桜色の君と過ごす日常 (大天使)
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1話 彼女との日常

初めまして。そうでない方はいつもありがとうございます。大天使です!

今回からは前作である未来への架け橋の続きのストーリーとをやっていきたいと思います。

それではどうぞ!



日常という物は平凡でつまらないものである。俺はずっとそう思い込んでいた。彼女と出会って恋に落ち、お付き合いを始めるまでは。

 

俺、海藤龍吾(かいどうりゅうご)は数年前から生徒減少に伴い、共学化した浦の星学院に通っている。元女子高ということで最初は抵抗があったんだけど今では良い友人達に恵まれて有意義な高校生活を送っている。

 

部活はバスケ部。だけど幼なじみの高海千歌に誘われてスクールアイドルの手伝いもやっていて忙しいけど充実してる。

 

「今日は…Aqoursの練習か…」

 

今日はAqoursの練習があるから彼女と二人っきりで会うことは出来ないなぁ。少し残念だけど頑張る彼女のためだ。俺もしっかり支えなければ!

 

物事はそんなに上手くはいかないものだし連絡をすればいつでも会う事は出来る。何より俺が彼女と付き合うことが出来ただけでも奇跡だと言えるんだ!この機会に感謝しないと。

 

「さてと、そろそろ行くか!」

 

俺は少し早めに家を出て、彼女との待ち合わせ場所へと向かった。

 

─────────────────────

 

「海藤くん!」

 

「ん、来たか」

 

彼女は俺のことを見つけるとすぐに駆け足で俺の元へとやってきた。

 

「おはよう…海藤くん!」

 

「ああ、おはよう…梨子!」

 

「ごめん。待たせちゃった?」

 

「いや、大丈夫だよ」

 

俺はAqoursのメンバーの一人である桜内梨子とお付き合いをしている。彼女と出会ってから俺の平凡だった日常は突然に変わった。勿論いい意味でだ。

 

「海藤くん?どうしたの?」

 

「いや、ちょっと昔のことを思い出しただけだ…」

 

「ふふ…変な海藤くん…」

 

梨子を顔をキョトンとさせて俺の目を見つめてきた。彼女はこういう行為を無自覚でやってくるのだから余計心臓に悪い。

 

「ん。それじゃ…行こうか」

 

「あ…うん///」

 

俺の差し出した手を彼女は恥ずかしがりながらも優しく握ってくれた。梨子と付き合ってから結構経つんだけど彼女は未だに手を握ったりすると恥ずかしがってしまう。いつまでも初々しい感じで良いかもしれないんだけどね。

 

「早くいこーぜ!練習に遅れるとダイヤさん達に怒られちゃうしな」

 

「そうね。急ぎましょ!」

 

龍吾と梨子は仲良く手を繋いで学校へ向かって行った。

 

─────────────────────

 

十数分後、俺と梨子は学校に到着した。今日は俺の部活が無いからAqoursの活動に集中できるな。

 

「お待たせー」

 

「みんな、おはよう」

 

「おはよう!龍ちゃん!梨子ちゃん!」

 

部室には三年生組以外が揃っていた。ダイヤさんと鞠莉さんはそれぞれの仕事。果南姉さんは二人の仕事の手伝いをしているらしくてこの場にはいなかった。

 

「ほうほう…龍くんと梨子ちゃんは仲良く手を繋いで学校まで来たのか…」

 

「え?曜ちゃんそれほんと?」

 

「おい、曜!」

 

「曜ちゃん!?」

 

曜に言われるまで気づかなかったけど俺と梨子は未だに手を繋いでいたままだった。普段は梨子が恥ずかしがるから学校に入る前には手を離したんだけど…やってしまった…

 

「ふむふむ。やっぱり海藤さんと梨子ちゃんはラブラブずら」

 

「花丸ちゃん!?」

 

「はいはい。ご馳走様」

 

「よっちゃんまで!?」

 

梨子は曜や花丸ちゃん達からの総攻撃を受けていた。さて、俺はダイヤさん達が部室に来るまでのんびりと…

 

「してる暇はありませんわよ!」

 

「おはよーっす。早かったですね」

 

「ほら!海藤さんも自分の準備を進めてください!おいていきますわよ!」

 

俺がのんびりする暇もなく、ダイヤさんは部室へとやってきた。その後ろには果南姉さんと鞠莉さんもいる。

 

「お姉ちゃん。仕事はどうしたの?」

 

「すぐに終わらせましたわ。私達の目標であるラブライブ優勝を果たすためには何処かの誰かさんみたいにのんびりなんかしていられませんからね」

 

「誰かさんって誰のことですかね?」

 

「さぁ?誰でしょうか?」

 

これ以上ダイヤさんを問い詰めても無駄だ。俺は大人しく練習と自分の準備を始めるとするか…

 

「海藤くん…」

 

「ん?どうした?」

 

梨子は頬を膨らませて俺の方を見ていた。これはかなり不機嫌な様子だ。

 

「なんで私のことを助けてくれなかったの?」

 

「それは…ダイヤさんと話をしてたから…」

 

「ダイヤさんと話をしてたことは関係ないの。だって…千歌ちゃん達から私にばかり質問されて…その…は、恥ずかしかったんだから…」

 

確かに俺は千歌達のこととか面倒なことは全て梨子にばかり押し付けていた気がした。これは俺が悪いし少し反省しなければな…

 

「ど、どうすれば許してくれるんですかね…?」

 

「んー…頭をなでなでしたら許してくれるんじゃないですか?」

 

色々と彼女に言いたいことはあったけど俺はぐっと堪えて梨子の頭を優しく撫でてやった。

 

「ん…今は時間無いからこれで許してくれるか?後で何でもやってあげるからさ…」

 

「仕方ないから…許してあげます///」

 

少しチョロいような気がするが、こんな姿を見せてくれるのは俺の前だけだから安心している部分もある。他の人の前だと恥ずかしがったりするから気をつけないといけないからなぁ。

 

「龍ちゃん!私達に惚気話聞かせて!」

 

「は?急に何?」

 

「梨子ちゃんがそういうことは龍ちゃんに聞いてって言うんだもん!」

 

「え?梨子……?」

 

「ごめんね。海藤くん♪」

 

梨子は小さく舌を出して笑い、練習場所の屋上まで走って行ってしまった。おのれ梨子…謀ったな。

 

「あっ!コラ!待ちやがれ!」

 

「待ちません♪」

 

「二人とも!私をおいてかないで!」

 

俺が練習後に千歌達からの質問攻めにあったことは言うまでもなかった…

 

─────────────────────

 

「あー。もう疲れた…充電させてー…」

 

「ふふ。海藤くんったら…」

 

時刻は夜の七時を回っていた。練習を終えた俺と梨子は二人っきりで海辺の帰り道を歩いていた。

 

「そういえば海藤くんはもうバイクは使わないの?歩いて行くよりも速いでしょ?」

 

「そりゃ速いよ。でもよ、俺は梨子と一緒に登下校したいんだ。ずっと夢だったんだよなぁ…恋人と二人でこうやって歩くことが」

 

「そ…そうなの///」

 

そう言うと梨子は俺と腕を組んで歩いてくれた。俺もこれに答えるように梨子の肩を優しく抱いた。

 

「なぁ…梨子」

 

「なぁに?」

 

「その……梨子が良ければなんだけど…今度の日曜に俺ん家に泊まりに来ないか?ほら俺の親は仕事で当分帰ってこないからさ…」

 

「………いいの?」

 

「勿論。だから誘ってる」

 

健全な高校生カップルが恋人の家で二人っきり。そんな状況で何が起こるのかは少し考えたらわかることだろう。龍吾も梨子もその事は理解していた。

 

「あ!でも無理だったら別に気にしなくてもいいんだぜ?そっちにも都合とかあるだろうし!」

 

これは俺の勝手な願望だから彼女が嫌がるのなら仕方ない。急がずゆっくりと俺達の関係を進展させていけばいいと思っていたけど…

 

「泊まりに行くよ…海藤くんの家に///」

 

「あ…ありがとう///」

 

お互いに顔は真っ赤になっていた。そのまま二人の間に会話のないまま梨子の家の前についてしまったから今日はここでお別れだ。毎度のことだけど寂しくなるなぁ…

 

「今日はこれでお別れだね。それじゃ…」

 

「あ、ちょっと待って!」

 

腕から離れた梨子が俺の方へ戻ってきた。少し俯いている梨子のその顔はさっきよりもずっと赤かった。

 

「梨子…?」

 

「海藤くん……」

 

瞬間、俺の唇に柔らかい感触が伝わる。それが梨子の唇であることに気づくまで時間はかからなかった。

 

「り…梨子…?」

 

「またね。海藤くん♪」

 

そう言い残して梨子は早足で自分の家へと入って行ってしまった。俺はその場から動くことが出来ず呆然と立ち尽くしていた。

 

(や、やられた…///あんなの反則だろ…!)

 

彼女の意外な一面を目の当たりにした俺の顔はさっきよりも熱くなっているのを感じた。これは当分治りそうにないな。

 

─────────────────────

 

「私からキス…しちゃったんだよね…?思い出すだけで恥ずかしい…///」

 

自分の家に帰ってからシャワーや食事を済ませ、ベッドに入った私は海藤くんの家に泊まった時のことを想像して顔が真っ赤になってしまいました。もう誰が見てもわかるぐらいに…

 

(今度の日曜は海藤くんの家で二人っきりでお泊まり…ってことはあんなことやこんなことを…///どうしよう…緊張して眠れないよ…)

 

梨子の眠れぬ夜はまだまだ続きそうなのであった。

 




説明文にもある通り、未来への架け橋という私の作品を見なくても楽しめるようになっているつもりです。

オリ主のプロフィールは活動報告に載せておきますのでぜひご覧ください。

それではまた。


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2話 二人の心境

こんにちは大天使です。
最近バンドリにハマりまくってます。おたえちゃんが可愛すぎてヤバイです…

それではどうぞ!



「えへへ……海藤くんとお家デート///」

 

「おーい!梨子ちゃーん! 」

 

「ダメだ…完全に自分の世界に入り込んでるよ…」

 

今日は朝から梨子ちゃんの様子が変だ。話しかけてもずっとうわの空だし練習中も龍ちゃんのことばっかり考えている。何があったんだろう…

 

「えっと…龍ちゃんは…」

 

「自分の部活行ってるよ。ここにいなくて良かったと言うべきなのか…」

 

龍ちゃんはさっきからバスケ部の活動に行っていてここにはいなかった。もしこの場に龍ちゃんがいたらと思うと…

 

「リリー!早く戻ってきなさい!」

 

「海藤さんのことが気になるのはわかりますが今は練習中なので、集中しないと駄目ですわよ」

 

「あ…はい。すみません…」

 

善子ちゃんとダイヤさんの一言で梨子ちゃんは元の調子に戻ってくれた。よし!早速練習の続きを…

 

「ふぅ…ただいま!」

 

「え?」

 

「あ!海藤くん♡」

 

梨子ちゃんが元に戻った瞬間に龍ちゃんが屋上へとやって来てしまった。梨子ちゃんが元の人格を保っていることが不幸中の幸いだけど。

 

「もー!来るのが早すぎるよ!」

 

「にゃにぃ?せっかく休憩時間の合間にみんなの様子を見に来てやったというのに…」

 

「お願いだから今日はずっと自分の部活にいて!このまま龍ちゃんがいると練習にならなくなっちゃうから!」

 

「なんかショックだわ…」

 

そう言うと龍ちゃんは少し落ち込みながらバスケ部の練習へと戻って行った。

 

「行っちゃった…」

 

「ごめんね梨子ちゃん。でもあなたのためにはこうするしかないんだ。あのまま練習に参加されてたら調子とか狂っちゃうでしょ?」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

「わかってくれればいいのだ!それじゃ練習を再開しよ!」

 

それからの練習は思ってたよりもスムーズに進んでいって、あっという間に終わってしまった。

 

─────────────────────

 

少し早めに部活が終わったので私は学校の近くの喫茶店で海藤くんの練習が終わるまで待っていることにしました。隣には千歌ちゃんと曜ちゃんもいます。

 

「練習はちゃんと出来たからよかったけど朝の梨子ちゃんは何か変だったよ!」

 

「梨子ちゃんは、龍くんとイチャイチャしてた時のことでも思い出してたんでしょ?」

 

「うう…恥ずかしいよ…」

 

私は朝の自分のことを思い出して誰が見てもわかるぐらいに顔が真っ赤になっていました…

 

「そ・れ・で!昨日の練習後に龍ちゃんと何をしたの?話しちゃえば楽になるよ?」

 

「えぇ…」

 

「さぁ梨子ちゃん。何があったのか聞かせてもらいましょうかねぇ…」

 

千歌ちゃんも曜ちゃんも私の逃げ場を無くすようにして私に近づいてきました。これって絶対に言わなきゃダメってことなの?

 

「海藤くんが家に泊まらないかって…」

 

「「え?」」

 

「だから!海藤くんが!」

 

「も、もうわかったから!」

 

あぁ…二人に話しちゃいました。内緒にしておくつもりだったのに…海藤くんごめんなさい…

 

「龍ちゃんもやるねぇ…梨子ちゃんを家に連れ込もうとするなんて」

 

「昔の龍くんなら絶対にやらないもんねぇ…」

 

「そ、そうなの…」

 

昔の海藤くんって一体なんなんだろう?私は少し気になってきました。それに私以外にお付き合いしてた人がいるのかどうかも気になるなぁ…

 

「あ!昔の龍ちゃんのこと聞きたい?」

 

「き…聞きたい!」

 

「えーっと、昔の龍ちゃんは…」

 

「やめろ!」

 

千歌ちゃんが話し出した瞬間に練習を終えた海藤くんが店に入ってきました。

 

「龍ちゃん!」

 

「海藤くん!」

 

「おう、待たせたな。それと千歌、それ以上昔のことを言うんじゃない。恥ずかしいから梨子には絶対に聞かれたくねぇ」

 

私だけには絶対に聞かれたくないこと…彼にそんな秘密があったなんて知りませんでした。正直言うと隠し事なんてしてほしくないんだけどな…

 

「わかったよー。言わないから!」

 

「さんきゅ」

 

「でも隠し事は程々にしてよね。梨子ちゃん悲しんじゃうかもよー」

 

「それを本人の前で言うか?」

 

私だって知らないことを幼なじみの千歌ちゃんと曜ちゃんは知っている…私は少し悔しくなってきちゃいました。こうなったら…

 

「千歌ちゃん。やっぱり教えて」

 

「了解!」

 

「え?」

 

海藤くんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていまし た。多分突然の事で驚いているのかなぁ。

 

「あのう…梨子サン?」

 

「千歌ちゃん達が知っていて彼女である私が知らないなんて嫌なの。だめ…?」

 

海藤くんは無言で俯いてしまいました。顔はよく見えないけど耳が真っ赤だったから顔も同じようになっているのでしょう。

 

「無言は肯定とみなしますよ。海藤くん♪」

 

「うぅ…」

 

「梨子ちゃん、昔の龍ちゃんは…あ、そうだ!写真もあるよ!」

 

「見せて!」

 

「もっちろん!」

 

「ああ…もうやめてくれぇ…」

 

海藤くんは完全に諦めた表情を浮かべていた。

 

「わ、笑わないでくれよ…?」

 

「内容によるけど…あはは!昔の海藤くん面白い!」

 

その写真には普段の善子ちゃんみたいな服装をしている海藤くんが写っていた。

 

「うわぁぁあ!!!だから嫌だったんだァ!」

 

「この時の龍ちゃんは凄かったんだよ!こんな服装してよくわからないことをブツブツ言ってた割にはシャイでどーしようもなかったんだから!」

 

「許してくださぁい…」

 

「まだまだあるよ!」

 

「よし!見る!」

 

「やめてくれぇ…」

 

他にも色々な写真を千歌ちゃんから見せてもらったけど昔の海藤くんは…とっても可愛かったです♪

 

─────────────────────

 

千歌ちゃんの話も終わったので私達はお店をあとにしてそれぞれの帰路につきました。勿論私は海藤くんと一緒です♪

 

「うふふ。とっても可愛かったよ!」

 

「はぁ…もう嫁に行けねぇ…」

 

海藤くんは相当疲れちゃってるみたい。少しやりすぎちゃったかな?

 

「それを言うならお婿に行けないでしょ。それに普通はお嫁さんを貰うことになると思うけど…」

 

「梨子以外のお嫁さんなんていらないぃ…」

 

「えっ…///」

 

い…今梨子以外のお嫁さんなんていらないって言ったよね?そ…それって…

 

「か…海藤くんのバカぁ…!」

 

「なんか今日の俺の扱い酷くね?」

 

か…海藤くんのお嫁さんか……いつかなれるといいなぁ…///

 

「梨子が嫁さんになってくれるといいのになぁ…俺は大歓迎だけど…梨子はどうなんだ?将来俺の嫁さんになってくれるか?」

 

「え!あの…その…///」

 

なんでこういう時の海藤くんって恥ずかしいことを普通に言ってくるの?普段は私と同じかそれ以上に恥ずかしがるのに…

 

「私は…やっぱり海藤くんのお嫁さんになりたいなぁ…」

 

「……ありがとう。大好きだよ梨子!」

 

「と、とにかく!この話は私達にはまだ早すぎます!だって私達はまだ…」

 

「まだ?何なんだ?」

 

「う…///もう海藤くんなんて知りません!」

 

海藤くんのことは大好きだけど、これからの私達の事とか色々考えたら恥ずかしくて……

 

私は明日からどんな顔をして海藤くんに会えばいいのでしょうか…

 

─────────────────────

 

「さてと、こんな感じかな!」

 

梨子が今すぐ来るってわけじゃないのに部屋を綺麗にしちゃうのはなんでなんだろうな。普段からそんなに汚くしていることはないけど。

 

「やっぱさっきのは駄目だったかな…梨子がすごく恥ずかしがってたし」

 

さっきのこと。梨子が俺の嫁になってほしいのは事実だけど俺達はまだ学生の身だからそんな話はまだ早すぎるような気もするなぁ…

 

それにそういう話をするのも本心を言うと結構罪悪感がわくこともある。無理やり自分の欲を押し付けてるような感じするからちょっと重いような気もするし…

 

「はぁ…俺まで恥ずかしくなってきやがった…後からこんな思いをするくらいだったら初めから言わなきゃいいのによ…」

 

俺はいつもこうなんだなぁ…少しカッコつけようとかいい所を見せようとか思うと結局空回りしちまって失敗したり後からああすれば良かったとか考えてしまう。今回もそうだ。

 

「俺は明日からどんな顔して梨子に会えばいいんだろうなぁ…それにしばらく梨子の顔を見られないかもしんない…」

 

龍吾がこの日、眠りにつくことは無かった。

 




今回はここまでです。

それではまた。


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3話 お家デート

こんにちは大天使です。

4月になり、新生活が始まりましたが、私は新しい環境に馴染める気がしません。これからどうしていけば良いのでしょうか…

それではどうぞ!



「眠い…」

 

結局昨日は一睡も出来なかった。一晩中彼女のことを考えてしまっていたからだ。今日の練習に支障が出なければ良いんだけど…

 

「あ…海藤くん…」

 

「お、おう…おはよう…」

 

気まずい…昨日あんなことを言ってしまった自分が悪いのだが、正直ここまで空気が重くなっているとは思わなかった。

 

「その…梨子、昨日は悪かった…」

 

「え?なんで海藤くんが謝るの?海藤くんは何も悪いことしてないでしょ?」

 

「あれだよ、その…梨子が俺の嫁になってくれたら嬉しいとか何とか…」

 

俺が梨子にこんなことを言っていたと思うと恥ずかしくなってしまう。昨日の俺はなんであんなことを堂々と言えたんだろうな。

 

「あのこと?私は全然気にしてないよ。寧ろ…海藤くんが私のことをそんなふうに思っていてくれることがわかって嬉しかったし///」

 

「ん?最後の方なんて言ったんだ?」

 

「い…いや!何でもないよ!」

 

とにかく、彼女に謝ることが出来て本当に良かった。もし、このままずっと話すことが出来なくなっていたら…いや、考えるのはやめよう。

 

「今日と明日の練習も頑張ろうぜ。明日は練習が終わったら家に泊まりに来るんだろ?」

 

「あ///そうだね…」

 

明日は日曜日、梨子が俺の家に泊まりに来る日だ。明日もAqoursの練習自体はあるのだが、午前中の二時間だけで終わりなのだ。そのため、梨子は午後から家に来ることになっている。

 

「明日の練習は早めに終わるんだよね?本当にそれでいいのかな?」

 

「俺はスポーツやってるからわかるけどな。練習もやりすぎては毒になるんだよ。明日の練習は軽めにして、その後はしっかり休む。体を壊さないためにはこういう日も必要なんだよ」

 

「なるほど…」

 

強豪校は休む暇もなく練習をしていると勘違いしている人は結構いるが、それは逆だ。寧ろ強いチームほどしっかりと休んでいる。体に疲れを残していては最高のパフォーマンスなんて出来ない。それはスクールアイドルも同じだ。

 

「自分のことだけじゃなくてみんなのことも考えて練習メニューを作っていかないとね」

 

「そうだな。これからも頑張ないとな!」

 

「うん!」

 

この日の練習もとても有意義なものになった。そして次の日はあっという間にやって来た。

 

─────────────────────

 

「お疲れ様!また明日ね!」

 

日曜日、二時間の練習はあっという間に終わってしまった。俺は色々と準備をしなければならない。早く帰ろうとしたその時、俺は急に千歌に呼び止められた。

 

「ねぇねぇ龍ちゃん」

 

「どうした?千歌?」

 

「今日、梨子ちゃんは龍ちゃんの家にお泊まりなんだよねぇ~?」

 

「なっ!なんでそれを!?」

 

千歌の口からは予想もしなかったことが飛び出してきた。なんでこいつがお泊まりのことをしってやがる?そのことは誰にも言ってない筈なのに…

 

「聞いちゃった♪」

 

「なんてこった…」

 

俺は思わず頭を抱えた。こいつが絡むとろくなことが起こらない気がする。今回は直接の関わりがないから何事もないと信じたいが。

 

「大丈夫だよ!龍ちゃんが梨子ちゃんを大切にしていることは知ってるから!」

 

「そりゃどうも…」

 

「あ!あとで話聞かせてね!」

 

「嫌だ!」

 

「えー!龍ちゃんのケチ!」

 

なんとでも言え。毎回のように梨子としたことを聞き出される俺達の身にもなってくれ。二人だけの秘密にしたいことだって色々あるんだよな…

 

「俺はそろそろ帰るわ。待たな!」

 

「はーい!お幸せにー!」

 

千歌に別れを告げ、少しでも部屋を綺麗にしておこうと思った俺はダッシュで家に戻った。

 

─────────────────────

 

「よし!こんなもんでいいかな!」

 

梨子が俺の家に来る時間になった。家の片付けは数日前から進めていたので、今日は軽く掃除をするだけで済んだ。

 

部屋の準備が全て終わった瞬間に家のインターフォンが鳴った。どうやら梨子が来たようだ。

 

「お、来たか!」

 

「お待たせしましたぁ…」

 

大きい荷物は練習前に家に運んでおいていたので後の準備は楽だった。

 

「お…お邪魔します…」

 

「あんまり固くならなくていいって、自分の家みたいに寛いでくれよ」

 

「うん…」

 

梨子は少し緊張しているようにも見える。彼女が俺の家に入るのは初めてなので、それも仕方の無いことだと思う。逆の立場だったら俺もそうなる。

 

「ここが俺の部屋だ。梨子はゆっくりしてていいよ。俺は飲み物持ってくるから」

 

「うん。ありがとう」

 

俺は飲み物や簡単なお菓子を用意するために梨子を部屋に残してキッチンへ向かった。千歌とか曜は勝手に部屋の引き出しとか開けそうだけど梨子はそんなことをしない人だから心配はいらないな。見られて困る物なんて特にないよな…

 

 

「持ってくのはオレンジジュースでいいかな?あと今日の夕飯は…」

 

家にあげてしまったんだ。そのことを気にしても仕方ないだろう。今は梨子と二人っきりで過ごせる時間を楽しまないとな。

 

それから俺と梨子は色々な話をしたり、映画を見たりして楽しく過ごした。だけど、そんな楽しい時間はあっという間に過ぎていってしまった。

 

─────────────────────

 

私と海藤くんの二人で仲良くお話している時間はとても楽しくて気がついたら夜になっていました。

 

「もうこんな時間か。んじゃ、俺は夕飯作ってくるよ。梨子はここで自由に過ごしていてくれ」

 

「わかった」

 

20分くらいたった頃でしょうか。私は申し訳ないとは思いながらも彼の部屋の中を見てまわりました。男の子のものとは思えないほど整頓されているお部屋で、過去の大会で手にしてきたであろう賞状やメダル等が飾られていたり、彼の好きなアニメや漫画のフィギュアがあったりしました。

 

「あれ?これは…」

 

私は海藤くんの部屋で一つの写真を見つけました。写っているのは五人。どうやら家族写真のようです。その写真には海藤くんとご両親、そしてお兄さんが写っていました。

 

私は写真を見て、一つ気になることがありました。海藤くんの家族は四人。それは前に海藤くん本人から聞いたことです。

 

じゃあ海藤くんの隣で笑っているこの男の子は誰なんだろう。弟さんのようにも見えるけど彼に弟はいないはずです。

 

「………梨子?」

 

「きゃあ!…って海藤くん?」

 

「夕飯できたから呼びに来たんだ。ところで…梨子は一体何をやってるんだ?」

 

そうだ…私は彼の部屋の中を勝手に見ちゃったんだった。怒られるかもしれないな…

 

「その…勝手に見てごめんなさい…」

 

「いや、気にしなくていいよ。こんなに目立つ場所に置いている俺が悪いんだからさ」

 

海藤くんは私の手から写真を取って、そっと元の場所に戻しました。

 

その時、私は気づいてしまいました。家族の写真を見た海藤くんが悲しい目をしていたことに。

 

「……………………武人(たけと)…」

 

「海藤くん?何か言った?」

 

「いや、何でもねぇ…飯にしようぜ!」

 

「う…うん!」

 

その後は二人で仲良く夕食を食べました。海藤くんの手料理はとっても美味しくて、ほっぺたが落ちそうになっちゃいました!

 

─────────────────────

 

「ご馳走様でした!」

 

「お粗末様。口にあったみたいでよかったよ」

 

「うん!とっても美味しかったよ!」

 

俺の料理が梨子の口に合うのか不安だったけど、梨子はとても美味しそうに料理を食べてくれた。頑張って作ったかいがあったな。

 

「もう風呂沸いてるから先に入ってきていいよ。片付けは俺がやっておくから」

 

「私も手伝った方がいいかな?」

 

「いや、すぐに終わるからいいよ。それに梨子はお客様なんだから手伝わせるわけにはいかないよ」

 

「ありがと…」

 

「どういたしまして!」

 

「そろそろ寝る準備とかしないとな。客間に布団敷いてくるから待っててな」

 

時刻は11時を過ぎ、外の雑音もほとんど聞こえなくなった。都会ならこの時間でももっと煩いのだろう。だが、この近くでは夜遅くに人はいないし、自動車などもあまり通らない。この時間帯に聞こえるのは静かな波の音くらいだ。

 

「ねぇ…海藤くん…」

 

「梨子?」

 

布団を敷いてくるために立とうとした俺の腕を梨子の手が優しく掴んでいた。

 

「その…私達は恋人同士だよね///」

 

「そ、そうだな…」

 

「だ、だから……その……恥ずかしいけど…一緒に寝ませんか?///」

 

梨子は耳まで赤くして俺に言った。

 

「お…おう///俺は構わないぞ…」

 

「…ありがとう///」

 

今の俺の顔は彼女の顔に負けないぐらい真っ赤になっているのだろう。

 

健全な高校生カップルが同じ部屋で一夜を過ごす。この後の展開は安易に想像できるだろう。

 

「ねぇ…もっとこっちに来て。夜は寒いでしょ?もっと近づいた方が………暖かいよ///」

 

俺は自分の頬が今まで以上に熱くなっていくのを感じていた。頬の熱はゆっくりと顔全体に広がっていった。

 

「お、おう…」

 

「まだ足りない…海藤くん、私のことを思いっきり抱きしめて…お願い…」

 

俺は優しく梨子を抱きしめる。すると普段は恥ずかしがり屋で奥手な彼女が更に俺のことを誘ってきた。このまま我慢なんて出来るはずがない。

 

「抱きしめるだけじゃ終わらないような気がするけど…いいか?」

 

「ううん。抱きしめてもらうだけじゃイヤ。もっと近くで海藤くんのことを感じたいよ///」

 

梨子は今まで以上に顔を赤くし、静かに言った。

 

「海藤くんが…欲しいです///」

 

「梨子…俺も梨子が欲しい…」

 

ゆっくりと二人の顔が近づいていく。後戻りなど出来るはずがなかった。

 

「海藤くん…」

 

「梨子…」

 

その後の出来事を語ることは出来ないが、俺達はとても幸せな時間を過ごしたのだった。

 




R-15ではここまでが限界でしょう。このあとの展開は皆様の想像にお任せします。

それではまた。


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4話 お祭りへGO!

かなり久々の投稿になりました。テストとか色々あってとても忙しかったです。

お待たせしました!



「ん………もう朝か」

 

朝早くに目覚め、部屋に散乱していた衣服を身につけた俺は隣で寝ている彼女に目を向ける。彼女は俺の腕を抱き枕にして幸せそうに眠っていた。

 

「うっ、体痛い…」

 

昨日あれだけお互いを求めあったんだ。こうなるのは当然だろう。身体中が痛くて重いが、全く嫌ではなかった。

 

「ついにそういう関係になってしまったか。いつかこうなるかなと思ってたけど、こんなに早かったとはな…」

 

今までは知る由もなかったが、まさか夜の梨子はあんな感じになるとは…このことは出来るだけ考えないようにしなければな。

 

「梨子…愛してるよ…」

 

俺は梨子の耳元で囁き、頬に軽くキスをした。

 

「///」

 

「ん?」

 

俺はあることに気がついた。寝ているはずの梨子の顔が真っ赤になっていることを。

 

「梨子。起きてる?」

 

「……………………」

 

「いや、起きてるでしょ」

 

彼女に声をかけるが返事がない。どうやらこのまま狸寝入りをするつもりらしいな。まぁ俺には考えがあるから構わないけどね。

 

「んっ…」

 

「んふっ…ん!?」

 

やっぱり起きてた。寝てたんだったらこんなに反応が早いはずはないからな。そう思いながらもう一度キスをする。

 

「おはよう、梨子」

 

「お、おはよう///」

 

「とりあえず服を着たらどうだ?そのままじゃ寒いでしょ?」

 

「う、うん」

 

「俺は朝飯作ってくるからさ」

 

俺は彼女の方を出来るだけ見ないようにして朝食を作るためにキッチンへと向かった。

 

─────────────────────

 

「ごちそうさまでした♪」

 

「お粗末様」

 

朝食を食べ終え、流れる平凡な時間。俺はこうやって二人でのんびりと過ごす時間も悪くないと思う。

 

「今日の練習が休みでよかったな」

 

「そうだね」

 

今日の練習は久しぶりの休みになっている。俺達は色々あって朝から疲れていたので、今日の休みはとてもありがたかった。

 

「さて、今日は一日ゆっくりと…」

 

俺がそう言った瞬間に俺のケータイから着信音が鳴った。

 

「海藤くん、電話よ」

 

「わかってる。かけてきた相手は…千歌か。何か用事でもあったかな?」

 

ケータイの画面に写っている名前は千歌だった。

 

「龍ちゃん、おはよー!」

 

「おはよう。朝早くにどうした?」

 

「みんなで遊びに行こ!」

 

千歌からの急なお誘いだった。行くのは構わないけどすぐに行くのは無理かなぁ…色々あったし…

 

「突然だな。どこに行くんだ?」

 

「お祭りだよ!夕方からやるからみんなで行けるかなーって思って!」

 

お祭りねぇ…夕方からだったら準備とかも余裕な気がする。久しぶりに浴衣でも来ていくか。

 

「お祭りか。俺は全然いいぞ」

 

「わかった!それじゃあ五時に私の家に来てね!」

 

「はいよ!」

 

それだけ言って電話を切った。そして俺の横に座る梨子にも話をする。

 

「夕方から千歌達とお祭りに行こうと思うんだけど梨子も行くよな?」

 

「うん!楽しみだね!」

 

「ゆっくり出来るのは午前中だけになっちまったな。俺も梨子も準備があるし」

 

「そうだね…だけど、お祭りの時も一緒にいられるからそれでもいいんじゃない?それに千歌ちゃん達とも一緒に過ごせるしね!」

 

「そうだなぁ…楽しみだ!じゃあそれまでは二人でのんびりと過ごそうか」

 

「うん♪」

 

それから俺達は梨子が準備のため一旦家に帰る時間になるまでゆっくりとした時間を過ごしたのだった。

 

─────────────────────

 

「おーい!龍ちゃん!」

 

「よう。昨日ぶりだな」

 

俺は待ち合わせの時間ぴったりに千歌の家の前に来た。まだ梨子は来ていないようだけど。

 

「ねぇねぇ!似合ってる?」

 

千歌は俺の目の前でくるくる回りながら自分の服装の感想を聞いてくる。

 

「似合ってるじゃん。いいと思うよ」

 

「ありがと!龍ちゃんもカッコイイよ!特にその髪型が!」

 

「お…おう。ありがとな///」

 

「あー!龍ちゃん照れてる!可愛い!」

 

「て…照れてねぇし!」

 

確かに俺の髪型はワックスを使って時間をかけてセットしたからいつもと違う。自分でもなかなかいい出来だとは思ってたんだけどやっぱ人に褒められると照れるものなんだな…

 

「海藤くん!千歌ちゃん!」

 

「あ!梨子ちゃん!」

 

「梨子!」

 

俺と千歌が他愛のない会話を続けていると浴衣姿に着替えた梨子がやってきた。

 

「ごめん。待たせちゃった?」

 

「大丈夫だよ!」

 

「気にしなくていいさ」

 

「ありがとう。ねぇ、海藤くん…私の服装どうかな?変じゃないかな?」

 

梨子の浴衣姿はとても良かった。桜色の浴衣も彼女のイメージとあっていて本当に綺麗だ。

 

「と…とてもいいと思うぞ。可愛いし…」

 

「う、うん。ありがとう…海藤くんも…とてもかっこいいよ///」

 

二人は同時に顔を逸らす。その顔はお互いに真っ赤になっていた。

 

「ほうほう。これがバカップルってやつかぁ」

 

「「その言い方はやめて!」」

 

「あはは!ハモってるし息ぴったりじゃん!」

 

「「うぅ…」」

 

バカップルと言われて否定するつもりはないが、やっぱり恥ずかしい。あまりその呼び方で呼ばないでほしいものなんだな…

 

「二人とも行こ!みんなと合流しなくちゃ!」

 

「そうだな。急ごう!」

 

─────────────────────

 

「あ!やっと来たね!」

 

「待ってたよ!」

 

待ち合わせ場所には既に俺達以外の全員がいた。

 

「みんな揃ったので行きましょうか。練習以外でこうやって全員集まれることはそう多くありませんからね」

 

ダイヤさんの一言で全員が歩き始める。確かお祭りの会場はここからそう遠くはないから、すぐに到着するだろう。

 

「ねみー…」

 

「珍しいわね。どうかしたのかしら?」

 

俺の横にはいつの間にか善子がいた。

 

「いやー待ち合わせの時間までずっと梨子とゲームやってたから結構眠いんだよ…」

 

「へぇーなんのゲーム?」

 

「天使を狩るゲーム」

 

「天使を!?」

 

あ、こいつは自称堕天使だから狩られるのがなんちゃら…ってよくわかんねぇ!

