やはり俺の青春ラブコメは間違っていたのだろう (未果南)
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この再会がもたらすものは
やはり俺の青春ラブコメは間違っていたのだろう


初作品です。誤字脱字や、変な表現などあるかもさしれませんがそれでも良ければ読んでいってください
追記「、」が多すぎて読みづらいとのことでしたので「…」に変更しました。多少は読みやすくなりましたかね?
更に更に追記
同じ題名のSSが既に存在していたので名前を少しばかり変更します。


ー本物が欲しいー

そんな風に願い青い春を過ごしていた俺はもういない。

本物なんてものは移ろいゆく季節の中でほんの一瞬だけ感じれるものでしかない

あの時本物を求めた俺は、俺の青春ラブコメは間違っていた

⭐⭐⭐

 

日本には有難いのかどうかはわからないが四季というものがある。

夏はリア充共が沸いてくるし暑いし嫌いだ

秋はリア充共が妙に動こうとするし嫌いだ

冬はリア充共が活発に動くし寒いし嫌いだ

 

では、春は?

春は別れと出会いの季節だという。

まぁ、大方「卒業シーズンだし入学シーズンだしこの言い方めっちゃ知的じゃね?ウェーイ」とか言ってた腐れリア充共が言い出した事だろう。

結論としてリア充が全ての元凶。

何それ、勇者は魔王とか倒す前にリア充を殲滅するべきじゃないの?

そんなことはさておき、春は別れと出会いの季節である。

それはこの社畜生活2年目に突入する俺ですら例外ではない…なんてことは無い。

春だろうが夏だろうが秋だろうが冬だろうがこちとら年中1人である。

やだ、1匹狼ってかっこいい!

 

朝、出勤してから上司に集められ、珍しく朝礼なんてものがある会社。

お決まりの挨拶だの何だの形式だけの儀式が過ぎたあとのこと。

 

上司「今月から新しい仲間ができる」

 

新しい仲間ができるってなんだよ小学生かよ第1その人ホントに仲間なの?俺にとっては仲間じゃなくて隣人になるんじゃないの?

 

俺の疑問など気にもしないで、上司が新人を紹介していく。

窓際族みたいな現状に陥ってる俺には関係無いやとばかりにボーッとしておく。

しかし、この俺が働いているとはなぁ…。

しかも社内で孤立しても毎日律儀に来てるのだ。

やばい進歩だ。

何がやばいってそんな風になっても仕事しに出社する俺の社畜根性がヤバイ。

 

「は、始めまして。本日からお世話になる…」

 

社員の円陣から弾かれた俺の所からは声しか聞こえないが、随分とゆるふわりんな声である。俺ってばやっぱり円環の理から外れた存在だから…。それなんもいいことではないな。クレイジーサイコレズさんはお帰り下さい。

この声はアレだな。昔俺にいた最初で最後の後輩らしい後輩の…なんだっけあのあざといゆるふわビッチ。

まぁ、似たような人間はいくらでもいるしな。きっと他人の空似だろう。うん。なんか一色いろはって名乗った気がするがきっと気のせいだろう。だってここ千葉から遠いもんね。そんな偶然あるはずないものね。

 

上司「それでは一色の教育係は…」

 

教育係ってなんだろう僕には関係ない事ですね。下っ端でやっと仕事が分かるようになってきた奴にやらせる訳ないですよね。

 

上司「比企谷ー。そろそろ仕事にも慣れただろ。去年してもらったみたいに一色に教えてやれ。」

 

ですよね。

 

いや、しかし待て。去年みたいでいいなら取り敢えず放置して、質問に来た時だけ「あ、すまん今忙しい」って言っておけばいいのか。それならまぁ…と思いきや。

社内の男から何故か憎悪の目を向けられた。まぁ、一色いろはさんが、俺の知ってる一色いろはさんなら容姿は素晴らしいものね。まぁ中身はうん。しかし、ただてさえアレなのにこれ以上俺の場所を奪わないで下さい。

 

「え、比企谷って…」

 

人混みの向こうで困惑する声が聞こえる。僕も困惑してます

 

「あー、始めまして比企谷です。えーと、一色さん?これからよろしくね?」

 

取り敢えず牽制のジャブ。こいつなら言わんとすることが分かるはず…っ。これ以上社内で孤立したくないです。

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

祈りは通じた様だ。これでまだ俺が社内虐めを受けることは無いはずだ。でも、普段から社会とか会社とかにイジメられてるから結局変わりないね!

 

~朝礼終了後〜

「先輩じゃないですか。ここで働いてたんですね!」

 

うん、知ってた。朝礼中に知り合いだからって話しかけては来ないよね。

 

「ていうか、働いてたんですね!」

 

「まあな。あー、これからお前の教育係をやる訳だが。」

 

「よろしくお願いしますねー。あ、なるべく面倒なことはしたくないです。」

 

「変わってねーなお前…。まぁ、いいや。困った事が有ったらキャピキャピしとけ。そしたら男性社員がすぐ駆け寄ってくるぞ。」

 

「ほほぅ。でも、先輩は?」

 

「あ?俺が教えれるわけないだろう。」

 

社内でも孤立気味なんですよ?

 

「あ」

 

急に口をポカンと開けてどしたの?可愛らしい開け方ですね。意識してやってんだろうなぁ…。

 

男性社員A「一色ちゃん?これから同じ社内で働く仲間としてよろしくねー?」

 

男性社員B「わかんないことがあったらなんでも聞いていいから!」

 

男性社員C「そうそう!ひ…ひ…ひ?ひゴニョゴニョはあんま宛になんないからさー」

 

おい、そこのお前俺の名前覚えてないだろ。

いや、まぁ俺も覚えてないんですけどね。

ヒキタニとか、呼ばれなくて良かったとおもいました。

 

「あー…」

 

ちょっと?コイツ変わってねーなって目でみないでくれる?

 

「わ、ありがとうございますぅー」

 

相も変わらずあざとい…流石いろはす!

 

「でも先輩も結構頼りになるとこあると思いますけどねー」

 

小首を傾げながら言う一色。

 

あざとい…

 

てか、何言ってくれてんの?

 

「え、先輩って…知り合いなの?」

 

「はい、同じ高校出身でしてー」

 

一色によってどんどん俺の立場が危うくなっていく。やめようよ、そういうの…。

 

「へー…」

 

チラッとこちらを見てくるんじゃない

 

「ですので、取り敢えずここに慣れるまでは先輩…比企谷先輩に聞きますー。」

 

え?

 

「あ、そ、そう?」

 

おい、こっちを睨むな、俺だってやだわ。男性社員三人組はすごすごと帰っていった。

 

「というわけで、先輩よろしくお願いします」

 

ちょこんと首を傾げて言ってくる。

あ、あざとすぎぃ!

 

「…仕方ねぇな。あ、でも次からは俺にヘイトが集まらないように気をつけてね?虐めいくない」

 

「了解ですっ☆」

 

…ちょっと可愛いじゃねーか

こうして一色いろはは再び俺の後輩となった。




読んでくださってありがとうございます。続けるつもりなのでこれからも読んでくださると有難いです。


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やはり一色は変わったようで変わらずにあざとい

2話です。原作の雰囲気をなるべく壊したくないと思ってるんですけどできてますかね…?誤字脱字変な表現があるかもしれません。


「俺は…本物が欲しい」

教室の中3人だけで構成された一つの小さな世界の中で、涙声で絞り出されたその言葉はどこへ向かったのだろうか…

⭐⭐⭐

「ーぃ?先輩ってばー」

ん?なんだ…

「先輩何寝てるんですかー?サボりですかー?」

「仕事は終わらせたから…」

そういう問題ではないが。しかし、会社に居るのに寝てたのか…。疲れてんのかしら

「はぁ…。先輩もう終わりですよねー?」

「え、終わりって何が、クビなの?俺。それとも人生が?」

「いや、仕事ですよー。もう帰るんですよね?」

なんだ仕事か、もうそんな時間か。家に帰れるのか…

「なんで急にキラキラしてるんです?」

「気にするな、それで何?俺帰りたいんだけど」

「これから歓迎会らしいんですよー。先輩も来ますよね?」

ほーん、歓迎会ね

「行くと思ってんの?」

「えー、折角再会したわけですしー。」

そう言われてもなぁ

「今寝てたのって結構マズイですよねー…」

耳元に口を寄せて囁かれる。

「お、お前…」

「えへっ☆」

あ、あざとい…

まぁ、言われた所でどうということはないのだが…、コイツにこんな風に言われると何故か逆らえなくなる。

高校の時もそうだ。あの時だって俺は自分で金を払っていたのに…。いや、あの時は一色がどうこうといった理由じゃなかったか…。あの時は…目の前にあの2人がいたから。

「せんぱーい?行くんですかぁ?行かないんですかー?」

「行くよ行きます行けばいいんだろ。」

「随分適当ですねー。ちゃんと来てくださいよー?」

「…おう」

社員全員で会社を出るというなかなかに珍しい出来事を経験し外に出る。しかし、まぁ案の定というか予想通りというか一色は男性社員に囲まれ、その後を機嫌悪そうな女性社員が続き、更にその後に俺が1人トボトボ歩いていくといった構図が出来上がっていた。あれれー?これ八幡君着いていく意味あるのかなー?帰りたいんですけど。今からお家に帰ってデレステやんないといけないんだけど、因みに担当は杏ちゃん。働かない全て者達に告ぐ!我々は選ばれし者であーるー。俺働いちゃってるよダメじゃん。

⭐⭐⭐

来たのはなんてことのない居酒屋。忘年会とか新年会とかもよくここでやる。俺は行ったことないけどな!で店に入って座敷に通された訳だが。上司陣は上座として残りの人員の席決めでグダグダと迷っていた。一色の隣に座りたい男性社員とその男性社員の狙ってる男の隣に座りたい女性社員。めんどくさいなー。因みに俺は妻子持ちの男性社員達と同じ所に纏まり席の、空いた所が、出来るのを待っていた。これはつまり俺も妻子持ちの勝ち組ってことには…なりませんよね知ってた。

「せーんぱいっ!一緒に座りましょう?」

悪魔来たる。やめてよぉ、これ以上俺を孤立させないでぇ。

「いや、俺はほら端の方にちまっと座っとくから。」

「えー、そう言わずに。教育係でしょー?」

「それもそうだな比企谷、お前は一色の隣に座っておけ。」と上司の言葉。

「はい…」

上司の言葉となると従わざるを得ず、俺も男性社員連中も大人しく席に着いた。こんなんでこの飲み会大丈夫なのかしら?

結論から言うと何もゆっくり出来なかった。一色の周りに来るは来るわ男性社員共。俺の席なんて始まってすぐに占領されてしまった。これが、俗に言う、お前の席ねーから状態か。上司連中はおっさん同士で飲み合ってるし妻子持ちとかの興味なさげな連中は固まって飲んでいる。俺はどこに行けばいいんだろぉ。とか思ってたら3人ほどの女性社員がこちらに来た。何、パシられるの?と思ったら案外優しい態度で横に座られた。学生の頃よりはマシとはいえ、勘違いしそうになるからあんま近くに座るのやめて下さい…。

 

「〇〇達本当にがっついててみっともないよねー」

「本当だよー。比企谷さんはー、その辺大人ですよねー?」

 

あ、なんだ愚痴言いたいだけね。

 

「高校同じだったんですよね?高校の時もあんな感じだったんですかー?」

 

あんな感じって調子のったとかそういう事ですかね。ふぇぇ、女性怖いよぉ。

 

「あー、まぁあんな感じでしたね。生徒会長やってたしいつも周りに誰かいたっていうか。」

 

男性だけじゃなかったけど。

 

「へー、生徒会長!比企谷さんもそういうのやってたんですかー?」

「いや、俺はそういうの苦手で…」

「あー、そんな感じしますねー」

「わかるー。目立たないタイプっていうかー」

 

あの俺に絡まないでくれます…?ほっといて欲しいんですけど。

 

「じゃあー、部活とかは?」

「文化系とか、」

「卓球部っぽい感じもしますねー」

 

なんでだよ卓球かっこいいだろ。しかし、部活か。頭を過ぎるのはあの教室。3人で、何をするでもなくただいただけの大切な、大切だった筈の光景。

 

「いや、特には入ってなかったですかね…」

「え?」

 

近くから声がしたので見ると一色が、固まっていた。

 

「っ!」

 

思わずしまったって、顔をしてしまった。

 

「あー…」

 

一色は何も言わずに男性社員の群れの中に戻っていった。

「すいません、ちょっとトイレへ行ってきます」

 

俺がそう言うと今まで俺たちのやり取りを見ていた女性社員3人は何も言わなかった。

別に聞かれたところでどうってことないじゃないか…。そう、こんな風に個室に引きこもって震えるほどのことじゃない。

⭐⭐⭐

俺はあの部活を、本物でなくなってしまった部活を認めたくなかった。だからさっきは部活に入っていなかったなんてウソをついた。

飲み会も、終わり上司陣と妻子持ちが帰って行く中、残ったメンバーは二次会について話しあっていた。

 

「俺はここで…」

 

男性社員は俺の声を聞くと機嫌良さげに

 

「そうか?じゃーまた明日な比ゴニョゴニョ」

 

名前を、覚えていないことなど今さら気にしない。

 

「えー、比企谷さん帰っちゃうんですかー?」

 

女性社員何人かが残念そうな声を挙げる。そんなに愚痴を言う相手がほしかったの?それともあれか、優しいアピールか?

 

「あ、もうこんな時間ですね私も帰ります。先輩送って行ってください」

 

一色がそうやって話掛けてきた。

 

「いや、二次会は?」

「そろそろ時間も時間なので帰ろうかなと」

「えー、一色ちゃん帰るのー?もうちょっといいじゃーん」

「すいません猫に餌をやらないと行けないので…また今度お誘い下さると嬉しいです」

「そっかーじゃあまた今度ねー。あ、てか、送ろうか?」

「いえー、悪いですし二次会楽しんで来てくださいー」

 

俺には悪くないんですかね。べつにいいけど。

 

「そっかー、じゃあねー、一色ちゃん」

 

俺に憎々しげな目を向けるな

 

「先輩行きましょう。」

「…おう」

 

一色と、歩いてその場を去る。だいぶ離れてから一色がこちらを向かないまま話しかけてきた。

 

「先輩さっき部活入ってないって、なんですか狙ってるんですか?あの人のこと。」

「ちげーよ…説明しづらいだろあの部活は」

「私、先輩は雪ノ下先輩とゆい先輩、奉仕部のことだけは嘘つかないと思ってました。」

「…」

 

何も言い返さなかった何も言いたくなかった。

 

「…先輩これから時間あります?」

「あ?お前猫に餌やるんだろ?」

「あんなの抜け出す言い訳に決まってるでしょう?」

「あ、そう」変わってねーなコイツも

「お酒飲んだ後ですしー〆行きましょー、あ、今ならラーメンでもいいですよ?」

 

そう言えば、最近行ってないなラーメン屋

 

「じゃあ、オススメの所にでも行くか…」

 

普段の俺なら絶対断っただろう。でも今の俺はラーメンでも食べたい気分だったのだ。

 

「え、」

「どうした。」

「偉く素直ですね…ハッ、もしかして久しぶりに会って私に惚れちゃいましたかすみません急に再開したばかりでまだ気持ちの整理がついてませんのでまだ無理ですごめんなさい」

「なんでだよ…お前が誘ったんだろ。てか、お前に振られるのも久しぶりだな…。行かないなら俺は帰るが」

「いえ、行きます行きたいです行きましょう」

「はいはいここの先行った所なんだ、はよ行くぞ」

「ムー…なんか適当じゃないですか?」

 

頬を膨らませるなあざといから。

この後滅茶苦茶ラーメン食べた。




読んで頂きありがとうございました。次の話はすぐに投稿という訳にはいきませんがなる早で書きますので待っててくれたら嬉しいです。


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ただただ比企谷八幡は独り苦悩する

デレマス知らない人はちょっとネタがわからないのかも知れません。強いて言うなら縦読みです。誤字脱字変な表現多々あるかも知れませんがその時はそっと感想に指摘コメを残してくださると幸いです。


一色を連れて俺が訪れたのはこの辺で唯一のチェーン店でないラーメン屋。なりたけのように脂コッテリではないもののなかなかの美味しさを誇るラーメン屋だ。

 

「おおー」

カウンターに座り注文をする

 

「豚骨細麺ハリガネで」

「ちょ、自分だけ決めないで下さいよぉ、何がオススメですか?」

「あー、そうだなここは何より豚骨が上手いんだが酒飲んだ後だと醤油もイケるな」

「じゃあ、私味噌ラーメンにしよっかなー」

「なんでオススメ聞いたんだよ…」

 

やめてね?人の意見聞くだけ聞いてガン無視するのやめてね?

 

「あはは、冗談ですよ先輩。私も豚骨にします。細麺で固さは普通で。」

 

おお、一色があの一色がラーメン屋に馴染んでいるだと…。まあ、それもそうか。俺が卒業してからだから何年だ?もう6年近く会ってないわけだからな。6年もあれば誰だって何だって変わるだろう。そう、どんな関係だって。頭では分かってる。理解してる筈なのに、なんで、どうして胸が締め付けられるのだろうか。どうして脳裏からあの夕暮れ時の教室が消えないのだろう。

 

「先輩はよくここに来るんですか?」

「ん、あ、ああ。最近は来てなかったから結構久しぶりだな」

 

一色に話しかけられ思考を中断する。

 

「そうなんですね、あれ?だとしたら先輩普段何食べてるんです?」

「いや、普通の食事だけど…」

 

別に俺だってラーメンしか食べないわけじゃないよ?

 

「自炊でもしてるんですか?」

「いや、外かコンビニ弁当だけど」

 

自炊とか面倒くさくてやってらんねーわ。

 

「…先輩って専業主婦志望なんじゃ」

「もう働いてる時点でお察しなんだよなぁ…」

 

随分昔の夢を持ち出してきたものだ。

 

「まあ、そうですよね…。普通に無理ですよね。」

「うるせーな…。そういうお前こそどうなんだよ編集者の男は捕まえたのか?」

 

俺は無理でした。

 

「あー、そんな話もしましたねー。懐かしい」

 

どこか遠い目をする一色。

 

「あの会社入ってきた時点でお察しですよね…」

「まぁ、そうだよな。そもそも編集者とかその辺でエンカウントするもんじゃないもんな。」

 

メタル〇ライムかっつーの。

 

「そうなんですよねー…。会ったら落とs…好きになって貰えるように努力するんですけどねぇ」

「お前今落とすって言いそうにならなかった?」

「やだなぁ、そんな訳ないですよー。先輩ったら酔ってるんじゃないですかぁ?」

 

本当に変わってないなコイツ…。

 

「バカ、俺は酒は強いんだよ。それにあんな所じゃ飲む気も起きん。」

「あー、宅飲みバンザイって感じですね先輩」

「その通りだけどなんでわかったんだよ…」

「先輩ですもん」

 

それだけで納得出来ちゃう、不思議☆

 

「お前はお前で滅茶苦茶注がれてたけど大丈夫なのか?」

 

男性社員ABCその他大勢に。

 

「見てたなら助けて下さいよ…」

「嫌だよ、お前も本気で嫌がってなかったし」

「まぁ、あのくらいなら別にって感じですねー。私もそこそこお酒強いですし。」

 

確かにコイツ強そうだなぁ。そんで酔ってもない冷静な頭で酔っちゃいましたぁとか言ってそう。

 

「なんか失礼なことかんがえてませんか?」

「気の所為木の精」

「うわ、寒」

 

本気でヒくのやめて貰えませんかね…

 

「はいお待ちどーさま」

「あ、来ましたね。伸びちゃう前に食べちゃいましょう」

「「いただきます」」

 

湯気がでているラーメンの皿に手を伸ばす。

 

「あっつ!?」

「あれ、大丈夫ですか先輩?コップ掴んで冷やしとくといいですよ」

「あー、ありがとう」

 

この年でラーメン食おうとして火傷とか恥ずかしいな…。

 

「その歳でラーメンで火傷って…プッ」

「おい、笑ったなお前この。お前がなんかで火傷したら全力で笑ってやるからな」

「先輩は私が小さいものでもケガしたらそんな余裕なく心配するでしょう?」

「…ノーコメント」

 

これもおにいちゃんスキルの賜物か。

あぁ、小町元気かなぁ…

 

「えへへ、そんな優しい先輩のままで変わらないことを祈ってますよ」

 

変わらないことを祈る…か。変わらないものなんてあるのだろうか…。

 

「先輩?ラーメン冷めちゃいますよ?」

「まだ、冷やしてんだよ…」

 

まただ。コイツといると、ついどーしょうもないことを考えでしまう。コイツもあの部室にいたからだろうか。

 

「そろそろ食べないと冷める前に伸びちゃうと思いますよ」

「それもそうだな。いただきます」誤魔化すように返事をして俺もラーメンをすする。

「うむ、相変わらずうまい」

「確かに美味しいですねーココ」

「だろ?」

「なんで先輩が自慢気なんですかね…」

 

自分のオススメの店褒められるとなんかテンション上がるよね。ソースは俺じゃない。だってオススメする人いねぇもん☆

 

「「ごちそうさまでした」」

 

2人して食べ終わり箸を置いた。

 

「食い終わったし、そろそろ帰るか」

「そーですね」いそいそと荷物をまとめる。

「お会計はまとめてで?」

「あ、いえ「まとめてで、大丈夫です」

「ありがとうございましたー」一色を遮って2人分払う。

「あ、ありがとうございます。」

「おう、気にすんな。入社祝いだ」

「え、あ。それならもっと高いとこ行けば良かった…」

 

お前は絶対そういうと思ったからな…。先に安く済まさせてもらった。

 

「ま、いいか。奢って貰ったことは確かですしね。素直にありがとうございますって言っておきます」

「小首を傾げるなあざとらしい」

「あざとらしいってなんですか!?」

「わざとらしいあざとい」

「うわ、寒」

 

またヒかれてしまった…。

 

「先輩今どこ住んでるんですかー?」

「会社のすぐ近くだな」

徒歩15分くらいか。

 

「へー、近すぎると会社から帰った気がしなくて嫌じゃないんですか?」

「俺も一年目のときはそう思ってたんだがな…。親父が絶対に会社の近くにしとけって言うもんだからな」

「先輩が素直に言う事聞いたんですか?」

「あぁ、向こうは社畜のプロだからな」言う事も聞くというものである。

「なんですか社畜のプロって…」

 

だがしかし、親父の言う事聞いといて良かったと思ったのはそれが初めてかもしれん。

 

「仕事したあとに遠くまで帰るのはすげーだるいぞ。残業の時とか最悪だな。家が遠いと下手すると帰れないなんてことにもなるらしいからな」

 

「え、なんですかその恐ろしい話。てかうちの会社にも残業とかあるんですか?」

 

なにを言ってるんだコイツは。

 

「今のご時世残業ない会社なんてよっぽど勝ち組な連中しか入れないだろ」

ソースは俺と親父。

「えぇ…残業とかやってられないんですけど…」

「うちはまだマシな方だぞ。残業代しっかりでるからな。」

「出ないのってそれタダのブラック会社なんじゃ…」

 

本当働くのってきついわ。でも八幡思うの。

働くって素敵

きっと流した汗は美しい

たくさんの夢があれば

くろうなんて

なんのその

いも

杏ちゃんはやっぱり神なんやなって。

 

「先輩またろくでもないこと考えてまんせか?」

「なんだよろくでもないことって…。お前はさっきの話からするに遠いんだろ?駅まででいいか?」

「あ、はい。ありがとうございますね」

「今の世の中物騒だからな、事件にでも巻き込まれたら大変だろ」

「え、それって私が心配だってことですか?ごめんなさい嬉しいですけど急に言われても対応出来ないしよく考えたら普通の事な気がしないでもないので無理ですごめんなさい」また、振られてしまった…。てかごめんなさい2回言わなかった?

「なんでだよ…。ほら行くぞ」

「あ、待って下さいよぉせんぱぁい!」

 

だからあざといんだって。

⭐⭐⭐

玄関の鍵を開けて家の中に入る。後ろ手に鍵を閉めながらカバンを放り投げる。疲れた…。普段行かない飲み会なんていったもんだから、体中バキバキである。こんな時はこれ!廊下に幾重にも重ねられたダンボールの中からマッ缶を取り出す。そのままレンジへgo。短い時間温めてレンジから取り出し蓋を開ける。

「ぶはぁー」

生き返る…。本当に奇跡の飲み物だなマッ缶。飲み干したマッ缶を流しの上に置いて服を洗濯機に叩き込み。ちゃっちゃか入浴を済ませる。シャワーを浴びていると一色と別れた時のことが脳裏に浮かび上がってくる。つい先ほどのことだからか、痛いほど鮮明に脳内再生される。

 

「先輩達になにがあったのかは今はまだ聞きません。でもいつか話てくださいね、先輩。私は正式に入部してたわけではないですけど、先輩たちの、奉仕部の後輩のつもりですから」

 

最後にウインクしてから一色はホームに消えていった。あざといなんて感想を、抱く暇もなかった。いつか…一色にも、俺たちの後輩にも話せる事ができるのだろうか。この下らない俺達の話なんかを。間違っていたのだろう俺達の青春の話を…。




読んでいただきありがとうございます。八幡は杏Pという設定ですが、作者は杏Pではないです。自分はアーニャユッキたくみんがメイン担当です。初SSRは杏ちゃんなのにね。次もいつ投稿できるかわかりませんがなるべく早めに頑張ります。


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ただそこには前と少し変わった日常が

最近コメントに対して返事をできることを知りました
色々あって疲れた…



一色の歓迎会の翌日出社すると二次会に行っていた連中が軒並みきつそうにしていた。まぁあれから更に飲みに行ったらそーなるわな。なんでリア充って後先考えずに楽しもうとするわけ?今ももう二度と次の日会社の時に飲み会なんて行かないとかなんとか言ってる奴がいるがその言葉1週間くらい前にも言ってなかったか?

「おはよう、比企谷」

「…え、あぁ。おはよう」

 

急に挨拶してくるなよ驚くだろ。しかも名前覚えてやがるし。

 

「昨日あの後一色ちゃんをしっかり送っていったんだろうな」

 

あぁ、なるほど憎々しい相手の名前くらいなら覚えるかもしれんな。しかし、ちゃん付けかよ…本当に社会人ですか?

 

「あぁ、普通に駅に送っていって帰ったよ」

 

その前にラーメン屋寄ったけど

 

「ならいいんだ。一色ちゃんはお前と高校が一緒だったらしいからな。知らない俺達と帰るより、見知っているお前の方がまだいいと思っただけなんだ。変な勘違いをするなよ」

 

なんだコイツ。凄まじい勘違い野郎だな…。別に今更勘違いなんてするものか。昨日はただ奉仕部のことについて聞きたかったから付いてきただけだろうよ。見知った俺のほうがいいからとかじゃない。

 

「言われなくてもわかってるよ」

「なら、いいんだ。」

 

そう言って同僚Aは帰って行った。

 

「おはよーございます」

 

噂をすればなんとやら。一色が出社してきた。

 

「おはよう一色ちゃん」

「あ、おはよーございます」

 

うわー、いろはす真顔ですよ。アレ完璧に眼中に無いって顔だな。

 

「せんぱぁい、おはようござますぅ」

 

と、こちらには笑顔で、言ってくる一色。…なんなの、勘違いしちゃうでしょほんとに。勘違いさせないでよねっ!

 

「おぉ、おはよう」

 

遠くで睨みつけてくる同僚A。俺のせいじゃぁないだろう…

その後昼休みになるまでは特に何事もなく平穏無事に過ごせていた。

 

「先輩この件なんですけど」

「あー、それな。それは部長の所に持って行ってくれ」

 

一色は思ったより真面目かつ優秀な新人だった。言ったことはすぐに片付けるし、何かする際は必ずこちらの確認を取る。当たり前の事のはずなんだが…。一色のイメージでは無かった。昨日から何度昔との違いを発見しただろうか。昔とは違うと言うことを俺もそろそろ慣れなきゃな。

 

「りょうかいですっ☆」

 

まぁ…あざといのは何も変わってないんですけどね。人の本質ってそう簡単には変わらないよね…。ソースは俺。

 

「ところで先輩もうすぐ昼休みな訳ですが、先輩は普段お昼どうしてるんですか?」

「適当に外飯だけど」

「後で連れてって下さい。」

「あ、それなら俺「さっきの仕事で聞きたいこともありますし…」

 

昼飯の話をしだしてすぐに話にはいろうとしてきた同僚Aが黙殺される。仕事の話となれば入って来づらいのだろう。すごすごと引き下がっていった。勿論俺は睨まれたが。俺が何したって言うんだ…。あとお前はそこまで一色に無視されて何したんだ。

 

「まぁ、仕事の話があるなら仕方ないな。」

「ですですっ」

「それじゃあ部長の所行ってこい。それ終わったら飯行くから」

「すぐに片付けてきますー!」

 

言うが早いか部長を探して社内を駆けていった。もっとおしとやかにね…。

⭐⭐⭐

「どこに行くんですか?」

「まぁ普通に定食屋とかそのへんだな。ラーメンは昨日食ったし。」

「そうですね、流石に2日連続ラーメンはちょっとキツイかもです。それにこの後仕事あることを考えるとニンニクも気になりますし」

「何気に昼飯ガッツリ食べる気なのね君」

 

眠くなるからオススメしないけどなぁ。

 

「昔CMで言ってたじゃないですか。たくさん食べる君が好き〜って」

 

懐かしいCMだな…でも個人的にはあれ続きがあると思うんだ。

 

「但し可愛い子に限る。」

「なら私は大丈夫ですね。」

「その返しは予想外だった…。」

「せんぱぁい、私可愛くありませんか?」

 

小首を傾げるな猫なで声をだすな上目遣いをするな惚れたらどうする。

 

「はいはい、あざといあざとい」

 

頬が赤くなってないか心配で仕方がない…。

 

「あれ先輩顔が…っ」

「あ、暑いな今日は」

「そ、そうですね暑いですねまだ春なのに」

 

二人して手で自分を扇ぎながら足早に店に入る。体が火照ってしかたない。自分で言って反応見て照れるとか反則だろ…っ

変な雰囲気になってしまった…。

 

「ご注文は?」

 

かつてこれほどまでに店員さんの来訪が嬉しかったことがあるだろうか、いやない。

 

「俺はA定食で」

「私は…私もA定食で」

「A定食2つですね、暫くお待ちください。」

 

店員さんが帰って行くとまた二人して黙り、変な雰囲気が形成されそうだったので無理矢理にでも話を繋げることにした。

 

「A定食で、良かったのか?」

「はいー、特に何がいいとかありませんでしたし、先輩と同じの選んでおけば外れないかなぁって」

 

コイツはまたそういうことを。今回は天然のようなのでよりタチが悪い。

 

「そうか、お前のことだから、せんぱぁい半分ずつにわけましょぅとか言うかとおもったわ。」

「うわ、キモ。もしかしなくてもそれ私の真似ですか?」

 

キモい…、キモいか。結構自信あったんだが。

 

「お、おう」

「金輪際二度としないで下さい。」

 

普段とは違うガチトーンで拒否られた…。そんなにダメなのん?

