私はこの世界にヤドリギを植える (まざまざ)
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私は産まれた

人は産んでくれる親を選べない

 

「ねぇ、私も見学してていい?」

「勿論です、お嬢様」

 

人は産まれてくる場所は選べない

 

「あれ? 執事さんを入れたままテストをしちゃうの? あのままじゃ巻添えを食うんじゃないの?」

「はい、構いません。お嬢様が2週間前にショッピングにお出になられた日の帰宅途中時、襲撃が有ったのはあの者が我々の情報を売ったからなのでこの機会に始末します」

 

人は産まれてくる環境は選べない

 

 

「あっ、そーなんだ。じゃあ仕方ないよね、それで何人残ると思う?」

「……そうですね、今回のテスト内容であればオーラを見る限り皆中々優秀そうなので全員だと思います。お嬢様申し遅れましたがジュメリとジュメレを使わせてもらいます」

 

人は産まれてくる世界を選べない

 

「え? あの二人を使ったら全員合格できないんじゃ……ってか死んじゃうじゃん」

「ご安心下さい、外壁だけ念で覆うだけなので」

「なーんだびっくりした」

 

それが例え漫画の世界でありーー

 

「ねぇねぇ、試験の間ピアノ弾いてよ」

「わかりました。ではショパンの英雄ポロネーズはどうでしょうか?」

「いいね。私本当ダルツォルネの演奏好きー」

「ありがとうございます……、では今から試験内容をテレビ映像で伝えますので映らないようお下がりくださいネオン様」

 

 

確実に幻影旅団に狙われるマフィアの娘ネオン=ノストラードであったとしても

 

 

 

 

ネオン=ノストラードは前世の記憶を持っている転生者である。

 

 

前世の名前は秋川奈緒美、芸大生で活発な女性だった……死因は強盗致死。時期は冬、その日は卒業修了作品の追い込みで先生から帰りなさいと言われるまで遅く残っていた。暖房が効いた帰りの電車の開閉扉近くの手すりに奈緒美は疲れた体を預け、窓から見える夜景を寝ぼけ眼で見ながら卒業後の結婚生活の事を考え、思いを馳せていた。

 

 そう奈緒美は婚約をしていたのだ。相手は近所に住む5歳年上の社会人、面倒見が良く奈緒美が幼少の頃よく一緒に遊んでもらい、そして中学、高校で勉強を教わり大学では絵のモデルにもなってもらっていた。

 そんな二人が親愛から愛情の感情に変わるのは十分な時間であり、双方の親も心情の変化を感じ理解していたので、本人達には内緒で話し合いもして公認していた。そして二人の付き合いを微笑ましく思っていて、今か今かと奈緒美達が婚約の話をしてくるのを首を長くして待っていたのだ。それを知らない本人達は緊張の面持ちで両親に結婚の要望を伝えると、当の本人達を置き去りにしてトントン拍子で段取りが進み、卒業後に式を挙げる事になった。

 

 その事を思いだした奈緒美は表情は緩み頬が赤くなっていくのを自覚する、周りには人が少ないとはいえ顔を見られ変人と思われないよう下唇を噛み抑えようと努力するが止められそうにないので軽く咳払いをしトートバッグの中からロングマフラーを出して口元が隠れるよう軽く巻く。

 

 アナウンスが停車駅を告げる、電光掲示板を見ると10時30分を回っている……、丁度電車の速度が遅くなり下車するため扉の真ん中に立ち停車するのを待つ、やはり遅いからか降りる準備をする人は少ない、それは降りてからも実感する。奈緒美は眠気覚ましにと歩きながら一度深呼吸をする。冷たい空気が心地良く出入りし意識がはっきりし、明日も頑張れる活力が沸いてくる。

 

 そんな気持ちに水を差したのが奈緒美が改札口を出、信号が変わるのをスマホで時間を潰している時に聞こえた周りに遠慮をしない大きく、下品な複数の男の笑い声がだった。

 

 見ると道路を挟んだコンビニの前に改造車のバイクが複数あり5人程たむろしていた。奈緒美は眉をしかめ憂鬱な気分になる、何故なら家に帰るためにはコンビニの前を通って交差点を右折し、薄暗い歩道の無い道を行かねばならないからだ。

