じゃぱりれぽーと (華山)
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第1章 きょうしゅうちほー編
じょしょう


流行りには乗らないとね。
絵を描く息抜きに文章(ストウィ)を書く息抜きにこれを書く感じで。
暗くする予定はないので。

独自な考察を多く含みます。
苦手な方はご注意ください。


薄暗い部屋の中で、ただキーボードを叩く音が聞こえる。

その合間にマウスのクリック音。

男は無心に、部屋の唯一の明かりであるディスプレイを眺めていた。

インターネットのブラウザが画面に表示されている。

表示されているサイトは全て文字が薄くなっており、すでに閲覧済みだということが分かる。

 

「ここも駄目か……」

 

男はパソコンデスクに置いてるマグカップに手を伸ばし、中に入っている冷え切ったコーヒーを呷ってため息をついた。

 

「クゥン?」

 

その様子を足元の床で寝ていた大型犬が見つめて『どうしたの?』という感じの鳴き声をげてた。

 

「なんでもないよ」

 

頭を持ち上げた犬に対して、彼はそれを見ることなく頭を撫でた。

 

(ジャパリパーク……ね)

 

男は内心でつぶやいた。

彼は無駄だと思っていても、あることを探していた。

それは今や都市伝説と言われる類のもので、存在すら怪しいテーマパーク。

 

(洋上に浮かぶ火山島。動物の研究、種の保存。ふれあいを行う事ができる複合動物園。ネットを調べても、オカルト以外での情報はこれぐらいか)

 

男はすでに閲覧したサイトの内容を見返した。

どれも信頼できるソースでは無いため、男はその中でも有り得そうな情報を選択して集めた。

しかしそれも、『ジャパリパーク』の存在に迫れそうな内容ではなかった。

 

「緯度も経度もわからない。航路も、写真すらない。画像も殆どがCG合成のまがい物。本当にあるのかすら怪しい。なぁ?」

 

椅子の隣で無心にこちらを眺め続ける飼い犬に対して、男は語りかけた。

犬は首を傾げて、何かわからないと言った様子だった。

 

「だいたい、砂の星(サンドスター)?アニマルガール?アニメの内容かよ」

 

ジャパリパークと検索すると、必ずと言っていいほど引っかかるオカルトサイトに表示される内容。

男はそのにわかには信じがたい内容に溜め息すら漏らす。

 

「確かに、カコ博士の論文については読んだことあるが、現実味を増すためのブラフだろうしなぁ」

 

そして、必ずオカルトサイトに出てくる名前があった。

その人物。

彼女の名前は『カコ』

絶滅動物に対する論文や研究で著名な学者である。

男もその手の論文に目を通したこともあった。

 

(最近は名前すら聞かなくなったもんな。引退したのか?それとももう……)

 

ある時期から、カコの名前はピタリと途絶える。

所在すらわからないため、何故ここに名前を挙げられているか。

本人に聞くこともできないため、男は完全に手詰まりの状況で、デスクに肘をついて頭を抱えた。

 

「あと、ミライって誰なんだ。そもそも何をしてた人なんだ……。」

 

そしてもう一人、必ずと言っていいほど出てくる名前があった。

『ミライ』

あるサイトではパークのガイド、あるサイトでは謎の研究者。

実在すらしていないかもしれない人物。

これも『カコ』と同じく、調べようがないため、男はまた溜め息を漏らした。

 

「何やってるんだろうな俺は……」

 

そして男は自虐とも取れる言葉を呟く。

そして、何故こうなっているかの経緯をふと思い出していた。

 

(何気ない事だったんだよな……)

 

男がネットサーフィンをしていた時の事だった。

いつもなら見逃す様なサイトだった。

しかしその時見た言葉が、なぜかサブリミナルのように脳内に残ってしまった。

 

(ジャパリパーク。複合動物園……)

 

謎の場所。未知の単語。

ただのオカルトではあったのだが。

元写真家のジャーナリストである男の魂に何かしらの炎が灯ったのだ。

 

(動物の楽園、星の砂(サンドスター)、アニマルガール、カコ、ミライ……。何かしらの隠語なのか?)

 

実在しないオカルトの話。

しかし男には、それが実在しているのではないか。

そういった謎の自信と希望で、今日まで仕事をそっちのけで情報を集め続けていた。

 

そして、早くも半年の時間が過ぎていたのだ。

 

男は再び頭を上げて、ディスプレイに齧り付く。

ディスプレイが唯一の明かりである薄暗い部屋で、愛犬と二人きりで。

男はまた、存在すら怪しい場所をの情報を探し始めた。

 

時刻は0時を過ぎていた。

 

………

……

 

男は久しぶりに外に出ていた。

今朝のことである。

男は仕事で付き合いのある情報屋から『お前に売りたい情報がある』と言った誘いを受けたのだ。

 

(内容は聞けなかったが、俺に売りたいってなんなんだよ)

 

中途半端に連絡を切られてしまったため、男はモヤモヤした気持ちで、待ち合わせの場所へと向かった。

 

「ハッ、ハッ、ハッ」

 

リードを首輪に繋がれている愛犬は、嬉しそうに男の前を引っ張るように歩いている。

 

「なぁレグ。悪かったって。散歩もろくに連れて行かなくて。だから引っ張るなって」

 

久しぶりの散歩に『レグ』と呼ばれた愛犬は、耳をピクピクと動かずが、知らんぷりで足を進めていく。

レグはシベリアンハスキーである。

そんな大型の犬に引っ張られれば、男も若干引きずられ気味で歩くしかない。

木漏れ日が漏れる並木道を歩くと、やがて大きく広がった場所へと着いた。

情報屋が男に待ち合わせを指定した公園である。

 

(なんで公園なんだよ。いつもの喫茶店でいいじゃんか)

 

情報屋はいつもは街中の喫茶店で情報の受け渡しを行なっていた。

しかし今回に限って、こんな街から少し離れて公園を指定された。

よっぽどの理由があるのだろうと、男はこれから売りたい情報とやらに不安を覚えた。

公園は街を離れているせいか、あたりの人影は疎らで、とても賑わっているとは言えない。

男は中央の噴水に見知った人を見つける。相手も気がついたのか手を振っている。

 

「おーい、久しぶりだね。レグも」

「わうっ!」

「よう。お前の方から売りたい情報ってなんなんだよ」

 

二人と一匹は短い挨拶を交わすと、男は情報屋に対していきなり呼び出したことについて切り出した。

 

「つれないね。久しぶりに会ったっていうのに」

 

やれやれと、若干のオーバーリアクションで情報屋は呆れたように首を横に振った。

 

「俺は昔からこうだろ? しかしなんでこんな場所なんだ?」

「ブツがブツだからね。人目が多いとちょっと」

「ほーう、かなり危険なのを引っ張ってきたみたいじゃないか」

 

情報屋は耳打ちをするような小さな声で話した。

 

「お前オカルトに心底ハマってるだろ?」

「オカルト言うな。これでもマジで探してんだぞ?」

「悪い悪い。実はそれに関連するかもしれない情報なんだけど」

 

その言葉に男の表情は一転して真剣なものに変わる。

 

「食いついたな? 歩きながら話そう」

 

情報屋はしてやったといった表情で歩き始める。それにつられて男も歩き始めた。

情報に手詰まりだった男にしては、またとないチャンスだった。

 

(これで少しでも『ジャパリパーク』の情報に近づければ)

 

男は早く情報屋の話が聞きたいと、興奮気味で話を始めた。

 

「で、情報ってのは?」

「まぁ落ち着けって。実はこれなんだけど」

 

興奮気味の男をなだめると、情報屋はバッグから一つの封筒を取り出した。

A4サイズの封筒で、厚みも少しあり、かなり多くの枚数の紙が入っていることがわかる。

 

「中をみてもいいか?」

「あぁ、納得できれば金を払ってね」

 

情報屋はいつも中身を相手に見せてから、納得させて金を要求すると言うスタンスを取っていた。

そう言ったやり方をしているため、同業者からの信頼も厚い。

高い信頼性の情報を持ってくることも、彼の顧客が多い理由でもある。

 

男はレグのリードを一旦情報屋に預けると、封筒から中身を取り出した。

 

「……おい、これヤバくないか?」

「だから喫茶店じゃダメなのさ」

 

なんてものを持ってきたんだと、男はそんな表情で情報屋の顔を見た。

無理もなかった。そ

の表紙に書かれているのは、某国情報機関のマーク。

 

「知り合いがクラッキングが得意でね。この情報。私だけに売ってくれたんだけど」

「俺まで犯罪者にするつもりか? これのどこが俺に関係ある情報なんだ」

「とにかく読んでみなよ」

 

男はパラパラと流し読みを始める。

そして、あるページに差し掛かると、ピタッと動きが止まった。

 

「ジャパリアイランド……!?」

「気に入っていただけたかな?」

「他にこの資料を知ってるやつは?」

「私は軽く目を通しただけ。情報引っこ抜いた奴は結局捕まっちゃったよ」

 

男はその話にさらなる信頼を感じた。

クラッキングした者が捕まったと言うことは、この資料は隠したい情報だと明白だった。

 

(早く帰って資料を読み解きたい)

 

男は早る気持ちを抑えて、小さく深呼吸を行なった。

 

「……いくら払えばいい?」

「今回はサービス価格でこんなもんで」

 

それきた、と情報屋は金額の書かれた紙を男に渡した。

 

「……手持ちがない。後日でもいいか?」

 

男は財布に入っている有り金全部をまずは情報屋へと渡す。

 

「もちろん。お前と私の仲だからね」

「感謝する」

 

男は資料を封筒に戻すと、情報屋からレグのリードを受け取った。

 

