双獣の軌跡 (0波音0)
しおりを挟む

設定集


11話で独自設定を前書きに書きましたが、そのままにしておくと流れていってしまいますし、今後も小説に合わせて設定ができていくと考えられます。
ということで、設定集を作りました。
随時増えていきますので、たまに確認してみてください。
既存の設定は☆、新しい設定は★となっています。
また、独自設定以外にも設定があれば書いていきます。



 

 ★双子について

姉:アリエッタ

妹:シャルロッタ

お互いお揃いのペンダントを身につけており、そこには名前が掘られている。どちらも見た目はほぼ一緒のため見分けをつけることが難しいが、シャルロッタは髪の毛が少しだけ親譲りの金髪混じりとなっている。金髪混じりだと知らない人からすると光の反射で金髪に見えるだけとも取れるので、やっぱり見分けはつかない。最近お揃いのぬいぐるみを持つようになったせいで更に見分けが(ry

アリエッタは攻撃譜術と魔物の使役の後衛型、シャルロッタは爪と補助譜術を中心に戦う前衛型。

・0~7歳

 →ライガクイーンの元で魔物として育てられる

・8~14歳

 →被験者イオンの元で導師守護役としてすごす

・15歳~

 →七神将となる

 

 ★被験者イオンとの関係

イオンからしてみれば、ペットであると同時に自分だけを慕ってきて自分を守るために強さを身につけていく可愛い守護役。名前が長くて呼びにくいから、と〝アリー〟〝シャル〟と呼んでいた。双子は3人の時だけの呼び名だと理解しており、人前では「アリエッタ」「シャルロッタ」とフルネームでお互いを呼び、戦闘などで短く呼ぶにしても「エッタ」「ロッタ」としている。シャルロッタの一人称は別として、被験者イオンから付けられた愛称は今現在は双子以外誰も知らないし呼んでいない。

 

 ★七神将について

シャルロッタも一員のため、六神将ではなく七神将で。

第一師団:師団長【黒獅子ラルゴ】。

第二師団:師団長【死神(薔薇)ディスト】。

第三師団:師団長【双獣】…【妖獣アリエッタ】と【猛獣シャルロッタ】。

第四師団:師団長【魔弾リグレット】。

第五師団:師団長兼参謀総長【烈風シンク】。

特務師団:師団長【鮮血アッシュ】。

なお双子は、聞けば答えてくれるし遊んでくれるシンクとアッシュに懐いており、ディストは色々知っているお父さんな感覚。この3人はよっぽどの事がなければ双子がお互いを装っていても見分けてくれるから好き。他の人は隠し事ばかりで自分たちにあまり教えてくれないから仲間ではあるけれど好き…ではない。

 

 ★魔物を倒した時について

魔物を倒すと音素に還るが、それは中途半端な倒し方をされた場合。

これは、少しずつHPを削り多くの傷を与えて倒した魔物は傷口から音素化し、一瞬で命を奪うように一気に命を刈り取った場合は音素化しない、ということです。

じゃあ、高レベル時に一瞬で倒す時はどうなるのかって言うのは「小説だから」でお察しください。

単に魔物を餌とする場合、身が残らないで全部音素化してしまうと餌にできないな、と思ったために設定しただけです。普通の動物がいるんじゃないか、とも考えましたが、この小説ではいないということで。

 





私も書いたことを忘れないようにしなくては…
ここに書かれたものは、小説ないすべてに適応されるとお考え下さい。
では、また最新話でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

原作前
1話 幸せな日々




pixivでものんびり更新しますが、こちらに投稿した方があってる気がして投稿を決意しました。

本編前…どころか、アリエッタの生まれた頃から始まります。

タグにもあるとおり作者はゲーム未プレイですが、小説版・プレイ動画・原作沿い二次小説・資料集は読み込んでる不思議なことになってます。
パーティメンバーが好きになれなくて、どうしてもプレイできなかった……!!←
そんな作者の作る話なのでおかしい所などあると思いますが、気長にお付き合い下さい。


──ある、ひとつの島での出来事。

島とはいえ、いくつかの街を、村を形成する豊かな土地。

そんな街や村から離れ、木々に囲まれた場所にある小さな家の海を臨む庭に、ひとつの家族が暖かでゆったり進む午後のひとときを過ごしていた。

桃色の髪の女性と金髪の男性が寄り添い、女性は布に包まれた何かを愛おしげに抱きしめている。

 

 

「……うー?」

 

「…あーぅ、きゃぁ」

 

 

静かな空間に響く、赤子の声。

母親と思しき女性の腕の中には、布にくるまれた桃色が二つ、見え隠れしていた。

何を言っているのか全くわからない声を出しながらきゃっきゃと笑う赤子2人に、夫婦にも自然と笑みが浮かぶ。

 

「今日もいい天気。事件も何もないし、ユリア様に感謝しないと」

 

預言(スコア)を信じていれば大丈夫さ。ここで、家族4人で、ずっと一緒だ」

 

預言(スコア)』。

それは、この世界では絶対視されている……未来を綴った必ず当たる占いのようなもの。

それを信じていれば、信じてその通りに行動していれば、幸せに生きられるのだと誰もが信じている。

もちろんこの夫婦も例外ではなかった。

 

「──あら、2人とも寝ちゃったのかしら?」

 

「たくさん寝て、大きくなれよ」

 

 

「ゆっくりおやすみ、…………アリエッタ。シャルロッタ。」

 

 

幸せそうな夫婦。

 

安らかに眠る双子。

 

それは、平和な時が終わるまでの穏やかな時間だった。

 

 

 

───ND2002、ホド島が崩落───

 

───ホド諸島が一つ、フェレス島がその余波による津波により、海へと沈む───

 

───生存者は、……絶望的───

 

 

 

『──────!』

 

 

 

………な、はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森には多くの魔物が存在する。

弱いものから凶暴なものまで様々な個体がいるが、その中にクイーンを頂点とし、統率された群れで暮らしているライガという魔物たちがいた。

実質この森を支配しているといってもいいこのライガたちは、他の魔物はもちろん、滅多に現れない人間からも恐れられていた。

そんな群れに、数年前からある変化が起きていた。

 

 

『────、──』

 

「あー…う!」

 

「がぅっ!」

 

 

一番大きな体を持つ、ライガクイーン。

そのライガクイーンへ数頭の幼獣とともになにかが擦り寄り、そして魔物の鳴き声とは違う声が2つ響いていた。

しかし、敵対しているわけでも、怯えている声でもない。

まるで、言葉を交わしているかのようにその場に響いている。

その声の主は…2人の人間の少女たち。

1人はは桃色の髪、もう1人は金髪混じりの桃色の髪をしていた。

 

 

そう、彼女たちは生きていた。

フェレス島の唯一の生き残りとして。

 

 

あの津波によって、当然姉妹ら家族も飲み込まれたが、奇跡的に幼子2人は浜へ打ち上げられ、偶然ライガクイーンに拾われ、命を繋いだのだ。

姉妹は、姿形は人間であるにもかかわらず、魔物として育っていた。

育てたのがライガクイーンだからということもあるだろうが、生きるためにその環境に適応したからとも言えるだろう。

ある時はライガたちに連れられて狩りに向かい、ある時は幼獣とともに体を休める。

毛繕いや、体を清潔に保つ方法も学んだ。

2人は群れに溶け込み、その群れも彼女達を大切な家族として暮らしていた。

 

 

 

だが、彼女たちの幸せはまたもや崩れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、俺、やばいもん見ちまった。森の中で、魔物と一緒にいる幼子を…」

 

「はぁ!?魔物と!?なんで助けてやらなかったんだい!」

 

「いや、保護しようにも、森の中に入っちまって……流石に武器も何の用意もなしに探すわけにも行かないだろう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……幼子……それは、おもしろい」






今回は、フェレス島~ライガとの暮らしまででした。

もうちょっと長いほうがいいかとも思いましたが、こう、謎を残す終わり方の方がいいのかなと(バレバレだと思いますが)。
下書きを進めているのですが、話が進む事に長くなっていく不思議……読みやすくなるよう、努力します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話 シンニュウシャ


前回の最後に出てきた【あの人】が、暗躍どころか表に出てきます。
戦闘シーンがものすごく難しかったです。
鳴き声…え、そんなにレパートリーないんですけども;;

原作でもあの人が保護した(拾った?)とは言ってましたが、ライガの元で育ったアリエッタを保護って……しかも、統率された一つの群れから連れていくって、そう簡単に出来ることじゃない気がするのですよね。
確かイオン様とはじめて出会った時も言葉は通じなかったはずですし。
うんうん唸った結果が今回のお話です。
作者の想像なので、気楽に呼んでくださいね!




 

──ピピピ……チチッ──

 

 

 

 

「…?……ふぁぁ……」

 

 

朝。

日が昇り、鳥のさえずりが響き始め、もそりと小さな影が体を起こす。

それは桃色の髪の少女で、そのまま傍らで眠る金髪混じりの方の体を軽くゆすり、覚醒を促す。

すぐに起きることができずに、もうちょっと、というように擦り寄る背中をを桃色はパシパシと軽く叩く。

ようやく体を起こせば、一つの大きなあくびをする金色。

大体先に桃色が目を覚まして金色を起こし、それから2人はじゃれるようにして母の元へと向かうのだ。

そして目を覚ました2人は朝の森を駆け、ライガたちと共に一日を過ごす。

 

いつもと変わらない日常。

この日も、そう過ごすつもりだったのに。

 

 

 

──ザッザッザッ…──

 

 

 

『!!がるるるる…』

 

 

先に近くのライガたちが普段あまり聞かない足音に気がつき、低くうなり出す。

森の外には人の住む場所がある。

しかし幼獣は人間の肉を好むと言われるライガが住むこの森には、滅多なことがなければ人間は近づかない。

そもそもライガが人間の肉を好むと言われているのも人間が言い出したことであり、森には彼らが餌とする魔物が多く住むため彼らが必ずしも人肉を好むとはいえないのだ。

それは共に暮らす姉妹が証明していると言ってもいい。

……それを、彼ら(ライガたち)は理解しているのだ。

しかし確かに聞こえた足音、草むらをかき分ける音。

警戒するライガの兄弟達を見て、自然の中で育った姉妹もまた鋭くなった感覚で侵入者の気配を察する。

 

 

 

「ほう…ライガと暮らす幼子…本当に小さいな」

 

 

 

それは、姉妹にとっては物心ついてから初めて間近で対峙した人間だった。

自分たちと比べて大柄で二本足で立ち、何やら色々身につけている──服なんて、少女たちにわかるはずもない──人…否、彼女らにとっては侵入者。

先頭を歩く人物の後ろにはゾロゾロと同じような格好をした兵士たち(シンニュウシャ)が並んでいた。

 

 

がるるるるるっ!(ここへなにしにきた!)

 

うぅー…がうっ!(おうちに、はいるな!)

 

「……獣同然、か。人の言葉は通じないだろう」

 

ヴァン(・・・)様、どうされますか」

 

「村人の話を聞く限り、この幼子らがライガと暮らして数年がたっていると考えられる。早急に保護をしよう」

 

「はっ!」

 

 

それぞれ武器を構え始める兵士たち(シンニュウシャ)を見て、ライガ側も戦闘態勢をとる。

それを真似るように、姉妹も警戒の体制をとる。

先ほど『ヴァン』と呼ばれていた男が手を上げると、兵士たちが声を上げながら斬りかかってきた。

 

「はあぁぁっ!」

 

『ガルッ!!』

 

「ぐあ…っ!この…!」

 

「引くな!所詮は魔物だ!」

 

姉妹は構えてはいるものの、戦闘には参加していない。

(ついでに指示を出している(ヴァン)も、だ)

それは保護しようと善意で動く人間にも、家族を、仲間を守ろうとするライガたちにもありがたかった。

人は剣を振り上げ斬りかかり、時には譜術を放つ。

ライガはその鋭い爪と牙で戦い、一部の個体が雷撃を放つ。

しばらく戦闘が続き、ライガにも人間にも傷が増えていく中、一人の兵士が足を傷つけたライガに斬りかかろうと剣を振り上げた。

……が。

 

「、がぅっ!」

「うるるっ!」

 

『…!ガァァアァアッ』

 

「ぎゃぁぁっ!」

 

そのままではそのライガは絶命し、音素に還っていただろう。

しかしその直前に桃色が、金色混じりが声を上げると、狙われていたライガがその場から飛びのく。

そして完全に背後をとっていたはずの兵士に鋭い爪を突き立てたのだ。

 

「……!なんと、魔物と意思疎通ができるのか…?!…これはお前達だけで手に負えんだろう。

……私が出る、下がれ。

(これは何としても、連れ帰らねばならん)」

 

「……!…うー、がうっ!」

 

「…!」

 

それを見ていた男が目の色を変える。

今まで後ろで指示を出すのみだったのに、自らも剣を抜き前へと出てきたのだ。

明らかに今までの兵士たちとは違う何かを本能で感じ取ったのか、それをみたライガたちは一層気色ばむ。

姉妹は姉妹で、警戒の唸り声をあげ、姿勢を低くしていた。

金色混じりの少女が近くのライガに何やら話しかけると、そのライガは森の奥へと駆け出していった。

 

 

「…ゆくぞ!」

 

『ガアッ!』

 

『ギャンッ!』

 

 

先程までの兵士と違い、隙がなかなか見つからない(ヴァン)

次々に倒れていくライガ。

音素に還り、消えていく双子にとっても群れにとっても大切な兄弟、友だち。

それでも、姉妹を、他の仲間をかばいながらも立ち上がる。

しかし、ついに姉妹へと男の手が伸ばされた。

 

「さぁ、大人しく…」

 

 

その時、

 

 

「うるるっ!…あーっ!」

 

バチンッ!

 

「っ!?」

 

桃色の少女へと第六音素が集束し、伸ばされた男のそばで弾けた。

譜術……しっかりした術にはなっていないが、確かに光の音素を操ったのだ。

よくよく見れば、金色の少女にも第一音素─闇─が集束しつつある。

姉妹にとっては母であるライガクイーンの元で学んだ雷撃を真似た攻撃のつもりだったのだが、男には予想以上の収穫になっていた。

 

 

「(魔物と意思疎通できるだけでなく、音素を操る譜術士としての才もある……ますます、ほしい!!)」

 

 

姉妹の放つ音素の塊をものともせずに近寄る男。

訓練しているわけでもない少女たちの攻撃は、譜術防御力の高い男には太刀打ちできるほどの威力はなく…ついに、捕えられてしまった。

つかみあげられジタバタと抵抗するふたりだが、首筋に落とされた手刀により昏倒する。

傷つきながらも、姉妹を連れていかせないと威嚇するライガたちをいなし、男と、その部下と思われる兵士達は姉妹を連れて森をあとにした。

 

 

「(ん?この幼子の首にかかる譜業は……ペンダントか?)」

 

 

ぐったりとした姉妹を抱えた男が、気づく。

野生として暮らしてきた少女たちの髪はかなり伸びていてすぐには気が付けなかったのだが、何もまとわない幼子の首になんらかの譜業が下がっていたのだ。

 

それは、今は亡き姉妹の両親が姉妹に贈った最初で最後のプレゼントだった。

 

あとでダアトの譜業博士(ディスト)にでも見せようと、ペンダントはそのままに歩みを進めた。

 

 

 

 

 

ライガクイーンが金色に頼まれた手負いの同胞(ライガ)からこの知らせを受け、戦いの場に来た時には既に全てが終わり、姉妹は連れ去られた後。

何頭かの同胞を失い、娘として育ててきた姉妹をも連れ去られライガクイーンは一つ、嘆きの声をあげる。

それは森を響き渡る、広がる悲しい叫びのようだった。

 

 

 

 

こうして。

ライガクイーンの元で過ごして7年。

姉妹は意図せずして外の世界へと出ることになったのである。





幸せな7年間~ヴァンによる保護、もとい誘か…んん゛っ…人間の世界への誘いまででした。

最初はライガたちとの暮らしも詳しく書こうと思っていたのです。
しかし、文字を打っていくうちに
『がるる』「わん」「うー?」『ぐるるるる』『ガウッ』
……な、鳴き声しかない←
断念しました。
次はあの人との邂逅。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話 出会い

元々作ってあった下書きの勢いのままに投稿。
今回はほとんど公式の外伝と同じではないかと思います。

実は作者、外伝を読んだのは本誌に掲載された1回のみ。
つまり公式設定うろ覚え←
きっと何かしら間違っているでしょうが、そこは私の想像で補ったとでもします。…させてください。


ND2009

 

「───様、少々お話が…」

 

「はい。……すみません、少しの間席を外してくれますか?」

 

「しかし、護衛としてお側を離れるわけには…!」

 

「大丈夫です、だって、来訪者は─────ですよ?」

 

「……わかりました。では、お部屋の外で待機しております。何かありましたらお声がけ下さい」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……失礼します、───様」

 

「アレの報告?どうなの、状況は」

 

「今回のも劣化が見られるため、失敗かと」

 

「はぁ……これで2体目。本当に上手くいくのかい?その計画」

 

「……いかせてみせます。それよりも、今日お話したいことは別にありまして」

 

「なに?」

 

「……例の、森で見つかった少女たちのことで」

 

「そういえば拾ってきたんだっけ?……でもそれって誘拐じゃない?」

 

「……とりあえず暴れ回っていましたので、地下に隔離してあります。私の管轄で預かっていますが、ゆくゆくは訓練し──」

 

「会える?」

 

「──て、……は、……それは、」

 

「森で育った、預言を、…何もかも知らない子どもなんだろ?会ってみたい」

 

「いえ、しかし……」

 

「会ってみたい」

 

「……………………、…………………はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは……」

 

「ガルルルルルルッ!!!!」

「グルルルルル…っ!!!!」

 

「桃色と、桃色…いや、金髪混じりかな?コレってアレ(・・)と同じなの?」

 

「いえ、構成音素を調べさせましたが第一から第六音素が含まれていたため、アレ(・・)とは別物です。アレ(・・)は全て第七音素で構成されますから。かなり珍しいですが、双子……というものなのでしょう。片方には第七音素の素質すらありませんでした。」

 

「……そう」

 

 

キィィィ……

 

 

「っ!────様!簡単に近づかれては危険です!」

 

「……っ!」

「ガルルルッ!!!」

 

「…うっ!」

 

「────様!」

 

 

 

「…こいつら、……本当に何も知らないんだ」

 

「ーーーッ!?」

「……うー…っ」

 

「────様、お怪我は!?」

 

「こんなもの、大したことないよ。それよりも……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつら、僕のペットにするよ。構わないだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗教自治区ダアト。

そこは預言を詠み人々を導く世界的な宗教団体で、預言(スコア)を残した始祖ユリア・ジュエと聖獣チーグルを象徴とする、ローレライ教団の総本山。

最高指導者は導師。

歴代の彼らは世界平和の象徴とされ、敬意を払われてきた者。

 

そのローレライ教団の次期最高指導者である僕、イオンの部屋に新たな住人が増えた。

 

 

「……ふーん、似合ってるじゃないか。アリエッタ、シャルロッタ」

 

 

僕の「ペットにする」発言の後、姉妹は隔離されていた場所から出され、身支度を整えさせられた。

(仮にも僕のペットなんだから、それなりの身なりをしてもらわないとね)

体を清め、髪や爪なども整え、服をまとい…見た目だけは普通の人間らしくなった。

そう、……見た目だけは。

 

「うぅー……」

「………………(ピリ)」

 

「って、ちょ!着たそばから破らないでよシャルロッタ!」

 

森の中で育った2人。

赤ん坊の頃はまだおくるみとかの布1枚くらいあったかもしれないけど、成長すれば着れるはずもない。

ライガとか魔獣が服を着るはずもない。

つまり2人にとっての普通は何もまとわない、裸であること。

……苦労して着せた服も既に嫌そうだ。

 

 

余談だが、この2人の身支度を手伝ったのは導師守護役である。

導師(僕の代わりにエベノスがしてくれた)のご命令とあれば…!と意気込んで取り掛かったが、赤ん坊とは違い自我が形成されているものの、人間としての生き方を知らない2人にかなり苦戦したらしい。

さすがに水浴びはしたことがあるようでお風呂にはそこまで抵抗されなかったが、お湯に初めて触れたときは逃げ回っていたのだとか。

全てをやり終えた導師守護役には疲れが見えていたものの、成し遂げた達成感はかなりあったのだそうだ。

 

閑話休題

 

 

 

「まったく……手のかかるペットだね」

 

 

僕は2人に近づく。

2人は服を引っ張るのもそこそこに警戒をあらわにして、うなりながら後ずさる。

僕は気にせず近づく。

2人は後ずさる。

僕は…と、この繰り返しで姉妹は壁まで追い込まれてしまった。

もちろん気にしない僕は……っと、これ以上は余計警戒持たれて終わりだね。

 

 

 

ポン

 

「っ!」

 

「アリエッタ」

 

ポン

 

「…っ?」

 

「シャルロッタ」

 

 

 

「これが、君たちの『名前』だよ」

 

 

 

それぞれの名前を呼びながら頭を撫でる。

姉妹が首から下げていたペンダント。

自称・薔r…んん゛っ……死神の研究者(ディスト)はフェレス島の沈没から7年の間壊れることのなかったコレを嬉々として調べていたが、なにか特別な仕掛けがあるわけではなかったようだ。

強いていえば響律符として譜術攻撃力に恩恵がある程度。

 

しかし、それとは別にあるものが残されていた。

それが、名前。

桃色の髪の娘には「アリエッタ」

金髪混じりの娘には「シャルロッタ」

そう刻まれていたのだ。

 

 

「…と言っても、そもそも名前が何かわからないか。でも、僕が飼い主になるんだからきちんと人の色々を教えてあげる」

 

 

 

 

 

僕が導師となると決まって最初に詠んだ預言。

 

【僕は12の年に死ぬ】

 

正直なにもやる気も起きなかったし、だからこそヴァンの計画に協力してやることに決めたけど。

預言も人間の裏の部分もなんにも知らない純粋な存在。

…………まぁ、少しは楽しめそうかな。

 

 

 

「────これから、よろしくね」

 

 

 




イオン様との邂逅。
ここでの暮らしは次回に持ち越しです。

外伝を見て思いました。
イオン様、ペット扱いしてたのね…!
でも、愛情は注いでいたのでしょう。


追記

アリエッタと出会った時って、よくよく考えたらまだエベノスが導師ですよね…?
ということで、一部修正いたしました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話 新しい生活

本日私、誕生日を迎えました!
また一つ年を重ねて、やりたいことがやれるようになるのと同時に、やらなくてはいけないこともだんだん増えていきます。
体を壊すことなく、今年も過ごせますように……


今回の話はシャルロッタ目線からはじまります。
前話のあの時、こんなふうに思ってたんじゃないかなー…を想像して書きました。




 「これから、よろしくね」

 

 

 そう言われてから、どのくらいたったんだろう。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

【いつも】1人は嫌で、引っ付いてた。

【いつも】暖かい隣が心地よくて、離れなかった。

【いつも】ポンポンってしてくれるのを待ってから起きる。

【いつも】ママは『仕方ない子だね』っていいながら、顔をなめてくれる。

【いつも】みんなで森の中を走り回る。

 

 たくさんの【いつも】。

 それが、【いつも】じゃなくなった、あのひ。

 

 

 

 

 

 

 

 「がうっ!(おにいちゃん!)」

 

 「うーっ!(みんな!)」

 

 消えていく、消えていく。

 あの銀色の何かに斬られた兄弟は、友だちは、跡形もなく消えていく。

 キラキラ、キラキラ。

 きれいだけど、これは全部みんなでできてる。

 

 みんな、どこにいっちゃうの?

 

 さっきまで一緒にいたのに。

 さっきまで一緒に走り回っていたのに。

 いなく、なっちゃった。

 

 

 ………こいつの、せいだ。

 

 

 こいつが、みんなを消したんだ。

 なんにも悪いこと、してないのに。

 ただ、【いつも】と同じように生きてただけなのに。

 ただ、一緒にいたかっただけなのに。

 

 仕返しをしようと、ママが獲物に当てるような光のかたまりを、ぶつける。

 暗いかたまりをぶつける。

 熱いかたまりを、冷たいかたまりを。

 

 …でも、何もなかったようにこっちに来るこいつ。

 ………なんか、いやだ……っ

 近くにいたら危ないって、行きたくないって思うのに。

 

 いつのまにか、捕まえられて、たたかれて、何も、わからなくなってた。

 

 

 

 ……ママに伝えてって頼んだあの子は、ママのとこ、たどり着けたかなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたら、まわりは、暗い、なにもない所。

 でも、起きた時も一緒だったから、だいじょうぶ。

 誰もこない。誰もいない。

 来たって、誰も近づけたりしない。

 

 

 「ガルルルッ!!!」

 「グルルルッ!!!」

 

 

 それを無視してはいってきた。

 2人でいれるならそれでいいの。

 だから、ママに、みんなに教えてもらったとおり。

 

 

 「……うっ!」

 

 

 かみついた、のに。

 これで、いなくなると思ったのに。

 

 

 「こいつら、本当に何も知らないんだ」

 

 

 なんで出てかないの?

 

 

 「こんなもの、大したことないよ。それよりも、」

 

 

 なんで楽しそう、なの?

 

 

 「こいつら、僕のペットにするよ。構わないだろう?」

 

 

 なんで、……悲しい顔、なんだろう?

 

 

 

 ◆

 

 

 

 「そう、そこで……うん、上手」

 「……じょ、ず?」

 「うん、上手」

 

 イオンの部屋で生活を送るようになって3ヶ月。

 姉妹は少しばかり落ち着いてきていた。

 とはいえ最初は、姉妹の扱いについて詠師会は揉めにもめた。

 話は約3ヶ月前に遡る。

 

 まず一つ、ヴァンが自分の駒として教育しようと勝手に森から連れ出したこと。

 詠師会では本心は明かさず、『魔物に幼子が囲まれて森に入っていったのを見た、という村人から依頼され保護した』と善意でしたことだと済ませようとしたが、誘拐といえるのではないか、と議題に上がったのだ。

 しかしこれは保留となった。

 姉妹の故郷はフェレス島。しかしダアトの諜報部隊を動かしても、故郷がどこかなど知ることができなかったのだ。つまり、姉妹の存在を表す戸籍が不安定。加えて保護者代わりになるとしたらライガクイーンなのだろうが、彼女は人間ではないため、言葉の通じない許可をとるなんてことが出来るはずもない。

 真実はどうあれ『魔物に攫われた幼子を保護した』という名目で連れてきたが『身寄りがなく、預かった』と詠師会をまるめこみ、教団預りとすることに決まった。

 

 問題になったのはここからだった。

 最初は、ヴァンの寄越した(「自分が勝手に連れてきたんだから、ペットにするとはいえまずはお前が責任を取れ」という、イオンからの命令により派遣された)部下が世話や教育をし、空いた自由時間をイオンと過ごす(もちろん護衛付き)ことにしようとした。もちろんヴァンも顔を出せる時は部屋へ行く。こうすれば導師となる身のそばに得体の知れない存在を近づけても危険から守れるし、且つペットと過ごしたいという願いも叶えられる。妙案だと誰もが思ったが、彼らは忘れていた。

 

 姉妹の大切な存在を屠ったのは、他でもないヴァンとその部下だということを。

 

 ヴァンが部屋に来る。

 →姉妹そろって威嚇&姉妹の周りに浮かぶ音素のかたまり。

 =それ以上こっちに来るなら攻撃するぞ!

