フェアリーテイル 月の歌姫 (thikuru)
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番外篇
番外篇 その1お見舞い



はい!お昼前投稿にありつけました、thikuruです!!

そして、遅れながら…UA10000越え!!!お気に入り登録者数100件を超えました!!!

とても感謝しております!!ありがとうございました!!

では、前回も宣言した通り、今回と次は番外篇で行きたいと思います!


最後までお付き合い、お願いします!


 

 

楽園の塔の事件が終わり、シクルが目覚めてから3日………

 

 

現在、シクルはルージュと共にスーパーで買い物をしていた。

 

「えっと…お米と卵と…お塩におだしの素…それからお魚と…あと………何がいいかな?」

カゴの中身を確認し、頭に乗るルージュへと問いかけるシクル。

 

「果物はどうぅ?リンゴとか…?」

 

「果物…そうね、じゃあルージュの言ったリンゴにしよっか」

そう言い、果物売り場へ行くとリンゴを1つカゴに入れる。

 

「これくらいでいいかな?」

 

「いいと思うよぉ?」

再びカゴの中身を確認してから、「よし、じゃあお会計に行こう!」と笑顔でルージュに告げ、レジへと向かう。

 

 

「合計で1070Jになります」

 

「はーいえっと…あ、はい、これで」

 

「1070J、丁度ですね。ありがとうございましたー」

 

お会計を終え、買ったものを袋に詰めるとスーパーを出て、さぁーてと…とルージュを見上げる。

 

「行こっか…寝込んでる彼のところに」

「あい!!」

ルージュの返事に、クスリと微笑みながら“彼”の家へと歩き出す。

 

 

街を抜け、森の奥へとやって来たシクル。

森の奥にある開けた土地に立つ少し変わった家の前に立つと、その扉をノックする。

 

「ハッピー?私、シクルだよー。開けれる?」

 

シクルの来た場所、ここはナツの家だった。

普段ならば、この家主のナツを呼ぶが今現在、彼が動けないことを知っているシクルはその相棒のハッピーを呼びかけた。

 

ノックしてから十数秒、扉がガチャと音を出し、開く。

「いらっしゃい、シクル!!ルージュ!!」

中からは、満面の笑みを見せるハッピーが出てきた。

 

「ハッピーこんにちわぁ!」

「ハッピー、こんにちわ!…ナツは?」

シクルの問いかけに笑顔を見せていた顔が暗くなる。

 

「ナツは…まだ寝てるよ」

ハッピーのその様子にまだ調子が良くないのだな…と、そう思い「入るよ?」とハッピーに告げ、家の中へと入る。

 

買い物袋を台所に置き、奥の寝室へと入る。

 

コンコンッ

「ナツー?私、シクルだよ。………入るよ?」

返事は来ないがまぁいいか…と中へ入ると…予想と違わず、やはりナツはベッドの上で、寝込み、小さな呻き声をあげていた。

 

「ありゃ…やっぱ、副作用かー…大丈夫ー?」

寝込むナツの横へと腰掛けその顔を覗き込み声を掛けるもナツは呻くだけで目は開かない。

 

「んー…辛そうだな」

少し汗の滲んでいる額を持っていたハンカチで拭う。

「………あなたも…大概無茶するね…」

呆れの混じるため息をつきながらナツを見下ろすシクル。

 

「たまに目が覚めるんだよー」

「今は寝てるねぇ」

いつの間にか寝室へと入ってきたハッピーとルージュを少し振り返り、再びナツへと視線を向ける。

 

「………ナツ…」

ぽそりとナツの名を呼び、その頭をゆっくりと撫でるシクル。

 

すると………

 

「…ん………シ…クル?」

ナツが目を覚ました。

「あ…ごめんね?起こしちゃった?」

頭を撫でていた手を引っ込め、首を傾げ問いかけるシクルにいあ…と口にするナツ。

 

「大丈夫だ…それより、なんで…ここに?」

今度はナツからの質問がありシクルはクスッと微笑み言う。

「お見舞いだよ。それと、最近寝込んでてご飯が食べれてないってハッピーから知らせがあってね…」

シクルは最後に、ナツの頭を撫でると立ち上がり…

 

「じゃ……私、ちょっと向こうで色々作ってるから…何かあったら呼んでね?」

と、ハッピーとルージュに告げた。

 

シクルのその言葉に「「あーい!」」と、元気な声で返事をする2匹に、元気いいなぁとシクルは笑みを浮かべながら、台所へと向かった。

 

 

「さてと…じゃあ早速やりますか!」

持参したエプロンを着用し、調理開始するシクル。

 

と言っても、寝込みあまり食事も最近まともに取れていなかったナツとお魚大好きなハッピーに作る料理なのであまり手間のかかるものではないが………と、シクルは考えながら鍋に水を入れる。

 

 

シクルが作ったのは卵の入ったフワフワなお粥と、ハッピーには本人(猫)希望で生の魚そのまま。

ただ、何か菌がついてると危ないと思い、しっかり下ごしらえはしてある。

 

そしてシクルは自宅から持ってきた茶葉とレモンを取り出す。

茶葉の種類は“アールグレイ”だ。

ベルガモット風味のアールグレイにアクセントとして、また疲労した身体を癒す効果もあるレモンを少し入れる。

 

「よし!あとは…ウサギさんにしよっと」

最後に、ルージュの希望で選んだリンゴを可愛いウサギの形に切るとお盆に乗せ、寝室へと戻る。

 

 

寝室へと入ると出る前は横になっていた身体を起こしているナツがいた。

「あれ?寝てて良かったのに…もしかして、ずっと起きてたの?」

 

「いあ…さっきまで寝てた………いい匂い、したからよ…」

ナツの答えに「そっか……」と笑みを浮かべ、頷くとベッド横のテーブルにお盆を置くと、そっと腰掛けるシクル。

 

そして、一緒に持ってきた魚をハッピーに渡し、多めに作っておいた卵粥を少し取り分け、ルージュへと渡すと………

 

「………おい?シクル…」

目の前にあるものを見つめ困惑するナツ。

 

「んー?なぁに?」

だが、シクルは気にした様子もなく首を傾げる。そんなシクルを見て、ナツはため息が思わず零れそうになるも堪え、目の前のそれを見つめる。

 

「シクル………まさか…」

ナツの目の前に差し出されているもの…それは、卵粥の一部だった…シクルはナツにはいあーん、と卵粥の乗ったスプーンを口元へと持っていき、「食べて?」と言う。

 

首を傾げながらそう言うシクルにゴクッと息を呑むナツ。

「い、いあいあ…俺、自分で食べれ…」

「だーめっ!まだ副作用残ってるでしょ?はい、あーん!」

拒否を少し見せるもやはりシクルには勝つことなど出来なく…大人しく、食べさせてもらうことにしたナツ。

 

そんな2人を見ていた2匹はニヤッと含み笑いを浮かべ…

「「…でぇきてるぅ」」

と、からかう。

「う、うるせぇえええ////!!」

 

結局、最後までシクルにより、ウサギのりんごまで全部食べさせてもらったナツは、耳まで真っ赤にし照れていた。

「ご…ごちそう、さま…」

「はい!お粗末様です!美味しかった?」

 

シクルの問いかけにコクコクと頷くナツに満足気な表情を浮かべ、洗い物に行こうとシクルが立ち上がろうとした時だ…

 

「洗い物はオイラたちがやるよー」

「シクルは休んでてぇ?」

ハッピーとルージュが翼を出しそう言った。

 

「そう?でも悪いよ……」

「いーのいーの!美味しいものも食べさせてもらったし!!」

ハッピーの言葉に「なら…甘えちゃおっかな」と笑みを見せ言ったシクルは寝室を出ていく2匹を見つめ、可愛いなぁと思っていると………

 

 

「………シクル」

と、ナツの声が聞こえる。

 

「んー?なぁに………」

呼びかけられ、振り返ると…グイッ!とナツに腕を引っ張られ、一緒にベッドへと倒れ込んだ。

 

「きゃあ!?ちょ…な、なに…///?」

突然の事に顔を赤くし、ナツを見上げるシクル。

 

「………シクル…お前もまだ…本調子じゃねぇだろ?」

ナツの言葉を聞き目を少し見張るシクル。

 

ナツの瞳は殆ど確信づいている色を見せ、有無を言わせない雰囲気を持っていた。

 

 

「………うん…まだ少し…だるい、かな?」

シクルの答えにはぁ…とため息をつくと、その頭に手を回し、抱きしめる。

 

「………ナツ?」

 

「シクル…………もう、ぜってぇ…あんなこと、すんなよ………」

ナツのその言葉にシクルは目を見開き、そして少し悲しげな表情を浮かべる。

「ナツ………うん、もう…しないよ」

 

「………約束だぞ…」

「………うん、約束…」

 

結局この後、満足したナツがシクルを抱きしめたまま眠るように意識を手放してしまったことによりシクルはナツの上から抜け出せなくなってしまう。

 

更には、洗い物の終わった2匹が戻ってき、抱きしめられる光景を見られ………

 

 

「「でぇぇぇきてるぅぅぅぅ!!!」」

と、普段の倍は巻舌でからかう2匹にシクルは顔を真っ赤にさせ………

 

 

「巻舌風に言うなばかぁああああ/////!!!」

と、叫んだとさ………

 

 

 

 

この日は、ファンタジア開催まで残り3日であった…

 

この時、まだシクルもナツも気づかなかった…ファンタジアで起きる………事件を…

 

 

 

番外篇 その1 END

 

 

 






はい!如何だったでしょうか………番外篇ということもあり、少し短めです!

では次もまた、お願いします!
最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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番外篇 その2 バレンタイン


はい!!こんにちはこんばんわー!

今回はリクエストで上がっていました、季節は過ぎてしまったのですが“バレンタイン”のお話をあげたいと思います!!


希望に添えているか物凄く不安なのですが…最後までお付き合い、お願いします!


 

 

2月14日ーーー

 

この日は多くの男性がソワソワし、多くの女性がドキドキを胸に抱く日………

 

 

そう、恋する乙女の一大イベント…今日は、“バレンタインデー”である。

 

 

そして、それはここ、妖精の尻尾でも開催していた。

 

 

「グレイ様ー!!!こ、これ…!!う、うう…受け取ってください!」

大きなハート型のラッピングを施されたチョコレートを頬を赤らめながらグレイに手渡すジュビア。

 

グレイは笑みを向け、「おう!サンキューな」と答え、それを見てジュビアはパターンと幸せな表情で気絶する。

 

「う、うぉぉい!?どうした、ジュビア!?」

 

「わぁー…すっごい幸せそうな顔………」

空中からその表情を見下ろし、苦笑を浮かべるハッピー。

 

「そぉーね」

ハッピーと共に苦笑を浮かべ、少し離れたところから2人のやりとりを見ていたルーシィ。

 

「そう言えば、ルーシィは誰かにあげたの?」

ハッピーがルーシィに問いかける。

「私?私はレビィちゃんとか…ミラさんとか、良くしてもらってる人に今年は配ったわよ?」

 

「あぁ…ルーシィってば、彼氏いないもんね」

ハッピーのその言葉に、「うっさい、ネコ!」と、ルーシィが叫んだ時、ギルド内に大きな音が響く。

 

 

「ミラぁーーーー!!!シクルいるかぁ!?」

 

「ん?」

ギルドの扉を、バーン!!と大きな音を立て開き大声で叫ぶ声に、ルーシィが振り返ると、走りカウンターで仕事しているミラのところに駆け寄ってくるナツの姿があった。

 

ミラは驚く様子もなく、微笑みながらナツの方を向く。

「あら、今日は早かったわね?ナツ。そうね、シクルならもう少しで出てくると思うわよ?」

 

だからもう少し待っててねとミラが言うと「おぅ!!」と、頷きカウンターのイスに陣取るナツ。

 

「わー…相変わらず元気が有り余ってるわねぇ……てか、そういえば…シクルは?」

ふと、ギルド内にあの長い金髪を揺らす彼女、シクルがいない事に気づいたルーシィは誰に聞くでもなく、1人呟いた。

 

それを聞き取ったグレイがニッと笑みを浮かべ、ルーシィを振り返る。

「おールーシィは知らなかったっけか?」

「………何が?」

 

意味が分からず首を傾げるルーシィの肩にハッピーが乗る。

 

「今日はね!シクルが皆にバレンタインのお菓子を作ってくれるんだよ!!」

 

「正確には、こういうイベント事の時は、だけどね」

ハッピーといつの間にか目の前にいたミラの言葉にルーシィは大きく反応を見せた。

 

「え!?シクルって、料理出来るんですか!?」

 

「出来るってレベルじゃないわよ?もうあの腕前なら店を建ててもいいくらい、シクルの料理の腕は凄いのよ」

 

ミラの言葉にルーシィは感嘆のため息をつく。

「凄いなぁ…シクルってば、魔導士としても強いし…歌だって上手で…しかも料理が出来ておまけにスタイル抜群の超可愛い……文句のつけ所が全くないわよねぇ………」

 

「面倒くさがりなのが玉に瑕だけどね」

ハッピーの最もな言葉にルーシィもミラも「確かに…」と、相打ちをついた時ーーー

 

 

 

「おっまたせー!!皆っ!出来たよー!!」

「出来たよぉ!!」

ギルドの裏方から、大きなお盆を持ったシクルとその頭に乗ったルージュが満面の笑みで、出てくる。

 

『うぉぉおおおおおお!!!!待ってましたぁああああああ!!!!!』

 

雄叫びをあげるギルド全体(ほぼ男)

我先にと、群がるメンバー…

「ちょちょちょっ!待って、順番だってば!!はい、並んでねー」

シクルのその一声で、我先にと動いていたメンバーが一斉に一列に並ぶ。

 

最初に受け取ったのはミラだった。

「はい、どーぞ、ミラ!」

「ありがとー、シクル!ルージュ!あら、今年はケーキなの?」

 

貰ったそれを見てミラが問いかけるとシクルは頷く。

「そうだよ!家で採れたアッサムの茶葉で作ったシフォンケーキにミルクチョコレートをかけてみたの!」

 

「アッサムの深みのある味とチョコレートがよく合うよぉ!」

シクルに続いたルージュの言葉に、ミラはフフフと笑う。

「あらあら、それは楽しみね」

 

その言葉にシクルは照れくさそうに笑い、「ゆっくり味わってね!」と告げる。

その後は女性から先に手渡されていく。

 

「うむ!流石だなシクルは!」

「わぁ!美味しそー!」

「ホントだねぇ…」

 

エルザ、レビィ、カナ…と、受け取った子からワイワイと話し始める。

そして、ルーシィの手にもシクルから「はい!」と、シフォンケーキが渡る。

「わぁ!!ありがと、シクル!!ルージュ!!ほんと美味しそー!!」

 

「お口に合えばいいな」

と、笑いかけるシクルに「絶対美味しいわ!」と即答で答えるルーシィに恥ずかしそうに頬を赤らめるシクル。

 

女性メンバーが終わると男性メンバーに手渡され始める。

グレイ、エルフマン、マックス、ナブ、ジェット、ドロイ、マカオ、ワカバ…etc…

 

 

「はい!!ナツとハッピーの分!!」

 

「おぉ!サンキューな、シクル!ルージュ!」

 

「わーい!ありがとー、シクルー!!ルージュ!!」

 

「ゆっくり食べてねぇ、ハッピー!」

 

受け取ったそれを早速頬張るナツにクスクスと笑うシクル。

 

「…あ、そーだ、ナツ!」

目の前で既に口いっぱいに頬張るナツを呼びかけるシクル。

「んァ?」

 

ナツの耳元に近づくように背伸びをするシクル。必然的に顔がグンッと近づき、ドキッ!とするナツ。

「お、おいっ…!」

 

「今日、後で家に来て?」

「………ん?」

シクルの言葉を聞き、ポカーンとするナツから少し離れ、ニッコリと微笑むシクル。

 

「絶対ね?」

「…お、おう………///」

その笑顔に顔を赤くするナツ。

 

 

その後はメンバー全員が綺麗にシフォンケーキを平らげ、多めに作ってあったシフォンケーキの多くはエルザのお腹の中へと消えていった。

 

 

 

そして、その日の夜ーーー

 

 

「んー…なんで俺1人なんだ?」

ナツはシクルの家の前で首を傾げ、立っていた。

実はあの後、シクルから「1人で来てよ?絶対ね!」と言いつけられていたのだ。

 

なので今ハッピーはミラに預けている。

なんで俺だけ…と考え込む。

 

とりあえず…と、扉を3回ほどノックし、「シクルー!!」と呼びかけると…目の前の扉がガチャっと開く。

 

「ナツ!いらっしゃい、待ってたんだー」

「お、おう!!」

 

出てきたシクルは普段ポニーテールの髪を少し頭の上の方でお団子にし、チュニックワンピースの服装は厚手のニット製のロングワンピースに変わっていた。

 

思わず可愛い…と頬を赤らめるナツ。

「ん?どしたの?顔赤いけど…もしかして、冷えちゃったかな?早く入って入って!温まろ」

 

ほら早く、と背中を押されナツは「お、押すなよっ…!?」と言いながらシクルの家へと入る。

 

シクルに案内され、リビングに行くとソファへと座らされる。

「ちょっと此処で待ってて!すぐ来るから」

と言い残し、キッチンの方へ消えて行くシクル。

 

そして、言葉の通り、すぐに戻ってきたシクルの手にあるものから甘い香りがナツの嗅覚を刺激する。

「シクル…それ………」

 

「これはガトーショコラ!最近ナツに助けられてばっかりだったから…」

お礼で…と、呟くシクル。

 

「これ………俺、だけ…か?」

目の前に置かれたそれを見て首を傾げながらシクルに問いかけるナツ。

 

その仕草にトクン…と少し鼓動が早くなる感覚にシクルは内心不思議に思いながら「そうだよ!」と答える。

 

 

 

なんだ……これ…すっげぇ………嬉しい…

 

 

胸の高鳴りに僅かに困惑しながらもシクルに急かされるようにガトーショコラを食べ始める。

 

「っ!うっめぇ!!」

1口口に入れると今まで考えていたことを忘れ、バクバクと頬張り始めるナツ。

「口に合ったみたいで良かったァ!」

 

ホッと一安心するシクルの目の前でガトーショコラを頬張り続けるナツ。

そして、あっという間にそれはナツのお腹の中へと消えていった。

 

「だー!うまかったァ!!」

「お粗末様です!やっぱり作ってよかった!」

シクルの浮かべる笑顔を見つめ再びドキ…と胸が高鳴るナツ。

 

俺…今なら…

 

そう感じ、ナツは「お皿片付けちゃうね」と、言い立ち上がろうとするシクルの腕をパシッ…と、ナツは咄嗟に掴む。

 

「ナツ?」

「………あ、いあ…え、っと………」

位置的に見下ろす形となっているシクルにナツはドギマギとし…そして、シクルをグイッと引っ張り隣へと座らせる。

 

「わ…ナ、ナツ?どーしたの…?」

「シ、シクル…!あ、あのよ…」

ナツの言葉を待ち、「なぁに?」と首を傾げるシクル。

 

今度は見上げる形となったシクルを見つめ、徐々に頬が熱くなるのを感じながら…ナツはゴクッと息を呑み………口を開く。

 

「シ、シクル…お、俺…さ!」

「うん?」

 

 

「シ、シクルのこと………俺、す…!!」

 

 

 

 

 

ピピピピッーーー

 

 

 

その時、丁度ナツの言葉を遮るように響いたアラーム音。

「あっ!いっけない!!紅茶作ってたんだ!」

アラーム音を聞き、はっと立ち上がるシクル。

 

「え、あ…お、おい!?シクル………」

キッチンへと駆けてくシクルに手を伸ばすも…「ちょっと待ってねー!」と消えていくその背中に………

 

 

 

チーーーーーン……………

 

 

呆然とするナツと微妙な形で伸ばされた右手が印象強かった…。

 

 

ここだ!と告白しようとしたナツだった…が、呆気に取られたのと虚しさとで…シクルが紅茶を入れ戻ってきた時は背中にズーーーーンと、影を背負って沈んでいた。

 

 

「お待たせー!て、あれ?どしたの、ナツ?」

「いあ………何でもねぇ…」

戻ってくると沈んでいたナツに首を傾げるシクル。

 

ナツの隣によっと、と腰掛けナツの顔色を伺うシクル。

「どうしたの…どっか具合悪い?さっきのでお腹壊しちゃったかな………大丈夫?」

 

ふっと、心配気な声にシクルを見つめるとやはり、眉が少し下がり、不安そうなシクルの顔がナツの視界に入る。

 

そんなシクルを見て、ふっ…と、笑みを浮かべ顔を上げるナツ。

そして、ぐしゃぐしゃと頭を撫でる。

「わっぷ!?ちょ、ナツ…」

 

「何でもねぇーよ!腹も壊してねぇ…心配すんな」

ニカッ!と笑うナツにほっと安心しながらも「髪がー!」と叫ぶシクルにおっとと、頭から手を離すナツ。

 

手が離れた瞬間…ほんの少し寂しさを胸の奥で感じたシクル。

 

「(あれ…なんで…?)さて…じゃあ、締めのティータイムといこっか!」

胸の奥で感じたそれを無視し、ニッとナツに言うと「おう!!」と元気な返事が戻ってくる。

 

 

この後、2人でゆっくりと紅茶を味わいながら、結局ナツがそのままシクルの家に泊まる!!と言い出し、最終的にはシクルを抱きしめたまま眠ってしまったナツ。

 

 

シクルは「しょうがないなぁ…」と、呟きながらもその暖かな胸に顔を寄せ、一緒に眠った。

 

 

 

2人が想いを告げ、気持ちが通じ合うのはもう少し先のお話ーーー………。

 

 




はい!番外篇はひとまずここで1度区切りたいと思います!!


如何だったでしょうか…ナツ落ちということもあり、大分ナツとの絡みを入れてみました。

ほんのりと気持ちに気付いているナツとまだ自覚のない主人公ちゃん…想いが通じ合うのはいつでしょうね………


では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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序章
プロローグ


初めまして!!thikuruです!!

えっと…駄作者です( ºωº )

意味わかんねぇ!や文章おかしくね?って箇所が多々あると思いますが、広い心で読んでいただけるとありがたいです!!



では、お話にいきましょうか…最後までお付き合い、お願いします!


暗く、深い森の中…一人の少女がいた…。

 

 

はぁ……はぁ………はぁっ…

 

 

…逃げなきゃ………早く………離れなきゃ…

 

 

もっと………遠くへ………また…あそこに…

 

 

戻りたくないっ…!!

 

 

少女の身体は傷だらけで足取りも覚束無い状態だった。

ふと、木の根に足を取られ、よろけ、転んでしまう。

 

「きゃ………!」

 

ズサァッーーー!!

 

再び立ち上がろうと身体に力を入れるも、身体は言うことをきかず、立ち上がれない…

 

 

…もう…立つ力もない……私、ここで…もう…

 

 

少女は気が遠くなるのを感じ、ほぼ諦めかけていた…その時………

 

ガサッーーー

「うっひゃー!ここどこだ?道に迷っちまった………ん?」

 

誰かの声が聞こえた…私は僅かに残っていた力で顔を上げると男の子と目が合った。

その男の子は地面に倒れている私に気づき…驚いた様子で駆け寄ってきた。

 

この子…何処かで………

 

「お、おい!!お前、どうしたんだよ!?その怪我…大丈夫か!?」

男の子は私にそう問いかけてくるが私は既に限界だったようですぐに気を失った。

 

 

ーーー

 

「………ん…」

 

次に私が目を覚ました時、最初に目に入ったのは木材質の天上だった。

「………ここ、は?」

私は痛む身体をゆっくりと起き上がらせ、周りを見るとどこかの医務室でベッドの上に寝ていたことは分かった。

 

「…誰が?」

不思議に思っていると、部屋の扉がゆっくりと開き、そこから入ってきたのは一人の老人だった。

 

「おぉ、目が覚めたか…どうじゃ?傷は痛むか?」

「え…あ…はい……傷は、大丈夫…です」

私がそう答えると老人は頷き、部屋の外から誰かを呼んだ。

 

「おーい、ナツ!目を覚ましたぞー」

ドダダダダダッ!!!

老人の一声で大きな音を立て入ってきたのは桜髪の男の子。さっき私を見つけた男の子だった。

 

「じっちゃん、ほんとか!?」

「あぁ、ほんとじゃから少しは落ち着かんかい…びっくりしてしまうじゃろ?」

「うぉお、そっか…悪ぃ…!えぇっと…大丈夫か?」

男の子は老人に指摘され、極力少し小さくした声で私に問いかけてきた。

私は老人に答えた時と同じように頷き、言う。

 

「はい…大丈夫です……あの、私を助けてくれたのはあなたで…すよね?」

「ん?あぁ!そうだぜ!気を失って倒れてたところを見つけたからここに連れてきたんだ!!」

男の子はそう笑顔で答えた。私はここがどこなのかまだ知らされていなかったことを思い出す。

 

「あの…ここは、どこですか?」

「ここは、魔導士のギルド。妖精の尻尾(フェアリーテイル)じゃよ」

私の問いには男の子ではなく、老人の方が答えてきた。

 

「妖精の…尻尾…魔導士、ギルド?」

「そうじゃ…お主もどうやら魔導士のようじゃのぉ…」

「そうなのか!?お前、つぇーのか!?どんな魔法使うんだ!?」

男の子の勢いに少し戸惑いながら質問に答える。

 

「つ、強いかは…分からない…魔法は………」

私はそこで少し言うのを躊躇った。

 

………どうする?言っても…いいの?

 

「ん?どうした?」

首をかしげてくる男の子…そんな彼を見ていたら何故か…大丈夫な気がした…

 

「…私の魔法は…月………」

「…月ィ?」

「うん…私は月の滅竜魔法を使う、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)…」

 

私がそう答えるとしーんと、静まり返ったように静かになる部屋…

 

………やっぱり、言わない方が良かったかな…

 

そう思い、顔を伏せ俯いていると…

 

「すっげぇえええ!!!お前、滅竜魔法使えんのか!?」

ビクッ!?「う、うん…」

「お、俺もなんだ!!俺も滅竜魔法使うんだ!俺は火の滅竜魔導士だぜ!!」

「………火?………滅竜……イグニール…?」

 

私はふっと、脳裏に過ぎった私の親の親友、火竜のことを思い出していた…すると、彼の名に反応した男の子は…

 

「っ!?お前、イグニールの事知ってるのか!?今どこにいるんだ!?」

肩をつかみ、物凄い迫力で聞いてきた。私はびっくりして再び肩を揺らし、答える。

「っ…イ、イグニールのことは知ってる…私の母、セレーネソフィアの親友だった…でも、どこにいるかまでは知らない………」

 

………うそ…本当は………彼らがどこにいるのかを知っている…

 

 

でも…今はまだ、その時じゃない………

 

………まだ…

 

 

「そっか………」

「…ごめん、役に立てなくて…」

私が少し俯き落ち込むと、男の子は慌てた様子で私に声をかける。

 

「い、いや!!いいんだ!!えっと…あ!そーだ!お前名前は?俺はナツ!!ナツ・ドラグニルってんだ!」

「!……そっか…ナツ………私はシクル。シクル・セレーネ」

 

「なぁ!お前、ここのギルドに入らねぇか?すっげぇいい所なんだぜ!!」

自己紹介が終わるとナツは私にギルド加入の誘いをしてきた。

私はナツの顔を少し見つめ………

 

「…ナツも…ここにいるの?」

と、聞いた。

 

「ん?ああ!!俺もここに入ってんぜ!!」

私の問いかけに笑顔で答えてくれるナツ。

「………うん、私なんかが入ってもいいなら…入りたい…な」

 

私がそう答えるとナツはぱぁっと笑みを浮かべ、後ろに立っていた老人の方を振り返る。

 

老人はにっこりと笑みを浮かべると私に言った。

 

「うむ…シクルと…言ったのぉ?わしはここのマスター、マカロフじゃ。オヌシを歓迎するぞ!」

「マスター………ありがとうございます…」

「よっしゃぁ!!これからよろしくな、シクル!!」

私に飛びついてくるナツ…ナツ………

 

 

………約束…守るからね………イグニール…

 

「うん…よろしく、ナツ!」

 

 

そして、私がギルドに入ってから5年後ーーー

 

運命の歯車が………ゆっくりと…動き始める。

 

 

 

「んー………あんまり手応えなかったかなぁ?」

 

そう呟き、顔にかかる髪を払いのける私の後ろには…

 

数百ものモンスターの死骸が転がっていた。

 

服についたホコリや砂を手ではらっていると、頭に僅かな振動と重みを感じた。

ふと、意識と視線を頭の上にやると……そこには、今ではほぼ毎日一緒にいる相棒が乗っていた。

 

「そんなこと言えるのはシクルだけだよぉー…アレ全部S級モンスターなんだよぉ?」

茶毛の猫、ルージュの言葉に肩を竦め、笑う。

「そんな事ないよ…他にも出来そうな人、いるでしょ?」

「んー?………あぁ、確かにぃ…」

 

ルージュは脳裏に写った緋色の髪の女を思い出す。

 

遠い目をしているルージュから目を離し、空を見上げる…

 

「………そろそろ帰ろっか…終わったし」

「んー?…あい!!帰ろぉ!!今回はどれくらい帰ってないんだっけぇ?」

「んー?………半年…くらいかな?結構長引いちゃったね」

荷物をまとめ、背に背負うと、一つ大きく深呼吸をした。

 

「ふぅ………さて…じゃあ、帰りますか…妖精の尻尾へ」

「あーい!」

 




はい!!

最後までお付き合い、ありがとうございます!!!

読みにくくなかったですか…?
意味が分からないよって箇所が多々あるかと思います…すいません


まだ文章力がなく、不安いっぱいなのですが、今後もちょくちょくと投稿させて頂きます。


どうかお付き合い、今後もよろしくお願いします!


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オリ主 設定

今回はオリキャラの設定紹介です


最後までお付き合い、お願いします!!

5/2 変更


シクル・セレーネ SS級魔導士

年齢不詳(見た目は17歳くらい)

 

月の滅竜魔導士 光の滅竜魔導士

異名 妖精の姫(フェアリープリンセス)

月の歌姫

 

使用する魔法

月の滅竜魔法 光の滅竜魔法 換装

歌魔法(ソングマジック)

好きなもの

仲間、家族、甘い物、寝ること、読書、料理

 

嫌いなもの

仲間や家族を傷つけるもの、睡眠妨害、甘味摂取中の妨害、命や仲間を大切にしないもの

 

一人称 私 キレた時あたしor俺

二人称 君、あなた、お前

 

性格

優しくド天然鈍感。極度のめんどくさがり。魔力もマスターよりあり、ギルダーツを凌ぐ実力を持っているが本気になるのはほんとごく稀。仕事も気が向いた時にしか行かず、ナツ達と行く時もほぼサポートに回る。キレると笑顔で口調が変わる。

仲間の身が第一とし、自分が傷つくのは躊躇わない。それでいつも仲間には説教を食らうがやめるつもりは毛頭ない。

 

容姿

金髪の膝裏まで伸びたストレートヘアを一つにくくっている。魔力が高まると銀髪等に変化する。

瞳は青く大きなまん丸瞳。身長はナツの肩くらい。黄色い半袖チュニックの上に白のジャケットを羽織り、黒の短パン、黒いタイツ、膝上のロングブーツを履いている。遠出の際は上から黒のフード付ローブを羽織っている。右耳に水色のピアスを付けており、その中心には月のマークが印されている。

かなりの美人だが本人自覚なし。

ギルドマークはナツと同じ場所に色は白。

 

備考

月の竜に育てられた。

体内に強大な魔力を秘めており、普段は右に装備しているピアスの効果により制限がかかっているが感情が高まった時、ピアスを外した時魔力が溢れ出し、多すぎると暴走する。

 

歌魔力で傷や体力、魔力が回復する。

また、防御璧を展開することも可能。歌魔法を長時間行うと疲労がたまり、倒れる。

 

自身を助けてくれたナツに対し特別な感情を持っている。

ギルド加入一年後、S級魔導士、半年後にSS級魔導士となる。

 

ナツやガジルたちのことは覚えており、イグニールやメタリカーナに魂竜の力で深い眠りについた時子供たちを頼むと託されていた。

 

 

相棒 ルージュ

メス 6歳 茶毛のエクシード

傷つき倒れているところを仕事帰りに通りかかったシクルに助けられ、その後シクルに懐き、相棒として一緒に暮らしている。

 

魔法は翼。他にシクルの魔力が込められた月の弓を持っており、戦闘の時はそれを使い加勢する事もある。ちょっと怖がりさん。

口癖はハッピーを真似て「あい」 「〜だよぉ」「〜ねぇ」と、言葉の語尾をのばす癖がある。

 




はい、長ったらしい設定文読んで頂き、ありがとうございます!


オリ主の魔法等についてはまた何処かでまとめて紹介させていただきます!!



では、最後までお付き合い、ありがとうございます!


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第1章 鉄の森篇
1話 帰還と妖精女王からの誘い


はいこんにちわ!!連続投稿です!


分かりづらい部分が多々あると思いますが、最後までお付き合い、お願いします!!!


妖精の尻尾ーーー

 

 

「はぁ…やっとついた…疲れた」

「今回は長かったもんねぇ…皆心配してるかもよぉ?特にナツ」

「あはは…そうかも…(でもなんでナツ……?)」

 

半年ぶりにギルドへと帰還したシクル。

 

久しぶりに見るギルドに一つため息をつくと、扉を開ける。

 

 

シクルが扉を開けるより、少し前のことーーー

 

「ナツ!!グレイ!!まずいぞっ!!!」

メガネをかけた、茶髪の男、ここ妖精の尻尾のメンバー“ロキ”が大きな音と共にギルドに駆け込んできた。

 

「「あ?」」

ロキに呼ばれた2人の男、桜髪で鱗模様のマフラーを付けた“ナツ”と青髪で上半身肌かの“グレイ”は同時にロキへ顔を向ける。

 

「エ、エルザが………エルザが帰ってきたぞ!!!」

 

「「あ゛ぁ!?」」

 

ロキの言葉にはナツやグレイだけでなく、ギルド全体が反応し震えた。

そして、ギルド全体がエルザという人の話でいっぱいになっているとギルドの外からズシィン…ズシィン…と、重い音が響いてくる。

 

「な、なに…?」

「あ、か…帰ってきた………」

 

誰かのその一言の次の瞬間、ギルドの扉がゆっくりと開く。

 

そして、ギルドに入ってきたのはーーー

 

 

「今、戻った。マスターはおられるか?」

 

大きな大きな魔物の角を片手に持ち、ギルドに入ってきたのは妖精の尻尾最強の女魔道士、妖精女王(ティターニア)の“エルザ”だった。

 

エルザは持ち帰った物を大きな音を立て、床に置くと、ギルド内を見渡した。

 

「おかえりエルザ、マスターは今定例会に出てるわよ」

エルザの質問に笑みを浮かべ答えるのは、このギルドの看板娘、“ミラジェーン”。

「そうか…」

 

「あ、あのぉ………エ、エルザさん?そのバカデカイのは何でしょう…?」

勇敢な1人の魔道士が、エルザの持ち帰った物を指差し、問う。

 

「ん?これか?これは討伐した魔物の角をお礼と村の者が装飾を施してくれた物でな…綺麗だったので土産にしようと思ってな…迷惑だったか?」

と、首を小さく傾げ問うエルザに「いえいえ、滅相もない!!」と首を大きく横に振り否定する。

 

「討伐した魔物の角って………」

 

「でけえ………」

 

「すげ…」

 

「ふぅ…それよりお前達、また問題ばかり起こしているようだな…仕事先で何度も話を聞いたぞ…マスターが許しても私は許さんぞ!」

そう言って、風紀委員の如くギルドのメンバーにきつい言葉を放っていくエルザ。

 

ギルドのメンバーは徐々に肩身が狭い思いをしていく。

 

「はぁ…全く…今日のところはこれくらいにしておこう…世話が焼けるな…」

 

「な、何この人…風紀委員か何か…?」

風紀委員よろしく、メンバー達に小言を告げていくエルザを見て口元を引くつかせ、苦笑を浮かべる金髪の少女、“ルーシィ”。そんなルーシィの隣で肩を竦める青い猫、“ハッピー”。

「あい、それがエルザです」

 

「そういえば、ナツとグレイはいるか?」

 

「あい、こちらに」

 

エルザの問いかけに答えるハッピー。

 

その指差す先には不自然に震え、お互いの肩を組み合うナツとグレイがいた。

 

「や、やぁ…エ、エルザ!今日も俺たち、な、仲良くしてるぜ…!!」

「あい…!」

 

「ナツがハッピーみたいになってるぅ!?」

体と声を震わせているナツとグレイにルーシィは目を見開き驚き、説明を求めハッピーに視線をやるとハッピーは溜息をつきながら答える。

 

「あい…2人とも昔エルザにボッコボコにされちゃってねぇ…2人ともエルザが怖いんだよ」

 

「あらま…」

ハッピーの言葉にルーシィは苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

「うむ、仲がいいのは良いことだな…ところで、シクルは帰っているか?」

「…シクル、さん?」

エルザの言葉から出た聞いたことのない名前にルーシィは首を傾げる。

 

「ううん、まだ戻ってないわよ?多分もう少しで帰ってくると………」

ミラがそう答えた時だったーーー

 

 

ギィーーー ギルドの扉が開いた。

 

 

「ただいまー…はぁー疲れた…」

「ただいまぁマスターいるぅ?」

 

 

妖精の姫の帰還だ。

 

 

 

「シクルーーーーー!!!!」

「ふぇ?て、きゃあ!?」

シクルに抱きついてきたのはナツだった。

 

抱きつかれた勢いが殺しきれず、シクルは後頭部をギルドの床に打ち付ける。

「わぁ…いたそぉ…」

鈍い音を出し、床に後頭部をぶつけたシクルをギリギリで床との衝突を回避し、空中で飛んでいるルージュが苦笑を浮かべ見つめる。

 

「シクル!!!お前今まで何してたんだよ!?心配したんだぞ!?」

「いったぁ…ナツ………何って仕事に行くって出る前に話したでしょ?てか、いきなり抱きつかないでよ、びっくりするでしょーよ…」

そう言いながらも嬉しそうな表情を浮かべるシクル。

 

「でもお前!!3ヶ月で帰るって言ってたじゃねーかよ!?半年かかってんじゃんか!」

「あー…それはちょっと…仕事先で手間取っちゃってねぇ…連絡入れればよかったかな?ごめん、心配かけて」

 

 

「べ、別に…!!無事ならいいんだ…怪我、してねぇか?」

シクルが頭を撫でてきたことに照れたナツはそっぽを向き、問う。シクルは首を傾げきょとりとすると、くすっと小さく笑みを浮かべる。

「うん、大丈夫。してないよ…ありがとう」

 

「シクルか、久しぶりだな」

ナツと和んでいるとエルザがシクルに声をかけてきた。シクルはぱっと顔を上げ、エルザと目が合うと更に笑みを深くする。

 

「エル!久しぶりだね、この前はすれ違いになっちゃったからねぇ」

「あぁ、そうだったな…シクルも元気そうで何よりだ」

エルザはそう言い、小さく微笑むとすぐに笑みを隠し、真剣な表情を見せた。

 

「ちょうど良かった…ナツ、グレイ…帰ってきて早々悪いがシクル………頼みがあるんだ…力を貸してくれないか?」

 

「「…頼み?」」

「…エル?」

 

「ど、どういうことだ!?」

 

「あのエルザが…誰かを誘うなんて初めて見たぞ…」

 

「…何事?」

「…さぁ?」

 

 

「出発は明日だ。準備しておけ」

「え、あいや…」

「行くなんて言ったかよ!?」

「えー…私今帰ってきたところなのに…めんどくさい…パスしていい?」

 

「詳しくは明日、話す…よろしく頼む」

エルザは3人の抗議の声を聞かず、話を終わらせると先にギルドを出ていった。

 

「ちょ、エルー!?私まだ行くなんて言ってないんですけど!?待ってよー!!」

シクルはそう叫ぶとギルドを出ていったエルザの後を追い、ギルドを飛び出していく。

 

「な…なんだったの…」

一部始終を唖然と見つめることしか出来なかったルーシィ。その横でミラははっと手を口元に当て言う。

 

「エルザとナツ…グレイとシクル………今まで想像したことなかったけど…これって………ギルド最強チームかも…」

 

 

 

結局この後、シクルがエルザに言葉で負け、一緒に行く事になったのであった…。

 

 

 

 

「あーもー!!!久しぶりにゆっくり出来ると思ったのにぃー!!!」

 

 

シクルの叫びは虚しく響き、誰も気づくことは無かったーーー。

 

 




はい!!駄文ですねぇ………面目無い( ºωº )

とりあえず、今出来てるのはこのお話までです。
次のお話ですが現在思考中です…恐らく早くて本日の夜には投稿できるかなと思われます………はい。


では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!
次もよろしくお願いします!!


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2話 列車の中で

はい!!予告通り投稿することが出来ました!thikuruです!


ちょっと今回は切れが悪いかな?と思う方もおられるかと思いますが…最後までお付き合い、お願いします!!


 

マグノリア駅ーーー

 

 

昨日エルザから力を貸してほしいと頼まれたナツとグレイはエルザよりも先にマグノリア駅に到着していた。

そして、2人と共にルーシィとハッピーも集まっていた。

 

 

「たくよぉ…なんでエルザみてぇなバケモンが俺たちの力を借りてぇんだよ?」

 

 

「知るかよ…つか、助けなら俺だけで充分なんだよ」

 

 

「じゃあお前だけで行けよ!!俺は行きたくねぇ!!!」

 

 

「なら来んなよ!!後でエルザに殺されちまえ!!」

 

 

「あんた達迷惑だからやめなさい!!」

大声で喧嘩を始める2人を止めに入るルーシィ。その横ではやれやれと言った表情のハッピーがいた。

 

ルーシィが止めると2人は喧嘩をやめ、ルーシィを見つめる。

「な…なによ…」

「いやつか………なんでルーシィがいんだよ?」

 

ナツが怪訝そうな表情で問う。

「頼まれたのよ!!ミラさんに!!」

「ミラちゃんにだぁ?」

「そーよ!!!」

 

 

ルーシィの話によると昨日、ミラからナツとグレイの喧嘩を止める仲介役になって欲しい等の事で一緒に行ってとお願いされたとの事だった。

 

「はぁ…なんであたしが………」

「プフフ、頑張れルーシィ」

深いため息をつくルーシィの肩を叩くハッピー。そんなハッピーを見てはっとルーシィは気づく。

 

「てか、仲介役ならあんたがいたじゃないハッピー!!」

「オイラは猫なので」

「ただ忘れられてただけでしょ…もー、私が来た意味…」

 

がっくりと肩を落とすルーシィ。

 

そこへ、2人の女と1匹の猫が到着する。

 

「すまない、遅くなったな」

「はぁ…私行かないって言ったのに…」

 

声のした方を3人と1匹が振り返ると

 

黒いオーラを背後に纏い、ズーン効果音がつくのではないかと言うほどやる気の見えないシクルと…

 

「「「「荷物多っ!!??」」」」

 

駅の天上につくのではないかと思ってしまうほどの高さまでつまれた荷物を持ったエルザだった。

 

「ハッピーごめんねぇ遅れてぇ…エルザの準備がすっごく遅くてさぁ」

ハッピーの隣に飛んできたルージュ。

「あい…なんとなくは想像つくよ…これを見たらね」

 

「ん?君は確か…昨日妖精の尻尾にいた…」

「ふぇ…新人さん?」

エルザとシクルがルーシィを見て問う。

ルーシィははっと姿勢を正す。

「あ、はい!新人のルーシィといいます!

今日は…ミラさんから頼まれて同行することになりました…よろしくお願いします!」

 

 

丁寧に頭を下げ、挨拶するルーシィ。

 

「そうか…私はエルザだ。よろしく頼む。ギルドの連中が騒いでいた新人とは君のことか………傭兵ゴリラを倒したそうだな、頼もしい限りだな」

 

「あ、はぁ…てかそれナツだし……現実と少し違ってる……」

 

エルザの話した内容にがくっと肩を落とすルーシィ。シクルはその様子を見てクスッと小さく笑った。

「ルーシィだっけ?私はシクル。よろしくね」

「あ、はい!よろしくお願いします、シクルさん!」

 

ルーシィが敬語で言うとシクルはきょとんとした表情を浮かべてからフフッと笑い、ルーシィに言う。

 

「シクルでいいよ、それと敬語はなしね。仲間なんだから」

「は、はい…あ、うん!」

 

ルーシィとシクルの交流が一段落したところを見て、エルザが話を始めた。

 

「さて…自己紹介はすんだな。今回は少々危険な橋を渡るかもしれないんだが…その活躍ぶりなら問題なさそうだな」

エルザの一言にビクッと体を揺らすルーシィ。

 

「き、危険…!?」

「うへぇ…なんかめんどくさい事になりそう…」

体を震わせるルーシィの横で深いため息をつくシクル。そんなシクルの頭に乗り、「まぁ頑張ってぇ」と言うルージュ。

 

 

「エルザ…何の用事かは知らねぇが…今回はついて行ってやる………条件付きでな!」

 

「条件?」

 

今までエルザの手前、喧嘩をしないようじっと静かにしていたナツが突然、真剣な眼差しでエルザを見据え言う。

 

 

「エルザ…帰ったら俺と勝負しろ!!」

 

 

「へぇ?」

「お、おいバカ!お前何言ってんだよ!?」

シクルが少し興味あり気に笑みを浮かべ、反対にグレイは慌てた様子でナツを止める。

が、既にナツは啖呵をきっている。

 

「ふむ…そうだな…私はいささか自信はないが…いいだろう。受けて立つ」

 

「よっしゃぁああっ!!燃えてきたァ!!あ、それと、シクルも帰ったら俺と勝負しろよな!」

エルザに承諾を貰えた勢いか、シクルにも決闘を申し込むナツ。が、シクルは面倒くさそうな表情を浮かべる。

 

「え゛、やだよ、めんどくさい」

「ぬわにぃ!?」

「まずエルに勝ってからでしょーよ」

多分“まだ”無理だろうけど…と、心の中では思いながらOKを出すシクル。

 

 

「じゃあ、エルザに勝ったらやってくれんだな!?」

「あーはいはい、勝ったらね」

 

「うぉおおおお!!やってやんよぉおおおお!!!」

シクルの答えにやる気に燃えるナツ。

そして、目的の列車が到着し、乗り込む一行。

 

 

その数分後ーーー

 

 

「う…うっぷ………ぎもぢわりぃ……」

「…はあ………大丈夫?ナツ」

 

乗り物に極端に弱いナツは乗り込み列車が動き出した瞬間に乗り物酔いを起こし、先程までの威勢はどこへやら…あっさりダウンしてしまっていた。

 

 

「たくっ!なっさけねぇなあ…ナツさんはよぉ…鬱陶しいから別の席行けよ。つか、列車に乗るな!!走れ!!んでもって何どさくさに紛れてシクルに膝枕されてんだよ!?」

ナツに怒鳴り、シクルの膝の上で悶えるナツの頭を蹴るグレイ。

 

「はぁ…まぁいつもの事だし…てか、走れってちょっと無理があると思うんだけど?」

ナツに怒鳴るグレイを静かに抑えながらナツの髪を撫でるシクル。

 

 

………意外と柔らか…

 

見た目より柔らかみのあるナツの髪質を堪能しながらシクルはクスッと微笑む。

 

ちなみに、現在の席順は………

 

ナツとシクル その目の前にはルーシィとエルザ

通路を挟み、隣にはグレイとハッピー、ルージュの順で座っている。

 

ナツの様子に少々呆れている様子のエルザはため息をつき、ナツに言う。

「はぁ…まったく、仕方ない……私の隣に来い、ナツ」

「それってあたしにどけって意味かしら…」

 

エルザの発言に口角を引くつかせ、少しショックを受けるルーシィ。

が、当の本人、ナツは酔っている中力を振り絞り、首を横に振る。

 

「どうした?早く来い」

「い、や…だ………」

 

エルザの言葉に再度断るナツはシクルの腰に腕を回し、ぎゅぅっとシクルに顔を寄せる。そんなナツに苦笑いを浮かべるシクル。

「ナツ…私はエルの言葉に従った方がいいと思うけど……」

 

 

「………シクルって、鈍感?」

 

「あい、相当のね」

 

「正直あの鈍感さには尊敬しちゃうよねぇ…」

 

「まぁ、そんなとこも可愛いんだがな…」

 

ルーシィ、ハッピー、ルージュとグレイが小さな声で会話をしていると、ルーシィの横から小さな殺気が湧く。

 

「つべこべ言うな…来いと言っているんだ、ナツ…」

ビックぅ!!!

「あ、あ゛い!!!」

「こ…こわ…」

 

エルザの殺気にやられ、素早くエルザの隣に座るナツ。必然的にルーシィはシクルの隣へと腰を下ろす。

 

ナツが隣に来たことを確認すると、エルザは「よし…楽にしていろ」と言い…

 

次の瞬間…

 

 

ドスッ!!!

 

「ごぶっ!?」

 

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

何の躊躇いもなく、ナツへ腹パンを食らわせ、気絶させた。

シクル達は目の前で起きたことに一瞬唖然とし、次の瞬間、各々顔を逸らし、見て見ぬフリを決め込んだ。

 

「これで少しは楽になるだろう…」

唯一、エルザだけが事態に気づいていなかった。

 

この重く沈黙とした空気を変えようとルーシィが話題を引っ張り出す。

 

「そ、そう言えば私!!ナツ以外の魔法を見たことがないんですけど…エルザさんはどんな魔法を使うんですか?」

「私もエルザでいい…それに敬語も必要ない」

ルーシィの敬語とさん付けに笑みを浮かべ、指摘をするエルザ。

 

「エルザの魔法は綺麗だよぉ」

ルーシィの問いにはルージュが答え、更にルージュに続き…

「血がいっぱい出るんだ。相手の」

と、ハッピーが自慢そうに告げた。

 

「…それって綺麗なの?」

 

「大したことは無いさ…それより私は、グレイの魔法の方が綺麗だと思うがな」

エルザはそういい、隣に座るグレイを見て言う。

 

「そうか?」

グレイはエルザの言葉に首を傾げながらも魔力を作り、両手を合わせ

 

シュゥウウン!

 

氷でできた手のひらサイズの妖精の尻尾マークを作り出した。

「わぁ!!」

ルーシィは感嘆の声を上げる。

「氷の魔法さ」

 

「氷…火…あ!だからあんた達仲が悪いわけね!」

「うっせぇよ…!それより、俺はシクルの魔法が1番綺麗だと思うがな」

ルーシィに言われた言葉に少し頬を赤くするグレイは話題を他に移そうとまだ話の上がっていなかったシクルにふった。

 

「え?私?」

自分に回ってこないと思っていたシクルはきょとんと首を傾げる。そんなシクルに期待の眼差しを向けるルーシィ。

「そーいえば!シクルの魔法ってどんなのなの?」

 

「ん?私?私のはナツと同じだよ」

「へぇ!ナツと同じなんだぁ………て、え?ナツと…同じって………まさか!?」

シクルの何気ない発言に危うくスルーしてしまうところだったルーシィだが…

 

ニコッと微笑み、シクルはしてやったりとした様子で言った。

 

「私は月と光の滅竜魔法を使うの…月と光の滅竜魔導士だよ」

「ぇええええええっ!?シ、シクルも滅竜魔導士って………ナツ以外にもいたの!?」

 

しかも2つの属性を持ってるの!?と、興奮気味のルーシィをまぁまぁと落ち着かせるシクル。

「機会があれば見せてあげるね」

「うん!!」

 

ルーシィの興奮が落ち着いたところで、グレイが本題を切り出す。

 

「ところで…そろそろ説明してくれねぇか?エルザ…一体何事なんだ?お前ほどの奴が人の力を借りたいなんてよぉ…」

 

「あぁ…そうだったな……話しておこうか…」

 

 

エルザの口から告げられることとは…

 

 

そして、この先に待ち受けているものとは…

 

 




はい!!如何だったでしょうか?

誤字脱字には気を付けているつもりですが…もしありましたら指摘お願いします!!


では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!

続きは明日になるかと思います…また、よろしくお願いします!


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3話 列車に揺られ火竜は逝く…

はい!どうも、thikuruです!!

自身の思った以上に皆様に読んでいただけているようで少し…結構驚いてます!!


こんな駄作者ですが、今後もお願いします!

では、第3話………最後までお付き合い、お願いします!!


 

エルザの話によると、内容はこうだ…

 

 

仕事帰りに偶然立ち寄ったオニバスにある魔導士が集まる酒場で4人組の男達が集まり、封印されていると言われる“ララバイ”という魔法について話していた。

 

そして、男達の口からは“エリゴール”という人物の名も出ていたという。

 

「ララバイ………“子守唄”?」

シクルが首を傾げその単語を呟く。

その横ではルーシィが「ララバイ…どこかで聞いたことがあるような…」と呟き、考え込んでいる。

 

「眠りの魔法か何かか?」

グレイがエルザに問うがエルザは首を横に振り、言う。

「分からない……ララバイ…それも気になるが、私が気にしているのはその“エリゴール”という名の男だ」

 

「エリゴール………もしかして…」

シクルの脳裏にある人物が浮かび、エルザを見る。その様子を見てエルザは頷く。

 

「あぁ…恐らく、シクルの考えていることで間違いはないだろう…エリゴール…恐らく、魔導士ギルド 鉄の森(アイゼンヴァルト)のエース…“死神 エリゴール”で間違いないはずだ…」

 

 

「し、死神………!?」

エルザの出した言葉に震え上がるルーシィ。

「鉄の森ってぇ…確か、本来は禁止されている暗殺系の依頼をこなして、評議会から追放されたギルドだよねぇ?」

自分の記憶が間違っていないか確認をしながらシクルに問うルージュ。

 

シクルはこくりと頷く。

「うん…本来暗殺系の依頼は評議会の意向で禁止されている…でも彼らはお金を選んだ…」

 

「そして、死神とはその際、暗殺系の依頼ばかりを遂行していた為につけられた通り名だ」

シクルの言葉に付け加えるように続くエルザ。

 

「結果、6年前に連盟を追放され………ギルドマスターは評議会に逮捕されたが………奴らは闇ギルドとし、今も活動をしている…」

 

「闇ギルドぉ!?」

「ひぃ…!」

 

エルザの言葉に恐怖するルーシィとルージュは汗をだらだらと流す。

そんな2人、いや…ルーシィを指差しハッピーはからかう。

 

 

「ルーシィ、汁いっぱい出てるよ!!」

 

「汗よ!!!」

 

 

「なるほどなぁ…」

 

「不覚だった…あの時、エリゴールの名に気づいていれば…!全員血祭りにしてやれたものを…!!」

 

ゴッ!!

「ぐもっ!」

 

エルザは悔しそうな表情を浮かべ、拳を握りナツの頭に拳をおろす。

その様子に再び顔をひきつらせるシクル達。

 

 

「まぁ……確かに、その場にいた連中だけならエルザ一人で何とかなったかもしれねぇ…が、ギルド一つ相手となると……」

再び訪れた沈黙を終わらせる為、グレイが一つ咳払いをしエルザを見て言う。

 

「あぁ…流石に私1人だと分が悪いのでな」

エルザがグレイの言葉に頷き、同意をした時、丁度列車が目的地に着いたため一行は列車を降りる。

 

 

「奴らは“ララバイ”なる魔法を入手し…何かを企んでいる………私は、この事実を看過することは出来ないと判断したのだ…」

 

エルザはそこで言葉を途切らせると、シクル達を振り返り、告げる。

 

「鉄の森へ乗り込むぞ」

 

「面白そうだな…!」

エルザの言葉にグレイだけは賛成し、ルーシィとシクルは…

 

 

「来るんじゃなかった…」

「はぁ…やっぱめんどくさいじゃん…」

2人とも深いため息をつき、肩を落とす。

 

 

「汁出しすぎだって」

 

「だから汁じゃないっての」

 

 

「でぇ?鉄の森のアジトは知ってるのぉ?エルザ…」

シクルの頭に乗り、エルザに問うルージュ。

「いや、それをこの街で調べるんだ」

「へぇ…」

 

 

 

………たー……けー……ぇ…

 

 

 

「ん?」

 

…今なにか………

 

 

シクルは耳に入った、か細い叫び声を疑問に思いふと、周りを見回す。そして、ある重大な事実に気がつく。

 

「あ…え?………ね、ねぇ?」

「「「「「ん?」」」」」

シクルの呼びかけに首を傾げる一行。

 

 

「私の…見間違いならいいんだけど…さ?………ナツ、いなくない?」

シクルの言葉に一同は徐々に顔を青ざめさせる。

 

 

「………ナツ、忘れてたね」

「「…あい」」

シクルの呟きに頷くハッピーとルージュ。

 

 

鉄の森へ乗り込む前に重大な問題が発生してしまった一行であった…。

 

 

「くそっ!!なんという事だ!!

話に夢中になるあまり、ナツを列車に、置いてきてしまった!!

あいつは乗り物に弱いというのに!!私の失態だ!!

 

とりあえず誰か、私を殴ってくれないか?」

 

「えぇ!?ちょ、エルザ!?何いってんの!?」

エルザの暴走に驚くルーシィ。

 

「殴ればいいの?じゃ、殴ろっか?」

「ちょ、待て待て待て!!!何本気で殴ろうとしてんだよシクル!?」

にっこりと微笑み、本気で殴ろうと拳を握るシクルを大慌てで止めるグレイ。

 

「え?だって殴ればいいんじゃないの?本人が言ってるんだし?」

 

「何でそこで天然発揮するのさ!?」

「というか、いつもの面倒くさがりはどこいったんだろぉねぇ…」

きょとりと首を傾げるシクルにハッピーは慌て、ルージュはぼぅっとその様子を眺める。

 

「兎に角、急いで列車を追うぞ!!」

グレイが他のメンバーにそう呼びかける。

 

「あっと…じゃあ私はルージュと一緒に先に列車を追うから…!エル達は後から来て!ルージュ、お願い!」

「あい!!」

シクルはそう言うとルージュを連れ先に駅を飛び出し、列車を追う。

「頼んだぞ、シクル!」

 

飛び去っていくシクルとルージュの後姿にそう叫んだあと、エルザはハッピーと共に列車の緊急停止レバーを下ろし、列車を止めるという行動を起こすのだった…。

 

 

そして、時間を列車が止まる少し前まで遡り…

 

 

「うぅ………たす…け…うっぷ………」

 

1人取り残されたナツはひたすら助けを求め、声をだす…が、生憎と聞き取ってくれる仲間は今この場にはおらず………

 

 

そんなナツに近づく一つの影………

 

 

 

「お兄さん、ここ…空いてる?」

乗り物酔いで苦しむナツに声をかけた男。

だが生憎ナツは乗り物酔いのせいで返事は出来ず…男はナツの返事を待たず目の前に座る。

 

 

荒い息遣いで、苦しげな様子のナツ

「あらら、辛そうだね…大丈夫?」

そんなナツに声をかけてくる男はふと、ナツの右腕のギルドマークに目がいく。

 

 

「…へぇ………妖精の尻尾…正規ギルドかぁ…羨ましいなぁ………」

 

そう言って男は怪しく笑う。

 

 

「妖精の尻尾って言えばさぁ…ミラジェーンとか有名だよね?」

 

乗り物酔いで返事のできないナツを無視し、一方的に話を始める男。

 

「たまに雑誌とか載ってるし…すごく綺麗だよねぇ…なんで現役やめちゃったのかな?まだ若いのにね…

 

あとさぁ名前は知らないんだけど、新しく入った女の子が可愛いんだって、君知ってる?」

 

 

「…ぅ……ぷ……」

 

男が話し続けている中、尚苦しげな様子のナツ。

そんなナツを見て、男は更に笑みを深める。

 

 

「正規ギルドはカワイイ子も多いのかァ…

うらやましいなぁ…うちのギルド全く女っ気なくてさぁ…ね?少しわけてよ」

 

そう言うと男は突然、話していた言葉を切り、ナツへと片足をあげた。

 

そして

 

「なーんつって キーク…ひゃは」

 

ナツの顔面へと足をめり込ませた。

男はニヤニヤと笑う。

 

「シカトはやだなあ…闇ギルド差別だよ?

 

あ、そういえばさぁ…妖精の尻尾に“歌姫”っているよね……“月の歌姫”だっけ?

 

 

………俺達が貰っちゃおうかなぁ…」

 

ピクッーーー

 

“歌姫”…その言葉にナツが反応を見せた事に男は怪しげに笑う。

 

 

「すっごく可愛いんだよねぇ?確か……あぁ、“シクル・セレーネ”だっけ?

 

鉄の森でもすごく有名でさぁ…そんな有名な人が妖精の尻尾にいるなんて許せないからさ………

 

俺達が貰っちゃってもいいよねぇ?」

 

 

「あ……?」

男の一言で昇天しそうであったナツの意識が踏みとどまり、小さく声を出す。

 

 

「お!やっとしゃべってくれた、ヒャハハ」

 

 

「なに…を………て、め………シクルを………なん、だ…?」

 

「はい?よく聞こえないなぁ…」

ナツは苦しそうにしているも男は尚、楽しそうに笑い挑発する。

 

 

「妖精の尻尾っていやぁ…随分目立ってるらしいじゃない?正規ギルドだからってハバきかせてる奴って…ムカつくんだよね

 

うちら妖精の尻尾の事なんて呼んでるか知ってる?

妖精(ハエ)だよ妖精(ハエ)…」

 

男は「ハエたたきー ヒャハ」と、笑いながらナツの頭にチョップをおとす。

 

「てめ………っ!」

 

「お?やるのかい?」

 

ナツは力の入らない体に鞭を入れ、立ち上がり手に炎を纏う。

 

が、それも長くは続かずすぐに消えてしまう。更には乗り物酔いの影響で再び列車の床に膝をつくナツ。

 

そんな彼に男は影を使った魔法で攻撃する。

 

ドガッ!

 

「ぐがっ…」

 

男の攻撃で再び床に転がるナツ。

床を転がるナツに愉快そうな笑いを見せ、再び攻撃をする男。

 

 

ナツへ攻撃があたる…と、男が笑みを深めた時だった…

 

 

 

パリィイイイイン!!!

 

 

「ナツに………何してんのよぉ!」

 

ドガンッ!!

 

「ぐぁっ!?」

 

 

列車の窓を蹴破り入ってきた影…

 

その長い金の髪を揺らす女を見てナツは小さく笑い、女の名を叫ぶ。

 

 

「シクルっ!!!」

 

 

列車の床で蹴られた痛みに起き上がれない様子の男を見下ろし、睨むシクル。

「誰がハエだって?調子乗らないでよ、おにーさん?」

 

シクルの眼に宿るは静かなる怒り…

 

月の歌姫の怒りに触れた男…

 

 

歌姫からの慈悲は…ない…

 




はい!第3話…無事、投稿することが出来ました!


どうでしょうか…少し話の区切りが悪いかな?と自身では思っているのですが………文字数や今後のことを考えるとここらが区切りかな?と思うのですが………大丈夫ですかね?


現在4話を思考中です。早めに投稿出来ればなと思います

では、最後までお付き合い、ありがとうございます!


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4話 死神現る


はい!!無事、第4話投稿出来ました!!


正直、私の思った以上に読んでくださる方や感想を送ってくださる方が沢山おり驚いています……

こんな駄作者ですが、今後も宜しくお願いします!!

では、第4話…最後までお付き合い、お願いします!


 

 

「シクル!!」

 

「あたしもいるよぉー」

 

「あなた…鉄の森の奴ね?こんな所で何しているの?」

 

嬉しそうな声を上げるナツを一瞬視界に入れ、ルージュがナツの近くにいることを確認すると、すぐに目の前の男へと顔を向けるシクル。

 

「ぐっ…お前………歌姫か?」

男はシクルの問いかけに答えることなく、逆に質問を返してくる。

 

「さぁ?それは他の誰かがつけた通り名…私がつけたわけじゃないけど………多分、それで合ってるとは思うわよ?」

そう言い、余裕な表情で男を見据えるシクル。

 

「くっ…ヒャハ………こりゃあいい…アンタが噂に聞く歌姫なら…俺が貰っちゃおうか…」

男の発言にシクルは嫌そうに眉をしかめる。

「え…何それ、どこからどう取ったらそうなる訳?」

 

「アンタに拒否権はないよ?じゃあ、一緒に来てもらおうかな?」

シクルの言葉を無視し、シクルの腕を掴み、連れていこうとする男………すると

 

 

「シクルに………

 

触んじゃねぇっ!!!」

 

ドゴォン!!!

 

「ぐはっ!!!」

 

シクルの腕を掴んだ男を見た瞬間なかった力が湧き上がり、男を拳で殴り飛ばすナツ。

そのまま、男から離れたシクルを腕の中に抱き寄せる。

 

「シクルは俺んだ!!勝手に触ってんじゃねぇぞ、このやろぉ!!」

 

「ナツ…」

ナツの行動と言葉に驚くシクルだが、ふっと柔らかい笑みを浮かべ、ほんの少し、無意識にナツへと擦り寄る。

 

「……でぇきてぇるぅ…」

 

その光景を後ろから見ていたルージュはハッピーの真似をし、口に手を当てにやける様な笑みを浮かべ言う。

(シクルとナツには聞こえていない…)

 

「ぐ、こ、この………!」

男が立ち上がり、ナツを睨みつけた時…

 

 

ガタンッ!!

 

 

列車が、止まる。

 

 

「お?と…止まった?」

「なんで………止まって………ん?」

ナツとシクルが突然止まった列車に不思議に思っていると止まった衝撃で男の懐から何かが落ちた。

 

男の懐から転がったのは三つ目の髑髏の笛だった。

 

男は笛を慌てて拾い、懐へとしまうとナツとシクルをきっと睨む。

 

「み、見たなっ…!?」

 

「うるせぇよっ!さっきはよくもやってくれたなぁ…!!」

 

ナツはシクルから離れ、男を殴るため拳を握り、「お返しだ、このやろぉ!!」と怒鳴り、殴り飛ばす。

「ぐぁ!!ぐ、この………!!!」

ナツが反撃を開始しようとした時だった…

 

 

『たいへんお待たせいたしました

 

先ほどの警報は誤作動によるものと判明いたしました

 

 

まもなく、運転を再開いたします』

 

 

運転再開の案内が流れた。

 

「え?運転再開?」

「何っ!?また動くのか!?」

 

列車運転再開のアナウンスを聞いたナツは男など既に脳裏には無く、シクルとルージュの側へ駆け寄ると抱える。

 

「ちょ!?ナツ!?」

「わわぁ…どーしたのぉ!?」

「逃げんだよ!!これ動きだす前に脱出すんぞ!!」

驚くシクルとルージュにそう言い切るナツはシクルが蹴破った窓から脱出を試みる。

 

そして、丁度窓枠に足をかけようとした時列車が動き出す。

 

「うぷ………!!」

 

「ちょ、ナツ…ぅ…っ!?(あ…酔い止め切れた!?)」

 

「あいやぁー!!シクルぅ、お薬切れちゃったァ?」

 

列車がゆっくりと動き出すとナツだけでなく、シクルも口元を抑える。

 

実はシクルも乗り物に極端に弱いのだ…

ナツは足に力を入れ、窓枠から体を乗り出す。

 

ダッー!!

 

列車の外へ飛び出したナツ。

だが、飛び出した瞬間………

 

ツルッーー!

 

「ふぇ?」

「「あっ!」」

 

ナツがシクルを離してしまった。

 

 

「ちょおおおっと!?なんで離すのよナツのばかぁああああっ!!!」

 

「だぁあああっ!!しまったァ!!」

慌ててナツがシクルの手を掴もうとするが…

 

 

「おい、くそ炎!!よけっ…!!!」

 

「あ゛!?」

 

 

ゴチィイイイインッ!!!!

 

 

「「いってぇえええええええっ!!!!」」

 

 

ナツの救出に来たエルザ達が丁度列車の横に到着した瞬間で、魔導四輪車の上に乗っていたグレイと脱出をしたナツの頭が激突した。

 

 

結果、ナツはグレイと共に地面へ落ち、シクルはナツの手から離れたルージュが助けることで事なきを得た。

 

 

「ふぁああ…し、死ぬかと思った…ありがとう、ルージュ」

「あい!」

 

 

「いってぇええ!!てめ、いきなり何しやがる!!」

強打した箇所を抑え、ナツに怒鳴るグレイ。

「今のショックで記憶喪失になっちまった!!!誰だおめぇ、くせぇ」

そう言いナツは鼻をつまみ、顔をしかめる。

 

「んなにぃ!?」

 

「ナツーごめんねー」

 

ハッピーがナツに駆け寄る。シクルはルーシィの隣に下ろしてもらっている。

 

「ハッピーにエルザ!ルーシィひでぇじゃねぇか!!俺置いていくなんてよぉ!!」

ガルルッ!と声が聞こえそうなほど忘れられたことに怒っているナツにエルザが

 

「すまない」

と、いいルーシィが

 

「ごめーん」

と謝った。

 

 

「おい…随分都合のいい記憶喪失だなぁ…」

グレイ以外の名は綺麗に覚えているナツに眉間のシワをピクピクとさせ、苛ついているグレイ。そんな彼の肩を叩き、

 

「ドンマイ…頑張れグレイ」

と励ましているのか少し微妙なところのシクルの言葉。

 

「兎に角、無事で何よりだ、良かった」

 

ガンッ!

 

「硬ーーー!!」

エルザの手により胸元へ頭を抱き寄せられるナツだが、エルザは生憎と鎧を着ている為、柔らかい感触はなく…鈍い音がナツの頭から響いたのである。

 

「うわいたそぉ…」

シクルが哀れみの目でナツを見る。

 

「いって…無事なんかじゃねぇよ!!列車で変なやつに絡まれるしよー!」

 

「変なやつ?」

エルザの問いにナツは先ほどの一悶着の中で聞いた言葉を思い出す。

 

「何つったっけか………確か…アイゼン………バルン?」

「ナツ、アイゼン“ヴァルト”ね、バルンって何さ…」

 

「アイゼンヴァルト………はっ!!この、ばかものぉ!!!」

ナツの言ったギルドの名は今、まさにシクル達が追っている闇ギルドの名だった。

 

エルザはその事に気付き、易々と逃がしてしまったナツへ、怒りの鉄拳を加える。

 

ドゴォーーー!!

 

「ごぱっ!?」

 

エルザにより、殴り飛ばされるナツ。

 

エルザは再び地に沈んだナツの胸倉を掴み起こす。

 

「貴様!!鉄の森は私達の追っている者だと話しただろう!?」

「はぁ!?俺んなこと聞いてねぇよ!?」

「何っ!?なぜ聞いていない!!さっき列車の中で話しただろう!!!」

 

列車での話を聞いていなかったナツを叱るエルザ。だが…

 

 

(…ナツが話聞いてなかったのはエルが気絶させたからだと思うんだけど…

 

言ったら面倒くさそうだから黙っとこ)

 

先ほどまでの経緯を脳裏で思い浮かべながら深いため息をつくシクル。

 

「まったく…で、そいつに何か特徴はあったか?」

一通り、説教をし終えたのかエルザはナツを離しシクルやルージュを見て問う。

 

「特徴………ねぇ…あ、確かあいつ三つ目の髑髏をした笛を持ってたと思うよ?」

「持ってたねぇ…ちょっと不気味だったよぉ」

 

シクルとルージュの言った笛というものに今まで黙っていた(唖然とし、会話に入れなかった)ルーシィがはっとした表情をし、ぶつぶつと何かを呟く。

 

「笛………三つ目の髑髏………ララバイ………子守唄?…………呪歌……死?………そうか!!」

 

ルーシィは何かを確信づいた様子でシクル達を見て叫ぶ。

 

「それだ!!!その笛がララバイよ!!

 

呪歌………“死”の魔法!!」

 

「なに?どういう事だ、ルーシィ」

エルザからの質問にルーシィは頷き、自身の記憶に基づいた情報を話し始める。

 

 

ララバイ………

 

それは大昔にいたと言われている黒魔導士

 

“ゼレフ”が作り出し魔笛へと進化させた

 

元は“呪殺”の為の道具の一つ…

 

笛の音を聴いた者全てを呪殺する道具…

 

 

“集団呪殺魔法 ララバイ”

 

 

「集団呪殺魔法だと!?」

 

「マジかよ!?」

 

「なんということだ…」

 

ルーシィの話を聞き、グレイ、ナツ、エルザが驚愕の表情を浮かべる。

シクルやルージュ、ハッピーも深刻な表情を浮かべる。

 

「兎に角、今はあの列車を追おう!」

エルザはそう言うと、魔導四輪車へ乗り込み、「お前達も早く乗れ!!」と、シクル達に喝を入れる。

 

エルザの言葉に慌てて乗り込むシクル達。

乗り込む前にシクルは酔い止めを飲み込む。

 

 

オニバス駅の隣の駅、オシバナ駅へ魔導四輪車を飛ばし、急ぐエルザ達。

 

ギャギャギャギャッ!!!

 

キィイイイイッ!!!

 

「「「わぁっ!!」」」

「っ…!ちょ、エル!!」

「エルザ!!飛ばしすぎだ!!」

 

魔導四輪車は、操縦者の魔力を使い走る物。

今、操縦しているのはエルザであり、先を急いでいるエルザは大量の魔力を消費しながらオシバナ駅へと急いでいた。

 

「こうでもしなければあの列車には追いつけない!!」

 

「でもエル!!そんなに魔力を使ったら後でいざと言う時に戦えなくなるよ!?」

「しかもSEプラグが膨張してんじゃねぇか!!」

 

 

「うっぷ……誰、か…おろ…して、くれぇ…」

想像だけで酔ってしまえるナツにとって今の現状は地獄のような状況…最早、正常な考えは浮かばない様で、体を魔導四輪車の外へと出し、飛び降りようとする。

 

「ちょ!!ナツ!!落ちるよ!?」

「ナツ!!やめなさいって!!」

慌ててシクルとルーシィで抑える。

 

「降ろしてぇ〜…うぷ…」

 

「ね、ねぇ!シクル、酔い止め持ってるんでしょ!?ナツに1つあげれないの!?」

魔導四輪車に乗る前にシクルが薬を飲んでいたことを思い出したルーシィが、シクルに聞くが…

 

「あー………あれ、私以外の人が飲むと逆に体調悪くしちゃうっていうか…だから、私しか飲めないんだよね…」

 

「そ、そう………」

飲んで効果があるのなら飲ませてあげたかったが、逆に体調を壊してしまうのなら仕方ない…と、ルーシィは諦め、ナツが落ちないよう抑える事に専念する事にした。

 

 

そして、約5分後ーーー

 

 

目的の、オシバナ駅へと到着。

 

 

到着すると駅では入場を規制する線が張られており、聞いてみると駅を闇ギルドに占拠されたとの事だった。

 

外で入場規制をしていた駅員の1人をつかまえるエルザ。

「君!!中の様子は!?」

 

「な、なんだね!?君は!」

突然の事で駅員は戸惑う。すると…

 

 

ゴスッ!

「ぐは!?」

 

「「「えぇ!!?」」」

「おいおい…」

「エル………」

 

答えに戸惑っていた駅員に頭突きを食らわせたエルザ。

そのまま、他の駅員に聞き回り、その度に答えられない駅員に頭突きし、気絶させていた。

 

「あ、あれって………」

「あい…即答できる人しかいらないってことかな…」

ルーシィとハッピーがその光景に震え上がりながら話す。

その後、駅員は全員倒れてしまい、結果、エルザ達は規制線を乗り越え、駅構内へ乗り込むこととなった。

 

乗り込む際、まだ酔いの冷めないナツを誰かが背負うことになるのだが…

 

「ちょ、ちょっと!?これあたしの役なの!?」

何故かルーシィがその役に…

他のメンバーは既に乗り込んでいる。

 

「あーもー!!何であたしなのよぉ!!」

文句を言いながらも力を振り絞り、ナツを背負いシクル達の後を追う。

 

 

 

そして、シクル達が乗り込んだ先には………

 

 

「なっ…!!」

 

「これは……」

 

「「え…?」」

 

「………軍が、全滅してる…」

 

「ひぃ!?何これ…!?」

 

「…ぅぷ……」

 

シクル達の目の前には軍隊の小隊が全員傷つき倒れ、呻き声を上げている光景だった。

 

シクルは小隊の人達に近寄り、傷の具合を見る。

 

「………大丈夫、命に関わる程の傷はないみたい…」

そう言ったシクルの言葉に一同はほっと胸を撫で下ろす。

 

「闇ギルドと言え、魔導士だ…魔法を使わない小隊では、話にならなかったということだろう…」

エルザの言葉にシクルとグレイは頷き、シクルは腰を上げ、駅の奥を睨む。

 

「多分…この先にいる……」

 

「あぁ………行くぞ!」

エルザの声と共に駅のホームへと走る。

 

 

そして、ホームには………

 

 

「「「…!!」」」

「ほぅ…」

「こいつら……」

 

数十人の闇ギルド、鉄の森の魔導士が集まっていた。

 

 

その中央…空中に浮かんでいる一つの影…

 

 

「クククッ…やはり来たな…待ってたぜぇ…

 

 

妖精の尻尾………」

 

 

ニヤリと笑い、シクル達を見下ろす大きな鎌を持った男…

 

 

「………エリゴール」

 

 

彼こそ………今回の騒動の黒幕………

 

 

鉄の森 エース………“死神 エリゴール”





はい、如何だったでしょうか………

次回から戦闘パートに入ります………!


戦闘シーンは私としては苦手な部類なのですが………頑張ります!!
では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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5話 100VS2

はい!!日付が変わってしまいましたが第5話、投稿致します!!


んー………この終わり方で良かったか未だに少し不安なのですが…

最後までお付き合い、お願いします!!


 

シクル達を見てニヤリと笑う男、エリゴール

 

「ヒャハ…待ってたぜぇ、ハエ共…」

 

先ほどの列車にいた男…“カゲヤマ”がニタニタと嫌な笑みを浮かべ言う。

 

 

「貴様がエリゴールだな…

 

何が目的だ?返答次第ではただでは済まさんぞ!!」

 

エルザが一歩前に立ち、エリゴールに声を上げる。

が、エリゴールはその覇気に気圧される事なく、更に高く空中に浮く。

 

「あいつ…浮いてる…」

「多分風の魔法を使うんだと思うよぉ…」

 

「クククッ………まだ分かんねぇのか?…駅には何がある…?」

エリゴールはそう言い、駅に設置されたスピーカーを叩く。

 

「っ!?貴様まさか…ララバイを放送するつもりか!?」

「何っ!?」

エルザの言葉にグレイはエリゴールへと驚愕の表情を向ける。

 

「ふはははははっ!!!

 

これは粛清なのさ…!!

権利を奪われた者の存在を知らずに…権利を掲げ、生活を保全している愚か者共への…な

 

この不公平な世界を知らずに生きるのは罪だ………よって死神が罰を与えに来た

 

"死"というなの罰をな!!」

 

「なんて勝手な……!元はと言えば自分たちが決まりを破ったからでしょーが…!!」

ルーシィがナツを床に寝かせ、エリゴールに怒りをぶつける。

 

ルーシィの隣ではハッピーも「そーだそーだ!」と声を上げ、ルージュもシクルの横で頷いている。

「そんなことしたって権利が戻ってくるわけでもないのにねぇ…」

 

「ククッ…ここまで来たら欲しいのは“権利”ではない…“権力”だ!!

 

権力があれば全ての過去を流し、未来を支配することさえ出来る!!」

 

「アンタ…バッカじゃないの!?」

エリゴールの語った話に嫌気がし、声を荒らげるルーシィ。その横でシクルはじっとエリゴールを見つめ、そしてはぁ…とため息をついた。

 

 

「めんどくさ…結局ギルドが解散になったのはあなた達が規則に逆らったから……確実に自業自得じゃない………それを、評議会のせいにして…逆恨みもいいところだわ」

 

シクルの言葉にピクッと反応を小さく見せ、顔を歪ませるエリゴール。

「黙れ小娘ェ!!!」

 

「残念だったな、ハエ共!

闇の時代を見ることなく死んじまうとは!!」

 

声を荒らげたエリゴールに代わり、カゲヤマが魔法を繰り出し、ルーシィへと攻撃を向ける。

 

 

「きゃっ!?」

 

「しまったっ!!」

 

「ルーシィ!!」

 

突然の攻撃に反応の遅れたルーシィは顔を腕で覆い、痛みに耐えるため身構える。

 

その時ーーー

瞬時にシクルがルーシィの目の前へ移動し、右手を構え…横に振るうと………

 

 

スパンッ!!

 

カゲヤマの攻撃が真っ二つに斬れる。

ぱぁっとルーシィの表情に笑みが見られる。

 

「シクル!!」

 

シクルの手により攻撃を消されたカゲヤマだが、表情は余裕のまま…

 

「甘いなぁっ!!」

 

カゲヤマのその声と共に次は左右から影の魔法で作られた大きな手がシクルへと襲いかかる。

 

「「「シクルっ!!!」」」

ルーシィ、ハッピー、ルージュが慌てて声を上げるがシクルはふっと目を閉じーーー

 

 

「遅いよ………ナツ」

 

 

ボゴォオオオッ!!!

 

シクルに向けられた影の手をナツの炎が焼き消した。

 

「ふっかぁあああつ!!今度は地上戦だな!」

 

「ナツ!!フフン こっちは妖精の尻尾最強チームよ!!覚悟しなさい!」

 

ナツが復活したことによりルーシィは誇らしげにエリゴールへと声を上げる。

 

 

睨み合う両者………少しでも動けばその瞬間衝突が起きる…そんな状況の中、エリゴールが動く。

 

「後は任せたぞ…俺は笛を吹きに行く…」

 

そう言い、エリゴールは高い窓ガラスを割り、隣のブロックへと姿を消した。

 

「あ!待ててめぇ!!逃げんのかこらぁ!!」

 

「クソッ!!向こうのブロックか!!」

 

「くっ…ナツ!!グレイ!!2人で奴を追うんだ!!」

エルザの指示にナツとグレイはお互いに顔を見合わせ「む…」と睨み合う。

 

「お前達2人が力を合わせればエリゴールにだって負けるはずが無い………」

 

「「むむむ……」」

 

未だに返答のない2人に痺れを切らしたエルザ…

 

「聞いているのか!?」

と、怒鳴ると…2人は瞬時に姿勢を正し、敬礼をする。

 

「「あいー!!!」」

 

 

「エリゴールはララバイをこの駅で放送するつもりだ…それだけは何としても阻止しなければならない………ここは私達が引き受ける、行け!!!」

 

「「あいさーーー!!!」」

 

「最強チーム解散ーーー!?」

 

エルザの気迫に負けた2人は即座に返事をし、エリゴールの後を追った。

そんな2人を鉄の森からはカゲヤマともう1人、レイユールという男が追いかけ飛び出していった。

 

 

3人いなくなったがまだ数十人はいるであろう鉄の森の魔導士達。

 

「こいつらを片付けたらすぐに私達も追うぞ!!」

 

「ちょ…!?この人数をあたし達が相手するのぉ!?」

 

「うへー…めんどくさぁい…ここエルに任せていいよね?いいよね?ね?」

 

 

鉄の森を前にエルザは構え、ルーシィは震え、シクルは端の方へ寄り座る。

 

「というか、シクルも戦ってよ!?」

「えー?やーだよ…めんどくさい………」

「めんどくさいで片付けないでくれません!?」

ルーシィの叫びにも動こうとはしないシクル。

 

「ルーシィ、諦めろ…いつもの事だ…(それに、いざとなれば何も言わずに動くだろう…)」

 

 

「女3人で何が出来るやら…」

 

「いや、私やらないって…」

 

「それにしても3人共いい女だなぁ…」

 

「ねぇ?私の話きーてる?」

 

「殺すには惜しいなぁ…」

 

「とっ捕まえて売っちまおうぜ!」

 

「いやいや、その前に妖精の脱衣ショーだろ!!」

 

そう言ってニヤニヤと嫌な表情でエルザ達を見る鉄の森の魔導士達。その様子にエルザ達は顔を歪ませる。

 

「下劣な…」

「はぁ…きもちわる……てか誰も私の話聞いてないよね?」

「可愛すぎるのも困りものね…」

 

1人頬に手を寄せ、どこか別の世界へ行っているルーシィ。

「ルーシィ戻ってきてー」

「ルーシィ壊れたぁ?」

そんなルーシィの頬を叩き、正気に戻そうとするハッピーとルージュ。

 

 

「それ以上、妖精の尻尾を侮辱してみろ…貴様らの明日は約束できんぞ…」

そう言い、鉄の森の奴らを睨みつけるエルザは片手に魔法剣を出現させ、握る。

 

 

「剣が出てきた!?魔法剣か!」

 

1人の魔導士が驚きの声を上げるが他の魔導士が喝を入れる。

 

「怯むな!!珍しくもねぇ!」

 

「そうだ!こっちにだって魔法剣士はいるんだぜぇ!!」

 

「へへっ!その鎧、ひんむいてやらぁ!!」

 

そう叫び、一斉にエルザへと突っ込む鉄の森の魔導士達。

だがエルザは臆することなく、逆に魔導士達の懐へと走り込む。

 

 

「あ、あの人数を相手にエルザ1人じゃぁ…!!」

分が悪いと思ったルーシィは加勢しようとするが…それをシクルが止める。

 

「大丈夫だよ…エルがあれくらいにやられる訳ないよ…見てな」

「………え?」

シクルの言う通り、エルザの方へと目をやるルーシィ。

 

その視界に映ったのは………

 

 

緋色の髪を靡かせ、敵を次々と薙ぎ払うエルザの姿。

 

エルザは敵を薙ぎ払う度に武器を変え、剣から槍、槍から斧…斧から双剣と言った様子で、その速さは異常だった。

 

「こ、この女……なんて速さで“換装”するんだァ!?」

「…換装?」

 

「魔法剣は別空間にストックされている武器を呼び出すって原理なんだ。その武器を持ち替えることを“換装”って言うんだよ」

ルーシィの疑問にハッピーが答える。

 

「へぇ…すごいなぁ………」

 

ルーシィは感嘆の声を上げるがその横で誇らしげにハッピーに続きルージュが説明をする。

 

「エルザが凄いのはこれからだよぉ

魔法剣士は通常“武器”を換装しながら戦うんだけどぉ…

 

エルザは自分の能力を高める“魔法の鎧”も換装しながら戦うことが出来るんだよぉ」

 

「鎧も…!?」

 

「あい!それがエルザの魔法、“騎士(ザ・ナイト)”です!」

 

ハッピーがそう言った瞬間、エルザは鎧を“天輪の鎧”へと換装させる。

 

 

「わぁ!!」

 

「舞え、剣たちよ………」

 

エルザがそう唱えるとエルザの周りで剣たちが踊るように回り、そして敵を斬り裂き、一掃する。

 

 

「天輪!!“循環の剣(サークル・ソード)”!!!」

 

 

「「「「「ぎゃああああああっ!!!!」」」」」

 

 

「おー…流石、エル」

 

エルザの攻撃により、敵は半分程まで減少した。

そして、エルザは攻撃を止め、シクルへと振り返る。

 

「…シクル」

「ん?………え?残り私やんの?」

シクルの問いに何も言わずただ見つめるだけのエルザ。

 

だが、その瞳はやれと言っている…

 

シクルははぁ…と深く溜息をつき、腰を上げる。

 

「めんどくさいなぁ………一瞬で終わらせていーよね?」

「あぁ、構わん」

エルザからの許可が下りたシクルは、んーっ!と一度背伸びをしてから、ゆっくりと深呼吸をする。

 

 

「はぁ…じゃ、悪いけど一瞬で終わらせてもらうよ?めんどーだし」

 

そう言ったシクルの表情はどこか楽しげに笑みを浮かべている。

「…シクル………」

ルーシィが心配そうにシクルを見つめていると、その肩にルージュが乗り、言う。

 

「大丈夫だよぉ、シクルは強いからぁ」

「ルージュ…」

 

「それより、多分本当に一瞬で終わっちゃうと思うからさぁ…ちゃんとしっかり見ておいた方がいいよぉ」

「…え」

 

ルージュがそう言い、ルーシィはシクルの方を見つめる。その瞬間…

 

「月竜のぉ…………咆哮ォ!!!」

シクルの口から銀色の光が放たれ、敵を本当に一瞬で一掃した。

 

その威力はナツの何倍か………ルーシィには測りきれず、ただ唖然とその光景に目を奪われた。

「す、すご………」

 

「ひぃ…こ、この…バケモノぉ!!」

 

シクルの魔法から難を逃れていた数人の魔導士がシクルへと魔法を飛ばす。

が、シクルはその光景を慌てることなく見つめ、そして………ため息をつく。

 

 

「あー………めんどくさい…疲れた………」

シクルはそう呟くとふっと目を閉じる。

 

 

そしてーーー

 

 

 

カッーーーー!!!!!

 

 

グォオオオオオオオオオオオッ!!!!!

 

 

シクルが敵を睨むと放たれた魔法は一つ残らず消え去り、敵の目には耳をつんざく様な鳴き声を轟かせる巨大な銀色に輝く竜が見えた。

 

 

「ひ………」

「ぁ………ぁあ………」

その光景を目にした瞬間、残っていた敵が全て倒れ、失神した。

 

「な…なに………今の?」

今目の前で起きた現象…その光景に何が起きたのかわからない様子のルーシィ。

「今のはシクルの魔法の一つ………“月竜の眼光”だ」

「月竜の…眼…光?」

 

訳の分からないルーシィに説明をするエルザ。

「あぁ、竜と同じ威圧を全身からオーラのように発し、敵を威嚇、戦意を喪失させる…そして、ほぼ全ての魔法を無効化する」

 

「す…すご………」

そのエルザの言葉にルーシィはシクルを見つめる。

 

「………ふぅ…疲れたぁ………」

長く深い溜息をつき床に座り込むシクル。そんなシクルに近寄り、肩を叩くエルザ。

「お疲れ………流石だな、シクル」

「んー…へへ、エルの方がすごいと思うけどなぁ…」

 

 

「ひぃ!?ま、間違いねぇ………こいつら、あの噂の!!」

 

 

倒れていた鉄の森の何人かが意識を取り戻し、エルザとシクルを目に入れると悲鳴を上げる。

 

 

「あ、あいつ……!妖精の尻尾最強の女!!妖精女王(ティターニア)のエルザだぁ!!!」

 

「ちょっと待て!!あ、あっちはあの…!第二の妖精の尻尾最強の女!妖精の姫(フェアリープリンセス)のシクル!!!」

 

「ひぃいいい!?」

 

エルザとシクルの正体に気付いた彼らは引き腰で逃げ去る。

「あ、逃げた…まだ動けたんだァ…鈍ったかな?」

逃去る後ろ姿を見つめ少ししょんぼりとするシクル。その隣でエルザが少し表情を険しくし、呟く。

 

「もしや、エリゴールの下へ向かうやもしれん…ルーシィ!追うんだ!!」

 

「えーーー!?あたしがぁ!?」

突然指名されたルーシィは非難の声を上げる。が、エルザがギロッと睨みつけ、「頼む…!」と念を押すとルーシィは慌てて逃げた奴らの後を追う。

 

「…ハッピーとルージュもルーシィについていって」

ルーシィを心配したシクルがそう言うとハッピーとルージュは嫌な顔をせず、ルーシィの後を追いかけ、消える。

 

 

その瞬間…

 

 

ガクッーーー

 

「くっ…!」

エルザが膝をつく。

その様子にシクルははぁと溜息をつき、肩を貸し、壁へと寄せる。

 

「まったく………もう魔力がないんでしょう?エル…」

「だ、大丈夫…だ………それより、早く…外の奴らの避難………」

そう言い、無理に立ち上がろうとするエルザを片手で止めるシクル。

 

「だーめ、エルはここで少し休んでなさい。避難は私がやっとくから…ね?無理しないで大人しく留守番しててよ?」

 

シクルにそう言われ、むっとした表情をするが、すぐに諦めたのかはぁと溜息をつき、エルザはシクルを見上げる。

 

「すまん………回復したらすぐに向かう…頼めるか?」

エルザの言葉ににっと笑みを浮かべ、頷くシクル。

 

「任せて!!」

そう言うと、駅の外へと走り去るシクル。

 

 

シクルがいなくなると、エルザは駅の天上を見上げる。

 

 

「………私もまだまだだな…まったく………」

 




はい!如何だったでしょう?
今回はあまり戦闘シーンらしいものはないようにも思えますかね……


すいません…orz‎

次のお話はお昼か夕方辺りの投稿になるかなと思われます!


ではまた次回…宜しくお願いします!最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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6話 死神、歌姫攫う

はい!!予告通り投稿できました!!

感想で指摘されたのですが主人公の魔法、月竜の眼光なのですが……


た、たしかに…効果など似ていますね…

ですが、私はそちらの方は読んだことがなく、本当にただの偶然で似ただけなのですが………正直考え出した本人が一番驚いています…


ともかく、第6話、最後までお付き合い、お願いします!


オシバナ駅 外ーーー

 

 

シクルが駅の外へ出るとそこには何が起きたのか気になる様で、野次馬が沢山いた。

 

「うっひゃぁ…何したらこんなに集まるのかなぁ…」

シクルが頭を掻き、野次馬達を見下ろしていると…一人の街人がシクルに気づく。

 

「あ、お、おい!!誰か出てきてるぞ!!」

 

「君は…さっき強引に中へ入った人だね?中はどうなっているんだい?状況は!?」

街人の声にシクルの存在に気づいた駅員がシクルへ駆け寄る。

シクルはめんどくさい…と言った面持ちで駅員を見てからその手に持っている拡声器を掻っ攫う。

 

「あ、ちょ君………!」

「ちょっと借りるよ?(エルの感じで……)

 

 

すぅ………お前らぁあああっ!!!命の惜しい奴は今すぐここから逃げろぉ!!!

駅は闇ギルドの魔導士達に占拠されている!!奴らはここにいる全ての人間を殺すだけの強力な魔法を持っている!!

 

 

早く逃げるんだ!!!」

 

 

シクルの叫びに恐怖した野次馬達は一目散に散り散りに逃げ去った。

 

「き、君!!?何故そんなパニックになるようなことを…!!」

突然、辺りが混乱するような話を叫んだシクルに詰め寄る駅員だが、シクルは真剣な眼差しで駅員を見据える。

 

 

「今の話は嘘じゃありません…あなた達も、命が惜しければ早く逃げてください…ここは、私達が何とかしますので…」

 

シクルの話を聞いて「ひぃ…」と悲鳴を上げ、駅員達も逃げていく…。

 

「ふぅ…(これでこの辺の避難は何とかなったはず…あとは…)エリゴールがどう動くか…」

 

………でも………

 

「…本当にララバイを放送するのが目的なの…?(駅には他の仲間がいるのに…?他に目的が………)…んー…なんか面倒くさくなってきた…とりあえず、エルのところに戻ろっと…」

 

そう呟き、くるっとシクルが駅の方へ振り返った時…

 

 

ゴウッと音と共に駅が大きな竜巻に包まれていた。

「なっ………!?風の結界…?なんで………」

 

まるで…誰も近寄せない様にするみたいに吹く竜巻………否、これは………

 

 

「…中の人を外に出ないようにする為?」

そう考え、ある事に気づきかけた時

 

 

「シクルっ!!」

 

竜巻の向こうからエルザの声が聞こえた。

 

「エル!そこにいるの?休んでてって言ったのに…」

「もう充分休んださ…それで、お前が遅いので少し気になってな…様子を見に来てみたら………これは何だ?一体…」

 

丁度エルザも外に出ようとした瞬間に駅が竜巻に包まれ、出れなかった…という事のようだ。

 

「エル!兎に角この風には触れないで!恐らくこれを突破するにはこれ自体を解除するかあるいは………」

 

そう、シクルが風の結界の突破口をエルザに指示している時だった…シクルの背後に影が現る。

 

 

そしてーーー

 

 

ガシッーーー

 

「へ?」

「これはこれは………妖精の姫…月の歌姫様ではありませんか………何故ここに?あぁ…外の野次馬共を逃がしたのは貴様か…」

 

 

「っ!?エリゴールっ!!!」

 

シクルは突然背後に現れたエリゴールの腕により、脇に抱えられる様な状態で持ち上げられる。

 

「エリゴールだと!?シクル!!」

シクルの声が聞こえたのか、エルザに焦りが見られる。

 

「クククッこりゃあいい………歌姫の歌声は特別と聞く…いいか、歌姫は俺がもらう…」

「はァ!?何勝手な事言ってるのよ!?私があなたのものになる訳ないでしょ!?」

エリゴールの言葉に抗議するシクルに鎌の刃を向け、睨みつけるエリゴール。

 

「黙れ小娘………貴様に拒否権などない…

 

いいか、ハエ共………歌姫は俺が貰う…

 

 

貴様らはその魔風壁の中で何も出来ずにただ指をくわえ見ておけ…クククッ」

 

「っ!!待て、エリゴールっ!!!」

エリゴールの言葉に慌てて魔風壁の外に出ようとしたエルザだが…

 

バチィイイイ!!

 

「っ!!ぐっ…!」

魔風壁に遮られ、出ることが出来ず魔風壁に当たった腕が傷だらけになった。

 

「エルっ!!」

 

「クククッ…鳥籠ならぬ、ハエ籠…か?あぁ、にしてはちっとでけぇか?まぁいい…少々時間も押しているからな…俺はこれで失礼させていただくぜぇ………あばよ、妖精女王…」

「はーなーしーてぇえええ!!!」

 

エルザの耳に最後に聞こえたのはエリゴールの高笑いとシクルの大きな叫び声だった。

 

エリゴールの高笑いが聞こえなくなると完全に魔風壁の外から2人の気配が消えてしまった。

 

エルザはゴッ!と地面を殴る。

 

「クソッ!!なんという事だ…シクルがっ!…否、まずはここを抜け出すことを考えるか………しかし、奴らの目的は…狙いはこの駅ではないということか…?…エリゴールの狙いは…一体………」

 

自身に言い聞かせるように呟き、落ち着きを取り戻したエルザはエリゴールの狙いを考える。

そして、エリゴールの気配が消えていった方を見つめ、ある事実に気づく。

 

 

「…待て………この先は…クローバーの街………

奴らは6年前正規ギルドから追放されている…恨むのなら正規ギルドだ………まさか、奴らの狙いは…!」

 

 

ギルドマスター………

 

「奴らの狙いはマスターかっ!!!」

 

「エルザ!!」

エリゴールの狙いに気付いたエルザの耳にグレイの声が聞こえる。

声のする方を振り返ると傷はないも少しホコリのついた顔を見て戦闘があったのだな、とエルザは思う。

 

「グレイか…どうやらそちらも無事のようだな」

「あぁ、けどこりゃあ一体なんだ?」

グレイはエルザに魔風壁について聞き、エルザはここまでの経緯を説明する。

 

 

「はァ!?シクルがあの野郎に連れてかれた!?」

「あぁ…私がいながら…情けない!しかも奴はギルドマスターの命を狙っているはずだ…急いでこの結界から抜け出さんと………」

そう言い、グレイを見たエルザはその近くに桜髪がいないことに気づく。

 

「そう言えばグレイ…ナツはどうした?」

 

「あ?あぁ…あいつとは途中ではぐれたんだよ多分あいつも今頃他の誰かと戦ってるかもしれねぇが…」

 

グレイの言葉に頷くエルザ。

「そうか…恐らくナツの事だ…大丈夫だと思うが…」

「あ!そう言えば、鉄の森のヤツらの中に解除魔導士(ディスペラー)がいた筈だ!!確か名前は…“カゲヤマ”とか言ったか?」

 

カゲヤマ…その名に、ナツを追った敵の1人がエルザの脳裏に過ぎる。

 

 

「ララバイを1人で解除したというやつか!

ならば急ぐぞ、ナツと戦闘しているやもしれん!!」

エルザの言葉にグレイは頷き、2人でナツの捜索をを始めた。

 

 

その背後で2つの影が動いていたことを2人は気づきはしなかった…。

 

 

一方、エリゴールに連れてかれたシクルは…

 

 

「ねぇー…ちょっとー…もちょっとゆっくり飛べないのぉ…?(てかゆっくり飛んでお願いだから…酔ってきた…ぅぷ)」

「黙れ………小娘貴様は今や人質と言っても過言ではないんだぞ…」

小脇に抱えられているシクル。

 

彼女的には乗り物酔いと同じ症状が徐々に出始めているため速度を落としてもらいたい様子だが…もちろんエリゴールが聞き入れるわけもなく………

 

がっくりと肩を落とすシクル。

が、その裏ではエリゴールの狙いを考えていた。

 

「………(この先は…クローバーの街…確か今日はあの街でマスターたちの定例会があったはず………そうか、エリゴールの狙いは…)

 

あなた、マスターの命が狙いね?

オシバナ駅でのあれは私達に悟らせない為のフェイクって事ね…」

シクルの指摘にほぅと感心した様子のエリゴール。

 

「流石…歌姫と言ったところか?ますます魅力的だなぁ…」

 

ゾワワッ

 

「あ、あなたに気に入られたってなんとも思わないわよ!?(と言うより気持ち悪いぃ!!お願い早く解放してこいつから今すぐにでも離れたぃいいっ!!)」

 

エリゴールのニヤリとした笑みを見てシクルの背筋を寒い何かが駆け巡る。

 

「だが今のお前には何も出来まい…大人しくマスター共がやられるのを見ているがいい…」

エリゴールはシクルの首に着いている首輪を見てそう言う。

 

「…はぁ」

 

シクルの首につけられているのは魔法を使えなくする道具。だが、シクルにとってはこの魔力石を破壊するのは正直容易いものなのだ。

 

が………

 

「…(壊すのめんどくさい………)」

という理由で破壊せずにいる…。

 

(ヤバくなったら壊そう…それまではこのままでいいや…)

この言葉を聞いたらこんな時まで面倒くさがるな!と誰かさんに叱られそうだな…と思いながらも、行動を起こすことはせず、流れに身を任せることにしたシクルであった…。

 

 

 

オシバナ駅、エルザ達の方へ戻りーーー

 

 

ボガァアン!!!

 

駅の構内から爆発音が響く。その音を聞きとったエルザとグレイははっとお互いに顔を見合わせる。

 

「今の爆発…ナツだな」

グレイの言葉に頷くエルザ。

「あぁ、急ぐぞ!!」

エルザの声と共に爆発音のした場所へと走る2人。

 

 

そして、爆発音のした場所に着くと…

 

丁度ナツが解除の魔法が使えるカゲヤマに1発、鉄拳を食らわせる寸前の場面に出くわした。

 

 

「待てナツ!!それ以上はもういい!そいつの力が必要なんだ!!」

「んァ!?エルザ?グレイ?」

エルザの大声を聞き、拳を止めるナツ。

 

ナツとカゲヤマの所へ駆け寄る際、グレイよりも速く駆けたエルザがその勢いのままカゲヤマの真横へと剣を壁に突き刺す…。

 

キィンッ!!

「「ひぃ!?」」

 

「魔風壁を解除してもらうぞ…拒否権はないと思え………」

エルザに凄まれ、震えるカゲヤマだがプライドは捨てきれず…

「へっ…俺はやらねぇよ………」

と、エルザに反抗する。

 

「………ほぅ?」

カゲヤマの反抗を聞き、エルザは更に目を細めると…

 

 

ザシュッーー

 

「ぇ…」

カゲヤマの右頬を少し、剣で傷つけた。

 

「さぁ………早くしろ…さもなければ、傷が増えるだけだぞ…」

 

「ひぃ!?わ、わかった!いう!言うからっ…!!」

先ほどまでの威勢はどこへやら…完全にエルザの気迫に負けたカゲヤマ。

 

「ひぃ!こぇえ!!やっぱエルザはあぶねぇ!!」

「今更だろ、んなこたぁ…黙ってろ、クソ炎」

 

エルザとカゲヤマのやりとりを見ていたナツとグレイは互いに身体を震わせながらほんの少し、カゲヤマに同情していた。

 

 

カゲヤマの返答を聞き、剣を消すエルザ。

そして、カゲヤマが解除方法を話そうとした時だった………

 

 

「あの魔風壁を解除すればいいんだろ…やるよ…や………っ!?がはっ!!!」

 

突如、ドパッ!とカゲヤマの背から真っ赤な血が吹き出した。

 

「「なっ!?」」

「っ!!カゲ!?」

エルザの叫びに答えることなく、カゲヤマは地に倒れる。

 

その背後には鉄の森の1人…グレイを追い、グレイにやられたレイユールという男が短剣を持ち、手をカゲヤマの血で染め震えていた。

 

「な!あいつ!!さっき倒して気絶させた筈の!!」

「あいつっ!!自分の仲間をっ…!!」

「カゲ!!しっかりしろ!!」

 

レイユールは血で濡れる自身の手を見て震え、仲間に言われた「カゲヤマを殺せ」の指示通り動いてしまい、恐怖していた。

 

 

結果、レイユールは自分の仲間を傷つけたことに激怒したナツが殴り倒し、その音で離れていたルーシィ達も合流。

 

カゲヤマは早急な応急処置のお陰で何とか命に別状はないと言った状態だった…が………

 

「まずい………このままでは魔風壁の解除が…」

壁に寄りかからせ、休ませているカゲヤマを振り返り、エルザは嘆く。

 

 

すでにカゲヤマに魔風壁を解除する力は残ってはいない…

 

「うぉおおおおおっ!!!」

バギギギギギィッ!!!

 

エルザやグレイ達の横ではナツが必死に魔風壁を抜け出そうと体当たりし、その都度吹っ飛び、傷ついている。

 

そんなナツを止めるルーシィ。

「止めなさいって!!ナツ!!」

「止めんな、ルーシィ!!早くあのそよ風野郎を追わねぇと!!シクルもアイツに捕まってんだろ!?助けねぇとだろ!!」

 

「落ち着けナツ!!焦ってもどうにもなんねぇだろ!!」

グレイも怒鳴り、ナツを止める。ナツは唇を噛み、やりきれない表情を浮かべる。

 

「んー…何かこの結界を出れる方法があればなぁ…あ、地下とかはどうなのかなぁ…?」

ルージュがエルザの肩に座り、何気ない一言を発した時だった………

 

 

 

「あぁーーーーー!!!!」

 

「「「「「っっっ!?」」」」」

 

ハッピーの叫び声が響く。

 

「何よ!?こんな時に!!!」

「ル、ル、ルーシィ!!!こ、これ!!これがあったよ!!!」

ハッピーの頬を抓るルーシィにハッピーから差し出されたのは………

 

 

「え…これ………処女宮の鍵!?」

 

 

これが突破口となるか………

 

そして、シクルやマスター達の運命は…

 

 

 

次回、風と火の激突、始まる。

 

 




はい、第6話、終わりです!!如何だったでしょうか…?


もしかしたら誤字脱字があるやも知れません…見つけた際はご指摘のほど、宜しくお願いします。


では、次回は今夜投稿出来るかと思います…

最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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7話 歌姫奪還


はい!日付変わり、夜中の投稿となりました。


私少し風邪を引きまして…普段より誤字脱字への注意力が散漫になっているやも知れません………誤字脱字がありました際は申し訳ございませんが、ご指摘宜しくお願いします。

では、最後までお付き合い、お願いします!!


 

 

ハッピーが懐から出したのは以前ナツとハッピー、ルーシィの3人で初めての依頼に行った際に敵が使っていた黄道十二門の鍵 “処女宮 バルゴ”のだった。

 

 

「これって…バルゴの鍵!?ダメじゃないハッピー!勝手に持ってきちゃあ…!」

「違うよ!!バルゴ本人がルーシィにって!」

 

頬を抓られながらもここにバルゴの鍵がある理由を話すハッピーの言葉に「えぇ?」と抓る力を弱めるルーシィ。

 

 

「バルゴ?…あぁ!!あのメイドゴリラか!」

バルゴが誰だったか思い出した様のナツはポンッと手を叩き、「あいつ強かったよなー!」と叫んでいる。

 

「あの時、エバルーが逮捕されて契約が解除されたんだって。それで今度はルーシィと契約したいってオイラ達の家を尋ねてきたんだ」

 

そう言い、はいっとルーシィに差し出してくるハッピー

 

「あ、あれが来たのね………」

ルーシィとしては脳裏に残る巨体の星霊メイドが黄道十二門の鍵だとしてもあまり嬉しくは思えなかった。

はぁ、と溜息をつき、ルーシィはハッピーの差し出してくる鍵を受け取らず、言う。

 

 

「あぁ…ありがたい申し込みだけど…今はそれどころじゃないでしょ?早くここから出る方法を考えないとっ…!」

ルーシィに断られるとは思っていなかったハッピーは「え…でも…」と食い下がる。

 

が、ルーシィはむぎゅぅ!!とハッピーの頬を再び抓り、怒る。

 

「うるさいわよ猫ちゃん!?今はそれどころじゃないって言ったでしょ?」

「わぁ…いたそぉ…」

むぎゅー!!と引っ張られるハッピーの頬を見て少し同情しているルージュ。

 

ハッピーはルーシィが離すと地面に倒れ、涙ながらに言った。

 

「だって…だってバルゴは地面に潜れるし…魔風壁の下を通って外に出られるかなって思ったんだ…」

ハッピーのその言葉を聞き、突然ハッピーがバルゴの鍵を思い出した理由の合点がいく。

 

「あ!そっか!!地面の下からなら抜けられるかもしれないってことね!」

 

「何!?」

「ほんとうか!?」

ハッピーとルーシィの言葉にエルザとグレイが期待の声を上げる。

 

 

「そっかぁ!やるじゃないハッピー!!もう、何でそれを早く言わないのよ!」

「ルーシィが遮ったから」

ハッピーを抱き寄せ、先ほどとはまるで違う様子を見せるルーシィ。が、ハッピーはそれで許すことは無く、じとっとした目をルーシィへ向け言う。

 

「ごめんごめん!!あとでなんか奢るから奢らせていただきますから!!だから今はその鍵を貸してぇ!!」

先ほどとは立場が逆転し、仁王立ちのハッピーにルーシィが頭を下げていた。

 

「あい、お魚でよろしくね」

「オーケー!任せて!!」

ハッピーからのリクエストに答え、鍵を受け取るとルーシィは魔力を込める。

 

 

「我、星霊界との道を繋ぐ者

 

汝、その呼びかけに答え、門をくぐれ!」

 

 

呪文を唱えると魔法陣が現れ、金色の輝きを増していく。

 

 

「開け!! 処女宮の扉 バルゴ!!」

 

魔法陣の中心から現れたのはエバルーに仕えていた時のメイドゴリラではなく、淡いピンクの髪が可愛さを増す美少女の姿だった。

 

「お呼びでしょうか?ご主人様」

「………え?」

記憶に残っている姿とは明らかに違う容姿の彼女を見て、ルーシィは空いた口が塞がらない状態。

 

「おー!なんか痩せたな」

「いやいや、痩せたというより別人でしょ!?」

呑気に「久しぶりだなー」と会話をするナツを他所にルーシィは未だにバルゴの姿に呆然としている。

 

「私はご主人様の望まれた姿になり、仕えさせて頂くのです」

ルーシィの疑問に答えたバルゴ。その説明でなんとなくだがルーシィも納得した。

「へぇ…」と、ルーシィがバルゴを観察していると横からナツが…

 

 

「でも前の方が強そうだったぞー?」

と、口を出してきた。

 

すると…

 

「そうですか?」

と、反応を見せたバルゴが体格を変えようとする。その事態に瞬時に反応したルーシィは慌てて止める。

 

 

「待って待って待って!!いい!いい!そのままでいーから!!」

「そうですか?分かりました、ではこのままで」

 

「兎に角、今は時間が無いのよ!契約後回しでもいい!?」

「分かりました、ご主人様」

ルーシィの頼みに快く応じるバルゴ。だが、ルーシィは少し頬を赤くし…

 

「てか、その“ご主人様”って…やめてよ…」

ルーシィにそう言われたバルゴの目に入ったのはルーシィの腰にある鞭…

 

「では女王様と」

「なんでよっ!?」

 

女王様も却下されたバルゴはでは、と続き

「では、姫と」

「うん、まぁ…そんなところかしら?」

と、納得する。

 

 

「………そんなところなのか?」

「…さぁ?」

「…分からないねぇ」

「どうでもいいから早くしろよ…」

 

 

「では、行きます!」

やや目的がズレていたがやっと本題に戻り、早速バルゴが地面に穴をあけ、地下を掘っていく。そして、数分も経たぬうちに魔風壁の向こう側へ穴が開通。

 

 

穴を通り、エルザ達が開通した先に出るとそこは丁度魔風壁の外側だった。

「よし、なんとか脱出には成功したな」

「あぁ…ん?」

エルザの言葉に頷いたグレイは横に寝かせていたカゲヤマが意識を取り戻したことに気づく。

 

「う…ここは…?」

「よぉ、目ェ覚めたか?」

グレイに声をかけられ、辺りを見回し状況を理解するとフッと小さく笑う。

 

「ふん…今更魔風壁から出ても意味がない…

今から出発してもエリゴールさんには追いつけないさ……僕たちの勝ちだ…」

「うるせぇよ兎に角今はクローバーの街に急ぐぞ!」

 

「て、あれ?ナツは!?」

いざクローバーの街へ向かおうと行動を起こそうとした時、ナツがいないことに気づいたルーシィの声にグレイとエルザは周りを見る。

 

「ハッピーもいねぇぞ!」

「あれぇ?ホントだぁ」

「あいつら…恐らく、先に行ったのだろう…私達も早く追おう!」

「あぁ!」

「うん!」

エルザの指示でカゲヤマも連れ、魔導四輪車に乗り込む一行。

 

(ふん………どうせ今頃急いで向かったって無駄さ…)

カゲヤマはフッと怪しげな笑みを浮かべていた…。

 

 

 

場面変わり、エリゴールに未だ捕まっているシクルは…

 

「ぅー…おにーさぁん、ちょっと休もー?」

完全に酔っていた…。

 

「黙れと言っているだろ、小娘…(それにしても、もう少しで定例会場につくな…)もう少し飛ばすか!」

 

「ちょっとー!?私は休もうって言ってるんですけどー!?飛ばすって何!?鬼!?おにーさん鬼ですかぁああああっ!?」

 

シクルの叫びは虚しく、ギュンッ!と速度の上がるエリゴール。

あ…もうだめだ…と、シクルが思った…

 

 

その時………

 

 

ぉぉおお……………!!!

 

 

「っ!!」

 

声が…聞こえた…。

シクルは抱えられている状態でふっと顔を背後へと向ける。すると…

 

 

「待ててめぇええええ!!!これがぁ!!

 

 

ハッピーのぉ…MAXスピードじゃぁあああああっ!!!!」

「あいっさぁああああああっ!!!!」

 

「なにィ!?」

ドゴォ!!「ぐぁっ!!!」

猛スピードでエリゴールに激突する、ナツ。

あまりに突然のことで反応のできなかったエリゴールはまともにナツの体当たりを喰らい、その拍子にシクルを離してしまう。

 

 

「わちょ!?きゃあ!?」

「シクル!」

ガシッ!

 

宙に飛ばされたシクルをしっかりと掴まえ、抱き寄せるナツ。

 

「ナイスキャッチ!!ありがとナツ!!」

「じゃねぇよ!!何捕まってんだよお前!?怪我は!?何もされてねぇか!?」

二ヘラと微笑むシクルに物凄い形相で問いただしてくるナツの気迫に少し引き気味になるシクル。

 

「う、うん…大丈夫だよ…何もされてないし怪我もしてないよ………あ、出来ればこれ壊してほしいかも」

シクルはそう言って首に付いてる首輪を指差す。

「コレか?よっしゃ!」

 

ナツの魔力で首輪は一瞬で粉々に。

「わーありがとー」

ナツに礼を言いながら首元をさするシクルの膝の上にハッピーが落ちてくる。

 

「お、オイラも…とべな…い」

「ありゃりゃ、ここまでMAXスピードで来てくれたんだもんね…そりゃ魔力切れにもなるか…ありがとね、ハッピー」

膝の上でヘロヘロになっているハッピーを撫でるシクル。

 

「き、きさまぁ………!!」

「ん?」

「あ?」

先ほどナツに吹き飛ばされたエリゴールが立ち上がる。

 

 

「このくそがきがァ…何故ここにいる!?どうやってあれを抜け出してきた!?カゲたちはどうしたァ!?」

「んな事気にしなくたっていいだろ…なんせてめぇはこれから…俺に負けるんだからよぉ!」

 

そう叫び、ナツはエリゴールへと攻撃を繰り出す。

 

が………

 

 

ヒュンッー

 

「んなっ!?」

ナツの炎はエリゴールに当たる前に消える。

「んなぁ!?なんだぁ今の!!」

「クククッ、火が風に勝てるわけねぇだろ…」

「んのやろぉ!!舐めんなぁ!!」

 

そう叫びナツは再びエリゴールへと行動繰り返す。

 

 

が、エリゴールはびくともせず…

 

 

「ナツ………変わる?」

その光景を見ていたシクルが首をコテンと傾げ、ナツに聞く。が、ナツは………

 

 

「いい!!!こいつは俺が殴る!!シクルはそこで見てろ!!」

「んー?りょーかい」

 

どう見ても分が悪く押され気味のナツだが、ナツから見てろと言われたシクルは動くことはせず、目の前の戦闘を眺めることにした。

 

 

「へへっ…燃えてきたァ…!」

 

ニヤッと楽しげに笑を浮かべるナツ。

 

「クククッ、火が風に勝てるかよ…貴様は俺に攻撃することなく倒れるのさ…」

 

怪しげに笑いながらいうエリゴール。

その周りには風が生きているように動いており、ナツの炎だけを綺麗に消していく。

 

が、ナツは瞬間的に魔力を高めた瞬間…

 

 

ボゴォオオオオ!!!

 

「何!?ぐぁあ!!!」

ナツの炎が瞬間的に強く燃え上がり、エリゴールの身体を炎が包んだ。

 

「火は風に勝てねぇだァ?舐めんな、俺の炎は特別だ!んな、そよ風程度に負けるわきゃねぇだろ!!」

 

 

「クックックッ…どうやら俺は貴様の力を少し見誤っていたようだな…」

そう言ったエリゴールの表情は徐々に歪み、嫌な笑みをしていた。

 

 

 

「小僧………こっからは本気の殺りあいだ….

手加減しねぇぞ、糞ガキ………」

 

 

「俺だってなぁ!!シクル連れていきやがって腹立ってんだよてめぇに!!俺がズタボロにしてやらァああ!!!」

 

 

 

ここに…火竜VS死神の戦いが今…始まる。

 

 





はい、第7話10日中に投稿出来ませんでした………むむむ


一応誤字脱字には注意をしているのですが…それでも見落としてしまう時も多々あるのでその際はご指摘宜しくお願いします


では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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8話 悪魔現る 聖なる剣

はい!!ようやく8話投稿出来ました!!


いやぁ…本日は少しリアルが忙しく恐らくこれ以降の投稿は明日になるかと…


ともかく、第8話を最後までお付き合い、お願いします!


「クククッ 小僧、貴様はこの身体の俺に近づけるかぁ…?暴風衣(ストームメイル)!」

 

エリゴールの身体を包むように風が巻きつき、まるでエリゴールが台風の中心のような状態になっている。

 

 

「ンだこりゃあ!?」

 

「ありゃりゃ…この風じゃあ余計ナツの炎が弱まっちゃうじゃん(まぁ…見てろって言われたし、私は何もやらないけど)」

 

「クククッ どうだ?貴様のご自慢の火もこの風には勝てねぇだろ?安心しろや…これでしめェにしてやる………翠緑迅(エメラ・バラム)

 

エリゴールは胸の前でクロスさせた両手の指をナツへ向ける。

 

「翠緑迅だって!?そんなのくらったら身体がバラバラになっちゃうよ!!」

ハッピーは力の入らない身体で飛ぼうとするも翼は出ず。

 

「ナツーーーー!避けてぇ!!」

ナツに叫ぶことしか出来ないハッピー。

 

そんな中、シクルはじっとナツとエリゴールを見つめるだけだった。

 

 

「くらえ!!翠緑迅ッ!!!」

 

 

ズゴォオオオオオオッ!!!!

 

エリゴールから放たれた翠緑色の風刃が嵐のようにナツに襲いかかるとそれは容易くナツを巻き込んだ。

 

そして、風が吹き止み、砂埃の晴れたところから見えてきたのは傷だらけで倒れるナツの姿。

 

「ナツッ!!!」

ハッピーはナツに駆け寄ろうとするが、シクルが止める。

 

「シクル…なんで…」

「いいから、よく見てなさい」

シクルの有無を言わせないような瞳に「うん…」と頷くハッピー。

 

 

「こりゃ驚いたなぁ…この魔法をくらって原型を留めてられるなんてなぁ…だが、このガキもこれで終わりだ………」

 

エリゴールは倒れるナツを見て、笑いながらそう言うとシクルの目の前まで飛んでくる。

 

「すぐにララバイを吹きに行く……

 

歌姫は俺が頂く…どけ、猫…」

 

シクルの腕の中でエリゴールを睨むハッピーを睨みつけるもハッピーは臆することなく首を横に振る。

 

「どくもんか!!お前なんかにシクルは連れていかせないぞ!」

「ほぉ?ならば貴様もあの小僧のようになりたいんだなぁ………?」

 

ハッピーの反抗に魔力を高め、攻撃をしようとするエリゴールにずっと下を向き、言葉を発さなかったシクルがフフッと笑った。

 

「あ?何がおかしい…」

 

「あなた…腕に相当の自信があるようだけど………その程度じゃダメじゃない…ちゃんと確認しないと…ね?」

そう言い、顔を上げたシクルはエリゴールを見てはいなかった。

 

その背後………

揺らめく炎と桜色の影…

 

 

「てめぇ………シクルに触んじゃねぇぞ…糞風野郎!!」

怒号と共にエリゴールを殴り飛ばすナツ。

 

「何!?ぐはっ!」

殴り飛ばされたエリゴールの立っていた場所にナツが立つ。

 

「ナツー!」

立ち上がったナツを見て、嬉しく声を上げるハッピー。

 

「あそこまでやられて…このまま終わりなんて、良いわけ無いよね?ナツ…全力でぶっ飛ばしてきなさい!」

シクルの喝に「おうっ!!」と答え、エリゴールに再び突っ込むナツ。

 

「火竜の!鉄拳!!!」

ナツは炎を手に纏いエリゴールを殴ろうとする。が…

 

「さっきは驚いたが…やはり風に火は勝てねぇんだよぉっ!!!」

再び暴風衣を纏ったエリゴールに近づけなくなるナツ。

 

台風のような風に邪魔され、何度も吹き飛ばされるナツは次第にイライラを募らせ………

 

 

「だぁあああっ!!!んで攻撃が当たんねぇんだよぉ!?納得いかねぇええええええ!!!」

 

と叫び、怒り…徐々にその身に纏う炎の威力と熱量が増していく…

 

「は、魔力の無駄遣いか…(不気味なガキだぜ…感情で魔力が高まっている………こんな魔法…いや、待て?確か古代の魔法にこんな魔法が……否、まさか…)」

 

 

炎の威力が強まるナツを見てハッピーとシクルは顔を見合わせる。

 

「…ハッピー……もしかして…」

 

「あい…多分………」

 

2人は頷くとすっと空気を吸い込み、叫ぶ。

 

「「ナツーーーー!!!!」」

 

「あ゛ぁ!?」

 

「無理 ナツには無理だよ グレイに任せよ」

 

「あーあ…ナツが負けたら私はあいつのものになっちゃうなぁー…」

 

2人の言葉に一瞬炎が掻き消えるナツ…

 

が、次の瞬間………

 

 

ドッゴォオオオオオオオ!!!!

 

「んだとゴラァああああ゛あ゛あ゛!!!」

巨大な炎の柱が天に向かい、吹き荒れる。

 

「な!?なんだ!?」

その異様な光景にエリゴールは驚愕の声を上げ、驚きが隠せない。

 

「グレイなんかに負けねぇよ!!シクルは渡さねぇ!!うぉおおおおおあああ!!!」

 

ナツの怒号と共に更に強く大きくなる炎…

すると…

 

 

「な、なんだ?暴風衣が…!?風が奴の方に流れていく…!?」

 

エリゴールの暴風衣が流されていく光景を見てハッピーとシクルはグッ!と拳を握る。

 

「よし!思ったとおり!!」

「あい!ナツの超高温な炎が周りの空気を温め、ナツを中心に上昇気流が発生し、低気圧を作り出したんだ!!」

 

「風は気圧の低い方へ流れる…いくら風が火を消すとしても、自然の理には逆らえなかったみたいね!」

 

「うぉおおおおお!!吹っ飛べぇ!!

 

 

火竜の…………劍角ーーーーー!!!!」

 

炎を全身に纏い、ナツはエリゴールの懐めがけ飛ぶ。

 

「こ、こいつ!?まさか…!?」

反応の遅れたエリゴールはナツの攻撃をくらい、吹っ飛ぶ…。

 

 

…いたのか………本物の………滅竜魔導士…が…

 

 

エリゴールが倒れたことにより、声を上げ笑うナツ。

「かーかっかっ!!どうだエリゴールの野郎をぶっ倒したぞ!見たか!!」

 

「あい!さすがナツです!」

「ナツが負けるわけないもんねー」

エリゴールを倒したナツをハッピーとシクルが褒める。が………ナツははっと思い出した様にハッピーとシクルに詰め寄る。

 

「てんめ!!さっき俺のことバカにしてなかったかぁ!?」

 

「あい、猫の記憶力はしょぼいものなので」

「私もー記憶力には自信ないから覚えてないや」

テヘッと笑うハッピーとシクル。

 

「てめ!!さっき俺じゃ勝てねぇからエルザがどうとか言ってたじゃねぇかぁー!!」

 

「「うわぁ…猫よりしょぼい記憶力…」」

「んだとコラァ!?」

 

「まぁまぁ、いいじゃない?勝ったんだから!ね?格好良かったよ、ナツ」

ナツを落ち着かせるため、肩を叩き褒めるシクル。

 

ナツは一瞬ほけ?っとした表情をするとボッ!!と顔を赤くし逸らす。

 

「お、おぉう…」

「んぇ?どしたの?」

 

顔を赤くしたナツを見てハッピーがニヤッと一言…

 

「…どぅえきてぇるぅ」

「うるせぇ!!」

 

 

 

「ナツー!ハッピー!シクルー!!」

 

 

ギャーギャーナツが騒いでいると3人の耳にエルザの声が響いてきた。

声のした方を振り返ると…

 

 

魔導四輪車に乗ったエルザ、グレイ、ルーシィ、ルージュと他にカゲヤマがいた。

 

 

「エルザ!グレイ!」

「ルーシィ!ルージュ!」

 

ルージュはシクルの姿を見つけると魔導四輪車から飛び出し、飛びつく。

 

「わぁあ!シクルぅー!!怪我してないぃ!?大丈夫ぅ!?」

「わ!ルージュ!…うん、大丈夫大丈夫何も無いよ…ありがと、ごめんね?心配かけて」

 

胸の中で泣くルージュをぎゅっと抱きしめ慰めるシクル。

 

「シクル!良かった、無事だったか!!」

シクルの下にエルザも駆け寄ってくる。

 

「エル!!て、いったたたたたっ!?」

エルザに抱きしめられるシクルだがエルザの鎧が肋に入る。

 

「ど、どうした!?どこか怪我でもしたのか!?」

「いったただだ!!強いて言えば今怪我しそうぅうううう!!!」

 

結局この後、シクルの顔色が悪くなってからグレイとルーシィがエルザを止めたことで事なきを得た。

 

「シクルぅ…大丈夫ぅ?」

「げっほげっほ…ごほ…し、死ぬかと思った…」

 

数分間、わいわいと話していたシクル達。

 

 

「とにかくこれで一応一件落着よね?」

ルーシィが嬉しそうにエルザに言い、エルザも頷いた…その時

 

 

 

ギュルッ!!

 

怪我をしていたはずのカゲヤマが魔導四輪車とハッピーの持っていたララバイを奪い去ると物凄いスピードで魔導四輪車を飛ばす。

 

 

「「「なっ!?」」」

 

「「「あー!!」」」

 

「あーあ…」

 

「ハハハッ!!残念だったなぁハエ共ぉ!!ララバイは俺が頂いたァ!!」

 

と、叫び声を残しクローバーの街へ走り去っていく魔導四輪車とカゲヤマ…

 

 

「しまった!!」

「何よあいつー!!折角助けてあげたのにぃ!!」

「まずい!急いで追うぞ!!」

 

エルザの言葉と共にカゲヤマを追いかけるシクル達。

 

 

そして、数十分後、定例会場近くにある森の中でカゲヤマとマカロフを見つけた。

 

エルザ達が急いでカゲヤマをとめにはいろうとすると…

 

「しっー!今いいところなんだから、黙って見てなさい」

と、止める声が…

 

声の主を振り返ると…

 

「あ、あなたは…!」

 

青い天馬(ブルーペガサス)のマスタぁー!」

 

「あれ?ボブじゃん、久しぶりー!」

 

エルザとルージュがその人に驚き、シクルは呑気に片手をあげ話しかける。

 

「あらー!久しぶりねぇ、エルザちゃんにシクルちゃん!もー!2人ともすごく綺麗になっちゃってー…いいわねぇ!」

 

オカマ口調の人物………

 

 

「…誰?この人」

ルーシィがシクルに聞く。

 

「この人は青い天馬のマスター“ボブ”だよ」

「へぇ…」

 

 

「どうした?早くせんか」

 

突然現れた青い天馬のマスターに驚いていた一同だがマカロフの声が聞こえ、目的を思い出す。

 

 

「いかん!」

慌ててエルザが止めに入ろうとするが

 

「黙って見てろって」

と、再び止める声がし振り返ると

 

 

「あ!ゴールドマインだぁ!お久ー!」

サングラスをかけた男、四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)のマスター、“ゴールドマイン”だった。

 

またもや軽い様子で声をかけるシクルに苦笑を浮かべるゴールドマイン。

「はは…おめぇは相変わらずだなぁ」

 

よく見るとゴールドマインの後ろにも定例会に出ていたギルドマスターがおり、マカロフの様子を伺っていた。

 

辺りに少し静けさが戻った時、マカロフの言葉が辺りに響き始める…。

 

「何も変わらんよ…」

 

「っ!?」

マカロフの言葉にカゲヤマははっとマカロフを見つめる。

 

 

「弱い人間はいつまで経っても弱いまま……

 

しかし弱さのすべてが悪ではない…

元々、人間なんて弱い生き物じゃ…一人じゃ不安だからギルドがある…仲間がいる…

 

 

強く生きる為、寄り添いあって歩いていく…

不器用な者は人より多くの壁にぶつかるし、遠回りをするやもしれん…

しかし、明日を信じて踏み出せば、自ずと力は沸いてくる。

 

強く生きようと笑っていける……

 

そんな笛に頼らなくても………な」

 

「っ!………参りました」

 

マカロフの言葉が胸に響いたのか、カゲヤマはすっとララバイを手放し、俯き涙を流した。

 

事が解決するとエルザ達が一斉にマカロフの下へ駆け寄っていく。

 

「「「「マスター!!!」」」」

「じっちゃん!!」

「じーさん!」

 

「ぬお!?お主ら、何故ここにぃ!?」

突然現れたエルザ達に驚くマカロフ。

「流石です!今の言葉、胸が熱くなりました!!」

 

ガンっ!

「いたァっ!」

感動のあまりエルザは勢いよくマカロフを抱きしめるがエルザの服装は鎧…鈍い音がマカロフの頭から聞こえる。

 

「じっちゃんすっげぇなぁ!」ペチペチ!

ナツはマカロフの頭を叩きながらそう言う。

 

「すごいと思うのならペチペチせんでくれ!」

 

「これで一件落着だな!」

「だね!」

「「あい!!」」

 

グレイやルーシィ達がお互いに顔を見合わせ、笑みを浮かべ喜んでいると…

 

 

「………まだだよ」

シクルの声が聞こえる。

 

「「「「「「「…え?」」」」」」」

 

シクルの睨む先には………地面に転がったララバイが…

 

すると…

 

 

ギロッ!!

ララバイの目が怪しく光ったと思うとー

 

 

『カカカッ どいつもこいつも情けねぇ魔導士共だ…もう我慢出来ん…我が自ら、喰らってやろう………

 

貴様らの、魂をなァアアッ!!!』

 

嫌な声が辺りに響き渡り、ララバイは巨大な怪物へと姿を変えた。

 

 

「「「「「か、怪物ぅうううううっ!?」」」」」

 

「これは…!?」

 

「…“ゼレフ”書の悪魔………」

 

「本性を現しやがったな」

 

ナツたちが叫び、エルザはシクルに視線をやり、シクルは怪物を睨みつけ、ゴールドマインも苦々しい表情を浮かべる。

 

「一体どうなっているの…?」

ルーシィが戸惑いの声を上げる。

 

「ララバイとはつまり、あの怪物そのものの事を言うのさ…ララバイ…生きた魔法…それが、ゼレフ書の悪魔さ」

答えたのはゴールドマイン。

 

「ゼレフだと!?ゼレフって確か大昔の…」

 

「…ゼレフ………黒魔導士ゼレフ、魔法界の歴史上最も凶悪だった魔導士…」

グレイの言葉に答えを出したシクル。

 

…そして………きっと今もどこかで生きている…

 

 

『さぁて………どいつの魂から頂こうか…

 

決めたぞ…全員まとめて喰ってやる!!』

 

ララバイの言葉に慌てるギルドマスター達。

 

だが………

ニヤッとマカロフが余裕の笑みを浮かべる。

 

その瞬間…

 

「行くぞ!!」

「「おぉっ!!」」

エルザ、グレイそしてナツの3人が動き出す。

 

 

「換装!!」

その声と共に鎧を変え、武器を手にララバイを斬り裂くエルザ。

「ほまっ!換装の魔法か!」

 

「うぉりゃぁ!!」

エルザに続きナツがララバイの体をよじ登るとその顔面を蹴り上げ、後方へと倒す。

「何じゃあの蹴りは!?魔導士の蹴りなのか!?」

 

鬱陶しく感じたララバイがナツに向け攻撃を出すがナツは避ける。

その後方にはギルドマスターやシクルの姿が…

 

 

「ま、まずい!当たるぞ!!」

1人のギルドマスターが叫ぶ。その時ーー

 

 

「アイスメイク………“ (シールド) ”!!」

グレイが立ちはだかり、魔法を繰り出す。

 

 

「造形魔法!?だが間に合わん!!」

叫び声が響くが、その言葉は当たらず…

 

ギィイイインッ!!!

グレイの魔法は間に合い、ギルドマスター達の身を守る。

「おお!!一瞬でこれだけの造形魔法を!!」

 

「造形魔法?」

ルーシィの疑問の声。

 

「魔力に“形”を与える魔法だよぉ」

「そして、形を奪う魔法でもある…」

ルージュとハッピーの言葉にゴクッと息を呑むルーシィ。

 

「アイスメイク………“ 槍騎士《ランス》 ”!!」

 

グレイの魔法がララバイの下半身を吹き飛ばす。

 

「す、すごい!!!」

「さっすがグレイ!!!」

ルーシィとシクルが感嘆の声を上げる。

 

すると………

 

「シクル、お前も手伝え」

と、エルザの指示が入る。

 

「え?えぇー…私がァ?」

シクルは溜息をつき肩を落とすがエルザからの「やれ」の一言で立ち上がり…

 

「はいはい…やればいいんでしょ?あーめんどくさ…」

と、呟くと………ララバイを睨み上げ………

 

 

「…召喚 聖なる剣………」

一本の剣を取り出す。

「え?シクルも換装を!?」

ルーシィはその事実に驚きの声をあげるがその声に答える声はなく…

 

シクルは目を瞑ると、呪文を唱え始める…

 

 

「【我 月の名の元に 邪なる悪しき力を

 

 

滅し………その力、封印せん】

 

秘技 魔滅の月光」

 

シクルの剣から放たれた巨大な剣光がララバイを斬り刻むとララバイは悲鳴を上げることなく、塵になった…。

 

 

「な…なに…今の?」

シクルの魔法に驚くルーシィ。他のギルドマスター達も同様だった。

 

 

「今のはシクルの魔法の一つ、あれは悪魔を滅し、封印する聖なる光だよぉ

そしてあの剣はシクルの持っている剣の1つ、シクルは聖なる剣って言ってるよぉ」

 

「へぇ…」

 

シクルが剣を消したところでマカロフの甲高い笑い声が響く。

 

「かーかっかっかっ!!どーじゃ!!凄いじゃろー!!」

「すっごーい!!」

「これが…妖精の尻尾最強チーム!!」

 

マカロフに続きルーシィが声を上げ、後ろで見ていたカゲヤマも驚愕の目でシクルたちを見ていた。

 

が…

 

「………あ」

シクルがなにかに気付く。

「ん?どうしたの?………てっ」

 

シクルの視線の先をみんなが振り返るとそこには………

 

 

崩壊した定例会場が………

 

結局この後シクル達はショックのあまり気絶したマカロフを連れ、逃げるようにギルドへと帰還する。

 

 

帰還中にあることを思い出すシクル。

「あ…(そーいえば私…“あの魔法”使えば建物直せたじゃん………)まぁ、めんどくさかったし…いっか」

 

シクルは1つ欠伸をしながら、ナツたちと共にギルドへと帰るのであった。

 

 




はい!どうでしょうか…あまり自信が無いのですが………


鉄の森篇は後1話か2話で終われると思います。
その次は悪魔の島篇を予定しております

誤字脱字などございましたらご指摘のほど、よろしくお願いします!
では、最後までお付き合い、ありがとうございます!


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9話 ナツVSエルザ そして


はい!!お昼の投稿となりました!


では早速…最後までお付き合い、お願いします!