「しかしまぁ最年少で『ジオグラ』の表紙に載ったほどの『けもの狂い』とまで言われたお前が、私と連むなんて」

「昔の話はやめろ。今はただのジャーナリストだ。売れない方の」

「お前の写真好きだったんだけど。生き生きとしたの写真」

「だからやめろって、そいつはもう死んだ。じゃあな」

 

男は封筒を大事そうに抱え込むと、情報屋の顔を見ることなく軽く手を振った。

 

「やっぱりつれないね。写真家さん」

 

冗談ぽく弄るような声色で情報屋は男に声をかける。

しかしそれに振り向くことはせずに、男は自宅への道を足早に歩く。

 

「写真家か……」

 

レグに若干引っ張られながら、男は少しぼーっとした表情で小さく呟いた。

 

………

……

 

「ふぅ……」

 

薄暗い部屋に、カーテンの隙間から日差しが差し込んでいた。

男は大きく息をつくと、持っていた資料を少し乱暴に机の上へと投げた。

ぎぃぃと音を立てる椅子から立ち上がると、同じ部屋にある長ソファーへと寝転んだ。

それに追随して、向かいの一人掛けのソファーにレグが飛び上がり、まるまるように寝転がる。

 

「なんて資料を持ってきたんだあいつは」

 

男は差し込む朝日から逃げるように腕で目を覆い、感慨深く呟いた。

 

OperationCeruleanStrike(群青の打撃作戦)。特定特殊生物」

 

資料の内容を整理するように、男は書かれていた単語を何回も繰り返す。

 

爆撃機(B-2)の喪失。ジャパリアイランド……緯度経度。しかしこの資料は完全じゃない。意図的に隠された部分がある……」

 

脳内で情報を整理するたびにまた湧き上がる興奮を、男は小さく深呼吸して落ち着かせた。

 

(まずネット上でこの緯度経度を調べても、島ひとつ出てこないこと。そして、なぜ爆撃機を喪失したか書かれていないこと。特定特殊生物と書かれているが、それ以上の情報はなし)

 

情報を整理するたびに深まる謎に、男は興奮冷めやらぬ笑みを見せた。

 

(しかしジャパリアイランドと記されている。間違いなく『ジャパリパーク』のことだろう)

 

男は着実に確信に近づいていることに、笑みが止まらないと言った表情を見せる。

男はゆっくりと体を起こす。

 

(実在するとして、どうしてみんなから忘れられた? 破棄されたのは火山島だし毒ガスのせい……?)

 

自らの顎を撫でるように男は考え込む体勢をとった。

 

(しかし、火山ガスのせいで爆撃機なんて出すか? 特定特殊生物とか書いてあるし。これはもう)

 

男は決心したように二、三度頬を叩くと、一気に立ち上がった。

 

「その場所に行くしかないんしゃないか」

 

ガタン−−−

 

男が決心を決めたその時だった。

玄関から物音が聞こえ、男はその音の方へと向かう。

 

(何かが投函されたみたいだな。いつもの配達時間とは違うが)

 

男は玄関の扉を開けて確かめるが、郵便のバイクや車の音はおろか、人影すら見当たらない。

しかしポストを確認すると、確かに一通の封筒が投函されていた。

男はその封筒を手にとった。

その封筒は若干の盛り上がりがあるため、紙以外も入っていると思われる。

 

「なんだこれ。宛先も相手の住所もない……。いたずらかよ」

 

再びあたりを見回すも全く人影もなく、男はため息をつきながら部屋へと戻った。

 

「一応開けておくか」

 

部屋に戻り、男は再びソファーに腰掛けると、封筒を少し乱暴に開けた。

中に入っていたのは一通の折られた紙。

もう一つはパソコンに接続できそうな記憶媒体だった。

男は初めに折られている紙に手を伸ばし、そしてそれを開いた。

 

「あなたに託します。ようこそジャパリパークへ!?」

 

男は書かれていた文面に驚き、素っ頓狂な声をあげた。

ソファーで寝ていたレグも、それに驚いたのか飛び起きて男を見つめた。

 

「この手紙誰が……ミライ? って……えぇ!?」

 

手紙に書いてある名前が、巡回していたオカルトサイトに載っていた名前と合致したことに、男は再び驚愕の声をあげた。

 

「ミライさん? この手紙はミライさんが? いやでも……」

 

頭の中を掻き回されたかのような衝撃に、男は混乱の声をあげた。

 

「そっ、そうだ! この媒体には一体何が……!」

 

男は震える手で同封されていた記録媒体を手にとって、飛びつくようにパソコンデスクへと向かった。

 

「あぁ、くそ! 落ち着け!」

 

記録媒体をパソコンへと挿入して、表示されたフォルダを開く。

中にはテキストファイルが一個。そして、形式のわからないファイルがひとつ入っていた。

 

「こっちは開けない。こっちはテキストファイル?」

 

男はファイルをクリックして、中身を確認した。

 

「なんだこの数字……。あぁ、そうかこれは!」

 

男は近くに投げ置いた情報屋の資料を手に取り、ディスプレイと交互に見比べる。

 

「やっぱり、これは間違いない。ジャパリパークの座標だ……!」

 

男は確信に至る。

 

(ミライさんの手紙は信用性ないが……。でも)

 

男は瞳を輝かせて、まるでプレゼントをもらった子供のような表情で、興奮を露わにする。

 

「ジャパリパークは存在したんだ!」

 

男はテキストファイルに他に書かれていることはないかを調べるために、スクロールバーを下に下ろした。

 

「同封ファイルは『パークセントラル』のコンピュータでのみ閲覧可能……。パークセントラル?」

 

また新しい単語に、男は首をかしげる。

 

「ジャパリパーク内の施設か何かか? ジャパリパークの所在まで書いてあるんだから間違いないだろうけど」

 

テキストファイルに他に書かれていないことを確認すると、男は媒体をパソコンから取り出した。

男は椅子に深く腰掛ける。

 

「ふぅ……」

 

頂点に達した興奮が一旦落ち着きを見せると、男は小さくため息をついた。

 

「どうしてジャパリパークに立ち入れなくなったか。なぜ隠されるのか……。行ったらわかるってことだろミライさん?」

 

男は記録媒体を見つめて、そしてゆらりと立ち上がった。

 

「やっぱり行くしかないよな。ジャパリパークに!」

 

その言葉に、いつのまにか男の足元に近づいてきたレグが、首を傾げていた。




要望あったら続き考えるかなぁ。ぐらいの気持ちで。


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どうくつ

オリジナルのフレンズも出していこうかと。


雨の音が響き渡る。

あの部屋と似た暗い洞窟で、男は倒れている。

胸が上下にゆっくりと動いている所を見ると、死んだ訳ではないと分かる。

雷が鳴り響き、雨風が木々を揺らしている。

 

「うっ……、くぅ……」

 

生命に牙を向くような激しい雨の音に、男は魘されたような声を上げると、ゆっくりと目を開いた。

 

「どこ此処……」

 

若干痛む体に違和感を覚えながら、男は体を起こした。

辺りを見回すも、この場所は男の記憶に無かった。

 

「なんで……」

 

男はぼやけた意識の中、どうしてこうなったかを思考した。

 

(たしか俺は砂浜にキャンプを……それから……ん?)

 

男は自分が何かを持っていることに気付いた。

 

「俺のカメラ」

 

男は愛機であるデジタル一眼のカメラをしっかりと握りしめていた。

男はカメラを別の手に持ち替えた。

倒れていた時もしっかりと握っていたせいか、離すと同時に男は手に痺れを感じた。

 

(何時間経った……。何があった……)

 

ぼーっとした表情のまま、男はカメラを構え、ファインダー越しにあたりを見回した。

 

「あっ、主様!」

 

突然、洞窟内に響き渡る声。

その声は、洞窟の入り口から聞こえた。

男はカメラを構えたまま、その方向を見る。

 

「!」

 

カシャーーー

 

男はファインダに写り込んだその者に向けて、とっさにシャッターを切った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

そして驚いた表情のまま、カメラの構えを解く。

 

「主様!良かった……。ご無事で……」

 

ゆっくりと男に近づくのは少女だった。

少女はその目に涙を浮かべている。

 

「主様?ちょっと待て……お前誰だ?」

 

近づいてくる少女を避けるように、男は若干後ずさる。

 

「ええっ!? 主様? 分からないの……?」

「ここの人……? お前は…」

 

男のその言葉に、少女は今にも泣き出しそうに肩を震わせた。

 

「あんなに遊んでくれたのに。お散歩もいっぱい行ったのに……」

「待て待て! お前みたいな女の子と遊んだ覚えはないぞ」

「ひどいよ……」

 

少女はグスグズと鼻を啜りながらも、話を続ける。

 

「ちゃんとご飯もくれたし、いっぱい撫でてくれた……のに」

「知らん……! と言うかレグは何処だ!? まさか、お前が隠したのか!」

「うぅ……」

「レグ! 何処だ!? レグ!」

 

男は立ち上がると、大声で愛犬の名前を呼ぶ。

 

「主様」

「いや、お前じゃねぇよ! レグ! 何処だ!」

「ここに居ますよ……? 主様……」

「だからお前じゃ……へ……?」

 

一瞬冷静になった男の視線は、少女の下半身へと向いた。

そして見つけてしまった。

ゆらゆらと揺れるそれを。

人間にはある筈が無い器官を。

幻を見ているのではないかと、男は目をこすってもう一度凝視する。

 

「尻尾……? ワンコ尻尾……?」

「はい、尻尾です」

 

少女は、犬の尻尾を生やしていた。

黒と白のツートンカラーの尻尾が、嬉しそうにゆらゆらと揺れている。

男は視線を少女の顔へと戻す。

そしてまた見つけてしまった。

人間にあるはずにないものを。

 

「耳……? ワンコ耳……?」

「はい!ワンコ耳です!」

 

少女の頭には、立派な三角形の耳があった。

イヌ科の特徴に近いそれは、ピクピクと動く。

 

「……レグ」

「はい!主様!」

 

男は愛犬の名前を呼ぶ。

それに嬉しそうに反応する犬耳の少女。

男はありえないことを脳内で考え始める。

 

(確かに、耳も尻尾もレグそのもの……、いやいやいやいや……、頭でも打ったか……?)

