遊戯王advance (さんま(北海道産))
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turn1 沢渡シンゴの幻想入り
「お楽しみは、これからだ!」
稀代のエンタメデュエリストで、俺のライバル、榊遊矢はあの日赤馬零児とのデュエルに勝利し、俺を置いてプロとなった。
「榊遊矢選手、プロ初デュエル見事勝利で飾りました!」
あいつがプロ世界で活躍してるのもその目で見た。モンスターと心通わせ、フィールドを駆け回る姿、アクションカードを巧みに取る術、あっと言わせるどんでん返し。悔しかったが楽しかった。まさしくエンタメだった。
置いていかれる。手の届かない場所に奴は行ってしまうのか?
自問自答する日々が続いた。俺がプロになるにはどうすればいい?一体何をすればいい?奴にあって俺にないものは。そうだ、今のままではダメなんだ、そうわかっていてもどうすればいいのかわからない....答えのない解答欄と睨めっこする。そしてある日、ふと思った。
俺にだってランサーズとして戦ってきた実績がある!だから!
「遊矢...いや榊遊矢!俺は必ず帰ってくる!絶対!お前を超える存在となって!」
俺は、沢渡シンゴは舞網を離れて、1人武者修行をすることにした。心配するパパを他所に、俺は必ず強くなって帰ってくる。絶対あいつと同じ舞台に立って、奴に勝つ。決意を胸に、足を進めた.....
「...で?ここどこなの?」
鬱蒼と生い茂る木々と隙間から微かに漏れる太陽の光が視界を覆い尽くす。いつの間にか大の字になって寝転んでいた。体を起こすと目の前にも木々が立ち並んでいた。
確かパパに手配してもらった近くの宿に泊まって、そこで一泊したんだっが、記憶をたどってもここにたどり着く理由にはならなかった。服もいつものまま、腕にはデュエルディスク。デュエルディスクをつけたまま寝た記憶もない。
「ヤベーな、これ明晰夢か?」
夢を見ているとわかっている夢、まさしくこの状況だ。しかし明晰夢の割にはしょっぱい夢だ、どうせなら遊矢とのデュエルで勝利して大観衆から拍手をもらう夢でも見たいぜ。悪態つきながらとりあえず立つ。息を深く吸うと空気もどことなく美味しい。
「とりあえず、歩くか」
明晰夢は初めてだ、どうすればいいのかわからない。けどじっとしていても仕方ない。
「ここは...なんだ?」
先ほどまで寝転んでいたのは小さな林のような場所だったようだ、しばらく歩くとだんだんと何か輝いているものが見えてきた。それを目標に歩くと、目の前には大きな湖が表れた。太陽の光を反射している姿は大きな鏡のようだ。
「すっげー味気のない明晰夢だな」
湖以外には360度木々が立ち並ぶばかりで何もない。起きる方法もわからないのでとりあえず湖に近づいてみる。覗き込むと水面にはいつものイケメンな俺が写っていた。夢の中でも冴えている....見惚れてしまった。
「そこの奴!何してる!」
「あぁ?」
見惚れていたので気配に気づかなかった。突如後ろから声が聞こえた、声は若く俺よりも年下の女だ。声の強さ的にも少々攻撃的だったので負けじと強めに返す。
「変な服着て変な髪型してるお前だよ!アタイの遊び場で何してるの?」
ワンピースを着て水色髪の10歳ぐらいの女子がいた。
「誰が変な髪型で変な服だ!これはLDSの制服で俺は沢渡シンゴだ!」
初見何か引っかかる点が数カ所あったが見た目完全に年下の奴から好き放題言われたことにカチンときた。
「そんなこと知らないよ!....ってそれはデュエルディスクか?」
「あぁ、そうだ。で?お前誰?」
急にベクトルがデュエルディスクに向きやがった。あまりの変わりように少し拍子抜けした。
「アタイはチルノ、デュエルディスクがあればデュエル、できるよね」
まさか、デュエルを夢の中でも申し込まれるとは。デュエル出来るなら誰だって関係ないぜ!
「デュエル?上等だ、夢の中でのデュエルなんて最高じゃねえか!」
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turn2 幻想郷で初エンタメ
チルノ、と名乗る少女らどこからともなく俺と同じデュエルディスクを着ける。準備はいいみたいだ。
「「デュエル!」」
「俺の先攻!俺はスケール8 魔界劇団ファンキーコメディアンとスケール3魔界劇団エキストラでペンデュラムスケールをセッティング!」
デュエルディスクの基盤にはペンデュラムの英語が浮かび上がり、空にはファンキーコメディアンとエキストラが浮かび上がる。
「さぁ、沢渡劇場開幕だぁ!ペンデュラム召喚!まずは舞台の花形、魔界劇団ビックスター!そして舞台を駆け回る生意気な新人、魔界劇団サッシルーキー!」
「ちょっと待った!」
1番いいところで制止を求められた。ち、いいところだったのに。
「なんだ?怖くなっのか?」
「そんなの知らない....ペンデュラムなんて知らない!」
「ペンデュラムを...知らない?」
ズァークを倒してからはペンデュラムは既に俺たちだけのものではなくなったはずだ。それなのにペンデュラムの存在すら知らないとは。
「ん?でも確か博麗の巫女は使うなんて噂...ペンデュラム?」
人に聞いておいて今度はブツブツと独り言を言っている。
「デュエル中に別のことを考えるなんて、よっぽど余裕あるんだな?」
「ふ、ふん!早くターンエンドしなさいよ!」
まあ待て待て、劇に必要なのはキャストだけじゃない。大道具小道具も必要、そして何より
「ここで俺は魔界劇団ビックスターの効果発動!デッキから魔界台本カードを1枚選んでフィールドにセットする」
先攻1ターン目、ここで機能する魔界台本はこれしかない。
「俺は魔界劇団 オープニングセレモニーをセットしてすぐさま発動!フィールドの魔界劇団モンスター1枚につき500LP回復する。2枚なので俺は1000LP回復する」
沢渡→5000LP
「なんだ、そんなもの」
「へっ、今に見てろ。カードを一枚伏せてターンエンド」
こちらには攻撃力2500のビックスターと破壊耐性を持つサッシルーキーが存在する。さぁどうする?
「アタイのターンドロー!アタイはブリキンギョを召喚!」
「ブリキンギョの効果で手札のレベル4モンスターを特殊召喚できる、氷結界の軍師を特殊召喚、そして氷結界の軍師の効果発動」
直感で良くない方向に進んでいるのがわかる。だがこの盤面ひっくり返される訳がない。
「手札の氷結界を一枚捨てて一枚ドロー...ふふん。」
満足げな顔、いいカードを引けたのか?
「アタイは、レベル4水属性のモンスター2体でオーバーレイ」
レベル4が並んだ時点で直感はしていたがやはりエクシーズ!
「エクシーズ召喚!最強のアタイのエース!スノーダストジャイアント!」
攻撃力2200か、ビックスターを超えられていないしサッシルーキーも一度なら破壊を無効にできる。だがそう簡単にならないのはわかっている。エクシーズモンスターにはエクシーズ素材を取り除いて発動できる効果がある、あの時俺もダークリベリオンエクシーズドラゴンに....、てダメだダメだ、思い出すな。
「スノーダストジャイアントのエクシーズ素材を一つ取り除いて効果発動!手札の水属性モンスターを2枚見せる、その数だけフィールドのモンスターにアイスカウンターを置く。スノーダストジャイアントに置く。」
アイスカウンター?カウンター系は一応LDSで習ったがなんだったか?