 

「分かった…」

 

その後は特になにもなく飯食って会社戻って仕事してその日は終わった。

 

「せんぱぁい、どこか食べに行きましょー」

 

終わったって言ったら終わったの!




次回は一色視点になる予定。5月序盤までには挙げたいと思ってるんでよろしくお願いします


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思わぬ幸運に巡り会う〜一色side〜

遅くなってすみません…。一色視点て予想以上に難しい…
番外編ということでちょっと普段と書き方変えてみました。こちらの方が良いという人はコメントお願いします(露骨なコメ稼ぎ)


「今日から新しい仲間が…」

 

なんだか小学生みたいな紹介をされた、私一色いろはも今日から社会人一年生。高校で生徒会長をして、先生ウケもそこそこ良かった私はそれなりの大学に推薦で進むことができた。あの時は先輩に生徒会長になるのを薦められて本当に良かったと改めて思ったものだ。あの先輩がどこに行ったかは私は知りません。結局私の初めてであろう恋はハッピーエンドもバッドエンドも迎えること無く終わってしまったのです。

……嘘です。凄く悲しくて先輩の入学した大学を目指そうと考えるくらいには未練タラタラでした。

 

…でも先輩は自分で言っていたように結構優秀だったようで途中から目指し始めた国公立であったにも関わらず1発で合格していて、ほとんど勉強してこなかった私は推薦で大学に行くしか無かった。あの時ほど勉強しなかったことを後悔したことは無い。ま、その甲斐あって大学では勉強頑張って千葉からは離れたものの、このそこそこ大きな会社に入れたのだけれど。余談だが高校卒業後私は誰とも付き合うとかアピールするとかをしたことは無い。偽物では我慢出来なくなってしまった私は先輩に責任を取って貰えることも無くこのまま枯れていくのかもしれない。

 

「それじゃあ教育係はもう慣れてきただろうし比企谷に…」

 

え、比企谷?

 

「…うす」

 

あれこの声本当に先輩?

 

「あー、初めまして一色さん?比企谷です。これからよろしくね?」

 

あ、この腐りきった目とじつはイケメン気味な顔は先輩だ。それにしても折角の後輩との再開にいくらなんでも冷たすぎやしないだろうか。それとも私の事なんかもう忘れてしまったのかな…。

 

(チラチラ)

 

あ、これ覚えてる。でもなんで…。ん?先輩周りを見てる。周りには…他の男性社員?あ…この人まだぼっちなんだ…。納得。でも、こんなどこにでもいそうな下心見え見えな男なんかに言い寄られたくないし。先輩に引っ付いていこうかな。高校の時みたいに。

 

嘘です。本当は私が先輩と一緒にいたいだけです。

 

私は運命なんて信じない…つもりだった。でも今回ばかりは運命の再会…なんて。ただの偶然だけど。そんな偶然を運命と思いたいくらいには今の私は浮かれていて。

 

「よろしくお願いします」

 

まあ、いくら知り合いだったからってこんな公の場では流石に言わないよね

 

⭐⭐⭐

あの後教育係の先輩に対してしっかり覚えてることと、軽くアピールをした後。普通に仕事していたら男性社員の3人組に話しかけられた。

 

「一色ちゃん今日歓迎会するつもりなんだけど大丈夫?」

「無理なら別の日変えるんだけど」

「急に言われても困るよねー?ここの会社そういう所あるからさー」

 

歓迎してくれるのは有難いですけど下心100%じゃ嬉しくないですやるのは確定なんですねそういう所ってどういう所ですか?などなど言いたいことは沢山あったがここは猫を被らないと。

 

「少し待ってくださいねー?確認しますのでー」

 

そう言うだけ言って返事を聞かずに先輩のところへ向かう。先輩の机に行くと先輩は眠りこけていた。

 

…入社初日で、よくわからないけどこれってダメなんじゃない?

 

「せーんぱいっ、起きてくださーい」

 

凄く小さな声で何度か呼びかけてみるも一向に起きる気配がない。

 

「ぅん…本物なんて…」

 

先輩がボソッと呟いた寝言に体が竦んだ。だって今本物なんてなかったのか…って言ったよね?考えてなかったけど雪ノ下先輩とか結衣先輩とはどうなったんだろう。さっきの感じからすると今は微妙なのかもしれないけど。でも、なにがあったのかな…。

わからないけど取り敢えず起こそう。

先輩の肩に手をかけて揺さぶるとやっと先輩は目覚めた。その後歓迎会のことなど話して会社の外に出る。

これからの社会人生活思ったよりかは楽しいのかもしれない

 




今回は短めです
もうちょっとだけ一色視点でやるつもりですのでお付き合い頂けたら幸いです


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冷めることのない恋心は~一色side~

一色視点その2です
今回の文体凄く書きずらかった…
慣れないことはするもんじゃないですね


「それで一色ちゃんはさー?」

 

「えー、そんなことないと思いますよー?」

 

周りがガヤガヤとうるさい中、集まってくる男どもを適当にやり過ごしつつ先輩の様子を伺う。

うーん…、先輩と隣の席になれたまでは良かったんだけど上司の人達は飲み始めたら一切干渉して来ず、それをいいことに男達は私の周りに群がりそれを嫌った先輩は遠くへ座りなおしてしまった。

 

「比企谷さんはー」

 

あ、あの人達先輩と話してる。あの感じだと少し狙ってるのかな…

先輩は戸惑いながら話を聞いているようだ

 

だいぶん成長したんだなぁと感慨深く思う

昔はあんな風に女性が近づくと、どこかへ行っていたのに…。いや、そこまで酷くなかったか。雪ノ下先輩や結衣先輩はもちろん折本さんとかちょっと不良っぽい人とかあとはあの怖い雪ノ下先輩のお姉さんとか…

 

「あ、私少しお手洗いに…」

「じゃあ、俺も御一緒しよーかなー」

「「「ギャハハ、セクハラじゃねーかよー」」」

 

…取り敢えずこいつらはこれから先関わるのを控えたいところだ。

 

お手洗いに行くふりをして先輩の元へ近づいて行くと

 

「部活とかはー」

 

あ、部活の話してる…高校の時の私がどうだったかから派生した感じかな?これはいい機会だ。先輩達がどうなったか知るチャンス!先輩に近づいたのはチャラにしてあげますよ名も知らぬ女性社員さん

 

「俺は部活とかはー」

 

「え」

 

「え?」

 

先輩が振り返る。目と目が合う。今先輩なんて言った?聞き間違いじゃなければ部活はしてなかったって…

どういうことですか?先輩。先輩の本物はどうなっちゃったんですか?

 

「せんぱ「一色ちゃーん?」」

 

チッ。うるさいんですよクソ男どもが

今はそれどころじゃなくて先輩から奉仕部のことを聞き出して…聞き出して?それからどうしようというのだろう。私は奉仕部の正式な部員じゃない。そもそも先輩たちの間に何かあったとして口出しできる立場じゃない。

 

それに私、先輩が雪ノ下先輩や結衣先輩と何かあったって察して少し喜んでしまった。なんて汚い女だろうか。

 

先輩達に何があったのか知りたい。どうして先輩が自ら本物を否定するようになったかを知りたい。

 

「せんぱぁーい送って行ってください」

 

気づけば私は先輩にお願いしていた。あの頃みたいにあざとく猫なで声で。

 

高校の時みたいに振舞って

高校の時何時かデートした時みたいにラーメンを食べに行って

高校の時から変わらない先輩の優しさに触れながら変わった部分も感じつつ…

 

 

今は?

 

 

今の先輩はどうなの?私は?雪ノ下先輩は?結衣先輩は?

 

聞きたい、知りたい、解き明かしたい。

 

でも、今は聞いて欲しくなさそうな先輩の顔を見ていると聞き出すことも出来なくなった。

 

「今は聞かないでおいてあげます。でも…いつか教えてくださいね?」

 

嘘だ今すぐ聞きたい。でも、でも…っ

 

「…っ」

 

そんな切ない顔されたら聞き出せないじゃないですかぁ…

本当に先輩はずるいんですから…

 

むかしの古い終わった様な恋のはずだった。そう思ってた。でも…、私はやっぱり…

 

 

先輩の事が好きでたまらないのだろう




学生しかも受験生なので投稿ペースは落ちるやもしれません
完結させる気ではありますので待ってくださると幸いです


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なんだかんだ比企谷八幡はチョロいし一色は残念である

なんか筆がのったから早く書き終わった…
お気に入り件数が70って多いのか少ないのか…
お気に入りしてくださった方ありがとうございます


「一色ちゃん、飲みに行くなら俺達と行かない?」

「そうそう、比企谷なんかよりよっぽど面白くできるよ」

「それな」

見苦しく一色を飲みに誘う男3人

「えーと…」

 

チラリとこちらに目線を向ける一色だが正直自業自得なので頑張ってって感じである。

事の発端は一色が俺のことを飲みに誘ったことに起因する。

声が大きいからすーぐほかの奴らにバレて俺が睨まれて一色が囲まれたわけだ。

連日飲みに行くとかきついから八幡君は帰りたいんですよ。

こっそりと抜け出して帰り支度をはじめる。

帰って溜まったアニメ消費しなくちゃいけないんだ。

 

「失礼しまーす」

 

会社を出る際に一言挨拶これ基本。

後ろの方で一色の驚く声が聞こえたが無視だ無視。

道にでて、帰路につく前にふと立ち止まる。このまま放っておいても一色なら問題はないだろう。しかし万が一あいつらが酔って一色がなんてことは…ないだろう。たぶん、きっと、うん。

………待っててやるか。

暫くの間外で一人待っていると暇で仕方ない。流石に外で音ゲーするのもなぁ…

適当にスマホ見ながら時間を潰していると先輩が出てきて俺を見て驚いていた。

 

彼女持ち社員D「あれ?比企谷ちょっと前に帰らなかったか?」

 

俺の名前覚えてくれてるとかこの人いい人だな。俺は覚えてないけど。

 

「あー…ちょっと用事がありまして」

 

一色を待っているとは口が裂けても言えないので適当にお茶を濁す。

彼女持ち社員D(以下D)

 

「あー…一色さん待ちか。Aがなんか熱心だもんな…。アイツももうちょっと落ち着いて社会人になってくれんかなぁ。比企谷とは同期なんだよな確か」

 

え、そうなの僕知らないんだけど。てかなんで一色だとバレてるんだ。…バレバレか

 

D「まぁ同期内でもお前と結構差をつけられて焦ってるんだろう」

 

焦った結果女に走るってそれ1番ダメなんじゃ…

 

D「まぁ、比企谷はいつも真面目に仕事してるからな…終わらせた後に暇だからといって船をこぐのは感心しないが」

「うっ、すいません…」

 

バレてたのか…

 

D「ま、仕事終わらせてるからいいけどな。」

 

その後少しこちらに身を寄せてから小さな声で話しかけてきた

 

D「ここだけの話お前に昇進の話も来てる。」

「え、本当ですか」

 

正直上司に媚びてないし派閥とか入ってないし昇進諦めてたんだけど…。てか入社2年目で昇進って早くない?なんか俺優秀みたい

 

 

D「お前変に上司に媚びたりしないし1人で黙々と仕事してるだろ。それを部長が気に入ってる。堅物だからなあの人」

 

ま、マジかよ。なんか虫が良すぎて怖いんだけど

 

D「ま、がんばれよ。その評価を覆さないようにな」

「がんばります」

 

Dさんは忘れ物とか言って1度社内に戻ってから帰っていった

なんか気分晴れやかだー

Dさんが帰った後暫くすると一色が出てきた。

 

「おう、あの3人はどうしたんだ」

「ひゃいっ?せ、先輩?なんでココに」

「待っててやったんだよ」

「ありがとうございます」

 

なんかゴニョゴニョとその後あざといだの何だの言っていた。

 

「あの3人ならDさんに仕事出されてましたよ結構多めなやつ」

 

…Dさん余計な気を回してくれちゃってまぁ…

イケメンかよ

 

「で、飯行くんだろ。どこ行くんだ」

「え、ご飯行くんですか?」

「お前が言ったんだろ…」

 

社交辞令だったってことですか?

 

「いや、先輩付いてきてくれるとか思ってませんでしたし…」

「行かないなら帰るぞ」

「あー、嘘です嘘です行きます行きましょう」

⭐⭐⭐

「うへへ、せんぱぁーい」

 

一色が背中にのしかかってくる

 

「お前酒強いんじゃなかったのかよ…」

「はいー?へんぱいが強すぎなんですよー。それに今なら安心して飲めますしー」

 

ちょっと?急に寄り添ってこないでね?いい匂いとかしちゃって心ぴょんぴょんしちゃうから。ぴょんぴょんしちゃうのかよ

 

「あーもうしょうがねぇな」

 

一色に肩を貸しながら居酒屋を出る。結局ここも俺の奢りじゃねぇか…。いや、別にいいけどさ

 

「うへ、せんぱーい。私うれひかったんですよぉ?」

 

呂律回ってねぇなコイツ

 

「あー、そうかそうか良かったな」

 

酔っ払いとはなんでこんなめんどくさいのかね

 

「またせんぱいとあえたし、こうやって仲良くもできてますしー」

 

うっ、普段と違って素だコイツ…

こういう時のこいつの破壊力はやばい

 

「っ、そうか。」

「でも、せんぱいはなんか奉仕部のことで悩んでますしー?それを聞けない私の身にもなってくださいよぉ。私は聞きたくてしかたないんですからねぇ」

 

…コイツは。

俺のこの後輩は。

なんて…。なんて…

 

 

 

 

残念なんだ。

 

いや、めちゃくちゃいいこと言ってんだよ?でもさ、言ってる本人が話しかけてるのがどう見ても肩貸してる俺とは反対の電柱みてんだもんよ…

 

「本当にお前は…」

 

ありがとな。こっちの事考えてくれて。言うのは照れくさくて口には出せないけど。俺は自分の後輩に深い感謝をした。

 

それはそうといい加減自分で歩いてくれませんかね?てか、コイツどこ住みか知らないし、どうすればいいの…?

 

??「あれは…」




次回は一色視点かなー
どうなるか分かんないけど
どうしよう小町SS読んでから小町を書きたくて仕方ないけど予定になかったから登場させる場所ない…
どうにか出したいですなー


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昔の様には行かないようで~一色side~

一色視点って本当に難しい…
ちょっと短めです

評価が付いてて「おっ」と思ったんですけど1とか3ばっかでなんかガックシ…。がんばるぞい!


目が覚めると知らない天井だった。

 

 

…え?

 

ここどこ?知らない布団で私は寝ている。この匂いどこかで嗅いだような…。でもいい匂いかも。

 

身を起こしてあたりを見回すも本当に見覚えの無い景色だ。

 

「えぇー…」

 

途方に暮れているとすぐ横のソファーで何かがもぞもぞと動いた。少しビクッとしつつも私はスーツの上着だけを被ったソレを見た。

 

先輩だった。

 

 

 

そっかー先輩かぁ…

 

 

 

先輩!?

 

 

 

え!?え!?どゆこと!?

 

頭の中は混乱状態に陥りよく分からなくなる。

えと…昨日は先輩と飲んで…

そこからの記憶がまるで無い…。

 

あれ、これもしかして…。私お持ち帰りされちゃった?

ふぅーそういうことかぁ…

 

 

 

 

!?!?!?!?!?!?

 

 

え!?私昨日先輩と…その…したの?

 

いや、でも服は変わってないし…。

ていうか先輩が酔っ払った人に手を出したりはしないか。

…しないよね?

いや、別にもし仮にしてしまったとしても問題は無いんだ。私先輩のこと好きだし。いや、問題しかないわ。うん。

それよりも何よりも、もし、そういうことをしていた場合。私は初体験が一切の記憶ナシととなるわけだ。なんか嫌だ。

 

時計を見るとそろそろ6時くらいだった

 

「せ、せんぱーい?起きないと遅刻しちゃいますよー?」

「今日は休みだから問題ないし…もう少し寝かせてくれ…一色

 

ん?一色?」

 

「えーと、先輩は休みでも私は仕事なんですけど」

「なんでお前がここに…いや、思い出した。」

「あのー、私と先輩は昨日、その、そういうことをしたんですか?」

「ばっ…な、なわけないだろ!?」

 

そんなに嫌そうな顔しなくてもいいのに。むぅ

 

「馬鹿なこと言ってないで準備しろ。仕事なんだろ?今日。」

「はい、先輩は有給取ったんですか?」

「有給消化しないといけないからな。まぁ、有給消化無くても取るけどな働きたくないし」

「デスヨネー」

「飯を作るだけの材料がないから、飯はコンビニでも寄って食え」

「了解でーす…。てかお風呂…。借りていいですかね?」

「別に構わないが…、シャワーにしとけよ」

「はーい、覗かないでくださいね?」

「はいはい、はよ行け」

 

 

その後私はシャワーを浴びて、先輩の家を出た。

しかし、先輩の家にお泊まりかー…。酔ってて記憶ないけど。

 

 

…っ(かぁっ///)

 

今になって恥ずかしさが襲ってくる。

そうだよ、よく考えたら。私初お泊まりじゃん…

先輩は、その。そういうことしようと思わなかったのかなぁ…。私魅力ないのかなぁ…

 

これ以上考えるといろいろ止まらなくなりそうだったので、思考を停止して会社に向かう。はぁ…

 

 

会社に着くと何故か女性社員からの目が厳しい。

あれ?もう何かやらかしたっけ?

女性社員E「一色さーん?ちょっといいかなー?」

 

全然良くないです。入社して数日でもうシメられるんですか私

ていうか、この人飲み会の時先輩と話してた人ですね

なんとなーく読めました。しかし、先輩も罪作りな男ですよねぇ

 

E「昨日さー、一色さん、比企谷さんと一緒にいなかったー?」

 

給湯室に連れていかれ、複数人の女性社員に囲まれました。…うぅ、怖いですよぉ

 

「居ましたけど…なんでですか?」

 

しかし、怯えていると相手に伝わればより酷い思いをするだろう。ここはグッと我慢だ…

 

「なんでも何も無いし?アンタちょっと可愛いからって調子に乗ってない?」

 

今どき物語の中でも見ないようなコテコテの新人イビリですね…

 

「いやー、先輩には高校の時にお世話になりまして…その時の思い出話と言いますか、地元の人がいないので先輩と話していると言いますか…」

 

昔の自分が見たら間違いなく驚くだろうな…。先輩も驚きそうだ。でも仕方ない。もう大人なのだ。社会人なのだ。耐え忍ぶ時だってある。

 

「比企谷さんさー、今昇進かかってる大事な時期らしいんだよねー。」

「え」

 

先輩昇進するんですね。おめでたい事です。それが聞けただけでも怖い思いをした甲斐が…ないですね。

 

「堅物の部長がいるじゃん?あの人に真面目な所気に入られてるらしいの」

 

いや、いるじゃんって言われても…入社したばかりだし

 

「今誰かと付き合ってるとか遊んでるとかあると不味いとおもうんだよねー」

「…っ」

 

確かにそうだ。堅物と言われるほど真面目な人なら色恋沙汰も気にするかもしれない。

 

「教えてくれてありがとうございます。これからは先輩に不用意に近づかないようにします…」

「わかればいいのよー。」

 

先輩の足引っ張りたくないしね…仕方ない。仕方ないよ。

 

この日から私は先輩に仕事以外で話しかけなくなった。

 

…仕方ない、よね

 




次回は一色が会社に行ったあとしっかりと目が覚めて冷静になった八幡の視点でお送りします


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やはり一色いろはもか弱い女の子である

すいませんでしたっ!!!
中間と部活の引退試合とで全く時間を取れませんでした…
しかもどちらもボロボロの結果で終わりやる気なくしてました…
相変わらず上達しない…
間違いなどありましたら遠慮なくご指摘ください
眠い中書いたので変なこと書いてる可能性があります…
最後があまりにも八幡らしくないのでちょっと訂正しました


「行ってきます」

 

そんなふうに言って一色が出ていった後。

 

 

布団でも干すかと布団に向き直る

そこで初めて気づいた。この布団さっきまで一色がねてたんじゃねーか。そもそもよく良く考えたら俺一色の隣で寝たの?嘘だろお前。

 

 

急に顔が熱くなっていく。

 

酔っていたとはいえ何やってんだ俺らは…

ま、まぁ何もしてないし?昨日のは一晩の過ちということで…

やだ、むしろいかがわしく聞こえちゃう!

 

…バカ言ってないで片付けるか

 

今日は用事もあることだし。

⭐⭐⭐

片付けを手早く済ませ食事をとる。冷蔵庫にろくなものが入っていないのでコンビニ弁当だ。

 

しかし、休日に1人でコンビニ弁当もそもそ食ってるとちょっと悲しくなるな…。

こんなこと考えるあたり俺も鈍ってしまった。まぁ、昔の俺って今より一層ひねくれてたからな…

 

風呂掃除でもするかと風呂場に行くと、明らかに使用済みの体を洗う用のタオルが放置されていた。

 

これは俺の家のもので俺が普段から使っているものである。よってやましいことなど何も無い

 

一色が使ったであろう俺のタオルを回収する

 

これで一色が体を…

 

はっ!?

 

俺は一体何を考えていた…?

煩悩退散、色即是空、小町、戸塚、空即是色

ふぅ…。煩悩は去った多分三つ目と四つ目が利いたんだろう。流石小町と戸塚である。

 

「しかし、あいつ片付けくらいしていけよ…」

 

手に取ったタオルをそのまま洗濯機にシューッチョーエキサイティンしてからソファに座る。

ふむ…ここで一色が寝ていったわけだが。

 

(ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ)

 

「ッ///、ッ///、ッ///」

 

あぁ…っ、何やってんだ俺はっ。なんであの時叩いてでも起こさなかったっ!何故ホテルにでも連れていかなかった!いや、ホテルに連れていくって言うと尚更悪く感じるな

 

などと、1人で誰かに言い訳しつつ床を転がり悶える。

こ、こんな時は上塗りするしかない!

 

説明しよう、上塗りとは過去の黒歴史を思い出すことにより、現在のことなどなんてことないと思うための必殺技である。上塗りした事象は新たなる黒歴史として有効活用される。有効活用されちゃうのかよ。なんてエコなんだ。

 

「よし、夕方まで暇だしデレステやろうそうしよう。」「アイドルマスターシンデレラガールズ」

「今日こそはフルコンしたいところだな…」

「ハタラカナイスベテノモノタチニツゲル!ワレワレハエラバレシモノデアール、ドヤ!」

 

その後指を忙しなく動かす音とシャンシャンいう音だけが鳴り響いた…

 

 

⭐⭐⭐

気づいたら2時になってた…。ソシャゲは時間食うなやっぱり

昼飯を食べるために外へ出る

サイゼはこの辺にないからな…

結局全国チェーンのハンバーガー屋に入る。今の玩具はプリティでキュアキュアな玩具だね!流石ハッピーになれるセットだ。やだ、まるで怪しいお薬みたい!

流石にこの年でハッピーセットなんぞ頼んだら不審者以外の何物でもないので、適当なものを選び席に着こうとした。

 

あれれー?おかしいぞー?

某死神少年のようになってしまった…。さっきまで空きに空いていたのにもう全て埋まっているだと…?持ち帰り用じゃないから家まで持って帰るの面倒なんですけど

 

右を向いてもリア充

 

左を向いてもリア充

 

マズイ、囲まれた!

そんな遊びは置いていおいて早く店を出よう。この際紙袋ぐらい持って歩こう。

 

…と、思った矢先。ドアのすぐ横で肩身が狭そうに1人で縮こまって座っている姿を見かけた。

 

「一色?」

「え、先輩?」

 

しまった、そのあまりにも似合わないその背中に思わず声をかけてしまった…。せっかくの休みなのに…。

ていうか普通に気まずいんですけど

 

「先輩がマックとか似合わないですね」

「お前もな」

 

いや、リア充ばかりな周りを見るといること自体は似合わないわけじゃないのか?

 

「どういう意味ですか、私だってマックくらい来ます」

「それなら、俺だって来ていいだろ…」

 

しかし、どうしたんだろう。今日はなんかあざとさが足りないな。こいつでも気まずいと思ったりすんのか

「先輩もお昼ですか?」

まずいな…。いつものこいつならここで先輩もいっしょにたべましょうとかいいかねん。八幡君は一刻も早くこのリア充空間から出たいのです。

 

「まぁ、そうかな」

「そうですか…、おやすみ楽しんでください」

 

…コイツ本当に一色?偽物だっりするの?いろはすじゃなくてサントリーの天然水だったりしない?

それとも、やっぱり気まずいのか?

 

「おう…」

じゃあなと続けて帰ろうとした。てか帰るつもりだった。

…楽しんでくださいとかいうならそんな泣きそうな顔で下向くなよ。後味悪い

 

「あー…、やっぱゴミ捨てるのめんどいからここで食べていくわ。相席いいか?」

「え…、あ、はい。別に構いませんけど…。」

「そっか、なら遠慮なく」

「ぅして…」

「ん?どうかしたか?」

「なんでもありません。」

「そうか。…一色。これは社畜の先輩として俺からのアドバイスなんだがな」

「はい?」

「気にしすぎんなよ。何があっても」

「…!はい。先輩は本当にあざといですよね」

「ばーか、お前ほどじゃねーよ。」

「先輩?」

「ん?」

「ありがとうございます」

「うむ、苦しゅうない」

「…なんですか、それ」

 

一色はクスクスと笑った。

 

不覚にも一色の笑顔にドキッとしてしまった…。

 

笑顔は大事だな…うん




次こそは早めに挙げれるよう頑張ります!
八幡オンリーはちょっと書きずらいかもなー
お読みいただきありがとうございます


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やはり比企谷小町はよく出来た妹である

前に指摘されていた一二三話あたりを読みやすくしました。読みやすくなった…よね?
気づいたらお気に入り件数が300超えそうになってた…
嬉しいことこの上ない
これからも頑張ります


「ありがとうございました先輩」

「特に何もしてないけどな」

「素直じゃないですねぇ」

「なんのことだか」

 

あの後、ハンバーガーを食べ終えた俺達は早々にあのリア充空間を抜け出していた。

そりゃそうだよ…。あの空間に長くいることは俺の身体に支障をきたす。

 

「あ…」

「ん?どうした?」

 

急に一色が立ち止まり下を向いたので気になり前を見ると同じ会社の女性社員達が歩いてくるところだった。

正直名前は覚えてないのだが向こうも俺の名前なんて覚えてないだろうし問題ないだろう。

 

「あれ?比企谷さんじゃないですかー?…それと一色さんも」

「っ…」

 

何故か一色が横で強ばった

アレか生意気だからってシめられたのか。いや、そんなわけないか。それにコイツだったら真っ向からたたきつぶしそうだ。いや、それはどちらかと言うと雪ノ下の方…

一色が来てからは昔のことをふとした瞬間に思い出してしまうから困ってしまう。まるで昔のようにやっていけるのではないかと錯覚してしまいそうになる。

 

「一色さん1人でご飯食べに行ったのかと思ったら比企谷さんと待ち合わせしてたんですねー?」

「こ、これはたまたま会って…」

 

マジでどうしたんだコイツ?相手側の視線には昔の相模のように見下す目も、値踏みする目でもないとおもうのだが…

まぁ女性には女性にしかわからんこともあるんだろう。

 

「もしかして…付き合ってるとか?」

「え?」

 

今なんつった?この人。俺と、一色が突き合ってる?フェンシングなんてしてませんけど?

俺と一色のどこをどう見ればリア充なんぞに見えるのか…

謎だ

 

「ち、違いますよー。先輩とは本当に高校の時の先輩後輩で…教育係と新人って言うか…」

「ふーん?だったら誤解されるようなことしない方がいいんじゃないー?ほら部長とか?堅物だしさー」

 

堅物だし、何なんだろうか。というか

「いや、多分あの人はそういうの気にしないと思うんですが…」

「え?」

「何でそんなこと言えるんですか?比企谷さん」

 

なんでって言われても…。言うわけにはいかない事情ってものが…

 

「いや、まぁ何となくですよ。何となく」

「えー?適当ー」

めちゃくちゃ笑われてんだけど…。しかし女性というのはなぜ群れるとうるさくなるのだろうか?姦しいという字を作った人は天才だと思う。

 

「あ、もうすぐ仕事の時間だー。一色さんも帰ろ?比企谷さんまた明日でーす」

 

そう言って一色を連れていこうとする女性社員の目は恐ろしくて。思わず心配そうに一色を見るが俯いている。

 

「あー、俺は」

「先輩、用事あるんですよね?急がなくて大丈夫ですか?」

「え?あ、ああ用事は6時半からなんだが確かに遅れると不味いからな。帰るとするか」

 

こちらを見た一色の目は先ほどとは違い、不敵な瞳だった。やはり一色は強い女の子であった。

 

…20超えた人に女の子って表現は正しいのか?平塚先生くらいなら1発で正しくないとわかるんだがな

 

「それでは先輩明日もしっかり教えて下さいねー?」

 

そう言うと一色と女性社員達は会社に戻って行った

 

…どういうことなんだろう

しかし、気にしたところで女性社員の問題に首を突っ込めるわけも無く。とりあえず今度一色に聞いてみるかと思いつつ不安なのでそういうのに詳しそうな人に聞きたいと思う。

 

「えー、『今のご時世に新入社員イビリなんてものが女の中には残ってたりするのか?』っと」

 

送信先はもちろん小町。俺がこんなこと聞けるのは昔から小町だけ…昔は由比ヶ浜もいたな。

小町も大学だろうからすぐに返信されることは無いだろうと1度家に帰る。

 

ピロロン♪

 

早っ。小町ちゃん返信はやいのは嬉しいんだけど、ちゃんと大学行ってるの?

 

『まだ学生の私に社会人のこと聞かれても困るんだけど…』

 

小町とは未だに仲は良い。しかし、小町の一人称は私になってしまった。それもそうだ。大学生の一人称が名前とかちょっとイタい。まぁ、小町は天使だから別に変じゃないと思うけどね!いや、やっぱ変だよ

 

下にスクロールすると続きがあった。

 

『社会人はどうか知らないけど学生だと普通だよー。それにしても急にどうしたの?』

 

え、普通なの?やだ怖い。

 

『ちょっと新しい後輩の教育係やっててな。』

『なるほど。お兄ちゃんに教育されるとはその人もさぞ屈辱だろうね』

打つの早っ。てか、その言い方はどこかの誰かを思い出すからやめて欲しい。昔みたいにポイントで言ってくれよ…。結局あのポイント溜まるだけ溜まって何もおきなかったんだけど?