 駅から家まで約15分……、念のため恋人か家族に迎えに来てもらおうか? そう思ったが生憎恋人は出張で他県に行っている事、家族はもう寝ている時間になっていたのを思いだし奈緒美は連絡をしないで帰る選択をする。それにたった15分何も起こらない大丈夫だ、そう自分に心の中で言い聞かせ楽観的になりバッグにスマホを入れる。

 

 この選択が誤りだとは気づかずに……

 

 

 

 

 信号が変わり奈緒美は足早に動き出す、男達に視線を送らずコンビニの前を通る。声や話の内容から年齢は未成年で卒業というワードも聞こえ、男達は学生だと判断し少し警戒を緩める、学生なら無暗矢鱈に人を襲い、進路や就職に響く行動は慎むだろうという損得勘定があると推測したからだ。交差点を曲がる時に男達の様子が気にかかり視線を送るとバイクに乗る気配がなく談笑していたので奈緒美は完全に男達に向けた警戒心を解き内心自嘲する。

 

 自意識過剰だったかな? そう思い歩く速さを緩め何か好みの新曲がないか調べようとバッグに入れた携帯を探そうとするが薄暗いため中々取り出す事が出来ない。焦れた奈緒美は街灯の真下に立ち止まり携帯を探す、この時家の方向からスクーターの音が聞こえてくるが今の奈緒美はスクーターに対する警戒を全くしていなかった。

 

 携帯を探りあてこれからまた歩きだそうとした瞬間、左半身と首が急激に後方に引っ張られ奈緒美は横転し引きずられる、そう二人乗りのスクーターが鞄をすれ違い様に盗もうとしたのだ、この時偶然にも男の手にマフラーが絡まってしまった。

 鞄に手をかけた男は煩わしそうに手を振り払い引きずっていた奈緒美を乱暴に離す、この時男達の誤算が4つ生じる。1つはバッグをすんなり盗めなかった、2つは現場を改造車に乗った5人に見られ10分もしない内に捕まった、3つは引き離した奈緒美が壁に頭から勢いよく突っ込んだ、最後の4つ目は木の枝があり丁度奈緒美の右目を貫き脳まで達した事だ。

 

 ……そして奈緒美の最大の不幸は即死せず、これからゆっくりと訪れる死を体感しながら死んでいくことだ。奈緒美は自身の現状を把握し確実の死が訪れるのを理解する。左半身の痺れと何も見えない右目、左目から見える右目に刺さっている枝、鼻の奥に感じる熱さと息苦しさ、喉に痰のように粘り着く鉄の味がする液体。いやでも分かってしまう、致命傷だと。

 

 「はっ……はっ、コプッゴホッ、ぃあ”あ”ぅぅあ……」

  

 奈緒美は立ち上がろうと痙攣した右腕で体を起こそうとするがうまく動かず仰向けに転がる、もう一度動かそうとするが全く力が入らず脱力してしまう。しばらくすると先の5人組の内2人が声を掛け様子を窺い短い悲鳴を上げ1人は携帯で救急車を、もう1人は奈緒美に声をかけ続け意識を保たせようとする、だがその努力も空しく奈緒美の意識はしだいに遠のいていく……。

 

 奈緒美が死ぬ瞬間左目で見えたのは涙でにじむ自身の家と突き当たりにある恋人の家だった。そして秋川奈緒美は転生する――

 

 

 

 

 

 

 目覚ましが鳴り、目が覚めた6歳のネオンは右目に違和感を覚えベッドから起き上がる、そして目元が濡れている事に気づき拭うが涙が止まらずネオンは混乱する。何故こんなに胸が苦しく哀しいのか何故こんなに罪悪感に苛まれるのか分からなかった、しかしどこか冷静な部分の自分がこう言う、あの既視感のせいだ。数ヶ月前にあの能力を会得してから続く既視感は勘違いではなく元々持っているものであり時々夢に出てくる知らない人達は友達や両親、恋人達であると自覚する。

 ネオンは自覚した事で急速に思い出していく、自身が秋川奈緒美だった頃の記憶を……そして死ぬ間際の事を。思い出したネオンはさらに涙があふれ声を上げそうになる口元を押さえ泣き続ける。ネオンは感情を抑える事が出来ない、何故自分が? という被害意識、あの時両親に電話してればという後悔、5人組を見かけで判断してしまった自責の念、そして婚約していた恋人とそれを楽しみにして応援してくれていた友人と両親達の謝罪の気持ちが混ぜ合わさって止める事が出来ない。

