撃の事実に驚くボーボボと天の助。まだ10話もいってないのに強敵出現である。

 

「さぁ、彼女を返して欲しければ私たちと戦いなさい! ボボボーボ・ボーボボ!」

「くっ・・・・・・いいだろう。明久は貴重なツッコミだからな!」

「・・・・・・あのさ」

「何でしょうか?」

 

いざ勝負、という空気の中天の助がシロに話しかける。

 

「さっきから明久のこと、女扱いしているけどよ・・・・・・そいつ男だぞ?」

「・・・・・・えっ?」

「まぁ、髪長くなっているし、中性的な顔つきだからそう見えるかもしれないけどよ。そいつ、れっきとした男だぞ?」

「・・・・・・あぁ、そのことですか」

 

天の助の素朴な疑問にシロはそのことかと一呼吸置き、返事をする。

 

「私、彼女・・・・・・いえ、彼に一目惚れですから」

「・・・・・・いや、だからそいつ」

「そして、両刀使いですから」

 

ポクポクポク・・・・・・チーン。

 

「「「こいつ、へんたいだぁーーーーーー!!!!?」」」

 




オリジナル新キャラ、絵心三兄弟です。

途中のアトラクションは省略しました。別に書くのが面倒だったわけじゃないんじゃよ?

それでは、また次回。


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バカの進化形はハジケリスト6

どうも、不定期かつ亀更新になってしまってる紫炎です。

この半年でまた色々あり、このように遅くなりました。まだ見捨てないでいてくれる読者様には感謝の極みです。

そして初めての人も、どうかお暇な一時にでもお読みください。

それではどうぞ。

※今回、明久は一言しか登場しません。だって・・・・・・ねぇ・・・・・・?


第6話:私の戦闘力は53万です・・・・・・そこに通貨をつけると「強く」から「高いな」に変わる不思議。

 

前回のあらすじ

まさかの両刀使いが登場である。

 

 

「変態とは失敬な、ただ好きになった人が同性なだけで何も問題はありません」

 

ボーボボ達の叫びに対して、シロはどこ吹く風という感じで受け流していた。本人は全く疑問に思っていないらしい。

 

「まさかだぜ・・・・・・いきなりホモが現れるとは」

「恐るべし・・・・・・世の中は広いぜ」

「くそぉ、新キャラのくせに何てキャラが強いんだ・・・・・・」

 

まさかのカミングアウトにさすがの三人も驚きを隠せない。それほどまでにインパクトが強かった。

 

「実の兄がまさかの両刀使いって・・・・・・俺は知りたくなかった」

「よしよし、クロ兄」

 

自分の兄のカミングアウトにクロは体操座りで落ち込み、オレンジがそれを慰めていた。

 

「さて・・・・・・混乱するのはいいですが、彼の記憶抹消まで残り28分ですよ?」

「ハッ、そうだ! なんとしても明久を変態の手から守らなければ!」

「え~、別に良いだろう? このままくたばれば、俺が主人公になれるし」

「「バカ野郎!!」」

「へぶぅ!?」

「ツッコミがいないと物語が破綻するだろうが!」

「俺をおいしく料理してくれる奴がいなくなるだろうが!」

 

ボーボボは割と真剣に、天の助は自分勝手な理由で首領パッチに殴りかかる。というよりも、天の助は未来永劫料理されないと思う。

 

「えっ、マジで!?」

「明久を返してもらうぞ!」

 

シロが明久を連れてタワーを上ろうとするのを見て、ボーボボはシロに向かって走り出す。そこにクロが立ちふさがる。

 

「正直、色々兄貴には聞きたいことがあるが・・・・・・今は仕事を果たさせてもらうぜ」

「どけぇ! 鼻毛真拳奥義・・・・・・!」

「カラー真拳奥義・・・・・・」

「鼻毛激烈拳!」

「カラー・コントロール!」

 

ボーボボの鼻毛が鞭のようにしなり、クロを襲う。だが、クロが手をかざすと鼻毛がボーボボの方に向く。

 

「なっ!? 鼻毛が言うこと聞かない!?」

「俺たち兄弟には各々得意な色使いがある・・・・・・その中で俺は黒色を扱うのが最も得意だ」

「何だと!? まさか・・・・・・!」

「そう・・・・・・お前の鼻毛は黒色。つまり、俺が真拳を発動中はお前の“黒”は俺の手中だ!」

「ぐわあぁぁぁぁぁぁ!! 俺の鼻毛とズボンが襲ってくる!!」

「・・・・・・そういえば、コイツのズボンも黒だった」

 

鼻毛がボーボボを襲い、ボーボボのズボンが下半身を締め付ける。なにげに大ダメージだった。

 

「くそ! 何て奴らだ! だが、名前に連動しているってことは・・・・・・!」

「その通り! 俺は黒色、兄貴は白色! そしてオレンジは・・・・・・!」

「グレーです」

「ばらすなよ!?」

 

オレンジの暴露にクロが突っ込む。正直、オレンジだったら首領パッチは敵に回ってさらにピンチに・・・・・・いや、ないな。

 

「くそおぉぉぉぉ! 鼻毛は仕舞ったが、ズボンが食い込んで身動きとれねぇ!」

「さぁ、どうするボーボボ。タワーにも上れずにここで終わるか!?」

「なめんじゃねぇ! 鼻毛真拳奥義・・・・・・!」

 

ズボンが食い込みすぎて、見えてはいけないものまでくっきり見え始めてきたところで、ボーボボはコンクリートを取り出した。

 

「塗装作業!」

「コンクリートで固めやがった!? バカだろ!?」

 

まだ固まっていないコンクリートでズボンを固め始めた。作業は続き、コンクリートが固まる。

 

「おっしゃー! これでズボンは操れないぜ!(カチーン)」

(そりゃそうだろ・・・・・・)

「・・・・・・コンクリートのせいでうまく動けねぇーーー!」

「当たり前だろうが!? バカか!?」

 

ズボンがコンクリートで固まったため動けなくなったボーボボだったが、そこに首領パッチと天の助が両肩に手を置く。

 

「泣くなよ、ボーボボ」

「俺たちがいるじゃねぇか」

「首領パッチ・・・・・・天の助・・・・・・」

「・・・・・・なんだ、何する気」

「「さっさと行けやぁーーー!!」」

「ぐわあぁぁぁぁぁぁ! この裏切り者!」

「あっさり裏切りやがった!?」

 

励ますフリしてボーボボを担ぎ、そのまま足を相手の方に向けてボーボボを投げ飛ばした。こいつら、ヒデェ。

 

「僕の得意な色がグレーだって忘れた?」

「ハッ、そうだ。オレンジはグレーが得意・・・・・・そしてアイツのコンクリートはグレー・・・・・・なら大丈夫か」

「行くよ、カラー・コントロー「目指せ世界一!」グハァ!?」

「オレンジ!? な、何故だ!?」

 

カラー・コントロールでコンクリートを操ろうとしたが、操れずにそのまま蹴られた。何故か操れなかったのかとクロは疑問に思う。

 

「コンクリートとは道路を作るもの・・・・・・いわば道作りの大工業」

「道を作り、多くの人に喜んでもらう職人技であり、それを極める大工魂」

「よって、大工魂を受け継いだ俺たちを操るなど不可能」

「いや、理屈になってねぇよ!?」

 

大工姿で語る三人だが、意味不明な理屈に突っ込むクロであった。だが、その隙にシロは明久を伴って頂上へと登った。

 

「しまった! 奴を上へと上がらせてしまった!」

「・・・・・・まぁ、いいか。早くしないと大切な仲間の記憶が無くなるぜ?」

「くそっ、コイツら意外と強い・・・・・・!」

「困っているようだな」

「「「その声は・・・・・・!」」」

 

敵に良いように翻弄されて、このままでは不味いとボーボボが思っていた時、背後からバイクの音と共に懐かしい声が聞こえてきた。振り返るとそこには一人の男がいた。

 

「「「ウンコッコ博士ーーーーーー!」」」

「ソフトンだ」

「わぁ・・・・・・ウンコだ」

「違う!? アレはチョコ味のソフトクリームだ!」

 

・・・・・・頭を茶色のとぐろを巻いたマスク?をかぶった男性が現れた。かなりの不審人物にオレンジとクロは少し混乱している。

 

「ソフトン、なぜここに?」

「バイトで少しな」

「野グソだな!」

「状況はあまり良くないようだな」

「無視すんなよぉ~」

 

ボーボボの質問を無視してソフトンは冷静に状況を分析する。そこにこれ以上、場を混乱させたくないクロが背後から忍び寄る。

 

