横島忠夫の人理焼却案件 (てばさき)
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プロローグ
リポート1.その男、不屈につき


色々あって書くことに。
だんまちの方がまったく思い通り書けてないので、ちょっとした気分転換にもなるかもと。

ギャグがね、書きたいんですよ。




「ま、前が見えねぇ……」

 

とある山嶺の頂上付近、豪雪に覆われた上に今もなお吹雪が吹き荒れるそこは、まるで地球の意志が生物の存在を拒んでいるかのような光景が広がっていた。

 

その、凶悪なまでに白く、凍てつく雪原を行く青年がいる。

 

「あんのアマァァァ、人が大人しく言うこと聞いてりゃ調子に乗りやがってぇぇぇ!」

 

特大のリュックを背負い、バンダナを巻いた青年……彼の名は──

 

………

……

 

「カルデア……っすか?」

 

美神除霊事務所にて、その日、彼は所長である美神令子よりとある魔術機関からの依頼を聞かされていた。

 

美神令子……悪霊退治を生業とするゴーストスイーパーの中でも、間違いなく世界最高峰の実力を持つ才女である。

名の通り見目麗しく、どんな男でも彼女とすれ違えば振り返らずにはいられない……その本性さえ知らなければ、だが。

 

「そ。人理継続保障機関、通称カルデア。そこが今、幅広く使える人材を集めてるみたいなのよね」

 

「人理ってなんです?」

 

「要は、現在過去未来に渡って人類が繁栄してきた、していくための道筋みたいなもんよ。これがある限り、人類は滅亡することなく存続が約束されてるってわけね」

 

「はあ……なんかピンと来ないっすね。で、それを保障する機関ってのがまたなんとも」

 

そして本性を知ってなお、その美貌に釣られて付き従う彼もまた、見るからに間抜けでスケベそうな外見に似合わぬ実力を……持ってたり持ってなかったりする、ある種の変人であった。

 

「アホくさ、人類なんてほっといたって勝手に栄衰繰り返してく生き物じゃない」

 

私以外は。そう言いたげな美神の表情。

 

「一銭の得にもなりゃしないのによくやるわー。暇なのね。私はパスだわ」

 

「一機関掴まえて暇人扱いはないでしょうよ」

 

苦笑いを浮かべながら、彼は話をまとめた。

彼曰く、筋金入りの守銭奴にして究極の自己中。自身の美貌を盾にやりたい放題。そんな彼女がそうまで言い切るのである。

 

「つうことは、今回は断るんすね?」

 

正直ホッとする。

この手の組織モノに関わって、良いことが合った試しがないからだ。

 

「受けるわよ? 魔術協会からは、民間のGS枠として是非にって話だし、何より霊感が疼くのよ。この件、恐ろしくめんどくさそうなことになるってね」

 

しかし現実は非情だった。

 

「え、でもさっきパスって……」

 

「あんたが行くのよ」

 

沈黙が落ちる。

 

「…………………………え?」

 

「場所はヒマラヤね。山頂付近にそれらしい人避けの結界が張ってあるらしいから、近付けば霊視ゴーグルでわかるんじゃない?」

 

「ちょっ」

 

「現地へは……いいわ、知り合いの密輸業者に頼んどいてあげる。帰りは適当にすれば?」

 

「嫌じ──」

 

「帰ってきたら……お祝いにご飯でも食べに行こっか? 二人っきりで」

 

……

………

 

そして現在、

 

「男ってやつぁー!! 男ってやつぁーよぉー!! 例え九割九分の偽りがあったとしても!! 輝かしい未来への幻想を目指さずにはいられん生き物だからーよぉぉぉぉ!!」

 

鼻水が作った氷柱を下げながら、彼は雪原を歩いている。

 

「帰ったら、あのチチ、シリ、フトモモを俺の思うがままに! まずはチチから……いやシリか!」

 

ギュオオオオオオオオオオオッ

 

繰り返すが、ここは人類生存が困難な環境であり、彼はもはや立ち位置としては死人に近い場所にいる。

 

「ぐふ、ぐふふふふ…………いかん、笑いが込み上げてくる」

 

が、世界規模になりかけたアシュタロス事件をくぐり抜けた、かどうかは問題ではなく……日頃美神から受ける折檻と比べれば春風に等しい状況であった。

 

「待ってろよぉ、俺のシリー!」

 

そう、煩悩の続く限りにおいて、もはや自然現象程度で彼の足を止めることは出来ない。

 

 

 

彼の名は横島忠夫。

ゴーストスイーパーである。

 

 




導入です。

横島忠夫は多分、未だに彼を越える男の子ってキャラはいないんじゃないかってくらい好きです。


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リポート2.ドアノックは爆音と共に

横島いいですよねっ!
プロローグ回はサクサクと終わらせて先に進みたいですね!