 

覚醒した男の脳内では光速の思考が繰り広げられていた。

 

(でも名前に反応するし、マジか。メルヒェンなのか……。オカルトなのか……?)

 

男は先程と違い、笑みを浮かべ文字通り尻尾を振っている犬耳少女を見つめる。

 

「レグ……なのか?」

「主様!!」

 

その言葉を聞いて、まるで太陽のような眩しい満面の笑みを浮かべて、少女は男に飛びつき張り倒した。

 

「主様! 主様! やっぱり覚えててくれたっ!」

「うぉっ!やめろ! 嫌じゃないがそんな趣味は……!」

 

犬耳少女。いや、レグは嬉しそうに男の頬をペロペロと舐めている。

もしここに第三者がいれば、男の変態認定は確実だろう。

 

「ハッ、ハッ、ハッ! 主様!」

「やーめーろー!」

 

洞窟内に、男の悲鳴に近い声が響き渡った。

 

………

……

 

洞窟の中で向かい合わせに座り込む二人。

互いに顔を凝視して、尋常じゃない事態にまずは気持ちを落ち着かせようとしていた。

 

「レグなのは間違い無いんだよな……?」

 

男は未だに信じられないのか、かれこれ十数回はこの言葉を繰り返している。

 

「はい! 主人様!」

 

男は自己暗示のように、相手の存在を確認した。

そして、若干の精神的落ち着きを見せると、次の質問へと移る。

 

「お前って雄だったよな……?」

「んぅ? 主人様は変なこと聞くなぁ」

「お前がレグ……だとして、今の格好は人間で言うところの女。雌な訳で……」

 

男の目の前にいる者は、見た目からして少女だ。

しかし、男の愛犬であるレグは雄だった。

 

(レグが人型になったとして、なんで女?)

 

訝しげな表情を見せる男に、レグは首をかしげる。

 

「主人様? 気分悪い?」

「いや、うん、大丈夫……なはず。とりあえずお前はレグで、俺はこの洞窟にいる」

 

また自分に言い聞かせるように、男は一人ぶつぶつと呟く。

 

「で、なんで俺がこんな場所にいるんだ? 機材もカメラ以外見当たらないし……」

「主人様覚えてないの?」

「……確かテントを張って、地震。揺れを感じたから外に出て」

 

男は今までの記憶を口に出してたどる。

 

「ダメだ、そこから抜け落ちてる」

「やっぱり記憶が飛んじゃってるんだね……」

「レグは……知ってるのか?」

 

レグの口調から、何があったのか知っていると男は察した。

 

(記憶が飛ぶなんてよっぽどの事態だ……)

 

男は起きた時に、身体中の痛みを感じた。

未だにその痛みは残っており、男は外的要因によって記憶が飛んだことを理解した。

 

「地震、正確には山がどーんってなって、えっと? 噴火だっけ?」

「火山性地震だったのか。それでどうなったんだ?」

「主人様と僕はテントをでると、いきなり空から大っきいのが飛んできて」

「ちょっと待て! でかいのってなんだ?」

 

突然の展開に、男は身を乗り出すようにしてレグに質問をする。

 

「あっ、主人様! 落ちつて……!」

「っ、すまん……。でおっきいのってなんだ?」

 

その質問にレグは困った表な表情を見せた。

 

「分かんない……。あんなの見たことないよ……」

「何か映像でもあれば……」

「あっ、それなら主人様! 主人様、それを向けてたでしょ?」

 

レグは男の持ってるカメラを指差した。

 

「倒れてもずっと放さなかったし、それ主人様の『しごとどうぐ』なんだよね?」

「あぁ、いやまさかこれに……?」

 

男はカメラの内部に入っているデータを確認する。

そして一番最後に撮った写真を見ると、男は目を見開いて驚いた表情を見せた。

 

「なんだこれ……?」

「そう! これ! やっぱり主人様も分かんないんだ……」

 

レグは男の隣に来るとその写真を見て、それが『おっきいの』の正体と肯定する。

 

「翼竜? でも透明だ……。写真じゃ質感がわからんが……。テカってるしスライムっぽい」

「僕もびっくりだったよ。ご主人様がそれ、カメラ? を向けて音を鳴らしたら突然襲ってきたんだもん」

 

男はぼんやりした記憶を思い出す。

男はその『おっきいの』襲われて、そして記憶が飛ぶほどの衝撃を受けて、そして倒れたのだった。

 

 

「そっか、俺こいつに襲われて……。吹き飛ばされて……」

「木にぶつかって倒れたの……」

 

男のぼんやりとした記憶が鮮明に思い出される。

 

「その後どうなったんだ?」

「その後はね……空からいっぱいキラキラが降ってきて、それが僕に当たって……」

「キラキラ?」

 

また新しい単語の登場に、男はその言葉を聞き直すしかなかった。

 

「あの子が言うには、さんどすたー? って言うんだって」

砂の星(サンドスター)!?」

 

男は聞き覚えのある単語に、思わず絶叫に近い驚きの声をあげた。

男が巡回していたオカルトサイトに確かに書いてあった言葉。

 

「確かにサンドスターって言ったんだな? って、待て待て待て!」

「どうしたの?」

「あの子って誰だ……?」

 

レグは誰かに聞いたような口調だった。

それを危うく流すところだった男は、重大な質問をレグに見せる。

 

「名前聞くの忘れちゃったけど、僕たちをここまで逃がしてくれたんだよ!」

「他にも誰かいるってのか……? ジャパリパークは無人じゃなかったのか?」

 

無人の島、隠された島と言われていただけに、男は少し落胆の表情を見せた。

 

「他にも人がいるなんて……。」

「でもあの子がいなかったら、主人様を助けられなかったんだよ?」

「で、そいつはどこに?」

 

男が辺りを見回してもレグ以外に確認はできなかった。

 

「見回りに行ってくるって。セルリアン? は危険だから、動かないでって」

「セルリアン? セルリアン……!」

 

男はこの島に来るきっかけになった情報屋の資料を思い出していた。

その資料には確かに『OperationCeruleanStrike(群青の打撃作戦)』と書かれていたことを。

 

「あれってまさかマジで……。セルリアンってこいつなのか?」

「たぶんそう」

 

男はレグにカメラに映っていたスライム的な質感の翼竜を見せる。

レグはその画像を見て頷いた。

 

「あれって文字どおり『セルリアンを叩く(Cerulean Strike)』って意味か……?」

「あれは危険だよ……。主人様がいなくなると思って僕怖くて」

 

顔をうつむかせて、今にも泣きそうな声でシュンとしてしまうレグ。

 

「……大丈夫だ。居なくはならないからさ」

 

男もどうしていいかわからず顔を背けながら、レグの頭をポンポンと撫でる。

 

「あるじさまぁ……」

「っ……」

 

犬の頃にはよくやっていた行為ではあったが、男は少しだけ顔を赤くして照れる気持ちを隠しながらレグをなで続ける。

 

「お前本当にレグなんだな……」

「まだ信じてなかったの……?」

 

いきなり犬が少女になって、信じれる奴がいるか。そんな表情で男はレグを見て小さくため息をついた。

 

「落ち着いたみたいだな。さて、やっぱり確かめないといけないよな」

 

男はレグを撫でることをやめると、立ち上がり服についた土を払った。

 

「なにするの? 主人様……?」

「あのセルリアンとやらを探しに行くさ。あいつをしっかりカメラに収めてこの島を出なくちゃな」

「やっ、やめようよ! 今度こそ食べられちゃうって!」

 

自信満々な男の言葉を聞いて、レグは男を抑制するように前に立ち、すがるような声で止めようとした。

 

「大丈夫。今度はヘマしないって」

「だめっ! 主人様は生き急ぎすぎてる! 無理をすると死んじゃうって!」

「っ……レグ……?」

 

いつになく必死に止めるレグに、男は若干の困惑の表情を見せた。

そして思い出す。

男がいつも危険なネタを追いかける時には、決まってレグが服の裾に噛み付いて止めようとしたことを。

 

「……お前いつもこんな気持ちで」

 

今話せるからこそ、男にその感情がダイレクトに伝わる。

そして男はただの犬だった頃のレグの行為を、今のこの娘に重ねる。

男は胸に何か突き刺さるような感覚を覚えた。

 

「今日は行かせないから! 絶対行かせないから!」

「でっ、でもなレグ? 食料もキャンプにあるんだ。あの大事な記録媒体だって……」

「でもダメッ! ダメだから!」

「一週間後には沖に迎えも来る! ボートも浜にあるんだぞ!」

「いやっ!」

 

身振り手振りを使って男を止めようとして居たレグも、最終的に男に抱きつくようにしてその動きを止めようとしいる。

 

「レグ……。落ち着いてくれ。大丈夫だから」

「ぐすっ……主人様は居なくならないってさっき!」

 

言葉で張り合おうとしていた男も、その純粋な気持ちに根負けしたのか、その場に座り込んだ。

 

「まいったな……。レグがこんなに聞かん坊だったとは……」

「主人様……。僕を嫌いになった……?」

 

ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、男の腕の中にレグは収まっている。

 

「いや、嫌いになるわけないさ……。大丈夫だよ……」

「ほんと……?」

「あぁ、俺も焦りすぎたかもしれん」

 

男はなんとかレグを落ち着かせようと、優しい声色で声をかける。

 

「とりあえず雨が止むまで待とう。そしたら一緒に浜に荷物を取りに行こう」

「でも、あの子は動くなって……」

「俺たちを助けてくれた子か……」

 

レグはこくりと頷く。

 

「でもどこにいるかわからないんだろ? 帰って来る保証も」

 

その時だった。

 

「よかった……! 起きたのですね……!」

 

男の発言を遮るように、洞窟の入り口から声が聞こえてきた。

男とレグは、洞窟の入り口を凝視する。

そこには雨に濡れた白髪のレグとは少し形の違う犬耳少女が立っていた。

縞模様に近い服を着ていて、髪は少し癖のあるポニーテールにまとめられている。

ポニーテールの部分の色は黒くなっており、ヘアーエクステンションを付けているようにも見える。

 

 

「あっ! さっきの!」

「あの子が……レグの言ってた?」

 

控えめな微笑みを浮かべる少女は、ゆっくりと洞窟へと入ってきた。

 

「ダメですよ……? 自分より大きなセルリアンと戦っちゃ……」

 

犬耳の少女は二人の前に来ると、その場にしゃがみこんで男を見つめる。

 

「二人とも新しいフレンズ……みたいですね……?」

友達(フレンズ)?」

 

声量も控えめな少女は、男とレグを交互に見て、そして何か納得したように語り始めた。

 

「この子は……。私に近い感じですけど……あなたは……くんくん……」

「ちょ!やめっ……!」

 

少女はいきなり男の首筋に鼻を近づけて匂いを嗅ぐような行為を行う。

 

「不思議な匂い……耳も尻尾のないフレンズなんて……」

「なんで犬みたいなことしてるんだっ!?」

「ごっ、ごめんなさい……。名前を名乗らないとですね……」

 

少女は一旦、二人から距離を取ると姿勢を正して小さくお辞儀を見せる。

 

「私はアードウルフです……。その、よろしくおねがしますね…っ」

 

 

———————————————————————————

ネコ目 ハイエナ科 アードウルフ属

学名:Proteles cristatus

(プロテーレス・クリスタートゥス)

アードウルフ

———————————————————————————

 

「アードウルフ? 確かハイエナの……」

「主人様知ってるの?」

「あぁ、昔写真をとったこともあるんだ。えっと、南アフリカに行った時で……」

「はぁ……っ、詳しいのですね……?」

 

突然語り出した男に、アードウルフは感嘆のため息をつく。

 

(アードウルフはアフリカ大陸に生息する『ハイエナ』の一種。

体調は約50~80cm。尻尾の長さも20cm程。

食性は動物食。シロアリを主に食べるが、昆虫や鳥類なども捕食する。

全身が長く粗い上毛と、柔らかい下毛に覆われているのも特徴。

胴体に黒い縞模様がある。

また臼歯が弱く、成獣では抜け落ちることが多いのも特徴的で……)

 

男はマジマジとアードウルフを観察する。

全身を舐めるように見られて、若干後ずさりを見せるアードウルフ。

 

「確かにアードウルフの特徴は……。うん、確かにアードウルフだな」

「そっ、そんなに見つめられたら怖いですよぉ……」

「あぁ、すまん」

「ごめんね? 主人様『けものぐるい』らしいから。いてっ!?」

 

男は無言でレグの頭に手刀を食らわせた。

 

「それはさておき、お前……えっと、アードウルフ」

「アドでいいですよ。名前長いですから……」

「じゃあアド、お前が助けてくれたのか?」

 

男はまず始めに気になっている話題を切り出した。

 

「そっ、そんな……助けたってほどじゃ……。ただ囮になっただけで……」

「でも、お前のおかげで俺たちは助かったんだろ? そうだったら礼を言わないとなと思って」

「主人様変なところで律儀、いてっ!? また打ったー!」

 

レグの言葉を遮るように、男は二度目の手刀を繰り出す。

レグは涙目でうぅーっと男に唸っている。

 

「その、セルリアンだったか? どうなったんだ?」

「追っ払うことはできたんですけど……。なにぶん私はハンターとしてまだ未熟で……」

「ハンター……? まぁいいや。とにかくありがとうな」

「そっ、そんな……。困ってたフレンズが居れば私は……」

 

男は頭を下げてアドに礼の言葉を告げる。

アドは謙遜するように両手を振る仕草をして、顔が真っ赤になっていた。

 

「ところで……、その貴方達の名前……聞いてませんでした……」

「俺? 俺は」

「僕はねレグッ! 本当はレグルスって言うんだけど、レグでいいよ!」

 

今まで黙っていたレグがいきなり飛びつくようにアードウルフに近寄り、満面の笑みで自己紹介をした。

 

「こっちは主人様!『写真家』なんだ!」

「ちょ、レグッ! お前、おわっ!?」

 

男がレグの発言と取り消そうとした瞬間、レグは男の顔を尻尾で叩く。

意外な力に、男はその場に尻餅をついた。

 

「しゃしんかさん……面白い名前ですね…っ!」

「えへへ! よろしくね! アドちゃん!」

「はいっ……! レグさんと……。写真家さん……!」

「くっそ、だから俺は!」

「いーのいーの!」

「ううぐ……。はぁ、もういいよ写真家で……」

 

さっきの仕返しとばかりに、レグは満面の笑みを見せていた。

 

「写真家さん達は、一体あの浜で何を……?」

「あー、実はパークセントラルに行きたくてな。何か知ってるか……?」

「パークセントラル……」

 

アドは少し考え込むような仕草をした後、すぐに口を開いた。

 

「ごめんなさい……。私も生まれて日が浅くって……『としょかん』に行けば何か分かるかも……」

「としょかん……?」

「主人様、危ないことはダメだよ?」

 

写真家は次の行動のことを考えている時に、いきなりレグに釘を刺された。

 

「いや、だってここまで来たんだぞ! 行きたいだろ『パークセントラル』」

「でも……」

「キャンプの様子も見に行かないといけないし……。危ないことはしないって約束するから」

「うぅ……」

 

いつになく真剣な写真家の表情に、レグはそれ以上言い返すことはできなかった。

 

「キャンプって浜の……ヘンテコなやつですか……?」

「そう、大切なものがそこにあるんだ。取りに行かないと」

「……じゃあ、私もついて行きます!」

「えっ?」

 

今まで控えめだったアドとは違い、食い気味に話して来たせいで、写真家は呆気にとられる。

 

「私はこれでもハンターなんです……。お役に立ちたいんです……」

「いいのか? そりゃこっちとしては嬉しいが」

「やったね主人様! アドちゃんはなんか強そうだし、僕と合わせれば百人力だよ!」

 

レグはアドの手を握ってブンブンと上下に振り回している。

 

「ねっ! アドちゃん!」

「あっ、えっ……っ!」

 

困惑するアドをよそ目に、脳天気といった感じにレグは笑みを見せて居た。

 

「ふふっ」

 

その光景につられて、写真家まで笑みをこぼしていた。

 

「写真家さん……! 止めてくださいよぉ……!」

「いいじゃないか。友達(フレンズ)なんだろ?」

 

止めてと言っているものの、アドは困惑の表情に笑みが混ざっていた。

 

(とにかく、今はキャンプだな)

 

目標も決まり、男は視線を洞窟の外に向ける。

雨音が消え、雲の切れ目から光がさす。

雨はもう止んでいた。

その代わりに、洞窟内には楽しそうな二匹の声が響いていた。

 

 




アードウルフ可愛いよね。


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すなはま

なんとなーく更新。


洞窟を出て森の中を進むこと十数分。

先ほどの雨が嘘だったかのように、木の間からは日が漏れていた。

森は鬱蒼と生い茂るジャングルの様ではなく、人が十分に歩けるほどの足場も確保されていた。

『こんな状況』でなければ、写真家もハイキング気分で足を進めるだろう。

しかし現状が把握できない彼にとっては、これから起こるであろう出来事が不安材料で、自覚もないままに顔をしかめる。

 

「主人様、顔怖いよ? お腹痛い?」

 

レグは心配そうな表情で写真家の顔を見つめている。

彼女は写真家のことを慕っている。

主人がそんな顔を見せれば、心配するのも無理はなかった。

犬は本来、群れで活動する動物だ。

コミュニケーションをとり、互いの体調などの状態を把握することで、群れの安全は保たれる。

逆を言えば群れに一つでも欠点が出た時点で、その群れは危険に晒される可能性がある。

レグが心配性に見える理由はそこにあるとも言えた。

 

「写真家さん……? 疲れちゃいました……?」

 

そしてもう一匹。写真家の事を気にかける動物がいた。

アードウルフ。彼女も家族単位の群れで生活する動物だ。

彼女はレグとは違い心配性というより、おどおどとした話し方から臆病という印象を受ける。

 

「いや、大丈夫だ。心配させちゃったか」

 

写真家は頬を両手でパンと叩き、二匹を心配させない様にぎこちない笑顔を見せる。

表情を変えるが、それでも彼の内心は晴れる事ない。

あの襲ってきたセルリアンはどこに行ったのか。そして、記憶媒体が無事なのか。

いくつもの不安材料に、彼の表情はすぐに曇る。

 

「あらら、こりゃ重症だね」

 

「写真家さん……」

 