 

 

ララバイの一件から一夜明け、翌日…

 

 

シクルはルージュに起こされ、ギルドへと向かっていた。

 

「ンむぅ…なぁにぃー?ルージュ…私まだ眠いよぉ………」

「シクルもしかして忘れたのぉ?今日はアレがあるでしょぉ?」

 

ルージュの言う“アレ”を脳裏で考えるシクル。

 

「アレ………あー…もしかして、決闘の事?」

 

そう言えば昨日列車に乗る前にナツがエルザに挑んでたなぁ…と、昨日の出来事を思い出すシクル。

 

「…まさかほんとにやるの?」

「みたいだよぉ?ほら、みんな集まってるよぉ」

そう言いルージュの差した先には、沢山の人だかりがあった。

 

「ほんとだ…はぁ、今のナツがエルザに勝つなんて…まだ無理に決まってるのに………」

「………いつかは勝てるってことぉ?」

 

シクルの言葉を聞きルージュが首を傾げ、聞いてくる。シクルは「え?」とルージュを見る。

 

「だってぇ、シクル…ナツがエルザに勝つなんて“まだ”無理に決まってるってぇ…いつかは勝てるって思ってるんだよねぇ?」

 

「あー…うん、そりゃまぁ…ナツが強いことは認めてるし…いつかは勝てるって信じてるよ?」

 

…そう……ナツが真の力に目覚めた時………

 

その時は………きっと………

 

 

「あ!シクル!!ルージュ!!」

 

「お?」

人だかりの所へ着くと呼びかけられ、声のした方を振り返るとそこにはルーシィと他にグレイとハッピーがいた。

 

「おぉー、みんなお揃いだねぇ」

シクルは呑気に二ヘラと微笑みながらルーシィたちに近づく。

 

「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないよシクル!!どうしよう、ナツとエルザ本当に戦うなんて…」

 

「そんな心配しなくても大丈夫だよ、ルーシィ…やばくなったらどうせマスターが止めに入るだろうし…」

 

シクルの言葉に「でも…」と尚不安げなルーシィを見て苦笑を浮かべるシクル。

 

その時、人だかりから大きな歓声が聞こえてくる。

シクル達は人だかりを通り中央へと出る。

 

「ちょ、ちょっと!!本気なの!?2人とも!!」

 

未だに不安と心配があるのか声を上げるルーシィ。

その横に掛かる、大きな影がひとつ…

 

 

「本気も本気!!本気でなければ漢ではない!!!」

 

“漢”が口癖の男、ミラジェーンの弟である彼の名は“エルフマン”。

 

「エルザは女の子よ」

弟の言葉に苦笑を浮かべるミラ。

 

「だって、最強チームの2人が激突なんて…」

 

「最強だァ?なんだそりゃ」

ルーシィの言ったことが何のことか理解出来なかったグレイは怪訝そうな表情で聞いてくる。

 

「だって!あんたとナツ、エルザとシクルも!妖精の尻尾のトップ4でしょ!?」

ルーシィの言ったことにグレイは呆れた様子を見せる。

 

「はァ?くだんねぇ!誰がそんなこと言ったんだよ」

 

グレイの言葉がその場に響いた次の瞬間、ミラが両手で顔を覆い泣いた。

 

 

「あ!ミラちゃんだったんだ!?ご、ごめん!?」

 

「あー泣かしたー」

 

「あーぁ…最低だねぇ」

 

「グーレーイィー………」ズゴゴゴォ…

 

「ま、待てシクル!!不可抗力なんだ!!だから頼む!その黒いオーラを今すぐ消してくれぇっ!!」

 

シクルの背後に見える黒いものに怯えるグレイ。シクルは「次泣かせたら許さないからね」と言い、ミラの頭を撫で慰める。

 

「確かにナツやグレイの漢気は認めるが…“最強”と言われると黙っておけねぇな…

 

妖精の尻尾にはまだまだ強者が大勢いるんだ

…俺とかな!」

 

エルフマンの最後の言葉に誰も反応を見せないまま話が進む。

 

「女で最強だったらやっぱエルザだよね」

ケラケラと笑いながら言うシクル。

 

「最強の男と言ったらミストガンやラクサスがいるしなぁ」

 

「ギルダーツも外せないよね」

「だねぇ」

 

「へぇー…そうなのね」

ルーシィが意外と言った表情をするとククッと笑いグレイが更に続ける。

 

 

「まぁ、女最強と言ったらシクルもそれに入るしなぁ」

「え?私?」

「確かに、シクルはギルダーツと互角の実力を持ってるもんねぇ」

ハッピーの言葉に「そうなの!?」と驚きシクルを見るルーシィ。

 

「えぇ?いやぁ…私そんなに強くないよ?ギルダーツにだってまだちゃんと勝てたことないし」

 

「でも負けたこともねぇだろ?充分最強じゃねーか」

グレイの言葉にんんんと苦笑を浮かべると首を横に振りシクルは言う。

 

 

「でもやっぱり最強はいいや、うんエルザにあげる…なんかめんどくさそうだし」

「やっぱ最後はそれなんだねぇ」

シクルの相変わらずの返答にはははと乾いた笑いをもらすルージュ。

 

 

「私はただナツとグレイとエルザが1番相性がいいと思っただけよ?」

シクルに慰められ回復したミラが笑みを見せいう。

 

「あれ?仲が悪いのが心配とか言ってませんでした?」

それで昨日はついて行くはめになったのにぃと肩を落とすルーシィ。

 

「まぁ、何にせよ今回の決闘は、なかなか面白い戦いになりそうだな」

 

「そうかァ?俺はエルザの圧勝で終わると思うがな」

グレイはそう言うと中央の2人へと視線をやる。それを見てシクル達もナツとエルザへと意識を向ける。

 

 

「こうしてお前と魔法をぶつけ合うのは何年ぶりだろうか…」

目の前で構え立つナツを見て嬉しそうに口角をクイッと上げ笑っているエルザ。

 

「あの時はガキだった…けど今は違うぞ!!

 

エルザ!今日こそお前に勝つ!!!」

 

目をギンギンに輝かせ、闘志を燃やすナツ。

 

「良いだろう…私も本気でやらせてもらうぞ

 

久しぶりに自分の力を試したいと思っていたところだしな…」

 

そう言い、エルザは“炎帝の鎧”に換装する。

 

 

「すべてをぶつけて来い!!ナツ!!」

 

「炎帝の鎧!?耐火能力の鎧だよ!」

「エルザが本気だァ!」

 

「そりゃ本気すぎるぜエルザ!!」

 

「わぁお、相当本気なんだね、エル…(さぁ、どうする?ナツ………炎帝の鎧を纏ったエルザ相手ではあなたの炎の威力は半減してしまう…どう戦う?)」

 

 

面白そうにシクルが2人を眺めている横ではハッピーが賭けをナツからエルザに変えるとカナに言っており、ルーシィがそれに「薄情者!!」とつっこんでいた。

 

 

そして遂に2人の決闘が開始される。

 

まずやはり先制するのはナツだった。

炎を拳に纏いエルザに拳を向ける。

が、エルザもまた避け、隙を見てはナツに刀を向け、またナツも見た目に似つかない柔軟さで向かってくる刀を避ける。

 

 

 

「すごい…!」

「大分いい戦いになってるわねぇ」

ルーシィの感嘆の声とミラの嬉しそうな声がその場に響く。

 

 

「ヘヘ…やっぱつえぇなぁ…燃えてきたァ!」

 

「流石だな………来い、ナツ!!!」

 

 

2人の刀と拳がぶつかり合う。そう誰もが思ったその時ーーー

 

 

 

パァアアンッ!!!

 

 

「そこまで」

 

 

大きな音と共に現れたのはカエルの姿をした何かだった。

 

何事だ?と突然現れたカエルにその場の全員が目をやる。

 

 

「全員その場を動くな。私は評議会の使者である」

 

「評議会!?」

「なんでそんな奴がここに?」

「さぁ?また誰かなんかしたのか…?」

 

その場がざわざわとざわつく。

 

評議会からの使者はざわつきに気をとめることはなく、持っていた文書を読み上げ始めた。

 

 

「先日の鉄の森のテロ事件において、器物損害罪他11件の罪において………

 

 

 

エルザ・スカーレット並びに、シクル・セレーネの両2人を逮捕する。」

 

「…え?」

 

「………え、私?」

 

 

「な、なんだとぉおおおおおっ!?」

 

 

 

評議会の使者により、評議会へ連れていかれたエルザとシクル。

ギルド内はしん…と静まり返り、全員が暗い表情をしていた。

 

そんな中…

 

「だせぇー!!俺をここから出せー!!」

 

ただ1人、ナツだけが大声をあげ、暴れていた。

 

姿を小さくされ、コップの中で…

 

 

「だー!うっせぇなくそ炎!!少しは黙ってられねぇのか!?」

グレイがイライラを募らせ怒鳴るも「出せー!!」とナツは叫ぶだけだった。

 

 

 

一方、評議会の方ではーー

 

 

現在、エルザとシクルは別の牢屋に入れられていた。

 

シクルは外の光が届かない牢屋の中、天上を見上げぼぅっとしている。

 

「………はぁ…(こういう所は…慣れないなぁ……)早く帰りたい…」

 

 

…ここは嫌だ………“あの頃”を思い出してしまう………

 

 

シクルはふっと顔を俯き、はぁとため息を再びつく。

 

すると…

 

 

「…随分落ち込んでいるようだな?歌姫様?」

「っ!?」

 

シクルしか居ないはずの空間に男の声が響く。

シクルはばっと声のした方を向くと…

 

そこには青髪の顔に不思議な模様の描かれた男が………

 

「…ジーク………」

 

彼の名は“ジークレイン”

評議員の1人だがシクルは彼の瞳の奥に何か強大な黒いものを感じ取っていた…。

 

「こんな所まで何のようかしら?

ジーク…今はエルの裁判をしている最中でしょう?こんなところにいていいの?

 

評議会のお偉いさんのあなたが…」

 

シクルの言葉にフッと笑みを見せるジークレイン。

 

「冗談………アレは形式のみの裁判だ罪にはならない…それを分かって真面目に出席すると思うか?この俺が…」

ジークレインはそう話すと牢の鍵を開け、牢屋の中へと入ってくる。

 

そして、シクルの長い金の髪を一束掬い、撫でる。

 

 

「そんな怖い顔をするな………月の歌姫…

 

 

綺麗な顔が台無しだぞ…?折角面倒な場を抜け出し来たんだ…もっと楽しい表情をしないか…?」

 

ジークレインの言葉に更に眉間にシワを寄せるシクル。

 

「バカ言わないで、あなたにそんな事言われても嬉しくなんかないわ…どうせあなたも本体ではないんでしょう?

 

実体を持った分身さん………」

 

シクルが挑発的にその言葉を言い、ジークレインが更に深い笑みを見せた時ーーー

 

 

ドッゴォオオオオオン!!!!

 

 

 

地上の方から大きな音が地下まで響いてきた。

 

「…何?」

突然の事に不思議に思い音の発信源の地上を見上げ呟くシクル。

そして、掴んでいた髪を落とし、上をシクル同様見上げるジークレイン。

 

「………ほぅ、火竜が乱入してきたか…」

ジークレインの言葉に驚きの表情を見せるシクル。

 

「火竜…ナツ?」

 

「ふん………どうやら裁判は途中で中止になったようだな…俺もそろそろ戻らねぇと爺さん共にバレるか………」

ジークレインはそう言うと最後にシクルの方を振り返るとシクルの顎をグッと掴み無理矢理見つめさせる。

 

「ちょ…!!」

「いいか………俺は必ず“アレ”を使い自由を手に入れる…そしてお前も………

 

必ず、手に入れる………月の歌姫………

 

その力、必ず俺のものにしてやる………」

 

ジークレインの言葉にかっと目を見開き、次の瞬間ジークレインの手を払い除ける。

 

「あたしに触るな!!

あの子には手を出させない! あたしも…

 

お前のものになんかならない!!」

 

キッと睨みあげてくるシクルを愉快そうに笑い、「また会おう…」と最後に残し、去っていくジークレイン。

 

ジークレインが去った後、力が抜けたように地面に腰を落とし、膝を立て間に顔を埋め、ため息をつくシクル。

 

「………大丈夫…大丈夫…怖くない…大丈夫…」

 

 

数分間、そのままブツブツと何も考えず、1人で呟いているとガシャン!と牢の扉が開く音がし、顔を上げる。

 

 

顔を上げた先には、呆れが見られる表情のエルザと少しボロボロのナツがシクルと同じ牢屋に入れられていた。

 

「エル!ナツ!!」

 

「シクルか…すまん、こいつがいきなり乱入してきてな………」

 

「だァ!!シクル!!お前無事だったのか!?

てか、ンだよエルザ!?その言い方…まるで俺が悪いみてぇじゃねぇか!!」

 

文句を垂れるナツと疲れた様子のエルザは共に牢屋の地面に腰を下ろす。

 

「違いはないだろう…いいかナツ?今回のこれは形式のみの筈だったんだ」

「…形式?」

エルザの言葉に首を傾げるナツに溜息をつき説明を始めるシクル。

 

「いい?ナツ…つまり、本来ギルドを管理するのは評議会の役目…だけど、今回は私たちが解決しちゃったでしょ?

 

でも、それじゃあ面子が立たないから私たちを逮捕して保とう…て事なのよ

 

つまり今回のことは罪にはならない…分かった?」

 

「お、おおう………」

ナツがやっと納得した様子で頷く。

 

「全く…本来なら今日中に帰れたんだ…」

「あい…ごめんなさい」

エルザの呆れた様子での言葉に頭が上がらないナツ。

 

その様子のナツを見てクスッと笑みを見せるシクル。

 

「でも…私たちを心配して来てくれたんでしょ?ありがとね?ナツ」

 

「お、おおぅ…!」

シクルからのお礼とその笑みに顔を赤くしながら頷くナツ。

 

 

 

結局この日は1日牢屋に入れられ、翌日3人は無事釈放となった。

 

が、最後にシクルのみが評議員の所へと呼び出された。

 

 

「はぁ………何ですか?私エルやナツを待たせてるんですが…」

 

「何、話はすぐに終わる………

 

シクル…貴殿にある依頼を頼みたい」

 

議長が切り出した話。それを聞き、シクルは数秒議長をただ見つめると再びため息をつく。

 

 

「どうせ………私に拒否権なんかないんでしょ?めんどくさいけど…いいわよ…」

 

シクルの言葉に「感謝する」と答える議長。

 

 

「詳しくは後日直接ギルドへ使いをだす…それまで、ギルドで待機してくれ」

 

「…承知しました………では、失礼します」

 

 

一つ、一礼をし部屋を出ていくシクル。

その背後で評議員の中にいた一人、ジークが嫌な笑みを浮かべていることに薄々感づきながら…

 

 

 

部屋を出ると扉の前ではナツが待っていた。

 

 

「ナツ………いつ終わるか分からないから先に戻っていいって言ったのに」

「ンでだよ、いいだろ…俺が好きで待ってたんだ…それに、シクルだけで帰らせるとなんか…不安だかんな」

 

ナツの最後の言葉にむっとした表情を浮かべるシクル。

 

「ちょぉっとー?不安ってどういう事よ?」

「悪い意味じゃねぇぞ!?アレだアレ…あの、心配なんだよ!なんかあったら………俺が、困る…」

 

ナツの不安そうな表情を見てきょとんとした表情を浮かべたあとにっこりと微笑み、ナツの手をとる。

 

「うぉ!?シクル!」

「行くよ?ナツ…家に帰ろ!それと、待っててくれて…ありがと」

 

 

シクルの笑みを見て数秒ぼぅっとするとナツはニカッ!と太陽のような笑みを浮かべ、「おう!!」と返事を返し、シクルの握ってくる手をぎゅっと握り返した。

 

 

2人は手を握ったままギルドへと帰還するのであった…。

 

 

 





如何だったでしょうか?

誤字脱字などありましたら後ほど訂正させていただきます。

次の投稿は本日の夜か明日の朝になるかと思います。

では、最後までお付き合い、ありがとうございます!


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第2章 悪魔の島篇
10話 S級魔導士とSS級魔導士



はい!こんにちは!thikuruです!

んんん…お昼投稿となってしまった………すいません


今回から2.3話ほどオリジナルを加え、悪魔の島篇…開始したいと思います!!


では、最後までお付き合い、お願いします!


 

 

牢屋に入れられてから一夜が明け、エルザとナツ、そしてシクルの3人は無事ギルドへと帰ってきた。

 

 

「かぁー!やっぱシャバの空気はうめぇ!!」

 

 

「自由って素晴らしいー!!フリーダム!!」

そう叫び、ギルド内をドタバタと走り回るナツ。

 

「やかましいわ!!」

「大人しくしてろよ…」

 

周りのメンバーはその騒ぎ様に疲れたような表情を浮かべる。

 

 

「結局形式だけの逮捕だったなんて…心配して損したァ」

そう嘆き、ガクッとテーブルに突っ伏すルーシィ。

 

 

「そうか!カエルの使いだけにすぐ“帰る”」

 

何を思ったのか突然ダジャレを言うグレイ。するとギルド内が一瞬シーンと静まる。

 

「…さっむ…」

 

「さ、流石氷の魔導士………ハンパなくさみぃ」

 

 

「そ、それよりナツ!お前、エルザとの漢の勝負はどうなったんだよ?」

 

「だからエルは女だってば…」

 

場の空気を変えようとしたのか、エルフマンの言葉にナツは走り回るのをピタッと止める。

「忘れてた!エルザ、この前の続きだー!!」

 

「よせ…疲れてるんだ…」

ナツの叫び声を聞くもエルザはカウンターの席に座り、紅茶を飲み続けている。

 

が、ナツはお構い無しにエルザに走り突っ込む。

 

「行くぞーーー!!!」

その様子を見て、エルザは「はぁ…」とため息をつくと…

 

 

ゆっくり立ち上がり、右手の拳を握り振り上げ…

 

 

ドスッ!

「ゔっ!?」

 

ナツの鳩尾へと寸分の狂いもなくエルザの拳が入り、呻き声を上げナツは倒れた。

 

「…さて、始めるか」

 

 

「しゅーーーりょーーーー!!!!」

「エルザの勝ちぃ!!!」

一撃で沈んだナツを見てハッピーとルージュが声を上げる。

 

「ぎゃはははは!!だっせーぞ、ナツ!」

 

「やっぱエルザはつえぇ!!」

 

「あぁ…だからまだ無理だって言ったのに…」

 

 

「うっ…ぐ、くそ!なら…次ぃ!!シクル!俺と勝負だァああっ!!」

何を思ったのか気合を入れ立ち上がったナツは次にシクルへと勝負を持ち込んだ。

 

「え?私?えぇ………やだよめんどくさい」

「ぉおおおっ!!!」

シクルの拒否の言葉をナツが聞き入れるわけもなく…

 

ナツはシクルへと突っ込む。

シクルははぁ…と溜息をつくと…

 

「だーかーらー…めんどくさいって言ってんでしょー…よ!」

と、座った状態で右足をナツへ振り上げ言う。

 

振り上げられた右足はナツの脇腹へと入った。

 

ドムッ!!

「ぐふっ!?」

再び床に転がるナツを見てギルド内からは笑い声が響いた。

 

笑い声の耐えないギルドを見て、シクルはクスッと楽しげな笑みを浮かべる。

 

 

「あら?どうしたんですか?マスター」

「ん?」

ふと、隣からミラのマカロフに掛ける声が聞こえ、隣を見ると…

 

少し眠たげな表情をしたマカロフがいた。

「…マスター?」

 

「いや………眠い…」

マカロフがそう呟くとギルド内のメンバーが次々に眠り、倒れる。

 

パチッーーー

 

自身にも襲ってきた眠気を魔力を高め、解除するシクル。

「これは…ミストガン?」

 

シクルの呟きと共にギルドの扉が開き、顔を布で覆い、マントを羽織り背にいくつもの杖を背負った男が入ってくる。

 

男はクエストボードの前へ立つと、1枚の依頼書を手にしマカロフへと提示する。

 

「この仕事を受ける」

 

「ミストガン…相変わらずだね」

 

「シクルか………久しぶりだな…元気か?」

そう言いミストガンはシクルの頭を撫でる。

 

シクルはこのギルド内では大分小柄な方で、年長者にはよく妹のような扱いを受けることがある。

 

頭を撫でてくるミストガンを見上げ、むぅっと頬を膨らすシクル。

 

「またそーやって子供扱いするんだから…はぁ、私は元気だよ…ミストガンは?」

「俺もだ、相変わらずな」

 

ミストガンがそう言うとクスクスと笑い、「そうだね」と言うシクル。

 

「では、行ってくる」

「いってらっしゃい」

 

シクルの言葉を聞き、歩を扉の方へと向けるミストガン。

 

「これ!眠りの魔法を解かんかっ!!」

マカロフの声が上がる。

 

 

伍………四………参………弐………壱………零

 

ミストガンがギルドを出た瞬間、ナツ以外のメンバーが目を覚ます。

 

「今の魔法…ミストガンか!?」

 

「相変わらずすげぇ眠りの魔法だな…」

 

ミストガンが現れるといつも起こる眠りの現象にギルドが騒めく。

 

シクルはまだ眠そうにしているルーシィ、ハッピー、ルージュの下へと近寄る。

 

 

「んぅー…なにぃ?今の…」

「ミストガンですぅ………」

 

「…ミストガン?」

 

眠そうに目を擦るルーシィに答えるルージュはまだ弧をえがき、眠りそうな様子。

 

そんなルージュをシクルがひょいっと抱き上げ、ルーシィの疑問に答え始める。

 

「ミストガン…彼はこのギルドで最強候補の1人だよ」

「そ、そうなの!?」

シクルの言葉に驚き、眠気が消し飛ぶルーシィ。

 

「でも誰も顔を見たことがないのよ…」

ミラが苦笑を浮かべ、ルーシィに言う。

 

その時ーーー

 

 

「いんや、俺は見たことあるぜ」

 

突然、ギルドの2階から男の声が響く。

 

全員が驚き、顔を上げるとそこには金髪のヘッドフォンをした男が立っていた。

 

「ラクサス!?」

「い、いたのか…珍しい…」

 

 

「俺やじじぃだけじゃねぇ…シクルもミストガンを知っている。なぁ?シクル…」

そう言いこちらを睨んでくるシクルに不敵な笑みを見せるラクサス。

 

「ラクサス………」

 

 

いつから………

 

あなたの笑顔は歪んでしまったの?

 

何があなたをそこまで………

 

 

「ミストガンに撫でられ、嬉しそうにしてよォ?そんなにミストガンが好きか?シクル…」

 

「久しぶりに懐かしの仲間と会ったのよ?そりゃあ嬉しいに決まってるでしょ?ラクサス…それに、仲間はみんな好きよ?」

 

シクルの答えにはっ!と嘲笑う様な様子のラクサス。

「は…仲間?誰にも素顔を見せないあいつが?あんな怪しいヤツを仲間だと…言うのか、シクル………相変わらずだなぁ?」

 

「ギルドマークを印してる人はみんな仲間だよ…ラクサス」

 

「ククッ!随分甘ちゃんになったなぁ?てめぇが最強?…は、俺はてめぇを最強だなんて認めねぇぞ…」

 

ラクサスの言葉に肩をすくめるシクル。

「最強なんて肩書き、欲しいなら譲るわ…私はそんなの興味無いのよ………めんどくさいし」

 

「へっ…そのめんどくさがり…本当は強くなんかねぇから言ってんじゃねぇのか?なぁ?エセ最強さんよぉ」

 

その言葉にピクッと眉を動かすシクル。

にっこりと影の差す笑みを浮かべるシクル。

 

「ヘェ?そんな事言っていいの?ラクサス………あたしにまだ1度も勝てたことのないあなたが………調子にのんなよ反抗期野郎が………」

 

シクルのその言葉を聞き、黙って言い合いを見ていたグレイとルージュ、ハッピーが震える。

 

「や、やべぇぞ…」

「え?」

 

「シ、シクルがキレてる………」

「キレたシクルは怖いですぅ…」

震える3人を見て訳の分からないルーシィ。

 

「シクルは…普段余程のことがないと怒りを見せない…その代わり、怒りを露わにした時、シクルは自分の事を“私”ではなく、“あたし”と呼ぶのだ…」

 

訳の分からないルーシィに説明を入れたエルザを見てから、ルーシィは再びシクルへと目を向ける。

 

 

魔力を徐々に高め合う両者………すると

 

「これ、よさんか…」

と、マカロフの声が響く。

 

「全くお主らは…ギルドを壊す気か?」

 

「へ、いいなぁ?一度ぶっ壊して新しく立て直すかぁ?」

 

「そーね…それに、壊れたとしても私の魔法で直せるし…問題ないわよねぇ?」

 

「止めんかバカタレ!!」

 

全く冗談に聞こえな2人の言葉に怒鳴り声を上げるマカロフ。

 

「フフッ 冗談よ、マスター…」

笑みを見せ、言うとシクルは高めた魔力を消す。

 

「全く…お主らの言葉は冗談に聞こえん時がある………心臓に悪いわい…」

マカロフの言葉に苦笑を浮かべるシクルの耳に、突然「ラクサスーーー!!!」と、叫ぶ声が届く。

 

 

叫び声の発信源は今まで眠りこけてたナツだった。

 

「ラクサスー!俺と勝負しろやぁ!!」

 

「また………?」

ナツの言葉に呆れを見せるシクル。

 

「はっ…やりたきゃここまで上がってこいよ…なぁ?ナツ」

「上等だァァ!!行ってやらァ!!」

と、ラクサスの挑発にのり2階へ飛び上がるナツ。

 

「あ…ばか…」

 

ドゴォン!!

「キュー…」

 

飛び上がったナツをマカロフの巨大な拳が止める。

「2階に行ってはいかん、まだな」

 

「ははっ!止められてやんの!!」

 

「ラクサス!お主も挑発は止めんか!!」

 

「はっ!いいか………これだけは言っておくぜ…妖精の尻尾最強候補だがなんだが知らねぇが、最強の座は誰にも渡さねぇよ……

 

エルザにも、ミストガンにも、あのオヤジにも…… シクル…お前にもな!

 

 

俺が最強だ!!」

 

ラクサスはそう言い、高笑いを響かせ2階の奥へと姿を消す。

 

 

 

ラクサスとの一悶着でざわついていたギルドだが徐々にいつもの様子を取り戻し始めていた。

 

ふと、先ほどのマカロフの言葉が気になったルーシィはミラに声をかける。

 

「あの…ミラさん…さっきマスターが2階に行ってはダメだって………あれは一体?」

 

「あぁ、あれね?

二階には一階に貼られてある依頼とは比べものにならないくらい難しい依頼書があるのよ

 

それをS級クエストって私たちは呼んでいるのだけど…その依頼に行けるのはギルドの中でもマスターに認められた実力のある人しか行けないのよ

 

マスターに認められた人たちはS級魔導士と呼ばれているのよ?

その中にはエルザやミストガン、ラクサスそれにシクルも入ってるわ」

 

「え!そーなんですか…?シクルも…」

そういい、驚いた表情でシクルを見つめるルーシィ。

 

その視線に気づいたシクルはふっとルーシィへ顔を向け微笑む。

 

「あぁまぁ…確かに私も2階に行けるよ…あまり行かないけどね」

 

「それに私は…」と、シクルが話している時…

 

 

シクルの肩に1羽の白い鳩が止まった。

白い鳩の足には1通の文書が付けられていた。

 

「ありがとね」

シクルは文書を受け取り、鳩を撫でお礼を言うと満足したように飛び去っていく鳩。

 

シクルは文書を開け、読み進めはぁとため息をつくと腰を上げる。

 

「マスター………行ってくるわ」

「あぁ……気をつけるのじゃぞ…」

マカロフは悲しそうな、心配そうな表情でシクルに言う。

 

マカロフの表情を見て、フッと安心させるような微笑みを見せると「分かってる…」と、答える。

 

 

シクルはそのまま小さな荷物を持ちギルドを出ようとすると…

 

「待てよシクル!!」

 

「………ナツ」

シクルを呼び止めるナツ。

 

「それ…アレだろ?俺も行く!!」

ナツの表情は少し険しかったがシクルは首を横に振り断る。

 

 

「ダメよ…これは危険なんだから…」

「危険なら尚更!!」

 

「大丈夫よ…私の実力知ってるでしょ?大丈夫…すぐ帰ってくるから…ルージュをお願いね?」

 

諭す様な言葉をかけるシクルに渋々と「おう…」と頷き引き下がるナツにシクルは困ったような表情をしてから、ナツの頬を撫でる。

 

「………ごめんね?行ってきます」

「…おう」

 

ナツの返事を聞き、シクルはギルドを出て行った。

 

 

「…シクル………どこに行ったんですか?」

2人の会話を見て聞いていたルーシィは隣で少し悲しそうな表情のミラに問う。

 

「うん………シクルはね、S級の更に上………SS級魔導士なのよ…」

「え…SS級魔導士…?」

聞いたこともない単語に疑問が増えるルーシィ。

 

「そう…SS級魔導士になると評議会から直接依頼が届くようになるの………それも、S級クエストでは収まらない危険な依頼…」

 

「え………そ、それにシクルは行ったんですか!?」

驚愕を隠せないルーシィの言葉に頷くミラ。

 

「…シクルはこういう時あたしを連れていってはくれないんですぅ…」

ルーシィの隣からはか細いルージュの声が聞こえる。

 

「…ルージュ」

 

「分かってるですぅ…シクルがあたしを心配して連れていかないのはぁ…でもぉ…でも…

 

 

あたしはシクルの相棒なんだ…もっと頼ってほしいです…」

 

ルージュの言葉はルーシィの心に深く突き刺さる様な感覚がした。

 

普段の語尾を伸ばすような声は最後聞こえず…シクルの出て行った扉を涙を浮かべ見つめるルージュをルーシィはそっと抱き寄せ、頭を撫でることしか出来なかった…。

 

 

「…シクル………」

 

 

 

「………今度は、闇ギルド“デーモン・リバイブ”の殲滅と…謎の実験の阻止………か」

 

“デーモン・リバイブ”…悪魔の復活をギルド名にするくらいなのだからきっと実験は悪魔復活が狙いなのだろうが………

 

 

「悪魔………か」

 

 

シクルの脳裏に過ぎるは暗い感情………

 

シクルの心を揺らがすものとは…一体………

 

 





はい、第10話投稿にこぎつけました!


オリジナルストーリー…正直不安しかありません!!



暖かい目と心で見ていただけたらな…と、思います………

では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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11話 VSデーモン・リバイブ

はい!今回はちょぉっと戦闘あります!あと血の表現あります!!


苦手な方は回れ右でお願いします………



戦闘シーンはすごく苦手なのですが!!
最後までお付き合い、お願いします!!!


 

ギルドを出て1時間ーーー

 

 

 

シクルは文書に記されていた場所…

 

森の奥地にある闇ギルド、“悪魔の復活(デーモン・リバイブ)”の本拠点前に立っていた。

 

 

「ここか………はぁ…長かった」

 

 

シクルの目の前にはそれなりに立派な建物が立っていた。

 

が………

 

 

「…変な魔力を感じるのは地下から…実験は地下か…」

 

地面に手をつき魔力を感知する。

そして、建物の中にある魔力体を確認する。

 

 

「………うわぁ…200はあるなぁ………」

 

 

めんどくさ…と考えながらため息をつき、立ち上がる。

 

「調査とか潜入なら派手な行動は抑えるけど…今回は殲滅………やっちゃうか」

 

 

シクルはスゥと深呼吸をすると、右手に魔力を込める。

 

 

 

「…いくよ………月竜の…鉄拳っ!!!!」

 

 

ドガァアアアアアンッ!!!!!

 

 

シクルの拳が扉を木っ端微塵に吹き飛ばす。

 

 

「なんだ!?」

「襲撃だぁ!!」

「敵は…女1人!?」

「何者だ!?」

 

 

シクルが扉を吹き飛ばすと闇ギルド内はざわつき、煩くなる。

 

「…デーモン・リバイブ………殲滅始めます」

 

シクルは静かにそう呟くと魔力を高める。

 

「月竜の…咆哮ぉおおおおおお!!!!」

ズゴォオオオオオオ!!!!!

 

シクルのブレスがデーモン・リバイブのメンバー数十人を一気に吹き飛ばす。

 

 

「「「ぎゃああああああっ!!!!」」」

 

「なんだあいつ!?」

「構わねぇ!!殺っちまうぞぉ!!」

「「「うぉおおおおっ!!!」」」

 

 

「月竜の…翼撃ぃいいいい!!!!」

 

「「「ぐぎゃあああああ!!!」」」

 

「月竜の…鉤爪ぇええええ!!!!」

 

「「「ぐぉおおおおおお!!?」」」

 

 

シクルは襲い掛かってくる敵を何度もなぎ払い、吹き飛ばし、倒す。

 

が………

 

 

「…はぁ………もー数だけ多いんだから…めんどくさ」

 

シクルはまだまだ大量に残る敵を前にため息をつき、目を瞑る。

 

そして………

 

 

「めんどうだ……終わらせるよ?」

 

ギロッーーー!!!

 

グォオオオオオオオオオオッ!!!!!!

 

 

目を見開いた瞬間、デーモン・リバイブの面々の目には銀色に輝き雄叫びを上げる竜が映り、一瞬で戦意は喪失し、倒れる。

 

「………ふぅ…疲れる………」

倒れふす面々を見て深い溜息をつきシクルは顔にかかる髪を払い除ける。

 

 

「…さて………地下に続く階段でも探しに………ッ!?」

 

そう呟いた瞬間、強い殺気を感じその場を飛び避ける。

 

シクルが飛んだ瞬間シクルの立っていた場所は砕け散り、大きな窪みが出来ていた。

 

スタッーーー

 

「あっぶな………誰?(月竜の眼光が効かない…手練か…?)」

 

殺気のした方を向くと顔を白いマスクで隠した1人の男が立っていた。

 

「ほぅ………今のを避けるか…さすが………月の歌姫と言ったところか?」

 

男の右手には刀身の大きな刀が握られていた。

 

「あなたは………」

 

「俺か?俺はアルビス…」

 

「アルビス………血染め刀のアルビス…そう、デーモン・リバイブにいたのね………」

 

1人で数百もの人間を殺し、返り血を浴び、血に濡れた刀を持つ姿からその通り名が広まった…だが、彼の所属ギルドは誰も知らなかった。

 

 

「俺のことを知っていたか…光栄だな、月の歌姫……貴様なら…楽しめるか…な…?」

刀を構えシクルに嫌な笑みを向けるアルビス。

 

シクルははぁとため息をつき、睨む。

「生憎…私は戦いは好きじゃないのよ…めんどうだし………」

そう言うとシクルは右手を胸の前に掲げ…

 

 

唱える。

 

「換装………【十六夜刀】」

 

シクルの右手に現れたのは刀身の長い銀色に輝く刀。シクルの愛刀の一つ。

 

 

「…ほぉ………それが、月の歌姫の刀…十六夜刀か…面白い…」

シクルの握る刀を見てニヤリと笑みを浮かべる。

 

「めんどうだ………一瞬で終わらせます」

 

 

両者、一歩も動かずじっとただ相手を見つめ、次の動きを待つ………

 

数分か………それとも数時間か………

 

 

感覚が分からなくなるほどの集中と殺気がその場に流れる。

そして…

 

ダッーーー!

 

両者共に動く。

 

「黒重牙斬刀!!」

 

「弐ノ太刀 三日月」

 

 

アルビスの黒く輝く刀がシクルに振り下ろされる瞬間、シクルの刀から光の刃が放たれる。

 

ザンッーーー

 

ブシューーー

 

 

互いに、腹部と左肩から血を吹き出す。

 

 

「………見事」

 

腹部から血が吹き出したアルビスはその一言を呟いたあと倒れ、気絶する。

 

シクルは暫し刀を振り切った形で動かず、少しすると深呼吸をして、姿勢を正し、刀を消す。

 

 

「はぁ…(疲れた…もう帰りたい……)…とっととこれ終わらせて帰りますか…」

 

 

ここまでやってもここのギルドマスターは姿を現さない。

 

 

「相当自信があるのかな…」

 

シクルは左肩の止血を行ってから地下への道を探した。

 

 

建物内の捜索を始めてから数分…

 

シクルは大きな棚の裏に隠された通路を見つけ、歩いていた。

 

「だいぶ長いな…どこまで続くんだろ」

随分と歩いてきた通路を眺め、目を細めるシクル。

 

そして…

 

 

目の前に扉が見えてくる。

 

「…あそこかな?」

シクルは足音を立てないようゆっくりと扉に近づき、仕掛けが無いことを確認し、扉をゆっくりと開ける。

 

扉の奥では………

 

 

「………なに…これ?」

 

いくつものカプセルとその中に入っている人間…否………

 

 

「………悪魔?」

 

カプセルの中に入っているものを見て嫌なものを感じ取るシクル。

 

「(これは…誰がこんなことを?目的は…分からない………)…兎に角、ここを何とかしないと…「これが狙いか…?歌姫殿」!?」

 

突如、耳元から響く声にシクルはばっと振り返る。

が、振り返ったその瞬間何者かからの魔法がシクルに襲いかかる。

 

「ぐっ…!!」

扉を壊し吹き飛ぶシクル。

 

1度手を床につき、体勢を立て直し魔法を飛ばした者を見つめる。

 

…気配を感じなかった………

 

 

「………あなたが、マスター…」

 

「いかにも………我はディア…デーモン・リバイブのマスターだ」

 

暗闇から現れたのは黒いマントとフードを被った大柄の男。

 

シクルは瞬時に十六夜刀を換装し、構える。

「ディア………これは何?何が目的なの?」

 

 

「目的………我の目的…それは………

 

最恐悪魔 イブリスの復活………」

 

 

「イブリス………?」

シクルの表情は更に険しくなる。

 

「そう…イブリス………絶望を与える最恐の悪魔…」

 

この力を使い、この魔法界を滅ぼす…そう言ったディアを睨みつけ、殺気をぶつけるシクル。

 

 

「そんな事、私がさせると思う?…阻止してみせる、絶対」

 

シクルの言葉を聞き、殺気に当てられながらも笑みを更に深めるディアに怪訝な表情を浮かべるシクル。

 

「…何がおかしいの?」

 

「ククク………いやいや…何故我がこうも容易く真相を話したか…分からぬか?

 

阻止する?………貴様が?…ククッ!

 

貴様には無理だ………なんせ………

 

我に殺されるのだからな…」

 

ディアがそう告げた瞬間、シクルの視界から消える。

 

「!?消えっ…!」

「どこを見ている………?」

 

シクルが気づいた時…ディアはシクルの真横に立っていた…。

 

「っーーー!?」

 

ディアの右手から黒い光がシクルに放たれる。

 

それは、シクルを巻き込み、弾けた。

 

 

ズドォオオオオオンッ!!!!

 

「づぁああああ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」

 

 

シクルは吹き飛び、壁に衝突する。

 

「がっはっ!!げほ…!」

シクルはダメージの強かった腹部を左手で抑え、ディアを睨む。

 

「ほう………今ので動けるか…流石だな、歌姫殿………」

 

 

地に膝をつくシクルにゆっくりと近づくディアを見上げ、立ち上がるシクル。

 

「っ…はっくぅ…!!(今の攻撃………あと少しガードが遅れていたらヤバかった…)」

 

シクルは黒い光が弾ける瞬間、十六夜刀で防御の構えをとり、自身に襲いかかるダメージを抑えていた。

 

「…ダメージを抑えてコレか………(めんどくさいなんか言ってられないか…)はぁ…仕方ない………ちょっと本気を出すか…」

 

シクルは痛みに耐え、再び構える。

その姿を見て、ディアは更に笑う…。

 

 

「ククク…実に素晴らしい……殺すには惜しい人材だ………なぁ?“生贄のお姫様”………」

 

 

「ッ!?お前………どこでそれをっ!?」

 

“生贄のお姫様”…その一言で動揺を見せたシクルの隙を、ディアは見逃さず………

 

 

ズブッーーー!

 

 

「………づ…ぁ…!」

 

シクルの腹に剣を突き刺した。

 

 

 

「………終わりだな…」

 

剣を引き抜かれ、血を噴き出し倒れるシクルを見下ろし不気味な笑みを作り出すディア。

 

 

ディアは剣を振り上げ………

 

 

「………死ね、歌姫…」

 

 

シクルの心臓目掛け、振り下ろした………。

 

 

ザンッーーー

 

 

そして………その場に真っ赤な血が散る………

 

 




はい…如何でしょうか?

ちょっと短めでしたかね?


まぁ早めに悪魔の島に入りたいので………恐らく次でこのオリジナルストーリーは終わるかなと思います。



では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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12話 特別依頼 終了


はい!オリジナルストーリーはこのお話で一度終わりです!!


んんん…ちょっと急ピッチ過ぎてよく分からない状況かも知れません…


訳分からないよ!!って方がおりましたらすいません…

では、最後までお付き合い、お願いします!


 

 

 

ザンッーーー

 

 

 

ディアの剣がシクルの身体に突き刺さり、シクルの真っ赤な血が辺りを汚した…。

 

 

「ククッ!クハハハハッ!!

弱い!噂に聞く月の歌姫だからどんなものかと思ったが………この程度か!

 

所詮ガキか………たった一言で動揺し、隙が生まれる…噂は偽物だったと言う訳か…」

 

ディアは何も出来ず息絶えたシクルを嘲笑い、剣を引き抜いた。

 

 

「さて………ともかく歌姫が来たということはここはもうダメだな…上の奴らにバレているだろう…移転するしか………「どこに?」!?」

 

 

ディアの耳に息絶えた筈のシクルの声が響く。そしてーーー

 

 

「六ノ太刀 十字斬!!」

 

ザンッ!!ズバッ!!

 

ディアの胸に十字の切り傷が出来る。

 

「ぐぉおおおおおっ!!?

 

な…何故………貴様…が!?死んだ筈…!」

 

傷つけられた胸元を抑え、驚愕の表情で睨み上げてくるディア。

 

シクルはふぅと一息つき、小さく笑みをディアに向ける。

 

 

「あぁ、アレね?危なかったわぁ………ほんとギリギリだった…お陰でお腹の一撃はくらったしね」

 

そう言ったシクルの腹部は確かに血に濡れており、未だに血は流れていた。

 

 

「な…何故………」

 

 

「答えはあれ………」

ディアの疑問にシクルは自身の倒れていた場所を指差した。

 

ディアがそれにならい、振り返ると…

 

「…な、に?」

 

そこには確かに、倒れているシクルの姿が…

 

ディアの表情には驚愕の色が隠せずにいた。

 

倒れているシクルを見つめると…

 

ピシッー

 

倒れているシクルの身体に小さく亀裂が走る。

そして徐々にそれは広がり………

 

 

パァアアン!!

 

キラキラと光る結晶のように弾け、消し飛んだ。

 

 

「………八ノ太刀 鏡花水月…

 

月の魔力を刀に宿して、有幻覚の自分を作り出し、相手を混乱させたところで攻撃、斬る………身代わりとして使えるものでもあるからね…

 

つまり、あなたがやったのは有幻覚の私………残念ね?本物を仕留められなくて…」

 

 

動揺したその時に…確実に殺せば勝機はあったのに………

 

 

「教えてもらうわよ………何故“あの事”を知っている?」

 

刀をディアの首筋に突き立て、問いただすシクル。

 

 

「ふん………誰が言うものか…」

刀を突き立てられるも情報を吐こうとはしないディアを見下ろし目を細めるシクル。

 

 

「ふぅん………まぁいいけど…大体の予想は付くわ…“あの人”でしょ?あの人しかいないわ………(そう…あの…悪魔の様な男………)」

 

 

シクルの脳裏には嫌な笑みを浮かべ、手を伸ばしてくる男の姿がーーー

 

 

 

ーーーさぁ………来い………よこせ…

 

 

 

ーーーいや…いや!!たっ……助けてっ!!

 

 

 

「っー!!……はぁ…さて、なら…悪魔実験について吐いてもらおうかしら………吐きなさい…誰の命令でこんな事を?」

 

シクルは脳裏に過ぎったものを振り払うように頭を振り、ディアを見下ろし、問いただす。

 

「ふ…言うと思うか?小娘が…!」

ディアはそう叫ぶと一瞬でシクルの背後に回り、剣をシクルに振り下ろす。

 

「ククッ…!(もらった…!)」

 

振り下ろされる剣がシクルの背を切り裂く…

 

そう、ディアが余裕の笑みを浮かべ思った時………

 

 

ギィイイインッ!!!

 

「な…!」

 

ディアの剣を後ろ手でシクルの刀が防いだ。

 

 

「な、何…!?」

 

シクルはディアの驚きに満ちた声を聞き、視線だけ後ろに向ける。

 

「………ふぅ あなたの魔法はもう見切ったわ…私にはもう効かない」

そう言い、後ろ手でディアの剣を押しきり払うと振り向き際にディアの腹部を斬りつける。

 

 

「ぐあっ!!!な…見切っただと…?」

 

「ええ、あなたさっき私に黒いものをぶつけた時も…そして今も………私を見ていなかったでしょう?

 

あなたは、見つめたところに時空の裂け目を作り出せる…

そして自分の立っているところにも時空の裂け目を作り出す事が出来…その中を通りあたかも超速度で移動したかのように見せる………

 

そりゃ気配も感じ取れないわけよね………

なんせ、その場にいないんですもの…でも、もう私にはその魔法は効かない………終わりよ?ディア………」

 

シクルの余裕な笑みが気に入らなかったのか、ディアは突っ込んでくる。

 

もはや、冷静な考えは消え失せているように…

 

「貴様を殺す!!そして!!

 

イブリス様を復活させるのだ!!

我は聞いた!!!イブリス様のお声を!!!

 

復活させれば本当の力を与えると!!

言ってくれたんだァアアアア!!!」

 

逆上したディアはそう叫び、シクルに向け剣を振り回すがシクルはその動きを見て下がり、しゃがみ、バク転をし避ける。

 

 

「なるほどね………どうやらなにかに言葉巧みに操られているようね………可哀想」

シクルの哀れむような眼差しにディアは声を荒らげる。

 

 

「その目で我を見るなぁああああっ!!!

 

消えろぉぉおおおおっ!!!!」

 

ディアが叫び、剣を振り上げた時………

 

 

 

ドスッーーー

 

「あ…が………」

「………え?」

 

ディアの心臓を白い光が貫いた…。

 

 

「もういい………ディアよ…失せろ」

 

「な…何故………ァ………」

ディアはそう呟き、倒れ絶命した…。

 

シクルは声のした方を見つめる。

 

そして見えてきたのは、白銀髪の長く、赤い瞳をした男が立っていた。

 

「あなた誰?何故彼を?」

 

 

「ふん………不要になったものをずっと手元に置くと思うか?こいつはもう用無し…死して当然だろう………」

 

その言葉にシクルは殺気を込める。

 

「あなた………命をなんだと思っているの?

用無しな命なんかない………

死して当然な命なんか…ないわ!!!」

 

叫ぶシクル。その様子に男は笑う。

 

「ふん…何を怒る?こいつは貴様の敵だった男だ…むしろ、敵がいなくなって清々するだろう」

なぁ?と呟いた男は右手をシクルに向けると白い焔のような玉を飛ばしてくる。

 

 

「っ!四ノ太刀 逆さ月!!!」

飛んできた玉を咄嗟に刀で打ち返すシクル。

 

打ち返した玉は男に当たらず、横を通り過ぎ後ろの壁を粉々に砕いた。

 

 

「今のを弾くか…なかなか…」

男は不敵な笑みを浮かべ、シクルは頬を汗が伝う。

 

「…チッ(こいつ相手に刀じゃ通用しないな……)」

 

シクルは刀をしまった。

「ん?刀を使わねぇのか?」

「まぁね…あなたには私の魔法を御見舞してあげるわ!!」

そう叫んだ瞬間魔力を瞬時に高める。

 

「月竜の咆哮!!!」

 

「っ!ほぅ…滅竜魔法か………面白い、少し遊ぶか…」

 

シクルの咆哮は男の払った右手により、分散される。

が、それは想定内だったシクル。

 

「月竜の鉄拳!!」

ずどぉおおおんっ!!!

 

男の真上から拳を振り下ろすが男は避け、シクルの拳は床に大きなクレーターを作るのみ。

 

「ほい…」

避け際に左足でシクルを蹴り上げる。

 

「っ!ぐっ!!!」

迫ってくる足を咄嗟に顔の目の前で両腕を交差し防御する。が…

 

 

「甘い…下がガラ空きだ」

どむっ!!

 

「ぐふっ!!!」

腹に1発拳をくらい、身体が曲がるシクルだが気力で跳ね上がり、男と距離を取る。

 

 

「かっ…はっ!うぇ…つっ!!」

殴られた時、変な場所に入ったのか胃液がせり上がって来る。更にディアにつけられた傷が痛むシクル。

 

 

「くっ…(まずい………血が足りなくなってきた…)」

目が霞むシクル。ふらつきながらも立ち上がり、男を見つめる。

 

 

早いとここの男をなんとかして…あのカプセルを、破壊しないと………

 

 

「………よし」

 

あまり体力も残ってないけど…

 

あれで終わらせよう…

 

 

シクルは魔力を全身に行き渡らせ、立ち上がる。

 

「ほう…まだ立つか………」

立ち上がったシクルを見て面白そうに笑う男。

 

「当たり前…そう簡単に私を倒せると思わないで………私は…妖精の尻尾の魔導士だ!!」

シクルはそう啖呵を切るとダッ!と駆け出す。

 

「は!正面から来るか小娘…甘いなぁ!」

突っ込んでくるシクルに男は魔法を放つ。

 

が、シクルは瞬時に反応。

 

しゃがみ避けると淡い光を纏った右手を床につける。

「………壱」

 

魔法を避けると再び駆け出す。次は男の方ではなく、男の右手側に向け、走り出す。

 

「ん?どこに向かう?血迷ったか?」

男は尚、走るシクルに魔法を次々と放つ。

 

魔法が飛んでくる度に飛び、しゃがみ、バク転、右へ左へと体を動かし避ける。

 

その際何度か床に手をつきながら………

 

「………弐………参………四………伍………六」

 

そして、6回目、手を床につき終えるとシクルは再び男との距離を取る。

 

「よっし…!準備オーケー………

 

あなたが誰かは知らない…でも…

 

命をなんとも思わないあなたを野放しになんかしない!!」

 

そう叫んだシクルは両手を構える。

すると、男を中心に銀色の光が輝く。

 

 

「なんだこれは?」

「私が何も考えずに動いていたとでも…?

あまり舐めないでよ………

 

 

【滅竜奥義 六花月光】」

 

その声と共に男を包み込む銀色の柱…

 

 

「ぐ!これは………」

「………昇華」

最後の言葉を唱えた瞬間、柱は弾け飛び、男を巻き込み…カプセルと共に爆発した。

 

爆発する瞬間…一瞬、シクルの髪は金色から銀色へと変化していた………。

 

それはシクルですら気づかない一瞬であった…。

 

 

 

一時、辺りは煙に包まれた…。

 

そして煙が晴れると………カプセルはすべて砕け散っていたが…そこに男の姿はなかった…。

 

「…逃げた………」

シクルは男の立っていた場所を見つめ、次の瞬間座り込む。

 

 

「つ…はぁー!!!つ、疲れた………」

シクルは大きく長い深いため息をつき、肩の力を抜くと次の瞬間には激痛が身体に走る。

 

「っ!!いったぁ……ぁーあ………久々に傷作っちゃったなぁ…」

 

 

………ディア…あいつの言葉に一瞬でも動揺した………

 

「はぁ…私もまだまだだなぁ………」

 

もっと…強くならないと………

 

 

「………約束の日が来る前に…力を、つけないと………」

 

シクルはそう呟き、暫く天上を見上げ再びため息をつくと重い腰を上げ、地下室を出て、建物の外へと向かう。

 

 

外に出ると連絡を入れていたお陰か、既に評議会の者達が到着していた。

 

外に出てきたシクルに気づいた評議会の者達はその姿を見て、一瞬喜び、次の瞬間はその傷ついた姿に驚愕の表情を浮かべた。

 

「お、やっぱ早いねーお疲れー」

「シ、シクル殿!!そのお怪我は!?」

赤茶色の髪と緑の瞳をした男が呑気に二ヘラと笑うシクルに詰め寄り、問う。

 

「ん?これ?あー………ちょっとヘマしちゃった」

そう言い、テヘッと笑うシクル。

 

「あなたは…全く!治癒の魔法を持っているでしょう!?ちゃんと治してから行動してください!血だって止血もちゃんと出来てないじゃないですか!!」

 

「おおぉ………ちょ、アトス…怖い…その顔怖いから止めて………」

物凄い迫力で迫ってくる男、部隊の一つの部隊長をしている、“アトス”という者。

 

シクルはその顔を押しのけてから溜息をつき言う。

 

「しょーがないでしょ…魔力使い切っちゃって、回復する力も残ってなかったんだもん…それに、回復ならそっちでやってくれるんでしょ?」

 

首を傾げ、言うシクルに溜息をつきたくなるアトス。

 

だが気を持ち直し、シクルに近寄るとその体を抱える。

 

 

「ちょ!?ちょっと!?何すんの!?」

 

「静かにして下さい…あなたは怪我人なのですよ?怪我人を歩かせると思いますか?私が」

 

「そ、そりゃあ………思わないけど…ちょっと…この格好は………恥ずかしぃ」

 

 

そう言ったシクルは少し頬を赤くした。

シクルは、今…アトスに横抱き…所謂、“お姫様抱っこ”されていた。

 

「なにか文句でもありますか?嫌なら歩いてもらいますが?」

アトスの反論を言わせないと言った雰囲気に「…何でもないです」と、シクルが答える。

 

アトスは満足したかのように少し笑みを見せるとシクルをしっかりと抱き直す。

 

その後、アトスはその場にいた部下にその場を任せ、シクルを抱え、評議会本部へと戻った。

 

その間にシクルは疲労が溜まり、眠ってしまい次に目が覚めた時は闇ギルドを潰した次の日になっていた。

 

さらに目が覚めたその日は1日、事情聴取などがあり、解放されたのは依頼を受けてから3日後の事であった。

 

 

「あー…疲れた………」

肩を落とし、疲労が溜まってますと言った様子のシクルを見てフフと笑うアトス。

 

笑ったアトスをじぃっと睨み、むぅと頬を膨らませるシクル。

「なにー?なんで笑ったの?今…私今回すっっっごい!!頑張ったんですけどー?」

 

「ああ、すまない…そうですね、お疲れ様です」

アトスはそう言い、シクルの頭を撫でる。

 

「子供扱いしないでよ!?」

頭を撫でられ少し怒った様子のシクルを見てきょとんとした表情をするアトス。

 

「え?そんなことしてませんよー…私はただ撫でやすい高さにあるなと思い………」

 

「それって小さいってことぉー!!?」

うがー!と唸るシクルを見てケラケラと笑うアトス。

 

睨み上げても笑みを絶やすことのないアトスを見てはぁと溜息をつくシクル。

 

「じゃあ…私はそろそろギルドに戻るわ」

「はい…今回もありがとうございました………その、お体に気をつけてください…」

 

アトスの言葉に「はーい!」と手を上げ、去っていくシクル。

 

 

そんなシクルの後ろ姿を見つめ続けるアトス。

 

 

その目は、どこか愛おしげに見えた…。

 

 

 

3日ぶりにギルドへと戻ったシクル。

 

「はー疲れた………ただいまァー」

 

シクルがギルドの扉を開けるとしーんとその場は静まり返っていた…。

 

「…ん?………どうしたの?みんな…」

 

「おお…シクルか………おかえり、どうじゃった?」

シクルの帰還に気づいたマカロフがそう声をかける。

 

その声に他のギルドメンバーもシクルの帰還に気付く。

 

 

「んー?んー…まぁなんとか完遂したよぉ…めんどくさかったけど」

 

シクルのその言葉を聞くと「そうか…」と呟き、どこか険しい表情を浮かべるマカロフ。

 

「………マスター?どーかしたの?」

「う、うむ…実はのぉ………」

 

 

なにか言うことを渋っているマカロフに眉を顰めるシクル。

 

ふと…この依頼から帰ってくるといつもは胸に飛び込んでくる小さき相棒がいないことに気づく。

 

 

「そう言えば…ルージュは?それによく見たらナツとハッピー…ルーシィにグレイもいないみたいだけど?」

その言葉にギクッと肩を揺らすマカロフ。

 

 

………あれ?なんか…嫌な予感が………

 

 

シクルの脳裏に嫌な予感が走る。

すると………

 

ガシッとシクルの肩を掴む手………エルザが真横にいた。

 

 

それも………物凄い殺気を纏い…

 

「ヒッ!?ど…どうし…たの?…エル…?」

「シクル………帰って早々悪いが…力を貸してくれないか?」

 

「な、何?」とシクルがエルザの表情を伺いながら問うとエルザは深い溜息をつき…

 

 

「ナツとハッピー、ルーシィとルージュがS級クエストに行った」

と、言った。

 

 

「………はぁあああああああああっ!!??」

 

 

その瞬間、マグノリア全体にシクルの叫び声が響くのであった…。

 

 





はい!如何だったでしょうか…不安いっぱいです……

と、ここで少し…新オリキャラのアトス君について少し紹介をいれます!

アトス・リヴァイアス 男 19歳
評議会の一部隊の隊長をしている。実力は相当。
赤茶色の髪を後ろで緩く一つに括り、緑色の優しげな瞳をしている。
初めて評議会でシクルを見た時に一目惚れ。

それから機会があればシクルと話をしたり、贈り物を贈ったりする。
デートには未だ誘えず。
魔法等はお話の中で………


はい!!こんなところですかね…はい、出てきました…主人公に恋する男性………オリキャラですいません!

もちろん原作キャラとも恋愛系を絡めるつもりなのですが!

今後このキャラがほんの少し重要キャラとなるので………覚えて頂けると光栄です。


では、最後までお付き合い、ありがとうございます!


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13話 悪魔の島へ

はい!おやつ頃の投稿になりました、thikuruでございます!


今回は戦闘シーンはありません!恐らく次回になるかと!

では、最後までお付き合い、お願いします!


ギルドに帰還した瞬間に衝撃的な事実を告げられたシクルは普段では考えられないほどの大きな声で叫び声を上げていた。

 

 

「は?は………は?……ナツ…たちが…S級クエストに行ったァ?………え?ナツって…S級魔導士になったの?」

 

「な訳あるかぃ!!!勝手に行ったのじゃ!!ルーシィとルージュも連れてじゃ!!」

シクルの言葉に怒号を響かせるマカロフ。

 

「だ、だよね………わぁ………めんどくさ…何やっちゃってんのあのバカ………」

 

はぁと深い溜息をつき額に手を当て、呆れを露わにするシクル。

 

てか、ルージュも行っちゃってるのか…

 

「昨日、グレイが連れ戻しに向かったのだがな…戻って来ないということは一緒にクエストへ行ったのだろう………」

 

「えぇ…グレイもぉ?…ちなみに無くなった依頼書は?」

マカロフを見て聞くと…

 

「うむ…なくなったのは悪魔の島の依頼書じゃ…」

「悪魔の島………あぁ、だからルーシィもついて行ったんだ………」

 

 

確かあの依頼の報酬に金の鍵があった筈…黄道十二門………この世で同じものは一つとない、超レアな鍵…にしても………

 

 

「馬鹿なの?ほんとに………」

 

 

ほんとにあいつは想像の斜め上の行動するんだから…

 

「これから私もその悪魔の島へ行くんだ…シクル、疲れていると思うが………」

エルザの言葉を聞き、少し考えるシクル。

 

普段のシクルはこの様な状況でも首を縦には振らず、成り行きを見守るだけに留まるのだが………

 

シクルは、はぁとため息をつくとマカロフへと視線をやった。

 

「マスター…その依頼、まだ正式な受理は降りてないんだよね?」

「ん?あぁ…そうじゃが………」

 

「んじゃその依頼、私が正式に受けるよ」

 

 

「「「えぇっ!?」」」

誰も想像しなかったシクルからの申し出にギルド内から驚愕の声が響き渡る。

 

「シクル…良いのか?普段どんな依頼でもめんどくさがるお主が………」

驚いたのはマカロフも同じ。

 

驚きを隠さずシクルに再度確認をするマカロフにシクルは苦笑を浮かべ、答える。

 

「まぁ…確かにめんどくさいんだけど………

でも、ナツたちをほっとく訳にはいかないでしょ?

 

それに、ルージュもついて行ってるなら尚更めんどくさいなんか言ってられないよ」

 

シクルの答えに「そうか…」と、呟き少し考えるマカロフ。

「…分かった、いいじゃろ…この件、お主に任せよう…」

 

マカロフの返答を聞き、「ありがとう、マスター」と笑みを浮かべ言うとエルザを見つめるシクル。

 

「エルも行くよね?元々エルが行く予定だったんだし」

「あぁ、もちろんそのつもりだが…良いのか?本当に………」

 

まだ疲れているだろう…と呟くエルザの言葉を聞き二ヘラと笑うシクル。

 

「だーいじょうぶだってぇーちゃんと休息は取ってきてるから…それより、早く行かないとナツたちに何かあったら大変でしょ?」

 

シクルの言葉とその表情を見て後には引き下がらないな…と感じたエルザは1つため息をつき、シクルの肩に手を置いた。

 

「分かった…シクルがそう言うなら何も言わない…だが、本当に辛くなったら言うんだぞ?

 

………僅かに血の匂いがする…怪我をしているんだろ?」

 

エルザの確信めいた問いかけに一瞬目を見張るシクル。そして、すぐにふっと表情を戻すと苦笑を浮かべ参ったなぁ…と呟くシクル。

 

「んー…まぁ、怪我はしたけど…傷はもう評議会で治してもらったから大丈夫!問題なし!

 

それよりほら…早く行こ?」

そう言い、シクルはエルザの手を取り1度マカロフを見て「行ってきます」と声をかけ、ギルドを出て行った。

 

「…頼むぞ」

 

 

 

 

ハルジオンに着いた2人は早速船を出してもらうよう船乗りに頼むが…

 

 

「…ダメだねぇ、みんな怖がって悪魔の島…ガルナ島まで運んでくれないよ………」

 

船乗りたちはガルナ島の一言を聞くと怖がり、乗せてはくれなかった。

 

「エルー…どーする………て、エル?」

今後のことをエルザに聞こうとシクルは問いかけるが先ほどまで隣にいたはずのエルザの姿が見えない…。

 

「あれ?どこ行ったの?」

辺りを見回し、エルザを探す。

そして、エルザの特徴的な緋色の髪はすぐに見つけることが出来た…が

 

 

「ぇ゛………」

 

エルザはなんと港の裏手に定着していた大きな船…海賊船に乗り込み、船員たちをボロボロにしていた。

 

「………な、何やってるの…」

「あぁ、シクル…心優しい奴らがいてな…交渉をしたら乗せてくれるそうだ」

 

エルザは近寄ってきたシクルに笑みを見せ、答えるが…そのエルザの手には涙を流しボロボロの恐らく船長だろう者の姿が………

 

 

「う…うん………良かった…ね?(交渉って…脅しの間違いじゃ………ダメだ言ったらめんどくさそうだからやめとこ)」

 

 

結局エルザの交渉(脅し)の末、ガルナ島まで運んでくれる事になった。

 

「あ、あんたら…一体あの島に何の用なんだ…?あの島はみんな怖がって誰も近づかねぇってのに!」

 

舵を切っていた船長は震える声でシクルたちに問いかける。

が、船長に返ってきたのは…

 

チャキ…

「つべこべ言わず貴様は黙って船を操縦するんだ………」

首筋に剣先を向けられ、エルザの殺気が船長に返ってきた。

 

「ヒィ!!わ、分かりましたっ…!」

 

「エル…やりすぎだって………」

エルザのあまりの様子にシクルははぁとため息をつき、少し暗い表情を浮かべると空を見上げた。

 

 

 

………ルージュ…

 

 

 

暫く船を操縦すると、漸くガルナ島が見えてきた。

「あれか」

「みたいだね…(月が…紫?)」

 

シクルはガルナ島を照らす月を見上げ不思議に思う。

 

「紫色の月………何かで見た事が……(…何だっけ?えっと………月の………?)あー、思い出せない…ん?」

 

ずっと月を見上げていたシクルの目に空飛ぶ何かが映る。

 

「………ネズミ?」

「シクル…どうした?」

空を見上げネズミと呟いたシクルを不審に思ったのかエルザが問いかけるとシクルは空を指差し言う。

 

 

「あそこ…空にネズミが飛んでる」

「何?………わからん、シクルは目がいいからな…」

 

竜は全ての五感が通常の人よりも高く、視力もエルザより良いため、普通の人では見えない空に浮かぶネズミも見えるのだろう。

 

「…あ、落ちた」

 

ずっとネズミの動きを見つめていると突然、なにかが当たったのかネズミが落ちた。

 

「もしやそのネズミが落ちたところに奴らもいるかもしれんな…行くぞ、シクル」

「おっけー!」

 

話している間に船はガルナ島に着いており、2人は一気に船体から飛び降り、ネズミが落ちたであろう場所へと走った。

 

 

少し走ると森に差し掛かり、森の中も走り抜けていると少し開けた場所が見え、そこに2人見覚えのある金髪の少女と茶毛の猫が大きなネズミに襲われていた。

 

「っ!!ルーシィ!!ルージュっ!!!」

危ない、そう感じたシクルは一気に足を早め、ルーシィとルージュの前に立つ。

 

「換装 十六夜刀!!」

 

ギィイイインッ!

 

ルーシィたちとネズミの間に入り込み、瞬時に右手に握った刀でネズミの爪を受け止めきる。

 

「「え…シクルっ!?」」

ルーシィとルージュは突然のシクルの登場に驚いたがすぐに表情に笑みが浮かぶ。

 

「シクル!!来てくれたのね!!」

 

「まぁ…ね…来たのは私だけじゃないけど」

 

「え…?」

 

シクルはそう言うと刀で受け止めていたネズミを力いっぱい押し倒し、そして体勢の崩れたネズミは………

 

 

ドガッ!!!

 

回し蹴りを仕掛けてきた鎧の女騎士…妖精女王の攻撃により、戦闘不能となった…。

 

「エルザっ!!」

シクルが登場した時のように笑みを浮かべるルーシィだが………

 

 

ギロッ! 「………」

 

 

「ひぃ!?」

「あ………」

エルザの物凄い睨みと殺気に当てられ、ルーシィは悲鳴を上げ、ルージュはシクルを見た。

 

ルージュを見つめるシクルの表情は凄く悲しそうだった。

「…ルージュ………」

「シ…シクル………」

 

シクルは震えるルージュを暫く見つめてからはぁとため息をつくと、ルージュの頭を一回撫でてからルーシィに声を掛ける。

 

「ルーシィ…グレイとナツは?一緒じゃないの?」

「あ………ナツは分からない…グレイは…怪我しちゃって…」

 

ルーシィの言葉にそっか…と答えると震えるルージュを抱え、立ち上がる。

 

いつの間にかルーシィたちを追ってきたのか、ハッピーもこの場におり、既にエルザの手に捕まっていた。

 

ルーシィの言葉を聞きエルザへと視線をやるとエルザもシクルを見つめ、頷く。

 

 

「兎に角………まずグレイのところへ連れて行って…私が見るわ」

「わ…分かった………」

 

 

ルーシィに連れられ、シクルたちが来たのは簡易テントがいくつもある避難用の村だった。

ルーシィの話では少し前に空飛ぶネズミの落とした謎のゼリーに村を溶かされ、消滅してしまったとのこと。

 

 

 

シクルたちは負傷し、眠っているグレイがいるテントの中に入った。

 

眠るグレイの側に膝をつき、見下ろすシクル。

そして、悲しそうな表情を浮かべ、グレイの傷つき包帯の巻かれる頭を撫でる。

 

「…馬鹿ね、ほんと………」

シクルはそう呟き、1度手を離すと後ろで控えていたエルザたちを振り返る。

 

「少し深いみたいだけど…治せない傷じゃないわ」

「そうか………頼めるか?」

シクルの言葉を聞き、問い返すエルザににっこりと微笑み頷くシクル。

 

 

「な、治すって………?」

 

「ルーシィはまだ見たことなかったよね?」

疑問だらけのルーシィに説明を始めるハッピー。

そんな2人は今も尚エルザの手により、体を縄でグルグル巻きにされていた。

 

 

「シクルがなんで月の歌姫って呼ばれてるか…分かる?」

「そういえば…考えたことなかった………」

 

確かに以前戦った闇ギルドのメンバー等、時折シクルを“月の歌姫”と呼んでいるのを聞いたことはあったが気にしたことはなかった。

 

 

「シクルの歌は特別でね…歌で仲間の傷を回復したり、仲間の身を守ったり、何かを封印することや呪いみたいなのを解くことも出来るんだよ」

 

「何それ……そんな魔法あるの?」

 

「シクルの魔法ですぅ…月の滅竜魔法の魔力を歌に込めるとその歌に合わせた効力が発揮されるんですぅ…」

 

シクルをずっと見つめ、ハッピーに代わり、説明をするルージュ。

「へぇ………」

ルーシィはじっとシクルを見つめる。

 

 

 

「…よし………

 

【我、月の加護の名の下に

 

愛する者の身を包み その身、回復させん】

 

歌魔法(ソングマジック) 治癒(ヒール)

 

歌を唱え、グレイにシクルが両手を添えるとシクルの手から淡い銀色の光が輝き、次第にその輝きはグレイを包み込む。

 

そして、銀色の輝きがグレイの身体に染み込むように消えるとそれまで苦しげだったグレイの呼吸や表情は幾分か穏やかになっていた。

 

「…ふぅ………うん、とりあえずはこれで大丈夫…流石に流れた血は回復できないけど…傷はもう大丈夫だよ…後は目覚めるのを待つだけ」

 

そう言い、シクルはエルザたちの方を振り返る。

「わぁ!良かった…」

「あい!」

「流石だな…シクル」

 

エルザたちはシクルの言葉に喜び安堵し、声を上げるがルージュだけが未だに顔を俯き、暗い表情をしていた。

 

「………ルージュ」

「………」

 

シクルが呼びかけるもルージュからの返答はない。

シクルははぁとため息をつくとエルザを見る。

 

「エル…悪いけどほんの少しルージュと2人きりにさせて?」

「ん…分かった」

 

シクルの真意を受け取ったのか、エルザはルーシィとハッピーを連れテントを出ていく。

 

 

エルザたちが離れたのを確認し、シクルは深呼吸を一つしてからルージュを見つめる。

 

 

「さて…と………ルージュ、なんでギルドの決まりを破ったの?」

シクルの質問にルージュは答えず、ただ俯く。

 

「…ルージュ………私怒ってないよ?怒ってないから…教えて欲しいな…どうして、勝手にS級クエストに来たの?

 

 

言ったよね?S級クエストは常に危険と隣合わせ…ちょっとした判断ミスで死んじゃうこともあるって………」

 

 

「………だって…」

シクルがルージュの顔を覗き込み、話を続けると不意にルージュの口が開く。

 

「…なに?」

 

「だって………いつも………あたしは…ギルドに留守番で………あたしは、シクルの…相棒なのに………一緒に行けなくて………シクルにとってあたしは足でまとい……?頼りない?

 

シクルの力には……なれないのぉ…?」

 

そう言い、顔を上げたルージュの目にはたくさんの涙が浮かんでいた。

 

「ルージュ………」

 

「あたしだって………シクルの相棒だもんっ…

 

 

役に立ちたいのぉ!シクルを助けたいのぉ!

 

でも………いつもシクルは危ないクエストは一人で行っちゃって…いつも、大きなケガをして帰ってきて………いつか、帰ってこないんじゃないかって………不安で…だから、これを無事に完了したら………シクルもあたしを連れていってくれるんじゃって………」

 

 

そう言い、再び顔を下へ向け、涙を流し始めるルージュを見て悲しそうな表情を浮かべ、だが小さく微笑むとシクルはルージュを抱き上げる。

 

「………馬鹿ね…あなたは私の最高の相棒よ…

 

足でまといなんかじゃないわ…役に立たないなんて…思ったこと、一度もない………

 

私は、ルージュの思ってるほどまだ強くない…だからね?もし………S級クエストにあなたを連れて行って、もし守れなかったら……

 

 

あなたを失ってしまったら…そう思ったら、あなたには安全なギルドで私の帰りを待っていてほしいって…そう、思ったの………」

 

「ふぇ…シクルゥ………」

 

「ごめんね?

ちゃんと伝えておけば良かったね………

 

ルージュ………

 

私はね?あなたがギルドで帰りを待ってるって考えたら…どんな辛い状況でも乗り越えられる………あなたが待っているから、何が何でも帰らないとって…そう、思うのよ?

 

ルージュ………私の親友………すっごい、心配したんだから………ギルドに戻ってみたらいなくて………ナツたちとS級クエストに行ったって聞いた時………身体が震えた………

 

 

もしルージュに何かあったら…そう思ったら…怖かった………ルージュ………

 

 

 

無事で良かった………間に合って…ほんと、良かった………」

 

そう話したシクルの目にも涙が流れており、ルージュの顔を濡らしていた。

 

シクルの涙を見て心配を掛けてしまったことにさらに大粒の涙を流し、シクルの胸に抱きつく。

 

 

「ご、ごめん…ごめんなさぁいぃ…!」

 

「ルージュ………」

 

 

2人は十数分間、涙を流し続け、お互いの無事を喜んだ。

 

そして、再会の喜びを噛み締め、十数分後、涙の落ち着いた2人はエルザたちを呼ぶ。

 

 

 

この島の謎……問題………敵との戦闘が

 

今………始まろうとしていた………。

 

 




はい、如何だったでしょうか………むむむ(汗)
今回は主人公の能力がほんの少し、明らかになりました!

今後コレがだいぶ重要になるかと!!

そしてとりあえず次回、敵さんと戦闘があるかなと思います!


あぁ…戦闘シーンは苦手なのでドキドキしてます…少し投稿が遅くなるかもしれません…
遅くても明日の夜には投稿できるようにします!!

では、最後までお付き合い、ありがとうございます!


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14話 グレイの決断とシクルの言葉

はい!!お昼前投稿にこぎ着けました!thikuruです!


では早速!!最後までお付き合い、お願いします!!


 

めいっぱい泣いたシクルとルージュは、涙を流しきり、落ち着くと互いに見つめ、クスッと笑みを浮かべた。

 

「じゃ、エルたち呼ぼっか」

「あい!」

 

ルージュの返事を聞くとシクルは立ち上がり、1度テントの外に出て、エルザたちを呼ぶ。

 

「エルーお待たせーもういいよー」

「ん?あぁ…もういいのか?シクル」

 

どこかスッキリした様子のシクルはエルザのその言葉に、「うん!もう大丈夫!」と笑顔で答える。

 

エルザもその言葉を聞き、「そうか…」と笑みを浮かべ、ルーシィとハッピーを抱え、テントへと戻る。

 

未だ2人は縄に縛られたままだ。

 

「うー…シクルゥ…これ取ってぇ…」

ルーシィの涙ながらな訴えがシクルの耳に入る。ハッピーからも「取ってぇ…」との嘆きが聞かれるが………

 

シクルは苦笑を浮かべ首を横に振る。

 

「流石にそれは…ごめんね」

 

「「そんなぁああ………」」

ガクッと肩を落とし、俯くルーシィとハッピーを見て、「なんか…ほんとごめんね」と申し訳ない気持ちになるシクル。

 

だが、その背後に立つエルザの黒いオーラがあまりに怖く流石に助けられなかった…。

 

「(てかエル…本気でキレてる……)そ、それより………一体この島で何があったっていうの?ナツは見当たらないし…グレイもこんな傷…」

 

エルザのオーラに耐えきれず、シクルは咄嗟にまだ詳しく聞いていなかった今回の依頼の内容をルーシィたちに問いかける。

 

 

「あ…うん、実は………」

 

 

ルーシィの話では、この島は何年か前から夜になると月が紫になり、月から放たれる紫色の光が島の中心にある遺跡へと落ち始めたという。

 

その頃から村人達は夜になると姿が悪魔のようになり、外の世界へ行けず苦しんでいること。

 

今回の依頼はその月を破壊し、身体にかかった呪いを解いてもらいたいというものだと言う。

 

 

大まかにルーシィから内容を聞いたシクルとエルザ。

 

シクルはルーシィの話を聞き終えてから、空を見上げ、島を照らす紫色の月を見つめた。

 

「………おかしい…」

「…え?」

「シクルゥ…?」

シクルの呟きが聞こえたルーシィとルージュが首を傾げ、シクルを見つめる。

 

 

「…月が紫色になるなんて………普通ありえない…」

「え?でも確かに月は紫色になってるよ?」

シクルの言葉にハッピーは反論を出すが…

 

「確かに!今見えてる月は紫色だけど………違うの……確か……なにかあったはず………」

シクルはその何かを思い出そうと考えるが一向に思い出せる予兆はなく………

 

 

「兎に角、今日はもう遅い…今夜はこの村に一泊し、明日…グレイが目覚め、ナツを見つけ次第私がギルドに連れて帰る」

 

エルザの言葉に一同は一度解散し、各々村人が用意してくれたテントに入り、一夜を過ごすことに。

 

その夜…シクルは隣で眠るルージュを起こさぬ様テントを出ると村を少し離れた所に座り、空を眺める。

 

 

相変わらず、空に浮かぶは紫色に光る月…

 

「………(何だろう…あの月を見ると………モヤモヤする)」

 

 

この嫌な感じは………一体………

 

 

 

「眠れないのか?シクル…」

「っ!エル…」

 

空を見上げ、思考に浸っていると後ろから聞き覚えのある声が耳に入る。

シクルはふっと後ろを振り返るとはぁとため息をつき、再び空を見上げる。

 

「なんか………気になっちゃって…」

 

「あの月のことか…」

 

エルザの言葉に「うん…」と頷くシクル。

 

 

「……あ、ねぇエル…?」

シクルはふとあることを思い出し空を見上げていた視線を隣に腰掛けたエルザへと向ける。

 

「なんだ?」

 

「あのね、お願いがあるんだけど………」

 

そう言い、シクルが話し始めたお願いの内容にエルザは徐々に目を見張る。

 

 

「シクル…だがそれは……」

 

「ね?多分いい経験にもなると思うんだ…

 

ダメかな………?」

 

シクルの瞳には何か強い想いがあるようにエルザは見て取った。

はぁとため息をつき、エルザは苦笑を浮かべ、シクルを見る。

 

「仕方ない………いいだろう…だが、初めから私は許可しないからな」

 

「うん!ありがとう…エル…やっぱり優しいねエルは」

エルザの言葉ににっこりと満面の笑みを浮かべるシクル。

 

「お前の頼みならな…さて、そろそろ休もう…明日に響くぞ」

 

「あ、うん………」

立ち上がったエルザに手を引かれ、テントの中へと戻るシクル。

 

テントへ入る前にふっと空を見上げ、目を細める。

 

………紫の月………まさか…

 

「…まさか………ね」

 

 

 

シクルとエルザが島についた、翌朝、

 

朝日の光でグレイが目を覚ます。

 

 

「……っ…う…こ、ここは………」

 

「おはよ、グレイ…気分はどう?」

 

まだ痛む身体をゆっくりと起こしたグレイの視界に気を失う前はいなかったシクルとエルザの姿が目に入った。

 

「シクル!?それにエルザも…!!」

 

「…大体の話はルーシィから聞いた…

 

全く、お前はナツたちを止める側ではなかったのか…?」

 

エルザの言葉にぐぅの音も出ないグレイは顔を俯く。

 

「はぁ…呆れてものも言えんぞ」

 

「っ…ナ、ナツは?」

エルザのため息とその一言に一瞬息を呑むグレイは咄嗟にこの場に見えない桜色のことを聞く。

 

「ナツはここにはいないわ…多分どこかで迷子になってるか或いは…遺跡にいるか………」

 

グレイの質問に答えたシクルを見て、グレイは「そうか…」と呟く。

 

 

「兎に角、ナツを見つけ次第お前達を連れ私はギルドへ戻る」

エルザのその言葉を聞き、グレイはばっ!と顔を上げ、エルザを見て目を見張る。

 

 

「な…ギルドに帰るって…お前!この島で何が起きているのかルーシィから聞いたんだろう!?なら…!!」

 

「あぁ、聞いたさ………だがそれがどうした?

 

私の目的はギルドの掟を破った者を連れ戻すこと…あとはナツだけだ…ナツを見つけ次第私達は戻る……それ以外の目的などない」

 

 

エルザの言葉を聞き、ギロッと睨みつけるグレイ。その表情は険しく、どこか苦しげに見える…。

 

 

「この島の人たちの姿を見たんじゃねぇのかよ!?」

 

「見たさ」

 

「それを放っておけというのか!?」

 

「依頼書は各ギルドに発行されているんだ…正式に受理したギルドの魔導士たちに任せるのが筋というものだろう?」

 

どんなにグレイが説得を試みてもエルザの答えはただ、「連れて帰る」それだけだった。

 

グレイは我慢ができなくなり、拳を握りふるふると震わせる。

 

 

「………見損なったぞ、テメェ…」

 

「…なんだと?」

 

グレイの言葉を聞き、殺気がブワッ!と吹き荒れるエルザだがそれに怖気付くこと無く俯くグレイ。

 

 

「お前まで…ギルドの掟を破るつもりか?

見損なったのはこちらの方だぞ………」

 

確かにギルドのルールを破ったナツやルーシィ、グレイに非があるのは目に見えている。

 

 

グレイも心のどこかでそれを分かっている…だが………

 

 

「ただではすまさんぞ」

そう言いきり、グレイに剣を向けるエルザ。

 

 

「ちょ!エルザっ!!」

 

「それはやりすぎだよ!」

 

「シ、シクルゥ…!」

 

2人のやりとりを後ろで見ていたルーシィ、ハッピーとルージュはエルザの行動に慌てる。

 

が、シクルはじっとエルザとグレイを見つめていた。

 

 

剣を向けられたグレイは俯く顔を上げ、エルザの剣を握りしめ、押し返す。

 

 

「勝手にしやがれ!!これは!俺が選んだ道なんだよ!!やらなきゃならねぇ事があるんだ」

 

そう言い、グレイは剣を握る手を強める。

その手からは血が滴り始め…テントの床を赤い斑点が出来る。

 

 

グレイの引き下がらないと言った決意の見える瞳を暫く見つめ、エルザははぁと一つため息をつく。

 

そして、剣を握るグレイの手を軟らかに離させるとルーシィとハッピーを縛っていた縄を切る。

 

 

「「…へ?」」

「エルザ…?」

 

エルザはグレイを振り返り、呆れた瞳で言う。

「これでは話にならんからな…まずは仕事を片付けてからだ」

 

「で、でもぉ…他のギルドがこの依頼を受けたら…問題になっちゃうんじゃぁ?」

先ほどの他のギルドに任せろと言ったエルザの言葉を覚えていたルージュは恐る恐ると言った様子でエルザに問う。

 

すると…

 

「あぁ、それ?大丈夫大丈夫!この依頼、私が受けたから他のギルドが受けることはないよ」

ルージュの隣からヘラリと言った様子で言いきったシクル。

 

「「「えぇ!?」」」

「………シクル、自分から受けたのぉ?」

 

「そーだよ?それより…エルも意地悪だなぁ…

 

昨日言ったのに…この依頼、ナツたちにも手伝ってもらうって…」

 

シクルの困ったような笑みを見て、ふっと笑い、シクルを見返すエルザ。

 

「言っただろう………始めから許可など出したら反省しないだろう…それに、私はこいつの想いを聞きたかったのでな…少々試させてもらった」

 

2人の会話を聞き、ルーシィたちはぽかん…とその光景を見つめる。

 

 

「え…じ、じゃあ………最初から連れ戻す気はなかったってこと…?」

 

確認のため問いかけてくるルーシィに何を言っている?と言った様子で見返してくるエルザが口を開く。

 

「バカを言うな…私は初めからお前達を連れ戻す気でいた…だが、シクルがどうしてもお前らにこの依頼を完遂させ…経験させてやりたいと頼んできたのでな………仕方なくだ」

 

 

「とかなんとか言って…ホントはエルザだってルーシィたちを連れ戻す気は無かったんでしょ?」

 

クスクスと笑いそう言うシクルを見て、少し頬を赤らめそっぽを向くエルザの様子にルーシィとハッピーはほんのりと笑みがこぼれ、ルージュも嬉しそうにシクルを見上げる。

 

「お前ら………」

2人の様子にグレイもしてやられたと様子を隠さず、嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

不意に、シクルはグレイの方を振り返る。

 

「さて…と………グレイ?手見せて」

「あ、あぁ…」

シクルはグレイの傷ついた手を握ると、“歌魔法 治癒”でその傷を治す。

 

 

そして、回復させるとほんの少し、ギュッとその手を握る…。

 

 

「…シ、シクル?」

 

シクルの様子に戸惑い、首を傾げるグレイ。

 

 

 

「………グレイ…」

 

「お…おぅ?」

 

 

「………お願い…これだけは覚えておいて…

 

グレイが今………何を思い、何を悩んで…何に苦しんでいるのか………私にははっきりとは分からない………でもね?

 

 

あなたには仲間がいる………家族がいる………

 

 

グレイ………それを、忘れないで…?

 

周りをよく見て………お願い…」

 

そう言い、顔を上げたシクルの表情はどこか、切なく悲しげだった。

 

グレイはじっとその顔を見つめ…

 

 

「………分かった」

と、頷いた。

 

 

その答えにシクルは微笑み、「絶対だよ…」と、呟くとグレイの手を離し、エルザを振り返る。

 

「さて…エル………じゃあ、私たちはあのバカを探しに行きますか…!」

 

「あぁ…そうだな…」

シクルのニヤッとした笑みを見てエルザも同じくフッと笑みを浮かべる。

 

 

 

「…行くぞ!」

 

「「「「「おぉー!!!」」」」」

 

エルザの掛け声と共に、シクルたちは叫び、テントを飛び出し、問題の遺跡へと駆け出していく。

 

 

 

次回…敵の狙いが明らかに………

 

 

 

「…あ、そうそう!これ終わったらルーシィたちにはすっごく素敵な罰があるからね!!」

 

「「「ぬわにぃいいいい!?」」」

 

「え!?なに!?何なの!?」

 

「ふ………腕がなるな………」

 

 

シクルの爆弾投下にグレイ、ハッピー、ルージュは叫び、悲鳴をあげる。

 

その様子にルーシィは戸惑い、焦り、エルザはどこか楽しげに微笑むのだった………。

 

 

 

「楽しみだなぁー!」

 

「だから…!!

 

何なのよぉおおおおおおおっ!!!!!!」

 

 

 




はい!13話、如何だったでしょうか…やはりあまりにも自信がない………(汗)


恐らくは次回!!やっとナツさんが出てくるかと………

ほんのりナツと主人公の絡みも次回は入れようかと思ってます


では、最後までお付き合い、ありがとうございます!


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15話 デリオラ復活 グレイの涙

はい!!投稿出来ました!!

thikuruでございます!!


むむむ…むむむむむ…なんだかこれでいいのか?感があるのですが…

とりあえず、最後までお付き合い、お願いします!


村を出たシクルたちは遺跡に向かう途中、グレイから敵の情報と目的を聞いていた。

 

 

「なるほど…つまりその零帝…否、リオンは

嘗てお前の師匠でもあったウルが命をかけ封印した怪物、デリオラの封印を解き………自身の手でそれを破壊…

 

そして、師を超えることを望んでいるのか…」

 

「あぁ」

 

エルザの言葉に頷くと、グレイは足を止めることなく遺跡を睨みつける。

 

「確かに…ウルは俺達の前からいなくなった………けど、ウルはまだ生きてるんだ…」

 

「生きてる…(グレイの師匠ということは氷の魔導士………恐らく“絶対氷結(アイスドシェル)”)」

 

グレイの話を聞き、シクルたちは自然を走る足を速める。

 

そして、ふと遺跡を見つめると、少し傾いていることに気づく。

 

 

「遺跡が傾いてる…?」

 

「恐らくナツだろう…」

 

「なるほど…あれなら月の雫(ムーンドリップ)はデリオラのいる地下まで届かないってわけね…(こういう時ほんと頭の回転早いわよね…)」

 

 

その回転の速さをなんで普段にいかせないのかしら…と、心の奥深くでシクルは愚痴りながらも足を進めると、目の前を仮面をつけた民族の集団がシクルたちの道を塞いだ。

 

 

「っー!くそ!こっちは急いでるっつぅのに!!」

目の前に立ち塞がった集団に愚痴を零すグレイ。

 

その横で、シクルも小さく舌打ちをし、強行突破に入ろうと腰を低くした時…

 

 

目の前に緋色が揺らいだ。

 

 

 

 

「…エル?」

 

「行け…ここは任せろ………グレイ

 

 

お前はそのリオンとやらと決着をつけてこい」

 

小さく背後を振り返ったエルザの瞳は、信頼に満ち溢れ、グレイが負けることを1ミリも疑ってはいなかった。

 

 

「っ!!サンキュー!エルザ!!」

エルザに礼を言うとその横を通り、遺跡へと走るグレイ。

その後ろ姿を見送り、エルザはシクルの方を振り返る。

 

 

「シクル…お前もグレイを追え

恐らく、遺跡にはナツもいるはずだ…頼む」

 

 

シクルはその言葉にニッ!と笑みを見せる。

 

「りょーかいっ!!行くよ!ルージュ!」

「あい!!」

 

シクルの掛け声にルージュは翼を出し、シクルの背を掴むと飛び上がり、上空から遺跡へと向かった。

 

 

 

上空から遺跡へと向かったシクルとルージュはグレイが到着する前に遺跡へと辿り着いた。

 

 

「…ありゃ?グレイより早く着いちゃったね」

 

「ほんとだぁ…」

 

「んー…まいっか!早く行こ!ナツ見つけなきゃ!!」

シクルの言葉に「あい!」と頷くとルージュはシクルの頭に乗り、シクルは走り出した。

 

 

遺跡の中へと入り、暫く地下への道を走っていくシクル。

 

「んー………大分ナツの匂いが近づいてはいるんだけど…(てかこの匂い…香水?)」

竜同等の嗅覚でナツの居場所を探すシクルだが別に香る、香水の匂いが捜索を邪魔していた。

 

「シクルゥ…ナツの居場所分からないのぉ?」

「んー………この辺だと思うんだけど…」

 

 

シクルが辺りを見回すと…

 

 

「ほっほっほっ!!」

 

「待てやコラぁああああっ!!!」

 

シクルの後ろから聞いたことのある叫び声が聞こえた。

 

シクルとルージュは一斉に振り返り…

 

 

「「ナツ!!!」」

 

 

漸く、探し人の桜色、ナツを見つけた。

 

 

「んぉ!?シクル!?何でここにいんだァ!?」

 

「あんたが勝手にS級クエストなんかに来ちゃったからでしょぉ!?私だけじゃないわ、エルザも来てるわよ!!」

 

シクルの怒声にビクッ!と肩を震わせるナツ。

「んなにィ!?エ、エルザも来てんのか…」

 

「来てるわよ!すっっっごい!!!怒ってるわよぉ…」

 

 

 

「っ………!!そ、それよりシクル!!

 

そいつ捕まえんぞ!!!」

 

 

「…そいつ?」

ナツの指差す先を見ると変な仮面を被った小さな老人の姿が…だが………

 

 

「…この匂い…(香水の匂いはこいつから…でもこの匂いは………)」

 

 

微かに香ったその匂いに覚えがあるシクル

 

「追うぞ!!」

 

「シクル、ナツ見失っちゃうよぉ!」

「んぇ?あ、うん!!」

 

ナツとルージュの声に我に返ったシクルはナツと共に仮面の老人を追う。

 

 

………一体………何が目的?

 

 

 

老人を追う中、シクルはナツに追いつき隣を走る。

 

「ナツ…アレ誰?」

 

「俺が知るかよ!!けど、あいつの魔法で折角傾けた遺跡を元に戻しやがったんだ!」

 

「遺跡を…!?」

「直しちゃったってことぉ?」

 

 

それは…“失われた魔法(ロストマジック)”………

 

時空の魔法………“時のアーク”!?

 

 

「やっぱり………」

「んぁ?シクル、どーした?」

シクルの小さく呟く声が聞こえたナツが問いかける。

 

シクルは「ううん、何でもない…」と答えると何も話さなくなる為、ナツは不思議に思いながらもさらに問いかけることは無かった。

 

 

………時のアークを使えるのは………

 

 

私の知る限り………あの人だけ………

 

 

 

「ほっほっほっ」

 

「「っ!?」」

 

 

2人が依然、仮面の老人を追っていると突然目の前から姿が消える。

 

「消えたァ!?」

 

「どこ行ったのぉっ!?」

 

「恐らくデリオラのいるところよ!」

 

 

 

シクルの言葉通り、仮面の老人は地下深くに隠されていたデリオラの所にいた。

 

 

「いよいよか………」

 

「見つけた!!」

 

「うひゃあ!?お、おっきいよぉ…!?」

 

「とりあえず燃えとけぇ!!」

 

 

 

氷に覆われた怪物、デリオラを見上げニヤニヤと笑っている仮面の老人の真上に飛び上がり、火を纏った拳を振り下ろすナツ。

 

 

「火竜の鉄拳っ!!!」

 

ナツの拳をひょいっと軽い様子で避ける仮面の老人。

「避けられちゃったよぉ!」

 

「ほっほー愉快な言葉ですな…しかし、何故ここがお分かりに?」

 

「けっ!俺達は鼻がいいんだよ!」

 

「ましてや、女の香水の匂いがするんだから…尚更、あとを追うのは容易かったわよ?

 

…あなた、一体何者?」

 

シクルの探りを入れるような鋭い眼差しに怖気付くこと無く、笑みを絶やさない仮面の老人。

 

 

「ほっほっほっ…私はね、どうしてもデリオラを復活させねばなりませんのよ…」

 

「へっ!やめとけやめとけ!もう無理だ」

笑う仮面の老人にニヤッと笑みを見せ言い切るナツ。

 

「ほぉ?何故無理と?」

ナツの言葉に興味を示した仮面の老人はそう問いかける。

 

 

すると…

 

ビシッ!!と仮面の老人に指を差し、ナツは高らかに言いきる。

 

「グレイがあいつをぶっ飛ばす!!

俺がお前をぶっ殺す!!百万回な!

 

それで終わりだ!この野郎!!」

 

「お?それなら私の出番はない訳だ?やったね!」

 

「シクル…こんな時にめんどくさがらないでよぉ…」

 

 

ここに来てめんどくさがりが発動したシクルにため息をつくルージュ。

 

 

 

「ほっほっほっそう上手くいきますかな?」

 

仮面の老人がそう言い、背後を振り返った時…

 

デリオラの氷に紫の光…“月の雫”が降り注いでいた。

 

 

 

「「え!?」」

 

「なにィ!?上で儀式やってる奴がいるのか!?」

 

ナツは月の雫が降り注ぐ天上を見上げ、睨みシクルは愉快そうに笑っている仮面の老人を睨みつける。

 

 

「ほっほっほっ…たった1人では月の雫の効果は弱いのですが…既に十分な月の光が集まっております………

 

あとはきっかけさえ与えてしまえば…」

 

 

 

仮面の老人がそう呟いた時ーーー

 

 

ピシッ!!

 

 

「っ!」

 

「氷に亀裂がぁ…!!」

 

「くそ!頂上にいる奴を何とかしねぇと!!」

 

そう叫び、何とか頂上へ行こうと来た道を戻ろうとするナツだが…

 

その道を仮面の老人が天上の岩を落とすことにより、塞ぐ。

 

「んなっ!」

 

「逃がしませんぞ…私を追ってきたのはミスでしたね…火竜君に月の歌姫よ………」

 

「このやろ…!」

 

「ナツ!!」

仮面の老人に突っ込もうとしたナツをシクルが咄嗟に呼び止める。

 

「んぐ!なんだよ!?」

 

 

「そいつは任せるよ…!私は………上のヤツを何とかしてくる!!」

「っ!?出来んのか!?」

 

ナツの問いかけにニッ!と微笑み、「もちろんっ!!」と答えたシクル。

 

「ほっほっほっ!行かせるわけないでしょう!!」

仮面の老人はそう言い、手を構えるとシクルの立つ真上の天上を崩す。

 

「っ!シクル!!」

 

 

ナツが慌てて声を上げる。

が…シクルはニヤッと笑みを浮かべ…

 

 

「忘れてない…?

私は2つの属性を持つ滅竜魔導士………

 

 

月と光の滅竜魔導士だってことを………」

 

 

「っ!!」

 

 

そう呟いたシクルの体は一瞬で金色の光に包まれる。

 

そして………

 

 

 

「はぁあっ!!光竜の…劍角!!!」

シクルは光の速さで天上を突き破り、遺跡の外、上空へと飛び上がった。

 

 

ドドドドドゴォオオオン!!!!

 

 

光の速さで動くシクルは仮面の老人やナツの目ですら追えず、崩れ落ちる岩を避け、天上を突き破っていく。

 

そして………

 

 

ドォオオオオオンッ!!!

 

満月の輝く上空に飛び上がるシクルの姿…

 

 

「…!!ルージュ!!!」

 

「あいっ!!」

 

 

シクルの掛け声と共に、ルージュはシクルの作り出した弓、月光弓を構える。

 

 

「行くよぉ!ムーンライト・アロー!!」

 

ルージュの放った光の矢は寸分狂わず、儀式を行っている人物に刺さる。

 

 

「ノォオオオオオオッ!?」

 

奇妙な雄叫びを上げ、倒れる儀式を行っていた人影………その人物が倒れると儀式の光は消え、月の雫も消える。

 

シクルとルージュは顔を見合わせ安堵する。

 

が………

 

 

 

グォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!

 

 

地鳴りのような雄叫びが響く…。

 

 

 

「ひぃやぁ!?」

「っ!?今のは…!(まさか…!)」

 

 

 

雄叫びが聞こえたのは地下深く、デリオラのいる場所から…シクルは再び光を身体に纏い、超速度で地下へと降り立つ。

 

 

すると………

 

 

 

「…う、そ………!?」

 

「ふ…復活してるぅ…!?」

 

シクルとルージュの目に映るは大きな雄叫びをあげ氷が完全に解けたデリオラの姿ーーー

 

 

 

「シクル!!」

「っ!ナツ!!」

 

デリオラの下方からナツのシクルを呼ぶ声が響く。

 

「行くぞ!!まだ終わってねぇ!!こいつぶっ飛ばすぞ!!」

 

「ナツ…おっけー!!」

ナツの言葉に大きく頷き、構えるシクル。

 

だが………

 

 

「待て!!お前らでどうにか叶う相手じゃねぇ!!!」

2人を止める声…グレイの声がその場に響いた…。

 

声のした方を振り返ると腹に傷を作ったグレイが立っており、その足元には恐らくグレイの言っていた“リオン”だろう男が倒れていた。

 

 

不意に…グレイがある構えをとる………

 

それを見たシクルは目を見張り、驚愕する。

 

 

 

「な…グレイ!?まさか………やめなさい!!!」

 

その構えは………

 

 

 

絶対氷結(アイスドシェル)!!!」

 

その呪文と共に、グレイの周りに膨大な魔力が集まる…

 

 

その光景を見たリオンは堪らず叫ぶ。

 

「よ、よせグレイ!!!あの氷を溶かすのにどれだけの時間がかかったと思ってるんだ!?

 

 

同じことの繰り返しだぞ…いずれ氷は溶け、再びこの俺が挑む!!!」

 

 

「これしかねぇんだ!!

 

今やつを止められるのは…これしかねぇ!!」

 

リオンに怒鳴り、更に魔力を高め、標準をデリオラへと合わせるグレイの前に立ち塞がるようにナツが立つ。

 

そして、魔法陣を展開するグレイへとシクルもゆっくりと…だが、確実に近づき…

 

 

ついにグレイの目の前へと辿り着く。

 

 

「お、おいシクル…!?それ以上入ってくるな!お前まで凍っちま………」

 

 

 

パァアアアンッ!!!!

 

「っ……!?」

 

グレイの怒鳴りを遮り、響く乾いた音…

 

シクルが思いっきり、グレイへと平手打ちしたのだ…。

 

 

グレイの頬を平手打ちしたシクルの手は氷始め、徐々に体全身が氷を纏い始める。

 

が、シクルはその状態を構うことなく………

 

 

「………で………ふざけないで!!!

 

言ったでしょう!?あなたは1人じゃないって!!!周りを見なさいって!!!

 

あなたは1人で戦ってるんじゃない!!!

 

みんながいる!!仲間がいる!!家族がいるのよ!?どうして………どうして………

 

 

私たちを………頼ってよ………

 

1人で抱え込まないでっ!!!グレイ!!!」

 

「シクル………」

 

 

ポロポロと涙を流すシクルを見て、グレイは目を見開き唖然とする。

 

 

「………あの時、死んで欲しくねぇから止めたのに…俺の声は届かなかったのか………?」

 

「っ!?…ナツ………」

 

 

デリオラを見上げるナツの隣にいつの間にかシクルも並び立つ…そして………

 

 

「大丈夫…グレイの苦しみは………痛みは………

 

 

仲間が…家族が、癒してくれる………」

 

 

そう言い、ふっと小さくグレイを振り返る、シクルの姿がグレイの目には嘗ての師匠、ウルと重なった。

 

 

「俺は最後まで…諦めねぇ!!!」

 

「!!だめだ…避けろぉおおおっ!!!」

 

ナツとグレイの叫び声が響く…

 

ナツとデリオラの拳が交わる…そう、誰もが思った。

 

その時………

 

 

ピシ!!ピシピシ!!ガラガラガラッ!!

 

「っ!?んだァ!?」

突然、亀裂が入り、拳から全身が崩れ落ちるデリオラ…

 

 

そう………デリオラは既に死んでいたのだ…

 

ウルの氷の中で………既にその命を終わらせていた………

 

 

「すっげぇ………すっげぇな!!お前の師匠!!!」

 

崩れ落ちたデリオラの残骸を見つめ、ニッ!と背後で俯いていたグレイを振り返り、満面の笑みを見せるナツ。

 

シクルもナツにならい、近寄ってきたルージュを抱き上げるとグレイの方を振り返る。

 

 

グレイは俯き、目元を手で覆っていた…

 

 

 

「ありがと……ございます…師匠………」

 

 

これで…グレイの暗い闇は消え去った…

 

海に溶けて帰っていくウルの氷と共に流されるかのように…グレイを苦しめていた長年の闇が消えていく………

 

 

 

「………良かったね…グレイ………」

 

 

涙を流すグレイを見つめ、柔らかく微笑むシクル。

 

 

 

次回………悪魔の島………完結………

 

 

島の人々の呪いは…如何に………?

 

 




あっれぇー…?前回ナツとの絡みを入れます的なことを言ってますが………すいません、あまり無いですね………


次!!次は必ず!!!

すいません!!悪魔の島ってどうしてもグレイがメインのお話なので…

次回はちゃんとナツとのラブを入れようかと思います。
では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!!


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16話 島の真実

はい!!16話投稿であります!!


今回で悪魔の島篇終了です!!
最後までお付き合い、お願いします!


 

デリオラが崩壊し、シクルたちは遺跡から出てくる。

遺跡の外ではルーシィやエルザが待っていた。

 

 

 

「みんな!無事だったのね!」

別れた時よりボロボロのグレイの姿などあるがそれでも歩いて出てきたシクルたちを見て、ぱぁっと笑みをこぼすルーシィ。

 

「ルーシィ!エル!ハッピー!そっちも無事だったんだね!」

 

「あぁ」

 

「みんなー!おかえりー!!」

 

 

やっと合流を果たしたシクルたち。

 

「いあー!!終わった終わったー!!」

合流し、立ち話をしているとナツが両手を空に掲げ、満面の笑みで叫ぶ。

 

 

「これで俺達もS級クエスト達成だー!!」

 

「だー!!」

 

ナツの叫ぶ姿を真似て、ハッピーも飛び上がり、一緒に喜ぶ。

 

「もしかしてあたし達2階に行けちゃうのかな!?」

ルーシィもルーシィでクエスト達成に喜びの声を上げているが………

 

 

「ちょいちょい…んな訳ないでしょ?

てか、みんな後ろに鬼がいるの気づいてね?」

 

呆れた様子のシクルが差す先には…背後に修羅を背負った緋色の女、エルザがナツたちを睨んでいた。

 

それはもう…恐ろしい程に………

「ひぃ!?」

 

「そ、そうだぁ…お仕置きが待ってたんだ…」

 

「………その前に、やるべき事があるだろう?」

エルザはナツたちを叱ることはなく、まだクエストは達成していないことを言ってきた。

 

「…え?」

「今回の依頼は…“悪魔にされた村人を救うこと”…それが内容でしょ?」

 

「で、でも…デリオラは死んじゃったし…村の呪いもこれで………」

 

「いや、あの呪いとか言う現象はデリオラの影響ではない…

 

月の雫の膨大な魔力が人々に害を及ぼしたのだ…つまり、デリオラが崩壊したからと言って事態は改善しない」

 

ルーシィの疑問にエルザが答える。

エルザの答えに、「そんなぁ…」と肩を落とすルーシィ。

 

ふと、月の雫の儀式をしていた張本人、リオンならば何か知っているのでは?と考え、グレイがふっとリオンを見やるが…

 

リオンは目を細め、グレイから顔を背けると

「俺は知らんぞ」

と、言いきった。

 

「なんだとぉ!?」

 

何も知らないと言ったリオンを睨みつけるナツ。

リオンはナツに視線をやり、ため息をつくと話し出す。

 

「…3年前………この島に俺達が来た時、俺達は村が存在するのは知っていたが…村の人たちには干渉しなかった…

 

彼らから逆に会いに来ることもなかったしな」

 

リオンの言葉にシクルがピクッと眉を寄せる。

 

「…3年間、1度も?」

シクルの問いかけに一瞬シクルに視線をやり、目をそらすリオン。

 

 

「…この3年間、ずっとこの島にいたのよね?」

 

「…何が言いたい?」

 

「…シクル?」

 

「…そうか………」

シクルの言葉にはっとなにかに気づくエルザ。

 

「貴様ら…何故、3年間、あの光を浴びながら…悪魔の姿になっていないんだ…?」

 

 

「「「「っ!?」」」」

「…なにが?」

 

エルザの言葉にナツ以外のメンバーが気づいた様子を見せ、リオンを見張る。

 

 

「………気をつけろ、奴らは何かを隠している」

 

 

リオンはいくつかグレイと会話をすると仲間と共に去っていった。

 

そして、シクルたちが村に戻ると………

 

 

「…直ってる?」

 

リオンたちにより消された村が元通りに戻っていた。

 

 

「ど、どーなってんだ…?」

 

ナツたちはその光景に目を見張り、驚愕する。

そんな中、シクルの脳裏には髪の長い女が過ぎる。

 

………まさか?

 

 

ふと、シクルの嗅覚にあの香水の香りが香る。

「っ!………エル、ちょっとここを離れるね」

「ん?あ、あぁ…すぐ戻るんだぞ?」

 

エルザのその言葉に「はーい!」と答え、シクルは香水の匂いを辿る。

 

 

 

そして………

 

 

 

 

「どーいう心境の変化なのかしら?

 

 

 

 

 

 

………ウルティア」

 

 

 

森の奥深くで誰か…おそらくあの男と通信をしていた仮面の老人を見つける。

 

「ほっほっほっ…よくここがお分かりに…」

 

「下手な芝居はやめなさい…竜の五感を舐めない事ね…匂いで丸分かり…それに、魔力の質でもあなただということが分かったわ…」

 

シクルがそう言うと、一層仮面の老人は笑い、次第に姿が歪む…

 

そして、歪みが消えると現れたのは仮面の老人ではなく髪の長い女…評議会に席を入れている“ウルティア”だった。

 

 

「へぇ…さすが、妖精の尻尾最強女魔導士…月の歌姫ってところかしら?

 

で?私に何の用?」

 

ウルティアの言葉を聞き、十六夜刀を召喚し、刃先を向け睨むシクル。

 

 

 

「言いなさい………今回の件、何が目的でリオンと手を組んだの?」

 

「ふふ…そうね、強いていえばちょっとした暇つぶしと評議会としての調査………」

ウルティアがシクルの質問にそう答えると…

 

 

ドォッ!!!

 

 

言葉の途中でシクルは刀を地面に突き刺し、剣気でウルティアの真横を切り裂く。

 

「…それで?………騙せると思う?私を…」

 

「…ふっ やぁね、短気な子は………モテないわよ?」

「御生憎様…私は別に誰かにモテたいとか…そう言う思考は持ってないのよ」

 

 

殺気が飛び交う両者…

 

不意に、ウルティアが殺気を弱め、肩を竦めると口を開きだす。

 

 

「そうね…強いて言えば、あの方のため…」

 

「………あの方?」

 

 

「えぇ?そうよ…デリオラを支配下に置き、操りその力を使おうとしたんだけど………見事にあいつの氷の中でその命を無くしちゃったからね………」

 

嘲笑うように言うウルティア。

 

その瞳を見てシクルはほんの少し悲しそうな表情になり…

 

 

「ウルティア………ウルの涙………あの人は…」

 

と呟く。

 

その瞬間…

 

ゴォ!!!!

と言う、殺気と共にシクルへと水晶が超速度で飛んでくる。

 

ドッ!ゴッ!

「っ!!ぐっ!!うぁ!」

飛んできた水晶に1度は反応し、避けるもその後に続いた攻撃に身体が動かず、当たってしまい膝をつくシクル。

 

 

「黙りなさい…私の前で………あの女の名を出すな………」

 

膝をつくシクルを見下ろし、睨むウルティアにシクルはふっと笑みを見せると………

 

 

 

「………悲しい人ね…あなたはほんと…」

と、ウルティアを見上げ、言った。

 

 

「…!!お前………!!」

 

シクルの言葉にカッとなり、手を振り上げるウルティア。

だが………

 

 

 

「おーーーい!!シクルー!どこだァ!?」

 

遠くから、シクルを探すナツの声が響く…

シクルの嗅覚は確実にナツが近づいてくることを感じ取っている。

 

 

「………どうする?このまま私をやってもいいけど………そうしたら、彼が…彼らが、黙ってはいないわよ?」

 

 

例え、評議員だとしてもね…

 

そう、シクルが言うとウルティアは少し忌々しい表情を浮かべ、手を下ろし、シクルに背を向ける。

 

 

 

「ふ…まぁいいわ………次…次会った時、覚悟しておきなさい………」

 

そう言い残し、足を進めるウルティア。

 

ふいに…足を止め、シクルを振り返り………

 

「次やる時は………お互い、万全の状態でやりましょう…」

 

「っ!!」

そう言い、含み笑いを見せ消えたウルティアをじっと見つめ、シクルは長いため息をつく、

 

「はぁああ………(バレてた…か)

つっ………!あー…もぉ………傷開いちゃった」

 

そう愚痴り、腰を下ろすと服を捲り腹部に出来た傷を見る。

 

これは、以前の依頼の時闇ギルドマスター、“ディア”につけられたものだ。

 

評議会にてあらかた治してもらっていたが、今のウルティアからの攻撃をくらい、傷が少し開いてしまった。

 

 

「あー…戻るのめんどくさいなぁ…」

そうぼやき、空に浮かぶ紫の月を見上げる。

 

「んー?月の雫………そっか…村の人がおかしくなったのって………もしかして………」

 

 

ずっと脳裏で引っかかっていたこと………

 

それが何となく、解けた気がする………。

 

 

「…さて………どうやって戻ろう?」

 

歩いて戻るのは流石に疲れたしなぁ…と再びため息をつきそうになった時………

 

 

ガサッーーー!

「シクル!!!見つけたっ!!!」

桜色の男、ナツが現れた。

 

 

「ナツ!!いーとこに来たァ!!!

お願い!!!私をおぶって?」

 

バッ!と茂みから現れたナツを見て両手をめいっぱい広げ、笑顔でおんぶの催促をするシクル。

 

「は、ハァ!?ンでだよ?」

「だってー…疲れたし、歩いて戻るのめんどくさいし………何より、身体痛いし!!ね?お願い!」

 

いーでしょ?と尚催促してくるシクルにはぁとため息をつき、困ったような表情を見せたナツ。

 

すると、ふいに鼻をかすめる鉄臭い匂いに顔を顰める。

 

「っ!!おいシクル…お前どっか怪我してんのか?」

 

「ふぇ?あぁ………ちょっと前の依頼で出来た傷が開いちゃったくらいだよ?」

 

他は何ともないよーと二ヘラと答えるシクルにナツは呆れた様子でため息をつくと………

 

「そーいう事は早く………言えっての!」

 

ひょい!

 

「え!?ひゃ!?ちょ!おぶってとは言ったけどこれは…!!」

 

ナツはシクルの肩と膝裏を抱え、抱いている…横抱き、“お姫様抱っこ”だ。

 

 

「うっせ!黙ってこうされてろ…この方が、お前の顔、よく見えるから………頼む」

 

そう言ったナツはどこか、真剣な表情を浮かべ、シクルはそれ以上反論出来ず、ナツに身を委ねることにした。

 

 

しばらく、村への道をナツは無言で歩く…すると、

 

 

「………怪我、大丈夫か?」

シクルに聞いてくる。

 

シクルは初め、きょとん?と首を傾げ…

「ん?…あぁ、うん…大丈夫だよ?」

と、答える。

 

「…悪ぃ………勝手に俺がS級クエストになんか来ちまったから…シクルが連れ戻しに来たんだよな…怪我、してんのに…」

 

「うん…まぁ………(てか、エルも連れ戻しに来たんだけど…というか、私よりやる気だったし…)」

 

ナツは歩く足を止め、立ち止まる。

 

「…ナツ?」

 

 

「………ごめん…俺………早く…認められたくて………シクルに…俺が強いんだって…認められたくて………一緒に行っても、足でまといにならないって!………シクルに…分かって、欲しかったんだ………」

 

 

ナツの表情は苦しげに歪み、悲しみと悔しさが滲み出ていた。

 

 

「…ナツ………」

 

「ただ………シクルに認めて欲しかった…

俺は強いって…信じて欲しかった…

 

それだけなんだ………なのにシクルに無理させて…

 

さいてぇだな…俺………ごめん…」

 

ナツの泣きそうな顔を見て悲しげな表情をするシクル。

そして、フッと小さく微笑みを見せるとナツの額に自分の額を寄せコツン…とぶつける。

 

 

「バカね………ナツが強いってことくらい…ちゃんと分かってるよ………

 

信じてる…ちゃんと………だからこそ、私のいない間………ルージュを…ギルドを…皆を…家族を…あなたに任せて行ける………

 

 

ナツ………もう、こんな事しないでね…?

 

ルージュがS級クエストに行ったって聞いたのと同じくらい………ナツがS級クエストに行ってしまったと聞いて………怖かった………

 

 

ナツ………何もなくてよかった…」

 

 

シクルの言葉にほんのり、1粒の涙を流し、

「おう…ごめんな、ほんと…」とナツは言った。

 

そして、気持ちが落ち着いたのかナツは顔を上げると、「んじゃ行くか!」とシクルを見やい、ニカッ!と笑う。

 

シクルも「うん!!」とニコッ!と笑みを見せ頷く。

 

 

その後、2人で村に戻るとエルザからの「遅い!!」の声が響き、2人揃い、「ごめんなさい…」と謝る。

 

 

「はぁ…とにかく………ナツ、少し力を貸してくれないか?」

 

「んァ?なんで?」

 

ナツの疑問にエルザは1度深呼吸をすると…

 

 

「月を………破壊する」

と、答えた。

 

 

エルザの言葉に、ルーシィとグレイ、ハッピーとルージュは驚いていたがナツはやる気を出し、シクルも「おー頑張れー」とやる気のない声だが応援していた。

 

「て、シクル!?あなた、月を破壊出来ると思ってるの!?」

ルーシィの驚愕の声にコテリと首を傾げ、あははと笑い、シクルは…

 

「何言ってんのー?月を破壊なんて出来るわけないでしょ」

と、言った。

 

シクルの言葉にルーシィたちはほっと安堵するが………

 

 

エルザとナツは依然、やる気に満ちておりそして………

 

 

「今だ!ナツ!!!」

 

「うぉおおおっ!!!火竜の…鉄拳!!!!」

 

エルザの持つ武器の一つ、破邪の槍をエルザが投げるその瞬間、タイミングを合わせナツの拳が当たり、その槍は真っ直ぐ月へと飛び、そして………

 

ビシィッ!!!

 

 

「「うそぉおおおおお!?」」

 

月にヒビが入る…。

 

「「あいやぁー!?」」

 

が、結局エルザの槍が壊したのは島の上空を覆っていた月の雫の光によりできた呪いの膜だった。

 

それは、村人達の脳や記憶を狂わせてしまう効力があり、そのせいで村人達は長年苦しんでいたのだ。

 

 

それを見事解説したシクルやエルザたちは、その夜村での宴に参加した…。

 

 

そして、翌日………

 

 

「そんな…それではこの報酬は受け取れぬと………?」

村長が依頼の報酬をシクルに差し出すが…

 

 

「はい…今回のことに、私はあまり手を出していませんし…最初は不当により、受けてしまった依頼です………なので、報酬金は頂けません」

 

これは村の復興などに当ててください…

 

そう言い、報酬金の受け取りを断るシクル。

 

結局、最後まで諦めなかった村長の押しに負け、おまけの報酬、金の鍵のみ受け取ることにし、一行はエルザとシクルが行きに使った海賊船でマグノリアへと帰還するのであった………。

 

 

 

これにて………悪魔の島篇 終わり…

 

 

next.story 幽鬼の支配者篇 開幕

 

 

 

 

〜予告〜

 

 

 

 

 

皆は私が………守ってみせるっ!!!

 

 

 

 

いや………いや………来ないで………来ないで…………

 

 

 

 

 

来るなぁあああああっ!!!!

 

 

 

 

 

 

私はお前を………許さないっ!!!

 

 

 

 

 

 

お前はあたしを………怒らせたんだ………

 

 

 

 

 

 

 

未来はないと思え………

 

 




はい如何だったでしょうか………

今回は最後に次回の章、予告を入れてみました!!


今後も章が変わる事に予告を入れてもよろしいでしょうか…?
兎に角、16話
最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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第3章 幽鬼の支配者篇
17話 奇襲 怒れる妖精


はい!今回から宣言通りファントム戦に入りたいと思います!!


うまく出来るか不安いっぱいなのですが…どうか暖かいお心でお願いします!


では、最後までお付き合い、お願いします!!


 

 

海賊船に乗り、マグノリアの港へと帰還したシクルたち。

 

いつも通り、乗り物酔いを起こしたナツに苦笑を浮かべながらギルドへと歩き、帰る途中だった。

 

 

「そう言えばルーシィ?その報酬の鍵って何のやつなの?」

報酬の鍵を受け取ってからずっと手放さないルーシィを見てシクルが問いかける。

 

 

「これ?これはね、人馬宮のサジタリウスよ!」

 

「人馬だと!?」

ルーシィの言葉に反応を見せたナツの脳裏に過ぎるは…

 

馬の被り物被った人間………

 

 

「いやいや…こうじゃない?」

そしてそんなナツの隣で自身も脳裏で人馬の姿を想像するハッピーは…

 

見た目普通のケンタロス………

 

 

「………?」

グレイはあまりパッとしたイメージは思いつかず…。

 

 

「んー…どんなのだろぉ…シクル、なんか思いつくぅ?」

シクルの頭の上で悶々と想像するもこちらもいいイメージは思いつかないルージュ…

 

 

「さぁ…?あんまり良く分からないけど………というか、話ふったの私だけどさ?………いいの?そんな呑気にしてて…」

 

「え?」

 

シクルは「帰ったらアレが…」とナツたちに呟きながら前を歩くエルザへ視線を向ける。

 

 

「…ギルドへ戻ったら、お前達の処分を決定する」

 

エルザは普段と変わらず、途轍もない量の荷物を引きながら、ナツたちを振り返ると無表情で、そう告げた。

 

その言葉を聞いた瞬間、ナツたちは震える。

 

「ま、判断を下すのはマスターだけどねー…覚悟はしといた方がいいよ?」

ニシシッと面白げに笑うシクルを見てゾワッと背筋に嫌な寒気が走るグレイとハッピー、ルーシィ。

 

 

「ま、まさか…アレをやらされるんじゃ!?」

 

 

「アレって?」

 

 

「アレはいやだよぉおおおおお!!!」

 

 

「だからアレって何!?」

 

 

「アレはアレだよぉ…この世の終わりだよぉ…

シクルゥ…」

 

 

「ご、ごめんルージュ………流石に今回は助けられない………」

 

 

グレイやハッピーが恐怖に震え、

それを見てルーシィも恐怖する…

 

が何のことかわからず叫び、ルージュはシクルに助けを求めるが

 

シクルは首を横に振り………無理だと言う。

 

 

 

「へ!だーいじょうぶだって!!きっとじっちゃんなら、よくやったって褒めてくれるさ!!」

唯一、気落ちせず、ポジティブに考えていたナツ。

 

「あんた…どんだけポジティブなのよ…」

その様子にルーシィが呆れた目で見つめ、シクルも苦笑を浮かべ、ナツを見る。

 

が………

 

「いや…アレは確実だろう」

と、エルザの無慈悲な声が響く。

 

すると、笑顔だったナツの顔から次第に滝のような汗が流れ、恐怖で顔が歪む…。

 

 

「嫌だぁあああああああっ!!!!

アレだけはぁっ!!!アレだけはっ!!!

 

嫌だぁああああああああああああっ!!!!」

 

「だからアレって…何なのよぉおおおお!?」

 

ナツとルーシィが絶叫し、逃げ出そうとするナツをエルザが首根っこ掴み、逃がさず…

 

引きずられるようにし、ギルドへと歩を進める。

 

 

「あっはは…自業自得だよ………ナツ」

 

流石に助けられないよ…と苦笑を浮かべ、エルザとのやり取りを見ていたシクルはふと、周囲からの視線がおかしいことに気づく。

 

 

「…ねぇ?なんか………見られてない?」

 

「ん?あぁ…確かにな………」

 

シクルの言葉にエルザも頷き、ナツたちも周囲へと意識を回す。

 

「んだァ?」

 

「なんか…嫌な感じね?」

ナツとルーシィが怪訝そうな表情で言い、グレイやハッピーもそれに頷く。

 

「またギルドのみんなが何かしちゃったのかな?」

 

「しちゃったとしたらあたしたちだと思うけどなぁ…」

 

 

周囲の目を気にしながら、ギルドへと真っ直ぐ帰ると…次第にその姿が見えてきた…

 

そして………ギルドは普段の様子とは少し違っていた。

 

 

「んな…!?」

 

「んだこりゃあ!?」

 

「ひ、ひどい…」

 

「何これ!?」

 

「ギルドが…ボロボロだぁ…」

 

「これは…!」

 

「この…魔力…(まさか………)」

 

 

シクルたちの目の前には何本もの鉄の柱が壁に突き刺さり、ボロボロのギルドだった。

 

ナツやグレイは額に青筋を立て、エルザも拳を握って震わせている。

 

「何があったというのだ…」

 

「…ファントム」

シクルたちの背後から、弱々しくも、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

シクルたちは振り返ると…

 

悲しく、悔しげな表情を浮かべたミラが俯き、立っていた。

 

 

「ファントム…だと?」

 

「悔しいけど………やられちゃったの…」

 

 

その名を聞き、ナツは更に表情を歪まさせ、シクルは笑顔のないミラの頭を撫で、慰める。

 

そして、ミラに案内され、ギルドの地下、仮酒場にやってくる。

 

 

部屋ではギルドメンバーが神妙な面持ちで集まっており、しーんと、普段では考えられないほど静まり返っていた。

 

すると、シクルたちの帰還に気づいたマカロフが酒を片手に手を上げる。

 

「よっ!おかえり!」

 

「マスター…!」

マカロフの呼びかけにシクルたちはすぐにその傍へと駆け寄る。

 

「ただいま…戻りました」

 

「じっちゃん!!酒なんか飲んでる場合じゃねぇだろ!?」

ナツの怒声が響く。が、マカロフは一瞬真剣な表情になり…

 

「おぉ…そうじゃった………お前たち!!勝手にS級クエスト何ぞに行きおってからに!!」

ギルド建物のことではなく、ナツたちが勝手にS級クエストへ行ってしまったことへの怒りが落ちた。

 

 

「え!?」

 

「はァ!?」

 

マカロフの言葉に、驚きの声を上げるルーシィとグレイ。

 

「罰じゃ!!今からお前達に罰を与える!!覚悟せいっ!!」

マカロフからの“罰”の言葉に、ナツたちはビク!と震え、身構える。

 

 

が、結局ルーシィを除いた者は頭に1発チョップをくらい、ルーシィはお尻を叩かれるという所謂、“セクハラ”で終わった。

 

そんなマカロフの様子にエルザは唖然とし、ほんの僅かに怒りを覚えたのか、テーブルをバンッ!!と叩き、マカロフへ鋭い目を向ける。

 

「マスター!!今がどんな事態か分かっているのですか!?」

 

「ギルドを壊されたんだぞ!?じっちゃん!」

 

エルザとナツの怒声を聞くも、マカロフは平然としており…

 

「ふん…まぁまぁ落ち着きなさいな…騒ぐほどのことでもなかろうに…ファントムだァ?誰もいないギルドを狙って何が嬉しいのやら…」

 

「…誰もいない?」

マカロフの言葉にシクルが首を傾げ、ミラを見やる。

 

ミラはシクルの視線を感じ、頷く。

「えぇ…幸いにも、やられたのは夜中で…誰もいなかったから怪我人はいないのよ」

 

「へぇ…(夜中に…?何が目的…?)」

 

 

「不意打ちしかできんような奴らに目くじら立てる必要はねぇ…放っておけぇ!」

マカロフはその言葉と共に、この話は終わりじゃ!と叫び、その後ナツたちからの抗議の声も一切聞かず、酒を飲み続けた。

 

 

そして、その夜………

 

ギルドにはマカロフとシクルのみが残っていた。

「マスター…どういうおつもりで?」

 

「なんじゃ…さっき言ったじゃろ?別にガキどもは誰も傷ついておらん…建物は、みなで力を合わせればまた作り直せる………騒ぐほどのことじゃあねぇ………そうじゃろ?」

 

「そうですけど…でも、今回の…普段と様子が違う気がするんです…」

シクルのその言葉にマカロフはピクッと眉を動かし、シクルを見つめる。

 

「………下手な詮索はよせ…これ以上、向こうが何もしてこねぇなら何も言うことはねぇじゃろ…」

 

何を言っても言葉を変えないマカロフにはぁとため息をつき、腰を上げるシクル。

 

「分かりました…そうですね。ギルド間での争いは禁じられている…それがマスターのお心なら、私はそれに従いますよ」

 

シクルはそう言うと、マカロフに背を向け、部屋の扉へと歩く。

 

そして、扉を開け出ていく間際…

 

「…でも………もし、誰かの血が流れるようなことがあれば………その時は規則に関わらず…やるつもりです…」

 

そう呟き、では…と、出ていくシクル。

 

去っていったその後を見つめ、マカロフは長いため息をつくのだった…。

 

ギルドを出たシクルはその足でルーシィの家へと向かった。

暫くは一人でいるのは危ないということで全員誰かと一緒に過ごしている。

 

シクルもまた、ナツやエルザに誘われていた為、ルーシィの家へと向かっているのだ。

 

 

コンコンッ

 

「ルーシィ、来たよー」

 

バタバタバタッ!!! ガチャー

 

「シクル!!いらっしゃい!!はぁ!良かった!!シクルは常識人でほんっと!良かった!!」

シクルの扉をノックする音と声に、走り、扉を開けてきたルーシィ。

 

それに目を点にしながらおぉう…と少し引いているシクル。

 

「さ!中に入って入って!」

ルーシィに押されるがままに部屋の中へと入っていくシクル。

 

ルーシィの部屋の中では…ナツが未だに唸っていた。

 

「くっそー!じっちゃんもミラもみんな!ビビってんだよ!!」

 

「だぁから、ちげぇだろ…」

 

「マスターも我慢しているんだ…ギルドを壊され、1番悔しいのはマスターだろう」

 

騒ぎ暴れるナツをグレイとエルザが止めている。

その様子を見つめ、ハッピーとルージュははぁとため息をついており、ルーシィと今しがた来たシクルも苦笑を浮かべた。

 

 

「それにしても…ファントムって酷いことするのね…前にもこんなことあったの?」

話を変えようとルーシィはシクルたちに問いかける。

 

「んー?いや…確かに今まで小さな小競り合いはあったけど…」

「こーいうのは無かったよねぇ」

 

シクルとルージュの言葉に「そうなんだ…」と頷くルーシィ。

 

「んがー!やっぱ納得いかねぇ!!じっちゃんもビビってないでやり返せばいいだろ!?

先に手出されたのはこっちなんだぞ!?」

 

「だーから!そういう問題じゃないでしょ!?それに、マスターもビビってる訳じゃないわよ…」

再び叫び声をあげるナツを宥めるシクル。

 

「シクルの言う通りだろ…かりにもじーさんは聖十大魔導の1人なんだぞ」

 

「…聖十大魔導?グレイ、聖十大魔導って?」

グレイの言ったその単語に聞き覚えのないルーシィは首を傾げ、問いかける。

 

「聖十大魔導と言うのは魔法評議会議長が定めた、大陸で最も優れた魔導士10人につけられる称号のことだ」

 

「ちなみにファントムのマスター、ジョゼもその1人よ」

ルーシィの問いかけに答えたエルザとシクルの言葉に、へぇと興味を示すルーシィ。

 

 

「ちなみに、シクルはその聖十大魔導筆頭候補の1人なんだよぉ」

 

「え!?そうなの!?」

ハッピーの隣でゴロゴロしていたルージュからの突然の告白にルーシィは驚きの目でシクルを見つめる。

 

「ちょ!それは言わなくていいでしょお!?

あ、あー…んまぁ………確かに何度か声は掛けられてるんだけど………ほら、色々集まりとかあってさ?め、めんどくさいじゃん?」

 

なはは…と笑うシクル。

「め、めんどくさいで最強の称号断るのって絶対シクルだけよ………」

 

「むぅ…だって最強なんて…興味無いもん!」

そう言ったシクルにはぁとため息をつき、「やっぱそれなのね…」と呟くルーシィに苦笑を浮かべながらも窓の外を見上げ、月のない空を見上げるシクル。

 

 

 

「………はぁ…(新月………月の光がない暗闇の夜………)」

 

 

………胸騒ぎがする………嫌な感じ………お願いだから………

 

 

「何も起こらないでよ…」

 

 

そう、そっと呟くシクル。

 

 

だが、その呟きは………願いは、翌日………破られることとなる………。

 

 

マグノリア広場にてーーー

 

「通してくれ、ギルドの者だ」

 

人だかりが集まる中をエルザが先導し、かき分ける。

 

そして………

 

 

「っ!!レビィちゃん…!」

 

「ジェット…ドロイ…!!」

 

「ファントム………!!」

 

シクルたちの目の前には、鉄の杭で腕を固定され、傷だらけの状態で木に括りつけられているレビィ、ジェット、ドロイの姿だった。

 

「ひ、ひど……」

「こんなのってぇ………」

 

3人の姿にハッピーとルージュの目には涙が浮かぶ。

そして、静かに3人へと近づくシクル…。

 

その手にはいつ換装をしたのか、十六夜刀が握られていた。

 

シクルは無言で刀を振るう…すると、レビィたちを捕まえていた鉄の杭が容易く壊れる。

 

レビィたちを順に支え、木に寄りかからせるとシクルは魔法陣を展開する。

 

 

「【我、月の加護の名の下に

 

愛する者の身を包み その身、回復させん】

 

歌魔法(ソングマジック) 治癒(ヒール)

 

治癒魔法で粗方の傷を治すシクル。

 

 

そして………

 

 

「………マスター………これでも、手を出さないと…?」

 

 

音もなく、静かにその場にやってきたマカロフを振り返ることなく告げるシクル。

 

その表情は………普段では考えられないほどの怒りが満ち溢れていた………。

 

そしてマカロフも………

 

 

「ボロ酒場までなら許せたんじゃがな………

 

 

ガキの血を見て黙ってる親はいねぇんだよ…」

 

怒りに震え、持っていた杖をボキッ!と折ると…

 

 

「戦争じゃ…」

と、宣言する。

 

 

 

妖精の怒りが、幽鬼に襲いかかる…

 

 




はい、今回はまだバトルパートなどはありません。


次回、バトルパートがあるかと思います!

では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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18話 妖精VS幽鬼 始まり

はい、こんにちわ!!
thikuruです!!!


ちょっと無理やりかな?って言うところもあるのですが………


最後までお付き合い、お願いします!!!


フィオーレ王国にある、オークの街…

 

 

そこに、かのギルド…幽鬼の支配者(ファントムロード)があった。

 

 

 

そこでは、現在妖精の尻尾についての話題で持ちきりだった。

 

「だっはーーー!!サイッコーだぜ!!」

 

「妖精のケツの奴らはボロボロだってよぉ!」

 

「その上ガジルのやつァ、3人もやってきただってよぉ」

 

「ヒュゥー!!流石だぜ!」

 

酒を飲み、大騒ぎの男達。

 

 

「そういやぁ…マスターの言ってた“奴”って誰だ?」

 

「さぁ?知らねーな」

 

「手を出すなとか言ってたよな」

 

「ふん、どうでもいいさ!惨めな妖精に乾杯だぜ!」

 

「おぉーよ!!」

 

 

酒を更に注ぎ、大笑いする幽鬼の魔導士たち…

 

 

「あ!いけね、もうこんな時間だ」

と、1人の魔導士が立ち上がり、荷物を手に扉へと歩き出す。

 

「お?なんだよ、女か?」

それを見た1人の魔導士がからかう。

 

「まぁな。まぁまぁいい女だぜ?依頼人だけどな…脅したら報酬を2倍にしてくれるってよぉ」

ニヒヒと嫌な笑みを見せ言う。

 

「がっはは!俺なら3倍は行けるぜぇ」

「けっ!言ってろタコ」

 

「そういやぁ…妖精にも1人超いい女いたよなぁ………」

 

「あぁ何だっけか?たしか…………」

 

 

誰かが、そう呟いた時だったーーー

 

 

 

 

ドッゴォオオオオオオオオオンッ!!!!!

 

 

 

大きな爆発音を立て、幽鬼のギルドの扉が爆破、吹っ飛び扉を殴った拳は今まさにギルドを出ようとしていた魔導士の顔面にクリーンヒット。

 

 

 

「妖精の尻尾じゃぁああああああっ!!!!」

 

 

 

殴り込んできたのは怒りに揺れる妖精…

 

マスター・マカロフのその怒声と共に一斉に妖精の魔導士たちが幽鬼の魔導士たちを攻撃していく。

 

 

「誰でもいぃ!!かかってこいやゴラァあああああ!!!!」

 

ドォオオオオン!!!

 

「ぎゃああああああっ!!!」

「こ、こいつ!!!妖精の尻尾の火竜だぁ!」

 

ナツに続き他のメンバーも次々と襲撃していく。

 

「こ、こいつ!!!氷の造形魔導士のグレイだぁ!?」

 

「こっちはビーストアームのエルフマン!?」

 

 

「あ、あれが妖精女王、エルザっ…!!」

 

 

皆が幽鬼の魔導士たちに容赦のない攻撃をし、圧倒していく。

 

そして…シクルもまた………

 

 

 

「あんたら…………誰に手ぇ出したかわかってんの?

 

タダで済むと思うな…(月竜の眼光っ!!)」

 

ギンッ!!と幽鬼の魔導士たちを睨むとたちまち、魔法陣は消え去り、その恐怖に気絶していく…。

 

だが、シクルの怒りは収まらない…。

 

「換装 十六夜刀………伍ノ太刀 鳴雷月!!!」

 

シクルの刀が光り、それを横に薙ぎ払うとそこから月の雷が発生…相手を攻撃する。

 

「「「ぎゃああああああっ!!!」」」

 

「こ、こいつ………妖精の姫…シクル・セレーネ!?」

 

「んのやろぉおおおおお!!!」

シクルの背後から襲いかかる影…が

 

ダンッーーー!

 

「月竜の鉤爪!!」

シクルはバク転をし、その際足に魔力を集め、影の人物を蹴り上げる。

「ぐがっ!?」

 

「ちぃ!!マスターだ!!マスターを狙えぇ!!」

 

やけを起こした数人が突っ立っているマカロフに魔法を展開するも…

 

「………カァーーーーーー!!!」

 

一瞬で巨人化するマカロフ。その拳で幽鬼のヤツらを殴り潰す。

 

「ひ、ひぃ…!?ば…化け物………」

 

 

「貴様らはそのバケモンのガキに手ェだしたんだ…人間の法律で自分を守れるなど…夢々思うなよ…あァ?」

 

「ひ…ひぎっ…」

 

マカロフの威圧に幽鬼の魔導士たちは腰を抜かす。

 

 

「つ…つえぇ…」

 

「兵隊共もハンパじゃねぇぞ!!」

 

「こいつらメチャクチャだろ…!?」

 

 

圧倒していく妖精に幽鬼の奴らも徐々に引き下がっていく。

 

 

「ジョゼぇーーー!!出てこんかぁっ!!」

 

「どこだ!?ガジルとエレメント4はどこにいるぅっ!!!」

 

マカロフとエルザの叫び声が響く。

 

 

それを、上の方で鑑賞している影が1つ………

 

 

「けっ…あれがマスターマカロフに妖精女王のエルザに…月の歌姫シクルか………凄まじいな……どの兵隊よりも頭1つ2つ抜けてんなぁ…」

 

ギヒッと不思議な笑い方をする黒髪の男

 

「ギルダーツにラクサス…ミストガンは参戦せず…か…舐めやがって」

 

男は腰を上げ、立ち上がり更に笑みを深める。

 

「ギヒッ…しかし、これほどまでマスタージョゼの計画通りに事が進むとはなぁ……せいぜい暴れ回れや…クズどもが…」

 

 

シクルたちが幽鬼を襲撃している頃………

 

 

1人、置いていかれたルーシィはレビィたちの見舞い品を買い、3人の眠る病室に戻るところだった。

 

「もぉ…皆、あたしを置いて行っちゃうんだから………」

 

あたしってそんな弱く見えるかなぁ?と1人ぶつぶつ呟きながら裏道を歩いていると…

 

ぽつり、とルーシィの頬に水が落ちる。

 

そして、ザァーと数分で雨が降り始めた。

 

 

「ん?何?…通り雨?」

 

「………しんしんと」

 

雨空を見上げるルーシィの耳に誰かの声が届く。

 

「え…?」

 

ルーシィの目の前に傘をさした女が歩いてくる。そして、ルーシィと目が合うとその女は足を止め、瞬き一つせず、見つめる。

 

「な…なに?」

 

「………それでは、ご機嫌よう…しんしんと」

 

「はぁ!?(な…なんなのこの人)」

 

訳の分からないことを言い、隣を通り過ぎていく女。ルーシィは呆然とその様子を見つめる。

 

すると…

 

「ノンノンノン。ノンノンノン。ノンノンノンノンノンノンノン。3・3・7のNOでボンジュール?」

 

次は女の後ろ、地面から帽子とメガネを掛けた男が現れる。

 

「ま、また変なのが出た!!」

 

 

「ジュビア様…ダメですなぁ仕事放棄は…」

 

「………ムッシュ・ソル」

 

女は“ジュビア”…男は“ソル”という名のようだ。

 

「私の眼鏡がささやいておりますぞぉ…

そのマドモアゼルこそが愛しのシブルだとねぇえ…」

 

「え………(シブル…標的………?)」

 

「あら……この娘だったの?」

 

「え…?」

 

ルーシィには2人が何を言ってるのかわからなかった。

 

「申し遅れました…私の名はソル。ムッシュ・ソルとお呼びください。

偉大なる幽鬼の支配者より…お呼びにあがりました」

 

「ジュビアはエレメント4の1人にして…雨女」

 

 

「ファントム!? あ……あんたたちがレビィちゃんたちを!!」

 

目の前の2人がファントムの魔導士だと知ると身構えるルーシィ。

 

「ノンノンノン。3つのNOで誤解を解きたい…ギルドを壊したのも…レビィ様を襲ったのも…全てはガジル様」

 

ソルがそう言い、目を細めた瞬間…ルーシィは突然現れた水に包まれ、その拍子に鍵を落としてしまった。

 

「!しまっ…!!」

 

「まぁ、我々のギルドの総意である事にはかわりありませんがね」

 

水はルーシィを包み、遂には水の球の中に閉じ込められてしまうルーシィ。

 

「んっ!?ふ…ぷ、はっ! な……な、に……これっ!?(息がっ…!)」

 

ルーシィはどうにかして水面から顔を出すが水は意志を持ったかのように動き、ルーシィを逃さない。

 

「ジュビアの“水流拘束(ウォーターロック)”は決して破れない」

 

 

ジュビアが手を動かすと水球は大きさを増し、ルーシィを拘束………

 

そして、ついにルーシィは息が出来ず、気絶し…ファントムに囚われてしまった…

 

「大丈夫……ジュビアはあなたを殺さない…

 

あなたを連れて帰る事がジュビアの任務だから………ルーシィ・“ハートフィリア”様」

 

 

場面を戻し、シクルたちの方では………

 

 

 

「エルザァ!!シクルゥ!!

