鉄血絶無オルフェンズ (東雲兎)
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プロローグ

カップリング要素があるかもです。お気をつけを……


「……また、汚しちゃった。アトラに……怒られるなぁ……。クーデリア……一緒に、謝ってくれるかな……」

 

そうして悪魔(バルバトス)を操り、戦場を駆けた人間。三日月・オーガスは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……?」

 

気がつくと、夕暮れの中でひとり立ち尽くしていた。

 

「どこ、ここ?」

 

先ほどまで自身は戦場にいたはずなのに、一体どういうことなのか。彼、三日月・オーガスは首を捻った。更に彼の首をかしげさせたのは彼の状態だった。

 

 

「……動ける?」

 

不随になっていた右半身が動くようになっており、そして阿頼耶識に繋がなければ、見えなかった片目も世界の色彩を写していた。

だが、いきなりのことに彼は驚くことや戸惑う様子を見せることなくただ首を傾げるだけだ。

 

「……まあ、生きてるから。オルガの命令を果たせる」

 

最終的に三日月は細かいことを置いておき、生きていることを重要視した。生きていれば進むことが出来る。彼の幼馴染にして、彼のリーダーだった男の最後の命令を実行することが出来る。その一点に尽きた。

 

ただ、彼がひとつ気がかりだったのは、

 

「みんな、逃げられたかな」

 

彼の家族のことだった。寝食を共にし、共に戦い、共に生きた者たちがどうなったのかを三日月は気にしていた。そして、色々考えた後で。

 

「……とりあえずここが何処なのかを知らないと、アトラやクーデリアに会いに行けないか」

 

なんて冷静に言い放つ。

周りを見渡しながら、ポケットに手を突っ込む。そこには数個残っている火星ヤシの実があった。それをおもむろに口に運んで、糖分を補給する。

なんとなく頭がすっきりしたような気がした。

そんな頭でここにいてもわからないと、移動することにする三日月。空を見上げると日が傾いているのが目に入った。そんな空を見上げながら、曲がり角に達する。

 

その時、何かが三日月にぶつかった。いつもの三日月ならば察して避けることが出来たのだろうが、今はこれまでと体の感覚にズレが生じていた為に反応に遅れたのだ。

 

「と」

「うわっ!」

 

三日月は半歩引くだけで済んだが、ぶつかってきた相手は派手に尻餅をついて、持っていた荷物を地面にぶちまけてしまった。

 

「え、あ、うっ」

 

相手は少女だった。そしてその少女は三日月を見るや否や顔を青白くした。それに、三日月はどうしたらいいかを考えて、とりあえずアトラの真似をしてみることにした。

 

「あんた、大丈夫?」

 

そう、三日月は手を差し伸べた。これが彼、三日月・オーガスと立花響の出会いだった。

 

 

 

 

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三日月は列車に揺られている。その片手には荷物が握られていた。そしてもう一方の手には紙があり、掲示板とそれとを目で往復しながらにらめっこしていた。

 

「……次の駅?」

 

日本語が読めない三日月は文字の形から次の駅が目的地であると判断して、取り敢えずその次の駅で列車を降りた。そして三日月は持たされたケータイというやつで支払いを済ませて駅を出る。とそこで聞きなれた声が聞こえた気がした。

 

「ミカー!やっほー!」

「ヒビキ」

 

天真爛漫な笑顔で三日月の元へと駆けてくる少女。その少女、響はその勢いで三日月に抱きついた。三日月はそれを真正面から受け止める。

 

「うー久しぶりだぁ……この感じ」

「おばちゃんから荷物預かってる」

「んー電話で聞いたよぉー。ありがとね!」

 

離れた響は、にぱーと笑顔を浮かべて喜びを全身で表す。それになんとなく三日月にはクッキーとクラッカが重なって見えた。

あのふたりは元気にしてるかな。なんてぼんやりと考えて、ポケットから火星ヤシの実に似たナツメヤシを口に頬張る。

 

「あ、ナツメヤシ?私にもちょうだい」

「いいよ」

「やったね!」

 

三日月からナツメヤシを受け取った響は躊躇わずに口へと運ぶ。そして、思いっきり顔をしかめた。

 

「外れた?」

「……うん。すっごくまずい。私って呪われてるかも……」

「用事、あるんじゃないの?」

 

がっくりと肩を落とす響に思い出したから、三日月はマイペースに問いかける。

 

「あ!そーだった!翼さんのCDを買いに来たんだよ!ミカも一緒に行こ?」

「いいよ。おばちゃんから頼まれてたし」

「よっしゃあ!ついでに遊ぼうね!」

「わかった」

 

三日月はポケットに突っ込んでいた手を出して響の手を握った。

 

「ふぇっ!?」

「アトラが人が多いときはこうすればはぐれないって言ってた」

「え、あ、そうなんだ!あはは〜」

 

いきなりのことで真っ赤になった響。その変化の意味がわからず三日月は首をかしげた。

 

「嫌?」

「ううん!そんなことないよ!びっくりしただけ!んじゃいこー!」

「そう、じゃあ先導して。俺この辺わかんないから」

「まっかせて!今日こそぎゃふんて言わせてやるんだから!」

「ぎゃふん。これでいい?」

「いやそういうことじゃなくてね?」

 

そうして彼らは人ごみの中に紛れていった。

その一時間後、彼らの運命は加速する。



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目覚め

すいません、1日で書いたので雑かも……それでもよければどうぞ。


「うぇぇああ!ミカ!こっちくるよ!」

「チッ、めんどくさいなぁ」

 

そして彼らは逃走していた。背後に迫るノイズという存在から。

ノイズとは人類を脅かす特異災害の総称であり、人間だけを襲い、接触した人間を自身ごと炭素の塊に変えて分解してしまう存在であった。しかしそんな事は三日月にはどうでもいい事だ。重要なのはそれが今襲ってくるという事だ。

三日月も武器があって、勝ち目が少しでもあるなら挑むけれど、今は響がいる。そして武器もない。そして響からのわかりやすく噛み砕いた説明を聞いて拳銃とかが効かない相手だと三日月でも理解できた。

 

「ミカ!この先川だよ!」

「気にしない。ヒビキはそれをあやしといて」

 

それとは、三日月が俵のように担いでいる響が抱きしめている少女の事である。先ほどから泣きじゃくってばかりでうるさいったらありゃしないと三日月はうんざりしていたのだ。

 

けれど、「ヒビキが捨てないなら俺も捨てない」とも考えていた。

 

響がそれを死なせたくない。だから三日月も少女を抱える事を容認しているのだ。

 

川を飛び越えながら、三日月は後方の追っ手をチラ見する。

結構な数が三日月たちを目標と狙い定めていた。

 

着地したところで一息つく。そして響たちの様子を見てからまた走り出した。

 

死ぬつもりは毛頭ない。オルガの命令を絶対に果たさなければならないと。生きて、生きて生きて、生き抜いて、そして死ぬまでずっと命令を守るのだと疾走を続ける。

 

「でも、このままじゃ逃げ切れないな」

 

一人ならともかく、響と足かせを抱えた状態だと逃げ切れない事を三日月は悟っていた。

だから、

 

「ヒビキ」

「な、なに!?」

 

少女をあやしていた響はいきなりの呼びかけに驚いた。そしてその次の言葉に更に驚いた。

 

「俺が囮になるから、その間に逃げて」

「え!?ちょ、ミカ!?」

 

先ほどの川で十分にノイズを引き離し、路地に差し掛かったところで、響を下ろす。そしてさっさと行くように手で押し出す。

 

「早く行って、じゃないと俺も逃げられない」

「う……絶対に無事でいてね!」

 