「おい、何勝手なことしようとしているんだ?」

―――バビロン真拳奥義、木漏れ日のサンタルチア―――

「うおぉ!?」

 

クロがソフトンを捕まえようとすると、ソフトンは流れるように身を翻し、バックステップで下がる。それと同時に捕まえようとしたクロの右手が切れて、血が噴き出す。

 

「さすがソフトン!」

「「ウンコさーん!」」

「さぁ、愚かなる堕天使達よ。戦慄の調べを奏でようか」

「ちっ・・・・・・コイツ強い」

 

身構えるソフトンに面倒なことになったと思うクロ。情報によれば、この茶色のぐるぐることソフトンはボーボボ一味の中でも実力者だと聞いている。

 

「みなさ~ん、下の方で騒ぐのは良いですが、残り25分ですよ~」

「あっ、そうだ! 早く明久を助けねぇと!」

「明久?」

「俺が今世話になっている少年だ。将来有望なツッコミが期待できる」

「なるほど・・・・・・ならば、コイツは俺に任せろ。先に行け」

「助かる、ソフトン!」

 

そう言うとボーボボと天の助、首領パッチはクライムタワーを登り始める。

 

「(このまま行かせるわけにはいかねぇ・・・・・・だが、このぐるぐる頭はすぐには倒せない。ならば・・・・・・)オレンジ、お前は先に行け。俺はこのぐるぐる頭を倒してから行く」

「は~い。それじゃあ、お先に」

 

オレンジはクロの指示に従い、ボーボボ達を追ってタワーを登る。そして、クロはソフトンと対峙した。

 

「ずいぶん素直に行かせてくれるじゃねぇか?」

「あいつらなら心配ない。それにお前から目を離すわけにはいかないからな」

「そうかい・・・・・・じゃあ、さっさとくたばれやぁ!」

 

そう言うとクロはソフトンに襲いかかる。ソフトンも身構えながら迎え撃つ。

 

「くらえ、カラー真拳奥義・・・・・・!」

「ふっ・・・・・・!」

「な、しまっ!?」

 

奥義を発動しようとした瞬間に流れるような動きでソフトンはクロの懐に潜り込む。そして、そのまま攻撃を放つ。

 

「砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕砕!(ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!)」

「(ドシャァ!!)最近のぐるぐる頭強えぇ!?」

「バビロン真拳奥義、ジャマイカの情熱」

 

全身にくまなく突きを放ち、クロは吹き飛ばされる。その光景をタワーを登りながら、ボーボボは賞賛する。

 

「さすがはソフトン。頼れる男だ」

「前と同じでこのプレートを登っていくのか」

「へっ、攻略方法が一緒ならチョロいぜ」

 

プレートをジャンプしながら登っていくボーボボ達。すると、三人は各々色が違うプレートにたどり着く。

 

「うおぉ!? 何じゃこりゃ!? 黒い水!?」

「ぎゃああああああ!? 緑色のプレートから植物が!?」

「うん? これはこんにゃくか?」

 

ボーボボはねずみ色のぷるぷるとしたプレート、首領パッチは緑のプレート、天の助は薄黒いプレートに着いた。そのうち、ボーボボのところにオレンジが現れる。

 

「君たちが踏んでいるプレートはカラープレート。僕たちのカラー真拳「カラーズ・トラップ」によって、プレートのいくつかはトラップになっているよ。こんにゃくのせいでうまく身動きがとれないでしょ!」

「ならば、この技だ!」

 

オレンジはカラー真拳によって作った剣を手にボーボボに斬りかかる。対するボーボボはこんにゃくをスティック状にして、引き抜きむかいうつ。

 

「にゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃくにゃく(プルンプルンプルンプルンプルンプルンプルンプルンプルンプルンプルンプルンプルンプルンプルンプルンプルンプルンプルンプルンプルンプルンプルンプルンプルンプルンプルンプルンプルンプルン!)・・・・・・なんだこの技はーーー!!!」バキィ!

「グハァ!?」

 

オレンジの攻撃を避け、こんにゃくで叩きつけたがノーダメージだった。そして、しまいには自分でも何をしているのか分からなくなり、八つ当たりでオレンジを蹴飛ばした。

 

「はぁ~・・・・・・オレンジとクロが劣勢ですね。しょうがない、少々手助けを」

 

上からこの光景を見ていたシロは懐からマッチを取り出す。マッチに火をつけると、それを天の助のところに投げた。

 

「ところ天さ~ん。その液体何か分かりますか?」

「えっ、俺? そうだな・・・・・・何かの入浴剤?」

「違いますよ~。それはですね・・・・・・ガソリンです」

「えっ?」

 

急なネタ晴らしに何事かと思った天の助だったが、その答えは落ちてくるマッチの火によって答えはわかった。そして、マッチがガソリンに落ちる。

 

「(ドカーン!!)ギャアアア!! 何で俺だけこんな目に!?」

「これで一人撃破っと・・・・・・」

「う~ん・・・・・・」

「おや?」

 

爆発の音で明久が目を覚ます。そして、物語は第5話の冒頭に戻る。

 

「変態だぁーーーーーーーー!!?」

「むっ、明久が目を覚ましたか」

「ボーボボ」

「おぉ、ソフトン。無事だったか」

 

明久の声を聞き、とりあえず安心したボーボボの元にソフトンが現れる。無事なソフトンの姿を見て、ボーボボはひとまず一安心した。

 

「先ほどの声が・・・・・・?」

「あぁ、明久だ。どうやら目を覚ましたらしい」

「そうか。ならば急いだ方が良い。もう20分を切ったぞ」

「もうそんなに経つのか。ならば急ごう」

「そうはさせませんよ」

 

急ごうとするボーボボとソフトンだったが、頭上から声がすると同時に影ができる。声がした上の方を見るとそこにはジャンボジェットがこちらに突っ込んできた。

 

「「なにぃーーーーーーーー!!!!?」」

「バカな!? こんなことが!?」

「まぁ、弟たちは防げるので心配ないでしょう。というわけでさようならです」

 

どうやらシロが頂上の方でジャンボジェットを描き、それをボーボボと首領パッチ、ソフトンにめがけて投下したらしい。

 

「ふざけんなぁ! こんなのどうすりゃいいだぁ!?」

「くそったれ! こうなったら・・・・・・ソフトン!」

「あぁ!」

 

ボーボボとソフトンは首領パッチのところに向かう。二人が首領パッチのところにたどり着いた直後、ジャンボジェットが直撃し、爆発する。

 

チュドーン!!!

 

ジャンボジェットが直撃し、爆風が巻き起こる。やがて、煙が晴れるとそこにはボロボロの首領パッチがいた。

 

「ボーボボ・・・・・・てめぇ、覚えてろよ・・・・・・」

「ふぅ・・・・・・バカガードが間に合ったぜ」

「あなた・・・・・・仲間を盾にして、どうも思わないんですか?」

「コイツはペットにすぎん」

「えっ!?」

 

首領パッチをそのままポイ捨てするボーボボに戦慄するシロであった。

 

「そっちが飛行機ならこっちも飛行機だ! 鼻毛真拳奥義、アフターバースト!」

 

そう言うと、ボーボボと首領パッチは戦闘機になって襲いかかる。

 

「くそっ、戦闘機か!」

「ターゲット確認。フォックス2、フォックス2!」

「くたばれ、ボーボボ!!」

「ぎゃああああああ!!」

「・・・・・・えっ?」

 

攻撃態勢に入っていたボーボボを首領パッチが撃墜した。突然のことでクロは戸惑う。

 

「てめぇ、いきなり何すんだ!」

「てめぇの方こそ、さっきはなんだオラァ!?」

「・・・・・・よく分からんが、仲間割れなら好都合だ。オレンジ!」

「うん、了解」

 

クロは爆弾を創りだし、それをオレンジが投げ始める。

 

「僕、ボンバーマン♪」チュドーン!