 

ここはお前達に任せる…わしは、ジョゼの息の根を止めてくる…!!」

 

マカロフが戦闘を続けるエルザとシクルに叫ぶ。

 

「マスター…!お気をつけて…」

 

「………(また…嫌な予感が…)」

 

ジョゼがいるであろう最上階へ消えていくマカロフのその背を見て、シクルは顔を歪める。

 

「………気をつけて…マスター…」

 

 

 

そして、マカロフがいなくなったのを見て、動く1つの影…………

 

「ギヒッ!厄介なのがようやくいなくなった……こっから暴れるぜぇ………」

 

 

そう呟くと、乱闘する場へ飛び降りる男………

 

 

「ギッヒィ!!来いや!クズどもぉ!!」

 

「あ?」

「あいつは…!黒鉄のガジル!!」

 

その男、幽鬼の支配者に所属する鉄の滅竜魔導士…“ガジル”その者だった。

 

 

「鉄竜棍!!」

 

ガジルの狙いは完全に背を向けていたシクルだった。

 

 

が…

 

シクルはフッ!と後ろ手で飛び上がり、ガジルの攻撃を避け振り返ると息をすぅ!と吸う。

 

 

「月竜の………咆哮!!」

 

シクルの放つ咆哮はガジルに向かうがガジルもそれを避け、嫌な笑みをシクルに向ける。

 

 

「ギヒヒッ!いいなぁ…月の歌姫…殺りあおうや…」

 

「黒鉄のガジル………お前が、ギルドを………レビィたちを………」

 

ブワッ!と吹き荒れる殺気を浴び、涼しい顔をするガジル。

 

「ギヒヒ!だからどぉした?俺とやってくれんのかぁ?最強さんよぉ…」

シクルを挑発するガジル。

 

シクルはギッと睨む。が…不意に、ふっと笑みを浮かべると………

 

 

「確かにお前は許せない………でも、残念…あなたの相手は私じゃないわ」

 

「ガジルゥウウウウウウウウウ!!!!!!」

 

 

「へ!!火竜がやるってかぁ!?」

シクルの背後から飛び上がったナツの拳を拳で受け止めるガジル。

 

そこから幾度か2人の攻防が続くと………

 

 

ゴゴゴゴゴォ!!

 

ギルドが揺れた。

 

「な、なんだ!?地震か!?」

 

 

「やべぇな、こりゃあ…」

 

「これはマスターの…マスターマカロフの怒りだよ!」

 

「マスターがいる限りお前達に勝ち目はない!!!」

 

 

妖精の魔導士たちは誇らしげに、らんらんと瞳が輝きその振動と魔力に士気が上がり、逆に幽鬼の魔導士たちは恐怖に震え始める。

 

妖精の総攻撃が再び開始される…誰もがそう思った時ーーー

 

 

「っ………!!(何か…降ってくる!?)」

シクルの五感が異変を察知………上を見上げたその瞬間………

 

 

ズッドォオオオン!!!

 

 

何かが…落ちてきた…。

 

 

煙が巻き上がり、晴れると………

 

 

魔力が全く無くなってしまったマカロフが倒れていた…。

 

「っ!!!マスターっ!!!」

 

シクルが駆け寄り、その身体を抱え上げる。

 

「わ、わしの…魔力が……」

 

 

「マスター!!」

 

「じっちゃん!!」

 

「おいおい…何が起きたんだ!?じーさんから魔力を全然感じねぇぞ!?」

 

「マスター!!しっかりして!!」

必死にシクルが呼びかけるがその声は聞こえていないのか、苦しげに呻く事しか出来ないマカロフ。

 

マカロフがやられたことにより、妖精の士気は下がり始め……

 

 

 

「ちぇ…お楽しみはもう終わりか………」

 

優勢に攻めていた妖精が劣勢になり始める…。

 

 

「(このままではまずい…!)撤退だー!!

 

全員、ギルドへ戻れー!!!」

 

エルザの号令にグレイやエルフマンたちが反論する。

 

「何!?俺はまだやれるぞ!」

「ここで逃げてちゃ漢じゃねぇ!!」

 

 

「ギヒッ!もう終わりか…つまんねぇなぁ…」

撤退する姿を再び上から見下ろすガジル。

 

その背後に現れる巨体の男がーーー

 

 

「…アリアか………」

 

「全てはマスタージョゼの計画通り…素晴らしい!!」

そう叫び泣き始める男…“アリア”。

 

 

「いちいち泣くんじゃねぇよ…うぜぇな…で?………ルーシィとやらは捕まえたのか?」

 

 

「「っ!?」」

ガジルのその一言を聞き取ったシクルとナツ。

 

 

「計画通り…今は本部に幽閉している…」

 

「なん…だと!?」

 

「…ルーシィ…が?」

 

シクルとナツの声が聞こえたのか、ガジルは2人を見下ろし、ニヤッと笑う。

 

「ガッ…ガジル!!!どういうことだァ!?」

 

「待ちなさいっ!!!ルーシィを…ルーシィをどこにっ!?」

 

2人の止める声に聞くことなく、ガジルはアリアと共に姿が消える。

 

 

「くそ!!ルーシィが捕まっちまった…?」

 

「…ナツ、ルーシィの方任せていい?」

 

「あ?あ、あぁ………」

 

ナツの頷く姿を見て、シクルはニッと微笑み、「頼むよ…」と、呟くと………

 

 

撤退する妖精の魔導士たちを攻めようと魔法陣を展開する幽鬼の前に立ち塞がる。

 

 

「っ!?シクル!!何を…!」

 

「ルーシィはナツに任せる!!私は………

 

 

みんなの逃げる時間を稼ぐ!!」

 

 

シクルの言葉にエルザはその足を止める。

 

「よせ!!無茶だ、シクル!!!」

 

「シクル…!」

隣にいたナツも不安げにシクルを見つめる。

 

 

「大丈夫!!皆が行ったら私も行くから!!

 

ナツも………早く行って!」

 

「………おう!!」

シクルの声でナツは1人の魔導士を引っ捕まえ、ルーシィを助けるため出ていく。

 

 

そして、エルザも苦々しい表情を浮かべ、シクルに背を向ける。

 

「…すまん、シクル………」

 

 

「………さて………と………」

エルザも走り去っていく姿を確認し、シクルは幽鬼の魔導士を前にニヤッと笑う。

 

 

そして………

 

「調子乗るなよ………三下共………」

 

 

「滅竜奥義…月華炎乱舞!!!」

 

シクルの構えた両手から月の魔力を纏った蒼銀色の炎が乱れ、舞い………幽鬼の者を包み込んでいく。

 

 

「「「ぎゃああああああああ!!!?」」」

 

「何だこりゃぁあああ!?き、消えねぇぞぉおおお!?」

 

「ぐああああああっ!!!」

 

 

悲鳴を上げる幽鬼の魔導士たち。

その炎から逃れた者はシクルに走り、突っ込む。

 

 

 

「てめぇえええええ!!!」

 

「調子乗るなよアマぁあああああああ!!!」

 

 

「私にあんたたちの魔法は効かない…」

 

飛んでくる魔法を睨み、殺気で消し飛ばすシクル。

 

 

そして………

 

「さて………ほんとは暴れ足りないけど…

 

みんなも行ったし………そろそろあとを追わないとエルに怒られちゃうから………」

 

 

 

ここまでね?

 

シクルはそう言うと、両手を合わせ光を集める。

 

 

 

「…………次は必ず…私があんたたちの悪を…滅してやる……… 光竜の閃光!!!」

 

 

カッーーーーーーー!!!!

 

 

シクルの身体から放たれる眩い光に幽鬼の魔導士は目を潰され、その間にシクルの姿は消えた………

 

 

 

そして、シクルが幽鬼のギルドを去り、妖精の尻尾ギルドへ帰還中…

 

 

ナツもまた、ルーシィの救出に成功した…。

 

 

 

始まりの戦争は一時、妖精の撤退により休戦………

 

 

 

が………これは始まり………

 

 

まだ………序盤に過ぎなかった………。

 

 




はい!!如何だったでしょうか…ほんとにこれでいいのか?という感じでやっているのですが………

不安すぎて禿げてしまいそうです(´;Д;`)!!


それでも最後まで続けるつもりです…どうか暖かいお心でお願いします!
では!!
最後までお付き合い、ありがとうございます!!!


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19話 妖精VS幽鬼 倒れる歌姫

はい!今日最後の投稿です!!


では、最後までお付き合い、お願いします!


 

幽鬼のギルドから戻り、数時間………

 

 

妖精の尻尾では怪我をした者の治療や次の戦いに向け作戦や魔法具の補充をする者…

 

全員が次に向け動き回っていた………

 

 

 

そんな中、1人ギルドの中で椅子に座り、暗い表情をしているルーシィがいた。

 

 

「…どーした?まだ不安か?」

俯き暗い表情をするルーシィに声をかけるグレイ。

 

グレイの言葉に首を横に振るルーシィ。

「ううん…そうじゃないんだ…なんか、ごめん…」

そう謝り、1度は顔を上げたルーシィだが再び俯いてしまう。

 

「しっかしまさか…ルーシィがお嬢様だったとはなぁ…」

 

「オイラもびっくりしたよ…どうして隠してたの?」

 

ナツとハッピーの言葉にルーシィは苦しげな表情で笑う。

 

「隠してたわけじゃないんだ…けど、家出中だし…言う気になれなくて………ごめん…迷惑かけて…ほんと、ごめんね…」

 

ルーシィはナツに助けられ、ギルドに戻ってからずっと謝り続けていた…。

 

「ルーシィ…」

 

「あたしが…家に戻れば済む話なんだよね…

 

そうすれば皆にも迷惑かけな……」

 

ルーシィが自責の念にかられ、自身を責めていると………ギュッとルーシィを包む腕があった。

 

「っ…シ…クル………」

 

「………それは違うよ?ルーシィ…

 

誰も、あなたが悪いなんて思ってない………

誰も、ルーシィのせいで迷惑かけられてるなんて…思ってないよ?ルーシィ………

 

そんなに自分を責めないで?」

 

ね?とルーシィを見つめるシクルの瞳を見てルーシィは涙を溜める。

 

「シクルゥ…」

 

「ルーシィ…この汚ねぇ酒場で笑ってさ…騒ぎながら冒険してる方が感じだしな!」

 

「ナツ…」

 

シクルに続き、言葉をかけてくるナツを見つめるルーシィ。

 

ナツはルーシィの頭を撫で、ニカッと笑い言う。

 

「ここにいてぇんだろ?ルーシィ…

戻りたくない場所に戻って何があんだよ?

 

お前は………“妖精の尻尾”のルーシィだろ?」

 

 

「………ルーシィ…ルーシィの心はなんて言ってる…?帰りたい…?」

 

シクルの問いかけにルーシィはふるふると弱く首を横に振る。

 

「ううん………帰りたくない……ここに…いたいよぉ………」

 

ルーシィの答えを聞きシクルはふっと柔らかく微笑みを浮かべる。

 

「ルーシィ…なら、迷惑なんて思わないで?

 

 

私は………ううん、私たちは………全力でルーシィを守る………家族を、守るよ…

 

いたくないところにいたって…笑えないよ…」

 

 

そう言うと再びルーシィをギュッと抱き締める。

 

 

守るんだ………絶対………ルーシィも………

 

 

 

みんなも………絶対…

 

「………守るよ」

 

 

シクルがそっと胸の内で誓い、ルーシィが泣き止み、ギルド内の重い空気が少し和らいだ時………

 

 

ズン………ズゥン………ズゥウン…!!

 

 

「…!何っ…!?」

 

「何の音だ…!?」

 

ギルド内がざわつく。

その時………

 

 

 

「外だー!!!!」

ギルドの仲間、“アルザック”の声が響き全員がギルドの外へ出る。

 

すると………

 

外には海を大きなロボットのようなお城のような建造物が歩いて、ギルドに近づいていた。

 

 

 

「な…んだありゃぁあああああ!?」

 

「でっかぁあああああ!?」

 

「あいやぁあああああっ!?」

 

ナツやハッピー、ルージュが叫ぶ。

 

「ファントムかっ!?」

 

「こんな方法で攻めてくるなんて…ど、どうする!?」

 

「つっ……(こんな…想定してなかった…こんな方法で来るなんてっ!)」

ギルドに迫ってくるソレを見上げ、痛いくらい拳を握るシクル。

 

すると…突然、幽鬼のギルドはその動きを止め、建物の中心にある砲の先端に大量の魔力を集め始める…

 

 

「なっ…まさか………あれは!?」

 

「あれは…魔法集束砲(ジュピター)か!?」

 

「な!?ギルドごと吹っ飛ばす気かぁ!?」

 

 

「全員伏せろぉおおお!!!」

 

その場に、エルザの声が響く…

 

 

「!!エル!?」

 

エルザは全員の前に立ち塞がる。

 

「ギルドはやらせん!!」

 

「まさか…エルザ!?あれを受け止める気か!?」

 

「よせエルザ!!いくらお前でも…!」

 

 

全員が止める中…エルザは魔法鎧を換装させようとする。

 

 

その時………

 

 

ガシッーーー

 

「っ!?」

 

エルザの肩を掴む者が………

 

 

「………ダメだよ………あなたがここで倒れちゃ…あなたは、倒れちゃいけない………

 

 

あれは………私が止める!!」

 

 

そう言いエルザを後ろへ押し倒す………

 

 

金の髪を靡かせる少女………

 

 

 

「っ………!?シクルっ!!!」

 

 

 

「まさか……シクル!!!

 

やめろぉおおおおおおおおお!!!!!!」

 

 

ナツの声が響く…

 

 

 

 

「皆は私が…………守ってみせるっ!!!」

 

 

シクルは両手を構え、魔力を高める。

 

「月竜の絶対防御(エターナルシールド)!!」

 

 

シクルの前に大きな丸い、満月の様な壁が創られる。

その中心には銀色に輝く竜が描かれている…

 

 

 

「あれって…シクルの防御魔法…!」

 

「まさかシクル…あれを受け止めるの!?」

 

「そんなことしたら!シクルが死んじゃうよぉ!!!」

ルージュの悲痛な声が響く。

 

 

エルザもシクルを止めようと…動くが……

 

 

「【我、月の守護の名の下に

 

愛する者の身を包み その身を守らん】

 

歌魔法(ソングマジック) 防御(シールド)

 

「こ、これは!?」

 

シクルは後ろにいる仲間たちを守る球体の防御壁 “歌魔法”の“防御”を展開。

 

これでシクルと一定の距離、仲間たちは離されることになる。

 

もし、“絶対防御”の壁を魔法集束砲が貫いても後ろの仲間を守れるようにと創り出す…。

 

「シクルっ…!」

近づけないと分かっても、駆け寄ろうと動くナツ。

 

「ナツ!!今はシクルを信じるしかねぇえ!」

ナツを止めるグレイ…

 

「うぁ…」

 

 

なんで…届かねぇんだ…俺は、守りたいのに…

 

ナツの手が空を掴む………

 

 

そして………

 

「くっ…伏せろぉ!!!」

エルザの声が響く。その瞬間………

 

 

 

魔法集束砲が発射される。

 

 

 

ドッ…ゴォオオオオオオン!!!!

 

 

防御壁と当たる。

 

「ぐぅうううっ!!!ぐっ……!!!」

 

初めは耐えるシクル…だが………

 

 

 

ミシ…ミシミシッ………!

 

 

亀裂が1つ…走ると、そこから徐々に亀裂が広がる。

 

 

「つっ……!!ま、けて………たまるかぁ!!」

 

瞬間的に魔力を上げ、防御壁が修復される。

 

が、それも一瞬………

 

 

再び亀裂が走り、それは全体へと及ぶ………

 

 

そして………

 

 

ミシミシッ!!

 

ドォオオオオオオオオオオオオン!!!!!

 

 

「うあああああああっ!!!」

 

 

「シクルーーーーー!!!!」

 

大きな爆発と共に、シクルの防御壁は崩壊。

シクルの身体が爆発により吹っ飛ぶ。

 

 

歌魔法の防御壁も壊れ、その瞬間ナツがグレイの手を振りきり走り出す。

 

そして、シクルの身体が地面と衝突する寸前でナツが滑り込むように手を出し、しっかりとシクルの身体を抱える。

 

ズサァーー!

 

「っ!シクル!しっかりしろ!シクルっ!!」

 

「ぅ………ぁ…ナ………ツ…」

 

背中で地面を転がり、体勢を直すと腕の中のシクルに必死に声をかけるナツ。

2人の下にエルザたちも駆け寄る。

 

 

「シクルっ!!!しっかりしてっ…!!」

 

「バカ者!!何故前に出たっ!?」

 

「おい!!死ぬなよシクル!!」

 

「無茶し過ぎだよ、シクル!!!」

 

「シクルゥ!!!死んじゃやだぁ!!!」

 

 

ルーシィたちの声にシクルは閉じかけていた瞼に力を入れ、目を開く。

 

 

「あ………ま、もれ…た?」

ルーシィが視界に入ったその時、にっこりと笑ったシクルを見てルーシィは止まっていた涙が溢れ出す。

 

 

こんな…こんなになってまで…守ってくれるなんて………なんで………

 

 

 

『……マスターマカロフ…そして、シクルも戦闘不能』

 

 

幽鬼のギルドから、スピーカー音でジョゼの声が響く。

 

「っ!やろぉ………!!」

 

『もう貴様らに…凱歌は上がらん…

 

ルーシィ・ハートフィリアを渡せ…今すぐだ』

 

 

「誰が渡すかっ!!」

 

「仲間を差し出すギルドがどこにある!?」

 

「っ………!」

 

ジョゼの言葉に反論する妖精の尻尾たちの言葉にルーシィは涙が溢れ、止まらない。

 

 

さっきは帰りたくない…そう言ったが………

 

やはり自分が家に戻ることで解決するのなら…いっそ………

 

 

自分は家に帰った方がいいんじゃないか………

 

 

そう、思っていると………

 

 

ギュッ…

 

 

「…!シクル………」

 

シクルがルーシィの手を握る。

 

 

「………だぃ…じょーぶ………ルー、シィは…

 

 

わた…さない…か、ら…ね?」

 

苦しげに呼吸をしながらも笑い、ルーシィにそう言うシクル。

 

「でも…でもっ!あたし………」

 

 

「仲間を売るくらいなら…死んだ方がマシだァ!!!」

 

「っ!!」

 

ルーシィの言葉を遮るようにエルザの声が響いた。

 

「そーだそーだ!!」

 

「ルーシィは仲間だ!!渡すもんか!!」

 

「みんな………」

 

 

エルザの言葉に続き、叫ぶ仲間達を見てルーシィは何も言えなくなる。

 

 

『チィ…ならば、特大の魔法集束砲をくらわせてやる!!発動までの15分…恐怖の中であがけ!』

 

ジョゼの怒り狂う声が響くと、幽鬼のギルドから浮遊する無数の兵が飛んでくる。

 

 

『地獄を見ろ…妖精の尻尾…

貴様らに残された選択肢は2つだ………

 

 

我が兵に殺されるか、魔法集束砲で死ぬかだ!』

 

その後、ジョゼの声が響くことはなく…

 

「ど、どーすんだよ!?魔法集束砲をどうにかしないと…!」

 

「シクルですらあんな状態になっちまうんだぞ!?」

 

「おまけに幽鬼の兵なんざ…ヤバイだろ!?」

 

どうすればいいか…仲間内で混乱が広がる…

 

 

そんな中、辛うじて意識を保っていたシクルがグッとナツの手を握る。

 

 

「っ…シクル?」

 

「は…はぁ………ナ、ツ……行って………

 

私は…大丈夫…だから………ナツ、は…あれを………止め、て………」

 

「シクル………あぁ、分かった……俺が止めてくる!!」

 

ナツのニカッとした笑みを見てシクルもつられ、ニカッと笑う。

 

「ナツ………頼、んだ…よ………」

 

そう言うとシクルはふっとその瞳を瞼の裏に隠し、気を失ってしまう。

 

 

「っ!…ルーシィ、シクルを頼む………」

ナツは気を失ったシクルを心配するが息をしていることを確認するとルーシィにシクルを預けた。

 

 

「あ…ナツ………」

 

 

「シクルとの約束だ…俺はあれを止める!!」

 

「ナツ…私達も後から追う…先に行ってくれ」

 

エルザの言葉に「おう!」と頷くナツ。

 

「ハッピー行くぞ!!」

 

「あいさー!!」

そして、ハッピーに飛んでもらい、魔法集束砲の砲台へと飛んだ。

 

 

 

「頼むぞ………ナツ」

その後ろ姿をエルザは見つめ呟くと…

 

 

「シクルや負傷者を中へ運ぶぞ!

 

その他の戦闘のできるものは応戦だ!!

 

行くぞぉ!」

 

『おぉ!!!』

 

エルザの号令に動き出す妖精たち…

 

 

 

今、妖精と幽鬼の………本当の全面戦争が…

 

 

始まる………。

 

 




はい!如何だったでしょうか…原作ではエルザが防ぐのですが…ここは主人公に防いでもらいました…


ほんのり、ナツとのからみもできました!本当にほんのりとですが…


では、最後までお付き合い、ありがとうございます!

次回は明日の夜になるかと思います!!よろしくお願いします!


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20話 妖精VS幽鬼 妖精 反撃開始

はい!!どうにか日付変わる前に投稿できました!!


ちょぉおおおっと!!!いえ………だいぶ端折ってる部分などあり、分かりにくいよ!!って部分もあるかと思います………


下書き消えてしまうなど思っていなかったので…次からは気をつけます………


では…第20話、最後までお付き合い、お願いします!!


 

 

ギルドの中に運び込まれたシクルはすぐに治療が始まった。

 

 

「酷い…全身傷だらけ……(この胸の青痣…肋骨にヒビが入ってるのかもしれない………)」

 

「シクルゥ…」

 

シクルの傷の具合を見て顔を歪ませるミラ。

 

ミラの言葉と目覚めないシクルを見下ろし、涙が溢れるルージュ。

 

「シクル…ごめんね……」

シクルを見下ろし、涙を流し、謝るルーシィ。

 

「ルーシィのせいじゃない…シクルも言ってただろう?誰も、お前を責めたりはしない」

エルザの言葉にルーシィは頷き、涙を堪える。

 

「ふぅ…ミラ、シクルやルーシィを頼む…」

エルザはルーシィの涙が止まると立ち上がり、ミラを見つめる。

 

 

「エルザ…分かった………」

ミラが頷くとエルザはギルドを飛び出し、戦場へと出て行った。

 

 

出て行ったエルザを見つめ、ルーシィはぐっと拳を握る。

 

「…ミラさん…私も戦います…!」

 

ルーシィのその言葉にミラは驚愕の目を向ける。

「何を言ってるの、ルーシィ!?ルーシィが出て行ってはダメよ!そんなことより、ルーシィはどこかに隠れないと………」

 

「でもっ…みんなが戦ってるのに!!私だけ隠れるなんて出来ません!!」

ミラの言葉に大きな声で反論するルーシィ。

 

「それに…レビィちゃんやマスター…シクルも傷ついて………みんな…全部私のせいなのに…私が…」

 

「ルーシィ!それは違うわっ…」

 

ふるふると震え、言うルーシィの肩を掴み、ルーシィの言葉を止めるミラ。

 

 

「ミラさ…」

 

「シクルも…エルザも言ってたでしょう?

これはあなたのせいじゃない…誰もそんなこと、思ってないわ…やられた仲間のため…ギルドのため…そして、あなたを守るためにみんな誇りを持って戦っているのよ……そんな悲しいこと…言わないで?ね…ルーシィ…」

 

ミラはルーシィにそう言うと片手をルーシィの顔の前にかざす。

 

「ごめんなさい…ルーシィ…あなたを守るためなの………

だから…言うことを聞いてね…ルーシィ…」

 

「ぁ…」

 

ミラの手から放たれる光に包まれたルーシィは強い眠気が襲い、耐えきれず倒れ、眠ってしまう。

 

倒れたルーシィの身体をミラが支える。

「リーダス、ルーシィを連れて隠れ家へ行って!」

 

「ウィ!」

 

ミラの言葉に、絵で描いた馬車を作り出し、ルーシィをそれに乗せるとギルドの隠れ家へと運ぶ。

 

そして、去っていく馬車を見送るとミラは戦闘の続く戦場へと出て行く。

 

「ミラ…どこに行くのぉ………」

 

「ルージュはシクルの傍にいてあげてね…私はルーシィの代わりに行くわ」

ミラにそう言われ、ルージュは頷きシクルを見下ろし、ルージュが頷くとミラはギルドの外へと出て行った。

 

 

その頃、外では魔法集束砲の発射阻止には見事成功したが次にジョゼは煉獄砕破(アビスブレイク)を展開。

 

巨大な魔法陣が上空に描かれていた。

 

 

「あれは…!!」

 

丁度、外に出て来たミラはその魔法陣を見た時、背筋に嫌な汗が伝う。

 

「ミラ!?あんた何で出てきて…!」

ミラが外にいるのを見つけ、驚くカナ。

 

「あれはまさか…!!あんな大きなの撃たれたらギルドだけじゃないわ…カルディア大聖堂辺りまで消し飛んでしまうっ…!!」

 

「何ですって!?」

 

「おいおい…冗談だろ!?」

 

全員が驚愕と、絶望の表情でその大きな魔法陣を見つめる。

 

 

「ミラ…あの魔法は、あとどれくらいで完成するの…?」

驚異的な力に絶望しないよう、瞳に光を宿し、ミラに聞いてくるカナ。

 

「恐らく約10分ってところかしら…」

 

「なら、入ったエルザたちに任せるしか………」

 

幽鬼のギルドに侵入したのはナツとハッピー、エルザの他にグレイとエルフマンもいた。

 

「エルフマン……」

 

ミラは幽鬼のギルドを不安そうに見つめる。

 

 

「(あの子も前に進もうとしている…なら…)

私も前に………」

ミラの瞳は強く輝いており、なけなしの魔力を集めると変身魔法を発動。

 

「ミラ…何を!?」

その光にカナが驚きの目で見つめると、光から出てきたミラの姿は………正しく、“ルーシィ”の姿になっていた。

 

 

「すぅ………もうやめて!!あなた達の狙いは私でしょ!!これ以上みんなに手を出さないで!!」

 

ミラがルーシィになりきり、ジョゼや幽鬼の奴らを騙そうとした。

 

が………

 

『………去れ、偽者が…』

 

 

ミラの変装はいとも容易くジョゼにバレてしまい、ミラの作戦は失敗してしまう。

 

「そんな…」

 

力無い自身に悔しく、惨めな気持ちがミラの胸の内に広がる…。

 

 

ジョゼにミラの変装がバレていた頃…ギルド内では………

 

 

ーーーーー

 

シクルはどこか分からない空間で目が覚める。

 

………ここは…どこ………?

 

 

 

 

辺りを見回し、首を傾げるシクル。

 

確か…ギルドに幽鬼の奴らが攻めてきて…

 

魔法集束砲を撃とうとしたから………

 

 

私が受け止めて…?それから………

 

 

“………ソレは私のモノだ…”

 

 

…っ!?

 

 

今まで起きたことを頭の中で整理していたシクルの耳に声が響く…

 

 

それは、2度と聞きたくない男の声………

 

 

シクルにとって悪魔のような男………

 

 

黒い光がシクルの目の前に指すと何者かのシルエットが見えるようになる。

 

傍目だとよく分からない霞んだシルエット…だが、シクルには一目で分かった………

 

 

あいつだ………と…

 

 

 

“お前は今日から私の道具だ………その力………

 

 

私に寄越せ……その力を私に…!”

 

 

 

怪しげな魔法具を持つ男シルエットがシクルの目の前に現れる。

 

 

“いや………いや………来ないで………来ないで………

 

 

来るなぁあああああっ!!!”

 

 

 

叫び声も虚しく、シクルの身体色々なコードや機械が取り付けられる。

 

“あぁあああ゛あああ゛ああ゛あっ!!!!”

 

 

なんで………なんで………私は………もぅ………

 

 

助けて………私………こんなところ………いたくないっ!!

 

 

誰か………誰か………助けてっ…!

 

 

 

悲鳴を上げるシクル…その目には涙が溢れ、頬を濡らす…。

 

次第にシクルの悲鳴は小さくなっていき、瞳からは光が霞み始めていた………その時………

 

 

光が差すーーー。

 

 

………あ………

 

 

シクルーーーーー!!!!

 

 

それは…大切な相棒の声………

 

 

………ルー、ジュ………泣いてる…?

 

 

 

あぁ………泣いてる………待ってて………

 

 

今………いくよ…相棒………

 

 

そして、シクルは光射す場所へ、手を伸ばし………夢から覚める。

 

 

 

「シクル………シクルっ!!!」

 

「………ルー、ジュ…」

 

目を覚ましたシクルの視界には顔を涙で濡らし、必死に自身の名を呼び叫ぶルージュの姿が映った。

 

ルージュは目を覚ましたシクルに嬉しさのあまり飛びつく。

 

「わああ!!シクルゥ!!良かったァ!良かったよぉ!」

 

「ルージュ…なんで泣いてんの?」

シクルは痛む身体に気付かぬフリをし、体を起こしルージュの頭を撫で、問いかける。

 

 

「なんで…て…シクルの呻き声…聞こえたから…」

 

「…私の?」

 

「うん…助けてって…言ってたよぉ…?」

 

ルージュのその言葉を聞き、あぁ…てシクルは納得した。

 

「ごめんね、心配かけて…ちょっと、夢見の悪いの見ちゃって…もう、大丈夫だよ………」

シクルはルージュにそう言い、一層ルージュの頭を撫でる。

 

そして、ルージュを傍に下ろすと、傍らに置いてあった白いジャケットに腕を通し、立ち上がる。

 

 

「ちょ!?シ、シクル!?何やってるのぉ!?」

 

「何って…私も皆のところに行こうかなと…」

 

あっけらかんと言うシクルはそのまま足を進め、ギルドの外へ出ようとする。

 

その足取りはどこか覚束無い様子で、慌ててルージュが引き止める。

 

「ダ、ダメだよシクルゥ!!身体中傷だらけで…肋骨にもヒビが入ってるって!」

 

「あぁ…だからちょっと胸が痛かったんだ…どおりで…そりゃ痛いわけね」

 

シクルは自身の身体のことなのに何でもないかのように呟くとルージュを見つめ、小さく微笑みを見せる。

 

「ルージュ…心配してくれてるのは分かるよ…でも………私行かないと…みんなが戦ってるのに…私だけ、休んでる訳にはいかない………」

 

「で、でも………」

 

 

「…それに…………私にはやらなきゃいけない事があるんだ…」

シクルはそう言うと目を伏せ、脳裏に黒髪の男を思い浮かべる。

 

………約束…したんだ………守るって…

 

約束の日まで………守るって…みんなと、約束……したんだ…

 

 

目を伏せるシクルを見つめ、何かを感じとるルージュ。

 

「…分かった………でも、危なくなったら止めるからね…?」

 

 

「うん…ごめんね…ありがと」

ルージュからの許可が下りるとシクルはギルドの外へと出る。

 

 

そして、その瞬間ーーー

 

 

「きゃああっ!!!」

 

「ミラっ!!!」

 

ミラの悲鳴とカナの叫びが、シクルの耳に響いた…

 

 

「っ!ミラっ!?」

 

シクルの視界に入ったのは幽鬼のギルドに生えた大きな拳に握られ、連れ去られるミラの姿。

 

シクルは痛みなど忘れ、その場を駆け出す。

 

「ミラぁー!!!」

 

「っ…!シクル………!」

 

シクルの声を聞き、その手が伸ばされていることに気づき、ミラも手を伸ばす。

 

が……シクルの手はほんの僅かに、ミラには届かず………

 

ミラは、連れ去られてしまった。

 

 

「っ………!!ルージュ!!!」

 

シクルはギッ!と幽鬼のギルドを睨みつけ、ルージュを呼び、飛んで幽鬼のギルドへ行こうとした。

 

そこを、カナが気づき引き止める。

 

「待って、シクル!!あんた…そんな身体で行く気!?」

 

「カナ…うん、分かってるでしょ?私に何言っても引かないってこと…それに、少し休んだから体力も魔力も回復してるよ!大丈夫!!」

 

ニッ!と笑い、言うシクルを見つめ、カナは深いため息をつく。

 

「はぁ…分かったよ………でも、ほんとに…無茶だけはしないでね………絶対、帰ってくるんだよ?」

 

「………うん、約束ね!」

 

カナの最後の言葉に力強く頷くシクル。

そして、飛び立とうとした時………

 

 

 

「あーと…その前にやらないといけない事あるじゃん?」

 

ルージュちょっと待ってねーと言い、シクルは魔力を高める。

 

その様子に妖精の仲間達は首を傾げ、疑問に思う。

 

そして………

 

 

 

「光竜の息吹!!!」

 

コォオオオオオオオオオッ!!!!

 

シクルの口から出た透明度のある金色の光は幽鬼の兵を襲い、包み込み…そして、光が消えた時、幽鬼の兵は消えていた…。

 

『………え?』

 

「ふぅー…これで暫くはこっちも大丈夫だよね?」

シクルは一瞬、後ろに立つ仲間を振り返ると、今度こそ、幽鬼のギルドへと向かい、飛び立った。

 

 

ちなみに“光竜の息吹”とは………

 

 

闇から出来た物質を分解し、浄化する魔法。

 

ただし、人間には効かない。又、幽霊やこの世の者でない力を浄化(成仏)させることも出来る。

 

 

これを浴びた幽鬼の兵は………一体残らず消えていた。

 

 

それでも、一瞬しか消せなかったようで、再び幽鬼の兵が集まる。

 

 

が、それらを目の前に妖精達も怖気付いてはいなかった。

 

むしろ………最強の女が復活したことにより、仲間内での士気は格段に上がっていた…。

 

 

 

「シクルが頑張ってるんだ!!ナツやエルザも…エルフマンやグレイもあっちで頑張ってる…私達も私たちの家を守るよっ!!!」

 

カナの喝と共に、幽鬼の兵を迎え撃つ妖精たち…

 

「っ…シクル………(ミラを…頼むよ………)」

 

 

幽鬼の兵との戦闘が再開された頃…

 

シクルは………

 

 

「………今、行くから…みんな………もう少しだけ…耐えてね………」

 

戦いの中にいるナツたちを思い、拳を強く握り、戦場へと赴いていた…。

 

 

いざ…戦いの渦へと………月の歌姫 参らん…

 

 

そして、その力の片鱗が………

 

解放される時は近し………

 

 

封印されし力の片鱗に触れた時………

 

 

 

闇は崩れる………。

 

 

「…月の名の下に………私が、悪を滅する…」

 

 




はい!!どうにか20話、投稿にありつけました!!
ありがとうございます!!!


今回はほんのちょっと主人公の闇に触れてみました。
そしてその闇から助けたのは今回はルージュでしたね…はい


ナツでも良かったかな?と思ったのですが傍にいたのはルージュでしたのでルージュの声で目を覚ます感じにしました!


では、第20話、最後までお付き合い、ありがとうございます!!

次回は明日!投稿致します!!


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21話 妖精VS幽鬼 歌姫降臨

はい!では続きを…早速始めたいと思います!!


最後までお付き合い、お願いします!


 

シクルが幽鬼のギルドへと向かっている頃…

 

 

エレメント4の1人と対峙していたグレイは丁度、相手を倒す事に成功していた。

 

 

戦いが終わり、足を伸ばし座り込むグレイの横では戦いに負けたエレメント4の“ジュビア”という女が倒れていた。

 

 

雨の降る中戦い、水に濡れた前髪を少し鬱陶しそうにかきあげ、空を見上げると…

 

次第に雨は止み、雲が消え、空が晴れた。

 

 

「お!やっと晴れたか!!」

 

太陽の光を見つめ、眩しそうに目を細めながらニッ!と笑みを浮かべるグレイ。

 

その隣でジュビアは太陽の眩しさに涙を溜めていた…。

 

 

「これが…青空………初めて、見た…」

 

「初めてだァ…?………ヘッ、いいモンだろ?青空ってのは」

 

感動で涙を流すジュビアにグレイは先程まで戦っていた相手の筈なのに優しく微笑みを見せる。

 

「で…まだやんのかい?」

 

グレイのその笑みを見た瞬間………

 

 

「ジュビーーーン!!!」

 

ジュビアは胸のトキメキと共にパタリと意識を手放した。

 

 

「て、おい!?どうした!?」

 

グレイが慌てて声を掛けるがジュビアが目覚めることは無かった。

 

「んー……まぁ、いいか……てか、ンでこんな幸せそうなんだ…こいつ………」

 

 

気絶するジュビアのその満足気な表情にグレイは苦笑を浮かべ、乾いた笑い声を弱く出していると…

 

 

「グレーイ!!」

 

「んァ?おぉ!エルフマンか!て、ミラちゃん!?何でここにいんだ!?」

 

自身と共に、このギルドへ侵入したエルフマンの他に戦闘要員ではないはずのミラがおり、グレイは目を見開き驚く。

 

「ちょっとね……それより、グレイもエレメント4の1人を倒したのね!」

 

ミラはグレイの横に倒れているジュビアを見つめ、言う。

 

そして、グッと拳を握ると強い輝きを持つ瞳でグレイとエルフマンを見つめ、告げる。

 

 

「あと1人!エレメント4 残りの1人…アリアを倒せばこの“煉獄砕破”は解除されるわ!」

 

「何!?本当なのか、ミラちゃん!」

 

「えぇ…この魔法はエレメント4の力を原動力に動いている…この巨人もそうよ

 

つまり、残りの1人…アリアを倒せば、これは止まるわ!」

 

「おぉし!行くぞぉ!」

 

ミラの話を聞き、グレイの掛け声と共に3人はアリアを探し、走り出す。

 

 

 

そして、上へと登る通路を見つけ、走っている時…

 

 

ズドォオオオン!!!

 

大きな音を立て、幽鬼のギルドが揺れる。

 

「うぉ!?」

 

「きゃっ!?」

 

「んだァ!?」

 

咄嗟の揺れで3人は僅かに床へと、膝をつく。

 

 

「何だ今の揺れ…」

 

不思議に、グレイが辺りを見渡していると…

 

「2人共、見て!!」

ミラが外を指差す。

 

 

その先にはーーー

 

 

描かれていた筈の魔法陣が消滅し、幽鬼のギルドも動きを止めていた。

 

「これは…まさかっ!」

 

「多分…誰かがアリアを倒したんだわ!!」

 

これで危機は去った…そう、グレイ達の表情に安堵が浮かぶ。

 

その時ーーー

 

 

『ピンポンパンポーン……妖精の尻尾の皆さァん………我々は、ルーシィ・ハートフィリアを捕獲しました』

 

幽鬼のギルド内、そして外で戦う妖精達の耳にジョゼの声が響いた。

 

 

「何っ!?」

 

「ルーシィを…捕獲しただと!?」

 

「まさか…そんなっ…隠れ家がバレたの!?」

 

3人もジョゼの話す内容に呆然としている。

 

そして、そんな3人、妖精達の耳に甲高い悲痛な悲鳴が響き始める。

 

 

『きゃああああああっ!!!』

 

「「っ!!ルーシィっ!!」」

 

「いや…やめてっ!!!」

 

 

『我々に残された目的はあと一つ…貴様らの皆殺しだ…糞ガキ共が………』

 

 

その一言を最後にジョゼやルーシィの声は聞こえなくなる。

 

「くそ…急がねぇと…ルーシィが!」

 

「ええ…急ぎましょ!」

 

「「おう!!」」

 

 

 

3人が再び走り出し、進むと広い部屋へと出る。

 

 

そこにいたのは………

 

 

「っ!!エルザ!?」

 

傷を負い、壁に寄りかかり休む、エルザの姿があった。

 

「あぁ…お前達か………」

 

「その怪我…戦っていたのか?」

 

「はっ…もしかして、アリアはあなたが…?」

 

 

ミラの言葉に頷くと、エルザは俯き弱々しい笑みを浮かべる。

 

「お前達にこんな情けない姿を見られるとはな………私もまだまだということだな…」

 

傷を負ってはいるが命に別状の無さそうなエルザを見つめ、ミラもほっと安心し介抱するため、エルザに駆け寄る。

 

 

その時ーーー

 

 

 

ゾクッッッッ!!!!

 

 

4人の身体を冷たく、邪悪な何かが襲う。

 

それは、とてつもなく強大で…凶悪な力を持った魔力の波動………4人の背に嫌な汗が伝い、震えが止まらない…。

 

 

「な…何だよ、この感じは!?」

 

「ぬ、ぬぉお…漢にあるまじき寒気がっ!!」

 

「な、に………これ…!?」

 

「これはっ………!」

 

 

 

得体の知れない波動に恐怖していると…ゆっくりと、パチパチと手を叩く音が小さく響き始める。

 

 

「いやいや…見事でしたよぉ…皆さん?」

 

 

嫌な寒気を纏い、近づいてくるそれは…

 

 

「クククッ…まさか、ここまで楽しませてくれるとは正直…思っていませんでしたよ…」

 

幽鬼の支配者のギルドマスター…“ジョゼ”だった。

 

 

実際にジョゼが目の前へ立つとエルザ達の震えは強くなった。

 

「っ…(こいつが………)」

 

「(ファントムのマスター……)ぐっ…」

 

「うっ…(なんて邪悪な魔力なのっ…!?向かい合っているだけで吐き気がしてくるっ!!)」

 

震えるエルザ達を見つめ、ニタァと嫌な笑みを浮かべると、ジョゼはゆっくりと手をかざす。

 

 

「さて…楽しませてくれたお礼をしませんとなァ………たっぷりとね…」

 

ゾッ! 「避けろぉおお!!!」

 

 

嫌な感じを察し、エルザは後ろに構えていたグレイとエルフマンを振り返り、叫ぶ。

 

が、その声は虚しく2人はジョゼの魔法に当たってしまう。

 

 

「がはっ!!!」

 

「ぬぁあっ!?」

 

後方へと吹っ飛び、倒れる2人。

 

 

「エルフマンっ!!グレイっ!!」

 

倒れた2人に駆け寄ろうとするミラの目の前に瞬時に現れるジョゼ…

 

「ひ!?」

 

「…フンッ!」

 

その波動にミラの身体も飛び、壁へと叩きつけられる。

 

「ぁああっ!!」

 

 

「ミラっ!!!く!貴様ァ!!」

 

仲間をやられ、痛む体に鞭を打ち立ち上がり、魔法剣を換装するとジョゼに斬り掛かる。

 

何度か剣を振るも、傷ついた体では本来の速度は出ず、簡単に攻撃は避けられ、幾度目かの攻撃の際、一瞬隙を見せたエルザを見逃さず、その足首を掴み投げ飛ばす。

 

「ぐっ!くっ……」

 

空中で体勢を立て直し、床に着地するエルザはジョゼを睨む。

 

 

「貴様…アリアとの戦闘で魔力を消費しているはず…なぜ動ける?」

 

「仲間が…私の心を強くするんだ…愛するもの達のためならばこの体など…いらぬわ」

 

ジョゼの問いかけに迷いなく、真っ直ぐとした瞳で答えるエルザを見て、ジョゼは笑みを深める。

 

その額には僅かに青筋が立っていた………。

 

 

「クククッ!なんて…気丈で美しい………なんて、殺しがいのある小娘でしょう…」

 

ジョゼはそう呟くとエルザに手を構え…そして…

 

 

次の瞬間…エルザの身体をとてつもない激痛が襲う………

 

 

 

その頃…最上階でガジルと戦っていたナツは…劣勢に追い込まれ、倒れ伏していた。

 

 

「うっ…ぐ…」

 

 

倒れるナツを見て笑い声を上げるガジル。

「ギッヒヒヒヒッ!見ろよ!テメェらが守ろうとしたもんをよォ」

 

ガジルの言葉を聞き、力の入らない顔を必死に上げ、見つめるナツ。

 

その先には………

 

 

「っーーー!!!ギル、ド…が…」

 

妖精のギルドが幽鬼の兵により、壊され、崩落していく光景…

 

ナツは目を見開き、その光景に呆然とする。

 

 

そして、ある光景が脳裏に蘇る…

 

 

ーーーおい!!お前…なんで…そんな…暗い顔してんだよ?

 

ーーー…?なに…わからない………暗いって?

 

ーーーだ、だから…!!なんで…笑わねぇんだ?

 

ーーー………笑う?…何か、あるの?

 

 

ーーーえっと!!えぇっと………そう!

 

お前が笑うと俺が嬉しい!!お前が暗いと…

俺は、悲しい………だから笑え!!

 

………て、何言ってんだ俺!

意味わっかんねぇ!!

 

ーーー………クスッ 分かった…

 

ーーー!!笑…った……

 

ーーー私が笑うだけで嬉しいのはどういう意味かわからないけど…分かったよ…ナツ………

 

 

 

そう言って、綺麗な笑顔を見せた幼き頃のシクル…

 

思えば…ナツが初めて見た本当の笑顔は…その時だったかもしれない………

 

たくさんの思い出が残る…ギルド…その無残な姿にナツは憤怒し、再び立ち上がる。

 

が、それでも力が戻ったわけではなく、再びガジルに吹き飛ばされる。

 

 

「炎さえ食べれば……ナツが負けたりしないんだァ!!!!」

 

ハッピーの叫び声が響くと…

 

 

「なるほど!少々誤解がありましたようで…もしもし!」

 

「「へ?」」

 

ルーシィの呼び出した星霊、“人馬宮のサジタリウス”が弓を構え、告げる。

 

「ルーシィ様は先程、某に“あんた火出せる?”と仰いましたので某は“いいえ”と答えました…

 

が、今重要なのは火を出す事ではなく“火”そのもの…ということでありますなぁ、もしもし!」

 

そう告げ、サジタリウスが弓を放つと、機材に刺さり、そこから爆破が起き炎が巻き上がった。

 

 

そして、それを食らったナツは…

魔力の回復が完了し…

 

「レビィ!ジェット!ドロイ!じっちゃん!!シクル!!そしてこれは…ぶっ壊されたギルドの分だ!!おらぁあああああっ!!!!」

 

ナツの拳撃が見事、ガジルを下す。

 

 

 

 

その音は、下で戦闘していたエルザの下にも響いていた…。

 

「…ふん………よく暴れる竜だ…」

 

「はぁ…はぁっ…ふっ………ナツの戦闘力を計算できていなかったようだな………

 

あいつは…私と同等か………それ以上の力を持っている…」

 

剣を構え、激痛に耐えながら、ジョゼを睨むエルザ。

 

「謙遜はよしたまえ…妖精女王よ…君の魔力は素晴らしいものだ…現に、この私と戦い………ここまで持ち堪えた魔導士は貴様が初めてだ…アリアとの戦闘のダメージがなければ…もう少しいい勝負となっていたでしょう……」

 

 

「くっ…」

 

「…そんな、強大な魔導士がねぇ………」

 

ジョゼはそこで一度言葉を区切ると…

 

 

邪悪な魔力を解放し、エルザへと向ける。

 

 

「マカロフのギルドにいることが気に食わんのですよっ!!!」

 

 

「ぐっあぁああああああっ!!!!」

 

ジョゼの右手から発せられた強力な力に吹き飛ばされ、壁と激突するエルザ。

 

「何故私が…マカロフにトドメをささなかったか…お分かりですか?」

 

「…なに?」

 

ジョゼはクククッと笑い、エルザに語り始める。

「絶望………絶望を与えるためですよ」

 

「どういう事だ…!?」

 

 

「目が覚めた時………

 

愛するギルドと仲間が全滅していたらどうでしょうか?クククッ悲しむでしょうねぇ……あの男には絶望と悲しみを与えてから殺すのです!ただでは殺さんよぉ…!!苦しんで苦しんで…苦しませてから殺すのだぁ!!!」

 

「貴様…下劣な……!!」

 

ジョゼの語る言葉を聞き、嫌気がさす、エルザ。

 

「幽鬼の支配者はずっと1番だった…この国で1番の魔力…1番の人材…1番の金があった。

 

………だが、ここ数年で妖精の尻尾は急激に力をつけてきた。エルザにラクサス…ミストガン…更にはシクル………

 

その名は我が町にまで届き、火竜の噂は国中に広がった。いつしか“幽鬼の支配者”と“妖精の尻尾”はこの国を代表する2つのギルドとなった………

 

気に入らんのだよ…元々クソみてぇに弱っちぃギルドだったくせにィ!!」

 

「貴様…この戦争はその下らん妬みが引き起こしたということなのか!?」

 

 

「妬みだと?違うなぁ…我々はものの優劣をハッキリさせたいのだよ………」

 

ジョゼの言葉を聞き、更に顔を歪めるエルザ。

 

「そんな…そんな下らん理由で……!!」

 

ズァアアアアッ!!!

 

不意に、ジョゼの魔法がエルザを縛り付け、拘束…

 

「うっぁ!!!」

 

「前々から気にくわんギルドだったが…この戦争の引き金は些細な事だった………

 

ハートフィリア財閥のお嬢様を連れ戻してくれという依頼さ」

 

ジョゼの口から出た言葉に目を見開くエルザ。

 

「う!くァ…(ルーシィを!?)」

 

「この国有数の資産家の娘が妖精の尻尾にいるだと!?貴様らはどこまで大きくなれば気が済むんだァ!!」

 

「ぐっ……あぁあ゛……!!」

 

「ハートフィリアの金を貴様らが自由に使えたとしたら間違いなく我々よりも巨大な力を手に入れる!!

 

それだけは許してはおけんのだァ!!!」

 

「があああああ゛あ゛あ゛!!!」

 

ジョゼが叫び、怒声を上げ力を入れると更に拘束が強くなり、エルザを苦しめる。

 

だが、エルザはふっ…と小さく笑う。

 

 

「ふっ…どっちが上だ下だ…と騒いでいること自体が嘆かわしい………が、貴様らの情報収集力のなさにも呆れるな…それでよく1番のギルドなどと言えたものだな……」

 

「………なんだと?」

 

「ぐ…ルーシィは……家出、してきたんだ……家の金など…使えるものか………」

 

エルザの告げる事実にジョゼは目を見開いていく。

 

「家賃7万の家に住み…私たちと共に行動して……共に戦い、共に笑い、共に泣く……

 

同じギルドの仲間だ!

 

戦争の引き金だと…?ハートフィリア家の娘…?花が咲く場所を選べないように…子だって親を選べないんだ…貴様に………

 

貴様に涙を流すルーシィの何が分かる!!」

 

エルザはそう叫ぶと力を入れ、拘束を引きちぎろうとする。

 

「……ふん…これから知っていくさ」

 

そんなエルザを見て、ジョゼは不敵な笑みを浮かべる。

 

「私が…ただで父親に引き渡すと思うか?

金が無くなるまで飼い続けてやるさ…

 

ハートフィリアの財産全ては私の手に渡るのだ!!」

 

「っ…貴様ぁ!!」

 

ジョゼの告げる目的にエルザは憤怒、身体に力を込め拘束から抜けだそうとする。

 

「力まん方がいいぞ…余計に苦しむ……」

 

ジョゼは怪しげに笑い、更に力を入れてエルザを苦しめた。

 

「ぐっ…ぁ…あああああ゛あ゛あ゛!!!!」

 

 

エルザの悲鳴が響く…その時………

 

 

ズガァアアアアン!!!

 

 

「エルを…離せぇ!!!光竜の鉤爪!!!」

 

壁を突き破り、入ってきた者の魔法がジョゼの顔面に入る。

 

「ぐはっ!?」

 

そのまま、不意打ちを食らったジョゼは吹っ飛び壁と激突。

 

ジョゼが吹っ飛び、瓦礫に埋もれた衝撃でエルザを拘束していた魔法が解ける。

 

そして、力の入らない身体が地へと落ちるエルザ…

 

その身体が床とぶつかる前に抱き上げる腕が…

 

 

「………ごめん、遅くなって………」

 

その聞き覚えのある声にエルザは目を見開き、見つめる…

 

普段は髪を1つに結び、纏まっている髪が解かれ、風に揺らめく長い金色………

 

透き通るような青い丸い瞳は明らかな敵意を向け………倒れるジョゼの方を睨んでいる…

 

 

「お…前………何故…」

 

 

「………私が、大人しく休んでるとでも?」

 

ニッとエルザを見下ろし笑みを見せるその者………

 

 

「………シクル………」

 

 

月の歌姫………戦場に降臨…

 

 

「あとは…任せて…」

シクルはそう言い、エルザを隅へと運び壁に寄りかからせる。

 

 

そして………

 

「クッハハハハッ!!待っていましたぞ…歌姫っ!!貴様を………貴様を殺し…妖精を地獄へと落としてやるっ!!!」

 

魔力を荒らげ、叫ぶジョゼをゆっくりと振り返り…視界に入れるシクル………

 

 

 

 

「…よくも………よくもみんなを………」

 

シクルは拳を強く握り、震わせ…そして、ギロッとジョゼを睨むと………

 

 

 

「許さない………絶対………

 

 

私はお前を………許さないっ!!!」

 

 

怒れる歌姫………さぁ…

 

 

「月の名の下に………お前を…滅する」

 

 

戦いが…始まる…

 

 




はい!!次は主人公とジョゼの戦いですね!


どう纏めようか少し悩み中です…うむむ


では、次の投稿はまた少しあとになるかと思います!
最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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22話 妖精VS幽鬼 妖精の法律

はい!!なんとか出来ました、22話です…!


ほんのりと、番外編どうしようかなぁ…と考えている今日この頃でございます………では、


今回も最後までお付き合い、お願いします!


 

「私はあなたを……許さない!!!」

 

「クククッ…待っていましたぞ…歌姫…」

 

互いに睨み合う両者…そして………

「喰らえ!デッドウェイブ!!」

 

シクルへ向け、ジョゼが魔法を放つ。

 

そしてシクルも瞬時に魔力を練り、高めると

 

 

「光竜の息吹!!!」

光竜の息吹でジョゼの魔法はかき消される。

 

 

「ふむ…やはり、聖十大魔道 筆頭候補のだけある…素晴らしい力だ………だが、私には勝てんよ…」

 

ニヤッと笑うジョゼを見て、シクルは更に険しい表情を浮かべる。

 

 

「あなた…私に魔法消されてる癖に何でそんな強気になれるのよ?」

 

「クハハハッ!それはもう…まだ私が本気を出していないからに決まっているでしょう…小娘が………」

 

 

ジョゼが手をかざすとシクルの足元が怪しく光り出す。

「っ!」

 

「吹き飛べ…歌姫!」

 

 

ドォオオオン!!!

 

「シクル!!!」

大きな音と共に、シクルの姿が煙で見えなくなり、エルザが叫び、立ち上がろうとする。

 

 

「エルザ待ってぇ!」

「っ!ルージュ!?お前もここに…」

 

立ち上がろうとしたエルザを止めたのはシクルの相棒、ルージュだった。

 

「ここはシクルを信じてぇ!お願い!」

ルージュの顔を暫くみつめていると…

 

 

「…で?これで終わり?」

シクルの声が聞こえる…。

 

「なに…!?」

 

エルザがはっとシクルの声がした方を向くと…

 

煙の中から現れたシクルは無傷…ジョゼは目を見張る。

「貴様何故…!?」

 

「当たってないからに決まってるでしょ?

 

………さて…それじゃあ………」

 

 

反撃………開始ね?

 

 

ニッと笑みを浮かべるとシュッとジョゼの目の前から消えるシクル。

 

「なっどこに!?」

ジョゼがシクルの姿を見失う…

 

シクルは………

 

 

フッーーー

ジョゼの背後に現れ…

 

「月竜の…鉄拳!!!」

 

ドゴォオオ!!

 

その背に拳を入れる。

 

「ぐはぁああっ!?」

 

悲鳴を上げるジョゼに更に攻撃を仕掛けるシクル。

 

身体を翻し、足に魔力を集める。

「月竜の鉤爪!」

 

ズドッ!!

 

「ぐふっ!!」

蹴りあげた勢いにのり、空中に1度飛び上がると口に魔力を集め…

 

「月竜の…咆哮っ!!!!」

 

ジョゼに向かい咆哮を放つ。

吹き飛び、壁に叩きつけられるジョゼ。

 

地に着地し、吹き飛んだジョゼを睨むシクル。

 

その光景にエルザは驚く。

 

「シクル………(こんなに…強かったの、か?)」

 

「…シクルゥ」

 

エルザを止めたルージュだが、ルージュも本当はシクルを止めたかった…だが、約束してしまった為、破る訳にはいかないと自身に言い聞かせていた。

 

 

 

「ぐ…ぐぐ……グクハハハ………やはり強いなぁ…歌姫………」

 

立ち上がり、シクルを睨むジョゼ…

 

 

「クククッ…後悔せよ、歌姫………私に力を使わせることになるとは…ネェ!!!」

 

ゴォオオ!!!

 

「っ!」

 

ジョゼの身体から魔力が爆発的に高まる。

その風圧はエルザやルージュの方まで届く。

 

 

「ぐっ!この魔力は…!」

 

「ひぃ…!?」

 

 

「…地獄ヲ見ルガイイ…歌姫!」

 

ドォオオオ!

 

 

邪悪なエネルギーが再びシクルに放たれる。

 

「光竜の…息吹!!!」

 

シクルの魔法がジョゼの魔法を消し飛ばす。

 

が………

 

 

ガシッ!!

 

シクルの右腕をジョゼが掴む。

 

「っ!!!しまっ…(攻撃の後に近づいて…!)」

 

「シネェ…小娘ェ!!!」

 

バチバチバチッ!!!

 

 

シクルの身体を高圧な電流が流れるような激痛が走る。

 

「づぁああああああああっ!!!!!」

 

「「シクル!!!」」

 

絶叫を上げながら、ジョゼをギッ…!と睨み、左手に十六夜刀を換装させる。

 

「ぐ………ぁ…!こんのっ…!!」

 

ブンッ!と刀を振り上げ、右腕を掴むその手を離させると一気に跳躍し、ジョゼとの距離を取る。

 

だが、距離を取り、床に足をついた時、膝から崩れ落ちてしまい、息が上がるシクル。

 

ガクッー

 

「くっ……はっ!はぁ…はぁ……」

 

「シクルっ!!」

 

エルザの心配する声に「大丈夫っ!!」と、答えるとゆっくりと立ち上がり…

 

「まだ…やれるよ………」

と、ニッと笑い言った。

 

 

「そうか…貴様は…魔法集束砲を止めたのだったなぁ…クククッ…まだそのダメージが残っていると見た………」

 

息の上がるシクルを見て、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべるジョゼにシクルは怪訝な表情で睨む。

 

「………何がおかしい?」

 

刀を向けられるもジョゼは再び余裕の笑みを浮かべる。

 

 

「その様子では…もう満足に動けまい小娘…」

 

手をシクルへとかざすジョゼ…身構えるシクル…

 

 

「その身体で………仲間を守れるかァ!?」

 

「っ!!!」

ジョゼはその叫びと共に…シクルへ向けていた手をエルザとルージュへと向けた…

 

「なっ!」

「え………」

 

ジョゼの手からは邪悪な波動の刃が放たれる

 

「!エル!!ルージュ!!」

 

 

ルージュは恐怖で目を瞑り、エルザは咄嗟にルージュを抱え、庇う。

 

エルザは衝撃に備え、身構える…

 

 

 

「………?」

 

どんなに待っても痛みは襲っては来ない…

 

エルザが不思議に思い顔を上げると………

 

 

「ぐ………ぅ…!」

 

右肩を抑え、膝をつき、真っ赤な血を流すシクルがいた…

 

「っ…シクルっ!!!!!」

「あ…!?」

 

「っ…エ、ル…ルージュ………無事、だね…良かった………」

 

怪我のない2人を振り返り、柔らかく微笑むシクル。

 

その顔には大量の汗が溢れ、激痛に耐えてる様子が見えた。

 

その様子にジョゼは拍手を始め…

 

「これはこれは…流石は…仲間を大切にする歌姫様だ………だが、これでもう終わりですね?」

 

そう告げた瞬間…シクルの目の前に現れ…

 

 

ガッ!とその首を掴みあげる。

 

 

「うぁっ!ぐっ…かっ…は!」

 

「シクルゥ!!」

 

「貴様っ!!!」

 

ジョゼに斬りかかろうとするエルザ…だが、その身体はジョゼから発せられる波動により吹き飛び、柱へと叩きつけられ、再び地に伏せる。

 

「がは!!ぐっ!」

 

「エ…ルっ…!」

咳き込むエルザを悲痛な面持ちで見つめ、首にあるジョゼの手を強く握り、離れようと暴れるシクル。

 

だが…

 

 

グッ…バチッバチチチチチチィ!!!

 

「ぁあああああああああああっ!!!!!」

 

首から体内へジョゼの魔力が流れ始めるとシクルの悲鳴が響く。

 

「やめろぉおおおおお!!!!」

 

「だめぇええええええ!!!!」

 

エルザとルージュの叫びが響くがジョゼはその手を緩めず…

 

「ふ…そこで歌姫の最後を見ていろ………」

更に魔力を高める。

 

 

 

「うぐ…!ぁ…ぁああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」

 

 

 

シクルの絶叫を聞き、ジョゼは高笑い、愉快そうに苦しむ姿を眺める…。

 

「ぐぅうううっ!!あっ!がぁ…!(こ…んの!)」

 

そして、シクルは激痛の走る中、必死に体を動かし………

 

「お前はあたしを………怒らせたんだ………

 

 

未来はないと思え………」

 

 

右耳に触れる………そして………

 

 

 

パチッーーー

 

右耳に着けられたピアスを…外した…。

 

 

その瞬間ーーー

 

ドッゴォォオオオオオオオン!!!!

 

シクルを中心に魔力による物凄い風が吹き荒れる…

 

それはジョゼの手をも振り払い…

 

 

「っ!?な、なんだ…!?」

ジョゼは驚愕し、目を見開く。

 

 

吹き荒れる魔力の中………立っているシクルの姿が………

 

 

 

「………ふぅ…まさか…これを外すことになるなんて………」

 

「シクル…まさか………制御装置外しちゃったのぉ!?」

 

シクルの呟きにルージュは慌てて、声を上げ立ち上がるが…シクルは安心させるように微笑みをルージュへと向ける。

 

 

「大丈夫…ほんのちょっと…使うだけだよ…」

 

 

シクルはそう言うとジョゼに視線をやる…

 

 

「貴様…その姿は………」

 

今、ジョゼの目の前に立つシクルは…それは、金の長い髪ではなく……銀色に輝く長い髪を揺らしていた…。

 

 

「………ジョゼ…一つ警告してあげる」

 

シクルはそう言い、人差し指を立てると…

 

「この姿を見て…立っていたものは、いないよ?」

と、言い放つ。

 

 

「小娘が…調子に乗るなよォ!!!」

シクルの言葉を挑発と取ったのか、ジョゼも魔力を高め、ぶつかり合う。

 

が…シクルは冷静に両手を胸の前で構えた。

 

 

 

「………ジョゼ…あなたに、3つ数えるまでの猶予を与えましょう………」

 

「はァ?」

 

「…3つ…数えきる前に………ひれ伏しなさい」

 

シクルの言葉を聞き、尚ジョゼは高笑った。

 

 

「ククククッ!!!いきなり何を言い出すかと思えば…!」

 

「…一つ」

 

「私にお前達へひれ伏せと!?」

 

「…二つ」

 

「ふざけるな!貴様になど負けぬぞぉ!!」

 

「…三つ」

 

「ひれ伏すのは貴様の方だぁ!歌姫ぇ!!」

 

ジョゼの魔法がシクルに放たれる…その時…

 

シクルの魔法も解放される…

 

 

「そこまで………“妖精の法律(フェアリーロウ) 発動”」

 

 

シクルから放たれる光はジョゼやエルザ、ルージュ…そして幽鬼のギルドや妖精の尻尾の仲間達も包み込んだ…。

 

 

「これは…!!シクル…この魔法が使えて…!(だがこれは相当の魔力を…シクルっ!)」

光で目が開けれず、瞑っている中魔法の発動者であるシクルを心配するエルザ…

 

 

そして、光が消え、エルザが目を開けると…

 

 

真っ白になったジョゼと肩で息をしているシクルの姿があった…。

 

「ゼッ……は………はァ……はっ…」

 

「シクルっ!」

 

「やった…やったよぉ!シクル!!」

 

 

倒れ、白目を向くジョゼを前にエルザとルージュは嬉しさのあまりシクルへと駆け寄る。

 

シクルは既に膝をつき、限界が来ていた…

 

その髪は既に金髪へと戻っている。

 

 

すると…シクルの目の前が揺らぐ…

 

その姿をエルザが捉えた時………背筋に嫌な寒気が再び走る…

 

 

「っ!!!シクルーーーー!!!!」

 

 

シクルの目の前に現れたのは倒したはずのエレメント4の1人、アリア…

 

シクルは既に動けず、虚ろな目でアリアを弱々しく睨む…

 

 

「悲しいなぁ…マスターマカロフに続き…月の歌姫まで私の手によって……!!」

 

涙を流し、シクルへ魔法を放つアリア…

 

 

シクルにアリアの魔法があたる…そう、思った………が………

 

 

 

ドゴォオオオ!!!

 

 

「ぐぱぁっ!?」

 

アリアを巨大な手が殴り飛ばした。

 

 

「………もう終わったんじゃ、ギルド同士のケジメはつけた。これ以上を望むのなら………貴様らを跡形も無く消すぞ

 

ジョゼを連れて去れ………」

 

シクルたちにとって懐かしく感じる親の声…

 

 

「マスター!!」

 

「マスター!おかえりぃ!」

 

「…マ…ス、ター…?」

 

 

朦朧とする意識の中、シクルはマカロフの魔力を感じ取る。

そして、フワッと頭を撫でられる感覚がシクルを包み込む。

 

 

「………よく、やったの………シクル…お疲れ様じゃ」

 

 

優しく温かい…その言葉を最後にシクルの意識は途絶えた…。

 

 

 

次回ーーー 幽鬼の支配者篇 完結

 

 




はい!!主人公に妖精の法律使わせました、はい…


元々使ってほしいなぁと思っていたので…マカロフさんには悪いのですが、いい所を主人公にやってもらっちゃいました!


では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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23話 聖十大魔道の称号

はい!!予告通り、今回で幽鬼の支配者篇、完結いたします!!


んー!結構やっちゃいました!!感が満載なのですが!!

最後までお付き合い、お願いします!


シクルがジョゼを倒した後、そのままシクルは病院へ運ばれ、他の者は崩壊したギルドを前に神妙な表情を各々、浮かべていた。

 

「こりゃまた……派手にやられたのぉ」

 

崩壊したギルドを前に深いため息をつき、呟くマカロフ。

 

その背後にゆっくりと…顔を俯き近づいてくる一つの影が…

 

 

「あ、あのぅ………マスター…」

 

暗い表情で人混みの中から現れたのはルーシィだった。

 

ルーシィは今回の件をやはり自分がいたせいで迷惑をかけてしまった…と考え、謝罪しようとマカロフの前に出た。

 

が、マカロフは…後ろを振り返り、ルーシィを視界に入れると………

 

「んー…おぉ…ルーシィ、お前さんも随分大変な目にあったのぉ…」

 

「…え」

 

ルーシィの視界に映るマカロフの表情はとても優しく、決してルーシィのせいとは思っていなかった…

 

「でも………それはあたしが…」

 

その表情を見ても暗い感情は消えず、拳をギュッと握り、俯くと………

 

 

「そんな顔しないの、ルーちゃん!」

 

「っ!」

 

ルーシィの後ろから声が響き、振り返ると…

 

まだ傷が残っており、服の合間から見える白い包帯が痛々しいがルーシィに笑みを見せるレビィとジェット、ドロイそしてリーダスの4人が立っていた。

 

 

「みんなで力を合わせた大勝利なんだよ!」

 

「ギルドは壊れちまったけどな…」

 

「ンなもん、また立て直せばいいんだよ!」

 

「レビィちゃん………ジェット…ドロイ…」

 

その温かい言葉にルーシィは涙を流す。

 

 

涙を流すルーシィに駆け寄りその涙を拭い優しく微笑むレビィ。

 

「ルーちゃん…心配かけてごめんね?」

 

「違っ…それは、あたしの……!」

ルーシィはレビィの言葉を聞き慌てて、反論しようとするも…

 

「ウィ…オレ、役に立てなくて…あの………ゴメン」

リーダスが謝ることでルーシィの言葉を遮った。

 

リーダスの言葉を聞きルーシィは更に涙を溢れさせ、首を横にフルフルと振る。

そんなルーシィを見つめ、マカロフは再びギルドへと視線をやり…優しく語り始める…。

 

 

「ルーシィ…楽しい事も…悲しい事も…全て…とまではいかないがある程度までは共有できる…それが、ギルドじゃ………

 

一人の幸せは皆の幸せ………一人の怒りは皆の怒り………そして、一人の涙は………皆の、涙…ルーシィ………自責の念にかられる必要は無い…君には………皆の心が、届いている筈じゃ…」

 

マカロフの言葉を聞き次第に堪えていた嗚咽が出始めるルーシィ。

 

 

「顔を上げなさい…ルーシィ………

 

君は妖精の尻尾の一員なのだから………」

 

その言葉を聞き、ルーシィは泣き崩れ大声で泣き叫んだ。

 

 

この後、結局評議会の者が押し寄せ、数日間妖精の尻尾のメンバーは事情聴取を受けることとなった………

 

そして、幽鬼との戦闘から1週間後…やっと普段の生活がスタートし始めていた。

 

 

現在崩壊したギルドの跡地では新しいギルドの建設の為、全員が一丸となって動いていた。

 

「うぉおおらぁああ!!!っーーーがっ!?」

 

角材を約10本程持ち、運ぼうとしたナツがその重さに耐えれず、後方へと倒れる。

 

ゴキッ!と嫌な音をさせ…

 

「わぁ、痛そォ…」

「ちょっとー…大丈夫ー?ナツー」

気の抜けたルージュとシクルの声がナツに届く。

 

「おぉぅ…大丈夫だァ」

痛みに耐えながらも答えるナツに苦笑を浮かべるシクル。

 

「1度にそんなに持つからだバーカ」

ナツの様子を見ていたグレイから喧嘩口調で挑発されると…

 

「んだとコラァ!?誰が馬鹿だこのやろぉ!」

早速挑発に乗ってしまうナツ。

 

「んだやんのか、あぁ!?」

 

「チマチマ運んでんじゃねーよクソ氷が!」

 

普段と変わらない喧嘩を始めた2人を見つめ、ルージュとシクルはため息をつく。

 

「あーぁ…そんな事してると………」

 

 

「そこぉっ!!!」

 

「「グゲッ!?」」

 

喧嘩を始めた2人にエルザからの怒声が響く。

 

「貴様ら、口より身体を動かせ!!一刻も早く妖精の尻尾を再建させるんだ!!」

 

「「あぃ………」」

 

予想を裏切らない光景を見せる3人にため息をつくシクル。

 

「あー…だから言ったのに…んー…やっぱり私もなにか手伝おうか?」

 

「「「「ダメだ!!!!」」」」

「え゛」

 

3人の様子を現場の端の方に用意されていた椅子に座り眺めながら、そう言うとナツ、グレイ、エルザそして隣にいるルージュから反対の声が上がった。

 

 

「な…何で」

 

「何でってシクルゥ…忘れたのぉ?しばらくは絶対安静だってポーリュシカさんに言われたでしょぉ?」

 

そう、シクルはあの幽鬼との戦闘後………

 

実は4日間ほど意識不明が続いており、目が覚めた現在も妖精の尻尾の専属医者“ポーリュシカ”により、絶対安静が言いつけられていた。

 

「とにかく、シクルは動かずそこにいるんだぞ…全く、本当なら寝てなければいけないところなんだがな…それと、お前達は現場に戻れ!」

 

「「あいさー!!」」

エルザの喝により一瞬で解散し、各々の仕事に取り掛かるナツとグレイ。

 

そしてエルザも持ち場に戻る。その姿は…

 

「エルってば…やる気満々だねぇ」

完全に工事現場にいる人の格好をしていた。

 

 

「あの服気に入ってんのかな……」

「さぁ………」

 

遠目から見ていたジェットとドロイの小さい会話がシクルの耳にも届く。

ふと、2人を振り返り、シクルはある方向を指差す。

 

 

「マスターもやる気満々だよ?」

シクルの差した方ではこちらも工事現場の服装をしたマカロフがいた。

 

「「ノリノリじゃねぇか!?」」

ぐもぉ!と効果音が聞こえそうな程顎が外れている2人にルージュと共に笑うシクル。

 

 

「監督!この角材はどちらに?」

 

「んー?おう、あっちじゃ!」

 

「「なんだよ監督って!?」」

「「あっはははははっ!!」」

 

ツッコミを入れるジェットとドロイだがやはり何か物足りない…と感じるシクル。

 

「ぁ…(そっか、ルーシィいないからか…)」

 

ルーシィ………ちゃんと出来てるかなぁ

 

というか、よく良く考えたらあの時ガジルとちゃんと話せてないじゃん私………

 

 

「…ま、いっか………」

 

また次会えるもんね……

「頼むよ、マスター………」

 

マカロフを見つめ、ふぅと小さくため息をつき、黒髪の男を脳裏に思い浮かべているといつの間にか近くに来ていたのか、グレイとナツの声が再び聞こえた。

 

 

「つかよ?」

「なんか…でかすぎねぇか?」

グレイとナツの言葉を聞きつけたのか、飛んでくるように現れるミラ。

 

「ウフフ!折角だからね…改築するのよ!で、これが完成予想図!」

そう言ってミラが出した図をみんなで囲い、見てみるが………

 

 

「…これ(描いたのミラだね…絶対)」

何でもできそうなミラだが画力だけはどうしてか恵まれなかったようで…まるで小さい子の落書きのような図だった。

 

「なん…これ…よくわかんねぇ?」

必死に解読しようとするナツ。

 

「ンだこれ?にしてもヘッタクソな絵だなぁ…どこのバカが描いたんだよ?」

解読に諦めたグレイが悪態つく。

 

すると………

 

「えーーーん」

ミラが泣いた。

 

「あ!あっ!?ミ、ミラちゃんだったんだね、ご、ごめんね!?」

慌てて謝るグレイ。

 

「「「「また泣かせた」」」」

グレイを冷たい目で睨む男達。そして………

 

「あーぁあ…私知らないよぉ?」

 

「グーレーイー………」ゴゴゴゴゴゴッ

殺気立つシクル………

 

「ヒィィィっ!?シ、シクル!!待て!!話せば分かる!!」

 

「2度目はないって…言ったよね?あたし」

ニッコォオオオ…と黒い笑みを見せるシクルにグレイは頭が上げられず、「あい…」と頷く。

 

そして、数秒後、グレイの悲鳴が響くのであった…。

 

 

この後、復活したグレイの膝に見た目不気味な“キャラ弁”なるモノがいつの間にか置かれていたり、それをナツとエルザを初めに、全員でつまみ食べたりとほのぼのとした時間が続いた。

 

 

そんな時…

 

「やぁ…これ、ルーシィに渡しといてくれないか…?」

と、声をかけてきたのは暫く姿を見せなかったロキだった。

 

ロキの手にあるのはルーシィの鍵…

「お前!?暫く見ねぇと思ったら!!」

「ずっとそれを探してたのか!?」

 

ロキは弱々しく笑みを作り、「まぁね…」と答えた。

 

「っ…(…ロキ………)」

 

ナツやグレイからは自分で返せよと言われたが星霊魔導士が苦手を理由に断り、ロキは去っていった…。

 

その後ろ姿をシクルは見つめる…。

 

 

………あなたに残された時間は…あとどれ位なの…ロキ………

 

 

結局この後ナツたちがルーシィの家に赴き、鍵を返すことにしたがシクルは一緒に行かなかった。

 

まだ、身体が本調子でないのも理由だが、ルーシィが今一時帰郷している事を知っていた為、いないことは分かっていた。

 

そして又、ルージュもシクルを心配し、ルーシィの家には行かなかった。

 

 

それから数時間後、ルーシィを連れてナツやハッピーたちが戻ってきた。

 

「聞いてくれよシクル!!ルーシィの奴紛らわしいんだぞぉ!!」

 

飛びかかってきたナツを抑え、話を聞くと…

 

ルーシィの家を訪ねたら机の上に“家に帰る”と書き置きのみ残し、ルーシィの姿がなかったから慌ててルーシィを連れ帰りにルーシィの実家へと向かったが結局はナツたちの早とちりであった…との、事だった。

 

 

その話を聞いて苦笑を浮かべ、ルーシィを見つめるシクル。

 

「ルーシィ…それは確かに勘違いもするわよ…」

「だ、だよね………ごめん」

こちらも苦笑を浮かべ、謝るルーシィ。

 

その後、ギャーギャーとナツの愚痴が続くも、結局戻ってきたんだからいいでしょ?のシクルの言葉で落ち着き、この日は全員解散となった。

 

 

そして、シクルの絶対安静の指示も解けた数日後………シクルは評議会に呼ばれていた。

 

「はぁ…なんかいい気がしない…何だろ…」

 

一緒にマカロフも評議会へ来ていたが彼は今裁判の方へ出ており、一緒にはいなかった。

 

シクルは指定された部屋に入ると…そこには既に体の大きな男がいた。

 

「あれ………?もしかして…ジュラ?」

シクルはその姿に見覚えがあり、首を傾げ声をかけるとあちらもシクルに気づき、振り返りパッと笑みを浮かべた。

 

 

「おぉ!シクル殿!久方ぶりですな…」

「やっぱジュラだったんだ…久しぶりだね、元気してた?」

 

ニッコリと声をかけてくるシクルに一瞬ドキッとしながらもジュラは平然と受け答え、「あぁ」と答えた。

 

「で?なんで私今日ここに呼ばれたの?」

 

「何?もしや何も聞かされておらぬのですか?」

 

ジュラの言葉に首を傾げるとシクルの頭にポンッと大きな手が乗った。

 

「わっぷ!」

 

「えぇ、まだ何も伝えていませんでしたからね…」

「んな…アトス!?何でここにいるの!?」

 

シクルの頭に手を置いてきたのはアトスだった。

彼はシクルを見下ろし悪戯のような笑みを見せると…

 

「また小さくなりましたか?」

と言った。

 

「なってませんーーーー!!!失礼なっ!」

ぷぅ!!と怒るシクルにケラケラと笑うアトス。

「はははっ、すまない…ほんの少しからかいたくなってしまってな」

 

「もぉ!!」

ぷいっとそっぽを向くシクルに眉を下げ、ほんの少し反省をするとアトスは表情を引き締め、シクルを呼んだ。

 

 

「それでは…シクル様、議長がお呼びです…」

「…議長が?」

コクリとアトスは頷くとジュラへと視線を向け、「ジュラ様もご一緒に…ご案内いたします」と、告げ2人を共に議長室へと向かった。

 

 

議長室では既に議長と数人の議員が揃っていた。

そして…ジークレインの姿も………

 

 

「っ…」

シクルは一瞬ジークレインを睨むもすぐに視線を変え、議長へと向ける。

 

「あの…今日はどのようなお話で…?」

 

また特別依頼か…?でも流石に今回はきついなぁ…身体が…と、考えていると………

 

 

「…シクル・セレーネ殿…此度のそなたの活躍の数々は………我々の耳にも届いている」

 

活躍…?活躍って………あぁ?ジョゼを倒しちゃったこととか“妖精の法律”使っちゃったことかな?

 

「あの…もしかして、まずいことしちゃいました?私………」

 

シクルは恐る恐る議長に問いかける。

 

も、議長はきょとん?とした様子でシクルを見つめるとはっはっはっと笑い始める。

 

「…ん?」

 

「はっは…何か勘違いしているようだが…シクル殿…今日は罰や説教のために呼んだ訳では無い………そなたに、これを授けようと、満場一致で決定したのじゃ」

 

 

そう言って議長がシクルに差し出したもの…

 

 

それは………

 

 

 

“聖十大魔道の称号”だった。

 

 

驚くシクルを流れで押しやり、結果、シクルは聖十の称号を受け取ることとなった。

 

 

「うっわぁ………なんで?なんで聖十の称号なんて…(あ、ジョゼ倒しちゃったからか…)」

 

うわぁ、めんどくさぁ…と深いため息をつき、長い廊下を歩いていると…その先にマカロフと議員の1人、“ヤジマ”を見つけた。

 

 

「あ、マスター」

 

「ん?おぉ、シクルか…どうじゃ?何を話しておったのじゃ?」

 

マカロフからの問いかけにシクルはげんなりと肩を落とすと………聖十の称号を見せる。

 

 

「んなにぃいい!?シクル!!!これはっ…」

 

「あー…なんか流れで押し付けられた………」

 

心底めんどくさい…と呟くシクルを他所にマカロフはその栄誉に喜び、その隣ではヤジマもほほぉと感心していた。

 

 

 

その後、ヤジマと幾つか会話をし、ジュラやアトスとも別れの挨拶をし、ギルド建設地へ戻ると………何やら一悶着あったようで…少し騒がしかった………。

 

 

「ラクサスっ!!!」

ミラの怒声が響く。

 

「ん?(…ラクサス…)マスター………」

隣を歩いていたマカロフもはぁとため息をついている。

 

何となくの予想はつく…

 

 

「この際だ!!オレがギルドを継いだら弱ェ奴は全て削除する!!そして歯向かう奴も全てだ!!

最強のギルドを作る!誰にも舐められねェ史上最強のギルドをだ!!!!」

 

そう高らかに言い、高笑いを響かせナツたちの前から去っていくラクサス。

 

そして、建設地を出ると…丁度帰還したシクルとマカロフと遭遇した。

 

 

「シクル…ふん、お前にも負けねぇぞ…俺がマスターになってやるのさ!」

 

「……今のあなたじゃあマスターなんて…なれないよ?いくらマスターの孫でもね…」

 

シクルのその言葉にラクサスはカッとなり、その胸ぐらを掴みあげる。

 

「ラクサスっ!!」

 

「てめぇ…ふざけたこと抜かすなよアマ!」

 

「ふざけてなんかないわ…今のあなたには、誰もついてなんか来ない………マスターにすらなれないわよ?そんなあなたが、私に勝つ?

 

………寝言は寝ていえ糞ガキ………」

 

シクルの殺気にラクサスは舌打ちをすると、その手を離し去っていく。

 

 

………ラクサス…

 

「…1人で最強になったって…それは本当の強さじゃないよ………ラクサス…」

 

 

そう呟き、一つため息をつくとシクルはマカロフと共にナツたちの元へと帰ってきた。

 

そして、シクルが聖十の称号を受け取ったことを聞くとお祭り騒ぎになり、建設もそっちのけで酒を飲み、大騒ぎとなった。

 

 

 

幽鬼の支配者篇 完結〜

 

 

next.story 楽園の塔篇 開幕

 

 

 

〜予告〜

 

 

 

 

 

星霊王を呼ぶんだよね?力、貸してあげる

 

 

 

 

 

あかねリゾート?へぇ…楽しそぉ!!

 

 

 

 

エルを助けなきゃ………絶対、守るんだ…

 

 

 

 

黙れ!!その名で…その名前で………私を呼ぶなっ!!

 

 

 

 

…っ!!!ジェラァアアアアアルゥウウウウウッ!!!!!

 

 

 

 

ごめん………こんな私を…許してね………

 

 

 

ナツ………………

 

 

 

 

やめろ…やめろっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シクルゥウウウウウウウウウウウウウ!!!!!

 




はい!!!これにて、幽鬼の支配者篇、完結です!!

次回は恐らく明日…お昼か遅くてもまた夜には投稿致します!!


では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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第4章 楽園の塔篇
24話 星霊王とシクル


はい!!朝の投稿にありつけました、ありがとうございます!


今回から楽園の塔篇を予告通り、スタート致します!


ほんの少し、主人公の力や能力を変えました!(追加してます)

具体的な説明は後書きにて、記載させていただきます

では、最後までお付き合い、お願いします!


シクルが聖十の称号を受け取ってから数週間…妖精の尻尾では依頼の受注が再開されていた。

 

 

「皆ー!!今日から仕事の受注再開よー!

仮設のカウンターだけど…ガンガン仕事やろー!!」

 

ミラの掛け声と共に、「おー!!」と声を上げ、早速依頼書を受注し出ていく仲間達。

 

「何あれ…いつもはお酒飲んでしてるだけの癖に…」

やる気に満ちる面々を眺め、仮説のカウンターでジュースを飲み呟くルーシィ。

 

その隣でシクルもジュースを飲んで寛いでいる。

 

そして、仲間内を見渡し、ルーシィはふと首を傾げ、シクルに問いかける。

 

「そういえば…ロキが見当たらないけど…シクル、知ってる?」

 

ルーシィの問いかけにシクルはピクッと反応を一瞬見せ、すぐに平常心を取り戻し、首を横に振る。

 

「さぁ?私も最近見てないけど…どうして?」

 

「うん…この前のファントムとの戦闘の時、あたし鍵落としちゃって…ロキが拾ってくれたって話を聞いたからお礼言いたかったんだけど………」

 

そっかぁいないんだぁと呟くルーシィを見つめ、ふと疑問を持つシクル。

 

「ねぇ?ルーシィはいいの?」

 

「ふぇ?」

考え事をしていたルーシィは首を傾げ、シクルを見つめる。

 

「今月…もうお金ないんじゃない?家賃…」

シクルがそう言うとルーシィははっ!と我に返り立ち上がる。

 

「そーだったぁ!!あたし今月ピンチだったんだ!!ナーツーーーー!!!」

 

ルーシィはそう叫び、ナツを探し飛び出していく。

 

その後ろ姿を見つめ、はぁとため息をつくとシクルは立ち上がり、ミラに「ご馳走様ー」と言うと出掛ける。

 

ちなみにルージュは寝ていた為、ミラに預けた。

起きた時帰りが遅かったら先に家で待っていて、と伝言を伝え…

 

シクルは暫くマグノリアの外れにある森の中を歩いていた。

 

そして、奥の方まで歩き、進むと………

 

見知った男の弱々しい背中が見えてくる。

 

 

「………ロキ」

 

「っ!あぁ…シクルか…よく、ここが分かったね?」

シクルが声を掛けたのはルーシィの探していたロキ本人だった。

 

振り返ったロキの顔色の悪さを見て、シクルは顔を少し歪め、ゆっくりとロキの隣に歩み寄る。

 

そして、ロキの視線に合わせしゃがみ込むとその前髪を掻き分け、その瞳を見つめる。

 

「な…何だい?」

 

「ロキ………後、どれくらいなの?」

シクルの問いかけに「え…」と驚愕の表情を浮かべる。

それに構わず、シクルは再び問いかける。

 

次は、更に明確に………

 

 

「…その身体…もう、限界なんでしょ?

あと………何日持つの?ロキ………

 

 

ううん………レオ…」

 

久方ぶりに呼ばれたその名にロキはふっと弱く笑みを浮かべる。

 

「驚いたな…知ってたんだ?………いつから?」

 

「初めはなんとなく…確信はなかったけど…他とは違う気はしてた………確信を持てたのはルーシィの星霊を見てから…同じ気配、匂いがした………」

 

シクルの答えを聞き、ロキは乾いた笑い声を出し、そして………諦めた瞳をシクルへと向ける。

 

「ごめん…でも、このことは誰にも言わないでくれないか?僕が…星霊だということは…」

頼む…と、言うロキを見つめ、シクルは「…分かった」と頷いた…

 

「ありがとう…シクル………じゃあ、僕は行くよ」

そう言い、ロキはふらつきながらシクルの眼の前から去っていく。

 

その後ろ姿を見つめ、シクルはふぅ…と小さくため息をつくと、空を見上げる。

 

空には少し欠けた月が昇っていた…

 

「…なんで諦めてんのさ………ロキ」

 

 

私は絶対………仲間を無闇に消えさせたりなんか…させない。

 

 

ロキと別れ、暫く空を見上げるとルージュが待っているだろうと思い、ゆっくりと自宅へと戻る為足を運ぶ。

 

 

その時、視界に金の髪が揺らめき、知った匂いが通ったことに気づく。

 

「…ルーシィ?」

シクルの声にはっと気づいた様子のルーシィは、振り返ったその頬を涙で少し濡らしていた…。

 

「シクル…」

「どうしたの?なんで…泣いてるの?ルーシィ」

 

シクルは小さく微笑みながら、地面に腰掛けるルーシィの隣に座った。

ルーシィは俯き、嗚咽を耐えるとゆっくりと小さな声でシクルに語り始めた。

 

少し前にロキと会ったこと………

 

そこで、ロキの命があと少しだということ…

 

でも、結局それはロキの冗談でからかわれてたこと………

 

それが悲しくて、悔しくて、ロキの頬を平手打ちし、走って今、ここに至るという…。

 

ルーシィの話を聞いてシクルは深く、呆れたため息をつく。

 

「あーもぉ…(あのバカ…何やってんのよ)」

 

シクルは涙を流し、落ち込むルーシィを見て、その頭を撫でる。

 

「…シクル?」

 

「あー…まぁ、あのね?あんまりロキを責めないであげて?彼も…ほんとは苦しいんだよ…」

 

シクルの言葉の真意がいまいち良く分からないルーシィは首を傾げ、シクルを見つめる。

 

「んー…まぁ、なんて言うか…彼のほんとの心を………聞いてあげて?ルーシィなら…きっと…彼の声が聞こえる筈だから………」

 

 

「え………あ、う…ん?」

この時、ルーシィはその言葉の意味を考えるも結局分からなかった。

 

この後………まさか、ロキが妖精の尻尾を抜けてしまうなんてーーー

 

翌日ーーー

 

ギルドでやや不機嫌なオーラをだし、過ごしていたルーシィの下に慌てた様子でグレイが走ってきた。

 

 

「ルーシィ!大変だ!!ロキが…ロキが妖精の尻尾を出て行っちまった!!!」

 

「え…えぇ!?な…なんでっ!?」

グレイから告げられたロキの脱退にルーシィは立ち上がり、驚く。

 

「俺だって知らねぇよ!!けど!皆で今必死に探してんだ!!ルーシィ!なんか心当たりねぇか!?」

 

あいつここの所様子おかしかったからな…

と、呟くグレイを他所にロキのことを考える。

 

確かに…最近のロキはどこかおかしかった…昨日なんて尚更…

 

そう言えば………

 

自身の持つ鍵の一つ、“南十字座のクルックス”に昨夜頼んでいたロキと星霊魔導士についての情報とシクルの言った言葉を思い出す。

 

 

そして………一つの真実に辿り着く…。

 

「まさか………まさかっ!?」

ルーシィは思い当たる場所へと、ギルドを飛び出し走り出す。

 

 

ルーシィが向かった場所…そこは、ロキと関係のある星霊魔導士の墓…“カレン・リリカ”と言う女性のお墓の前だった。

 

そこには、弱々しい背中が今にも消えてしまいそうな状態で立っていた…。

 

「ロキっ…やっぱり…ここだったんだ」

 

「…ルーシィかぃ?どうして…ここへ?」

 

ロキは振り返ることなく、ルーシィに問いかける。

 

ルーシィは自身の推測を語り始める。

 

 

ロキは星霊…本当の名を“獅子宮のレオ”であり、以前は今は亡き“カレン・リリカ”の星霊であったこと…

 

それを聞いた時、ロキは乾いた笑みを浮かべ、初めてルーシィを振り返った。

 

「そうだね…僕は確かにカレンの星霊だった…そしてカレンが死んでから3年間…僕は星霊界に帰れずにいる…」

 

「3年!?まさか…1年でも有り得ないのにっ!?」

 

その事実にルーシィが驚愕し、目を見張っていると…ロキの身体から光が出始める。

 

「ロキっ…それっ!」

 

「あぁ……もう…限界なんだ…力が、出ない…」

ロキの諦めたような声…いや、もう、全てを諦めているロキの様子にルーシィはその肩をつかみ、必死に呼びかける。

 

「あたし!!助けてあげられるかもしれない…!教えて…帰れなくなった理由ってなんなの!?あたしが門を開けてみせる!!」

 

「無理だよ…僕はもう…星霊界へは戻れない…」

 

ロキは星霊としての掟を破ってしまい、門が開かなくなってしまったことを告げた。

 

 

だが、それでもルーシィは諦めず…

 

 

「いやっ…あたし、諦めない!!絶対助けるから!!」

 

「よせ…もう止めてくれ!!ルーシィ!」

 

ロキが止めるその声を聞かず、ルーシィはロキに抱き着く。

そして、ルーシィの身体はロキと同化し始めていた…。

 

 

「もういいんだ!!このままじゃ…君まで消えてしまう!!

 

これ以上僕に…罪を与えないでくれぇえええ!!!」

 

ロキのその悲痛な叫びにルーシィの瞳から涙が流れる…。

 

「何が罪よ!?そんなのが星霊界のルールなら…あたしが変えてやる!!」

 

 

その瞬間、ルーシィの身体から膨大な魔力が溢れ出る。

 

だが、それでも…星霊界を繋げる力はなくルーシィの身体から力が抜けていく…

 

 

そして、ルーシィの意識が途絶えかけた…その時………

 

 

「星霊界…ううん………

 

 

星霊王を呼ぶんだよね?力、貸してあげる」

 

 

 

透き通るような綺麗な声が響く…。

 

 

それは、ルーシィもロキも聞き覚えのある声…

 

「「っ…シクルっ!?」」

 

「やっほ!やっぱ気になって来ちゃったわ」

テヘッと笑みを見せると、シクルはルーシィとロキの肩に手を添え…呪文を唱え始める。

 

 

「【我、星霊王の門を開きし者

 

 

我が名 月の歌姫の名の下に その姿を現さん】

 

 

星霊王 召喚」

 

呪文を唱えている時、シクルの髪色が銀色へと変化…そして………

 

 

ズドォオオオオオオオオオオン!!!!!

 

 

大きな音と共に………星霊王…降臨…

 

 

「ま…まさ、か………」

 

「これって………」

 

「………ニッ」

 

現れた巨体を前に見上げ、ニッコリと笑みを浮かべるシクルの横では呆然と目の前の光景に目を見開くロキとルーシィがいた。

 

「「星霊王っ!?」」

 

 

《……久方ぶりだな…月の歌姫………》

 

「久しぶり、星霊王…まぁ、今日用があるのは私じゃないんだけどね」

シクルはそう言い、横にいるルーシィへと視線をやる。

 

 

ルーシィは未だに呆然とし、目の前の光景が信じられずにいた。

 

「な…なんで………シクルが…星霊王を呼べるのッ!?」

 

「んー?あー…それはまた後でね?今は………

 

 

もっとやるべき事があるでしょ?」

 

シクルのその言葉にはっと、ルーシィは我に返りロキを見る。

 

ロキは先ほどのように身体から光を放ち消えかかってはいるが、数分前から体の消滅が進んでいないように見えた…。

 

 

「レオのことは任せて…ルーシィはさっさと要件言っちゃいな?」

 

シクルの言葉に強く頷くと星霊王を見上げる。

 

 

そんなルーシィを見つめ、再び拒絶の声を上げるロキ…

 

「もういいルーシィ!!僕は誰かに許してもらいたいんじゃないっ…罪を償いたいんだ!!このまま消えたいんだ…!!」

 

ロキの言葉を聞いた時、ルーシィは目を見開き叫ぶ…。

 

「そんなの…だめぇえええええええええっ!!!!」

 

ルーシィが立ち上がり叫んだ瞬間、ルーシィの背後に星霊たちが現れる。

 

 

それは一瞬のことだったが契約している全星霊を呼んだことにより、魔力が一気に持っていかれるルーシィ。

 

「罪なんかじゃないわ!!仲間を思う気持ちは…罪になんかならない!!」

 

星霊たちは消え、ルーシィは前のめりに倒れそうになるが、その身体をシクルが受け止める。

 

「あたしの“友達”も…皆同じ気持ちよ…

 

あんたも星霊なら………ロキやアリエスの気持ちが、分かるでしょう!?」

 

怒声を上げるルーシィに慌て、声を上げるロキ。

 

「なんて無茶なことを!!一瞬とはいえ…死ぬ可能性だってあるんだぞ!?」

 

 

「ま、確かにルーシィの魔力じゃ身体が耐えられなかったかもしれないけど…私が死なせる訳ないでしょ?」

ロキの言葉を聞き、ふっと笑みを見せたシクルはフッと星霊王を見上げる。

 

「どう?星霊王………もういいんじゃない?獅子宮のレオは十二分に罪を償った………

 

そしてここには、こんなにも優秀な星霊魔導士がいる…彼女の思いを………無下にするなんて、出来ないわよね?」

 

 

シクルの言葉にうむと星霊王は頷くと…

 

ルーシィとロキを見て言った。

 

 

《古き友にそこまで言われては…間違っているのは、“法”やもしれぬな…》

 

「「っ!!」」

 

「…なら」

 

 

《うむ…同胞アリエスの為に罪を犯したレオ…そのレオを救おうとする古き友…その美しき絆に免じ、この件を“例外”とし、レオ……貴様に、星霊界への帰還を許可スル》

 

星霊王のその言葉にルーシィはニッ!と笑顔を浮かべ、ロキは首を横に振っている。

 

 

「いいとこあるじゃない!髭オヤジ!」

 

ぐっとルーシィが親指を立てると星霊王もまた、ニヒッと笑みを浮かべた。

 

《冤罪だ…星の導きに感謝せよ》

 

そう言い、星霊王は徐々にその姿を消していく…。

 

「ま、待ってください…僕は…僕は!」

 

消えていく星霊王にロキが必死で声を上げる。

が、星霊王はロキに視線をやると…ルーシィを指し、言う。

 

 

《…それでも、罪を償いたいと願うならば…

その友の力となり、生きていくことを命ずる…

 

それだけの価値がある友であろう…?

 

 

命をかけて、守るがよい》

 

星霊王はそう言うと最後にシクルへと視線をやり…

 

《そして、歌姫よ………》

 

「んー?なぁに?」

 

《…また、いつか…そなたの歌を、聴かせてくれ…そなたの声は…実に、落ち着く…》

 

星霊王にそう言われるとニッコリと笑みを浮かべ、「りょーかい」と答える。

 

その答えに満足を見せた星霊王は完全に消え、星霊界へと帰っていった。

 

 

こうして、ロキことレオは無事星霊界へと帰ることを許され、又、ルーシィの星霊として契約を交わし、力の回復の為星霊界へと戻った。

 

 

最後に、綺麗な笑みを浮かべ…

 

 

「でっ!?シクル!!!あなた、どーして星霊王を呼べるのッ!?そんな魔法聞いたことないわよ!?」

 

ギルドへ戻るとルーシィに問い詰められるシクル。

 

だが………

 

 

「ん?んー…ルーシィ…な・い・し・ょ♡」

 

口の前で人差し指を立てウィンクし、そう言った。

そして、シクルはルージュを連れ、ギルドを出て行く。

 

「なっ!ちょっと!?教えなさいよぉおおおおおおおおお!!!!」

その後ろ姿へ向け、ルーシィの叫び声が響くのであった…。

 

 

やっと訪れた平穏…だが、その時は………

 

 

刻一刻と迫っているのであった………

 

 

 

「………エルザ……シクル………さぁ………

 

 

 

楽しいゲームの始まりだ………」

 

 

 

 

 

余談ーーー

 

シクルがギルドを出ていった後、ギルド内では暫く男共が使い物にならなかったという…

 

一部のもの曰く、あんな顔みたら誰でもノックアウトだちくしょう!!とのことであった…はて、張本人は気づいているのやら……

 

 




はい!では少し追加の設定を早速説明させていただきます!


シクルは星霊王を呼び出すことが可能です。

これも歌魔法の一つである特定の歌を唱えると呼び出すことが可能。

他の星霊達も例外はないが本人は呼んだ後無理に門を開けるため、魔力がごっそりと持っていかれ疲労が溜まることから滅多なことがない限りは呼ばない。

と、こんな感じでございます!

では、また次回…今日の夜か又は明日の昼頃になるかと思います!
最後までお付き合い、ありがとうございます!


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25話 出発!あかねリゾートへ!

はい!!夜の投稿となりました、25話…


まだ戦闘までは行きません!!結構ナツとの絡みなどあります!!

では、最後までお付き合い、お願いします!


ロキがルーシィの星霊として契約をした数日後、ロキは妖精の尻尾の面々に挨拶と、ちょっとした用事のため人間界に来ていた。

 

 

「星霊だぁ?」

 

「ロキが!?」

 

ナツとグレイの驚きの声がギルドに響く。

 

「うん…まぁ…そういうこと」

ルーシィに迫りより声を上げる2人に少し引きながらも頷くルーシィ。

 

すると、はっとナツは後方のカウンターでミラ特製パフェを堪能していたシクルを振り返り、突然詰め寄った。

 

「シクルーー!!お前!!知ってただろ!?」

 

「ふぇ?」

いきなり駆け寄ってきたナツに目を点にし、ぱちくりと瞬きをしながら首を傾げる。

 

「ロキの事だ!!知ってたろ!?」

ナツのその言葉であぁ、と納得するシクル。

 

「あー星霊だったってこと?うん、知ってたよ?」

 

「ンで言わねぇんだよ!?」

 

「だって口止めされてたし?」

シクルはそう言ってルーシィ達の傍にいるロキへ顔を向け、ね?と合図を送る。

 

「の割には…ルーシィに話してたみたいなんだけど…」

苦笑を浮かべ、誰にも言わないって約束だったのに…とぶつぶつと呟くロキににゃははと笑いながらシクルは言う。

 

「んー?だって私、確かにロキが“星霊”だってことは黙っておくとは言ったけど………

 

別にロキが危ないことを誰にも話さないとは言ってないもんねー…はい、別に約束は破ってません!」

 

シクルはそう言うと再びパフェを食べることに集中し始めた。

 

「あ!なぁシクル!ちょっとくれよーそれ」

ふと、シクルが美味しそうに頬張っているパフェが気になったのか、目をキラキラと輝かせ催促してくるナツ。

 

シクルはえー…と少し膨れっ面になり………

 

目を輝かせ、まるで餌を待つ犬の様なナツを見て、プフッと笑うと………

 

「しょーがないなぁ…一口だけだよ?」

シクルの言葉によっしゃ!と喜びを見せるナツ。

 

が………

 

「………シ、シクル?これ…は?」

 

「んぇ?だって食べたいんでしょ?はい

 

あーーん」

 

ナツの目の前には首を傾げ、アイスの乗ったスプーンを自身の口へ向け、差し出してくるシクル………恐らくシクルは無自覚だろう…

 

だが………

 

 

「っ……///!?(つかそれ…間接キ…ス…!!)」

ナツは思い至った事実に元々赤かった顔を更に赤くさせる。

 

「ねー早く!腕疲れてきちゃった」

むぅと頬を膨らませるシクルにナツはほとんど、ヤケクソだ!と自身に言い聞かせ…

 

「あ、あーん……///」

食べた。

 

「ど?美味し?美味し?ミラ特製だよ!」

無邪気に笑い、感想を聞いてくるシクルに限界まで顔を赤くしながら、鼻を抑え、小さくコクコクと頷くナツ。

 

 

その様子を見ていたルーシィ達は………

 

 

「なにあの甘い空気…」

 

「てか、どんだけ鈍感なんだ…シクルのやつ」

 

「あんな笑顔でされたら…そりゃ誰でもあーなるよねぇ」

 

「あいぃ…」

 

「ま、そこも彼女のいいところではあるけどね」

上から、ルーシィ、グレイ、ハッピー、ルージュと続き、最後にロキが笑いながら、そう続いた。

 

ふと、グレイはロキに視線をやり、

「そういやお前…もう体調は大丈夫なのか?」

と、問いかけた。

 

「んー…まぁ、まだ完全じゃないんだけど…

みんなに挨拶したくてね…それに………」

と、言葉が続くとルーシィの腰を掴むロキ。

 

「ルーシィの顔も、早く見たかったしね」

 

「んなっ…///!」

ルーシィは一瞬で顔を赤くし、慌てる。

そんな様子を見て………

 

「「でぇきてるぅ」」

と、ハッピーとルージュがお馴染みの言葉を発する。

 

「うるさいっ!!巻き舌風に言うな!」

 

「じゃ、そーいうわけで今後のことを2人きりで話し合おう!」

どーいう訳なのか、ロキはそう言うとルーシィを横抱きにし、抱える。

 

「ちょちょちょっ!?もう!」

ルーシィは恥ずかしさのあまり耳まで真っ赤にしながらもロキの頬に触れ言う。

 

「あんたもう帰りなさい…?まだ体調も…完全じゃないんでしょ?」

眉を少し下げ、心配そうに言うルーシィを見つめ、ロキは小さく苦笑を浮かべるとルーシィを下ろし、ポケットへ手を入れる。

 

 

「分かった…でもその前に…はい、ルーシィ」

 

「ん?何これ?」

 

「あかねリゾートのチケットだよ

もう僕には必要なくなったからね…あげるよ

 

君たちには色々とお世話になったし…」

ロキがそう説明すると話を聞きつけたのか、パフェを食べ終えたシクルが飛んでくる。

 

「あかねリゾート?へぇ…楽しそぉ!!」

 

「シクルの分もちゃんとあるよ

エルザにも、さっき渡しておいたから…皆で楽しんでおいで」

ロキからチケットを貰ったシクルは喜んだ。

 

「やったー!一度行ってみたかったんだー!」

 

シクルを中心にナツたちもリゾートの話で盛り上がっていると………

 

 

「貴様ら、何をモタモタしている?置いていかれたいのか?」

 

既に準備万端のエルザがいた。

 

 

「「気ぃ早えよ!?」」

 

「また凄い荷物だねぇエル…それと今日は時間的に行けないから明日の早朝出発にしよ?」

 

シクルの言葉にエルザは「そうか…」と頷き、納得したようで結果、チケットを受け取った次の日、早朝にマグノリア駅に集合となった。

 

 

そして、翌日………集合時間きっかりに全員集合し、あかねリゾートへと出発。

 

いつも通り、シクルは特性の酔い止め薬を飲み、ナツは乗り物酔いに苦しみ、シクルの膝で目的地につくまで眠っていた。

 

 

当たり前のようにナツへ膝枕をしているシクルを見て、ルーシィはふと疑問に思う事があった。

 

「ねぇ、シクル…シクルっていつから乗り物乗る時ナツに膝枕をしてたの?」

 

「ふぇ?んー…いつだろ?………気づいたらこれが定着してたかな?あぁ、でも始まりはナツが大怪我した時かも?」

 

「ナツが?」

ルーシィのオウム返しにシクルは頷き、ナツを見下ろし語り出す。

 

「昔ね……まだ私が妖精の尻尾に入ったばかりの時、当時私はまだ魔力を上手く制御できなくて…ちょっとした事で感情が高まって魔力の暴走が起きてしまったの………

 

その時、ナツがね…私を止めてくれたんだけど……

 

暴走する魔力の中に入ってきちゃったから身体中ボロボロになっちゃって…傷は治したけど、暫く気絶しちゃってたから…傷つけちゃったお詫びと助けてくれたお礼も兼ねて…

 

が初めてだったかな?」

 

「へぇ…そうだったんだ………」

ナツらしいな…と呟くルーシィに微笑みながらシクルはナツの髪を研ぐ。

 

暫く列車が走ると目的地、あかねリゾートへと到着。

 

まだフラフラとしているナツを介抱しながらホテルへ一度行き、荷物を置いてから海へと向かうシクル達。

 

 

その間にナツも復活。皆で束の間の休息を楽しむ。

 

ナツとグレイはどちらが早く泳げるか競ったり、ハッピーとルージュはシンプルに水のかけっこをして遊んだり、シクルはルーシィとエルザと共に日光浴等をし楽しんだ。

 

(ちなみに、シクルの水着姿を見てナツやグレイは顔を赤くしたとかなんとか…)

 

海水浴を始めてから暫く経った頃、エルザの「少し休憩にしよう」の言葉に全員集まり、日陰で休んでいた。

 

 

「はー!こんなに遊んだの久しぶりだなぁ!」

んー!と、背伸びをしながら言うルーシィ。

 

「最近はギルドの再建とかで慌ただしかったしな」

ルーシィの言葉に頷き、続くグレイ。

 

「んー…ねぇ、シクルゥ…喉乾いたァ」

「ルージュ?」

 

かいた汗をタオルで拭っていると隣で寝転んでいたルージュのボソリとした呟きを聞き取り、首を傾げるシクル。

 

「何か買ってこよっか?」

シクルの問いかけに「あいぃ…」と頷くルージュを見て、クスッと笑うと立ち上がる。

 

「ナツたちもなんか買ってこよっか?」

 

「んァ?あー…売店行くなら俺も行くぞ?」

シクル1人だと心配だ…と、小さく呟くナツの声はシクルに届かず、シクルはフフッと笑うと手を振り、断る。

 

「大丈夫だって!飲み物買うだけだもん!1人でいいよ!じゃ、いってきまーす!!」

そう言い、売店へと走っていくシクルの後ろ姿をナツたちは見送るが………

 

 

「て!!シクル!!何か羽織っていかんか!」

エルザの叫びが響くがシクルには届かず…

 

「だァ!たくっ、俺ちょっと行ってくる!」

 

「お願いね、ナツー!」

 

「シクルのやつ…ちょっとは自覚しろっての…」

 

「しょうがないよ…」

 

「シクルだもんねぇ…」

 

シクルの後をナツが追い、ルーシィやグレイは苦笑を浮かべた。

 

 

 

売店で目当ての飲み物を人数分買えたシクルは、袋に飲み物を入れてもらいナツたちの下へと戻る途中だった。

 

「ふぅー…こんなゆっくりするの久しぶりだなぁ………」

 

 

最近はファントムとのゴタゴタとか…色々あったからなぁ…

 

こんな日もたまにはいいな…と、心の中で呟きをしていると、シクルの目の前に影が差した。

 

「よォ、嬢ちゃん…1人か?」

「…?」

知らない男の声に、疑問を持ちながらも前を見ると…

 

 

いかにも、ナンパです!と言った様子の男が5.6人シクルの目の前にいた。

 

「(うっわ…めんどくさ…)いえ…連れがいるんで」

シクルは男達を見ると嫌そうな表情をし、断り、すぐに立ち去ろうとする。

 

 

が………

 

ガシッーーー

 

「っ!」

シクルの腕をリーダー格であろう男が掴んた。

 

「まぁ待ってよ…俺たち暇なんだよ…遊んでくんね?」

「私は暇じゃないんで…離してくれませんか?」

 

てか触んないでよ…

 

心中、毒づきながら柔らかに断りを入れるも…他の男が次はシクルの肩を掴んだ。

 

「そう言うなってーなぁ?どうせ暇でしょ?遊ぼーよ」

「だからっ…(一般人だから大人しくしてんのに…ぶっ飛ばしてやろうかクソ共…)」

 

シクルのイライラが次第に募っていき、それに気づかず、シクルの肩や腰にも男達の手が回り、逃げ道が見た目無くなってしまったシクルははぁ…とため息をつき………

 

魔力を右手に集め、威嚇のために地面を殴ろうとした…その時ーーー

 

 

「おい、てめぇら………俺のシクルに何してんだ…?あァ?」

 

シクルにとって…聞き覚えのありすぎる声が届く。

 

 

「あ?誰だテメェ…」

リーダー格が動いた拍子に見えたその桜色の頭………

 

「…ナツ」

シクルは無意識にその顔を見た時、ほんわりと笑みが表情に浮かんだ。

 

 

ナツはシクルに群がる男達の手を険悪な表情で睨むと…

 

 

「シクルに触ってんじゃねぇよ…シクルは俺んだ………さっさとどっか行けや」

「ちょ…///(いつ私がナツのものになったのよ!?)」

 

ナツの言葉に頬を赤くしながらも俯き、恥ずかしさが取り除けないシクル。

 

が、男達はナツのその言葉に逆上し、ナツへといきなり殴り掛かる。

 

 

その拍子にシクルは解放され…男達から離れたのをナツは確認すると、ものの数秒で男達をのした。

 

 

「へっ…俺に勝とうなんざ、100年早えんだよ」

ナツは地面に倒れ伏し、目を回す男達にそう吐き捨てると、シクルに持ってきたパーカーをかける。

 

「んえ?ナツ…?」

「たく…自覚なさすぎんだよ、シクルは…

1人でンなとこ歩いてりゃ声かけられんに決まってんだろ…ましてや水着姿でなんか…」

 

ナツの言葉に意味がわからないと首を傾げるシクルにナツははぁとため息をつき、「分かんねぇならもーいいや」と言った。

 

 

ナツの言った真意は分からない…が………

 

「ナツ!」

「んァ?」

 

シクルは振り返ったナツに満面の笑みを見せ………

 

「ありがと!」

と言った。

ナツは暫く放心し、そしてボンッ!!!と大きな音を立て、耳まで顔を真っ赤にして、「ぉおお…おぅ…」と壊れたロボットのように頷いた。

 

ナツは気を紛らわすように、シクルの持つ飲み物が入った袋をシクルの手から奪うと、代わりに持ち始める。

「え?ナツ?」

 

「俺が持つ」

「え?いいよ…そんなに重くないし、持てるよ?私」

シクルがそう言うも、ナツは袋をシクルに渡すことはなく…

 

「いいだろ…俺が持ちてぇんだ」

「ふぅん……まぁいっか…ありがとね!」

なんで持ちたいんだかは分からないけど、と言った様子でナツの隣を着いて歩くシクル。

 

ふっとナツは気づかれないように隣を歩くシクルをちらっと見る。

 

そして、ふいっと目を逸らすと頬を赤くする。

 

「っ…(しゃーねぇだろ…シクルだって女なんだから…持たせる訳にもいかねぇだろ…)」

 

んな事言ったらキレられそうだから言わねぇけど…と、心中でぶつぶつと呟きながらもエルザ達の下へと戻るナツとシクルであった。

 

 

 

そして、結局エルザ達の下へと戻った時、エルザからの逆鱗をくらい、シクルは暫く正座で説教を受けた。

 

エルザ曰く、自覚が無さすぎる!!との事だった…

 

「そんなにないかなぁ?」

青い青い空を見上げ、呟くシクル。

 

 

 

あの、説教のあと、休憩も終わり、ホテルに戻るまで海でめいっぱい遊んだシクル達……

 

 

 

そして、この後………まさか、あんな大事件に巻き込まれるなど………

 

 

 

この時、シクル達は思いもしなかった………

 

 

 

 

「時は来た……エルザ…君を…迎えに行くよ…」

 

 

 

ククク…と、暗闇に響く怪しげな笑い声……

 

 

「そして………月の歌姫………その魔力、必ずや………」

 

 

 




はい!25話、無事投稿にありつけました!!ありがとうございます!!

今回は、ほんのりと過去のナツとシクルの出来事も出ましたね…

この出来事も今後少し、重要になるかと思います!!

では、次回は明日!投稿致します!!
最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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26話 嵐の予感

ギリギリ!!投稿できました!!


間に合ってよかったァ!!

では、最後までお付き合い、お願いします!!


 

その日の夜ーーー

 

 

 

シクルは1人、夜の海で空を眺めていた。

 

 

「…こんなゆっくりした日を過ごすのは…ほんと、久しぶりだなぁ………」

 

 

ふぅと息をつき、満月を見て、目を瞑る。

 

 

脳裏に浮かぶは今日、ナツやルーシィ達と沢山遊んだ記憶………

 

ナツとグレイが喧嘩をして………

 

エルザがそれをやりすぎの力で止めて…

 

ルーシィやハッピーはその光景を見て震え、

 

シクルとルージュは笑って………

 

 

「…楽しかったなぁ」

 

フフッと笑うシクル。 不意にーーー

 

 

 

“お前に幸せ等ないんだよ?なぁ…愛しの……”

 

 

「っー!!!」

急に蘇るその声にビクッと肩を揺らし、呼吸を荒らげる。

 

「っ…は………はぁ…ふぅ………」

 

呼吸を落ち着かせ、再び空を見上げると…満月が雲に隠れ、見えなくなっていた…

 

「………やだなぁ…(嫌な風………)」

 

これが起きると………あまりいいことは起きない………いつもそう…

 

「…お願いだから…当たらないでよ………」

そう呟き、ふっと顔を俯き、暫くぼぅっとしていると…

 

 

「シクルーーーーー!!!」

 

「ん?」

 

聞き覚えのある声に、シクルは顔を上げ、後ろを振り返る。

 

すると、そこには予想と違わずルーシィが走っていた。

ルーシィはシクルの前まで来るとシクルの手を握り、少し興奮気味に笑顔を浮かべ言う。

 

「今ね!ホテルの地下で皆とカジノで遊んでるんだ!!シクルも行かない?」

 

「カジノ?へぇ…エルも行ってるの?」

 

シクルが問いかけると「うんっ!」と頷くルーシィ。

きっとナツやエルザにシクルを探して連れて来るように等、言われたのだろう…

 

「分かった、私もカジノ少し興味あったから…行ってみようかな」

 

シクルはそう言うと、立ち上がり、ルーシィに引かれ、カジノルームへと向かった。

 

 

 

カジノに着くとシクルは目を輝かせた。

「すっごーい!!楽しそうだね!!」

「でしょ!!ね、シクルも遊ぼ!」

 

ルーシィの言葉に「うん!」とシクルも頷くとシクルはどのゲームで遊ぶか台を見回し、考える。

 

すると………

 

 

「おぉー!!!」

 

「ん?」

大きな歓声が響く。

シクルは不思議に思い、そちらへ行くと………

 

 

「エル?………うわ」

歓声の大元は仲間のエルザだった。

そして、エルザは今ポーカーゲームを行っているようで、その手元を見ると………

 

「ロイヤルストレートフラッシュ………えぐ」

 

しかもエルザの勝敗履歴を見ると………

 

20連勝はしているだろうその成績に………

 

 

「………新たな才能の開花…?」

と、苦笑を浮かべ、呟く。

 

シクルに続き、エルザの成績を見たルーシィも…驚いた表情を浮かべ、声を上げる。

 

「すごいエルザ!!」

 

「ふふん、今日はついてるな」

「とんでもなくね…」

 

エルザの言葉にシクルも賛同し、楽しんでいるエルザを見てほんわりと笑みを浮かべる。

 

 

「ディーラーチェンジだ」

不意に、エルザの対戦相手が褐色の肌をした若い男に変わった。

 

「良かろう。今なら誰が相手でも負ける気はせんぞ」

得意気に言うエルザにシクルとルーシィもクスクスと笑い、「だね」と答える。

 

「だったら…特別なゲームを楽しまないか?

賭けるのもコインじゃない」

 

エルザの言葉を聞き、目の前の褐色肌の若い男がニヤッと含み笑いを浮かべながらそう言い、5枚のカードをエルザの前に投げ出す。

 

 

そこには数字やマークではなくアルファベットでD・E・A・T・Hと示されていた。

 

「…これは(死?なんで…)」

 

シクルが脳裏でその単語の意味を考えていると…エルザの様子がほんの少しおかしいことに気づく。

 

相手を見て…少しだけ、震えていた………。

 

「命…かけて遊ぼ?………“エルザ姉さん”」

目の前の若い男にそう呼ばれるとビクッと肩を揺らすエルザ。

 

「まさか………ショウ?」

「………え?」

2人のやりとりに何を話しているのか分からない様子のルーシィと、何となく何かを察し、そしてほんの僅かに警戒を強めるシクル。

 

「久しぶりだね………姉さん」

 

「無事…だったの、か?ショウ………」

未だに目の前の若い男を見つめ、呆然としているエルザ。

 

ここまで動揺しているエルザなんて…

「…(初めて見た………)」

 

 

「無事?」

目の前の若い男の目つきがほんの少し変わり、その瞬間エルザが再び肩を揺らし、顔を俯く。

 

エルザの様子に只事ではないとシクルは思い、「エル…」と声をかけ、肩に手を置こうとした…その時ーーー

 

 

 

会場内の電気がすべて突然消え、暗闇が訪れた。

 

「え!?何!?暗っ!?」

「な!何が起きた!?」

 

エルザとルーシィの声が響く。

シクルもまた、警戒を強め、辺りに注意を回す。

 

すると…

 

パァンッ!!

 

「っ!!(銃声!?どこから…)」

突然響いた銃声音に驚きが隠しきれないシクルの耳に次に入ったのは………

 

 

「きゃあ!?」

ルーシィの悲鳴だった。

 

「「ルーシィ!?」」

エルザとシクルの声が被る。

 

シクルが悲鳴の聞こえた所へ駆け寄ろうとした時だ………

 

ゾワッーーー

 

背筋を何かが走る。

「っ!!(この感じ…魔法!?)」

 

背筋を走る何かを感じたものが魔法であると気づいたシクルはその瞬間、向けられる魔法を解除する。

 

 

そして、ルーシィの悲鳴が聞こえた後、徐々に暗闇はボンヤリと明るくなっていく…。

 

「ルーシィ!どこだ!?」

明かりがつき始めると近くにいたはずのルーシィの姿が見えず…シクルとエルザはその姿を探す。

 

目の前にいたショウという男の姿もなかった…。

 

2人でルーシィの名を呼び叫んでいると……

 

《エルザ!!シクル!!》

ルーシィの声が足元から響く…。

 

2人が足元を向くと…ルーシィがカードの中に閉じ込められていた。

 

「ルーシィ!?どうなっているんだ!?ショウはどこに…!!」

 

「なんでカード…?」

 

エルザは既に混乱で頭が回らない様子が見られ、シクルはルーシィのその姿に苦笑を浮かべていた。

 

「こっちだよ、姉さん」

 

エルザとシクルから少し離れたところからショウの声が聞こえる。

2人が振り返ると………そこに、ショウが立っておりその足元には………

 

 

床一面にカードが落ちており、その中に人が閉じ込められている光景が広がっていた…。

 

 

「なっ!?カードの中に人が!」

「これ…(さっきのあの感じはこれか…)」

 

心中で、気づくの遅れたら危なかった…と他人事のように考えるシクル。

 

「不思議?俺も魔法…使えるようになったんだよ」

驚愕が抜けないエルザにショウが語りかける。

 

ショウの“魔法”という言葉にはっと、ショウを見つめる。

「魔法…?お前、一体………」

 

エルザの問いかけに答えず、ショウは怪しげに笑っているだけ…すると、

 

「みゃあ」

 

ショウの隣に、いつの間にか猫のような少女がテーブルに座っていた。

 

「みゃあ…元気最強?」

その少女を見た瞬間、再びエルザが肩を揺らし、驚く。

 

「まさか…ミリアーナ!?」

ミリアーナと呼ばれた少女。その手に抱かれているそれを見た時、シクルも驚愕に目を見開く。

 

「え…ハッピー…ルージュ!?」

その手には眠っているのだろうか?抵抗もせず青毛と茶毛の猫が抱かれていた。

 

そしてその身体にはチューブのようなものが巻かれていた。

 

その姿を見た時、エルザは声を荒らげる。

「何をしている!?ルーシィも…ハッピーとルージュも!!私の仲間だ!!」

 

「みゃあ…仲間?」

エルザの叫びに目の前の2人が反応を見せる。

 

「俺たちだって…仲間だったでしょ?」

「っ…ぅ…あ…」

ショウのその言葉に数歩下がり、顔を青くしていくエルザ。

 

「姉さんが俺たちを裏切るまではね」

ショウのその言葉に…エルザは、俯き黙ってしまう。

 

そこに………

 

 

「そういじめてやるな…ショウ。ダンディな男は感情を隠すものだぜ…すっかり、色っぽくなっちまってヨ」

 

新たな声が届く。こちらも、エルザは知っているようで………

 

「そ…その、声は…ウォーリー…?」

 

「気付かねぇのも無理はねぇ…狂犬ウォーリーと呼ばれていたあの頃に比べ、俺も丸くなった方だ」

 

「お前も魔法を………」

 

 

「そう驚くことは無い」

またまた聞こえてくる新たな人物の声に…

 

「(てか…どんだけ出てくんのさ………)」

シリアスな場面なのにため息をつきたくなるシクルであった。

 

 

「コツさえ掴めば、誰にでも魔法は使える…なぁ?エルザ」

 

「お前は…シモン!?」

 

 

《エルザっ!!こいつらなんなの!?

 

姉さんって一体…どういうこと!?》

 

カードの中に閉じ込められているルーシィの叫びが響く。

その声にエルザはショウたちを見つめ、話し出す。

 

「…本当の弟ではない…かつての仲間たちだ」

エルザのその言葉にルーシィは目を見張る。

 

「仲間って…どういうこと!?エルザは幼い頃から妖精の尻尾にいたんでしょ!?」

 

「それ以前…ということだ。お前達がなぜここに…とにかく、ルーシィやハッピー、ルージュを解放してくれ…」

 

エルザのその言葉に…ショウたちは嫌な笑みを浮かべ口を開く。

 

「あんたを連れ戻しにサ」

 

「みゃあ」

 

「帰ろう…姉さん」

 

「まぁ、言うこと聞いてくれねぇとよぉ…」

 

ウォーリーはそう呟き、ルーシィに銃を向けた…

 

 

《ひぃいいっ!?》

ルーシィの悲鳴が響く。

 

「よ、よせ!!頼む!!やめてくれっ!!!」

エルザの叫びが響き…そして………

 

ウォーリーの、ルーシィに構えていた右手がその体から消え、離れ…

 

ニヤッと笑うウォーリー………

 

 

その、見つめる先はエルザの背後………

 

 

そして…

 

パァンッーーー

 

銃声が響いた………。

 

 

「っ!?」

 

《えっ》

 

「「「っ!?」」」

 

「何!?」

 

 

ショウやウォーリーたちの狙いはエルザの背後から銃弾…“睡眠薬”を撃ち込むことだった…

 

 

そしてそれは、成功した…そう、思った…

 

が………

 

 

 

エルザの背中は、守られていた………

 

 

「……ふぅ…私を無視して、やらせると思う?」

 

シクルの刀で銃弾は防がれていた………。

 

 

 

「シ、シクル…」

 

「エル、下がって…私の傍から離れないでね?」

唖然とするエルザにニッコリと優しく微笑み、そう言うとエルザを庇うようにショウたちと向き合う。

 

 

「…ほう…お前が、かの有名な…月の歌姫か?」

作戦を邪魔され、ほんの少しイラついている様子のウォーリーがシクルにそう問いかける。

 

シクルは刀を向け、睨み警戒を解かない。

 

「………エルをどうするつもり?」

ショウたちにそう問いただす。

 

 

が、そう簡単に答えるわけもなく…

 

「ふっ…言うわけ…ないだろ!!」

 

「みゃあ!!」

 

「ダンディーに…だぜ!」

 

「…大人しくしてもらおう」

 

 

4人からの一斉攻撃がシクルに向かう。

 

「シクルっ!!」

《危ないっ!!》

 

エルザとルーシィの声がシクルに響くも…

 

シクルは冷静にその動きを見つめ…

 

シュッ ヒュッ フッ サッ ダンッ

 

正確に、動きを見極め最小限の動きで避ける。

 

 

それが数分…続いた………。

 

「ちっ…鬱陶しいな…」

 

「みゃあー…当たらないよぉ!」

 

「流石に手間取るな…」

 

「…」

 

 

4人の方に疲労が見られ始める…

 

「…さぁ………エルのことは諦めて…目的を言う気にはなったかしら?」

 

シクルは息も上がらず、まだまだ余裕があった。

 

4対1の攻防を繰り広げるシクルを見つめ、不安そうなエルザ…

 

「…シクルっ」

 

 

シクルはエルザとの立ち位置を考えながらショウたちを相手していた。

 

離れすぎず、いつでも助けに回れるように…

 

 

このままいけば、向こうが折れ、諦めてくれる…そう、シクルは思いショウたちも僅かに諦めが出始めた………その時だった…

 

 

 

「クククッ………やめとけやめとけ…そいつの相手はお前らじゃ無理だ」

 

「「「「っ!?」」」」

 

「誰だ…?」

 

「………(新手?)」

 

 

一箇所、暗闇から一つの影が現れる…

 

それは、右眼を眼帯で覆っている赤眼の男…その腰には2本の刀が備えてある…。

 

 

 

その姿を見た時…シクルは嫌な汗が流れ、息を呑む…。

 

 

………こいつ………強い…とてつもなく………

 

 

 

「そいつの相手は………おいちゃんがやってやろうじゃん?ナァ?歌姫ヨォ………」

 

 

シクルの目の前に現れた男ーーー

 

 

 

男は、シクルを見つめ、怪しく嗤うと………

 

 

 

刀を一本手に持つ……そして、ほんの少し、振り抜いた………その瞬間ーーー

 

 

 

ブシュッーーー!!!

 

 

 

「っ!?つっ!!!」

突然、シクルの左肩と右脚から血が吹き出した。

 

「!?シクル!!!」

 

《なっ…何がっ!?》

 

 

エルザとルーシィは目の前で起きた光景が理解出来ず…シクルも、左肩を抑え、右膝を床につき痛みに耐えながら、目の前の男を睨み上げる…

 

 

「っっ………(動きが…見えなかったっ!)」

 

シクルは目の前で笑い、刀についた血を舐めとる男を見つめ、冷や汗が溢れる。

 

 

やばい………こいつ……ほんとに………

 

 

 

強いっ!!!

 

 

ゴクッ…と、息を呑む音がその場に静かに響く………

 

 




はい!!26話、終わりました!!


新キャラの名は次回かその次に出るかと………


では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!
次は明日の昼過ぎに投稿予定です!


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27話 攫われるエルザ 楽園の塔へ

はい!投稿致します、thikuruです!!


テンポ遅い気もする…むむむ………


とにかく、第27話…最後までお付き合い、お願いします!!


目の前の男…相手を睨み、冷や汗が頬を伝うシクル。

 

 

「っ…(やばい…こいつ相手に、2人を庇ってじゃあ………分が悪すぎる!)」

 

 

だがエルザと離れすぎるともしもまた狙われた時…助けに行けない可能性がある。

 

「クククッ…やっぱ思った通りだなァ…あんたの血、最高にうめぇなぁ…」

狂気に狂ったかのような笑みを浮かべシクルに告げる男を見つめ、背筋が震える感覚のするシクル。

 

「…血に、美味しいもまずいもある訳?理解出来ない…」

シクルはそう言いながら、右足を庇いつつ立ち上がり、刀を構える。

 

「ほう?立つのか…」

 

「当たり前でしょ…私の後ろには…守らなきゃならない人がいるんだから」

 

「シ…クル」

シクルを見つめ、蒼白い顔がほんの少し回復しつつあるエルザ。

そして、その足元には心配の表情を浮かべたルーシィが。

 

「ククッ!守るべきものねぇ…じゃあ、もうちょっとおいちゃんと遊ぼうカ?」

男は笑いながらそう言いシクルへ、刀を向ける。

 

 

「おい、そろそろ時間が…」

男を見て、声を上げたのはシモンだった。

男は横目でシモンを見て、言う。

 

「わぁってるって…もうちょい楽しませてくれヤァ…久々に…楽しめそうなん………だ!」

語尾を荒らげると一気にシクルへと攻撃を仕掛けてくる男。

 

「!(来たっ…!)くっ!」ガキィンッ!!

一発目を防いでから、何度も刃が混じり合い、激しい刀が混じり合う音が10分ほど続いた。

 

その攻防の中、シクルは徐々に刀傷が増えていき、又男も少しずつ身体に傷を負っていた。

 

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

「………ククッ…おいちゃんとここまでやり合えるやつは初めて見たなぁ………」

楽しげに不気味な笑みを浮かべる男。

 

 

「おい!もうほんとに時間ねぇぞ!」

 

「うっせぇなぁ…わぁってるっての…あーたく…楽しかったのになぁ…まぁ、外野がうるせぇし…これで終わりにするかァ………」

 

ショウの言葉にため息をつきながらもシクルを見つめ、再び刀を構えた時………

 

 

 

「……ーーーーーーーーー、だろ?」

「っ!?」

 

シクルにのみ聞こえる声で…男がそう囁いた…その瞬間、明らかに隙が生まれたシクル………

 

 

ザンッーーー

 

「あ………」

 

シクルは左肩から右胸にかけ、男の刀により斬り裂かれ……真っ赤な血が飛沫を上げた…。

 

「っ………シクルーーーー!!!!」

エルザの悲痛な叫びが響き、カードの中、ルーシィからもシクルを呼ぶ叫び声が響く。

 

 

パァンッ!!

 

「ぁ…」

シクルが倒れ、完全に油断していたエルザはウォーリーに背後から睡眠弾を撃たれ、倒れてしまう。

 

《エルザっ!!シクルっ!!

 

ちょっとあんた達!!エルザを離しなさいよ!!》

 

エルザを大柄な男が抱えるのを見てルーシィは怒声を上げるも、ショウたちは笑みを浮かべるのみ。

 

 

「やめとけやめとけ…カードの中じゃ、何も出来ないだろ?」

男がそう言い、そして倒れるシクルにふいっと目を向ける。

 

男は何を思ったのか…倒れるシクルに近寄り、その耳元に顔を寄せると………

 

 

「…あんたに誰かを守るなんて…出来ねぇよ」

その言葉にシクルは悔しさと惨めさで唇を噛み締める。

 

 

「姉さん…やっと、帰ってきてくれるんだね………」

ショウは抱かれているエルザを愛おしげに…だがどこか憎らしげに見つめ、そう呟く。

 

「“楽園の塔”へ…やっと………きっと、ジェラールも喜ぶよ」

 

ショウの言葉を聞き、朦朧とする意識の中、驚愕に揺れるエルザ。

「っ…(“楽園の塔”だと!?か…完成…して、いたのか…)」

心中で、そう呟いた後、すぐに意識を手放してしまったエルザ。

 

 

そのまま、消えていく姿をシクルは必死に身体に力を入れ、動こうとするが………

 

「つっ…!(痺れ…?まさかさっきの刀…毒でも仕込まれてたか………!)」

身体が痺れに襲われ、力が入らなかった。

 

 

《シクル!!シクル!しっかりして!!》

 

後方から、ルーシィの声が聞こえる。

 

…ルーシィ…………

 

「大、丈夫…(解毒は得意じゃないけど…この程度なら………)」

シクルは自身の身体中に魔力を巡らせると…

 

 

「…歌魔法(ソングマジック) 治癒(ヒール)

 

自身に治癒魔法をかけ、身体の傷を治し、粗方治し終え、毒も抜けた頃立ち上がり、ルーシィの閉じ込められているカードの元へと歩み寄る。

 

 

「待っててねルーシィ…今、出すから」

シクルのその言葉にルーシィは小さく頷き、シクルもその頷きに小さく頷くとカードに片手を添え………

 

 

「(多分これは結界か何かの一種……なら…)

【我、聖なる月の名の下に

 

その身に宿りし 邪なる力 光へと解放せん】

 

歌魔法(ソングマジック) 解除(ディスペル)

 

シクルが歌を唱え終わった時…カードが光だし、ルーシィが解放される。

 

 

「やったー!!出られたっ!!」

解放された瞬間ルーシィは喜び、シクルに笑みを浮かべた。

 

「良かった…これが通じて…」

ほっと一息つくと、シクルは真剣な表情を浮かべる。

 

「とにかく、今はグレイやナツを探そう!」

「うん!!」

シクルのその言葉にルーシィも頷き、残りの2人を探し始める。

 

ちなみに、この時解放されたのはルーシィのみ。

 

シクル曰く…「この場の全員に歌魔法をかけたら魔力がごっそり持ってかれちゃう!!」

との事で、ことが収まり次第解除するとの事だった………。

 

そして、すぐにグレイを見つけるも…

 

「そ、そんな…グレイ………」

2人の目の前にいるのは気を失い倒れるグレイだった。

ルーシィは慌ててグレイに駆け寄り、声をかける。が、シクルは目の前のグレイに違和感を覚え…

 

「…あれ?もしかして………」

ある結論にシクルが思い立つ…その瞬間…

 

ボキッと嫌な音を立て、グレイの腕が取れた。

「ぎゃああああああっ!?」

 

その後はルーシィのおかしいくらいの悲鳴と叫びが続き、グレイの取れた腕をくっつけようとするのにまた別のところをもぎ取ってしまい、終いには関節のつき方がおかしいグレイが出来上がり、ルーシィは泣き叫ぶ…

 

「………プフッ……アハハハハハっ!!」

必死に笑いを堪えていたが、ルーシィの様子に耐えきれず、笑い出すシクル。

「ふぇ…?」

 

「クククッ…!!ル、ルーシィ…そ、それ…グレイじゃないよ……ププッ」

「え!?」

シクルに指摘され、ばっとグレイを振り返ると…

 

「え…え!?溶け…これ氷!?」

グレイの体は徐々に溶け始め、そこでやっと目の前のグレイは氷で作られた造形魔法であると気づくルーシィ。

 

「え…あれ?じゃあ、本物のグレイはどこに!?」

そう叫び、再びグレイの姿を探そうとするルーシィの後ろから、「ここです…」と言う、女の声が聞こえる。

 

「え…」

「ん?」

 

声のした方を振り返ると…

「え!?あなた…ファントムの!?」

元ファントムのエレメント4、“ジュビア”がいた。

その腕にはグレイも抱えられ…

 

ジュビアの話によると、先ほどの襲撃の際危険に陥ったグレイを自身の水の中に隠し、守ったとのことだった。

 

何故かこの時ルーシィとシクルに対し敵対心剥き出しであったようだ………。

 

「とにかく!次はナツを見つけないと…」

シクルが敵対心剥き出しのジュビアを置いておき、まだ見つけていないナツを探そう…そう言った時だった………

 

 

少し離れた場所から大きな火柱が上がり…

 

「いってぇええええええええ!!!!!」

ナツの叫びが轟いた…。

 

「「ナツっ!!」」

シクルとルーシィがナツの元へと駆け寄る。

 

ナツは2人に気づくとうがー!と唸りながら叫び続ける。

「普通口ん中に鉛玉なんかぶち込むかよ!?あァ゛!?痛えだろ!?ヘタすりゃ大怪我だぞっ!?」

 

「普通の人ならアウトだって…」

 

「流石ナツ………」

 

「俺…段々こいつがバケモンになるんじゃねぇかと最近思うんだが………」

 

ルーシィ、シクル、グレイと続くがナツはそれらを華麗に無視し、うぉおおお!と唸ると

 

 

「あんの四角やろぉおお!!ハッピーとルージュ攫いやがってぇ!!!」

 

逃がすかゴラァ!!と叫びながら、走り出すナツ。

 

「あ!ちょ、ナツ!!待ってってば!!!」

 

「今はあいつを追うぞ!」

 

「え!?ナツに任せて大丈夫なの!?」

 

ルーシィの驚く声に、ナツを追い走りながらグレイは「あいつは鼻はいいからな」と言い、納得させる。

 

 

 

そして、エルザの捜索をナツに任せて数時間後………

 

現在、シクルたちは舟に乗り、まさに海のど真ん中に佇んでいた…。

 

 

「……おい………ここどこだよッ!?」

グレイの絶叫が虚しく海に反射し、響く…

 

「ジュ、ジュビアたち…迷ってしまったのでしょうか?」

グレイの隣でオロオロとするジュビア。

 

「ね、ねぇ…ちょっとナツ………ほんとにこっちで合ってるの…?」

ルーシィは隣に座っているナツに声をかけるも…

 

「お…おぉ………お…うぷ」

舟に乗り込んだ直後から乗り物酔いを起こしていた。

そして………

 

 

「うっぷ………気持ち悪い…」

薬のなかったシクルも乗り物酔いを起こしていた。

 

「てか何でシクルも酔ってるの!?」

 

「いや…酔い止め薬………部屋に置いてきちゃって…うぷ」

ルーシィに説明をしながらも吐き気を堪えるシクルにルーシィははぁとため息をつきながらその背をさする。

 

「だァっ!!しっかりしろよこのクソ炎!!

