姫と守護者の物語 (寅祐)
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プロローグ

初めまして寅祐です。小説書き始めてまだ書き始めて日が浅く読みづらいかと思いますが読んで頂けるよう頑張っていきたいと思います。どうか宜しくお願いします。
プロローグなので少し短めです。


  神社境内で少女は無言で広い拝殿の中央に座っている。まだ幼さは残しているが、綺麗な顔立ちの娘である。そんな彼女は静かに待ち人を待ち続けていた。

  

 

  数時間前

 

 

 「第四真祖という言葉に聞き覚えはありますか?」

 

 

 獅子王機関に仕える少女である姫柊雪菜は自分の目の前にいる獅子王機関の実権を握っている三聖の質問に困惑していた。

 

 

 「噂程度には……」

 

 

 「一切の血族同胞を持たない、唯一孤高にして最高の吸血鬼です」

 

 

 「しかし第四真祖は都市伝説の類だと聞いています」

 

 

 雪菜の言葉に三聖の一人が首を振りながら雪菜の手元に1枚の写真を飛ばす。その写真の人物は高校の制服を着ていて友達となか良さげに喋っている一人の男子生徒が写っていた。

 

 

 「この写真は?」

 

 

 「暁古城というのが彼の名前です。知っていますか?」

 

 

 「いいえ」

 

 

 雪菜は正直に首を振る。実際、初めて目にする顔だった。

 

 

 「その人物が第四真祖だと確認が取れていませんが確かでしょう。そしてあなたにはこの第四真祖の監視役の任に就いてもらいます。」

 

 

 「私が第四真祖の監視役を?」

 

 

 「ええ。そして、もしあなたが監視対象を危険な存在だと判断した場合、全力を持ってこれを抹殺してください」

 

 

 「抹殺……」

 

 

 雪菜は動揺して言葉を失った。そして三聖は雪菜に一振りの銀の槍を渡した。その槍は雪菜も名前は知っていた。

 

 

 「これは……」

 

 

 「七式突撃降魔機槍『シュネーヴァルツァー』です。銘は雪霞狼」

 

 

 知ってますね、という三聖の問いかけに、雪菜は頼りなくうなづいた。世界に三本しかない獅子王機関の秘奥兵器である。

 

 

 「これを……私に?」

 

 

 差し出された槍をおもむろに受け取りながら、雪菜は信じられないという表情で訊いた。そして三聖は重苦しいげに息を吐く。

 

 

 「しかしこれだけでは一国の軍隊に匹敵する戦闘力を持つ第四真祖相手では少し心もとないでしょう。その為に今回あなたの護衛をある人物に頼みました」

 

 

 「護衛ですか?」

 

 

 「はい、腕は確かです。行動に多少の問題はありますがもしも第四真祖を抹殺する場合、彼は大きな力になってくれるでしょう。しかし手綱はしっかり引いておきなさい、彼がもし敵になったらとても厄介です」

 

 

 雪菜は絶句した。真祖と戦える、そして実力者である三聖にそこまで言わせる人物、そんな人物に護衛をしてもらう。そして第四真祖の監視役、とても荷が重すぎる。しかし三聖は雪菜の気持ちを無視し話を進め始める。

 

 

 「この任務受けてくれますね。姫柊雪菜」

 

 

 「……はい」

 

 

 雪菜は迷うが誰かがやらなければ、いずれ多くの人が災厄に巻き込まれるのだ。そう雪菜は自分を鼓舞し第四真祖の監視役の任を承諾した。

 

 

 「改めて命じます、姫柊雪菜。あなたはこれより護衛の者と協力し全力を持って第四真祖に接近し、第四真祖の行動を監視するように。彩海学園への転入手続きは、すでに済ませておきました。護衛の者が来るまでここで待っていなさい。以上」

 

 

 一方的に言い残して三聖の気配が消えた。そしてそれから何時間も待っているのだが護衛の人間が来る気配がいっこうにしない、太陽が西に傾きかけた頃に遠くから走って来る人物が見えて来た。歳は雪菜よりも二つか三つぐらい上に見える、髪の毛は真っ白で瞳の色は空色で顔はイケメンと言われる顔だろう真夏の今日に長袖長ズボンという変わったファッションでこちらにやって来たその人物はとても三聖が厄介だと敵にまわしたくないと思わせる人物とは雪菜にはとても思えなかった。

 

 

 「こんにちは君が姫柊雪菜さんだよね。ごめんねー寝坊しちゃって、君の護衛の任務を任された冬坂優です。これからよろしくね、姫柊さん」

 

 

 冬坂優と名乗ったその人物はとても遅れて来たことを悪びれもせず少年のような笑顔で挨拶をした。雪菜はこれからの事を思うとため息をつかずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

  

 




読んでいただき本当にありがとうございます。ここの文章おかしくない?などの感想や一言だけでも作者がとても励みになります。感想お待ちしています。次話は一週間以内に更新できたらなと思っています。これからも姫と守護者をよろしくお願いします。


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第1話

更新遅れてしまって申し訳ありません一応プロローグを入れたら第二話になります。感想、お気に入り登録ありがとうございます。作者の励みになります。本当にありがとうございました。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


