歯車戦記 (アインズ・ウール・ゴウン魔導王)
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World WarⅡ -A.D 1944- 1話

東京に本社を置くとある会社に勤めるエリートサラリーマンであった私は、ただ自由を愛する一個人として順風満帆な社会人人生を生きていた。

 

例え対象から恨まれる首切り宣告であったとしても、労働対価が支払われ続け、自身の評価とその先の将来に良い結果となるのであればと、私はその職務をこなしてきた。

 

そしてこのまま行けば、予定通り部長のあとを継げるだろう…まさに人生は益々順風満帆になる。

 

このまま帰宅したら、夕食とシャワーに明日の出社準備、その後はお気に入りのFPSでオンライン対戦である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…の筈だった。

 

 

 

 

 

やはり程度の低い人間というのは、理性や知性よりも感情で動くのだろう。

 

実は本日を以てクビの宣告を突きつけた男がいたのだが、どうやら私を恨んで報復を決意したらしい。

 

私は突然背後から突き飛ばされ、今正に電車が迫る線路内へと転落した。

 

 

 

 

 

それからの一連の出来事は思い出したくもない。

 

突然古代遺跡のようなものが散在する白い世界に飛ばされたかと思いきや、"神"を自称する老人にやれ解脱に至る努力がないとか十戒を定めただとか説教される。

 

人生で学んできた合理性と論理と知性で反論したら「うっさい!!」と逆ギレされ、顔面に唾が掛かる勢いでさらに説教が加速。

 

とりあえず、この自称"神"──いや存在Xと呼称しよう。

 

存在Xは私の反論を逆手に取り、「逆境に放り込めば信仰心を抱くのか」と結論付け、私を転生させると言って問答無用で実行した。

 

 

そして、今──私は地獄にいた。

 

 

 

転生させられた先はというと、分かりやすく言うなら第二次世界大戦である。

 

皆さんこんにちは、存在Xの理不尽によって転生させられたエリートサラリーマン改め、ドイツ第3帝国所属SS装甲師団のターニャ・フォン・デグレチャフ中佐であります。

 

現在小官は西部前線において、オランダのナイメーヘンにて戦闘が一段落したので小休止を取っております。

 

事の次第はと言いますと、連合軍は空挺作戦にてオランダに3万の空挺隊員を投入、オランダを制圧してドイツの工業地帯への進路を確保──工業地帯を抑えドイツの戦争継続能力を粉砕しクリスマスまでの終戦を目指すというモンティおじさんの素晴らしい計画を(制止することが出来ずに)実行──そして我々オランダ駐留のドイツ軍は目下ナイメーヘン市内にて民家に立て籠っているフロスト中佐率いる英軍第1空挺師団を歩兵と戦車で包囲し、撃滅を目前にしているところであります。

 

何故敗北続きのドイツ軍が今正に連合軍を逆包囲してるのかはwikiを御覧になられれば分かりますので(目も当てられない事実が記載されております)

 

そんな小官を呼ぶ声がするので回想はここら辺りで失礼致します。

 

「中佐殿!デグレチャフ中佐殿!」

 

「聞こえているセレブリャコーフ大尉。どうした?フロスト中佐が降伏でも申し出たか?」

 

「いえ、敵空挺師団は未だに抵抗を続けておりますが、我がサラマンダー隊の損害は軽微!数時間以内に制圧は可能です!」

 

「では一体何事かね?」

 

「確定ではありませんが、グランツ中尉が戦場にて"コブラ部隊"とおぼしき敵を目撃したとの事です!」

 

「何!?クソッ、ついに来たか!」

 

私は即座に小休止を切り上げ、側に立て掛けてあったG43を手に取る。

 

「セレブリャコーフ大尉!私を案内せよ!本当にコブラ部隊であれば我々サラマンダー隊は即座にこれを迎撃、橋を防衛する!急げ!」

 

「はっ!直ちに!」

 

 

 

それでは皆様、どうやら雲行きが怪しくなってきたのでここいらでお別れを。生きていればまた何処かでお会い致しましょう。

 




現時点での世界観及び設定(ついでに次回辺りからの予定)

追加:HQさんから頂いた設定を取り入れさせて貰ったので、老化停滞理由をナノマシンから寄生虫に変更しました(寄生虫ってマジ便利w)。


・存在X健在(時折介入という名のちょっかいを入れてきます)


・ターニャが本来率いる筈だった隊員達はドイツ人及びロシア人として登場
【具体例】
※ヴァイス→ドイツ生まれのドイツ人
※ヴィーシャ→スターリンの粛清から逃れた白系ロシア人


・メタルギア世界なので魔法は無いですが、奇跡もしくは奇跡に類似する事象は発生
【具体例】
※ターニャは存在Xの加護と奇跡(呪い)によって、手刀を振るえばレーザーカッター並の切れ味を出し、蹴りを繰り出せばブルドーザー並の衝撃となる。
※ターニャら隊員達は某MADが存在Xに唆されて開発した寄生虫手術を受けており、病気や怪我で入院したり死んだりはすれど、寿命では死なないというミュータント設定


・世界大戦話は次辺りで終了予定。メインはメタルギアの話だから、だらだら大戦話を続けるのもあれかと思う。


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2話

前回「次辺りで大戦話を終了予定」と言いましたが、すいません無理でした。

「予定は未定にして決定にあらず」とはよく言ったものですが、切りの良い形に纏めきれなかったため今回と次回に分けて大戦話を終了させた後、改めてメタルギア本編に入りたいと思います。


皆さんこんにちは。ドイツ第3帝国所属SS装甲師団のターニャ・フォン・デグレチャフ中佐であります。

 

 

生きていればまた何処かでお会い致しましょう──と申し上げてから、それほどは経っておりませぬが、どうかご容赦の程を。

 

 

さて、オランダ・ナイメーヘンにて連合軍による橋の奪取を防ぐべく奮戦していた我々SS装甲師団サラマンダーの現状であるが、グランツ中尉によるコブラ部隊目撃の報を受けたため、急遽兵員と戦車・装甲車両をかき集めて橋を渡っている所である。

 

 

相手は精鋭ではあるが所詮は録な対戦車兵器も持っていない空挺部隊……とはいえ幾ばくかの対車両用ロケット砲を持ち込んでいたらしく、最初に突入した装甲車両部隊は機関銃とロケット砲の洗礼を受け壊滅──幾つもの残骸と遺体が英軍空挺部隊が立て籠っていると報告された民家付近の橋の至るところに散らばっている。

 

 

そこで我々は本格的に戦車を投入、先頭を走らせ突破を図る事を決定──周りを守る歩兵は戦車の民家側とは反対の側面に張り付かせて、戦車装甲を盾に走らせる事にした。立て篭る英軍空挺部隊への攻撃ではなく突破となった理由は、突破してしまえば橋の両岸からの挟撃によるスムーズな制圧が可能となるからであるが、最重要目的は立て籠っている英軍空挺部隊とコブラ部隊の合流を阻止する事だ。

 

 

故にわざわざ脅威度が低下した英軍空挺部隊と正面からやりあって無駄な時間を浪費するよりも、即時突破とその後の対コブラ部隊への迅速な防衛線構築と合流阻止が良策と判断した。

 

 

さて、ここで一つ状況説明をば。

 

 

コブラ部隊とは大戦中期からドイツ軍内で囁かれるようになった連合軍特殊部隊の名称である。

 

 

連合軍の中でも特に優秀な兵士を集め組織されたと聞いている。かの部隊の任務はSDによれば、枢軸軍の要人暗殺・枢軸軍の行為に見せ掛けた工作任務が主とのこと。

 

 

これが真実かどうかは分からないが、真実ならば世界一最強のウェットワーク(汚れ仕事)部隊ということだ。何時の時代にも汚れ仕事を押し付けられる不運な部隊というのは存在するものなのだな。

 

 

まあドイツ軍の悪事に見せ掛ける工作任務は置いといて、ここで問題なのは要人暗殺という所だ。

 

 

このオランダには百戦錬磨のルントシュテット元帥を始め、ヒトラーの火消し屋ことモーデル元帥やシュトゥデント上級大将等の大物が集結しており、各地で指揮を取っている。

 

 

もしコブラ部隊が橋を奪取、又は渡る事を許すような事態になれば、そういった上層部に危険が及ぶ事態になりかねない。

 

 

それすなわちオランダの防衛線の崩壊であり、コブラ部隊への対抗を目指して編成されたSS装甲師団とその中核とも言えるサラマンダー隊を指揮する私の評価が地に落ちるという事である。

 

 

せっかく総統の覚えもめでたくなり、優秀な佐官として後方勤務につけるかもしれない所まで来たというのにそうなっては笑い話にもならない。

 

 

更に一度奪われたものというのは中々に奪い返せないものであり、取り返そうとドンパチしてる間に進軍中のホロックス中将率いる第30軍団の到達を許してしまいかねない……作戦開始時刻にまだ進軍を開始してなかったり、我が軍の妨害を受けていたとはいえ1日目にして僅か15Kmの進軍で野営を始めたりするのを進軍と呼べるかどうかは分かりかねるが(私の知る史実では第30軍団はロンメルからアーネムまでの200Kmを4日で踏破する作戦だった。なのに初日に15Km……我々ドイツ軍は馬鹿にされているのだろうか)

 

 

まあ状況説明はこのくらいにして橋を渡る我々の現状だが、やはり英軍空挺部隊は対戦車火力に欠けている模様。

 

 

先ほどから先頭のヴァイス少佐が乗り込んだ戦車相手に盛大に機関銃とロケット砲を浴びせているが、機関銃は効果なし。ロケット砲の大半は外れ、仮に当たってもダメージ無し。

 

 

これは英軍空挺部隊は現状放置しても、心配無さそうだ。普段なら背後からの一撃を警戒する所だが、こうまで火力と装備に差があっては余計な警戒は注意力散漫の原因にしかならないので、我々はコブラ部隊に注力することとしよう。

 

 

それに英軍空挺部隊の敵は我々だけでなく、我々の後方に控える本隊もいるのだ。我々だけに注力してる訳にもいかないだろう。

 

 

結果として我々は歩みが遅れたり、ロケット砲の爆風に吹き飛ばされた歩兵数人の被害だけで橋を突破、戦力をほぼ減らすことなく英軍空挺部隊が立て籠る民家に通ずる主要な街道や路地を封鎖することに成功した。

 

 

私は一度部隊を停止させ、古参の大尉に民家に通ずる主要街道と路地の防衛を指示した後に、大隊長連中を引き連れて目標地点へと再び進軍を始めた。

 

 

丁度その辺りで先頭を進むヴァイスから通信が入ったらしく、無線手が呼び掛けてきた。

 

 

「中佐殿!ヴァイス少佐より通信入りました!前方のグランツ中尉の装甲部隊からの通信を受信!所属不明の歩兵部隊と交戦中とのこと!繰り返します。グランツ隊は敵歩兵部隊と交戦中!所属は不明!」

「よし、各車榴弾用意!敵は歩兵部隊だ!陣地に籠っている連中を挽き肉にしてやれ!ノイマンはグランツ隊に合流して正面から制圧射撃!ケーニッヒは戦車を盾に側面に回り込んで攻撃!十字砲火に持ち込め!」

 

 

ヴァイスからの通信内容を受け、私は無線手に指令を出し、無線手は各車の大隊長に私からの指示を通達する。

 

 

「ノイマン少佐より応答!これより大隊と共にグランツ隊への合流を開始するとの事!ケーニッヒ少佐からも応答!直ちに側面への迂回を実行すると…?ケーニッヒ少佐、どうしました?ケーニッヒ少佐、応答願います」

 

 

命令に応答していたケーニッヒ車からの急な通信途絶に、無線手が再答を促している。

 

「どうした、無線機の故障か?」

「いえ、無線機は正常です。ケーニッヒ少佐のほうで急に通信が途切れて…あ!通信回復しました──どうも向こうの無線手がいきなり車内に飛び込んできたハチに刺されとの事です。普通のハチらしく大事無いとのことです」

 

「ん、ハチだと?」

 

 

花畑やプランターの植物がある場所ならともかく銃撃と砲撃の応酬で瓦礫と破片・死体だらけの場所にハチ?

 

 

そこまで考えて私はふとある事が気になり、キューポラから辺りを警戒しながら、無線手に伝える。

 

 

「無線手、ケーニッヒに"ハチは飛び込んできた際に無線手に直接向かってきたのか"と伝えてくれ」

 

 

しかし無線手が応答しないので、私は視線を戻して無線手に再度呼び掛ける。

 

 

「おい、聞いてるのか?さっさとケーニッヒに伝え……」

 

 

そこで異変に気付いた。無線手がこちらを見ながら動きを止めていたのだ。いや、それだけでなく、先ほどまで響いていたエンジンの震動やキャタピラ音が一切聞こえてこない。

 

 

無線手のみならず操縦士も砲手も装填手もだ。自身の持ち場で凍りついたように動かない。キューポラを即座に開いて私の戦車の後方の装甲車に乗るセレブリャコーフを見るが、彼女も他の連中同様だった。

 

 

「ちっ…存在X、貴様か!」

 

 

私の言葉に呼応するように、戦車の側面を守っていた突撃砲の車長がこちらを振り向いた。

 

 

<<いかにも。やはりというか、いまだに信仰には目覚めないようだな>>

 

「ほざけ、私の人生と自由を奪いこんな時代に送り込んだ貴様を信仰などするか。逆に貴様を吹き飛ばして戦車のキャタピラで骨の欠片まで粉砕してやりたいよ。で、今度はなんの嫌がらせを伝えに来た?」

 

<<相も変わらず傲慢だな。まあ良いわ。なに、お主に少々警告をと思ってな>>

 

「警告だと?ダンテの如く"汝、一切の希望を捨てよ"とでも言いに来たか?」

 

<<その威勢がどこまで続くか見物させてもらうとしようか。さて、警告だが…"早く戦車とやらの中に篭ったほうが良いぞ">>

 

「篭れ?……!…貴様!」

 

<<ではな>>

 

「おい待て存在X!貴様まさか!」

 

 

そこまで言った瞬間、周りからエンジンの震動やキャタピラの音が戻ってきた。

 

 

そして無線手が私に呼び掛けてきた。

 

 

「中佐殿、何か言われましたか?」

 

 

しかし私は答える暇も惜しく、キューポラから身を乗り出して叫んだ。

 

 

「総員!直ちに戦車及び装甲車の車内に隠れろ!歩兵は民家内でも下水管でも戦車の下でも何でも良いから急ぎ身を隠せ!武器と装備は放り出せ!とにかく身を守れ!!」

 

 

そして後方にいたセレブリャコーフ大尉を呼ぶ。

 

 

「ヴィーシャ!早く来い!戦車の中に隠れろ!」

 

 

セレブリャコーフ大尉は私の叫びに困惑しながらも、即座に装甲車から飛び降りてこちらに駆けてきた。

 

しかしセレブリャコーフ大尉がキューポラによじ登りかけた所で、随伴歩兵の1人が信じがたい光景に叫びを挙げた。

 

「おい、何だよあれ?!」

 

 

兵士の視線が向く先に居たのは、一軒家を優に越えるほど巨大な黒い塊…数えるのも馬鹿らしくなる量のハチの群れであった。

 

 

そして先ほどの歩兵の叫びに合わせたようにハチの群れが一斉に襲い掛かってきた。

 

 

私はハチの群れに唖然として戦車に隠れることを忘れているセレブリャコーフ大尉の襟首を掴んでキューポラ内に力ずくで引きずりこむ。

 

 

セレブリャコーフ大尉を引きずり込んで隙間に蹴り飛ばして、私は開きっぱなしのキューポラをハチが飛び込んでくる瞬間、間一髪で閉める事が出来た。

 

 

しかしその場を凌いだ余韻に浸る暇も無く、私は操縦手に点視溝を塞げと命令して、周りの連中にも隙間になりそうな場所を片っ端から塞がせた。

 

 

他の連中が隙間をせっせと塞いでいる間にキューポラを僅かばかりひらいて外を確認すると、そこには阿鼻叫喚の地獄があった。

 

 

私の叫びを敏感に察知した古参兵連中や熟練の士官共は手際よく民家や車両内に隠れ、隠れられなかった連中は瓦礫に混じっていた木材やヘルメットや軍帽で急所となる顔面を守っていたが、経験の浅い連中は何も対応出来ずただパニックに陥っていた。

 

 

ハチにまとわりつかれて悲鳴を挙げながら転げ回る奴、ハチを追い払おうと怒号を挙げながら銃を振り回している奴、ところ構わず短機関銃を乱射している奴と目も当てられない。

 

 

こんな状況ながら、私は今パニくってる奴らで生き延びた連中は再教育してやると心に誓っていたりする。

 

最も、後方の部隊に居た手際の良い古参兵連中が火炎放射器を持ってきた事で、大部分のパニくってる奴らは生き残りそうである。

 

 

古参兵の数人が背負った火炎放射器をぶっぱなすと、ハチは面白いようにボトボトと燃えて落ちる。

 

 

とりあえずハチの脅威は去ったが、私はまだ終わってないと確信している。

 

 

あれだけの量のハチが自然に集まる訳が無い。ましてや我々だけを狙って襲って訳が無い。誰かが意図的にハチを我々にけしかけたのだ。

 

 

私は、私が蹴り飛ばした衝撃で隙間に嵌まってしまい、その体勢から何とか脱出しようと戦車内でもがいているセレブリャコーフ大尉を余所に戦車から降りると、まだハチ退治にいそしんでいる古参兵連中に、いまだパニくって転げ回ってる兵を叩き起こして来いと告げた。

 

 

と、そこで瓦礫に少しばかり脚を取られてしまい後ろに体勢を崩した私の面前を、何かが唸りをあげて通りすぎた。

 

 

飛来物が飛んでいった方向に視線を向けると、瓦礫の木材に突き刺さった1本の矢があった。

 

 

「…て、敵襲!総員警戒!敵だ!!」

 

 

指揮官たる私を狙った攻撃だと理解した随伴歩兵が声を張り上げ、周囲に銃口を向けながら警戒態勢に入る。

 

 

そして、"そいつ"は現れた。

 

 

「クハハハ、フィアー!!」

 

 

奇っ怪な叫びと共に現れたのは、蜘蛛のような迷彩服を着込んだ細身の男──更に手に持つのは第二次大戦の最中にあっては時代錯誤も甚だしい2丁のクロスボウガン。

 

 

そいつは再び奇っ怪な叫びを挙げて後ろに跳躍すると後ろ手で壁に張り付いて、建物を登り始めた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後ろ手で登り始めた?

 

 

 

壁に張り付いて?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「はぁっ!!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

目の前で起きた、あんまりな超常現象に、私を含めてそれを見ていた装甲師団の部隊員全員がすっとんきょうな声を挙げてしまった。

 



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3話

戦闘シーンやら区切りに四苦八苦してたら大分間が空いてしまった。


こんばんは。これにて歯車戦記、大戦話が終了となります。ようやく本編に入れるよ…


さて突然ですが皆さん、歯車とも幼女とも無関係ですが、スカイリムをご存知でしょうか?

いえ、昨日スカイリムをプレイしていたらハースファイヤで建てた家に子供がペットを連れ込んでたんです。


"マッドクラブ"を…


ええ、はい、初めてペット枠と化したマッドクラブを見ました…いえフロストバイトスパイダーよりはいいんですが…スパイダーはキショいし…


では下らない話は終わりと致しまして、本編どうぞ。


いや、あんな物理法則とか人間の身体構造を完全に無視した行動を見せられれば、誰だって声を挙げずにはいられない。

 

 

そいつは瞬く間に建物の屋上に登りきると、こちら目掛けてクロスボウを乱射し始めた。

 

 

「…っと!」

 

 

再び間一髪で矢を避ける私。

 

 

そして漸く思考が追い付いた連中が、あの男目掛けて発砲する。

 

 

が、今度は何と凄まじいジャンプ力で、通りの建物を次々と移動しながらクロスボウを撃ってきた。もはや唖然とするしかない。

 

 

おまけにそれだけでは終わらなかった。

 

 

先ほど古参兵連中が世紀末のモヒカンばりにヒャッハーしながら火炎放射器を振り撒いて退治したハチが再び集まってきたのだ。

 

 

そしてそのハチが密集した場所から野太い男の笑い声が響いたかと思いきや、ハチが分散した。

 

 

そこには覆面を着けたガタイの良い大男が短機関銃を片手に、もう片手にはハチの塊がガントレットのように密集していた。

 

 

「ちっ…(先ほどのハチの襲撃はこいつの仕業か…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(どうしてこうなった!?)

 

そう内心叫ばずにはいられなかった。

 

 

我々が対抗するのは連合国の優秀な兵を集めた少数精鋭の特殊部隊───確かにそう聞かされていた。

 

 

だが………某アメコミヒーローの蜘蛛男の如く建物を登ったり跳んだり、ファンタジーのテイマーよろしくハチを密集させたり腕にまとわりつかせたりするような化け物集団等とはこれっぽっちも聞いていないぞ!!

 

 

だが悲しきかな…神は───いや、クソったれの存在Xはまだ私を虐め足りないらしい。

 

 

我々が進軍していた街道の前方から、バカスカと盛大に砲を放ち、雨よ霰よとばかりに機関銃をバラ撒きながら後退してくる中隊規模の部隊────街道先で所属不明の歩兵部隊と交戦していた筈のグランツ達だった。

 

 

その向こう側からは覆面やガスマスクで顔を覆ったオリーブドラブの野戦服の歩兵───恐らくはコブラ部隊の歩兵達だ。

 

 

どうやら我々本隊の到着まで持ちこたえ切れず、最低限の体裁は保ちながらも、尻尾を巻いて逃げ戻ってきたようだ。

 

 

「たかが軽歩兵相手に随伴歩兵付きの装甲部隊が押しきられてどうするバカ者が…」

 

 

呆れて怒鳴り散らす気にもなれないではないか。

 

 

勿論グランツには後で説教を垂れてやるつもりではあるが、今は目の前の敵を凌ぐことが先である。

 

 

そう割りきって私は自身の背中に背負っていたG43を手に持ちかえ、瓦礫をバリケード代わりに腰だめになり、前方から迫ってくる歩兵に牽制射を浴びせる。

 

 

…で、そこでまたもや非常識を眼にした。

 

 

いや、コブラ部隊の歩兵に混じってスコープ付モシン・ナガンを突スナばりに撃っている禿爺も非常識と言えば非常識だが、最たる非常識はその後ろからやって来た。

 

 

オリーブドラブの野戦服に混じって1人だけ、真っ黒な野戦服を纏った男だ。

 

 

そいつは背中に背負ったボンベを何やら後ろ手で操作してから、火炎放射器を構えた。

 

 

そして放射器の口から地獄が噴き出された。

 

 

 

 

 

火でも炎でもなく、"地獄"だ。

 

 

 

 

 

通常の火炎放射器ではあり得ない量の………いや、例え火炎放射を装備した化学戦車でも無理であろ量の炎が街道一面に吹き荒れたのだ。

 

 

前言撤回、グランツへの説教は無しだ。

 

 

むしろあんな非常識相手に最低限の体裁保ちながらも後退してきたことを誉めてやりたい。

 

 

私は後で、バーベキューにされてなければグランツを慰労してやろうと決めながら、蜘蛛男とハチ男と撃ち合っている部隊連中に叫んだ。

 

 

「諸君、コブラ部隊の歩兵共がお出ましだ!着剣!スコップとナイフもだ!乱戦に備えろ!」

 

そして始まったのは、第一次大戦の塹壕か日露の203を再現したかのような乱戦であった。

 

 

映画では格好良くライフルを扱いながら敵を撃ち倒したり、華麗に格闘技を決めたりするが、現実はこんなものだ。

 

綺麗も汚いも無い。

 

相手に組み付いての殴打は当たり前。

 

 

首もとや耳に噛み付き、瓦礫や銃床で殴り、ストレートスコップで頭や肩をかち割り、ナイフで腹や胸を滅多刺しにする。

 

 

まったく…乱戦に持ち込まれては、せっかく用意してきた戦車は役立たずではないか。

 

 

予想通りに進まなすぎる戦況に愚痴のひとつも言いたくなる。

 

 

そして私も例外に漏れず、近接戦で私を狙ってくるコブラ部隊の歩兵5人と近接戦闘にもつれ込んでいた。

 

 

私と至近距離での撃ち合いで弾が切れたガーランドの銃床で殴りかかってきた奴を手刀で頭から股ぐらまで一気に引き裂く。

 

 

臓物をぶちまけながら半分になった奴の後ろから銃剣を着けたガーランドで斬りかかってきた奴の一撃を鉄板仕込みのブーツで蹴り上げ銃剣を粉砕し、ついでに腰から引き抜いたルガーで両脛を撃ち抜く。

 

 

両脛を撃ち抜かれたそいつが地面に膝をついたので正面から首を脇に抱え込むように締め上げ、こちらをトンプソンで蜂の巣にしようとしていた奴を即席のヒューマンシールドと片手のルガーで牽制する。

 

 

予想通りそいつは味方ごと撃つのを躊躇ったので、脇に抱え込んだ奴の首を勢い良く上に持ち上げてへし折り、間髪入れずに牽制していた奴に接近──首にラリアットをかましながら同時に踵で相手の後ろ足首に足払いをかけて地面にハッ倒した。

 

 

倒れた拍子に後頭部を地面に強かに打ち付けて痛みに悶える奴に止めを刺すべくドタマをブーツで踏み抜いた。

 

 

ひび割れた瀬戸物のように頭蓋が粉々に割れ、脳味噌やら血飛沫やらが撒き散らされ私のブーツや顔を汚すが、まだ2人残っているため気にする余裕は無い。

 

 

仲間を惨殺され逆上した奴が怒声をあげながら武器を投げ捨て、私目掛けて向かってきた。

 

 

ハッ倒した奴の頭蓋を踏み抜く作業の最中だったため一瞬反応が遅れ、そいつの両手が私の細い首を締め上げる。

 

 

咄嗟に私はルガーを下に落とし、首を締め上げてくる奴の腹部に両手を打ち込み、背骨まで貫通させる。

 

 

そいつは、信じられないものを見るかのようにまじまじと自分の腹部に埋まる私の両手を凝視していた。

 

 

今は突然のことで痛みを感じていないらしいが、このままではこいつは確実にこれから襲ってくる激痛に悶え苦しむ羽目になるだろう。

 

 

だが私はサディストでも快楽殺人者でもないので、わざわざ時間を掛けて苦しむ敵の姿を眺める趣味は無い。

 

 

私はそいつが痛みに絶叫をあげる前に腹に埋まった両手を左右に振り抜き、上半身と下半身を切断した。

 

 

そして間髪入れずに落としたルガーを手に取り、まだ息のあったそいつの脳天を撃ち抜いた。

 

 

そして最後の1人と相対して向き合う。

 

 

ただ、こいつが他の連中とは違った。

 

 

名前は分からんが、覆面の端から覗く金髪があるので、とりあえずは"金髪"と呼称する。

 

 

ん?私も金髪だと?ややこしい?やかましいわ!

 

 

とにかく、"金髪"は今まで戦ったどの兵士よりも格闘に長けており、隙が無かった。

 

 

私が繰り出した拳を流すように受け止められ、拳を手首の方へと捻られ、鳩尾に膝蹴りを食らう。

 

 

しかし私も負けじと鳩尾に蹴り込まれた脚を、"金髪"が引き戻す前に抱え込み、全体重を掛けて地面に押し倒す。

 

 

仰向けに倒れた"金髪"に、胸元の鞘から逆手で抜いたナイフを首目掛けて突き出すが、即座に出された腕に手首を打たれ切っ先を反らされ、首の端を僅かに掠めるだけに終わった。

 

 

"金髪"はその瞬間を逃さず、頭突きを入れてきた。

 

 

鼻にもろに頭突きを受けて噴き出した鼻血が口回りを濡らすのを感じながら、今度は私が仰向けに倒れ込んだ。

 

 

しかもナイフを取り落とした。

 

 

「(…マズい!)」

 

 

そして今度は"金髪"が、仰向けになった私の上でマウントポジションを取り、抜き放ったナイフを降り下ろしてきた。

 

 

私は右腕で、"金髪"がナイフを降り下ろしてきた左手首を受け止め、反対の左手で、ナイフの柄を押して切っ先を首に刺そうとする"金髪"の右手を掴み、首にナイフが突き刺さるのを止める。

 

 

しかし細身の"金髪"とはいえ私と"金髪"では体格に違いがあり、マウントポジションという事もありナイフは徐々にだが私の首に近づいてきている。

 

 

くそ…忌々しい存在Xの呪いを使えば"金髪"を簡単に潰せるのだが、奴にいちいち祈りを捧げる必要があり、はっきり言って御免である。

 

いや、仮に祈りを捧げるとしても"金髪"はまったくその隙を与えてくれそうにない。

 

しかもマウントポジションで首の直ぐ側にナイフ。

 

 

祈るにはロザリオを握りしめなければならないため、一度"金髪"の両手を抑えている手のどちらかを放さなければいけない。

 

 

だが、どちらか一方でも手を離せば、まず間違いなく私が祈る前に"金髪"のナイフが私の首を切り裂くだろう。

 

 

おまけに部下も部下で、ヴァイスもケーニッヒもノイマンもグランツも非常識ども相手に苦戦しており、今の私の危機的状況に気付いていない。

 

 

いや、仮に気付いてもあの非常識相手では助けにくる余裕も無い。仕方ないのは分かるが、誰かしら気付けと叫びたい。

 

 

ええい、お前らのあだ名を堅物とノッポと微笑みデブとモブにしてやろうか!?

 

 

そんな私の叫びを聞き取ったのかどうかは知らないが、神の代わりに部下が微笑んでくれた。

 

 

私の危機に気付いたヴィーシャが、戦車に備え付けられていたスコップを手に、こちらに全速力で駆け付けてきたのだ。

 

 

そしてマウントポジションを取っていた"金髪"の背後から駆け寄り、頭目掛けて真横にスコップを振り抜いた。

 

 

相手がもし普通の兵士であったならば、ここでヴィーシャの振り抜いたスコップはそいつの頭を見事にかち割り、終わりになっただろう。

 

 

しかし残念なことに相手が"金髪"であった。

 

 

"金髪"は即座に殺気を感じ取ったらしくマウントポジションの体勢から流れるように横に身体を反らし、真横から振り抜かれたスコップをかわす。

 

 

だがそのお陰で"金髪"のナイフを持つ手から一瞬だが力が抜ける。

 

 

私はヴィーシャが作ってくれた機を逃さず、落としたナイフを即座に握り"金髪"の顔面に振るった。

 

 

だが"金髪"は不安定な体勢ながらも素早い動作で顔を反らし、ナイフを間一髪でかわした。

 

 

ナイフは"金髪"の顔面ではなく"金髪"の着けていた覆面を斬り裂いた。

 

 

そこにヴィーシャが今度は真上に振りかぶったスコップを、"金髪"の頭目掛けて降り下ろした。

 

 

だが"金髪"は機敏に察知し、マウントポジションの体勢から横に転がり込んでスコップを避けた。

 

 

ちなみにヴィーシャが空振りしたスコップは、私の股を掠める形で地面に叩きつけられた。

 

 

もしあと数cmズレていたならば、私の股は女性にしては力が強いヴィーシャが勢い良く降り下ろしたスコップによって、目も当てられない惨状を晒していただろう。

 

 

うん、その先は怖いので考えたくない。

 

 

さて、"金髪"はというと、ナイフで斬り裂かれ役目を果たさなくなった覆面を脱ぎ捨てているところだった。

 

 

その覆面の下から現れたのは、私の予想を大きく外して、整った顔立ちの女性だった。

 

 

年は30かそこらだろうか…真一文字に結ばれた口に並みの男共ならタマを縮み上がらせるであろう鋭い瞳。

 

 

あれだけの殴りあいの後だというのに女は呼吸ひとつ乱しておらず、未だ余裕を持っているかのように、流麗な動きで両手を持ち上げ、近接格闘の構えを取る。

 

 

「…セレブリャコーフ大尉、離れていたまえ。彼女は私が相手をする。大尉は他の連中を援護したまえ」

 

「り、了解しました。中佐殿!」

 

 

ヴィーシャは緊張のあまりか戦闘中だというのに律儀にローマ式敬礼をしてから、他の連中の所へと駆けていった。

 

 

「ふふっ(まったく…あいつは…)」

 

 

そう内心1人ごちてから、私は"金髪"へと向き直る。

 

 

「さて、再開といこうか」

 

「来い…」

 

 

初めて"金髪"の声を聞いた瞬間だった。

 

 

そう、そしてこれが私と"金髪"──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、

 

 

 

 

 

 

 

 

"ザ・ボス"との出会いであり、始まりであった…。

 




◆現段階での設定

【存在Xの恩寵という名の呪い】
ターニャが鋼鉄すら斬り裂く手刀やらコンボイばりの衝撃を持つ蹴りやらを使用するには、原作同様祈りを必要とします。簡単に言えば祈ると身体能力が全て化け物クラスに上昇。ただし、ロザリオを握り祈らなければならないため発動が原作よりも面倒になってます。

【コブラ部隊の歩兵】
原作では歩兵に関する話は出ないのですが、特殊能力持ちだけでは人手が足らないだろうし、部隊と称している以上少しくらい歩兵が居てもおかしくないだろうと想像し、登場させた。
で………本音をぶっちゃけるとターニャにぶちのめされるヤられ役が欲しかった。

【SS装甲師団】
ターニャが所属する武装親衛隊の中で、コブラ部隊に対抗するために新たに編成された特務師団。本来師団は第1SSのLSSAHから始まるのですが、ターニャの師団は表向きには存在しない扱いのため、例外で0の数字が付けられているという設定です。師団長は親衛隊参謀のゼートゥーア少将ですが、マーケット・ガーデンが始まる数ヶ月前にゼートゥーアからターニャに師団指揮が委譲されました。特にターニャが好んで率いるのは師団を構成する大隊の1つ「サラマンダー」。装甲師団名は誰か良い名をお願いします(後々の話でも名前やら逸話やらで使うため名前を決めないといけない)

【ターニャ】
師団の指揮を委譲されているという設定ながら、作中では中佐階級でしたが、これはマーケット・ガーデンのゴタゴタで本来行われる昇進が一旦中断していたから。マーケット・ガーデン終了後、正式に少将に昇進──ゼートゥーア少将は中将に昇進しターニャのサポートに回りました。

【マーケット・ガーデン】連合国によるオランダ制圧とルール工業地帯への進路確保が史実ですが、歯車戦記では目的のひとつにドイツ軍の有能将官の排除が入ります。ブラウニング中将はレジスタンスによる情報やモーデル元帥の話をまともに取り合いませんでしたが、米軍はこれを確かな情報と断定──ザ・ボスに命じて将官の殺害・拉致による排除を狙いましたが、ターニャによる妨害で作戦は失敗となりました。
そのため、モーデル元帥が英軍空挺部隊を自分を狙った拉致部隊と勘違いしたのはあながち間違いでは無かったこととなります。


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Metal Gear Solid 3 -Snake・Eater- Opening -Paratrooper-

お待たせ致しました。MGS3編、開始となります。





〜第二次世界大戦終結後、世界は東西に二分された──────冷戦と呼ばれる時代の幕開けである〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―5:30AM August 24, Pakistan Airspace―

 

 

 

 

 

僅かに明るみが見える暗さの中、パキスタンの空を飛行する1機の軍用機の姿があった。

 

 

尾翼にUSAF(アメリカ空軍)の名が刻まれた軍用機────機体左下側面から斜め下に突き出た複数のバルカンカノン砲と機関砲を備えたその異様さは、少なくともただ飛行するためだけにそこにいる訳では無いことは明らかだった。

 

 

そしてそれを肯定するかのように、機体内部にパイロットの声が響き渡る。

 

 

「パキスタン上空、高度3万フィート。間もなくソ連領空に近付きます」

 

 

ソ連────それは、あの大戦以来、協力ではなく侮蔑と嫌悪、イデオロギーの対立でアメリカと対を成す独裁国家であった。

 

 

そしてそのソ連領空に接近する軍用機の機内では、後部ハッチ付近に2人の男が待機していた。

 

 

1人はバイザー付ヘルメットで顔を覆った男───彼は幾つかの装置を操作しながら、着々と報告をしていく。

 

 

「降下20分前…機内減圧開始。装備チェック…アームメインパラシュート(自動開傘装置のアーミングピンを外せ)」

 

「よし、準備はいいか」

 

 

そして軍用機のある区画では、数人の男女が複数の画面が備え付けられた大型コンピューターを前に、作業を進めている。

 

 

「高気圧、依然として目標地域に停滞中。CAVOK(雲底高度・視界無限)、オーケー」

 

「よし、良いぞ。視界は良好だ」

 

 

その中でリーダー格とおぼしき、片目に縦に切り傷の痕を持つ壮年の男性が、現在の状況に機嫌良さげに一人ごちる。

 

 

そして、場所は格納庫に戻り、もう1人の人間─────彼はオリーブドラブの野戦服を纏い、葉巻をふかしていた。

 

 

そんな彼に、作業を進めていた男性が次の作業に移るため、男性に準備を促した。

 

「葉巻を消せ。酸素ホースを機体のコネクターに接続、マスク装着せよ」

 

 

しかし男は聞こえていないのか、葉巻を消そうとも、マスクを装着しようともしない。

 

「…あの男、素人か?」

 

 

指示通りに行動しない男に対して、彼は嫌味を含めて聴こえるように呟くが、それすら葉巻を吸う男は受け流していた。

 

 

そこにパイロットから目標地点への接近報告が来る。

 

 

「リリースポイント(降下実施点)に接近中…」

 

「降下10分前」

 

「おいっ!聞こえたか?葉巻を消してマスクを装着しろ」

 

 

なかなか準備に移ろうとしない男性に、ついにコントロールルームで作業を眺めていたリーダー格の男性が有無を言わさない口調で直接指示を出した。

 

 

男性はというと、有無を言わさない相手の指示に口元に笑みを浮かべ、葉巻を投げ捨てる。

 

 

それを見た作業員の男性はやっとかと言いたげなため息を漏らしながら、作業に移る。

 

 

葉巻を捨てた男がマスクを被り終わると、バイザー付ヘルメットを着けた作業員の男は機材を操作しながら次の作業へと移る。

 

「機内の減圧完了、酸素供給状態確認。降下6分前!後部ハッチ開きます!」

 

 

そして徐々に開かれていくハッチの先からは、目を奪われるような雲海の先から朝日がゆっくりと昇りつつあった。

 

 

「日の出です…」

 

 

「外気温度、摂氏マイナス46度。降下2分前…スタンドアップ(起立せよ)」

 

 

ハッチ解放と共に、マスクを着けた男は立ち上がり、ハッチの手前へと移動する。

 

 

「時速130マイルで落下する。風速冷却での凍傷に注意しろ」

 

「降下1分前…後部に移動せよ」

「ペイルアウトボトル(酸素装置)作動」

 

開かれたハッチの端で止まった男の眼下には、分厚い雲に覆われた空が辺り一面に広がっている。

 

「これが記録に残る世界初のHALO降下になる…」

 

リーダー格の男性の呟きと同時に、作業員が降下のカウントダウンを開始する。

 

「降下10秒前…スタンバイ…全て正常、オールグリーン!降下準備…カウント…5 4 3 2 1──」

 

「鳥になってこい!幸運を祈る!」

 

リーダー格の男性の激励と共に野戦服の男はハッチからバランスを前に傾けて落下────空中で何度か回転を行いバランスを整えると、垂直の体勢で一気に雲海の底へと消えていった…。

 

 

野戦服の男の降下を確認した軍用機のコントロールルームでは、先ほどのリーダー格の男性が椅子に座り込み、一息入れていた。

 

 

「さて…後は奴から連絡が来るのを待ってからだな…」

 

 

そこに突然、機内無線を通してパイロットから緊急の報告が流されてきた。

 

 

「緊急───コントロールルームに伝達、レーダーに所属不明の大型機影確認。方位210度、高度2万9千フィート。ソ連・パキスタン間の国境付近を目指して飛行中の模様」

 

「まて、直ぐに確認を取る…」

 

パイロットから告げられた報告に、コントロールルームのリーダー格の男性が手元の数枚の紙を見ながら、コンピューターのキーボードを操作していく。

 

 

そこへ、またパイロットからの報告が入る。

 

「コントロールルーム、不明大型機、ソ連領空に到達───旋回を始めました」

 

「待て……パイロットへ、上からの確認が取れた。そいつはイギリスの民間機だ。パキスタン行きの航空便だが、計器の故障で国境まで飛んでしまっていたとの事だ。直ぐに引き返す筈だ」

 

「了解、こちらでも確認しました。大型機影、旋回飛行を中断し、パキスタン領空へと引き返しました」

 

「よし、では続けるとしようか」

 

問題の解決で機内には一瞬安堵の空気が漂うが、搭乗員逹は直ぐに気を引き締め、自分たちの作業へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──不明大型機が引き返す少し前──

 

 

 

 

 

 

 

大型機の内部───後部区画の格納庫内には、10人程度の屈強な身体つきの男達が各自の装備を確認しながら雑談に興じていた。

 

 

そばにいる作業員は隊長格と思われる小柄な将校と会話を交わしながら、作業を進めていく。

 

 

そんな中で、先ほど作業員と会話を交わしていた小柄な将校が兵士達へと向き直り、状況説明を始めた。

 

 

「諸君、"蛇"が先ほど降下したとの事だ。作戦の第一段階開始だ…我々もこれより、ソ連領空よりHALO降下を行い、ソ連領ツェリノヤルスクへ降下する」

 

 

 

「「「「「はっ!」」」」」

 

 

兵士達が規律の取れた動作で返答し終えると、うち何人かの部隊長が冗談混じりの雑談を始める。

 

 

「しかし、作戦故に仕方ないですが、我々も初のHALO降下という恩恵に預かりたかったものですな」

 

「そう、ボヤくな。我々はまた少将閣下の下で働けるのだ…それだけで御の字だろう」

 

「大尉、それは昔の階級でしょう。今は少佐殿ですよ」

 

「確かに。だがあの時の大隊長殿の少将への昇進は我等が一番誇りに思える出来事でしたな」

 

「諸君、お喋りはそこまでにしたまえ…そろそろあのコンバットタロンのレーダーに我々が引っ掛かる頃だ…ダミー情報は流しているが時間が掛かれば不審がられる。時間との勝負だ、良いな?それと、全員マスクの装着は済んだな?」

 

「「「「「イエス、マム!問題ありません!」」」」」

 

 

小柄な将校の言葉に雑談をしていた隊長格と兵士達は再び規律の取れた動作で返答する。

 

 

その辺りで、作業員から報告が入る。

 

 

「マスクの酸素供給状態、問題無し。機内の減圧完了、後部ハッチ、開放します!」

 

後部ハッチが開かれ、小柄な将校の後ろに男達が続いてハッチ手前まで移動を始める。

 

「外気温度摂氏マイナス45度。降下2分前…」

 

 

「諸君、時速100マイル超えでの降下だ。まさかと思うが、降下し終わってから風速冷却での凍傷で作戦遂行不能などという事態は勘弁してくれたまえよ」

 

「ご安心を少佐殿、そのような輩がいれば、バルバロッサの時に既に凍死しておりますので」

 

「なら煩わされる心配は無いな」

 

「降下1分前…後部に移動、ペイルアウトボトル(酸素装置)作動」

 

開かれたハッチの端で止まった将校以下兵士達の眼下には、あのコンバットタロンから降下した男も眺めたであろう分厚い雲に覆われた空が辺り一面に広がっている。

 

「さて諸君、これは世界で2番目となるHALO降下だ!残念ながら彼らと違い我々のは記録には残らないがな!だが諸君の心には死ぬまで刻まれる、それを忘れるな!」

 

 

将校の演説に合わせたかのように、作業員が降下のカウントダウンを開始する。

 

「降下10秒前…オールグリーン!降下準備…カウント開始…5 4 3 2 1──」

 

「諸君!鳥になろうではないか!降下!!」

 

将校の激励と共に兵士達は、率先して降下した将校に続いて次々とハッチからバランスを前に傾けて落下────皆、あの軍用機から降下した野戦服の男のように空中で何度か回転を行いバランスを整えると、これまた垂直の体勢で一気に雲海の底へと降下していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ全ての部品は揃っていない…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが鋼鉄の歯車はゆっくりと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、確かに音を立てて回り始めた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幕が開いた動乱の時代を戦い、生き、死んで行く者達の記録を刻むために…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼等の"戦記"を刻むために…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………あと、幼女の記録も………。

 




幼女最高!!


以上!!!


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番外編1【望む未来が遠ざかる】

冷やし中k…じゃなくて、番外編始めました。


その日─────記者(読者)達が集まった総統官邸内にて、彼女は短い時間ながら記者(読者)達と会話を交わしていた。

 

 

 

皆さん、ごきげんよう。私は──────

 

 

失礼、小官はドイツ武装親衛隊第1SS装甲師団"LSSAH"にて歩兵中隊を率いておりますターニャ・フォン・デグレチャフ大尉であります。

 

 

は…中佐?いえ、小官はつい先月に大尉を拝領したばかりですが?

 

 

第0SS装甲師団?はて、小官の知る限りではそのような師団は存在しておらず、また私はLSSAH以外の武装親衛隊に所属したことはございません。

 

 

マーケット・ガーデン?あれは確か今から2年ほど後に起こりうる作戦では?

 

 

おっと失礼、小官はこれより総統閣下御自ら勲章を授与して頂けるとの事なのでこれにて…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜官邸内・総統執務室〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デグレチャフ君、大尉への昇進おめでとう。君は我がドイツの誇りある兵士の1人だ。これからもその卓越した技能を振るってもらいたい」

 

「はい、総統閣下!栄えある大ドイツと総統閣下の御為にも、その所存であります」

 

「うむ。他の者達も優秀だが、やはり本当に信頼出来るのは君やルーデル、ヒムラーやブロンディくらいだ。いや、その話はおいておこう…実は今日は君に相談したい件があるのだ」

 

「はい、お任せ下さい。御相談とはどのようなことでしょうか?」

 

「君は連合国が新しく編成したという特殊部隊について知っているかね?」

 

「はい、いいえ。その特殊部隊に関しましては初耳です」

 

「うむ、儂も数日前に報告されたばかりでな。通称"コブラ部隊"───連合国軍から特に優秀な兵士を集めて編成されたコマンドと聞いておる」

 

「特殊作戦部隊ですか…厄介ですね(つまり、対抗策の相談か…上層部ではなく一尉官の私にその話を振るのは、やはり史実通り前線経験者を信頼しているからか。つまり、もしここで堅実的な対抗作を提示出来れば、前線経験を持ちながら後方勤務の参謀としての資質もあると総統にアピール可能だ!)」

 

「うむ…そこで君に相談なのだがな…」

 

「はっ!(よし、やはり来たな。ではまず手始めに…!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10分後…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ…デグレチャフ君。つまり、敵の規模・編成が不明な現段階において、生半可な部隊では数・質共に圧倒される恐れがあると?」

 

「はい」

 

「ではどうするかね?」

 

「我々は東部における連戦で少なくない兵力を喪失しております。また人材も極めて限られる中では、特に優秀な兵のみを各師団や部隊から選抜するという対策では悪手となり得ます。よしんばコブラ部隊へ対抗出来たとしても、優秀な人材ばかりを引き抜かれた部隊がこぞって戦力低下を起こし、下手をすれば戦線維持そのものが危うくなるかと…」

 

 

「ううむ…やはり同じように特に優秀な人材のみを集めるという訳にはいかんか…物量に任せた戦いが出来る連合国が羨ましいよ」

 

「そこでですが、優秀ではなくとも高い技能や専門知識を持つ人間を軍・民問わず、我がドイツ以外の同盟国または占領地域からも我々に好意的な志願者を集め、彼らに対コブラ部隊を想定した特別訓練を受けさせるという案を提案致します」

 

「ふぅむ…つまりは特に優秀な兵を我がドイツの各軍から無理に集めるのではなく、一定水準を越える兵や民間人を我が軍や同盟国から募り訓練を施し、総合的に優秀な兵へ育てると?」

 

「はい、それならば戦線維持に過度な負担を課すことなく、コブラ部隊への対応も可能かと。民間出身の人間はSDのシェレンベルク殿辺りならば確実な身辺調査が可能ですので、彼辺りに任せれば良いかと」

 

「つまり、他国や民間に頼らねばならない…と?」

 

「っ…!?(しまった!マズイ、非常にマズイ!馬鹿な口を撃ち抜きたい!どうする?このままでは総統に不信に値すると思われてしまう!)」

 

「はい、いいえ!言葉の上ではその通りですが、何も平身低頭して頼るという訳ではありません!」

 

「ふむ…続けたまえ…」

 

「(…良し!総統の興味を僅かでも引く事に成功したぞ!これで不信に値すると見限られる可能性が減った!後は勢いで…!)我がドイツは枢軸同盟の中心であります!イタリアや日本は同盟国ではありますが、有り体に言ってしまえば我々に追従しているだけであります!むしろ彼らを活用するという形を私は構想しております!"枢軸同盟を維持し、連合国を打ち払うためには協力体制が不可欠であり、その為に矢面に立つ我々に兵を貸与し協力するように"と現実を示しながらも互いの立場を明確にする事で、我々が頼るという姿勢ではなく、未来の為の協力要請という絵図を作り上げる事が可能です!民間に関しても祖国の為や、輝かしい未来といったフレーズで印象づければ、志願者獲得は容易でしょう。その手の民間人は大体が夢見る若者や栄光を求める者ですので、大して疑問を抱くことなく身を差し出すかと!」

 

「うむ…成る程な…我がドイツの立場を上に立てながらも、協力を断りにくい現実を突き付け貸与に漕ぎ着けることが可能か…民間人も国民らは馬鹿だからな。印象や掲げる理想が高ければ私が党を拡大していた時のように簡単に取り込めるか…よし、それはさておき、編成するとして対抗部隊の規模は?」

 

「相手が物量に任せた部隊であることも可能性のひとつとして考えた場合、小隊や中隊では人員面から対応が後手に回る場合があります。しかし逆に連隊や師団では大規模故に人員を募集し集まったとしても十分な訓練を行わせるには人手が足りません。よって試験的運用を前提として、大隊が適切であると確信します!!(よしっ!これで!)」

 

「(相談とはいえ総統である儂に恐れなくここまで意見をぶつけられるとは…流石前線帰りの兵士だ…ルーデルもそうだが、やはり前線に立つ兵士は信頼出来る…しかもここまで熱心に語るのはやはり、自身で行いたいという熱意の表れか)」

 

「(さぁ、総統閣下!私は言い切りました!是非、私の案から後方勤務可能な参謀だという結論を出して頂きたい!)」

 

 

「(更に彼女は日本の文化に詳しく、いくつか好きな料理があると部下と話していたという報告もある。それはドイツの次にあの国を気に入っているからだろう…私は日本をあまり好いては居ないが、彼女のように好意を持つドイツ人はいる。それを本心ではなくとも貶してまでも、我がドイツの立ち位置を高く見据え、未来に繋げようとしている。いや、いかんな…幼いながらここまで愛国心と忠誠心に溢れる彼女の言葉…それをないがしろにしては彼女への侮辱となる!よしっ!!)成る程、君の構想は良く理解した。うむ!早速シュペーアに日本とイタリアに交渉させよう。民間のほうは儂に任せたまえ、君の希望に添えるよう手を打とう!」

 

 

「は!ありがとうございます!(…ん?"君の希望"…あれ!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

これが対コブラ部隊を想定した部隊創設と訓練────そして彼女の安全な後方勤務という未来が遠ざかる始まりであった…。

 




本編とはこれといって絡まないですが、ターニャは原作同様自身のアピールをミスりながらどんどん最前線への道を歩む話が書きたかっただけw


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6話

ようやく投稿出来ました。一回間違って全部削除してしまい、やたら時間が掛かりました。
俺のせいじゃない!俺の押し間違えた指が悪いんだ(断言)!


なおこの度転職しまして、就業先が六本木となりました。なので仕事に慣れるまでは投稿頻度が落ちそうですが、よろしければ最後までお付き合い頂ければと…。


また前回の投稿日から間が空いている間に評価に星1つがおっ付けられてました…。様々な方が閲覧するので理解はしていたつもりですが、いざそれを目の当たりにすると結構心に来ました・゜・(つД`)・゜・


──ソ連領、ツェリノヤルスク山中──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これより、バーチャスミッションを開始する」

 

 

森の中に、男の声が小さく響いた。

 

 

男はサプレッサー付拳銃とナイフを構え、鬱蒼としげる森の中へと歩を進め出す。

 

 

周辺警戒は怠らずに、しかし不必要な体力消耗を避けるために、警戒は必要最小限に─────

 

 

一見両立し難いように見えるこの行動を、男はまるで呼吸をするかの如く自然に行っていた。

 

 

それだけで、この男が並々ならぬ訓練と経験を積んできた人間だということが見て取れる。

 

 

突然、男が警戒しながら進めていた歩みを止め、辺りを再度警戒してからゆっくりと地面にしゃがみ込んだ。

 

 

男は地面に落ちた葉や枝を音を立てないように慎重に退かしていく。

 

 

そしてその下から現れたのは、まだ地面にくっきりと形を残した靴の痕であった。

 

 

そばには同じような靴の痕が幾つも残り、うち一つの近くには煙草の吸殻が捨てられていた。

 

 

男は先ほどの体勢から屈み込み中腰に近い姿勢を取ると、周辺警戒を行いながらまた歩み出した。

 

 

男はしばらくその体勢で歩いていた。そしてその目先にうっすらとだが腰近くまでしげった草むらから人の上半身が見えたと同時に、即座に太い大木へと身を隠した。

 

 

男は胸元に固定された小型無線機を使い、誰かと小声でやり取りを交わす。

 

 

やり取りを終えると、男は腰のバックパック側面にある双眼鏡を取りだし、先ほどの人間を観察し始める。

 

 

観察対象は兵士…ツェリノヤルスク山中を巡回警備するソ連の兵士であった。

 

 

先ほどの靴の痕を残したのは恐らく彼らだろう。そして煙草の吸殻は、彼らが隠密作戦ではなく公規もしくはそれに準じた目的を与えられた存在だからこそぞんざいに捨てていたのだろう。

 

 

もし彼らが非合法な目的のために居たとすれば、靴の痕はまだしもああも煙草の吸殻を残す等という間抜けは犯さない筈である。

 

 

男は一通り兵士達の動きや巡回ルート・武装の観察を終えると双眼鏡を仕舞い、匍匐前進の体勢を取り、ゆっくりと進み始めた。

 

 

兵士達は自らの足元を生い茂った草や枝に隠れているとはいえ、大の男が匍匐前進で通り抜けていくにも関わらず、誰も気付かない。

 

 

これは彼らが無能なのではない。男の隠密技能の高さが異常なのである。

 

 

匍匐前進の動作にしても腕や腹が地面や草と擦れる音は最小限、ほとんど無音と言っても過言ではない。

 

 

野生動物が吠え、野鳥が鳴くこの森の中では例え耳が良い兵士が居たとしても、匍匐前進の衣擦れの音は聞き取れないだろう。

 

 

そして男はそのまま、まるで野に潜む蛇のように風景に交じり、歩哨に一切気付かれることなく奥へと消えていった…。

 

 

彼こそが今世紀最高の変態……ではなく最高の人間とあだ名される事となる英雄────ネイキッド・スネークであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──同時刻、ツェリノヤルスク、ネイキッド・スネークの作戦地点より約1km先の山中───

 

 

 

 

 

とある大木の一つ、そこに1人の人間がいた。

 

 

いや、正確には吊り下げられていた。

 

 

人間の背中には大きめのバックが背負われており、そこから伸びる何本ものロープの先には、ダークグレーのパラシュートが開いていた。

 

 

そのパラシュートは大木の枝に引っ掛かっており、パラシュートを背負っていた人間は大木の幹の中間辺りでブラブラと揺れている形だ。

 

 

何のことは無い。ぶっちゃけるとこの人間はパラシュート降下をした際に目測を誤り大木に接触───パラシュートが引っ掛かり、大木から吊るされる形になったのである。

 

 

そして当人はブラブラ揺られながら、しかめ面をしているような声でブツブツと文句を口に出している。

 

 

「全く、部隊初のHALO降下でこんな醜態を晒すとは…部下に顔向け出来んではないか。そもそも何が降下に最適な地点だ…どう考えても降下に最悪な地点ではないか。大木はそこかしこに点在し枝や葉は生い茂り放題…いや、それ以前にっさと任務に戻らねば…」

 

 

そう一人ごちた人間は右手を手刀の形にすると一呼吸の元、自らの頭上に伸びるロープ部分を薙いだ。

 

 

すると、バックから伸びるロープはまるで鋭利なナイフで切断されたかのように切れ、吊るされていた人間は地面へと落下───しかし慣れたような動作で衝撃を和らげるように着地した。

 

 

人間は着地体勢から立ち上がると、マスクのチューブが繋がった部品等を取り外し、顔を覆うマスクを脱ぎ去った。

 

 

その人間はひどく小柄であった。身長が低いとか以前に、その身体ははっきり言って子供のそれと大差ない。

 

 

顔立ちに至っては完全に幼い少女のそれであった。

 

 

しかしその面構えは、歴戦の男のそれと大差ない。瞳は鋭く、口元は固く結ばれている。

 

 

10人の兵士を集めて「あれは何か」と問えば、10人全員がこう答えると思われる。

 

 

 

 

<<顔立ちが幼い軍人>>

 

 

 

 

…と。

 

 

 

 

少女は手首の腕時計を眺め、辺りを見回す。

 

 

「さて、予定ならそろそろこの辺りを"連中"が掌握している筈なのだが…」

 

 

更に少女が周りを見回していると、背後から枝や草を掻き分ける音が響いてきた。

 

 

少女は何かが近づいて来てるというにも関わらず、まるで警戒していないかのような体勢で音の主が現れるのを待っている。

 

 

そしてついに最後の枝が掻き分けられ、そこからオリーブドラブの野戦服にマガジンポーチが取り付けられたベスト、頭部を覆うフードや目出し帽といった武装をした10人前後の男達が現れた。

 

 

男達は少女を見つけると、何やら耳を寄せあい、僅かな時間だが話し込む。

 

 

そして先頭のリーダー格であろう、スリングでAK47を腰部分に吊るした男が、少女に対して敬礼を示してきた。

 

 

少女も間髪入れずに見事な敬礼を男に返す。

 

 

互いに敬礼の動作を終えると、少女は男に対して言葉を紡いだ。

 

 

「出迎えありがとう、軍曹。さて、時間は有限だ…早速だが、"案内"をお願い出来るかね?」

 

 

「はっ!お任せを。予定地点はここから1時間も掛かりません。それでは、こちらへどうぞ────"ティクレティウス少佐"殿。」

 

 

「ああ…了解した」

 

 

"ティクレティウス"と呼ばれた少女は、男の言葉に、少女が浮かべるとは思えない歪んだ笑いを浮かべ、答えた。

 

そして少女は彼等と共にソ連の山中を歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─場所は戻り、ソ連領ツェリノヤルスク山中、ネイキッド・スネーク、廃工場内部─

 

 

 

 

 

 

「少佐、こちらスネーク。ソコロフを無事、救出。怪我はない。大丈夫だ」

 

「よくやった、スネーク。ソコロフを連れて、回収地点まで急げ!回収地点で落ち合おう。それと見張りは?」

 

「問題無い。誰にも見つかっていない」

 

「分かった」

 

「ザ・ボスは?」

 

「ザ・ボスとの通信は先ほどから途絶えているんだ。」

「何があった?」

 

「電波状況が悪いだけだろう。とにかく脱出を急いでくれ」

 

 

スネークは少佐の説明に納得が行かない感じではあったが、とにかく脱出をするべく、ソコロフを連れて廃工場内部を進んでいく。

 

 

「動くな!」

 

 

しかし突然響いた声にスネークとソコロフは身を固くした。

 

 

そこに居たのは、オリーブドラブの野戦服にAK47を構えた複数の男たち───廃工場を警備していた兵士達ではない。

 

 

恐らくはパトロールに出ていた部隊の兵士だろう。彼らはパトロールから戻った際に、廃工場内から聞こえるスネークとソコロフの会話を聞き取り、侵入者と断定───隊を分散して身を潜め、自分らが有利に立ち回れる位置で待ち構えていたのだろう。

 

 

これは想定外の事態というよりも、ソコロフから聞かされる権力奪取を狙うGRUの大佐や反フルシチョフ派などの不穏な話に聞き入ってしまっていたスネークの不手際と言えるかもしれない。

 

 

かといってソコロフからもたらされる話はアメリカ政府にとって片手間に聞いていられる捨て置いて良い話では到底無いため、アメリカに属するエージェントであるスネークが聞き入ってしまっていたのは仕方ないとも言える。

 

 

だが何よりも問題は、この包囲状況からソコロフを連れた状態でどう逃れるかであった。

 

 

しかし今のこの包囲では下手な行動は取れず、発砲など論外と言えた。

 

 

だが、そこに響いたある一言が、状況に変化をもたらした。

 

 

 

 

「やっと会えましたね?伝説のボスに…」

 

 

そこに居たのは黒い軍服を着こんだ青年───彼は右手でマカロフ自動拳銃を回しながらスネークの方へと歩いてきていた。

 

 

「貴様、スペツナズの山猫部隊!」

 

 

1人の兵士が発した警戒を伴った声に、他の兵士達も咄嗟にスネークとソコロフから視線を外し、青年へと銃口を向けていた。

 

 

「GRUの兵士がなぜここに?」

 

「兵士──だと?」

 

 

警戒する兵士から発された言葉に、青年は「心外だ、何故気付かない」とでも言いたげな不快感を伴った言い方をする。

 

 

そうして右手で回していたマカロフ自動拳銃を慣れた手つきでホルスターに仕舞うと、芝居がかった動作で両手を持ち上げ、自身の赤いベレー帽の位置を整える。

 

 

青年の声、動作──そして何よりブーツに取り付けられた拍車を見ていた兵士が驚愕の声を発した。

 

「オセロット(山猫)の大将!」

 

「間違えないでほしい。俺はオセロット少佐だ」

 

 

青年は「ようやく気付いたか」といった雰囲気で、身体を一回転させ、ポーズを決めた。

 

ブーツに拍車、キザと言える動作や自信にまみれた発言など、普通に考えれば侮られるであろ青年だが、兵士達の警戒や言葉から、青年が決して侮れる相手ではないという事がひしひしと感じ取れた。

 

 

何よりスペツナズ所属という事が、青年がただ者ではないといった証しでもあった。

 

 

「ソコロフは渡さん。さっさと立ち去れ」

 

 

兵士は青年を下手に刺激しないように──しかし青年の目的であろう科学者を渡しはしないという断固とした態度を示す。

 

 

「山猫は獲物を逃さない」

 

「何だと…!」

 

 

しかしオセロット少佐と名乗った青年のその言葉に、兵士は不穏な空気を感じ取った。

 

 

次の瞬間、オセロットと名乗った青年の右手が動いた───いや、動いたと思ったその右手にはいつの間にか、先ほどホルスターに仕舞った筈のマカロフ自動拳銃が握られていた。

 

 

そして青年のマカロフ自動拳銃の銃口が向いているのは自分、そう理解した兵士は理解から防衛のための行動を起こす暇もなく倒れ込んだ。

 

 

青年の持つマカロフから響いた一発の銃声によって…

 




【木から垂れ下がってブラつくターニャ】
前回のコメントで展開を言い当てたニュータイプな方がおりましたが、その通りパラ降下で木に見事に引っ掛かりましたw
誰かが引っ掛からないと面白くないでしょ?


【ティクレティウス】
皆さんご存知、ターニャの偽名です。戦後、アメリカに渡ったターニャは偽名として原作のように「ターシャ・ティクレティウス」を名乗っています。
だから何だと言われたらそれまでですがね…。

【オセロット】
皆さんご存知リボルバーと西部劇が大好きなオセロットさんです。決して某フレンズアニメに出てきた動物ではありません。
過去にタナカのSAAで3の彼の真似をしてみましたが、指をめっちゃ痛めただけに終わりました。

【廃工場】
ソコロフが隠してたのはシャゴホッドの設計図ではなく、きっとグラビア写真集。


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7話

お久しぶりです。大変お待たせ致しました。むしろ間が開きすぎて、「今更かよ」と一蹴されるかも…。


さて、皆さんの中でCod:WaWをプレイされた方、又はプレイされている方は居られるでしょうか?

つい先日、いつものようにオンラインプレイ中に、なんと!チートプレイヤーによる破壊工作を受けたのです!

オンライン対戦を始めた瞬間から定期的に銃弾が補充されるのはまだ良いのですが、なんと規定人数を連続キルしていないにも関わらず軍用犬が湧き出す始末です(私が使用した扱いなので、軍用犬がプレイヤーを倒すと私にポイントが入ります)。

結果まともなプレイは不可能に───挙げ句他プレイヤーからチートと罵倒され、嫌がらせメッセージまで受ける羽目に…。



最も、一度セーブデータを削除してまた作り直してみたら破壊工作を受ける前のオンラインデータに戻っていたので、今はまた普通のプレイが出来るようになりましたが。

無駄話失礼致しました。では本編をどうぞ!


─追記─

・人数のミスを修正

・序盤の速撃ち劇場の詳細描写を追加


あっという間の出来事であった。

 

 

僅か数秒───その僅か数秒で、軍人として訓練を受けたソ連兵4名は、オセロットと名乗った青年の早撃ちによって全員が物言わぬ屍と成り果てた。

 

 

手にした武器を発砲することなく、オセロットの正確無比と言えるマカロフの鉛弾によって頭を撃ち抜かれていく様は観る者によっては、彼の格好やブーツとも相まって西部劇の凄腕ガンマンを彷彿とさせるのではないか。

 

 

唯一オセロットの速撃ちによる殺戮劇に巻き込まれなかったのはスネーク、ソコロフ───そして廃工場の屋根に陣取っていた兵士だけであった。

 

 

彼は目の前で起きた光景に心臓に氷柱を刺されたような恐怖感に襲われ、荒い息を吐きながらも手にしたAK47をオセロットへと向けていた。

しかしオセロットが手で回していたマカロフを自分へと向けてきた瞬間、彼は耐えきれなくなったのか直ぐ様身を翻した。

 

 

もし彼が屋根を走って地面に伸びる梯子を目指さず、そのまま屋根から飛び降りていればさしものオセロットも取り逃がしたであろう。

 

 

彼の持つ技術は高度だが万能ではないのだ。しかし惜しむらくは、兵士は彼の持つ特徴的な"技術"を知らなかったことであろう。

 

 

逃げ出した兵士を見ていたオセロットは、ニヤリと笑みを強めて構えていたマカロフの銃口を僅かに右へとずらした。

 

 

発砲音。

 

 

マカロフから射出された弾は、昔は廃工場の屋根を支えていたのであろう剥き出しの鉄骨に当たる。いや、当たったというよりは跳ねた。

 

 

跳弾である。

 

 

普通、拳銃弾は跳弾しにくい。何故なら何も付いていない剥き出しの小口径弾である。当たればめり込むか砕けて終わりである。

 

 

真っ先に跳弾しやすい弾といえば、M14等でも使われるフルメタル・ジャケットが思い浮かぶ(なおフルメタルジャケットでハートマン軍曹の便所での最期を思い出した方は、鏡の前で10秒間叫び声付きでウォーフェイス)

 

 

しかし青年は、弾をギリギリまで浅く掠めさせることによって、拳銃弾で難なく跳弾を可能としていたのである。

 

 

瞬時に地形を読み取り、軌道が読めない筈の跳弾を正確に相手に命中させる。最早オセロットの技術は、神掛かっている等というレベルではなかった。

 

 

胸に弾を受けた兵士が屋根から工場内へ落下したのを見届けたオセロットはマカロフをしまいながら、最初右胸を撃ち抜いた兵士へと近寄る。

 

 

まだ彼には息があったため、オセロットは再びマカロフを取り出した。そして抵抗の素振りを見せた途端に頭部を撃ち抜いた。

 

 

それを見ていたスネークは、この青年が殺しに躊躇の無いプロだと考える。兵士に欠かせない───しかし人として無ければならないモノを持たない男だと。

 

 

そんなスネークを脇目に現状を生み出した当の本人は、最後に射殺した兵士を足で転がしながら、その兵士の背中と地面に挟まれる形だった物───早撃ちの際に落としたベレー帽を拾う。

 

 

「GRUのためとはいえ、やはり同志を撃つのは気持ちがいいものではないな…」

 

 

 

 

 

 

 

しかし、躊躇無く射殺を繰り返した先ほどとは打って変わったように、青年はマカロフをホルスターへと戻しつつ、同じソビエトに仕える人間を殺したことを嫌悪するような雰囲気を漂わせる。

 

 

「ソコロフ、隠れてろ!」

 

 

しかしスネークは油断することなく、ソコロフに指示をしながら自身は麻酔銃を青年へと向ける。

 

 

スネークに対して青年は、敵意は無いと左右に両手を開いた姿勢を見せた。

 

 

「ん?」

 

 

だが青年はスネークの顔を見た途端に、疑念を浮かべた表情を見せる。

 

 

「お前、ボスじゃないな?」

 

 

青年の言葉にスネークは疑問を抱くが、青年の起こした行動で疑問から引き戻される。

 

 

青年が山猫の如く鳴き声を発したからだ。

 

 

そしてその鳴き声が止むと同時に、周囲の茂みや瓦礫の裏から黒衣の野戦服と目出し帽、赤いベレー帽を身に付けた幾人もの兵士達が現れた。

 

 

突如、スネークを囲むように現れた武装集団。

 

 

「GRUの…部隊…!」

 

 

ソコロフの絶望的な呟きを聞き、スネークは麻酔銃とナイフを改めて握り直し、目の前の青年──オセロットを油断なく警戒する。

 

 

「何だ?その構えは?その銃は?」

 

 

オセロットはスネークの(彼等から見れば)奇妙な構えと麻酔銃を見て、周囲の部下達へと目線を送る。

 

 

上官の思惑を受けた部下達はわざと声を挙げてスネークを嘲笑し、呆れたような動作を互いにする。

 

 

オセロットは懐からマカロフを取りだすと指先で遊びながらスネークの周りを気取った風に歩き回ってから、スネークを背に新たなマガジンを装填した。

 

 

「さて、ボスでないのなら…死んでもらおう!」

 

 

そして一瞬のうちに銃身をスライドさせると、先ほどの兵士たち同様スネークを射殺せんと、スライドを戻しながら構えた。

 

 

しかし"ガチッ"という鈍い音が響いただけで、オセロットはスネークを射殺するどころか、弾を発射することすら出来ずに戸惑った。

 

 

戦場で最も致命的なもののひとつ、ジャム(弾詰まり)である。オセロットは目の前に敵がいることも忘れ、弾詰まりを起こしたマカロフに視線を向けてしまう。

 

 

当然、そんな致命的な隙をスネークが見逃す筈もなかった。

 

 

スネークは即座にオセロットに体術を仕掛け転倒させると、その手からマカロフを奪う。銃を奪われ、スネークに足技で首を固められたオセロットは、慌てる部下に命令を下すしか出来なかった。

 

 

オセロットの命令を受けた部下達はスネーク目掛けて攻撃を開始──廃工場に、機関銃やアサルトライフルの音が断続的に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アサルトライフルの射撃を浴び、野戦服の男が蜂の巣となり倒れ込んだ。

 

 

「行け、止まるな!ダヴァイ、ダヴァイ(進め、進め)!定刻までに施設を制圧するんだ!」

 

 

舌足らずな私の命令が響き、それを受けて幾人もの兵士が短く断続的に射撃を繰り返しながら前進する。

 

 

初めまして皆さんこんにちは、小官はターシャ・ティクレティウス少佐と申します。

そして改めてお久しぶりです。元ドイツ第3帝国武装親衛隊所属のターニャ・デグレチャフです。

 

 

現在私はとある秘密作戦に従事している最中でして、その秘密作戦の目的達成の為に鉛弾の飛び交う戦場に再び身を置いております。

 

 

何故だろうか、平和や安寧が望めば望むほどに遠ざかっていくのは?私の今のコードネームに対する皮肉だろうか?失敬、愚痴になってしまいました。コードネーム云々に関しましてはまたいずれお話致しましょう。

 

さて、現状は端から見れば戦場ではよくある兵士同士による撃ち合い、つまりは敵対する人間同士による戦闘行為と映るだろう。

 

 

しかしよくよく見ればおかしいと思われるだろう。私が率いる連中と撃ち合う彼らが皆、同じ色・形の野戦服を着ているからだ。似ているとか瓜二つといったものではなく、まるで一緒なのである。

 

 

そして互いに叫んでいる言語も一緒であった。どちらか一方が相手の味方の真似をして敵を混乱させようとしているのでなければ、この状況から導き出される答えはひとつ───同じ国の兵士同士による殺し合い?