 

テメェの鼻を頼りに来たんだぞ!?」

ナツに怒鳴りながらその身体を揺するグレイ。

 

「うぷ…ゆ、らすなぁ……酔うぅぅ………」

 

「グレイ様の期待を裏切るなんて信じられませんね」

情けないナツの姿にジュビアは呆れる様子。

 

 

「クソ!!俺達がのされてる間に…エルザが連れてかれちまうなんて…しかも、ハッピーやルージュまで!」

 

グレイの悲痛な声を聞き、ふと、乗り物酔いを忘れシクルは先程戦った男のことを考える…。

 

 

…あいつなんで………“アレ”を知っていたの?

 

 

アレは………あの時………捨てた筈………

 

シクルは首を横に振り、嫌な考えを消し去る。

 

「ホントですね…まさかエルザさんほどの人がやられてしまうなんて………」

シクルの脳裏から男が消えた時、ジュビアのぽつりとした呟きが流れる…。

 

その時…苛立っていたグレイの冷たい殺気がジュビアに襲う。

 

「やられてねぇよ…エルザの事よく知らねぇくせに勝手な事言ってんじゃねぇ」

 

「ご…ごめんなさい………」

グレイの睨みにビクッと肩を揺らし、怯えが見えるジュビア。

 

「ちょっとちょっと!!グレイ!!落ち着いてよ!」

「ジュビアに当たっても何ともならないでしょーよ…」

 

ルーシィとシクルが止め、「わ、わりぃ…」と、グレイが小さく謝る。

「い、いえ………」

 

 

「でも…何だかんだ私達もエルザのこと…ちゃんとよく知らない………」

ぽつん…と、ルーシィの悲しい呟きが響く…。

 

「あいつら…エルザの昔の仲間だって…言ってた………ねぇ?私達だって…エルザのこと、全然わかってなかったよ………」

ルーシィの辛そうな表情に乗り物酔いを忘れ、シクルがルーシィの頭とジュビアの頭に手を乗せ、撫でる。

 

 

「2人とも…そんな顔しないで?

大丈夫………これから知っていこう?

 

エルやハッピー…ルージュを助けて…

また残りの時間、リゾートで遊ぼ?それで、いっぱい楽しんで思い出作って………ゆっくり…今までのこと…知っていこ?」

 

シクルのその言葉にルーシィとジュビアはコクと小さく頷き、うっすらと笑みを浮かべた。

 

ルーシィとジュビアが頷き、グレイも落ち着きを見せた頃………

 

海のど真ん中に大きな大きな…塔が見えた………

 

 

 

「…塔?」

 

「あれが…“楽園の塔”か」

 

「随分大きいですね…」

 

「見た目不気味だね………(塔自体が凄い魔力を………)」

 

「うぷ………?」

 

 

シクルたちは、塔を目の前に見上げる。

 

 

「…行くぞ、エルザを助けに!」

 

「ハッピーとルージュもね!」

 

「はい!」

 

「…ぅぷ」

 

「エル………」

 

 

シクルは別れる前のエルザを思い出す…

 

凄く………怯えていた………

 

 

目を瞑り、シクルはぎゅっと拳を握る…

 

 

“…あんたに誰かを守るなんて…出来ねぇよ”

 

 

違う………守る…絶対……守ってみせる………

 

 

「エルを助けなきゃ………絶対、守るんだ…」

 

 

あの子に涙は似合わない………

 

もう、私の前で………

 

 

「涙は流させない………」

 

 




はい!!27話、終わりです!

えっと…番外編なのですが、この楽園の塔が終わり次第、4.5章として1つ作成しようかと検討中です!

では、次回は早くて本日の夜には出来るかと思います!遅くても明日の昼前!

では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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28話 突入開始

はい!22日に間に合わず…日付が変わってからの投稿となってしまいました…すいませんorz

では、長く前書きを進めるつもりはありません…

最後までお付き合い、お願いします!!


楽園の塔を見つけ、近場の岩肌に上陸し、塔入口の様子を伺うシクルたち。

 

 

「…結構見張りのやつが多いな…」

入口付近を巡回し、見張りをしている敵陣を見つめ、ため息混じりに告げるグレイにシクルたちも頷き、同意する。

 

「だね…流石に多いね」

 

「どうする…?」

ルーシィが首を傾げ、問いかけるとシクルが口を開きかける…そこに

 

「気にするこたァねェ!!突撃だっ!!」

ナツの大声が響く。

 

「却下だ」

即座にグレイの反対する声が上がる。

 

「ンだとっ!?」

「当たり前でしょーが!そんな作戦もなしに突撃なんかしたらまずいでしょ!」

グレイに反発するナツをルーシィが全力で引き止め、シクルもため息をつきながらナツを見つめ、言う。

 

「それに、突撃なんかして、エルやハッピー、ルージュの身に危険が及んだらどうするの?」

「うぐ…」

シクルの指摘にナツは口を閉ざし、気まずそうに顔を俯く。

 

「まぁ、多分そろそろジュビアが…」

シクルがナツから視線をそらし海の底を見つめた時、ザバッ!という音と共に海面からジュビアが現れる。

 

「お、おかえりジュビア。どうだった?」

突然の登場にナツやルーシィは驚きを見せるがシクルは普通に対応し、何かを質問していた。

 

「はい…シクルさんの言う通りでした…

水中に、塔の地下への抜け道を見つけました」

 

「マジでか!?でかした!」

「よし!思った通り…ありがとう、ジュビア」

 

ジュビアはグレイとシクルに褒められると少し照れ臭そうに頬を赤らめてからルーシィを振り返り、何故か敵対心剥き出しで自慢をしていた。

 

 

「それでですね、水中を約10分ほど潜って進むのですが…大丈夫ですか?」

 

「10分くれぇ、問題ねぇよ大丈夫だ」

「だな」

ジュビアの問いかけにナツとグレイは大丈夫と頷く。

 

「ちょっと!普通無理に決まってんでしょ!?」

10分息を止められるなんてどんだけよ!と叫び、同意を求めシクルを振り返るも………

 

「ごめんルーシィ…私も…」

めんどくさいからやらないけど…と気まずそうに苦笑を浮かべ告げた。

「シクルもっ!?何、私が変なの!?」

 

ルーシィの叫びにそんなことないと思うけどなぁと、小さく呟きをするシクルの耳に、「では…」と、ジュビアの声が届き、そちらを振り向く。

 

 

「皆さん、これを被ってください」

そう言い、ジュビアの手にあるのは人の頭を覆えるくらいの水球だった。

「…これは?」

シクルが問いかける。

 

「これは水の中に酸素を閉じ込め作ったものです。これを被れば、水中の中でも呼吸が出来ます」

 

ジュビアの説明におぉ!と全員が感心し、早速頭に装着。

 

被り、準備が出来るとジュビアを先頭に地下の抜け道へと向かった。

 

 

約10分後、地下の抜け道へと問題なく侵入に成功。

 

地下の陸地に足をつき、一息つくシクルたち。

「どうやらここが地下入口みてぇだな」

グレイは辺りを見回しながら注意を高める。

 

 

「ルーシィさんのだけ少し酸素を少なめにしたのに…よく息が持ちましたね?」

ジュビアのまさかのカミングアウトにルーシィは冷や汗が背を伝う。

 

「ちょっと!?足りなくなったらどうするつもりだったのよ!?」

「あっはは…(こ、こわ…)」

 

「とにかく、ここが塔の地下ならとっとと乗り込んじまおうぜ」

ジュビアとルーシィの会話を気にする事はなく、先へ進もうとするグレイ。

 

「ここのどこかに…エルザやハッピー…ルージュが…」

ルーシィのその呟きにぐっと拳を握るシクル。

「エル…ルージュ、ハッピー…(待っててね…)」

 

 

全員がいざ、突入…と言う、その時ーーー

 

 

「誰だ貴様らはー!!!」

塔の兵士達に見つかってしまう。

 

「やばっ!?」

ルーシィの慌てる声が響く。

が、ナツやグレイは早速戦闘態勢へなり、構える。

 

「ここまで来たら…やるしかねぇだろ!」

 

「はい!」

グレイに並び、ジュビアも構える。

 

「あーぁ…これ全部やんの?(流石にこれはめんどくさい…)」

うじゃうじゃと出てくる兵士を冷めた目で見つめ、ため息をつくシクル。

 

「誰だ貴様らはだァ?ケッ!上等くれた相手の名も知らねぇのかよテメェら!!」

 

怒声と共に、地下の柱を炎の纏った拳で粉砕するナツ。

そして、その勢いのまま敵陣に突っ込み…

 

「妖精の尻尾だ、このやろぉ!!!」

爆発音をきっかけに、戦闘が始まる。

 

 

ルーシィに攻撃を仕掛ける兵士…ルーシィの頭上目掛け、刀が振り下ろされるもルーシィはほんの少し慌てながらしっかりと刀を回避。

 

「っ!開け!!巨蟹宮の扉!キャンサー!!」

「久しぶりエビ!!」

 

両手にハサミを持った星霊が召喚され、そのハサミで兵士達を攻撃、斬り裂いていく…(その頭の髪を)

 

ジュビアにも攻撃を仕掛け、その体に鋭い槍を突き刺す兵士達…だが………

 

「なんだこの女!?攻撃が効かねぇぞ!?」

ジュビアの身体に傷はつかず…

 

「ジュビアの身体は水で出来ている…

 

くらいなさい!水流斬破(ウォータースライサー)!!」

水の刃で兵士達を倒す。

 

「アイスメイク “大槌兵(ハンマー)”!」

グレイは氷で作った大きなハンマーで敵を叩き、潰していく。

 

 

全員が好調な戦闘を見せる中、シクルもまた…動き出す。

 

「はぁ…普段の私なら面倒くさがってみんなに任せるんだけど………」

 

シクルは十六夜刀を手にし、構え…鋭い目つきで相手を睨む。

 

 

「今私イラついてんのよ…道を塞がないでくれる?下っ端が………伍の太刀 鳴雷月」

シクルの薙ぎ払った刀から発せられる雷に敵陣はほとんど一掃、吹き飛ばされた。

 

 

シクルの攻撃や他のメンバーの攻撃甲斐あって、数分でその場は片付き、いざ先へ進もう…そう、動こうとした時だ…

 

頭上からハシゴが現れ、その先の岩でできた扉が開く。

 

 

「これは…来いってことか?」

ハシゴを見つめ怪訝そうにいうグレイ。

 

「みたいね…」

「行くぞ!!」

ナツの掛け声と共に、ハシゴを登り、扉の奥へと入っていくシクルたち。

 

 

「四角ゥーーーー!!!!!!何処だァ!!」

全員が登り終えた瞬間声を荒らげるナツに慌ててルーシィがその口を塞ぐ。

 

「こんのばかっ!!「んむっ!?」ここは敵陣なのよ!?そんな大声出したら見つかっちゃうでしょ!?」

 

「下であれだけ暴れたんだ…もう敵さんも気づいてんだろーよ」

 

「それに、今の扉とハシゴ…私たちを誘導するかのようでしたし…」

 

「多分挑発ね…舐めたことしてくれるわね」

 

会話をしながら慎重に足を進めるシクルたち。

 

ふと、ルーシィを見てグレイが違和感に気づく。

 

「そういやルーシィ…お前いつの間に着替えたんだ?」

 

地下に来る前と服装が違うことに気づいた。

ルーシィはあぁ、これ?とグレイを振り返る。

 

「星霊界の服よ!キャンサーに持ってきてもらったの!濡れた服を着続けるのは気持ち悪いし…」

ルーシィはそう言うとあんた達よく着てられるわね…とツッコミを入れる。

 

「こうすりゃすぐ乾く」

ルーシィの質問にグレイはナツへと服をかざし、その瞬間ナツの身体から出る炎で濡れた服を乾かし始めた。

 

「人間乾燥機っ!?」

そんな手が!と声を上げながら納得するルーシィ。

 

 

 

そんな、シクルたちを映像魔水晶を通じて眺めている青髪の男………今回の黒幕、“ジェラール”と言う男が含み笑いを浮かべていた。

 

楽しげな表情を浮かべるジェラールの背後にはシクルに傷を負わせた男が立っている。

 

 

「いいのかぃ?そんなに呑気にしてて…あいつはお前のこと知ってるんだろ?」

男の指摘にあぁ…と笑いながら答え、魔水晶を見続けるジェラール。

 

「問題ない………

 

俺が情報を流さないかわりにあいつも俺のことは他言しない契約だからな………」

 

その見つめる先は………

 

「なァ?シクル………」

敵を前に存分に暴れるシクルが映っていた。

 

 

「…さて、お前もそろそろ行くんだな…歌姫とやり合えるのは貴様だけだろう…神速のラディティ」

ジェラールの指摘にやる気のない声で返事をしながら、部屋を出ていく男、ラディティ。

 

 

「………最後に、警告だ…ラディティ」

ジェラールのその言葉に足を止めるラディティ。

 

「………シクルを、甘く見るな…」

「…どういう意味だぃ?」

ジェラールを振り返り問いかけるラディティ。

 

「そのままの意味だ…奴の能力は未知数………

 

油断していれば…貴様もやられるぞ?」

 

ジェラールの警告にラディティはふん…と鼻で笑う。

「冗談………あいつは1度おいちゃんに負けてる…あんなすぐに隙を見せるような女………

 

おいちゃんの敵じゃねぇや」

 

じゃあな、と出ていくラディティ…その去った後を横目で眺め、ニヤリと笑みを浮かべるジェラール…

 

 

「………警告はしたからな…」

 

 

 

場面をシクルたちに戻し…現在、シクルたちは再び塔の兵士達に周りを囲まれていた。

 

 

「だぁ!!めんどくせぇ!!どんだけ出てくんだよウザってぇなぁ!!」

 

「るっせぇよ、クソ炎!!口じゃなくて手を動かせ!」

 

「ちょっと多すぎなんだけど!?」

 

「流石にこの人数は堪えますね…」

 

「あーもうっ!早くエルたちを見つけなきゃなのに…!!(さっき感じた魔力…間違いない、あいつがここにいる………)」

 

シクルたちが順調に兵士達を薙ぎ払っていると…ほんの少し疲労で気を抜いたルーシィの背後から1人の兵士が刀を振り上げる…

 

 

「あ…!」

 

「っ!ルーシィっ!!」

ルーシィが斬られる…そう思った時………

 

ドォッ!!

 

ルーシィを襲った奴が飛ばされる。

 

兵士を蹴り飛ばした者…それは、シクルたちの探す鎧の女………

 

 

「「「エルザっ!!!」」」

「エル…!」

 

「っ!?お前達!何故ここに…」

シクルたちがいることに驚くエルザ。

 

「何故もクソもねぇ!!舐められたまま引っ込んでたら妖精の尻尾の名折れだろォが!!!

 

あんの四角だけは許しておけねェ!!!」

 

うぉー!!と叫び怒声を上げるナツ。

 

そんな時、エルザの様子がおかしいことに気づくシクル。

 

「…エル?(なにを…考えてるの?)」

 

エルザはジュビアがいることに気づき、見つめ、ジュビアはエルザの視線に気まづくなり俯く…。

 

「あ、あの…ジュビア……その…」

 

ジュビアが何かを話そうとした時………

 

エルザの目つきが鋭くなり…

 

「帰れ…」

と、告げた。

 

 

「「「っ!?」」」

 

「…エル?」

 

エルザからの言葉にナツたちは目を見開き、シクルは不思議に首を傾げる。

 

「ここは…おまえたちの来る場所ではない」

 

「で、でもね、エルザ……」

エルザに困惑した表情で話しかけるルーシィ。そんな、ルーシィの言葉を遮り、ナツの声が響く。

 

「ハッピーまで捕まってんだぞ!?このまま戻る訳にはいかねーんだよ」

「ついでにルージュもよ?」

 

「ハッピーとルージュ…ミリアーナか……」

エルザの呟きを聞き取ったナツがその肩を掴み問いただす。

 

「そいつはどこだ!!!」

 

ナツの迫力に少し引きながらも、分からないと答えるエルザ。

 

「そうか…分かった!!」

だがナツはあまり気にした様子はなく、頷く。

 

「何が分かったのよ!?」

ルーシィのツッコミにナツは真剣な表情を見せ…

 

「ハッピーが俺を待ってるってことがだ」

と、告げた。

そして、ナツはまるで突風のように走り、「ハッピィイイイイイイッ!!!!」と雄叫びをあげ消えていった…。

 

「ちょ…ナツーーー!?」

シクルの叫び声に止まることもなく…

 

「あのバカまた勝手に!!」

 

「追いましょう!」

グレイとルーシィもナツを追おうとするが…

 

「だめだ…帰れ」

と、エルザの静かな声が響く。

 

「エル………!」

 

「ミリアーナは無類の愛猫家だ…ハッピーやルージュに危害を加えるとは思えん………

 

ナツとハッピー、ルージュは私が責任を持って連れ帰る………お前たちは、すぐにここを離れろ」

 

「そんなの…出来るわけない!!エルザも一緒じゃなきゃイヤよ!!」

ルーシィがほんのりと涙を浮かべながら叫ぶ。そんなルーシィを横目に見ながら、グレイもエルザに告げる。

 

「もう十分巻き込まれてんだよ…今のナツだって…見ただろ?」

 

「エルザ……この塔は何?ジェラールって誰なの?」

ルーシィの問いにエルザは答えず、黙ったままでいる。

 

「エル…あなた…」

 

シクルが何かを話そうと口を開くも、それをグレイの言葉が遮る…

 

「らしくねーな、エルザさんよォ………?

いつもみてーに四の五の言わずついて来いって言えばいーじゃんか…

 

誰が敵だろうと俺たちは力を貸す…エルザにだって怖いと思う時があってもいいじゃねえか?」

 

グレイの言葉を聞くと…、エルザは目に涙を浮かべながら振り返り………

 

「この戦い……勝とうが負けようが、私は表の世界から姿を消す事になる………」

涙を拭いながらエルザは話す。

 

「え!?」

 

「ど、どういうことだ!!?」

 

「エル…それは…」

 

シクルたちの驚きの声を聞きながら、エルザは目を瞑り………

 

 

「これは抗う事のできない未来…

 

だから私が存在しているうちに全てを話しておこう」

 

覚悟を胸に、語り出す………

 

エルザと楽園の塔………その繋がりと、秘密…

エルザの過去を………

 

 

今、明かされる

 

 




はい!!エルザと無事合流出来ました!!

次はエルザの過去が語られたり、色々とあります!

恐らく次回はもう少しちゃんとした戦闘が出せるのでは?と思います

と言うか出したい………

では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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29話 語られるエルザの過去

はい…昼過ぎ投稿になってしまいました…

なんだか少し忙しくて…というか、楽園の塔のお話少し難しいorz


でも、めげずに頑張ります!
では、最後までお付き合い、お願いします!!


 

エルザは目を瞑り、語り始めたーーー。

 

 

 

「ここ…この塔の名は、楽園の塔…別名、“Rシステム”と呼ばれている………今から10年程前だ…黒魔術を信仰する魔法教団が“死者を蘇らす魔法”の塔を建設しようとしていた…」

 

「死者を…蘇らせる!?」

ルーシィの驚愕する声に頷き、エルザは話を進める。

 

「この塔は…政府も魔法評議会も非公認の建設だった為に…各地より、攫ってきた人々を奴隷とし、この塔の建設にあたらせたのだ…

 

そして、幼かった私も………かつて、ここで働かされた奴隷の1人だった…」

 

「え…」

 

「何っ!?」

 

「エルザ…さん、も?」

 

エルザから語られる話にルーシィやグレイ、ジュビアは目を見張り、声が上がる。

その隣でシクルは静かに目を瞑り…エルザの話を聞いていた。

 

「…(エル……)」

 

「ジェラールと私はその時に出会った…奴隷だった私を、ジェラールは助けてくれた…」

そう話すエルザの表情は悲しげに影を指している…

 

 

その後語られたのは、脱走を図ったエルザたちの動向が教団の奴らにバレ、エルザはその首謀者とし上げられ、長時間懲罰房へ入れられ、拷問を受けたこと…

 

それを助けに来てくれたのがジェラールであり、その際にエルザと入れ替わりで拷問を受けることになってしまったジェラールのこと…

 

そして、捕まったジェラールを助ける為、エルザを筆頭に奴隷として過ごしていた全員が反乱を起こし、多くの犠牲を払うもエルザはジェラールの元へと辿り着き、一緒に逃げられる…そう、思った幼き頃のエルザだったが………

 

 

「ジェラールは…その日を境に変わってしまった………まるで別人のように…もしも、人を悪と呼べるのならば…私は、ジェラールをそう呼ぶだろうな………」

 

 

反乱に成功し、遂にジェラールの元に辿り着いたエルザだったが…救出に成功した時、すでにジェラールは以前のような面影はなく…

狂気な笑みでエルザに告げる…。

 

 

“もう逃げることはないんだ…エルザ………

 

本当の自由は………ここにある”

 

そう告げたジェラールの目は狂い、ゼレフの亡霊に取り憑かれてしまっていた。

 

 

ジェラールは「“ゼレフ”を蘇らせる」と言い、自分たちを支配していた魔法教団を壊滅させたのだ。

 

当然エルザはジェラールに反発するも、敵うことはなく………その身を、塔の外へと放り出されてしまった。

 

もし楽園の塔の事が政府や魔法評議会にバレたり、エルザ自身がこの塔に近づけば………

奴隷仲間のショウたちを殺すと脅され…

 

 

“それが………お前の自由だ!

仲間の命を背負って生きろ………

 

 

エルザァァアアアア!!!”

 

涙を流し、塔を離れた…

 

 

その後、エルザは妖精の尻尾に加入し、今の生活をし始め、8年の月日が経ち………

 

今日、偶然にもこの塔へ…再び戻ってきたエルザは覚悟と決意を決め…告げる。

 

 

「私は…ジェラールと戦う………そして、この手で………」

拳を握るエルザの左眼からは…涙が零れていた。

 

「エルザっ………」

エルザの涙につられ、ルーシィの瞳にも涙が溜まる。

 

そこに………

「ちょ、ちょっと待て………」

と、グレイの震える声が聞こえる。

 

「エルザ………今の話の中に出てきた…“ゼレフ”って…まさか」

 

「…あぁ………魔法界の歴史上、最凶最悪と呼ばれた伝説の黒魔導士…」

グレイの言葉に頷き告げたエルザの口から出たその単語に、ルーシィも目を見開く。

 

 

「ちょ、まさかそれって…確か、呪歌から出てきた怪物も…“ゼレフ書の悪魔”って…言ってたわよね?」

その言葉に頷き…エルザは更に告げる。

 

 

「そうだ…そして恐らく………あのデリオラも………“ゼレフ書の悪魔”の1体だろう」

 

「っ!!!」

“デリオラ”の一言に険しい表情を浮かべるグレイ。

 

 

「では、そのジェラールという男は…そのゼレフを復活させようとしているということですか?」

ジュビアの問いかけに頷くエルザ。

 

「あぁ…動機までは分からんがな…ショウ………かつての仲間の話では、ゼレフ復活の暁には、“楽園”にて、支配者になれるとか………」

 

 

エルザから語られたゼレフの話…それを聞き、シクルはほんの少し瞼を上げ、目を細める。

 

「ゼレフ………(ゼレフを復活…?蘇らせる…?………不可能だわ…だって彼は……)」

 

 

まだこの世を生き、さ迷い続けている…

 

そして…

 

「亡霊…(確かに彼なら誰かを操ることも出来ることは出来るだろうけど………)」

 

もし誰かを操っているのなら…その独特の魔力が感知されてもおかしくない

 

シクルはため息をつき、俯くエルザに視線を向ける。

 

 

「そういえば、あのかつての仲間たちの事って…あたし、どうしても腑に落ちないんだけど……」

 

ルーシィが怪訝そうな表情を浮かべる

 

「あいつ等はエルザを裏切り者って言ってたけど……今の話を聞く限り、裏切ったのはジェラールの方じゃないの?」

 

「………多分、エルが楽園の塔を追い出された後…ジェラールに何かを吹き込まれたってところかしらね?……憶測だけど」

 

「そんな……」

シクルのその言葉にルーシィは辛そうな表情を浮かべる。

 

「………しかしそれでも、私は8年もの間…彼等を放置したんだ…裏切った事にかわりはない」

 

「でも、それはジェラールに仲間の命を脅されてたから近づけなかったんじゃない!!それなのにあいつら……!」

ルーシィの叫びが木霊する。

 

「もういいんだ、ルーシィ………私がジェラールを倒せば全てが終わる」

エルザは悲しげに微笑みを浮かべながらそう言う。

 

だがこの時…エルザの言葉を聞き、グレイとシクルは別のことに考えが及んでいた。

 

「(エルザ…本当にそう思っているのか…!?)」

 

「(エル………あなた…何をするつもりなの?)」

 

“この戦い……勝とうが負けようが、私は表の世界から姿を消す事になる…”

 

 

グレイとシクルはこの言葉が脳裏から離れなかった…。

 

2人がじっと、エルザを見つめていると………

「ね、姉さん…それ、なんだよ………どういうことだよ?」

 

暗闇の奥から困惑した様子のショウが現れた。

 

「っ!ショウ…」

エルザの顔を見た時、ショウはカッとなり、声を荒らげ始める。

 

「そ、そんな与太話で仲間の同情を引くつもりかっ!?ふざけるな…真実は全然違う!!」

 

そう叫び、ショウの口から告げられたのはショウたちを置いて、エルザが1人楽園の塔から逃げ去ったこと………逃亡用の舟に爆弾を仕掛け、ショウたちが逃げられないようにして…

 

 

「ジェラールは俺たちに言ったんだ!!

 

これが…“魔法”を正しい形で習得できなかった者の末路だ…と!姉さんは魔法の力に酔ってしまい、俺たちのような過去を全て捨て去ろうとしてるんだと!!

 

そう言ったんだ!!」

ショウの言葉にピクッと反応を見せる一同。

 

「ジェラールが…言った…だァ?」

 

「あなたの知るエルザは…本当にそんなことをする人だったのかな…?エルザを信じなかったの?」

グレイとルーシィの言葉にショウは悔しげに、顔を歪め叫ぶ。

 

「お前らに俺達の何がわかるってんだ!?俺たちの事何も知らねぇくせに!!」

ショウのその言葉を聞いた時…ガッ!とシクルがその胸倉を掴みあげる。

 

「ぐ…」

「………あんたこそ…エルがこの8年間…

どんな思いでいたのか……わかってんの?どんなに…どんなに、あなた達を思っていたか…分かる!?」

 

シクルのその言葉を聞き、言葉に詰まるショウだったが、再びエルザたちに向かって叫ぶ。

 

「俺には…俺には!ジェラールの言葉だけが救いだったんだ!!だから…8年もかけてこの塔を完成させた!!ジェラールの為に!!

 

その全てがウソだって…?正しいのは姉さんで………間違っているのはジェラールだと言うのか!?」

ショウがそう叫び、エルザが顔を俯いた…その時………

 

 

「そうだ…」

静かに響いた第三者の声…

 

それはカジノでグレイとジュビアが相手をした、シモンという男だった。

 

「シ、シモン!?」

 

「な…てめぇ…!!」

 

シモンに気づいたグレイがシモンへと突っかかろうとするも、ジュビアにより止められる。

 

「待って下さい!!この方はあの時…グレイ様が氷の人形と知ってて攻撃したんです!

 

暗闇の術者が周りを見えない訳ありません」

 

「さすがは噂に名高いファントムのエレメント4だな」

シモンの言葉に全員がシモンを見つめる。

 

「俺は………誰も殺す気はなかった

 

ショウたちの目を欺くため…気絶させようと思ったが、氷ならもっとハデに死体を演出できると思ったんだ」

 

悪かったなと、苦笑を浮かべグレイに告げるシモン。

そんなシモンの言葉にショウは混乱が高まる。

 

「お…俺たちの目を欺く為だと!?」

 

「あぁ………お前も、ウォーリーやミリアーナも……皆、ジェラールに騙されているんだ…

 

機が熟すまで俺も騙されているフリをしていたんだ」

 

「シモン……お前……!」

シモンのその言葉にエルザは目を見開く。

 

シモンはエルザと向き合うと…

「俺は初めからエルザを信じていた………この8年間、ずっとな」

 

赤らめた頬を掻き、微笑みながら言う。

 

そんなシモンの姿が、エルザの目には8年前のような優しい笑顔に見え、エルザはそんなシモンの姿に、歓喜の笑みを浮かべた。

 

「エルザ…会えて嬉しいよ、心から……」

 

「シモン……私もだ」

 

そう呟き、2人は抱き合い共に再会を喜び合う。

そんな光景を見て次第にショウの目に涙が溜まる。

 

「なんで…なんで、みんな……そこまで姉さんを信じられるんだよ………?

 

何で俺は……姉さんを信じられなかったんだ」

 

そして、ショウはその場に泣き崩れた。

 

 

「くそぉお…!!うぁああああああ!!!

 

何が真実なんだ!?俺は…俺は何を信じればいいんだ!?」

 

そう泣き叫ぶショウを見て、そっとエルザが近づき、しゃがみショウと目線を合わせる。

 

「今すぐに全てを受け入れるのは難しいだろう…だが、これだけは言わせてくれないか?

 

ショウ………

 

 

私はこの8年間………お前たちの事を忘れた事は一度もない」

 

そこで一度言葉を途切らせるとショウを抱きしめるエルザ。

 

「何も…できなかった……私は…とても、弱くて……すまなかった………ほんとうに」

 

 

「………だが今ならできる……そうだろ?」

後ろから聞こえたシモンの言葉に振り向き、エルザは静かに頷く。

 

「ずっと………この時を待っていたんだ………

 

強大な魔導士がここに集う…この時を」

 

「…強大な魔導士?」

シモンの言葉にルーシィは首を傾げる。

 

「ジェラールと…戦うんだ

 

俺たちの………力を合わせて」

 

そういったシモンの声には強い決意が込められており、瞳にも…強い覚悟が宿っていた。

 

 

その後、シモンとショウも一緒にエルザたちはナツを探し、塔の中を走っていた。

 

「くっそ!ウォーリーもミリアーナも…通信を遮断してやがる……これじゃどこにいるのかわからねえ!」

 

「落ち着いて、シモン…とにかく今は冷静に

多分ナツは今そのミリアーナって子のところに行っている可能性が高いわ」

焦りの見えるシモンの隣をシクルが走りながら声をかける。

 

シクルの言葉に、「あぁ…すまない」と少し落ち着いたのか、微笑みを浮かべ言うシモンに微笑みで返すシクル。

 

「ショウ………大丈夫か?」

ふと、後ろからエルザの声が聞こえ、全員が振り返ると少し離れたところを顔を俯き、走るショウがいた。

 

「うん…姉さんがいてくれるから……」

弱々しく声をかけてきたエルザに笑みを浮かべるショウにエルザはほっと笑みを浮かべるも…その様子を見たシクルはほんの少し険しい表情を浮かべる。

 

(まだ少し…魔力の流れに乱れがある………やっぱり心のどこかでまだ動揺と混乱が収まりきってないんだ………)

 

注意しないと………

 

シクルは僅かにショウへの警戒を強める。

 

「…なぁアイツ……本当に信用していいのか? 確かに…俺たちを殺そうとしなかったのは認めるが、あの時ナツとルーシィは死んでもおかしくねえ状況だったんだぞ?」

 

シモンを疑惑の目で見つめていたグレイは隣にいるジュビアに話しかける。それに、ジュビアが答える前に前を走るシモンが振り返る。

 

「言い訳をするつもりはない…だが、あの程度で死んでしまうような魔導士ならば、到底ジェラールとは戦えないと思った」

 

「うっ…聞いてやがったのか」

 

「それに俺には確信があった………

 

 

ナツは死なない」

グレイの気まずそうな顔を見ながら少し笑みを浮かべ告げるシモン。

 

「お前たちはあいつの本当の力に気付いてない」

 

「…本当の力?」

シモンの言葉にルーシィは首を傾げ、シモンは頷く。

 

「そうだ………ナツに真のドラゴンの力が宿る時…邪悪は滅びゆく…」

シモンの言葉にシクルは目を細める。

 

 

真の力………“ドラゴン・フォース”の事か…

 

 

心当たりはあるシクルだが…

 

…本来あの力は………

 

ある条件をクリアして得られる力………

 

到底今のままのナツでは………

 

 

どうしたものか…と、シクルが考えている時だ………

 

突然、辺りの壁や天上に不気味な口が幾つも浮き上がった。

 

「ひぃ!?何気持ち悪い!!」

ルーシィは思わず叫び、シクルに抱きつく。

「これは…!」

 

全員が驚き、足を止めていると…

 

『ようこそみなさん………楽園の塔へ』

 

 

 

たくさんの口から響く、その声……それは、この塔のボス…“ジェラール”の声だった。

 

 

 

「し、しゃべりましたよ!?」

 

「ひぃー!!尚気持ち悪い!!」

 

「この声は…!!」

 

「あぁ…ジェラールだ………

塔全体に聞こえるように話している」

 

シクルたちは気味の悪さを感じるが、ジェラールのその声に耳を傾ける。

 

 

『俺はジェラール…この塔の支配者だ。

 

互いの駒はそろった………そろそろ始めようじゃないか………

 

 

 

 

 

楽園ゲームを』

 

 

愉快そうに告げるジェラールの声だけが…塔全体に響き渡った………。

 

 




あら………本当なら戦闘を入れるつもりだったのですが………



思いのほかエルザの過去語りがやはり長かった!!


次回必ず!!戦闘シーン入れます!
では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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30話 ラディティの刀

はい!!!お待たせいたしました!!やっと何とかまとまりました…orz


では早速…第30話、最後までお付き合い、お願いします!!

…あ、幽鬼の支配者篇ラストの次回予告のところ、少しセリフ変えました!!

作っててある違和感に気づきました…そちらは後ほど………


『俺はジェラール…この塔の支配者だ

 

互いの駒はそろった………そろそろ始めようじゃないか………楽園ゲームを』

 

そう告げたジェラールはクククと愉快そうに笑うと…ゲームの内容を語り始めた。

 

 

『ルールは簡単………俺はエルザを生贄としゼレフを復活の儀を行いたい………

 

すなわち楽園への扉が開けば俺の勝ち………

もしお前たちが阻止できればそちらの勝ち』

 

ジェラールの言うゲームという者に一同は険しい表情を浮かべる。

 

「ふざけやがって」

 

「ジェラール……」

 

『ただ………それだけでは面白くないのでな…

 

こちらは4人の戦士を配置する』

 

「4人の戦士…?(俺たち以外にも戦える奴がいたのか…?)」

シモンは“4人の戦士”という単語に眉を寄せ、疑問に思うもすぐにジェラールの言葉が続き、そちらに集中する。

 

『そこを突破できなければ俺には辿り着けん………つまりは4対9のバトルロワイヤル』

 

「バトルロワイヤル…ですって?」

 

 

『最後に一つ特別ルールの説明をしておこう

 

評議院が“衛星魔法陣(サテライトスクエア)でここを攻撃してくる可能性がある……

全てを消滅させる究極の破壊魔法………

 

“エーテリオン”だ』

 

「エーテリオン!?」

ジェラールの言葉にシクル達は驚愕し、目を見開く。

 

『残り時間は不明…しかし、エーテリオンが落ちる時………それは全員の死…

 

勝者なき“ゲームオーバー”を意味する』

 

 

そして、ジェラールは楽しそうに笑い声を上げながら告げる。

 

 

『さあ…楽しもう』

それを最後に辺り一面の口が消えた。

 

「そ、そんな……何考えてんのよジェラールって奴……自分まで死ぬかもしれない中でゲームなんて………」

 

「エーテリオンだと!?評議院が?あ、ありえん!!だって………」

ジェラールの言葉に驚くエルザを心配気に見つめるシクル。

 

その視界に………一つの動く影を捉える。

 

「っ!!エルっ!」

 

シクルの声にエルザは反応を示すが少し遅れ、エルザはショウがの掛けた魔法により、カードの中へと閉じ込めてしまった。

 

「エルザ!!」

 

「ショウ!?お前何を…!?」

 

ショウは大切そうにエルザの入ったカードを両手で持つと…

「姉さんは誰にも指一本触れさせない………

 

ジェラールはこの俺が倒す!!!」

そう言い、ショウは塔の最上階目指し、走り去ってしまう。エルザを連れ………

 

「よせ!ショウ…一人じゃ無理だ!!」

 

そして、シモンも走り去っていくショウを追いかけて行ってしまう。

 

「だー!どいつもコイツも!!」

 

「3人は私が追う!グレイたちはナツを見つけるのと他の奴らをお願いっ!!」

グレイたちにそう告げ、シクルがショウやシモンたちのあとを追った。

 

「な!おい、シクル!」

「ちょ、シクルー!?」

グレイとルーシィが声を上げるもすでにシクルの姿はなく…

 

「とにかく、私達はナツさんの捜索と他の敵を何とかしましょう!」

ジュビアの掛け声に2人は頷き、行動を始める。

 

 

ショウとシモンを追っているシクルは、長い廊下を走っていた。

 

「まったく…(どこまで行ったっていうのよ!?)」

 

注意していたはずなのに…阻止できなかった…情けない………!

 

カードの中に吸い込まれるエルザを見た時、悔しさが湧き上がった。

「っ…!」

唇を噛みすぎ、端の方がプチッと切れ血が流れる。

 

 

その時ーーー

 

 

「ぐぁああああっ!」

 

「っ!!この声…」

道の先から響いた叫び声。それはショウの声だった。

シクルは走る足を早める。

 

そして、先にあった曲がり角を曲がった瞬間、目に飛び込んできたのは………

 

 

倒れるショウと地面に落ちているエルザの入ったカード…そして、そのカードを真っ二つに切り裂こうとしている桜髪の女の姿…

 

 

「っーーー!!!エルーーーー!!!!」

まずい、と感じ走り出すシクルだが距離的に確実に間に合わない…そう感じたシクルはすぐに身体全身を光で纏い…

 

「光竜の劍角ッ!!!」

光の速さでエルザたちの元へ突っ込む。

 

そしてその勢いのまま桜髪の女の懐に体当たりをする。

 

「ぐっ!?何…!」

《な…シクルっ!?》

桜髪の女はその勢いを受け止めきれず、後方へと吹っ飛ぶ。

 

「エルっ!!」

エルザの入ったカードへとすぐに手をかざすと魔力を込め………

 

歌魔法(ソングマジック) 解除(ディスペル)

 

歌魔法でカードの結界を解き、エルザを解放する。

「シクルっ!助かったっ!!」

「どー致しましてっ!」

 

笑顔でお礼を言うエルザに笑顔で返すシクル。そして、シクルがエルザにここは任せて…と言葉を発しようとした時だ………

 

「っ!!十六夜刀!!」

キィイイインッ!!!

突然背後から感じた殺気に急いで刀を換装、交えるとあかねリゾートで戦った刀の男がいた。

 

「やぁっと見つけたァ…」

「またあなたなの…!」

シクルはチッ!と舌打ちをし、力任せに押しきり、チャキ…と刀を構える。

 

シクルの背中には背中合わせで立つようにエルザも並び………

 

「ごめんエル…先行ってもらおうとしたんだけど…あの女の方任せていい?」

 

「無論だ…シクルも…そっちは任せたぞ?」

 

2人はお互いにそう言うとニッと笑い合い、そして背をつけ互いの敵と対峙する。

 

その姿を痛みに耐えながら見つめていたショウは………

 

「っ…(なんだ…この2人………まるで疑いのない…信頼しきっている雰囲気が…)」

完全に背を任せ、目の前の敵に集中している2人………まるで互いが負けることを疑っていないかのような…そんな姿に………

 

 

………かっこいい

 

何故そう思ったのかはショウにも分からない。

 

 

エルザが桜髪の女、髑髏会の“斑鳩”と戦闘を開始した時、シクルと男にも動きが見られた。

 

「あの時は中途半端に終わっちまったからねぇい…今度はおいちゃんと最後まで殺りあおうや?」

 

「私はめんどくさいし…遠慮したいんだけど?」

シクルは丁重にお断りと、呟く。

 

だが、男はニヤッと笑うと………

 

 

「お断りなんてそんな…堅ェ事いわねぇでくれよぃ…あぁ、そう言えばまだおいちゃん自己紹介まだだったねぃ?」

 

「知らなくて結構…興味無いわ」

「そう言わずに…おいちゃんは神速のラディティだよぃ!よろしくね、歌姫殿……んじゃ…

 

 

始めるか」

 

ラディティはそう呟いた瞬間、シクルに攻撃を仕掛ける。

 

「っ!!」

シクルも冷静にその動きを見て、一撃一撃正確に流していく。

 

「神速 “迅”」

「六ノ太刀 十字斬!」

 

ギィイイイン!

 

 

「へぇ…あの時よりはやるねぇ?」

刀を交えながら冷静にシクルを観察する。

シクルもまた、ラディティの動きを冷静に対処し、受け流す。

 

 

「甘く見ないで…これでも妖精の尻尾の1人よ?2度も同じ相手に………負ける訳ないってのっ!!!」

 

その言葉とともにシクルは刀に魔力を集め、

「弐ノ太刀 三日月!!」

ラディティに刀を振り切る。

 

「うぉっ!?」

刀から放たれる光の刃に反応が遅れ、ほんの少し吹っ飛ぶラディティ。

 

ドガァ!と音を立て、壁に衝突。

「てぇー!いやぁ…今のはちょっとおいちゃんもびっくりしたよぉ」

服についた埃を払うラディティ。

 

ゆっくりと歩き、ラディティに近寄るシクル………

「ククク…まぁ、もうおいちゃんに攻撃は当たらな………」

ラディティがシクルに視線をやると

 

 

カッーーーと目の前が真っ白に光る。

「っー!」

「七ノ太刀 月光斬り!!!」

目が眩んだ瞬間、目の前にはシクルがおり、その刀がラディティを捉える。

 

 

ザンッーーー

 

「っー!へぇ…おいちゃんに2度も遅れを取らせるなんてねぇ…」

 

おいちゃん、怒っちゃうよ?

ラディティはそう呟くと刀に無数の風の刃を纏わせる。

 

「剣技 鎌鼬(カマイタチ)!!!」

ラディティが刀を振り切った瞬間、無数の風の刃がシクル目掛け飛ぶ。

 

だが、シクルは………すっと目を細めると、冷静に刀を構え、次の瞬間…全ての風の刃を斬り裂いた。

 

「………ほぉ?」

ラディティは興味深げに目を細め、口笛を吹く。

「言ったはずよ?妖精の尻尾の魔導士として…2度も同じ相手に負ける訳ないってね」

 

それに………

 

「背中を任せられる仲間が後ろにいるんだ…

 

私が負けることを疑わず…勝つことだけを信じてくれている…仲間がいるんだ………

 

 

その思いを感じている私が、負ける訳ないでしょ?」

 

「………仲、間」

“仲間”その言葉を聞いた時、ラディティがピクッと反応を見せた…。

 

「…くく………ククク…」

 

「っ…?」

突然笑い始めるラディティを見つめ…怪訝そうな表情を見せるシクル。

 

 

「仲間かぁ………なぁ……?あんた…そんなもん信じてんのかァ?」

「………何?」

 

クククと笑い続けるラディティ。その雰囲気は次第に黒く…モヤがかかるように歪んでいくようにシクルの目には見えた。

 

「っ…(何この魔力?…これは………)」

 

「あーぁあ……ほんとはやるつもり無かったンだけどなぁ…ねぇ?おいちゃん………ちょっと癪に障っちゃったからさぁ………」

 

そう言い、ラディティは右眼の眼帯に手を伸ばした…

 

「丁度今のままじゃ決着もつけれないと思ってたしぃ…?見せてあげるよ…おいちゃんの…本気を………ねぃ?」

そう告げ、眼帯を外した…その瞬間………

 

 

 

ズッドォオオオオオオオオン!!!!

 

魔力の風が吹き荒れる。

「つっ!?わっ!!」

その強い風にシクルは態勢を崩す。

そして………

 

「神風 “乱”」

「っ…!!!」

 

ヒュ………ドォオオオオオオオオ!!!!

 

シクルの体が魔力の風圧により吹き飛ぶ。

 

「シクルっ!!!!」

シクルのいる方から聞こえた音に驚き、咄嗟にシクルの元へ行こうとするエルザ…だが

 

「あんさんの相手は私どす!」

 

キィイイン!!

 

「ぐっ!!」

斑鳩に道を塞がれ、舌打ちをしながらエルザは斑鳩の相手をする。

 

 

 

一方、魔力の風圧により、吹き飛ばされたシクルは幾つもの壁を突き破り、ある部屋に入ったところで漸く止まった。

 

「っーーーーいったぁあああ……あーもう…何今の………(魔力の風圧だけでこれってどんだけよ)」

ガラガラ、と瓦礫から這い上がり体についた汚れを落としため息をつくシクル。

 

「あんなんとやりあえって?はぁ…じょーだんやめてよ………」

めんどくさい…と、呟き再び大きなため息をつくシクル。

 

 

ふと…背後に何かを感じる。

 

「…ん?」

背後に感じたものを…シクルは不思議に思い、振り返る………そこには……

 

「………魔水晶?」

巨大な魔水晶がデカデカと壁に融合するように目の前にあった。

シクルは魔水晶に触れる。

 

「これ…(こんな魔力の塊…何でここに?)」

ふと、シクルはジェラールの言った言葉の意味を考える。

 

エーテリオンの発射………そんな事したらこの

 

長年かけて作った筈の塔を無駄にするような

 

ものなのに………どうして?

 

 

「あいつにとって………エーテリオンの投下は………計画の内………?」

 

そう、シクルの考えが至った時だった…

 

 

「へぇーえ?意外と頭の回転早いんだねぇ…」

「…やっぱ来たか」

シクルの背後には、シクルの開けた大穴から入ってくるラディティの姿が。

 

ゆっくりと振り返るシクルの視界に入るその姿は黒いオーラを放ち、狂気じみている。

「で?それはなに…」

 

「ククク…言うと思うかぃ?」

面白可笑しそうに笑うラディティを見つめ、ふぅと一息つくと首を小さく横に振りふっと笑みを見せるシクル。

 

「思わないわね…まぁ、おおよその予測はついてるわ…(恐らく私のこのピアスと同じ…魔力の制御装備か何かなんでしょうね…)」

 

軽口を叩き合う両者………だが、その間に流れる空気は重く、とても緊張感が溢れ、力無き魔導士がこの場にいれば即、失神するレベルの威圧が漂っていた。

 

互いに睨み合う………相手の隙が生まれる瞬間を伺う両者………

 

 

不意に…ラディティが笑い声を出し始める…

 

 

「………?なに…(今笑いの要素あった…?)」

 

「いやいや…わりぃわりぃ…大体の奴はこの魔力で怖気付いて腰抜かしちまうからよぉ…

 

やっぱアンタおもしれぇなぁ………これを真正面から受けて戦意消失しない奴なんざ初めてだぜぃ?」

 

だから………

 

 

「おいちゃんを楽しませろよ?歌姫」

 

ヒュッーーー

 

「っ!!!(刀身が伸びてっ!)」

 

ラディティが刀を振った瞬間、刀身が黒い魔力を纏い、刃となりシクルに神速の速さで伸びる。

シクルは咄嗟に刀で刃を受け止めるも…

 

ヒュンッ…

「え………」

 

ザンッ!!

 

 

ラディティの刀を押し戻し、その勢いで空中に飛翔し、距離を離すシクル。

 

そしてその顔には………一筋の赤い刀傷が出来ていた…

 

 

「…今………刀が…曲がった?」

 

シクルがラディティの刀を受け止めた時、その刃はまるで飴細工のようにしなやかに曲がり、弧を描き一瞬反応の遅れたシクルの頬を傷つけた。

 

 

シクルの血がついた刃を舐め取りながら、ラディティは語る。

 

「この刀は特別でなァ…おいちゃんの魔力で伸びたり縮んだり…曲がったり出来るんだぁい…

 

しかも、魔力を纏えていれば何でもできるんだァ…」

 

 

こんな風に………

 

ニヤリと笑みを浮かべるラディティ…その瞬間………

 

 

グサッ!!

「っーーー!!!!なっ…!?」

シクルの右足を床下から伸びる刃が貫いた。

 

刀を引き抜かれ、激痛にガクッと膝をつくシクル。

「なん…で…今…(あいつの持っている刀は何も動かされていない…なのに、なんで………)」

 

ラディティの持つ刀は確かにその刀身が伸びることはなく、シクルを貫いたであろう時の血も付着していない…

 

疑問に揺れるシクル…そんなシクルの視界にラディティの背が映り、ソレを見つめる。

 

「ま…さか………」

シクルの見つめる先にはラディティが装備するもう一対の刀ーーー

 

さっき…あいつはなんて言った………?

 

 

“魔力を纏えていれば何でもできる”

 

 

「魔力…纏う…まさか、その刀で………?」

 

「ククク…ククッ……クハハハハハッ!

 

最短記録だよ、歌姫………これに気づくなんてなぁ…でも、気づいたところで事態は解決しない…さぁ歌姫…おいちゃんの刀の贄となれ…

 

そして、その真っ赤な血をもっともっと見させろやぁ!!!」

 

その大声と共に、猛攻撃が、シクルへと繰り出される。

 

伸びてくる刀を避け、対応するもラディティの魔力により、変幻自在に曲がり、それは確実にシクルを狙ってくる。

 

避けきれないものは刀で弾き、軌道修正で対抗するが…

 

 

「ぐっ!くっ…!!」

 

ギンッ!キンッ!ザシュ…ブシュッ!

 

軌道修正した刃が再びシクル目掛け曲がる…

 

そんな一方的な攻防戦が暫く続く………。

 

 

「っーー!(このっ…軌道が出鱈目すぎて予測ができないっ!!)」

どうすれば…そう、悩み、一瞬もう片方の刀を忘れてしまうシクル………

 

ガッ!

「っ!!」

小さな隙を見せたシクルは対応しきれず…

 

ズシュッ!

 

腕を斬り付けられた…。

 

 

「っ………こんのっ…やってくれるじゃん?」

 

 

シクルは血の滴る腕を抑え、苦々しく、笑みを浮かべ冷や汗を背に伝わせながらラディティを見つめた………

 

 

そして…はぁ…と、ため息をついたシクルは十六夜刀をしまってしまう…

 

それを不審に思うラディティ。

 

「ん?なんだぃ…降参か?なら早くおいちゃんに殺され………「降参?…誰が?」……なん?」

 

ラディティの言葉を遮り、声を発したシクル…

 

その顔は伏せられ、伺えない………

だが、ラディティは感じていた………

 

 

「…(なんだ?この異様な感じは………なにか…違う?)」

 

ラディティはシクルの変化…魔力の質の変化を感じ取った………

 

 

 

「………換装 “龍鱗刀”」

 

 

シクルが換装した刀…それは、十六夜刀とは違い………

 

柄の部分に銀色に輝く装飾が付けられており、刀身はどことなく…何かの鱗に、ラディティは見えた…

 

 

 

「………これを持った時…私は、負けない…

 

 

 

ラディティ………覚悟しなさい?」

 

そう告げ、睨むシクルの髪が一瞬金から銀へと変わる…

 

それを見たラディティは………二ヤァ…と、笑を浮かべると………

 

 

「おもしれぇ…やろうじゃん………命の…ゲームをなぁ!!!」

 

 

シクルとラディティ…ラストバトルが今…始まる………。

 

 




はい!第30話、最後までお付き合いありがとうございます!!

で、ですね…次回予告の事なのですが………この章を進めていく中でシクルはかの2人が同一人物であることに気づいていることになっていないか?と思いまして…


そんな中で、“あなたは誰ですか”のような文を入れても…ダメだと思うんです

なので少し変更しました!(計画性ないからこうなる…)
今後気をつけます…では、本当にありがとうございます!!

…次回は明日で!お願いしますo(_ _)oペコリ


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31話 エーテリオン投下

はい!!やっと出来ました…やはり楽園の塔篇は難航してます…

ですが途中で終わるなどはありません!!

しっかりと最後まで、やらせて頂きます!!


では、最後までお付き合い、お願いします!


 

十六夜刀をしまい、第二の刀、“龍鱗刀”を換装したシクル。

 

風に揺らめくその髪が時折、銀色に変化するのをラディティは面白そうに笑みを浮かべ、眺めている。

 

 

「刀を変えたところで…おいちゃんの刀には勝てねぇよ!」

そう叫び、シクル目掛け、刀身を伸ばすラディティ。

 

それは軌道違わず、シクルの喉元目掛け伸びる…だが、シクルは目を瞑っている。

 

そして…ふっとゆっくりと目を開き……

 

 

「“龍鱗 龍牙”」

静かに振り上げたシクルの刀は…ラディティの刀身を砕き割った。

 

「…なんっ…ちっ!」

 

砕かれた刀の破片を見つめ、目を見開き、舌打ちをすると背にある刀身を操る。

 

そして…

 

ニッ…ーーー

 

シクルの背後から心の臓を狙い、床から突き出る刀…

 

「“龍鱗 龍風迅”」

背後に向け、刀を振ると刀身から風の刃が飛び、再びラディティの刀を叩き折った。

 

 

「なんだそれ…何なんだその力は!?」

二対の刀を壊されたラディティは憤怒する。

 

「これは滅竜魔導士…それも、刀に選ばれたものが扱える妖刀………“龍鱗刀”」

 

“龍鱗刀”………それは、竜の魔水晶が柄の部分に装飾され、尚且つ刀身部分に龍の鱗粉が練り込まれた妖刀………それ故………

 

竜の力を持つ、滅竜魔導士にのみ持つことが可能で持ち主を刀自体が選ぶと言われており、持った者の能力値を底上げする。

選ばれし者以外が持つと罰が下るという説もある。

 

 

「言ったでしょう?この刀を持った時、私は負けないって………さぁ…もう、終わりよ…」

 

そう告げ、腰を低くし、刀を構えるシクル。

 

「ふざ…ふざけるな!!おいちゃんは負けねぇぞ!」

ラディティも迎え撃とうと、構えをとる…

 

が………

 

「…な………うご…け、ない?」

 

ラディティは体を動かすことは愚か、指1本、動かせなかった。

 

「んだコレ!?どうなってんだぃ!?」

 

「…“龍鱗 龍縛針”

 

………龍の力を込めた針を相手に飛ばし、その力で針に刺されたものの動きを封じる………

極細の針だから、刺されたことにすら気づかない……最初の時に、既に仕込ませてもらったわ」

解説が終わると…シクルからは膨大な魔力が溢れる。

 

 

「…あなたは私と遊びたかったみたいだけど………生憎と、時間が無いみたいだから…残念だけど………これで、終わりよ…

 

 

“龍鱗 龍翔牙”ッ!+ “龍鱗 龍炎風”ッ!」

 

シクルの振り下ろした刀からは銀色に輝く竜の気が放たれ、それは寸分狂わず、ラディティを襲い左腕が龍に噛みちぎられたかのように吹っ飛ぶ。

 

その後、激痛に呻くラディティに炎を纏った龍が襲いかかり………

 

 

ドガァアアアアアンッ!!!!

 

大きな爆発が起き、煙が晴れた時…そこにラディティの姿はなかった…。

 

 

数秒…呼吸が止まったかのような感覚がシクルを襲う。

 

「………っ…はぁ………うー…もう疲れた…(早く終わらせて休もう…それで甘いデザート食べるんだ………)」

ラディティの気配がなくなり、一気に気の抜けたシクルはその場に座り込み息をつく。

 

「あーもう…また傷作っちゃった…(あまり魔力は消費したくないけど…まだあいつとのことが残ってるし…仕方ない、か)

 

歌魔法(ソングマジック) 治癒(ヒール)

 

傷を歌魔法で治すシクル。そして、治し終わるとよし…と気合を入れ直し、立ち上がる。

 

「…てゆうか…結局、この魔水晶は何だったんだろ………」

うーんと、目の前の魔水晶について、考え込むシクル。

 

数秒考え込み、「んー…分からない…」と1人呟くとぐっと拳を握り…

 

「あいつに聞くか…手っ取り早いし」

と、意気込んだ。

 

 

「誰に聞くんだ?歌姫」

 

突然耳元で聞こえる男の声…

 

「っ!?ジェ…!!」

髪を撫で、背後に立っていたのは笑顔を絶やさないジェラールだった。

シクルは慌てて飛び退く。

 

「ククク…やはり神速では歌姫には勝てないか………」

笑いながらそう呟き、ゆっくりとシクルに近づく。

 

「それ以上近づくなっ!」

シクルはジェラールの表情とその瞳に宿る何かを見た時、僅かに恐怖が背筋を通る感覚に陥っていた。

 

 

なに…何を考えているの………怖い…

 

 

恐怖?私が………そう…これは恐怖………

 

 

あの目を…………私は…知っている………

 

 

あの男と同じ目………やめて……その目で…

 

 

 

私を見ないで…………私は………

 

 

 

シクルの震えが、強くなった時…

 

塔の外………遥か上空に膨大な魔力の塊を感知…シクルははっと上を見上げる。

 

 

「この…魔力………まさか…エーテリオン!?

(馬鹿な…ここまで膨大な魔力の塊………今まで気づかなかった!?)」

 

シクルの意識が、完全にジェラールから離れた…その時………

 

 

カチンーーー

 

「っーーー!!!」

意識を逸らしたその瞬間、ジェラールが目の前へ現れ、シクルのその首に魔水晶の埋め込まれた首輪を装着した。

 

その瞬間ーーー

 

 

ドクンッ…

 

「ぐ………!?ぁ…あぁっ!!!」

シクルは体内の魔力が急速に無くなっていく現象に襲われ、胸と首輪を抑え、膝をつき…倒れ込む。

 

倒れ込み、苦しむシクルを見下ろし、愉快そうな笑みを深めるジェラール。

 

「ククク…どうだ、歌姫………それはお前専用の特注品だ…壊せまい?魔力吸収も備わっている………苦しいか?」

 

「ぐっ…は…!あ、いか…わらず……しゅ、みの…わるい………やつ、ねっ!」

苦しさと痛みに耐えながらジェラールを睨み上げるシクル。

 

「ほぉ…まだそんな目を向けるか…

 

歌姫…いや…………“生贄のお姫様”…か」

 

「っ!!!!だ…まれ………!」

“生贄のお姫様”…その言葉を聞いた瞬間、シクルの身体から膨大な魔力と殺気が滲み出る。だが、それらはすぐに消えてしまう…。

 

ドグンッ!!!

「うぐぁ!!あぁあ…が!」

「魔力抽出力を強めた…もう諦めろ………

 

貴様は…貴様のその魔力は………この、楽園の塔の魔力へと変換されるのだ…月の歌姫……

 

 

生贄のお姫様…シクル・ウィ…「黙れ!!」…」

 

ジェラールの言葉を遮り響く…シクルの怒声………

 

ジェラールを睨みつけるその瞳は…強い怒りと殺意、そして………恐怖に揺れていた。

 

 

「黙れ…!!その名で…その名前で………私を呼ぶなっ!!」

 

バキンッ!!!

 

シクルの魔力が大量に噴出した瞬間、首輪が壊れる音が響き、カラン…と床に転がった。

 

「ほぉ………それを壊すか…」

 

首輪が壊れたことにジェラールは目を見張り驚き、シクルはゆっくりと身体に力を入れ、立ち上がりジェラールを睨みつける。

 

「はぁ…はぁっ…わ、たしの…魔力…だ!

 

勝手に………奪って、利用されて……たまるもんかっ!!!」

ギッ…と、睨むシクルの瞳は強い輝きを放っている。

 

「ククク…!そうだな…そうじゃないとつまらないもんな………だがな?歌姫よ…

 

 

少々遅かったな……GAME OVER…だ」

 

「………え…」

 

ジェラールがそう告げたその瞬間………

 

 

シクルの視界が眩い光に包まれた…

 

 

「っ!!!(これは…エーテリオンっ!?)」

 

ほんとに…落とすなんて………

 

これじゃあ…みんなが………

 

意識の遠のく中、そう脳裏で考え…そして、最後に見えたジェラールの顔………

 

その顔に浮かぶ笑みを見てシクルは思う。

 

 

これは始まりであり………まだ終わりではない…と………

 

それを最後にシクルの意識は完全に途絶えてしまった。

 

 

エーテリオンが投下された直後………

 

ジェラールと共に死を選んだエルザだが、それらは全てジェラールの芝居であり、嘘偽りであったこと………

 

 

そして、ジェラールと評議会のジークレインは同一人物であることが発覚した直後………

 

 

「貴様は……貴様は一体!どれだけの者を欺けば気が済むんだっ!?」

評議会さえも欺いていたジェラールに怒りを覚え、声を荒らげるエルザ。

 

そんなエルザを見て、笑みを深めるジェラール…。

「力が…魔力が戻ってきたぞ!」

 

そして………

 

「だが…流石にこれほどまでの魔力を一箇所に留めるのは確かにリスクが高い……だからこそ………」

 

そう言い、ジェラールは銀色に輝く光の球を召喚し、手に持つ。

「これを使う………」

 

「そ、それは…一体…」

その球を見て、エルザは何かを感じ取る…

 

よく知っている気のするそれを…

 

 

「これは魔力………歌姫の魔力を凝縮したもの…」

「なんだとっ!?」

 

ジェラールの告白に驚愕するエルザ。

 

「これを使えば………この塔全体の魔力も安定する………」

ジェラールはそう言い、エルザが動き出す前にその球を楽園の塔の壁に埋め込んだ。

 

 

その瞬間、辺りを荒々しい魔力により吹いていた突風がやんだ…。

 

「フハハハハッ!!これでやっと…遂に…ゼレフを復活できる…!!」

ジェラールの嬉しそうなその奇怪な笑いを見て…エルザの中でぷちっと理性の線が切れる………。

 

 

「っ…!!!ジェラァアアアアルッ!!!!」

そして再び…2人の因縁の戦いがスタートする…。

 

最初で最後の………その、戦いが………

 

 

 

エーテリオンが、投下され…エルザとジェラールの戦闘が再開されてから約十数分後………

 

「………っ…ん………」

シクルはゆっくりと意識を取り戻す。

まだぼぅっとする意識の中、体をゆっくりと起こし、頭を抑え辺りを見回す。

 

「………え…これ…て………?」

 

その視界に映ったのは………壁一面に…否、

 

塔全体が魔水晶となった楽園の塔の姿であった。

 

 

「なにこれ………まさかこれが………楽園の塔の真の姿………?」

シクルは魔水晶の一部に触れる。

「…そうか…これが狙いで…(だからあの時………エーテリオン投下の瞬間…笑って…)」

 

 

唇を噛み、その真の狙いにすぐに気づけなかったことを悔やむシクル。

だが、悔やむ間もなく…シクルの魔力感知があることに気づく。

 

「え…これ………(この魔水晶から感じる…魔力………)わ…たし、の?」

ふと、意識が消える少し前、魔力をジェラールに奪われていたことを思い出す…。

 

ジェラールが何をしたいのか…正確には分からない………でも………

 

「こんな膨大な魔力…一箇所に留めるなんて危険すぎる…早く…早く何とかしないと…!!」

 

膨大な魔力の発信源は塔の上…恐らく最上階から流れている…。

 

 

「行かなきゃ…(きっとそこにジェラールもいる………多分、エルも…)」

 

シクルはぐっと、力の入らない足に喝を入れ、前にと進む。

 

 

お願いだから…間に合って………!

エル………無事でいてっ!

 

 

走り始めてから、暫くたった頃…

漸く塔最上階のほんの少し下までやって来たシクル。

息は上がり、体はふらつき…魔力もほんの僅かにしかない状態だが………

 

「あと…少し………エル…ナツ………」

 

シクルは途中、最上階にジェラールとエルザの他に、ナツがいることにも気がついていた…

 

そんな時………

 

ゾワッ!!!

 

「なに………この、魔力…(これは…この…嫌な魔力は…知っている………)」

 

そうこれは…暗黒の楽園(アルテアリス)!!

 

まずい………!!

 

 

咄嗟にシクルは震える足を無視し、走る速度を上げる。

 

 

お願い…間に合って!!!お願いっ!!!!

 

 

 

そして………最上階………

 

ついた先で見たものは…………

 

 

「………え…」

 

 

倒れるナツと……暗黒の楽園を放ったであろうジェラール………そして………

 

 

 

「イヤァアアアアアアッ!!!!」

 

 

傷だらけ…血まみれで、エルザの腕に抱かれ…息を引き取ったシモンとその姿を見て、涙を流し声を上げる…エルザの姿………

 

 

 

 

「…っ!!!ジェラァアアアアアルゥウウウウウッ!!!!!」

 

 

シクルの怒声が辺りに響き渡った…。

 

 




はい!!

いやぁ…グダグダ感ありすぎてなんかほんと申し訳ないっ!!

もっと上手く表現出来ればいいんですが…面目ないorz


ですが、最後までお付き合い、ありがとうございます!
次回はまた明日の夜になるかと思います!あと2.3話で楽園の塔終わらせるつもりです!!
はやく“B・O・F”をやりたい!!!ウズウズしてます


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32話 ごめんね…

はい!!

なんと夜になる前に出来ました!自分でも驚きです!!

では、早速32話…始まります!
最後までお付き合い、お願いします!


「ジェラァアアアアアルゥウウウウウッ!!!!!」

 

「っ!…シ、クル………」

 

大きな…大きな叫び声と共に、ダンッ!と地を蹴り、ジェラールへと突っ込むシクル。

そんなシクルを見て、驚きを隠せないエルザと、ニヤッと笑うジェラール。

 

「月竜の…鉄拳!!!!」

ジェラール目掛け、拳を振るうシクル。

だが、その1発はジェラールの右手により、受け止められ止まる。

 

「どうした?そんなもんか…」

「っ!!」

クク…と笑い、シクルを見下ろすジェラール。

 

「魔力が無ければ満足な力は出せないか…」

ジェラールはそう呟くと、光の玉でシクルを吹き飛ばす。

 

「っ!!!」 ズサァッーーー!!!

地を滑り、後退するシクルだが、足に踏ん張りを効かせ、止まる。

 

「許さない…ジェラール………あんたは絶対…許さないっ!!!エルの大切な人を…エルの仲間を…あんたは殺した………そして………

 

 

エルを泣かせたあなたを………あたしは………許さないっ!!!!」

そう叫び、顔を上げたシクルの憤怒する表情にジェラールは高笑いを見せる。

 

「もう遅いのだよ、歌姫!!

俺はエルザを生贄にし、ゼレフを復活させるのだ!!!そしてそこに倒れる愚かな男は…そんなつまらん女の為に命を落としたんだ…

 

笑えるだろう?」

 

 

「…………………な…」

シクルは拳を強く握り、震える。握り拳からは少しずつ赤いものが流れる。

 

その様子に、ジェラールは不審に感じ半歩ほど…後ずさる。

「なんだ…?」

 

 

「ふざけんな………エルを使って…ゼレフを復活?シモンが…愚かな男?………あんたなんかに………あんたなんかにっ!

 

シモンを馬鹿にする権利なんかあるわけないっ!!!エルの!!エルの命もその身体も…エルのものだ!!!

あんたの夢のためになんか…使わせるもんか!!!あんたは絶対…許さない!!」

 

シクルは大声で、叫び、少し呼吸を荒くしながらジェラールを睨みつけ、そしてふっと後ろへと視線と意識を向け…

 

「ね?あなたも許せないよね…あなたは誰よりも…仲間を愛する人だもん………そんな所で、寝ていていいの?………立ちなさい、ナツ」

 

そう、告げた。その瞬間………

 

 

シクルの真横を何かがものすごい速さで通り過ぎる。

 

「黙れェッ!!!!!」

ドゴォッ!!!

「がっ!?」

 

シクルの真横を通り過ぎたのはナツだった。

ナツは憤怒に燃える重い重い拳をそのジェラールの顔へと叩きつける。

 

そして、バキッ!と何かを口に入れる…。

 

「なっ…貴様、まさかっ…!」

 

ナツの食べているものを見て、ジェラールとエルザは驚愕する。

 

「こいつ………!エーテリオンを…食ってやがる」

 

予想もつかない行動をしたナツに驚きが増すジェラールだが、すぐに首元を抑え、苦しみの声を上げ、地面を転がるナツを見て、愉快そうに再び笑い出す…。

 

「がっ!!あぁっ!」

 

「なんて馬鹿なことを!このエーテルナノには火以外の属性も融合されているんだぞ!?」

 

「その短絡的な考えが自らを自滅へと追い込むんだよぉ!!!」

 

 

2人の声とナツの呻き声を聞きながら、シクルは冷静に考え…そして………

 

ふっと、空を…空に浮かぶ月を見上げる。

 

「………少しは回復できたかな…」

ぽそっと呟くとナツへと手をかざし…

 

 

「………【我、月の守護の名の元に

 

汝、我が友の身を守りたまえ そして

 

その身に宿りし真なる力 解き放たん】

 

歌魔法(ソングマジック) 解放(リべレーション)

 

ナツの身体へと歌魔法をかける。

その瞬間、徐々に反発を起こしていたナツの魔力と身体とエーテリオンの膨大な魔力が融合を始め、馴染み始める。

 

「受け皿は作ったわ…(あとは…あなた次第よ、ナツ………)」

 

エーテリオンを取り込んだナツ………そしてその顔には………竜のような鱗が浮き出ていた。

 

 

「まさか…それは…ドラゴン・フォース!?」

 

ジェラールの驚きの声を聞かず、ナツはジェラールへ、猛攻撃を仕掛ける。

 

 

それを見届けた瞬間、シクルは力尽きたように膝をつき、倒れる。

 

「っ!!シクルっ!」

倒れるシクルの元へ、エルザが駆け寄ってくる。

「エ…ル………」

 

シクルの身体を抱き起こすエルザはシクルの身体にあるはずの膨大な魔力がほんの僅かにしか残っていないことに気づく。

 

「お前…!魔力がっ!!」

「あぁ……さっき、油断…しちゃって…あいつに、ほとんど…持ってかれて………月の力、吸収してた…ん、だけど………やっぱ歌魔法やるにはちょっと無理しすぎちゃったかな」

てへっと笑うシクル。

 

この場に来てから、月の光を喰らい、魔力へと変換していたシクル………だが、

 

歌魔法は本来膨大な魔力を使用する魔法故、枯渇していた魔力を少し回復するのみでは足りなかったようだ。

 

「馬鹿者…何故お前は………そんなに無茶を…

 

魔力が無い状態での歌魔法は身体に負荷がかかる…それはお前が一番よく知っている筈だろう………シクル」

弱い呼吸をするシクルを見下ろし、目が潤み始めるエルザ。

 

「ちょ…やめてよ………私、エルの涙は…もう、見ないって………決めてんだから………大丈夫………私は、死なない………ジェラールは、ナツが…なんとか、する…よ」

にっこりと微笑むとナツが暴れているであろう方向を向き、見つめる。

 

それに習い、エルザもナツとジェラールの戦いに目を向ける。

そこでは………

 

 

大穴空いた地面から“流星(ミーティア)”を纏ったジェラールが猛スピードで飛翔し、

「この速さでは追いつけまい!!!」

と、ナツに叫ぶ。だが………

 

 

グンッ!!!ダンッ!!!

両腕と両足、そして身体全体を使い、ジェラールの元へと超速度で飛翔するナツ。

 

その速度は流星を纏うジェラール以上。

 

「何っ!?」

その光景に驚き、ナツへと強力な魔法を放つも、ナツは器用に空中で躱し、ジェラールへと突っ込む。

 

 

「お前は自由になんかなれねぇ!!!自分を解放しろっ!!!ジェラァアアアアアルゥウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!」

 

そして…そのナツの怒声と共に………ナツの拳はジェラールを襲う。

 

「がぁあああああああああっ!!!!!」

 

「うぉぉおおおおおおおおおおっ!!!!!」

 

 

ジェラールはそのまま、楽園の塔の床を何枚も突き破り、倒れる。

そして、ジェラールに勝利したナツはダァンッ!と音を立て、シクルたちの前へと降り立つ…。

 

「ナツ………(あのジェラールを倒した……これで…これで、やっと…私の8年に及ぶ戦いは終わったんだ………)」

 

やっとみんなに………自由が………

 

ナツの逞しい後ろ姿を潤む目で誇り高そうに見つめるエルザ。そして、シクルもまた…身体をゆっくりと起こし、ナツを見つめ微笑む。

 

やっぱり………あなたは、強い………

心も………力も………ナツ………

 

 

やっぱり…あなたに似てるよ………イグニール

 

ナツの後ろ姿を見つめ、何処か懐かしい姿がダブって見えたシクル。

 

ふっとシクルたちを振り返る、ナツ。そして、小さく笑みを浮かべると、ガクッと膝から崩れ落ち………

 

 

「っ!!!ナツ!!」

前のめりに倒れるその身体を、咄嗟にエルザが走り、受け止めた。

 

エルザはナツの頭に手を回し、胸へと抱き寄せる。

「お前はすごいやつだ………本当に」

ありがとう………そう、エルザの呟きが聞こえたシクルはクスッと笑い、やっと終わったことに安堵する。

 

 

だが…………

 

 

ゴゴゴゴゴッ!!!

 

突然、楽園の塔全体が大きく揺れ始める。

 

「なっなんだ!?」

「これは………」

エルザとシクルは塔全体を見回し、目を見張る。

 

「塔が…暴走を始めているっ!?」

 

「くっ…元々こんな膨大な魔力を一箇所に留めるなんて不可能なんだ………!このままじゃ…塔が爆発する!!!」

 

シクルの告げたその言葉に、エルザは一瞬肩を揺らし、そして…ナツを抱え、シクルの元へと歩み寄る。

 

「………エル?」

「シクル………すまない…ナツを………頼む」

不思議そうに見上げるシクルに、ナツの身体を預けると、塔の壁へと近づく。

 

その行動を目にし、シクルははっとエルザが何をしようとしているか…理解する。

 

「ま…待って………だめ、エルっ!!!だめだ………そんなことっ!!!」

「シクル………これしか、方法がないんだ…だから………ここは私に任せろ…」

 

エルザは…その身を使い、塔と融合し、魔力の暴走を止めようと考えていたのだ。

だが、そんなことをすればエルザの死は確実………だから、シクルは声を荒らげ、止めるよう訴える…。

 

しかし、エルザは笑みを浮かべ、シクルを振り返り…任せた…と、告げる。

「やめて………そんな!他に方法があるはずだよっ!!!!エルっ!!!!!」

 

「…ん………シ、クル?」

シクルの叫び声に、意識が戻るナツ。

そして、シクルの見つめる方をゆっくりと見つめ、ナツも驚愕の表情となり、身体を起こしエルザを見つめる。

 

「おい…まさか、エルザ………お前っ!」

 

「目が覚めたか………ナツ、お前も…シクルと共に早く逃げろ…ここは、私が何とかする………」

 

徐々に塔の壁へと近づくエルザを見つめ、ナツとシクルは止めるよう声を上げるもエルザの足は止まらない。

 

「エルっ!!(そんな…そんなこと………!!

 

やっと…やっと自由になれたんだ!!!エルは………)」

 

死なせる訳にはいかないっ!!

 

 

「換装 龍鱗刀! 龍鱗 龍縛針」

シクルは即座に龍鱗刀を召喚するとエルザに向け、龍縛針を打つ。

「っ!」

 

龍縛針を打たれたエルザは体が動かなくなる。

「っ…シクル…なんの、真似だ!?」

「ごめん………エル…でも、やっぱりあなたが死ぬなんて………そんなこと、私が許せないんだ………」

 

シクルはそう告げると…右耳に装着している制御装置を外し、魔力を解放する。

 

ブワァ!と吹き荒れるシクルの魔力。

「っ!!」

「うぉっ!?」

すでにシクルの髪は銀色へと変化している。

シクルはすぅ…と目を閉じると…

 

 

「エルの命をこんな塔に…くれてやるくらいなら………」

「ま…まさか………シクル、お前!」

「お、おい…?」

 

シクルの足元に魔法陣が展開される。

 

「私が………この塔を止める!!」

 

その言葉と共に、魔法陣は銀色の眩い光を放つ。

 

「待てシクルっ!!ダメだ…それでは私の罪がっ!」

「エルに罪なんてないよ………エルは、もう十分…苦しんだ………これからは、ナツやグレイ…ルーシィ、ハッピー………ギルドの皆と、幸せに暮らすんだよ…こんな塔に縛られずに………ね?」

 

シクルとエルザの会話に、シクルがその身を呈し、この塔を止めようとしていることに気がつくナツ。

 

「お、おい、シクルっ!!!やめろって…そんな…お前がいなくなったら!!!ルージュはどうすんだよ!?」

ナツのその一言にシクルはピクッと肩を揺らす。

だが、シクルは…ふっと笑みを浮かべると…

 

 

「ナツ………ルージュのこと…お願い………

 

大丈夫………あの子は賢いから…分かってくれる」

 

「んな…おい…シクルっ!!!」

シクルを止めようとナツも動こうとするが、その瞬間塔の揺れが大きくなり、元々力の入らない足はすぐに崩れ落ち、倒れてしまう。

 

「ナツ………もう、時間だよ………」

 

シクルはそう告げるとナツとエルザの足元にも魔法陣を展開。

そして………

 

 

「ばいばい………ナツ…エル……ごめんね…

 

ごめん………こんな私を…許してね………

 

 

ナツ………………」

 

 

最後にナツが見たのは…笑みを浮かべながらも、涙が頬を伝うシクルの顔………

自身の身体を包み込む光に逆らおうとナツはシクルに手を伸ばし…

 

「やめろ…やめろっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

シクルゥウウウウウウウウウウウウウ!!!!!」

 

ナツも涙を流し、声を上げる…だが、ナツの伸ばした手はシクルには届かず………

 

シクルの展開した魔法陣により、エルザとナツは塔の外へと転送される。

 

「………これで、大丈夫…」

シクルはぽつりと呟くと、頬を伝う涙を拭い…

足元の魔法陣を更に大きくする。

 

「ふぅ………

 

【我、聖なる月の名の下に

 

邪なる力を封じ 悪しきなる力 封印せん】

 

歌魔法(ソングマジック) 封印(シール)!」

 

塔全体に“歌魔法 封印”を展開。

この塔自体にそれほど悪の力や邪なる力は秘められてはいないものの、色々と応用の利く魔法である。

 

さらに…

 

「【我、月の守護の名の下に

 

愛する者の身を包み その身を守らん】

 

歌魔法(ソングマジック) 防御(シールド)!」

 

いくら、封印の魔法を展開しても流石にこの膨大な魔力が外に漏れない保証はない…

 

保険のために、シクルは防御魔法を展開する。

 

そして…

 

「【我、月の加護の名の元に

 

月の道を創り 天へと汝を導かん】

 

歌魔法(ソングマジック) 月の道(ムーンロード)!」

 

最後に、この塔にある魔力を空へと向けて流すための道を“歌魔法 月の道”で作る。

 

シクルが1人塔に残った理由…それは、これ…“月の道”発動の為である。

 

この魔法は術者が発動したい場所から動かずに魔法陣を展開することにより使用可能となる…その為シクルはこの場から動くことは出来なかった…。

 

 

塔全体が暴走した魔力の封印しきれなかったものと月の道による輝きで一層光りだす。

 

シクルは目を瞑り、最後にーーー

 

「………ごめんね」

 

 

 

 

ドォオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!

 

 

楽園の塔…………消滅ーーー。

 

 




如何だったでしょうか………恐らく次で楽園の塔篇終了です!


この章が終わりましたら次は少し番外篇を組み込み、B・O・Fへ行きたいと思います!
では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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33話 暗闇の中で掴んだ光

はい!!遂に楽園の塔終わりました!!


………少し早く番外に入りたく、急ピッチになりました…すいません、グダグダでorz


どうか広いお心でお付き合い下さいませ!
では、最後までお付き合い、お願いします!


楽園の塔消滅の、数分前ーーー

 

 

シクルの魔法により、塔の外へと転送されたナツとエルザは偶然にも、転送先がグレイやルーシィたちの元だった。

 

シュンーーー

 

「うぉ!?ナツ!?」

「エルザっ!!無事だったのね!!」

突然現れた2人に驚くグレイとルーシィ。

 

「っ!!ここは…!シクルは!?」

「シクルっ!!シクルがっ!!!」

グレイとルーシィの声が聞こえないのか、ナツとエルザは少し慌てていた。

 

「おいちょ…落ち着けって…」

「シクルがどうしたの…?」

グレイとルーシィが2人を宥めながらどうしたのか問いかける。

 

「シクルがまだあの塔の中にいるのだ!」

エルザの告げた言葉に、グレイたちは目を見張り、驚き塔を見上げる。

 

「はぁ!?」

 

「シクルがまだあの中にって!」

 

「そんな…それじゃあシクルは……」

 

「シクルゥ…どうなっちゃうのぉ……?」

 

グレイ、ルーシィ、ハッピー、ルージュと続き、言葉を発する。

 

ルージュの涙声を聞き、ナツが口を開こうとした時………

 

 

ドォオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!

 

 

「「「「「「「「「っーーーー!?」」」」」」」」」

 

 

少し離れた位置に建っていた楽園の塔が…大きな爆発音と共に、光の柱となり…天へと登っていった…。

 

「楽園の塔が…!」

グレイは驚き、光の柱を見上げる。

 

「そんな…シクルはっ!?」

大きな爆発を起こしたソレを見て、ルーシィは悲痛な声を上げる。

 

「うそ……だよ、ね…ぇ?」

涙をたくさん流し、光の柱を見上げるルージュ。

そんなルージュと同じく涙を流し、顔を両手で覆っているハッピーを抱きしめ、自身も涙を流すルーシィ。

 

「くそ…くそ………クソォオオオオッ!!!!」

雄叫びを上げ、涙で頬を濡らし、悔しさと悲しみにくれるナツ…

 

エルザやグレイも涙を流し、ショウやミリアーナ、ウォーリーも目の前で涙を流すナツたちを見つめ、悲痛な表情で俯く。

 

その場の全員が顔を俯き、悲しみにくれている時………

 

「………あれ、なんです…か?」

ジュビアの一声が静かに響いた。

 

全員がジュビアを見るとある一点を見上げ、目を見開いていた。

ジュビアの見つめる方を見上げると………

 

 

「…なんだ、あれ…」

その先にあったもの………それは…

 

「光………?」

塔の魔力が天へと登る光の柱が消えた、その上空………

 

「いや…あれは………魔法陣…?」

円形の光が創り出されていた…それは、月の下に現れた謎の魔法陣………

 

「なんで…いきなり…?」

その魔法陣を見上げ、全員が驚きと戸惑いに揺れている時………

 

「……………シクル?」

ピクッと、ナツの嗅覚………いや、五感が反応を見せた…。

 

「え?」

「間違いねぇ………あそこからシクルの匂いがするっ!!!」

ナツはそう叫ぶと、バッ!と立ち上がり、ルージュに視線をやる。

 

「行くぞ!!ルージュ!!!」

「え…えぇ?どこにっ?」

話についていけず困惑中のルージュを抱え、ナツは飛翔し、ルージュに翼を出させる。

 

「決まってんだろ!!!シクルを連れ戻しにだ!!!」

ルージュの見たナツの瞳は諦めを知らない、ギンギンに輝く光を持っていた…

 

「シクルを………あいっ!行くよぉ、ナツ!!」

連れ戻す、その言葉を聞きルージュも飛ぶ速度を上げ、遥か上空へと飛び上がる。

 

 

なんで、シクルの匂いがするのか…ナツには分からなかった…。

 

だが、今ナツの脳裏を占めている思いはただ一つ………

 

 

「ぜってぇ…死なせねぇぞ!!シクル!!!」

 

 

 

 

 

 

………………ん………こ、こは……?

 

 

誰かに呼ばれた感覚がし、目が覚めるシクル。

 

目が覚めると少し暗い空間にぽつんと1人、漂っていた。

 

 

………そっか…………私、魔力の暴走を止める為に…………じゃあ、ここは天国?

 

 

………否、地獄かな………

皆との約束、守れなかったんだもんね………

 

 

 

魔力の暴走を止める為とはいえナツたちを置いて死んでしまったことに今更ながら、少しの後悔が襲いかかってくるシクル。

 

 

………でも、エルザや皆が死んじゃうよりは………良かった…よね?

 

 

あの時、確かに守ることに成功したと…それだけは感じ取っていたシクル。

そう思い至ると、満足気に目を瞑り、意識を手放そうとするシクル。

 

 

 

そんな時ーーー

 

 

《バカね………この娘は…》

 

 

 

っっ!!!!………え?

 

シクルの脳裏に響いた女の声………その声を聞いた瞬間、シクルは目を見開く。

 

 

 

………え………ま、さか…うそ………

 

 

《やだわ………まさか、私の声を忘れた訳じゃあないでしょう?………シクル》

 

 

 

……………セ…レー、ネ?

 

 

シクルの言葉に、クスッと笑う、その声の主

 

 

 

《なんだ…分かるじゃない………そうよ》

 

 

ほんと……?セ、セレーネ………どこ…どこにいるのっ!?私…お母さんに会いたくて………

 

 

その声………シクルの探し人(竜)…“セレーネソフィア”のものであった。

 

 

《だめよ………分かっているでしょう?その時が来るまで………私たちは会えない………

 

今回は特別なの………あなた、今自分がどんな状況だか分かってる?》

 

 

 

…どんな…状況って…私、死んだんじゃ…?

 

シクルの答えにセレーネはいいえ…と答え

 

 

 

《あなたはまだ…死んでなんかいないわ……

 

まぁ、ほぼ仮死状態に近いのだけどね………》

 

 

………仮死…?

 

セレーネの言葉に首を傾げ、疑問を持った時だ…シクルは背後から少しずつ照らされる光に気づき振り返る。

 

そして………

 

 

うっ………!?な、に…?

 

 

眩い光が辺りを照らし…光から映し出された光景は………

 

 

 

雨の降る中………ギルドの皆が…ルーシィやハッピー…グレイやルージュ………そして、マスターやエルザも…一つの墓の前で泣いている光景だった…。

 

 

墓には“シクル・セレーネ”と名が彫られており、これは自分の葬式なのだと…理解するシクル。

 

 

………どうして…どうして、皆………泣いてるの?どうして…………笑ってないの?

 

笑っていて欲しいと願ったギルドの仲間…家族全員が涙を流し、悲しみにくれていた…

 

 

そんな時、よく見知った桜髪の男…ナツが葬式に現れ、暴れ始めた………。

 

『シクルは死んでねぇ!!!死んでなんかいねぇんだァ!!!』

 

そう怒声をあげ、墓に備えられている花を蹴散らすナツを取り押さえる家族たち…

 

 

『やめろナツ!!!』

 

『離せぇ!!シクルは死んでねぇ!!俺は諦めてねぇぞ!!シクルゥウウ!!!』

 

『もう…やめて、ナツ…!現実を見なさいよぉおおっ!!!』

 

『うぁあああっ…シクルゥ…会いたいよぉ…会いたいよぉぉおおおっ!!!!』

 

 

 

皆の涙する姿とシクルの死を悲しむ声………

 

シクルは耐えきれず、ホロホロと涙を流す。

 

 

どうして………私はただ…みんなに…!!

 

 

《………ほんと、バカな娘ね………

 

家族が死んで笑える人がいるかしら?

 

…さぁ………シクル………決めなさい

 

 

あなたはこのまま…死を選ぶの?

 

それとも………みんなの元へ帰りたい?》

 

 

セレーネの声が響く………シクルは涙を流し、顔を俯き…今見た光景を思い出す。

 

そして………

 

 

嫌だ………死にたくない………あんな…

 

あんな、悲しみにくれる皆を私は………見たくないっ!!!私は…皆の笑った顔が…大好きなんだ………!!!帰りたい…帰りたいッ!!

 

 

シクルの切なる願いが暗闇に木霊する。

 

その時…

 

 

シクルゥウウウウウウウウウッ!!!!!!

 

 

っ!!!!!

 

 

シクルの耳に届いたその声に…はっと目を見開き、顔を上げるシクル。

その視界の先に………暖かい光が見える…。

 

その光を見た時………シクルは迷うことなく、その手を伸ばした………ゆっくりと…だが、確実に………

 

 

あぁ………その暖かい光………私は、知っている…

 

 

そして、シクルの手が光に届こうとした時…

 

シクルは伸ばした手を何かにしっかりと、握られる感覚がし、引っ張られ…抱き寄せられる感覚を覚えた。

 

 

それは、よく知る熱………

 

心休まる、暖かな熱………

 

気合で瞼を上げると、視界に広がるのは涙に濡れる桜髪のよく見知った彼と自身の大切な小さき相棒………その姿を見た時、シクルは小さく微笑みを浮かべる。

 

「……………ナツ………ありが…とぅ」

 

「シクル………もう、こんな事…2度と、するなっ………!」

 

涙声で告げるその言葉にシクルはあぁ…悲しませてしまった…と、後悔が湧き上がる。

 

「ナ、ツ………ごめ、ん…ね…ただいま………」

 

「………おぅ…おかえり………」

 

それを最後に、ここでのシクルの意識は完全に途絶えた………。

 

 

 

 

 

「………………ん………」

 

ゆっくり…ゆっくりと、意識が浮上する感覚が訪れ、シクルはゆっくりと瞼を上げる。

 

そして、やや眩しい光に一瞬目を細め、ゆっくりと確実に眼をあけると…目の前に広がるのは木材で出来た天上だった………。

 

「………こ…こは?」

だるい身体を起こし、辺りを見るとそこはどこかの一室のベッドの上だった。

 

シクルは自身の手を見下ろす。

「…私………生きてる?…セレーネ………」

 

 

私を………助けて、くれた?

 

あの暗闇の中…響いた懐かしき母の声に今でも胸が熱くなる感覚がし、ぎゅっと胸を抑える。

ふと、足元にほんの僅かに感じる重みに目を向けると………

 

「………………ナツ…ルージュ…」

ベッドに寄りかかるように眠っているナツがいた。その反対側にはルージュもいた。

 

ナツとルージュを見つめていると、部屋の扉がキィと音を立て、開かれる。

 

「あ………」

「おや…起きてたのかい、あんた」

部屋に入ってきたのは、ポーリュシカだった。そこでやっと、ここがポーリュシカの自宅であることに気づく。

 

「全く………また無茶をしたんだってね…お前さんは」

しかめっ面でシクルにグチグチと説教が始まるポーリュシカの言葉に、シクルは肩をすぼめ、俯く。

 

「ご………ごめんなさい」

「………はぁ…全く………今回、あんたは5日間は眠っていたんだよ…」

ポーリュシカの告白に、「そんなにっ!?」と驚くシクル。

 

その声に、ナツとルージュがん…と声を上げ、目を開ける………。

 

「あ…………」

身体を起こし、シクルと目が合ったナツとルージュ………

 

「あーっと…お、おはよ?ナツ…ルージュ…」

 

「っ………シクルーーーーー!!!!!」

「わぁあああ!!!シクルだぁあああ!!!」

 

叫び声を上げ、シクルに飛びつく1人と1匹。

「きゃあ!?ちょ…ちょっと………」

「シクルっ!良かった…目が、覚めて………」

 

まだ身体が痛むシクルはナツとルージュに抗議の声を上げようとするが、ナツのその言葉と、回される腕が震えていることに気がつくと、ナツとルージュにシクルも腕を回し、抱きしめた。

 

「………ありがとう…ごめんね…もう、しないよ………」

「………おぅ」

「あいぃ……」

 

その後、診察をしたポーリュシカから、帰宅の許可の出たシクルをナツがおぶり、ギルドへと戻った。

 

そして、その日はギルドに戻るとお祭り騒ぎ…(いつもお祭り騒ぎよろしく賑やかなギルドだが………)

 

エルザやグレイからはお叱りを受け、ルーシィやハッピーからは泣きながら抱きつかれ、「心配かけてごめん…ありがとっ!」と笑みを浮かべ、告げるシクル。

 

 

こうして…シクルたちと楽園の塔を中心にした事件は幕を閉じた………。

 

 

 

 

 

 

………全く…ほんと、誰に似たのかしらね…

 

 

 

………ふん…そんなの、貴様に似たに決まっているだろう……

 

 

 

あらやだ………失礼しちゃうわ…そういうあなたの子こそ………あんな無茶して…一体、誰に似たのかしらね………クスクス

 

 

 

むぅ…黙らんか………結局のところ、お互い様ということだろう………なぁ…セレーネ………

 

 

 

フフフ…ええ………そうね………イグニール…

 

 

 

 

まだ…………その時ではない………だが、その時が来た時は……………

 

 

 

………必ず、真実を………

 

 

 

 

楽園の塔篇 完結〜

 

 

 

next.story 収穫祭 B・O・F篇 開幕

 

 

 

 

〜予告〜

 

 

 

収穫祭だー!!!ファンタジアだぁああ!!!

 

 

 

 

えぇえええ!!!シクルもでるのぉー!?や、家賃がぁ………

 

 

 

 

エバーグリーン……皆を元に戻してっ!!!!

 

 

 

 

バトル・オブ・フェアリーテイル《B・O・F》…開幕だ!!!

 

 

 

 

ラクサス……私があなたの目を覚まさせる!!!

 

 

 

 

ルール変更………?神鳴殿って………ふざけんなよ…糞ガキ…

 

 

 

 

出来るかじゃねぇぞ!お前らの……無事をだ!!ぜってぇ…死ぬなよ!!

 

 

 

 

ラクサス………………“俺”を………怒らすなよ………

 

 

 

 

ラクサス………………またね………

 

 

 




はい!!!遂に楽園の塔篇終わりました!!!

次は2.3話番外篇を投稿してからのB・O・Fに入りたいと思います!!!

番外篇お昼には投稿したいな…(切実………)
では、また明日…投稿致します!!

最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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第5章 収穫祭 B・O・F 篇
34話 収穫祭へ向けて



はい!!ついに始まりました、B・O・F 篇!!

私としては進めていくのがほんの少し楽しみな章です

では、最後までお付き合い、お願いします!


 

 

楽園の塔での戦いが終わり、シクルの意識が戻ってから5日後……

 

ギルド内では現在、明日に迫った収穫祭“ファンタジア”へ向け、準備の真っ最中だった。

 

 

「はぁー疲れたァ……ちょっと休憩」

こちらも収穫祭へ向け、準備を進めていたシクルだが、流石に疲労感が増したのか、端っこのテーブル席へ座り、突っ伏していた。

 

ふと、顔を上げギルド内を見渡すシクル。

「ふぅ…にしても、ギルドがこんなに大きくなってたのはびっくりだなぁ……」

 

シクル達があかねリゾートへ行き、尚且つ楽園の塔でジェラールとの死闘を繰り広げている間にギルドは前の建物から姿を変え、大きな大きなまるでお城のようなギルドへと変わっていた。

 

 

そして、変わったのは建物だけでなく……

 

「マスター…約束守ってくれたんだ」

シクルの見つめる先、そこには1人ギルド内でポツンと座り、鉄を頬張る黒髪の彼が……

 

ふっと、シクルは立ち上がり彼の元へと向かう。足音を立てずに……

 

そしてーーー

 

 

「っ……わぁっ!!」

「うぉぉおおおうっ!? な、んだてめ!?」

大きな声を出すと気づいていなかったのか……目を見開き、驚く彼“ガジル”にシクルはお腹を抑え笑う。

 

「あっははははは!!! 匂いでバレてたかと思ったのに…気づいてなかったの? 」

 

「るっせぇ!! 笑ってんじゃねぇぞ、このクソチビアマ……」

ガジルがそう、シクルに暴言を吐いた瞬間、グワシッ!!! とその頭を片手で握り締め、グギギギギ……と力を加えるシクル。

 

「誰がチビですって? あたしのことかなー? ガジルちゃーん?」

「いっでででででっ!!! いってぇよクソが!!!」

 

ガバッ! と力任せにシクルの手を払いのけ、握り締められてた頭をさするガジル。

「たくっ! なんつー馬鹿力だっての……」

 

「お口の悪いガジルちゃんがいけませんー」

「ガジルちゃん言うなっ!!」

グルルルゥ!! と威嚇よろしく、唸るガジルにケラケラと笑うシクル。

 

そして、ふぅと笑いが治ると……シクルはふっと、ガジルを見つめる。

 

「な……なんだよ」

「…………やっぱ、子は親に似るのかな? 」

シクルの言葉にガジルは意味が分からないと首を傾げ、それをみてシクルはクスリと微笑むと……

 

「メタリカーナ……やっぱり、似てるね」

と、告げた。

その瞬間、ガタッ! とガジルは反応を見せ、シクルの肩を掴む。

 

「お前っ……あいつのこと、知ってんのか!?」

「あーごめんね? 知り合いではあるけど……居場所は知らないんだ」

 

シクルの答えを聞くと、「そうか……」と呟き、腰を落とすガジル。

 

「にしても、ナツと反応そっくりだったね」

「んだぁ!? 火竜なんかと一緒にすんじゃねぇ!」

再びガルゥ! と吠えるガジルに「あーはいはい」と面倒くさそうに払いながらふぅと息をつき、小さく笑みを見せる。

 

「でも……ちょっと安心した」

「……んだよ」

 

「やっぱり……ガジルでも、育ての竜を気にしてるんだなぁって……思ってね」

シクルのクスクスと笑う声にそっぽを向くガジル。

 

「けっ……誰があんなやつ……それより、あのジジィから聞いたぞ……」

ガジルのその言葉に首を傾げ、「何が?」と問うシクル。

 

「なんで俺を……ギルドに加入させるように言ったんだよ?」

ガジルのその言葉であぁと合点のいったシクル。

 

「そのこと? なんでって……同じ滅竜魔導士だし……気になっちゃってね」

ダメだった? と聞いてくるシクル。

 

「……別に」

と、そっけないが嫌ではなさそうなガジルに微笑み、「そっか……」と嬉しそうに頷くシクル。

 

 

この後、シクルはミラに呼ばれ、ガジルと別れた。

去っていくシクルの後ろ姿を見つめガジルは……

 

「……変な奴」

と、1人、呟いた。

 

 

 

ミラに呼ばれたシクル。ミラから頼まれたのは足りなくなった食材の買い出しだった。

ちょうど手の空いたルージュも共に買い出しに出かけ、現在はギルドへと戻る途中だった。

 

「ふぅー! 今年は普段よりも新人も多かったもんねー……」

 

「あい…材料足りなくなっちゃったんだねぇ」

 

ルージュに少し荷物を持ってもらいながら並んでギルドへと戻っていると……

 

少し荒い魔力の流れを感じとる。

「ん? この感じ……(誰か喧嘩してるのかな?)」

気になり、魔力の感じる場所へとルージュと共に向かうと……

 

 

「あれぇ? あれって……シャドーギアの皆?」

ルージュの言葉にコクリと頷くシクル。

「みたいね、それと……」

 

シクルの見つめる先には、ボロボロになったガジルがいた。

 

傷のないジェットとドロイとボロボロなガジル、そして不安げに3人を見つめるレビィを見てふぅん……とシクルは目を細める。

 

「なんだかんだ……認められたいのかな? ガジル……」

こういう方法は想像つかなかったけど……と心中で呟いていると……

 

3人の元に新たな魔力……それも、凄く……攻撃的な魔力の持ち主が現れる。

 

「シ、シクル!! あれってぇ……!」

「っ! ラクサス……!!」

ラクサスの眼を見た時、シクルはゾワッと嫌な予感が脳裏をよぎる感覚に陥る。

 

そして、その予感はすぐに的中し……

 

 

ガジルを一方的に攻撃していたラクサスにジェットとドロイが止めるように声を上げた時……

 

「うるせぇ!!!」

ジェットとドロイ……そして、レビィめがけて強力な雷を放った。

 

 

「え……」

 

レビィが目を見開き、驚きと恐怖に身体が動かず、ジェットとドロイも咄嗟のことに身体が動かない……。

 

「ちっ!」

そんな3人を庇うように前に出るガジル。痛みに耐えるように、身構える。

 

そして、ラクサスの雷が目前に迫った……

 

その瞬間ーーー

 

 

ガジルの視界に金色がいっぱいに広がった……。

 

 

バチィイイイイイイッ!!!!

 

 

「おっ……と!!」

 

ガジルの目の前に現れたその人物にガジルやレビィたちは驚き、目を見開いた。

 

「なっ、お前……!?」

「シクル!?」

「いつから……というか今……」

「ガジルを……庇った?」

 

シクルにラクサスも気づき、鋭くシクルを睨みつける。

 

「てめぇ……」

 

「いやぁ……ちょっと威力上がったんじゃない? でもま、まだまだだけどね」

ラクサスの雷を右手1つで受け止めたシクル。ニッとラクサスに笑みを見せ、右手をヒラヒラと振るシクル。

 

「なんだと?」

 

「言葉の意味そのままよ? その程度じゃ、まだ私には勝てないよ……ラクサス」

 

シクルはそう言うと一度目を閉じ……、次の瞬間、ギロッとラクサスを睨みつける。

 

「仲間に手ェ上げんなよ……ラクサス」

 

シクルから発せられるその怒気は殺気に近い威圧を纏い、背後にいたガジルやレビィ達も震える。

 

「シクル……」

レビィが不安げな声を上げると……その隣に茶毛の猫が飛んで来る。

「大丈夫だったぁ? レビィ」

「ルージュ! うん……大丈夫」

 

レビィの方を少し振り返り、再びラクサスに鋭い目つきを向けるシクル。

「……レビィは仲間なんだよ? ジェットやドロイも……ガジルだって、私たちの仲間……傷つけちゃダメだろ? ラクサス……」

 

シクルの言葉に舌打ちをし、去っていくラクサス……

そんなラクサスの去っていく後ろ姿を、シクルは切なそうに見つめる。

 

 

「待ってガジルっ!」

ラクサスが去った後、後ろからレビィの少し大きな声が響き、振り返る。

 

ガジルは傷ついた身体を庇いながら「仕事があるんだ……」と言い、歩いて行く。

 

その後ろ姿をレビィは瞳を揺るがしながら見つめ、そんなレビィの頭にポンッと手を置き、撫で始めるシクル。

 

「わっ…シクル……」

「そんな顔しないの! 可愛い顔が台無しだよ? それに、大丈夫……ガジルは頑丈だから……あれくらいで倒れたりしないよ」

ね? と言うシクルに「うん……」と頷くレビィ。

 

 

シクルはふと、空を見上げため息をつく。

 

 

ラクサス……いつからあなたは…………

 

 

「……独りは、寂しいだけだよ……ラクサス」

 

シクルの思いと呟きは静かにその場に流れ、その思いを聞き取れた者はいなかった……。

 

 

「シクルゥ? どうかしたの?」

ぼぅっと空を見上げるシクルを心配し、頭に乗っかってくるルージュを見てシクルはクスッと微笑むと、首を横に振った。

 

「ううん……なんでもないよ。大丈夫……」

 

そう言うとシクルは荷物を持ち直し、「早く戻ろっ」とルージュに声をかける。

 

最後に、去り際……シクルはジェットとドロイの方を振り返り……

 

「ガジルのしたことは許されない……でも、変わろうとしている彼を……見放さないであげて?」

と、告げた。

 

シクルのその一言にジェットとドロイは考え、悩みこみレビィも……恐怖してしまっていた自身を思い返し、次会う時はお礼を言おう!と決意するのであった。

 

 

その日の夜……

 

「ふぅー、あーあ……やっぱり曲がりなりにも竜の力を使うだけはあるかぁ……」

 

シクルはお風呂から上がり、昼時にラクサスの雷を受け止めた右手を見る。

 

シクルの右手はほんの僅かに赤みを帯びており、痛みはないが痺れが未だ残っていた。

 

「……ラクサスも強いからなぁ……(めんどくさがって手ェ抜いてたら……こっちがやられちゃうかな? )否、流石にやだな……うん」

 

まだ負けるわけにはいかないな……と呟きながら冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップ一杯一気に飲みきるシクル。

 

「ふぅー……さて、私も寝ようかな」

 

ルージュは既に明日に備え寝室で眠っていた為、シクルも早めに寝よう……とそう呟き、コップを洗い振り返った時だ……

 

 

「よっ!」

「………………」

 

リビングの窓から顔を覗かせる桜髪を揺らす彼……ナツがいた。

シクルはジトォ……と半目でナツを睨み……

 

次の瞬間、ヘッドロックを決めるシクル。

 

「うぉぉお!? グェッ!! し、締まる! 締まってるってシクル!! くるしぃっ!!」

 

首に回るシクルの腕をバシバシ叩き、抗議するナツ……

 

「なんであなたは不法侵入決めてんのよ……私が服着てなかったらどーするつもりだったの?」

ナツの首から腕を離し、ため息混じりにそう告げるシクル。

ナツはゴホッゴホッと咳き込み……

 

「いーだろ? 別に……それに! もしシクルが服着てなかったらラッキー! て思う気がするぞ!」

 

悪びれもなくそう言い切ったナツ……シクルはプチッと脳裏で何かの糸が切れる感覚がするも気にせず……ナツを振り返る。

 

「…………あ」

 

「へぇ……? そう……ナツ、あなた……」

振り返ったシクルを見た時……ナツは震えた。

「ひ、ひぃっ!?」

 

シクルは怯えるナツに構うことなく指を鳴らし……

「そんなにあたしに殺られたい?」

ニッコォリと笑みを浮かべるシクル……

 

「い、いあいあ!! じょ、冗談だって冗談!! 悪かった!! 謝るから!! ゆ、許し……「そんなんで許したら警察いらないんじゃアホォおおおおお!!!!!」ぎゃぁあああああああああっ!!!!!!」

 

シクルからの鉄拳を食らったナツが回復するまで十数分……

 

 

結局シクルはナツに紅茶を入れ、出迎えた。

「全く……明日もあるんだから、これ飲んだら帰って寝るのよ?」

呆れ紛れに言うシクルに「分かってるよ…」と不貞腐れながらもシクルの淹れた紅茶を飲むナツ。

 

不貞腐れるナツを見ながらフッと笑みを小さく浮かべるシクル。

「で? 何か用があってきたんじゃないの?」

シクルからの問いかけに、あっと今思い出したというような反応を見せ、懐を探り始めるナツ。

 

「んっと……確かこの辺にっ! お、あったあった! これ!!」

ナツが懐から出したのは一枚のチラシだった。

「ん? これ……あぁ、ミスコン?」

 

ナツが見せたのは、収穫祭の際に開催される “ミスフェアリーコンテスト” のチラシだった。

「おう! じっちゃんがな、シクルにそれ、出て欲しいってずっと言っててよぉ」

 

「マスターが? えぇ……でもこれ皆の前で何かやるんだったよね? ……めんどくさい」

シクルはため息をつき言った。

 

「めんどくせぇ言うなよ! 賞金50万Jなんだぞ!?」

 

「私お金困ってないし」

 

「じっちゃんの頼みだぞ!?」

 

「別にマスターの頼みでも断る時はあるし」

 

「出るだろ!?」

 

「だからめんどくさいって」

 

「出ろ!」

 

「いや」

 

「出ろって!!」

 

「いやだってば」

 

その後数分間、出ろ、いや、の言い合いが続き……

 

 

「なんだよ……俺だってステージに上がったシクル見てぇのに……」

テーブルに突っ伏し、そう呟くナツ。そんな彼を、シクルはチラリと横目で見つめ、そして少し考え込み……はぁ、とため息をつくと……

 

「……出るよ」

と、言った。小さく呟いたがナツの耳にはしっかりと届き……ガバッ!と勢いよく顔を上げ、キラキラとした眼をシクルへ向けた。

 

「ほんとか!?」

「ほんと、出るよ(てか眩しい……ほんと、犬みたいだなぁ)」

 

シクルの返事に満足したのか、ナツはカップに入っていた残りの紅茶を飲み干すと立ち上がり、窓から外へ身を出す。

 

「ちょっと、玄関から帰りなさいっての……」

何度言っても治らない為、強くは言わないが一応文句を言うシクル。

だがやはり、気にしないナツはくるりとシクルの方を振り返り、ニカッ! と太陽のような笑みを浮かべる。

 

「また明日な、シクル!!」

そう言い、ナツは窓から飛び降り、帰って行く。

シクルはナツの出て行った窓をしばらく見つめ……1人、「また明日ね……」と呟くと窓を閉め、電気を消し、寝室へと入っていった。

 

 

 

 

そして、翌日ーーー

 

 

ついに、収穫祭 “ファンタジア” 当日。

 

 

「収穫祭だー!!! ファンタジアだぁあああ!!!」

 

『ぉおおおおおおおおおっ!!!!!!』

 

 

妖精の尻尾を中心に、歓声がマグノリア全体に轟くのであった……。

 

 

 

 

これよりーーー収穫祭 “ファンタジア” 開催

 

 





はい!!如何だったでしょうか?

ちょっと予想より文字数足りなくナツとの絡みを入れました、はい


次回はミスコンスタート!そして……な、感じになると思います!
では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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35話 バトル・オブ・フェアリーテイル 開幕!!!

はい!!夜中の投稿となります!!

変な時間に起きてしまい寝れなくなってしまいました……(汗)


では、35話最後までお付き合い、お願いします!!


 

収穫祭……ルーシィにとっては初めての大イベントであり、飾りの施されたマグノリア全体を見つめ、わぁ! と感嘆の声を上げていた。

 

「わぁ、すごい!! こんなに人が集まるのねぇ……」

 

「まぁ、この祭りはマグノリアきっての大きな祭りだからねぇ……そりゃ人も集まるよぉ」

ルーシィに言葉を返すルージュは、街中に並ぶ出店の食べ物を片っ端から買い占め、食べ続けていた。

 

「へぇー……」

ルーシィは興味津々に、辺りを見渡す。

そんな中……

 

 

「ちょ……もー! しっかり歩いてよ、ナツってば……やっぱり家でゆっくりしてたら?」

 

「……いあ……大丈夫……だ、ぁ」

 

「そう言いながら体重こっちにかけてこないでってばっ!!」

 

 

ルーシィやルージュの歩く後ろの方から聞こえてくる会話……

 

ルーシィとルージュは一度顔を見合わせながら、遥か後方を歩く2人と1匹を振り返る。

 

そこでは、ナツがフラッフラな状態でシクルに支えられながら街中を歩くものの、ほとんど全体重をシクルに預け、シクルが若干押しつぶされそうになりながら文句を叫ぶ姿……

 

「……あれ、大丈夫なの?」

「……さぁ?」

苦笑を浮かべるルーシィとルージュ。

 

「てかなんであんなことになってんの? ナツは……」

ルーシィが首を傾げルージュに問いかけると、はぁとため息をつきながら話し始める。

 

「実はねぇ……昨日の夜ナツってばあたしたちの家に来てねぇ、すぐ帰ったみたいなんだけどぉ……その後も寝ないで修行だって……朝までやってたみたいなんだぁ」

 

で、あれはその修行が祟って、魔力切れと寝不足からきてるみたいだよぉ? と言った。

 

「……バカね」

ルーシィはポツリと一言、そう呟いた。

 

「あ、そういえばルーシィ? もう少しでコンテスト始まるんじゃないっけぇ?」

ルージュの言葉にはっ! とルーシィは時計を見て……

 

「あぁああああああっ!!!! そーだったぁ!! 私の家賃ぅーーーー!!!!!」

 

と叫び、コンテスト会場であるギルドへ走り去っていった。

 

走り去るルーシィを見つめ、シクルも時計を見て、あぁと頷く。

「あ、そっかもうそんな時間か……ハッピー交代交代、私もコンテスト出るからさー」

シクルはそういい、フラフラなナツをハッピーへと預け、「じゃ、行ってきまーす!」

と、ギルドへと先に戻っていった。

 

 

「わぁ……カナやジュビア……ミラにレビィにビスカも出るの? エルもやる気満々だねぇ……こりゃ手強いなぁ」

 

コンテスト会場の控え室に行くと既にエントリーする子が集まっていた。

 

「えぇえええ!!! シクルもでるのぉー!?や、家賃がぁ……」

シクルも出場すると知ったルーシィはがくっと膝をついた。

 

「はっはっはっ何言ってんのさールーシィだって有力候補だよー」

ルーシィの肩を叩き、まぁ頑張ろうと励ますシクルにルーシィは涙を流しながら抱き着く。

 

「シクルゥーーーー!!! お願い、優勝させて!! 家賃ぅー!!」

「ごめんルーシィ、それは無理」

テヘッと効果音がつくのではないかというほどな笑顔を見せ、告げるシクルを見て、がくっと沈むルーシィであった……。

 

 

そして、ついに、コンテストが開始される。

 

まず最初の演技はカナであった。

 

カードで身体を隠し、カードが晴れた頃には水着姿となり、その美しさを存分にアピールしていた。

 

次のエントリーは、ジュビア。

 

こちらも水を使い身体を隠し、飛沫をあげ水が散った時には青が基調の可愛らしい水着姿となり、ほんのりと赤らむ頬が可愛さをアップしていた。

 

 

お次は優勝有力候補の1人、ミラジェーン。

 

だが彼女は何故かここでその天然さを発揮し、顔だけハッピーという奇怪な姿になり、優勝候補から外れた。

 

そして、エルザ、レビィにビスカと続き……

 

 

「いやぁー……皆やっぱレベル高いねぇ……ミラはまぁ、うん……あれだったけど」

ここまで、すべてを見てきた中でのほほんとした立ち振る舞いで感想を述べるシクル。

 

そんな中……

 

『続いて、エントリーNo.7!! 誰もが魅了されるその歌声! 我らが歌姫!! シクル・セレーネっ!!!』

「あ、私だ」

 

司会者の紹介が聞こえ、シクルはステージへと向かう。

 

 

 

そして……ついに、シクルのアピールタイムスタート!

 

 

「……光竜の閃光!」

ステージへと出る瞬間に魔法で1度、観客の目を眩ませる。そして、光が治るとーーー

 

 

『ぉおおおおおおっ!!!!』

 

 

姿を現したのは白い胸元が少し開いた、ドレスに金髪を下ろしたシクルの姿……

 

シクルの手には竪琴が握られており、すぅっと目を閉じると、弦に指を添え……音を奏で始める。

 

 

またいつか 会える日まで

 

この歌を 覚えていて

 

再会の時を 待ってる

 

離れても 忘れはしない

 

この歌が あなたへと

 

この愛が あなたへと

 

もう一度 会える日まで

 

この歌を 覚えていて

 

ありがとう 浮かぶ言葉

ありがとう ありがとう それだけ……

 

 

シクルの歌声に誰もが魅了されていた。ナツも同様に……

 

「……シクル(すげぇ……切ねぇけど……あったけぇ歌だ……)」

 

 

ナツは、シクルのその姿に魅入り、その間にシクルのアピールタイムは終わっていた。

 

「ふぅ……ありがとうございました!」

最後に一礼をし、舞台裏へと戻っていくシクル。その後ろ姿には、多くの拍手と歓声が上がった。

 

 

ステージを降り、舞台裏に入った瞬間シクルは、はぁあああっととても深いため息をつき、肩の力を抜いた。

 

「や……やっと終わった……」

やっぱ人前は緊張するなぁと呟いていると、前にルーシィを見つけた。

 

「あ、ルーシィ! そっか、次ルーシィだもんね」

「シクル! うん、そうよ! ……でも、あんなすごい歌声の次なんて……自信なくしちゃう」

 

ズーンと始まる前から既に諦めの色が見えるルーシィ。

「そんなこと言わないの! ルーシィ、自信持ってルーシィの出来ること、いいところいっぱいアピールしてくればいいんだよ!」

 

諦めかけているルーシィにそう、元気つけるシクルにルーシィはぽかんっと呆けた表情で見つめ、プッと笑う。

「そうだね! やる前から諦めちゃダメだよね!」

 

そう言い、ルーシィは再びやる気に満ち、「ありがとー!」とシクルに手を振り、ステージへと出て行った。

 

 

その後ろ姿を眺め、シクルはフフッと微笑む。

「可愛いなぁ……やっぱりルーシィには笑顔が似合うよね」

1人シクルはそう呟き、観客の歓声を聞き取ると、控え室へと戻っていく。

 

「にしても、さっきのミラのはびっくりだったなぁ……あれは流石に見てる方も引いちゃうよね」

あはは……と乾いた笑いを出しながら、控室前へと到着し、カナたちがいるであろう部屋の扉をノックしてから開ける。

 

 

そして、中へと入った時、シクルの視界に入ったのは……

 

 

「っ! カナ……ジュビア、ミラ! エル……? レビィ、ビスカっ!!」

 

控え室にいた仲間が全員、石像にされ、動かなくなってしまっていた。

声をかけるも彼女たちからの返事はなく……

 

 

「これはっ……! (まさか……)」

この魔法に覚えのあるシクル。かの集団が脳裏をよぎった時……

 

 

ざわっ……

 

「っ!!!!」

空中から飛んでくる何かに気づき、咄嗟に飛翔。ソレを避けると、シクルが元々立っていたところにいくつもの穴が空いていた。

 

足を床につき、魔法の飛んできたであろう方向を見つめると……

 

 

「やっぱり……」

 

そこには、予想通り……緑の服を着た背中に妖精のような羽根を付けた女ーーー “エバーグリーン” が怪しげな笑みをたたえ、立っていた。

 

「あらまぁ……偽の妖精姫さんじゃない……まさか、貴女もコレに参加してるなんてねぇ? 面倒くさがりはどうしたのかしら?」

 

挑発的な口調のエバーグリーンにシクルは鋭い目つきで睨みつけるも、エバーグリーンに気にした様子はない。

 

「まぁ……参加してる理由はほとんど強制だったんだけど……それより、これはどういうこと?」

そう言い、シクルはカナたちを視界に入れる。

 

「こんなことして……マスターや皆……私が、黙っていると思わないでよ?」

シクルはそう警告すると十六夜刀を、手にしエバーグリーンへ向ける。

 

 

「エバーグリーン……皆を元に戻してっ!!!!」

 

「あらあら……そんな事でこの私が本当に戻すとでも思うー? 戻すわけないでしょ、偽の妖精姫さん」

エバーグリーンはシクルの殺気に当てられても怖気付くことはなく、反対に挑発的な笑みを深めた。

 

 

「それに……知ってるでしょ? 私は遠隔で石像にした物を砂に変えることが出来るのよぉ? 砂になっちゃったら……どうなるかしらね?」

 

「っ!! やめてっ! そんなこと……絶対させない!!!」

シクルの叫びに愉快そうに笑い声を上げるエバーグリーン。

 

「やらせないねぇ……なら! まずはその刀を下ろしてもらいましょうか?」

「くっ……」

下さなければ砂に変える……そう脅され、シクルは渋々と、刀を下ろす。

 

そして、無抵抗となり完全に無防備な格好となる。

 

 

その瞬間ーーー

 

「じゃ……あんたもあいつらと同じ、お仲間になりなさぁーい、妖精姫さん」

エバーグリーンが眼鏡を外し、シクルと目が合う。

 

「っーーー!!!!(ナ…………ツ……)」

 

最後にシクルの脳裏を過ぎったのはあの笑顔と時折見せる逞しい後ろ姿……それを最後に、シクルの意識はぷつりと途切れた。

 

 

 

「ん? ……シクル?」

コンテストを観客席から見ていたナツはふと、シクルの声が聞こえた気がし、辺りを見渡す。

 

だが、見渡してもシクルの姿があるわけでもなく、すぐにルーシィの紹介が始まったため「気のせいか……」と深く考えるのはやめた。

 

「その輝きは星霊の導きか!

ルーシィ・ハー……「だぁー!! ラストネームはいっちゃだめぇー!!!」」

 

司会者にラストネームが呼ばれる前にステージへと飛び出たルーシィ。

観客から笑いが出ると、ルーシィは恥ずかしがりながらも星霊と踊ると言った。

 

そして、ルーシィのアピールタイムが始まろうとした……その時ーーー

 

 

「エントリーNo.9 ……」

ルーシィの番を無視し、女の声が会場に響く。

 

「ちょ! まだあたしのアピールタイムが……!」

 

 

「妖精とは私の事、美とは私の事……そう、全ては私の事……優勝はこのエバーグリーンでけってーい♡ ハーイ、くだらないコンテストは終了でーすっ♡ 」

 

ステージに現れたのはエバーグリーンだった。

 

「エバーグリーンっ!?」

「帰ってたのか!?」

ギルドのメンツから驚きの声が上がる。

 

 

「ちょっと! 邪魔しないでよ!! これにはあたしの、生活がかかってんだからね!!」

突然登場したエバーグリーンに大声で文句を言いよるルーシィ。だが……

 

「ルーシィ!! そいつの目を見るなっ!!」

グレイの声が響く。

 

「え?」

 

しかし、ルーシィはグレイの忠告に逆らい、エバーグリーンの目を見てしまう。そして、その瞬間エバーグリーンの魔法により身体が石像へと変えられてしまった。

 

「「ルーシィっ!!!!」」

ナツとグレイの声が響く。

 

「何をするエバーグリーン!? 祭りを台無しにする気か!!」

マカロフの怒鳴り声が響く。だが、それにもエバーグリーンは気にせず……ステージの幕を取り払う。

 

「お祭りには余興がつきものでしょ?」

 

取り払われた幕の裏には石像となったシクルたちがいた。

 

「なっ、控え室にいた奴等が全員石にっ!?」

 

「エルザやシクルまでっ!?」

 

「シクルゥ!!!!」

 

「バカタレが!! 今すぐ元に戻さんかっ!」

 

マカロフの声が響いた時、ステージに雷が落ちる。

 

「よぉ……妖精の尻尾の野郎共……祭りはこれからだぜ?」

 

雷が止むと、ステージにはラクサスと残りの雷神衆が立っていた。

 

「ラクサス!!」

 

「フリードにビックスローもいるのか!?」

 

「遊ぼうぜ……じじぃ」

 

「バカな事はよさんか、ラクサス!! こっちはファンタジアの準備も残っとるんじゃ……今すぐ皆を元に戻せ」

マカロフのドスの利いた声にも臆さず……クククと笑うラクサス。

 

「ファンタジアは夜だよなぁ? さぁて……一体、何人生き残れるかねぇ……」

 

その言葉と共に、ルーシィの真上へと雷が落ちる。

 

「ばっ! ラクサス!! よせぇ!!」

 

落とされた雷は、寸前でルーシィから逸れてステージを破壊する。

 

「この女たちは人質に頂く……ルールを破れば一人ずつ砕いていくぞ? 言ったろ……これは余興だと」

ラクサスはそう告げると石像となったシクルに手を置き、その額に唇を落とす。

 

「ラクサス!! てめぇ!!!!」

 

「最強と言われるこいつですらこれだ……てめぇらに勝ち目はあるかぁ?」

 

「冗談ですむ遊びとそうはいかぬものがあるぞ、ラクサス……」

マカロフの警告にも耳を貸さないラクサス。

 

「勿論俺は本気だ……じじぃ」

 

「ここらで妖精の尻尾最強は誰なのか……、ハッキリさせようじゃないか……つぅ、遊びだよ」

 

そう告げるとシクルから離れ身体を雷電が纏う。

 

「ルールは簡単だ。最後に残った者が勝者……」

 

その言葉にマカロフが声を荒げようとした、その時……突然、テーブルが吹っ飛ぶ。

 

吹っ飛んだ場所にいたのはナツだった。

 

「いいんじゃねえの? 分かりやすくて、燃えてきたぞ!」

 

「ナツ!?」

 

 

「ナツ……俺はお前のそういうノリのいいとこは嫌いじゃねえ……」

ニヤリと笑うラクサス。

 

「ナツ……」

 

「祭りだろ?じっちゃん……行くぞ!!」

 

ナツは一直線に、ラクサスへと飛び込む。

 

「だが……そういう芸の無いとこは好きじゃねぇ、落ち着けよ? ナツ……」

 

「ぴぎゃああぁあああああああっ!!!!」

 

が一瞬で雷の餌食となり、返り討ちにされる。

 

ぷすぷすと焦げるナツを気にせず、エバーグリーンが告げる。

 

 

「制限時間は三時間ね? それまでに私達を倒せないとこの子達……砂になっちゃうから」

 

「ラクサス……」

 

「バトルフィールドはマグノリア全体……俺たちを見つけたらバトル開始だ」

 

 

そして……

 

「バトル・オブ・フェアリーテイル B・O・F……

 

 

開幕だ!!!」

 

 

ラクサスは閃光を放ち姿を消し……闘いの火蓋が落とされた。

 

 




はい!如何だったでしょうか?
途中、主人公の歌った曲は私の好きな歌手の曲を引用させていただきました。


では、また次回も近いうちに投稿させていただきます!
最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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36話 共通点

はい!!最近は1日に1回しか投稿できてませんね……2回は投稿したいんですがねぇ……


では、前書きはさておき、本編……最後までお付き合い、お願いします!!


ラクサスの去った後、ギルドメンバーは我先にと、ラクサスと雷神衆を討つべく、ギルドを飛び出して行った。

 

 

「むむむっ……ワシが……ワシが止めてやるわ! 糞ガキがァッ!!」

 

他のメンバー同様、マカロフもまた同じ……ラクサスを討つべく、ギルドを飛び出そうとしていた。だが……

 

 

ゴチーーーーンッ!!!!

 

「っ!!!!」

マカロフはギルドを飛び出そうとした瞬間、見えない壁にぶつかり、外へは出られなかった。

 

 

「おい、何やってんだよじーさん!?」

最後に出て行ったグレイがマカロフに気づき戻ってくる。

 

「何じゃこれは!? 進めん! 見えない壁じゃっ!!」

マカロフの言ったことが理解できなかったグレイははぁ? と言った呆れた表情でマカロフを見下ろす。

 

「こんな時にどーしちまったんだよ、じーさん……見えねぇ壁なんてどこにもねぇーだろ?」

そう言い、グレイはマカロフを抱え引っ張る。だが、マカロフの身体が外へ出ることはなく、確かに見えない壁に邪魔されているかのような感覚がする。

 

すると、マカロフとグレイを挟むかのように、空中に文字が浮かび上がる。

 

「これは……まさか、フリードの術式か!?」

 

“フリード” とは、雷神衆の1人、文字や術式を使った魔法を得意とする男だ。

 

「術式?」

マカロフの言葉に怪訝そうな表情を浮かべるグレイ。

 

「結界の一種のようなものじゃ。術式に踏み込んだものにはルールが与えられる……それを守らねば出ることは出来ん……見よ」

そう語り、マカロフの指差した先に書いてあった文字は……

 

ーールール:80歳を越える者と石像の出入りを禁ずるーー

 

と、書いてあった。

 

 

「何だよこれ……この言ったもん勝ち見てぇな魔法はっ!?」

 

「術式を書くには時間がかかる……故に、クイックな魔法には向いとらんが、罠としては……絶大な威力を発揮する……」

マカロフは苦々しい表情を浮かべ、語る。

 

「こんな魔法のせいで……じーさんだけ出られねぇってか? くそ、じーさんでも壊せねぇのかよ!?」

 

「術式の決まりは絶対じゃ!! しかも、 “年齢制限” と “物質制限” の二重術式とは……フリードめ、いつの間にこんな強力な魔法を……」

 

 

マカロフの言うところつまり、どう足掻いてもマカロフがギルドの外へ出て闘いに自ら参加することは出来ない、という事だ。

 

その言葉を聞き、グレイはマカロフに背を向ける。

「初めからじーさんを参加させる気はねぇって事か……用意周到だな、たく。 こうなった以上、俺たちがやるしかねぇな……」

 

グレイの言葉を聞き、ほんの少しマカロフの目が見開く。

「グレイ……!」

 

「あんたの孫だろうが容赦はしねぇ……俺はラクサスをやるっ!!」

グレイはそう言い残し、街中へと走り去って行った。

その後ろ姿を見つめ、深いため息をつくマカロフは背後でガタッと何かが動く音に気づき、振り返った。

 

振り返った先にいたのはリーダスだった。

 

「ご、ごめ……オレ、ラクサス……怖くて」

申し訳なさそうに俯き謝るリーダスを見て、マカロフはほんの少し険しかった表情を穏やかにし、リーダスに話しかける。

 

「よいよい……それより、東の森に住むポーリュシカの場所は分かるな?」

マカロフからの問いかけにコクンと頷くリーダス。

 

「あ奴ならもしかすると石化を治す薬を持ってるやもしれん……行って来れるか?」

マカロフの頼みに力強く頷いてみせるリーダス。

「うぃ! そーいう仕事なら!!」

そう言い残し、ポーリュシカの家へと走り出て行くその後ろ姿を見つめるマカロフ。

 

「頼むぞ……」

ぽそりと、マカロフの呟きがギルドに静かに響いた時ーーー

 

 

「ごあぁああああっ!!!!!」

 

背後から爆発音と共に大きな叫び声が聞こえた。マカロフは何事かと振り返ると、先ほどラクサスにより気絶させられたナツが起きていた。

 

「ナツ!! 起きたー!」

「あいぃ!!」

ハッピーとルージュの声が響く。

 

「あれっ!? ラクサスどこ行った!?

 

つか誰もいねぇーし!! どーなってんだじっちゃん!?」

 

騒ぐナツを見つめ、こ奴ならもしや……と考えついたマカロフ。

「祭りは始まっておる!! ラクサスはこの街のどこかにいる……早く探し出し倒してこい!!」

 

マカロフの言葉を聞き、燃え上がるナツ。

「おっしゃぁあああっ!!! 待ってろラクサスぅううううっ!!!」

 

ラクサスを追い、ギルドを飛び出そうとするナツ。

 

だが……

 

 

ゴチィーーーーーンッ!!!!!

 

「おごっ!?」

 

「え……」

 

「「「えぇえええええっ!?」」」

 

何故かマカロフ同様、見えない壁に阻まれたナツにマカロフ、ハッピー、ルージュは目を見開き驚愕する。

 

ナツは決して石化しているわけでも、80歳を越えている訳でもないのに……

 

 

「どーなってんじゃぁあああっ!? ナツ!

お前80歳かっ!? 石像かっ!?」

マカロフのツッコミが炸裂するもナツはうがー!と見えない壁に体当たりしながら吠える。

 

「知るかぁ!!! うぉぉおお!!

 

何で出れねぇんだよ、くそぉおおお!!!」

 

どんなに頑張ってもギルドの外へ出られないナツ。すると……

 

 

「あれぇ? 何……?」

見えない壁を見上げていたルージュが何かに気づき、一同がそちらを見上げると……

 

「何じゃ……バトル・オブ・フェアリーテイル 途中経過速報?」

見えない壁に浮かび上がった文字を怪訝そうに見つめると、さらに文字は増え……

 

「なっ……【ジェットVSドロイVSアルザック 戦闘開始】 じゃと!?」

 

「なんで!?なんであの3人が戦ってるの!?」

 

「あ、また増えたぁ……えっとぉ【勝者・アルザック】 【ジェット&ドロイ 戦闘不能】

ど……どうなってるのぉ……?」

 

 

その速報の内容にマカロフたちは困惑していた。

 

「どうして皆が戦ってるの!? 敵はラクサスでしょ!?」

ハッピーの辛そうな声に拳を握りしめ、マカロフは憶測を語る。

 

「恐らく、フリードの術式にはまったのじゃろ……クソ、彼奴らめっ!」

悔しそうにそして、苦しそうに顔を歪めるマカロフ。

 

愛する我が子同然の子等が争うなど……マカロフにとっては耐え難い苦痛なのだろう……

 

そこに、新たな情報が流れる。

 

「何……【リーダス 戦闘不能】っ!?」

「そんなぁ!これじゃあシクルたちの石化がっ!」

そうこうしている間にも妖精の尻尾のメンバーたちは、次々と戦闘を開始し、その人数を減らしていっていた。

 

「よせっ!! やめんか、ガキども!!」

マカロフの叫びがメンバーに届く事はなく……

 

「街中に術式の罠がはってあるんだぁ……それにかかった皆が戦いを強制されて……」

 

「これがラクサスの言っていた……バトル・オブ・フェアリーテイル」

ルージュとハッピーの悲しみの混じった声がマカロフの表情をさらに曇らせる。

 

そんな中……

 

「くうぅううっ!! 俺も混ざりてえっ! 何なんだよこの見えねえ壁はよぉ!?」

的外れな発言をするナツの頭にマカロフのチョップが落ちる。

 

 

「混ざってどうする気じゃ馬鹿たれが!」

 

 

「最強決定トーナメントだろ? これ!!」

俺も出るんだ!! と意気込むナツに呆れた視線を向けるマカロフ。

 

「どこがトーナメントじゃ……仲間同士で潰し合うなど……」

 

そんなマカロフの言葉を聞き、きょとんと首を傾げるナツ。

「ただのケンカだろ? いつもの事じゃねーかよ」

 

 

ナツの言葉に呆気にとられるマカロフ。

 

「これのどこがいつも通りじゃ……仲間の命がかかっておる! 皆必死じゃ!! 正常な思考で事態を把握出来ておらん!!

 

このままでは……石にされた者たちが砂になってしまい、二度と元には戻らんやもしれん……」

 

 

「いくらラクサスでもそんな事しねーよ!!ムカツク奴だけど、同じギルドの仲間だ……ハッタリに決まってんだろ?」

 

ラクサスのことを微塵も疑わず、こんな騒動になっても尚、 “仲間” だというナツ。

「ナツ……」

 

「これはただのケンカ祭り……つーか、結局何で出れねえんだよ!?」

思い出したのか、再び見えない壁にぶつかり、吹っ飛ぶナツ。

 

「オイラはフツーに通れるよ!」

「あたしもぉ!」

ナツの頭上をクルクルと飛び回るハッピーとルージュ。

 

そんな2匹を見て、ズーンと背中に影を落とすナツ。

「80歳超えてたのか……俺」

 

明らかに落ち込むナツに苦笑を浮かべるハッピーとルージュ。

「そんな訳ないと思うけど……」

「あたしも……そぉ思うけどなぁ」

 

「ナツ……(お前はあのラクサスを……仲間だと言うのか? そこまではやらないと……そう、信じられるのか……? ワシは……)」

 

ナツを見つめ、心の中でそう呟き、拳を握り締めるマカロフ。

 

そんな彼の視界に、再び現在の戦いの状況が表示される。

 

 

【残り時間 2:18】

 

【残り人数:42人】

 

 

「なっ……(42人!? 仲間同士の潰し合いで……もう人数が半分以下に……)」

 

「くっそー! やるなぁ、ラクサスもフリードたちも! 俺も混ざりてぇ!!」

 

「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないんだよ!?リーダスがやられちゃったからシクルたちの石化を解く方法もなくなっちゃって!」

ハッピーがナツにそう告げるが……

 

「治す事ねえよ……どうせハッタリだからさ」

と、笑みを見せ言った。すると……

 

 

「ハッタリだと思ってんのか? ナツ」

 

「「「っ!!!」」」

 

 

「ラクサス!!!」

 

 

声がした方を振り返ると、そこにはラクサスが立っていた。

 

 

「アレ思念体だよぉ!」

ラクサスの姿を見て一目で思念体だと気付いたルージュ。

 

ラクサスはギルドに残るナツを見つめ、怪訝そうな表情を浮かべる。

「つーか、何でおめぇがここにいんだよ?