「「ぎゃあああああ!! 笑顔で爆弾投げつけてきた!」」

「これ以上はやらせん!」

 

オレンジの攻撃に対して、ソフトンが前に出て赤いシールドを張る。これによって爆弾ははじかれて、どんどん下に落ちていった。

 

「これぞバビロン真拳奥義、クーロンの赤い魔鏡」

「さすが、ソフトン!」

「おっしゃーーー!! 次はこちらの番だぜ!」

 

そう言うと首領パッチとボーボボはロケットランチャーとマシンガンを構えて、放つ。

 

「オラオラオラーーーー! くたばれやぁーーーー!」

「ぐわぁあああああ!! コイツら、近代兵器撃ってきやがった!!」

「あっ、爆弾が!?」

 

攻撃された拍子に爆弾が下に落ちていく。落ちた先には再度プレートを登り始めていた天の助がいた。

 

「えっ、何・・・・・・ぎゃあああああああ!?」

 

全く関係の無いところでダメージを負うあたり、さすが天の助である。場面戻して、クロとオレンジは近代兵器の攻撃で結構なダメージを負っていた。

 

「ぐっ・・・・・・くそが」

「よし、今がチャンスだ!」

「目立つチャーンス!」

「待て、二人とも!」

 

ソフトンの制止を聞かず、ボーボボと首領パッチはオレンジとクロにプレートを伝って突っ込む。しかし、赤色のプレートを踏んでしまう。

 

「「ぎゃあああああ! あっちぃいいいいいい!!?」

「赤のプレートは炎ですよ」

「二人とも!」

 

二人が罠に引っかかっている間にシロが頂上から降りてきた。

 

「へっ、そのまま焼かれちまいな!」

「それはどうかな?」

「なに?」

「プルプル真拳奥義、ところてんの雨!」

 

下から天の助が現れ、空中で自らの体からところてんの雫を放つ。

 

「これで炎を鎮火してやるぜ!」

「なに!?」

ジュッ!

「・・・・・・あっ、ところてんだから無理だわ」

「「なにやってんだてめぇーーーーー!!」」ドゴッ!

「ぐへぇ!」

 

アホやらかした天の助にボーボボと首領パッチが炎から脱出して、殴る。そのまま三人はソフトンがいるプレートに着地した。

 

「くっ、カラー・トラップ・・・・・・厄介だな。これじゃあ、先に進めない」

「ボーボボ、あれは“彼らが塗ったから”効果があるようだ。ならば、彼ら以外が他の色で塗りつぶしていくというのはどうだ?」

「よし、その手で行こう。鼻毛真拳奥義・・・・・・!」

「何をする気かは知りませんが、色を塗ることなんて私たちには朝飯前ですよ?」

「イカすぜ! 縄張りデスマッチ!」

「流行のゲームでなってきたーーーーーー!!?」

 

ボーボボ達はイカになってインクをまき散らしながら、プレートを渡っていく。

 

「オラオラーーー! 塗るぞオラァーーー!!」

「まんめんみ! まんめんみ!」

「くそが、なめんじゃ・・・・・・!」

「スーパーショット!」

「ぐわぁ!」

 

やたらめったらにプレートをインクで塗りつぶすボーボボ達を止めようとブラックが迫るが、首領パッチがトルネードを放って妨害する。

 

「くそ・・・・・・せっかくのプレートが・・・・・・」

「うん? あれは・・・・・・!?」

 

トルネードによって全パネルがボーボボ達に塗り尽くされてしまった中、オレンジは上の方を見る。そこにはいつの間にか頂上付近に登っていたソフトンの姿があった。

 

「何で!? さっきまでそこにいたのに!?」

「理由は簡単だ。そこのバカ(首領パッチ)が放ったトルネードの上昇気流に乗って、ソフトンは一気に上昇したんだ」

「バカ!?」

「なるほど・・・・・・してやられましたよ」

「そしてこの天ちゃんも復活した訳よ」

「いや、そこは考えてなかった」

「むしろ忘れていた」

「えっ!?」

 

いつの間にか実行されていた明久救出作戦に驚く三兄弟。こうなると形勢は逆転する。人質である明久を救出させないために人数を割かなくてはならない。だが、3対3で押さえていたのだ。

 

「こうなれば仕方がありません・・・・・・二人とも秘奥義を」

「ちっ、しょうがねぇな・・・・・・」

「うん、わかった」

 

オレンジとブラックはホワイトの背中に回り、手をかざす。すると、二人のオーラ的な何かがホワイトに注がれ始めた。

 

「何だ! 何する気だ、あいつら!?」

「ジュースだ! ジュースを造る気だ!」

「違う! パワーアップする気だ!」

「させるかぁ!」

 

パワーアップと聞いて首領パッチが阻止しようと攻撃を仕掛けるが、その前にホワイトからオーラが爆発する。

 

「あふぅん♪」

「「キモイわぁ!!」」

「ぐわぁ!」

「・・・・・・さて、パワーアップ完了です」

 

真っ白だった服装に所々黒の線が入り、目の色がオレンジ色になったホワイトが現れた。明らかに先ほどとは違う雰囲気である。

 

「カラー真拳秘奥義『ペイントパワー』・・・・・・俺たちの得意色をエネルギーに変えて対象に譲渡する技・・・・・・」

「本来は色の相性によって譲渡できない事もあるけど・・・・・・ホワイト兄さんは何色にも染まる白を得意色としているから、何色でも譲渡できる」

「さて・・・・・・始めましょうか」

 

速攻で終わらせるつもりのホワイトに対して、ボーボボは首を鳴らしながらアフロを開ける。

 

「お前達がパワーアップするのなら、こちらもパワーアップさせてもらうぜ」

「みすみすさせるとでも!」

 

アフロから一枚のジャケットが飛び出し、ボーボボはそれを着ようとするがホワイトがそれを阻もうとする。

 

「カラー真拳奥義『レッドフレイム』!」

「天の助!」

「えっ、何この鼻毛」

「キミのことは忘れない!」

「ぎゃあああああああ!!」

 

鼻毛で天の助を盾にして手のひらから繰り出した炎を纏った赤の絵の具を防ぐ。その間にボーボボはジャケットを着た。その瞬間、ボーボボのオーラが膨れあがる。

 

「遅かったですか」

「さぁ、お前達に鼻毛真拳の神髄を見せてやるぜ!」

 




どうでしたか?

皆さんのお暇な一時の暇つぶしにでもなれたら幸いです。

それでは、また次回。


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その他短編
バカなアイツと憂鬱な優等生のお話


現実は斯くも厳しい現在・・・・・・息抜きがてら書いてみたのがこの小説です。これまでのシリーズものとは全く違うお話で、文字通り短編のような出来上がりになっています。

それでは、どうぞ。


(ここなら見つからないよね)

 

いつものようにFFF団に追いかけられている僕、吉井明久は新校舎裏の草むらの中に身を潜めていた。いつもは女子更衣室とか、Aクラスとかに逃げ込むんだけど、今回は雄二が指揮を執っているため、いつもの場所では危ないと判断し、あえてここに逃げ込んだ。

 

(ここなら気づかれないし・・・・・・)

 

隠れる場所の多い文月学園だが、大抵のところはムッツリーニが全部把握しているため、完全に隠れることはできない。雄二も然りだ。あの野郎、どうゆうワケか僕の隠れそうな場所を大体把握している。だから、うかつなところには・・・・・・

 

ザッ・・・・・・ザッ・・・・・・

 

(ッ!? 誰か来た!?)

 

考え事していると人の気配を感じ、念入りに隠れた。まさか、ここがバレたのか?

警戒していると、二人の男女がやってきた。一人は見たことない普通の学生だ。少々緊張した面持ちである。もう一人の方は・・・・・・

 

(あ、アレは秀吉・・・・・・じゃなくて・・・・・・木下さん?)

 

もう一人の方は秀吉の双子のお姉さんで、優等生として有名な木下さんである。彼女には何回か試召戦争や日常生活で助けてもらっている。こんなところで、しかも男子学生と二人っきりで一体どうしたんだろう?

 

「・・・・・・それで、用事って?」

「えっと、あの・・・・・・」

 

木下さんが口火を切ると、名前も知らない男子生徒が口ごもる。よく見ると片手に何か手紙のような物を持っている。

 

(もしかしてこれって・・・・・・)

「あ、あの! これ!」

 

様子を見ていると、男子生徒は意を決して手紙を木下さんに差し出した。この場面、どう見ても・・・・・・。

 

(告白!?)

 

まさかの告白の場面である。こんな場面に遭遇するなんて驚きだ。僕の人生の中で今までなかった出来事だ。

 

「こ、これ!」

「・・・・・・」

(あ、あれ?)

 

告白の現場を見ている僕だが、何か違和感があることに気づいた。男子生徒は緊張しつつも、一生懸命手紙を木下さんに差し出しているが、対する木下さんは至極冷静な態度で、まるで脈なしのような感じだ。それに「またか……」というような諦観した雰囲気を醸し出している。どうしたのだろうと思っていると、その答えがすぐに分かった。

 

「これを弟の秀吉君に!」

「・・・・・・」

(って、秀吉にー!?)