『お引き取りください』

 

ついにたどり着いたカルデア施設、白い扉の前で立ち尽くす横島に、無情な言葉が投げつけられる。

 

『美神除霊事務所のスタッフ到着予定時刻は三日前の午後3時です。今更来られてもあなたの席はありません』

 

どこかにあるスピーカーか、もしくは魔術的な仕掛けによるものか。定かではない方法で外へと届けられた女の声は、体表の半分を霜で覆われた横島に突き刺さらんばかりの鋭さであった。

 

「んなこと言ったかてしゃあないやろっ!? 美神さんがケチってオンボロ密輸船に乗せられた挙げ句、こっちの海上警察に追い回されて、やっと山についたと思ったらずっと吹雪だったし!」

 

悲痛な、まあ、そう表現して構わない横島の状況は、ただの一言で切り捨てられる。

 

『それはこちらの関知するところではありません』

 

「だか──」

 

『お引き取りください。ああ、降りるときは雪崩に気を付けるように。運が悪いと一世紀後も雪の下なので』

 

「……運が良かったら?」

 

『半世紀程度で見つかるのでは?』

 

ブツッ、と音が切れる。

 

同時に、プチッ、と横島も切れた。

 

「……ふ、ざ、け、ん、なああああああ!!!」

 

酷い旅路だった。

密輸品の名前も知らない植物や白い粉、武器弾薬エトセトラと一週間近く船に閉じ込められ、ようやく陽の目を拝んだ横島に掛けられたのは『ハート カレー カルナー(手を上げろ)!』の声。

 

思わずパクっていた銃器で反撃し、ろくな準備もないまま山に入った横島にも多少の慈悲は必要だろう。

 

と、横島本人は思っていた。

最悪、泣いて頼めば入れてくれるだろう位に考えていた。

 

まず、流した涙が凍りついて半目になった。

 

同情を引くはずの言葉は震えてトチ狂ったイントネーションに。

 

そんな彼の姿は、有り体に言えば、見るもの全てを小馬鹿にしているような風体だった。

 

………

……

 

「良かったのかい? マリー。彼だって君が招いた人材の一人だろうに」

 

カルデア管制室にて、一連のやり取りを聞いていたレフ・ライノールの問い掛けに、オルガマリー・アムニスフィアは不機嫌そうに返した。

 

「良いのよ。まさにこれから、人類史に残る最初のレイシフトが行われようって時に、余計な不確定要素を加えたくないもの」

 

「ふむ……一理あるが、このまま帰したら、本当に死んでしまうんじゃないかな?」

 

「う……でもあの男、変顔して、声もおかしかったし……み、美神令子本人ならいざ知らず、代理なんて聞いてなかったし」

 

途端に狼狽え出す辺り、冷徹になりきれない部分がかいま見えるオルガマリーに、

 

「じゃあ取り敢えず待ってもらって、レイシフト後に中に入ってもらおうか。今後どうするかは、その時に考えればいい」

 

レフはまずまずの妥協案を提示した。

 

「そうね、そうしましょう。誰か、さっきの奴に呼び掛けて──」

 

「所長」

 

遮るような、オペレーターの声。

 

「先程の彼ですが……扉になんか塗ってます」

 

「は?」

 

直後、モニターに映し出された横島は、確かに、何か粘土のようなモノを扉に塗りたくっていた。

 

「ちょっと、あれ何やってるの? ねえ、怖いんだけど。レフ、わかる?」

 

「あー……もし正しければ」

 

モニターの中、横島は白い粘土状の物体を扉の合わせ目に沿って塗り終えたところだった。

どうするのかと見ていると、少し後退したのち懐からある物を取り出す。

 

「……スリングショット?」

 

和名、パチンコである。

100円ショップ産である。

 

横島はそのまま、淡く光を発する珠を弾丸として番え、発射した。

 

モニター越しでは誰もわからなかったが、その珠にはある文字が刻まれていた。

 

──【起】、と。

 

「あれは、プラスチック爆弾じゃないかな」

 

レフの予想は的を得ており、そこから先の出来事は一瞬だった。

 

爆弾が『起爆』し、扉は吹き飛ばされ、「ざまぁ見さらせぇー! うはははは、おじゃしまーす!」と横島が勝ちどきを挙げ、爆音により発生した雪崩に巻き込まれてカルデア内に流れ込んでいった。

 

静まり返る管制室にいる一人、レフ・ライノールは後にこう語る。

 

「お前さえいなければ」

 

と。

 

 

 

彼の名は横島忠夫。

ゴーストスイーパーがどうとか以前に、まごうことなきバカである。

 

 




ゲーム開始時、所長とマシュはダブルヒロインポジだと思ったのは僕だけじゃないはず。


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リポート3.幕開けは花火のように1


ゲーム開始時、ロマンとレフは、女主人公の攻略対象かな、と思ったのは僕だけでいい。
みんなは先に行くんだ!


「所長、レイシフト開始まで一時間となりますが……取り止めますか?」

 

オペレーターの言葉に、オルガマリーはハッと思考を取り戻し、

 

「え、ああそうね、ラー油は忘れないで持ったの?」

 

たように見えただけのポンコツ具合を遺憾無く発揮した。

 

「失礼しました。レイシフト予定のマスターは各自ラー油を装着の上コフィンルームへ向かってください」

 

そしてまた、オペレーターも同レベルの混乱具合でそれに答えた。

周囲のスタッフ達も、ああラー油か、あれは大事だよねとしたり顔で頷いている。

 

「落ち着くんだ君達」

 

そこへ、ただ一人冷静なレフが呆れ声で介入した。

 

「イレギュラーこそあったが、この中枢に実質的な影響は無い。落ち着いて、各々与えられた役割をこなすんだ」

 

「ええ、そうねレフ。ごめんなさい、ラー油は後で送れば良いものね」

 

「違うよマリー、そもそもラー油は必要ないんだ」

 

「でも……ラー油よ?」

 

何もかもがどうでもよくなりそうな顔で、レフは辛抱強く言葉を続ける。

 