ナツ」

 

 

「うっせぇ!! 出られねえんだよっ!!」

ガルゥウウ!! と唸るようにラクサスを睨みつけるナツ。

 

 

「ラクサス……貴様……」

マカロフが呟きながら、ラクサスを睨みつけるが、ラクサスは余裕の笑みを浮かべている。

 

 

「仲間……いや、アンタはガキって言い方してたよな? ガキ同士の潰し合いを見るに堪えられんだろ? あーぁ……ナツやエルザ……おまけにシクルも参加できねえんじゃ……雷神衆に勝てる兵はもう残ってねえよなぁ?」

 

ラクサスのその言葉に黙ってしまうマカロフ。その姿に、ニヤッと笑うラクサス。

 

 

「降参するか?」

 

「く……」

ラクサスの言葉にマカロフは小さく唸る。

すると、ハッピーが口を開く。

 

 

「まだグレイがいる!! ナツと同じくらい強いんだ! 雷神衆になんかに負けるもんか!」

 

 

「オレと同じだぁ!? アイツがか?」

ハッピーの言葉に反論するナツ。

「だってそうじゃん?」

 

 

「グレイだぁ? ククッ、あんな小僧に期待してんのかヨ」

ラクサスの面白おかしそうなその声に目つきを険しくするマカロフ。

 

「グレイをみくびるなよ? ……ラクサス」

ラクサスを睨みつけながらそう断言するマカロフ。

 

 

しかし……

 

 

 

 

 

【グレイVSビックスロー】

 

【勝者:ビックスロー】

 

 

【グレイ:戦闘不能】

 

【残り27人】

 

 

 

 

 

「「えっ……グレイが……」」

目の前に表示されたその情報は、余りに酷な知らせであった。

 

 

「ふははははっ!!! だーから言ったじゃねーか……なァ?」

 

 

「う、嘘だっ!! 絶対何か汚い手を使ったんだよっ!!」

「そーだそーだぁ! じゃなきゃ、グレイが負ける訳ないんだぁ!!」

ハッピーとルージュの言葉を、高笑いで無視するラクサス。

 

 

マカロフの表情は次第に険しい目つきから諦めがちらつき始める。

 

「あとは誰が雷神衆に勝てるってんだ? ククク……」

 

 

「ガジルがいる!!」

「ガジルも強いんだぞォ!!」

 

 

「残念っ!! 奴は参加してねぇみてぇーだぜぇ? 元々、ギルドに対して何とも思ってねえ奴だしなァ……」

 

 

「俺がいるだろーが!!! 無視してんじゃねぇ!!!」

存在を忘れられたのが悔しかったのか、叫ぶナツ。だが……

 

「ここから出れねーんじゃ、どうしようもねーだろォよ?ナツ」

ラクサスのその言葉にぐぬぬと反論出来ず。その間、マカロフは考え……そして……

 

 

「……わかった、もうよい……降参じゃ。

もう……やめてくれ、ラクサス……」

弱々しく、降参を宣言した。

 

「じっちゃん!?」

ナツは頭を下げるマカロフに目を見開く。

 

頭を下げるマカロフを見下ろすラクサス……

 

その表情は無表情から、不気味な笑みを浮かべ……

 

 

「ダメだなァ……? 天下の妖精の尻尾のマスターともあろう者が……こんな事で負けを認めちゃあなぁ?

 

どうしても投了したければ、妖精の尻尾の “マスター” の座を俺に渡してからにしてもらおうか」

ラクサスはマカロフへと、そう要求してきた。

 

 

「汚ねぇぞラクサス!! 俺とやんのが怖えのか!? あぁ!?」

ギャンギャン吠えるナツ。

 

「貴様……初めからそれが狙いか……」

ギッとラクサスを睨むマカロフ。

 

「石像が崩れるまであと約1時間半……

 

リタイアしたければ、ギルドの拡声器を使って街中に聞こえるように宣言しろ。妖精の尻尾の “マスター” の座をラクサスに譲るとな

 

よォく考えろよ? 自分の地位が大事か……仲間の命が大事か……な」

 

そう言い残して、ラクサスの思念体は消えていった。

 

 

「くそっ!!! 俺と勝負もしねえで、何が最強だ!? マスターの座だ!? 」

うがー!!と地団駄を踏むナツ。だが……

 

 

「マスターの座など、正直どうでもよい」

と、マカロフの言葉を聞き、ぐもぉ! とずっこける。

 

「いいのかよ!? じっちゃん!!!」

 

 

「だが……ラクサスに、妖精の尻尾を託す訳にはいかん。この席に座るにはあまりにも軽い……信念と心が浮いておる」

 

 

「でもこのままじゃ……みんなが砂になっちゃうよ?」

マカロフの言葉を聞きながらも、耳を垂れ下げションボリするハッピー。

そして、ルージュも……石像となってしまったシクルに寄り添う。

 

「シクルゥ……」

 

泣きそうなルージュを見て、ぐぐぐっと拳を握り締めるマカロフ。

「えーい!! 誰かラクサスを倒せる奴はおらんのか!?」

 

 

「俺だよ俺!! 俺がいんだろ!?」

 

 

「ここから出れんのじゃぞ?どうしようもなかろう……」

 

 

ナツとマカロフがそんな口論をしていると……

 

 

ガサゴソ……ガタッ……

 

 

「誰だ!?」

突然バーカウンターの方から物音が聞こえ、全員が視線をそちらに向ける。

 

そして、振り返った先には……

 

 

「ガジガジ……」

 

 

鉄製の食器を食べているガジルの姿があった。

 

 

「ガジルぅうう!!?」

 

 

「食器食べんなよ!?」

 

 

「も……もしや……行ってくれるのか?」

マカロフの言葉に、ギヒッと不思議な笑い声を出し……

「あの野郎には借りもある。まあ、任せな」

と、言うと腰をあげる。

 

「おおっ!!」

 

 

そして、ラクサスを倒すため、出口へと向かうガジルであったが……

 

 

ゴチィーーーーーンッ!!!!!!

 

 

ナツと同じく、術式の壁に阻まれた。

 

 

「「「お前もかぁあああっ!?」」」

「えぇえっ……」

ナツ、マカロフ、ハッピーの叫びと、ルージュの呆気にとられた声が響く。

 

「な……何だこれはぁあああっ!?」

 

 

「ど……どうなってんだ? ここから出られないのは、80歳以上と石像だけだろ?」

 

 

「ガジル……お、おじいちゃん?」

ルージュの言葉にガウッ!!と吠えるガジル。

 

「んなわけねえだろ!? しばくぞクソ猫!!!」

 

 

何故、ナツやガジルが外に出ることが出来ないのか訳が分からない一同。

 

考えるも検討のつかない一同……そして、その間もバトル・オブ・フェアリーテイルは続き……

 

ついには……

 

 

 

【残り2人】

 

 

 

となった。

 

 

「残り2人だけじゃと!?」

 

 

「何でお前まで出れねーんだよ! マネすんじゃねぇよ!!」

 

「知るか」

ナツの怒声をそっぽを向き、無視するガジル。

 

「ハラ減ってきたじゃねーかコノヤロウ!!」

 

「それは本当に知らんわ!!!」

思わず振り返り、ギャーギャー言い合いを始める2人。

 

ふと、マカロフはそんな2人を振り返る。

「……2人?」

 

そして、はたと気づく……残りの2人ーーー

 

「こいつ等だけじゃとぉおおおお!?」

 

 

「オイラは頭数にすら入ってなかったのかぁあああっ!?」

「あたしも入ってなかったぁああっ!! ちょっと安心」

 

残っているのがここにいるナツとガジルだけだと言う事実に、マカロフは驚愕する。

 

又、自分たちが頭数に入っていないことにハッピーは軽いショックを受け、ルージュはほんのりとほっとしている。

 

 

「くっ……(同士討ちや雷神衆の手により妖精の尻尾の魔導士が全滅したというのか……なんという事だ……シクルやエルザも石像となってしまっている……もう……ここまでなのか……)」

 

 

マカロフが諦めかけ、俯いた。

 

その時ーーー

 

 

「出られないのは多分、 “滅竜魔導士” だからじゃない?」

 

ナツたちにとって聞き覚えのありすぎる声が静かにギルド内で響いた。

 

 

「……え?」

 

「今の……声は……」

 

「ま、さかっ?」

 

「で、でもまだ石像に……」

 

「なんだ……?」

その声にナツたちはお互いを見合い、ステージ上の石像の1人を見やる。

 

 

「…………シクル?」

 

そう……誰かが彼女の名を呼んだ時ーーー

 

 

ピキッーーー

 

シクルの石像の顔に亀裂が入る。

そして、それは徐々に体全身へと回り、ついには……

 

 

パキィイイイインッ!!!

 

完全に砕け、石は砕けきった。

そして……

 

 

「ふぅ……やっと出来た」

金の髪を揺らし、ニッと笑う女、シクルの復活だ。

 

 

「「シクルっ!!」」

「お前……」

マカロフ、ハッピー、ガジルはシクルを見上げる。

 

そして……

 

「シクルゥぅううう!!!!」

「戻ったぁああああっ!!!」

 

ナツとルージュはシクルに飛び付く。

シクルは静かにルージュを抱きとめ……ヒョイっと体を横へ向け、ナツを避けた。

 

「んで避けんだよぉおおおっ!? どわっ!」

 

「いやいや、流石にあの勢いで来られたら怪我するっての」

胸に飛び込んできたルージュの頭を撫でながら、床を転がったナツを見下ろし苦笑を浮かべる。

 

そして、胸に飛び込んできたルージュは涙を流し、更にシクルに抱きついてきた。

「シクルゥ……」

「ルージュ……心配かけてごめんね?」

 

もう大丈夫だよ……とシクルが言うとコクコク、と頷くルージュ。

 

「何故……石化を……」

マカロフの問いかけにシクルはにっこりと微笑み、答える。

歌魔法(ソングマジック) 解除(ディスペル)

を石化する瞬間にかけたの。ただ、どうも石化を解くのに時間かかっちゃって……」

 

シクルのその言葉にニッと笑みを浮かべるマカロフ。

 

 

「てか、さっきの “滅竜魔導士” だからって……どーいうことだよ?」

シクルとマカロフの会話が終わったところを見て、ナツがシクルに問いかける。

 

 

「あぁ、あれ?あれはね……」

シクルはそう言うと、自身もギルドの外へ出ようと出口へ向かい……片手を前に出す。

 

すると……シクルの手も見えない壁により、阻まれ外へは出られなかった。

 

 

「シクルもかっ!?」

「なんと……」

ナツとマカロフは目を見開き、ガジルも驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「石化を解除する間に調べてたんだけど……どうも私たち、滅竜魔導士はこの術式の何かに当てはまって出られないみたいなの」

 

シクルの言った通りならば……ナツとガジルが出られなかった理由も話がつくとマカロフは頷く。

 

 

「滅竜魔導士……それが、共通点じゃったか……」

 

 

「じゃあ、どうやって出んだよ!?」

俺もやりてぇ!!と叫ぶナツ。

 

ガジルもなんだかんだラクサスとやりたい様子……すると……

 

 

「エバーを倒せばいいんだよね?」

マカロフを見つめ、そう問いかけるシクル。

 

「ぬ? あ、あぁ……そうじゃが……」

マカロフの答えを聞くと、パンッ!と手を叩き、ニッ!と笑顔になるシクル。

 

「なら!私が行くよ……エバーを討つ」

 

 

「「「「なにぃ!?」」」」

「え……でも、シクル……ここから出られないんじゃあ……?」

 

ルージュの戸惑いを纏う声に振り返り、クスリと微笑むシクル。

 

 

「大丈夫!!!私には秘策があるから!とっておきの……奥の手がね!」

 

 

ついに動き出す歌姫……

 

彼女の言うその奥の手とは?一体……

 

 




おぉ……初めて7000文字いった!!

次回はエバーグリーン戦です!!

主人公の秘策とはなんでしょうね……では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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37話 月の歌姫VS自称妖精

はい!!日付変わる前に投稿できました!

感激です!今後もこの調子で途切れることなく投稿していきたいと思います!


では、第37話最後までお付き合い、お願いします!!



 

「奥の手……?」

 

「それって……一体?」

 

「鏡花水月じゃないんだよね……?」

ルージュの問いかけに頷くシクル。

「確かに、あれなら術式の外にも作れるけど……一定の距離、本体と離れると消えちゃうから……今回は違う方法だよ」

 

「じゃあ、ちょっと準備するから離れててね?」

 

シクルはそう告げると身近にあった短刀を手にし、床を中心に周りの壁やテーブルに何かの魔法陣を記していった。

「……何やってんだ?」

ナツが途中シクルに問いかけるもシクルは魔法陣を記すことに集中し、ナツの声は聞こえていないようだった。

 

そして……

 

「よし! 出来たっと……さて、いーい? ナツ、ガジル……これからやるのは滅竜魔法の言わば応用編のような魔法」

 

「……応用編?」

「んだそりゃ……」

ナツとガジルが首を傾げ、ハッピーやルージュも分からないと言った様子だ。

 

 

「そう、応用編よ。応用編……滅竜魔法を扱いし者なら誰でも発動可能な魔法だよ。ただし、術者は大量の魔力を消費するわ」

 

故に、圧倒的魔力が無いと発動できないというシクル。

 

 

「下手したら死ぬよ?」

 

「「死……!?」」

「はぁ!? 死ぬって……お前」

なんでもないような表情でいうシクルにナツたちは驚愕な表情を見せる。

 

ナツたちの表情を見て、あぁと苦笑を浮かべ

 

「今回、あまり長い時間これを発動する気は無いから……死ぬ事は無いよ?(まぁ、魔力の消費は抑えられないだろうけど……)」

と、言った。

 

その言葉にほっとするナツたちを見て、シクルはけらけらと笑い、ふぅと深呼吸をする。

 

「じゃ……始めるよ。確認だけど、私はエバーを本気で討ちに行く……いいよね? マスター」

そう問いかけ、シクルがマカロフを見やるとマカロフは仕方が無いと言った様子で頷いた。

 

「あぁ……やむを得ん……頼むぞ、シクル」

マカロフの言葉を受け、ニッと微笑むと魔法陣の中心に立つ。

「あ、ルージュはここで待っててね」

「え……」

シクルのその言葉に目を見開くルージュ。

 

シクルは振り返りルージュを見つめる。

「ルージュはここで…… “私” を守ってて?」

シクルのその言葉に、真意を受け取ったルージュは力強く頷いた。

 

それを見たシクルも満足気に笑うと、座禅を組み、魔法を唱える。

 

 

「……【光の道 龍の道 神の道

 

汝 絶望の道を閉ざし 希望の道を創らん

 

我が盟約にて 汝 我が魂を捧げ 我を導かん】

 

滅竜奥義 《光の魂》“ルミエール・ソウル” 」

 

魔法を唱えた瞬間、魔法陣が輝き出し、シクルを包み込んだ。

 

 

次にシクルが目を開けるとそこはギルドの外だった。

 

「ラクサス……私があなたの目を覚まさせる!!!」

 

そう叫び、シクルは最初の目的であるエバーグリーンを探し、走り出した。

 

 

走り去るそのシクルを見つめる一同。その姿が見えなくなると、次に目の前で座禅を組むシクルに視線を向ける。

 

「……頼むぞ」

目を瞑り、光に包まれるシクルに思いを託すマカロフ。その瞳の奥では複雑な感情が揺らめいていた。

 

 

 

街中を走り、エバーグリーンを探し求め数分……

 

 

「あぁああっ!! もう!! どこにいんのよあいつはっ!!」

未だにエバーグリーンが見つからず、イライラしているシクル。

 

正直言って、少々無謀だったかもしれない……ここ、マグノリアの街は規模が広く、今回の捜索範囲はその街全体に及ぶ……尚且つ、今は収穫祭の真っ只中……たくさんの匂いが混じり、エバーグリーンの匂いを特定出来ずにいる。

 

「はぁ……てかホントあの人どこいんのさ……匂い覚えとけば……いや、それは流石に嫌だな……」

 

あの人香水臭いし……

 

はぁと、再びため息をつくシクル。

「あんまり時間無駄にしたくないんだけどなぁ……」

 

そうシクルが1人呟いた時……上空からの殺気に気づく。

「っ!!」

 

殺気に気づき、避けるように飛び上がるとシクルの立っていたところに光の玉が飛んでいき、地面を壊していく。

 

「あちゃ……また壊しちゃった……てか、これ直すの私だよね? 絶対……」

あいつら……人の苦労も知らずに……

 

 

 

でも……

 

「でもま……大元をまずは叩かないと……ねぇ?」

シクルは地面に着地すると上を見上げる。

 

「あらあら……どうしてこんな所にいるのかしら? まぁいいけど……さっきぶりねぇ? 妖精姫ちゃん?」

 

 

不敵な笑みを浮かべるエバーグリーンが上空を飛んでいた……。

シクルはその姿を見た瞬間、ニヤッと笑い……拳に魔力を集める。

 

 

「やっと見つけた……あんた達のその腐った性根……私が、滅してやる……」

 

 

2人が対峙するとすぐに始まった戦い。

 

エバーグリーンが魔法を飛ばし、シクルはそれを避け、時には魔法で打ち消すなど……エバーグリーンからの一方的な攻撃が続いていた。

 

「あーも……うざったい! 月竜の翼撃!!」

回転しながら魔法を打ち消すシクル。

 

「ほらほらどーしたのぉ? そんなんじゃ、あたし達は滅せれないわよぉ?エセ妖精姫ちゃん?」

 

「うっさい!!! 黙って私に倒されなさいよ!!」

 

「やぁねぇ……そんなんだから、背も伸びずにチビだお子ちゃまだ言われるのよ……エセ妖精姫ちゃん?」

 

エバーグリーンのその言葉を聞いた瞬間……ブチッと理性の線が切れる。

 

 

「……へーぇ? そんなに……そんなに、あたしに殺されたいか?エバーグリーン……」

 

ドッと、魔力が高まるシクル……それを感じ、今まで余裕の笑みを称えていたエバーグリーンの表情が曇る。

「な、なに……この、魔力……」

 

そうしている間も更にシクルの魔力は上昇し……次にエバーグリーンをその視界に入れた瞬間……

 

 

「お望み通り殺ってやるよ……自称妖精が」

ゾクッ! とエバーグリーンに恐怖が襲う。

 

「ひっ……な、なに……今の」

 

訳の分からない震えに襲われるエバーグリーンにゆっくりと近づくシクルを見て、エバーグリーンは焦り、混乱する。

 

「ひっ! く、来るなっ!!!」

エバーグリーンは叫びながら無我夢中となり、魔法を飛ばす。

だがその短調となった魔法の玉をシクルが避けられないわけもなく……

 

冷静に、小さな動きでそれらを交わしていき……遂には、エバーグリーンからおよその50mの距離まで来ていた。

 

 

「な、なによ……何よ何よ!! お子ちゃまの癖に……生意気なのよぉ!!! レブラホーン!!!」

シクルへと再び魔法を飛ばすエバーグリーン。だが、シクルはフッと笑みを浮かべ……

 

 

「そうそう……攻撃を避けている時に気づいたんだけど……それ、少し光が混じってるよねぇ?」

そう呟くと……左手をかざし……、エバーグリーンの魔法をわし掴んだ。

 

「これは……光……即ち、あたしには効かない……あたしの食は……月と光……」

そう言い、シクルはエバーグリーンの魔法を食べた。

 

ゴクッと音を立て飲み込んだシクルを見つめ、驚愕を隠せないエバーグリーン。

「な……なんっ!? 何よそれぇ!?」

エバーグリーンは声を荒らげる。

 

「ふぅー……さぁ……懺悔の時間よ……」

 

ニヤリと笑みを浮かべるシクルを見て、エバーグリーンは察する……勝てない……と。

そして、瞬きを1度した……次の瞬間

 

「……へ?」

 

目の前にシクルの拳が振り上げられていた。

 

「……月竜の鉄拳っ!!」

 

ゴッーーーーー!!!!

 

 

シクルの拳はエバーグリーンの真横を通り、地面を砕き割った。そして、その風圧でエバーグリーンは後方へと吹っ飛び、壁へと激突する。

 

「きゃあ!?」

 

壁とぶつかり、痛みに呻くエバーグリーン。

そこに……

 

チャキーーー

 

「っ!」

「……さぁ……石像にした皆を元に戻しなさい? さもないと……切るぞ?」

 

首筋に当てられる剣先とシクルから放たれる殺気にゴクッと息を呑む。

だが、ここで怖気付いては雷神衆の名が廃る……と、そう考えたエバーグリーンはフッと強気な表情を見せる。

 

 

「ふ、ふん……やれるもんならやってみなさいよ……まぁ、あんたが動けば、あたしが石像達を砂に変えちゃうわよ?」

 

「……は?」

 

不敵な笑みを浮かべるエバーグリーン。

「知ってるでしょ? あたしは遠隔操作で石像を砂に変えることが出来る……砂になったら2度と元には戻せない……」

 

本当に砂にする気はなかったエバーグリーン。このハッタリでシクルが諦め、油断した瞬間にシクルを叩くつもりであった。

 

……だが、エバーグリーンの目論見はここで大きく崩れることとなる……。

 

 

「……へぇ? そう……じゃあ、やれば?」

 

「……へ? え……」

予想外の返答が戻ってき、エバーグリーンはシクルを見上げた。

その目に入ったのは……

 

 

「ひ……っ!?」

 

背後に竜の姿が揺らめくシクルの姿……否、エバーグリーンの目には既にシクル自身が竜そのものに見えた。

 

 

「ほら……出来るんでしょ? やりなさいよ……その前に、あたしがあなたの息の根を止めてあげるから」

 

そう言い、振り上げられる刀……

 

 

「ひっ!? い、いや……た、助けっ!

 

きゃぁああああああああああっ!!!!!」

 

ギィイイインッ!!!!

 

 

 

振り上げられた刀が貫いたのはエバーグリーンの顔、真横の壁だった。

 

 

「……脅しってのはこーやんの。分かった?」

 

「は……はひっ……」

そこでエバーグリーンの意識は完全に途絶え、気を失った。

 

 

ふぅと一息つき、十六夜刀をしまい顔にかかる髪を払い除け……不意に振り返ったシクルの視線の先には……

 

「既に倒していたか……流石だな、シクル」

 

鎧の女騎士 “エルザ” がいた。

 

 

「とーぜん……私がエバーにやられる訳ないでしょ? それより……やっぱり、エルは先に石化が解けたみたいだね」

 

にっこりと微笑むシクルにあぁ、と頷いてみせるエルザ。

 

「この右眼のお陰でな……」

そう、エルザは言い自分の右眼を抑えた。

エルザの右眼は義眼となっており、その影響で石化の魔法が半減されていたのだ。

 

 

「さて……エバーグリーンもやったところだし、私は一度魔法を解いて元の体に戻るよ」

 

流石にこれ以上魔法の持続はきついし……

 

そう告げ、シクルは魔法を解除しようとするがその前にエルザを見つめると

 

「多分、ラクサスの事だからこれで終わらないと思う……だから、エルは先にラクサスを探して抑えておいて……後から私も追いつくから……絶対」

 

「あぁ……任せておけ、シクル……お前も、無理をするなよ」

エルザの警告にコクリと頷き、魔法を解除し、本体へと戻った。

 

 

 

シクルがエバーグリーンを倒し、エルザと合流するほんのわずか前の事……ナツやマカロフの残るギルドではーーー

 

 

「ねぇマスター……ほんとにシクルは外で戦ってるの?」

シクルが魔法を発動してから数分……

 

ハッピーは魔法陣の中で座禅を組み、光に包まれるシクルの身体を見つめマカロフに問いかける。

 

「あぁ……間違いない……よいか?この魔法発動中は絶対、術者に触れてはならん……

 

そして、あの魔法陣の中に入り込むのも許されん……入れば最後、魔力を奪われるぞ」

 

マカロフの言葉にゴクリと息を呑む音がギルドに響き、シクルを一同が見つめる。

 

 

「それに、いざとなればエルザも復活しておる……何とかなるじゃろ」

 

シクルが出ていった直後、エルザもまた石化から解放されていた。

 

 

「……一ついいか?」

 

「あ? ンだよ……」

ナツたちから少し離れたところで腰を下ろし、胡座をかいていたガジルがナツたちに話しかけてくる。

 

「あいつは……あのシクルとかいう奴は、ほんとにそんなにつえーのか? 以前戦った時は……そんな感じはしなかったぞ……」

 

 

以前手を合わせた時の印象だと、ガジルにとってシクルは隙だらけで注意力も散漫なとても妖精の尻尾最強には思えなかった。

 

 

「何言ってんだ、お前……シクルはめちゃくちゃつえーよ!!」

何言ってんだこいつ?と言った表情を浮かべるナツ。

 

「シクルが本気になることはほとんど無いからねぇ……めんどくさがりだし……」

苦笑を浮かべ、マカロフの周りを浮遊しているルージュ。

 

 

「前にシクルとラクサスがギルドで戦ったことも何度もあるんだよ?」

ハッピーの言葉に少し興味を持つガジル。

「……そん時は?」

 

「あの時は凄かったなぁ……ギルドも危うく吹っ飛ぶ所だったもんな!」

ナツの楽しげな表情にマカロフは呆れたため息をつく。

 

「笑い事ではないわい……危うく本当にギルドが消し飛ぶところだったんじゃぞ……」

 

「マスターが止めたんだもんねぇ」

 

 

「……そん時、決着は?」

 

「んー? 引き分けだったと思うよ? あ、でもあの後数日はラクサスが寝込んでたみたいだからシクルの勝ちなのかな?」

ハッピーの思い出したような発言にガジルは内心シクルへの興味を高めていた。

 

弱いと思っていた奴の本気を見てみたい……何故か、そう思ったガジル。

 

 

そんな時……

 

……ピキッーーー

 

 

ステージの上から何かがひび割れる音が聞こえ、一同が振り返ると……

 

 

石像になってしまった者達のそれにヒビが入っており……やがてそれは全身へと増えていき……

 

 

石化が解除された。

 

 

「ルーシィぃいいい!!」

 

「元に戻ったぁっ!!」

 

「……え? え、なにっ!?」

 

元に戻ったルーシィの胸元に飛び込むハッピーとルージュ。

 

他の女性達も石化から元に戻ったのを確認し、マカロフはニヤッと笑みを浮かべ、見えない壁に表示された内容にグッと拳を握る。

 

 

 

【シクルVSエバーグリーン 戦闘開始】

 

 

【勝者・シクル エバーグリーン 戦闘不能】

 

 

 

それは、どこかにいるラクサスの元にも流れ……

 

 

「っ……!!!」

 

忌々しげに表情を歪め、握りしめた拳からは血が滲み出ていた……。

 

そして、ふと、ニヤリと浮かべたその笑みは……暗く、黒い何かを纏っていた……。

 

 

 

これで終わると思うなよ……

 

 

本当のバトル・オブ・フェアリーテイルは……これからだ……

 

 

 

 




はい!!シクルとエバーグリーンをぶつけました!!

次はどうしようか……まだ確実に決まってはいないので次回、近くによる際にお話しようと思います。
では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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38話 神鳴殿

1日忙しかった影響で5月1日に投稿しきれませんでしたorz

あともう少しで収穫祭篇も終わりを迎えるかと思います……


では、続きを……最後までお付き合い、お願いします!!


シクルの勝利を知ったナツたち。

 

「勝った!! シクルが勝ったんだぁ!!」

ハッピーが飛び上がり、喜ぶ。その隣でルージュも喜び、ルーシィに二パッ!と笑顔を向ける。

 

初めは訳の分からなかったルーシィや他のメンバーもマカロフやハッピーから説明を聞き、現状を理解する。

 

その時、シクルを包み込んでいた光が消え、魔法陣も解除される。

そして、ゆっくりとシクルは目を開き、数回瞬きをすると額を抑え呻く。

 

「っ……あークラクラするぅ……あ、良かった皆元に戻ったんだね」

 

「シクル!! シクルが助けてくれたんだよね? ありがとう!!」

笑顔でシクルにお礼を言うルーシィに続きミラやレビィ、ビスカとジュビアもお礼を言う。

 

これであとはラクサスを皆で探し、何とかすれば全てが終わる……そう、シクル以外のメンバーが思った時だった。

 

『よぉ、聞こえるか? じじぃにギルドの奴ら……』

 

シクルたちや街で未だに戦っていたメンバーの目の前に魔水晶映像に映るラクサスがデカデカと現れた。

 

「っ! ラクサス……」

 

 

『ルールが1つ消えちまったからなぁ……今から新たなルールを1つ、追加する』

ラクサスはそこで一度言葉を切る。

 

『ククク……この、バトル・オブ・フェアリーテイルを続行するため……俺は “神鳴殿” を起動させた』

 

「神鳴殿じゃとぉっ!?」

ラクサスからの宣言を聞いた時、マカロフはプルプルと震え、青筋を立てラクサスを睨む。

 

そして、シクルも……

 

「……ルール変更……? 神鳴殿って……ふざけんなよ、糞ガキ……」

怒りを募らせていた。

 

 

ラクサスの映った映像が消えた瞬間、マカロフの怒声がギルドに響く。

 

「何を考えておるんじゃラクサスゥ!! 関係の無い街の人たちまで巻き込むつもりかぁ!?」

大声をあげた……その時ーーー

 

 

ドグンッ!!

 

胸が痛み出すマカロフ。

「うぐっ……!?」

胸を抑え、倒れるマカロフ。

 

「「マスター!?」」

 

「じっちゃん!!」

 

「大変!いつものお薬……!」

 

突然倒れたマカロフに慌てふためくナツたちと奥の部屋へ、発作時のお薬を取りに戻るミラ。

シクルもマカロフの元へ駆け寄ろうとするが……立ち上がった瞬間、目眩に襲われる。

 

「マスターっ……う(あ、倒れ……)」

 

「っ!! おっ……と! 大丈夫か?」

倒れかけたシクルに気づき、支えたナツ。シクルは顔を上げ、弱く微笑みながら頷く。

 

「大丈夫大丈夫……ちょっとふらついただけだから……ありがとう、ナツ」

 

「あんまし無理すんなよ?じっちゃんは大丈夫だからさ」

ニッ!と笑い、安心させるようにシクルにそう言うナツを見つめ、不安だった心が晴れる。

 

マカロフはルーシィたちが現在、介抱していた。すると、奥へ薬を取りに行ったミラがどこか慌てた様子で戻ってきた。

 

「皆大変!! 空に何か……!」

「「「空……?」」」

 

ミラに続き、ナツとシクル以外のメンバーがギルド2階のバルコニーから空を見上げると……

 

「……何、あれ……」

マグノリア全体を囲うように空中に浮かぶ球体の何か……魔水晶のようなそれ……

 

近くには説明文のようなものが書かれており、それによると制限時間になると街を魔水晶から発せられる雷が襲うというものだった。

 

 

「そんなことさせないっ! スナイパーライフル換装!!」

ビスカが銃を換装し、魔水晶へ向け2発の弾を射つ。

 

その時、丁度ナツに支えられシクルがバルコニーへやって来……

 

「ビスカだめ!! それを壊したらっ!!」

と、大きな声で叫んだ。

 

「え……」

だが、時既に遅く……ビスカの撃った弾は魔水晶を破壊していた。そして、破壊から数秒、時間が開き……ビスカの身体を強い衝撃が襲う。

 

「あぁあああああああっ!?」

 

「「「ビスカっ!?」」」

 

「何、今のっ……!!」

 

 

ビスカの身体を強力な雷が襲い、その瞬間、ビスカは倒れてしまう。

 

「あれを壊しちゃダメ! あれには生体リンク魔法が掛けられている……壊したらこっちがかみなりにやられちゃうのっ!」

 

「んじゃどーすんだよ!?」

 

ナツに支えられながら、シクルはレビィが抱えるビスカの元へと歩み寄り、その隣に腰を下ろす。

 

「シクル……」

シクルを見上げるレビィの瞳は涙で少し濡れていた。

 

「大丈夫……ビスカは、死なないよ……死なせない」

不安げなレビィを安心させるようにそう呟くとビスカに手をかざす。

 

歌魔法(ソングマジック) 治癒(ヒール)

 

ビスカに治癒の魔法をかけるとかけ終えた瞬間、ガクッと体から力が抜けるシクル。

 

「お、おい! シクル……」

 

「ごめ……ちょっと休憩しないと……動けないや」

ははっと乾いた笑いを出し、ふぅと息をつくとシクルはルーシィたちを見やう。

 

「きっと今街中でエルが先に走り回ってラクサスを探していると思うの……

 

皆も、ラクサスと残りの雷神衆を探して……それから、レビィは少しここに残って……フリードの残した術式を解除してほしいの……

 

出来る?」

 

シクルの言葉に全員が頷く。

「任せて!」

 

「ありがとう、シクル!」

 

「シクルは少し休んでな!」

 

「シクルさんが回復している間に何とかします!」

 

「私は術式を書き換えればいいんだよね? 任せて!!」

 

全員が頷く姿を見て、シクルはフッと微笑み、「お願い……」と呟いた。

 

その言葉を聞き、ルーシィ達はギルドを飛び出す。

「ハッピー! ハッピーも先に行け! あとから俺も行く!!」

 

「あいさー!!」

ナツの指示に従い、ギルドを飛び出すハッピー。

ビスカはルージュが抱え、医務室へと運び、マカロフの眠る隣のベッドに寝かせた。

 

そして、シクルとナツ、ルージュがギルドの広間に戻ると既にレビィが術式の解除に専念していた。

その様子をマジマジと見つめるガジル。

 

「……ナツ」

 

「あ? どーした?」

レビィが順調に術式解除の公式を作り出しているのを見た瞬間、シクルは段々と眠くなる感覚に陥る。

 

「ごめん……ちょっと、眠くなっちゃった……少し、休む……ね」

途切れ途切れにそう告げたシクルを見下ろし、小さく笑みを作るナツ。

 

「あぁ! ありがとな、シクル!」

今は休んでろ……その言葉を最後に、シクルの意識は途絶えた。

 

 

次にシクルが目を覚ました時……既に術式はレビィが解除しており、ナツとガジルはいなかった。

 

「あれ? 起こしてくれなかったのか……」

 

「あ! シクル!! 目が覚めた? もう大丈夫?」

医務室から出てきたレビィはシクルが目覚めている事に気づき、駆け寄ってくる。

その表情は少し悲しげに見えた……。

 

「うん、ちょっと寝てすっきりしたよ。ナツとガジルはもう行ったんだね……

 

それより、レビィ……どうしたの? なんか……浮かない顔してるよ?」

 

シクルのその言葉を聞いた瞬間、レビィは瞳を潤わせ……静かに、告げる。

 

「マスターが……危篤だって……」

 

「……え」

 

 

 

レビィの話を聞いた直後、シクルはギルドを飛び出した。

 

 

ラクサス……何処にいるの!?

 

お願い……もう、もうこんな事やめて……

 

 

おじいちゃんの所に行ってあげよう……?

 

 

待ってるよ……待ってるんだよ……

 

 

ラクサスっ!!!

 

 

 

街中を走り回り、ラクサスを探すシクル。

 

そんな彼女は突然大地が震えるような魔力のぶつかり合いを感じとる。

 

 

「この感じ……まさか、ミストガン? (帰ってきたの……?)」

シクルは魔力の発信地を振り返る。

 

 

その先は……

 

カルディア大聖堂ーーー

 

 

「……やっと……見つけた……ラクサス!!」

 

 

 

大聖堂へ向けて足を早めていると次第にその全貌が見えてきた。

 

「ちょいちょいちょい……何やってんのあいつら……(何でそんなにぶっ壊してんのさぁ!? それ後で直すの私なんだっての! ふざけんなよっ!!!)」

 

大聖堂の窓ガラスはヒビ割れ、所々崩れ落ちており、壁も一部崩れていた。

 

 

これ全部終わったらちょっとお仕置きだ……と、1人決意し、頷き、大聖堂へと入ると…鎧の女騎士の宣言が耳に入る。

 

 

 

「神鳴殿……全て、私が破壊するっ!!!」

 

「なっ!? エルザ……!!」

 

「っ!? テメェ、ゲームのルールを壊す気かっ!? それにもう発動まで時間もねぇ……1個ずつでは間に合うはずもねぇ!!」

ラクサスの怒声が響き渡る。

 

「全て同時に破壊する……街も救われる」

冷静に言葉を告げるエルザ。その言葉を鼻で笑うラクサス。

 

「はっ! 無理だな……1つ壊すだけでも下手すりゃ死ぬ程の高圧電流が流れるんだ……全部一人でやればてめぇは死ぬぜ」

 

 

 

「……なら、2人でやれば半々……死ぬ確率は低くなるよね?」

 

「「「っ!?」」」

 

シクルの到着に気づいていなかった、ナツ、エルザ、ラクサスは驚き、声のするほうを振り返る。

 

3人の視線を受けるとシクルはニッと微笑み、エルザの隣に立つ。

 

「一人で無理でも……仲間とならなんだって出来る!! ……ね? エル」

笑みを見せるシクルを見て、エルザも自然と自信に満ちた笑みを浮かべる。

 

「あぁ……そうだな」

 

2人の会話を聞き、顔を歪めるラクサス。

 

「ふざけるなぁ! やらせるかっ!!」

エルザとシクルを止めようと魔法を飛ばすラクサス。

だが、それは2人に当たる前にナツが弾き飛ばした。

 

「やらせねぇよ!! シクルたちの邪魔はさせねぇぞ、ラクサス!!」

 

「ナツ……」

前に立つナツを見つめるシクル。

そして、ナツは1度シクルとエルザを振り返ると、再びラクサスへと向き合い……口を開く。

 

 

「……信じていいんだよな?」

 

「……え?」

 

 

「信じてるぞ……シクル! エルザ!!」

 

「ナツ……」

 

「お前……」

 

 

 

「出来るかじゃねぇぞ! お前らの……無事をだ!! ぜってぇ…死ぬなよ!!」

 

 

ナツのその言葉を聞き取り、シクルとエルザはフッと笑みを浮かべ……

 

「もちろん!!」

「任せておけ……」

 

と、告げるとエルザが先に大聖堂を出ていき、シクルはじっとラクサスを見つめた。

 

 

「……ラクサス」

 

「あ?」

 

「すぐ戻ってくる……だから、待ってなさい……あなたには、伝えなきゃいけないことがあるんだ……でも、それは街を救ってから……」

 

シクルは一度目を閉じ、言葉を途切ると……次の瞬間、ふっと目を開け、ラクサスを睨む。

 

「それまで…首洗って待ってろ!!」

 

そう叫び、シクルはエルザを追い去っていった。

 

 

 

シクルは少し離れた所、街の広場でエルザを見つけた。

エルザは既に剣を幾つも召喚し、破壊の準備をしていた。

 

「エルっ!!!」

 

「シクルか……悪いが半分、頼めるか?」

エルザの頼みににっこりと微笑み、頷く。

 

「任せて!! じゃあ私が300壊すから残りの300……よろしくね!」

 

東をエルザが、西をシクルが担当することになりシクルは魔力を高め、撃つその時を待つ。

 

隣では200まで剣を出しきるも魔力が足らなくなり、膝をつくエルザ。

 

「エル!! 大丈夫!?」

シクルが心配し、声をかけるがエルザは気合で立ち上がる。

 

「大丈夫だ! 問題ない……だが、このペースでは発動前に300破壊が……」

エルザに少し焦りが見え始めた時……

 

 

脳裏に声が響く。

 

 

《おい! 皆聞こえるか!? 一大事だ……空を見ろ!!》

 

「この声……ウォーレン? 」

「念話か……!」

 

 

《聞け! 空に浮かんでる物をありったけの魔力で破壊するんだ! 一つ残らずだ!!

 

あれはこの街を襲うラクサスの魔法だ!

時間がねぇ! 全員でやるんだ!》

ウォーレンの言葉にエルザはほんの少し目を見開き驚く。

 

「なぜウォーレンが、神鳴殿を………」

 

 

《その声はエルザか!? 無事だったのか!?》

グレイの声が響く。

 

《石から戻ったのか!?》

 

 

 

「グレイ!? そうかお前が!!」

 

エルザの納得した言葉にグレイは頷く。

 

《とにかく時間がねぇ!! いっせーのーせであれを壊すぞ!!》

ウォーレンの声が響いた瞬間……「ちょっと待て!!!」と声が響く。

 

 

《ウォーレン! てめぇ!! 俺にしたこと、忘れたわけじゃねぇだろぉな?》

怒鳴り声を上げたのはマックスだった。

 

彼は先程、ウォーレンと共にフリードの術式にハマり、ウォーレンに倒されていたのだ。

 

 

その時の怒りが抑えきれないマックスはウォーレンに言い放つ。

 

ぐっと息を呑むウォーレン。

 

《マックス……わ、悪かった……》

 

謝るウォーレンだがそれに耳を傾けない様子のマックス。

そして、マックスに続きぎゃあぎゃあと念話で喧嘩を始めた一同……。

 

 

「ちょ、ちょっとちょっと……喧嘩してる場合じゃ……て、だから……話を……おぃ……」

 

 

喧嘩をするメンバーに声をかけるも全く聞く様子がなく……シクルの額に青筋が浮かび上がり……次第にそれは増え……、そして……

 

 

 

「うるっさぁああああああああああああああいっ!!!!!!!!」

 

 

《っ!?》

 

突然響いたシクルの怒鳴り声に一同は動きを止める。

 

 

「ちょっとは黙れないのあなた達!!!

今は喧嘩してる場合じゃないでしょーが!?

 

街を守りたいんじゃないの!?喧嘩ならいつでも出来んでしょーがアホ共ぉっ!!!」

 

シクルの怒声を聞き、一同は目が覚めた。

このままでは行けない……と

 

《で、でもシクルっ!あれには生体リンク魔法がかけられて……》

 

「そんなん気にしてたら間に合わないでしょーが!! 大丈夫っ!! みんなでやれば何とかなる!!!」

 

 

そう告げ、シクルはパンッ!!と両手を叩く。

 

「北東の200個はエルが!北西の300個は私が!残りの南側……100個、皆でお願い!!」

 

そして……シクルの掛け声と共に、一斉にギルドメンバー全員の魔法が上空に向かって放たれる。

 

 

 

 

「月竜の……咆哮ぅうううううううううううううううう!!!!!!!」

 

 

神鳴殿、600個の同時破壊に成功する。

 

 

神鳴殿がひとつ残らず、崩壊していくのを見つめ、祠げに微笑む一同……そして……

 

生体リンク魔法が襲いかかる……。

 

 

 

『 うぎゃぁああああっ!!! 』

 

『 きゃぁあああああっ!!! 』

 

『 あぁああああああっ!!! 』

 

「ぐぅっ!!?」

 

「つっっ!!!」

 

神鳴殿破壊から数分、念話を通じお互いに心配し合う声が響く……。

 

それらを聞き、シクルはホッと息をつき、微笑む。そして……

 

 

「エル……大丈夫?」

 

「あぁ……大丈夫だ……シクル、行くのか?」

エルザの問いかけにコクリと頷く。

 

 

「……まだ、ラクサスに伝えなきゃいけないこと……伝えられてないから」

 

そう言い、シクルは重い身体を起こし、立ち上がる。

 

 

「……無理するな、シクル……」

 

心配気なエルザを見下ろし、ニッコリと微笑むと「大丈夫!」と言いきる。

 

「向こうにはナツもいるし……それに、多分彼もいる……私が行かない訳にはいかないから……行ってきます!!」

 

 

そして、大聖堂へ向け再び走り去るシクルを見つめる。

 

「……頼んだ」

 

 




数話を残し、収穫祭篇の次はニルヴァーナ篇ですね!


主人公の立ち回りに少し悩んでいる今日この頃です……

それと投稿遅れほんとすいません!
次回、早めの投稿目指します!!


最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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39話 黒髪のシクル

はい!!昨日投稿出来なかったので頑張りましたっ!!


ちょっと主人公の設定を増やしてます。
設定内容は後書きに載せたいと思います。
では、最後までお付き合い、お願いします!!


 

 

神鳴殿の破壊に成功し、痛む身体を無視し大聖堂へと走るシクル。

 

途中、眩い光に包まれ、目の前が霞み足を止めたがすぐに光は収まり、再び走り始めた。

 

 

そして、大聖堂についた時……目の前ではラクサスに隠された本当の力、 “竜の力” を使いナツと共闘していたガジルに向け強力な魔法を放つところだった。

 

 

「消し飛べぇ!! レイジングボルトォ!!」

 

もうほぼ発動しかけており、2人を抱え完全に避けるのは無理だと瞬時に判断したシクルはナツとガジルの前に立ち、庇った。

 

 

「くっ!!」

 

「シクルっ!?」

「てめぇ……なんでっ!?」

ガクッと膝をつくシクル。流石に魔力の減っていた身体でそう何度も魔法を受ければ少量でもダメージは重なっていく。

 

 

「っ……(痛みはないけど……痺れがっ)」

麻痺により体が動かせないシクルだが顔を上げ、震える足に力を込め、立ち上がりラクサスを見据える。

 

 

「ラクサス……お願い、話を聞いてっ!」

 

「黙れ……」

 

「ラクサスっ!!!」

 

「黙れぇえええっ!!」

 

再びシクルを襲うラクサスの雷。

 

「つぅー!! お、願……ぃ! 私の……話、を……聞いてっ! ラクサスっ!!」

 

「てめぇの話になんか興味はねぇ!! 黙れ、シクルっ!!」

ラクサスのその言葉と表情、瞳を見てシクルは悲しくなる。

 

「なん、で……どうして……あな、たは……仲間を想う……優しい、人……だったッ!!

 

あの日から……貴方が……苦しんだのは……よく、分かる……そのせいで、誰の、言葉も……想いも、届かなくなっていった……でもっ!

 

今だけは……私、の……話を、聞いて!

 

ラクサスっ!!!」

 

「黙れ!! 俺は……俺は誰にも指図は受けねぇ!! てめぇも……じじぃも!! ギルドのやつの声も!!! 俺には関係ねぇ!!!」

 

シクルに叫び、ラクサスは再び魔力を高め、シクルへと標準を合わせる……。

 

「ラクサスっ! やめろォ!!」

 

 

「っ……」

シクルはギュッと目を瞑る……雷に耐える為ではない……ラクサスの……その眼を見るのがシクルは怖かった……。

 

 

ラクサス……お願い……話を……

 

 

貴方の……おじいちゃんが……ラクサス……

 

 

「やめてぇっ!!! ラクサス!!!」

 

「「「っ!?」」」

 

「……レ、ビィ」

 

大聖堂の入口で呼吸を乱し、ラクサスを見つめるレビィの姿……その瞳は、涙で濡れていた。

 

 

「ラクサス……お願い……シクルの話を! 聞いてあげてっ!! じゃないと……きっと後悔することになっちゃうよ! ラクサス……」

 

そうラクサスに叫び、足を進めるレビィ……

 

 

「よせっ! 馬鹿、来んじゃねぇ!!!」

ガジルの声が響く。それでもレビィは足を止めない。

 

「ラクサス……あんたの……あんたのおじいちゃんが……マスターが!! 危篤なの……」

 

「「っ!?」」

 

「……じじぃが?」

レビィの言葉にナツとガジルは目を見開き、言葉を無くしラクサスも驚愕の表情を浮かべる。

 

その表情に、一度は気持ちが揺らめいたか……マカロフに会ってくれるのではないか?そう考えたシクルだが……

 

 

「ククク……そうか……遂にくたばるのか……これで妖精の尻尾は俺のもんになるんだなぁ……!!」

 

…………ラクサス……どうして……

 

 

その言葉が耳から脳へ、そして感情へと流れた時……どこかでピシッと音が小さく鳴った。

 

 

「ラクサス……どうしてっ! どうしてそんな事言うの!? ラクサスっ!!!」

 

「黙れ、レビィィイイイイイッ!!!!」

 

 

怒りに狂うラクサスはシクルからレビィへと標準を変え、高圧な雷を放った……。

 

「っ!! レビィっ!!!!」

「あぶねぇっ!!」

 

ナツとガジルの声が静かに響く……レビィは身構え、身体が固まり、目を瞑る。

 

 

だが……

 

「ぐっ! あぁあっ!!!」

 

「っーーー!? シ、シクル!?」

レビィを庇い、雷に撃たれたシクル。

 

両手を地面につき、肩で息をするシクルにはっと声を上げるレビィ。

 

「だ、大丈夫……ちょっと、痺れた、だけだよ……」

不安げなレビィを安心させるため、振り返りにっこりとみを浮かべるシクル。

 

しかし……

 

「っ! シクル、あぶねぇ!!」

「あ……」

 

ナツの叫びにはっと前を向くと……その瞬間、頭を殴られ、地面に叩きつけられる。

 

ドゴォッ!!

「がっーーー!」

頭を殴られた衝撃も伴い、目の前が揺れ、意識が朦朧とするシクル。

 

「シクルっ!!」

「やめろラクサス!!」

 

レビィとナツの声が響く中、立ち上がれないシクルの頭をわし掴むラクサス。

「くっ……」

 

「ジジィなんて関係ねぇ……俺は……俺は、力あるギルドを作るためなら!!! 他はどうなっても構わねぇ!!」

 

そう叫ぶと同時にシクルの腹を殴り飛ばす。

 

「かっは!うっ……ラク、サス……」

 

殴られた時……再び、ピシ……ということがシクルの脳裏で響き、それは次第に多く、強くなる。

 

「やめろって……言ってんだろ、ラクサスゥ!!!」

シクルの呻き声に、ナツがキレ、ラクサスに攻撃を仕掛ける。だが……

 

「うるせぇ、ナツぅうう!!!」

「ぐぁっ!!!」

 

ナツは真正面から雷にあたり、吹っ飛ぶ。

そして、ラクサスはシクルの首をぐっと掴みあげ……

 

「今日こそ死に晒してやる……シクル」

 

バチバチバチッ!!!!!

 

放電するラクサス。それは確実にシクルの身体を傷つける。

 

 

「うぁ!! あぁああああああああっ!!!!」

 

ピシ……ピシッ

 

「やめ、ろぉ! ラクサスー!!!」

 

「シクルが死んじゃうよ!! ラクサス!!」

 

 

ナツとレビィの静止の声が響くが、ラクサスが聞き入れることはなく……更に放電を強める。

 

流石に直接身体に流し込まれればそれはダメージとなり、シクルの身体を蝕んでいった。

 

 

「あぁああぁあああぁぁあああっ!!!!」

 

ピシピシッ……

 

「じじぃなんて知るか……死んで精々するぜ……死んだら俺がマスターだ!!

マスターになったら手始めにてめぇら全員壊してやるよぉ……!」

 

「ぅ、あぁ!あああああぁああああっ!!!!」

 

ピシ……ピ……ピキピキッ

ラクサスの言葉が朦朧とする意識の中何故かクリアに脳裏に響く……そして、その言葉を聞く度にシクルは身体の異変を感じる。

 

 

……ンッ……トクンッ……ドクンッ……

 

 

「あぁあああっ……!!!(な、ん……む、ねが……痛い……魔力が……)」

 

「全部壊してやる!! ギルドも!! てめぇらの絆も!!

 

全部まっさらにして新たに最強なギルドを作るんだよぉ!!」

 

 

抑えられない…………

 

バキッーーーー!!

 

鎖が……解き放たれる……。

 

 

ドグンッーーーーーー!!!!

 

 

 

「あぁああああ゛あ゛ァ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ァアア゛ア゛っ!!!!」

 

 

シクルの悲鳴の雰囲気が変わった……その瞬間、シクルを中心に物凄い光と爆発が起きる。

 

「きゃあ!?」

「ンだァ!?」

「なんっ!!」

 

突然のそれにナツたちは目を瞑る。

そして、目を開け、視界に映ったのは……

 

 

 

「…………やっと……お出ましか……」

 

愉快げに表情を歪め、嗤うラクサス……

 

 

そして……

 

 

「………シ、クル?」

 

「なん、だ……ありゃぁ……」

 

「あ、れは……!?」

 

ナツたちの見つめる先には……普段は眩いほど綺麗な金の髪を揺らすシクル……だが、今目の前に立つのは……

 

 

真っ黒に染まった長い髪を揺らし、ラクサスを殺さんと睨む……感情のない瞳で見つめる……シクルの姿であった……。

 

 

 

「……ラクサス………………“俺”を………怒らすなよ………」

 

 

…………殺ス

 

 

誰の声か……わからない……

 

だが、確かに……その声はシクルから発せられた……

 

その後はナツたちの想像を絶していた……

 

 

お互いに本気でやり合い……やられればやり返し、またやり返す……その繰り返し……

 

そこに、手加減の様子はない……

 

 

「シ、クル……」

シクルから発せられる魔力の威圧によりレビィは耐えきれず、身体から力が抜け気を失う。

 

倒れるレビィを咄嗟に支え、ガジルもじっとラクサスへと視線を向ける。

 

「んだよありゃァ!? 尋常じゃねぇぞ!」

 

様子が一変したシクルに驚愕の表情が隠せないガジル。その横でナツが動く。

 

「……止めねぇと」

 

「止めるって……火竜、まさかアレをか!? 無茶言うなっての! あんな戦いの中に入ったらてめぇが死ぬぞ!?」

 

「うるせぇ!! あんなのシクルは望んじゃいねぇんだ!! 止めねぇと……正気に戻った時、シクルが壊れちまう……」

 

ナツはそう言い、止めるガジルを無視し、シクルの元へと走り出す。

 

 

知ってるんだ……

 

シクルが自分のことを “私” じゃなく、 “俺” って呼んでる時は……

 

周りが見えないくらい魔力が暴走している時……あの時も……

 

 

「シクル! やめろ!! ……シクルっ!!!」

 

雷と光の飛び交う戦場を掻い潜り、シクルの元へと駆け寄るナツ。

 

その身体は時折、避け切れずに魔法が当たり、傷が少しずつ増えていっていた。

 

 

それでも、ナツの見据える先はただ1人……

 

 

 

「シクル……目ェ覚ませ!!! シクル!!」

 

シクルとの距離がやっと……あとほんの少しで手が届く……そう思った、その時ーーー

 

 

チャキーーー

 

「っー!!」

首筋に十六夜刀の剣先が当たり、僅かに首筋の皮膚が切れ、血が流れる。

 

「……シクル」

 

ナツを見つめるその瞳は暗く、濁っている

 

「……それ以上俺に近づくな……近づくのならば……貴様も殺ス」

 

 

シクルのその言葉に一瞬目を見張り驚くナツ。

 

 

だが、ナツはすぐにじっとシクルを見つめると……

 

 

グッーーー

 

 

「っ!? なに、を……」

 

ナツは躊躇いもなく十六夜刀を握り、押し返した。握った手からは血が流れ、刀身を伝い、ナツの血がシクルの手元へと流れる。

 

そして、それはシクルの手を赤く汚し始める。

 

 

「…………あ……」

 

ナツの血だ、と認識するとシクルの眼は徐々に見開かれる。

 

「……シクル」

眼を見開き、次第に震え始めるシクルを見下ろし、優しく声をかけるナツ。その声にゆっくりと顔を上げるシクル。

 

 

「……ナ……ツ……? お……わた、し」

 

「やっと俺の名前、呼んだな! シクル……あとは俺に任せろ……な?」

 

 

シクルは休んでろ……そう言い、シクルの身体を抱きしめるナツ。すでに十六夜刀は下ろされ、力なく刀身は地面に向いていた。

 

 

ナツの温もりを感じ、次第に荒れ狂っていた魔力が収まり始めるシクル。

 

 

「……あ…」

 

魔力の暴走はゆっくりと収まっていくが、その反動にシクルは強制的に眠気に襲われ、瞳が閉じていく。

 

最後に見たのは優しく微笑むナツの姿だった。

 

 

 

夢の中ーーー

 

 

……ここ……は……

 

 

シクルが目を開けると広がるのは黒い黒い空間だった。

 

ただ無限に広がるその黒い空間にシクルはほんの僅かな恐怖とどこか懐かしさを感じていた。

 

 

ここ……懐かしい…………

 

……なんで?なんで……懐かしく感じるんだろう……

 

 

分からない……そう、思っていると……

 

 

 

 

《シクルよ……》

 

っ!!

 

背後から聞こえる声に驚き、振り返る。

だが、そこに誰かの姿はない……

 

 

それでも、再びシクルの脳裏には誰かの声が響き始める。

 

《シクル……

 

……我らが再び目覚める時まで……

 

 

 

奴らを…………頼んだぞ》

 

 

 

 

あぁ……そうだ……約束、したんだ……

 

 

 

声の主に心当たりがついたシクル。

 

 

その瞬間黒い空間が白く塗り替えられていく。

 

 

約束……したんだ……皆の代わりに……

 

子供たちを……守るんだって……ね?

 

約束……したもんね?…………イグニール

 

 

 

 

そう声をかけた時……シクルの意識は浮上する。

 

 

 

 

 

パチーーーー

 

 

目を覚ましたシクル。

身体を起こすとまだ魔力の反動が残るのか重く痛みもある。

 

だが無理を承知で立ち上がると一つ息をつき、足を動かし、大聖堂の外へ出る。

 

 

そして……

 

歌魔法(ソングマジック) 防御(シールド)!!!」

 

 

 

傷つき倒れるナツを狙ったラクサスの雷を避雷針となり、身代わりになろうとしたガジルの周りに防御体を作り出し守った。

 

 

「「シクルっ!?」」

 

「お前……!」

 

「っ! シクル、お前っ!!」

 

 

歌魔法は本来膨大な魔力を消費し発動する魔法……魔力の暴走で多くの魔力を消費した後での歌魔法の使用は……

 

 

 

グラッーーー

 

「っ…! 行け……ナツっ!!!!」

 

 

倒れる中で叫んだシクル……その声を確かに聞き取ったナツ……

 

 

 

「う……ぉおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!」

 

大きな雄叫びをあげ、ラクサスへと突っ込む。そして……

 

ナツは、火竜の劍角、鉄拳、砕牙、翼撃、咆哮、鉤爪と魔法を繰り出し……

 

 

 

「おぉおおおおおおおっ!!!!

 

 

滅竜奥義 紅蓮爆炎刃!!!!」

 

 

 

ドゴォオオオオオオオッッッンッ!!!!!

 

 

 

ナツの滅竜奥義を食らい、ラクサスは倒れた……。

 

 

その光景を見届け、シクルは意識が遠のくのを感じる。

 

 

 

……あぁ…………最近私ってば……こんなん、ばっか……だ、なぁ……

 

 

そう最後に心でぽそりと呟き、心配そうに駆け寄ってくるレビィを視界の隅に映して、シクルは完全に意識を飛ばした。

 

 

これにて、バトル・オブ・フェアリーテイル

 

 

終幕……

 

 

次回、収穫祭【ファンタジア】

 

 

完結

 

 




はい!!如何だったでしょうか?

追加設定は、魔力が暴走すると髪が黒くなる事です。
後ほど設定の方も編集で追加致します。


では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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40話 ファンタジア

はい!!予告通り今回で収穫祭、B・O・F 篇は完結となります!!


ちょっと急ピッチな感じもするんですが……最後までお付き合い、お願いします!!


バトル・オブ・フェアリーテイルから一夜明けた次の日……

 

ギルド内は落ち着きを取り戻し、街も多大なる被害はあったものの今は落ち着き、普段と変わりなく過ごし、先延ばしとなったファンタジアへ向け、準備が進められていた。

 

そして、街の中心……今回のバトルで1番被害の大きかったカルディア大聖堂前に1人……シクルが、ぽつんと立っていた。

 

両手を合わし、目を瞑り集中し……

 

 

「【 我、聖なる月の名の下に

聖なる光に照らされ その姿

 

正なる形に戻さん】

 

歌魔法(ソングマジック) 再生(リバイブ)

 

シクルを中心に淡い銀色の光が輝くとそれは街の壊れた建物を徐々に包み込み光が消えた頃には壊れた街中は元の姿に戻っていた。

 

「……ふぅ」

街が元に戻ると魔法を解き、目を開け、空を見上げるシクル。

 

「……また……やっちゃったなァ……」

 

脳裏に思い浮かぶは……確実な殺意の感情を持った自身と……後少しで仲間を……ナツを殺そうとしていた自分自身……

 

 

そっと右耳につけているピアスに触れる。

「……ダメだなぁ、私ってば……」

 

まだ、コントロール出来ないなんて……

 

 

「……こんなんじゃ……守れないよ」

だから……

 

「……もっと、強くならないと……」

 

 

空に登る月を見上げ、ふぅと最後にもう1度ため息をつくとギルドを見つめる。

 

「……帰ろ(帰ったら……謝らないとね)」

未だに宴を繰り広げているだろうギルドへと足を向けた。

 

 

ギルドに戻ると予想した通り、やはりお祭り騒ぎのメンバーにクスリと苦笑を浮かべる。

 

「今年は全員参加だからなぁ」

 

「えぇ!? そ、それじゃあジュビアも参加なんですか……?」

 

「待って!? それじゃああたしも参加なの!? うそっ!」

 

グレイの言葉にジュビアとルーシィは声を上げ驚きを見せるがその表情はどこか嬉しげ。

そんな2人にグレイは苦笑を浮かべ、クイッと後ろを指差す。

 

「まぁ、あんなんファンタジアに参加できねぇからなぁ」

 

 

グレイの差す方には包帯でグルグル巻きにされた超重傷のガジルと同じく包帯グルグルの口まで包帯で覆われているナツの姿だった。

 

「あんなのって言うなよ……」

「ふぉへあはんがふんがっ!!」

 

唇を尖らせ拗ねたように文句を言うガジルと何を言ってるのか全く分からないナツ。

誰もが聞き取れない中ガジルだけはその言葉を理解し……

 

「無理だね。参加できるわけねぇだろ」

と会話をする。

 

「ふぉあえばふぅがふぅがばお!!」

「それはかんけぇねぇだろ!? 子供かてめぇは!!」

 

「なんで分かるんだろ……」

「きっと似たもの同士だからだよ……」

「だねぇ……」

 

ガジルとナツの会話に苦笑を浮かべ、乾いた笑いをするルーシィ、ハッピーとルージュ。

 

他にも怪我をしているのに騒ぎ回るせいで傷が開き痛みに呻くものやそれを見てワタワタするもの、笑い転けるもの……

 

その様子をギルドの入口から眺めていたシクルはつい、プフッと笑った。

そして、その笑い声に騒がしい中、全員がシクルの帰りに気づいた。

 

一斉にこちらへ向かれる視線にビクッと肩を揺らすシクル。

 

「あ! シクル!! お帰りなさい!!」

 

「お! やっと戻ってきたなぁ!」

 

「街直してくれてありがとなっ!!」

 

「シクルも飲もーぜ!!」

 

「おかえりぃ! シクルゥ!!」

 

 

シクルの暴走の件は昨日、あの戦いのあと目を覚まして直ぐ、ギルド内全員に伝わった。

 

仲間を本気で殺そうとした……その話は既に皆聞いているはずなのに……誰1人として、シクルを恐怖の目では見ていない。

 

その光景を見つめ、目を見開きながらも拒絶のないことに驚き、また嬉しさを感じていた。

そして、一際強い視線を向けるものが1人……

 

ナツだった。

 

その視線に気づき、ゆっくりとそちらを向くと……

 

「っ……」

痛々しいほどの包帯を巻かれた身体……その中で、左手の傷は刀を握った時の傷だ……その姿を見た時ズキッと胸が痛んだ。

 

「……ナツ」

じっと見つめるナツから目を離せないシクル。だが、ナツが意を決して近づこうと動くとビク! と、肩を揺らし一歩下がる。

 

「……ごめん、私今日は……」

「え!? ちょ、シクル!!」

「もう帰んのかよ!?」

「待てって!!」

 

そう言い、引き止める仲間達の声を聞こえないふりをし、ギルドを去ろうとする。

 

その時ーーー

 

ドンッーーー

扉の前で何かとぶつかるシクル。

「っ! ったぁ〜……」

何かにぶつけた鼻を抑えながら前を向くと……

 

「……ラクサス」

シクルを見下ろすラクサス。その身体はナツやガジルよりは少ないものの包帯が巻かれていた。

 

ラクサスはほんの少しシクルを見下ろすとその横をスッと通り過ぎて行く。

 

「……シクル、ーーーーー……」

 

「っ!!」

 

横を通り過ぎる時……シクルの耳元で囁かれたラクサスのその言葉にシクルは目を見張り、振り返る。

 

振り返った先では、ラクサスにギルド内から文句の声が上がっていた。

 

「よさないか、お前達!!……行け」

声を荒らげるメンバー達はエルザの一喝で静まり返る。そして、ラクサス再び足を医務室で休んでいるマカロフの元に進めると……

 

 

「ふぁぐあぐー!!!!」

ナツがその前を立ち塞がった。

 

「……ナツ」

 

ラクサスを前にプルプルと身体を痛みに震わせながら、息を荒くし、立ち塞がるナツ。

 

 

「ふぁぐが!! ふあがふぁんがふぉんぐがうがばうが!!」

 

全くなんといっているか分からない言葉を発するナツに一同がポカーンと唖然とする。

 

「……通訳よろしく」

ルーシィの一声で、はぁ……とため息をつくガジル。

 

「 “2対1でこんなんじゃ話にならねぇ 次こそはぜってぇ負けねぇ……いつかまた勝負しろラクサス!! ” ……だとよ」

 

「え……でも、戦いには勝ったんでしょ?」

ルーシィの問いかけに首を横に振るガジル。

 

「俺もあれを勝ちとは言いたくねぇ……

あいつはバケモンだ……あの怪我も、ほとんどあの女との戦いで作った傷だ……もし、ファントム戦にあいつがいたならと考えたら……ゾッとするぜ」

 

 

そして、そのバケモノに傷を負わせたあいつも……

ガジルはそっと、気づかれないように入口で突っ立っているシクルに視線を向ける。

 

 

一方、ナツにその言葉を告げられた張本人、ラクサスは……暫くナツを見つめると何も言わず、その横を通り過ぎる。

 

「っ……!! ふぁぐあぐー!!!!」

無視されたことに腹を立てたナツが振り返り、声を荒らげると……

 

ラクサスは静かに右手をあげた。

 

「っ!!!」

それをみたナツは一瞬驚きに目を見開き、パァ!! と笑みを浮かべた。

 

 

それに驚いたのはずっと見つめていたシクルも同じだった。

「……ラクサス」

シクルは医務室へと入っていくラクサスを見つめ、静かにシクルもギルドを後にした。

 

 

ギルドを後にしたシクルはマグノリアを一望できる丘の上にそびえ立つ、大きな大きな樹木の上に寝転がっていた。

 

空を見上げ、はぁと沈んだ様子を見せるシクル。

 

 

「……お別れ、か」

流石にあんな事をしたのだ……きっと、マカロフはラクサスを破門にするだろう。

 

それは分かっているのだが……

 

 

「……やっぱり、寂しい……な」

仲間がいなくなるのは……どんな人でも寂しく感じる。

 

「……きっとナツは認めないだろうなぁ」

 

その様子を容易く想像出来るな、と思いシクルはクスクスと笑みを浮かべる。

だが、その笑みはすぐに消え……再び悲しい表情を浮かべた。

 

「……やっぱり……合わせる顔、ないよ……」

 

あんな……あんなことしちゃった後なのに……会える訳ない……

 

 

魔力が暴走していた時の記憶は、ほとんどシクルには残っていない……だが、確かに……ナツに刀を向けたのは覚えていた。

 

「……殺そうとした…………嫌われてたら、どうしよっか……」

あの笑顔が……もう、私に向けられることがなかったら?

 

 

そう、考えた時……ゾクッと背筋が震えた。

 

「あ……なんで? どうして……こんなに……こんなにも……怖い、の? なん、で……」

 

どうして……こんなにも恐怖を感じるんだろう……どうして……?

 

 

こんなにも……嫌われることに恐怖を……抱くのだろう……。

 

その事だけがシクルの脳裏を埋め尽くしていた……。

 

そして、それは次第に表情にも現れ、涙が溢れ始めた。

 

「……怖い…………怖いよ……ナツっ」

嫌いに……ならないで……あなたに嫌われたら……

 

 

嫌……嫌われたくない……怖い……苦しい……

 

 

苦しいよ……ナツ……

 

 

シクルは涙を拭うことも無く、顔を伏せ嗚咽を堪えていた。

 

すると……

 

 

フワッーーー

シクルの頭に大きく、暖かな手が乗せられた。

 

「っーーー! え……?」

頭に乗せられたそれにハッとし、顔を上げると……

 

「……ナ、ツ……」

目の前には包帯でグルグル巻きでギルドで絶対安静が言い渡されていたはずの、ナツがいた。

 

シクルの涙に濡れる瞳を見ると目を大きく見開くナツ。

だが、すぐににっと微笑み、その涙を左手で拭う。

 

……暖かい

 

ナツの体温の高さを心地よく感じていたシクル。

だが、そのナツの血の匂いに気づくと……

 

 

「っ!! だ、ダメっ!」

ドンッとナツを押し返す。シクルのその行動に驚き、手を離してしまうナツ。

 

「ご、ごめ……わ、わた、し……」

 

身体を震わせ、怯えた表情を浮かべるシクル……そんな彼女を見つめ、ナツはじっとしていると……

 

 

ギュッ……

「……ぁ」

 

 

固定のされていない左手でシクルの背中に手を回し、抱きしめた。

そして、安心させるかのようにその背をぽんぽんと叩くナツ。

 

そっ……と、ナツの顔を見上げると、ナツはニカッといつもと変わらない笑顔をシクルに向けた。

 

「っ! ナ、ツ……ナツぅ……ごめ、ごめんね……怪我、させて……ごめんっ」

堪えていた嗚咽を出しながらナツに抱きつき泣き喚くシクル。

 

この夜は、シクルの背をずっと落ち着かせるかのようにぽんぽんと叩き、シクルが泣き止むまでずっとそうしていた。

 

 

 

そして、ラクサスが破門を言い渡された次の日、ファンタジア当日……

 

 

街中はパレードで大賑わいだった。

 

ルーシィやレビィ、ビスカ達によるダンスやグレイとジュビアの共演、エルザの剣による舞、重傷の身体を無視しながらパレードに参加したナツは演出の途中でむせ込み、辺りから笑いがこみ上げる。

 

そして、一際輝く光が照らされると……光の中から淡いピンク色のドレスを着たシクルが現れ、竪琴の音を静かに響かせながらその周りを沢山の光の玉が舞い踊る。

 

 

そんなパレードの最後は、マスターマカロフのファンシーな踊りだ。

 

見物客からは多くの笑いと歓声が響く。

 

そんな影でじっとパレードを見つめる大男……ラクサスの姿があった。

 

 

ラクサスは奇妙なダンスを踊るマカロフを見つめるとフッと微笑み……その場を去ろうとする。

 

だが……

 

「っ!?」

視界の隅で映った光景に目を疑い、パレードを振り返る。すると……

 

 

ギルドメンバー全員が、右手を上げ、人差し指を天高く、掲げていた。

 

それは、昔幼い頃にラクサスがマカロフにしたある合図……

 

 

“例え……姿が見えずとも……

 

どんな遠くにいようとも……

 

ずっとお前のことを……見守っている”

 

 

言葉にせずとも、マカロフからのそのメッセージが心に届いたラクサスは、目に涙を浮かべ……

 

「じーじ……」

 

と、幼い頃に呼んでいたその愛称を口にした。

 

 

ラクサスはそれを最後に、パレードを振り返ることはなく……立ち去っていった……。

 

 

その後ろ姿を横目で見つめ……ふぅ、とため息をつくシクル。

 

 

「……ラクサス」

 

シクルの脳裏に蘇るは、昨日のラクサスの一言……

 

 

“シクル……悪かったな……”

 

 

シクルは小さく微笑むと……空に輝く満月を見上げ……

 

「……ラクサス…………またね……」

と、ひとりでに呟いた。

 

 

こうして、2日延びたファンタジアは大成功に終えた。

 

 

その後、ナツからの大抗議を受けるマカロフや、責任を取りマスターを辞めると大騒ぎになった妖精の尻尾だが、フリードの丸刈り坊主という古い反省の意の示し方に、その場は収束した。

 

 

やっと落ち着き、いつも通り、ギルド内で喧嘩を繰り広げるナツを見つめ……ふと、シクルは考える……。

 

「……(なんで……どうして、あの時私は……あんなにも、恐怖を覚えたの……?私……ナツの笑顔を見て……凄く、凄く安心した……)」

 

そして……

 

 

「……ドキドキ、した」

 

 

未だに思い出すとどこか恥ずかしく、でも嬉しくてドキドキが溢れるこの想い……

 

 

「……ま、さか……ね?」

「? どーしたのぉ? シクルゥ?」

 

小さな呟きを聞き取ったルージュが横からシクルに問いかける。

 

「う、ううん! 何でもないよルージュ! さて……たまには仕事でも行こっか?」

誤魔化すようにそう言うシクルにルージュは目を見開く。

 

「あ、あの面倒くさがりのシクルが……自ら仕事にぃ!? 熱でもあるのぉ!? 大丈夫っ!?」

「あのね……私だって行く時は行くわよ」

 

私をなんだと思ってんのさ……と小さくため息をつき、さぁ仕事だーと振り返ったシクルの目の前に……

 

 

「仕事行くのか!? なら一緒に行こーぜ!! シクルっ!!」

ナツの顔がドアップで突然現れた。

「っ!? き、きゃぁあああああ/////!?」

 

ドゴォ!!!

「ぐもぉ!?」

突然の事に、顔を真っ赤にしナツをぶん殴ったシクル。

吹っ飛ぶナツを見てはっ! と我に返るシクル。

 

「あ……! ご、ごめ! ナツ!? 大丈夫!?」

吹っ飛んだナツにわたわたと慌てた様子で駆け寄るシクル。その姿を見て……

 

「あらあら……」

「……もしかしてこれって」

「……そうかもぉ?」

「へぇー? あのシクルがねぇ……ニヤニヤ」

 

ミラ、ハッピー、ルージュ、ルーシィの2人と2匹の小声での会話……それを聞き取ったシクルはカァ!! と耳まで赤く染め……

 

 

「う、うるさぁあああああい/////!!!!」

と、叫んだのであった……。

 

 

 

収穫祭 B・O・F篇 完結〜

 

 

next.story ニルヴァーナ篇 開幕

 

 

 

〜予告〜

 

 

 

 

なんで私まで討伐メンバーに入ってるのよ……めんどくさいなぁ

 

 

 

 

 

ウェンディ……もしかして……?

 

 

 

 

 

 

なんで……なんで、ジェラールがっ!?

 

 

 

 

 

あんたなんかに……星霊の鍵を持つ資格なんかない!!

 

 

 

 

 

な……あなた……なんで、ここに!?

 

 

 

 

 

ナツを離しなさい……離さないのなら……あたしの光が、あなたを滅する

 

 

 

 

 

何やってんのよ……早く、起きなさいよ……皆……ナツっ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

……おいで…………私たちのところに……

 

 




はい!!いやぁ……収穫祭終わりましたね!

そしてここでついに気持ちに気づき始める主人公ちゃん!


どうなりますかねぇ……では、次は六魔将軍との戦闘です!

正直、原作持ってないと誰と誰が戦っていたかとか正確に覚えてないのできついです(汗)
でも、ちゃんと最後まで終わらせますよ!!

では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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第6章 ニルヴァーナ篇
41話 連合軍 結成!


はい!! いやぁついに始まったニルヴァーナ篇!!

そしてついにあの子が出せる!!
私め、天竜ちゃんが大好きなのです……もしも主人公が男だったら……ヒロインはウェンディになってただろうほどに……


どうでもいいですかね……では、41話!最後までお付き合い、お願いします!


 

ファンタジアから1ヵ月……

 

ギルドの者達はいつも通り、依頼をこなし、ギルドではバカ騒ぎをし過ごしていた。

そして、今しがた来たばかりのシクルはその光景に苦笑を浮かべ、ルージュは楽しそうに笑っていた。

 

「はぁ……変わらないねぇ皆」

「変わらず元気なのはいい事だよぉ」

ニコニコと微笑みながら言うルージュに「そうだけどねぇ……」と返した。

 

 

「ん?」

ふと、シクルはギルドのカウンター前が異様にザワザワとざわついており、人が集まっていることに気づいた。

そこにはナツやルーシィたちもいた。

 

「……なんだろ」

「さぁ?」

シクルとルージュは顔を見合わせ、首を傾げ集まっている輪の中に入っていった。

集まるメンバーの中央では空中に光筆で描いた闇ギルドの組織図が描かれていた。

 

「お? よー! シクル!!」

 

「おはよ、ナツ……今、何やってるの?」

 

「あ、シクル! これからね、ミラさんが闇ギルドについて教えてくれるのよ」

シクルの問いかけに答えたルーシィのその言葉にシクルとルージュはへぇーと空中に描かれるその図を見上げる。

 

そして……

「あ、ミラ。そことそこ……あとあそことそれとあっち……あーあ、あとそこの列全部……もう無いよ、私が潰したから」

 

 

「「「はぁあああああああっ!?」」」

 

「あらあら、そうなの? じゃあ書き換えないとね」

 

シクルの言った発言にルーシィとハッピー、グレイは声を上げ驚愕し、ミラは何でもないかのようにシクルの指していったギルドを消していった。

「て、ちょっと待って!? それまさか全部一人でやったの!?」

 

「んー? あーまぁ大体は? 評議会からの依頼だったから……基本は一人で行ったよ時折エルの力を借りたりはしたけど……」

ルーシィの問いかけにのほほんと笑みを浮かべ、そう語るシクル。

 

そんなシクルに「そ、そう……」と苦笑を浮かべ、返すしかできなかったルーシィ。

 

 

「そ、それより!! その組織図の3つにくぎられた大きな枠組みは何なんですか?」

話題を変えるようにルーシィは組織図を指差し問う。

 

「あぁ、それはね……」

 

「闇ギルド最大勢力バラム同盟……でしょ?」

ミラの言葉を遮り言ったシクルに視線が集まる。

 

「そうそう。バラム同盟は、3つのギルドから

構成されている闇ギルドの最大勢力でね?

それぞれが直属のギルドを持っていて、闇世界を動かしているのよ」

 

シクルの言葉に頷き詳細を説明するミラに、へぇ……と興味あり気に組織図を眺めるルーシィ。その視界にあるギルドが目に入る。

 

「あ……! 鉄の森って……!?」

「あぁ……以前ララバイの力を悪用しようとしたギルドだな……六魔将軍(オラシオンセイス)の傘下だったのか」

 

「気にするこたァねェさ、噂じゃこいつら……たった6人しかいねぇらしーしな」

グレイの言葉に1度は納得するメンバーもいたが……

「あのねぇ……ようはその、たった6人でこの闇ギルドの最大勢力の一角を担ってるってことでしょーが」

 

と、シクルがミラから光筆を受け取り、組織図を訂正しながら言った。

「それに……噂だとこの6人は全員、たった1人で一つのギルドを潰せる力を持ってるって話よ? 多分相手にするなら……一筋縄では行かない」

シクルのその言葉にゴクッと誰かが息を呑む。

 

全員が、緊張した表情でその場に突っ立っていると……キィ、と重い音を立て、ギルドの扉が開き……

 

「……その、六魔将軍じゃがな……我等が討つこととなった」

と、今戻ったマカロフが神妙な表情で告げた。

 

「「「「「は…はぁあああああああっ!?」」」」」

 

「あら、マスターお帰りなさい」

 

「つえぇやつと戦うのか!?」

 

「ちょ、ミラ? 今それどころじゃない言葉が出たと思うんですけど? あとナツは嬉しがらない」

 

「マスター……それは一体? どういう事ですか?」

 

エルザからの投げかけに、はぁとため息をつき、顔を上げるマカロフ。

「今言った通りじゃ……先日の定例会で、六魔将軍が何やら動きを見せていると報告があってのぉ……六魔将軍を討つことになったのじゃ」

「じーさん……あんた、ビンボーくじ引いたな……」

 

グレイからの指摘にうむ……と俯くマカロフ。

「ま、まさか……私たちだけで!?」

そんなの怖すぎるぅ!! と悲鳴を上げるルーシィ。だが、マカロフは首を横に振り告げる。

 

「いや……今回は相手があのバラム同盟、最大勢力の一角じゃ……一つのギルドで戦って勝利したとしてもその後、闇ギルドの連中から逆恨みを受けないとも限らん……

 

その為……我々は、連合を組むこととなった」

「連合……?複数のギルドが結成して討つってこと?」

シクルの疑問に頷くマカロフ。

 

「連合軍は、我等妖精の尻尾(フェアリーテイル)青い天馬(ブルーペガサス)蛇姫の鱗(ラミアスケイル)、そして……化猫の宿(ケットシェルター)、この4つのギルドで各々精鋭を数名だし、力を合わせ討つのじゃ!」

 

 

マカロフからの衝撃告白から1夜明け……

 

 

妖精の尻尾からは最強チームが選出され、現在馬車で指定の場所に向かっているところだった。

 

「なんで私まで討伐メンバーに入ってるのよ……めんどくさいなぁ」

 

「……シクルはいいじゃない……強いんだし……それよりも、なんであたしがこの作戦に参加するわけー!?」

 

シクルのため息とルーシィのいやぁああっ!! という悲鳴が響く。

それを聞き鬱陶しそうに眉を歪めるグレイ。

「うっせぇなぁ……俺だってめんどくせぇんだ、ぶーぶーいうなっての」

 

「マスターの人選なのだ。私たちは、その期待に応えるべきではないか?」

エルザのご最もな言葉に再びはぁ、とため息をつきながら膝の上に頭を乗せ既にグロッキーなナツを見下ろす。

 

「……う、ぅぷ……き、もち……わ、りぃ」

「はいはい……もーちょっとで着くから……お願いだからキラキラ出さないでよ」

そう言い、小さく微笑みナツの髪を撫でるシクル。その様子を見つめ、ふとルーシィは首を傾げる。

 

「……ねぇ、シクル?」

「んー? なぁに?」

ルーシィからの投げかけに返事は返すもナツを見下ろしたままのシクル。

 

「……なんか、変わった?」

「え?」

その言葉にやっとルーシィを見つめるシクル。

「何が?」

「いや……なんか、前に比べてナツを見る目が……暖かくなったなぁって思って……」

 

ルーシィの言葉が脳裏でリピートされる。

 

 

ナツを……見る、目……

 

その意味を次第に理解すると……顔を赤らめていくシクル。

「ん、なっ!? 何、言って!? んなわけないでしょ!?」

そう叫び、ナツの頭を勢いで落としてしまう。そんな様子にニヤニヤと笑いながらからかい続けるルーシィ。

 

「やっぱり、あのファンタジアの日に何かあったんじゃないのー?」

「あーもう/////!! そ、そんなことよりっ……ほら、目的地見えてきたよ!!」

無理やり話題を逸らし、外を見つめるシクル。その脳裏では……

 

 

ないない! 絶対……認めないからっ!

だって……これは彼等との約束を守る為……そして仲間を失わない為……

 

それ以外の気持ちなんて……

 

 

「……ない……と、思うんだけどなぁ」

 

ぼぅっと外を見つめると馬車は止まり、目的地へと到着したようだ。

 

今回の集まりの場は青い天馬が持つ別荘の一つであったが……

 

 

「……おい、ほんとにここで合ってんのか?」

 

「あ、あぁ……ここで間違いはないと……思うが」

 

「け、結構……個性的な、建物……ね(てかこれはないわ)」

 

その建物はピンクの大きなハートが外見につけられたどこか乙女チックだが……あまり中へは入りたいと思えない外見だった。

 

「う、ぷ……まだ……つかねぇ……の、か?」

 

「ナツー、もう馬車じゃないよ」

 

「ナツー? もう着いたよぉ?」

 

シクルに支えられ吐き気を堪えるナツにハッピーとルージュが頬を叩きながら声かける。

「大丈夫よ……そのうち治るから」

 

ナツの様子にため息をつきながらも、建物の中へと入っていくグレイたちを追い、シクルも中へと入る。

 

 

すると、出迎えたのは……

 

 

「ようこそ、妖精の尻尾の皆さん。お待ちしておりました」

 

「我ら、青い天馬より選出されしトライメンズ」

 

3人のスーツを着た男が出迎えた。

 

「……げ」

彼らを見て、シクルはあからさまに嫌な表情を浮かべる。

そんなシクルに気づく様子もなく……

 

「百夜のヒビキ」

 

「聖夜のイブ」

 

「空夜のレン」

 

シクルの周りに3人の男は集まると……シクルに寄りかかるナツを放り投げ、シクルをいつ用意したのかわからないソファへと座らせる。

 

「いつ見ても変わらぬ美しさと可愛らしさ……」

 

「さ、歌姫さん……こちらへ」

 

「ほ、惚れ直してなんか……ねぇからな」

 

「……はぁ」

 

シクルの周りでは青い天馬の面々がすでに囲み、お茶やらお菓子やらをだしもてなしていた……

 

「な、何……こいつら」

 

「トライメンズ……それなりに実力のある面々だ」

 

ルーシィとエルザにも目がいき、結局トライメンズの3人はシクル、ルーシィ、エルザをソファへと座らせ、同時にもてなす。

 

「あーもう……だから来たくなかったんだ」

こいつらホント苦手なんだって……

と、まだ戦いも始まっていないのにすでに5割ほど疲れを感じているシクル。

 

すると……

 

 

「君達、その辺にしておきたまえ」

 

また新たな声が1つ……その瞬間

 

ゾクゥッ!!

 

「ヒッ!? こ、この……こ、声、は……」

 

「まさか……」

 

シクルとエルザが震え上がる。

 

その視線の先には……

 

 

マカロフと同じくらいの身長のとてもイケメンとは思えない……男が1人……

彼にトライメンズの面々は膝をつき、頭を下げる。

 

「「「一夜様」」」

 

「……一夜?」

その名を聞いたことのないルーシィや、グレイ、ハッピーは首を傾げるが……

 

「あわわわわ……ハ、ハッピー!! シ、シクルこっちに連れ戻さないとっ!!」

とてつもなく慌てた様子のルージュ。

「え? どうして?」

その様子に疑問を持つハッピーだが……それはすぐに分かることとなる。

 

「ま、さか……あ、あんたも……こ、ここ……この、作戦……に?」

拳を握り、ブルブルと震えるシクル。

 

「やぁ、久しぶりだね……シクルさん。会いたかったよ」

キラーンとキメ顔で告げる一夜だが……

「出来れば私は一生会いたくなどなかったです!!」

ルーシィの影に隠れ、声を荒らげるシクル。

 

「ちょ、どーしたの!? シクル……」

「ご、ごめ……あ、あいつだけはどーしてもっ!」

「すまん……ルーシィ、シクル……私もあいつだけは……」

シクルに標準がいっている間に、エルザは静かに後ろへ下がっていく……

 

「エル!? 私置いてくの!?」

「すまんっ!!」

エルザを止めようとルーシィから離れ、手を伸ばすシクル……その時……

 

「会いたかったよ……! マイハニー!!」

と、言いながらシクルに向かい走ってくる一夜の姿が……

そして、その手がシクルの腕に触れた……その瞬間……

 

プチッーーー

 

 

「あたしに……触るなァッ!!!」

ゴォ!!

 

勢いあまり、殴り飛ばすシクルであった……。

 

「マイハニー!?」

「なんと……一夜様の彼女でしたか!」

「これはご無礼を!!」

吹っ飛ぶ一夜に気にもせず言葉を告げるトライメンズの面々。

 

「断じて拒否するわ!!! 絶対ないから!!」

ビシィ! と指差し否定するシクル。

そして飛ばされた一夜の先には……逃げようとしたエルザの姿……

 

「む!? この香りは……あぁ! 貴女は……愛しのエルザさん!!」

一夜はシクルから一転、エルザへと意識を向けた。

 

「ヒィ!? こっちに来るなぁ!!!」

ボガァ!!

「ごふぅ!?」

飛んでくる一夜に即座に反応、回し蹴りを決めるエルザ。

 

そして、蹴り飛ばされた一夜は扉の方へと飛び、丁度建物に入ってきた何者かがその頭をわし掴んだ。

 

 

「こりゃあ……随分ご丁寧な挨拶だな」

 

「……あ」

 

扉から入ってきた人物を見て、シクルはへぇと興味を示す。

 

その人物は……

 

「貴様らは、蛇姫の鱗に上等か?」

 

「リ、リオンっ!?」

まさか連合軍のメンバーに兄弟子が来るとは思わなかったグレイは目を見開き驚く。

そして、相手も弟弟子のグレイがいるとは思わず、「グレイ!?」と声を上げる。

 

「……ギルド、入ったんだね」

フフッと微笑みながら言うシクルにこちらも小さく笑みを浮かべあぁ、と答えるリオン。

「やり直すためにな……」

「そっか……」

 

前に進めているようでよかった……

 

どこか晴れ晴れとした表情のリオンを見て、ほっと安心するシクル。

 

「つかうちの大将に何しやがるっ!!」

レンの言葉でやっと一夜がリオンの魔法により、凍らされているのに気づく。

 

「ありゃ(ナイス、リオン! )」

凍った一夜を見て心の中でガッツポーズをするシクル。

 

「酷いや!!」

 

「男は全員帰ってくれないかな?」

 

作戦前から雲行きの怪しい空気がその場に流れる。そこに……

 

「あら? 女性もいますのよ?」

新たな声が……

 

「え?」

声の方を振り返ると……

 

「人形劇 カーペットドール!!」

「て、うそ!? ちょ、きゃあっ!?」

ルーシィに向けて魔法が襲いかかる。

それも、いつか見たことのある魔法……

 

「こ、この魔法って……まさか?」

ルーシィはふるふると震えながら振り返る……。

振り返った先にいたのは……

「あ……シェリー!!」

 

「……ふん、お久しぶりですわ」

「なんで!?」

シェリーのルーシィを見る目は少し険しく、睨みつけている。

 

そしてリオンとグレイは変わらず睨み合いを続け、トライメンズの3人もリオンを険しい目で睨んでいた。

そんな一同を見つめ、はぁとため息をつく1人と2匹……

 

「……どーすんのぉ?シクルゥ」

 

「これいつ終わるの?」

 

「はぁ……仕方ない…………スゥ あんたたちいい加減……」

 

「やめぇい!!!」

 

シクルが怒声を上げ、止めようとした瞬間、先に大きな声がその場に響く。

その声に、一同はピタリと動きを止める。

 

「あ……」

 

建物に入ってきたのは……聖十の称号を持つ1人……

 

「ワシらは連合を組み、六魔将軍を倒すのだ……仲間割れしている場合か?」

 

 

「ジュラ!!」

建物に入ってきたジュラを見つめ、パァと笑顔が輝くシクル。

「久方ぶりだの、シクル殿……元気であったか?」

ジュラの問いかけに間を開けることなく頷くシクル。

「もっちろん!! いつでも私は元気よー」

 

ニシシ! と微笑むシクルにそうか、と満足気に微笑むジュラ。

 

そして……

 

 

「さて……これで、3つのギルドが揃った……後は、化猫の宿の連中のみだ」

冷静にメンバーを見回しそう言うジュラに氷漬けから開放された一夜が口を開く。

 

「連中というか……化猫の宿は1人と、聞いているが……」

 

「「「なっ!?」」」

「1人!? こんな危険な作戦に!?」

「ちょっとちょっと!! どんだけヤバい奴が来んのよー!?」

 

怖いぃ!!! と声を荒らげるルーシィに苦笑を浮かべるシクル。

 

すると……

 

 

「きゃうっ!!!」 ビタンッ!!

 

 

…………え?

 

 

扉を通り過ぎた瞬間、何も無いところで躓き、転ぶ音と悲鳴。

一同が振り返ると……

 

「いったた……えっと……お、遅れてごめんなさい!! け、化猫の宿から来ました……ウェンディです! よろしくお願いします!」

 

 

 

青く長い髪を揺らす少女が照れくさそうに自己紹介をしていた。

 

「こ、ども……!?」

 

「お、女!?」

 

グレイとリオンが驚きの声をあげ、その他のメンバーも驚きを隠せずにいる。

 

 

 

「「…………ウェンディ?」」

 

 

 

その少女を見つめ、ナツとシクルの小さな小さな呟きが静かに流れ、響いた……。

 

 




はい!!如何だったでしょうか……さて、話は変わりますが……


FAIRY TAIL、映画公開まで残り3日ですね!!
皆さんは行かれますか?私は2日連続で見に行きます!!

楽しみですねぇ……ワクワクです!

では、次は明日になるかと思われます。最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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42話 作戦開始!そして……

はい、こんにちわこんばんわ!thikuruです!!!

徐々にお気に入りに登録して頂ける方も増え、日々感激しています!


では、早速42話、最後までお付き合い、お願いします!


 

 

「「ウェンディ……?」」

 

ウェンディを見て、驚愕する一同。そんな中……

 

「……これで全てのギルドが揃った」

と、話を進めるジュラ。

「話進めんのかよ!?」

 

 

「それにしても……、この大がかりな作戦にこんなか弱そうな女の子1人をよこすなんて……化猫の宿はどういうおつもりですの?」

ウェンディを見て、怪訝そうに表情を歪め言うシェリーにウェンディはビクッと体を揺らす。

 

「え、えっと……あ、あの……!」

「あら、1人じゃないわよ? ケバいお姉さん」

ウェンディの声を遮り聞こえた声に、一同が扉の方を見つめると……そこには、白い猫が立っていた。

 

「シャ、シャルル!? 着いてきてたの!?」

猫の名前は “シャルル” といい、その姿を見た時ウェンディは驚き、目を見開く。

 

「当たり前じゃない。あなただけじゃあ不安でしょうがないもの」

 

ほんの少し口調のキツめなシャルルを見て、苦笑を浮かべるシクル。

「(多分……ハッピーとルージュたちと同じだとは思うけど……それより)ウェンディ……もしかして……?」

 

うーん?と脳裏に浮かぶ子と目の前のウェンディを見比べる。

 

「あ……あの、私……戦闘は全然出来ませんけど……皆さんの役に立つサポートの魔法なら、いっぱい使えます……だから、仲間はずれにしないでくださいぃ……!」

 

ウェンディはやや涙声でそう声を上げた。

 

「そんな弱気だから貴女は舐められるのよ!」

辛口な言葉を発するシャルルに「だって……」と俯くウェンディ。

 

「すまんな…少々驚いたがそんなつもりは毛頭ない。よろしく頼む」

 

フッと微笑みながら、ウェンディの頭を撫でるエルザを見上げ、ウェンディは頬を赤らめる。

 

そして、シャルルを腕に抱き上げ

「わぁ! 見て、シャルル!! 本物のエルザさんだよっ!!カッコイイなぁ」

と、感激の声を上げる。

 

「ふぅん……思ってたよりいい女ね」

ウェンディの腕の中に抱かれているシャルルも頷きながらエルザを見つめている。

 

そんな様子を見つめ、シクルは「エルは人気者だなぁ……」と、ひとりでに呟いてぼぅっと眺めていると……

 

「お、オイラのことも知ってる……?オイラ、ネコマンダーのハッピー!」

頬を赤らめながらシャルルに自己紹介を始めたハッピーの姿が目に入る。

 

見上げてくるハッピーを見下ろし、暫くじっと見つめるも……

「ふんっ!」

と、顔を逸らすシャルル。

 

そんなシャルルの反応を見て……

 

「照れてる!!かわいいー」

と、前向きな考えのハッピーであった。

 

「……なにあれ」

「何かねぇ?一目惚れしちゃったみたいだよぉ?ハッピー……」

シクルの頭に乗り、苦笑を浮かべハッピーを見つめそう言ったルージュにへぇ……とシクルはハッピーとシャルル、そしてウェンディを見つめる。

 

 

「うーん? ……ウェンディ……ウェンディ?」

 

シクルが立っている後方で、やっと乗り物酔いから覚めたナツの「んー?」という声が聞こえ、振り返る。

「どうしたの? ナツ」

 

シクルが問いかけると……「いあ……」と言葉を濁し、

「……ウェンディ……どっかで聞いたこと……あるようなないようなぁ……」

と、言いながら再び考え込む。

 

「うーーん! 分かんねぇ! シクル、思い出してくれ」

結果、思い出せずシクルに投げやるナツ。

「無理だよっ!?」

流石に無理だってと言いながらはぁとため息をつくシクル。

 

この間にウェンディとシャルルはトライメンズに連れてかれ、もてなされていた。

 

シャルルは群がるトライメンズに怪訝そうな表情を浮かべ、ウェンディもオロオロと戸惑い……そんな中、ナツとシクルの姿を見つけたウェンディ。

 

ウェンディは2人を見つけるとニコッと微笑んだ。

「「ん?」」

微笑まれたナツとシクルははて?と首を傾げ、少しの疑問を抱く。が……

 

「お前達!! 遊びに来た訳では無いんだぞ! 早く片付けろ!!」

と、疑問が解かれる前に一夜の声が響き、思考は止まった。

 

「「「はい! お師匠様!!」」」

一夜の怒声にすぐさま用意していたソファや飲み物、茶菓子を片付ける。

片付け終わると天上のライトが消え……一夜にのみ、スポットライトが当てられた。

 

「さて……全員揃ったようなので、私の方から今回の作戦を説明しよう」

メェーン! と決めポーズを取りながら話を始める一夜。

 

「そのポーズって必要なのかしら……」

もうツッコミ疲れた……と言った様子のルーシィ。

「必要ないわね、あんなの」

相手をするのも疲れた様子のシクル。

 

 

「まず、六魔将軍の奴らが集結している場所だが…………と、その前にトイレの香り(パルファム)を!」

 

「「そこにパルファムつけるな!!」」

ルーシィとシクルからのツッコミをスルーし、一夜は奥の部屋へと一度消えていく。

 

そして一夜が戻ってくると作戦の説明が再開された。

 

「さて……まず、集結の場所だが……ここから北に行くと “ワース樹海” が広がっている。古代人たちはその樹海にある、協力な魔法を封印した。その名も、 “ニルヴァーナ”」

 

一夜の言葉から発せられたその魔法というものに一同はざわつく。

 

「ニルヴァーナ……?」

 

「聞かぬ魔法だな」

 

「ジュラ様は?」

 

「……いや、わしも知らんな」

 

「ニルヴァーナ……」

 

「なんか知ってんのか? シクル……」

 

「……ううん、私も聞いたことないよ」

 

「なんか知ってるー? てか、お魚いる?」

 

「結構よ!」

 

「懲りないねぇ……ハッピーてば」

 

一夜やトライメンズの3人も眉をしかめ、語る。

「僕たちも、古代人たちが封印するほどの破壊魔法……ということまでは把握しているんだが」

 

「どんな魔法かまでは分かっていないんだ」

 

「でもきっと、六魔将軍が樹海に集結したのはきっとこの “ニルヴァーナ” を手に入れるためなんだ」

 

 

「そして我々は、それを阻止するため…」

 

「「「「六魔将軍を討つ!!」」」」

 

キラーン! と青い天馬の全員で決めポーズをし、告げた。

 

「やっぱりポーズ……」

 

「俺はもうツッコまねぇぞ」

 

「私は初めから諦めてた」

ルーシィ、グレイ、シクルが諦めたため息をつく。

 

次に説明が始まったのはその六魔将軍のメンバーについてだった。

 

「こっちは13人敵は6人」

 

「だけどあなどっちゃいけないよ」

 

「この6人がまたとんでもなく強い」

 

そして、ヒビキの魔法、 “古文書(アーカイブ)” で六魔将軍のメンバーについての説明が始まる。

 

毒蛇を使う魔導士 “コブラ” ……

名前からして恐らくスピード系の魔法を使うと思われる “レーサー” ……

大金を積めば一人でも軍の一部隊を全滅させると言われる天眼の “ホットアイ” ……

心を覗けるという女 “エンジェル” ……

情報は少ないが彼らからは “ミッドナイト” と呼ばれる男……

 

そして彼らの司令塔 “ブレイン” ……

 

「彼らはたった1人でギルドの1つくらいは潰せるほどの魔力を持つ。そこで、我々は数的有利を利用するんだ」

 

今回の作戦の大まかな部分が説明されると……そろぉりとルーシィが手を上げる。

「あ、あのぉ……あたしは頭数に入れないで欲しいんですけど……」

 

「何言ってんの? ルーシィも大事な戦力よ」

ニコニコと笑いながら言うシクルに「絶対楽しんでるよね!?」と涙目で叫ぶルーシィ。

 

「わ、私も……! 戦うのは苦手なんです」

「ウェンディ!! 弱音吐かないの!」

ウェンディも涙声でそういい、シャルルに叱られる。

 

 

「安心したまえ……我々の作戦は戦闘だけにあらず! 奴らの拠点を見つけてくれればいい」

一夜が震えるルーシィとウェンディに決めポーズをしながら告げる。

 

「拠点……?」

 

「あぁ、そうだ……今はまだ奴等を補足していないが……恐らく、樹海には奴らの仮説拠点があると推測される」

 

「そこで、君たちには出来ればその仮説拠点に奴らを全員集めてほしい」

 

「どうやって?」

 

「殴ってに決まってんだろ!!」

 

「殴るだけじゃダメでしょ……でも結局戦闘は避けられないみたいね」

 

「集めてどうするのだ?」

 

一斉に質問を受けるが慌てる様子はなく冷静に説明を進めるトライメンズの3人と一夜。

 

「我がギルドが大陸に誇る天馬……その名も “クリスティーナ” で拠点もろとも葬り去るのだ!!」

キラーン!とポーズを取り、宣言する一夜。

 

「それって…… “魔導爆撃艇” の事?」

首を傾げ、問いかけるシクルに頷く一夜。

 

「てか、人間相手にそこまでやる?」

ルーシィが大げさな……と呟きながらそう言うと……ゴォ! と音を立てジュラから気が溢れる。

 

「そういう相手なのだ!!」

「ひっ!?」

「あー……ジュラ? あんまりうちの新人怖がらせないでね?」

 

ジュラの気に竦むルーシィを見て、はぁとため息をつきながらジュラに一言言うとジュラもそれに気づき、「すまん……」と素直に謝る。

 

「だが……よいか? 戦闘になっても決して1人で戦ってはいかん。敵1人に対して必ず2人以上でやるのだ」

強めの言葉で忠告するジュラにシクルたちは、コクリと頷く。

 

そして……

 

「おっしゃぁー!! 燃えてきたァ!!」

雄叫びを上げ、建物の壁を壊し飛び出していくナツ。

 

「6人まとめて俺が相手してやらぁ!!」

 

「あ、ちょ!? ナツ!!」

「全く……あいつは」

「てかあいつ話聞いてねーだろ!?」

「それがナツです」

 

飛び出していったナツを追い、妖精の尻尾のメンバーを中心に建物を飛び出していく面々。

 

最後に残ったのは……ジュラと一夜、そしてシクルとルージュだった。

 

「……はぁ全く(ほんと……後先考えないんだから)」

「シクルゥ、あたしたちも早く行こぉ?」

シクルの頭に乗りながら額を叩きそう言うルージュ。

 

「あ、うん。……いや、その前に……」

シクルはそう言葉を発し、1歩前に進めた足を戻すと……後方にいた一夜を振り返る。

 

「一夜……」

 

「ん? なんだい? マイハニー!」

キラーン!と決めポーズをする一夜……普段なら勢いに任せ、殴り飛ばすが……シクルは冷静に一夜を見つめ……いや、睨みつけると……

 

 

フッーーー

 

 

「……それで、変装したつもり?」

 

「「っ!?」」

 

「な!? シクル殿!? なにを……」

 

シクルが一夜の背後を取り、その頭をわし掴んだ。

その行動にルージュとジュラは目を見開き、驚くが……一夜は別段驚く様子もなく……

 

 

「……やっぱり、君にはバレちゃうか?」

と、一夜の姿で、一夜の声じゃないものが響いた。

 

「なに?」

「あれ……この声」

 

はぁとため息をシクルはつき……

 

「当たり前でしょ……私を誰だと思ってるの?……ジェミニ」

「…………歌姫……そして、星霊姫の証を持つもの」

 

そう、 “ジェミニ” と呼ばれた一夜が呟くと……シクルはその頭を掴む手から光を出す。そして……

 

 

「正解……双子宮の扉 強制閉門」

 

一夜は身体が光り、消えた。そして、その姿が消えるとシクルは両手に魔力を纏い、サッと振り返り……

 

「月竜の翼撃っ!!」

 

魔法を放つ。

 

「おっと……これはびっくりだゾ。まさか気づかれるなんてナ……歌姫さん」

攻撃を避けられるが、シクルはもとより当てる気は無かったため動揺はしていない。

 

「貴様は……」

 

「……六魔将軍の1人……エンジェルね?」

 

ニヤッと笑うエンジェル。

「そうだゾ! まぁ、今頃気づいても遅いんだゾ。今頃お前達のお仲間さんは……「黙れ……」っ!」

 

笑顔から一変、エンジェルの目の前にシクルが突然現れ……刃が襲いかかる。

 

ブシューーー!

 

エンジェルの肩から血が吹き出る。

 

「くっ!」

 

「掠っただけ……か」

肩を抑えるエンジェルを冷たく見つめるシクル。

「ちっ……舐めんじゃないヨ、ザコが……

 

お前に私達は倒せないゾ!」

 

エンジェルはそう吐き捨て、姿を消した。

 

 

「まさか紛れ込んでいたとは……!」

「ど、どーするのシクルぅ!?」

 

「くっ……ジュラは一夜を見つけて! きっとどこかで眠らされてるか縛られてるか……この建物からは出てないはず!!」

シクルの言葉に「承知した」と言い、奥へと消えていくジュラ。

 

「皆……!!」

シクルはルージュにしっかり掴まっている様に言うと、身体に光を纏い光の速さで、ナツたちの元へと急ぐ……。

 

 

お願い……間に合って!!! 皆……!!

 

拳を握りしめ、願うシクル……だが、そんなシクルの思いも叶わず……

 

シクルの視界に入ったのは爆破し、破壊されたクリスティーナと、地面に伏す仲間達……それを嘲笑うように立っている5人の人影……

 

 

「っ! それ以上……あたしの!

 

あたしの仲間に! 手ェ出すなぁっ!!!」

 

怒声を叫び……速度を上げる。

 

そして……

 

「月竜の……鉄拳!!!!」

 

ドォオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!

 

 

地面を……割り、仲間と敵の間に壁を作り出した……。

 

「っ!! シ、ク……!」

 

「シクルっ……」

 

ナツとルーシィの己を呼ぶ声が聞こえ、後ろを1度振り返るシクル。

 

 

「ごめん……遅れて……後は、任せて」

そう、にっこりと微笑み呟くと……

 

ギロッと目の前の敵……六魔将軍を睨み、殺気が湧き上がる。

 

 

「月の歌姫……か……面白いっ」

 

六魔将軍もニヤニヤと不敵な笑みを見せ、余裕を崩さない……

 

 

ここに……月の歌姫VS六魔将軍の戦いが……始まろうとしていた。

 

 

「お前達は……あたしが……あたしの光が、滅する!!」

 

 




はい!如何だったでしょうか?次回は主人公VS六魔将軍の面々です。

なんだか今回の章は無駄に話数が増える予感が……

そして明日は映画公開ですね!!
ワクワク止まりません……では、42話最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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43話 天空の巫女 ウェンディ

はい!!ギリギリ投稿です!!

映画見てきました!!!もう凄かったの一言です……


また見に行く予定です!

……では、こんな話はさておき……本編に行きましょうか……

最後までお付き合い、お願いします!


 

 

「ルージュ、ナツたちのところに行って」

「あい!」

シクルの指示に、ルージュはナツの隣に降り立ち、避難する。

それを見届け、シクルは戦闘態勢を構える。

 

構えるシクルを見つめ、ニヤリと笑うブレイン。

「まさか……標的の方から捕まりに来るとはな……」

 

「はァ? 標的……どういう事?」

その言葉に疑問を抱くシクル。だが、ブレインは……

「フン……レーサー、行け」

レーサーに指示を出す。

 

指示を受け、レーサーはシクルへと飛び出す。

 

「シクル……っ!」

ナツが思わず体を起こし、声を上げる。

だが、シクルは目を瞑り、深呼吸を一つする。

 

そして……

「……大丈夫」

と呟き目を見開くと……反撃開始。

 

光の魔力を体に纏い、レーサーの動きを横に飛び避けると口に魔力を込める。

「光竜の咆哮!!」

 

「!? (早い……! ) ぐっ!!!」

威力より速さを取った魔法はレーサーを襲う。吹っ飛ぶレーサーそして、砂埃が舞い散る中……

 

「後ろがガラ空き……デスネ!!」

シクルの背後、地面がうねり動き、ホットアイの指の動きに合わせ、背後から襲いかかるそれを、シクルはぐっと両手に魔力を込め、振り返りざまに

 

「月竜の翼撃っ!!」

身体を捻り、魔力の翼で地面を薙ぎ払う。

 

そして、次に上空からコブラからの拳と毒蛇の猛攻が降り注ぐそれを、シクルは2.3回バク転をし避け、グイッ!と足に魔力を纏いコブラに蹴りあげる。

「月竜の鉤爪!!」

「フンッ」

 

だがそれは難なく避けられる。

 

「月竜の砕牙っ!!」

再び身体を捻り、バク転をしながら指先に魔力を込め、振り上げるが……

 

「っ……当たらない?」

「聞こえるぞ……お前の声……心の声が」

ニヤッと笑い、言うコブラの言葉を脳裏で反復し、考える。

 

「声……心の、声……心……」

「っ!? てめぇ……」

 

シクルは意図的に何も考えることをやめる。それにより、コブラはシクルの心の声が聞こえなくなる。

 

「心の声が聞こえなきゃ……不安?」

ニッと笑うシクル。

「くそ……舐めんじゃねぇ!!」

シクルの笑みを挑発と受け取ったコブラはシクルに猛攻をかける。その動きに合わせ、大蛇も毒牙を剥き出し、襲いかかってくる。

 

だが、その動きはどこか余裕が無く、隙のある動き……

 

「そんな動きじゃ……」

 

2.3歩後ろに下がり、距離をあけ……一気に腰を屈めコブラの懐に入り込む。

「っーーー!?」

 

「あたしは……倒せない! 月竜の鉄拳!!」

ドゴォ!!

「ぐはっ!!」

腹に拳をくらい、吹き飛ぶコブラに変わり、シクルの目の前に飛び込むは……

 

「エル!? いや……またジェミニか」

「行くぞォ!!」

エルザに変身したジェミニの剣技がシクルに襲いかかる。

 

「天輪 繚乱の剣(ブルーメンブラット)!!」

 

「換装 十六夜刀!!!」

刀を握ると魔力を込めながら、飛び交う剣たちを薙ぎ払い、走る。

 

そして……

「ごめんね!! 九ノ太刀 不殺の刃!!」

逆刃でジェミニを斬り、星霊界へ還す。

 

「ダークカプリチオ!!」

「っ!!」

視界の隅から向かってくるレーザーに気づき身体を逸らすが一瞬遅れ、脇腹を掠る。

 

「シクル……!!」

 

「ちっ……光竜の咆哮!!」

咆哮を使い、後方へ跳び、一度距離を取るが……

「貰った!!」

「かかったなぁ!」

飛んだ先にレーサーとコブラが立ち、魔法を放つ寸前ーーー

 

「……! 月竜の剛拳!!」

鉄拳よりも威力の強い拳を地面目掛け振り下ろす。

ズドォオオオン!!

 

「「ぐぁあ!?」」

 

音を立て地面が割れ、盛り上がりレーサーとコブラを吹き飛ばす。

 

 

シクル1人で六魔将軍を相手に奮闘する姿を見つめ……

 

「す、すごい……」

「1人で……」

「六魔将軍を……圧倒している……」

 

「で、でも……!」

 

全員が目を見張る中、ルーシィは静かにシクルを見つめ、不安そうに表情を歪める。

 

「っ……はぁ……はぁ……」

 

 

「ふ……流石の貴様も、この人数を1人で相手は消耗が激しいか?」

息の上がるシクルに不敵な笑みを浮かべるブレイン。それに返す様に不敵に笑い返すシクル。

 

「まさか……まだ、準備運動にもならないっての……」

ぐっと拳を握るシクル……その頬を一筋の汗が伝う。

 

 

その時……

 

 

「きゃあっ!?」

 

「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」

 

離れた岩陰に隠れていたウェンディの突然の悲鳴。

全員が振り返ると……

 

 

「! ウェンディっ!!!」

 

 

ブレインの魔法に絡まれ、捕まっているウェンディの姿。咄嗟にシクルを始め、少し動ける様になった者が助けに、動き出すが……

 

 

「油断したなぁっ!!」

ガブッ!

「っーーー!! くっ……!」

大蛇に首筋を噛まれるシクル。

 

「「「シクルっ!!!」」」

 

シクルの身体を即効性の毒が回る……

 

 

あ……か、らだが……痺れっ……!?

 

ドサッと倒れるシクル。その身体をコブラが抱き上げる。

 

「てめっ……シクルをどーすんだ!?」

ナツの怒声が響くが……コブラはニヤッと笑い……

 

「さぁな?」

とだけ言い、空間の裂け目に消える……。

「シクルゥー!!!」

そして……

 

「ウェンディっ!!」

「シャルルー!!」

ウェンディもブレインの魔法により、連れ去られる……。声を上げ、シャルルがその手を掴もうと飛ぶ。

 

ウェンディも手を伸ばすが……

 

パシッとウェンディが掴んだのはハッピーの手だった。

 

「「え…!?」」

 

「ちょ、ちょっとあんた!?」

 

ハッピーと共に、ウェンディも空間の裂け目に消えていき……

 

「ハッピー!!シクル!!!」

「ウェンディ!!!」

 

ナツとシャルル、グレイとルーシィも裂け目へと走り、追おうとするが……

 

「ふん……月の歌姫と天空の巫女は頂くぞ!

 

うぬらにもう用は無い! ダークロンド!!」

 

ブレインの魔法がナツたちに襲いかかる……。

 

 

「岩鉄壁!!!」

 

ドォオオオオオオオオンッ!!!!!

 

「……っ!」

ものすごい爆風と音に、目を瞑っていた一同……爆風が止み、目を開けると……

 

 

「……間、一髪っ」

「ジュラ様っ!!」

 

ジュラが岩の壁を作り、ナツたちを守っていた。

砂埃が晴れ、ジュラにお礼を言いながらも辺りを見回す一同。

 

「いねぇ……あいつらも……シクルたちもいねぇ!!」

「ウェンディっ……!」

 

戸惑い、慌てる一同だがジュラの言葉で、一度落ち着き、一夜の魔法で傷を癒す。

そして、あらかた傷もなくなり、痛みもなくなると……

 

「っ……くっそぉ!!!」

シクルたちを探そうと、飛び出そうとするナツ。

「待ちなさいっ!!」

そんなナツをマフラーを引っ張り止めたシャルル。

 

「ぐえっ!? ンだよ!?」

「まずは落ち着きなさいって言ってるでしょ! それに……」

そう言い、シャルルが振り返った先には……

 

 

ただ1人、一夜の魔法が効かずに大蛇の毒に侵され、苦しむエルザの姿が……

「「「エルザっ……!!」」」

 

流石の一夜の痛み止めの魔法でも、毒は癒せないようで……エルザは力の入らない身体に鞭を打ち、身体を起こすと……

 

「すまない……ベルトを借りるぞ、ルーシィ」

と、ルーシィの腰に巻かれたベルトを取り外す。その瞬間スカートが落ちる。

 

「きゃぁああああっ///!?」

 

「「「おぉー!!」」」

 

「見るなぁ!!!」

鼻の下を伸ばし、魅入るトライメンズの3人に顔を真っ赤にしながら声を荒らげるルーシィ。

 

エルザはルーシィから取ったベルトで肩口をきつく縛り……

「な、何してるの……エルザ!?」

 

「すまん……このままでは戦えん……

 

 

切り落とせ」

 

 

エルザの言ったその言葉に一同は驚愕し、目を見開く。

「な、バカなこと言ってんじゃねぇよ!!」

「頼む……誰か……」

顔色を更に悪くさせながら言うエルザに……

 

「分かった……俺がやろう」

と、剣を構え、リオンが前に出る。

 

「な…リオン!? やめろ!!」

エルザとリオンの間に入り、リオンを止めるグレイ。だが、リオンは冷たくグレイを見据え……

 

「どけ、グレイ……今その女を失う訳には行かない……」

「だが……他にも方法があるはずだろ!?」

 

「早く……やれぇ!!」

 

エルザの叫びにグレイを押しのけ、剣を振り上げるリオン……そしてーーー

 

 

「やめてぇ!!」

「おい!?」

 

キィイイン!!!

 

 

「……どういうつもりだ、グレイ」

 

リオンの振り下ろした剣は、グレイの作り出した氷の剣に遮られ、エルザに当たることは無かった。

「言ったろ……他にも方法があるはずだと……」

 

リオンとグレイの間で冷たい空気が流れる……。

そこに……

 

「ぐっ……ぁ」

ドサッ……

 

エルザが耐えきれず、倒れてしまった。

 

「「「エルザっ!!!」」」

 

既に気絶しており、ナツたちの声に目が覚めることはなく……

 

「ま、まずいわよ……このままじゃ毒が全身に回って……!!」

 

「……ウェンディなら、助けられるわよ」

 

「「「「っ!?」」」」

 

冷静にナツたちを見つめていたシャルルからの言葉に全員が振り返る……。

 

「それって……ウェンディなら……解毒が出来るの……?」

ルーシィが戸惑いながら、問いかける。

 

「解毒だけじゃないわ……解熱や痛み止め……傷の治癒も出来るわ」

 

「そ、それならシクルも……っ!」

「でもあいつは解毒は出来ねぇだろ?」

 

「……ううん、出来るよ……シクルも」

 

グレイの言葉を静かに否定した声……ルージュの声。

 

「え……そーなの?」

「うん……でも、あまり使わないのは確かだよぉ……」

ルージュの言葉にへぇと声を上げるルーシィたち。

 

「でも……治癒魔法は失われた魔法のはずでは……?」

シェリーからの問いにシャルルははぁとため息をつき……

 

 

「ウェンディ……あの子は天空の滅竜魔導士……天竜のウェンディよ」

 

「滅竜魔導士……!?」

 

「あの子が……!?」

 

「マジか……!?」

 

「とにかく……今私たちに必要なのはウェンディよ……「シクルもだっ!!」……はぁ、ウェンディとオスネコ……それからシクルってのも助けに行くわよ!」

 

「「「「「おぉー!!!」」」」」

 

 

ナツたちがシクル、ウェンディ、ハッピーの救出に動き出した頃……

 

 

六魔将軍、仮説拠点にてーーー

 

「きゃあ!」

「っ……う!」

「うわ! お、女の子には優しくするんだぞ!」

 

シクルたちは、仮説拠点に着いた途端、放り投げられる。

 

「う……!」

「っ……シクルさん!」

「シクルっ! っ……安心して、シクルもウェンディもオイラが守るよ! 絶対……ここから逃がしてあげるからね!!」

 

毒に侵され始め、苦しむシクルを抱き上げるウェンディとその2人を守るように前に立つハッピー。

 

 

「ブレイン……此奴等は何なのだ?」

「ニルヴァーナに関係あるのか?」

レーサーとコブラからの問いかけにブレインはシクルとウェンディを見つめ……

 

「此奴は天空魔法……治癒の魔法を使う

そしてこの女は……彼の歌魔法を使う姫だ……」

と言った。その言葉にコブラたちは目を見開き驚く。

 

「治癒魔法っ!? この娘が!?」

 

「この女が歌姫なのは知ってたが……」

 

「これは、金の匂いがしますね……」

 

「もしかしてこいつらに……」

コブラたちの視線を受け、ブレインは頷く。

 

「あぁ……奴を復活させる」

 

「っ……や、つ……?」

「奴って誰だ!?」

「よく分かりませんけど……私、悪い人たちになんか……手は貸しません!!」

 

シクルを抱え、身体を少し震えさせながらブレインを睨みあげるウェンディ。

だが、そんな睨みに怯む訳もなく……ブレインはニヤッと笑う。

 

「貸すさ……必ず。うぬは必ず手を貸す……そして、奴を復活させる……」

 

その笑みに恐怖を抱くウェンディ。

「ひ……ぃっ」

身体の震えが強くなる……その時ーーー

 

 

「怖がらないで……ウェンディ」

「え……」

腕に抱いていたシクルが目を開き、にっこりとウェンディに笑みを浮かべていた。

 

「シクル……さ、ん」

「大丈夫……貴女は私が……守る」

ぐっと、身体を起こし、ブレインを睨みつけるシクル……

 

「てめぇ……キュベリオスの毒にやられた……」

 

「私を甘く見ないで……あれくらい、私にだって……解毒出来るっての」

ニッと微笑むシクル。

 

そこに……

 

大きな棺桶を運んできたレーサーが帰ってくる……。

 

 

「「「っ!?」」」

 

「参ったぜ……思ったより時間かかっちまった……こんなに重けりゃ、スピードも出せねえよ」

汗だくになり、呟くレーサーの肩を叩くブレイン。

 

「何を言うか……主より速い男など存在せぬよ」

「……あ、れは」

 

その棺桶を見つめ……シクルは嫌なものを感じ取る。

 

「寒気……(この禍々しい魔力……普通じゃない)」

警戒を高めるシクル。

 

「ウェンディ……そして、シクル

 

貴様らにはこの男を治してもらう」

 

「男……? (中身をわかってる……) やるわけないでしょ」

「わ、私も……! 絶対、やりません!!」

その2人の言葉に……クククと笑うブレイン。

 

「いや……お主は必ず治す……治さねばならぬのだ」

 

 

そう言い、ブレインが魔力を棺桶に送ると……その蓋が溶けていく……。

 

 

「……え?」

 

「……な」

 

「な……に?」

 

 

棺桶の中から出てきたのは……

 

 

「……ジ、ジェラー……ル?」

 

 

眠りにつく、ジェラールその者だった……。

 

 




如何だったでしょうか?

所々端折ったり、うろ覚えで飛んでるところが多々あるかと思うのですが……まだまだ続くので、最後までお付き合い、お願いします!!

では、43話、最後までお付き合い、ありがとうございます!!!


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44話 解き放たれる ニルヴァーナ

はい!! 今回は戦闘まで行きませんでした……

ラスボスの所をシクルはどうしようか……と、少し悩む今日この頃ですww

では、最後までお付き合い、お願いします!!


 

棺桶の蓋が溶け、現れたのは……死んでいるかのように眠っている、ジェラールだった……。

 

「この男はジェラール……かつて、評議院に潜入していた。つまり……ニルヴァーナの場所を知る者」

 

一方的に語るブレインだが、ウェンディやシクル、ハッピーにその声はしっかりと届いておらず……今はただ……、目の前の光景を目を見張っていた。

 

「ジェ……ラー、ル」

 

「なんで……なんで、ジェラールがっ!?」

 

「こ、こいつが……ジェラール……? え?

でも……ジェラールって……生きてたの!?」

 

「エーテルナノを大量に浴びてこのような姿になってしまったのだ……そこで、此奴を元に戻せるのはうぬだけだ。恩人……なのだろう?」

 

ブレインの言葉にぐっと唇を噛み、俯くウェンディ。

 

「ジェラール……て、あのジェラール?」

 

「ハッピー……知ってるの?」

ウェンディの問いかけにハッピーはジェラールから目を離すことなく、口を開く。

 

「知ってるも何も……こいつは、エルザを殺そうとした奴で……評議会を使ってエーテリオンを落とした張本人なんだ!」

 

「そう……みたい、だね」

 

でも……とウェンディはジェラールを見つめる。そんなウェンディを見つめ、シクルは眉を顰める。

「ウェンディ……(なにか……訳ありみたいだけど)」

 

「この男は亡霊に取り憑かれた亡霊……哀れな理想論者。しかし、うぬにとっては恩人だ……そうだろう?」

 

「っ……」

 

「恩人……?」

 

「ウェンディ……どういう事? 恩人って」

 

「そ、それ……は」

 

シクルの問いかけに言葉を濁しながら、答えようとするウェンディ。

だが、その言葉を遮るように響くブレインの声。

 

「さぁ、この男を復活させろ……」

 

「ダメだよ! こんな奴、復活させちゃダメだ!!」

顔を俯き、震えるウェンディに力を貸すなと声を荒らげるハッピー。そんな彼を……

 

「黙れ……」 ドカーーー!

ブレインが蹴り飛ばし、岩肌へとハッピーの小さな身体をぶつける。

 

「うぎゃっ!?」

 

「「ハッピー!!!」」

 

痛みに呻き、倒れるハッピーに駆け寄ろうとするシクルとウェンディ。そこに……

 

「天空の巫女よ……この男を復活させぬというのなら……」

ブレインがそう言い、まだ動きの鈍っていたシクルを捕らえ、首筋にナイフを突き立てた。

 

「っ!!」

 

「この女を殺すぞ」

 

「え……」

 

「シ、シクル……!!」

 

「さぁ……どうした? うぬなら治すことくらい……簡単だろう?」

ニヤリと笑うブレイン。

 

「ウ、ウェンディ! ダメだよ! ジェラールは復活させちゃ……!」

 

ハッピーがウェンディの手を掴み、言うもウェンディはジェラールとシクルを交互に見つめ落ち着きがなくなり始めていた。

 

「で、でも……それじゃあ、ジェラールも……シクルさんもっ」

 

「私の事はいいから!! ジェラールは復活させちゃダメっ!」

 

「黙ってろと言っただろう? 」

体を動かし、抜け出そうとするシクルの首筋にクイッと刃先がくい込む。

 

「何が目的かは知らないけど……私はあんた達の標的何でしょう? 殺したら……価値がないんじゃないの?」

 

シクルの睨みを受け尚、笑みを崩さないブレイン。

「ふん……貴様の身体は死しても高い価値がある……これは脅しじゃあないぞ」

 

「っ……このっ」

ブレインの言葉に嘘偽りがないと悟ったシクル。そして……

 

「ま、待ってください!!! お、願いします……少し、時間を……下さい」

震えるウェンディの声が響いた……。

 

「ウェンディ……!!」

 

「……良かろう、5分だ」

 

 

 

「くっ……(どうしよう……どうしたら!? このままじゃあ……)」

シクルの背を冷たい汗が伝う……その時

 

「シクル!! ハッピー!! ウェンディ!!」

 

「っ!! この声……」

 

「ナツだっ!!」

 

洞窟の中にナツの声が響き始める。

 

ナツ……お願い…………ナツっ!!!!

 

 

「……レーサー、近付かせるな」

ブレインの指示に、「OK」と答え、足止めに向かうレーサー。

 

「……さぁ、そろそろ時間だぞ?」

 

「っ……」

ブレインの言葉に目を瞑るウェンディ。

「ダメだよ!! ウェンディっ!」

ハッピーが声を荒らげ、止めるが……

 

「煩わしい……沈め」

ハッピーに、ブレインの魔法が飛ぶ。

 

「ハッピーっ!!」

 

「ぬっ!」

 

ハッピーに魔法が飛んだ瞬間、ブレインの腕を振り切り、拘束から抜け出すシクル。

 

ドォン!!

 

そして、ハッピーを庇い、ブレインの魔法をくらうシクル。

 

「うぁっ!!」

 

「シ、シクルっ!!」

 

シクルは身体に襲い来る衝撃に耐えながら、ハッピーに微笑むと……

 

「大丈夫だから……ナツを、呼んできてっ」

と告げた。

ハッピーは涙を堪え、頷き翼を作り出す。

 

「すぐに連れてくるから!! 待っててね!」

そう叫び、ナツを呼びに飛び立った。

 

「貴様っ……!」

 

ブレインは反抗された事に苛つき、シクルを地面へとドゴォ! と音を立て、殴り倒す。

 

「うぐっ!」

 

「シクルさんっ!!」

ブレインはシクルの髪を乱暴に掴み、引っ張り上げる。

「いっ……!」

「さぁ! 失われた魔法……治癒魔法を、今使わずしていつ使うのだ?」

 

「シ、クル……さんっ……ジェラ、ール……」

「ウェンディ……だ、め」

シクルが止めるように訴えるも……ウェンディは首を小さく横にふると……立ち上がり、ジェラールへと歩き出す。

 

 

 

あぁ……ごめん……ナツ……私、止められなかった……

 

ごめん……みんな

 

ゆっくりとジェラールに手を伸ばすウェンディを見つめ……シクルは苦々しく唇を噛みしめる。

 

そして……

 

 

眠りについていた男が……目覚める。

 

 

ジェラールの眠りが解け、目を開けるのを確認すると、ブレインはもう必要の無いかのようにシクルをその場に落とす。

 

「わっ」

シクルは突然解放されたことにより、地面に手をつくが、目の前でガクリと膝をつくウェンディが目に入ると、ウェンディへと駆け寄る。

 

「ウェンディ!! ウェンディ? 大丈夫? しっかりして!!」

シクルが声をかけるもウェンディは反応せず……

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさいっ……!!」

ただじっと……それだけを呟いていた。

 

「ウェンディ……」

シクルは悲しくなり、表情を歪める。そして……

 

ギュッとウェンディを抱きしめた。

「大丈夫……大丈夫だから……ね? 落ち着いて、ウェンディ……」

震え、涙を流すウェンディの背を撫でる。そこへ……

 

「シクル!! ウェンディ!!」

ナツが到着した……。

 

「ナツ……」

ナツは額から血を流すシクルを見て、目を見開き……そして、静かに立っているジェラールを見て、更に驚愕の表情を浮かべる。

 

「な……ジェラール!? てめぇ……!!」

 

驚愕の表情から怒りの表情に変わり、ジェラールへと突っ込むナツ。

 

だが、ジェラールは静かにナツを、魔法で弾き飛ばした。

その様子を見て、シクルは何か違和感を感じる。

 

「……ジェラール? (この感じ……何? なにか……違う)」

 

ジェラールはブレインも魔法で吹き飛ばすと静かに歩き始め、消えて行った……。

ジェラールと入れ違いに現れ、シクルの胸に飛び込んでくる小さな影があった。

 

「シクルゥー!! 大丈夫だったぁ!? 心配したよぉ!」

胸に飛び込んできたのはルージュだった。

 

「ルージュ! うん、大丈夫……大丈夫だよ」

 

にっこりと微笑むシクルを見て、安心するルージュ。そこに、ゴォ!! と音を立てナツが立ち上がる。

 

「いってぇ……くそ、あんにゃろぉ!!」

 

ジェラールを追いかけようとするが……

 

「待ちなさいよ!!」

 

グイッ! とシャルルにマフラーを引っ張られるナツ。

「うぐぇ!? ンだよ!?」

 

「今はあいつよりもやらなきゃいけない事があるでしょう!?」

 

シャルルからの言葉にう……と言葉が詰まり、ぷいっと顔を逸らすナツ。

「わぁってるよ……」

 

そう言うとナツはふっと気絶してしまったウェンディを抱え、立ち上がるシクルを見つめる。

 

「よっし……大体は分かったから、早くエルのところ行こっ! ……て、どしたの?」

 

現状をルージュから説明してもらったシクルは早くウェンディを連れてエルザの元に戻ろうと言うがナツが動かない。

 

ウェンディをシャルルに預け、ナツの前に駆け寄る。

 

「ナーツー? どうしたの……早く行かないと……」

 

シクルの言葉は最後まで続かなかった……

 

ナツがシクルの額を優しく撫で始めたのだ。

 

「……え? な、何……ナツ?」

突然の行動に困惑し、次第に頬が赤くなるのを感じるシクル……すると

 

「……わりぃ、俺……間に合わなくて……シクルに怪我、させちまった……さっきも……俺、守られて……」

 

悔しそうにシクルに触れていない手をぐっと握る。

 

「ナツ……」

 

「ごめんな……痛かったろ?」

シクルの額の傷を優しく撫で、心配するナツを見上げ……

 

クスリと微笑むシクル。そして……ナツの、強く握りすぎて血が流れ出していた手を優しく包み込み、握るシクル。

 

「大丈夫……信じてたから、来てくれるって……それにまだ、終わってないよ? 今はエルを助けて……そして、ジェラールと六魔将軍を止めよう? ね!」

 

シクルの言葉にナツは目を見開き始め……そして、次に瞬きをすると普段の眩しい笑顔が戻る。

 

「あぁ!! そーだな!」

 

「よし! じゃあ行こう! ハッピーやルージュ、シャルルたちを待たせちゃってるよ」

 

ハッピーたちは先に洞窟の外に行っていたのだ。追いかけるように2人が外に出ると……

 

「遅いわよ! あんたたち!!」

 

「ご、ごめんねシャルル……」

 

「まぁまぁ……再会の愛の抱擁でもしてたんだよぉ、きっと」

 

「してないわよ!? 何言ってるのルージュ!?」

 

「でぇきてるぅ」

 

「出来てないから!! 巻き舌風に言うな!」

 

「おい、早くエルザんとこ行くんだろ? 行こーぜ」

 

ナツの指摘にはぁとシクルはため息をつきながら、「行こう……」と言い、ナツをハッピーがシクルをルージュが、そしてウェンディがシャルルに抱えられエルザの元へと急ぐ。

 

 

途中レーサーの妨害があったがグレイが現れ、先に行かせてくれた。

 

その時……グレイは殆どの魔力を使い切ってしまい……

 

「グレイっ!? 私も一緒に戦うよ……!?」

とシクルが言ったが……グレイは氷の鉄壁の向こうでフッと笑うと……

 

「心配すんな……ここは俺に任せて、シクルは……早く、エルザの所行ってやれ! エルザも……シクルのこと心配してたからなぁ」

と言った。

 

「……ごめん、グレイ……死なないで」

 

シクルはそう最後に呟き、レーサーの攻撃で気絶してしまったルージュを抱え、先に走り出したナツを追い、走り出す。

 

 

「……死なねぇよ」

 

最後に、グレイはそう呟き……

 

「さぁ……ここは通さねぇぞ!!!」

グレイとレーサーの戦いが、始まる。

 

 

エルザの元へは途中、ヒビキの古文書の能力で脳に直接地図が送られ、迷わず戻れた。

 

エルザの近くにはヒビキの他にルーシィも待機していた。

 

「シクルっ!! 無事だったんだ! よかった……」

 

「ルーシィっ!! ごめん、心配かけて」

 

シクルを見て安堵するルーシィににっこりと微笑むシクル。

 

エルザは毒が広がっており、苦しそうに呻いていた。

「エル……!」

 

「ウェンディ!! 起きてくれぇー!!」

 

気絶するウェンディをガクガクと振り、起こそうとするナツ。

すると、ウェンディはゆっくりと意識を覚醒していく……。

 

「ん……っ! ひゃっ!? あ……ご、ごめ……ごめんなさい! わた、し……私!」

 

完全に意識が戻ると気絶する前の事が蘇り……涙を流しながら震え、謝り続けた。

 

だが、そんなウェンディに……

 

「頼むっ!! 今はそんなのどうでもいい!! エルザが毒にやられたんだ!! 力を貸してくれ……!!」

頭をゴッ!と地面に叩きつけ、下げながら頼み込むナツを見つめ……

 

「……毒?」

 

エルザを振り返るウェンディ。その先には確かに毒に苦しむエルザの姿が……。

 

「あ、わ……分かりましたっ!」

 

「ウェンディ、貴女は解毒に集中して? 他の傷は私が治すわ」

 

エルザの隣に膝をついたウェンディの隣に腰を下ろし、エルザに手をかざすシクル。

 

「はいっ!」

 

ウェンディの力強い頷きににっこりと微笑むと……

 

「【我、月の加護の名の下に

 

愛する者の身を包み その身、回復させん】

 

歌魔法(ソングマジック)治癒 (ヒール) 」

 

エルザの身体を光が包み込む……そして、毒以外の傷を全て回復することに成功。

 

その後、ウェンディの魔法でエルザの毒は完全に無くなった。

 

「ふぅ……これでもう大丈夫です……」

 

「もう少ししたら、目が覚めると思うわ」

 

「おぉ!!」

 

「良かった……」

 

ウェンディとシクルの言葉に安堵する一同。

 

「よし! ハイタッチだ!!」

ナツの言葉でその場にいる一同が順番にハイタッチをしていき、ウェンディも……ナツに声を掛けられ、照れながらハイタッチをした。

 

 

「良い事? 見ての通り天空魔法は魔力の消耗が激しいの……だから、これ以上ウェンディに魔法を使わせないで頂戴……」

 

シャルルの言葉に、「大丈夫!!」と声を上げるウェンディだが確かにその表情には疲労が見られ、魔力も消費している様子が伺えた。

 

「大丈夫! 回復なら私も使えるから……ウェンディはここぞっていう時以外はしっかり休んで! ね?」

 

シクルからの言葉に「あ…はい!」と頷いたウェンディ。

 

「おっしゃー!! エルザが目覚めたら反撃開始だァ!!」

ナツがそう叫び、ハッピーもそれにつられ

 

「ニルヴァーナは渡さないぞー!!」

と、声を上げる。

 

が……

 

次の瞬間、天高く伸びる黒い光の柱が辺りを照らす……。

 

「……遅かったみたい」

 

その光を見つめ、静かに……シクルの声が響いた……。

 

「え……?」

 

「何……あの、光……黒い」

 

「なんか……嫌な感じが、するよぉ……」

 

ハッピーとルージュが震えながらその光を見上げる。

 

「あれが……ニルヴァーナ……」

 

静かに告げたシクルの言葉に驚くナツたち。

 

「まさか……まさか、六魔将軍に先を越されちゃったの!?」

ルーシィが慌てて、立ち上がり、その光を見上げる。

 

「は……あの光……あの光のところに、ジェラールがいるっ!!!」

 

「「「「っ!?」」」」

 

「あ……私の、せい……だ!」

 

「会わせるわけにはいかねぇ!! エルザには……あいつは、俺が潰す!!」

 

そう言うとナツは「うぉおおおおお!!」と雄叫びを上げ、光の元へと走り出す……。

 

「ちょ!? ナツー!!! (あのバカっ!! また突っ走って……)」

シクルが手を伸ばすも、それはナツに届かず……

 

そして、問題はナツだけではなかった……。

 

「あ、あれ!? ちょっと……エルザがいない!!」

ルーシィの言葉に全員がエルザが寝ていたはずのところに、視線をやる。

 

だが、確かにそこにエルザの姿はなかった……。

 

「あ……あぁ」

 

「っ! ウェンディ……!」

頭を抱え、ふらつくウェンディを支えるシクル。

 

「何なのよ、あの女!! ウェンディにお礼も言わず……!」

 

「まさか……エルザ、ジェラールって言葉を聞いて……」

 

「あんな身体で!? 無茶しすぎよ……」

 

「どうしよう……私の、せいだ……私が、ジェラールを……治したせいで……ニルヴァーナが見つかっちゃって……エルザさんや……ナツさんが……」

 

頭を抱え、自責の念に苛まれるウェンディ……その姿を見て、シクルはまずい……と感じ、ウェンディに駆け寄ると……

 

ギュッ……と、抱き締めた。

 

「ウェンディ……落ち着いて……

大丈夫、大丈夫……貴女は、悪くない……

 

貴女は、恩人のジェラールを助けたかっただけなんだよ……ね? なら……いいじゃない

 

それで……貴女は、悪いことなんか何もしてない……

 

人を助けたんだよ? 目覚めぬ眠りについていた人を……貴女は貴女の恩人を助けた……

 

凄いじゃない……ね? だから……

自分を責めないで、ウェンディ……」

 

シクルの言葉に涙を流しながら次第に落ち着くウェンディ。

 

そして、ウェンディは「シクル……さん」と呟き、気を失ってしまった。

 

「ウェンディ!!」

 

「大丈夫……ちょっと疲れて、気を失っちゃっただけだよ」

心配するシャルルににっこりと微笑み告げたシクルの言葉にシャルルは、「そう……」と安堵する。

 

「シクルちゃん……君、アレのことを……」

 

シクルを驚きの目で見つめるヒビキ。

 

「それは……移動しながら説明するわ」

 

今はナツを……と、シクルの言葉で一同は頷きウェンディをシクルが背負い、走り出した。

 

 

 

その道中、ニルヴァーナについて語るシクルとヒビキ。

 

「じゃあ怒りは!?怒りはどうなの……」

ルーシィの脳裏には怒りに走り去ったナツが過ぎる。

 

「多分あれは大丈夫だと思う……誰かを思う怒りなら、それは闇とは言えないと思うから……」

安心して、というシクルの言葉に不安が消えるルーシィ。

 

「それにしても……僕はマスターから聞いてそのことを知っていたけど……シクルちゃんはどこで?」

 

ヒビキの言葉にシクルは、ふっとヒビキに一度視線をやり……再び前を向くと

 

「昔……ちょっとね、本で読んだことがあってね」

とだけ言い、その後口を開こうとはしなかった。

 

 

もう少しで光の元へと到着する……そう、一同が思った時……

 

 

た……すけ……うぷ

 

何かに酔う声が聞こえる。

 

「……ナツ?」

 

「え?」

 

道を外れ、小さな崖を下っていくシクルを追い、ルーシィたちもそちらへ行くと……

 

 

「っ!? ナツ!!」

筏の上で酔っているナツと……

 

「グレイ……何を!?」

ナツにトドメを刺そうとしているグレイの姿があった……。

 

「あばよ……」

 

 

振り上げられる氷の剣……それは、ナツへと振り下ろされ……

 

「やめてぇーーー!!!」

 

「ナツー!!!」

ルーシィとハッピーの叫びが響く。

そして……

 

ザンッ!!