 

 部下が部屋に来る

 →一見同じ制服、兜などで顔が隠されているのに部屋に入った途端に気づき以下同文。

 

 このままでは近づくことすらできないうえ、教育も進まない。それだけならまだしも、双子の世話を任された者の中に【人の言葉などわかるはずもないから何を言ってもわかりやしない】とばかりに双子を前にして暴言を吐くものまで現れる始末。

 確かに言葉はわかっていないし、伝わっていないのだろう。しかしその分ほかの感覚が鋭くなっているのか、感情の機敏に気がつくのか、悪意を向けたものに対してはそこらのものを投げたり噛み付いたりと暴れて抵抗を重ねる結果となった。

 

 どうしたものかと上役が頭を抱えている隙に、行動を起こしたものがいた。

 

 「──ですから危険です!!ヴァン様でも無理だったんですよ!?」

 「だいじょうぶですよ」

 「〜〜っ、イオン様ぁ……」

 

 そう、イオンだった。

 頭を抱える面々を一瞥すると、「では今度は僕がいってみましょう」とにこやかに一言言って立ち上がれば、さっさと双子のいる自室へと歩き出した。イオンの行動を理解するのに数秒遅れて詠師たちは大慌てすることになるのだが、我関せずである。

 

 「それに、ちょっと気になることがあるんです」

 「気になること、ですか?」

 「そう。ヴァンや部下は近寄ることすらできないと言っていましたよね?」

 「え、はい…そう仰られていましたが…」

 「では、なぜ僕達は平気だったのでしょう?」

 「?、と、仰いますと…?」

 「ヴァンやその部下ではダメだったようですが、僕は二人の頭を撫でることが出来ました。あなたたち守護役が近づいたとき……なにか被害を受けたことは?」

 「……あ……」

 「無いのでは、ありませんか?まぁ、多少逃げ回ったりはあったかも知れませんが…」

 

 さすがのイオンとて、凶暴な獣も同然の檻に身一つで入る気は起きない。当然止められるだろうし、自殺行為をするのも嫌だ。

 しかし、ふと思ったのだ。

 ヴァンとその部下達は部屋に入る前から姉妹に何かしら反抗的な態度をとられることに変わりはない。恐らく足音を聞き分けたり匂いで気づいているのだろうと思う。

 だが、それ以外の人物……イオン自身や食事やお風呂などを手伝う守護役の女性たちなどに対しては、唸り声をあげたり警戒するそぶりは見せるが過剰な攻撃をしようとすることは無いように感じたのだ。

 そこから、【あの双子はなにかしら区別をして態度を変えているのではないか?】と仮説を立てた、ということ。

 

 果たしてその仮説は正しかった。

 

 イオンが扉を開けると双子は同時に顔を入口に向け、睨みつけながらお互いに身を寄せあったが、特に攻撃をしようとしているわけではなさそうだった。それを確認するとイオンはスタスタと部屋へ入り、いすに腰掛ける。

 そして双子をのんびり観察をする。それだけだ。

 何も言わない、何もさせない、何も手を出さない。ただ、同じ空間に一緒にいるだけ。

 その日だけではなく、その日から毎日続けた。導師の教育を受けている最中でもあったため、勉強道具や回される書類などを部屋に持ち込まれることもあったが、イオンはかかさず双子の顔を見るようにしていた。

 どのくらい続けたか、双子がイオンとその護衛の部屋にいることに対してそこまで警戒をしなくなった頃。

 

 イオンは次の行動を起こす。

 以前名前を告げた時のように双子へ少しずつ近づくようにしたのだ。警戒の声をあげられたらそれ以上は行かない、それがなければ少しずつ距離を縮めた。

 そして約1ヶ月の間特に手を出さず、双子に対する悪意を見せることもなかったため、ほんの1週間ほどで警戒の声をあげられることなくそばに行くことに成功したのだ。

 

 「アリエッタ、シャルロッタ。僕の、名前は、イオンです。い、お、ん…」

 

 コンコン

 

 「イオン様、お食事です」

 「…、ありがとうございます。……食事を置いたら一度部屋の外へ出てもらえますか?」

 「……わかりました。お食事の毒味は済ませてあります。何かあれば、すぐお呼びください」

 「はい。………よし、行ったね。2人の分も、ご飯あるよ。ほら、ご、は、ん」

 「「…………」」

 「…見てるけどこっちには来ないか…いや、匂いはかいでるのかな?」

 

 このように物の名前などを話しながら見せる。椅子に座る。ご飯を食べてみせる。

 最初の頃は床に座り込んだまま動きそうになかったので床に食事を置き見ていると、手づかみや顔を皿に入れて食べていたために、なんとか人間らしい食べ方にしたいと一緒に食事をとる回数を増やすたびに2人は椅子に座ることを覚え、机で食事を取れるようにまでなっていた(この時はまだ手づかみ)。

 その日も机につき、食事を始めようとした時だ。

 

 「………」

 「なに?アリエッタ」

 

 アリエッタもだが、シャルロッタもじっとイオンの手元を見ていた。食べ物をとる時も、口へ運ぶ時も。

 

 「……あぁ、食器が気になるのか。一応2人用にスプーンを持ってきてもらってるけど…」

 「?」

 「……ス、プー、ン」

 「……ぷー…?」

 「…!……そう、スプーン。ほら、こうやって使う。そう…」

 

 先に手を伸ばすのはアリエッタ、その後にシャルロッタが続く。単語にもなっていない、たった1つの音でしかなくても反応が返ってきたことは大きな収穫だ。

 

 そんな日々を過ごすうちに物の名前や単語などを繰り返すようになり、今では見様見真似で同じことをしたがるようにまでなった。

 イオンが食事をとる時には双子も隣で食べる。

 イオンが書類仕事や勉強をする時は双子にも紙とペンを与えられ自由に書く。

 もともと魔物の間とはいえ自分の意思を持って伝え合うことが出来ていたのだ。ならばその意思を伝えるすべを与えてやればいい。同じことをすることで双子の今までの言語とオールドラントの人間の言語をすり合わせていく。今ではフォニック言語を勉強するまでになっていた。

 

 「…いー…」

 「ん?何、シャルロッタ。……ふうん、よく書けてるじゃん。えらいね」

 「……!…♪」

 

 イオンはできると褒め、頭を撫でてやる。できないと、怒りはしないがやり直しともう一度やらせた。双子は言葉ではまだ一致しなくても、撫でられる心地よさから「これはいいことだ」と判断し、同じことを繰り返す時は何かが違うのだと判断するようになった。

 どんな事でも先に興味を持つのはシャルロッタ、行動を起こすのはアリエッタだった。どうやらシャルロッタは好奇心は強いが行動に起こすのは苦手らしく、アリエッタはその逆であるようだ。

 順番に一つずつでも知識を蓄えていく2人を見ていてポツリとイオンは呟く。

 

 「……僕が君たちに教えられるのはいつまでなんだろうね」

 「いー?」

 「いお、?」

 「あぁ、ごめんごめん。なんでもないよ」

 

 

 いずれ、2人はイオン無しで過ごすことになる。

 

 

 「(その時までは、僕だけのモノ。

 その時が来ても、僕の代わりになんてあげるつもりない。渡すもんか。)」

 

 

 

 

 

 そんな思いを表に出すことなく、不思議そうにイオンを見つめる双子の頭を撫でてやるのだった。

 

 




終わりがうまく締められない…
これでちゃんとお話が終わっているように感じてもらえるといいのですが…;;

今回は双子とイオンが過ごす日常でした。
前半はいろんな感情や思いを言えますが、言葉を知らないためにところどころ抜けているものもあります。
例えば、「アリエッタ」の名前。
まず、名前という概念がないので呼べません。
他にもいくつかわざと書かなかったこともあります。
探してみてくださいね!←
答えは活動報告にでもあげておきます。


このお話の時点では、まだヴァンたち嫌われてます。警戒の対象です。
いつ、信じられるようにしよう…悩むところですが、ここまでで。

次回はまた、ネタがふってきたら更新します。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話 まもるもの

のんびり更新しております。
今回はほのぼのしつつ、なんとか少しでもヴァン師匠の株をあげてやりたいお話となっております。
きっかけ作りをしているだけで、なかなか双子が警戒を解きません…少しでいいから解いて、君ら…;;
書いていくとキャラたちが動く動く。
設定が生えていくことに焦りつつ、話をまとめようと必死です。
少しでも双子が可愛いと思ってもらえれば万々歳←

では、スタートです!







 「イオン、様っ!」

 「いお、サマっ!」

 「はいはい、どうかしたの?」

 

 双子がダアトへ来て約半年。まだたどたどしい話し方に加え文字を書く、ということに苦手はあるものの、ここへ来た当初に比べてだいぶ意思疎通が測れるようになってきた。2人はまだまだ積極的に学び知識を吸収して言っているため、これからもっと上手に言葉を使えるようになっていくだろうと期待されている。イオンについて部屋の外へ出る機会が増え始めたために一般教団員に接する機会も増え、最初詠師たちを困らせたような警戒心の塊だった態度はあまり見せなくなってきた。……逆に少しばかり人見知りが出ているのだが。

 

 コミュニケーションが取れるようになってくると次に困ることは双子の見分けである。シャルロッタの髪は桃色ベースに金髪が混じっているので2人とも桃色だとしてもすぐに分かるだろうと思われていた。しかし、双子が落ち着きを覚えたおかげで2人をよくよく観察できるようになると双子の見た目の違いは実はそれくらいなのだということが分かったのである。

 顔かたち、表情、身長、仕草、……それらが全く同じと言ってもいいぐらい見分けがつかないのだ。帽子などで髪の毛を隠してしまえばどちらがどちらか全くわからなくなってしまうだろう。ただ、双子は必ず2人で行動しているために見分けられなくともそこまで問題は無いので、大体は名前を両方呼ぶか「双子」「2人とも」などとまとめて呼ばれていた。

 ただし、それは【他人】といえるほど関わりを持たない者であるからで、ある程度関わりを持っていて双子が信用している者にとってはわかりやすい違いがあるのだという。違いに気づいてだいたい呼び分けできているのは世話をする守護役、そして必ず呼び分けられるのはイオンただ1人である。

 イオン曰く話す時では、アリエッタはたどたどしく言葉足らずも多いが文で伝えようとしているのに対して、シャルロッタはうまく話せないために単語が目立ち、代わりに言葉足らずのアリエッタの補足になる言葉を話すことがある。敬語が後付けになるのは2人とも同じらしい。動作で比べるとアリエッタもシャルロッタも自分から動くことはほとんどないが、初めて見るものや気になるものに興味を示すのはシャルロッタで、分からなくてもとりあえずやってみようとするのはアリエッタ。歩く時にも違いがあり、双子は手を繋いでいることが多いのだが半歩後ろで隠れるように歩くのがシャルロッタ、手を引き前を歩くのがアリエッタなのだとか。

 

 これらでイオンは何でもないことのように見分けているが、他の者の目にはここまで詳しく説明されても違いが全然わからない。双子もそれを理解していた。自分たちはよく似ている。それは大好きな片割れと同じところがあるのだという誇りであったし、見分けられないのも仕方が無いのだ、と。

 

 だが、イオンは見分けてくれる。周りが気づけない違いを必ずわかってくれる。何も出来ないでいる自分たちに対して悪態をつくこともなく、出来てもできなくてもずっと一緒に取り組んでくれる人。できたという報告に対し、思いきり褒めてくれる人。一緒にいたいと思える、思うことができた森の家族以外の人。双子は心の底から慕い、今もまるで親鳥と小鳥のようについてまわっている。

 

 「アリエッタ、できたから、もってきた、です!」

 「……シャルも…!えと…もじ、いっぱい、かいた…ですっ」

 「見せてごらん。……うん、アリーもシャルも、だいぶフォニック言語が分かるようになってきたね。あと少しであの本も読めるようになるんじゃない?」

 「ほんと、ですか!?」

 「…!やったぁ…!」

 

 頑張りを褒めてもらえて、嬉しそうに満面の笑みを向ける2人。最近イオンはアリエッタを「アリー」、シャルロッタを「シャル」と呼び始めた。

 

 「ねぇ、アリエッタ、シャルロッタ…って、長いよね?」

 「…?イオン様…?」

 「なが…?…ダメ、です?」

 「ダメじゃないけど…うん、やっぱり長いし……アリーとシャルでいいよね、うん。今日から僕、アリーとシャルって呼ぶから」

 

 という会話……というか、一方的な宣言があったのだという(居合わせた守護役談)。

 ただし、部屋の外にいる時には絶対に呼ばない。双子と信用できる者がいる時だけに留めているため、協力者であるはずのヴァンですら知らない事実だったりするのだ。双子にとってはイオンだけが使う、イオンがつけてくれた大切な愛称であった。言葉がうまく使えるアリエッタはまだしも、うまく話せないシャルロッタはイオンの呼ぶ「シャル」という愛称を一人称にし、お互いを呼ぶ時にも使うことがあるほどだった。

 

 

 コンコン

 

 

 「────お話中、失礼します」

 

 「「っ!!!」」

 「……チッ、2人は奥にいな。会いたくないんだろ?」

 「……はい、です」

 「……………、です」

 「…入ってきなよ、ヴァン」

 

 楽しく話していた(イオンはペットを愛でていた)時に突如響いたノックの音。途端に扉を睨むように見つめる双子を部屋の奥へやり、イオンはヴァンを招き入れる。

 

 「失礼します。……双子はいますか?」

 「…開口一番それ?今は、僕らの時間なのに」

 「……だいぶ、溺愛されてますね」

 「それがなに?なにか悪いわけ?」

 「………いえ。……とりあえず、双子と話をさせていただきたいのですが」

 「………………」

 

 自由時間=双子との交流時間とわかっていながら訪ねてきて、限られた時間であるのに自分から双子を取り上げようというのか。あからさまに嫌な表情を作りつつ、ちらりと奥へ視線をやる。目的が自分ではなく双子とわかったのなら自分が対応する訳にはいかない。あえて所有権を訴えて追い返すことも考えてはいたが。

 部屋の入口からは隠れた場所、イオンの視線の先では、双子が身を寄せ合いながらやり取りを見ていた。イオンの視線からどうやら自分たちをご指名のようだと悟り、顔を見合わせる。

 会いたくない、あいつは兄弟の仇。

 友だちの仇。

 奪ったくせに笑いながら話しかけてくるようなやつ。

 でも、イオンが困っているなら、出ていってもいい。

 言葉に出すことなくそうお互い結論づけると、部屋の入口へと足を踏み出す。

 

 「…イオン様…」

 「…いいのかい?」

 「……ん、いい、です」

 「…そう。…ヴァン、そっち…奥を使いなよ」

 「ありがとうございます」

 

 ヴァンは気づいているのか、いないのか……双子はかなり渋々、といった様子でついていく。そこは先程まで双子が隠れていた、一応人払いをせずとも公にしづらい話をしやすい場所だった。

 

 「よし、では……2人とも、ここでの生活には慣れただろうか?なにか不自由はないか?」

 

 「……べつ、に…」

 「……シャルも」

 

 世間話という体で場を明るくしようとでもしたのだろう笑顔で話しかけるが、2人は警戒を解くこともなく、一言二言しか応えようとしない。見たことのあるイオンとの差にたじろきながらもヴァンは本題へと入ることにした。

 

 「…ごほん、で、では、本題へと入ろう。お前たちが来てだいたい半年がすぎたが…イオン様はどのような存在か、分かるか?」

 「イオン様…?イオン様は、えらい人、です」

 「導師、……シャルと、アリエッタの、大切、です」

 「……まあ、いいだろう。そう、偉い人だ。偉い人だからこそ、守る者がいる。」

 「まもる…いお、サマ…あぶない?」

 

 イオンはえらい人。だから守るものが存在する。

 それは厳しい統率をするクイーンに対する他のライガの態度と同じだと双子は考えていた。トップを守るために周囲を固め、連携を取りそして確実に喉元を食いちぎる。時にはトップも参戦するがたいていは「お手を煩わせるわけにはいきません」、というやつだ。

 そんな話を持ち出すということは、イオンが危ないということなのだろうか。自分たちが知らないだけでなにか危険に晒されているのだとしたら…そんな考えが浮かび、少し話を聞こうと目を合わせる。最初よりも話を聞く姿勢になったところでヴァンは話し出す。

 

 「危ない時があるから、守る者がいる。そうだな、最近の話でいえば……導師は預言(スコア)を遵守することを教えとする、ローレライ教団の象徴だ。しかし、それをイオン様は改革なされようとされている。信じているものを否定するものが現れたらどうだ?それこそを否定しようとするだろう。イオン様は否定派の筆頭、だからこそ狙われるのだ。」

 

 「「…………???」」

 

 「………すまん、難しすぎたな。とにかくお前たちも世話になっている女の人たちがいただろう。あれが導師守護役(フォンマスターガーディアン)だ。あれらは導師を、ひいてはイオン様を守るイオン様のための護衛たちだ。」

 

 「ふぉん、ますたー…がーでぃあん…」

 

 導師守護役…正直あまりピンとくるものではないが、それになればイオンの役に立てるのだろうか?それに、自分たちは拾われただけ…役に立てなければ、いつか自分たちはイオンのそばから離れなければならなくなるかもしれない。もし、それになれば…ずっと、イオンのそばにいられるのだろうか?

 

 「アリエッタ、それになりたい、です!」

 「シャルも…!そしたら、いお、サマ…まもれる!」

 「…そういうと思っていたぞ。では、手続きを取らなくてはならないな…。その前に、…イオン様!」

 

 「呼ぶくらいなら、自分が来なよ。…はぁ、なんなのさ」

 

 「いお、サマ!」

 「イオン様!アリエッタたち、ふぉんますたーがーでぃあん、なる、です!」

 「……!……ヴァン!」

 「…なにか。…あなたにも都合がよろしいかと。ただペットとして手元に置いておく、というだけでは詠師たちは納得しません。しかし、導師守護役ともなれば大義名分として十分かと」

 「……ま、そうかもね。まだまだ勉強は必要なんだろうけど。……さて、ここに来たのはそれを言うためだけなわけ?」

 「は、あちらの事について……」

 

 イオンとヴァンが話している横で、双子はこれからへの決意を固めていた。

 今までも、きっとこれからも、自分たちを人としての居場所を作ってくれたイオンを守る。それができる存在になってみせると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから約1年半後。

 ND2011……導師エベノス死去。

 それに伴い、若干8歳であるイオンが導師となった。

 その導師の傍らには桃色のよく似た導師守護役が控えていたという────

 

 

 




アリエッタ、シャルロッタ、導師守護役に就任するまで。
今回でとりあえず、導師守護役編を終わろうかと思います。
次は少し飛んでイオン様の預言の年あたりを書こうかと考えています。
……なんとなく、導師守護役時代が思い浮かばないので…(ついでに、寄り道しすぎて厳しめに入るのはいつ!?になりそうなので)、こんな感じで行きます。

前書きでも書きましたが、予期せぬところから設定が生えます。
アリエッタとシャルロッタの違いも、お話を書いている最中にキャラたちが勝手に動いた結果です。
少しでも気に入って頂けるといいな、と思います。



と、設定の話が出たところで今のところの設定をば。参考にどうぞ。

★アリエッタ
主人公1。双子の姉で、見た目性格原作通り…ですが、今回妹がいるため、少しばかりお姉ちゃんらしいです。
先に歩いたり、安全を確かめるかのように先に試したり。どちらかというと口で頑張った後にどうしようもなくなって、いっぱいいっぱいになり手が出る派。なので、まだ我慢ができる子。でも、大切なものを守るためなら獣にだってなります。


★シャルロッタ
主人公2。双子の妹でオリキャラとなります。見た目はアリエッタとほぼ同じですが髪色が金髪混じり(メッシュが入るような感じです。なので、ほぼ桃色)なのが違いです。どちらかというとまだ獣よりで、言葉は単語をなんとか繋いで話します。文をうまく作れない分、単語はよく知ってる。まだ出てきませんが、魔物との意思疎通はシャルロッタの方が上手です。引っ込み思案なアリエッタより、さらに人見知りを発揮し後ろに隠れていることが多い代わりに、やると決めたら口より先に手が出ます。


★イオン(被験者)
このお話でようやく導師に就任。そして導師守護役として双子をそばに置きます。原作通り…少々(?)腹黒いですが、公の場ではレプリカイオンのように穏やかにしています。「アリー」と「シャル」の呼び名は、あとあと大事になるキーワードだったりします(今の時点で)。
とりあえず、与えれば与えた分だけ返してくる双子溺愛中。


★ヴァン
双子をダアトに連れてきて自分の駒として役立てようと思ってたけど、予想以上に獣としての仲間意識が発達していたせいで、絶賛嫌われ中。ただ、人としての居場所を得ること、導師守護役となることのきっかけになった人物でもあるので少しは挽回した…はず。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 お母様にご挨拶

いつの間にか、お気に入り登録者が11名様もいらっしゃって、驚きました。
ありがとうございます…!拙い文章ですが、楽しんでいただけるよう頑張ります!


今回の話は、導師守護役になる前……つまり、イオンも導師になる前です。

イオンの思いつきから始まります。



 双子が導師守護役(フォンマスター・ガーディアン)になると決意した日から1年ほど経った、ある日のイオンの私室にて。

 イオンは執務、双子は導師守護役であるための最低限の知識が詰め込まれた課題をゆっくりとしたペースではあるがこなしていた。若干文字の覚えがいいアリエッタの方が進んでおり、シャルロッタが苦戦していると教えている姿がみえる。

 

 

 そして、それはイオンの思いつきから始まった。

 

 

 「そうだ、ご挨拶に行かないと」

 「イオン様?」

 「ご、あー…さつ?」

 「シャル、ご挨拶ね、ご、あ、い、さ、つ。」

 「ごあーさつ!」

 「………ま、いいか」

 「あいさつ…だれに、ですか?」

 「誰って…二人のママに決まってるだろう?」

 「「!!」」

 「結局(ヴァンが)勝手に連れ出して、(ヴァンが)勝手にこっちで残ることに決めさせちゃったのに、何も言わないままなんてダメじゃないか。しかも、もう2年くらいママにとっては可愛い娘たちが行方不明なんだよ?」

 「…いお、サマ」

 「何?シャル」

 「シャルたち…ママ、あいに、いく…いいの?」

 「家族に会いに行くのに、ダメなわけがないだろう?」

 「「……!」」

 「いつでも行けるように、勉強がんばってね。課題が終わらないといけないよ?」

 「「が、がんばる!…です!」」

 

 ここ、ダアトに連れてこられてから、イオンのそばでは笑うことも増えてきた2人。それでも、ここまで本当に嬉しそうな笑顔を見せるのは初めてだった。

 双子は言われた通り机に目を戻し、未だ慣れないフォニック言語の書き取りに戻る。心做しか先程よりもペンの動きが良いようにも思える。

 

 「もっと早く提案できたら良かったんだけどね。でも、他の奴らを納得させる理由が必要だったし。……と、決まったからには準備しなくちゃね。僕の外出願いも出さないと…」

 

 楽しそうな双子を見てイオンも微かに微笑みを浮かべる。そして、確実に許可を(ぶん)取るための計画を立て始めた。

 

 数週間後。

 双子はイオンや他の導師守護役に出された課題をすべて終わらせた。後はおいおい学んでいけばいいだろう、と守護役長からのお許しも出て、嬉しそうに喜びあっている。

 そしてイオンは課題を終わらせたこと、導師守護役となる適性を見るという名目でヴァン以外の詠師から外出許可を得た。もちろん他の守護役を連れていくことが条件だったが。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 執務室にて書類を捌くヴァン。

 双子が導師守護役になると決めたことで教団に縛ることが出来た、と計画の進みに満足していれば突如部屋の扉が開かれる。

 そして、唐突に言われた。

 

 「双子のママに会いに行くから、これ休暇申請ね。じゃ、よろしく」

 

 書類を置き、すぐさま踵を返そうとするイオン。

 

 「は!?ちょ、お待ちください!あ、あの、イオン様。突然すぎます。それにお言葉ですが双子の教育がまだ」

 「もう終わらせたに決まってるだろう?」

 「(あの量を!?)……し、しかし、あなたは預言に詠まれた身、おいそれと許可など出せませ…」

 「他の詠師たちにはもう許可もらってるよ。それに僕について預言に詠まれてるなら代わり(・・・)がいるのは不味いだろ。それを推奨してるくせに僕の身を案じるとかなにいってんの?」

 「しかし…」

 「そもそもさ、勝手に連れてきたヴァンのせいで双子は帰れないわけだし。僕のペッ……じゃなくて、客人扱いのままなら帰れるのに導師守護役に推したのもヴァンだよね。……考えてみれば、全部あんたじゃん、原因」

 「(まだあの双子はペット扱いだったのですか…)」

 「じゃ、そういうわけだから。許可よろしく」

 

 怒涛の勢いで言いくるめるとさっさと部屋から出ていくイオン。

 少しばかり呆然としつつ置いていかれた書類に目を通せば本当に課程を終わらせ、適性を見るいい機会ということが書かれ、他の詠師らのサインもあった。

 

 「……まぁ、理由をつけて私も向かうとしよう」

 

 ヴァンは他の詠師からの許可を先に得れば自分への交渉が簡単だろうとイオンが考え、自分に先に持ってくればもっと楽に許可したのだが…などと思いながら許可証にサインした。

 実際はイオンがヴァンを後回しにしたのはワザとである。それを知らないのは…幸せなのだろうか。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 「まさか、魔物の方が道を開けてくれるとは…」

 「それか、追い払ってますね…ライガって、肉食だと思ってたのですが…」

 「アリエッタがライガを撫でてる!」

 「なに、これって、遠吠え…っ?………あ、あれはフレスベルク!?」

 

 いつもなら獣の声や木々のざわめきしか聞こえない森に、人の声が響く。

 まだ導師ではないものの、教団の規定通り導師守護役30人を連れてイオンと双子(ともしもの為の用心にと【なぜか】非番となってついてきたヴァン)はライガの森へとやってきていた。

 森に住む魔物たちにとってはイオン一行は侵入者。森の入口の時点で戦闘しつつの里帰りを覚悟していたのだが…

 

『ガルルルルルッ!!』

 「魔物です!お下がりください、イオン様!」

 「…まって」

 「シャルロッタ…!?」

 

 現れたのは1頭のライガ。いきなりの上級の魔物が現れ、イオンを囲んで警戒の体制に入る守護役とヴァンだったが、それをシャルロッタが制する。戸惑い、動きを止めたその間にアリエッタがライガへと近づく。

 

 「あ、アリエッタは何を…?」

 「えと、…み、てて…です」

 

 「…わんっ!」

『!』

 「うー…うるるっ」

『がうっ!』

 

 アリエッタがなにか鳴き真似をすると、唸りを収めたライガ。それどころか、アリエッタに背中を撫でさせ、じゃれあっているようにも見える。ふとシャルロッタにも目をやると、ニコニコとしながらアリエッタたちを見ていることから、人間には分からない会話を成立させ危険を取り除いたのだろうと察することが出来た。

 

 「……シャルロッタ」

 「!……そーちょ…なに、です?」

 「総長、だ。アリエッタのあれはなんだ?」

 「そーちょ!…えと、シャル、アリエッタ、あのコと……とも、ともだち?…です。こわくない、おしえた、です」

 

 一応確認すれば、友だちなのだという。シャルロッタは言葉を探しながら答える。

 少しして、アリエッタはライガを伴いながらこちらへと戻ってきた。襲う様子もないライガは、アリエッタに顔を擦り付けて甘えているようにも見える。

 

 「イオン様、このこ、ママのとこまでつれてってくれる…です。ほかの魔物も、よせません」

 「…!なら、シャルも、おてつだいする、です。いお、サマ。おそば、はなれても…いい、です?」

 「……いいでしょう。僕もあなた達がどこまでできるかを見るために来ています。いい機会です」

 

 そして、はじめの同行者たちの会話に戻る。

 ライガは一定の距離を開けながら先を進む。アリエッタはライガの隣を歩き、ときおり頭を撫でてやる。ライガが先導するからか、ときおり他のライガが草むらの影に見える時があるくらいで、敵意を持った魔物が全く寄ってこない。

 そしてシャルロッタはというと、一度大きく息を吸いこみ、「おおおぉぉぉん!」と、聞いたことのないような遠吠えをあげた。すると、上空から一体の魔物…フレスベルクが降りてきたのだ。周りが驚く中、シャルロッタはその魔物に抱きつくように頬ずりしていた。そしておもむろにその背に飛び乗ると、上空へと舞い上がった。

 こうして下をアリエッタ(とライガ)の警戒と案内、上をシャルロッタ(とフレスベルク)が警戒しつつ、クイーンの住む場所へと向かうことになったのだ。

 

 ◆

 

 「ママ!」

 「マー!」

 

 ライガクイーンが根城…住処にしている場所の手前でシャルロッタが地面に降り立ち、アリエッタと並ぶ。そしてライガの案内とともにそこへと足を踏み入れると……彼女は、いた。

 アリエッタとシャルロッタは再会した母親の元へと駆け寄り、ライガクイーンは立ち上がってゆっくりと双子へと近づく。双子の匂いを嗅げば、その顔を舐め、双子はくすぐったそうにしながらそれを笑って受け入れる。その光景は、完全に親子のそれだった。

 しばらく住処の入口で見守っていたイオンたちだったが、イオンはヴァンを伴いクイーンへと近づく。

 

 「クイーン、…アリエッタとシャルロッタのママ…ですね。僕はローレライ教団のイオン…導師となるものです」

 「…『二人を連れてきてくれて、感謝する。二度と会えぬものと思っていた』って、いってる、です」

 「そうですか……アリエッタ、そのままクイーンの言葉を教えてください。シャルロッタはクイーンに僕たちの言葉を伝えてください」

 

 イオンは人間の言葉を理解していてもうまく口にできないシャルロッタをクイーンへの通訳、人の言葉に変換して伝える役をアリエッタに命じる。命令され、自分のすべきことを理解した双子は、気を引き締める。

 

 「……今日は、アリエッタとシャルロッタをそろそろあなたへ会わせようと思い連れてきました。僕たちのところで、多くを学び、魔物としてだけでなく人間としての力をつけているところです」