 

などと思っていると小町から電話がかかってきた。

…マジでちゃんと大学行ってるの?アイツ

「お兄ちゃん会社でしっかりしてる?ちゃんとしたもの食べてる?」

「お前は俺の母ちゃんよりオカンしてるな」

 

家の母ちゃん、電話1本寄越さないんだけど?普通正月くらい帰ってこいって言うもんじゃないの?

 

「お父さんが帰ってこなくていいって言ってた」

「おのれクソ親父…」

「それで、どうなの?しっかりやってる?彼女できた?」

「現在の俺は毎日外食社畜マンだ。彼女?なにそれ美味しいの?」

「はぁ…、ごみぃちゃんはこれだから…」

 

ごめんね?お兄ちゃんそう簡単に変わらないと思うの

 

「まぁ、ごみぃちゃんはごみぃちゃんだし。それはともかくその新入社員の為に自分を省みない方法で解決するようなことしないでね?」

「そんなの高校の時に思い知ったよ…」

「本当に?雪ノ下先輩の時に後悔してたでしょ?」

「…」

 

急に出された雪ノ下の名前に言葉が詰まる

 

「心配すんな。自分のことを一番に考えるさ」

 

そう言いながら頭には一色の顔が思い浮かんでいた

 

⭐⭐⭐

それはともかく、今日の予定を消化しなければ…

会うのも話すのも別に構わないんだが…

いい女だってのも理解できるし。ただしつこいと言うかくどいと言うか…。まぁ、お世話にもなってるし仕方ないか…

 

俺は待ち合わせに間に合うために居酒屋へと向かった

 




初めていろはすと八幡以外の原作キャラが登場しました。声だけだけど。Aとか女性社員Eとかにも名前当てた方がわかりやすいのかも知れませんがあまりオリキャラ出したくないんですよね。名前あった方がわかりやすいとかなら適当に考えますのでその辺含めてご意見ありましたらコメントください


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社会って厳しいもの~一色side~

遅れてしまってすいません…
部活終わったら自由な時間増えると思ってたあの頃が懐かしい
ちょっと更新頻度は落ちますけどしっかり挙げていくつもりなので見捨てずに読んでくださると幸いです
あ、あとお気に入りが400を突破しました
ありがたやありがたや


会社で女性社員達に囲まれたあと。

普通に仕事をしていたいのにAとかBとかが鬱陶しく構って来るもので仕事進まなかった…。まだ新人で仕事が少ないことがせめてもの救いだろうか。それにDさんがそれとなく庇ってくれたし…

 

「ふぅ…」

 

知れずため息が出た。

昨日までは先輩の所に行けばA達もよっては来なかった。

今日先輩が休んだことで先輩の所に行かなければどうなるか分かってしまった。

しかも明日からも先輩の所に逃げることは出来ない。

 

先輩の昇進を邪魔するわけにはいかない。

先輩は入社2年くらいらしいのでこのまま行けばエリート街道も夢ではないのではないだろうか。

実際色恋如きで昇進が無くなるとは思えないが堅物な上司に付き合ってもいない男女が1晩過ごしたなどと知られたら…。

先輩の邪魔になるかもしれないような事は控えたかった。

 

昼休みに入ってから急いで会社を出る。

昼休みくらいA達に邪魔されず1人でゆっくりしたい。

 

そう思って出てきたはいいもののこの辺のお店なんて全然知らない。昨日連れて行って貰ったお店では会社から近すぎて安心できない。

 

結果、全国チェーンの有名なハンバーガーショップに落ち着いた。

 

中はそこまで混んでなかったのでさっさと注文を済ませ席につく。しかし、すぐに周りの席がカップルで埋め尽くされる。

 

うぅ…肩身が狭い

 

そんな風に思っていると

 

「一色?」

 

それは今日最も聞きたかった声で。でも一番聞こえては来ないだろう声で。

でもその一言だけで今日の疲労が取れた気がした。

 

「え、先輩?」

 

後ろを振り向くと凄くこの場に合ってない人がいた。

でもその人が一番会いたかった。

 

「先輩がマックとか似合わないですね」

「お前もな」

 

そんな軽口がすごく嬉しくて

 

「どういう意味ですか私だってマックくらい来ます」

「それなら俺だっておかしくないだろ…」

 

心に思ってないことばかり言って

 

「先輩もお昼ですか?」

「まぁ、そうだな」

 

本当は凄く話したい。女性社員に囲まれたことやA達のせいでとてもキツかったこと。それでも仕事頑張ったこと沢山沢山話したい。褒めてもらいたい。

 

でも…。ダメだ。先輩の邪魔になるのはダメだ

こんな所に堅物だという部長さんがいるとはおもえないけど。壁に耳あり障子に目ありという。

どこで誰が聞いてるかわからない

 

「そうですか。おやすみ楽しんでください」

 

先輩には関わらない。

自分本位で先輩に迷惑を掛けたくはない。

先輩の事が好きだからこそ、ここは先輩から離れなければいけない。

 

 

…先輩

 

今の自分はきっと酷い顔をしているだろう。

でも泣かない。例え目が腫れあがっても、真っ赤になっても、涙だけは零さない。

下を向いていれば先輩からは顔はみえないはずなのだから。

今涙を零してしまったら先輩にバレてしまう。

心優しい先輩のことだ。きっと私に関わってくれる。

だからこそ、涙だけはダメだ。

 

「あー…、やっぱゴミ捨てるのめんどいからここで食べていくわ。相席いいか?」

 

先輩は突然そんなことを言った。

え…

 

ダメダメダメ。

 

「え…、あ、はい。別に構いませんけど…。」

 

体は正直だった

 

今日1日新人の私に掛けられた負担は予想以上に大きくて。

 

「そっか、なら遠慮なく」

「ぅして…」

 

どうして先輩はそんなに優しいんですか?

そんなに優しくされたら離れづらいじゃないですか…

 

「ん?どうかしたか?」

 

キョトンとした顔で先輩が聞いてくる。

 

本当にこの人は…

 

「なんでもありません。」

「そうか。…一色。これは社畜の先輩として俺からのアドバイスなんだがな」

「はい?」

「気にしすぎんなよ。何があっても」

 

気づかれていないと思えるほど私は馬鹿じゃないつもりだけど。

例えうまく隠してもこの先輩は目ざとく私の変化に気づいてくれるだろう。

 

本当に…

 

私なんかよりよっぽどあざとい

 

「…!はい。先輩は本当にあざといですよね」

「ばーか、お前ほどじゃねーよ。」

「先輩?」

「ん?」

「ありがとうございます」

 

とても簡素で私が抱いている想いを表すには頼りないけれど

 

でも正直な、私の気持ち

 

「うむ、苦しゅうない」

「…なんですか、それ」

 

思わずクスクス笑うと先輩は気恥しそうに目をそらした。

 

あ、照れた。

 

『捻デレ』という言葉を思い出した。

 

⭐⭐⭐

 

その後帰り道で女性社員達とあったものの昔のようにのらりくらりとかわしつつ仕事に戻り、A達のウザい絡みにも我慢した。

1度先輩と会うだけでこんな頑張れるなんて私ってなんて単純なんだろう…

 

この年で恋する乙女とかちょっとイタい。とは思うものの実際相手が先輩じゃあ仕方ないか

 

仕事を終えて会社を出る。

 

「お疲れ様でした」

 

おっと、一言を忘れずに

 

「おや」

「あ、失礼します」

 

会社を出る際に男の人と一緒になった

確かこの人が堅物だって言う部長さん…だったよね

 

「会社には慣れたかい?」

「はい、教育係の比企谷先輩が私の高校の先輩でして」

 

ここで先輩後輩の仲だと言っておけば少しは誤魔化せるかもしれないと予防線を貼っておく

 

こうやって話しているとただの優しいおじさんって感じなんだけどなぁ…

でも私はこの人が仕事をしている所を1度見ている

目が違った。なんか死ぬ気というか殺す気というか

見ていて圧倒される感じだった

 

「そうか比企谷と…。アイツは私と同じで派閥とかを無視して結果を追い求めるタイプだからな…。君のような可愛い後輩がいたとは驚きだ」

「あはは…、ありがとうございます」

 

本当に先輩高評価なんですねー

確かにこんな人なら昼間に先輩が言ってたみたいに気にしなさそうではある

 

「おっと人を待たせているのでね、お疲れ」

「お疲れ様でした」

 

時計を見ると6時だった。適当にご飯買って帰るかな…

カバンの中を見ると財布が無かった。

 

え?

 

なんで?

昼の時はお金…

そう言えば先輩が奢ってくれたから私財布出してない。

 

えぇ…

 

どうすればいいのでしょう。

 




八幡視点で奢ったことについて書かれていないのは八幡が気にしていないからということで。さり気なく奢ったんです、きっと。
八幡視点と一色視点で場面に違いがある時はどこが2人にとって重要だったかということです
一色にとって女性社員と遭遇したのは大きくはあったけど、その後頑張れたのでその結果や原因の八幡との会話の方が重要だったということです。


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比企谷八幡は肝心なところを聞いていない

遅くなって申し訳ありません。言い訳させてもらうと、今回の話どこか納得出来なくて何度も書き直してたんです。
ちょっと諸事情により投稿ペースが落ちるやも知れません



居酒屋を出て空を見上げると思ったより綺麗な星空だった。

あぁ、清々しい気分だ。飲んだくれてなければ。

結局いつもの長話に付き合わされ、飲みに飲んだ挙げ句金だけ出して置いて帰っちまうんだから酷い話である。

 

今日は俺も飲みすぎたかもしれない。

べー、これは明日会社行けないわー。安静にしないといけないやつだわー。

まぁ、明日も会社行くんですけどね!

社畜化がどんどん進んでいるぅ!

 

今何時だろうかと携帯を取り出すと…

 

『着信7件 メール12件』

 

「…」

 

俺の携帯に着信…、メール?

嫌な予感しかしない。恐る恐るメールを開くと…

 

『すいません先輩、財布を無くしてしまったのでお金を貸して貰いたいのですが…』

 

一色からのそんなメールだった。

 

アイツは何やってるんだ…?

 

⭐⭐⭐

「んん…」

慣れ親しんだ自分の部屋なのになんだか落ち着かない。

それもこれも風呂場から聞こえてくる呑気な鼻歌の発信源のせいだ。

 

あの後他のメールも開いていくと家の前で待ってますだのなんだのと書いてあったので酔った体に鞭打って走って帰ったのである。

すると家のドアの前で体操座りして待っている一色が居た。

慌てて事情を聞くと何でも昼は俺に奢ってもらったせいで自分が財布を持ってないことに気づかなかったらしい。

財布自体は俺の家に落ちてはいたのだが、そもそも俺が居酒屋を出たのが1時半である。

家に帰りつき、財布を見つけた頃にはもう2時半を回っており、終電すらないという状況だった。

この辺にはホテルなどほとんどなく、あったとしても夜だけ営業してるそういうホテルなので泊めさせることも出来ず、俺と同じでこっちに単身来ている一色を俺の家に泊めるという選択を選ばざるを得なかった…

 

因みに俺は先に風呂を済ませている。

酒飲んで酔っ払っている時に全力疾走して尚且つ部屋の中を探し回ったのだ。

口から光り輝くブレスを出してしまったため、先に入らざるを得なかった。

ブレス吐けるとか俺まじでドラゴン

そのブレス絶対汚染とか腐食とかになるやつだわ。

 

「目も腐ってますしね」

「うお、あがったのか」

 

口に出してたのね、少し恥ずいんだけど。

 

「先輩お風呂ありがとうございました。それでは私はこれで」

「待て待て。泊まるアテもないのに帰らせれるかよ」

「…アテならありますから大丈夫です」

「バレバレな嘘を付くな。俺と同じ部屋が嫌なら俺は外で寝るから」

「…って訳じゃないですけど」

「なに?ハッキリ言ってくれないとわかんないんだけど?」

「先輩に何かする度胸なんて無いことを私は知ってますのでそれはいいんです。」

 

いや、確かにそんな度胸ないですけどね?昔言われた通りリスクマネジメントはしっかりしてるんだ。

でも悲しくなるのは何故だろう…

 

「なら、良いだろう。誰に見られる理由でもないし」

「そういう理由にもいかないんですよ…」

「理由があるなら明確に言わなきゃ、分からんぞ」

 

そう言うと一色は俯いてゴニョゴニョとなにか呟いた後こちらを見た。

 

「先輩に昇進の話が出てるって聞きました。」

「おぉ、俺もついこないだ知ったのによく知ってるな…」

「ここで、誤解される様なことになって先輩の邪魔をしたくないんです」

「いや、別に学校じゃあるまいし、恋愛禁止みたいなルールないよ?好きあってる同士なら祝われるくらいじゃないか?」

「え」

 

急に固まってどうしたのこの子…。

 

「…その、先輩は私とそういうゴニョゴニョ」

「え」

 

先ほど自分が言ったことを反芻してみるが、特に変なことも言ってましたわ。

 

「いや、そういう意味で言ったんじゃなくてな?」

 

どうすればいいんだこの雰囲気

 

「ま、まぁ、とにかくだな今回は泊まってけ。俺の昇進には特に関係しないって、多分。それに、もしこれで昇進やめになっても、そんなに困らん」

「えぇ…」

「昇進ってことはそれだけ責任も増えるってことだ。俺は気楽でいい」

「なんて適当な…」

 

失礼な…と思ったが俺は適当なやつでしたね

 

「はぁ、それじゃ泊まっていきますけど、私が可愛いからって襲わないでくださいね?」

「安心しろ、絶対ないから」

 

今ヘトヘトでそんな気力起きないから。

普段だったら襲っちゃうのかよ。やだ八幡君ったら野獣

 

「…むぅ」

「頬をふくらませるなあざとい」

 

そんな反応されると勘違いされちゃうからやめてくれます?

 

布団を敷き一色に寝るように指示する

 

俺はソファーで寝よう。

電気を消して横になると思ったより疲れていたらしくすぐにウトウトしてきた。

 

「先輩ー寝ましたか?」

一色が何ごとか話しかけてくるが俺にはよく聞こえない

「私はいつも○○○がよく○○○先輩のことが○○○ですよ」

 

何事か話してるようだがもう眠くて仕方がない俺は意識を手放した。

眠りにつく前に一色が俺のことを褒めていた気がしたが気の所為だろう。

 

まさかね…




何度も書き直しといてこれかよ…
作家力たったの5かゴミめ
八幡が飲んでたのは誰でしょうね、当ててみてください
他作者様のSS見てたら自分の書くのよりむずかしくなってくる…、でも見ちゃう面白いもの
次回も読んで頂けると幸いです


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昔から慣れている~一色side~

遅くなりました。本当に遅くなりました
すいません



んん…

 

先輩の家の前で1人悩む

 

どうすべきだろうかと何度も自分に問いかけた

しかし、答えは見えている。

私自身も分かっているし普通に嬉しいことではあるのだ。

ただ…今の状況が許さないと言うだけで

 

「ただお金を借りるだけ、ただお金を借りるだけ…」

 

1人でブツブツ呟いている私は傍から見たらただの変な人だ。

春先だし変な人が多いわねーみたいな反応される人だ

インターフォンに伸びる指先はぷるぷると震えていた。

 

怖い、何が怖いって先輩の顔見て自分が抑えきれる自信がなくて怖い

「えいっ」

 

勇気をだして指を前進させると、ピンポーンという間抜けな音が聞こえてくる

 

「すみません先輩財布落としたのでお金貸してくれませんか」

 

これだけ言ってお礼を言って帰るのだ

速きこと風の如しなのだ

 

「…」

 

しかし、決意に反して先輩の声も歩く音も聞こえはしない。

寝てるのかな?

時計を見ると7時前だった

ご飯を食べに行っているのかもしれない

 

『すいません先輩、財布を無くしてしまったのでお金を貸して貰いたいのですが…』っと

 

先輩にメールをして先輩のドアの前でぼーっと突っ立っていると今日1日の疲労がこみ上げてきた。

途中で先輩に会えて励まして貰ったとはいえ今日は本当にキツかった…。明日からも先輩に頼れるわけでは無いけど、教育係の先輩が入ればあのうるさい男どももすこしは静かになるだろう。

 

そんなことを考えながら携帯をポチポチ弄る

暇だしケータイ小説でも読もうかな

 

⭐⭐⭐

 

ふと、携帯に表示されている時間を見ると、もう日付が変わっていた。

 

えぇ…

 

これは先輩晩御飯じゃないですねー

 

何故か冷静な私が何してるんだろう…とか考えていると

息をハァハァ言わせて先輩が走ってきた

 

「先輩、この時間帯に息ハァハァさせて女性に迫る成人男性って相当アレですよ…?」

 

「うるさい黙れ自覚はある。ハァ…、お前財布ないなら昼の時に言えよ、金くらい貸してやるから」

 

「いえ、あの時は先輩に奢ってもらったので気づかなかったと言いますか…」

 

「ああ、そう…。交番とかは行ったのか?」

 

「一応行ってみたんですけど届いてなかったですねー、幸いなことに免許は持ってないしクレカとかの類も入ってないんですが」

 

「そうか、それは不幸中の幸いだな。家に忘れたって可能性はないのか?」

 

「どうでしょう…、わかりません」

 

「はぁ、開けるから少し待ってろ」

 

そう言って先輩は鍵を開けた。このままここで待っていようと思っていたのだが、

 

「とりあえずあがっとけ。見つからなくても最悪金貸してやるから」

 

まぁ、そうなりますよね

 

その後先輩はソファの下だとかいろいろ探してくれた。結果的に私が寝てた布団の中にくるまっていた。

なんでそんな所に…

 

その後、終電の時間も過ぎていて帰れない私にとりあえず入浴しろと言った数分後に吐いた先輩を介護しつつ、先輩がお風呂の間、私はどうやって帰るか、どこに泊まるか考えていた。

 

「おう、上がったから風呂入っていいぞ」

 

「あ、はい」

 

考えるのをやめてお風呂をいただくことにした。

朝にシャワーを浴びたのでお風呂の場所もタオルとかの場所も知っている。

…ていうか私朝先輩の家を出て、夜先輩の家にいるとかまるで同s…

やめようこれ以上はイケナイ

 

⭐⭐⭐

 

お風呂上がって先輩と泊まる泊まらないの談義を繰り返しちょっとばかり赤面した後。

私は先輩の布団で寝ていた

朝はバタバタしててそんな余裕なかったけど先輩のにおいに包まれて…これヤバイよ〜

 

「先輩寝ましたかー?」

 

返事はない

 

「私はいつも面倒見がよくて優しい先輩が大好きですよ」

 

…何言ってんだろ私

きっと今の私は顔真っ赤だ

 

⭐⭐⭐

「おい、起きろ」

 

「ふぇ?」

 

「お前は寝起きまであざといのか…?寝た振りしてないでさっさと起きろ」

 

「ふわぁ、おはようございます先輩。」

 

そういった後私は自分の身体をさわる。

先輩から借りたジャージは特に乱れていたりはしなかった。

 

「何してんの?」

 

「いえ、先輩が先に起きてイタズラしてたらどうしようかと…」

 

「するかバカ。アホな事言ってないで飯食え」

 

布団からゴソゴソ這い出て起き上がる。

 

んー…、本当に何もされてないなー。いや、先輩はそんなことする人じゃないけどさ。

 

「何もされてないってのもそれは何だかなぁ」

 

「あ?なんだって?」

 

「いえ、何でもないです」

 

先輩が用意してくれたという朝ごはんはコンビニパンだった。

 

「朝食用に買いだめしてるんですか?」

 

「いや、うん、いや、そうなんだ」

 

何か言いかけたようだったんだけど…

なんだろう

 

⭐⭐⭐

朝ごはんを食べ終わったあと、私は出社にはまだ早いが先に先輩のお宅をおいとました。

 

「一緒に出社するのは流石になあ…」

 

即バレるだろうし

少し早い時間とはいえ、会社には既に何人かいた。

…社畜、じゃなかった。社会人って大変だなぁ

そんなことを思っていたらEさんに給湯室に呼ばれた

 

「一色さんさー、私ら言ったよね」

 

今日は囲いこまれたりはしないようだ

それにしても、この言い方だと私が昨日どこに泊まっていたのか知ってるんじゃ

 

「私もこんなことしたくなんてないけどさー、部長に報告するね」

 

「でも、そんなことしたら比企谷先輩からの印象悪くなるんじゃ…」

 

この人先輩を狙ってたんじゃ

 

「は?あんなの本気で狙うわけないじゃん。顔は悪くないけどボソボソしてるし、目キモイし」

 

あー…

 

「ハッ」

 

「な!?」

 

なんだこんなのを私は怖がっていたのか。

高校の時に私が置いてきたものが残ってるようなかこんな女のどこが怖かったんだろう

 

三浦先輩の方が女王としては上だった

怒った雪ノ下先輩の方が威圧感があった

人に流されるのをやめていた結衣先輩の方が芯があった

 

…やはりというかなんというか私ってば高校生の時いい経験してたんだなぁ

あの時先輩と会ってなかったら私今でもこんなショボい女だったのかな

 

「なに?馬鹿にしてんのアンタ」

 

必死に自分を大きく見せようとしてホント

 

「バッカみたい」

 

「はぁ!?本当になんなのアンタ」

 

「あなた名前何だったか忘れましたけど、本当にくだらないですね」

 

にっこり笑って給湯室を出る

後ろから私の肩に手を伸ばす気配がする。

それがどうした

どうせアナタはこの小さな給湯室の中で女性社員の上に立っているだけ

そこが王国。そこから出てしまえば人目を気にして何も出来ない

私は知っている。

昔いくらでも相手にしてきた。

 

女の輪の中から外されるのなんて慣れている。

先輩には悪いけど、先輩ならきっとすぐに昇進できるはず…。

まだ昇進出来ないって決まったわけじゃないし。

 

そう思っていたら狙いすましたかのようなタイミングで先輩が出社して来た。

 

遠目に見ても腐ってる目

必要最低限整えただけの髪

そこそこ整っていてかっこいい顔

背中は面倒くさげに曲がっている。

 

私が好きな人はお世辞にもイケメンとは言い難い。

ボッチだし。

でも、私は飛び切りのいい男だと思う

優しいとかそんな言葉に出来るものだけじゃなくて暖かい何か

 

「おはよう一色」

 

いや、私みたいな可愛い娘に惚れられているんだからいい男に決まっていましたね。

なんて

 

「おはようございます先輩」

 

…取り敢えず昇進の件謝っておこう

 

 

 

 

 




もう少しで1章が終わります。今のままではタイトルの意味が謎過ぎますが後々タイトル関係してくる予定です。
これから受験終わるまでこんな遅いペースですが最後まで書きたいと思ってますのでお付き合い頂ければ幸いです


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やはり比企谷八幡は昔から脱却しきれてはいない。

朝背中が痛くて目が覚めた。

…ああ、2日連続ソファーで寝ればそんなことにもなるか

俺もまだまだ若いとはいえ腰とか気にした方がいいのかしらんと思いながら身を起こす。隣の布団には一色が寝ていた。

…泊めた俺が言うのもなんだけど男の部屋で熟睡するのはどうかと思う。昨日今日共に綺麗に寝入りやがって…

 

「まあ、気持ち良さそうな顔しちゃって…」

 

しかし、改めて見るとコイツ美人になったよなぁ。

昔から顔は良かったけど、今のコイツはなんというか大人の色香?というのだろうか、そんなものが感じられる。

まぁ、口開いたらそんなものはどこかに飛んでいくんですけどね

しかし、本当に美人だよなぁ…

具体的にどれだけ美人かって言うと隣で寝顔見てたらドキドキするのと共になんかイケナイ気分になってきちゃって襲った挙句通報されるレベル

通報されちゃうのかよ。

当たり前だったわ

実際に襲ったりするつもりなんて毛頭ないが女の寝顔をずっと見てるのも悪い気がしたのでコンビニにでも行くことにした。

 

やましいところなんて何もないんだからねっ!

 

★★★

 

コンビニでパンを買って帰ってきても、まだ一色は寝ていた。

まぁ、俺が早く起きすぎたんだけども。

しかし、そろそろ起こさないと不味い

 

「おい、起きろ」

 

「ふぇ?」

 

うわ、なんか可愛らしい声聞こえたぞ

「お前は寝起きまであざといのか…?寝た振りしてないでさっさと起きろ」

 

「ふわぁ、おはようございます先輩。」

 

そう言った一色は自分の体をさわったり見たりしている。

 

「何してんの?」

 

「いえ、先輩が先に起きてイタズラしてたらどうしようかと…」

 

「するかバカ。アホな事言ってないで飯食え」

 

今その手の冗談は本当にやめてもらいたい

 

頭の隅でチラリとだけでも襲うとかそんなことを考えたので少し慌ててしまった。

 

バカとかアホとか使いすぎぃ!

こんな下らないことを考えていたから一色の言葉を聞き逃してしまった。

 

「何もされてないってのもそれは何だかなぁ」

 

「あ?なんだって?」

 

「いえ、何でもないです」

 

その後、朝食のパンについて突っ込まれたが疚しいところなんてない。ないったらない。

 

⭐⭐⭐

 

流石に一緒に出社するのは不味いだろうと一色が言い張ったので一色を先に送り出すことにした。

昨日も言ったが気にしすぎだと思うんだよなぁ。

実際社内恋愛なんてしてる人見たことないがいい大人(一部若干名除く)なんだし。

…いや、別に俺が一色とどうこうなりたいとかじゃなきてな。

 

実際そんなことはない。あってはならない。あるはずがないのだ。

まるで成長していない自分に腹が立つ…ことも無い。最早ただ、ただ呆れるだけである。

そんな風に精一杯大人になった振りをしてる俺をどこかで笑っているもう一人の俺がいたような気がしたがきっと気のせいだろう。

 

俺別に千年パズル解いたわけじゃないしな

 

布団でも干すかと手をかけるがそこで思い出してしまった。

 

…この布団2日連続で一色が使ってんだよな。

 

いくらそういう感情がないと言っても、俺も24である。

そういう劣情を持っていない訳では無い。

少しだけならという思いが頭をよぎる。

いやいやいやいやいやいや。

何考えてんだよ。流石に不味いよ

頭を振って煩悩を遠ざける。

 

色即是空戸塚小町空即是色っと

 

布団を畳み適当に片付ける。

 

そろそろいい時間になったかな。俺も出勤と行きますかぁ…。

 

マジ社畜になってんな俺

 

⭐⭐⭐

出社して部屋に入るとすぐ一色が俺の方に向かってきた

やけに晴れ晴れとした顔をしているなと思っていたら、後ろに凄い形相のEさんがいた。

 

えぇ…昨日はビクビクしてたのに急にどうしたの。なんてことは思わない。まぁ、昨日よりは らしい 気がした。

 

「おはようございます先輩」

 

「おう、おはよう」

 

「それで、ちょっとばかりお話が…」

 

手招きされるので着いて外に出るといきなり頭を下げられた。

 

えっ何どういうことなの?

なんだろう仕事の失敗でもしたのだろうか

 

「すいません、先輩の昇進潰しちゃったかも知れません」

 

「はい?俺の昇進?」

 

急にどうしたの

俺はその後一色から事情を聞いた。…え、俺狙われてたの?そしてなんのリアクションを取るまもなくフられたの?

 

「えぇ…お前入社して数日でどんだけ濃い体験してんの…?」

 

「あ、そっか私まだ数日しかたってないんですよね入社して、じゃなくて。昇進潰しちゃったかもしれないんですよ?怒らないんですか?」

 

「いや昨日も言ったが俺は責任のない職の方が性にあってんだよ」

 

これ何気に自分で下っ端のがお似合いって言ってんだよね死にたい

 

「でも…」

 

「気にすんなって。そもそも部長はそんくらい気にしないって。」

 

「はぁ…?」

 

「それは気にしないでいいから仕事すんぞ。俺達社畜だからな。」

 

そう言って部屋に戻る。

その後は会社を出るまで凄く平和だった。

 

⭐⭐⭐

そう、会社を出るまでは。

 

「比企谷さー?教育係とはいえ一色ちゃんと距離近すぎない?」

 

「はぁ…、そっすかね」

 

Aに絡まれた。距離近過ぎとかちゃん付けしてるお前にいわれたくねぇよと言いたい。

 

「なんか昇進の話出てたらしいしさチョーシ乗ってない?あ、昇進はなくなったんだっけぇ?女の子に熱上げてるからそんなことなるんだよ。一色ちゃんも見る目ないよねぇ。まぁちょっとお馬鹿なところもかわいいけどさ。あの顔だったら大抵のことは許しちゃうよね。顔がいいと色々優遇されそうで羨ましいわー」

 

うーん頭にブーメラン刺さってますねぇ。

もう、ブーメラン刺さり過ぎて後頭部血だらけだよ多分

あとなんで皆して部長がそんなにお堅い人だと思ってるんだ。あの人擬態完璧かよ。

 

「はぁ、でなんか用ですかね?俺あなたみたいに暇じゃないんで帰りたいんですけど」

 

言ったあとに自分の声がトゲトゲしいことに気づいた

というかコイツあれだな。昔の俺みたいで嫌だな。俺はこんなに意識高い系ではなかったが

 

「一つ言っとくと一色は顔だけで優遇されてるわけじゃないぞ。アイツなりに努力してるし、お馬鹿でもない。」

そう、こいつは見た目とキャラ性だけ判断していた俺と似ている

アイツがバカとかないわ。あんな計算高い奴他にしらないぞ俺。

 

「な、なんだよ。急に。マジになっちゃってさぁ」

 

「お前みたいにヘラヘラしてて大して努力もしてないような人間がアイツのことを馬鹿にするんじゃねぇよ」

 

人を煽るだけ煽っておいて何かあったらマジになるなよと言う。愚かしい。一色はこんなヤツがバカにしていい奴ではない

 

「お疲れ様です。もうちょっと勤務態度見直した方がいいと思いますよ」

 

その後は振り返ることなく去った。

 

…我ながら何をアツくなっているのだろうか。

寝る前に悶えるパターンだなこれは。

しかし、まぁ言ったことに間違いがあるとは思わない。

努力している人間は報われなければならないし報われるべきだ。なんて昔みたいに青臭いことを抜かすつもりもないがまだ20代なので報われてほしいくらいには思ってしまうのだ。

昔もそうだが今のアイツはとても努力している。新入社員として出来ることの少ない中何とか役に立とうとしている。あんなやつがバカにされてはダメだろう。

 

そんな風に思っていたらピロリンと間抜けな音が響いた。

携帯を開けてみるとそこには一色からのメールが。

『先輩飲みに行きましょう☆!』

 

…今日もなのん?