 

「…………やらせると思う?」

 

グレイの振り下ろした剣は、間に割り込んだシクルが刀で受け止め、止めた。

 

グレイを睨むシクルの目は静かに怒りに燃えていた……。

 

 

「邪魔をするのか? ……シクル」

 

「何度だって、邪魔してやるわ……ジェミニ」

 

 

シクルの言葉にグレイ……否、ジェミニは表情を少し、歪ませた……。

 

 




はい!!如何だったでしょうか……

次回はエンジェルとの戦いですね!!

では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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45話 星霊を想う心

はい!! 最近は1日に1話しか投稿できてませんね…すいません

もう少しリアルが落ち着いたら1日に2話投稿可能になるかと思うのですが(汗)

では、45話最後までお付き合い、お願いします!!


 

剣と刀を交え、睨み合う両者……

 

 

すると、シクルの視界の端から白い光が飛んでくる。

 

「っ!」

 

シクルは剣を押し返すとそのまま飛翔し、それを避ける。

そんな彼女に向け……

 

「ごめん、シクル……アイスメイク “槍騎士” (ランス)!!」

 

グレイに変化したジェミニの魔法が向かってくる。

 

飛んでくる氷の槍を見つめ、シクルは微動だにしない。そして……

 

「サジタリウス、お願いっ!!」

 

ルーシィの声が響くと、氷の槍は飛んできた矢により壊される。

 

シクルはそれを見つめ、フッと微笑み、ルーシィたちの隣に着地する。。

 

「さっすが……信じてたよ、ルーシィ!」

 

「もうっ!! 避けようとしないからヒヤッとしたわよ……」

 

頬を膨らませ、怒るルーシィに「ごめんごめん」と笑いながら軽く謝るシクル。

 

「もぉ……それより、ちょっとグレイ! 仲間に攻撃するなんて酷いんじゃないの!?」

 

ルーシィはシクルから視線を外し、グレイへと向けた。

 

「……グレイから見たルーシィ。

新人魔導士、ルックスはかなり好み、少し気がある」

 

「な、何よ……!」

 

グレイがルーシィに集中している間にハッピーがナツを助け出そうとするが……

 

ピキィーン!!

 

「ぎゃっ!?」

 

グレイの魔法により、氷漬けにされ、地面に落ちるハッピー。

 

「「「ハッピー!!」」」

 

「見た目によらず純情……そして、星霊魔導士……へぇ? 星霊魔導士ねぇ……おもしれぇ!!」

 

グレイがルーシィに向け、魔法を放つ。

 

「っーー!?」

ルーシィは思わず、身構え目を瞑る……。

そこに、深いため息が聞こえる……。

 

 

「だから……やらせないって言ってるでしょ?」

 

その言葉と共に……シクルから物凄い威圧が放たれると……

 

パキィーン……

 

グレイの放った魔法は粉々に砕かれ、散る。

 

「シクル……!」

 

「これは……(威圧だけで……魔法を、消した……)」

 

ルーシィはシクルに笑顔を向け、ヒビキはその目の前で起きた現象に目を見開き、シクルを見つめた。

 

「いい加減にしなさい……ジェミニ」

 

「ジェ、ミニ?」

シクルの呼んだその名に、ルーシィははっとグレイを見つめる。

 

その視線の先のグレイは……ニヤッと笑うと

 

 

「……ごめんねぇ……いくらシクルの言葉でも……」

 

と、話し身体が光り出し、煙が上がる。

 

「……聞けないんだ」

 

光が消え、煙が晴れると……目の前にはルーシィが立っていた。

 

「わ、私ぃ!?」

 

「君、馬鹿なのかい?今ここでルーシィちゃんに変化しても……騙されるわけがないだろう?」

 

ヒビキが睨みながらそう言うが……

 

「ほんとにそう思う?」

と、ルーシィになったジェミニが言うと……

 

 

際どいところまでシャツを捲ったり、太ももを晒したりとポーズをとった。

それを見たヒビキは……

 

「おぉおおおおおっ!!!」

鼻の下を伸ばし、釘付けだった。

 

「やぁめてぇええええええっ/////!!!」

 

ルーシィの絶叫が響く。

 

「星霊情報収集完了……へぇ? 星霊いっぱい持ってるんだ……」

ニヤッと笑うジェミニに見て……はっとシクルはその何かに察し、動く。

 

「お願いね? サジタリウス」

 

ジェミニの命令により、ヒビキに向け、サジタリウスの矢が放たれた。

 

「「「え?」」」

 

「な……!?」

 

目の前に迫るその矢……それは、瞬時にわって入ったシクルの刀により斬り捨てられる。

 

「シ、シクルちゃん……!」

 

「ルーシィ!! サジタリウスを強制閉門して!」

 

シクルの言葉にはっと我に返り、頷くルーシィ。

「サジタリウス!! 強制閉門!!」

 

「申し訳ないですからして……もしもし」

 

ルーシィの命令で、サジタリウスは星霊界へと戻される。

 

だが……

 

「ふ……開け、人馬宮の扉 サジタリウス」

 

「お呼びでありますか、もしもし……て、え? ……あれ?」

 

ジェミニの方にサジタリウスが召喚される。

 

「えぇー!?」

 

「やっぱり呼べちゃうか……」

 

クスッ 「当たり前よ だって、その子の魔法をコピーしたんだもの……使えて当然でしょう?」

 

ルーシィに変化したジェミニはそう言い、笑うと……未だ気絶しているウェンディを抱え、上空に避難していたシャルルを指差し……

 

「サジタリウス、あの飛んでる猫……殺して!」

と、命令する。

 

命令されたサジタリウスは抵抗しようとするが、弓を構え……

 

「っ! サジタリウス、強制閉門!!」

 

本物のルーシィが声を上げるも今のサジタリウスを呼び出したのはジェミニのルーシィ……こちらが閉門出来るはずがなく……

 

遂に、抵抗が難しくなり……サジタリウスの矢が放たれる……その、瞬間……

 

 

「サジタリウス 強制閉門!!」

 

「「え……」」

 

ルーシィではない……シクルの声が響き、次の瞬間、サジタリウスは星霊界へと帰る。

そして……

 

「【我、月の歌姫の命により

 

人馬宮の門 閉鎖 命ずる】

 

人馬宮の扉 強制閉鎖」

 

シクルの足元に魔法陣が現れ……そこから光の玉が発射されるとルーシィの懐にある人馬宮の鍵に当たり、鎖が巻かれる。

 

「な!? 何これ……」

 

ルーシィは困惑し、シクルを見つめ問いかける。

 

「また呼ばれたらめんどうだから……暫く、呼べないようにした……大丈夫、すぐ解除するから」

 

今だけ、ごめんね?と、申し訳なさそうにルーシィに謝るシクル。

 

「ううん……! またあっちに呼ばれたら大変だもん……解除出来るんだもんね? 大丈夫!」

 

ルーシィがそう言うとシクルは安心したように微笑む。

 

そこに……

 

「ふゥん……星霊の鍵なしで星霊魔法が使えるって……本当だったんだナ?」

 

「……エンジェル」

 

六魔将軍、 “エンジェル” が現れた。

 

エンジェルが現れるとジェミニは変身を解き、エンジェルの隣につく。

 

エンジェルはシクルを見つめ、ニヤリと笑う。……が、シクルは少しエンジェルを見つめると……

 

「はぁ……私疲れちゃったから……あとお願いね? ルーシィ」

と、言い、刀をしまうと……腰を落として戦闘から外れた。

 

「えぇえええ!? ちょ、一緒に戦ってくれないの!?」

ルーシィが驚愕し声を荒らげるも……

 

「だァって……私結構戦ったし動いたよ? ちょっと休憩しないとこの後動けないってぇ」

 

と言い、まったく動く気のないシクルに……ため息をつき、ルーシィは泣く泣く……

「うぅー……分かったわよぉ」

 

と呟きジェミニと向かい合う。

 

そして……鍵を構える。

 

「開け! 宝瓶宮の扉 アクエリアス!!!」

 

召喚されたアクエリアスはルーシィを見ると一気に表情を険しくし、舌打ちをする。

 

「ちょっとー!? 呼んだ瞬間に舌打ちはやめてくれない!?」

 

「うるさい小娘だ……」

 

「あ、アクエリアスだァ? 久々だね」

 

自身を呼ぶ声に振り返り……その先にアクエリアスはシクルがいることに気づくと……

 

「な!? シクルじゃねぇーか!! 最近全然呼んでくれねぇなぁ?」

 

「ごめんごめん……呼ぶ暇なくてね」

 

「んな事言って……めんどくさがってるだけだろぉ、まったく!」

アクエリアスはニッコリと笑みを作り、シクルを抱きしめる。

 

「え、えぇえええ!? シ、シクルって……アクエリアスとも知り合いなの!?」

 

「小娘が……煩い」

 

「だーめ、主なんでしょ? ルーシィは……もっと優しくならないと……今後呼んであげないよ?」

 

ルーシィに再び舌打ちをするアクエリアスを咎めるシクル。

アクエリアスは不貞腐れた表情を浮かべながらも……「分かったよ……」と言った。

 

相変わらずな様子のアクエリアスに苦笑を浮かべるシクル。そして、ため息をつき……ルーシィを見やう。

 

「ルーシィ……残念だけど多分、アクエリアスはダメだよ」

 

「……え?」

 

ルーシィはシクルの言ったその言葉の意味が分からなかった……が、エンジェルが召喚した星霊を見てその意味に気づく。

 

「ふん……開け! 蠍宮の扉 スコーピオン!」

 

「え……二体同時開門!?」

 

エンジェルの召喚した星霊、スコーピオンが現れると……

 

「っ! スコーピオン!」

 

「アクエリアス!!」

 

アクエリアスはシクルを離し、スコーピオンへと抱きつき……スコーピオンもアクエリアスを抱きとめた。

 

「え、えぇえええ!?」

 

「スコーピオンとアクエリアスは恋人同士なのよ? それも相当なバカップル」

 

シクルの言った通り、2人は熱い抱擁を交わすと……

 

デートに行くといい星霊界へと帰ってしまった。

 

「く……こうなったら!

 

開け! 獅子宮の扉 ロキ!!」

 

「王子様登場! やっほー、ルーシィ! それにシクルも!」

 

ルーシィは、ニッ!と微笑み、ロキも笑みをこぼすが……シクルはあまりいい顔はしていない。

 

「クス……星霊の相関図は知っておかないと……ダメだゾ?

 

開け、白羊宮の扉 アリエス!!」

 

「え?」

 

「っ!!」

 

「……アリエス」

ルーシィとロキは現れた星霊に驚き……、シクルは苦々しく、拳を握りしめる。

 

「ごめんなさい……レオ」

 

顔を俯き、暗い表情のアリエスを見つめ、ロキは目を見開いている。

「ア、アリエス……」

 

「そんな……こ、これじゃあロキまで……戦えないじゃない……というより……なんで? なんであんたがアリエスの鍵を持ってるのよ!? それはカレンの……」

 

ルーシィが疑問をエンジェルにぶつけると……

 

「なんで? はん……そんなの、アタシが殺したんだもの……これはその時の戦利品だゾ」

 

エンジェルはそう言い、アリエスの頭を叩く。

まるで仲間と思っていない様子のエンジェル……

 

そんなエンジェルを見つめ、ほんの僅かに表情を歪めるシクル。

 

「カ、カレンを……あんたがやったの!?」

 

ルーシィはその事実に驚き、そしてロキとアリエスを戦わせられないと考える。

 

「ロキ……閉じて、アリエスとは戦わせられな……「見くびらないでくれ、ルーシィ……」っ!!」

 

ルーシィはロキの門を閉じようとする……が、ロキはそれを止めた。

 

そして……

 

「例えかつての友だとしても……所有者が違えば敵同士。主のため、戦うのが星霊だよ」

 

「例え恩ある相手だとしても……主の為ならば敵を、討つ」

 

ロキとアリエスはゆっくり構える。

 

「それが僕達の……」 「それが私達の……」

 

「誇りだっ!!!」 「誇りなのっ!!!」

 

そうお互いに叫ぶと、一気に殴り合いの戦いが始まる。

戦闘タイプのロキと後方支援が強めのアリエス……だがその思いは強く、お互い引けを取らない戦いをしていた……。

 

しかし……

 

「あっれぇ? やるんだ……? まぁ、これもこれで面白いからいいゾ。

でも……流石に戦闘用のレオ相手じゃ、分が悪いか……開け 彫刻座の扉 カエルム!!」

 

エンジェルが押され始めたアリエスを見つめ、なんと3体目の星霊を召喚した。

 

「な……カエルムっ!? (あいつ……まさか!)」

 

「やれ……」

 

エンジェルの命令でカエルムの目が光る。

それを見て、シクルはバッ!と立ち上がり叫ぶ。

 

「ロキ!! アリエス!! 強制閉門!!!」

 

「「っ!?」」

 

シクルの叫びと共に、ロキとアリエスを魔法陣が包み、星霊界へと強制的に戻した。

 

そして、2人が消えると……同時にカエルムから光線が放たれた。

それは、あと少し遅ければロキとアリエスを確実に貫いていたであろう……。

 

「!! あ、あんた……今、自分の仲間をっ……!!」

 

「ありゃ? 強制閉門されちゃったかぁ……まぁ、いいゾ! まだ次があ……「あると思う?」っ!?」

 

 

エンジェルの言葉を遮り……その場に冷たい声が響いた……。

 

「え……シクル?」

 

「ルーシィ……少し、下がって……」

 

「で、でも……」

 

シクルの言葉に少し躊躇うルーシィ。だが……

隣に歩いてきたシクルの顔を見た時……

 

「ひっ!?」

 

恐怖し、震えた……。

 

「……大丈夫、トドメはルーシィに渡すよ……ちょっとだけ、お仕置きしたいだけだから……ね?」

 

だから…………あいつ、あたしにちょーだい?

 

黒い笑みを浮かべ、そう言ったシクルに逆らえるはずもなく……ルーシィは首が壊れるのではないかというほど振り、後ろへと下がった。

 

 

「さて……エンジェル……」

 

「な、なんだゾ……?」

 

シクルのその静かな殺気にほんの少し震えるエンジェル。だが、まだ正気が狂うほどのではない……と、そう感じたエンジェル。

 

それが……間違いであった……。

 

ズォア……

 

「ひ……ぃっ!?」

 

シクルの身体から黒い黒い殺気が溢れ出す。

 

「お前は……あたしの目の前で……大切な友達を傷つけようとした……それが、どういうことか……分かるか?」

 

黒い笑顔で、真っ黒な殺気を溢れさせるシクルにエンジェルは震えが止まらない。

 

「そ、それがどーした……ど、どうせっ……星霊は死なないんだゾ!? 心配したって意味なんか……」

 

「星霊だって、痛みを感じんだよ?

 

星霊だって……生きてるんだよ?

 

それが分からないのならば……

 

あんたなんかに……星霊の鍵を持つ資格なんかない!!」

 

 

ゴォー!!

 

エンジェルの足元に魔法陣が浮かぶ。

「な、なんだゾ!?」

 

「我が命により 汝の星霊契約を解除

 

星霊の鍵の保有を剥奪します」

 

そう唱え、手をかざすと……エンジェルの持つ鍵が光り、シクルの手へと飛んでいった。

 

「な!? 貴様、何をした!?」

 

シクルは掌に飛んできた鍵を見つめ……ギュッと大切そうに握りしめると、エンジェルを睨む。

 

契約を剥奪した事により、既にジェミニとカエルムは星霊界へと戻っている。

 

「あなたから、星霊魔導士の証を剥奪した……それだけよ」

 

「き、貴様なんかに!! そんなことが出来るわけ……」

 

「それが出来るのよ……私は、その権利を与えられている……星霊王にね」

 

シクルはそう言うと、ルーシィを振り返り……

 

「さ……あとは、あなたがやりなさい……ルーシィ」

 

「え……」

 

シクルの言葉に目を見開いていると……首筋に誰かの手が添えられる。

 

「っーー!? え……ヒ、ビキ?」

ルーシィの首を掴んだのはヒビキだった。

 

ルーシィはヒビキが闇に落ちたのか?と、そう一瞬頭に過ぎるが……

 

「じっとしてて……? 古文書が君に一度だけ、超魔法の知識を与える……」

 

ヒビキがそう呟くと、ルーシィの脳裏に呪文が流れ込んでくる。

そして……

 

「天を計り天を開き あまねく全ての星々 その輝きをもって 我に姿を示せ……

 

アトラビブロスよ・我は星々の支配者

 

アスペクトは完全なり荒ぶる門を開放せよ」

 

エンジェルの周りを光が覆う。

 

「な、なによこれぇ!?」

 

「全天88星…………光る!!

 

“ウラノ・メトリア” !!!」

 

 

「ちょ……!?き、きゃあああああああっ!!!!」

 

ルーシィの放った超魔法は成功、エンジェルを撃破した。

 

「よし……流石ね」

 

「……ん……え? ……え!? な、何今の!?」

 

シクルは微笑み、ルーシィは今起きた事が脳裏で追いつかない様子。

 

「あはは、まぁまぁ落ち着いて……」

 

「これが落ち着いていられると思う!?」

 

ルーシィに迫られ、ほんの少し引いてしまうシクルだが、古文書の知識をルーシィに1度だけ力を貸したと再度説明をするとルーシィは納得し、落ち着いた。

 

ヒビキも知識を移す時に魔力を消費したが、少し休めば大丈夫だそうだ。

 

シャルルも少し離れたところだが、微笑み、勝利したシクルたちを見つめていた。

そして、ハッピーはルージュに助けられ、こちらも安堵し安心しきっていた。

 

「(だいぶ魔力を使っちゃったな……少し休まないと、私も戦えないや……) はぁ……とにかく、早くナツを助けて……」

 

シクルがそう言い、立ち上がった時だ……

 

 

「邪黒斬」

 

「っ!!」

 

シクルに向け、黒い波が放たれた。

 

「「「シクルっ!!!」」」

 

シクルは咄嗟に飛翔し、避けるが着地した瞬間……

 

「うっ……!」

腕を掠った様で抑え、膝をつく。

 

「…………まさか、また貴様と会えるとはなぁ……」

 

暗い影から姿を現したその人物を見て……

 

「……え」

シクルは目を見開いた。

 

 

「な……あなた……なんで、ここに!? 」

 

シクルたちの目の前に現れたのは……

 

右眼を眼帯で覆う赤い瞳の男ーーー

 

「ラ、ラディ……ティ!?」

 

ニヤッと笑うその男……

 

 

「今度こそ……貴様の命、消してやろうやないか……」

 

 

楽園の塔にて戦闘した男…… “ラディティ” が、再び……

 

シクルの前に立ち塞がるのだった……。

 

 




はい!! 再登場はラディティさんです。

覚えてるかな?あまり登場はしなかったのですが……また出ていただきました。

そして、今回少し様子が変わっています!まぁ、そこは次回明らかになるのですが……

正直最後だけではどこが変わってるか分からないですよね。
強いて言うのならば魔法ですかね。魔法が変わっている特徴の1つかと……では、また次回

最後までお付き合い、ありがとうございます!


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46話 闇に染まりし男

はい!!では、続きを投稿していきたいと思います。

この時間に投稿したら明日は投稿できない気もするのですが……

気にせずいってみましょう!

では、最後までお付き合い、お願いします!


 

「ラディティ……なんで」

 

「なぜ、おいちゃんガここにいるか……かィ?そンなの……貴様を殺ス為に決まってんだロォ……なァ゛?」

 

ニヤッと笑い、シクルを見つめるラディティにブルリと震えが起きる。

そして、シクルは十六夜刀を構え、ルーシィやヒビキたちの位置を確認する。

 

「く……(どうする……? ルーシィやヒビキはもう魔力もない……戦えない)」

 

流石にこの人数を……しかもこの足場の悪いところで庇いながら目の前の敵と戦うのは無理だ……と、考える。

 

「(それに……)あなた……その魔力、何? 前はそこまで黒くなかった……何をした?」

 

ラディティから発せられる魔力の質が……以前対等した時と明らかに違うことに気づいていた。

 

シクルからの問いかけに……ラディティが答える事はなく……

 

「……デッド・ブレイク」

 

「っ!?」

ラディティの振り下ろした剣から、黒い波動が地面を伝い超速度でシクルに襲いかかる。

足に力を入れ、空中へと飛び上がり回避する……が

 

「……デッド・ウィング」

 

「んな……うっ!」

 

黒い剣尖がシクルに襲いかかる。上空の為、うまく避けれず幾つか身体を掠る。

 

「「「シクルっ!!」」」

 

「っ……貴方、そんなに邪悪な魔力……だったかしら?」

 

斬れた箇所を抑え、ラディティを見つめるシクル。

その視界に……黒く光るものが入る。

 

「それ……魔水晶?」

ラディティの手首にはめられている腕輪……それは黒く、邪悪なオーラを放っていた。

そして……

 

この感じ…………何処かで、感じたことが……

 

何処で? とにかく……いい感じはしないわね

 

 

グッと睨むシクルに慄く事はなく、逆に笑みを深めるラディティ。

 

「オ前は……目の前の俺ニ集中しスぎた」

 

「……え」

 

 

「「「きゃあああああっ!!!」」」

 

「「うわぁあああああっ!!!」」

 

「っ!? みんな!!!」

 

背後から聞こえたルーシィたちの悲鳴に振り返ると……黒炎の柱がルーシィたちを襲っていた。

 

「伍ノ太刀 鳴雷月!!」

 

シクルの刀から発せられた雷は黒炎を打ち消した。衝突の衝撃で、煙が巻き上がる。

視界の悪い中、シクルの目には……

 

「っ! ナツ……!!」

 

ロープが切れ、川に流されるナツの乗った筏が見えた。

シクルは咄嗟に……

 

ガシッ!

「へ?」

 

近くにいたルーシィの手を掴むと……

 

「ルーシィ……ナツを、お願いっねぇ!!」

ルーシィをナツのところへとぶん投げた。

 

「へ!? きゃああああああっ!? いきなりすぎよぉおおおおお!!!!」

 

濁流に巻き込まれた筏は物凄いスピードで川を下っていたが、ルーシィを投げたシクルの腕は寸分の狂いもなく、ナツの上へとルーシィを投げ飛ばすことに成功。

 

そして……

 

「あまり魔力も残ってないから……出来れば見逃して欲しかったんだけど……あなたそれ、普通じゃないものね……」

 

と、呟き……シクルは魔力を解放する。

 

「ニルヴァーナの件もあるし……あまり長い時間は取らさせないわよ」

 

「フン……今ノおいちゃンは前とは違ウぞ……

 

貴様ハ、死するノミ……ころ、す……」

 

「それは……実際にやってから言いなさいってぇのっ!!!」

 

ラディティとシクルが同時に飛び出す。

そして、ラディティは闇を、シクルは光を纏いぶつかり合う。

 

その衝撃の余波は離れたところにいたヒビキやルージュたちのところにも来ていた。

 

「くっ! 大地が揺れる……魔力のぶつかり合いでここまで……」

 

「シクル……!!」

 

「ね、ねぇ……ここにいたらオイラたちまで巻き添えくらうんじゃ……」

 

ハッピーはそう言い、不安そうにシクルの方を見つめるが……シクルも何も考えていないわけではなかった。

 

ガッ!

 

「ん?」

シクルはラディティとのぶつかり合いの中、隙の出来た腕を瞬時に掴み……

 

「ここじゃやりにくいからね……場所移すっよぉ!!!」

 

投げた。

 

「「「「えぇえええええっ!?」」」」

 

シクルは驚愕するヒビキたちを振り返り……

 

「あれは私が何とか抑えるから! ハッピーはナツを! ヒビキたちは回復次第ニルヴァーナをなんとかする方法を探して! ルージュはウェンディを守ってね!」

 

早口でそれを伝えると光の魔力を再び纏い、投げ飛ばしたラディティの元へと飛んだ。

 

 

トッ……と、静かに音を立て地面に足を着くと目の前の光景を睨む。

 

そして、十六夜刀から龍鱗刀へと刀を変える。

「少し思い出したんだけど……あなた、それ……いったい何処で手に入れたの?」

 

刀を向けられるラディティだが先程と何処か様子がおかしく……

 

「う……ァ、ァア……お、い……ゃんは、……こ、ロス……」

 

「これは……(侵食されかけて……いや……)」

 

シクルの目の前にいるラディティは……既に人一人が止めておけるほどの魔力を優に超える量をその身に宿し……暴走していた。

 

 

これは……もう……

 

 

シクルが悲しく表情を歪め、顔を俯き苦しそうに唸るラディティから少し目を、離していると……

 

バリッ!! という音が鳴った……。

 

「……へ?」

 

その音に呆気にとられ、ラディティを見やると……

 

 

「……なに、それ」

 

「うぅウ゛……!! がァア゛!!」

 

シクルの目に映ったのは……

 

ラディティの背中を突き破り飛び出る……悪魔のような翼……そして

 

「竜の……手?」

 

ラディティの腕は竜のような鱗が浮き出て、爪も鋭く尖り、まるで竜の手のような見た目に変化していた。

 

「ちょいちょい……これは想定外だってば……」

 

口元を引くつかせ、苦笑を浮かべるシクル……そして……

 

 

バリバリッ!! バキィ!!

 

「グゥ!! ガァアアアアア゛ァア゛ァ゛!!!!」

 

ラディティは人の姿から……怪物のような姿へと変わってしまった……。

 

息を荒くさせながら徐々にシクルへと視線を向ける。そして、右腕を天高く振り上げる。

 

シクルははぁとため息をつき……天高く上げられる腕を見上げる。

 

「へぇ……何それほんと……そりゃもう……」

振り上げられた腕には黒く、邪悪なオーラが纏いそれは物凄い魔力をひめているのを感じとる。

 

シクルが足を少し後退させた瞬間……

 

「グァアアアア゛ァアア゛ア゛ァ゛!!!」

 

その魔力の塊を、振り下ろした。

 

 

「ありえないってぇーの!!」

 

ズッドォオオオオオオン!!!!

 

シクルの方が一瞬早く回避するも、地面を盛り上がらせ、砕いたその威力に……シクルは目を見開いた。

 

「そっれは……いやもう……何その威力……」

 

そんなん……

 

ジロリと赤く光る目がシクルを追い、捉えた瞬間……その巨大に似合わぬスピードでシクルに突進してくる。

 

「チートでしょぉおおおおっ!?」

 

ズジャッギィイイイイイン!!!!

 

黒いオーラを纏った鋭い爪がシクルの長い髪をほんの少し掠る。

 

「ちぃっ!!」

体を低く屈め、ラディティの懐に入ると……

 

「龍鱗 龍炎斬!!」

その身体に刀をひと振り、斬りつけ真っ二つに斬り捨てる……が

 

ボゴボゴボゴッ……

 

「はぁ!? ちょ……ほんとチート過ぎるって!」

斬りつけたその瞬間から、傷が塞がっていく。そして……

 

「がァっ!!」

口を大きく開き……

 

「っ!?(咆哮っ……!!)」

 

ズギャゴォオオオオオオオオッ!!!!

 

真っ黒な咆哮が……シクルを呑み込んだ。

 

 

 

「グルル……」

 

煙が晴れ……シクルの立っていた場所は地面がえぐれ焦げ、遠くの方まで木々は塵になり、森が言葉の如く消えていた……。

 

そんな光景の中……ラディティから遠く離れた場所の一箇所に、焼け焦げていない土があった……。

 

 

ゴッ……ガッ……ボコッ!!

 

「っ……ゴホッゴホッ……ハッ……ゲホッ」

土の下から手が現れ、そこから、這い上がる様に出てきたのは傷を負ったシクルだった。

 

 

「はっ……はぁ……プッ!」

 

口に溜まった血を吐き出し、呼吸を整えながら目の前を見据える。

 

「な、ん……あっぶな……いって、の」

 

あと少し遅れてたら身体消し飛んでた……

 

咆哮に包まれる一瞬前にシクルは光の力ではるか後方へ飛び退き、それでも避けきれないと判断し、地面に穴を空け、そこに潜った。

 

そしてその瞬間、大きな爆発と共に咆哮が放たれたのだ……。

 

 

ザッーーー

 

「っ!!」

 

呼吸が整い始めたシクルの目の前に更に身体が怪物へと変化したラディティが現れる。

 

その姿を見つめ、目を細めるシクル……。

 

「はぁ……なんでそれに手を出したかなぁ……ねぇ? それは……人が扱っちゃいけないものなんだよ……それは……」

 

命を、殺す……悪魔の道具……

 

 

はぁと再びため息をつき……

 

「(残りの魔力はもう殆どない……回数で言うと滅竜魔法が2.3回……奥義なら1回と……歌魔法が1回……か)なら、回復は捨てなきゃね……」

 

よし……! と手を叩き、立ち上がると目を瞑り……深呼吸をする。

 

「スゥ……ハァ………………行きます」

 

ブワッ! とシクルの周りに突風が舞う。

 

「ッ!? グゥ……!」

 

突風はラディティの視界を遮る。

目を瞑った、その瞬間……

 

「光竜の剛拳・連撃!!」

 

剛拳を連続で繰り出し、ラディティの身体に重い衝撃とダメージを少しずつ増やしていく。そして……

 

グッ! と足に力を入れ直すと

 

「月竜……双撃鉄!!」

 

ゴッ!!! と両手でラディティの身体を遠くへ殴り飛ばす。

 

「ゴァアァアア!?」

 

吹っ飛ぶラディティを追い……シクルは高く飛翔し……

 

「滅竜奥義……月華炎乱舞っ!!!」

 

振り下ろした手の先から、蒼い炎の月華がラディティの身体を襲い……包み込んだ。

 

 

炎がラディティの身体を攻撃し……それが消えると……

 

全身火傷の傷を負った気絶しているラディティが倒れていた。

 

そこから少し離れたところにシクルは足をつき……そのままガクリと膝をつく。

 

「はっ……はぁ……ま、だ……」

 

全身から汗が伝い、身体が震える……それでもシクルは、立ち上がりラディティの元へと歩み寄る……。

 

そして……その横に膝をつく。

 

赤く光る瞳は弱々しく、シクルを見つめていた……。

その瞳はシクルにとって、どこか……助けを求めているように感じた。

 

「……大丈夫……絶対、助けるから……ね?」

 

そう言い、微笑むと……ラディティの身体に手をかざす。

 

 

「【我、聖なる月の名の下に

 

その身に宿りし 邪なる力

 

光へと解放せん】

 

歌魔法(ソングマジック)解除(ディスペル)」

 

 

シクルの手から放たれた光は……ラディティのその怪物となってしまった身体を包み込んだ……

 

 

そして…………光が完全にラディティの身体を包み、その身体に溶け込むように消えていくと……

 

 

「……ぅ…………っ」

 

怪物の姿から……ラディティは人の姿へと、戻った。

 

「……は……ぁ……」

 

その姿を確認し、呼吸をしている事を確認すると……シクルは糸が切れたように地面に崩れ落ち……意識を、手放した……。

 

 

 

…………ル…………シ……ル………ク……

 

 

 

……ん……? ……こ、え…………この、声……

 

 

「ル……シクルっ!!!」

 

自身を呼ぶ声に目が覚める。

目をゆっくりと開け、見えたのは……

 

「……ルー、ジュ」

涙を流し、身体を揺する大切な相棒の姿。

 

「シクルっ!! 良かった……気がついた……! 良がっだぁあああああっ!!!」

 

シクルが目を覚まし、小さく微笑むと涙が滝のように流れ、号泣し、シクルに抱きつくルージュ。

 

「ちょ……ルージュ……痛いって……はぁ」

 

ギューッと抱きついてくるルージュを見下ろし……ふぅと一息つき、その頭を撫でる。

「ごめん……また、心配させちゃったね?」

 

シクルがそう謝るとルージュは首を小さく横に振ると、涙を拭いながらシクルを見上げると……ニパッと笑顔を見せ、

 

「大丈夫だよぉ! あたし、シクルは絶対……あたしを置いていかないって、信じてるからァ!」

と、言った。

 

「ルージュ……うん、私は……ルージュをひとりにしないよ」

シクルもそう言い、にっこりと微笑むとゆっくりと身体を起こし始める。

 

「え、シクル……もう起きて大丈夫なのぉ……?」

 

ルージュが心配そうに問いかけるも

 

「うん! 大丈夫……ちょっと休んだから」

と、笑みを絶やさずそう言ったシクル。

そして、視線を上の方へと向け……

 

「アレが……ニルヴァーナね?」

 

視線の先には、生き物のように伸びる大きな6本の足を動かし、移動する大きな要塞のような物体があった。

 

「あい……」

と、頷くルージュを横目に、よしっと意気込むと……

 

「ルージュ! あの上に行くよ!」

と、告げた。

 

「え、ええ!? そんな! 無茶だよぉ……だってシクル……少し休んだって言ってもまだ怪我が……」

ルージュはそう言い、シクルを止めるが……

 

「大丈夫だって! それに……皆の匂いもあの上からするんだ……ね? 私だけここで休んでるわけには……いかないでしょ?」

 

お願い……と、言うシクルを見つめ……ルージュはやれやれとため息をつく。

 

「はぁ……ほんと、シクルは頑固だよねぇそういうところぉ……分かったよぉ、でも……危なくなったら迷わず安全なところに避難させるからねぇ?」

 

それだけは譲らない、とそう宣言したルージュは「分かった……」と頷くシクルに満足気に微笑むと、その背を掴むと、空高く飛び始める。

 

「じゃあ、行くよぉ!!!」

 

「うん!!!」

 

 




はい! いやぁ……なんか想像より長くなりそうで……


そしてラディティは今後登場するかな……いや、どこかでするかも……?とりあえず、シクルが目を覚ました時ラディティさんは姿を消していたとだけ……何故いなかったのかは不明です。

きっとシクルが目覚める前に目が覚めて、去っていったのだと……

では、46話最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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47話 ブレイン 撃破


はい!!昨日なんとUAが20000を超えました!!!

本当にありがとうございます!!まさかここまで伸びるとは……

皆様に感謝です!本当にありがとうございます!!
今後もまだまだお話は続いていく予定ですのでよろしくお願いします!

では、47話 最後までお付き合い、お願いします!!


 

 

 

ルージュにお願いしてニルヴァーナへと向かい始めて数分……

 

「ねぇ? 本当にこれがニルヴァーナなのぉ……?」

 

ルージュからの問いかけに1度ルージュに視線を向け、ニルヴァーナを見つめるシクル。

 

「多分……そうだと思う。実際に見たことはないけど……ニルヴァーナがこういうものだっていうのを、昔何かでみた気がするから……」

 

シクルがそう言うと「そっかぁ」とルージュは頷いた。

 

「あ……(そういえば……ラディティ、いなかったなぁ……大丈夫……だったの、かな?

……後遺症とかなければいいけど……)」

 

目が覚めた時には既にいなかった敵のラディティを少し心配するが、丈夫そうだし大丈夫だろうと自身に言い聞かせることで無理やり納得した。

 

その後、ニルヴァーナの上空に到着し、一応酔い止めの薬を飲んでからニルヴァーナの地に足をついた。

 

「皆の居場所は分かりそぉ……?」

 

「んー……匂いが充満してる……特定は難しいか……」

 

竜の嗅覚を使ってもすぐに特定は無理……そう、思った時だ……

 

 

 

グォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!

 

「っ!? うっさ……!!」

 

「ひゃあ!? な、なになになにぃ!?」

 

まるで竜が吼えるかのような叫び……ルージュは完全に怯え、シクルに抱きつき震える。

その叫びは1分ほど続き……

 

抱きついてくるルージュを撫で、慰めながら叫びの聞こえた方を見つめるシクル。

 

 

「今の……(叫び……ナツ?)」

 

 

震えるルージュを慰めながら声のした方へ足を進める。すると次第に何人か知っている人の匂いに気づく。

 

流れてくる匂いを辿り、進むと……

 

グレイとルーシィ、ジュラもおり、そして地面に倒れるハッピーと何故か敵の司令塔であるブレインに引きずられるナツの姿があった。

 

「グレイ!! ルーシィ!!」

 

「シクルっ……!?」

 

「おぉ! シクル殿! ご無事だったか……!」

 

「シクル! 無事だったのね!! てか、さっきのは本当に死ぬかと思ったんだからね!?」

 

「あ、あれはごめんね。急遽だったからつい……」

 

苦笑を浮かべながら、怒るルーシィを受け流し……目の前のブレインへと視線をやった。

 

 

「で? ……これは、どういう状況かしら?」

 

なんでナツがあいつに捕まってんのさ……

 

「どうやら、ナツの力をあいつが気に入ったみたいでよ……新たな六魔将軍を作るとかなんとかで……ナツをその1人にするってよ」

 

「へぇ……つまり、闇ギルドに勧誘されたってこと?」

 

シクルの問いかけに苦笑を浮かべながら、グレイとルーシィは頷く。

 

「でも、それにしちゃあ……ナツってば大人しすぎない? いつもなら……」

 

抵抗もせずただ引きずられるナツを見つめ、不思議そうな表情をするシクル。

 

「ほら……これ、動くから……」

 

「あぁ……なるほど」

ルーシィからの説明で大体は把握出来た……と、呟くと……ルージュをルーシィに預け、ブレインを見据え微笑んだ。

 

 

「さて……と、悪いんだけど……ナツを返してくれないかな? 彼、私たちの仲間だから……さ? 連れてかれちゃ困るんだよ……」

 

「それは出来ん話だな……この男は、ニルヴァーナの力を使い闇に染めるのだ……そして、私の手足となるのだ」

 

ブレインがそう、笑いながら言うと……

 

「なるかッ!!!」

 

ガブッ!! と勢いをつけナツがブレインの腕に噛み付いた。

 

「っ! 貴様、まだそれだけの力が!!」

だが、抵抗虚しくナツはブレインの殴りで地面に叩きつけられ、力なくぐったりする。

 

「ぐはっ! ぐほ……ぅ、うぷ……」

 

「あれは本当に……大丈夫なのか?」

ナツの悲惨な様子にジュラがシクルたちに問いかけるが……シクルたちは苦笑を浮かべ……

 

 

「あいつは極端に乗り物に弱いんだ」

 

「ついでにシクルもね」

 

「ちょ、それは今関係なくない!? まさか、さっきのまだ根に持ってるの? ルーシィ」

 

てへっと微笑むルーシィにはぁとシクルはため息をつく。

 

「は、早く……こいつ、倒……し、て……コレ、止めて、く……れ、うぷ……」

 

吐き気を堪えながら告げるナツに視線を向け、ため息をつきながらグレイが告げる。

 

「お前のためじゃねーけどな! しゃーねぇ、止めてやんよ!」

 

そんなグレイの言葉を聞き、ブレインははっ!と笑い出す。

 

「止める? ニルヴァーナを? ふん、出来るものか……この都市は間もなく第一の目的地

 

化猫の宿へと到着する」

 

ブレインのその言葉にシクルたちは驚き、目を見開く。

 

 

「ウェンディとシャルルのギルドだ……」

 

「な、何でぇ……?」

 

ハッピーとルージュの言葉にブレインはただ笑うだけ。

 

「貴様……目的を言え。 何故、ウェンディ殿とシャルル殿のギルドを狙う?」

 

殺気を当てながらブレインに問いただすジュラ。だが、ブレインは気にした風もなく、ニヤリと笑い……

 

「超反転魔法だ……一瞬にして、光のギルドを闇に染める……楽しみだなァ、地獄が見れるぞ?」

 

と、ブレインが語った時……

 

強い魔力の波動を感じ、グレイやルーシィたちはゾクッ! と背筋を凍らせた。

 

「聞こえなかったか……? 目的を言えと言ったのだ」

魔力の発信源はジュラだ。彼は、体内に宿る魔力を放出し、ブレインへ威圧を放っていた。

 

だが、その威圧にも慄く様子はなく……

 

「ウヌのような雑魚に興味はない!! 闇の審判なり……ひれ伏せぇ!!」

と、叫んだ。

 

それに、ジュラは溜息をつく。

 

「困った男だ……まともに会話も出来んとはな……」

ジュラはそう告げ、ブレインへと手をかざし、指を差した……その時

 

「待って……ジュラ」

ジュラを止める声が響いた。ブレインへとかざすジュラの手に重なる手……

 

「む?」

 

ジュラを止めたのはシクルだった。

 

「どういうつもりだ? シクル殿」

 

「別に深い意味は無いよ? ただ……こんな三下にジュラが手を煩わせることもないと思ってね……」

にっこりと微笑み、ジュラを見つめ告げるシクルを見て、ジュラは何かを感じ取る……。

 

「……うむ、そうか……ではここはシクル殿に任せよう」

 

ジュラはそう言うと後ろへと下り、それを見てシクルも「ありがとう」と笑い言った。

 

ジュラから目を離すとふぅと一つ息を大きく吐き出し……すぅっと、ブレインへと視線を向けた。

 

「……一つ、質問するわ」

 

「……なんだ」

 

「あなた言ったわね? 地獄を見るのが楽しみだ……と」

 

「あぁ、そうだ……楽しみだろう? 苦しむ人間を見るのは……なぁ?」

そう語り、ニヤリと笑うブレインにグレイやルーシィ、ルージュも怒りを募らせていた。

 

そんな中……問いかけた張本人であるシクルはというと……

 

彼女は顔を俯き、その表情はグレイたちにも見えなかった……。

 

 

俯き言葉を発さなくなるシクルにブレインの笑みが深まる……。

 

すると……

 

 

「……るな」

 

「あァ?」

シクルの口が小さく動く……そして、それを怪訝そうに少し表情を歪め、見つめるブレイン。

 

 

「ふざけるなって言ってんのよっ……!」

 

そう叫んだその瞬間……

 

シクルから放たれる殺気……それは、凄まじいもので味方のグレイやルーシィですら足がすくんだ。

 

「地獄を見るのが楽しみ? 苦しむ人を見るのが楽しみ? そんな奴に……この世界を闇になんか染めさせやしないっ!!」

 

ズドォオオンッ!! と、音を立て大地がシクルの殺気の威力により揺れる……。

 

「んなっ!?」

 

「ひぃいいい!? これまさかシクルがやってんのぉ!?」

 

「魔力なしでこの威圧……流石じゃの」

 

「シクルゥ……」

 

 

「……それと……その手……ナツを掴んでるその手……離してくれないかしら?」

そう言い、シクルはナツを掴むブレインの手を指す。

 

「離せだと? この男は新たな六魔将軍の仲間となるのだ……離すわけがないだろう!!」

 

シクルの言葉に高笑いをしながらそう告げるブレイン。

 

その言葉を聞いた瞬間……怒りの表情を浮かべていたシクルが……ふっと、表情を消した……。そして……

 

 

「聞こえなかった……?

ナツを離しなさい……離さないのなら……

 

あたしの光が、あなたを滅する」

 

「……出来るものなら、な」

ニヤッと笑うブレインを前に、殺気を高めていくシクル……。

 

大地を揺らし、小石が浮かび、砕ける……そんな現象が起き始めていた……

 

すると、不意に……ふっとシクルから殺気が消える。

 

そして、不気味な程に静かな静寂が流れる……。ブレインも怪訝そうに、警戒を強めながらシクルを見つめる。

 

 

ゆっくりと……シクルが、顔を上げる……

 

その瞳が、ブレインを捉え……目が合う……

 

その瞬間……

 

ブレインの目の前からシクルの姿が消え……驚愕した次の瞬間にはブレインは、シクルの拳により、吹き飛ばされた。

 

ゴッーーー!!! ズゴォオオオンッ!!!

 

「っ!? ぐはぁあっ!!!」

 

吹き飛び、壁をいくつも突き破るブレイン。

 

 

「……え……い、今……何が?」

目を見開くルーシィ。

 

「……動きが、見えなかった……」

グレイも目の前で起きたことが目で追えず、呆然としている。

 

「ほぉ……(このワシですら……初動が見えなかった……)」

感心するようにシクルを見つめるジュラ。

 

「っ……シクルっ!」

大怪我を負っていたとは思わせない動きにルージュはほんの少しの誇らしさ、嬉しさの他に僅かな不安を抱きながら、身体が動かないように必死に堪えていた。

 

 

そんな、仲間の視線を受けながら……シクルは目の前のブレインを見据え……その左手には……

 

「……確かに、返してもらったわよ……」

 

「う、ぅぷ……は、やく……これ、とめ……て、くっれ……」

 

若干乗り物酔いを悪化させたナツを掴んでいた。

 

「ぐっ……き、貴様ァっ!!!」

 

崩れた瓦礫の中からシクルへと飛び出してくるブレイン。

 

だが、シクルは身動き一つとろうとはしない……その理由は……

 

 

「岩鉄壁!!!」

 

「む!?」

 

シクルとブレインの間にジュラの魔法が割り込んだ。

 

「先程はあぁ言ったが……此奴からはわし個人として聞き出したいこともある……譲っていただけるか?」

 

背後にいるシクルにちらりと視線を向けるジュラ。

シクルはふっと小さく笑みを浮かべ、

 

「どうぞ……ナツは取り返したし……私の目的は果たしたわ」

 

任せたと言ったシクルに、頷きジュラはブレインと戦った。

 

そして、最後は……

 

 

ブレインの魔法により1度は砕かれた岩壁の破片に魔力を込め……

 

「覇王岩砕!!!」

 

「うぐぁあああああああっ!!!!」

 

ブレインを圧迫し、倒した。

 

倒れたブレインを見つめ、目を見開くグレイとルーシィ。

 

「や、やりやがった……!こいつ、六魔将軍のボスだろ!?」

 

「うそ! 私たち勝っちゃったの!?」

 

「すごぉい!!」

 

「流石ね……」

 

 

ジュラは倒れたブレインに迫り……

 

「さぁ、吐け。ウェンディ殿のギルドを狙う理由をいえ」

と告げた。

 

 

だか、ブレインがその質問に答えることはなく……

 

「ま、まさか……この、私がやられる……と、は……ミッドナイトよ、後は頼む……

 

六魔は決して倒れてはならぬ……

 

もし、六つの祈りが消える時……あの、方が……」

ブレインはそこで意識を手放し、倒れた。

 

 

「……あの方?」

 

「……誰のことだろぉ?」

 

シクルとルージュは顔を見合わせ、首を傾げる。

 

「つか今こいつの顔……模様が一つ、消えてなかったか?」

グレイがそう言うとブルッ!と体を震わせるルーシィ。

 

「ぶ、不気味な事言わないでよぉ!?」

 

「はぁ……グレイ、ルーシィを脅かすのやめて」

慰めるの私なんだから……と、愚痴りながらナツの隣に膝をつき、歌魔法であらかたの傷を回復する。

 

 

それでもナツの身体は動かず、辛そうな表情を浮かべている。そんなナツを見つめ、少し心配そうにシクルが見つめていると……

 

 

「……ん?」

覚えのある匂いが近づいてくることに気づく。

 

 

「みなさぁーん!!!」

 

匂いのするほうを振り返ると、そこには……青く長い髪を揺らす少女……

 

「ウェンディっ!!!」

 

ウェンディが現れた……

 

 

天竜、合流ーーー

 

しかしまだ……

 

この時は想像もしていなかった……

 

暗黒の鎖が……解かれるのも、あと僅かだという事を……

 

その時、シクルは……一体……

 

ナツたちの運命は……?

 

 





はい!!47話、何だかんだ今日も投稿できました!

1日1話投稿は普通に出来そうです(笑)

あとは、スランプに陥らなければいいなと思います……

では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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48話 ニルヴァーナ、発射


はい! 48話、でございます……あと少しで50話に行きますねぇ……

正直、スランプというスランプに陥らず、ここまで続いた自分が怖いですww

今後もこの調子で続けれればなと思います!
では、48話、最後までお付き合い、お願いします!!


 

 

ブレインを倒したシクルたちの元へ駆け寄ってくるウェンディとシャルル。

 

「みなさーん!! 大変なんです!」

 

「やっぱり、この騒ぎはあんた達だったのね」

 

不安そうな表情で走ってくるウェンディとため息をつきながら呆れた表情を浮かべ、ウェンディの隣を飛んでいるシャルル。

 

「ウェンディ! どうしたの?」

 

駆け寄ってくるウェンディに首を傾げ、問いかけるシクル。

ウェンディはシクルの前に立つと上がった呼吸を整えながら……

 

「た、大変なんです……! この都市……私たちのギルドに向かっているかもしれないんですッ!」

泣きそうな表情をするウェンディはそう告げた。

 

「らしいが、もう大丈夫だ」

ウェンディの言葉にグレイが微笑みながら言葉を返し、グレイはウェンディから視線を外し後方を見つめる。

 

「へ……?」

 

グレイの見つめる先を見て、ウェンディもやっとその意味に気づく。

 

「ひゃっ!? こ、この人……六魔将軍の?」

ウェンディはビクッ! と身体を震わせながら倒れるブレインをシクルの影から見つめる。

 

 

「それに、向こうには蛇使いも倒れてるしな」

そう、グレイの指す方にはナツにより倒されたコブラが倒れていた。

 

「それじゃあ……」

六魔将軍のメンバーを順調に撃破していることを理解するとウェンディの表情には笑みが浮かぶ。

 

「恐らく、ニルヴァーナを操ってたのはこのブレインよ。それが倒れたって事は、この都市も止まるって事でしょ? ね、シクル?」

 

「え? あ、うん……そうだね」

 

ルーシィからの投げかけに頷くシクル。

だが、その裏では……疑問を感じていた。

 

 

……本当に? 本当にこれで終わりなの?

 

…… “六魔は倒れてはならない” そりゃあ……味方が全員倒れたらその時は私たちの勝ち……六魔将軍の負けとなるけど……

 

それだけ? あの言葉の裏に……何かある気がする

それに……

 

消えた顔の模様の意味は……?

 

 

「シクル……? どうしたのぉ?」

考え事をするシクルが気になり、声をかけたルージュに、シクルは微笑みながら「何でもないよっ」と返した。

 

「でも、気に食わないわね……結局化猫の宿が狙われる理由は分からないの?」

 

怪訝そうな表情を浮かべ、呟くシャルル。

 

「さぁ? まぁ、あまり深い意味はねぇんじゃねぇーか?」

気にしすぎだろと告げるグレイ。

 

「多少気になることもあるが……とにかく、これで終わるのだな」

 

「お、終わっ、て……ねぇ、よ……早、くこれ……止め……」

 

ジュラの言葉に吐き気を堪えながら声を発するナツに……

 

「きゃ!? ナツさん! まさか毒に!?」

 

「オスネコもじゃない!! 全く、だらしないわね!」

 

シャルルの辛口に「あい……」と、弱々しく答えるハッピー。

 

「ごめんね? ウェンディ……傷はほとんど治したんだけど……毒が抜けなくて……頼めるかな?」

シクルの言葉に強い表情で、しっかりと頷くウェンディ。

 

「はい! 任せてください!」

 

「ごめんね……本当なら毒抜きも出来ないことはないんだけど……まだ魔力が回復しきってないんだ」

苦笑を浮かべ、語るシクルに首を横に振り否定するウェンディ。

 

「大丈夫ですよ! 私は戦っていないので……まだ、魔力にも余裕はあります! シクルさんはしっかりと休んでください!」

 

笑顔でそう言うと、ウェンディはナツとハッピーに解毒の魔法をかけた。

 

そして、ナツたちの解毒が終わると、シクルたちはニルヴァーナの力により闇から光に変わった六魔将軍のホットアイ、本名 “リチャード” から聞いた王の間という場所へと向かった。

 

 

「どうなってやがる……」

 

「何……これ」

 

「むぅ……」

 

「……ここが、王の間?」

 

王の間についたシクルたちの目の前に広がるのは何かが壊されたような跡しか残ってはいなかった。

 

無論、この都市を制御できそうな装置は見当たらず……

 

「ど、どうやって止めればいいの……?」

 

「ぬぅ……」

 

「クソッ……! ブレインを倒せば止められると思ったが……」

 

「甘かったわ……止め方が分からないなんて……」

 

ルーシィたちが王の間を捜索し、操縦出来そうなものはないか、探している中……

 

「はぁ……」

王の間、壁際で壁に寄りかかり、座り込むシクル。その表情に浮かぶのは疲労の様子……

 

「シクルゥ……大丈夫?」

心配になり、ルージュが声をかけるも……シクルは二ヘラと微笑み

 

「大丈夫、ちょっと疲れただけだよ」

と言った。

 

すると……

 

「ど、どうしよう……」

オロオロと狼狽えるウェンディの声が……

 

「どうしたの? ウェンディ」

 

「あ、あの……解毒の魔法をかけたはずなのに、ナツさんの体調が治らなくて……」

 

そう言い、ウェンディの見つめる先には地面にへばり倒れ、呻くナツの姿……

 

その姿を見て、シクルはため息をつきながら

「ウェンディ、ナツに “トロイア” ……お願いしてもいい?」

と、告げた。

 

「え……トロイア、ですか?」

 

「そう。 ナツのそれは毒じゃなくて乗り物酔いなんだ」

 

シクルがそう告げると「分かりました!」と、拳を握り頷き、早速トロイアの魔法をナツに掛けた。

 

そして、トロイアの魔法をかけ終わると……

 

 

「うぉおおお!!! 平気だ! 平気だぞぉ!」

と、叫び、飛び跳ねるナツがいた。

そんなナツを見て、にっこりと微笑むウェンディ。

 

「良かったです、効き目があって」

 

「すっげぇーな! ウェンディ!! その魔法、俺にも教えてくれよ!」

興奮が冷めず、ウェンディにお願いをするナツだが……

 

「無理だよ、ナツ。ウェンディのは天空魔法の一つなんだから……ナツが天空の滅竜魔導士にならない限り使えないよ」

と、ケラケラと笑いながらシクルが否定した。

 

シクルの言葉にがっくしと肩を落とすナツ。

 

「ところで……ここって本当に制御する装置が置いてある部屋なの?」

肩を落とすナツを宥めながら辺りを見渡し呟くシクル。

 

「そもそもよぉ……その情報って正しいのか?」

怪訝そうに問いかけるグレイ。

 

「うむ……だが、あのリチャード殿が嘘をつくとは思えん……」

 

一同が制御装置のことのみに意識が向いている中……

「ちょっと……」

と、声が響く。

 

「あなた達、止めるとか制御とか言う前に……もっと不自然なことに誰も気づかない訳?」

 

「どういうことぉ?」

シャルルの言葉に首を傾げ、問いかけるルージュ。だが、その言葉に答えたのはシャルルではなく、ルージュの隣に座っていたシクルだった。

 

「操縦装置や制御装置は見当たらない……さらには、ブレインは倒したはずなのにニルヴァーナは動き続けている……」

 

「おいちょっと待て……まさかニルヴァーナは自動で動いてるってのか!?」

 

「既にニルヴァーナ発射までセットされてるってことぉ……?」

 

グレイとルージュの言葉に頷くシクル。

 

「恐らくね……こんなに探しても何も見つからないし……何より、リーダーであるブレイン倒してもこれは止まらなかった……それを考えると……その可能性が高いわ」

 

シクルの確信ついた憶測を聞き、ウェンディは目に涙を溜める。

 

「そ、そんな……私たちの……ギルドが」

 

「ウェンディ……」

 

「大丈夫っ!!」

 

震えるウェンディを心配げに見つめるシクルと……その肩を掴み、まだ光り輝いている瞳でウェンディを見つめるナツ。

 

「ぜってぇ、ウェンディとシャルルのギルドはやらせねぇ!! 守ってみせる! だから、泣くなよ」

 

ニカッ!と笑顔を見せるナツを見て、次第に笑みが浮かんでくるウェンディ。

そして、そんなナツを見て、シクルもまた……

 

「……そうだね、まだ……終わってないもんね、諦めず頑張ろう!」

と呟き、ウェンディを見つめ頷いた。

 

 

「でも、止めるって言ったってどうやって……?」

 

「止め方も分からないもんねぇ」

 

「壊すとか!」

 

ルーシィとルージュの言葉に即答でそう答えるナツ。

 

「またそーゆー考え!?」

 

「こんなでけーもんどーやって壊すんだっての」

 

「……壊せなくはないと思うけど」

 

「やめて、シクルが言うと本当に出来そうで怖いから」

 

シクルの言葉にため息をつきながら呟いたルーシィの言葉。それに、

 

「それどういう意味っ!?」と問いただすシクルだがルーシィには相手にされず……。

 

「やっぱり、ブレインの野郎に聞いた方が早そうじゃねぇか?」

 

「だが素直に話すだろうか……?」

 

「……もしかして、ジェラールなら」

 

「え?」

 

グレイやジュラたちがニルヴァーナの止め方について、どうしようか話し合っていると、ウェンディがぽそりと何かを呟いた。

 

それが聞こえたシクルはウェンディに声をかけようとする。

 

が……

 

「わ、私! 少し心当たりがあるので行ってみます!」

と、告げると走り出し……

 

「ちょ!? 待ちなさい、ウェンディ!」

シャルルもその後を追い、飛び去ってしまった。

 

「え!? ちょ、ウェンディ!!」

 

「お、おい!? ……どうしたんだ?」

 

ルーシィとグレイが走り去るウェンディに声を掛けるがウェンディは既に走り去っており……

 

「……なんだァ?」

 

「……(今……確かに、ジェラールって……)私、少し心配だから追いかけるね、行くよルージュ!」

 

「あ、あい!」

 

こっちはお願い、とナツたちに告げるとウェンディを追いかけるシクル。

 

「気をつけろよぉ!」

 

「分かってるー!」

 

ナツの掛け声に最後に返ったシクルの言葉を聞くとナツたちも他になにかないか、探索を再開するのだった。

 

 

 

ウェンディを追い掛けるシクルとルージュだが……

 

「あーもぅ……あの子意外と足速いんだなぁ……見失っちゃった」

 

「匂いで追えないのぉ?」

 

「んー……多分近づいてるとは思うけど」

 

ルージュの言葉にそう返したシクルが歩きながら横をスッと振り向いた時……

 

「あ……」

 

その先で、緋色の髪が揺れたのに気づく。

それはよく知る人物……

 

「エル!!」

 

 

「っ! シクルか!!」

シクルの声に気づき、振り返ったエルザ。

そして、エルザの隣には探していたウェンディとシャルル……そして……

 

 

「っ!! ジェラール……」

 

その姿がシクルの視界に入った時……すぅっと感情が冷える感覚がシクルを包む。

そして……

 

「っ!」

一瞬でジェラールの目の前に現れると……刀をジェラールに向けた。

 

「どうしてあなたがエルと行動を共にしているの? 答え次第では容赦しないわ……」

ギロッと睨むシクルにごくっと息を呑むジェラール。

 

「シ、シクル!! 待て! 」

シクルの刀を持つ手を握り、止めるエルザ。

 

「こいつは今記憶が混乱して、以前の記憶が無いんだ!!」

今ここで争っても意味は無い! そう叫ぶエルザを横目で見つめると……1度ジェラールに視線を戻し、ため息をつくと……刀を下ろした。

 

「仕方ない……ここはエルに免じて見逃すわ……でも、いつか絶対、思い出しなさい……

 

エルのことを……そして、今まで何をしてきたか……忘れたままなんて、許さないから」

 

そう告げたシクルに、ジェラールはしっかりと頷き、「分かった」と答えた。

 

ジェラールがそう答えるとシクルから威圧は消える。

 

「ふ、ふぇえ……」

 

シクルの威圧が消えるとウェンディやシャルルは緊張が解け、座り込んでしまった。

 

「あ! ご、ごめんね!? 怖かったかな……大丈夫?」

 

座り込んだウェンディを心配し、肩に手を添え声をかけたシクルにウェンディは弱々しく微笑み、

「大丈夫です……」

と、答えた。

 

「あなた……ちょっとは周りも見なさいよ」

 

「ほ、ほんとごめんね? ……と、そう言えば……結局一番重要なのはこれを止める事なんだけど……その方法は分かるの?」

 

ウェンディとシャルルを支えながら、ジェラールに視線をやるシクル。

シャルルの隣にはルージュも座り、心配している。

 

だが、ジェラールは申し訳なさそうに顔を俯くと……

「……すまない、もはや自律破壊魔法陣も効かない……これ以上打つ手がないんだ」

 

「え!?」

 

「そ、そんな……それじゃあ私たちのギルドはどうなるのよ!? もうすぐ……、すぐそこにあるのよ!?」

 

シャルルが体を乗り出し、ジェラールに声を荒らげる。

 

その時……

 

 

ゴゴゴゴゴッ……

 

突然、地鳴りが響く。

 

「な、何っ!?」

 

「これは……?」

 

「この魔力は……なんだ?」

 

「これ……まさかっ!?」

 

ルージュやウェンディたちがその地鳴りに戸惑い、辺りを見渡していると1人、その正体に気づいたシクルが都市の進行方向を見つめ……目を見開く。

 

「まさか……ニルヴァーナの発射!?」

 

「「えぇっ!?」」

 

「なんだと!?」

 

「そ、そんな……っ!」

 

「く……っ!」

 

 

シクルたちの見つめる方向には化猫の宿のギルドと……ギルドを狙い光る怪しい光が見える……。

 

「や、やめてぇえええええええっ!!!!」

 

ウェンディの悲痛な叫びが辺りに小玉する……。

 

 

「くっ……!! (ダメ……防御が間に合わないっ!)」

 

発射寸前のそれを見て、唇を噛み締め、表情を歪めるシクル。

 

 

誰もが、もう間に合わない……そう、思った。

 

その時……

 

 

ズドォオオオオオオッ!!!

 

大きな音を立て何かが上空から降り、都市を支える足の1本に直撃。

 

それにより、発射したニルヴァーナは化猫の宿を逸れた。

「「「きゃああ!?」」」

 

「ぐっ!?」

 

「な……」

 

「い、今のは……」

 

 

揺れが治まり、一同が上空を見上げると……そこには……

 

「っ!!」

 

『 魔導爆撃艇クリスティーナ!!!』

 

 

六魔将軍により、爆破され墜落したはずの天馬のクリスティーナが上空を飛んでいたのだった……。

 

 

クリスティーナから発射された弾がニルヴァーナの狙いを逸らしたのだった……。

 

彼らの希望はまだ……途絶えてはいなかった。

 

そして……その影で蠢く一つの邪悪な力が……姿を現そうとしていた……。

 

 

「ククク……さァ、始めるかァ……」

男の声が静寂に響く……。

 

ザッーーー

 

立ち去った男の背後では……倒れる3人と1匹の姿が……

 

 

「…………シ……クル」

 

 





はい! もう少しでニルヴァーナ篇も終わりです……

今回長かったですね!! この回が終わりましたら少し日常篇を入れ、エドラス篇に入りたいと今のところ考えております!

では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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49話 ニルヴァーナ、崩壊

はい! どうも、thikuruです!!

もう少しでニルヴァーナ篇も終わるとは思うんですけど……長いですね(汗)

ですがとりあえずは49話、投稿していきたいと思います!!

では、最後までお付き合い、お願いします!


「魔導爆撃艇……クリスティーナ……」

 

「あれ……壊れたんじゃないっけぇ?」

 

皆がクリスティーナを見上げ、目を見開き驚いていると……

 

 

《聞こえるかい? 誰か……無事なら返事をしてくれっ!》

シクルたちの脳裏に念話が届く。

 

「……ヒビキか?」

 

「わぁ!」

 

《その声は……エルザさんにウェンディちゃん! 良かった、無事だったんだね》

 

「ルージュや私たちも無事よ」

 

《シクルちゃん!! 良かった……あのあと姿が見えなかったから心配していたんだ……》

シクルの声もヒビキに届き、ほっとため息をつく。

 

「まぁ、なんとかね……それより、どうしてクリスティーナが……?」

 

「1番最初に壊されたよねぇ?」

 

シクルとルージュがヒビキに問いかける。

 

《それは……壊れた翼をリオンくんの造形魔法で補い、シェリーさんの人形劇とレンの空気魔法で浮かしているんだよ》

 

だが、クリスティーナを浮かしている3人は既に限界が近づいているようで聞こえる声は弱々しい……。

 

「じゃあ、さっきのニルヴァーナを防いだ魔法は……」

 

《あれはイヴの魔法さ》

 

「あんたたち……」

ヒビキやイヴたちの思いに目が潤むシャルル。

 

《クリスティーナが本来持ってる魔導弾と融合させたんだよ……だけど、足の一本すら壊せないや……ごめんね

 

……それに、今ので……もう魔力が……》

 

そこでプツリと途絶えるイヴの声。

 

「っ! イヴ……」

シクルの呼びかけにも返事はなく……

 

《くっ……聞いての通り、僕達は既に限界だ……もう船からの攻撃は出来ない》

 

ヒビキがそう告げた瞬間、ガクン! とクリスティーナの高度が下がり、徐々に飛行を低くしていく……。

 

「クリスティーナが……」

 

 

《僕達のことはいい……それより、最後に……これだけ聞いてくれ! 時間はかかったけど……漸く古文書の中からこのニルヴァーナを止める方法を……見つけたんだ!》

 

「「えっ!」」

 

「ほんとうか!?」

 

「その方法は?」

 

《うん……このニルヴァーナに、6本の足のようなものがあるだろう? その足……実は、大地から魔力を吸収しているパイプのような物なんだ

 

その魔力供給を制御する魔水晶が各足の付け根付近にある

 

そして、ニルヴァーナの中心……奥深くにもう一つ、他の魔水晶よりも大きなものがある……

 

それも含めた7つの魔水晶を同時に破壊する事で、ニルヴァーナの全機能を停止することが出来る……

 

これは、一つずつではダメなんだ……他の魔水晶が破損部分を修復してしまう》

 

ヒビキの説明を聞き、眉を寄せるシクル。

 

「同時にって……一体どうやって?」

 

《僕がタイミングを図ってあげたいけど……もう、念話も持ちそうにないんだ……だから、君たちの頭にタイミングをアップロードした……君たちならきっとできる! 信じてるよ……》

 

そして、ヒビキから送られたタイミングまでの時間は……

 

「20分!?」

 

《次のニルヴァーナが装填完了する直前だよ》

頼む……と、ヒビキが呟いた時……

 

 

《フン……無駄なことを》

 

味方ではない声が念話に入り込んでくる。

 

「「「っ!?」」」

 

「誰だ!?」

 

「この声は……」

 

「ブレインの声だ……!」

 

《僕の念話をジャックしたのか!?》

 

ヒビキの驚愕した声に笑いを堪えながら、ブレインは口を開く。

 

《オレはゼロ……六魔将軍のマスターだ》

 

《マスターだと……!?》

 

《まずは褒めてやろう……まさか、ブレインと同じ古文書を使える奴がいたとはな……》

 

「ブレイン……ゼロ……(もしかして……)」

ゼロの言葉を聞きながらある事に気づき始めるシクル。

 

《聞くがいい!! 光の魔導士共!!

 

オレはこれより全てのものを破壊する!!

 

手始めに仲間の3人破壊した…… “滅竜魔導士” に “氷の造形魔導士” “星霊魔導士” あぁ、それと猫もか》

 

「なんだと!?」

 

「ナツたちが……?」

 

「そんな……ウソだ!」

 

ゼロの言葉を聞き、エルザとシクルは拳を握り、震わせ、ウェンディも悲痛な表情を浮かべる。

 

《てめえらは魔水晶を同時に破壊するとか言ったなァ? オレは今、その7つの魔水晶のどれか一つの前にいる!!

 

ワハハハハ!!!

 

オレがいる限り、同時に壊す事は不可能だ! そして……もう1人、強力な奴を配置している……終わりだな、お前達は……》

 

最後に高笑いをし、ゼロとの念話は切れた。

 

《ゼロとの念話が切れた…

 

ゼロと当たる確率1/7……しかも敵はもう1人いるという……》

苦々しい声音のヒビキ。そこに待ったをかける声が響く。

 

「ちょっと待って! 7人もいない! 魔水晶を壊せる魔導士が7人もいないわ!!」

 

「わ、私……攻撃の魔法使えません……ご、ごめんなさい」

ウェンディの申し訳なさそうな声が念話に響く……。

 

「こっちは2人だ!!」

エルザがジェラールを見つめながら叫び、ジェラールもエルザを見つめ頷く。

 

「私も行けるよ」

シクルも名乗りを上げ……残り4人。

 

《あと4人……誰か!》

 

 

《私がいるではないか……!》

 

ヒビキの声に答えるように念話に応じたのは……

 

「この声……一夜ね」

 

《一夜さん!》

 

「残り3人!」

 

《ま、まずい……もう、僕の魔力も…………念話が、切……れ》

 

ヒビキの声が途絶え始め……もう、切れる

そう、誰もが思った。その時……

 

「私が支える……早く残りの3人を!」

 

《っ! シクル……ちゃん》

 

途切れかけていた念話がシクルの魔力により持ち直し始めた。

 

「早く……私も魔力はそう無いし……今だって無理に繋げてるんだ……いつ切れるか分からないよ!」

 

《あと3人だ!! 頼む、誰か返事をしてくれ!》

 

 

《……グレイ、立ち上がれ……

 

お前は誇り高きウルの弟子だ。こんな奴らに負けるんじゃない》

 

 

《私……ルーシィなんて大嫌い……ちょっと可愛いからって調子に乗っちゃってさ……バカでドジで弱っちいくせに……

 

いつも……いつも一生懸命になっちゃって……

死んだら、嫌いになれませんわ……

 

後味悪いから返事しなさいよ》

 

グレイとルーシィを呼ぶリオンとシェリーの声……そして……

 

「ナツさん……」

 

「オスネコ……」

 

「ナツ……」

 

《僕達の声が……》

 

「聞こえてるでしょ……私たちの声……何やってんのよ……早く、起きなさいよ……皆……

 

ナツっ!!!!」

 

シクルの叫びが響く。その時……

 

ドゴォ!!

《聞こえてるっ!!!》

 

地面を殴る音と荒い息遣い……そして、ナツの声が響いた。

 

「ナツ……!」

 

《聞こえてるぞ……》

 

《7つの魔水晶を……同時に、壊す……》

 

《運が良ければ……ついでにゼロともう1人を殴れる……でしょ?》

 

《あと18分……急がなきゃっ! シャルルとウェンディのギルドを守るんだ!》

 

ナツに続き、グレイとルーシィ、そしてハッピーの声も聞こえた。

 

その声にほっと安堵し、息を吐くとシクルは念話を通じて語りかける。

 

「もうすぐ念話も切れる……ヒビキが送ってくれた地図を元に誰が何番の魔水晶へ行くか決めるよ」

 

《1だ!》

 

《2に行く》

 

《3! ゼロと強い奴がいませんよーに!》

 

《私は4へ行こう! ここから1番近いとパルファムが教えている!!》

 

「教えているのは地図だ」

 

一夜の言葉にマジで返すエルザの言葉にガーンと落ち込む一夜。

 

「私は5へ行く」

 

《エルザっ! 元気になったのか!》

エルザの声に嬉しそうに声を上げるナツ。

 

「では俺は……「お前は6だ」っ!」

念話で声を出そうとしたジェラールをエルザが止め、代わりに答える。

 

「ナツはまだお前の事情を知らん……敵だと思っている、声を出すな」

 

《誰か他にいんのか!?》

 

「味方だよ、ナツ。私が7に行く」

最後にシクルがそう告げると……

 

プツリ、と音を立て念話が切れる。

 

「ごめん切れちゃった……もう限界だったから……」

申し訳なさそうにいうシクルの肩にぽんと手をおき、微笑むエルザ。

 

「問題ないさ……ナツたちとも会話ができた……ありがとう、シクル」

 

「エル……」

ニヘラと微笑むシクル。

 

 

「恐らくゼロは1番にいる」

シクルから目を離し、ウェンディたちを見据えるとそう告げたエルザ。

 

「1番って……ナツさんのところだ!」

 

「どうして分かるのよ?」

 

「あいつは鼻が利くからな……分かってて1番を選んだはずだ」

 

エルザの言葉を聞くとウェンディはグッと拳を握り

「だったら加勢に行こうよ!! みんなで戦えば……」

と、叫ぶ。そんなウェンディを見つめ……

 

「大丈夫、ナツは強いから。目の前にいる奴が強ければ強いほど……ナツは、強くなる」

 

と、にっこりと微笑み、不安げなウェンディに自信を持ちそう言いきったシクル。

 

 

「……ナ……ツ」

「?」

 

ふと、背後から聞こえたその呟きに振り返ると……

 

「どうした、ジェラール?」

 

ジェラールが頭を抑え何かをぶつぶつと呟いていた。そんなジェラールに声をかけるエルザだが「何でもない……」と、だけ言い黙り込むジェラール。

 

「まさか……」

シクルの脳裏にある予感が浮かぶが、シクルがジェラールに声をかける前にエルザの指示でここでは解散し、各々役割のある魔水晶へと向かう。

 

 

シクルも例外なく、目的の魔水晶へと向かうが……

「ルージュ」

と、隣を飛ぶ相棒に声をかけた。

 

「ん? なぁに?」

 

「お願いがあるんだ……コレ、ルーシィに届けてくれない?」

 

そう言い、シクルがルージュに何かを手渡す。

 

「これ……」

「頼める?」

 

シクルが首を傾げ、問いかけると……ルージュは力強く頷く。

「任せて!!」

ルージュはそう言うと、ルーシィが向かった3番魔水晶の部屋へと飛び去った。

 

「……頼んだよ」

飛び去るルージュの後ろ姿を見つめ、シクルは次にある匂いを辿り歩く。

 

 

少し歩くと目的の人物を見つけた。

 

「思い出したんだ。ナツという男の底知れぬ力……希望の力をな

 

君は俺の代わりに6番魔水晶を破壊してくれ」

 

「でも私……」

不安気に表情を歪めるウェンディ……そこへ

 

「やっぱり……記憶が少し戻ったんだね」

 

「っ! シクル……」

シクルの登場に目を見開くジェラールに苦笑を浮かべると、シクルはウェンディの頭に手を置いた。

 

「シ、シクルさん……」

 

「ウェンディ……貴女なら出来るよ。本来滅竜魔法は竜迎撃用の魔法……攻撃に特化した魔法……貴女のお母さん、 “グランディーネ” も使えたんだから……その子の貴女にも必ず使えるよ」

 

シクルの言葉を聞き、目を見開くウェンディ。

「グ、グランディーネを知ってるんですか!? な、なら、どこにいるか教え……!」

 

「その話はまた後で……今はこれを止めよう? これを止めて、解決出来たら……話してあげる」

シクルにそう告げられるとウェンディは力強く頷き

 

「わかりました……私、ジェラールの代わりに頑張ります!!」

と言った。

 

「うん……あ、そうだ。ウェンディ、もし不安だったらこれを握って?」

そう言い、シクルがウェンディに握らせたのは……

 

「……玉?」

 

「それには私の魔力が入ってる……いざという時、きっと力になってくれる……」

 

それを聞くと、「ありがとうございます!」と、告げウェンディは6番魔水晶へと走った。

 

「……さて、ジェラール」

 

「なんだ?」

ウェンディとシャルルの姿が見えなくなるとジェラールを振り返り……ジェラールの手にも何かを持たせたシクル。

 

「これは?」

ジェラールが受け取ったのは札のようなもの。

「ナツに渡して……きっと、ピンチの時に助けてくれるからって」

 

「……分かった」

ジェラールはそう頷くと、ナツのいる1番魔水晶へと歩き出し、その後ろ姿を見送ると……

 

「さて……あと15分……私も行かなきゃ」

 

光を纏い、任された魔水晶へと急ぐ。

 

 

 

7番魔水晶前ーーー

 

「ふぅ……まさかこんなに離れてるなんて思わなかった……」

光を纏って5分もかかるなんて……

 

シクルは目の前の巨大な魔水晶を見上げ……深呼吸をし、辺りを見回す。

 

「さて……ここには誰か……」

 

そう、シクルが呟いた時……

 

ビュッ! とシクルに向け、光線が飛んでくる。

「へぇ?」

 

シクルは慌てる様子もなく、冷静に回避すると、光線の飛んできた方を見つめる。そこには……

 

「……杖?」

 

魔水晶の影から現れたのはひとりでに浮かび動く、髑髏のついた杖だった。

 

「グフフフ……待っていたぞ」

 

「おぉ、話すんだ……(てか、よく見たらブレインが持ってた杖じゃん)」

 

「ようこそ……私はクロドア、7人目の六魔将軍でございます」

自身を “クロドア” と名乗った杖。

 

「そんなの誰も聞いてないけど……て、7人目の六魔将軍?」

 

「おんや? 貴様は知らないようだな……冥途の土産として特別に教えてやろう、六魔将軍の司令塔、ブレインにはもう1人の人格がいる事を……」

 

自慢げに語り出すクロドアだが……

 

「あぁ……それなら検討がついてるわ。どうせ、あのゼロって奴を6人の生態リンクか何かで封印してたんでしょ?

 

それが、6人すべて倒されてしまったことにより復活……でしょ?」

 

シクルのその語りにほぅとクロドアは関心を持つ。

 

「ほぅ……意外に頭が回るようですね……

だが、それだけではダメですねぇ……

力無きものは私に勝てない! なぜなら私はゼロ様の次に強い男!

私に勝てる者などこの世には……「長いっ!! 光竜の鉄拳っ!!」ごぱぁぁっ!?」

 

 

ペラペラと、自身の自慢話を続けていたクロドアだが、その話が長く……痺れを切らしたシクルは我慢出来ず殴り飛ばした。

 

「な! ななななっ!? 何をするか!?

貴様……人の話は最後まで!」

 

「長ったらしいのよ!! そんな長いの聞いてる暇ないの! めんどくさいし!!」

 

それに……

 

ぽそりと呟くと右手に銀色の光を……左手に金色の光を纏うシクル……

 

「……へ?」

 

ゴォオオオ……と、魔力が上昇するシクル。

 

「あなたを倒せばいいのよね? ウェンディのギルドを狙って……あんな良い子を泣かせて……あんた達は……」

 

ぶつぶつと呟きながら……先の攻撃で、壁に埋まっているクロドアに近づく……。

その姿を見て、クロドアは……

 

「え、え? え……いやいやいや!! ちょまっ!」

慌てる。目の前の女……その姿は……まさに

 

 

「ド、ドラ……ゴン」

 

 

「絶対……許さない……くらいなさい

 

滅竜奥義! 月光 龍閃撃!!!」

 

シクルの放った拳から放たれた、2つの光はクロドアの前で混ざり合い……閃光のように破裂し、クロドアを吹き飛ばした。

 

ドゴォオオオオオオン!!!

「にぎゃああああああっ!!!」

そして、その余波で魔水晶も崩壊する。

 

少し時を遡り……各魔水晶部屋では……

《2番魔水晶》

 

「そろそろ時間か……みんな、頼むぜ!

アイスメイク “氷雪砲” (アイスキャノン) !」

グレイの放った魔法で見事、魔水晶を破壊する。

 

《3番魔水晶》

 

「どうしよう……魔力もないのに、見栄張っちゃって……」

 

「ルーシィ……」

ルーシィは既に複数の、黄道十二門を召喚した影響で魔力は0に近かった……当然、星霊を呼ぶ力なんて残っておらず……

 

「でもやるんだ……やらなきゃ! この身が砕けようと……ウェンディたちのギルドを守らなきゃ!」

そう、ルーシィが声を上げた時……

 

「「時にはその思いが、力をくれるんだよ」」

 

「「え!?」」

 

ルーシィとハッピーの背後から現れたのは……

 

「え……ジ、ジェミニ!?」

 

「どうしてここに?」

 

「シクルから頼まれてねぇ! あたしが連れてきたの!!」

 

そう元気な声で告げたのは……

 

「「ルージュ!」」

 

にっこりと笑う、ルージュ。

 

「僕たちも君の本当の声を聞いたからね!」

 

「あの戦いの中、君はずっと星霊のことを考えてくれていた……」

 

「「そんな君に力を貸したいんだ!」」

 

ジェミニはそう言うと、ルーシィに変身。そして、見事タウロスを召喚し、魔水晶を破壊した。

 

続いて4番魔水晶と5番魔水晶も破壊された。

《6番魔水晶》

 

「出来るの? ウェンディ……」

心配そうにウェンディを見上げるシャルル。

 

「うん……やらなきゃ。みんなも頑張ってるんだ……私も……ジェラール……グランディーネ……ナツさん……シクルさん!

私に力を貸して……!!」

 

ウェンディは大きく深呼吸をし……空気を吸い込む……そして、シクルから預かった魔力の玉をギュッと握り締める。

 

その時、玉は淡い光を放ち……ウェンディを包み込み……

 

……大丈夫……自分を信じて……ウェンディ

 

 

「(はいっ!)天竜の……咆哮っ!!!」

6番魔水晶、破壊。

 

《1番魔水晶》

 

ジェラールの咎の炎を食らい、ドラゴンフォースを解放したナツ。

 

ゼロとの決着の時が……

 

「くらえ! ジェネシス・ゼロ!

開け……鬼哭の門! 無の旅人よ! その者の魂を! 記憶を! 存在を食い尽くせ!

 

消えろ!! ゼロの名の下に!!」

 

ゼロから放たれた魔法に包まれ、消えていくナツ……

 

「ぐぁあああぁぁぁ……」

 

 

暗黒の中で……

 

力が……身体が……動かねぇ……くそ……

 

意識が遠のくナツ……その時……

 

ジェラールから咎の炎を貰った時に一緒に渡された札が……光り……

 

ナツ……ナツ……!こんな事で諦めてどうする……?

ナツ……お前は滅竜魔導士だ……その誇りを忘れるな……!

 

お前にはイグニールが……この私がついている!!

 

イグ……ニー、ル

 

ナツ……信じてる……信じてるよ……

 

だから負けないで……諦めないで……

ナツっ!!

 

っ……シクル!!!

 

心の中にイグニールとシクルの声が響き、魔力が解放され……ゼロの魔法を焼き付くし、

そして……

 

「全魔力解放……滅竜奥義! 不知火型……紅蓮 鳳凰劍!!!」

 

ゼロを巻き込み、魔水晶を破壊する。

 

 

7つの魔水晶全てを同時に破壊することに……成功した。

そして、ニルヴァーナは動きを止め……

 

崩れ落ちていく……。

 




はい、シクルの相手をクロドアさんにしてもらいました。
と言ってもすぐ倒されちゃうんですが……

原作ではゼロに壊されるのですがここでは出ていただきました。

では、次回……んー、次回でニルヴァーナ篇を終えたいっ!(願望)

あ、ちなみにジェミニさんは自分の魔力でこちらに来てもらいました!
終えられたらいいなと思いながら……49話、最後までお付き合い、ありがとうございます!


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50話 別れ


はい! 初めに言います……

すいません!! ニルヴァーナ篇今回で終わりませんでした!!
字数的な問題で……

あぁ……本当はこの回で終わらせたかった……
……とにかく、50話、最後までお付き合い、お願いします。


 

 

7つの魔水晶の破壊に成功すると……次第に、ニルヴァーナは魔力の供給が途絶え、崩れ始めた。

 

《7番魔水晶》

 

「やっば……早く逃げないと…………うっ!」

 

崩れ落ちる瓦礫を避けながら、出口へと走るシクル。その時、ドグンッと、動悸が襲い、体から力が抜け倒れるシクル。

 

「うっ……はっ(まずい……意識が……)」

 

魔力をほぼ休みなしに使い過ぎた影響か、シクルは倒れた身体を動かせず、次第に意識が遠のいていった。

 

 

まだ……こんな所で、終わ……れ、ない……

 

 

 

「うぉおおおおお!!!!」

 

ズサァ!! と音を立て、命からがらニルヴァーナから脱出したグレイ。

 

地面を転がりながら、崩落するニルヴァーナを振り返り、不安気に見つめる。

 

「おいおい……皆無事だろうな!?」

そこに……

 

「グレイ!!」

と、声を上げ走ってくるエルザが現れる。

 

「エルザ! 無事だったか……と?」

 

エルザの方を振り返るグレイの視界に、もう一つ影が見える。

それは、グレイとエルザの方へと走り寄っており……

 

「エルザさぁん! 無事でよかったでぇす!」

 

「「げぇええっ!?」」

 

ムキムキマッチョな男が現れる。

 

思わずエルザは槍を構え、グレイも魔力を練り上げ、構える。

 

「何者だ!?」

 

「敵か!? ……そしてキモいっ!!」

 

「落ち着いてください、2人とも……

 

今は力のパルファムにて姿形は違えども、中身はいつもと寸分違わぬこの私……あなたのための、一夜でぇす」

 

その言葉に目が点になるエルザとグレイ。

 

「……おめぇもえらいもんに好かれたな」

 

グレイの哀れみの瞳に顔を逸らし、ため息をつきながら沈むエルザ。

「あ、あぁ……頼もしい、奴では……あるんだが」

 

そこに……突然上から時計のようなものが降ってくる。

 

「な、なんだ!?」

 

「ん? これは……」

 

空から降ってきたのはルーシィの星霊、ホロロギウムだった。

中からはルーシィとハッピー、そしてルージュが出てくる。

 

「ルーシィ!! ハッピーにルージュも!」

 

「助かったよ!」

 

「ありがとねぇ!!」

 

「ありがとね、ホロロギウム! てか、あたしってあんたをいつの間に呼んだっけ?」

魔力も0に近かった中、呼んだ記憶のないルーシィは首を傾げる。

 

「いえ……私が勝手にゲートを通って参りました」

 

「へぇ……ロキやバルゴもよくやるわよね」

ルーシィの言葉に頷くホロロギウム。

 

「ルーシィ様の魔力が以前より高まった事により、可能になりました」

ホロロギウムからの説明を受け、へぇと息をつくルーシィ。

 

そして、ホロロギウムが星霊界へ戻ると……

 

「みなさーん!!」

 

「皆、無事だったか!」

 

「ついでにオスネコとメスネコも」

 

ウェンディとジュラ、シャルルも無事に合流を果たす。

 

「あれ? ナツさんは? ジェラールやシクルさんは……」

集まったメンバーを見て、首を傾げるウェンディ。

 

「そういえば、見当たらんな」

 

「ちょっと待て、まさかまだ中に……!?」

 

「そ、そんなっ!」

 

全員が辺りを見渡すも、やはりその姿は見えない……。

 

「ナツ……シクル……」

 

「あのクソ炎……何してやがるっ」

ルーシィとグレイがか細い声で呟く。

 

「ナツさーん!! シクルさーん!!」

ウェンディも大声を上げ、呼びかけるが返ってくる声はなく……

 

「ナツ……シクル、ジェラール……(何をしているんだ……)」

嫌な予感が絶えず胸の中を渦巻き、グッと拳を握るエルザ。

 

「シクルゥー!!!」

 

「ナツゥー!!! う、わぁ!?」

ルージュとハッピーも、声を上げ相棒を呼んでいると……ハッピーの立っている足元の地面がボコッと盛り上がり、ハッピーは転がる。

 

そして、盛り上がった地面の下から現れたのは……

「愛は仲間を救う……デスネ!」

 

「……んァ?」

リチャードと、その両脇に抱えられるナツとジェラールが現れた。

 

「ナツさん!!」

その姿にウェンディは笑みを零し、グレイたちもほっと息をつくが……

 

「待て……シクル殿は?」

ジュラの言葉にシクルを探し、辺りを見渡す……。

 

「おいおい……シクルの奴、どこにいんだよ!?」

 

「シクルさん……」

 

「シクル……まさかまだ中に」

 

「そ、そんなぁ……!」

 

「くそ……いるなら返事しろよ……シクル!!」

ナツが声を張り上げ、俯く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞こえてるっての……」

 

「「「っ!!」」」

 

ナツたちの背後から声が聞こえ……振り返ると、結ばれていない金の髪が風に揺られながら、しっかりと立ち、こちらを見据えているシクルの姿があった。

 

「全く……無駄に声がでかいんだから……」

 

「無駄ってなんだよ無駄って!?」

 

「シクル!!」

 

「シクルさん! 良かった、無事だったんですね!」

 

「シクルゥー!」

 

「たく……心配かけやがって」

 

「ともかく、無事で何よりだ……」

 

例外なく飛びついてくるルージュを抱き留め、その場に座り込むシクル。

 

「シクル、大丈夫?」

心配そうに隣へ歩み寄り、シクルの身体を支えるルーシィ。

 

「うん、大丈夫……」

ニコッと微笑むシクルだが、その表情に力はない。

 

「とにかくこれで、一件落着だな!」

ニッ!と笑顔を浮かべ、ウェンディを見つめるナツを見返し、ウェンディもにっこりと微笑む。

 

「はい! ナツさん……本当に、ありがとうございます!」

ぺこりと頭を下げるウェンディにきょとんとした瞳を向け……フッと笑みを浮かべるナツ。

 

「みんなの力があったからだろ? んじゃ、今度は元気に……ハイタッチだ!」

 

「っ……はいっ!!」

 

パンッ! と、ナツとウェンディは元気にハイタッチをした。

 

 

 

「とにかく、全員無事で何よりだね」

 

「皆、本当に良くやった」

 

「これにて、作戦終了ですな!」

 

「んで? あれは誰なんだ?」

と、グレイはジェラールを指した。

 

「あんな人いたっけ?」

 

「あれは、ジェラールだ」

 

グレイとルーシィの疑問にエルザが答えた。すると2人は目を見開き驚く。

 

「何!?」

 

「この人が!?」

 

「だが、私達の知っているジェラールではない……記憶を失っているようだしな」

 

「いや……そう言われてもよぅ」

 

エルザの言葉に納得のいかない様子のグレイ。そんな彼に苦笑を浮かべながら、ウェンディが声をかけてくる。

 

「大丈夫ですよ、ジェラールは本当はいい人ですから」

ウェンディがそう言うとグレイは渋々ながらも、納得したようだ。

 

その横ではエルザがジェラールに歩み寄り、何かを話している。その様子をちらりと見ながら、ふぅとため息をつくシクル。

 

「あ、あの……やっぱり少し回復を……」

目を伏せるシクルを見て、心配そうに声をかけるウェンディだが……

 

「ん? あぁ、大丈夫大丈夫……少し休めば回復するよ。それに、今日はもうウェンディだって魔法を使いすぎちゃったでしょう?」

 

無理しちゃダメだよと、シクルは微笑みながらやんわりと断った。

 

そこに……

 

「メェーーーン!!」

 

「っ、何?」

 

突然、変な奇声をあげ、鼻上を抑える一夜が……

 

「どうしたんだ、オッサン」

グレイが怪訝そうに問いかける。

 

「トイレのパルファムをと思ったら、何かにぶつかったのだァ!!」

 

そう叫ぶ一夜を尻目に、ふと地面に目をやると……

 

「何……地面に文字が?」

 

「こ、これは」

 

「「「術式っ!?」」」

 

グレイたちは声を上げる。そして……

コツッと、靴を鳴らす音が聞こえ、そちらを向くと……

 

「誰だコラァ!?」

 

「どうしてあたし達を閉じ込めるのよ!」

 

「漏れるぅうううう!!!」

 

「やめてぇ!?」

 

 

「手荒な事をするつもりはありません……しばらくの間、そこを動かないで頂きたいのです」

眼鏡をかけた男を中心に、数人の人間に囲まれていたシクルたち。

 

その服装と紋章を見てはっとシクルは息を呑む。

「あなたたち……もしかして」

 

「私は新生評議院、第四強行検束部隊隊長、 “ラハール” と申します」

 

「新生評議院!?」

 

「もう発足していたのか!!」

ラハールと名乗った男の言葉に驚くルーシィとグレイ。

 

「我々は法と正義を守る為に生まれ変わった……如何なる悪も、決して許さない」

 

ラハールのその言葉に、ビクッ! と身体を揺らすナツとハッピー。

 

「お、オイラたち何も悪いことしてないよ!?」

 

「お、おう……!!」

 

「存じております……我々の目的は六魔将軍の捕縛……そこにいるコードネーム『ホットアイ』をこちらに渡してください」

 

その言葉に驚愕するナツたち。

その影で、シクルは暗い表情を浮かべる。

 

(……やっぱり)

 

「ま、待ってくれ! 彼は……」

 

「いいのデスネ、ジュラ」

説得を試みようとしたジュラを微笑みながら止めたホットアイこと、リチャード。

 

「例え善意に目覚めても、過去の悪行は消えませんデス……私は一からやり直したい」

 

そう告げたリチャードに、ジュラは心が折れ、代わりにリチャードが探す弟を見つけ出そうと約束をした。

 

「弟の名は何というのだ?」

 

「弟の名はウォーリー……ウォーリー・ブキャナン」

リチャードの口から出たその名に、シクルやナツたちは目を丸くした。

 

「「四角ぅー!?」」

 

「その男なら知っている……私の友だ。今は元気に仲間と大陸中を旅している」

 

エルザのその言葉を聞き……リチャードは涙を流す。

「これが、光を信じるものだけに与えられた奇跡と言うものデスか……ありがとう! ありがとう……ありがとう」

 

リチャードは最後に、晴れ晴れとした表情で評議院の人たちに連れられ、去っていった。

 

「……なんか、可哀想ね」

 

「あい……」

ルーシィの言葉に同意し、気分が沈むルージュの頭をそっと撫でるシクル。

そんな彼女の表情は……未だ晴れない。

 

きっと彼らの目的は……

 

「も、もういいだろう! 術式を解いてくれ! 漏らすぞ!!」

 

「だからやめなさいっての!」

声を荒らげる一夜をハッ倒すシクル。

 

「いえ、私達の本当の目的は六魔将軍ごときではありません」

 

「へ?」

 

「それって……」

 

ラハールはある一点を睨み……告げた。

 

「評議員への潜入・破壊、エーテリオンの投下……もっととんでもない大悪党がそこにいるでしょう……貴様だジェラール! 来い!

 

抵抗する場合は抹殺許可も降りている!!」

 

「「「っ!!!」」」

 

「そんなっ!」

 

ジェラールを指さし、告げたラハールに驚愕の眼差しを向けるナツたち。

 

 

「ちょっと待てよ!」

 

「その男は危険だ、2度とこの世界にはなってはいけない……絶対に!」

 

そして、ナツたちが反対をする中……ラハールはジェラールを連れていこうとする……。

 

そんな後ろ姿を見つめ、エルザはギュッと拳を握る。

 

(止めなければ……私が、止めなければジェラールが行ってしまう……

折角、悪い夢から目覚めたジェラールをもう1度暗闇の中へなど行かせるものか……!)

 

「……エル」

 

 

「死刑か無期懲役は免れないぞ。2度と誰かと会うこともできんだろう」

 

「っ!?」

ジェラールとの会話の中でラハールの放ったその言葉にエルザは目を見開き、止めようと動こうとした……その瞬間ーーー

 

 

「行かせるかぁー!!」

 

エルザよりも早く、声を荒らげ、ナツがラハールたちに突撃していた。

 

「何してるの!?」

 

「そいつは仲間だ! 連れて帰るんだぁ!!」

 

ナツのその言葉にグレイたちも動かされ……ラハールたちを相手に、反抗を始めた。

 

 

「お、お前たち……」

その光景を後ろから見つめ、身体が動かないエルザ……そんな彼女の横から声がする。

 

「どうするの……エル? もし、エルがジェラールを行かせたくないなら……私もナツたちと一緒に止めるわ……」

 

さぁ……どうする?

 

シクルがそう投げかけ、エルザはぐっと唇を噛み締める。

 

「全員捕えろォ! 公務執行妨害及び逃亡幇助だぁ!!」

 

「行くな!! ジェラァアアル!!!」

 

 

「もういい!! そこまでだっ!」

 

エルザの止める声が響き……ナツたちは動きを止めた。

 

「騒がせてすまない……責任は全て私が取る……ジェラールを、連れて……いけ」

 

「エルザ!? なんで……」

 

エルザに突っかかろうとしたナツ……だが

 

「ナツ……分かってあげて」

ナツの肩に手を添え、それを止めたシクル。ナツはグッと苦々しい表情を浮かべ、エルザを見つめる。

 

 

ジェラールは抵抗もせず、連行される……その時、ふと足を止めエルザを振り返った。

 

「エルザ……お前の髪の色だった」

 

「っ!!」

その言葉を聞き、エルザは目を見開き、ジェラールを見つめる。

 

「……さようなら、エルザ」

 

「……あぁ」

 

その会話を最後に……ジェラールは護送車へと乗り込み、姿は見えなくなった。

 

 

悲しそうに僅かに震えるエルザを、後ろから見つめ辛そうに表情を歪めるシクル……。そんな彼女に、声が掛かる。

 

「あなたが、シクル・セレーネ様ですね?」

 

「え……?」

シクルに声をかけたのはラハールだった。

シクルが振り返るとラハールは手に何やら手紙のようなものを持っており……

 

「シクル様……あなたに、これを……」

 

「……これは」

ラハールから受け取った手紙を持ち、シクルは目でラハールに問いかける。

 

「そちらはアトスさんからの……文書です」

 

「っ! アトス……からの?」

シクルからの確認の問いかけに頷くラハールを見て、「そう……」と、呟くシクル。

 

「……ありがとう、落ち着いた頃に読ませてもらうわ」

シクルはそう言い、手紙をポケットにしまい、ラハールから離れようとした……その時

 

パシッ

 

「んえ?」

シクルの手をラハールが掴む。

 

「シクル様……」

真剣な表情をするラハールに何かまだあるのか? と思い向き直った。

 

その瞬間……

 

チューーー

 

「……へ?」

 

「……は」

 

「「「はぁあああああっ!!?」」」

 

ラハールがシクルの額に口付けを落とした。

 

「……また、何処かでお会いしましょう」

 

「……は、はぁ」

 

それを最後に去る、ラハール……その姿が見えなくなると……

 

「おいシクル!! 何普通にキスされてんだこの野郎!!」

 

「え、何? なんでそんな怒ってんのナツ?」

うがー! とシクルに詰め寄るナツに困惑するシクル。

 

そして……

ゴシゴシとラハールの唇が触れたシクルの額を擦り始めるナツ。

 

「ちょ! ちょちょちょ!! 痛い痛い! 痛いってば! やめっ!」

 

「あんのやろぉ!! 勝手にあんなことしやがってぇ!!」

シクルが止めるもナツは抑えられず……次第にシクルの怒りが溜まっていく……。

 

「痛いってば! ちょ、もう……痛いって……言ってんでしょぉおおがぁああ!!!」

 

「ごぱぁ!?」

 

最後に、ナツはシクルに殴り飛ばされ……気絶した。

 

 

哀れ、ナツ……因みにグレイやルーシィ、ルージュやハッピーもラハールの行動に怒り狂い、この後、その場を収めるのに苦労したとかしなかったとか……

 

 





はい……とりあえず、前回の最後の後書きのあれは撤回です……次回!!

次回こそ、ニルヴァーナ篇を最後に、終わりたいと思います!!

では、最後までお付き合い、ありがとうございます!


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51話 新しい仲間と共に……


はい!! やっとニルヴァーナ篇これにて完結致します……



長かったっ!! 宣言通り前回で終われず申し訳ない……

とにかく、51話! ニルヴァーナ篇ラストです!
最後までお付き合い、お願いします!


 

 

 

ニルヴァーナの阻止が成功し、リチャードとジェラールが評議院へと連行されてから数時間後……シクルたちはウェンディたちのギルド、化猫の宿で祝の宴を開催しながら、傷ついた体を癒していた。

 

 

集落の中心に位置する広場でナツやグレイを始めに、皆でわいわいと盛り上がっている中……1人、その席から外れているシクル……

 

 

彼女は今、化猫の宿のマスター、ローバウルと話をしていた。

 

「シクル殿……ギルドを守ってくれて本当にありがとう……」

 

「いえ、このギルドを守れたのは皆で力を合わせたからですよ……ウェンディも、頑張っていました」

 

クスリと微笑み言うシクルの言葉に、頷きながら「そうか……」と呟くローバウル。

 

「なぶら……皆さんに感謝せんとな」

 

ローバウルはそう言うとふっと悲しそうな表情を浮かべ……

 

「もう、気づいておるやもしれぬが……シクル殿、我々は……」

 

そう言ったローバウルに、シクルは真剣な眼差しで見つめ、ゆっくりと頷いた。

 

「はい……六魔将軍の奴から、化猫の宿の人たちはニルビット族の末裔であることを聞きました……ですが、そうではないんですよね?」

 

シクルの言葉にコクリと頷くローバウル。

 

「そうじゃ……我ら……否、わしは……」

 

「今じゃなくていいですよ……」

ローバウルの言葉をやんわりと遮るシクル。

 

「私は分かってますから……2度もそのことを語るのは、あなたも辛いでしょう? ……7年とはいえ、成長を見守ってきたウェンディやシャルルと別れるのは……」

 

 

愛したものとの別れは……本当に……

 

そう呟き、目を伏せたシクルを見つめ、ローバウルはふぅとため息をつき……

 

 

「なぶら、その言葉に甘えるとしよう……」

 

「では、私はみんなの所に戻りますね」

ニコリと微笑み、そう告げ、ローバウルに背を向けたシクル。

 

そこに……

 

「待たれよ……」

 

「……はい?」

 

ローバウルがシクルを呼び止めた。シクルは振り返り、ローバウルを見つめる。

ローバウルの瞳は何かを訴えかけている様子があった。

 

「……何ですか?」

 

「シクル殿……お主は、思い出せぬ記憶などはありますかな?」

 

ローバウルのその問いかけにシクルは首を傾げる。

 

「……いえ……特には」

考えるも思い当たることはなく……首を振り、否定する。

 

「そうか……シクル殿……主には、何やら……記憶の一部に封印がされているようじゃ」

 

ローバウルのその言葉に、シクルは目を見開き驚く。

 

「……封印、です……か?」

 

「なぶら……それがなんの記憶かはわしにも分からぬ……だが、その記憶は恐らく主にとってとても重要なものと感じる……いつか、思い出せると良いですな」

 

「はぁ……」

 

最後に、一礼をし、部屋を出ていくシクル。

そして、みんなの元に戻る途中……シクルはふと、ローバウルの言った言葉を思い返す。

 

 

「……封印された……きお、く……」

 

何……何を封印されているっていうの……

 

分からない……思い出せない記憶? そんなの……

 

 

 

「……そういえば……」

 

ふと、シクルの脳裏に浮かぶ光景……

それは、育ての親、セレーネと暮らしていた頃の記憶……

 

それはとても大事な記憶で、再会のできない今忘れられない記憶だが……所々、曖昧な部分があった。

 

 

「……まぁいいか」

 

封印された記憶が何なのか分からない……けど、今考えても検討もつかない……きっと、その時が来たら思い出すだろう……

 

そう考え、記憶についてのことは一度忘れることにしたシクル。

 

 

「おーい! シクルー!! 早く来いよ!」

はっと、目の前を見上げるとナツが手を大きく振り、シクルを呼んでいた。

 

「今行くっ!!」

 

 

 

「妖精の尻尾、青い天馬、蛇姫の鱗……そして、ウェンディにシャルル……

 

よくぞ六魔将軍を倒しニルヴァーナを止めてくれた。地方ギルド連盟を代表して、このローバウルが礼を言う……」

 

そう言い、一礼するローバウルは

「ありがとう……なぶら、ありがとう」

と、感謝の言葉を呟き続けるローバウル。

 

「どういたしましてマスター・ローバウル! 六魔将軍との激闘に次ぐ激闘! 楽な戦いではありませんでしたが、仲間との絆が我々を勝利に導いたのです!!」

 

「「「さすが先生っ!!」」」

 

「てかあなた何もしてないでしょうが」

 

1人決める一夜にピシャリ!と冷たく言い放つシクル。

 

そんな彼女は今甘いケーキを頬張りながら、疲れた身体を癒していた。

 

「この流れは宴だろー!」

 

「「あいさぁー!」」

ナツの叫びにハッピーとルージュが大声を上げ、飛び跳ね賛同する。

 

「一夜が!」

 

「「「一夜が!!」」」

 

「活躍!」

 

「「「活躍!!」」」

 

「それ「「「ワッショイ! ワッショイ! ワッショイ! ワッショイ!!」」」」

 

一夜とトライメンズのメンツが飛び跳ねながら奇妙な踊りを披露する……その時、一夜の足がもつれ、転ぶ。

 

その瞬間……

 

「お、おい一夜! そっちは……!」

エルザの慌てる声が響くが……その声も虚しく……

 

グシャッーーー!

 

「っーー!!」

 

シクルの持っていたチョコレートケーキは……一夜の下敷きとなり、とても食べられないものに変わってしまった……。

 

「「あ」」

 

「げ……」

 

「え? 何?」

 

「……見てれば分かるよぉ」

 

「はぁ……」

 

 

潰れたチョコケーキを見つめ、俯くシクル……。

 

「す、すまない! マイハニー……決してわざとでは……「……ねぇ」……ん?」

 

一夜が黙り込み俯くシクルに慌てて謝罪を告げると……シクルから小さな声が聞こえ、一夜はシクルを見つめる。

 

 

「……あたしの……あたしの……チョコケーキをっ!!」

 

ズォッ! と音を立て、シクルの体から疾風が巻き起こる。

 

「ぬぉおおおお!? こ、これは!?」

 

「まだ……一口も……食べてなかったのにぃいいいいい!! 返せあたしのチョコケーキぃいいいいいい!!!!」

 

「メェーーーーン!!」

 

一夜を殴り飛ばすシクル……殴り飛ばされた一夜はそのまま空彼方へと飛んでいき、見えなくなった……。

 

 

「……な、何……今の」

初めて見たそのシクルの様子に目を点にし、震えるルーシィ。

 

「シクルはねぇ……極度の甘党で……エルザといい勝負なくらい大好物なんだぁ」

 

「シクルがそーいうのを食ってたら……絶対に邪魔しちゃいけねぇルールができてんだよ……」

 

「そ、そう……なん、だ」

 

恐怖するナツたちを尻目に、シクルはしくしくと涙を流していた……。

 

「うぅー……私の、私のチョコケーキがぁ……」

 

「あ、あの……シクルさん、良かったら私の……食べますか?」

 

「ふぇ……」

 

シクルの目の前には、にっこりと微笑むウェンディと……チョコレートケーキ……

 

「……いいの?」

 

きょとりと首を傾げ、ウェンディを見つめるシクル。

ウェンディはフフッと微笑み、

「はい! いいですよ」

と、言った。

 

その瞬間、シクルの顔はパァッ! と輝き、頬を赤らめながらウェンディに抱きつく。

「ありがとー!! 」

 

シクルはウェンディからチョコケーキを受け取ると美味しそうに頬張る。

 

「んー! 美味しぃ……!!」

ふにゃぁんとした顔をして食べるシクルを見て、一部の男は鼻を抑え、その中でもナツは1番顔を真っ赤にし、悶えていた。

 

 

シクルの機嫌も治り、宴の音頭は再び最高潮へと上がる中……しぃんと、黙り、シクルたちを見つめる化猫の宿の者達。

 

その様子にシクルやナツたちでさえ、しん……と、静まり返る。

 

 

「……皆さん、ニルビット族のこと……隠していて、本当に申し訳ない」

 

音がなくなると、見計らったかのように話を始めたローバウルに、ナツたちは苦笑を浮かべローバウルを見つめる。

 

「そんなことで空気壊すの?」

 

「そんなん、全然気にしてねぇのになぁ?」

 

「「あいっ!」」

ナツの言葉に頷くハッピーとルージュ。

 

「マスター、私も気にしてませんよ?」

にっこりと微笑み、ウェンディもローバウルにそう告げた。

 

だが、ローバウルの表情は晴れず……

 

「皆さん、ワシがこれからする話をよく聞いてくだされ……まずはじめに、ワシ等はニルビット族の末裔などではない」

 

「……え?」

首を傾げ、ローバウルを見つめるウェンディを横目に、悲しそうな表情を浮かべるシクル。

 

 

「末裔などではない……ワシは、ニルビット族そのもの……400年前、ニルヴァーナを造ったのはこのワシじゃ」

 

「な!?」

 

「何……!?」

 

「嘘……」

 

「400年前!?」

 

「はぁ!?」

 

ローバウルの告げた事実にナツたちは目を見開き、驚く。

 

「400年前……世界中に広がった戦争を止めようと善悪反転の魔法、ニルヴァーナを造った……ニルヴァーナはワシ等の国となり平和の象徴として一時代を築いた。

 

しかし、強大な力には必ず反する力が生まれる……闇を光に変えた分だけニルヴァーナはその “闇” を纏っていった

 

バランスをとっていたのだ……人間の人格を無制限に光に変えることはできなかった

 

闇に対して光が生まれ、光に対して必ず闇が生まれる」

 

ローバウルの言葉に

「そう言われれば確かに……」

と、頷くグレイ。

 

「人々から失われた闇は我々ニルビット族に纒わりついた」

 

「そ、そんな……」

 

ローバウルは目を伏せ……言葉を告げていく。

 

「……あれは、地獄じゃ。ワシ等は共に殺し合い……そして、全滅した」

 

「「「っ!!」」」

 

殺し合い、全滅の言葉に驚愕が抑えられないナツたち。

 

「生き残ったのはワシ一人だけじゃ……

 

否、今となってはその表現も少し違うな。我が肉体はとうの昔に滅び、今は思念体に近い存在……ワシはその罪を償うため……また、力なきワシの代わりにニルヴァーナを破壊できるものが現れるまで、400年……見守ってきた。今、漸く役目が……終わった」

 

そう言い、顔を上げたローバウルの表情は晴れ晴れとしていた……。そして

 

「そ、そんな話……!」

震えるウェンディ……そんな彼女の目の前から……次第に化猫の宿の者が消えていく……。

 

「っ! マグナ!? ペペル!! 何、これ……」

 

「ちょ……アンタ達!!」

 

次々と化猫の宿の者が消えていく……

 

「ど、どうなってんだこりゃあ!?」

 

「何なの……これぇ」

 

訳が分からなくなったルージュがシクルを見上げるも……シクルは首を横に振り、何も言わなかった。

 

 

「ウェンディ……シャルル……騙していてすまなかったな……ギルドのメンバーは、皆……ワシの作りだした幻じゃ」

 

「な、なんだとぉ!?」

 

「人格を持つ幻だと!?」

 

「何という魔力なのだ……!」

 

あのジュラでら、ローバウルのその言葉に、目を向いた。

 

「ワシはニルヴァーナを見守るためにこの廃村に1人で住んでいた。長い長い時の中……

 

7年前1人の少年がワシのところに来た」

 

「1人の……少年」

 

「少年のあまりにまっすぐな眼に、ワシはつい承諾してしまった……1人でいようと決めていたのにな」

 

そう語ったローバウルだが、その表情には確かな愛情が現れていた……。

 

「……ウェンディのために作られたギルド」

 

「そんな話っ! 聞きたくない!! パスクもナオキも消えないでよ!!」

ローバウルの語る話に耐えきれず、耳を塞ぎ涙が溢れるウェンディ。その隣では、シャルルも拳を握り震えていた。

 

「ウェンディ……シャルル……もうお前達に、偽りの仲間はいらない」

そう呟くと、ローバウルはシクルやナツたちの方を見つめ指差す。

 

「本当の仲間がいるではないか……」

そして、ローバウルの身体も光だし……次第に、その姿が消えていく……

 

「マスターっ……!」

 

「ウェンディ……シャルル……お主らと過ごした7年間……実に、幸せな日々であった……

 

愛しておる……お主らの未来は、始まったばかりじゃ……」

 

そして……ローバウルはニッコリと微笑み……もうその姿はほとんど見えなくなっていた。

 

「マスター!」

消えゆくローバウルに駆け寄るウェンディ。

 

「皆さん、本当にありがとう……ウェンディとシャルルを……頼みます……」

 

そうウェンディとシャルルを託すと……ローバウルの身体は完全に消え去ってしまった。

 

光の粒となり、天に昇るローバウルの魂……

 

 

「マスタァアアアアッ!!!!」

 

ローバウルの立っていたその場所で、ウェンディは崩れ落ち、大声で泣き出す。

 

誰もがその姿に……悲痛な表情や、同じく悲しみの涙を流す中……

 

そっと、彼女に近寄る、緋色と金色……

 

 

「……愛するものとの別れは辛い……」

 

「でも、その辛さは……仲間が埋めてくれる」

 

 

「来い……妖精の尻尾へ」

 

「……おいで…………私たちのところに……」

 

 

エルザとシクルのその言葉に、ウェンディはポロリと最後の涙を流し……エルザとシクルに抱きつく。

 

 

ニルヴァーナ……それは、最後に、悲しい別れと、新たな仲間との絆の始まりを運び……

 

完全にこの世界から消え去った……。

 

 

残された少女達は、新たな仲間と共に……新しい道を歩むのだ……。

 

 

ニルヴァーナ篇 完結〜

 

 

next.story 日常と語られぬ過去篇 開幕

 

 

 

〜予告〜

 

 

 

 

 

 

今日は宴だー!!!!

 

 

 

 

 

 

楽しいところですね!

 

 

 

 

 

 

 

え? ……エマ?……わぁ!! 久しぶり!!

 

 

 

 

 

 

……アトス…………ごめん

 

 

 

 

 

 

修行? えー……私、氷の魔法なんて使わな……あぁ、ちょっと待って?

確か書庫にあの魔法があったと思うんだけどなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

え……何でここにいるの?

 

 

 

 

 

 

 

またね……身体、気をつけてね?……ラクサス

 

 

 

 

 

 

 

虹の桜……あぁ、もうそんな時期なんだ……

 

 

 

 

 

 

これ……シクルへのプレゼントにしよーぜ!!

 

 

 

 

 

 

なぁ……まだ、話す気になれねぇか?

 

 

 

 

 

 

ナツ……いつか、いつか話すから……今は、まだ……ごめん

 

 

 





はい!! これにてニルヴァーナ篇完結です!

次回からはギルドでの日常やほとんどオリジナルのお話を1話か2話に纏めていくつか投稿してからエドラス篇に行きたいと思います!


正直エドラスのシクルの立ち位置がまだしっかりと決まっていないのでその尺稼ぎでも……あるかなと

では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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第7章 日常篇
52話 ようこそ! 妖精の尻尾へ!


はい!! やっと向かえました日常篇!!

そして始まったばかりなのにエドラス篇ほぼ内容出来上がったという意味の無い尺稼ぎ……

まぁ、載せたいお話もあったのでお付き合い頂ければ光栄です。

では、52話……最後までお付き合い、お願いします!


 

 

「あ〜…… 船って潮風が気持ちいぃんだなぁ」

 

「良かったねー、ナツ」

 

「何その間の抜けた声……」

 

現在、シクルたち妖精の尻尾メンバーは、新たな仲間、ウェンディとシャルルと共に、船でマグノリアへと帰還中だ。

 

ナツは船に乗る前にウェンディからトロイアの魔法をかけてもらっていたため、乗り物酔いを起こすことなく、潮風を感じのんびりしていた。

 

「乗り物っていいもんだなぁー!!」

 

……のんびりではなく、船の上を走り回っていた。

 

そんな時……

 

「あ」

と、ウェンディの声が聞こえ……

 

「そろそろ、トロイアの効果が切れますよ」

と、ナツを見て告げた瞬間……

 

「おっふっ! うぷぅ……」

バタリ、と崩れ落ち一瞬で乗り物酔いを起こすナツ。

 

ナツは床を這いながらウェンディに近づき……

「も、もうい、っかい……かけ……て、うぷ」

と、懇願するが……

 

「そんなに掛けたら効くものも効かなくなるでしょ? あと少しなんだから我慢しなさい」

ピシャリとシクルにとめられ、ウェンディも「すみません……」と、苦笑を浮かべ断った。

 

「は、はくじょぉ……ものぉ……うっぅぷ」

 

「放っとけよ、そんな奴」

 

「あっははははは!」

 

吐き気に耐えるナツを見て、グレイは呆れた様子でルーシィは笑いが止まらない様子……

 

「それにしても、本当にシャルルたちも妖精の尻尾に来るんだね」

 

「私はウェンディが行くって言うからついて行くだけよ」

 

「よろしくぅ、シャルル」

 

ぷいっとそっぽを向くシャルルに二ヘラと微笑みながら声をかけるルージュ。

 

少し愛想が悪い印象を与えてる様子のシャルルに苦笑を浮かべながら、ウェンディが少し哀れそうに、ナツを見ると……

 

 

「もぅっ! ほら、おいでナツ」

 

「ぉ、ぉぅ……」

 

シクルがナツを呼び、ナツは身体を這いながら、シクルに近寄り……床に腰掛けたシクルの膝の上に頭を乗せ、寝始めた。

 

その様子に、いつも見ているグレイやエルザ、ハッピーにルーシィは何とも言わないが……ウェンディは、少し頬を赤らめる。

 

「あ、あの……もしかして、ナツさんとシクルさんは……付き合っていたり、するんですか……?」

 

「……へ?」

 

首を傾げ、ウェンディを見つめるシクル。

 

「膝枕って……好きな人同士でやるものなのかな……と、思っていたんですが……」

 

「……好、き……」

 

ウェンディの告げたその単語が脳裏でリプレイされ……次第にその意味を理解すると、ナツを見下ろし、見つめる。

 

 

ナツを……好き……私……好……き……

 

「っーーーー///!!!」

 

ゴッ!! と、ナツの頭を落とす。

「ぐぴゃっ!?」

 

そして、顔を真っ赤にしウェンディを見ると……

 

「な、ななな……何いってんの、ウェンディちゃん ///!? わ、私がナ、ナナ……ナツを……す、好きって……なわけないでしょ!? 付き合ってもないよ ///!? うん!! 勘違いしないでね!? ね!!」

言葉を何度も噛みながら言った。

 

「そ、そうですか……? お似合いだと思うんですが……」

 

「そーです! そんなことありません!!」

 

顔を真っ赤にするシクルを見てルーシィやグレイ、ハッピーにルージュもニヤニヤと含み笑いを浮かべ、エルザもそうなのかと勝手に思い込んでいた。

 

「そこぉ!! ニヤニヤしないで! あとエルは勘違いだからね!? お願いだからその幸せにオーラやめて!!」

 

そしてこの後……シクルがナツへ、膝枕をすることは無く……船はハルジオン港へ到着、そこから馬車でマグノリアへと帰り、無事妖精の尻尾へと帰還を果たした。

 

 

「と、言うわけで……ウェンディとシャルルを妖精の尻尾へ招待した」

 

連合軍であった事などをマカロフに報告し、最後にウェンディたちを紹介したエルザ。

その影からひょっこりと姿を現し、マカロフやギルドメンバーと対面するウェンディとシャルル。

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

「ふん……」

 

少し恥ずかしそうに一礼するウェンディとぷいっとそっぽを向くシャルル。

 

そんな新たな仲間に、ぞろぞろと集まる人だかり。

「かわいー!」

 

「ハッピーのメスがいるぞ!」

 

「お嬢ちゃんいくつ?」

 

「ルーちゃーん!! おかえりー!!」

 

「レビィちゃん!!」

ルーシィに抱きつくレビィ。

 

「グレイ様……ジュビアは心配で心配で……目から大雨がっ!!」

 

ダバー! とジュビアの目から涙が流れる。

 

「ぎゃー!! グレイ止めろぉ!」

 

「おぼぼぼっ!溺れるぅ!!」

 

「ンで俺がっ!?」

 

「あら、シクル……また無茶したの?」

グレイとジュビアのやりとりに苦笑を浮かべていたシクルの頬を掴み、しかめっ面を浮かべるミラ。

 

「ふえ? あぁ……そんなに無茶はしてないよ?」

 

「嘘……またこんなにやつれて……あまり魔力を使いすぎちゃダメよ?」

 

めっ! と言うミラに「はーい……」と返事を返すシクル。

 

「わぁ! 見てシャルル! 本物のミラジェーンさんだよ!! 綺麗だね!」

 

「こんにちわ、ウェンディ、シャルル……これからよろしくね?」

シクルから離れ、ウェンディとシャルルににっこりと笑みを向けるミラ。

 

「そういえば、シャルルの魔法は多分ハッピーやルージュと同じだと思うけど……」

 

「何ですって!? ちょっと、オスネコとメスネコと同じ扱い!?」

 

「でも実際同じだよねぇ」

二ヘラと微笑みを絶やさず、シャルルに告げるルージュ。シャルルは納得いかないようだ。

 

「わ、私……天空魔法使います。天空の滅竜魔導士です!」

 

ウェンディがそう少し大きな声で言うとギルド内はしぃん……と、静まり返った。

 

誰も声を発さず、目を見開く一同を見てウェンディはふっと暗い表情を浮かべる。

 

「っ……(信じて貰えない……かな)」

 

珍しい魔法だから……仕方ないか、と目を伏せるウェンディ。

そんな彼女の肩をポンッと叩く人物が……

 

 

「ふぇ……」

顔を上げるとウェンディの隣にはシクルが立っており、ウェンディと目が合うとにっこりと微笑んだ。

 

「大丈夫だよ……ほら」

そう、シクルが呟いた次の瞬間……

 

「「「うぉおおおおお!!! すげぇ!」」」

 

ギルド内から歓声が上がった。

 

ビクッ! 「ふ、ふぇ!?」

 

「滅竜魔導士だぁー!!」

 

「すげぇ!! こんな可愛い子があんなすげぇ魔法使うなんて!!」

 

「ガジルやシクルもいるからこのギルドに4人も滅竜魔導士がいることになるぞ!!」

 

「すげぇすげぇ!! 本当に珍しい魔法なのにな!」

 

ワラワラとウェンディに群がるギルドメンバーたちにオドオドするウェンディ。

そこへ……

 

「はいはい、そんなに大勢で群がったらウェンディが潰れちゃうでしょー?」

はい離れた離れたーっとウェンディを押し潰さんとする勢いで迫るメンバーを押しやるシクル。

 

それに1人の男がブスっとした顔で……

「えー、いーじゃんかよちょっとくら……」

と、反論をすると……

 

「なにか文句でもあるかなぁ? ウェンディが潰れちゃってもいいと?」

ニッコーリ……とした、笑みで凄むシクルを見て首を横へと勢いよく振り否定する。

 

「シ、シクルさん……怖い」

 

「そーかしら? 私はまともなほうだと思うけどね」

少し苦笑を浮かべ、シクルから無意識に距離が離れるウェンディにシャルルが首を傾げ告げる。

 

 

「よっしゃー!! 今日は飲むぞー!!」

 

「今日は宴だー!!!!」

 

「「「おぉおおおおおおっ!!!!」」」

 

宴の一声とメンバーからの歓声から始まった宴。既に出来上がっていたメンバーも新しく酒を飲み始める。

 

「ミラちゃーん!! こっちにもビール!」

 

「はいはーい!」

次々に飛び交う注文をせっせと受けるミラ。

 

「シャルルー、オイラのお魚いる?」

 

「いらないわよ!」

 

「好き嫌いダメだよぉ? シャルル」

ハッピーとルージュがシャルルに声かけるもシャルルからの反応は薄い……。

 

「うぉおおおおおっ!! 燃えてきたァ!」

 

「きゃー!? あたしの服ー!!」

 

「ありゃ、ナツー……ルーシィが燃えちゃうからやめなさい」

服が燃え始めたルーシィにカラカラと笑いながらナツを静めるシクル……

 

「笑ってないでこの火どうにかしてぇ!?」

 

 

「グレイ様……浮気とかしてませんよね?」

 

「何だよそれ……」

 

「大丈夫だよ、ジュビア。 グレイはずっとジュビアのことを考えてたよー」

 

「おいシクル!? 何言って……「本当ですか!?」おいっ!」

シクルの言葉を聞き、ジュビアはキラキラとした瞳でシクルに迫る。

 

「はっはっはー、ほんとだよジュビア。いいねぇ……愛されて」

 

「グレイ様……ジュビア感激っ!!!」

そう叫び、グレイに抱きつくジュビア。

 

「シクルのバカヤロぉおおおおおっ!!」

 

最後に聞こえたのはグレイの絶叫だが……シクルは気にもせずケラケラと笑いながら1人質問攻めから解放され椅子に座っていたウェンディの元へと向かう。

 

「どう? ウェンディ……ここは」

ウェンディの隣に腰掛け、目の前を通ったミラに飲み物を注文しながら声かける。

 

「はい! 楽しいところですね! ここは……凄く、楽しいです!」

にっこりと笑い、そう言ったウェンディの答えに「そっか」と満足げに微笑むシクル。

 

「私、ここに来て良かったです!!」

 

「ふふっ、そう言ってもらえて何よりよ」

 

ウェンディとシクル、2人で話をしていると……

 

ピクッーーー 「あれ……?」

シクルの嗅覚が珍しい匂いを嗅ぎとる。

 

「どうしました?」

 

「ん? ううん、何でもないよ……ちょっとここ離れるね?」

ウェンディにそう告げ、シクルは暴れ回るメンバーたちの間を通り、ギルドの外へと出た。

 

 

コツッーーー

 

「やっぱり……帰ってたんだ、ミストガン」

 

「……シクルか」

 

 

シクルの嗅覚が感じた匂い……それは、ミストガンだった。

シクルの声に、背を向けていたミストガンは振り返る。

 

「顔出してかないの? ……7年久りなんでしょ?」

首を傾げ、そう言ったシクルの言葉に目を見開くミストガン。

 

「何故……それを」

ミストガンからの問いかけにふっと目を伏せ、語り出す。

「そりゃあ……あのジェラールは7年前と言えばまだ楽園の塔を造り上げることにしか執着していなかった……だから、そんな彼がウェンディと数ヶ月ともにするとは考えられない……」

 

シクルはそこで一度言葉を切り、目を開け……

 

「と、なると……同じ顔を持った貴方何じゃないかなと……思ってね? ミストガン……ううん、ジェラール」

と告げた。

 

 

「……はぁ、まったく……君のその勘の良さにはいつも参ってしまうな……その通りだよ、シクル」

 

ミストガンのその言葉を聞き、少し眉を下げ悲しい表情を浮かべる。

「……言って、あげない……の?」

 

 

「……私は彼女を、7年間も放ってしまった……そしてまだ、私の任務は終わっていない……彼女と話をするのは、せめて……全てが終わってからだ」

 

ミストガンはそれだけ言うと、シクルに背を向け……去っていった。

 

 

「……待ってるよ? ウェンディは……」

 

姿の見えなくなったその場所をずっと見つめるシクル……そこへ

 

 

「おーい! シクルー!!」

 

シクルを呼ぶ……ナツの声が響いた。

 

「ナツ……」

声の方を振り返ると……

 

少し息を切らして駆け寄ってくるナツがいた。

「こんなとこにいたのかよ! すげぇ探したのにいねぇから……てかこんな所で何して……」

 

ナツはそう言い、シクルの顔を見ると目を見開いた。

 

「……どうした? シクル……」

 

「……え?」

 

ナツのその言葉の意味がわからなかったシクルに……ナツの伸ばした手が頬に触れた。

 

「なにか……あったのか? すげぇ……悲しそうな顔してる」

ナツのその言葉に少し目を見開き……

 

ふっと、微笑むと

「……ううん、何でもないよ? 大丈夫」

言った。

 

ナツは少し納得のいかない様子だったがはぁとため息をつき諦めると……

 

「まぁいいけどよ……なんかあったらちゃんと言えよ? 俺に……隠し事なんか、すんなよ」

 

「……うん、分かった」

 

シクルの返事に満足したナツはニカッ! と笑みを浮かべるとシクルの手を取り、「早く皆で騒ごうぜ!」と言い、ギルドへと戻っていった。

 

 

 

新たな仲間、ウェンディとシャルル。

妖精の尻尾はまた、賑やかとなった。

 

 

そして、宴の最中……シクルはふと、懐のポーチの中身を確認し……

 

「あ……薬切れそう……そろそろ、補充に行かないとな」

と、ひとりでに呟いた。

 

 

元気かなぁ………… “ジル婆”

 

宴で騒ぐメンバーを見つめながら、懐かしいある人物を思い浮かべ、ふふっと微笑んだ。

 

 




はい! 如何だったでしょうか……

次回はオリキャラが2人ほど登場します!
そのうち1人はある方から頂いたキャラクターになります!!

では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!
次回はまた明日になるかと思われます!


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53話 懐かしい再会

はい! 今回から数話、オリジナルのお話が始まります!


オリジナルなんていいよ……と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが……最後までお付き合い、お願いします!


 

ウェンディとシャルルの歓迎の宴を開催してから2日後……

 

ギルドでは、ウェンディとシャルルの住む場所を探している時、シクルはとある人を訪ねに、暗い森の奥深くを歩いていた。

 

 

「んー……久しぶりだなぁ……元気かな、ジル婆……」

 

そう呟き、シクルの脳裏に浮かぶは少し腰の曲がった白髪の女性……

 

「前回は……あの仕事の前だから……半年以上は会ってないんだなぁ……怒られちゃうかな?」

 

苦笑を浮かべ、怒られたくないなぁ……と呟きながら足を進めると……開けた場所に出た。そして……

 

小さな川と泉のあるところに建つ一件の大きく少し古びた建物が目に入る……。

 

「ついた……」

 

ふぅと深呼吸をすると、コンコンッと扉をノックする。

そして中からは間を空けず、声がする。

 

「空いてるよ……」

 

「失礼します」

 

シクルが扉の中へ入ると……腰掛け椅子に腰掛け、何かの本を読んでいる白髪の左眼を包帯で覆った老婆がいた。

彼女の名は “ジルリエ・ルメドゥサン” 。

 

親しいものからは “ジル” の愛称で呼ばれる。

 

ジルはシクルが入ってきたことに気がつくと本から目を離し、シクルをじっと見つめる……。

 

「……シクルか」

 

「うん……久しぶりだね、ジル婆」

元気だった? と首を傾げ、声をかけるシクル。だが、ジルははぁとため息を一つつく。

 

「シクル……お主、また無理をしたな?」

 

「え……」

 

ジルは腰を上げ、シクルの横に椅子を持ってくると座るように首で指示する。

 

シクルはほんの少し、怖がりながら椅子に腰掛ける。

すると……

 

「……んの、バカ娘がぁあああっ!!!」

 

スパーン!!!

 

「いったぁああああいっ!!!」

 

突然シクルの頭にジルが持っていた分厚い本が振り落とされる。

 

シクルは叩かれたところを涙目で抑え、ジルを恨めしそうに睨む。

 

「な、何すんのさぁ……! ジル婆!! 暴力反対だよ!?」

 

「ふんっ……約束も守らん娘が何言っとるか……ほれ、診てやるから服脱ぎな」

 

ジルにそう告げられ、シクルは痛む頭を抑えながら服を脱ぎ、ジルに背を向け座った。

 

そして、シクルの背中にジルは右手を添えると淡い光を手から放つ。

 

「あーぁ……ほれみろ……身体中ボロボロじゃないかぃ……」

 

しかめっ面でシクルを叱るジル。

 

「うぅー……」

シクルは顔が上げられない様子でしょんぼりとしている。

 

「全く……またいくつか注射するよ? いいね」

ジルの言葉にコクリとシクルが頷くとジルは数本の注射器を取り出す。

そして……

 

「じゃあ……ちと痛いぞ」

 

プスッと針をシクルの背に打つ。

その瞬間ビクッ! と肩を揺らし、表情を歪めるシクル。

「いっ……つぅ」

 

「我慢しんさい……ほれ、あと4本じゃ」

 

「4本!? 4本も打つの!?」

ジルの口から出たその言葉にばっとジルの方を振り返るシクル。だが、その頭を再び分厚い本で叩かれ……

 

「動くんじゃないよ!! 刺す場所を間違えるじゃろ!!」

 

「つぅー! ごめんなさい……」

再び涙目になりながらジルに背を向ける。

そんなシクルの背にジルは深いため息をつき

 

「全く……半年に1度は来いといつも言っとるじゃろーに……8ヶ月も来んとは……注射も増えるに決まっとろう」

 

「だってここのところ忙しくて……ここまでめんどうだし……(ボソッ)」

 

「面倒言うんじゃないバカタレ!」

シクルの小さな呟きを正確に聞き取ったジルに目を見開くシクル。

「なんで聞こえるの!?」

 

「当たり前じゃ……何年主の主治医をしていると思っとる?」

 

「うぅー……4年……くらい?」

 

「5年じゃ」

 

ジルのその指摘に、「あれ? そうだっけ?」と苦笑を浮かべ、呟き考え込むシクル。

 

その間に4本の注射も打ち込まれる。

 

「ほれ……終わったよ」

 

「ふぇ……あ、ありがとうジル婆」

シクルは脱いだ服をいそいそと着始める。

そこに……

 

「……シクル」

ジルの声が掛かる。

 

「なぁに?」

 

「あまり……無茶をするな……確かにお主は魔力も高い……一般と比べれば強いやもしれぬ……だが、お主も一人の人間じゃ……出来ることは限られ……「それでもやらなきゃ……」シクル……」

 

ジルの言葉を遮り、言葉を発したシクル……

シクルは弱く笑みを浮かべる。

 

「無茶でも……私に出来ることならやらなきゃ……それに、ジル婆……私は、普通の人間じゃないよ…………私は……」

 

 

 

“バケモノ” だよ……

 

「シクルっ!!!」

 

「っ!」

ジルの大声に肩を揺らし、驚くシクル。

 

「……お主は、ちゃんとした人間だよ……それは、この私が、保証しよう……お主は、人間じゃよ……」

 

「ジル婆……」

ジルはそっとシクルの頬に触れる……そして、ふっと優しい笑みを浮かべる。

 

「シクル……お前は優しい子だ……自信を持つんじゃよ?」

 

「……うん」

小さく笑みを浮かべ、「ありがとう……」と呟くシクルの頭を数度撫で、離れるジル。

 

「それと……ほれ、いつもの薬じゃ……今回は3ヶ月分とちと少ないがのぉ」

 

ジルの手から放り投げられた袋をパシッと受け取るシクルは首を傾げる。

 

 

「え? いつもは半年か10ヶ月分だよね? なんで今回は……」

 

「お主以外にも、いたからのぉ……」

 

 

ジルの言葉に、「私以外……?」と、シクルが首を傾げた時……

 

ジルの腰掛ける椅子の奥に位置する扉がガチャと開き……

 

「ジルお婆ちゃん……お客様です……か?」

 

そこから出てきたのは……銀色の長髪に、碧い瞳をした少女……

 

少女はシクルを見つめ、目を見開き……シクルもまた、少女に気づくと目を見開き驚きを露わにする。

 

 

「……シクルちゃん?」

 

「……え」

 

少女はシクルの返事を待つことなく、駆け寄り、シクルに抱きついた。

 

 

「本物のシクルちゃんだぁ!」

 

「え? ……エマ?……わぁ!! 久しぶり!!」

 

シクルはやっとその少女に抱きつかれ、我に返る。

 

少女の名は “エマ・ヴァレンタイン”

 

シクルが各地を放浪してた頃に出会った昔馴染みだ。

 

「元気でした? シクルちゃん」

 

「もちろん! 元気いっぱいだったよ! エマも元気そうで……良かった!」

 

にっこりと微笑み合う2人。ふと、シクルは先程のジルの言葉を思い出す……。

 

「もしかして……もう1人の子って……エマのこと?」

 

「はい。 私もお薬がなくなってしまいまして……ジルお婆ちゃんのところに貰いに来たんです」

 

そっかと頷くシクル。

 

「エマ、このあと時間ある? あったらどこかでお茶しない?」

 

首を傾げ、問いかけるシクルだが……

 

「あ、ごめんなさい……今日はちょっと……

ミラクルも置いてきちゃって……待たせてるので」

と、エマはシクルからの誘いを断った。

シクルは気にしたふうもなく、そっかと呟き……

 

「じゃあまた今度……次は会う日を決めてお茶しましょ?」

と言った。

 

「はい!」

 

にっこりと微笑み、頷くとエマはジルを振り返り……

 

「それでは、ジルお婆ちゃん……私はそろそろ行きます……ありがとうございました」

 

「気にせんでええ……また顔を出しんさい……待っとるからのぉ」

 

ジルの言葉に頷くエマ。

「じゃあ……また会いましょう? シクルちゃん」

「うん、またね」

 

最後に、シクルと二言三言会話をするとエマは去っていった。

 

「ふぅ……じゃあ、ジル婆……私もそろそろ」

 

「待つのじゃ」

荷物をまとめ、出ていこうとしたシクルを止めるジル。

 

「んえ? 何……?」

 

「……お告げじゃ、どんな時も……自分を見失うでないぞ? 先も言ったじゃろう……自信を持てと……忘れるでない」

 

ジルの真っ直ぐとした真剣な眼差しに……シクルは数秒、瞬きもせずじっとジルを見つめ返し……不意に、ふっと笑みを浮かべた。

 

「分かった……ありがとう、ジル婆……」

 

じゃあ、また来ますと言い、シクルは扉を開け、出て行った……。

 

「……はぁ……まったく、本当に……困った娘じゃの……」

 

 

 

ジルの家を出て、妖精の尻尾へと歩き帰る途中……

 

「……ふぅ(自信……ねぇ)」

 

ふと、少し暗くなってきた空を見上げるシクル……

 

 

「……自信なんて、持てないよ……ジル婆」

 

 

私がバケモノなのには……変わりないんだ……

 

 

シクルは夜空から自身の両手へも目を落とした。そして……ギュッと手を握り締め、表情を歪める。

 

「……運命……か」

 

そっと呟き、深く長いため息をつく……そして

 

パンッ! とシクルは自身の両頬を叩くと……

 

「……大丈夫……大丈夫、私はまだ……」

と自分に言い聞かせ、笑みを浮かべた。

 

それを何度か繰り返し……歪んでいたシクルの表情はのほほんとした表情に戻った。

 

 

 

「はぁ……それにしても、酔い止め……3ヶ月分しかくれなかったなぁ……」

 

エマの分と半々だってのも分かるけど……

 

ジルに渡された薬の袋を見つめ……再び小さくため息をつくシクル。

「多分……3ヶ月以内に来いって事なんだろうなぁ」

 

行くのはいいけど……

 

 

「ジル婆の家まで遠いんだもんなぁ……めんどくさくなっても仕方ないじゃん……」

 

そう呟き、私は悪くない! と勝手に自己完結すると薬の袋を懐にしまった。

 

 

カサッ

 

「ん?」

 

袋をしまった手が何かに触れる。

それを取り出すと……

 

「あ、アトスからの手紙……(忘れてた……)」

苦笑を浮かべ、危ない危ないと呟きながら腰掛けられそうな切り株を見つけ、そこへ腰掛けると手紙の封を開けた。

 

「えっと……」

 

アトスからの手紙にはこう記してあった。

 

 

“ シクル・セレーネ様へ

 

 

お久しぶりです、突然の手紙ですいません

 

一つご報告です……あぁ、貴女はもうご存知かとは思いますが、私はあの楽園の塔の事件以降、評議会を辞めました。

 

 

今は知り合いの魔導士学校で子供たちに魔法を教えています。

……まぁ、このことは隅に置きまして……

 

 

実は、近々私と会って頂きたいのです……

 

シクルさんのご都合が良い日を、教え頂けませんか?