  魔族特区絃神島は太平洋上に浮かぶ小さな島である。雪菜がその地に足を踏み入れたのは雪菜の護衛の任務を受けたという謎の男、冬坂優という男と出会ってから次の日であった。彼は雪菜から見てとてもおかしな人であった。護衛だというのになぜか頼りなく見えそしてなぜか自分のことを優と呼ばせたいらしく雪菜が冬坂さんと呼ぶとなぜかとても悲しい顔になる。そして雪菜の質問には守秘義務と言って何も答えてくれない、そんなこんなで冬坂優という人のことがよく分からないまま絃神島に到着していた。

 

 「冬坂さん、これから第四真祖と接触を試みます。二手で第四真祖を探しましょう。もし見つけたら私のところにすぐ来て下さい、お願いします」

 

 

 そう言うと雪菜は颯爽と街の方に走り去ってしまった。

 

 

 「えーと雪菜ちゃんは見つけたら俺には教えて……もういなくなってるし全く信用されてないねこれはどうも、さあ俺はどこを探しに行こうかな?それよりも冬坂さんか……何とも言えない気分だね」

 

 

 優はため息をつきながら雪菜とは逆の方に向かって歩き出した。しかしその歩いている姿は三聖が厄介な人物と言う強者の背中にはとても見えなかった。

 

 

 

 

 

 「熱い……焼ける。焦げる。灰になる……」

  

 

 午後のファミレス。窓際の席で雪菜が探している第四真祖、暁古城が弱々しくうめいていた。古城はテーブルに置かれている問題集を睨みつける。

 

 

 「今、何時だ?」

 

 

 古城の唇から漏れたのは、独り言のようなつぶやきだった。正面の席に座っていた友人の一人が笑いを含んだ口調で返事をする。

 

 

 「あと三分二十二秒で4時よ。」

 

 

 「もうそんな時間なのかよ。明日の追試って朝九時からだっけか」

 

 

 「今夜一睡もしなけりゃ、まだあと十七時間と三分あるぜ。間に合うか?」

 

 

 同じテーブルに座っていたもう一人が他人事のような気楽な声で訊いてきた。古城は沈黙し積み上げられた教科書を無表情にしばらく眺める。

 

 

 「こないだから薄々気になってたんだが」

 

 

 「ん?」  

 

 

 「この追試の出題範囲ってこれ、広すぎだろ。おまけに夏休みなのに週七日補習ってどういうことだ。うちの教師たちは俺になんか恨みでもあるんじゃないか!」

 

 

 「いや……そりゃ、あるわな。恨み」

 

 

 シャーペンを回しながら答えたのは、短髪をツンツンに逆立てて、ヘッドフォンを首にかけた男子生徒、矢瀬基樹というのが彼の名前である。  

 

 

 「あれだけ毎日毎日、平然と授業サボられたらねぇ。なめられてると思うわよね、フツー」

 

 

 優雅に爪の手入れなどしながら、藍羽浅葱が笑顔で言ってくる。

 

 

 「……だからそれには色々事情があるんだよ。だいたい今の俺の体質に朝イチからのテストは辛いんだって」

 

 

 「体質って何よ?古城って花粉症かなんかだっけ?」

 

 

 「ああ、いや。夜型っていうか、朝起きるのが苦手っていうか」

 

 

 「それって体質の問題?吸血鬼でもあるまいし」

 

 

 「だよな……はは」

 

 

 引きつった笑顔で言葉を濁す古城。そんなやりとりをしているうちに浅葱の前に積み上げられてある料理の皿が空になっていた。勉強を見てやるからメシをおごれ、と彼女に言われた時に、浅葱が非常識なぐらい大喰らいなのを忘れていたのを本当に悔やんでいた。

 

 

 「あーもうこんな時間? んじゃ、あたし行くね。バイトだわ」

 

 

 携帯を眺めていた浅葱が、残っていたジュースを一息で飲み干し立ち去っていった。

  

 

 「そういや、浅葱が他人に勉強を教えるなんて意外だったな。あいつ、そういうの嫌いだから」

 

 

 「嫌いって何で?」

 

 

 「頭がいいとかガリ勉とか思われるのが嫌なんじゃね。ああ見えて、ガキの頃にはけっこう苦労してんだ、あいつも」

 

 

 「あいつ、俺には文句言わずに教えてくれるけどな。今回は宿題もだいぶ写させてもらったし」

 

 

 「ほほう。そいつは不思議だなあ、なんで古城だけ特別なんだろうなあ」

 

 

 大げさに首を傾げながら、わざとらしく呟く矢瀬。しかし古城は、いやべつに、と首を振り、

 

 

 「だってあいつ、きっちり見返り要求してんじゃん。メシおごらされたり、日直やら掃除当番やらされたり、こっちだって苦労視点だからな」

 

 

 「こりゃあだめだ」

 

 

 矢瀬が明らかに落胆したかのように肩を落とした。

 

 

 「どうかしたか?」

 

 

 「いや、なんでもねえ。じゃあ、そろそろ俺も帰るわ」

 

 

 「あ?』

 

 

 「いやいや宿題も写し終わったし、浅葱がいなければもうここにいる意味もないしな」

 

 

 じゃあな、と荷物をまとめて立ち上がる友人を、古城がポカンと間の抜けた顔で見上げる。

 

 

 「はあ……俺も帰るか、凪沙のやつが、メシの支度を忘れてないといいんだが」

 

 

 古城はそう呟くと、教科書と問題集をカバンに放り込み、伝票を掴んで立ち上がった。レジで精算を済ませると、元から残念な財布のなかは、わずかな小銭しか残っていなかった。このままでは明日からの昼食代もままならないと思いファミレスを出て歩いて帰路についているのだがどうも後ろからギターケースを背負った制服姿の女子生徒があとをつけていた。