 

 

ご明察通りである。今現在、私は秘密作戦にさしあたってGRUから貸し出された小隊を率いており、目的の施設を守備するKGBの部隊と交戦中である。

 

 

「諸君、君たちが同国の人間同士とはいえ、目的の前では敵だということを忘れるな!確実に倒せ!───注意、11時方向、機関銃陣地!ノイマン、潰せ!」

 

 

「了解!」

 

 

私がノイマンと呼ぶ巨漢の兵士が返事と共に立ち上がると、両手で抱えた銃を火を噴く機関銃陣地へと向ける。

 

 

彼が持つのはこの秘密作戦にあたってGRUから貸し出された試作型の新型重機関銃だ。

 

彼が引き金を引いた瞬間、銃口から吐き出されたのは12.7mmの金属の塊──たった一発で人間の頭を、高熱で溶解させた塩を流し込んだスイカのように出来る暴力的な弾丸は、毎分700発の速度で容赦なく機関銃陣地へと叩き込まれた。

 

 

数秒足らずの、しかし過剰な威力を誇る弾を正確無比に叩き付けられた機関銃陣地は、粉砕されたDshk機関銃の残骸と人間だったものの血飛沫と臓物によって前衛的アートと化していた。

 

 

被っている制帽から察するに、恐らく機関銃陣地の指揮官だったであろう肉塊の頭部が土嚢にもたれ掛かっており、破片に引き裂かれたのであろう皮一枚で繋がる顎が、プラプラと揺れている。

 

 

「見事だノイマン!さて…ヴァイス、施設の制圧状況は?」

 

 

「はっ!抵抗は既に微弱となりつつあります!あと10分もすれば施設は制圧出来るかと」

 

 

「よし、私はこのまま指揮を続ける。ヴァイス、数名を連れて"彼女"に合流しろ。この施設さえ制圧してしまえば設計局は丸裸だ。後は"例の兵器"を頂くだけだ」

 

 

「了解しました。では後程設計局で」

 

 

「うむ」

 

 

私から指示を受けたヴァイスは無線手を呼ぶと、二言三言会話をしてから、部下3人を連れて離れていった。

 

 

それを見送ると、側に控えている部下から拡声器を受けとり、目的達成のための無慈悲な命令を下す。

 

 

「さあ諸君、仕上げといこう。施設を完全制圧だ!軍曹、部下に兵舎・倉庫・地下・物置に至るまで徹底的にクリアリングさせたまえ、一人たりとも逃がさず射殺───"書記長閣下"に情報が行かぬように、決して生き証人を残すな」

 

 

「はっ!了解しました、ティクレティウス少佐!全員聞け、施設を隅々までクリアリングしろ。誰一人逃さず射殺しろ!」

 

 

命令を下された兵士達は、銃を投げ捨てて降伏や命乞いを叫ぶ施設を防衛していた自分達と同じ軍服を着た兵士達を次々と撃ち殺していく。

 

 

逃げようとする人間も足や背中を撃たれて地面に倒れこみ、近付いてきた兵士によって頭部に更に1発──確実に仕留められていった。

 

 

施設の中からも同じように叫ぶ声があちこちから響くが、発砲音と共に沈黙していった。

 

 

殲滅の命令から約10分、守備兵達の戦意喪失により防衛機能を失った施設は1人の生存者も残さず完全制圧という結果になった。

 

 

そしてこのまま行けば私の目論見通り、クレムリンの指導者がここで起こった事件とその目的を知る事は無かっただろう───しかしこの少し後に起こるイレギュラーによって、クレムリンの指導者はこの事件を知る。

 

 

何故か…とある生き証人が事件の重要事項を自らの指導者に知らせたからだ。そしてフルシチョフもまた、その敵対国の指導者とのホットラインによる対話を経て、事件を知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──場所は戻り、ソ連領ツェリノヤルスク山中・廃工場吊り橋──

 

 

 

ソコロフという科学者を救いだしフルトン回収にて脱出、数時間で終わる筈であった作戦は既に暗礁に乗り上げていた。

 

 

吊り橋の中央にいるのは3人の男女。1人は軍服を着た傷か痣のような跡が幾つも走っている顔を持つ大柄な男──名をエヴゲニー・ボリソヴィッチ・ヴォルギン、GRUの大佐である。1人はオリーブドラブの野戦服を着た金髪の女──人は彼女を様々な名で呼ぶ"特殊部隊の母"、"ヴォエヴォーダ"、"ザ・ボス"と…。そして最後の1人は息も絶え絶えの満身創痍となっているアメリカのエージェント、スネークであった。

 

 

スネークにとっては未だに信じられない状況であった。原子力潜水艦からサポートをしてくれていた筈の恩師が突如としてここツェリノヤルスクに現れ、自身と共にいたソコロフを奪い、更にはソ連へ亡命すると宣言したのだ。

 

 

突き付けられる現実とそれを証明するようにヴォルギン大佐とザ・ボスが呼ぶGRUの男が現れ、上空には恩師をリーダーと仰ぐ特殊部隊の隊員たちが大型の武装ヘリからこちらを見ており、そして自らの恩師───ザ・ボスによって叩きのめされた自分がいる。

 

 

そこに差し出された恩師の手──「ジャック、貴方は連れていけない」と口にした彼女が差し出した手を、何故かは知らないが自分は取ろうとした。

 

 

恐らくはこんな一目瞭然の今になっても信じたくなかったのだろう。彼女が祖国を捨て敵対国に亡命するといった悪夢のような現実を…。

 

 

そんな愚かな一途の光にすがるような自分を戒めるように、伸ばされた手を握った瞬間彼女によって自分は引っ張られ、腹部に彼女の肘鉄が叩き込まれた。

 

 

破れかぶれで彼女のバンダナを掴み、視線を交わし───直後に身体が浮き上がった。彼女によって橋から投げ落とされたのだ。掴んだバンダナがほどけ、自分を見下ろす彼女を視界に入れながら下へと落ちる。

 

 

そこで、あるものが目に入った。上空に滞空する武装ヘリのうち1機、そこからこちらを覗いている男の左腕に縫い付けられた2つのワッペンを…。

 

 

自分は常人より視力は良いが、それでも重力落下しながら自分より上空にいるヘリの、しかも人間の腕に縫い付けられたワッペンを見る暇も術も無い筈だ。

 

 

だがその時ばかりは落下速度が遅くなったように感じた。視力が普段より良くなった気がした。まるで神のイタズラにでもあったかのように…。

 

 

ひとつは左右に広がる銀の翼に髑髏が刺繍されたタワーシールド型のワッペン。そしてもうひとつは見慣れた長方形のワッペンだ。白地に50越えの星と、赤と青のライン──見間違えようもない、アメリカ合衆国のワッペンだった。

 

 

だがそれに考えを巡らす間もなく、川へと叩き付けられる。荒れ狂う急流に押し流され、橋とそこから自分を見ている彼女は遠ざかっていった。

 

 

「新たな血は…拒絶された」

 

 

一部始終をヘリから見ていた、ザ・ボスの部下であるバラクラバを着けた男が、一人ごちた。

 

 

「…さぁ、ソコロフの設計局を襲いにいくわよ!」

 

 

そして彼女、ザ・ボスの言葉に、同じく一部始終を見ていたヴォルギンは握りこぶしを作り、叫んだ。

 

 

「シャゴホッドは頂きだ!!」

 

 

 

この約20分後、ソコロフの設計局であるOKB157──核搭載戦車シャゴホッドの開発・実験施設は突如として謎の部隊による強襲を受ける。

 

 

設計局の防衛の為の偽装施設に幾度となく応援要請を乞うも無線機からはノイズが走るばかりで、誰も出ない。

 

 

設計局に居た2個小隊が防衛に出るも、奇妙な部隊との交戦により僅か数分足らずで全滅と相成った。

 

 

設計局に居た研究員や科学者達は抵抗もままならずに拘束され、部屋へと押し込まれ監禁された。

 

 

嵐のように強襲してきた謎の部隊は、目的である新型兵器シャゴホッドを奪うと、嵐のように去っていった。

 




現時点での追加設定


・皆さんご存知ノイマンさんです。彼が使用する重機関銃はNSV重機関銃の試作型です。こいつの設計年は本来は1969年なのですが、この作品では試作型が1964年から存在している扱いです。ガタイの良い男が重機関銃を振り回すってまさに漢のロマンだよ!

・ターシャ・ティクレティウスが偽名ですが、今回からはターニャと表記します。偽名を使う場合や説明等では時折ターシャを使います。


間違いや設定が矛盾する箇所があれば、ご指摘お願い致します。


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8話

前回のあらすじ





コブラ部隊がシャゴホッド強奪した

以上。


"OKB"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはソヴィエト連邦において複数存在する、新型の武器・兵器を開発するためにソ連政府により各地に作られた秘密設計局を指し示す名称である。

 

 

そして複数ある中のひとつがOKB157、通称"ソコロフ設計局"である。この設計局において、現在におけるソ連の最高権力者であるニキータ・フルシチョフは、とある兵器を開発させていた。

 

 

 

 

 

──シャゴホッド──

 

 

 

 

 

ロシア語で"一歩一歩踏みしめる者"を意味するこの兵器は、IRBMを搭載する大型戦車として開発された。目的はただひとつ、搭載された核ミサイルによって、先制攻撃を受けること無くアメリカ本土を攻撃するためである。

 

 

しかしこの日、フルシチョフによって開発された悪夢の兵器であるシャゴホッドは、突如として襲撃してきた、正体不明の部隊によって奪われた。

 

 

襲撃部隊は兵士らを瞬く間に制圧すると、シャゴホッドを奪い、生き残りの兵士らを施設にいた研究員や科学者と共に監禁し、去っていった。

 

 

監禁された兵士や研究員や科学者達は安堵していた。謎の部隊による虐殺から逃れられ、命ばかりは助かったと。数時間後には通信途絶に気付いた政府が救助部隊を送り込んでくれるだろうと。

 

 

その謎の部隊を率いていた大男が今まさにヘリの上で常識からは考えられない狂行を為そうとしているとは思いもせずに。

 

 

"助かった"…そう思い口々に安堵のため息をついた瞬間、彼らの視界は真っ白な光に包まれた。

 

 

もはや誰も思考することも恐怖することも安堵することも無かった。

 

 

空へと赤黒く吹き上がる狂気の産物から産み出された科学反応によって、キノコ雲を残して全てが消滅してしまったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───少し前───

 

 

 

ツェリノヤルスク山中上空を、轟音を響かせながら編隊を組み飛行する武装ヘリ郡がいる。

 

 

ヘリ郡の下には奇怪な金属の塊と形容出来るような兵器がワイヤーで吊るされている。

 

 

そのヘリのうちの1機、その機内で1人の幼女が座席にどっかりと腰を下ろして、眼を閉じている。

 

 

そしてその近くでは黒髪の男性が無線機を通じてヘリのコクピットに居る操縦士と会話をしていた。

 

 

「どうしたカイル上曹、慣れない機体操縦に疲れたか?しかし、少佐殿は大変満足しておられたぞ。これならヘリ乗りに転向しても食って行けそうだな」

 

「どうも大尉殿。しかし、この新型ヘリは鈍重さを除けば非常に良い機体です。ちなみに私が気になるのは監禁した連中ですよ。フルシチョフにソコロフ博士の事がバレないように関係者は全員口封じに射殺する手筈だと…」

 

 

「ノイマン大尉、カイル上曹。作戦はまだ継続中だ、私語は慎みたまえ」

 

「「はっ、申し訳ございません少佐殿」」

 

 

注意を受けた部下の謝罪を聞き終えてから私は、座っていた座席から立ち上がると、ヘリの中で思い思いの場所で小休止を取っていた他の部下達に告げる。

 

「総員、傾注!」

 

声が響いた瞬間、彼らは即座に小休止を切り上げ、気を付けの体勢で私へと傾注する。

 

 

「よろしい。さて、カイル上曹の懸念は最もだ。だが我々に知らせていないだけで、ヴォルギン大佐は何かしらの手は打ってあるのだろう……ではカイル上曹、味方ヘリとの通信を全て切りたまえ……諸君、今後の任務を告げる。我々はグロズィニグラードへ着き次第、兵を2つに分ける。ここまでは事前に伝えていたな?」

 

「「「はっ!」」」

 

「よし、まずノイマンは3名を連れてカイルのヘリで兵舎と武器保管庫に向かいたまえ。そして残りの3名は私と副官と共にシャゴホッドを…」

 

 

気流の乱れが起きたのか、説明の最中にいきなりヘリが揺れた。立っていた私は僅かにたたらを踏むとヘリの扉に手をついた。その時、ふと何気無く視界にあった窓の外を見た。特に理由は無かったし、周りが気流の乱れで崩れた姿勢を直そうしているのを、気にもしてなかった。もしかしたら、途切れた説明を私が続けない事に部下達が困惑していたかもしれないが…。

 

 

私の視線の先にいるのはザ・ボスだ。彼女がヘリから外を見つめている。彼女は何を思っているのか…自然と自らの手を外へと向けた。

 

 

しかし暫しのあと、彼女は手を戻した。しかしその顔にはまだ、何かを惜しむような表情が垣間見えた。

 

 

「…待たせて済まなかったな諸君、さて…続きだがシャゴホッドを…」

 

「お話し中、失礼致します少佐殿…ヴォルギン大佐がデイビー・クロケットを構えてます」

 

「何?まさか証拠隠滅のためだけにわざわざ同国の人間を核で吹き飛ばすつもりか?」

 

 

ヴォルギン大佐がデイビー・クロケットを発射しようとしている理由は分かるが、わざわざ核でそれを為そうなど、精神異常者のそれを疑うものだ。

 

 

…あの悪名高きロボトミー手術が必要なのは、精神病患者達ではなく、むしろ同国の人間を核で吹き飛ばす等という何か大事なモノが欠落してるとしか思えないヴォルギン大佐ではあるまいか?

 

 

 

『ロボトミー手術』

ジョージ・ワシントン大学のウォルター・フリーマン博士という、非常にヤバいお方がヤバい勢いで施術しまくったヤバい手術。当時は治療が不可能と思われた精神疾病が、外科手術である程度は抑制できるという結果から世界各地で手術がおっぱじまった。ちなみに手術で治療したとしても、しばしばてんかん発作・人格変化・無気力・抑制の欠如・衝動性など、重大かつ不可逆的な副作用を発症した。最終的に抗精神病薬の発明とクロルプロマジンが発見されたことに加え、ロボトミー手術による予測副作用の大きさと人権蹂躙批判が相まって規模は縮小し、精神医学ではエビデンスが無い禁忌と看做され、廃止に追い込まれる。

(要は治療3割人体実験7割ぐらいの割合の人類史上トップクラスの最悪手術である。勢いで「必要なのは〜云々」と言ってしまったが、絶対やってはいけないと思う。ナチスのやった人体実験と何が違うかと言われたら多分誰も反論出来ない。─ターニャ・デグレチャフの心の呟き─)

 

 

ヴォルギン大佐のある意味とんでもない行動に、しかし私は冷静に現状把握に思考を割り当てているなか、突然周囲が凍りついた。

 

 

今の私がこんな武装ヘリの中にいる、いやそもそも私がこんな時代を生き抜かなければならなくなった元凶のご登場である。

 

 

私以外の全てが凍り付いた世界に私が居ることが、それを証明していた。

 

 

ヘリの内部に貼られたアメリカのギタリストのポスターの男が顔を此方へと向けてきた。

 

 

「…存在X。またしても貴様か」

 

 

「いかにも、あの世界大戦を味わえば貴様に信仰心の欠片でも芽生えるかと思ったが、未だその兆しは無しか」

 

 

「…存在X。貴様──あの男(ヴォルギン)に何か吹き込んだな」

 

 

「なに、少しばかり心を弄っただけだ…"持ち込まれた物は、知られたくない人間に知られぬよう証拠を消し去るにはうってつけの手土産"だと…そして"亡命者を確実に縛り付けるには国に帰れぬようにしてしまうこと"だとな…」

 

 

「ん?証拠隠滅は分かるが亡命者を確実に縛るだと?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………。

 

 

 

 

 

 

 

…!?待て!まさか、ヴォルギン大佐の行為は!?

 

 

 

 

 

 

「ああ、そういえばお前達はこの国の指導者にソコロフとやらの情報が行かないように隠そうとしていたのだったな。喜べ、生存者が1人だけ居るぞ。今は仲間の救出を待っておるな」

 

「フルシチョフは…この事件の全容を…知る…」

 

生き残りとは恐らく、ザ・ボスが川に放り込んだというあのエージェントの事だろう。彼は我々の真の目的を知らない。間違いなく祖国アメリカに自らが知り得る全てを話すだろう。

 

 

「突然の核とやらによる攻撃に加え、近くにいた貴様の国の飛行機とやら。驚いたかね?我も人間達の言う"軍事"とらを真似てみたのだ。軍事とやらに則ると、これだけの出来事が起これば世界は最終戦争を目前とするのだろう。そして破滅を前にした人間達はこぞって我に祈りを捧げ、救いを求めるであろう。貴様も世界の終わりが来れば我を信仰しようと考えるのではないかね?」

 

 

私は漸く理解した。このクソッたれの存在Xは、ヴォルギンに核を撃たせ、ザ・ボスを核攻撃の元凶に仕立て上げるつもりなのだ。

 

 

全ては私に信仰心を抱かせるために…例えそれによってアルマゲドン"最終戦争"が勃発しようとも。

 

 

そして私が更なる抗議の言葉を挙げるまえに、周りが再び動き出し、部下達の声が聞こえてきた。

 

 

「あーあ、あの野郎撃っちまいましたね」

 

「少佐、デイビー・クロケットの着弾を確認。設計局が消滅しました。予定通り目撃者も証拠も消えたので、これでフルシチョフにソコロフ博士の件が漏れることは…少佐?」

 

 

コックピットのカイル上曹の声に外を見やれば、赤黒い炎と煙に覆われて噴き上がるキノコ雲が目に入った。

 

 

私はその場で膝を着いてしまった。慌てて周りが寄ってきて肩を揺さぶるが、今はただ…放っておいて欲しかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、ソヴィエト連邦は極秘裏に第2戦備態勢に移行───配備されている核兵器はその目標をアメリカ合衆国へと定められた。

 

 

そしてクレムリンとワシントンのそれぞれの指導者による最終戦争を回避するための、ホットラインによる対話にて、ある密約が交わされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはアメリカの手によってヴォルギン大佐を…そして亡命者──ザ・ボスを抹殺することであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『罪、それは貴方のもとへ私が飛んでいく術』ザ・ボス

 




【カイル上曹】
オリジナルキャラです。本名ケーテ・カイル上級曹長、元ドイツ空軍所属、Ta152高々度制空戦闘機のテストパイロット。
ちなみに元ネタは実際にTa152に搭乗して、唯一戦果を挙げているドイツ空軍のヨーゼフ・カイル上級曹長。本来は最近構想してたストライクウィッチーズの二次創作用に用意してたキャラですが、急遽ヘリパイロットキャラが必要になったので引っ張り出しました。

【ロボトミー手術】
本編では軽く扱いましたが、実際のところ本当に最悪の手術です。人の脳を物理的に破壊してしまう訳ですからね。症状が和らいで後遺症が無い患者は幸運ですが、万が一があった場合取り返しがつきません。そういえば洋画のTATARIという映画にはフリーマンがモデルとしか思えないマッドな精神科医が登場してます(ロボトミー手術を初めとした人体実験としか思えない治療器具や施設の数々に容姿まで似てる)

【ヴォルギン大佐】
過去、メタルギアソリッドシリーズには様々な敵が存在しましたが、基本的に彼らは残虐な行為や悪事をしていても、堅い信念や信念に準じた目的を持ってスネークの前に立ち塞がってきました(似た例で例えるとジョジョのボスキャラ達)。その中で唯一例外と言っていいのがヴォルギン大佐です。文句無しの悪人としか思えない…。

【サウンドトラック】
スカイリムのサウンドトラック欲しい…。


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9話

METAL GEAR AHOD①








『場所が悪かった』





<<いいスネーク、まずCQCの基本を思い出して>>


「これより、バーチャスミッションを開始する!」






─約5分後─


「少佐、ここに…!」

「ああ、恐らくは我々以外にも降下した奴が居たのだろう。パラシュートの引っ掛かり方から見ると…」

「俺のように崖を目前にして咄嗟にパラシュートを?」

「ああ、そうだろう。状況判断に優れた人間だな」

「しかしバックパックや弾薬がパラシュートから崖の方向へと散らばっているが、これはつまり…」

「ああ、そいつは運が無かったんだな…場所が悪かったんだ」

「…………」

「スネーク、君もそのパラシュートの主と同じようにならなくて良かったじゃないか」

「ああ…では、任務に戻る!」









<<少佐、応答して下さい!少佐、応答を!少佐あぁぁぁ!!!>>





デー、デー、デ、デデン、デデデン!!!






One week later(一週間後)...

 

11:30PM August 30,1964

(1964年 8月30日 PM11:30)

 

Arctic Ocean airspace

(北極海上空)

 

 

夜の北極海上空を、一機の航空機が飛行していた。何も知らない一般人が見れば、上部に見慣れない物を取り付けた通常の双発エンジンの航空機としか思わないだろう。しかしその航空機が通常ではあり得ない速力で飛んでいるのを除けば…だが。

 

 

 

SR−71

 

 

 

それがこの航空機の名称である。簡単に言えば、成層圏ギリギリをマッハ3で飛べる化け物偵察機である。

 

 

そんな化け物偵察機がこの北極海上空を飛行しているのには勿論理由がある。それが、この偵察機が上部に取り付けた"ある物"であった。

 

 

<<現在北極海上空高度3万フィート、ソ連領空に接近中。間もなくドローン射出ポイントに到達します。ドローン、油圧・電圧共に正常。ペイロードへの酸素供給は正常。ペイロード用防寒装置への電力供給異常なし。突風(ガスト)なし…現在ドローン切り離しに問題なし>>

 

 

<<いいか、今回はHALO降下は無理だ。前回の作戦以来空域の警戒が厳重になった。バーチャスミッションの時のように上空へは近づけない───よって、最新鋭の兵器を使う>>

 

 

ドローンと呼ばれた上部のある物、その中には人間が入っていた。その人間は野戦服を着て、バンダナを頭に巻いた男だ。そう、あのバーチャスミッションを遂行しようとし、失敗し、ザ・ボスによって敗北したスネークであった。

 

 

<<スネーク、これはアラン・シェパード並の栄誉だぞ。これが最後のチャンスだ、愛国心を示せ!>>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、ソ連領内ドレムチイに未確認物体が墜落した。

 

 

音速超えで空中を切り裂くように飛行するそれは、米軍の秘密兵器──ドローンであった。

 

 

小型ロケットとも表現出来るドローンは凄まじい速度でソ連領空を飛行、追跡を仕掛けてきたソ連政府のMIG戦闘機を簡単に引き離し、山中へと消えた。

 

 

そして墜落する直前、ドローンは内部から1人の人間を射出した。射出された人間は射出と同時に背に背負ったパラシュートを開傘し、落下速度にブレーキを掛けながら生い茂る密林の中へと消えていった。

 

 

それから数分後、異常を察知した哨戒部隊がドローンの落下地点と目された区域へと急行した。

 

 

しかし暗い夜の闇によって、落下していたドローンを発見はしたものの、肝心な存在──すなわち彼等のそばを匍匐で潜みながら進んで行く侵入者に、哨戒に当たる歩兵は誰も気付かない。

 

 

だが匍匐でナイフ片手にひっそりと進むその男──あのドローンから射出されたスネークは、武器を携行していなかった。いや、確かにナイフを手にしてはいるが、彼はそれ以上に肝心な武器──銃を所持していないのだ。

 

 

それはつい先程、自身を射出し着陸した小型ロケットもといドローンを見付ける為に、探索していた時に起こった事態故であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

──アメリカ某所──

 

 

「どうだ?最新のICU(集中治療室)に入院した感想は?」

 

「…背広の連中に、面会時間を教えてやってくれ。昼も夜も質問攻めでは、治る傷も治らん」

 

 

そこでは葉巻をくわえた顔に傷を持つ男が、全身包帯だらけでベッドに寝かされている男と会話をしていた。

 

 

葉巻をくわえた男の名はデイビッド・オウ──またの名をゼロという。あの科学者、ソコロフを救い出す作戦の指揮官であった男である。

 

 

そして包帯だらけでベッドに寝かされている男は、スネークであった。彼は先の救出作戦──バーチャスミッションと呼ばれる作戦において目標達成に失敗し、全身傷だらけになりながらも、生還を果たしていた。

 

 

しかし上層部からは、ザ・ボスの亡命を手助けした売国奴という嫌疑をかけられ、治療を名目に軟禁されている最中でもあった。

 

 

「ああ、軍上層部の事情聴取だな」

 

「事情聴取?尋問だ。奴等によれば、俺はザ・ボスの亡命を助けた売国奴らしい」

 

「連中には処分する対象が必要なんだ」

 

「……あんたもその対象に?」

 

「お互いヒーロー(英雄)にはなり損ねたということだ」

 

「俺たちの『FOX』も死ぬのか?」

 

「いや、狐(フォックス)はまだ狩られない。今日来たのは…そう、我々『FOX』の汚名を返上するためだ」

 

「なんだって?」

 

「状況が変わったんだ。まだ我々が生き残るチャンスはある」

 

「何のチャンスが?」

 

「落ち着け。君も葉巻はどうだ?ハバナだ」

 

「いや、遠慮しておく…」

 

「そうか。実は今朝、CIA長官から呼び出しを受けた」

 

「そうか…俺たちの処刑時期が決まったか?」

 

「違う。いいか、よく聞くんだ…」

 

 

 

 

見舞いに訪れたゼロ…彼からスネークは、クレムリンの指導者フルシチョフと、アメリカの指導者ジョンソンによる対話と交わされた密約を告げられた。

 

 

すなわち、スネークを再びエージェントとして送り込み、ヴォルギン大佐の殺害と核搭載戦車シャゴホッドの破壊───そしてソ連の設計局に核を撃ち込んだ狂人ザ・ボスを抹殺することで、今回のザ・ボスの亡命及び核爆発がアメリカの仕業ではないという潔白を証明することであった。

 

 

自らの恩師を自らの手で殺す。

 

 

しかしそれが成されなければ、世界は核戦争によって滅びる運命にあるのだ。

 

 

それと平行して、スネークは少し前からゼロに頼み込んでいた調査の結果を聞いていた。

 

 

すなわち、あの時ザ・ボスのコブラ部隊と共にいた、アメリカ国旗のワッペンを着けた謎の兵士についてである。

 

 

「スネーク、君から頼まれた調査だが、連中の身元が割れたよ」

 

「彼らはやはり、アメリカ軍の人間だったのか?」

 

「ああ、その前にだが、ホットラインでの対話でフルシチョフ書記はこう言っていたそうだ。"我が国のレーダーが、貴国の軍用機らしき機影を<2つ>捉えた"とな」

 

「どういうことだ?」

 

「我々だけではなかったのだよ。あの日、ソ連領空を侵犯していたのは…な」

 

「しかし他に友軍機は……英国の民間機か!」

 

「そうだ、少し裏を探ったら見つけた。我々アメリカの空軍基地に駐機されていたよ。外見は民間機だが観光客を運ぶには必要無いバルカンカノンを2門、中身も空挺降下用だった。最も、私が調べた数時間後に"不慮の事故"で爆発に見舞われてスクラップとなったがね」

 

「あんたが嗅ぎ付けたからか…」

 

「ああ、まぁそれは置いておこう。さて、連中の正体だが正確には軍ではなくCIAの連中だった」

 

「CIA?」

 

「君がツェリノヤルスクで見た連中は米国非合法戦闘工作部隊───通称"ゴースト・カンパニー"、CIAお抱えの非合法部隊だ。直接の戦闘から諜報・破壊工作・暗殺・テロ偽装といった表沙汰には出来ないアメリカの暗部を切り盛りする連中だ。隊長以下隊員の実名も素性も不明、分かっているのは総司令官がシェパードという現役の陸軍中将だということと、ゴースト・カンパニーの連中はCIAに組み込まれる以前からシェパード中将の部下をやってるということだ」

 

「シェパード中将…あの"狂犬"か。だが良くそこまで分かったもんだ。で、彼はなんと?」

 

「なに、こっちも特殊部隊を設立してる身だ。政府の裏を知るためのコネクションくらいは持っている。話が逸れたな…シェパード中将の言い分だが"隊長を含めた士官と隊員らで部隊を脱走し亡命に走った者は居ない"…だそうだ」

 

「"狂犬"の言い分だ。鵜呑みは出来ない」

 

「その通りだ。実際に調べたが隊員のうち約10人程がシェパード中将曰く"息抜きの長期休暇"で所在不明だった。ちなみにその所在不明の隊員らは、休暇申請日はバラバラだがほぼ全員がバーチャスミッションの約10日前辺りから居なかった。最後の数人も6日前に長期休暇申請で行方を眩ました。しかし行方の知れない連中が関わっていたと立証するのが難しいのも事実だ。経歴も名前も顔すら不明な以上、つついてみた所で行方知れずの連中の身代わりが出てくれば我々によるデマだと言われる。しかも相手は大統領直轄も噂される裏の部隊だ。新設部隊の我々がとやかく言ったところでまともに取り合いはしまい。確かこういったのを日本の諺で"ノレンに腕押し"と言ったかな?ジャック…つまり、この作戦には極めて厄介な不確定要素が増える訳だ。決して油断するな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こういった経緯から、スネークはまだ傷が完全に癒えていないにも関わらず、事件から1週間後、再びソ連へと単身潜入をしているのだ。

 

 

そして銃を失ったのは丁度着陸したドローンを発見した時であった。

 

 

ドローンへと近付いたスネークは、突然の嘶きに周囲を見渡した。そこにいたのは鞍の着いた白馬であった。武器をしまいながら、誰の馬かは知らぬスネークは馬へと歩み寄る。

 

 

「命拾いしたようね」

 

 

その一言と共に現れたのは、SFに出てきそうな白い戦闘服を着たザ・ボスであった。

 

 

「どうしてここに?」

 

 

スネークのその問いに返ってきたのは、ザ・ボスによる近接格闘であった。距離にして10m以上はあったが、ザ・ボスはその距離を瞬く間に詰めてきた。

 

 

スネークは咄嗟に銃を構えるも、銃口が前を向いた時には既に、ザ・ボスはスネークのM1911へ手を伸ばしていた。

 

 

発砲する間もなくスネークは地面に叩き伏せられた。即座に起き上がるも、M1911はザ・ボスによって分解されてしまい、鉄屑と化していた。

 

 

ザ・ボスによって武器を奪われ、彼女から「帰れ」と叫ばれた。それでもスネークは帰る気は無かった。

 

 

そして今、こうして武器を持たないながらも類い稀な潜入能力で以て、スネークはロシアの山奥を進み最初の目的地へと───ラスヴィエットにある、あの始まりとなった廃工場へと辿り着いていた。

 




纏めて書いていたら遅れました。明日か明後日辺りに残りも投稿します。



-追記-
本編ネタ解説


【部隊マーク】
作中で描写した翼と髑髏のワッペンは、FPSゲームCoD・MW2に出てくる特殊部隊TF141という部隊のマークをイメージした物です。
細部の違いなどもあるのですが、残念ながら絵心が無いため正確なイメージをお伝え出来ません!本当にややこしくて申し訳ない。

【シェパード中将】
シェパードは同ゲームに出てくる米軍の将軍です。渋い声と外見に44口径のマグナムリボルバーを愛用する頭脳明晰で頼れるTF141の司令官でもありますが、ゲームをプレイした事がある方は多分「殺せ、ロシア人だ」の迷言を持つテロリスト並みかそれ以上に嫌いな存在でしょう。


【METAL GEAR AHOD】
これを観たが最後、貴方はメタルギアのあらゆる感動を破壊され尽くし、焼け野原ひろしと化す事でしょう。
真面目な話をすると、元は『シークレットシアター』というメタルギアソリッドのスタッフが3を作った際に、本編ムービーの幾つかを作り替えて感動シーンを抱腹絶倒の馬鹿ムービーに仕立て上げた動画シリーズです。打ち上げで監督らが上映されたその動画を観て、さらに幾つものムービーを作成しました。そのなかのタイトルのひとつを使い、前書きの話を作りました。





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10話

METAL GEAR AHOD②




『対決』







「さて、シャゴホッドを…」


説明の最中、ヘリが気流に揉まれ私は咄嗟に窓に手をついた。そこで、ふと目の前に近付いた窓から向こうを見た。


特に理由は無かったのだが、なんとなくだった。窓の向こう側ではザ・ボスがヘリのドア近くに身を預けていた。


見ていると、突然ザ・ボスは指先をチョキの形にした。



「は?」



うむ…私は疲れているのだろうか?ザ・ボスが急にチョキを虚空へと突き出したぞ…。


その直後、ザ・ボスの乗るヘリからの無線音声が流れてきた。それなりの音量があるから聞きやすかった。


<<お前に私は倒せない>>




うん、訳が分からない。ザ・ボスは一体何をしているのだ?────って今度はパーを繰り出したぞおい!?更に続けてグー、そこから手に妙なひねりを加えてからのチョキを突き出す。勿論その度に「フッ!ハッ!」だの声を挙げているらしく、無線から駄々漏れである。




<<その程度?>>




あの人は本当に何をしているのだ?
まさかと思うがじゃんけんか?
あのじゃんけんなのか!? 餓鬼共がキャッキャッキャッキャッウフフフフしながらやるあのじゃんけんか!!?
つーか誰とやってるんだザ・ボスは!!?


ああ、しかも連勝したからかニヤケ顔で勝ち誇ってるよあの人…




って、ん?ザ・ボスの動きが止まりニヤケ顔が崩れたぞ?どうした、負けたか?


私はヘリのドアを開くと、ザ・ボスの視線が向く先へと顔を向けた。確かに誰か居るがここからでは見分けがつかないので、腰に下げている双眼鏡を使う。


見えた。うん見えた。確かザ・ボスが始末した筈のエージェントがいる。というかあのエージェントがじゃんけんの相手かザ・ボスよ…って待て待て待て!


ザ・ボスがじゃんけんしてるとか始末した筈のエージェントが生きてるとか色々あるがまずはあのエージェントの指だ。


人差し指と中指でチョキ、薬指と小指を折り畳んでグー、ついでに開いている掌と親指の部分でパー………あのエージェント!まさか!よりによって!!今時餓鬼でもやらないあの禁じ手を使ったのか!!?





あの『万能出し』を!!!







驚愕する私の向かい側にいるザ・ボスは私以上に驚愕している表情だ。


なんか白い空間で3人並んだあのエージェントにグーチョキパーで周りを囲まれて、何を出しても勝てない状態。

更に黒い空間に移行した際に1人にまとまったそのエージェントが万能出しを光の反射に照らされながら繰り出して、打ちのめされたザ・ボスが地面に膝をついて、教会の鐘の音が響く中頭を抱えて喚いている。


そんな驚愕の表情である。


<<小賢しい真似を!>>

<<卑怯者!>>


ザ・ボスが憎々しげな言葉を口にしながら機内へと引っ込むと、あの山猫部隊の隊員がエージェントを卑怯者とそしる。


そしてエージェントの前まで降下したヘリのドア付近に見えたのは、なんとデイビー・クロケットを構えたザ・ボスだった!



本当にあの人は何をしてるんだ!?まさか万能出しという禁じ手とはいえ、たかがじゃんけんに負けた程度であれをぶっ放す気なのか!!?


<<同志に核を使うんですか!?>>


あ、山猫部隊の隊長の若造が止めに入った。うん、片手で簡単にどかされたよ…あの役立たずめ!!!


<<出てきなさい!>>

<<やかましい!>>



おい待てザ・ボス!たかがじゃんけんだぞ!餓鬼の遊びだぞ!それでデイビー・クロケットなど!!








<<終わりよ!!!>>



<<うおぉぉぉ!!!!!!!!!!>>





「存在Xよ…貴様に災いあれ…ガクッ…」









この日、ソ連の山岳一帯が突然の核爆発により吹き飛んだ。
でもフルシチョフは特に行動しなかったし、アメリカとの密約とかロケットエンジン付戦車とか問題にはならなかった。



今日も世界は平和である…。ほら、なんかバンダナと葉巻くわえた緑色の鳩とか「貴様を切り刻んで豚の餌にでもしてやる」とか言いそうな顔した白い鳩がお空を飛んでるよ!










デー、デー、デ、デデン、デデデン!!!


廃工場には人の気配は無い。スネークは軽く安堵しながらも、警戒を解かず廃工場内に入る。

 

 

最初にソコロフと出会った部屋へと入るが、誰も居ない。ソ連政府の言う"協力者"はまだ到着していないのかもしれない。

 

 

仕方なくスネークは再び廃工場の外側へと出る。

 

 

次の瞬間、ライトが光った。

 

 

スネークが咄嗟に視線を向けると、そこにはバイクに跨がったカーキ色のライダースーツを着て白いバイザー付ヘルメットを被った人物が、重いエンジン音を響かせながらこちらをライトで照らしていた。

 

 

「少し遅れたかしら?」

「エンジンを切れ、聞かれる」

 

 

悠長に待ち合わせの時刻に遅れたことを訊ねる人間に、スネークはエンジンを切るように言う。しかし当人は問題無いとでもいうかのようにスネークの話を流し、会話を続ける。

 

 

「貴方が西側のエージェント?」

「…お前がADAM(アダム)か?男だと思っていた」

 

 

ADAM(アダム)───それがソ連政府が今回の作戦に当たって派遣してきた、情報提供者兼協力者のコードネームであった。

 

 

キリストの神話にて、女性のEVA(エヴァ)と共に禁断の果実を口にし、楽園を追われた男。その名がADAMだった。

 

 

だがスネークの前に現れたのはADAMの名を持つが、男ではない者…声から分かるそれは女性のものであった。

 

 

そのためスネークは、彼女がADAMのコードネームを持つソ連政府の協力者ではないかと予測した。

 

 

「ADAMは来られなくなった」

 

 

しかし女性の口から出たのは、自分はADAMではないという言葉だった。そしてそれは"ADAMはここには来ていない"という意味でもあった。

 

 

「合言葉を言え。"愛国者は"?」

 

 

しかしスネークにはADAMが来ていないということ以上に早急に確認しなければならない事があった。

 

 

すなわち、目の前に居るのは誰なのか…という事である。もし目の前の女性が合言葉を知っているのであれば、来られなくなったADAMの代わりの協力者という事である。

 

 

だがもし合言葉を知らなければ、すなわち目の前の女性は協力者ではないということになる。もしくは仮に知っていたとしても、誰かの口を割って聞き出したという可能性も無視出来ない。

 

 

だがやみくもに深読みすれば逆に目が曇るだけである。スネークは思考を切り替え、まずは合言葉を知っているかどうかを確かめる事にした。

 

 

しかし女性は合言葉に答えず、軽く鼻で笑う態度を見せた。スネークは挑発とも取れる女性の態度に反応せず、今一度問いかけた。

 

「"愛国者は"?…答えろ」

 

 

女性は答えない。だがそれ以上の問題が発生した。

 

 

突如として現れ、スネークの周りを囲んだのはAK47やAKMを構えたGRUの兵士達であった。

 

 

「…ハメられた!?」

 

 

ナイフ1本だけという武器らしい武器を持たない今のスネークには、この状況は芳しくはなかった。

 

 

「伏せて!」

 

 

だがそこに響いたのは、目の前のバイクに跨がる女性の警告であった。スネークはまだ女性を信用しては居なかったが、しかし兵士としてのカンから咄嗟に床へと身体を投げ出した。

 

 

急に床へと身体を投げ出したスネークに、GRUの兵士達は対応が追いつかなかった。

 

 

その兵士達に対して、女性は腰から大型の拳銃を引き抜き、拳銃を真横に構えながら、発砲時のマズルジャンプに任せながら右から左へと振り抜きつつ次々と発砲する。

 

 

対応が追いつかなかった兵士達は更なる予想外の事態に為す術なく、順に拳銃から吐き出される鉛弾によって命を落としていった。

 

 

最後の1人が狙いもつけず、とにかく目の前の脅威を退けようと、闇雲にAK47を乱射し始める。

 

 

「上、失礼しますよ!」

 

 

床に伏せるスネークの耳に聞こえたのは目の前の女性の拳銃音ではなく、少し幼さを残す声であった。

 

 

伏せた状態から顔を捻って上に向ければそこには、今正にスネークを飛び越えるように空中へと身を踊らせる口元を黒い布で覆い、セミロングの金髪をたなびかせ、黒い野戦服を着た人間がいた。

 

 

その人間が右手に持つのは鈍く光るストレートスコップ、そして左手には現行のサバイバルナイフよりも古いナイフを逆手に握っている。

 

 

空中からの刺客に兵士は、咄嗟にAKを斜めに構えて防御姿勢を取った。次の瞬間頭部目掛けて上から、スコップが斜めに振り下ろされた。

 

 

もしこの時兵士が防御態勢を取らなければ、彼は勢いよく振り下ろされたスコップによって頭部を割られ、少ない苦痛で命を落としただろう。

 

 

しかし斜めに構えられたAKの銃身が、斜めに振り下ろされていたスコップを僅かだが反らす形になった。結果、銃身を凹ませながらも軌道を変えられたスコップは勢いをほとんど衰えさせることなく、銃身に沿って進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

"ズカッ"という嫌な音と共に兵士の頭部から手のひらサイズの何かが切断され、地面へと付着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バイクのライトに照らされるそれは、赤や白、ピンクの入り交じった物体───兵士の頭部の肉片と頭蓋骨であった…。

 

 

 

 

「ギッ…!!」

 

 

脳こそ傷付かずに残るものの、頭部表面をチーズのように斜めに切り落とされた兵士は、自らに走る地獄の苦痛に叫ぼうとした。

 

 

しかし彼が叫ぶ前に着地していた野戦服の人間は、逆手に握るナイフを左から右へと一閃させた。

 

 

「グブッ…!」

 

 

喉を骨ごと頸動脈に至るまで深々と切り裂かれた兵士は、叫びの代わりにどす黒い血を口から溢れさせながら息絶えた。

 

 

「敵歩兵部隊全滅を確認、周囲は安全です。死体は私が始末しておきます」

 

 

一般人から見れば敵とはいえ人間を残忍と形容出来る形で殺した当人は、「ゴミが出たから棄ててこよう」程度の感覚でしかないのであろう口調で、場を片付けると言っている。

 

 

「ええ、お願いするわ。さて、これが合言葉の…答えよ」

 

 

バイクの女性は弾が切れた拳銃に新しい弾を取り出して装填しながら、スネークに対して"この行為が、自分達は敵ではないという証明だ"と、答えた。女性はバイクのエンジンを切ると、スタンドを立ててバイクから降りる。

 

 

女性は頭に被るバイザー付きのバイカーヘルメットを脱ぎさった。現れたのはブロンドの髪、整った顔立ちの白人女性であった。

 

 

彼女はライダースーツのジッパーに手を掛けると、目の前のスネークへと見せ付けるようにへその辺りまで下げる。ジッパーを下ろした彼女は、自らの女を強調するような歩きでスネークの前へと進む。

 

 

「初めまして、EVAよ。よろしく」

 

 

目の前まで来た彼女は"よろしく"に一際艶かさを主張するようにアクセントを置いた自己紹介を済ませる。なお、当のスネークはカーキ色のバイクスーツの下ろされたジッパーの間に覗く谷間をしっかり凝視してしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──廃工場内──

 

 

 

 

 

「…計画と違う。ADAMはどうしたんだ?」

 

 

廃工場のソコロフが居た部屋にてそれぞれが小休止を挟んでいる中、最初に話を切り出したのは葉巻をふかすスネークだった。

 

 

当初の計画ではADAMが来る筈であったのが、来たのはADAMと共にソ連へと亡命したというEVAあった。

 

 

ADAMとEVA───スネークの目の前にいる長髪ブロンドの彼女と、ここに来る筈であった男は、数年前にアメリカからソ連へと亡命した、NSAの暗号解読員だという。

 

 

彼らはソ連にてこういった非常事態に備えて訓練を積み重ねていたらしく、今回の作戦に当たって、ソ連政府より派遣されていた。

 

 

だが計画とは異なり、ボディーガードと紹介した20歳にも満たない外見の少女を連れたEVAが来たのだ。

 

「貴方の名前(コードネーム)は?」

 

「俺は…スネークだ」

 

「スネーク?"蛇"ね。私はEVA…誘惑してみる?」

 

 

本題に入る前に互いの自己紹介をと求めたEVAにスネークが自身のコードネームを教えると、彼女は再び艶かしい台詞を口にしながらスネークが腰かけるベッドへと自身も腰かけ、身体を寄せてきた。

 

 

「ADAMはどうした?」

 

 

スネークはそんなEVAから自身の身体と視線をそらし、少しぶっきらぼうに再度質問をした。

 

 

「ヴォルギン大佐は用心深いわ。ADAMは適任でないと判断されたの」

 

「君なら適任だと?」

 

「ええ」

 

「どうして?」

 

「彼には出来ない事が出来るから」

 

 

一連の会話を経てスネークは理解がいった。すなわち男性であるADAMより、色仕掛けにも精通したEVAが選ばれたというだけらしい。

 

 

「もちろん、私1人で今回のバックアップを万事順調に進められるなんて思い上がりは無いわ。だから彼女を連れてきたの」

 

「ああ…。しかし君のバックアップだという彼女は何故銃ではなくスコップを?もしかして銃は…」

 

 

スネークはEVAが連れてきた少女の戦闘スタイルに疑問を持ち、ふと訊ねてみた。ちなみにスネークは可能性の一つとして射撃下手だと思っていたので口に出す。

 

 

「失礼ですね、これでも銃は得意ですよ。スコップとナイフなのは使い慣れた武器なのと、必要以上に場を喧しくしないからです。それにスコップは人類が生み出した文明の利器の1つでもあります。ガーデニングや工事は勿論塹壕掘りから即席の近接武器、朝昼夜問わずの"挨拶"にも使える優れものです」

 

 

スネークの言葉の終わりをを待たずに、単にスネークの顔にそういった表情でも浮かんでいたのか、少女は口を尖らせながら反論してきた。最後のほうはむしろスコップの利便性を情熱的に語っていたが…。

 

 

「そ、そうか…あ〜と、それでEVA、君はNSAの暗号解読員だったと聞いたが…」

 

「そう、4年前にADAMと一緒にソ連へ亡命したの」

 

「………ブルーム・ハンドル(箒の柄)…モーゼル・ミリタリーとはな」

 

 

スネークは話題が続かないと考えたのか、EVAの持つ拳銃へと話を切り替えた。

 

 

「ええ、火力があるからバイク乗りには重宝するの」

 

 

「銃を横に構えて銃口の跳ね上がり(マズルジャンプ)で水平に薙ぎ撃つあの撃ち方…見事だった」

 

 

スネークはふと、先ほどのGRUの兵士達を撃ち倒した彼女の独特な射撃方法を思いだし、褒めた。

 

 

「西側(にし)にはない撃ち方でしょ」

 

 

EVAはスネークの褒め言葉に応えるようにホルスターから先程の大型拳銃を抜き放つ。

 

 

「コピー品だな?」

 

 

スネークはEVAが抜き放ったモーゼルを見るなり、本家とのマガジンの大きさ等の違いからコピー品だと見抜く。

 

 

「ええ、中国の十七型拳銃……ここじゃ、これでも高級品なのよ」

 

 

EVAは十七型拳銃と聞いたスネークが顔を僅かにだがしかめるのを見て、苦笑するように弁明する。

 

 

スネークはふとEVAのボディーガードだという少女が使っていたナイフを思い出した。スコップは鋭く研いである以外は普通の軍用スコップだがナイフは古い型だったのを思い出し、少女に質問する。

 

 

「そういえば、君は何故サバイバルナイフなどではなく、古い型のナイフを使っているんだ?」

 

「私の上官から譲り受けた品なんですよ」

 

「そうなのか」

 

「心配しなくても大丈夫、貴方にはアメリカ製を用意しておいたわ」

 

 

スネークが用意されている物に不安を感じていると思ったのか、EVAがアメリカの物だと説明しながら渡したのは45口径、スネークも馴染みのある銃───M1911であった。

 

 

だがそれは従来のものとは違い、入念なまでに高性能パーツによってカスタマイズされていた特注品のような仕上がりであった。

 

 

今まで官給品尽くしだったスネークにとって、手にした事が無い程の高性能拳銃は彼の魂に火を着けるには十分であった。

 

 

この少し後、スネークから無線通話にてハンドガン談義を長々と語られた、彼のバックアップ担当の1人"武器・装備品の特別に凄い専門家"は、大層辟易したらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにEVAが持ち込んだM1911は、西側の将校の物だとスネークは説明を受けたが、その本当の持ち主はスタイリッシュ眼鏡を掛けた黒髪の"God"の称号を持つ日本人だという噂があったりなかったりする。

 




【バックアップの少女】
スコップを愛用しその素晴らしさを実感しており、それを伝えた上官がいる金髪の幼さを残す少女───紳士諸君ならお気付きだろう。


【ADAMとEVA】
アダムとエヴァですが、メタルギアソリッド3本編に則り、次回からもアダムはADAM、エヴァはEVA表記で行きます。


【スコップ】
鋭利に研いだスコップで人間の頭を切断出来るかどうかは知りませんが、スコップの少女は出来るという設定で行きます。



†注意†
今回の本編には少々グロテスクな描写が存在します。苦手な方はお気をつけ下さい。なお、これからもちょくちょく残酷やグロテスク描写があります。


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11話

べっ甲飴とポテトチップスを一緒に食べるといもけんぴっぽい味ががががが…。


最初にスネークの目に飛び込んできたのは、黒い下着に包まれた肉付きの良いお尻であった。

 

 

この廃工場で合流したEVAの勧めと自分のメディカルサポートを担当する女性パラメディックの忠告により、合流後すぐに出発しようとしたスネークは工場のベッドでつかの間の睡眠を取った。

 

 

そして今、目覚めたスネークは軽く寝ぼけながらも下着を見つめる。少しして顔を右に反らすと、今度は白い柔肌と小ぶりで形の整った胸が目に入った。

 

 

眼の保養ではあるが、流石にそろそろ見続けるのは止めるべきかと瞬順するスネークだったが、外から聴こえてきた足音に気付くと、すぐさまM1911とナイフを構えた。

 

 

「どうしたの?」

 

「囲まれた…敵は…4人確認できる…」

 

「まずい、山猫部隊よ!逃げましょう?急いで!武器・装備を忘れないで!」

 

EVAはすぐさまライダースーツを着直すと、脱出口がある床を塞いでいる簡易ベッドをどかすためにスネークに手伝いを呼び掛ける。

 

 

スネークが少女のほうを見ると、彼女は先ほどまでの上半身裸の格好ではなく既に野戦服を着ており、黒い布で覆った口元から敵に気付かれないよう小さく呼吸をしながら、スコップとナイフを構えつつスネークの代わりに外を警戒していた。

 

「ここから床下に出られるわ……くっ!オセロットだわ」

 

どかしたベッドの下にあった床下への入口へ入ったEVAは、フェンスから見えたある人物、スネークとヴァーチャス・ミッションにて合間見えたオセロットを見つけて舌打ちする。

 

「私はバイクで突破する、また連絡する!」

 

「では私は工場裏のほうから脱出します。そのあとでEVAさんに合流しますので」

 

「分かった。俺は奴等を引き付ける」

 

 

そう言ったスネークに、EVAは頬にそっと口付けをした。

 

「死なないでね」

 

 

エヴァはそう言うと、床下を這っていった。なお未だに警戒をしていた少女は、「では私も」と言うと、入口とは反対側にある壁へと向かっていった。

 

何をする気なのかとスネークが目で追うと、彼女は壁の前でかがみこみ「えーと、この辺りだったかな?」と呟きながら壁をペタペタ触る。

 

「何をしている。脱出しないのか?」

 

「脱出口というのは見つけるものですが…」

 

 

言葉を区切った彼女は目当ての場所を見つけたのか、壁に手をついて押し込んだ。

 

 

「前もって作るものでもあるんですよ」

 

 

鈍い音を立てて壁が外れ、ドスンと音をたてて外側へと落ちる。なんとそこには、人1人が通れるくらいの穴が開いていた。

 

 

外から「今の音は!?」とか聞こえてくるが、今のスネークにはむしろ目の前の珍事のほうが目を引いた。

 

 

目の前の少女は、昨夜のうちにレンガ造りの壁に脱出のための穴を開けていたからだ。

 

 

「この少女はいつの間に」と疑問やら感心やらが頭を行き交うスネークを尻目に、少女は「では」と一礼してから穴を通り外へと抜けていった。

 

 

だが抜けていった少女は何かを思い出したかのように、パッと穴から顔を覗かせてスネークに言い放った。

 

 

「あと私、少女では無いですから。これでもれっきとした20歳ですからね………半永久的にだけど(ボソッ」

 

 

彼女は自分の心を読んだのだろうか?と、スネークは危機を前にしながらも頭を捻るのだった。最も、最後のほうの呟きは小さくて聞き取れなかったが…。

 

 

そんなスネークが次に思ったのは「そういえば彼女の名前を聞いていないな」だった。最初の出会いから今さっきの別れまで、スネークは少女の名前を聞いていなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──大要塞グロズィニグラード──

 

 

 

「くそぅ!アメリカの犬め!!」

 

 

そう叫ぶ大男の拳の一撃を受けて、ドラム缶がひしゃげながら宙を舞う。

 

 

たかがドラム缶とはいえ資源を怒りの矛先でスクラップにされては、兵站の関係者も堪らないであろう。

 

 

皆さんこんにちは、ターニャ・デグレチャフ少佐であります。

 

 

小官は現在、目の前の我々のボスであるヴォルギン大佐へと報告に来ているのでありますが、報告を聞いた大佐はそれはもう凄まじい形相となり、目下ドラム缶を叩き潰す事でストレスを発散しております。

 

 

原因は言わずもがな。

 

 

現在進行形でヴォルギン大佐率いる部隊に人的及び資源的被害を与えているアメリカのエージェントである。

 

 

現時点で数えるだけでも、武器庫が2つ爆破されて吹き飛び、食料庫が2つガソリンを撒かれて焼却された。

 

 

お陰で現地の部隊は揃いも揃って武器の交換も弾薬の補給も受けられず、まともに食事も取れなくなり警戒態勢に大穴が生じている。

 

 

もし今何者かから攻撃を受ければ、1日と持たないだろう。いかに精鋭とはいえ彼らも人間である。食う物食わなければ力も出ないのだ。

 

 

しかもボルシャヤ・パストに設置されている中継基地では、警備に当たっていた兵士が捨てた(本人は必死に火をしっかり消したと主張していた)煙草がたまたまドラム缶から漏れ出していた燃料に引火し、駐機されていた新型ヘリが資材やら予備機材を巻き込みまとめて吹き飛んだ。

 

 

もっともヴォルギン大佐はこれも兵士の不注意ではなく、エージェントのスネークによる破壊工作と捉えているので兵士はエージェントを見逃した事以外はお咎め無しである。

 

 

まぁ資源的被害も随分なものであるが、人的被害も無視出来ない。把握出来てるだけで20人近くが殺られている……最も、そのうち4分の1はコブラ部隊所属の兵士、ザ・ペインがアメリカのエージェントへと仕向けた蜂による巻き添えでの被害なのだが。

 

 

そうだ、ザ・ペイン───戦場において"痛み"という感情を見出だしたコブラ部隊兵士。相手に与える痛みだけでなく自らが受ける痛みにすら執着的な思考を覗かせる男だ。

 

 

だが当人は最早痛みという感情に執着することは無いであろう。何せあのアメリカのエージェント───ザ・ボスの弟子であるスネークによって、先日チョルナヤ・ピシェラの洞窟にて打ち倒されてしまったからだ。

 

 

ボルシャヤ・パストのクレバスにて待ち構えていたオセロット。彼と撃ち合っていたスネークのところへ大量の蜂を送り込み、まんまと彼を洞窟へ追い込んだザ・ペインは、洞窟の出口手前、チョルナヤ・ピシェラの主洞にてスネークを迎え撃った。

 

 

そして敗北した。彼は息絶える寸前、コブラ部隊の兵士に必ず持たされている自決用の爆弾を起爆させ、木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

 

彼の死亡確認のために、私はあの戦闘の直後辺りに直接チョルナヤ・ピシェラへと赴いたのである。残念ながら遺体は回収出来ないが、代わりに彼のドッグタグを持ち帰った。

 

 

そして私は直接は見ていないが、ポニゾヴィエの物資倉庫にてボスからザ・ペイン敗北の報せを受けたヴォルギン大佐は、怒りのあまり搬入口のコンクリート壁に拳を叩き付けていたらしい。

 

 

そんな出来事の矢先である。優秀なコブラ部隊兵士の喪失に加えて人的・資源的被害の報告だから、かなり怒り狂っている。

 

 

「デグレチャフ少佐!」

 

「はっ!」

 

「次に奴を迎え撃つのは誰だ?何処で迎え撃つ?」

 

「申し訳ございません。小官にはお答えしかねます。ですが、当人は既に襲撃地点にて潜伏中。アメリカのエージェントが到着次第、迎撃する手筈であります」

 

「デグレチャフ少佐、私はザ・ボスを信用していない訳ではない。だが万が一に備えたい。故に、貴官は直ぐにそこへ向かってくれ」

 

「ヴォルギン大佐殿、私も"一員"でありますが?」

 

「分かっている。ザ・ボスの命令にしか従わんのだろう?だからこそ命令ではなく、こうして貴官に頼んでいるのだ」

 

「…了解致しました。ボスには私が話を通しておきましょう」

 

「頼んだぞ、デグレチャフ少佐───いや、ザ・ピースよ」

 

「はっ、尽力致します」

 

 

ヴォルギン大佐からの頼みを受けた私は、アメリカのエージェントを迎え撃つコブラ部隊隊員のサポートの為に装備を整えようと、グロズィニグラードにある自室へと戻る。

 

 

自分に与えられた自室の前までくると、扉を開けて部屋へと入る。そして扉を閉めると、つい顔がニヤけてしまった。

 

 

「クククッ…なんたる事だ…ああ全く…信じられん…"こうまで物事が予定通りに進む"とは…」

 

 

ああ全くだ全く…愉快で痛快で爽快だ。最終目的を達成するまではまだまだだが、数日中に最終目的に至る為の過程を達することは可能である。

 

 

その過程とは、あのエージェントに与えられた任務の1つだ。そのため、私が直接その過程を成すことは出来ないのだ…ああ残念だ。目的は達せられるだろうが私自身で達せられないのは残念だ。

 

 

まあいい…あの男の始末はエージェントに委ねればいい…だが…やはり後ろ髪を引かれる思いだ…ああ本当に…

 

 

 

 

 

 

あの男───ヴォルギン大佐に手を下せないのは残念だ…。

 

 

 

 

あの日、私の国に、私の部隊に責を押し付けて名誉を傷つけてくれたあの男は、のうのうと生きてきた。

 

 

それのみならず、あの日、私の信頼する部下の1人をも無惨に痛め付けて殺してくれたのだ。国を脱して星条旗の下に身を寄せてからも長年犯人を探ったが分からなかった。だがそれも間も無く報われる。

 

 

ザ・ボスが見つけ出してくれたのだ。だが、それだけではなかった…。あの日、あの虐殺の主導者がまさか、ヴォルギン大佐だったとは…。ザ・ボスには恩が増えるばかりだ。

 

 

大佐…例え100年過ぎ去ろうが、貴方が惨めに死に逝くまで我々は、私は決して、あの虐殺の記憶を忘れはしない。貴方に殺された私の部下の為にも。

 

 

「…マイネ・エーレ・ハイスト・トロイエ(忠誠こそ我が名誉)。…私の部隊は総統に、そして私に忠誠を誓った。故に私は、私に付き従う彼等に、命を落とした彼等に名誉で報いよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

我等は『第0SS装甲師団「マイネ・エーレ・ハイスト・トロイエ」』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

我等は決して"カティン"を忘れはしない。

 




【第0SS装甲師団】
以前から出していたターニャの所属していた架空師団です。
今回kuraisuさんより頂いたナチス親衛隊のモットー『忠誠こそ我が名誉』を師団名として使わせて頂くこととしました。kuraisuさん、ありがとうございます。


【カティン】
カチンとも。ソ連軍が捕虜であるポーランド軍将兵数千人をカティンの森にて虐殺。事件そのものはドイツ軍の仕業として擦り付けた。


【ザ・ピース】
我らが幼女様のコードネーム。詳しい由来などは後々に。


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12話

痛み
恐怖
終焉
憤怒
悲しみ
喜び
平和


色々居ますコブラ部隊!


─グラーニニ・ゴルキー南の森林地帯─

 

 

 

 

 

 

「はぁっははは!何処を狙っている?俺はここだ!」

 

「くっ…!!」

 

 

チョルナヤ・ピシェラの洞窟においてザ・ペインを倒したスネークは今、グラーニニ・ゴルキー(グラーニン設計局)南側に位置する森林地帯にて新たな敵に直面していた。

 

 

今から1時間ほど前、スネークはEVAから受け取った情報からソコロフが監禁されているというソ連の秘密設計局の1つ、グラーニン設計局へと潜入した。

 

 

潜入したスネークは科学者を気絶させて縛り上げたのち、その科学者の白衣を着て変装し設計局内部を進み、設計局地下にある施設へと辿り着いた。

 

 

しかしそこで待っていたのはソコロフではなく、レコードを流しつつスキットルでウォッカを浴びるように飲む、グラーニン設計局の局長───アレクサンドル・グラーニン本人だった。

 

 

スネークによる潜入はヴォルギンに知られており、そしてザ・ペイン敗北の知らせを受けた事でヴォルギンはグラーニン設計局に監禁していたソコロフの身柄を急遽移送したという。そのためスネークは、グラーニンからソコロフは既に設計局に居ないと聞かされ、ソコロフは何処に移送されたのかと尋ねた。

 

 

その途端にソコロフの設計したシャゴホッドによって、グラーニンは自身のあらゆる兵器設計・開発がヴォルギンの持つ"賢者の遺産"と呼ばれる莫大な資金──そこから出資されていた費用を全て打ち切られたが為に中断に追い込まれたと喚きちらし、酔った勢いかソコロフや軍上層部への恨みかスネークへと協力を申し出てきたのだ。

 

 

彼はスネークにソコロフが移送されたというヴォルギンの本拠地である大要塞グロズィニグラードへと通ずるルートを教えるだけでなく、そのルートである山岳地帯へ入るための扉の鍵すら渡してきた。

 

 

そうしてスネークはグラーニン設計局を後にし、山岳地帯へと通ずる扉があるという少し前に通った物資倉庫へと戻ろうとしていたところを、突如として新たな敵───コブラ部隊兵士による襲撃を受けた。

 

 

彼の周りを常人とは思えない速度で、うっすらとだが輪郭が見える透明な存在が木々の枝を跳び回っていた。しかもその存在は隙あれば次々と鋼鉄製の矢をスネーク目掛けて発射してくるのだ。

 

 

現に今も枝が揺れていた場所目掛けて牽制射を加えたスネークに対して、全く違う方向から矢が飛んできたのだ。間一髪、咄嗟に横っ飛びして矢をかわすが、休む間は無い。

 

 

「まだまだだ!さぁ、死ぬ気で避けろよ!」

 

 

密林に響く声の直後に連続してボウガンの弦がしなる音が聞こえ、スネークは伏せていた状態から即座に立ち上がると全力で駆け出した。

 

 

するとたった今スネークが伏せていた場所に数本の矢が刺さった。そしてそれだけに終わらず、今スネークが駆け抜けるすぐ後ろに次々と矢が刺さっていく。

 

 

スネークは倒れている倒木を飛び越えると、すぐさま倒木と地面の陰に横転で潜り込むが、それでも一息つく暇はないのだ。

 

 

グラーニン設計局の敷地を抜けて森林に入った瞬間をザ・フィアーに奇襲された時は、避けきれずに毒矢を太ももへと受けてしまった。何とか木々に隠れながらパラメディックの指示で事前に用意されていた複数の血清からザ・フィアーがわざわざ口に出した「クロドクシボグモ」という蜘蛛毒用の血清を打ったお陰で最悪の事態は避けられた。

 

 

ザ・フィアーがわざわざ自分に対して矢に塗られた毒の種類を言った理由───それは毒により死に至る経過を事細かに伝えてきたザ・フィアーが直後に言った「だがそれでは面白くない、まだ死ぬな」という台詞が物語っている。

 

 

ザ・フィアーは自らが戦場で見いだした『恐怖』の感情…それを徹底的に自分へと味わせようとしているのだ。

つくづくコブラ部隊の兵士はどこか頭のネジがずれているなと思わざるをえない。さて、まずは危急の問題がある。

 

 

当の血清がもう無いことだ。元々作戦地域に生息する毒を持つ生物ごとに複数用意していた為に、余分な量を携行することが出来なかったからだ。

 

 

一応敵の拠点等では医務室や保管庫等にそういった血清がそれなりに確保されているため、無くなった血清は補充すればいい。しかしそれはつまり、血清が尽きている今ここで次、あの毒矢を受ければ助からないということになる。

 

 

「居たなぁ!」

 

 

見つかった!───上から聞こえてきた声に確認する余裕もなく、真横に転がると自分が潜んでいた場所に矢が撃ち込まれた。すぐさま立ち上がると、真上目掛けて牽制射を行う。

 

 

「ぬぉっ!やるな!」

 

 

牽制射がうまくザ・フィアーを怯ませたらしく、あのうっすらとした輪郭のある透明な存在が自分の真上にある枝から、別の離れた枝へと跳んでいった。

 

 

それを確認し、近くにあった大木の裏へと移動した。そこからそっと顔を出して辺りを確認してみると、自分の近場の枝が僅かに揺れていた。

 

 

それが意味するのは一つだ。ついさっき離れていったように見えたザ・フィアーが、あそこにいつの間にかいたのだ。だが、とすると奴は今は一体どこに行ったのか…。

 

 

顔を戻すと、上から何かが微かに擦れるような音が聞こえた。即座に真上に視線を送ると、そこには今まさに自分目掛けてボウガンを放とうとするザ・フィアーが木に張り付いていた。

 

 

その瞬間、両手で握りしめたM1911を瞬時に真上に向ける。だがザ・フィアーは張り付いた体勢から既にボウガンを構えており、放とうとしている。

 

 

互いの視線が交差した直後、ザ・フィアー目掛けてサイトを中心へと合わせ、トリガーガードに添えて伸ばしていた人差し指をトリガーへと当て────弦がしなる音が鳴る。そして弦の音に一瞬遅れて3発の連射が響いた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──直後、

 

 

 

 

 

「ぐっ…!」

 

 

 

 

僅かコンマ数秒の間に起こった出来事───うめき声を挙げたのはザ・フィアーだった。透明な状態を解除し腹部を押さえながら、突然空中に垂れ下がった。スネークが発射した弾は3発とも、ザ・フィアーの腹部へと命中していたのだ。

 

 

そして、ザ・フィアーの放った矢はスネークの足元からわずか1cmのところに刺さっていた。ザ・フィアーの攻撃は外れた…しかし何故か?それは当人であるザ・フィアーのみにしか理解出来ないだろう。

そしてザ・フィアーはまさに今、命が消えるまでの僅かな時間を思考へと回していた。

 

 

 

「ッ…(外したか…申し訳ありません、ザ・ボス…私はここまでのようです………しかし、何故私は外したのだ…?奴の構える速度以前に私は既に奴を捉えていた…放てば矢は奴の額を先に貫いていた筈だ…何故…奴と私は視線を交わして…私は先に矢を………"視線"?)」

 

 

そこでザ・フィアーは辿り着いた…自身がスネークより先に攻撃しながらそれを外した理由に…。

 

 

「…("視線"か!奴の瞳を見て、矢を外したのか!奴の瞳に動揺してずれたのだ…ああ…『スネーク』のコードネームは只の名では無かった…奴の瞳に…私は恐怖を感じたから…外したのか!初めて感じたぞ!今まで敵にしか与えてこなかった恐怖を!これまでの恐怖など足元にも及ばん!まさに!!)」

 

 

スネークは、空中に垂れ下がっているザ・フィアーを警戒しながらゆっくりと足を進める。ここでスネークが気付いたのは、ザ・フィアーの背中や手足からは、何十本もの黒いワイヤーが伸びている事だった。

 

 

あの人間とは思えない身体能力は彼の素質だけではなく、あの幾つものワイヤーによるものだったのだ。だからこそまるで蜘蛛のように木を登り降りし、軽く見積っても数m以上ある枝と枝をいとも簡単にジャンプで移動出来たのだ。

 

 

むしろだからこそワイヤーを使っていたのだろうか?ならば、まさにドイツ兵達がザ・フィアーを糸を用いて獲物を狩るハンターに準えて蜘蛛兵士という渾名で読んでいたのにも納得がいった。

 

 

シギントからコブラ部隊兵士達の特徴や戦闘方法を聞いてはいたが、あの世界大戦でザ・フィアーに襲われたドイツ軍の兵士にとっては、まさに毒蜘蛛を彷彿とさせただろう。

 

 

そんな考えに耽っていたスネークの前で、突然ザ・フィアーは顔を上げてスネークを睨み付けてきた。そして、まるで自らが執着してきた感情の極致を見つけたかのように叫んだ。

 

 

「これだ…恐怖…恐怖だ!見えたぞぉ………恐怖(フィアー)がぁ!!!」

 

 

叫んだと同時の自爆。

 

 

ザ・フィアーの叫びで嫌な予感が脳裏をよぎっていたスネークは、彼の自爆と共に躊躇せずに大木の1つへと身を隠した。

 

 

それは正しい判断であった。案の定、ザ・フィアーはただの自爆では終わらなかった。自爆と共にスネークや周囲360度目掛けて、ザ・フィアーより下に位置していた辺り一帯にザ・フィアーが用いていた鋼鉄の矢が無数に飛び散ったのだ。

 

 

もしスネークが予感していなければ、もし予感に対して迅速に行動していなければ、スネークは今頃針鼠か剣山のような遺体となってこの場所に転がっていただろう。

 

 

戦闘による疲労と痛む傷のせいでここいらで一息入れて休息したいが、いつまた敵が現れないとも限らない。まずは倉庫へと戻ってからにしようと、スネークは歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Sideスネーク】

 

 

 

自分は決して周囲への警戒を怠っていた訳では無かったが、ザ・フィアーとの戦闘直後故の疲労から気付くのが僅かに遅れる。

その襲撃者は突然生い茂った木々の間から、常人が出せるとは思えない瞬発力で襲い掛かってきた。

 

 

それでも気付いてから回避動作までの動きは迷いなく、スネークは首を後ろに反らした──そして凄まじい速度で真横に振り抜かれた手刀がスネークの首を掠め、隣の大木の表面をごっそりと抉った。

 

 

もし気付くのがコンマ数秒でも遅ければ、少しでも首をそらすのが遅ければ、手刀は確実にスネークの喉仏を大木のように抉っていただろう。

手刀が掠った部分から血が垂れるが、スネークは気にするのを後回しに、M1911とサバイバルナイフを襲撃者へと向ける。

 

 

はたして、そこにいたのは屈強な体つきの兵士でも、特殊な装備を持った兵士でも無かった。

そこにいるのは女性だ。いや、女性は女性だが、かなり小さい。身長は150cm以下でしかないし、顔つきも成人どころか10代後半ですらない若さ。

 

 

極めつけはその口から放たれた、舌足らずな幼い言葉であった。

 

 

 

「…外したか」

 

 

 

それは幼女であった。どう見ても10才か、10才を1・2年過ぎただけくらいにしか見えない顔つきと身長の幼女だ。

 

 

だが街中や村でならともかく、こんな僻地のこんなジャングルの中にただの幼女がいる筈はない。

むしろ居たとしたら親に「育児放棄(ネグレクト)だ!しっかり子育てしろ!」と叫ぶだろう(ところでこの時代に育児放棄の概念はあったのだろうか?)。

 

 

少なくともこの幼女以外に先ほど自分の首目掛けて側面から手刀を繰り出してきた襲撃者は見当たらない。

 

 

そこまできて、その幼女の着る幼女には似つかわしくない、度重なる使用で煤けたのであろうフィールドグレーの野戦軍服──その二の腕付近に縫い付けられたワッペンに気が付き、叫んだ。

 

 

「その部隊章…お前もコブラ部隊か!」

 

 

幼女はと言うと、ようやく気付いたのかと言わんばかりの顔で喋り出す。

 

 

 

 

「私は、ザ・ピース。私の手刀を初見でかわした兵士は久しぶりだ…戦いに関しては流石ザ・ボスの弟子といったところか?」

 

 

その言葉から、やはり先の手刀は目の前の幼女が繰り出してきた攻撃だと確信した。しかしその事実に驚きは隠せない。

 

 

目の前の存在は本当にただの幼女なのか?先の大木の表面を容易く抉る手刀といい、拳銃を構えた目の前の自分に物怖じすらしない。

 

 

スネークは、今自分の目の前に立つ存在の名を反復した。どうやらまだまだここから逃げ出せはしないようだ…。

 

 

「お前が、ザ・ピース(平和)…!」

 




次回、ターニャのコードネームの由来を解説。


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13話

ピザモッツァレラ、ピザモッツァレラ


レラレラレラレラ


ピザモッツァレラ、ニョホッ♪


─グラーニニ・ゴルキー南の森林地帯─

 

 

 

 

森林地帯で、今まさに2人の人間が向かい合っていた。かたや髭にバンダナの兵士、かたや野戦服の幼女である。

 

 

「私はザ・ピース、あの地獄の戦いを生き抜いた1人だ。そこで私が見出だしたのは…」

 

「…ピース(平和)…!」

 

「そうだ、私は常に平和を求めていた。例え戦火に包まれていても安全な場所で安全な地位に就けば命の危機は少ない…そのためにあのクソッタレな戦争を戦い、生き延び、将来いつか訪れん平和を享受しようとした…だが戦えど生き抜けど地位を上げようとも世界は、私に戦争と地獄を与え続けてきた…平和を求めながら最も平和から離れた地獄へと、送り込まれ続けたのだ!」

 

「………」

 

「だが、あの戦いを最終的に生き延びた私は、ついに平和を享受した…誰もが退屈だという他愛の無い日常をな…命の危機を心配する必要のない暮らしを手にいれたよ…」

 

「お前は…」

 

「だが悲しいかな…なまじ地位と実績故に再び戦場へと送り込まれた。またあのクソッタレな戦場を駆け抜けねばならなくなった…だというのに……酷く落ち着いたよ…」

 

「銃弾と砲弾が飛び交い、泥や臓物、汚物にまみれた戦場で…私はまるで、自宅で寛いでいた時のような…まるで仕事から家へ帰ってきた時のような安堵と心地好さを感じたのだ…」

 

「戦場に安堵を…」

 

「皮肉だろう…まさに矛盾…平和を求めながら平和から最も離れた地獄で僅かながらも平和を感じたのだ!これが私だ!」

 

「蛇よ、貴様は戦場に何を求める?いや、何を目的とする?」

 

「…信じるものが目的だ、俺は兵士だ。任務遂行を目的とする」

 

「ならば掛かってこい!その任務のために!そして私は、貴様を倒し、再び平和を享受しよう!」

 

 

 

ザ・ピースの叫びが、戦いの幕を切って落とした。

 

 

ザ・ピースは、自らの背に背負っていた、銃身を短く切り詰めたライフルを取る。

 

 

スネークはその瞬間に横っ飛びで大木の裏へと隠れる。するとザ・ピースもスネークに顔を出させないよう牽制射をしつつ大木の裏へと移動した。

 

 

 

【Side スネーク】

 

 

初撃は免れたものの、早速互いの状況が膠着に陥ったため、迂闊に動くことが出来ない。

おまけにザ・ピースは人間とは…幼女とは思えない怪力を持っている。あの力なら、頭蓋骨を粉砕することすら容易いのだろう。

 

 

とにかく距離を詰められてはマズイ。まずはザ・ピースを決して近付けさせないこと、すなわち近接戦に持ち込ませないことが重要となる。

 

 

そこまで考えていると、先ほどザ・ピースがいた方向から木がひしゃげるような音が断続的に響いてきた。音に反応して咄嗟に身体をよじり、半身の体勢を取った。

 

 

丁度半身になった瞬間、先ほどまで自分の脇腹があった辺りを拳大の何かが通過していった。それはスネークのいる大木の反対側にあった別の大木に当たると、既に威力が弱まっていたのか大木の表面にめり込む形で止まった。

 

 

それは成人男性の頭サイズ程もある石であった。それがまさに今、スネークの側を大木をことごとく貫き飛んできたのである。

 

 

「チッ!(木の盾は無意味か…どうすればいい?)」

 

 

あの馬鹿力幼女への対応に思考を割いていると、無線にコールが来た。ザ・ピースからの攻撃を警戒するためにしばし辺りに気を配ったのち、未だに次の攻撃は来ないため多少の時間はあるだろうと、無線通信に入った。

 

 

<<スネーク、無事か?>>

 

「ああ少佐、だがまたコブラ部隊兵士に襲撃されている」

 

<<先ほどの会話は聞いていた。相手はザ・ピースだったか?>>

 

「そうだ。馬鹿力を持つ幼女だ…つい今しがたもボーリング玉サイズの石が大木を貫通しながらこっちに打ち込まれたところだ」

 

<<幼女?スネーク…いくらジャングルで女っ気が無いとはいえついに敵が女に見えだしたのか?しかも年端も行かぬ幼子に?