 「……私はローレライ教団において主席総長をしているヴァンという。2年前のあの日、いきなり双子を連れ去ってしまい申し訳なかった」

 「……『なぜ、双子を連れ去った。我らは人間に仇なすことなく森の中のみで生活をしていたはずだ』、って、いってる」

 「近隣の村に住む村人が、魔物に子どもが襲われていると言われてな。その時はあなたに育てられているとは知らず、ただ、人間の世界へと返すために、保護しようとしたのだ。それ以外に、他意はない」

 「『大柄の人間、お前は隠していることがありそうだ。我らは嘘を好かん。……だが、人間の娘たちに人間として生きる道を教えてくれたことには礼をいう』…ママ、むずかしいことば、いっぱい…」

 

 ヴァンは頭を軽く下げ、後ろへと下がった。ただ、もしイオンに危険が行けばすぐさま抜刀できる位置にはいるが。何を言っているのか意味がわからないまま通訳しているのか、少しアリエッタが目を回しているが……話を続ける。

 

 「『して、お前たちは何をしたい。我が娘たちを返しに来たという訳では無いのだろう?』」

 「それは……」

 

 言葉に、詰まる。

 結果的に母親から、クイーンから娘を奪うことになったのにまた連れ出す許可を得なくてはならない。導師守護役にしたいと言って伝わるだろうか…少しばかり言い出すことにためらっていると、双子が話し出す。

 

 「……あのねママ、アリエッタ、守りたい人ができたの。」

 「シャ、シャルも!ライガの、いちぞく、の…おきて!」

 「守りたいものができたら、おのれのいのちをかけ、まもる…って」

 「シャルと、アリエッタ…いおサマ…まもりたい!」

 「イオン様が、はじめて、アリエッタたちをみてくれた、です。だから…」

 

 最初は森から連れ出され、警戒心の塊しか見えなかった2人。その2人が森へ帰ることよりも、イオンのそばにいることを選んだ。無理やり決めさせたようなものなのに、だ。ある意味孤独だったイオンに喜びの感情が湧き上がる。

 ここまで彼女達に言わせておいて、自分が黙っているわけにはいかない。イオンは前へ足を踏み出す。(後ろから危険だとか声は上がるが無視する)

 

 「ライガクイーン……僕はいずれ、導師となります。導師となる以上、危険がないとは言いきれません。そのため、僕を守護する部隊……導師守護役というものが存在します」

『…………』

 「……僕は、アリエッタとシャルロッタの2人を導師守護役として迎えたいと思っています。自然の中で、ライガの一族として育った2人にしかできない力があると、……そして、僕自身、彼女達にそばにいて欲しいのです」

 「「!!」」

 

 双子はそれを聞いて驚いたような様子を見せる。だって、導師守護役になると言った時…イオンはあまりいい顔をしなかった。勉強を見てくれている時は優しかったけど、なんだか後悔しているような、そんな顔をしていた。それでも恩返しをしたいと思ったから、双子はそばにいると決めたのだ。

 …そのイオンは、そばにいて欲しいと思ってくれていた。それは双子が初めて知ったイオンの思いだった。

 

 「もちろん、こちらへの里帰りもできます。……2人とも、クイーンに会うのを楽しみに、一生懸命頑張っていたのですよ」

 「『アリエッタ……シャルロッタ……これが、2人の人間としての名か。……お前なら信用できる。……娘たちを、我が同胞を頼む』……って、いってます」

 

 1歩、前へ足を踏み出すと頭を下げるような仕草をするライガクイーン。

 それに対し、イオンも頭を下げる。

 ライガクイーンの許可を得ることが出来たのだ。

 しばらく家族だけにしてやろうと、イオンと守護役、そしてヴァンは森の出入口へと足を進める。

 そして、森から出てきた双子は初めて見るような晴れやかな表情をしていたのだとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ママ、ありがとう…シャルたち、がんばる」

 「ママに、むれに、はずかしくないように。でも…さみしくなったら、またきてもいい、ですか?」

『…いつでも帰ってくるといい。人間だろうと、お前たちは私の娘に変わりない。ここが、お前たちの家だ。』

 「…!はい!」

 「……っ、いってきます、ママ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの、大柄の男……あれには、気をつけなさい……我が、娘たち……』

 





書き終わったあとに思いました。

ヴァン、ほぼ空気…笑←

今回の主役はイオンと双子とクイーンなので、まあいいかなとほっときます。

あともう1個、閑話で書きたい話があるので、本編更新はその後…になるかも知れません。
もう少しお待ちくださいませ。
では、今回はこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話 違和感


最初は前回予告したとおりにフェイスチャットから始まります。
魔物として生きてきて身につけた能力その1として、どうしても出しておきたかったんです…!
そして、思った以上にフェイスチャットのネタが少なくて、本編と合体させちゃいました。
では、どうぞ!




 

 

 フェイスチャット

 ※会話文のみ

 

 ~好き嫌い?~

 

 「イオン様、お食事をお持ちいたしました」

 「はい、ありがとうございます」

 「双子の分も一緒で…?」

 「ええ、いただきます。こちらの2つですね」

 「そうです。……では、失礼します」

 

 

 「アリー、シャル、食べるよ」

 「はい、です!……?」

 「………」

 「…なに、2人ともどうかしたの?」

 「…アリエッタ、これいらない…です」

 「…シャルも、たべたくない…です」

 「……え?…なんでさ?好き嫌いするなんてダメだろ?」

 「「……だって……」」

 「まったく……じゃあ、今日は食べなくてもいいから、次の食事は食べるんだよ。いただきま…」

 「……!だめ!」

(イオンを倒さない程度に飛びつく)

 「いおサマ、たべちゃ、だめ!」

(皿の上に勢いよく手を出す)

 「…なにを…!?」

 「これ、イヤなにおい、するです…!」

 「だから、だめ…!」

 「!?もしかして……!2人もまだ、口はつけてないね。……誰かいますか!」

 

 

 「イオン様!どうかされましたか!?」

 「この食事、毒味は誰が?」

 「は、……え、イオン様用のお食事はまだ届いていないはず…」

 「ということは、これは毒味も何もされていないもの、というわけですね」

 「!」

 「すぐにディストを呼んでください。それと、ヴァンにも報告を。……毒が入っている可能性があります」

 「かしこまりました!」

 

 

 「………先程食事を運んできたのは……」

 

 

 

 

 

 ~好き嫌い?2~

 

 「イオン様」

 「……ヴァン。どうだった?」

 「微々たる量ではありましたが毒物が。ディストによるとあの量の摂取で大事にはなることはありませんが、身体に蓄積され、最悪…」

 「そう」

 「イオン様のお部屋へ食事を運んだ者は、やはり過激派の教団員のようで……すぐに捕らえることが出来たので、詳しい目的を吐かせている最中です」

 「……そう」

 「ご無事でなにより……よく、お気づきになりました」

 「……双子さ」

 「?」

 「双子が2人して食べるのを拒んだんだよ。最初は好き嫌いかとも思ったんだけどね。『イヤなにおいがする』んだってさ」

 「…………凄まじい嗅覚ですね、あの毒物、一応無味無臭のものだとディストは言ってましたが……」

 「野生の勘…って奴なのか、はたまた本当に匂いを嗅ぎ分けたのか、だね」

 

 

 「とりあえず、双子が気づいたってことはディストには黙っといてよ。食事を持ってきたヤツが怪しかったから、とでも言っといて」

 「……それは構いませんが、なぜ…?」

 「あいつなら、『無臭のものに気づく嗅覚を調べたい』とかいって僕の可愛い双子を実験体にしそうだから(キッパリ)」

 「……承知しました」

 

 

 

 

 ~ともだち~

 

 「イオン様……」

 「だめ、ですか…?」

 「うーん……」

 

 

 「イオン様。どうされたのですか?」

 「あぁ、ヴァン。実はさ…」

 「そうちょう、アリエッタたち、ママにゆるしてもらいました」

 「ともだちも、いいって、いってる、です」

 「「ダアトでも、いっしょにいたい…です…」」

 

 

 「……どういうことだ?」

 「つまり、双子の友だちや家族の魔物が双子に協力してくれるってこと。そのためには討伐って事態にならないよう立ち入りについて知らせなければならないだろう?それを僕の独断でやる訳にはいかないから困ってるのさ」

 「なるほど…、ただ知らせるだけでは教団中に話が行っても理解までは簡単に行かないだろう……魔物の部隊を作る、というのも手ですな」

 「魔物の部隊…」

 「ライガの元で育ったために、魔物と意思疎通できる……ここでは他に追従を許さない能力なはずです。それを生かす場を作れば、見方も変わるのではないでしょうか」

 「……それで、いってみようか」

 

 

 「…なにより、あの能力を生かす場があれば……利用することもできるからな」(ボソッ)

 

 

 「…ヴァン、何か言った?」

 

 

 「────いえ、何も」

 

 

 

 

 ~おきて~

 

 「そういえば、2人……ライガクイーンに言ってた……掟、だっけ?あれ、他にはどんなのがあるの?」

 「…えと、『守りたいものができたら、己の命に代えても守りきれ』…の、ほか?」

 「うん」

 「えっと……『兄弟姉妹ができる時は、みんなで狩りに行く』とか『たくさん走れ』とか…」

 「『他の種族は従わせない、同じ立場のものである』、『毛づくろいは大切』……とか…」

 「……真面目なものから、不思議なものまで色々なんだってことがよくわかったよ。そもそも2人は毛づくろいどうしてたの?」

 「「…?こう…(お互いの髪の毛を鷲掴みにして…)」」

 「あー、いい、やっぱいい。せっかく綺麗に髪の毛まとめてるから、くしゃくしゃにしないの」

 「「…うー……はい」」

 「こういう揃ったとこを見ると双子だなぁ。普段は全然違うのに」

 

 

 

 

 「「「(いえ、違いがわかるのはイオン様くらいです)」」」←偶然見ていた守護役や教団員の皆様

 

 

 

 

 ───────────────────────────────

 

 

 

 イオンがを導師(フォンマスター)を継ぎ、双子が導師守護役(フォンマスター・ガーディアン)として働き始めて、いつの間にか2年半もの月日が経っていた。

 最初は士官学校を出たわけでもない、知識も守護役としての技量も仕事の要領も劣っている双子は、同じ守護役の仲間から嫌がらせを受ける時期もあった。

 無理もない。双子は7つになるまでは人としての教育を全く受けず、栄養も満足に取れない生活をしていたため心身ともに成長が遅れており、見た目通りの、もしくはそれ以下の幼さの物事しか分からなかったのだから。加えて守護すべき主であるイオンからの寵愛を一心に受け続けていたことも理由の一つだろう。

 しかし双子は技術も礼儀も知識も、周りの誰よりも劣っていても、誰よりも努力家だった。努力して、努力して、分からなければ尋ね、失敗しても二度繰り返さないように気をつけ、少しずつでも成長していき……そんな姿を周りに見せ続けていた。いつしか同僚達にも認められ、幼くてもそれを理由にしないで努力を惜しまずに何があってもイオンに尽くすその姿勢に双子の周りも自然と触発されはじめ、そんな空気を無自覚に作り上げた双子は守護役だけでなく多くの教団員からも頼りにされることが増えてきていた。

 また、導師守護役になると同時にヴァンの協力を得て結成した少数部隊…通称、『魔物部隊』のあげた成果が著しくよかったことも理由の一つである。

 

 「アリエッタ様!エンゲーブより、手紙を届けたフレスベルクが外に…」

 「はい!…『おつかれさま。預かるね』…えっと……こっちは総長、こっちは第二師団宛、です。届けるのお願いします、です」

 

 「シャルロッタ様、この街道に現れる魔物の討伐に何頭かお借りしたいのですが…」

 「…うん。じゃあ、シャルも一緒に行く。…いおサマ、アリエッタ、行ってきます」

 

 魔物部隊は魔物の中でも上級にあたるライガやフレスベルク、グリフィンなど双子の〝ともだち〟を中心にまとめた部隊で、人間は双子と他、魔物を畏怖せず受け入れた少数の神託の盾兵(オラクル兵)のみ……つまり〝ともだち〟の方が多く所属した部隊だった。主に鳩よりも早く大きな荷物を運ぶ運搬の仕事、ダアトの巡礼に使われる街道の安全確保などのために役立っていた。運搬も魔物討伐も双子のどちらかが同行すれば部隊の魔物達も立派に任務をこなすため、双子のどちらかが導師守護役が非番の時に指揮を執っていた。これによって非番の時でも仕事に駆り出されるとはいえ、双子にとっては家族や友達と過ごす心休まる時間でもあり、月に1度から2度ライガクイーンの元へ顔を出す時間をとることが出来たためにイキイキと参加していた。

 ただ魔物を受け入れられる一般市民はそういるはずもない。そのため、近くの森や裏道などを使い姿を隠す配慮をしながらの任務であり、せいぜいダアト内外での知名度は偶然目にした人々の「ダアトには魔物と意思疎通のできる少女たちがいる」程度の噂が流れる程度であったが。

 このように導師守護役と魔物部隊の二足のわらじ(後者は本人たちにとって家族や友だちと一緒に過ごすついで扱いだが)をこなし、大好きなイオンとの時間をより近くで楽しく過ごしていた。

 

 「イオン様」

 「いおサマ」

 「「アリエッタとシャルロッタはイオン様の手足です。だから、…ずっと、ずっとおそばに置いてくださいね…!」」

 「うん、……そうだね、大切な僕の守護役。……本当に、ずっといられたらいいね…」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 「イオン様、今日のお仕事です」

 「あぁ、アリーか。……もう、傷はない?」

 「…はい、平気、です。……ごめんなさい、イオン様。アリエッタ、イオン様に攻撃、させちゃった…」

 「気にしなくていいんだよ、シャルもよく動いてくれたんだから。後でお礼を言わなくちゃね」

 「でも…」

 

 その日、イオンの執務室にはアリエッタが守護役としてつき、シャルロッタは魔物部隊へついていた。執務室にいるアリエッタの顔色は暗い。先日、イオンと双子はグランコクマでのピオニー陛下の即位式の帰りに導師の思想に理解を示さない神託の盾兵から襲撃を受けたのだ。そばにいたアリエッタが身を呈してイオンを守り、同じくそばにいて飛び出そうとしていたシャルロッタは、アリエッタを見るやすぐさま目標を変え襲撃相手に飛びかかったのだが、普段譜術に重きを置いた戦術でなかなか武器を振るわないシャルロッタは吹き飛ばされ……可愛がっている守護役(ペット)を傷つけられた怒りから最期のとどめをイオンがダアト式譜術で刺したのだ。本来ならばイオンの力を借りずに守護役のみで片付けるべきだったのだと双子はかなり落ち込んでいた。

 

 「僕は実際に助けられてるし、それに2人がいたおかげで襲撃者に隙が作れたんだ。むしろ……ッ!ゴホッゴホッ!」

 「!イオン様!…あ、…だれか…!」

 「問題ない、すぐに治まるから…呼ばなくて、…ゴホッ!」

 「…っ…イオン様……」

 

 突然イオンが咳き込み、アリエッタは慌てて医者を呼ぼうとするもイオン自身に断られ、近くに寄って背中をさする。最近、こんな日が増えてきていた。イオンの体調が優れない日が増え、ベッドに伏せることもしばしばあり……それでも、医者でもない双子には何もすることが出来ず、心配になりながらもそばに控えている事しか出来なかった。自分のことを本心から心配するアリエッタ……ここにはいないがシャルロッタのことを思い、小さく笑みを浮かべる。

 

 「ありがと、治まってきたよ。………やっぱり、この子たちは、僕のものだ。アイツにはあげたくない、……渡せない、な……」

 「イオン様…?」

 「……なんでもないよ。さぁ今日はまだ大丈夫だから、…ほら、スケジュール教えて」

 「………はい、です」

 

 イオン様が心配、でも大丈夫だと言われれば信じるしかできない。双子の片割れにも早く伝えよう、次のお休みにはイオン様に早く元気になれるように、…寂しくないように、なにかプレゼントを考えよう。アリエッタはそんなことを考えながら、仕事へと入っていった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 「イオン様!」

 「いおサマ!アリエッタ、いおサマが、大変って…!」

 「あぁ、2人とも。もう平気ですよ、心配かけましたね」

 

 結局あの日から数日後、イオンはベッドにふせ、守護役も双子と言えども私室へ入れない日が続いた。病気で弱っているところを見せたくないし、すぐに戻るから。そう言われて、信じて待っていたのだ。……待つしか、なかった。

 そして数ヶ月。待ち望んだ今日イオンの面会謝絶がとけ、双子は知らせを聞いてすぐ一目散に飛び込んできたのだ。一応病み上がりでまともに動けないためだろう。イオンのそばには先に部屋へついていた守護役やヴァンが控えている。

 

 「イオン様、元気になって、よかった、です」

 「心配、した……です」

 「ふふ、大丈夫ですよ。2人とも待っていてくれてありがとうございます。僕は既に仕事に出てもいいくらいなのですが今日はヴァンが許してくれません」

 

 ですから我慢して明日から頑張ります、そうにこやかに話すイオンを見ながらアリエッタは、何かが引っかかっていた。

 イオンの、口調だろうか?──それはきっと他の守護役やヴァンがいるから。いつもイオンは他の人がいるとき、貼り付けたような笑みと敬語のようなふんわりした雰囲気をまとうのだ。

 ではヴァンとばかり話して自分たちの方をあまり見てくれないと感じることだろうか?──まだまだ未熟な自分たちよりは信頼できる守護役たちだから、そっちを優先してもおかしくない……

 

 ぐるぐる。ぐるぐる。

 

 考えてもわからないが、それでも、何かが気持ち悪くて……アリエッタはどこか不安そうな表情をしていただけだが、その隣で同じように小さな違和感を感じていたシャルロッタは目を見開いたまま小さく首を横に振っていた。

 そして口を開く。

 

 「…あの、」

 「…?どうかしましたか?」

 

 その返答を聞いて、あまり我慢のできないシャルロッタの理性はついに崩壊した。と、同時にこの小さな違和感をアリエッタも理解していた。

 

 「……ちがう」

 「え?あの、どうかしましたか…?」

 

 

 そうか、わかった

 

 

 「…っ、ちがう、ちがうちがうちがう!いおサマ、じゃない!」

 「…!」

 「いおサマ、いおサマ、どこ…!?」

 「シャルロッタ!」

 「だって…!いおサマ、さっきからずっと、」

 

 

 シャルとアリエッタの名前、呼んでくれない……!

 

 

 悲痛な叫びとなって部屋に広がったその言葉によってアリエッタは先程までの言いようのない気持ち悪さの原因に確信を持った。

 そうだ、部屋に入ってから今まで、一度も自分たちの名前を呼んでいないではないか。イオンの話し方や口調は他人行儀でも、双子が話しかけた時にまとめて返事をしたり名前を呼ばなかったことなんて一度もない。

 よく双子を知らない人からすればそんなこと、と思うかもしれないがアリエッタとシャルロッタにとってはありえない事だった。出会った時から必ず双子を見分け、ただ1人だけしっかりと自分を見てくれていた人に名前を呼ばれない……ただでさえ数ヶ月の間、会えなかったのだ。溜まった不安が爆発してもおかしいことではなかった。

 

 「アリエッタ、シャルロッタ、一度部屋へ戻りなさい」

 「でも、ヴァン総長!」

 「やだ、やだ!いおサマ、」

 「…………」

 「イオン様は病気が治ったばかりでお疲れなのだ。疲れているからそう見えるだけで、いつものイオン様と何ら変わりはない。安心しなさい」

 「でも、…でも……」

 「…………シャル、帰ろ?イオン様、元気になったらまた来よう…?」

 「………うん」

 

 自分も声をあげようとした瞬間にヴァンによって離されることになった。双子は嫌がったが結局ほかの守護役にも促され、渋々守護役の待機部屋へと足を進めた。同じ守護役仲間は、双子のイオンへの懐きようを依存に近い親愛の情を知っているために同じく確信は持てずとも違和感を感じていた。だが、双子のように口に出すことは出来ない。

 

 

 

 その後、双子を除いた導師守護役も部屋を退室し、その部屋はイオンとヴァンだけになる。

 

 

 

 「…まさか、こんなに早く違和感に気づくとは思わなかったな」

 「すみません、僕の力不足です…」

 「いえ、イオン様のせいではありません。…しかし、彼女たちは周囲に無意識に影響を与えている。現に他の導師守護役にも違和感を芽生えさせた。……これは何か対策を考えねばなりませんね」

 「そう、ですね。心苦しいところがありますが……(それに、あんなに必要とされている。被験者(オリジナル)がうらやましい……)」

 

 

 

 

 

 

 執務を再開した導師イオンは以前と変わらないかのように見えた。しかし、少しでもそばで仕えていたものにとっては違和感を感じるものであったらしい。

 

 ────後日、改めてイオンに呼び出された双子に対し、導師守護役解任の通告がされた。理由も告げられることなく、イオン本人からの通告。これと共に、前代未聞の導師守護役、総入れ替えが行われることとなる。

 

 獣の世界から連れ出され、人間の世界を知らない双子が5年もの時間の中で心から慕い、仕えてきた人からの解任の宣告に、双子は何をすることもできず多大なショックを受け、泣きながらその場から去るしかなかった。

 

 

 〝ずっと、ずっとおそばに置いてください〟

 

 

 そう告げた約束は、──────……

 

 






フェイスチャットと本編の雰囲気の差…!!
何でこうなったんでしょうか。書いているうちに、こんな展開に…
次回、ゲーム本編軸に突入させるかヴァンの元で六神将として働く場面を書くかで迷っています。

では、また次回をお待ちくださいませです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話 双子の獣


じわりじわりと読んでくださる方が増えているのがわかって、頑張らないと!と気持ちを新たにして今回のお話を書きました。



 

 

「イオン様…昨日は、お疲れだったですか?」

「…え?」

「…なんか、変な感じが…したの。いつもと、なんか、違う…」

「……そう、だね。そう、ちょっと疲れてたんだ。アリーとシャルにバレちゃうなんてまだまだだね」

「「……」」

「僕が少し体が弱いばかりに、二人にはいつも心配かけてるね。……ほら、気にしなくていいから。今日はもう部屋に戻っていいよ」

「……はい、です」

「お大事に、です。イオン様」

 

 

「双子が違和感を感じてるなら、他のやつは騙せないよ。……ねぇ、アリー、シャル。君たちは……突然僕がいなくなったら、心配してくれるのかなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐすっ……っ、……うぅ…」

「…いお、さまぁ……っ…どし、て…?」

 

なんとも言えない【違和感】を覚えて帰ったあの日から数日がたち、体調も落ち着いたからと双子は再びイオンの私室に呼び出された。

 

双子は信じていた。

 

きっと、前は疲れていただけ。

元気になったイオン様が前と変わったはずかない。

それで、病気が治ったイオン様と【今まで通り】を過ごすのだ、と。

 

────信じていたのに。

 

 

〝お呼びです、か?いおサマ〟

〝イオン様、もう、だいじょうぶ…ですか?〟

〝アリエッタ……シャルロッタ……〟

〝?どうか、したですか…?〟

〝今、この時をもって、あなた達を導師守護役から解任します。今までよく仕えてくれました〟

〝…………ぇ……?〟

〝……今日からあなたたちに代わる守護役が来ることになっています。ですからもう〟

 

〝守護役はあなた達である必要はありません〟

 

ショックだった。

何よりもショックだったのは、『自分たちでなくてもいい』と言われたこと。

それならなぜ今まで自分たちをそばに置いていたのと言うのだろう。なぜ名前を呼んで様々なことを教えたのだろう。捨てるくらいなら、拾わないでくれればよかったのに。それなら……

 

「また、アリエッタとシャルの大事……なくなっちゃった…」

「さびしいのは、もう…やだ…」

 

失う寂しさをまた、味わうことは無かったのに。

考えれば考えるほど、周りを信じられなくなるループにはまり、ぐるぐる、ぐるぐると落ち込んでいく。

そんな何も話せないくらいに落ち込み、泣き続けていた双子に声をかけたものがいた。

 

「……やはり、泣いていたのか」

「総長……」

「そーちょ……」

 

────ヴァンだ。

 

「総長…アリエッタたち、もう、イオン様のおそば、いれない…ですか?」

「……導師守護役は、後任のものがつくだろう。聞いた話では導師守護役を総入れ替えするとの事だ」

「そん、な……」

「どうする?……教団を出ていくか?守護役であれば教団に所属している、しかし解任されたお前達を私は止めることは出来ない」

 

生みの親と死に別れ、育ての親とは離れた生活。その寂しさを埋める相手からの突然の、しかも一方的な解任命令。残る理由は、無い。その時、沈んだ双子の気持ちを浮かび上がらせたのはヴァンから落とされた言葉だった。

 

「だが……お前たちが守護役をはずされてもまだ、イオン様に仕える気があるというのなら…私の部下としてくるか?」

「「!?」」

「私はある理想がある。その理想を叶えるためには、実力のある人材が必要だ。お前達になら十分任せられる」

 

双子は迷った。

アリエッタとシャルロッタの大事な人(イオン様)は双子をいらないと言った。それでも守護役のままだったら支え続けることも出来たのに、それも解任された。お友だちと一緒にダアトに残る理由もない。だからダアトから出ていってもいいのだ。

でも、ヴァンについて行けば守護役程近くにはいられなくてもある程度近づくことは出来る。もしかしたら護衛の任務を受けることができるかもしれないし、任務でイオン様を見ることができるかもしれない。しかし誘うヴァンは自分たちを連れ出すために仲間や家族に手をかけた敵であり、同時に2人きりだった自分たちに人という群れを教えてくれた恩人でもあって……

黙って考える双子にヴァンはさらに言葉()を落としていく。

 

「それにもし私の理想に協力してくれると言うなら……お前たちの両親とフェレス島を復活させる、それでどうだ?」

「「え…?」」

「お前たち2人は預言を気にして生きていないだろう。イオン様もそんなお前たちだからこそ気に入ってそばに置いていた。……しかし、お前たちの両親と生まれ故郷がなくなった原因は全て預言にあるのだ。預言さえなければ……今もお前たちは両親とともに、故郷で幸せに生きていただろう」

「そんな……」

 

双子は初めて知ったことだった。島が沈んだことも、両親が亡くなったことも、すべて戦争のせいだと聞かされていたから。戦争のせいというのは間違いないが、その戦争は全て預言に詠まれていたがために起こされたことだというではないか。預言さえなければ……今も、自分たちは幸せに暮らせていた?

 

「私も預言に未来を狂わされた1人だ。私は預言が憎い……お前達たちも憎いとは思わないか?」

「……総長のいう事は、なんとなくわかる、です。でも……」

「……シャルたち、ママとパパ…いないこと、ふつーだと、思ってた、から…。にくい、とか…わからない、です」

「……そうだな、その時のお前たちは幼すぎた。だが、預言を無くすことはイオン様も願っておられることなのだ」

「いおサマ、が…!?」

「そう、イオン様も預言を憎んでおられる。無くすまではいかずとも、預言はただ参考にするもの、絶対守らなくてはならないものという訳では無い……そう、おっしゃっている。私の理想を叶えることはイオン様の願いを叶えることにもなるのだ。それに守護役では導師を守ることしか出来ないが、私と来れば願いを叶える手足として動くことが出来るだろう」

 

双子は顔を見合わせると、それぞれの首元へ目を落とした。今はもう、お互いと首から下げるペンダント以外に故郷を思い起こせる物は残っていない。だって無くしたものは住んでいた島だ。両親という命だ。当時赤ん坊だった自分たちが与えられるはずだったもの、それが、手に入る?

それに預言はよく分からないけど、イオン様の力になれる……守るだけでなく、願いのために行動できる?