 

「まぁ面白いから気が向いたらやってみたらどうだ?なんなら今度貸そうか?」

 

「え…ええ、考えておくわ…」

 

それから歩いて五分ぐらいで俺達は祭りの会場に到着した。

 

「やっとついた!」

 

「まだそこまで歩いてないでしょ?」

 

「さて、迷子になったら大変だから何組かに別れて回ることにする?」

 

「それがいいと思いますわ」

 

曜の意見でお祭りは何組かに別れて回るということになった。

 

「曜ちゃん、一緒に回ろ!」

 

「もちろん!」

 

「ルビィちゃん、いくずら!」

 

「うん!」

 

「ちょっと!ヨハネを置いてかないでよ!」

 

「私達も行きますわね」

 

「また後でねー」

 

「それじゃ、ごゆっくり!」

 

あっという間に千歌達がいなくなり、俺と梨子がその場に取り残されてしまった。

 

「あー…とりあえず一緒に行くか?」

 

「うん…」

 

そういえばみんながいなくなるときに何人か俺らに謎の視線を向けてきたような…まぁいいか。

 

「海藤くん、こうやって二人で出かけるのってなんだか久しぶりな気がしない?」

 

「そういえばそうだな。最近はお互い色々と忙しかったからな」

 

「だからさ、その……手…繋がない?」

 

「わかった。せっかくのお祭りなんだから楽しもうな!」

 

「うん!」

 

それから俺と梨子はりんご飴を食べたり射的をしたりして楽しい時間を過ごした。

 

「楽しかったな!」

 

「うん!海藤くんがあんなに射的が上手だったとは思わなかったよ!」

 

「小さい頃から千歌達とやってたからな。嫌でも上手くなるんだよ」

 

「ふふ、また海藤くんの新しい姿を知れてよかったよ。私はこれからももっと海藤くんの事が知りたいな…」

 

「そうか。俺も梨子のことをもっとたくさん知りたい。これからもよろしくな。梨子…」

 

「うん…」

 

二人の距離が少しずつ近くなっていく。そして二人の唇が完全に触れ合う瞬間…

 

「龍ちゃん!大変だよ!」

 

急に後ろから千歌の声が聞こえた。俺と梨子はすぐに元の体勢に戻った。

 

「どうした?何かあったのか?」

 

「果南ちゃん達が変な人に絡まれてるの…」

 

「何だと!場所はどこだ?」

 

俺は千歌に教えてもらった場所まで人の間をすり抜けながら全力で走って行った。

 

─────────────────────

 

「あの…すみません。私達は一緒に来てる人がいるんです…」

 

「まぁまぁそんなのほっといてさ、俺達と遊ぼうよ。楽しいよぉ!」

 

私達は見た目がチャラくて大学生くらいの男の人達に囲まれていた。

 

「ソ、ソーリー…」

 

「大丈夫だって、悪いようにはしないから!」

 

悪いようにはしないって言ってるけど、絶対何かあると思うんだけど…やっぱり男の人ってお父さんや龍吾以外信頼出来ないなぁ…

 

「あっ、いたいた。果南姉さん!」

 

「あ?この女の弟か?」

 

「気にすんなって、たかが子ども一人来たところで何も出来やしないさ」

 

あーあ、好き放題言われちゃってさ。こうなったら龍吾には徹底的にやってもらわないとね。もちろん暴力は使わない方法で…

 

「あのーすみません。この人達は自分の友人なんで連れて帰りますね。見つけてくれてありがとうございました」

 

「おいおい。あとから来てそれは無いんじゃないのか?それとお兄さん達かなり強いからさ、君一人くらいならなんとでも…」

 

 

 

 

「………何か言いましたか?」

 

 

 

 

龍吾の顔はにっこりと笑っているけど目は全然笑ってない。寧ろあれは人を殺すような目だ。私もちょっと怖くなってきちゃったよ…

 

「い、いや…なんでもねぇ…」

 

「おい、もう行こうぜ…」

 

お兄さん達も同じようなことを思っていたらしく、すぐにどこかに行ってしまった。

 

「リューゴ!助けてくれてありがと!」

 

「どういたしまして。いやー喧嘩にならなくてホントよかったですよ…」

 

「どうせだったらコテンパンにやっつけちゃば良かったのにね」

 

「ハハハ…」

 

鞠莉がちょっと良くないこと言ってるなぁ…私は龍吾に喧嘩なんてしてほしくないし、龍吾本人もそんなことするつもりはないだろうから大丈夫だとは思うんだけど…

 

「いや、あんまり大事にはしたくなったし、問題起こしたら色々厄介なことになるからなぁ…それに喧嘩には自信ないし…」

 

「そうですわね。海藤さんのやり方は正しかったと思いますわよ」

 

「まぁ三人が無事だったからいいんですよ。千歌達の所へ戻りましょうか」

 

騒動が一段落ついたので私達は千歌達が待っている場所に向かうことにした。

 

─────────────────────

 

俺が元いた場所に戻ると、千歌達が心配して俺達の元へ駆け寄ってきた。

 

「果南ちゃん!大丈夫だった?」

 

「大丈夫だよ。龍吾が助けてくれたから」

 

「龍ちゃん!喧嘩なんかしてないよね?」

 

「喧嘩なんかするわけないよ…」

 

本当に千歌は心配性だな。でもこういう優しいところが千歌のいいところでもある。

 

「そろそろ花火が始まるからさ、みんなで一緒に見ようよ!」

 

俺達が空を見上げると同時に一つの花火が打ち上がった。

 

「綺麗だ…」

 

「そうだね」

 

いつの間にか梨子は俺の隣に来ていた。そして自然と二人の手も繋がる。

 

「ねぇ海藤くん」

 

「なんだ?」

 

「来年も来ようね」

 

「来年だけじゃないさ。次も、その次も、何度でも来ような」

 

「…うん!」

 

俺達のいつも通りの関係がいつまで続くのかは分からない。いつか離れ離れになる日が来てもまたみんなで集まれる日が来て欲しい。それは俺だけじゃなくメンバー全員の願いでもあった。

 




Aqours2ndライブの埼玉公演に応募してきました。神様ヨハネ様!どうかチケットが当たりますように!

それではまた。


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5話 全国への挑戦

お久しぶりです。作者ですら忘れかけていた設定を使う時が来ました。急展開になりますので予めご了承ください。



ここは浦の星学院の体育館。朝早くからバスケットボール部の部員達が練習で汗を流していた。

 

「はぁはぁ…」

 

「よし!もう1セット行くぞ!」

 

「おう!」

 

今はスリーメンの練習中だ。3人が走りながらパスを回して最後にシュートを決めるという練習だが、ここの学校では最後のシュートを外したらもう1回やり直しという厳しいルールになっている。

 

ガコン

 

「…くそっ」

 

「ドンマイ!切り替えていこう!」

 

現に俺達の前にやっていた1年生は疲れからかシュートを外してしまいもう1周することになってしまっていた。

 

スパッ

 

「よし!ナイッシュ!」

 

ようやく最後のグループが終わり、休憩時間となった。

 

「ぬわああん!疲れたぁ!」

 

「やめたくなりますよぉ~部活ぅ…」

 

この春入ったばかりの1年生は既に疲れきってしまっていた。あれだけのハードな練習をこなせばこうなるのは仕方の無いことだろう。

 

「お前ら、疲れてるのは俺達もわかっているが、手は抜くんじゃないぞ!」

 

「辛くなったら遠慮なく言っていいんだからな」

 

「うぃっす…」

 

スリーメンの後もファイブメンやスクリメージという過酷なメニューが続く。今日は特にシュートの練習を重点的に行っていた。

 

「はい、皆さん集合です」

 

「うす!」

 

練習を終え、ストレッチを済ませた後に石崎監督の指示で俺達は集合することになった。彼は日本代表候補にもなったという経歴を持つ人で、去年は俺達1年生が主体という状態で浦の星学院をインターハイ予選ベスト8、ウィンターカップ予選は準優勝に導いた。

 

「あと2週間でインターハイ予選が始まります。私達は去年結果を残したということで他の学校からも研究されることでしょう。更に浦の星学院(うち)は去年とスタメンが変わっていない。相手を上回るには更なる成長が私達には必要なのです」

 

強豪校は常に研究される。そのことを想定し、更に完成度を上回ねばならない。それが追われる立場の定めだ。

 

「そのことを常に頭の中に入れてください。そしてレギュラーの人達には高い次元のプレーを要求します。妥協は一切許しませんので覚悟していてください」

 

監督の口調は穏やかなものだったが、目はしっかりと先を見据えていた。

 

「それでは今日の練習はここまでです。午後はしっかりと休んでまた明日頑張りましょう!」

 

「はい!ありがとうございました!」

 

──────────────────────

 

「はぁ…マジ疲れた…」

 

「お疲れ。午後はゆっくり休めよ」

 

部室に戻り、シャワーを浴びた俺達は今日の練習についての反省をしていた。どんなに小さなことでもお互いに指摘しあうことが練習の質を底上げすることに繋がるのだ。

 

「やはりスリーメンでのシュートの確率が良くないな。ランニングシュートだけはしっかりと決めないと試合でも落とすことになるな」

 

「あとはフリースローの精度。あんなにポロポロ落としてたら接戦も勝ちきれなくなる。フリースローは大事だからな」

 

次々と課題が浮き彫りになる。課題があるということは俺達にはまだまだ伸び代があるということ。少しずつ改善していけばいい。

 

「結構時間も経っちまったし流石に帰らねぇか?腹も減ったし」

 

「ああ、そろそろ解散にするか。監督も早く帰って休めって言ってたからな」

 

「そうだな、みんなお疲れ!」

 

「お疲れ様です!」

 

ミーティングを終えて今日の部活は完全に終了となる。部員が次々と帰っていく中、俺だけは学校に残っていた。理由は当然Aqoursの練習のサポートをするためだ。

 

「こんにちはー!」

 

「あ!龍ちゃんだ!」

 

「よう、千歌」

 

俺はこう見えてバスケ部とスクールアイドル部を兼任している。基本的にはバスケ部の活動を優先させてもらっているが、全く顔を出さないのも悪いと思っているのでたまに練習を見に行くことにしていた。

 

「身体は大丈夫ですの?練習も大変そうですし疲れているのなら無理に来なくてもいいんですよ」

 

「ダイヤさん、大丈夫ですよ。そんなにヤワな鍛え方はしてませんから」

 

「じゃあ龍ちゃんにはお手伝い頼んでいい?」

 

「もちろんだ!」

 

俺が来てからもAqoursのみんなは今まで通りの練習を行う。俺はメンバーのサポートを行いながらバスケの新しいフォーメーションや作戦、攻撃や防御の仕方を考えたりしていた。

 

そして長い時間が経ち、Aqoursの練習も終了する。

 

「今日も1日お疲れさん」

 

「ありがとー!」

 

練習後の片付けもすぐに終わらせて後は帰るだけになった。俺もとっとと帰って寝よ…

 

「ねぇねぇ、龍ちゃん!」

 

「なんだ?」

 

「ちょっとこっちに来てよ!」

 

「え?別にいいけど…」

 

千歌に呼ばれた場所まで行くとそこにはメンバー全員がいて、俺は彼女らに一つの紙袋を渡された。

 

「龍ちゃん!これ私達からのプレゼント!」

 

「お、おう…ありがとう…」

 

「早く開けてみて!」

 

千歌から渡された紙袋を開けてみると中からは浦の星学院の校章が描かれたお守りが出てきた。

 

「これは…千歌達が作ったのか?」

 

「うん!といっても千歌はあまり器用じゃないからいいものを作ることは出来なかったんだけどね…えへへ」

 

「部員の皆様にも渡しておいてくださいね」

 

Aqoursのメンバーから貰ったお守りは一つ一つ手作りで出来ていた。おそらく大変な練習の合間を縫って作ってくれたのだろう。やばい…感動して目頭が熱くなってきたよ…

 

「みんな…本当にありがとう!」

 

「あれれー?龍くん泣いちゃいそうじゃーん。別に泣いても良いんだよ~」

 

「う…うるせぇ!バカ曜!」

 

バスケットの練習に打ち込むのもいいが、こうやって千歌達と共に過ごす日常も悪くないなと心のどこかでそう思っている自分がいた。

 

──────────────────────

 

Aqoursの練習も終わり、俺と梨子は二人でお互いの家へと帰る途中だった。

 

「あと2週間でインターハイの予選が始まる。去年は残念な結果に終わっちまったけど今年こそは県のライバルを全部倒してインターハイに出てやる!」

 

「私達もそろそろラブライブの地区予選が始まるの。Aqoursのみんなと絶対に優勝したい!」

 

梨子は珍しく熱くなっていた。彼女もそれだけスクールアイドルに打ち込んでいるということだろう。

 

「だからさ、梨子。先にお前に謝らなくちゃならないことがある」

 

「えっ?何?」

 

「しばらくの間はバスケに集中したいから2人で出かけたり会ったりすることは当分の間出来ないと思う。本当にすまないな…」

 

「そっか…ううん、私のことは気にしなくていいよ。これからの練習も頑張ってね」

 

「ありがとう…いつも感謝しているよ」

 

「それに私達も忙しくなるからね」

 

それからしばらくの間2人でお互いのことを見つめあっていると梨子がそういえばと会話を切り出してきた。

 

「さっきさ、みんなからお守り貰ったでしょ?」

 

「ああ、梨子もありがとな」

 

「うん。あのお守りはみんなからの贈り物。私からの贈り物は…」

 

瞬間、俺の唇に柔らかい感触が伝わる。それが梨子の唇だと気づくのに時間はかからなかった。

 

「お、おい…梨子…///」

 

「えへへ///練習頑張ってね!」

 

そう言う梨子の顔は真っ赤だった。たぶん俺の顔も梨子と同じ…いやそれ以上に赤くなっているだろう。

 

「そ、それじゃまた学校でな…」

 

「………うん」

 

梨子と少し距離を置くことを切り出したのは自分だ。ここまでしたからには絶対に成長を遂げてやる。彼女に寂しい思いをさせてしまうのに自分が何一つ成長出来ないのは絶対に許せない。彼の瞳はインターハイ予選のその先も既に見据えていた。

 

自分達が目標としている大舞台(全国)へと向けて…

 




オリジナルの登場人物紹介も更新しました。よろしければご覧ください。

それではまた。


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6話 葛藤

お久しぶりです。

梨子ちゃんだけではなく他のメンバーにもスポットを当てたいなと思うけど全員分考えるのは難しいですね。



「おはようみんな!」

 

「おはようございます、海藤さん!」

 

「朝から元気だな。先に体育館に行ってシューティングでも始めたらどうだ?」

 

日曜日。世間一般では休みとなる日だがインターハイ出場を目指す彼らにとってそんなのは関係ない。今日も朝早くから厳しい練習が始まろうとしていた。

 

「最近はチームの纏まりがすごくいいです。これも海藤さんの友達が作ってくれたお守りのお陰かもしれませんね!」

 

「そうだな!俺は女子からの贈り物なんて初めてだったからめっちゃ嬉しかったぜ!」

 

「琉空…そんなに嬉しかったのか…?」

 

「ほっとけほっとけ」

 

琉空を完全に無視して練習の準備を始める龍吾の手にもお守りが握られていた。あれから彼は片時もこのお守りを肌身離さずに持ち歩いている。

 

「本当によかったんですか?俺達まで貰っちゃって…」

 

「いいに決まってんだろ!俺らは仲間じゃねーかよ!それに全員分だってこの前も言っただろうが!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

仲間。そう口に出すのは簡単なことだ。だけど心の底からそう思える人ってのはそうそういないもんだ。でも俺は言い切ることが出来る。こいつらは最高の仲間だと。

 

「よし、早く練習するぞ!インターハイ予選まで時間ないんだからな!」

 

「わかってるって!さ、行こうぜみんな!」

 

「はい!」

 

孝至の指示で俺達は一斉に彼の元に集まっていく。予選までもう時間はないんだ。一秒だって無駄にはしてられない。正直不安はあるけど負ける気はないしこのチームでなら絶対にインターハイに出ることが出来る。そう思いながら俺は練習へ加わっていった。

 

─────────────────────

 

場所は変わってここは数時間後の学校の屋上。今日もAqoursの9人はラブライブ本戦に出場するための練習を早くから行っていた。

 

「みんなお疲れ!休憩しよ!」

 

果南の一言で他のメンバーは休憩モードに入る。彼女らの顔にさっきまでの真剣な表情はなくなり普通の女子高生の顔に戻っていた。

 

「今日の練習も大変だね…」

 

「ラブライブに出場するためだからね。少しキツくても頑張らなきゃだ!」

 

「うん!でも…」

 

千歌は梨子の方をチラリと見る。歌やダンスに問題は無かったが梨子の様子がいつもと違う事に千歌は気づき、少し違和感を覚えていた。

 

「梨子ちゃん?」

 

「………はぁ」

 

「梨子ちゃんってば!」

 

「あ、千歌ちゃん。どうしたの?」

 

「梨子ちゃんがなんか浮かない顔してたからどうしたのかなって思って」

 

「そ、そう?普通だった気もするけど…」

 

「そっか、ちょっと心配したけど梨子ちゃんがそう言うなら大丈夫だよね!」

 

「ごめんね?心配かけて」

 

梨子はその場で作れる精一杯の笑顔で笑う。幸い千歌には気づかれていないようだ。梨子は千歌達に聞こえないようにそっとため息をつき小さく呟いた。

 

「海藤くん…」

 

─────────────────────

 

場所は体育館に戻る。今日の練習も順調に進み、今は5対5のミニゲームを行っている。

 

「へい!」

 

「海藤さん!」

 

ガードの選手からのパスを受けノーマークでランニングシュートをうつ。難しいものではなく普段の彼なら外すことは無い。しかし今日は違った。少し力みすぎたのかボールはリングにすら触れずに落ちてしまった。

 

「あれ?」

 

「龍吾!どうしたんだ!あんなに簡単なシュートを外すなんてお前らしくないぞ!」

 

「………ああ、すまない」

 

しかし彼の普段なら絶対にしないようなファンブルやパスミスを連発。チームメイトも信じられないというような表情を浮かべるが一番驚いていたのは他でもなく龍吾本人だった。

 

(なんなんだよさっきのプレイは…ふざけてるわけじゃない。今まで練習で手を抜いたこともない。常に限界まで自分を追い込んできたつもりなのに何故だ…)

 

そんな龍吾に不満を持っていたのか普段はほとんど喋らない真一が珍しく口を開いた。

 

「さっきのプレーもそうだ。あのパスは一体なんだったんだ?こんな体たらくがここにきて通用するわけがない。そんなことはお前が一番よくわかっているはすだ」

 

「本当にすまねぇ…気合い入れ直すわ…」

 

龍吾の顔には珍しく焦りの色が見えていた。普段なら絶対に見せない彼の様子に他の部員も戸惑っていた。

 

「海藤さん!大丈夫ですか?」

 

「体の調子でも悪いのか?」

 

「いや…そんなことは無いはずだ」

 

(くそ…下級生にまで心配されちまってる…これが俺のあるべき姿なのか?いや、このままでいいわけがねぇ!)

 

「うーん困りましたね…」

 

そんな彼の様子をコートの外から場所から見ている人がいた。バスケットボール部の監督である石崎だ。

 

「海藤くん。君と少し話したいことがあります。時間いいですか?」

 

「監督…わかりました」

 

龍吾は石崎に連れられて体育館の外へ来た。

 

「監督、話ってなんですか?」

 

「話というより質問ですね。海藤くん…心に迷いが見えます。何か悩みや心配なことがありますね?」

 

「迷いですか?そんなことは…」

 

彼の心には確かな迷いがあった。しかし彼自身がその原因に気づけないでいた。石崎はその事も既に見通していたのだ。

 

「そうですか…君はその事に気づけていないみたいですね。とりあえず今日は練習を切り上げて休んだほうがいい。君はうちのエースです。エースがそんな状態ならばいない方がいいし他の人の迷惑にもなりますよ」

 

「………はい」

 

俺は監督に対して何も言い返せなかった。結局俺の心のモヤモヤが晴れることはなく、俺はそのまま体育館を後にした。

 

「はぁ…このまま帰るのもあれだしスクールアイドルの様子でも見に行ってみるか…」

 

彼は校門へと向かおうとしていた足を止め、歩いてきた道を戻ってAqoursが練習をしている屋上に向かった。

 

「あれ?龍ちゃん、部活はどうしたの?」

 

「ああ…ちょっとな。今日はもう終わりなんだ」

 

「へぇー大会も近いのにわざわざ来てくれてほんとにありがとう!」

 

「ま、まぁ一応スクールアイドル部の一員なんだからたまには顔ださきゃ悪いだろ」

 

龍吾は軽く笑ってみせるがそれが作り笑いであることにはみんな気づいていた。あの千歌も彼の様子がおかしい事はすぐにわかった。

 

「龍くん、何かあったの?」

 

「曜…俺にもよくわからない。監督にも言われたよ。何か悩みとかあるんじゃないかって。自分の事なのに全くわからないって情けないな…」

 

「大丈夫!そういう日は家に帰ってしっかり休むのだ!ゆっくり過ごせばきっとリフレッシュ出来るよ!」

 

「はは、ありがとな」

 

彼の表情は少し和らいだが物事の根本的な解決にはならなかった。

 

「そろそろ休憩は終わりにしますわよ。練習を続けましょう!」

 

「はーい!」

 

ダイヤの合図で再び練習が再開される。龍吾はその場に座り彼女達の練習を見始めた。何か参考になるかもしれないと思いながら。

 

「………龍吾?」

 

そんな彼の様子を離れた位置から静かに見守っていた人間が一人いた。

 

─────────────────────

 

それから数時間後、今日のAqoursの練習は終わってそれぞれが帰り仕度を始めていた。

 

「龍ちゃん!またね!」

 

「ああ、また明日!」

 

龍吾も自分の支度を終えて帰ろうとする。そんな彼を呼び止める人がいた。

 

「ねぇ龍吾」

 

「どうしたの………果南姉さん」

 

「ちょっと二人で話したいことあるんだけどこれから時間あるかな?」

 

「ああ、大丈夫だよ」

 

いつもと変わらない朗らかな笑顔で果南は言う。龍吾には断る理由も無かったので彼女の言う通りにしようと考えていた。

 

「ありがと♪私の家でいいかな?」

 

「了解だよ」

 

龍吾は果南に連れられて彼女の自宅のダイバーショップまでやってきた。

 

「お邪魔します。ここに来るのも久しぶりな気がするなぁ…」

 

「確かにね。最近全然遊びに来てくれないからちょっと寂しいよ?」

 

「あはは、またそのうち遊びに行くよ。…それで俺と話したいことってなに?」

 

「単刀直入に聞くよ。龍吾はやっぱり我慢してるよね?」

 

「が…我慢?何のことだ?」

 

「梨子ちゃんと一緒に過ごせずにいること」

 

果南には全てお見通しだったようだ。龍吾にはインターハイ出場、梨子にはラブライブの予選を突破することを目標としている。今会うことはお互いにとって良い結果を生むことにはならないだろう。龍吾はそう考え少しの時間距離を置くことにしたのだ。

 

「うん…その通りだね。だけど俺の方からから少しの間距離を置くことにしたんだ。今さら手の平を返すことなんか出来ないよ」

 

「梨子ちゃんは距離を置くことなんか望んでないよ」

 

「梨子が…?」

 

龍吾は心底驚いたといった表情で果南の顔を見つめた。

 

「今日…というか最近ね、梨子ちゃんの様子が少しおかしかったんだ。すごく寂しそうで龍吾が屋上に来た時なんか遠くからずっと見つめてたんだよ?今は練習に支障をきたす程じゃないけどこのままだったらどうなることか…」

 

「そう…だったのか」

 

「余計なお世話かもしれないけどさ、少し梨子ちゃんと会って話してみたらどう?龍吾はお互いに自分の目標に向けて集中したいって思ってたんでしょ?龍吾の考えも悪くは無いと思うけど根を詰めすぎるのも良くないと思うなぁ…」

 

龍吾が果南から言われたことは前に自身が梨子に言ったこととほとんど同じだった。

 

「そっか…そういうことだったのか。監督が言ってたことにも納得したよ。ありがとう」

 

「気にしなくていいよ。お姉さんのこれまでの人生経験を生かした知恵袋的な?」

 

「ちょっと意味がわからないけどなるほど。ためになったかもね」

 

龍吾は果南と話をしながら軽くアップを始める。これから梨子の家までダッシュで行くつもりのようだ。

 

「俺、もう一度梨子に会って話してみる。それで俺達が何をすべきなのか考え直してみるよ!」

 

「うん!そうした方がいいよ…ほらさっさと言っちゃいなよ。善は急げって言うじゃん!」

 

「今それ関係あるかな…」

 

龍吾は全力で梨子の元へ駆け出す。と思いきやすぐに身を翻し果南の元へ戻ってきた。

 

「果南姉さん、いや果南…」

 

「なに?」

 

「……………ごめん」

 

その言葉を聞いた果南が目を背けた一瞬のうちに龍吾の姿は果南の前から無くなっていた。

 

─────────────────────

 

龍吾が走り去ったあと、果南は一人で自宅のベランダから静かに海を見つめていた。

 

「龍吾…」

 

果南は最後に聞いた龍吾からの言葉を思い出す。

『果南、俺は君を絶対に幸せにしてやるって誓ったのにその約束を守ることが出来なくて本当にごめん…』

 

「ううん、龍吾はなにも悪くない。だってその関係を終わらせたのは私なんだから…」

 

二人の関係はかなり前に終わりを告げていた。あの時間が戻ることはもう二度とない。

 

『果南…大好きだよ!』

 

『私も龍吾のことが大好き。これからもずっと一緒に過ごせたらいいね!』

 

「………」

 

果南は龍吾と過ごした楽しかった時間を思い出しながら静かに涙を流す。彼女の部屋の隅には今でも二人で撮った写真がひっそりと飾られていた。

 

「自分から突き放しといてこんなこと思うなんて烏滸がましすぎると思うけど…それでも…それでも!やっぱり私を選んで欲しかった…」

 

彼女が止まらない涙を拭ってほしいと思う人間はこの世にただ一人。しかしその人間が自分の元へ来ることは決してない。何故なら彼女はとうの昔に手放してしまったから…

 

「………龍吾…大好きだよ…」

 

微かに唇から漏れたその言葉は誰の耳にも届くことはなく夜の海へ消えていった…

 




それではまた。


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7話 二人の本心

最近キャラが掴めなくなってきました。もうちょっと上手く書けるようになりたいですね。



龍吾は果南との話を終えて彼女と別れた後、梨子の家へ向かうために海沿いの道を全力で駆け抜けていた。途中で突然の大雨が降り出したがそんなことはお構いなしだった。

 

(俺はなんてことをしてしまったんだ…梨子の彼氏でありながらあいつのことを少しもわかってなかった。そんなんで梨子の全てを知ってるように思ってたさっきまでの自分を殴りてぇ…)

 

こんな時期に風邪を引いたら確実に試合に影響がでる。そのことを龍吾はわかっていたが、彼がその足を止めることは無い。

 

「くそっ…一分一秒でも早く着きたいってのによぉ…さっきよりも雨が強くなってるじゃねぇか!」

 

少しでも早く彼女の元へ行きたい。そんな彼のことを嘲笑うかのように雨はさらに強くなっていく。冷たい雨が龍吾の体温をどんどん奪っていくのがわかる。やがて体力も尽きたのか龍吾はその場に崩れ落ちてしまった。

 

「ははは、もう限界かよ…本当に情けねぇなぁ俺は…このままじゃ風邪引くのも時間の問題だしよぉ………もう辞めるか…?」

 

諦めかけた…そんな時、龍吾の脳裏に1人の幼なじみの姿が浮かんできた。

 

『辞めない!この先何があっても私はもう絶対に諦めない!』

 

「何があっても絶対に諦めない…か………そうだ…そうだったよな!」

 

龍吾は再び立ち上がると軽く服の汚れを落としてからまた走り出した。

 

「待ってろよ梨子!すぐに行く!」

 

─────────────────────

 

「はぁ…はぁ…やっと着いた…」

 

果南の家から15分ほど走り、龍吾は梨子の家にたどり着いた。そしてすぐにインターフォンを鳴らす。するとしばらくしてからドタドタと廊下を急ぎ目に歩いてくる音が聞こえてきた。

 

「すみません!お待たせしました…って海藤くん!?こんな時間にどうしたの?それに服もびしょびしょになってるよ!?」

 

「お前に会いに来たんだ…」

 

「えっ?」

 

梨子はすごく驚いたという表情を浮かべているが龍吾は気にせずに話を続ける。

 

「梨子…お前の本当の気持ちが聞きたいんだ。遅くなったが話がしたい…」

 

「海藤くん…」

 

「わかった。それに私も海藤くんとお話がしたいって思ってたんだぁ…」

 

「そっか、よかった…」

 

「でも!その前にお風呂入ってきなさい!体冷えてるでしょうし大切な試合が近いんだから風邪でも引いたら大変でしょ?」

 

梨子は龍吾の顔を見て少し微笑んだが、すぐに頬を膨らませ少し厳しめに言った。

 

「はは…そうさせてもらうよ」

 

─────────────────────

 

「風呂貸してくれてありがとな」

 

「どういたしまして。それと…これ飲んで温まってね♪」

 

「ん、さんきゅ」

 

風呂を借りて冷えた体を暖め、梨子の部屋に行くと梨子は熱いコーヒーを手渡してくれた。

 

「はぁ…生き返ったよ。ありがとな!」

 

「うん…」

 

梨子から受け取ったコーヒーを飲んで一息つく。彼は本来の目的を忘れてなどいない。

 

「さて………俺達はこれからどうするか?」

 

「どうするかって…え?」

 

「あ、いや別れ話じゃないから!」

 

「そ、そう…よかった…」

 

「俺達は最近少し距離を置くようにしていたけど本当にそれでよかったのか話したいんだ」

 

龍吾は未だかつて無いほどに真剣な表情をしていた。

 

「梨子はさ、俺に気を使ってくれているけどそんな必要はない。自分に嘘をつかずに話してくれ」

 

「私は…やっぱり会わない方がいいと思うな。海藤くんの邪魔になっちゃうし私も忙しくなっちゃうからね」

 

梨子の意見は前に話した時と変わらなかった。

 

「それが梨子の本心か?」

 

「うん」

 

「嘘。いくら俺でもそんなに簡単な嘘には騙されないよ。さっきも言ったけどさ、俺は君の本心が聞きたいんだ。俺のことは気にしなくていいから思ってることを正直に言ってくれ」

 

「…ッ!そばにいたい…」

 

「えっ?」

 

「私は…ずっと海藤くんのそばにいたい!出来ることなら少しも離れたくない!だけどそれじゃ海藤くんの迷惑になるかもしれないって思ってぇ…!」

 

梨子は涙を流しながら俺に本音を吐き出してくる。やっと聞けた梨子の本心。今回の件はここまで彼女を我慢させてしまった自分に責任があるな。

 

「梨子…済まなかった…」

 

「ううん!私がちゃんと自分の気持ちを言わなかったからダメだったの!謝るのは私の方だよ!」

 

龍吾は梨子を抱き寄せ頭を撫でる。さっきよりも梨子は落ち着きを取り戻してきていた。

 

「梨子は自分が俺の邪魔になるって言ったよな?それは絶対に違う!邪魔になんかなるはずがない!」

 

「そうだったんだね…よかった…私の早とちりだったみたで」

 

とりあえず問題は解決した。だけど俺にはもう一つ言いたいことがあった。

 

「それともう一つ、梨子にお願いがあるんだ。聞いてくれるか?」

 

「お願い…?」

 

「もっと自分に自信を持ってくれ!それが俺からのお願いだ!梨子は出会ったばかりのことから自分のことを卑下していただろ?俺はそれが嫌だった!」

 

梨子は自分に自信が持てないでいた。出会った頃から自分のことを地味だと言い続けている。普通に見ても梨子は美人の部類に入り、性格もいい。そんな梨子が自分のことを卑下し続けていたことが少し許せなかった。

 

「うん…約束する!もう自分を卑下したりしない!自信が持てるように頑張るよ!」

 

「今日うちに泊まって行かない?お父さんとお母さんは留守だし1人じゃちょっと寂しくて…それに久しぶりに2人っきりで過ごしたい…」

 

「もう遅いしそうさせてもらおうかな?うちも今日は誰もいないし帰っても誰もいないし」

 

「それでね…今日は2人で一緒に寝たいなって…ちょっと肌寒いし…だめかな?」

 

優しい微笑みを梨子に向けながら答えた。

 

「ダメなわけないだろ。俺だって久しぶりに梨子と一緒に…」

 

その日の夜、身を寄せあって幸せそうに眠る龍吾と梨子の姿があった。

 

──────────────────────

 

その翌日。浦の星学院の体育館でいつも以上に集中力を高めてプレーをしている龍吾がいた。龍吾は相手のディフェンスを一瞬で抜き去り、空中でもブロックを狙ってきた相手を上手く交わしてシュートを決めた。

 

「よっしゃあ!」

 

「龍吾、ナイスプレーだ!」

 

「海藤さん!調子戻ったんですね!」

 

「ああ!心配かけて済まなかったな!」

 

コートで好プレーを見せる龍吾を石崎も満足そうな目で見つめていた。

 

「ふふ…どうやら吹っ切れたようですね。あのまま雑念を抱えたままでいられても困りますが…」

 

屋上で練習中の梨子もそうだ。昨日までの迷いは完全に無くなり、すっかり元の梨子に戻っていた。

 

「梨子ちゃん、もう大丈夫なの?」

 

「うん!ラブライブで最高の成績を残すまで立ち止まってなんかいられないからね!」

 

そんな梨子のことを果南が離れた場所から見守っている。

 

(龍吾と梨子ちゃんは上手く話せたみたいだね。梨子ちゃんも元通りになって龍吾の調子を取り戻したみたい。私も自分の役割をちゃーんと果たせたのかな?)