「マリー、ラー油は、必要、ないんだ」

 

肩を若干強く掴まれて、オルガマリーもようやく自身を取り戻したようだ。

今までの流れなど記憶に無いというようなキリッとした顔付きに戻る。

 

「…………レフ、どうしたの? ラー油なんて必要なはず無いじゃない。何言ってるのよ貴方」

 

どうやら、本当に記憶に無いらしい。

ビキビキビキ、レフの笑顔から異音が鳴った瞬間である。

 

「……君が正気を取り戻してくれたようで嬉しいよ」

 

「おかしなレフね」

 

「所長……」

 

申し訳なさそうに、オペレーターが言葉を発した。

 

「今日のために、毎日遅くまでシバの調整をされていたんです……教授もお疲れなんですね」

 

それを聞き、何かの間違いかと思い反芻し、最終的にレフは穏やかな笑みを浮かべるに至った。

 

「ハッハッハッ」

 

笑い声まで溢れるほどだった。

 

「そう……レフ、いつもありがとう。これが終わったら、ゆっくりと休んでちょうだいね」

 

オルガマリーの言葉に、周囲のスタッフ達もまた、こいつムチャしやがって、みたいな雰囲気を流し始めた。

もはや皆の心は一つだった。

先程までの混沌とした空気は微塵もない。

 

「ハッハッハッ」

 

レフは笑った。

 

「「ハッハッハッ」」

 

周りも吊られて笑った。

 

そんな笑い声に溢れた職場において、誰にも聞こえないような声でレフは呟いた。

 

「……ビチグソ共め」

 

無理もない反応であった。

 

なお、強行侵入を果たした横島への対応が議論されるのは、この10分後のこととなる。

 

………

……

 

さて横島である。

密輸品からパクってきたプラスチック爆弾で、扉をこじ開けたまでは良かったが、直後の雪崩で方向もわからぬまま押し流された。

 

カルデアは魔術と科学の融合をもって建築された設備だ。

場所柄、自然災害への備えも当然されている。

幾重にも及ぶ災害用シャッターに分断され、徐々に勢いを弱めた雪崩は、その先端を居住区に掛けたところで完全に停止した。

 

その先端部分、それでも相当量の雪が積もる場所が、モコリと持ち上がる。

 

「あー、死ぬかと思った」

 

当然のごとく、横島であった。

 

「全く、下山中にこんなんに巻き込まれたら俺でも死ぬっつうの」

 

室内ということもあり、防寒着を脱ぎいつものジーパンとジージャン姿になった横島は、ぼやきながら居住区を進んだ。

 

「取り敢えず、責任者っつう人に会って土下座だな。こっちも命の危機だったわけだし、情状酌量の余地はあんだろ」

 

「いや、流石にないと思うよ?」

 

唐突に、横合いから聞こえた声に振り返ると、

 

「全く、雪崩の終息地点に先回りしてみれば、まさか無傷で出てくるとはね。私も驚きだ。ワオッてなもんさ」

 

そこには──

 

「出逢った時から愛してましたーっ!!!」

 

絶世と言うに相応しい美女がにこやかな笑みを浮かべて立っていたので、横島はその胸目掛けてダイブした。

 

この間、僅か一秒足らずである。

 

「おっと」

 

美女は持っていた杖を軽く降り下ろす。

 

「ぶっ!?」

 

ベシャリと床に叩きつけられた横島が疑問に思う間もなく、

 

「いきなり愛の告白かい? まあ、気持ちはわからんでもないがね。私も、彼女に出逢った時はそんな気持ちだった」

 

美女はあっけらかんとした様子のまま、さして力を込めたようにも思えない所作で杖を横島の後頭部に添えた。

 

「いっ!?」

 

それだけで、横島の身動きの一切が封じられる。

 

(な、なんだこれ……動けねえ!)

 

「色々と言いたいことはあるけど、まずはようこそ、と言わせてもらおう」

 

横島には見えないのに、輝きすら放たれるような笑みを浮かべたまま、

 

「最後のマスター候補生にして、若くして悪魔アシュタロスにさえ警戒を抱かせた屈指のゴーストスイーパーよ」

 

そうする権利が当然のようにある、とばかりに用件を言い切った。

 

「さっき君が使ったアレ、私に見せて貰えるかい?」

 

フッと身体の自由が戻り、横島が顔を挙げると、目の前に、しゃがんでこちらを見下ろす美女がいた。

 

「なんなら幾つか都合して貰えたら、マリーには弁護してあげなくもない」

 

元より、こうしたシチュエーションでの横島の回答は決まっている。

 

「何なりとお申し付けくださいお姉様!!」

 

「そう言ってくれると思っていたよ」

 

極上の笑みに彩られた美貌は、見るものを惹き付けて止まない魅力を発していた。

既に、横島には彼女のお願いを断るという選択肢はない。

 

「それじゃ、人が来る前に行こうか。大丈夫、どのみち君は、最初のレイシフトには間に合わない」

 

立ち上がると、彼女は先導して歩き始めた。

 

「ああ、そうそう、当面私のことは、レオナルドちゃんとでも呼ぶように」

 