「そしてスノーダストジャイアントの効果はフィールドのアイスカウンターの数一つにつき水属性以外のモンスターの攻撃力を200下げる!」
2枚見せたから2個アイスカウンターが乗った。ということは攻撃力400ダウンか!
「これで魔界劇団ビックスターは2100!バトル、いけスノーダストジャイアント!アイシクルハンマー!」
「くそ、ビックスター!」
LP→4900
クソ、舐めた真似しやがって。
「アンタのエースはそんなものか、あたいったら最強ね。カードを一枚伏せてターンエンド」
何言ってやがる。俺が、俺がNo. 1になってやるんだ。こんな夢の中でも負けちゃいられない。見せてやるぜ、沢渡劇場のクライマックスを。
「判断力、精神力、容姿!全ての備えているのはこの俺!沢渡シンゴだ!ドロー!」
「俺はセッティング済みのペンデュラムスケールでペンデュラム召喚!エクストラから蘇れ!ビックスター!」
「え!?また出てきた!」
「ペンデュラムモンスターは破壊されればエクストラデッキにいく。そしてペンデュラム召喚のときスケール内に収まっていればエクストラからでも蘇るのだ!」
「そして俺はビックスターの効果発動、デッキから魔界台本、魔王の降臨をフィールドにセットしてそのまま発動、俺のフィールドの魔界劇団モンスターの数、2枚までを対象に破壊できる。スノーダストジャイアントを破壊だ!」
「ふん!最強のあたいにそんなの通用しないよ!カウンター罠、魔宮の賄....ってあれ?」
「ふ、通用しなかったのはそっちだったな。魔王の降臨には俺のフィールドにレベル7以上の魔界劇団モンスターが存在する場合相手は魔王の降臨に対して効果を発動できないという効果がある。よってお前の魔宮の賄賂は発動すらできない!」
「そ、そんな!」
これでがら空き、しかも攻撃力も元に戻った。
「バトル、魔界劇団サッシルーキーで攻撃!」
「きゃ!」
チルノ
LP→2300
「そんじゃあトドメだ!魔界劇団ビックスターの攻撃!その舞台の視線を独り占めにしろ!」
「きゃぁぁぁぁぁ!」
チルノ
LP→0
「最強のあたいが、負けた」
「鮮やかなタクティクス、磨かれたルックス、何事にも屈しないメンタル。さすが俺、沢渡シンゴだぜ」
エンタメデュエリスト、あいつはデュエルの後どうするのかなんて見てきた。真似ごとなのかもしれないが
「おい、まぁあれだ。いいデュエルだった...」
俯いたままブツブツとつぶやいていたチルノは突如振り返り大きな声で
「今回はたまたま負けたけど!絶対に次は勝ってやるからな!」
「んだと!上等だ!次も俺の華麗なるエンタメデュエルで勝利してやるぜ!」
子供相手に一緒にぎゃーぎゃー騒ぐのは心の広い証拠だ。さすが俺。
湖のほとりで子供2人騒いでいたら。
「ん?見ない顔だな。妖精と、誰だお前」
「あぁ?」
後ろからまた声がした。声がする方を向くと大きなとんがり帽子、そして魔法使いを思わせる服。右手には放棄の金髪の少女、俺と歳もそんなに変わらないだろう。
「俺は沢渡シンゴ、稀代のエンタメデュエリストだ」
「私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いでもあり、デュエリストなんだぜ!」
魔界劇団楽しいですよ
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turn3 因縁
「きりさめ...まりさ?」
目の前の金髪少女はそう名乗った。
「あんた見慣れない格好だな、もしかして外来人か?...って聞いてもわからないか」
「外来人?お前何言ってるんだ?」
話をこちらに合わせてくれない。言葉が一方通行するのみだ。夢だというのに妙にイライラする。
「外来人は外から来たやつのことを言うんだ。んでここは幻想郷ていうお前がいた場所とは別の空間。」
「幻想郷?外から来た?」
多分金髪少女の説明を理解しようとするにはもっと順序立てた話じゃないと無理そうだ。
「あー、とりあえずさ、一つずつ話してくれないか?こう質問に答えてもらうだけじゃ俺の頭でも理解できない」
「あぁ、かまわんよ。それじゃ話すぜ...ってこれ霊夢の仕事じゃないのか?」
「あぁ?霊夢?」
知らない単語がポンポンと出てくる。霊夢なんて人名じゃないのか?理解できるわけがない。
「すまん、とりあえず博麗神社にいこう」
「博麗神社?」
次は地名。なんだよ神社かよ、その時ふと思い出したがあの時チルノがそれらしきことを言っていたような、博麗?
「おい、お前。さっきペンデュラムどうたらこうたらって言ってなかっ...っていない」
後ろを振り返ったがチルノの姿はどこにもなかった。走って行ったのなら足音くらいするし、まるで消えたようだ。
「氷の妖精なら飛んで行ったぜ」
「あぁ?飛んで行った?」
飛ぶように走って行ったってことか?比喩表現なのか。なんて早いやつ。仕方ないので金髪少女の方に向かい直って話を進める。
「んで、とりあえずどうすればいいの?」
「博麗神社に行くんだぜ」
「そう、それじゃ早いとこ案内してくれ。」
「了解って、お前飛べるか?」
耳を疑うような質問。空を飛ぶ?
「..飛べる?何言ってるんだ、飛べるわけないだろ」
すると金髪少女は予想通りといった反応で溜息をついた。
「...じゃあなんだ、お前は飛べるのか」
「もちろんだぜ」
そう言って右手に持った箒に跨ると軽くジャンプした。普通なら重力に引かれて同じ場所に着地するのだが、金髪少女がジャンプした後その場所に着地することはなかった。ジャンプの最高地点で浮いていた。30センチほどだったが浮いていることに変わりない。
「うそ、だろ」
「別に空飛ぶなんて普通だぞ」
地面に降りながらあっけらかんと言い放った。普通?何言ってんだ。生身で魔法使いのように飛べるやつが普通でたまるか。...いや待てよ、これは夢だ。もしかしたら。
「ウルトラスーパーハイパーな俺なら、きっと飛べるはずだぜ。」
「ん?飛べないんじゃなかったのか?」
夢なんだから驚く必要なんてなかったんだよ!金髪少女の持っている箒を奪い取り跨る。
「おっしゃ!見てろよー!」
勢いよく上に高くジャンプ...しかし何事もなく着地。クソ、もう一度だ。
「魔法使いでもないんだし、お前には無理だよ」
もう一度っておわ!着地に失敗して左に崩れる。一回転した後仰向きに空を見上げる形となった。背中に小石がめり込んだのか所々痛い。
「リアルで夢のない夢だ...」
上半身だけ起き上がって服についた土を払う。払いながらふと気づく。痛み?夢の中って痛みはなかったはずだ。試しに頬を抓る。...痛い。
「夢...だよな」
「夢?何言ってんだ。そんなわけないだろ」
夢じゃない?ならここは本当に。そうだ、痛みがあった。夢じゃない!慌てて金髪少女に詰め寄る。
「おい!ここがどこだか知らないが早く俺を元の世界に返せ!とっとと!」
「待て待て、それを含めて博麗神社に行かなくちゃいけないんだ」
「なら早く連れて行け!」
「そんな無茶苦茶な」
無茶苦茶もなんでも早く帰らなねぇと武者修行の意味がなくなっちまう!こうしてる間にもあいつはどんどんとプロの世界で活躍する。
「飛べなきゃ、歩いていくしかないかな。結構時間かかるぞ」