 

「……わかった、です」

「…アリエッタ?」

「アリエッタ、総長に協力します。そしたら…イオン様、助けられる…ですよね?」

「ああ、必ず助けになるだろう」

「……シャルは……、」

「シャル、一緒に行こう?それで、ママとパパに会うの。…イオン様、アリエッタたちが、守るの。それで、イオン様のためにがんばるの」

「……シャル、がんばったら、いおサマ…守れる?もう、バイバイに、ならない…?」

「…守護役ほど近くでは守れないが…だが、イオン様に対する危険を払う役目は、何も守護役だけではない。守護役よりも先手を打ってばいい。裏で危険を狩ればいい。それが、出来る…私が力を貸そう」

「………わかった。シャルも、やる」

 

泣いていた双子は顔を上げ、ただただ悲しみだけを浮かべていた先ほどまでとは、また違う決意を目に宿していた。まだ諦めなくてもいいのだと。

 

それを見たヴァンは笑みを浮かべる。双子を教団に縛り付けただけでなく、魔物と意思疎通できる人材……うまく扱えば魔物を自在に扱える力を手中にできた、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、いつまで待たせるつもりなのさ?」

「そう焦るな。閣下は双子を連れてくるとのことだ。これで、我々の理想を叶える同士が揃う」

「はぁ……ねぇ、ヴァンがスカウトに行った奴って、魔物部隊の奴なんだろ?確か特務師団の分隊だったはず……アンタ、何か知らないわけ?」

「チッ……知るか」

「……使えないね、自分の師団のことのくせに」

「んだと!?」

「よさないか。…じきに分かることだろう」

 

 

最後の1人がたしなめたことで、いきり立っていた1人と、余裕そうに煽る1人がそっぽを向く。

双子が導師守護役を解任されてから月日が過ぎ、今日顔合わせをすることになっていた。集められた者達は男女合わせて5人。教団の中でも奥まった場所にある会議室で待たされているのか、その待つ原因となっていることについて話しているようだ……と、ここで唯一会話に参加していなかった男が高笑いしながら話し出す。

 

「ハーッハッハッハ!!この華麗なる私はその人物をよーーーく知ってますよ!!どーーーしてもって言うのでしたら、この私が!教えて差し上げましょう!」

「アンタの意見だとなんか偏った偏見ばかりになりそうだからいい」

「どうでもいい」

「会えばわかる」

「そうだな」

「……ムキーーッ!なぜですかーーっっ!?」

 

バッサリ切り捨てられ空中でじたんだ踏む男を無視し、あるものは腕を組んで壁に寄りかかりあるものは席について目を閉じる……各々好きな体制をとっていた。

暫く待つとようやく扉が開かれた。

 

「待たせたな」

 

その言葉とともにヴァンが部屋へ入ると、部屋にいた者達はあるものは姿勢を正し、あるものはため息のように息をつき、あるものはフンッと鼻を鳴らしつつ入口へと目をやる。ヴァンに続いて部屋へ入った双子は少しばかりビクビクしながらも部屋の中へまっすぐと目を向けていた。その双子の肩へ手を置き、ヴァンは目の前の面々へと紹介する。

 

「この双子で最後だ。……リグレット。ラルゴ。ディスト。シンク。アッシュ。そしてアリエッタとシャルロッタ。この7名を計画の要とする」

 

「リグレットよ。同じ女性だからこそ何か助けられることもあると思うわ。いつでも頼りなさい」

「…ラルゴだ。この7人の中でもお前たちはまだ幼い。子どもは他にもいるが…まぁ、俺も助けになろう」

「ちょっと、なんで僕を見るわけ?…はぁ、……シンク」

「……アッシュだ。足を引っ張るんじゃねぇぞ」

「私のことは知っていますね!?」

「…いおサマ、の、せんせー…えと、シャルは、……えっと、…シャルなの」

「…この子は、シャルロッタ、です。アリエッタはアリエッタ、です」

 

こうして、双子は新たな仲間となるものたちと出会い、これからを過ごしていくことになる。数年の間、雑用から命をかけるような物まで数々の任務をこなしていくうちにオールドラントの二大国家、マルクト帝国とキムラスカ王国の両軍の兵数に及ばない神託の盾騎士団兵の中でも、特に実力を持つ七神将の一員として有名になっていった。

 

 

七神将の2人……常に二人一組で、魔物を従える双子……いつしか【双獣(そうじゅう)】という二つ名で呼ばれるまでに────

 






ここ辺りから完全にオリジナルor想像が増えてくるので、だんだん矛盾とかがないように気をつけなくてはならなくなってきます。
とか言いましたが、早速問題が。
六神将の口調がわからない…!!
な、なんとなく誰が誰なのか想像して読んでいただけたらいいかと思っております。

もうすぐ原作入りです(入れないかもしれない)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話 気になること



お久しぶりです。
原作入りは、まだ無理でした…
今回は筆者が個人的に仲良くしてほしい子達でわちゃわちゃしています。

原作はどこで誰が合流すべきか……迷います。
では、どうぞ!



 

 

 ダアトに七神将が台頭してしばらくして。導師守護役(フォンマスター・ガーディアン)の総入れ替えに伴う教団の人事によってバタバタしていた神託の盾騎士団(オラクル)は、七神将を中心に落ち着きを見せ始めていた。

 

 大鎌使い【黒獅子ラルゴ】が師団長を務める重厚さと屈強さを併せ持つものが集まる、第一師団。研究者が集まり変わり者が多いとされながらもこの師団でしか対応出来ないことも多いと言われる、第二師団を率いる【死神(本人は薔薇と言い張っているが)ディスト】。異例の双子の師団長で他の師団と比べ人数がかなり少ないが、魔物を使役する通称「魔物(サモナー)部隊」を率いる第三師団師団長【双獣のアリエッタ・シャルロッタ】。七神将を率いるヴァンの副官を務める譜銃の使い手【魔弾のリグレット】が率いる第四師団は、戦闘や秘書のようなものから交渉術やハニートラップなどを地で行くものも所属する。体術や詠唱放棄の譜術を操る、機動力に優れた第五師団をまとめあげる七神将内で最年少ながら師団長、兼参謀総長である【烈風のシンク】。教団や神託の盾兵が表立って動けない時、または裏の汚れた任務を一手に引き受けていると言われる特務師団師団長【鮮血のアッシュ】。

 それぞれ特色のある師団を率いる彼らは、任務を重ねるうちにダアト内にとどまらず他国にもその名を轟かすまでとなっていた。

 

 双子は年齢的にも知能的にも幼いことやまだ慣れないことが多いために2人揃って過ごすことが多かった。よく似ている双子ではあったが、この頃になると得意と不得意では差があることがよくわかる。それは戦闘でも同じだった。魔物を使役して第一・第六音素譜術を操り近接戦闘はいつも抱きしめるぬいぐるみの爪で戦う、後衛よりのアリエッタ。ライガの手を模した手甲鉤を用いた接近戦と第一・第六音素だけでなく姉にはない第七音素譜術を操る、オールラウンダーだが前衛よりのシャルロッタ。二人が一緒にいるのは戦闘で前衛後衛回復を全て補えることに加え対人の任務でのコミュニケーションなど様々な状況で対応できるためであったが、なにより双子が離れたがらなかったからでもある。

 

 それは、双子が珍しく別行動をとっていた時に起きた。

 

 「アッシュ、キムラスカのヒト…?」

 「…!?」

 

 それはとても唐突に問いかけられたものだった。アリエッタは次の任務で魔物部隊を使うシンクとの連携をとるために打ち合わせをすると、朝から席を外していた。姉がいないと途端に人とコミュニケーションが取れなくなる引っ込み思案なシャルロッタだったが、七神将の幼年組──シンクとアッシュに対してはオドオドしつつも慣れつつあった。それは姉のアリエッタも同じで……どこか、なつかしさ(イオン様)を感じるシンクとぶっきらぼうにしつつもなんだかんだ構ってくれるアッシュには懐き、片割れと離れた時はどちらかの後をチョコチョコと追いかける姿が教団では見られていた。今日とてアリエッタがシンクと共にいるため、困ったシャルロッタが必然的にアッシュについて回ったのは仕方が無いことであり、アッシュ自身もそれを分かっているため、幾分か眉間のシワをゆるめて相手をする。

 そして先のセリフへと戻る。シャルロッタがそれを言い出すまでは全く違う話題をポツポツと話していたはずだったのに、いきなりアッシュを見つめ──正確に言えばアッシュの髪と瞳を見つめ、動きを止めたシャルロッタにどうしたのかと目で問いかけたアッシュに対しての答えがそれだったのだ。いきなりの質問に微かに動揺しつつ、アッシュは言葉を返す。

 

 「……は、何を言って、」

 「……いおサマ、いってた。〝赤い髪と、緑の目はキムラスカ王族の証拠〟って。アッシュ、」

 「……気のせいだろう。俺はアッシュだ。キムラスカとは、……関係、無い」

 「でも、いおサマ……」

 「違うと言っている!!」

 「!?」

 

 いきなりの大声にビクリと身をすくませ、強く目を瞑るシャルロッタを見て、声を荒らげたことを若干気まずそうにしつつアッシュは努めて(アッシュ自身にとっては)優しい声で謝る。アッシュ自身、どんなに邪険に扱っても後をついてまわるシャルロッタを嫌うことは出来なかったから。

 

 「……すまん。だが、余計な詮索はするな」

 「わかった、です…」

 「…お前、その時他に何か導師から聞いたり学んだりしたことはあるのか?」

 「…?うん。おーぞく、えらい。だから…れいぎ、だいじ!シャル、いおサマにならった。ちゃんとれいぎ、おぼえた、です!」

 「……そうか。それは覚えておいて損は無い。王族だけでなくともお前より上の立場に当たるものには役に立つことだ」

 「うん!」

 

 困り眉のままでも嬉しそうにイオンとの思い出を語るシャルロッタ。そして教えられたことを肯定され、笑顔になる。それを見たアッシュは無意識にシャルロッタの頭を軽く撫でていた。

 

 「ほう、仲がいいな」

 「!!」

 「ひぃっ!!」

 

 そんなやり取りをしていると突如声をかけられる。思わず身構えるアッシュと、完全に怯えた声を出してアッシュの後ろへとへばりつくシャルロッタに声をかけたのは、通りがかったヴァンだった。アッシュはまだしも、自分を見ずにシャルロッタが隠れたそのあまりの速さに一瞬、固まったヴァンはシャルロッタの方を見ようとするが、こちらは一切見ようとしない。

 

 「……シャルロッタ、そんなに私は怖いか…?」

 「突然現れて突然声をかけられたらこいつの場合どうなるかぐらいわかるだろうがっ!!」

 

 まったくもってその通りである。実はここへ連れてきた本人であるヴァンにシャルロッタは未だに一切懐かず、いつもアリエッタの後ろに隠れていた。今日はアリエッタがいないため、アッシュの後ろに隠れることにしたようだ。普段より大きな背中に隠れて前から全く見えなくなる小さな体。アッシュの師団服をつかみ、後ろから出てこよう としないシャルロッタに対し半ば本気で凹んでいるヴァンに、無意識にしていた行為を見られた恥ずかしさとついでに全く出てこようとしないシャルロッタの代わりにアッシュが怒鳴る。

 

 「…まぁ、いい「よくねぇ!」……そう怒鳴るな。いきなり声をかけた私が悪かった」

 「そーちょ、どっか、いく…?」

 「総長だ。そして話すなら顔を見せなさい」

 「ヴァンに対しては上のヤツに対する態度ってやつ、無視していいぞ(小声)」

 「おでかけ…?」

 「お前達……。はぁ、そうだ、キムラスカのファブレ邸へ行ってくる。そろそろ剣術稽古の予定なのでな。前回から日が空いたために拗ねているらしい」

 「……ふぁぶれ…?」

 「…ふん、俺達には関係ない……さっさとどこにでも行ってしまえ」

 「……留守は任せたぞ」

 

 どことなく哀愁を漂わせながら去っていくヴァンの気配がなくなると、シャルロッタはアッシュの背中から出てほっと息を吐く。

 

 「アッシュ、ふぁぶれ…なに?」

 「……あー、そうか、そういうのにも疎いのかこいつら……。……キムラスカ・ランバルディア国は君主制だ。王がいて国を治めている…それはいいな?その王が交代する場合、現国王、インゴベルト陛下の一人娘が継ぐことになる……が、王女はキムラスカ王族の貴色──お前の言っていた赤い髪と緑の瞳のことだな──を持っていない。そのために貴色をもつ者との婚姻が絶対条件となる。その貴色をもつのが、現国王の王妹であり彼女が降嫁したファブレ公爵家──つまり王族だな──で、そこの一人息子、ルーク・フォン・ファブレ、にヴァンは剣術指導をしている。今もそれで向かったんだろう……分かったか?」

 「……」

 「…………分かってねえよな」

 「……おーぞく?」

 「チッ、期待はしてなかったが……分かっているのはそこだけでいい」

 「……ふぁぶれ、おーぞく。ん、おぼえた」

 

 しっかり聞いていても初めて聞くものはすぐに理解が追いつかないシャルロッタに、背景も交えながら説明するアッシュ……が、いかんせん長い。結果、あの説明でシャルロッタが理解できたのは〝ファブレは王族である〟ということだけであったが、舌打ちをしつつそこだけでも覚えておけばいいと言い含める。そして、小さく呟いた。

 

 「もっとも今あの家にいるのは……」

 「……アッシュ?」

 「…シャルロッタ……お前は俺と出来損ないを…間違えてくれるなよ…」

 「…ぇ…?…でき……わっ!」

 「……、なんでもねぇ」

 「アッシュ、…や、あたま、ぐら、…は、はなしてぇ…っ!」

 

 誤魔化すように先程よりも強くガシガシとシャルロッタの頭を撫でるアッシュ。シャルロッタは意味がわからずともアッシュが言った言葉はしっかり聞こえており聞き返そうとしたが、聞き返そうにも頭が揺れるほどに撫でる手をなんとかどかすことに頭がいってしまい、疑問を覚えたことをその場ではすっかり忘れてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 そしてこちらはアリエッタとシンク。こちらはこちらでまた盛り上がっているようで。

 

 「シンク、なんで仮面してるですか?」

 「……はぁ?」

 

 任務時の師団員との打ち合わせや最終調整を終えて解散後、雑談をしていた2人。シャルロッタほど引っ込み思案ではないアリエッタは特に自分の友だちや妹の事になると饒舌になる上、嬉しそうに語るためその話題を振ってやれば結構時間つぶしになるのだ。そしてたまに獣並みの五感によって意味がわからないながら仕入れてきた情報を持っていたりする───例えば、ダアト内の導師派と大詠士派の派閥争いや金のめぐり、師団兵たちの要望など多岐にわたる───ため、少しでも詳しい情報がわかっていれば任務の時に役立つ時もある。だからシンクは軽く振ってみたのだ。〝アンタが今気になってることとかないの?〟と。

 

 「(こいつ、僕らのことを知ってるってわけじゃないんだよね?顔が見たいってこと…?)なんでって…」

 「前、見えるですか?」

 「あぁ、そっち……見えるに決まってるだろ。じゃなきゃ付けてられないよ」

 「…なんで?」

 「さぁ?譜術でもかけてるんじゃない?」

 

 どこかズレているような天然な発言をするアリエッタに疲れた顔をしながら返事をするシンク。というより、シンクが仮面をつけているのは出会った時からであり、今更としか言いようがないのだが。

 

 「で?何でいきなりそんなこと言い出したんだよ」

 「前から、シャルロッタと2人で話してた、です。シンクは、えっと、なんかあったかい…なつかしい…?って」

 「…僕が?」

 「うん。シンク、なんかイオン様みたい。アリエッタとシャルロッタのイオン様、いつもシンクみたいな感じでした」

 「……?どういうことさ?」

 「えっと……今のイオン様、違う感じします。もっと、こう……総長に対してぐさぐさ…してました」

 「……」

 

 ヴァン、アンタ、尻にひかれてたわけか。

 それがシンクのヴァンに対する今の評価となったことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オマケ

 

 「アリエッタも、シンクの仮面かぶってみたい、です!」

 「死神に頼みなよ、これは僕のだ」

 「今、シンクいるのに…すぐなのに…」

 「はぁ…だから…」

 

 

 「ぁ、アリエッタぁぁ……」

 「あ、おい!動くな切れる!」

 「!!シャルロッ…タ、なんで、ボサボサ、です?」

 「アッシュ、ぐちゃぐちゃしたぁ…」

 「いや、だから直してやるから動くなと…」

 「アッシュ、シャルロッタいじめちゃダメ!」

 「だから直すって言ってるだろうが!!話を聞け、双子!!」

 

 

 

 

 

 

 「……で、嫌だったわけ?」

 「……んーん、シャル、なでなで…すき」

 「じゃあなんで怒ってるのさ」

 「シャル、ききたいことあったのに……わすれちゃった……」

 「…あぁ、そう……(コイツらの疑問は結構いい情報になるのに、何してんのさ)」

 

 

 

 

 

 






というわけで、幼年組+αでした。
なんとなくアッシュ×シャルロッタ風なとこがありますが、CPはまだ未定です。
ちらちらこれから使いそうな情報を散りばめてたら、書いてる本人がだんだんわからなくなってくるという…

次は、大人組と絡むか、原作に入るか…。
閲覧ありがとうございました!

あ、一応補足しておきます↓


・シャルロッタ
 撫でられること自体は好き。でも、アリエッタに毎朝毛繕い(?)してもらった髪をぐちゃぐちゃにされて、涙目。ついでに告げ口。

・アッシュ
 誤魔化すためとはいえやりすぎたことは自覚してる……から、直してやろうと手櫛を通している最中にシャルロッタがアリエッタを見つけ走り出す。
 →反射的に追いかけ、追いついた先で幼年組全員集合。

・アリエッタ
 毎朝毛繕い(?)で髪の手入れをしてやるのが日課。たぶん髪の毛をボサボサにされたことよりも、シャルロッタを虐めた(ように見える)から、アッシュに突っかかってる。でも、構ってくれるからアッシュは大切。

・シンク
 実質最年少……なのに、双子が実年齢に色々追いついてないため何故かお兄ちゃんポジ。喧嘩に参加するよりは離れた所で呆れながら見てるタイプ。今回に関しては貴重な情報源が潰れたこともあり助ける気は無い。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話 導師守護役であること



今回は外伝から少しと、オリジナルのお話です。
例によって例に漏れず、原作入りは果たしていません。
外伝の時系列を少しだけ無視しています。
ここに、なんとか、ディストさんとの絡みを入れときたかったんです…!!

と、いうわけで、続きをどうぞ。




 

 導師守護役(フォンマスター・ガーディアン)総入れ替えによって、新たに選出された守護役たちは導師イオンとの対面の場で張り切っていた。

 

 「あ、あの…そんなに気合を入れなくていいんですよ?」

 「「「「いえ!イオン様を守るためですから!」」」」

 

 ────それはもう、守られる立場のイオンがひくくらいに。

 導師守護役は女性だけで構成された導師を守るためだけに存在する守護役集団であり、唯一教団の最高指導者である導師に意見することができる権利を持つ。これはもしも導師が自分の身を危険に晒す決断を迫られた際、導師自身を守護役である彼女らが何がなんでも守るために与えられた特権である。

 女性でありながら導師を守りきるための高い戦闘能力を有し、導師が権力者であるからこそ交流のある上流階級との会談や国王・皇帝との謁見にも護衛としてついて行く守護役は、教養や礼儀作法などもしっかりと身につけているため、もしも栄えある守護役を辞めることになったとしても貴族のメイドとして再就職に有利だったりそれこそ貴族へと嫁ぐ者がいたりといわば出世への近道、エリートコースである。その分厳しい訓練や教養、作法の講義などをこなさなければならないが女性なら誰もが憧れる職業なのだ。

 その彼女たちが総入れ替えによって自分たちがお守りする導師イオンと顔合わせ…ここで導師に気に入ってもらえれば、よりいい立場に立つことが出来る……彼女たち全員に気合が入るのも無理はなかった。

 いや、正確には、一人……

 

 「(はぁー…やんなっちゃうよ。異例の導師守護役総入れ替えだからって、みんなギラギラしちゃってさ…)」

 

 導師に気に入られようと守護役内で睨み合う中、一人だけ興味がなさそうにため息をついている子どもがいた。

 彼女はアニス・タトリン、新しい守護役の中でも一回り小さく、大詠師モースの推薦で就任した13歳…今期最年少の導師守護役だった。認められさえすれば守護役になるための年齢制限など無いようなものだが(現にアリエッタとシャルロッタは10歳で守護役として就任していた)、幼年学校を出たばかりで士官学校を出ていない彼女は、言い方は悪いが先に言ったような教養や礼儀などを求められる役職において異例の存在だった。

 だが、導師から見ると違ったらしい。周りがギラギラと睨み合う中、一人違う態度を見せるアニス。それに気がつくなり指示を飛ばす。

 

 「……えっと、では、そこの貴方。護衛はあなたひとりで十分です。そんなにたくさんの護衛なんていりませんし」

 「……え゛っ、あ、あたし…?」

 

 1人、違う態度を見せていたアニスを側付きの守護役として指名し、指名された本人も含めて驚かす。イオンとしては四六時中自分の近くでも睨み合いをされては困るし、うまく止める自信もないため、全く興味のなさそうで言葉通り「子ども」らしいアニスを指名したのだろうが、指名されたアニスは、「なんであんな子どもがイオン様に選ばれるのよ!」という視線に内心(あたしだって知らないわよ…)と言い返しながらイオンへとついて行った。

 

 そんな守護役たちの顔合わせを見ている者達がいた。

 

 「イオン様…なんで…あんなコ…」

 「いおサマ、シャルたちより、あんなこがいいの…?」

 「ケッ、あんなヤツ…」

 

 廊下の柱から顔を出して、イオンたちを涙目で見つめる双子に、同じく柱を背もたれにして舌打ちとともに眺めるシンク、の3人だった。

 当然3人に導師と導師守護役の顔合わせに立ち会う必要があったわけではなく、ただ、居合わせただけである。3人が3人共に【導師イオン】に思うところがあるために、居合わせただけで済まない感情を抱くことになっている……というところで、七神将で組まれている訓練にいつまで経っても顔を出さない3人を探していたラルゴがやってきた。

 

 「シンク、双子!ここにいたのか!これから演習だろう……いくぞ」

 「「うぅ〜…イオンさまぁ〜…」」

 「…ケッ」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 「…ラルゴ、いおサマ、かわっちゃった。じぶん、だいじ…しない……っ」

 「イオン様は大切な人だから、たくさん守護役いるっていってた、です。なのに、〝そんなにたくさんの護衛なんていりません〟って、いってた…っ」

 

 双子が動こうとしないのを見かねたラルゴが両脇で抱えて運ぶ中、姉妹は揺られながらポツリポツリと言葉を落とす。ラルゴは無言で視線のみを双子へ返す……自分は知っているから。あの導師イオンはイオンであってイオンでないモノであることを、双子の慕う人物はもう居ないということを。だが、ラルゴがそれを口にすることはない。これは双子をこちら側へと引き込み続けるためであるのと同時に、導師イオンの願いでもあったから。だから、静かに話を聞く。

 

 「それに、きょーだんのヒト、いってたもん。アニス、やくそく…やぶってるって」

 「施設外でお布施をもらっちゃダメ、ですよね?なのに、アニス…もらってた」

 「……ちょっと、それ誰が言ってたの?」

 「おそと、じゅんれーしゃ…?のヒト。おそとで、ふせきめぐりつあー…?えと…かんこー、ガルドでしてもらった…って、いってた」

 「アリエッタは、それしてるトコ見た、です。アニス、そんな任務受けてないのに…。シンク、それがどうかした、ですか?」

 「それ教団員じゃないじゃん、思いっきり一般人!…何やってくれてんのさアイツ…」

 

 一応(悪態舌打ちはあったし不機嫌そうだが)素直についてきていたシンクだったが、余程アニスを気に入らないと見える双子の言葉を聞いて顔を上げる。

 双子が言っていることははっきり言って【いけない事】どころではない。双子は巡礼者をローレライ教団の教団員のようなものとして認識しているようだが、実際は一般人である。その一般人は預言をローレライ教団の預言士に詠んでもらう代わりにお布施としてガルドを納める。そのガルドは教団へと還元されるため、決して個人でどうこうしていいものではない。第七音譜術士(セブンスフォニマー)としての素養を持たないアニスは預言を詠む…という偽りはしていないようだが、譜石めぐりツアーなどを個人で行いガルドを受け取っている。譜石についての説明をする任務を請け負う教団員もいるのに、だ。アニスは神託の盾としての給金を受け取るだけでなく、副収入を得ているということではないか。……今までバレていなかったものの、下手をすれば詐欺である。

 やっぱり双子の情報は侮れない、なんとか訴えられる前にもみ消さないと…などと考え始め、ウンウン唸っているシンクを不思議そうに見た双子は、ラルゴへと目をやる。

 ……なにか、変なことを言ってしまったのだろうか、と。

 

 「……気にするな。お前たちは、これからもそのまま、色々と不思議に思ったことは信じられる者にあとからでも聞け」

 

 双子は自分たちが言ったことの大きさに自覚のないまま同時に首をかしげ、よくわからないままに小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 あの顔合わせから月日は流れて、双子はディストの研究室へと呼ばれていた。曰く、双子の武器は方やぬいぐるみ方や手甲鉤となかなか使い手のいない特殊なものな為メンテナンスをしよう、ついでに少し手を加えようということらしい。双子にとって戦いの手本は人間ではなく兄弟や母親(ライガたち)であり、武器は道具ではなく手足の爪や鋭い牙を使うのが当たり前である。そのため使い手が周りになかなかおらず、使い手ではなくとも自分たち以外に武器に詳しい人がいることはありがたかった。

 この話……武器のメンテナンスといえば聞こえはいいが、要は改造である……を聞いた一部には、何かがあれば遠慮なく譜術をぶつけろとか叫んで誰かを呼べとか色々言われたが、ディストを全く危険視していない二人はその反応を不思議そうに頭に入れながらディストの部屋へと向かっていた。

 

 「あれ……」

 

 それを見かけたのは、きっと偶然だった。

 ────アニス。

 食事休憩中なのだろう、お盆を持って一人で歩く彼女を見つけてシャルロッタは足を止め、手を繋いでいたアリエッタも立ち止まる。アリエッタはアニスに気がついていないのか、急に立ち止まったシャルロッタを不思議そうに見ていたが。

 やはり、一人導師に指名されたあの時から彼女は他の守護役から恨みを買い、今は周りの目を盗んでいじめられたり仕事の妨害をされたりしているらしい。自分たちも最初は同じようにたくさんの人にいじめられたけど、導師守護役らしくあろうと、何より大切なイオン様のそばにいて恥ずかしくないように努力し続けていたら、いつの間にかいじめはなくなっていた。だから、ひとりぼっちのアニスを見たシャルロッタも(認めたくないけど)イオン様の守護役らしくあろうと頑張っていればいつかは終わるし、自分も乗り越えたことだからと視線を前へ戻した。

 

 「導師の動向を逐一報告しろ。お前は自分の立場を理解しておるだろう」

 「……モース様のお心のままに!」

 

 聞こえた会話に一度だけ振りかえる。

 

 「…………」

 「シャル?」

 「……なんでもない、…いこ」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 「あのね、ディスト……シャル、しりたいこと、ある…」

 

 ディストの研究室にて、今はアリエッタのぬいぐるみの調整をしていた。なんでも持ち主の音素振動数に反応して自在にぬいぐるみの爪を出し入れできるように改良されているのだが、それの経過報告とメンテナンスを行うとかうんたらかんたら……と、説明されても双子にはほとんど理解出来なかったので、使い心地と壊れたところがないか見ると噛み砕いた説明をされて大人しく待っているところだった(ちなみに次はシャルロッタの手甲鉤を見るそうだ)。

 

 「ふむ、珍しいですね、……いいですよ、このディスト様になんでも言ってみなさい!」

 

 譜業をいじるディストを大人しく見ていた双子だったが、ふとシャルロッタが声をかける。めったに自分からは話そうとしないシャルロッタを珍しそうに横目で見て、手は止めないまでもディストは聞く姿勢を見せる。

 

 「うん、あの、ね、……アニスの、こと…なの」

 「!、彼女ですか!彼女はこの薔薇のディストの友!私が10年間座り続けた食堂の席に座りに来て、この私が!話し相手となってあげている子ですね!」

 「そうなの…?」

 「ディスト、大人です」

 「そのとーり!私は大人ですから、面倒を見てあげる立場なのです!ハッハッハッ!」

 

 シャルロッタが出した「アニス」という名を聞いて、嬉しそうに語り始めるディスト。実際は食堂で空いている席を探していたアニスが、教団の中で変人と名高いディストと相席をしたくないと教団員が誰一人として座らず一人ディストだけが孤立していたテーブルに座り、一方的なディストの話を聞いてやっているのだが。

 そして、そんな事実を知らない双子は、ディストはアニスのお世話をしているのだと受け取り、やっぱりディストは大人だなぁ…と考えていたりする。深刻なツッコミ不足である。

 

 「今、彼女は導師のそば付きの守護役に選ばれたことに嫉妬する他の守護役仲間に虐められているらしくてですねぇ……」

 「あの、ね……」

 「彼女のぬいぐるみが守護役仲間に引き裂かれたようで。ついでに私もその場で彼女の地雷を踏んでしまいまして……」

 「その……えっと、」

 「残していったそのぬいぐるみ、この私が直して……せっかくなので、譜業を組み込んでこの天才ディストの友達に贈るプレゼントにしてしまおうと──」

 「……アニスがね…〝モース様のお心のままに〟って、いってた」

 「──これも音素振動数に反応して巨大化するよう……はい?…は、もう一度、いいですか?」

 「…えと、〝モース様のお心のままに〟って…」

 「……、……彼女は、導師守護役…なのです、よね?」

 