 

インターハイ出場とラブライブ予選突破。龍吾と梨子はお互いの目標へ向かって走り続ける。その先に最高の結果が待っているのだから。

 




それではまた。


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8話 服のサイズは自分に合うものを

来週からしばらく海外に行くので更新は少し遅くなる予定です。




「海藤さん!海藤さん!」

 

「どうした…拓人?」

 

こいつの名は新田(にった)拓人(たくと)。入部した時はバスケ初心者だったが、練習に一切手を抜かずに努力し続け、今ではシックスマンを務めるまでになった。

 

「今日もやりましょうよ!1on1!」

 

「またぁ!?疲れてねぇのかよお前…」

 

「体力には自信がありますからね!」

 

こいつは入部した時から俺や孝至に1on1を毎日のように挑み続けてきた。最初は俺らに手も足も出なかったが血の滲むような努力をし続けた結果、今では少しでも気を抜くとやられるような相手に成長した。

 

「ははっ!可愛い後輩が挑んでくるんだぜ?相手してやれよ先輩♪」

 

「孝至テメー!今日はたまたま自分が挑まれなかったからってそれはずりーぞ!」

 

「じゃあな龍吾!頑張れ!」

 

孝至の野郎…後でシバく。

 

「仕方ねーな…とっととやるぞ!負けたらジュース奢りだからな!」

 

「えっ!それはずるいですよ!」

 

「俺に勝てばいいだけだろ?そんじゃ始めんぞ!時間ねぇから3本先取でいいか?」

 

「問題ないです!海藤さんが先攻でいいですよ!」

 

「さて、いくぜ!」

 

龍吾はボールを持ってすぐに3ポイントラインの外からシュートを放った。そのボールは美しい孤を描き、リングに少しも触れずにゴールに吸い込まれていった。

 

「げっ!」

 

「…ディフェンス甘いぞ…拓人?」

 

「ま、まだ1本取られただけです!今日こそあなたに勝ちますから!」

 

「来いよ!全力で相手してやる!」

 

その後の2人は一進一退の攻防を繰り広げたが、やはり経験の差が大きかったのだろう。最終的には龍吾が貧差で勝利を収めた。

 

「あー!清々しく負けたぁ!」

 

「今回は正直危なかったわ。やっぱ上手くなってんじゃんお前。努力が実を結んだな!」

 

「ありがとうございます!海藤さん…」

 

「ん?どうした?」

 

「またやりましょうね!」

 

「…わかった。またやろうな!」

 

2人は満足そうな表情を浮かべ、体育館を後にしていった。

 

─────────────────────

 

「龍くん!来てくれたんだ!」

 

「海藤先輩!こんにちは!」

 

「ああ、時間あったから来てみたよ」

 

今日は練習が比較的早く終わったので俺はAqoursの活動にも顔を出すことにした。部室には曜とルビィちゃんの2人がいた。

 

「他のみんなはどうしたんだ?」

 

「千歌ちゃんとダイヤさんの家に別れて作詞と作曲してるよ」

 

「なるほど。曜とルビィちゃんは…新しい衣装作りか?」

 

「うん!次の新曲は新しい衣装を作るんだ!だから龍くんにも手伝ってほしいの!」

 

「手伝い?衣装作りのか?」

 

あれから俺は無理しすぎないようにバスケとAqoursの手伝いを両立出来るようにしようとしている。基本はどうしてもバスケの方を優先しなければならないのでなかなか難しいところもあるが。

 

「手伝いするのは構わないけど俺はそんなに裁縫は得意じゃないぞ」

 

「縫い物するだけじゃなくて新しいアイデアとか考えるのもやってほしいの。それだったら手先がそこまで器用じゃない龍くんにも出来るでしょ?」

 

「ちょっと馬鹿にされてるような気もするけどわかった。でもあらかた出来てるんだから大きいところは変える必要はないんじゃないか?だからもっと細かいところを見てみるよ」

 

「うん!助かるよ!ルビィちゃんと2人で全部やるのは大変だったんだぁ」

 

確かにAqoursの衣装作りは曜とルビィちゃんが2人でやっていた気がする。9人分の衣装を2人で作るのも大変だろうな…

 

「先輩?どうしたんですか?」

 

「いや…いつも2人でこんなに大変な作業してるなんてすごいなーって思ってさ。俺だったらこんなのすぐに投げ出しちまいそうだからなぁ」

 

「確かに大変だけど辞めたいなって思ったことは1度もないよ。少なくとも私とルビィちゃんはこの作業を楽しんでやってる。それに衣装を着た時のみんなが喜んでくれる顔を見るだけで努力が全部報われるような気がするんだ」

 

「達成感…ってことかな?」

 

「そうだね。龍くんだってバスケで今まで出来なかったことが出来たら嬉しくて練習のやる気も出るでしょ?そういうことだよ」

 

俺は曜の言っていることにすごく共感出来た。試合で活躍できたらその分の努力が報われたような気がしてバスケ自体のやる気も出てくる。

 

千歌と同じで結構飽きっぽい所もある俺がここまでバスケを続けられたのも常に練習へのモチベーションを高めることが出来たことが大きいのではないかと思う。

 

(そういえば拓人もそうだったな…出来ることが増えると自信満々に1on1を挑んできた。試合で活躍して監督に褒められる度に喜んで俺に話してくれた。初心者だったあいつがあそこまで成長することが出来たのは全部努力って訳じゃなかったようだな)

 

龍吾は家に帰った後も黙々と練習しているであろう後輩のことを思い出して微かに微笑む。

 

『海藤さん!俺、絶対にアンタを倒しますよ!時間はかかるかもしれませんけど俺はアンタみたいになりたいんだ!覚悟しといて下さいね!』

 

(流石に抜かれるにはまだ早すぎるからなぁ…俺ももっと頑張らねーと!)

 

「龍くん?どうしたの?」

 

「…いや、ちょっと考え事してただけだ。」

 

曜に話しかけられたことで俺は自分がしていたことを思い出す。そうだ、今は衣装作りを手伝わないといけない時間だったな。

 

「考え事?どうせまたバスケのことでしょ?龍くんも好きだねぇ…」

 

「うるせぇな!でもな曜、お前のおかげで俺は大切なことを再確認することが出来たよ。ありがとう」

 

「?どういたしまして…」

 

「海藤先輩!ちょっと服のサイズを確認してもらってもいいですか?そこのノートに載ってます。最高のライブをするためにはちゃんとした大きさの衣装を作らないといけないので…」

 

「わかったよ。けどそれって…男の俺が見ていいものじゃなくないかな?」

 

「あ…ごめんなさい…」

 

「じゃあ龍くんには買い出しを頼もう!アイス買ってきて!」

 

「それって衣装作り関係ないんじゃ…」

 

曜とルビィちゃんが衣装を仕上げている間に俺は軽く縫い物をしたり買い出し(ほとんどパシリ)をしたりして過ごした。それから数時間ほど作業を続けてようやく衣装を完成することが出来た。

 

「よし!出来た!」

 

「お疲れ様!」

 

「海藤先輩もお疲れ様です!」

 

「おう。あんまり力になれなくてすまなかったな」

 

「千歌ちゃん達も作詞作曲が終わったって連絡来たよ!これでラブライブ予選の準備はバッチリだね!」

 

「んじゃそろそろ帰ろーぜ。あんまり遅くまでいると明日に響く」

 

「そうだね!お疲れ様!」

 

自分達の仕事をきっちりと終わらせた俺達はこの日の夜はゆっくりと休み、明日の練習への英気を養うのであった。

 

─────────────────────

 

場所は変わってここは静岡県某所の体育館。時刻は夜の7時を回っていたが1人の男が遅くまで残って練習をしていた。

 

その男は先程から連続で3ポイントシュートを打ち続けているが全くと言っていいほど外す気配がなかった。

 

「…いよいよか。去年の借りは返すぜ…海藤。そしてお前達を倒してインターハイに出るのは俺達だ…」

 

静かに語るその男の目は決意に満ちていた。

 

インターハイの予選まであと1週間。絶対に負けられない戦いはここでも始まろうとしていた。

 




それではまた。


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9話 PV撮影

お久しぶりです。



インターハイ予選まであと一週間。俺達の練習は質の濃く過酷なメニューから試合に向けて調子を整える程度の軽めの物になっていた。いよいよ戦いが始まる。去年の雪辱を果たす時が遂に来た。これから俺達は試合に集中するためにバスケのことだけを考えて他のことは完全にシャットアウトする…

 

だったはずなのだが…

 

「龍ちゃん!ここのは終わったからすぐ移動するよ!時間ないから早く!」

 

「はぁはぁ…ちょっと待てや…」

 

幼馴染みのアホ毛(千歌)に扱き使われていた。

 

──────────────────────

 

話は数時間前に遡る。本来だったら今日は試合前最後の一日OFFだった。これからも休息の時間はとるが完全なOFFは今日だけなのでしっかり身体を休ませるようにという監督からの指示だった。

 

「休めるのはいいけど…暇だな」

 

午前中をのんびり過ごして思ったことはとにかく暇だということだ。普段だったらテレビゲームや映画を見たりして過ごしているのだが両方とも気が乗らないというか飽きたのだ。そろそろ軽くシューティングでもしに行こうと思っているのだが。

 

「なーんか休みの日を有意義に過ごすためには何すりゃいいのかわかんねーなぁ…」

 

そんなことを考えていると携帯に着信が来ているのに気がついた。

 

「誰だ…?千歌?」

 

相手は千歌だった。千歌達は今頃練習中のはずだから少し疑問に思ったがとりあえず出てみる。

 

「もしもし?」

 

「お願い!今日だけはどーしても人手がいるの!だからすぐに来て!」

 

「は?」

 

「大切な用があって三津シーにいるんだけど思ってたより人手が足りなくて…無茶なお願いだってわかってるけど来てくれたら嬉しいな…」

 

本来は試合までの一週間はダイヤさんと鞠莉さんと相談してAqoursの練習には参加しない事にしていたはずなのだ。

 

「ダイヤさん達はなんて言ってるの?」

 

「本来だったら龍ちゃんはお休みだけど今回だけはやむを得ないって」

 

「まぁ退屈してたし行ってもいいよ。だけどあんまりハードなのは勘弁してくれ」

 

「いいの?ほんとにありがとう!まぁ試合前最後の息抜きってことで!」

 

「仕事あるから呼び出すんじゃないのかよ…だけど千歌はなんだかんだ言って俺のことを気遣ってくれていたみたいだな。ありがとう…」

 

「え?なんで龍ちゃんがお礼言うの?普通だったら私が言うべきだよね…?」

 

「なんかそんな気分なんだよ。とにかくすぐに行くから待っててくれや」

 

「うん!入口付近で待ってるね!」

 

そう言って電話を切った。俺はとりあえず軽く身支度を整えて外出の準備をする。

 

「それじゃあ行きますか!」

 

数分後にはひと通り準備を終えたので久しぶりに愛車に跨り、三津シーに向かって出発する。

 

が、その瞬間

 

 

ガンガンカンガン!シーン…

 

 

「は?ちょっと待て。まさか…」

 

 

愛車のエンジン付近から謎の音がするのがわかった。俺は冷や汗を流しながら確認をしに行く。嫌な予感は的中した。

 

「おい、嘘だろ…Dioォォォ!!!」

 

気づいた時にはもう遅かった…

 

──────────────────────

 

「むー…遅い!」

 

「そろそろ着いてもいい頃なのに…」

 

「何かあったんじゃないの?」

 

目的地の三津シーにではすでに龍吾を除く9人が集まっていた。千歌が龍吾を呼び出してから1時間近くが経つのでそろそろ着いてもいい頃だろう。

 

「もしかしてあれ?走ってきてるやつ」

 

「あ!ほんとだ!龍ちゃーん!」

 

「す、すまねぇ!」

 

「もう!遅いよ!」

 

「仕方ねーだろぉ!俺の愛車が急に故障しちまったんだよ!それで仕方なくここまで走ってきたんだよぃ…」

 

龍吾はそう言いながら右腕に付けているリストバンドで額の汗を拭う。

 

「おー、おつかれー」

 

「せっかくの休みなのにこんなに疲れてちゃ意味無いだろうがぁ…」

 

幸いにも愛車はそこまで深刻な故障ではなかったのですぐに修理が終わるそうだ。

 

「それにしてもここに来るのは久しぶりだね!」

 

「昔はよく行ってたよね!私と曜ちゃんと果南ちゃんと龍ちゃんで!」

 

「あと頃から随分成長したよね。私達…」

 

「ま、千歌は昔と全然変わってないけどな」

 

「ちょっと龍ちゃん!それどういう意味?」

 

「そうかもねっ」

 

「果南ちゃんまで!」

 

千歌達の脳裏には幼き頃の思い出が蘇っていた。4人で遊んだこと。悪戯をしたこと。今となってはどれも大切な宝物になっていた。

 

「それで、ここでの予定ってのはいったい何なんだ?」

 

「ふっふっふっ、私達はこれからPVを撮るのだ!」

 

「PV?そういえば少し前にそんなことを言っていたような気がするな」

 

「この前作った新しい衣装もこのためだったんですよ!」

 

最初に学校で撮影したPVの評判がかなり良かったのでメンバー達と相談して新しいのを撮ることにしていた。今回のテーマはAqoursというグループ名に因んで水をテーマにすることにしていて、色々考えた結果ここを撮影場所にしたのだ。

 

「それで俺は何をすればいいんだ?ビデオカメラで撮影すればいいのか?」

 

「そうだね!あとは機材とかも運んでくれたら嬉しいよ!」

 

「了解!それならお安い御用だよ!」

 

この時、俺はまだ知る由もなかった。PV撮影がそんなに簡単な仕事ではなかったことを…

 

──────────────────────

 

「はぁはぁ…ちょっと待てや…」

 

龍吾はクタクタに疲れていた。

 

「こんな仕事はお安い御用じゃなかったの?」

 

「思ってたよりしんどい…」

 

理由は彼が思っていた以上に移動する距離が長かったということだ。正直そこまで色々な場所は回らないだろうと思っていたが、センターである曜のソロの部分や全体でのダンスシーンなどとにかく動くことが多かった。機材をすべて抱えてだ。

 

「キツい…」

 

「龍ちゃーん!そこまで時間あるわけじゃないから急いで次の場所行くよ!」

 

「待ってくれぇ…」

 

「あれ?もうへばっちゃったのかなん?まったく情けないぞー現役バスケ部!」

 

普段から走り込みをしている身であるので体力的にはまったく問題はなかった。だがこれに加えてかなりの重さがある機材を持って動き回るのは相当辛い。練習で重みのあるボールを使うこともあるが、それもここまで重くはない。

 

「なんでみんなはそんなに元気なんだよ…俺なんかよりよっぽどキツイことしてるっていうのによ…」

 

「毎日練習で鍛えてるからね。龍吾だってそうでしょ?」

 

「鍛えてるけどさ…」

 

「仕方ないなぁ…千歌!少しだけ休憩にしない?撮影係がへばってたら意味ないし」

 

「そうだね!休憩にしよう!」

 

果南姉さんと一言で少しだけ休憩を貰えることになった。俺は慎重に機材を置くとその場に座り込んだ。

 

「ほんとやめたくなりますよォ…仕事…」

 

「海藤くん!」

 

「梨子か!どうしたんだ?」

 

「海藤くんも試合近くて大変だと思うけど私達のために撮影とか色々やってくれてありがとね♪」

 

「そうだな。お疲れ様…」

 

俺は梨子の頭を軽く撫でてやった。

 

「ひゃっ!もう…擽ったいよぉ///」

 

「ははっ、梨子は可愛いなぁ…」

 

人目もはばからずにイチャつく二人を遠くから呆れた顔で見ていた人もいる。

 

「まったく、疲れてんのに梨子ちゃんとイチャつく元気はあるんだね…」

 

「ちょっと龍ちゃん!こうなったら…後で扱き使ってやるんだから!」

 

千歌の宣言した通り、龍吾の仕事がこのあとさらにきつくなったことは言うまでもない。

 

──────────────────────

 

「よし!撮影はここまでだよ!みんなお疲れ様!」

 

辺りもだいぶ暗くなってきた頃、ようやく全てのシーンの撮影が終了して後片付けも終わったあと、水族館をあとにすることになった。

 

「ほんとに疲れたよ…」

 

「龍ちゃんもお疲れ!ほんとに助かっちゃったよ!この調子で試合も頑張って!」

 

「これからは試合に向けて頑張ってくださいね!」

 

「ふふ、貴方にはペルセポネの加護がついているわ…負けることなんかないわよ!」

 

仕事のあとにみんなから三者三葉の激励の言葉を貰った。その言葉が俺を大いに奮い立たせたのは言うまでもない。

 

「みんなありがとう!絶対に勝つよ!静岡からインターハイに行けるのはたったの二校だけど俺達はその座を掴み取ってみせる!」

 

「やっぱ龍くんはこうじゃなくっちゃね!」

 

「みんなから貰ったお守りは大切に持っておくよ。あれがあるんだから負ける気はしない!」

 

「それなんだけどさ、龍ちゃんに渡したい物がもうひとつだけあるんだ。ね、梨子ちゃん!」

 

「うん…ねぇ海藤くん…」

 

「梨子?」

 

「これ、私からのプレゼント!試合中に付けてくれると嬉しいな…」

 

それは梨子のイメージカラーであるサクラピンクを元に作られたリストバンドだった。リストバンドの表側には水色の文字でAqoursという文字が。裏側には俺と梨子の名前が刺繍してあった。

 

「梨子………ほんとにありがとう!最高のプレゼントだよ!」

 

「私も海藤くんに喜んでもらえて嬉しい!」

 

「よかったね龍ちゃん!だけど元々付けてたのはどうするの?両方付けるのがいいと思うけど色が違ったらちょっと不自然じゃない?」

 

すでに俺の右腕には青色のリストバンドを身につけている。浦の星と海の色を元にしてかなり前に部員全員で作ったものだ。

 

「そりゃ二つとも付けるさ。だって両方とも俺の大切な仲間達からの貰った大切な贈り物なんだからな!」

 

俺は早速新しいリストバンドを身につける。左右で色が違うこともあり少し不自然なものになってしまったけどそんなことはどうでもよかった。なんだかこれを付けてるだけで元気がみなぎってくるような気がするよ。

 

「よし!今度は絶対に悔いは残さない!ライバルを全員倒してインターハイに出てやるぞ!」

 

決戦まであと一週間。全国(インターハイ)を目指す彼らの戦いはいよいよ始まろうとしていた。

 




Dioとは某自動車会社で作られているバイクのブランドの一つです。急に変なネタぶっ込んですいませんでした(土下座)

あ、浦の星学院のイメージカラーは勝手に青ってことに決めました。近くの海との相性もいいかなと思ったので…

それではまた。


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10話 TIP OFF

こんにちは、大天使です。

いよいよバスケ模写に入っていきますが、読者の皆様はそこまで興味ないと思いますので出来るだけ少なめにしていきたいと思います。しっかり模写しろやクソザコナメクジ!と思う方は個別にお願いします。




ついにこの日がやってきた。インターハイ静岡予選の初日だ。

 

 

まずはそれぞれのブロックを勝ち抜いた4校が決勝トーナメントに進出する。そして残ったチームで総当たり戦を行い、勝ち星の多い2校がインターハイへの切符を手にすることが出来る。

 

 

「ふぅ………よし!」

 

すでにハーフアップを終え、控え室で試合の準備を進めていた龍吾達は集中を切らさない程度にリラックスしている様子をみせた。

 

「龍吾、左手のリストバンドはなんだ?お前がピンク色なんか付けると思わんが」

 

「ふふふ、これは梨子からのプレゼントだ。俺のために手作りしてくれたんだぜ!」

 

「にゃにぃ!羨ましいぞコノヤロウ!」

 

「琉空、試合に集中するんだ。てか龍吾も惚気けてんじゃねぇ!ひっぱたくぞ!つーかはっきり言ってそれ似合ってねーからな!」

 

「なんだと!?」

 

「…お前らうるさい」

 

試合前だというのにスタメン組で騒いでいると時間を確認するために前の試合を見に行っていた孝至が控え室に戻ってきた。

 

「何やってんだお前ら…てかそろそろ時間だから移動するぞ!」

 

さてと…そろそろ行きますか!

 

「おっ、いよいよか!」

 

「でた!浦の星だ!」

 

「今大会のダークホース!」

 

「期待してるぞ!」

 

本命じゃないってことは薄々わかってたけど俺達がダークホースか。まぁ悪い気はしねぇな…

 

「龍ちゃーん!みんなー!頑張って!」

 

「あいつら…来てたのかよ…」

 

「気づかなかったのか?珍しいな」

 

あいつらには申し訳ないけど全然気が付かなかった。俺達は試合前のアップを済ませ、監督の元へ集合していった。

 

「いよいよ試合がはじまりますね。まずは君達に一つだけ作戦を言います。それ以外は自由にやってくれて構いません」

 

「作戦?なんだってやってやりますよ!」

 

「ふふ、頼もしいですね。それでは作戦を言います」

 

監督は俺達に作戦を伝えるとスタメン組の背中を叩き、気合を送りながら言った。

 

「貴方達は強いです。絶対に勝てますよ。まずは初戦をしっかりと勝ちきって次に繋げられるいい試合が出来るようにしましょう!」

 

「はい!」

 

 

「これからインターハイ静岡県予選の男子1回戦、浦の星学院高等学校対堀岡高等学校の試合を始めます!両チームのスターターはコートでの準備をお願いします!」

 

 

「よっしゃ!いくぞ!」

 

 

「「「「おお!」」」」

 

 

青のユニフォームが浦の星学院だ。チーム全員がお揃いのリストバンドを右手に付けている。

 

「それでは試合を始めてください!」

 

審判がボールを高く上げ、試合開始の合図を送る。

 

 

『TIP OFF!!』

 

 

「オラァ!」

 

試合開始のブザーが鳴るとともに朔也がボールを弾く。そのボールは孝至の手に収まった。

 

「ボールはとれましたね。それでは最初の作戦に入ります。それは…」

 

「へい!」

 

孝至がボールを投げる方向にはすでに龍吾が走っていた。龍吾はボールを受け取るとともに助走をつけ、高く飛び上がる。

 

「これでもくらいな!」

 

ドガァァン!!

 

一瞬で会場にどよめきが走る。相手チームの選手も呆気にとられたような表情を浮かべていた。

 

「監督!作戦というのは…」

 

「その通り、私が彼らにさずけた作戦というのは………試合開始直後の強襲だ」

 

観客の目線の先にはワンハンドダンクを決め、相手に宣戦布告をする龍吾の姿があった。

 

──────────────────────

 

その後も試合は順調に進んでいき、孝至の放ったシュートがゴールを射抜いた瞬間、前半終了のブザーが鳴った。

 

「前半戦を終了します。選手のみなさんは自校のベンチへ戻ってください!」

 

前半戦が終了する。浦の星学院は前半だけで合計50点のスコアをたたき出し、相手チームを圧倒していた。

 

「あの7番は誰だ!?速攻でダンクかましたやつ!」

 

「7番だけじゃねぇ!他の選手達もプレーのレベルが高ぇぞ!」

 

「今年の浦の星は強え!」

 

「うるせぇ。去年からだバーカ」

 

「琉空、監督の話をしっかり聞け」

 

前半の試合運びは俺達のプラン通りに進んでいった。後半もこの調子では特に問題ないだろう。

 

「前半の調子はなかなかよかったですね。後半もその勢いで戦ってください。控えのみなさんもいつでも出られるように準備をしておいてくださいね」

 

「はい!」

 

会場のスタンド席では千歌達がその試合の様子を見守っていた。

 

「前半すごかったね!龍くん大活躍じゃん!」

 

「曜ちゃん、この試合は勝てそうかな?」

 

「30点開けばほぼ間違いないっていうのは聞いたことあるよ。だからもう少しかな?」

 

次に試合を行うチームのハーフアップも終了し、両チームの選手がコートに戻って来る。

 

「それでは後半を始めます!」

 

後半は相手ボールからスタートした。相手選手は少しでも広がった差を埋めるべくゴールへと果敢に攻めていったが…

 

「打たすかよ!」

 

すぐに朔也がシュートをブロックし、龍吾がボールを拾うと既に拓人が前を走っていた。

 

「先輩!」

 

「よく走ってたな拓人!」

 

ボールを受け取った拓人が放ったそのシュートはゴールへと綺麗に吸い込まれていった。

 

 

試合はそのまま浦の星が優位の状態で進んでいき、5分がすぎる頃には龍吾がベンチに戻っていた。

 

 

「海藤くん、ナイスプレーでしたよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 

龍吾は監督と握手を交わし、自軍のベンチに腰掛けてチームの試合を見守り始めた。

 

 

下がったのは龍吾だけではない。第3ピリオドが終わる頃には浦の星の主力は全員引っ込み、控え選手が試合を進めていた。

 

 

「あれ?龍ちゃん下がっちゃったよ!今日はもう出てこないの?」

 

「多分ね。勝敗もほぼ決まってるしこれからの試合に備えてレギュラーを温存しとくんじゃないかな」

 

「えー!つまんないの…」

 

「そんなこと言わないの!控えの選手だって上手い子ばっかりだよ!」

 

曜の言う通り浦の星は控えの選手もなかなかの実力を誇る。そう簡単に追いつかれはしない。

 

 

こうして浦の星は盤石の試合運びを行い、最後まで相手の逆転を許すことはなく…

 

 

「試合終了!浦の星学院高校の勝ち!」

 

 

────試合終了(タイムアップ) 。結果は106-48。浦の星学院が全員出場で圧勝し、2回戦へと駒を進めたのだった。

 

──────────────────────

 

浦の星学院が勝利をあげたのと同時刻。別の会場でも1つの試合に決着がついていた。

 

「お、おい…いくらなんでも強すぎだろ…」

 

「俺…途中から見てられなかったよ…」

 

そのスコアは148対23。試合は一方的な展開で進んでいき、敗れたチームの選手達はショックで立ち上がることさえ出来ずにいた。

 

「そ、そんな…今まで俺達がやってきたことはなんだったんだよ…」

 

「…お前達には済まないことをしたと思っている。だが、このくらいやらないとあいつに勝つことなんて到底 できないんだ」

 

その男は1人で60点を奪い、相手チームを完膚なきまでに叩き潰していた。

 

「なんて強さなんだ………藤沼国際!そしてそのエース………竜崎(りゅうざき)颯大(そうた)!」

 

「海藤…今度こそお前に勝たせてもらうぞ…覚悟しておけ!」

 

全国大会をかけ、絶対に負けられない戦いはここでも始まろうとしていた。

 




しばらくは甘々展開少なくなるかもしれません。バスケ模写は出来るだけ早めに片付けるつもりなのでよろしくお願いします。

それではまた。


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11話 好敵手

あけましておめでとうございます。

途中の試合模写はカットしております。あと少しで一旦区切りがつくのでどうかお付き合いお願いします。



予選トーナメント最終戦、海藤龍吾を要する浦の星学院は最後まで盤石な試合運びを見せた。そして…

 

「試合終了!浦の星学院、決勝リーグ進出!」

 

「よっしゃあああ!!!」

 

去年の成績を上回り、龍吾達は初の決勝リーグへの進出を果たしたのだった。

 

「…ふぅ、やっとここまで来たか…」

 

歓喜の嵐に包まれるチームの輪の中で一人だけ笑っていない人がいた。浦の星学院のエースである海藤龍吾だ。

 

「どうしたんだよ龍吾!お前のおかげでもあるんだからもっと喜べよ!」

 

「いやなんつーか実感なくてさ…全国までもう少しで手が届く場所に俺達はいるんだな…」

 

この後、闘いは激戦が予想される決勝リーグへと進んでいく…

 

──────────────────────

 

「すごい!海藤くんおめでとー!」

 

「まだだよ。本当に大変なのはこれからだ」

 

試合の日の夜、俺は梨子から電話で賞賛の言葉を受けたけど本気で喜ぶのはまだ早い。予選トーナメントから決勝リーグまでは一週間ほど時間に余裕があるが戦いはまだ終わってはいないのだ。

 

「決勝リーグは二勝すればインターハイに出られる。もう少しだな…」

 

「その日はラブライブの予選があるから応援には行けないなぁ…海藤くん達の夢が叶う瞬間を見届けたかったよ」

 

「みんなもこの学校を廃校にしたくないから頑張ってるんだろ?俺のことなんか気にせず全力でやってこい!」

 

浦の星は共学にすることで一時的に廃校にはならずにすんだが、これ以上生徒が減ると再び学校が無くなる危険性もあった。梨子達はそれを阻止するためにもスクールアイドルの活動を頑張っていたのだ。

 

「ええ!私も頑張ります!」

 

「やっぱ梨子はそうでなくっちゃな。お互いに頑張ろーぜ!」

 

そう言い残して電話を切った。俺が考えていたことは今後の試合のことばかりであった。

 

(そういえばあいつは元気だろうか。俺達が負けた試合であいつは勝者だったのに一人だけ泣いていたからな…)

 

龍吾は去年の対戦相手を思い出す。とても手強く戦っていて楽しかった相手。その戦いに最終的に自分は勝てたがチーム自体は敗北したためあまりいい思い出ではなかった。

 

「今度は絶対に勝ってやるぞ。俺だけじゃない。チーム全員でな!」

 

それから一週間。全国をかけた龍吾達の最後の戦いが始まろうとしていた。

 

──────────────────────

 

決勝トーナメント当日、レギュラー陣はいつもより早めに会場入りをして試合の準備を進めていた。

 

「ついに代表が決まるのかぁ…今日の試合はぜってぇ負けねーし」

 

「当たり前だ。確実に勝つからな」

 

色々と試合について話しながら会場へ向かう途中、龍吾は一人の男に声をかけられていた。

 

「よう、久しぶりだな…海藤!」

 

「お前は………竜崎か…」

 

その相手は今日の対戦相手である藤沼国際高校のエースを務める竜崎颯大だった。

 

「フッ…覚えていてくれたみたいだな。嬉しいぜ」

 

「お前ほどのプレイヤーを忘れるわけがないだろう。本当に手強い相手だった…」

 

「俺は今度こそお前を倒す。去年は試合自体は俺達が勝ったが、俺はお前に完全に抑え込まれたからな。今でもあの試合のことは鮮明に覚えているよ」

 

去年の試合で藤沼国際は浦の星に勝ちはしたが、竜崎は龍吾に完全に負けていた。当然彼はそれをよしとせずこの屈辱を忘れることなく練習に励んでいた。

 

「聞いたぜ、今までの活躍。凄すぎて怖いぐらいだぜ」

 

「お前1人の力でここまでやってきたのか?」

 

「それだけどな、今年の俺にはキャプテンの他にも心強い味方がいるんだ。来てくれ!」

 

竜崎が呼び出したのは身長が2メートル近くある外国人の男性だった。龍吾達はその男を一斉に見上げた。

 

「コンニチハ!浦の星の皆サン!」

 

「うおっ!」

 

「で、でけぇ…」

 

「紹介するよ。セネガルからやってきたジョズだ!」

 

ジョズ・フィリップ。それが彼の名前だ。入学してきた時はオフェンスも満足に出来なかったらしいが、血の滲むような努力をし、今では藤沼国際をインサイドから支える心強い選手になったという。

 

「話は竜崎サンから聞いてマス。ボクは貴方達とコートで戦うのがとても楽しみデス!いい勝負をしましょうね!」

 

「よろしく。てか日本語上手くね?」

 

「何事にも努力は大事デース!」

 

「こいつは頭もすごくいいんだ。強いぜ?」

 

龍吾達は彼らが去年よりも確実に強力な相手になっていることを悟った。龍吾はそれと同時にこんなに素晴らしいライバルを自分の前に生み出してくれた神様に感謝する気持ちもあった。

 

「じゃあ俺達は先に行ってるよ。今日はダブルヘッダーで2試合で俺達は戦う。負けんじゃねーぞ」

 

そう言い残し竜崎とジョズは一足先に会場へ向かった。

 

「竜崎だっけ?あいつ、全然驕りとかないんだな」

 

「あいつは人のことを見下したりなんかしないやつだ。たとえ格下が相手でも本気でやってる」

 

「あれ?そこにいるのは浦の星学院の皆さんじゃないですかw今日はよろしくお願いしますわw」

 

「…あいつらとは違ってな」

 

そこいたのは竜崎と同じ藤沼国際の選手だった。強者の風格など微塵も感じない言動が少々不快だが龍吾は気にせず話しだした。

 

「こちらこそ。まったく…竜崎の指導はどうなってんだか…こんな奴らがうちにいたら俺らがキレる前に監督に胸ぐら掴まれてるぞ」

 

「何言ってんの?まぐれでここまで勝ち上がってきたクセにえらそーだなぁ」

 

「…今なんつった!?」

 

「まぐれだと?てめぇら許さねぇぞ!」

 

今にも掴みかかろうとしている二人を孝至と真一が抑える。龍吾も少し苛立ちを覚えながらも表情を変えずに話を続ける。

 

「…どういうことだ?バスケはまぐれなんか起きない競技のはずだが」

 

「いやまぐれでしょ?それか君たちと戦ってきたチームが弱すぎたか」

 

その言葉で龍吾は今までに戦ってきた相手を思い出す。小さくてもディフェンスで貢献する選手。大きくても外から攻めることの出来る選手。敗北後に涙を流しながらもお互いの健闘を称えることの出来る気持ちの良い選手。どれも素晴らしい選手ばかりだった。

 

「俺達が戦ってきたチームは弱いやつなんて1人もいなかった。お前らにはわからないだろうが勝敗には関係ない大切なものがそこにはあったと思う」

 

「…俺達が今まで負けてきた奴らより劣ってるというのか!」

 

「実力は知らん。ただ、試合に臨む姿勢とか精神面では今まで戦ってきた選手の方があった。比べるのも失礼なくらいにな」

 

藤沼国際の選手は頭に血が登った様子を見せていた。俺が少し煽っただけで怒りのボルテージがマックスか。まったく…こいつらは本当に竜崎と同じチームの奴なのか?