つまり何だ、幼女がコブラ部隊だと言い張って隠れた君目掛けて大木を幾つも貫通出来る勢いをつけたボーリングサイズの石を投擲してきたと言いたいのか?…よしスネーク、とりあえず私はこの任務が終了したら私が腕の良い精神科医を紹介するから君は…>>

 

「少佐!俺は真面目に話してるんだ!幼女だというのもボーリングサイズの石を投擲したというのも!」

 

<<落ち着けスネーク、ちょっとしたジョークだ。事前にコブラ部隊兵士の詳細情報は報告を受けていたから多少は知っているとも。

さてスネーク気を付けろ、そんなものをまともに受ければ助からん。それで、ザ・ピースは捉えたか?>>

 

「ジョーク…はぁ〜、分かったもういい。ザ・ピースとは互いに隠れたままだ。先ほどの石の攻撃も一回だけでまだ次は来てない。恐らくは向こうも手探りだと思う」

 

<<…よし、それならばまだ手はあるな。スネーク──決して負けるなよ>>

 

「分かってる」

 

 

少佐との無線通信を終えると、M1911を構えながら隠れていた大木から飛び出し、待ち構えていたザ・ピースがライフル弾、自分は拳銃弾を互い目掛けて撃ち込みながら密林地帯を駆け抜け始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side ターニャ】

 

 

「さて、とりあえずはこれでいいか…」

 

 

皆さん、こんにちは。現在進行形でグラーニニ・ゴルキー南側にある森林地帯にて、アメリカのエージェント・スネークと対峙しておりますターニャ・デグレチャフであります。

 

 

ヴォルギン大佐より御下命を受けつい先ほど到着し、襲撃の機会を窺っていたのですが、流石はザ・ボスの弟子といったところでしょうか?

 

 

さて、ある程度は抑えて、しかし確実にスネークの喉を抉る筈だった手刀は、彼の皮膚を掠めただけに終わった。この忌まわしい力は、初見で対処されたのはこれまでザ・ボス以外存在しなかった。だがそこにあのエージェントが今日加わったのである。

 

 

まぁそれは置いておくとして、現時点で最初の襲撃から既に10分が経過した。これは完全な殺意を以て戦っている訳ではないが、それでも10分もの間、スネークは私の攻撃を全てかわしつつ反撃を幾度もしてきているのだ。

 

 

事実幾度もの反撃を許した結果、45ACPを1発だが脇腹に喰らっている。最もこの忌まわしい力は身体感覚にも影響があるため、脇腹の傷は一般人の観点で言えば、小さな擦り傷がヒリヒリする程度なのだ。

 

 

まあ、そのお陰でこれといって作戦遂行に支障が無いのは幸いだが───全くくそったれだ。あのくそったれの悪魔が無理矢理私に能えたこのクソ忌まわしい力のお陰など…。

 

 

いかんいかん。今大事なのは作戦遂行である。とにかくあのアメリカのエージェントの実力は分かった。これならばある程度のサポートさえあれば問題なく彼は任務を達せられるだろう。ならばそろそろ、ここいらで"私(ザ・ピース)"の役目は終わりにしよう。

 

 

これからまた忙しくなる。"私(ターニャ)"として、最終目的に至るための仕事があるのだ。では、そろそろ…

 

 

私は胸元───すなわち心臓部分に"ある物"を滑り込ませた。…やはりブニブニベトベトと妙な感覚だ。それはそうだ、普通は"これ"をこんな事に使ったりはしない。妙な感覚なのも当たり前である。しかしあのエージェントに気付かれぬように死を偽装するには必要な事だと割り切る。

 

 

私は近場の茂みへと潜り込み、その場に腰だめでしゃがむと、茂みの中でライフルを構えてスネークが私の射線に入るのを静かに待つ。それから数分経った頃、スネークが辺りを警戒しながら大木から大木へと移動するのが見えた。

 

 

 

もう少し…もう少しだ………今!

 

 

私は射線に入ったスネーク目掛けてライフルを撃つ。当てる為ではない。一瞬気を此方に向けてもらう為だ。私の撃った弾が身体を掠めたスネークは私の射撃に気付き、こちらへと顔を向けた。

 

 

その瞬間、私は全力で駆け出す。そして首からかけたロザリオを握ると、唱えたくはないが必要であるため、心の中で憎悪と罵倒を渦巻かせながら、祈りを唱えた。

 

 

『主よ、我に力を…』

 

 

私は凄まじい速度で、1秒と経たずにスネークの数mほど手前へと移動を終えていた。そこから、ガバメントからナイフへと体勢を切り替え迎撃せんとするスネークへと飛び掛かるために地面を蹴る。

 

 

空中に躍り出た私はライフルに付いている折り畳み式銃剣を開くと、右手で槍を持つが如く握りしめながら、慣性の法則と重力によってスネーク目掛けて落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私とスネークの身体が鈍い音を立ててぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

互いの顔が非常に近くにある。鼻と鼻の距離など数cmもない。スネークの荒い息や汗・硝煙といった匂いまでもが分かるほどだ。そして、私の右手で握るライフルの銃剣はスネークの肩を浅く斬り裂いただけにおわり、逆にスネークのナイフは『根元近くまで深く私の胸に』突き刺さっていた。

 

 

私はこの結果にニンマリと笑みを浮かべた。そして空いている左手をスネークの後ろ頭に回すと、更に顔を近付けてやる。

 

 

そして言った。

 

 

 

「…私の役目は終わった…また会おう、スネーク」

 

 

 

そして言い終わると、スネークの身体に脚を押し付け、後ろへと目一杯跳ぶ。胸に深く突き刺さっていたナイフはスネークがしっかり握っていたことと私が目一杯飛んだ事で、ズルリと抜けた。

 

 

スネークから少し離れた辺りで、私は自らが持つ自決用爆弾を作動させた。

 

 

 

 

 

 

 

ザ・ピース!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side スネーク】

 

 

 

ようやくザ・ピースとの決着が着いた。彼女は茂みに潜み、1発だけ撃ってきた。それで弾切れだったのか、またはライフルが故障したのかは分からないが、撃った瞬間茂みから飛び出すと、最初に見た人間業とは思えない馬鹿力並みに非常識な身体能力で自分との距離を詰めてきた。

 

 

そして彼女は数mほど手前で自分目掛けて飛び掛かると、所持していたライフルの銃剣を開き、槍のように構えながら体当たりをしてきた。

 

 

結果は自分のナイフが彼女の胸───心臓に深く突き刺さった。彼女の銃剣は肩を浅く斬り裂くだけに終わったのだ。流石の人外染みた彼女とはいえ、ナイフを心臓に突き刺されればもはや終わりの筈である。

 

 

すると彼女、ザ・ピースは不気味なほど歪んだ笑みを浮かべたのだ。これが幼女の浮かべる表情かと若干だがおぞましさを感じた。そんな自分の後ろ頭を彼女は左手を当てて互いの顔を密着する寸前まで近付けてきた。

 

 

 

 

 

 

「…私の役目は終わった…また会おう、スネーク」

 

 

 

 

 

 

 

彼女はの口から出てきたのは、悪あがきや罵倒などではなく、その言葉だけであった。"また"とはあの世での再会か、はたまた宗教でよく云われる来世とやらか…そんな事をふと頭に思い浮かべていたスネークは、腹にそれなりに強い衝撃を受けた。

 

 

ザ・ピースはスネークの腹に脚を押し付け、自ら後ろへと跳んだのだ。ナイフはしっかり握っていたため、ザ・ピースの胸に突き刺さった状態からズルリと抜けた。

 

 

そしてザ・ピースが後ろへ跳び自分から少し離れた辺りで、ザ・ピースは消し飛んだ…。

 

 

彼女より前に戦ったザ・ペイン、ザ・フィアーらと同じく、シギントから聞かされていたコブラ部隊兵士が常に携行していたという自決用の爆弾───彼女、ザ・ピースはそれを使ったのだ。

 

 

…平和を望みながら平和から最も遠い場所で平和を見出だし、ついに平和を享受出来ない場所で終わりを迎えた…。

 

 

未だに様々な考えが頭を渦巻いている。平和、彼女の望み、最後の奇妙な突撃、彼女の言葉、そして彼女の胸にナイフを突き刺した時の違和感。

 

 

だがその考えを頭を振って隅に追いやる。既に時間を浪費しているからだ。自分の目的はまだまだ先にあるのだ。歩みを止めている訳にはいかない。

 

 

まずはグラーニンから教えられた倉庫の扉を通り、山岳へと通じるルートを目指さなければ。

 

 

そう言い聞かせながら、ザ・フィアー、ザ・ピースとの戦闘跡地、グラーニニ・ゴルキー森林地帯を後にして歩き出していった。

 




【ゲーム風対ザ・ピース戦】





『シギント』<<スネーク!ザ・ピースの使っている武器はGew43、ドイツ製のセミ・オートマチック・ライフルだ!ライフル弾を連続して撃ち込まれる間は隠れてやり過ごせ!木々を上手く遮蔽物にして、マガジンチェンジの瞬間を狙うんだ!>>



【ゲーム風ザ・ピース使用武器説明】





シギント<<Gew43を持っているのか?>>


「ああ、ザ・ピースが使っていた物だ」


<<そうか。Gew43はその数字が示す通り、1943年に配備が始まったドイツ製のセミ・オートマチック・ライフルだ。文字の"Gew"はドイツ後の"ゲヴェーア"──小銃のドイツ語読みの省略だ。分かりやすくいうなら"43年式小銃"とでもといったところか。ちなみにこいつは1944年には制式名称が「Karabiner43」に変更されたため、後期生産型の側面にはK.43と刻印されていたりする。まあ小銃でも騎兵銃でも刻印に違いがあるだけで性能に違いはないから、こいつは置いとこう。見たところ、そのGew43は従来の物より随分カスタマイズされてるな。まず銃身が通常サイズより切り詰められてるな。恐らくはザ・ピースの体格に合わせたからだろう。射程と反動制御を犠牲に取り回しの良さを追及したんだな。銃身下部には折り畳み式の銃剣…本来Gew43は銃剣の着剣装置を全て廃止してあるんだが、こいつは咄嗟の白兵戦を想定してのオリジナルカスタマイズか?どちらにせよこのGew43は遠距離や中距離の優位性を捨て、完全な近距離戦・近接戦を想定してのカスタマイズだ。恐らくは東部戦線や西部戦線で多数の市街地戦に参戦してたからこういった極端なカスタマイズにしたんだろうな。
Gew43の構造は、簡単に言うとGew41で採用されたフラップ・ロック式ロッキング・メカニズムに、トカレフ等のソビエト製半自動小銃に類似したガス・ピストン方式による自動装填システムを組み合わせたものだ。弾薬の装填方式は、固定弾倉式のGew41から着脱弾倉式に改良され、10発の容量を持つ弾倉を下から装填でき。また機関部後端右側面にはライフルスコープ用のレールが標準装備となっている。
こいつは古い型のライフルだし、接近戦カスタマイズだから使い道はかなり限られるだろうが、ザ・ピースが愛用していた武器だ。御守り代わりに持っていても損は無いんじゃないか?>>



【入手 Gew43】
ザ・ピースが使っていた旧式ライフル。持っているとスタミナが減らず、若干ライフの回復が速まる。


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14話

皆さん、クリスマスイブですね。

…クリスマスって何?食えるのそれ?


グラーニニ・ゴルキー(グラーニン設計局)は、兵器開発者であるアレクサンドルレオノヴィッチ・グラーニンに与えられた秘密設計局である。

 

 

秘密設計局ということから、ソ連領内でも木々が生い茂り偵察機による目視やカメラ程度の上空偵察では発見出来ないような深い森林地帯に建てられている。

 

 

つまり設計局と敷地以外はほぼ手付かずの自然なままの森林が広がっているのだ。だがその森林地帯の一角、グラーニニ・ゴルキーの南側に広がる森林地帯は、手付かずとは到底言えない有り様を呈していた。

 

 

立ち並ぶ木々は至るところが焼け焦げ、銃弾跡が蜂の巣のように点在し、破片や血の跡、空薬莢などはあちこちで見つかる。極めつけは周囲360度に広がるように木々や地面に突き刺さった鋼鉄製の短矢に、2つほどある軽自動車サイズの爆心地跡である。

 

 

この有り様を呈する森林地帯を見て「手付かず」や「自然の」と言える人間には、私としましては眼科か心療科をお勧めしたくなるところですね。

 

 

皆さんこんにちは、ターニャ・デグレチャフ少佐であります。よく映画では「残念だったな、トリックさ」みたいな気軽さで死を演じたりしますが、現実に死を偽装するのはなかなかに大変なものですね。

 

 

現在、スネークと戦ったグラーニニ・ゴルキー森林地帯にて、彼が去るのを待ってから隠れていた穴から這い出しているところであります。

 

 

 

 

 

─グラーニニ・ゴルキー森林地帯─

 

 

 

 

 

 

 

つい先ほどの戦い───スネークとの戦いで密着体勢から後ろへと跳び爆弾を起動すると同時に、私は地面に落ちる瞬間に思い切り地面目掛けて渾身のパンチを叩き込んだ。後は重機以上のパワーによって抉れた即席の蛸壺に爆発の際の爆風を受けて落下───スネークから見れば地面付近で私が粉微塵となったように見えた事だろう。

 

 

もっとも代わりに、起爆した爆弾の破片やら爆風で巻き上げられた周囲の小石などが身体の至るところに細々とした傷を残したりしてるので、あちこちがヒリヒリして鬱陶しいが…。

 

 

地面から這い出し終えると、胸元に忍ばせていた"ある物"を引っ張り出した。分厚い豚肉である。こいつこそがスネークのナイフを防ぎ、刃が心臓に到達するのを阻止した功労者である。

 

 

そんな功労者を私はその辺りに投げ捨てると、森林地帯の険しい道へと進み出した。豚肉に関してはそもそも役目を終えた無用の長物と化したし、そもそも私の素肌に密着していた豚肉など食べたいと思う輩は居ないだろう。

 

 

険しい道は、目的地へのショートカットルートだ。すなわちスネークが今目指しているクラスノゴリエ山岳地帯へのルートである。まぁ一般人からすれば道ではないのだが、私は昔からこういったのをやらざるを得なかったから慣れているので問題はない。

身体の至るところの傷に関しても1時間程度あれば治ってしまうだろうし。

 

 

むしろこの先にはまだ2人のコブラ部隊兵士が待ち構えているうえに、山岳地帯には私の部下を待機させているので、スネークのほうが私以上に大変な思いをするだろうが。

 

 

では皆さん、私はこれより山岳地帯を通りグロズィニグラードへと向かうスネークのために、色々と準備がありますので、また後程お会い致しましょう。

 

 

 

 

 

 

 

─ソクロヴィエノ─

 

 

 

 

 

 

 

一ヵ所に留まらず、無駄撃ちをせず、忍耐強い。

 

 

 

 

基本的に狙撃手(スナイパー)には高い技能が求められる。それは肉眼では捉えられない距離の先にいる標的を、確実に射抜くためである。

 

 

更に狙撃手は総じて忍耐強さを求められる。それは標的が、いつ狙撃手の狙う方向を通るか分からないからだ。場合によっては標的が通らず、空振りに終わることすらある。

 

 

 

だが、今スネークを狙う男は、そんな高い技能と忍耐を求められる狙撃手達の中でも3本の指に入る存在である。

 

 

 

 

ジ・エンド

 

 

 

 

大戦初期をソ連軍狙撃手として戦い、ソ連軍狙撃手の中でも最も多くのドイツ兵を狙撃した兵士である。もっとも彼の功績は本人が希望しなかったことと、上層部が祖国を守る英雄の象徴として掲げた赤軍狙撃手ザイツェフの存在によって、表の歴史には載らない。

 

 

だがその実力は本物である。むしろ彼の真骨頂は狙撃数ではなく、狙撃を成功させる為の技術にあった。まず彼はそれまでは単独行動が普通であった狙撃手の任務に観測手随伴を取り入れた。これは今後、狙撃手が狙う標的は銃の高性能化によってより遠距離になり、地形・風向き・気温・重力といった複雑な状況から最適な狙撃環境を整える必要が出てくるからであった。

 

 

そうなると必然的に狙撃手の負担が増す。それで肝心の標的を狙撃出来ないのは本末転倒である。ゆえに彼は観測手の必要性を感じたのだ(もっともそのジ・エンド本人は戦場を森林地帯に限定すれば、観測手無しで長距離狙撃をこなせる化け物なのだが)

 

 

他にもスコープレンズの反射を防ぐための塗装やギリースーツ等による高度なカムフラージュ方法、これまで対戦車ライフルとして用いられていた大口径銃を『対物ライフル』として新たに開発し、遠距離の対人狙撃に充てる基盤を考えたのも彼である。

 

 

そんな彼に軍関係者達が名付けたのは『近代狙撃術の父』であった。そしてこのソ連領ソクロヴィエノにて、スネークはそんな人外狙撃手によって狙われている状況にあった。

 

 

 

 

【Side スネーク】

 

 

 

 

迂闊に動くことが出来ない。だがここで留まっているのは迂闊に動くのと同じくらいに愚策であった。

 

 

このソクロヴィエノに入ってから聞こえてきたのは、ジ・エンドと名乗る老齢の男性の声だった。目視ではまず見つけられないほど先の距離にいる筈だというのに、ジ・エンドの声はまるで直ぐ近くにいるかの如く聞こえていた。

 

 

ジ・エンドの宣告を受け終わってすぐ、近場にある折れた大木の虚へと身を隠した。そこからジ・エンドの居場所を探るために少しばかり顔を出した瞬間、鼻先を弾が通過した。

 

 

外れたのではなく、わざと外したのだろう。恐らくジ・エンドは、自分が隠れた場所を見ていた。ならば彼は既にこの大木の虚辺りを監視している筈だ。

 

 

だからこそ動く事が出来ないのだ。そして動かずに持久戦に持ち込むのも愚策なのは、ジ・エンドの能力によるものであった。

 

 

EVAから聞かされたジ・エンドの能力───それは人間の身でありながら光合成をするというものであった。聞いた当初「化け物か?」と言ってしまうくらい衝撃的な話であった。

 

 

蜂を操る奴といい人間重機のような奴といい、なぜコブラ部隊にはこうも人外染みた技術と能力を併せ持つ兵士がホイホイ居るのか、神がいるなら文句の一つでも言いたくなるほどだ。

 

 

そんな頭を抱えたくなる状況の中、太陽の光がふと途切れだしたため空を見る。すると、先ほどまで晴れていた空に雲が掛かりだしていた。

 

 

それと同じくして唐突に雨が降りだした。どしゃ降りとはいかずとも、それなりに強い雨である。事前のブリーフィングでこの辺りは天候の移り変わりが多いらしいとは聞いていたが、その通りだったようだ。

そのため既に周囲の視界は目に見えて悪くなりだしている。だが同時にチャンスだと考える。

 

 

(これだけ視界が悪ければ、奴(ジ・エンド)も俺を見付けるのは容易ではない筈だ。奴の射線から移動するのは今しかない)

 

 

この行動は決して最良の手ではないかもしれない。しかし今雨が止んでしまえば、数少ないチャンスをふいにすることになる。持久戦では自分が不利なのだから。

 

 

そうして慎重に出てみると、ジ・エンドは撃ってこない。やはり強い雨で視界を遮られているのだろう。して、それは奴に近づくチャンスでもある。

 

 

ゆっくりと腰を屈めながら慎重に歩を進め、ついに崖の真下に潜り込んだ。そこからやや草が生い茂った獣道を使い、崖の上を目指して歩き出す。

 

 

最初のジ・エンドの射撃は上方からの攻撃であった。また弾が通過した直後に音が鳴り響いたことから、最低でも数百mは離れた地点からの射撃である。

 

 

そこから高確率で弾き出される答えは、崖の上である。恐らくジ・エンドは崖の上を移動しながらこちらを探している筈だ。ならばジ・エンドが待ち構えているという危険性があるとしても、自分も崖の上へと移動しジ・エンドの地の利を失わせる必要がある。

 

 

そもそも自分が持つ武器は麻酔銃とM1911にサバイバルナイフ、手榴弾だけである。遠距離を狙えるスナイパーライフルを持つジ・エンドと近距離戦闘にしか使えない自分の装備では崖下から崖上の相手と対等に戦うことは不可能だ。

 

 

ならばジ・エンドが待ち構えているという危険性があったとしても、奴に地の利を失わせなければ勝機はないということだ。しかしこういう事態となると、旧式のガーランドでもいいからライフルが欲しくなる。

 

 

だが無い物ねだりをしても意味がない。それ以前に、とにかくまずは崖の上へとたどり着き、何としてでもジ・エンドを見つけ出さなければならないのだから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─ソクロヴィエノ、ジ・エンドの襲撃から20分後─

 

 

 

 

 

スネークはようやくジ・エンドを見つけた。彼は最初に自分を襲撃した位置から、50mほど離れた草の茂みに潜んでいたのである。スネークがジ・エンドを発見出来た一番の要因は、一つだけ残っていた足跡の向きであった。

足跡が残らないよう移動したのか、または残った足跡を消しながら移動したのかは分からないが、その足跡だけがうっすらと地面に残っていたのである。

 

 

その向きからスネークはジ・エンドが潜んでいそうな茂みや岩影などを自分も身を隠しながら双眼鏡で探ったのだ。結果として、僅かに茂みから覗くライフルの銃口を発見出来たわけである。

 

 

そして今スネークはジ・エンドが潜む茂みの真後ろから、ゆっくりと足音を殺しながらジ・エンドのライフルが覗く位置へと近付いていた。そして彼の真後ろに立つと、拳銃を突き付けてホールドアップをした。

 

 

「終わりだ、武器を捨てろ」

 

 

しかしジ・エンドはうんともすんとも言わず、ライフルを構え続けている。スネークはジ・エンドが既に老体故に警告を聞き逃したのではと考え、今度はより響くように大きく喋る。

 

 

「ジ・エンド、武器を捨てろ!」

 

 

だが彼は答えない。ふと嫌な予感に駆られたスネークは彼のギリースーツの真ん中辺り───背中部分を踏みつけた。すると踏みつけた部分からは非常に硬い感触が返ってきた。

 

 

そしてそれが踏みつけられた衝撃でゴロリと転がると、そこにはジ・エンドは居なかった。ジ・エンドの身体だと思ったのは落葉や草を取り付けた布を被せただけの木の幹、そしてスナイパーライフルは破損したAKMを部分的に削りそれっぽく見せただけのガラクタであった。

 

 

罠!!

 

 

今まさにスネークは間抜けな獲物としてジ・エンドの仕掛けた単純なカムフラージュに引っ掛かったのである。コブラ部隊との連戦がスネークの正常な判断を鈍らせたのか、それとも慢心ゆえか、はたまたその両方か…。

 

 

ジ・エンドによる罠だと気付いた時には既に手遅れ───射撃音が響くと共に、スネークの肩に麻酔弾が撃ち込まれた。

 

 

「グゥッ!」

 

 

実弾ではなく麻酔弾とはいえ、麻酔薬を相手の体内に注入するためのデカイ針が付いている。肩にそれを撃ち込まれたスネークは、針が皮膚を貫き食い込む痛みに呻いた。

 

 

『"蛇"よ、それでもザ・ボスの弟子か!』

 

 

単純な罠に引っ掛かったスネークに対して浴びせられたのは麻酔弾だけではなく、森に響き渡るジ・エンドの叱責であった。

 

 

痛みを堪えながらスネークは近くの岩へと身を隠し、先ほど麻酔弾が飛んできた方向へとカバーアクションの体勢から右手に握るM1911を連射する。

 

当てるつもりではなく、とにかくジ・エンドに対する牽制になればとの考えからだろう。しかし牽制とは名ばかりの焦りに満ちた乱射への返答は、太ももへの麻酔弾であった。

 

 

「ガァッ!」

 

 

先ほど肩に受けた時と同じ激痛が太ももに走り、スネークはその場に倒れ込んでしまう。しかも状況はあっという間に悪くなる。

 

 

先ほど肩に撃ち込まれた麻酔弾の麻酔薬が身体に回り始めていたのである。倒れ込んだスネークは何とか身体を起こすものの、全身に気だるさと眠気が襲ってくる。

 

 

罠に掛かった際の攻撃───あの射撃を終えた時点で既にジ・エンドは射撃位置を変えていたのである。スナイパーは一ヶ所には留まらない。

 

 

秘密作戦に従事するエージェントとして、ましてやザ・ボスの弟子としてそんな当たり前の常識すら頭から抜けてしまっていたのである。この危機は今のスネークには、当然の結果であった。

 

 

『どうした?儂はここにいるぞ』

 

 

そうジ・エンドの声が響くと同時に、また別の方向から麻酔弾が撃ち込まれた。今度は腹部である。しかし麻酔針が刺さる激痛は、全身に回りつつある麻酔薬のためか感じない。

 

 

もはやスネークは銃を撃つどころか、自らの足で歩くことすら困難である。そしてそんなスネークに、ジ・エンドの失望に満ちた声が森から響いてくる。

 

 

『未熟者め…今の貴様は、本当の終焉には値しない…』

 

 

だが軽口の一つも返せない。事実スネークはこれまでのコブラ部隊との連戦で疲労してはいたが、同時に慢心していたからだ。ザ・ペイン、ザ・フィアー、ザ・ピースを相手に生き残ったことに自信過剰気味になっていた。

 

 

そしてそのツケがこれである。脅威的な実力のスナイパー、ジ・エンドによって次々と攻撃を受け、死期の近い芋虫のようなザマで岩にもたれ掛かっている。

 

 

終わりか…。

 

 

そんな弱気な考えがスネークの頭をよぎった…そこでスネークの傍の茂みがガサガサと揺れた。敵兵か野生の獣か、それは茂みから飛び出すとスネークの身体に自分の体重を乗せながら押し倒した。

 

 

その相手の顔を見た途端、スネークは先ほどまで麻酔で朦朧としていたにも関わらず、驚愕の状況から若干の覚醒をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は…EVAの…!!」

 

 




【歯車戦記版:コブラ部隊に関するシギントとの通信】



「コブラ部隊の隊員達の名前は、それぞれが戦場で抱く特別な感情からきているらしい」

「特別な感情?」

「ああ。至高の痛み、ザ・ペイン。真実の終焉、ジ・エンド。無限の憤怒、ザ・フューリー。至純の恐怖、ザ・フィアー。永久の平穏、ザ・ピース。そして無上の歓喜、ザ・ジョイ」

「ザ・ジョイ?」

「ザ・ボスのもうひとつの名だ。戦いに感じる喜びのことらしい」

「………」

「大戦中、彼女にはザ・ソローという相棒もいたらしい。哀しみと喜び。いいコンビだったという話だ」


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15話

まさかの風邪。

まだ喉が痛くて鼻づまりもあるけど、私は元気です。


「お前は…EVAの…!」

 

 

「はい、こんにちは。スネークさん」

 

 

 

スネークに体重を乗せながら押し倒した敵、それは廃工場にEVAが連れてきていた彼女曰く"護衛"の少女であった。

 

 

彼女はスネークの現状をじろじろと眺めると、ため息を吐いた。

 

 

「スネークさん、もし私が本当に敵だったら終わりですよ。それにスナイパーの基礎すら焦りで忘れるのはザ・ボスの弟子として、そもそも連戦での勝利から慢心を…」

 

 

まるで教師かスポーツコーチのようにスネークにやんわりとだが至極もっともなことをズバズバと突き付けてくる。

 

 

だが当のスネークはというと、少女のズバズバとくる説教中もジ・エンドに撃たれた麻酔弾のせいで、自力で足を動かすのが困難などころか眠気と気だるさで意識が朦朧としていた。

 

 

少女はスネークの状態を思い出したのか、「ああ、忘れてました」と呟きながら腰のバックパックから何かの錠剤を取り出した。

 

 

「気付け代わりです。飲んでください」

 

 

しかし少女がスネークの口に錠剤を入れて飲ませようとするが、麻酔で意識が朦朧としているスネークには自力で錠剤を飲み込む力はない。

 

 

さて………映画やアニメなら普通ここで献身的なヒロインだとか頼れる女相棒なんかが口移しで薬やら食事やらを男主人公(逆であれば女主人公に男)が飲ませたり食べさせたりしてくれるシーンが入るだろう。

 

 

しかし少女は「うーん、自力では飲めませんか。口移し──は絶対有り得ませんね。ファーストキスはやっぱり…」とブツブツ呟き、献身的介抱をするつもりは微塵も無いようだ。しかも、その中にはおもいっきり私的な理由が含まれている。

 

 

少しばかり悩んだ少女はふと『あ、そうだ良いこと思い付いた』みたいな表情を浮かべると、まずスネークの口内に錠剤を放り込んだ。そしてスネークの錠剤が入っている口に、腰から取り出した水入りの水筒をくわえさせる。そして水筒を支えつつスネークの鼻を摘まみ…

 

 

 

 

 

 

「ほいっと!」

 

 

 

 

 

 

勢いよく水筒を傾けて中の水をスネークの口内へと溢れるのも構わずグイグイ流し込み始めた。

 

 

当然いきなり口内へと大量の水が流れ込めば当然むせるし、スネークの身体も危険を察知して異物と見なした水を咳き込みなどで排除しようとするが、少女はそんなことには構わずありったけ流し込む。

 

 

ついでに鼻を摘まみつつ、スネークの頭をブンブン揺らしてシェイクしながらどうにか錠剤を飲ませようとする。救おうとしてるのか逝かせようとしてるのか分からないカオスな一進一退の十数秒間に渡る攻防は、スネークがゴクリと錠剤を水と一緒に飲み込んだことで終結する。

 

 

その数秒後、スネークは突如として身体に異変を感じた。急に身体のそこから突き上げられるような感覚と共に、全身に力が行き渡ってきたのだ。先ほどまで気だるさと眠気で朦朧としていた意識は爽快な朝を迎えた時のようなはっきりとした意識に上書きされ、自力で動かすのが困難であった手足は思い通りに軽やかに動かせた。

 

 

驚くスネークに対して、少女は錠剤の種明かしをしてきた。

 

 

「どうですか?アフリカである先住民の部族が代々使っているという実を混ぜた錠剤です。ただ劇薬なので過度な摂取は出来ませんが」

 

「ああ、ありがとう。ただ次はもう少しお手柔らかに頼む…しかし、君は一体どこでこんな薬を?」

 

「私ではなくドイツが開発した薬ですよ。そこで我々が実験も兼ねて」

 

「ドイツ…それは東ドイツがか?」

 

「ドイツはドイツですが…まぁそれは今後回しにして置いておきましょう。はい、気付け薬の次のプレゼントはこれです。どうぞ」

 

 

少女はスネークの疑問を今は関係無いと話を終わらせ、今度は自らが背中に背負っていたライフルを取ると、スネークに対して差し出してきた。

 

 

「これは?」

 

「SVDドラグノフ。ソ連が最近開発したばかりの新型セミオート・スナイパーライフルです。7.62mmのフルサイズ弾なので威力があるし連続した射撃が可能ですよ。流石に専門の狙撃銃ほど長距離射撃に優れてはいませんが、速射性と耐久性に重きを置いた優秀な銃です」

 

「すまない、有り難く使わせて貰おう」

 

「ふむ…もう大丈夫そうですね。では私はもう戻ります。一応EVAさんの護衛ですから、長い時間護衛対象の側に居ないのは周りから怪しまれるので」

 

 

少女はスネークにライフルを渡し、錠剤でスネークが大丈夫そうになったのを確認すると、帰る旨を告げて返事も待たずに先ほど出てきた茂みへと消えていった。

 

 

そこでスネークはふと気付いた。

 

 

「…また名前を聞き忘れたな…」

 

 

名前は聞き忘れたが、とにかく少女のお陰で麻酔の成分は身体から抜けたらしい。しかもソ連製の新型狙撃銃というおまけ付きである。漸くジ・エンドと対等に戦える態勢が整った。

 

 

「さて、ここまで支援を貰ったんだ。ここでThe・ENDになる訳にはいかないな」

 

 

スネークはそう一人ごちると、ドラグノフを握りしめ、ジ・エンドを打ち倒すべくソクロヴィエノの森林へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─ソクロヴィエノ:対ジ・エンド戦第二ラウンド─

 

 

 

『いいぞ、掛かってくるがいい!』

 

 

態勢を立て直し再び立ち向かってきたスネークに対して、ジ・エンドはその気概を称える。対等な武器を手に入れただけでなく慢心を消して慎重さを取り戻したスネークに対するジ・エンドの評価であった。

 

 

ジ・エンドから見ても、今のスネークは先ほどとは段違いである。標的たるジ・エンドを発見出来ない場合、スネークは数分感覚で次々と狙撃位置を変えていく。

 

 

これは次々移動することで発見されやすくなる危険を孕むが、代わりに敵スナイパーに狙い撃つチャンスを与えにくいことになる。

というのも全てのスナイパーが白い死神の如く、射界に入った瞬間にヘッドショット出来る訳ではないからだ。

 

 

それに加えて頻繁な移動とはいっても、その方法は匍匐や厚い茂みに潜みながらの移動である。そしてスネークもまたカムフラージュとして野戦服のあちこちに木々の葉や植物を差し込んだりしている。

 

 

もちろん狙撃位置から下がる時も後ろへゆっくりと匍匐状態で下がっている。今のスネークはまだ荒削りながらも、ジ・エンドは終焉に値すると見込んだ。

 

 

だからこそ彼も全身全霊で以て、スネークとの狙撃対決に臨んでいる。そしてそんな互いの狙撃手としての駆け引きが、かれこれ1時間は続いただろうか。

 

 

 

 

 

【Side スネーク】

 

 

 

 

スネークは遂に、これまで姿を見なかったジ・エンドを、初めてドラグノフのスコープの中心へと捉えていた。ジ・エンドは実に巧妙に高台の草むらに潜んでいた。

 

 

それを発見出来たのには訳がある。こればかりは恐らく、彼───ジ・エンドですら気付けなかったのだろう。いや、全てのスナイパーがまさかと思う筈である。

 

 

あるものが反射したのだ。だがスコープレンズではない。最初その反射に気付いたスネークはそれを想像したものの直ぐに違うと直感した。あれほどのスナイパーがそんな初歩的なミスを犯す筈がない。

 

 

だがそれ以上に好機であった。反射物がある場所にはジ・エンドがいたからだ。今度こそジ・エンドの罠ではなく、彼本人がスナイパーライフルを手にスネークを探していた。

 

 

スネークは息を殺しながら慎重にゆっくりと動きだし、側にある腰の高さほどの岩に腰だめで身体を隠す。そこからドラグノフの銃身を岩に載せて、射撃時の反動を軽減出来るよう安定した姿勢を取った。

 

 

風向きは無風状態、弾丸がジ・エンドの潜む地点まで届く際に落下していく慣性の法則を考慮して射角を数mmほど調整し、ついにトリガーに指を掛けた。

 

 

ジ・エンドの胴体部分にスコープの照準を合わせ、引き金を引こうとした────

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、ジ・エンドはスネークに気付き、スネークに対して銃口を向ける。互いにスコープの中に相手を捉えている。後はどちらが先に相手に弾を撃ち込むかであった。

 

 

第一射は同時である。ジ・エンドの弾丸はスネークの髪の毛を、スネークの弾丸はジ・エンドのギリースーツをかすっただけ。

 

 

第二射を放つため、ジ・エンドはボルトを引き排莢、更にボルトを戻し新たな弾を薬室に装填した。

 

 

だが、この時点で狙撃対決に決着が着いていた。ジ・エンドの使うスナイパーライフルはモシン・ナガンM1891/30。

帝政ロシア時代に採用され、第二次世界大戦、冷戦初期を生き抜いた傑作ライフルである。

 

 

しかし帝政ロシア時代から第二次世界大戦といえば各国の標準装備である歩兵銃は、そのほとんどがボルトアクションライフルである。すなわち一発放つごとにボルトを引いてから押すという行程を経て次の射撃が可能になるのだ。

 

 

そしてモシン・ナガンもその例に漏れず、ボルトアクションライフルである。構造、そしてボルトアクションという射撃システムによって高い精度を誇るモシン・ナガンだが、この1960年代、モシン・ナガンはソ連軍制式採用狙撃銃の地位を別のライフルに明け渡している。

 

 

すなわち、今スネークが用いているSVDドラグノフライフルである。両者は構造や外観も違うが、その最も大きな違いはひとつ────

 

 

モシン・ナガンはボルトアクションに対して、ドラグノフはセミオートなのである。つまりドラグノフはモシン・ナガンのように次弾を発射する際にボルトを引いて押すという行程を必要としないのだ。

 

 

つまりジ・エンドが次弾を発射するべくモシン・ナガンのボルトを操作している間、その間がたったの1秒間だったとしても、スネークがジ・エンドにドラグノフの次弾を発射するには十分であった…。

 

 

スネークのドラグノフがジ・エンドのボルト操作の間に次弾を発射。7.62mmの大口径弾は、対人であれば一発当たるだけでも十分な威力を発揮し、相手を戦闘不能に陥れる。

 

 

スコープでジ・エンドを見ていたスネークは、ジ・エンドが立ち上がると、よろけながら移動するのが見えた。ここで逃すまいと、スネークはドラグノフを背負いジ・エンドの後を追いかけだした。

 

 

だがジ・エンドはすぐに見つかった。高台から西へと進んだ地点、そこにジ・エンドはいた。よろけながら歩くジ・エンドは、木々が開けた場所で仰向けに倒れ込む。

 

 

スネークの撃った弾は、ジ・エンドの腹部に見事に命中していたのだ。腹部を押さえるジ・エンドの手の隙間からは大量の血が溢れ出している。

 

 

『森……達よ…がとう…ボス……素晴らしい…だ』

 

 

 

スネークのいる場所でははっきりとは聞こえないが、ジ・エンドは苦痛を堪えながらも何かを述べている。敵が生きている以上確実性を期すために止めを指すのが原則だが、スネークにはその気が起きなかった。

 

 

『思い……ない…これで…も……へ還れ…』

 

 

 

 

ジ・エンドの最後の思い…彼はそれを述べ終わり、満足したのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジ・エンド!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発がジ・エンドの身体を巻き込み、彼の遺体を消し去った。爆風に巻かれた木々や破片のようなそれらは森の中を回るように舞い、散っていった。

 

 

とうとうジ・エンドとの決着はついた。しかしまだ先があるのだ。スネークはコブラ部隊の天才スナイパーに敬意を示すと、ソクロヴィエノを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なおスネークはジ・エンドの名誉のためにも対決の勝利原因を伏せようと心に決めていた。

 

 

決して反射していたものが、スコープレンズや装備の金具ではなく、彼の見事に禿げ上がった頭皮だったなどということは絶対に無かった。決して絶対に頭皮の反射などは存在しなかったのだ。

 

 

 

そしてジ・エンドが命を落とす前に起爆させた自決用の爆弾が彼の遺体を消し去る直前、口から上下セットの入れ歯を戦闘機の緊急脱出が如く射出したりなんて状況も全く見ていない。ジ・エンドの入れ歯緊急射出なんて状況は決して絶対存在しなかったのだ。

 




【スネークを覚醒させた錠剤】
元ネタはガンアクション漫画PeaceMakerから。ホテルでのの襲撃及び作中の架空闘技GOD(ガンズ・オブ・ドミネイション)にてイズ・チャカカがハイマン・エルプトンに飲ませた実からです。歯車戦記ではその実を混ぜた錠剤という設定で出しました。なおPeaceMakerではどんな実なのか詳細説明がないので効能は捏造。


【ドラグノフ】
FPSでお馴染みの連発ライフル。W2000やM14EBR等と並んで有名ですね。黒い入江の運び屋さんが出てくる某漫画では元ロシア軍のマフィアが好んで乱射してる銃でもありますね。


【禿げと入れ歯】
ジ・エンド戦は特に入れ歯シーンが感動をぶち壊しに来ましたね。でもそういったのがあるからメタルギアは楽しい。


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16話

…アメリカはリベレーターを何の為に作ったんだろう?


─クラスノゴリエ山岳地帯─

 

 

グラーニニ・ゴルキーを発ってから約1日が経過した。スネークは疲労する身体に鞭を打ちながら、今現在、クラスノゴリエの山岳を山頂施設を目指し登っている。

 

 

この山岳に入る前、ソクロヴィエノの森にてスネークはコブラ部隊兵士の1人である近代狙撃術の祖と言われるスナイパー、ジ・エンドと戦い、彼を打ち破った。

 

 

その際スネークは、ある人物と再会した。ソ連の情報提供者として廃工場に現れたEVA───彼女が引き連れてきた護衛だという少女である。

 

 

ジ・エンドによるカムフラージュに騙され、麻酔弾を身体に受け、意識は朦朧とし、敵が用いるスナイパーライフルに対して、スネークが所持するのは拳銃であるM1911と近接武器のサバイバルナイフのみという、既に勝敗が見えていた戦い。

まるでそれを見越したかのように、野戦服に口元を隠す布といったあの時と同じ装いの少女が、ソ連製スナイパーライフルを背に担いで現れた。

 

 

さらに少女はスネークが陥る状況を想定していたのか、成分不明の錠剤をも携帯してきていた。ただスネークは麻酔のせいで自力では飲めなかったため、少女はスネークに錠剤を無理矢理飲ませた(尚、錠剤を口にふくませて頭をシェイクして飲ませるというやり方に、スネークは「他にやり方があるだろう」と思った)

 

 

だがそのお陰で麻酔の薬効は消え、少女から渡されたスナイパーライフルによってジ・エンドと対等に戦えるようになり、遂には打ち倒すことが出来た。

 

 

そして今、スネークは疲労した身体でありながらもクラスノゴリエ山岳へと辿り着き、EVAから合流地点に指定されている山小屋へと向かっていた。

 

 

 

 

【Side スネーク】

 

 

「少佐、こちらスネーク。山岳の山小屋がある地点に到達した」

 

<<よしスネーク、まずはEVAと合流するんだ。先は長いがまだフルシチョフから定められた期限まで時間はある。むしろザ・ペインにザ・フィアー、ザ・ピースにジ・エンドと4人ものコブラ部隊兵士とやりあってるんだ。山小屋で休息をとったほうがいい>>

 

「ああ、そうさせてもらおう。ところで少佐…ザ・ピースに関してだが…」

 

<<ザ・ピースがどうかしたか?>>

 

「ザ・ピース…彼女は本当に人間か?もし本当にコブラ部隊兵士として大戦を戦っていたとしたら…」

 

<<確かに!私もそれは気になっていたわ!>>

 

「うぉっ!?パラメディック…急に驚かすな」

 

<<ごめんスネーク、ところでザ・ピースなのだけれど、もし彼女が本当にあの大戦から生きていたとすると、もしかしたら彼女は『小人症』なのかも>>

 

「小人症?一体なんなんだ?」

 

<<小人症は、極端な低身長になる病気と言えばいいかしら?これは様々な原因によって低身長という表現型を示している疾患群で、骨系統疾患が多く含まれいて、その大部分は単一遺伝子疾患であることが多いわね。遺伝やホルモン・染色体異常などと様々な原因があるわ>>

 

「…成る程」

 

<<分かってないでしょ?とにかく、この小人症は珍しくしかも治療法が確立されていない病気なのよ。それに子供のような身長のまま成長しないから理解の無い人から差別を受けたりもするの。もしかしたら彼女もそうなのかと…でももし彼女が小人症等ではなく純粋にあの身体のまま…>>

 

「待て、パラメディック」

 

<<え、何スネーク?>>

 

「悪いが、俺が言おうとしたのは見た目とかじゃない」

 

<<え?>>

 

「ザ・ピースは、常人では出せないような化け物染みた力を持ってる。シギントから聞いたんだが、コブラ部隊が居た戦域で時折だが『まるで何かに殴り飛ばされたような戦車や装甲車の残骸』を見たという話があったらしい。つまりザ・ピースによる仕業かと思ったんだ」

 

<<あ、あらそうだったの?ごめんなさい、私つい勢いで…>>

 

「それでパラメディック、君は最後に何か言いかけてなかったか?」

 

<<ああ、確かに言いかけてたな>>

 

<<スネーク、少佐、それはもういいから…!>>

 

<<確か「もし小人症ではなく純粋に…」といった感じだったな>>

 

「パラメディック、もしかして君は…」

 

<<だから私は!>>

 

「よくある…永遠の命とか永遠の若さみたいな話に引かれたとかか?」

 

<<…ええ、そうよ。だって考えてもみてよスネーク!もし彼女が小人症ではなく自身の肉体組織を純粋に維持してあの若さを保っていたとすれば、老齢化による肉体能力の衰え等を抑えられる可能性もあるのよ。そこから老齢化による病気や症状を改善出来る治療法が発見出来るかもしれないし他にも…!!>>

 

<<あ〜スネーク、パラメディックは私が落ち着かせておく、君はそろそろ任務に戻ってくれ>>

 

「…了解した。まずは山頂の山小屋へと向かう」

 

<<ちょっと!聞いてるのスネーク!!>>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──グロズィニグラード──

 

 

 

「…決心はついたかね?ならば君は万が一の場合、先ほどの指示を実行したまえ。万が一が起こらなければそのまま我々と来たまえ。報酬は君の身柄の安全と家族との再会だ」

 

「本当に、家族に会えるのか?」

 

「嘘ではない。既に部下が本国に連絡を入れて、君の家族を保護している。君が決心したのであれば、後は君が我々と共に脱出し亡命するだけだ」

 

(…それに今回の問題はクレムリンも間違いなく隠したい事態だ。それを僅かにでも知る者が亡命するのは防ぎたいだろうが───たかが一兵士の亡命に過剰反応すれば、それこそいぶかしんだ第3者が裏を探ろうとしかねない状況を想定しない筈がない。結局のところ共産主義者共は多少の被害には目を瞑るしかないのだ…)

 

 

「…さて、話は終わりだ。君は持ち場に戻り、準備に掛かりたまえ」

 

「分かった。あんたを信じるよ」

 

「よろしい。それと、私がグロズィニグラードにいること…生きているということはくれぐれも漏らさぬように…な」

 

 

私との取引を交わし指示を受けた兵士は、持ち場である監獄へと戻っていく。さて、これで万が一問題が生じても、何とか立て直せるだろう。もし無理であれば、私が直接出るまでだが…。

 

 

ああ…早く目的を達したいところだ。上からの命令だとか部下の仇といった面もあるが、一番はやはりあのヘドが出るコミュニストの顔面に一撃をかませるのは痛快だからだ。

 

 

おっとこれは失礼、皆さん。どうも、グラーニニゴルキーではお付き合い頂き感謝を…ターニャ・デグレチャフであります。

小官は現在、スネークより先にクラスノゴリエ山岳を踏破し、ヴォルギン大佐の本拠地グロズィニグラードへと来ております。

 

 

もっとも小官は一応はコブラ部隊兵士としてグラーニニゴルキーで戦死した扱いですので、この小柄な体格を生かして潜入中───つい今しがたもスネークをサポートするべく、万が一に備えた根回しをしていたところでありました。

 

 

他にもスネークが潜入してくると目した地点の鍵や錠をとっ払ったり、グロズィニグラードに張り巡らされた排水溝の所々の網を撤去したりと大忙しです。

 

 

さて、現在私は今述べたように、スネークのグロズィニグラード到着を見越して、様々な裏工作や準備に入っていた。当のスネークもソクロヴィエノでは危なかったそうだが、それも思慮して送り込んだ忠実な副官が、しっかりと仕事を果たしてくれたおかげで、スネークは無事切り抜けたと報告を受けた。

 

 

ちなみにそういった様々な準備によるものと、スネークが予定より早くグロズィニグラードへ到着しそうなので工作や根回しを前倒しで進めていたために睡眠や食事の時間削減を喰った。その煽りで、私は現時点で飲まず食わずで睡眠も取っていない状態だ。

 

 

正直しんどい。これだけやって、しかしボーナスも特別休暇も無いのだろう。

飲まず食わずで寝る間も惜しんで命を掛けた強制的な仕事、だがそういった苦労に見合う対価は月々の公務員給与のみ。会社として考えるならばブラック企業である。

 

 

ああ…まだ亡命を受け入れてもらった頃は警戒されていたこともあるが、しっかりと事務仕事をしながら週休2日に加えて割増しされた給与に時折の旅行も許されていた…酒だってゆっくりしながら飲めたし、仮にアドバイザーとして戦場や紛争に駆り出されても砲弾を気にする必要のない安全な後方で睡眠が取れて食事もしっかりとした物を出されていた…。

 

 

なのにどうして私はいまこのくそったれコミュニストの国で裏工作やら根回しやらに飲まず食わず寝ずでかけずり回らなければいけないのか。酒は無味無臭のウォッカだし飯は基本的に冷えたマズいレーション。

 

 

ああ文明的な場所に帰りたい。暖かい食事としっかりした週休に寝床、ちょろちょろ寄ってくる部下が飼っている猫の喉を撫でながらソファーに身体を預けてもたれたい…。

 

 

…っと失礼。部下からの無線連絡だ。

 

 

「私だ」

 

<<失礼致します少佐殿、カイル上曹であります。クラスノゴリエ山頂にて"蛇"と接触しました。これより目標を地下坑道へと追い込みます>>

 

「よろしい。だが注意しろ。目的はあくまでも"蛇"を地下坑道へ誘導することだ。間違っても坑道ごと生き埋めになどしてくれるなよ?」

 

<<お任せを、コイツの操縦にはすっかり慣れました。トンネル潜りでもなければ問題なく行けます>>

 

「任せたぞ、私はまだ用事があるので、またな」

 

 

大戦以来、私の部下の中でももっとも航空機体の扱いに慣れた部下からの連絡によれば、スネークはクラスノゴリエの山頂にようやく辿り着いたらしい。

 

 

ここからグロズィニグラードへと潜入するルートは2つ───

 

ひとつは山頂の山小屋近辺にはいくつかなだらかな道があり、そこを通るルート。このルートは巡回の兵に発見される危険性はあるが、最も速くグロズィニグラードへと辿り着ける。

 

 

そしてもうひとつは、山頂からグロズィニグラードへと通じている地下坑道を通るルート。このルートは時間こそ掛かるが、地下坑道は巡回をほとんど配置していないため、比較的発見される危険性を持たずに潜入可能だ。

 

 

そして、私の部下がわざわざ襲撃を行ってまで地下坑道にスネークを追い込む理由は2つ。

 

 

ひとつは時間稼ぎのため。スネークより先に到着して根回しやら下準備はしていたものの、まだ幾つかやり残しがあるのだ。私は死んだ扱いである以上、隠れながら下準備をせねばならず、根回しは慎重かつ信用出来る奴を人選しなければならない。

 

 

もうひとつは、最後のコブラ部隊兵士である。火炎兵士ザ・フューリー…彼が扱う武器は、屋内や密閉空間にて最も凶悪な性能を発揮する。そんな彼が、クラスノゴリエの地下坑道にてスネークを待ち構えているのだ。実のところ、コブラ部隊兵士は皆、スネークとの対決を心待ちにしているのだ。

 

 

なにせザ・ボスが全身全霊で以て鍛え上げた唯一無二の弟子───それがあのスネークなのだ。彼女と共に戦ったウォーモンガー連中にとって、そんなスネークと戦うのは兵士としての喜びなのだろう。

 

 

だからこそ私も、コブラ部隊の一員としてお膳立てをするのだ………もっとも…たかだが地下坑道に追い込まれるためだけに、"重武装ヘリ"に追い回されるスネークにとっては、災難でしかないのだが…。

 

 

…っと失礼、また部下からの無線連絡です。

 

 

「私だ……よし、EVAは戻っていったか。で、スネークは?………グロズィニグラードを偵察して…ふむ…山小屋からまだ出てきていないか……いや、問題はないぞ。カイル上曹、山小屋目掛けてぶちかましたまえ」

 

 

 

 

 

 

では皆さん、私はこの辺りで失礼致すとしましょう。それではまた、グロズィニグラードにて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…それにしても腹が減った…

 




幼女戦記…早く第2期やらないかな…


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17話

どうにも描写が上手くいかず、書き直しを繰り返してて遅れました。
もし読まれていて、「ここの描写が全然一致しない」みたいな箇所がありましたら、指摘お願い致します。


※2018年4月8日
後書きの設定にて、『愛国者』を『賢者達』に修正しました。



─グロズィニグラード・監獄区域─

 

 

 

 

 

 

人体を力任せに殴り付ける音が響き渡り、殴り付ける音の度に掠れるようなうめき声が聴こえる。

 

そこでは1人のスーツ姿の中年の男が、もう1人の軍服を着た大男により幾度となく殴りつけられ、蹴りあげられ、痛めつけられる光景があった。

 

軍服の大男はヴォルギン大佐、スーツ姿の中年男はグラーニンである。

ヴォルギンの拳がグラーニンの腹部にめり込み、グラーニンは地面に這いつくばると、腹の中身を地面へとぶちまけた。嘔吐と腹部の痛みから中身を全て吐き出してえずくが、ヴォルギンのそばにいた髑髏と羽根のワッペンを着けた兵士2人が、彼の両腕を掴むと無理矢理立ち上がらせる。

ヴォルギンはグラーニンの頭を鷲掴みにすると自分へと顔を向けさせながら言う。

 

 

「そろそろ腹の中身だけでなく、心の中身もぶちまけたらどうだ?さぁ、言え!アメリカのエージェントに協力してる奴は誰だ?奴は何を目的にしている?」

 

「…ぐぉっ…はっ…はっ…誰が言うか、大佐。貴様はスターリンと同じくこの国を蝕む癌だ!儂を利用しおって!あの新型ヘリとて儂が開発してやったというのに、貴様はその途端に儂をお払い箱にしおった!挙げ句シャゴホッドなぞという下劣な兵器に資金を回しおって、恥を知れ!」

 

 

グラーニン男は大男の言葉に対して唾を吐くように罵倒を返した。ヴォルギンはそんなグラーニンを見て口の端を歪めると、頭を鷲掴みにする手を離して、彼を掴む兵士に顎をしゃくって合図した。

その途端、彼の腕を掴んでいた兵士の1人が彼の鼻を人差し指と中指で挟み込むとギリギリと締め上げてから、一気に鼻を捻り上げた。

 

 

「ギャアァ!!」

 

 

鼻骨を力任せにへし折られたグラーニンは、激痛に叫びを上げた。

 

 

だがそれだけでは終わらず、もう片腕を掴む兵士がグラーニンを軽々と持ち上げた。

グラーニンには必死に暴れるも兵士は彼を落とすことなく運び、近くの中身が空であるドラム缶へと頭から無造作に放り込んだ。

けたたましい叫びと罵倒がドラム缶から反響する。ヴォルギンはそれを見るとニヤリと笑いを深め、ドラム缶へと近付く。それを見た兵士2人は、ヴォルギンから離れて監獄区域を出ていった。

 

ヴォルギンはドラム缶前までくると、腰のポケットから金属製の細長い筒───ライフル弾の薬莢を取りだし、自らの指の間へと挟み込む。

彼が拳を握ると、ライフル弾の薬莢はまるでメリケンサックのように指の間から飛び出しており、見る者に恐怖感を与える。

 

ヴォルギンはこれから自らが為すことを想像したのか、狂喜的な表情を浮かべながらドラム缶の周りを歩き出した。そしてピタリと足を止めた途端に、自らの身体に電撃を纏う。先ほど出ていった2人の兵士…彼らはこれからヴォルギンが行おうとしている尋問の名を借りた行為を悟って、"見る気はない"と出ていったのだろう。

ヴォルギンは拳を構えて腰を落としながら言った。

 

 

「さて、ドラム缶にこもった芋虫はどんな鳴き声をあげるかな?息があるうちに話したほうが身のためだぞ…クククッ、まだまだ終わらんからな…」

 

 

ヴォルギンの言葉を皮切りに、監獄区域に金属を殴り付ける音が幾度となく響き渡り出した…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side オセロット】

 

 

 

 

「それで、グラーニンは何か吐きましたか?」

 

「いや、その前に死んだ」

 

 

あれから半時、この監獄区域へと訪れると自分の眼前には、身体のあちこちから血を流し肉の焼ける不快な臭いを漂わせるグラーニンの死体が転がっていた。

 

いくばくかのやりとりをした後、同志を片端から疑い情け容赦なく殺すことを当たり前のように言うヴォルギンに対して「こんなやり方には納得出来ない」と詰め寄るがヴォルギンは上官であり司令官たる自分の命令だと威圧してくる。

 

自分とヴォルギン大佐、互いに一触即発の雰囲気を漂わせるが、それはある人物が現れたことで霧散した。

 

 

「部下を疑いだすとキリがない」

 

 

ザ・ボスである。彼女が現れた途端に互いに一触即発の雰囲気を抑えたのは、ひとえに彼女の存在があるからだ。今回の亡命において新型核兵器を持ち出し、更にはCIAの裏を知り尽くす非合法特殊部隊幹部らに加えてその隊長すらソ連側へと引き込んだ手腕の持ち主───なにより大戦を戦い抜いた特殊部隊の母という猛者相手では例え力自慢の兵士が1個小隊で全力で掛かっても捻り潰されるのがオチだ。

 

特にヴォルギン大佐はザ・ボスの気迫に常に気圧されていた。彼女がその鋭い眼光で一睨みするだけで、ヴォルギンはあっという間にたじろぎ、しどろもどろな口調になってしまうのを自分は何回も見ていた。

 

 

「少佐、何事かね?」

 

 

突然ザ・ボスが現れたことにヴォルギンが訳を訊ねると、ザ・ボスはヴォルギン達の手前へと3つの物を投げ出した。

クロスボウガンにナイフ、認識票である。ザ・フィアー、ザ・ピース、ジ・エンドの持ち物だ。まだ彼らが死ぬ前に、チラリとだが見た覚えがある。

 

 

「ザ・フィアー、ザ・ピース、ジ・エンドが殺られた」

 

 

やはり間違ってはいなかった。彼らが殺られたというザ・ボスの言葉…そして投げ出した彼らの持ち物。要は遺品である。そしてザ・ボスがヴォルギンに告げたコブラ部隊敗北の報せ、それを聞かされて冷静でいられるヴォルギン大佐ではない。

額に青筋を浮かべて歯を食いしばり、電撃を纏う拳をドラム缶へと怒りに任せて降り下ろした。

 

 

「アメリカの犬め!!」

 

 

既にほとんどのコブラ部隊兵士が命を落とし、残るはザ・フューリーのみである。相手はザ・ボスの弟子であったエージェント…自分とて簡単に仕留められるとは考えておらず、ある程度の被害は覚悟していたが現実は、伝説のコブラ部隊がいとも簡単に倒されていくというあまりに予想外だと言わざるを得ないものだった。

 

だが同時に喜びを感じてもいた。なにせスネークは自分に二度も恥をかかせた相手だ。そんな相手が同志やコブラ部隊とはいえ、他人の手にかかって死ぬのは納得いかない。奴の命はこの自分の手で奪う!

それは自分の恥をすすぎ、同時に自分よりも強い兵士を打ち倒したという自負になる。

 

 

「…ヴォルギン大佐、ザ・ピースを私に断りなく動かしたと聞いたが?」

 

「むぅ!?」

 

 

だがザ・ボスの追及がオセロットの内心での決意を込めた思考を打ち切った。ザ・ボスは部下たるザ・ピースをヴォルギンが勝手に動かしたことを問い詰めるような視線をぶつけている。

 

そして当のヴォルギン大佐はザ・ボスの追及に閉口してしまい、まるで悪戯がバレて母親からの追及に反論出来ず黙りこんでしまった子供のようなヴォルギンの醜態に、先ほどの確執もあって僅かながらも鬱憤晴らしが出来ていた。

元々ヴォルギン大佐自体に好感を持てないでいた。要するに馬が合わないのである。

 

そんなヴォルギン大佐だが、ザ・ボスの前ではまさに子供同然。断りなくコブラ部隊兵士を動かし、死なせるという状況を引き起こしたという事実もあり、何も言い返せない。

しかしザ・ボスの追及は、ザ・ボス自身がヴォルギン大佐の弁明を聞く前に切り上げた。彼女は大佐に対して「もういい」と一言だけ返す。

 

そのやり取りを見ていてふと思う。追及を切り上げたザ・ボス───それは果たして大佐のまともな言い訳を期待していないからか、追及したからとて部下が還ってくる訳ではないからか…もしかしたら、"あの女"が来たからか…?

 

そんな思考にふけるが、気がつけばザ・ボスは馬へと跨がりながらヴォルギンへと基地の警備強化を促していた。

ザ・ボスはアメリカのエージェント、スネークが必ずグロズィニグラードへたどり着くと確信しているようだった。

それは自分も同感である。いや、むしろ絶対にたどり着いてもらわなければならない。

 

そこでヴォルギン大佐はザ・ボスへと自らの疑問をぶつけていた。何故アメリカのエージェントは送り込まれたのか?ソコロフだけが目的とは思えない、と。

 

「アメリカの目的は2つ…私の抹殺と大佐が持つ…"賢者の遺産"」

 

それを聞いたヴォルギン大佐の顔は、面白いくらいに憤り、焦り、恐怖が入り交じった表情を醸し出していた。やはりヴォルギン大佐にとって"賢者の遺産"は、自らの命と同じくらい大事らしい。そんなヴォルギン大佐が守ろうとする"賢者の遺産"。

一体どこに隠されているのか…愉しくなってきたものだ。

 

馬を走らせて去っていくザ・ボスの後ろ姿を眺めながら、オセロットは口元を吊り上げていた。

さて、まだ片付いていない問題がある。そう"あの女"…それはソコロフの愛人タチアナである。眼鏡を掛けた事務的な軍服を身に纏う彼女は、つい先ほどこの監獄区域へとふらりと現れた。ヴォルギン大佐とザ・ボスのやり取りが終わったのを見計らってか、いつもの控えめな態度を取りながら近付いてきたタチアナに、オセロットは元来大部分の女性に抱いていた感情も相まって強く叱る。

 

 

「どこに行っていた!」

 

 

このタチアナという女性は、元はソコロフの愛人であるが、今はヴォルギン大佐の秘書兼愛人となっている。変態的な性的嗜好を持つヴォルギンが彼女を見るなり、自分が頂くと宣言したからだ。故に本来なら彼女は"行為"の時以外はヴォルギンの秘書として彼に付き添う筈だ。

 

しかしタチアナは時折居なくなることがある。基本的に自室に篭り1人でゆっくりしているとは聞いているが、自分はもちろんヴォルギンも他の兵士たちも見たことはない。それはすれ違いだったり女性のプライバシーだったりと言われるが、その本当の理由は…

 

 

「え〜と、お邪魔でしたか?」

 

 

そう、この少女だ。ヴィクトリア・ティクレティウス…ザ・ボスが連れてきたCIAの非合法部隊(ゴースト・カンパニー)の構成員。そしてザ・ボスと今は故人となったザ・ピースの推薦で、この少女はタチアナの護衛として動いている。

 

もっとも喋り方や顔立ち以前に、ティクレティウスという名前は偽名だろうと推測している。グラーニニ・ゴルキーで戦死したコブラ部隊兵士であり、非合法部隊の隊長でもあったザ・ピースことターシャ・ティクレティウス…あの幼女の皮を被った化け物と同性など、わざとらしく偽名だと宣言しているようにしか思えない。

もっとも、コブラ部隊兵士と特殊部隊の母からの信頼を受け、雌犬共のように香水やら化粧やらをしていないという点から、偽名や偽りの素性を含めても少女をそこまで嫌ってはいなかったりするのだが…。

 

さて、タチアナが自室に篭ること。それ自体は知られていても、どう過ごしているかまでは誰も知らない理由───それはヴィクトリアがいるからであった。

ヴィクトリアは毎回タチアナが自室で休む際には、部屋の扉前に立ち常に誰も立ち入らせない。

 

例えヴォルギンが訪ねてきたとしても彼女は、タチアナの自室には決していれようとはしないのだ。ある意味警備や護衛に携わるものの鏡だ。

そしてその少女、ヴィクトリアが来た理由は一つ───タチアナを連れていくためだろう。だが自分の用事はまだ終わっていない。

 

地面に落ちていたザ・フィアーのものであったクロスボウガンを拾い上げると、ガンアクションの要領で弄びながらタチアナの周りを回る。

それは以前から抱いていた疑問だ。タチアナが自室に長時間籠る理由…そしてヴィクトリアが休憩中のタチアナの部屋へは決して誰も立ち入らせない理由…それは…

 

一瞬の隙をついたのはお互いだった。自分はタチアナが見せた隙を狙い彼女の首筋にクロスボウガンの先を突き付ける。

今引き金を引けば、至近距離から射出された薄い金属程度なら軽々と撃ち抜く威力を持つ鋼鉄の矢がタチアナの喉を貫き、その足元を血の海と変貌させるだろう。

 

だが代わりに自分はミンチになる。ヴィクトリア───彼女は自分がタチアナにクロスボウガンを突き付けるのとほぼ同じタイミングで腰のベルトから手榴弾を取りだし、間を置かずに安全ピンを抜いていた。

自分がタチアナを殺せば、ヴィクトリアは手榴弾のセーフティピンを押さえる手を離して、自分目掛けて手榴弾を投げ付けてくるつもりなのか。

 

脅しか本気か…たかが女1人、しかも護衛と護衛対象という間柄以外は無関係なタチアナの仇をとるためだけに、ヴィクトリアがそんな行為に訴えるとは思えないが…まあ良い。

 

いずれスネークに協力している存在は正体が明かされ、タチアナもまた何を隠しているかはしらないが尻尾を出すだろう。ヴォルギン大佐は冷戦を、そして諜報合戦を『殺るか殺られるか』と言い表したが…。

本当の諜報合戦とは『いかに相手を出し抜き、自身に都合良い局面を作り上げるか』だ。

 

自身の目的を悟られず、最終目的のために様々な手段を講じる。それに何も自ら手を汚したり、都合良い局面を作ろうと四苦八苦する必要はないのだ。

偽装の目的を可能性が高いものとして相手に信じさせ、実際に自身が望む手段を相手が取らざるを得ないようたどり着かせてやればいい。

例えば破壊が目的なら、敵には奪いとって使うつもりだと思わせるのだ。そうすれば敵は使わせまいと守ろうとし、無理であれば破壊という手段に訴える。

これで終わりだ。自分は手を汚したり破壊のために四苦八苦して行動する必要はない。相手がそう思い込み、自ら泥沼に嵌まりこんだだけなのだから。

 

───ならばもういいだろう。そう決めるとタチアナの首筋に突き付けたクロスボウガンをずらすと、タチアナに言う。

 

「良いブーツだ…きちんと掃除しておけよ」

 

タチアナのブーツのつま先についていた泥汚れを指摘してやる。内勤の人間が、しかもほとんどを施設内で過ごしている筈の秘書がブーツを、しかも山岳でも歩いたかのような汚れをつけている筈がない。

 

そしてやはり…自分がタチアナのブーツの泥汚れを指摘した瞬間───自分でもよく気付いたものだと自画自賛したいくらいにほんの僅かな一瞬だが、ヴィクトリアの顔が「なぜ証拠を残してるのか」とでも言いたげに忌々しげな歪みを浮かべていた。

 

どうやらヴィクトリアは兵士としての能力は高いようだが、腹の探りあいやポーカーフェイスは不得手らしい。

だがそのお陰でタチアナは尻尾を出した。あとはどのタイミングで尻尾を掴み、穴ぐらから引き摺りだすかだけだ…。

 

タチアナとヴィクトリアをそのままに監獄区域を後にする自分の胸中には、これから先、ほぼ確実に起こるであろう状況を思い、高揚感が渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

待っていろ…スネーク!

 

 




【非合法部隊】
以前に出した架空のCIAお抱えの特殊工作部隊。歯車戦記世界では幾つかの非合法作戦に関わってる設定。ケネディ大統領暗殺を仕組んだのもこの部隊。

*賢者達がCIAに指示→CIAが非合法部隊に指示→非合法部隊、主に隊長は心中嫌々ながら作戦実行


【オセロット】
ネタバレ注意!MGS初見でネタバレ駄目な方は、見ずに早々に次のページにどうぞ。


あの時代からトリプルクロスとしてEVAを出し抜いてCIAに遺産が渡るよう仕組めるくらいだから、諜報合戦にしても自分の手を汚さず相手が勝手に自分が目指す目的を達成してくれるよう誘導するくらい訳ないだろう───そんな感じでオセロットを描写しました。やたらオセロットの心中描写や内心発言多くてすいません<(_ _*)>。


【ターニャ】
早く話をターニャ視点にしたいみょん…


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18話

①何かシリアスとギャグが変な感じに混じった形になってしまいました。奇妙に感じられた閲覧者の方々、申し訳ありません。

②次回からようやくターニャ視点に戻せます。


※コードネーム修正+再投稿しました。


─クラスノゴリエ山岳地帯山頂・山小屋─

 

 

 

 

 

1人の男が身体を伸ばしたり捻ったりしながら、パイプで組まれた古びたベッドに座っていた。

首を回すとゴキゴキと骨が良い音を立てて鳴り、首回りの重い感覚が薄れたのか男はリラックスした表情を浮かべた。

 

一通りストレッチし終えると男は、土が剥き出しの床に木片や燃えそうなクズゴミを集め出す。集め終えるとマッチを取り出して火を点けた。

マッチによって灯された火がチロチロと広がり出すのを男は確認すると、山小屋の棚や引き出し等から、初めからこの山小屋で使うために用意されていたのであろう小さな鍋や食器や水の入った缶やらを持ち出してくる。

男は小さな鍋に缶から水を注ぐと小さな焚き火くらいに広がった火の上へとかざすと、そのままじっと待つ。5分も待つと鍋の水は沸騰し、ボコボコと小気味よいリズムが鳴る。

 

そこで男が取り出したのは、手のひらサイズの四角形の袋。その袋の表面には見るだけで食欲をそそりそうな湯気が立つ麺料理のデザインが描かれており、男はまだ中身を取り出してもいないのに、料理の完成が待ち遠しいとばかりに顔をニヤけさせた。

 

男は一度鍋を焚き火から外して床に置くと、袋を破いて中身を取り出した。中身は袋の形のように四角形に絡まった乾燥麺と、小さな鈍色の袋───男は再び鍋を手に取ると、乾燥麺を中に放り込んだ。それから再び鍋を焚き火にかざす。

 

それから3分後、鍋に放り込まれた乾燥麺は熱湯で煮られたことで程よい具合に茹で上がり、それだけで男は唾を飲み込んでいた。しかしまだ料理は完成していないためか、男は再び鍋を床に下ろした。

 

そこで男が手に取ったのは先ほどの乾燥麺と共に袋に入っていた鈍色の小さな袋。彼はそれを破ると、中身を鍋の中へと一気に投じた。袋からは茶色い粉末がサラサラとこぼれ落ち、鍋の中にある沸騰した水を艶のある油が浮く薄黒いスープへと変えていく。

だが途中喧しい音が響いて小屋の鉄格子の着いた窓枠から勢いよく風が吹き込んだため若干茶色い粉末が吹き飛ばされてしまい、男は舌打ちをかます。

 

予想外の邪魔な風があったものの茶色い粉末はそのほとんどがしっかりと鍋の中に溶け込んだため、男は食器の中からフォークを取ると、鍋の中の茹で上がった麺とスープをかき混ぜる。山小屋に広がるのは焚き火の熱と煙だけであったのが、脳の感覚を麻痺させるような奥深い香りで満たされていく。それは日本という国のみでしか味わえない料理の香りである。

 

芳醇な出汁と醤油ベースのスープが茹でられた麺と共におしどり夫婦となる彼の国が世界に宣伝するもの───この料理の起源とされる国すら遥か彼方に置き去りにして真理を追及する料理人らによって極められた麺料理、その名も…ラーメン!!