 

 ネオンが静かに泣いているとドアがノックされ開かれる、ネオンの父親であるライト=ノストラードだ。目覚ましのアラームがいつまでも鳴っている事に苛立ったライトは、直接ネオンを起こし軽く説教をするつもりでドアをあけたのだが目に映ったのはすでに起きていて目を真っ赤に腫らし泣いているネオンの姿だった。

 

 ライトは説教をするつもりだった気持ちを切り替えネオンの目線に合わせ、頭を撫でながらどうして泣いているのか訪ねるがネオンはただ泣いているだけで何も答えない。しばらく頭を撫でていたライトは床に散らばる数枚の紙を見て占いが原因か? と憶測しネオンに優しく話す。

 

「ネオン……、パパが悪かった。占いが嫌なら止めていいんだ、パパなら大丈夫だから」

 

 ライトはこの時点ではネオンの占いは半信半疑であり依存をしておらず、そしてネオンを道具としてではなく愛するたった1人の娘として思っていた。

 その愛情を感じたネオンはさらに胸が痛くなり抑えていた声が出始め涙がとめどなく溢れていく、それを見たライトは優しく抱きしめる。抱きしめられたネオンは奈緒美として生きた時に感じた両親と恋人に抱きしめられた温もりが蘇りついには感情が爆発して謝罪の言葉を繰り返しながら赤子のように大泣きする。

 

 

 

 ネオンが泣き疲れて眠ってしまうまで傍にいたライトは静かに部屋から出、ネオンにはもう占いをさせまいと誓い仕事に戻っていく。

 正午に目覚めたネオンは気持ちを落ち着かせ秋川奈緒美の記憶をと現状自身が持っている知識と照らし合わせて整理していく……、そして日が沈み始めた頃気づく。この世界が生前好きだった漫画の世界であり登場人物に生まれ変わってしまった事を、念を盗まれてしまう結末を。

 

 気づいたネオンは憎悪する、盗人を、幻影旅団を、そしてクロロ=ルシルフルを。その感情はスクーターの男達に対する八つ当たりの感情もあり、憎悪は変質しやがて殺意となった。ネオンは幻影旅団を殺す事を決意しライトが止めるにも関わらず父親を占い続け、ライトは占いにしだいに依存していくことになった。

 

(これは私の能力だ、私だけの能力だ! 二度と誰にも渡さない、盗ませない! 殺してやる……狙う奴は皆殺される前に殺してやる!)

 

 

 念は精神に左右される……、秋川奈緒美の記憶を取り戻した日からネオンの具現化した天使の右目からは血の涙が流れ始めた。

 

 

 

 

 そして12年後――、ネオンの瞳にモニターの中で2人目の潜入者を特定したクラピカの姿があり、ネオンはその様子を凶悪な笑みを浮かべる。

 

(始まる、この時を待っていた。準備は十二分にして油断なんてしないしさせないわ、殺す。殺してあげる、きっちりと全員の首を丁寧に切り取って殺してやる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしネオンは重大な見落としをしてしまった事に気づき背中に冷たいものが流れる。

 

(ああ、何てこと。幻影旅団にばかり気に掛けていてこのことを忘れていたなんて……!)

「いい様ね! 親が見たら泣くわよ!!」

(親ではなく恋人が!)

 

 ネオンの横に無表情でモニターを見つめる1人の美女、エリザがいる

 

「ほらほら! 足開いて! ……どんな念を込めたか言ってごらん? 言わなきゃ踏むのを止めるわよ!」

「言います! 言いますから踏むのを止めないで!」

(これはひどい……)

 

 モニターの中にいる無様を晒している恋人を死んだ魚のような目で見ているエリザを見るに見かねたダルツォルネは咳払いをしてネオンに合図をする、ネオンは急いでモニターを消し1枚の紙に何かを書きダルツォルネに渡し、エリザともう1人の侍女カメリエラと一緒に部屋から出る。

 

「ふぅー、後でフォローしてやらんといかんな……。これは1千万ジェニーの小切手。手当という事ですか、相変わらず部下想いのお方で」

 

 

 

 