振り返った彼女は、いたずらっ子のような瞳で言った。





ギャグ時空ではまともな奴が一番の被害を被る。
これ豆な。

そして登場する、美女美女言われ過ぎの美女。
一体何ンチちゃんなんだ……


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リポート4.幕開けは花火のように2

感想ありがとうございます。
このような駄文ですが、楽しんでいただけるよう頑張ります。


ちなみに、僕はFGOでは出るまで引く教に入信しています。でも聖杯はメディアさん(星3)に貢ぎました。
なんもかんもモーション変更と政治が悪い。





「ふむふむ、これが文珠か……いや、素晴らしいね。無色故の汎用性は。こういう発想は西洋じゃ中々に珍しい」

 

レオナルドちゃんと名乗った女性に連れられて、横島は空き室だという居住区の一室にいた。

ベッドに腰掛けたレオナルドは、早速横島に渡して貰った文珠を摘まみ、興味深く観察している。

 

「アシュタロス事件解決の中心にいた美神令子と、その助手にして自らもゴーストスイーパーである横島忠夫。映像こそ残ってはいないけど、あの巨大な、動く魔神像とでもいう代物を倒したのは君達だったんだろう?」

 

「いやぁ、まあそんな感じっすけど、俺なんか何の役にも立って無いすから」

 

「へぇ……謙遜なら随分上手いもんだ。これを生成出来る十代の人間が、果たして世界にどれだけいると思ってるんだい」

 

「いやいや、それだって上級の魔族なんかにゃ効き目薄いですし、所詮人間レベルの出力っすよー」

 

「おいおい、美神令子や数多の神魔族と関わっておいて、まさかこいつの本質を知らない訳じゃ……あー、ちなみに教えておくが、私の口は胸についちゃいないぞ、横島くん」

 

苦笑ですらも美しく、レオナルドはやんわりと横島を嗜めた。彼を知る女性陣なら、既に四、五発のコンビネーションブローが入っているような、胸の谷間ガン見に対してである。

 

(これは……あんま嫌がってない!? 美神さんに勝るとも劣らぬプロポーションに女神のような美貌……しかも向こうのクソタカビーに比べたら雲泥の差と言っていいノリの良さ……これは、いける? いけちゃうのか!? 横島忠夫の童貞は今日ここで失われてしまうというのかっ!?」

 

「漏れてる、漏れてるよ心の声が」

 

「はっ!? しまったぁ!!」

 

いかん、殴られる。思わず構えた横島の前で、レオナルドは可笑しそうにコロコロと笑った。

 

「全く、君は馬鹿正直な男の子だね。ここのスタッフは女性も多い。そんな目を向けては怯えてしまうから、気を付けてあげたまえ」

 

「ぼ……」

 

その反応が、余りにも新鮮過ぎて、

 

「ぼかぁもーっ!!」

 

懲りない男は、レオナルドに向かってダイブを敢行した。

 

「えいっ」

 

「ぶっ!?」

 

べち

 

まるで焼き増しのような光景がそこにあった。

 

「言っとくが、お触りは禁止だよ。至高の芸術に触れるにはそれ相応の代価と手順が必要なのさ」

 

レオナルドの手元にある文珠に、文字か浮かぶ。

 

【去】

 

「漢字ってやつは一文字にこもる意味が複数あるわけだけど……これで去勢出来るかどうか、実験されたくはないだろ?」

 

ニコニコと、それは何気無い日常の中にあるような話し方だった。

 

「まあ、そんな不確かなことしなくても、私に掛かれば君から科学的に性欲を消し去ることも容易いんだけどね」

 

「………………すんません」

 

ニコニコと、その笑顔のままに言葉の内容を実行に移しかねない迫力があった。

 

(あ、ある意味美神さんより怖えぇ)

 

こうしてレオナルドは、横島の中では美神に並び、『セクハラするときは覚悟を決める』リストに名を連ねる運びとなった。

 

………

……

 

「ヨコシマとか言う馬鹿はどこ行ったの!?」

 

管制室に、オルガマリーの怒声が響く。

 

落ち着きを取り戻した面々は、先に控えた重要ミッションに向けて最終チェックを進めていた。

その中で、既に自分の受け持った仕事を終わらせた者が、カルデア内のどこかに潜伏したと思しき横島の居場所を探していた。

 

「居住区から先に要るのは確かなのよね?」

 

問われたオペレーターは、頷きと共に返す。

 

「はい。雪崩が流入した居住区に、脱ぎ捨てられた防寒着が発見されました。恐らくは生きていると思われます」

 

「なら! さっさと見つけて抵抗できないようにして連れてきなさい! なめた真似して、絶対許さないんだから……」

 

親指の爪を噛みつつ、忌々しそうに呟くオルガマリーに、レフはなだめるように声をかける。

 

「しかし、彼は中々に大胆だったねマリー。遥か昔に袂を別ってから何百年も経つが、もはやゴーストスイーパーと我々魔術師は完全に別物と言っていいだろう。あまりこちらの考えに当てはめようとすれば、反って事態を悪化させてしまうかもしれない」

 

その言葉に、オルガマリーも幾らか落ち着きを取り戻したか、思いため息を一つ溢した。

 

「そうね……確かにそうだわ。全く、なんで今更になってこっちの世界に踏み込んで来たんだか……協会も協会だわ、ゴーストスイーパーをプロジェクトに加えるなんて、正気とは思えないわよ」

 

「それだけ、先のアシュタロス事件が与えた影響が大きかったということだろうね。あの悪魔は原典とは別の形で存在を得た、謂わばオルタナティブの一側面だったわけだが……かつて人類史で、あれほどの力を持つ大悪魔が人間の前に姿を見せたことなどなかった」