「くそ、仕方ねぇ」
時間かかるのかよ....ん?待てよ、さっきデュエルディスクで普通にデュエルした。ならデュエルディスクが使えるということだ。
「なんだ、空を飛べるじゃないか」
「え?本当なのか?」
デュエルディスクのデッキからカードを引く、よし。
「んじゃ早く案内してくれ、ファンキーコメディアン召喚」
目の前に現れたのはファンキーコメディアン。うちの劇団のコメディー担当だ。背中に掴まると金髪少女に合図をした、しかし目を丸くしてこちらを見ていた。
「驚いた。外の世界はそんなデュエルディスク使ってるんだな」
「あ?お前らのデュエルディスクにはリアルソリッドビジョンねぇのかよ?」
「映像は出るが触れることはできない、だから驚いてるんだぜ」
さっきのチルノとかいうやつとは、よく違うデュエルディスクのタイプだったのにデュエルできたものだ。金髪少女は箒に跨り完全に浮いていた。
「ついて来いよ、行くぞ」
「おう!ついていけ!ファンキーコメディアン!」
箒を追いかけて、青い空を横切った。
「ついたぜ...って大丈夫か?」
「はぁはぁ、落ちるかと思った...テメェ!もう少しスピード落せよ!」
神社の境内、本堂の前でへばる俺を尻目に箒を眺める金髪少女、こいつの箒での移動は予想以上に早かった。ファンキーコメディアンでのスピードには限界がある、その限界ギリギリで飛んだものだから何度か落ちそうになった。
「へへ、すまないな」
「人の神社で何騒いでるの?」
本堂から出てきた巫女服の少女、特徴的な紅白の巫女服で脇が丸見えだ。
「お前が、博麗か?」
「初代面なのに名前知ってるなんて、まぁその身なりを見ればわかるわ。外来人ね」
「お、霊夢。当たりだぜ」
はぁ〜と巫女はため息をつく。こうしちゃいられない、早く元に戻してもらわねぇと。
「おい!お前が元の世界に戻してくれると聞いたぜ、なんなら今すぐ戻してもらおうか」
「....ねぇ、その前に少し見て欲しいものがあるんだけど」
「あぁ?なんだよ」
巫女が取り出した一枚のカード。それは忘れもしない、因縁のカード。絶対に倒したいと思っているあいつのエースモンスター。
「オッドアイズ...ペンデュラムドラゴン?」
そこにあったのは、紛れもないペンデュラムドラゴンだった。
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turn4 2色の眼の竜
紅白の巫女が差し出したカードを奪い取り確認する。紛れもなくオッドアイズペンデュラムドラゴン、覇王龍ズァークを倒したあとも奴は使っていた、それがなぜここに...。
「...ん?」
よく見ると少しペンデュラム効果のテキストが多い気がする。確かオッドアイズのペンデュラム効果は「自分のペンデュラムモンスターで発生する戦闘ダメージを一度だけ0にする」効果のはず。しかし俺の持っているペンデュラムドラゴンはもう一つある。「自分エンドフェイズに発動できる。 このカードを破壊し、デッキから攻撃力1500以下のペンデュラムモンスター1体を手札に加える。」....だと。そんな効果聞いたことねぇぞ!あとモンスター効果もモンスターとの戦闘で与えるダメージが2倍と、レベル5以上という限定がなくなった。はぁ、やっぱりな。
「んだよこれ...オッドアイズはこんなものじゃねーぞ」
「でも、オッドアイズペンデュラムドラゴンは外の世界に存在していたのよね」
「あぁ、あったさ。けどこれとは違う」
「私はペンデュラムが外の世界に存在しているもの、それさえ確認できればこのカードがどんなカードかなんてどうでもいいの」
「...どうでもいい?」
オッドアイズがどうでもいいだと?少し頭にきたので強めに返す。
「文字通りの意味ね...もしかしてこのカードは何か特別なの?」
特別も何も鍵の一枚だった。覇王龍ズァークの時には眷竜として俺らを苦しめられた。
「まぁな、それよりそれどうしたんだ?」
「...落ちてたの」
「落ちてた?」
まさか遊矢が落とすなんて考えられない。...いや、これは偽物か。しかし精巧に作られた偽物だ、テキストの違いを修正したら本物と勘違いしてしまうほどよくできている、感心する。
「よくできた偽物だな、これ」
「偽物?普通に使えるわよ、デュエルディスクにも反応したし」
「なんだって!?」
落ち着け!あくまでこちらの世界のデュエルディスクに反応しただけだ。確かにあちらのデュエルディスクの形は似ているがリアルソリッドビジョンがないから俺の今つけてるデュエルディスクとは別物だ。
「なんなら、あんたのデュエルディスクにも反応するか、やってみたら?」
「まさか、な」
ディスクを起動させる、そしてその上にオッドアイズを置いてみる。
「嘘だろ」
目の前に現れたのは、紛れもないオッドアイズペンデュラムドラゴンだった。
「確かめられたらいいでしょ、早く返して」
いつの間にか近くまで来ていた巫女はディスクに置いていたペンデュラムドラゴンのカードを奪い取る。
「あのドラゴン、何かあるのか?」
金髪少女が覗き込んで質問してくるが、それに答えることができないほど、俺は呆気にとられていた。
オッドアイズだった、間違いない。2色の眼を持つ美しき竜。
「なんで、だよ」
「知らないわよ」
巫女はあっけらかんと言い放つ
混乱する俺をよそに独り言みたく呟いた。
「ペンデュラムは実在する、それだけ知れたらもういいの」
そういえばペンデュラムの存在をあのチルノとかいうやつは知らなかった。だがオッドアイズは偽物か本物かわからないが存在する。どういうことだ?疑問をぶつける
「ペンデュラムはこの世界じゃ存在しないのか?」
「まぁね」
だったら一つの疑問が浮かび上がる、それをすぐさまぶつける。
「なんでお前はペンデュラムの存在を知っているんだ?」
「まぁ、そう聞くのが普通よね」
そう言って巫女はどこからともなくデッキを出してきた
「これが私のペンデュラムデッキ、ペンデュラムについてはこの幻想郷のある人物から聞いた。ただそれだけよ」
「へぇ、お前もペンデュラムを使うのか」
巫女は俺が返した言葉に少し反応する。
「も?」
「あ?俺もペンデュラム使いだ、それもかなり初期からのな」
実際嘘はついていない。遊矢、赤馬零児、の次に俺が使った....と思う。流石はランサーズ次期リーダーだった俺、というべきかペンデュラムの歴は長い方だ。巫女は目を細めて疑ったそぶりを見せる。
「へぇ、そうに見えないけど」
「見た目で判断するなよ!って見た目から既に稀代のペンデュラムデュエリストのオーラが出ているだろ!ちゃんと隈なく見ろ!」
巫女は俺の勢いに押されたのか少々押し黙ったあと言った。
「....まぁ、いいの。約束通り返してあげる」
「マジか!ったく、早くしろよ!」
「だけど私にデュエルで勝てたら、だけど」
「デュエルに勝ったら、だと?」
は、上等じゃねーか。その勝負受けてやろう...というか受けて勝たないと帰れないからな。
「どうやら選択肢はないみたいだな」
デュエルディスクを起動させる、あちらも準備はできたようだ。
「なんかよくわからないけど、デュエルか?ならギャラリーでも呼んでくるかな」
金髪少女は呟くと箒に跨りどこかに行った。なんなんだ、あいつ?