自分の事なのに他人事のようにいう三日月に、こうなったら言っても聞かない事を知っていた響は少女を連れて走り出した。

そして、それを見送った後、ノイズがこちらを認識したのを確認してから全力で逃げ出した。

 

ちらりと後ろを見やればやはりデフォルメされた形状の異形が追いかけてきていた。

 

前方に障害物があり、それを三日月は壁を走って越える。だがノイズはその障害物をすり抜けて追ってきていた。

それを見て三日月はなんとなく

 

「銃あれば少しは時間を稼げるんだけどな」

 

と走りながら呑気にぼやく。その言葉に三日月の中……いや、背中の部分で何かが鼓動した。

 

「……?」

 

それに三日月は少し首を傾げた。鼓動したのは阿頼耶識のある部分だ。

 

「……」

 

それに意識をとられ、無意識の間に結構な距離を走っていたようだ。気がつけば行き止まりに入り込んでいた。そこで三日月は立ち止まった。

 

しかし三日月は決して壁があるから、諦めたから止まったのではない。

 

そもそも既に三日月の中にそんな考えは微塵もなかった。

 

「……ああ、そうか。そこにいたのか」

 

三日月はそうつぶやいて、今来た道へと振り返る。

そこには大量のノイズが所狭しと押し合いながら追いかけてきていた。

それに三日月は少し笑った。

 

 

そしてそれに対して三日月は呼びかける。

 

 

 

「おい、起きろよ。オルガの命令を果たすぞ」

 

《GUNDAM FRAME TYPE》

 

 

 

その直後

 

 

 

バルバトス(・・・・・)

 

《BARBATOS》

 

 

 

三日月は再び悪魔となった。

 

 

 

 

 

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「ガングニールだとぅ!?」

 

とある場所、とあるところで、とある大人が叫んでいた。しかしその場にいた女性がその驚きを遮るようにまた叫んだ。

 

「え、なにこれ。アウフヴァッヘン……いや何か違う……!弦十郎くん!アウフヴァッヘン反応に似た……いいえ、もっと禍々しい反応が現れたわ!」

「なんだと!?一体何が!」

「わからないわ、反応、なおも増大中……」

「周囲のノイズの反応が消し飛びました!」

 

悲鳴のような声で状況の中継をする女性を引き継ぐようにオペレーターの一人が起こったことを逐一報告する。

 

「反応、移動を開始!この方角は……」

「ガングニールの場所だと!」

 

その場は混乱を極めていた。そんな中で、一人の少女がその場を離れていくことに誰も気がつかなかった。

 

 

 

 

 

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「え、えぇっっ!!??!?!」

 

響は三日月と別れた後、少女を抱えて必死に走っていた。のだが、逃げ場のない場所に追い込まれて、そして、そして……

 

特撮ヒーローのような姿をして、ノイズの前に立っていた。

なぜこうなったのかさっぱりわからない。

 

「お姉ちゃんカッコいい!」

「!」

 

だが響は少女の声でハッとした。

 

「そうだよね。色々わかんないけど、今はこの子を守らなきゃいけないよね」

 

そう響は呟くことで自分に認識させる。少女を自身の懐に招き入れて、しっかりと抱え込む。

 

「行くよ?」

「うん!」

 

ギュッと握られた小さな手に自身の手を添えて、走り出す響。目指すは隣のビル。溝の幅は普通に跳べる距離だ。勢いをつけて全力で跳ぶ。そんなイメージを固めてから身体にある力の限り跳んだ。

 

「うぇっ!?」

 

しかしその跳躍は予想の上をいった。なぜなら跳ぶはずの溝は遥か後ろ、隣のビルを飛び越す勢いでの跳躍を響は見せた。

 

そして当然、着地点は遥か下の地上となるわけで……

 

「おち、落ちるぅぅっっ!!」

 

響はふつうに落下を始めた。

 

その間にもノイズの襲撃は収まらない。突撃形態となったノイズは響に殺到する。

 

「っ!」

 

咄嗟に響は自身を盾にして少女だけでも助けようとする。

 

その刹那、背中に衝撃が奔った。それだけだった。

 

「へ?」

 

てっきり殺されてしまうと考えていた響にとってそれは拍子抜けな結果となっていた。

それだけでない。着地だってたやすくしてしまった。

 

かなりの高さだったというのに、響の身体には何の変調もない。

 

「え?え?」

 

戸惑う響の前に一際大きなノイズが現れた。そのノイズが大きな腕を振りかぶって響に迫る。先ほどの感じから響は自分の無事は予想できた。

けれども、腕の中の少女の無事は予測できない。庇ったとしてもあの質量の一撃を受ければそれなりの衝撃が来る。そして、それは柔らかい少女の命をたやすく奪うことができるだろう。

しかし、飛び退くことが出来る時間はない。

最悪を予想して、あっけなく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔」

 

そのノイズは吹き飛ばされた。

 




いつまで続くんだろうか?この作品。


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悪魔の戦い

ちょっとこの後の展開に詰まったので、それまでに書いていたやつを切りのいいところで投稿。

なので短いです。


いきなり現れたのは、全身を装甲で包まれたツインアイの機械の人間。

 

それはメイスを使って一撃で巨大ノイズを吹き飛ばした。

ノイズは攻撃のあたった胴体を消失させながら倒れこむ。

 

「うぇっ!?た、助けてくれたの……?」

「無事?ヒビキ」

 

呆然とする響に向かってその機械、三日月はマイペースに問いかける

 

「そ、その声!ミカ!?なにそのロボット!?」

「ん?バルバトスのこと?」

「バル、バトス……?」

 

どこかで聞いたような気がする名前に少し首をかしげる。けれどもどうしても思い出せずに頭を抱える。

 

「装備は昔に戻ってるけど、バルバトスだよ。それより、ノイズ?だったっけ?は俺が倒すから、隠れといて」

「え?ミカ!?」

 

呼び止めた響だったが、その制止も届かずに三日月はノイズの集団へと突っ込んでいった。

 

一度ノイズの波に消えるバルバトスと三日月であったが、次の瞬間にその中心で爆発のような音とともにノイズ達が吹き飛んだ。

 

バルバトスの武器、メイスを一振りした結果である。たった一振りでノイズが十数体吹き飛んだのだ。

 

更に一振り、もう一振りとすると面白いようにノイズが吹き飛んでいく。

 

「すご……い」

 

呆然とそれを見届ける響。圧倒的な力を振るってノイズを、悪を蹴散らす其の姿はまるで御伽噺の英雄のようで、響はただただ見とれた。

 

ものの数秒で巨大ノイズを除くすべてのノイズを屠ったバルバトスはツインアイを輝かせ、残った巨大ノイズ達に向かう。

 

その中で巨大ノイズの一体が響の元へと向かおうとした。

 

三日月はバルバトスのメイスをそのノイズに投げつけて消滅させる。が、無手となったバルバトス。そこへ巨大ノイズは殺到する。

 

そしてそのうちの一体の腕が斬り刻まれた。

 

バルバトスはもう一つの武器を顕現させていたのだ。

 

その武器は刀。三日月は使い方を前に理解したので問題なく扱えた。

その刀で腕のなくなったノイズの中心部を抉り刺す。そして炭素化する前に他のノイズへと放り投げた。仰向けに倒れたノイズの上に乗って、バルバトスは柄の部分でノイズを殴り殺す。

 

その間に無防備な背中を晒すバルバトス。そこへと最後のノイズは強襲する。

 

「あ、そっか、尻尾ないんだった」

 