 

手紙に同封した緑の紙に日付を書き込んでいただければその情報は直接私に届くようになっていますので……お願いします。

 

 

ではまた……お会いする日を楽しみにしております。

 

アトス・リヴァイアスより ”

 

 

「……そっか、やっぱり……辞めたんだ(辞めたというより……辞めさせられた……の方が強い気がするけど)というか……緑の紙って……」

 

手紙の入っていた封の中を探ると、確かに手のひらサイズの小さな紙が入っていた。

 

「これに書けばいいのかな? 日付ねー……」

 

シクルは今後の予定を考え……

 

 

「暫くは評議会からも依頼は来ないだろうし……うん、3日後でいいかな」

 

 

そう呟き、緑の紙へ “3日後の午後で” と記した。すると……

 

ボッ! と紙が翠の炎を灯した。

 

「わっ! これ書いたら燃える仕様なの? (手紙で記してくれてもいいじゃないのよ! もぅ……時折抜けてるんだから……)」

 

はぁと、ため息をつくと手紙をポケットへしまい、立ち上がる。

「さて……ルージュも待たせてるし……帰ろ」

 

思ったよりも時間がかかったと思い、ギルドまで光を纏い光速で帰ることにしたシクル。

 

 

そして、ギルドに戻ると……

 

「……何やってるの?」

 

ギルドのプールがあった場所が爆発したかのように粉々になっており……ナツやグレイ……ほぼ、ギルドの男達がその体に傷を作り、渋い顔をしていた。

 

「あ、おかえりーシクル!」

シクルの帰還に気づいたルージュがその頭に飛び乗る。

 

「わっ、ただいまルージュ。どうしたのこれ?」

 

「うん、実はねぇ……」

と、ルージュはシクルに昼間、起きたことを話した。

 

話を聞いたシクルは……

 

 

「あっははははははっ!!! プールの底に覗き部屋があって? マスターが作ったもので、そこで丁度泳いでたマスターの……ぶふぅ!! あははははっ!!!」

 

大笑いしていた。

 

「ぬぬぬぬっ!! 笑ってんじゃねーよ!!」

がぁー!!とナツが怒鳴るも……

 

「ぷははははっ!!」

シクルの笑いは止まらない……。

 

「んなに笑わなくてもいーだろうが……」

むすっとしたグレイの言葉。

 

そして、数分後、やっと落ち着いたシクル……

「はぁー……笑った笑った。で? それで皆ふくれっ面してたの?」

 

「ふくれっ面なんかしてねぇっ!」

シクルの言葉に吠えるナツ。だが……

 

ピンッ! と、ナツの額にシクルからのデコピンが落ちる。

「って!! 何すんだ!」

 

「その顔のどこがふくれっ面じゃないって? 全く……プールはまたみんなで作り直せばいいでしょ?

マスターだって……ほんとは忙しい人だもん。たまにはお茶目っ気だって出るよ……

 

みんなの傷は私が治してあげるから……みんなはふくれっ面を治しなさい」

 

シクルはにっこりとナツに微笑み、他のメンバーにも顔を向け、そう告げた。

 

そのシクルの言葉におぅ……と、頷き、一応ふくれっ面は消えた面々。

 

「よし! オッケーオッケー! さてと……

 

【我、月の加護の名の下に

 

愛する者の身を包み その身、回復させん】

 

歌魔法《ソングマジック》治癒 (ヒール) 」

 

シクルの両手から放たれた光は、その場の面々を包み込み……あっという間にその傷を治した。

 

「じゃあ……あとはここの片付け、ちゃんとやるのよー」

シクルはそう言うとルージュを連れ、ギルドを出て行く。

 

「てぇ……おい!? 手伝ってくれんじゃねーのかよぉ!? おいシクルー!!!」

 

「傷は治したんだからあとは頑張りなさーい」

 

「またねぇ!」

シクルは呼び止めるナツにそう言い放しながら、片手を上げ手を振り、ルージュもまた、ナツたちにバイバイと言った。

 

その後もナツは呼び止めるがシクルの足が止まることはなく……

 

「シクルの……薄情者ぉおおおおおおお!!!!」

 

 

その夜……ナツの絶叫がマグノリア全体に響いた。

 

 




はい! 如何だったでしょうか。ちなみに、エマ・ヴァレンタインはある方からどうぞ!と言って頂けたので登場させちゃいました!


魔法は今回出ていませんがまたどこかで、登場して頂くのでその際に!

それでは……次は本日の夜かまた明日になるかと思います。
最後までお付き合い、ありがとうございます!


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54話 約束の日


はい! すいません前話からの投稿に少し時間が空いてしまいましたね……


フェアリーテイルの映画、2回目!見てきました笑

そしてまさかの特典ナツさんが出ました笑笑


飛び跳ねちゃいました……恥ずかしいっ!


……こほん……前置きはこの辺にしまして、54話……
最後までお付き合い、お願いします!


 

 

数年久りに昔の友人、エマと再会してから3日後……

 

 

「んー……ふぁあ……」

 

カーテンの隙間から入り込む陽の光に目が覚める……。

 

少し寝癖のついた髪がぴょんぴょんと跳ねる頭を重く持ち上げ、ぼぉっと一点を見つめるシクル。

 

そして、ふいっと顔を横へ向けカレンダーが目に入る。

 

「……あ(今日……アトスと会う日だ……)」

 

危ない……少し忘れてた……

 

 

ふぅ……と、一息つくと、隣で寝ているルージュへと視線をやる。

ルージュはシクルに気づかず、「んー……むにゃ」と小さくいびきをかき寝ていた。

 

そんなルージュを見てふっと、笑みを浮かべると起こさないように立ち上がり、カーテンを開ける。

 

朝日を浴び、ぐっと背伸びをするシクル。

「んっ……んー! はぁ……アトス……話ってなんだろ?」

 

最後に会ったのは確か聖十の称号を貰った時だった……気がする。

 

「……何かやっちゃったっけ?」

やってないと思うけどなぁと呟きながら、普段着に着替えると髪を結び、寝室を出ると台所へと向かう。

 

 

「さて……朝は何にしよっかなぁ……」

 

冷蔵庫を開け、朝の献立を考え……

「お手軽なのでいっか?」

と、呟き調理が始まる。

 

まずスクランブルエッグを作り、お皿に盛ると、味付けには胡椒とケチャップをかけ、その横にソーセージを2本ずつ添える。

 

最後に豆腐とほうれん草を使ったお味噌汁を作り、ロールパンを用意。

 

それらをテーブルへと運び、一通り朝食の準備が出来た頃……

 

「ふぁああ……おはよぉ、シクルゥ」

目を擦り、ふよふよと飛びながらルージュが起きてきた。

 

「おはよ、ルージュ。ご飯、出来てるよ?」

 

シクルのその一声にルージュはもう一度大きく欠伸をすると、次の瞬間にはぱっちりと目が開き

「朝ごはんだァ!」

と、お気に入りの席へと座った。

 

「はい、ホットミルク」

ルージュは朝決まってホットミルクを飲むのが習慣となっている。

 

少し熱めのホットミルクをルージュの前に出すと「ありがとぉ!」とシクルに言い、一口ゴクッと飲む。

 

「ふぁ……おいしぃー」

 

「フフッ、良かった……じゃあご飯、食べよっか」

 

「あい!」とルージュが答えると同時に手を合わせ……

 

「「いただきます!」」

と、朝食を食べ始める。

 

食べ始めてから数分……

 

 

「あ、そーだ。ルージュ、今日の午後はちょっとギルドでお留守番お願いしてもいい?」

 

「えぇ……? いーけどぉ……どうしたのぉ?」

唐突なシクルからのお願いにルージュはコテンと首を傾げ、問いかける。

 

「ちょっと人と会う約束があってね……人って言ってもアトスなんだけど……」

 

「アトスって……評議院の?」

 

「そーそ。 大事な話があるってこの前手紙に書いてあってね? 会って欲しいって……だから今日会うんだ」

 

その間だけお留守番……よろしくね?

と言ったシクルにルージュは目を見開く。

 

「えぇ!? 大事な話って……シクルゥ、何のことか分かってるのぉ?」

 

「……さぁ? よく分からないけど……大事な話って言うからまぁ、重要な話なんじゃない?」

ルージュからの問いかけに少し考えながら、んーと答えるシクルに……

 

「そ、そっか……(絶対告白だぁ……それに気づかないシクルって……)」

 

鈍感というより……無知?

 

ため息をつくルージュであった……。

 

 

「ほら、早くご飯食べてギルド行こ?」

シクルのその言葉に、「あ……うん」と頷き、朝食を食べ進めるルージュ。

 

そして、朝食を食べ終え、洗い物が終わるとシクルとルージュは妖精の尻尾へと向かった。

 

「あ、ナツたちに今日は一緒に仕事行けないこと言わないとね」

ギルドにつくほんの少し前にそう呟いたシクル。

 

「え……あぁ、うんそうだねぇ……(アトスに会うことはナツに伝えない方がいいと思うけどぉ……)」

苦笑を浮かべ、その事を知った時のナツがどうなるか少し恐ろしく感じるルージュの目の前にはすでにギルドが見えていた。

 

 

ガチャーーー

 

「おはよー!」

 

「おはよぉ!」

 

シクルとルージュの声に気づいたメンバーが一斉にそちらへと目を向け、笑みを浮かべる。

 

「おはよう、シクル! ルージュ!」

 

「おはよう、ミラ! いつものちょーだい!」

 

カウンターへと一直線に駆け寄り、椅子に座るとミラに注文をするシクル。

「はいはい」と、笑いながら答えすぐに飲み物を持ってくるミラ。

 

「はい、甘めのココアよ」

シクルは暖かいココアに砂糖を入れた超甘いそれが大好きなのだ。

 

「わぁ! ありがと、ミラ」

にっこりと笑い、一口ココアを飲むと……

 

「ふぁあ……やっぱりミラのいれるのは美味しいねぇ」

と、のほほんとした表情で呟く。

 

そこに……

 

「おーす! シクル! ルージュ!はよぉ!!」

 

「きゃあ!?」

ガバッ! と突然現れ、腕を回し肩を組んできたナツに驚くシクル。

 

「おはよぉ、ナツ!」

 

「び、びっくりした……もぉ、ナツ……いきなり飛びついてこないでよ?」

 

「なっははっ! わりぃわりぃ!」

カラカラと笑い謝るナツを見て反省してないな……と感じるシクル。

 

「と、そーだ……シクル、今日一緒に仕事行かねーか? 丁度いい仕事があんだよ!」

 

「ん? あー……ごめん今日は無理なんだ」

 

ナツからの誘いをやんわりと断ったシクル。すると、ナツはぶすっと膨れ面になり……

 

「んだよぉ……まためんどくせぇかよ?」

つれねぇなぁと不貞腐れるナツにため息を吐くシクル。

 

「違うって……今日は本当に用事があるの」

 

「用事ぃ? なんだよそりゃ」

 

シクルとナツの会話にまずいっ! と予感するルージュがシクルを止めに入ろうと口を開くが……

 

「まっ! シク……」

 

「アトスからね、大事な話があるって言われて……今日会う約束してたのよ」

 

「……は……な、何だとぉおおおっ!?」

 

シクルの言葉にナツは叫び、ルージュははぁとため息をついた。

 

「え?なに? どーしたの?」

きょとんと首を傾げるシクルの肩をガシッ! と掴むナツ。

 

「おい……アトスってまさか……あの評議院の……あいつか!? 茶毛の!」

 

「そーだけど……」

 

「つか大事な話って……おい、シクル! 行くんじゃねーよ! 」

まさか受けるのか……!? と騒ぎながら大声を上げるナツ。

 

「えぇ!? なんでよ……もう約束しちゃったもん……行かなきゃダメでしょ?」

 

そこからナツとシクルの「行くな!」と「行きます」の言い合いが始まった。

丁度その時ハッピーとルーシィがギルドに来た。

 

「おはよー! て、どうしたのあの2人」

 

「ナツー置いてくなんてひどいよー……何やってるの?」

 

ギルドについて早々、言い合いをしているシクルとナツを見て不思議そうな表情を浮かべるルーシィとハッピー。

 

「実はねぇ……」

ルーシィとハッピーに今までのことを説明するルージュ。その話を聞くと……

 

「えぇ!? それでシクルは気づいてないの?」

 

「みたいだよぉ?」

 

「うわぁ……なんかアトスが少し哀れだね……」

 

ハッピーのその言葉に頷くルージュとルーシィ。

すると、ふとシクルを見つめていたルーシィが怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「……てか……シクル!!」

 

「ふぇ? あ、ルーシィ……どうしたの?」

 

笑みを浮かべるシクルに駆け寄るルーシィ。

 

「ちょっとシクル! あなたもしかしてその格好で会うの?」

 

「……え? 格好って……変かな? 普段通りなんだけど……」

首を傾げ、自身の服装を見るシクルにルーシィはため息をつき、カウンターにいたミラも苦笑を浮かべる。

 

「そうねぇ……流石にそれじゃあちょっとまずいかもねぇ?」

 

「えぇ……ミラまで」

 

「デートなんでしょ!? デート! もっとお洒落しなきゃ!!」

 

ルーシィの言葉に一瞬目を見開くシクル。

 

「え……デートって……恋人とか好きな人同士がするあのお出かけのことだよね? 違うよ? アトスとはそんなんじゃないし……向こうもその気はないよぉ」

 

ケラケラと笑い言うシクルに、ポカーンとするルーシィとハッピー。

 

ちなみにナツはルーシィがシクルにお洒落を勧めた辺りでミラに抑えられていた。

 

「それでも久しぶりに会うんでしょ? 髪型くらいは変えてもいいと思うわよ? ルーシィ、頼めるかしら」

 

ミラのその言葉にルーシィは「ラジャー!」と答え、シクルの後ろに回る。

 

「じゃあ、ちょっと大人しくしててねー」

 

「別にいいのになぁ……」

 

ルーシィが髪をいじり始めても渋々と言った様子で納得のいかない様子。

 

 

それでも、数分でシクルの髪は普段とは変わり、三つ編みで、頭の上でお団子を結ったものになった。

 

「はい! かんせー!!」

じゃーん! とシクルに鏡でその姿を見せる。

 

「おぉー……さすがルーシィ……綺麗だね」

 

「わぁ、髪型だけで印象すごく変わるねぇ……」

 

「あい……」

 

最初は乗り気ではなかったシクルだが、いざ髪型が変わるとふっと笑みを浮かべ……

 

「ありがと! ルーシィ!」

と、言った。

 

そして、まだ少し残っていたココアを飲み干すと……

 

「じゃあそろそろ時間だから……行ってきます!」

と、ギルドを出て行った。

 

「いってらっしゃーい」

シクルが出ていくとやっと解放されるナツ。

 

「ぶはっ! ンにすんだよミラ!! シクルのやつ行っちまったじゃねェか!!」

 

「あらあら、いいじゃないの? 別にナツはシクルの彼氏じゃないでしょ?」

 

ミラのその言葉にうっと気まずい表情を浮かべるナツ。

 

「た、しかに……ちげぇけど俺は……!」

 

グッと拳を握りアトスと会うシクルを想像する……

 

 

“シクルさん……僕……あなたが好きです……

 

付き合ってくれませんか……? ”

 

“嬉しい……私も、アトスが好き……”

 

そう応え、頬を赤らめ顔が近づく2人……

 

 

「っ! うぁああああっ!!! やっぱ納得いかねぇええええええ!!!!」

 

うぉおおおお!!! と叫び、ギルドを飛び出していったナツ……。

その姿が見えなくなると……ルージュはふとミラを見上げる。

 

「……策士だねぇ」

 

「ウフフ、何のことかしら?」

 

普段と変わらない笑みを浮かべるミラを見てブルッと震えるルージュ……

 

ミラだけは敵に回したくない……そう思った瞬間であった。

 

 

ナツが叫び、ギルドを飛び出した頃……

 

 

シクルは待ち合わせのマグノリアの広場に位置する噴水前でアトスを待っていた。

 

「んー……ちょっと早かったかなぁ?(それにしても……やっぱり少し後ろがすぅすぅする……)」

 

髪上げてるからかなぁと、髪型を気にするシクル。

 

そこへ……

 

「おや、もう来ていたんですか……早いですね」

 

「アトス!!」

 

アトスが現れた……シクルはその声に振り返る。

振り返ったシクルを見てアトスは少し頬を赤らめる。

「……今日は、髪型……違うんですね」

 

「あ、うん……ルーシィにいじられたんだぁ……似合わないよね?」

コテリと首を傾げ聞いてくるシクルに……

 

ふっと笑みを浮かべるアトス。

「いいえ……とてもお似合いです」

 

アトスの言葉に「そう?」と問うシクルに、「はい」と答えるアトス。

 

「では……行きましょうか?」

 

そっと、シクルの手を取るアトス。

 

「え……い、行くって……どこに?」

 

戸惑いのシクルを振り返り、ふっと笑みを見せるアトス。

 

 

「秘密です、着いてからのお楽しみです」

 

「えぇ!? ちょ……わ、待ってよ!」

 

クイッとシクルを引っ張り、隣に立たせ並んで歩く2人。

 

 

アトスとシクルの向かう先は…………

 

 

 

次回! に、続きます。

 

 

 





はい!! 本当は1話でアトス回を終えるつもりだったのですが……

気になる告白は……次回!! となります……


すいません、変なところで終わらせてしまい!
その分次回は早めに投稿します!

では、最後までお付き合い、ありがとうございます!


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55話 アトスの告白そして…

はい! 最初に……


アトスごめんねぇええええええ!!!!
ほんっとに救われず……orz


では、本編……最後までお付き合い、お願いします。


「わぁ!! すごぉい……本がいっぱい!!」

 

「喜んで頂けているようで良かったです」

 

 

シクルの手を引き、アトスがやって来たのはマグノリアの中では恐らく2番目に大きい図書館だった。

 

「凄いね! 私こんな大きな図書館がマグノリア図書館以外にあったなんて知らなかったよ!」

 

「ここはそれなりに穴場の図書館ですから……僕も、最近ここを知ったんです

 

シクルさんは読書がお好きですよね? 気に入っていただけるかと思ったのですが……」

 

少し照れた様子でそう話すアトスを見つめ……ふっと笑みを浮かべると目を細め

「ありがとね、アトス!」

と言った。

 

「い、いえ……///」

 

シクルのその笑みに鼻を抑えるアトス。そんなアトスを不思議そうに見つめるシクル。

 

そして……鼻を抑えたのは他にも……

 

 

「っ〜〜〜!!! ンだありゃ……反則だろぉ!?」

 

「しっ! 声が大きいわよ、ナツ!」

 

図書館に取り付けられている複数の窓の内の一ヶ所の外から中を覗く人影……それは、シクルを追いギルドを飛び出したナツとミラの命令でナツを抑えるためについてきたルーシィだった。

 

「つか、今のをあいつにしたんだろ……くそぉ! 腹立つっ!」

 

「もぅ! だからってそんなに殺気立たないでよ!(シクルに気づかれるでしょうよ!)」

 

ルーシィはシクルに尾行していることを気づかれるのを恐れているが……

 

 

「……(何やってるんだろ……あの2人)」

 

既にバレてます。

 

「どうか致しましたか……?」

 

「ん? ううん! 何でもない何でもない! じゃあ、ちょっと色んなの見てみよっか」

 

あははと笑いながらアトスにそう言い、図書館の奥へと入っていくシクル。

 

奥へと入る前にもう一度ナツとルーシィのいる窓の方をすっと見やる。

 

そこではナツとルーシィがワタワタとじゃれ合うかのように少し騒いでいた。

その姿にクスッと笑みが溢れる。

 

……ズキッ

 

「……ん?」

笑みが溢れた瞬間、胸に違和感を覚えるシクル。だがそれはすぐに治まり……

 

「……気のせい、かな?」

気にしないことにしたシクル。

そして、少し先を歩くアトスを追い足音を立てぬよう、駆け出す。

 

「あ! シクルが奥に行っちゃった!!」

 

「んなにィ!? おいルーシィ! 俺達も行くぞ!!」

 

ルーシィの言葉に立ち上がり、図書館の中へと駆け込むナツ。

 

「あ! ちょっと!! 待ってよナツ!!」

バレても知らないわよ!? と声を上げながらルーシィも、ナツを追い図書館へと入っていった。

 

 

 

「んー……あ、これ解毒の本だ……(覚えておいた方がいいかな? あんまりアレは使えないし……)」

いくつか解毒についての魔法(応用編)などの本を手に取るシクル。

 

「何か気に入る本はありましたか?」

 

本棚の間からひょっこりと顔を出すアトス。

 

「うん! いっぱいあるわ」

にっこりと微笑むシクルを見て「それは良かった」と笑うアトス。

 

「この図書館、併設のカフェテリアもあるんですよ。そこで少し休憩しませんか?」

 

読書も兼ねて……と、アトスが提案するとパァッと笑顔が輝き、

「えぇ、行きましょ!」

と答えたシクル。

 

 

カフェテリアにてーーー

 

 

「んー……結構複雑な魔法……(出来なくはなさそうだけど……)めんどくさそう……」

 

カフェラテを飲みながら先程選んだ魔法書や応用編の記された本を読み進めるシクル。

 

その姿を目の前で静かに見つめるアトス……彼は、真剣に読書をするシクルを見てフッと笑みを浮かべた。

 

「ん? 今、笑った? アトス……」

 

「あぁ、すいません……読書に夢中なあなたがあまりにも可愛くてつい……」

 

「か、可愛いって……もぅ、そーいうのは本当に可愛い子に言わなきゃ!」

 

私に言ってももったいないよーと、カラカラと笑い言うシクルに苦笑が浮かぶアトス。

 

 

シクルのその言葉は備考を続けているナツとルーシィの耳にも入った。

 

「……シクルの奴、ほんとにあんなこと言ってんのか? シクルが可愛いなんてとうぜ……」

 

「あーはいはい、あんたの惚気はいいから……でも確かに、シクルってちょっと鈍感すぎよねぇ……警戒心もないし」

 

あたし少し心配だわ……と、言うルーシィ。そんな彼女を少し呆れた目で、ちらりと横目に映しナツはシクルへと視線をやる。

 

 

静かに読書の時間が過ぎていくシクルとアトス……

 

「静かだね……すごく」

 

「そうですね」

 

ふっと笑みを浮かべ、シクルの言葉に返すアトスを見つめ、ふとシクルは違和感を覚える。

 

 

……何でだろう……読書してる時に静かなのは凄く良いんだけど……

 

 

 

…………物足りない……

 

どうして……ーーー

 

「シクルさん……?」

 

「っ! あ、アトス……なに?」

アトスに呼ばれ、はっと我に返るシクル。

 

「ぼーっとしてましたよ? どこか体調でも……」

悪いですか? と問いてくるアトスに首を振り否定するシクル。

 

「そんな事ないよ。 大丈夫……何でもない」

クスッと笑みを浮かべるシクルに「そうですか……」と、微笑み頷くアトス。

 

 

「そう言えば、アトス……今日何か大事な話があるんじゃなかったの?」

 

「あ……え、ぇえ……そう、ですね……」

シクルからの突然のその言葉にフッと頬を赤らめ、シクルから目を離すアトス。

 

「どうかした……?」

コテンと首を傾げ、アトスを見つめるシクル。アトスは「い、いえ……」とだけ答え暫く無言となり……

 

「……ふぅ……シクルさん、大事なお話が……あるのですが……あの……」

 

「なに?」

 

「……あの、ここでは……少し話しにくいので……場所を……移してもよろしいですか?」

 

「ん? うん……いいけど……(ここじゃ話せないことって……なんだろ)」

 

頭の中でははてなマークが徐々に増えていくシクルだが、それを感じさせないような様子でアトスに答えるシクル。

 

「ありがとうございます……では、そろそろ行きましょうか」

そう言い、ガタッと立ち上がるアトス。

 

「あ、うん!」

アトスに続き席を立ったシクルは、図書館を出る前に読んでいた本を元のところへと戻していく。

 

借りてもいいのだが、シクル曰く、また戻しに来るのがめんどくさい……という事のようだ。

 

「お待たせ! じゃあ、行こっか? アトス」

 

入口前で待っていたアトスに、ごめんねーと謝りながら駆け寄るシクル。

 

「大丈夫ですよ。 それでは……案内しますね」

にっこりと微笑み、シクルの手を取り歩き出すアトス。

 

図書館を去る2人……その背後でコソコソと隠れているようで隠れていないナツとルーシィ。

 

「おい! あいつどこいく気なんだよ!?」

 

「あたしが知るわけないでしょ!? でもこの先は確か……」

ルーシィの脳裏に浮かぶのはある場所……

 

「んー……とにかく、追いかけるわよナツ!」

 

「おうっ!!」

 

 

「……(あれで尾行してるつもりなのかな……)バレバレ……フフッ」

 

尾行しているはずなのにそれが全くできていない似た者同士のナツとルーシィをチラリと見つめ、笑みが再び溢れるシクル。その時……

 

ズキッ……と、再び胸に痛みが走る。

 

「っ……(なに? 胸が……また?)」

 

どうして……? と少し考えながら、前を歩くアトスに遅れないよう、少し足取りの重くなっていたそれを早めた。

 

 

 

 

「わぁ!! すご……きれぇ!!」

 

アトスに連れられ、やって来たのは大きく、広く続く、花畑だった。

シクルの目の前には、赤、青、黄と色とりどりの花々が咲きほこっている。

 

「すごい……綺麗だね、アトス!!」

 

「そうですね……喜んで頂けているようで良かったです!」

頬を赤らめ、花々を見つめるシクルにふっと微笑み、愛おしそうに見つめるアトス。

 

「ありがとう、アトス!」

花々に囲まれ、アトスを振り返るシクル……その姿、光景にアトスは目を奪われる……

 

そして……

 

 

「そういえば……アトス、話ってな、に……」

 

ギュッ……

 

シクルの問いかけが終わる前に……ゆっくりと、アトスがシクルを抱きしめた。

 

 

 

その光景を見ていた彼、ナツは……

 

「ンがぁああああっ!!!」

 

……暴れていた。

 

「やめなさいっての!! 花畑が荒れるでしょ!?」

必死にナツを抑えるルーシィ……。

 

 

 

「……アト、ス?」

 

「……すいません……シクルさん、僕……僕は……」

 

ぎゅぅっとシクルを抱きしめるアトス。シクルはそんなアトスに困惑気味……。

 

「……初めてあなたを見た時から……僕は、あなたが好きでした」

 

 

「…………え」

 

目を見開き、アトスを見つめるシクル。

 

 

「すいません……どうしても、今のあなたが美しすぎて……思わず抱きしめてしまいました……ですが、僕の想いは本物です……シクルさん……」

 

「アト、ス……」

 

 

「……僕と、付き合って頂けませんか……?」

 

 

 

 

その場にアトスの告白が静かに響いた……その時……

 

 

 

 

「うぉおおおおおおお!!!! やっぱ許せねぇぇえええええ!!!!!」

 

 

「ちょ!! ばっ、ナツっ!!!!」

 

「「っ!?」」

 

 

茂みの影からルーシィに抑えられていたナツがそのルーシィの腕を振り払い、シクルとアトスの間に突っ走った。そして、ガバッ! とシクルをアトスの腕から引き剥がす。

 

「な、あなたは……!」

 

「ナ、ナツ……!」

 

 

「シクルは渡さねぇ!俺……俺だって……

 

 

シクルが好きなんだっ!! 誰にも譲らねぇぞこのやろぉっ!!!」

 

 

「えっ……」

 

ナツの口から出たその言葉に……シクルは目を見開き、アトスからの告白よりも驚愕の表情を浮かべた。

 

「あなたは……火竜の……」

 

ナツとアトスの間で静かな睨み合いが続く……そんな中で、ナツとアトスを交互に見やり、混乱が収まらないシクル。

 

 

え……え? アトスが……私を、好きで……

 

ナツも? え……冗談じゃなく? ……私……

 

 

 

どうしたら…………

 

 

ギュッと目を瞑りナツとアトスの言葉が脳裏でリピートされる……

 

 

そして……

 

 

 

 

ーーー……シクル!

 

「っーーー!」

 

 

 

閉じた瞼の裏に浮かんだその顔……

 

 

……私…………

 

 

「…………ナツ……離して」

 

「え……」

 

ナツとアトスの間で睨み合いが続いていた中、落ち着いた声音のシクルの声がナツに届いた。

 

その言葉に唖然とし、ナツはシクルを離し……シクルはアトスの前へと歩み寄る。

 

 

「ちょ……まさか、シクル」

その光景を離れたところから見ていたルーシィも焦り、困惑の表情が浮かぶ。

 

 

 

そして……

 

「……シクルさん」

 

見つめ合うシクルとアトス……

 

 

すぅっとシクルはゆっくりと深呼吸をし……

 

 

「……アトス…………ごめん」

 

 

「っ!」

 

 

シクルは悲しい笑みを浮かべ……

 

「私ね……妖精の尻尾に行くまで……

 

友達とか……仲間とか、家族とか……信じてなかったの……」

 

「シク、ル……」

 

 

「でも……妖精の尻尾に入って、皆と過ごして……色んなこと、教わった……与えてくれた……それでも、私はまだ……好きとか恋とか……よく、分からないの……」

 

そこで一度言葉を切り、目を伏せるシクル。

 

 

そして……

 

 

「だから……好きってどういうものかは分からない……でも、……アトスの事をそういう目で……見れないんだ……ごめんなさい

 

 

私にとって……あなたは、信頼のおける友人なの」

 

 

 

だから……あなたとは、付き合えません

 

 

 

そう、はっきりと断ったシクル……

その言葉を聞き、アトスはふっと目を閉じ……

 

 

「そうですか……分かりました……」

と、いいシクルに背を向ける……。

 

「アトス……」

シクルがその背を呼び止める……が

 

「……また、会いましょうシクルさん」

 

にっこりとと笑みをシクルに見せると、ナツに目をやり……

 

「……いつか、必ず」

と、だけ呟くと……アトスは去っていった。

 

 

 

「アトス……」

 

……ごめんね……アトス……

 

 

目を伏せ、俯くシクル……そこに……

 

 

 

「シクル……」

と、ナツの声が聞こえ……

 

「俺……」

 

口ごもるナツ……ふっと目を開け、ナツを振り返るシクル……そして、少しアタフタとしているナツを見て……

 

「……フフッ」

 

笑った。

 

 

「ナツ……さっきの言葉……」

 

「あ? さっき……さっき?」

 

さっきを思い返すナツ……そして……

 

 

「あっ! あ、いあ、あれは……その!」

 

 

勢いで告白していたことに気づくナツ。

だが、今のシクルの言葉を聞いた限りだと……

 

 

(俺フラれるじゃねぇかぁー!!!)

 

顔色が徐々に青くなるナツ……

 

 

「……あのね、ナツ……」

 

「……あぃ」

 

 

 

「……少し、待ってほしいんだ」

 

 

「……え」

 

シクルのその言葉に目を見開くナツ……。

 

 

「まだ、恋とか分からないけど……でも、ナツの近くにいたい気持ちはあるんだ……

 

だから、少し待って? ……必ず、答えを出すから……その時は、私の想いを、聞いて?」

 

 

 

少し頬を赤らめ、上目遣いでそう言うシクルに……ゴクッと喉を鳴らすナツ。

 

 

 

 

「……おぅ、分かった」

 

 

「……ありがとう」

 

 

 

その場には暫く、甘い空間が流れ……

 

「あーぁあ……やっぱりこうなるのね……」

 

やだやだ、妬けちゃうわと呟きナツとシクルを置いて去るルーシィ……

 

 

 

そんな事気づきもせず、ナツとシクルは互いを見つめ……小さくふっと笑い合った。

 

 




……アトスごめんよ……嫌いではないんだないんだが……!!


今日の投稿はこれ以降ないと思われます。
次はまた明日になるかと

今回文章の確認が甘いと思うので結構誤字などあるかと思います。
誤字ありましたら報告お願いします。

では、最後までお付き合い、ありがとうございます!


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56話 氷の魔法 瞬間氷結《アブソリュート・ゼロ》


はい!! 今回は少しグレイとの会話があります!!


最終的には前話の内容と続いてるところもあるのですが……では、

最後までお付き合い、お願いします!


 

 

 

アトスとナツからの告白から一夜明け……

 

現在時刻お昼すぎ……普段ならば面倒くさがっても結局はギルドに顔を見せるシクルなのだが……

 

 

「……来ねぇ」

 

「来ないねぇ……」

 

「来ないわねぇ……」

 

 

シクルがギルドに現れない……。

 

 

「んぁー!! なんで来ねぇんだよぉ!?」

がぁー! と天上に向け、火を吹き叫ぶナツ。

 

「んー、シクルはぁ……」

苦笑を浮かべ、ナツに説明しようとするルージュ……だが、

 

「きっとあれじゃない? 昨日のでやっぱ嫌になっちゃったんじゃない?」

ルージュの言葉を遮り、ハッピーの声がナツに届く。

 

「んなにィ!?」

ハッピーの言葉にぐもぉ! と顎が外れるくらい口をあけ、呆然とする。

 

「ちょっとハッピー? ダメよ、そんな事言っちゃあ……」

 

「そんなことになったらナツが廃人になっちゃうわよ」と、冗談なのだろうがどこか冗談に聞こえないルーシィの言葉。

 

「そうだよハッピー……それにシクルもナツを嫌いになった訳では無いと思うよ? ……多分」

ルージュのフォローに聞こえないフォロー。

 

「ルージュ、それフォローになってないよ……(それにしてもシクル……本当にどうしたのかしら……)……そういえば」

 

ギルドに姿を見せないシクルの事を考える片隅でふと、ギルドがあまり騒がしくないことに気づき……辺りを見渡す。

 

「……あれ? (グレイが……いない?)」

 

 

 

 

 

ギルドでナツがハッピーの言葉にここ一番という程に沈んでいた頃……

 

その元の原因、シクルは……

 

 

「んん……ギルドに行かないとなぁ……でも行ったらナツに会うんだよね……んんんー!」

 

自宅の玄関前でぶつぶつと呟き、扉の外に出れていなかった。

 

シクルの脳裏に蘇るは……

 

“ 俺だってシクルが好きなんだっ!! ”

 

「うぅうううっ/////!! (あんな大声で言わなくたって……今思うと恥ずかしすぎる)」

 

あの時の言葉とナツの顔がずっと繰り返されていた。

 

「はぁ……昨日はまだそこまで気にしてなかったのに……」

 

昨日はまだそこまで意識をしていなかったシクル。だが、時間が経つにつれ徐々にその事実を受け入れ始めた。

すると、ナツに会うのが恥ずかしく感じ始め、ギルドに未だ顔を出せずにいた。

 

「んー……(そろそろ行かないと……皆も気にしてるかもしれないし……)で、でもなぁ……!」

 

頭を抱え、んー! とシクルが唸っていると……

 

 

「……何やってんだ?」

 

「え……?」

 

よく知った声が目の前から聞こえ、顔を上げると……

 

「……グレイ?」

 

「……おぅ」

 

普段通り、上半身裸のグレイが頬を掻きながら目の前に気まずそうに立っていた。

 

 

「はい、コーヒーで良かった?」

 

「おぅ」

 

グレイをリビングへと案内し、飲み物を目の前に置くと、シクルもグレイの反対側に腰掛ける。

そして一口、紅茶を飲むと目の前のグレイを見据える。

 

「で?何でここにいたの……と言うか何でノックもなしに入ってきたのよ」

 

「俺、何度もノックしたぞ。声も掛けたけど……お前出てこなくてよ……気になって開けたら、鍵閉まってなかったから…」

 

肩を落とし、シクルを見れずにそう告げるグレイ。

「ふぅん……そっか。 気づかなくてごめんね? ちょっと、考え事してたからさ」

 

苦笑を浮かべ、謝るシクル。そして、もう1度紅茶をコクッと飲み干すと、グレイを見つめ、本題に入る。

 

「で? ここまで来たってことは何か用事があったんだよね?」

 

シクルの言葉に「あぁ」と頷くグレイ。

 

「実は……少し、シクルに頼みがあってよ」

 

「頼み?」

 

「おぅ……シクル……俺に、修行をつけて欲しい」

 

「……はい?」

グレイの言葉に目を点にし、唖然とするシクル。

 

 

 

数分後……

 

「つまり……あのニルヴァーナの時、グレイは自分の力不足を痛感したと?」

 

「正確にはB・O・Fの時からだ。あの時も俺はビッグスローにやられたからな」

 

グレイの話を聞き、んー、と腕を組むシクル。

 

「修行って……私、月と光の魔法は使うけど氷は使わないんだよ? 同じ氷の造形魔導士のリオンじゃダメなの?」

コテン、と首を傾げシクルが問いかけると……

 

 

「じょーだんじゃねぇ! 誰があんなやつの手なんかかりっかよ! なぁ頼む! 何かねぇか!? 俺に使える氷の魔法! 修行を!」

 

「そんな事言われたって……」

困った表情を浮かべ、考えるシクル。

 

「修行ねぇ? えー……私、氷の魔法なんて使わな……あぁ、ちょっと待って? 」

 

シクルはそこで一度言葉を切ると、立ち上がりリビングから飛び出していく。

 

そして、ガサゴソとグレイの耳に何かを漁る音が聴こえる。

「……シ、シクル?」

 

「んー……確か書庫にあの魔法があったと思うんだけどなぁ……」

 

グレイの言葉には答えず、何かを必死に探すシクル……そしてーーー

 

 

「あった!!!」

 

声を荒らげ、リビングに1冊の古びた本を持ち戻ってきたシクル。

 

「これこれ! 多分これならグレイも使えると思うんだけど……」

 

そう言い、グレイの目の前にその本……魔法書を差し出すシクル。

 

「……これは?」

魔法書を受け取り、首を傾げ、シクルに問いかけるグレイ。

 

「それはね、氷の造形魔法の事を記した大昔の本なの。 数年前に、評議院からの依頼をクリアした時の報酬で貰ったんだけど……

 

使い道なくて書庫の奥の奥にしまっちゃってたから見つけるのに苦労したよ……」

 

苦笑を浮かべ、そう告げたシクルはグレイの目の前で魔法書を開いていく。

 

「これはね、氷の造形魔法 “瞬間氷結《アブソリュート・ゼロ》” を記した本なの」

 

「……アブソ……リュート、ゼロ?」

 

グレイのオウム返しをしたその言葉に頷いて見せるシクル。

 

「そう、瞬間氷結……これは、グレイのよく知る魔法、 “絶対氷結《アイスドシェル》” の劣化版なの」

 

「アイスドシェル!?」

目を見開き、シクルの言葉に驚くグレイ。

 

「でもあの魔法は……使ったものの命を」

 

「だーから……これはその劣化版だって今言ったばかりでしょ?」

人の話は最後まで聞いて! と言ったシクルの言葉に立ち上がりかけた腰を落とすグレイ。

 

「……その、アブソリュート・ゼロってのは……何なんだ?」

 

「さっきも言った通り、これは絶対氷結……悪魔の島でグレイが使おうとした、あの《アイスドシェル》の劣化版だよ」

 

そこで一度言葉を切ると、人差し指を立て言葉を続ける。

「この魔法は1時間、かけたものを氷結に閉じ込め相手の動きを封じる魔法よ

 

但し、これにはデメリットもあってね? 魔法を発動すると大量の魔力がなくなってしまうために術者も1時間、動けなくなっちゃうの」

 

「へぇ……相手を1時間……」

シクルの説明を聞き、魔法書を手に取り考えるグレイ。そして……

 

「シクル……この本、借りてもいいか?」

と、問いかけるとシクルはふっと笑みを浮かべ頷く。

 

「もちろん、むしろ私はその魔法使わないから……貰っちゃっても構わないよ」

 

シクルのその言葉を聞くとパァ! と笑顔を浮かべるグレイ。

 

「マジか! サンキュー、シクル!!」

早速修行してくるぜ! と声を上げ、帰り支度をするグレイ。そして、最後に……

 

「お、そうだ……あのよシクル」

 

「なに?」

 

先程まで笑顔だったグレイはどこか真剣味を帯びた表情でシクルを見つめる。

 

「今日まだギルド行ってねぇだろ?

シクル……お前とナツに何があったのかは知らねぇけどよ……そろそろ顔だしてやんねぇと、みんな心配すっぞ?

 

……それと、ナツの奴がシクルに会えないってうるせぇからよ」

 

「っ! ……ありがと、グレイ」

 

グレイの言葉に一瞬目を見張り、すぐに笑みを浮かべるシクル。

 

「じゃあ、私も行こうかな……ルージュも先に行ってるだろうし……」

と、呟きシクルも腰を上げグレイと共に家を出ると、グレイは一人修行に……シクルはギルドへと足を進めた。

 

 

この時何故か……シクルの中に恥ずかしさはなかった。

 

 

シクルがギルドに向かっている頃……ギルドでは……

 

 

「うがぁああああっ!!! んで来ねぇんだァああ!!」

ナツが限界を迎えていた……。

 

「ちょ! うるっさいナツ!!!」

 

「あらあら……ナツったら、そんなに会いたいなら会いに行けばいいのに」

クスクスと笑いそう告げるミラ。

 

「それで振られたらこえぇ!!」

ガクガクと頭を抱え震えるナツ……

 

「ナツってこんなキャラだっけ?」

 

「……恋がナツを変えたのかもねぇ」

 

「あんたたちそんな呑気にしてないであのナツの慰めに手を貸しなさいよ!!」

 

ハッピーとルージュに声を荒らげ、ぐてぇとなっているナツを支えるルーシィ。

 

そこに……

 

「……何やってんの?」

 

 

「「「っ!!!」」」

 

その声がギルドに響いた時……一同が一斉にギルドの入口に視線を向ける。

 

そこには、にっこりと微笑むシクルの姿……

 

「シ……シクルっ!!!!」

 

 

ガタッ! と立ち上がり、飛びかかるナツ……

 

にっこりと微笑みナツを迎えるシクル……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、ナツが目の前に来た瞬間スッと体を横へと避ける。

 

「なんで避けんだよぉお!? ぎゃぴっ!!」

 

勢いあまり、ナツは床をスッテーン! と転がった。

 

「いってて……」

床に強打した頭をさすりながら体を起こすナツ。そんな彼をぼぉっと見つめシクルは、ふっと笑みを浮かべると座り込むナツの前にしゃがむ。

 

「……ンだよ」

 

「ナツ……おはよっ!」

 

シクルのその言葉に目を見開くナツ。

そして、ニカッと笑みを浮かべるとガバッとシクルの肩に腕を回す。

 

「おせーよ!! もう昼過ぎだっつーの!」

 

「ごめんごめんお詫びに今日は一緒に仕事行ってあげるから! 許して?」

 

「っ! おう!!」じゃれ合うナツとシクルを見つめるルーシィとハッピー、そしてルージュは……

 

「……あれ、結構良い感じじゃない?」

 

「あい……でぇきてるぅ! だね!」

 

「でぇきてるぅぅ!! だよぉ!(シクル……少しはスッキリしたみたいだねぇ)」

 

ニヤニヤと笑っていた。

 

 

1人と2匹は目の前の男女がくっつくのも遅くはない……と、考え始めていた。

 

 

 

 

「さっ! じゃあ、皆で仕事行こ!」

 

「あ? みんな、で?」

 

シクルの言葉に首を傾げるナツ。

 

「うん、そーだよ?」

 

にっこりと微笑み告げるシクルのその言葉に……

 

「っーーー!(俺は2人で行きてぇんだぁっ!!)」

 

昨日の事もありその言葉は胸の奥にしまうも……ナツは、がっくりと落ち込んでしまった。

 

 

 

「……あれはまだだと思うなぁ」

 

「……あい」

 

「……そうね」

 

 

ナツとシクルを見て、苦笑を浮かべる1人と2匹であった。

 





はい!! 今回はほんの少し短かったですかね……

そしてやっぱり……最後はナツとの絡みをいれたいのです!

グレイをメインの話にしたかったのですが……文章を作っていくうちに結局いつもと変わらないような雰囲気に……私欲が出てますねぇ

では、次の話は恐らく明日になるかと!

次回は懐かしの彼が登場です!
最後までお付き合い、ありがとうございます!


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57話 雷竜との再会


はい! こんにちわこんばんわ、thikuruです!!

今回はあの、お久しぶり、雷竜様が登場です!

雷竜様もカッコイイですよね! イケメンになって……兄貴って感じに!

とても好きなキャラなので少しフライングの登場なのですが出ていただきます!

では、最後までお付き合い、お願いします!!


 

 

 

妖精の尻尾 ギルドにてーーー

 

 

今日も今日とて、騒ぎ賑わっているギルド……その中でも一際騒いでいるナツたちのところへと向かい、走ってくる女の影……

 

「みんなー!!」

ルーシィの姿があった。

 

「んァ?」

 

「ルーシィ?」

 

「どーした?」

 

ナツたちの傍に駆け寄ってくると乱れた息を整え……

 

「あのねっ! さっき福引でリゾートのチケット当たったの!! 2泊3日のチケットよ!」

 

みんなで行きましょう! と笑顔で言ったルーシィにナツたちも興奮し、目を輝かせる。

 

「リゾートかぁ! いーなそれ!」

 

「あい! 最近忙しかったもんね!」

 

「まぁ、いい気分転換にはなるかもな」

 

「何人まで行けるんですか?」

 

ルーシィの持つチケットを見て、ウェンディが問いかけると、

「6人よ!」

と、答えるルーシィ。

 

「最強チームのみんなとウェンディも! 一緒に行きましょう!」

 

「えぇ!? わ、私もですか?」

ルーシィの言葉に驚くウェンディ。

 

「い、いいのでしょうか……」

 

「良いではないか、1人での初仕事、成功祝いも含めてな」

ふっと、ウェンディの肩を持ち微笑み言うエルザ。

 

「そう言えばウェンディは一昨日まで1人で仕事行ってたんだっけ?」

 

首を傾げ問うルーシィ。

 

「1人じゃないわ、私もいってたわよ」

 

「はい! 妖精の尻尾に来て初めてシャルルと2人での仕事だったんですが、ちゃんと出来ましたよ!」

 

「ウェンディとシャルルはしっかりしてるもんねぇ、安心できるよぉ」

 

ホットミルクを飲みながら、のほほんとナツや、ルーシィたちの会話を聞いているルージュ。

 

 

「……なぁ、そーいやシクルは?」

ふと、この場にいないシクルのことが気になったナツ。

 

「そーいや見てねぇな」

 

「また家で籠ってるの?」

 

ナツのその言葉でシクルがまだ来ていないことに気づいたグレイとハッピー……ルージュに視線をやり、問いかける。

 

と、ルージュはほんの少し不安そうな表情を浮かべる。

 

 

「シクルは……今朝評議院に呼ばれて……」

 

「え……それって」

目を見開くルーシィ……その後ろではぁとため息をつくグレイ。

 

「またか……」

 

「俺なんも聞いてねぇーぞ!?」

 

「朝突然来たから……いう暇がなかったんだよぉ」

ナツの言葉に尻尾を垂らしながら答えるルージュを慰めようとその頭を撫でるハッピー。

 

「何なんですか? 評議院が……シクルさんはどこへ?」

 

「シクルは……」

 

唯一何も知らないウェンディとシャルルが首を傾げるとウェンディの肩に手を置いていたエルザが答えた。

 

「えぇ!? そんな、危ない仕事を評議院から頼まれて1人で行ってるんですか!?」

 

「大丈夫なの?」

 

不安そうに声を上げるウェンディと、素っ気なくも気にしているシャルル。

 

「大丈夫さ、あいつはここの最強魔導士だ……問題ねぇよ」

 

「うむ、シクルがいないのは残念だが……ルーシィからのせっかくの誘いなのだ。リゾートを満喫しようではないか」

 

グレイとエルザの言葉にナツたちは笑顔を浮かべ、頷いた。

 

 

「では、準備が出来次第、出発しよう!」

 

「「「「「「「おー!!」」」」」」」

 

 

 

ナツたちが旅行の為、準備を進めていた頃……

 

評議院からの依頼を受けたシクルは、ある街に位置する、深い森の中を歩いていた。

 

「はぁー……こんな森の奥深くで魔物退治って……足場悪すぎるっての」

グチグチと文句を言いながらも歩を進めるシクル。

 

その足元はぬかるんでおり、急斜面がさらにシクルの足元を不安定にしていた。

 

ふと……ピクッと何かに反応し、シクルはその足を止めた。

 

そして、はぁ……と長いため息をつく。

 

「ここってリゾート地もあるから……早めの対策をお願いされたはいいけど……」

 

そう呟きながら、十六夜刀を換装する。

 

 

シクルが刀を手にした瞬間……ザァアッ!!! と音を立て、上空から舞い降りる多くの影……それは、シクルの目の前へと降り立ち……

 

「……はぁ、ほんと……評議院の奴らは私を殺したいのか……?」

 

シクルは苦笑を浮かべ、毒を吐く。

 

 

 

シクルの目の前に降り立った影の正体……それは、S級モンスターに指定されている、 “ワイバーン” だ。

 

しかも数は目視だけでも800はいた……

 

その数に再び深いため息をつくシクルは、戦闘態勢に入る。

 

そして、シクルの殺気に気づくと、シクルよりも先にワイバーンが動き出した。

 

 

「んもぉー……何でこんないるの……こんな集団行動するヤツらだった? てか……情報と違いすぎるってーのッ!!!」

 

何が500匹だばかぁー!!! と、怒声を叫びながらシクルは襲い来るワイバーンを斬り裂いていく。

 

「絶対……報酬上乗せさせてやるんだからっ!

 

伍ノ太刀 鳴雷月!!!」

 

刀から発した雷で数十のワイバーンの動きを止めるとその瞬間に、動きの止まったワイバーンを斬り捨てていく。

 

それを幾度も繰り返し……800近くいたワイバーンは100程に数を減らしていた……。

 

「はぁ……はぁ……もぉ! ほんっと……数だけ多いんだから……」

 

傷はないが疲労が溜まっていくシクル……。

 

そして、最後の100匹を倒そうと……足を踏み出した時ーーー

 

グキッ!

 

「ふぉっ!?」

 

ぬかるみに足を取られ、転んでしまう。

 

 

『ガァアアアッ!!』

 

そこを狙い、ワイバーンが一斉にシクルに襲いかかる。

はっと、シクルは目の前を見据え……十六夜刀をしまうと両手に魔力を込め……

 

「滅竜奥義 月華炎乱舞!!!」

 

振り切った両手から放たれたその炎はワイバーンを残らず襲い、消した……。

 

 

 

炎が晴れ、最後に残ったのは息を荒らげるシクル……。

 

「っ……はぁ! あ、危なかった……」

 

まさかあそこで転けるなんて……と、詰めた息を吐き出し肩の力を抜く。

 

 

そして、呼吸も整い、帰りますか……と、立ち上がろうとした時だ……

 

 

ズキッ!!!

 

「つっーーー!!」

右足に鋭い痛みが走った。思わずあげた腰を下ろし、右足を抑える。

 

そして、靴を脱ぎ右足の具合を見てみると……

 

「うっわ……青」

 

見事に青く腫れ上がり、熱をもっていた。

 

 

所謂、捻挫を起こしてしまったのだ。

 

痛みで立ち上がれず、落ち込んでいた気持ちがさらに沈むシクル。

 

 

「うっそでしょぉ……絶対あの転んだ時じゃない……はぁ」

 

捻挫も歌魔法の、治癒で治すことは出来るのだが……

 

 

「……魔法使うのめんどくさ……」

 

足以外はどこも怪我をしていない事で、シクルに歌魔法を使う意欲がないようだ……。

 

シクルは近くの大木に寄りかかり、空を見上げる。

 

今日の空模様は生憎の曇りで太陽の光はなかった。

 

「はぁ……失敗したなぁ、まさかあそこで転ぶなんて……」

 

ドジだなぁと、呟き下を向く。そして、暫く目を瞑り、休んでいると……

 

ぽつり、と水滴が頭に落ちてくる。

 

「え……」

ふっと、シクルが顔を上げると……パラパラと雨が降り始めていた。

 

ほんの少し目を見張り、降り出した雨を見つめるシクル。

 

「……雨……(そういえば……あの時も……)」

 

 

 

雨が降ってたなぁ……

 

 

 

 

“ シクル!! 早く逃げろっ! ”

 

“ で、でも……ーーは!? ”

 

 

“ 僕のことはいいから!! 早く! シクルだけでもっ! ”

 

“ いや……嫌だよ!! 1人なんて……ーーも一緒に!! ”

 

 

 

“ いたぞ! 脱走者だぁ! ”

 

“ やばっ……早く! 行け、シクルっ!!”

 

 

ドンッーーー

 

“ っーー!! いや……ーー!!……

 

シロォオオオオオッ!!! ”

 

 

「っーーー!!! はっ……はぁ……はぁ……

 

……夢、か……」

 

シクルの脳裏に浮かんだのはまだ幼き頃の記憶……追っ手から自分を逃がすために、笑顔で囮になった彼……

 

「……シロ……(あの後……シロは現れなかった……シロ……)」

 

 

……今、あなたはどこに……

 

 

震える瞳から次第に涙が溢れ始める……

 

シクルは膝を抱え、嗚咽を堪える。

 

 

「っ……ぅ……ダメ、だなぁ……(ここが……あまりにも、似ているから……)」

 

 

思い出してしまう……

 

 

溢れる涙は止まらず、堪えていた嗚咽が漏れそうになる……その時……

 

 

 

ザッーーー

 

「……シクル?」

 

 

 

「っ……え?」

 

自身を呼ぶその声……暫く聞いていない、よく知ったその声に、シクルはバッと顔を上げた。

 

その目に映ったのは、予想と違わず……金の髪に背にはガウンのマントを羽織った大柄な男……

 

暫く前にギルドを破門された、マカロフの実孫……

 

 

 

「……え……ラク、サ……ス?」

 

 

“ ラクサス・ドレアー ” その人が、目の前に立っていた。

 

 

「え……何でここに、いるの? ……ラクサス」

 

 

「俺がここにいるのはたまたまだ……」

 

少し視線を泳がせそう告げるラクサス……そんな彼を見て、シクルはふっと笑みを浮かべる。その表情に涙はなかった。

 

「もしかして……迷ったの?」

ニシシと笑うシクル。そんなシクルにプチンとキレるラクサス……拳を握り、その頭に振り下ろす。

 

「うるせぇ、このチビ」

 

ガンっ!

 

「いっっったぁあ!!」

 

暴力反対だァ! と、叫ぶシクル。だが、ラクサスに気にした様子はない。

 

 

「ところでお前、いつからそこにいんだよ?」

 

「ふぇ?」

 

ラクサスの言葉に、コテンと首を傾げるシクル。

意味が分からない、と言った様子のシクルにはぁとため息をつくラクサス。

 

「だから……いつからそこにいりゃあ、そんなにずぶ濡れになるんだってきーてんだよ」

 

ラクサスのその言葉にシクルはやっと自身の体を見下ろし……

 

「うっわぁ!? すっごい濡れてたっ!」

と、叫んだ。

 

「気づいてなかったのか……アホだな」

ふっと小馬鹿にした笑みを見せるラクサスに頬を膨らませ、怒るシクル。

 

「アホって言うな!」

気づかなかったんだからしょうがないでしょー! と、声を上げ、雨宿りのできそうな所を探そう……と、立ち上がった時……

 

 

忘れていた、右足の痛みが再び走る。

 

「つっ!」

 

「おいっ!」

ガクッと右足を抑え、崩れるシクルを咄嗟に支えるラクサス。そして、やっとシクルが足に怪我を負っていることに気づいたラクサス……

 

彼は、怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「シクル、お前……足怪我したのか?」

 

「あー……ちょっと、捻っちゃって」

 

苦笑を浮かべ、先程起きたことを説明するシクル。

 

 

「はぁ……治癒の魔法はどうしたんだよてめぇ」

呆れた様子で問いかけるラクサス。

 

「めんどいからやってない」

真顔でラクサスの質問に返すシクルにさらに呆れたため息を吐くラクサス。

 

 

「こんな時まで面倒くさがるなアホ……」

 

「またアホって言ったー!! 私はアホじゃないってば……て、きゃあ!?」

 

 

うがー! と、ラクサスに吠えていると突然、ラクサスがシクルの肩と膝裏に手を添えた。

そして、そのままシクルを横抱きに抱える。

 

 

「な、ななな……何すんの!?」

おーろーしーてー!! と、抗議するシクル。

 

「うるせぇ、黙っとけアホ。そんなんじゃ歩けねぇだろ……だからってここにいても冷えるだけだからな……場所移すぞ」

 

 

少し真剣な眼差しのラクサスを見上げ、シクルはふっと抗議の声を止め……はぁ、とため息をひとつ吐き出すとラクサスに体を預けた。

 

抗議を止めたシクルにふっと、満足そうな笑みを浮かべるとラクサスは雨宿りできそうな所を探し、歩き出す。

 

その際、シクルに雨が直接当たらぬようマントをシクルにかけた。

 

 

 

 

シクルとラクサスが暫く久りの再会を果たしていた頃……リゾート地の、ホテルにて……

 

 

「リゾートだぁ!!」

 

「海だァ!!」

 

「ご馳走だァ!!」

 

「遊ぶぞぉ!!」

 

「思い出作るわよぉ!!」

うぉおおー!! と、声を上げるナツ、ハッピー、グレイ、エルザ、ルーシィ。

だが、その背後から……

 

 

「でも皆さん? お外は生憎の雨ですけどね」

と、ウェンディの苦笑を浮かべ、告げたその一言に……

 

ガーン! と固まる一同。

 

 

「……馬鹿ね」

 

「ここ……」

呆れた様子のシャルルと、はっと雨模様の外の景色を見渡すルージュ。

 

「どうかしたの? ルージュ」

辺りを見渡すルージュに声をかけるウェンディだが、ルージュは首を横に振り、「何でもないよぉ」と、答えた。

 

ウェンディはあまり深く問いかけることはなく、「そっか」と笑みを浮かべると……

 

 

「雨が止むまでホテル内を探検するのはどうでしょうか?」

と、ナツたちに提案した。その案に、シャルルも乗る。

 

「そうね、ここにいろんな施設が完備されているみたいし……退屈はしないと思うわよ」

 

 

「おっしゃー!! じゃあ早速行ってみようぜ!」

「あいー!」

先ほどの落ち込みはどこへやら……ナツとハッピーは先にホテル内を駆け回り始める。

 

「おい、待てクソ炎!!」

 

「ちょ、ナツ!? ハッピーも! 待って!!」

 

「全く……世話の焼けるやつだ」

 

グレイと、ルーシィ、エルザもその後を追いかける。

 

 

「私たちも行こう!」

 

「そうね、あのメンバーだけじゃ何しでかすか心配だものね」

 

ため息をつき、そう言ったシャルルに頷くウェンディ。

2人は同時に駆け出し、エルザたちを追う。

そして最後に……

 

「オイラ達も行こう! ルージュ!」

 

「あ、あい!(……この島、シクルの受けた依頼と同じ場所……)」

 

 

どこかでシクルに会えるかなぁ……

 

 

 

ナツたちを追いながら、心の中でシクルの事を考えていたルージュ……

 

シクルと合流するのか……そして、

 

ラクサスと再会したシクル……

 

 

続きのお話は次回へと、続きます

 

 





はい! 如何だったでしょうか……
ちなみにラクサスはシクルの事を恋愛として見ている訳では無いのですがまぁ……女の中では気になる方、と言った位置づけでしょうか……

恋愛に発展することはありません!

そして、回想で出てきた新キャラですが、後に詳しいキャラ設定を公開します!
現在は “シロ” という、名前のみで……では

次回も明日になるかと思われます!
最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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58話 一人で抱えるなよ?


こんにちわ! 昨日は3度目のフェアリーテイル……見てきました笑

そして特典は2度目のナツくんでした笑笑

一緒に行った友人もナツくんが出て笑ってました!

……という報告はここまでにし、では本編……最後までお付き合い、お願いします!


 

 

ラクサスに抱えられ、雨粒を極力避けながら、辿り着いたのは小さいながらもラクサスも余裕で入れる大きさの小さな洞穴だった。

 

ラクサスはシクルを足に負担のかからぬよう、ゆっくりと地面に座らせると薪木を手早く集め、火をつけた。

 

「寒くねぇか?」

 

「うん、大丈夫……ありがとう」

ふんわりと微笑み、お礼を言うシクルにふっと笑みを浮かべ、「そうか」と満足気のラクサス。

 

少しの間、会話をせず、沈黙が続いていたがふと、シクルは目の前に座るラクサスを見つめ問いかける。

「……ねぇ、ラクサスは今……何、してるの?」

 

「あ? 俺は……まぁ、あてのない旅をしてるってところだな……」

多くは語ろうとしないラクサスに「そっか……」とだけ、返すシクル。

 

 

「……そういうお前は、あんなところで何してたんだよ?」

火を炊きながら、シクルを横目で見やい、問いかけるラクサス。

 

「私? 私は……評議院からの依頼で大量発生したワイバーンの退治に……」

 

「ほぉ? それでその途中に転けて怪我をしたと……は、とろいな」

 

「う、うるさいなぁ! 足場が悪かったんですぅ!」

クククと笑うラクサスに頬を赤らめ、怒るシクル。

 

「……で?」

 

「え……?」

 

ラクサスを見上げたその視界に入ったその表情は何かを探る瞳をしていた。

 

「どうした……お前……」

 

「どうしたって……なに、が?」

 

「……なんか、あったか? いつもなら俺の気配くらい簡単に気づくだろ?」

 

「っ……」

 

ラクサスの言葉に目をほんの僅かに見開くシクル。そして、暫くラクサスと目を合わせると不意に、はぁとため息をつき……

 

 

「何でもないよ……ただ、なんだか雨の日は調子でなくて」

膝を抱え、小さく笑みを浮かべ、告げた。

 

ラクサスを見つめるシクルの瞳は何かに怯え、震えている……が、これ以上は何も聞くな、とラクサスに訴えていた……。

 

 

「……はぁ、そうか……」

ラクサスはそれだけ呟き、深くは聞かなかった……。

 

その一言を最後に会話が完全に途絶える……その場には焚き火の燃える音と雨音のみが響いていた……。

 

 

 

場所を変え、ナツたちの方では……

 

 

「いあー! 探検楽しかったなぁ!!」

ルームに戻りバフッ! とベッドに飛び込むナツ。

 

「あのおっきいカジノはすごかったね!」

ナツの隣に転がり、ニコニコと笑い言うハッピー。

 

「クッソー、俺なんかカジノで大損しちまったぞ」

ズーンと、効果音が聞こえるほど肩を落とし沈むグレイ。

 

「まぁまぁ……それにしても、やっぱりエルザは安定の負け無しなのねぇ」

沈むグレイを宥めながら、30勝したエルザを苦笑を浮かべた表情で見つめるルーシィ。

 

「ふん、当然だ!」

キランと輝くエルザの瞳……その様子に一同は気難しい反応で、から笑いしか出せず……

 

「それにしても、雨止みませんね……」

 

「そうね……」

窓の外を眺め、ウェンディとシャルルが呟き、ナツたちも窓の外へと視線をやる。

 

「……雨」

 

「ルージュ? どうかしたの?」

 

様子のおかしいルージュに気づき、ルーシィがそっと声をかける。

ルージュはふっと顔を俯き……

 

「何でもないよぉ……ただ、雨の日は、シクルの……笑顔が見れないから……悲しいなぁって」

と、呟いた。

その言葉に、首を傾げるルーシィや、ウェンディ、シャルル……そして

 

「あー……」

 

「……そうだな」

 

何か事情の知っている様子のナツとグレイ、ハッピーとエルザも知っているようで顔を伏せる。

 

「シクルさんの笑顔が見れないって……」

 

「どういう事よ?」

ウェンディとシャルルが首を傾げ、ナツたちに問いかける。ルーシィもその見つめる瞳で説明を訴えかけていた。

 

「そういえばルーシィたちは知らないんだな……」

 

「まぁ、シクルも好き好んで話そうとはしねぇだろうよ……」

 

「ルーシィたちは知らんだろうが……昔のシクルは全く笑わなかった……否、感情が欠落していた……と言った方がいいか」

 

エルザの語ったその言葉に、ルーシィたちは目を見張る。

 

「ギルドに着くまで、何をしてたのか……何があったのかはオイラたちも知らないんだ……」

 

「だが、昔のシクルは確かに……感情っつぅのがなかったなぁ……」

 

天上を見上げ、呟くグレイの脳裏に思い浮かぶのは暗い暗い瞳でギルドの端っこに座る幼き頃のシクル……そして、誰の手も取らなかったあの頃……

 

 

「唯一、ナツだけがシクルの近くにいることが出来た……そして、ナツと触れ合ううちにシクルは感情を取り戻し……私たちとも交流を深め……今のシクルになった」

ナツを見つめ、ルーシィたちにそう語るエルザ。

 

「ギルドに入る前のシクルさん……」

 

「メスネコは何も知らないの?」

シャルルからの投げかけにルージュはふっとシャルルに顔を向け、首を振る。

 

「知らないよぉ……あたしがシクルと出会った時は今のシクルだったから……感情のない時のシクルは見たことがないんだァ……ただ」

 

ルージュはそこで言葉を切ると、俯き、口を開かなくなってしまう……。

 

「ど、どうしたんですか……?」

 

「ルージュ?」

 

ウェンディとルーシィが声をかけるもルージュから返答はなく……代わりに、グレイがため息をつき、口を開いた。

 

「シクルは、雨の日になると笑顔が無くなるんだよ……」

 

「どうして……」

 

「……怖ぇんだとよ」

 

ルーシィの呟きにそっと答える声……ルージュを抱え、ナツが言った。

ルーシィは「え?」とナツを振り返る。

 

「雨の日は、昔を思い出すから怖いんだと……だから、雨の降る日にはシクルは笑わねぇ……」

 

「……そう、なんだ」

 

ふっと、ルーシィは目を閉じ俯き……ウェンディやシャルル、グレイたちも暗い表情を浮かべる。

 

そこに、パンッパンッと手を叩く音が聞こえる。

 

「ほら、お前たち……そう暗くなるな、それでは更にシクルを苦しめてしまうだろう? それに、折角の息抜きなのだ……楽しもうではないか!」

シクルの分までな、と微笑み言ったエルザ。

 

その言葉で、次第にナツたちの表情も晴れ、笑顔が浮かぶ。

 

「おう!」

 

「だな!」

 

「そーね!」

 

「「あい!!」」

 

「はい!」

 

「ま、いいかもね」

 

 

全員の、元気な返事を聞きふっと笑みを浮かべるエルザ。

 

「では、今日はもう遅い……明日もめいっぱい遊ぶために今日は休もう」

 

「「「あいさー!」」」

 

その合図と共に、ナツたちは男と女に部屋を分かれ、寝床についた。

 

 

 

 

 

場面戻り、シクルとラクサスの方では……

 

 

「……はぁ」

 

少し前から、ラクサスを枕に眠ってしまったシクル……そんな彼女を見下ろし、ため息をつくラクサス。

 

「たく……あれほど敵対してたやつを前に無警戒すぎんだろ、アホが……」

 

目下で眠りこけるシクルの鼻上を指で弾きながら、毒づくもその表情は柔らかく、笑みを浮かべていた。

 

もう1度深くため息をつき、外を見やる。

 

「……まだ止まねぇか」

 

大分小雨になったが未だ止まない雨を見つめる。

「……早く止んでくれよ」

 

何故そう思ったか、ラクサスには分からなかった……だが……

 

「……こいつに暗い顔は似合わねぇんだよ」

 

 

こいつは……馬鹿みてぇに笑って……あそこを輝かせる存在なんだよ……だから……

 

 

あいつらの光を曇らせるなら……

 

「……早く、止んでくれよ」

 

 

 

 

ーーー

 

……ん……こ、こは……?

 

……夢の中……なの、かな? ……分からない

 

真っ白な世界で1人ぽつんと佇むシクル。

そこに……

 

 

『……ル…………シクル』

 

っ! 声……? この、声……

 

後ろから聞こえた声に振り返ると……

 

 

……セ、レーネと……わた、し?

 

 

そこには、育ての親、セレーネソフィアと今より小さいシクルの姿があった。

 

 

『シクル……よく聞いて?』

 

『なぁに? セレーネ……何かあったの?』

 

セレーネを見上げるシクルの瞳には明らかな尊敬と信頼が溢れていた。

そんなシクルを悲しそうに見下ろすセレーネ。

 

『シクル……ごめんなさい……私はもう少しで、貴女とは一緒にいられなくなるの……』

 

その言葉に幼き頃のシクルは目を見開く。

 

『セ、レーネ……どうして? そんな……冗談、笑えないよ?』

 

『ごめんなさい……ごめんね、シクル……

 

嘘じゃないの……本当に、もう……』

 

そう言うとセレーネの身体は次第に光の粒へと変わっていく……。

 

 

『やだよ……やだよセレーネ!! 行かないで!! お母さんっ!!!』

 

涙を流すシクル……

 

 

 

『シクル……ごめんなさい……最後に……

 

 

あなたにこれを……授けるわ……』

 

そういい、セレーネが出したのは光の球体……魔水晶とは少し変わったものだ。

 

『……これ、は……なに?』

 

 

『これはいつかあなたに力を与えてくれる……あなたを守ってくれる……お守りよ』

 

『おま……も、り?』

 

セレーネがその言葉に頷くと光の球体は輝きを増し、そして……スゥッとシクルの身体に溶け込み……消えた瞬間、幼き頃のシクルはふっと倒れ込んだ。

 

 

その光景を見つめていた今のシクルは……

 

……これ……そうだ、この後目が覚めたら……

 

セレーネはいなくて……皆も……

 

 

 

あの光の球体……何だったんだろう

 

未だに……あれの正体が分からないんだけど……説明してくれても良かったのになぁ……

 

肝心なところ、抜けてるよねぇ……セレーネ

 

 

そう、ふっと笑みを浮かべた時……目の前の光景が変わる。

 

一瞬目の前が光り、目を開けると……

 

 

っーー!! こ、こは……

 

 

シクルの目に映ったのは雨の降る深い森の中……そして、幼いシクルの目の前には歪んだ笑みを浮かべる男……

 

 

『……だ、れ?』

 

『見つけた……僕の可愛い……お姫様……

 

 

さぁ……おいで……愛しの…………』

 

 

 

「シクルっ!!!!」

 

 

「っ!? ……あ、っ?」

 

 

ラクサスの叫び声が耳に響き、はっと目が覚めるシクル。

そして、目が覚めた瞬間、自身が泣いていることに気づく。

 

「わ、た……し、ラ……ク、サス」

 

「お前……大丈夫か? 魘されてたぞ……」

 

ラクサスを見つめ、震えるシクル……その姿にラクサスは心が痛み……

 

そして、そんなシクルがとてつもなく弱く、儚く見え……思わずシクルをその大きな手で抱きしめた。

 

 

「っ……ラク、サ……ス?」

 

「……お前が、何に怯えているのか俺には分からねぇ……俺は、今まで周りをちゃんと見ていなかったから……他の奴らよりお前のこと、分かってやれねぇ……けどよ……

 

 

お前がひとりで何か大きなものを抱えてるんだってことは俺にだって分かんだよ……だからよ……」

 

 

そこで、ラクサスはシクルの顔を覗き込むように見つめる。

 

「一人で抱えるなよ?」

 

「っ……!!」

 

「……お前は、一人じゃねぇだろ? 一人じゃできねぇ事がある……それを言ったのは、お前だろうがよ…お前は、アホ」

 

最後はふっといたずらっぽく笑ったラクサスに、シクルは次第に乱れた心が落ち着き……

 

 

「ラクサス……アホって言うな、バカ」

と、笑った。

 

 

シクルに笑みが戻った時、外の天気も晴れ、雨が止んだ。

 

「雨が……」

 

「……止んだな」

 

洞穴から出ると晴れ渡る空を見上げるシクルとラクサス。

 

そして……ふと、シクルの嗅覚にスンッと知った匂いが届く。

 

「この匂い……ナツたち?」

はっと、シクルの告げたその言葉にふっとラクサスは1度シクルを見下ろし……そして、ポンッとシクルの頭に大きな手を置いた。

 

「う……? なに……?」

 

「……俺はまだあいつらには会えねぇからよ……お前とはイレギュラーだったけどな……だから、ここでお別れだ……シクル」

 

ラクサスのそう告げた言葉にシクルは少し寂しそうな表情を浮かべる。

 

 

「……行くの?」

 

「あぁ、まだ旅の途中だからな……また、機会があったら……そん時は、話……聞かせてくれや」

 

そう言い、ラクサスはシクルの頭から手を離し、去っていく。

最後に、シクルに後ろ手で手を振りながら……

 

「……またね……身体、気をつけてね?……ラクサス」

その後ろ姿にそっと……小さく呟くシクル。

ラクサスの姿が見えなくなると……知った匂いが急激に近づく。

 

その前にシクルは足の怪我を治癒で治し……治し終えた瞬間

 

ガサッ!!

 

「あぁー!! シクル!!」

 

「いたぁー!」

 

「ほんとだー!!」

 

「シクル!」

 

「偶然だな……シクル」

 

「シクルさん!」

 

「こんな所に仕事来てたのね」

 

「やっと会えたァ!」

 

知った声が次々に響く……その声にふっとシクルは微笑み……

 

 

「偶然だね! みんな!! 仕事?」

と、声を上げた。

 

「ううん、福引のチケットが当たってね? みんなで来てたの!」

 

「シクルの分も予約してあるんだよぉ?」

ルージュの言葉にえ? と驚くシクル。

 

「私も? 会えるかも分からなかったのに……」

 

どうして……とシクルが聞くと……ニッと、笑みを浮かべるナツが目に映る。

 

「だって俺たち! チームだろ?」

 

 

「……ナツ……うん!!」

 

 

「よっしゃー! シクルも合流したんだ! 残りの時間、楽しむぞぉ!!」

 

ナツの掛け声に、おおー! と声を上げるシクルたち。

 

 

この後、宣言通りにめいっぱい遊んだシクルたちであった。

 

 





いかがだったでしょうか……ちょっと最後微妙なのですが……


お許しくださいorz

次は虹の桜のお話を上げていきます。虹の桜のお話が終わり次第、エドラス篇に入りたいと思います!

ちなみにラクサスさんは抱きしめましたが下心等はございません。

では、最後までお付き合い、ありがとうございます!


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59話 虹の桜


はい!今回と次回で一応オリジナルストーリーとなる、日常篇は終わりにしたいと現段階では考えております。

文字数などによってはまた変わるかも知れませんがその際はまたお知らせします!
では、59話最後までお付き合い、お願いします!


 

 

 

リゾートを満喫し、妖精の尻尾に帰還してから数日後……最強チームの面々はシクルとルージュを除き、ウェンディとシャルルを加えたメンバーでハコベ山にある依頼で来ていた。

 

 

「開け! 時計座の扉 ホロロギウム!!」

 

リンゴーンと音を鳴らし、現れるルーシィの星霊。

ホロロギウムが現れるとすぐさまその中へと入り冷えた体を抱えるルーシィ。

 

 

「『ひぃいい!! あたしってばまたこんな薄着でこんなところ来ちゃったー!! 寒すぎるぅ!!』と、申しております」

 

「お前ほんと何しに来たんだよ」

前回ハコベ山に来た時と何ら変わらないルーシィをジト目で見るナツ。

 

「それにしてもほんとに寒いですね……」

ナツたちの歩く少し後ろの方で手を擦りながら寒さを堪えるウェンディ。

その横ではシャルルが「だらしないわねぇ」と、苦言していた。

 

「『ウェンディもこっちへ来たら……? 風邪ひいちゃうよ』と、申しております」

 

ホロロギウムの中で、ちょいちょいとウェンディを手招きするルーシィ。

 

「そうですか……? じゃあ、お言葉に甘えて……シャルルは?」

 

隣を飛ぶシャルルに声をかけるも「問題ないわ」と、拒否をした為、ウェンディだけがホロロギウムの中へ入っていった。

 

「わぁ、暖かーい!」

ホロロギウムの中が思ったよりも暖かく、微笑むウェンディ。

 

「腹減ったなぁー」

 

「あいー……」

ぐでーと歩き、腹を鳴らすナツ。その隣ではハッピーもお腹を鳴らしている。

 

「くっそ……こう雪が積もってっと歩きにくいな……」

 

「その前にお前は服着ろ服を!!」

 

「うぉ!? いつの間に!」

ナツの指摘に、やっと服を着ていないことに気がついたグレイ。

 

「ねぇ、ナツー? ほんとにこんな所にそんな便利な薬草なんてあるのかなぁ?」

 

飛ぶのが疲れたのか、ナツの頭に乗り、聞いてくるハッピー。

ナツは首を傾げ口を開く。

 

「さぁな? けど、依頼にそう書いてあったんだし、あんだろ?」

 

「だってさぁ……お茶に煎じて飲んだり、ケーキに練りこんで食べれば、魔導士の魔力を一時的にパワーアップするなんて、オイラは眉唾ものだ思うんだよねぇ……

ほら、うまい “魚” には毒があるって言うでしょう?」

 

「それをいうなら、うまい “話” には裏がある、だ」

ハッピーの言葉に冷静にツッコミを入れたエルザに目を見開き驚くハッピー。

 

「わあ! エルザに突っ込まれた!!」

 

「効果はともあれ、依頼はこの山の薬草の採取だ……ついでに、多めに採れたら明日のビンゴの景品にしよう、皆喜ぶぞ」

 

「おぉおい、薬草! いたら返事しろぉ!!」

声を荒らげ、返事もない薬草を呼ぶナツ。

 

「するかよ、バーカ」

そんなナツにいつもの調子で軽口をふっかけるグレイ。

 

「んだとコラァー!!」

そしてグレイの言葉にのっかり、いつも通り喧嘩が始まる2人。

 

そんな2人の喧嘩は、エルザの「やめんかっ!」という喝でピタリと止まるのだった。

 

「はぁ……、早く仕事終わらせて帰りたいなぁ……明日のお花見の準備したいのに!」

もう! と膨れっ面になるルーシィ。そんな彼女の隣でにっこりと笑みを浮かべるウェンディ。

「私もすごい楽しみです!」

 

「シクルがいれば薬草なんてすぐに見つかるのにねぇ」

 

「あぁ、あいつの薬草を嗅ぎ分ける嗅覚は凄まじいからな」

ハッピーとエルザの何気ないその会話に、ふと疑問を抱くルーシィ……。

 

「『そういえば……どうして今回、シクルは一緒じゃないの? ルージュも来てないし……』と、申しております」

 

ルーシィのその言葉に一同はしぃんと、静まり返る。その様子に、ルーシィはえ? と困惑する。

 

「『ど、どうしたんですか……皆さん?』と、申しております」

ウェンディからのその問いかけにはぁ、とため息をつき顔を上げるのはエルザ。

 

「シクルは、この時期……虹の桜の咲くこの時期は、家から1歩も出てこないのだ」

 

「……え」

 

「その年のシクルの調子にもよるけどなぁ……短けりゃ1週間……長ければ1ヶ月は外に姿を現さねぇよ」

エルザの言葉に続いたグレイの言葉にルーシィ、ウェンディとシャルルは目を見開く。

 

「1ヶ月!?」

 

「そ、そんなに長い期間、何をしているんですか……?」

(ホロロギウムは時間が終了し、星霊界へと帰っている)

 

「……この時期は、あいつにとって……全てが変わったんだとよ」

 

それだけ呟き、グレイは口を開かなくなり、ナツたちも何かを言おうとはしなかった。

 

そんな様子にルーシィやウェンディたちも深くは聞かなかった。

 

 

 

ナツたちがハコベ山に出向いていた頃、

 

シクル宅にてーーー

 

 

自室に備え付けてある椅子に腰掛け、何もせず、ただ……その虚無の瞳で窓の外をぼぉっと、眺めているシクル。

 

コンコンッーーー

 

「……シクル?」

 

「……ルージュ? どうしたの?」

扉の向こうからする、ルージュの呼びかけに、シクルはふっと、扉の方へと顔を向ける。

 

「……ご飯、持ってきたんだぁ……少し食べ「いらない、ルージュが食べていいよ」……シクル」

 

ルージュの言葉を遮りそう告げたシクル……

ルージュは悲しげに瞳を揺らす。

 

「シクル……わ、分かったよぉ……じゃあ、ここ……置いておくから……お腹すいたら、食べてねぇ?」

 

じゃあ……と、呟き扉の前から去っていくルージュのその気配を感じ、シクルははぁとため息をつき、目を瞑る。

「……ダメだな……ごめんね、ルージュ……」

 

寂しげに去っていったであろうルージュを考え、顔を歪ませるシクル。

 

そんな彼女の視界の隅に、ひらりと舞う桜の花びらが……

 

 

「虹の桜……あぁ、もう……そんな時期なんだ……」

 

……この時期は……全てが変わった……最悪な時期……

 

この時期だけは…………落ち着かない

 

 

ふぅと、ため息をつき再び、虚無の瞳で窓の外を眺めるシクル。

 

 

 

場面戻り、ナツたちの方では……

 

丁度ナツの嗅覚が薬草の匂いを察知したところであった。

 

「相変わらず、すごい鼻だね」

 

流石ナツ! と、嬉しそうにするハッピー。

 

「てかあんた、その薬草の匂い嗅いだことあるの?」

ふと疑問を持ったルーシィが首を傾げ聞くとナツはいあ、と首横に振った。

 

「嗅いだことはねぇけど、なんかそれっぽい匂いがするから多分そーだと思う!」

 

「多分かよ」

 

「でも、確かに薬草のような匂いがしますよ」

ナツの言葉に同意する、ウェンディ。

 

「よっしゃあ! 行くぞハッピー!」

 

「あいさー!!」

 

その大声と共にナツは全速力で走り出し、ハッピーもその後を追い疲れはどこへやら、飛んでいった。

 

「ちょ、ちょっとナツ!?」

 

「あんのせっかち野郎!」

 

駆け出したナツとハッピーを追い、ルーシィとグレイも走り出す。

 

 

「……気のせいかしら? すごぉく嫌な予感がする……」

走り去るナツたちを見つめ、険しい表情で告げるシャルルの言葉にウェンディは苦笑を浮かべる。

 

「シャルルの予感はよく当たるからね……」

 

 

 

この会話の数分後、薬草を見つけたはいいものの、ワイバーンが現れ、撃退する際の余波で雪崩が発生……ナツやグレイ、ウェンディたちは間一髪逃れるも……

 

「あれ? ルーシィさんは?」

 

「そういやぁ……」

 

「「「あ」」」

 

ルーシィだけが雪崩を回避できず……

 

 

「さ……さ……寒、い」

 

雪に埋もれ、震えていた……。

 

 

 

 

 

 

翌日ーーー妖精の尻尾恒例 花見の日

 

「さぁ皆、どんどん食べてね!」

ご馳走をレジャーシートに広げ、告げるミラ。

 

「これは私のだからね!」

と、言いグビグビと樽ごと酒を飲むカナ。

 

「樽ごと持って来たんか!」

 

「誰も取りゃあしねぇっての」

そんなカナを見て、苦笑を浮かべる男達。

 

「花見は……漢だぁー!!」

 

「意味分かんないよ」

「漢」を大声でいつも通り叫ぶエルフマンに苦笑を浮かべる一部のメンバー。

 

「レビィ、何食べる?」

 

「レビィ、何飲む?」

 

「わ、私……そんなにいらないよ?」

ジェットとドロイの持ってくる食べ物や飲み物を見てやんわりと断るレビィ。

 

ワイワイと賑わうメンバーたちの中で……ナツたちは……

 

「ゴホッゴホッ……」

 

「ルーシィ、大丈夫ー?」

咳をするルーシィを心配そうに見つめるハッピー。

 

「やっぱりお家でゆっくり休んでいた方が……」

ウェンディがルーシィの背をさすりながら声をかける。

 

「だ、大丈夫よ! 咳がちょっとあるだけで熱とかはないの!」

にっこりと笑みを浮かべ、そう告げるルーシィ。

 

「それに、今朝ルージュが家に来てね?」

 

「……ルージュが?」

 

うん、と頷きルーシィは今朝あったことを話し出す。

 

 

「はぁ……体重いぃ……これじゃあ花見行けないかなぁ……」

ルーシィの体温を示す温度計は37.8℃をしめしており、この後も熱が上がりそうな状態だった。

 

はぁと再びため息をつき、花見を諦めよう……そう思った時だった。

 

 

コンコンッ

窓を叩く音がする。

 

「ん? 誰かしら……」

首を傾げ、カーテンを恐る恐るあけると……

 

「っ! ルージュ?」

窓の外には小さな小包を持ったルージュが手を元気に振っていた。

ルーシィは慌てて、窓を開けるとルージュを中へと招き入れる。

 

「どうしたの? こんな朝早くに……」

 

「あのねぇ、ハッピーからルーシィが風邪引いたって聞いてねぇ? これ、シクルから渡してきてって頼まれたんだァ」

 

そう言い、ルーシィに差し出す小包の袋。

 

「……これは?」

 

「それはねぇ、シクル特製の風邪薬だよぉ」

 

「シクルの!?」

ルージュのその言葉に驚き、小包を開けると2粒の薬が入っており、メッセージカードが添えられていた。

 

そこには……

 

“ルーシィへ

今日花見でしょ? これ、1日だけ風邪を強制的に軽くさせる薬。

ただ、これを飲んだ次の日はその副作用で熱とか上がっちゃうんだけど……効果は保証するから、もし良かったら……飲んで?

 

シクルより”

 

と、書いてあった。

 

「わぁ! ありがとうルージュ! シクルにもそう伝えておいて?」

笑顔でルージュにそう言うルーシィ。

 

「どういたしましてぇ! じゃあ、あたしはシクルが気になるから……帰るねぇ」

 

ルージュはそう言うと、ルーシィの家を飛び立ち、シクルと住む家へと帰っていった。

 

 

そして、薬を飲み現在に至るという。

 

 

「へぇ……シクルさんって、お薬も自分で作れるんですね!」

すごいなぁと呟くウェンディ。

 

「昔の知り合いに作り方を教わったそうだ……簡単な薬ならすぐに作れるようにといつも薬草を持ち歩いているんだぞ?」

 

エルザの言葉にへぇと、知らなかったルーシィやウェンディは頷く。

 

そして会話が途絶えたその時……

 

 

「それではこれより、お花見好例のビンゴ大会を始めまーす!」

ミラの一声が響き……

 

「「「「「「「ビンゴー!!」」」」」」」

メンバー全員の掛け声がその場に轟いた。

 

 

「にょっほっほっほい!! 今年も豪華な景品が盛りだくさんじゃ! 皆、気合い入れて掛ってこい!!」

 

「「「「「「うおぉぉぉぉぉ!!」」」」」

 

マカロフの一声でさらに賑わうメンバーたち。

 

そして、妖精の尻尾恒例の、ビンゴ大会がスタートする。

 

そして、ビンゴ大会が始まり数分後……

 

「ビンゴだァー!!」

 

「「「うそぉ!?」」」

 

「エルザすごぉい!」

 

一番最初にビンゴが当たったのはエルザだった。

だが、景品は昨日ナツたちと共に持って帰ってきた薬草で、しかも枯れてしまっていた……。

 

「ううぅ、そんな……私の、ビンゴが……」

泣き崩れるエルザ……

 

「ド、ドンマイエルザ……」

 

「ファイト……」

そんなエルザを慰めるルーシィとレビィの姿があった。

 

そして、この後ワカバもビンゴを当て、段々とビンゴが当たるメンバーが増えてくる中で……

 

「125番!」

ミラの告げた番号……

 

「んぉ? 当たったぞぉー!!」

 

「「「「「なにぃいいいいっ!?」」」」」

 

「すごぉおい!! 流石ナツです!!」

ナッハハハッ!! と高笑いをし、喜び跳ねるのはナツだった。

 

「おめでとう、ナツ!」

 

「おう!! んで? 景品は何だ?」

ワクワクとミラに迫るナツ。

はいはい、と苦笑を浮かべ、ミラがナツに渡したのは……

 

「……んだ、これ?」

 

赤と青の宝石が一つずつ埋め込まれたペンダントだった。

 

「それはね、想いのペンダントって言うまぁ……大切な人を想う気持ちを表したペンダントってところかしらね」

 

ミラの説明にへぇとペンダントを見下ろすナツ……。

 

……大切な……人、か……

 

 

その後、ビンゴ大会は大きなトラブルも無く、滞りなく終わり、最後のメインイベント、 “虹の桜” の鑑賞が始まった。

 

「わぁ!!」

 

「きれぇ!!」

 

「ほんとに虹色なのね……」

 

初めて見るその虹の桜にルーシィやウェンディ、シャルルは感動の声を上げる。

 

そして他のメンバーも虹色に輝くその桜を見つめ声を上げていると……

 

「そーだ!! ハッピー!!!」

と、突然ナツが大きな声を上げた。

 

「あい?」

ナツは隣にいたハッピーを呼び、ニカッ! と笑みを浮かべると……

 

「これ……シクルへのプレゼントにしよーぜ!!」

と、告げた。

その言葉にハッピーは少し目を見開き……

 

「え? 今から行くの?」

と、ナツに問うと「おう!!」と答えた。

 

そして、少しナツを見つめ……、にっこりと笑みを浮かべるとハッピーも「あいっ!!」と、返事をしナツを掴んだ。

 

 

「んじゃ、ちょっと俺行ってくる!!」

 

「ちょ、ナツ!?」

 

ナツを呼び止めるルーシィの声が響くも、ナツは既にハッピーにより飛び立っており……

 

「ほんとに……シクルの事になると……」

 

「超せっかちになるんだから……」

 

苦笑を浮かべながらも、この時期になると外に出たがらないシクル……彼女を思い、ナツならきっとなんとか出来ると心の中でそう感じるギルドメンバーたち……

 

「……シクルを、頼むぞ……ナツ」

 

 





如何だったでしょうか? 次回はナツとシクルのからみがすごく多く出るかなと思います!

恋が進展するかは……まだ分かりません!
では、59話も最後までお付き合い、ありがとうございます!!

次回も、よろしくお願いします!!


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60話 俺が……守るからっ!!

はい! では前回の予告通り今回でこの日常篇、完結致したいと思います!!


結構ナツとの絡みが多めです!……私の中では

では、60話、最後までお付き合い、お願いします!


 

 

花見の席を飛び出し、シクルの家へと向かったナツ……

 

「ねぇ、ナツー?」

 

「あ?」

 

ナツを掴むハッピーが飛びながらナツに声をかける。

 

「シクルの家に行って何をするの……? この時期のシクルは人と会うのも拒むんだよ……会ってくれるか……」

 

分からないよ? とハッピーが言おうとした時……

 

「ぜってぇ会ってくれんよ……シクルだからな!」

と、ナツが遮った。

 

「ナツ……」

 

「シクルは仲間思いだから……仲間を追い出したりなんかしねぇよ! な?」

 

シクルに拒絶されることを1ミリも疑っていないナツのその表情に……ハッピーも、にっと笑い、「あい!」と返事をした。

 

 

そして、シクルの家が目視できるところまでに近づくと……

 

「そーだ、ハッピーはルージュのところに行ってくれねぇか?」

 

「え? どーして?」

ハッピーが首を傾げ、ナツに問う。

 

「……シクルと2人で……話がしてぇんだ」

真剣な表情でそう告げ、「頼む……」と、言うナツを見下ろし……

 

「ナツ……分かった!」

と、答えたハッピー。ナツはニカッ! と笑みを浮かべ、「サンキュー!」と言った。

 

 

 

ナツとハッピーがシクルの家に着く少し前……

 

 

眠れずにただぼぅっと椅子に座り、自分の手を見下ろすシクル。

 

その瞳に光は差しておらず……

 

 

 

……私…………何の為に、生きて……いるの?

 

 

私……私は……

 

 

キュッと目を閉じるシクル……その時

 

コンコンッ

 

「っ……あ」

 

窓を叩く音が聞こえ……外を見ると……

 

「……ナツ」

 

にっこりと微笑むナツの姿があった。

そして、シクルと目が合うとちょいちょいと窓の鍵のところを指差す。

 

少しの間、ナツと鍵のところを交互に見やい……そして、はぁとため息をつくと……

 

立ち上がり窓に近寄る。

 

ガチャっと鍵を開け、窓を開ける。

 

「……なに? ナツ」

素っ気なく聞いてくるシクルに嫌な表情もせず、にっと微笑むナツ。

 

「シクルに会いに来た!!」

 

「……花見は? 丁度今虹の桜が……「それよりシクルに会いたかったから! だから来た!!」……ナツ」

 

虹の桜が見ごろ、と言葉を告げようとするとその言葉を遮り、ナツが言った。

 

「花見も楽しいけどよ……シクルがいなきゃなんか……楽しくねぇんだよ」

 

だから、会いに来たと告げたナツを見て、ふっと小さく笑うシクル。

 

「楽しいけど楽しくないって……矛盾してるよ? ナツ」

 

変なの、と笑うシクルにナツは少し目を見開き……そして、スッと頬を赤らめ恥ずかしがり、「うっせぇよ」と言う。

 

頬を赤らめるナツを見て、ふぅと一息つくとシクルは簡易的なキッチンに立ち、2つのカップにココアを注ぎ、テーブルに置く。

 

「……座って、ナツ」

 

「お? おう……」

 

シクルに声を掛けられ、テーブルを挟み、シクルの前に座るナツ。

 

目の前に置かれたカップを持ち、ゆっくりと口に運ぶナツ。チラッと目の前のシクルを見やうナツ。

 

シクルもゆっくりとカップに注がれたココアを飲んでいた。

 

 

その場に静かな時が流れ……時間が経つにつれ、少しずつソワソワし出すナツ……

 

キョロキョロとあっちを向いたりこっちを見たりと……視線が落ち着かないナツをふっと盗み見るシクル。

 

 

「……フフ」

 

「んぁ?」

シクルの小さな笑い声が聞こえたナツ。

不思議そうにシクルを見つめると……

 

「何か話があってきたんじゃないの?」

と、言われ、ナツは少しオドオドとしだす。

そして、シクルを見つめたと思ったら目を離し……再びシクルを見つめ、また目を逸らしと繰り返し……

 

「っーーー! はぁ……なぁ、シクル……」

意を決したナツ……「ん?」と、首を傾げるシクルを前に……ナツは真剣な表情を浮かべ口を開いた。

 

 

「シクル……この時期、昔……何があったんだ?」

 

「っ!!」

 

「俺もハッピーも……グレイやエルザ……ギルドのヤツら全員……この時期になるとシクルが決まって何かに怯えてること……知ってる」

 

ナツのその言葉にシクルはふっと目を伏せ……「そっか……」と呟く。

 

「……なぁ、シクル……」

ナツの呼びかけにふっと視線を向けるシクル……

 

「なぁ……まだ、話す気になれねぇか?」

 

じっと見つめる、真剣な眼差しのナツ……そんな彼を見つめ、シクルは……

 

「……ごめん」

と呟く。

 

「っ!」

 

「ナツ……いつか、いつか話すから……今は、まだ……ごめん」

再び顔を伏せ、告げるシクルを見つめ……ナツも悲しげに表情を歪める。

 

 

 

「シクル……なぁ、シクル……俺はシクルの……力に……なれねぇか?」

 

「ナツ……」

ナツはほんの少し、悲しそうに、そして辛そうに苦笑を浮かべ話し出す。

 

「俺……俺、もう……シクルの苦しむ姿見たくねぇんだよ……」

 

 

「……ナツは、充分私の力になってるよ……いつも、ナツに助けてもらってる……でも」

シクルはそこで一度口を閉ざすと……ぎゅっと手を握りしめ、黙り込んでしまう……

 

 

「……なぁ、シクル? シクルを苦しめてるものは俺が……俺が全部ぶっ壊して……「だめっ!!」っ!?」

 

ぶっ壊す、そう言おうとしたナツの言葉を遮り、突然シクルがガタッ! と立ち上がり声を荒らげる。

 

「だめ……だめだよ……あいつは……あいつに手を出したら……ナツが消されちゃうよ……!!」

 

「な……なんだよ、それ? やってみなきゃわかんねぇーだろ!? 消されるって……消されねぇかもしれねぇだろ!!」

ナツも立ち上がり、少し大きな声を上げる。

 

「分かるよ……だって、消されたんだ……あいつに、逆らおうとした人……皆、私の……目の、前……で」

 

シクルの声は次第に震え始め、そして、涙が溢れ、ポロポロと流れる。

 

 

「っ……シクル」

 

 

「嫌だよ……私の、せいで……ナツが、皆が……消されたら……そう、考えたら……怖くて……苦しくて、ねぇ……ナツ、私……」

 

 

 

いない方が……いいのかなぁ……

 

 

「シクル!!!!」

 

「っ……」

 

 

悲しげに笑みを浮かべ、涙を流しいなくなった方がいいか? とシクルがそう、言おうとした時……その言葉を発する前に、ナツが声を荒らげ、そして……

 

震えるシクルの身体をぎゅっと抱きしめた。

 

 

 

「シクル……そんな事、言うな……」

 

「ナ、ツ……でも……でもっ」

 

 

「俺は……シクルがいなきゃいいなんて……思ってねぇ、ぜってぇ……思わねぇ……言ったろ? シクルがいなきゃ楽しくねぇって……他の奴らも、皆……そう、思ってる……俺達にはシクルが必要なんだよ……だから……」

 

 

ナツはソッと頬を流れる涙を指で拭い……ニカッと笑みを浮かべると

 

「ここにいろよ、シクル……誰がなんと言おうと、お前は妖精の尻尾の仲間だ……家族だ……ぜってぇ、守るから……ギルドが……仲間が……俺が……守るからっ!!」

 

「っ、ナツ……ナツっ」

 

 

「ここにいろよ……シクル、んでいつか……シクルの苦しみ、抱えてるもん……話してくれねぇか?」

 

首を傾げ、そう聞いてくるナツに、顔を伏せ……コクコクと頷くシクル。

 

 

 

「うん……うん……ありがとう……ナツ……ありがとうっ……!」

 

涙を流しながらも、頷くシクルを見下ろし、再びぎゅっと抱きしめるナツ……

 

 

 

「……約束な」

 

「うん……うん! 約束……」

そう、呟くとふっと笑みを浮かべるシクル。そんなシクルの手に、シャラッと何かを持たせるナツ。

 

渡された手元をシクルが見るとそれは、先ほどのビンゴ大会でナツが当てたペンダントの青い宝石が埋め込まれた方だった。

 

「ナツ……これは?」

 

「ビンゴ大会で当たったんだ! ミラが言うには想いのペンダントっつって、大切なやつを想う気持ちのペンダントなんだとよ」

 

ナツのその言葉にシクルはほんの少し目を見開く。

 

「大切な……?」

首を傾げ、ナツに問いかけるシクルを見下ろし、「おう!」と頷くナツ。

 

「ついでにそれ、2つあったから1つは俺んな!」

 

変わらない笑みを浮かべ、既に首にかけられた赤い宝石の埋め込まれたペンダントを持ち、そう告げるナツ。

 

そんなナツを見つめ、ふっと笑みを浮かべるとシクルは

 

「ありがとう……ナツ」

と、呟く。

 

「お、おう……それ、つけてやんよ、後ろ向いてくんねぇか?」

 

「うん」

ナツの言葉に従い、ナツに背を向けるシクル。そして、ナツの手により、ペンダントがシクルの首にかけられる。

 

「わぁ……綺麗」

首にかけられたそれを手に持ち、改めて眺めるシクル。

 

そんなシクルを見つめ……愛おしく感じたナツ……。

 

不意に、シクルを再び振り返らせ、くいっと両の頬を両の手で包み、そしてシクルの顔をあげさせ、目を合わせる。

 

 

「……あ…」

 

目が合うシクルの瞳は涙のあとで未だ少し濡れ、赤くなっているがいつもの光が戻っており……そして、シクルの瞳に映るナツは……

 

とても、真剣な眼差しで……そして……

 

 

 

「シクル……やっぱり俺……お前が好きだ」

 

 

 

「ナツ……わた、し……(私……は……)」

 

 

トクンッと、高鳴るシクルの心臓……

 

自分を見つめるナツの表情が、瞳が……ナツがその全身で今、自分を好きだと、訴えかけていた……。

 

 

 

乱雑に結っていたリボンが解け、下ろされる髪……それは、少し開けていた窓から入る風でフワッと揺れる。

 

 

見つめ合うシクルとナツ……そして……

 

 

 

 

言葉を発さず、どちらとも無く……ゆっくりと、顔が近づく……

 

 

いつの間にか片方の頬から離れていたナツの手が、シクルの手をぎゅっと優しく握る……

 

 

 

 

「……シクル」

 

「……ナ、ツ」

 

 

目を瞑り、あと数センチ……その僅かな距離がゆっくりと縮まる……そして……重なり合う……その時

 

 

 

 

 

バタンッ!!!

 

大きな音を立て、シクルの部屋の扉が……開く。

 

「「っ!?」」

驚き、そちらへ顔を向けると……

 

 

「な……なっ」

 

「お、お前ら……ンで、ここにっ!?」

 

 

扉の外から崩れるように、倒れ込み入ってきたのは……最強チームの面々と、ウェンディ、シャルルそして何故か……ガジル、レビィ他にカナやミラもいた。

 

 

「あらあら、だから押さないでって言ったのに……」

苦笑を浮かべ、告げるミラ。その手にはしっかりと撮影用の魔水晶が握られており……

 

「誰だよ、後ろから押したやつ」

グレイのはぁ、というため息が響く。

 

「俺じゃねぇよ、お前じゃねぇのか?」

 

「わ、私じゃないよ!?」

ガジルがレビィを指し、言うその言葉に首を振り、否定するレビィ。

 

「あわわわわ……ご、ごめんなさい!」

 

「全く……、これだからデリカシーのない奴らは嫌いなのよ」

 

オロオロとするウェンディと辛口でフンッと言い放つシャルル。

 

「いいじゃないかぁ……青春青春……もっとやれぇ〜」

完全に酔っ払いながらもそういい、更に酒を飲むカナ。

 

「ご、ごめーん、シクル! やっぱ少し気になって……」

苦笑を浮かべ、てへっとやってしまったと言った雰囲気を持つルーシィ。

 

「す、すまん……じ、邪魔をする気は無かったのだが……つ、つい」

自分の事ではないのに頬を赤らめ、何故か照れているエルザ……

 

「ごめーん、ナツ……止められなかった」

 

「あたしもぉ……ごめんねぇ、シクル」

 

倒れ込むルーシィたちの後ろで、翼で飛びながら、頭を掻き、てへっと笑うハッピーとルージュ。

 

 

 

固まり、ルーシィたちを見つめるシクルとナツ。

ふと、我に返るシクルが……そっと目の前のナツを見やうと……

 

 

ナツとのその距離に今更ながら、自覚し……そして、先程まで何をしようとしていたか整理と理解が追いつくと……

 

「あ、う……き、きゃぁあああああ///!!」

 

「ぐもぉおっ!!??」

 

ナツを殴り飛ばした……。

 

 

吹っ飛ばされたナツは壁にぶつかり、きゅう……と気絶……はぁはぁと息を荒らげ、顔を真っ赤にするシクル。

 

「あらあら、もっとくっついていて良かったのに……」

頬に手を添え、もったいない……と、呟くミラ。そしてその言葉にコクコクと頷くルーシィたち。

 

「だ、誰が……くっついてなんか……てか、いつから!?」

 

どこから見てたの!? と声を荒らげるシクル。

 

「あ? 火竜が告った辺りじゃねぇか?」

 

「そこから!? そこから聞いてたの!?」

 

嘘でしょ……と、更に顔を赤くするシクル。

 

 

「ほれほれ、あたしたちなんか気にせずさぁ……ちゅーしちゃえよ、ちゅーって……」

 

「しないわよっ!!」

 

カナの言葉を全力で否定するシクル……その言葉を聞き、ルーシィたちは……

 

 

「「「「「えぇえええええっ!!」」」」」

 

不満な声を上げた。

 

「好きならやればいいだろー」

 

「というか2人って付き合ったの?」

 

「ん? 付き合っているだろう?」

 

「そ、そうなんですか!? やっぱり……」

 

わぁわぁとシクルとナツをほっぽり話が膨らむルーシィたちを前に……フルフルと身体の震えが強くなるシクル。

 

「「でぇきてるぅぅぅ!!」」

 

 

「う……うるさぁああああああいっ!!!」

 

 

その夜、シクルの絶叫が辺りに響き渡った……。

 

 

 

日常篇 完結〜

 

 

next.story エドラス篇 開幕

 

 

 

~予告〜

 

 

 

もっと強くなりなさい!青少年!!そしたら、考えてあげなくもないわよー

 

 

 

 

 

何これ……ギルドが……街がっ、皆は!?

 

 

 

 

 

 

ここが……エドラス……ミストガンの、ルージュの……故郷

 

 

 

 

 

 

なにィ!? こっちの俺は……付き合って、んのか!?

 

 

 

 

 

 

 

貴女も……私?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シクルになんかしてみろ……俺が、ただじゃ置かねぇぞ!!このやろおっ!!

 

 

 

 

 

 

 

嘘だ!! あたしたちに……ううん、ハッピーたちにそんな任務、あたえてなんかいないでしょぉ!? ほんとは……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

助けて……怖い……助けて……ナツっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

カエ、せ……

 

 

 

 

 

 

 

 

こいつは私達に任せて……皆は先に行って!!

 

 

 

 

 

 

 

 

2人でなら……きっと、ううん……絶対出来る! だって私達は……同じ力を持った人間なんだから!!

 

 

 

 

 

 

 

 

……自分の気持ちに、素直になってくださいね? 後悔する前に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バイバイ……エドラス……もう1人の私……またね、ミストガン

 

 

 




はい!! では、次回よりエドラス篇……行きたいと思います!!



んんん……エドラス篇、もしかしましたら色々と飛ばしてしまったりするかもしれません!
ここ見たかった、など多々あるかもしれませんがご了承ください!

では、60話、最後までお付き合い、ありがとうございます!!

次回からも、よろしくお願いします!!


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第8章 エドラス篇
61話 もう1人の最強、帰還



はい!今回からエドラス篇!! 参りたいと思います!(まだエドラスまでは少し先なのですが……)

と言うか、完全にギルダーツの登場場面吹っ飛ばしていました。

ほんとは例の白き竜を出そうと思っていたのですが次回で……

では、61話最後までお付き合い、お願いします!


 

虹の桜、花見の日から2週間……

 

今回、ナツとの出来事もあり1週間で回復したシクル、既に通常運行に戻り、ギルドでのんびりと、時折ナツたちの依頼に着いていくを繰り返していた。

 

そして今は一時の休息でミラの作ったご飯を食べ、過ごしていた。

 

「ふぁー! 美味しい!!」

頬に手を添え、身体をくねらせながらその美味さを全身で表すルーシィ。

 

「ほんと、美味しいです! ね、シャルル!」

隣でご飯を食べ進めるシャルルに声をかけながらにっこりと言うウェンディ。

 

「まぁ、なかなかね」

美味しいと感じるも変なプライドで素直には言わないシャルル。

 

そんな彼女たちの様子に頬を少し赤らめながら笑うミラ。

「ウフフ、ありがとう」

 

「んー! やっぱりミラのご飯は美味しいなぁ!」

最高! と笑みを浮かべ告げるシクル。

 

「もぉ……そんなこと言って、シクルの方が私より料理上手なのに……」

 

苦笑を浮かべながら、洗い終わった食器を棚に戻すミラ。

 

「それにしても、よく寝るねぇ……」

ちょいちょいと、ルージュがシクルの隣に腰掛け眠るナツのその桜色の髪を引っ張りながらクスクスと笑い、言う。

 

ナツの隣ではハッピーも眠っていた。

 

「ルージュ、そんなにやったらナツが起きるよ?」

苦笑を浮かべ、ルージュを止めるシクル。

チラッと眠るナツに視線をやる。

 

「……はぁ(……好き、かぁ)」

 

あの夜以降、ナツとの関係に進展はない。このままでいいのか……シクルは悩んでいた。

「……いい訳、ない……よね(ナツも待っててくれてるけど……ずっと待たせるわけにはいかないよね)」

 

早めに整理をつけよう……そう、そっと心に決めたシクル。

 

ふと、最近ギルドに来てから1ヶ月ほど経つウェンディとシャルルに視線をやる。

 

「ウェンディたちも、だいぶこのギルドに慣れてきたみたいね」

 

「はい! 皆さん優しいので……色々教わっています!」

 

「女子寮がある所もいいわね、気に入ったわ」

ウェンディとシャルルの言葉に「良かった」と微笑むミラ。

 

「そういえば、どうしてルーシィさんは寮じゃないんですか?」

ウェンディがきょとん、と首を傾げ問うと……

 

「あー……あたし、女子寮の存在って最近知ったのよ……てか、寮の家賃って10万Jなのよね……」

ルーシィは深く溜息をつき、苦笑を浮かべる。

 

「もし入ってたら払えなかったわ……そうなったら今頃……」

 

恐怖で震えるルーシィをウェンディたちは苦笑を浮かべ見つめた。

 

そんな中、ふと食事に夢中なシクルを見て

「そういえば、シクルもあの寮で住んでないわよね?」

と、シャルルが問いかけた。

 

「んぇ? あー、うん……」

シクルは食事を中断しシャルルの方を振り返る。

 

「私の場合は寮より森での生活の方が好きだったから……それに自分で建てた家ならローンとか気にせず暮らせるでしょ?」

 

だから寮に住んでないのと、告げるシクルを見つめ唖然とするルーシィたち。

 

「ローンをいちいち気にするの面倒くさがりそうだもんねぇ、シクルはぁ」

 

「えー? そー見えるかなぁ……そんなことないよ?」

ルージュとケラケラと笑いながら話をするシクルにはっと我に返るルーシィが声を上げる。

 

「……て、シクルってあの家自分で建てたの!? 1人で!?」

 

「まっさかー、ちゃんと人手使ったよ? あ、あれは星霊手かな?」

 

タウロスの力とか借りたしねーと、言うシクルにふと、星霊の事で聞きたいことを思い出すルーシィ。

 

「そういえば、どうしてシクルは星霊が呼べるの?」

 

「ん? あー、それね……んー……私もよく分からないんだけど……セレーネが星霊王と友人だったというか……」

 

「セレーネって……シクルさんに魔法を教えた竜ですか?」

ウェンディの質問にコクンと頷くシクル。

 

「そーそー、本名はセレーネソフィアなんだけど、彼女からセレーネでいいって言ってたからそう呼んでるの」

 

少し話がずれたね、と呟き再び語り出すシクル。

 

「セレーネは竜であり、別名“月の女神”とも呼ばれていた……月と星……だからかな?

 

星霊王との相性が良かったのは……セレーネの歌う声に星霊王が魅了されて、その歌声を受け継いだ私に特別な紋章をくれたの……

 

それがあの星霊の鍵なしに星霊を呼べたり、星霊界へ還したりする力よ

 

ちなみに私の歌魔法も滅竜魔法とは別に、セレーネから教わった魔法なの」

 

シクルの語ったその話にへぇ……と興味津々のルーシィたち。

 

「へぇ、シクルの歌魔法って竜から教わったんだ……」

 

「あ、竜と言えば……シクルさん、前にグランディーネの事を教えてくれると……」

 

ウェンディからの言葉にあっと今思い出したかのように声を漏らすシクル。

 

「あー、そういえばそうだった……んー、まずはグランディーネの居場所を1番聞きたいんだろうけど……」

シクルの呟きにコクコクと頷くウェンディ。

 

そんなウェンディに苦笑を浮かべ、申し訳なさそうにシクルは告げる。

 

「ごめんね? グランディーネとは昔会ったこともあるし、知り合いではあるんだけど……今何処にいるかは分からないんだ……」

 

「そう、です……か」

シクルの言葉にしゅん……と、落ち込むウェンディ。

「あわわわ……ご、ごめんね? ほんと……」

 

頭を下げ、謝るシクルに首を振り、微笑むウェンディ。

「大丈夫ですよ! シクルさんは悪くありませんから」

と、言ったウェンディの笑みを見て可愛いなぁと、心の奥で感じるシクル。

 

 

グランディーネの話が途切れ、この後何をしようか、と話をしようとした時だ……

 

バーンッ!! と、大きな音を立てギルドの扉が開く。そして……

 

「「た……大変だぁー!!!」」

ウォーレンとマックスの声がギルド中に響き渡る。

なんだなんだと、ギルドメンバー全員がそちらに顔を向ける。

 

シクルたちも、同様にそちらへと顔を向けた。

 

すると……突然、

 

ゴーン ゴゴーン

 

と、鐘の音がマグノリア全体に響き渡った。

 

「……何?」

 

「鐘の音?」

 

「何よこれ?」

最近入ったばかりのルーシィ、ウェンディとシャルルはその音の意味が分からず首を傾げるも……他のメンバーはその音の正体が分かったようで……

 

鐘の音で眠りこけていたナツとハッピーも目が覚める。

「おい、この鳴らし方って……」

 

「あい!!」

 

「まさか……」

 

「あいつか!?」

 

「おぉ! ついに帰ってきたか!!」

 

ギルド全体がざわつく……その理由は……

 

 

「ギルダーツが帰ってきたぁー!!」

 

「あいさー!!」

 

「「「「「ギルダーツだぁ!!!」」」」」

 

最強の帰還ーーー。

 

 

「……ギルダーツ、さん?」

 

「誰なの?」

 

「あたしも会ったことないわ」

唯一名前が出ても首を傾げるルーシィたちに、フフフと笑いながらミラが説明を始めた。

 

「ギルダーツは、妖精の尻尾最強の魔導士なのよ……あ、シクルを除けばかしらね?」

 

「ちょっとなんでそうなるのさ……」

ミラの説明にいちゃもん付けるシクルだったが……

 

「だってシクル、ギルダーツに負けたことないでしょ?」

と、ルージュの言葉に嘘偽りはなく……

 

「そうだけど……」

と、肯定するしかなかった。

 

「て、シクルを抜いたら最強って……まさか、エルザよりも強いの!?」

ルーシィの投げかけに、2階から降りてきたエルザは笑みを浮かべ、あぁと頷いた。

 

「私など、足元にも及ばんさ」

 

「ど、どんだけやばい人なのよ……」

カタカタと震えるルーシィ。

 

はぁ、とため息をつき未だ興奮の冷めないギルドメンバーを見て呆れた表情を浮かべるシャルル。

 

「どうでもいいけど、この騒ぎようは何よ……」

 

「お祭りみたいだね、シャルル!」

にっこりと楽しげに騒ぐギルドを見つめるウェンディ。

「本当、騒がしいギルドね」

 

ウェンディとシャルルの会話にクスクスと笑うミラ。

 

「みんなが騒ぐのも無理ないわ……3年久りだもの、帰ってくるの」

 

「3年!? 3年も何してたんですか?」

ミラの言葉に目を見開き驚くルーシィ。

 

「ルーシィたちは、S級クエストの上にSS級クエストがあることは知ってるわね?」

ミラからの質問にコクリと頷くルーシィたち。

 

「その上に10年クエストって言うのがあるの」

 

「……10年クエスト?」

 

「10年間誰も達成したことのないクエストの事だよぉ」

シクルの頭に飛び乗り、口を開くルージュのその言葉に……

 

「10年間誰も!?」

 

「そんなすごいクエストがあるんですか!?」

と、驚くルーシィとウェンディ。

 

純粋な反応をする2人を見てクスクスと笑うシクルたち。

 

「そして、ギルダーツはその更に上に100年クエストに行っていた」

と、エルザが告げると……

 

「100年って……まさか」

僅かに呆然とした様子で問いかけるルーシィに……ふっと笑みを浮かべ答えるのは……

 

「100年間、誰も達成したことのないクエストの事だよ」

と、シクルが告げた。

 

「「えぇ!?」」

 

そんなすごい人がいるなんて! と驚きを隠せないルーシィたちに……

 

「でも、100年クエストに行ったことのある人なら目の前にいるじゃない」

と、ミラが爆弾発言をした。

 

「……え」

 

「ちょ、ミラ……それは言わなくても」

唖然とするルーシィの隣で深いため息をつくシクル。

 

「ま、まさか……シクルも100年クエスト経験者!?」

ルーシィからの問い詰めに……あーと苦笑を浮べるシクル。

 

「まぁ……確かにそうだけど」

 

頷くシクルに凄まじいわ……と、呟くルーシィ。

 

そこに……

 

 

『マグノリアをギルダーツシフトに移行します!町民の皆さん、速やかに所定の位置へ!!』

 

マグノリア全体に流れるアナウンス。

 

「な、なになに!?」

 

「今度は何が始まるんですか!?」

 

「人1人帰ってくるだけで大げさじゃないの……?」

 

「まぁまぁ、とりあえず外見てみなよ? 面白いのが見れるよ」

クスリと笑うシクルに首を傾げながらも、外へと出るルーシィたち……すると……

 

 

 

パッカリと、街が二つに割れた。

 

「えぇえええええっ!?」

 

「ま、街が割れちゃいましたよ!?」

 

あわあわと狼狽える2人を笑いながら見つめるシクルとエルザ。

 

「ギルダーツは“クラッシュ”と言う魔法を使う……クラッシュとは触れたものを粉々にしてしまうすごい魔法なのだが……」

 

「ギルダーツは極度の方向音痴で……しかもぼぉっとしてると民家の壁をクラッシュで壊して歩く癖があるから……」

 

「どんだけ馬鹿なの!? てか、それだけのために街を改造したの!?」

ルーシィからの質問にコクコクと頷くシクルたち。

 

「すごいねー! シャルル!!」

「ええ……すごいバカね」

 

目を輝かせるウェンディと呆れてものも言えないシャルル……

そして、2つに割れた街の果てからギルドへと歩み寄る1つの影……

 

「来たァ!!」

 

「あい!!」

 

飛び跳ね声を上げるナツとハッピー。

 

しぃんと、その人がギルドに着くのを待つ一同……そして……

 

 

「ふぅ……」

 

深いため息をつく赤茶毛の男……彼こそ、今100年クエストから帰還した、妖精の尻尾最強の1人、SS級の資格を持つ“ギルダーツ”だ。

 

ギルダーツはカウンターにいるミラに近づくと……

「お嬢さん、この辺に確か妖精の尻尾ってギルドがあったはずなんだが……」

そう、訊ねた。

 

ギルダーツの言葉にポカーンとする一同。

そして……

 

「ウフフ、妖精の尻尾はここよ? それに私はミラジェーンよ」

にっこりと微笑むミラを見下ろしぱちくりと瞬きをするギルダーツ。

 

「な、なにぃ!? お、おま……ミラなのか? 随分変わったな!! てか、ギルド新しくなったのか!」

 

「外見で分からないんだ……」

 

「それがギルダーツですぅ」

 

 

 

「ギルダーツっ!!!!」

がぁ! と上がるナツの叫び声。

 

「おぉ! ナツか! 久しぶりだなぁ!」

 

ニカッと笑うギルダーツに飛びかかるナツ……

「俺と勝負しろォ、ギルダーツ!!」

 

その姿に、あっとシクルが思った時は時既に遅く……飛びかかった次の瞬間には……

 

ダァン!

 

「また今度な」

ナツはギルダーツの軽い一振りでギルドの天上に投げ飛ばされた。

 

「えぇええ!? あのナツが一撃で!?」

 

「流石にギルダーツは無理だってナツ……」

 

はははっと空笑いをするシクル……ふと、ギルダーツと目が合う。

 

「……シクルか?」

 

「うん、そーだよ? おかえり、ギルダーツ」

 

ギルダーツからの投げかけににっこりと微笑み答えたシクル。

そんな2人を見て……

 

「や、やべぇ!」

 

「おい、みんな離れろ!!」

 

「巻き添えくらうぞぉ!!」

 

「ぎゃぁああ、あれは恐怖だァ!」

 

ギルドメンバーが一斉にギルドの奥へと逃げる。ウェンディとシャルルもミラとハッピーに連れられ逃げる。

 

「え? 何? なんなの」

……ルーシィを置いて……

 

「ルーシィ! 早くこっちに来い!!」

エルザの呼びかけにはて? と首を傾げるルーシィ……すると

 

「元気だったか? シクル……」

 

「もちろん、元気よ……ギルダーツも、相変わらずだね……」

 

にっこりと微笑みながら近づく2人……そして

 

 

 

……ダンッ! と、強く足を踏み鳴らし、同時に駆け出すと……

 

 

 

ドッッッッッーーーー!!!!!

 

 

「ぎゃあああああああああっ!!?」

 

 

ギルダーツとシクルの拳がぶつかりあった衝撃波でものすごい爆風と爆音が轟き、逃げ遅れたルーシィも吹っ飛んだ。

 

「はっはぁ! 相変わらず女らしからぬ力だなぁ!!」

 

「そういうそっちはバケモノ並みの力じゃないの……よ!」

 

2人のぶつかり合う蹴りの風圧で一部の壁が吹き飛ぶ……

 

 

「ひぃいいいい! ギルドが壊れるぅ!!」

 

誰かの悲鳴が響いた時……

 

 

「止めんか糞ガキ共ぉおおおおおおおおおお!!!!!」

 

「「あ」」

 

マカロフの怒声でやっと事態に気づいたシクルとギルダーツ……

 

「またギルドを壊す気かバカタレ共!!」

 

「もう半分以上壊されてるよ……」

 

怒れるマカロフを前に……

 

「わりぃわりぃ」

 

「ごめーん、マスター……やっちゃった」

ケラケラと笑うシクルとギルダーツ。

 

相変わらずの2人にため息をつくマカロフ……

「はぁ……それより、ギルダーツ……仕事の方はどうじゃった?」

 

マカロフの問いかけを聞くとピタッとギルダーツは1度笑うのを止める……そして

 

 

「がっはははっ!!」

と、再び笑い出す。

 

その様子を見てマカロフとシクルの表情がやや険しくなる……。

 

「……ダメだ、俺には無理だわ」

 

 

「「「「「なにぃいいい!?」」」」」

 

「ギルダーツが……」

 

「依頼……失敗?」

 

 

「そうか……主でもダメか」

 

 

ふぅと肩を落とすマカロフ。

 

「悪かったな……ギルドの名を汚しちまって」

 

「いや、無事に帰ってきただけで良いわ……わしの知る限り、このクエストから帰ってきたのは主が初めてじゃ」

 

ようやった、と褒めるマカロフ。

 

「シクルなら行けるかも知れねーな」

がははっ! と笑い、言うギルダーツに不満の表情を向けるシクル。

 

「じょーだん! 私が行くわけないでしょ……」

 

「はは! そらそーだ……はぁー……疲れた疲れた……俺ァ、休みてぇから帰るわ」

 

そう言い、ギルドメンバーに背を向け、扉へと歩いていくギルダーツ……すると

 

 

「お、そーだ……ナツー、後でちょっと俺ん家来い……あぁ、シクルもな」

 

「え? あー……わかった」

ギルダーツの言葉に首を傾げるシクルと……

 

「土産かっ!?」

と、興奮するナツ。

 

「おー、土産だ土産ー」

と、手を振り去っていくギルダーツ……

 

ギルドの壁を破壊し……

 

「ギルド壊すなよ!?」

 

「扉から帰れよっ!?」

ギャアギャアと飛び交う言葉……

 

「よっしゃー! 俺達も行くぞハッピー!!」

 

「あいー!!」

 

うぉおおおっ! と叫びギルダーツを真似、壁を壊し飛び出していくナツ。

 

「あんたも壁壊すなぁ!!」

ルーシィの怒声が響くもナツは既におらず……

 

「はぁ……まぁ、壁は後で二人に直させるとして……私も行くね」

 

「あ、うん」

 

じゃっと手を振りギルドを出ていくシクル。

 

「あ、ルージュは……」

 

「あたしは此処で待ってるよぉ」

 

「分かった、後で迎えに来るね」

手を振り、いってらっしゃぁい! というルージュに手を振り返しギルドを出る。

 

「話ってなんだろ……(それに……さっき感じた違和感……もしかして)」

 

ぼぉっと、空を見上げながらふと、先程感じた違和感の正体を考えながら、ギルダーツの家へと向かい、歩き出す。

 

 

ギルダーツから語られる話とは……

 

そして、今……平和になった妖精の尻尾にまた新たな、事件が巻き起ころうとしていた……。

 




はい!! 一度書いた文を全部消して作成したので所々矛盾や誤字があるかもしれません!!

見つけた際はご報告お願いします!!

では、次回は今日の夜出来るかな?と思います!遅くとも明日!
最後までお付き合い、ありがとうございます!


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62話 白き竜との邂逅


はい……結局お昼の投稿となる安定ですね笑


今回はついにあの金髪君が出ます!

やっと出せた!! という感じですね……原作ではまだ登場シーンではないのですが……好きなキャラなので出ていただきます!!

では、最後までお付き合い、お願いします!!


 

 

 

ギルダーツに呼ばれ、ギルダーツの自宅へとゆっくりと向かうシクル。

 

ルージュはギルドで留守番をすると言ったため、今は一緒にはいない。

「んー……ギルダーツ、何のようかなぁ」

 

「……着いたらわかるか」

そう呟き、ギルダーツの家へと向け足を進めるシクル。

 

そして、ギルダーツの自宅前に到着すると……

 

「やっとついたァ……方向音痴の割にはギルドから離れたところに家持ってるんだから……」

 

もっと近場にすればいいのに、と呟きながら扉をノックしようと手を出す。

 

 

「ナツおめぇ……リサーナとはどぉなんだぁ? あぁ、今はシクルだっけかぁ? がっははは、若いなぁ」

 

「……は?」

 

中から聞こえてきた会話に……ピタッとノックしようとした手を止め、はぁと深くため息をつく。

 

「地雷踏み抜くとか……荒れるな」

中から聞こえる「リサーナは死んだ」と言う、ナツの言葉を聞き再びため息を1つつき、扉を開けた。

 

 

 

「……え、なんだと?」

 

ナツの口から出た言葉に目を見開き、驚きを隠せないギルダーツ。

そこに……

 

「リサーナは、2年前……ミラの受けたS級クエストのサポートにエルフマンと行った時……テイクオーバーの魔法を使い、暴走したエルフマンの手により、死んだよ」

 

静かに入ってきたシクルの声が流れた。

その言葉にギルダーツはシクルを見つめ、顔を青ざめる。

 

「マ、マジかよ……そっか、それでミラの奴……うおぉ、スマン……スマネェ、ナツ」

 

何も事情は知らなかったとはいえナツにとって、ギルドメンバーにとっても深い傷となったであろうその出来事……

 

それを話題に出してしまったギルダーツは申し訳なさそうに苦しい表情を浮かべ、ナツに頭を下げる。

 

だが、ナツの中に湧いたその黒い感情は治まらず……

「ンだよ……そんな話なら俺は帰るぞ」

 

「ナツ!!」

 

ギルダーツに背を向けるナツの表情には苛立ちが見え隠れしており、シクルも辛そうにしている。

 

 

 

「……ナツ、シクル……仕事先でドラゴンに会った」

 

「「っ!?」」

 

ギルダーツの告げたその言葉に背を向けたナツはギルダーツを振り返り、又シクルも驚愕でギルダーツを見つめる。

 

「ナツが探してる赤い奴じゃねぇ……多分、シクルの言う奴でもねぇと思うが……

 

 

俺が見たのは、黒い竜だった」

 

 

「黒い……竜!?」

 

「ど、どこで……どこで見たんだよ?」

 

ギルダーツに問い詰めるナツの隣で目を見開き、震えるシクル……

 

 

黒い……竜……まさ、か……

 

 

 

「霊峰ゾニア……お陰で仕事は失敗しちまったよ」

 

「っ……!!」

 

「待て、ナツ……何処へ行く気だ?」

ギルダーツの話を聞き、ギルダーツの家を飛び出そうとするナツ。そんなナツを止める、ギルダーツの声。

 

「決まってんだろ!? イグニールの居場所を聞くんだ!!」

声を荒らげるナツ。だがそのナツの考えを、ギルダーツは真っ向から否定する。

 

「もういねぇよ……あいつは、あの黒竜は大陸……あるいは世界中を飛び回っている」

 

「それでも……!! 何か手掛かりがあるかもしれねぇ!!」

 

 

「ナツ……これを見ろ」

 

そう言い、ギルダーツはプチッと身体を覆っていたマントを外す……その下から露わになったのは……

 

「「っ!?」」

 

 

マントの下から現れたのは左半身がボロボロになった姿……

 

「ほとんど一瞬の出来事だった……左腕に左足……内蔵もやられた

 

お前のいうイグニールがどうかは知らねぇが……あの黒竜は間違いなく、人類の敵だ

 

 

……そして、人間は勝てない」

 

「そ……それを倒すのが滅竜魔導士だろ!?俺の魔法があれば……その黒い竜だって!」

 

「……本気でそう思うのなら、止めはしねぇよ」

 

その言葉にグッと拳を強く握り、震えるナツ……そして

 

「っ……くっそぉおおお!!!」

 

雄叫びを上げ、家を飛び出して行った。

 

 

「ナツ!!!」

 

「ハッピー」

 

飛び出して行ったナツを追おうとするハッピーをギルダーツが止める。

 

「……お前が、ナツを支えてやれ……アレは人間じゃ勝てねぇが、竜なら勝てるかもしれん」

 

ギルダーツの言葉に頷き、飛び出したナツを追いかけるハッピー……

 

 

 

「……ギルダーツ」

 

「んお?」

 

ハッピーの姿が見えなくなった頃、ここまで沈黙していたシクルが口を開き、ギルダーツの名を呼ぶ……そして、ギルダーツに近寄ると……

 

 

俯きながら、キュッとギルダーツの義手となった左腕を掴んだ。

「……どうした?」

 

「……違和感は、あったんだ……それが、なんだかは……分からなかった……」

 

でも……

 

 

「っ、おい……」

 

「ギルダーツ……生きてて、本当に……よ、かった……」

顔を上げたシクルは泣いていた……

 

「シクルお前……まさか、あの黒竜に会ったことがあるのか?」

 

「っ……」

震え、涙を流すシクルの様子に何かを感じ取ったギルダーツがそう、問いかける。

 

 

「……黒竜……多分、それは……黙示録にある黒き竜…… “アクノロギア” 」

 

「!? なん……だと、あれが……」

 

驚きに目を見開き、顔を伏せるギルダーツの視界の端でグッと拳を握りしめるシクルが映る。

 

そっと、シクルの顔を見つめると、ポンッと低い位置にあるシクルの頭に手を乗せる。

 

「ギル……」

 

「お前に何があったのか、俺はよく知らねぇけどよ……何かあったら、俺に言えよ? こんなオッサンでも色々と経験は豊富だ! 力になってやんよ」

 

がははは! と笑うギルダーツを見上げ……ふっと、笑みを浮かべるシクル。

 

 

「……ありがとう、ギルダーツ」

 

不安そうな表情は無くなった様子のシクルにほっと安心したギルダーツは手を離す。

 

「落ち着いたならお前も、早くナツを追ってやれ……あいつの気持ちが1番に分かんのはお前だろ?」

 

「うん……行ってくる!!」

 

最後に、「今度なんかお礼するねー!」と声を上げ、ギルダーツの家を出ていくシクル。

 

 

「……元気だなぁ」

 

 

 

 

ナツの匂いを辿り、足を走らせるシクル。そして……

 

 

バシャーン! という水飛沫の音が聞こえると……

 

 

「イグニール……父ちゃん、元気かなぁ」

 

「ナツぅ……」

 

 

か細いナツの呟きが聞こえた。

 

 

ナツはギルダーツの家を飛び出した勢いに任せ、全力で走っていたら足を滑らせ川に転げ落ちた様子だった。

 

 

そして、もう一つ聞こえた声……岸の上ではハッピーが瞳を揺らし、ナツを見つめる。どこかナツに声をかけるのを戸惑っている様子……

 

ふっと、シクルはハッピーの元へと歩み寄り、その小さな頭をそっと撫でる。

 

「ハッピー」

 

「シクル……」

 

「……行こ? ナツのところ!」

 

見上げたハッピーの視界に映ったのはハッピーの不安を全部消し去ってくれるような綺麗に輝く笑みを浮かべたシクル。

彼女を見つめるとハッピーは自然とにっこりと微笑み、「あいっ!!」と返事をし、ナツの元へと向かった。

 

シクルとハッピーは未だ川に体を沈め、倒れるナツを見下ろす。

 

「ハッピー……シクル」

 

「ナツー、何やってるのー?」

 

「ナツ、風邪ひいちゃうよ?」

 

ほら、帰ろ? と、ナツに手を差し出したシクルの小さな手を見つめ……ナツは数度瞬きをするとにっと笑みを浮かべ、「おう!!」と答え、シクルの手を握る。

 

 

 

暖かな日差しがマグノリアを照らす中、2人と1匹は仲良く、ギルドへと帰っていった。

 

 

 

そして……ギルダーツ帰還から、数日後

 

 

「はぁー、疲れたぁー……」

 

もー暫く仕事行かなーい……と、ぐったりと呟き歩くシクルを苦笑を浮かべ見つめるルージュ。

 

 

「ついこの間まで休んでたでしょぉ? あんまりサボってると金欠になっちゃうよぉ」

 

「大丈夫大丈夫! 評議院からがっぽり受け取った報酬金がまだ残ってるから!」

 

何を言っても仕事を休むという意志の変わらないシクルにはぁと、諦めのため息をつくルージュ。

 

 

「ん……?」

 

マグノリアへと帰る道すがら、ふと、騒がしい人集り……というより、小さな子供たちが一箇所に集まっている光景がシクルの目に入り込んだ。

 

「何あれ……?」

 

「んぇ? ……喧嘩かなぁ?」

 

止める? と聞いてくるルージュをチラリと見つめ、ふぅと一息つくと……

 

「うーん……早く戻って休みたいし……大丈夫でしょ」

と、答えると踵を返し、足を1歩前へと踏み出した……

 

 

 

 

「スティング君っ!!」

 

 

 

 

「っ!」

 

子供たちの集団の中から聞こえた悲しい叫び声、その声の発した名前が耳に入ると、はっと子供たちの方を振り返るシクル。

 

そして、集団の中央に目を凝らす……そこには……

 

「くそっ……レクターを離せよっ!」

 

「ふんっ! 返して欲しけりゃ、この間のこと謝れよ!」

 

「ばぁさん虐めてた奴に誰が頭下げるかよ!」

 

「うっせぇ!」

 

 

がっ!

 

「ぐっ! くっそ……」

 

「ほら、早く謝んねぇとこの猫が死ぬぞぉ?」

 

「や、やめろ!!」

 

金色のつんつん頭の男の子が口の端から血を流し、周りを囲む相手を睨みあげる姿……

 

その周りを囲む子供たちの1人が茶色い子猫を抱え、つんつん頭の男の子を脅していた……。

 

 

そして……1人の子供が捕まっている子猫に木の棒の様なものを振り上げる。

 

 

 

「やめ……レクターっ!!」

 

「っ!!」

 

ギュッと目を瞑る茶毛の子猫……

 

 

 

 

「はい、ストーーーップ」

 

パシッーーー

 

「え……」

 

「は?」

 

「だ、誰だお前!?」

 

 

突然割り込んできたシクルに目を見開く子供たち。それはつんつん頭の男の子と子猫も同じで、目を見開き、突然の登場に驚いていた。

 

そして、シクルの登場と同時に捕まっていた子猫はルージュが助け出した。

 

「大丈夫ぅ?」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 

「ダメでしょー? 動物虐待だよ、それ……」

 

チラッとルージュの方を振り返ってから子供たちを見下ろし、にっこりと微笑むシクル。

 

「な、何だよ……よそもんが口出すなよ!!」

 

「よそもんでも見過ごせない時があるでしょー? 集団リンチなんてかっこ悪いよー?」

 

ケラケラと笑いながら宥めるシクルの口調が癪に障った様子の子供が……今度は鉄パイプを握り、シクルに振り上げる。

 

 

「黙れクソババァ!!」

 

 

「……ア?」

 

 

パシッ……グギャッ!!

 

 

「…………え」

 

 

鉄パイプを振り上げた子供は目を見開き、目の前の光景に驚愕した……何故なら……

 

 

女性の握力で、それも片手……それだけで鉄パイプがあらぬ方向にひしゃげたからだった……

 

そして……ヒュォ、とシクルから殺気が漏れる。

 

「「「ひぃっ!?」」」

 

 

「糞ガキ共……誰が、ババァだって? ん?

 

あたしの事かなぁ……? ふざけんな……これでもまだまだピッチピチの17歳じゃくそがぁああああっ!!!」

 

 

がぁああああっ!!! と吠えるシクルに……ガクガクと体を震わせる子供たち……そして

 

「「「ご……ごめんなさーい!!!」」」

 

あまりの恐怖に、走り去っていった。

 

 

「あいやぁー……ご愁傷様だねぇ、あれはぁ……(シクルにババァ呼びはいけないね……うん)」

 

見えなくなった子供たちに少し同情の心を向けるルージュ。

 

「あ、あの……!」

 

「んぇ? なぁに?」

 

不意に、ルージュが助け出した子猫が声をかけてきた。

 

「ぼ、僕……レクターって言います!!