 

苦笑、そう表現して差し支えない笑みを浮かべて、レフは首を振った。

 

「加えて、それを撃退した存在が人類にいて、かつ我々のプロジェクトはそのような特記戦力こそ必要としていた……まあ、関係者一名の出向を以て落とし所とした君の手腕は誇るべきものだ。大丈夫、きっと全て上手くいくよ。自信を持つんだ、マリー」

 

「ええ、そうよ、そうですとも。こんな詰まらないことに何時までも関わっていられない」

 

オルガマリーは自身に言い聞かせるように呟くと、改めて周囲へと目を向けた。

 

「各員、レイシフトは予定通り定刻で執り行います! 侵入者はその後で捕獲します。自分の仕事に集中なさい!」

 

スタッフ達はそれを聞き、各々に返事を返すと自身の職務を全うすべく動き始めた。

 

「レイシフト開始まで、あと三十分。マスター候補生は指定のコフィンへ搭乗し、準備を整えてください」

 

オペレーターの言葉を聞いて、慌ただしい管制室で一人、笑みを浮かべる者がいた。

 

「ああ、楽しみだ。ようやく始まり、ようやく終わる」

 

レフ・ライノールがくつくつと、そう呟いた言葉を、耳に出来た者はその場には一人も居なかった。




横島と相性のいいサーヴァントって誰でしょうね?
個人的にはイシュタルか、カーミラ(老)だと思うんですが。
一応、最初に召喚するキャラは決まっています。


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リポート5.幕開けは花火のように3

だいぶ短め。
次でプロローグは終わりです。
仕事が一段落すれば週一更新は終わるはず。



「さて、それじゃ私もそろそろ行くとするよ」

 

レイシフトなる、横島の知らない単語を含んだアナウンスが流れると、レオナルドはそう言って立ち上がった。

 

「あのー、結局俺はどうなるんでせうか?」

 

既に力関係を理解し、下手に出ることにかけては世界有数の経験を誇る横島は、もはや全面降伏の様相で言った。

 

「ここで待ってればいい。何、安心したまえ。騒ぎにはなってるだろうが、君のしたことが深刻な影響を出したかと言われればノーさ。カルデアはそう柔な施設じゃない」

 

レオナルドは会ったとき同様の魅惑的な笑みと共に返して出ていった。

 

「……不思議な美人だったなー」

 

取り残された横島は、そう呟くと持ち込んでいたリュックサックから衛星電話を取り出す。

取り敢えずの状況を、美神へと伝えるためだ。

 

『はい、美神除霊事務所ですけど?』

 

コールもほぼなく、美神の声が聞こえてくる。

 

「あ、美神さん! 横島っす!」

 

『……あんた、密輸船のブツをパクって逃げたでしょ』

 

あ、これ目の前にいたら先に拳なやつだ、と横島は感じた。

 

『補填と現地警察への根回しに、いくら掛かったか知りたい?』

 

「お、俺も必死だったんすよ!? 不可抗力ですって!」

 

『ほー、口ごたえするのね?』

 

「みか──」

 

『東京湾で浮かぶか沈むか、考えておきなさい』

 

ガチャ、ツー、ツー、ツー

 

「………………あかん、確実に殺られる」

 

脳裏に浮かぶ自分の末路に、背筋が寒くなるのを感じた。横島は半泣きになりながら再度電話をかける。

 

『はい、美神除霊事務所です』

 

「美神さん美神さん美神さん! 俺が悪かったんでどうか寛大なご処置をー!!」

 

『あ、横島さんですか!?』

 

しかし、電話口から聞こえてきたのはおっとりとした優しげな声。

 

「お、おキヌちゃんか!? 美神さんは!?」

 

『えーと、なんかコンクリート買いに行くって今出ていきましたけど……』

 

「沈める気満々じゃねーかって違う! なんか、美神さんから聞いてない? このままだとワケわかんないまんま海底に沈んでまう!」

 

『特には……あ、でも一つだけ』

 

おキヌの声は、どこか棒読みで、

 

『えーと、過去へれいしふと? するなら、必ずえーれーと契約しろ、と』

 

「は、はぁ? 何のこっちゃ一体……レイシフトって、さっき、放送で言ってたやつか? えーれーってのはわかんないけど、それが?」

 

『そうしないと、死ぬそうです』

 

「え゙」

 

『あ、もう切らなきゃ、横島さん、どうかご無事で!』

 

ガチャ

 

後には、沈黙だけが残った。

 

………

……

 

「……ご自分で伝えればいいじゃないですか」

 

電話を置き、おキヌが振り返った先には、美神が椅子に座ったままそっぽを向いていた。

 

「ふん、あんな丁稚がどうなろうが知ったこっちゃないわ。なんで私がそこまで世話焼かなきゃなんないわけ?」

 

「横島さんに伝えるために調べたんでしょうに」

 

「戻ったらどのみち折檻よ。死なれたら怒りのやり場に困るじゃない」

 

(素直じゃないなぁ)

 

おキヌは苦笑いを浮かべつつ、茶でも淹れようと台所へ向かう。

一体同じようなことが何度あったのか。

それは予定調和のような、美神除霊事務所の光景であった。

 

………

……

 

そして、物語はようやく幕開けを迎える。

その瞬間を待ち望む者達が集うカルデアにおいて、いくらかの異物を混入したまま、人理救済を銘打つプロジェクトが、ついに始まろうとしていた。

 