 

…何やら先ほどから山小屋の外をバタバタバラバラと喧しい音が響き渡っているが、男はそんな雑音を無視して、勢い良く鍋からスープが絡んだ黄金色の麺を掬い上げた。

 

 

 

 

『美味すぎる!!!』

 

 

 

 

その一言を我が身を以て体現し、叫び、味わわんと男はフォークで掬い上げた麺を豪快に口へと運び込み──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───直後に山小屋は、惜し気もなく次々と放たれたロケットポッドによる挨拶を受けて、盛大に月までぶっ飛ばされた。

 

パラパラカランカランと山小屋だったものの残骸が燃え盛る炎や火花と共に辺り一帯に降り注ぎ、つい今しがた山小屋があった場所は更地となっていた。勿論あの芳醇な香りも全て炎の煙と火薬の匂いに上書きされてしまい、跡形も残っていない。

 

その惨状を産み出した張本人たる存在が、大声で喋らなければ近距離でも聞き取れなくなる程の轟音を響かせながら山小屋の残骸へと接近していた。

 

 

ミルMi−24ハインド────それが轟音を響かせる最新型戦闘ヘリの名称である。ずんぐりとした胴体を持つヘリは、GRUに籍を置くヴォルギン大佐がどこからか莫大な資金を投じ、グラーニン技師を含めた陣営により開発が行われた。

 

そしてその研究の行き着いた先が、この空を飛ぶ歩兵輸送戦車とでも名付けられるような化け物ヘリであった。ヴァーチャスミッションにおいてソコロフの設計局を襲撃し徹底的に破壊したのも、重量のあるシャゴホッドを輸送出来たのもこのヘリあってこそのものだった。

 

そしてその怪物が今、山小屋にいた人物への刺客として、差し向けられたのである。

 

 

 

 

 

【Side スネーク】

 

 

 

<<スネーク!どうした、応答しろ?!>>

 

「…大丈夫だゼロ少佐。だがマズイことになった。例の新型ヘリが攻撃してきた」

 

<<新型ヘリ…例のMi−8ヒップの武装バリエーションか?>>

 

「いや、ここから見える限りだが全体的に形が違う。スタブウィングが付いているし、コックピットも角張ったグリーンハウスのようだ」

 

<<スネーク、シギントだ。恐らくそいつはソ連が最近開発してるという空飛ぶ歩兵戦闘ビークルだ。連中、あんたの与える被害に堪えかねて、わざわざその新型ヘリを送り込んできたみたいだ>>

 

「空飛ぶ歩兵戦闘ビークル?」

 

<<ああ、つまりは兵員輸送車───ソ連のBMPなんかが解りやすいか?あれのヘリバージョンだ。火力と兵員空輸能力を掛け合わせた兵器をソ連が研究しているという話は聞いていた。恐らくあんたを襲ってるMi−8ヒップのようなヘリが、それだろう>>

 

「ヒップよりも小柄な後継機───さしずめハインド(後ろの)といったところか…」

 

<<成る程…そりゃいいや>>

 

<<うむ、では以後その新型ヘリはハインドと呼称することにしよう。スネーク、まずはハインドから逃げ切ることを優先するんだ。何とかスキを狙って地下坑道に逃げ込んでくれ>>

 

「ああ、地下坑道に入ったら連絡を…っ!少佐!」

 

<<どうした?>>

 

 

スネークの驚きが混じる声が無線機から聞こえてきた。ゼロはスネークに何事かと尋ねると、スネークが返してきた返答に納得がいった。

 

 

「例の新型ヘリ、ハインドの側面にあのマークがある。髑髏に翼───ゴースト・カンパニーの部隊章だ」

 

<<…成る程、ようやくお出ましらしいな。スネーク…彼等が例え同じ国の部隊だとしても、今や合衆国を捨てて亡命した人間だ。下手な情けは無用だ>>

 

「勿論分かってる。それに向こうはやる気らしいからな」

 

<<よし、だがまずはとにかく逃げることを優先しろ。今の君はロクな対空火器を有していない。正面から相対すればあっという間に蜂の巣だ>>

 

「了解した!」

 

 

 

 

 

 

 

*****************

 

 

 

 

 

 

 

スネークは無線を切ると、ゆっくりと山小屋の残骸の中を匍匐で進みだし、一通り瓦礫の山を越えると山小屋の出入口へと辿り着いた。ここから先は瓦礫は無く、身を隠せる場所は山頂一帯に敷設された塹壕のみ。なお件のハインドは未だに山小屋の周りを旋回しており、まだ自分が生きていると考えて探しているのだろう。

 

ここから先、どう身を隠しながら塹壕を進んでいくかを思案するスネークだが、その思案を打ち切る音が響き出した。ハインドに付いているスピーカーからの音だ。

ノイズ混じりの雑音の後、聞こえてきたのはハインドのパイロットとおぼしき声───それも20歳前半くらいのドイツ訛りが混じる若い女性の声だった。

 

 

『やっと来たなスネーク!待ちくたびれぞ!』

 

「………」

 

『だんまりか?貴様が生きているのはお見通しだ!早く出てくるがいい、さもなければ今一度ロケットの雨を降らせるぞ!』

 

「ちっ…!」

 

自分がまだ生きているということに初めからハインドのパイロットは気付いていたのだろう。

スネークは舌打ちをしつつも、瓦礫の山から姿を現す。

 

『私は"デス・ホーク"。これ以上の自己紹介は不要だろう。お前の上官から私らのことは聞いているだろうからな』

 

「亡命者、ゴースト・カンパニーの連中だろう?それに"死の鷹"…ご大層な名前だな」

 

『鷹は優秀なハンターだ。どんな獲物も捉え、確実に仕留める。古来モンゴルや中央アジアの遊牧民の間では"鷹"という言葉は力ある者の象徴として人名に用いられた。トゥグリル・ベグの"トゥグリル"やオン・ハンの本名「トグリル」も鷹を意味する!』

 

スネークからは見えないが、ハインドのパイロット───"デス・ホーク"は自らのコードネームに誇りを持っているのだろう。スネークの言葉に語気を強めた返答をする。

 

『私にとっては"蛇"すらも、これまでと同じ獲物だ。貴様に鷹に狙われるという恐怖を味わわせてやろう…さぁ、来るがいい!』

 

 

デス・ホークの言葉を皮切りに、ハインドの機首下部に設置された12.7mm機関砲タレットがスネークへと向けられ、唸りを上げた。

しかし、スネークとてただ無駄話をしていた訳ではない。機関砲がスネーク目掛けて火を噴いた直後、スネークは予め位置を確認しておいた塹壕へと飛び込んだ。

 

ハインドは初撃をかわされたと見るや、高度を上げて塹壕内部を目視出来るよう移動を始めた。当然ながら塹壕はトーチカとは違い水平からの攻撃には有効性を発揮するが、真上から狙われる場合は脆弱性を露呈する。

 

再び機関砲が次々と発射され塹壕内に隠れたスネークを狙いだす。そしてスネークには未だ有効な反撃手段がなく、逃げの一手に走らざるを得ない。

スネークはとにかく機関砲の弾幕から逃れるべく、ジグザグに掘られた塹壕を走り出す。

 

そのスネークを後ろから追跡するハインド。

 

情勢はハインドへと傾いていた。といってもハインドのパイロット、デス・ホークは上官から言い渡されている目的のためにスネークを仕留めるつもりは無かった。

 

伝説の特殊部隊の母が唯一鍛えた弟子───その弟子と本気で戦えないのはパイロットとして以前に1人の兵士として残念ではあるが、それ以上に自らの上官たる"彼女"の期待を裏切り、失望されるという恐怖を考えれば、何てことは無かった。

 

デス・ホークは、スネークの逃げる方向へと機関砲をバラ巻きながら目的地である地下坑道の入口へと追い詰めていく。

 

だが、あと少しというところで狂いが生じた。デス・ホークが機関砲の短連射からロケットポッドの攻撃に切り替えたその瞬間、スネークはタイミングを見計らって降りしきるロケットポッドの弾頭と爆風の中、塹壕から飛び出した。

 

まさか戦闘ヘリの重機関砲とロケットポッドで狙われているターゲットが、一瞬のタイミングを狙ったとはいえ塹壕から飛び出してヘリの射線に身を晒すとは予想外過ぎた。

 

そのまま塹壕から飛び出してきたスネークに一瞬呆気に取られたデス・ホークは、漸く事態に理解が追い付き行動に移した時には手遅れだと気付いた。

スネークは全力で爆風の中を潜り抜けながら走り、近場の簡易倉庫へと飛び込んでしまった。

 

 

『っ!シャイセ(くそったれ)!!』

 

 

狂いが生じた結果は、スネークが目的の地下坑道ではなく全く別の場所に隠れてしまうというものだった。これでは膠着状態だ。地下坑道へ追い込むのは難しい。

しかも先ほどのある程度の大きさを持ち、これといった可燃物が無かった山小屋とは違い、スネークが隠れた塹壕陣地と繋がる簡易倉庫はよりにもよって弾薬庫であったのだ。

 

これでは攻撃が出来ない。万が一スネークを死なせてしまえば、作戦プランを切り替えなければいけなくなる。つまりこれまで準備してきた物が水の泡になる───いや、それならまだマシだ。万が一スネークが死んだ場合、もっとも厄介なのは目的達成が難しくなることだ。

只でさえ時間は足りていない。もしここで新たな作戦プランに切り替えて一から始めるなんてことになれば、フルシチョフとの密約はご破算だ。

ヴォルギン大佐の排除はうまくいっても、ザ・ボスまで手を回す余裕がない。チンタラしてる間に第三次大戦勃発だ。

 

どうするべきか頭を捻るデス・ホークだが、迷う時間も足りない。後部座席で火器管制を担当しているソ連兵パイロット2人が攻撃に躊躇する自分に懐疑的な目を向けてきているのだ。

 

ええい!仕方ない!

 

デス・ホークは若干ヤケを起こしながら機体を旋回させ、照準を弾薬庫へと合わせる。

 

『くらえ、スネェェーク!!』

 

ハインドから放たれたロケットポッドの一斉射が次々と弾薬庫に着弾し、可燃物と爆薬が満載された弾薬庫は火山噴火の如く紅蓮の炎と火花、黒煙を噴き上げながら消し飛んだ。

 

備蓄されていた爆薬や弾薬が引き起こす爆発は大きな黒煙となって吹き上がり、人1人くらいなら吹き飛ばすほどの爆風をも生み出す。

 

爆風に揺られバランスを崩しそうになるハインドを、デス・ホーク爆風から離れながら何とか立て直す。機体のバランスを立て直したデス・ホークはスネークが生きてるかどうかを確認するべく、キャノピー越しに未だに爆煙が立ち上る弾薬庫に視線を向けた。

 

 

そして見つけた。

 

 

一体何を見つけたのかを後部座席にいるソ連兵達に告げる暇もなく、デス・ホークは焦りの声で叫ぶ。

 

 

『急上昇!!』

 

 

デス・ホークが視線を向けた先───そこには黒ずんだ野戦服に煤けた顔のスネークがいたのだ。

汚れまみれでこそあるが、めぼしい怪我はないのだろう。

 

しかしデス・ホークが慌てたのはスネークが生きていたからではない。いや、デス・ホークの目的からすればスネークが生きているのは全く問題は無いのだ。

 

デス・ホークが慌ててハインドを急上昇させだした理由。

それはスネークが構えている凶悪な兵器──恐らくはあの弾薬庫に逃げ込んだ際に持ち出したのだろう──を見たからであった。

 

 

【RPG−7】

ソヴィエト連邦が開発した、ロケットモーターで加速する擲弾を射出する対戦車無反動砲である(決してロケットランチャーではない)。

対戦車兵器でありながら命中率の悪さを除けば、対空にも対施設にも使える凶悪兵器だ。市街戦では手榴弾代わりに建物にぶち込まれることも多い。

 

航空機───取り分け鈍足な重戦闘ヘリであるハインドにとっては最悪な兵器である。

そんなRPG−7を、スネークはデス・ホークの乗るハインド目掛けて発射した。

 

僅差でハインドが今しがた滞空していた場所をRPGが通過する。

 

しかしスネークは予備として持ち出したのだろう新たな弾頭をRPGに装填すると、再びハインド目掛けて発射する。

 

 

『チィ!糞がぁ!』

 

 

つい先ほどまで追う立場であった"鷹(デス・ホーク)"が、獲物であった筈の"蛇(スネーク)"に翻弄され、逃げ回っている。

だがデス・ホークも負けじとRPGから逃げ回りつつ機関砲をスネークに対してバラまく。

 

互いに一撃を食らえば終わりという死のゲーム───だがそれを制したのは狩人ではなく獲物であった。

 

スネークが発射した4発目のRPG弾頭。それはハインドの胴体こそ外れたものの、逃げ切れなかった部分───ハインドのテイルローターを吹き飛ばした。

 

機体バランスを支えるためのテイルローターを失ったハインドはあっという間に機体制御が不能となり、グルグルと機体そのものが回転しながら地面へと墜ちていく。

 

 

『こ、ここまで来て…!!墜、墜ちるな!………

スネェェーク!!!』

 

 

デス・ホークの断末魔とも言うべき憎悪を込めた叫びと共に、ハインドは地面へと墜落し機体をひしゃげさせた。

そして間を置かず、飛び散った燃料が火花と積載されていた弾薬類に引火───ハインドは爆発に巻き込まれた。

 

 

「…地獄に墜ちたか…デス・ホーク」

 

 

デス・ホークが、彼らゴースト・カンパニーが何故祖国アメリカを裏切り、ザ・ボスと共に亡命したのか?

それはスネークには理解出来ない。少なくとも分かるのは、今自分の手で亡命者が1人命を落とした…それだけである。

<同志を撃つのは気持ちがいいものではない>

 

 

あの時、バーチャス・ミッションでオセロットが放った言葉…あれは本心なのだろうか?

もしそうだとすれば確かに…同国の人間を殺すというのは気持ちがいいものではない。

 

しかしスネークはやらねばならないのだ。

 

 

世界大戦を防ぐために、コブラ部隊を

 

 

ゴースト・カンパニーを

 

 

そしてザ・ボスを

 

 

 

 

 

 

抹殺する。

 




【ハインド】
皆さんご存知ソ連が開発した戦闘ヘリ。ソ連やロシアが出てくる作品では必ずといっていいほど出てくる兵器。威圧感半端ない。
パイップル・アーミーではテイルローターにワイヤー絡まらせられて墜とされたり、CDでは大体主人公勢に墜とされたりと、終始墜ちるのがこの兵器の主な仕事。


【デッド・ホーク】
以前出したオリジナルキャラクターのコードネーム。MGSではみんな格好よくて似合うコードネーム使用してるから、自分のオリジナルキャラクターのコードネームの稚拙さに仰け反りたくなる今日この頃。


【RPG−7】
皆さんご存知ソ連が開発したロケットモーターで加速する擲弾を射出する対戦車無反動砲(大事なのでもう一度、決してロケットランチャーではない)。
これまたソ連やロシアが出てくる作品では必ずといっていいほど出てくる兵器(テロリストや武装勢力も愛用)。
しかし何故か冷戦期のソ連時代ならまだしも、ロシア時代の兵士達がこの安価かつ古い兵器をAK−47と合わせて使ってたりする。え、ロシアって先進国…え?あれぇ?
(AKの後継アサルトライフル?RPG−18やメルカバ撃破出来るRPG−29?
知らない子ですね)


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19話

今回、人によっては不快になる描写がありますが、ご了承下さい。




脱字による「1ドル」表記を正しい表記に修正しました。


「そうか、墜とされたか」

 

<<申し訳ありません少佐…まさかヘリ相手に真っ向から挑んでくるとは思わず…>>

 

「謝罪は今後の結果で示したまえ」

 

<<はっ。大変失礼致しました>>

 

「それでスネークは?」

 

<<残骸から這い出した時には既に地下坑道に侵入した後でした。あれから4時間が経過しましたが、ヴァイス大尉の方でも未だ行方は掴めません>>

 

「ならばスネークはもうグロズィニグラードへ潜入しているとみていいな。貴官は直ぐにヘリを飛ばせるよう準備したまえ…今度は墜落は許されないぞ?」

<<はっ。次こそは必ず結果でお応え致します>>

 

部下からの無線を切ると、私は先ほどまで続けていた作業を再開する。

しかし…この用水路は随分と冷え込むな。外では雪もちらついているようだし、お陰でストレスは溜まる一方だ。

 

っと失礼。皆さんこんばんは、ターニャ・デグレチャフであります。現在小官はグロズィニグラード地下のくそったれなまでに冷え込んでいる用水路で楽しい楽しい図画工作の真っ最中です。

 

 

さて、まともに答えるなら、今こうして用水路の至るところにある格子を手作業で破壊しながら、万が一に備えた逃走経路を用意しているところなのだ。

時折用水路に住み着いている野良犬が餌を欲して私に近寄ってくるだが、追い払っても追い払ってもキリがない。

 

今も汚い床に伏せながら鉄格子を腕力のみでひしゃげさせてから引き抜くという地道な作業の最中だが、1匹の大柄な犬がさっきから私の足元をうろちょろしたり、ブーツを甘噛みしたりして餌をねだってくる。

 

仕方ないので一旦作業を止めると、腰のポーチから肉の缶詰めを取り出す。蓋の一ヶ所に指を突っ込んで、そこから指を引っ掛けて抉じ開けると、後ろに放ってやった。

すると犬は放り投げた缶詰めに駆け寄り、中身を食べ始めた。

 

ようやく邪魔されずに作業に戻れそうだ。ちなみにこいつは最初に私に近付いてきたとき、なんと餌をねだろうとして仰向けで作業していた私の股に顔を突っ込んできたのだ。

女性の股に顔を突っ込むなど例え犬でも許される訳がない。なので死なない程度に蹴りあげてやったのだ。そのためか、餌をねだる際には私に甘噛みしたりすりよったりで済ませるようになったのだ。

 

 

 

 

 

……って、私は男だろうがぁぁー!!

何故股に顔を突っ込んできたのを、犬相手とはいえ許される訳がないだとか女性的な思考が出てくるのだ!クソ忌々しい!

 

 

 

 

 

頭を抱えてしばしジタバタするも、今優先されるべき作業を思いだし、何とか冷静さを取り戻そうと深呼吸をする。何度目か呼吸でようやく頭が冷えた。

作業に戻ると、最後の格子一本を地面からメコッと引き抜き、放り捨てる。

さて、これで北の通用口までの脱出経路を確保し終わった。もしスネークがヴォルギンに捕らえられたとしても、ここを通って脱出できる筈だ。

 

 

<<少佐殿、失礼致します!ヴァイス大尉であります!緊急事態が発生しました!>>

 

「聞こえているヴァイス大尉。落ち着きたまえ、何事か?」

 

<<はっ、先ほどグロズィニグラード西棟にて、スネークが捕まったと>>

 

「む…ザ・ボスにでも見つかったか?」

 

 

まさか万が一のための脱出経路が早々に役立つ時がくるとは…。まあ捕まってしまったものは最早仕方あるまい。

まずはあの監守に連絡を入れて、スネークの脱出準備を始めなければ…

 

 

<<少佐殿…もうひとつ悪い知らせがあります…セレブリャコーフ中尉が捕らえられました>>

 

「何、何故だ?」

 

 

何故ヴィーシャが捕らえられたのだ?ヴォルギンに我々の目的が知られた訳でもないというのに…。

 

 

<<タチアナです。彼女が地下を彷徨いていたのをセレブリャコーフ中尉が見付けて何とか逃がしたそうですが、代わりに中尉が…>>

 

「…分かった。とにかく貴官はセレブリャコーフ中尉が殺されないよう尽力してくれ。万が一の場合は彼女を救出して脱出したまえ」

 

<<はっ!>>

 

 

部下からの無線を切ると、とりあえず近場の壁を思い切り抉り取った。そのまま抉り取った破片を地面へと叩き付け、踏みつける。

私は部下のためならば命を掛けるような英雄然とした人間ではない。だが…付き合い長く優秀な部下をそんな下らない事で失うのを許容出来る訳ではない…。

 

部下が捕らえられるという事態を想定外として全く考慮していない訳ではなかった。しかしまさかあの女絡みだとは…。

ヴィーシャはタチアナがスネークの情報提供者であり、任務完了後のスネークの脱出も手助けするという立場ゆえに、彼女を逃がすことを選んだのだろう。

 

間違った判断ではない。事実我々は我々の任務があるために、スネークに全面的に関わる暇は無い。

だが…全く余計な事をしてくれるな、タチアナ…こいつは貸しにしておく。

後々返してもらわねばな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

【グロズィニグラード監獄区域─尋問室─】

 

 

 

首尾よくグロズィニグラードへと潜入し、東棟を巡視していたGRUの佐官ライコフ少佐を拘束し、彼に変装。変装で警備を難なくすり抜け、ソコロフが監禁されていた西棟へと辿り着けた。

 

彼は無事だった。後は彼を連れて施設を脱出してセーフポイントに彼を隠れさせた後に、ヴォルギン大佐及びザ・ボスを抹殺してソコロフと共に帰還する───その予定はヴォルギン大佐との突然の遭遇…そしてザ・ボスの奇襲によって失敗した。

 

捕らえられたスネークは監獄の尋問室へと連行され、うっすらとした意識の中、ソコロフがヴォルギンに尋問され、殺されるのを聞いた。

そして今、はっきりと意識が目覚めた。スネークは装備を奪われ、天井から伸びるロープによって両手を吊り上げられた体勢で、尋問を待つ身であった…。

 

 

 

 

【Side スネーク】

 

 

身体に冷水が浴びせられ、全身に針で突き刺されたようなピリピリとした痛みが走る。

しかしそれはマシなほうだ。直後、ヴォルギンは自分を何度も殴りつけ、雷撃を放ってきた。

 

鈍い痛みと体内をジリジリと焼かれる痛みを交互に与えられ、自分でも発狂していないのが不思議なくらいだ。

そして一通り殴りつけられた後…頭に被せられていた布が剥ぎ取られる。

 

目の前にいたのはヴォルギン大佐、オセロット、ザ・ボス、EVAの4人───いや、もう1人いた。

顔を左に向けた先、そこには一糸纏わぬ姿の少女が、スネークと同じように両手を天井から伸びるロープで拘束され、猿轡を噛まされ晒し者にされていた。

 

EVAの護衛だと言っていた少女…彼女だった。

 

だがこうして改めて見ると容姿は少女と大人の女性の中間とも言える。

だが違和感がある。それは外見全てなのだ。

 

軍人にしては異様なまでに綺麗過ぎるのである。先が若干内側にはねている黄金のような金髪に、淡く青い海を連想させるような碧眼、小さくはないが大人の女性より慎ましやかな胸に、真っ白な肌。

 

本来なら軍人生活の中でそんな容姿を保つのは不可能である。ましてや後方勤務ではなく前線を走り回る人間ならば尚更だ。

裸の女性を見て自分が抱いたのは驚嘆や肉欲ではなく、まるで呪われた人形を見たかのような不気味さだった。

 

だがそれは今、直近の問題ではない。現時点での直近の問題は何故EVAの護衛である彼女が、今自分と同じようにこの尋問室で捕らわれているのかだ。

しかしその疑問は、ヴォルギンの口から聞かされた事で明かされた。

 

 

「この女…地下を彷徨いていた。何故、タチアナの護衛の女が地下を彷徨いていたのだろうな?」

 

 

口元を笑みの形に歪めながらヴォルギンは少女へと近付き、その顔を掴むと自分へと向けさせた。

少女は憎々しげな眼でヴォルギンを睨み付け、もがこうとした。だがロープが若干揺れただけ…それだけで、何も行動に移せないことに驚きの表情を浮かべていた。

 

 

「動けまい?筋弛緩剤を投与した。お前の能力は知っているからな…クククッ、さて…楽しませてもらうぞ?」

 

 

ヴォルギンは自身の目の前で無力と化した少女を前にさらに笑みを強くした。

そして少女の顔を掴む手を離すと、おもむろに少女の胸をわし掴みにする。

そして少女が抵抗出来ないのをいいことに、胸を揉み出した。

 

その後ろではザ・ボスとオセロットが嫌悪と軽蔑に満ちた視線をヴォルギンへと向けているが、ヴォルギンは全く気付いていない。

それどころか今度は少女の腹部へと拳を叩き付けたのだ。

 

腹部に叩き付けられた拳の先、鋭くめり込んだ一撃に少女は口から呻きを漏らし、何度も咳き込む。

当のヴォルギンはといえば、少女が苦痛に呻く姿を見て、自らの局部を盛り上がらせている。

 

 

「何故地下を彷徨いていた?何を探していた?うん?答える気が無いのか、答えられないのか…まぁ構わんがな…貴様が痛みを味わうだけ──だ!」

 

 

再び少女の腹部を殴打する。苦痛に耐える少女の脇腹を蹴りあげ、平手で顔を何度も叩き、雷撃を浴びせる。

更には合間合間に少女の胸や局部を弄び、その度に自身の局部を膨れ上がらせた。

 

 

「言え!何を探していたかは分かっている!私の遺産を探していたのだろう?」

 

 

時折地下を彷徨いていた目的や探し物の名を出したりしてはいるが、それは決して尋問等ではない。

自らの性癖と欲望を抵抗出来ない相手に一方的にぶつける、下衆な行為であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***************

 

 

 

 

 

ひとしきり少女を嬲り、痛めつけることに満足したのか、ヴォルギンは少女から離れ、今度はスネークへと近寄る。

 

 

「どうやら彼女は喋らないようだ。ならば、今度はお前に聞くとしようか?答えろスネーク、お前に協力していたスパイはこの女か?他に誰が貴様に協力している?何を目的にこのグロズィニグラードへ来た?」

 

だがスネークは答えない。先ほどの拷問でもそうだったが、例え全てを知っていたとしても答える気は無かった。

これは知らないというだけでなく、喋らない事こそが命の保証になるからだ。

 

もし知りうる情報を話せば、その瞬間から捕虜となった兵士に価値は無くなる。軍人ならば価値を無くした捕虜は牢獄か収容所送りで、労働力扱いによる飼い殺しか、捕虜の引き渡しに備える。

 

しかし軍人の中にも例外は多い。太平洋戦争もベトナム戦争も捕虜虐殺や拷問、鬱憤張らしの虐待など両の指を反復させても足りないほどにある。

そしてヴォルギン大佐という軍人はその例外組だ。

間違いなくスネークを拷問のために殺すだろう。だから決して話しはしない。

 

 

「無駄だ、そいつは決して喋りはしない。そう訓練されている…私が訓練したんだ。あの少女も同じだ…決して喋るまい」

 

 

そこに、まるでスネークの心中を覗いたかのように、ザ・ボスによる注言がヴォルギンに"尋問は無意味"だと突き付けてきた。

すなわち『私が対尋問訓練でスネークを鍛えた。奴は決して知りうる情報があっとしても漏らさない。少女も同じような訓練を上官から受けている筈…ならば答えは明らかだ』と、性癖や欲望を交えたヴォルギンの尋問や拷問は無意味だと冷や水を浴びせたのだ。

 

そしてヴォルギンはというと、ザ・ボスによる皮肉を交えた注言もあってか、無言を貫いた少女や話そうとしないスネークに業を煮やし、幾度も殴りつける。

──自分の尋問や拷問が雌餓鬼や若造程度に耐えられてたまるか!──

──必ずスネークに目的を喋らせてやる!あの雌餓鬼は、喋る気がないなら兵士らの慰みものにしてやる!──

 

 

「言え!貴様の目的は私の遺産なのだろう!あの二度の大戦を通して集められた秘密資金だ!その記録が欲しいのだろう!」

 

 

 

 

 

 

 

「世界中に分散して隠された、1千億ドル!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今は亡きグラーニンや、目の前のヴォルギンが何度も口にした『賢者の遺産』───そして彼の口から漏れたそれは、目も眩むような金額だった。米・露・中の真の権力者達が世界支配のために二度の大戦を経て、持てる資産から供出した莫大な資金。

 

あの大戦を数回は繰り返せる程の資金。これほど血塗られた金もあるまい。スネークはまだ知らないが、アメリカもロシアも中国も───遺産を知る人間達は、数千万の人間を地獄に落としてなお、新たな生け贄を差しだしてでも───とあらゆる手段を用いて遺産の在処を探りだし、自分の手に納めようとしているのだ。

 

 

「そうとも!賢者の遺産は私が守っている!このグロズィニグラードの地下金庫でな!!」

 

 

苛立ちまぎれに放たれたヴォルギンの言葉は、その場にいた者たちの目を彼に向けさせた。

すなわち事実だったのだ。莫大な"遺産"も"賢者たち"も…。ヴォルギンに目を向けた者たちの全ての考えは読めない。しかし遺産の在処というのは間違いはないだろう。

 

 

「貴様如きに手は出せん!!」

 

 

ヴォルギンが電撃を纏わせた渾身の一撃がスネークを穿った。

だがその拍子に落ちた、ある物がヴォルギンの目に止まった。

 

 

「発信器だと?誰だ、こんな小賢しい真似を?」

 

 

スネークには小型発信器が取り付けられていたのだ。それがヴォルギンによる拷問でスネークの身体から外れたのだ。

そしてヴォルギンは周りを疑う。誰が発信器をスネークに埋め込んだのか?

 

オセロットは両手を掲げて、自分ではないと示す。タチアナは先ほどからヴォルギンの手酷い尋問を見て怯えており、答えられる様子ではない。

しかしザ・ボスは違った。堂々と自分だと言ったのだ。

 

 

「私だ。我がコブラ部隊が、奴の動きを知るために取り付けた」

 

 

スネークはそこで気付いた。「あの時か」と。

まだグロズィニグラードではなく、グラーニン設計局よりも前───『スネーク・イーター作戦』を開始した地点───ドローンから射出され、着地した場所だ。あの後すぐ、自分はザ・ボスに発見された。そこで叩きのめされ、立ち去る彼女に、馬の蹄で右手を踏みつけられたのだ。

 

その馬の蹄に発信器は取り付けられていたのだ。確かに今思えば、蹄に踏みつけられた時に違う痛みがあった。

まるで何かが手の甲に突き刺さり、異物が入り込んだような痛みだった。恐らくは何か埋め込み式の装置だったに違いない。

 

そう納得したスネークだが、彼の向かい側ではヴォルギンがザ・ボスに詰め寄り、問い詰めていた。だがザ・ボスから「私を疑うのか?」と逆に詰め寄られると、ヴォルギンはたじろぎながらも、ザ・ボスにスネークとグルではないという確証が欲しいと望んだ。

 

 

「何をしてほしい?」

 

 

そう聞き返したザ・ボスに対してヴォルギンが望んだのは、"スネークの目を抉れ"だった。

兵士にとって大事な目という器官を奪い、弟子である男の兵士生命を終わらせるという、一般人が見れば誰もが「悪辣な」と吐き捨てるものだ。

 

だがスネークと共謀してはいないという確証を示さなければならない。ゆえにザ・ボスはナイフを取り出すと、ゆっくりとスネークの目に向けてナイフを近付けていく。

そしてナイフの切っ先がスネークの目とあと1cm程となった時だった。

 

 

「止めて!酷すぎるわ!」

 

 

怯えていたタチアナが、スネークとザ・ボスの間に割って入った。

本人がこれ以上人がいたぶられるのを黙認出来なかったからなのか、何か裏があるからなのかは分からない。

 

だが間に割って入ったタチアナに、オセロットはタチアナがスパイだからだと言った。タチアナは「何のこと」と訊ねるが、オセロットはタチアナを完全に疑う。そしておもむろにタチアナの胸に手を伸ばした。

 

ヴォルギンはターニャ(タチアナ)が欲しくなったのかとオセロットに聞くと、オセロットは欲しくなったのではなく、試したくなったと言った。

オセロットの言う『試し』は、あのソコロフに対しても行われたものだった。3丁のSAAをジャグリングさせながら、タイミングをバラバラに引き金(トリガー)を続けて6回引く。

すなわち、手の込んだ曲芸的なロシアンルーレットだ。

 

ヴォルギンはそれに認可を出した。つまりヴォルギンにとってタチアナという女は、何処にでもいる女と変わらないというのだ。

例えタチアナが死んでも代わりはいるのだと。

 

許可を受けたオセロットはSAAをジャグリングさせ始める。そしてタイミングをバラバラに引き金をタチアナ目掛けて引く。

何度目かのトリガー音が鳴るが、未だに弾は出ていない。しかしそれも時間の問題だった。

 

そこでスネークと、薬物を投与されていた少女が行動を起こしたのは同時だった。少女のほうは、筋弛緩剤が抜け出していたのだろう。

スネークは次の引き金を引こうとしていたオセロットに思い切り身体を揺らして体当たりした。

 

突如として身体のバランスを崩したオセロットは、何とか体勢を立て直そうと踏ん張り、勢い余って指を掛けていたSAAの引き金を引いてしまう。そして炸裂音が鳴り響き、血飛沫が飛び散った。

同時にスネークの激痛に悶える叫びが響き渡った。

タチアナはその状況に悲鳴をあげ、部屋の隅へと逃げ出す。

 

オセロットは何とか体勢を立て直し転倒を避けたが、彼に安息の暇は無い。それは、薬物が効力を失い出していたために動けた少女だ。スネークとほぼ同時に身体を揺らしてオセロット目掛けていた少女の、左足のバネのように伸びる鋭い爪先蹴りがオセロットの股関を、次いでしなやかなまでに真上に向けて繰り出された右足の踵裏が顎を捉えたのだ。

男の急所と顎を狙われ、フラりとよろけたオセロットだが、今度はザ・ボスに銃をもぎ取られた直後に張り手を入れられた。

 

オセロットによる『試し』は、スネークが右目を失うという事態になった。ザ・ボスはヴォルギンに「これで満足か」と詰め寄る。そしてヴォルギンはというと興が醒めたとばかりにタチアナに自分の部屋に来るように言い、出ていった。

 

ザ・ボスはそれを見届けるとスネークへと歩みより、彼のベルトへとSAAを差し込んだ。

「…逃げて」

たった一言だがザ・ボスから呟かれた彼を心配する言葉は、スネークに活力を与える。そしてベルトに差し込まれたSAA───脱出の武器に使えという事なのだろう。

 

ザ・ボスが出ていくと、残ったのはオセロットとタチアナだけだった。オセロットはスネークの足元に落ちていたあの発信器を拾い上げると、スネークの周りをゆっくりと歩き回る。

そしてスネークの背中辺りで止まると、突如としてその発信器を背中の裂傷へと埋め込んできた。

 

それが何を意味するかはスネークには分からない。その後もオセロットはただ「大佐の拷問に耐えたな…いいぞ、究極の表現法だ」と、自分が望む境地を見れたと言いたげな言葉以外は、これといってスネークに何も言わなかった。

 

そしてオセロットが出ていくと、最後に残ったのはタチアナだった。彼女はもう誰も居なくなったのを見計らってから、スネークへと近付いてきた。スネークはタチアナの、自分が知る彼女の名を呼ぶ。

 

 

「EVA…」

「静かに…いいスネーク?よく聞いて…」

 

 

タチアナ───EVAという自らの協力者である女性が聞かせてきたのは、このグロズィニグラードからの脱出方法であった。

脱出後の合流地点や奪われた装備の回収など、様々な情報を聞かされ、最後に別れのキスを頬にされた。

 

するとそれまで沈黙を保っていた兵士2人が、スネークと少女に近付いてきた。そしてそれぞれに腕を拘束されていた縄を切られると、不思議と彼らはスネークの腰に差されたSAAを奪うことも、少女と別々にされることもなく同じ牢獄へと移されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事か?」

 

「スネークさんこそ、目、大丈夫なんですか?」

 

 

スネークと少女、2人は同じ牢獄で束の間の休息をしていた。スネークは角膜損傷に眼球破裂───つまりは右目を失明した。

対して少女はそういった怪我こそないものの、あちこちが傷だらけだ。

なお少女は衣服が無いため牢獄のベッドに寝転がりながらシーツで身体を覆い、スネークはベッドに腰掛けている状態である。

 

 

「それで怪我は?」

 

「ほっとけばそろそろ治りますから」

 

「?」

 

「ほら、腕はもうこの通りですよ」

 

 

少女の言葉に疑問を抱いたスネークに、少女はこういうことだと示すように自らの左腕を上げて見せた。そしてその腕を見たスネークは絶句した。

先ほどまで痣や裂傷だらけだった腕が血の跡を除いて綺麗に無くなっていたのだ。それどころか今まさに最後の切り傷が、まるで映像を逆再生するかのように塞がっていき、最後には元の綺麗な肌に戻っていた。

 

 

「ね?」

 

「君は一体?」

 

 

スネークの問いに少女は答えない。スネークも踏み込みすぎたかと、それ以上追及はしなかった。

しかし、もう1つは言っておかなければならなかった。

 

 

「奴(ヴォルギン)に辱しめを受けた時、よく耐えてくれた。お陰で奴は今頃疑心暗鬼の筈だ」

 

「あ〜、確かに不快ではありましたがね。慣れてましたから…」

 

「慣れて?」

 

「ええ。私の上官が色々と訓練をしてくれたんですよ。雪山の小屋で全裸で拘束されたり、野戦砲の実弾が降り注ぐ中塹壕に籠らされたり、様々な環境下での対尋問訓練とかを。私は女性でもあったので、凌辱を用いた尋問もあると叩き込まれましたね」

 

「随分過激な上官だな…しかし、君は嫌じゃなかったのか?特に、その…女性に使われる尋問訓練は?」

 

「上官は非常に良い方ですよ。確かに訓練は過激ですが、本音では戦争を悲惨だと言ってますし、やらなくて済むならやらないほうがいいって。凌辱を用いた場合の尋問訓練は残念ながら座学だけでしたね……ボソッ(少佐相手でしたら実践訓練も吝かではないのですが…)」

 

「ん?最後に何か言ったか?」

 

「いえ、何も?」

 

「だが確かに何か…それに君はさっき尋問訓練が座学だけで残念と…」

 

「お休みなさーい!」

 

 

少女はスネークの質問を受け流して、シーツを被るとそれきり静かになってしまった。

スネークはベッドに腰掛けるのを止めて、少女とは真反対を向いて寝転んだ。

 

ベッドはシングルなので狭いが、互いに詰めて寝る形なのでスネークは何とか自分が休むスペースを確保出来ていた。

そしてゆっくりと瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

この1時間後、食事を持ってきた見張りとの会話をしていたスネークは、見張りの好意や身の上話といった偶然を経て渡されたある道具を用いて、牢獄から脱出することになるのだった。

 




【下衆なヴォルギン】
ゲーム本編にて「人をいたぶる、人を痛めつけることで快楽を得る最低の男」とEVAから酷評されるヴォルギンですが、つまりは間違いなく性行為と平行してサドな行為もしてるんですよね。
なので作中での描写はヴォルギンの実態よりもかなりマイルド描写にしました。で本音は、あんまりヤバいの描写したら幼女戦記ファン(主にデグさんの副官が好きな方々)から叩かれるだろうな〜という弱腰ゆえですよ、文句ありますか!(逆ギレ)


【対尋問訓練】
幼女戦記のコミック等でも尋問訓練描写がありましたが、デグさんは多分高確率で凌辱を用いた対尋問訓練を想定して自分の副官に教えてると思う。
作中では座学だけですが、実践はまずいと思うのでボツにしました。
ええこれも叩かれるのやだな〜って弱腰ゆえですよ(再び逆ギレ)!


【奪われずに残された無線機やSAA】
ゲーム本編ではゲームプレイに支障が生じるとか色々な都合でスネークが装備したままですが、本作品ではデグさんの優秀な交渉や裏工作による賜物です。
そのためスネークは身一つという絶望的な状況を回避出来ました。


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20話

今回あんまり話が進んでない気がする。

皆さんすいません…。


─グロズィニグラード監獄区域・牢獄─

 

 

 

 

 

ヴォルギンによって捕らえられてからはや数時間、スネークと少女は牢獄で脱出のタイミングを図りつつ、体力を消耗しないよう休息を取っていた。

 

牢獄の中、少女はベッドでシーツにくるまり、寝息を立てている。

対してスネークはベッドからのそりと起き上がると、無線機を操作しだした。通信相手はソ連から貸し出されている軍事衛星を中継して、アメリカ合衆国でスネークのサポートに24時間体制で張り付いてくれているゼロ少佐。

 

目的は今スネークと共に牢獄にいる少女についてだった。

 

 

 

「こちらスネーク。ゼロ少佐、応答を」

 

<<ああ、聞こえている。どうしたスネーク?>>

 

「彼女について…EVAの護衛だと言っていた少女だ。彼女は、未だに正体が分からない。信用出来るのか判断を仰ぎたくてな」

 

<<スネーク、確かに彼女は所属も正体も不明だ。だが君に害を為そうとしないのは、彼女の目的もまた君と一緒だからだ。少なくとも目的を果たすまでは安全な筈だ>>

 

「ああ…かもしれないな。それと少佐、もしかしたら彼女の正体に繋がる手掛かりになるかもしれない情報があるんだ。だが俺はそういった道には詳しくないから、手を貸して欲しい」

 

<<もちろんだとも。それで情報とは?>>

 

「彼女の左腋下にアルファベット…恐らくは血液型が彫られていた。何か心当たりは?」

 

<<待てスネーク…まさか君は無防備に眠っている衣服を纏わない少女のシーツを剥いで腋を眺めたというのかね?>>

<<医師ではなく人間として言わせてもらうけど、貴方最低ねスネーク>>

<<おいおい、そりゃ許されないぜスネーク…あんたにゃ失望したよ>>

 

 

何気なく先ほど気付いた話をし始めたスネークだったが、返ってきたのはゼロに加えていつの間にか無線のやり取りを聞いていたらしいパラメディック、シギントによる軽蔑を込めた非難だった。

勘違いと軽蔑混じりのいわれのない不名誉な扱いに対してスネークは慌てて釈明する。

 

 

「ちょっと待ってくれ!シーツを剥いだんじゃない!彼女が寝る前、俺に怪我した左腕を見せてきた時にたまたま見えたんだ!決してそんなことはしていない!」

 

<<それならばいいが…パラメディック、シギント。どうやら大丈夫そうだ、軍警察への電話は必要無い。さて、それで血液型と言ったかね?>>

 

「………。少佐、あんたは軍人・左腋下・血液型と聞いて何か彼女の正体に心当たりはないか?」

 

<<左腋下に血液型…いや、まさか………ふむ、スネーク、よく聞け。今から言うのは憶測だ。ゆえに彼女には黙っていろ>>

 

「?ああ…分かった」

 

<<第二次大戦で、左腋下に血液型を彫る連中がいた。目的は負傷の際に一般兵士よりも優先的に輸血を受けるため───そして戦争終結後、連中は戦争犯罪に関わっていようがいまいが追及と処罰を逃れるため同僚・信奉者のような小さな組織からバチカンといった世界的宗教権力のような大きな組織まで頼り、あの手この手で国外脱出や米露両陣営に機密や敵対陣営の情報を手土産に身柄の保護を求めた>>

 

「少佐、そいつは…」

 

<<ああ、NSDAP(ナチス)だ>>

 

「おい、食事だ」

 

 

牢獄に入れられてからそれなりに時間が経過していたらしい…通信の最中、スネークが空腹を覚え始めていた頃、牢獄を巡回する監守がスネークとヴィーシャの食事を持ってきた。

 

 

「少佐、済まないが監守の兵士が来た。また後で連絡する」

 

<<ああ分かった。だがスネーク、さっきも言ったが今のは憶測でしかない。何より彼女の年齢が経過年数と合わない…連中の一員だったという確率はかなり低いだろう>>

 

「判った」

 

 

まだ少女の正体は分からない。だがもし少女が本当にあの大戦の元凶たるナチスだったならば…自分はどうするべきなのだろうか?

だが考えても、答えは出ない。

だが、とにかく今は腹ごなしである。ここから脱走するためにも体力を取り戻さなければならない。

 

さて、目の前には監守が持ってきたのは質素な2つのトレー。右のトレーに載せられているのはあのクソ不味いソ連のレーションの中身と一杯の水、対して左のトレーに載せられているのは手のひらサイズの黒パン2切れにボルシチと子供の拳サイズの焼いた牛肉の塊にオレンジジュース、板チョコレートだった。

 

スネークが監守を見ると、監守も監守でスネークが言いたいことを理解したのか、なんか申し訳なさそうな声でトレーの内容物の違いを説明し出した。

 

曰く右のトレーは通常囚人や捕虜に割り当てられる一回の食事であり、左のトレーは隠れ信奉者とかデレデレなコックとかいった連中が今の境遇に同情して差し入れのように集めてきたた食事。

 

 

「言うまでもないとは思うが、あんたのトレーは右だからな」

 

 

それが監守の説明であり、注意であった。そして少女は少女で、食事の匂いに釣られてか突然ベッドから起き上がるとスネークの側へと寄ってきた。そして監守はというと、先ほどのスネークへの申し訳なさそうな説明は何だったのかと言わんばかりの迷いなき動作で「どうぞ、皆からの差し入れです」と左のトレーを渡したのだ。

 

少女はトレーを受けとると、ベッドに腰掛けてフォーク片手に「頂きます」と食べ始める。

 

 

「スネークさん、食べないんですか?」

 

 

監守が離れていき、少女が美味そうに牛肉を口に放り込む中、スネークは非常に釈然としない不平等感を心の片隅に残しつつ、あのクソ不味いレーションで腹を膨れさせることに専念した。

 

食事が終われば次の尋問まではやることがない。少女は膨れた腹を満足そうに撫でながら再びベッドへともぐり込んでいた。スネークはこれといって眠気を感じておらず暇をもて余していたが、ふと少女が残したチョコレートに気付いた。

 

チョコレートを見ていて、ちょっとした事を思い付いた。トレーから拾い上げて監守を呼ぶ。

 

 

「おい」

 

「なんだ?」

 

 

監守が気付いてスネークに近寄ってきたので、スネークは先ほどのチョコレートの余りを「彼女が残したんだが、食うか?」と差し出した。

 

 

「お、悪いな!」

 

 

監守は空腹を抑えてたらしく、礼を言うと半分ほど残っていた板チョコレートを頬張り、あっという間に食べ尽くした。

そしてスネークに向き直ると、少し照れくさそうに話し掛けてきた。

 

 

「お前、良い奴だよな。本当、アメリカ人も中には良い奴いるよな」

 

「そうか?」

 

「そうさ。俺な…戦争が始まる前は、アメリカに住んでたんだ。結婚もしてたし子供もいた。自営業でな、妻と一緒に小さなパン屋をやってたんだ。でも冷戦が始まってから急に客の通いが悪くなってな…店前でビラをまかれたり、罵りが書かれた紙を貼り付けられるようになったんだ…通りを歩いていても、周りの人たちから憎しみが籠った目で見られることも毎日だった」

 

「ああ…」

 

 

つまりはナチスドイツ政権下でのユダヤ人や、ルーズヴェルト政権下の日系人に対する弾圧・迫害と同じことである。民衆の憎しみを受ける者を故意に作り上げることで不満の捌け口にし、政府への不信感を和らげる。

 

だがこの場合、政府が作り出さずとも国民は共産主義を掲げるソ連そのものを敵視していた。そしてソ連を敵視するということは、同時にソ連に住む人間───すなわちロシア人への憎悪すら生み出したのだ。

 

 

「家族はアメリカ人だったから、離婚したんだ。そしてこうして祖国に帰ってきたけど、どこにも雇われなくてな。たまたま知り合いが政府のそれなりの職にいたから、その伝で軍に入った。何とか努力して這い上がってみたら、こんなクーデター企むGRUに配属されちまってな…けど向こうじゃ、俺と離婚したから妻は親戚の手伝いで何とか店を続けられてるらしい。少しホッとしたよ…でも、凄く寂しい…家族に逢いたい…」

 

「辛いな…」

 

「ああ、けど…あんたほどじゃない。っと、そうだ…ほら、これ。あんたのだろう?大佐があんたから取り上げた装備品の中からくすねたんだ」

 

 

監守の軽い身の上話が、いつの間にかしんみりとした話になってしまったため、重苦しくなってしまった雰囲気を壊そうとしたのか、監守は懐から煙草の箱を取り出すと、スネークへと手渡してきた。

 

監守はただの煙草だと思っているのかこれといって何も言ってこないが、スネークはその煙草に見覚えがあった。

グラーニンの設計局に潜入した際にこっそりと拝借した品だ。しかし葉巻が切れた時用にとくすねた煙草は、グラーニンがスパイ用に開発でもしていたのか、強力な麻酔ガスを噴出する道具だったのである。

 

たまたま味を確認しようと火を着けて吸ってみたのだが、先はチロチロと燃えているにも関わらず煙草の味はしなかった。

一応確認のためと口に含んだまま息を吐いてみると、煙草の先から白い霧状のガスがプシュッと噴出したのである。

 

煙草を割ってみると、中からは小さな機械が出てきた。そこでシギントに無線でコールを入れて機械の特徴を伝えると、それは最近ソ連で開発されているKGB用のスパイ道具だとの事だった。『要人はまさかその煙草に麻酔ガスが仕込まれているとは思わない筈』といった感じで設計されたが、アメリカは早々に情報を入手。

 

情報を入手され、利用目的が露見したことに気付いたソ連は使用を中止したらしい。恐らくはその使用中止となって無用の長物と化したものが、たまたまグラーニン設計局にあったとだろうとの事だった。

 

スネークはこれを脱出のチャンスだと考え、監守に礼を言いながら煙草を受け取った。監守を無力化する算段はついた。後は牢獄の扉を開ける手段だけだ。

というよりは、監守を無力化する算段は他にもあったが煙草型麻酔のお陰で解決しただけ───むしろ一番の問題は扉であった。

 

何しろこの牢獄の扉は、鍵穴式ではないからだ。シギントに無線で助言を頼んだところ、今ソ連では一部の牢獄に対して試験的に電子ロックを導入しているらしく、グロズィニグラードの牢獄もその電子ロックを試験的に導入しているのかもしれないと言われた。

 

しかし電子ロックは未だに不完全な技術であり、ちょっとしたトラブルで開かなくなるなんて事態はザラで、場合によっては無関係な放送や送信でも周波数や電波が合致すると開いてしまうというトラブルすら頻繁しているらしい。

現状、合致する電波を送信する以外に脱出方法はない───つまりはスネークの持つ無線機を使い、片っ端から周波数を合わせていくというしらみ潰しの方法しかないということになる。その方法しかないと気付いたスネークの顔は、非常に面倒臭そうな歪んだ表情であった。

 

とりあえずまずは、監守を無力化する前に合致する周波数を見付けなければならない。もし先に無力化しても、周波数を調べているうちに起きてしまうからだ。まずは監守に不信がられないように、スネークは会話を切り上げようとした。

 

 

「いい父親なんだな…あんたの息子も、きっと鼻が高いだろう」

 

「ああ、そうだな…ちなみに息子はジョニーって言うんだ。そして、俺もジョニーだ。面白い話なんだが、うちの家系は代々生まれた長男にジョニーって名付けるのが決まりなんだ」

 

スネークは会話を切り上げようとしたのだが、息子の話はまずかったらしい。監守の息子の名前から始まり、ついには代々ジョニーと名付けるんだといった一族話に発展してしまった。

 

 

「だからクルスクに住んでいた祖父の親族に至ってはジョニーばっかりで、学校時代はまとめて名前を呼ばれるのが当たり前だったんだとよ。あ…それとな、これは俺の家族の写真なんだ。」

 

 

スネークが若干ウトウトし始めた辺りで、監守ことジョニーは、スネークに家族だといって一枚の写真を見せてきた。

スネークは残った気力で写真を眺めていたが、ふと写真の裏に記載されたある数字が目に入った。

 

 

「なぁジョニー、突然だが…もしかしてなんだが…お前はメモが好きなほうか?」

 

「ん?ああ、俺は忘れちゃまずいものはどっかしらにメモするんだ。何せ過去にそれで大佐から大目玉食らってさ…でも、なんでそう思ったんだ?」

 

「たまたまだ。ありがとうジョニー、家族の話を聞かせてくれて。もし俺が生きていたら、また聞かせてくれ…それと、お前がくれたこいつ(煙草型麻酔)で一服したいんでな。火をくれないか?」

 

 

スネークは差し障りないようにジョニーとの会話を切り上げると、煙草を一本口にくわえて火をくれと頼んだ。ジョニーはこれといって疑うことなく、懐からライターを取り出すと、着火してスネークの口元の煙草へと近づけた。

 

 

 

 

プシュッ!!

 

 

 

 

ジョニーが顔を近づけた瞬間、スネークは煙草に息を吹き掛け、麻酔ガスをジョニーの顔目掛けて吹き掛けた。ガスは一気に霧状に広がると、もろに浴びたジョニーをあっという間に睡魔へと誘った。

 

スネークは麻酔で意識を朦朧とさせ、ついにはバタリと倒れ込んでしまったジョニーが、しっかりと眠ったことを確認すると、無線機を操作しだした。

ダイヤルを回しながら周波数を変えていき、目的の周波数にダイヤルを合わせると、成功を祈りながら通信電波を発する。

 

スネークが無線機から発した通信電波は、届く相手のいない電波を発し続ける。だがまだ開かない。

 

 

「駄目か…」

 

 

失敗だったとスネークが落胆した数秒後、電子ロック扉は、機械的な電子音を響かせるとカチリとロックが外れる音を響かせた。シギントの情報をもとにしたが、はっきり言って博打であった。これまでのソ連における電子ロックトラブルはあくまでもトラブルだからだ。いくらグロズィニグラードが試験的に使用しているからといって、必ずしも同じ事象が起きるとは限らなかった。

 

しかし今回スネークはその博打に勝ち、電子ロックのトラブル誘発に成功したのだ。これでスネークの脱出を阻むものはない。スネークは電子ロックの外れた格子を掴むと、一気に引く。ガラガラと小気味良い音を立てながら格子は難なく開いた。

 

スネークは少女へと向き直ると、彼女を呼ぶ。

 

 

「おい、脱出出来るぞ!早くしろ!」

 

「しばしお待ちをっと…」

 

 

だが少女は脱出の前にと、麻酔ガスで倒れこみ床に転がるジョニーの服を脱がし出した。

 

 

「待て、一体何をやっているんだ?」

 

「スネークさん…私は今身につけられるのがシーツだけなんですよ?ズボンを残してもらえた貴方と違ってね…そんな私に裸で雪がちらつくグロズィニグラードを彷徨けと?」

 

 

そんなスネークに対して少女が返してきたのは、トゲのある言葉と「頭大丈夫?」的なジト目であった。

 

 

「ああ…済まなかった」

 

「謝罪はいいですよ。とりあえずはこれも頂いていきましょうか」

 

 

少女はジョニーから脱がした軍服を着ると、彼が所持していたAK−47をスネークに投げて渡してきた。そして少女は、同じくジョニーが所持していた予備携行のマカロフと銃剣を手に取ると、弾倉のチェックをする。

 

 

「弾倉は一杯ですが、予備マガジンはどちらも無しです。多分今のように奪われた場合を想定しての脱走者対策ですね」

 

 

万が一脱走された場合に、脱走者に必要以上の装備を奪われにくいようにする。当然だろう。現実はゲームのように簡単ではない。

相手だって相応に思考して対処するのだ。

 

 

「無いよりはいい。とにかくまずはここから出て、場所を確かめないといけないな」

 

「任せて下さい。ここの地図はそれなりに頭に入ってるので、目印になる建物さえ見つけられれば今いる場所が分かります」

 

 

少女が大体の地図を記憶しているのはスネークにとって幸いだった。

ならば早速と牢獄から出ようとしたところで、スネークはふと思い出したことを少女に聞いた。

 

 

「少し済まない…今の今まで聞き忘れていたんだが、君の名前を教えてほしい」

 

「あ〜…確かに、私スネークさんに名前教えてなかったですね。う〜ん…教えて良いのかな〜?う〜…よし!どうせ私は今こんな境遇ですし、大出血サービスで教えてあげます!」

 

 

 

「ありがとう。改めて、俺はスネーク。君は?」

 

 

 

「では改めまして───私はヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフと言います。ヴィーシャとお呼び下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上が騒がしい。それはそうだ。くぐもってはいるがロシア語の怒声や返答なんかがひっきりなしに大声で飛び交っているから騒がしいのは当たり前。

原因は言わずもがな、アメリカのエージェントの脱走によるものだ。

 

そして、それを証明する無線連絡が来た。私の足元に寄り掛かって寝ている野良犬を撫でていた手を止めて、無線機のスイッチを入れる。

 

 

<<俺だ。アメリカのエージェントと一緒にいた女は脱走した>>

 

「ご苦労、上手くいって何よりだ」

 

<<ああ、あんたの言う通りにしたよ。写真の裏に電子錠の解除周波数も書いたし、あの煙草も装備からくすねたといって渡した。流石に麻酔煙草だとは思わなかったけどな…お陰で倒れた際に頭をぶつけたよ>>

 

「頭程度なら問題はないだろう、では囚人の居なくなった監獄を守る必要はもうあるまい。道は開けておいたので、グロズィニグラード西のヘリの駐機場へ向かいたまえ。テイルローターに『Ⅲ』と書かれたヘリで部下が脱出準備を進めている。君はそのヘリに隠れて、脱出まで待機したまえ」

 

 

無線越しに報告を聞き、何とか予定通りに軌道修正出来たことに安堵した。この分なら最終目的も達せられるだろう。

ちなみに部下から聞かされのだが、私にはヴォルギン大佐をあの世に送るべき理由が一つ増えた。

 

皆さんこんばんは、ターニャ・デグレチャフ少佐であります。

 

どうにかスネークは私の部下と共に牢獄からの脱出に成功したようです。少しばかりトラブルこそありましたが、間違いなくヴォルギン大佐は怒髪頂点でしょう。

なにせやたら自慢げに振りかざしていた尋問をスネークにヴィーシャ、更にはソコロフといった老人にまで口を割らせることに失敗した挙げ句、うち2人───つまりはスネークとヴィーシャがヴォルギンが去ってから数時間と経たずに脱走してるのだ。

本当にいい気味である。怒り狂うヴォルギンの顔を眺められないのが残念だ。さて、私は最後の仕上げに掛かるとしよう。

 

 

<<あ〜、済まないが、ちょっといいかな?>>

 

「む…まだ行ってないのか?一体何だね?」

 

 

無線から響いてきた先ほどの監守の声に、何事かと返答する。

 

 

<<いや、服はどうすればいいかなと…>>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

 




【グロズィニグラード監守:ジョニー】

食料盗み食いで罰として牢獄勤務になった兵士。プレイヤー達の人気者。
なおジョニーの家族や身の上話、ソ連での軍に入った理由は捏造。実際の設定あったらすいません。

【麻酔煙草】
設計理由やグラーニン設計局にあった理由、中身などは捏造。
主な使用方法は仁王立ちしてるヴォルギン大佐に吹き掛ける。


【写真裏の電子ロック解除周波数】
ジョニーが持つ家族の写真の裏に書いてあった解除周波数は、ジョニーがわざと書いた設定。
なお拷問部屋の解除周波数書いたカンペ持つザ・ソローは出番無し。


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21話

※以前やらかした脱字による盛大なネタと化したヴォルギン大佐の発言(その節は大変申し訳ございませんでした)




「世界中に分散して隠された、"1ドル"!!」


× 1ドル
 1千億ドル



何だこれ…w


「スネークさん、どうしましょうか?」

 

「まずいな…」

 

 

2人は今グロズィニグラードの排水溝に潜んでいた。順に辿ると、まず牢獄からの脱出そのものには成功した。位置もヴィーシャが地図を記憶していたため、牢獄を出てからすぐ兵器厰南東の位置にいると分かった(とヴィーシャは弁論したが、単純にスネーク達がいた牢獄がグロズィニグラードのどこにあるのかをヴィーシャが思い出せば良かっただけであったので、ヴィーシャは単純に牢獄の位置をど忘れしていただけである)。

 

しかし運悪く交代の歩哨がスネーク達の脱出直後に牢獄に入ってしまい、恐らくは麻酔ガスを吸って倒れていたジョニーを発見したのだろう。

直ぐ様グロズィニグラード中に警報が鳴り響き出したのだ。

 

脱出に成功したものの身動きが取れなくなった中、ヴィーシャの進めもあって排水溝へと身を隠したのだった。

 

 

「とりあえず向こうに見える扉さえ抜けられれば、EVAさんが用意した用水路への梯子がある貯水槽区画に行けるんですが…」

 

「こうも警戒が厳重ではな…おまけに軍用犬まで駆り出しているな」

 

 

出口が近いようで遠い。しかも時間を掛ければ掛けるほどスネークとヴィーシャが不利になる。

なお今スネーク達がいる排水溝はグロズィニグラード兵器厰区画の端っこであり、目的の扉はその真反対の端っこである。

 

これもヴィーシャが原因…の1つではあるが、根本的には仕方ない原因があった。まず脱走が見つかった時にスネーク達が取れる手段は2つあった。

 

1つは歩哨がいるが兵器厰区画の中央付近に出る扉。。歩哨は5人と多いが、発見される危険性を除けばもっとも早く監獄区域を抜けていける道だ。しかもその扉の先は兵器厰区域の中央付近に出ることが可能だった。

 

そして2つめはスネーク達が取った排水溝を進む方法。これはヴィーシャが排水溝は貯水槽区画にも繋がっていると言い、一番発見されにくいだろうからと進めたのだ。確かに貯水槽区画には通じていた───というよりは通じているのだろう。というのも、肝心の貯水槽区画への排水溝にはゴミ取り用の真新しい網目状の鉄格子が付いていたのだ。

 

どうして?と困惑するヴィーシャ曰く、ここは脱出のために事前に取り外せるよう壊していたらしい。

だが真新しい鉄格子があるのを考えると、恐らくは警備兵の誰かが鉄格子が壊れているのに気付いて、修理してしまったのだろう。

 

当然ながら鉄格子は真新しいボルトや金具でガッチリと留められており、2人の手持ちの武器や道具では取り外せない。しかも狭い排水溝の中だ。力ずくで外そうにも踏ん張るスペースが確保出来なかった。

 

結局近場まで追っ手が迫っていたため、やむ無く2人は排水溝を進み続け、ついには出口からほど遠い端っこに出てしまったという訳である。

 

 

「すいませんスネークさん、まさか修理されているなんて…」

「想定外というのは任務では仕方ないことだ。済んだことを突き詰めるより、まずは目的を果たすことを考えなければ」

 

 

スネークはヴィーシャを責めることはしなかった。むしろ落ち込むヴィーシャを慰めていた。

 

 

「ここから見えるのは食料貯蔵庫だけだ…弾薬庫か武器庫なら助かったんだがな…」

 

 

スネークは運の悪さをボヤきいていたが、それを聞いていたヴィーシャは、ふと何かを思い付いたらしく、スネークに訪ねてきた。

 

 

「スネークさん、マッチかライターって持ってますか?」

 

「ライターならあの監守のジョニーが持っていたのを失敬してきたが?」

 

「それ貸して下さい。あとは、AKの弾薬を数発下さい」

 

「?構わないが…ならまずはここから出るか…」

 

 

スネーク達は未だ人1人が通れるくらいの排水溝の中に並んだ形で会話をしていたのだ。この狭い空間ではライターを取り出したりAKから弾倉を抜いて弾薬を取り出したりするのは一苦労である。

 

スネークは排水溝から身を出すと、近場の建物に身を隠した。続いてヴィーシャも出てくると、スネークはAKの弾倉を抜いて、3発の弾薬を外す。

そして腰のポケットからオイルライターを取り出すと、弾薬と共にヴィーシャに渡した。

 

 

「ここで待っていて下さい。すぐに戻りますから」

 

 

ヴィーシャは弾薬とライターを受けとるなり、歩哨とサーチライトに見つからないように背を低くしながら、素早い動きで走り出した。スネークは最初に出会った時にヴィーシャの戦闘能力の高さは知っていたが、身体能力が総じて高いことには驚いた。

 

排水溝から食料貯蔵庫まではゆうに20m近くある。だが彼女はその距離を姿勢を低くしているにも関わらず、数秒と掛からずに走りきったのだ。

 

スネークの見てる先でヴィーシャは見事発見されずに食料庫に辿り着くと、辺りを警戒しつつ、慎重に食料庫の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、まずは…」

 

 

ヴィーシャは食料庫内でお目当ての小麦粉を見つけ出すと、まずは監守から奪った銃剣を使い、AKの薬莢を分解し始めた。

 

火花が散らないよう慎重にAKの薬莢に填まる弾頭を抜くと、指先で入口付近を叩きながらサラサラと中の火薬を燃えやすい段ボールや油瓶の側などに振りかけていく。

 

薬莢を3発とも分解して可燃物に振りかけ終えると、今度は先ほどスネークから借り受けたオイルライターを取り出す。これもまた銃剣を使いオイルの給油口を壊して、オイルをタラタラと溢しながら最初に準備した火薬が振り撒かれた場所から入口へと延びるように振り撒く。

 

そして後は仕上げだ。幾つかの油瓶をかち割り可燃物に振りかけると、最後に小麦粉の袋を片っ端から叩きつけ、破り捨て、ばら蒔いた。

すでに食料庫内は可燃物の山どころではなくなっていた。食用油があちこちに塗りたくられ、可燃物の付近には雷管が付いたままの空薬莢や振り撒かれた火薬があり、周りにはほぼ視界が取れないほどに密度のある粉塵舞う小麦粉の嵐。

 

ヴィーシャは顔を小麦粉にまみれさせながら、これから起こる惨状を想像して、つい誰もいないのに心の中で謝罪していた。

 

出口に向かい、残りのオイルをライターから振り撒きつつ外へと出ていく。そして丁度出口の扉から出た辺りでオイルが尽きたので、ライターを投げ捨てた。

 

ヴィーシャは顔や身体から小麦粉を払うと、銃剣を取り出して、地面へと刃先を着ける。

ゆっくりと深呼吸をしてから、一気に銃剣を地面に擦らせながらオイルが途切れた場所を火花を散らせながら銃剣を振り切った。

 

 

 

 

 

 

ボゥッ!!