スクワラ「うれしいけど複雑な気分」
ネオン、トチーノ、ダルツォルネ「この後無茶苦茶フォローした」 

ハンターの二次を読んで自分でも書いてみたいと思ったのと1番厄介な念能力は何だろうな? と思って投稿しました

 え? ナニカの能力のほうが厄介? 詳細がわからないしハイリスクだし、キルア経由かキルア自身に転生しなきゃ満足な恩恵受けられないですし……、1番の理由が自分が書いたら0スクロールで終わってしまいます

次はネオンの強さを書いていきます


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嵐の前の静けさ

こうしないとおかしいなと訂正してたらまさかの5000字超え
今回ネオンの強さを書くつもりだったのですが次回に繰り越しになります。


 オークション開始日1週間前のノストラード館、ここに依頼品の取得に成功したクラピカ、センリツ、バショウ、ヴェーゼの4人がダルツォルネに連れられ、依頼主であるネオンがいる部屋に案内されていた。

 

「ボス、新入りを連れて参りました」

「どうぞ」

 

 ダルツォルネはノブに手をかけ扉を開く前に4人に注意を促す。

 

「おっと、言い忘れていたがくれぐれもボスに対して悪感情を抱かないように気をつけろ、死にたくなければな」

 

 そう不敵に笑いながら言った後扉を開け中に入る。注意を受けた4人は少し緊張と警戒をし、そして同時に推測する。もしかしたら敵意を持って近づいた者だけに発動するカウンター型の念能力を使っている、もしくは使わせているのかもしれないと。4人は何が起きても対応出来るように心構えをして部屋に入る。クラピカだけがわざと出遅れ、周りに気づかれないよう、未だ見ぬ雇用主への嫌悪感を抑えるために目を静かにつむり深呼吸をしてから――

 

 4人はダルツォルネを先頭に一列に並んで、部屋に等間隔に設置されている支柱に案内されるように真っ直ぐ進んでいき、突き当たりのベッドに座っているネオンに近づいていく。そして、距離にして4m程で立ち止まり、横一列に並んだ後、ネオンを見て驚く。黒社会の要人と聞いていたので、修羅場をくぐり抜けた猛者か経験を積んだ老齢の人物だと先入観があり、まさか未成年の少女だと思わなかったからである。

 

「紹介しよう。諸君等が護衛する依頼主であるボス、ネオン様だ」

「ふふっ、宜しくね新人さん達。名前はダルツォルネから聞いてたけれど、やっぱり直接本人の口から聞きたいな。紹介してくれる?」

 

 そう言われた4人は右からヴェーゼ、センリツ、バショウ、クラピカの順で自身の名前をネオンに告げる、満足したネオンは4人……否、部屋の中にいる全員を驚かせる行動に出る。

 

「ダルツォルネから紹介があったとおり私がネオン、ネオン=ノストラード。特質系の能力者でありーー100%当てる事が出来る占いの能力を持っているわ」

『っ!』

「なっ!? お嬢様!!」

 

 ダルツォルネがネオンを咎めるように声を荒げる。無理もない。普通念能力者にとって最も避けなければならないのは自身の能力を他人に知られる事だからである。もし敵に知られてしまえば、対策を練り罠を張られあっさりと格下相手でも負けてしまうからだ。そう、原作のゲンスルーのように……。しかしネオンはもうある程度、少なくともプロハンター全員に知られてもいいと思っている。

 

 何故なら占う相手の対象は次の段階へと進んでいるからである。その事はダルツォルネも承知しているが、無駄なリスクは負わない方がネオンのためであり護衛を務めている以上注意しなければならなかった。そんなダルツォルネを手で制し言葉を紡ぐ。

 

「ありがとうダルツォルネ、気持ちはわかるけれど私の能力は他人に対して使わなければ意味ないよ。3日もあれば私の能力の事は嫌でも耳に入るし、まぁ1番の理由が新人さん達へ私からの信用の証として言ったってのが大きいかな? それに皆の能力も見せてもらったし」

「ですが……、わかりました」

 

 ダルツォルネは食い下がろうとしたがやめる事にした。ネオンの歩み寄りの気持ちを無下には出来ないのと、これ以上の引き止めは恥になると判断したからだ。この一連の些事はネオンが原作知識があり、4人の事を知っているのに対して、ダルツォルネは知らないからこそ起きた出来事だ。