 

 




お知らせが四つ程あります。
一つ目 私の志望大学の判定がA判定になりました。それで油断する訳では無いですが更新速度も少しだけ上がると思います。
二つ目 原作新刊出ちゃった…。いや嬉しいんですけどね?読んだ感じこの後の話と矛盾する所出てきちゃうなと。その辺り書くまでに上手い擦り合わせが出来なかったら違う世界線の俺ガイルということで行かせてもらいたいと考えています。ご理解よろしくお願いします。
三つ目 各話にサブタイつけました。サブタイつけることの方が本編考えるより難しい気がします。センスはないです。
四つ目 お気に入り登録が700超えました。本当にありがとうございます。お気に入りが増えるのを見ては書かなきゃという気分になるのでエタることもなくなるでしょう。これからもご支援よろしくお願いします
長文失礼しました。


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やはり一色いろはあざとい女である。

本編の前に少し場所を借りて謝罪を一つ。
前回の後書きに私事を挟んだことに対して謝罪したいと思います。
とあるコメントのお陰で自分が少しばかり舞い上がり過ぎていたことに気付けました。コメントしていただいた方ありがとうございました。
これからもご意見ありましたらなんでもコメントしてくださいできうる限り対応したいと思います。


居酒屋の前で一人手持ち無沙汰に待っていると、変な目で見られた。

どう見ても人待ちなんだからそんなに変なところは無いはずなのだが…。あ、俺の目が腐ってるからかな。

 

「はぁ…」

 

自分でも割と下らない事だと思いながらそろそろ梅雨に差し掛かろうとする湿った空の下スマホをのぞき込む。

約束していた時間からもうそろそろ1時間は経ちそうだ。

自分から誘っておいて連絡もせず遅れるとか何なのアイツ…。

とそこまで考えてこれが他の奴ならからかわれたとか考えることに思い至った。思わず笑いが零れそうになり、近づく客に不審な目を向けられた。

いつの間にかそこまで信用できるようになっているのかと呆れる

これは俺が成長したからなのか、それともただの慣れなのか。

どちらにせよ今は少しだけそのことが面白かった。

 

そんなことを思っていると道路の向こうで不安そうにこちらを見ている奴がいた。向こうからは俺が見えないのかしつこく探してる所を見ると俺が帰ってしまったのか疑っていそうだ。

仕方ないと思って位置をズレ適当に手を振ってやった。

するとすぐにコチラに気づいたようでパッと顔を輝かせる。

 

ちょっとその変化は卑怯過ぎませんかね…。

 

手をおおきく振りながらコチラに駆け寄って来る姿はさながら犬のようだ。

 

「せーんぱいっ」

 

そうして1時間も待った一色を迎えたのだった。

 

⭐⭐⭐

Aに絡まれた翌日。部長が出社してきた後、EさんとAが部長のデスクに向かっていくのを見た。

あれで俺の昇進なくなんねぇかな…。

実際昇進が確定した訳では無いし、確定したとしても断ることは可能なのである。

ただ、わざわざ2年目の俺を昇進させてくれるということは期待されているということで、普段期待なんてされない俺としてはちょっと張り切ってみたい気がしないでも無くもない。

いや、やっぱ面倒臭いわ。

しかし、部長にはお世話になって…お世話?まぁいい店に連れて行って貰ってるし…。酔っぱらった後奥さん呼ぶくらいなら安いものか。

なので、自分から断るというのは無しだ。

それでもなくなって欲しいとは思うのだが。

30分ほどしてAとEが戻ってきた。その青ざめた顔を見るに俺の昇進は潰れなかったのに加えて態度とかにたいして軽い忠告も出されたようだ。

そこに関してはちょっとばかりざまぁwwwwって感じで今日の飯が美味しくなりそうだ。

何だかんだ一色の件でムカついてはいたのだ。

 

「先輩何見てるんですか?」

 

「うん?なんでもない。ちょっと人の不幸を見て気分よくなってただけだから。」

 

「あの、流石にヒきます。ホントに性格悪いですね。」

 

「自分でもそう思う。」

 

「まぁ、私も今回の分は自業自得だと思いますし、先輩の昇進も消えてないようで気分いいですけどね。」

 

「しっかり見てんじゃねーか…」

 

なんで一回俺に聞いたの?わざわざ誤魔化した俺がなんか恥ずかしいじゃん。

 

「これで、心の仕えがとれたことですし今日も働きましょう。そして終わったら飲みに行きましょう。」

 

軽く伸びをしながら言うな。女性が伸びをするのってなんかドキドキしちゃうよね。

 

「え、あ、そうだな。」

 

「あれ?珍しいですね。飲みに行くの反対しないなんて」

 

しまった。よく聞かずに生返事するんじゃなかった。

 

「まぁ、たまにはな?」

 

今更やっぱ無しとか言えない程には嬉しそうだったので誤魔化しておいた。

 

⭐⭐⭐

「いやー、でも実際に昇進決まって良かったですねー。決まるまではちょっと不安だったんですよ。」

 

今日は俺の昇進が決まったということで飲みに行こうと言われ居酒屋に来ている。

そんな名目なしでもほとんど毎日飲みに来てるのだが。

おかげで金の浪費が早い早い。

 

「それにしても、もう2ヶ月ですよ?意外と昇進って時間かかるんですね。」

 

「あぁ、うちの会社は7月に昇進だからな、それまでに大体決めておいて一ヶ月前…つまり、今日だな。伝えられるんだ。」

 

「なるほど、それであんなに時間かかったんですね。」

 

「そういうことだ。」

 

あの後AもEもすっかりナリを潜め、平穏無事に2ヶ月過ぎた。んで今日部長直々に昇進をいい渡された。

 

「それじゃ先輩の昇進を祝って乾杯!」

 

「おう。ま、なんだ。ありがとよ」

 

実際、コイツが居なかったら昇進決まっても多分何もせず一人で普段通り過ごしていたであろう事を考えると少しは有難く思える程には俺だってもう大人だ。

 

「いえいえ、持つべきものは可愛い後輩ですよね?」

 

「あー、はいはい。カワイイカワイイ」

 

「すっごい適当なんですけど。」

 

「そういや、お前最近あざとさがナリを潜めたよな。」

 

「え?先輩相手に連発してても効果はないなぁと思いまして。」

 

そ、そう。なんか言外にお前なんて眼中にないって言われたみたいでショック。いや、別に一色相手にどうこうとかでもなければ、実際はもう俺に慣れたってことなんだろうけどさ。

そうであって欲しいと思うのは悲しき男の性である。

 

「あ、そうだ。先輩たまに部長と飲みに行ってるというのは聞いたんですけど、実際そういう時何話してるんです?」

 

「ん?あー…。あの人と飲みに行くとな俺は何も話さんぞ。あの人が延々と奥さんと娘さんの惚気をするだけ」

 

「え、あの部長がですか?」

 

「本当は会社でも言いたいらしいんだが、いつの間にか堅物とか言われてて今更言えないらしい。んでたまたま家族連れの所を俺が目撃してな。すっっっっげぇデレデレしてた。」

 

あの時の衝撃たるや。普段堅物とか言われている人がまぁ、顔をだらけさせて。別人かと思ったくらいだ。

 

「想像つかないんですけど…。まぁ、それで先輩には開き直って惚気を聞かせてくると。」

 

「まぁそういうことだな。ちなみに昇進についてはその辺りの私情は抜きだってよ」

 

「つまり先輩が優秀だってことですね!」

 

「おう、俺は優秀だからな。優秀すぎて気づかれないまである。」

 

これホント。俺の有能さに気づかないとかマジ損失大きいよ?2円くらい。すくねぇな。

 

「まぁ、部長さんとかには気づかれたんだし良かったですね。あ、もちろん私も知ってますよー」

 

「はいはいありがとう」

 

その後はたわいない雑談をしながらのんびりと酒を飲んだ。

 

⭐⭐⭐

店の外に出るともうすっかり暗くなっていた。まぁ明日は休みだから別にいいか。

一色はまだお会計をしている。

入社して最初の方はずっと奢っていたのだが途中から本人が自分で払うといいだしたのだ。

まぁ、流石に毎日は悪いですしと言っていた辺りやはり、しっかりしている。

 

「先輩ー。送っていってくださいねー。」

 

「はいはい」

 

こうして飲んだ後は駅に一色を送り届けるのも最早日課となりつつある。

 

今日の居酒屋は駅近くだから大した距離ではないが。

駅につくと一色は急に後ろを向いてカバンをゴソゴソと探り始めた。

え、どうしたの?また財布失くしたとか言わないだろうな。なんて思っていると一色が背中に手を回した状態で振り返る。何か持ってるみたいだが…?

 

「昇進おめでとうございます。先輩。」

 

そう言って紙袋を差し出される。

 

「えっと、え?これは?」

 

「鈍いですねぇ、お祝いの品ですよ。先輩1時間遅れてきたことに何も言わなかったから切り出すタイミングが掴めなかったんですよね。」

 

そりゃ仕事が遅れたのかな位にしか思ってなかったからな…。まさかそんなものを買いに行っていたとは。ここで遅れてきたことを今更咎める程俺も空気が読めない訳ではない。

 

「あぁ、なんだまぁありがとよ。」

 

「えへへっ」

 

うわ、なんだ今のはにかんだ感じ。今のは卑怯だろ…

 

「あざといのは辞めたんじゃなかったのか?」

 

「何言ってるんですか。連発しても意味が無いならここぞという時に決めるべきでしょう。」

 

「お前な…」

一色は全く変わらずあざといままだった。

 

「先輩私は全く変わってないとか思ってるでしょう?」

 

「え?」

 

「顔見たらわかりますよ。そしてそれに安心してます。」

 

確かに変わらないということに安心はしたような気がする。

 

「私だって変わることはあるんですよ?先輩が変わるってことに脅えていることはわかります。でも、変わらないなんてことないと思うんです」

 

口の中が乾いてカピカピになる。思わず息を呑む。

なんだこの感じ。

 

「先輩。私は先輩にとって今少しは大切なものになってきたという自信があります。ていうかこれだけ付き合ってきて少しも大切に思われてなかったら、流石にショックです」

 

なんだろう。もうそろそろ夏だというのに背中が冷たい。夏場にかく汗とは違う冷たい汗が背筋を通り過ぎていく。

 

やめろ。言うな。何を言われるか少しづつわかり始めて来ていた。出来ることなら分かりたくないのに。

 

「そろそろ先輩が高校のときに何があったのか教えては貰えませんか?私はそんなに頼りになりませんか?」

発せられた言葉が引き金になったかのように差しだされた紙袋を受け取ることも無く俺は振り返って逃げるかのように走り「逃げないでください!」

 

手を掴まれていた。

乱暴に振りほどこうとしてみるも俺の腕を握りしめた一色の手は離れることはなさそうだった。

 

「逃げないでくださいよ…。先輩はもう忘れてしまったかもしれませんけど、昔先輩が言った言葉です。私はその時はたまたま聞いただけでしたし、その時はまだあの二人の様に深く関わることはありませんでした。」

 

あの二人とは誰のことだ。そんなことは聞かなくても分かっている。今は唯この場から、いや一色の言葉から逃げたかった。

 

「先輩からしたらほじくり返して欲しくない過去なのかも知れません。でも私が知りたいということよりも今の先輩の在り方にどこか違和感を感じる私がいるんです。お願いです先輩。私だって先輩の様に本物が欲しいんです!」

 

本物。

 

それはいつだったかどこかの誰かが追い求めて、手にいれた気になって、実際は本の数瞬だけ輝いた悪しき青春の欠片。その断片。

 

「…本物なんてない。」

 

「え?」

 

「本物なんてこの世にはなかったんだ。俺があの間違いだらけだった下手糞なラブコメみたいな青春から学んだ絶対のことだ。本物なんてない。」

 

やはり。やはり俺の青春ラブコメはまちがっていたのだろう。

そんなことしか、本物はないなんてことしか俺には教えてくれなかった。

 

「わからないじゃないですか。高校生の時には無理でも大人になったら手に入るかもしれません。高校生の時の先輩が間違っていたなら。過去の失敗を活かすべきではないんですか?そんな簡単に諦めていては本物なんて手に入りません。」

 

「俺が簡単に諦めたってか?そんな訳「あります。」

 

力強い断定。

 

「だって一人で抱え込んで終わりでしょう?何故誰かに相談しないんですか。ここに一緒に考えようと言ってる人間がいるんです。話し合ってから諦めたって遅くはないでしょう。」

 

「話し合ったところで…」

 

「なんでそうやって決め付けるんですか。私だって…私だって先輩達の後輩なんですよ?一緒に考えることすら出来ないほどに私は頼りないですか?」

 

一色は頼りないか

ひたむきには努力し何かに追いつこうとするその様は誰かに似ている。

いざとなれば人の為に勇気を出せる生き方は誰かに似ている

 

そして、その無様に足掻く意思はいつの日かの捻くれ者に似ている。

 

気づけば一色は大粒の涙を零していた。

 

「すまん一色。」

 

その一言で一色は少し俯いてしまう。

早合点する所もいつかの捻くれ者に似ているようだ

 

「少しだけ話聞いてもらってもいいか?」

 

「…っ!も、勿論ですよ先輩」

 

そのグズグズの顔を腕で拭って見せた微笑みは

 

ひたむきで勇気があって無様に足掻ける。

それでいて誰に似たのでもない一色の顔だった

 

その顔を変わらないように見えて、しかしその実少しづつ変化している 『あざとい』 顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回で1部(?)は終わりです。次回からは過去編です。本当は今回の話を二つにわけて間にいろはす視点を挟んだ後に過去編に入る予定だったのですが今回の話を書いていて止め所が分からなくなったのでこうして一つにまとめました。今回は過去最長で過去最高に一気に書けた話でした。ここに一色視点をくっつけるのもなんだか蛇足に感じられたので止めました。
過去編では一色の出番が無くなってしまい他のキャラが出て来ますがそれはそれで楽しんでいただければ幸いです。


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過ち
ある日


遅くなってすみません…
何が次はすぐ出せると思いますだよ…。
今回の話はそもそも書きたくねぇなって話でした。じゃあ書くなよって話なんですけど。
一応長引いた分書き溜めしたので…。チョコチョコ直して1週間後くらいにあげます。
本当にすみませんでした。


その日の空はとても晴れていたらしい。

俺の中では勝手に雨が降っている様なイメージなのだが。

あの日、決定的なまでに俺達が間違いを認めてしまったしまったあの日。

それまで無様に縋り続けた『本物』が壊れてしまったあの日。

いっそ壊れるなら跡形もなく粉々に砕け散ってくれれば良かったのに。まだ修復可能なようで、継ぎ接ぎ合わせれば元通りになるんじゃないかと淡い期待を抱かせるように壊れた『本物』を俺はみっともなく縋って。その結果『本物』だったあの関係は途端に偽物に成り下がった。

 

⭐⭐⭐

家から通える大学に進学した俺は高校生活での経験を活かしてリア充になっているなんてことは勿論なく。

今までと変わることなくぼっちしていた。

そんなわけで大学でぼっちだから、毎週日曜日に暇があるのは当然であって。

そうなったら、今迄の如く3人で会うこともそんなに変な事ではない…と思う。

高校を卒業する際、俺達はある告白をした。

 

それは文字通り告白で。由比ヶ浜と雪ノ下は俺に…その、告白…をしてきた。

 

「ヒッキー。私はあの時始めて奉仕部に来た時はただヒッキーに謝ろうと思って来たんだ。それで、躊躇って謝ることも出来ないままにズルズルと奉仕部に入部して。そこで増す増すヒッキーの優しい所を見て。自分でもズルいなぁって思う。謝ることもなく、急にこんな告白…なんて。キモいとかいっつも言ってたし。比企谷八幡君あの日、サブレを助けてくれてありがとう。そしてそのせいで入院までさせちゃってごめんなさい。謝罪の後すぐに反省なんてホントにひどいと思うけど。それでもここしか言いたいこと言えないと思ったから。私はヒッキーが好き。付き合って欲しいと心の底から勘違いとか一時の気の迷いとかじゃなくて本心から思ってる。」

 

一息に言われたその言葉は、俺の愚かしい勘違いを叩きのめして、

 

 

「比企谷君、あなたには謝らなければいけない点がたくさんあるわ。あの日貴方をひいた車は私の家の車なのに。その事を今まで謝りもしないで、そのうえ貴方を罵倒したりして…。でも、その、甘えた言い方になるけれどアレは親しいから言い合える軽口のようなもので…。それにしても酷い物言いだったわね。ごめんなさい。あの日初めて対面した日、あとはいつだったかしらもう忘れてしまうくらいに前だけれど。あなたに友達になろうと言われて嬉しかった。でも私はそれだけでは嫌なの。虫のいい話だとはわかってる。あなたの彼女にはしてもらえないかしら?」

 

同じように一息に言われたその言葉は俺の望んでいた種類の言葉で。

 

俺は…

 

俺が無様にも硬直していると2人は顔を見合わせて笑った。

 

「反応ないとかすごくヒッキーっぽい。」

「ええ、無様な感じが彼らしいわ。」

 

「酷い言い草だな」

 

口の中が妙に乾いている。心臓は早鐘のように脈打っている。

 

「あら?間違いがあって?ぶざま谷くん?」

 

「ほんとにさー、こんな美人2人から告白されておいて。ねー?」

 

「俺は…。上手く言葉にできないけど、お前らのことはその。本物なのかもしれない、と思っている。だから、その余計に言及しづらいというか」

 

「ここで本物って断言しないのは凄いよ…」

 

「まぁ、どうせ決めきれないだろうとは話していたのだけどね。」

 

2人は仲良さげに笑っていた。

 

「なんだよ、俺がヘタレみたいな言い方して」

 

「あら、だったら今すぐどちらと付き合うのか教えて頂けるのかしら?」

 

「うっ、ぐ…」

 

喉の奥に言葉に詰まる。答えなんて出せない。俺にとって2人は…

 

「だから決めたの。これから私たちはヒッキーに選んで貰えるようにがんばる。」

 

「もちろんお互いに仲良くね。…まぁ絶対に負けるつもりはないのだけれど」

 

「ゆきのんがやる気だ!?で、でも私も負けないし!」

 

「あ、比企谷くんが両方をフると言うのなら潔く女二人で慰め合うわ」

 

女二人で慰め合うとかちょっとめくるめく百合の世界が見えるんですけど…。

俺は今しがた告白してくれた女の子2人に対して何を考えているんだ…

 

「…わるい。優柔不断な男で。」

 

「そこも含めて好きになったんだよ。ね?ゆきのん」

 

「え、ええまぁ。そう言えなくもないわね」

 

2人のそんな様子に少しばかり笑いがこぼれた。

 

⭐⭐⭐

 

そんな風にして今の関係が出来上がったわけだ。大学生となった俺は奉仕部のメンバーと少し変わった関係性の中を暮らしていた。

変わってしまったのはあの日。いや、きっともっと前からその前兆はあったのだろう。

愚かな俺が気づけなかっただけで。

 

「ゆきのん、今日も来ないね…」

その言葉は彼女を心の底から心配していて。

 

「…そうだな、メールしても返って来ないしな」

 

「何かあったんじゃないかな。アタシゆきのんのマンションに行ってみる」

 

「ああ、俺も行った方がいいか?」

 

「んーん、もしゆきのん風邪とかだったら悪いしアタシだけで行ってくるよ。」

 

「そうか、由比ヶ浜よろしくな。」

 

そう言って彼女と分かれて俺は帰宅しようとした。

なぜだか嫌な予感しかしない。

 

「こんにちは、比企谷くん」

 

自宅に、帰りついた俺の前には楽しげに手を振る陽乃さんがいた。

 

「…お久しぶりです。今日はどうされました?」

 

「またまたー、もう分かってるでしょ?比企谷君なら。」

 

そうやってニコニコ笑った後、恐ろしくなるほど美しい顔で陽乃さんは言った。

「そうやって気づかない振りしてる比企谷君にはもう飽きちゃったなーお姉さん」

 

「あ、飽きたなら俺に構わずどこかに行けばいいんじゃないですかね。」

 

「あら、つれない。でも比企谷君だって、もう気づいてるんじゃない?雪乃ちゃんが最近君と会わなくなった理由。」

 

「理由知ってるんですね…?」

 

「知ってるよー、他にも色々。例えば、君たちの関係性とか。」

 

何故だろう、この人と話していると辛い

「俺疲れてるので今日は失礼しますね。」

 

「おやおやぁー?雪乃ちゃんのこと聞かなくていいの?」

 

この人が口を開く度に体がこわばる

 

「それとも、もう気づいちゃってる?雪乃ちゃんが」

 

そこで陽乃さんは言葉を区切った。

 

聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない

 

「お嫁に行っちゃうってこと」

 

放たれたその言葉は俺が知ってしまっていたたことで

 

「お姉さんねぇ、これでも怒ってるの。また例のごとくなにも言わなかった雪乃ちゃんも悪いけど。ダラダラ長引かせた比企谷君に」

 

「なんで、雪乃ちゃんを選ばなかったの?なんて理不尽なことは言わない。なんでどちらかを選ばなかったの?そしたらもう少し変わっていたかもしれない。雪乃ちゃんはもう少し気持ちの整理が付けられたかもしれない。」

 

そんなこと言われても…なんて最低な言葉が口から出かける。それを遮るように陽乃さんは言う。

 

「それに…、これは私の間違った考えかもしれないけど…。比企谷君、雪乃ちゃん選ぶつもりだったでしょ?」

 

言われた見透かされた明かされてしまった。

 

「なんでそんなこと…。そんなことないですよ…。」

 

「ふーん…。もうつまらないや。比企谷君には飽きちゃった。」

 

底冷えするような声だった。

 

「雪乃ちゃんの式は明日〇〇教会で行われるよ。来たければ来るといいかもね。友 人代表として」

 

それだけ言うと陽乃さんは帰って行った。

 

家に帰るとなにも言わずに自室に引きこもった。

気づいてはいた。葉山のやつが俺に電話してきたからだ。俺は知っていたのだ。雪ノ下が家によって結婚させられそうになったことを。知った上でなにも知らないかのように過ごした。身勝手にも裏切られた気持ちでいっぱいだった。また俺はからかわれたのかと、そんなこと絶対にないと知っているくせに。

 

布団に顔を埋め暫くぼーっとした後。

俺は由比ヶ浜に電話をかけた。

 

「もしもし由比ヶ浜か?明日雪ノ下が〇〇教会で式を上げるらしい。そこに一緒に行こう」

 

「え、ヒッキーなんでそれ知っ」

 

俺は最後まで聞かずに電話を切った。

自分がしたことの意味も気づかずに。




こんなに時間かけといてこれかよ…と思われても仕方ないレベルです。
一応次と何話かで少しずつ補って行く予定です…。
奉仕部崩壊編とか正直書きたくないんです。今更ながらなんでこんなめんどくさい設定のSS始めたんでしょう自分。
こんな支離滅裂なうえ投稿頻度も遅い酷いSSでよければまた見てください…(震え声)


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やはり比企谷八幡は間違っていた。

俺は雪ノ下が好きだった。

その生き方に物事への取り組み方に憧れたこともある。

俺が憧れていたのはただの上面だけではあったが、その後あいつのことをしっかり知ったあとでも、アイツの弱い面負けず嫌いな面

 

 

そして醜い面。

 

 

全て含めて好きだった。

由比ヶ浜が俺に好意を抱いてくれていることは分かっている。ただ、俺は誰も傷つけたくないなんて思って逃げていた。

 

その考えが何より2人を傷つけるのに。

自分を犠牲にしてこの3人の仲を守っている気分になっていた。

そんなことで壊れるような仲ではなかったのに。

守られていたのは俺なのに。

 

唾棄すべき停滞と卑怯。

 

それは俺が嫌ったものであったはずなのに。

 

⭐⭐⭐

〇〇教会に由比ヶ浜と訪れて、雪ノ下に会いに行った。

 

「…姉さんに聞いたの?」

「ああ」

 

嘘だ。葉山から少し前に聞いていた。

 

「ゆきのん!なんで黙ってたの!?」

「由比ヶ浜さん…。ごめんなさいね、私にはどうにもできなくて」

「そんな…、今からどこかに逃げよう?どこか…どこでもいいから!」

 

無理だ俺たちにそんな力はない。

 

「雪ノ下…。」

俺は…1番間違ったと分かりきっている選択肢を選んだ。

「お前も、俺を裏切ったのか」

 

言った。心臓が砕け散りそうだ。

 

「…あまり馬鹿にしないでくれるかしら?あなたがそんな風に言うことで私の心が楽になるとでも?自惚れないで。そして、そんなやり方もう二度としないでと言ったはずよ」

 

俺はどこまでも愚かだった。この期に及んでまだ自分がどうこうできると、どうにかするなどと…

 

「さよなら比k…八幡。もう会うことも無いでしょう。」

 

「ゆ、ゆきのん?ヒッキー?」

 

「ごめんなさい由比ヶ浜さん。今回のことは私が何も言わなかったことが全て悪いわ。2人は何も悪くない。」

 

「そんな…、こと」

 

「あなたと友達で良かったわ。さよなら結衣さん」

 

「ゆきの「はいはーい。二人とも〜?結婚前の新婦の所に他人があまり長居するものじゃないよ〜?」」

 

「陽乃さん…」

「そこで固まってる男を連れて出て行って?」

「でも…。いえ、お邪魔しました。行くよヒッキー」

 

由比ヶ浜に手を引かれ部屋を出る。

「ごめんね由比ヶ浜ちゃん。今回1番の被害者はあなたかもね。」

 

「いえ、私も同罪ですので。」

 

⭐⭐⭐

「比企谷…。」

外に出ると葉山がすぐそこにいた。

 

「葉山か」

「ちょっと話がある。こっちに来い。」

 

言われるがままについて行くとちょっとした空き部屋に連れていかれた。

 

「歯を食いしばれ比企谷。」

 

言われるが早いが顔に衝撃が走った。

 

「俺はお前に教えたはずだ。何故答えを出さなかった。いや、答えは出ていただろう君なら。何故雪乃ちゃんを選ばなかった」

 

声を荒らげるでもなく淡々と言ってくる。

 

「そんなに言うんだったら。お前が雪ノ下を攫えでもすればいいだろ。」

 

「君だってわかっているだろう。俺じゃダメなんだよ、彼女が好いているのは君なんだから。比企谷、俺は君が嫌いだった。だが今は嫌いを通り越して憎んですらいる。」

 

「別に構わねーよ。俺だってお前が嫌いだし自分も嫌いだ。」

 

「そうか、じゃあなヒキタニ」

 

⭐⭐⭐

「由比ヶ浜悪い待たせたな。」

「ううん、別にいいよ」

 

由比ヶ浜は俺の顔を見ても何か言うことは無かった。顔は多分腫れていたのだけれど

 

「ゆきのん、結婚しちゃったね。私1人になっちゃったけど、ヒッキーはどうするの?」

「なっ…」

 

俺が唖然とすると由比ヶ浜はニッコリ笑った

 

「なんてね…。狡い質問だったよね。ヒッキーは1人がダメだからもう1人なんてしないよね。」

 

そこで1度言葉を区切った。

ふと由比ヶ浜の体が震えていることに気づいた。

 

「でもさ、ヒッキー…。ゆきのんいても私のこと選ぶつもりなかったでしょ?」

 

その声は震えていたし、目尻からは涙が零れていたけど、笑顔だった。

 

「なんで、ゆきのんのこと選ばなかったの?そしたら…、私はこんな思いしなくても、こんな惨めな目にならなかったのにぃ。ゆきのんも結婚なんてしなくてさ、3人でたまに集まって笑いあって。」

 

由比ヶ浜の言葉ひとつひとつが俺の胸に突き刺さる。

 

由比ヶ浜はそこで何か言いかけて、止めた。

 

「バイバイ、ヒッキー。」

 

そう言って由比ヶ浜は振り返ることなく去っていった。

由比ヶ浜の姿が見えなくなってもその嗚咽は俺の耳に残っていた。

 

俺たちは、いや、俺はどこで間違えてしまったのだろうか。

葉山から電話がかかってきたのにその内容を完全に無視した時か。

3人で仲良くやっていた時のどこかか。

卒業式のあの日2人に誠実に答えなかった時か。

本物が欲しいなどとほざいた時か。

 

そもそも奉仕部に入った時か。

 

何にせよ俺の本物はどこかに無くなってしまった。

 

本物なんて少しの間訪れる幻想だったようだ。

こんな風になるなんて。

 

 

 

やはり俺の青春ラブコメは間違っていたのだろう。




書いてて思ったけど今回の八幡いろいろ酷いな…


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番外
バレンタイン


バレンタイン過ぎちゃってるけど…。
投稿したつもりになって投稿できてなかったやつ。

本編のかなり後…になると思われ。
正直今までガッツリいちゃいちゃさせれなかったので、ちょっといちゃいちゃさせたかったんです


「先輩こちらチョコレートになります」

「お、おう」

王に献上でもするかのように手渡してきた、そのピンク色のハートの中身はチョコレートらしい。

 

去年とかも会社で義理は貰ってはいた。

というか今年も一応貰った。

まぁ、1人は他の男性社員に配って俺にだけ配らないという徹底した俺嫌いだったのだが。

一色によりいろいろと知らされた今では欲しいと思わんが。

 

あと男性社員1名からの視線をやけに感じたが気のせいだろう。

何ならその女性社員1人貰えなかった時、ものすごく勝ち誇られていた気がするが。

 

「先輩?可愛い後輩からチョコ貰ったんですからもう少しテンション上げて気の利いたリアクションしてくださいよ。」

 

「俺が外でテンション上げてもいいのか」

 

「いえ、先輩がテンション上げると割とキモいので外でテンション上げられても私は離れて歩くんですけど。」

 

うーん、酷い言われようですね

 

「お前…」

 

「まぁ、でも?そんなところも私は結構好きなんですけど?」

 

「あの、急にデレるのやめない?俺の心臓がもたないんですけど?」

 

「今のポイント高いですかね?」

 

「その謎のポイント制度お前まで採用しないでくれ…」

 

いろはすポイントか…

本当にありそうで困る。いろはす1本買ったら1ポイントみたいな

 

「まぁ、なんだ。ありがとな」

「はい。あ、そうだ」

 

一色はそこで区切って体を近づけると俺の耳元に囁いた。

…どうでもいいけど背伸びして囁くのってあざといよね。

 

「本 命ですよ?」

 

「あざとい…」

 

「でもドキッとしましたよね?」

 

悲しい男の性である。

おとこって、ほんとバカ

 

「あ、お返し期待してますね!」

 

「おー、まぁなんとか頑張るわ」

 

アクセサリー系は重いって言われるけど、もうそろそろ渡してもいい頃だろうか…

 

そんなことを考えながら一色と2人で歩いて帰った。

 

⭐⭐⭐

(ここから一色side)

「先輩、こちらチョコレートになります」

「お、おう」

 

…私は何をしているのだろう。

散々ロマンティックな渡し方だのなんだの考えて置きながら、これでは献上品か何かじゃないかな?

 

だって先輩チョコ貰いすぎだよ…

というか普通彼女いる人に彼女の目の前でチョコ渡します!?

義理なんでしょうし、先輩にだけ渡さないのも変ですけど!