 

「…そうかい。だったら叩き潰してわからせるしかないなぁ…覚悟は出来てんだろうなぁ?」

 

「おっと、こんなとこで乱闘なんかするんじゃない。これはお互い試合でぶつけようじゃないか」

 

孝至の一言でやっと落ち着きを取り戻した相手選手は俺達を見下しながら言った。

 

「…いいだろう。二度と立ち上がれなくなるくらい完膚なきまでに潰してやるよ」

 

「もうすぐ無くなるような学校の小物が調子乗ってんじゃねーぞ!」

 

「……………」

 

藤沼国際の選手達はそれぞれ捨て台詞を吐いて会場へ向かった。その言葉で朔也と琉空だけではなく普段は冷静にな真一も怒りの表情を浮かべているのがわかる。

 

「まったく腹立つな!あいつらにはぎゃふんと言わせてやるよ!」

 

「お前ら!あんな奴らを許せって言うのか!俺はもう我慢出来ねぇ!逆に潰してやるよ!」

 

「朔也、お前には冷静になってもらわないと困る。お前の相手はあの手強そうな留学生なんだ。あいつらをどうするかは…わかるよな?龍吾」

 

「…当たり前だ。あいつらは俺達の大事なものを貶しやがった…」

 

龍吾の顔は表情を変えずに冷静を装っているが、目だけは違った。彼の目には孝至達も驚く程に怒りの炎が宿っていた。

 

「おもしれぇ…返り討ちにしてやるよ!」

 

自分を蔑まれることはどうでもいい。だが、大切な人達のことを馬鹿にされることは絶対に許さない。龍吾の覚悟は既に決まっていた。あとはその全てを試合に出し切るだけだった。

 

──────────────────────

 

1つ目の試合は浦の星学院が100点ゲームで圧勝した。全国まであと1勝となった。そして迎えた第2試合、浦の星は最大の山場に来ていた。

 

「来た!藤沼国際だ!」

 

「今まで9年連続で県を制覇してる強豪校!今年は10連覇がかかってるぜ!」

 

「うるせぇなぁ…俺たちゃ悪者かよ」

 

文句を言いながらも淡々とアップを進めていると相手チームのキャプテンが俺に話しかけてきた。

 

「海藤くん、さっきはうちの馬鹿どもが無礼なことをした。本当に済まなかった…」

 

「小松さん…気にしなくていいですよ。あんな煽りに屈してるようじゃどのみち勝てないですからね」

 

そんな彼…小松源一郎(げんいちろう)さんは深々と下げていた頭を上げ、改めて言った。

 

「そう言ってもらえるとありがたい。さて、竜崎はともかく俺は3年で今年が最後だからな。絶対に勝たせてもらうぞ」

 

「臨むところですよ」

 

小松さんとしっかり握手を交わし、俺達はお互いに自軍のベンチへと戻った。

 

「みなさん、気合いは入ってますね?」

 

「もちろんです!」

 

「ファウルには気をつけて全力でやりなさい。あとは海藤くんと朔也くんへの手助けを忘れずにね」

 

ベンチでは監督からの指示が言い渡される。みんな集中しすぎて逆に怖いくらいだった。

 

「みなさん、ここまでよく頑張ってくれました。私は君達を誇りに思います」

 

「監督…」

 

「私はこのチームの監督になれてよかった…私は君達を信頼してます。よろしく頼みますよ」

 

「おお!」

 

再び監督からの激励が送られる。色々厳しいことも言われたけど監督を信じてきて本当によかった…

 

『これより浦の星学院高等学校対藤沼国際高等学校の試合を行います。試合に先立ちまして、両校のスターティングを紹介します』

 

アナウンスとともに会場が試合前独特の雰囲気に包まれていった。

 

『まずは白のユニフォーム、藤沼国際高等学校。4番 小松源一郎』

 

「うぉし!」

 

小松は気合の入った声をあげながらコートへ走っていく。その姿はとても逞しく、チームメイトを鼓舞するのには充分だった。

 

『8番 塩木春名(しおぎはるな) 9番 皮島幽樹(かわしまゆうき)

 

「へーい」

 

「やってやるかw」

 

ヘラヘラしながらコートへ向かう二人は龍吾達を軽く挑発しているようにも見えるが、本人達はそんな彼らの様子を静かに見つめたままだった。

 

『10番 竜崎颯大』

 

「………はい!」

 

藤沼国際のエースである竜崎颯大。今までの試合全てで二桁得点を記録している。竜崎は小松とハイタッチを交わしながら静かに龍吾の方を見つめた。

 

「どうすんだ?成長したあいつにやられるんじゃねぇぞ?」

 

「バカ野郎。そうそう負けねーよ」

 

そんな竜崎の様子を自軍のベンチから見ていた龍吾と孝至は軽口を叩きあいながらも真剣にコートを見つめていた。

 

『15番 ジョズ・フィリップ』

 

「ハイ!」

 

身長2メートル、体重100キロの体格を持ち、圧倒的なパワーを誇るジョズ。ゴール下では負け知らずの彼に朔也はどう対抗していくのか…

 

『続きまして青のユニフォーム、浦の星学院高等学校。4番 小川孝至』

 

「はい!」

 

チームのキャプテンを務め、人望も厚い孝至。今日も相手からのプレッシャーに負けず冷静にゲームを組み立てることか出来るのか。

 

『5番 源朔也』

 

「おし!」

 

ジョズが剛のセンターと呼ばれるのならば朔也は間違いなく柔のセンターと異名付けられるだろう。ゴール下でも器用なプレーを見せる彼は最大の脅威を止めることが出来るか期待がかかる。

 

『6番 桧山真一』

 

「…はい」

 

玄人達の間では誰よりも高い評価を持つ真一。派手さはないが、チームの危機を救う堅実なプレーが持ち味だ。

 

『7番 海藤龍吾』

 

「………よし!」

 

チームのエースで精神的支柱である龍吾。ここまでの試合でも素晴らしい成績を残している彼を止めることは困難になるだろう。

 

『8番 坂本琉空』

 

「行ってきますよ!」

 

入り始めたら止まらないスリーポイントの持ち主は琉空だ。彼がシュートを打つことでチーム全体にいいリズムがもたらされる。彼のディフェンスには一瞬の油断も許されない。

 

『それでは試合を始めます!礼!』

 

「「よろしくお願いします!」」

 

全国をかけた両校の最大の戦いは今、始まろうとしていた。

 




今年もよろしくお願いします!

それではまた。


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12話 浦の星学院

お久しぶりです。バスケの話はとりあえず今回で一区切りつくのでもう少しお付き合いの方をよろしくお願いします。




「これより浦の星学院高等学校対藤沼国際高等学校の試合を行います」

 

コートに両チームの主力五人ずつが整列していた。浦の星にとっては去年の借りを返す絶好の機会だった。藤沼国際も昨年は苦戦した相手のため今年こそは完勝するつもりでいる。

 

「よろしくな!」

 

「よろしくお願いします!」

 

キャプテン同士の挨拶も終わり、いよいよ試合が始まろうとしていた。

 

「海藤…今年こそは負けねーからな」

 

「受けて立つぜ竜崎!」

 

両チームのエースも握手を交わし、それぞれの立ち位置に戻っていった。

 

「それでは試合を開始してください」

 

「頼んだぞ朔也…」

 

「おう!」

 

審判がボールを高く上げ、試合が開始された。

 

TIP OFF(試合開始)!』

 

「フン!」

 

「くっ…高ぇ!」

 

「気にするな!まずは一本止めるぞ!」

 

ジャンプボールは身長で勝っているジョズが抑えた。浦の星はディフェンスからのスタートだ。

 

「颯大、頼んだ!」

 

「わかりました!」

 

小松から竜崎にボールが渡る。試合開始早々に行われたエース同士の闘いに誰もが注目していた。

 

「いくぞ…覚悟しな!」

 

竜崎は早速龍吾を抜きにかかる。相手のディフェンスを置き去りにするスピードで竜崎は完璧に龍吾を抜いたと思われたが

 

「まだまだ甘ぇよ。こんなんで俺のことを抜けるとでも思ってたのか?」

 

竜崎が二度目のドリブルをついた瞬間に龍吾は目に止まらぬスピードで竜崎の懐に潜り込み、ボールを奪っていた。

 

「クソっ!やられた!」

 

「ドンマイ!次で取り返すぞ!」

 

龍吾はそのまま敵陣に突っ込んでいくが、そこにはすでにディフェンスが二人戻ってきていた。

 

「戻りが早いな…俺が竜崎を止めることまで読んでの行動ってことか?」

 

「そんなもんかねぇ…てかホントにお前一人で来る気かよ?」

 

「叩き落としてやるよ!」

 

二人はすでに龍吾の進むコースを塞いでいた。彼はこのまま相手にボールを奪われ返されるだろうと誰もが思ったが…

 

「一人じゃねぇよ…よく見とけや」

 

龍吾は自分のすぐ後ろを走っていた琉空にノールックでパスを出した。

 

「なにっ!?」

 

「ナイスパース!」

 

琉空が放った3ポイントはリングに触れることなくゴールへ吸い込まれていった。

 

「よし!先取点は頂いたぜ!」

 

「ナイスだ!」

 

観客はみな試合は藤沼国際が有利に進んでいくだろうと思っていたが、浦の星もそう易々と流れを引き渡すようなことはしなかった。

 

「いきますヨ!」

 

「相手してやるよ!」

 

もう一つの注目だった朔也とジョズのマッチアップはほぼ互角だった。先程からジョズが決めれば朔也が入れ返し、朔也が止めればジョズもやり返した。

 

「さて、こっちもそろそろやりますか」

 

「来な。止めてやるよ」

 

「んじゃまぁ…遠慮なく!」

 

龍吾は竜崎のシュートを身を挺して止めようとしたが、それは叶わずボールはそのままゴールへ吸い込まれていった。

 

「やるじゃねぇか…」

 

「俺はもう去年とは違うんだ…舐めんな!」

 

「わかってはいたけどよ…やっぱそう簡単には勝たせてくれないようだな!」

 

前半は点の取り合いだった。お互いに一歩も引かずスコアは同点のまま試合は進んでいった。

 

「なんだ…こいつら雑魚じゃなかったのかよ…」

 

「こうなったら…」

 

(あの二人…さっきから様子がおかしいぞ。エースやキャプテンが奮起してるというのに全然動きを見せない。いや、見せようとしていない…)

 

相手二人の様子がおかしい。孝至はそれにいち早く気づき、警戒を始めていた。

 

「お前ら、これでわかっただろう?浦の星は雑魚なんかじゃねぇんだよ!」

 

龍吾は再びドライブでディフェンスを抜きにかかる。そしてさっきのようにそのままシュートにいく…はずだった。

 

(クソが…これでも喰らいな!)

 

瞬間、コートの中から鈍い音が響いた。相手の肘が龍吾の額に直撃し、龍吾は頭から血を流しながらコートに倒れ込んだのだ。

 

「龍吾!大丈夫か!?」

 

「クソっ…やりやがった…な…」

 

龍吾はそのまま意識を失い、担架で医務室まで運ばれてしまった。

 

「テメェ…わざとやりやがったな!」

 

「やめろ!手出したらお前が退場させられるぞ!それにあんな奴を殴ったところでどうにかなる問題じゃないだろ!」

 

仲間を傷つけられたことで怒り、相手に掴みかかろうとする朔也を孝至が押さえつける。

 

「…すまねぇ」

 

朔也は拳を強く握り、声を震わせながら答えた。

 

「だが到底許すわけにはいかないな。そこまでして勝ちたいとは…正直失望したな」

 

「海藤さん…大丈夫でしょうか?」

 

「あいつなら大丈夫だ。とにかく今は試合のことだけを考えろ!」

 

竜崎は担架で運ばれていく龍吾を見て残念そうな表情を浮かべていた。

 

「くそっ余計なことをしやがって…」

 

「こうなったのは不本意だが仕方ない。万全ではない相手を本気で倒しに行くのは好きではないがこっちも全国がかかってるんでね…竜崎、相手への余計な情は捨てろよ」

 

「…わかってます」

 

浦の星はエースがいなくなった穴は大きいが、何とか食らいつき前半を同点で終わらせた。だが不安要素を残したまま後半へ望むこととなってしまった。

 

──────────────────────

 

…頭が割れるように痛い。治療は終わっているはずなのに起き上がることが出来ない。龍吾はまだ闘うことを諦めてはいなかったが、痙攣する身体は言うことを聞かなかった。

 

 

医務室のベッドの上で横たわる龍吾の姿は今までにないほど弱々しかった。意識もはっきりしておらずほとんど目覚めていないと言ってもいいだろう。

 

 

もうこのまま試合が終わるまで起き上がることは出来ないのだろうか。一層のことこのまま寝てた方が楽になれるのではないだろうか。時間が経つにつれて龍吾はそんなことを思うようになってしまった。

 

 

 

そんな時だった

 

 

 

「…くん!海藤くん!」

 

「…り…梨子…?」

 

龍吾は朦朧としていた意識の中で確かに聞いていた。自分の名を呼ぶ最愛の人の声を。

 

「海藤くん!よかった…気がついたんだね」

 

「梨子?なんでここに…」

 

龍吾の疑問はもっともだった。梨子達はラブライブの予選があるため試合会場には来れないはずだったのだ。

 

「予定より出番が早くなったから間に合うことが出来たんだよ!もう少しでも遅かったらここにはいられなかった…」

 

「そうか…試合はどうなんだ…?」

 

「みんな頑張ってるけど…9点差で負けてて残り時間はもうすぐ5分…」

 

5分で9点差か…充分間に合う。今すぐコートに戻ってあいつらの負担を少しでも軽くしてやらねーとな…

 

「わかった!今すぐにコートへ…」

 

龍吾は何とか起き上がったが、頭の激痛ですぐに倒れ込んでしまった。

 

「くそっ…こんな大事な時に仲間を助けられなくて何がエースだ!」

 

「無理しないで!これ以上貴方に何かあったら私は…」

 

「梨子、心配する必要はないよ。この怪我は選手生命に関わるほどの傷じゃないからすぐによくなる」

 

「でも…そんな状態で…」

 

「俺は一度自分の身勝手な行為であいつらを傷付けた。その罪滅ぼしがまだ終わってねぇんだ。俺はあいつらを絶対に全国へ連れていく!身体の傷はすぐに治るけどよ…心の傷はそう簡単には癒えないもんだろ…?」

 

「海藤くん…」

 

龍吾は完全に覚悟を決めた。これ以上彼に何を言っても届くことは無い。それはずっと龍吾の近くで過ごしてきた梨子が一番わかっていた。

 

「わかった。でもこれ以上怪我しないでね?貴方が傷つくことは私も辛いから…」

 

「梨子…」

 

「海藤くん…勝ってきて!」

 

梨子は優しく龍吾を送り出した。彼は決して振り返ることなくコートへ向かっていった。

 

「交代です!」

 

「あ!龍ちゃんが戻ってきた!」

 

「あら?あいつらも来てたのか。それはいいけどだいぶ苦しい試合展開になってきたなぁ…」

 

「戻ってきたか。散々待たせやがって…」

 

浦の星の面々はコートに彼が戻ってきた姿を見て安堵の表情を浮かべる。

 

「何シケたツラしてんだよ?まさか本気で勝てねぇとか思ってたんじゃねぇだろうな?」

 

「フン!正直お前がいなくても勝てるんじゃねぇかとか思ってたわ!」

 

「…の割にはさっきより点差縮まってねぇじゃないか?全くしょうがねぇ奴らだな」

 

残り時間は4分。点差は変わらず9点差。何事もなく追いつくには少々きつくなってきた。

 

「海藤…」

 

「竜崎…俺のいない時間で少ししか点差をつけらんないとかやっぱその程度かい?」

 

「フッ、お前なんかよりあいつらの方が何倍も手強かったんだぜ?ずっと寝てたみたいだしお前の方が大丈夫か?」

 

「言ってくれるねぇ…」

 

「そっちこそ…」

 

試合中だというのに人目もはばからずに火花を飛ばし合う両エース。チームメイトも少し呆れたような目で見つめている。

 

「絶対負けねぇからな!」

 

「絶対追いつかせねぇぜ!」

 

浦の星ボールで試合は再開した。竜崎もいつも通りにディフェンスに入るが、彼は浦の星の攻めに驚きといった表情をしていた。

 

「龍吾、任せたぞ」

 

「ああ!存分にお前らを生かしてみせる」

 

「海藤…お前がポイントガードなのか…?」

 

普段の浦の星はゲームを組み立てるのは正ガードである孝至の仕事だ。それを今は普段はフォワードの龍吾がガードのプレイをしている。竜崎がそれに驚いた一瞬を龍吾は見逃さなかった。

 

「油断すんなよ!」

 

「しまっ!キャプテン!」

 

「任せろ!」

 

竜崎を抜いた先には小松が待ち構えていたが、龍吾は慌てず冷静にパスを捌いた。

 

「ぶち込め朔也ァ!」

 

「うらぁ!」

 

龍吾からのパスを受けた朔也はジョスのブロックが間に合わないタイミングでダンクを決めた。

 

「やられましたネ…」

 

「いや、俺も悪かった。オフェンスで立て直そう…」

 

小松はすぐに攻防を切り替え、近くにいた竜崎にボールを預けるはずだった。

 

「龍吾がガードやってるからって俺のことを忘れてもらっちゃ困りますよ!」

 

「しまった!」

 

小松から竜崎へのパスを予測していた孝至がすぐさまパスをカットし、そのままシュートを放ったが…

 

「孝至!ジョズが来てるぞ!」

 

「ボク達は絶対に負けません!」

 

「………ぐっ!」

 

ジョズの強烈なブロックショットが孝至のシュートを止める。が、弾いたボールの行き先には真一が待ち構えていた。

 

「ナイスパス」

 

「あっ!」

 

流石のジョズでも二回連続の跳躍は間に合わない。そのまま真一は冷静にシュートを決めた。

 

「孝至サン!ケガはありませんカ?」

 

「大丈夫、気にする必要はない。それと真一、お前のおかげで助かったよ」

 

「…俺はこぼれ球を拾っただけだ。お前の方がお手柄じゃねぇか」

 

あっという間に5点差に詰め寄り、残り時間はもうすぐ3分になる。だが、こんな状況でも主力に焦りが見えないのが藤沼国際の強さの一つだ。

 

「竜崎!こっちがフリーだ!よこせ!」

 

「…仕方ねーな。決めてくれよ?」

 

竜崎もフリーになった味方に冷静にパスを捌き、パスを受けた味方も焦らずにシュートを放つ。が、そのシュートはリングに嫌われ、そのまま相手ボールになってしまった。

 

「やべっ!外した」

 

「…やれやれだぜ」

 

シュートが外れてもディフェンスへの戻りは早い。彼らはすぐに自軍のゴールを守り始めた。

 

(孝至…)

 

(…いいぜ)

 

龍吾は孝至と一瞬のアイコンタクトを交わすとすぐにドライブで敵の中へ切れ込んでいった。

 

「打たせねぇよ!」

 

「お前の傷じゃ無理はできねーだろ?選手生命は大事にしようぜ?」

 

「………」

 

龍吾はすぐさま相手には見えない角度へのパスを出す。そこには既に孝至が待ち構えており、パスをもらうと同時にスリーポイントシュートを放った。そのシュートはとても高く、綺麗な弧を描いてゴールへと吸い込まれていった。

 

「よっしゃあ!これで2点差だぁ!」

 

「く…どっからパス出しやがった…」

 

「こいつと何年一緒にやってると思ってんだ。どこにいればパスもらえるかなんてすぐにわかる」

 

誰よりも同じチームで長い時間を過ごしてきた。そんな二人だからこそ出来たコンビネーションだった。

 

(あいつらの次の行動は…深く考えるまでもないか…)

 

「り…竜崎!お前に預けるぞ!」

 

「バカが!俺へのパスは既に予測されてるってわかんねぇのか!ディフェンス来てるぞ!」

 

竜崎の叫びも虚しくパスは再び孝至にカットされ、そのボールは琉空の手に渡った。

 

「このシュートは落とせねぇ!」

 

「う、打たせねぇぞ!」

 

「待て!無理するな!」

 

小松の指示も届かなかった。相手のディフェンスは琉空がスリーを放った瞬間にぶつかり、二人はコートに倒れ込んだ。そのシュートは一度リングの弾かれたが何とか持ちこたえ、リングへと吸い込まれた。

 

「バスケットカウント!今のシュートは得点として認められます!」

 

バスケではファールが試合中に何度も起こる。中には無理やり反則を犯し、シュートを止めるなんてこともあったのでファールを貰いながらのシュートが得点として認められるようルールが決まったのだ。

 

浦の星は琉空のこのシュートにより見事に逆転。残り時間もあと僅かだ。

 

「これで逆転だぁ!」

 

「よく決めた…琉空!」

 

「ふぅ…正直ヤベェと思ったわ」

 

追加でもらえるフリースローも見事に沈め、リードを2点に広げた。

 

「よし!あとは守りきるぞ!」

 

「正直参ったわ…お前ら強いな」

 

竜崎はハーフラインでボールを受け取り、ディフェンスの龍吾に言う。

 

「でもな、勝つのは俺達。それにさ…守りがそんなに遠くていいのかよ!」

 

「な…」

 

竜崎はスリーポイントラインの遥か遠くからシュートを放った。そのシュートは見事に決まり、藤沼国際が再びリードとなった。もう時間はない。

 

「うぉぉ!竜崎!」

 

「なんてやつだ!この局面で決めてくるとは!」

 

「海藤…どうだったかい?」

 

「…やはりそう易々とは勝たせてくれないようだな?」

 

孝至からボールを受け取り、残り時間を見る。あと10秒しか残っていない。龍吾は孝至とアイコンタクトをとる。

 

(…どうする?)

 

(決まってんだろ…お前が決めろ。俺達はお前に全てを託す)

 

(そうか…ありがとう!)

 

他の三人も同じ意見のようだった。龍吾は仲間に感謝の意思を持ちながら敵陣へと向かっていった。

 

「やっぱお前で来たか…絶対止めてやるからな!」

 

「いや、お前じゃ俺のスピードには追いつけない………さらばだ」

 

龍吾は竜崎の前でスピードを上げ、ディフェンスを振り切った。

 

「いけぇ龍吾!このままぶち込めばそれでおしまいだ!」

 

「いくぞ竜崎!」

 

「やっぱ強いな…けどよ…俺はまだ勝負を諦めちゃいねぇよ!」

 

抜かれても諦めない。竜崎は何とか食らいついて龍吾のシュートを叩き落とそうと高く跳躍した。

 

「くらえ海藤!」

 

「竜崎、本当にお前は強い…認めるよ。だけどよ…まだ足りない…」

 

「…くっ!」

 

「試合は…これで終わりだぁ!」

 

龍吾が渾身の力でダンクを叩き込む。竜崎はあと僅かに届かなかった。その瞬間、試合終了のブザーが鳴った。

 

「よっしゃあ!」

 

「これでインターハイ出場決定だぁ!」

 

歓喜の輪に包まれる浦の星学院サイド。その中心に龍吾はいたが、彼の目線は共に全力を出し尽くして闘ったライバルの方に向いていた。

 

「泣くな竜崎、お前はよくやってくれた。負けたのは俺がお前の力を生かしきれなかったからだ…許してくれ…俺を許してくれ…」

 

「キャプテン…あんたも泣いてんじゃねぇか…それじゃ説得力ねぇよ…」

 

「竜崎サン、キャプテン、まだ終わってませんヨ。次頑張りましょう…」

 

互いに健闘を讃え合い涙する三人の姿は何よりも美しかった。それは本当に頑張った人だからこそ流せる涙だったのかもしれない。

 

「龍吾!控え室に戻るぞ。明日の試合も勝って全部終わったらみんなで祝勝会だ!」

 

「すぐ行く!またな竜崎、楽しかったぜ…」

 

試合終了(タイムアップ)。浦の星学院対藤沼国際の試合は激闘の末、浦の星学院が土壇場で逆転し、1点差で勝利を収めたのだった。

 




梨子がラブライブの地区予選に出てるのはオリジナルです。私の中ではこの予選のあとにピアノのコンクールがあるという設定でやってます。

さて、次から今まで通りに戻っていきますがまだバスケ模写が完全に終わったわけではないということだけ伝えておきます。ご理解をよろしくお願いします。

それではまた。


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13話 次のステップ

こんにちは。

今回は少し短めです。


ラブライブの県予選。そしてインターハイ予選から二週間が経過した。共に予選を突破し、より大きな大会へ進むということもあり練習はより濃密なものになっていた。

 

「無事に県予選も終わりましたね!みんなと最高のパフォーマンスが出来て本当に楽しかったよ!」

 

「わかっているとは思いますが、油断なんてしてはいけませんよ。私達にはまだ東海予選が残っているのですから」

 

「でもそれを乗り越えればついにラブライブ本戦だね!」

 

Aqoursの方はまだ全国とはいかない。もう一つブロックごとの予選があり、そこで入賞を果たせばいよいよラブライブの本線へと出場することが出来るのだ。

 

「よし!今日も練習やろっか!」

 

「あ、待ってちかっち!今日は沼津の方に練習スタジオを予約してあるわ。流石に毎日は使えないけど一週間に一度くらいはそこで練習出来るようになったわよ」

 

「ホントに!?流石鞠莉さん!」

 

「ちょっと移動の手間がでてくるけど屋上よりも良い環境で練習出来るからね!」

 

「よし!早速行こっか!」

 

千歌の一言で全員が一斉に準備を始める。それと同時に彼も部室へやってきた。

 

「ういーっす」

 

「あ、龍ちゃん!来てすぐで悪いけどすぐに準備して!これから沼津の方へ行くから」

 

千歌は龍吾に鞠莉から聞いたことを伝えた。

 

「なるほどな。そんなに良い環境で練習出来るなんて最高じゃん!この機会は大事にしないとな!」

 

「そうだね!それじゃ行こっか!」

 

千歌達は龍吾を含む全員でバスへ乗り込み沼津へと向かっていた。その途中で龍吾は曜と談笑していた。

 

「ねぇねぇ龍くん、今度の予選は見に来てくれるの?」

 

「申し訳ないけどインターハイの日程と被ってるから行けないな。だけどラブライブ本戦は確実に見に行くから!」

 

「そっか、残念だなー」

 

「なんかすまないな。毎回みんなの晴れ舞台を見に行くことが出来なくて。サポートしてる人間としてはお前達がやりきるまで全部見届けてあげたいと思ってるんだが…」

 

「気にしないで。いつも感謝してるから!」

 

やはり曜の笑顔は眩しい。心のモヤモヤも晴らしてくれるような笑顔に昔から何度助けられたことか…

 

「そう言って貰えると気持ちも楽になるよ」

 

「そろそろ降りるわよ。練習場所はすぐそこなんだから!」

 

俺達はバスから降り、鞠莉さんに連れられて練習スタジオへと入っていった。

 

「おお…思ってたよりも広いんだな…」

 

「すごい…早く練習したいな!」

 

やはり本格的な場所で練習が出来るということでみんなのやる気も高まっていた。俺もすぐに自分の作業に取り掛かろうと思ったが…

 

「ちょっと着替えとか準備しなきゃいけないから龍ちゃんはしばらくブラブラしてていいよ!でもすぐに終わるからあんまり遅くはならないでね!」

 

というわけで俺はスタジオから追い出されてしまった。すぐに終わるって言ってたけどそれまで何をするか…

 

「まぁ適当にふらっとしてるか。何か面白いものでもあるかもしんないし…ってあいつは…」

 

龍吾は前方からやってくる一人の男に気がついた。それは彼がよく知る人物だった。

 

「あいつは…竜崎…」

 

「…海藤?」

 

龍吾はインターハイ予選で激闘を繰り広げたライバルである竜崎と早くも再会した。

 

「ここに何の用なんだ?俺は練習の帰りだが」

 

「ああ、ちょっと友人達の手伝いがあってな。その付き添いでここまで来たんだよ」

 

「…あの女達か。つーかお前と少し話したいこととかあんだわ。ちょっと付き合ってくれよ」

 

「付き合ってくれって…まぁ少しだけだったら別にいいけどよ」

 

龍吾は竜崎に連れられ、場所を変えて話をすることになった。

 

──────────────────────

 

「この辺でいいだろう」

 

偶然の再開を果たした二人は駅前の広場で椅子に腰掛けお互いの近況報告をしていた。

 

「会うのは試合の日以来だな」

 

「そうだな。あの後の試合はどうなったんだい?」

 

「お前らに負けた後の試合は正直覚えてない。ただキャプテンやジョズのおかげで何とかインターハイへの出場権は得られたよ。お前こそ怪我の方は大丈夫なのか?」

 

「すぐに治ったさ。まぁもう少し傷が深かったら緊急手術だったかもしんないがな」

 

龍吾は笑いながらそう言って怪我の箇所を見せる。その部分は既に完治しており傷跡も殆ど残っていない。

 

「悪いことをしたな。その怪我の元凶になったヤツらは後で監督にこっぴどく叱られてたよ。んで多少はしっかり練習するようになったわ」

 

「そっか、気遣ってくれてありがとな。他に変わったことは?」

 

「そうそう、この手紙が届いたんだぜ?」

 

竜崎はポケットから一枚の封筒を取り出して龍吾に見せた。そこには県で選抜チームを作るために力を貸してほしいと書いてあった。

 

「これは…国体の招集か。よかったじゃねーか。俺んとこには来てねーけど…」

 

「まぁいずれ来るっしょ。だって県内トップのスコアラーは紛れもなくお前なんだから…認めたくねーけど」

 

「国体か。正直出たいけど今すぐに招集かけられてもちょっと困るなぁ…インターハイの準備の他に俺は友人達の手伝いもしなくちゃいけないから」

 

「本格的に始まるのはインターハイ後だから大丈夫だろう。あとお前に聞きたいのは国体についてじゃない」

 

竜崎は急に真剣な表情になり龍吾へと問いかける。

 

「あの子達はお前にとってなんなんだ?何故大切な練習の時間を削ってまで尽くそうとする?」

 

「うーん…俺がそうしたいからとしか言えない。まぁバスケ一筋なんて言えねーような人間が県一位のチームでエースやってるだなんて笑いもんだよな」

 

「俺も正直全く意味の無いものだと思ってたさ。だが、お前ほどの選手がそこまでこだわるなんて何か特別な理由があるのかと思ってな」

 

竜崎の言葉からは刺々しさもなく、ただ純粋に龍吾の意見を聞きたいという様子に見えた。龍吾は別に隠すこともないだろうと思い、正直に話すことにした。

 

「一つ理由をつけるなら…恩返しかな?」

 

「恩返し?」

 

「俺は一度バスケから逃げた。そんな俺をもう一度バスケへと向かわせてくれたのはあいつらなんだ。俺はあいつらから受けた恩をこうやって返してるだけさ」

 

彼は一年の頃に自身のミスでチームを敗北させ、責任を取って自らチームから姿を消した。今思うとそれは理由を付けて逃げていただけだった。そんな自分をもう一度バスケに向かうきっかけを間接ながらくれたのが千歌達だった。

 

「そうかい。そんな大切な理由があんだったら俺から何か言うこともねーよな。あの子達のことは大切にしてやれよ」

 

「お前に言われなくてもわかってるわ。てかそろそろ戻んないとあいつらに何か言われっかもしんねーなぁ」

 

時計を確認すると竜崎と話し始めた時からだいぶ時間が進んでいた。みんなは着替えなどとっくに終わって練習を始めている頃かもしれない。

 

「んじゃ行ってやんなよ。なんか文句言われたら俺のせいにしとけ。あ、もしかしたらお前のとこにも国体の招集かかるかもしんないからそうなったら一緒にやろうぜ!」

 

「もちろんだ。期待して待ってろよ!」

 

二人は固く握手を交わして別れていった。龍吾はスタジオへの道のりを急ぐ。

 

「あいつも頑張ってるんだ。もたもたしてたらすぐに抜かされちまうから俺も頑張らねーとな!」

 

…この後みんなから戻ってくるのが遅いという理由でこっぴどく怒られたのは別の話。

 

 




それではまた。


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14話 出発前夜

お久しぶりです。



「というわけで前から話してたように俺達は明日からインターハイに出発します。この大会が終わったらしばらくは落ち着けると思うから」

 

「うん!頑張ってね!」

 

いよいよ明日が出発だ。初めてのインターハイで緊張するけど自分の納得する結果が残せるように頑張らなければ…

 

「だから…申し訳ないんだけど明日の準備があるので今日はこれで帰りますね…」

 

「海藤さんは大会に集中してくださればいいのです。私達も頑張りますから!」

 

「えへへ、お土産よろしく!」

 

「ありがとうございます。それじゃ…」

 

龍吾は一足先に屋上をあとにした。千歌達はそんな彼を見送ってから練習をスタートさせた。

 

「曜ちゃん、海藤くんは大丈夫かなぁ?」

 

「龍ちゃんなら心配ないでしょ?」

 

梨子はストレッチをしながら曜に話しかける。

 

「千歌ちゃんもそう思うでしょ?」

 

「もちろん!梨子ちゃんが信じてあげなきゃダメだよ?凌くんなら絶対に大丈夫!」

 

「そっか…そうだよね!」

 

「ほら、練習に集中するのですよ。海藤さんのことが気になるのはわかりますが、上の空では怪我するかもしれませんよ」

 

「はーい」

 

ダイヤの指摘によりその後は全員が練習に集中し、滞りなく時間は過ぎていった。

 

──────────────────────

 

あっという間に日が暮れて練習も終わった。千歌達は汗を拭き、帰り支度を始めた。

 

「ふぅ…今日の練習も大変だったねぇ…帰ったら次の文化祭で披露する曲の作詞もしなくちゃいけないし…」

 

「千歌ちゃん、詩の方は早めによろしくね♪」

 

「うぅ~頑張らなきゃなのだ…」

 

「私とルビィちゃんも衣装作りの仕上げに入ってるからなぁ…お互い頑張ろうね」

 

千歌や曜の悩みを聞きながら梨子はバス停までの帰り道を歩く。反対方向のバスに乗る曜と別れ、千歌との雑談を楽しみながら自宅への帰路についた。

 

「梨子ちゃん、また明日ね!」

 

「うん!また明日!」

 

家に帰ってきた梨子は自室に入り、メールの確認をしていた。が龍吾に送ったメッセージの返信はまだ来ていなかった。

 

(伝えたいこともあったしメールでもいいから話したいって思ってたけどやっぱり忙しいのかなぁ…既読もつかないしあんまりしつこく連絡するのもよくないよね…)

 

そんなことを考えながら梨子は携帯を置いた。それからしばらくすると隣の家から女の子の声が聞こえてきた。

 

「梨子ちゃーん!」

 

「この声は…」

 

梨子はベランダに出て声のする方へ目を向けた。

 

「千歌ちゃん?どうしたの?」

 

「いや~作詞が難航してて…気分転換に梨子ちゃんとお話したいなーって。ダメかな?」

 

「大丈夫だよ。私も誰かに話を聞いてもらいたいなーって思ってたから…」

 

二人は軽い雑談を始めた。作詞が全然進まないこと。最近の練習のこと。次のライブでやりたいこと。梨子は千歌の話や相談を静かに聞いて時には意見を出したりして楽しく会話をしていた。

 

「色々ありがとね!助かっちゃったよ!」

 

「どういたしまして。私も千歌ちゃんの力になれてよかったよ!」

 

「はい!今度は梨子ちゃんの番!梨子ちゃんは何の話を聞いてもらいたかったの?私で良かったら相談にものっちゃうよ!」

 

「…じゃあ聞いてもらおっかな?」

 

にっこりと笑う千歌を見て安心した梨子は自分の思っていたことを全て話した。

 

「なるほど。全然話せなかったし龍ちゃんは明日出発しちゃうから今日のうちに伝えたいことがあったけど凌ちゃんと連絡が取れなくてどうしようか悩んでるってことかー」

 

千歌は難しい顔をしながら考え始めた。

 

「伝えたいことがあるってことは事実だし、しばらく会えなくなっちゃうから…出発する前にもう少しお話したかったなって」

 

「だったら今すぐに行かないと!私は今行かないと後で後悔すると思うよ!」

 

「だけど忙しい時にいきなり訪ねたら迷惑だと思うの。それにお話は電話でも出来るし………やっぱり後でにするわね。千歌ちゃん、話聞いてくれてありがとう」

 

梨子は千歌に背を向け自室へ戻ろうとした。そんな梨子に千歌は優しく言った。

 

「行ってもいいんじゃない?龍ちゃんが梨子ちゃんのことを迷惑だなんて思うわけないよ!」

 

「…本当に?」

 

「前にもこういうことなかった?その時だって二人は上手くいったんだから今回も大丈夫!自信もって行ってきてよ!」

 

「千歌ちゃん…ありがとう!」

 

千歌に礼を言って部屋を飛び出した梨子は母親に少し外出してくると伝えると自転車に跨り龍吾の家までの道のりへ漕ぎ出した。

 

(私も…もうちょっと自分に正直になってもいいんだよね?彼なら絶対に受け入れてくれる!)