 自慢げに話すディストの話に区切りが見つからず、マイペースに言いたいことを言ってみたシャルロッタ。最初はスルー仕掛けたディストも、聞き返したことで彼女が何を伝えたかったのかを察したようだ。

 要は、導師守護役であるのに大詠師モースに忠誠を誓う言葉を話しているおかしさが気になったということ。

 導師守護役は導師直属の守護役であるから、当然直接の上司も導師であり、導師のためだけに存在する部隊と言っても過言ではない。それなのに、話しかけた、命令してきた相手が大詠師とはいえ導師の意向を伺う前に命令を受けるなど…あってはならないだろう。

 アリエッタもシャルロッタの言った言葉を聞いて理解したのか少しばかり顔をしかめている。

 

 「アリエッタ、アニス、嫌いです」

 「……理由をお聞きしても?」

 「アニス、アリエッタたちのイオン様を取った。それだけじゃない、イオン様よりもガルドをとって、えらい人に、……えっと、…ぐねぐね…?してる、です」

 「……一応聞きましょう。そのぐねぐね、とは?」

 「〝アニスちゃん、あなたのためなら、がんばっちゃいますぅ♡〟……とか」

 「……なるほど、ぶりっ子なところがある、と」

 「ぶり…?」

 「こ…?」

 「あぁ、2人は知らなくていい言葉です。保護者に報告しなくていいですよ。むしろしないで下さい。……そう、ですか……無視はできませんね」

 

 多分見たまま聞いたままに真似をしたのだろう、アリエッタのアニスのモノマネを聞いたディストがポツリ。ただ、下手な言葉を教えたと保護者(シンクやアッシュなど)に知られると(物理的か心理的にかはともかく)殺されるかもしれないため、双子には黙っているように言い含める。よくわからないまでも、頷く双子。

 頷いたのを確認して、ディストは少しばかり考える。このまま放置すると今後何かしらの影響が出そうだ…だが、うまく使えば導師の情報をこちら側に筒抜けに出来る。かといって下手に首を突っ込めば情報の出どころやら七神将側の目的を知られたり自分の目的の達成(ネビリム先生の復活)までの道が遠くなったりする…かもしれない。まぁ、自分の立ち位置は風向きを見て決めればいいかと考えをまとめた。

 

 「まぁ、また何か気づいたことがあれば私に、……いえ、私でなくても七神将の誰かに言いなさい。まだまだあなたたちは子供です。子供は大人に甘えてればいいんですよ。──では、アリエッタのぬいぐるみはこんなものでしょう。どうです?」

 「……はい、前よりも軽くなりました。ありがと、です、ディスト!」

 「いえいえ。では、シャルロッタ。あなたの武器も見ますよ。ついでに渡したいものがあるんです」

 「はい、です」

 

 ぬいぐるみを受け取ったアリエッタと入れ替わるようにディストの元へ行くシャルロッタ。手甲鉤を渡したのと入れ替わりにディストから手渡されたもの……それは、アリエッタの持つぬいぐるみに酷似していた。

 

 「…?」

 「それはカバンですよ。ほら、背負えるようになっているでしょう?前にアリエッタにぬいぐるみを渡した時、あなたも欲しそうにしてましたから。ぬいぐるみではありませんが……それも譜業です。シャルロッタならきっと使いこなせるでしょう」

 「……!アリエッタと、おそろい…!えへへ、ありがと、ディストっ!」

 「アリエッタも!シャルとおそろい、ありがとですディストっ!」

 「おっと、……あなた達くらいですねぇ…私のことを気にせず突撃してくるような子達は……では、もう少し待ってなさい」

 「「はーい、です!」」

 

 お揃いのものを貰い、椅子に座るディストへ抱きつくように突撃する双子。双子が小柄で本気で飛びかかって来ている訳では無いからなんとか、と、苦笑いしつつ受け止めるディスト。この3人だけだと精神的にも身体的にも幼い双子を相手にするだけに変人なディストも大人な対応ができるらしい。今後2人が成長してきたら、この突撃はやめさせなくてはいけない……そんなことも考えつつ、傍から見るとまるで親子のような触れ合いの一時は過ぎていった。

 

この日を境に、双子は同じようなぬいぐるみを持つようになった。片方は背負うタイプのぬいぐるみのはずなのだが……おそろいがよっぽど嬉しかったのか、体の前で抱えて持つことが多かったため、余計に双子の見た目がそっくりとなり、見分けがつけにくくなったのだとか。

 

 

 

 






外伝のあのお話の部分からずっと思っていたのですよね。導師守護役になっておきながら、導師にすでに報告してないわけ!?と。
この時からアニスが動いていれば、モース様失脚してたんじゃないかな、と。
そして、そのおかしさには当然双子は気がついてます。以前自分たちが同じような立場だったのを努力で周りを認めさせたのですから、アニスだって出来て当たり前だ、しかもあの時の自分たちと比べて年上だから、と助けには入りません。

あ、それとディストとの絡みは、どんなに変人でもズレていてもディストは双子よりも大人ということを見せたかったので……ここの小説でのディストは、やる時は完璧な対応ができる(ただやらないだけ)な性格です。

では、また次回をお楽しみに、です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

外角大地編
10話 森の火事




今回はシンクとディストとの会話がメインです。
…メインなんです。
後半の会話の方が大事、に見えたら後半がメインなんでしょう。
もうアレです、アニスがとんでもなく極悪人にしか思えなくなってくる…

多分、きっと、いつか、救済話も書きます。

というわけで、今回のお話です。どうぞ




 

 

ディストが双子にぬいぐるみを与え、それを気に入った2人が同じように抱えるものだから、ますます見分ける方法が髪色の少しの違いと性格と、少し関わりを持たないとわからない、ということになってから半年。いつの間にか双子がダアトに来て9年が経ち、姉妹は16歳になっていた。まだ導師守護役を務めていた頃である12歳の時くらいに2人の体は成長を止めたのか、16歳になっても体は小さなままで言動もそれに引っ張られるように幼いまま。それでも二つ名を持つ師団長として、少ないながらも魔物部隊を率いて任務をこなし、時々なら1人でも仕事をこなせるようにもなってきた。

魔物を率いる双子が2人で任務にあたることから〝双獣〟の二つ名で知られているが、魔物を使役し譜術を駆使する〝妖獣〟のアリエッタ、接近戦で獣のごとく爪を振るう〝猛獣〟のシャルロッタというそれぞれでも呼び名が囁かれ、浸透していっていた(そして密かに双子はそれぞれ自分だけの名前だ、と喜んでいたりする)。

 

危険と隣り合わせの仕事をこなしながらも様々な時を一緒に過ごす人間の仲間(七神将)を得て、たまに里帰りしては母親(ライガクイーン)兄弟姉妹(ライガたち)との逢瀬を楽しみ、幸せだったのだ。空き時間になればお茶会を開いて集まって、普段からよく一緒に過ごすアッシュやシンクに構われながら、ディストに甘え、ラルゴやリグレットが見守る。師団へ行けば人間の世界でやっていくことにした双子について来てくれた魔物たち(ともだち)とおしゃべりしたり、日向ぼっこをすることが出来る。納得出来ないことといえば、元々自分たちが仕えていた導師イオンの姿をなかなか見ることが出来なかったことくらいで、一応、満足した生活だったのだ。

 

「「…………」」

 

執務室。そこは普段書類の処理をしたり、忙しい中時間を開けてはお茶会や情報交換などで七神将が集まる部屋だった。その部屋にアリエッタとシャルロッタは真っ青な顔色で座っていた。偶然その部屋へ書類を片手にやってきたシンクは、扉を開けた時の格好で数秒固まり、我に帰りテーブルについて双子を眺めているディストを(仮面で見えないが)ジト目で見る。

 

「どうしたのさ、そこの2人。泣く寸前の顔してるじゃん……アンタのせい?死神」

「っ、薔薇だ薔薇ァ!私は死神ではないと何度も……っ!……はぁ……、わたしではありませんよ……アッシュが持ってきた情報を聞いてから、コレです」

「はぁ?」

 

〝アリエッタ、シャルロッタ〟

〝はい…?〟

〝どうかしたですか?アッシュ〟

〝お前らが育ったのは、北の森……だったな〟

〝うん、……どうか、したの…?〟

〝……ヴァンからも聞いてないのか?〟

〝〝……?〟〟

 

   ──北の森が火事になったらしい──

 

 

「なるほどね」

 

双子の唯一である家族が危ないかもしれないのだから、真っ青になるのも当たり前というわけだ。七神将として出会ってからそれなりに付き合い、2人のことを結構理解している自覚のあるシンクだったため、2人の心境もよくわかるつもりだ。きっとすぐにでも北の森(ふるさと)へ駆けつけたいのだろう。ただし、これだけは言っておかなくてはいけない。双子は理解しているようだが釘を刺す。

 

「わかってると思うけど、勝手には行けないからね」

「……うん……」

「わかって、ます……」

「……そうですねぇ、勝手に行くことは許されません。あなた達は幼いながらに軍人、しかも二つ名を背負う身でもありますから、訓練、任務、遠征……多くの義務があります」

「「…………」」

 

そう、ただの子どもであれば保護者同伴であれ、いつでも好きな時に好きなところへ行くことはわけないだろう。しかし双子は軍人。仕事をもらって働いている立場であり、なにより師団長という地位を持っている。普通の教団員よりも縛られる制限は多く、果たさなければならない義務だって多い……活かす活かさないはともかくとして、その分多くの権利や権力をもらっているのだから。それが理解できている双子は、黙り込むしかない。

そんな2人を横目に、ただ見ているだけだったディストが何でもないことのようにシンクへと話しかけた。

 

「しかし、……任務の帰り道が重なった時はどうしようもないですよねぇ、シンク?」

「「!!」」

「……まぁ、そうだね。なにかの原因でそこを通らざるを得なければ、誰にも文句は言えないね。だって本来の任務は終わらせてるんだから」

 

もちろん2人は双子に対して話しているわけではなく、世間話という体での会話である。強いていえば確認作業といった所か。ただ、〝偶然居合わせた人に聞かれてしまうくらいの大きさの声で話している〟が。そう、沈んだ表情をした子どもの耳にしっかりと入るくらいには。

 

「ディ、ディスト…」

「…はい?……あぁ、あなた達がいたことを忘れていました。ですが、私とシンクの話は聞こえていませんよね?」

「…?…いま、はなして…むぐ」

「は、はい!聞こえてない、です!ね、シャルロッタ?」

「…ぅ〜?」

 

じゃあ、帰りならママのとこに行ってもいいんだ、と聞こうとしたシャルロッタに自然と聞かせていない体を装うディスト。バカ正直に聞こえていたと言いそうだったシャルロッタの口をディストの言いたいことを察したアリエッタが慌てて塞ぐ。むぐむぐしながらも、そこまで抵抗しないのは姉だからなのか……不思議そうにしているのはあえてここでは全員無視するらしい。

 

「まぁ、おとなしく任務をしっかりこなすことだね。ボクらはついて行かないから。誰も見てないからって勝手すぎることはしないでよ?」

「はい!」

「…?…?」

 

シンクは、ディストは、任務が終わったあとのことは見ていない、気にしないことにしてくれるらしい。よく分かっていないシャルロッタには後で教えるとして、アリエッタはその言葉の裏の優しさに嬉しそうな笑顔で返事をして返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「あ」」

「「…あ」」

 

それから北の森方面の任務が入ることを心待ちにしていた双子は、この日、ありそうでなかなか無かった出会いをしていた。導師守護役としてアニスを従えたイオンと再会したのだ。

 

「………あ、あの……」

「……ぅ……」

「……2人とも、元気そうですね」

「「!!」」

「あの日、2人には辛いことを言ってしまいましたから。少し気になってたんです」

「イオン様…」

「いおサマ…」

 

近づく機会なら、あったにはあった。師団長として警護につくこともあったし、導師からの任務では報告する時に会えたかもしれない。守護役と言えども神託の盾兵としての階級は双子の方が上である場合もある。元守護役という立場、そして階級を使えば会うことにそう弊害はないはずだった。

ただ、話しかける勇気が出なかったのだ。

 

〝守護役はあなた達である必要はありません〟

 

そう言われたことが未だに燻っていて、嫌われたとばかり思っていたから。自分たちにあったところでイオン様は気分を害してしまうかもしれない。自分たちが我慢すれば、イオン様が嫌な気分にならないなら。自分たちは遠くから見れるだけでも、姿を見れるならそれで……そう、会いたい、話したい気持ちを押し殺していたのだ。だから報告だって他の師団員に任せていたのに。

まさか、普通に廊下ですれ違うなんて思ってもいなかったから。

でも、イオン様は話しかけてくれた。謝ってくれた。2人はそれが嬉しかった。

 

「あの……イオン様、アリエッタたちは…」

「あの〜、イオンさまぁ〜。この子達誰なんですか〜?なんかすっごく親しげで、アニスちゃん気になるんですけど〜?」

「「!?」」

「すいません、アニス。彼女たちはアニスが来る前……元々ボクの守護役をしてくれていたんです。ええっと、……アリエッタと、シャルロッタ。双子なんですよ」

「へー、そうなんですか〜……」

 

久しぶりのイオンとの会話を続けようと口を開いた矢先に割り込んできた1つの声。言わずもがな、イオンの守護役として一緒にいたアニスである。

双子は、驚いていた。口調もそうだが今、会話をしているのは上司である導師なのだ(双子は知らないが、双子はアニスより神託の盾兵としての階級が上である)。その導師との会話を遮って、自分の疑問を優先させた……しかも内容は自分たちのこと。そんなことは別れてから聞いてもいいことではないか!自分たちと違って、私室まで一緒にいられるのだから聞く機会なんていつでもある。

呆気に取られている双子をよそに、双子についての説明を聞いたアニスはぬいぐるみを抱きしめる双子を上から下まで値踏みをするように見やって、

 

「……根暗っぽくて小さいくせに。こんなのがイオン様の側付きだったんですか〜?入れ替えがあってよかったじゃん」

「「!?」」

「アニス、」

「…はーい、失礼しました〜」

「はぁ……すみません、2人とも…」

「い、いえ…!」

「いおサマ、わるく、ない…です!」

 

言い放ったのは、双子を貶す言葉。確かに双子はアニスよりもイオンよりも身長は小さい。根暗…なのは、ただ人見知りが激しいために、そして言葉が追いつかないためにそう見えるだけだろう。だって一部の人(仲間や家族)と一緒にいる時の双子は表情豊かで子どもらしい無邪気さだって見せるのだから。

アニスとしては自分を認めない他の導師守護役からの嫌がらせがあったことでストレスが溜まっていた故の発言かもしれない。しかし双子は努力し、周りに認められた上で側付きをしていたのだ。その発言はイオンのためにしてきた努力をすべて否定された気分でしかなかった。

結局イオンはアニスを軽く止めるだけにとどめ、話を続ける雰囲気でもなくなってしまったので分かれることになった。

 

静かに頭を下げる双子とすれ違い、去っていったイオンとアニスの後ろ姿を見ながら双子は話す。ぬいぐるみを強く抱きしめ、その頭に顔を押し付けながら。

 

「……アリエッタ」

「…なに?シャルロッタ」

「シャル、あいつ、きらい。シャルたち、がんばった……がんばった、のに…」

「……アリエッタも、嫌い。礼儀…ダメだよね?イオン様を遮るなんて…」

「それに、…」

「……」

 

まだ、遠目に見ているだけなら気にはなるけど気にしなくてもいい存在だったのに。この相対で双子はすっかり(アリエッタは以前からだが)アニスに苦手感情を持ったようで、出てくる話題は不安や不満ばかりだった。だいたいが〝イオンの評価を悪くしないか〟ということだったが。

 

ポツポツと言いたいことを言い合っていた双子だったが、じっ、と2人の歩き去った廊下を見ていたシャルロッタがふとなにかに気づいたようにぬいぐるみから顔をあげた。

 

「……アリエッタ」

「……なに?」

 

 

 

 

「いおサマ……アリエッタとシャルロッタ、わかってた……?」

「…………」

 

 

 

 

それを聞いたアリエッタも廊下の向こうへと視線をやる。

 

〝ええっと、……アリエッタと、シャルロッタ。双子なんですよ〟

 

「どう、かな……でも、…まだ、そうだって決めつけちゃうのは、早いよ…だって、イオン様だから。アリエッタとシャルロッタを見分けられないはず、ない……よね…?」

 

 

悲しそうにつぶやく声が、その場に溶けていった。

 

 






シンクとディストが出張ってます。
アニス、なんか物凄い悪者感が出てます(2回目)
ここらで双子とアニスを会わせておかないと、本編中で「根暗ッタ」呼びにさせられないんですよ…会ってないことになっちゃうかもなので。
そしてついに(?)双子がイオン様にも疑問を持ちました。これからどうなるのでしょうか?ある程度は決めていますが、双子が暴走したら私もどうなるかわかりません。

次回は本編に入ります。
ただ、活動報告にもあげたとおり、双子の登場……といいますか、合流のさせ方に迷ってます。
二人同時にママに会いに行かせるか……シャルロッタ単体で会いに行かせるか……それによって、タルタロスでのあれそれや、フーブラス川でのあれそれに違いが出てくる予定です。
シャルロッタ単体だと、きっと平仮名ばっかりで言いたいことを説明できるのかが疑問ですが、やれないことはないと信じてる。

書き進めながら悩むことにします。
では、今回はこのあたりで。失礼します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話 森の現状



迷いに迷った結果、双子はやっぱり2人で一緒にいることが好きなようで、気づいたら一緒にいました。
迷う必要なかったみたいです。
さて、今回は以下の独自設定を挟ませていただいて前書きとします。
これはこの話だけでなく、この小説内での設定としますのでよろしくお願いします。

★魔物を倒した時★
魔物を倒すと音素に還るが、それは中途半端な倒し方をされた場合。
少しずつHPを削り多くの傷を与えて倒した魔物は傷口から音素化し、一瞬で命を奪うように一気に命を刈り取った場合は音素化しない、ということです。
じゃあ、高レベル時に一瞬で倒す時はどうなるのかって言うのは「小説だから」でお察しください。
単に魔物を餌とする場合、身が残らないで全部音素化してしまうと餌にできないな、と思ったために設定しました。普通の動物がいるんじゃないか、とも考えましたが、この小説ではいない設定でお願いします。
……あ、ブウサギとかハトとかは別ですよ?ある意味これらも魔物なのかも知れませんが。

では、本編です。




 

 

森が火事になった、そう聞いてはいたけれど……自分たちは軽く考えていたところがあったと思う。だって、アッシュは〝北の森が火事になったらしい〟としか言わなかったから。その後は俺は伝えたからな、といなくなってしまったし、どれくらい、とか…双子の家族がどうなったか、とか…何も言ってなかったから。だから勝手に、そんなに酷くないんだって思ってた。ママたちは心配だったけど、すぐに駆けつけなくても大丈夫だって北の森の近くの任務が入るまで待つ余裕があった。

ホントのこと、知ってたら……もっと早くここに戻ってきたのに。

 

「…っ…ひどい……」

「……なにも、ない…」

 

やっと待ち望んだ北の森の近くでの任務が入り、双子は揃って出かけていた。今回はその地域で最近見られる魔物の調査、可能ならば双子が意思疎通を取れる相手かどうかを確かめるのが任務で、最初は双子のどちらかが行けばいいと言われていたのだ。2人で行く必要などない、そんなに厳しい任務ではないのだから、と。だが、任務を言い渡したものは2人は2人ともがこの任務を待ち望んでいたのかを知らなかった。案の定どちらが行くか姉妹ケンカとなり、どうせ片割れが気になって集中出来なくなるくらいならもう一緒に行ってこいと様子を見に来た事情を知る一部の者たち(アッシュ・シンク・ディスト)に放り出され、双子は少数の師団兵を率いて向かっていた。

早く、しっかり終わらせて、ライガクイーン(ママ)に会いに行こう。もしかしたら少しだけ里帰りみたいにママや兄弟たちに甘えられるかもしれない。それに、そろそろ自分たちの妹や弟達が生まれる時期…手伝えることがあるかもしれないし、もしかしたら新しい家族に会うことが出来るかも…。

そんな火事を軽く考えていた2人は予定通り任務を終わらせ、報告は師団兵に託し先にダアトへ帰らせて森へと足を踏み入れ、そして……北の森〝だった〟所を見て呆然としていた。そこは一面焼け野原となり、かろうじて原型をとどめている草木も再生するのは難しいところまで焼け焦げていた。生きているものなど存在しないそんな死の世界、……そうとしか思えない光景だった。

 

「…ママは…?」

「…みんな、どこですか…っ」

 

ほぼ原型をとどめていない森だった場所を歩きながら、ライガの巣を目指す。時折炎から逃げ遅れたのか、もしくは餌を探す魔物に狩られたのか、地面には骨が転がっていた。それを見るたびに家族かもしれない、友達かもしれないと泣きそうになりながら双子は足を進める。まだ決定的なものは見ていないから、諦められなかった。

 

「ここ、……」

「シャルロッタ…ここ、ママの匂いする…よね?」

「…うん。でも、なにもないよ…?」

「……何も残って、無いね…」

 

ようやく自分たちが育ったあたりと思われる場所……焼け焦げた地面に匂いが充満していながら、他のどこよりもライガクイーン(ママ)の匂いが残っている所にたどり着く。きっと岩穴に巣を構えていたからこそ、ここまで匂いが残っていたのだろうが……岩穴の中まで炎は及んだのか、地面には焦げた草花の跡が残っていた。

こんなこと(火事)が無ければ、ここで母はタマゴを産み、それを守るために動かないでずっと()の奥に座っているはずで。卵だって置いてあるはずだ。そしてたくさんの家族たちが餌を運び、幼い兄弟の世話を手伝い、子どもは森を駆け回って体力を付けてと狩りを覚えていく…そんな光景が見られたはずなのだ。

()には生活の跡も何かがあったような跡すら燃えてしまい、元から何も無かったかのように見えた。

全て、燃え尽きてしまったのか。

間に合わなかった、のだろうか。

そんな顔を真っ青にしてもう泣く寸前の双子の背後から何やら気配が近づいてきていた。

 

『がるるる…っ!』

「「!?」」

「誰…?ここは、アリエッタたちのお家…!」

「ここ…シャルたち、だいじ…。こわすの…だめ…!」

 

魔物の鳴き声……明らかによそ者に対して威嚇するような声を聞いて、それが自分たちに向いているとはっきりわかった時。双子は振り返り、すぐさま武器を構えて見せた。

相手は逆光になっているからかこちらからはよく分からないが……この場所は今はなくなってしまったとはいえ、双子がライガクイーンに助けられてから守られ、育ってきた大切な場所。壊れてしまったからこそ、これ以上壊されてしまうことは、耐えられなかった。

しかし、威嚇の声を上げていた魔物は双子をしっかりと視界に入れると動きを止め、匂いを嗅ぐように鼻を動かした後……唸り声を収めてゆっくりと近寄ってきたのだ。

 

『!ぐるる…』

「…えっ…!?あ…、お…おにい、ちゃん…?」

「……おにー、ちゃ………いき、てた…いきてたぁ…!」

 

少しばかり体の毛並みはぼろぼろだが、元気そうなライガがそこにいた。普段との毛並みの違いや兄弟からの威嚇を受けた経験がなかったためにすぐに気づけなかったが、それは確かに自分たちと一緒に育ってきたライガに間違いなかった。顔を擦り付けて自分たちとの再会を喜ぶ兄を呆然と受け入れていた双子は、その存在をしっかり認識すると共に泣き顔のまま抱きついた。

──生きてた。

もうその思いでいっぱいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく兄弟との再会を喜んだ後、双子は家族や森の状況を聞く。

結論からいえば、母は生きていた。

火事が起きた時、消火が間に合う規模ではないとわかるや否や、動けるライガたちで協力してタマゴを運んで移動したらしい。母は無事だったが何頭か姿を見れない家族がおり、生きているのかそれとも死んでしまっているのか…それもハッキリはしていないのだとか。気がかりだったのは巣を離れて生活していた双子。双子の近くにいる魔物(友だち)には双子には伏せるように伝えていたらしいが、万が一来るとしたら北の森の育った住処だろうと、姉兄たちが交代で様子を見に来ていたらしい。ここで出会えたのも偶然兄が様子見に来る日と重なったからだった。

そんな簡単な説明を聞いたあと、兄に連れられて双子はライガたちが今住処としている森へと向かうことになった。なぜ火事になったのか、今は平気なのか……それらを聞こうとはしたが、兄から母から詳しく聞いた方がいいと言われ、黙ってついていく。

枯れ木、焼けた地面ばかりの森から少しずつ緑が増えていく道を歩き、今、群れが住処としている森が見えてくる。それが見えてくるにつれて、ライガや他の魔物達の姿も見え始めてきた。なんでも北の森から避難してきた魔物もいるらしい…しかし元の森と今の森、違う生態系が混ざりあい、魔物の中でも上位に位置するライガはともかく食料を得られず数を減らしている魔物もいるのだとか…。それを聞いて、双子は唇を噛む。自分たちがいたところでなにか出来た訳では無いだろうし、弱肉強食な世界だ……それでも、故郷を感じられる要素が減っていることはよくわかったから。

 

兄が足を止める。

どうやら住処へと着いたようで、行けと、行って顔を見せてやれと促されるまま双子は中へ足を踏み入れる。

 

「「ママ……?」」

『!』

 

はたしてそこに、ライガクイーンは鎮座していた。

双子が来たことに目を開き、驚いたように見はる母を見て、双子はもう我慢出来ずに駆け寄りすがりついた。ライガクイーンは頭を擦りつけ、無事に安堵して泣き出す双子を見れば軽く鳴き声を上げたあと優しく舐めてやった。自分(クイーン)は双子をこの問題に人間の双子を巻き込むつもりはなかったから。だから知らせなかったのに、娘たちはどこからか情報を得て自分の元へと来てしまったらしい。

 

「ママ…よかった、元気…ですか?」

『ええ、母もタマゴも無事。でも、何頭かのライガや他の魔物達が犠牲になってしまった』

「…なんで、かじ…?」

『………チーグルの仔が原因。なぜか自分たちの住む森ではなく、我らの治める森へとやってきて火を吹いた。小さかったはずのその火はあの森全てを焼き尽くす大きなものになってしまった』

「チーグルの仔って、いった…?ママ」

「チーグル、こども、ひ…ふけない…」

『それは、わからない。でも、それが原因なことは確か』

 

ライガクイーンの治めていた広大な森を焼いたのは、1匹の仔チーグルの吹いた炎のせいだった。最初は小さな炎だったが、魔物たちはパニックとなり消火が遅れ……森を捨てるしかなくなってしまったのだ。水を扱える魔物も居たには居たのに、いきなりの事で対応しきれなかったのだろう。そうして生き延びた魔物たちはこの森へと移住してきたのだ。

双子はここまで聞いて疑問をもった。

なぜ、仔チーグルが火を吹けたのか。

本当に仔チーグル1匹が起こしたことなのか。

なぜ、北の森で火を吹いたのか。

小さな子どもが勝手に自分たちより上級の魔物の住む森まで来たのいうのか。

それを怠ったのは…。

……いくつも気になることはあるし、起きてしまったことではあるが、疑問をそのままにしておいていいとは決して言えない。そのままにしておけば、万が一同じことが起きた時に対応ができなくなってしまうからだ。だが、それには満足のいく答えはなさそうで。

 

「ママ…その、チーグルは…?」

『謝りには、来た。我らは住処を奪われ、何頭もの同胞を失った。最初は掟通り、支配下に置くつもりもなかったのだが、今回はいささか規模が大きすぎた……だからこそ原因であるチーグル族への報復に動こうとしていた。しかしチーグル族が…お前達のいる人の集まりで神聖視されているらしく、それを盾に命乞いをしてきたのだ』

「そーいえば、ディスト、いってた…せーじゅー、って。 チーグル…」

 

シャルロッタが前に聞いた話を思い出す。教養ではなく、単に魔物に育てられたなら知っているかという軽いノリでディストにチーグル族のことを聞かれたことを。その時よく分かっていない様子のシャルロッタに対し、ディストは教団に所属しているなら知っていた方がいいと教えていたのだ。魔物の話とはいえ教団に聖獣認定されているといわれても、自分にとっては大きく気高い、そして美しい母(ライガクイーン)こそが聖獣であり、それは昔からの言い伝えで認められたものだと教えられれば、見たもの聞いたもの自分が体験したものでないとよく理解できないシャルロッタは、チーグルに興味が持てなかった。ディストは「あんなにチョロチョロといるのなら、数匹持って帰って研究に使えないですかね…」なんてことも言っていたな、と思い出しているとクイーンは巣穴の隅のほうへと視線を向ける。

 