 

まさかの秀吉である。この告白は木下さんではなく、秀吉に対するラブレターのお願いだったようだ。秀吉に対する告白やラブレターが多いって聞いたことはあるけど、まさか木下さんからの間接ラブレターもあるなんて・・・・・・これは今後のFFF団の会議に取り上げる必要があるな・・・・・・。

 

「これを秀吉に渡せばいいのね?」

「は、はい!」

「・・・・・・わかったわ。任せてちょうだい」

「あ、ありがとうございます!」

 

木下さんが手紙を受け取ると、男子生徒が礼を言って校舎の方に戻っていく。残された木下さんは手紙を眺めたまま、動かない。できれば早く動いて欲しい。このままでは先程の男子生徒に制裁を下すことができない。

 

「そこの草むらに隠れている人、出て来なさい。いるのは最初から分かっているのよ」

(ビクゥッ!?)

 

突然木下さんに呼びかけられ驚く。まさか、この完璧な擬態を最初から見破っていたというのか!?

 

「たぶん完璧じゃないわよ、それ」

「バカな!? どうして僕の考えていることが分かったんだ、木下さん!?」

「カマかけただけよ・・・・・・本当に出てくるとは思わなかったけど」

 

さすが吉井君ねとため息混じりに木下さんが呆れていた。まずいぞ、僕の評価が下がったかも知れない。

 

「これ以上にない程下がっているから、意味ないわよ」

「さっきから心を読まれている!?」

「口に出ているのよ」

 

さらに呆れる木下さん。何だかだんだん情けなくなってきたし、これ以上追求されたら僕にとってロクなことにならないと思い、僕は話題を変える。

 

「そういえば、何かラブレターもらっていたよね」

「まぁ、覗いていたから知っているわよね」

「いや、あの、別に覗こうと思って覗いていたワケじゃ・・・・・・」

「別にいいわよ。気にしてないし」

 

そう言って木下さんはもらったラブレターをヒラヒラとさせていた。仮にもラブレターなんだから、もうちょっと丁寧に扱ったほうがいいのでは・・・・・・

 

「ねぇ、木下さん。それってラブレターだからもう少し丁寧に扱ったほうがいいんじゃ・・・・・・」

「だから、別にいいのよ。どうせ、秀吉宛でアタシ宛じゃないし」

「だったらなおのこと・・・・・・」

「それにいつものことだし」

「いつものこと?」

「そう、いつものこと」

 

いつものことと言う木下さんはどこか憂鬱そうに空を見上げる。空は青いが、ちょうど日陰になっているため、照っているだろう太陽は校舎に遮られて見えない。そのせいか、晴れているのに太陽が見えないという、どこかスッキリしない空模様だった。

 

「いつものことって・・・・・・?」

「まぁ、見られちゃったし、吉井君なら大丈夫かな?」

 

そういうと木下さんは場所を変えましょうと言って、校舎のほうに戻っていく。僕はずっと隠れていた茂みから出て、木下さんの後を追った。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「失礼します」

「あら、木下さんと・・・・・・吉井君じゃない。これはまた珍しい組み合わせね」

「あ、どうも。先生」

「えぇ。また関節が痛いの?」

「いえ、違います」

「吉井君、ここの常連だったの?」

 

保健室に来て、そうそう木下さんに怪訝そうに僕に尋ねる。その通りなので「まぁね」というと「よくはち合わなかったわね・・・・・・」と木下さんが呟いた。それを聞いて、僕は木下さんも常連なのかなと思う。

 

「木下さんが来たってことは・・・・・・そういうことね」

「すみません・・・・・・お願いしてもいいですか?」

「えぇ、適当に誤魔化しておいてあげるから休んでいきなさい」

 

そう言うと保健室の先生は立ち上がって、部屋の鍵を木下さんに渡すと部屋を去っていった。途中、僕の耳元で「頑張ってね」と言ったけど、どういうことだろうか?

 

頭にはてなマークを浮かべていると、木下さんが「こっち」と言ってベットの方に行く。その瞬間、僕の心臓はひとさわ大きくはねた。

 

ま、まさか・・・・・・これは保健室であんなことやこんなことをする気じゃ・・・・・・

 

「変な事したら関節を増やすわよ」

「やだなぁ、誠実がモットーの僕がそんなことするわけないじゃないか」

「そう? まぁ、あったとしても吉井君にそんな度胸はないか・・・・・・」

「僕だってやるときはやるよ! 今だってちょっと期待して・・・・・・」

「・・・・・・へぇ~」

 

しまった!? 思わず本音がポロリしてしまった!?

勢いで肯定してしまい、頭を抱える。本当、何でこんなときに限って僕の口はこんなに素直なんだ!?

 

「吉井君ってそんな人だったんだ」

「違うんだ、木下さん! 僕は木下さんが魅力的な女の子だから考えただけであって、邪な気持ちで見ていたわけじゃないんだよ!」

「吉井君、それって口説いているの?」

「へっ? いや、違うけど?」

「そう・・・・・・何だか吉井君が鈍感な理由が分かった気がするわ」

 

そういって保健室のベッドに座り、向かい側にあるもう一つのベッドのほうに座るよう促してくる。僕は木下さんに言われた通りに、ベッドに座った。

 

「それで・・・・・・何だっけ?」

「木下さんが“いつものこと”についてだけど」

「あぁ、そうだったわね」

 

何の話をしにきたのか忘れかけていた木下さんに僕が先ほどのことを言うと、思い出したと木下さんは頷いた。そして木下さんは話し始めた。

 

「アタシの弟の秀吉のこと、吉井君はよく知っているでしょ?」

「うん、秀吉のことならよく知っているよ。でも木下さん、秀吉は弟じゃなくて妹じゃ・・・・・・」

「お・と・う・と♪」

「はい、秀吉はまごうことなき男です」

 

秀吉に対する間違いを訂正しようとしたら、木下さんが笑顔で手をグーにして言ってきたので、僕は木下さんの言うとおりにした。まさか姉である木下さんまで欺くとは……秀吉は早急に自分の性別にふさわしい服を着るべきだ。僕の懸念を他所に木下さんの話は続く。

 

「知っていると思うけど、秀吉は異性同性問わず、人気があるわ」

「うん、知っているよ。秀吉がよく言っていたからね」

 

まぁ、FFF団の誰かだったら問答無用で異端審問にかけているけどね。

 

「それでまぁ、ラブレターとか告白とか、直接するのが怖いのか、アタシを経由してすることが多いのよ」

「そうなんだ?」

「えぇ。アタシとしては告白もラブレターも直接本人にしろって話なんだけどね」

 

そう言うとそこまで話していないのに、疲れたかのように木下さんはため息をつく。これは僕と話すと疲れるというあれなのだろうか?

だとしたら悲しい。

 

「中学でもちょくちょくあったけど、あくまで異性からだったのよ。それが高校になってからは異性同性問わず増えてね」

「まぁ、秀吉は人気があるからね」

「そう。悔しいけど、女のアタシ以上に人気があるし」

「そりゃ、木下さんは小学生以下の少年にしか……」

(ギロ!)

「ハッハッハッ、ボクハナニモイッテナイヨ?」

 

一瞬、木下さんから心臓を掴まれるほどの殺気を感じた。あの殺気は姫路さんや美波から感じる殺気と同等か、それ以上だった。あれ以上不用意なことを喋っていたら死んでいたかもしれない。

 

キーンコーンカーンコーン・・・・・・

 

「あれ、チャイム?」

「当たり前よ。もうすぐ昼休みが終わるもの」

「えっ!? それってまずいよ!?」

「何が?」

「何がって・・・・・・木下さんはいいの? 授業出なくて?」

「別に・・・・・・時々保健室に篭って休んでいるし」

「そ、そうなんだ」

 

優等生として知られている木下さんの意外な一面に驚く。木下さんでも授業をサボることがあるなんて。

 

「正直疲れるのよ、優等生を演じ続けるのって」

「えっ、演じているの?」

「そうよ。家では結構ずぼらなんだから」

 

そう言って木下さんは意地悪っぽく笑った。さっきから木下さんの意外な一面ばかり見ている気がする。今だって、いつもの毅然とした態度ではなく、どうでもよさげにしているし、憂鬱そうな表情も晴れていない。本当にどうしたんだろう。

 

「それで・・・・・・そうそう、秀吉のことよね。まぁ、この高校に入ってからは本当に増えまくってね」

「人気だもんね、秀吉って」

「えぇ・・・・・・本当に・・・・・・ぐらいに」

「えっ?」

「何でもないわ」

 

一瞬、何か不穏なことを木下さんがつぶやいたような気がしたけど、すぐにはぐらかされてしまい、何を言ったのか分からなかった。

 

「とにかくラブレターやら告白の代行とかをお願いされるのよ。もうウンザリするほどに」

「じゃあ、いつものことって・・・・・・」

「えぇ、さっきみたいにこっそり人気のない場所に呼び出されて、告白の返事とかラブレターの受け渡しとか頼まれるってことよ」

 

そう言うと木下さんは話しきったとばかりにため息をつきながらベッドに方に倒れた。その際に手に持っていたラブレターも一緒にベッドの上に落ちる。いつも秀吉はこういうことで大変だと言っていたけど、お姉さんも大変だったとは。

 

「その・・・・・・大変だね」

「本当よ。告白やラブレターぐらい自分でしろっての・・・・・・」

 

そう呟くと木下さんは右腕で目のあたりを覆う。急にどうしたのだろうかと、木下さんの方をよく見てみると、いきなり涙が目尻を伝っていった。

 

「ちょ!? どうしたの、木下さん!?」

「うん? あぁ、ごめんなさい。ちょっと昔のこと思い出して・・・・・・」

 

僕の叫びを聞いて目の周囲を拭いながら起き上がる木下さん。昔を思い出してって言ったけど、何かあったのだろうか?