 

 

 

 

 

 

小気味良い着火音が響いて、ライターから振り撒かれたオイルに火が着いた。

火は一直線に延びるオイルを素早く伝いながら食料庫の中の、あの可燃物の嵐の中へと突き進む。

 

ヴィーシャは即座にスネークのいるほうへと駆け出した。先ほどとは違い歩哨やサーチライトに見つからないようにする暇はないので、見つかること前提で駆け抜けた。

 

そしてサーチライトがヴィーシャの姿を捉え、歩哨の兵士達が脱走者発見を叫んだ瞬間だった。

 

食料庫目掛けて突き進んでいたオイルを伝う火は撒かれた食用油や振り撒かれた薬莢の火薬に引火、更には食料庫中を未だに埋め尽くす高い密度の小麦粉。

 

それらが次々に己の役目を果たした。

 

食料から火が出たのだ。凄まじい勢いでである。もちろんヴィーシャに気を取られていた兵士達は一瞬だが呆気に取られ───

 

次いで起こった、あのばら蒔かれた高密度の小麦粉が引き起こした、盛大な粉塵爆発に腰を抜かしてしまった。突然の爆発に咄嗟に地面に伏せてしまうものや尻餅をついてしまうもの。もはや銃を投げ捨てて逃げ出してしまう者など様々だった。

 

だがまだ彼らの受難は終わらなかった。先ほど彼らが爆発前に発見した脱走者の少女、そして片目を失った男が銃を発砲しながら駆け抜けていったのだ。

 

少女は命中率の低い拳銃を、男は片目を失っているとは思えない正確性で次々と駆け抜けていきながら兵士達を射殺していく。

 

僅か数分で、グロズィニグラードの兵器厰区画は蜂の巣をつついたどころか、まるで先の大戦で唐突な電撃戦を受けたかのようなモラルブレイク(士気崩壊)としか言い様の無い事象に見舞われていた。

 

そして当のスネークとヴィーシャはというと、食料庫を爆発で吹き飛ばしてから、自分達が目指す貯水槽区画を塞ぐ形になる兵士達を次々と射殺しながら、全く抵抗を受けることなく兵器厰区画を抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やりましたね、スネークさん」

 

「ああ、まさかここまで上手く行くとはな」

 

 

スネークとヴィーシャは、グロズィニグラード兵器厰区画を抜けた先の貯水槽区画、その貯水槽から繋がる真下の用水路への脱出に成功した。

 

まだ完全に脱出出来た訳ではないが、とりあえずの窮地を脱せたことを互いに喜ぶ。

だがここまでくれば後一息、EVAの用意した北の通用口を使い逃げ出すだけだ。そうすれば今一度装備を整えて任務に戻れる。

 

そこでスネークの無線機に連絡が来た。出ると、そのEVAからのものであった。

 

 

<<スネーク、貴方、もう彼女と用水路に?>>

 

「ああ、ここまでくればこっちの物だ」

 

<<スネーク…悪い知らせがあるの。貴方達の脱走が大佐にバレたわ>>

 

 

EVAからの無線連絡は、スネーク達の脱走が知られたという事だった。そもそも脱走直後に警報が鳴り響いた時点で気付かれた筈だが、どうやらヴォルギンは何かに夢中だったのか、気付かなかったらしい。だがそれも食料庫を盛大に吹っ飛ばしたことで漸く気付いたのだろう。

 

 

「そうか、あれだけ派手にやればな…だが後は北の通用口を使えばここから脱出が…」

 

<<出来ないの>>

 

「出来ないだって?」

 

 

スネークは脱走がバレようがバレるまいが、ここまで来てしまえば逃げ切ったも同然だと考えていた。

しかしEVAがそれを否定した。

 

 

<<大佐に脱走がバレたことでグロズィニグラード全体が厳戒態勢に入ったの。だから用水路もその対象に入って、北の通用口も封鎖されたの>>

 

「他に道は無いのか?どうすれば出られる?」

 

<<とにかくまずは北を目指して。そこにも既に捜索隊が送られたわ。急いで逃げて>>

 

 

そこでEVAからの無線連絡は途切れた。スネークがヴィーシャへと向き直ると、彼女は会話の端々から状況を掴んでいたのか、「さっさと他の道を探しましょう」と進みだした。

 

だがスネークとヴィーシャは用水路の階段を下りてから、ようやく気付いた。用水路は随分と広いのだ。あちらこちらに道が連なっており、場所によっては道が途切れてもいる。

こんな迷路状態のとこで限られた時間で捜索隊が来る前に北を目指さなければならないのだ。

 

 

「そもそも、北はどっちなんだ」

 

「確か北の通用口付近は用水路の水を川に放出していた筈なので、流れに沿えば…」

 

 

スネークの呟きは脱出の根本的な問題である。通用口以前に北が分からないのでは話にならない。

そしてヴィーシャの返答は現状取れる手段としては最善策と思われるが、これも問題があった。

 

現在スネーク達がいる貯水槽の真下───そこの用水路はほとんど流れが無いのだ。電灯があるにはあるものの、人が通る通路部分しか照らしておらず、用水路は不気味なまでに薄暗いまま。しかも度々の水漏れでうっすらと流れが見えたかと思ったら落ちた大粒の水滴で大きな波紋が生まれてしまい、更には時折カエルやネズミ等の小動物までもが飛び込む。

 

時間さえあるならば多少体力を消耗してでもしらみ潰しに探すのだが、今は用水路に捜索隊が送り込まれている。

闇雲にあっちこっちをさ迷って『最終的に体力消耗故に追い付かれました』じゃ笑い話にすらならない。

 

 

「だが、このままでは埒が開かない。とにかくまずは少し流れが見える場所を探して…」

「スネークさん、ちょっと待って下さい…あれは、何でしょうか?」

 

 

捜索隊がつく前に動き出そうとしたスネークに対して、ヴィーシャが制止を掛けた。

 

ヴィーシャがスネークを止めて、指を指した先───壊れているのか他と比べて小さな明かりが今にも消えそうなほどしか灯っていない電灯の下にいる1mに満たない"何か"。

 

それはゆっくりと明かりのほうへと歩いてきた。だがそれは、不審者や化け物などではなく普通の犬だった。

 

というよりはGRUの兵士達も連れていた軍用犬だった。巡回中か檻からか、どちらかは分からないが恐らくは脱走した個体がグロズィニグラードの地下に住み着いたのであろう。

 

犬はスネーク達の前まで来ると、突然その場に座り込み、スネーク達をじっと見つめてくる。一体何がしたいのかとスネークは戸惑うが、ヴィーシャの反応は違った。

 

ヴィーシャが見たのは犬の首もとだった。擦りきれた赤い首輪から垂れる細いチェーンに付けられた薄い2枚の金属の板───アメリカ軍で使われている兵士の認識標に気付いたのだ。

 

ヴィーシャが犬に近寄り、認識標を首輪から取り外す。その間、犬はヴィーシャの前から動こうとはしなかった。

 

ヴィーシャは犬の首輪から認識標を取り外し終わると、それを電灯の明かりにかざして刻まれた文字を照らしながら見る。そして見終わると、スネークへと向いた。

 

 

「スネークさん、脱出方角を知る術が出来ました」

 

「なに?」

 

「大丈夫です。この子(犬)が案内してくれます」

 

 

ヴィーシャは、犬の首輪に付いていた認識標を見てから、突然説明も無しに犬が案内してくれるとスネークに話す。もちろんスネークは突然な上に、犬が案内するという話を信じ切れないでいる。

 

 

「だから、大丈夫ですよ。私がよく知る"ある人"が現時点で、最も信頼出来る案内係を送りつけて下さったのですからね」

 

 

ヴィーシャの自信ある顔もだが、それ以上に今は時間が無いとスネークは割り切ることにした。

EVAは無線で「捜索隊が送られた」と言っていた。既に送られたのならば、今直ぐにでもこの場所に捜索隊が到着してもおかしくはないのだ。

 

 

「…分かった、時間が無いからな。早速その犬に案内をして貰おう」

 

「はい、じゃあ案内をお願い」

 

 

ヴィーシャの言葉を受けた犬は座り込みの姿勢から立ち上がると、一度スネーク達に吠えてから小走りで用水路を進み出した。

そしてスネークとヴィーシャは、薄暗い用水路の道を犬を見失わぬよう追いかけ出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくやった」

 

 

ターニャはそう言って、自らの足元で尻尾を千切れんばかりに振る犬の頭を撫でる。

 

犬は首に赤い首輪を着けている。そう、スネークとヴィーシャに用水路で接触してきたのは、あの時ターニャに餌をねだって擦り寄っていた大型犬であった。

 

犬は無事スネークとヴィーシャを用水路北側の放水路に辿り着かせたと、スネーク達を追う捜索隊に加わっていたグランツから報告を受けた。

グランツはしっかりとターニャが与えた任務目的を果たした。1つはスネーク達の脱出を確認すること───そしてもう1つは、各捜索隊に嘘の情報を与えてスネーク達の脱出時間を稼ぐことである。

 

もしグランツが居なければ、捜索隊は早々に用水路に突入し、スネーク達は逃げる間もなく発見されていただろう。

 

 

「まあ、オセロットが居るのは想定外だったが…」

 

 

ただ想定外だったとターニャが呟いたように、オセロットが捜索隊に加わったというイレギュラーが発生した。だがこれはヴォルギンの命令によるものではなく、オセロットの独断であった。

 

よほどスネークを自分の手で仕留めたいらしかった。そしてオセロットはグランツの進言(という名の遅滞工作)を持ち前の行動力ではね除け、放水路に辿り着いたスネーク達に追い付いてしまった。

 

本来なら封鎖された北の通用口をどうにか開ける算段をつけて、グランツとは別にノイマンを送り込んでいたのだ。奴が封鎖された扉を抉じ開けてスネーク達を逃がす───だがその目論見はグランツの遅滞工作に引っ掛からなかったオセロット率いるスペツナズと一般兵士の混成捜索隊が放水路でスネーク達を発見したことで外れた。

 

だがオセロットはそこで致命的なミスをした。原因はいつもの虚栄心だ。奴はスネークを自身で仕留めようと、周りの手出しを禁じた。そして、スネークに逃げられたのだ。

 

スネークは捜索隊が予想しない行動に出たのだという。ヴィーシャを掴むと、川からの高さが優に100m近くある放水路から飛び降りたらしい。

何とも大胆不敵で豪胆な脱出方法の選択だとターニャは呆れたが…。

 

だがそれを除いてもスネーク達が脱出に成功出来た一番の理由はあの用水路に住み着いていた野良犬だったとターニャは思う。ターニャはスネーク達が用水路に逃げ込んだ際に起こりうる"進むべき方角に迷う"という事態を想定していた。そこで、自分になついた野良犬を使うことにしたのである。

 

幸い犬は物分かりがよく、ターニャの僅か1時間程度の即席訓練で人を案内出来るようになっていた。そして用水路を住みかにしていただけあって、進みやすい道や通れない場所も熟知していた。

 

 

(本当に幸いだった…時間さえあれば私が直接出向いてスネークを案内も出来たのだが、捜索隊が迫っていたからな…スネークならまだしも、ヴォルギン側の連中に今私の生存を知られる訳には行かないからな)

 

 

ターニャはまだ表に戻れない。何せ"例の物"がまだ未発見だからだ。万が一生存が知られて自分の死亡偽装に「何故死亡偽装して裏でコソコソしてたのか」なんて不審を持たれて"例の物"をツェリノヤルスクの外に───ましてやGRUの本拠地にでも移送されたりした日には、ターニャは破滅である。

 

今更ながら、非常にターニャは博打と綱渡りの連続でしかない任務に就かされたものだと嘆息するのであった。

 

 

 

 

 

 

 




【脱走】
本編とは違い、早々にバレた脱走。ついでに派手に脱走してもらいました。
小麦粉使った粉塵爆発は半捏造現象───というのも高密度となった粉の摩擦による粉塵爆発はあっても、実際に自動小銃の薬莢に使われる火薬の炸裂で本当に引火するかは素人なので分かりませんでした。もし半分どころか全て違ってたらすいません。


【用水路】
ゲームではさほど迷わず進める地下の用水路ですが、多分現実なら電灯もあそこまで照らせないだろうし、あれだけの軍事基地の用水路ですから結構な広さになるだろうな───という感じでああいう形になりました。



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22話

なかなかヴィーシャとスネークの脱走劇が終わらない。
簡単な描写で進めようとするも、興が乗ったり途中保存したのを再び執筆し出したりすると、何故かどんどん文章が増えていく…。




※2018年3月21日

45ACP弾の表記ミスを45LC弾に修正しました。


【グロズィニグラード地下、用水路・北の通用口付近】

 

 

 

 

 

 

グロズィニグラードの牢獄から脱走し、要塞外への脱出を図るスネークとヴィーシャは、ようやくその脱出のための場所へと辿り着いていた。

 

 

「スネークさん、ここが通用口です」

 

「だが封鎖された。どうにかこいつを抉じ開けないといけない」

 

 

あの貯水槽区画の真下に逃げ込んだ時、ヴィーシャの言う"よく知るとある人"が案内としてスネーク達に送りつけてきたあの野良犬が現れた。そして犬は、あれだけの薄暗さと所々が崩れたり途切れたりしている広い用水路を、迷うことなく案内しきった。

 

そのお陰でスネーク達は無駄な体力と時間を消耗することなく放水路近くにある北の通用口に繋がる扉の前へと辿り着けたのである。そして犬はスネーク達を案内し終わると、最初に案内を始めた時のように一吠えしてから、再び元来たあの薄暗い用水路の奥へと消えていった。

 

だが次なる問題はその通用口の金属扉であった。スネーク達の脱走を受けてヴォルギンはグロズィニグラードやその付近一帯の施設全てに厳戒態勢を命令。

 

そのため脱出・侵入に繋がると思われる扉や通路は溶接や施錠、施設に繋がる道という道は兵士による封鎖線が敷かれたのだ。

 

EVAから無線で言われたように、その金属扉も命令を受けた兵士によって溶接されており、スネークとヴィーシャの持つ装備では抉じ開けるのは不可能であった。

 

 

「こいつをどうやって開けるか…蝶番を壊しても扉全体が溶接されていてはな…」

 

 

スネークが扉を抉じ開ける方法を模索していると、突然扉がガンガンと打ち鳴らされた。

そして扉越しに向こう側から大きな声が聞こえてきた。

 

 

<中尉!俺だ!居るか?>

 

「誰だ!」

 

 

謎の人物の声にスネークは即座に後ろに下がって、いつ声の主が扉を開けて攻撃してきても対応出来るように、AKを構える。しかしスネークの警戒の言葉に返ってきたのは、世間話をするかのように朗らかな男の声であった。

 

 

<おっと失礼!あんたはアメリカのエージェントだな?俺はあんたと一緒にいる女中尉の同僚だ!"とある人"からの命令で、あんたらを逃がしに来たんだ!>

 

「大尉!ノイマン大尉ですか?助かりました!」

 

<ああ!今からこいつを抉じ開けてやる!そしたらお前らは……っと待ってくれ、無線だ。…ああ俺だ、今エージェントの旦那と中尉を出迎えに通用口まで来てるんだが……あ?山猫の隊長が!?…それを足止めするのがお前の任務だろうが!ええいクソッ!>

 

 

ノイマンと呼ばれた男が扉の向こうで悪態をついた時である。スネークとヴィーシャの側に弾丸が撃ち込まれた。

 

 

「居たぞ!撃て!」

 

 

ヴォルギンが追跡のために送り込んだ部隊がとうとうスネーク達を見つけたのである。

 

 

「まずい!逃げるぞヴィーシャ!」

 

 

スネークはヴィーシャの腕を掴むと、敵とは反対方向───つまりは放水路の方へと駆け出した。敵に追い付かれてしまった以上、とにかく逃げなければならない。

手持ちの武器では敵部隊と真正面からやりあえるだけの火力が無いのだ。

 

 

<待て!おい中尉そっちは…!ああクソッ!!>

 

 

2人が駆け出した方向がどうなっているのか知っているのだろうノイマンは咄嗟に制止を掛けたが、空しく銃声と軍用犬の吠える声に掻き消され、2人は言ってしまう。

 

そして放水路の外へと向かって駆け出したスネーク達は、未だ薄暗い用水路を駆け抜け外の明かりが射し込む所へと飛び出そうとした所で、目の前に映った光景に慌てて動きを止めた。

 

ヴィーシャはスネークに腕を掴まれて引っ張られる形であったので、直ぐに止まれた。しかしスネークは勢いよく走り続けていたために、突然に眼前に広がった光景にすぐには止まれず、ヴィーシャが止まった位置よりも先───道が途切れている場所でようやく止まれた。

 

だがスネークは急に止めた足の動きに追従出来なかった上半身のバランスを崩し、あわや転落しそうになった。

それを寸でのところで救ったのはヴィーシャであった。彼女はバランスを崩して落ちそうになったスネークの腹部に両腕をまわして抱き着くと、全体重を後ろに掛ける。

 

ギリギリではあったが、ヴィーシャが勢いをつけて後ろに全体重を掛けたことでスネークはヴィーシャと共に真後ろに倒れ込み、尻餅をついた。

危うい危機の1つから脱したことで、少しばかり余裕が出来たスネークは眼前の光景を噛み締めた。

 

あの用水路から大量の水を放出している直径5mはある放水路───その先に広がっていたのは、遥か真下に大きな河が見える断崖絶壁であった。

放水路の側や崖伝いには通路や道らしい道などは一切存在していない。

 

スネークはここで、自分達が完全に追い詰められたのだと理解した。EVAが北の通用口が封鎖されたことに焦っていたのも、ヴィーシャの知る"とある人"が扉を抉じ開けるためにあのノイマン大尉という男を送り込んだのも、これがあったからなのだ。

 

とにかく放水路の側ならば整備や点検用のための通路くらいはあるだろうと目算していたスネークの考えは、浅慮であったと思い知らされる結果になったのである。

 

そして背後を振り返れば、丁度追いついたGRUの兵士達がスネークとヴィーシャに対して武器を構えており、軍用犬が獲物に飛び掛かる合図を心待ちにしているかのように唸りをあげている。

 

スネークは予備マガジンの無いAK−47を、ヴィーシャも同じく予備マガジンの無いマカロフと、頼りない銃剣を構えて応戦の姿勢を見せた。だが勝ち目は皆無に近い。

身を隠す所もないこの場所では、撃ち合いになれば数の多い方が有利だ。ヴィーシャのあの軽やかな動きも、実際には障害物や視界の悪い場所でこそ真価を発揮する奇襲戦法だ。雨の如く弾を降らせるアサルトライフルの前で弾を華麗に避けながら───なんて映画のような曲芸技ではない。

 

 

(だが…やるしかないか)

 

 

スネークは奇跡や運を完全に信じてはいない。しかし動かなければその奇跡どころか運すら向かないという事実は信じている。ゆえに例え可能性が億が一程しかないとしても、行動を起こそうとした。

 

だがスネークの持つAKはうんともすんとも言わなかった。銃身の詰まりか機関部の故障か、または給弾不良か…理由は分からないが、AKは撃てなかった。

本来AKはアサルトライフルの中ではトップクラスの耐久性を誇る。泥の中に隠してもきちんと作動するくらいだ。

 

しかしだからといって全てが全てきちんと作動するわけではない。どうしても中には僅かでも不良品が混じってしまう時があるのだ。そしてスネークが手にしていたAKは、その僅かな不良品枠に入る物だった。

 

 

「クッ!」

 

「銃を捨てろ!」

 

 

スネークの持つ銃が発砲出来ないと理解した敵兵士は、スネークに武器を捨てろと叫ぶ。その声に対してスネークは、大人しく武器を捨てた。なにせ壊れた銃など、刀身が折れたナイフ以下の武器になるのだ。振り回すだけが使い道の銃の形した鈍器なぞ、至近距離の乱戦でもなければ役には立たない。

 

ヴィーシャも頼みの綱であったスネークのAKが使えないとなった時点で、自らが持つマカロフと銃剣だけでは抗えないと考えており、スネークに続いてマカロフとナイフを敵の方へと投げ捨てた。

 

仮定だが、現状を楽観視しつつ都合よく考えた場合、今もっともこの危機を乗り切る術を有しているのは、ノイマンだとヴィーシャは思った。しかし自分が捕らえられたせいで既に残りの部隊員はヴォルギンから疑われているかもしれなかった。目的が果たせていない現状で、これ以上部隊が疑われるのは避けねばならないとその楽観視と都合はあり得ないと断じた。

 

 

「ようやく追いついたぞ」

 

 

その時、スネーク達にジリジリと接近していたGRU兵士達の後ろから、青年の声が響いた。拍車を着けたブーツを履き、チャリチャリと音を響かせながら歩いてくる───そんな人間と言えば、ここには1人しか存在しない。

 

 

「…この時を待っていた」

 

 

そして現れたのは、やはりオセロットであった。彼は武器を捨てて丸腰となり、放水路を背後に逃げ道を失ったスネーク達を前に歓喜しているのか大袈裟な身振りをする。

 

 

「もう邪魔は入らない…誰も手を出すな、分かったな?」

 

「はっ!」

 

 

さらにやはりと言うべきか、オセロットは周りの兵士達に一切の手出しを禁じた。彼はどうしても自らの手でスネークを仕留めたいらしかった。

 

オセロットは自分の首に掛かるチェーンの先、そこに付けられたわっかに嵌め込まれたにび色の物体を掴むと、チェーンを引きちぎった。そして腰から取り出したのは愛用するSAA。

 

彼はそのにび色の物体をSAAのシリンダーに装填すると、自らの左腕を滑らしてシリンダーを回転させ、ハンマーをコックした。

シリンダーをわざわざランダムになるよう回し、弾の装填された場所を確認せずにハンマーコックしたのは、生来の彼のギャンブラー魂的なものなのだろう。

 

いつ発射されるか分からないリボルバーでロシアンルーレットのように標的を仕留める───それはオセロットの自尊心を満足させながらも、彼がもっともなりたいであろう"兵士"には不向きな性質だと示してもいた。

 

 

「これで終わりだ」

 

 

その言葉と共にオセロットはSAAをスネークに向けて構えると、ゆっくりと引き金を引いた…

 

 

 

 

ガチッ!

 

 

 

 

一発目は不発であった。しかしオセロットはまだまだ楽しめるとでも言いたげな顔で2発目を撃つべく、ハンマーをコックしようとした。

 

そして、それはまたもや裏目に出る。もはや後が無いと見えたスネーク達の現状───だがスネークはそこから新たな活路を見出だした。博打には博打をとでも表現出来るような手段ではあるが、それはオセロットにとってはこれまでと同じく、「まさか!?」と叫びたくなるものであった。

 

スネークはそばに立つヴィーシャの腕を掴むと、ギリギリのふちに立つ自らの身体のバランスを、後ろへと傾けた。

 

 

「っ…!?スネェーク!!」

 

 

追い詰められたスネークが何をしようとしているのかを理解したオセロットは、慌てて駆け出した。<折角ここまで追い詰めたというのに、逃がしてなるものか>と心中で叫びつつ、右手で構えるSAAのハンマーをコックしながら再びトリガーを引いた。

 

 

2発目…不発。

 

 

そしてスネークと彼に腕を掴まれたヴィーシャはオセロットが3発目を撃つ暇もなく、まっ逆さまに放水路から流れ落ちる水の先にある大河へと落ちていく。

 

スネークは落ちる手前で腕を掴んでいたヴィーシャを胸元に抱き寄せると、彼女の頭を抱えて着水の衝撃に備え───水柱を上げながら大河へと落下した。

 

 

 

 

 

 

【Side オセロット】

 

 

 

「っ…!?スネェーク!!」

 

 

自分の目の前で体重を背後に傾けたスネークを見て、奴が何をしようとしているのかを理解した途端、何も考えずに駆け出した。

 

右手で構えるSAAのハンマーをコックして今正に崖下へと消え行こうとしているスネークの心臓を狙いながらトリガーを引いて2発目、しかしながら不発に終わる。

 

そして崖下へと消えたスネークを見つけ出そうとハンマーを更にコックしながら放水路のふちギリギリまで進んで止まった。

 

急ぎ下を覗き込めば、そこにはあの女───ヴィクトリアを抱え込みながら大河へと水柱を上げて落ちたスネークを見つけた。

 

奴は流れの激しい大河に揉まれながら流されていく。今仕留めるならば奴が流されていく間しかない。そうと決まれば実行である。右手だけで構えていた愛用のSAAを両手を使って持ち、右の胸元に引き寄せる形で確実に命中させようとした。

 

しかしふと気になってしまい、シリンダーを覗き見た。いつもならば───本来ならばしない行為だ。"必ず"と獲物たる敵を選び仕留める時は、そいつの運を試すために様々な方法を取ってきた。

奴のアドバイスで自動拳銃からシングルアクションのSAAに持ち変えてからは、ロシアンルーレットを変形させたあの撃ち方で相手の運を試してきた。

たまたま見つけたKGBのスパイも、ソコロフ博士も例外無くである。

 

しかしその時ばかりは今ここで仕留めたいという欲求から、弾の位置を確認しようとシリンダーを覗いてしまったのだ。

 

SAAのソリッドフレームに固定されているシリンダー。そこには、コックしたハンマーの先にある空の装填口、そしてその左側の装填口に装填された45LC(ロングコルト)弾があった。

 

つまりは3発目の発砲は不発に終わる。そしてわざわざシリンダーを覗き見てしまうというタイムロス。これらが合わさった結果は言わずもがな…タイムオーバー(時間切れ)である。その間にも、スネークとヴィクトリアは瞬く間に流されていき、豆粒ほどになってしまっていたのだ。

 

今一歩自らが歩み損ねたのだ。だがまだ諦めてはいない。スネークは大河を流されていったが、まだ死んではいないのだ。奴はまた必ずこのグロズィニグラードへと侵入してくる。ならばその"次"を待てばいい。

 

そして例え周りから野次られたとしても、決して奴との運の戦いを止めたりはしないつもりであった。それに勝てなければ、自分は負けたままなのだ。

 

初邂逅となった廃工場でのマカロフの弾詰まり(ジャム)というアクシデントに、再びその工場で相まみえた時に起こった装填数と残弾数の読み間違えによる敗北、そしてザ・ボスから聞いた情報をもとにコブラ部隊より先に待ち伏せたというのに部隊兵士の1人ザ・ペインに居場所を発見されスネークとの決着を阻害された。

 

挙げ句には牢獄でのスネークによる妨害だ。奴の捨て身の妨害で自分とタチアナの運試しは、奴が右目を失うという散々たる結末であった。しかもそのトリガーを引けば弾が出るという時にである。

 

 

 

 

「まだ死ぬな…」

 

 

そう呟いてからSAAをホルスターに仕舞い、用の無くなった放水炉を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─グロズィニグラード、崖下の河・下流─

 

 

 

 

 

【Side ヴィーシャ】

 

 

遥か下の崖下を流れる河に落ちた時、最初に感じたのは冷たさだった。しかし冷たさに身を震わせる暇もなく、今度は身体をやたらめったらに振り回される感覚が襲いきた。

 

それからは体感時間は当てにはならないだろう。とにかく永遠とも思える長い時間、河に押し流され揉まれる感覚を味わい続けた。

口内に水は入るし、身体のあちこちを流木や岩に嫌というほど打ち付けながら流されていった。

 

そしてようやくといったところだろうか…ふと流れが弱まったことに気付いた瞬間、自分の足が水底に着くことが出来たのだ。これをチャンスと捉え、怠い身体に鞭を打って重い足を進めた。

 

そして足が完全に水に浸からなくなった場所───つまりは岸辺へと上がることが出来たのだ。本来ならば追っ手の危険性を考慮してより見付かりにくい地点まで移動するのが鉄則なのだが、流石に疲労困憊であった。

 

少しだけと言い聞かせながら上着の野戦服の前をはだけて、大の字で岸辺に仰向けに寝転んだ。

結構な距離を流されたのか、周りは自分が初めて見る密林地帯であった。

 

 

「…ハァー…」

 

 

思い切り息を吐きながら、頭上から降り注ぐ木々の葉で程よく遮られた暖かい日光を浴びて、疲れきったリラックスさせる───と、そこであることに気付いた。

 

 

「スネークさんは…はぐれた?」

 

 

一緒に飛び込んだ(というよりはいきなり引っ張られて道連れかと思うくらい躊躇なく放水路から崖下へと飛び降りさせられた)スネークの姿が見えない。

だがあれだけ流れの激しい河である。幾つもの小川が合流してるだろうし、そのどれかに入り込んだ可能性もある。

 

 

「…とりあえず探さないと…」

 

 

現状彼に死なれては困るのだ。それが上官の望みでもある。まだ若干の怠さは残るがある程度体力を回復出来たので、岸辺から起き上がって目の前の小川を上流を目指して川沿いに歩き始める。

 

万が一を考えてちょくちょく川の底を覗きこんでみる。だが、川は底まで透き通っているがスネークは見当たらない。

もしかしたらとっくに目覚めて自分のように川沿いを伝いながら自分を探しているかもしれないという考えが頭をよぎり出す。

 

ならあと少しだけ歩いて見付からなければ、先ほどの岸辺へと戻って体力回復に努めながらスネークを待とうと決めた…とそこで、川底に人型の存在が漂っているのを見つけた。

 

それは紛れもなくスネークである。どうやら気絶しているらしく、ピクリとも動かない。というよりは死んでいると考えたくなかった。もし死んでたら困るからだ。

 

だがこのままでは本当に死にかねない。ヴィーシャは前をはだけていた上半身の邪魔な野戦服を脱ぎ捨てると、息を吸ってから川に飛び込んだ。

そのままスイスイと底まで泳ぎきると、水中を漂うスネークの両脇に腕を通して離れないようがっちりと両手を組むと、思い切り底を蹴った。

 

底を蹴った勢いを使い先ほど潜ってきた水中を今度はグングンと上がっていく。すると、その途中で腕の中に抱いていたスネークが口から大きく泡を吐き出した。どうやら意識を取り戻したらしい。

 

だが身体を後ろから抱き抱えられていることに気付いた瞬間に全力でもがいて、ヴィーシャの腕を払おうとする。

恐らくだが、敵かもしくは見知らぬ人物に拘束されたと思ったのだろう。

 

ヴィーシャは必死に暴れるスネークを押さえつつ、水中なので声が出せないため、肩を叩いたり振り向かせようとしたりと何とか自分だと気付いてもらおうとする。

 

十数秒ほどの攻防の末、スネークは背後から自分を抱き抱える人物の顔を見て、ようやくヴィーシャだと理解したのか、暴れるのを止めて大人しくなった。

 

ヴィーシャは暴れるのを止めたスネークにジェスチャーで上───水面を指す。その動作を見てスネークは上に顔を向けると、ヴィーシャの言いたいことを理解して頷いた。

 

ヴィーシャは抱き抱えていたスネークから手を離すと、一気に水面まで上昇を始める。そしてそれに遅れながらも、スネークも水面目指して水を掻き分けながら残る力を振り絞り、泳ぎ出す。

 

そして始めにヴィーシャ、続いて数秒後にスネークが小川の水面に顔を思い切り出した。互いに無事に水面へと出れたことを確認すると、今度は岸辺へと泳ぎ出した。

 

岸辺に辿り着いた2人は疲労で重い身体を引きずるように上がると、同じタイミングで息を吐きながら岸辺に大の字で仰向けに寝転ぶ。

スネークはそれなりの時間水中を漂っていたため、ヴィーシャは大の男であるスネークを抱き抱えて必死に泳いだために、互いに荒い呼吸を繰り返している。

 

 

 

「ヴィーシャ…無事か…?」

 

ようやく一息ついたのかスネークは軽く身体を上げて、未だに横で上半身裸のまま寝転んでいるヴィーシャから僅かに視線を逸らしつつ呼び掛けた。

 

 

「…今視界に広がる森林や鳥があの世の物ではないというなら…互いに無事ですね…」

 

 

対してヴィーシャはその呼び掛けに、水に濡れた顔や前髪を拭いながら軽口を返す。スネークは「そうか…」と返答すると再び荒い呼吸をしながら寝転んだ。

しかし次に放たれたヴィーシャの言葉に僅かに気まずい顔することになった。

 

 

「次…放水路から崖下に飛び込む時は1人で落ちるか…せめて一言下さいね…」

 

「…ああ…善処しよう…」

 

 

ヴィーシャの少しばかりトゲがある言葉に、スネークは気まずげな表情のまま疲労を含んだ返事を返すのがやっとであった。

 




【放水路でのロシアンルーレット】

せっかく追い詰めるも、いつもの癖でじっくり打ち倒そうとするからまたスネークに逃げられたオセロット。
ちなみにSAAのシリンダーの隙間を覗いて弾を確認するシーンは、実際に出来るのかと思い、タナカのSAAモデルガンで確認してから描写したという裏話が…。

【グロズィニグラードの放水路下を流れる大河】

拷問による負傷や疲労があったとはいえ、本編映像でスネークが浮き沈みしながら流されたり、最終的に小川の底で気絶していたりといった描写から、本作品でも流れが強く不規則な大河として描写しました。


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23話

本日、皮膚科なり。

左手に魚の目っぽいものが出来て数ヶ月、治る気配が無いのとなんか心配なので貴重な休日の午前中を潰して受信待ち。

お待たせ致しました。遅れてすいません。



「待て!…山猫部隊の連中だ。数は2人だ…やり過ごすか始末するか…いや、考えるだけ無駄だ」

 

「コピー(了解)、やり過ごしましょう」

 

 

男の言葉に女は了承を伝えると、手にする先が尖った枝を持ち直してゆっくりと茂みに身を伏せた。

 

その茂みの前を歩く2人の黒野戦服に赤いベレー帽の兵士は、女に気付かぬまま素通りし、奥の木々が生い茂る向こう側へと消えていった。

 

 

「よし、行くぞ」

 

「はい」

 

 

男は兵士が消えたのを確認してから、手にするSAAを構えつつゆっくりと別の茂みから身を起こし、腰を屈めた体勢で進みだす。

そして女も男が進みだしたのを確認すると、先ほど隠れた茂みから出る。

 

2人はなるべく落ちている枝や小石を避けつつ音を立てないように───しかし迅速な行動で歩を進めていく。

 

 

「待て、伏せろ。歩哨だ」

 

 

新たな敵兵士を見つけた男が女に指示を出し、互いにその場に伏せた。目の前には先ほどとは違い、1人だけで辺りを哨戒する黒野戦服の兵士がいた。

 

手にしたショットガンの銃口で茂みを広げたり、足で雑草や枝の山を踏みつけたりしつつ、徐々に男と女のほうへと近づいてくる。

 

 

「敵歩哨接近、身を隠します」

 

「コピー(了解)、俺はここで動向を見張る」

 

 

男は女に自分の行動を伝えると、伏せていた場所から近場にある深い雑草の茂みに音を立てないよう横に転がりながら入り込んだ。

対して女は歩哨の視線が一瞬逸らされた隙を狙い、歩哨の側にある倒木と地面の隙間へと匍匐で潜る。

 

男は茂みからSAAを歩哨に向かって構えつつ、倒木と地面の隙間部分に潜った女に目線を向けた。

すると女は先ほどの先が尖った枝を取りだし、男に対して喉を親指でなぞるサインをしてくる。

 

女の目的をサインで送られて理解した男は、同じくハンドサインで「やれ」と返す。

 

 

「♪〜」

 

 

女は男のハンドサインを見て、枝をしっかり握ると体勢を変えつつ口笛を吹いた。当然歩哨の兵士はいきなり森林地帯で響いた口笛に注意を向け、口笛が聞こえてきた倒木に近づく。

 

彼は対応を間違え、運も無かった。警戒して周りに呼び掛けるなり、隠れているかもしれない敵を想定して倒木目掛けて射撃を行うべきだった。

しかし自分以外にも多数の兵士が周りを哨戒しているという状況と、自身が近距離で破滅的な威力を指向できるショットガンを手にしているという状態から、彼はショットガンを構えつつも倒木から身体を乗り出すように音の主を確認しようとしてしまった。

 

故に敵を見つけた彼が声を出すよりも、そして引き金を引くよりも素早く繰り出された鋭く先が尖った枝が、無防備に乗り出していた彼の喉を貫くほうが速かった。

 

 

「…!?ゴブッ…!」

 

「フッ!」

 

 

突如として突き出された女が左手に持つ枝で喉を深々と貫かれた兵士は目を白黒させ、周りに知らせようと声を出そうとするも、口からは声の代わりに血が溢れただけであった。

 

そして女は即座に空いてる右腕で男の頭を抱え込み、自分のほうへと引き摺り込んだ。そしてほぼ虫の息であった男の首を思い切り捻り上げ、沈黙させた。

 

 

「よくやった」

 

 

女が見事に敵を始末したのを見計らい、男がゆっくりと倒木のほうへと近付いてきた。

 

 

「どうもです、スネークさん。じゃあ進みましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男と女───スネークとヴィーシャは、再びグロズィニグラードへと舞い戻るべく、自分達を捜索する山猫部隊の兵士を何度もやり過ごし、時には排除しつつジャングルの中を進んでいた。

 

EVAからの無線通信では、グロズィニグラードの裏口───駐車場内へと通ずる坑道がある滝の裏の洞窟で合流すると言われたため、その滝を目指しているのだ。

 

道自体は迷う程ではない。滝の裏ということは、滝があるのは上流である。つまり川の流れとは反対方向へと進んでいけばよいだけなのだ。

 

むしろ問題は、未だにスネークとヴィーシャを見つけ出すために捜索を行っている山猫部隊の兵士達であった。

 

多数の部隊という訳ではないが、それでも軽く見積もって2個分隊は駆り出されている。

そいつらがあちらこちらに散らばり、スネークとヴィーシャの姿もしくはその痕跡を探そうと躍起になっていた。

 

どうやら動かせる人員に対して、捜索範囲は広大らしい。でなければ全員ではないとはいえ、精鋭のスペツナズが各個撃破されやすい単独行動で捜索に当たるなどあり得ないだろう。本来こういった捜索や哨戒は2人1組(ツーマンセル)が大原則だからである。

 

だがそのお陰で、スネークとヴィーシャはどうにかその警戒網を潜り抜けられた。

 

 

「見えました。滝です」

 

「ようやくか」

 

 

ようやく滝に辿り着いた2人は、ほっと詰まらせていた息を吐いた。後は滝の裏の洞窟で、EVAと待ち合わせるだけである。スネークは最後に残った武器であるSAAを手に滝に入ろうとした。

 

実はスネークは、ザ・ボスから牢獄で渡されたSAAを肌身離さず持ち歩いていたのだ。

だが残念ながらSAAに弾は入っていない。これはオセロットがあの牢獄でのロシアンルーレットに用いた───スネークの右目を奪った凶弾を放ったSAAだからである。

 

弾はその時の一発だけであり、シリンダーには使用済みの空薬莢のみ。また他に補給する暇も場所もなかったがために、実銃でありながら弾が無いハリボテ銃と化していた。

 

だが無いよりはマシだ。実際に撃たずとも突き付けるだけで相手を威圧することは出来る。そして滝裏の洞窟に入ろうとしてる今も、そんななけなしのハリボテ銃の威圧頼りであった。

 

そしてヴィーシャも放水路で唯一の武器であったマカロフと銃剣を投げ捨てたために、丸腰である。そのため適当に地面に落ちていたそれなりの太さの枝を岩で削り、即席のスピアとして使っていた。

 

ゆっくりと足音を立てないよう滝の裏へと回ろうとするスネークの背後を即席武器の枝を構えるヴィーシャが守りつつ、両者は進んでいく。

 

 

 

 

 

「……!あぁぁぁーーーーーーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

だがそこに突如として響き渡る後方警戒をしていたヴィーシャの叫び声が、周りを騒がせた。

鳥は驚いて飛び立ち、野生動物は逃げ出し、当然捜索を続けている山猫部隊の兵士達も今の叫び声に気付いただろう。

 

しかしヴィーシャはそんなこともお構い無しに、スネークにある一点を指差しながら声高に呼び掛けた。

 

 

「スネークさん!あれ!あれ見てください!!」

 

「静かにしろヴィーシャ!敵に見つか…」

 

「そんなの今はどうでも良いですよ、あれですあれ!あの木の根元に!」

 

 

ヴィーシャが叫びながら必死に指差す先にいるもの…そこには一匹の生物が、此方をじっと伺うように止まっていた。

 

 

「ツチノコです!!!」

 

 

ヴィーシャはその生物の名前を叫んだ。だが、その名前を聞いて反応したのはスネークではなかった。

 

 

<<スネーク、ヴィーシャ!ツチノコを見つけたのね!>>

 

<<何だって!?>>

 

<<本当か!>>

 

「ええ、はい!間違いなくツチノコです!蛇の頭と尻尾に、ずんぐりとした茶色の胴体!本物です!スネークさんの背後で後方警戒していたら見つけました!きっと私かスネークさんどちらか1人だけでは発見出来ませんでしたよ!」

 

<<よくやった!流石はスネークと行動を共に出来るだけある!>>

 

<<ああ!彼を送り込んだ甲斐があったし、君と組んだのも幸運というものだ!さっさと任務を終わらせてソイツを連れ帰ってくれ>>

 

「はい、これは歴史に残りますよ!」

 

<<スネーク!絶対にソイツを食べたりするんじゃないぞ!いいな?>>

 

「ああ…」

 

 

これまでは日本でのみの観測であり、捕獲事例の無い極少なまでにレアなUMAが、今まさにロシアという広大な国の中で初めて観測され、あまつさえその個体の捕獲が出来る直前まで来ていた。

 

そしてヴィーシャはいつの間にかスネークから離れて、ジリジリとツチノコの側へとにじり寄っていた。

 

顔を汗にまみれさせながら目をギラギラとさせており、さながらその様相は部下を殺した姿を消せる地球外生命体への対抗心を燃やし、トラップというトラップを仕掛けつつ、己の肉体ひとつで戦いを挑まんとしている某アメリカ特殊部隊の筋肉もりもりマッチョマンの隊長を彷彿とさせた。

 

そしてそんなギラギラとした捕食者のようなヴィーシャに気圧されつつも、蛇のような鳴き声をあげて威嚇するツチノコ…

 

両者の距離は徐々に縮まっていき、ついに僅か1mを切り────

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャアッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴィーシャが声をあげてツチノコに襲い掛かった。そして勝負は、一瞬で着いた。

 

 

「獲ったー!!!」

 

 

見事両手にUMAツチノコを握りしめ、神に供物を捧げるかの如く高々と掲げるヴィーシャ。

 

 

彼女の勝利であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいません…つい…」

 

「あれだけ大声を出せば当然だ」

 

 

ヴィーシャとツチノコの対決(というよりは捕獲)は、ヴィーシャに軍配が上がった。

そしてやたら叫び声を上げまくったヴィーシャと側に居たスネークは当たり前の如く、捜索にあたっていた山猫部隊に気付かれた。

 

すぐさまヴィーシャはスネークに引っ張られ滝裏の洞窟に共に隠れたものの、表は山猫部隊が居るため発見されるのも時間の問題であった。

 

 

「とにかく今は息を潜めることだ。それとツチノコは…」

 

「逃がすなんてとんでもない!」

 

「………」

 

 

ツチノコを胸元に抱きしめ、イヤイヤと首を振りながら頑として否定を口にするヴィーシャ。

彼女との捨てる捨てないの問答は無駄だと悟ったのか、スネークは何も言わずに黙り込んだ。

 

 

「…!」

 

「…!」

 

 

しかし直後に滝の外で鳴り響いた銃声と悲鳴に、2人はすぐさま兵士の顔つきへと表情を変えた。ここは流石と言うべきだろう。

 

スネークはSAAを構え、ヴィーシャはツチノコを野戦服の胸元に仕舞い込んで即席槍を構える。

 

外で響くのは拳銃とショットガン、アサルトライフルそれぞれの銃声である。そして銃声に加えてバイクのエンジン音も鈍く響いている。

 

拳銃音が鳴る度に兵士達の悲鳴や叫びが聞こえ、ショットガンやアサルトライフルの銃声はただ鳴るだけ、バイクのエンジン音は消えない。

 

そして数秒後、けたたましくエンジンを響かせながら流れ落ちる滝を割って洞窟内へと飛び込んできたのは、1台の濃緑に塗られた軍用バイクであった。

 

軍用バイクを操るドライバーは、パワフルなエンジンに翻弄されることなく見事にバイクを制御しながら地面へと着地し、スネークとヴィーシャの前で止まった。

先ほどの拳銃音の主であろうドライバーは右手に持つモーゼルC96をモデルとしたコピー銃をホルスターに収めると、スネークとヴィーシャに対して挨拶を述べる。

 

 

「初めましてスネーク、ヴィクトーリヤ。私がタチアナよ」

 

「ずぶ濡れだぞ(ですよ)、EVA(さん)」

 

「そう言う貴方たちもね」

 

 

タチアナと名乗った女性───スネークの協力者であるKGBの女スパイ、EVAは開口一番のスネークとヴィーシャの言葉をそのまま2人に返した。

実際に勢いよく流れ落ちる滝を潜り抜けた2人は、それぞれ着ているものが上から下までぐっしょりと濡れ鼠状態である。

 

そして返す言葉も無いとばかりに、スネークとヴィーシャがくしゃみをするのは同時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流れ落ちる滝と弾ける焚き火と炎、そして食べ物の咀嚼がこの洞窟内に響く音であった。

 

スネークは蛇の丸焼き、ヴィーシャは焼き魚をそれぞれ咀嚼している。

両者共にようやくグロズィニグラードから脱出出来たという安心感故か、一気に押し寄せてきた空腹を拒もうとはせず、一心不乱に受け入れていた。

 

スネークは3匹目のほどよく焦げ目がついた蛇の丸焼きに手を伸ばし、ヴィーシャに至っては既に4匹目の焼き魚を半分まで食べ進めている。

 

と、そこでスネークは食事をする手を止めて視線を上へとずらした。その視線の向こう───焚き火の反対側でEVAがスネークを見ていた。

 

 

「君もどうだ?」

 

「私はいらないわ」

 

 

スネークは自分の傍へと座り込んだEVAに別の蛇の丸焼きが通された串を差し出すも、断られた。

 

 

「ははっ…任務でも蛇は食えないか」

 

「…貴方なら…食べたい」

 

 

そう言ってEVAは座り込んだ場所から腰を上げると、下着だけのしなやかで扇情的な肢体をくねらせながらスネークへと寄り添った。

勿論スネークはそんなEVAに目を奪われ食事を中断してしまうほどに、満更でも無いようだ。

 

ちなみにヴィーシャは2人の世界に入ったエージェントとスパイを居ないものとして扱ってるのか、焼き魚のハラワタを咀嚼して舌鼓を打っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─翌日、グロズィニグラード裏通路に繋がる洞窟内─

 

 

 

 

「スネーク、調子はどう?いけそうかしら?」

 

「問題ない。君の見事なテクニックで無事抜くことが出来たしな」

 

「それは良かったわ。もしまた機会があればしてあげるわよ」

 

「その時は優しく頼む」

 

 

 

 

…一応言っておくと、EVAとスネークの会話は決して夜に営む"下の世話"の事ではない。

 

グロズィニグラードの尋問部屋で、スネークがオセロットに埋め込まれた発信器の事である。

あの尋問部屋で当事者として居たEVAはスネークの背中の不自然な盛り上がりを見て、スネークがまだ発信器除去を行っていないことに気付いたのだ。

 

そこでEVAは必要な器具が無いこともあり、道具を一切使わずに発信器除去を行った。本来は傷口を広げないよう手術器具やそれに近い道具を用いるのだが、彼女はそれを傷口を広げずに成した。

つまりは素手で直接背中から発信器をぶっこ抜いたという訳である。

 

そのあまりに見事な技術にスネークは驚き、もしまた発信器を埋め込まれるようなことになった時は頼むと、冗談を交えた雑談を交わしていただけである。

 

 

「じゃあスネーク、これが例の爆薬よ」

 

「例の…ソコロフが言っていた、自由自在に形を変えられる爆薬か…」

 

「ええ、C3爆薬よ。形を変えられるから狭い隙間や容器なんかにも入れられるけれど、1つ注意して───この爆薬を爆発させるには、事前によくこねなければならないの。こねなかったり、こねかたが不十分だと火がつくだけで爆発しないわ。電気信管でも同じよ」

 

「分かった。潜入の合間にこねるとしよう」

 

「それともう1点、フルシチョフがグロズィニグラード近辺に軍を動かしたわ。多分貴方が失敗した時の保険ね。それを知った大佐が対抗するために部隊を集結させているわ。急がないと警戒がより厳重になるわよ」

 

「分かった。後で格納庫外で落ち合おう」

 

「ええ、じゃあ後で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【大要塞グロズィニグラード・兵器厰区画】

 

 

 

 

 

今のグロズィニグラードを一言で言うなら、厳戒態勢だ。普段ならばもっとトラックや車両が行き交い、基地の要員があちらこちらで指示を飛ばしている筈だが、今は僅かな兵士達の反復訓練の銃声と怒声くらいしか聞こえない。

 

 

大方、ほとんどの兵力はスネークの侵入を警戒して哨戒か施設内警備に割かれたのだろう。現状を物語風に言うなれば最終決戦前といったところだろうか。

 

そんな最終決戦前というのは、物語ではよく「重大な事が判明」だとか「目的の物を発見」だとかやってるが、どうやら現実でも起こりうるらしい。

 

 

 

 

 

「そうか…ついに見つけたか」

 

<<はっ。現在"例の物"は地下金庫内に厳重に保管されていますが、どうやら運びだそうという動きがあります>>

 

「不味いな…よし、少しばかり早いが、私はこれより攻撃準備に移る。貴官は運び出されそうになったら構わん。敵を排除し、"例の物"を奪え」

 

<<はっ。了解致しました少佐殿>>

 

 

通信が終わると、私はそれまで潜んでいたダンボール箱の中から這い出した。

初めは他に隠れられそうな場所が見つからなかったために、ダンボール箱を軽く罵りながら潜り込んだのだが…

 

 

「まさか全く見つからんとは…」

 

 

たまに資材の運び出しや物品の在庫確認にGRUの兵士や将校が出入りしたり、ダンボールを開けたり閉めたりしていくのだが、何故か私が入り込んだダンボール箱だけは見向きもしない。

 

たまにそのダンボール箱に目をつけたかと思えば「邪魔だな」と言って持ち上げたりせずにズリズリと床を擦らせながら端っこに寄せたり、「只の箱か」と呟いてそのまま無視して去っていったりと、見つからないのは良い事なのだがなんか釈然としない感覚はある。

 

 

(それに何だ…こう、安心感というか…人間はこうあるべきというか…そんな妙な感覚が沸き立つぞ…)

 

 

何か悟ってはいけないものを悟りそうな気がしたので、とりあえず必死に頭の中からダンボール箱のことを追い出した。

 

どうも皆さん。ターニャ・デグレチャフであります。いつもならば少しばかり挨拶を入れるのですが、今は時間が無いのでお許しを…。

 

さて、スネークは見事に脱走を果たした。そして今、恐らくはもうグロズィニグラードへと再潜入を果たしているだろう。シャゴホッドの破壊とヴォルギン大佐の排除───そして、ザ・ボス抹殺のために…。

 

たった1人の科学者と1つの悪夢の兵器から始まった世界を揺るがす駆け引きは、今このソヴィエトの端っこの要塞にて結末を見んとしている。

 

スネーク、FOX、シャゴホッド、ヴォルギン大佐、ゴースト・カンパニー、コブラ部隊、ザ・ボス…

 

見る者が見ればさぞや滑稽に映るだろう。複数の大国があらゆる人間・組織・部隊・情報網を通じて必死の形相で獲ようとしている物が、あんな小さな物質だということに。

 

だが、『その小さな物質の中には世界を動かせるだけの莫大な資金のデータが収められている』と聞けば、笑える者は居なくなるだろう。

 

そう、ヴォルギンが奪われることを恐れ、グラーニンがスネークに明かした、2度の世界大戦を経て3大国の真の権力者達が持てる資産から供出した世界を動せる悪魔の金の事である。

 

 

 

 

"賢者の遺産"

 

 

 

 

だからこそヴォルギンはああまで必死に遺産を守ろうとし、誰も彼をも疑っているのだ。

 

…と、長々と舞台の裏を語ってはみたものの、私としてはそんな時代遅れの老人達が必死こいて供出した遺産を鼻で笑い飛ばすがな…はっきり言ってくだらない。

世界を支配出来る莫大な資金?そんな事で世界を支配出来るなど夢物語どころか中二病患者の誇大妄想もいいところだ。

 

昔からあらゆる国や人間が金や武力・知略に物を言わせて世界や広範囲に覇を唱えようとしたが、誰もが最終的に失敗した。ローマは一大帝国を築いたが、仕舞いには分裂して西と東で仲違いをして片方が滅亡、片方が衰退の一途を辿った。

 

大英帝国は7つの海を支配したなどと持て囃されたがそれも泡沫の夢───アメリカ大陸を独立戦争で失い、残った植民地インドもインパール作戦に携わったインド国民軍将兵を極刑に処すことを流布した途端にインド各地で大暴動が発生、大戦で国力の疲弊したイギリスには暴動を鎮圧するだけの余力すら残っていなかったために、インド独立を認めた。

 

アレキサンダー大王もチンギス・ハンも志し半ばに終わり、一番世界支配に近かったチョビ髭伍長に至ってはほとんど自滅である。

 

つまり所詮は世界支配など、人間には不可能なのだ。世界に通ずる規範か高性能AIでもなければ、必ずどこかで綻びが生じるのである。

 

だからこそ私は賢者の遺産をくだらないと考える。どうせなら遺産をガガーリン少佐やアームストロング船長もびっくりするぐらいの盛大な打ち上げ花火にしてやりたいくらいだ。

 

もっとも、それが出来ないのが今の私の立場であり、悲しい現実なのだが…

 

ともあれ、哀れかな…ヴォルギン大佐には悪いが、遺産は我々ゴースト・カンパニーが頂く。ソヴィエトにも間抜けな中国にもビタ1文譲る気はない。

 

理由はひとつだ───それが我々ゴースト・カンパニーに課せられた任務(ミッション)だからだ。

そして私が求める平穏な日常へのファーストクラスチケットでもある。

 

コーヒー片手に書類を片付けて夕暮れには自室で趣味を満喫出来ていた平穏な日常から一転、政治屋のせいでこんなくそったれな遺産奪取に駆り出されたのだ。ご丁寧に世界大戦と世界滅亡のカウントダウンを添えてリボンでラッピングしてな!

絶対にスネークには核戦争を止めて貰わねば…そして私は銃声と硝煙・謀略が渦巻く危険地帯から再び安全な後方勤務に就いてやる。遺産奪取してついでに私に尽くしてくれた部下のためにヴォルギンの奴を地獄に叩き落としてな!

 

私は静かに手に持つM−16の挿入口にマガジンを填め込むと、目的の兵器厰本棟へと進みだした。

勿論胸中で安全な後方勤務をもぎ取ってやると息巻きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─貯水槽区画・物資搬送トラック荷台─

 

 

 

グランツは上官であるヴァイスの命に従い、この貯水槽区画の哨戒任務に就いていた。表向きの目的はグロズィニグラードの警備だが、実際にはアメリカのエージェントの手助けのためである。

 

昨日のアメリカのエージェントであるスネークと、スパイ容疑を掛けられた同僚のヴィーシャの脱獄騒ぎでは、グランツは捜索隊の足止めや撹乱が任務であったのだが、途中までは首尾よく遂行出来ていた任務は、いきなり現れたオセロットのせいで全てが御破算になってしまった。

 

その時、グランツは1個分隊を召集していたところであった。分隊は全員、上官であるターニャが様々な手段で篭絡したGRUの兵士達だ。

召集した目的は、既に忠誠心をターニャへと募らせた彼らを各捜索隊に加わらせて、嘘の情報や偽の痕跡をそれとなく掴ませつつ、スネークとヴィーシャの脱出時間を稼ぐためである。

 

しかしいざ命令を下そうとした時にその原因が、いつものカウボーイ気取りの装いで現れたのだ。

 

オセロットは数人の山猫部隊兵士を連れてグランツの前に来ると、グランツが指示を出そうとしていたGRUの1個分隊を「分隊召集ご苦労」とだけ言って、止める間も無く彼らを連れて貯水槽区画の、あのアメリカのエージェントが使った出入口に入っていってしまった。

 

お陰でエージェントとヴィーシャを逃がすために別ルートから潜入したノイマン大尉からは説教を受け、ヴァイス大尉からは頭蓋に拳を叩き込まれた。

 

そんな経緯から、グランツは今ここで名誉挽回のために警戒任務に就かされていた。

だがその名誉挽回の機会が、即座に舞い込むことになるとは思ってもいなかったが…。

 

 

「ん?」

 

 

今、トラックの荷台に積んであるダンボールが動かなかったか?

自分の目の前にある物資搬送用トラックには備品が詰められた伝票付きのダンボールがいくつも積載されている。

 

その中の真ん中に乱雑に置かれた2つの大きなダンボール───その片方が僅かにだが動いた気がしたのだが…。

 

近付いてよく眺めると、うっすらとだが人の気配がした。

人の…人の?

 

 

(…ああ!なんだ、ここに居たのか!)

 

 

人の気配がする2つのダンボール───既にグロズィニグラードに再潜入している筈の2人組。

そしてダンボールに貼り付けられたシャゴホッドが格納されている"兵器厰本棟"行きの伝票。

 

 

「兵器厰本棟か…」

 

 

そうと分かれば話が早い。早速搬送用トラックの運転席に乗り込むと、エンジンを入れてトラックを発進させる。

 

グロズィニグラードは侵入者対策として、車両を奪われた場合にあらゆる区域を簡単には行き来出来ないように区画分けされている。だから広いとはいえ兵器厰自体は貯水槽区画及び試作戦車の駐車兼点検用区画の隣に位置しているのだが、トラックやジープで行くためには車両用ゲートから出て大きく迂回する必要があるのだ。

 

そうしてトラックを運転して、兵器厰本棟前のゲートへとやって来た。するとゲート横の小さな警備室から当直の兵士が眠たそうにあくびをしながら顔を出してきた。

 

兵士は運転席にいる自分の姿を見てからトラック、そして積載されているであろう物資がある荷台を見て、一応セキュリティルールだからと言いたげな感じで、流れ作業のように用紙を挟んだバインダー片手に訪ねてくる。

 

 

「荷物は?」

 

「兵器厰本棟行きの備品と機材。可燃物は無しだ」

 

「…兵器厰本棟備品と機材、可燃物無し…荷物の伝票は?」

 

「いつも通りだ。面倒だから適当にサインして直接ファイルに挟んどく。どうせ事務の奴も誰が確認してサインしたかなんて気にしないからな」

 

「オーケー、通ってよし」

 

「ありがと」

 

 

ここに来てから何度も目にして、自分も繰り返したセキュリティ対策とは名ばかりの杜撰な流れ作業。

 

ソ連軍の中でもグロズィニグラード勤務の兵士や士官はかなりの怠惰と腐敗ぶりだ。表にこそ出ないが、兵器厰東棟勤務の備品管理士官は物資を横流ししているし、各武器・弾薬や食料の倉庫を管理する奴も目録なんて使わず目測計算で適当に記入するだけ。

 

上官があんなイカれた大佐という事を考えれば、当たり前だろう。実際にはここにいる連中は皆、あの大佐に辟易しているのだ。

 

出身国の軍に勤務してた頃に上官の付き添いで顔合わせした、メキシコの偽装基地勤務になる予定だというやたらハイテンションな大柄の武装親衛隊少佐や、ポーランド辺りで捕虜を使った"表に漏れたら不味い実験"を繰り返しているという妙ちきりんな眼鏡の科学者を連れた丸眼鏡で肥満体型の親衛隊中尉なんかもかなりのものではあった。

 

しかしどちらも部下に規律と節度を敷いていた。だから少なくとも腐敗が広がっていた親衛隊組織の中で、あの2人の下で横領や横流しといった噂は聞かなかった。

 

そんな彼らと比べると、グロズィニグラード要塞司令官という、基地と大部隊を国から預かる要職に就く男の有り様には呆れしか出てこなかった。

 

 

「さて…と、おいそこのあんた。後ろの荷物を降ろすのを手伝ってくれ」

 

「ああ」

 

 

丁度その辺りでゲートを抜けた先───兵器厰本棟前のロータリーに着いたので、トラックを止めると近場にいた兵士に荷物の運び込みの手伝いを頼む。

 

 

「備品か…こいつの中身は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ…今もっとも重要なもの───俺にとってのVIPさ…」

 

 

「?」

 




【ツチノコ】
MGS3では簡単に無限フェイスペイントを手に入れるための生物。ラットトラップ片手に出現ステージに仕掛けまくったのは良い思い出。
本作品ではツチノコ狩りにヴィーシャ参戦。
で話題変わるけど、けもフレにもツチノコって出てきたよね。あのフード被った可愛い奴。
※レアUMAとはいえ決してヴィーシャみたいに潜入中に声をあげてはいけません。死にます。主に貴方が。


【横領や横流し】
ゲームなので施設やら倉庫やらから武器やアイテムを奪っても気付かれないシステムですが、現実に則って考えてみたら気付かれない理由として汚職や横流し故の適当な管理が有り得るかなと思い、本作品ではグロズィニグラード要塞の汚職と杜撰な管理実態を捏造。というかヴォルギン大佐へのような上官がいたら本当にまかり通りそう。


【ハイテンションなメキシコ勤務予定の少佐と、ポーランドで不味い実験繰り返している科学者連れた眼鏡の肥満中尉】
何処かで見たというか出てきた親衛隊の士官や佐官の方々。ナチスって文句無しの悪人だし悪役組織だけど、創作作品では妙に格好良さとかカリスマ性持ったキャラクターが生まれるから不思議。

「世界一ィ!!」
「よろしい、ならば戦争だ!!」


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番外編2【偽りの狙撃手】

本編を4月中には完結させて早く次のメタルギアストーリーに移りたい…。


久々の大戦話の番外編です。


 

─1日目─

 

 

 

 

 

7.92mmの音は心地よい。

 

炸薬の音と共に放たれる鉄槌はスコープの中、レンズ越しに映る敵兵の頭に風穴を空けた。

 

風穴を空けられた敵兵はというと、頭から薄汚い血を流しながらもんどりうって倒れ込む。

 

そして敵兵が握る物はもはやそれを握る力すら失った彼の手から離れて────

 

 

ドカン!!…だ。

 

 

奴───つまりは敵兵が握っていたのは集束手榴弾であった。簡単に言えば複数の手榴弾を荒縄や紐でグルグル巻きにした即席武器だ。

 

奴はそいつを我が軍の装甲車目掛けて投げつけようとしていたので、阻止させて貰ったのだ。

まあその集束手榴弾は既に点火されていたため、点火された手榴弾が手元からこぼれ落ちれば当然ながらそこで爆発だ。

 

結果として数人の兵士が巻き添えを喰らってミンチと化したが、これといって思う事はない。コミュニストが何人死のうが知った事ではないからだ。

 

…おや失礼、名乗りを忘れていました。

 

私はヴィリバルト・ケーニッヒ武装親衛隊曹長と言います。

上官はターニャ・デグレチャフ武装親衛隊中尉で、私は第一SS装甲師団LSSAH所属の狙撃手として目下、スターリングラード戦に従軍している所です。

 

ちなみに上官たるデグレチャフ中尉ですが、彼女は現在昇進や勲章授与等の所用のため総統閣下の命でベルリンへと戻っています。

 

ん?何故私が今スターリングラードにて戦っているのか?

ああ…それはデグレチャフ中尉からのご命令によるものです。

 

 

 

 

 

 

『ソ連赤軍狙撃手、ヴァシリ・ザイツェフと戦い、目的を果たせ』

 

 

 

 

 

 

 

さて、私が受けた命令の詳しい説明だが、目的に関してはこの後ご説明致するので、今は置いておこう。

ああそれと、現在私は偽名と偽装階級・偽装経歴で作戦を遂行しているので、事前にご注意を。

 

さて、現在私は"エルヴィン・ケーニッヒ少佐"と名乗っている。

このスターリングラードにおいて"ドイツ国防軍所属のベルリン狙撃兵学校教官"としてソ連赤軍の狙撃手、ヴァシリ・ザイツェフなるソ連兵狙撃手を抹殺する命令を受け、目下彼を誘き出すべく赤軍兵共を次々と狙撃している最中だ。

 

その作戦遂行のために日夜ライフルを手に市街を回り続けているが、残念ながら件のザイツェフが現れる気配は未だにない。

 

だが相手も我々ドイツ軍が凄腕の狙撃手を送り込んだのは気付いている筈だ。なにせ今日だけで3人の兵士と1人の士官をあの世送りにしている。

 

ザイツェフを英雄に祭り上げて兵士達にドイツ兵狙撃手恐るるに足らずと喧伝するソ連にとっては、その英雄の網を掻い潜って狙撃をさせる狙撃手の存在は間違いなく頭痛の種でしかない。

 

 

「早く来い。ヴァシリ・ザイツェフ…輝かしい未来が待っているぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─任務開始より3日前・ドイツ軍武装親衛隊LSSAH駐屯地─

 

 

 

 

 

「ヴァシリ・ザイツェフでありますか?」

 

「うむ、アカ共が今祭り上げている新進気鋭の狙撃手だ。現時点で既に100人以上の味方が奴に喰われた。未確認も含めれば150人は行くかもしれん」

 

「では私の任務はそのザイツェフを討ち果たすことですね。早速準備を…」

 

「ああ、いやいやケーニッヒ。討ち果たす必要は無いのだ。奴は生かしておいて問題無い」

 

「それはつまり…」

 

「上の意向でな。ザイツェフは新進気鋭の凄腕だが、それだけ。たかだか多数のドイツ兵を狙撃しただけ───このスターリングラードの戦局の行く末を決める程ではない。むしろ同じ狙撃手ならば、たった1個小隊程の部隊と共にコッラー川を防衛したあのフィンランドの化け物のほうが凄まじい。何せコッラー川という区域の戦局をあの部隊指揮官と狙撃手が変えてしまったのだからな」

 

「では私が出る理由は…」

 

「奴に討ち倒されろ。存在しないドイツ兵狙撃手としてな…」

 

「存在しない…ああ、そういう事ですか」

 

「お前は結果が決まりきった出来レースで英雄の戦果に加わるんだ。そして世紀の狙撃手対決に興味を持った後世の人間は興奮ない交ぜに資料を漁り、詳細を知ろうとするだろう。そして行き着く…存在しない狙撃手とそれを討ち果たしたと喧伝する英雄に…。しかし、気を付けたまえ…決して簡単に打ち倒されるな。奴等に我々の自演目的の戦いだと悟られては不味いからな。徹底的に…そうだな、数日はザイツェフと取り巻き連中を引っ張って狙撃を続けながら逃げ回れ」

 

「はっ!了解致しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァシリ・ザイツェフは必ず来る。

 

そして私、エルヴィン・ケーニッヒを狙撃対決にて制したザイツェフは、間違いなくソ連英雄となる。

 

しかし後世の人間はこう述べるだろう。

 

 

『世紀の狙撃手対決として英雄と対を為す存在しない狙撃手をでっち上げた、ソ連の自作自演』

 

 

哀れなザイツェフは理性ある者からはプロパガンダの被害者として、口さがの無い者からは偽りを誇る英雄として伝えられる。

 

スターリングラードの戦局は残念ながら我々ドイツの敗北だ。足りない準備と総統閣下のスターリンの名を冠した都市への執着は、戦争の短期決着を逃す結果になった。

 

どうせ敗北して下がるなら、少しくらい意趣返しはしておきたい。

 

愛国者である少佐は、祖国の同胞を次々と仕留める敵を許しはしない。上からの意向と言いつつも、彼女の瞳はその内心を雄弁に物語っていた。

奴は偽りの英雄として伝わり、それを喧伝するソ連は周りから虚飾の権化として呆れられる…。

 

これを歪んだと評する輩もいるだろうが、私や他の部下は上官たるデグレチャフ中尉を尊敬し、愛国者たる彼女の力になりたいと思う。

ならば上の意向であり、彼女の本心でもあるその任務を、是が非でも成功に導こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

─任務開始前日、スターリングラード行き軍用列車─

 

 

 

「ジーク・ハイル!お待ちしておりました、ケーニッヒ少佐」

 

「ハイル・ヒ…ジーク・ハイル。では早速客室に案内してくれ」

 

「はい、こちらになります。手荷物をお持ちしましょう」

 

 

任務開始の前日、私はヴィリバルト・ケーニッヒ武装親衛隊曹長ではなく、ドイツ国防軍所属の狙撃兵エルヴィン・ケーニッヒ少佐として、スターリングラードへと向かう我が軍が徴用したという豪華な列車へと乗り込んだ。

 

通路では従兵としてつけられた兵士が待っており、彼に手荷物を預けると、後に続いて客室へと歩いていく。

 

私に割り当てられたのは客車の中でも一際豪華な1等客室である。私は肩に背負うライフルを下ろして壁に立て掛けると、懐から銀の煙草ケースとマッチ箱を取り出した。

そして中に仕舞われていた上質の紙巻を1本取り出すと、マッチを擦って紙巻に火を点ける。

 

 

「では私は隣の客室にて待機しますので、御用の際は壁についているベルでお呼び下さい」

 

 

従兵がそう言って部屋を後にすると、私は紙巻を燻らせながら念入りに偽装された今の身分に若干の窮屈さを覚えていたためか、だらしなく椅子にもたれ掛かってしまった。

 

当然ながら今の私はデグレチャフ中尉の下で戦う武装親衛隊のケーニッヒ曹長ではなく、武装親衛隊を含めた親衛隊組織を苦々しく考えている国防軍の所属佐官であり中尉の上官に当たるケーニッヒ少佐だ。

 

理由は目的を果たすまでの完全な偽装のためだ。いつ何時ソ連の息が掛かった人間と相対するか分からない以上、野戦服を国防軍の物に着替え、SSの刺繍を外した時から私はケーニッヒ曹長ではなくケーニッヒ少佐となった。

 

佐官故に割り当てられたのは豪華な客室。慣れ親しんだローマ式敬礼も台詞も言えないのは中々に堪える。もっとも一番堪えるのは、デグレチャフ中尉のお姿を当分は見れない事だが…彼女の雄々しくも美しい戦女神のごとき勇姿に惚れ込んだ連中は枚挙にいとまが無い。

 

というかこの間、抜け駆けで愛の文を送って断られはしたが「貴官の心は嬉しく思う」と返事を返された軍曹が、同僚や部下、果ては上官からリンチされていた光景を見たばかりだ。

 

鼻血を流して痣を作りながらもしてやったりな顔(残念ながらこの時代にはドヤ顔という言葉が無い)で笑みを浮かべる軍曹にカチンときて、ふと気付けば自身もいつの間にかその輪に加わっていたのは記憶に新しい。

 

だが今はとにかく任務を果たすことに集中しなければならない。彼女の求めに応えられなければ、我々に彼女に仕える資格など無いのだから…。

 

そうして慣れない豪華な客室での束の間の休息の後、私はライフルを片手にこの地獄へと足を踏み入れたのである。

もっとも初日は空振りであったため、翌日に期待を掛けて、その日は駐屯地へと踵を返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─翌日・2日目─

 

 

 

 

 

 

「現れたか…ザイツェフ」

 

とうとうザイツェフが2人の人間を伴って、私の目の前に現れた。瓦礫にカモフラージュ出来るよう灰色のケープを纏いスコープ付モシン・ナガンを持つのが写真で確認したザイツェフである。もう1人は擬装をしていない普通のソ連軍歩兵で、スパイク型銃剣を着けたモシン・ナガンを所持して、辺りを警戒している。そしてザイツェフの隣でドラムマグのPPsh41を片手に彼と話している男は、星付きの階級章を着けた制帽の眼鏡を掛けた軍人───恐らくは政治将校だろう。

 

その3人が地面から飛び出している水道パイプの瓦礫側で、慎重な足取りで進んでいた。

間違いなく頭痛の種である私───ケーニッヒ少佐を仕留めるべく駆り出されたのだろう。でなければ、わざわざ後方で拳銃か機関銃を手に撤退する味方を狩るのが仕事の政治将校が随伴する筈がない。

 

とりあえずは挨拶がてらに一発、狼煙を上げるとしよう…エルヴィン・ケーニッヒ少佐とヴァシリ・ザイツェフの狙撃対決の始まりを告げる狼煙を…。

 

手にしていた双眼鏡を傍らに置くと、腕に挟んでいた愛用するスコープ付Kar98kを構え直し、スコープレンズに目を当ててザイツェフの後ろを守る歩兵を狙う。

 

照準を歩兵の頭に合わせると、歩兵が一瞬足を止める時をじっくりと待った。そして歩兵が足元の瓦礫を跨ごうと一度歩みを止めた瞬間だった。

 

背筋に寒気が走ったとでも言おうか…その場で発揮出来るだけの反射神経でもって引き金に掛けた指を即座に外し、銃を手放して真横の遮蔽物へと転がり込んだ。

 

そしてほぼ同時に先ほどまで私がいた───私の頭があった場所を空を切る音と共に銃弾が通過して近くのタンスにめり込んだ。

 

噂に偽り無し…か…。

 

ソ連軍狙撃手ヴァシリ・ザイツェフ───奴は殺気や違和感には獣の如く鋭いようだ。

 

とりあえず、今のは狙撃という命を掛けた騙し合いに"狼煙を"とおふざけを持ち込んだ私のミスだ。

どうにか生き長らえたが、1つ間違えればこの時点で私の死体が転がる羽目になった筈だ。

 

ザイツェフがただ狙撃が上手いだけの男ならば問題は無かったのだが、どうやら相手は生粋の狩人らしい。ならばふざけた挨拶は無しだ。こちらも全身全霊でもって、目的達成のために戦おう。

 

とにかくまずは位置がバレた以上ここにもう用は無い。頭を出さないようゆっくりとライフルを手繰り寄せると、匍匐でその場から離れていった。

 

 

 

 

 

 

それから数時間、未だにザイツェフは私を追跡してきている。そして私は、なかなかザイツェフの追跡を振りきれずにいた。

 

だがそれは当たり前だ。今の目的はドイツ国防軍の熟達のスナイパーとして、ザイツェフを引っ張り回してソ連軍に威圧を与え続けるのが目的だからだ。

 

"簡単に見失われては困る"。そう心中で呟きながら、崩れた民家の支柱の隙間から突き出したライフルの引き金を引いて、スコープの照準に映っていたソ連の女スナイパーの頭を撃ち抜いた。

 

そして間を置かずボルトを操作し、今度は女スナイパーの安否を確かめようと隠れていた場所から身体を出した歩兵の心臓を貫いた。歩兵はうつ伏せに倒れると、目の前の崩れた瓦礫の下へと落ちていく。

 

そして下からはドイツ軍のスナイパーを罵るロシア語が聞こえてきた。とりあえずはこの辺りで良いだろう。

 

支柱の隙間から突き出していたライフルを外して肩に背負い直すと、瓦礫を足場に別の民家の中へと入り込む。

 

すると民家の2階、床が抜け落ちた場所に出た。道は無い。背後からはソ連兵の足音が幾つも響いてくる。だが慌てず冷静に、何処かに道は無いかと辺りを見回す。

 

と、ある部分を見つけてその場に目を止めた。視界に入ったのは、歪んだガスのパイプである。細いながらも未だにしっかりと原型を保ったパイプが天井を突き破っていたのだ。

 

それを見て、迷わず私は後ろへ下がると、助走を着けて走り出した。そして床が抜け落ちた場所で勢いよくジャンプすると、天井から突き破って出ているガスパイプに飛び付いた。

 

少しばかりパイプが軋んだが、私は落ちることなくパイプを掴んでいた。そこからパイプを伝って天井を目指して登っていき、民家の屋根上へと到着した。

 

腹這いで這いずるように屋根上を進みつつ、どこか隠れられそうな場所が無いかと見回してみると、丁度狭い道路を挟んで民家の反対側に別の半壊した民家があった。

 

助走をつければ飛び越えられる距離ではある。しかしザイツェフが追跡してきている今、屋根上という見つかりやすい場所で身体を起こすのはリスクが高い。

 

だが真下から聞こえてくる怒声の持ち主達は待ってはくれないようである。ここに留まるリスクと向かい側の民家へと飛びうつるリスクを天秤に掛ければ、答えは明らかだ。

 

私は直ぐ様立ち上がると、助走をつけて走り出した。さて…私の判断が正しいか間違いか…それはやってみなければ分からない。

 

 

『戦場で運を当てにするな』

 

 

そんな教えを説いたアメリカ軍特殊部隊の隊長が居るなんて話を聞いた事がある。私の好きな類いだ。デグレチャフ中尉然り、戦場では運を当てにしても幸運は舞い込んではこない。

 

 

自らの行動が幸運に繋がるのだ。

 

 

私は勢いよく屋根の端を蹴って飛び出した。その時、小さいながらも1発の銃声が聞こえ─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腹部に激痛が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思わず身体をよじってしまい、バランスを崩して民家の屋根上ではなく半壊した瓦礫の場所───未だに壊れずにはめ込まれた窓を突き破った。

 

割れたガラスで顔や腕に傷を作りながら、半壊した民家の中の廊下をゴロゴロと転がって、突き当たりの壁にぶつかることで漸く止まれたが、全身冷や汗が凄い上に腹部の激痛は未だに健在だ。

 

勝ったというべきか負けたというべきか…ザイツェフは私が屋根上から反対側の民家の屋根に飛びうつる瞬間を狙い、狙撃を行ったらしい…。

 

なぜザイツェフの仕業だと分かるのか?

 

あの時、耳に僅かに響いたのは1発の銃声だけだったからだ。少なくとも私を追っていたソ連兵共に屋根から屋根に飛びうつる人間をたった1発で撃てるだけの技量を持った奴は居なかった。

 

ならば誰が私を狙い撃ったのかは、分かりきった事である。だが残念ながらザイツェフは仕留め損ねたと言って良いだろう。

 

確かに撃たれはしたが、少しばかり身体を確認してみたところ、動けない程では無かった。といっても激痛は止まらないが…。

 

とりあえず勝負は明日に持ち越しとしよう。まずは最低限でも手当てをしなければ決着の前に失血死だ。そんな結末では、間違いなく中尉に失望されてしまう。それだけは勘弁願いたいものだ。

 

ザイツェフも私を追ってこないところを見ると、追うのを止めたか追えなくなったかだろう…。

 

痛む腹部に手を当てながら立ち上がると、どうにか崩れてロクに足の踏み場も無い民家内を抜け出し、進み続けて味方の野営地を目指すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─3日目─

 

 

 

 

 

軍医の手当てかモルヒネの薬効か、銃創は残るだろうが腹部の痛みは鈍い。そしてその打たれたモルヒネのお陰か、感覚が鋭敏になっているのを感じる。

 

辺りの音が今日はいやに静かだ。いつもより砲弾の音も銃の響きも少ない。

 

もしかしたら、今日が決着の日になるかもしれない。私が目的を果たすか、ザイツェフが私を仕留めるか…そのどちらかだ。

 

私は近場のトタン板をずらして、射界を広める。

 

さて、奴は今どこにいるのか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見つけた。あの日と同じく歩兵と政治将校を引き連れた3人体制である。

 

私は素早くライフルを構えると、政治将校に狙いをつけた。殺す必要はない───ただ私の位置を知らせるためだ…

 

 

 

 

 

これといって正確な狙いではなく、風速や敵の行動予測もしない射撃は、政治将校の肩を射抜いた。だが同時に射撃の反動で傷が開いたらしい。また激痛が襲ってきた。

 

政治将校が肩を押さえて倒れ込むと、ザイツェフは歩兵と共に政治将校を引っ張って側の瓦礫に身を隠した。

 

そして数秒後、瓦礫の上に僅かだがヘルメットが出てきた。しかし人間が被っていないのはバレバレだ。どう見てもカタカタと左右に揺れている。

 

だがそれは問題ない。奴はわざとヘルメットを囮に"ケーニッヒ少佐"の居場所を知ろうとしている。

 

ならば乗らない手はない。痛みを堪えながら即座に照準をヘルメットへと合わせて、綺麗に吹き飛ばしてやった。

 

そしてザイツェフの行動を確認はせずにトタン板と瓦礫の間を抜けて、別の瓦礫に隠れた。先ほど自分がいた場所の直ぐ隣───そこには自分の代わりに帽子を被せたマネキンが、瓦礫に固定されたライフルを持つような体勢で設置されていた。

 

そしてほぼ同時であった。自分が隠れるのとザイツェフがマネキンの頭を吹き飛ばすのは、正確に計れば0.何秒という僅差の行動であった。

 

そして声が響いた。

 

 

『仕留めた!』

 

 

ザイツェフではない。恐らくは歩兵か政治将校のどちらかだ。確かに彼の銃弾は正確なまでにマネキンの頭を吹き飛ばした。人間であれば文句無しに即死である。

 

私の勝ちである。ザイツェフはマネキンをケーニッヒ少佐と考え、正確な狙撃で仕留め、味方はそれを"仕留めた"と叫んだ。

 

ならば後始末だ。私は一度腹部の包帯をきつく縛ってその場しのぎの止血を行うと、頭を出さないようマネキンの背後に回り込むと、真横にずらして奥に押しやった。

代わりに事前に見繕っておいた適当なドイツ国防軍の制服を着た、頭を撃たれた死体をゆっくりとマネキンが居た場所に移す。

 

さて、これで任務は達成だ。私はにやけそうな顔を引き締めると、愛用のライフルを背負って痛みが走る腹部を押さえながらも撤退を急ぐ。

 

 

『ついに仕留めたな。君は英雄だザイツェフ』

『…はい』

『しんみりしてんなって!これは最高の逸話になるぜ!』

 

 

おっと、連中が戦果確認のために近づいてきたな。ではさらばだザイツェフ。偽りなき技量を持った、偽りの英雄……。

 

そしてその辺りで、狙ったように曇天広がる空から雨が霧のように降りだし、私の姿を覆い隠す。

 

これならば気づかれずに戻れる。私は声こそ出さなかったが、任務の成功と中尉の称賛を浴びる自分の姿を妄想し、その時ばかりは盛大に顔をにやけさせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─ヴァシリ・ザイツェフ─

 

スターリングラードにおいて226人のドイツ兵を仕留めたソ連軍スナイパーであり、ソ連英雄。

スターリングラードでのドイツ軍狙撃手、エルヴィン・ケーニッヒ少佐(又はハインツ・トールヴァルト大佐)との狙撃対決を制した逸話を持つ。

 

 

 

 

 

 

 

現在、ヴァシリ・ザイツェフはまごうことなき熟達スナイパーの1人として名を残している。しかしスターリングラードでの世紀の狙撃対決は、資料にあるケーニッヒ少佐もしくはトールヴァルト大佐なるドイツ狙撃兵が実際の存在を確認出来ず、ドイツ軍の資料にその名を持つ狙撃兵も存在しない。

他にもソ連軍やNKVDの資料でも曖昧であったり、記述そのものが無かったりという実態がある。

また彼の肩書きであるベルリン狙撃兵学校教官に関しても、ドイツ軍には狙撃専門の兵科は存在せず、またベルリンに狙撃兵養成の学校が存在した事実も無い。以上の事からソ連によるザイツェフを英雄として祭り上げるためのプロパガンダという説が有力である。

 

上記の事から、現在ロシアで博物館に展示されているケーニッヒ少佐のライフルに付いていたというスコープも、プロパガンダとしてでっち上げるために、そこらの戦場から漁ってきた物だと思われる。

 

 

 

ターニャ『脅威である敵狙撃手を仕留めずにおくなど納得は行かないが、一介の親衛隊尉官が上に逆らうのは反骨心有りと評価されて厄介払いに前線送りにされかねないからな。とりあえず上の意向に従えば従順さはアピール出来るか…。しかしケーニッヒの奴、随分と感動と決意を固めたような目で私を見ていたな…何かあったのか…?』

 




【ヴァシリ・ザイツェフ】
ソ連軍狙撃手として1・2を争う有名な方ですが、多数のドイツ兵を狙撃したという話以外なかなか逸話を聞かない方でもあります。肝心の逸話に関しても「ケーニッヒ少佐もしくはトールヴァルト大佐との狙撃対決」はあまりに流れがあやふやかつドラマチック過ぎて、ソ連政府のプロパガンダ説がほぼ確実という見方をされてしまっています。実際にはどうだったのでしょうかね?