「……?」

「あれって…」

 

ライガクイーンが向けた視線の先には野菜や果物が積まれていた。風通しの良さそうなところに新鮮そうなものが上の方に重ねられているが、多く積まれたその下には傷んだものもいくつかありそうだ。それにしても、量が多い……中には森の中で見たことがないようなものまで見える。不思議そうに視線を戻すと、母は大きく頷く。

 

『…私は今、タマゴを生んだばかりでここからあまり離れることは出来ない。だから我や同胞が動けない分の食糧を提供し続けるのなら、と猶予を与えることとしたのだ。しかし…』

「……ママ、やさい…たべる?」

『いや、我らライガは肉食。だから野菜などを食べることは無い。肉もあるにはあったが…それは、生まれる仔のためにも、同胞が生きていくためにも食べてしまったから、そこにはない』

「ママ、あれって…焼印…この辺りだと、エンゲーブ?」

『…どうやら人の手が入ったものを盗み出して我らに運んできていたようだ』

 

チーグルって、バカなのかな。

これが双子が同時に思った感想だった。だって、命を取らない代わりに要求した食糧を自分たちで集めずに人里から盗み出したのだから。これでは全く要求に答えていない。むしろ、手を抜いて楽をしていると言われても間違いではないだろう。

そして、ライガの立場から考えてもチーグルの行為は明らかにバカにしているとしか思えなかった。命乞いをして猶予をもらっている身でありながら、運ぶ食糧はすべて盗品。唯一、1匹のチーグル……森を燃やしてしまう原因となってしまった仔チーグルだけは、定期的に森になる木の実や身は少ないが魔物の死骸を小さな体で少しずつ運んできては毎回謝っていくが……いちばん悪いのはその仔どもだけかも知れないが、きちんと見ていなかった大人達にも責任はある。それなのに償いとはっきり分かるのはその1匹だけだ。

 

「……チーグル、消したらダメかな…」

「……おみやげ、ディストに…あとは、いらない…」

『…まあ、我らもここに永住するつもりもない。お前達が言った通り、あの食料には焼印が付いている。つまり、人里でも騒ぎになっているだろう……この森にいつ、人の手が入るかわからない。早いうちに移住する。もちろんチーグルの問題は放置だ』

「……じゃあ、アリエッタたちもほっときます」

「…わかった…。……!!」

「シャルロッタ…?…あ……」

『……足音が聞こえるな…これは魔物ではない。…2…3人、か…?』

 

それはとても小さな音。普通の人間では気づけないほど遠くで響く小さな音だが、それでも魔物共に自然で育った双子や魔物の耳には届く草を、地面を踏みしめる音。魔物であればライガクイーンの存在を知っているためにもっと気配を消してくるだろう。となれば、かなり可能性は低いが新参の魔物…か、人間ということになる。ライガの討伐に来たというのか。

ライガクイーンは唸り声をあげ始め、双子は母とタマゴの前へ立っていつでも戦闘態勢を取れるように構える。守るために動けない母を守るのは自分たちの役目だから、と。

そして、警戒し始めてから少しして、

 

 

 

「ここが、ライガのいるっつー巣か?」

 

 

 

────きた。

 

 

 






誰だっけ、原作入りするよ、合流できるよって言った人。
……私ですね。
できてなくないですか?あわわ、やるやる詐欺になってしまった…!!
最後にちょろっと出てきた人、分かります…よね?
……さぁ。今度こそは合流、間違いなく、絶対!
そして、さり気にミュウの救済の道を敷いておきました。こんな感じで他メンツにも少しずつ救済対象や、よく捉えられる部分は入れていきます。
ただ、ガッツリヘイト・アンチ対象は無理です。良くかけません。
……微妙に筆者、ヘイトとアンチの違いがわかってないのですが、とりあえず断罪も少しずつはいっていくかと。

では、また次のお話でお会いしましょう、です。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話 ライガの住処A



会話が少し多めです。
ゲーム内のセリフをそのまま使いつつ、この小説オリジナルにアレンジしました。
あ、それと、ルークは話す時に
「…~じゃぬぇー」
という話し方をしているのが特徴ですが、どのくらいがそう言っているのかわからず、今回は
「…~じゃねー」
で統一してます。わかり次第改稿します。
では!本編へ。



 

ライガの巣を確認するような声が聞こえたかと思えば、足を踏み入れてきたのは3人の人影と小さな生き物。まだこちらがはっきりとしているわけではないのだろう、堂々とではないが確実に近づいてきている。次第にお互いの顔や服装などがはっきりする距離になり、双子から見てそれは、赤い髪で長髪の男、緑の髪の華奢な男、栗色の髪で長髪の女だとわかった。人間たちの足元にいるのは、先ほどライガクイーンの話(ママの話)に出てきた仔チーグルだろうか……成獣に比べれば小さいのだろう、おぼつかない足取りで付いてきている。そしてよくよく見てみれば男のうちの一人は双子にとって見覚えのあるどころの話ではないほど、見慣れたものだった。

 

「……イオン様…?」

「…!!あなた達は…!…」

「は!?ガキ…!?ガキが何でこんなところに…」

「…なぜ、あの子たちは女王(クイーン)の前にいるの、危険よ!?」

女王(クイーン)?」

「ライガは強大な雌を中心とした集団で生きる魔物なのよ……だからこそ統率も取れていて、一筋縄で行く魔物じゃないの」

 

自分たち双子を目にしてなぜここにいるのかと驚くイオンの側では、一緒に来た男女がライガについて話している。イオンは側にいる男女にライガクイーン(双子のママ)について話しているというわけではないのだろうか。……話していないのだろう。だって、話していたらライガクイーンは危険だ、なんて言葉は出てこないはずなのだから。

 

「あの、イオン様…クイーンの近くにいる子どもは…」

「あぁ、そうでした。えぇと……2人は、何故ここへ?」

「……にんむ、かえり…です。きたのもり…かじ…。シャルたち、きになって……」

「ちゃんと、終わらせてから来ました、です。報告は副師団長に任せてあります…です」

「そうですか…ご苦労様です。では、教団へ帰り次第確認しますね」

「あの、いおサマ……ここ、おそと…しゅごやく、は…?」

「ええと、ボクは理由あって外に出ているんです。アニスは別行動で…」

「……別行動?守護役はアニスだけ、ですか?」

「……すいません、寝てたので置いてきました…アニス以外は連れてきていません…」

「…アニス、しゅごやく…ダメ。いおサマ、ずっといっしょにいる、…だいじなのに…」

「で、ですが、この2人がついてますし…」

「……ふたり……よーへー?」

「あ、いえ……あれ、そういえばルークのことを聞いてませんでしたね…?」

「…そーなの…?」

「……って、おい!ここは危険っつってたよな!?お前ら呑気すぎんだろ!!」

 

女からの問いかけで、イオンが双子に問いかける。多分、女が聞きたかったことは〝双子が何者なのか〟〝導師と親しいのか〟あたりのことなのだろう。しかし持ち前の天然さで〝双子はなぜここにいるのか〟を聞き、ほのぼのとした雰囲気を作り出してしまったイオン、そしてこちらもある意味状況をわかっておらずいつも通りに返答して、世間話のような流れにしてしまった双子。しびれを切らした男が強引に流れを切り元に戻すが、双子にとってはこの状況を〝危険〟と言われても理解できるはずがなかった。

だって、この場にいるものは双子にとっての母親と目の前の侵入者だけなのだから。危険だと感じる要素が双子には全くない。むしろ、侵入者であるイオン以下2名(+チーグル)の方が危険だと思っていた。だって、ライガの強さを知る人間は簡単に巣へ近づくなんてことはしないから。それなのにここへ来た──警戒する以外にないではないか。

 

「きけん…?…なんで?」

「えっと、それは……」

「なんでって…、ライガの巣にいて危険がわかってないっていうの!?話を聞く限りあなたたちは神託の盾兵なのでしょう?なんでそんなこともわからないで任務に就いているのかしら!?」

「そ、そうだぞ!任務がどうとかは知らねぇーけど、そいつは危ねぇんだ!」

「ティア、ルークも落ち着いてください。彼女たちは魔物の扱いに長けた双子、普通の人よりは心得ているはずです。……ですが、そうですね。魔物の扱いに長けているとはいえ、ライガクイーンはただの魔物ではありません……この場は流石に危険です。すぐに離れてこちらに……」

「…………え……」

 

きけん、危険、キケン。

キンキンと甲高い声で怒鳴るように叫ぶ女の声にびくりと肩を震わせてぬいぐるみを抱きしめるアリエッタに、手甲鉤をいつでも構えられるよう手をかけたまま少しだけクイーンの側へ後ずさるシャルロッタ。そしてあまりのうるささに低くうなり声をあげるライガクイーン。

……まだ、飛び出してはいけない、飛び出すわけにはいかない。この場にはイオン様がいる、タマゴを守るライガクイーン(ママ)がいる、まだ生まれていない妹弟(きょうだい)だっている。ここを戦闘の場にしてしまったら巻き込んでしまうかもしれないから……前衛を担うシャルロッタは唇に歯を立てながら、痛みで苦手な我慢を重ねていた。

警戒を緩めないままに目の前の人物達から繰り返される言葉を聞いていた双子は、耳を疑った。イオン様を遮った女も許し難いが、それ以上に、信じられない思いだった。本気で言っているのだとしたら、これまでに少しばかり生まれただけの懸念が確信に変わってしまう……そんな事だったから。今にも飛び出してしまいそうなシャルロッタに代わり、アリエッタがぬいぐるみを強く抱き、ふるえた声色で問いかけた。

 

「イオン様……それは、本気で…言ってる、ですか…?」

「……?本気、とは…?」

「ライガクイーンが、ただの魔物ではない、この場が危険だって、言ったこと…です」

「…そう、ですね…。僕は見たことがないですが、ライガクイーンが獰猛なライガを統率している事は知られていますし…」

 

────それが、限界だった。

 

「ここに……シャルたちの、いえに、……ちかよるな!いおサマの、ニセモノ!!」

「!?なんで……!」

 

アリエッタが目を見開き、抱きしめていたぬいぐるみを手放してしまうほどに驚いて、泣きそうに顔を歪めた時には、シャルロッタは自分の唇を噛みきり、目を怒らせながら手甲鉤を構えて、飛び出していた。目の前の者達を完全に敵と認識した、噛みきった口元から血を流し、光を失くした敵意を見せる瞳のそれはまさに【獣】と言っても相違ないほどで。

遅れて呆然としかけていたアリエッタが我に返り、ぬいぐるみを抱き直すと周りに音素が収束し始める。ふわりと浮かぶピンクの髪、その周囲に集まってきたのは、第六音素。そして無差別に放たれるのは──リミテッド。

 

「わ…!」

「きゃあっ!…ちょっと、危ないじゃない!それに偽物だなんて……イオン様に失礼よ!」

「みゅうっ!?」

「おわっ!って、危ねーな!」

 

降り注ぐ光の塊からイオンをかばった男の前に現れた小さな影。影……アリエッタの譜術(リミテッド)を後ろを見ることなく掻い潜って飛び出し、鈎爪を突き出したシャルロッタを反射的に男がなんとか木刀で止める。我を忘れて襲いかかったためか、シャルロッタの爪の軌道は単調で読みやすく、そして男に比べてだいぶ小柄であることもあってか師団長クラスの実力であっても男は受け止めることがかなったのだ。それでも経験とレベルに差のある攻撃は重く、男は顔をしかめる。木刀と鈎爪が噛み合い、ギリリと嫌な音を立てていた。

 

「おい、イオンが偽物って、どーゆーことだよっ!」

「…どいて、どいてよぉっ!!いおサマ、ママに…ごあーさつ、してる、もん!しらない、ないもん!」

「イオン様はアリエッタたちと一緒にママに会ってる!それを、イオン様が、アリエッタたちのママを知らないはずがない…です!」

「ママ…って、は!?まさか、そこのライガクイーンってヤツのことを言ってんのか!?…っ、ぐ、くそっ!いい加減離れろっての…!」

 

噛み合った爪をなんとか外そうともがくシャルロッタに、男は声を荒らげる。そして、シャルロッタの言葉を援護するように後方からアリエッタが声を上げた。よくよく見れば、アリエッタの近くには再び第六音素が収束し、いつでも次の譜術を放てる状態になっている。

双子の中に少しずつ重なってきた違和感は、1度は蓋を占めて考えないことにしていた。

だって、イオンは疲れているだけだと言ったから。双子にとっての絶対であったイオンのいうことは正しいし、そこに存在する(いる)のだから、別人だなんてあるはずがないと信じきって、勘違いだったのだと考えないことにしたのに。

だがここで、確信してしまった。

目の前のイオンは、自分たち双子が慕ってきたイオンとは違う存在だと。証明された訳では無いが、双子の中では別の人、と位置づけるしかない条件が揃ってしまった。それでもイオンなのにイオンではないと感じていてもそれがなんなのかを知るすべが双子には無かった。ただ認めるしかない現実と認めたくない思いを向ける場所がわからず、特に自制がまだ効かないシャルロッタは武器を向けて反発することしか出来なかった。

興奮するシャルロッタを、泣きながら声を上げるアリエッタを唸りながらも見ていたライガクイーンはここで初めて立ち上がり1つ大きく吠えた。その咆哮によって小さなチーグルは吹き飛ばされ、慌てて女が駆け寄る。

 

「おい、ブタザル!ライガクイーン(あいつ)はなんて言ってんだ!」

「タマゴが孵化するところだから来るなと言ってるですの…」

「タマゴォ!?ライガって卵生なのかよ!?」

「ミュウもタマゴから生まれたですの。魔物はタマゴから生まれることが多いですの」

「まずいわ。タマゴを守るライガは凶暴性を増しているはずよ」

「みゅうぅ…ボクがライガさんたちのおうちを間違って火事にしちゃったから、女王様すごく怒ってるですの……それに……」

「それに?…なんて言ってるの、ミュウ?」

「……お前を信用して娘達を託したというのに、約束を反故にされた、…ってイオンさんに向けて怒ってるですの…」

「娘達…って…」

「……魔物に育てられたんです、彼女たちは。そのおかげで、魔物と会話する力を身につけ、それに目をつけた教団が保護をしました。そして、彼女たちは二年前まで僕の守護役を務めていました。ただ、約束とは…」

 

そう答えるイオンだったが、薄々気がついていた。その約束は被験者(オリジナル)が双子と、ライガクイーンと交わしたものなのだろうと。人として生きるために刷り込みされた中に当然導師としての職務についての知識はあったが、被験者が過ごした個人の記憶は引き継げない。きっとその記憶の中の出来事なのだろうと。

記憶は、その人物がその人物を構成する要素であり、その人物たる理由である。目の前で怒りと悲しみを顕にする、双子にとってのイオンの記憶を、自分はいくつも持っていないから。……被験者にとって1番近しいといえる存在を悲しませてしまっているのは、自分だ。それでも、導師としての仕事はしなくては…その判断は、ここでわかる者はいないが誰も幸せにならないものだった。

 

「……ですがライガのタマゴが孵れば生まれた仔たちは食料を求めて街へ大挙するでしょう」

「はぁ!?」

「ライガの仔どもは人を好むの。だから街の近くに住むライガは繁殖期前に狩り尽くすのよ」

 

双子は思った。特に、前線で刃を交えるシャルロッタは。

──何を言っているのだろう、イオン様は、この女は。そんなこと、あるはずがない。だって……!

 

 

「……こいつらがいるんなら、それ、違うんじゃね……?」

 

 

──え?

 

 

「おい、チビ助」

「……っ、」

「あいつ、お前の母上なのか?」

「はは、うえ…?…ひゃっ、」

 

刃を合わせながら問いかけられたことに迷いを見せた一瞬の隙で男はシャルロッタを弾く。手甲鉤を手放すことは無かったが弾かれた勢いで尻餅をつき、痺れた手を庇うがそれでもシャルロッタは下から男を睨みあげた。しかし、男は木刀を腰に戻す。その行動に戸惑うように瞳が揺れるシャルロッタを見て、男は先程よりは少しばかり落ち着いたのか答える気はあるようだとじっと答えを待つ。何やら叫ぶ女はいたが、シャルロッタはうろうろと視線を動かしながらもポツリ、ポツリと話し始めた。

 

「……ははうえ、なに…?」

「あー……あんま言葉知らねーのか?…お前らでいうならママってことだよ」

 

アリエッタはともかく、シャルロッタは言葉が追いつかないところがあるのだと察した男は、鬱陶しそうに言いつつもどこか懐かしそうな、親近感のあるような表情で、自分なりにわかりやすく噛み砕いて答える。パチパチと瞬きをしたシャルロッタは少し考えるように首をかしげ、母上=ママという説明に納得したのか顔を上げる。

 

「ママ……うん、シャルと、アリエッタの、ママ……」

「……そーかよ。……ここの森の近くにエンゲーブっつー村があんだよ。ここからお前らが出てかないと、ライガは人間を食べるから討伐隊が出されるって言ってたぜ」

「…!ライガ、にんげん…たべない!」

「…嘘を言わないで!ライガの子どもは人間の肉を好むのよ!?」

「アリエッタとシャルロッタ、赤ちゃんの時にママに助けられた……ママに、拾われて育ちました。でも、食べられてません、ママの娘として生きています…っ」

「シャルも、きいたこと…ないっ」

「……お前らが、信じていても、他の奴らは信じねーんだよ。あいつみたいにな。だから、人間のためじゃねぇ、お前とお前の家族のためにここから移動してくれねぇーか?」

「……いどう……」

「……俺は、信じてやってもいいぜ。嘘言ってるようには見えねーしな」

「…!……ママ……」

 

ライガは誇り高く、知能の高い魔物だと双子は認識しているし、ライガクイーンもそう教育していた。当然魔物と人間の境を理解しているし、まずそこへ踏み込まない……無駄な争いを避けるために。そのためライガは餌として人間を認識したことは無かったが、縄張りに足を踏み入れたものに対しては力で応戦したために、このような認識をされているのかもしれない。もしくは双子の母親の群れ以外で、餌を取れずに仔どもを育てられない時にやはり縄張りを荒らすものを餌として捕食したかだ。群れの数だけライガクイーンは存在し、全ての頂点にいるわけではないからだ、可能性がないとは言いきれない。

イオンが言ったように、危険だと繰り返し続ける女のように、人間にとってのライガは〝獰猛〟で〝危険〟でしかないのだ。イオンはその事情を含めて自分たち双子を認め、必要としてくれていたが、そんな人物はごく少数でしかないのだということを、双子は今、理解したような気がしていた。でも、双子にはもう、そんな存在(理解者)はほとんどいない。魔物が怖いと近づかない奴らと、魔物と一緒にいるなんて気味が悪いと汚いもの、異質なものを見る目で見てくる奴らばかりだ。

……だが、シャルロッタの目の前で話す男はどうだろう?

 

人間のくせに、人間のためにではなく、自分たちのために移動しろと言ってきた。

 

人間のくせに、魔物といる自分のために説明をしてきた。

 

人間のくせに、信じてもいいなんて言ってきた。

 

人間のくせに、……この男は、信じてもいいのだろうか。

 

シャルロッタはライガクイーンへと顔を向け、アリエッタはそのやりとりを見て収束させていた第六音素を霧散させて不安そうにクイーンを伺う。

視線を集めるライガクイーンは、先程よりも大きく、森中へ響きわたるような咆哮をあげると双子に向けて小さく鳴いた。それに頷くとシャルロッタは立ち上がり、アリエッタはライガクイーンへ寄り添う。森を駆ける足音がする。

動きを見せたライガクイーンと双子を見て女がナイフを構える。

 

「なにをするつもりなの!?イオン様、危険ですからお下がりください!ルーク、あなたさっきから勝手に行動しないで!戻ってイオン様を守りなさい!」

「……アリエッタたちは何もしない、ただ、他の兄弟たちを呼んだだけ!『動ける者でタマゴを運ぶ。その青年の思いに免じて、住処を移そう』ってママは言ってます。………イオン様…」

「……はい」

「移動すれば、そこの女も、シャルロッタの前の男も、……入口の……ううん、誰も、ママも兄弟も殺したりしない、ですよね?」

「!!……はい、もちろんです。ユリアに誓って…いえ、ボク自身の【名】に誓って、人を害することがない限り討伐することはしません!」

「…だったら、アリエッタはもういいです。……ちゃんと、確かめたら……また会いにきます……イオン様」

 

イオンを背にかばって武器を構える女を視界から追い出し、ライガクイーンと群れの安全を願うアリエッタ。確認する中、チラ、と巣の入口へと意識をやるがすぐに目の前のイオンへと戻していた。安全についてはイオンという名に誓うとまで言われ、ひとつ頷けば自分もタマゴを運ぼうと移動を始めた。

 

「みゅ、女王様!ミュウ、知ってるですの!ここから、北の方に……キノコがたくさん生えてる森があるですの!そこなら、ライガさんたちのご飯もたくさんあるはずですの!ほんとに、ほんとにごめんなさいですの…!」

『お前は、チーグル族の中で唯一自力で食糧を運んできた。唯一謝罪をした。責はお前だけではないというのに……我らは、お前を許す』

「…!!それでも、ボクは謝るですの。ボクは、ダメなことをしてしまいましたの。だから…」

『……忘れるな。それがお前に我が伝える罰としよう』

「……はいですの!」

 

チーグルの仔どもが、女に抱えられたまま声を上げる。人間たちにはさっぱりの会話だったようだが、双子は理解した。母は、チーグルの仔どもは許すということを。

双子もチーグルも言葉を伝えなかったために、どんな会話をしたのか知っているのはライガ側だけであったが、会話を終えたチーグルが決心したような顔をしていたことから、いい結果が出たのだろうと人間達は納得したようだ。

 

「…あー……その、なんだ…タマゴも割れずに済んだし戦わなくていいってことだよな?」

「……」

「おい、」

「にぃ、……なまえ、なに?」

「は?にぃって、俺か?………、…ルーク」

「るーく…にぃは、ルーク……ん、おぼえた。……ルーク、」

「あ?」

「…ありがと、です」

 

居づらそうに戦わなくても良くなったことを、頬をかきながら言う男に対し、マイペースに名前を聞くシャルロッタ。他での会話に比べて、先程まで刃を交えていたのが嘘のように何故かほのぼのとしている。新たな名前を覚えたシャルロッタはそろ、と手をルークへと差し出し一つ詠唱をする。

第七音素が集まり、シャルロッタの髪がふわりと浮かぶ。奇しくもその姿は先程のアリエッタと酷似していた。

──ファーストエイド。

初級回復譜術ではあるが、ルークの傷は癒え、跡すら残らずすんだようだ。

ニコリと笑い、お礼を言うとルークに背を向け走り出し、姉を、母を手伝い始める。

 

そしてタマゴを抱え、ライガクイーンと巣の近くまで集まってきていた兄弟たちと共に新しい住処へと出発する双子。

それぞれが違う思いを抱きながら、この場は別れることになる。

 

アリエッタは気づいていた。

シャルロッタは侵入者に精一杯だったようだが巣の入口のところに不自然な気配が二つしていたことに。最初はライガクイーンが立ち上がった瞬間に動いた気配が、男がシャルロッタへ話しかけた頃に静かになったために見逃してやったが。

あれは、一体誰のものだったのか。

アリエッタは通り過ぎる時に一度立ち止まり、付いてこないアリエッタを気にした家族に呼ばれるまで、そちらをしっかり睨んでやった。

「……ママに呼ばれなければ、リミテッド、打ち込んだのに…です」

 

 

 

シャルロッタは思い出していた。

ルーク、ルーク……この名前を、どこかで聞いたような気がする、と。

 

……現国王の王妹であり彼女が降嫁したファブレ公爵家──つまり王族だな──で、そこの一人息子、ルーク・フォン・ファブレ、に……

 

……アッシュが言っていた気がする。

 

 

「……きのせい…?」

 

 

 





最初に。
何故、こんなことになった…w

これでライガクイーンは生存します。
それは最初から決めてはありましたが、気づいたらシャルロッタもアリエッタも攻撃してました。
お互いに名前を知らないため、わざとの「男」「女」などでの表記です。個人的にはルークに「チビ助」と読んで欲しかったんです。シャルロッタの「にぃ」は「お兄さん」という意味だと思っておいてください。

この話でわざと描写しなかった、イオンサイドの様子などは次回、載せようと思います。+αで双子が移動したあとの出来事も同時収録予定(?)。
では、また次のお話でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 ライガの住処B

Aと来たからにはBがあります。
今回は前回のルーク視点となっています。
古本屋さんでシナリオブックを安く手に入れることが出来たので、それを元に作成しています。
それを読んで最初に思ったのは、あれですね…
ルーク、ティアのことを名前で呼ぶの断髪の時まで一回も無い…!!
間違えそうで怖いです。
では、本編へどうぞ。



──最悪だ。災難だ。

本当にそれしか言いようがない。

目の前を歩く栗色を見つめながら、朱色の長髪を揺らして歩く男──ルーク・フォン・ファブレはため息をついた。

 

レムデーカン・レム・23の日。

この日、久しぶりに屋敷へヴァン師匠(せんせい)が来てくれたんだ。……目的は俺の剣術稽古のためってわけじゃなかったけど。

なんでも師匠(せんせい)の所属するローレライ教団のイオンって奴が行方不明で、ヴァン師匠も捜索に出るからしばらく屋敷(うち)に来れなくなるって挨拶に来たらしい。そんな奴、ほっとけばいいのにそういうわけにはいかないって…俺の師匠なんだから、俺を優先してくれたっていいじゃねーか。……まぁ、その代わりにめいっぱい稽古つけてもらうことで妥協した俺、偉くね?

んで、中庭でヴァン師匠と打ち合いをしてたらなんか歌が聞こえてきた──と思ったら眠くなって立ってられなくなったんだ。……俺だけじゃねぇ、ヴァン師匠も、見てたガイも、ペールも膝をついて…それから女が飛び降りてきたんだよな、屋根の上から。そんでもっていきなりヴァン師匠にナイフで斬りかかったんだよ、そいつ……もうこの時点で色々おかしいよな?……つっこむなよ?後で言いたいことは言うからここではおいておく。

話を戻すぞ……ヴァン師匠に斬りかかった女を見た俺は、持ってた稽古用の木刀でヴァン師匠を守りに入ったんだ。貴族の家に来た客人はその家のものが守るものだろ?……まぁ、師匠に教えて貰った剣術を実践できるって思ったことは否定しないけどよー…

んで、なんだっけ……そーそー、ちょーしんどー?とかいうやつ。それが女の杖と俺の木刀が噛み合った時に発生して……気づいたら、森の中。マジありえねぇ…。屋敷を襲撃してきた女に起こされて、よくわかんねー話をうだうだされて送り届けるとか言われた。自信ありげにあれこれ決めやがるし、ヴァン師匠を襲うくらいだし、強ぇー奴かと思えば初めて見た魔物の前で戦わせられた。そんでもって女は俺の後ろで歌ったり、ナイフ投げたり…前に出てこねぇ。俺は軟禁中に体がなまらないように剣術を習ってるだけであって、実践はしたことねーっての!送り届けるって、人とか物を傷つけないよう守りながら運ぶことを言うんじゃねーのかよ。よくわかんねー……ただ屋敷から初めて出たから、海とか川とか見るのは新鮮だったな。それだけはよかったと言ってもいい、うん。

そっから先も大変だった。

 

女が馬車の行き先を間違えてマルクトへ向かっちまうわ

(俺は軟禁されてて、……なんでかはわかんねーけど勉強すると気分が悪くなるせいであんまりやってなかったから土地勘なんてあるわけねーだろ)

 

エンゲーブっつー村では食料泥棒に間違えられるわ

(俺は貴族だし、屋敷から出たことねぇ。買い物の仕方なんて知るわけねーし、やっても使用人にさせてたに決まってんだろ)

 

ヴァン師匠が行方不明っつってたイオンがフツーにいるわ

(フツーに元気に外で歩いてるじゃんか。訳を聞いても教えてくれねーし)

 

襲撃してきた女はヴァン師匠の妹だっていうし、色々自覚してねぇーし

(狙いが師匠であれ、俺の屋敷を襲撃してきたことには違いねぇのに「巻き込みたくない」って、色々遅ぇーんだよ。しかも屋根から飛び降りてきたんだ、招いてもねーやつが屋敷にいるってのは不法侵入じゃねぇの?俺が知らねーだけで、外では普通のことなのか?)

 

……で、今は本当の食料泥棒の犯人だったチーグルから事情を聞いて、イオンがライガに交渉するからってそいつらの巣へと向かってるわけだ。交渉兼通訳は森を燃やした仔チーグル。……大丈夫なのか……?