 

…これは完璧に私の嫉妬だよね

 

 

「先輩?可愛い後輩からチョコ貰ったんですからもう少しテンション上げて気の利いたリアクションしてくださいよ。」

 

「俺が外でテンション上げてもいいのか」

 

「いえ、先輩がテンション上げると割とキモいので外でテンション上げられても私は離れて歩くんですけど。」

 

まぁ、それが結構可愛いかったりするとか思う辺り私もしっかり頭お花畑しているようだ。

 

「お前…」

 

「まぁ、でも?そんなところも私は結構好きなんですけど?」

 

「あの、急にデレるのやめない?俺の心臓がもたないんですけど?」

 

「今のポイント高いですかね?」

 

「その謎のポイント制度お前まで採用しないでくれ…」

 

小町ちゃんが言ってたポイントのアレ。

かわいいよね。

 

「まぁ、なんだ。ありがとな」

 

こちらから目をそらして耳真っ赤にしながらお礼言うとか…

普段私にあざといあざとい言ってくるけど先輩の方がよっぽどあざとい気がするのは私だけですかね?

 

「はい。あ、そうだ。」

先輩に体を寄せて背伸びする。

…先輩背高いんだよねぇ。私的には背高いのはかっこよくて全然OKなんだけども。

 

「本 命ですからね?」

 

うーん、これは我ながらあざと過ぎるなぁ

顔が熱い、なんでかな

 

「あざとい…」

 

「でもドキッとしましたよね?」

 

知っているのだ。最近だと先輩があざといと言う時は照れているか、その…、可愛い、と思ってくれている時だと。

 

自分で考えておきながらまた熱くなってきた。

 

「あ、お返し期待してますね!」

その熱を誤魔化すように先輩に茶化して言う

 

「おー、まぁなんとか頑張るわ」

 

私は知っている。こんな風に適当に言っていても相当悩んで時間かけてしっかりとお返しをくれると。

 

んー、もうちょっと適当でも大丈夫なんですけどねぇ。

ここはホワイトデー近くになったら私からデートでもおねだりしましょうかね。

 

…本当は私がデートしたいだけなんだけど

 

内心悩んでいるだろう先輩と2人で帰った。

 

冬だけどポカポカした。それは照れとはまた違って、幸福感というやつだろう。

 

 

 

 

 




本編の続きはもう少ししたら投稿できると思います。
一応細々とやっていきますので良ければ見てください


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この再生がもたらすものは
先輩の誕生日


ちょっと前に投稿したはずの話が何故か消えている…?
まぁ、どうせ自分がミスったんでしょうということで、今回は2話分まとめて1つの話にしました。
正直書き直しの時心折れそうでしたけど。


8月8日は先輩の誕生日。

今までは急に連絡しても変だからと何もしてこなかったけど、今年は同じ会社だし日頃お世話になっているしお祝いすることは何らおかしなことではない。

ただ…、先輩の誕生日を祝うのは初めてのことになるんだけども。

何渡せばいいんだろう…。

先輩の趣味と言えば読書とゲーム…だと思う。

私はどちらも詳しくないし、そもそもプレゼントとして渡した物を先輩が持っていないという保証もないわけで。かといって先輩がお洒落な雑貨とかカワイイ系の小物類とか貰って喜ぶ姿も思い浮かばない…。

 

…先輩の家にあからさまに似合わない可愛い小物類とかあるとちょっといいかもしれない。先輩の家に私的なアイテムがある、みたいな。

 

いやでも、やっぱりせっかく贈るなら先輩が喜ぶ物の方がいいよね。

 

ついこないだ、あんな話を聞いたり話したりしたばかりだし。

先輩にも考える時間というか休む(?)時間が必要でしょうしね。

 

…結局何をプレゼントすればいいんだろう。

 

このまま延々と考えていても絶対に結論は出ないと思う。ので、心強いアドバイザーを仲間に付けることにした。

 

携帯のアドレス帳のカ行を探す。社会人になってやっと先輩の連絡先がインプットされることになったこの携帯には先輩の妹ちゃん。つまり小町ちゃんの連絡先なら昔からあるのだ。私が卒業してから全然会ってないし突然連絡するのもアレかな…

 

『一色いろはです。急にごめんなさい、少し相談したいことがあるので連絡をとりたいんだけど、もし良ければ連絡お願いしまーす』

 

小町ちゃんは私の次の生徒会長をしてくれてたりする。

奉仕部の部員でもある。残念ながら奉仕部の方では正式な先輩じゃないんだけど。そう言えば一緒に奉仕部で活動してたK『いろは先輩お久しぶりですー。今日はどうされましたー?』

小町ちゃん返信早いね…。

『ちょっと長くなっちゃうから出来れば電話がいいんだけど…、今大丈夫?』

メールを送信するとすぐ電話がかかってきた。本当に早いなぁ…、私は助かるんだけど。

「もしもし?小町ちゃん?」

「いろは先輩ー、お久しぶりですー!どうしたんですか急に」

あれ、先輩から聞いてないのかな。

先輩の事だから小町ちゃんには何でもかんでも話しているくらいに思ってたんだけど…。

「私今、先輩…じゃ伝わらないか。八、はち…。小町ちゃんのお兄ちゃんと同じ会社に務めてるんだけどさ。」

 

…ええ、呼ぶのに照れが出ましたけど、何か?

 

「今明らかな葛藤と妥協が見えた気がしますが私は空気が読めるので触れない方向で行きます。うちの兄と同じ会社に務めてるんですねー、あの愚兄は何も言ってこないんですよ…」

 

空気読めるっていうなら完璧なスルーの方が私的には嬉しかったかななんて

 

「あー、小町ちゃんには何でも話してるものかと思ってたよー。まぁ私は今年入社してまだ半年も経ってなおんだけどさ。先輩に教育係とかしてもらったりしてます。」

 

「え…。教育係、ですか?」

「え、うん。」

「あのゴミいちゃんは本当に…」

小町ちゃんは何やら先輩に悪態…?らしきものを呟いていたけどよく聞こえなかった。

 

「えっと…」

「あ、なんでもないんですよ。こっちの話です。それよりいろは先輩のお話を」

「ああ、うん。それで先輩もうすぐ誕生日だったよね?」

「はい、よく覚えてますね…というのは無粋ですかね。兄の誕生日は今度の8月8日ですよー」

「それで、日頃お世話になってるし何かしらプレゼントしようかなーって思ってるんだけど…。先輩何をプレゼントしたら喜ぶのかわかんなくて」

 

小町ちゃんには先輩に対しての私の気持ちというのは知られている。

まぁ、いろいろ聞いたりしたしね…

 

「兄なら何貰っても喜ぶと思いますけどねー。」

「それは小町ちゃんからだからでしょー?私がプレゼントする場合なんだよねー。」

 

「アレですか、やっぱアピール大事ですか?」

「いやー、先輩の事情というか奉仕部のこと聞いてるからさ…。当分はそういうの無しで接しようかなって。今回のも本当に日頃のお礼ってことなんだー。」

 

「兄が奉仕部のことについて話したんですか?」

「うん、こないだ、やっと、嫌々ね。」

「その、いろは先輩。兄のことよろしくお願いします。兄は本当にその危ういというか…」

 

小町ちゃんは少し言い淀んた後、ハッキリとした口調で私にお願いしてきた

 

小町ちゃんは本当によく出来た妹だと思う。先輩と血が繋がっているとは思えない。

 

「あはは…、私としては先輩に体良く近づいてるだけなんだけど…。うん、先輩が無茶しないように見とくね。」

「いろは先輩ー…。本当にありがとうございます。」

その後は少しずつ先輩のことについて話して終わった。

 

いやー、やっぱ小町ちゃんに電話して良かったー。

 

…。…?…!

 

結局プレゼント決まってないじゃん!!

⭐⭐⭐

8月8日。先輩の誕生日だし、会社には先輩はいないだろう…なんて思っていたんだけど。

 

「おはよう一色」

「おはようございます先輩」

 

…誕生日くらい休めばいいのに。先輩は自分で言う様に社畜への道を進んでいるようだった。

 

しかし、これは予想外。てっきり先輩は休みだとばかり思っていた私だから(シフトを確認しておけば良かった)帰りに先輩の家にでも寄って渡そうと思ってプレゼント渡す準備が出来てない。

といってもプレゼントの品物自体は用意出来ているのだ。私の心の準備が出来てないだけで。

 

…よし!渡そう。

仕事終わったら。

 

そんな結局尻込みした決意をしながらカバンの中に潜ませた丁寧にラッピングされた小箱を確認した。

日頃のお礼ということなのだし、上司に贈るプレゼントといった方向でまとめてみたのだけど。

ちょっとお洒落な感じのハンカチを買ってみた。

ただ、ハンカチだけというのもどうなんだろうと思ってキーケースも一緒にしてみた。

先輩の家の鍵はむき出しそのままで財布に入れているところを見たことがある。恐らくキーホルダーとかキーケースの類は持っていないはず。

小町ちゃんに大丈夫か聞いてみたところ

「実用性のあるものなら素直に持ち歩くはずです。だいたいハンカチを実家から持っていってないし、前に家に遊びに行った時もハンカチなかったですし、身だしなみくらいしっかりして欲しいですよホントに」

とのこと。持ち歩くってのが結構ポイント高いですね。

とも言っていた。

我ながら問題ない物を選んだと思うので、そんなに不安に思うことはないはずなんだけど…。

 

先輩にプレゼント贈るなんて初めてのことだし、やっぱり緊張するもの。

 

チラと先輩の方を見るとパソコン相手に凄い睨みつけていた。

 

…何してるんだろうこの人。

 

「何してるんですか先輩。腐った目がより一層酷いものになってますよ。」

「あー、ちょっと目が悪くなったのかもしれん。目を凝らさないと見えねぇ…。」

「その目付き相当ヤバいですよ。殺し屋とかそっち系のご職業の方ですよ。」

 

正直私でもちょっと怖い。

 

「うるせぇな…。帰りに眼鏡でも買いに行くか」

 

あれ、それは不味いのですが。帰りにプレゼント渡す予定なんですけど。先輩の予定が大丈夫ならそのままご飯行くつもりなんですけど。

 

「せ、先輩。私ついて行きましょうか?」

「え?いや、いいよ。そもそもお前眼鏡してないから分からんだろうよ 」

「いやいや、眼鏡のデザインって大事ですよ。眼鏡は似合ってないとだいぶ変な印象持たれますから!」

「それは暗に俺が変な眼鏡選ぶって言われてます?」

「自分で言うのもなんですがセンスはあるほうだとおもうんですよ。」

「本当に自分で言うのもなんだな…。あー、じゃあまあお願いしようかな。」

 

とりあえず、なんとかなった…。

 

⭐⭐⭐

大変なことに気づいてしまいました。

今から私は先輩と眼鏡を買いに行き、その後プレゼントを渡してご飯に行きます。

 

…デートかな?

今までもご飯行ったり飲みに行ったりはしていた。

ただ今回は間に買い物がはいるのだ。

これはデートと言えるのでは?

 

…どうせなら、しっかり待ち合わせして服もしっかりしたの着てきたかったけど。

 

まぁ、先輩と並んで会社出てから歩くの嫌いじゃないっていうかむしろ好きなんでいいですけどね。

 

「この辺眼鏡屋とかあったっけかな…?」

「私は知りませんけど…。駅前行ったらあるんじゃないですかね?」

「んー、まあ駅前に1個あったような気はする。」

 

先輩の言う通りメガネ屋さんは駅前にあった。

先輩が視力検査してる間に適当に見て回っているんだけど…。私眼鏡よくわかんないんだよね。どれが先輩に似合いそうかな。

暗い色が合うのは絶対として…

 

いろいろと見て回っているとお客さんが私たちしかいなくて暇なのか店員さんが1人近寄って来た。

 

「彼氏さんのメガネ選びですか?」

えっ。

「いっ、いえ。あの彼氏じゃなくて会社の先輩なんですけど…。」

そう見えてるってことですか。

…うん。男女2人組で来ていたらそう見られてもおかしくないのか。

「社内恋愛ですかー。いいですねぇ」

…推しが強い店員さんのようだ。

ちょっと、なんというか、顔が赤くなるのでやめてもらいたい。

そんなこと話してたりすると視力検査を終えた先輩が戻ってきたようで。

 

「あっ、先輩この辺とかいいんじゃないですか。」

 

先程の店員さんを撒くためにも、顔の赤さを誤魔化すためにも無理やり話しかける。

「これか…。どれどれ」

そう言って眼鏡をかける先輩

「ああ、はっきり見えるわ」

 

「…。」

「一色?おい、どうした?」

先輩が眼鏡かけるとヤバい…。腐った目がいい感じに隠されるせいか、イケメンに見える。

いや、普段から本人の言う通り顔はいい方なのである。

ただ、腐った目が相殺していたのに、その腐った目が隠れているので普通にイケメンなのである。

ちょっと混乱して語彙力が低下してしまったけども。

 

…これは眼鏡萌えというやつなのかな。

 

「あ、いいですね似合ってますよ」

混乱を誤魔化すように先輩に返事をするけれど心中穏やかではなかった。

 

眼鏡をつけてる先輩なら、またモテてもおかしくはない…!

モテたからと言って先輩がどうにかなることは無いだろう。でも周囲と言うものは勝手な時はとことんまで勝手に振る舞うものなので。

先輩は気にしないでしょうし、気にするのは私だけなんだけど…。

 

うーん、悩ましい。あのメガネを付けた先輩は私だけのものにしたいレベル。

 

しかし仕事に支障が出て困るのは私ではなく先輩。

コンタクトは面倒だから着けないなんて言うし眼鏡の先輩非公開はできないようだ。

でも、本当に格好良いなぁ。これは不味いですね、ちょっと興奮しすぎてる私

 

なんて考えているといつの間にやら先輩が購入を済ませていた。

「おう、待たせたな」

「あれ?先輩眼鏡はどうしたんですか?」

「ん?眼鏡は仕事中にしか着けないぞ」

「…すごくおじいちゃん感ありますね、それ」

「おいそんな事言うなよ…、折角買った眼鏡なのに掛けづらくなるじゃねぇか」

 

先輩の顔面戦闘力が下がってますね。やっぱり先輩は目が腐ってないと…。

「そうだ、眼鏡選び着いてきてくれたからな飯でも行くか」

「あ、はい。でも意外ですね。先輩なら即解散なんて言いそうなのに」

「ん?あー、嫌、なんだ。嫌なら別にいいんだが…」

嫌なんてことあるはずもなく。むしろプレゼント渡しが控えている身からするとありがたい申し出です

「いえ、嫌なんてことありませんよ」

2人していつも行く居酒屋に向かって歩いていく。

「あー、それでだな。一色、」

「はい。どうしました?先輩」

歩きながら先輩と話しているとなんだかもの言いたげな感じになっていた。

「あー、嫌、なんでもない」

「はぁ…?変な先輩ですね」

⭐⭐⭐

ご飯を食べて居酒屋を出る。

先輩の誕生日なんだし私が払いたかったのだけれど、頑として先輩は払わせてくれなかった。

…いつもなら嫌々支払うのに、どうしたんだろう。

「あー、一色。ちょっと話があるんだ」

「話ですか?」

「あ、あのさ」

そこで先輩は迷うように何かしら口をもごもごさせていたが少しすると私の目を見て…

 

…これなんか告白みたいですね。

えっ、まさか。そういう系ですか!?

 

「一色。」

「は、はいっ」

声が上擦ってしまう。心臓がドキドキする。

そして先輩は私の目を見つめて…

 

「今日さ、俺の誕生日なんだけど、小町がメールも電話もくれなくてな…。毎年電話がかかってくるのに…。この場合って自分から言ったりしてもいいもんだろうか?」

 

た だ の シ ス コ ン だ っ た

 

「は?」

自分でも驚くくらい冷たくて低い声がでた。

私こんな声だせたんですね

「あ、いや。別にお前になんかねだってるとかそういうわけじゃなくてだな」

「先輩、バカなんですか?これどうぞ」

「あ?なんだこれ」

「先輩の誕生日プレゼントですー!おめでとうございますバカ先輩」

「え?いや、え?」

私のドキドキを返してほしい。小町ちゃんが誕生日に関してなんにもしてないのは私が終わったらって言っていたからだろう。

なんだろうか。結構前から考えてこのオチは…。

今も理解できないみたいでちょっとキョドキョドしてるし

「お前が俺に誕生日プレゼント?」

「そうですよ、私はそれを渡すために先輩に着いてきたというのになんですか小町ちゃんがって」

「お、おう。あ、ありがとう」

「いーえ、どういたしまして!小町ちゃんなら電話したら出ると思いますよ」

「あ、ああ。いや、本当にありがとな。家族以外からなんてほとんど貰ったことないわ」

「ちょっと悲しくなること言わないでください…。」

先輩は何故かトウモロコシが…なんて言っていたけど私としては脱力しきっていた。

はぁ、これが先輩だもの。仕方ないよね

喜んでくれているようなので良かったということにしようかな。

先輩が喜んでくれているので頑張って考えた甲斐があったなんて大分チョロい私なのでした。

 

 

 



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誰も知らない1つの話

今回の話はほぼほぼ番外です。
導入的に2章に入れとくかっていう微妙な自分の考えにより2章です。



「お兄ちゃんお兄ちゃん!大変だよ大変なんだよ!」

休日に惰眠を貪っているところ、かかってきた電話を取るやいなや耳元で叫ばれた。

「おう、そうか、がんばれ。じゃあな。」

「ちょっとちょっと!?それは流石にポイントひくいんですけど!」

「んー、なんだよ。親父が仕事クビにでもなったのか?」

それは困る。親父が悲惨な目にあうのは構わんが小町を養っていくだけの余裕は俺にはない。

「違うよ、第一、チキンなお父さんがクビになるようなことできるわけないじゃん」

「おお、妹よ。社会に出たらこっちに非が無くても償わされるとかザラにあるのだ。」

アス⚪ン・ザラが裏切るくらいザラなのだ。

どんくらいかって言われてもわからんが。

「嫌なことを聞いてしまった…。それより、大変って言うのはですね。大志くんがですね。」

「大志?どこの川越さんだソイツは」

「お兄ちゃん、後輩でしょ…?」

はて、俺が覚えのある後輩は一色と小町くらいなんだが。

川なんとか君とかいう後輩がいたような気がしないでもない。

「ていうか大志くんで川越って言うあたり完全に覚えてるじゃん…。まぁ、いいや」

「おう、あの野郎なにかしたのか。はっ倒してやるから連れてこい」

「…なんでお兄ちゃんに相談しようとしたんだろう。いろは先輩に相談するからお兄ちゃんはもういいや」

そんなこと言われたらお兄ちゃん悲しいなぁ…。ってか

「一色?なんだお前まだ一色と交流あるのか。」

「そうだ!お兄ちゃん、なんでいろは先輩と同じ会社になったこと言わなかったの?」

「え?いや、特に意味はないけど」

「私はいろは先輩に凄くお世話になったんだから挨拶くらいしたいじゃん!」

「そういうもんか?」

「はぁ…、これだからごみいちゃんは…。」

なんだかその呼ばれ方も久しい気がする。

「まぁいいや。いろは先輩に相談するから。バイバイ」

「えっ、ちょっ」

本当に切りやがった…。

何を相談されたのか明日会社行って聞き出そう

しかし、大志か…。なんだろうか。

⭐⭐⭐

卒業式の日

男子高校生にとって校長含む様々な知らない人や知ってる人からの長くて眠たい話を右から左に聞き流すイベントが終わると教室でのHRに移る。

まず、ここで第1の関門がある。

クラスメイトに一言という悪魔の儀式である。

正直言って話すことなどないし、クラスメイトだけなら、1年を通して俺がぼっちで寡黙な人間だと理解しているため気も楽なのだが最後のHRなどと名ずけられたこれは保護者参加型なのである。うちの高校は平日なためうちの親父お袋どのは居られないが(仕事休みでも来たかは怪しいが)自分たちの息子娘の晴れ姿を見るためにわざわざ来ている保護者も多々いる。

そんな中、3年間ありがとうございました。だけ言うと大抵保護者がザワつく。ソースは俺。

悪魔の儀式を終え、先生からのお言葉を頂戴するとやっと終了である。

ここで第2の関門が発動する。

卒業アルバム&写真撮影

普段一切関係が無かったにも関わらずクラスメイトをコンプリートするなんていうソシャゲに溺れそうな考えで書いてくれと要求してくる輩が一定数存在する。

しかも俺のようなぼっちキャラのコメントは大抵レア扱いされる。人によっては書くまで追っかけて来る奴もいる。出るまで引けば絶対当たるみたいな精神やめろ

書くことなんて正直ない。

1年間ありがとうございました。卒業しても頑張ってください。

が精一杯である。これを書くと少ないと文句を言われ、かと言ってちょっと考えて長いこと書いたりしたらソイツのグループ内で笑われる。どうすればいいんだ。

あとは保護者の、クラス皆で写真撮らせてというリクエスト。あれも中々だ。こちとら帰りたいのに居る意味無いのに結構長い間拘束される。

そもそも卒業式とかいって国公立組はまだまだ試験あるし、対策で明日も学校来るし、卒業なんて言ってるが大学の入学式もしくは会社に入社するまでは高校在籍扱いなのだ。一体どこが卒業なんですかねぇ…

 

戸塚と卒アルの交換書き込みを済ませしだい、他の連中に絡まれる前に教室から離脱する。

材木座?知らない子ですね。

雪ノ下や由比ヶ浜は教室に長い間拘束されるだろうし、部室は入れないしベストプレイスへと最後のお別れを1人寂しく告げに来たはずなのだが…。

「比企谷。」

「…何でいるんですかね」

最後のベストプレイスは一人きりでとはいかないらしい。

川崎沙希が先にいた。

 

…別にダジャレじゃないよ?

⭐⭐⭐

「教室は一刻も早く出たいし、アンタもそうするだろうと思って。」

…流石ぼっち。よくわかっている。

「その言い分だと俺に用があるみたいだが…。」

「うん、卒アル。書いてもらおうと思って。」

なん…だと…?

「クスッ。別に長いこと書けってんでも面白いこと書けってんでもないよ。アタシも卒アルにはあんまりいい思い出ないしね…。まぁ、でもさ。他の人よりは、アンタとは関わりがあったし、書いてもらえたらなーって。嫌ならいいけど。」

ああ、本当にこいつもぼっちだなぁ

「確かにお前とは割と関わりあったし、普通に書けるしな。あー、じゃあ俺の卒アルにも書く…か?」

「あはは、なんで疑問形なのさ。書いて欲しくないってんなら書かないけどね。」

「じゃ、じゃあお願いします?」

おずおずと卒アルをカバンから取り出して差し出す。

「う、うん」

川崎は川崎で少し恥ずかしそうに差し出してくる。卒アルと一緒に渡されたペンは意外にも可愛いらしいペンだった。

しかし、何書けばいいんだろうか。

夜のバイトは程々にとか?なんか、ヤラシイし、張り倒されそうだ。

大志が後輩になってからはちょくちょく話す機会などもあるので割とスラスラと書けた。

書き終わったのはお互い様だったようで、ちゃっちゃと交換してみる。

『2年の時はありがとう。3年になってからは大志がお世話になりました。』

文章になると丁寧になり心無しか柔らかい印象になる。

…2年の時なんて大したことはしてないんだがな。

と、急にいつも通りの口調で書かれている部分が目に入った。

『すごく世話になったし、京華もアンタのこと

きにいってたよ。

でも、あんまり変なことは教えないでくれる?

しかしまぁ、お互い大学に行けたらだけど行け

たら、頑張ろう。』

 

…?変な文章だし、文字のバランスもめちゃくちゃだ。

あんまりにも、らしくないので訝しげに顔を上げると川崎沙希はこちらを妙な表情で見ていた。

「どうした?この文章もなんか変だし。」

「…。な、慣れてないんだよ卒アル書くのに。」

少し残念そうな顔をしたあと、川崎は恥ずかしげに言ってきた。

「自分から言い出したくせによ…」

「いいじゃない、別に!」

そう言うと俺の書いた文に目を落とした。

俺ももう一度見直すと、まだ続きがあった。

 

『変わらないアンタでいることは無理かもしれない。けれど後悔しないようにね』

 

小さいけれど、力強い字。

…先生かよ。少し面白かった。

「ありがとう比企谷。」

「こちらこそ。俺は奉仕部の方でちょっと用事があるからここらで」

「ああ、引き止めてわるかったね。」

「またな、川崎。」

「うん、また。」

俺はゆっくりと2人と待ち合わせしている場所に向かって歩き出した。

 

⭐⭐⭐

(川崎沙希side)

「…ま、そうだよね。」

期待していなかったと言えば嘘になる。気付いてくれるんじゃないかと。甘い幻想に身を焦がす思いになったりもした。

妙なところで鋭いくせに。

比企谷の姿が見えなくなってから卒アルに目を落とす。

 

『なんだかんだ世話になった。ありがとう。卒業してからも頑張ってくれ。バイトとかは程々にしとけよ。大志や京華に心配かけない意味でも、自分を大事にする意味でも。』

雑な字で書かれたぶっきらぼうな思いやりに嬉しくなりながらも心が痛む。

 

自分が比企谷の卒アルに書き込んだ文章を思い出す。

 

 

す ごく世話になったし、京華もアンタのこと

き にいってたよ。

で も、あんまり変なことは教えないでくれる?

し かしまぁ、お互い大学に行けたらだけど行け

た ら、頑張ろう。

 

明らかにおかしな区切り方と、誤魔化すために崩した文字のバランス。

隠された意味は

好きでした。

 

実際に告白する勇気なんてないし、あの二人がいる以上アタシに勝ちの目はないだろう。

あくまで、自分が整理をつけるための自己満足の告白とも言えない不器用な宣言。

 

気づかれもしなかったけど、気分は少し軽かった。

空を見上げると卒業式に相応しい綺麗な青空が広がっていた。

 

でも、おかしいな…。

なんだかこの空歪んで見えるや。

 

今日なら卒業式で泣いてる女子に見えるかな。

目を赤く腫らしていても卒業式で泣いたって誤魔化せるから。

ここには私しかいないから。

今だけは。

 

「ぅっ…。グスッ。」

 

誰も来ませんようにと願いながら1人で嗚咽を抑えていた。

 




自分的にはサキサキもかなり好きなんですよね。
サキサキいろはす折本が個人的に好きです。
奉仕部2人といろはすだけでサキサキの話しないのも変だなと。
八幡が話してる卒業式の〜。自分の経験が多分に含まれていたりします。


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川崎くんは報われるかもしれない〜一色side〜

インフルかかって遅れました(言い訳)


『すいません、いろは先輩相談にのって欲しいことがあるんですけど今お時間大丈夫ですか?』

小町ちゃんからそんなメールが届いたのはお昼頃、特にすることもなく暇だなーなんて考えていたときで、最近相談にのってもらってばかりな私としては断る理由もなく。小町ちゃんに電話をかけてみた

「もしもし小町ちゃん?」

「いろは先輩、すいませんせっかくお休みのところ」

「ううん、全然気にしないで。やること無くて暇してたところだし。」

 

やっぱりしっかりしている。

本当に先輩の妹か疑わしくなる時が多々ある。

でも2人は兄弟として仲良くやっている。兄弟ってそんなものなのかな、私にはわかんないけど

 

「そのですね、私が大志くんと同じ大学に行ったって話しましたっけ?」

「なんだか聞いたことがあるような気はするかなー」

「まぁ、同じ大学と言っても学部違うのであんまり交流はなかったんですよ。それに、その」

「あー、川崎くん玉砕したんだっけ?」

「はい…、言いづらいことに告白されてそれをお断りしたというのもありまして、私としては気まずかったわけですよ」

 

こればっかりは仕方の無いことである。私としては川崎くんも可愛い後輩なので2人に上手くいってくれたら嬉しかったが小町ちゃんの意思ってものがある。

 

「アレ?でも小町ちゃんと大志くん割と普通に友達関係

じゃなかった?」

「はい、これからも友達として宜しくお願いしますと言われたので、高校の時は友達付き合いはあったんですよ」

 

そうそう。告白したことで多少は意識されたはずだから諦めずに頑張れって慰めた覚えがあるよ私。

 

「経緯はいろいろと省くんですけど…、つい最近になってちょっとした事情から大志くんと2人で行動することが増えまして。」

 

おや、川崎くんが諦めていないのならなかなかいい環境だ。

 

「それで、一時行動したうえでわかったんですけど…、大志くんって……して」

「え?ごめん聞き取れなかったよ。もう1回言ってくれない?」

小町ちゃんがあまりにも小さな声で話すので聞き取れなかった。

 

「そのですね、あの、大志くんって割とカッコイイなって思ってしまって…」

 

小町ちゃんの声はやっぱりまだ小さかったけど、そこには照れるような響きがあった。

 

「え、川崎くんのことをカッコイイって言った?」

 

私の慰め間違ってなかった?

 

「そ、その。さりげなく気遣ってくれたり…とか、大学入ってちょっとオシャレになってるし…。」

「ほうほう、それでそれで!?」

「その、それでですね。最初は1度お断りしておいて、告白するって絶対おかしいよねって諦めるというか悩むというか…。そもそもこの感情が友達以外への好意なのかどうなのかって頭グルグルして…」

 

小町ちゃんの混乱具合が手に取るようにわかる。というか初心だね…、可愛いすぎる。

そうか小町ちゃん今まで告白されることはあっても自分が人をどうこうみたいに思ったことがないんだ…。

高校の時の私みたいにステータス目当てというか恋に恋するみたいなこともなかったみたいだし…。

経験がないのか…。

わー、わー、川崎くんは素直なイメージだし、小町ちゃんも純粋初心とかこの2人組ヤバい!

「小町ちゃんの思考の中心に川崎くんがいるなら、それは恋と言っても過言じゃないと私は思うんだ。実際、私がこうだって言っても私は小町ちゃんじゃないから本当の所はわからない。小町ちゃんがよく悩んで、それで好きだって結論に落ち着いたらたっぷり相談に乗るよ」

 

小町ちゃんのその感情は間違いなく恋だとは思う。思うけど、恋かどうかなんて当人にしかわからない。どこが好きなのかわからない時だってある。それでもやっぱり恋というのは特別なものだと思うから。小町ちゃんには是非自分で頑張ってもらいたい。

 

…これ20歳過ぎた社会人の考えにしては甘すぎないかな?

まぁ、私は私ということで。

 

「それと、好きだと思ったなら昔断ったなんて忘れなさい。私なんか何度先輩を振ったかわかんないよ。」

「いろは先輩…。ありがとうございます…!でもまだ続きがありまして」

「続き?」

「その、今日というかついさっきなんですけど…。告白されました。」

「え!?誰に!?もしかして…」

「は、はい。大志くんです…」

 

うわー!川崎くんまだ、小町ちゃんのこと好きだったんだね!純愛だよコレ!はー、川崎くんもう一度告白したんだ…、強いなぁ。

あれ?じゃあ小町ちゃんは何を迷ってるのだろうか?