「ならいきましょうか」
「いいぜ、こいよ」
「「デュエル!」」
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turn5 激突!ペンデュラムvsペンデュラム
「私の先攻!」
高らかな先攻宣言。さて、お手並み拝見といこうか。お前のペンデュラムを見せてもらおうか
「私はペンデュラムスケールにスケール4、オッドアイズペンデュラムドラゴンとスケール1、クリフォート・アーカイブをペンデュラムスケールにセッティング!」
クリフォート、それが奴の使うペンデュラムテーマか。それにしてもオッドアイズをスケールで使うなんて妙なやつだ...そうか、あれは俺の知っているオッドアイズじゃなかったんだ。
「そして来なさい、私のモンスター!第2のクリフォ、クリフォート・エイリアス!」
通常召喚か、ただレベル8、攻撃力2800。何かしらの効果で召喚したのか?厄介なやつだ。しかしデュエルディスクにはカードに書かれた攻撃力とレベルとは違いレベル4、攻撃力1800と表記している。
「俺のデュエルディスクおかしくなっちまったのか?レベル4でもなけりゃ攻撃力1800でもないぞ」
俺の慌てふためいた声を聞いて一度はぁ、と小さくため息をついてから巫女は説明を始める。
「いえ、あってるわ。クリフォートの共通効果として特殊召喚及びリリースなしでフィールドに出た時にはレベルも攻撃力も下がった状態で出るの。」
ふん、なんだ。変なデメリットついているなんてよくわからないペンデュラムテーマだ。
「私はカードを一枚伏せてエンドフェイズにオッドアイズペンデュラムドラゴンのペンデュラム効果発動、ペンデュラムゾーンのこの破壊することで、デッキから攻撃力1500以下のペンデュラムモンスターを手札に加える。私はクリフォート・ツールを手札に加えてターンエンド」
デュエルディスクもあのオッドアイズの効果を何事もなく処理している。オッドアイズには様々な派生があるがその一枚なのだろうか...いやいや、今はデュエル中だ、考えるな。
「俺の華麗なるドロー!...やるしかねぇか」
エースがいない手札だ、なので今回の演目はパワーパフォーマンスになりそうだ。
「俺はペンデュラムゾーンに魔界劇団 エキストラをセッティング!そしてエキストラの効果発動!エキストラを特殊召喚する!」
エキストラは相手の場にモンスターが存在し、俺の場にモンスターが存在しない場合ペンデュラムゾーンから特殊召喚することができる!
「まずはエキストラの効果で舞台作りだ!魔界劇団 エキストラ自身をリリースすることでデッキから魔界劇団モンスターをペンデュラムゾーンにセットする。」
迷うことなく、俺はそいつを選んだ。今回の主役はヒール、それをお膳立てできるのはこいつだ。
「俺は魔界劇団 ワイルドホープをスケールにセット!そして片方のペンデュラムゾーンに魔界劇団 ファンキーコメディアンをセッティング!」
「さぁ沢渡劇場の開幕!...の前にペンデュラムゾーンのワイルドホープのペンデュラム効果発動!ファンキーコメディアンのスケールを9にする、この効果を使うとこのターン魔界劇団モンスターしか出せなくなるが俺にとっては関係ない話だ。そしてこれによりレベル3から8までの魔界劇団モンスターが同時に舞台に現れるぜ!...さぁ、開幕だ!ペンデュラム召喚!」
「舞台に君臨する敵役!魔界劇団 デビルヒール!」
魔界劇団一の怪力だ。この力、受けて見やがれ。
「けどクリフォートゲノムの効果でエイリアスの攻撃力は300アップするわ」
「へ!関係ないね!バトルフェイズ!デビルヒールでクリフォート・エイリアスを攻撃!
「そのパフォーマンスは受けられないわ。ダメージ計算前にセットカード発動!禁じられた聖杯!」
リバースカード!?警戒してなかったわけじゃないがここできたか!
「対象はクリフォート・エイリアス、効果でエイリアスの効果は無効となり攻撃力は400アップする」
へ、なんだ。大したことはない。高々攻撃力400アップ程度じゃ、デビルヒールを止めることは出来ない。雀の涙程度のバンプアップだ。
「苦し紛れだな」
「それはどうかしら?エイリアスの攻撃力をよく見なさい」
「!?」
デュエルディスクのエイリアスの攻撃力はデビルヒールの元々の攻撃力さえも上回る3500だった。巫山戯るなよ、なんで攻撃力が1400も上がっているんだ。
「エイリアスは自身の効果で攻撃力を下げていた、つまり効果が無効になれば攻撃力は元通りになる。そして更に聖杯の効果での400アップはその攻撃力に加えられるということ。理解できた?」
ちっ、エイリアス自身の効果を無効にしつつ攻撃力を上げたというわけか。嫌な手を使ってくるもんだぜ。
「エイリアス、返討ちよ!愚鈍=エーイーリー!」
沢渡→LP3500
クソ!これで俺のフィールドはガラ空き、最悪次のターンに決まってしまう。だが今俺にできることなんてない。だったらあれに賭けるしかない。
今のうちに目星はつけておく。
「ターン...エンド」
「私のターンドロー...メインフェイズ。私はクリフォート・ツールをスケールにセットしてツールのペンデュラム効果発動!LPを800払ってクリフォートカードを1枚手札に加える。私はクリフォート・ディスクを手札に加える、そしてペンデュラム召喚!」
霊夢→LP3200
「現れなさい!第4のクリファ、クリフォート・ディスク!」
こいつも自身の効果で攻撃力を下げているが、俺のLPを削るには十分だ
「バトルフェイズ!エイリアスで攻撃、愚鈍=エーイーリー」
俺は駆け出した、一枚だけ見つけることが出来た、ならそれに賭けるしかねぇ!
「何処に行く気?まさか勝てないからって勝負を放棄するの?」
「んなわけないだろ!いつだって俺は勝機しか見ないぜ!」
フィールドに浮いている透明で正方形のアクションフィールドに足を掛け、軽快に上がっていく。目指すは一番上だ。
「あれは...なに?」
一番上まであと二つ、その時クリフォートエイリアスが顔を出す。でかい、ビビって足が止まってしまった。エイリアスは足の止まった俺をめがけてエイリアスはビームを放った。咄嗟に身を翻したおかげで間一髪直撃ではなかったが衝撃波で宙に投げ出された。
「あ、ってうおぉぉぉぉぉ!」
気合いと根性でなんとか一段下のアクションフィールドに手をかけた。これで何度目だろうか、こんな目に会うのは。
沢渡→LP1400
「なにしてるの?あんた」
なんとか這い上がった俺を見て巫女は尋ねてきた。空を飛んで俺と同じ高さになって、全く涼しい顔して空を飛びやがる。
「お前も空を飛べるんだな」
「まぁね、それにしてもあんたの目的はなに?その座っているものはなに?」
どうやら知らないらしい。へ、なら好都合だぜ!見てろよ。
「いいのか?今はデュエル中だぜ?そんな余裕こいてていいのか?」
少しムッとした表情を見せたあと、少し笑いながら答えた。
「今の状況わかっている?フィールドにモンスターもセットカードもなし、そして私の場にはまだ攻撃していないクリフォート・ディスクかいることを、もう勝負は決まっているわ」
「なに言ってんだ、デュエルは終わってない。まだ勝負は決まってないぜ」
俺は言って駆け上がる。これが俺のエンタメ、追い続ける笑顔の形だ。それを見せてやるぜ。
「なにをするかわからないけど、無駄よ。クリフォート・ディスクでダイレクトアタック!」
するとディスクは一気に浮上してきた。あと一段、あと一段!下から浮いてくるディスクの恐怖に耐えながら、なんとか登り終えると中央にはアクションカードがあった。よしこれで
ピッピ...ピ
耳に入ってきた電子音。顔を上げるとそこにはクリフォート・ディスクがいた。虹色に輝いているボディが今は不気味に見える。
「無感動=アディシェス!」
円板状のボディの下についている3本の爪のような場所に光が灯る。もう時間がねぇ!このアクションカードに賭けるしかない!頼むぜ、アクショントラップなんてのはごめんだぜ。.....きた
「よっしゃぁ!アクションカード、大脱出!バトルフェイズは終了だ!」
俺は勢いよく飛び降りた。放たれた3本のビームは俺のいた場所を虚しく通り過ぎていった。へ、どんなもんだ。
「な、あぶねぇ!」
下で誰かが叫んだ、なーに。俺はエンタメデュエリストだ。魅せることこそが本領なのだ。
「俺のターン!ペンデュラム召喚!再演の時間だ!デビルヒール!」
何処からともなく現れたデビルヒールが空中で俺を抱え、そのまま地面に降り立った。デビルヒールは俺を地面に降ろした。俺に続いて巫女も降り立った。巫女は首をかしげながら俺に尋ねる。
「アクションカード?」
「これが俺のデュエル、エンタメデュエルだ。どうだ、ハラハラワクワクでドキドキしただろ?」
「私、ターンエンドって言ってないけど」
「それは...あれだ、細かいことは気にすんな!」
俺の華麗なるエンタメを見れるなら越したことはないだろう。
「まぁエンドだったし、それが外のデュエルなの?」
「あぁ、楽しそうだろ?」
すっげー、なんだありゃ。そんな声がちらほら聞こえる、辺りを見渡すといつの間にやらギャラリーが増えていた。
「あれがペンデュラム召喚?」
「アクションカード、なんかすごいわね」
「いやードキドキした。」
とうやら好評らしい。さすが俺、沢渡シンゴ。
「んじゃ行くぜ、クリフォート・ディスクとバトルだ!デビルヒールの攻撃!