イオンはエンゲーブに帰してぇけど、ほっとくと重要なやつらしいのに護衛もなしで勝手に行きそうだしな、こいつ。

 

「はー……ホント、災難だ……」

「何か言った?ルーク」

「……なんでもねーよっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがライガのいるっつー巣か?」

 

ブタザルに案内されてたどり着いた、ライガの巣。たどり着くまでにも数頭のライガを目にしたが、ライガのボスはブタザル曰く比べ物にならないくらいでかいらしい。木々に囲まれたその中に居たのは、俺たちのお目当てのかなりでけぇ魔物(ライガ)……だけじゃ、なかった。

 

「……イオン様…?」

「…!!あなた達は…!…」

「は!?ガキ…!?ガキが何でこんなところに…」

「…なぜ、あの子たちは女王(クイーン)の前にいるの、危険よ!?」

「女王?」

「ライガは強大な雌を中心とした集団で生きる魔物なのよ……だからこそ統率も取れていて、一筋縄で行く魔物じゃないの」

 

そこに居たのは2人のガキ。2人ともだいたい俺の胸くらいの身長で桃色の長い髪、なんか変な顔がたくさんある継ぎ接ぎだらけのぬいぐるみを2人して抱えていて、……ん?あいつらの顔、……そっくりじゃねぇか!?あの眉のたれた感じと言い、仕草と言い……外の世界にはあんな瓜二つのやつなんているんだな、初めて知ったわ。反応からしてイオンの知り合いっぽいな…それにしても、あいつらなんで魔物の前に立ってるんだよ、危ねーだろ!

 

「あの、イオン様…クイーンの近くにいる子どもは…」

「あぁ、そうでした。えぇと……2人は、何故ここへ?」

「……にんむ、かえり…です。きたのもり…かじ…。シャルたち、きになって……」

「ちゃんと、終わらせてから来ました、です。報告は副師団長に任せてあります…です」

「そうですか…ご苦労様です。では、教団へ帰り次第確認しますね」

「あの、いおサマ……ここ、おそと…しゅごやく、は…?」

「ええと、ボクは理由あって外に出ているんです。アニスは別行動で…」

「……別行動?守護役はアニスだけ、ですか?」

「……すいません、寝てたので置いてきました…アニス以外は連れてきていません…」

「…アニス、しゅごやく…ダメ。いおサマ、ずっといっしょにいる、…だいじなのに…」

「で、ですが、この2人がついてますし…」

「……ふたり……よーへー?」

「あ、いえ……あれ、そういえばルークのことを聞いてませんでしたね…?」

「…そーなの…?」

「……って、おい!ここは危険なんだろ!?お前ら呑気すぎんだろ!!」

 

……いや、前言撤回。こいつら全然そっくりじゃねぇ。少し手前、俺たち側に近い側にいるガキは話し方がたどたどしいし、いろいろ足りねぇ。…奥にいるガキはたどたどしいのは同じでも、まだ分かりやすい言葉遣いしてるっていうのにな。俺には言いてぇことわかるけど、ティアっつー女は「もっとはっきり喋りなさいよ」とか言ってる……小声のつもりかもしれねぇけど、聞こえてんぞ。そんなガキの言葉をしっかり解読できてるイオンすげぇ。このガキ……なんか、親近感っつーか、……や、なんでもねーや。

それにしても、ほんっと危機感ねぇな、コイツら!報告するのは大切かもしれねぇけどもっと安全なとこでやれよ、ここ危険なんだろ!?イオンも止めろよ、のほほんと世間話にもってくなよ!確かに自己紹介はしてねぇーけど!(女にマルクトで迂闊にフルネーム言うなとかで止められたし)

そんなことを内心で突っ込んでいれば、俺の言葉になにか引っかかったのか手前のガキ……チビ助でいいか、が首をかしげた。

 

「きけん…?…なんで?」

「えっと、それは……」

「なんでって…、ライガの巣にいて危険がわかってないっていうの!?話を聞く限りあなたたちは神託の盾兵なのでしょう?なんでそんなこともわからないで任務に就いているのかしら!?」

「そ、そうだぞ!任務がどうとかは知らぬぇーけど、そいつは危ねぇんだ!」

「ティア、ルークも落ち着いてください。彼女たちは魔物の扱いに長けた双子、普通の人よりは心得ているはずです。……ですが、そうですね。魔物の扱いに長けているとはいえ、ライガクイーンはただの魔物ではありません……この場は流石に危険です。すぐに離れてこちらに……」

「…………え……」

 

そうだよ、俺らの目的は危険なライガにこの森から移動してもらえるように交渉することだろ。……交渉って言ってんのに武器構えて戦闘姿勢を見せてるヤツ()もいるけどな、俺は戦う気ねーぞ……服が汚れるし、タマゴ割るとかしたくねぇーし、何より俺は木刀だぞ!?あんな大物、相手になるわけねぇーじゃねーか!

とりあえず、ライガに交渉するには目の前のガキをどかさなきゃならないと、俺が聞いた限りの状況で説得しようとした。……イオンに落ち着くように言われた時、2人のガキは目を見開いて手前のガキは、何かをこらえるように唇を歯で噛んでいる…?

 

「イオン様……それは、本気で…言ってる、ですか…?」

「……?本気、とは…?」

「ライガクイーンが、ただの魔物ではない、この場が危険だって、言ったこと…です」

「…そう、ですね…。僕は見たことがないですが、ライガクイーンが獰猛なライガを統率している事は知られていますし…」

 

────きっと、それがきっかけだったんだ。

 

「ここに……シャルたちの、いえに、……ちかよるな!いおサマの、ニセモノ!!」

「!?なんで……!」

 

ブチりと、手前のガキが自分の唇の端を噛み切り、手を広げた瞬間、伸びる爪。……爪ぇ!?は、武器か、アレ!?そのままこちらへ突っ込んでくる、と思えば俺らに降り注ぐ光の鉄槌(リミテッド)を慌てて避ける。〝ニセモノ〟と言われた本人であるイオンは、驚いているのか呆然としていてそこに降り注ぐ譜術を避けることもできそうになく、近くにたっていた俺が慌てて守ってやる(ついでに近くに転がっていたブタザルも庇うことになった)。光の奔流が落ち着く前に飛び込んでくる小さな影──爪を構えていることから多分手前にいた方のガキだ。単調な動きでしか振り下ろされなかったから、俺の剣術の腕でもなんとか受け止めることが出来た。

 

「おい、イオンが偽物って、どーゆーことだよっ!」

「…どいて、どいてよぉっ!!いおサマ、ママに…ごあーさつ、してる、もん!しらない、ないもん!」

「イオン様はアリエッタたちと一緒にママに会ってる!それを、イオン様が、アリエッタたちのママを知らないはずがない…です!」

「ママ…って、は!?まさか、そこのライガクイーンってヤツのことを言ってんのか!?…っ、ぐ、くそっ!いい加減離れろっての…!」

 

とにかく、重い。体重がどうのという訳ではなく、この子どもの1つ1つの攻撃が。これだけ体格差があるってのに、受け止めるだけで精一杯…っ!しかも、興奮してるのかなんなのか、こっちの話を聞いてるのかわからない。

そして、それを聞いて俺は衝撃を受けた…んだと思う。

──ママ…?

その一言に反応してか、チビ助2人よりもさらに奥に座っていたライガクイーンが立ち上がって、空気がビリビリと震えるような咆哮をあげた。それにブタザルは耳を動かして顔を上げた……かと思えば、衝撃ですっ飛んだ。……まぁ女が駆け寄ったし、いいだろ。

 

「おい、ブタザル!ライガクイーン(あいつ)はなんて言ってんだ!」

「タマゴが孵化するところだから来るなと言ってるですの…」

「タマゴォ!?ライガって卵生なのかよ!?」

「ミュウもタマゴから生まれたですの。魔物はタマゴから生まれることが多いですの」

「まずいわ。タマゴを守るライガは凶暴性を増しているはずよ」

「みゅうぅ…ボクがライガさんたちのおうちを間違って火事にしちゃったから、女王様すごく怒ってるですの……それに……」

「それに?…なんて言ってるの、ミュウ?」

「……お前を信用して娘達を託したというのに、約束を反故にされた、…ってイオンさんに向けて怒ってるですの…」

「娘達…って…」

「……魔物に育てられたんです、彼女たちは。そのおかげで、魔物と会話する力を身につけ、それに目をつけた教団が保護をしたんです。そして、二年前まで僕の守護役を務めていました。ただ、約束とは…」

 

そうか、コイツらにとってのライガクイーンは母上なんだ。イオンの言葉を聞いて、その考えガストンと俺の中に入ってきた。

俺だって、母上のことを危険だなんて言われたら怒るに決まってる……だからこうやって攻撃してきた。

母上なんだから、危険だなんて思ってるはずがない……だから、俺らが〝危ない〟〝離れろ〟って言っても不思議そうにしてた。

話を聞いている限り、イオンはこの2人の母上と会ったことがあるのか……?イオン自身が困った顔をしているから、絶対とは言いきれねぇ。

光の譜術は収まってたけどいつでも次のを打てる準備は出来てそうだし、チビ助の爪はまだ振り回されていたから、なんとか受け止め続けるだけの俺の腕には小さな傷が出来ていく。ライガの巣へ来る前から女より前で戦わせられてたから傷なんてもう気にしてられなかったし、それに比べりゃいいけどよ…!

 

「……ですがライガのタマゴが孵れば生まれた仔たちは食料を求めて街へ大挙するでしょう」

「はぁ!?」

「ライガの仔どもは人を好むの。だから街の近くに住むライガは繁殖期前に狩り尽くすのよ」

 

ルークは思った。

──何を言っているのだろう。さっきイオンが自分で言ってたんじゃねーか。

 

「……こいつらがいるんなら、それ、違うんじゃね……?」

 

──コイツらは、魔物に育てられたんだって。

 

「おい、チビ助」

「……」

「あいつ、お前の母上なのか?」

「はは、うえ…?…ひゃっ、」

 

俺が話し出したのに驚いたのか、パッと顔を上げて困ったように俺の顔を見つめてきた隙に爪を弾いて、木刀は腰へ戻す。反動で尻餅をついたチビ助は最初、弾かれた腕をかばって睨みつけてきたけど、俺が木刀を手にしていないのに気づいて余計困った顔になってた。多分、下手に声掛けたりしなきゃ、何か言うだろ。……俺も、そうだったし。

 

「……ははうえ、なに…?」

「あー……あんま言葉知らねーのか?」

 

──ほらやっぱり。話を聞こうとすれば返すんだ、それが当たり前なんだよ。

……まぁ、俺の言葉の意味が伝わってなかったっていうオチはあったけどな。しかもこいつちっせーからな……10歳くらいか?じゃあ伝わってねぇ〝母上〟はわかる言葉に……わ、わかる言葉ってなんだ?俺にとっての母上ってのは、コイツらにとっての……

 

「……お前らでいう、ママってことだよ」

「ママ……うん、シャルと、アリエッタの、ママ……」

「……そーかよ。……ここの巣の近くにエンゲーブっつー村があんだよ。ここから出てかないと、ライガは人間を食べるから討伐隊が出されるって言ってたぜ」

「…!ライガ、にんげん…たべない!」

「…嘘を言わないで!ライガの子どもは人間の肉を好むのよ!?」

「アリエッタとシャルロッタ、赤ちゃんの時にママに助けられた……ママに、拾われて育ちました。でも、食べられてません、ママの娘として生きています、…っ」

「シャルも、きいたこと…ないっ」

「……お前らが、信じていても、他の奴らは信じねーんだよ。あいつみたいにな。だから、人間のためじゃねぇ、お前とお前の家族のためにここから移動してくれねぇーか?」

「……いどう……」

「……俺は、信じてやってもいいぜ。嘘言ってるようには見えねーしな」

「…!…ママ…」

 

俺の話をしっかり聞こうとこっちを見て、しっかり考えようと一生懸命に見えるチビ助。離れたところに立っていて、コイツらにとっての母上(ライガクイーン)と俺を交互に見ていて、それでも邪魔せず考えているように見えるもう一人のガキ。……後ろで女が「邪魔をするなら一緒に無力化すればいい」とか、「馴れ合ってないで今のうちに攻撃しなさい」とか色々言ってくるのは、まるっと無視だ。

俺は、ライガのことなんて知らねー。

魔物のことを俺よりも外の世界に詳しい女やイオンの方がよく知ってるのは当たり前だが、その情報よりも長く魔物と一緒にいたらしいこいつらを信じる方がいい気がする……勘だけどよ。

だから、俺が思った通りのことを口にすれば、チビ助はライガクイーンを振り返った。もう一人の桃色のガキも、同じように。ライガクイーンがじっとこちらを見つめてきたから、俺も見返してやった。怖くねぇなんて言ったら嘘になるけどよ、あきらかに被害者なコイツらばかりひどい目にあうのもなんだかな、と思うのも本心だしな。

するとライガクイーンはまた一つ、大きな鳴き声をあげた。さっきのは俺たちを吹き飛ばそうとするようなものだったが、今回は違う……森全体に響き渡るようなそんな声だった。

ふと視線を感じてそちらへ目をやれば、俺のことをじっと見つめてくるチビ助。なんとなく気恥しい気がして、慌てて話題を探した。

 

「…あー……その、なんだ…タマゴも割れずに済んだし戦わなくていいってことだよな?」

「……」

「おい、」

「…にぃ、……なまえ、なに?」

「は?にぃって、俺か?………、…ルークだ」

「るーく…ルーク…ん、おぼえた。にぃは、ルーク…。……ルーク、」

「あ?」

「…ありがと、です」

 

俺が話しかけてやったのに、最初は黙りでイラッとした。でも、小さい声で話しかけられていたらしい。……名前、聞かれてた。

そしたら、嬉しそうな笑顔を浮かべてお礼を言い、俺に向かって手を突き出すチビ助。ふわりと、俺らを包むなにか暖かいもの……後からわかったのは、俺にも素養があった第七音素が集束していた感覚を拾っていたらしい。気がついたら……傷が、全部なくなっていた。さっき俺とチビ助がやりあった時の小さな傷だけじゃなくて、ここへ来るまでにも付いた傷とかも、全部。

 

「…あの……、………」

「……は……?」

「ルーク、また…」

 

チビ助は俺の怪我を治療し終わると、なんで名前を聞いてきたのかも、お礼を言ってきたのかも、聞けないままにライガクイーンの元へ走り出してしまった。小さな小さなつぶやきを残して。その時俺は意味がわからなくて、誰かに伝える必要があるとも思えなくて、流してしまったのだけど。

 

そして、ライガたちと2人の子どもは外へ出ていく。片方…チビ助じゃない方が、入口をじっと見て途中で立ち止まっていたのが気になったが……それはすぐに分かることになる。

 

「やれやれ、気づかれてましたかねぇ…」

「おわっ!?オッサン、いつからいたんだよ!?」

 

そう、そんな言葉と共に、元ライガの巣へ青い軍服の…エンゲーブで会ったマルクトの軍人が入ってきたからだ。

 

「いやー、途中からいましたよ?第六音素譜術が放たれたあたりから…」

「それ、チビ助が俺に突っ込んできたあたりじゃねぇか…。居たのなら何とかしてくれたって…」

「何とかして差し上げても良かったのですが…できる限りバレたくなかったのですよ。我々は密命中ですから。特に、彼女たちは神託の盾では有名ですし」

「あ…」

 

しかも、結構はじめの時からいたらしい。軍人なら俺を助けに来いよ!とも思ったけど、ふつーに流された。……チッ。密命だかなんだか知らねーけどよ、イオンがなんか沈んでるし、後で慰めてやることにする。…てかあいつら、この眼鏡が気にするほどの有名なヤツらだったのか…?

それから、なんだかんだで俺達もここから外へ出ることになった。

外へ出ると駆け寄ってきたのはエンゲーブの宿屋であったガキだった。なんかオッサンに耳打ちされて、イオン預けて行っちまった……あ?あいつ、導師守護役(フォンマスター・ガーディアン)とかいってなかったか…?イオンほったらかしてていいのかよ…

そしてチーグルの巣で事の顛末を報告し、森から抜けるというところで兵士たちに囲まれ、よく分からないままにエンゲーブへ戻ることなくオッサンにマルクト軍艦《タルタロス》へ連行されることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あの、……ライガ、なにもしない……エンゲーブに、つたえて…」

 

────その呟きを、すっかり忘れたまま。

 

 

 

 

 




はい、今回ちょびっと出てきました大佐です。導師守護役は、セリフは出てませんがいます。前回アリエッタが気にしていたところにいた人たちですね。
筆者は、ルークは表に出さないだけで、結構純粋にまっすぐ物事を見ているように思うのですよね。なので今回のように内心ではズバズバと色々言ってもらいました。多分外に出せない理由は、話しても聞いてもらえないっていう考えとうまく言葉に表せられないってところからかな、と。
最後の呟きは、シャルロッタからの一応救いでした。
これの意味に気がついた時、どうなるのでしょうか…?
いつか、本編で出します。
では、また次回お会いしましょうです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13話 双子のこれから


今回は双子のダアト帰還話です。
ディストさん大活躍、の巻。
どうも話し方がジェイドと同じ感じになってしまい、難しいです……
そしてオリジナルな裏話を書いているとだんだん文章がおかしくなる上、矛盾していそうで、不安がいっぱいです。でも、ガンバりました。
それでは、本編へどうぞ。



 

特に急いで帰ってこいとも、他の任務があるとも言われてなかった双子は、ライガクイーンと共にチーグルの仔どもに教えられた新たな森……キノコロードに落ち着いていた。情報通りキノコがたくさん生えている以外に、豊富な魔物(しょくりょう)…しかもある程度のレベルの魔物が多くいるため、若いライガたちの鍛錬にもとても役立つ場所だった。

そして……

 

『みゃー…』

『ミー…ミャー!』

 

無事に弟たちが生まれた。

タマゴから生まれてから初めて見る景色を興味津々に、でもおぼつかない足取りで見て回るライガの仔たち。人間の双子を見ても、ライガクイーン()他のライガ(きょうだい)たちが受け入れているからか関心は持っていても警戒はしていないようだ。既にアリエッタは様子を見ながら少しずつ近づいて行き、仔ライガの側にしゃがみこんでじゃれあっている。シャルロッタはというと、ライガクイーンの体に軽くもたれかかりながらその様子を眺めていた。普段ダアトでも限られた人間としか関わりを持たない双子は、ライガを、母親を守る為に明確な敵意を持つ人に相対したことで少なからず精神に乱れを生じさせていた。特にシャルロッタは好奇心は強くても人見知りで、誰かの後ろにいることが多いのだ。家族を守るためとはいえ人前に飛び出して感情を爆発させたことに気疲れしていたが心配をかけないように隠していたつもりだった。が、それはライガクイーンにはバレバレだったようで、シャルロッタの近くに座り込んで毛繕いをし始めた。自分の状態がバレているとわかると、自分から抱きついたり擦り寄ったりして母親の温もりというもので落ち着きを取り戻し始めていた。安心する母の温もり、母の鼓動、母の匂い。それらを感じられるのは生きている証拠……守ることが出来て、本当によかった。

 

「……」

『……何か、朱の髪を持つ人間に伝えていたな』

「…ルーク、…ライガ、とーばつ…いってた。エンゲーブ…に、いえば…なくなる…おもった…」

『……そうか』

「ママ、シャル…ダメだった、ですか?」

『いや、何も悪いことは無い。我らは既に森を辞した。強いて影響があるとすれば……、……』

「?」

『……いや、あの人間が人の村にあの場でのことを伝えたなら、特に影響はないだろう。気にするな』

「……うん」

 

シャルロッタはライガ(家族)のことを考え、ルークに伝言を頼んでいた。といっても伝言がエンゲーブへ届く頃には移動し終わっているため、伝言されようがされなかろうがあまり関係はない。…ただ、気分の問題だった。

それに、朱色の髪の青年……ルークは言っていたから。

〝エンゲーブから討伐隊が出されるかもしれない〟

と。もしもの事があっては、せっかく生まれてきた弟達も危険にさらすことになってしまう。最悪を考えて動くことを身につけられたのは、イオンに仕えるようになったからこそだ。最悪……全てはライガに否がありとされ、討伐隊によって家族を失うなんてことは起きて欲しくなかったから。

ただ、この話には1つの勘違いがあった。

双子やライガたちは知らないことだが、ルークの発言はエンゲーブの住民から言われたことではない。エンゲーブから討伐部隊が出される、と言われたことでエンゲーブの村で聞いたかのように聞こえるが、実際は同行していた栗色の髪の女と導師イオンが、推測して言ったことだ。つまりエンゲーブはチーグルが食糧泥棒の犯人だということはイオンのおかげで知っているが、なぜチーグルが食糧を盗んだのか、何のために、森には何が住んでいるのか……それを知らないのだ。エンゲーブはマルクト領ではあるが、キムラスカにも多くの食料を輸出する世界の食料庫である。その食糧を荒らされたのだ、何かしらの対策、報復を考えていることだろう。もしもシャルロッタの言葉をエンゲーブに伝えたなら、ライガが移動したこともチーグル族の犯した行いも伝わることになる。伝える機会がなかったとなれば、その矛先は……

 

『(……まぁ、いい。唯一は離れた後。我らが干渉することはもう無いのだから)』

 

ライガクイーンは1人我関せずを貫くことに決める。唯一許した存在は既に離れたことだろう。今は、また人の群れへと戻ることになる娘たちのケアを優先することこそが母親としてすべきこと。ライガクイーンの考えがわからずハテナを飛ばすばかりの娘(シャルロッタ)と、産まれたばかりの弟を抱えたまま抱きついてきた娘(アリエッタ)を好きにさせつつ、ライガクイーンはゴロゴロと喉を鳴らして目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家族が落ち着いてから双子はキノコロードを離れ、ダアトへ帰還した。が、上から下までなんだかバタバタと慌ただしい。これはとりあえず上の誰かに話を聞くべきか…勝手に動いて保護者に怒られるのだけは嫌だ。しかし何かあったのかを聞こうにも顔見知りをすぐに見つけられず、かと言ってあまり話さない人に話しかけることも出来ず、動くに動けなくなっていく2人。そこへ声をかけてくる人物がいた。

 

「おや、帰ってきましたか。クイーンはいかがでした?」

「!!」

「ディスト…」

 

いつもの如く、空中に浮かぶ椅子に乗って音も無く近づいてきたディストに驚き、後ろに隠れるシャルロッタと普通に見えるが少しばかりほっとしているアリエッタ。いつもであればどんなに静かな気配でも野生育ちの五感でなんとなく察して身構えるのに、今は周りが騒がしすぎて微かな情報も拾えなかったようだ。軽く「すみませんね、驚かせました」と謝るディストは、自らがお膳たてしたような双子の里帰りの報告を促す。

 

「ママ、元気でした。森を燃やした犯人は、チーグル。チーグルを食べない代わりに食糧を持って来るようにママは言った…けど、チーグル、エンゲーブから盗みました。ちゃんと自分で集めて、謝ったのは原因の仔チーグルだけ。チーグル族すべてを許すことは出来ないです、けど、……きちんと償った仔どもは許す。それがママの決定…です」

「……なるほど。さすがクイーン……ライガだけでなく、魔物を統べるものとしての考えがしっかりしていますねぇ」

「あの、ディスト……みんな、バタバタしてる…。なにか…あった…?」

「…あなた達には言いづらいのですが……導師イオンが誘拐されました」

「「……え?」」

「え?」

 

ディストが言いづらそうにイオンの不在を伝えると双子は揃ってきょとんとした表情を向け、それに対してディストも唖然とした反応を返す。普段から導師守護役を解任されて七神将となってもイオンを優先させる(それについてヴァンに確認したところ、そういう約束だとその時伝えられた。作戦に組み込むのに影響が出る、もっと早く言えとシンクに蹴られていた)双子に、導師イオンが行方知れずと伝えると、泣いて暴れるのではないか……探すといって出て行きはしないか…などと懸念があったのだが、なぜか落ち着いている。むしろ、落ち着いている双子を見てディスト(こちら)の方が不安になってくる。

 

「……いや、「え?」って……あなた方が大好きなイオン様が誘拐されたのですよ?何をそんなのんびりと…」

「…いおサマ、あった」

「……は?………はぁぁっ!?会ったって、ど、どこでですか!?」

「ママ、おうち……しゅごやく、アニス。えと、……ルーク、チーグル、…おんな、いっしょ」

「つまり、ライガクイーンの住処にいた、と。で、一緒にいたのはルーク?チーグル?女…?ですか…。守護役はアニス…え、今イオン様についているのが、アニス1人ですか?」

「んーん」

「……そ、そうですよね。まさかイオン様に1人しかついていないなんてこと」

「アニス、いなかった」

「そっちですか…!!」

 

まだ導師の行方不明が分かり、誘拐犯などの詳しい情報は洗い出している最中なのだ。なにしろ犯人はダアト市民に 【導師イオンが軟禁されている】と噂を流して暴動を起こし、その最中に導師を誘拐した。幸い死者は出なかったものの暴動とそれを鎮圧する部隊によって怪我人が多数出たのだ。相手が一般信者達のために全力を出して制圧することが出来ず、信者達よりも教団員側に損害が大きい上、一部建物にも影響が出てしまった。なんとか鎮圧できたものの少ないとは言えない被害が出てしまい、おまけに大人数が動員されたため、対応に追われてまだまだわからないことだらけなのだ。

現段階でわかっていることは、

・犯人はマルクトの左官と見られ、誘拐前にアポ無しで導師との謁見に来た

(当然アポをとっていないため追い返された。その際、「素直に入れておけばいいものを……痛い目を見ても知りませんよ」というようなことを言っていたとのこと)

・誘拐時間は暴動が起きたとほぼ同時だと考えられる。誘拐に早く気づいた者が追いかけたが、逃げられてしまった。

(その際に譜術と人形(パペット)に襲われたらしい)

・詠師たちや教団に残っていた導師守護役の中に導師の外出について知っているものはなく、置き手紙などもなかったため教団は誘拐と判断、現在対応中。

という3点である。

まだ落ちつかない教団に急遽もたらされた目撃情報……しかも、導師イオンを敬愛する双子が目撃者である。信頼出来る情報源が来たことから、多少予想外なものもあったが、廊下で長々突っ立っているよりも一度落ち着いて話を聞かせなさい!と、ディストは方向転換し、双子を自らの執務室へと呼び寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふむ、なるほど……話はわかりました。今、大詠士モースの命令で、モース曰くネズミ(スパイ)の情報から導師イオンが乗っていると思われるマルクト戦艦《タルタロス》を襲撃する奪還任務にアッシュ、ラルゴ、リグレットが前線に。シンクが後方支援に就いています。あぁ、あなた達に先立って帰ってきた第三師団と魔物達をお借りしていますよ」

 

双子の拙い説明をなんとかまとめ、導師イオンの動向を推察する。情報をまとめて考えるなど、その辺は双子には向かない作業のため2人は見たこと聞いたことを話していく。そして、現段階であたっている任務などについての説明を聞いていく。導師イオン奪還のために動いていると知り、会っただけでなく話してもいる双子は若干落ち込んでいた。

 

「いおサマ…ゆーかい…。シャル、しらなかった…」

「あなた達には何も伝えてませんでしたから…気にしなくても大丈夫です。それに、取り戻すためにアッシュたちが任務にあたっているでしょう?ですから、何かわかるまでは留守番です。いいですね?」

「……うん」

「ディストは…?」

「……この件には私のかつての友、陰険ジェイドが関わっているらしいじゃないですか。それならば、神が遣わした天才である私、薔薇のディスト様の力が必要になるのが当然!…なのに、後方支援に回されたのですよ!?」

「つまり……おるすばん?」

「…そーですよっっ!……はぁ…」

 

みんながみんないないというわけではなく、ディストやシンクは後方支援として前線にいるのでは無いということ。つまり、まだディストと話していても怒られないということ。

そこで、双子は切り出すことにした。きっと、物知りなディストなら知っているだろうと考えたから。イオン様の先生であるディストなら、なにかは教えてくれるだろうと思ったから。

 

「ディスト……教えてください。あのイオン様は、…だれですか…?」

「は…?」

 

森で確定されてしまったけど、わかりたくない信じていたものが裏切られたそれが本当なのか知るために。

 

「いまの、いおサマ……シャルたちのいおサマじゃない。」

「……気のせいではないのですか?」

「違うもん!前から思ってた……アリエッタとシャルロッタを見分けられない、ママとあって…アリエッタとシャルロッタをダアトにいれるようにしてくれたことも知らない、そんなの、アリエッタたちのイオン様ならありえないもん!」

「………、……そうですか」

「ディスト……なにか、しらない…ですか…?」

 

元々、導師イオン(オリジナル)の主治医をしていたディストは周りをごまかすためにも継続して導師イオン(レプリカ)の主治医をしていた。そのため、双子とも七神将として同僚になる前から面識があり、生前の導師イオンの遺言をヴァンとともに聞いてもいた。遺言……〝彼女たちは偽物にまで仕える必要は無い。偽者にはくれてやらない〟という、双子に知らされている解任理由とは違うイオンの最期の思いを。