好きかどうかという1点だけ?

 

「それで…、そんなに親しいわけではないんですけど、大志くんのことを好きな女子がいるらしくてですね、それがまぁボス的なポジションの人なわけですよ」

 

「う、うわー…。それはキツいね」

「はい…、まだ自分の気持ちも正確に分かってないのに遠回しに釘をさしてきたり…」

…何故だろう。身に覚えがある。それもつい最近、春頃くらいに。

「それで、今日告白された訳ですから…」

「ああ、それは困るね」

「ちょっと色々混乱して間違えてお兄ちゃんに相談するくらいですからね…」

 

あ、先輩に電話したのは間違えてなんだ…

 

「ついこないだ誕生日に電話したせいでいろは先輩より上の方にいたんですよね…」

 

「あー、私に小町から電話もメールもないんだみたいなこと言ってきてたよ…」

「え?私日付変わってすぐ連絡しちゃったんですけど…」

「え?」

じゃあ先輩はどうして私に小町ちゃんから連絡がないなんて言ったんだろうか…?

まぁ、今は先輩より小町ちゃんのことだ

 

その後私は長いこと小町ちゃんの相談とも愚痴とも取れない話しを聞いていた。

 

 

 

 

 

 




小町とくっつくのは大志であって欲しいなって。


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そこで比企谷八幡は一歩踏み出すことにした

遅くなってすいませんと言うのも何回目だろうと思う反省のない未果南です。
ちょっとずつですが進んでいきますのでよろしくお願いします


「え?先輩今なんて…」

 

目の前の後輩が異界の言語を聞いたようなポカンとした顔で尋ねてくる。

 

「…なんだ、そんなに変か」

 

「い、いや変ってわけじゃないですけど…。大丈夫なんですか?」

 

不安そうに俺を見上げる瞳には珍しく面白がるような色は見えず、さりとてあの時のような涙や芯の強さはなく純粋に困惑と、ただ俺のことを気遣う感情だけが込められていた。

 

その視線に少しくすぐったさを覚える。

 

「そんな大事な話じゃないしな。久々に里帰りするってだけなんだから。」

 

「それは、そうでしょうけど…。けしかけた私が言うのもなんですけど、ゆっくりで良いんですよ?」

 

「なんだよ、あんまり甘やかすと折角決めたのに揺らいじゃうだろ」

 

なんて軽口を叩いた俺の声は震えていた気がする。

一色相手にこの声の震えを誤魔化せるとは思えない、だけどたまには格好付けたくなることだってあるのだ。

 

「…くすっ、なんですかソレ。」

 

そして、情けない男のそんな精一杯の格好付けを黙って見逃してくれる笑顔の可愛い女が俺の後輩である。

 

それは昨日のこと

 

⭐⭐⭐

 

「先輩は夏休みとかどうするんです?」

 

「あー?夏休みなぁ。特に予定もないし家でダラダラ過ごすだけだろうな」

 

季節はお盆手前。

学生ならばそろそろやり残した課題の量をまだ大丈夫だと自分に言い聞かせ始める時期。

 

社会人からすれば、やっと休みに入る時期である。

うちの会社はかなりホワイトな会社なので盆正月はしっかりと休みをとれる。

 

まぁ、先程一色に返事した通り休みがあったところですることなどないのだが。

 

「そういうお前はどうするんだ?」

 

「私ですか?普通に実家に帰りますよ。お墓参りとかありますし」

 

意外や意外。一色はしっかりとお盆のお参りをするタイプだったようだ。

うちは親戚付き合いというものが薄いというかないも同然なのでお盆に墓参りをする習慣は特にない。

じーちゃんばあちゃんもまだまだ元気だしな。

本人達曰く小町の花嫁衣装を見るまでは死なんとかなんとか。

そこでナチュラルに俺が入ってない辺り流石である。

 

「先輩は、帰ったりは…」

 

おずおずと一色が聞いてくる。

まぁ、そりゃそうだ。流石にコイツでも先輩里帰りしましょう!とかいう無神経さは持ち合わせていない。

 

「まぁ…、ないよな。」

 

結局毎年帰らないとはいえ、俺すらも里帰りを考える時期である。どこで誰と会うかもわからない、そんな地雷原に自分から突っ込めるほど俺はまだ回復してない。

 

「ですよね…。お土産とかいります?」

 

「MAXコーヒーが飲みたいな」

 

「それお土産の範疇に入るんですかね…?」

 

残念ながら現在の自宅付近にはMAXコーヒーを購入可能な自販機は愚か、取り扱っている店舗すらないのだ。

 

「それに先輩通販で買ってるじゃないですか」

 

「ばっかお前通販で届くのよりも本場千葉のMAXコーヒーのが美味いに決まってんだろ」

 

「いや多分味は変わらないと思うんですけど…、ていうか変わってたら問題ありません?」

 

ふむ、流石マイソウルドリンク。どこにいても変わらぬ美味しさを俺に届けてくれるらしい。

 

「まぁ、なんだ地元のお土産とか特に欲しいもんでもないしな。素直に里帰りして、親孝行でもしてこい」

 

「先輩はしなくていいんですか?」

 

「帰ったところで俺の親働いてて家にほとんどいないしな。小町孝行は考えないでもないが。」

 

「先輩は小町ちゃんには本当に孝行した方がいい気がしますけどね」

 

それには完全に同意見を示したい。

両親が毛ほども心配及び連絡をしない現在の俺にとって小町のがよっぽど親らしい存在な気がする。

 

なにそれ小町ママとか最高にバブみ感じておぎゃれる。

でもお兄ちゃん小町がママになるとか許しませんよ。

 

「まぁ、気が向いたら言ってください。不安ならついて行ってあげますから」

 

「…そんなことにはならないから安心しろ」

 

それは里帰りがだろうか、それとも一色についてきてもらうことがだろうか。

 

ふとそんな考えが頭をよぎったが昼休みを終えて仕事に戻る内にいつのまにか頭から消え去っていた。

 

⭐⭐⭐

「「ごちそうさまでした」」

 

一色と外で飯を食べるのも恒例となりつつある。

最早そのことに違和感を感じることもなくなる程度には一色は俺の日常生活に溶け込んでいた。

 

「そういえば先輩。昼間に小町ちゃんの話してて思い出したんですけど、先輩の誕生日の時小町ちゃん、先輩に電話してたんじゃないですか。なんであんな変なこと言ったんです?」

 

「…!」

 

小町と一色が最近仲良く電話していたのは知っていたがそんなことを話していたとは…。

あのことについては思い返すだけで恥ずかしくなる。

 

そう俺はしっかり小町から電話でお祝いの言葉を貰っていた。なのに、あの時あんなことを言ったのは…。

 

一色に誕生日を祝ってほしいなんて思ってしまったからだ。

あそこで小町がーと言っておけばさりげなく俺の誕生日を伝えられるなんて姑息というかしょうもないことを思いついた俺はあろうことかすぐに実行に移してしまったのである。

我ながら色々とこじらせた中学生かよと言いたくなる。

あの時はちょっとどうにかしてたんだ。

 

「さーな…、覚えてねーよ」

 

「えー、なんですかそれー」

 

いや、流石にあれを正直に答えるようなバカはしない。

あんなん思惑を知られたら自殺ものである。

 

いやまぁ、そんなことしなぬても一色は俺の誕生日を覚えていた訳だが。

 

「あ、先輩ちょっとここで待っててください。」

 

「ん?」

 

そう言ってカバンを漁り始めた一色が何かを取りこぼす。地面に落ちたそれは薄い水色のハンカチであった。

自分で言ってて何だが、本来青を薄くした水色を更に薄くした色ってなんか違和感あるな。どーでもいいけど

 

一色は何やらポーチの中をゴソゴソと漁ると財布を取り出して自販機に向かっていった。

 

帰ってきた一色の手には2本のアイスが。

 

「夏休み突入記念ってことで」

 

「おお、ありがとな。しかし言えば払ったのに」

 

「いつも奢って貰ってばかりですからね。安いものですけどたまには私の奢りです。」

 

そう言ってアイスを渡してくる一色の笑顔を不覚にも可愛いなどと思ってしまった。

 

「お、おう。ゴチになります」

 

「あはは、なんですか先輩改まって。」

 

それから2人で美味しい美味しいといいながら道端でアイスを舐めていた。

一色が買ってきたアイスはどこにでもあるソーダのシャーベットで。

その安っぽい味が妙に舌に残った。

 

「先輩、今から言うのは酔っ払った後輩の妄言です。聞き流してください」

 

急に何をとは言わなかった。

黙って了承とも否定とも取れない程度に首を動かした。

 

「今なら里帰りしても大丈夫じゃないですか?私から見て先輩は結構回復してきていると思います。何も誰かに会えってわけじゃないです。ただ実家に帰るだけ、それだけです。小町ちゃんに会うためでもいい。先輩にとって地元がなんてことないんだって、ここは帰る場所だって…。」

 

それから少しづつ、一色の言葉は小さくなっていった。

一色が言いたいことは分かっている。

そうだとも苦手な人間がいるだけだろう。でも、1歩踏み出すのが怖い。

そんな俺を見透かして一色は励ましてくれているのだろう。

 

「帰りましょうか先輩」

 

それは地元に、ではない。ただ単純に今日お開きにしようというだけだ。

 

「ああ。」

 

俺は結局返事を返すことも出来ず、お開きに賛成したのだった。

 

⭐⭐⭐

駅まで送ると一色は礼を言って駅の中に消えていった。

俺も帰るかとポケットに手を突っ込むと何やら布の感触がした。

取り出して見るとそれは一色の薄い水色のハンカチだった。

 

「…盆の間会わない訳だしさっさと返しておくか。」

 

幸いにも一色は里帰りの電車の切符を用意すると言っていた。走れば間に合うだろう。

 

少し走って駅内に入ると丁度一色が切符売り場から出てくるのが遠くに見えた。

そちらに走って行くと一色はやけに神妙な顔をして売り場に戻っていった。

何をと訝しげに見ているとどうやら切符を購入しているようだ。そして購入した切符を既に同じものが収められている財布に入れると、自嘲するかのように笑った。

 

あれが誰のものかはわからない。

-本当に?

 

知り合いに頼まれていたのかもしれない。

-コチラでのあいつが何かを頼まれるの知り合いと言えば俺くらいだ。

 

予備や帰りの分かもしれない

-往復切符を買えばいい。

 

あれは…誰のだ?

 

⭐⭐⭐

結局一色に声をかけることが出来ずに俺はハンカチを持ち帰ってしまっていた。

 

マッ缶を一口に飲み干し、その空き缶を机に置く。

 

頭の中に思い浮かぶのは駅で見た一色の顔。

それと安っぽいソーダーの味。

薄い水色のハンカチ。

 

それらがグルグルと意味もなく脳裏に上がっては消えていく。

手元の空になったマッ缶を指で軽く小突いた。

カランカランと小気味よい音をたてて机の上を転がっていくマッ缶。

 

「ふむ…。たまには本場のマッ缶も飲みてぇな」

 

誰に聞かせるでもなく、意味の無い誤魔化事を吐いて携帯を手に取った。

 

『明日駅で待っててくれ』

 

簡素なメールを最近小町よりも高頻度でメールするようになった相手に送る。

 

後ろの布団にひっくり返るとボフンと間抜けな音が出た。

 

 

そのまま意識がなくなるまで仰向けで天井を見つめ続けた。

 

 



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恋とはまた違う信頼関係 〜一色side〜

(珍しく投稿が)はえーよホセ
正直ずっと書きたかったところ。


先輩に実家への帰省を促したのは私。

ただそれは、あくまでダメ元といった意味合いが強かった。別に先輩のことを低く見ていた訳では無いけれど、本当に里帰りを決意するとは思ってもみなかった。

 

「先輩?私、切符を間違えて2つ買っててですね…。もし、良ければ買い取ってくれませんか?」

 

そんなことは真っ赤な嘘で、これは私が先輩の分として買っておいた物だ。本当に行くとは思ってもみなかったってのは嘘ですね。

 

何を間違えたら同じ切符を2枚買うのかよく分からないのだけど、不思議ななことに先輩はその点に関しては何も言ってこなかった。

 

「ああ、丁度いいしな、買わせてもらう。…ありがとな」

 

あまりにも小さくて聴き逃しそうになるけれど、先輩は今微かにお礼を述べた。

その小さな小さな感謝で私の疑問はどこかへ飛んで行ってしまった。

 

「それじゃ先輩行きましょう?」

 

「ああ…」

 

改札口前で少し立ち止まる先輩に後ろの人は怪訝そうな顔をして追い越して行った。

若干というか、かなり不安そうなその顔を見ると胸が締め付けられる。

こんな思いをさせるくらいなら先輩に里帰りなんて勧めなければ…。なんて考えが一瞬頭をよぎるが、それは甘やかしというものな気がする。だからと言って厳しくすればいいというものでは無いけど。

 

先輩の手を引いて改札を通りたいところではあるのだけれど…、それをしては先輩のためにならない。

先輩が1人で一歩踏み出すことが大事だと思うから。

 

だけど。

 

「先輩、大丈夫です。私がついてますから。」

 

そう言って軽く先輩の手を握った。

手を引きはしない。けれど手を握り、応援するくらいなら、まぁいいでしょう。

 

「ああ、ありがとな」

 

改札口を通り抜け、駅を待っている間も先輩はずっと青い顔をしていた。

手も微かに震えているようだ。

私はそれに気がつく度に先輩の手を握る。

 

その度に先輩はハッとして深呼吸する。

そして私にもう大丈夫だと言って手を離す。

でもすぐにまた震え出す。

 

大丈夫、私が傍に居ます。

先輩は1人じゃないです。

 

普段なら全然見られないほどに怯えている。

やはり千葉は先輩にとってトラウマなのだろう。

 

「先輩、体調が悪いなら…」

 

あまりにも見てられなくて思わずそんなことを言おうとしてしまう。里帰りを促したのは私の癖に。

 

「大丈夫だ。」

 

精一杯格好付けるように私を遮った。

その手はまだ震えていたけど、それでも。

 

「なんてことはない。ただ…」

 

そこで先輩はバツが悪そうに言葉を区切った。

 

「まだ手握っててくれるか?」

 

少し面食らった。先輩がそんなことを言うなんて思いもしなかった。

 

「ええ、先輩さえ良ければ握っておきますね」

 

これは恋人同士が手を繋ぐような甘い行為ではない。

でも、これはこれでまた信頼の証なのである。

 

暫くして電車が流れてくる。帰省シーズンだけあって結構な人数がいたため残念ながら座ることは出来なかった。

 

私の左手はつり革を

先輩の右手もつり革を

 

そして空いた方の手で私たちは繋がっていた。

最早、先輩が震えることも無くなってきた。

それでも私も先輩もその手を離さない。

 

先輩には申し訳ないけれど、私は電車の中で 本物 と呼べる確かな何かを感じた気がした。

 

⭐⭐⭐

電車に揺られて暫くすると千葉に着いた。

人混みの多さに辟易としながら電車を降りようとするも、人が多すぎて小柄な私はなかなか降りれない。

先輩は私との手を繋いだまま私を引っ張るように人混みの中に突っ込んでいった。

 

グイと引かれるその右手を驚きながら見ているうちに駅の改札までを通り過ぎてしまっていた。

 

改札を通り抜けた先輩は息を切らして少し立ち止まった。

 

「大丈夫ですか?お水買ってきましょうか?」

 

「いや、大丈夫だ。ちょっと人の多さに充てられただけだから。それよりちょっとこのまま待ってもらえるか」

 

先輩は目を瞑り5分ほど黙っていた。

 

私も口を出さずにそれを待っていた。

 

「ああ、もう大丈夫だ。ありがとな」

 

そう言って先輩は手を離した。

名残惜しいと言えば嘘になる。でも先輩が私の手を離したことが何故か誇らしかった。

 

「…変なの」

 

「あ?どうかしたか?」

 

ボソッと呟いた一言は幸いにも先輩には聞かれなかったようで

 

「何でもないですよ、行きましょう先輩。」

 

私はそう言って誤魔化した。

 

駅を出るとなんとなく懐かしい雰囲気を感じた。

大学卒業後に帰ってきてたんだけど…

これが独り立ちしたということなんだろうか。

 

隣の先輩を見るとなんとも言えぬ表情で棒立ちしていた。

 

「先輩、どうされます?」

 

「ああ、家に帰っても誰も居ないしな…、小町が帰ってくるまで適当に時間を潰すつもりだ。」

 

「えっと、それは…」

 

「ああ、気にするな。ちょっとその辺ブラブラするだけだしな。ここまでありがとな一色」

 

そう言って笑う先輩はどこか儚げで。

すぐにでも折れてしまいそうな空気だった。

 

「…私も」

 

「あ?」

 

「今帰っても私の両親も居ないんですよね。暇のでご一緒してもいいですか?」

 

嘘だ、家に帰ればお母さんがいるだろう。

でもなんとなく先輩の傍に居たかった。

好きだとかそういうの抜きに、今の先輩を支えてあげたかった。

 

「…そうか、暇なら仕方ないな」

 

「ええ、仕方ありません」

 

「ありがとな」

 

今日何度目かわからない感謝の言葉。

それを聞こえなかったフリをして先輩に尋ねた。

 

「どこに行きましょうか?」

 

「俺はどこでもいいよ。」

 

そんな風に言う先輩にいつものめんどくさがりとは違う感情を見つけた。

素直じゃないですね、本当に。

 

「そうですね、少し疲れたのでどこかカフェにでも入りましょうか」

 

「任せるよ」

 

先輩は何も言わずについてきた。

 

私は昔の記憶を頼りにフラフラと歩いていく。

果たしてその店は昔と変わらずそこにあった。

 

「…ここは」

 

「覚えてました?初デートの時に来たところです」

 

まぁ厳密に言うとデート練習なんだけど。

 

久々に入ったそのお店は昔と何も変わらなくて。

まだ、写真撮るシステムも続いていた。

 

昔と変わらぬ店内で昔とは違う私達はどのように写真に写ったのか。

 

それを知るのは少し怖かったけれど、見てみれば何のことは無い。そのまま少し大きくなった私達が写っているだけだった。

 

先輩と顔を見合わせて少し笑う。

変化なんてこんなものかと。

大したことは無いじゃないかと。

 

 

 

 

 




やっとイチャイチャさせられた…。
さて軽くイチャイチャさせたところで次かその次辺りで八幡には地獄のように苦しい目にあってもらいましょう。
折角地元帰ってきたのに何のイベントもないわけねぇべ


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降って湧いた災難〜一色side〜

これを投稿してる時点で、お気に入りが999になってます。
…こんな遅筆な作者のSSなんかをお気に入りに入れてくれる方がこんなにも沢山いることが嬉しくて仕方ありません。
節目ってやつです。


災難とは突然降って湧くものらしい

 

「あんれー?もしかして、いろはす?」

 

もう夜も遅いからと、いつものように駅まで送っていってもらっている時。

その軽薄さが滲み出るような、聞き覚えのある声は。

 

「戸部、先輩」

 

「久しぶりじゃん?何年ぶりよ〜。てかこんな所で会うなんてマジ、っべくね?」

 

戸部先輩だけなら問題なかった。

でも

 

「今、同窓会中でさ〜。これから駅前のカラオケで二次会なんよ!隼人くんとか、結衣とかもいるしちょっと会って行かね?」

 

その名前、は…

 

最悪だ。よりにもよって何故

 

私は思わず先輩の方を伺ってしまった。

案の定先輩は固まってしまっている。

これは拙い。

 

「ん?いろはす、その人-」

 

しまった。先輩に気づかれた

何とか、しないと。でもどうすれば!?

 

「もしかして、彼氏とか!?やー、ごっめん。空気読めてなかったわー。邪魔しちゃって悪いことしたわー」

 

「ん?どうしたよ戸部」

 

「ナンパでもしてんのか」

 

先輩に気づかれなくてホッとしたのもつかの間。

後ろから続々と先輩のクラスメイトであった人達がやってくる。

このままでは結衣先輩や葉山先輩まで来てしまう…!

 

「そ、そうなんですよー。ちょっと彼氏連れて帰省みたいなー!なので今日は御遠慮させてもらいますねー!い、行こっ!」

 

先輩の手を無理やり掴んで来た道を戻る。

先輩は相変わらず固まっていたが私が引っ張ると我に返ったのか私についてきた。

⭐⭐⭐

葉山「ん?なんか騒がしいな。どうしたんだ?」

 

戸部「あ、隼人くーん。アレアレ。今走っていってんの、アレいろはすだべ!マネの!」

 

葉山「え?いろは?」

 

戸部「確か結衣も仲良かったっしょ?」

 

葉山「うん、でも残念。結衣はもう少し後ろの方にいるよ。でも隣にいるのは?」

 

戸部「いろはすの彼氏だってよー。彼氏連れて帰省?だって!っべくね!?」

 

葉山「へー…。」

 

戸部「隼人くんどしたん?」

 

葉山「いや、何でもないさ。」

 

戸部「そ?じゃカラオケ行くべー。久々に高校の時の曲とか歌おうかな俺!」

 

大岡「お?いいな懐メロ?」

 

大和「懐メロってほど昔でもないだろー」

 

葉山「…比企谷八幡、お前は」

 

⭐⭐⭐

「はぁ、はぁ、はぁ…」

 

確か駅前のカラオケと言っていたはず。

この道ならば会うことはあるまい。

 

「先輩、大丈夫ですか?」

 

「ああ。ごめんな」

 

先輩はまた、震えていた。

 

ああ、神様とは何て意地が悪いのだろうか。

よりにもよってあのメンバーと鉢合わせる必要はないではないか。

 

「送って、いくよ」

 

「無理しないで下さい。なんなら私は1人で帰りますから、先に先輩の家に行きましょう。また鉢合わせても拙いです」

 

今の先輩は見ていられない。

顔面蒼白で、ひどく震えている。

とりあえず小町ちゃんに引き渡せば何とかしてくれるだろう。

 

私は先輩の手を引いて歩き出した。

 

今日だけで何度先輩と手を繋いだだろうか。

でも今が1番手を繋いでいて辛かった。

何もしてあげられない。

それがただ悔しかった。

 

今だって。

先輩が苦しんでいるのに励ますことも出来ない。

声をかけられない。

ただ先輩の家に向かうだけ。

 

高校の時に何度か訪れただけだった先輩の家を私はしっかり覚えていたようで、途中迷いそうにはなったもののなんとかたどり着くことが出来た。

 

インターホンを押すとピンポンという間の抜けた音が響いた。

 

返事が返ってくることはない。

 

「あ…、そう言えば。今日帰るって言ってなかった、ような」

 

「え?そうなんですか?」

 

「た、ぶん」

 

つまり小町ちゃんがいない可能もあるのか。

 

「あ、先輩鍵持ってないんですか?」

 

「あ、ああ。持ってた…と思う。」

 

なんとか返事は返してくれるものの、弱々しく油断していると聴き逃してしまいそうだ。

 

ちょっと待ってくれと先輩は財布を取り出し中身を漁る。

 

先輩が見つけた鍵でドアを開けて私は先輩の家にお邪魔した。

 

「先輩、顔を洗ってきた方が…」

 

「そんなに酷い顔してるか?」

 

「ええ、それに気分も変わるかもしれません。」

 

さて、その間に小町ちゃんに電話をかける。

 

『もしもしー』

 

数コールで小町ちゃんは電話に出てくれた。

 

「あ、小町ちゃん?いろはだけど。今どこにいるー?」

 

『今ですかー?友達と遊びに行ってて帰ってるところです』

 

「あ、帰ってきてるの?なら良かった。今先輩と先輩の家、千葉の方にいるんだけど」

 

『え!?』

 

「ごめんねお邪魔しちゃって。先輩と里帰りして来たんだけど、ちょっと問題が…。早く帰ってきてくれると嬉しいんだけど…」

 

『わ、分かりました!もうすぐ着くので待っててください!』

 

「うん、よろしくねー。ふぅ」

 

やっと一息ついた。

 

「悪い…」

 

「気にしないで下さいよー。それに…、先輩に里帰りを促したのは私、ですから」

 

「一色…」

 

2人して黙り込む。

昼間の幸せな気分はどこかへ飛んでいってしまった。

こんなことになるのなら、やっぱり先輩に里帰りなんて勧めるんじゃなかった…。

 

気分はどんどん落ち込んでいく。

私のせいで立ち直りかけていた先輩の心が挫けてしまったらどうしよう…。

 

「私、迷惑ですかね…。なんて」

 

「…そうだな。お前が居なかったら今日こっちに来ようとは思わなかったし」

 

「う゛っ…」

 

自分で聞いておいてショック受けるとかなんて面倒な女だろうか。

 

「まぁ、でも。お前のおかげで助かってる事の方が大きいから、迷惑ってほどじゃ…ない。」

 

…先輩は優しい人だ。

さっきまで自分が不安で、恐れで、いっぱいいっぱいだったのに、私が少し不安を漏らしただけですぐに慰めてくれる。

 

ああ、私は本当にめんどくさい女だ。

先輩の気遣いを心から嬉しく思ってしまっている。

今、この状況で。

そんな自分が嫌いだ。

⭐⭐⭐

「帰ってくるなら連絡してよね」

 

「お、おう」

 

小町ちゃんは帰宅直後第一声で先輩にそう言った。

 

「ごめんね、小町ちゃん」

 

「いえいえー、いろは先輩はいいんですよ」

 

「それじゃ、私は帰りますね」

 

いくら夏とはいえもう真っ暗だ。

お母さん達も心配してるだろうし。

 

「ああ、じゃあ送って…」

 

「何言ってるんですか先輩。また鉢合わせしちゃうでしょう」

 

「いや、でもな。こんな暗い中1人で帰す訳には…」

 

私達が言っている間、小町ちゃんは少し考えた様な素振りを見せるととんでもないことを言ってきた。

 

「いろは先輩が泊まっていけばいんじゃないですかね?」

 

「え」

 

いや、流石にそれは…

 

「それは…、ダメだろう。俺らももう社会人だし、そんな簡単に、泊まっ、て…」

 

言っている途中で先輩が口篭る。

そういえば、先輩の家に泊まったことある…。

それもつい何ヶ月か前に…。

 

「どしたの歯切れの悪い言い方して」

 

小町ちゃんが不思議そうに首を傾げる。

 

「いや、何でもない。」

 

先輩が白状しないと見るやこちらに顔を向けてくる小町ちゃん。

 

ううっ…、視線が痛いよう

 

「お兄ちゃん、まさか」

 

「ち、違うぞ。俺は何もしてないぞ!」

 

「何?」

 

「え」

 

「何もしてないって、何をしてないの」

 

先輩と小町ちゃんは言い争う…、というより一方的に言い負かされてる感じだけど、二人とも意識がそっちに集中している。

 

今のうちにお邪魔しよう…。

 

ソロソロとバレないように出てい『〜♪』

 

私のカバンから懐かしいメロディが流れ始める。

高校の時くらいに流行った歌だよ、コレ。

誰ですかね、嫌なタイミングでかけてきたのは!