忘れてたと呟いて回避する。別段、慌てた様子はない。その勢いで響の近くまで飛んでいたメイスを回収し、代わりに刀をノイズに投げつけた。

ノイズに突き刺さる刀。その勢いでぐらつくノイズ。そしてその隙に一気にメイスでノイズを頭からかち割った。

 

「……少し鈍った」

 

ここまでものの1分以内。たったそれだけの時間ですべてのノイズは殲滅されたのだ。

 

「ミカ!」

「ヒビキ?なに?」

「だ、大丈夫?怪我とかない?」

「別にない。ヒビキこそ、なにその格好」

「えっ!こ、これ?実は私にもわかんないんだ」

 

あははは、と響は頭を掻いた。

三日月はメイスを担いで、ゆっくりと響の元へと近づく。その時、巨大ノイズが遠距離から飛んできた。

 

「あ、まだ残ってたんだ」

「うぇぇっっ!?」

 

三日月、バルバトスはマイペースに武器を構え、響は少女を抱きしめながら慌てたように周りをキョロキョロする。

 

その時、天から降ってきた剣が巨大ノイズを串刺しにした。

それに響は驚き、バルバトスは戦闘態勢に入った。

剣の上には誰かが乗っていた。そして響はその人物に覚えがあった。

 

「……翼さん……?」

 

その少女の名を風鳴翼といった。




タイトルをバルバトス無双としようか迷いました。


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始動

ノイズを串刺しにした巨大な剣の上で少女、風鳴翼は静かに三日月たちを見下ろしていた。

それに三日月は静かにメイスを握りしめて、響に問いかける。

 

「ヒビキ、俺はどうすればいい?あいつを()っちまえばいい?」

「やっちゃうって……そんな事しなくてもいいと思うな?だってさっき助けてくれたと思う……し」

「そう」

 

そこでようやく戦闘態勢を解いた三日月。ここに戦闘は終結した。だが、三日月の心境はあまりいいものではなかった。

 

 

 

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「ああ、やはり彼もこちらに来ていたか」

 

金髪の男が、指で髪を弄びながらそう呟く。

 

「ガンダムバルバトス……なるほど、弱体化は免れなかったか」

 

映像を何度も再生しながら、男は表面上は落胆したようになるが、その全身から滲み出る喜悦はおぞましいほどの笑みを浮かべさせていた。

 

「俺では世界を変えることは出来なかった。だが、彼ならば……彼の持つ圧倒的な力であれば、あるいは……」

 

男はモニターを前に新たな策略を練り始めた。そう、神話を始めるのだ。

 

「さあ、獣の首輪を外そうか」

 

男の笑みはおぞましいものから獰猛なものへと変化する。果たして、彼が思い描く未来とは……

 

 

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そのあと、特異災害対策機動部一課の人々がやってきて、響たちを保護した。

少女が紙コップに入った飲み物を啜りながら笑顔を見せるのを見て、響はホッとしたように笑う。

その隣でバルバトスを纏った三日月はメイスを地面につけ、ただひたすらに沈黙していた。

 

「あの」

「はい?」

 

響に、声をかけた人物がいた。その人は少女に渡されたものと同じ紙コップを響に差し出す。

 

「あったかいものどうぞ」

「あ、あったかいものどうも」

 

その紙コップを受け取り、口にした。

 

ぷはぁ、と肩の力を抜く。その時、響が纏っていた鎧のようなものが光となって霧散した。

 

いきなりの事で響はバランスを崩してしまうが、それを三日月ががっしりと支えた。

 

「あ、ありがとうミカ」

「大丈夫?」

「うん!元気いっぱいだよ!って、ミカは元の姿に戻らないの?」

「ん、今戻る」

 

真っ黒な粒子を放ちながら、バルバトスの中から三日月が世界に舞い戻る。

 

————上半身裸で。

 

「うぇい!?」

「っ!?」

 

それに反応したのはふたり、かたや響、かたや翼。どちらも男性に対する耐性を持たないが故にとっさに反応してしまったのだ。

 

「……なに?」

「い、いや、なんで上が裸なのかなーって」

「ああ、脱いだから」

「自分で脱いだの!?」

「だって、破れたら困るから」

「あの上着の事?」

「うん、後で探しに行かないと」

「あの、お探しのものはこれですか?」

 

すっと横から差し出された廃れた緑色のジャケット。それはまさしく三日月のものだった。

 

「ん、ありがと」

「いえいえ、私も偶然見つけたものでしたから」

「えっと、あなたは?」

 

響がジャケットを手渡した男性に問いかける。男性は柔らかに微笑んで

 

「申し遅れました。緒川と申します。以後お見知り置きを」

「あ、これはどうもご丁寧に……」

「で、あんた何?」

 

ジャケットを着てしまった三日月は唐突にそう問いかける。響は一瞬三日月が何を言っているのかわからなかった。

 

「ミカ、この人は緒川さんっていうんだって……」

「違うよ、あんた何者?って事」

「それについては私たちの拠点で話しましょう」

 

そう言いながら緒川と名乗った男は響に手を伸ばす。が

 

「!」

「なにこれ?」

 

三日月はその手をがしりと掴んだ。緒川はそれに驚いた。なぜならば緒川が認識できない動きで握られていたからだ。いや、認識できなかったというのは語弊がある。真実は認識できても反応できないように三日月が動いたのだ。

 

別に三日月はそういった訓練を受けていたわけではない。戦場にいると相手を殺すために最善化された動きを自然に身についていたのだ。

 

緒川はそれに底知れぬ恐ろしさを抱いた。

 

ただ相手を殺すためだけに精錬されたその少年に。

 

「ぐっ!」

 

その間にも三日月は緒川の腕を圧し折るくらいの勢いで握りしめる。

 

「す、ストップミカ!折れちゃう!」

「なんで?」

「多分緒川さんは私たちを拠点ってところに案内してくれるんだよ!きっと!だから放して!」

「……分かった」

 

響からの命令に三日月は素直に従う。解放された緒川はいきなり放された反動から数歩下がり、腕をさすった。

 

「すみません。説明不足でしたこれから私たちの拠点に同行していただけませんか?」

 

今度は丁寧に自身の目的を話してから行動する。

 

「わ、わかりました!ミカもいいよね?」

「ヒビキがそう言うなら俺もいいよ」

 

三日月はただ、響に従う。それだけだ。

 

そうして三日月達は黒服の男達に囲まれながら、連行されていった。



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チョコの人

すみません。遅くなりました。


炸裂音と歓声と拍手が耳を、そして三日月にとっては懐かしい火薬の匂いが鼻を突いた。目の前には同一の制服を着ている人達が沢山待ち構えていて、その真ん中に人一倍目立つ紅いワイシャツのを着た筋骨隆々な大男が立っている。大男は両手を広げて言った。

 

「ようこそ! 人類最後の砦、特異災害対策機動部二課へ!」

 

ポカンとする響。いや寧ろそうならない三日月の方がおかしい。三日月はデーツを口に含みながらいつでも折りたたみ式ナイフを抜ける体勢でいる。

 

「熱烈歓迎!……立花響さま……ええっ!?なんで私の名前が!?」

「へー、ヒビキ、有名人なんだ」

「ち、違う違う!違うから!というかなんで知ってるんですか!?」

 

響の問いかけに大男は答える。

 

「我々二課の前身は、大戦時に設立された特務機関なのだよ。調査程度お手の物だ」

「はいこれ、返すわね」

 

科学者らしき女性職員が鞄を差し出した。それはまさに響が自分で破棄した彼女の鞄だった。

 

「わぁーッ! 私の鞄! なーにが調査はお手の物ですか! 鞄の中身を覗いただけじゃないですかぁー!」

 