 




CCCコラボ始まりますねぇ。
みなさん準備はお済みですか?(石的な意味で)

クロスオーバーではそのキャラが言いそうな台詞を考えるのに苦慮します。
なんか不自然あったらご免なさい。


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リポート6.幕開けは花火のように4

クロスオーバーとしているように、横島はあくまでゴーストスイーパー側の主人公です。
では、FGO側は誰かと言う話ですね。


突如として響き渡ったその音が何なのか──それを答えることは横島にとって造作もないことだった。

何度も経験した音だ。

時に自分で起こし、時に巻き込まれ、恐らく同世代でこれ程その音と慣れ親しんでいるのは自分くらいだろうとさえ思う。

 

そして同時に、今、起こってはいけないと言うことだけは理解できる。

 

「ば、爆発か!? レイシフトって爆発のことかよ!?」

 

施設全体に響く振動に爆音。

もはや疑いようもない、それは何かがどこかで爆発した音だった。

 

「む、無茶苦茶ヤな予感がする……ここは行くべきか? ああでも! これまでの経験から絶対ろくでもない目に合う気がする! 俺は、どうすれば……」

 

頭を抱える横島だが、意外にも迷っていたのは数秒だった。

 

「……行くか。レオナルドちゃんは待ってろっつったけど、こんなん予定外なんだろうし」

 

もしかしたら誰かを、助けられるかもしれないし。

そんな想いを胸に、横島は部屋を出た。

 

「煙は……こっちからか」

 

より災害の匂いが濃い方へ、足を踏み出す。

 

「ああ、後悔すんだろうなぁ。クソー、こんなとこ来るんじゃなかった……」

 

なんとも勇気のない、情けなさの漂う有り様ではあったが、前へ。

 

………

……

 

『緊急事態発生 緊急事態発生──』

 

不穏な言葉を告げる電子音声のアナウンスが響く施設の中をどれ程進んだか。

遂に横島はその爆心へと到達した。

 

「なん、だこりゃ……ひでぇ」

 

目の前の光景に顔が歪む。

崩れ落ちる設備、立ち上る炎。

それはひとしきりの惨劇が起こり終わった、残骸の掃き溜めであった。

 

「あっ!」

 

辺りを見渡していた横島が何かに気付く。

駆け寄った先には金属製の棺桶に似た何か。

爆発に巻き込まれたそれはひしゃげ倒れており、あろうことかそこから人の手(・・・)が見えている。

 

「ま、マジかよ!?」

 

横島が僅かな隙間から覗くと、

 

「うっ……」

 

思わず目を背けたくなるような大ケガをした、自分と同世代くらいの青年が意識を失っていた。

 

「クソ、文珠でどうにか────あ?」

 

自身の霊能を使おうとした、まさにその瞬間、横島は気付いてしまった。

 

目の前の、潰れかけた棺桶。

人一人分のスペース(・・・・・・・・・)を有するそれが、一つではないことに。

 

「これ、全部そうだってのか!? 文珠はあと四つしかねーんだぞ……」

 

見渡せば、いたるところに似たような状況の棺桶が見える。

人が入っているのが、目の前のこれだけであるなどと、到底考えられなかった。

 

「ジョーダンじゃねえ、これじゃまるで爆破テロ──」

 

言い掛けて、

 

「いや、まさか、本当にそうなのか!?」

 

恐らくは事の、真相に届く。

 

「こんな辺鄙な山奥で爆破テロ? 確実に内部の犯行じゃねーか……ヤバいなんてもんじゃねえぞ!?」

 

明らかに、ここにいる助けを必要とする命の数は横島の手に余る。

だが、手を尽くさなければ一人も助からないだろう。

 

その手の数が、圧倒的に足りなかった。

 

「誰か! 誰かいねーのか!? 動ける奴いたら手ぇ貸してくれ!!」

 

立ち上がり、奥へと進む。

横島の霊能である文珠は、特定の文字をキーに効力を発揮する特徴がある。一人一個では足りないが、怪我人をまとめておけば一気に治癒出来る可能性もあった。

 

 

『レイシフト最終段階に移行します。

座標 西暦2004年 1月 30日 日本 冬木』

 

 

「おーい! 誰かー!」

 

しかし、呼び掛けに応えるものはいない。

横島の顔に、珍しく焦燥が浮かぶ。

 

「まさか、全滅したとかじゃ……ん?」

 

その時、瓦礫の奥に橙に近い色が映り込んだ。

始め気のせいかとも思ったそれは、どうやら人の頭部らしい。

 

棺桶の外に、自分以外の人間を見つけた横島は大急ぎでその場所へ向かう。

 

「おい、あんた、大丈夫か!?」

 

近寄って声をかけると、その小柄な人物はゆっくりと頭を傾けた。

 

「え………………横島!?」

 

「お前……藤丸か!?」

 

どのような偶然か、横島はその人物を知っていた。

高校の元クラスメイトであり、少し前に海外留学すると学校から去っていった──藤丸立香という名の少女を。

何度かセクハラもしたことのある相手と、まさかの場所で遭遇した横島は、狼狽を露にする。

 

「おま、オカルト関係者だったのかよ!? いや、それより怪我はねえか? 動けるなら他の連中を助けっから、手ぇ貸してくれ!」

 

その言葉に、立香は驚きの声を挙げる。

 

「たす、ける? 助けられるの!?」

 