 

相手の名前は…

 

「え、葉山先輩?」

 

災難とはやはり、突然降って湧くようだ。

嫌なタイミングでかかってきたその電話からは、嫌な予感しかしなかった。

 

 

 

 

 

 




前書きでも書きましたが節目ってやつなので、何かしたいなぁと。
また、なんかしら番外編でも書きたいですね。
何するかは活動報告にでもそのうち載せます。
作者は書くのが遅いですが、これからも続けていきますので読んで頂けると嬉しいです。
ありがとうございました。


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未だ彼らは交わらない

いろはすの誕生日に間に合わせたかった…!
1日遅れだけど誕生日おめでとうということで。
いろはす誕生日記念グッズ見たけどクッションカバーの着物いろはす美人過ぎでは?
キャラものネクタイはありなのだろうか…


社会人になってまで俺は何をしてるんだろうな…。

電話を掛けながら苦笑する。

コール中の携帯に表示されている名前は『一色いろは』

この番号に電話をかけるなど高校の時以来だろう。

 

と言っても、高校の時に自分から掛けたことなんてほとんどなかったか。

 

高校の時の後輩を思い浮かべる。

女子の後輩で印象的なのは彼女くらいだろう。

 

なんせ、俺を本命としてではなく告白してきた珍しい女子だからな。

 

なんて自惚れたことを思い浮かべてしまうが、あながち間違いという訳では無いと思うほどには自分に自信があった。

 

そんな自信、邪魔にこそなれど役に立つことはないと分かってからは捨て去ったつもりでいたんだけどな。

 

また苦笑している自分に気がついて嫌になる。

 

彼が絡むといつもこうだ。

 

俺が受ける感情は呆れと諦観、そして、

 

屈辱。

 

それでも彼の全てが嫌いだった訳では無い。

むしろ自分には出来ない方法で人を救っていく彼を羨ましいと思った、妬みすらしていた。

 

あの時までは。

 

⭐⭐⭐

葉山家と雪ノ下家は古くからの付き合いである。

両家には古くから築かれた関係性があり、本人達の気質もあったのだろう。仕事上の関係性以上に仲が良かった。

当然その関係性は子供にも影響を与える。

経験したことはないだろうか。

子供たちは別に仲良くないのに親が仲がいいせいで仲良くすることを、一緒にいることを強要される。

まぁ、強要なんて言い方だと少し大げさかもしれないが無言の圧力を感じることくらいならあるだろう。

俺達の関係性はそんな親同士の繋がりから始まった。

とは言え、雪乃ちゃんだけでならともかく向こうには陽乃さんもいた。

すぐに打ち解けた。

 

いや、打ち解けさせられた。

 

俺と雪乃ちゃんの関係性は小学校まで持ち上がった。

今の俺は流石に人間誰しもが善性な訳では無いと理解しているが、それに気づけたのだって最近だ。

少なくとも小学生の時の俺は人間は皆善なる存在だと信じて疑わなかった。

 

結果。

 

どうしようもなく間違えた。

 

理由を考えても、対策を考えてもどうしようもなかった。

理解出来ないままに中学高校と時間は容赦なく進んだ。

いつの間にか自然に振る舞うということはなくなっていった。

皆に求められる理想のリーダー像。

いつの間にか葉山隼人という偶像が出来上がった。

 

俺の偶像っぷりも板についてきた頃だった。

 

彼に出会った。

 

少し接するとわかった。

俺と本質は同じだと。

どうしょうもなく人間を信じている。

彼と俺の違いは多々あれど、それでも根っこのところで似通っている。

 

俺は認めたくない頑固さ故に人間の善性を。

彼は認めた上での純粋さ故に人間の善性を。

 

全ての人間に真に悪人はいないと

 

信じていた。

 

理由のない悪意が簡単に人を襲うこともその恐ろしさも知りながら、それでいて人間は善なるものだと信じて疑わなかった。

 

その上で

 

俺は人の善意に

彼は人の悪意に

 

耐えていた。

 

その上で人を救っていく彼を、俺には出来ない、出来なかったことをやってのける彼が嫌いだった。

 

同類なのにという羨望、嫉妬。

 

深いところで同じなはずなのに

様々なところで勝っているはずなのに

どうしても感じるのは敗北感だった。

 

高校を卒業する時彼らの選択を見て、俺は一生適わないと思った。

彼を普通の人ではないと、素晴らしい人間だと勘違いした。

 

それは俺が受けた偶像扱いと同義だった。

 

その話を知った時、彼なら何とかしてくれると思ってしまった。

結果彼を悩ませた、追い詰めた。

 

そして、彼は失敗した。

 

今でもたまに思い出す、人を殴った拳の感触。

 

後にも先にも俺が人を殴ったのは彼だけだった。

最初は文化祭、最後は教会。

 

勝手に期待して勝手に失望した。

それがどれだけ残酷なことか知っていた癖に。

⭐⭐⭐

「もしもし、いろh…一色さん?葉山だけど」

 

いろは呼びそうになったがそれは流石に悪いだろうと思い直す。

一色さんなんて呼ぶのは違和感しかなかったが。

 

『葉山、先輩。なんですか?』

 

「戸部のやつが今日見かけたって言ってて懐かしくてな」

 

『それだけで電話してくるような人でしたっけ』

 

「手厳しいな…」

 

明らかに警戒している声音だった。

 

「なんでも彼氏と帰省したとか。俺の見間違いじゃなければ君の彼氏は比企谷じゃないか?」

 

『…だったらなんだって言うんですか』

 

「今比企谷は隣にいるかい?話がしたいんだが」

 

『電話すればいいじゃないですか。』

 

確かに昔番号だけは聞いている。

どうやら変えられたようでかかりはしない。

 

「俺が彼に電話して繋がるとでも?」

 

『知りませんよ。』

 

「まぁ、彼が俺と話してくれるとは思えないからいんだけどね。伝言だけでも聞いてくれないか?」

 

『伝えるかはわかりませんがそれでもいいなら。』

 

「すまなかったと伝えてくれ。」

 

向こうで息を呑むのが聞こえた。

 

『何についてですか?』

 

「さあね?彼ならわかるかもしれないし、分からないかもしれない。」

 

『そうやってまた、変に期待するつもりですか』

 

声は震えていた。

いつかディスティニーで聞いた泣き声だった。

 

「いいや、今のは失言だ。聴き逃してくれ。」

 

『このっ、「じゃあ頼んだよ」

 

彼女が、何を言おうとしたかは分からなかったけれど、罵倒される趣味なんてないし、卑怯な俺は電話を切って逃げた。

 

彼に謝罪の言葉を放っても罪悪感は消えることは無かった。

直接言ってないのだから当たり前か…。

 

また、自嘲的に呟いて俺は携帯をしまい込んだ。

 

 

 

 

 

 

 




いろはす誕生日おめでとうとか言っておいて、出番の少ないこと少ないこと。
というわけで葉山視点でした。
コイツ何がしてぇんだ…?って思いながら書いてました。自分で書いてて葉山が何したいのか分からんし何考えてるかわからん。こんなことならリア充を経験しておけばよかった…。したくてできる経験じゃないと思うけど。



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久方ぶりの実家は波乱に満ちて

私は帰ってきたァ!
はい、すいません。
いつもの如く遅筆ですいません。


朝、窓から注ぎ込むぶしつけな日の光によって強制的に起床へと追い込まれ、体を起こす。

半覚醒のぼんやりした頭でカーテン閉めてなかったかなんて考えていると隣の布団がモゾモゾと動いた。

 

…いや、なんか膨らんでるなーとか、誰かいるなーとは思ってたんですよ。

 

夏場であるため薄いブランケット1枚しか被ってないはずなのに隣に暖かな存在感を感じていたことを思い出す。

 

昨日寝た時は1人だったかどうかすら怪しい自分の記憶を恨みながら布団をめくると案の定というか予想通りというかそこには女の子の姿が。

 

「…起きろ小町」

 

呆れながら声をかけるも反応はない。

一色だと思った?残念小町でした!

 

残念でもなんでもなかった。

寧ろ至福のひとときなのでは…?

ただ兄妹とは言え、この年になって同衾はどうなのかと思いました。

 

先程は記憶にないなんて言ったが人間頭がはっきりしてくると記憶も戻ってくるようで、昨夜のやり取りが頭に蘇る。

 

夜も遅いので送っていくと主張する俺

 

また知り合いに出くわしたらどうなるか分からない、1人で帰ると主張する一色

 

もういっそ泊まっていけばいいと主張する小町

 

三者三様に意見を戦わせていたところ、社ちk、うちの両親が帰ってきてしまったのである。

普段ならばもっと遅くまで働いていた両親はお盆だからとう理由で早く帰ってきたのであった。

 

むしろお盆なのに働いてるのがアレだと思うけども。

 

両親は俺が帰ってきていることに驚き、更に見たことの無い女性がいることに驚き、その女性が成り行きとはいえ俺が連れてきたことに今まで見たことのないほどに驚いた。

 

その場は混乱に包まれ、珍しくうちのリビングが大騒ぎになったものである。

 

あれほど大騒ぎになったのは俺が国公立の大学に行くと言った時くらいである。

何それ泣ける

 

収集がつかなくなったのを見かねて、小町が両親を連れて1度廊下に出ていき、俺と一色だけリビングに取り残された。

 

その間にも俺と一色の送る送らない論争は続いていき、あわや口論になる…といったところまでいった。

 

しかし、母親の聞いたことのないような金切り声が耳をつき俺も一色も何事かと思わず話すのを切り上げ、廊下に視線を向けた。

暫くして戻ってきたかと思うと親父もお袋も妙に緊張しているわ、お袋はなんだか目元潤ませているわで何がなにやら分からず混乱した。

 

急に神妙にな顔で後輩に頭を下げ、挨拶する両親というよく分からないものを見せられたかと思うと、両親まで泊まっていくといいと言い出した時はかなり驚いた。

1人で帰らせるよりはマシかという思いともうめんどくさいという気持ちから俺も泊まるように言ったのであった。

 

…そっからなんで小町が隣に寝ていることになったのかわからん。

 

なんでだっけか。

 

考えても思い出せない。

昨夜は親父が妙に機嫌がよく酒を勧めてくるものだから付き合って飲んでいるうちに潰れてしまったのかもしれない。

自分では割と強い方だと思っていたのだが社畜歴の長い親父には敵わなかったか。

 

昨日のことを思い出していて忘れていたが今何時だ。

枕元にあった我が多機能目覚ましで確認すると今は6時前だった。

こんな早くに起きたのはいつぶりだろうか。

 

両親はどうせ昼まで起きてこないだろうし、小町も昨日遊びに行っていた所を見るに今日は予定もないだろうから昼まで起きてこないだろう。

 

二度寝しようかと思うも俺が先程まで寝ていた隣には小町がスヤスヤと眠っている。

とりあえず部屋にいて小町の寝顔を見続けるというのもアレなので、リビングに降りていく。

ひとまず寝起きのマッ缶をと思い探すもどこにも見当たらない。

 

どうやら我が家唯一の消費者である俺がいなくなったことでマッ缶の貯蔵も取りやめになったらしい。

まぁ当時も俺が自分で買ってただけだしたな。

 

「…何が本場のマッ缶だ。飲めてねーじゃんかよ」

 

1人で苦笑する。

久しぶりに実家に戻ってきたというのに1人というのも俺らしい。

 

しかし、1度舌が求めた味を誤魔化すのは難しい。

マッ缶と決めてしまった時に普通の苦いコーヒーでは舌が満足してはくれないだろう。

 

どうせ当分は誰も起きてこないのだし、当初の目的通り本場のマッ缶を味わいに行くとしますか。

 

昨日脱ぎ散らかした覚えがある靴は綺麗に整えられていた。

小町か、一色か、はたまた母親か。

 

親父?ないない。

現に親父の靴が散らかっているのだから。

 

スマホと財布だけを持って家を出る。

記憶が確かならすぐ近くに自販機があったはずである。

自販機を求めて彷徨い歩くこと5分。

まだまだ俺の記憶力もこの辺の自販機情勢も変わっていなかったようで、見覚えのある自販機がそこにはあった。

 

あったのだが…

 

「マッ缶ないじゃん…」

 

見つけた自販機には見慣れた缶コーヒーの姿はなく、ブラックや微糖の文字が踊った普段仕事場近くで見かけるありふれた缶コーヒーだけが陳列されていた。

 

この自販機本当に千葉の自販機かよ。

マッ缶置いてないとかなってないわー

完全にマッ缶を見つけたつもりだっただけに落胆もひとしおである。

この辺に他に自販機があったかどうかまでは俺の記憶力は覚えていなかった。

スーパーなんてこの時間には空いてないだろう…という所まで考えた辺りでコンビニの存在を思い出した。

24時間営業してる便利な施設コンビニ。

大学の時の深夜バイトの際にはよくお世話になったものだ。

なんでも揃うコンビニならば恐らくマッ缶も置いてあるだろうと当たりをつけ、1番近くのコンビニに向かう。

 

しかし、朝6時に起きて散歩してと驚く程に健康的な生活だ。

まぁ、これから糖分に塗れた飲料を飲み干すと考えるならば差し引き0だろうが。

昔ならば気にも止めなかったが四捨五入すると30になることを考えると少しばかり健康のことも気にするというもの。

まぁ、本当に気にするだけで何か変えるわけではないが。

 

暫くして市民の味方コンビニエンスストア先輩の所に辿り着き、店内でマッ缶を探す。

さすがはコンビニと言うべきかマッ缶もしっかり置いてあった。

実家にないことを考えて数本買っておくことにしたはいいものの、店員の目が痛い。

 

え、こんなの沢山買うやついんの?みたいな目で見てくるのやめてくれませんかね…。

 

さて、目的も果たしたしさっさと家に戻るかとコンビニを出たところ、黒い高級車が目に入った。

 

途端、嫌な汗が流れ落ちた。

頭がクラクラし、手足の先端が軽くピリついた。

息も浅くなっているだろう。

 

自分で自分の手を握り、心を落ち着かせる。

大丈夫、自分の症状を冷静に把握出来てる。

惑わされるな。

冷静さを損なうな。

 

車は暫くして離れていった。

元々コンビニの前を通っただけなのだろう。

 

アレがあの家の車なのかどうかは分からない。

俺が撥ねられてからもう10年近く経つのだから新しくなっていてもおかしなことは無い。

ただ車が通っただけだ。

そう何度も言い聞かせても俺の体は長いこと動くことは無かった。

 

─────────☆☆☆─────────

家に戻る頃にはもう7時を回っていた。

我ながら情けないと思う気持ちと、昔よりは落ち着いたんじゃないかという思いが混ざって複雑な気分になったままリビングのソファに腰掛けマッ缶を飲み干す。

窓の外からは喧しいくらいにセミが鳴き声をあげている。

 

小学生の頃は1週間の命と知って切なくなったものだが、中学に上がってアレがナンパしてるのと同義だと知りイラッとし、高校になると7年間も土の中に引き込もれるとかなんで地上に出てきたんだと疑問に思い、就職まで済ませた今はただひたすらにうるさいとしか思わなくなった。

 

しょうもないことではあるがこれも立派な変化と言える。

結論、喧しいから少しボリューム落としてくれ。

 

下らないこと考えられる程には回復したようだと変に冷静な自己分析を下し、さっきのことはキレイさっぱり忘れることにした。

 

やることもないのでテレビでも付けようかと思ったところで廊下を歩く足音がしたのでドアへと目を向ける。

両親も小町も昼まで起きては来ないだろうと先程判断したところだが、この家には現在その3名とは別に1人いるのだった。

 

「あ、おはようございます先輩」

 

「おう、おはよう」

 

ドアを開けて一色が顔を見せる。

昨日の夜のことはあまり詳しく覚えてないが、なんだかんだ口論1歩手前まで行ったのだし、もう少し気まずくなるのかと思っていたのだが。

 

「先輩早いですね」

 

「目が覚めた時は二度寝しようかとも思ったんだがな。なんでか知らんが小町が隣にいたもんだから早々に降りてきた。」

「その言葉からするに昨夜のことはあんまり覚えてない感じですね」

 

「ああ、お前が泊まって行くことになった辺りまでしか記憶がない。」

 

目で説明してくれと促すと一色はジト目になってこちらを軽く睨んできた。

 

「な、なんだよ…」

 

「いーえ、先輩ですもんね、期待なんかしてなかったですよ」

 

「なんでいきなりディスられてんの俺…?」

 

昨夜何かやらかしたのだろうか。

しかし、酒に溺れた程度で俺がやらかすとも考えづらい。

理性の化け物という二つ名は伊達ではないのだ。

 

「昨日、私が泊まることになった後、先輩と先輩のお父さんはずっとお酒飲んでたんですよ。」

 

「そこは何となく覚えてる。多分潰れたんだと思うが」

 

「潰れたって言うか珍しく酔っ払ってましたね。で、寝る場所の話になった時に先輩がソファで寝るって話になって、泊めてもらう立場で先輩をソファで寝かすとか出来ないので私が小町ちゃんの部屋で寝て、小町ちゃんが先輩の隣で寝ることになったんです。」

 

「いやいや、小町はお袋の隣でもいいだろ。」

 

「小町ちゃん曰くお父さんの隣は嫌だと。」

 

哀れなり親父。

 

「まぁ、私でも自分の父親の隣で寝るのは嫌ですけどね。」

 

「そりゃ、そうだろうがよ。だからって兄なら良いってこともあるまいに。」

 

「その辺は一人っ子の私にはなんとも。」

 

「いや、それにしてもお前と小町が寝ればよかったんじゃ…?」

 

1番問題のない組み合わせだと思うのだが、少なくとも俺よりは。

 

「その辺は小町ちゃんに聞いてください。話してくれるかどうかは別にして。」

 

私からは言いませんとばかりに首を竦める一色。

気にはなったが、話さないと言っている以上聞いたところで教えてはくれないだろう。

それより今は微妙に機嫌の悪い一色が気になる。

やはり昨日の口論のせいだろうか。

 

「その…、昨日は悪かった。」

 

「は?」

 

何言ってんだコイツとばかりに見られる。

 

「え、いや。妙に機嫌悪いから…。」

 

「まぁ、確かに機嫌いい訳では無いですが、これに関しちゃ自分の中での問題なんで先輩は関係ないですよ。安心してください。」

 

「そ、そうか。」

 

これ以上聞くなと言わんばかりの一色の態度に頷くしか出来ない。

さっきから俺弱すぎません?

 

「ところで先輩。その袋の中身なんです?」

 

「本場のマッ缶」

 

「また、本場とか言ってるんですか…」

 

心底呆れたと言わんばかりにこちらを見てくるが、本場であることは間違いないと思うのだが。

 

「まぁ、せっかくです。1本ください。」

 

「お、珍しいな。普段は理解できないとばかりに貶してくるのに」

 

「いや、それを毎日好き好んで飲むのは正直理解できないですよ。ただ、今甘いものが欲しいので。」

 

酷い言われようだがマッ缶が理解されたことは俺の経験上ないので慣れている。

袋の中から1本取り出して一色に手渡す。

 

「ありがとうございます。コンビニにでも買いにいったんですか?」

 

「ん?おう。ちょっとそこのコンビニまでな。」

 

ふっと一色の肩の力が抜けた気がした。

いや、別に一色の肩見てたわけじゃなくて。

何となく一息ついたというか、脱力したというか。

 

「あっま!相変わらず甘ったるいですねコレ。」

 

「この甘さがいいんだよ。」

 

「太りそうなんで、やっぱり毎日は飲みたくないですね。たまにで充分です。」

 

たまになら飲んでくれるのかと思うのと太るの気にする辺りコイツもちゃんと女子やってんだなという思いの混じった生暖かい目で見てやると怪訝な視線を向けられた。

 

「何やら失礼な視線を感じたんですが。」

 

「気のせいだろ」

 

「まぁ、いいですけど。因みに朝ごはんはパンがあるので食べておいてだそうですよ。」

 

「来客あんのに変わんない辺りさすが俺の親って感じだ」

 

「いや、急に来た分際で要求とか出せませんよ」

 

気にしなくていいと言ってもその辺気にせずにはいられないだろう。

なんだかんだこいつはその辺しっかりしている。

 

「俺のも適当に取ってくれ。」

 

「チョコので大丈夫です?」

 

「なんでもいいよこの際」

 

「はーい」

 

2人で向かい合い適当にパンを食べる。

本来、実家に一色がいた事など無かったのだが妙に馴染んで、違和感を感じなかった。

暫く2人でモグモグとパンを食べ続け、特に会話もない時間が続いた。

コイツは俺との距離のとり方がよく分かっていて、妙に会話をもたそうとはせず、さりとてそれが不安になったり居心地が悪いということもない。

この辺は4ヶ月の賜物なのか、それとも高校時代の産物なのか、一色自身の気遣いなのかは分からない。

本人が特に気にしてない所を見ると元来の性質なのかもしれない。

パンを食べ終わり、やることもなくなったのでテレビでも見るかということになり、ボンヤリとテレビを見つ続ける時間が続いた。

 

「あ、そうだ先輩。」

 

「んー?」

 

「先輩の御両親って何時くらいなら起きてこられます?」

 

「昼過ぎたら起きてくると思うが、どうした?」

 

「いえ、今日は実家に帰るので。挨拶なしでお暇するのも失礼ですし。」

 

「あー、そっか。なんかいるのが自然すぎてその辺忘れてたわ。」

 

「なんですか家族になれってことですかいきなり過ぎて心の準備が出来てないですしそもそもまだお付き合いすらしてないのにいきなりプロポーズは早すぎると思います考え直してくださいごめんなさい」

 

「はいはい、振られた振られた。」

 

久しぶりに聞いた気がする一色のフリ芸におざなりな感想を伝え、またテレビに意識を戻す。

 

「適当に流すようになりましたね先輩」

 

なんて言いながらも一色もテレビに意識を向けているようで適当に言ってきた。

 

お互いに適当に言葉を交わし、特に面白い訳でもないテレビに意識を向ける妙な空間が心地よかった。

 

「いやいや、老夫婦かなんかなの二人とも。」

 

そんなこんなでまったりした時間を過ごしていると我らが可愛い天使な妹ことラブリーエンジェル小町たんが降りてきた。

 

「なんでそんなに2人だけの空間作ってるのさ。」

 

「いや、別にそんな空間形成した覚えはないが。」

 

「私も普通にしてただけだし…」

 

そういう俺たち2人に信じられないものを見る目を向けたあと後ろで何やらブツブツ呟いたかと思うとハァと一息ため息をつくとパンを食べに向かって行ってしまった。

 

何となく釈然とせず、一色と顔を見合わせる俺であった。

 

 

 

 

 

 




エタらないよう頑張ります


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久方ぶりの実家は波乱に満ちて(小町編)

小町視点
初めて名前のついたオリキャラが出ます。



「今日はありがとねー」

 

「ううん、全然気にしないでいいよー、小町もあんな人の事なんて気にしちゃダメだよ!」

 

「あはは…」

 

もう随分と暗くなってきた外に出ながら後ろからかけられる励ましに曖昧な笑みを返す。

応援してくれるのは嬉しいし、頼もしい。

私が友人からのエールに微妙な笑いを返すしか出来ないのはその応援に応えられない可能性があるからだ。

 

「もう…、そんな弱気でどうすんの」

 

そんな私を見て私の無二の親友は発破をかけるように背中を軽くはたいてくる。

軽い衝撃にちょっとだけよろける。

 

「でもさぁ…」

 

「気にしなくていいのよ、中学の時から一緒なんだから寧ろ私が先に好きになったんだ!横入りしてきたのはそっちだって言ってやんなよー」

 

「す、好きになったと決まったわけでは…」

 

「はぁ?まだそんなこと言ってんの?」

 

「だ、だって…」

 

「もう最近の小町はウジウジばっかりしてー。あの快晴のような小町は一体どこへ?」

 

そうは言われてもどうしょうもない。

女子社会にとって惚れた張ったの争いごとは今後の生活に露骨に関わってくるのだから油断ならない。

 

「どうにかなったって私は離れないからさっ、気にせずやっちゃえって」

 

「友紀ー」

 

「おうおう、しっかりしなさい乙女さん」

 

快活で人情に厚いこの親友が私は大好きだ。

竹を割ったような性格というのはきっとこういう人のことを言うのだろう。

 

「ありがと、私頑張る!」

 

「うんうん、その意気だっ!ところでもう暗いけど本当に送っていかなくて大丈夫?」

 

「うんうん大丈夫。そんなに遠い訳でもないし、自転車だしねー。」

 

「本当に気をつけてよー?」

 

「分かってるって、それじゃおやすみー」

 

「おやすみー」

 

自転車に跨り夜の道を走っていく。

今が夏だからといって、ちょっと油断し過ぎちゃったかな。

辺りが本当に真っ暗なのを見て、少しそんな思いが浮かんできたが今日はしょうがなかった。

女子の中のボス、猿山の大将に狙われることなんて今までの人生で経験したことがなかった。

大体先に牽制しておくか、そもそも私がそっち側な事が多かった。

 

今回は大志くんのせいで最初から敵視されてたもんなぁ…。

こっちに気があるかないかなんて関係なしだもんね…。

いや、今となってはそこも怪しいところであるので寧ろ慧眼だったのかもしれないけれど。

 

そんな風に今日友紀に愚痴った内容と同じような内容を思い返しながら自転車を走らせているとポケットに僅かながら振動を感じた。

電話のようだけどこんな時間に一体誰が…?

 

友紀の家に忘れ物でもしたんだろうかと思いながら自転車を止め道の端に寄せる。

 

ながら運転ダメ絶対!

 

友紀かと思っていた私だが画面を見るとそこには予想外の名前が。

 

『あ、小町ちゃん?いろはだけど。今どこにいるー?』

 

 

「今ですかー?友達と遊びに行ってて帰ってるところです」

 

 

『あ、帰ってきてるの?なら良かった。今先輩と先輩の家、千葉の方にいるんだけど』

 

 

「え!?」

 

突然告げられた内容に驚きが隠せない。

お兄ちゃんが帰ってきてる!?

しかもいろは先輩と家にいる!?

 

 

『ごめんねお邪魔しちゃって。先輩と里帰りして来たんだけど、ちょっと問題が…。早く帰ってきてくれると嬉しいんだけど…』

 

 

「わ、分かりました!もうすぐ着くので待っててください!」

 

『うん、よろしくねー。』

 

ええ…、私ちょっとついてけないよ。

どうなってるのか全く分からないのでとりあえず家に帰って現状を把握しないといけない。

あと、連絡なしで帰省してきた愚兄には文句を垂れてやらなければ。

そんな風に思いながらも、久しぶりに帰ってきたお兄ちゃんに私の心は期待に弾まずにはいられなかった。

 

いい加減にウジウジするのやめたのではという期待と、何か大事になって帰ってきたとかだったらどうしようという不安。

それらがごちゃ混ぜになりながら、急いで家にたどり着き、鍵を開けて中に入った私が見たものは…!

 

なにやらイチャイチャしてる兄と高校の時の先輩という非常に反応しづらいものだった。

 

しかも何やら結局ウジウジしてるみたいだし…、でも帰ってきたということはやっぱり順調に立ち直ってるのかなとも思う。

とりあえず私の心配を返せと思うあまり久しぶりのお兄ちゃんなのに少しきつく当たってしまった。

でも帰ってくる時に連絡くらいよこせとは思うよね。

 

私が帰ってきたことでいろは先輩は帰ろうとする。

今しがた外から1人で帰ってきた私が言うのもなんですが、暗いから気をつけた方がいいのでは?

なーんて思っていたところ、高校でモテ期を経験し、大学で手酷い失恋(であってる?)を経験し、社会人になったお兄ちゃんはなんとここで送って行くことを自ら提案!

 

うんうん、お兄ちゃんの成長が見れたようで嬉しいっちゃ嬉しいけど、まだまだだね!

そんなボロボロの状態で送っていくとか言われても遠慮するに決まってるでしょうに。

それに、どうやら帰ってきた時に聞こえた会話の内容からしていろは先輩がお兄ちゃんを連れ帰ったご様子。

色々聞かなくちゃいけませんからね、逃しませんよ?

 

「いろは先輩が泊まっていけばいんじゃないですかね?」

 

「え」

 

 「それは…、ダメだろう。俺らももう社会人だし、そんな簡単に、泊まっ、て…」

 

「どしたの歯切れの悪い言い方して」

 

「いや、何でもない。」

 

「お兄ちゃん、まさか」

 

「ち、違うぞ。俺は何もしてないぞ!」

 

「何?」

 

「え」

 

「何もしてないって、何をしてないの」

 

こんな風に私がお兄ちゃんを問い詰めているとこっそりいろは先輩が抜け出そうとしているのが目の端に止まる。

 

…ふふふ?逃がしませんよ

 

声をかけようとしたところ、何やら電話がかかってきた模様。

様子からしてただならぬ感じなので仕方なく放置することにする。

 

いろはさんは廊下に出てるし、丁度いい。

 

「お兄ちゃん?」

 

「い、いや小町。俺は本当にそんな」

 

何事か見苦しく言い訳しようとするお兄ちゃんですが、お兄ちゃんにそんな度胸がないことなんて小町は100も承知なのです。

 

「いや、それより。いろは先輩とどういう関係?」

 

「どうってそりゃ、会社の後輩だよ」

 

「本当にそれだけ?」

 

「他に…?」

 

そう言うと考え込み出すお兄ちゃん。

…こりゃまだまだ先は長いね。

 

「飲み仲間?」

 

「それ本人には言わないように。」

 

「アッハイ」

 

まぁ、どうせいろは先輩はそんなんでも喜ぶんだろうけどさ。

ここまでは想定の範囲内だし、ちょっとした好奇心で聞いただけ。

 

「じゃあ、なんで帰ってきたの?」

 

「え…、俺実家に帰ってきちゃいけないの?」

 

「そういうの今いいから。」

 

心配かけないように冗談で誤魔化す。

お兄ちゃんの悪いくせだ。

 

「そんな風に誤魔化されても、親しい人には伝わっちゃうし、それで余計心配しちゃうんだよ。」

 

「…そうなのか?」

 

「そうなの。対人経験少ないお兄ちゃんはわかんないかもしれないけどね。心配…してるんだよ?」

 

「…何となくだ。本場のマッ缶でも飲もうと思ったってのもある。」

 

今度の答えも普通に聞いたらふざけてるようにしか聞こえないような内容だったけれど、お兄ちゃんの顔は真剣そのもので。

わかってないってのは本心だろう。

 

その後のマッ缶が〜っていうのは恐らく自分を納得させるための方便かな。

本当にごみぃちゃんだなぁと不器用なお兄ちゃんを見やる。

 

「…そっか。ま、ぼちぼちやれば?」

 

「おう」

 

前後に脈絡なんてないし、遠慮もない。

他人が聞いても意味なんて分からないだろう。

だけどこればっかりは兄妹じゃないと分からないものがある。

 

きっといろは先輩がお兄ちゃんに影響を与えてる。

それが原因でこんな風にボロボロになったりもするだろうし、その事でいろは先輩は自分のことを責めるだろう。

 

だけど、決してそれは悪いことじゃないはず。

ついさっき親友に言われたばかりの言葉を思い出す。

 

「どんな風になろうと、私はお兄ちゃんの妹だからね。」

 

「まぁ、俺みたいなのと長くいられるのはお前くらいだろうしな。」

 

「さぁ?それはわかんないよ?」

 

いろは先輩とかいるし。

いろは先輩はずっと後輩とは言えないだろうけど。

今や一人となってしまったお義姉ちゃん候補が部屋に戻ってくるのを見て思った。

 

───────☆───────

「いや、だからですねそんな大した距離でもないので1人で帰れますって」

 

「いやいや、そういう訳にもいきませんよ。ねぇ、お兄ちゃん」

 

「そうだぞ俺が送ってくから」

 

「いや、ですからね…」

 

何度繰り返したか分からない議論を繰り返していると外から車の音が。

どうやら延々と議論している間に両親が帰ってきたようだ。

 

まぁ私は議論長引かせていろは先輩が帰れないようにするの狙ってたんで目論見通りですけどね。

 

そんな風に少しばかり黒いことを考えつつ両親が家に入ってくるのを待つ。

 

「「ただいまー」」

 

両親が揃って帰宅の声をあげる。

なんだかんだ仲がいい両親である。

 

「おかえりー、ほらお兄ちゃんも」

 

挨拶を促すも渋って返さないお兄ちゃん。

柄にもなく照れてるのかなとも思ったけどお兄ちゃんだし、そんなわけもない。

どうせめんどくさいからとかそんな理由だろう。

 

「お、小町今日はおs」

 

お父さんが何か言いながらリビングに入ってくるもお兄ちゃんの姿を見て絶句している。

 

「は、八幡?」

 

「おう、おかえり」

 

「…金ならやらんぞ」

 

「久しぶりに帰ってきた息子に対する第一声がそれかクソ親父」

 

なんてひどい親子だろうか

 

余りにも酷い会話にいろは先輩がヒいている。

まぁ、この2人はこんなもんですよと思いながら本命のお母さんを待つ。

どうやらお母さんは靴を見て誰か来てると判断したらしい。

 

おずおずとドアから顔を覗かせている。

そしているのがお兄ちゃんだとわかった瞬間、驚きの表情を浮かべて引っ込んだ。

お父さんはどうか知らないけど、お母さんいっつも心配してたもんね…。

本人が嫌がるだろうからって関与しないようにって、私からならお兄ちゃんも嫌な気はしないだろうって、電話させたり。

 

そりゃあ私だってお兄ちゃんは好きだし、連絡とるのも問題ないけれど、普通20過ぎた兄妹があんなに頻繁に連絡取らないと思うのだ。

全部とまでは言わないが半分くらいはお母さんからのお願いによる連絡だったりする。

お兄ちゃんは気づいてないみたいだけど、愛されてるんだよねぇ…。

 

「えっと、御両親も帰ってこられたみたいですし、私はお暇させてもらいますね…?」

 

「おっと、いろは先輩逃がしませんよ。折角だから挨拶してってください。」

 

外堀から埋めるって結構大事なので。

 

いろは先輩が発言したことでやっとお父さんもいろは先輩の存在に気づいたようでギョッとしていた。

まぁ、私あんまり友達連れてこないからね。

家の中に私やお母さん以外の女の人っていう状況がのみ込めないらしく混乱しているようだ。

そこへ、お母さんもリビングに入ってくる。

 

「あら八幡帰ってたの、久しぶり」

 

「軽すぎやしませんかね…、いやあんま大げさにされても面倒だからいいんだけどよ」

 

お兄ちゃんの捻くれや素直じゃないところは恐らくお母さんからなんだろう。

本心では絶対に嬉しいはずなのに微塵もそんなこと出さないで。

本当に、愛されてないとか言ったら引っぱたいてやるまであるよごみぃちゃん。

 