文句をぶーぶー言いながら響は女性職員から鞄を奪い返す。

それに大男は苦笑した。そんな彼に対して緒川がこっそりと近づく。

 

「司令、お耳に入れたいことが……」

「ん?なんだ?」

 

笑顔のままの司令と呼ばれた男は耳を貸し、それに緒川は耳打ちする。すると男は顔色を変えて三日月に目を向けた。

三日月はマイペースにデーツを頬張っている。だが、完全に男の視線に気がついていた。

それを理解した男は少し考え、そして緒川を下がらせる。

 

「それでは、改めて自己紹介だ。俺は風鳴弦十郎。ここの責任者をしている」

 

緒川を下がらせた男がワイルドな笑みを見せて自己紹介を始めた。

そして響に鞄を渡した白衣の女性職員がそれに続いた。

 

「そして私は、出来る女と評判の櫻井了子。よろしくね」

 

そうウインクする彼女、そして弦十郎に対して、響はおどろおどろに受け答えする。

 

「こ、これはご丁寧にどうも」

 

それを終えると、弦十郎は口を開いた。

 

「君たちをここに呼んだのは他でもない。君たちに協力を要請するためだ」

「協力……って」

 

響は怪訝な表情をしながら、先ほどまでに起こった出来事を思い返す。歌うと自分の姿が変貌した事について、そして三日月が纏っていたロボットについて。

 

「あ、あの!あれは一体なんだったんですか?」

「貴方たちの疑問に答えるためには、2つばかりお願いがあるの。一つ目は今日の事は誰にも内緒。そしてもう一つは……」

 

櫻井女史は響を抱き寄せ、色っぽく耳打ちする。

 

「取り敢えず、脱いで貰いましょうか」

「だから……なんでぇっ!?そしてミカァッ!なんで素直にぬいでるのぉっ!?」

 

涙目で叫ぶ響。そして横で三日月がさっさとジャケットを脱いで上半身裸になっていた。

 

「え、だって脱げって」

「素直な子は好きよ……って」

 

櫻井女史は三日月の背中に気がついた。正確には背中から生えているものに目を奪われた。

そして弦十郎もそれを見て苦々しい面持ちになる。

 

ハッとした響はそれを隠すように三日月を抱き締める。

 

「え、えっと、こ、これはですね!お、おしゃれです!ねー、ミカ?」

「なにが?」

 

首を傾げる三日月に作り笑いでその場を誤魔化そうとする響。

 

そんな時、思わぬところから救援が出た。

 

「皆、そこまでにしておくべきだ」

 

その一声と共に部屋の奥からスーツに身を包んだ金髪の男が現れた。

それにいち早く反応したのは三日月だった。

 

「あ、チョコの人」

「久しいな。三日月・オーガス」

 

その男の名は……マクギリス・ファリドといった。

 

 

 

 

 

 

「知り合いか?マクギリス君」

「ああ、その通りだ司令。彼とは昔からの顔見知りだよ」

 

そう、にこやかに対応するマクギリス。しかしそれに不信感をあらわにする弦十郎。何故ならば……

 

「我々の情報網をもってしても知り得なかった彼の素性を知っているのか?」

 

そうだ。彼、三日月・オーガスには日本の戸籍が全く存在しなかったのだ。世界にも目を向けて見たものの、これといった情報が存在し得なかった。

 

だというのに、彼の素性をマクギリスが知っているのかと、疑問を抱いているのだ。

 

「ああ、彼と出会ったのは戦場でね。何を隠そう、彼は少年兵だったのだよ」

『!』

 

それにその場にいた者たちが一斉に驚いた。そして響はとても辛そうな顔をした。

 

「なにを驚く。今も戦争は存在している。そして、そこでは子どももまた戦力として使われるのが常だろう。彼もまた、その運命に翻弄された一人なのだよ」

「別に、俺は翻弄されたつもりはないよ」

「ああ、すまない。決して君達が犠牲になっているという意味ではないんだ。許してくれ」

「でも、チョコの人だってギャラルホルンの兵士だったよね?」

「そうだな。だが、軍の兵士なので、君たちよりも待遇は良かったのだろうが斟酌に値せんさ。生まれや思想など関係ない。戦場においては力こそ全てなのだからな」

 

目を瞑り笑みを湛えるマクギリスに響は問いかける。

 

「えっと、あなたは?」

「ああ、自己紹介が遅れてしまったな。私はマクギリス・ファリド。一介の市民だ」

「マクギリス!?マクギリス・ファリドってあのセブンスターズ社、社長の!?」

「ふむ、確かにそうだが。そこまで驚くことかね?」

「お、驚きますよ!世界で一番有名な企業ですよ!?今の技術はセブンスターズ社がなければ存在しないって言われるくらいなんですから!」

 

そんなべた褒めに対してマクギリスは全く動揺した様子もなく、ただただ笑顔で対応する。

 

「はは、そんな事はないさ。私はただ必要なものを必要な場所へと送っただけだ」

「へー、チョコの人。クーデリアみたいに会社やってるんだ」

「彼女ほど高潔なものではないさ。……さて、どうやら周りは君の持つ力についての秘密を待ちきれぬようだな」

「その、ヒレのような突起についても知っているのか?」

「ああ、これは阿頼耶識といってな。パイロットの脊髄に埋め込まれた「ピアス」と呼ばれるインプラント機器と操縦席側の端子を接続し、ナノマシンを介してパイロットの脳神経と機体のコンピュータを直結させることで、脳内に空間認識を司る器官が疑似的に形成され、これによって、通常は兵器のディスプレイなどから得る情報がパイロットの脳に直接伝達され、機械的プログラムに縛られない操作が可能となるのだ。これによって知識のない兵器でも容易に動かすことを可能にする代物だ」

 

まるで神話を語る吟遊詩人のように語り始めたマクギリスに対して皆が困惑しながら必死に情報を飲み込もうとする。

 

「待って、脊髄に埋め込まれたと言ったわね?まさかとは思うけど……」

「ご明察だ櫻井女史。これは非合法の手術によって埋め込まれたものだ。失敗すれば下半身不随になる」

 

その瞬間、周りは息を飲んだ。そしてそんな危険な手術を受けた彼に対して同情の念が送られた。

 

「だが、私は彼に対して敬意を表したい。彼は天羽奏のように力を手に入れようとした!その手術を使ってでも力を手に入れようとした!生き延びる術を手に入れようとしたのだ!これは敬意を払うに値する行為だ!決して同情をしてはいけない!何故ならばそれは必死に生きようとした彼への侮辱になるからだ!それを覚えておいてほしい!」

 

皆に行き渡るように、大声で謳うマクギリス。そして一息つくと、マクギリスは櫻井女史に向かって口を開く。

 

「さぁ、櫻井女史。彼らに検査を」

「え、ええ。わかったわ」

 

次にマクギリスは弦十郎に詰め寄った。

 

「司令。三日月・オーガス君の身柄はこちらで保護させていただきたい」

「む、しかし……」

「ならば、彼の日本での戸籍は私に用意させていただきたい。その程度ならば良いでしょう?」

「わ、わかった。だからそこまで熱くなるな」

「申し訳ない。彼のことになるとつい」

 

そこは素直に頭を下げるマクギリス。

 

「さて、皆解散して各々の仕事に戻ってくれ。そして風鳴翼君」

「は、はい!」

「肩の力を抜きたまえ、天羽奏は君のそばに存在しているのだからな」

 

そうしてその場はマクギリス・ファリドによって締められた。

だが響は彼からもたらされた情報に顔をしかめたままだった。そして彼女は呟く。

 

「私、ミカのこと、全然知らない……」

 

 