「わかんねえけど、なんも出来ないってことはないはずだ。とにかく怪我人を一ヶ所に集めてだな──」

 

「なら助けて!!」

 

横島の説明を遮るように、立香は叫んだ。

 

「マシュを、この子を助けて……」

 

そっと、体をずらした先に、もう一人の少女がいることに、横島は気付く。

不思議な色の髪をして、病人のように肌が白く、ただただ儚げな少女が。

 

「なんだ? その子も怪我を……って、っ!?」

 

その下半身を瓦礫の下敷きとされながら、立香と手を繋いでいた。

 

「お願い、横島……私、何にも出来なくて、知らないのに、この子は私を先輩って呼んで優しくしてくれたのよ!」

 

「……いいんです、先輩」

 

話すのも辛そうな様子で、マシュと呼ばれた少女が声を出す。

 

「そちらの……横島、さん、ですか? もしそんな力があるのなら、どうか他の皆さんをお願いします」

 

今にも消えそうな懇願の声に、横島は突き動かされたように二人へ近寄った。

 

 

『アンサモンプログラム セット。

マスターは最終調整に──』

 

 

【浮】

 

淡い光と共に、マシュに負荷を掛け続けている瓦礫が宙へ浮いた。

 

「あ、え?」

 

唐突に和らぐ痛みと、瓦礫により塞き止められていた出血により、マシュの意識がくらりと揺れる。

 

【治】

 

次いでその出血が止まり、最低限の生命力が華奢な身体に戻ってきた。

 

「悪い、流れちまった血は戻せないから、少し我慢してくれ」

 

横島はどこか困ったような笑みを浮かべつつ、マシュの手を取って、立香と協力して浮いた瓦礫の下から移動させた。

 

「ありがとう、横島、ありがとう」

 

「す、すみません。私などの為に、貴重な礼装を消費させてしまって……」

 

泣きながら感謝を告げる立香に、申し訳なさそうに謝罪を口にするマシュ。

 

「いいっていいって、どのみち……全員を助けるのは無理そうだしなぁ」

 

未だ尽きぬ炎と、崩壊の兆しをそこかしこに見せる周囲の状況は、一刻も早いこの場からの避難を急かすようだった。

こんな中で、非力そうな少女一人二人が増えたところで何が変わるというのか。

相変わらず手が足りないが、事は既に人力でどうこうできる次元を超えていた。

 

「それに、女の子に助けて、っつわれたら助けねえと、横島忠夫失格だからな!」

 

グッと親指を立てておどける横島に、横たわったマシュは真剣な面持ちを返す。

 

「横島……忠夫さんと言うのですね。私は、マシュ・キリエライトと申します。その口ぶりでは、さぞ沢山の女性を助けてこられたのでしょうか……はっ、もしやこれが、噂に聞くプレイボーイというヤツでは」

 

「ううん、マシュ。違うよ、むしろ女性の敵だよ」

 

涙を拭いつつ訂正を入れる立香。

 

「おいコラ、折角珍しくマトモな第一印象なのに水差すんじゃねえ藤丸」

 

「ありがとう、横島。本当に感謝してるよ? 私にして欲しいことがあったら何でも言ってね?」

 

「マジか!? 言っとくが俺の欲望は果てしなく遠慮しないぞ!?」

 

くわっ、と我欲まみれの表情となる横島。

 

「……ね?」

 

「はあ、なるほど……ですが、今のは些か誘導的だったような」

 

一時、まるで周囲から切り離されたようなやり取りと、笑みが交わされる。

 

 

『観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました』

 

 

「あ、カルデアスが……」

 

マシュの声に視線を追うと、

 

「なんだありゃ……赤い、地球儀?」

 

そうとしか言い表し用のない代物が鎮座していた。

 

 

『シバによる近未来観測データを書き換えます』

 

『近未来百年までの地球において、人類の痕跡は 発見 できません』

 

『人類の生存は 確認 できません』

 

『人類の未来は 保証 できません』

 

 

続くアナウンスに、どうしようもない焦燥を駆り立てられる。何か、恐ろしく致命的な何かが手遅れとなってしまったかのような確信が、その場の三人を支配した。

 

「……どういう、意味?」

 

立香の呆然とした呟き。

 

「じ、人類の未来はこれからだ! 的な? 少年漫画によくある、未来は白紙だ、さあいこう的な?」

 

横島の引き笑い気味な意見。

 

「……シバは観測レンズです。それが、百年先まで人類の存在が確認できないと」

 

マシュは悔いるように、

 

「先輩、横島さん……人類は、絶滅しました」

 

その答えを口にした。

 

「いや、いやいや、そんなんおかしいやろ!? そらここだけ見てみりゃ地獄みたいだけどさ、いくらなんでも──」

 

こんなとき、曲がりなりにも霊能力があるというのは厄介だ。

己の言葉を否定する最たる根拠……霊感がある。

 

「そんなことあるわけ……」

 

 

『全工程 クリア

ファーストオーダー 実証 を 開始 します』

 

 

光が、惨状に覆われた空間に広がっていく。

 

 

「今度はなんだってんだ!?」

 

「わかんないわよ!」

 

 

 

 

「お二人に、お願いがあります」

 

 

 

 

「手を」

 

 

 

 

「握っていてはくれませんか?」

 

 

 

 

右手が少女の柔らかな手を掴んだところで、横島は自分の意識と身体がどこか遠い場所へと引っ張られていく感触を感じた。

 

斯くして、幕は上がる。

未だ何も知らぬまま、何時の間にやら重い使命を背負わされ、途方もない旅路が始まる。

 

彼の名は横島忠夫──ゴーストスイーパーである。

 




プロローグ終わり!
ちょっと真面目シリアスな横島。
難しいですね。
あとぐだ子は色々迷って横島の知り合いとしました。


たくさんのご意見ありがとうございます。とても考えさせられてためになります。

次回から、遂に特異点でのお話となります。


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特異点F:炎上汚染都市冬木
リポート1.ハートに火をつけて



オーライ、問題は3つだ。
仕事、コラボイベ、羽根

こいつらが揃って僕から時間をね?