 

「今話した“いつものこと”についてなんだけどね・・・・・・やっぱりいいわ」

「いいって・・・・・・そう言われたら余計に気になるんだけど・・・・・・」

「そう? でも教えてあげない」

 

意地悪く笑いながら木下さんは涙を流した理由を話さなかった。すごく気になるけど、本人が言わないって言うのなら無理に聞くわけにはいかないかと思い、僕もそれ以上の追求をするのをやめた。

 

「ふぅ・・・・・・何か話したら少し気が楽になったわね」

「そう? それなら良かったけど」

「やっぱり吉井君だからかしら」

「えっ?」

 

首をかしげながら驚くべき発言をする木下さんに一瞬ドキリと心臓が高鳴る。僕だから話せるって・・・・・・それってどういうことだろうか・・・・・・?

 

「き、木下さん。それってどういうことなのかな・・・・・・?」

「うん? 何も考えてなさそうだから、余計な心配する必要ないし」

「ですよねー・・・・・・」

 

ほんのちょっと期待してしまったけど、やっぱりかと落胆する。まぁ、そんな簡単に春が来るわけないよね。

 

「じゃあ、そろそろ教室に戻りましょう」

「あ、うん・・・・・・でも、今戻っても授業は終わっているんじゃ・・・・・・」

「今ぐらいの時間に戻れば、次の授業に入るぐらいに戻れるからいいのよ」

 

そう言って木下さんはベッドから降りて保健室を出ようとする。僕もそれに続いて出ようとすると、ちょうど保健室の先生が帰ってきて、木下さんがお礼を言っていた。僕もお礼を言って出ようとする。

 

「今日はありがとうございました」

「いえ、こちらこそありがとね」

「えっ?」

 

逆にお礼を言われ戸惑ってしまうが、先生はさっさと保健室に入っていったので追求はできなかった。しょうがないので僕は木下さんを追う。木下さんはそう離れていないところで待っていた。

 

「今日はありがとね、吉井君」

「ううん、別にかまわないよ」

「そう? じゃあ・・・・・・」

 

そう言うと、木下さんはこちらをしっかり見据え、微笑む。

 

「また機会があれば今日みたいに、お話ししてもいいかしら?」

 

微笑みながら言われた一言に、少し呆然としながらもしっかりと返事をする。

 

「うん、僕で良ければ」

 

僕の返事に木下さんは満足そうに頷く。

 

「・・・・・・うん、ありがとう。じゃあ、またね?」

「うん、また今度」

 

そう言って木下さんはAクラスに戻っていった。僕は木下さんが行った後、一息ついて心を落ち着かせる。

 

さっきの木下さん・・・・・・すごく綺麗だったなぁ・・・・・・。

 

今まで見たことがなかった木下さんの笑顔がとても鮮明に残り、今でも胸が高鳴る。

 

何だか今日はすごい一日だった気がする。今まで知らなかった木下さんの一面を知ることができた。特に先ほどの木下さんの笑顔はとても良かった。

 

あんな笑顔を見ることができるなら、木下さんとの今後のお話もいいかもしれない。

 

そう思いながら、僕も教室へと戻っていった。

 

 

その後、鉄人に授業をサボった罰として補習が一時間増えたのは、また別の話だ。

 




どうでしたか?

文面通り、明久×優子です・・・・・・いや、ちょっと違うかな?

現在、色々とアイディアがあるのですがリアルの方が忙しいため、積極的に執筆することができない状態です。

様々なキャラクターによるSAOのようなダンジョン攻略ストーリーや、正義の味方や悪の組織とか・・・・・・ちなみに悪の組織の名前は「水銀の蛇」です。これで誰が首領なのか分かる人は分かるはず・・・・・・まずい、愚痴が止まらない。

長くなりましたが、とにかく現実が忙しいため文章の方に手がつかない状態なので、下手したら来年も指で数える程度しか投稿できないかも・・・・・・。

それでも、見捨てないでくれればとても嬉しいです。

それではメリークリスマス! そして、来年もよいお年を!


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名前のない記録少年

どうも、紫炎.2です。半年以上も経って、今年初投稿です。

とりあえず、一言では言えないほどの色々な出来事があった半年でした。ですが、小説を書く気力はあり、投稿いたしました。

今回は今までとは違う趣向になっています。簡単に言うと「とにかくシリアス書きたい!」という謎の欲求に駆られた結果の小説です。ですので、ちょっとした謎設定が入っています。

時系列はバカテス4巻の最後の部分です。

それでは、どうぞ。


「・・・・・・きろ、起きろ」

 

・・・・・・?

 

「いい加減起きんか、吉井」

 

誰かに呼ばれ、目が覚める・・・・・・覚める?

 

「やっと起きたか。いつまで寝ているつもりだ」

 

厳しそうな声に呼びかけられ、体を起こしながら起き上がる・・・・・・?

 

「・・・・・・?」

「どうした? 何かあったのか?」

「いえ、何も・・・・・・」

 

そう、大丈夫・・・・・・なはず・・・・・・?

 

「そうか・・・・・・まぁ、お前のことだから大丈夫だろう。それより、戦死者はどうなるか・・・・・吉井?」

「・・・・・・そう、僕は・・・・・・吉井・・・・・・吉井?」

 

あれ・・・・・・おかしい・・・・・・僕? それとも、俺?

 

「おい、本当に大丈夫か?」

「えっと・・・・・・たぶん・・・・・・」

「さっきから様子がおかしいぞ? 何かあるのか?」

「大丈夫です。うん、大丈夫・・・・・・」

 

何だ・・・・・・? この“違和感”は・・・・・・?

 

「確か・・・・・・戦死者は補習ですよね・・・・・・早く行きましょう」

「・・・・・・」

「・・・・・・先生?」

 

とりあえず、これ以上先生に迷惑をかけまいと立ち上がり、補習に向かおうとする。しかし、どうゆうわけか、今度は先生が動かない。

 

「どうしました?」

「・・・・・・吉井、先に保健室に行くぞ」

「なんで?」

「いいから、来い」

 

そう言われ、腕をつかまれて強引に連れて行かれる。一体何故・・・・・・?

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

寂れたFクラスの教室のドアが開き、今回の騒動の中心人物が戻ってきた。ずいぶんと遅かったが、あれだけやられてからの鉄人の補習だ。まぁ、時間は掛かるだろう。

 

「よぉ、遅かったな。明久」

「・・・・・・あ、うん。そう、だね」

「どうしたのじゃ、明久。浮かない顔をして・・・・・・」

「何でもないよ・・・・・・うん、何でもない」

 

何か妙な雰囲気だが、とりあえずおいておくことにした。何せ、これからがメインイベントなのだから。

 

「えっと・・・・・・三人は何をしているの?」

「ちょっと気になることがあったからな」

「気になること?」

「うむ、何でもムッツリーニが面白いものを聞かせてくれるらしいのじゃ」

 

何かあったのかと首を傾げる明久を眺めながら、ムッツリーニは卓袱台の上に小型レコーダーを置く。

 

「・・・・・・明久も聞いていくといい」

「・・・・・・あぁ。うん、わかった」

 

何も疑う様子もなく明久は卓袱台の前に座る。というか、さっきから何か反応が悪いなコイツ。殴られすぎて、さらに頭が悪くなったのか?