その巨体とは釣り合わない俊敏さで一気にディスクへと接近し地を蹴り宙を舞う。そして振り上げた右腕をディスクに叩きつけた。
「どうだ、1枚伏せてターンエンド」
霊夢→LP2300
「私のターン!...ドロー」
「ペンデュラム召喚!来なさい、クリフォート・ディスク!」
ペンデュラム召喚で呼び出されたのはディスクのみ、クリフォートはクリフォートしかペンデュラム召喚することができない、ここまで把握しているなんて流石俺と言うべきか。
「クリフォート・ツールの効果発動、私は800払ってデッキからクリフォート「おおっと待ちな」
「それ以上手札に加えられるのもまずいんでな、速攻魔法サイクロンでツールを割らせてもらうぜ」
霊夢→LP1500
クリフォートの効果は先ほど確認した。アドバンス召喚で色々と効果を発動するらしい。だったらこれ以上手札に加えせるのは危険だ。
「勝負を決められると思ったのに、しかない。こっちで行くしかないわね」
「装備魔法
「時間稼ぎか?だがそんなもの」
「いえ、そんなことはしないわ。エースを出すためよ」
「エース...だと?」
嫌な冷や汗、また直感が警告を鳴らす。
「
現れたのは天を覆う巨大な浮遊要塞。
「さらに墓地に送られた
ちぃ、せっかく破壊したのにまた引っ張ってきやがった!
「アポクリフォート・キラーの効果発動、相手はフィールド、または手札から1枚モンスターを墓地に送らなければならない。」
墓地に送る、これじゃあペンデュラムモンスターもエクストラにはいかない。なによりデビルヒールを墓地に送ると負ける。なら手札のエキストラしかない。
「エキストラを墓地に送る」
「まぁそうなるわよね、そしてアポクリフォート・キラーは特殊召喚されたモンスターの攻撃力を500下げる効果を持つ、けどペンデュラムゾーンのアーカイブの効果は受けない。バトルフェイズ!いけキラー!キル=キムラヌート!」
アクションカードを取りに行こうとした瞬間、既に一閃の光がデビルヒールを襲った。
「ちぃ!早い!」
沢渡→LP900
「私は1枚伏せてこれでターンエンド、言っておくけどキラーは魔法罠の効果を受けず、このカードのレベル又はランク以下のモンスターの発動した効果を受けない。」
んだよそれ、強すぎだろ。そして攻撃力はこちらのターンでも下がるのかよ。
「どうする?サレンダー?」
「んなわけないだろ、ドロー!」
このカード、そしてこの手札。最高だぜ。
「本日の最大の見せ場、それがこの巨大要塞の攻略だ!瞬き厳禁、見逃すなよ!」
頭がパンク
謝罪フェイズ
デビルヒールの召喚、特殊召喚時効果を完全に忘れていました...。
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turn6 ペンデュラムの行く末
「へえ...面白い、もうキラーを倒す算段ができたの?」
「あぁ、演者のコミカルで息のあった掛け合いを楽しめよ」
やるべきことは決まっている。落ち着け、伏せは1枚のみ。これで決める
「手札からまたまた速攻魔法、サイクロンを発動!」
「今更、アーカイブを割っても意味はないわ」
「おいおい、誰がアーカイブを対象にって言った?」
俺のハナから狙いは俺のカード。セットされたペンデュラムモンスターだ。
「対象はファンキーコメディアン、ペンデュラムモンスターは永続魔法扱いのためサイクロンで破壊可能だ。よって破壊する。」
これでファンキーコメディアンはエクストラデッキに送られる。
「そして手札から魔界劇団 ダンディーバイプレーヤーをペンデュラムゾーンにセッティング!さらにここでペンデュラムゾーンの魔界劇団 ワイルドホープのペンデュラム効果発動!ダンディーバイプレーヤーのペンデュラムスケールを9にする」
「ペンデュラム召喚!再演の時間だ、デビルヒール!そして手札から舞台を駆け回る生意気な新人、魔界劇団 サッシールーキー!」
デビルヒールとともに現れたのは跳ねた頭が特徴的な新人、サッシールーキー。
「2体のモンスターの攻撃力はそれぞれ500ずつダウンするわ。」
知っているさ、でもそんなこと意味はない。なぜならその上、もっと上を越えていくからだ。
「ここで俺はペンデュラムゾーンの魔界劇団 ダンディーバイプレーヤーのペンデュラム効果発動!ペンデュラム召喚成功時にエクストラデッキのレベル1か8の魔界劇団モンスター1枚を手札に加える!」
「俺が選ぶのは魔界劇団 ファンキーコメディアン」
「...なるほどね、ファンキーコメディアンを手札に加えるのが目的だったようね」
へ、気づいたってもうどうにもならない!既に勝利という舞台のフィナーレは目前なのだから。
「俺は魔界劇団 ファンキーコメディアンを通常召喚」
さぁ役者は揃った!ここからが舞台の見どころだ。
「ファンキーコメディアンの召喚時効果発動、フィールドの魔界劇団モンスター1枚につきこのカードの攻撃力を300アップさせる。フィールドにはファンキーコメディアンを含めて3枚、よって900アップの攻撃力1200!」
「そんなもの、高々900アップで!」
俺もそういったさ、あの時。だけどわざわざこんな手間かけてしたかったことがこれだけなわけがない。教えてやる。
「ファンキーコメディアンにはもう一つモンスター効果がある」
「もう一つの、効果?」
「ファンキーコメディアンの攻撃を放棄する代わりに、フィールドの魔界劇団モンスター1体に自身の今の攻撃力を加算する効果だ、元々の攻撃力じゃないぜ」
巫女は瞬間何か考え事していたが、直ぐに理解できたような表情になる。
「ということは、1200をそのまま加算...!」
「ご名答、勿論対象はデビルヒール。これにより攻撃力は4200、500ダウンの分も含めても3700、対するキラーの攻撃力は3000」
「う...うそ!」
「渋い脇役のいぶし銀な演出、独創的なコメディアンの陽気な芸での舞台の盛り上げ、そして今から見せるのが力強い怪力演技!」
「バトル!さぁまた魅せてやれ、デビルヒール!