 

十数分後、梨子は龍吾の家へと到着し、インターフォンを鳴らした。

 

「はいはーい…って梨子?こんな時間に来るのは珍しいけど何かあったのか?」

 

「ごめんね、夜遅くに。ちょっと海藤くんとお話したくて…いいかな?」

 

「もちろんいいよ。家上がってくか?」

 

「ううん。あそこで話さない?私達が初めて出会った場所」

 

「そっか…わかった!」

 

龍吾は上着を羽織い、梨子と共に砂浜へ移動して行った。

 

──────────────────────

 

「何回も来てるけどやっぱりここは綺麗だな…」

 

「そうだね…」

 

二人はいつもの浜辺に来ていた。今まで何度も何度も足を運んだ二人の思い出の場所だ。

 

「それにしても驚いたよ!梨子が急に家に来るなんてさ。今までこんなことなかったよね?」

 

「ごめんね?びっくりしたよね?」

 

「そりゃね。だけど少しも迷惑だなんて思ってないから大丈夫!」

 

龍吾はいつもと変わらない穏やかな微笑みを浮かべながら言った。

 

「それで話って何かな?」

 

「話っていうか…お礼を言いたくて…」

 

「お礼?」

 

龍吾は目を丸くしながら次の言葉を待った。

 

「うん。私はいつも海藤くんに助けられているの。本当に感謝してるし貴方がいないとダメなんだなってのは日々実感してます…」

 

「そ、そうか?俺が君に助けて貰って感謝することは多々あるし、いつも君の力になろうと頑張ってはいるけど正直思い当たりがないかな…?」

 

そう言いながら頭を搔く龍吾の頬は少し赤みを帯びていた。

 

「ふふ、貴方はそうやって無意識のうちに私のことを助けてくれるのよね。でもそれは他の人に対しても同じだから…少し妬けちゃうかな?」

 

「ごめん…でも俺にとって一番大事な人は君だから。これからもずっとね…」

 

あまり長い時間ではないがそれでも二人で寄り添い、支えあっているうちにいつの間にかお互いになくてはならない存在になっていた。

 

「明日だよね。出発するの」

 

「そうだな…まぁすぐに会えるさ。梨子達もそろそろ地方予選だろ?見に行くことは出来ないけど遠くから応援してるからさ。それじゃ明日早いしもう戻るね」

 

「明日はみんなでお見送りしに行くからね!」

 

「む、無理すんなよ!みんなも予選近いんだし…」

 

「だって海藤くんもAqoursの一員なんだよ?それに海藤くんが来なくていいって言ってもみんなは来ると思うな…」

 

「そっか…なら嬉しいかな…?」

 

龍吾は優しい笑顔を見せながら言った。

 

「俺はインターハイ、梨子はラブライブ予選。お互いにベストを尽くせるように頑張ろうな!」

 

「………うん!」

 

二人の手と手は自然に繋がれる。お互い良い結果を残すことが出来るように精一杯頑張る。二人はそう星空に誓いをたてるのであった。

 




それではまた。


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15話 夢の舞台へ

この小説はアニメでいうと9話の次くらいから始まってるのに1年経ってまだアニメ1期すら終わってなかったという事実。




龍吾達が出発する日になった。梨子達は彼らの見送りをするために朝早くから集まっていた。

 

「龍ちゃん!みんな!インターハイ頑張ってね!」

 

「はは、ホントに来てくれたのか。朝早いから来なくてもいいって言ったのに…」

 

「私達が行きたかっただけだからいいの!」

 

「それじゃ行ってくるよ。そっちも頑張れよ!」

 

「うん!龍ちゃんもインターハイ頑張って!私達もラブライブ本戦に出られるように頑張るから!」

 

「遠くから応援してるよ…」

 

そして扉は閉まり、龍吾達はインターハイの開催地である福岡県に旅立って行った。

 

「…行っちゃったね」

 

「梨子ちゃんはよかったの?最後に何か言ってくればよかったのに」

 

「ううん。昨日のうちに伝えたいことはちゃんと言ってきたから大丈夫だったよ」

 

梨子の隣では事情を知っている千歌が優しい笑みを浮かべている。

 

「さて、私達も明日の準備をしましょうか。今日は軽く確認をしてすぐに終わりにしますから家に帰ってゆっくり休んでくださいね」

 

Aqoursの9人も練習へ行くために学校へと向かっていった。

 

──────────────────────

 

「ふぅ…やっと着いたな!」

 

「本当に俺達はここで試合出来るんだな…」

 

インターハイの会場についた龍吾達はこれから始まる闘いを前に心踊らせていた。

 

「楽しみだけど…めっちゃ緊張するわ…」

 

「こんな大きな会場で試合するのは初めてだからなぁ…」

 

「恐れることなんてないさ。勝ち負けよりもまずはこの会場でプレイ出来ることを楽しもうよ」

 

龍吾達は開会式に堂々とした態度で臨んだ。そして宿舎に戻って翌日の試合への闘志を燃やしていた。

 

(ついに明日なんだよな…あいつらには散々でかい口叩いてたけど俺も緊張してきたわ…)

 

「なんだ?お前も緊張してきたのか?」

 

「…孝至か」

 

「お前とはミニバスの時から一緒にやってるけどここまで緊張してるとこは見たことねぇわ」

 

孝至は穏やかな笑みを浮かべながら言う。

 

「うるせぇよ。確かに全国大会に出るのは初めてってわけじゃないけどやっぱ慣れねぇんだよ…」

 

「まぁそれは俺も同じだ」

 

「…なぁ孝至。お前には散々迷惑かけたよな?俺のせいで主将もやることになって余計な重圧を背負ったりもしたよな………すまなかった」

 

龍吾は孝至に頭を下げて自らの過ちについて謝罪した。自分勝手な行動で孝至達を傷つけたこと。あろうことかその原因となった自分が尻尾を巻いて逃げたこと。自分が犯した罪を全てを償うつもりでここまでやってきたこと全てを孝至に話した。

 

「そうか。お前は俺達を全国へ連れていくためにここまで頑張ってくれたんだな」

 

「ああ。だから明日も全力で…」

 

「龍吾………ありがとう」

 

「…え?」

 

急に礼の言葉を伝えられて龍吾は困惑した。自分が孝至達に感謝することは多々あるけど逆のことは考えられなかったのだ。

 

「今まで俺達のために闘ってくれたことは素直に嬉しいよ。でもそろそろいいだろ?これからは自分のために闘ってくれ」

 

「そ、そうか?嬉しいけど他の奴らになんか言われねぇかな?」

 

「心配いらん」

 

二人だけの空間に突然第三の声が響いた。龍吾達が後ろを振り向くとそこには声の主を含めた三人の男がいた。

 

「朔也か。どういうことだい?」

 

「俺達も孝至と同意見だ。この大会だけでも自分のために全力で闘うんだ。サポートは俺達に任せてくれ」

 

「ここまで俺達を導いてくれて本当にありがとう。恩返しにしちゃ軽いかもしれんが明日の試合は俺達を好きに使ってくれよ」

 

「…それともなんだ?俺達じゃ役不足だって言うのか?」

 

それぞれから感謝と激励の言葉を貰い、龍吾は感激していた。そして四人に向けて言う。

 

「みんな、本当にありがとう。明日は好きに動くしお前達のことも好きに使う。ただ、その中でも全員で勝ちに行くということは忘れないでほしい」

 

龍吾は右手を突き出す。他の四人も同じように手を出すとそれは龍吾の手の上に重ねられた。

 

「明日の試合は俺たちの力を出しきって全力で楽しんでいくぞ…いいな?」

 

「「「「おう!!!!」」」」

 

五人の中心で音頭を取っている龍吾は高校生らしい楽しげな表情を浮かべていた。

 

 

 

翌日、ついに試合当日となって彼らは念願だったインターハイでのデビュー戦を迎えることとなった。

 

「ついに来ちまったか…どうにかして落ち着かねぇとなぁ…」

 

「さて、昨日は勝ち負け以前にこの舞台での試合を楽しみたいって言ったけどここまで来たらやっぱ勝ちたいよな?」

 

「そんなのは当たり前だ。負けるための練習なんか一度もしてこなかったんだからな」

 

「本当に君達は頼もしいですね。期待してますよ」

 

「おう!」

 

スタメンの五人がコートに出てきて一列に並ぶ。

 

「それでは試合を始めます!」

 

「よろしくお願いします!」

 

今日の相手は鹿児島県代表の岱山高校。全国でもそこそこ名の知れた強豪校だ。

 

「朔也、負けんなよ」

 

「当たり前だ…オラァ!」

 

ジャンプボールは朔也が押さえ、すぐに龍吾にボールが回る。

 

「頼んだぜ、龍吾!」

 

「今回は海藤くんにポイントカードを任せてあります。どんなゲームメイクをするのか楽しみですね」

 

龍吾は相手をドライブで抜き去るとゴール付近にいた朔也にバウンドパスを出した。

 

「ナイスパス!」

 

そのシュートはしっかりと決まり、拮抗していた流れを引き寄せるチャンスとなった。

 

(やっぱりみんなとのバスケは楽しい!)

 

この日の彼らは一味違った。全員が100%の力を出し切って1回戦を快勝し全国大会での初勝利をあげた。

 

2回戦では後にインターハイ優勝を果たすこととなる地元チームとの激戦の末に惜しくも敗れたが、彼らは全力を出し切り、最後まで諦めることはなかった。

 

──────────────────────

 

龍吾達が福岡についた翌日、千歌達もラブライブの東海予選が行われる場所である愛知県に来ていた。

 

「すごい…沼津の会場より大きい…」

 

「私達…こんな所でライブ出来るんだ!」

 

「これでもラブライブ本戦に出場するための登竜門でしかないのね…」

 

梨子達は普段のステージとは規模の大きく違う会場に圧倒されていた。

 

「だけどこんな大きな会場でライブができる私達もすごいって!今まで大変なことが沢山あったけどここまでこれたんだよね…」

 

「千歌ちゃん…!」

 

これまで大変なことは色々あった。千歌自身も本当に自分がスクールアイドルに向いているのかと悩んだり悔し涙を流したりもした。

 

「みんな!今日は全力で楽しんで最高のライブにしようね!」

 

「うん!」

 

(龍ちゃん、私達は歌うよ。今の自分達にできる精一杯を見てもらうんだ…!)

 

千歌達も全力のパフォーマンスで会場を沸かせて自分達も最後までライブを楽しんだ。が、優勝にはあと一歩届かずラブライブ本戦への出場はお預けとなった。

 

──────────────────────

 

「…そっか。惜しかったなぁ…」

 

インターハイもラブライブ予選も悔しい結果に終わってしまった。その晩、龍吾と梨子は電話でお互いのことを報告しあっていた。

 

「海藤くん達も負けちゃったんだよね…やっぱり悔しい?」

 

「そりゃね。だけど昨日の1回戦には勝つことが出来たし、今日の試合も負けはしたけど全力で闘うことが出来たからそこはみんな満足してるよ」

 

「そっか。私はちょっと悔しいかな?」

 

「だけどこれで全てが終わったわけじゃない。目の前でこぼれ落ちた勝利はもう帰ってこないけどまだ次があるだろ?今度は次の舞台に向けて頑張っていくことが大事じゃないか?」

 

「千歌ちゃんも同じこと言ってたよ。今回はダメだったけどまた次に繋がるように頑張ればいいって。流石幼なじみって感じね…」

 

「はは…近いうちに内浦へは帰れるからまたみんなで練習頑張ろうな!」

 

「うん!」

 

少年達は今回の経験を糧に次のステップに向けて走り続ける。勝ち負けに関係なく平等に次の舞台が待っているのだから。

 




それではまた。


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16話 北からの来訪者

今回はあの二人が登場です。



「はい!次で終わりだよ!」

 

「よし、もう少し頑張ろう!」

 

ラブライブ本線への出場は出来なかったけどこれで全てが終わったわけじゃない。私達は数ヶ月後にもう一度行われる予選のために練習を再開していました。

 

「千歌、少し遅れてるよ!」

 

「わかった!」

 

今度こそラブライブで優勝出来るようにもっと頑張らなきゃ…

 

 

 

 

 

「お疲れさん。ゆっくり休むんだよ」

 

「うん。ありがとう」

 

今日の練習も終わり、私は果南ちゃんから飲み物を貰って一息ついていた。果南ちゃんも私の隣に座って自分のを飲む。

 

「良くなってきたね。千歌はなんだかんだいって飲み込み早いしすごく頑張ってくれるから鍛えがいがあるなぁ」

 

「果南ちゃんがそう言ってくれるなら嬉しいよ。でもラブライブで優勝するためにはまだ足りない気がする。もっと頑張らないと…」

 

同じくラブライブを目指すライバル達は今も練習してることだろう。私達も負けてられない!

 

「ふふっ、なら明日から一緒に走る?早起きの習慣も身についていいことだらけだよ」

 

「うーん…考えておきます…」

 

果南ちゃんとは練習メニューの相談をしてから別れ、私は家に帰ってきた。果南ちゃんは家に戻ってからまた走りに行くって言ってた。ホントにあの人はすごいよ…

 

「ふぅ…今日の練習も疲れたなぁ。もっと体力つけないと…あれ?メールがきてる…」

 

お風呂から上がって部屋でのんびりしているとパソコンにメールが届いているのに気づきました。

 

「あ、聖良さんからだ!」

 

メールの相手は前に東京のイベントで知り合ったスクールアイドル、Saint Snowの聖良さんという人からだった。

 

「なになに…今度そっちに行く用事があるのでぜひお会いしませんか…ってええ!」

 

確かSaint Snowは北海道のスクールアイドル。別の用があるとはいえわざわざ会いに来てくれるというのは素直に嬉しい。

 

「早速返信しなきゃ…こちらこそお願いしますっと!えへへ楽しみだなぁ…」

 

──────────────────────

 

「あの二人に会うのは久しぶりだなぁ…」

 

「そうか。だけどさ…なんで俺もお迎えにいなきゃならんのだ?」

 

Saint Snowが沼津に来る当日。千歌に連れられて俺まで二人の迎えに駆り出されていた。

 

「俺はあの二人とは会ったことないぞ?動画で少し見たくらいだ」

 

「いいの!私は一応リーダーだからお迎えしなきゃいけないし他のみんなの練習時間を奪うわけにはいかないからね!」

 

「まぁいいけどさ…」

 

「あ、来たよ!」

 

千歌が指差す方を見ると駅から自信に満ちた表情を浮かべた二人の少女が現れた。

 

「二人とも沼津へようこそ!」

 

「高海さん、お久しぶりです。お元気でしたか?」

 

「…どうも」

 

サイドテールの子は千歌と握手を交わし、ツインテールの子はその様子をじっと見つめていた。

 

「ところでそちらの男性は?」

 

「私の幼馴染みでAqoursのサポートをしてる人です!」

 

「どうも、海藤龍吾といいます。以前千歌達がお世話になったようで…」

 

「ご丁寧にどうも。私は高海さんの友人でスクールアイドル、Saint Snowの鹿角聖良(かづのせいら)といいます」

 

聖良さんはそう言いながら丁寧に頭をさげた。

 

「こっちは私の妹の理亞(りあ)です」

 

「…こんにちは。鹿角理亞です…」

 

「聖良さん、理亞さん。よろしくお願いします」

 

理亞さんは聖良さんの後ろに隠れて少しだけ顔を見せながら言った。

 

「…もしかして俺がいたらまずい感じでしたか?そうなら先に戻ってますけど…」

 

「いえ、この子は人見知りなだけなので心配しなくて大丈夫ですよ」

 

「そうなんですか」

 

俺は正直二人の姿を見て驚いた。すごいスクールアイドルだからもっと良い意味で個性的な人達だと思っていたけど…

 

「高海さん、東京のイベントで皆さんに言ったことは覚えていますか?」

 

「はい。本気で頂点を目指すつもりが無いならスクールアイドルは辞めた方がいい…そんな感じのことを言われた記憶があります」

 

「お前ら…そんなことを言われたのか?」

 

「私達もAqoursのライブを見ました。イベントの時より格段にレベルが上がってましたね。それとその時にあなた達に言った発言を取り消します。酷いことを言って申し訳ありませんでした」

 

聖良さんは千歌に謝罪してさっきよりも深く頭をさげた。

 

「気にしなくていいですよ。あの時聖良さんが言ってくれたから自分達を見直すことが出来たんだと思います」

 

「そうだったんですね…」

 

「それじゃ早速行きますか!二人は私達の学校を見たいんでしたよね?」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

──────────────────────

 

聖良さんと理亞さんは千歌に連れられて俺達の学校までやってきた。

 

「Aqoursの皆さん、お久しぶりです」

 

「あなた達はSaint Snowの…遠路はるばるお疲れ様です」

 

「ここが浦の星学院ですか…いい学校ですね」

 

「本当に…」

 

二人はこの学校を気に入ってくれたみたい。俺達自慢の場所だから素直に嬉しい。

 

「お二人はどうします?私達は練習を続けるつもりですが…」

 

「私達に構わず続けてください。皆さんがどのくらい成長したのかを見てみたいですから」

 

俺達はさっきまで行っていた練習を再開した。Saint Snowの二人は椅子に腰を下ろしてAqoursの練習を見守っていた。

 

「姉様、Aqoursの練習も悪くは無いですね。イベントの時よりも成長してるのがわかるし…」

 

「理亞もそう思う?」

 

「特にあの赤髪の子。前は動きが鈍かった気がするけど今はかなり良くなってる」

 

「よく見てるね。理亞は…」

 

「べ、別に…今度対決することになるかもしれないグループだから軽く調べてみただけ…」

 

そんな二人に千歌が声をかける。

 

「二人もよかったら練習に参加しませんか?お互いに何か得るものがあればいいと思ったんですが…」

 

「そうですね。せっかくの機会だしお言葉に甘えさせて貰いますね。理亞、準備はいい?」

 

「…勿論」

 

「二人はこれから用事あるんだしあんまりキツくしないでね」

 

「大丈夫ですよ。このくらいの練習で疲れてたらラブライブ優勝なんて出来ませんからね」

 

──────────────────────

 

「お疲れ様です。二人もよかったらどうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「…どうも」

 

俺は休憩中の二人にドリンクを手渡した。

 

「すごいですね。初めてやる練習のはずなのにほぼ完璧にこなせるなんて…」

 

「私達が普段行ってる練習を応用した感じだったので比較的すぐに覚えることが出来ましたよ」

 

改めてこの二人はすごいんだなと思った。全国にはこの二人と同じくらい。いやもしかしたらもっとレベルの 高いグループがいるのかも…

 

「海藤さん。少しお聞きしたいことが…」

 

「なんでしょうか?」

 

「Aqoursがここまで成長した理由を知りたいのですがここにくるまでどんなことがあったのですか?」

 

「…それは私も聞きたい」

 

聖良さんは真面目な表情で俺に聞いてきた。別に隠す理由もないので俺は自分が知っていること。思っていることを話した。

 

「そうですね…東京で何があったのかは詳しく知りませんが帰ってきてからは三年生の加入がありましたね。これが一番大きいです」

 

千歌達から聞いた話だと果南姉さん、ダイヤさん、鞠莉さんの三人は過去にスクールアイドルをやっていたがイベントでの挫折と鞠莉さんの留学が重なって途中で辞めてしまったという。

 

「あの三人は過去の柵とかもあって自分の気持ちに素直になれなかったみたいでやっと自分の好きなことが出来たって思うと…あの三人は今のAqoursになくてはならない存在ですね」

 

過去の経験がある三人の加入はAqoursにとって大きかった。今では精神的支柱としてみんなのことを導いてくれている。

 

「あとは……何を話せばいいのか…あの三人の加入以上に大きいなんてないですから。あとは強いていえばグループとしての団結力ですかね…」

 

「仲間思いなんですね。海藤さんって」

 

「あはは、どうも…」

 

正直むず痒い。仲間を大切にするなんて当然だしそれが普通だと思ってたから…

 

「仲間のことをしっかり観るって簡単に見えてとても難しいです。私達も海藤さんみたいな人に出会えたら…」

 

「姉様…」

 

「きっと出会えますよ。もしかしたら既にあなた達のすぐ近くにいるかもしれませんよ?」

 

「そうかもしれませんね…話してくれてありがとうございました」

 

聖良さんはお礼とともに時間を確認してそのまま立ち上がった。

 

「そろそろ時間ですね。Aqoursの皆さん、今日はありがとうございました。今度はラブライブ決勝の舞台で会いましょう!」

 

「こちらこそありがとうございました!」

 

「…それでは」

 

「よかったら駅まで送っていきますよ!車ならすぐに用意出来ますから!」

 

「ありがとうございます」

 

二人は鞠莉さんが用意した車に乗って駅へ向かっていった。俺達は遠くなっていくその姿を屋上から眺めていた。

 

「行っちゃったね…」

 

「またすぐに会えるさ」

 

ラブライブに出場するのは簡単ではないがまだ時間はある。少しずつでも確実に進歩していこう。そう思いながら俺達はまた練習に戻るのだった。

 




それではまた。


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17話 歩んでゆく道のり

少し時間が空いてしまいました

今回はこれからの展開に左右していくお話となります



「よし、ラストだ!しっかり決めろよ!」

 

インターハイも終わり、俺達は次の舞台のために練習を再開していた。今日は翌日に練習試合を組んだこともあり、早めに終了することになっていた。

 

「ナイス!今日はここまでだ!」

 

「お疲れ様でした!」

 

「お疲れ様です。しっかり休んでください。それと海藤くん。少しだけ時間を頂けますか?話と渡すものがあります」

 

「了解です」

 

コートと監督への挨拶を終え、それぞれ帰りの支度をするなり自主練をするなりして過ごしていた。俺も軽めのシューティングを始めようとしていたが監督に呼び止められてしまった。

 

「監督、話ってなんですか?」

 

「海藤くん、理事長から君宛ての手紙を預かっています。学校のポストに届いていたと。中身は見ていないので分かりませんがおそらくバスケ関係のことでしょう」

 

「そうですか…わかりました」

 

監督はそれだけ伝えると体育館から出ていった。俺は受け取った封筒を鞄にしまって自主練に戻っていった。

 

──────────────────────

 

「ただいまー」

 

俺はキッチンで夕食を作っている母親に帰りの挨拶を済ませ、自室で監督から渡された封筒を見つめていた。

 

「…うーん。直接俺の家に届けずにわざわざ学校を経由したってことは少なくとも俺との面識はほぼ無いに等しいってことだよな。一体誰が…」

 

龍吾は封筒を丁寧を開いて中に入っていた手紙を読み、そして驚愕した。

 

「え!?嘘だろ?」

 

そこには東京の大学からの勧誘…スポーツ推薦についての内容が書かれていた。

 

「確かこの大学って…そうだ。今年のインカレでベスト4に入った学校じゃねぇか…」

 

その大学の名は水明学院大学。数年前までは2部リーグに所属していたが、部員達が血の滲むような努力を重ねて2年前に1部リーグに昇格。そこから僅か1年でインカレという大学バスケ最大の大会でベスト4にまで進出した。這い上がるまでの過程が浦の星学院と似ているところもあるので俺も注目していた大学だった。

 

「そんな大学が俺のことを…」

 

正直言うとめっちゃ嬉しい。自分の力が大学でどこまで通用するのかを出来れば強豪校で試してみたいと思っていた。

 

「っと!その前に兄貴に話しとくか。あいつは何だかんだ言って頼りになるし…」

 

龍吾は東京の大学に通っている兄である海藤(れん)に電話をかけた。

 

「龍吾か、どうしたんだ?」

 

「兄貴、水明学院大学からの推薦についての手紙が来たんだ。それを報告しておこうと思ってな」

 

「水明学院から…やったじゃねぇか!あそこの関係者も全国でのお前の活躍を見ててくれたんだな!更に御眼鏡にも適ったとなりゃ最高だな!」

 

兄貴は推薦の話を聞くと自分のことのように喜んでくれた。

 

「でもさ…お前は元々どこの大学を受けるつもりだったんだ?」

 

「沼津の方の大学だ。比較的通いやすかったり学習面でも力を入れていた。だけどこの手紙でそれは考え直すことになったよ」

 

「龍吾、分かっているとは思うが東京に行くってことは親や友人達とも離れ離れになる。それに住み慣れた地を離れて暮らすってのは相当な覚悟がないと出来ないぞ」

 

兄貴にそこまで言われて俺はようやく本当に自分が考えなくてはならないことに気がついた。

 

「まぁ自分が本当にその大学へ行きたいのならば俺は止めないし協力する。だからもう少し真剣に考えてみるんだ。それじゃ切るからな」

 

「ああ…ありがとな」

 

電話を切りもう一度手紙を確認すると下の方にアドレスと3日後に学校に来て直接話をしたいと書いてあった。そのアドレスに自分も大学の監督と話をしたいという趣旨のメールを送ってその日は床についた。

 

──────────────────────

 

「海藤くん、準備はいいですか?」

 

あれから3日、龍吾と石崎は学校の応接室へと来ていた。この扉の向こうに大学の監督はいる。

 

「監督、あなたは大学入学と同時に東京に行ったのですよね?地元から東京へ出て生活したり故郷を離れるのは大変でしたか?」

 

「勿論不安はありましたよ。だけど自分の好きなバスケットをやりに行くのですからそれ以上に楽しみでしたよ」

 

「…そうだったんですね」

 

「お客を待たせてます。入りますよ」

 

2人は軽くノックをして部屋に入った。

 

「失礼します…」

 

「あ、リューゴ!石崎センセー!早く座ってお話しましょ!」

 

「なんで鞠莉さんがここに?」

 

「一応理事長だから私達と共に話を聞く義務はあるということですよ」

 

2人はソファーに腰掛けて大学の監督の話を真剣に聞き始めた。

 

「突然押しかけてすみません。私は水明学院大学バスケ部の監督をやっている葛西という者です。よろしくお願いします」

 

「ご丁寧にありがとうございます。お手紙を頂いた海藤龍吾です。隣にいるのは私が日頃からお世話になっている石崎監督です」

 

龍吾と葛西は握手を交わし、話の本題に入り始めた。

 

「さて、まずは私達があなたをチームに欲しい理由からお話しましょう。それはあなたのどんな時でも決して諦めることの無い不屈の精神。そして大学バスケでも通用する技術力です」

 

「なるほど。お聞きしたいのですが何故私を?私よりも優秀なプレイヤーは沢山いるはずです」

 

「実は私も静岡県出身でね。県内の有望なプレイヤーのことは把握しているよ。君と激戦を繰り広げた竜崎のこともね」

 

監督は自分が俺のことを欲しがっている理由を熱心に語ってくれた。

 

「そして何より…海藤、君はうちのプレイスタイルにあっている。私はうちでなら君の力を最大まで引き出すことが出来ると思っている」

 

「私からも一つ。私はその大学に行くことによって自分の夢を叶えるための努力をすることは出来ますか?」

 

「海藤、君の将来の夢…目標はなんだ?」

 

「………プロになることです」

 

まだ梨子達にも話したことはないけど俺はプロのバスケ選手になるという夢がある。それは幼い頃からずっと変わらない夢であり目標になっている。

 

「…わかった。その目標が達成出来るように私達がしっかりとサポートする。勿論そのあとのこともだ。話はこれで終わりだ。いい返事を期待してるよ」

 

「いえ、こちらこそありがとうございました!」

 

「理事長さん、話す時間をくださりありがとうございます。海藤、何かあったらこの前のアドレスに連絡してくれ」

 

葛西監督はそう言い残して部屋から去っていった。

 

「さて、私も戻りますけど…海藤くんはこのあとどうしますか?」

 

「鞠莉さんと…理事長と話をしますね」

 

「そうですか。では先に戻っていますね」

 

石崎監督も出ていき、部屋には俺と鞠莉さんの2人だけになった。

 

「鞠莉さん…果南姉さんから聞いたけど鞠莉さんも留学の経験があるって?」

 

「あるわよ。途中で内浦に戻ってきちゃったけどね。でもその選択に悔いはないわ。それに…」

 

鞠莉さんは少し俯きながらもいつもと変わらない笑顔でこう続ける。

 

「…そのことは後で。私と話をするってのはAqoursの練習に行くために口実でしょ?それじゃ行くわよ!」

 

「…わかりました」

 

俺と鞠莉さんはAqoursの練習を行っている屋上へと向かっていった。

 

「チャオ!仕事終わったわ!」

 

「ういっす…」

 

「2人ともお疲れ!先に始めてるよ!」

 

龍吾は屋上に到着するとすぐに練習の準備を始めた。

 

「リューゴ、みんなに大学のことは話すの?」

 

「みんなには後で話しますよ。練習中に言われても邪魔なだけですから」

 

「…そうかもね。気遣いありがと」

 

「さ、練習頑張りましょ!」

 

「ええ!」

 

今日の練習も次のラブライブへと向けて頑張らないと。そんなことを考えながら二人は練習に加わっていった。

 

──────────────────────

 

手伝いをしてる時もさっきことが頭から離れなかった。伝えるなら早めの方がいいだろう。だけどいつ言えばいいのか…

 

「みんなお疲れ!今日はここまでだね!」

 

「ふぅ…少しずつだけど上手くなってる気がするよ。これからも頑張らないと!」

 

「それはよかった…って鞠莉さん?」

 

何となく心中を察したのか鞠莉さんが俺に近づいて耳打ちをする。

 

「リューゴ、言うなら今のうちよ。それに私も…」

 

「…ねぇ、俺からみんなに話すことがある」

 

俺の一言で全員がこっちを向いた。正直話しづらいけどここで言わなくちゃ…

 

「まだ完璧には決まってないんだけど俺…東京の大学からの推薦の話が来たんだ。だからここ(浦の星)を卒業したら東京に行くことになるかもしれない…」

 

言い終わると全員の表情がやや暗くなったように見えた。俺も正直辛い。東京に行くということは千歌達とも離れ離れになってしまうということだから…

 

「ねぇ…それホントなの?龍ちゃん…大学では東京に行っちゃうの…?」

 

「まだ確定ではないけどそうなってくると思う。その大学の監督は俺のことを本当によく見てくれていた。俺はあの人の元でバスケがしたいんだ…」

 

「そう…なんだね…」

 

「海藤さんが正直に言ってくれたのですから私も話さなくてはなりませんわ…」

 

「ダイヤさん?」

 

ダイヤさんは少し暗い表情を浮かべながら続けた。

 

「私も…来年の4月から東京の大学に進学することが決定していますの。だからここで過ごすのも今年が最後になりますわ」

 

「私もね、本格的にダイバーの免許を取るためにオーストラリアに行くことになってる。しばらく帰って来れなくなるね…」

 

「…マリーはこの学校を卒業したらイタリアへ留学することになってるの。でもこうやってやりたいことは9人でやれたんだから一度留学をやめて学校へ戻ったことに悔いはないわ」

 

3年生は卒業と共に離れ離れになる。わかっていたはいたけどここまでバラバラになってしまうのか。俺は少し寂しい気持ちになった。

 

結局その日は重たい空気のまま解散となり、俺は3年生の3人と一緒に帰ることになった。

 

「ダイヤさん達も卒業したら別々の道を歩むことになってるんですね。薄々わかってはいたんですけど…」

 

「本当はまだ言うつもりはなかったんですけどね。ラブライブの予選はもう一度あるのですから練習の妨げになってはなりませんし」

 

「いや、俺はあの場でダイヤさん達も話してくれたことをありがたく思ってますよ」

 

「それにしても私達らしいよね…みんな勝手に進路を決めちゃうなんて…」

 

「ほんとにね…」

 

そう言いながら鞠莉さんと果南姉さんは微笑み合う。そんな様子を眺めているとダイヤさんが俺の服を摘みながら言った。

 

「ねぇ…海藤さん…」

 

「はい、なんですか?」

 

「…貴方は大学についてどうお考えですの?」

 

なんとなく想像してたけど大学のことだった。さっきも言った通り俺はあの大学で指導を受けたいと思っている。でもその決断をすることは…

 

「俺は…どうすればいいのかわからないんです。あの大学でバスケがしたい。でもその道を選ぶってことは家族や千歌達とは離れ離れになる。推薦の話が来た時からこうなる覚悟はしてたはずなんだけどなぁ…」

 

「海藤さん…」

 

「俺は…どうするのがいいと思いますかね?」

 

俺はダイヤさんの意見を聞こうとした。だけど返ってきた返事は平凡なものだった。

 

「そんなのは自分で決めるしかないでしょう。自分の人生なんだから道は自ら切り開いていくしかないはずです。私達がどうこう言って済む話ではないんですよ?」

 

「そうですよね…」

 

「貴方にはまだ時間があるでしょう?この様子だと東京へ行く前提で話が進んでいくと思いますからしっかりと考えておくことですね」

 

「わかりました。これからどうなるかはわかりませんけど東京へ行く前提で考えていくことにしますね。相談にのってくれてありがとうございました」

 

そう言って俺は軽く頭をさげた。

 

「お役に立てたのなら嬉しいです。あ、相談とかするなら私より相応しい人がいるのではないですか?例えば…私達の方へ走ってきてる人とか」

 

ダイヤさんが言う方向を見ると梨子が俺達のいる場所へ向かって走ってきているのが見えた。

 

「梨子…!」

 

「行ってきなよ。私達は三人で帰るからさ」

 

「うん…ありがとう」

 

梨子が俺のところへついた時にはいつの間にか三人はいなくなっていた。

 

「海藤くん!やっと追いついた…」

 

「梨子?どうしたんだ?」

 

「気にしないで。私が勝手に追いかけてきただけだから。それよりさっきの話なんだけど…」

 

さっきの話というのは大学のことだろう。いずれ梨子とは話さねばならなかった件だし俺も彼女がどのような進路を考えているのか知りたい。

 

「わかった。ここではなんだし家で話そうか。ここからだと距離はそんなに離れてないしさ」

 

「うん。私も自分が思ってることを海藤くんに話したい…」

 

二人は龍吾の家に向かって歩いていった。お互いのこれからについて向き合っていくために。

 




時期的に色々おかしいような気もするけど後悔はしてない

それではまた


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18話 二人のこれから

諸事情により期間が空いてしまいました。

皆様はいかがお過ごしでしょうか?作者は来年度の準備などでバタバタした日々を送っていましたがようやく一段落ついたところなので投稿も前のペースに戻れるように頑張っていきます。

遅くなりましたが今年もよろしくお願いします!



「えーっと…話す場所は俺の家でよかったかな?」

 

「ううん。この辺りでいいよ」

 

俺と梨子はお互いのこれからについて話すために俺の家に向かっていたが、そのうちに思い出の地である浜辺にたどり着いた。

 

「じゃ、ここで話そうか」

 

「うん…早速なんだけど海藤くんは本当に東京へ行っちゃうの?」

 

お互いのために進路についてはしっかり話さなきゃダメだけどやっぱり面と向かって言うのはなかなか辛いものだ。だけど…もう決めたことだから…!