 

 

 「これ……つけられてるんだよなぁ?」

 

 

 古城から十五メートルほど離れた後方を、一人の少女が歩いている。彼女がきているのは古城と同じ彩海学園の女子の制服だ。襟元がネクタイではなくリボンになっているということは中等部の生徒なのだろう。古城が後ろを見ると電柱などに隠れたりしているが声をかけられるでもなく明らかに尾行されている。

 

 

 「凪沙の知り合いか? けどそれじゃあ声をかけないのはおかしいか? しょうがない様子みてみるか」

 

 

 そういうと古城はたまたま目についたゲームセンターへと入っていった。そうすると少女は尾行していることすら忘れてゲームセンターの前で途方に暮れていた。夕暮れ時、ゲームセンターの前で一人立ち尽くす少女の姿を見て古城は罪悪感に襲われた。しょうがないので自分から声をかけようと思い外に出ようとした瞬間。少女も決意をきめゲームセンターの中に入ろうとしていたらしくゲームセンターの入り口で鉢合わせしてしまった。お互いに無言で見つめ合っていたが先に反応したのは少女の方だった。

 

 

 「だ……第四真祖!」

 

 

 少女はそう叫ぶと身構えた。少女が古城を尾行していた理由は今の一言でわかった。どうにかこの状況を切り抜けようか考えていた時

 

 

 「雪菜ちゃん、やっと見つけたよ。せめて探す場所くらい教えてよ。そうしないと第四真祖見つけても雪菜ちゃんに連絡できないじゃん」

 

 

 気がついたら雪菜ちゃんと呼ばれている少女の横に立っていた青年は真夏なのに長袖がとても仲間意識を覚える格好だがその青年も第四真祖といっていたため多分古城にとっては面倒な相手なのだろう。

 

 

 「冬坂さん、すみません、けれど第四真祖には接触できました」

 

 

 

 「あー君が第四真祖なのかな?えーっと俺の名前は冬坂優です。よろしくね、第四真祖」

 

 

 冬坂と呼ばれた人物が古城に握手を求めて手を差し出してきた。もう隠すのは無理だと判断し古城が警戒心をあらわに少女と青年を睨みつける。

 

 

 「誰だ、お前ら」

 

 

 少女は、生真面目そうな瞳で古城を見返し、少し大人びた固い声で答えた。

 

 

 「私は獅子王機関の剣巫です。獅子王機関三聖の命により、第四真祖であるあなたの監視のために派遣されてきました。彼は、私の監視の任務をサポートしてくださる方です」

 

 

 は、と古城は、気の抜けた顔で少女の言葉を聞いた。彼女が何をいっているのかさっぱり分からない。しかし厄介事の予感だけはひしひしと伝わってくる。結局古城は今までのことを聞かなかったことにしようと思った。

 

 

 「あー……悪ぃ。人違いだわ。他を当たってくれ」

 

 

 「え? 人違い? え、え……?」

 

 

 少女は困惑したように視線を彷徨わせた。人違いという古城のでまかせを本気で信じている。案外、素直な性格なのかもしれない。その隙に立ち去ろうと背中を向けた瞬間、冬坂と名乗った青年が古城に近づいてきた。

 

 

 「ここはどうにかしといてやるから早く消えろ」

 

 

 そう古城の耳元で言った青年はとてもさっきのような穏やかな目ではなく、今にでもお前を殺せると視線で古城を脅迫していた。その視線は古城が今まで味わったことのない殺意そのものだった。

 

 

 「お前、あの娘の仲間じゃないのか?」

 

 

 「仲間さ、だからこそ君を彼女に接触させたくない、だから早くこの場を去れ」

 

 

 そう言うと青年は少女の方に戻っていった。それを見て古城は立ち去ろうとすると少女は慌てて呼び止める。

 

 

 「ま、待ってください!本当は人違いなんかじゃないんですよね?」

 

 

 「いや、監視とか間に合ってるから。じゃあ、俺は急いでるんで」

 

 

 「そうだよ、本人もそういってるんだしやっぱり人違いじゃない?」

 

 

 古城がその場から急ぎ足で離れていくなか、青年が古城を庇って少女と話をしていた。少女は呆然としていたが青年を振り切り古城の方に走ってきた。しかし少女のいく手を遮るように青年とはまた別に見知らぬ男二人に囲まれていた。

 

 

 「ねえねえ、そこの彼女どうしたの? 逆ナン失敗?」

 

 

 「退屈なら俺たちと一緒に遊ぼうぜ』

 

 

 古城と離れた少女をナンパしようてしているらしい、少女は冷ややかな態度で男たちを追い払おうとしているが、そのせいか、少々険悪な雰囲気になっていた。それなのにさっきの青年はその現状を他人事のように見ていた。

 

 

 「……いい歳こいて、中学生に手ェ出してんじゃねえよ。……おっさんたち」

 

 

 古城はほっとくべきかとも思ったが男たちが手首につけている金属製の腕輪である。その腕輪は魔族登録証、それを持っているのは普通の人間ではない。人外、魔族だ。もしあの魔族たちが問題を起こし特区警備隊が押し寄せあの少女と青年がもし第四真祖の正体をもらせば今までの平穏な暮らしが終わってしまう。そうなる前になんとかこの場を収めなくてはならない。古城は深々と嘆息し、少女たちの方に戻ろうとした。しかし彼女のスカートがめくれ上がったのは、その直後だった。お高くとまってるんじゃねえ、というような暴言を吐いて、男たちのどちらかが少女のスカートをめくったのだ。