次はなるべく早くあげます、ごめんなさい、


目が覚めると、そこは燃え盛る街中だった。

 

「夢……だった試しがないんだよなぁ、こういう場合」

 

横島は身を起こす。軽く動きを確かめるが、特に異常はない。荷物もあった。

 

「さっきの光、まるで美神さんの時間移動に巻き込まれたみたいだった……レイシフトってのは、そういうことなのか?」

 

そこかしこで上がる火の手は、しかし、横島にはどこか見慣れたものだった。

 

「……ただの炎じゃないよな……タマモの狐火にも似てっけど、もっとヤなもんな気がする」

 

とは言え、基本的に専門知識が足りていない横島に詳しい分析など出来るはずもない。

人気のない街へと足を踏み出した。

 

「ああ、夢であって欲しい。目が覚めたらまたあのオンボロアパートの汚い部屋で朝日を拝みたい」

 

既に及び腰の横島はそう呟く。

 

「藤丸やマシュちゃんも巻き込まれてたりするのか? さすがにわかんねえことだらけで頭破裂しそう……」

 

泣きが入りつつも足が止まらないのは、それまでの人生経験の賜物か。予想外の出来事がさも当然のように起こる職場に、この時ばかりは感謝する横島であった。

 

「藤丸ー、マシュちゃーん、どこだー?」

 

とりあえずとダメ元で行った呼び掛けに、

 

ガシャリ

 

と、反応があった。

 

「お?」

 

ガシャリ

 

それは何処かで見たことのある光景だった。

 

ガシャリ、ガシャリ

 

さらに言えば、何度も出くわしてきた状況でもあった。

 

ガシャガシャガシャガシャガシャガシャ‼

 

大量の、明らかに敵意を持つ、武器を持った骸骨の群れである。

 

「………………え゙!?」

 

有り体に言えば、つまりは危機的なシチュエーションというヤツだ。

 

「どこの人外魔境だここはぁぁぁぁっ!!」

 

恥も外聞もなく涙を飛ばし鼻水を噴出しながら走り出した横島と、骸骨達の追いかけっこが幕を開けた。

 

………

……

 

朽ち掛けた鉄塔の上に、その射手はいた。

崩壊した街の大半を視界に収め得るロケーションにおいて、射手は一人考えに更ける。

 

それは、自身がつい先程矢を射掛けるも仕留められなかった、盾を持つ少女。

 

「察するにサーヴァントであることは間違いなかろうが……あれはこの聖杯戦争に呼ばれた者ではないな」

 

ふむ、と射手はアゴに手をあて思案する。

 

「イレギュラーか? であればこちらの事情とは切り離された存在……そうか、ついに来たということか、セイバー」

 

大盾を持ったサーヴァントは、こちらの先制射を防ぐと、すぐに入り組んだ路地へと身を隠してしまった。

思えばあの時、無理をしてでも周囲ごと吹き飛ばす心算で追撃を行うべきだったか。

 

射手は手短に反芻と後悔を終えると、

 

「まあいい」

 

と一言でそれを打ち捨てた。

元より早いか遅いかの問題でしかない。

 

この街に降り立った以上、時間切れなどという結末は自分も彼女も許さないであろう。

 

ならば最後の一騎になるまで殺し合い続けるまで。

それは正しく履行される聖杯戦争の一幕に過ぎない。

 

「さて、あとはマスターと、生き残りのキャスター……ん?」

 

再び街並みへ視線を向けた射手は、

 

「………………………………なんでさ」

 

呆然とした様子で声を漏らしていた。

 

視線の先に、アンデッドの群れに追われる青年の姿が映っている。

みっともなく泣きわめき、驚異的な反射速度で背後からの攻撃を躱し、走り続けるバンダナの青年が。

 

「くっくっくっ、そうか」

 

射手の口許が、殺意と共に綻ぶ。

 

「よもや、そしてまたしても(・・・・・)貴様か!」

 

射手が狙いをつける前に、青年は商店街の裏路地へと消えた。

いや、そもそも射手は殺意こそ抱きつつも、その手に持った弓を動かすことはついになかったのである。

まるでそれが、無駄だと知っている(・・・・・・・・・)かのように。

 

「良いだろう……その得意な生き汚さで以て、幕を引いて見せろ道化師め」

 

青年が消えた方を寸分違わず睨み付けながら、

 

「だがその前に、今度こそ俺の矢で殺してやる」

 

灼熱が微塵も尽きることのない炎上都市へと向けて。

 

「……ヨコシマ!」

 

黒い弓兵は、そう吠えた。

 





黒い弓兵……一体何者ミヤなんだ。

メルトリリスの腹筋について語り合える同僚がいる僕は、とても恵まれていると思いました。

次はもっと長くなる予定です。


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