 

「………そうだな…色々考えたんだけどさ、やっぱり俺はあの監督の元でバスケがしたいんだ。勝手に決めたことはすまないと思ってる…ごめん」

 

「そっか…別に気にしないで!海藤くんには自分の将来を優先して欲しいし…それにこういうのは自分で決めなきゃダメだと思う」

 

「本当にありがとう…俺は夢を叶えるために頑張るよ」

 

話自体はすぐに終わった。やっぱり寂しい思いもあるけどお互いの将来のことだし、あとはそれぞれ進学に向けて準備しないと。

 

「ねぇ…海藤くん…」

 

「何かな?」

 

「慣れない土地で生活するのは大変だよね。私も転校してきた時は不安だったからよくわかる。だから…私も決めたよ!」

 

「梨子…?」

 

「お父さんとお母さんに話して私も東京の学校に行くことにするよ!」

 

梨子の口から飛び出た言葉は俺を驚かせるには充分だった。確かに梨子も東京に来てくれることは嬉しい。だけどそのためだけに自分の将来を決めて欲しくもない。

 

「ほ…本当にそれでいいのか?君は県内の大学に進学するつもりじゃなかったのか?」

 

「いいの。あれから私も色々調べてみて東京にもいい学校があることがわかったんだ。色々な職業のプロを育成する大学があってね、そこでは私が行こうとしてた大学よりも音楽のことをもっと学べるの」

 

「そうだったのか。俺も色々調べたつもりだったけど知らなかったなぁ…」

 

「私にも夢があるんだ。私はピアノの先生になりたい!スクールアイドルも大好きだけどやっぱりピアノが好き!千歌ちゃんが気づかせてくれたんだ…」

 

梨子の方が俺より真剣に考えてたんじゃないか。もっと早く梨子と話が出来ていれば俺も迷ったりすることはなかったかもしれないなぁ…

 

「私…海藤くんについて行ってもいいかな…?」

 

「そんなの…いいに決まってるだろ!」

 

俺はいつの間にか梨子を抱きしめていた。

 

「すっげぇ嬉しい…これからは一緒に頑張ろうな!」

 

「…うん!」

 

人に見られるとかそんなことはどうでもよかった。今だけは誰にも邪魔をされずにこのままでいたい。そんなことを思いながら梨子をさらに抱き寄せた。

 

──────────────────────

 

「問題ないみたいだね。誰かさんが心配そうな顔してたから見に来たのに」

 

「べ…別に心配なんてしていませんわ!」

 

「誰もダイヤがなんて言ってないんだけどねー」

 

さっきまで浜辺から少し離れた場所で三年生の三人が龍吾と梨子のことを見守っていたが、二人が無事に話を終えたことを見届けてその場をあとにした。

 

「あの二人なら大丈夫です。私達のように大切な時間を無駄にしたりはしませんよ」

 

「あの頃の私達は未熟だったからねぇ…」

 

二人と同じように果南も思う。

 

(そういえばあの頃だったな…私と龍吾の関係が終わったのも)

 

二年前、東京でのライブが失敗に終わり内浦に戻った数日後に果南は龍吾に別れを告げた。

 

「本当に勝手だけどこんな状態で龍吾と付き合う資格はない。もう終わりにしよう」

 

「果南…待ってくれ!」

 

果南は龍吾が言い終わる前に強引に話を切り上げ、半ば無理やり別れの道を選ぶことになった。それからの二人は少し疎遠になってしまった。鞠莉の留学が決まったのも同じ時期だった。

 

「…果南?」

 

「ごめんね?ちょっと昔のこと思い出しちゃって…二人も同じでしょ?」

 

「そうですわね…」

 

三人は自分達が無駄にしてしまった時間を思い出していた。お互いに理解していると信じ込み、結果的にすれ違ってしまったこと。お互いを思いやったが故に長年の友情にヒビが入ってしまったこと。思い描いていたスクールアイドルの夢を宙ぶらりんにしてしまったこと。

 

そんな自分達を救ってくれたのは千歌や曜達。自分達が付けたAqoursの名を継承する者達だった。

 

意地を張ったまますれ違っていた自分達を再び引き合わせ、もう一度夢を追いかける機会をくれた千歌達に口では厳しいことを言うこともあるが本心では感謝してもしきれないくらいに思っていた。

 

実際は関係が元通りになって数ヶ月程度しか経ってないが、それが遠い昔のように感じられるのはあれから非常に濃い時間を過ごしてきたからなのだろう。

 

「さて、私達も帰りましょうか。しっかり休んで明日に備えなければ」

 

「そうだね」

 

三人は残された時間を全力で駆け抜ける。思い描いた夢の果てにある輝きを追いかけるために…

 

──────────────────────

 

翌日。バスケ部が活動している体育館でいつも以上に躍動する一人の青年がいた。

 

「よっしゃあ!」

 

「龍吾!ナイスシュートだ!」

 

「ああ!お前もいいパスをありがとな!」

 

「どうしたんだ?いつもより調子よくなった感じがするじゃねーか!」

 

「まぁな。色々あったんだ」

 

そこには絶好調なプレーを続ける龍吾の姿があった。そんな彼の目はいつも以上に輝いているように見える。

 

「さぁ次だ!まだまだやれるよな!」

 

「当たり前だ!」

 

それと同時刻。Aqoursが練習している屋上でも変化が現れていた。

 

「やった…私にも出来た!」

 

「すごいね梨子ちゃん!このパートは果南ちゃんも完璧に覚えるの苦労したんだから!」

 

「そうなの?なんだかいつもより元気いっぱいな気がして頑張っちゃった!」

 

「この調子なら本番でもいけそうだね!次の場所も難しいけど頑張ろ!」

 

「はい!」

 

二人はこの先も止まらずに進み続ける。夢への道のりはまだ始まったばかりだ。

 




それではまた


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19話 Friend ship

劇場版ラブライブを何回も見て思ったのですがやっぱり浦の星が廃校になったのは大きかったんだなと作者は感じました。

私の作品では元々廃校エンドのつもりではなかったので気にすることではないのですが劇場版編をやるとしたら異なっている設定が自分の首を絞めるんだろうなと薄々感じています。何とかしなくちゃな…

それではどうぞ



「はぁ…どーしよう…」

 

「どうしたんだ千歌?」

 

授業を終えて部室に来た龍ちゃんが机に突っ伏してる私に声をかけてきた。

 

「次の地区予選と学校説明会が同じ日になっちゃうかもしれないんだ…」

 

「そうなのか?」

 

「ほら先生達も言ってたじゃん。天候があまりにも悪かったら説明会を延期するかもしれないって。学校は海から近いし台風とか来たら危ないからね」

 

「そういえば言ってたかも…」

 

スマホで天気を調べると学校説明会が予定されていた日に大雨が降る予報になっていた。これなら延期になっちゃうよね…

 

「どうすればいいのかなぁ…」

 

「うーん…何とかしてやりたいのは山々なんだけど俺も部活動紹介には参加しないといけないから日程被ったら予選の方には行けないぞ」

 

「そっかぁ…」

 

「まぁこの件はみんな揃ってから相談だな」

 

しばらく経つと部室に全員が揃ったのでライブや説明会のことを話し合うことになった。

 

「予選と説明会の件ですが…どうしますの?わかっているとは思いますけど両方やらなくてはいけないのですから」

 

「フッ…このヨハネの魔力で貴方達をライブ会場から学校まで瞬間移動を…」

 

「あ、そういうのいらないずら」

 

「何よ!てかリュウも何か言ってよ!」

 

「…本当に出来るんならお願いしたいんだけどね。今回は現実的な方法で頼むわ」

 

てか本当に瞬間移動出来るんだったらもうとっくにやってるはずなんだよね。そんなことを思っていると果南ちゃんが手を挙げた。

 

「確か予選の順番ってくじ引きで決めるんだよね?そこで早い番号引ければ何とか間に合うんじゃないかな?」

 

「それも考えたんだけど1番最初にライブ出来ないと間に合わないんだよね…説明会の方もあまり長引かせるわけにはいけないし」

 

「そこは学校に残る俺達に任せてくれ。少しでも時間稼げるように頑張るから」

 

「迷惑かけちゃうけどお願いね!」

 

「いいってことよ。細かいことは俺に任せてみんなは予選に集中してくれ!」

 

龍ちゃんはこう言ってくれてるし私達はそろそろ練習しなくちゃ。とりあえず今度の抽選会は絶対にいい番号を引くぞ!

 

 

 

そう気合いは入れたんだけど抽選会は残念な結果に終わってしまった。私達を代表して善子ちゃんが引いたんだけど求めていた番号は出なかったのだ。

 

「ごめんなさい…目当ての番号引けなかったわ…」

 

「くじ引きなんだししょうがないよ!それより説明会のこと考えよう!」

 

「そうだね。仮に龍ちゃん達が時間稼いでくれたとしてもこの順番じゃ間に合わないよねぇ…」

 

私達が引いたのは24番だった。発表順は中盤になってしまってこのままじゃ説明会には確実に間に合わない。

 

「こうなると本格的に時間配分を考えないとな。部活動紹介の時間をもっと長めにやってもらえるように頼んでみるわ。確か進行は放送部の係だったよな…」

 

「海藤さん、私も一緒に行きます。放送部には知り合いがいるので紹介出来ますわ」

 

「わかりました。わざわざありがとうございます」

 

龍ちゃんはダイヤさんに連れられて部活動紹介について相談しに行った。

 

「順番は決まっちゃったんだからしょうがないけど会場から学校までどうやって移動しようするのがいいかな?」

 

「お姉さんの車じゃ駄目なの?」

 

「確か車だと遠回りになっちゃうんだよね。大変だけど会場から走っていくしかないかなぁ」

 

「それなら私達に任せてよ!」

 

振り返るとそこには同じクラスの友達がいた。

 

「移動出来る手段は私達が探すよ!だから千歌達は練習を頑張って!」

 

「みんな…」

 

「気にしないで!いつも千歌達には助けられてばかりだったらから今度は私達の番だよ!」

 

なんかこれぞ仲間って感じですごくいいなぁ。助けてくれるみんなのためにも絶対に勝たないと!

 

「よし、こうなったら練習しなくちゃ!絶対に予選突破するぞ!」

 

この日の練習は今までで一番いいものになった。このまま最高の状態で大会に望むことも出来そうだ。

 

──────────────────────

 

あれから時が流れて地区予選、そして学校説明会の日になった。学校は何としても入学希望者を増やしたい在校生や先生達、そして中学生の子達で一杯になっていた。

 

「海藤くん、そっちの調子はどう?」

 

「まぁまぁだな。だけど思ってたより多くの人が来てるよ」

 

「よかった…海藤くん達には迷惑かけちゃうけど絶対に予選突破してくるから待っててね!」

 

「良い報告を楽しみにしてるよ。それじゃ頑張って!」

 

そう言って梨子との通話を終わらせた俺は最後の準備に取り掛かかろうとした。すると同じクラスの友人が俺の方に走ってくるのが見えた。

 

「海藤くーん!」

 

「おっ、なんだい?」

 

「何とか出来たよ!移動手段!」

 

「本当か!?それはありがたい!」

 

その子が言うにはライブ会場の近くにあるみかん畑のトロッコみたいなやつを移動手段として使わせてもらえるように話をつけてくれたらしい。

 

「海藤くんは部活動紹介出なきゃいけないんだよね?それなら私達が責任をもって千歌達を学校まで送り届けるよ!」

 

「助かるよ!それにしてもすげぇな…Aqoursって」

 

「ホントにね、千歌達がこの学校の期待を一身に背負ってるって感じがする。それにみんなAqoursのことが大好きなんだよ!」

 

「あいつらの代わりに俺達がスクールアイドルの良さを伝えたいなぁ…」

 

「じゃあさ、やってみようよ!」

 

彼女の提案はとてもいいものだった。本番までの残り短い時間の中ですることが増えちゃったけどやるだけの価値はある。

 

「簡単にだけど準備してくるわ。部室にいるから何かあったら呼んでくれ!」

 

「うん!よろしくね!」

 

よし、時間無いけどAqoursとみんなのためだ。絶対成功させてやる!

 

──────────────────────

 

「ついに来たね…」

 

「うん、今度は勝つよ!」

 

ライブ会場で身支度を終えた私達は出番が来るのを待ちわびていた。

 

「そろそろ私達のステージだよ。準備は…って聞くまでもないよね?」

 

「バッチリだよ!みんな行こう!」

 

いつも以上に全力を尽くした今回のステージは自分の中でも満足出来るものだった。その中で私はあることを再確認することが出来た。

 

(やっぱりみんなで歌ったり踊ったりするのは楽しい!スクールアイドルの良さを絶対に伝えるんだ!)

 

ステージを終えて着替えを済ませ、私達は走り出した。みんなが待っている学校へ向かって。

 

「やっぱりライブ終わってから走るってキツいね…」

 

「そうだね…だけど走らなきゃ!信じて待ってくれてるみんなのためにも!」

 

「あ、あれって…!」

 

曜ちゃんが指さす方にはクラスの友達が待ち構えていた。そういえば学校までの移動手段が見つかったって龍ちゃん言ってたな…

 

「やっときたね。準備は出来てるから乗って!」

 

そう言って私達をトロッコみたいなのに乗せた。みかん畑にあるからみかんコースターって呼ぼうかな。

 

「えっと…安全性は大丈夫なのかな?」

 

「大丈夫だよ!たぶん…」

 

「なんか怖いんだけど…」

 

「千歌!時間ないから出発させるよ!レバーの操作は一番前の果南ちゃんに任せて」

 

「えっ…う、うわあああ!!!」

 

結構なスピードでコースターは発進した。道はかなり曲がりくねっていたけど相当速度出てるから思ってたより早く学校に着きそうだ。

 

 

 

「はぁはぁ…なんか疲れた…」

 

「ここまで来れば学校まではもう少しだよ!」

 

途中みかん畑に突っ込んだり果南ちゃんがレバーを壊しちゃったり色々あったけど無事に学校の近くまで到着することが出来た。ここまで来れば目的地はもう目の前。みんな、待ってて!

 

──────────────────────

 

「バスケットボール部の皆さん、ありがとうございました!」

 

説明会は思ってたより順調に進んで部活動紹介の時間も終わりを迎えようとしていた。あいつらが到着するまでもう少しかかりそうだな…

 

「ふぃー…緊張したぜぇ…」

 

「お疲れさん、んじゃ俺はもうひと仕事してくるわ!」

 

「そっか、お前はまだやることあるんだよな…よし!俺達も協力するから龍吾は自分の仕事をしっかりやってくれ!」

 

「みんな…ありがとな!」

 

「海藤くん!バスケ部の出番終わったばかりだけど次の準備を急いで!小川くん達は外のステージを手伝って!」

 

進行の都合で部活紹介のラストがスクールアイドル部、その前がバスケ部という順番になってたけどみんなが助けてくれたから何とかなった。

 

「わかった!孝至、頼んだぞ」

 

「任せとけ!」

 

「みんなやるよ!Aqoursのためにも!」

 

これならきっと大丈夫。ライブの準備はみんなに任せて俺も行きますか!

 

「次はスクールアイドル部の紹介です!と言いたいところですが、まだ準備が整ってないのでそれまでは私達がこの学校のスクールアイドル…Aqoursについて紹介します!」

 

司会の言葉と共に俺はもう一度ステージに立った。

 

「彼女達は決して恵まれてるとは言えない環境にも負けずに活動を続けてきて俺達のことを勇気づけてくれたり、何かを始めるのに人数や環境なんて関係ないこと。そして最後まで諦めないことの大切さを俺達に教えてくれました。Aqoursの素晴らしさは言葉だけじゃ伝えきれません…」

 

「なので…実際に彼女達のステージを見ていって欲しい!皆様の貴重な時間を割いてしまうのは申し訳ないですがそれだけの価値はあることは俺が…俺達が保証します!ぜひAqoursのステージをご覧になってください!」

 

そう言い終えると同時に大きな拍手が巻き起こった。俺の役目はここまで。あとはAqoursのステージに俺達の全てを託そう。

 

「みんな!お待たせ!」

 

「千歌ちゃん!みんな!」

 

俺がステージから降りたのと同時に千歌達が学校に戻って来た。

 

「…やっと戻ってきてくれたか。待ってたぜ!」

 

「うん!すぐにライブの準備を始めよう!」

 

千歌の一言でみんなが動き出す。ステージの最終確認をする者、音響のチェックをする者など様々だったが、みんなAqoursのために行動してくれた。そして俺は本当にこの学校…そしてAqoursのことが大好きだということに気づいたよ。

 

「海藤くん!」

 

「梨子…それにみんな!俺達のことはいいから早く準備しないと!」

 

「貴方は私達のために全力で動いてくれたんだよね。急に仕事増えちゃったけどそれもやりきってくれたことも知ってる」

 

「そう言ってくれるのは嬉しいけど俺だけの力じゃない。浦の星のみんなが協力してくれたおかげだよ。自分だけじゃどうにもならなかった」

 

梨子達がこんなに早く戻ってこれたのも学校までの移動手段を必死に探してくれた子達のおかげだし、スピーチも元々は友人の意見だった。こんなに上手くいったのは学校のみんなのおかげだ。

 

「そうだよね。だけどこの感謝の気持ちは他の誰よりも先に貴方へ伝えたいんだ。海藤くん………本当にありがとう!」

 

…急に目頭が熱くなってきたし顔もきっと赤くなってる。俺はこんな表情を見られたくなくて咄嗟に後ろを向いた。

 

「…ッ!わ、わかったからさ、早く行ってきなよ!みんな待ってるから!」

 

「うん!また後でね!」

 

クラスの子の呼ぶ声が聞こえたので梨子達は足早にステージへ向かっていった。早く行ってくれて本当に助かったよ。そうじゃなかったらみんなの前で情けない顔を晒していたかもしれないな。そう思っていた俺の頬を一筋の涙がつたっていた。

 

──────────────────────

 

「みんなお疲れ!」

 

「うん!大成功だったね!」

 

ライブは大成功だった。Aqoursと浦の星のみんなで最高のステージを作り上げることが出来た。

 

「龍ちゃんもありがとう!」

 

「おう!みんなも予選突破おめでとう!」

 

結果は会場に残った志満姉達が見届けてくれた。梨子達は見事に地区予選を突破しラブライブ本戦への夢に一歩近づいた。

 

「鞠莉ちゃん、これから入学希望者は増えていくと思う?」

 

「もちろん!現時点で去年より浦の星に入学したいっていう生徒が多くなってる!これからも増えてくことが予想できるわ」

 

「そっか。頑張った甲斐があったなぁ…」

 

「それじゃさ、今度みんなで遊びに行かない?リフレッシュとそれぞれお疲れ様ってことで!」

 

「おっ!いいね!」

 

「行きたい行きたい!」

 

「決まりだね!いつにしよっか?」

 

千歌の提案で近いうちにみんなで遊びに行くことになった。日程とかを話し合ってると梨子がこっそり耳打ちしてきた。

 

「みんなで遊ぶのもいいけど私とも遊びに行かない?最近なかなか二人っきりになれてないから…」

 

「もちろんいいよ。後で予定決めよっか」

 

「うん!連絡待ってるね!」

 

大切な彼女からの誘いなんだし断る理由なんてない。また楽しみなことが増えてしまいました。

 




いつもありがとうございます!


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20話 遊びに行きたいaquarium

いかがお過ごしでしょうか?

劇場版ラブライブ…良かったですね!私は既に五回見たのですがあの映画は初めての時より何度も見たあとの方が泣ける気がします。ボロ泣きして大変なことになりました…

それではどうぞ



「というわけで遊ぼう!」

 

「お、おー…!」

 

「なにこれ?」

 

地区予選と学校説明会が終わってから数日後、俺達は千歌が提案した通りAqoursのみんなで遊びに行くことになった。

 

「確かに言ってたけどホントにやるとはな。全員の予定が合うなんて思わなかったよ…」

 

「正直言うと私も驚いた!無理だったら行ける人だけでも行きたいなーって考えてたとこだったし」

 

「都合なんて気にしなくていいのよ!みんな楽しいことは大好きなんだから!」

 

やっぱりこういう仲の良さがライブを成功させる鍵の一つなんだと思う。誰か一人とでもすれ違ってるとそれが次第に亀裂へとなっていくと思うから個人的には歌やダンスの上手さよりも大切だと感じるよ。

 

「さて、これからどこへ行くんだ?この辺だと遊べる場所も限られてくると思うけど」

 

「決めてない!」

 

「えぇ…」

 

「というわけでどこか候補あったりしない?」

 

千歌の一言で全員が悩み出す。比較的近場で遊べる場所とかあったりするかなぁ…

 

「もうさ、みんなでマリンパーク行くってことでいいんじゃない?悩んでたってしょうがないしみんなで行ったのは結構前でしょ?」

 

「うーん、じゃあそこで!」

 

色々めちゃくちゃな気もするけどまぁいいか。

 

「んじゃ早速行きましょ!」

 

「行こ行こ!」

 

──────────────────────

 

「ここに来るのは久しぶりだなぁ…」

 

「ほんと!三津シーならこの前行ったんだけどね」

 

なんでだろう…?少し来なかっただけなのに懐かしさを感じるよ。

 

「この水槽も昔来た時のままだ…!」

 

「時間が経っても変わらないものだってあるってことかな?」

 

しばらくみんなで回っているうちに幼い頃の思い出が蘇ってきたような気がした。幼なじみの三人や兄貴達と遊びに行ったりして…いや、いい思い出ばかりでもないんだよな…

 

「海藤くん?どうしたの?」

 

「…いや、なんでもないよ。久しぶりに来れてよかったなぁ」

 

「うん!みんなで来ると楽しいね!」

 

「イルカもめっちゃよかった!」

 

時計を見るといつの間にか午後になっていた。みんなで遊びに来てここの良さを再確認した気がするよ。正直舐めてたなぁ…

 

「この後はどうする?またみんなで色々見に行くの?」

 

簡単に昼食を済ませてこれからどうしようかを決めていると千歌が切り出した。

 

「それなんだけどさ、みんな行きたい場所あるでしょ?だからこれから集合時間までは自由行動にしようよ!時間になったら出口集合ってことで!」

 

「おっいいね!」

 

千歌ナイス!俺は当然この時間を使って梨子と二人で水族館を回るんだ…!

 

「それじゃあ梨子…」

 

「あ、今日は梨子ちゃん借りてもいい?一緒に行きたいとこあるんだ!」

 

「…えっ?」

 

「ち、千歌ちゃん!?」

 

「それじゃ後でねー!」

 

そう言って千歌と曜は梨子を連れてどこかに行ってしまった。ふと周りを見ると一年生も三年生も既にいなくなっていた。

 

「え?もしかして俺…ぼっち?」

 

──────────────────────

 

「はぁ…どこ行ったんだろ…」

 

結局一人で回ることになって暇つぶしにブラブラ歩いていると見慣れた後ろ姿が目に入った。

 

「あら?あのお団子は…」

 

お団子だけじゃない。隣にはツーサイドアップの赤髪と長めの茶髪の女の子もいた。

 

「一年生の三人はここにいたのか」

 

「あ、先輩!」

 

「龍吾くん、なにしてるずら?」

 

「あらリュウじゃない。貴方その様子だと…ひとりぼっちね…」

 

「そうだよ…みんなに置いてかれちまったんだ…」

 

「その…ごめんなさいね。ほらみんな行きたいとこあったんだし夢中になってたんだから置いてかれてもしょうがないってのもあるわよ!」

 

気づかってくれるのは嬉しいけどこういう時に慰められると泣きたくなってくる…

 

「三人は何を見たかったんだ?」

 

「ルビィ達はシーラカンスが見たかったんだ。だけどここにはいないみたい」

 

「シーラカンスねぇ…どっかの水族館にはいた気がするけどここじゃなかったのかな」

 

「マルはグソクムシが見たかったんだ。あの水槽にいるやつ!」

 

花丸ちゃんが指差す方を見ると大きなダンゴムシみたいな見た目をした生き物がいた。あれがグソクムシだね。

 

「グソクムシって思ってたよりでかいんだな」

 

「うんうん。食べたらロブスターみたいな味するのかなぁ…」

 

「そうだね………え!?」

 

…今の言葉は聞かなかったことにしよう。

 

「そういえば他のみんながどこに行ったのかはわかるかい?」

 

「花丸ちゃんは知ってる?」

 

「マルは知らないずら」

 

「三年生ならすぐ近くにいたけど二年生の行方はわからないわね」

 

「そっか。ありがとな」

 

ここで一年生とは別れて梨子達二年生を探そうとしたけど…

 

「あら?海藤さん」

 

「龍吾じゃん。何してんの?」

 

「お、ダイヤさんに果南姉さんか。ちょっと人を探しててね」

 

一年生達がいる場所から少し移動したところに三年生の二人がいた。

 

「もしかして梨子ちゃん?龍吾も好きだねぇ…」

 

「うっ…!まぁね…」

 

「全く…龍吾の行動原理は梨子ちゃんだけなんじゃないの?」

 

「…返す言葉もございません」

 

果南姉さんにここまで言われてるけど俺には返す言葉もない。実際そうなんじゃないかなと思うこともあるし…

 

「まぁそれでもいいと思いますよ。それと梨子さん達なら私達よりも先に行ってます」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

これは有益な情報だ。俺は二人に礼を言って先に進もうとした…その時だった。

 

「リューゴ!」

 

「いっ!…って鞠莉さんか…」

 

どこからともなく鞠莉さんが現れて俺に突進してきた。モロに直撃受けたから正直痛い。

 

「何なんですか!?俺は先を急ぐから離してほしいんですけど!」

 

「ノー!まだ話は終わってないの!」

 

「話って何ですか!?」

 

このままじゃ埒が明かない。とりあえず鞠莉さんの話を聞かなきゃ…

 

「あなたにこの前のお礼をちゃんと言ってなかったじゃない。浦の星の理事長として礼を言うわ。本当にありがとね」

 

「はは、どういたしまして」

 

「学校の子から聞いたわ。他にもやることあったのに投げ出したりしないで全部やってくれたこと。あなたは自分の役割をしっかりこなしてくれたのね…」

 

「まぁそのくらい当然ですよ。俺の苦労より鞠莉さん達の苦労の方が大きかったはずです。それを少しでも和らげてあげられたのなら頑張ったかいがあったってもんですよ。鞠莉さん達も本当にお疲れ様でした」

 

確かに急にやることが増えたり忙しかったりしたし、Aqoursのパフォーマンスも生で見れなかったのは残念だけどそれ以上にみんなで一つのものを作れて本当に楽しかった。その上成功まで出来たんだから本当に最高だよ。

 

「本当にあなたはAqoursの10人目って感じよね。私達もつい頼っちゃうわ…」

 

「そう言ってもらえて嬉しいですよ。これからも何かあったら遠慮しないで頼ってください。すっ飛んでいきますから」

 

「…ありがとう。話は以上よ」

 

「わかりました。それじゃ、今度こそ行きますね」

 

さて、そろそろ二年生を探しに行きますか。俺はダイヤさんが言っていたように先に進み始めた。

 

──────────────────────

 

三年生達と一旦別れて先に進むといつの間にか出口付近まで来てしまった。

 

「少し進みすぎたかな。だけど途中であの三人は見なかったからこの辺だと思うんだけどなぁ…」

 

そう思って引き返そうとしたが、近くのお土産屋さんで見慣れた後ろ姿があった。間違いなくあの三人だ。

 

「探したよ。ここにいたのか」

 

「あ、龍ちゃん!他のみんなは?」

 

「まだ来てないよ。千歌達は三人で回ってどうだ?楽しかったか?」

 

「すっごい楽しかった!それとごめんね。急に梨子ちゃん借りちゃって…」

 

「別に気にしてないよ」

 

正直言うと梨子と一緒に回りたかったと思う。けど今更言ったところでどうしようもないし三人が楽しかったんならそれで構わない。

 

「龍くん!せっかくだし何か買っていこうよ!さっきまで梨子ちゃんとお土産見てたんだけどいい物いっぱいあって!」

 

「そうだね。行ってみるか!」

 

三人でお土産屋さんに入ると店の奥にカワウソのようなぬいぐるみを抱えている梨子がいた。

 

「お待たせ!龍くん連れてきたよ!」

 

「ありがと♪」

 

「それじゃ私と千歌ちゃんはあっち行ってくるね!」

 

「うん!ねぇ海藤くん、これどうかな?」

 

梨子はそう言って手に持っていたぬいぐるみを差し出す。

 

「おお…めっちゃ可愛いなぁ…」

 

「でしょ?私もそう思ってたんだ!」

 

「じゃあそれ買うの?」

 

「買いたいなーって思ったんだけどお金そんなに持ってないから今度にしようかなって」

 

…これはチャンスなのかな?幸い持ち合わせはあるから問題はない。そう思いながら梨子の持っていたぬいぐるみを受け取る。

 

「…海藤くん?」

 

「今回は俺に買わせてよ。ほら梨子も練習めっちゃ頑張ってたからご褒美ってことでさ」

 

「だけど…」

 

「大丈夫!たまにはカッコつけさせてよ。あと他のみんなにはナイショな?」

 

これは決まった。個人的に言ってみたかったセリフでも上位に入るよ。さて梨子はここからどう出るかな?

 

「じゃあ…甘えちゃおっかな?」

 

「よし、決まりだね」

 

「その代わりに海藤くんのお土産を私に選ばせてもらえる?」

 

「もちろんいいよ」

 

そう言うと梨子は近くの売り場を少し物色してから戻ってきた。

 

「こんなのはどうかな?」

 

梨子が選んでくれたのは可愛らしいペンギンのキーホルダーだった。

 

「すごくいいね!俺はこれにするよ」

 

「喜んでもらえてよかった♪」

 

ペンギンもめっちゃ可愛いけどそれ以上に彼女が可愛すぎて辛い。俺はなんて幸せものなんだ。

 

「龍ちゃん、梨子ちゃん!二人は何買ったの?私達に教えて!」

 

「ちょっと待っててくれ!それじゃこれ買って戻ろっか。そろそろ三年生達もやってくるだろうし」

 

「そうだね。ねぇ海藤くん…」

 

「何かな?」

 

「また来ようね!」

 

「…もちろんだよ」

 

練習中とは違ういつも以上に自然体のみんなと話したり遊んだりしている時間は本当に楽しかった。俺はこんなに楽しい時間がいつまでも続いて欲しいなと心の底から思うのであった。

 




まだまだ寒い日が続いてますので皆様は風邪などひかぬよう十分に気をつけてくださいね!

それでは


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21話 WAVE

お久しぶりです。



「たぁぁぁぁぁ!」

 

「千歌!」

 

「千歌ちゃん!」

 

「あ…うわぁっ!………いたた…」

 

「おい、大丈夫か!?」

 

「うーん…何とかね」

 

Aqoursは次の大会に向けて今まで以上に真剣に練習を重ねていた。そう、次の予選を突破すればラブライブ本戦への出場が決まるからだ。

 

「怪我がないならよかったよ。けど無理すんなよ?」

 

「えへへ、わかってるって」

 

千歌は砂浜を使ってロンダートとバック転の練習をしている。この演技は二年前に果南姉さん達がやろうとしていたらしいが鞠莉さんの怪我により一度はお蔵入になった。

 

しかしこれはラブライブ本戦への出場がかかった大会。大きなインパクトを残せればそれだけ突破に近づいていく。そんな中で果南姉さん達と話し合って再びこの演技に挑戦することになったのだ。

 

「果南ちゃん、どうかな?」

 

「少しずつだけど良くはなってきてる。けど演技に組み込むにはまだ足りないなぁ」

 

「そうだよねぇ…龍ちゃん、お手本とか出来る?」

 

「…流石に無理だな」

 

「まだ時間はあるから無理はしない程度に頑張っていこ!それじゃ私達は別のパートを練習しなきゃいけないからあとは龍吾に任せたよ」

 

「おっけー」

 

そう言い残して果南姉さんは行ってしまった。ロンダートの練習もしなきゃいけないけど他にもやることがあるから千歌が無理しないように見とかないとな。

 

「よし、私も頑張らなきゃ…」

 

「あ、まて千歌!そこは危ないぞ!」

 

「う、うわぁぁぁっっ!」

 

「…ッ!千歌!」

 

そう思っていたのも束の間、千歌が演技に失敗し倒れようとしている場所に固い石で出来たら段差があった。このまま倒れれば大怪我をしてもおかしくはない。

 

「千歌!危ない!」

 

──────────────────────────

 

「うん、ただの捻挫だし骨にも異常はない。だけど完治するのに時間かかるから当分は激しいスポーツ禁止。もちろんバスケもやっちゃダメだからね」

 

「そうですか…」

 

あの後、何とか千歌を支えることは出来たけど…結構派手にやっちゃったなぁ。まぁ骨折とかじゃなくて本当によかったよ。

 

「龍くん!手は大丈夫なの?」

 

「ただの捻挫だから問題ないよ。完治まではちょっとかかるみたいだけど」

 

「そっか、じゃあ当分はバスケできないね」

 

「そうだな。けどこればっかりはしょうがないよ」

 

怪我してしまったのは仕方がない。少しでも早く治せるようにしようと考えていると千歌が俺の前に出てきて言った。

 

「龍ちゃん、私のせいで…ごめんね…」

 

「千歌…俺は大丈夫だから気にしないでくれ。俺は千歌に怪我がなくて本当に安心したんだから」

 

今回の件は千歌も誰も悪くなんかない。怪我は起こるものだし大会を間近に控えている千歌に何事も無かっただけでよかったのだから。

 

「つーわけだ。本当に大丈夫だからさ、なんなら今からAqoursの練習行っても問題ないくらいだ」

 

「本当に?無理してないよね?」

 

「大丈夫だって。後で合流するから先に学校行っててくれよ」

 

「わかった!待ってるからね!」

 

そう言い残して千歌達は行ってしまった。俺はそれを見送ってからポケットに入れていた一つの封筒を取り出す。そこには国体の県代表候補に選ばれた。合同で練習を行うので参加して欲しいという趣旨の内容が書かれていた。

 

「今の俺がどこまで通用するのか試してみたかったけどこうなっちまったもんはしょうがないな。これがラストチャンスって訳でもないんだし今回は辞退してしっかり怪我治さないとな!」

 

そして一度取り出した封筒を再びしまい、俺は千歌達に続いて学校へ向かった。

 

─────────────────────────

 

「さて、ちゃんと考えないとね。これからどうするか」

 

一足先に部室に戻った私達はこれからの練習についてどうするかを話し合っていた。

 

「果南ちゃん、何か足りない場所でもあるの?」

 

「基本的な部分は問題ないよ。あとは細かいところを修正していけば本番でも大丈夫なはず。真剣に考えなくちゃいけないのは…」

 

果南ちゃんはそこまで言うと私の方を向いてこう続けた。

 

「千歌、例の部分はどうするの?考えを聞かせてほしい」

 

「え…私は…」

 

「もちろん無理はしなくていいよ。元々私達がやるはずだった演技だしキツいと思ったらいつでも言って。代案を考えるから」

 

「ありがと果南ちゃん。でも私は…!」

 

「お、やってるね。遅れてすまない」

 

そこまで言った所で龍ちゃんが部室にやってきた。遅れるって言ってたけど何してたのかな?