ちなみに本作品では対決そのものがナチス・ドイツ政府による偽装工作であり、ソ連の英雄を後世に「プロパガンダで祭り上げられた狙撃手」として残すための作戦として描きました。



【フィンランドの化け物】
皆さんご存知シモ・ヘイヘ(ハユハ)さんです。マジもんの化け物狙撃手。
最強狙撃手TOP1から3を決める大会とか開かれたら絶対ホワイト・フェザーことカルロス・ハスコックと共に食い込めるくらいの最強フィンランド人です。コッラー川のソ連兵達の悪夢の元凶でもあります。


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幕間 〜決戦の火蓋〜

いよいよ決戦開始。

んのっく大佐の余命カウントダウンも開始。


【グロズィニグラード・地下金庫通路】

 

 

 

 

 

不味い、非常に不味い。

 

よりによってあの女スパイ、この大事な時に…。

 

あの女が遺産目当てだということは理解していたが、まさかこのタイミングで地下金庫に侵入など…。

お陰で手を出す前に遺産が運び出されてしまった。

 

警備数人を制圧して奪うだけだったというのに、女スパイが地下金庫を彷徨いていたせいであっという間に十数人の警備が押し寄せてきて、無様にも目の前で遺産が運び出されてしまうのを指をくわえて見ているしかなかった。

 

 

「…今さら悔いても仕方ないか…」

 

 

重苦しい腕を動かして恐る恐る無線機のスイッチを入れると、自らの上官たる人の周波数に合わせて発信する。

 

そして数秒の後、Call(コール)した相手が出ると、開口一番に謝罪と現状を述べた。

 

 

「ヴァイスであります。大変申し訳ありません少佐殿、例の遺産ですが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【グロズィニグラード・兵器厰本棟、格納庫】

 

 

 

 

「この女(タチアナ)…ここの地下金庫を彷徨いていた…捕らえてみると面白い物を隠し持っていた…見るがいい」

 

 

シャゴホッドの格納された兵器厰───そこでは今まさに、遺産の現持ち主であるヴォルギン大佐が掲げる、子供の手のひらサイズの薄い四角形型の物質がかざされていた。

 

それは、何の変鉄も無いマイクロフィルムである。しかしヴォルギンが次に放った言葉に、その場にいた誰もが目の色を変える。

 

 

「賢者の遺産だ!」

 

 

遺産という存在が生み出されてから半世紀、血で血を洗う幾多もの戦いと謀略を渦巻かせた元凶たるそれが、今ここで初めてその姿を表した瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん…あれが"賢者の遺産"か。あんな小さなマイクロフィルムが、我々の目的とはな…」

 

 

グロズィニグラード兵器厰本棟の天井付近。私は整備用の鉄骨組みだけの細い通路に潜み、状況をつぶさに確認していた。

 

敵の巡回経路、人数、警報装置の位置、整備員の行動等を頭の中で反復し、立ち回る方法及び目的達成後の脱出のためにじっくりと辺りを見渡していたのだ。

 

その最中、シャゴホッドを破壊するべくロケット燃料のタンクにC3爆薬を仕掛けているスネークを発見した。彼は何処からか拝借したのだろう整備員用のツナギで変装し、敵の巡回を上手くかわしながら液体ロケット燃料を貯蔵している各タンクに爆薬を仕込んでいた。

 

そしてあっという間に爆薬を仕込むと、変装のために着ていたツナギを脱ぎ捨てていつものオリーブドラブの野戦服へと身なりを変え、残りの爆薬を貯蔵されている液体燃料へ仕掛けるために最後のタンクへと歩き出した。

 

私は彼の行動に満足しながら、今度は周りへの確認ではなく、手に持つ試作サプレッサーを取り付けたM−16アサルトライフルを鉄骨組みの足場に伏せた状態から構え、兵器厰本棟と東棟・西棟を繋ぐ通路から唯一この本棟に入れる赤く塗装された扉へとその銃口を向けた。

 

そこには今まさに扉から出てきたばかりの兵士がいた。丁度スネークが身を潜ませながら爆薬を仕掛けている時、彼は少し離れたそこからスネークの姿を発見したらしい。

 

サボタージュ(破壊工作)の準備を進めるスネークの姿を何をしているのかと訝しげに見て、彼の手元を見た瞬間、その顔が驚愕に包まれた。

 

だが声を出す間もなく、私が構えるM−16───そのサプレッサー付きの銃口から放たれた一発の銃弾が彼の頭部を穿った。

急激に力が抜けた彼の身体はその場に倒れ込み、場所が場所故に誰にも気付かれなかった。

 

 

「済まないが、今声を出されては不味いのでね…」

 

 

ちなみにM−16とよく総称されるこのアサルトライフルだが、私が持つこいつは正確にはXM16E1が名称だ。陸軍・海兵隊向けに開発されたモデルであり、生産開始直前になって陸軍の要請を受けて完全閉鎖しなかったボルトを強制的に閉鎖させる「ボルトフォワードアシスト」の追加、最初期モデルの三叉状の消炎器を、『木の枝や蔓に引っかかりやすい上に衝撃に弱く、水も侵入しやすい』という問題により、先端閉じで4つのスロットが切られた鳥かご型への変更といった様々な改修を受けて後のM−16A1へと変貌する前進の銃だ。

 

様々な問題こそ抱えてはいたが、それでもこれまで制式採用されていたバトルライフルに比べれば携行性や命中率等に関して高い評価を持つアサルトライフルである。

 

この程度の距離ならば、海兵隊の軍事訓練をこなして栄えて正式に海兵隊員入り出来るくらいの兵士なら命中させるのは難しくはない。

 

さて、現状であるが、まず第一に私の見ていた先でヴォルギン大佐がスネークらに掲げて見せつけていたように、賢者の遺産は今大佐の手にある。

 

少しばかり前に、遺産奪取のために地下金庫に居たヴァイスからタチアナが地下金庫で捕縛され、所持していた遺産も運び出されたと報告を受けたのだ。

 

ヴァイスは歴戦の猛者だが、残念なことにその時に持っていたのは拳銃だけであった。これはグロズィニグラードのセキュリティによる制約で、地下金庫は原則警備兵以外は武装したままの進入が禁止されているからだ。

 

それは我々ゴースト・カンパニーとて例外ではなかった。まぁヴォルギンの遺産への執着ぶりを考えれば当然ではある。

 

そのため毎回自主警備や物品移動などの適当な理由で地下金庫を歩き回り、その度に拳銃部品や弾・マガジンなどを各所にバラして隠していた。

 

本来ならばヴァイスは地下金庫に潜入し、事前にバラして隠していた拳銃部品を組み立てて武装───2名の警備兵を排除して遺産を奪取し脱出する…それで終わる筈だった。

 

だが結果はタチアナが発見されてしまい、その場で動ける武装兵士がわらわらと押し寄せてきてしまった。そしてヴァイスの装備は1丁の拳銃と予備マガジンが1つのみ…。

 

つまりはアサルトライフルやショットガン、手榴弾で武装した中装クラスの兵士十数人を相手に戦う武装ではないために、ヴァイスはやむ無く遺産が運び出されるのを眺めているしかなかったという訳だ。

 

かといって初めから正面火力突破による奪取を考えなかった訳ではない。だが遺産が地下金庫のどこにあるのか不明であった以上、敵に遺産奪取が目的だと誇示するような派手な方法は使えなかった。

 

万が一正面火力突破で地下金庫に辿り着いても、『我々が知らない別ルートで運び出された後でした』なんてお粗末な結果は私の今後に確実に響く。

ならばこそ、後手に回る可能性があっても隠密・秘密裏の奪取を選んだのだ。

 

だが今はそこはどうでも良い。現時点での最重要事項はヴォルギンからどうやって遺産を奪うか…そこである。さて、とりあえず東棟と西棟に唯一繋がる通路と出入りする扉に先ほどの敵以外の姿は見えない。

 

私は扉から目を離して再びヴォルギンの方へ視線を移した。

 

どうやらスネークは発見されたらしい。眼下では今まさにスネークとザ・ボスのCQCによる一騎打ちが行われていた。

 

しかしザ・ボスの技術は高く、スネークは一撃も浴びせられずに打ち倒されてしまい、オセロットに銃を突きつけられてしまった。

 

そしてヴォルギンの前へと連れてこられたスネークは、ヴォルギン、ザ・ボス、オセロット、EVAといったこの舞台を演じる面々との再度の顔合わせをし、ヴォルギンからあの遺産を見せられたのだ。

 

スネークの遺産とは何か?という問いに、冥土の土産とばかりに流暢に遺産の由来を語り出すヴォルギンと、それを眺める周りの面々。

 

そんな中、しばしの長話を終えたヴォルギンは手に持つ遺産───そのマイクロフィルムを手に世界を纏めると宣い、「アメリカごときに我々は止められん」と宣戦布告をした。

 

 

「全く誇大妄想が好きなコミュニストはこれだから……ん?あれは、……っ!いやはや何とも何とも…まさか自ら渡すとは…」

 

 

そこで目にしたのは、何とも愉快でたまらない光景であった。こんな簡単に上手いこと事態が良い方向へと転がるなんて話があって良いものか…。

 

ヴォルギン大佐の奴…自らザ・ボスに遺産の記録が収められたマイクロフィルムを手渡したのだ!

 

 

 

 

 

 

「ああ…全く、大佐…あなたという人は全く…」

 

 

遺産をヴォルギンから預けられたボスは、床に倒れ付していた女スパイ───EVAを始末すると言って彼女を立ち上がらせると、襟首を掴んでその場から離れていった。

 

さて、主役も脇役もキーアイテムも全ては整った。主役は決闘のリングへ───脇役は彼らを引き立て、キーアイテムは既に手中にある。後は全てにピリオドを打ち、この舞台に幕を下ろすだけである。

 

そんな私が今一度目線をヴォルギン大佐へと移せば、主役同士が決闘の場へと───彼がスネークと共に格納庫の昇降台にて地下へと降りていく所だ。

 

珍しいな…あのヴォルギン大佐が1対1の戦士としての戦いを行おうとは…少なくともこれまでのヴォルギンの言動を見ていれば、確実性を期す為に観客に徹しているオセロットにスネークの射殺を命じそうなものだが…。

 

まあそれは良いか…。後はスネークがヴォルギンを打ち倒せばそれで最重要目的の1つは達成される。

では、私は脇役としてヴォルギンとスネークの戦いを時間一杯観賞させて貰うとしよう。

もっとも、残念ながら脇役故に観客に徹する私に用意されるポップコーンとコーラは無いがな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【グロズィニグラード西区域・大型兵器保管区画】

 

 

 

「時間だ。これより攻撃を開始する。ノイマン、貴官は戦車の駐車区画を制圧しろ」

 

「了解」

 

「グランツ、貴官は私と共に兵器厰本棟及び東棟前の制圧だ」

 

「はっ」

 

「カイル、ハインドで上空警戒。兵器厰区画に近づく敵車両は全て始末しろ。同時に各区画を適宜援護───制圧を補助せよ」

 

「はっ、了解」

 

「いいか、作戦は今から爆薬が起爆するまでだ。つまり15分しかない。遅れは許されないぞ。よし、では全員時計合わせ───3、2、1…今!」

 




整備員1「知らない奴が無限とか書かれたフェイスペイント顔と上半身裸で目の前に現れたと思ったら、行きなりパンチ2発と蹴り1発で昏倒させられた」

整備員2「知らない顔の奴が整備員用のツナギ着てウロウロしていた。顔をよく見ようとしたら逃げたから、まあ良いかと思ってその場を離れた」

整備員3「爆薬片手に垂直立ちのままグルグルしてる奴がいた。近付いたら変な機械で透明になったから、まあ良いかと思って自分の持ち場に戻った」

整備員4「知らない奴がでかいダンボール箱被ったり脱いだりしてた。近付いたらダンボール箱被ったまま腰だめ歩きで逃げたから、まあ良いかと思って警報器の整備に入った」

整備員5「そいつが液体燃料貯蔵タンクのところで何かしてた。何かと思って見ようとしたら隠れたから、まあ良いかと思って仕事に戻った」








GRU警備兵「お前ら、それを先に言え」




─グロズィニグラード・液体燃料貯蔵タンクに爆薬が仕掛けられ、タイマーの残り時間的に解除不能になった直後の整備員と警備兵の会話─


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26話

どうにか今月中にMGS3編を終わらせてオプスに入りたい…


「こいつを撃て!……っ!聞こえないのか?撃て!」

 

「ふぅ…大佐、それは出来ません」

 

「出来ないだと!?」

 

「貴方はザ・ボスと約束しました」

 

「黙れ!私が貴様の上官だぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

…まったくもって度しがたい…

 

ザ・ボスの手前、意気揚々と1対1の戦士としての…いや、男としての戦いを誓っておきながら、分が悪いと見るや否や相手を撃ち殺せとは…。

 

しかも部下に誓いを破ることへの指摘を受けた途端、上官だ部下だと持ち出して力付くでしか意に従わせられない無能な軍人───この男をGRUの佐官に昇進させた間抜けな上司の顔が拝みたいものだ…。

 

心中で嘆息しつつ、目先に迫る脅威を追い払うべくホルスターから抜き放ったSAAでヒップシューティングの体勢から次々とファニングによる射撃を行い、6発の銃弾全てを放射状に広がるように放つ。

 

自分に向かって放たれた青白く跳ねる電撃は、放射状に放たれた銃弾を避雷針代わりに散り散りに霧散した。

 

苦し紛れに電撃を放ったヴォルギン大佐…いや、ヴォルギンは自らの攻撃がいとも簡単に防がれたことに驚愕すると同時に、ダメージが深刻な身体で無理に電撃を放った事で、耐えきれずに床に膝をついた。

 

 

「…貴様ぁ…この私に楯突く気か…?」

 

 

何とも見苦しく、浅ましい。戦士としての矜持などどこにも見えない。こんな男が一時とはいえ自分を顎で使う上官だったなど、笑いすら込み上げてくる。

 

手にするSAAを弄びつつ、無様に膝をついてなお相手を完全に下に見た発言をするヴォルギンを高所から見下ろしながら、少しばかりの愉悦に浸りたいところではあった…。

 

だがまず最も、この誇りを持とうとしない哀れな男に言ってやらねば気が済まないことがあった。

 

 

「男らしく戦いなさい!」

 

「戦いなさい…?」

 

 

ああ、ようやくくすっきりした。以前から一度言ってやりたかったのだ。いや、軍人を名乗るまともな人間ならば誰でも言いたくなるだろう。

『1対1の戦いを自ら誓いながら、あの有り様。お前にはプライドが無いのか?』と…。

 

さて、見下す部下からこんな風にたしなめられて、ヴォルギンはどうするか?利かん坊の如く駄々をこねるか、心を引き締めて今一度戦いに挑むか?

 

 

<<総員に次ぐ!格納庫内にて爆薬が発見された!繰り返す、格納庫内にて爆薬が発見された!爆薬解体要員以外の全基地職員は、直ちに待避せよ!>>

 

 

ちっ…!この肝心な時に…。

 

 

「クソッ!オセロット!爆弾の捜索に行け!」

 

 

まぁ仕方あるまい。どのみち私には他の役目が残っているのだ。丁度ヴォルギンからも指示が出された事だ。仮初めとはいえ、部下として最期の命令くらいには従ってやるとしよう。

 

もっとも命令は"捜索に行け"であって、"発見しろ"ではないがな…。せいぜいゆっくり捜索するとしようか…。

 

私は自分を見ていたスネークに少しばかりのエールを送ると、捜索名目で目的を果たすべく格納庫を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【グロズィニグラード・兵器厰区画・西側】

 

 

 

「ぎゃっ!」

 

「クソッ!またやられたぞ!何であの大男は倒れないんだ!?」

 

「知るか!とにかく頭だ!頭を狙え!胴体への射撃は無意…ブェッ!!」

 

 

グロズィニグラードの西側、奇妙なデザインの戦車が何台も駐車されているその区域では、1人の大男が人間が持てるとは到底思えないスリングで肩から吊るした重機関銃を軽々と振り回し、近づく敵を片端から挽き肉に作り替えていた。

 

 

「まったく腹ばかり狙ってきたと思えば、今度は頭か?俺は少佐殿やヴィーシャとは違うから、頭は勘弁願いたい…な!!」

 

 

大男は自分の頭を狙って射撃を行う敵に顔をしかめつつ、空いている丸太のように太い片腕で自らの頭を防御しつつ、もう片腕で重機関銃を振り回しながらありったけの弾をばらまく。

 

重機関銃が唸る度にブロック塀や貨物を盾にする兵士達は次々と身体中を穿たれて命を落とすのに対して、大男は腹部や背中にいくら弾が命中しても分厚い防弾チョッキを着ているのか動きは鈍らない。

 

だが肘部分まで腕捲りをして素肌が見えている腕を見ると、胴体にも恐らくは防弾チョッキを着ていないのだろうと思われた。何せ大男が頭を防御するためにかざす腕に命中した弾は、僅かばかりめり込んだだけに終わったからだ。そして大男が動く度にめり込んだ弾は振動でポロポロと地面に零れ落ちる。

 

「む…弾切れか」

 

大男は弾が出なくなった重機関銃にチラリと目をやると、スリングで吊るしたまま片腕でリロードを始めた。その腕には何重もの銃創が見えるが、その何れもが擦り傷程度の流血しか起こしていない。

その様相はまさに人間装甲車という言葉がしっくりくるものであった。

 

 

「さて、時間が無いのでな…そろそろ降伏するか全滅するか選んで貰おうか」

 

 

リロードを終えた大男はそう口にすると、再び重機関銃を持ち直して未だ生き残っていた敵に対してその銃口を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【グロズィニグラード・兵器厰区画・東棟、本棟区域】

 

 

 

「コンタクト!10時、軽機!」

 

「ラジャー」

 

 

パパン!パパン!

 

 

「クリア!」

 

「ムーヴ!」

 

 

兵器厰の東棟及び本棟では、野戦服に髑髏と羽根のマークが刺繍されたワッペンを付けた2人の兵士が、手にするAKMで次々と巡回の敵を排除していく。

 

2人は先ほどの大男のような非常識な戦いかたではないが、連携や互いのサポートは熟達のそれを漂わせている。

 

巡回や警備の兵士は2人を様々な場所から狙おうとするも、少しでも身体や銃口を動かして彼らを狙った瞬間にまるで初めから位置が知られていたかのように即座に反撃を食らい、なかなか阻止することが出来ずにいた。

 

 

「残念ながら貴様らの位置はお見通しなんでな」

 

「"鷹"様様ですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【グロズィニグラード・兵器厰上空】

 

 

 

「ヴァイス大尉、11時方向軽歩兵5名。装備はいずれもAK47。約5秒後に接敵予定」

 

<<了解>>

 

「警戒、ノイマン大尉、8時方向RPG所持の歩兵2名。東棟屋上左端、水槽タンクの側」

 

<<オーケー>>

 

 

 

 

グロズィニグラードの上空では、1機のハインド重戦闘ヘリが滞空しつつ、女性パイロットが下で戦う歩兵に対して周囲の動きを随時的確に報告していた。

 

 

「蛇の時は油断したが、今度は初めから全力で行かせてもらうぞ。コミュニスト共」

 

 

女性パイロットはスネークの時とは違い、真っ赤に染まる瞳をギョロリと動かしながら周りの敵の動向を更に報告し続ける。

 

だが忙しなく動いていた瞳がある1台のバイクを捉えると、そこに視線を固定した。バイクの向かう先、そしてバイクを操る人物をその視界に捉えた女性パイロットは、口元のインカムにそれを伝えた

 

 

「作戦行動中の各隊員へ…"運び屋"が到着した。繰り返す…"運び屋"が到着した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<<爆薬解除失敗、総員待避せよ!繰り返す!爆薬は解除不能!総員待避せよ!>>

 

 

「早く出ろ!」

 

「爆発するぞ!」

 

「急げ!」

 

 

グロズィニグラードの兵器厰格納庫は液体燃料タンクに仕掛けられた爆薬の解除失敗と、施設からの即時待避を呼び掛けるアナウンスに加え、逃げ出そうと必死に走る兵士達の叫びが渦巻いていた。

 

そして時を同じくして、スネークとヴォルギンの対決にも一応の幕が下ろされていた。勝者はスネーク───元ヘビー級ボクシングの選手であったヴォルギンは自慢の体格と腕力を武器に挑んだものの、力ではなく柔と技術を基本としたCQCを扱うスネークには一歩及ばなかったのだ。

 

 

 

 

CQCの基本───それは受け流しである。これは相手が本気で殺しに来る時にこそ本領を発揮する技術であり、相手は自ら罠に飛び込む形になるのだ。

勢いよくつきだされた拳も蹴りもナイフや銃剣も、そこには一直線又は真っ直ぐに進む力が乗せられている。もしその勢いよく出した腕や足を引っ張られればどうなるか?

 

答えはひとつ、相手は簡単にバランスを崩すのである。後はバランスを崩したところへ反撃を放つだけ───これだけで終わりだ。

 

あの吊り橋でのザ・ボスによる肘うちもそれに則った単純な攻撃だったのである。

 

また人間には人体の構造上、確実に痛みを受けたり反抗出来ない場所が存在する。例えば左手の平を内側に立てた状態から外に捻る事が出来るか?答えは無理である。だがもしその無理な状態の時に敵が手を添えて、左手の甲側の小指と薬指の付け根下を押せばどうなるか?

 

やられた側はあっという間にバランスを崩して倒れ込むだろう。これは一見簡単に封殺出来そうな技だと思われるが、ではその相手が武術や柔術の熟達者であったならどうか?

 

現実では反射神経が働いて封殺しようとする前に既に相手に倒されるのだ。何せ体感でも現実でも1秒と掛からないからだ。

 

他にも脛や太もも・二の腕内側等は例え鍛えていても急所となりうる。もし組み合った時に脛を蹴りあげられたり、太ももや二の腕内側を中指の第二間接辺りをグリグリとねじ込まれたら耐えられるか?まず無理である。

 

長々と語ったが、すなわちCQCとは人体構造上の間接や急所、脆い部分の弱点や盲点、鍛えようが無い部位を的確に狙い、相手を倒す技術なのである。

故にヴォルギンは敗北したのだ。ボクシング以上にCQCはより実戦的かつえげつない技術ゆえに。

 

さて、スネークは息も絶え絶えになりがらも力を振り絞り、梯子を使って昇降台から上へと逃れようとしている。

だが逆にヴォルギンは動くどころか膝をついて身体を支えているのがやっとであった。

 

 

「グゥッ…!…!?ゴハァッ!!!」

 

 

憎々しげにスネークを睨み付け、膝で倒れないように支えているのがやっとの身体を無理に動かそうとした途端、ヴォルギンは床一面に血を吐いた。

内臓へのダメージは彼の予想以上に深刻であった。

 

直ぐにでも治療を受けなければ命の保証は無い。しかしヴォルギンはゆっくりと目の前の物を見上げて、そんな危機的な状況にも関わらず口元に歪んだ笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もが爆薬解除失敗に絶望的になりながらも、最後の望みを掛けて必死に施設からの脱出を図ろうと走り続けていた。

 

もはや誰も格納庫に保管されている兵器はおろか、満身創痍になっている上官ですら見捨てて逃げ出している。

 

その阿鼻叫喚の中、スネークは何とか格納庫外への脱出を果たしていた。

そこで手を膝について荒い息をしながらどうグロズィニグラードから脱出するかの算段を立てようとしたスネークは、目の前の光景を見て驚いた。

 

目の前には破壊された敵のトラックや装甲車があちこちで炎と黒煙に包まれており、GRUの兵士達の死体があちらこちらに散らばっていたからだ。

 

誰の仕業か?

 

しかしそれを考える間もなく、今度はそれらの残骸を乗り越えて自分の側へとドリフトを掛けながら停車したバイクを操る人物に驚いた。

 

 

「乗って!」

 

「EVA!?無事だったのか?」

 

「時間が無いわ、早く!」

 

 

スネークの問いかけを後回しに、EVAはバイクに乗るようにと急かす。

 

当然だ。既にタンクに仕掛けた爆薬のタイマーは30秒を切っていた。急がねばロケット燃料による大爆発に巻き込まれてしまう。

 

 

「良いぞ、出せ!」

 

 

バイクのサイドカーへと乗り込んだスネークが合図すると、EVAは一気にバイクのスロットルを全開にして走り出す。

 

 

「不味いぞ、もっと飛ばせ!」

 

 

 

 

10…9…8…

 

 

 

 

「ヒイィィ!」

 

「逃げろ、爆発する!」

 

「どけ、早く行かせろ!」

 

 

 

 

 

 

 

7…6…5…4…

 

 

 

 

 

 

 

 

「クククッ…私には"コイツ"がある!まだ終わってはいないぞ、スネェーク…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3…2…1…

 

 

 

 

 

 

 

 

爆薬のタイマーが指定された時間を指した瞬間、起爆装置は微弱な電流を発し、信管を通してタンクに貼り付けられた爆薬に───スネークが潜入中、EVAの注意通りよくこね回したC3爆薬の内側に電流による起爆を促した。

 

TNT換算にして約1.34倍の威力を誇り、3.5kgあれば厚さ2cmの鉄すら難なく破壊する、将来的には各国の軍が採用を決める程の高性能爆薬C4───その前進たるのがこのC3爆薬。

 

液体ロケット燃料貯蔵タンクに仕掛けられた4つの爆薬は同時に炸裂、TNT以上の破壊力を撒き散らし、タンク内の大量のロケット燃料を巻き込んで大爆発を引き起こした。

 

瞬時に窓という窓、通風口という通風口、出入口やドアから紅蓮の炎が迸り、至近距離の車両や資材、人間を爆発の衝撃と風圧で吹き飛ばし、破壊的な光景を産み出した。

 

だが爆風で吹き飛されて身体を打ち付けた程度の者は幸運であった。

 

貯蔵されていた液体ロケット燃料で爆発により飛び散った飛沫───炎が立ち上る液体ロケット燃料を浴びた者は消えることない全身に回る炎に身体を焼かれ、苦痛にのたうち回り跳び跳ね回りながら絶叫を挙げていた。

 

 

<熱い!熱い!>

 

<助けて!火が!>

 

<誰か火を消してく゛れ゛ェェー!>

 

<死にたくないぃ!>

 

 

 

ある者は顔面を半分以上炭化させながらも残った力で助けを求め、ある者は消えない火を消そうと手が焼けるのも構わず燃える箇所はたき続け、ある者は全身に回る炎に喉まで焼かれ鈍い断末魔を挙げながら倒れ動かなくなった。

 

酷く残酷な光景───しかしこれが戦争であり、戦場であった。

 

彼らとて人間だ。恐怖もあれば感情もあり、生き意地汚く足掻き続け、他者を蹴落としてでも助かろうとする。

 

だが戦争は…そして戦場はそんな事を決して気にしない。例え兵士だろうと士官だろうと殺し殺され、蹴落とし蹴落とされるだけ───生き残ることが戦争、そして戦場での勝者の証となる。

 

冷戦…諜報と代理戦争が主であるこの戦争も何ら変わらない。残酷だろうともそれは彼らが選び、選択した結末であった。それが兵士という生き方の結末の1つなのだ。

 

故にスネークは彼らを見ているだけであった。無残に炎に巻かれる彼らを見ても、罪悪感や後悔を感じる暇は無かった。

 

むしろ彼の心中では、シャゴホッドの破壊という任務を果たした事への達成感があり、そしてまだ果たさなければならない任務への思いが渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「EVA、どうして君はここに?」

 

「ザ・ボスが逃がしてくれたの」

 

「ボスが?」

 

 

スネークはEVAから聞かされた言葉に再び驚いた。彼女を始末するといって連れていったザ・ボスは、彼女を殺さずに逃がしたというのだ。

 

 

「ええ、それで…貴方に伝える事があるの…ザ・ボスが…彼女が、グロズィニグラード先の湖で待っているわ」

 

「EVA…」

 

「本当は黙っていようと思ったの…でも、彼女の瞳を思い出したら…貴方に嘘はつけなかった…本当に澄んだ瞳をしていたわ。あんな綺麗な瞳は見たことが無かった…」

 

 

EVAから告げられたのは、ザ・ボスがグロズィニグラード先の湖───脱出用のWIGが駐機されている湖にて、スネークが来るのを待っているという事である。

 

だがEVAの言葉から、そして表情から彼女が言わんとしていることはスネークにも理解出来た。だからこそ、スネークは自身に言い聞かせるようにEVAに言葉を返す。

 

 

「まだ任務は終わっていない…俺は行かなければならない」

 

「分かっているわ…貴方と彼女には私では理解出来ない絆があるってことも…それでも…ザ・ボスとは…戦って欲しくないの…」

 

 

EVAはそっとスネークを抱き締めた。

 

 

「でも、貴方は行くのよね?それが任務だから……いいえ、やっぱり理解出来ない…なぜ愛する人を殺さなければならないの…」

 

「EVA…」

 

「…ごめんなさい…少し取り乱したわ。さぁ、行きま…」

 

 

EVAは半ば諦めるように会話を打ちきり目元を指で拭うと、スネークに脱出しようと呼び掛けた時だった。

 

上から飛び降りてきた存在に地面に力付くで押し倒されたのだ。しかしEVAは反撃をしなかった。

その存在が、彼女とスネークにとって見知った人間だったからである。

 

 

「君は…!」

 

「ヴィクトーリア!?」

 

「伏せろ!」

 

 

あの滝裏の洞窟辺りからいつの間にか姿を消していたヴィーシャが、突如として現れたのだ。

 

だがヴィーシャとは別に響いた舌足らずな幼い声───スネークは聞き覚えがあるその声が自分に向けられたものだと理解した瞬間に即座に地面に伏せた。

 

直後にスネークの頭上で銃弾が通過する独特の音が響き、先ほどスネークが出てきた格納庫の扉───そこからスネークとEVAを狙おうとしていたGRUのスペツナズ兵、つまりは山猫部隊兵士数人が的確に頭部や心臓を撃ち抜かれ、倒れ込んだ。

 

 

「戦場でいちゃつくとは余裕だな、"蛇"」

 

「お前は…」

 

「どうした?私が幽霊にでも見えるか?なんなら触れても構わんぞ?」

 

「生きていたのか…ザ・ピース…!」

 

「ご覧の通りだスネーク、さて話はここまでだ。まだ終わってはいないぞ」

 

「なに?それは一体……っ!!…あれは!?」

 

 

スネークはザ・ピースの"終わっていない"という言葉に、彼女に理由を問い掛けようとして、格納庫から響いた轟音にそちらに目線を向けた。

 

それを見たスネークは、彼女に問い掛けようとしていた口を閉じた。理由を彼女に問わずとも、そこに見えた物が全てを物語っていたからだ。

 

シャゴホッドである。あの巨大な核搭載戦車が、今まさに格納庫の外壁をぶち破って格納庫外へとその巨体を乗り出そうとしていたのである。

 

 

<<スネェーク!まぁだだぁ!まだ終わってはいなぁい!!>>

 

 

そしてシャゴホッドのスピーカーから流れたのは、格納庫で爆発に巻き込まれたと思われたヴォルギンの声であった。

 

シャゴホッドの操縦席…そこには満身創痍とも言えるヴォルギンが座していた。しかし各部から出血し、痣や傷まみれになりながらもその顔は好戦的な笑みを浮かべていた。

 

 

「くそっ、失敗だ!」

 

 

グロズィニグラード兵器厰西棟の一室に囚われていたソコロフから提示された、ロケットブースターに使われる液体燃料の貯蔵タンクを用いた爆発により格納庫ごとシャゴホッドを葬るという作戦は、通常兵器であれば成功する作戦であった。

 

そう…通常兵器であれば…だ。

 

一つ挙げるのであれば、惜しむらくは彼───シャゴホッドを設計したソコロフ博士が、"ロケット技師"であったことだろう。

 

彼はロケット技師であるが故に大気圏突破や突入を行う宇宙ロケットの耐熱装甲や技術に関しては高い知識を誇っていた。

だからこそ彼はその知識を基にシャゴホッドの破壊を脳内計算し、危険な液体燃料貯蔵タンクを用いるという作戦を導き出したのだった。

 

しかしシャゴホッドは通常兵器では無かったのだ………以前、スネークがヴァーチャス・ミッションにて初めてこの兵器を見た時にソコロフが漏らした言葉───そこにシャゴホッドを破壊し損ねた原因があったのである。

 

 

 

 

 

 

『隠密展開・即事発射が可能な、核搭載戦車』

 

 

 

 

 

 

 

そう…シャゴホッドは通常兵器ではない。核戦争を想定した設計の戦車なのである。そしてソコロフが設計したシャゴホッド、その試験・整備にはグロズィニグラードに集められた大勢の科学者や技師が強制的に参加させられていた。

 

そう、実はそれらの科学者や技師のうち核爆発に詳しい者達がヴォルギンの命により特別に開発した装甲、それがシャゴホッドに用いられていたのだ。

 

だがソコロフはいちロケット技師であったがために、核爆発に対応出来る具体的な装甲の厚さや強度といった所までは思考が及ばなかった。もっとも及んでいたとしても、門外漢の彼には具体的な計算は難しかったのだが…。

 

 

「さて、どうするかね蛇?残念ながらあの装甲では例えRPGをつるべ撃ちしても歯が立たないぞ」

 

「大丈夫よ…あいつを橋まで誘き出せばいいわ。後は…」

 

「鉄橋…君が爆薬を仕掛けた…そうか!あいつが渡るときに起爆すれば、橋ごと落とせる!決まりだ、ザ・ピース!」

 

「よろしい!ヴィーシャ、貴官は先に行きたまえ!私はしばしあのデカブツの水葬に出席してくるのでな!」

 

「はっ、ではお先に!」

 

 

ヴィーシャはザ・ピースの命令を受けると、それまでスネークが見たことが無いほどの満面の笑顔で返答して、離れていった。

 

そこでふと、スネークはヴィーシャが度々口に出していた上官の話を思い出した。彼女が上官の話をする時の様子とザ・ピースに対する様子───それらが色々と違和感なく合致したのである。

 

 

「ザ・ピース…聞きたい事があるんだが、彼女…ヴィーシャが言っていた上官とはもしかして…」

 

「スネーク、後にしたまえ。今はあのデカブツが先だ」

 

 

ザ・ピースはスネークの言葉を遮り、手にするM−16の銃口でシャゴホッドを指し示す。

 

 

「さぁ!乗って!」

 

 

EVAも時間が無いと、スネークに乗車を促す。

 

催促されたスネークは直ぐ様思考を切り替えバイクに駆け寄ると、サイドカーに飛び乗った。

 

そしてザ・ピースもサイドカーに飛び乗ったスネークと座席の隙間に入り込んだ。若干狭いが、勢いよく走るバイクのサイドカーに乗るのであれば、互いの身体が密着して互いに支えあう形になるのは、悪いものではない。

 

 

「掴まって!さぁ、行くわよ!!」

 

 

EVAの合図でバイクが唸りを上げ、エンジンが一気に噴かされた。

 

揺れるサイドカーの中、スネークは左右を、そしてザ・ピースが背後を守る形だ。

 

スネークはザ・ピースの、銃を振り回すだけの筋肉が付いてるとは思えないほど柔らかく暖かい体温が伝わる小さな背中に自らの背を預けながら叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザ・ピース!背後は任せたぞ!!!」

 

「ああ、任された!!!」

 




【んのっく大佐爆誕】



※この後書きでやるのは本当に考えなしにふざけまくった結果の産物です。もしこれを読んでから「俺は何て無駄な時間を…」と盛大に後悔する可能性がある方は、即座に画面を切り替えて他作者様の作品を閲覧されることを全身全霊で推奨致します。








「ようこそザ・ボス、デグレチャフ少佐。我が国、我が部隊へ!」


バーチャス・ミッション後、シャゴホッドを奪い取ったコブラ部隊及び非合法工作部隊"ゴースト・カンパニー"の面々は、大要塞グロズィニグラードにてヴォルギン大佐の歓待を受けていた。

本来ならば軍規等でこういった催しを行おうとはしないヴォルギンだが、シャゴホッドと自身が持つ"賢者の遺産"を用いたとてつもない野望を心に懐く彼は、ザ・ボスとザ・ピースことデグレチャフ少佐が自身の部隊へと加わったという事実に内心狂喜していた。

故にヴォルギンは凄まじく上機嫌になっており、この歓待パーティーを催していたのである。

グロズィニグラードに勤務する士官や兵士達も普段は味わえない一時の安らぎとばかりに、ウォッカやビール、ウィスキーをあおり、思い思いに騒いでいる。

そしてデグレチャフ揮下のゴースト・カンパニーの面々もコブラ部隊隊員らと交流を交わしていた。


「ヴィクトーリヤと申します。よろしくお願いいたしますね、フィアーさん。ところでですが、ウィスキーボンボンでも如何ですか?」

「クハハッ!貰おうか!」

「はい!お好きなのをどうぞ!」

「(カリッ!)………ッ!?ぐおぉぉ!ぞ…臓賦が内から焼けるぅ!こ、これはぁぁぁ!!?」

「引っ掛かりましたねフィアーさん!そのウィスキーボンボンはウィスキーの代わりにウォッカ───しかも唐辛子を漬け込んだ激辛のペルツォフカです!」





「お休み中のところ、失礼致します。はじめまして、ジ・エンド殿。私はヨハン・マテウス・ヴァイス大尉と申します。以後お見知りおきを」

「いや…問題無い…むしろ、今回は眠りが深くてな…そろそろこの世界での時間が迫っているのだろう…よく…儂を…起こしてくれた…(プスッ!カクンッ!)スゥー…スゥー…」

「おお…凄まじい威力の改造モシン・ナガンだな。人間が一発で眠りに落ちたぞグランツ」

「ノイマン大尉…今気にするべきはモシン・ナガンの威力ではなく、持ち主のジ・エンドさんの頭に麻酔針が刺さった事では…?」




…訂正、面々と隊員らは思い思いにトラブルの種を撒き散らしていた。

そんな中、ウォッカのグラスを手にかなり酔っているのだろうヴォルギンが、ターニャへと近づき声を掛けた。


「デグレチャフ少佐、楽しんでいるかね?」

「はっ!大佐殿!我々のためにこのような歓待を催して頂き、感謝の言葉もありません!」

「そう固くなるな、デグレチャフ少佐。今や我々と貴官らはザ・ボスの世界を一つにまとめるという目的───理想の下結ばれた同志だ」

「はっ!失礼致しました(ふん…カティンの黒幕め…味方への後ろ弾が得意なコミュニスト風情が理想だ同志だとはな…)」


ヴォルギンはターニャの内心には全く気付く様子もなく、今度はターニャの隣で水を飲んでいたザ・ボスへと話題を移した。


「時にザ・ボス。貴女が編み出し、最も得意としている近接格闘術は、何でも近接そのものから銃を無力化すら出来るとか?」

「そうだ。私はCQCと呼んでいる。ジュウドーやアイキドー、アラハンといった日本の様々な武道に軍で使われる近接格闘技を組み込み、人体構造や理論に基づいて考案した」

「ほう…それは興味深い。いずれそのCQCを拝見したいものだよ」

「ならば彼女…ザ・ピースと組み手をしてみてはどうだ?彼女もまたCQCに精通した軍人だ。それ以外にも彼女は自身の体格に合わせた独自の戦いかたも身につけている。」

「ほう…?」


ヴォルギンの目が好戦的な光を宿す。米国の暗部を切り盛りしてきたCIAが抱える非合法部隊の隊長───その実力に以前からヴォルギンは興味を持っていたのだ。

元ボクシング選手としての魂が疼くのか、ヴォルギンはウォッカのグラスをテーブルに置くと、ターニャに呼び掛ける。


「どうかねデグレチャフ少佐。私と一戦組み手を交えるというのは?」

「はっ。いいえ、問題ありません。ではテーブルを退かさせましょう」


ターニャの指示を受けたゴースト・カンパニーの面々がてきぱきとテーブルを片付け初め、数分もしないうちに舞台が整えられた。

そうしてヴォルギンとターニャは中央へと互いに進み出て向かい合う。そして互いの幾度目かの呼吸をゴングに、ターニャは迎え撃つ体勢に移行し、ヴォルギンはターニャと組み合おうと勢いよく動き出した。

しかし、ここで予期せぬトラブルが起こった。

むしろ起こったというよりは起こって然るべきトラブルだったかもしれない。

そもそもヴォルギンはターニャと違いウォッカを飲んでいる。
さらに彼は野望を果たすための準備がトントン拍子に進んだことで上機嫌だったのである。

度数が平均的に60を越える酒を上機嫌な感情にまかせてあおっていた人間がいきなり無理な運動をしようとすればどうなるか…


「ぬぉっ!!?」


そう、身体の不調である。勢いよく動き出したヴォルギンは、急激に身体中に回りだしたアルコールによろめき、足をつんのめらせた。

そして最初の勢いを保ったまま上半身からターニャ目掛けて倒れ込む。

さてここでもう1つ…急にバランスを崩して倒れ込みそうになった人間はどんな行動を取るか?

手をばたつかせる者もいれば、顔や頭部を守ろうと防御体勢を取る者もいる。さて、では他には?

そう、答えは"咄嗟に近場の物を掴んで転倒を避けようとする"だ…。

では現時点でヴォルギンの最も近場にある掴めそうなものは一体何か?

これはもう明確だろう…そう…ヴォルギンを迎え撃つ体勢に入っていたターニャである。

ヴォルギンは酒で回らない思考を回転させ、咄嗟に転倒を避けようとターニャの襟元を掴んだ。だが、掴んだ相手は普通よりは頑丈な作りの野戦服とはいえ布である。

当然身長2mはある元レスリング選手であり軍人であるヴォルギンの全体重が乗っかった力───それを受け止めるだけの頑丈さをターニャの着る野戦服は持ち合わせてはいなかった…。





ビリィィィッッ!!!!!!






上から下まで一気に布を引き裂くような音が部屋中に響き渡り、周囲の人間───グロズィニグラードの士官や兵士達、ゴースト・カンパニーもコブラ部隊も当人たるターニャやそれを見ていたザ・ボスまでもが目の前の惨状に一斉に沈黙した。

ヴォルギンはといえば、倒れ込んだ体勢から痛む顎付近をさすりつつ起き上がってきて、ふと沈黙が支配する部屋に気付き周りを見渡している。

そして己が掴んだものが引き裂くような音を立てたと思いだし、片手に握りしめた布切れと化した服をしばし見つめてから、今度は正面に視線を移した。

そしてヴォルギンの前で非常に冷徹な瞳でヴォルギンを睨む小柄な少女と彼女の丸見えな身体を見て、何とか言葉を絞り出す。


「少佐…

その…

何だ…

あ〜と…

いや…

失礼したな…」



直後、ヴォルギンは冷徹な瞳から一転───にっこりと笑顔を浮かべたターニャに言われた。











「くたばって下さい、変態粗○○大佐殿」





「んのっく!!!!??」

















※言い訳しておきますと、私は事前に書きました。こんな思いつきかつ完全にふざけた作品を読むくらいなら、他の作者様の作品を閲覧したほうが良いと…。


はい…罵倒、軽蔑、雑言お待ちしております…。


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27話

ぬわぁぁん、もおぉん!!



はい、失礼致しました。なかなかシャゴホッド戦が終わらないよ…。


バイクを操るEVAの横、スネークとザ・ピースはそれぞれが得物を手に、未だに自分らをつけ狙うグロズィニグラードの兵士たち───そしてシャゴホッドで追いかけてくるヴォルギンとのチェイスを繰り広げていた。

 

 

「前よ!」

 

「ああ!」

 

 

EVAから敵の位置を知らされたスネークは、両手に抱えた分隊支援火器M63を構えると、前方を塞ぐように横隊になっていたGRU兵士達目掛けて雄叫びのように声を張り挙げながら斉射を行う。

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

大量の弾薬による制圧射撃を目的とした分隊支援火器の斉射を受けた敵は味方数人が打ち倒されると、慌てて躊躇なく突っ込んでくるバイクから逃れるように飛び退いた。

だが敵の防衛線を1つ食い破っただけであり、まだまだ敵は兵力を逐次投入を図っている。

現に新たな敵部隊が着々と集結し、包囲網を着々と縮めつつあった。

 

EVAはバイクを急旋回させて包囲網を構築しようとする敵の正面を避け、先ほどからスネークらを仕留めようと遮二無二に暴れまわるシャゴホッドが粉砕した壁の隙間を飛び越えた。

 

 

「っ!不味いわ…!」

 

 

だが窮地から脱したと思われた瞬間、EVAの呻きと続けて呟かれた言葉が、現状が更に厳しいものになったことをスネークとザ・ピースに示した。

 

飛び越えた先は兵器厰の正面ロータリーに繋がる場所であった。

 

そう、本来ならEVAの考えは敵の包囲網を抜けつつ、事前にヴィーシャの"上官"が味方に引き込んだ警備兵が担当する近道である東棟方面の門を抜けて鉄橋へとまっしぐらという予定であった。

 

しかしシャゴホッドと敵の包囲網を避けようと咄嗟に逃げ込んだ先は、門が閉ざされ敵が集結していた兵器厰正面ロータリー……これでは鉄橋へ向かうどころか施設を抜けることすら出来ない。

 

更に前方には多数の武装したGRUの兵士達、背後には現時点で最も最悪な兵器シャゴホッドが迫っている。退くも進むも出来ないデッド・エンド(行き止まり)の状況である。

 

しかしそこで、ザ・ピースが発した言葉がどん詰まりかと思われたこの絶望の状況を覆す。

 

 

「本棟だ。兵器厰本棟の格納庫を抜けたまえ…なに、液体燃料で程よく燃え盛っている建物を駆け抜けるだけだ」

 

 

その言葉にEVAはハッとして彼女───ザ・ピースへと振り返った。

 

ザ・ピースは背後に迫るシャゴホッドに対して無駄だと分かりつつも、表情を変えることなく手に持つM−16のマガジン交換をして発砲し続けていた。

 

だがその表情はこの状況を楽しんでいるのだろうか、口元にはうっすらと笑みを形作っていた。

 

 

「ええ、問題ないわ」

 

 

EVAは燃え盛る格納庫を見据えて、自分を奮い立たせた。

 

 

 

 

 

 

 

その時、バイクの前輪付近の地面に銃弾が撃ち込まれた。

 

EVAにスネーク、ザ・ピースがそちらに視線を向けると、そこには愛用するSAAを自分たちに向けて構えているオセロットが見えた。

 

あの爆発騒ぎのなか、オセロットは未だ執念深くスネークを付け狙っていたのである。

 

 

「さぁ、掴まって!」

 

 

EVAはオセロットから燃え盛る格納庫に視線を戻し、バイクのアクセルを回して勢いよく走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side オセロット】

 

 

 

爆発騒ぎで右往左往する味方を避けつつ、脱出を図ろうとしていた女スパイの操るバイク───そのサイドカーに乗り込んでいるスネークにようやく追い付くことが出来た。

 

しかしバイクは今にも走り出そうとしていた。連中を逃がすまいとホルスターからSAAを抜き放ち、バイクの前輪を狙って銃口を向けて引き金を引いた。

 

だがサイドカーに乗るスネークの背後───奴と背中を預け合わせるように其処にいた人物を見つけた瞬間、一瞬の驚きから銃口がぶれてしまう。

 

 

ザ・ピースであった。

 

 

グラーニニ・ゴルキーでのスネークとの戦いで、心臓を貫かれて敗北し自爆したと聞かされていたコブラ部隊兵士が、奴(スネーク)の脱出を手助けするようにシャゴホッド目掛けてアサルトライフルを撃っていたのである。

 

一瞬とはいえ拳銃でバイクの前輪を狙撃するにはかなりの距離がある。当然ぶれた銃口から放たれた弾は前輪には命中せず、至近距離の地面に当たった。

 

だがそのお陰か、スネーク達はこちらに注意を向けて、自分の存在に気付いた。今ならまだ逃走を阻止出来る筈である。

 

そう素早く決断すると、以前からグロズィニグラードに常駐していたガンスミスに注文していた品を腰から取り出した。

 

愛用するSAAに合わせて作製させたオーダーメイドのSAA用スケルトンストックである。

 

本来SAAは拳銃として開発された銃だ。すなわち遠距離や中距離射撃はまず考えられていない。

つまるところ他の拳銃類同様に近距離戦闘を想定した銃なのだ。

 

レッド9の愛称を持つモーゼルC96といった専用ストックが存在する銃もあるが、SAAは開発時期が西武開拓時代末期ということもあり、様々なバリエーションやモデルこそあれど射撃精度を向上させるためのストック等は存在しなかった。

 

だがスネークとの幾度かの戦いを経て、この銃を愛用し続けていく上ではそういったカスタマイズが必要な時があると考え、この専用スケルトンストックを用意させたのである。

 

ストックを素早くSAAのグリップ後方部分に差し込むと、ストックを右肩口に押しあてて再びバイクの前輪を狙う。

 

丁度その時、女スパイがバイクのアクセルを回して勢いよく走り出した。

 

安定した体勢からの射撃が可能になった今だが、走るバイクの車輪を狙撃出来るかは可能性としては半々である。

 

 

慎重に狙い、発砲。

 

 

だがやはり愛用銃とはいえ、使い慣れないストックを用いた精密射撃は難しい。弾は先ほどよりは更に至近弾ではあったが、命中はしなかった。

 

そこにお返しとばかりに、スネークに背中を預けているザ・ピースが手に持つM−16を構え、単射で3発撃ち込んできた。

 

 

「ちっ!」

 

 

真横にローリングで飛び退きザ・ピースの射撃をかわしたが、スネーク達は既に大分離れてしまっていた。このままではまた逃げられてしまうと、何か車両が無いか辺りを見渡した。

 

そこで目に入ったのはグロズィニグラードに配備されている軍用バイク数台であった。

スネーク達を追跡するために用意されていたのだろうバイクは、全てエンジンがかかったままである。

 

迷う間もなくバイクに駆け寄ると、ガソリンが満タンなのを確認しスロットルを回しつつ前輪を浮かせると後輪と足さばきで車体を方向転換してスネークらが逃げた方へと走り出す。

 

途中進行阻害のために設置された大人の腰の高さほどのコンクリート塀が現れたが、前輪を持ち上げつつ近場の段差を利用して飛び越えた。

 

 

「逃がさんぞ、スネーク!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「EVAくん、お客さんだ。あのカウボーイ気取り、追ってきたようだ」

 

「構ってる暇はないわ。何とか振り切らないと…!」

 

 

ザ・ピースの言葉にEVAがバックミラーを見れば、オセロットがバイクを使って背後から迫ってくるのが見えた。

 

だが今は構ってる暇はないのが事実だ。どうにかしてオセロットを振り切らなければ、シャゴホッドに集中出来ない。

 

 

「む?…っ!」

 

 

そこで背後から迫ってくるオセロットを見ていたザ・ピースが発した疑問符と何かに気付いたような声を出したため、スネークは何事かと振り返ろうとした。

 

だが振り返ろうとしたスネークにザ・ピースが咄嗟に覆い被さる形になり、振り返ることが出来なくなった───直後に背後から3連射の音が響き、スネークとEVAの耳に銃弾が通過する音が聞こえた。

 

 

「ツッ!」

 

 

そして背後のザ・ピースから痛みに耐えるような呻きが聞こえた。

スネークは直ぐ様覆い被さるザ・ピースを振りほどいて後ろを振り返り、ザ・ピースに呼び掛けた。

 

 

「撃たれたのか!?」

 

 

 

「…大丈夫だ…少しばかり息苦しいがな…」

 

 

 

スネークは胸元を手で押さえるザ・ピースを見て、その手を退かさせて傷口を確認しようとした。しかし、ザ・ピースがスネークを押し留める。

 

 

「問題はない…心臓と肺に1発ずつ貰っただけだ。死にはしない…が、やはり重要器官を撃たれるのはそれなりに痛むな…全く脇腹程度なら擦り傷くらいの痛みだというのに…」

 

「馬鹿を言え!人間が心臓と肺を撃たれて大丈夫な筈が…」

 

「だからご覧の通りだ…死んではいないぞ…そもそも貴様、ヴィーシャの特異能力を見た筈だろう?」

 

「まさかザ・ピース、お前も…」

 

「まあ、彼女よりは治癒能力に限度があるがな…数分もすれば完治する…」

 

 

ザ・ピースはそれだけ言うと、再び背後に向き直り未だ追跡してくるオセロットとシャゴホッドを警戒し始めた。

スネークもザ・ピースの態度と動きから無理やり"大丈夫だろう"と納得すると、前方警戒に戻る。

 

 

「スネーク、ザ・ピース!格納庫に突っ込むわよ。奴をそこで撒くわ!」

 

 

EVAはオセロットを障害物が溢れているであろう格納庫内で振り切ることを決め、2人に呼び掛けると更に速度を上げる。

 

そしてついにEVAとオセロットの操るバイクは、未だ火災が続く兵器厰本棟の格納庫へと飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

格納庫内は予想通り爆発で散乱した資材や逃げ遅れた敵兵士の焼死体、ひしゃげたり倒れた鉄骨や支柱等の障害物がひしめいていた。その障害物と噴き上げるように燃え続ける炎の中、2台のバイクは速度を緩めることなく疾走する。

 

しかしサイドカーを引いて走るバイクよりも、単体で走るバイクのほうが重量は軽い。

 

オセロットは徐々に詰めていた距離を、格納庫内で一気に縮めてきた。そしてついにスネークらと並走を始めた。

 

真横に並んだオセロットに対し、EVAは直ぐ様ホルスターから十七型拳銃を取り出し、オセロット目掛けて発砲する。

 

並走をしながらスネークらを狙おうとしていたオセロットは至近距離を通過した銃弾に怯み、僅かながら速度を落とした。

 

だがそれも一瞬であり、直ぐに体勢を立て直すと再び並走を始めた。そして今度はオセロットの反撃が始まる。

 

並走するオセロットはスネークらのバイクに片足を掛けて体勢を安定させると、SAAに取り付けたスケルトンストックを近接武器代わりにスネークと運転を行うEVAに対して叩き付けてきた。

 

枠組みだけのスケルトンストックとはいえ金属製のものだ。力強く振られたストックでスネークは胸を、EVAは腕を思い切り叩き付けられ、バランスを崩して並走状態から後方に大きく遅れる形になった。

 

オセロットはしてやったりといった顔でスネークらを見ていたが、前面から響いた鉄がひしゃげる音に咄嗟に視線を戻した。

そこには今まさにオセロットの進行方向真上から、爆発で支えを失った鉄骨が落下してきている最中だったのである。

 

オセロットは慌てて急ブレーキを掛けつつ車体を真横に滑らせて制動を掛けようとするが、距離が足りない。このままでは鉄骨に衝突するか、押し潰されるかだ。

だがそれはスネークらも同じであった。オセロットよりは距離があるものの、サイドカーを引きつつスネークとザ・ピースを乗せたバイクは重量故に簡単には止まれない。

 

 

そこでスネークはガチャリという重い金属が軋む音が聞こえ、チラリと音が鳴った方を見た。そこにはスネークの身体より少し上、ザ・ピースが構えるRPG−7がカーキ色に鈍く光る弾頭と共に突き出されていたのだ。

 

ザ・ピースがRPGで何を狙っているのか、スネークは直感で理解した。スネークは頭だけを下げて、ザ・ピースがRPG弾頭を撃ちやすくする。

 

 

そして、弾頭発射。

 

 

ロケットモーターで加速するRPG−7の弾頭は命中精度に関しては悪い部類に入る対戦車兵器である。だがザ・ピースが放ったそれは、僅差でオセロットの近くを通過、落下してきていた鉄骨を見事に吹き飛ばした。

 

EVAはそれを見て、再びアクセルを回して速度を上げて走り出し、皮肉にも同じ脅威に晒されたスネークらによって、命を救われたという事実に悔し顔を見せるオセロットを尻目に障害物が消えた道を一気に走り抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グロズィニグラード兵器厰本棟の格納庫、正面ロータリーから燃える建物へと飛び込んだEVAとスネーク、ザ・ピースが乗るバイクは、爆発によりひしゃげて出来ていた大きめの裂け目を通ってその先へと走り抜ける。

 

走り抜けた先、そこはグロズィニグラードの兵器厰西棟の広場であった。

 

しかしここでまたスネークは、最初に格納庫から脱出した時のような光景を目にした。

 

西棟広場は、ソ連が開発したという核戦争を想定して開発されたというオブジェクト(露:オブイェークト)と呼称される戦車の駐車区画も兼ねていた。

 

しかしそこでは数十人ものグロズィニグラード警備兵達の重機銃で掃射されたような損壊が激しい遺体が転がり、ゲート付近に駆けつけたのだろうジープや装甲車、駐車されていた戦車はそのほとんどが炎と黒煙を上げて破壊されていた。

 

 

「ザ・ピース、これは一体?」

 

 

そしてスネークはこの光景が誰による仕業なのか、うっすらとだが確信に近いものを抱いていた。その確信に近いものを確信に変えるべく、実行者又は指示を出した者だと思われるザ・ピースに訊ねた。

 

 

「私の部下だな。実に良い働きだ」

 

 

ザ・ピースはそのスネークの問いに対して、別段知られても問題はないという風にあっさりと目の前の破壊を生み出した当事者の存在を明かした。

 

 

「部下だと…だがお前はコブラ部隊の隊員…待て、まさかゴースト・カンパニーの事か…」

 

「ああ…それなのだが…」

 

 

スネークは腹芸を抜きにして、直球でザ・ピースに疑問をぶつけた。しかしザ・ピースがその問いに答えようとした瞬間、EVAがバイクをいきなり走らせ始めた。

 

そこに次々と撃ち込まれた大量の銃弾───見れば西棟と本棟の連絡通路の下に、建物を抜けて追い付いてきたのだろうグロズィニグラードの警備兵達がスネークら目掛けてアサルトライフルの一斉射撃を行ってきていたのだ。

 

スネークは一度口を閉じると、追い付いてきた警備兵を排除すべくM63を構えた。だが射撃を行おうとした時、不味い相手が駆けつけてきた。

 

T−55───冷戦時代の東側主力戦車である。56口径D10 100mmライフル砲を装備し、最高速度48kmで走り回る対NBC能力を付与された兵器だ。

 

避弾経始を重視した砲搭や搭載主砲の威力、機動力の高さを感じさせる大型転輪や全体的に低いシルエットなど、西側陣営に現状最も脅威を与えている戦車が、警備兵を援護すべく駆けつけてきたのだ。

 

だが実際にはさほど突出した性能を持たない普通の戦車というのがこのT−55であった。

しかしそれは後の研究によるものであり、現状では西側が抱く脅威をスネークらもまた抱いていた。

 

T−55の主砲が旋回し、スネークらのバイクを射界におさめる。そして発射───撃ち出された砲弾はバイクの至近距離を通過し、背後の倉庫を代わりに吹き飛ばした。

 

すぐさまEVAはバイクをジグザグ走行させ始めるが、このままではT−55の主砲がバイクを捉えて粉砕するのは時間の問題である。

 

だがその緊迫した状況の中、ザ・ピースが何かをスネークに手渡してきた。スネークはその手渡されたものを見て、ザ・ピースの意図を理解した。

 

互いにアイコンタクトだけで合図を交わし、ピンを引き抜くと同時に戦車目掛けて投げ付けた。

 

スネークとザ・ピースが投げたものは、手のひらに収まるサイズのジュース缶ほどの円筒である。それは戦車の装甲に当たってコロコロと転がると、同時に炸裂した。

 

スネークが投げ付けたほうは眩い閃光を発し、周囲の歩兵もろとも戦車を一時的に沈黙させた。閃光弾である。

 

そしてザ・ピースが投げ付けたもう片方は紫色の濃い煙を吹き上げて空中へと立ち上っていく。こちらは発煙筒であった。

 

そして閃光を浴びて目を潰され沈黙した戦車と警備兵がようやく立ち直ろうとしていた中、重く響き渡るプロペラの音が近づいてきた途端に戦車目掛け次々とロケットポッドが撃ち込まれた。

 

大量のロケットポッドから吐き出されるロケットを浴びたT−55は内部の弾薬が誘爆でもしたのか中華鍋をひっくり返したような砲搭を、まるで内側に爆薬を入れた鍋が吹き飛ぶように真上へと弾け飛ばした。

 

スネークがそちらを見れば、クラスノゴリエ山岳地帯で襲ってきたあの重戦闘ヘリ、ミルMil−24ハインドが滞空しつつ機銃掃射を開始したところであった。

 

そして機体側面にペイントされた髑髏と羽根のマークを見て、先ほどのT−55を吹き飛ばしたヘリの搭乗員らが何者かを理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

スネークはこれまでのザ・ピースの行動に小さいながらも様々な疑念を抱いていたのだが、種明かしと戦車を破壊したハインドの搭乗員達───ゴースト・カンパニーの登場で更に混乱していた。

 

 

 

 

そもそも彼女…ザ・ピースは何故自分と戦い、その死を偽装していたのか?

 

 

死を偽装したのならば、何故今になって姿を現したのか?

 

 

彼女と部下と思われるヴィーシャ…彼女らは一体何を狙っているのか?

 

 

そして自分を狙ってきたゴースト・カンパニー…彼らがザ・ピースの発煙筒を目印に援護に来た。彼らはソ連へ亡命した敵では無かったのか?

 

 

 

 

 

答えの出ない螺旋階段を回るような感覚に陥りかけ、頭を振って全てを追い出そうとした。

 

今は何よりもまずシャゴホッドをどうにかしなければならないのだ。無駄な考えに囚われている場合ではない。

 

スネークはEVAに叫ぶ。

 

 

「EVA、今だ!ゴースト・カンパニーの連中が道を開いた!一気に連絡橋を抜けて滑走路に!」

 

「オーケー、任せて!」

 

 

EVAがスネークの叫びに応え、バイクを加速させて一気に連絡橋の下を抜ける。

 

途中連絡橋から新たなGRU兵が現れスネークらに攻撃を行いだしたが、彼らは突如背後から襲いきたシャゴホッドを操るヴォルギンによって、連絡橋ごと押し潰されてしまう。

 

 

「もはや敵も味方も形振り構わず排除か…猿山の大将殿はよほど蛇に良いようにしてやられたのが頭にきたようだぞ、スネーク」

 

 

GRU兵が連絡橋ごとシャゴホッドに押し潰されるのを見ていたザ・ピースが、スネークに冗談混じりに投げ掛けるが、声色には嫌悪を滲ませていた。

 

ザ・ピースから見てもヴォルギンの行動はもはや尊厳や理性をかなぐり捨てた獣のそれに当たるのだろう。ヴォルギンは既に正気ではないのだ。

 

ただただ己の野望を邪魔した人間を片端から叩き潰さなければ気が済まないのだ。例え自分に忠誠を誓った部下を虫けらのように蹴散らそうとも…。

 

 

「………」

 

「ああ言ったが、気にするな…貴官は貴官の任務を果たしたまでだ。あのヴォルギンの凶行は奴本来の本性なのだろうからな」

 

 

ザ・ピースに言われて黙りこんでしまったスネークに、言った当人は先ほどまでの好戦的な表情を止めて少しばかり気まずそうな顔で、気にするなと擁護の言葉を掛ける。

 

 

「スネーク!滑走路に出るわよ!」

 

 

だがEVAの発言にスネークはすぐに気を持ち直す。ここからは先ほどとは違い障害物の無い真っ直ぐな滑走路区域だ。

 

今まで以上にシャゴホッドの追撃を振り切るのは難しくなる。余計なことに考えを割いている余裕は無くなるのだ。

 

 

「ザ・ピース、シャゴホッドの動きに注意を頼む!」

 

「言われずとも!」

 

 

スネークはM63を構え直すと、背後を守るザ・ピースに後方警戒を呼び掛けた。対してザ・ピースは好戦的な顔に戻り、背後を再び見据える。

 

丁度その背後では、スネークらを追跡してきていた2機のハインドのうち1機がゴースト・カンパニーのハインドに撃ち落とされるところであった。

 

爆発と共に胴体が千切れたハインドは真下にいたシャゴホッドに直撃───機体をひしゃげさせ、更なる爆発を起こした。

 

そしてシャゴホッドからは、自らの邪魔をする敵対者へのヴォルギンの怒りの声がスピーカーから流れてくる。

 

 

<<ゴースト・カンパニィー!裏切り者どもがぁ!>>

 

 

だがハインドは怒声に対して"喧しい"とばかりに嫌がらせのようにシャゴホッドの操縦席部分目掛けて機関砲掃射を行う。

 

当然核戦争を想定した装甲を備えるシャゴホッド本体へのダメージこそ無いが、代わりに夜間用のライトや操縦席下部に取り付けられた機銃の片方が破壊された。もはや完全にシャゴホッドは弄ばれていた。

 

だがそれは更にヴォルギンの怒りに油を注ぎ、彼を更なる凶行に走らせる。

 

 

<<邪魔なぁ!>>

 

 

ヴォルギンは目の前でスネークらを狙い撃っていた味方歩兵らへと近付いていく。彼らはよりによってシャゴホッドの進行方向を塞ぐ形に展開してしまっていたのだ。

 

シャゴホッドの残った機銃が火を噴くと、正面にいたGRU兵らは次々と蜂の巣にされ、倒れ込む。

 

だがヴォルギンはまだ怒りを吐き出し足りないとばかりに、必死に機銃掃射を逃げ切り降下してきたヘリに乗り込んだ味方兵士を、ヘリもろとも前足のドリル型のキャタピラで躊躇なく粉砕した。

 

 

「あの馬鹿…注意を引くのは良いが不必要に怒らせてどうする…煽りを受けるのは追われてるこちらだというのに…」

 

 

ザ・ピースが不機嫌な声でハインドを操縦しているのだろうゴースト・カンパニーのパイロットへの愚痴を飛ばす。

 

しかしすぐに愚痴を止めて背後を警戒する。いよいよ滑走路に入ったからだ。事実、シャゴホッドは態勢を変えて先ほどまでのキャタピラを使った前足歩行から、戦車のように両足のキャタピラを回転させてバイクを追跡してきた。

あの巨体から出るとは思えないなかなかのスピードに、EVAは口を真一文字に結んで必死にアクセルを回して速度を上げる。

 

 

「EVA!WIGだ!あれの真下を!」

 

 

そこでスネークが前方を塞ぐ大柄な機体───迫り来るシャゴホッドから逃れようと滑走路中央から斜め状態に動き出していた表面効果機WIGの真下を抜けろと指示を出す。

 

EVAはすぐさまハンドル操作でジグザグに走りながらWIGの車輪の間を潜り抜けていった。

 

そこにシャゴホッドも躊躇なく突っ込んでくる。

 

哀れにも逃れ切れなかったWIGはシャゴホッドの巨体の体当たりを受けて弾き飛ばされ、凄まじい音を立てて滑走路脇へとひっくり返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side ターニャ】

 

 

 

 

 

「まったく、凄まじいな」

 

 

かなりの重量を持つ筈のWIGを体当たりで弾き飛ばして横転させるなど、出鱈目もいいところだ。

あんな巨体に巻き込まれたら最後、バイクもろとも人間3人のミンチの出来上がりである。

 

 

「不味い、ミサイルよ!」

 

 

そこへ女スパイ、EVAがシャゴホッドの後部から射出された物体に叫ぶ。

 

あのシャゴホッドからマッハで射出された誘導ミサイルが、私らの乗るバイク目掛けて飛んできていた。

このままではミンチにならずとも爆発でお陀仏である。

 

 

「任せたまえ!」

 

 

だがミサイル程度の大きさならば問題はない。身体中を駆け巡るアドレナリンに感情までをも委ねている私は、恐らくは他人から見れば狂ったような好戦的な笑みを浮かべているのかもしれない。

 

そんなアドレナリンの興奮覚めやまぬ状態でM−16を構えて射撃を始めた。

そして我々を捉え次々と迫るミサイルを1発ずつ、確実に撃ち落としていく。

 

こんな人間離れした芸当が出来る理由は、賢明な読者諸君なら分かるだろう。あのクソッタレな悪魔のせいである。

私を含めた部下達は、あの大戦で忌まわしい存在Xの差し金によって人間としての身体を失ったのだ。

 

 

今や我々は呪われた存在なのだ。

 

 

いや…以前私を付け狙っていた"アイツ"は、神の祝福だなどとのたまっていたな…。今はどうしてるのやら…

 

っと失礼、無駄話が過ぎました。

 

 

さて、大分滑走路を走り抜けただろう。そろそろグロズィニグラードからラゾレーヴォの森林へと入る鉄橋へと続く道が見えてくる筈…だが…

 

 

……またか…。

 

 

「…スネーク!オセロットだ、追い付いてきたぞ!」

 

 

私らが走るより更に後ろ───シャゴホッドの後方からバイクで追い掛けてきているオセロットが見えたのだ。

 

…いや…流石にしつこすぎるだろうが…

 

どれだけ執念深いんだあの青年は…以前から私を付け狙っていた"アイツ"並みだぞ、まったく…。

 

いくら何でも凄まじすぎる執念に、流石の私も呆れを隠しきれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─シャゴホッド操縦席─

 

 

 

 

「ちっ!」

 

 

なかなかスネークに追い付けないことに苛立ちだけが募っていく。攻撃は片端からかわされ、必殺とばかりに放ったミサイルはあの裏切り者のザ・ピースの妨害でことごとく撃ち落とされてしまう。

 

また背後からは、スネークとの決着を着けんとオセロットがバイクで迫ってきている。

 

スネークと女スパイ、裏切り者のザ・ピースを倒すのは私だ!貴様ごときに譲るつもりはない!