心配する二人をよそに、写真家はまた深い思考に沈んでいく。

彼が意識を手放す前に撮った写真に写っていたのは、翼竜のような翼を持った謎の存在。

アドの発言から、彼はその存在が『セルリアン』だという事を理解した。

 

「アド? あれ飛ぶんだよな?」

 

「あれって……、セルリアンのことですか……?」

 

アドは突然の質問に、少し驚いたように質問に答える。

 

「そう、その反応は肯定ってことだよな……」

 

「あんなに大型のセルリアン……。初めて見ました……」

 

「そうか……」

 

そして写真家はまた思考に戻る。

彼は手に持っているカメラを操作すると、データの中からまた件の写真を確認した。

写真には周りの物も写り込んでいたため、完全な対比はできないがセルリアンの大きさを測ることはできた。

周りの木の、端に写っているテントの大きさから考えて、その大きさは7.8メートルにもなることがわかる。

 

「翼開長がケツァルコアトルス並みか。襲われたらひとたまりもないな」

 

「けつぁ? 主人様何言ってるの? 考えすぎておかしくなった?」

 

「レグさん……。その言い方ちょっとひどいですよ……?」

 

「おかしくなってはないが……。正直な話、驚いてるよ」

 

写真家はセルリアンの写真が写っているディスプレイを二匹に見せる。

 

「白亜紀……。えっと、今からずっと昔にいた動物に、翼竜ってのがいるんだ」

 

写真家は言葉を選びつつ、二匹にもわかるように説明を始める。

 

「そいつは羽の長さ。広げると10m近くにもなって、まぁそいつは人を襲うかはわかんないが……」

 

二匹は写真家の説明を食い入るように聞いている。

少し考えた後、写真家は話を続けた。

 

「少なくともあいつは襲ってきた。セルリアンお前たちフレンズを襲う。それで間違い無いよな?」

 

写真家はアドの顔を見つめて質問する

アドはそれに頷いて答えた。

 

「そうです……。だからハンターみたいにフレンズを守るフレンズがいるんです……」

 

「自警団的なポジションか。今から行くところはそいつが居たところだ」

 

「だからボクも危険って言ってるでしょ?」

 

レグは今からでも写真家を引き止める気があるような言い方をする。

それに写真家は苦笑いをした。

 

「だから気をつけていこうって話だ。アドはハンターだし、いざとなったら頼れるんだろ?」

 

「えっ!? あっ、その……。はぃ……」

 

突然振られた期待の言葉に、アドは尻すぼみの言葉を発した。

いつもより一層おどおどした話し方に、写真家もレグも首をかしげた。

 

「とにかく、あの場所にあいつが居たら諦めよう。居なかったら物資を持って撤退だ。アド、引き続き道案内頼むぞ」

 

「はっ、はぃ……」

 

写真家は二匹に軽く行う事を説明すると、再び道案内を始めるアドの後ろをついて行く。

それからまた十数分足を進めると、徐々に木々の本数も減っていき、地面の土の様子も変わっていく。

粒子が細かく、砂と呼べるような形状に変わって行った。

同時に、あたりに漂う潮の香りは、目的地が近づいてきていることを全員に知らせるようだった。

 

「んっ……」

 

暗い森を抜けると、明るさに幻惑されたように写真家は瞳を細めた。

その一瞬後、視線の先にどこまでも続く青が広がっていた。

写真家は辺りを見回す。

そしてすぐにその場所を見つけた。

 

「やっぱ壊されてんな……」

 

「写真家さんの巣ですか……?」

 

「巣か。ふふっ、まぁそんなもんだな」

 

アドの動物的表現に、写真家は思わず口から笑いをこぼす。

そしてテントの残骸へと近づくと、その周辺を漁り始めた。

無残にも壊されたテントの中を確認する写真家。

しかし中には荷物は残っておらず、あたりに散らばったいくつかの物品が確認できるだけだった。

 

「食料は一つも残ってないな……」

 

「主人様! これこれ!」

 

「おぉ! バックパックは無事だった……って、口が開いてるな」

 

「写真家さん……? それなんですか……?」

 

「あぁ、背負って物を運ぶ……袋だな」

 

アドへの説明を手早く終わらせて、写真家は中身を確認し始める。

中のものを一つずつ外に出して確認を始める。

懐中電灯、小型のナイフがついたマルチツール、カメラの予備バッテリーと充電器、フリスビー、そして水筒。

中に残っていたのはそれだけで、他の小物を入れる場所を必死に探すが、写真家は目当ての物を見つけられなかった。

 

「ない……マジか……。てかレグ、これお前が入れたんだろ……?」

 

呆れたような、そして気力がないような表情でレグにそのフリスビーを見せつける。

 

「フリスビーぐらいいいじゃん……」

 

レグは怒られている事を気にしないと言わんばかりに、顔を背けてみせた。

 

「はぁ、しかし参ったな……。記録媒体はどこに行った? 足が生えて走って行く訳ないし……」

 

「それ開いてたよね? もしかしてセルリアンが?」

 

「まさか……。食料ならまだしも、興味ないだろ。こんなもん」

 

「あの……写真家さん? あれも写真家さんの巣ですか……?」

 

何かに気づいたように、アドは立ち上がって目を細めてある一点を指差した。

 

「いや、他には……」

 

写真家はその指さにの指す方向を、瞳を細めて凝視する。

 

「……あれ?」

 

そして、それが何かを理解するまでに、数秒の沈黙。

彼は小さく一言をつぶやくと、立ち上がって驚愕の表情を見せた。

 

「おい、おい! 嘘だろ!?」

 

写真家はアドが指差している方向へと突然猛ダッシュを始めた。

二匹はいきなりのことに、目を見開いて走って行く写真家の背中を見つめる。

 

「しゃ! 写真家さんっ……!」

 

「主人様っ!?」

 

次にアドが走り出す。

レグはバックパックの中から取り出した物を乱暴に詰め込むと、アドに続く。

 

「おい! 冗談だろ!?」

 

写真家は息をあげながらその物をただ呆然と見つめる。

全体は白く、胴体を吊り下げる形に翼がついている。

その翼も、一部が折れており、内部の構造材が見えている。

胴体は後ろ半分が脱落したように見えた。

胴体の先頭部分は原型がわからないほどに潰れていて、内部には何か割れたような破片も飛び散っている。

 

「写真家さん……?」

 

呆然とする写真家に、写真家の元にたどり着いたアドは心配そうに声をかけた。

 

「なんですか……? これは……?」

 

今まで見た事がない物に、アドは思わすそんな声を上げた。

 

「飛行機だ……。飛行機。正確には飛行艇……。海に降りれて……」

 

反射的にだろうか、感情のこもって居ない声で、写真家はアドの質問に答える。

そしてトボトボとその『飛行艇』に近づくと、中を確認する。

誰も乗っていない。

波際に流れ着いたような状況に、海に墜落してここまで流れ着いた事が理解できる。

写真家は無理を言って飛行艇を出してもらい、沖に停泊させてボートでここまでたどり着いたのだ。

それが墜落してここにあると言うことは、写真家を絶望させるには十分な光景だった。

 

「主人様! これって!?」

 

そして遅れてやってきたレグは、その場にバックパックを落とすと、写真家と同じように驚きの声を上げる。

レグはそれが何かを覚えていた。

 

「これ、ひこーきだよね……?」

 

「死体はないから……。パイロットは逃げられたと信じたいが……これじゃ……」

 

「えっ、どういうことなんですか……?」

 

二人のやりとりに、アドは困惑したように二人を交互に見た。

 

「アド、俺たちはパークの外から来たんだ。この『飛行艇』に乗って」

 

その様子を見た写真家は、アドにわかるように説明を始めた。

 

「パークの外……? 外にも『ちほー』があるんですか……?」

 

写真家の説明にも、アドは信じられない。といった表情を浮かべる。

 

「俺はある目的があったここに来たんだが、一週間。七日経ったらお前が言うところの外の『ちほー』に帰る予定だったんだ」

 

深刻そうな表情で、再び『飛行艇』の残骸を見ながら言葉を続けた。

 

「これが迎えに来る予定だったんだが、どうやらそれも無理らしい……」

 

「これって生きてるんですか……? 死んじゃったんですか……?」

 

「生きてはないが……、動かなくなったということは死んだって表現も正しいか……」

 

深くため息をついて、写真家はもう一を飛行機の残骸を確認した。

 

「くそ……、記憶媒体も! 帰りの足もなくなった!」

 

写真家は込み上げて来る感情を抑えきれずに、膝をつくと地面を強く殴りつける。

全く弾力もない砂の感触に、彼の胸に虚しさすら込み上げて来た。

 

「えっと、えっと……。写真家さん……。落ち着いて……くださぃ……」

 

写真家の行為に怯えながらも、アドは写真家の横にしゃがみ込んで、彼の背中をさすっている。

背中から伝わる感覚に、写真家はすぐにハッと我に返った。

 

「アド……。すまん、ありがとうな」

 

写真家は感情的になったことを後悔した。

そして怯えながらも、自分のことを心配するアドに勇気付けられたのか、表情を正す。

 

「ちょっと驚いただけだ。怖かったか?」

 

「いっ、いえ、大丈夫……です……」

 

「そうか、よかった」

 

写真家はいつもレグにしているように、軽くアドの頭を軽く撫でる。

アドはその行為に驚いたような表情を見せると、恥ずかしそうな笑みを見せた。

写真家はアドが落ち着いたことを確認すると、レグが落としたバックパックを背負う。

 

「主人様! これっ!」

 

いつのまにか写真家の視界から消えていたレグが声を上げる。

 

「どうしたっ! 何かあったのか?」

 

レグの声は飛行機の反対側から聞こえた。

写真家とアドは、急いで飛行機の反対側へと回ると、すぐにレグが呼んだ理由を理解した。

 