さっきはどうもありがとうございます!!」

 

頭を勢いよく下げる目の前の子猫、レクターを見下ろし……にっと微笑むルージュ。

 

 

「どういたしましてぇ!! あたしはルージュだよぉ!」

 

 

仲良くなった様子のルージュとレクターの姿にふっと笑みを浮かべると、ふぅとため息をつき、つんつん頭の男の子を振り返る。

 

シクルが振り返ると男の子はビクッと肩を揺らす。

 

「な、何だよ……俺は悪いことしてないぞ!?」

先程までのシクルの様子に怒られるか……そう感じ、身構える男の子……そして、シクルはゆっくりと男の子に近づくと……

 

そっと腰を下ろし、男の子と目線を合わせる。

 

 

 

 

 

「……スティング」

 

「……え?」

 

まだ名乗っていないはずなのに名前を知っているシクルに戸惑うスティングと呼ばれた男の子。

 

そして……

 

 

「スティング……白竜のスティング……

 

 

……バイスロギア」

 

 

「っ!?」

 

 

 

月竜と小さき白竜との出会い……それは今後、どのようなことを巻き起こすのか……そして……

 

 

 

 

「ついに……ついに時が来た……明日……

 

アニマ計画……を実行する……」

 

もうすぐだ……もうすぐ、永遠の魔力が!!

 

 





はい! 如何だったでしょうか……恐らく次回の前半は白竜ちゃんとの話が続き、後半で原作に戻りたいと思います!

では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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63話 1日限定の修行と予感

こんばんわ! 日付変わるギリギリ前の投稿となります……


そして、UAがなんと30000いきました!!! 本当にありがとうございます!!

今後も、途中で途切れること無く、進めていきますのでどうかよろしくお願いします!!

では、63話 最後までお付き合い、お願いします!!


 

シクルの呟いたその言葉に目を見開き、驚きを隠せずにいるスティングを不思議そうに見上げるレクター。

 

「シクル、バイスロギアってぇ?」

ちょいちょいと、シクルの服を引っ張り疑問をぶつけるルージュ。

 

「ん? ああ……バイスロギア、白竜のバイスロギア……彼もセレーネソフィアと同じ、人に魔法を教え竜の1匹だよ」

 

懐かしいなぁ……と、呟くシクルを見つめ、はっと我に返るスティング。

 

 

「あ、あんた誰なんだよ!? なんでバイスロギアを知ってる!?」

 

「え? なんでって……バイスロギアとは友達だったから」

 

「と、友達って……あんた、一体……」

目をぱちくりと瞬き、唖然とするスティングと同じく、ポカーンとシクルを見上げるレクター。

 

 

「あぁ、私? 私はシクル、シクル・セレーネ……あなたと同じ、滅竜魔導士よ」

 

「め、滅竜魔導士!?」

 

「ちなみにシクルの魔法は月と光だよぉ!」

 

「ふ、2つの属性を扱えるんですか!?」

 

 

何度も続く驚きの連続に、スティングはぼぉっとシクルを見つめている……

 

 

ふと、スティングの脳裏に、昔バイスロギアから聞いた、ある話を思い出していた……

 

 

“スティング……お前はきっといつか、出会うことになる……我等、竜を統一せし者に……その時は……ーーーーーー……”

 

「……まさか、お前……お前が竜を統一する……最強の滅竜魔導士?」

スティングの言葉にはて、と首を傾げるシクル。

 

「んー……最強かどうかは知らない……興味無いし……でも、確かに私に魔法を教えてくれた竜は、他の竜を統一させる程の力を持っていた竜よ」

 

スティングの言葉にそう答えるとふっと笑みを浮かべるシクル。

 

 

「じゃ、またね? 小さき白竜の子……」

 

スティングに背を向けるシクルとその後を追うルージュ。

 

 

「ま……待ってくれ!!」

 

「ん?」

 

去り際にスティングがシクルを呼び止める。

 

シクルが振り返ると……スティングは何かを決意した表情を浮かべていた。

そして……

 

 

「……お、俺に……魔法を教えてくれ!!」

 

「ス、スティング君!?」

 

スティングのその発言に、レクターは目を見開き、驚き、ルージュもシクルを見上げ、何と答えるのか、気になる様子。

 

「……おいで」

 

「え、シクル!?」

 

「っーーー はい!!」

 

 

拒否をされなかったことに素直に喜んだスティングはパァ! と笑顔を浮かべると再び歩き出したシクルの後を追った。

 

「シクル……魔法教えられるの?」

 

「ん? ……さぁ?」

面倒くさがりのシクルに魔法を教えられるのか、驚くルージュをチラッと見てからカラカラと笑うシクル。

 

 

シクルたちは街から場所を移動し、少し開けた場所に位置する森の中にいた。

 

「ルージュー? レクター? 味の方はどぉ?」

 

「んー! おいしーよぉ!!」

 

「最高です!」

 

シクル特製の木の実スープを美味しいと食べ進めるルージュとレクター。

 

 

「……て……なんだこの状況はぁあああ!?」

 

「ん?」

鍋を温めながら大声を上げたスティングを見やうシクル。

 

「俺は魔法を教えてくれって頼んだんだぞ!? なんでスープなんか作ってんだよ!」

 

「えぇ……だって私魔法を教えるとは言ってないし……」

 

「ついて来いって言ったろ!?」

 

「魔法を教えるとは言ってません」

 

シクルはそう言うとスティングにもスープの入った器を渡す。

 

スティングは渋々と渡された器を受け取るとスープを食べ始める。

 

「っ!? うっま!? 何これ何どうやって作ったんだあんた」

こんなうめぇの初めて食った!! と騒ぐスティングを騒がしい奴と呟き、特別なことは何もしていないと言うシクル。

 

「とりあえず、それ食べたら魔法教えてあげるから……ちゃちゃっと食べなさい」

 

「……え?」

バクバクとスープを食べ進めながら!シクルの口から出た言葉に驚愕する。

 

「え……魔法、教えてくれんのか?」

 

「だからそう言ってるでしょ? さ、早く食べちゃって」

少し素っ気ない言葉だが嘘偽りはないその言葉に、「おう!!」と声を上げ、喜ぶと残りのスープをものの3分で食べ終わった。

 

 

食休めを少し挟み、いざ魔法を教えるという修行がスタート。

ルージュとレクターはお腹が満腹になると近くの川に遊びに行った。

 

「じゃ、まずはそこの木、殴ってみて……あぁ、魔法でね?」

 

「おう!!」

シクルの指示通り、スティングは指定された木と向かい合うと拳に魔力を込め……

 

「白竜の……鉄拳!!!」

思いっきり、殴り飛ばす。

スティングの拳は大きな音を立て、木の幹を大きく凹まし、その威力を見せつけた。

 

「どーだ!!」

自信満々で、シクルを振り返るスティング。

 

だが……

 

「んー……まぁまぁで言ったら、まだまだかな? その歳でそれならいい方だけど」

首を傾げ、ちょっと威力がねぇと呟くシクル。

 

「んだと!? なら、あんたがやってみろよ!!」

 

「私が? えーめんどいけど……仕方ないか」

はぁ、とシクルはため息をつくと首を鳴らしながらスティングと立ち位置を交代する。

 

 

そして……

 

「いーい? スティング……魔力を扱うことにおいて大切なのは己の限界値……そして、最大値を見極めること」

スティングを振り返ると指を立て、シクルの講座が始まった。

 

「……魔力の、最大値? それなら、さっきのだって、俺の魔力限界まで上げて放ったんだぞ!? 何が違うんだよ!」

 

「はぁ……限界値と最大値じゃあ訳が違うのよ……いい?

 

魔力を限界値まで引き上げる訓練も確かにあるわ。 それにより、術者の基本の魔力値が上がるから修行法としてはよく用いられる……

 

 

けど、実践でそれはダメよ」

 

 

「な、何でだ?」

 

首を傾げ、シクルを見上げるスティングを見つめながら両手の拳に魔力を込める。

 

「例えば、今私の左手は魔力の限界値まで引き上げた状態の力だとする……右は最大値ね

 

これの威力を比べてみると……!」

 

まず限界値まで高めた魔力を纏った拳で殴った幹……それは、大きく凹み、いくつかの亀裂を作る程の威力だった。

 

そして……

 

「で、次が……最大値の魔力……これは」

 

最大値の魔力を纏った拳で幹を殴ると……

 

 

バキバキバキッ!! バギャッ!!

 

 

「……え」

 

 

大きな音を立て、ドドォンと拳の命中した箇所から木は倒れた。

 

「……どう? 違いが分かった?」

 

拳に込めた魔力を消し、目の前で起きた出来事にポカーンと呆然と立ち尽くすスティングを振り返り、問いかける。

 

「なん……だよ、今の威力……全然ちげぇ……」

 

どうして……? と疑問の眼差しでスティングはシクルを見つめる。

 

「まず、限界値まで魔力を上げてしまうと体内にある魔力の量が許容量を超えないように自然と集まりすぎた魔力を外に流そうとする現象が起きてしまう……

 

それにより、折角の魔力も身体の外へと流出し、意味をなさず、魔導士の最大な力を発揮出来ずに魔法が発動してしまう

 

そして、最大値で魔力を留めるということは、魔力の流出なく、本来の力で魔法を発動することが出来るということ……どう?」

 

「な、なるほど……ようは魔力を上げすぎてもダメってことだな!」

 

「まぁ、低すぎてもダメなんだけど……あとは感覚よ、やってみなさい」

 

「はいっ!!」

 

 

そこから数時間、スティングの猛特訓が始まった。

初めは己にあった魔力の量が分からず、高すぎたり低すぎたりと……

 

安定していなかったが、1時間ほどすると殆ど最大値の感覚を覚え始め……そして、ついに……

 

「うおぉおおおおっりゃぁあああ!!!!」

 

バキバキバキッ!! バギャッ!!

 

 

「……ふっ」

 

 

スティングの拳は、大木を……叩き折った……

 

 

「……や……やったぁあああああっ!! 出来た!! 出来たぞぉおおお!!」

 

うおっしゃぁあああ!! と騒ぐスティング。

よほど嬉しかったのだろう、飛び跳ねるスティングを見つめ、苦笑を浮かべるシクル。

 

「合格ね……よくやったわ、スティング……」

苦笑を浮かべた表情から、ふわっと優しげに微笑み、スティングの頭を数度撫でるシクル。

 

そんな彼女を見上げ……

 

「っ!! お、おう……///」

ボッと顔を真っ赤に染めるスティング。

 

「? どうしたの?」

 

「な、何でもねぇよっ! それより、次……なんか教えてくれ!」

 

話を逸らすように、首を大きく横に振りシクルに懇願するも……

 

「あー……教えてあげるのはいいけど……」

 

「ならっ……!」

 

「その前にスティング……」

 

「? なん、だ……よ?」

 

小さくため息をするシクルの目の前で、スティングはゆっくりと身体が傾き……倒れる。

 

「……少し、休憩だよ」

意識の飛ぶ中、倒れるスティングの身体をそっと支えたシクルの呟いた言葉を最後に、完全にスティングの意識は途絶えた。

 

 

意識を失ったスティングの身体をそっと地面に横たわせるシクル。

 

「んー……やっぱりこれは少し身体に負担かけちゃったかな?」

すぅ、すぅと寝息をたてるスティングの前髪をサラッと撫で、苦笑を浮かべるシクル。

 

 

「……まぁ、課題はクリアしたし……いっか」

 

問題はまだ少し残っていたがひとまずは休めるところを探そう……そう、シクルが思った時だ……

 

「んぅー……あれぇ? もう終わったのぉ?」

 

「ほへぇ……え、え? スティング君、どうしたんですか……?」

 

ルージュとレクターが目を覚ました。

ルージュは目を擦りながらシクルの頭によじ登り、レクターは倒れ気を失うスティングを驚きの瞳で見据える。

 

「おはよ、ルージュ、レクター……スティングはちょっと修行疲れで寝ちゃったの……ね? どこか休めそうな所で今日は寝ましょう?」

 

「あい!」

「はい!」

 

元気に2匹が返事をすると、この後、大きな大きな巨木の根元に空いた大きな空間を見つけ、そこを寝床とした。

 

 

 

「…………ん、っ?」

暗い意識の底から、ゆっくりと浮上するように意識を取り戻すスティング……そんな彼の小さな声に気づき、顔を覗き込むシクルたち。

 

「気が付いた?」

「おはよぉ! スティング! 夜だけど」

「スティング君! 目が覚めたんですね、よかったァ!」

 

「……俺」

 

「魔力の使い過ぎであの後気を失ったのよ……あれから結構時間が経ってね、今はもう夜よ」

 

シクルの言葉にスティングが外を見ると確かにそこは星と月が空に浮かび輝く夜空が見えた。

 

「ほんとだ……」

 

「ね? 今日はもう遅いから、修行は終わり……ゆっくり休も?」

 

「……うん」

シクルの言葉に頷くと、スティングは身体を起こし、ぼぉっと何かを考えていた。

 

そして……

 

 

「……な、なぁ……あんた」

 

「何?」

ルージュとレクターの寝床を綺麗に用意しながらスティングの話を聞くシクル。

 

「あんた……バイスロギアの事、知ってん……だよな? なら……バイスロギアを、俺が……」

 

殺した事は…………

 

そう……スティングが、シクルに聞こうとすると……

 

「知ってる」

 

「っ!」

 

シクルはスッと下に向けていた視線をスティングに送ると……

 

「知ってるよ……その話は、バイスロギアからも相談されてたから……私は反対したんだけどね? 滅竜魔導士の真の力を使えるようにするためには……て、バイスロギアが聞かなくって……」

 

説得、出来なかったの……と、呟いた。

 

「シクル……」

「スティング君……」

 

シクルの語りを聞き、スティングは一瞬目を見張ると、フッ……と俯き……

 

「……バイスロギア、は、俺に力を与えるため……俺の手で、バイスロギアを倒すように、仕向けた……俺……俺は……大好きな父親を、自分で……」

 

グッと拳を握り、体が震える……その時、

 

「もういい……スティング、もういいよ」

 

「っ……」

 

そっと、シクルがスティングを抱きしめ、その頭をゆっくりと撫でる。

 

 

「……辛かったよね? 悲しかったよね? 大好きな……大切なお父さんを、自分の手で……それは、どんな人でも、苦しくて辛くて……

 

それでも、お父さんの願いのために……スティング……頑張ったね……よく、耐えたね……

 

お父さんの……バイスロギアの願いを、叶えてくれて……ありがとう」

 

 

「お、れ……」

 

シクルの言葉に……堪えていた涙がホロホロと溢れ……そして、耐えきれずシクルに抱きつき、泣き出した。

 

「う、あぁああ……! ひっ、く」

 

「スティングぅ……シクルぅ……」

「スティング君ぅ……」

スティングの、その姿にルージュとレクターも、涙を流した。

 

 

 

その夜、スティングはバイスロギアが亡くなってから、初めて……人の胸でいっぱい泣いた……そして、涙が次から次へと溢れる中、シクルはただ静かに……その背を抱きしめ、撫で続けた。

 

翌日ーーー

 

 

「ふっかーつ!!」

 

「わーい!やったぁ!」

「元気になりましたよぉー!!」

 

うっひょぉ!! と騒ぐスティングに……

 

「あっはは……元気だねぇ」

苦笑を浮かべながらも、走り回るスティングを見てほっと一息つくシクル。

 

良かった……モヤは一応晴れたみたいで……

 

「じゃあ! シクルさん!! 今日もバシッバシ、魔法を教えてくれ!!」

 

「フフフ、はいはい……じゃあ次は……」

そう告げ、シクルが立ち上がった時……

 

 

 

 

ゾッーーー

 

「っ!!! な、に……?」

 

シクルの身体を寒い何かが走り抜ける……それはまるで、何かが起きる、と告げているような……

 

「……シクルさん?」

「シクル? どうしたのぉ?」

「シクルさん?」

 

名を呼ぶスティングたちの声に反応を見せず、ただ空を見上げ睨みつけるシクル……そして

 

 

「この……感じ、まさか……(彼の言っていた……)」

 

 

アニマっ!?

 

「っ……まずい……ごめんね、スティング? ちょっと、一大事な事が起きて……」

 

シクルははっと、スティングを見下ろし……

 

 

「修行はここまでだよ……ごめんね」

と、告げた。

 

「ええ!? シクル、どーしたのさぁ?」

「シクルさん……一体どうして!?」

 

「な、何でだよ!? なんで……」

 

シクルの言葉に驚くスティングたち……シクルは眉を歪め、申し訳なさそうに言葉を告げる。

 

 

「ごめんね……次、会った時……また、教えてあげるから……私、ギルドに戻らないと……いけないんだ」

 

だから……と、言葉を1度止めるとスティングの手首に青いリストバンドを着けた。

 

 

「これ……再会の約束のしるし……これを、持っていて……ね?」

 

「シクルさん……俺……」

 

何かを伝えようとするスティング……そんな彼の頭をもう一度、撫でるとルージュを呼び、背を向けるシクル……レクターとも別れを告げ、立ち去ろうとする……その時……

 

 

「シクルさん!!」

 

スティングの声がシクルを止める……

 

 

「絶対……絶対にまた、会えるよな!?」

スティングの言ったその言葉に、シクルは振り返り……

 

「会えるよ……絶対、会いに来る」

そう、告げた。

 

 

「っ……俺、待ってますから……だから、いつか俺が大きくなった時……俺、俺と……

 

 

結婚してください!!!!」

 

 

「……え」

 

「え、ええぇ!?」

「スティング君!?」

 

スティングの言葉に目を見張るシクルと、驚きの声を上げるルージュとレクター。

 

シクルは数度、瞬きをするとふっと笑みを浮かべ……

 

 

「本気……?」

と、問いた。スティングはその問いかけに、コクリと頷いてみせる。

 

 

「……(まぁ、子供だし……その大きくなった時は忘れているかもしれないけど)スティング……」

シクルの言葉を待つスティング。

 

「すぅ……

 

 

もっと強くなりなさい! 青少年!! そしたら、考えてあげなくもないわよー」

 

そう、声を上げ、満面の笑みでスティングに告げると……

 

「またね」

と、呟き、シクルはその場を立ち去った。

 

 

その心の中では……

 

まぁ……まずはナツに勝てないとね……

 

クスッと楽しげに、笑っていた……。

 

だが、すぐに表情を引き締めると……

 

 

「ルージュ、スピード上げるから……掴まって」

「あい!(さっきの会話……ナツが知ったら怒るだろうなぁ……黙っとこぉ)」

 

隣を飛んでいたルージュに告げ、身体にしがみついて貰うと……

 

光を身体に纏い、光速でマグノリアへと、ギルドへと急ぐ……

 

 

「っ……みんなっ!(お願い……何も起きないで!)」

 

 

 

一方、シクルの去っていったスティングとレクターの方では……

 

「レクター……」

 

「はい?」

 

スティングはグッと拳を握りシクルの去っていった方を見つめると……

 

 

「俺……もっともっと強くなる……それで、絶対シクルさんに認めてもらうんだ……!!」

と、宣言を高らかに上げた。

 

 

「スティング君……はい!! そうですね!」

スティングの上げた宣言ににっこりと笑い、「僕は応援しますよぉ!」と、レクターは言った。

 

 

……シクルの事を諦める様子はない、スティングであった……。

 

 

 

ーーーマグノリア

 

 

「はぁ……はぁ……こ、れは……」

「な、なん……でぇ?」

 

隣街から急いでマグノリアへと戻ったシクルたち……だが、目の前に広がる光景は……

 

 

「ギルドが……街、が……消え、た?」

 

 

砂地となったマグノリアの跡地であった……。

 

 

 

 

始まる、もう一つの世界との戦い……

 

そこで待ち受ける試練とは……一体……。

 

 




はい! やっとできました……

もしかしたましたら、明日の投稿はお休みになるかも知れません……

昨日から風邪を引いたみたいでして……少し体調が良くなるまでお休みの可能性もあります

すいません……ちょこちょこと文章は作成していくのでまた新しいお話が出来次第、投稿は上げていきます!

では、最後までお付き合い、ありがとうございます!
誤字などありましたら、報告ください!

ちなみに、シクルがスティングの告白を断らなかったのは純粋な子供の夢や気持ちを壊してはいけない、と思ったからです


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64話 もう一つの世界 エドラスへ!


あぁああああっ!!! 前回から大分日にちが空いてしまいました、すいません!!

1度風邪は治ったのですがぶり返しまして……やっと完治しました!……恐らく


遅れた割にはあまり話の内容は進んでいないのですが……

最後までお付き合い、お願いします!


 

 

 

シクルは我が目を疑った。

 

あの大きな大きな、活気の満ちたあのマグノリアが……そして、妖精の尻尾が……

 

 

消えた……。

 

 

「何これ……ギルドが……街がっ、皆は!?」

 

「ここが本当にマグノリアなのぉ?」

唖然とするシクルを見上げ、問いかけるルージュ。

シクルはコクッと頷いてみせる。

 

「間違いない……微かだけど、皆の匂いが残ってる……(でも、何でこんな……どうして)」

 

辺りを見渡すシクル……そして、不意に空を見上げると……

 

 

「あれは……」

 

「え?」

 

 

空に大きな大きな穴が空いていた……。

 

 

「あれって……もしかして、あれが……」

 

 

「そう、あれがアニマだ」

 

「「!!」」

 

シクルとルージュの背後から聞こえた声に振り返ると……

 

 

「「ミストガン!!」」

 

少しふらつきながらも歩み寄ってくるミストガンがいた。

 

「アニマを閉じながらここまで来ていたのだが……すまない、間に合わな……くっ」

 

「ミストガンっ!!」

最後まで話せず、膝をつくミストガン。

 

彼の身体を支えると……

「あなた怪我して……! ちょっと待ってね……

 

【我、月の加護の名の下に

 

愛する者の身を包み

 

その身、回復させん】

 

歌魔法(ソングマジック) 治癒(ヒール)

 

シクルの手をかざしたところから徐々にミストガンの身体を淡い光が包み、光が消える頃には傷は癒えていた。

 

「すまない、ありがとう……シクル」

 

「どういたしまして……それより、もしかして……ギルドの皆や街の人たちは……」

 

クスッとミストガンに笑みを見せるとすぐに表情を引き締め、険しい表情で問いかけてくるシクルにミストガンもコクッと頷き

 

「あぁ、そうだ……皆アニマに吸い込まれてしまった……すまない、気づくのが遅れた私の責任だ……シクル……」

 

「なに?」

 

「私はまだこちらでやらなければならないことが残っている……身勝手だと思うが……先に向こうへ行き、皆を救出してくれないか?」

 

頼む、と頭を下げるミストガンを前にじっと見つめるシクル……

 

 

「……分かった、どうすればいいの?」

 

ふっと、笑みを浮かべそう言ったシクル。

「あぁ、まずはシクル……これを飲んでくれ」

 

ミストガンはそう言うと懐から小瓶を取り出し、その中には小さな赤い薬がいくつも入っていた。

 

「これは……?」

 

「これは向こうで魔法を使えるようにする薬だ。 向こうでは、エクシードという種族しか魔法を使えないからな」

 

ミストガンの説明になるほど、と頷くと1錠飲み込む。

 

 

「飲んだな……なら、あとはあのアニマの残留した空を通り、そこからエドラスへ行ける……ルージュの魔法で行けるはずだ」

 

そういい、ルージュに視線を向けると……ルージュは俯き、何かを考え込んでいた……。

 

「……どうした?」

 

「あ、の……ねぇ、シクル……」

 

「あ……そっか……」

 

言いづらそうにしているルージュを見て、ミストガンは首を傾げ、シクルは合点がいったかのように頷くとルージュをそっと抱き上げた。

 

 

「……ミストガンは、知らないよね」

 

「ん?」

 

 

「あのね……ルージュは……この子は、向こうで生まれて、ある事故でこちらに来た子なの」

 

 

「え……」

目を見開くミストガン。そして、その視線はシクルの腕に抱かれるルージュに向けられる。

 

「それは……一体」

 

「……ルージュ」

 

「うん……あたしのお母さん達は例の計画を知ってあたしを奪われないように色んなところを旅してたんだぁ……その結果あたしは例の計画の子供たちの中には入ってないの

 

ただ……、あたしが生まれて2年くらい経った頃に……突然開いた人間の作り出したアニマの残留にお母さん達と一緒に吸い込まれて……」

 

「……こちらの世界に来た、と?」

 

ミストガンからの問いかけに頷くルージュ。

 

「まぁ、国を逃げ出したってことは裏切りとも同じだってことで……こっちに飛ばされる前に怪我をしてたみたいでね……

 

傷ついて倒れてたところを私が見つけて今に至るって感じかな……この子の両親はいなかったからこっちに飛ばされた時、離れ離れになっちゃったのかもしれないけど……」

 

そう言い、ルージュを撫で続けるシクル。

 

 

「ルージュ……無理しなくてもいいよ……?

私も飛べないわけじゃないから……こっちで待ってても……」

 

いいよ、とそうシクルが告げようとすると……

 

「ううん、あたしも行くよぉ……だって、あたしは……シクルの相棒だもん……一緒に行くよぉ!」

 

真っ直ぐとした瞳でシクルを見つめ、ニッ! と笑みを浮かべるルージュ。

ルージュの覚悟した瞳を見つめ、シクルもふっと笑みを浮かべると……ミストガンを見やう。

 

 

「確認だけど……あのアニマの力が残留した穴に飛び込めば向こうの世界に行けるんだよね?」

 

「あぁ、私も向こうにいたのは随分昔のことだ……今の詳しい現状を完璧に把握している訳では無いが……恐らく、厳しい現状だと思う……気をつけてくれ」

 

「分かった、ありがとう」

ミストガンの忠告ににっこりと微笑み、例をいうシクル。

 

 

「それと……向こうへ行ったら王都へ向かってくれ」

 

「王都へ?」

 

「あぁ……王都のどこかに、巨大な魔水晶があるはずだ……それが、マグノリアの人たちだ……彼らはこちらの人間を魔水晶に変え、その魔力のみを抽出しようと企んでいる」

 

ミストガンから出たその言葉に目を見開くシクルとルージュ。

 

「魔力を……抽出って……」

 

「そんな事をしたら魔水晶になったみんなはどうなっちゃうのぉ?」

 

 

魔力は魔導士にとって、命と同じ……それを奪われるということは……それ即ち……

 

 

 

死ーーー。

 

「そんなこと……!! 絶対させない!」

ギリッと拳を握り、苦しい表情を浮かべるシクル。そして、ルージュも……シクルの背を掴むと浮かび上がり……

 

「行くよぉ! みんなを助けに!!」

 

と、声を上げる。

 

 

「待て、シクル! 最後に……その魔水晶は滅竜魔導士の魔法で元に戻すことが出来る…シクル、覚えておいてくれ」

 

ミストガンからのアドバイスにふっと笑顔を浮かべ、「ありがとう!」と告げるとシクルは……

 

 

 

「じゃあ……行ってくる!」

と、ルージュと共にアニマへと吸い込まれていった。

 

「シクル……ルージュ……頼んだぞ」

 

 

 

アニマに突入する時、眩い光に包まれ、うっと目を細めるシクルとルージュ。

 

そして……アニマを通り、エドラスへと辿り着いた時、目の前に広がる光景は……

 

 

「ここが……エドラス……ミストガンの、ルージュの……故郷」

 

アニマを通り、エドラスの上空に出たシクルとルージュ。

 

目の前に広がる光景に、目を見張り……

 

「とりあえず……地上に降りよう……お願い出来る? ルージュ」

 

「任せてぇ!」

シクルの指示でルージュは地上にゆっくりと、降り、シクルを離す。

 

「ありがとう、ルージュ」

 

「うん! ねぇ、シクル? これからどうやって王都まで行くのぉ?」

 

「んー……とりあえず、まずはこっちの情報集めて……それから王都へ向かおう? 何も知識もなしに行ってもダメでしょ?」

 

そう言い、まずはとこの世界に暮らす人を探し始めるシクルとルージュ。

 

ちなみに2人が降り立った所は……少し岩肌がゴツゴツとしている土地だった。

降り立つまでに人の姿は確認していない……

 

「……人いるかなぁ?」

 

「さぁ? とりあえず探そ?」

笑みを浮かべ、ルージュを肩に乗せると捜索開始。

 

 

……それから、歩き始めて30分……

 

 

「ねぇー……シクルぅ?」

 

「……なに?」

 

「……人、いないねぇ……」

 

「……いないね」

 

 

歩きながら人を探し始め、30分……未だに誰とも会わないシクルたち……そして……

 

 

「ギュォォオオオオオオッ!!!」

 

「エドラスってどーしてこー生き物がでかいのぉおおおおお!?」

 

「知らないよぉおおおおお!!!」

 

不気味な生物に追いかけられる始末……

 

しかも……

 

 

「シクル何とかしてぇええええ!!!」

 

「アレはいやぁあああああっ!!!」

 

 

超巨大な蜘蛛の化け物に追いかけられていた。

(シクルは蜘蛛が大の苦手である)

 

 

結果、超速度で逃走劇を繰り広げるシクルとルージュ……だが……

 

ガッ!

 

小石に足を取られ……

 

「あ……っ!?」

 

ズサァ!!

 

「あうっ!」

「ぷぎゃ!」

 

シクルは転び、その反動でシクルの肩にしがみついていたルージュも落ち、顔面から地面に激突。

 

「いったた……」

 

「は、鼻打ったァ……」

 

痛みに耐えるシクルたち……

 

そして、頭上に……影が指す……

 

 

「……あ、はは……あぁ」

 

「……あ、たし……いやぁな予感がァ……」

互いに顔を見合わせ……そっと背後を振り返ると……

 

 

大きな口をいっぱいに開き、シクルとルージュを食べようとする、巨大蜘蛛の姿が目いっぱいに広がっていた。

 

 

「「きゃぁああああああっ!!?」」

 

絶叫を上げ、固まる……目を瞑り、

 

あ……おわった……

 

そう、シクルが思った、その時だった。

 

 

「掴まれっ!!!」

 

「っ!?」

 

突然響いた声に、はっと目を見開くシクル……すると、目の前から砂を巻き上げ突っ込んでくる何かと……己に伸ばされる手に気づく。

 

咄嗟に、ルージュを抱き上げその手に掴まる。

 

「っーーー!!」

 

パシッ!

 

伸ばされた手に掴まると、グンッ! と引っ張られる感覚がする。

 

「わぁ!?」

「っ……!」

 

「とっ……間一髪だったな」

 

……え?

 

 

耳元で聞こえた声に、驚き、目を見張るシクル。先程は気づかなかったが……今、目の前にいるのは……

 

 

「……ナ、ツ……?」

 

「え?」

 

「あ? ……え? お、前……」

 

 

目の前にいるのは乗り物酔いが酷い彼のはず……なのに、車を運転する見慣れた彼……

 

シクルを見て、驚いた表情を浮かべる、ナツだった。

 

 

ナツはキキィィィッ!! と九ブレーキをかけ、車を止める。

 

「きゃっ!」

 

「わぁ!」

 

ガクン! と首が揺れ、いたた……と首を抑えていると突然、目の前のナツにギュ! と抱き締められる。

 

「え!? ナ、ナツ!? ど、どうした……の?」

 

「……シクルか? 本当に……シクル、なの……か?」

 

抱き締めてくるナツは震え、その声はどこか涙声に聴こえた……。

 

「ナツ……? ……うん、そう……私は、シクルだよ」

 

どうしたの? とナツの顔を覗き込むと……

 

「え……ど、どうしたの!? ナツ……泣いて……」

 

「う……っ……! だって……だって! シクル……が、生きてた……から……あの時、王都の兵隊に捕まって……もう、ダメかと……」

 

泣きながらそう、言葉を告げるナツを見て、シクルとルージュははて? と顔を見合わせる……そして

 

「あ……」

 

「シクル?」

 

ナツの言葉……そして、ミストガンに聞いたある話を思い出す……

 

 

ーーーあちらは、もう一人の自分がいる世界……そして、こちらの人間とは少し違う……

 

 

もしかして……

 

「ナツ……ナツ、ごめんね……多分、私はナツの知ってるシクルじゃないの……」

 

「っ……えぇ? ど、どういう……」

 

シクルはここまで来た経緯をナツに話す。そして、その話を聞くとナツは……

 

 

「そ、そんな……じゃあ、君はそのもう一つの世界の……シクルなんだね……そっか」

 

しゅん……と、明らかに落ち込むナツ。

 

「あ、ご、ごめんね? ほんと……」

 

「う、ううん! 勝手に勘違いしたのは俺の方だし……大丈夫だよ」

 

ニッと笑みを浮かべるとナツはあっと声を上げ

 

「そっか、じゃあ君がさっきルーシィの言っていた……もう1人のルーシィたちの仲間なんだな?」

と、確信を持った様子で告げた。

 

「もう1人の……ルーシィって……もしかして、皆の居場所知ってるの!?」

 

「そっかぁ! ナツたちも滅竜魔導士だから無事だったんだァ! あれ? じゃ何でルーシィも?」

 

「きっとホロロギウムが助けたんじゃない?」

 

ルージュの疑問にシクルが答えると、「なるほどぉ!」と、納得するルージュ。

 

 

「うん、ルーシィに頼まれて、もう1人のルーシィたちの所へ向かう途中だったんだ」

 

ナツの言葉に、合流のチャンス、と考えたシクル。

 

「お願い! 私たちも一緒に連れて行って!」

 

「あぁ、もちろん! そのつもりさ……しっかり掴まってろよ? 飛ばすぜ」

 

ニカッとシクルの知るその笑みで、告げるナツに、あぁ……やっぱりナツだなぁと、思いながら「うんっ!」と頷くとしっかりとシートベルトをつけ、ルージュを抱きかかえる。

 

「おっけーよ!」

 

「おし……行くぜ、GO ファイヤー!!」

 

その掛け声と共に、ナツの運転する車は猛スピードで、走り出す。

 

 

あちらの世界……“アースランド” のナツたちの元へと……

 

 

「……うっ!?」

 

「え、シクル!?」

 

車が走り出し、数秒後……シクルは口元を抑え、呻く……そして、重大な問題に今更ながら、気づく……。

 

 

 

薬飲むの忘れてたぁあああああっ!!!!

 

 

「ま……う……よ、うぅう……」

 

「シクルぅー!?」

ルージュの呼びかけにも答えられず、ひたすらに吐き気に耐えるシクル。

 

 

「ま、ナ、ツゥ……と、とめ……」

 

「時間を食っちまったんだ……もっと飛ばすぜ!!」

 

「っ!? (あ……これは、おわった……)」

 

シクルの言葉も届かず……こちらのナツ(以降、エドナツ)は車の速度を上げる。

 

 

果たして……無事にシクルたちの知るナツ達とは合流出来るのか……

 

合流までにシクルは耐えられるのか……

 

 

「シクルぅ、しっかりぃー!!」

 

「む、りぃ……うぷっ! は、やくぅ……止まっでぇ」

 

 

 





はい! いやぁ……遅くなって申し訳ないです

次の投稿はまた明日になるかと……明日からはまた1日1話投稿を再開していきたいと思います!

ちなみにシクルたちがエドナツと出会った時は既にエドルーシィはエドナツへとナツたちを王都まで運ぶ指示を出した後です。

では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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65話 王都到着!


すいません!! 一日遅れました!! 2度目のデータ消失で、この時間に……


消えたショックが大きく半日ほど放心してました。

矛盾した箇所もあるかもしれませんが……最後までお付き合い、お願いします!


 

 

 

ひょんなことからエドナツに助けられ、こちらの世界にアースランドのナツたちもいる情報を得たシクルとルージュ……

 

シクルたちは、エドナツの運転する魔導四輪車に乗せてもらい、ナツたちとの合流を目指していた。

 

 

「うっぷ……ま、まだ酔いが残っ、て……う」

 

「シクル、大丈夫ぅ?」

 

「まさかそこまで向こうのシクルが乗り物に弱いなんてな……」

 

 

シクルの必死な説得(?)により、なんとか1度車を止めてもらい酔い止め薬を飲んだシクル。

 

「私だって……うぷ、まさかこっちのナツが車から降りたらああなるなんて……フフ、思わなかったなぁ……うっぷ」

 

「う! そ、それはもういいだろ!? てか、あっちのお前があんなに怖いなんて……俺、考えもしなかった」

 

「止めたのに聞かなかったナツが悪い!!」

 

 

10分前ーーー

 

 

「止めろって……言ってんでしょぉおおおおおお!!!!」

 

バチィィン!!

 

「ぐもぉ!!」

 

先程、あまりにも酔いが回りすぎ、止めて欲しいと懇願したにも関わらず、ナツは運転を止めなかった為に我慢の出来なかったシクルがナツを叩き飛ばし、強制的に止めたのだが……

 

その際、ナツは車の外へ吹き飛び……

 

「ひぃい! ご、ごめんなさいぃいい!!」

 

「「……え」」

 

車から降りると、両手で顔を覆い、涙を流し震えるエドナツがいた……。

シクルとルージュは目を点にし、唖然とエドナツを見下ろす。

 

「……ナツ?」

 

「……うそぉ」

 

「ぼ、僕! 車に乗ると……周りとか、見えなくなっ……ちゃ、って……! ほ、ほんとに、ごめんなさいっ!」

 

ビクビクと震え、シクルに謝るエドナツ。

 

「……もしかして、ミストガンの言ってた少し違う自分って……」

 

「……こういうことぉ?」

 

明らかにシクルたちの知るナツではありえない光景に、苦笑を浮かべため息をついてしまう。

 

そのため息にすら、エドナツは「ひっ!」と声を上げ、身体を強ばらせる様子を見つめ……ふっと優しい笑みを浮かべるとぽんっとエドナツの肩に手を置く。

 

「ひぃ!?」

 

「ナツ……ほら、早く行きましょ? こうしている間にも状況が悪化しちゃってたら大変だよ」

 

「え……」

 

はっと、エドナツは伏せていた顔を上げ、シクルを見上げる……

 

そして、シクルのその微笑む表情を見つめエドナツも、にっこりと笑みを浮かべるとシクルの手を握る。

 

「うん!!」

 

 

これが10分ほど前の出来事だ……

エドナツは車に乗り込むと再びシクルの知るような雰囲気のナツに戻った。

 

「はぁ……それより、ナツ……今はどこに向かってるの?」

 

「あ? あー、今はシッカの街の方へ向かっている。ルーシィからの話だとお前の仲間たちはその街の宿に昨日泊まったみてぇだからな……

 

今頃は徒歩で王都に向かってんじゃねぇの?」

 

「徒歩ってぇ……王都までその街からだとどれくらいなのぉ?」

 

ルージュからの問いかけにんー、と少し考え……

 

「……3日……くらいじゃねぇか?」

 

「「3日!?」」

 

エドナツの答えにシクルとルージュは驚く。

 

「3日って……あー、でもナツたちなら歩くかもなぁ……」

 

「歩く姿が想像できるよぉ……あれ?」

 

「ん? どしたの、ルージュ……?」

 

シクルの膝の上で抱かれていたルージュが、何かに気づき声を上げ……そちらにゆっくりと指を差す……

 

その先を、シクルとエドナツも見やうと、そこには……

 

 

「……え」

「あれは……!」

 

 

大きな大きな飛空船と、大勢の王国軍の兵隊……そして、それらに囲まれ逃げ場のない……

 

 

「っ!! ナツ!! みんなっ!!!」

 

「あ、おいっ!?」

「シクル……!?」

 

ナツ、ルーシィ、ウェンディ、ハッピーとシャルルがいた……。

 

 

 

 

 

 

「くそ! 船が行っちまう!!」

王国兵に囲まれながら、上空へと浮かび上がる飛空船を見上げるナツ。

 

「そんな……あれに乗らないと間に合わないのにっ!!」

 

「しかもこの状況……まずいわね」

 

「ど、どうしましょう……!」

 

「ナツゥー!!」

 

 

魔法の使えないナツたち……唯一魔法の使えるルーシィだが、今の現状を打開出来る星霊は今おらず……万事休す……

 

「くっそぉ……!!」

 

ぐっと拳を握りしめ、苦々しく唇を噛み締めるナツ……

 

 

 

 

「皆、伏せてっ!!!!!」

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

 

突然響いた女の声……驚きながらも、そのよく聞いたことのある声の言葉に従い、バッ! と頭を下げるナツたち。そして……

 

 

「はぁあああっ……月竜の……翼撃!!!」

 

 

ズゴォオオオオオオン!!!!

 

 

 

ナツたちの頭上を銀色の光が迸り、ナツたちを囲っていた王国兵を全て、薙ぎ払った。

 

「んなっ!?」

 

「この、魔法は……!」

 

「もしかして……」

 

目を見開くナツたち。そして……

 

スタッーーー

 

「っ……みんな、無事!?」

 

ナツたちの目の前に金色の髪を靡かせ、降り立つ女、シクル……彼女はナツたちを振り返り、声を上げる。

 

「っ! シクルっ!!!」

 

「シクルだぁ!!」

 

「シクルさん!!」

 

「わぁ!」

 

「あんた……どうして」

 

突然現れたシクルにナツたちはパァッと笑顔を浮かべ、ほっと強ばらせていた体の力を抜く。

 

「説明は後で……今は!」

シクルがそう言うと、ギャギャギャッ! と音を立て、1台の魔導四輪車がナツたちの目の前に止まる。

 

「な、なんだァ!?」

 

「え、これって……」

 

「妖精の尻尾のマークがありますよ……!」

 

 

「話はルーシィから聞いた、乗れ」

 

 

運転席からする声にナツたちは目を見開き、驚く中……シクルはすぐにその助手席へと乗り込む。そして、窓から顔を出し

 

「早く!! ここから逃げるよ!!」

と、ナツたちに喝を入れる。

その声にはっと我に返るナツたちは急いで後部座席に乗り込み、全員が乗り込んだのを確認すると……

 

「飛ばすぜ……落ちんなよ GO……ファイヤー!!」

 

その掛け声の瞬間、魔導四輪車は物凄いスピードで走り出し、一瞬で王国兵を振り切る。

 

 

「すっごーい!! あっという間に逃げきっちゃった!!」

 

「助かったわ」

 

「ありがとうっ!!」

 

「お……おぉ……うぷ」

 

「ナツさん……大丈夫ですか?」

 

走り出した瞬間に乗り物酔いを起こしたナツの背を、ウェンディが擦りながら、助け出してくれた人物に礼を言うルーシィたち。

 

「よかった、皆と無事に合流できて!」

 

「あたし達、探してたんだよぉ!」

 

「王都へ行くんだろ? あんなおんぼろ船より、こっちの方が早ぇぞ」

 

運転している人物、エドナツの声にナツたちは、ん? と首を傾げる。

 

「あれ……?」

 

「この、声……」

 

「「ふふふ……」」

ナツたちの様子に小さく笑い声を漏らしながら……目を合わせるシクルとルージュ。

 

 

 

「妖精の尻尾、最速の男……」

 

「「「「「あっ……!?」」」」」

 

 

ナツたちを振り返ったエドナツの姿に、口を大きく開き、呆然と見つめるナツたち。

 

「ファイヤーボールのナツとは、俺のことだぜ!」

 

「「「「ナツ(さん)っ!?」」」」

 

「お、お……れ?」

 

「あっははははっ!! 予想を裏切らない反応……!」

 

「ぷくくくぅ! やっぱりそぉなるよねぇ!」

 

予想を裏切らないナツたちの反応に笑いが止まらないシクルとルージュ。

 

「ナツ? え……もし、かして……こっちの……エドラスの、ナツ?」

 

「ルーシィが言ってた通り、そっくりだな……で? あれがそっちの俺かよ……情ねぇ」

 

乗り物酔いを起こすナツに呆れたため息をつくエドナツ。

ナツはそんな事に気づきもせず、ただただ乗り物酔いに苦しんでいた。

 

「こっちのナツさんは乗り物が苦手なんです」

「乗り物乗った瞬間にこれだもんね……私もだけど」

 

ウェンディとシクルの言葉に呆れた様子を強く見せるエドナツ。

 

「それでも俺かよ? こっちじゃ俺は、ファイヤーボールって名前の、運び屋専門の魔導士なんだぜ」

 

「へぇー……」

エドナツの言葉を聞き、その横顔を見つめるシクル。すると、後ろから「あれ?」と言うつぶやきが耳に届く。

 

「ん?」

「今気づいたんだけど……この魔導四輪、SEプラグついてないわ!」

 

「SEプラグ?」

 

「あーSELF ENERGYプラグって言ってね、運転手の魔力を燃料に変換する装置の事よ」

 

ルーシィの口から出たその単語に、疑問を持ったウェンディ。

そんな彼女の疑問にシクルは答えると、ルーシィと同じように車内を見てみる……

 

「確かに……そう言われてみると、ないね」

 

「あ、そっかぁ……こっちじゃ人が魔力をもってないから、SEプラグが必要ないんだねぇ」

ぽんっと手を叩き、合点がいったという様子のルージュの言葉になるほど、とシクルやルーシィたちは頷く。

 

「完全に魔法だけで走ってるってことだね」

 

「何よ。車に関しては、アースランドよりもこっちの方が全然進んでるじゃないの」

 

シクルたちがそう会話を続けていると……

 

突然エドナツは急ブレーキをかけ、車を止める。

 

「うっわっ!? ちょ、どうしたの、ナツ?」

 

「ちょっと!?何よ急に……」

 

心配し、エドナツの顔を覗き込むシクルと、抗議の声を上げようとするシャルル……

 

だが、その声が上がりきる前に、エドナツが口を開く。

 

「いや……、そうとも言えねぇな

 

魔力が有限である以上、燃料となる魔力もまた有限……今じゃ手に入れるのも困難

 

だから……俺が連れてってやるのはここまでだ、降りろ」

 

「「「「「「なっ……!?」」」」」」

 

エドナツのその言葉に驚愕し、目を見開くシクルたち。

 

「これ以上走ったら、ギルドに戻れなくなるんだ。あいつら……また勝手に場所を移動したからな」

 

「おお!! 生き返ったぁ!!」

 

そこに、乗り物酔いから復活したナツの叫び声が響き、1人、車から飛び降りていた。

 

「もう1人の俺は物分かりがいいじゃねぇか……さぁ、降りた降りた!」

 

「ちょ、ちょっと……!」

シクルが止めるのも聞かず、エドナツはシクルたちを車から降ろした。

 

「王国とやり合うのは勝手だけどよぉ……俺たちを巻き込むんじゃねぇよ

今回はルーシィの……お前じゃねぇぞ? 俺の知ってるルーシィの頼みだから、仕方なく手を貸してやった……だが、面倒はごめんだ。

俺は……ただ走り続けてぇ……

 

それに……走っていれば、あの時のことを忘れられる……」

 

「っ……ナ、ツ?」

 

「おい!」

 

どこか遠い目をし、そう呟くエドナツに、何かを感じ取るシクル。と、乗り物酔いから復活したナツがエドナツに突然話しかける。

 

そして……

「お前も降りろ!!」

 

と、ナツはエドナツを魔導四輪車から引きずり降ろそうとする。

 

当然、エドナツは必死に抵抗する。

 

「バッ! てめぇ……何しやがる!?」

 

「あ、ちょ、ナツ!! 待って……」

 

「同じ俺として、一言言わしてもらうぞ」

 

「よせ!! やめろ!! 俺を・・・俺を下ろすなぁ!!」

 

「あ……」

 

エドナツの必死とシクルの静止の言葉も虚しく、エドナツは魔導四輪車から引きずり降ろされた。

 

「「あーぁ……」」

 

「お前……なんで乗り物に強ぇ?」

「「そんなことかい!?」」

 

ものすごい形相でエドナツを引きずり降ろすから怒っているのかと思えば、ナツのまさかの質問にシクルとルーシィが突っ込む。

 

 

「ひっ……」

 

「ん?」

 

顔を近づけ、すごい迫力で詰め寄られたエドナツは身体を固め、顔を隠し……そして

 

「ご……ご、ごめんなさい……僕にも……わ、わかりません」

 

「「「「「は?」」」」」

 

エドナツは泣きながらそう言う。その隣ではシクルとルージュがあーあと、ため息をついていた。

 

「やっちゃったね……」

 

「だねぇ」

 

「お……お前……本当に、さっきの……俺?」

唖然とエドナツを指差し、そう問いかけるナツ。それですら、体を揺らしビクビクと怯えるエドナツ。

 

「は、はい! よ……よく言われます! 車に乗ると性格変わるって……!」

 

「こ……こっちが本当のエドナツだぁ!!」

 

 

「ひぃいいいいっ! 大きな声出さないでぇ……! 怖いよぉ……」

 

ハッピーの声に更に体を震わせ、怯えるエドナツ……。そんな彼の様子に開いた口が塞がらない様子のナツ……

 

「ニシシ……鏡の物真似芸でもする?」

 

頭を抱えて怯えるエドナツを見て固まるナツにルーシィは楽しげな、何かを企んだ様子を伺わせた顔をしている。

 

「ごめんなさい! ごめんなさい!! でも……僕には無理ですぅ!!」

 

「あぁ?」

 

「あー、エドナツの性格分かったでしょ……なら、そんな睨まないであげてねー」

 

最終的に身体にしがみつくエドナツの頭を撫で、慰めながらナツをどーどーと抑えるシクル。

 

「ル、ルーシィさんの頼みだからここまできただけなんですぅ……」

 

エドナツは怯えながらそう言う。

 

「いえいえ、無理しなくていいですよ」

 

「そーよ? それに、ここまで送ってくれただけで十分だよ」

 

ウェンディとシクルが笑みを浮かべ、そう言うとエドナツは少し落ち着いた様子で、笑みを浮かべた。

 

そんな様子にほっとシクルも息をつく。

だが……

「こんなのいても、役に立ちそうにないしね」

 

「シャルル!!」

 

シャルルがそう言うとエドナツは再び、顔を下ろしてしまい、周りが見れなくなる。

 

だが、すぐに顔を上げウェンディを見つめる。

 

「そ、そういえば……もしかして、もしかして、ウ……ウェンディさんとですか? あちらの……」

 

「はい! そうですよ」

エドナツの質問に嫌な表情をせず、頷くウェンディ。そんな彼女にほんの少し、頬を緩ませるエドナツ。

 

「うわぉ……小さくて可愛いね」

 

そして、次にエドナツはナツへと視線を向ける。

 

「それで……そっちが、アースランドの僕さんだよね?」

 

「どこにさんづけしてんだよ」

 

「だから、そーいう言葉使いしない!」

 

まだ少し表情の険しいナツの頭に1つ、拳を落とすシクル。

 

「オイラはハッピー。こっちがシャルルだよ!」

 

「ふん!」

 

ハッピーが自己紹介をすると、シャルルは顔を背けてしまう。

 

そして……

「あたしは、もう知ってると思うけど」

 

「ひいぃいい!!! ご、ごめんなさい!!なんでもしますからぁ……!!」

 

ルーシィに声をかけられた瞬間に震え上がるエドナツ。

 

「……」

「お前さ、もっと俺に優しくしてやれよ」

 

魔導四輪車の影に隠れ、怯えているエドナツ。

 

「こっちのルーシィさんは……皆さんをここまで運ぶだけでいいって……だから、ぼく……」

 

エドナツの言葉でやっと、シクルたちは自分たちが今、何処にいるのか気づき……辺りを見る。

 

そして、崖の下に広がる、大きな大きな都市に目がいく。

 

「大きい!!」

 

「すげぇ……」

 

「これが……王都」

 

目の前に広がる王都……それを見て、ナツはエドナツと肩をガッ! と組む。

 

「なんだよぉ! 着いてんならそう言えよ!」

 

「うわぁ!! ご、ごめんなさい!?」

 

「怒ってないんだからそーやって震えないの」

 

「うぅう……だってぇ」

 

「……」

 

目元にたくさんの涙を溜め、シクルに慰められながらゆっくりと落ち着くエドナツに苦笑を浮かべる一同。

 

そして、ふっとナツはエドナツから離れ、目下に広がる王都を見下ろす。

 

「いいぞ……こんなに早く着くとは思わなかった!」

 

「あのどこかに、魔水晶に変えられたみんなが……」

 

「さっさと行くわよ」

 

ぼそっと呟き、先に王都へと向かって降りていくシャルル。

 

「あ、待ってよぉ!!」

 

「さ、行こ!!」

 

「はい!!」

 

「んじゃ、ありがとな」

 

「あたしによろしく!」

 

 

エドナツに礼を言い、王都へ向かうシクルたち……

 

そこに……

 

「まっ、待って!! シクル!!」

 

「ん?」

 

シクルを呼び止めるエドナツ。エドナツを振り返り、見上げると……

 

「ほ、ほんとに……行くんですか? シクル……ぼ、僕は……」

 

「……ナツ……」

 

エドナツは不安そうにシクルを見つめていた。

 

「シクル……僕は、僕は……君に行って欲しくないんです! あいつらは……王都の、人たちは……君を」

 

「ごめん、ナツ……それは聞けないよ」

 

エドナツの言葉を遮り、そう告げたシクル。

はっと目を見開き、シクルを見つめるエドナツ。

 

 

「例え、この先に……何が待ち受けていようと……私は、行くよ……助けに、皆を……

 

私にとって、妖精の尻尾の皆は、大切な……それこそ、1人も欠けてはならない……大切な家族だから!!」

 

 

だから、私は行くよ……

 

そう言い、シクルはにっこりと微笑み、先に行ったルーシィたちを追った。

 

ふと、背後で会話をしている2人のナツをチラッと見やう……

 

その先では、ナツの言葉に、何かを感じたのか、目を見開き固まるエドナツの姿が……

 

 

「……(何、言ったのかな……)」

 

何を話したのか、シクルは気になったがすぐにナツもシクルたちを追い、走り出し、会話が終わった様子であった為、聞くのはやめた。

 

 

この先……シクルたちの進むその先に待ち受けるものは……そして、この世界の未来は……

 

仲間たちの運命は……

 

 






むぅ……予告通りに投稿できなかった癖にあまり進んでいない感じが……

とりあえず、次辺りでエドラスのシクルを出したいですね……
次回は、出来次第投稿させて頂きます。投稿日は未定です。

本当に早ければ今日の日付変わる前かと……

では、最後までお付き合い、ありがとうございます!


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66話 作戦前日


どうも、thikuruです!!

この話を作成中に感じたことが……


エドラス篇……今までで1番長いお話になるかも知れません……


入れたいお話や設定が多すぎて……ごちゃごちゃしてしまいましたらすいません! なるべく気をつけるのですが……

……では、前置きはここまでにしまして……本編の方、最後までお付き合い、お願いします!


 

 

 

王都 城下町に着き、シクルたちの目に飛び込んできたその光景は……

 

「なに……これ?」

 

「……なんか、意外だね」

 

「独裁国家の統治下って言うくらいだから……もっとくたびれてるかと思ったけど……」

 

「……遊園地みたいだねぇ」

 

「オイラたちのいたルーエンやシッカの街とは全然違うよ」

 

シクルたちは辺りを見渡しながら各々、感想を言っていった。

 

そんな中……

 

「んー! むむむ……!! ……ぬぅー!?」

 

「「「「「「……」」」」」」

 

 

はぁ……と、シクルが後ろを振り返ると……

 

シクルたちの歩く、少し後ろの方で何故かただ1人、何かを考え込み、唸るナツがいた……

 

「ちょっとナツー? 何やってんのよ……」

 

 

「むむむ……んぬぁー!! なんでこっちではなってるのに俺はまだなんだよぉー!?」

 

「……はぁー」

 

「ちょっと、アレ……何やってんの?」

深いため息を吐くシクルを見て、不思議に思ったルーシィが声をかけ、問いかけると……

 

「あぁー……何かね? さっき……」

 

 

 

そう、それは王都に着いた時に発覚したのだ……

 

ナツの言葉を聞き、何か思うところがあったのだろう、考え込むエドナツ……

 

 

「……んじゃ、俺は行くぞ! ここまでサンキューな!」

 

「ま、待って!!」

 

「んぁ……?」

 

先に行ったシクルたちを追い、ナツが走り出そうとすると……突然、エドナツがそれを止めた。

不思議に思い、ナツは振り返ると……先ほどでの不安と恐怖の入り混じった表情から変わり、首を傾げ先にいるシクルとナツを交互に見やっているエドナツがいた。

 

「……1つ、いいですか?」

 

「……何だよ?」

 

「ずっと気になってたんですけど……そちらの僕さんとシクルはどんな関係なんですか……?」

 

「……は?」

 

エドナツのその言葉に、目を点にし放心するナツ。

そして、その言葉の意味をやっと理解すると……

 

「んなっ……な! ど、どんな関係って……そりゃあ……ただの、仲間だけど……よぉ(まだ返事もらえてねぇし……仲間止まりだよ……な)」

 

自分でいい、ずーんと沈むナツ。そこに、追い打ちをかける話がエドナツの口から出てくる……。

 

「あれ? そーなんですか? そっか……そーいうところも少し違ってくるんですね」

 

「あ? なんだ……そっちはちげぇのか?」

 

「僕達は……恋人、です……大切な」

少し顔を俯き、寂しげに笑みを浮かべ告げたエドナツ……その口から出た言葉に……ナツはポカーンと固まる。

そして……

 

「んな……なっ!

 

なにィ!? こっちの俺は……付き合って、んのかぁあああ!?」

 

「ひぃいいいいっ!? ご、ごめんなさいぃいいいいっ!!!」

 

 

 

……これが、エドナツと別れる最後に話した内容だ。

 

それから、ナツは頭を抱え、俺は……まだ……俺は……と、延々と繰り返しているのだった。

 

「……てな訳よ」

 

「あぁ……なるほど……そーいうことね……」

 

「まさかこっちのナツとシクルは付き合ってるなんてねーオイラもびっくりだよ!」

 

「あたしもぉ! こっちはまだまだなのにねぇ」

 

ハッピーとルージュの言葉にむぅと頬を膨らませるシクル。

 

「悪かったわねぇ……まだまだで……あ、そーだルーシィ」

 

「ん? なぁに?」

 

1番前を歩いていたシクルから呼びかけられ、首を傾げるルーシィ。シクルはルーシィを振り返り……

 

「あのね……これが終わったら、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……いいかな?」

 

「聞きたいこと? いいけど……今じゃダメなの?」

ルーシィからの問いかけに苦笑を浮かべ、「今はね……」と、告げるシクル。

 

「今は皆を助ける方が優先だと思うし……そんなに、急ぎの話じゃないから……」

 

いいかな? と質問をするシクルを見つめ、フフッと笑みを浮かべるとルーシィはコクッと頷き

 

「もちろん!! いいわよ」

と、答えた。

 

「ありがとう」

にっこりと微笑み、礼を告げるシクルににっこりと微笑み返すルーシィ。すると……

 

 

わぁああああっ!!

 

「ん?」

 

大きな歓声が聞こえ、シクルたちはそちらへと、視線を向けると……

 

「なんだか……向こうの方が騒がしいですね」

首を傾げながら、シクルたちを見やい呟くウェンディ。

 

「パレードでもやってるんじゃないの?」

 

「んー? ……ちょっと見てくっか!!」

 

「あいー!!」

賑やかな集団を見つけ、沈んでいたナツはピクッとその声に反応し、興味津々で走り出した。その後を追い、ハッピーもついていく。

 

「て、ナツ!? ハッピー! 勝手に行かないでよ!」

 

「あんたさっきまで落ち込んでたじゃない!」

 

「やっぱ単純だねぇ……」

 

シクルの静止も聞かず、走り出したナツ。

そんなナツに反応し、ルーシィも走り出し、はぁとため息をつき、シクルもナツの後を追う。

 

その後ろにはルージュやウェンディたちもついてきていた。

 

 

そして、集まる群衆の中をかき分け、中央の様子を伺おうとした時だ……

 

「いたっ……ちょっと、ナツ急に止まんないでよ!」

 

「ん? ルーシィ……」

シクルの前の方を進んでいたルーシィから、ナツへの抗議の声が響いたのだ。

 

だが、ナツはその声に反応を示さず……ただただ目の前を見つめ、目を見開き驚きを隠せずにいる様子だった。

 

そんなナツの様子に不思議に思ったシクルたち……だが、次に目に映った光景にシクルたちも驚愕を露わにする。

 

 

「……え?」

 

「魔水晶……!?」

 

「まさか……」

 

「これってぇ……」

 

「マグノリアの皆……?」

 

「しかも、一部切り取られた跡があるわね……」

 

「他の皆は……別のところってことね……(あれに滅竜魔法を当てれば……皆は元に戻るってこと、ね……)」

 

 

目の前にある魔水晶を見つめ、呆然とシクルたちは立ち尽くしていると……広場の中央で王座の椅子に腰掛けていた老人……恐らく、この国の王であろう男が立ち上がる。

 

そして、前に出てくると一斉に民からの歓声が上がる。

 

「陛下だぁー!!」

 

「陛下バンザーイ!」

 

「バンザーイ!!」

 

王は民を見下ろし、声を張り上げる。

 

「エドラスの子らよ……我が神聖なるエドラス国はアニマにより、10年分の魔力を生みだした!」

 

その言葉にシクルたちの表情は険しくなる。

 

「生み出したって……あいつ!」

 

「オイラ達の世界から奪ったくせに……!」

 

 

「エドラスの子らよ……共に笑い……共に歌い、この喜びを分かち合おう!!」

 

王の宣言に大きな大歓声が巻き起こる。

 

 

「っ……!!」

ギリッと拳を握り、耐えるシクル……そんな彼女を不安げに見上げるルージュ。

 

 

「エドラスの民には、この魔力を共有する権利があり、また……エドラスの民のみが未来へと続く、神聖なる民族!

 

我が国からは誰も魔力を奪えない!!

 

そして我はさらなる魔力を手に入れると約束しよう!」

 

ピキンッ! と王の振り下ろした杖が魔水晶に叩きつけられ、魔水晶の一部が砕かれる……。

 

「これしきの魔力がゴミに思えるほどのなァ!!!」

 

 

 

「っ!!!」

 

「っ、ナツ!!」

 

 

王と民の様子に我慢の限界に達したナツが拳を握り、足を1歩、前に進めるとそれをシクルが後ろから抱きつき、止める。

 

「っ、離せシクル!! 俺は……!」

 

「分かる……気持ちは分かるよ! でも……

 

でも今は……、その時じゃない……まだ、皆を助けるには力がない……今はまだ……今のままじゃ、王国軍に捕まるのが落ちだよ……」

 

「そんなん……! やってみなきゃわかんねぇだろ!?」

 

シクルの言葉に声をさらに上げるナツだった。が……

 

「お願いッ!!」

 

「っ……!」

 

「……お願い、ナツ……今は、耐えて……

 

私も……ハッピーもルージュも……ルーシィたちも、同じ気持ちなの……でも、今はまだ……皆を助けられない……

 

今のままじゃあ……ダメなの……だから、お願い……」

 

 

そう言い、顔を上げたシクルの瞳は揺れ、辛そうに、悲しそうに……そしてその感情を覆い尽くす程の怒りが入り混じっていた……。

 

ナツはルーシィたちにも視線をやり……その場の全員が耐えてることに気づくと……身体からそっと力を抜いた……。

 

 

 

その後、群衆から離れたシクルたちは城下町のある一角にあるホテルへと泊まり、今後について話し合いをしていた。

 

「これからどうする……? なんとかあの魔水晶にされた皆をなんとかしたいけど……」

 

「どうすればいいんでしょうか……」

 

「大丈夫だよ」

 

俯きながら対策の浮かばない自身に溜息をつきウェンディ。そんな彼女の頭にポッと手を置き、撫でるシクル。

 

「大丈夫、あの魔水晶を元に戻す方法は分かってるわ」

 

「「え!?」」

 

「はぁ!?」

 

「シ、シクル……それ、ほんと!?」

 

シクルの言葉に驚き見つめるルーシィたちに、コクリと頷いて見せるとミストガンから聞いた話を説明するシクル。

 

 

「……つまり、シクルの魔法でみんなを元に戻せるって訳なのね……」

 

「正確には、ナツとウェンディも出来るはずなんだけど……(多分ミストガンから薬もらってないんだろうなぁ)」

 

「でも、元に戻す方法がわかっても他の魔水晶がどこにあるか分からないよぉ?」

 

シクルの膝の上に座り、シクルを見上げ呟くルージュの言葉に「そーなんだよねぇ」と苦笑を浮かべるシクル。

 

「探せるところは探しましたけど……、魔水晶らしきものはなかったですもんね……」

 

「やっぱりお城かなぁ……」

 

んー、とシクルたちが首を傾げ何かないか、と考えていると……

 

 

「んがー!! やっぱり我慢できねぇ!! 俺ァ城に乗り込むぞぉおおっ!!!」

 

「ちょ、うるっさ……っ!」

うがぁー!! と怒声を上げ、吠えるナツ。

 

 

「もう少し待ってちょうだい。」

 

吠えるナツさんに唯一、ここまで一言も喋らず、何かを紙に記していたシャルルがそう言った。

もちろん、ナツがそれに黙って従うはずもなく……

 

「何でだよ!?」

 

「ちゃんと作戦を立てなきゃ、みんなは元に戻せないわよ」

 

「そうよ、ナツ……闇雲に行ってさらに状況を悪化させたら大変でしょ?」

 

「っ……」

 

シャルルの言葉と、その言葉に続いたシクルの言葉を聞き、口を閉ざすナツ。

 

「皆……一体何処にいるのかなぁ……」

 

「……それを知るには……」

 

「王に直接聞くしかないわね」

 

ウェンディの言葉を遮り、シャルルがそう言う。

 

「でも……きっと、教えてくれる訳……」

 

「ンなもん、殴ってやればいいんだ!!」

 

「それは違うと思うけど?」

 

「ねぇ……王が知ってるのは確かだと思うけどさぁ? どうやって王のところまで行くのぉ?」

 

「それは……」

 

ルージュの疑問にシクルはふっとルーシィに視線を向ける……。

ルーシィもシクルの視線に気づき、少し首を傾げるも……はっとなにかに気付く。

 

「そっか……いけるかもしれない、王様に近づく事事が……できるかもしれない!」

 

「本当か!?」

 

「それは……」

 

「どういう事……?」

 

ルーシィがシクルを見つめるとシクルもコクリと頷く。ニッと笑みを浮かべ、ルーシィはナツたちを振り返り、告げた。

 

「ジェミニよ!!」

 

「ジェミニ……確か、黄道12門の?」

 

「そう!ジェミニは触れた人に変身できるんだけど、その間、その人の考えてる事まで分かるのよ」

 

「つまり……、ジェミニの力を使い王様に変身することが出来れば、皆の居場所が分かるかもしれないって事よ」

 

ルーシィとシクルの説明におぉ!! と声を上げるナツたち。

 

「おお!!!」

 

「なるほどぉ……!」

 

 

「問題はどうやって王様に近づくか……ね」

 

「さすがに護衛が多すぎて簡単には……」

 

1つ、問題が解決したのにも関わらず、再び新たな問題にぶつかり、唸るシクルたち。

 

そこへ……

 

「王に近づく方法なら……あるわ」

 

シャルルの言葉が響く。

 

 

シクルたちがシャルルに顔を向けると、シャルルはこの部屋についてからずっと何かを書いていた紙をシクルたちへと見せた。

 

「それは?」

 

「城から外への脱出の通路よ……町外れの坑道から城の地下へと繋がってるはずだわ」

 

「え……!」

 

「すごい! シャルル、何で知ってるの!?」

 

ウェンディが目を輝かせ、シャルルに問いかけると……

「情報よ……断片的に浮かんでくるの」

 

「じょう……ほう?」

シャルルの言葉に首を傾げるルージュ。

 

「えぇ、エドラスに来てから少しずつ地理の情報が追加されるようになったわ」

 

「オイラぜんぜんだよ……ルージュは?」

 

「え……」

 

ハッピーからの問いかけにルージュは目を見開く……そして、シャルルに視線を向け、次にシクルを見上げた。

 

どうやらルージュはハッピーの質問に、どう答えればいいか……分からないようだ。

 

「あー……情報って、何かな?」

 

困惑するルージュに代わり、シクルがシャルルへと質問をすると、シャルルはここへ来る前にハッピーやナツたちに話したことをシクルとルージュにも説明をした。

 

そして、その話を聞いた後……

 

「……え」

 

「それは……」

 

驚愕を隠せないシクルとルージュ。

 

「その様子じゃあ、あんたも何も知らないみたいね? はぁ……どうして、あんたたちは任務のことを知らないのかしら……」

 

「に、任務って……そんな」

 

そんなの……なかったはず……と、言おうとルージュは口を開くも……

 

「とにかく、そこから城に潜入できればなんとかなるかもしれないわ」

 

シャルルのその言葉に遮られ、この話は終わった。

 

「おっしゃ! 皆を元に戻すぞ!!」

 

「おおーっ!!」

 

「出発は夜よ、今は少しでも休みましょ」

 

シャルルの言葉に頷き、部屋の電気を消し、各々割り当てられた部屋へと入っていった。

 

 

1度解散をしてから十数分後……

 

ルージュは窓の近くに座り、空を見上げていた。

 

「……なんで……なんでぇ?(シャルルの話していたあの話……お母さん達の言ってたことと……違う)」

 

何がどうなっているのか、分からず混乱するルージュ……そして、ふっと考えること……

 

「お母さん……お父さん……会いたいよぉ」

 

 

アースランドへ飛ばされた時、離れ離れとなった両親……今、どこで何をしているのかルージュに知る手はなく、会いたい気持ちと寂しい気持ちに顔を俯いている……。

 

 

「ルージュ……」

 

「あ……」

 

俯いていた頭にそっと、温かい手が触れ、その声に顔を上げると……そこには、予想と違わず、シクルがふっと柔らかい笑みを浮かべ、ルージュを見下ろしていた。

 

「シクル……」

 

 

「ルージュ……さっきの話、気にしているの?」

 

「……ん」

 

シャルルの口から語られた任務……それは、シクルたち、滅竜魔導士の “抹殺” ……

 

「そんな任務……ないって……お母さんとお父さんは、話してたのになぁ……」

 

どういうことかなぁ……と、シクルを見上げ声を震わせるルージュ。

 

「ごめんね、そこまでは私も分からない……でも、きっと……ルージュのお母さんたちは間違ってないよ、だから……一緒に真実を見つけよう?」

 

本当のことを……ね?

 

 

「……うん」

 

「それと、今回のことが落ち着いたら……また、お母さん達を探そ?」

 

「シクル……うんっ!!」

シクルの微笑みに、混乱していた思考も落ち着いた様子のルージュはほわっと笑みを浮かべ、頷いた。

 

「さて……作戦に支障が起きないように……もう休もう?」

 

「あい!!」

 

シクルの言葉に元の元気を取り戻したルージュはシクルに抱き着くと、その肩に乗り、一緒にベッドへと横になった。

 

 

城への侵入まで残り数時間……

 

 

 

そして、シャルルやハッピー……ルージュにとって、辛い事実が語られるまで……残り1日……

 

 

その時は……近い……

 

 





はい、今回は城への侵入前までですね。

で、ですね……明日から少し仕事が忙しくもしかしましたら2.3日投稿をお休みする可能性があります。

来月からこのような事が増えるかも知れません……もちろん、理想はまだ1日1話なのですが……もしかしたら、今後2.3日に1話投稿に変更するかもしれません。

途中で途切らせることはしないので、気長に待って頂けると有難いです!

では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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67話 衝撃的な事実


たいっっっっっへん!!!

お待たせしましたっ!!!やっと落ち着きが見え、投稿にありつけました!!

期間空いてしまいほんとにすいません!!
期間空いた割に少し文章短いのですが……、最後までお付き合い、お願いします!!


 

 

 

ホテルで一時の休息が終え、ついに城への侵入を決行に移したシクルたち……

 

現在シクルたちはシャルルの道案内で城の地下へと続く坑道を松明で照らしながら歩いていた。

 

 

「シクル、ここ……壊せる?」

 

「ん? ここ? おっけ、任せて」

 

シャルルの示した岩場を前に立ち、拳を握ると一振りで岩を砕く。すると、砕かれた岩場の奥から新たな道が繋がる。

再びシャルルを先頭に坑道を進む。

 

 

先頭を歩くシャルルを見つめ、ふとシクルは疑問に感じていたことを思い浮かべる。

 

「……(シャルルの話……信じていない訳では無いけど……何かおかしい……本当に……本当にルージュたちは……私たちの抹殺任務を与えられていた……の?)」

 

そうじゃなければ……或いは……

 

 

「もう!! いーかげんやめなさいっ!!」

 

「んんんっー!!!」

 

考え込んでいた思考の端で大声で怒鳴るルーシィの声と何かを唸るナツの声が聞こえ、そちらを振り返ると……

 

「……何やってんの?」

 

ルーシィが松明をナツの口に突っ込み、ナツはそれを全力で抵抗していた。

 

 

「ナツがふざけるのよっ!!」

全く……と、眉を寄せぷくぅと頬を膨らませるルーシィを見て、ぷふっと笑ってしまうシクル。

 

「まぁまぁ、そー怒らないのルーシィ……シワ寄ってるよ? それとナツはこんな時にふざけない……分かった?」

 

「「はーい/おう……」」

 

 

暫く歩き続けるとシクルたちは狭い道から広い空間へと出た。

 

「ここから城の地下に続いているはずよ」

 

「にしてもすっげぇな……その情報ってのはよぉ」

 

「ほんとねぇ……シャルルがいてくれて助かったわ」

 

先頭を進むシャルルを見て、笑みを浮かべ、そう呟くナツとルーシィ。

だが、その後ろでは……

 

険しい表情を浮かべるシクルがぼんやりと、考え事をしていた。

「っ……(やっぱり、何か……ひっかかる)」

 

「……シクルぅ?」

 

難しい表情を浮かべるシクルを不安そうに見上げるルージュに気づき、安心させようとシクルが笑みを浮かべた時……

 

 

「っーーー!! 皆、避けてッ!!!!」

 

切迫したシクルの叫び声。驚くナツたち。

その次に響くのは……

 

「え……きゃぁあっ!!!」

 

「っ……ルーシィ!!!」

 

 

ルーシィの悲鳴が聞こえ、そちらを振り返ると粘着質のなにかに身体を拘束され、動けないルーシィ。

 

何かに捕まってしまったルーシィに続き、ナツとウェンディもそれに縛られ、拘束されてしまう。

 

「きゃあ!!」

 

「ンだこりゃぁ!?」

 

「ウェンディ!!」

 

「ナツ!! ルーシィ!!」

 

「っ……皆!!」

 

 

ただ1人、謎の粘着物から回避出来たシクルは空中で一回転し、地へと足をつくと抱いていたルージュをその場に降ろす。

 

そして、身動きの取れないナツたちを救出すべく、すぐに行動を起こす。

 

ダンッ!! と地を蹴り、一番近くにいたルーシィの拘束を解こうとするも……

 

「っ!!」

 

シクルの先を1本の槍が投げられる。

 

咄嗟に飛び退き、避けるが……次の瞬間、ドォオオンッ!! と、音を立て槍の刺さった地が爆発。

 

「う、わぁ!!」

 

「「「「「「シクルっ!!」」」」」」

 

ダメージ自体、負っていないものの爆風により態勢を崩され……その隙に、シクルの首と手首、そして、左足に粘着物が絡まり、動きを封じられてしまう。

 

「! ちぃっ……!(油断したっ……!)」

 

いつの間にかシクルたちの周りは軍が囲っており、逃げ場は塞がれている……。

それでも、何とか拘束から逃れようと、粘着物を何とかしようとしていると……

 

コツッコツッ……という足音と共に、少し違うがシクルにとって、とても馴染みの深い匂いがその嗅覚に届き、動きを止める。

 

そして、足音の発信他をじっと驚愕の瞳で見つめる……。

 

 

「ほぉ……今のを完全とは言わずとも避け……ダメージはなし……か、なかなかやるようだな」

暗闇から響く声にナツたちも目を見開く。

 

「……え」

 

「お、おい……」

 

「う、うそ……」

 

「まさ、か……」

 

「あんた……」

 

「そんなぁ……」

 

「っ……エル……エドラスの……エルザ」

 

王国軍に仕える、こちらの世界のエルザが目の前に現れた。

 

 

「そして……こいつらが、例のアースランドの魔導士か……確かに、そっくりだな……

 

ナツ・ドラギオン、ルーシィ・アッシュレイ……そして、貴様が……」

 

エドラスのエルザはそこで一度言葉をきると、コツッと地に膝をつき、ずっとエルザをキッと睨みつけていたシクルに近づき……

 

 

ガシッ!

 

「いっ……!!」

いきなりシクルの前髪をわし掴み、少し俯いていた顔を無理に上げさせる。

 

「シクルっ! てめ……!」

 

「ちょ……離してっ! (これで禿げたらエルを恨むっ!!)」

緊迫した状況のはずが、シクルの心中は目の前のエルザではなく、今ここにはいないエルザを思い浮かべ、愚痴をはなっていた。

 

「……貴様が、アースランドのシクル……歌姫か……なるほど、確かに同じだな……顔も……声も……そしてその、反抗的な瞳もな……」

 

「はぁ……? 何言ってんの……つか、いーかげん離してくんない!? 本気で禿げちゃうっての!!」

 

拘束され、動けない今も反抗的な態度が崩れないシクルに、ふんっとエドエルザは鼻で笑うと(今鼻で笑った!? 笑ったわよね!? はっ倒す!! by.シクル )シクルから手を離す。

 

「わっ!」

いきなり掴みあげていた手から解放され、身体のバランスが保てず、額から地面にぶつかるシクル。

 

そして、地味に痛む額を抑えながら、恨めしそうに顔を上げ、エドエルザを睨みつけると……

 

 

「……え?」

 

 

シクルの見た先ではなんと、エドエルザはシャルル、ハッピーそしてルージュを前に、膝をつき、頭を下げていた……。

 

「……エクシード」

 

「……エク、シー……ド?」

 

 

エドエルザの呟きの後に後方に控えていた王国軍の兵士達もシャルルたちに頭を下げ始める。

そして……

 

『お帰りなさいませ、エクシード』

 

一斉に声を揃え、告げられるその言葉に……

 

シクルやナツたちはもちろん……声をかけられるシャルルたちも驚愕で目を見開き、身動きが取れないでいた。

 

「エクシード……?」

 

「っ!?」

 

「シャルル……ハッピー、ルージュ……あなた達、いったい……」

 

「っ……ルージュ!」

 

 

「侵入者の連行、ご苦労さまでした」

 

エドエルザのその言葉に震えを強くし、呆然と立ち尽くすシャルル。

 

「っ……」

 

「……シャル、ル?」

 

「なん……でぇ?(分からない……分からないよぉ……)」

 

明らかに混乱しているルージュたちと、ナツたちに声をかけようとするシクルだが……途中でぷつり、と意識は途絶え……気絶してしまった。

 

 

 

……? ……の……ぶ、で……か?

 

 

「(……だ、れ……?)」

暗い意識の中、誰かの声が聞こえ、ゆっくりと沈んでいた意識が浮上する。

 

重たい瞼を押し上げ、目を開くと……目の前には心配そうに顔を覗き込む1人の女……

 

 

「……え?」

 

その姿にシクルは目を見開き、ぼうっとした意識も一瞬で覚醒……

 

「良かった、目が覚めましたね……」

にっこりと微笑む目の前の女を驚愕の眼差しで見つめる……

 

 

「初めまして……私はシクル……この世界の、貴女です」

 

 

「貴女も……私?」

 

 

シクルがこちらの自分と出会っていた頃、ナツとウェンディは別の地下牢に入れられた。

 

その中にシャルルとハッピー、ルージュそしてルーシィの姿はなかった……。

 

「ほーいっ」

 

「んぎゃ!」

 

「きゃ!」

 

王国軍の1人、“ヒューズ” という奴に牢への放り投げられ、ナツは1度柱へと頭突きをするも牢はびくともせず……

 

「ンのやろっ……皆は何処だァ!!!」

 

「あぁ? 皆?」

 

ナツの言葉に意味がわからないと言った様子で首を傾げるヒューズ。

 

 

「シャルルやハッピー、ルージュ……ルーシィさんやシクルさんのことです!!」

ウェンディの声でようやっと理解の出来たヒューズはケラケラと笑うとと言った。

 

「あぁー、あの女か……悪ぃけど、ルーシィって女には用はないんだ……処刑されるんじゃね?」

 

「そんなっ!」

 

「てめぇ!! ルーシィに少しでも傷をつけてみろ……許さねぇかんな!!」

 

ナツの怒声を受けても笑みを絶やさないヒューズ。

 

「おお! スッゲェ怖ぇな、アースランドの魔導士は皆こんな凶暴なのかよ」

 

「なんでルーシィさんだけ……シャルルとハッピーとルージュは!?」

 

ウェンディのその声にヒューズは、ふっとウェンディに視線を向けるとニヤッと笑い、

 

「エクシードの事か?」

と、言う。

 

 

「ハッピーはそんな名前じゃねぇ!!」

 

「任務を完遂したエクシードは母国へお連れしたよ……今頃、褒美でももらっていいモン食ってんじゃねーの?」

 

「任務を……完遂?」

 

ヒューズの言ったその言葉に、ウェンディは疑問を感じる……確かに、シャルルたちには任務を与えられていたが……それは、“放棄する” と、シャルル自身が言っていたのだ。

 

だからこそ、目の前のヒューズの言葉を信じられなかった。

 

「そんな事ありえない……その任務、シャルルたちは放棄したはず!」

 

「いいや、見事に完遂したよ……」

 

ウェンディの言葉に尚もニヤつくヒューズはそう言った。

 

「……な、何なの? シャルル達の任務って……」

 

「ん? まだ気がつかねえのか?」

 

 

そして、ナツとウェンディに語られた内容は……衝撃的な話だった。

 

 

まず、ルージュたち “エクシード” はその種の女王の命令により、6年前アースランドへと100のエクシードの卵が送られたこと。

 

 

卵から孵ると滅竜魔導士を捜索し “抹殺” するように情報を持たせているという。

 

 

だが、それはアニマの登場で “抹殺” ではなく、 “利用” という形に任務内容が変わり、エクシードたちの情報は滅竜魔導士の抹殺から滅竜魔導士を “連行” せよに変わったということらしい。

 

「そ……んな……そんなっ!」

 

「うそだ……ハッピーたちがそんな!!」

 

「カカカッ、つまり……俺たちが本当に欲しかったのは竜の魔力……そして、エクシードは見事に任務を果たした……という事だよ」

 

 

 

そして……

 

 

「エクシードにはその更に上の任務が与えられていたのさ……」

 

「は?」

 

「更に……う、え?」

 

呆然とするナツとウェンディを見て、カカカッと笑うと……

 

 

「そーさ……更に上級の任務……それは、もう1人の歌姫をこちらの世界に連行……そして、俺たち王国に引き渡すことだ」

 

「「っ!?」」

 

 

「歌姫の魔力は強大なのさ……そして、その歌声は傷や疲労、体力を回復させることが出来ると言うんだろ?

 

その力を持つ奴が2人……こいつらは半永久的に俺達の奴隷とすんのさ、カハッ!」

 

 

ヒューズの語ったその内容に……ウェンディは顔を顰め、ナツも額に青筋をいくつも作り、ガァンッ!! とナツたちを閉じ込める柱を殴り……ギリッと歯を食いしばる。

 

「おーおー、ほんっとにこえぇなぁ……カカカッ!」

 

「黙れッ!!! てめぇ……許さねぇ!!

 

シクルになんかしてみろ……俺が、ただじゃ置かねぇぞ!! このやろおっ!!」

 

ナツの怒声が響き、ヒューズを睨むその目にもさらに強い怒りが現れるが……ヒューズはものともせず、笑いながら立ち去っていった。

 

「くそ! 待ててめぇ!! おい!!」

 

 

「っ……シクルさん、ルーシィさん……シャルルっ……!」

 

「くそ……っ!! シクルっ」

 

ヒューズの去った後、その場には悔しそうに顔を歪めるナツとウェンディだけが残っていた。

 

 

その頃……ナツたちに語られたその話をまた、シクルも告げられ、目を見開き驚きを隠せずにいた。

 

「そんな……まさか、奴らの1番の狙いは……わた、し?」

 

「正確には私、“達” です。奴らは私たちの持つ歌の魔法、その不思議な力を利用しこの国を治めようとしているのです……」

 

顔を伏せ、告げるエドシクルにシクルはギリッ……と、拳を握り……

 

「どうして……そんな、私の……私の力は……この力は、そんな為の力じゃないのに!!」

 

 

何故……皆……あいつも、この国の王も……

 

 

脳裏に浮かぶのは忌々しい男の嫌な笑顔……それを振り払うかのように頭を横に振るとキッと目の前のエドシクルを見つめる。

 

 

「とにかく……私たちの力を利用なんてそんな事させない! だから……ここを抜け出そう?」

 

シクルの言葉に、はっと顔を上げるエドシクル。

「で、ですが……ここから抜け出すなんて……第一、この牢の鍵が……」

 

鍵がない……そう、エドシクルが言おうとした時……ニヤッとシクルの表情に笑みが浮かぶ。

 

 

そして、シクルはおもむろに懐から何かを取り出し……

 

「これで……この牢を脱出しちゃおっ!」

 

 

 

シクルの取り出したものとは……そして、ナツとウェンディの運命は……シャルル、ハッピー、ルージュとは無事合流出来るのか……

 

そして、魔水晶にされたマグノリアの街人は……一体どうなってしまうのか……

 

 

(次回に続きます)

 

 





はい、いかがだったでしょうか? 次回はエクシード組のお話のみかと思われます!!

……そして、わたくし……実はやりたいシリーズが今脳裏で渦をまいているのですが……本格的に小説を上げていっていいか、悩み中です。

とりあえず、次のお話は明日の夜までには上げられるかと思います。

期間が空いてしまいほんとにすいませんでした!!
最後までお付き合い、ありがとうございます!!


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68話 エクスタリアからの逃走


はい……また日にちが空いてしまいました……

ほんっとーーーに、すいません!!!

はっきり言いますと、現在ちょっぴりスランプです。

シクルの立ち位置や拘束される理由を決めていたのですが文に表そうとするとまぁそれはもう……なかなか上手くまとめられず!

それに加えこの時期、少し体調にも波があるので……もしかしましたら8月頃まで週1回の投稿になるかもしれません。


すいません……また色々と持ち直しましたら1日1回の投稿が可能になるかなと思います。


では、前書きはここまでにしまして……68話、最後までお付き合い、お願いします!!


 

 

 

前回から、時を少し遡り……ナツたちが、ヒューズからシャルルたちの任務の内容を聞かされていた頃……

 

 

ルージュ、ハッピー、シャルル side

 

 

 

ルージュたちは、シクルたちとは違う場所へと移され、現在大きなベッドの上で横たわっていた。

 

「……っ、ん……? あ、れ……ここ、は?」

かすれた声を小さくもらし、体を起こすのはハッピーだ。

 

ハッピーは少しの間ぼうっと辺りを見渡し、ここがどこかの部屋であることを認識すると、隣で未だに意識の戻らないルージュとシャルルに気が付く。

 

「! シャルル! ルージュ! ねぇ、起きて、起きてよ!!」

 

「……んっ……、ハッピー?」

 

「……オス、ネコ」

 

ハッピーがユサユサと体を揺するとシャルルとルージュの意識も戻り、ほっとハッピーは息をつく。

 

「良かった! 気がついたんだね」

 

「ハッピー……あたし達、一体……」

 

「……眠らされてここに連れてこられたのは確かね」

 

「ここどこだろぉ……?」

 

「……」

 

ハッピーとルージュが部屋を見渡していると顔を伏せるシャルル。

 

「……シャルル?」

 

「どうしたのぉ……?」

 

シャルルの様子に心配になり、ハッピーとルージュが声をかけると……シャルルは悲しげに、そして悔しそうに苦い笑みを浮かべる。

 

「ごめん……私の “情報” が罠だった……」

 

「そ、それは……オイラたちはたまたま見つかっただけだよ! シャルルのせいじゃないよ!!」

 

「シャルル……」

 

「私……誓ったのに……ウェンディを、絶対に……守るって……」

 

ぽつりぽつりと呟き、拳を硬く握るシャルルの表情は辛く、ハッピーやルージュも苦しい気持ちになった。

 

そこへ……ガチャっと音を立て、開かれる扉

 

「「「!!」」」

 

驚き、扉の方をルージュたちが振り返ると……そこにいたのは

 

「お前達がアースランドで任務を完遂した者達か? ……うむ、いい香り(パルファム)だね」

 

「え……」

 

「い……」

 

「「「一夜っ!?」」」

 

扉を開け、入ってきたのはルージュたちもよく知っているアースランド、青い天馬のエースの1人、一夜そっくりな人(猫)物だった。

 

 

「……てか、猫?」

 

「何を驚く? 同じエクシードではないか!!」

 

「エクシード……(そっかぁ……こっちの一夜は……)」

何のことか分からない、と首を傾げるハッピーとシャルルの隣で唯一その言葉の意味を理解し、目の前の一夜を見つめるルージュ。

 

すると、猫の一夜の後ろからもう1匹、黒く少し背の高い猫が現れた。

 

「ニチヤさん、彼らは初めてエドラスに来たんですよ? きっと、エクシードを見るのも初めてなんでしょう」

 

「おお! そうであったか……私はここ、エクスタリアの近衛師団隊長を務めるニチヤだ」

 

一夜だと思っていた猫、エクシードの名前は “ニチヤ” というようだ。

 

そして、後に入ってきた黒いエクシードは

「ぼきゅはナディ、任務お疲れ様」

 

と、名乗り、目の前のルージュたちを誇らしげに見つめた。

 

「任務?」

 

「……」

 

「あたしは……」

 

首を傾げるハッピーと、顔を俯けるシャルル……そして、何かを言いたげそうなルージュ

 

「早速であるが、女王様がお待ちである……ついて来たまえ」

 

「女王様だって!?」

 

そう言いニチヤは外へ出る。

ナディは扉の前でハッピー達が来るのを少し待っていた。

 

「シャルル、オイラに任せて」

 

「シャルル……とりあえず、ここにいても何も情報もないしさぁ……彼らについていこぉ?」

 

「……」

 

なおも俯くシャルル……

 

「オイラが絶対に守るからね!」

 

「あたしも……だから、そんな顔しないでぇ?」

 

「……そうね」

 

ハッピーとルージュの言葉を聞き、やっと顔を上げ少し気持ちの落ち着いた様子のシャルル。

 

3匹は顔を見合わせ、頷くとナディとニチヤの後を追い、部屋を出ると案内されるがままに女王の元へと向かう。

 

 

女王の元へと向かう最中、ルージュたちの目に入ったその光景は……たくさんの猫が歩き、会話をし生活をしている姿だった。

 

「猫の国だ……」

 

ぽそっと呟いたハッピーの声を聞き取ったナディが前を歩きながら少し、後ろのルージュたちを振り返り口を開く。

 

「ぼきゅ達は猫じゃない……エクシードさ

人間の上に立ち、人間を導くエクシードだよ」

 

「エクシード……」

 

「そしてここはエドラスの王国、エクスタリア」

 

ナディの話を聞きながらも、歩く足は止めず、そのままルージュ達は城の中へ入って行く。

 

「人間は酷く愚かで劣等種だからね……ぼきゅ達がきちんと管理してあげないと」

 

「っ……(そんなこと……)」

 

「その上、人間共は酷い香りだ」

 

ナディに続き、顔を歪めニチヤはそう言う。

 

「そして、女王様はここで人間の管理をしているんだ」

 

「女王様は素敵な香りさ」

 

先程までの嫌な表情が消え、誇らしげな表情を浮かべたニチヤがまたそう続く。

 

「勝手に増え過ぎると厄介だからねいらない……人間を女王様が決めて殺しちゃうんだ」

 

「!!」

 

「……」

ナディの言葉に驚くハッピーとただじっとナディを見つめるルージュ。

 

「な……何でそんな事……」

 

ハッピーは気になり、ナディに問いかける。

すると、ナディはどこか誇らしげに……語り出す。

 

「失われつつある魔力を正常化する為だ……と、女王様は仰った

 

女王様はこの世界だけではなく、アースランドの人間も管理しておられるのだよ」

 

「なら……その女王様はどうして人間の死を決めれるのぉ?」

 

ハッピーに続き、どこか怪訝そうな表情を浮かべ、ルージュがナディに問いかける。だが、その問いにはナディではなく、ニチヤが答えた。

 

「女王様にはその権限がある……なぜなら、あの方は神なのだから」

 

ナディの代わりにニチヤが説明をした。

 

「神!?」

 

「神って……」

 

ニチヤの言葉に驚くハッピーとルージュ。

 

「私達の任務って何?」

 

「!」

 

「私には生まれた時から任務がすり込まれていた……女王の人間管理によって選ばれた、滅竜魔導士 ウェンディの抹殺……」

 

「え……?」

 

「シャルル……それはっ」

 

シャルルのその言葉にハッピーは驚き、ルージュはまさかと目を見張る。

 

「ど……どういう事なの? シャルル!

ウェンディの抹殺って一体どういう事……な、の……っ!?」

 

 

シャルルに問いかけながら、ハッピーはある事に気が付く……

 

シャルルにはウェンディの抹殺という任務がある……なら、自分は……? と……

 

「あれ……それ、じゃ……オイラの、任務……て」

 

そして気がついてしまう……

 

ガクッと座り込むハッピーを横目に、シャルルは悲しそうに見つめる。

 

「……アンタは知らなくって幸せだったわね……ルージュも」

 

「ナツを……抹殺する任務に……!」

 

「ちがっ……!」

 

あまりのショックで体が震えるハッピーと何かを言いたげなルージュ。

 

「落ちつきなさい、オスネコ!! メスネコも……私達は任務を遂行してないし、遂行するつもりもなかった!!

 

……なのに、どうして完遂した事になっている訳!?」

 

このシャルルの言葉に目の前のニチヤとナディは驚いた表情を浮かべ、顔を見合わせた。

 

「記憶障害か?」

 

ニチヤはナディに問いかけ、ナディも首を傾げる。そして、ふぅとため息をつくと苦笑を浮かべる。

 

「仕方ありませんよ……“上書き”による副作用は未知数なのですから」

 

 

「っ……答えなさい!!」

 

ちゃんとした返答が戻ってこず、我慢の効かなかったシャルルがさらに声を張り上げ、疑念を投げかけると、ナディがシャルルたちを見やう。

 

「ぼきゅが説明するよ……

女王様の人間管理に従い、6年前に100人のエクシードをアースランドへ送ったんだ……卵から孵ると滅竜魔導士を捜索し、抹殺するように“情報”を持たせてね

 

しかし状況が変わったんだ……

人間の作り出した“アニマ”が別の可能性を導き出したからね……それは、アースランドの人間を殺すのではなく……魔力として利用するというものだったんだ

 

中でも滅竜魔導士は別格の魔力になるみたいなんだよ

 

なので急遽、君達の任務を変更したんだ……

『滅竜魔導士を……連行せよ』と、ね」

 

「「っ……!?」」

 

「……う、そ……そんな」

 

ナディの語る話によるあまりのショックに目を見開き、放心するハッピーとシャルル。

そして、嘘だそんな訳ない、本当は……とぶつぶつと呟き、俯くルージュ……。

 

そんな3匹を前に、やれやれと言った様子でため息をつくとナディ。

 

「やはり、遠隔での命令上書きはうまく伝わらなかったようですね」

 

「しかし、お前達は滅竜魔導士を連れて来たのだからな……魔力化は人間共に任せてある

そういうのは人間どもの方が得意だからな

 

そして、君たちは1番重要な任務も遂行したのさ」

 

「1番……重、要……な?」

 

「なに……それ」

 

 

「君たちは……彼女しか持ちえない歌魔法を使う、最強の滅竜魔導士を連行してきたのさ」

 

「「っーーー!?」」

 

「……え、っ?」

 

身体を大きく震わせ、驚愕の表情を顕にするルージュたちの様子に気づかないのか、ニチヤはさらに話を続ける。

 

 

「女王様の命令でもある……歌魔法を使いし最強の滅竜魔導士……その魔力は他の滅竜魔導士の何倍もの魔力を持つ……それを我々は人間共の持つ魔力化の力で半永久的な魔力供給源とするのさ!」

 

「そん、なっ! それじゃあ……シクルは、シクルはっ!」

 

その力さえあれば他の魔導士に興味はない……そう言う、ニチヤを前に……震えが止まらないシャルルとハッピー、ルージュ。

 

 

「違う……私、は……自分の意志で……エドラ、スに……」

 

 

「ううん……君たちは命令を実行しただけだよ」

 

俯き呟くシャルルの言葉にナディはそう言い放つ。

 

「皆を、助ける……為に、坑道へ……」

 

「気づいていなかったのかい? ぼきゅ達は誘導したんだよ……」

 

「私は……私はっ……ウェンディが大好きだから……だから、守りたいって……」

 

「それは一種の錯覚だね、命令が“抹殺”から“連行”に……すなわち『殺してはいけない』と変更された事による……」

 

「うそだぁあああああああああっ!!!!!!」

 

ナディの言葉にシャルルは大粒の涙を流し泣きながら大きな声で叫ぶ。

 

そんなシャルルを見て、ハッピーとルージュの目からも涙が……だが、ルージュは身体の震えを抑えながらキッと目の前のニチヤとナディを睨むと……

 

「嘘だ!! あたしたちに……ううん、ハッピーたちにそんな任務、与えてなんかいないでしょぉ!? ほんとは……!!」

 

本当の……目的はっ……!

 

「何を言っているんだい? お前達の行動全ては私達の命令によるものだ……それは嘘偽りのない事実だ」

 

ニチヤはシャルルとルージュを見て、そう言う。だが、ルージュはさらに声を上げる。

 

「命令なんてないよぉ! だって……だって、本当はっ! ここの女王様にだって……そんな力、ない……(だって……ハッピーたちが向こうに送られた理由は……)」

 

「まったく……何度言ったら分かるんだい? 君たちは女王様の命令により任務を……」

 

「そんなの……あたしは、信じないよぉ!」

 

ニチヤの言葉を遮り、声を張り上げたルージュ。そして、ここまで一言も声を出さなかったハッピーが……立ち上がる。

 

 

「オイラ達は……オイラ達は、操り人形なんかじゃないぞっ!!!」

 

「っ……」

 

「オ……オス……」

 

 

「オイラ達は……妖精の尻尾の魔導士だぁああああっ!!!」

 

雄叫びを叫ぶハッピー見つめ、シャルルはただただ涙を流し……そして、ルージュはグッと拳を握ると……ハッピー同様立ち上がる。

 

「そうだよねぇ……あたしたちは、妖精の尻尾の魔導士……お前達の命令には従わないよ!!」

 

「ハッピー……ルージュ……」

 

 

ハッピーとルージュは顔を見合わせ、頷くと片手ずつシャルルの手を握る。

 

「「行くよ、シャルルっ!!」」

 

「え……」

 

「「!?」」

 

ハッピーとルージュはシャルルを立ち上がらせると、走り出す。

 

「ちょ……!?」

 

「およよよよ……!!」

 

突然のハッピーとルージュの行動に驚くナディとニチヤ。

 

「絶対に……助けるんだ!!」

 

ハッピーは大声でそう言った。

 

「うん……絶対、今度こそ、離れたりなんかしないんだぁ!!」

 

ルージュも力強い瞳をし、そう叫ぶ。

 

「こ……これは……」

 

「堕天……地上の汚れに毒されてしまったエクシードは、堕天となる……っ!」

 

「おぉおおおおっ!!

メェーーーーーーーーーーーン!!!!

 

堕天が3匹脱走!! 近衛師団!! 出撃ぃいいいいい!!」

 

 

逃げ出し、堕天となったルージュとハッピー、シャルル……シクルたちの救出を胸に誓うルージュたちだが……その心は、まだ……

 

 






んんんん……シクルが狙われるその理由のところなんですが……まぁ、歌で治癒や防御など出来る事でその魔力の特異さと多さがエドラスでは重要な魔力となり力になる……と言ったような感じ……です、かね?

何それな感じですいませんorz

とりあえず、例の夫婦は次回登場すると思います。

次はいつ投稿できるか、まだ分かりません……投稿の期間が決まりましたらまた報告させていただきたいと思います!

では、最後までお付き合い、ありがとうございます!


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69話 飛べ! 友の元へ!!

……お、お久しぶりです……まず初めに……




たいっへんすいませんでしたぁあああああああああっ!!!!

今まで超絶スランプに陥っておりまして……しかも少し病気が悪化しまして……今はもう安定しているんですが





本当に……2ヶ月も放置、すいませんでしたっ!


今後はまた1日1話はまだ厳しいかと思うのですが週1では、投稿を進めていきたいと思いますので……どうか、よろしくお願いします!!


では……最後までお付き合い、お願いします!!


城から逃走したハッピー、シャルル、ルージュの3匹はエクシードの兵隊に追われながら街を駆けていた。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

「ど、どいてどいてぇー!!」

 

「お、追ってくるよぉ……!」

 

シャルルの手をハッピーとルージュが引っ張りながら街を駆け抜ける。

 

 

「あ……あれに隠れよう!!」

 

街を駆け抜ける中、視界の隅に映った藁の積まれた荷車に気づいたハッピーの思いつきで咄嗟にその中へと潜り込み、隠れる3匹。

 

 

3匹が隠れた瞬間、ドドドドドッ……!! と追手が通り過ぎる音が響く。

 

「……い、行ったみたいだよぉ」

 

暫く息を潜め、音が聞こえなくなるとそっと辺りを伺うルージュ。

 

ルージュの言葉にほっと一息つくハッピーとシャルル。

 

 

……だが

 

ガコンッ!!

 

 

「「「……え?」」」

 

 

突然、荷車が揺れたと思うと、ゴロゴロッと音を立て、坂の途中で止まっていた荷車のブレーキが外れ、下り始める。

 

 

「う、うわぁああああああっ!?!?」

 

「きゃぁああああああああっ!!!!」

 

「う、うそぉぉおおおおおっ!?!?」

 

ガガガガガッ!!! と音を立てスピードを上げながら坂を下る荷車に必死でしがみつくハッピー達。

 

だが……

 

 

「っ! あ………」

 

「「シャルルっ!!!」」

 

一際大きな揺れで手が荷車から離れてしまうシャルル。

 

その体が浮き、荷車から投げ出されてしまう……

 

 

パシッーーー

 

 

 

「っ! あんたたち……」

 

 

 

荷車から投げ出されたシャルルの手を咄嗟に掴むハッピーとルージュ。

 

 

「シャルルー!!」

 

「絶対! 離しちゃダメだよぉ!」

 

 

 

シャルルの手を握り、必死に荷車から身体が放り投げ出されないよう踏ん張るハッピーとルージュ。

 

 

だが……

 

 

ガコッーーー

 

 

 

「えっ」

 

「っ!?」

 

「きゃあっ!」

 

 

 

 

荷車は岩にぶつかり、宙を舞う……そして

 

その勢いでハッピーたちの体は荷車から離れ、吹き飛ばされる。

 

 

「「「うわぁああああっ……!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

吹き飛ばされた勢いが消せず、地面をゴロゴロと転がるハッピーたちは丘となっていた場所を超えたところでやっと止まる。

 

 

 

「うーん……」

 

「いったぁ……」

 

「目が回ったよぉ……」

 

頭や体を抑えながら体を起こすハッピーたち。

 

そこでふと、シャルルは顔を上げ、目の前の光景に目を見張る。

 

 

「ちょ……ちょっと! ハッピー! ルージュ! あれを見て!!」

 

「あれ? 今……名前で……っ!」

 

「え……?」

 

ハッピーたちの目の前にあったもの……それは巨大な魔水晶が中に浮いている光景だった。

 

「魔水晶が浮いてる……!!」

 

「王都のより大きいよぉ!!」

 

「えぇ……これが、ギルドのみんなね」

 

「あんな所にあったんだ……」

 

ハッピーたちはただ驚くしかなかった。

 

 

 

「ね、ねぇ! 見て、ここ空に浮いてるよぉ!!」

 

魔水晶が浮いているのを見て、もしやと感じたルージュが自分たちのいる島をよく見るとこの島も宙に浮く島であることに気づいた。

 

ハッピーたちは島の端から下を見下ろす。

 

 

「王都があんな下にあるなんて……」

 

「つまり、こんな位置関係なのね」

 

自分たちのいる島よりずっと下に王都の国があることを知り、シャルルは近くにあった木の棒で簡単な図を描いた。

 

 

王都の上にエクスタリア、その横に巨大な魔水晶が浮いている、そんな感じであった。

 

「問題は……どうやって“王都”まで降りよう……」

 

「今の私達の“(エーラ)”が使えないし……」

 

「んー……」

 

翼の使えない自分達に悩むハッピーたち。

 

 

すると……

 

 

「おめぇ達、オイラの畑で何しとるだ」

 

「「「!!」」」

 

後ろから誰かに声をかけられ、ハッピー達はすぐに振り向いた。

 

「しまった!!!」

 

「っ……(あれ……この、エクシード……)」

 

 

「ははーん……兵隊共が探し回っとる“堕天”とはおめぇらの事だな」

 

その声の主は毛は白く、田舎にいる様な格好をし、鍬を持った猫、いやエクシードであった。

 

「「「……」」」

 

「……かーーーっ!!!!」

 

目の前のエクシードはそう叫ぶと突然、鍬を振り回した。

 

「ひぃぃぃぃっ!?」

 

「うひゃあっ!?」

 

そのエクシードの怒鳴りと行動にハッピーとルージュは驚き、怯む。

 

「出てけ出てけぇええいっ!!!」

 

「あいぃいいいっ!! ごめんなさい!!」

 

怒り爆発なそのエクシードに条件反射の如く、謝るハッピー。

そこに……

 

 

ーーー荷車が転がっていったのはこの辺りか!

 

 

ーーー探せっ!

 

 

ーーーはっ。

 

 

 

ハッピーたちを追い、エクシードの兵たちがここまでやって来てしまったのだ。

 

 

 

「もう追ってきたの!?」

 

「そんなぁ……」

 

「どうしよう……」

 

どう逃げ切るか……模索していると、再び……

 

 

 

「……かーーーーーーっ!!!!」

 

白いエクシードの叫び声が響いた。

 

 

 

「うぎゃあっ!?」

 

「ひやぁああっ!?」

 

「畑から出てけぇええっ!!!」

 

「あいぃいいい! すぐ出て行きます!!」

 

身体をビクビクと震わせ、冷や汗を流しながらそう返すハッピー。

 

 

「そしてウチへ来いっ!!!!」

 

 

だが、目の前のエクシードはそう告げた。

 

その言葉にハッピーたちは目を点にし……驚き、唖然とする。

 

 

「え……?」

 

「……どゆことぉ?」

 

「っ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、あれよこれよとそのエクシードの家に連れてこられたハッピーたち……

 

 

ハッピーたちはひとまず落ち着くと、追われている訳を話した。

 

 

「あらあら、それは大変だったわね。」

 

そこに、そのエクシードの妻が現れた。

 

濃い緑色の頭巾をかぶり、白の服を着た青い毛のエクシードであった。

 

そのエクシードはふんわりとした笑みを浮かべながら、皿に盛った魚をハッピーたちに出してあげた。

 

「おじさん、おばさん……匿ってくれてありがとう」

 

「ありがとうぉ!」

 

ハッピーとルージュはエクシードのおじさんとおばさんにお礼を言った。

 

が……

 

 

「かーーーーーっ!! 飯を食え!! めしっ!!!」

 

「「あいぃ!!」」

 

「……ありがとう」

 

 

エクシードのおじさんの言葉に少し怯えながらも返事をするハッピーとルージュ。

 

そして、シャルルも小さくお礼を言う。

 

 

「まったく……フフ、ウチの人ってばね?

 

王国の彼らとの考え方とソリが合わなくてね、昔追い出されちゃって……こんな所で暮らしているのよ」

 

「へぇ……」

 

エクシードのおばさんの言葉に興味を持つハッピーたち。

 

 

「かーーーーーっ!! いらん事言わんでええわ!!」

 

「ふふふ、はいはい」

 

「そっか……それでオイラたちを……」

 

「助けてくれたんだねぇ」

 

「ケッ、そんなんじゃねぇやい!! めし食ったらフロ入れー! かーーーーーっ!!」

 

「あ……あい……」

 

「や……やっぱり怖いよぉ……」

 

声は大きく怒っているのかと一瞬錯覚してしまうが……

 

その後、風呂から出たあとも……

 

 

 

「かーーーーっ!! これを着ろ!!!」

 

と、服を貸してあげたり……

 

「かーーーーっ!! この辺で勝手に休め!! かーーーーーーっ!!!」

 

と、エクシードのおじさんは怒鳴りながらも、ハッピーたちを休ませてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ようやく落ち着きを見せ始め少し経った頃……

 

 

「ハッピーとシャルル、それにルージュって言うのね……素敵な名前ね

 

……アースランド生まれなんでしょ? 誰が名前つけてくれたの?」

 

エクシードのおばさんはハッピーたちのこれまでの事を聞いてきた。

 

「……ナツ……オイラの友達」

 

「私も、そう……友達(ウェンディ……)」

 

「あたしは……」

 

一匹だけ、事情の違うルージュは口をもごもごと濁らせるが……おばさんはそれに気づかないのか、話をすすめ……

 

 

「そうなのね……」

 

と、呟いた。

 

 

「でも……その友達が、王都に捕まってるんだ……オイラ達、助けに行かないと」

 

ぐっと拳を握り、苦しそうに顔を歪めぽつりと零すハッピー……その姿にルージュやシャルルも苦しそうに俯く。

 

 

「……人間を、助けるのね」

 

「えぇ……でも、エクスタリアではその考え方は間違っているのよね……」

 

悲観的になり始めているシャルルはそう呟くが……

 

「そんな事はないわ、素敵な事よ……とっても」

 

シャルルの言葉にエクシードのおばさんは違うと言った。

 

その言葉に少し顔を上げるハッピーたち。

 

 

「友達にエクシードも人間も関係ない……

 

だって見た目が違くても“大好き”っていう心の形は皆同じなのよ?」

 

「心の……形?」

 

「そう、大好きの心の形は……みんな一緒」

 

 

「……おばさん」

 

おばさんの言葉に少し肩の力が抜けてくるハッピーとルージュ。

 

だが……シャルルはそれでも辛そうな様子で

 

 

「私の心は……私じゃない、誰かによって操られている……

 

今……こうして話してる言葉さえ、私のものなのかどう……」

 

と、言った。

 

その言葉に反応をし、

 

 

「それはシャルルの言葉だよ! シャルルの心だよ!!」

 

ハッピーがそう声を上げた。

 

 

「オイラ達がみんなを助けたいって心はオイラ達のものだ!!」

 

「……そうだね……みんなを助けたい……この思いは、誰かに植え付けられた感情なんかじゃないよぉ……あたしたちの心だよ、シャルル」

 

ハッピーとルージュはシャルルに向かいそう言う。

 

「ふふふ、そうね……今はちょっと迷っているみたいだけど、きっと大丈夫よ……こんな素敵な友達とナイト様が近くにいるじゃない? ね?」

 

「え……!! ナイトさま……////」

 

おばさんの言葉に顔が赤くなるハッピー。

 

 

「あなたは自分の心を見つけられる……ううん、本当はもう持っているの……

 

あとは気づけばいいだけなのよ? “大好き”の気持ちを……信じて」

 

その言葉にシャルルは漸く顔を上げ、口を開く。

 

「おばさん……変わってるのね」

 

「そうかしら?」

 

悲しそうな笑みを浮かべながらシャルルは告げる。

 

 

「だって……エクシードはみんな、自分達を“天使”か何かのように思ってる……人間は劣等種だって言ってた」

 

シャルルはニチヤとナディの言葉を思い出す。

 

「……昔はね、そういう考えだったわ……でも、子供を女王様にとられて……ね」

 

「「!!」」

 

「……子供」

 

その言葉にハッピーとシャルルは驚きを隠さなかった。

そして、ルージュはハッピーたちと違い、何か別のことを考えている様子を見せる。

 

 

「ドラゴンスレイヤー抹殺の計画とかで100人もの子供……卵を集められた

 

そして、自分の子供の顔も知らないまま……アースランドに送られてしまったの」

 

「「「……」」」

 

その言葉にハッピーとシャルルは唖然となる。

 

その100人の中に自分達もいる事と思えると……

 

「その頃からね、私達は神でも天使でもない……私達はただの“親”なんだって、気づいたの

 

そしたら、人間だとかエクシードだとかどうでもよくなってきたわ……ウチの人も、口は悪いけど私と同じ考えなのよ」

 

「かーーーーーっ! くだらねぇ事話してんじゃねーよ!!!

 

おめぇらも……いつまでいやがる!!!」

 

「アナタ……」

 

おばさんの言葉におじさんが後ろから声を出してきた。

 

「辛気くせぇ顔しやがってぇ!! 生きてるだけで幸せだろーが!!!

 

かーーーーーーっ!! 甘えてんじゃねぇぞぉおお!!

 

お役出てけーーーーーぃっ!!!!」

 

「アナタ……そんな急に……」

 

あまりに急な夫の言葉におばさんは止めようとするが……

 

 

「ううん……おじさんの言う通りだよ

 

オイラ達早くみんなを助けにいかないと!」

 

「うん……!!」

 

ハッピーの言葉に頷くルージュとシャルル。

 

「怯えたままじゃできる事もできねぇんだ!! 最近の若ぇのはそんな事もわからねぇのか!!」

 

「!」

 

おじさんの言葉を聞き……ハッピーの顔つきは少し変わる。

 

 

 

そして……

 

 

「ありがとう!! おじさん!! おばさん!!」

 

 

「かーーーーーっ!!

 

二度と来んなーーーーーっ!!!!」

 

「気をつけておいきー」

 

ハッピーたちは助けてもらったエクシードの二匹に別れを告げ、仲間を助けに行くとした。

 

「シャルル、ルージュ!! さっきのおじさんの言ってた言葉の意味……わかる?」

 

「うん……わかったよぉ」

 

「私も……私、エドラスに来て……物凄く、不安だった」

 

「うん……あたしも」

 

「あい!」

 

「でも……今は違う!!」

 

「進まなきゃいけないから……飛ばなきゃいけないから!!!」

 

 

そう叫び、覚悟を胸にハッピーたちは崖の下から飛び降りた。

 

ーーー私達はエクシード……この世界において唯一、体内に魔力を持つ者……

 

魔法を使えなかったのは、心が不安定だったから……!

 

 

 

シャルルは心の中でそう呟いた。

 

そして、ハッピーたちは翼を出せた。

 

 

「行こう!! みんなを助けなきゃ!!!!」

 

「「あいっ!!」」

 

シャルルの言葉に返事をするルージュとハッピー。

 

 

 

翼で前へと……王都へと飛び立つ中……ふと、

 

 

ルージュが後ろを振り返った……。

 

それは、ただただなんとなく……

 

 

その視線の先では……ーーー

 

 

 

「っ……(やっぱり……やっぱり、おじさんとおばさんは……ハッピーの……)」

 

 

 

ーーーそして……お母さんたちの…………

 

 

元気だったんだ……良かった……

 

 

 

涙を流す二匹のエクシード……

 

 

その目には深い深い愛情がみてとれる……

 

 

 

ーーー……いつか、あたしも……お母さんとお父さんに……会えるかな……

 

 

この騒動が解決したら……と、ある決意を一つ増やし、ルージュは力強く、翼を羽ばたかせる。

 

 

 

 

 

 

「かーーーーーっ!! ちゃんと飛べるじゃねーか……!」

 

「飛び方がアナタそっくりね」

 

おじさんとおばさんはハッピーの姿を見つめ、そう言った。

 

 

「バカ言うんじゃない!! 飛び方なんかじゃねぇ……一目見りゃァ気がつくだろ!!!」

 

 

「そうね……あの白い娘、彼女かしら?」

 

おばさんは涙を出し、そう言った。

 

「かーーーーっ、女連れてくるなんて100年早ェんだョ!!」

 

 

「友達想いの優しい子に育ったね……」

 

「かーーーーーっ、グスッ……あい……」

 

 

 

我が子を見て、嬉し泣きをする二匹の親が……そして

 

 

 

 

 

「それに……あの子……あの子も……元気だったのね」

 

 

 

オレンジの毛を持った女の子……

 

 

 

「ルージュちゃん……ルビィとラージュの……大きくなって……!」

 

 

 

「あい……っ!」

 

 

二匹の脳裏に蘇りしは、親友であった二匹のエクシード……そして、その腕に抱かれる……一匹の赤ん坊……

 

 

 

「また会いたいわね……」

 

 

「かーーーーーっ! 会えるに決まってらァ! 必ず……!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハッピーたちが、心の迷いを消し去り、王都へと向かっている頃……王都地下のある所では……

 

 

 

 

 

「……あ、あの……セレーネさん?」

 

「んー? なーに?」

 

 

地下牢に幽閉されていたダブルシクルたちであったが……今はその牢を抜け出し、地上への道を探し、王都の地下を移動していた。

 

 

その牢を抜け出した方法が……

 

 

 

「何故、そんなことが出来るのですか……?」

 

「あぁ、これ?」

 

歩きながらシクルはポケットにしまった例のもの……長い針を取り出す。

 

 

 

牢の鍵をピッキングで開け、抜け出したのだ。

 

 

「昔ちょっとこれに縁があってね! 何かの時のためにと思って持ってたんだけど……役に立ってよかったぁ」

 

あははと、笑いながら言うシクルにエドシクルは少し呆れ気味の様子……

 

 

 

「っ……そ、それよりセレーネさん……本当に地上に出られるのですか?」

 

エドシクルの問いにシクルはんーっと少し首を傾げ

 

 

「分かんないけど……でもこっちから外の匂いがするの……多分、道は間違ってないはずよ」

と、告げた。

 

 

「そうですか……」

 

シクルの言葉に少し安心した様子のエドシクル。

その姿にシクルもほっと少し胸を撫で落とし……完全に、気を抜いていた……。

 

 

 

 

 

道を歩き続け、曲がり角の少し手前まで足を進めた時……

 

 

 

ピシッーーードォオオオオオンッ!!!!

 

 

 

「っ!? な……」

 

「きゃっ……!!」

 

 

突然、目の前の道が塞がれてしまう……そして

 

 

「これはこれは……お二人の歌姫様……

 

 

どちらに……行かれるのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………え……

 

 

 

 

 

シクルたちの背後から聞こえたその声……

 

 

その声を聞いた瞬間……シクルは驚愕で目を見開き……ゆっくりと振り返る。

 

 

そして……

 

 

 

「っーーー!? (な、んで……まさか……コイツも、この世界に……!?)」

 

 

 

 

それは……出来れば二度と、会いたくはない存在……

 

 

 

 

 

 

「ひっ……フォ……ンゼ、様……」

 

「ふふふ……いけませんねぇ……脱獄なんて……さぁ……もう一度、牢に戻っていただきましょうか……囚われのお姫様……」

 

 

 

 

 

その声……その姿……その目を見た時……

 

 

シクルは、震えと恐怖で、周りが見えていなかった……

 

 

 

 

次の瞬間ーーー

 

トンッ! と、強い衝撃が走り、シクルは意識が飛んでしまった……そして、最後には……隣にいたエドシクルも、倒れる光景が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして……なんで……ここでも、私は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弱い……私は…………

 

 

 

 

 

 

……ナ、ツ…………

 

 

 




如何だったでしょうか……久しぶりすぎて正直少し設定が飛んでます

あと、誤字確認はしているんですが……恐らく、見逃しありますので……ありましたら都度報告……して頂けたらありがたいです。


では……69話、最後までお付き合い、ありがとうございます!!


追記(2020/11/23)
お久しぶりです、約3年間更新をストップしていました
最近色々と落ち着きが見られ安定してきたので今回追記致しました。


長期間放置してしまっているので今更なところもあるかと思うのですが……
今後の活動などについてもしよろしければ活動報告の方を更新していますのでそちらの方を確認して頂けたら有難いです。


この小説を自分で開くのも約3年ぶりです……それでも時々この小説に目を通して頂けていた事を知り嬉しく思っています
出来れば更新を再開していきたい……と、思っています


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70話 今……行くから!

……|ω' ) スッ

こんばんわ、こんな真夜中に失礼します

3年ぶりでございますね、約……お待たせしました!(待っててくれた人いるかなぁ……ドキドキ)



続きが気になるとのお声を頂き時間がある時に細々と作成していました

正直……文章能力落ちてると思うので読みにくいところがあるかもしれませんが……

70話、よろしくお願いします


 

 

エクシードの夫婦から元気を貰い魔法が使えるようになったハッピー達は王都へ向け翼を広げ飛び続ける。

 

「んー!飛べるっていいね〜気持ちいいよぉ」

 

「だねー!やっぱりこれでこそオイラ達!って感じだね!」

 

「あんた達……そんな呑気な事言ってる場合なのかしら……?」

 

久しぶりに空を飛ぶ感覚を楽しむハッピーとルージュに呆れ顔ではあるが満更でもない様子のシャルルも(エーラ)を羽ばたかせる。

 

そんな3匹の目線の先には既に城の様子が見え始めていた。

 

 

ルージュ達が城へと向かっている頃……城の塔の開けた窓からルーシィがエドラスのエルザによって外へと吊るされていた。

 

「ちょ……!?ちょっとぉ!!」

 

「お前はここで死ぬんだ」

 

冷徹な表情でルーシィに告げるエドラスのエルザを見てルーシィはキッと睨むと

 

「エルザは無抵抗な人にそんな事しない!!

エルザは優しいんだ!!そんな事……するもんか!!」

と叫ぶ。

 

だがエドエルザはそれを聞いても冷たく笑う。

「フッ……おめでたい奴だな貴様は……私は、人の不幸等は大好物だ

妖精狩りの異名の通り、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士を何人も殺してやった……」

 

そう淡々と告げるエドエルザにルーシィは涙を溜め

「エルザの顔で……エルザの声で……そんな事、言うなっ……!」

先ほどより強く睨みつける。

 

ククッとエドエルザは笑うと

「じゃあな……ルーシィ」

そう告げ、ルーシィを城の窓から突き落とした。

 

「きゃあああああっ!!!」

 

ルーシィは恐怖でギュッと目を瞑る。

 

 

 

 

「ルーシィーーー!!」

 

「!?」

 

大きな声が自分の名を叫ぶのが聞こえ目を開けると……

 

「ハッピー!ルージュ!シャルル!」

 

ハッピー達がいた。彼らを見てルーシィは笑顔を浮かべる。

 

「エクシード……」

 

 

「もう大丈夫!オイラが助けに来たから!!」

 

そう言いながらルーシィをキャッチしようとしたハッピーは勢い余りルーシィを通り過ぎ……

 

「にぴゃぁ!?」

壁に激突した。

 

 

「ハッピー……大丈夫ぅ?」

「ありがとー!……てか、あれ?あんた達羽が……」

 

ハッピーがキャッチしそこなったルーシィはルージュとシャルルが無事掴み上げていた。

 

こちらに来てから1度も使えなかった翼を広げて飛んでいるハッピー達を見て首を傾げるルーシィにシャルルが照れたような表情で

 

「心の問題だったみたい」

と説明した。

 

「久しぶりで勢いつけすぎちゃったぁ」

「ハッピーらしいねぇ」

 

ハッピーも加わりルーシィを掴みエドエルザの元まで上昇する。

 

 

「こ……これは一体……その女は女王様の命令で抹殺せよと……」

困惑した様子でエドエルザはエクシードとルーシィを見る。

 

「命令撤回よ」

エドエルザを見下ろすシャルルが告げる。

 

「し……しかし、いくらエクシードの直命でも女王様の命令……覆す権限はないはずでは?」

 

そう言うとシャルルをギロッと睨むエドエルザは

「その女をコチラにお渡し下さい」

と命令するように告げる。

 

その眼光にハッピーやルージュは少し体を強ばらせる。

だがシャルルは冷静な表情でエドエルザを見下ろすと

 

「頭が高いぞ、人間」

 

 

 

 

「私を誰と心得る?私は女王(クイーン)シャゴットの娘、“エクスタリア王女”シャルルであるぞ」

と威厳あるオーラを出し告げた。

 

「「えぇ!?」」

 

「シャルルが……王女様?」

 

「なっ……」

 

シャルルの突然の告白にルーシィとハッピーは驚きの声を上げルージュはシャルルを見つめ目を見開く。

 

そしてエドエルザは驚愕に目を丸くすると……

ザッ!と素早くシャルルの前で膝をつく。

 

「はっ!申し訳ありません!!」

 

 

「答えなさい、ウェン……3人の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)はどこ?」

危うくウェンディの名前を言いかけたシャルルは呼び方を言い直しエドエルザに問う。

 

「はっ……2人は西塔の地下に、1人は……歌姫は恐らく北塔の拷問部屋に……」

 

「拷問部屋!?なんでそんなところに!?」

 

歌姫の単語にシャルル達の脳裏に浮かぶのは綺麗な歌声で皆を癒す力を持つシクルだ……

 

「はい……牢獄を脱獄した為地下にある拷問部屋に連行されました……」

 

「今すぐ全員を解放しなさい」

 

 

「そ、それだけは……私だけの権限ではなんともなりません」

 

シャルルの命令にエドエルザは冷や汗を浮かべそう伝えた。

思った通りの返答がないことにシャルルはギュッと手を強く握り

 

「言うことが聞けないの?いいから今すぐ!解放しなさい!!」

と怒声を上げる。

 

「はっ!しかし……」

 

 

「エルザ!!!」

 

あと少しでエドエルザは完全にシャルルの威圧に負け命令に従う……その瞬間だった。

 

 

体の大きいエクシード……王国軍所属部隊長であるリリーがエドエルザに駆け寄る。

 

「その3匹のエクシード達は堕天だ!!エクスタリアを追放された者共だ!!」

 

「何!?」

 

 

「何あいつ!!あんた達の仲間!?」

リリーの姿を見てハッピー達に問いかけるルーシィだが

 

「えぇ!?よ、よく分かんないけど……多分違うと思う!あんなゴツイエクシードにいなかった!!」

「絶対いなかったよぉ!」

 

首を振り見たことないことを強調させるハッピーとルージュに悔しそうに表情を歪め

「早く逃げるわよ!!」

とルーシィを掴みながらその場を逃げる。

 

 

暫くして王国軍の目から隠れられる様な場所を見つけ身を潜めていると

「ありがとう……3人共」

とルーシィが言った。

 

「……怒ってないの?」

お礼を言われたシャルルがそう聞くと

「え……何を?」

と首を傾げるルーシィ。

 

「だって……捕まっちゃったのは私達の、せいだし……」

耳を垂らしそう言うシャルルに苦笑を浮かべながらも優しい表情で

 

「でもこうやって助けに来てくれたじゃない……ね?ハッピー、シャルル、ルージュも」

とルーシィは笑う。

 

そんなルーシィを見てもハッピーとルージュの表情も晴れる様子はなく

「ごめんね、ルーシィ……」

「ごめんなさい……」

と謝る。

 

「だからそんなに怒ってないってば!ね?」

とルーシィは言ったところでシャルルを見ると

 

「それよりあんた……女王様の娘って事の方が驚きなんですけど……」

と言った。

 

「オイラもーびっくりしたよ」

とハッピーが同調していると

 

「え?気づいてなかったのぉ?あれ、シャルルのはったりだよぉ、ねー?」

とにっこりと笑いシャルルを見てそう言ったルージュにシャルルはふんっとそっぽを向くと

 

「当たり前でしょ」

と言った。

 

「「えぇ!?」」

ルーシィとハッピーはさらに驚きの声を上げる。

そしてハッピーもルージュと同じ様ににこーっと笑顔を見せる。

 

「何よその顔は?ハッピー」

「いやぁいつものシャルルだなぁって、思ってね」

「さすがシャルルって感じだねぇ」

 

ハッピーに便乗してシャルルにそう言うルージュ

 

「ちょっと何よ、ルージュまでそんな顔で……変なの」

「……(あれ?今……)」

 

仲良さげに会話をするハッピー達の言葉の中で何かが引っかかったルーシィは首を傾げた後……

 

(名前……ハッピーとルージュって……)

シャルルの変化に気づき、3匹に気づかれないようにっこりと笑顔を浮かべた。

 

「そんなことより早くウェンディ達を助けに行った方がいいんじゃないかしら?」

 

気を引き締めるように言ったシャルルの言葉にルーシィ達も真剣な表情を浮かべる。

 

「1人は拷問部屋にいるって言ってたわね……それって」

エドエルザの言葉を思い出すルーシィ。

 

「多分シクルの事だよ……歌姫って言ってたよあのエルザ」

ハッピーの言葉にルーシィとシャルルが頷く。

すると……

 

 

「……あたし、助けに行ってくるよ」

とルージュが言った。

 

「まさか……ルージュ一人で行く気!?危ないわ!」

ルージュの言葉に驚き止めるルーシィ。

そしてハッピーもまた

「そうだよ!何があるかわからないんだよ!?みんなで行ったほうがいいよ!」

とルージュを止める。

 

だが……

「ううん……あたし一人で行くよ、その方が隠密に動けると思うの

それに……」

ルージュはそう言うとシクルがいるであろう方向を見つめ……

 

「シクルが呼んでる気がするんだ……」

と呟いた。

 

ルージュはそう言うと「ナツ達の方は任せたよ!」と言って2人が止めるのも聞かず飛び立ってしまった。

 

「ルージュ待って!!……もう!」

「1人じゃ心配だよ……」

ルーシィとハッピーが不安そうにルージュを見つめる。

 

そんな2人に

「大丈夫よ……ルージュは」

と、ただ1人止めなかったシャルルが言った。

 

「あの子……語尾が伸びてなかった……きっと大丈夫」

シャルルは自分にも言い聞かせるようにハッピーとルーシィにそう言う。

 

「私達も早くウェンディとナツの所へ行きましょ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー ……大丈夫……大丈夫だよね?……シクル……

 

 

 

……待っててね、今……行くから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー …………ルージュ……

 

 

ーー ……ナツ……

 

 

助けて……

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか……?


何分構成とか色々抜け落ちた部分もあるんですが……しかも久しぶりなのにそこまで長くない……


これからもゆっくりとにはなると思いますが細々と余裕がある時に更新をしていくと思いますので読んでいただけたら嬉しいです。


では……また次回
(誤字脱字ある際は申し訳ございません!)


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71話 黒いシクル

おはこんばんにちわ! お久しぶりです

年末にはもう1話……と思っていたのですが前回投稿から3ヶ月が経ってしまいました

構成が抜け落ちてる分納得いかず何度も作成し直していたらこんなに遅くなってしまいました……ごめんなさい!!


あまり長くないですが第71話、よろしくお願いします。




 

 

 

 

……暗い……暗い……私……

 

 

 

北の塔へとルージュが向かう頃……シクルは自分の意識が暗く落ち混濁している感覚を感じていた。

 

 

何をしていたのか……考える。

そんなシクルに……激痛が走った。

 

 

「!?ゔぅぁああああああァァァァ!!?」

身体に走る電流と高熱の痛みに悲鳴を上げる。

そして……

 

 

「ぅぁあああっ……(あ……思い……出し、た)」

 

ーー 私……あいつに捕まって……

 

 

「……っっ!!はっ……はぁ!」

 

痛みが止んだシクルは乱れた呼吸を繰り返す。

そんなシクルの身体にはいくつもの管と頭にはよく分からない機械が被せられていた。

 

 

被せられている機械でシクルの視界は遮られ何も見えていない状態だった。

そんなシクルが今頼りになるのは……嗅覚と聴覚

 

 

 

「フェッフェッ……アナタも馬鹿な人ですねぇ……あのまま牢獄にいればまだこれほどまでの苦痛を味わうこともなかったであろうに……」

 

「っ……(この声……)何……が、目的?もう一人の……私は、どこ……?」

シクルは聞こえてきた声に途切れ途切れの声で問う。

 

 

「はて……もう一人……アァ、彼女なら別の部屋で罰を受けとるよ……まったく……同じ人間は同じ思考なのですかねぇ……」

 

年老いた老人の声……シクル達を捕えた男が言ったことにシクルはギリッと歯ぎしりを鳴らす。

 

「なんで……なんで、私達に……そこまで拘るの……?お願い……私は、どうなってもいいから……こっちの世界の私を、解放してっ!」

 

「それはなりませんなぁ……あなたがたの他者を癒しそして力を高めるその力、その力を手放すなど……」

 

シクルの願いは聞き入れられず男……フォンゼはそう言い嗤う。

その言葉にシクルは悔しそうに表情を歪め

 

「どうして……なんで……いつも……こっちの、お前も……なんでいつも……!

 

私の力を利用しようとするんだっ……!」

 

シクルの悲痛な声を聞いても何も感じないのかそれどころか可笑しそうに更に嗤うフォンゼは

 

「フェッフェ……うるさい小娘ですな……その口がいつまで続くでしょうかねぇ……」

と言うと再びシクルに繋げた機械に手を伸ばし……

 

「次与える苦痛に……貴方は耐えられるか?耐えられぬか……見物ですな」

 

「!?ま……待って!やめ……!」

 

先程までの力が次流れては……流石に回復も間に合わずどうなるか分からない……

シクルは必死に止めるよう訴える。

 

だが、その言葉は届かず……

 

 

シクルの身体に再び電流が流れる。

 

「うぁああああアアああぁぁアッ!!!?」

 

「更に出力を上げた物です……これに耐えられる力を持っているか……」

 

悲鳴をあげるシクルを見て愉しそうに嗤うフォンゼ……その姿が薄れゆく意識の中嫌に鮮明に見えた……

 

 

 

……なんで……どうして……

 

私は……私の力は……こんな……

 

 

こんな事の為に……あるんじゃない……

 

 

私の力……私の力は……!

 

 

 

 

ワタシ……ダケノモノ……ワタサナイ

 

 

 

「ゔぁ゙ぁ゙ァアアぁ゙ぁ゙アアァ!!!!」

 

シクルの悲鳴が変化し始め……突然、シクルの体から強大な力が溢れ始める。

それを見てフォンゼは目を見開き

 

「な……なんじゃ!?何が……!?」

驚きの声を上げるがシクルへの攻撃は止めずそれどころか……さらに出力を上げ始める。

 

 

バチバチバチッーーー!!

 

「ゔぁあア゙ア゙あァあぁアッア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ァアッ」

 

 

 

怖い……私……私は……何、か……

 

 

助けて……怖い……助けて……ナツっ!!!

 

 

 

 

皮膚が焼け焦げたような臭いが漂い始める……そしてシクルにも更なる変化を与え……

 

 

一瞬……シクルから溢れ出ていた力がふっと静まる。

それを見てフォンゼはニヤッと笑みを深めた……だが

 

 

カッーーーー

 

シクルの体から今まで以上の力が放出された瞬間、シクルを拘束していた機械は一瞬で吹き飛ぶ。

 

その力は近くにいたフォンゼをも吹き飛ばす。

 

「ぬぉおおおあっ!?な、なん……!?」

突然の衝撃に驚き顔を上げる。

その目には……

 

 

「…………カえ、セ……」

 

黒髪へと変化し目は虚ろな少女……そして更に……

 

「なん……じゃ?その顔のアザは……」

 

シクルの顔には左目を中心に黒い何かが模様のように広がっていた。

 

フォンゼの問いにシクルは全く反応した様子を見せず、ただ一点を虚ろな瞳で見つめ続ける。

 

そして……ゆっくり……フォンゼへとその目を向ける。

 

 

「……カエ、せ……」

 

ゾクッーーー

 

「ヒッ……!」

 

 

 

 

 

シクルに異変が起きる少し前……シクルを助けに向かったルージュは

 

 

「うぅー……見張りが多いよぉ……」

 

小さな身体を使い警備兵の目を掻い潜り北の塔の地下に繋ぐ階段であろう所までは近づいていた。

が……

 

 

「むぅ……(さっきより兵が多い……やっぱりこの下にシクルがいるのかも……)」

 

兵隊の数は増えておりまた異様な空気をルージュも感じていた。

 

 

どうすれば進めるか……考えていると

 

 

 

ゾワッーーー

 

「な……なに……」

突然感じる、巨大な魔力の放出……ふと、その発生場所とその感覚に覚えを感じる。

 

「……シクル?」

 

 

 

暴走した時に……似てる?

 

 

「怖い、けど……うん!迷ってる暇はないねぇ!」

 

自分を奮い立たせるように頬を1度バチッ!と叩くとルージュは(エーラ)をめいっぱい使いトップスピードを出す。

 

「なんだ!?」

「侵入者だ!捕らえろ!」

 

飛び出したことにより見張りの兵に気づかれるが……

 

「強行突破ァーーー!!!」

 

「「「うわぁ!!」」」

MAXスピードのルージュに見張りはついていけず……ルージュは勢いのまま地下深くへと飛ぶ。

 

そして、見つけた……

 

 

大きく少し古びた扉を。

「シクルーーーー!!」

 

バーン!と扉を体当たりで突破する。

ルージュの視界に入った光景それは……

 

 

「…………シ、クル……?」

 

ボロボロで壁に埋まる男、フォンゼの姿と少し俯き顔は見えないが様子が普段と違うシクルだった。

 

ルージュは様子のおかしいシクルを見て一瞬息を呑む。

だがやっと会えた事が嬉しく小さく笑みを浮かべ声をかける。

 

「シクル……アタシ、ルージュだよォ?助けに来たんだ……大丈夫?……シクル?」

 

そう言いシクルに近づくルージュはシクルの手に触れようと手を伸ばす。

 

その時ーーー

 

 

ドンッーーー!!!

 

「きゃあっ!?」

 

シクルに触れようとしたルージュはシクルから放たれた衝撃で身体が吹き飛ぶ。

壁に身体を打ち付け痛む身体を起こしシクルを見ると

 

 

「シ……クル?」

 

顔の左半分に黒い模様が浮かび普段とは全く違う表情で自分を見つめるシクルがいた。

 

「ど……どうしたのォ?それ……顔、何があったの……シクル?……アタシの事……分かる?」

 

ルージュが話しかけるがシクルは全く表情を変えずただルージュを冷たく見つめていた。

 

そして

 

ゆっくりとシクルは左手を上げルージュに向ける。

 

 

黒い光がシクルの手に集まり……

 

 

 

「……カえ、セ…………に、ゲて……」

 

「え……」

 

シクルの手から放たれた黒い光は真っ直ぐルージュへと向けられ……爆発した……。

 

 

 

爆発の煙が晴れるとルージュがいた所はボロボロに崩れていた。

シクルは冷たい瞳で崩れた壁を見つめる。

 

そんなシクルの耳に小さな呻き声が届く。

声のした方にゆっくりと顔を向けると……

 

「………………ぅ……」

 

「……大丈夫か?」

 

 

「……え?」

 

 

消し飛んだと思われたルージュを抱え助けたのは……ニッと笑みを浮かべる桜髪の男……ナツだった。

 

 




はい、71話、いかがだったでしょうか?

遅くなった割に内容も薄く短く申し訳ないです……

一応この後の流れはおおよそ考えているので次話はもう少し早く投稿できるかと思うのですが……

エドラス編を終えた後はS級試験の前にオリジナルストーリーを組み込む予定です

今年中にはエドラス編終えたい!頑張ります!!

それでは、最後までありがとうございました
次話もよろしくお願いします!!


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