 

 

「…いや、待て…こいつがあるじゃないか…」

 

 

スネークらに追い付き、なおかつ邪魔なオセロットを妨害してやる方法が1つだけあった。

 

ならばもたもたしてる必要はない。早速こいつを使わなければな…。

 

 

 

 

「ふふふ…これで、どうだぁ?逃がすものかぁ!」

 

 

 

 

シャゴホッドの操縦席側にある赤く塗装されたレバー。そのレバーを勢いよく前へと押し出した。

 

それは核搭載戦車としてのシャゴホッド本来の性能───すなわちロケットの1段目の代わりをするべく取り付けられたロケットブースターの起動レバーであった。

 

シャゴホッドのロケットブースターが唸りを上げた瞬間、一気に点火───ブースターから青白い炎が轟音と共に噴き出し、シャゴホッドの巨体を加速させ始めた。

 

そして丁度シャゴホッドに追い付きロケットブースター付近にいたオセロットは、突然間近で起動されたロケットブースターにバイクもろとも炎風と爆風を合わせたような風圧に巻き込まれてしまう。

 

持ち前の咄嗟の反射神経でバイクのバランスを持ち直しつつ、何とか滑走路から離れた場所に突っ込む形で停車することは出来たものの、顔や服は煤まみれ。

 

更にはヴォルギンがわざと自分が近づいてきてからブースターを起動させたことに気付いたオセロットは、もはやシャゴホッドはおろかスネークらにも追い付けないほどに距離を離されてしまったことも合わさり怒りに任せてヴォルギンを罵った。

 

 

「ビィッチ(クソッタレ)!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不味い!急げ!」

 

 

背後から叫ばれたザ・ピースのそれまでからは想像出来ない焦り声に、EVAとスネークは何事かと後ろを振り返る。

 

そして2人とも、ザ・ピースが焦り声を出す要因となった後方から迫り来る光景に顔を青ざめさせると、EVAはすぐさまアクセルを更に噴かした。

 

アクセルの回しすぎでオーバーホールする事になろうと、背後から迫り来る"アレ"に巻き込まれるよりは何倍もマシである。

 

 

そう…

 

 

背後から迫り来ていたのは、ソコロフ博士がフェイズ2と称されていた実験にてシャゴホッドに取り付けたロケットブースター───そのブースターを最大まで噴かし、凄まじい勢いで追い付いてきたシャゴホッドの姿であった。

 

少なくともまともな感性の人間ならば、時速マイルで突っ込んでくるロケットブースター付きの巨大戦車を見て、驚かない訳はない。

 

 

「EVA、まだか!?」

 

「後、少しよ!」

 

 

シャゴホッドが迫り来る中、スネークはEVAに鉄橋へと繋がる道はまだかと叫ぶ。

 

対してEVAはすぐだと返すが、このままでは辿り着く前にあな巨体に踏み潰されかねない。

 

シャゴホッドが追い付くのが先か、スネークらが道を外れるのが先か───

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで終わりだぁ、スネェーク!!」

 

 

 

 

「<主よ…我に祝福を…>おおおお!!さぁ…せるかぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

シャゴホッドのキャタピラがバイクの後部をいざ食い千切ろうとした時、サイドカー後部で何かを呟いていたザ・ピースが、叫びと共に何かを思い切り振りかぶる音を出した。

 

 

それと同時に、巨大タンカー同士が正面衝突したような金属が嫌な音を立ててひしゃげるような───そんな音が背後から響く。

 

 

 

 

<<ぬっはあぁぁぁ!!?>>

 

 

 

 

そしてスピーカーから漏れ出すヴォルギンの叫び。

 

一体何が起きたのかとスネークが背後を見ると、シャゴホッドの正面装甲付近のキャタピラ、その一ヶ所にまるでパイルアンカーで刺突したような凹みがあったのだ。

 

そしてバイクから落ちないよう左手をサイドカーの後部に押し付けて、右拳を握りしめ正面目掛けて身を乗り出すように打ち出した姿勢のままのザ・ピースがいた。

 

それは、グラーニニ・ゴルキーでザ・ピースがスネークに見せたあの怪力である。軽々と大木を抉り、ボーリング玉サイズの岩を大木を次々と貫通させる速度で投擲し、更にはロケットブースターで加速した巨大戦車すら殴り返したのだ。

 

そして唐突に殴り付けられたシャゴホッドはというと、ダメージはキャタピラの装甲が凹まされ、僅かに滑走路内で進行方向がずれた程度だ。

しかし、今はロケットブースターで加速している真っ最中であった。

 

僅かズレでもあっという間に車体がスネークらの向かう方向から違う場所へとまっしぐらに向かっていく。その先は、天然の岩が連なってそそり立つ壁だ。

 

 

『くそがぁ!!』

 

 

ヴォルギンは罵声を飛ばしながらも、すぐさまロケットブースターをエンジンカットすると、急ブレーキを作動。更に後部から急減速用の大型パラシュートを射出した。

 

シャゴホッドの巨体は地面との摩擦でギャリギャリと耳障りな軋みを響かせながらも、急ブレーキとパラシュートの併用で徐々に速度を落としていき、壁まで僅か数mの距離というところで停車した。

 

 

「今だ!奴(シャゴホッド)が体勢を立て直す前に鉄橋に向かいたまえ!」

 

「ありがとうね、ザ・ピース!」

 

 

EVAはザ・ピースのお陰でシャゴホッドの巨体に踏み潰される脅威から逃れられたことに礼を述べると、シャゴホッドが再び動き出す前にと鉄橋へ続く道へと方向を変え走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

滑走路から外れたラゾレーヴォへと続く鉄橋が掛かるのは、巨大な崖が切り立ち、下には川が流れる渓谷のよう場所だ。

 

そこには丁度シャゴホッドが通れるギリギリの幅の大きな鉄橋が掛かっている。そしてこの鉄橋が、シャゴホッドを倒す秘策の場所であった。

 

鉄橋を渡りきったスネークとEVA、ザ・ピースは直ぐ様バイクから降りると、それぞれが鉄橋を爆発で破壊するための準備に掛かる。

 

 

「スネーク、ザ・ピース!私が仕掛けたC3は全部で4つ!でもそれだけでは鉄橋を落とすには足りないわ!奴が鉄橋を渡り出した時を狙って!」

 

 

残念ながらC3は高性能だが万能ではない。小さな橋ならまだしも、大量の鉄鋼とコンクリートで組まれた鉄橋を落とすには足りなさすぎた。

 

しかし、もしシャゴホッドのような従来の規格から大きく外れた10tや20tでは済まないような巨大な特殊装甲と合金に核ミサイルを積んだ重量の塊のような物が乗っかっていたらどうなるか?

 

間違いなく僅かな損傷でも鉄橋は耐えきれない。

 

 

「ザ・ピース、俺は左2つを狙う。お前は右の2つを頼む!」

 

「了解した。だがスネーク、。爆薬そのものを狙っても起爆しないぞ。信管と繋がった起爆装置を狙いたまえ」

 

「オーケーだ!」

 

 

互いに持ち場と注意点を確認し合ったスネークとザ・ピースはそれぞれSVDドラグノフとM−16で鉄橋下の支柱に仕掛けられたC3の起爆装置を慎重に狙う。

 

タイミング合わせにはほぼ同時に起爆装置を、更に2つあるため1秒以内に両方を次々と狙撃する必要がある。

 

チャンスは一度きり。

 

失敗すればあの巨大戦車が再び襲いくることになるのだ。

 

 

 

 

 

「もっと引き付けて…」

 

 

シャゴホッドがスネーク達も通った道を下り、鉄橋前まで迫ってきている。だがまだ早すぎる。

 

「もう少し…」

 

 

シャゴホッドがついに鉄橋に辿り着き、車体端を鉄橋の支柱やワイヤーにガリガリと掠めながら渡り出した。

 

 

「今よ!!」

 

 

EVAの合図と共にスネークのドラグノフと、ザ・ピースのM−16が間を開けることなく2発ずつ発射され、鉄橋に仕掛けられたC3の起爆装置を互いに2つずつ───計4つをほぼ同時に撃ち抜いたのであった…。




【M63を乱射しつつ雄叫びを上げるスネーク】

作者はMGS3をプレイする度にシャゴホッド戦でわざわざM63に持ち変えてスネークに雄叫びを上げさせながら乱射するのが癖になってます。
なので本作品でもこれといって意味は無いのですが、やりました。


【SAAのスケルトン・ストック及び撃たれたターニャ】

本編でオセロットがSAAに装着した枠組みだけのスケルトン・ストックは、実際に見た事が無いのでゲームのオリジナル装備だろうと考え、本作品ではオセロットがSAA用ストックを用いた理由や内心を捏造しました。

また撃たれたデグさんですが、背後から迫るオセロットの3連射のうち2発を被弾しました。本編はスネークが撃たれたら話が終わってしまうので身体を反らしてかわしてますが、流石にオセロット程の名手がそう何度も外すのは無理があると思い、デグさんに被弾して頂きました。
最も"ちょっと息苦しいな"程度でデグさんは済んでしまっているのですが…。


【シャゴホッドにパンチ】


最近出す機会が無かったデグさんの怪力パンチ大活躍。本編だとヴォルギンがロケットブースターで加速してからもしばらく滑走路鬼ごっこが続きますが、ムービーで見たシャゴホッドの速度では、サイドカー付バイクの加速では間違いなく逃げ切れずに潰されるだろうと思い、こうなりました。
最初はギリギリでEVAが避けるという設定でしたが、最近デグさんの怪力が活躍しなかったので"こっちくんな、あっち行けパンチ"になりました。

流石に核戦争想定で液体燃料の爆発でもびくともしないシャゴホッドなので、破壊や走行性能に支障をきたすほどのダメージは与えられませんでしたが、向きがずれてああいう形でスネークらは難を逃れました。


【C3爆薬狙撃】

ゲーム本編ではまんまC3を撃てと言われますが、実際には信管からの電流でなければ爆発しないため、本作品では
「信管と繋がった起爆装置を狙い、破壊によって強制的に電流を発生させC3を起爆」
という形で進めました。いや、そもそもTNTみたく遠隔起爆装置使えば?みたいな突っ込みは無しで…(スイッチポチッ、よりも狙撃爆破のほうがロマンがあるし…)


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28話

【激突】




「EVA、WIGの真下を抜けたまえ!」

「オーケー!」


私の指示を受けたEVAは巧みなハンドル捌きで滑走路から退避しようとしているWIGの車輪の間を抜けていく。

さて、WIGのパイロットには悪いが、シャゴホッドを足止めするためのわずかばかりの時間稼ぎ役を担ってもらうとしようか…。


そんな私の目論見通り、シャゴホッドは邪魔なWIGへわざと激突───華麗なまでに機械体操選手の垂直倒立が如くはね上がっ…







はね上がった?シャゴホッドが?




なんということだろうか…私の目の前で目論見を大きく外してシャゴホッドがWIGに逆に弾き飛ばされていたのである。

しかも地面へと落下した衝撃でシャゴホッドの操縦席部分とミサイルサイロを積んだ後部パーツが引き千切れ、両者共に綺麗なまでに真横にグルグルと回転している。


…とシャゴホッドの操縦席のハッチから何かが飛び出した。

そこで丁度、スネークとEVAも背後で起こった謎の衝撃と破損音を確かめるべくバイクを止めると背後を見る。
そこには回転がようやく止まり、滑走路脇に停止したシャゴホッドの操縦席があった。

そこまで来て、2人はようやく私が見ている方向にも視界を向けた。



「スネェェェーク!!まぁだだぁぁぁ!!!」



何とヴォルギンが空中から何かこう股を広げた面白い体勢から徐々に股を閉じていき、滑走路上を受け身でゴロゴロ転がりながら我々がいるバイクの真横まで来て止まったのだ。

驚愕するスネークの目先でヴォルギンはスネークに対して「まだ終わっていな…





キキィィィ!!ガキャアァン!!!



「どぅっふぉあ!!?」




背後から追跡してきていたオセロットのバイクに見事なまでに勢いよくはねられてしまった。








「ぬっはぉああぁうぉぁぁぁ!!!!!」







そしてひとしきり空中へと飛んでいき─────









ドカアァン!!








見事に爆発した。黒い黒煙を撒き散らし、後には何も残っていない…。







「自分で自爆するとは…」


「馬鹿じゃないの?」







何だこの終わり方…?





デー、デー、デ、デデン!!
デデデン!!!


間を置かずに響いた4発の銃声。

 

 

 

鉄橋に仕掛けられた4つのC3の起爆装置を、スネークとザ・ピースが的確かつほぼ同時に次々と装置を狙撃したのだ。

 

起爆したC3爆薬は連鎖して鉄橋の中央部を支える鉄骨を破壊───そこにシャゴホッドの重量が加わったことで鉄橋は崩壊した。

踏みつけた枯れ枝がへし折れるように、鉄橋は支えを失った中央部から崩れ、次々に深い谷底の川へと落ちていく。

 

 

運が無いとはこのことだろうか…。

 

 

先ほどまでスネークらを追跡していたグロズィニグラードの兵士らは、丁度鉄橋をシャゴホッドと共に渡っていた───又は渡りだしたところであった。

 

当然ながら鉄橋はシャゴホッドというとんでもない重量物たる鉄塊を抱えているのだ。爆発から重量過多による鉄橋の崩壊までは30秒と掛からない。

その間だけで橋から離れるのはおろか、バイクから降りることすら不可能だ。

 

そしてその不運な兵士らは、同僚や乗り込んでいたバイクと共に絶叫を上げながら深い谷底の川へと消えていく。

 

シャゴホッドも最後までキャタピラを回転させ踏ん張っていたが、ついには自らの重量に引き摺られて谷底の川へと転落───巨大な水柱を立ち上らせつつ川底へと沈んでいった。

 

 

「凄い…」

 

 

今まさに己の目を通して見ているEVAは、それでも現実離れした目の前の凄まじい光景にポツリと呟いてしまう。

 

だがこれで終わったのだ。シャゴホッドは核搭載戦車という…東西冷戦という歪な対立構造が産み出した、歪な使命をついぞ果たすことなくその歴史に幕を下ろしたのだ。

 

 

「終わったわね…」

 

「…いや…まだだ。まだ終わっていない…」

 

「スネーク…ええ…そうだったわね…」

 

 

スネークの言葉通り、まだ終わってはいない。まだザ・ボスが残っているのだ。彼女の抹殺…それがザ・ボスの弟子たる彼に課せられた任務だからだ。

 

 

 

「行きましょうスネー…」

 

「……待て!」

 

 

 

先を急ごうと声を掛けたEVAを遮り、スネークが叫んだ。

 

そしてその言葉を待っていたとでも言うかのように、崩れ落ちた鉄橋の残骸───スネークらが居た側の崩落する寸前で留まっていた鉄橋から何かが勢いよく飛び出したのだ。

 

 

 

轟音を立ててスネークらを飛び越え着地したもの………それは、シャゴホッドであった。

 

 

 

だがそこにあるのはキャタピラが付いた操縦席部分だけである。

 

そう、あの時谷底の川へと転落していったのは、シャゴホッドのミサイルサイロが取り付けられた後部パーツだけだったのである。

 

ヴォルギンは鉄橋の崩壊に際して操縦席側から後部パーツをパージし、操縦席側の転落を防いだのだ。そして残った操縦席部分でここまで這い上がってきたというわけなのだろう。

 

 

<<まだ終わっていない!>>

 

 

シャゴホッドの操縦席部分が旋回してこちらを向くと、スピーカーからは未だ健在らしいヴォルギンが叫ぶ。彼はどう足掻いても自らの手でスネークらを倒さなくては、諦めきれないらしい。

 

 

「EVA、運転は任せた!」

 

「いいの?」

 

 

スネークの言葉にEVAが問い返す。シャゴホッドは先ほどとは違い、あの操縦席だけ───間違いなく小回りや速度も最初より上がっている筈だ。

 

そのシャゴホッドを前にして運転を任せるというのは、EVAの腕に全面的に命を預けるという意味に他ならない。

 

 

「ああ、信じている」

 

 

スネークは、EVAのその問いに信頼という答えを返した。彼女の腕に、自らの命を預けると…。

 

 

「その代わり、攻撃は俺とザ・ピースに任せろ」

 

「…そうね、逃げ回るのはもう沢山!」

 

 

EVAも、スネークの言葉に信頼を寄せていた。

 

しかし…アメリカのエージェントと敵対国の女スパイ、アメリカお抱えの非合法部隊兵士が手を組み、世界に核戦争の火種を撒こうとしたGRUの大佐と彼が操る巨大兵器と全面対決───かのハリウッドですら見られない、世界中のジャーナリストが涎を垂らす世紀の一場面ではないか。

 

まさか2大国の核戦争を阻止するという物語が、こんな形に集束していくとは一体誰が予想しえただろうか?

 

 

「スネーク、決着をつけようではないか…あのコミュニストに引導を渡してやろう」

 

「ああ、EVA、ザ・ピース。3人で共に戦おう」

 

 

スネークはザ・ピースとEVAに呼び掛ける。これまでに何度もヴォルギンを仕留める機会を逸してきた。故に、今度こそ終わらせるとスネークは決意したのだ。

 

するとEVAは笑みを浮かべ、景気づけとばかりにスネークと唇を重ねる。

 

 

「景気付けよ!」

 

 

EVAもここで決着をと決めたのだろう。

シャゴホッドと最後のチェイスを始めるべく、アクセルを回してエンジン具合を確かめる。

 

 

「行くわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャゴホッドとヴォルギン、そしてスネーク、EVA、ザ・ピースらによる最後の戦いに新たな狼煙が上げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side ゴースト・カンパニー】

 

 

 

 

「カイル上曹!あそこだ、シャゴホッドがいる!」

 

<<いや、しつこすぎるでしょう、あの変態大佐!>>

 

 

グロズィニグラード上空を進む2機のハインド。その機内ではゴースト・カンパニーの面々がシャゴホッドとスネークらが戦う鉄橋先の対空防衛陣地へと急行していた。

 

そしてその対空防衛陣地では、スネークとザ・ピースが女スパイEVAの操るバイクのサイドカーからシャゴホッドへと攻撃を加えている。

 

そして本来なら比類なき装甲を誇るシャゴホッドだが、現状ではその装甲も無意味と化していた。

 

先ほどからスネークとザ・ピースが狙うのはシャゴホッドの背後───核ミサイルを収納するミサイルサイロが取り付けられていた後部パーツとの接合部だ。

 

そう、後部パーツをパージして転落を防いだのはヴォルギンの咄嗟の機転であったが、戦闘に関してはそれが大幅なアドバンテージの喪失を招いていた。

 

後部パーツを取り外したシャゴホッドは、背後の一部の最も装甲の薄い箇所───すなわち接合部を露出させてしまったのだ。

 

 

それを見逃すスネークとザ・ピースではない。

 

 

女スパイEVAが華麗に操るバイクのサイドカーから次々と手持ちの対戦車兵器や爆発物を用いて、接合部の装甲が薄い箇所を狙い撃ちしていたのだ。

 

ヴォルギンも負けじと操縦席下部に残る機銃1丁とシャゴホッド本体を用いた体当たりによる反撃を試みてるが、小回りの利くバイクをまったく捉える事が出来ずにいる。

 

 

<<ぬぅぅ!キャタピラが!?>>

 

 

攻撃に転じれば小刻みに方向を変えながら駆け回るバイクにかわされ、隙を晒せば簡単に接合部への反撃を許し、シャゴホッドはまるで蚊に翻弄される図体だけの巨象の様である。

 

 

「各員号令一斉射撃用意!超低空飛行で駆け抜けつつ最後のロケットポッド斉射で少佐殿を援護する!残弾を全てばらまけ!」

 

 

先頭を飛行するハインドのドアから下を眺めつつ指示を出すのはヴァイスである。そして彼の言葉を受けて2機のハインドは即座に列を組み直し、低空へと降下を始める。

 

その機内では動ける面々が持ち出せるだけの武器・弾薬を抱え、ハインドの両脇ドアを開けるとシャゴホッド目掛けてそれぞれが照準を合わせる。

 

その中には、ゴースト・カンパニーの服とは違うオリーブドラブの野戦服に目出し帽の男もいた。

 

 

「左側機銃準備良し!号令一斉射まで待機!」

 

 

額部分にJの刺繍が入れられた目出し帽を被るGRUの兵士───そう、グロズィニグラードの監獄でスネークらをわざと脱獄させ、このスネーク・イーター作戦に一役買った男───ジョニーであった。

 

彼はあの後、ザ・ピースことデグレチャフの指示に従いヘリの駐機場にてスネークがシャゴホッドを破壊するまで潜伏していたのだ。だが、スネークはシャゴホッドの破壊を完遂出来ず、ヴォルギンにより追跡されていた。

 

そこで急遽ハインド機内で潜伏していた彼もこの戦いへと…すなわちスネークらの援護へと駆り出されたのだ。

 

しかし食い意地と腹具合を崩しやすいという欠点を除けば、彼、ジョニーは非常に優秀な兵士であった。

現在もヴァイスの指示が出た直後に、搭載されていた三脚付のMG42汎用機関銃(恐らくは大戦期の滷獲品)を座席後ろから引っ張り出すと、ハインドの左側ドアを開けて攻撃準備を整え終えていた。

 

 

<<こちら2番機、攻撃準備完了。何時でも突撃出来ます>>

 

 

そして後方を飛ぶハインドも準備完了を伝える無線を飛ばしてくる。

 

後はヴァイスの号令で超低空で対空防衛陣地へと突入───シャゴホッドに対して一度きりの一斉射撃を浴びせつつ、離脱するだけである。

 

 

「よし、コース突入カウントダウン始め!10、9、8、7!」

 

 

 

<<ロケットポッド、左右共に異常無し!>>

 

<<各機銃要員準備良し>>

 

 

 

 

「6、5、4!」

 

 

 

 

<<突風無し、攻撃コース侵入角度適正!>>

 

<<シャゴホッド、依然として戦闘行動中!及び対空防衛陣地よりの対空砲火の兆し無し!>>

 

 

 

 

「3、2、1、0!各機攻撃ぃ!攻撃開始ぃ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side スネーク】

 

 

 

何発もRPGを撃ち手榴弾を当ててもなかなか止まらないシャゴホッド。

 

だがそのシャゴホッドは、いざ自分らの乗るバイクへと体当たりをしようと予備動作に入った直後、いきなり頭上から降り注いだ弾雨の嵐に包まれた。

 

何者かと上空を見れば、ゴースト・カンパニーの部隊マークがペイントされた2機のハインド戦闘ヘリが縦隊の体形でシャゴホッド目掛けて飛行しつつ、左右のポッドからロケットを次々と降らし、ドアからは同じくゴースト・カンパニーの兵士らが機銃とライフル、手榴弾を惜しむことなくシャゴホッドへと浴びせていた。

 

僅か数秒程の一斉射撃は、しかし雨あられと降らされたそれはシャゴホッドを炎に包み込み、炎が散った後には全体を焼け焦げさせ所々を酷く損壊させた姿が残された。

ゴースト・カンパニーのハインド2機はありったけの攻撃を加え終えると、止まることなくラゾレーヴォの森林地帯の向こうへと消えていった。

 

 

「やったか?」

 

 

あれだけの攻撃だ。流石のシャゴホッドでもこれ以上は戦闘を継続するだけの余力は存在しない筈…。

 

 

それは間違い無かった。シャゴホッドは各所から電気がショートする音を立てつつ、煙を上げると軋む音と共に駆動音が消えた。

そして完全に沈黙したシャゴホッドのハッチが開くと、中からヴォルギンが這い出してきた。

 

だがその顔は、まだどす黒い怒りの炎が燃え盛る瞳と狂喜をない交ぜにしたような笑みを浮かべている。

 

 

ハッチの上でゆっくりとしゃがみこんだヴォルギンは、自らの身体に巻き付けているライフル弾の弾薬ベルトから、指の間に数発を挟んで抜き取った。

 

そして身体中に電圧を溜めると、一気にシャゴホッド目掛けて拳ごと振り下ろした。

 

金属をぶち抜く音と共に拳をシャゴホッドの装甲内へとめり込ませたヴォルギンは、そこから何かを抜き放った。

 

それはシャゴホッドのあらゆる電子回路と繋がる、幾重にも束ねられたケーブルであった。

 

更にもう片方の拳を同じように弾薬を挟んで装甲内にめり込ませ、ケーブルの束を抜き取る。

 

一体奴は何をするつもりなのか…そんな事を考えていた時、奴───ヴォルギンは急激に身体中に電流を帯電させると、一気にそれを解き放ったのだ。

 

解き放たれた電流はヴォルギンの握り締めるケーブルの束を伝わり、シャゴホッド全体を迸った。

 

するとどうだろうか…先ほどまで完全に沈黙していた筈のシャゴホッドが、再び駆動音を立てながら動き出したのである。

 

 

 

 

「な…なんて出鱈目な…」

 

 

 

 

隣にいたザ・ピースは、目の前で起こったあまりに非常識な事態とそれを成したヴォルギンに呆れと驚愕が入り混じった表情で呟いていた。

 

 

ただ自分はそんなザ・ピースを見て、こう思った。

素手で大木抉ったり貫通する威力の石を投擲し、果てにはロケットブースターで突っ込んでくるシャゴホッドをカウンターパンチで殴り飛ばすという芸当を披露している目の前の幼女も相当だと…。

 

 

分かりやすく言うなら

 

 

 

『お前が言うな』

 

 

 

である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだだ!まだ終わらんぞ、スネェーク!」

 

 

そんな事を内心思い浮かべてはいたが、シャゴホッド上にケーブル群を握りしめ仁王立ちしているヴォルギンの咆哮に、今優先すべきは非常識層トップに入るザ・ピースの客観的視点が抜けた発言に呆れることではなく、奴との戦いに完全に終止符を打つ事だと思考を切り替えた。

 

 

「スネーク、ザ・ピース!降りて!私が奴を引き付けるわ!」

 

 

そこで、EVAが降りろと指示を出してきた。自分がシャゴホッドを引き付けると言うのだ。

 

 

「急いで!奴が突っ込んでくる!」

 

 

EVAの言葉を合図にしたかのように、ヴォルギンが咆哮を上げながらシャゴホッドを自分ら目掛けて走り出させた。

 

最早時間が無いと、自分とザ・ピースはサイドカーから左右それぞれに飛び出した。

 

 

 

まさに間一髪。

 

 

 

自分とザ・ピースがサイドカーから飛び出して地面へと落ちる辺りで、EVAの操るバイクがギリギリの間合いでシャゴホッドの真下を駆け抜けていく。

 

そして自分らは、サイドカーから飛び出して肩口から地面に着地すると同時に背中を丸めつつ、肩口から背中を地面に接触させて身体を回転させながら受け身を取っていた。

 

受け身を取り終わるとすぐに立ち上がり、シャゴホッドとEVAへと目線を向ければ、彼女はバイクを小回りに動かしながらシャゴホッドをわざと挑発し、自分を追い回させていた。

 

ヴォルギンはヴォルギンで頭に血が上っているせいか、自分とザ・ピースの事など頭からすっぽりと抜け落ちているかのように、一心不乱にEVAを追い回していた。

 

 

「スネーク!向こうの対空機関砲を使え!航空機を撃墜出来る威力の対空機関砲なら奴を押さえられる!」

 

「分かった!ザ・ピースはあちら側の機関砲を頼む!奴に十字砲火を浴びせてやろう!」

 

「ああ!しつこいストーカー男には相応しい御断りの返事だ!」

 

 

自分とザ・ピースは互いに指示を出し合うと、対空防衛陣地内に幾つも設置されている対空機関砲から互いの火線がクロスする位置にある銃座へと駆け寄っていく。

 

銃座に乗り込むと機関砲の位置を調整しつつ銃口を未だEVAを追い回しているシャゴホッド───その上に立つヴォルギンへと合わせた。

 

 

<<スネーク!今EVAに連絡を取った!彼女がこれから言う指定ポイントまで奴を誘きだす!奴が駆け抜ける瞬間を狙ってコイツを浴びせるぞ!>>

 

「了解した!指定ポイントを頼む!」

 

 

 

 

「良し!銃座に用意されているボードマップがある!そいつで指示を出す!グリッド、X…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side ターニャ】

 

 

 

スネークにグリッドによる指定ポイントを伝えると、私もシャゴホッドを狙うべく対空機関砲の火線先を調整する。

 

後は奴が通過するのを見計らい、大口径機関砲の雨を浴びせてやるだけである。それで仕留められれば良し───仮にそれで仕留められずとも、ここにはまだまだ機関砲と機銃が鎮座しているのだ。

 

しつこいストーカー大佐へのプレゼントには事欠かないだろう。

 

 

…っと来たな!上手い具合に誘き寄せてくれるものだ!

 

 

「スネーク!来るぞ!」

 

<<準備完了だ!何時でも撃てる!>>

 

 

スネークとの通信を終え、後はシャゴホッドが通過するだけだ。

 

 

もう少し…もう少し…

 

 

 

比我の距離が徐々に縮まっていき、その度にトリガーに掛けた指の力が強まっていく。さあ、来るが良いヴォルギン大佐───これで終わりにしてやる!

 

 

 

 

指定ポイントまで後3m、2m、1m……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

私の叫びと共に、私の対空機関砲とスネークの対空機関砲が凄まじい射撃音と共に大口径の鉛を次々と銃口から吐き出していく。

 

ヴォルギンはようやくそこで、自分が無防備に罠に飛び込んだことに気付いたのだろう。

 

咄嗟にシャゴホッドを停止させ、身体回りに電撃を纏わせた。

 

だが対人想定の機銃やアサルトライフルならいざ知らず、こいつはZU−23−2。その程度で防げるほどヤワな威力ではない。

 

 

 

【ZU−23−2】

口径14.5mmのZPU−1/2/4の後継として開発され、1960年制式採用。ガス圧作動方式の23mm口径2A14機関砲2門を二輪と三脚を備えた砲架に搭載。牽引状態から車輪を折りたたんで接地させて射撃準備を整えるのに約30秒かかるが、緊急時は牽引姿勢でも射撃可能。

照準は手動だが、改良型では電動旋回機構を搭載。ZAP−23光学機械式照準器に目標情報を入力することでより正確な対空射撃が可能であり、地上の歩兵や軽装甲車両を攻撃するためのT−3対地射撃用照準器も有している。

 

 

 

そんな鉛を雨あられと浴びせられては、いかに電撃によるシールドを張ろうが無意味である。

 

事実先ほどから何発かが電撃のシールドを撃ち抜き、ヴォルギンの腕や足を深々と抉っている。だが貫通する際に弾そのものが強度のためか砕けてしまい、破片となっている。

 

そのためか未だヴォルギンは止まらない。

 

 

「その程度、効かんな!」

 

 

げっ!

 

ヴォルギンの奴、口ではああ言いながらも頭にきてはいたらしい。

EVAを追い回すのを止めてこちらを標的に定めたのか、私のいる対空機関砲座目掛けて突進してきやがった。

 

 

あんな巨体に踏み潰されてはかなわん。

 

 

直ぐにトリガーから指を離すと銃座から身を乗り出して外側へ脱出───直後に突進してきたシャゴホッドのキャタピラが対空機関砲を巻き込んで粉砕し、スクラップへと変貌させた。

 

そこへスネークの操る対空機関砲が援護射撃を行ってくれる。お陰でいきなりシャゴホッドに追撃されるという事態には陥らず、私は別の対空機関砲座へと辿り着けた。

 

直ぐ様対空機関砲の座席に身体を滑り込ませると照準をシャゴホッドへと合わせ、再び射撃を開始する。

 

そこへ近づいてきたEVAが手榴弾をヴォルギン目掛け投擲───爆発と破片が私へと注意を向けていたヴォルギンの無防備な背中を切り裂いた。

 

 

「くそっ!!」

 

 

そうして奴がEVAへと注意を向ければ今度は私とスネークの攻撃が襲い掛かり、ヴォルギンを八方塞がりの状況へと追い込んでいく。

 

 

<<チャンスだ、ザ・ピース!このまま一気に攻め立てるぞ!>>

 

「ああ、終わりにしよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─グロズィニグラードの外れ・対空防衛陣地─

 

 

 

 

 

私とスネークの指が機関砲のトリガーから離れるのと、ヴォルギンが操るシャゴホッドが沈黙するのは同時だった。

 

シャゴホッド上で両手にケーブル群を握り締めたヴォルギンは全身至る箇所を弾や破片で抉られ、切り裂かれ、もはや虫の息という状態だ。

 

 

だが片膝をついて荒い息を吐きながらも、その目から怒りが消えることはない。

 

 

ヴォルギンにとって、私とスネーク、EVAの3人は自らの野望を邪魔した憎むべき存在───そんな彼らを置いて倒れるなど、ヴォルギンには出来ないのだろう。

 

だからこそだろうか…ヴォルギンはそんな有り様になっても未だ諦めようとはしていない。

 

ふらつきながらも立ち上がると、全身に再び電流を流し始め、シャゴホッドを起動するべく電流を蓄積させていく。

 

 

と、そこで空模様が怪しくなり始めた。

 

 

確かに今日は朝から曇りがかった晴れ空ではあったが、このタイミングでより陰りが強まってきていた。

 

仕舞いには暗雲立ち込める空から地鳴りのような雷鳴が鳴り出した。

 

 

「…ふん…!雷など、何ともない!」

 

 

ヴォルギンは自らをそう鼓舞するように言うと、更に身体を纏う電流の圧を上げていく。

 

だが…それが命取りだ…ヴォルギン大佐…。私が、貴様の身体の弱点を知らないとでも?

 

貴様は常々、雨と雷が轟く度に日本の魔除けの言葉を呟いていたな…。

あれは雷を恐れているから…だがその理由は怖いとは違うもの…。

 

 

そう…貴様の弱点は雷そのものだ。

 

 

1千万ボルトの電圧で常に帯電している貴様の特異体質…だがそれは非常に危うい諸刃の剣だ…。

 

人間の身体は普通、高い電圧には耐えきれない。例えるならパレードチョックCSが妥当か…あいつは瞬間電圧4万ボルトのスタンガンだが、一歩間違えれば護身武器から殺人武器に早変わりするのだ。

 

そんな人間の身体に1千万ボルトの電圧を帯電するというのは特異体質というアドバンテージを考慮しても、相当な負荷の筈だ。

 

まずそもそも、何故彼は性欲を満たすにも怒りを発散させるにも電撃を用いているのか?

 

それも度々だ。

 

もし、これが身体に負荷が掛かる要因を解消する為ならば?

つまり、電圧を帯電するがままにしておくのは危険故の放電なのか?

 

その仮説を正しいとした場合、もしそれだけの電圧を帯電している身体に新たに大量の電圧が流れ込んだとしたら?

 

 

そうだ…私はそこから解を導きだしたのだ。

 

 

奴は帯電する電圧により身体に負荷が掛かるのだ。だからこそ様々な理由にこじつけて度々電圧を放電しているのである。

 

こじつける目的は勿論、その特異体質故の弱点を周りから隠すためだろう。

そして彼の元々のサディストとしての性格や性癖は、その弱点を隠しつつ、身体の負荷を解消するには都合よい隠れ蓑になっていたという訳だ。

 

 

 

…これまで誰も疑いを抱かないレベルの性格や性癖というのはなかなかに度しがたいが…。

 

 

 

 

 

さて…では終わらせるとしようか。

 

私はベルトのポーチから"ある物"を取り出すと、勢いよく振りかぶって奴の真上へと投げつけた。

 

それはライフル弾の薬莢だ。

 

それはヴォルギンの真上へと飛んでいき、丁度ヴォルギンが最大限まで身体に電圧を溜め込み、周囲には雨が降りだしたという条件も揃った。

 

 

そして雷が落ちた。

 

 

避雷針代わりに投げつけた薬莢は見事に弾頭先の尖った部分に雷を被雷。

更には降りだして付着した雨粒と真下で濡れながら電圧を溜め込んでいたヴォルギンとを一直線に結んだのだ。

 

 

 

 

「ガァアアアアア!!」

 

 

 

 

そして辺りに響き渡るヴォルギンの激痛による叫び。だが、それでは終わらなかった。

 

ヴォルギンの身体に落ちた落雷の電圧は、最大限まで溜め込まれた電圧を更に膨れ上がらせ、彼の特異体質を凌駕する。

 

するとまるで化学反応のようにヴォルギンの身体は、突如として内側から燃え始めたのだ。

 

更にはヴォルギンが身体の各所に巻き付けていたライフル弾を何十発も差し込んだベルトリンク───そのライフル弾の薬莢内火薬と雷管が瞬時に燃え出した高温の炎に炙られ、連鎖して自爆を引き起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬぅお…!あがっ…!グッ!あがぁぁ…ぐ…ぎ…ガァアアアアア!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

身体を内側から高温の炎と電圧に焼かれ、自爆する薬莢の火薬が表皮で弾け、その度に発射された弾頭が身体のあちこちを撃ち抜き、跳ね回る。

 

そして逃れられない苦痛に悲鳴と叫びを上げるヴォルギン。

 

ついには焼ける炎に耐えきれなくなったヴォルギンの握り締めるケーブル群が、まるでワイヤーを切断するような音を立てて引き千切れた。

 

 

 

 

支えを失ったヴォルギンの身体は真後ろへと倒れ、シャゴホッドの上で仰向けに横たわる。

 

もはやヴォルギンは悲鳴も叫びも上げてはいない。

 

しかし彼の身体を焼く炎や弾ける火薬や弾頭は落ち着くどころか、更に激しさを増したようであった。

 

 

 

「自分で自爆するとは…奴(サンダーボルト)にはうってつけの最期だ…」

 

 

 

スネークの言葉には同意だ。普段の冷静なヴォルギンなら、私が薬莢を投げつけた瞬間に目論見に気付き、すぐさま電流帯電を止めるなりその場から離れるなりしただろう。

 

だがヴォルギンは完全に我を忘れていた。

 

自らを邪魔した我々を始末するためだけに全神経を集中させ、復讐だけを思考していたが故に気づけなかった。

 

私はそこに一石を投じただけ…あれは完全な自爆───自滅であった。

 

だが、これでスネークはようやくシャゴホッドの破壊と、ヴォルギン大佐の排除という任務を達成した。

 

 

私も、遺産という目的と部下への報いという務めをついに果たした。

 

 

後は…残るはザ・ボス1人だ…。それが最後の───しかし最も難しい任務である。

 

だがそれはスネーク次第だ。彼が自ら選択し、果たさなければならない任務。

 

私は側で話し合っていたスネークとEVAが互いに納得したのかバイクに乗り込むのを見て、私もサイドカーへと飛び乗り、再びスネークと背中合わせの体勢を取るのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目指すはラゾレーヴォを抜けた先のザオジオリエ森林地帯の更に先…。

 

 

ザ・ボスがスネークを待っている雌雄を決する地───ロコヴォイ・ビエレッグ(運命の水辺)だ。




【対シャゴホッド戦】

本編の流れも取り入れつつ、オリジナル展開で戦闘。ゴースト・カンパニーの乗るハインド2機による火力支援は、ただ超低空飛行で駆け抜けながら対地攻撃するハインドを描写したかったから。
対空機関砲の下りは本編でもバカバカ使ってるし、ただあるだけの描写じゃ勿体無かったので使用。


【自爆】

本編では雨が降り雷が鳴る中電圧溜めてたヴォルギンが勝手に避雷針代わりに雷受けて自爆しただけ。
ただそれだけだとつまらないかなと思い、ターニャがヴォルギンの自爆という結末を迎えるに一役を演じました。
でも実際に目の前であんな光景見たら相当エグいでしょうね。


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29話

ザ・ボスの語りに涙しなかった人っている?

俺は涙した。そしてこれを考え出した小島監督を尊敬している。




※2018年4月28日
すっぽ抜けていた戦闘シーンを追加修正しました。

※著作権切れでない歌詞転載NGであったため、スネーク・イーターの歌詞とスネークとザ・ボスの会話を削除しました。


深く生い茂る森林地帯、ラゾレーヴォ。

 

その森林の奥に私は居た。…というよりは居る羽目になっている。

さらに正確性を期す答えをするなら、事故に遭った直後だ。

 

まったく、何故世の中というのは肝心な時に限って失敗や予想外のトラブルに見舞われるのか…。

 

万能神でもいれば是非今の私の素朴かつ切実な問いかけに答えて貰いたいものだ。

ただし存在X、貴様は出てくるな。代わりに豚小屋で豚の餌になれ。

 

 

「…はぁ…儘ならない世の中だな、まったく…」

 

 

事故で投げ出されていた場所で長々と世の理不尽を愚痴るのも良いが、気分転換以外に益が無いのでさっさと起きることにする。

 

皆さんこんにちは、雨降りしきるラゾレーヴォの森林地帯から失礼致します。ターニャ・デグレチャフであります。

 

さて話は今から少しばかり前に戻るが、私はスネーク、EVAと共にヴォルギンを打ち倒し、グロズィニグラードからの脱出に成功した

 

 

が…

 

 

まだまだ追跡に駆り出されていた連中はその多くが残っていたのだ。故にラゾレーヴォへ入ってからもあちこちに警戒網を敷いていたGRU兵らと撃ち合いを交わしながら、道を走り抜けていた。

 

そしてようやく連中の追跡を振り切ったと思ったら、まさかのバイクの燃料漏れ───からの前方不注意による事故に巻き込まれたのである。

 

EVAの「燃料が漏れている」という言葉に揃って被弾箇所を覗き込んでしまい、スネークの声に視線を前方に戻せば急カーブと倒木のダブルコンボが待ち構えていたという訳である。

 

EVAが慌てて車体を真横に向けて急ブレーキを掛けるも間に合わず、バイクは倒木に衝突───よって3人とも揃ってバイクから投げ出された。

 

そこで私はスネークらとは別方向に飛ばされてしまい、地面の上に投げ出されたのがつい先ほどの出来事である。

 

 

「スネークは…無事のようだな…」

 

 

バイクの事故現場にスネークもEVAも居ないということは、既に湖を目指して進み出したのだろう。

 

ならば私もさっさとこのザオジオリエを踏破して脱出しなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

計画通りならば、あと数時間もしないうちにこの辺りは汚染されるだろうからな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ロコヴォイ・ビエレッグ(運命の水辺)】

 

 

 

 

最初に抱いたのは美しい情景に対する感慨だったか…もしくは師であり愛する人と命を奪い合わなければならない運命に対する疑問か…

 

 

それとも…

 

 

そんなスネークの前で起こったのは、突然の核爆発であった。周囲には猛烈な爆風が吹き荒れ、オオアマナの花が幾つも空へと散った。

 

爆発が起こったのはグロズィニグラードの方向───そしてあれほどの威力では、グロズィニグラード周辺はおろか、自分が先ほど抜けてきたザオジオリエ付近も巻き込まれているだろう…。

 

スネークらを追跡してきて、そこにいたGRUの兵士達も…。

 

 

 

「綺麗でしょう?命の終わりは…切ないほどに…」

 

 

 

スネークに向けてそう言葉が投げ掛けられ、そちらを見ればザ・ボスが居た。片手にあの核爆発を引き起こしたデイビー・クロケットを持ちながら…。

 

 

「命は最後に残り香を放つ。光とは、死に行くものへの闇からの餞別」

 

 

そしてザ・ボスはその言葉と共にスネークを見据えると、デイビー・クロケットを投げ捨てた。

 

 

広大な湖のそばの畔、真っ白なオオアマナが咲き乱れるその花園が、ザ・ボスとスネーク───2人の運命を決める舞台。

 

 

どちらかが死に、どちらかが生き残る。

 

 

「待っていたわ、スネーク…貴方の誕生、成長、そして今日の決着を…」

 

「ボス…どうしてなんだ!?」

 

 

そう問うスネークに向けられるザ・ボスの瞳は、グロズィニグラードで見せていたような、鋭い眼をしてはいなかった。むしろ、愛しい我が子を見守る母親のような澄んだ優しい眼をしていた。

 

 

だがそれも一瞬のこと…

 

 

「どうして?世界をひとつにするためよ。かつて世界はひとつだった…だが、大戦の終結と共に『賢者達』の反目が始まり、世界は分散した。コブラ部隊もバラバラになった…共に訓練し、共に闘った仲間だ…だがそれも、政府の体制・時代の流れで敵味方がまるで風向きのように変わる。こんな馬鹿な話はない」

 

 

再び彼女は眼に鋭さを宿し、スネークに次々と語りかけていく…。

 

 

「昨日の味方は今日の敵…冷戦?思い出せ、私がコブラ部隊を率いていた頃、米ソは同盟国だった。そして想像してみろ?21世紀に米ソが変わらず敵対してるかどうかを?おそらく違う…時代によって、時流によって敵は変移する。その中で我々軍人は弄ばれるのだ。お前を育て、鍛え上げたのも、私とお前が闘い合うためにしたことではない。我々の技術は、仲間を傷付けるためにあるのではない…では、敵とはなんだ?時間には関与しない『絶対的な敵』とは?」

 

 

ザ・ボスの言葉は、スネークの胸に次々と突き刺さる。そして、誰が否定出来ようか…。時代という怪物に翻弄されてきた彼女の言葉を…。

 

 

「そんな敵など地球上には存在しない。何故なら敵はいつも同じ人間だからだ。『相対的な敵』でしかない…だからこそ、世界はひとつになるべきだ。大佐の資金をもとにそれを実現する!『賢者達』を再び統合し、私の技術をそこに投入する!」

 

 

 

 

1951年、ネヴァダ砂漠での原爆実験。そしてビキニ環礁───それがザ・ボスとスネークの出逢うきっかけとなった。すなわち───ザ・ボスとスネークは、互いにそれぞれの核実験により、放射能被爆したのだ。

 

身体を蝕まれ、もはや2人は子供を作ることすら出来ない。だが、ザ・ボスは「未来を夢見ることは出来る」と語る。

 

だが、彼女のことを…彼女が生きてきた裏の歴史を真に知る人間はこう言うだろう。

 

 

『未来を夢に見て、身も命も捧げた彼女を祖国は裏切り続けた』と…。

 

 

1961年、キューバ・コスチノス湾───亡命キューバ人による祖国奪回の体を成した、CIAによるキューバ侵攻作戦だ。

だが時の大統領J・F・ケネディはこの作戦での航空支援作戦中断を決定───敵地に残されたままのザ・ボス率いる部隊は孤立無援のままキューバ軍に壊滅させられた。

 

 

だがスネークはおろかアメリカ政府の中枢人物以外はあらゆる政府職員も、アメリカ国民や国際世論ですらその決定が招いた真相を知らない。

 

そう…皮肉なことに、それがアメリカの『賢者達』の逆鱗に触れたのだ。キューバ侵攻による共産圏の資本主義化を望んでいた『賢者達』にとって、最早ケネディは不必要な存在となってしまったのである。

 

当然ながら『賢者達』は自分らが望むストーリー(展開)を演じられる新たな大統領を求めた。だがそのためには邪魔な存在がいる───だからこそ、あのダラスでの悲劇は起こったのだった。

 

 

だがケネディの死すら、物語の歯車を止めることは出来ない。それ以前に、コスチノス湾での作戦失敗は、ザ・ボスを表舞台から追い落とし地下へ潜らせた。

それから2年間、ザ・ボスは汚れ仕事を押し付けられる役目を引き受け続けていた。そんな中、ザ・ボスはかつての戦友、ザ・ソローと対峙した。

 

ザ・ボスは与えられた任務に従い、彼を殺し、彼はザ・ボスのために己の命を断つ決断をした。

 

それらは全てが『賢者達』の指示であった。

 

ザ・ボスの口から漏らされたのは、かつては20世紀初頭に米露中の真の権力者達が集まり開いた秘密協定会議が『賢者達』の始まりだという。しかし1930年代、賢者の最後の1人が亡くなると、組織だけが暴走を始めたのだと彼女は言う。

 

あらゆる戦争のあらゆる局面で、様々な国・組織につく───そう、あの第二次世界大戦すら、賢者達の手引きであった。

全ては『賢者達』にとって理想とする世界を築くためだけに…。

 

更にザ・ボスから驚愕の事実が告げられる。

 

それらを何故ザ・ボスが知り得たのか?それは、彼女が『賢者達』の娘だったからだ。そう、彼女の父親は賢者の一員だったというのだ。しかし、その父親は真実を彼女に教えたがために、組織に命を奪われた。

 

更には、ザ・ボスは子供すら奪われたという。父親はザ・ソロー───彼との間に産まれた元気な男子、その赤子を彼女は1944年6月のノルマンディー上陸作戦で出産した。しかし、賢者はその赤子を奪い去った。

 

もはやザ・ボスは自らには何も残ってはいないと一人ごちる…だが、身体に残る出産の傷痕だけが、夜になると蛇のようにじわじわと身体を苛むと…。

 

長い彼女の身の上話は、人間という個が体験するには、あまりに壮絶な生き方であった。

 

彼女…ザ・ボスは身の上話を全て、黙って聞き続けたスネークに礼を述べた。そしておもむろに腰から無線機を取り出すと、何かを告げて、再びスネークへと向き直る。

 

 

「スネーク…私はお前を愛し、武器を与え、技術を教え、知恵を授けた。もう私から与える物は何もない…あとは私の命を、お前が奪え…自分の手で…どちらかが死に、どちらかが生きる。勝ち負けではない」

 

 

ザ・ボスはまるで我が子に言い聞かせるように、その口からとうとうと言葉を紡ぎ出していく。

 

 

「生き残った者が後を継ぐ…私達はそういう宿命…生き残った者が、"ボス"の称号を受け継ぐ…そして"ボス"の称号を受け継いだ者は、終わりなき闘いに漕ぎ出してゆくのだ。10分間時間をやろう。10分後に、ミグがこの場所を爆撃する…10分のうちに私を倒せば、お前達は逃げ切れる…」

 

 

ザ・ボスは腰から取り出した愛用の銃、パトリオットを構えると、スネークに告げた。

 

 

 

 

「ジャック!人生最高の10分間にしよう!」

 

「ボス!」

 

「お前は戦士だ。任務を遂行しろ!お互いの忠(loyalty)を尽くせ!さあ、来い!」

 

 

 

ザ・ボスはそうスネークへと叫び掛けると己の愛銃、パトリオットを構えスネークへと向かっていく。

対してスネークも拳銃とナイフを手に、ザ・ボスを迎え撃つ。

 

 

「試してあげるわ!」

 

 

初めに一撃を入れたのはスネークだ。掴みかかってきたザ・ボスの拳を顔を反らしてかわすと、ナイフを首筋に突き込んだ。

 

だがザ・ボスは空いているもう片方の拳でナイフを持つスネークの手を受け止めると、がら空きになった胴体に鋭い蹴りを放つ。

 

スネークはザ・ボスが放つ蹴りを受けまいと、まだ自由が利く身体をずらして蹴りをかわし、同時にもう片方の手でザ・ボスの足を外側から抱え込んだ。

 

そこからザ・ボスの腹部に向けて、足を抱え込んだほうの手に握る拳銃を向けて発砲する。

 

しかし読まれていたのか、ザ・ボスはスネークにがっちりと掴まれた足を軸に身体を浮かせ、もう片方の足をスネークの側頭部に叩き付けた。

 

スネークの拳銃弾は外れ、代わりにザ・ボスから側頭部に叩き付けられた蹴りで、スネークは倒れ込む。

 

ザ・ボスはその体勢から地面に落ちるも、すぐさま立ち上がると、体勢を立て直そうとしていたスネーク目掛けて駆け寄ってくる。

 

そこからスネークの顔目掛けて繰り出された2発の突き。

 

だがスネークも負けてはいない。即座に顔の真横に八の字になるよう腕を構え、ザ・ボスから繰り出された突きを弾く。

 

そして今度はザ・ボスの正面ががら空きになった。突きだした拳を引き戻して備えようにも僅かだが、スネークのほうが早い。

 

そこへスネークは素早く突きをザ・ボスの顔に打ち込む。そして怯んだザ・ボスの手首を掴むと、その手首を内側に固めつつ彼女の身体より外側へと捻り込んだ。

 

するとザ・ボスは捻り込まれた手首の痛みに無理に抵抗しようとはせず、自ら地面に倒れ込んだ。

 

そして倒れ込んだ体勢から蹴りを打ち上げるように伸ばし、スネークの顎を捉えた。スネークは咄嗟に顔を反らすが、かわしきれずに爪先に顎を打たれてしまい、よろめく。

 

そして今度は立ち上がってきたザ・ボスの攻撃を受ける側に回る。次々と繰り出される拳を防御しつつ反撃の機会を狙うが、なかなか機会は訪れない。

 

このままでは分が悪いと、スネークは後ろ側へ飛び退き、ザ・ボスから距離を取ろうとした。

 

だがそれを黙って見逃すザ・ボスではない。スネークが距離を取ろうと後ろへ飛び退くのを見ると、すぐさまパトリオットを構え、発砲し始めた。

 

後ろへ飛び退いたスネークはすぐにその場に伏せると、拳銃を連射してザ・ボスの攻撃に応戦する。

 

互いに相手へと発砲をしつつ、相手の弾を被弾しないようにと花畑に幾つも点在する木々の裏側へと身を隠した。

 

格闘戦から今度は銃撃戦である。しかも幾つも点在するそれなりの太さを持つ木々や古い倒木、そして吹き抜ける風とスネークとザ・ボスの戦いで巻き上がったオオアマナの無数の花弁が視界を遮っている。

 

この時点で、スネークは既にザ・ボスの姿を見失っていた。ザ・ボスが着ているのは、シギントいわくソ連が開発したという新型の潜入用スーツだという。

 

カムフラージュ性能よりも着用者の体力・状態維持等のバイタル保護を優先させたスーツらしく、通常であれば目立つ姿である。

 

しかし今スネークがいるのはオオアマナが無数に咲いている花畑だ。真っ白という表現が相応しいここでは、ザ・ボスの白いスーツはそのままカムフラージュとなる。

 

更にはスネークが通常の野戦服なのに対し、ザ・ボスはバイタル保護・調整を主眼に開発された潜入スーツだ。防弾・防刃に優れた素材が使われ、負傷した場合でも全体的に身体を締め付けるようにフィットしたスーツが負傷箇所を圧迫し応急的に止血される。

 

あらゆる面で見ればスネークにはこの戦いは不利である。

 

 

しかしスネークにも唯一利点がある。

 

 

それはザ・ボスと共に彼が作り出した近接格闘技術───CQCである。

 

 

この格闘術はザ・ボスが最も得意としている技の1つだ。だが彼女が得意としているということは、すなわち彼女の唯一の弟子であったスネークに、その真髄を叩き込んだのもまた彼女なのである。

 

銃撃戦では決着は着かないだろう。ならば両者は、互いに己が最も信ずる技術で戦いの勝敗を決めようとするのだ。

 

そしてザ・ボスとスネーク───この2人が、師と弟子として編み出した───だがそれ以上に両者の絆でもあるCQCを選ぶのは、必然と言えるだろう。

 

 

 

 

時間にして僅か1分にも満たない、しかし長い時間にも感じられる銃撃戦を生き延びた両者は、最初同様拳を武器に接近し始めた。

 




明日、続きを投稿予定。



─英単語について─

今回、今まで全角文字で打っていた英単語を半角でやってましたが、もしよろしければ読みやすいかどうかの評価もお願い致します。

半角カナ文字は以前に見辛いとご指摘を受けたので全角文字打ちを維持しますが、英単語については読みやすいかどうかで今後は半角文字打ちにするかどうかも決めたいので、よろしくお願いいたします。


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30話

本話にてMGS3、終了となります。明日、最後の小話的なのを投稿後、オプスに入ります。


白いオオアマナが咲く花畑。

 

そこでは、互いに忠を尽くした戦いに終止符が打たれていた。

 

地に倒れたザ・ボス…そして彼女を見ているスネーク───それが戦いの結末を示していた。

 

 

 

 

 

「…これが我らを救う…」

 

 

ザ・ボスがそう言いスネークに手渡したのは、あの賢者の遺産───それらのデータが収められたマイクロフィルムであった。

 

スネークがマイクロフィルムを受けとると、ザ・ボスは自らの愛銃パトリオットをスネークに差し出す。

 

 

「パトリオット(愛国者)…ボス、何故これを?」

 

「ジャック…いえ、貴方はスネーク…素晴らしい人…。殺して…私を…さぁ…!」

 

 

パトリオット(愛国者)───その名を冠した銃を持つスネークに対してザ・ボスが口にしたのは、自らの命を奪って欲しいという願いであった。

 

それは同時に、スネークに与えられた任務でもある。ザ・ボスを抹殺すること───それがこのスネーク・イーター作戦の目的なのだから…。

 

ならば果たさねばならない。彼女、ザ・ボスを愛する人間として以前に、スネークは祖国アメリカの兵士として国に忠を誓った存在だからだ。

 

これは、その祖国が命じた任務なのだ。

 

そう自身に言い聞かせるように、スネークは手の震えを押さえると、パトリオットの銃口をしっかりとザ・ボスの胸へと向けた。

それを見たザ・ボスはゆっくりと眼を閉じると、最期に呟いた。

 

 

 

「ボスは2人もいらない…蛇はひとりで良い…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オオアマナ咲き乱れるロコヴォイ・ピエレッグ(運命の水辺)に、一発の銃声が高々と響き渡った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side スネーク】

 

 

 

ザ・ボスの命をこの手で奪った。その事実を重たく噛み締める。

 

自分は、銃口から小さく硝煙を立ち上らせるパトリオットを手に、ザ・ボスの亡骸を前にただ立ち尽くしていた。

夢か幻か…咲き乱れるオオアマナは、普段の白い姿ではなく、真っ赤な真紅色に染まっている。

 

まるでザ・ボスの死を、この場の全てが悼んでいるかのようだ。

 

そこへ、鳴き声と蹄の音を響かせながら近付いてくる生物が現れた。スネークとザ・ボスの前に近付いてくるのは、ザ・ボスの白馬であった。

 

白馬はザ・ボスの亡骸を前に鼻先で彼女の身体を揺する。しかし、彼女が眼を覚ますことは無い。

 

それを理解したのだろうか…白馬は悲しげないななきを響かせた。

 

 

 

 

 

「…?…あれは…!」

 

 

 

 

 

そこでスネークは、オオアマナ咲き乱れるロコヴォイ・ピエレッグの向こう側、木々の合間からこちらを覗く幾つもの人影を見て、その正体に驚いた。

 

 

全員が一様に黒い野戦服を着込み、顔を目出し帽で隠すというスタイルに、二の腕付近に付けられた、髑髏と翼を象徴としたシールド型のワッペン。

 

 

米国非合法工作部隊"ゴースト・カンパニー"の兵士らが整列し、スネークの方へと敬礼の姿勢を崩さずにいた。

 

そして彼らの中央部分、真横に整列した部隊員らより一歩前に出ている、彼らと同じく黒野戦服にゴースト・カンパニーのワッペンをした酷く小柄な人物。

 

だが顔は隠しておらず、金髪・碧眼の整った幼くも美しさと気高さを見せる素顔を露にしている。

 

 

「ザ・ピース…」

 

 

スネークの呟きと同時に、ザ・ピースは部隊員らに指示を出し休めの姿勢を取らせると、ゆっくりと此方側へ歩いてくる。

亡命者でありスネークの敵であった筈のゴースト・カンパニーと、コブラ部隊兵士ザ・ピース───だがザ・ピースが此方に味方し出してからは唐突に協力姿勢を見せてきた彼ら。

 

そしてワッペンこそ付けていないものの、彼らとまったく同じ黒野戦服を常着していた、今は姿の無いEVAの護衛と名乗ったヴィクトーリヤ。

 

そんなパズルのピースが繋がると同時に疑問も新たに増えていくスネークの前に、ゆっくりと歩を進めていたザ・ピースが辿り着いた。

 

互いに視線を交わし、一呼吸置いてからザ・ピースは話し出すのだった。

 

 

「あと3分後にミグの爆撃が始まる。時間が無いので手短に要件を伝える…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─ロコヴォイ・ピエレッグ(運命の水辺)、湖上─

 

 

 

湖に浮かぶWIGではEVAが発進準備を進めており、その隣ではいつの間に来たのか、ヴィクトーリヤ───ヴィーシャがEVAの補助をしていた。WIGへと戻ってきたスネークは、初めはヴィクトーリヤに驚くも、今はコクピット後ろのスペースで、あの花畑から持ってきた、真っ赤に染まった1枚のオオアマナの花弁を眺めている。

 

 

「行くわよ、スネーク?」

 

「主翼問題無し、モーター回転数正常!後部ジェットエンジン点火!」

 

WIGの真横でヴィーシャがWIGの機器チェックを行い、全て問題無しと分かると、エンジンを点火した。

 

WIGは徐々に速度を上げながら離水体勢に入っていく。

 

 

「大丈夫?スネーク!」

 

 

何度呼び掛けても上の空であったスネークに、EVAが強めに呼び掛けると、スネークはようやく返事を返した。

 

その際にスネークの手からオオアマナの花弁が離水時の風で巻かれると、スネークが佇んでいたWIGの開いたままのドアから外へと飛んでいく。

すると、それまで真っ赤に染まっていたオオアマナの花弁は、まるで幻だったかのように元の白い花弁へと戻ると、遥か後ろへと消えていった。

 

 

 

 

スネークはそれを見ると踏ん切りがついたのか、WIGのドアを閉める。全ては終わったのだ。ヴォルギン大佐の排除も、シャゴホッドの破壊も、そしてザ・ボスの抹殺も…。

 

腰から装備を取り外すと、床に落とした。そして一息つこうと自身も床に腰を下ろそうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、いきなり響いた金属が弾ける音と共にWIGの機体が大きく揺れた。急激に重くなった機体の操縦幹をEVAは必死に押さえ機体姿勢を立て直そうとするが、フロートの片側が水面についてしまう。

 

スネークが何事かと外を見れば、そこには浮遊する小型プラットフォームを操りながらWIGと並走するオセロットの姿があった。手にはSAA───オセロットはそれでWIGの片側エンジンを撃ち抜いたのである。

 

 

「スネェーク!まだだっ!」

 

 

オセロットはそう叫ぶと、飛行する小型プラットフォームを器用に操り、WIGの扉へと勢いよく叩き付けてきた。その衝撃で扉が壊れると、オセロットはプラットフォームを乗り捨ててWIGの機内へと飛び乗ってくる。

 

しかも衝突の衝撃でスネークは倒れてしまい、手にしようとしていた装備ベルトは、飛び乗ってきたオセロットに奪われてしまう。

 

オセロットはその装備ベルトを、破壊したWIGのドアから湖へと投棄した。これでスネークは丸腰となった。しかし、それで諦めるスネークではない。

 

一気にオセロットへと殴り掛かると、乱闘へともつれ込んだ。狭い機内で互いに殴打、頭突き、膝蹴りと次々と素手で打ち合い、壁へと打ち付けあう。

 

 

 

「くっ…重いっ!」

 

「エンジン出力低下、機体高度下降!さらに機体傾斜20度!このままでは湖に墜落します!」

 

 

対してコクピット側ではEVAとヴィーシャが何とか機体制御をしようと格闘している。

 

その辺りで、スネークとオセロットは互いに殴打し合う形から離れ、ゆっくりと向き合う。

 

スネークは再び殴り合うために拳を握りしめようとしたが、ふと、ザ・ボスの声が───ヴァーチャス・ミッションで無線通信の際にボスに言われた言葉が脳裏に響いた。

 

 

 

 

 

 

<スネーク、まずCQCの基本を思い出して…>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スネークは握りしめようとした拳をほどくと、重心を低く保ちながら下顎付近で両手を半分ほど開いた状態で構えた。そしてオセロットの攻撃を待ち構える。

 

 

それがCQCの基本───防御からの絡め、そして反撃である。

 

 

スネークは殴り掛かってきたオセロットの拳の手首を左手で掴んでかわすと、間を置かず肘に右手を添えながら一気にオセロットの腕を彼の背中へと捻り上げた。

 

オセロットはすぐさまスネークが背中へと捻り上げた自分の手を固める前にその体勢から脱すると、逆にスネークの右腕を同じように捻り上げようとした。

 

しかし不安定な体勢かつ、しっかりと関節や弱点を押さえずに捻り上げようとしたために、スネークは簡単に身体を動かせる。そこからスネークが繰り出した左腕の肘打ちを側頭部に食らい、よろけてしまう。

 

すぐさま体勢を立て直しスネークに左手で殴りかかるも、再び腕を掴まれて振り回される。

体勢を崩されては不味いとオセロットもスネークの腕を掴み返すと、逆にスネークを振り回して彼の体勢を崩そうとした。

 

だが今度はしっかりと力を込めてスネークの左腕と肩部分を握っていたのが仇になる。スネークはがっちりと足を床に下ろし全体重を乗せてオセロットの振り回しを止めると、掴まれていた左腕を肘を下に向けて折り曲げた。

 

 

 

 

 

 

 

当然力を込めて握っていたオセロットは、いきなり腕を曲げて下に下ろしたスネークの動きに対し、握る手を離されないようにと更に力を込めた。だがやはりいきなりのことに半端な力しか掛からず、離されないようにとスネークの腕を何とか握ったままではあるが、自身の体勢が崩れてしまう。

 

そこからスネークは側転でオセロットの手から掴まれていた腕を振りほどきながらオセロットと距離を取った。

 

そして再び構えてから、頭部狙いのハイキックと正面突きを繰り出す。

 

オセロットはその2連撃を防ぎつつスネークの正面突きを左手で掴み逃げられないようにすると、すぐさまスネークの顔面へと素早く拳を入れた。しかししっかりと力を込めず、一撃を入れることを念頭にただ素早く繰り出しただけの突きは全くダメージにはならなかった。

慌てて掴んでいたスネークの右手を捻り、今度はしっかりと関節を決めてスネークを床へと叩きつけた。だが今度は追撃を焦り、馬鹿正直に突きを繰り出してしまう。

 

最初と同じように手首と肘を掴まれると、先ほどとは比べ物にならない力強い勢いで床に叩き付けられてしまった。

 

受け身もろくに取れずにWIGの床へと思い切り叩き付けられたオセロットは痛む背中に顔をしかめるも、同時にスネークの動きから新たな格闘方法を覚えられたことに笑みを浮かべながら言う。

 

 

「はっ!その動きは頂いた!」

 

 

そして言い終わるやいなや、腰からSAAを抜き放つ。格闘ではスネークの勝ちだ。しかしこれは戦争───命を賭した戦いなのだ。

汚いもズルいも無い。生き残ることが勝利の証なのである。

 

 

「丸腰の奴を撃つのは気が進まないが…仕方ない!」

 

「EVA!」

 

 

オセロットの言葉とスネークの叫びは同時。そして操縦幹を握るEVAは懐からSAAを───牢獄でスネークがザ・ボスから渡され、ザオジオリエでスネークが武器を失ったEVAに渡した銃───を引き抜くと、スネークへと投げた。

 

そして銃を構えるオセロットと投げられた銃を受けとるスネーク。

互いに同時に銃口を額へ向け合うと、すぐさま両者はサミングによるハンマーコックと射撃を互いに6回ずつ1秒ほどの間に繰り返した。

 

 

弾は出なかった。

 

 

両者共に弾切れだったのだ。しばし、両者は互いの額を捉えたままその場を回る。ここからどう戦いを自分有利に運び勝利を得るか…だが、その空気をオセロットが変えた。

 

胸元に下げたチェーンから下げられた45LC弾───ヴァーチャス・ミッションにてスネークに敗北した時にマカロフをジャムで射撃不能にした、あの曰く付きのマカロフ弾───その弾頭を鋳溶かして混ぜた弾であった。

 

 

「お前と最後の勝負がしたい」

 

 

オセロットはそれをスネークに対して掲げるとそう言った。

 

 

「…いいだろう」

 

 

スネークもその提案に乗る。ある意味2人の因縁の始まりとなった弾丸を用いて、因縁に決着を着けるには、これ以上相応しい弾も無いだろう。

 

スネークが自身のSAAをオセロットの額から外して下ろすと、オセロットは自身のSAAにその弾を込め、シリンダーを腕を滑らせながらランダムに回転させてハンマーコックした。

 

対してスネークもガンアクションをひとしきりしてから、自らのSAAをオセロットに差し出した。

 

 

「………(ごくっ…!)」

 

 

そしてヴィーシャは機器チェックやEVAのサポートを忘れて、2人の戦士の決闘に息を飲んでいる。

 

SAAを受けとったオセロットは、2丁のSAAを使いシャッフルを始める。最初は交互に回してから、左右の位置を入れ替え、2つを同時に放り上げ、最後は背後から2丁を自分からも見えないように投げて、シャッフルを終えた。

 

そして床に2丁とも下ろすと、スネークに対して質問をしてくる。

 

 

「お前、名前は?」

 

「スネークだ」

 

「違う、そうじゃない」

 

 

オセロットはスネークの答えに首を振る。彼が知りたいのはコードネームではないのだ。

 

 

「お互い、蛇(スネーク)と山猫(オセロット)では示しがつかない…俺の名前は、アダムスカ。お前は?」

 

「ジョンだ」

 

「…分かった、ジョン。ありふれた名前だが、忘れない………さぁ、来い!」

 

 

オセロット───アダムスカの宣戦布告を受けたスネーク───ジョンは、床に置かれた2丁のSAAをゆっくりと見る。

 

左か右か…シリンダーに込められた弾丸はどちらか1丁の1発だけ。もう1丁のシリンダーは空だ。

 

当たれば生き残り、外せば死ぬ…たったそれだけのシンプルな…しかし重い選択が突き付けられた。

 

 

(左<Left>か<or>右<Right>か)

 

 

アダムスカが選んだのは右、ジョンが選んだのは左だった。両者は同時にSAAを掴み上げると、背中に合わせになる。

そこからゆっくりと3歩を歩いていき、3歩目を踏むと同時に手に持つSAAを構えながら振り返った。

 

 

 

 

 

1発目…不発

 

 

 

 

 

2発目…不発

 

 

 

 

 

3発目…不発

 

 

 

 

 

4発目…不発

 

 

 

 

 

5発目…不発

 

 

 

 

 

6発目…発射!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弾が入ったSAAを選んだのは、ジョンであった。彼のSAAから発射された弾はアダムスカの胸に命中し、アダムスカは苦痛の声を上げてしゃがみ込んだ。

 

しかし直後、ジョンは驚きの表情を浮かべた。アダムスカは胸を撃たれたにも関わらず笑いを上げながら立ち上がると、傷ひとつ無い胸を叩きながら嬉しそうな笑顔と笑いを見せつつ子供のように嬉々として種明かしをした。

 

 

「ふふっ!ははははっ!空砲だ!」

 

 

してやられたという表情を浮かべるジョンは、同時にアダムスカが最早生死を掛けた戦いを望んで来たのではないと気付いた。

 

ただ彼は、1人の戦士として別れの挨拶のために追ってきたのだと…。

 

ただ生来の性格故に、ただの挨拶では物足りないと感じたアダムスカは、わざわざ"最後の勝負"といってあんな運試しの戦いを持ち掛けたのだ。

 

今や、ジョンとアダムスカはアメリカとソ連───CIAのエージェントとGRUのスペツナズという敵対する関係では無かった。

 

ジョンはスネークとして見事任務を達成し、アダムスカはオセロットとしてそのジョンの兵士としての資質・実力に惚れ込んでいたのだ。

 

 

「楽しかった!」

 

 

そう心から楽しそうに笑って近づいてくるアダムスカに、ジョンは自分が持っていたSAAを差し出した。元々は彼の持ち物だからだ。落とし物は持ち主へ───である。

 

 

「また会おう、ジョン」

 

「ああ」

 

 

SAAを受け取ったオセロットは、自分が破壊したドアから飛び降りると、湖へと消えていった。

 

だが再び問題が発生していた。

 

 

「スネーク!」

 

 

EVAの悲鳴にジョン───スネークが振り返れば、WIGの飛行進路の先には崖があったのだ。

 

オセロットの攻撃で片側のジェットエンジンを損傷していたWIGは、未だ水面ギリギリの位置を飛行していたのである。

 

 

「くっ!」

 

 

EVAとヴィーシャが必死に機体を上昇させようと手前に引こうとしている操縦幹にスネークも手を伸ばすと、あらんかぎりの力を込めて引く。

 

人間3人の力で引いたことで、ようやくWIGの重くなった操縦幹は動き、機体が緩やかに上昇を始めていく。

 

だが既に崖が目の前に迫ってきている。WIGが崖を越えられる高度まで上昇するか、WIGが崖に衝突するかは半々だ。

 

 

 

 

 

300m。

 

 

 

 

「引けぇ!」

 

「これで手一杯ですよ!」

 

「不味いわ!」

 

 

 

 

 

 

200m。

 

 

 

 

 

 

「何か余計な重量物を減らせないか!?」

 

「そんな暇はないわ!」

 

「いっそ誰か飛び降りればいいのでは!?」

 

 

 

 

 

 

100m。

 

 

 

 

 

「ウォォォォ!!」

 

「くうぅぅぅ!!」

 

「んぐぅぅぅ!!」

 

 

 

 

 

 

 

僅差であった。

 

 

僅かな僅差で、WIGは崖への衝突を免れることが出来た。

 

あとは邪魔になる障害物もなく、いちど一定高度まで上昇出来ればWIGの重かった操縦幹も少しばかり軽くなる。

 

 

 

「やった!やったわ!」

 

「よくやった、EVA」

 

「疲れたぁ…」

 

 

 

機内にはトラブルを乗り切ったことで安堵の空気が満ちていた…が、それはすぐに機器から響き渡る警報音に掻き消される。

 

 

 

「不味い、ミグよ!」

 

 

 

なぜここにミグ戦闘機がいるのか?グロズィニグラードの基地はザ・ボスが放ったデイビー・クロケットで壊滅した筈…。

 

答えは簡単である。あれはGRUではなく、フルシチョフの軍の戦闘機だからだ。フルシチョフ政権にとってはスネークの任務以前に、ブレジネフやコスイギンといったタカ派を推してクーデターを企むヴォルギンの存在は危険分子であり、目障りであった。

 

故にフルシチョフはスネークが遂行する任務とは別に保険も兼ねてグロズィニグラードとシャゴホッドを攻撃しようと軍を動かしていたのだ。

しかし軍が攻撃に移る前に、グロズィニグラードはザ・ボスが放ったデイビー・クロケットで破壊された。

 

核汚染によって要塞そのものへの進出が出来なくなったフルシチョフ揮下のソ連軍はヴォルギン派の残党狩りに目的を変更───核汚染されていない地域一帯に展開してグロズィニグラードの残存兵力を潰していたのだ。

 

そこへGRUの───しかもグロズィニグラード要塞所属の部隊マークを貼り付けている航空機が飛行しているのだ。彼らはまさか、フルシチョフとアメリカの裏取引で送り込まれたエージェントが乗る航空機だなどと露ほども知らない。

 

ミグはWIGを強制着陸させるべくスネークらの正面を塞ぐように飛行しつつ、翼を左右に振って追随を要求してくる。

 

EVAがスネークを見れば、スネークはやるせなさを噛み締めながらも、従うことは出来ないと拒否を示した。

あくまでもアメリカが極秘に誰かの暗殺任務を遂行したという、目的不明だが関与を示す証拠を残すのが命令だ。

 

だがここで捕まれば、裏取引はご破算となる。フルシチョフ揮下とはいえ彼らは只の何も知らない軍人だ。グロズィニグラード攻撃の任務さえシャゴホッドという核搭載戦車の破壊が目的だとは知らされていないのだ。

 

故に彼らはスネークの任務が何なのかを全て明らかにしようとするだろう。当然国際世論にもそれらの事情が漏れる。まず間違いなく、核搭載戦車等という最悪の兵器は世論の怒りをソ連に向けさせる。

 

更にはアメリカが自国の亡命軍人を暗殺するというソ連との裏取引の交渉材料としてフルシチョフ政権にとって邪魔なソ連軍人抹殺と、核搭載戦車破壊による事件の隠蔽に加担したという事実は、アメリカの国際的な地位を地に落としかねない汚点になる。

 

それを理解しているからこそ、スネークは投降を拒否した。

 

当然投降拒否を受けたソ連戦闘機は、敵性航空機を撃墜するべくWIGの背後へと回り、照準に彼らを捉える。機器からはミサイルのロックを受けたことを示すアラートが響くがスネークらにはどうしようもない。

 

 

「撃ち墜とされる……これまでね…」

 

 

EVAは操縦幹に掛けている手から力を抜いた。もう操縦する意味は無い。ミサイルが当たれば、WIGは簡単に破壊される。

 

例えミサイルで死なずとも、墜落すれば同じことだ。これ以上は無意味───EVAはそう力なく項垂れた。だが、彼女の手をスネークが握った。

 

 

「よくやったな、EVA。ありがとう」

 

 

例え死ぬことになっても、後悔はないと、スネークは訴えた。それを見て、EVAもスネークの手を握り返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

─ソ連軍、ミグ戦闘機コックピット─

 

 

 

 

「ロック完了、ミサイル発射…」

 

<<ヴォルク19、こちらコントロール、攻撃を中止せよ。首相からの直命だ!>>

 

「は?」

 

<<ヴォルク19、攻撃を中止。直ちに帰投せよ!聞こえたか?フルシチョフ閣下からの命令だ>>

「………」

 

<<ヴォルク19、帰投せよ。聞こえたか?復唱しろ>>

 

「ちっ…了解。ミッション・アボート(作戦中止)、RTB(帰投する)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見て!ミグが帰っていく!イヤッホゥ!!」

 

 

突然ミサイルロックを解除したミグがWIGの追跡を中止して帰投していくのを見て、EVAは歓喜のあまり叫んでいる。

 

そしてスネークとEVAは互いに見つめあい、喜びを分かち合おうと唇を重ねようとした(なおヴィーシャはどこから取り出したのか、明後日の方向を見ながら板チョコレートをポリポリかじっている)。

 

だが今度はスネークの無線機が音を立てて、機内の空気を破壊した。スネークは仕方ないと無線機のスイッチを入れ、無線相手に答える。

 

 

「こちらスネーク」

 

<<よくやった、スネーク!>>

 

「少佐、ミグが引き返していったが…」

 

<<フルシチョフの指令だろう。これ以上ことを大きくしたくないのか、あるいは我々に恩を売ったつもりか、どちらかは分からんがな>>

 

 

無線機の向こう、無線相手のゼロ少佐はスネークの疑問にそう答えた。確かにミグの攻撃を中止させられる権力がある人間で、なおかつそれをすることで利がある者…そこから考えればフルシチョフというのは妥当な考えだ。

 

<<だが君たちが助かったことは確かだ。フルシチョフの命令ならば、これ以上追撃を受けることもないだろう。そのままアラスカに向かってくれ、ガレーナ基地へ迎えを行かせる>>

 

「迎え?」

 

<<大統領にCIA長官、お偉方がラングレーでお待ちだ。寄り道するなよ?>>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─アメリカ某所、森林中の邸宅─

 

 

 

 

 

結論から言うと、スネークは盛大に寄り道をしていた。アラスカへ向かい、アメリカ本土へと戻ったスネークはEVAと共に負傷と慰労を理由に大統領による表彰を遅らせた。

 

そして森林の中に建つ邸宅にて、ワイン片手にEVAと共に任務成功を祝い楽しんでいる最中だった。

 

なおヴィーシャは、アラスカでスネークと別れてしまった。恩人の1人であるヴィーシャにも共に来て欲しいとスネークは言ったが、彼女は「戻るべき場所がある」と頑なだった。

 

だから彼女とは握手と包容を最後に別れたのだ。

恐らくはKGBかクレムリンか、少なくとも祖国に戻ったのだろうとスネークは思う。

 

しかしまた新たな疑問が鎌首をもたげる。彼女…ヴィーシャはロシアの人間だ。ならば何故アメリカから亡命したゴースト・カンパニーの兵士らと同じ装備をしていたのか?