「あら、こちらは小町のお友達?ごめんなさいね、うるさい家で。」

 

「あ、その人はお兄ちゃんの後輩さんだよー。小町の高校の時の先輩でもある。」

 

「え?八幡の…後輩さん?これは息子がいつもお世話になっております。」

 

「いえいえ、私こそ先輩に助けてもらってばかりで。」

 

お兄ちゃんが女の人を連れて帰ってきたという事実に驚きを隠せていないようだ。

これでいろは先輩がお兄ちゃんに惚れてるとか伝えたらどうなるのかな…。

 

お父さんもお母さんも妙に緊張して、少しばかり戸惑っている。

まぁ、お兄ちゃんが家に誰か連れてきたことって1度もないもんね…。

初めてで、しかもそれが美人とか驚くのも無理はないでしょ。

因みにどれくらい驚いたかって言うとお兄ちゃんが国公立大学受けるって宣言した時くらい。

何それお兄ちゃん可哀想。

 

「本当ならもう少し歓迎したい所ですが、今日は夜も遅いですしお帰りになられた方が…」

 

「あ、いろは先輩今日泊まるってよー」

 

「「ちょっ!?」」

 

「「はっ!?」」

 

見事なまでのハモリが2つ。

仕掛けた私が言うのもなんだけど随分と驚くね。

 

「ちょっと小町?その話は消えたはずでは?」

 

「そうだよ小町ちゃん…、流石に迷惑かけちゃうし」

 

はい、2人のその反応は予想してました。

なのでこっちは人数の利と権力を味方につける。

 

「お母さんお父さんちょっとこっち来てねー」

 

「いや、小町それより」

 

「いいから」

 

「はい」

 

お父さんを封殺する。

残念ながら我が家のヒエラルキーはお母さん>私>お父さん=お兄ちゃんなのです。

お母さんは大人しく着いてきてくれるようなので、お兄ちゃんといろは先輩に少し待つように伝えてリビングに出る。

 

「小町、なんで八幡が?」

 

リビングを出て、ドアを閉めるやいなやお母さんが聞いてくる。

本当に愛されるよねぇ…。

 

「小町もわかんない。いろは先輩のおかげだと思うけど。」

 

「あの女の子か、美人さんだったな。」

 

「そうね、でもあんな美人さんがなんで家に?」

 

「はい、そこですよ」

 

「「?」」

 

2人して首を傾げる。

本当に似たもの夫婦だよこの2人は。

 

「いろは先輩は高校の時からお兄ちゃんの後輩で、現在もお兄ちゃんを好いています。」

 

「は?」

 

「えっ!?えっえ!?えっ!?!?」

 

有り得ないと言わんばかりのお父さんの顔と対称的な驚愕と喜びに満ち溢れたお母さんの顔。

というか声が大きすぎて向こうの2人にも聞こえたよ絶対。

 

「そうなの…、八幡にもやっと、やっと…!」

 

「アイツがあんな美人に…?詐欺とかじゃなくて?」

 

因みにお父さんとお母さんはお兄ちゃんの大学の時の事は詳しく知らない。

小町がやんわりと何かしらがあったってことだけ、伝えてる。

 

しかし、お父さん酷いね…。

 

「私変じゃなかったかしら?悪い印象取られてないわよね?」

 

「大丈夫だから落ち着いてお母さん。因みに高校の時からで、今年たまたま同じ会社になったから再燃したみたい。それでよ、お兄ちゃんはその事に気づいてません。鈍感だからね。」

 

「あの子は…本当に…」

 

「それでお母さん、いろは先輩とお話したくない?」

 

「したいわ」

 

早い…。お話の辺りで食い気味に返答が帰ってきた…。

しかしまぁ、それなら問題ない。

お母さんがこう言っている以上、比企谷家の最高権力が味方だ。

え?お父さん?お父さんは小町がお願いしたら逆らえないから最初から数にいれてるよ。

 

「なるほど、それで泊まっていくように…と」

 

「話が早くて助かるよ」

 

「でも迷惑じゃないかしら…?」

 

少し不安そうにしているお母さん。

まぁ、初めて息子が連れてきた女の人、しかも好意大だもんね…。

 

「その辺は大丈夫。いろは先輩は遠慮してるだけだと思うから、こっちからお願いすればいいよ」

 

「それなら…」

 

と話が纏まったところでリビングに戻る。

ああ、お父さん?話してる間ボーッとしてたよ。

 

「いろは先輩、やっぱり今日は泊まっていってください」

 

「いや、だからね?」

 

そこでお母さんが、こっそりと近づいて耳打ちする。

途端いろは先輩が真っ赤になってこっちを見る。

 

私なーんにも知りませーん。

 

その後もボソボソと密談をするお母さんといろは先輩。

多分いろは先輩は落とせるので、あとはお兄ちゃんだけ。

 

「お兄ちゃん、いろは先輩1人で夜道帰らせるのと今日1晩泊まっていって貰うのどっちがいい?」

 

「いや、どっちもまずいだろ。」

 

「さっきの口ぶりからもう泊まったことあるんでしょ?そこについて触れられたくなかったり、お母さん達に言われたくなかったら…」

 

「はい、小町の言う通りにします。」

 

うん、素直なのはいいことだね。

お兄ちゃんの説得も済み、お母さんがいろは先輩を落としたことで、いろは先輩は家に泊まることになった。

 

え?お父さん?1人所在なさげにしてたよ。

 

───────☆───────

お父さんもなんだかんだ言って久しぶりのお兄ちゃんで安心したのか、それともお兄ちゃんに好意を持つ女性の登場で機嫌を良くしたのかは知らないけれど、男2人でジャンジャン飲んで、潰れてしまった。

 

「それで、いろはさんは家の息子のどこを気に入ってくれたんです?」

 

「え、その…。素の私と接してくれる所とか、なんだかんだ優しい所とか…。それから、それから…」

 

「どうしよう小町、お母さんちょっと泣きそう。」

 

「笑えばいいとおもうよ」

 

男2人が眠ってしまったのでガールズトーク。

若干一名ガールではない気がしないでも…

 

「小町?」

 

ガール3人の夜は長く、濃く続いていき、気づけば3時を過ぎていた。

 

「ごめんなさいね、こんな時間まで」

 

「いえ、私も楽しかったですから。」

 

「本当いろはちゃん家の娘にならない?」

 

「えっ!?」

 

「いやいや、気が早いでしょお母さん。」

 

どうやら相当にいろは先輩のことを気に入ったようだ。

 

「八幡は捻くれてるし、誤解されやすい子だから心配してたんだけれど…、こんないい人がいてくれて本当に嬉しいわ…。」

 

「いえ、そんな私なんか…」

 

「いろは先輩、うちの愚兄と付き合っていくってことは色々後悔することも多いと思います。でもいろは先輩絶対に間違ってないんで、頑張ってください。少し間違えたところでお兄ちゃんはどうもなりませんから!」

 

「小町ちゃん…」

 

「今日はもう寝ましょうかね」

 

お母さんが言ったのでお開きとなった。

しかし、問題となったのは寝場所である。

お父さんもお兄ちゃんも自分の部屋で既に寝てしまっている。

お父さんの隣はお母さんとしても(小町お父さんの隣で、寝るのはちょっと)、流石にいろは先輩をソファで寝かせるわけにもいかない。

折角なので私がお兄ちゃんの隣で寝ることにした。

昔はよく一緒に寝ていたし。

 

私は自分が割とブラコンだと思っている。

まぁ、流石にガチで恋するとかはないものの、少なくともこの年歳の世間一般の兄妹よりは仲がいい。

いくら電話やメールしたりしても会うのとはやはりまた違う。

久しぶりのお兄ちゃんに甘えたい…というと語弊があるが、隣で寝るくらいなら許されるだろう。

 

隣に寝るとドキドキする…なんてことはまったくなく、むしろ心地よい気分になっていく。

何となく懐かしい匂いがして気づけば私は眠りに落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 




私の書く小町は親愛4家族愛6の割合でブラコンです。
ちなみに小町の友人の友紀(ユキ)ちゃんの再登場は未定です。


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そうして物語は結末に向かう。

小町と一色と朝食を済ませた後、うちの両親が起きてくるまでと3人でダラダラしていた。

 

とはいえ、一色からしてみれば初めて訪れる家でダラけきる訳にもいかないようで俺と小町しかいないリビングなのに借りてきた猫の様に大人しくしていた。

そろそろ両親が起きてくるかな程度の時間になった辺りで、珍しいことに来客を告げるチャイムが鳴った。

 

「小町、いってら」

 

「えー、私強制?少しは人と話した方がいいよ?」

 

「ばっかお前普段会社で話してるからいいんだよ」

 

「ダウトです先輩。ほとんどしないし、してもめちゃくちゃ事務的な会話だけじゃないですか」

 

「全く成長してないようで私は悲しいよ…」

 

「会社なんて仕事する場なんだから必要最低限のコミュニケーションで充分なんだよ」

 

などと兄弟の押し付け合い(小町陣営は援軍あり)をしていたものの、流石にあんまり待たせるのも失礼なので重い腰を上げる。

 

流石に2人がかりで来られたら勝ち目ないしな。

しっかし平日の昼前から誰だよ非常識な…

 

なんてことを考えながら玄関の扉を開くとそこに、天使がいた。

いや、正確にいうなら天使だけではなく変な妖怪と夜のドンキにいそうな女がついていた。

 

「おはよう八幡」

 

「え?お、おはよう?」

 

「久しぶりだねー、大学1年の時に会ったきりだから…、もう4年以上経つんだねー。」

 

「お、おう。もうそんなに経つのか。」

 

「少し逞しくなった?」

 

「どうだろう、特に何かしてるわけじゃないから気のせいじゃないか?」

 

4年ぶりに会ったとは思えない程に自然に会話が弾む。

俺のペースにナチュラルに合わせてくれるこの感じが懐かしい。

 

「…じゃなくて。なんでうちに?」

 

「昨日同窓会があったのに八幡来てなかったからだよ」

 

「まぁ、アタシも行ってないけどね」

 

「我に至ってはそもそもクラス違うしな」

 

メンツがぼっちーズのそれじゃん…。

いや1人天使いるわ。

ぼっちーズwith天使だわ。

 

「でも葉山くんが八幡っぽい人を見たって言ってたからさ、もしかして帰ってきてるんじゃないかなと思って来てみたんだ」

 

「アタシは付き添い」

 

「同じく付き添い2である。」

 

付き添い2人はともかくとして、連絡も寄越さずにこんな時間から家に来るなんて戸塚らしくない気がするんだが…。

 

そんな思いが顔に出ていたのか戸塚が悪戯っぽく微笑んだ。

 

「事前に連絡したら八幡逃げちゃうかもしれないからね。どう?ビックリした?」

 

「ビックリしたっていうか現在進行形でビックリしてるけども。いや、しかしそれにしても何で俺なんかに…」

 

「何言ってるのさ。理由なんて久しぶりに友達に会いたいからに決まってるじゃない」

 

 

 

友達。

 

 

 

なるほど友達か。

なんとはなしに感動してから、ふと思ったのだがその理論で行くと後ろの付き添い2人も友達カウントでいいのだろうか。

 

 

「む?我は前世から絆を結んだ盟友だと高校時代に告げていたはずだが…?まぁ、そんな厨二的設定は捨ておいて、お主は数少ない友人だぞ」

 

 

「材木座…、お前。」

 

「はぽん。感動して言葉も出ぬか?」

 

「喋り方は変わってないけど厨二って認められる様にはなったんだな…!」

 

「はふぅん…、キまったと思ったらこれである…。」

 

 

茶化したとはいえ実際そこはかなり驚愕ポイントだ。話し方変わってなかったから今も痛い奴なのかと思ってた。

 

いや、その話し方は充分に痛いけども。

 

そして2人からも友人宣言を受けて、後ろに立つもう1人にも自然と視線が向かう。

 

 

「なに?」

 

「いや、お前はどうなんだろうと…」

 

「寧ろこの流れで友人以外のなんだってのさ…。ア、アタシは高校の時から友人だと思ってたし…。」

 

「マジか。」

 

「それこそ生徒会選挙の時とか友人でもなきゃ手伝わないって言うか」

 

 

 

この歳になって急に3人もの友達ができた訳だが。

いや、当時も友達でいいのかな…とか思わなかった訳では無い(材木座除く)

 

だが、結局俺なんか…といういつものパターンで自分から離れていたわけだが。

 

特に大学の時なんかアイツらとイロイロあって世界で1番ダメなやつだくらいまで自分の評価落ちてたし…。

 

いや、今でもあの時の俺はクソ野郎だとは思っているが。

 

「お兄ちゃんどなただったのー?」

 

そんな風に玄関先でうだうだ話していたら小町が様子を見に来た。

 

「あっ、小町ちゃん久しぶりー」

 

「あ、戸塚さんお久しぶりです。それと、中二さんと、お、お姉さん…」

 

「ん?ああ、小町おはよう」

 

「えっ」

 

何その気さくな感じ。

ていうかなんで名前呼び?

小町もお姉さん呼び?

なんで?どういうこと?

お兄ちゃん聞いてないよ?

 

「おい、どういうことだ川崎。うちの妹とどういう関係だ」

 

「は?どういう関係って、小町?」

 

俺が聞きただすと不思議な顔をして小町の方を見る川崎。

俺もつられて小町を見ると…、

 

「…!…!」

 

ブンブンと全力で首を横に振る可愛い妹が。

 

「はぁ…。ダメらしいから小町に聞きな」

 

「絶対教えない」

 

「ええ…」

 

どういうことだ一体

俺が知らない間にいつ小町は川崎と仲良くなったんだ?

 

「なぁ、小町」

 

「皆さん!こんな所で立ち話もなんですし、うちに上がっていって下さい!さぁどうぞどうぞ!」

 

小町に問ただそうと声をかけようとするも、小町はそれを誤魔化すように大袈裟に3人を家に招き入れる。

 

ちっ。

 

まぁいい、後で問い詰めよう。

実際玄関先にずっと立たせておくのも申し訳ないしな。

 

「「お邪魔します」」

 

律儀に3人揃って挨拶入れてうちにあがるのを不思議な気分で見ていた。

 

いつぶりだろうかうちに俺の知り合いがあがるのは。ましてや友達となると…。

 

などと感慨に耽りながら玄関を閉めていると、3人が進んだリビングから間抜けな声がしてきた。

「あれ?」

 

「えっ?」

 

…そういえばつい昨日俺の知り合いが来てましたね

 

★★★

 

「ということで一色。こちら戸塚、川崎、材木座。あー、なんだ俺のゆ、友人だ。」

 

「お、お兄ちゃんが友人って…!」

 

「うるせーぞ小町」

 

ぷっと小馬鹿にするように笑ってくる我が妹にツッコミを入れる。

 

「えーと、戸塚さんはテニス部の部長さんでしたよね?生徒会とかで少し覚えがあります。あとのお二人はほぼ初対面でしたかね?」

 

「けふん…」

 

ナチュラルに忘れられていることに材木座がショックを受けているがどうでもいいな材木座だし。

 

「あー、そんでもって戸塚川崎材木座、コイツは一色。俺の後輩だな。」

 

「生徒会長さんだねー、お久しぶりです」

 

「なんとなく覚えてる…ような。」

 

「我、話したこともあるんだが…」

 

にこやかに挨拶する戸塚と記憶を辿るように目を細める川崎、そして傷ついてる材木座。

 

「というか、後輩?八幡お主高校の後輩を呼び出して何をしていたのだ。」

 

「いや、職場の後輩。」

 

「え、同じ職場なの?」

 

「そうなんですよ、私もビックリしちゃって…。」

 

「そんな偶然もあるもんなんだね」

 

などとワイワイガヤガヤと雑談をしていると、小町がふと思い立ったかのように3人に質問を投げかける。

 

「ところで皆さん今日はどうして?」

 

「昨日のクラス同窓会、八幡も川崎さんも来てなかったからさ。僕が会いたいなーって思って。折角だし材木座くんも呼ぼうと思って。」

 

「あー、なるほどなるほど。」

 

「逆に生徒会長殿はどうして八幡宅に?会社の後輩だからと言え、別に八幡宅に来る理由も…、はっ、まさかとは思うが八幡などと交際して!」

 

「えっ…。」

 

「おい材木座」

 

デリケートな所をつつくんじゃねぇ…!

やめろよお前、どう答えられても俺が困る質問をするな…!

 

まぁ、とはいえ答えはNOだろうがな…。

と、ちょっと落ち込み気味に一色の方を見ると。

 

「えっと、交際とかは…その。まだ」

 

 

 

ちょっと待て。

 

なんでそんな顔真っ赤なんだよ、やめろよそういう反応。

まだってなんだこれから可能性があるのか。

 

変な期待を持たせないでくれ。

どうすんだよこの微妙な雰囲気、材木座お前今すぐ腹を切れ、その勢いで有耶無耶にしろ。

 

「…」

 

もうこの際誰でもいいからこの空気を壊してくれ。

 

無限にも感じる重苦しい空気に押しつぶされそうになっていると、

 

「おはよう…。って人増えてないか?」

 

救いの神か…!

リビングに救いの神ことうちの親父が入ってきて、人の量に驚いている。

 

ありがとう親父。

俺今だけ親父のこと尊敬するよ。

 

「あ、初めまして、八幡の友人で戸塚と言います。」

 

「同じく川崎と言います。」

 

「むっ、ぬぬぅ…。材木座と言います」

 

三者三様に親父に挨拶を済ませる。

材木座だけはこちらを恨めしげに見てきたが、なんだお前。

恨めしいのはこっちだボケ。

 

「えっ、八幡に友人…?」

 

「おいなんだ親父その疑いの目は。」

 

「ゴメンな…八幡。別に桜雇わなくても父さん達心配してないから…。いやマジで欠片も。」

 

「ぶん殴るぞ」

 

やっぱりうちの親父はクソ親父だったよ。

 

「あっ、えっと今回はお世話になりました私はこれで。お邪魔しました」

 

そう言って一色は制止する暇もなく出ていった。

 

「えーっと。」

 

俺が所在なさげに見回していると背中を引っぱたかれた。

 

「いってぇ!何すんだ親父」

 

「何すんだじゃねぇよ、追っかけろよお前。さすがに今のは追っかけるべきだろ」

 

「わーってるよ…。」

 

クソ親父の癖して正論吐きやがって…。

 

悪態を吐きながら立ち上がると四方から声が飛んできた。

 

「頑張れ八幡。」

 

「はやく行きな」

 

「えーっと、すまぬ八幡」

 

「見つけないと家入れないからね。」

 

そんな優しくも厳しい…。

っていうか半分ほど厳しいのと1つ謝罪だったけども。

 

声援を受け取りリビングを後にした。

 

「アイツはっや。」

 

玄関を抜けると既に一色の姿はなかった。

 

アイツの家は駅違いだったはず…!

とりあえず駅の方に走りだす。

 

追いかけながら頭の中で様々な思考が頭を巡る。

さっきのアイツはどういうことだったのか、追いついて何て声かけるんだとか。

 

実際さっきの反応を気にしたらダメだろ。絶対そういうのじゃない。

 

ホントにそうだろうか。

 

試しにあいつの行動全部見返してみろよ、絶対そんなことないから。

自問自答しながら、一色と再開してからのことを思い出していく。

 

歓迎会の時、2人で飲み直したのは?

新しく入った会社で知り合いが俺だけなのと他の男性社員が嫌だったから。また、奉仕部の結末を知るため。

 

他だと酔うまで飲まないらしいのに、俺相手だと泥酔する理由は?

高校の時から知ってるからってだけ。

 

次の日泊まったのは?

金なかっただけ。

うちに落ちてるかもって探しに来てその流れ。

 

何かにつけて飲みに誘ってくるのは?

知り合いが近くにいないから少しなりとも仲のいい俺を誘ってるだけ。

 

色々と手助けしてくれるのは?

アイツが良い奴ってだけ、図に乗るな。

 

思い上がるな、思い出せ…。

 

…クソったれ。なんで思いだすアイツの顔軒並み笑顔なんだよ。

 

もっと泣けよ、怒れよ…。

 

何考えてんだ俺。

最低のクズ男だぞ俺は。

大学の時のことを忘れたのか。

 

「ああ、クソっ!」

 

ちくしょうめ。

どんなに思い出しても思い出しても。

むしろ思い出せば出すほど。

 

アイツが俺の事を好きなわけないって証拠を探してるはずなのに。

俺から出てるこれは好意だ。

 

今までひたすらに誤魔化してきたけども。

なんだかんだと言い訳し続けてきたけども。

 

アイツがどうとか関係ない。

 

 

俺がアイツを好きなんだ。

 

 

ああクソ。認める気はなかったのに。

畜生。

 

駅につき、立ち止まり携帯を取り出す。

 

もう少し運動した方がいいかもしれない、息が乱れまくっている。

周りが何事だと言わんばかりにこっちを見ているのがわかる。

 

奇異の目を向けられる。普段なら冷静ではいられないが今はそんなことはどうでもいい。

 

最近じゃ1番電話をかけてる相手に電話を送る。

 

何コールしても出ない。

 

「ちっ」

 

軽く舌打ちして電話を切り、メッセージを送る。

 

『話がある。どうせこのままいても休み明けに会社で会うんだ先に話しておこう。昨日の駅の前で待ってる』

 

簡潔にメールを送った。

 

さぁ、この話にケリをつけよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、すいません。
遅くてすいません。

言い訳をさせてください。
私生活でバタバタしてたんです。
執筆時間が取れなかったんです。
決して忘れてたわけではございません。

今回の話も別に無理に終わらせにかかっているわけではございません。実際まだ続きます。

これからはコンスタントに投稿出来るように、締切を設定しようと思います。来週、27日には投稿します。

ただ締切を設定することにより、内容が短くなる可能性は高いです。
ですが、たとえ500文字だろうと新しい話を27日に投稿します。
ということで、もしまだこんな駄文を読んで下さっている方がいらっしゃるのであればお読み頂けると幸いです。


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やはり俺の青春ラブコメはまちがっていたのだろう。ならば

何の変哲もない、昨日と同じ駅。

 

道行く人々は俺の事なんて、きっと気にもとめてないだろう。

結局、一色からの返信はなくこの場にも来ないかもしれない。

 

道行く人々の中から、見知った顔を見つけようとするがどこにも見当たらない。

その事にどこかホッとしている自分がいることに気づいて鼻で笑った。

 

どこまで行っても俺というものは変わらず、小心者で姑息な小物のままであるらしい。

 

ここに来るまでに何度も繰り返し考えた。

というか、着いてからも考え続けた。

 

自分の気持ちにこそ気づいたとはいえ、それに対する俺の答えはどうなのか、アイツの答えはどうなのか考えても結局どうにもならない。

 

頭の中で考えが纏まらず、悶々とした気持ちだけが募っていく。

 

30分ほど待ち、後悔と自責の念がチラホラと頭に浮かび始めた頃だった。

駅の入口から見慣れた栗色の髪が見えた。

 

「お待たせ、しました。」

 

顔を下に俯けたまま、暗い声でボソボソと話しかけくる。

普段の俺ってこんな感じなんだろうななどとどうでもいいことが頭に浮かぶ。

人間極度の緊張中だとたわいないことばかり考えてしまうものだ。

 

「気にすんな、今来たとこだ」

 

茶化すようにキザったらしく言ってやると一色は一瞬驚いて顔を上げた。

 

「今日もばっちり採点してくれ」

 

「…なんですか、それ」

 

フフッと微笑んだ、その表情を見て体が熱くなる。

 

ああ、俺って本当に馬鹿なんだろうな。

 

「話とはなんでしょうか。」

 

「待て待て待て。流石に場所を変えていいか?ここは人が多すぎる」

 

「なんですか人目のないところで何する気ですかそういうのはお付き合いしてなおかつ時間置いてからでもいいですかごめんなさい。」

 

「いやいやいや」

 

相変わらず早口で噛まずによく言えるものだ。

というかそんなことはどうでもいいんだ。

 

「わかってますよ、公園とかでいいですかね」

 

「まぁいいんじゃないか。」

 

「じゃ、とりあえず行きましょうか」

 

「おう」

 

言葉少なにこちらを振り向くことなく移動を始める一色。

 

なんだか避けられている気がする…。

そしてこの感じには覚えがある。

 

そうこれは中学の時に何度も経験したアレ…。

 

少し仲良くなったと勘違いして話しかけたら次の日から避けられ始めるしやつ…!

 

中学生の頃の俺はすーぐ勘違いしちゃう純粋ボーイだったため、すぐ告白し振られを繰り返した。

結果、俺にその気がなくても告白するんじゃないかなんて勘ぐられて女子から避けられるようになったのだ。

 

やっべ、なんか泣きたくなってきた…。

 

しかし、この雰囲気を感じるということは…。

 

「はぁー…。」

 

「あれ?どうしたんです、ものすごく大きなため息ついて。」

 

「いや、なんでもない…。俺はまた勘違い野郎なのかなって思ってな」

 

「は、はぁ…」

 

うわー、そうかぁ。

俺は結局欠片も進歩してなかったんだなぁ…。

 

そりゃそうだよなぁ、奉仕部の件もあるのに俺は何を考えていたんだろうなぁ…。

 

1人項垂れながら進んでいるといつの間にか公園に着いていた。

 

「ここならいいですかね?それで話ってなんですか?」

 

「おう、まぁ、あれだ。あのー、俺はこういうの慣れてないから端的に言うことにする。いや、色々と頭絞って考えたんだがうまいこと思いつかなかったわ。」

 

深呼吸する。

 

なーに、告白して振られるのなんて慣れてるさ。

 

「一色いろはさん。あなたが好きです付き合ってください。」

 

一息に言いきり頭を下げる。

 

そして、聞こえてきたのは。

 

「ごめんなさい。」

 

あの頃何度も聞いた、いつもの返し。

 

しかし、あの頃と違うのは俺の年齢と相手との距離。

 

「ははっ…。だよな…。あ、安心してくれ教育係は気にせず続けるしつもりだし、嫌なら誰か、Dさん辺りに変わってもらうから。いや、ホント同じ会社内だからって全然気にしなくていいから、いやホント。」

 

「ちょっと待ってください。話は最後まで聞いてください。」

 

「なんだよ、これ以上トドメ誘うってのか…。」

 

「違いますから。ちゃんと聞いてください。」

 

一色も一度深呼吸をすると俺の目を見つめてきた。

 

いや、しっかしホント美人になったもんだよ。

昔から可愛いかったんだけどさ、美しいにシフトしたというか。

 

「先輩の好意はホンモノですか?」

 

うじうじと考えていたら一色からまさかの問いがきた。

 

「それはアレか。俺が雪ノ下や由比ヶ浜の時みたくってことか」

 

「いいえ、そうじゃありません。自分で言うのもなんですが私は先輩に尽くしたいい後輩だったと思います。」

 

「お、おう」

 

予想外の方向に進みつつある話にどう反応していいかわからなくなる。

 

「それで聞きたいんです。先輩は私に恋愛的な好意をちゃんと抱いていますか?私は自分のことを卑怯だと思ってます。」

 

「は?卑怯?お前ほど正々堂々生意気なやつを俺は知らんが。」

 

「言いたいことはありますが今は我慢しましょう。傷心の先輩を支えるなんていう程で近づいて一緒にいました。ですが本心は先輩のためでも奉仕部のためでもなくて先輩のことが好きだったからなんです。」

 

「はい?」

 

「さっきも、あんな去り方したら追いかけてくるとわかってあんな風に帰ったんですよ」

 

…これは、あれだ昔の俺の考え方だ。

なるほど端から見るとこんなにわかりやすいのか。

 

雪ノ下と由比ヶ浜はさぞイラついたことだろう。

2人にはいつか改めて謝罪をしなければいけない…。

 

「何を馬鹿言ってるんだお前は。1つ1つ否定していこう。」

 

「え」

 

「まず、さっきの帰り方について。そんな打算ありで帰ったやつはもっと余裕あるだろ。お前普通に着替えとか入ったカバン忘れて帰ってんぞ。」

 

「あっ。…いや、先輩が確実に追いかけてくるようにするためですよ」

 

「ほう。なら次、今回帰省するにあたって買った切符。お前は間違えて買ったとかなんとか誤魔化していたが、自分であれ前日から買ってただろ。」

 

「ハンカチ返すために駅入った時に買ってるの見たぞ。顔から火が出るかと思った。」

 

「ゔっ…。いや、それも計算づくで。」

 

もう判りきっているのにまだムキになって抵抗をつづける一色。

 

「お前がここ数ヶ月でしてきたことを計算づくで済ますにはお前はおっちょこちょいすぎるんだ。」

 

「おっちょこちょい…。」

 

「それに1つ教えてやる。」

 

こいつは昔の俺みたいならば

 

「そんなの関係ないんだ。」

 

成長した俺がその攻略法を知らないわけがないだろう。

 

「仮に卑怯でも、なんでもいい。俺はお前が好きなのはホントだ。仕組まれたものだろうが関係ない。好きなものは好きなんだよ、文句あるか。お前が嫌じゃねぇなら俺と付き合ってくれ。嫌か嫌じゃないかで答えろ」

 

最後の方は照れが出て声が変に上擦ってしまった。

 

そう、こんな屁理屈を捏ねてくるなら感情論をぶつけてやればいい。

小賢しい屁理屈などねじ伏せてこちらの気持ちをぶつけてやればいい。

 

そうすれば。

 

「い、」

 

「い?聞こえねぇぞ」

 

「嫌じゃない…でふ。」

 

「でふってお前…。まあいいや、じゃ、今から交際スタートでいいな?」

 

「いやでも、奉仕部のこととか色々…。」

 

「うるせぇそんなもん関係ない」

 

「せ、先輩なんかキャラ違いませんか。」

 

「知らん。もうなんか悩むの飽きた。」

 

「飽きたって…。」

 

反論に対して簡潔に答えていく。

こんなことで屁理屈こねるようなやつは。

 

「ふ、ふふふっ。先輩ホント変わりましたよね。」

 

「かもな」

 

「ま、しょーがないですね。先輩がどうしても可愛い可愛い私と付き合いたいって言うんですから付き合ってあげますよ。社内恋愛ってやつですね」

 

「ああ、俺が可愛い可愛い一色と付き合いたいんだよ。」

 

「っ…。」

 

自分で言って自分で照れてやんの。

 

キャラ崩壊?知らん。

 

たまには俺だって後先考えず物事に挑んでみたいのだ。

正直その場のノリとテンションで告白の内容を決めたようなもんだが、この際これでいい。

 

きっと俺の青春ラブコメはまちがっていたのだろう。

 

なら、あの時見たく変に考えたりしなければいい。

リア充見習ってノリとテンションでやってみるのも中々いいかもしれない。

 

…まぁ、多分二度とやんねぇけど。

 

 

 

 



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