「これ爪痕じゃないのか……?」

 

機体を大きく裂かんばかりの巨大な爪痕が胴体についている。

胴体が折れていない事が不思議なぐらいに深く裂かれていた。

機体の反対側の折れた翼にも、同じように深く爪痕が残っている。

これらを見るだけでも、墜落の十分な原因になり得る物だった。

 

「この傷は……。もしかして……」

 

「アド? もしかしてだが……」

 

写真家の脳裏に浮かぶ言葉は、口から発したくもない物だったが、すでに考えには達していた。

 

「あのセルリアンがやったものかと……」

 

そして、アドは写真家が考えた言葉を代わりに口にした。

いくら大型の翼竜だったとしても、飛行機に使われている金属を割くほどの爪は持っていないだろう。

しかし、アドの言うように、この裂かれた傷がセルリアンのやったものだとすれば、翼竜以上の戦闘能力を持っていることは明白だった。

その事実に、写真家の心は穏やかではなくなる。

 

「主人様。早くここから離れたほうがいいよ」

 

「写真家さん……。あの、私も……そう思います……」

 

二匹はソワソワと急かすように写真家へと告げる。

この傷を見たことによって、野性的感から危険を察知したのだろう。

 

「しかし、媒体が見つかってないし……」

 

「そんなの! 死んじゃったらどっちにしろ意味ないよ!」

 

「そうですよ……。長く同じところにいるのは……。危険……です」

 

二人の必死そうな説得に、若干の沈黙を見せた写真家。

そして何かを決心したかのように、二、三度頷いた。

 

「わかった、今見つかった物資を集めたら、とりあえずここから離れ——」

 

——その瞬間。

 

写真家の目前に降りて来る影に言葉を詰まらせた。

大きく羽ばたく巨大な翼。その羽音は悪魔の叫びにも聞こえる。

胴体は太陽の光に不自然に煌めき、半透明に体の向こうを写していた。

 

その姿を確認した一瞬後。

 

 

「グギャーーーーーー!」

 

咆哮のような、辺りに響き渡る声を上げるそれは、明らかに写真家たちへの敵意を伝えるものだった。

 

「セルリアンっ!? 逃げるぞっ!! レグっ! アドっ!」

 

「うっ、うんっ!」

 

「あっ、はいっ!」

 

まともに戦っても勝ち目はない。

写真家はあっけにとられた二匹に、我を取り戻させるように叫ぶと、そのまま砂浜を離れるように走り始める。

しかし敵は空を自在に飛べる翼を持っている。

セルリアンは逃げる獲物たちを、逃すまいと大きく羽ばたく。

そして、巨大な体とは思えない機敏な動きで、いともたやすく写真家たちの前へと回り込んだ。

 

「くそっ、デカイ割によく動くやつだ……!」

 

「写真家さんっ、レグさんっ! ここは私に任せてっ……、くださいっ……!」

 

「そんなことできるかよっ!」

 

写真家とレグの前に出て、構えるアド。

しかしその脚は震えていた。

これだけ巨大なものを眼の前にしては、誰だとしても同じ反応を見せるだろう。

 

「わっ、私はっ……ハンターですから……」

 

その言葉は誰かに聞かせるようなものではなく、アドが自分に言い聞かせているように聞こえた。

 

「主人様! このままじゃ……!」

 

「あぁ、わかってる! わかってるって!」

 

絶体絶命。

空も制す事ができるような強敵に、写真家は最善の策を導き出そうと必死に考える。

しかし敵もそう長くは待ってくれないだろう。

太陽が沈みかかっている砂浜で、戦いは始まったばかりだった。




需要があれば続けていくかなぁと。
ぶっちゃけ短くて更新早いのと、少し更新遅くてもまとめて読めるのどっちがいいですか?


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たたかい

忙しい中なんとか書き上げたもの。
物語的にプロローグが終わったぐらいですかね。


目の前の敵は、少なくとも逃がしてくれるような雰囲気ではなかった。

明らかな敵意を示すセルリアンは、太く長い嘴を鳴らしながら、地面に降り立ち写真家たちへと近づく。

セルリアンは翼を畳んだ状態でも5メートル以上あるような巨大な体躯を持つ。

その巨大さだけで、戦意を削ぐには十分なほどだ。

 

「主人様っ!」

 

「わーってる! くそっ!」

 

早く打開策を考えなくてはいけない。然もなくばここで終わってしまう。

写真家は思考を巡らすが、打開策が思いつかない。

思いついたとしても、全員が無事で済む策は思いつかなかった。

相手は巨大な体格を持っているため、森に逃げ込めばその機動性を生かすこともできなくなるだろう。

しかし、あの機動性から逃げるためには、誰かが殿を務めなくてならなかった。

いわゆる囮がなくては逃げれる状況ではなくなっていた。

 

「写真家さんっ……。私が囮になります……! 森に逃げてくださいっ……!」

 

アドは何かを決意したようにセルリアンに向けて走り出す。

 

「まてっ! アドっ!!」

 

写真家の制止も聞かずにアドはセルリアンに飛びかかる。

アドの手が光ったかと思うと、そのままセルリアンに引っ掻くような攻撃を仕掛けた。

セルリアンもそれを素直に受けることはせず、身軽な動きでそれを躱す。

アドも避けられることはわかってたのか、間髪入れずにまた攻撃を行う。

 

「グギャーーーーーー!」

 

そしてまたセルリアンは大きく避ける。

叫び声をあげて、アドに威嚇をして見せた。

それは明らかにアドにセルリアンの注意が移ったことを意味していた。

 

「主人様っ!!」

 

「……レグ、逃げるぞ」

 

「でもアドちゃんがっ!」

 

「あいつは前回もセルリアンとやりあったんだろ? じゃあ大丈夫だ。きっと逃げられる!」

 

前回、写真家達を庇った時も、セルリアンの囮になったアドは逃げ切ることができた。

写真家は今回もその可能性にかけようと、レグを説得する。

しかし、レグは納得いかないといった表情で写真家を睨みつける。

 

「今度は大丈夫じゃないかもしれないんだよっ!? アドちゃん、ボロボロなんだよ!?」

 

「っ……」

 

写真家は戦い続けているアドの方を見つめた。

明らかに大きさも違う相手に、果敢に挑み続けるアド。その体はいつのまにか傷だらけになっている。

息も上がっており、長く持たないことは目に見えて明らかだった。

 

「だから逃げるんだよ! 俺たちがいても足手まといだ! とにかく逃げてアドの無事を待つんだよ!」

 

「そんなの……」

 

「だから逃げるぞ! レグ!」

 

「できないよっ!」

 

叫ぶように言い放つと、レグはアドの方へと走りだす。

写真家はそんなレグを止めようと手を伸ばすが、写真家の手を振り切ってそのままセルリアンへと向かっていく。

 

「あいつ俺には危ないことするなって言ったくせにっ!」

 

写真家も躊躇なくレグを追いかけていく。

 

「アドちゃん!」

 

セルリアンの後方より近くレグ。

そして自分の存在に気づかれるようにアドの名前を呼んだ。

 

その一瞬だった。

 

「レグさんっ……!? あっ、きゃああっ!?」

 

レグの声に気を取られたせいか、一瞬だけ回避が遅れてアドの体は宙を舞った。

そして、地面に転げ落ちる。

 

「っ! アドちゃんっ!!」

 

セルリアンの嘴で大きく叩かれたアドは、相当にダメージを負ったのか、震えてその場所にうずくまっている。

 

「アド……ちゃん……?」

 

その光景に呆然としているレグ。

セルリアンがとどめを刺すつもりなのか、アドへと近づいていく。

 

「レグッ! 何やってんだっ! あいつの注意を逸らせっ!!」

 

「あっ! うがあああああっ!」

 

やっと追いついた写真家の声に我を取り戻したのか、レグはセルリアンに飛びかかる。

彼女は戦い方を教わったわけじゃない。

しかし、野生の本能が戦い方を覚えているのか、爪がアドと同じような光をまとっている。

 

「はぁぁっ!」

 

金属のぶつかるような音がしたと思うと、レグの爪が弾かれる。

セルリアンの体表が若干削れるが、大きなダメージは負っていない。

セルリアンの目がレグを見つめる。

新たな脅威を排除しようと、注意が移ったようだった。

 

「こっちだよ! セルリアン!」

 

その隙に、写真家は倒れているアドに駆け寄って抱きかかえる。

 

「アドッ……!」

 

「……っさい」

 

ブルブルと体を体を震わせながら、アドの口から涙声で聞き取れないほど細い声が聞こえる。

それは無理もないことだった。

アドは言動からして臆病な性格であることは間違いなかった。

それでも、写真家達を守ろうと体を張って巨大な敵に挑んだのだ。

そんな彼女がこれだけ力の差を見せつけられたら、動けなくなることも当然と言えた。

 

「大丈夫か? 逃げるぞ!」

 

「ごめんなさい……ごめんっ……なさいっ……。守りたかっ……たのに……」

 

「今は謝るな。とにかく逃げるぞ」

 

「しゃしんか……さんっ……」

 

写真家は、未だに恐怖に震えているアドを抱きかかえると、セルリアンの様子を見た。

レグはうまく攻撃を交わしている。

しかし、セルリアンを圧倒できるほどの力は持っていない。

長期戦になればなるほどに不利だろう。

 

「レグッ! 森に逃げるぞ!」

 

写真家は森に向けて走り出し、叫び声をあげてレグに合図した。

 

「了解っ!」

 