ぜ、全然進まない……!マクギリスに喋らせると予想以上に文字数使う件について!つうか、キャラ崩壊してないかな……?それだけが心配だ……


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慰め

「た、ただいまぁ……」

「響!こんな遅くまで!心配してたんだよ!?」

「うん、ごめんねぇ」

 

フラフラとした足取りで響は座敷に倒れこむ。

それに同室の少女、未来は何かあったことを察した。

 

「……ミカは?」

「近くのホテルに泊まるって。最初は野宿するつもりだったみたいだけど、なんとか押し込むことができた」

「そう、寝るところに無頓着なミカらしいね。それで?ミカと何かあった?」

 

その瞬間、響は息を詰まらせた。震えそうになる声で未来に問い返す。

 

「……なんで……?」

「だって響、辛そうにしてた。私でよければ話して?」

 

響を抱きしめて、あやすように頭を撫でる未来。それに響はポツリポツリとこぼし始めた。

 

「……私、ミカのことを全然知らない。一緒にいるのに、ミカのこと全然理解できてない……っ!」

 

悔しいよぉ。と涙を流す響。

 

「でもさ、それって当たり前のことじゃないかな?」

「え……?」

 

未来の言葉に、涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げる。

そんな響に、未来は続けた。

 

「自分の事だってわからないのが人間でしょ?それなのに他の人のことがわかるなんて事ありえないよ」

「でも……」

「それでも知りたいっていうならまずは自分のことを好きになってからだね。まぁ、その前に着替えようね?お風呂沸かしてあるから、入って来たら?」

「……ん」

 

素直に未来の言葉に従った響は奥に消えていく。

 

未来はそんな響、そして三日月のことを考えて、思わず神に祈った。

 

 

 

 

 

 

「……」

「君の望んだ拳銃だ。受け取ってくれ」

「ん」

 

三日月はドーナッツを口に含みながらマクギリスの手にある拳銃を受け取った。

 

弾倉を確認し、次に薬室を確認する。

そして一度構えて、重さによる咄嗟のズレを確認する。

 

「……少しなまってる。鍛え直さないと」

「そうかね。喜んでいただけたのなら幸いだ」

「そういえば、チョコの人」

「なんだね?」

「オルガはこっちに来てないの?」

 

それを聞いて、マクギリスはふむ。と顎に手を当てた。

 

「残念ながらこちらの情報網では確認できていない。ただ、来ている可能性は大いにある」

「そう」

 

それきり、三日月はマクギリスに興味をなくしてその場を離れようとする。マクギリスはそれに待ったをかけた。

 

「三日月・オーガス。私と共に来る気はないかね?」

「は?なんで?」

 

普通に不思議に思ったのかちらりとマクギリスを見やった。興味を引けたか、とマクギリスは少し笑った。

 

「王になる気はないかと聞いているのだ」

「王?なにそれ」

「オルガ・イツカが目指したものに興味はないのか?」

「オルガが目指したのはみんなでバカ笑いできる場所だ。王様なんかじゃない」

「だが、王になればそのバカ笑いというものもできるやもしれん」

「俺はオルガの命令を果たすだけだ。それ以外には興味ない」

「彼女、立花響はどうなのだ?」

「ヒビキやミクは俺にいてもいい場所をくれた。だから俺はそれを守りたい。オルガの命令は進むことだから、俺はその場所を守ることで命令を果たす」

「ふむ、そうか」

 

マクギリスはそこまで聞いて、三日月と反対方向に歩き始めた。

それを見て三日月もまた、自身の向いている方向に向かう。

 

「やはり、邪魔だなアレは。立花響。研究が終わり次第、早々に死んでもらった方がいいか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、響と未来は一緒に登校していた。

 

響はいつもの元気を取り戻し、それを未来は優しく見守る。

 

「おっはよー!ビッキー!ヒナ!」

「おはようございます」

「おはよー」

「みんなおはよう!」

「おはよう!」

 

クラスメイトとも合流し、意気揚々と学校へ向かう。響たち。

そんな二人と校門でばったりと出会う用務員。その姿に響と未来は驚いた。

 

「なんでいるのミカァッッ!?!?」

「?いちゃいけなかった?」

「いや、響が言いたいのはそういうことじゃないと思うよ?」

「え?なになに?知り合い?」

 

そしてクラスメイトを巻き込んだ騒動になると、響はなんというか、頭を抱えたくなったのは余談である。

 



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昼休み、響は上半身タンクトップで作業していた三日月を見つけて、取り敢えず人気のないところに連れて行ってから、彼に問いかける。

 

「ミカ、なんでここに?」

「ゲンジューローがヒビキのそばにいるにはヨウムインってやつになるのが手っ取り早いって言ったから」

「ゲンジューロー……風鳴司令の事?」

 

確か彼は風鳴弦十郎と名乗っていたはず、と響は思い出した。それに頷いた三日月は近くにある花壇に水をやりながら続けた。

 

「あと、ガクセイっていう響とおんなじになるって手もあったらしいけど、俺、勉強できないから」

「……あれ?住む場所は?」

 

ふと気になり、聞いてみた。これで野宿とかだったら第二課にカチコミをかけないといけないところだ。

 

「第二課に住んでいいんだって」

「そっか、ならよかった」

 

カチコミなんて真似をせずに済んだことにホッとして、胸をなでおろす。

 

「響ー!」

「あ、未来!どうしたの?」

 

そこへ未来がやってきた。響はそれにコテンと首をかしげる。未来はそれに憤慨するように頬を膨らませた。

 

「ひどいよ響、ミカに会いにいくなら誘ってよ」

「あー、ごめんちゃい」

 

そんな余裕がなかったなんて口が裂けても言えない。なんて考える響の思考を読み取ったかのように、さらに拗ねる未来。

三日月はそれを横目に水やりを続ける。

 

「あ、ミカ。久しぶり。あとそんなに水をあげなくてもいいよ?」

「うん、久しぶりミク。あとなんで?」

「水をあげすぎちゃうと根っこが腐っちゃうの」

「……野菜と同じなんだ」

「そうだよ。何事もやり過ぎはいけないんだよ」

 

なんかいきなり三日月と未来がいい雰囲気を出し始めた。それが面白くないのは響だ。

 

「ぶー、二人だけでいい雰囲気作らないでよー。混ぜてー」

「ごめんごめん!だから耳元で息吹きかけないで!」

 

響は未来を後ろから抱きしめてその耳に息を吹きかけた。

ぞわぞわと背筋が泡立ち、くすぐったくなった未来。

 

しかし未来の制止も聞かず、響はそのまま耳に息を吹きかけ続ける。

 

「ミカも手伝って」

「わかった」

「え」

 

瞬間呆然とする未来はこの後の惨劇を予測し、響の拘束を解こうとする。だが、響はこれでもかと力を入れて未来を離さない。

そこへ、三日月が響に指示された通りに、行動を開始する。

 

この後、いたずらし過ぎて未来の腰が抜けた。三日月は手加減というものを知らないのだ。

 

 

 

 

そこは大きなジャズバーだった。金髪の男が酒を片手に音楽を楽しんでいた。

 

「フンフンフーン、フンフンフーン」

「ご機嫌だな」

「お、旦那。久しぶりですね」

 

そこへやってきたのはマクギリス、金髪の男はマクギリスを旦那と呼び、マクギリスへの酒を注文する。

 

「隣、いいかね?」

「どーぞどーぞ」

 

マクギリスは男の隣のカウンター席に座り、出された酒に口をつけた。

 

「ふむ、この店は相変わらず品がいい」

「品だけじゃなくてこの音楽もでしょう。ジャズはいいもんですよ」

「確かにな」

 