 

 

 「若雷っー!」

 

 

 少女が呪文を叫び、次の瞬間、彼女のスカートに手をかけていた男がものすごい勢いで吹っ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 優は他人事のように今の現状を眺めていた。第四真祖を庇うために雪菜に意見を言ったのだが、私のことは放っておいてくださいと言われ、護衛主に言われた通りに放っていたらこの有様である。それに早く消えろと言った第四真祖がなぜか戻ってきているし、全く思い通りにいかないと優はため息をつきながら今の状況を見守っていた。

 

 

 雪菜に吹き飛ばされた男は獣人種だったのだろう。雪菜の掌底で壁に叩きつけられ完全にのびている。

 

 

 「このガキ、攻魔士か!」

 

 

 呆気にとられていたナンパ男の片割れが、ようやく我に帰って怒鳴った。男は恐怖と怒りに表情に顔を歪ませ、魔族としての姿があらわになる。真紅の瞳。そして牙。D種と呼ばれる一般的にイメージする吸血鬼である。

 

 

 「灼蹄! その女をやっちまえ!」

 

 

 そう言うとその吸血鬼の隣に出てきた黒い炎がやがて歪な馬の形に変わった。これが吸血鬼が魔族の王と呼ばれるゆえんである眷獣である。

 

 

 「こんな街中で眷獣を使うなんて!」

 

 

 雪菜が怒りの表情で叫んだ。吸血鬼がはめた腕輪が、けたたましい警告を発している。

 

 

 眷獣が雪菜に半ば暴走状態で突っ込んできた。すると雪菜は背負ってきたギターケースから何かを抜き放つ。

 

 

 「雪霞狼ー!」

 

 

 雪霞狼と呼ばれた冷たく輝く銀色の槍で吸血鬼の眷獣を一突きで消しとばしてしまった。それを見ていた優は憎たらしげに雪霞狼と呼ばれた槍を睨みつけていた。

 

 

 「あの槍、まだ存在していたのか、本当に憎たらしい武器だ」

 

 

 誰にも聞こえないよう小声で呟くと吸血鬼に止めを刺そうとしている雪菜を止めるため優は動き出した。

 

 

 

 

 

 雪菜は怒りのこもった瞳で男を睨みつけ、槍を構えて、硬直して動けない男へと突進する。そして槍が、男の心臓を貫こうとしたそのとき

 

 

 「ちょっと待ったァ!」

 

 

 その槍の先端が、突然、跳ねあげられて軌道を変えた。冷ややかに猛き狂っていた雪菜の目が、驚いたように見開かれた。そこに立っていたのは第四真祖、暁古城であった。驚いた雪菜は、突然現れた第四真祖を警戒し近くにあったワゴン車の屋根に着地する。

 

 

 「おい、あんた、仲間を連れて逃げろ、これに懲りたら中学生にナンパするのも、眷獣を使うのはもうやめろよ」

 

 「あ、ああ……すまん……恩にきるぜ」

 

 

 そう言うと男は気絶した仲間を連れて去っていくそれを見た雪菜は彼らの後ろ姿を、攻撃的な目つきで睨みつけていた。第四真祖はやれやれと息を吐く、雪菜は第四真祖に槍を構えたまま、避難がましい口調で言った。

 

 

 「どうして邪魔をするんですか?」

 

 

 しかしその質問に答えたのは第四真祖ではなかった。

 

 

 「まあ、あの状況だったら彼じゃなくても手を出すって』

 

 

 いつのまにか雪菜の後ろにいた冬坂優が子供をあやすように雪菜に語りかけた。しかし雪菜の怒りは治らなかった。

 

 

 「公共の場での魔族化、しかも街中での眷獣を使うなんて明確な聖域条約違反です。彼は殺されても文句は言えないはずです」

 

 

 「まあ、それを言うなら、先に手を出した雪菜ちゃんにも多少、非があるからね」

 

 

 「そんなことは」

 

 

 冷静に反論したが、雪菜は黙り込んだ。確かに冬坂さんの言うとおりである。すると雪菜の頭を冬坂さんが子供をあやすようになではじめた。恥ずかしくなった雪菜は冬坂さんの手を弾いた。  

  

 

 「やめてください、子供扱いしないでくだい」

 

 

 その時、冬坂さんの顔が一瞬、悲しみにくれていたように見えたが、気づいたら普段の冬坂さんの笑顔に戻っていた。

 

 

 「いやーごめん、ごめん子供扱いなんかやだよね、ごめんね」

 

 

 優がワゴン車の屋根から降りたその瞬間、まるでタイミングを見計らっていたかのように、離島特有の強風が吹き付けてきた。ワゴン車の屋根に乗っていた雪菜のスカートが、ふわりと無防備に舞い上がる。車の下にいた二人は無意識に視線が吸いつけられていた。息苦しい静寂が訪れる。

 

 

 「何で見てるんですか」

 

 

 両手で槍を構えたまま雪菜は訊いた。

 

 

 唖然としていた古城と優はようやく我に返って

 

 

 「いや、待て。今のは悪くないだろ。お前がそんな所に立ってるから」

 

 

 「いやー本当にごめん、見ちゃった。けど可愛らしかったよ」

 

 