先ほどよりも力のこもった蹴りで一気に巨大要塞へと接近する。要塞に重なり見えなくなった時には、要塞から煙と火が昇り崩れ始めた。ソリッドビジョンとはいえ迫力がある。地面が震えていないのが不思議なくらいだ。
「私の...キラーが!?」
悲しんでいる時に申し訳ないが、まだバトルフェイズは終了していない。
「要塞は攻略したがまだ舞台は終わりじゃない。...これで、フィナーレだぁ!魔界劇団 サッシールーキーでダイレクトアタック!目立ちたがり屋の初主演!」
サッシールーキーは巫女の元へと走り出すし、全身を使っての体当たりを行った。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
「というのはなし」
「はぁ?....ってうそー!」
なぜか無情にも体当たりしようとしたサッシールーキーは水に押し流された。しかもサッシールーキーだけでなくデビルヒールやファンキーコメディアンまで。
「なんだよ、これ!」
「罠カード、波紋のバリア ウェーブ・フォース。このカードは相手のダイレクトアタック時に発動可能、相手の攻撃表示モンスターを全てデッキに戻す」
「なんだって!?」
まさか最後の最後にこんなものを用意していたとは...クソ!勝てると思ったのに...。
「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」
俺のフィールドはガラ空き、しかも巫女がツールを握っているのは明白、なので次は必ずペンデュラム召喚してくる。だったらそこを潰せばいい。一気に、除外してやる。
「私のターンドロー!ペンデュラムゾーンにクリフォート・ツールをセッティング!ペンデュラム召喚!ディスク!エイリアス!ツール!」
きた、ここだ。
「召喚時罠発動!奈落の落とし穴。ペンデュラム召喚は1度の召喚扱い、よってペンデュラム召喚されたモンスター3枚一気に除外だぁ!」
ディスクが地面から現れた謎の緑の手に穴へと引っ張られていく。エイリアスもまた同じく引っ張られていく。しかし
「あれ?」
ツールだけ引っ張られずにいた。なんでだ、数秒考えたのち気づく。
「あ」
そうか、ツールの攻撃力は元々から1000。奈落の落とし穴は攻撃力1500以上のモンスターの召喚、特殊召喚時にしか適用されない。つまりディスク、エイリアスは発動のための条件を満たしていたので効果を受けたが、ツールの召喚、特殊召喚時には本来発動すらできない。ペンデュラムは1度の召喚扱いなのでツールが特殊召喚されていても他二枚には適用されるため発動自体は可能だったが、ツールには効果は適用されない、ということになる。
「って冷静に考えてる場合じゃねー!」
「バトルフェイズ、ツールでダイレクトアタック」
「すぐアクションカーってうあぁぁぁぁぁぁぁ!」
沢渡→LP 0
ツールから放たれたビームが俺を直撃。少しよろめいた後、腰が抜けた。はぁ、痛みはないが極太ビームに襲われるなんてもう嫌だ...。
勝負がついたと同時に歓声が強くなった。
負けたらやっぱり悔しいけど歓声に包まれるなら悪い気分にはならねぇな。起き上がって手を振って応える。けど、
「勝負あったわね」
「え、あぁ...」
近寄ってそう声をかけられたが、返事は適当にした。今は負けた、ならこれからどうするのか。それで頭がいっぱいだったからだ。しかしふと巫女が言う。
「約束通り返したあげるわよ」
「なんでだよ!俺が勝ったらが約束だろ?」
「私はペンデュラムの性能をペンデュラムにぶつけてみたかっただけよ。別に約束なんていいの」
なんだよそれ、ひでぇやつだな
「んだよそれ、すっきりしねぇな」
すっきりしない。これは巫女の発言のせいか、違う。
心の中である気持ちが大きくなる。悔しさだ。そしてそれと同時に楽しかったとも思えた。
勝てた勝負だったかもしれない、けど久しぶりに熱くなれた。
そういえばこんなに悔しいって思ったの、いつぶりだろうか?そうだ、遊矢に初めて負けたあの日以来だ。それ以降は負けても仕方ない、とどこかで諦めがあった。俺だって自分なりに努力してやっている。なにより次元を跨いだ大きな争いの中でのデュエル、忙しかったし大変だった。
そんな日々から解放されての今、デュエルが楽しいと思った時があっただろうか?エンタメを極めるためにがむしゃらにデュエルする日々、それは楽しかったのだろうか?
なんとなくわかった。俺の求めるエンタメに近かったフレンドシップのシンクロ使いとのあの戦い。あの時俺は楽しんでいた。
そうか、エンタメに必要なのこと、それは.....。
「どうだ、幻想郷のデュエリスト!これが俺、沢渡シンゴのエンタメデュエルだぁ!」
観客に向かって大きな声で叫ぶ。
デュエルを楽しむ。まず俺がたのしまなくちゃな。白熱のデュエルの余韻が観客をまだ包んでいた。これだ、沸き立つ観客の声が四方八方から飛び交う様、これがエンタメデュエルのあるべき姿!
「何やってるの、帰るんじゃないの?」
後ろから冷たい視線ともに言ってきた。 ...もし、今帰るとこいつに負けたままになる。きっとこの先ここに来ることなんてないのかもしれない。そうなると一生負けたままだ。そう思うと悔しさで眠れなくなる。だったら...決めた。へ、お前のせいでこうなったんだからな。
「決めたぜ、俺」
決意を胸に
「俺は幻想郷にいる。ここで武者修行する!」
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turn7 覇王龍
「...へぇ、そう」
そっけない巫女、まったく冷淡だな。ばっさり切り捨てたと思ったら何か付け加えてきた。
「私は別にここにいようが構わないけど当分こちらにいるなら寝る所とかどうするの?まぁ私は知ったことではないけど」
優しいのか優しくないのか。だが「泊めてくれ」と言って「はい」と言えるかと言われれば言えないだろうな。当然といえば当然なのかもしれない。
「あー、まぁあれだ」
俺の住んでる世界とは別の世界、すなわちパパと連絡は当分取れない。パパに頼めないということでもある。
「失礼、お困りのようね」
突如聞きなれない声、振り向くと大人びたゴスロリ?な派手な服装に日傘らしき傘を差した1人の女性がいた。観客の1人だったのだろう。
「紫、何の用」
「そこの人...沢渡シンゴって言ったかしら」
「あぁ、そうだが」
威圧なのかわからないがその姿だけで圧倒される。
いつもの調子で話すことができない、なんだこいつ?
「話はあらかた聞かせてもらったわ、お困りのようね」
「まぁ、な」
「私の所なら泊めてあげられるわよ」
「マジかよ!」
天の救いとはこのことか、もう寝泊まりする場所を見つけられるとは...待て、俺には金がない。対価を要求されれば差し出せない。
「悪いけど、俺金なんてないが」
「いいの、ただ条件があるの」
条件?金ではなく条件として何を求められるんだ?