 

そしてゴースト・カンパニーを率いてロコヴォイ・ビエレッグに現れたザ・ピース───彼女とヴィーシャは一体どんな関係なのか?結局あそこに現れたザ・ピースは要件だけを告げ、スネークはそれに応じただけで終わってしまった。

 

彼女の口から真実は明かされなかった。結局亡命したゴースト・カンパニーの連中に関しても、彼らは健在のままだ。そして何処に行ったのかも不明。

 

胸に残るモヤモヤした思いは未だ消えないが、今は2人の時間を大切にすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日…全てが明かされた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─アメリカ、ラングレー内某所─

 

 

 

 

ラングレーのとある場所、大統領らが待つ部屋へと向かうスネークは、あの邸宅でEVAから明かされた事実と、全ての真相を胸に渦巻かせながら長い廊下を歩いていく。

 

 

EVA──彼女はフルシチョフに送り込まれたスパイではなかった…KGBでもアメリカから亡命したNSAの暗号解読員でもない。彼女は、中華人民共和国・人民解放軍総参謀部第二部から送り込まれたスパイだったのだ。

 

中国に残留する『賢者逹』により、彼女はヴォルギン大佐から"賢者の遺産"を奪うべく、KGBのスパイという偽の肩書きで送り込まれたという。

 

第二次世界大戦より前、かつて米中ソの賢者逹が設立した工作員養成施設に子供の時分に集められ、訓練を受けたのだと。つまり、彼女もまた残留賢者の1人であった。

 

本物のスネーク・イーター作戦で、彼女はフルシチョフが送り込んだスパイADAMを殺し、彼に成り代わる予定であった。しかしADAMは現れなかったという───そこで彼女は鉢合わせした時の危険性を考えADAMへの擬装作戦を取り止め、代わりにEVAの名を騙った。

 

スネークもソコロフもヴォルギンすらそれを信じ、疑いはしなかったのだ。そして、彼女は遺産のマイクロフィルムとソコロフから受け取ったシャゴホッドの核発射データを手に入れ、中国へもたらすと…。

 

それは5年前からソ連に技術供与を停止され、原水爆実験が滞っていた中国が新たな力───ソ連やアメリカに負けない抑止力を手に入れられるということであった。

 

だが、1人だけ気付いていたのはザ・ボスだった…何故なら彼女は大戦前、EVAがスリーパー(潜入工作員)として育てられるべく過ごした養成施設で教官をしていからだとEVAは語る。

 

ザ・ボスだけは騙せなかったと…そして、EVAはザ・ボスから全てを打ち明けられたと明かした。本当は真相を知る関係者の抹殺───すなわちスネークもその対象だと…しかしEVAはスネークを殺さなかった。

 

愛し合ったからでも、情でも恩でもない…それはザ・ボスとの約束故───彼女のためにスネークを殺せないと…。

 

そして明かされた事実はスネークを驚愕に打ち震わせた。

 

全てはアメリカ政府の偽装亡命───そしてそれが巻き起こした世界戦争の引き金になりかけた今回の事件である。

 

アメリカは賢者の遺産を独占するべく、ザ・ボスとコブラ部第、そしてあのゴースト・カンパニーを送り込んだのだという。彼らの任務はただひとつ───ヴォルギン大佐の下に潜り込み、遺産を奪うこと。

 

ザ・ボスが偽装亡命によってヴォルギン大佐の部隊に潜り込み、遺産の在処を探り出す…そしてコブラ部隊が遺産を奪う間、ゴースト・カンパニーはグロズィニグラードを攻撃し、攪乱する。

 

だがヴォルギンが自国内で核を使い、それをザ・ボスの行為と広めてしまったことで、作戦は大規模な修正を迫られた。

ザ・ボスは死ななければならない…ソ連では核を撃った狂人として、アメリカでは恥知らずの売国奴として、そして表の世界史に犯罪者として永久に記録されること───それが祖国が彼女に新たに与えた任務だったと…。

 

そしてザ・ボスは常人では到底耐えられない重責を双肩に背負い、見事任務を全うした。

 

だが、誰にも知られることはない…スネークだけに最期に伝える彼女のデブリーフィング(帰還報告)───それだけは、愛したスネークに知っていてほしかったのだと…。

 

彼女は裏切り者ではない…むしろ、祖国を救った英雄なのだ…。

 

あれほど自分を裏切り続けた祖国に、それでも忠を尽くした英雄。それがザ・ボスなのだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辿り着いたラングレーの一室…そこでは大統領以下CIA長官や陸軍参謀長官、ゼロ少佐やシギント、パラメディックや、例のシェパード中将等といった人々がスネークを待っていた。

 

そして拍手と焚かれるカメラのフラッシュを前に、ジョンソン大統領からスネークは勲章を授与され、またザ・ボスを越える人間としてBIGBOSSの称号が与えられた。

 

彼との握手の瞬間にはより勢いよく拍手が響き、カメラがフラッシュを焚く。だがスネークは大統領との握手を終えると、横から来たCIA長官の握手やシェパード中将の労いを受けようとはせず、部屋を後にした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真相を伝えられたスネークは、愛国者という異名だけが刻まれた墓を前に、涙するしかなかった。

ただ、一心に真の愛国者(ザ・ボス)へ敬礼を手向けながら…。

 

大統領から与えられたボスを越えるBIGBOSSの勲章も称号すら、虚しいだけであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<<スネーク、ゴースト・カンパニーについてだけれど…貴方は更に驚くかもしれない…ゴースト・カンパニーは、実はアメリカのCIAの部隊ではないの…ましてや、ソ連でも中国でもない…彼らの正体は、"大戦の亡霊"なのよ…>>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スネーク…貴方は1945年、第二次大戦末期を知っているわよね…そう、ドイツ第3帝国は終焉を目前としていた。実はその最中、とある部隊がベルリンを攻めるソ連軍の包囲を食い破り、奇跡的な脱出を果たしたの…。

 

彼らの指揮官はどこから手に入れたのか、アメリカのマンハッタン計画を記した資料を手土産に、西部戦線から進軍していた西側連合国に降伏───資料の破棄と彼らの部隊の戦力供与を条件にアメリカへと渡ったわ。

 

そして彼らの部隊とは、既に想像がついているだろうけれど、ナチスの部隊よ。すなわちWaffen SS(武装親衛隊)なの。

 

大戦最中、化け物のような身体能力を誇る複数の兵士や部隊の噂が囁かれていたわ…ポーランド方面では人肉を食らう死者の噂が…東部戦線では全身機械の親衛隊将校の噂が…そしてあらゆる戦線に突如としてゴースト(幽霊)のように現れる武装親衛隊部隊…。

 

そう、それが後のCIAの非合法工作部隊ゴースト・カンパニーよ。彼らは如何なる理由か、驚異的な身体能力を誇り、一部の将校や指揮官に至ってはもはや兵器を相手にしているようだと言われた。

 

第0SS装甲師団「マイネ・エーレ・ハイスト・トロイエ(忠誠こそ我が名誉)」───それが彼らだったの…だけど彼らは敗北した。しかし指揮官はそこで諦めずに足掻き、アメリカへと渡ったの…もうここまで言えば分かるわよね?

コブラ部隊の兵士ザ・ピース───そうよ…彼女がその部隊の指揮官…。

 

 

本名…ターニャ・フォン・デグレチャフ…ドイツ第3帝国武装親衛隊少将。

 

 

表の世界史には第1SS装甲師団LSSAHの歩兵大隊指揮官ターニャ・デグレチャフ武装親衛隊少佐として記載されているわ。1945年5月、ベルリンでモーンケ少将との合流を目指し、途中でソ連軍と鉢合わせして戦死したという経歴よ。

 

でも彼女は生きていた…いえ、その経歴こそがアメリカがでっち上げた偽の経歴だから…実際にはモーンケ少将との合流直前でソ連軍と鉢合わせした彼女は、包囲を食い破り脱出したの…そして今の地位についた。ゴースト・カンパニーはその第0SS装甲師団の残存員が始まりだったの。

 

指揮官だった彼女と副官、そして師団の残存兵員48名が、その正体よ。

 

何故彼女を含めた師団の残存兵員らが未だ存命してるのかは不明よ…でも彼女───ヴィクトーリヤがその答えかもしれない…スネーク、貴方はヴィーシャの特異体質を見たのよね?

 

あの傷がたちどころに修復される驚異的な治癒速度。もしかしたらあれが解明の糸口になるかもしれないと中国は考えているわ。

 

 

…話がずれたわね。では何故、彼女らはアメリカに受け入れられたのか?

 

それはザ・ボスの存在があったから。

 

彼女らはザ・ボスの口添えもあって、アメリカが受け入れたと聞いたわ。彼女───ターニャは、大戦最中にザ・ボスと知り合い、友好を持ったと…。ザ・ボスは、彼女の話をする時、愛する貴方とは違った───そう、親しい友人を紹介するような口振りだったわ。

 

これは私が中国政府から教えられた情報と、彼女───ザ・ボスから聞いた話の全てよ。

 

貴方が懸念した通り、ヴィーシャもまたナチスだったの…でも、貴方がそれを聞いてどうするか、私は口を出さないわ。

 

 

でも、忘れないで…。

 

 

ザ・ボスの言葉を…人類には絶対的な敵など存在しないということを…相手は思想や思考・理念や求める世界が違うだけの、相対的な敵でしかないのだと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じゃあ…さようなら、スネーク…また、いつか逢いましょう…。




【ゴースト・カンパニー】

正体は作中通り、武装親衛隊の残存兵員らが構成する非合法部隊。ターニャの敏腕交渉とザ・ボスの口添えで見事亡命成功。
ターニャ・デグレチャフからターシャ・ティクレティウス爆誕の瞬間。


【ザ・ボスの真実】


語ることなし。どうやってあんな凄まじく悲しい真実を文字に起こせと…?





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Metal Gear Solid 3 ─ Epilogue

ようやく終わった…やっとMGS3が…次はオプスか…


 

 

 

<<はい、グロズニィグラードもグラーニン設計局も跡形もなく……確かに…ですが必要な犠牲でした…ええ…確かにザ・ボスの処理はCIA(アメリカ)の手で…>>

 

 

<<ホワイトハウスも満足しているはずです。フルシチョフはこれで終わりです。次は貴殿方の時代…>>

 

 

<<…そう…全ての真相を押さえることは、アメリカ大統領の首根っこを押さえることにもなります…今後の外交にも切り札が…>>

 

 

<<…それではKGB局長…また…>>

 

 

 

 

 

 

 

<<はい、私です>>

 

 

<<ザ・ボスは見事に任務を全うしました。ええ、KGBに渡ったフィルムは"彼女"がすり替えました…"賢者の遺産"は無事我々───アメリカの手に…この資金があれば…ええ、『賢者達』を再開できます…>>

 

 

<<中国側にも"彼女"が偽のフィルムを掴ませました。今頃、中国政府は大慌てでしょう>>

 

 

<<そうです…"彼女"がスネークとの交渉でフィルムを安全に…はい、彼女も初めからあの女スパイの正体を疑っていたと聞きました…>>

 

 

<<はい、アメリカ側に戻った資金はまだ半分です…まだKGBに『遺産』の一部が…ええ、例の兵器(シャゴホッド)は灰に…そうです。こちらから持ち込んだデイビー・クロケットで、グロズィニグラードもろとも…>>

 

 

<<ええ、それもザ・ボスが…それと、"彼女"がグラーニンから面白いものを手に入れてきました…全く新しい核攻撃システムです。いずれ役に立つ日がくるかと…はい…ジョン…いえ、スネークのお陰です>>

 

 

<<フルシチョフも、そう信じています…ええ…我々の嘘を…事を荒立てる様子はありません。第二戦備態勢も解除されました。ソ連側も私の正体には気付いていません。私が三重スパイ───トリプル・クロスであるとは…>>

 

 

<<引き続き、新政権とのにコンタクトを続けます…はい…誰も私をADAMだとは気付いていないようです>>

 

 

<<…はい、問題ありません。シェパード中将のことはご心配なく…ええ…彼はそろそろ、この世から退場される予定です…はい、自家用車内で一酸化炭素中毒でね……世間的には自殺と発表されるでしょう…>>

 

 

 

 

 

<<…それではまた…CIA長官…>>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─アメリカ本土某所─

 

 

 

 

 

 

「まさか、少佐殿を暗殺しようとは…欲をかきすぎましたね、シェパード陸軍中将閣下?」

 

「むぐぅっ!グヌッ!!」

 

「ああ、ご安心下さい。これは反乱や乱心ではないので…これはCIA長官の命令でしてね…」

 

「…!?むぐっむぅっ!!」

 

「いけない方ですね…遺産を独占しようなんて…しかも真実を知る人間の口封じなんて、ああ!なんと恐ろしい…」

 

「むぉ!ぐむぅ!」

 

「知っているんですよ?CIAで遺産奪取を提案したのが貴方だということは…そして背広組に圧力を掛けてスネークさんが任務を受けざるをえない状況に追い込んだのもね…?」

 

「んぅぅ!んぅぅむぅ!」

 

「ああ、ご安心下さい。少佐殿のお部屋にあった、毒を塗った珈琲のマグカップは処分しましたから…ジープ下の爆弾とか、少佐殿のライフルの細工もね?ライフルの細工はなかなかに良い線行ってましたね…まさか初弾の薬莢火薬がショットガンの火薬と入れ替えてあったとは…まぁ、そもそも多少の毒や爆弾では彼女には傷にすらならないという事実を忘れていたようですが…」

 

「ムガァ!ふむぅ!がぁぁぁぁ!」

 

「あら…もうこんな時間ですね…さて、ではこの扉を閉めればその瞬間からこの車は密閉状態になります。そしてエンジンから逆流してきた一酸化炭素は少しずつ車内に充満していき、数時間としないうちに…」

 

「!?」

 

 

「この辺りは再開発予定でほとんどの住民は立ち退いています…警察の見廻りも最近では週に1回ほどですね…では失礼致します。

 

Auf Wiedersehen.(アウフ・ヴィーダーセーエン<さようなら>)

Leutnant-General・Shepherd(ロイトナント・ゲネーラール・シェパード<シェパード中将閣下>)…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<<はい…私です…。…はい、痛ましいことに先ほど、警察から連絡がありました…シェパード陸軍中将が自動車内で一酸化炭素中毒で亡くなっていたと…>>

 

 

<<遺体が縛られたり、車への細工といった形跡が一切無いことから、自殺もしくは不慮の事故という扱いになるでしょう…はい…>>

 

 

<<今回用いた"例の虫"は中枢神経を侵して対象を麻痺状態に陥らせました。しかし麻痺状態は一時的なものらしく、中将閣下は声こそ出せませんでしたがある程度は身体を揺らしたりしていました。そこからおおよその推測ですが、あの"虫"は約2〜3時間程しか対象を麻痺させられません。恐らくは後遺症も無い筈です…>>

 

 

<<感謝の必要はありません。私はあくまで少佐殿の身の安全のために貴方の実験に協力したからです…ええ、シェパード中将は初めから遺産の独占を狙っていました…>>

 

 

<<…貴方が"虫"のデータを集めて何に使うのかは知りませんし、関わるつもりもありません……しかし、お分かりかと思われますが、少佐殿の身に危険を及ぼすならば貴方も敵です…ええ……それが互いにとって懸命な選択となるでしょう…>>

 

 

 

 

 

 

 

<<それでは、二度とお会いすることがないよう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミスター・スカルフェイス…>>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Metal Gear Solid 3

─Sneak Eater─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1964.10.15

フルシチョフ解任

ブレジネフが共産党第一書記、首相コスイギン

 

 

1964.10.16

中国、タクラマカン砂漠で原爆実験に成功

 

 

1964.10.18

アメリカ陸軍シェパード中将、自家用車内で自殺

 

 

1964.12.24

故シェパード中将の息子、アメリカ陸軍に入隊

 

 

1965

シギント、ARPAへ。

1969年から導入されるARPAnetの立ち上げに関わる。

 

 

1966

米政府機関による救急医療に関する調査が行われる。米国運輸省がEMT制度の立案を行う。

 

 

1968

EVA、ハノイで消息不明

 

 

1969

CIA、非合法工作部隊"ゴースト・カンパニー"を解散。隊員らの所在不明。

 

 

1970

パラメディック、ワシントン州シアトル市に米国初のパラメディック制度導入

 

 

1970

ゼロ少佐はFOXを解散

 

 

1970

アメリカ、残りの遺産を入手、米国『賢者達』は『愛国者達』と改名

 

 

1971

ビッグボスはゼロ少佐の意志を継いで、「FOX」を元に「FOXHOUND」部隊を設立

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1972

恐るべき子供達計画

ビッグボスの子供達、生まれる

 




【ネタバレ】

何でMGSって毎回あんなおっそろしい陰謀やら黒幕やらの裏話があるのやら…お陰でやるたびに「ブ○ータス、お前もか…」と叫びたくなるよ…だがそれが良い!


【髑髏顔と話す人間】

作中では明かしませんでしたが、ターニャを慕う人間といったら一番はあの人しかいないよね…多分気づく人は気づいてるだろうし…。ついでにあの2人くっついたらいいと思ってる。


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Metal Gear Solid -Operations- Opening -Prefinals-

いよいよオプス開始です。本編は今しばらくお待ちを…必死に話考えてますので…。


 

 

1964年、ソ連領内ツェリノヤルスク。

 

大戦の英雄ザ・ボスは、小型核弾頭2発を手土産に自身が率いるコブラ部隊及びCIAの非合法工作部隊の一部を引き連れ、アメリカからソ連へと亡命。GRUのヴォルギン大佐の下に身を寄せた。

 

同年、アメリカはザ・ボスを抹殺するべく1人のエージェントを派遣。

 

彼の名はネイキッド・スネーク───ザ・ボスの弟子であり、彼女の持つ技術を唯一授けられた男。

 

スネークはソ連にて単身潜入し、コブラ部隊及び非合法工作部隊の攻撃を潜り抜け、ヴォルギン大佐と核搭載戦車シャゴホッドを排除し、ついにザ・ボスをも倒した。

その功績でスネークはザ・ボスを越える称号BIGBOSS(ビッグボス)と名を与えられる。

 

しかしあの戦いの裏に張り巡らされていた真相を知った彼は間も無くFOXを除隊、地位も名誉も捨てて国を出た。

 

 

 

 

 

 

 

「で…セレブリャコーフ中尉。反乱兵どもの正体は間違いないのかね?」

 

 

アメリカ、CIAのとある施設内の一室にて、小柄な将校が目の前に立つ部下から報告を受けつつ、眉間に皺を寄せていた。

 

 

「はい、FOXの部隊に間違いはありません。現在もサンヒエロニモ半島にて行動しているようです。なお、FOXの反乱を煽動した首謀者は未だ不明です」

 

「だから国防総省はスネークが反乱の首謀者もしくはそれに近い煽動者として指名手配したのか…」

 

「"事実は小説より奇なり"とは言いますが、物事を単調に捉えすぎです。少なくとも私は首謀者は別にいると確信します」

 

「だろうな…で、その繋がり故かはたまたとばっちりか…私にもこいつが送られてきたと?」

 

 

デスクに肘を立てながら高級な革張りの椅子に腰掛けた小柄な将校は、右手でデスクに置いてあった紙を1枚取る。

 

そこには国防総省への召喚を要請する文面…

 

いや、召喚というのは字面だけ。実際には出頭命令だ。出頭理由は文面上は細々かつ丁寧な言い回しだが、要約すれば単純明快───『お前CIA所属だしFOXと関わりあるよな?何か知ってんなこっち来て洗いざらい吐け。もし嘘吐いたら軍刑務所で老後生活な』───である。

 

 

なお私の心境は"ふざけるな"だ。

 

 

こっちはようやくクソったれな泥水啜る前線生活から解放されて、コーヒー片手に事務仕事して夕方にそれなりに豪華な我が家でディナーを楽しめる生活に戻れたのだぞ?

 

今日だって帰宅したらベルギーから取り寄せた老舗のチョコ菓子を肴にコスタリカ産コーヒーを楽しむ筈だったのだぞ……それが……それが全てパーだ。

 

 

(大体私はCIA所属だが、上の指示でゴースト・カンパニーは解散したのだぞ…ヴァイスはグリーンベレー、ケーニッヒはFBI、ノイマンも海兵隊学校の指導教官だ。グランツすら上院議員のSPでそれぞれ自分の暮らしに入ってる…だというのに何故私にはこうも厄ばかり振りかかるのだ?ああ、クソったれな存在Xに災いあれ!!)

 

 

「少佐殿…如何致しますか?召喚理由が理由ですから、不当な嫌疑として抗議出来ますが?」

 

「いや、それでは問題が先延ばしになるだけだ…連中は潔白を証明しなければ、またつついてくるに決まっている────セレブリャコーフ中尉、表に車を回しておけ。少しばかり国防総省でテーブルトークに興じてくる」

 

 

どうせ逃げられないなら、口先手八丁で少しでも身の潔白を訴えておかなければならない。

 

 

ああ、全く…なんて厄日な一日だ…!!

 




今月一杯はストーリー構成で終わるかもしれない…。


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33話

仕事忙しくてなかなかオプスを進められない。

早くアナg…ジーンさんの演説とかやりたいみょん…。


【アメリカ合衆国・国防総省】

 

 

 

 

偉大なるサムおじさんの国の首都ワシントンD.C.の外郭部、ポトマック川を越えたバージニア州アーリントン郡に所在するペンタゴンを本拠地とするのが、アメリカ合衆国の陸海空の軍事一切合切を取り仕切る国防総省である。

 

両脇をガタイの良い身辺警護担当の護衛(とは名ばかりで、実際は国防総省が懇切丁寧に手配してくれた脱走防止のための監視役)に挟まれながら入口をくぐり、デスクワークに勤しむ職員らの事務部屋をいくつも通り抜けていく。

 

機密のために設けられているゲートでいちいち止まり、前を歩く国防総省の地味な眼鏡の職員が短機関銃を持った警備員と合言葉をボソボソ交わすのは既に5回目だ。

 

オマケにその国防総省の地味な職員は、ロリコンの気がある周囲からの鼻つまみ者というとんでもない輩である。

 

これでペンタゴンの機密に触れられる資格持ちだと言うのだから、質が悪い。

 

出来ることなら大統領に「性格調査の実施で引っ掛かった人員を一新しろ」と苦言を呈したいところだ。

 

 

皆さんこんばんは。ターニャ・デグレチャフ少佐であります。

 

現在私は国防総省からの召喚要求に応え、このペンタゴンへと出向いた次第であります。

 

だがよりによって案内に割り当てられましたのは、先ほど述べましたロリコンの気がある周囲からの鼻つまみ者・嫌われ者である地味な容姿の眼鏡さんです。

 

 

 

 

さて…お陰で先ほどから前を歩く職員は時折私のほうをチラチラと眺めてはため息を吐いている。

 

あまりにしつこいので「何か?」と尋ねれば、帰ってきたのは「君が逃げ出さないか監視しているだけだ」というお粗末な言い訳である。

 

当然ながら監視役とはいえ良識を持っているのだろう護衛の1人が咳払いをして告げる。

 

 

「ご安心下さい副次官補。そのために我々が彼女を見ておりますので、貴方は案内をお願い致します」

 

「あ…いや…そ…そうだな…頼むよ…」

 

 

おい待て護衛君、今聞き捨てならない役職名が聞こえてきたのだが?

 

副次官補だと?このうだつの上がらない奴が?ロリコン───いやペドの気を申し訳程度にしか隠してない人間としてアウトゾーン入りしてるような輩がだと?

 

ああ、軽く目眩がするよ全く…。一体ペンタゴンの採用担当はこいつの何を調査したんだ?

 

そんな私の内心を知らないだろう副次官補は居心地が悪いのかそそくさと進んでいき、地下へと続くエレベーターに乗り込む。

 

続いて私が乗り込むと、護衛2人の付き添いはここまでなのだろう…彼らはエレベーターには乗り込まず扉が閉まるまで私を酷く心配そうに見ていた。

 

理由は言わずもがな…地下に着くまでは僅かとはいえ、エレベーターの中でこの変態副次官補と2人だけになるのだ。

 

良識ある人間からすれば、"トラブルが起こります"と全力アピールしているようなそういった状況に置かれる女性を心配するのは当然なのだろう。

だが大丈夫だ護衛君。万が一の場合は副次官補が股間の男性特有の負傷によって病院に担ぎ込まれるだけだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………ええい、私は男だろ!!悪魔存在Xに災いあれだクソがっ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…久しぶりに例の女性的思考が頭を支配にきたので、精神衛生のバランスを保つべく内心で存在Xへの罵倒を交えて叫んでおく。

 

さて、扉が閉まれば後は地下へと降りるだけだ。その間は暇であり、また副次官補の顔を見るのも言葉を交わすのも不快になるため、前世で癖だったエレベーターの電子表示される階層数字が変わっていくのを見ながら到着を待つ。

 

ちなみに心理学分野によると、このエレベーター内で複数の人間と居る場合に操作盤や扉上に表示される階層数字を見上げたりするのは、他者に侵害されるのを嫌って無意識に己のテリトリーを作り出そうとしているかららしい。

 

…余計な話になったな、すまない。ああいや…私も無意識…いや、この場合はかなり意識して己のテリトリーを作り出そうとしているのだ。

 

何せ護衛君が心配した通りになったからだ。

 

私の真横に居た副次官補が、徐々にこちらとの距離を詰めてきているのだ。足の位置を直すフリをしながら徐々にこちらに近付いてきている。

 

 

しかも鼻息が荒い。

 

 

先ほどから鼻息を荒くし、なにやら深呼吸を繰り返している。しかも吸い込み終わる時に何かを味わうように口元や鼻腔付近をモゴモゴと動かしている。

 

 

 

 

勘弁してくれ!!この変態副次官補の奴、私の匂いを嗅いで味わってやがる!!

 

 

 

 

「…デグレチャフ少佐…いや、デグレチャフくん。何やら顔色が悪いが、大丈夫かね?」

 

 

顔色が悪い?ご心配ありがとうございます副次官補殿!ちっとも嬉しくないがな!貴様のせいだ貴様の!

 

ああ!おぞましいことこの上ない!たった1分も掛からないエレベーターでの時間があまりに遅く感じる!早くこの空間から出て気色悪い男から離れたい!

 

 

「我慢はしないようにな…国防長官からの召喚で悪い予感がしているのだろう?ほら、肩の力を抜いてリラックスしたまえ」

 

 

お言葉ながら副次官補殿、もし私が自制と我慢を止めた場合、間違いなく貴方のその何やら汗ばんでいる気色悪い顔面に銃床をフルスイングで叩き込みますが宜しいか?

 

ええい!鼻息を荒くするな!近寄るな!何がリラックスだ!おぞましい手つきで私の肩を撫でるな!!

 

 

「デグレチャフ君…私は国防総省でもそれなりの地位にいる。もし君さえ良ければ今晩食事でもどうかな…色々と君に便宜を図ってあげられると思うが…」

 

 

そういって肩を撫で回していた手を私の頬に触れさせてきた。

 

 

 

「待っていたぞ、デグレチャフ少佐。ラングレーよりはるばる御苦労」

 

 

 

だがあと一歩というところで、悪夢は終わった。ベルの音が響き、エレベーターの到着を知らせたのだ。

 

そしてエレベーターの扉が開けば、目の前には髪を極端に短く剃り上げたサングラスが似合うスーツズボンにストライプ柄のYシャツといった出で立ちのクールガイが佇み、私に挨拶を入れてくる。

 

その男を見た副次官補は慌てて私の肩から載せていた手を離して、咳払いをしたりスーツを整えたりして誤魔化そうとしている。

 

どうやら目の前のクールガイ、かなりの偉い人間らしい。少なくとも副次官補が体裁を整えようとするくらいには…。

 

 

「CIA作戦本部のハドソンだ。今回君の召喚に際して証人として参加する。同僚同士よろしく頼む」

 

「ハドソン?あのMACV・SOGの担当官の?」

 

 

 

MACV・SOGは、現在も戦争継続中のベトナム戦争の中期辺りに創設された南ベトナム軍事援助司令部(U.S.Military Assistance Command,Vietnam)───通称MACV所属の特殊作戦部隊である。

 

SOGは特殊作戦群(Special Operations Group)の省略であり、所属隊員らはベトナム以外にもラオスやカンボジア等にて潜入・破壊工作・要人救出等を中心に南ベトナム軍とソ連を相手取って活動している。

 

その2つを合わせて我々は南ベトナム軍事援助司令部特殊作戦群(U.S.Military Assistance Command,Vietnam・Special Operations Group)と読んでいるのだ。ただ毎回喋るにはやたら長くて面倒な名前である。だから省略してMACV・SOGだ。

 

でもって目の前のJ・ハドソンという男は私と同じCIA所属で、作戦本部の情報員として時折そのSOGグループの作戦に同行したりしている情報員というより現役兵士といった表現がしっくり来る工作員なのだ。

 

そんなCIAの同僚が証人として来てるということは、この召喚───かなり不味い状況だ…ああクソめ。

 

 

「ご苦労様ですハドソン情報員。本日はよろしくお願いいたします」

 

「そうだ、ハドソン君!済まないがまだ仕事が残っていてね!名残惜しいが私はこの辺りで失礼するよ、後は君が案内してくれ!ではな、デグレチャフ少佐!」

 

 

私の挨拶の直後、副次官補殿は私の肩を撫で回していた光景を見たのだろうハドソン情報員の、喋りながらも彼を冷徹に見据えるサングラス奥の視線に耐えきれなくなったのか、矢継ぎ早に言葉を繋げるとさっさとエレベーターで戻っていった。

 

 

「では行こうか、デグレチャフ少佐」

 

「はっ」

 

 

私はハドソン情報員の先導で歩き出し、国防長官が待つ部屋へと向かう。

 

なお、途中ハドソン情報員が耳元に繋がる小型無線に向かって「副次官補の行動は最近目に余る…」といった言葉を呟いていたのを見て、私はあの気色悪いペドの副次官補の末路に小さくガッツポーズをしていたのは内緒である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─ペンタゴン地下施設─

 

 

 

 

 

(不味い!非常に不味い!)

 

 

 

 

 

 

理解してはいたつもりだった。だがその場所に足を踏み入れた時、私は自分の認識が甘かったことを思い知らされた。

 

楕円形状のテーブルに座るのは国防長官だけではなかった。

 

陸海空の各長官までもが雁首揃えて、ノコノコと部屋に足を踏み入れた私を待ち構えていたのである。

 

 

 

 

アメリカ国防総省───ペンタゴンの地下にある機密施設の一室に案内されて早々、私は自分が来たのが召喚という皮を被った高等軍事裁判だと思い知らされた。

 

 

(…国防総省は、初めから私を事件に関与した犯罪者として裁くつもりか…ふざけるな、結論ありき主義の官僚共が…!スネークへの疑いといい、FOX指揮官ゼロの拘束といい、事件に関わりがありそうな疑わしい連中を片っ端から潰して回ろうとは!)

 

 

 

 

 

「…デグレチャフ少佐。つまり、貴官は今回のFOXの反乱にはなんら関与していないと?」

 

「はっ、国防長官。我々は確かにCIA作戦本部所属であり、かのFOXとの関わりも御座います。しかし私の部隊は既に上層部の決定により解散しており、今回のサンヒエロニモでの現地ソ連部隊を味方に引き入れた武力蜂起は決して我々の仕業ではありません。CIA上層部としても今回の軍事兵器の強奪と蜂起は寝耳に水という状況であります(当たり前の質問、当たり前の回答…駄目だ!このままでは私は犯罪者まっしぐらだ!どうにかしなくては!)」

 

「それは知っている。私が聞きたいのは、君はあのCIAの元エージェントが蜂起を首謀した理由を知っているのではないかということだ」

 

「お待ち下さい国防長官、首謀ではなく、"首謀の容疑"です。BIGBOSSがサンヒエロニモでの蜂起を指導または蜂起の煽動をしたという証拠はありません」

 

 

ハドソンが国防長官の言葉を訂正し、証拠無き現状ではBIGBOSSは首謀者と確定してはいないと言う。

 

そして国防長官が彼の訂正を受けて言葉を止めたところで、私はふと必死に回転させていた頭で思い付いた───しかしそれ以上に私の無実を示せる有効な選択肢がそれしか無い提案を国防長官に提示した。

 

 

 

 

 

 

「…国防長官、ひとつよろしいでしょうか…」

 

 

 

 

 

 

例え核ミサイルの爆心地に飛び込むような行為だとしても、この提案を通して、絶対に無実を証明せねばならない。

 

 

 

 

さもなければ私の平和は半永久的に失なわれるのだから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【サンヒエロニモ半島】

 

 

 

 

 

ターニャが国防総省にて自身の未来を賭けた戦いを始めた頃、このサンヒエロニモ半島でも1人の男が新たな戦場へと飛び込む…その始まりの入口へと足を踏み出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「薬剤投与後12時間ちょうどか。正確なお目覚めだな…いい夢は見られたかね、BIGBOSS(ビッグボス)?」

 

 

サンヒエロニモ半島のとある施設にて、監獄のベッドに寝かされていた男…彼は自分が起きるのを待っていたかのような人物の声に反応する。

 

 

「誰のことだ?」

 

「とぼけても無駄だ。お前のことはよく知っている。それともスネークと呼ばれるほうが好みかね…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネイキッド・スネーク?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スネーク・イーター作戦のエージェント、核戦争を止めた英雄───ネイキッド・スネークは、新たな火種渦巻く陰謀に巻き込まれようとしていた。

 



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34話

いや〜、久々。皆さん、すいませんでした。駄文作品復帰致しました。

オプスってなかなかに他キャラクターを絡ませにくいことに、今さらながら痛感させられてます。


─ラングレー(CIA)─

 

 

 

 

 

「…さて、セレブリャコーフ中尉…昨日の召喚で国防総省にて国防長官に釈明はしたが、現状は非常に不味い。同僚のCIA情報員も証人として色々やってはくれたが、やはり首謀者を捕まえないことには我々は犯罪者への転落は免れない」

 

「では少佐殿、やはりサンヒエロニモ半島へ?」

 

「そうだ。現時点で我々が動かせる兵士と物資をかき集めてサンヒエロニモで首謀者を捕らえるか、無理ならば殺害する。我々の無実をペンタゴンに認めてもらうには首謀者の身柄か首…どちらかを持ち帰らねばならない」

 

「了解致しました。では現状で動かせる人員と軍需物資を見繕いますので、本日丸1日、業務を外れさせて頂きます」

 

「ああ、頼んだ中尉」

 

 

頼もしい副官がその手腕を発揮すればたった1日で兵士と物資を揃えられるというのだから、冗談抜きにセレブリャコーフ中尉には頭が上がらない。

 

以前から戦闘でも潜入でも事務でも彼女は献身的に尽くしてくれている。

いずれきちんと苦労を労ってやりたいものだ。

 

さて、優秀な副官が人員と物資を見繕ってくれている間に、私は私の仕事をこなさねばならないな…。

 

 

…もっともCIA所属というだけで既に解散した部隊の───しかもデスク勤務が仕事になっている元指揮官が動かせる人員と物資などたかが知れている…。

 

武器は僅か、味方は少数───こんな作戦、まともな人間ならば選択する筈はない。

どう考えても新兵器という切り札付きの現役FOX部隊と現地ソ連部隊を相手取るには些か不安要素が大きい。

 

しかし、置かれている現状と残された時間を考えれば、万全を期す準備に費やす暇はない。

例え崖から身投げするような任務でも、やらねばならないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【サンヒエロニモ半島】

 

 

 

 

 

「…人違いで連れてこられた訳ではなさそうだな…あんたは?」

 

「俺はカニンガム中尉だ。4週間前まではCIAにいた」

 

「カニンガム…FOXの捕虜尋問官?」

 

「知っていてくれたとは光栄だよ、スネーク…」

 

「俺を襲ってきたのも、FOXの隊員なのか?」

 

「そうだな…今はそういうことにしておこう」

 

「…FOXを除隊した俺に今更何の用だ?同窓会にしてはずいぶん手荒い歓迎だが…」

 

「除隊したか…表向きはそうなっているな。お前に新しいミッション(任務)を与えるつもりはない…簡単な質問をするだけだ」

 

「質問?」

 

「6年前、全面核戦争の危機から世界を救った。真の愛国者として大統領から表彰され、BIGBOSSの称号を送られた…しかしそれから間もなく、お前はFOXを除隊した。地位も名誉も投げ捨てて……実に奇妙な話だ。お前はあの任務で…グロズニィグラードでなにを見た?」

 

「………」

 

 

カニンガムの言葉に、スネークは無言を貫く。

 

あの任務で、スネークは己が信じてきた全てを否定された。

 

 

 

命を掛けて忠を尽くす者への祖国の裏切り。

 

悪と断じられた存在が忠を見せ、正義を名乗る存在が忠を蔑ろにする。

 

相対的な敵故の、政治の指針・国の在り方で移り変わり続ける敵と味方。

 

 

 

しかしカニンガムはスネークの見たものに初めから興味を抱いていなかったのか、答えを返さないスネークに別の質問を掛ける。

 

 

「"遺産"はどこだ?」

 

「"賢者の遺産"のことか……?」

 

「そうだ。第二次大戦中に集められたという三大国の莫大な秘密資金だよ」

 

「"遺産"ならCIAが手に入れた。6年前のミッションでな」

 

「嘘をつくな」

 

 

スネークは自分が知る答えをカニンガムに言うと、返ってきたのはスネークの言葉を嘘と断じるカニンガムの声。

そして彼の義足による痛みであった。

 

「<正確な苦痛>を<正確な場所>に<正確な量>というのが、効果的な尋問を行うための俺のポリシーでな!」

 

 

「嘘ではない……あのスネーク・イーター作戦で……ある人物がCIAに遺産を……遺産のデータを渡した筈だ……」

 

 

足の傷口を的確に義足で踏みつけてくるカニンガムに、スネークが痛みに耐えながらそう返すが、カニンガムの口から出たのはスネークも知らない事実であった。

 

 

「嘘だな…スネークイーター作戦でCIAがソ連から奪った"賢者の遺産"は半分だけだった。残り半分の資金の行方をおまえは知っているはずだ」

 

「CIAが手に入れた"遺産"が半分……!?」

 

「芝居はよせ。ザ・ボスと戦って生き延びたお前は、"遺産"の残り半分の行方を知っているはず。"遺産"の在処を教えて貰おう、スネーク」

 

「悪いが、初耳だ」

 

「素直に協力してくれれば、俺もかつての仲間を尋問するような真似はせずに済むのだが……な!」

 

 

カニンガムの手に握られた電撃棒が振るわれ、スネークの体に金属棒の鈍痛と電撃の痛みが走る。

 

 

「まあ良い。まだ時間はある。ゆっくりと思い出してもらうとしよう」

 

 

しかしそこでカニンガムは尋問を切り上げると、部屋から出ていく。だがスネークはまだ聞かねばならないことがあった。

 

 

「おい、これは正規の任務じゃないな!ゼロ少佐はどうした!?本当のことを言え!」

 

「……これが正規のFOXの任務だ。今はな……」

 

 

だがカニンガムはそれだけを言うと、スネークとの会話を打ち切り、監獄から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「諸君、間いよいよ我々はサンヒエロニモ半島に上陸する。目的は言うまでもなく、反乱の首謀者の捕縛もしくは殺害だ。そして、この任務を達成することこそが我々の身の潔白を証明するということである」

 

「「「イエス、マム!」」」

 

「失敗すれば皆で仲良くサンヒエロニモの土壌を潤す肥料になるか、祖国で反逆者のレッテル付きで一生檻の中だ。嫌か?嫌ならば死力を尽くせ。首をもがれても首謀者の玉を握り潰すつもりでな!!」

 

「「「イエス、マム!!!」」」

 

 

あの日から1週間、我々は祖国から不条理に被せられた反逆者という名の汚水を洗い流すべく、件の土地、サンヒエロニモ半島へと来ていた。

 

セレブリャコーフ中尉が色々とかき集めてくれた結果、それなりの兵士で構成される3個小隊分の兵力と3日間は撃ちまくれるだけの武器・弾薬が集まった。

しかも彼女はどこから手に入れてきたのか、イギリスのMBTであるチーフテンを2両も用意してくれたのである。

 

気のきく副官に感謝しながら、私は揚陸艇の1隻に乗り込んでいく。

 

作戦は単純だ。夜間に乗じて揚陸艇で兵員を浜に送り込み、浜を確保した後小型輸送船で戦車と装甲車を陸揚げした後、敵拠点を順次潰しながら首謀者を探しだす。

 

 

……ああ、言われなくとも分かっている。作戦としては酷く不安が残るものだというのはな。

 

だが仕方ないのだ。祖国から睨まれた私達には副官がかき集めてくれた物以外は一切の支援が無いのだから。裏切者が万が一馬脚を現した場合にと言わんばかりに、兵員も武器・弾薬も情報すら全て回されない。

 

土地の詳しい地理も敵拠点位置も敵の数や装備、首謀者の情報すら皆無だ。

 

だから正しく、これは作戦という名の自殺なのだ。だがやらなければどちらにせよ、私は汚名つきで国を追われる。

 

刑務所だって御免被る。理性のタガが外れかけている犯罪者共が多数収監されている場所に放り込まれれば、私の予想では間違いなく"若い女なら何でも良い"とばかりに押し寄せてくる馬鹿どもと取っ組み合いを無限に続ける羽目になる。

 

勿論逃げ出すのは簡単だが、私は安寧が欲しいのだ。職務を常に真面目にやってきたのだって、その為である。だから取り戻すには、このような現状だろうが首に縄を括られようが首謀者をとっ捕まえるしかないのである。

 

 

 

 

 

 

「時間だ!作戦開始!」

 

 

 

 

 

 

 

私の号令と共に、揚陸艇が動き出す。

 

目指すは1つ……サンヒエロニモ半島に潜む敵首魁。

 




数日中にまた投稿致します。


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35話

【サンヒエロニモ半島、ソ連軍基地】

 

 

 

 

 

 

 

「キャンベル、敵を捕まえてきたぞ。トラックに乗せるのを手伝ってくれ」

 

「了解だ、ご苦労様スネーク」

 

 

ハーツ・アンド・マインド(民心獲得工作)はエージェントの基本である。

 

現地民や敵兵士の不満に取り入り、彼らを味方に付け、国家への反抗心を煽り、デモを敢行させるも良し、不満の種を膨らませてクーデターを引き起こさせるも良しである。

 

そして今、スネークもまたその為にこのソ連軍基地にて敵兵士を気絶させ、輸送トラックへと運んできたのである。

 

 

 

数日ほど前、監獄でのFOXの尋問官カニンガムとのやり取りの後、スネークは同じく監獄に囚われていた囚人であるロイ・キャンベルと知り合った。

 

彼の助言を受けてスネークは牢屋から脱出すると、監獄内の無線機にてスネークイーター作戦で共に協力した医師パラメディックに連絡を取り、現状と自分が置かれている立場を知ることになったのだ。

 

本国からはFOX部隊反乱を煽動した首謀者として扱われていること。

 

そしてパラメディックと同じくスネークイーター作戦で協力してくれた武器・装備品のアドバイザーを務めてくれた黒人シギントから、首謀者の捕縛ないし抹殺こそが身の潔白を証明すると言われた。

 

勿論いくらスネークが高い技能を持つとはいえ、単独では不可能に近い任務である。

 

そこでシギントのアドバイスに加え、監獄から脱出したキャンベルの詳しい説明を受けたスネークは、最初に述べた民心獲得工作(ハーツ・アンド・マインズ)による味方部隊の設立に動くこととなった。

 

そして実際に敵兵士を捕らえる為に現地調達したソ連兵の野戦服を着て彼らに紛れ込んでいた間にも、スネークは敵の溢す愚痴や不安を幾度となく聞き、そこにつけ入る隙があると確信していた。

 

そして今、スネークとキャンベルはトラックの中で捕らえたソ連兵が目を覚ますのを待っていた。

 

暫く待っていると、ソ連兵がゆっくりと瞼を開けていく。そして、目の前で彼を見ているスネークをその視界に捉えた。

 

 

「お前は……!」

 

 

その瞬間、彼は即座にスネークの顔目掛けて拳を繰り出していた。しかし予め攻撃を予想していたスネークに、あっさりといなされてしまう。

 

 

「回復が早いな?」

 

 

スネークは素直に兵士の回復力に感心するが、彼は言葉を返す代わりにスネークの脇を素早く駆け抜けると、スネークの後ろから見ていたキャンベルに襲い掛かった。

 

まだ怪我から回復しきっていないキャンベルは防ぐ間もなく腹部に拳を受け、腰に差していた拳銃を奪われてしまう。

 

だがソ連兵がその拳銃をスネークに向けようとした時には、スネークも既に動いていた。ソ連兵は電光石火の如く突進してきたスネークに構えようとした拳銃を弾かれ、即座に喉を掴まれるとトラックの荷台床に叩き付けられた。

 

 

「うん……判断力もある。よく訓練されているな。いい兵士だ」

 

「……あんたは……何者だ?」

 

「スネークだ」

 

「スネーク?暗号名(コードネーム)か?アメリカ軍だな。あんたもFOXなのか?」

 

「アメリカ軍でもFOXでもない。ただの兵士だ」

 

「……ただの兵士が、なぜ……?」

 

 

アメリカ軍でもFOXでもないただの兵士がどうして居るのかというソ連兵の疑問に答えたのは、キャンベルだった。

 

 

「俺達はFOXの反乱を阻止するために来た。FOXのジーンは、アメリカ政府を裏切って手に入れた新兵器とこの基地にある核弾頭を使ってお前達の祖国と交渉しようとしている────だが、その実態は脅迫だ。俺達はそれを阻止したい。サンヒエロニモ半島にいる兵士たちをジーンから解放して、裏切り者のFOXを捕らえるのが俺達の目的だ」

 

 

話を聞きながら黙りこんでいるソ連兵に、キャンベルは説得を続ける。

 

 

「FOXの隊員達を恐れる気持ちは分かる。だが、俺達がこの半島のソ連兵を救うには協力者が必要だ。力を貸してくれないか?」

 

「……俺達を助ける?だからジーンを倒すのに協力しろと……ハッハハハハ!」

 

 

だがソ連兵はその説得を笑い飛ばした。そして洗脳かと疑うスネークらを嘲笑しながら自分らの身の上を語りだす。

 

 

──家族や友人との連絡すら許されない秘密基地の警備・防衛。

 

──慣れない気候や貧しい食事、風土病やコロンビア政府との小競り合いに倒れた仲間達。しかし祖国の為にと任務に従い続ける日々。

 

──だがソ連本国は基地が明るみに出ることで戦略兵器制限交渉等にてアメリカに政治的な負い目を作ることを恐れ、基地自体を無かったことにしたこと。

 

──兵士の帰国の代わりに通信痕跡の排除・補給断絶を行い、核発射基地を現地ソ連部隊による独断・暴走によるものという体裁を整えたこと。

 

 

 

そしてソ連兵は続ける。ジーンに従うのは、祖国が自分らを裏切ったからだと。そしてジーンは、俺達の国を作ると言ったと……。

 

 

兵士を支配する国家ではなく"兵士のための国家"を作ると。

 

自分らにはジーンが与えてくれた正義がある。その正義を失うことが恐怖である。だからジーンに従うと……。

 

 

「正義か……」

 

 

しかしスネークはその言葉を聞いても、全く動じてはいなかった。彼は知っていたからだ。

 

 

「正義の意味は、時の流れによって変わる。職業軍人なら、任務に正義を持ち込むことはない。戦う理由を求めるのは、兵士として生きる者だけだ。俺の師匠がそう言っていた。"政治は時代とともに移り変わる。国に忠を尽くしている限り、俺達兵士が信じていいものは何もない"と……」

 

 

戦う兵士には正義も何もない。国に忠を尽くすからこそ、例え孤立しようと、圧倒的な大軍に擦り潰されようと最後の瞬間まで足掻いて、戦い続けることが義務である。

 

 

「正義ではなく、国家でもなく……自分に忠を尽くして、彼女は死んだ。任務のために」

 

「それが……あんたに戦闘の技術を教えた師匠か……何者だ?」

 

「彼女は、ザ・ボスと呼ばれていた。俺が殺した……」

 

「ザ・ボスを……伝説の兵士を殺した?そうか……スネーク、あんたがBIGBOSSか。グロズニィグラードで、ヴォルギン大佐を倒した英雄……」

 

 

あのグロズニィグラードでの一件は、本来国際的には無かったもの───存在すらしていない扱いだ。ヴォルギンもコブラ部隊もシャゴホッドも、全ては闇の中に葬られたからだ。

 

しかし知る者は知っていた。世界を核の悪夢から救いだした、1人の兵士の存在を……。

 

 

「"戦士として、互いの忠(loyalty)を尽くせ"───ザ・ボスは俺にそう言った。俺にはまだ、その意味が分からない」

 

「忠を……尽くす。正義でも、国家でもなく、自分に忠を……ジーンは……本当に俺達の祖国を脅迫しようとしているのか?」

 

「本当だ。スネークが哨戒基地で機密文書を手に入れた。ジーンがアメリカから強奪した新兵器が核弾頭を発射すれば、ソ連国内の主要都市全てに壊滅的なダメージを与えることが出来る。信じられないかもしれないが……」

 

 

キャンベルはソ連兵に、嘘偽りなく伝える。それはすなわち、シャゴホッド以来の、灼熱の地獄を始まらせる存在でもあった。

 

 

「いや……信じよう。ソヴィエトの軍人ではなく、1人の兵士として」

 

「……助かる」

 

「俺は貴方に従う。任務を与えてくれ、スネーク。いや、BIGBOSS」

 

「スネークでいい」

 

「そうか、失礼した。そこでなんだが、実は教えておきたいことがある。昨日の夜間、このサンヒエロニモ半島に接近してきていた船が居たんだ」

 

「船?」

 

「ああ、アメリカ軍の揚陸艇数隻と小型輸送船だ。連中は沿岸の防衛部隊を制圧して、今はこっちに向かっているらしいんだ。もしそいつらと話が通じるならスネーク、貴方が作る部隊の戦力に組み込めるかもしれない」

 

「アメリカ軍?俺達グリーンベレー以外にも部隊が送り込まれたのか?」

 

「キャンベル、お前は何か知らされていたか?」

 

「いや、何も知らされちゃいない。だが、アメリカ政府からすれば自国の特殊部隊が反旗を翻して新兵器を奪い、敵国部隊と結託したなんて事態は好ましくはない筈だ。もし可能性があるとすれば、俺達の失敗の尻拭いか……もしかしたらアメリカ政府とは別の誰かさんが送り込んだか……」

 

 

既にFOXを抜けているスネークは当然ながら、反乱鎮圧に送り込まれたキャンベルも知らないという。

 

しかし同じアメリカ軍であり、目的が近いものであれば協力関係を築くのは不可能ではない。ましてや今のスネーク達には、敵の大部隊に対抗出来るだけの戦力が必要だ。

 

 

「スネーク、確実ではないがそいつらを味方に引き入れられるのであれば一気に戦力の増強が出来る。一応覚えておくとしよう」

 

「ああ。さあ2人とも、やることは山積みだ。早速行動開始だ!」

 

「「了解!!」」

 



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36話

最近モチベが上がらない。でもしっかり書き続けてはいます(低脳の言い訳)。


「さて、これからどうするかだが……ゴホッ、ゴホッ!」

 

「おい大丈夫か、キャンベル?」

 

「ああ、済まないスネーク……ふぅ……先ほどから頭痛や悪寒が止まらなくてな……」

 

「頭痛や悪寒?おいキャンベル、まさか……」

 

「まさか……いや、確実だろうな。マラリアだ……ツいてないぜ全く……」

 

 

スネークの予想は当たった。恐らくはキャンベルはサンヒエロニモで囚われてから、蚊を媒介して感染したのだろう。

 

マラリアは幾つかの種類に分かれ、潜伏期間は数日のものから1ヶ月ほどのものもある。また発症した場合、これも種類で分かれるが大体24時間周期から48時間周期、72時間周期で発作熱が引き起こされる。

 

放っておけば深刻な臓器不全を引き起こし、最悪の場合死に至る病気である。

 

 

「不味いな。一刻も早い治療が必要だ」

 

「そうだ……ゴホッ……だが、どうする?」

 

「任せてくれ、俺の"主治医"に聞けばどうにかなる筈だ。キャンベル、今はお前は休め。俺はあの通信基地に戻って何とか連絡を取ってみる」

 

「ああ、分かった。済まないなスネーク」

 

「待っていてくれ」

 

 

スネークは新しく仲間に引き入れたあのソ連兵にキャンベルの介抱を頼むと、輸送トラックから出て、通信基地に急ぎ向かい出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<<こちら第3分隊、武器庫を制圧!>>

 

<<こちら第7分隊、宿舎を制圧!捕虜は13名!>>

 

<<こちら第2分隊、交戦中の敵部隊が降伏を申し出ました!>>

 

<<こちら第1分隊、各区の制圧を全て確認しました!現時刻を以て当基地を完全制圧!なお敵指揮官は発見出来ず、繰り返す、敵指揮官発見出来ず!>>

 

「了解した。各分隊は速やかに捕虜を連れ、指揮所に集合せよ……ふぅ、ここも外れか……」

 

 

サンヒエロニモ上陸から既に丸3日が経過した。捕虜から懇切丁寧な"お話"で情報を聞き出したところ、どうやら脱走者が出たらしく、各地に点在する敵基地は厳戒体制に入っていた。

 

だがまさか3個小隊分の敵戦力がMBTを連れて奇襲してくるとは考えていなかったらしく、上陸の沿岸防壁制圧から数えて3つ目の基地を難なく制圧出来た。

 

しかしそれなりに大きな基地を狙っているものの、未だ本命である敵の首魁を見つけるには至っていない。むしろ連日の戦闘で部隊に疲弊が見えている。

 

時間との勝負ではあるが、だからといって無理押しで勝てる戦いではない。取り敢えずはこの基地を仮拠点に兵に休息をとらせるのが妥当だろう。

 

そうしたらまた明日から作戦を継続すれば良い。

 

私は目の前の簡易的な机の上に載っかる無線機を掴むと、副官へと連絡を入れた。

 

 

「ヴィーシャ、私だ。今すぐに指揮所に来てくれ」

 

<<はい、かしこまりました。直ぐに向かいます>>

 

「ああ、頼む」

 

 

副官からの返事を受けて無線機を切ると、机の上のすっかり冷めてしまったコーヒーを手に、サンヒエロニモの地図とにらめっこを始める。

 

 

「はてさて、一体何処にいるのやら……名前も容姿も全く分からない。おまけに所在が全く不明……」

 

 

いつもの任務ならば、そういった情報は裏方の連中が調べて書類にまとめてくれていた。

 

しかし今回はそういったバックアップは一切無し。

 

武器・弾薬は敵基地を制圧していく過程で持てるだけ掻っ払っているため心配は無いが、逆にMBTとして持ってきたチーフテンに限っては心配しかない。

既に1台が対戦車ロケットの餌食になって、車内にいた連中ごとアポロよろしく月まで吹っ飛んだ。

 

残る1台ももうしばらくは使えるだろうが、燃料・残弾共に尽きれば撃てない大砲抱えた鉄の棺桶だ。

 

まあ、だからといって戦えなくなる訳ではないがな。ここは幸いにも基地だ。武器・弾薬は回収して味方の装備に組み込めば良いし、糧食・医薬品も必要な分が揃ってる。

 

……糧食に関してはあまり当てには出来ないがな………本当にソ連軍の食料事情はフルシチョフ時代から変わらない。何時まであのクソ不味い缶詰を採用し続ける気なのか、ソ連軍の兵站管理者を問い詰めてやりたいぞ。

 

 

「少佐殿、失礼致します。セレブリャコーフ中尉、参りました」

 

「ああ、来たか中尉。入りたまえ」

 

「はっ、では失礼します」

 

「さて、中尉。我々の今後だが、明日まで我が部隊は当基地にて夜営し、基地に備蓄されている武器・弾薬及び糧食・医薬品を回収。装備を整えた後、明日から再び敵基地の制圧及び首謀者の捜索に入る」

 

「かしこまりました。ではそのように各隊に通達致します」

 

「ああ、頼んだ」

 

 

指示を受けてセレブリャコーフ中尉が退出するのを見届けると、私は再び地図とにらめっこを始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、少佐の指示を各隊に通達し終えたら、使える武器や弾薬を集めなければならないですね。

 

 

 

皆さんこんにちは、ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ中尉です。

 

 

 

現在我々は敵首魁の捕縛ないし殺害のために、3日前にサンヒエロニモ半島に沿岸から上陸し、道伝いに各基地を制圧しながら前進していました。

 

ちなみに今回は少々激しい戦闘だったために、人員こそ戦死1人に軽傷3人で済んだのですが弾薬の損耗はかなり高いです。部隊のほとんどが割り当てられた弾薬を使い果たしたために、補給の目処が無いまま無理矢理に戦えば数日と持たない有り様です。

 

そのため今のうちに使える弾薬をかき集める必要があります。武器に関しては弾薬の互換性が無いため、幾つかの分隊の装備をソ連軍のと入れ替え、残りを元の装備の分隊に回せばとりあえずは良いでしょう。

 

そう考えながら隊が休息を取る宿舎まで来たところで、私に声が掛かりました。そちらを見れば、声を掛けてきた相手は第2分隊を率いる軍曹でした。

 

 

「中尉、失礼します。先ほどの戦闘で出た捕虜の処遇に関してですが………」

 

「ああ、はい。捕虜に関しては全員略式処刑して下さい」

 

「っ!?」

 

「あっ、処刑とは言いましたが、弾薬が勿体ないので銃は使わないで下さい。ナイフか銃剣、それ以外に石や鉄パイプなんかでお願いしますね」

 

「中尉!彼らは民兵や犯罪者ではなく降伏したソ連の兵士です!何の理由もなく処刑な……」

 

「理由はありますよ。まず我々には捕虜を抱えて作戦を遂行する余裕はありません。また彼らは我々に協力する気は無いのですから捕虜は邪魔なだけです。次に我々の目的は捕虜を取ることではなく、反乱の首謀者を捕縛するか殺害するかという事です。任務目的に関係しない不要なリスクは切り捨てるべきです。

そして何より………ここは非正規戦闘地域(ブラックオプス・フロント)です。この核ミサイル基地は表向きには存在しない。つまり、そこに勤務するソ連兵も居ません。よってここに居る兵士は国家にのみ認められた核という危険な兵器を違法に所持し、それを発射可能な基地を違法に建設しそこに居座る国際法の外側の存在です。そんなあやふやな敵に適用される国際法は"ありません"」

 

「中尉、貴女は………」

 

「以上です。また少佐から通達事項がありますので、各分隊長の集合をお願いしますね?」

 

 

少佐は良い顔をされないかも知れませんが、これで良いんです。

 

どんな人道を説こうとも、ソ連にとってここの基地は表沙汰にしたくない存在ですから、兵士が消えれば彼らは喜ぶだけです。

 

そして世界はそんな基地があることも知らないのですから、糾弾する人間も居ません。

 

勿論私だって必要無い人殺しはしたくありませんが、逆に言えば必要なら人殺しも辞しません。私の目的はただひとつ────

 

 

 

少佐が平和に暮らせる世界─────

 

 

 

その為ならば、祖国すら敵に回してみせましょう………。

 




ヴィーシャはターニャの為ならば普通に名誉も命も投げ捨てるし、ヤバいことも辞さないタイプ(ヴィーシャファンの皆さん本当にすいません)。



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37話

お待たせしました。


最近隣人の嫌がらせがヒートアップして、わたくし激おこぷんぷん丸ですよ全く(`Δ´)
誰かトラブル解決の知恵貸してクレメンス……。


【サンヒエロニモ半島】

──ソ連軍病院──

 

 

 

 

 

 

「スネーク、院長室から声がする。敵かもしれない」

 

「よし、突入して鎮圧しよう。もしかしたら薬の行方を知っているかもしれない。可能な限り殺すな」

 

「了解」

 

 

 

現在、スネークはマラリアに感染したキャンベルを含めた幾人かの味方の治療のためにマラリアの薬を回収すべく、説得によって引き入れた現地ソ連兵とともに、以前彼がパトロールしていた区域にあるサンヒエロニモ半島のソ連基地の一角にある病院へと潜入していた。

 

あれ以降、未だ上陸を敢行してサンヒエロニモ基地を潰しながら進軍しているというアメリカ軍部隊を発見出来ないではいるものの、彼を含めた現地ソ連兵を味方に付けていき現在は分隊クラスまで味方を増やすことが出来た。

 

しかし新たな問題も発生していた。それがマラリアに感染し発症してしまったキャンベルだ。

 

彼がいつマラリアに感染したかは不明だが、マラリアは感染した場合即時的な致死に至る病気ではないものの、放っておけば衰弱していずれは死に至る。当然ながらスネークは彼を救うべく予防薬を投与したが、不幸にも彼が感染したマラリアは原虫が予防薬に耐性を持つ種類であった。

 

ここに潜入する前、スネークが始めにキャンベルと共に味方に引き入れたソ連兵に言っていた"主治医の先生"こと、パラメディックに指示を仰いでいた。

 

パラメディック────1963年のバーチャスミッション及びスネークイーター作戦において、ネイキッド・スネークのサバイバル・医療分野におけるサポートを務めた医師である。

 

スネークは彼女から原虫に聞く別の薬が必要だと言われ、現地をパトロールしていたソ連兵が薬が大量に運び込まれるのを見たという小さな病院に味方と共に潜入していたのだ。

 

またジーンに対抗する部隊を増やす上でも医療に知識を持つ兵士の勧誘が不可欠であったため、それも兼ねていた。

 

しかし探せど探せど薬は備蓄されておらず、ならば搬入記録を調べればと、今病院の院長室へと向かっていたのだ。

 

そこで、どうやら自分達より先に建物の2階にある院長室へと入っている謎の連中の声を味方が聞き付けたという訳である。

 

 

「よし、突入するぞ」

 

「いつでも、スネーク」

 

 

スネークは麻酔銃を構え、味方はAKMを手に扉前へと陣取る。

 

 

「今だ」

 

 

そしてスネークの合図で、扉を蹴破り室内へと突入した。

 

 

「動くな!」

 

 

突然のことに院長室にいた2人の覆面をした人間は驚くも、彼らも手にしていたM-16を即座に構えてスネークらを威圧する。

 

 

「何者だ!」

「敵か!」

 

「無駄な抵抗はやめろ」

「スネーク、足を撃ちますか?」

「撃つな。周りに響く」

 

 

互いに威圧し罵りが続くが、このままでは埒が開かないとスネークは話し合いに切り替えることにする。

 

 

「よし、お互い落ち着こうか。あんたらはソ連兵じゃないな。何者だ?」

 

「そちらから名乗れ」

 

「……スネークだ。ここへは医薬品を探しに来た」

 

「医薬品?」

 

「マラリアのだ。かなりの量がこの病院に搬入された筈だが、なかなか見当たらなくてな」

 

「お前たちもマラリアの薬を探しに来たのか?」

 

「ああ、そうだ。お前たちもか?」

 

「………」

 

 

相手は互いに顔を見合わせてから、銃を下ろす。そして覆面を外しながら彼らの内情を語りだした。

 

 

「我々はCIAの部隊だ。といっても、部隊というには僅かな人数だがな」

 

「CIA?」

 

「我々はゴースト・第4偵察隊。これでも一時はCIAお抱えの優秀な工作部隊だったんだがな……」

 

「CIA……ゴースト……まさかCIAの非合法工作暗殺部隊、ゴースト・カンパニーか?」

 

「……!?知っているのか、俺達を?」

 

「ああ、それで部隊が僅かとは一体?」

 

「こっちは、サンヒエロニモ半島で反乱を起こしたFOXの鎮圧のために来たんだ。数日前に島に部隊と装備を陸揚げしてから、かれこれ基地を3つほど潰しながら首謀者を探し回ってたんだが、先日、部隊の中からマラリア感染者が出た。手持ちの薬じゃ治療しようが無いんで、こうしてコソコソと家捜しさ」

 

「そうか、お前達が話に聞いたアメリカ軍の部隊だったのか。それで、仲間のためにマラリアの薬を探しにきたのか」

 

「ああ。だが見ての通り、スッカラカンだ。薬は影も形もなく消えている」

 

 

スネークは彼ら元ゴースト・カンパニーの部隊の話を聞くうちに、彼らを勧誘出来ないかと考え出した。

 

勧誘出来れば、その隊長以下上陸したという部隊丸ごとが味方に加わる。そうなれば一気に戦力が増え、戦術の幅も広がることになる。

 

 

「どうだ?お前たちの隊長を含めて、俺の部隊に合流して貰えないだろうか?俺達もお前達が探している反乱の首謀者に用がある」

 

「……そいつは隊長に聞かないといけないから、すぐに返事は出来ない。少し待ってくれ」

 

 

兵士はそうスネークに言うと、胸元の無線機を使って連絡を取り出した。

 

 

「私です、今病院に……そうです………そうですか……。いえ、今とある男から……そうです。首謀者の捕縛には協力すれば……相手はスネークと………分かりました、伝えます。隊長から許可が出た。我々と隊長はあんたらに合流する」

 

「ああ、ところでだがお前達の味方は今どこに居るんだ?必要なら迎えを行かせるが」

 

「いや、必要ない。先ほど隊長から連絡があった。マラリアにやられていた2人が、万が一薬が見つからなかった時に隊長に迷惑を掛けたくないと、命を絶ったらしい」

 

「……そうか」

 

「早まった真似だが……厄介な枷は取れた。隊長はこれから部隊を率いてあんたに合流する。使える頭数が減りはしたが、作戦中に被る被害想定の範囲内だから問題は無い」

 

「済まない。余計なことを聞いたな」

 

「大丈夫だ。さて、改めてだが、こんなモノがあった。どうやら薬の行き先らしい」

 

「資材搬出リスト……研究所行き?これは一体………ん?全員、隠れろ!」

 

 

彼らが差し出してきた書類に気になる単語を見つけたスネークは書類をよく見ようとしたが、外から響いてきた空気が唸るような音に気付くと、即座に指示を出して自身も窓の側へと張り付いた。

 

スネークについてきた現地ソ連兵は指示を受けて壁際に身を隠し、ゴースト・カンパニーの兵士達は既にドア付近に隠れつつ、万が一の脱出に備えていた。

 

 

(よく訓練されているな。動きに無駄が少ない。この分なら彼らの部隊も当てに出来るだろう)

 

 

兵士達の動きに感心しながらスネークは窓から顔を覗かせて音の主を探す。するとそこには、基地の上空を1機のハインドが通過しているところであった。

 

だがその動きは哨戒飛行にしては高速であり、また定期的なホバリングもしていない。恐らくは哨戒や偵察ではなく通常の目的地へ向けた飛行なのだろう。

 

 

(あのハインド、どこへ向かって………!?)

 

 

スネークは上空のハインドの行き先を見定めようと視線を向けていた。だが突然言い表せない妙な感覚が自分へと降り注いだ。

 

 

 

見られている……そんな雰囲気にスネークは直ぐ様身体を窓から離して壁に身を隠した。

 

 

 

(何だ、この感覚は?)

 

 

 

どうやらまだまだ厄介な事になりそうだと、スネークは不可解な感覚に対して思った。

 

 

「大丈夫か?」

 

「ああ、問題ない。だがあのハインドの行き先が気になるな。消えた大量の薬品に"研究所"という単語───何かあるな」

 

「そうか。ひとまず我々は一度原隊に戻る。数日後には隊長と一緒にあんたらのとこに合流する予定だ。連絡用に通信無線の周波数を合わせておこう」

 

「分かった」

 

「ではまた、BIGBOSS」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スネーク、あのアメリカ軍部隊だが……信用出来るのか?」

 

「さてな………信用は出来るが、信頼出来るかは分からんな」

 

 

解散した今のゴースト・カンパニーの裏は分からないが、スネークの知る本来のゴースト・カンパニーは様々な上層部の思惑が絡まって生まれた部隊だ。

 

 

大戦の悪夢の元凶を守護するべく創設された、悪魔の組織────

その組織から生まれた実力者揃いの精強かつ慈悲を知らない部隊────

そんな部隊から選び抜かれ、身体を弄られ、悪夢を振り撒くことを任務とした非人道的な実験の産物による兵士達────

 

 

彼らは足掻いて足掻いて、大戦を生き延びた。そして彼らを率いる存在は、平和を求めてスネークの師たるザ・ボスの口添えと共にアメリカに渡り、アメリカは野望のために彼らに武器と装備を与え、利用した。

 

そんな彼らが今、このサンヒエロニモにてどのような思惑から動いているのか分からない内は、信用は出来ても信頼は出来ないというのがスネークの内心であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………

 

…………………

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、病院にはマラリアの治療薬は無かった……ただの1瓶もだ」

 

「ああ、だが病院の院長室の記録によれば例の大量の薬品や医療用資材はその一切合財が運び出された。行き先は"研究所"………怪しいな」

 

「だが俺達はツいていた。ヘリの飛び去る先を確認して何人かを送ったところ、例の研究所を発見出来た。あそこは外部から見つかりにくい地形にある。何の手掛かりも無しに発見することはほぼ不可能だった」

 

「よし、ならば早速作戦開始と行こうか。俺はこれから研究所に潜入する。何があっても治療薬を探しだしてくるさ」

 

「頼むよ、スネーク。それと合流することになったというアメリカ軍部隊に関しては俺に任せてくれ。それなりの大所帯になるなら、来た連中に"はい、いらっしゃい"だけじゃ問題が起きる。作戦や指揮権限、装備・食い物の割り当てなんかで折衝をつける必要があるからな」

 

「ああ、そっちに関しては頼んだぞ。では出撃する」

 



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