 「もういいです。いやらしい」

 

 

 雪菜は構えを解くと槍を背中のギターケースに戻し雪菜は二人を一瞥してそう言い捨てると背中を向け走り去って行った。

 

 

 「はあ、困ったお姫様だ。じゃあ第四真祖君またもし会えたら二人でゆっくりお茶でもしよう」

 

 

 そう言うと優は雪菜が行った方向に向かった。古城もこんな所に長居はできないと立ち去ろうとしたが、ふと、道路に落ちていた何かに気づき眉をひそめた。それは二つ折りのシンプルな財布だった。その中に入っていた学生証にはぎこちなく笑うさっき出会った少女の顔写真と姫柊雪菜という名前が刷りこまれていた。

 

 

 

 




お読み頂きありがとうございます。少し進みが遅いですかね?次話から少しテンポアップできるように頑張りたいと思います。引き続き感想などもお待ちしてます。姫と守護者をこれからも見て頂けたら嬉しいです。お読み頂き本当にありがとうございました。


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第2話

進みが良くないなー、もう少しテンポアップした方がいいんでしょうか?見辛いかもしれませんが、楽しんでいただけたら嬉しいです。


 「ごめんね、私はあなたを殺さなくちゃいけないの」

 

 

 これはあの時の夢だろう。あの人が話しかけてくれる。

 

 

 「せめてあなたの名前を教えてくれる?」

 

 

 答えられない。僕には名前なんてものはないのだから。

 

 

 「そう、答えられないか。ごめんね」

 

 

 そう言うとあの人は、背中から銀色の槍を取り出し、僕に向かって槍を構えた。その姿は敵なのにとても美しく神々しかった。

 

 

 「僕はさ……なんのために生きてたのかな?」

 

 

 僕は気づいたらそんなことを口にしていた。ほとんど無意識だった。するとあの人は構えていた槍をしまい始めた。

 

 

 「僕のこと殺さないの?」

 

 

 するとあの人は、僕のところまで目線を合わせて、笑みを浮かべて僕の頭をなで始めた。

 

 

 「殺したよ。昔のあなたは、これからはあなたに、色々な人やものや世界に出会わせてあげる。そして新しく生まれ変わったあなたに私が、生きてる意味を教えてあげる。もしそれでも生きてる意味が見つからなかったらまた殺してあげる」

 

 

 そう言うとあの人は僕の手をひきはじめた。僕は抵抗する気は全くなくあの人に手をひかれるまま歩き出した。

 

 

 「そうだ。昔のあなたはもう死んだんだし新しい名前を考えないとね。うーん……そうだ優くんなんてどうかな? 我ながらいいわね。決定です。よろしくね、優くん」

 

 

 「ユ……ウ?」

 

 

 「そうあなたの名前だよ。優しく育って欲しいなって、うーん親が子供に名前を決めるのはこんな気持ちなんだー。じゃあ私はあなたの名前の名付け親だからあなたのお母さんだね。これからよろしくね、優くん」

 

 

 そう言うとあの人は今まで僕が見たこともない美しい笑顔で僕に微笑みかけてくれた。そう、この時、僕は優に生まれ変わった。

 

 

 

 

 「大丈夫ですか、冬坂さん?」

 

 

 目の前には優の護衛対象である姫柊雪菜がいた。宿泊先であるホテルで寝てしまっていたのだろう。しかしなぜ雪菜がこの部屋にいるのか、雪菜とは別々の部屋を取っていたはずだったのだが、それになぜか雪菜が優の頭をなでている。

 

 

 「どうしてここにいるの、雪菜ちゃん? もしかして隣の部屋に俺がいると落ち着いて寝られないか、それだったら外で寝るけど? それと俺の頭をなでてるのは、なんか関係があるのかな?」

 

 

 「いえ、そんなことはありません、今日のことを謝りに来たのですが、そうしたら冬坂さんが寝ておられたので明日、謝ろうと思ったのですが、そうしたら冬坂さんが涙を流されていたのでつい頭をなでててしまっていました。気分を害されたのでしたら本当に申し訳ありません」

 

 

 優は驚いて自分の目元を手で拭ったら確かに涙が流れていた。すると優は笑いだした。

 

 

 「いやーごめん、ごめん、心配かけちゃったみたいだね。それで謝りたいことってなに?」

 

 

 「今日のことです。私のせいで第四真祖との接触もうまくいかず、それによりにもよって財布を落として冬坂さんにホテル代と夕ご飯のお金をお借りするはめになってしまい、本当に申し訳ありません」

 

 

 雪菜は本当に申し訳無いと思ってるのだろう。とても綺麗な土下座で謝罪していた。

 

 

 「そんなこと気にしなくていいよ。第四真祖の接触だってまだチャンスはあるよ。それにもしかしたら第四真祖は別人かもしれないしそれに、第四真祖は本当に都市伝説の存在かもしれない」

 

 

 すると雪菜は一瞬で雰囲気が変わり優の事を見つめ始めた。

 

 

 「まだ、何か話しておくことがあるかい。雪菜ちゃん?」

 

 

 「はい、あなたは一体何者ですか、冬坂さん、あなたのことは三聖からお聞きしました。敵にすると、とても厄介だと、しかし今までのことから考えても三聖の方々が恐れている人とはとても思えません。それに今日もそうですが、冬坂さん、あなた第四真祖を庇っていませんか? あなたは本当に何者何ですか?」

 

 