 

「中身は何なの?」

「・・・・・・とある男女の会話」

「ムッツリーニ自身も聞いてないらしいが、面白いことには違いないらしい」

「聞いてもいないのに面白いって分かるの?」

「まぁ、録った本人が言うのじゃ。とりあえず聞いてみても損はなかろう」

 

とりあえず第一段階は成功。さて、どんな反応をするのやら・・・・・・。ムッツリーニはおもむろにレコーダーの再生ボタンを押す。

 

『この話し合いに何の目的があったかは知りませんが、美春はもう貴方を恋敵として認めるようなことはありません。お姉さまの魅力に気付けず、同姓として扱うだけの豚野郎に嫉妬するなんて、時間の無駄ですから。・・・・・・お姉さまの魅力がわかるのは美春だけです』

「あれ、これって・・・・・・」

「Dクラスの清水の声じゃな」

 

再生したレコーダーから清水の声が聞こえてくる。さらに首を傾げる明久を見て、俺はしてやったりと思い、秀吉に目配せをする。秀吉もそれを受け、明久に気づかれないように明久の後ろに移動する。

 

『・・・・・・なんです? 美春に何か言いたいことでもあるのですか?』

『うん、一つだけ。清水さんの誤解を解いておきたいんだ』

 

教室に清水と明久の会話が流れる。そろそろ明久の奴でも察せられるだろうと思い、明久を方を向く。しかし、アイツは真剣に聞き入っているだけで全く動こうとしない。

 

『誤解? 何がです? お姉さまと付き合っているというのが演技だという話なら既に知っていますけど?』

『いや、そうじゃなくて・・・・・・その・・・・・・美波の魅力を知っているのは君だけじゃないってこと』

『何を言っているのですかっ! いつもお姉さまに悪口ばかり言って、女の子として大切に扱おうともしないで!』

『うん、それは清水さんの言う通りかもしれ「ブツッ!」』

「・・・・・・」

「・・・・・・明久?」

 

微動だにもしなかった明久が急に動いてレコーダーを止めた。あまりにも急だったため、俺も秀吉もムッツリーニも動けなかった。

 

「おい、明久?」

「・・・・・・趣味が悪いよ、三人とも」

 

それだけ言うと明久はレコーダーをかっ攫い、さっさと荷物をまとめて教室を出た。その時、一瞬だけ動きを止めたが、とっとと出て行った。アイツらしくない急な行動に驚いてしまい、しばらく身動きがとれなかった。

 

「・・・・・・あ、島田」

「えっ・・・・・・あ」

「・・・・・・」

 

ムッツリーニが廊下で立ち尽くしている島田を見つけ、声を上げる。それまで俺も呆然としていたため、少々間抜けな声を出た。とりあえず立ち上がり、島田に声をかける。

 

「島田、どうした?」

「あっ・・・・・・坂本・・・・・・」

 

開けっ放しのドアに寄りかかりながら、島田に声を掛ける。島田は驚いているのか怒っているのか分からない複雑な表情をしていた。

 

「本当にどうした? 何か変な表情をして?」

「・・・・・・今のってアキ・・・・・・吉井なのよね?」

「あぁ、ちょっと様子が変だが・・・・・・」

 

いつも読んでいる愛称ではなく、名字で呼ぶところを見るに、島田はまだアイツのことを許していないらしい。だが、何故か歯切れが悪い。

 

「・・・・・・本当に吉井なの?」

「はぁ? どうゆうことだ?」

「さっきウチを見た時の吉井の表情・・・・・・」

 

口ごもりながらも、島田ははっきりと口にする。

 

 

 

―――ウチを初めて見るような感じだった・・・・・・―――

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

夕焼けもほとんど沈み、本格的に暗くなり始めた町並みを車の窓から眺めてみる。スーツを着た人や、集団で行動する学生、自転車で移動する若者などが所狭しと街道を歩いて行く。“初めて”見る景色に少し驚きながらもその景色を見入ってしまう。

 

「・・・・・・家に帰った後は大丈夫だな?」

「あ、はい。大丈夫です」

「そうか・・・・・・何かあれば先ほど登録した番号に掛けるといい。俺に繋がる」

「ありがとうございます、えーと・・・・・・鉄人?」

「西村先生と呼べ」

 

そう言うと隣で運転していた西村先生が頭を軽く小突く。そこまで痛くないので問題ない。

 

「これからどうする?」

「とりあえず・・・・・・彼と俺は別物ですし、これまで通りにはいかないと思います」

「そうか・・・・・・他の奴らには?」

「家族には自分から話します。他の人たちには・・・・・・先生から、お願いして良いですか?」

「かまわんが・・・・・・良いのか?」

「良いんです。彼とは友達であり、悪友ですが・・・・・・俺とは違いますから」

 

いくら俺が彼のように振る舞おうとしても限界がある。特に“彼の記憶”では秀吉相手にごまかせる自信がない。いつかはばれるだけだ。ならば、いっそ最初からばらした方がいい。

 

「わかった・・・・・・どうした、そのレコーダー?」

「これは・・・・・・」

 

手に持ったレコーダーを眺めながら、先ほど病院で医者に言われたことを思い出す。

 

『極めて稀な・・・・・・というよりも見たことのない症状です』

「最後の彼の声です。偶然手に入れた」

『おそらく強いショックによる記憶障害の一種だとは思いますが・・・・・・』

「これから俺は、この声の持ち主と同じ名前になる」

 

レコーダーを壊さないように握りしめながら、今の気持ちを話していく。だが、話して行くにつれてだんだんと不安になっていく。

 

『記憶が欠如しているというよりも剥離している』

「でも・・・・・・それはこの声の主の名前で俺の名前じゃない」

『そして、剥離した意識が別の意識として生まれてしまった』

「だから・・・・・・結局、俺は“名前のない何か”なんでしょう」

 

躊躇しながらもはっきりと告げた医師の内容は、酷く辛い現実であることを突きつけられるものだった。

 

『そして、生まれた意識が主人格として固定されている。つまり、“吉井明久君の記憶”を持つ別人が生まれたと・・・・・・そうゆう状態だと思います』

『それは・・・・・・元に戻るんですか?』

『・・・・・・元に戻ることはありません。というよりも、病気とかではなく、全くの正常な・・・・・・言うなれば健康体そのものです。精神病とかそうゆうのは関係ない』

『記憶障害だったじゃないですか!?』

『申し訳ありません・・・・・・先ほども言いましたが、極めて異例な事態だけに、原因自体が分からないです』

 

その後、怒れる西村先生を宥め、病院を後にした。運転する先生は平静そのものだが、実際はどう思っているのだろうか。

 

「・・・・・・怒っています?」

「何故だ?」

「言うなれば、俺が貴方の教え子を・・・・・・」

「それ以上言うな」

 

事実を告げようとすると、有無を言わさぬ口調で止める。やっぱり、怒っているのではないだろうか?

 

「・・・・・・正直、俺もどうすれば良いのか分からん。だから、自分の気持ちを整理したい」

「・・・・・・そうですか」

「だがな」

 

丁度赤信号で止まると、ハンドルを握る手を離し、俺の頭に置いて撫でた。少々乱暴だが、少し安心する。

 

「安心しろ、お前も俺の教え子だ。お前のことをとやかく言うつもりはない」

「・・・・・・はい」

 

乱暴に撫でながら言われた言葉に、俺は安心した。そして、青信号になり、車は彼の家に向かって行くのであった。

 

 

◇◆◇

 

 

これは生まれるはずがなかった少年の物語。一人の少年の記憶を持つ、名前のない少年の物語である。

 




どうでしたか?

ほとんど勢いで書いた作品で、少々詰めが甘い部分が多々あると思います。言い忘れていましたが、これは別にアンチとかじゃありませんので。

次の投稿は・・・・・・相変わらず不明です。リアルの方の問題が片付けば、もっと集中できるのですが。現実はそう甘くない状態です。

それでは、またの機会に。


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とあるバカ達のそんな日常

勢いで書ききった・・・・・・一応推敲はしたけど、もしかしたら文章におかしい所があるかも。

今回はバカテスのメインの男子4人組です。こうゆう日常系に話って、結構良いなと思っています。

それでは、どうぞ


「雄二、頼みがあるんだ」

「何だ明久、そんな神妙な顔をして」

 

思い思いの昼休みを過ごす中、いつもバカをやらかす明久が珍しく真剣な表情でこちらに頼み事をしようとしていた。一体どうしたのか。

 

「今日・・・・・・ね、雄二の家に泊まっていい?」

「おいバカやめろ。態々上目遣いで言ってくるんじゃねぇ」

 

不吉な言い回しと上目遣いに俺は気持ち悪いと素直に恐怖した。こいつはいつかのようにまた俺に間接的に被害を与えようというのだろうか。

 

「頼むよ!? こんなこと頼めるのは雄二しかいないんだ!」

「やめろ!? 意味もなく縋り付くんじゃねぇ!?」

 