顔の表情は常に優しく微笑みかけられている。変わらない、だから何考えてんのかわからない。故に読めない。
「外の世界の話、聞かせて欲しいの」
「えー、それが、条件?」
「そうよ」
なんだかもっと裏のありそうだったがそんなことでいいのか。拍子抜けだな、むしろ疑いたくなる。
「それでいいなら話すけど、それだけでいいのか?」
「それだけ?私にとってとても大事なの、お金なんかよりもね」
大事、ねぇ。純粋に外との連絡を取りづらいのか、はたまた別の何かを聞き出そうとしてるのか。
「じゃあ早速聞かせてちょうだい。外について。少し目を瞑って。霊夢も来てちょうだい。」
なんでだよ、と言いかけたがここは素直に従うのが吉か、そう思い目を瞑る。1分ほどするとまた声がかかる
「いいわよ、目を開けても」
目を開けるとそこは和室だった。正確には和室の部屋の前の縁側だ。縁側から見える和室は真ん中には机、それを囲うように座布団が置かれていた。机には茶菓子とお茶を入れてる急須、ほんのりお茶の匂いがする。
「あ?なんだここは」
「私の能力、ってら事かしら、上がってちょうだい。」
もう空も飛んでたし、いいのかな。よく考えれば次元なんてものポンポンと飛んでいたわけだし俺も中々だったな。靴を脱いで和室に入る。
「じゃあ2人とも適当に座って」
促されるまま座布団に座る。正面には紫と呼ばれた女性、右にはなぜかついてきた巫女がいる。
「じゃあ聞いてもいい?..外の世界の...アカデミアの話について」
「アカデミア?」
反応から巫女は知らないらしい。アカデミア...一体どこで知ったかはわからないが俺の武勇伝も交えながら話してやるか
「アカデミアの侵略戦争か、あの時俺は常に先頭に立って...」
「いえ、それの延長上。覇王龍ズァークついて」
覇王龍ズァーク?こいつ、一体どこまで知っているんだ?
「覇王龍...ズァーク?どこで聞いたんだ?」
「私は色々と知っているのよ、ランサーズの次期リーダー、沢渡シンゴ。」
思わず立ち上がる、こいつには俺は一言もランサーズだの次期リーダーだの言った覚えはない。どこで知ったのか、気味が悪い。
「だけど私は覇王龍については知らないの。あの巨大な龍は一体なんだったの?」
「...どこで、知ったんだ?」
女性の問いかけなんて頭に入らなかった。どうして知っているのか、ただその疑問だけがぐるぐると巡っている。そんな状況の中で混乱した頭の中でやっとのこと紡ぎだした言葉をようやく口にできた。俺の言葉を聞いて数秒黙った後、不敵な笑みを浮かべなからゆっくり
「ひみつ」
「ふ、巫山戯るなよ」
「ふふふ」
弄ばれている感じだ、怒りが募る。声も荒々しくなっていき攻撃的になる。
「おい!答えろ、なんで俺の事を知っているんだ!」
「....まっすぐね、私は嫌いじゃないけど。わかったわ、話してあげる、取り敢えず座りなさい」
ち、初めからそうしておけば良かったのに。面倒臭い。勢いよく座る。
「オッドアイズペンデュラムドラゴン、霊夢が持っているそのカードは一ヶ月ほど前博麗神社に落ちていたの。この幻想郷に外のカードが流れて来るのは珍しくないの、だからいつものように霊夢が拾ったわけ、だけどそれは幻想郷にはなかったペンデュラムモンスター。私たちは困惑したわ、全く見たこともないカードだったから。直感に近いけどただならぬ力を感じた私はこのカードを調べ始めた。するとそれは外の世界の大きな出来事に突き当たった、それが覇王龍ズァークを取り巻く一連の出来事。外の世界が一体どうなってしまったのか、調べれば調べていくうちにこの幻想郷に流れてくるカードにペンデュラムカードが増えていったの、それが霊夢のクリフォートよ。そして私の...イグナイトでもある。今のところ幻想郷でペンデュラムを使うのを確認できているのは2人、いえ、これは今は関係ないことね。アカデミアの侵略戦争から始まり、スタンダード次元からランサーズと呼ばれる精鋭部隊がそれを止めるため各次元を回ったのも知っている。けど、覇王龍ズァーク。これだけは何かわからなかったの....教えて、覇王龍ズァークは一体何?次元を分けるほどの力を持つ龍の正体は何?」
「....覇王龍ズァークは、榊遊矢。俺の最大のライバルにして俺が唯一認める稀代のエンタメデュエリストだ」
あの後零児に覇王龍の件について色々と補足をしてもらった。
「奴は四つの各次元に分裂したズァークの1人。アカデミアの侵略戦争を止める中で各次元のズァークの分裂体と接触してとうとう融合次元でひとつになっちまう、そうしてズァークは復活。けど俺たちランサーズと各次元で仲間になったデュエリスト達でなんとかズァークを撃破したんだ。.....ズァークの正体か、別に普通のデュエリストだったらしい。だけど連戦連勝するズァークにエンタメを観客は求めた。そしてズァークはそれに応えようと激しく、力任せなデュエルをするうちにあんな風に変わってしまったらしい。俺が知っているのはこんな感じだ」
覇王龍ズァーク...あれで良かったのだろうか?あれで全て終わったのだろうか?
「そう、ありがとう」
そう言ってゆっくり頭を下げた。元に戻ると思い出したように言う。
「あと一つだけ聞かせて欲しいの、オッドアイズペンデュラムドラゴンのこと」
「ズァークが使っていた4枚の竜のカードの一枚だ。ペンデュラム、融合、シンクロ、エクシーズに各それぞれ一枚ずつそんなドラゴンのカードが存在する。」
「...なんかよくわからないけど、これあなたに預ける。」
巫女は突然口を挟んできたと同時にオッドアイズを差し出してきた。
「は?なんで?」
「私は覇王龍なんてわからない、けどこれが何か大きな力の一部なのはわかった。だったら理解しているあんたに預けた方がいいと判断したからよ」
「面倒くさい事に巻き込まれそうだからじゃないの?」
小さくボソッと女性はつぶやく。キッと鋭く睨んでから強くオッドアイズを差し出してきた。
「へ、しょうがねぇな。受け取ってやるか」
渡されたオッドアイズ、まさかこんな風に俺の手に来る時が来ようとは。あのオッドアイズとは違うが俺の劇団員と共にフィールドを駆け回るオッドアイズか、想像しただけで顔が綻ぶ。
「話はそれだけ?私帰るから」
「もう?ゆっくりしていけばいいのに」
そんな声聞こえないと言わんばかりに障子を開けて縁側に出ると飛んで行ってしまった。
「ごめんなさいね、そっけない子で」
「あぁ、別に。あと聞きたいことはそれだけか?」
「ええ、そうね。ありがとう沢渡シンゴ。えっとなんて呼べばいいかしら」
「好きに呼べばいいぜ、色々呼ばれてるから」
色々と言っても沢渡と名字が多いな、シンゴって呼んでる人いたかな?
「沢渡君って呼ばせてもらうわ」
「もう君いらねーよ」
また沢渡だ、シンゴって呼ぶ奴は一体どこに。
「わかったわ、沢渡。改めてようこそ、八雲家へ。当主の八雲紫よ」
「こちらこそよろしく、稀代のエンタメデュエリストの沢渡シンゴだ」
俺の幻想郷でのエンタメデュエル修行はこの日から始まった。
アニメ見てましたが後半イマイチ理解してないかな?と思います。沢渡さん知っている情報少なそうですが。
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turn8 親睦会
「うぉ、マジかよ」
気怠い体をゆっくり起こす。障子の隙間から漏れる夕方と夜の間の暗いオレンジ色が部屋に差し込んでいた。もう夕方か、そんなに寝ていたのか。
あの後女性、いや八雲紫はこの部屋を自由に使ってもらって構わないと言って部屋を出た。部屋に残された俺は先ほどのデュエルの疲れからか眠気が襲ってきた。少し横になって体を休めるか、色々あって疲れたから仕方ない。寝転がって天井を見つめる。心なしか天井が近い、基準が俺の家じゃぁそんなものか。パパどうしてるだろうか?