 「うーん、何者と言われても、冬坂優、獅子王機関に雇われ姫柊雪菜の護衛を任された者だよ。それと俺は雪菜ちゃんの上司である三聖に恐れられるのもおこがましい者だよ。それと第四真祖を庇うなんてとんでもない。俺は雪菜ちゃんの味方だよ。まあ信じろだなんて言わないけど、だから雪菜ちゃんは俺のことは盾ぐらいに思っていてくれればいいよ」

 

 

 そう言うと優は玄関の方に向かい歩き始めた。

 

 

 「どこに行かれるんですか?」

 

 

 「少し、散歩してくるね。雪菜ちゃんも明日学校行くんでしょ。早く寝なよ」

 

 

 優はドアを閉め部屋に残されたのは雪菜だけになっていた。雪菜は自分の部屋に戻ろうとした時、机の上に伏せられた写真が置いてあった。雪菜は見てはいけないと罪悪感はあったが好奇心が勝ってしまいつい見てしまった。

 

 

 「この写真は……」

 

 

 その写真は小さき頃の自分と冬坂優が仲むつましくしている写真であった。

 

 

 

 

 

 

 

 優は自分の行動に驚いていた。

 

 

 「まさか、飛び出しちゃうなんてね。それにしても、まさかあんな夢を見るなんて、それに俺が涙なんて流すなんて本当にどうにかなっちゃたかな。俺も」

 

 

 優は上着のポケットに手を突っ込んだ。しかし、そこに入っていると思った物がなかった。

 

 

「まずい、気が動転して写真を置きっ放しにして忘れるなんて、雪菜ちゃんにだけは見てないといいけど」

 

 

 優は急いで自分の部屋に戻ったがその部屋には雪菜はおらず、机にあるはずの写真はなくなっていた。

 

 

 「これは見られたかな……」

 

 

 優はそのまま部屋を立ち去り、夜の街並みに消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 雪菜が目を覚まし、周りを見渡しても彼は帰って来なかった。雪菜はあの写真を見てどうしてもあの写真のことを聞きたくて、彼が帰ってくるのを待っていたのだが、いつのまにか寝てしまっていたようだ。しかし雪菜にはあの写真を見てもその頃の記憶が一切なく、そして一番の疑問が写真に写っていた冬坂優である。今のように白髪ではなく、写真では黒髪、瞳は今のような綺麗な空色の瞳が写真では黒色のまるで日本人のような人物である。そして雪菜が見る限り小学校低学年に見える、そのためこの写真は六、七年前に撮られた写真なのに冬坂優は今と髪と瞳の色以外何も変わっていないのである。

 

 

 「本当にあなたは何者なんですか、冬坂さん」

 

 

 疑問ばかり残りながらも雪菜は第四真祖の通っている彩海学園に編入手続きをしに行くのだ。夏休みあけから雪菜も彩海学園の中等部に通うことになっているのだ。冬坂さんもその頃には帰ってくるだろうと思い雪菜は学校に向かった。

 

 

 

 

 

 

 優は雪菜と第四真祖である暁古城がハンバーガーショップに入るのを遠くから見送っていた。優は結局ホテルには戻らず近くの公園のベンチで寝た。朝に弱い優だが雪菜の護衛はまだ続いているため眠気と戦いながら雪菜を今日は気づかれないように遠くから護衛し続けている。すると優の周りに烏が飛び回っていた。

 

 

 「今のところ大丈夫かな? それよりも何の用だ」

 

 

 優が自分の上を飛んでいる烏に声をかけると烏が優の肩に降り立った。するとその烏が老人のような声で烏が話し始めた。

 

 

 「どうだ? 順調か、護衛の任務は」

 

 

 「よく言うよ。写真を雪菜に見せたのはお前だろ。あの写真をもらったのはお前からだし、それにお前だったら俺を出し抜くのも造作もないだろ。仕事の前に決めた約束をまさか忘れたのか」

 

 

 すると優の周りから魔力が集まり始めた。すると烏は笑い出し優を見つめる。

 

 

 「落ち着け、写真の件に関してはすまなかったな、約束は忘れていないさ、その方があの娘にもお前にも意味があると思ってやったことだ。しかし第四真祖とあの娘が距離が少し縮まってくれてよかったよ」

 

 

 「そうだな、お前からしたら雪菜と第四真祖が近づかないと計画が進まないしな。だがもし約束を犯すことをして、もし雪菜にこれ以上の害が出ると分かったら第四真祖もお前らも、雪菜の害になるもの全て俺が殺す」

 

 

 優の雰囲気が一瞬にして変わり今の言葉は冗談ではないことを告げている。すると烏はゆっくりと語り始めた。

 

 

 「そうか……だからこそお前にこの仕事を頼んだ。あの娘がいればお前はむやみやたらに動けない、そしてあの子のためならお前は鬼でも修羅にでもなる。だからせいぜい彼女を守り続けるんだな、それが我々のためそしてお前のためになる」

 

 

 すると烏の姿は解け、一枚の紙となりふわりと風に乗って舞い上がっていった。すると優はため息をつきながら遠くから雪菜の護衛を続ける。

 

 

 「雪菜の害になるもの全てを殺すか……なら俺が一番最初に殺されなくちゃいけないのかもな」

 

 

 その言葉は誰にも聞こえていない、そしてこの言葉の意味を知る必要はない、そして雪菜の知っている冬坂優に今、戻らなくてはいけない。

 

 