 

「海藤くん、どこ行ってたの?千歌ちゃんと曜ちゃんが少し遅れるから先に始めててって言ってたけど…」

 

「ああ、ちょっと監督のところまでね。怪我のことと他に話さなきゃいけないことがあったから。果南姉さん達は何について話してたの?」

 

「これからの練習についてだよ。例の部分もどうするのか千歌の意見を聞こうとしてた」

 

「なるほど…どうすんだ?千歌」

 

私の考えはとっくに決まってた。

 

「私…まだやってみてもいいかな?」

 

「もちろん。千歌が見えない場所でも頑張ってたことは俺も果南姉さんもみんなも知ってるし何より俺達に止められようが続けるつもりだろ?」

 

…なーんだ。龍ちゃんには私がやろうとしてたこと、全部バレちゃってたみたい。流石幼馴染みってとこだよね。

 

「やるんだね?千歌」

 

「うん!私、絶対に成功させてみせるよ!」

 

「じゃ、これからもっとビシバシ鍛えていくから覚悟しててね?」

 

うえぇ…頑張らないと

 

──────────────────────────

 

あれから数週間がたった。国体の件は俺がいなくてもはスムーズに進み、三回戦まで勝ち進むことが出来た。Aqoursの方はと言うと…

 

「龍ちゃん!私…出来たよ!成功したんだよ!」

 

「ああ…見てたさ千歌、ホントにすげぇよ!」

 

あの話し合いの後から更に猛特訓を続けた千歌はロンバクをギリギリではあったが完成させ、本番でも無事に成功。そしてラブライブ本戦への出場件も勝ち取ることが出来た。

 

「私…頑張ってよかった…よかったよぉ…」

 

「ちょ、泣くなって!」

 

「龍ちゃん…ありがとう!」

 

「…よく頑張ったな。なんだか俺も誇らしい気分になったよ」

 

そう言いながら俺は千歌の頭を撫でる。

 

「龍吾の言う通り、千歌はよく頑張ってくれたよ」

 

「姉さん…」

 

「私も千歌に言いたいことがあってね」

 

いつの間にか俺達の後ろに立っていた果南姉さんは千歌にゆっくりと近づいて抱きしめながら言った。

 

「千歌………ありがとう」

 




かなり時間が空いてしまったこと、本当に申し訳ないです。

それではまた


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外伝・コラボ集
外伝 君と夢見る未来、永遠の輝き(再UP)


梨子の誕生日に投稿した作品が何故か消えてしまったので、再UPしました。内容の変化はほとんどありません。



まだ少し暑さの残る9月の後半。数人を除いた俺達はスクールアイドル部の部室に集合していた。

 

「さて、準備はいいかな?」

 

「オールオッケー!」

 

「大丈夫だよー!」

 

今日は9月19日。Aqoursのメンバーの1人で俺の大切な人の梨子の誕生日なのだ。それで他のメンバーにも梨子の誕生日を一緒に祝ってほしいと頼んだのだ。

 

「みんなありがとな。俺のわがままに付き合ってもらっちゃってさ」

 

「龍吾は千歌と違って普段からわがままなんて言わないからたまにはこういうのも新鮮だよ。それに梨子ちゃんの誕生日を祝いたいって気持ちは私達も同じだからね」

 

その言葉を聞いただけで俺と梨子は本当にいい仲間に巡り会えたのだなと思う。

 

「梨子は今なにをしてるんだい?夕方にはここに来るように言ってあるけど…」

 

「千歌と曜が連れ回してるよ。絶対に勘づかれないようにしてって念を入れておいたから大丈夫だと思うよ」

 

「そっか。了解した!」

 

「こっちも早く終わらせちゃおうよ!」

 

「そうだな!」

 

そのまま俺達は誕生会の準備を続行する。少しでも彼女を喜ばせたい。その一心で俺達は黙々と作業を続けるのであった。

 

─────────────────────

 

「はぁ…」

 

「梨子ちゃん?どうしたの?」

 

私と曜ちゃんは龍ちゃんに頼まれて学校へ行く時間まで梨子ちゃんを連れ回すことにしていた。でも梨子ちゃんはせっかくの誕生日だっていうのにずっと浮かない顔をしていた。

 

「彼だって忙しいし私のこともしっかり考えてくれてるってことはわかってるつもり。それでも最近はなかなか2人でゆっくりすることが出来ないから寂しいの」

 

「そっか…」

 

確かに最近は龍ちゃんと梨子ちゃんが2人で過ごしている姿を見ることが少なくなっていたような気がした。龍ちゃんは未だに梨子ちゃんにベタ惚れだっていうことは知ってるからあまり心配はしてなかったんだけどね。

 

「私って地味だから飽きられちゃったのかな…」

 

「そんなことないよ!」

 

「曜ちゃん?」

 

私の隣でずっと黙って話を聞いていた曜ちゃんが急に声を上げた。そしてこう続ける。

 

「梨子ちゃんはいつも自分のことを地味だって言ってるけどそんなことはないと思うよ!それに龍くんは絶対に梨子ちゃんに飽きたりなんかしてない!それは私が保証するよ!」

 

曜ちゃんは私が思っていたことを全部言ってくれた。梨子ちゃんはこれでもう大丈夫。あとは龍ちゃんのことを信じよう。

 

「はい。ちょっと暗い話はここまでにしよう。今日は梨子ちゃんの誕生日なんだから楽しく過ごさなきゃね!」

 

「千歌ちゃんの言う通りだよ!夕方には学校に行かなきゃいけないからそれまでは3人で遊ぼ!」

 

「千歌ちゃん…曜ちゃん…うん!」

 

それから私達3人は学校へ行く時間になるまで楽しい時間を過ごしたのだった。

 

─────────────────────

 

「結構リフレッシュ出来たでしょ?」

 

「うん!楽しかったよ!」

 

「それじゃそろそろ学校に行こっか。遅れたら怒られちゃうもんね」

 

「そうだね」

 

千歌ちゃんと曜ちゃんと1日楽しく過ごした私は海藤くん達に言われた通りの時間にスクールアイドル部の部室に向かっている途中でした。

 

「梨子ちゃんも元気になってよかったよ!」

 

「これも2人のおかげだよ。ありがと♪」

 

「えへへ、どういたしまして!」

 

その後も3人で色々な話をしている間に部室に到着していました。しかし…

 

「あれ?部屋の明かりついてないね…」

 

「先に屋上にでも行ってるんじゃないかな?」

 

そう言いながら私がドアノブに手をかけた瞬間

 

「「誕生日おめでとう!」」

 

突然の海藤くん達の登場に私は頭の中が混乱していました。部室の明かりがついてなかったからみんなは先に屋上にでも行ってると思ってました。

 

「え?あ、ありがとう…」

 

「あらら、やっぱり混乱しちゃってるか」

 

「うん、少し説明してくれるとありがたいかな?」

 

私は海藤くん達から今日のことについての説明を受けました。千歌ちゃんと曜ちゃんがみんなとグルだったということも…2人ともどちらかと言えば考えがわかりやすい方だから気づけなくて結構悔しいかも…

 

「そういうことだったんだ…」

 

「騙すつもりじゃなかったんだ。ごめんな?」

 

「ううん、大丈夫だよ!むしろ嬉しい!」

 

「そっか…」

 

みんなが私のことをとても大切に思っていてくれたことがわかってとても嬉しかった。やっぱり私はとても良い仲間に巡り会えたんだなぁ…

 

「改めて梨子、誕生日おめでとう!」

 

「海藤くん…ありがとう!」

 

「チョットー!私達のことも忘れちゃダメよ!」

 

「今日は梨子さんにとって特別な日なのですから私達にもお祝いさせてくださいね」

 

それから私達は時間を忘れ、空に菫色の星が輝き始めるまで楽しい時間を過ごしていたのでした。

 

─────────────────────

 

「みんな!今日は本当にありがとう!気をつけて帰ってください!」

 

「龍ちゃん、梨子ちゃんのことを頼んだよ!」

 

「ああ!任せろ!」

 

楽しかった時間はあっという間に過ぎ去り、満天の星空が広がり始めた頃。俺達は学校を後にし、それぞれの帰路についていた。俺の隣には梨子も一緒にいる。

 

「海藤くん、今日は本当にありがとう!」

 

「気にすんな。大好きな梨子のためならあんなのお安い御用だよ」

 

大好き。その言葉を伝えるだけで彼女は真っ赤になってしまっている。俺達が付き合ってから結構経つが、彼女は未だにこういうのは苦手なようだ。

 

「これからどうするんだ?俺は帰るけどさ」

 

「お父さんとお母さんは今日はもう帰ってこないの。だから今日は海藤くんの家に止まってもいい?」

 

「ああ、大丈夫だよ」

 

今日は梨子と一緒に家に帰ることになった。だけど俺にはまだやらなきゃならないことがある。

 

「なぁ梨子、少し寄り道してもいいか?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

俺達はしばらく2人で手を繋いだまま歩き、海の見える砂浜までやってきた。

 

 

ここは俺達にとって思い出の場所だ。

 

 

この場所で俺達は出会い、この場所で俺達は恋人同士になった。今となっては本当に懐かしい場所だ。

 

「やっぱりここは綺麗な場所ね…」

 

「さて、君へのプレゼントをまだ渡してなかったね。少し待たせてしまったけど俺はどうしてもここで渡したかったんだ…」

 

俺は梨子に小さな箱を手渡す。中身はペアの指輪だ。鞠莉さんは梨子への贈り物に最適な物を紹介してくれると言っていたけど、俺はどうしても自分で選びたかったのだ。鞠莉さんには少し申し訳ないことをしてしまったな…

 

安物だけどこれで俺の所持金のほとんどが消えたことは梨子には内緒だ。

 

「綺麗…」

 

「今は安物の指輪しか渡すことは出来ないけどいつかもっと立派な物を君に渡す。約束するよ」

 

「海藤くん…嬉しい!」

 

「梨子、こんな俺だけど一緒にいてくれて…生まれてきてくれてありがとう。愛してるよ…」

 

2人の影は少しずつ近づいていき、そしてゆっくりと重なった。2人の手元には月と星の光を浴びて輝きを放つ指輪が見える。空に永遠と輝く星のように俺達の輝きが消えることはない。いつまでも。ずっと。

 

To be continued…

 




ありがとうございました。

それではまた。


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外伝 聖なる夜に

こんにちは大天使です。

今回はクリスマス編ということでやっていきたいと思います。いやーカップルっていいですね(白目)

それではどうぞ。



12月25日。世間一般的にはイエスキリストの誕生を祝う日と言われているが、今日では何故かカップルの日と呼ばれるようになっている。

 

 

本来は家族とともに過ごすというのが正しいのだが、俺の両親は二人だけで旅行に行ってしまい、一人残された俺はクリスマスをウインターカップを見ながら一人で過ごすという予定になっていた。

 

 

彼女からの連絡が来るまでは。

 

 

「海藤くん!」

 

「おっ!来たか」

 

いつもの待ち合わせ場所にデートの相手である梨子がやってきた。普段から可愛い彼女だが、今日は一段と可愛い。もう可愛い以外の言葉が出てこない。

 

「…天使だ」

 

「え?」

 

「い、いや…何でもない…」

 

梨子は白を基調としたコートと紺色のスカートを身につけていた。俺はやっぱり彼女がこの世で一番可愛いということを改めて認識させられた。梨子が天使だってそれ一番言われてるから。

 

「ごめんね、待たせちゃった?」

 

「いや、今来たばかりだから大丈夫だよ」

 

「嘘。だって手がこんなに冷たくなってるじゃない」

 

どうやら彼女には全てお見通しだったようだ。ほんとかっこ悪いな俺…

 

「ほら、早く手貸して」

 

「ん」

 

梨子はそっと俺の手を取ると自分の吐息で温め始めた。

 

「…ね?これであったかいでしょ…///」

 

「うん。あったかい…」

 

…なんか周りの人間が俺達のことを微笑ましい目で見てたり嫉妬に狂ったような目で見てるのはこの際気にしないってことで。

 

「それじゃ行こっか」

 

「うん!」

 

俺達はいつものように手を繋ぎ、最初の目的地へ向かって歩き始めた。

 

 

そんな二人のことを遠くから見つめている人影がいくつかあった。

 

 

「いやー何回も梨子ちゃんに連絡してのに出ないからどうしたのかなって思ったらやっぱりそうでしたかー」

 

「ワオ!梨子ってリューゴの前だとあんなに大胆になるのね!」

 

「み、見つかったらやばいんじゃないかな…」

 

「ククク…安心しなさいリトルデーモン曜。私達には堕天使の加護が付いてるのよ…気づかれることなんて絶対にないんだから!」

 

物陰に隠れて何かの様子を伺うスクールアイドル4人組。行動の怪しさも相まって周囲の注目を集めていた。

 

「げっ!人が増えたわ!さっさと行きましょ!」

 

「「おー!」」

 

「お、おー…」

 

千歌達もあの二人を追うため密かに行動を開始した。

 

──────────────────────

 

二人は最初に行きつけの喫茶店を訪れていた。その店は恋人のいる人に人気があるらしく、周りの人達はカップルだらけであった。

 

「ふぅ、やっぱりここは落ち着くなぁ」

 

「そうね。お店の雰囲気もいいし、店員さんもとっても優しいから」

 

二人はいつものコーヒーとケーキを注文し、雑談に花を咲かせていた。

 

「やっぱりここのケーキは美味いな。甘さも丁度いいよ」

 

「うん、そうね…」

 

「梨子?どうかしたか?」

 

「…ねぇ海藤くん。私のケーキ…一口どうかな?」

 

梨子は小さく切ったケーキが刺さっているフォークを差し出してきた。

 

「ああ、ありがとう!」

 

「どういたしまして…」

 

そのケーキの味は格別だった。これは俺もお返ししないといけないな。

 

「はい、今度は俺のをあげるよ」

 

「え?いいの?」

 

「当たり前だろ。ほら、口開けて」

 

「あ、あーん///」

 

「どう?美味しい?」

 

「うん、とても美味しい///」

 

「ならよかった」

 

そんな龍吾と梨子の様子を別の席から千歌達が見つめていた。

 

「ま…鞠莉ちゃん…今の見た…?」

 

「見ました!ホントにびっくりデース!」

 

「リリー…貴女に何があったというの…?こんなこと信じられないわ…」

 

「それよりもこのケーキ美味しい!」

 

千歌達は梨子の調子がいつもと違うことに驚いていた。普段は大人しく、引っ込み思案な梨子が龍吾の前だとこんなに積極的になっていることだ。

 

「リュウ…貴方にはいったいどんな魔力が眠っているというの?」

 

「魔力より魅力デース!」

 

「なるほど!」

 

善子は二人の様子を見ようと席から身を乗り出した。そこで彼女は気づいた。女子トークに夢中になっているうちにいつの間にか二人が移動していたということに。

 

「…ってあの二人どこ行った!?」

 

「あれ?いなくなってる!」

 

「これはすぐに移動しなくちゃいけないわね。曜!行くわよ!」

 

「わ、私がまだ食べてる途中でしょうがぁ!」

 

「どこの国からよ!てか使い方が何か違うし!早く行くわよ!」

 

「い、伊豆の国から…」

 

「ちかっち、あの二人が行きそうな場所とかわかるかしら?」

 

「うーん…もしかしたらあそこかも!行こ!」

 

千歌達は会計を済ませ、二人を追うために移動を開始した。

 

──────────────────────

 

二人は私達の予想通りの場所にいた。そこはピアノ系の楽器を主に取り扱っている楽器屋でした。

 

「やっぱりここだったか!」

 

「すごいわねちかっち!どうして二人がここにいるってわかったの?」

 

「梨子ちゃんは前から新しいピアノの譜面とか欲しがってたからもしかしたらって思ったけど正解だったみたいだね!」

 

千歌達の目線の先では二人がピアノの譜面を色々と探していた。

 

「そういえば海藤くんは楽器弾けたりするの?」

 

「エレクトーンなら2年くらい習ってたから少しだけ弾けるよ。やってたのはだいぶ昔だけどね」

 

「ほんとに?だったら二人で一緒に弾けたら嬉しいなぁ…」

 

「そうだな。時間があったらまた挑戦してみるよ」

 

会話をしながら楽しそうに笑う二人は心の底からデートを楽しんでいるように見えた。

 

「やっぱり楽しそうだね。あの二人」

 

「そうね。暇だったからこっそりついてきちゃったけど邪魔したらあの二人に悪いしそろそろ帰りましょうか。このあとは4人でどこか別の場所に行きましょ!」

 

「鞠莉ちゃんの意見に賛成!善子ちゃんも帰ろ!」

 

「仕方ないわね。リトルデーモンリリー、リュウと二人で幸せな時間を過ごすといいわ」

 

遠くから二人の様子を見守ってあげようと思ってたけど余計なお世話だったみたいだね。私達はまた改めて出直すことにしようと思います!ふっ…高海千歌はクールに去るぜ…

 

「あれ?そこにいるのは千歌に曜じゃないか!こんなところで何してるんだ?」

 

「鞠莉さんによっちゃんも!」

 

「り…梨子ちゃん…来たか…」

 

「来たかって…ここには楽器屋しかないんだよ?千歌ちゃん達が興味あるような物はここにはないよ?」

 

「えっと…それは…」

 

「千歌ちゃん、私に任せて!」

 

私や鞠莉ちゃんが返答に困っていると曜ちゃんが救いの手を差し伸べてくれた。

 

「ふっふっふっ。みんな、一つだけとっておきの策があるよ。それは…」

 

「そ、それは…」

 

「…みんな!逃げるんだよォ!」

 

私達は曜ちゃんの合図とともに一目散に走り出した。後日、あとをつけてたことが龍ちゃんにバレて、みんな仲良く説教されたのはまた別の話。

 

──────────────────────

 

「今のはなんだったんだ?」

 

「さ、さぁ?」

 

「まぁとりあえず移動しようぜ。梨子はどこか行きたい場所あるか?」

 

千歌達が嵐のように走り去ったあと、取り残された龍吾と梨子は次の目的地への移動を開始した。

 

「私は…海藤くんの家に行きたいかな///」

 

「俺の家?」

 

「久しぶりに海藤くんの手料理を食べてみたいかな」

 

「俺は構わないけど本当にいいのか?外食とかそっちの方がいいと思うんだけど」

 

料理は一応こなせるけどそこまで上手くじゃないし梨子の方が上手な気がする。てか俺は梨子の料理の方が食べたいけどな。

 

「外食よりもそっちの方がいい…」

 

「そっか、そこまで言うんだったら家で食べるか。梨子も手伝ってくれよ!」

 

「もちろん♪」

 

本来はもう少し外でのデートを楽しむ予定だったが、食事の予定が変わったことにより本来より早く帰宅の準備を始めた。

 

「今日はありがとな。俺をデートに誘ってくれて」

 

「どういたしまして!私もすっごく楽しかったよ!」

 

「まぁまだデートは終わってないからな………これからは家で二人っきりになれるんだぜ?」

 

龍吾は梨子の耳元で静かに囁く。

 

「ひゃっ!もう…海藤くんったら…」

 

「悪かったって。そろそろ家着くぞ」

 

太陽も沈んで辺りが暗くなった頃。俺達は二人以外誰もいない家に帰ってきた。

 

「お邪魔しまーす…」

 

「俺達以外誰もいないんだから遠慮なんかしなくてもいいぞ。荷物は空いてる部屋に置いといていいからね」

 

「わかりました!」

 

「俺は料理の準備でもしてくるよ。落ち着いたら手伝ってくれよ」

 

「大丈夫。今すぐにでも始められるよ!」

 

「おお、それは頼もしいな」

 

俺の隣に梨子が立って二人仲良くキッチンで調理を始める。そんな俺達の様子はなんだか…

 

「夫婦みたいだな」

 

「えっ!?」

 

「ほら、こうやって二人で並んで料理してるなんて夫婦みたいで素敵じゃないか?俺達もいつか仲のいい夫婦になれるといいな!」

 

「うん。そうだね…///」

 

龍吾は何事もなかったかのように調理を再開するが、梨子の胸中は穏やかではなかった。

 

(な、なんでこの人はこんなに恥ずかしいことを堂々と言えるの~?それとも私が控えめすぎるだけ?)

 

「ん?手止まってるよ。どうかしたのか?」

 

「な、何でもないよ!」

 

「そっか。ならいい」

 

梨子は彼を見ていて気がついた。それは高校生離れした安定感的なものだった。それは彼のように酸いも甘いも噛み分けてきた人だからこそ持てる心の落ち着きなのかもしれない。

 

(このまま控えめにやってたらいつまでも海藤くんに弄ばれちゃう感じがする…私もこれからもっと頑張らなくっちゃ!)

 

梨子は心の中で密かに決心を固めるのであった。

 

──────────────────────

 

夕食とあと片付けを終わらせた俺達は二人っきりの時間をゆっくりと過ごしていた。

 

「もうクリスマスってことは今年もそろそろ終わっちまうのか…」

 

「ほんとに早かったね。そして色々なことがあったよ」

 

今年もあと一週間で終わりを迎える。今年は楽しい時間はすぐに過ぎ去ってしまうということを改めて実感した一年だった。

 

「そうだったな。二年生になってから千歌達が急にスクールアイドルを始めるとか言い出したり…」

 

「私は音ノ木坂から内浦に転校してきて千歌ちゃんにそのスクールアイドルをやらないかって何度も誘われたりしたしもう一度ピアノを弾くことも出来た」

 

今年一年はとても充実して、あっという間に過ぎていってしまった。本当に色んなことがあったけど一番はやっぱり…

 

「そして梨子。何よりも大切な君に出会えた」

 

「こんなに大好きな海藤くんと一緒になることが出来た…」

 

「こんなどうしようもない俺だけどいつも見守ってくれて本当に感謝しているよ」

 

「私も…いつも海藤くんには支えてもらってばかりで…もう私には海藤くんがいないとダメだってことは日々実感しています…」

 

付き合ってから少しずつ二人の関係を深めていくうちに俺達はいつの間にかお互いになくてはならない存在になっていた。

 

「梨子、少し早いけど今年一年本当にありがとう!こんな俺だけど来年も再来年も一緒にいてくれたら嬉しいよ…」

 

「来年や再来年だけじゃない。私はこれからもずっと海藤くんと一緒に歩んでいきたいと思ってるよ」

 

自然と縮まった二人の距離は互いの吐息が聞こえるほど近くなっていた。

 

「梨子…愛してるよ…」

 

「私も海藤くんが大好き!」

 

そのまま二人は唇を重ねる。お互いが抱いている愛の全てを直接送り込むように。

 

「んっ………ふっ…」

 

「んんっ………ちゅっ…」

 

しばらくの間お互いの唇の感触をゆっくりと堪能し、そして静かに口を離した。

 

「はぁ…」

 

「そうだ!梨子へのプレゼントを渡すのを忘れてたよ。受け取ってくれるかな…?」

 

龍吾が梨子に渡した物は梨子の誕生石であるサファイアが埋め込まれたネックレスだった。

 

「すっごく綺麗…ありがとう!」

 

「喜んでもらえて嬉しいよ!」

 

「私からはこれだよ」

 

梨子が鞄から取り出して俺に渡してきた物は真っ赤なマフラーだった。

 

「手作りするの初めてだったからあんまり上手に出来なかったけど…どうかな?」

 

「ありがとう!早速つけてみるよ…」

 

俺は梨子から受け取ったマフラーを首に巻いてみる。しかし…

 

「あれ?なんか長くないか?」

 

「そのマフラーは…こうやって使うの///」

 

梨子はマフラーの余った部分に自分の首を突っ込んできた。これは…世間一般でいう恋人マフラーっていうやつかな…?

 

「あったかいね♪」

 

「…うん///」

 

正直暑いぐらいだ。それでも彼女と一緒に使っているからかな?なんだか心地いい気分がする。

 

「はぁ…今日はたくさん歩いたから疲れちゃったよ。早くお風呂入って寝よっか♪」

 

「まだ寝ちゃだめだよ…」

 

「へ?ええっ!」

 

龍吾は梨子をソファに押し倒し、さっきのように耳元で囁いた。

 

「二人の時間は…まだまだ終わらせないからな…」

 

「ふぇ!?は…はい…」

 

 

結局この日は夜が明けるまでお互いを求め合った。そしてこの日を境に二人は千歌達が呆れるほどのバカップルになっていくのであった。

 

 

To be contenuid…

 




私は来年こそ非リア脱却を目指そうと思います。読者の中の恋人がいる方はこの聖なる夜を楽しみやがれください。

それではまた。


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外伝 Valentine Day(再UP)

バレンタインデーに投稿した作品が何故か消えてしまったので再アップします。



今日は2月14日。一般的に世の中ではバレンタインデーと呼ばれている日だ。日本では女性が男性にチョコレートを渡すことなっているが、本来は性別関係なく大切な人に贈り物をする日なのだ。ここテストに出るからよく覚えとけよ。

 

こんなことを言うと怒られてしまうかもしれないが去年までは正直バレンタインなんてどうでもいいとか思っていた。幼馴染みは何人かいるけど特に何かくれたりなんかすることはなく、俺は今まで異性では母親からしかチョコレートを貰ったことが無かった。

 

だけど今年はそうじゃない。

 

「海藤くん!待った?」

 

俺は放課後に梨子と待ち合わせをしている。今日はお互いに部活も無いので学校が終わってから遊びに行くことにしたのだ。

 

「いや、待ってないよ」

 

「それじゃ…行こっか?」

 

去年までとは違って今年は彼女がいる。リア充なんか滅べばいいと思ってたが今ではむしろ彼女がいる幸せを他の人にも分けてあげたいくらいだ。

 

「梨子、やっぱ一度家まで戻っていい?」

 

「いいけど…なんで?」

 

「鞄が重い…」

 

さっきまで部活のみんなとお菓子の交換をするという出来事があったので俺の鞄の中はチョコレートで満杯だった。この数だけ見れば男達は羨ましがるだろうがそのほとんどが男性からの贈り物だと知ればどんな反応をするのだろうか…

 

「うふふ、海藤くんモテモテね♪このままだったら他の誰かにとられちゃうなぁ」

 

「いや、誰に何を貰おうと俺の本命は梨子、お前だけだよ…」

 

「うぅ…///」

 

臭い台詞を言ってると自分でも恥ずかしくなってくるな。正直似合ってないからなぁ…

 

「でもそう言って貰えて嬉しいなぁ。あとでチョコレートあげるね!海藤くんには特別サービスもしちゃうよ♪」

 

「それは楽しみだなぁ…」

 

俺は家に戻って荷物を片付け、軽く身支度を整えてからもう一度出発した。

 

「待たせたね。それじゃ今度こそ行こうか」

 

「うん!」

 

二人は自然と手を取り合って歩き始めた。

 

「これからどこに行くんだ?買い物にでも行くのかい?」

 

「うーん…何すると思う?」

 

「二人で出かけるんじゃないのか?」

 

「あら?いつ二人だけって言ったかな?少なくとも私は言ってないよ」

 

「え?そうだったか?」

 

俺はてっきり二人で出かけるもんだと思ってたよ。いや、彼女に誘われたらそりゃ二人っきりで出かけるもんだと普通は思うよな?

 

「うふふ…だって後でいくらでも二人っきりになれるでしょ?」

 

「え?それって…」

 

「あ!お迎え来たから行くよ!」

 

「え、ええ!?」

 

龍吾は予想外の言動を続ける梨子に困惑しながら手を引かれて目的に場所へと連れていかれた。

 

「あ!リューゴにリコ!こっちよ!」

 

「鞠莉さん!お迎えって鞠莉さんのことだったのか。ということはまさか…」

 

「イエース!これからうちのホテルまでヘリで行くわよ!」

 

「や、やっぱりか…」

 

俺と梨子は鞠莉さんに続いてヘリコプターに乗り込んだ。色々予想外なことがありすぎて正直もう疲れちまってるよ…

 

「ねえねえ、海藤くん…」

 

「どうした梨子?」

 

「なんだか疲れちゃったかも…ちょっとだけ寝てもいいかな?」

 

「すぐに着くんじゃないか?まぁいいよ。俺も疲れてきちゃったしさ」

 

「えへへ、ありがと♪」

 

梨子は龍吾の肩にもたれかかると静かに寝息をたて始めた。龍吾はその様子を優しく見つめ、しばらくすると自分も目を閉じた。

 

「あら、疲れてたのかしら?ふふ、やっぱりあの二人はとってもお似合いね!」

 

鞠莉の目線の先には寄り添って幸せそうに眠る二人の姿があった。

 

──────────────────────

 

ヘリコプターはしばらくフライトを続けた後、ホテルへと着陸した。

 

「ん?あれ?ここってどこだっけ?」

 

「ついたわよ!二人とも!早くしないと置いてっちゃうわよ!」

 

「鞠莉さん…ああ、ここはヘリの中か。梨子、起きな。到着したよ」

 

龍吾は梨子の身体を軽く揺するが全く起きる気配がなかった。

 

「リコが起きないの?困ったわね…このヘリはこの後すぐにパパを迎えに行かなくちゃならないのに…」

 

「梨子…仕方ないなぁ。鞠莉さん、俺がおぶっていくんで大丈夫ですよ」

 

「わかったわ。それじゃ案内するわね」

 

そう言って龍吾は梨子を自分の背中に乗せ、鞠莉の案内で大広間へと向かっていった。

 

「あれ?ここどこ…って海藤くん!?何してるの?」

 

「お、やっと起きたか。梨子がなかなか起きないから大変だったんだぜ?」

 

「ごめんね…でもそれにしても…は、恥ずかしいよぉ…」

 

「大丈夫だって。ここには鞠莉さんと俺らしかいないし鞠莉さんも経緯知ってるから問題なんて…」

 

そこで二人は気づいてしまった。少しだけ開いているドアの隙間から覗いている多くの人の存在に…

 

「あらぁ?龍ちゃん男前~ねぇ曜ちゃん?」

 

「うむ、龍くんかっこいいねぇ…」

 

「ふむふむ、二人は仲良しさんずら」

 

「なるほど。あの二人はいつもああやって魔力を高めているのね…」

 

「このままで大丈夫かなぁ?お姉ちゃん…」

 

「や、やるならせめて二人っきりの空間で…」

 

「龍吾っていつの間にあんなに男らしくなったの?お姉ちゃんはちょっと寂しいなぁ?」

 

なんとこの空間にAqoursのメンバーが揃い踏みであった。なんでみんながいるかはわからないが、とにかくこの状況はまずい。

 

「お、おおー梨子、やっと目が覚めたのか。そろそろ下ろしてもいいかな?」

 

「う、うん。ここまでありがとね…」

 

二人はそそくさと離れ、それぞれ別の場所へと移動した。龍吾は幼馴染みである千歌と曜に捕まり、さっきの詳しい話を尋ねられていた。

 

「龍ちゃーん?さっきのは一体どういう状況だったんですか?すごくかっこよかったですよ?」

 

「今までの龍くんだったらありえないなぁ…どうしてこうなったんですか?」

 

「なんだよ?梨子がなかなか起きなかったからここまでおぶってきただけだぞ?それ以外に理由なんてないし」

 

「ふーん。なーんだ」

 

「まぁ龍くんだからそうだろうね」

 

俺は特に隠す理由もなかったので正直に話した。二人は納得しながらも面白くないといった表情を浮かべていた。

 

「はぁ…そろそろ戻ろうぜ。これから何するのかは知らないけどみんなで集まったからには何かしらの理由があるんだろ?」

 

「そういうことだね。ところで今日は何の日だ?」

 

「何の日って…バレンタインデーだろ?」

 

「正解!ということで龍ちゃんにこれあげる!」

 

「私も!」

 

二人が俺に差し出してきたのは簡単にラッピングされたチョコレートだった。明らかに義理だとわかるが、俺は二人から貰えたことの喜びの方が大きかった。

 

「ん、ありがとな。ホワイトデーに何かしらお返しはするから待っててな」

 

「うん!楽しみにしてるよ!」

 

「後で感想とか聞かせてね!」

 

二人から貰ったチョコを手にみんなの元へ戻ると何かしらの準備を始めているようだった。

 

「何の準備だこれ?」

 

「パーティーよ!今日はバレンタインだからみんなでスイーツでも食べましょ!それがマリーからみんなへのプレゼントよ!」

 

「おお!それは嬉しいなぁ」

 

「あとはみんなでチョコレートの交換するの。みんなののために準備してきたんだよ。あ、これは私から龍吾へ!」

 

「交換かぁ。俺は何も聞いてなかったから用意してないよ。でもチョコはありがと」

 

鞠莉さんと果南姉さんから簡単に説明されて今日やることを理解した。

 

「というわけで早速チョコレートの交換をしましょう!さっきも言ったけどマリーからはこのスイーツよ!遠慮しないで食べてね!」

 

「まずはヨハネからね。リトルデーモン、色々と感謝してるわ。これからもよろしくね」

 

「善子、ありがとな。こちらこそよろしく」

 

「うん!てかヨハネ!」

 

「次はマルからです。龍吾さん、いつもお世話になってます。こんなマルだけどこれからもよろしくお願いします!」

 

「むしろ世話になってるのは俺の方だよ。いつもありがとう」

 

最初は善子と花丸ちゃんからチョコレートを貰った。やっぱり二人ともとってもいい子で素晴らしい後輩だなと思っている。

 

「先輩!ルビィからのプレゼントを受け取ってください。これからもルビィ達のことを手助けしてくれると嬉しいです」

 

「これからも協力するよ。ありがとう」

 

「次は私ですね。海藤さん、今まで私達を支えてくださりありがとうございます。これからもAqoursのことをよろしくお願いしますわ」

 

「ダイヤさん…はい」

 

そういえば三年生である果南姉さんと鞠莉さん、ダイヤさんはそろそろ卒業か。こうやってみんなで過ごせるのがあと少しだと思うと寂しくなるな…

 

いや、今はそんな事考えないようにしよう。せっかく鞠莉さんが楽しませようとしてるんだから楽しまないと失礼だよな…

 

「龍ちゃん?どうかしたの?」

 

「…いや、何でもないよ。みんな、本当にありがとう。味わって食べるよ」

 

「どーいたしまして!」

 

「それじゃ最後は梨子ね!」

 

「うん…」

 

梨子は少し頬を赤らめながらも真っ直ぐに俺の方を向いて言った。

 

「海藤くん、いつもありがとう。これからもずっと一緒にいられたら嬉しいなぁ…」

 

「こちらこそ。お互い頑張ろーな!」

 

これで全員のお菓子交換が終わったが俺の中では一つの疑問が残ったままだった。

 

「あれ?俺はみんなに何もあげてないけど…これはホワイトデーに返せばいい感じ?」

 

「うん!三倍返しくらいでお願いね!」

 

「三倍とまではいかないけど…ちょっといいものくれたら嬉しいかな?」

 

「はは、善処します…」

 

「それじゃパーティーを始めましょ!みんな、楽しんでいってね!」

 

鞠莉さん主催のパーティーはとても楽しく俺達の中で一つの大きな思い出になるだろう。

 

──────────────────────

 

あれから数時間が経過し、空に星が輝き始めた頃合に俺達は鞠莉さんのホテルを後にした。俺と梨子は俺の家までの帰り道を二人並んで歩いていた。

 

「はぁ…流石に食いすぎた。みんなから貰ったチョコもあるんだからもう少し控えめにすればよかったわ…」

 

「しばらくは甘い物とか食べすぎないようにしようね」

 

こうして仲良く話している間にいつの間に俺の家についていた。もう時間も遅くて梨子のお母さんも心配するだろうから今日は梨子を泊めることにしたのだ。ちなみに梨子の家族からの承認は得ている。

 