レグは写真家が森に近づくのを確認すると、自分も撤退を始める。

レグのいきなりの全力疾走に、セルリアンも反応できなかったのか、遲れるように距離を詰めようと飛び立つ。

しかし、写真家やレグが森の中に入るのを確認すると、追うことを諦めたように地面に降り立った。

 

 

…………

……

 

 

森の中の背の高い草むらに身を隠すように一人と二匹は蹲っていた。

戦いで消耗しきっているアドを横にさせて、写真家とレグも全力疾走のせいか息を上げていた。

 

「あいつ、さすがに追ってこないね」

 

「あぁ、あの図体じゃ無理……と願いたいな」

 

「写真家さん……私……」

 

「アド、謝るのは無しな?」

 

写真家のその言葉に、アドは言葉を無くしたかのように黙り込んだ。

そして一拍おき、絞り出すように言葉を出す。

 

「……私、ハンターじゃないんです」

 

「そうか」

 

「怒らないんですか……?」

 

「ハンターがどれだけ強いかわからんが……。震えながらも守ろうと頑張ったお前は強いよ。俺は逃げることを選ぼうとしてた」

 

「そうそう、主人様は危ないことに首突っ込むくせに、すぐ逃げる臆病者だかr! 痛ったー!」

 

写真家の無言の手刀ががレグの頭に炸裂する。

 

「怒らない。いや、怒れないな。お前もハンターを偽ったって事は、それなりの理由があるんだろ?」

 

「写真家さん……」

 

「それに二回も俺たちを助けようとしてくれた。その勇気はハンターを超えてると思うぞ」

 

写真家は優しい声色で、アドを安心させるように声をかける。

しかし、それは上辺だけの言葉ではなく、アドの勇気に感心しての言葉だった。

 

「今は理由は言わなくていい。まぁ、気が向いたら理由を話してくれよ」

 

「そうそう、もうボクたちお友達だしね!」

 

綺麗に話をまとめようとレグが言葉を出したその時だった。

 

「グギャーーーーーー!」

 

森に響き渡る叫び声。

それは明らかにあのセルリアンの物だった。

そう遠くない場所で聞こえるその声は、写真家達を追ってきたとも受け取れた。

写真家は高い背の草むらから軽く体を起こしてあたりを確認する。

 

「いるな……」

 

写真家は木々の隙間にセルリアンを見つける。

再び姿勢を低くして、小さな声で二匹に伝えた。

 

「なんだあの執念は……。飛べない森の中まで追ってくるとは……」

 

「あのままじゃ地の果てまで追ってきそうだよね」

 

「ははは……。ん?」

 

レグの言葉に乾いた笑いを返す写真家だったが、思いついたようにそれを止めた。

 

「……逆に好機かもしれないな」

 

「えっ?」

 

「写真家さん……?」

 

何を言い出すのだ。二匹はそう言いたそうな言葉を写真家に向ける。

 

「ここは森の中だ。あいつの図体じゃ、ここでは自由に動けないだろ?」

 

「まぁ、確かに飛べないけど……」

 

「つまり、ここでなら奇襲をかけることも可能だ。説明するぞ」

 

何か策があると言わんばかりに、写真家は二匹に説明を始めた。

 

「ここはまだ若干ひらけてるだろ? 木が生い茂ってる場所にあいつを誘い込む」

 

「それなら……。この先は森が深くなってます……」

 

「好都合だ。相手がバックも振り返る事もできない場所に誘導して、そこで奇襲をかける」

 

勝てる自信があると踏んだのか、写真家はセルリアンを倒す気まんまんな口調で言う。

機動性があるセルリアンではあるが、大型であるため地上では動きが鈍い。

森の中となればさらにそれが顕著になるだろう。

だからこそ、この状況は『倒す』のには好機であると言える。

 

「主人様? 倒すつもり?」

 

「写真家さんっ……。危険ですよ……!」

 

「あのセルリアンを放っておいたら、また襲われるかもしれない。倒せるなら倒すべきだ」

 

「でも、それって誰かが囮にならないといけないんじゃ……」

 

何かを察したように、そして明言は避けるようにアドは質問する。

 

「囮は俺がやる」

 

「主人様っ!」

 

「写真家さんっ!」

 

二匹は当然のように猛反発だ。

レグに至っては、写真家を押さえつけそうな気迫で唸っている。

 

「レグ、これは必要なことだ聞いてくれ。アドは見ての通りボロボロだ。レグもさっきの戦闘で完全とは言えないだろ?」

 

「でもっ!」

 

「俺は今の所かすり傷一つない。だから囮に最適だ。それに、レグに囮をさせたら、誰が攻撃するんだ?」

 

「でもでもっ!」

 

「お前は、セルリアンを攻撃できる力があるんだろ?」

 

「うぅっ……」

 

そう言われてレグは言葉を詰まらせた。

さっきの戦闘を見ていた写真家は、フレンズにセルリアンに対抗できる何かしらの力があると思っていた。

手が光り、そして爪による攻撃はセルリアンを削っていた。

レグもその事には気づいていた。だからこそ言葉を詰まらせる。

 

「お前しかいない。お前を信頼してる」

 

写真家はいつもと変わらない笑顔を見せて、まだ納得いかない表情をしているレグの頭を撫でる。

 

「主人様……。怪我したらボク怒るよ?」

 

「あぁ、お前に怒られないように頑張んないとな」

 

「……わかった。主人様の命令だもんね」

 

渋々了承した。

レグは頷くと、それ以上反対することはしない。

 

「さて、アド? 一撃でなるべくダメージを与えたい。セルリアンの弱点ってあるのか?」

 

「えっ……はい……。1回目写真家さん達を逃す時に見たんですが……。背中に『石』があるんです」

 

「『石』?」

 

新たな単語に、興味津々と言わんばかりに写真家はその言葉を復唱した。

 

「あれを砕けば……。セルリアンはバラバラになります……」

 

「さしずめ『(コア)』ってところか」

 

写真家はニヤリと口角を持ち上げた。

アドの話が本当だとすると、一撃で相手を倒せる可能性があることを意味していたからだ。

 

「奇襲なんて何回も使える手段じゃない。一撃で決めないといけなかったから好都合だ」

 

「つまり主人様は囮、僕は背中側から石を狙う。ってことでいいのかな?」

 

「そう、レグは利口で助かる。さて、あまりあいつを放置すると寂しくて帰っちゃうかもしれないな」

 

写真家はもう一度体を持ち上げて、セルリアンがまだ近くにいることを確認した。

 

「アドは休んでてくれ。お前を傷つけた奴を懲らしめてくるからな」

 

「写真家さん……!」

 

アドはゆっくりと立ち上がろうとした写真家の足を掴んだ。

 

「ちゃんと戻ってくる。約束だ」

 

写真家は膝をつくと、アドの手を強く握って言葉をかける。

 

「お気をつけて……」

 

そしてアドの言葉に強く頷くと、足音を立てないようにセルリアンへと向かっていく。

 

「さぁ、あいつを狩るぞ。ここで別れよう。お前は後方からつけて来てくれ。合図をしたら一気に仕掛ける」

 

「わかった……。主人様、気をつけてね……?」

 

…………

……

 

そこに巨大な敵はいた。

森の中まで追ってくる執念を見せるそれは、執拗なまでに首を振り、辺りを見回している。

獲物を捕らえられなかったことが悔しかったのか……。

そういった感情の類があるかもわからないが、写真家達を追っていることは間違いなかった。

 

「やっぱりでかいな……」

 

写真家は巨大に見えるセルリアンに思わす声を漏らした。

実際巨大ではあるのだが、あたりの環境がさらにその巨大さを強調しているようだった。

 

「……よし」

 

写真家はバッグから一つのものを取り出す。

円盤状のそれは、レグが出発前にこっそりと入れたフリスビーだった。

写真家は、セルリアンから少し離れ、高まる鼓動を抑えるように深く深呼吸をすると、相手が見ていないことを確認し。

 

「っ!!」

 

息を潜めていた木陰から飛び出すと、セルリアンにフリスビーを投げつけた。

 

「グァ……?」

 

吸い込まれるようにセルリアンの頭部に命中する。

効くとなんて思ってはいなかったが、写真家は少しでも距離をとって気づかせるために、その策をとった。

 

「こっちだ薄鈍!!」

 

「グギャーーーーーー!」

 

写真家は精一杯の虚勢を見せると、相手がこっちに気づいたことを確認し、一目散に逃げ出す。

セルリアンのついに見つけた獲物を逃すまいと精一杯の歩みで写真家を追う。

 

「くそっ! でかいだけあって一歩がデケェ!」

 

セルリアンは翼の爪部分を地面につけるような形で走ってくるため、安定性が写真家よりも高かった。

それに加えて大きさもあるため、徐々にその差は詰まっていく。

 

「早くっ! 森の深いところに!」

 

「グギャーーーーーー!」

 

セルリアン嘴を鳴らしながら、猛獣そのものな動きで写真家を追い詰めていく。

あたりの小木は軽々と蹴散らされていく。

そして、獲物を捕らえることに必死なのか、自身の体がボロボロになることさえ厭わない。

 

「くそぉぉ! あそこまでっ! あそこまでぇ!」

 

走っていくうちに、徐々にその視界は狭くなっていく。

木々が生い茂るエリアに近づいていっている事を示していた。

写真家は必死に走る。

まるで猛獣に追われる小動物そのものだ。

彼は軽く後ろを振り返ると、セルリアンとの差は3メートルほどに迫っている事を確認した。

 

「もうすこしっ!」

 

目の前には巨大な木が二本。人間がすり抜けられるほどの大きさに並んで立っている。

写真家はそこに飛び込もうとしていた。

飛びかかれば捕食される可能性があるギリギリの距離。

セルリアンも確実に写真家を捕らえられるように、ギリギリまで距離を詰めて、飛びかかるつもりだ。

 