 「さーて、雪菜ちゃんに写真のことどうやって説明しようかな」

 

 

 するといつもの笑みを浮かべて雪菜と第四真祖のいるハンバーガーショップに向かって入って行く、その姿はとても獅子王機関の三聖が恐れるほどの人物とはとても思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




優くんの情報が少しずつ出てきましたね。これから優くん活躍させて行きたいですね。そして今回とても書いてて難しかったです。もし感想などありましたら是非お待ちしています。第三話は一週間以内にできたらいいなと思ってます。お読みいただき本当にありがとうございました。


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第3話

第三話です。楽しんでいただけたら幸いです


 「先輩は、存在自体が戦争やテロと同じ扱いなんですよ」

 

 

 「軍隊と同じ扱いって……なんだよそれ……? いったい誰がそんなことを……」

 

 

 「先輩、本当に知らなかったんですね……」

 

 

 雪菜は第四真祖である暁古城に自分の存在がどれだけ世界に影響を与えるのかを話していたのだが古城は本当にそんな意識がなかったらしく愕然としていた。雪菜は呆れたように溜息をつきながら話を続けた。

 

 

 「先輩はこの絃神島で何をしようとしているんですか?」

 

 

 「何をするって……何だ?」

 

 

 「昨日、先輩の妹さんに会って話を聞きました」

 

 

 「ああ……らしいな」

 

 

 雪菜の言葉に古城は思わず顔をしかめる。しかし雪菜の表情は、真剣のままである。

 

 

 「あなたは、自分が吸血鬼であることを隠していますよね」

 

 

 「まあ、そうだけど……」

 

 

 「家族にも正体を隠して魔族特区に潜伏しているのは、何か目的があるんじゃないんですか? たとえば絃神島を陰から支配して、登録魔族たちを自分の軍隊に加えようとしているとか。あるいは自分の快楽のために彼らを虐殺しようとしているとか……なんて恐ろしい!」

 

 

 妄想しているような口調で雪菜が呟く。古城が何でそうなる、と低く唸っているとハンバーガーショップの入り口から笑い声が聞こえた。その笑い声の先には冬坂優がそこにいた。

 

 

 

 

 

 「冬坂さん、どうしてここにいらっしゃるんですか?」

 

 

 雪菜は明らかに動揺した表情で優を見ていた。

 

 

 「それは雪菜ちゃんの護衛役だもん、近くにいないと護衛できないじゃん」

 

 

 そう言うと優はいつもの笑顔のまま雪菜の隣に椅子を持ってきて座った。

 

 

 「久しぶり暁古城くん。それで、第四真祖である君は何をしようとしてるんだい? 世界に戦争でもふっかけるの?」

 

 

 優は笑顔を崩さないまま質問を続けた。しかし古城は苦々しげな口調で説明する。

 

 

 「そんなことしねえよ。俺は吸血鬼になる前からこの街に住んでたわけなんだが」

 

 

 「……吸血鬼になる前から……ですか?」

 

 

 雪菜は古城の言ったことは信じられない表情だったが古城は無視して説明を続けた。

 

 

 「ああ、俺がこうして吸血鬼になったのは今年の春だし、この島に引っ越してきたのは中学の時だから、もう四年近く前の話だぞ」

 

 

 しかし雪菜は、信じられない、というふうに首を振る。

 

 

 「そんなはずありません。第四真祖が人間だったなんて」

 

 

 「え? いや、そんなことを言われても実際にそうなんだし」

 

 

 「普通の人間が、途中で吸血鬼に変わることなどあり得ません。たとえ吸血鬼に血を吸われて感染したとしても、それは単なる『血の従者』擬似吸血鬼です」

 

 

 雪菜がそう言うと隣にいた優が子供を諭す母親のような口調で、

 

 

 「暁古城、もしかして君は……嫌、先代の第四真祖を喰らったのかい? しかし、なぜ君は第四真祖と遭遇したんだい?」

 

 

 「いや……それは……」

 

 

 言いかけた古城の顔が、突然、激しい苦痛に襲われたように歪んだ。飲みかけのコーヒーカップは倒れて、中身がこぼれ出す。古城はそれにも気づかずに、テーブルの上に顔を伏せ、頭を抱えた。噛み締めた唇から、苦悶するような吐息が漏れる。失われた記憶が、古城の全身を呪いのように苛んでいる。

 

 

 「せ、先輩?」

 

 

 まったくの予想外の古城の反応に、雪菜がうろたえたような声を出した。しかしその状況をなんとも思っていないのか優は質問を続ける。

 

 

 「おい、暁古城。俺の質問はまだ終わっていない。質問に答えろ、お前は第四真祖を喰らったのか? それとも血を分けた従者なのか? 答えろ暁古城」

 

 

 しかし古城は痛みが辛いのか、顔を上げられず激しく心臓を押さえて、ただ苦しげに息を吐く。脳裏に浮かんだのは一人の少女の姿。もう顔すら思い出せない彼女が炎の中で笑っている。そしてその少女に刀を向けている男の姿だった。

 

 

 「悪い、姫柊……冬坂さん、その話は今は勘弁してくれ」

 

 

 「え?」

 

 

 「俺には、その日の記憶がないんだ。無理に思い出そうとするとこのザマだ」

 

 

 「そう……なんですか? わかりました……それじゃあ、仕方がないですね」

 

 