一生のお願いとばかりにコイツは俺に抱きついてくる。この野郎、一体何だというのだ。というか、こんな光景が翔子の目に入ったらと思うと・・・・・・俺は恐怖を感じ、必死に明久を引き剥がそうとする。

 

「どうしたのじゃ、明久。いつになく必死になって・・・・・・」

「・・・・・・珍しい」

 

騒ぎを聞きつけ、悪友の木下秀吉と土屋康太が近寄ってきた。いつになく様子が変な明久を見かねてきたのだろう。

 

「聞いてよ、秀吉、ムッツリーニ! 姉さんが『帰ったら“これ”について話し合いましょうね』って脅してくるんだ!?」

「“これ”って何なのじゃ」

「えっ、いや・・・・・・その・・・・・・女の子には教えられないって言うか・・・・・・」

「ワシは男じゃ!?」

「・・・・・・大人の教科書か」

「あぁ、なるほどな」

「そうなんだよ! うまく隠したはずなのに、何で見つかったんだ!?」

 

蓋を開けてみれば『エロ本見つかって、怒られそうだからほとぼりが冷めるまで匿ってくれ』というものだった。こんな理由で俺は今、絶体絶命の危機に陥ったのか。とりあえず、若干落ち着いた明久を俺は引き剥がした。

 

「ジャンルは?」

「えっ、いや、ムッツリーニ・・・・・・さすがにそれは言えないよ」

「・・・・・・(しょんぼり)」

「いや、落ち込まれても・・・・・・」

「第一、想像したところでお前は鼻血噴射で気絶がオチだろう?」

「・・・・・・馬鹿にするな、雄二」

 

いつになく真剣な表情で土屋がこちらを睨み付ける。まさか・・・・・・乗り越えたのか、コイツは?

 

「もはや想像程度で鼻血は(ツー)・・・・・・これは血涙」

「「「・・・・・・」」」

 

語るに落ちるかのように、土屋は鼻血を出した。コイツは本当に成長しねぇな。

 

「って、そうじゃなくて! 雄二、一生のお願い!」

「久しぶりに聞いたな、それ」

「お主、一生のお願いって今まで何回使ったのじゃ・・・・・・」

 

俺も秀吉も呆れ気味に明久の頼み事を聞く。コイツの頼み事は大概“一生のお願い”を使っている。本当、一体何回使う気なのだろうか。

 

「まぁ、一日ぐらいなら別に大丈夫か」

「本当!? 有り難う雄二! さすが僕の親友!」

「やめろ、気持ち悪い」

 

良いと言った瞬間コイツ、満面の笑顔になりやがった。本当に現金な奴だと呆れながらため息を吐く。

 

「大体何で見つかったんだ? 隠し場所は変えたんだろう?」

「うん。ベッドのマットの中に入れたんだけど、何故か見つかって・・・・・・」

「普通なら、そんな場所思いつかないじゃろうに」

「前にベッドの下で見つかったから心理的カモフラージュが出来ると思ったんだ。よっぽどのことがない限り、そんな所探さないし」

「玲さんのことだ。どうせお前のベッドで寝転がって、その時の違和感から探り当てたんじゃないのか?」

「雄二、すごいね。どうやらそうみたいなんだ」

「「・・・・・・」」

「姉が自分のベッドで寝る・・・・・・!?」

 

冗談で言ったつもりが図星だった。あまりの事実に驚いて、俺と秀吉は固まってしまう。土屋は単語からシチュエーションを想像したのか、鼻血を盛大に吹いていた。

 

「時々、寝ている時でも姉さんが入り込んでくるから厄介なんだよね。どうにかならないかな?」

「待て。お前は自分の姉がそんなことしてきても平気なのか?」

「えっ? だって、姉さんだよ? 普通に眠れるでしょ?」

 

平然とそう言う明久だが、玲さんのプロポーションを思うと、理性が保てるのかどうか正直なところ、自信がない。なのにコイツは耐えきれるのか・・・・・・。

 

「秀吉だって、お姉さんと一緒に寝たとしても平気でしょ?」

「まぁ、いざそうなってものぉ・・・・・・」

「でしょ~」

「そもそもワシと姉上が一緒に寝ることなど、もはやないのじゃ」

 

なるほど、これが実の姉や妹がいる奴らの考え方か。実妹や実姉に欲情するのはフィクションの中だけなんだな。俺は理想と現実の違いを思い知った。

 

「まぁ、とにかく。今日はよろしくね、雄二」

「ついでだ。秀吉や土屋もどうだ? 今日はお袋が家にいないしな」

「よいのか?」

「あぁ。明久一人だと翔子が何をしてくるか、わからないし」

「まぁ、そうゆう事ならお邪魔させてもらおうかの」

「・・・・・・お邪魔する」

 

よし、これで翔子対策はOKだ。男四人で泊まりとなれば、アイツも変に疑ったりはしないだろう。全く、明久だけだとアイツはお仕置きしてくるからな。

 

「そうなると・・・・・・久しぶりの四人での泊まりだね」

「あぁ。いつもなら明久の家に泊まっていたんだがな」

「玲殿が来てからはめっきりと泊まりなど出来なくなったからのぉ」

「久しぶりのゲーム三昧」

 

突如決まったことだが、こうなってくると今日の夜が楽しみだ。久しぶりに明久をゲームでボコボコにしてやるか。俺は密かにほくそ笑んだ。

 

「雄二、本当に有り難う。お礼に料理は力を入れて作ってあげるからね!」

「おいバカやめろ」

 

だから何でコイツは恋愛漫画のような台詞がポンと自然に出てくるのか、不思議でたまらなかった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「明久、もうすでにお前の負けは確定したな」

「まだだよ、雄二。僕はまだ・・・・・・勝負を諦めていない!」

「じゃが、明久よ。現実は常に残酷・・・・・・奇跡を起こさぬ限り、お主に勝機はないぞ?」

「もはや勝負はほぼ決した・・・・・・お前に勝ち目はない」

「奇跡か・・・・・・ならば僕はその奇跡を引いてみせる!」

 

今、俺たちは双六ゲームをやっており、最後の終盤争いをしていた。ここまでで俺が1位、秀吉2位、土屋が3位で明久が最下位だ。テレビの前でコントローラーを握りしめている明久に対し、俺たちは余裕綽々という感じで画面を見つめていた。

 

「ここで僕はこれを使う!」

「なっ・・・・・・ランダムカードだと!?」

「確かに明久の逆転の手段はそれだけじゃ・・・・・・じゃが!」

「確率は25分の1・・・・・・それを引けなければ明久は敗北する」

「いや、むしろハズレカードを引くと最下位が確定するぞ!」

 

今まで温存していたカードをここで使ってくるとは・・・・・・これで勝負はまだ分からない。俺と秀吉、土屋はコントローラーを握りしめる。

 

「ここで『サイコロ3倍カード』を引き、且つ全て高い数字を出せば雄二達を追い抜くことも可能!」

「無理だ・・・・・・明久にそんなことが出来るはずがねぇ」

「いや・・・・・・明久の目は死んでおらぬ」

「見てろよ、雄二・・・・・・僕が奇跡を起こす、その瞬間を!」

 

明久がカードを使うと、カードの絵がランダムに移り変わる。勝負の行く末を占う光景に俺たちは固唾を飲んで見守る。そして、絵が止まる。その絵柄は・・・・・・

 

「バカな!? 『サイコロ3倍カード』だと!?」

「ありえない!? 明久の引きがありえないのじゃ!?」

「明久が・・・・・・奇跡を起こしたのか!?」

「ハァ-ハッハッハ! どうだ、見たか! 僕の引きを!」

 

そしてサイコロが三つ出て出目が出る。出た目は・・・・・・5、5、6だと!

 

「これでみんなを抜き去り、僕がトップだ!」

「ぐぅ! くそっ、らしくねぇ逆転をしやがって!」

「まさかここまで来て逆転されるとは・・・・・・不覚じゃ」

「・・・・・・絶対に追いついてやる」

「無駄だね! もう逆転は不可能だよ! 見なよ! 僕のコマの位置を!」

 

俺たちのコマを抜き去り、どんどんゴールに近づく明久のコマ。そして、とうとうゴール一歩手前のマスに止まる。くそっ、こうなるともう逆転は無理か・・・・・・!