そんなことを考えつつも段々と重くなってくる瞼に耐え切れず目を閉じた、そしてゆっくりと寝息が部屋唯一の音となった。
「少し休めるだけだったんだが、そんなに疲れてたのか」
思えばあの激戦、負けたとはいえ俺の中でもかなりよくできたデュエル内容だ。慣れない土地であの激闘を演じられるとは、流石俺、沢渡シンゴだ。
「沢渡、起きているかしら?」
障子から声が聞こえた、振り向くと八雲紫が隙間から覗いていた。
「ん?起きてるけど」
「そう、じゃあご飯だからいらっしゃい」
ご飯か、そこまで出してもらえるのか。正直ここまで提供してもらえることが裏がありそうで怖いが、空腹はそんな疑いを捻じ曲げた。そうだな、今は空腹に従うか。
「そうか、すぐ行く」
立ち上がり障子を開ける、既に歩き始めている八雲紫の背中を追いかけていく。
「2人とも、連れてきたわよ」
縁側を歩いて少し、行き当たりの部屋の障子を開けて八雲紫は部屋の中に呼びかけた。そこには丸い卓を囲んで尻尾を生やした狐みたいな女性と猫耳をつけた女の子がいた。狐みたいな女性は俺を目を細めて不審者を見るように警戒心を前面に出していた。対する猫耳をつけた女の子は興味津々でやや身を乗り出して俺を見ていた。
「この人が沢渡シンゴよ、当分うちで暮らすことになるから」
「えっと、誰?」
八雲紫と同じ屋根の下で暮らしていた人達だろうか?家族にしても年がバラバラ過ぎるし父親も見えない。
「私の家族、狐の方が八雲藍、私の式神。猫の方が橙よ、藍の式神」
八雲藍と呼ばれる方は軽く頭を下げた、橙と呼ばれる方は行儀よく背筋を伸ばした後ゆっくり頭を下げた。狐に猫、まずそこから指摘するべきなんだろうが、謎の適応力かはわからないがなんとなく目の前の現実をすんなり受け入れられている自分がいる。式神なんてなんだ、よくわからない、ましてや式神の式神なんて理解し辛い。でも兎に角目の前の2人はこれからお世話になるかもしれないんだ。
「あー、沢渡シンゴだ。よろしく頼む」
「じゃあ冷めないうちに食べましょう」
八雲紫に促され机の前に座る。机には至って普通の和食、ご飯味噌汁鮭野菜を和えた料理。普通に美味しそうだ。
「じゃあいただきます」
俺もならっていただきますと呟いて箸で料理をつまんで行く。しばらく黙々と食べていたが橙が
「沢渡さんの今日のデュエルみました!すごかったです」
キラキラした期待の眼差しとともに質問してきた。当然だ、俺のエンタメデュエルの為せる技だ。
「そう、あれが俺のエンタメデュエルだ。劇団員ともに魅せるのが俺のデュエルスタイル!」
「私、ペンデュラム召喚を初めて見ました!」
「ふ、幸運だな。初めてのペンデュラムが俺の魔界劇団で。あの時の衝撃は2度と忘れることは出来なくなったぜ。」
「なぁ」
俺と橙が会話をしている最中、八雲藍が横から口を出してきた。やっと打ち解けたと思ったのに、こっちは近寄りがたいんだよな。ずっと見てくるから飯を食べ辛いし、気になる。目を向けると視線を外されて何事もないように箸を動かす。いきなり知らない奴と晩飯一緒にするのは警戒するのは当然だともいえるが俺そんなに疑わしいか?普通のエンタメデュエリストだぞ。
「あのだな、その、ペンデュラムカードを見せてくれないか?」
ボソボソと少々俯きながら話す。少し怖いがそれくらいなら構わないか。デッキケースから一枚カードを抜き出す。ワイルドホープ、これでいいか。それを右にいる八雲藍に突き出した。すると両手で慎重に受け取った後ジロジロ見る。
「これが、ペンデュラムか」
「そうだよ、うちの期待の新人。」
「ペンデュラムって破壊されても墓地に行かずエクストラデッキに表側で置かれてペンデュラムゾーンにセッティングする時は魔法扱いでペンデュラム効果も魔法扱い!そしてシンクロやアドバンス召喚の素材になってもエクストラデッキに表側で置かれてスケール内に収まっていたら何度でも特殊召喚できるんだよな!あと...」
「藍、落ち着きなさい。食事中よ」
いきなり舌が回って驚いた。急にエンジンがかかったみたいだ。横からの一声にすいませんと小さく礼をして俺にカードを返してきた。それを受け取ると八雲藍は箸を動かし始めた。なんだ、悪く思われてるわけではなさそうだな。
「後でもう一度じっくり見せてくれ」
右から小声で聞こえた。構わないぜと返すと瞬間笑った気がした。会った時からずっとむっつりしていたのでとても可愛くみえた。
そこからまた橙が巫女とのデュエルの事を聞いてきたので返していくと、自然とご飯はなくなっていた。
ふぅ〜、食った。床にまた寝転がる。畳の上でゴロゴロするのは気持ちいいものだ。飯を食い終わって部屋に戻ってきた。片付けの最中八雲藍が部屋に行くと言っていたのでここで待つ。なんだかんだ2人とは喧嘩せずにはすみそうだ。
「失礼するぞ」
障子は開かれて現れたのは八雲藍。体を起こして机にデッキケースを置く。
「おう」
八雲藍もまた俺の向かい側に座った。
「沢渡...」
「沢渡でいいよ」
もう諦めた。俺は沢渡と呼ばれるのが性なのだ。
「そうか、なら私のことも藍で良い。...ところでだ」
「わかってるよ、ほらこれが俺の劇団員だ」
机に広げたのは俺の魔界劇団。
「こんなに種類があるのか」
机の魔界劇団に見いっている。少し良い気分だ、初めてペンデュラムを見たあの時の俺のように、って俺のようにしたらカードを奪われちまうじゃないか。
「まぁ俺の魔界劇団は全モンスターがペンデュラムモンスターだからな。」
「博麗の巫女はペンデュラムと普通の効果モンスターを使っていたがこちらはペンデュラムだけなのか」
「そうゆうデッキもあるぞ、EMとか妖仙獣とか超重武者とか」
割と思いつくだけで出てくるものだな。思えば権現坂やランサーズのみんなは元気にしてるだろうか?今頃俺が成長しているなんて知っているのだろうか?当然だ、俺があの街からいなくなったなんてすぐに知れ渡るさ。
「そんなにペンデュラムテーマが存在するのか」
そうか、権現坂や遊矢のことを知らないのに挙げてもわからないか、ってなによりここにはまだペンデュラムがないんだった。
「もっといるぞ。DDDに魔術師、Emに月光、そして忍者にCCC、あとブンボーグなんてのも見たな」
「すごいな、それほどとは」
けど、俺はクリフォートなんてペンデュラムテーマを今日初めて知った。もしかしたらここにはまだ俺の知らないペンデュラムテーマ使いがひっそりと存在するのかもしれない。
「なぁ、頼みがある」
「なんだ?」
するとデッキを取り出して机の上に置いた。...大方予想はつく。
「今ここでデュエルしてくれないか?」
「構わないぜ、親睦会と行こうか」
デュエルディスクを付けずにやるのは久しぶりだ。アクションデュエルもない。だけどいつも通りエンタメデュエルを魅せてやる。
「「デュエル!!」」
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