ふっ。と笑い、マクギリスは酒から男に目を向けた。

 

「まぁ、旦那に拾われなきゃ、ジャズも知らずに戦いに明け暮れてたでしょうよ。生きる為にさ」

「私が拾ったわけではない。君が選ばれたのだ。それをゆめゆめ間違えぬように」

「俺にとっちゃあどちらでもいいですよ。消耗品のこの命でも生きていることが重要なんすよ。……それで?次は何をすればいいんですかい?」

「そう急くな。まずは酒を楽しもう」

 

その時のマクギリスの姿は蠱惑的で女性ならば誰でも惑わされてしまうだろう。男でさえその姿に見とれてしまうかもしれない。

 

しかし金髪の男は肩を竦め、グラスを煽った。

 

「ふむ、バーテンダー。良い酒を持ってきてくれ」

 

言外にこの場を少し離れてくれと言うマクギリスにバーテンダーは一礼して、店の奥へと消えていった。

 

「王となるべき男が来た」

「へぇ、ついにですか」

「名は三日月・オーガス。しかし彼の周りに有象無象の邪魔がいてな」

「そいつらを殺せと?」

「いいや、君には他の任を与える。彼の眠っている牙を起こしてくれ」

 

金髪の男は目を細める。

 

「彼には居場所がある。だがそのぬるま湯によって腑抜けてしまっては元も子もない」

「俺にそいつと戦えと」

「そうだ」

「はっ、ついに来たかよ。俺の死に場所……でもそいつが完全に腑抜けてれば、殺しちまってもいいですかい?」

「ああ、そこは自由にしてくれ」

 

バーテンダーが戻ってくるのが見えた。つまり会談はここで終了というわけだ。

 

バーテンダーからボトルを受け取り、その代金とチップを渡した。

 

ボトルは金髪の男に渡り、そしてマクギリスは男に最後としてこんなことを口にした。

 

「君は彼の糧だ。だからと言ってその運命を受け入れるのは君の自由だ。私を失望させるなよ」

「りょーかい。旦那のご期待に添えるように努力させていただきますよ」

 

その男は獰猛に笑った。



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行き違い

すいません、短いです。筆が乗らなかった……

でも少しでも更新しようと思った次第。申し訳ないです。


風鳴翼にメイスが迫る。

 

「っ!」

 

それを横にころがることで回避した。しかし顔を上げると既にメイスが先回りしていた。咄嗟にアームドギアである刀を巨大化して盾にした。

衝撃に備え踏ん張る……が、金属音と共に想像よりも軽い衝撃が来た。

 

困惑した刹那、上から落ちてくる気配を察知した翼は、ハッとして空を見上げる。そこには刀を携えたバルバトスが翼を串刺しにせんとせまる姿があった。

 

「邪魔を……するな!」

「あんたこそ邪魔だよ」

 

ぶつかり合うふたり、と言うよりも一方的に嬲られる翼と経験と技量で圧倒する三日月。それを呆然と眺めることしか出来ない響。なんで、どうしてこうなったのか、幾度も自身に問いかける。

 

 

 

事の発端は、響が翼にこう頼み込んだことからだ。「一緒に戦ってください!」と。しかしガングニールを纏う響に並々ならぬ複雑な思いを持つ翼はそれを認めるわけがなく、こう返した。「そうね……貴女と私、戦いましょうか」響は慌ててそう言う意味ではないと否定したが、それで止まる翼では無い。翼がアームドギアを響に向けた瞬間、別の場所にいたはずの三日月が割り込んで来た。そこからなし崩しに三日月と戦闘になった翼はこうして圧倒されているのだ。

 

 

 

「お願い……止まって……お願いだから……」

 

へたり込みながら、力なく懇願する響の声は、けして戦場の二人に届くことはない。

 

「何故!奏と同じはずの貴方が彼女の味方をするの!」

「……」

「貴方も奏のように力を求めたはず……なのに、貴方に他者を省みる時間があるの!?」

「ごちゃごちゃうるさいよアンタ」

 

翼は己の歪んでしまった思いをぶつけ、三日月はそれをただ煩いと一蹴する。あと数手で翼の死が確定するであろう時、唐突に二人を衝撃が襲った。

 

「はぁぁっ……ハッ!」

 

アスファルトが捲れ、消火栓が弾け、周りに大惨事を起こしながら、その衝撃波は三日月を数メートル後退させ、翼を戦闘不能に追い込んだ。そしてその衝撃波を生み出した張本人は、ため息をついた。

 

「はぁ……この靴、高かったんだぞ?こいつの金で何本の映画が借りれるやら」

 

先ほどの衝撃波を生み出すために犠牲となった靴は靴底をのこして大半が破れてしまっていた。

 

「なにするの?」

「喧嘩の仲裁も大人の役目だ。たく、翼もお前も、なにを考えてる。事後処理をする方にもなってくれ」

 

響は、なんとなくこの惨事を作り出した司令がいうのは違う気がすると考えたが、言わぬが花だろう。そんな司令に対して三日月はバルバトスを解除した。

 

「……」

「三日月くん、どこに行く?」

「帰る」

 

マイペースに戦闘後とは思えないほど気楽に、そう言った。

専用のボディスーツに身を包んだ三日月は響をちらりと見て、それから徒歩で基地の方に向かって行った。

 

 

 

 

そうして、この件は響に深い傷を残すこととなった。




全国の翼さんファンの皆さま……すいませんでした!

マッキーの言葉で拗らせちゃった結果、三日月に歪んだ感情を持つようになった。ということなのですが、それでも酷すぎますよね。誠に申し訳ありません。


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お見舞い

「……」

 

響は窓の外を眺めながら、課題をしていた。心ここにあらずといった状態の彼女。そんな響に着信があった。

 

「うわっ!?」

 

いきなりのことでびっくりした響は思いっきり体をのけぞらせて、床にひっくり返りそうになるのを必死に堪えて、携帯端末を取り出した。

 

「は、はい!もしもし!」

『ああ、立花響君だね?私だ、マクギリス・ファリドだ』

「ファ、ファリドさん!?」

 

まさかの大物過ぎて耐えきれずに床にひっくり返った。同室の未来は朝から出ていたのでその姿は見られずに済んだのは幸いだろうか。

 

「な、なんでしょう!?」

『そう硬くならないでくれ。なに、簡単なお願いがあったのだよ』

「お、お願いですか?」

 

なんだろう、とんでもない無茶振りがくるのではないか。と響は身構えた。それを悟ったのかマクギリスはフッと笑い、それからそのお願いを伝えてきた。

 

『風鳴翼の見舞いに行って欲しいのだよ』

「じゅ、十分無茶振りだった……!」

 

三日月のことで顔を合わせにくいというのに、いや、逆に謝るチャンスかも!?と混乱する響。そんな響を知ってか知らずかマクギリスは続けた。

 

『彼女の自宅は君の端末に送ろう。では頼んだ』

「へ!あ、あの!?……あ、きれた」

 

呆然とする響だったが、端末に翼の家が表示されたことで覚悟を決めざるを得なかった。

 

「……何買っていこう?」

 

取り敢えず手土産はどうしようかと悩む響であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむふむ、なるほどね。響が上の空だったのはミカが原因だったんだ」

「なに?」

「ミカ、そこに正座しなさい」

「なんで?」

「いいから、正座」

「わかった」

「全く、ミカは先走りすぎなんだよ。響の気持ちを考えたことある?」

「俺、響じゃないから」

「そういう問題じゃないの。ミカが響のために戦ったのはわかるよ?でもそのせいでミカが誰かを傷つけることになった。それを響は悔やんでるんだよ。響はミカに傷ついて欲しくないし、誰かを傷つけて欲しくないの」