「間に合えぇぇぇ!」

 

祈りにも近いような叫び。

 

その瞬間セルリアンは写真家に飛びかかる。

 

写真家は体を宙に投げ出すようにジャンプする。

 

「グギャーーーーーー!」

 

セルリアンの体は頭から二本の木に突っ込んだと思うと、凄まじい衝突音。

写真家は地面に転げるように受け身をとってすぐさま立ち上がる。

二本の木に阻まれて、セルリアンは身動きが取れなくなっいる。

 

「レグッ! 今だっ! 石を! 石を狙ええええ!」

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

その声に呼応するように草むらからレグが飛び出す。

大きく跳躍しセルリアンの真上に差し掛かると、落下する力を使って強力な一撃を与えようとしていた。

それに気づいたセルリアンは、木から抜け出そうと、踠き始める。

 

「いっけぇええええ!!」

 

写真家が叫んだ一瞬後––

 

レグの光り輝いた爪がセルリアンに直撃する。

 

「っ!」

 

レグは体勢を立て直すと、そのまま写真家の近くに跳躍して着地する。

 

「やったか!?」

 

「ダメッ! 浅かったっ……!」

 

レグの言葉に写真家の表情は凍りつく。

その言葉と同時に、木の拘束から抜け出したセルリアンは、写真家達の前にまた対峙した。

表情こそ変わらないが、その姿はまるで勝ち誇ったようにも見える。

 

「絶体絶命かよ……」

 

背見せて逃げようとすれば、一瞬で捕食される距離。

セルリアンもそれをわかってか、どちらから喰らってやろうかと吟味するように二人を見ている。

 

「主人さまっ!」

 

レグは最後まで守るつもりなのか、写真家の前に立つ。

 

「レグ、お前なら逃げられる。逃げろ!」

 

「いやだっ!」

 

当然の反応を見せる。

レグにとって写真家は一番大事な存在。

しかし写真家にとっても、それは同じ事だった。

 

「グギャーーーーーー!」

 

セルリアンは最期の会話すら許す気は無く、まずはレグを捕食しようと飛びかかる。

写真家はレグを守ろうと、とっさに抱きしめて庇う。

 

––––

 

写真家は次に来るであろう衝撃に耐えようと歯を食いしばった。

肩を大きく揺らして呼吸する。

汗が頬を伝って落ちる。

 

「……?」

 

しかしその瞬間は訪れない。

あまりにも遅かった。

セルリアンが飛びかかろうとして、もうすでに5秒以上が経過していた。

写真家は恐る恐るセルリアンを見る。

 

「グギャ、ギャ……、ギャ……」

 

小刻みに震えながら、その場所に佇んでいるセルリアン。

写真家は目を疑った。

セルリアンの胸部付近から黒い針。

いや槍のように鋭い何かが突き出し、貫いていた。

 

「なっ、なにが……?」

 

あまりの出来事にレグを抱きしめたまま固まる写真家。

セルリアンの体から色が失われていく。

初めは叫び声をあげていたセルリアンも、もうすでに声を上げることはない。

そして徐々に体の末端から形を失っていく。

 

「死……んだ……?」

 

色のないブロック状に崩れるセルリアン。

しかし刺さった槍はそのまま宙に浮いている。

 

「え?」

 

そしてまた驚きの声を上げる。

黒い槍はかなり長く、その基部を見ようと目を凝らす。

そこには。

 

「フレ……ンズ……」

 

黒い。

それは影で黒く見えるわけではない。

体は黒く、二本のツノを持ったフレンズ型の何か。

そうしているうちに、伸びた槍らしきものは縮小してそのフレンズに戻っていく。

 

「手……なのか!?」

 

それは槍ではなかった。

縮んだかと思うと、黒いフレンズ?の右手に変形していた。

獲物を捕らえるために伸ばした、タコの触腕に近い形状をしていることがわかる。

 

「誰なんだお前は! セルリアンなのかっ!?」

 

写真家はその存在に向かって声をかける。

 

「タリナイ……」

 

無機質な声が森に響き渡る。

写真家の希望した返答は帰ってこない。

 

「だから誰なんだ! フレンズなの––!?」

 

そして写真家は気づいた。

フレンズ型の首に、ネックレス状にかかっている物を。

 

「記憶媒体……! お前が盗ったのか!?」

 

「救イタイ。救ワナケレバ……」

 

フレンズ型は、そのまま振り返ると、写真家達に興味も示さずに森の中へと消えていく。

 

「まてっ! それを返せっ! っ!」

 

「主人まさっ……!いやっ、いやっ……!」

 

写真家はそれを追って立ち上がろうとするが、レグが必死にしがみつく。

 

「レグ……?」

 

「あるじさまっ、しんじゃいやっ!」

 

レグは震えていた。

それはあの大型のセルリアンへの恐怖では無く、自分の近しい人がいなくなるのかもしれない恐怖でだった。

 

「……」

 

写真家は再びあのフレンズ型の存在がいた場所を見るが、気配すらも確認できなかった。

彼はレグをしっかりと抱きしめて、落ち着かせるように頭を撫で続ける。

 

「もう大丈夫だ。レグ、大丈夫……」

 

写真家は昔のことを思い出してた。

レグは子犬の頃に捨てられて、拾われたところを、友人の頼みで貰い受けた子だった。

レグは出会った直後はよく噛み付いたり震えて夜泣きをしていた。

その度に写真家は、こうやってレグを抱きしめて撫でていたのである。

 

「主人様……?」

 

「よくわからんが助かったらしい……」

 

しばらくするとレグも落ち着いたのか、泣いたせいの鼻声であるが、写真家に声をかける。

 

「おっきいのは……?」

 

「なんて説明すればいいか……。あのな……」

 

「写真家さんっ……! レグさんっ……!」

 

写真家がレグに説明しようとしたその時だった。

 

「アド! 体は大丈夫なのか?」

 

写真家達に届いた声はアドのものだった。

アドは木陰から姿を現し、写真家達に駆け寄る。

 

「大丈夫です……。セルリアンは……?」

 

「あぁ、それなんだが、ちょうど良かった。説明するよ」

 

写真家は黒いフレンズ型の存在、そして記憶媒体を持っていたことを二匹に説明する。

 

「その、フレンズが主人様の『大切なもの(記憶媒体)』を?」

 

「黒いフレンズ……っていうのも気になります……。今度の噴火で生まれた子でしょうか……?」

 

「今は何もわからんな……。どうしたものか……。」

 

悩み込む写真家達。

 

「アドも黒いフレンズについては知らないみたいだな」

 

「はい……。あっ、でも……」

 

アドは何かを思い出したように表情を変える。

 

「『としょかん』に行けば何かわかるかもです……。オサも居ますし……」

 

「そういえば『パークセントラル』についても知ってるかもしれないって言ってたな」

 

「この島を出る方法も知ってるかもね!」

 

写真家達は顔を見合わせて頷く。次の目的地が決まった。

 

「アド、引き続き案内頼むよ。俺たちは新参者だからさ」

 

「はいっ……。任せてください……!」

 

写真家は、ジャパリパークへ向かい、ただパークセントラルに向かえばいいと思っていた。

しかし、事はどんどんと大きくなっていく。

パークセントラルの位置。

黒いフレンズの存在と記憶媒体。

そして、この島の脱出方法。

それらすべてを知っているかもしれない人物?の元へ向かう事を決めた。

 

「目指すは図書館だな」

 

写真家達は図書館へと向かい歩み始めた。

セルリアンのいなくなった森には、写真家達だけの声が響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

––––

 

写真家の日記

 

ジャパリパークへと上陸した初日。

すべての食料と、様々な物資を失ってしまった。

大型のセルリアンの脅威はなんとか退けた……?が、謎も増えた。

記憶媒体を盗んだ黒いフレンズの存在。

そして、帰る足を失った俺は、その方法も探さなくてはいけなくなった。

 

衝撃はそれだけには止まらず、愛犬のレグがアニマルガール化した。

そして、現地『けもの』であるアードウルフとも出会うことになった。

彼女は臆病な性格だが、強い意志を持っているように見える。

実際、一度救われもした。

 

セルリアンはフレンズを襲うらしい。

そして、俺も襲われたから、人間も襲うことがわかった。

これからは脅威になっていくことだろう。

今回のようなラッキーも続くはずがない。

対策は考えなくてはいけなくなった。

 

……アニマルガールの存在は本当に謎だが、これだけは言える。

動物と話せるのは、本当に奇妙な話だが新鮮だ。

そして、動物の特徴を色濃く残している彼女達は……。

すごくかわいい。

特にあの尻尾が……。

誤解を招く発言かもしれないが、他意はない。

でもやっぱり尻尾や耳がぴょこぴょこ動くと……。

 

いやこれ以上はやめておこう。

とにかく、アドは信頼できる子だ。

真っ直ぐで純粋で。

もちろんレグも心配症を除けばかわいいし、いい子だ。

あの子達とこの島の謎を追えるかと思うと、不謹慎だがワクワクしている。

 

何か忘れていたことを思い出した感覚だ。

少年の時のような……。

 

とにかく、今は謎を解明して、このレポートを完成させたいと思う。

この『ジャパリレポート』を。

 




この物語は、漫画版のことを考慮に入れてません

アプリ版ーアニメ版ーこの物語。みたいな感じです。
あと、人類は絶滅していない前提で物語を作っています。

それを前提で、パラレルワールド的な感じで楽しんでいただければ幸いです。

毎回コメント、感想、本当に感謝しています。
書く気力が湧いてきます。


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