 ようやく顔を上げた古城を見て、雪菜はホッとしたような表情を浮かべた。雪菜は古城の話を、疑うことなく信じたようだった。すると雪菜は少し怒こったように優の方を見た。

 

 

 「冬坂さん、この話はもう終わりです。先輩は嘘はついていないと思います」

 

 

 そう言うとなぜか優は笑いながら、

 

 

 「そっか、そっか、雪菜ちゃんは素直だね。雪菜ちゃんが言うならそうなんだろう。ごめんね、暁古城、質問責めにしてしまって申し訳ない」

 

 

 優は悪かったと古城に謝ると席を立ち始めた。

 

 

 「冬坂さん、どこに行こうとしてるんですか?」

 

 

 「トイレだけど?」

 

 

 「嘘ですね。冬坂さん、あなたにはどこか行かれると困るので私の近くにいてください」

 

 

 雪菜は絶対に逃さないと優を睨みつけると優も観念したのか困ったというように席に座った。すると雪菜は安心したのか古城の方を見て話を続けた。

 

 

 「わたしと冬坂さんは、獅子王機関から、先輩のことを監視するように命令されたんですけど……それから先輩がもし危険なら抹殺するようにとも」 

 

 

 「ま……抹殺?」

 

 

 平然と告げられた不穏な言葉に、古城の全身は硬直する。しかし雪菜は穏やかな口調で話を続ける。

 

 

 「その理由がわかったような気がします。先輩は少し自覚が足りません。とても危うい感じがします」

 

 

 「いや、姫柊も危なっかしいと思うけどな、財布も落とすし」

 

 

 「そのために俺がいるんだよ。古城くん」

 

 

 余計なことを言ってしまったと古城と優は雪菜に睨まれる。

 

 

 「とにかく、今日から先輩のことはわたしと冬坂さんが監視しますから、くれぐれも変なことはしないでくださいね。まだ先輩のことを全面的に信用したわけではないですから」

 

 

 まあいいか、と古城は肩の力を抜く。監視されて困ることもないし雪菜も優も悪い人間ではなさそうだ。

 

 

 「それで先輩は、このあとどうするつもりなんですか?」

 

 

 「図書館に行って夏休みの宿題をやるつもりだったんだけど……」

 

 

 そう言いかけて、古城は不意に嫌な予感を覚えた。

 

 

 「姫柊、まさかついてくるつもりなのか?」

 

 

 「はい。いけませんか?」

 

 

 雪菜は真顔で訊いてくる。何を今さらという態度である。

 

 

 「いや、いけないってことはないけど……もしかして、この先ずっと?」

 

 

 「もちろんです。監視役ですから」

 

 

 「そうゆうわけだ。よろしくね。古城くん」

 

 

 表情を変えずに雪菜がそう言うと優はいつもの笑顔で古城の肩に手を乗せ笑みを浮かべている。古城はこれからのことを思うとため息をつかずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 古城が自宅に戻ると雪菜と優は外から古城を監視していた。

 

 

 「冬坂さん……いいえ、なんでもないです」

 

 

 雪菜は昨日見た写真で雪菜の隣に写っていた人物のことを優に聞きたかったのだが聞けずにいた。もし聞いてしまったら今のこの関係はなくなっしまうと雪菜の直感が訴えているのだ。雪菜は正直、優との関係を気に入っていた。おちゃらけているがとても暖かい感覚、兄がいたらこんな感じなのだろうかと、そしてだから雪菜は今の関係が壊れるのが少し怖かった。しかし優が雪菜の頭を撫で始めた。やめてくださいと言いたかったが言えなかった。すると優は優しい口調で、

 

 

 「雪菜ちゃんが何を聞きたいのか俺にはわからないし、もし質問されても多分答えられないと思う。けど俺はどんなことがあろうと雪菜ちゃんの味方だよ。これだけは約束する。だから雪菜ちゃんは自分を大切にしてね。俺の願いはそれだけだよ」

 

 

 すると優は雪菜の頭を撫でるのをやめて古城のマンションに目線を写す。なぜわたしのことをそんなに思ってくれるのか、あの写真の人はあなたなのか、それを聞いても優は答えてくれないのだろう。しかし雪菜は悪い気は全くしなかった。家族のように雪菜を思ってくれる優に家族の記憶がほとんど無く親に捨てられたような雪菜にはその暖かさはとても懐かしく、とても幸せなものだと思った。しかし昨日のように優がいなくなった時、また捨てられたんではないかと不安が襲ってきた。だからこそいつか優が自分の言葉で雪菜に話してくれるのを待つことに決めた。それがどんな真実であろうと、それまではこの優の優しさに甘えようと雪菜は心の中で思った。

 

 

 

 

 

 

 

 「今宵の実験は終わりです。アスタルテ」

 

 

 「はい、殲教師様」

 

 

 アスタルテと呼ばれた藍色の髪の少女が、静かに目を閉じた。すると彼女は抑揚のない人工的な声で告げる。

 

 

 「命令受諾。執行せよ、薔薇の指先」

 

 

 「よ、よせ……やめろ……!」

 

 

 仄白く輝く巨大な腕が、悪意を持つ獣のように蠢いた。すると男の絶叫が響き渡った。

 




お読みいただきありがとうございます。やっぱりもう少しテンポが早い方がいいですかね?まあそんなことよりお気に入り登録、感想本当にありがとうございます。作者のモチベーションにかなり支えになっています。これからも感想、評価お待ちしてます。これからも姫と守護者をよろしくお願いします。


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