故に本当のことは黙っていた。自分には関係ないとも思っていたし、自分の目的であるネビリム先生の復活のために必要なレプリカ情報をヴァンから貰うためにも必要なことであったから。しかし、双子は自力で真実へとたどり着いてしまった。既に疑心暗鬼となってしまった2人は、なんと説得しても納得することは出来ないだろう。じっと見つめてくる双子に、ついに根負けしたディストは、長いため息とともに話し出す。ディストが知る限りの導師イオンについて隠されてきた秘密を。双子が知りたがっている真実を。

 

「レプリカ……」

「アリエッタとシャルロッタのイオン様……もう、いないんですか…?」

「……そういう事です。しかし、あなた達のイオン様は決してあなた達が嫌いだから言わなかったのではありませんよ?もし、すぐに伝えていたらあなた達はきっとイオン様を追って死のうとしたでしょうから」

「「……ぅ……」」

「(まぁ、ヴァンもこの2人を死なせるのは勿体無いとか考えていたのでしょうけどね)」

 

ディストの言う通り、きっと後を追っていただろうから何も言えないアリエッタとシャルロッタ。だって人間の世界に連れ出してくれたのはヴァンであっても、溶け込むためにそばに置いてくれて一番近くで見守ってくれた大好きな唯一の存在がイオンだったのだから。その存在が失われたと知ってしまっていたら、生きている意味を見失ってしまっただろうから。

 

「じゃあ…今のイオン様は、赤ちゃん…ですか?」

「みたいなものですね。見た目はあなた達が知っている導師でしょうが、中身は2歳です」

「……2さい、なのに……アニス、だけ…?」

「…………とてつもなく、不安ですね」

 

ふと、思ったことを尋ねたアリエッタ。イオンということは双子よりも2つ年下の14歳であるはずだが、作られたのは2年前……刷り込みや教育によって年相応に動けているが、実際はまだ幼子である。そのイオンについている守護役が、仕事をしていないのでは……色々危険である(仕事を放棄していることはこの際置いておいても、イオン自身を様々な危険から守る存在がいないということになる)。かつて、友と言い譜業人形(トクナガ)を授けたが、ここまで怠慢している人物とは考えなかった。それ故に不安を感じてしまう。そんなディストをを見ていたシャルロッタが迷うように目をうろうろさせながら言い出す。

 

「あの……シャル、おてつだい、…だめ?」

「シャルロッタ…?」

「あの、その……シャルたちの、いおサマ、しんじゃったの…シャル、さびしい。でも……あのコも、いおサマ、なんだよね…?」

「……そうですね、見た目も、刷り込みも導師イオンそのものです」

「じゃあ……いおサマは、だいじな、まま…だから。アニス、いない…シャルが、まもりたい…!」

「……アリエッタも!イオン様の側にいたいです…!まだ、七神将のお仕事がないなら、アリエッタだって…!」

 

導師イオンの真実を伝えた上でまさかイオンの近くへ行きたいと言い出すとは思わなかった。だって、双子にとってはあの導師イオンは偽物でしかない。それなのに守る存在として見ているのは……被験者に教えられた導師という立場だからなのか、導師守護役という自分達が解任させられた役職を全うしないアニスに対しての反発なのか、相手が若干2歳の幼子だからなのか。当然人事権がある訳では無いディストに訴えられても対応できるはずがないため、最初は諦めるよう諭そうとしたが……ふと、考えが浮かんだ。

 

「はぁ……私に言っても仕方が無いでしょう。まとめる七神将が──あぁ、あなた方は指揮を執ることが苦手なのは知っていますから数には入れてませんよ──別命で動けず、ヴァンとモースは何故かキムラスカに居るという、トップが揃っていない今…詠師トリトハイムが指揮を執っています。ですから、彼に事情を頼んでみては?」

「…トリトハイム、詠師?」

「導師イオンだけでなく、一緒にいるメンバーのことでも気になることがあれば報告をしなさい。お友だち(フレスベルク)に頼めば鳩より早く届きますし。…報告書の練習だとでも思えばいいのですよ。この天才ディスト様が忙しい合間を縫って付き合ってあげるのですから、感謝しなさい!」

 

ディストの言葉通り双子は報告書に慣れていない。そのため慣れさせることも嘘ではないのだが、実は報告書という名のスパイをさせようという魂胆もあった。普通の人よりも多くの情報を得ることが出来る双子だが、必要な情報といらない情報の取捨選択が出来ないため、報告書を書かせるとものすごい量になってしまう(加えてシャルロッタに関しては文字もうまくかけないため、それはそれは読みにくい)。しかし今回に関しては、わざと膨大な量の報告を許可する事で早目に状況を判断し対策を練ることができる立場につきたいという思惑があったのだ。さすが華麗なるディスト様は天才だ!とばかりに考えつつもなんとか顔に出さないディスト。表情を隠した代わりに言葉がツンデレの父親のようになってしまい、誰か(シンクや部下)に見られていればからかわれること間違いなしだが。

それはともかく、自分たちにもやれることができたと嬉しそうに顔を輝かせる双子はすぐさま部屋を飛び出そうとするが、ディストが引き止める。

 

「待ちなさい!…すぐに行きたいのはわかりますが、いくつか決めることがあります。まず、ヴァンには秘密ですよ…この話をしたことは。一応あのイオン様が本物の導師イオンということになっているんですからね」

「うん。……いおサマ、はなして…いい?」

「導師イオンには話してもよいでしょう。むしろ、知っていることは話さないとあなた達は隠せないでしょうから。次に……シャルロッタ」

「…?うん」

「もう1度、教えてください。イオン様と会った時に一緒にいた者は誰ですか?」

「………いおサマ、ルーク、チーグル、…おんな。たぶん、おんな…オラクル…」

「……とりあえず、名前がわからない女は置いておきます。そのルークという人物は、赤い髪に緑の瞳の男性ではありませんでしたか?」

「…?うん、そう。すこしだけ…アッシュ、にてたけど…ちがう」

「アリエッタは少し遠くで見ただけだけど……髪の毛、朱色でした。あと、アッシュよりも怖くなかった、です」

「……そう、ですか。あなた達が言うのでしたら……いえ、彼は完全同位体……被験者(オリジナル)と違うなんてそんなわけ…」

「…ディスト?」

「あぁ、こちらの話ですから、気にせず。その男性はルーク・フォン・ファブレ……現在キムラスカ王国から保護申請が出ています」

「ルーク・フォン・ファブレ……まえ、アッシュに…きいた。おーぞく、って…!」

「王族、ですか…?どうしよう、アリエッタたち攻撃しちゃった…!」

「まぁ、状況が状況ですから……イオン様に合流すれば、必然的に彼にも会うことになるかもしれません。その時に必ず謝罪を。そして彼は王族です……わかりますね?」

「「はい、です…!」」

 

まずは先程の話を誰にも言わないことを約束する。これはダアトの中でも被験者とレプリカの入れ替えを計画したヴァンとモース、そして検死を行ったディストくらいしか知らない機密事項の1つである。誰それにベラベラと話されてしまうと余計な混乱を招きかねないための約束だった。

次に同行していた王族について。シャルロッタは以前アッシュから聞いてはいたが、彼は公爵家の人間でありながら第三王位継承権を得ており、第二王位継承権をもつ病弱な母親と現代1王位継承者であるナタリアの事を考えると実質次期国王である。その彼が(何故かは割愛するが)マルクトに誘拐されたとしてマルクト帝国、ダアトへと保護申請が出ているのだ。双子が再会した場合、そのことを踏まえた対応が求められる。まだ導師イオンがマルクト軍人の他に誰と行動を共にしているのかハッキリわからない以上、今作戦が行われているタルタロス襲撃において、必ずイオンを奪還できるとは限らない。むしろ、ヴァンの計画のためにセフィロトの封印さえ開けられれば奪還できなくとも良いのだ。その時双子はまっすぐダアトへ帰ってこれない場合、道すがら護衛をすることになる。しかし、シャルロッタの話から考えると導師イオンにキムラスカの王族が同行している可能性が少なからずある。双子にとって一番守りたいのはイオンだろうが、立場を考えるとルークはイオンと同等、もしくはそれ以上の存在なのだ。暗に、もしもの時はルークを守ることも視野に入れろとディストは言っている。

 

「…今から詠師トリトハイムへ私から説明の文書を書きますからそれを見せなさい。そして、トリトハイムへ頼んで命令書という形で導師イオンに同行できる仮の導師守護役としての許可を貰えれば、誰も文句は言えないでしょう」

「わかりました…アリエッタ、待ってます!」

「シャルも、まつ…ディスト、ありがと…です」

 

そうと決まれば、と机に向かうディストとそれを見つめる双子。

やがてトリトハイム宛の文書を書き終えてそれを双子に託すと、一目散に部屋の外へと駆け出して言った。

そしてディストはと言えば、双子が居なくなったのを見送るともう1つ……作戦を立てているシンクと一応双子を気にかけているアッシュに対して、双子を導師イオンへ同行させ情報を送らせる旨を書いた書状を作り始める。

そして、考えていた…レプリカと、被験者について。自分の唯一叶えたい願いについて。答えが出ることなんてなかったのだけれど。

 

 

 

 

 

導師イオンの置かれている状況を、双子があった当時のことではあるが知ることになった詠師トリトハイムは、卒倒しそうになりつつもディストの書状を読み、今のローレライ教団の仮のトップとして双子を派遣することを決定。なにしろ導師イオンが最も信頼していた元導師守護役なのだ、その2人が導師を思って言い出したことであり、現在の導師守護役の怠慢を考えると信頼できると考えたのである。そして双子は命令書が作成され次第送り出されることとなった。

 

 





別名:双子が導師の秘密を知る回、でした。
いつの間にかディストはお父さんと化しました。シンク以外でも部下とかに見られてはいじられているだろうな…と簡単に状況が浮かんでくる不思議。きっとディストさんクオリティ。
ちなみに導師イオンがマルクト軍人に誘拐されて誰か内通者がいる、ということまでは突き止めていますが、それがアニスということはまだ分かっていません。双子が出発した後に判明します。
そして会話文が多い…読みにくかったらすみません。
次回以降、パーティに同行しながら双子の報告書もあげていけたらいいかな、と考えています。


※以下、注意書きになります※
ほどほどに合流して、双子はアレなパーティメンバーと旅をすることになります。これにより、いくつかのイベントの回避、もしくは改変が起こります。それについてはこの注意書きを読んだものとして文句は受けつけられませんのでご了承ください。
読者様の意見をお聞かせくださるのは、毎回コメントを楽しみにしてますので歓迎です。私の答えられる範囲で御返事いたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14話 客人

お久しぶりです。
地の文をルーク視点にするか、第三者目線にするかが文の中で定まらず、かなり難産になりました。

では、長い前置きも不要でしょうし、本文へどうぞ。




 

─────……パタン

 

「ねぇ、シャルロッタ…」

「…なーに…アリエッタ…」

「…イオン様、もういないんだって」

「……そー、だね。やっぱり…ちがうヒト、だった」

「……アリエッタたち、ちゃんと気づいたよ。イオン様、褒めてくれるかなぁ…っ」

 

〝……ねぇ、アリー、シャル。君たちは……突然僕がいなくなったら、心配してくれるのかなぁ〟

 

「……シャルたち、しんぱい…してるよ…」

「また名前…読んで欲しいです…イオン様……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご主人様。もう寝るですの?」

「……」

 

屋敷を出てから、濃い体験ばかりしている気がする。そう考えたルークは声を掛けてきた仔チーグルへ返事を返す元気もなく小さくため息をついていた。

ライガクイーンと対面したチーグルの森での出来事の後、森から出ようとしたルーク達はマルクト軍により不法入国者として、マルクト戦艦【タルタロス】へと連行された。〝暴れなければ〟と言われ、殺されたくないしとついて行くしかなかったわけだが、この時ルークにはまた理解できないことを経験したのだ。

まず、通された部屋では隅にいるマルクト軍人の連れてきたマルクト軍人……──そろそろ面倒くさくなってきたので名前で統一しよう──マルコというらしい副官が青い顔をしていた事だ。ルークが名乗った瞬間からだったような気がするが……。その割には自分たちを連れてきたジェイドは素知らぬ顔をしていたし、自分と同等の地位を持つイオンも沈黙していたこと、そしてそれを言及する暇もなかったため置いておくことにするしかなかったわけだが。……そして、そのことについて尋ねることは二度と叶わなくなってしまったのだけれども。

次に、あからさまに馬鹿にしてくる軍人どもについて。ジェイドはマルクト軍、ティアは神託の盾兵、アニスは導師守護役……とはいっていたがティアと同じ神託の盾兵の特殊部隊である……まだこの3人の中でもアニスはいい。語尾にハートがついてそうな話し方はムカついていたが、子どもであることとまだ他の二人に比べれば礼儀正しく話していたからだ。気になっているのはジェイドとティアである。ルークは七年前からの記憶がない上に屋敷に軟禁されていたため、外の情勢も常識も知らないし教えられてこなかった。これはキムラスカの上層部に知られるある預言のため、ルークへ知識をつけさせないためにワザとの行為なわけだが、それを当人が知るはずもない。少なくともティアは屋敷に軟禁されていたというルークの事情は、本人から直接聞いて知っているはずなのだ。なのにそれをバカにされるのは胸糞が悪くて仕方がなかった。知らないものを知らないと言って何がわりぃんだよ……と鬱憤を貯め続けていたわけだ。

あとはイオンだ。ヴァンは行方不明のため探すことをルークへと伝えていたが本人はここにいる。誘拐されたわけでもなく、自分の意思で出てきているようにしか見えなかった。そこについても知ろうとするルークを置いて話が進むため、全く付いていくことができなかった。

そうして何だかんだと話を聞くうちにルークは気がついたら和平の手伝いをさせられることになっていた。

「(よくわかんねぇーし、ムカつくばかりで正直めんどくせぇ。……でも、戦争は、イヤだ。キムラスカとマルクトが戦争したらたくさんの人間が死ぬんだろ…?だったら、取次くらいはしてやるよ。でも……俺、伯父上の顔も知らねぇけどいいのか?)」

 

で、今度はタルタロス襲撃、である。

襲ってきたのはあの森で会ったような魔物だと高を括っていれば、さらっと艦橋(ブリッジ)がやられたと連絡が入った。あの2人の子どもがいたからの状況こそがイレギュラーなのであって、あの2人に出会う前が世間の当たり前なのだ。それをようやく悟り、自分を守る人材がいないと判断してすぐに逃げようとしたルークは大男に鎌を突き立てられるわジェイドがなんか喰らうわと災難続きであった。

「(お前(ジェイドのやつ)大口叩いてた割に大事な時に使えねーな!)」

しょうがないからと自分が死なないためにも恐怖の中協力し、大男からブタザルの炎で逃げ出して、…そして……刺した。……気がついた時にはルークの手で、……殺していた。

その後は色々あって別行動になっていたイオンを奪還、タルタロスを脱出し、ルークを探していたらしい使用人のガイとも合流して、一人別れた新書を持つアニスとの合流先……セントビナーへと向かっていた。親書を和平の使者だとかいうジェイドが持っていないことも不思議なことではあるのだが、持つそれを考えていられるほどルークには余裕が残っていなかった。それほど、短時間で多くの経験のない命のやりとりが重ねられたのだ。

 

今はもう夜遅い。寝なければならないことは分かっていた。明日以降も歩かなければならないし、他の同行者も不寝番をかってでたガイ以外はもう寝ているだろう……それでも、どうしたってルークは気分が悪くて仕方がなかった。

 

初めて目の前で人が刺されたのを見た。

 

不可抗力とはいえ自分の手で人を殺してしまった。

 

トドメを躊躇ったせいで自分を庇ったティアが傷ついた。

 

「(なんだよ、俺はどうすりゃいいんだよ……知らないことだらけで、外がこんなにやばいなんて。俺も戦わなきゃならねぇのか?)……くそっ」

いつもと変わらないはずの両手に目をやる。……何度も洗い流したはずの血が、こびりついて見えた。

ルークはそんな気分の中で同行者と顔を合わせる気にならず輪から外れ、勝手についてきたチーグル(ミュウ)だけを連れて少しだけ離れた位置に寝転がっていると近くの茂みから音が聞こえて来た。

 

「なんだ…?」

 

ヒョコリと顔を覗かせたのは……1匹のピヨピヨ。見た目は愛らしい鳥(チキン)だが…確か、れっきとした、魔物では無かっただろうか。

 

「ま、魔物…!」

「!ご主人様、ストップですの!」

 

慌てて近くに転がしておいた木刀を引っつかみ、応戦しようとすると声を上げて止めるブタザル。みゅーみゅーピヨピヨと何か魔物同士で話しているようだ。襲ってくる気配がないし、魔物のことは魔物同士に任せようかと木刀を地面に置き直した時、物音を聞いてか不寝番のガイが俺達の方へ近付こうと腰を上げたことに気がつく。……近付いてくる?

 

「どうかしたのかー、ルーク?」

「……な、なんでもねーよ!お前は黙って不寝番してろ!」

「…はいはい、お前も夜更かしせずに程々に寝ろよ」

 

魔物を放置って見られたらやばいんじゃねぇの?!とばかりに珍しく察したルークは、声を張り上げれば寝ている他の同行者たちも目を覚ましてしまう……そうなったら余計にうるさくなるだろうと思って小声で、それでもガイにまでは届く声で反発を返した。それを聞いてガイはいつものワガママがなにかだろうと考えたのか、(苦笑したかのような雰囲気が返ってきたことにはムカついたが)、それ以上は近づかずに元の場所まで戻っていく気配を感じる。

それを確認してからいつの間にか話し終えてこちらを見つめる魔物達の二対の瞳へと向き直る。

 

「チッ……ガイの奴、いつまでもガキ扱いすんなよな……で?」

「ご主人様、この子、ご主人様に渡すものがあるみたいですの!」

「あぁん?魔物が何を……よこせブタザル」

 

どうやらピヨピヨは何かの配達役としてここに来たらしい……しかも、自分宛でだ。実はタルタロスを襲った魔物が特殊でコイツらみたいに人の役に立つのばかりなのが本当じゃねーのかな…などと考えながら受け取れば、それは2枚の手紙のようだった。紙のサイズも色も同じだが、片方が異様に黒い……それはずらりと並んだ文字によって黒く見えているようだ。ルークは少しばかり嫌な予感が頭をよぎるが、なるようになれ!とばかりに先に黒っぽく見える手紙を見ることにした。

 

〝ルーク様へ。

ママのお家で会ったアリエッタです。ママも家族も無事にキノコロードへ行けた、です。家族も食べ物がたくさんあって追いかけてました、です。弟が2人生まれました……アリエッタ、ルーク様にも会って欲しい、です。弟の片方は……

 

~以下数行弟の説明らしき文章が続く~

 

……なのです。アリエッタ、いっぱい話したいことがあります。

ルーク様が王族ということをシャルロッタから聞いて知りました。知らずに譜術を向けて、ごめんなさい。

また会えた時にもう一度、アリエッタの口で謝り、ます。

シャルロッタも言いたいって言っていました。もう一枚の手紙がシャルロッタの書いたものです。頑張って書いてたので、読んであげてください。

お返事の時間があったら、このピヨピヨに渡してください。名前はピィです。

アリエッタ〟

 

「……長ぇよ、細けぇよ!?必要ないことが書いてあるって俺でもわかんぞ……で、もう一つがチビ助からってか…んん?」

 

もう一方の手紙の隅に目をやると小さく文字が書いてある。……「これでも5枚、書き直したみたいです」、と。

先程の筆跡と似ているから、このメッセージはアリエッタが書いたんだろう……アリエッタの手紙から考えると、俺が今手に持持っている手紙はシャルロッタからの物のはずだ。

どういう事かと手紙を表に向けたルークは思わず目を細めた。

 

〝るーくにぃサマ、へ。おてがみ、ついた?しゃる、ありえった、げんき。るーくサマ、は?しゃる、ぶき、むけた。ごめんなさい。けが、もう、ない?しゃる、なおす、です。しゃる、もじ、にがて。でも、がんばる、た。るーくサマ、いおサマ、いっしょ?べつ?また、あい、いく、です。しゃるろった〟

 

「………っ、…〜っ、……よ、読みにくっ!?」

 

魔物から届けられた小さな配達。

小さな紙に必要のないことまで省かず、書きたいことを小さな文字で細かく書いたために黒く見えていたらしい手紙はアリエッタから。

改行せず単語をなんとか繋げたような文章でところどころ間違えたような跡が多くある手紙はシャルロッタからという、どちらも結局は読みにくいことに変わりないものが届いたのだった。

ついいつものノリでツッコミを入れてしまい、慌てて同行者たちのいる方を見るが、気づかれた様子もこちらに向かってくる気配もないようでほっと息をつくと改めて手紙に向き直る。

ルークが何度読み返しても読みにくい、何を言いたいのかはっきりわかる部分が少ない手紙ではあったが、〝話したい〟〝聞いて〟という気持ちが届くようで、新鮮に感じていた。今の沈んでいた気持ちが少しばかり楽になるようで、今の自分を取り巻く環境を一時でも忘れることができたという不思議な気持ちに浸っていると、再度目に入ってきたアリエッタからの最後の一文。返事があれば運んできた魔物に持たせるようにということは、ルークのことを〝聞きたい〟と言われているようで……気がつけばルークは大事に毎日を綴る日記帳の一ページを破り、返事を書き始めていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルークが剣をとる決心をしてから数日で、一行はセントビナーへと到着した。しかし街の入口には何人もの神託の盾兵がおり、すんなり入ることが出来なかった。タルタロスを襲撃してきたのは、導師イオンを狙う神託の盾……迂闊に彼らの前に姿を出すわけには行かなかったからだ。ルークとしては、自分を同等に見てくれるイオンを好ましく思っていたし意思を尊重してやりたいとは考えていたが、行方不明とされるイオンを探す神託の盾を考えるとどうにも動きづらく感じていた。だって、彼らは自分たちのトップを探し、安全な場所へ連れ戻そうとしているだけなのだから。同じような王族という立場であるルークだって、屋敷内で見つからないと上から下への大騒ぎになることを知っている……ついでに母上に心配された上に泣かれてしまうことも知っているから、そんな勝手なことは出来ないのだが。

結局、街へ入るためにどうするかを話し合い、ちょうど街へ入る馬車を止め隠れて入ることになった。

 

「……隠れて!神託の盾(オラクル)だわ」

 

馬車を降り、セントビナーの入口付近を通過しようとした時、神託の盾がいることにティアが気が付き、慌てて隠れると……そこには数人の見たことのある人物達、そしてそれに連なるだろう者達が揃っていた。

 

「導師イオンは見つかったか?」

──魔弾のリグレット

 

「イオン様を探して……アリエッタ達が守るの」

「それで、……いっぱい、おはなし、するの」

──双獣のアリエッタ・シャルロッタ

 

「俺があの死霊使い(ネクロマンサー)に遅れを取らなければ、アニスを取り逃がすこともなかった。面目ない」

──黒獅子ラルゴ

 

「ハーッハッハッハッハッ!だーかーらー言ったのです!あの性悪ジェイドを倒せるのは、この華麗なる神の使者、神託の盾(オラクル)七神将、薔薇のディスト様だけだと!」

「薔薇じゃなくて死神でしょ」

──死神ディスト

──烈風のシンク

 

神託の盾の幹部7人の内6人が集まり、何やら話をしているようだ。最初はイオンの所在地、タルタロス襲撃について、そしてセントビナー駐留の兵達をどうするか……話がまとまったのかディストの叫びを背に兵を引かせたラルゴとリグレットが離れると、先程までの怒りをまるで無かったかのように収めたディスト、シンク、双子は何やら別の話をし始める。

 

「…行ったね。じゃあ、手短に話そう」

「……アリエッタ、トリトハイムから──は、きちんと受け取りましたか?」

「…うん。ちゃんと、シャルの分もある、です」

「…あのね、──から、おへんじ、きたの。えへへ…」

「よかったね、シャルロッタ。その調子で気になったら報告、それから──も守るんだよ」

「うん…!」

「あのね、──たち──で集まるみたい、です。だから…」

「いざとなれば、惜しみなく──を使いなさい。使い方はわかりますね?」

 

少し距離が離れている上、先程よりも小声で話しているせいかところどころ聞き取れない。こちらも話がまとまったのか、散り散りに去っていく。

姿が見えなくなったところで、忌々しげにジェイドが口を開いた。

 

「しまった……ラルゴを殺り損ねましたか」

「あれが七神将……。初めて見た」

「七神将ってなんなんだ」

「信託の盾の幹部7人のことです」

「彼らはヴァン直属の部下よ」

「ヴァン師匠の!?」

 

集まっていた人物達がヴァン直属の部下達だと再認識し、彼らが中心となって戦争を起こそうとしているのではと周りが勘ぐる中、ルークは師匠がそんなことをするはずがないと信じていた。いや、信じるものがヴァンしかいない彼は納得や認めることなど、出来るはずがなかった。だって記憶を失くした自分を家へ戻し、それからずっと剣術の師匠で……誰よりも自分の話を聞き、誰よりも自分の望みを叶えようとしてくれる……そして誰よりも信頼しているのだから。

とりあえずのヴァンへの疑いはさておき、彼らは再び本来の目的であるアニスとの合流のために軍基地(ベース)を目指すことになった。

 

「そういえば、あの4人は何を話してたんだろうな」

「あの4人って…最後まで残ってたディスト、シンク、双子のこと?」

「そうだ。なぁ、旦那も気になるだろう?」

「あいにく任務の邪魔にさえならなければ興味もないですねぇ」

「……言う気がしたよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セントビナーのマルクト軍基地へと到着し、アニスの動向が分かったところで次の目的地が一応定まった一行。追ってくる神託の盾へと対処の協力を老マクガヴァンに取り付け、しばしの談笑を経てからそろそろ移動しようかとした時だった。慌てた様子で軍基地の入口を守っていた警備兵が駆け込んで来たのだ。

 

「お話し中に失礼します!」

「いや、構わんよ。こちらはもう終わったところだ」

「は……」

「……どうした、報告があるのではないのかね?」

「は、いえ……その、彼らは…」

「ああ、彼らは」

「!……あ、あの!僕達は部外者に当たりますし、部屋から出ていましょうか?」

 

報告や伝令などがあるならば、部外者にあたるルーク達一行がいることは不都合である。情報漏洩や守秘義務……軍人ではないものが半分を占めるパーティではあるが、礼儀であり聞くべきことではないのが普通だ。それに気がついたイオンは、同行者に対して外へ出る意向を伝える……しかし、彼らは出ていくことが出来なかった。他でも無い、警備兵によって引き止められたのだ。

 

「いえ、それが……要件があるのは導師様にらしく…」

「ふむ、下手に移動してすれ違ってしまうよりはいいだろう。入ってもらいなさい」

「……ジェイド、構いませんね?」

「……まぁ、大丈夫でしょう。機密事項過多な件ですし、最悪黙らせますが」

 

このタイミングで導師への面会……見つかってしまう確率を考えるとあまりやりたくないことではあるが、下手に断って追いかけられて邪魔をされる方が厄介だと、会うことを決める。

少しばかりほっとした様子の警備兵は一度退室する。

時間にしてほんの数分だろう。先程の警備兵は導師の客人だという2人組を連れて戻ってきた。

 

「……この二人が、導師一行に面会したい、と…」

「あ、あなた達は…!」

 

周りの驚きを全く気にすることなく、真っ直ぐ導師イオンの元へと歩き、膝をつくその客人。その時、チラリと向いた視線が自分とあったようにルークは感じていた。……その視線もすぐに導師へと戻っていたわけだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「神託の盾騎士団ヴァン・グランツ謡将旗下第三師団師団長……」」

「アリエッタ響手…」

「シャルロッタ、響手…」

「「参上いたしました、です」」

 

 

以前のたどたどしい喋りはなんなのかと聞きたくなるほど、スラスラと口にする口上にルークは目を見張った。

──そう、軍基地へと入ってきたのはルークたちが姿を隠さなくてはならない、神託の盾騎士団の一角であり幹部クラスの二人だったのだから。

 

 

 





実は、合流前にルークと文通を始めちゃったていた双子のお話。
前回くらいにディストが言っていた通り、報告書には絶対向かない手紙を考えた結果ああなりました。
(少し取り消し線太字とかの特殊タグを使ってみたかったとか、そんなことは無いと言い張る)

少しばかり本家ではないシーンを追加しています。

もう少し続けようとも思ったのですが、切りようがなくなりそうだったので……今回は、名乗りを上げたところで終わっておきます。
次回のネタは思いついてますので、次は早めに出せる…と、いいな。

では、次回でまた会いましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。