「無理だ。俺はヒビキみたいに誰かの手を取れない。俺は殺すことしかできないから」

「それでもだよ。ミカにこれ以上傷ついて欲しくない」

「ミクもそう思うの?」

「うん、そうだよ。私はね、ミカも響も大好きだから。ミカは?」

「うん、俺も好きだよ。二人のこと」

「そっか、なら。響に謝ろう?私も一緒に謝ってあげるから」

「わかった。ミクが言うならそうする」

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと……ここ、だよね?」

「そうですよ」

「ひゃわっ!?お、緒川さん!?」

 

マクギリスが送ってきた地図の道案内通りに進んでいくと、緒川さんがいた。

 

「い、いつの間に……」

「マクギリスさんから連絡を受け、お迎えにと思いまして。さぁ、こちらです」

 

いつもの微笑みを浮かべ、緒川は彼女を先導する。

それに響は緊張でカチコチになりながらついていく。

 

 

そしてセキュリティを超えて、とある部屋に繋がる扉の前にたどり着いた。

 

「では私はここまでです」

「へ?つ、ついて来てくれないんですか!?」

「ええ、マクギリスさんのご好意を無碍にするわけにはいきませんから。はい、これ鍵です」

 

いつもの微笑みをたたえたまま緒川はその場を瞬きの一瞬で去った。もはや影すら見えない。

 

引きつった笑いを浮かべながら響はその扉へと向きなおる。

 

手土産の東京バナナを携え、意を決して鍵を使い、部屋の中へと入った。

 

「へ……?」

 

そこには荒らされたように荷物が散乱し、その中心となるベッドで横たわる翼の姿があった。

 

「つ、翼さん!」

 

響は慌てて翼の横たわるベッドに駆け寄った。そして翼の体を揺さぶる。しかし……

 

「……なにをしてるのかしら?」

「翼さん!よかった!」

 

響は翼が目覚めたことに喜び、そして翼はなぜ目の前に響がいるのかわからず目を白黒させていた。

 

「あの、なぜあなたはここにいるのかしら?」

「へ、あ、はい!マクギリスさんからお見舞いを頼まれたんです!それと、一昨日のことを謝りたくて!」

「ファリドさんが?」

「はい!……って、それよりも!二課に連絡しましょう!」

「なぜかしら?」

「だって襲われたんでしょう!?部屋だって荒らされてるし!……あれ?なんで赤くなるんです?……へ?」

 

この日、響は翼の意外な一面を知ることとなる。

 

 



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意外な一面

繋ぎなので短いです。


「いやー、すみません。私の早とちりで……でも意外でした。翼さんってなんでもそつなくこなしちゃいそうなイメージなので。はい、掃除は終わりましたよ」

「ごめんなさいね。私、戦うこと以外全くダメなの」

 

自嘲するように笑う翼。響はなんというか、親近感が湧いてくるような気がした。

なにせ高嶺の花とばかり思っていた存在が自分の目の前に降りてきてくれたように思えたからだ。

 

「いえいえ!翼さんも人間なんだから弱点の一つや二つ、あってもいいと思います!」

 

心からの言葉だ。響には身近になかなか人間らしい弱点を晒してくれない人がいるので、その慰めには説得力があった。

 

「あ、そうだ。お土産食べましょう?私、このお菓子結構好きなんですよ」

「なぜ、東京バナナ……」

 

湯のみを借りて、お茶を注ぐ。緑茶と洋菓子って合うのだろうか?なんて適当に考えながら、綺麗にしたテーブルの前に座る翼に渡した。

そしてその翼は、困惑しながらお土産の包装を不器用に破っていた。

 

響は自身が持ってきたお土産にもかかわらず、いの一番にそのお土産を頬張った。

それに翼は苦笑して、それに続く……前に、響に向き直った。

 

「立花響」

「ほぇ?はい、なんですか?」

 

いきなりのことで、少々面食らった響に構わず翼は続ける。

 

「今までのことを謝罪しよう。私はあなたに奏……私の大切な人を奪われたのだと思っていた」

「……私は奏さんに救われました。でも見方を変えれば確かに、奏さんの命を奪った事になるのかもしれません」

「いや、それは違う。そう考えるのは精一杯生きた奏への押し付けだと気づいた。そう気づけたのは、同じように私の考えを押し付けてしまった三日月・オーガスのおかげだ」

 

そう、あの日翼は奏と重ねていた三日月に否定された。だからこそ、冷静に考える機会を与えられたのだろう。そしてその言葉に、響は三日月の姿を思い浮かべる。

 

「……翼さん。貴女から見て、ミカはどうですか?」

「?どういう意図かは知らないけど、戦士としては完成してるように思える。なにせあちらは、一撃一撃全く迷いがなかった。彼がどうかしたの?」

「……ミカは、いつも私を守ってくれるんです。でも、その度にミカは危険なことをして、なのに、私はなにも出来なくて……この前だって翼さんと戦うミカを止められなくて……私はミカの隣にいていいのかなってずっと疑問に思ってて」

 

泣きそうな顔で響は俯く。三日月が響に何かをすることはあれど、響が三日月になにかをすることはなかったのだと彼女はいうのだ。

 

翼は、それにどう答えるべきか迷い。そして

 

響を押し倒した。

 

「ほえっ!?」

 

 

 

 

 

 

「——Imyuteus amenohabakiri tron——」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後、外にいた全身装甲のモビルスーツからグレネードランチャーが放たれた。



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ジャズが聞こえた時

お久しぶりです。少しゴタゴタが片付きつつあるので久々の投稿。


爆風に部屋から押し出され、浮遊感を味わう響。このままならば、地面に叩きつけられ、シンフォギアを纏っていない響は死んでしまうだろう。

 

「う、うぇぇ!?」

「立花!」

 

しかし、そうはさせまいと遅れてやってきた翼が響を抱き抱えた。一気に減速し、地面に降り立った。

 

「す、すみません!」

「歌いなさい!」

 

翼は短くシンフォギアを纏うように指示をし、響を下ろす。そして抜刀して二人の目の前に降り立った敵と対峙する。

 

「ろ、ロボット……?」

 

現れたのはさまざまな武装が取り付けられた緑色のロボット。かなりの重装備だ。それでもどこか三日月を彷彿とさせる。

 

頭部が開き、ぎょろぎょろと周囲を見回すように動く。

 

そして響たちを捉えて、それに響は詩を口ずさもうとする……

 

『お前ら、二課の人間だよな?』

「……え? 喋っ……た……?」

 

衝撃を受け、響の思考は停止した。無理もない、なにせ相手はどこからどうみてもロボットそのものだったのだから。

 

「貴様……人間か?」

『おうさ、百パーセント人間だぜ? これはモビルスーツつってな、お前らでいうシンフォギアのアームドギアみたいなもんさ。

っと、そんな長話してる場合じゃねぇか。なぁお前ら……』

 

 

——三日月・オーガスってやつ知らねえか?——

 

「……は……」

 

響の呼吸が止まる。その反応にロボットは満足そうに頷いた。

 

『知ってるつー事は、奴の関係者で間違いねえか』

「貴様の狙いは彼か?」

『そうだぜ? 隠すようなことでもねぇからな』

 

刹那、相手から殺気が吹き出し、同時に翼が駆け出した。

 

「イヤァッ!」

 

翼は裂帛の気合いと共に斬撃が檻のように相手の逃げ道を塞ぐ。

回避は不可能、なればと相手は斧でその全てを次の瞬間に防いでいた。

 