 

『スタート位置に戻る』

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

出されたマスのイベントによって明久のコマは無常にもスタートに戻された・・・・・・うん。

 

「あぁ・・・・・・逆転は無理・・・・・・だな」

「確かに不可能・・・・・・」

「あ、明久よ! 元気を出すのじゃ! まだワシらもそのマスに止まる可能性があるし!?」

「・・・・・・」

 

どんな気持ちだろうか。奇跡とも言える逆転をしたと思ったら、奇跡としかいいようのないギャグオチになるのって・・・・・・多分、今の明久だろうな。そのまま手番が廻り、俺たちもゴール近くに辿り着く。

 

「ふ、フフフ・・・・・・そうだよ、まだ逆転は夢じゃない。みんながあのマスを踏めば・・・・・・!」

「おっ、ゴールだ」

「えっ?」

「ワシもゴールじゃ」

「ちょっ」

「・・・・・・ゴール」

「バカなぁーーーーーー!?」

 

こうして双六ゲームの順位が確定し、俺が1位、秀吉が2位、土屋が3位で、明久が最下位となった。あまりの結果に明久は膝を抱えて落ち込む。

 

「うぅ・・・・・・何だよ・・・・・・まるで僕がピエロじゃないか・・・・・・」

「げ、元気を出すのじゃ、明久よ! このようなこともあるのじゃ!」

「うぅ・・・・・・秀吉ぃ・・・・・・」

「まぁ、日頃の行いの結果だな」

「黙れ雄二! お前にだけは言われたくない!」

 

大げさに落ち込んでいるのが鬱陶しいため、俺は悪態ついて明久を奮起させる。バカのくせに落ち込まれると本当に鬱陶しい。

 

「でも明久のアレは見事としか言うほかない」

「そうじゃのぉ・・・・・・あれほどの勝利ムードじゃったのに、あっという間に転落したからの」

「確かにな・・・・・・あれほどの珍プレーは滅多にねぇな」

「はぁ~・・・・・・どうしてああなったんだろう」

 

正直、俺も今回ばかりは負けかと思ったが・・・・・・やはりコイツといると退屈はしないな。とりあえず双六ゲームは切り上げて、罰ゲームを始める。

 

「というわけで明久、今日の夕飯はカレーライスを頼むな」

「はいはい、分かっていますよ。あぁ・・・・・・せっかく雄二に僕たちの為に料理を作らせる屈辱を味わらせようと思ったのに・・・・・・」

「料理程度では屈辱にはならんと思うのじゃが・・・・・・」

「雄二が“僕の為に”料理するっていうのが大事なんだよ、秀吉」

「おいバカ、さっさと俺たちのために料理しろ」

「へいへい・・・・・・あぁ、何であんなことに・・・・・・」

 

ブツブツと文句を言いながら台所の方に向かう明久。俺たちはリビングで他のゲームを始める。ゲームを始めて少し経った後、秀吉がポツリと話す。

 

「・・・・・・何か、久しぶりじゃのう。こういう何も考えず遊べるのも」

「急にどうした秀吉?」

「いやのぉ、この頃は色々と忙しかったから、こうやって何も考えず、只遊べる時間がなかった気がしてのぉ・・・・・・」

「おいおい、急にしんみりするようなこと言うなよ」

 

急に秀吉がポツリと寂しそうに喋る。いつもポーカーフェイスの秀吉にしては珍しい。一体どうしたのだろうか。俺と土屋は一時ゲームを中断して、秀吉の方を見る。

 

「2学期に入って、試召戦争が始まってからは、勉強や作戦ばかりでイマイチ気が休まる時がなかったのじゃ」

「・・・・・・確かにAクラスのメンバーとも少し疎遠になった」

「そりゃまぁ、アイツらは俺たちの最終目的だからな。自然とそうなるだろう」

 

Aクラスに勝ち、学力だけが全てではないことの証明こそが俺たちFクラスの目標だ。そうなると、Aクラスは俺たちにとってラスボスであり、自然と敵同士になる。ということは不用意な接触は避けるべきなのだ。

 

「学年全体にピリピリとした空気が流れているために、学校では気が休まらぬ」

「俺の方も売れ行きが悪い」

「まぁ、しょうがねぇよ。俺たちとAクラスとの戦争が終わるまでの辛抱だ」

「うむ・・・・・・そうじゃのぉ・・・・・・」

 

そう言って秀吉は少し沈鬱そうに顔を下げる。いくら何でも気にしすぎだろうと思った時、台所から明久がやってきた。

 

「もしかして、お姉さんとうまくいってないの?」

「明久・・・・・・いや、うまくいってないとまではないのじゃが・・・・・・」

 

心配そうに声を掛ける明久に戸惑う秀吉。そうか・・・・・・考えてみれば秀吉の姉である木下優子は実質的なAクラスのリーダー。俺たちの強敵の一人だが、秀吉にとっては身内なのだ。学校でのことが家の方に影響しているのかも知れない。

 

「学校でのことはできる限り持ち込まぬようにしてはいるのじゃが・・・・・・やはり影響はあるのか、少し気が立っていることがある」

「そうだよね・・・・・・秀吉のお姉さん、責任感強いそうだし」

「あんまり気にする必要はないと思う」

「ムッツリーニ?」

 

どうしたものかと明久と秀吉が頭を悩ませていると、意外なことに土屋が話し始めた。珍しいな、コイツがこういった話に立ち入るなんて。

 

「俺にも兄妹がいて気まずくなることもある。だが、お互いに悪いわけでもなければ、自然と元通りになった」

「ムッツリーニ・・・・・・」

「それに喧嘩したわけじゃないし、別のクラスと戦争中の明久を助けるくらいの度量も持ち合わせているなら、大丈夫だ」

「そうだよ! 秀吉のお姉さんだって、別に秀吉と喧嘩したわけじゃないんだし、ちゃんと元通りになるって!」

「うむ・・・・・・そうじゃの」

 

二人に励まされ、秀吉は笑う。どうやら元気を取り戻したみたいでよかった。しかし、まさか試召戦争を始めた余波がまさかこんな所にまで及んでいるとは・・・・・・俺は内心苦々しく思う。しかも、発端が俺自身というのがまた・・・・・・。

 

「それにいざとなれば雄二に全責任を負わせて、謝らせればいいんだしね!」

「おい明久。てめぇ、何言ってやがる」

「だって、言い出しっぺは雄二だし」

「ほぉ~そんなこと言うなら、俺にだって考えがあるんだぞ?」

 

急に全責任を俺に笑顔で押しつけようとするバカを俺は咎める。確かに発端こそは俺だが、そもそもの言い出しっぺはコイツだろうに。

 

「いいのか? お前が実は・・・・・・」

「待つんだ雄二。僕が悪かったから、それだけは言わないで」

「ほぉ? 一体それは何なのじゃ?」

「気になる」

「無いから!? 何もないから!?」

 

コイツの弱みともいえる“あのこと”に対して、明久もうろたえる。だが、秀吉も土屋も面白いものを聞いたとばかりに、悪い顔を浮かべながら聞きに来る。

 

「知りたいか? あのな、実は・・・・・・」

「あー! あー! ほら、ゲームが途中だよ!? 早くやるべきじゃないの!?」

「むっ、そうじゃの。ゲームも途中じゃし、先にこれを終わらせるとしようかの」

「すぐに終わらせてやる」

「じゃあ、俺以外に1位を取った奴に教えてやるか」

 

そう言って律儀に夕飯を作りに台所に戻る明久。それを見送り、俺たちはゲームを再開する。ゲーム自体はレースゲームで、グランプリをやっている途中である。今は1ステージ目が終わり、次のステージに移るところだった。

 

「さて・・・・・・わざと負けても良いが、珍しく明久が俺を応援しているんでな。この優越感をずっと保ちたいんで勝たせてもらうぜ」

「いや、勝つのはワシじゃ。勝って、続きを聞かせてもらおうかの」

「勝つのは俺・・・・・・それにレースゲームは大得意だ」

「勝て! 勝つんだ雄二! 僕のために!」

 

意気込む俺たちに、台所から俺の応援をする明久。アイツのために闘うのは癪だが、先ほど俺の内に出来た苦々しい想いを吹き飛ばしてくれた礼だ。今回限りは勝ってやる。それに俺だけがコイツの弱みを握っている事実が心地良い。そう思っている内に、ステージのカウントダウンが進む。

 

「3・・・・・・」

「2・・・・・・」

「1・・・・・・」

「スタート! いけぇ、雄二!」

 

スタートと同時に俺たちの運命の勝負が始まった。負けられない闘いに俺たちは全力を傾け、明久は夕飯を作りながら、俺の応援をし続けるのであった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

結果は俺の優勝で幕を引き、その後は明久が作ったカレーライスを4人で食べながら、TV番組を見ながら騒ぐのであった

 




どうでしたか?

こんな風に辛いことも一緒に騒いで流すことが出来る友達っていいですよね。

それでは、また機会があれば会いましょう。


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