「部活で貰ったのもあるし九人から一個ずつ貰ってるからこれを少しずつ消費していかないとなぁ…頑張らないと」

 

「じゃあ…私からの本命チョコは…いらない?」

 

「…どういうことだ?」

 

「さっきあげたチョコをよく見てみて。包みとか全部みんなと同じだったでしょ?」

 

「言われてみれば…」

 

確かに俺はチョコを貰った時に疑問に少し思った。本命チョコにしては包みとかが質素で義理チョコのようにも見えたことだ。まぁ特に文句もなかったのでそのままありがたく受け取っていたのだが。

 

「なんだ。あの時一緒に渡してくれればよかったのに」

 

「なんか恥ずかしくって…」

 

「そうか。ついに梨子からの本命チョコが貰えるのか。嬉しいなぁ」

 

「期待してくれてたの?私も嬉しい///」

 

梨子はさっきと同じように真っ直ぐ俺を見つめ、優しく微笑みながら言った。

 

「海藤くん、こういうの作るの初めてだったけど貴方のために頑張ってみました。さっきも言ったけどこれからもずっと一緒にいてくれると嬉しいです。大好きだよ!」

 

「梨子、俺もいつまでもお前の傍にいたいと思ってるよ。いつもありがとう。愛してるよ…」

 

二人は静かに見つめあって笑った。

 

「そういえばさ、鞠莉さんのホテルに行く前に言ったこと覚えてる?」

 

「えっと…俺にはチョコだけじゃなくて特別なサービスもしてくれるとかなんとか…」

 

「そう、今からそのサービスしてあげる♪」

 

梨子は自身の唇にチョコレートを塗り、そのまま龍吾にキスをした。

 

「え………んっ………」

 

「はぁ………ちゅっ………」

 

しばらくお互いの唇の感触を味わい、二人は静かに唇を離した。

 

「はぁ………梨子………?」

 

「ん………その気になった?」

 

「いや、本当にいいのか?」

 

「うん、チョコと一緒に………私も食べて♪」

 

その後は朝までお互いを求め合い、二人の愛はより一層深まったのであった。

 

To be contenuid…




ありがとうございました。

それではまた。


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外伝 Marriage&wedding

今回は結婚生活をテーマにしてみました。もうジューンブライドはとっくに過ぎてますが。




梅雨の季節に似合わないほどの快晴に恵まれていた6月のある日。時期的にはジューンブライドに当たる頃。そんな何事もない日の話である。

 

「~♪」

 

そんな日の夕方。赤みがかった髪色をした一人の女性がキッチンに立っていた。時間的に夕食を作っている途中なのだろう。その女性の左手の薬指には銀色の指輪が光っていた。

 

 

 

その女性の名前は海藤梨子。かつて絶大な人気を誇ったスクールアイドルであったAqoursのメンバーであり、元々は桜内梨子という名前だった。

 

「そろそろあの子も起こさなきゃなぁ…パパを出迎えるんだって聞かないんだから」

 

その女性は優しい笑みを浮かべながら寝室で眠る女の子に声をかける。

 

七星(ななせ)、そろそろ起きて」

 

「ん…ままおはよう…」

 

「あ、やっと起きたね。もうすぐ夜ご飯の時間だよ」

 

「ほんと?」

 

七星と呼ばれた女の子は母親についていきながらリビングへ向かう。

 

「あれ?ぱぱはまだなの?」

 

「パパはお兄ちゃんのお迎えに行ってくれてるから少し遅くなるかな?それに七星がパパをお出迎えしたいって言ってたでしょ?」

 

「うん!」

 

夕食を作りながら娘とお喋りをしているとしばらくして家のドアが開いた音とそれに続いて男性の声が聞こえた。

 

「ただいまー」

 

「あ!ぱぱだ!」

 

梨子と七星が玄関へ向かうとスーツを着たやや長身の男性と一人の少年が立っていた。

 

「ぱぱおかえり!」

 

「よしよし。今日もママの言うことを聞いていい子にしてたか?」

 

そう言いながら娘の頭を撫でる男性の名は海藤龍吾。梨子の夫であり、現在は教員として浦の星学院に勤務している。

 

「おにいちゃんもおかえり!」

 

「うん、ただいま!」

 

大輝(だいき)、今日の幼稚園は楽しかった?」

 

「すごく楽しかったよ!今日はみんなでバスケしたんだ!」

 

太陽みたいな笑顔を浮かべる少年、大輝は今年で五歳になる。父親の影響で幼稚園に入る頃にバスケを始め、上達の速さは大人も驚くほどだ。

 

「お父さん!ぼくにもっとシュートとか教えてよ!」

 

「シュートも大切だけどお前は守りも覚えなきゃダメだなぁ…」

 

学校でもバスケを教え、家でも息子にバスケの技術を仕込む。全盛期が過ぎた後も龍吾の頭はバスケでいっぱいだった。

 

「ふぅ…梨子、ただいま」

 

「あなた、おかえりなさい!」

 

そう言って梨子は龍吾の手を握る。龍吾の左手にも梨子とお揃いの指輪が光っている。

 

「ご飯はもう少しかかるから先にお風呂入ってもらってもいい?」

 

「わかった。七星と大輝も一緒に入れてくるよ」

 

「うん、ありがとう♪」

 

龍吾は子供達の手を引き、風呂場へ向かった。梨子はそんな家族のことを優しく見守っていた。

 

──────────────────────

 

子供達が寝静まったあと、龍吾と梨子は夫婦の静かな時間を楽しんでいた。

 

「今日もお仕事お疲れ様♪」

 

「ありがとう…」

 

龍吾はお茶を飲みながら答える。

 

「ここまで早かったな。この前大輝が生まれたばかりだと思ったのに」

 

「歳を取ると時間が過ぎるのが早く感じるって言うでしょ?」

 

「おいおい、俺を年寄り扱いするのはやめてくれよ。まだギリギリ20代なんだから…」

 

二人はそんな夫婦水入らずの時間を楽しんでいた。すると龍吾がこう切り出した。

 

「あ、君に渡す物があるからさ、ちょっと待っててくれよ」

 

「え?うん…」

 

そう言って龍吾は自室に入り、ある物を手にして再びリビングへ戻ってきた。

 

「梨子、今日は結婚記念日だね。いつも俺のことを支えてくれてありがとう」

 

龍吾は感謝の言葉と共に持っていた薔薇の花束を梨子に手渡した。

 

「あなた、こちらこそありがとう♪」

 

梨子は目に涙を浮かべながら龍吾の頬にキスをした。

 

「今年で七年目だっけ?大学卒業して内浦(ここ)に戻ってすぐに結婚したから」

 

「そうね。Aqoursのみんなでお祝いしてくれたからね」

 

「あれから七年か…」

 

──────────────────────

 

七年前、それは今日とよく似た日のことだった。親戚への挨拶を済ませ、準備室に戻った俺は結婚式用の衣装に着替えていた。

 

「ううん…やっぱキツいなこりゃ」

 

「いや、よく似合ってるぞ」

 

白いタキシードに身を包み、いつもと髪型を変えた俺は緊張で落ち着くことができないまま新婦である梨子のことを待っていた。

 

「やべぇ緊張してきた…今まででこんなに緊張したことなんかあったっけ…」

 

「とりあえず深呼吸しとけ。新郎のお前がそんなんじゃ梨子さんも不安になるだろ」

 

龍吾は隣に座る実の兄である(れん)のことを横目で見ながら言った。

 

「俺の隣に座ってる誰かさんは自分の結婚については考えなくていいのですか?」

 

「俺は仕事で忙しくてな。なかなか良縁に恵まれん。結婚のことは急いで考えることもないし自分が生涯添い遂げたいと思える女性に出会えるまで待つさ」

 

「そうか。兄貴もちゃんと考えてんだな」

 

「あったりめぇだ」

 

二人で今までの思い出話や将来について話しているとドアが数回ノックされた後開かれた。

 

「龍ちゃん?準備出来てる?」

 

「こっちは大丈夫だ。梨子の方は?」

 

「準備OKだよ!」

 

「いよいよか…」

 

ついに式が始まる。今日は俺がしっかりと梨子のことをエスコートしてあげなければな…

 

「あ、これから梨子ちゃんのとこ行ってみる?梨子ちゃんも龍ちゃんのタキシード姿を早く見たいって言ってるし」

 

「行ってこいよ。俺は式の時間まで父さん達と待ってるからさ」

 

「そっか。それじゃ行ってみますか」

 

俺は千歌に連れられて梨子のいる部屋の前にやってきた。その部屋のドアをノックすると中から梨子の綺麗な声が聞こえた。

 

「どなたですかー?」

 

「梨子ちゃん!龍ちゃんを連れてきたよ!入っても大丈夫?」

 

「え?海藤くん?ち、ちょっと待ってて!」

 

そんな声のあとは中から賑やかな笑い声などが聞こえてきた。俺も千歌はその音を聞きながら二人で笑いあった。

 

「海藤くん?入っていいよ…」

 

しばらくしてから梨子の合図で部屋に入った俺が目にしたのは…正しく天使だった。

 

「ど、どうかな…?変じゃない?」

 

純白のドレスに身を包んでいつも以上にしっかりと化粧をした梨子の姿はとても美しかった。恥ずかしさからなのか少し顔を赤らめているのもとても可愛らしい。

 

「全然変じゃないよ…すごく綺麗だ…」

 

「そう?嬉しい…」

 

そんな梨子の姿を見ていると今までの出来事が脳裏に蘇ってきた。出会った瞬間からお互いを意識してたこと。スクールアイドルとして輝く彼女を支えながら愛を育んできたこと。それぞれの進路のことで悩んだこと。大学卒業と同時に俺からプロポーズしたこと。

 

今まで楽しかったり辛かったり色々なことがあったけどどれも俺達の大切な思い出。これからも二人ならどんなことも乗り越えていける。

 

「…ッ!梨子…!」

 

龍吾は無意識のうちに涙を流していた。今までのことを思い出しているうちに言葉にならない愛おしさと幸せがこみあげてきた。龍吾はそのまま梨子のことを抱き締める。

 

「もう…私より先に泣いて…私のことエスコートしてくれるんじゃなかったの?」

 

「ごめん…梨子…」

 

ここで伝えなきゃ…今までの感謝の気持ちをまっすぐに

 

「梨子、今日という日を君と迎えることができて本当に幸せだよ。今日まで俺のことを支えてくれてありがとう。こんな俺だけどこれからも一緒にいてくれると嬉しいよ…」

 

「海藤くん…私の方こそいつもお世話になっています。これからも迷惑とか沢山かけちゃうかもしれないけど…ずっと一緒にいることができたら幸せです。大好きだよ!」

 

「梨子、幸せになろうね!」

 

「うん♪」

 

梨子もいつの間にか目に涙を浮かべていた。本当にこの人と一緒になれてよかったなぁ…

 

「あのぅ…この場に私達がいるってこと忘れてませんか…?」

 

「いやぁ良いものを見させてもらいましたよ…私にもこういう日が来るといいなぁ…」

 

すっかり忘れていた…俺達の後ろには千歌や曜達がニヤニヤしたり顔を赤くしたり様々な表情で立っていた。

 

「今のは忘れてくれ…」

 

「うーん…あんなにお熱いのを見せられたら忘れることなんかできませんねぇ…」

 

「もう…絶対幸せになりなさいよ!」

 

旧Aqoursのメンバーから様々な言葉を貰い、昔話に花を咲かせていると式の時間が近づいてきていた。

 

「そろそろ時間だね。私達は席に着かなきゃいけないからまた後でね!」

 

「おう、ありがとな!」

 

そう言って千歌達はぞろぞろと部屋から出ていく。広くなった部屋は俺と梨子の二人だけになっていた。

 

「やっと二人っきりになれたね」

 

「そうだね…えへへ♪」

 

梨子は俺の肩に体重を預けてきた。

 

「海藤くんと一緒だと落ち着くなぁ…」

 

「それならよかった。そういえば君はいつまで俺のことを海藤くん♪って呼ぶつもりなんだい?今日から君も海藤さんになるじゃないか」

 

「あ、確かに…」

 

ていうか梨子は付き合っている時もずっと苗字呼びだったよね。下の名前で呼ぶのが恥ずかしいとかなんとか言ってた気もするが…

 

「梨子さんは俺のことをなんて呼んでくれるんですかね?」

 

「じ、じゃあ………あ、あなた…」

 

「………それは反則///」

 

式の前にこれはやめとこう。刺激が強すぎる…

 

「ごめんね?それよりそろそろ…」

 

「俺達の出番だね。会場に行こっか!」

 

「うん!」

 

二人は手を取り合って式が行われる会場へ向かう。これからの人生は二人で切り開いていくんだ。どうなるかなんてわからないけど俺達なら大丈夫!

 

そんなことを思いながら二人は家族や友人達の待つ会場へと…

 

──────────────────────

 

「懐かしいなぁ…もうそんなに経ったんだね。そういえばみんなは元気かな?千歌や果南姉さんとは家も近いしすぐ会えるけど 」

 

「うん。Aqoursのみんなもそれぞれの道へ歩んでいったよね。だけど私はこうやってあなたとゆっくり過ごせるのが一番幸せだよ♪」

 

「そっか。それはよかった」

 

二人はまた笑い合う。

 

「あなた…」

 

「どうしたんだい?」

 

「仕事で忙しいのは仕方ないけど最近あまりかまってくれなくて寂しい…」

 

「あー…今は授業も大変だしこれから大会もあるからねぇ…寂しい思いさせてごめん。明日は休めるから埋め合わせはするよ」

 

「ほんと?えへへ…」

 

龍吾は擦り寄ってくる梨子の頭を優しく撫でながら言う。

 

「本当に君は変わってないなぁ…」

 

「だって…あなたは私のものだもん…」

 

「可愛い嫁さんに愛されて俺は幸せものですよ。それに俺も君が一番大切だからね?」

 

すると龍吾に撫でられ続けてスイッチが入ったのか梨子が甘い声で言った。

 

「だったらこれからもっと甘えてもいい?それにそろそろ三人目も欲しいかも…」

 

「え?ちょ、流石に今の収入じゃキツいし…それに七星も生まれたばかりじゃないか!」

 

「大丈夫。何かあったら私も協力するから…」

 

梨子は龍吾を抱き締め、耳元でこう囁いた。

 

「あなた………大好き♡」

 

結局三人目については保留ということになったが、これからの人生設計に悩む龍吾だった。

 




一度でいいから梨子ちゃんにあなた♪って呼ばれたい人生だった…

それではまた。


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外伝 君と奏でる旋律

諸事情により少し遅れてしまいましたが何とか間に合いました。

さて、今日はこの作品のヒロインである梨子ちゃんの誕生日ということで二回目の誕生日回をやっていきたいと思います。




「海藤くん!」

 

「梨子、おはよう!」

 

9月某日。俺と梨子は部活が休みになった日に二人で遊びに行くことになっていた。

 

「ごめんね!待たせちゃった?」

 

「いや、全然待ってないから大丈夫だよ」

 

恥ずかしながら昨日は楽しみで全然眠れなかった。まぁ魔剤キメてきたから大丈夫だけど。

 

「それじゃ行こっか」

 

「うん!」

 

俺達は手を繋いで歩き始めた。

 

「梨子は映画を見たいんだったかな?」

 

「うん!ずっと楽しみにしてたんだぁ」

 

「曜が面白くて感動したって言ってたから俺も気になってたんだよね。その映画」

 

その映画は人を愛するということについて深く考えさせられる内容らしい。

 

「あ、時間迫ってきてる。急ごう!」

 

俺達は映画館に向かって走り始めた。

 

 

 

 

 

「映画めっちゃよかったね。泣きそうになっちゃったなぁ…」

 

「うん。感動しちゃったよ」

 

結論から言うと映画はめちゃくちゃ面白かった。人を愛することの尊さを改めて理解することの出来た映画だった。曜がオススメしてきた理由がよくわかったよ。

 

「少し暗くなってきちゃったね」

 

「結構長い映画だったしなぁ…」

 

俺達が映画館から出た時、空は既に赤みを帯びていて小さい子達も帰り始めた時間だった。

 

「よし、そろそろ移動するか。そして飯を食いに行こう」

 

「うん!今日はどこにする?」

 

「今日行くところはさ、もう決まってるんだ。レストランなんだけど…」

 

「えっ?うん…」

 

今日行くレストランは既に予約もとってある。ちょっとだけ特別な場所だ。

 

「それじゃ行くよ」

 

俺は梨子の手を引いて店への道を歩いていった。

 

──────────────────────

 

「ここって…」

 

「俺も初めてくるんだけどさ、どうしても梨子と一緒に来たかったんだ…」

 

俺達がやってきたのは少しお高めのレストラン。高校生である俺達にはまだ早いのではないかと思ったりもしたがちょっと奮発して来てみることにしたのだ。

 

「すごい…こんなに高そうなレストランに来るのなんて初めてだよ」

 

「俺は君と一緒に来ることが出来て嬉しいよ」

 

「うん!連れてきてくれてありがとう!」

 

梨子が目を輝かせてくれたのを見て安心した。色々考えちゃったけどここに決めてよかったなぁ…

 

「何を食べようかなぁ」

 

「いや、今日はコースで頼んでおいたからさ。料理が来るまでゆっくり話でもしようよ」

 

「私のためにそこまでしてくれたの?嬉しい///」

 

「喜んでくれて何よりだよ」

 

そのまま話を続けて待っているとスタッフの人が料理を運んで来てくれた。

 

「お待たせしました。ゆっくりと召し上がってください」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「海藤様、少しよろしいでしょうか?」

 

「大丈夫ですよ。梨子、少し席を外すけど先に食べてて構わないよ」

 

俺は席を立つとスタッフに連れられてある話をされた。

 

「例の物はいつ頃お持ちすればよろしいですか?」

 

「そうですね…では食後にお願いしてもいいですか?」

 

「かしこまりました」

 

そう言い残してスタッフは厨房へ戻って行った。

 

「お待たせ。味はどうかな?」

 

「すごく美味しい!海藤くんも早く食べよう!」

 

「そうだね。早速頂くよ」

 

その料理の味は格別だった。少し大袈裟かもしれないが今まで食べてきた料理の中でも一位二位を争うほどだ。普段は食事を多く食べない梨子も満足そうに口に運んでいた。

 

「はぁ…とても美味しかった。幸せ…」

 

「それはよかった。ところでもうお腹いっぱいかな?」

 

「まだ食べられるよ」

 

「わかった。ちょっと待ってて」

 

俺はもう一度席を外してさっきのスタッフの元へ向かった。

 

「すみません。例の物をお願いしてもいいですか?」

 

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

これで大丈夫だ。俺はスタッフが厨房の奥に消えていくのを確認して席に戻った。

 

「ただいま」

 

「おかえり。どっか行ってたの?」

 

「まぁね。すぐにわかるよ」

 

それからすぐに例の物は運ばれてきた。それまで首を傾げていた梨子はそれを見ると驚きの表情を見せた。

 

「お待たせしました。これは海藤様から桜内様への贈り物でございます。ではごゆっくり」

 

「ありがとうございます」

 

「えっと…海藤くん、これって…」

 

「見ての通り君への誕生日プレゼントだよ」

 

それは店を予約する時、同時に頼んだ誕生日ケーキだ。あまり大きくはないけど梨子への愛情がたくさんこもっている。

 

「梨子、誕生日おめでとう」

 

前を見ると目に涙を浮かべ、手で口元を覆っている梨子の姿があった。

 

「嬉しい…こんなに幸せなことってあるんだね…」

 

「これからもさ、二人でたくさん思い出を作っていこうよ。今よりもっと幸せになれるようにね」

 

「うん!これからもよろしくね!」

 

俺はここで梨子と食べたケーキの味を一生忘れることはないだろう。

 

──────────────────────

 

店を出ると空には満点の星空が広がっていた。俺達はそれを眺めながら帰路についていた。

 

「今日は本当にありがとう。とっても楽しかったよ!」

 

「こちらこそ。俺も楽しかった」

 

彼女の首にはさっき渡したネックレスが月の光を浴びて輝きを放っていた。

 

「プレゼントもありがとう!大切にするね!」

 

「ああ、それじゃまた学校で」

 

いつの間にか梨子の家の前まで来てたようだ。親御さんも心配するだろうし今日はこれでお別れかな。

 

「あ…ちょっと待って!」

 

「なんだい?」

 

上着の裾を引っ張って俺を見つめる梨子は何かを欲しているように見えた。

 

「ちょっとだけわがまま言ってもいいかな…?」

 

「俺に出来ることならなんでもするよ」

 

「じゃあ…キスしてほしいなって///」

 

キスか…梨子からこんなことを言ってくるなんて珍しいな。俺は自分の頬が熱くなるのを感じながら梨子に顔を近づけてキスをした。

 

「…んっ」

 

唇が触れていた時間は僅かだったがこれ以上ない幸福感が俺達を包み込んでくれているようだった。

 

「はぁ…ありがとう…気持ちよかったよ♪」

 

「そっか…それならよかったです…///」

 

「それじゃまたね!」

 

いつの間にか少し大胆になっていた梨子を見送りながら俺は考える。

 

(…ほんの少しだけ大胆になっただけでこれか。これ以上になったら…もう心臓もたねぇよ…)

 

まぁこれ以上考えるだけ野暮ってもんだ。それはそれとして…

 

「梨子、誕生日おめでとう!」

 

 

 




梨子ちゃん誕生日おめでとう!



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コラボ 鉄道事件簿

今回は新庄雄太郎さんの作品とコラボさせていただきました。新庄さんは鉄道に関連した様々な作品を投稿されているので是非ご覧ください!



東京駅を出発してから一夜が明け、トンネルを走る寝台特急・北斗星はやがて海峡を抜けて北海道へと上陸した。

 

「うわぁ…ここが北海道かぁ!」

 

「それにしても運が良かったね。函館への旅行券が貰えるなんてさ」

 

福引きで北海道への旅行券を当て、俺を含めた二年生組とルビィちゃんの五人は長めの休みを利用して函館へ旅行に来ていた。

 

「うん!果南ちゃん達も来れればよかったのにね」

 

「都合が悪いんだろ?それならしょうがないな」

 

本当は全員で来れればよかったけど果南姉さんは家の手伝い。鞠莉さんやダイヤさんは学校で仕事があったりと他のメンバーは都合がつかなかったのだ。

 

「函館かぁ…理亞ちゃん達にも会えるっていうから楽しみだなぁ!」

 

「うん!あ、聖良さんからメールが来てるよ。なになに~遠路はるばるご苦労さまです。列車がつく時間には函館駅に理亞といるので合流しましょうだって!」

 

「そっかぁ…それなら安心だね!」

 

「えっと…P.S.最近は不可解な事件が多発しているので気をつけてくださいねって。なんだろう?」

 

「わからん…何かあってからじゃ遅いし警戒はしておこうか。到着まで時間あるし俺は便所に行ってくるよ」

 

「あ、私も行っとこうかな」

 

俺達は別々に分かれて便所へと向かった。そこには俺と同年代と思われる青年もいた。彼は軽く会釈をしてきたので俺も返す。

 

「こんにちは。観光ですか?」

 

「ええ、友人達と旅行に。あなたもですか?」

 

「そんな感じですね。あとは調べ物を…」

 

 

 

「…やっ…いやぁぁぁ!!!」

 

 

 

その瞬間、女子トイレの方から梨子達の悲鳴が聞こえた。かなり怯え、慌てているのが声の様子から伺える。それと同時に俺は聖良さんからのメール内容を思い出した。

 

「………まさか!」

 

「事件でもあったのか…急がないと!」

 

俺とまだ名前も聞けていない青年は悲鳴のする方へ揃って駆け出した。

 

「声の主は君の友人かい?」

 

「そのようです。無事ならいいが…」

 

ドアを蹴破り、中へ入ると千歌は恐怖で腰を抜かし、ルビィちゃんは怯えて涙を流していた。

 

「どうした?何があった?」

 

「あ…あそこ…」

 

青ざめた曜が指差す方を見るとそこには血塗れの男性が便座に寄りかかるようにして気を失っていた。

 

「こ、これは…急いで救命しないと…」

 

「いや、もう亡くなっている…俺は警察に連絡をしてきます。これ以上被害を出さないように…」

 

辛うじて話のできる状態であった梨子が言うには電車の大きな揺れで唯一閉まっていると思われた個室の扉が開き、その中に男性の遺体があったという。

 

「り、龍吾くん…怖かったよぉ…」

 

「そうか。怖かったよな…みんなが無事で本当によかった…」

 

「でもなんでこんな所に…もしかしてトイレの個室って密室だからそれを利用されて…」

 

「確かに…」

 

しばらくするとさっきの青年が警察への連絡を済ませて戻ってきた。

 

「あなたはその子達を連れて部屋に戻っていてください。あとは俺が何とかします」

 

「わかりました。それとあなたは…一体何者なんですか?」

 

青年は懐から手帳を取り出して言った。

 

「申し遅れましたね…俺は(みなみ)達仁(たつひと)。探偵です」

 

 

──────────────────────

 

 

「そうですか。それは災難でしたね」

 

函館に着き、Saint Snowの二人と合流した俺達は列車内での出来事について話していた。

 

あの後は南と名乗る探偵が迅速に対応して処理を行ったため列車の混乱は最小限に抑えることができたようだ。

 

「私達も困っているんです。この周辺だけではなく北海道の各地で謎の事件が起こってて…」

 

「犯人についてもまだ不明で東京の方から腕利きの探偵達が来て捜査を助けるらしいの」

 

「そうだったんですか…俺達も明日には釧路の方に移動するから気をつけないとな…」

 

スケジュールの都合により函館には一日しかいることが出来ない。明日の昼前には釧路方面に移動しなくてはならないからだ。

 

「何事もなく過ごせることをお祈りしています。これからは事件のことなんて忘れて私達と函館の街を見て回りましょうよ」

 

「ありがとうございます!何かあったら絶対に龍ちゃんが守ってくれるから大丈夫です!」

 

「事件のことなら私達は気にしてないからさ、行こ!」

 

「…そっか。ならいいかな?」

 

その日は聖良さん達と函館を観光したが、心の底から楽しむということが出来ないまま次の日を迎えた。

 

 

──────────────────────

 

 

翌日、聖良さん達と別れた俺達は昨日とは別の特急に乗って釧路へ向かっていた。

 

「聖良さん達、元気そうでよかったなぁ…」

 

「そうだな。あとはこの旅が何事もなく終わればいいけど…」

 

しばらく千歌達とぼーっとしているとドアの窓から見覚えのある横顔が通り過ぎるのが見えた。

 

「ちょっと出てくる。すぐに戻ってくるさ」

 

そう言い残して部屋から出るとすぐにその人を発見することが出来た。

 

「南さん…あなたも釧路の方へ向かうんですか?」

 

「あなたは確か…海藤さんだったかな?」

 

そこにはやはり彼がいた。北斗星の車内で出会い、共に事件の発見者となった南という男だ。

 

「どうです?昨日の事件については?」

 

「あの事件の捜査は北海道警察の捜査一課が調べてる。遺体の目撃者ということもあって昨日は捜査に協力する名目で一人函館に残ったんだ。おかげさまで一緒に来ていた友人に置いてかれてしまったんだ」

 

「そうだったんですか。大変ですね…」

 

「釧路に行くということは湿原に行くんですか?それとも摩周湖?」

 

「両方ですね」

 

南さんの話によると帯広と釧路の方でも事件が起きており、先に向かった友人、そして捜査一課と合流するために釧路へ向かっているらしい。

 

「おっと話してる間に到着したようだ。降りようか」

 

「本当だ。友人達がいるから部屋に戻らないと…」

 

「俺は人を待たせているから先に行くよ。君達はゆっくりと旅を楽しんで。それじゃまた会おう」

 

龍吾と別れた南が現場である摩周湖に向かうとそこには先に捜査を進めていた北海道警察の鈴木刑事がいた。

 

「南です!鈴木刑事、橘警部はいますか?」

 

「遠路はるばるご苦労様。橘警部なら石井警部補と一緒に防犯カメラの確認をしてる。そろそろ終わると思うんだけど…」

 

「ありがとうございます」

 

すると車の中から二人の男性…橘警部と石井警部補が出てきて南に言った。

 

「南くん、カメラは確認させてもらったよ。犯人の特定はほぼ完了したと言ってもいい」

 

「わかりました。すぐに犯人確保へ動きましょう!」

 

「彼の住所は既に調べてある。君の言う通りすぐに向かった方がいいな」

 

四人は車に乗り込み犯人の自宅まで向かった。南が部屋を訪ねると中から一人の男性が出てきた。カメラに写っていたの人と同じ顔だ。

 

「貴方がこの事件に関与している疑惑が浮上しました。詳しく聞きたいので署までご同行願えますかね?」

 

犯人と思われる男性は摩周湖での事件の他に特急内での殺害も自供したためそのまま逮捕されることになった。

 

──────────────────────

 

「ふぅ…やっと解決しましたね…」

 

「捜査に協力してくれて本当にありがとう。これからはゆっくり北海道の旅を楽しんでくれ」

 

「警部、何かあったらまた連絡してください。どこにいてもすっ飛んで行きますから」

 

「それはありがたいな。また頼むよ」

 

橘警部は南を駅で降ろすとそのまま走り去って行った。

 

「さてと…全部終わったしあいつらに連絡しないと。しばらく放置しちゃったから怒ってるよなぁ…」

 

南は携帯を取り出し、ある番号へ電話をかけた。

 

「もしもし俺だ。ああ、連絡遅れたのは俺が悪かったからそう怒んなって。事件も解決したからこれからそっちに向かうよ」

 

そのまま電車を待ちながら友人と通話を続ける。彼は旅の途中で出会った人物のことを思い出して言った。

 

「そうだ。旅の途中で面白い人にあってさ、確か海藤くんって言ってたかな?聞きたいか………穂乃果?」

 

南の旅はまだまだ続く。

 




普段やれないようなことが沢山出来たので楽しかったです。新庄さん、ありがとうございました!

それではまた


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データ・設定集
登場人物 学校紹介


諸事情により再アップ



浦の星学院

 

元々女子高であったが、生徒の減少により数年前に共学化。男女の比率は3:7。入学希望者を増やす鍵となっているのは地元の期待の星であるスクールアイドルAqoursと後述する男子バスケットボール部。

 

 

 

浦の星学院男子バスケットボール部

 

創部して数年だがメキメキと頭角を現しているチーム。県内ではダークホース的な立ち位置。3年生は1人もおらず、部員は2年生5人、1年生7人の12人。昨年は1年生主体ながらインターハイ予選ベスト8、ウインターカップ予選準優勝という成績を残した。

 

 

 

海藤 龍吾(かいどう りゅうご)

 

身長:178cm

体重:70kg

ポジション:SF(スモールフォワード)

CV:中村悠一

 

浦の星学院2年。背番号7番。県内屈指のプレイヤーだった兄を尊敬しており、彼の背負っていた背番号7番を今は自らが纏っている。中学時代は県選抜に選ばれ、全国の猛者達と戦った経験があり、自分達のチームでは主将兼エースとしてチームを県準優勝に導き、東海大会へ出場した。

 

 

 

小川 孝至(おがわ たかし)

 

身長:170cm

体重:60kg

ポジション:PG(ポイントガード)

CV:石田彰

 

浦の星学院2年。背番号4番。龍吾と同じ中学校出身の親友。彼と同じく中学時代は県選抜に選ばれ、チームの二大看板と呼ばれた。高校では龍吾に代わって主将を務めており、チームメイトからの信頼も厚い。上背はないがスピードとゲームメイクに優れており、相手を置き去りにするドライブが得意で視野も広い。

 

 

 

源 朔也(みなもと さくや)

 

身長:191cm

体重:83kg

ポジション:C(センター)

CV:細谷佳正

 

浦の星学院2年。背番号5番。中3の秋に転校してきたため静岡での知名度は殆ど無かったが、昨年のインターハイ予選で1年生ながら脅威のスタッツを残し、静岡屈指のセンターとしてその名を轟かすこととなった。気が少し短いのが欠点。

 

 

 

桧山 真一(ひやま しんいち)

 

身長:185cm

体重:76kg

ポジション:PF(パワーフォワード)

CV:緑川光

 

浦の星学院2年。背番号6番。クールで無口だがバスケと仲間に対する思いは強い。リバウンド等の地味な仕事をこなす仕事人でバスケIQも高い。学校ではかなりモテているが本人は全く相手にしていない。

 

 

 

坂本 琉空(さかもと りく)

 

身長:174cm

体重:62kg

ポジション:SG(シューティングガード)

CV:谷山紀章

 

浦の星学院2年。背番号8番。陽気で軽い性格だがバスケになると別。普段のチャラさは消え、正確にゴールを射抜く3ポイントシュートが武器の頼れるシューターとなる。こう見えて学業成績は優秀であり、通称「黙ってればイケメン」

 

 

 

新田 拓人(にった たくと)

 

身長:175cm

体重:66kg

ポジション:SF(スモールフォワード)

CV:佐藤拓也

 

浦の星学院1年。背番号10番。高校からバスケットを始めた初心者だが血の滲むような努力を続け、今ではシックスマンを務めるほどの選手に成長した。得意なプレイはダブルクラッチ。龍吾を超えることを目標としており、毎日のように1on1を挑んでいるがなかなか勝てずにいる。

 

 

 

海藤 蓮(かいどう れん)

 

身長:180cm

体重:70kg

ポジション:SF(スモールフォワード)

CV:置鮎龍太郎

 

龍吾の2つ上の兄。現在は東京の大学に通っている。高校時代は国体の選手に選ばれ、チームでもエースとして活躍していたが、彼以外の選手の完成度が高くなく最高で県ベスト16という結果に終わり、全国への切符を弟の龍吾に託した。

 

 

 

石崎 雅也(いしざき まさや)

 

身長:168cm

体重:58kg

CV:子安武人

 

30歳。浦の星学院に男子バスケットボールが出来た時に赴任してきた監督。担当教科は体育。高校時代に年齢別の日本代表候補に選ばれた経験がある。現役時代のポジションはポイントガード。とても生徒思いで部員だけでなく学校の生徒からも尊敬されている。

 

 

 

小松 源一郎(こまつ げんいちろう)

 

身長:187cm

体重:79kg

ポジション:PF(パワーフォワード)

CV:前野智昭

 

藤沼国際3年。背番号4番。全国でも名の知れたプレイヤーで強豪藤沼国際のキャプテンを務めている。一癖も二癖もある部員達をまとめあげており、チームメイトからの信頼も厚い。

 

 

 

竜崎 颯大(りゅうざき そうた)

 

身長:175cm

体重:64kg

ポジション:PG(ポイントガード)

CV:花江夏樹

 

藤沼国際2年。背番号10番。2年生にしてチームのエースを担う点取り屋で実力は全国区。龍吾をライバル視しており、彼を倒すために日々努力を続けている。キャプテンである小松と留学生のジョズとは固い絆で結ばれている。

 

 

 

ジョズ・フィリップ

 

身長:200cm

体重:99kg

ポジション:C(センター)

 

藤沼国際1年。背番号15番。セネガルからやってきた留学生。来日当初は何も出来なかったが、真面目な性格で日に日に成長を重ねて今はチームをインサイドから支える頼もしい選手になった。勉強にも熱心で日本食を気に入っている。

 



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