鍔迫り合いとなり敵はパワーで、翼は体の使い方を駆使して互いの動きを制限させる。

 

『は、甘すぎんだよ!』

「なっ!」

 

だが、その拮抗は敵のサブアームに備え付けられたマシンガンによって崩される。

マシンガンが容赦なく翼を襲い、翼はやむなく下がる。

 

「おおおおおおおっ!!!」

「立花!?」

 

そして入れ替わるかのように響が側面から拳を振るう。技はないが、愚直な一撃。いくら装甲に固めようともこの一撃ならば通るだろう。

 

……当たればの話だが。

 

『素人が、話にもなんねえよ』

「え」

 

響の前からロボットが掻き消えた。それだけでなく彼女の視界がブレる。響は何をされたかも分からぬまま吹き飛んで、壁へとぶつかった。

 

『お釣りだ、持ってきな』

 

更に追加で響に向かって全砲門一斉射撃(フルバースト)を敢行する。

だが、空から響とロボットの間に巨大な壁のようなものが降ってきた。

 

『チッ、盾か?』

「否、剣だっ!」

 

それは翼が成長した証でもある。剣でありつつも、響を守れる盾にもなれる。そんな事実の証明だった。

 

だが、相手にはそんなこと関係ない。肉薄してくる翼にマシンガンを撃ちながら迎え撃つ……その最中。

 

 

 

 

 

 

「響!」

 

ここにいるはずのない人物の声が聞こえた。

 

「え……み、未来……?」

 

その名は、小日向未来。三日月とともに出かけていたはずの人物である。

 

それが意味するのは、

 

「がっはっ」

 

転がってくるのは鎧を纏う銀髪の少女。そして……

 

『何してんの、アンタ』

 

メイスを携えし悪魔である。




モンハンせねば……未だ積みゲーと化している。


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数十秒の攻防

某ゆっくり実況者の新鮮なタマネギを摂取出来たので投稿。

活動報告の方でも書いた通り、とんでもなく体調が悪いので、書き終えたら即フリージアしました。

恐らく道は続くので、みなさんが止まらない限りその先にねこはいます。よろしくお願いします(混ざった)


モビルスーツ戦。たった数十秒の攻防だけで二千文字近く使うとか、もうちょっとスマートに出来ないものか……

それではどうぞ。


グレイズの男はバルバトスを確認すると、漸く来たかと武器を握り直した。

 

『おー、やっとこさ来たか。お前が三日月・オーガスで間違いないな?』

『質問してるのはこっちだろ。アンタ、なにやってるの?』

『なにって、そりゃ見りゃわかるだろ? 遊んでやってたのさ。その二人の嬢ちゃんとな。お前さんもその口だろ? そこに倒れてる奴が何よりの証拠だぜ?』

 

グレイズが目を向けたのは呻き声を微かにあげながら、それでも立ち上がろうとする鎧の少女。

その鎧に翼は目敏く反応する。

 

「あれはネフシュタンの鎧!」

 

自然と翼の剣を握る拳に力が入る。それは天羽奏を喪ったあのコンサートの日に行方知れずとなっていた翼にとって、己の不甲斐なさの証。何故それがここにあるのか、そして何故それを纏う者がいるのか。疑問は尽きなかったが、その前に三日月が動く。

 

『そんな事、どうでもいいよ。重要なのは……』

 

次の瞬間にバルバトスはスラスターを全開にしてグレイスに突撃する。

 

『アンタが響を傷つけたって事だ』

『は、ご主人様傷つけられてキレてるって訳か? 犬かよお前は!』

 

そんな三日月に慌てる事なくグレイズは武器を向ける。左手のグレネードランチャー。サブアームのマシンガン、右肩の対物砲、脚に装着されたミサイルポッド、右腕に内蔵された滑空砲。

その全てをバルバトスに向けて発射した。

 

満遍なく広げられた弾幕。三日月は即座に己の脅威となる物のみを識別、判断し。メイスを投げつけた。

 

『ぬおっ!』

 

メイスは対物砲の弾にあたり、互いに僅かだが軌道を変え、対物砲はバルバトスの頭部に、メイスはグレイズの脚へと襲いかかった。

 

すんでのところで回避したグレイズ。そして少し顔を逸らす事で対物砲を回避する。その後バルバトスは両腕でガードするようにマシンガンの弾やミサイルの爆発の中を突っ切っていく。

そして最後に少し遅れて発生したグレネードランチャーの爆発で加速し、片手に取り出していた刀でグレイズに斬りかかった。

 

『うおっと! 危ねぇな!』

 

それを右手の斧で防ぐ、そしてサブアームのマシンガンとグレネードランチャーをバルバトスへと向け、その前にバルバトスが地面に突き刺さっていたメイスで薙ぎ払う。

 

『ぐぅ!』

 

横にくの字になりながら吹き飛ぶグレイズ。バルバトスはすぐさま追撃に入り、いつのまにか置くように放たれていたグレネードの爆発に巻き込まれた。

 

『ちっ』

 

すぐさまバルバトスは煙を刀で払い、グレイズの姿を確認しようとする。

 

だがその間にバルバトスの側面に回っていたグレイズから対物砲が放たれて、三日月は勘でその弾丸をメイスで受け流した。

 

『チィ! なんつぅ勘してやがんだテメェ!』

『よっと』

 

バルバトスは弾を防いだ時の反動で一回転。その勢いに乗せて刀をブーメランのように投げつける。

 

勢いの乗った刀を斧で上に弾くしかなかったグレイズ。そこには当然大きな隙が出来る。その隙にバルバトスは胸に向かってメイスを突き出す。咄嗟にグレイズは斧を持っていない方の腕を盾にしようとする。だがバルバトスの持つメイスにはパイルバンカーが内蔵されており、それは腕を貫通し、胸すら貫くだろう。それを感覚で理解していたため、三日月は迷いなくメイスを突き出す。

 

 

 

しかし、メイスが相手の腕にめり込み始めた瞬間、爆発が起こる。

 

グレイズの腕にはリアクティブアーマーと呼ばれる爆発する鎧が仕込まれていたのだ。

 

勢いを完全に殺されたメイス。それを持つバルバトスの腕をグレイズはグレネードランチャーを捨てた手で掴み、上に振り上げていた斧を振り下ろす。

 

だがその前にバルバトスはグレイズに頭突きをし、グレイズとの距離をゼロにする。

 

それにより斧は空振り、グレイズとバルバトスは至近距離で睨み合う結果となった。

 

膠着状態。その後すぐさまグレイズがミサイルを発射した。爆発でお互いに吹き飛ばされ合う。

 

『チッ、こいつとやり合うには手札が足んねえな。悪いが坊主、ここまでだ』

『逃すと思ってるの?』

『これは何でしょうか?』

 

グレイズの両手に、グレネードのようなものがそれぞれ握られていた。グレイズはその二つをよりにもよって戦いを見ていた響と未来の方へと放り投げた。

 

『ち!』

 

慌てて三日月はそのフラグを途中で叩き潰す。と、爆発と煙が一気に吹き出した。更にそこへ

 

『スモークも持ってきな』

 

ほぼ空のミサイルポッドから二、三発のミサイルが発射され、周囲に煙幕を張った。

 

そして、煙が晴れる頃にはもう既にグレイズの姿はなく、同時にネフシュタンの鎧を纏った者もいつのまにかいなくなっていた。

 

『……』

「み、ミカ……」

『ん、響。無事? 未来も大丈夫?』

 

戦いはひとまず終幕と相成った。

 

僅か数十秒の攻防を響は頭の中に強く強く、刻みつけていた。




お前らは……止まるんじゃねぇぞ……(遺言)


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