 

 そしてネオンの期待通りこの行動は4人に好印象を与え、ネオンに対する評価を大なり小なり改めた。

 

「うんうん、本当オークションのために護衛を募集して良かったよ。操作2人、具現化に放出かな? 優秀な人材に来てもらえてうれしいよ、出来ることならオークション終わった後も宜しく頼みたいなぁー、あっ勿論今回の依頼が終わってからでいいよ」

「それでは彼等も色々と準備もありますしそろそろ……」

「そうだね、今日はこれくらいでお開きにしようか。じゃあまたね皆」

 

 4人は簡単な別れの挨拶の後、一礼をしてこの場を離れ部屋から出て行く。ダルツォルネはそれを見送り、ネオンに向き直り真剣な表情になる。

 

「お嬢様、先ほどの事は軽率です。いくら信用が出来る千耳会の紹介とはいえ新人に念能力を話すのはご自重下さいませ。よからぬ事を企むやも知れませんから」

「心配してくれてありがとうダルツォルネ。でも大丈夫でしょ、反応が無かったし。ねぇジュメリ、ジュメレ」

 

 ネオンがそう言うと、1番近い両隣の支柱の陰から2人の女が姿を現した。そしてネオンの横に座り優しく抱きしめダルツォルネに頷く。2人は双子の姉妹で、姉ジュメリは黒い布で両目を隠し黒いスーツを着ていて、妹のジュメレも同じく黒い布で首を隠すように巻き、黒いドレスを着ている。

 

 元はこの2人には少し年の離れた妹がおり、3姉妹で戦災孤児だった。そこに目を付けた人身売買を営む組織に連れ去られてしまう。そして彼女達は不幸にも、加虐体質でしかも操作系念能力者の男に買われた。

 男は2人の姉妹を意識がある状態で操り、妹を1ヵ月の間少しずつ切断させ殺させた。その後お互いの目と喉を潰し合わせ、さらには数ヶ月もの間2人に対して性的虐待を繰り返した後、使い物にならなくなったと判断した男は、最低限の治療をし空気穴を空けた黒い袋に彼女達を入れ、ゴミ捨て場に捨てた。

 

 治療をしたり袋にわざわざ穴を空けたのは、ゴミ収集車に潰されるその瞬間まで生きながらえさせようという男の悪意だった。しかし収集車に潰されるギリギリの所を奇跡的に2人はネオン達に助けられ、最高の治療を施される。そして2人の意識が戻り、心理療法とリハビリに励んでいた時、見舞いに来たネオンの姿と声を見聞きし驚愕する。髪や目の色は違うが死んだはずの妹に生き写しで、声は妹の声そのものであったからだ。

 

 2人はネオンに引き取られた後、男の念に操作された事により念能力に目覚めた事がわかった。そして、それを鍛え上げることで、天賦の才能も相まり凄まじく強力な念能力者となった。2人は誓う。ネオンのために力を、ネオンの傷は全て自分達が請け負うと。もし自分達が死んだ時はネオンを守る念獣になると。2人は護衛の対象であるネオンに害意や殺意に反応して自動で攻撃するカウンター型の能力を持っており、姉ジュメリは操作系、ジュメレは具現化系で、勿論単体でも強いが、真価は協力して念を発動した時に発揮する。

 

 

 その2人の能力を実際に見ているダルツォルネは確信している。ネオンを傷つける事はどんな相手だろうと不可能だと。

 

「だったらいいのですが……、わかりました。それでは私も日程の段取りと顧客情報の整理をしますので、これで失礼します。ジュメリ、ジュメレ、お嬢様を頼んだぞ」

 

 ダルツォルネは2人にネオンを頼み部屋から出て行く。ネオンは見送ると侍女達を側に呼びパンッと手を叩き、

 

「ねぇねぇ、これから皆で私の部屋でご飯食べようよ、後ヨークシンで洋服と化粧品買うから電脳ネットでめくっていいの調べようよ」

『はい! 是非』

 

 ネオン達は化粧品や服、オークションでどんな物を買うのか、髪が伸びてきたから切らねば等楽しく話しながら自室へ帰る。その後特にこれといった出来事もなく各々オークション開始日9月1日へ思いを馳せ過ごしていく。

 

 

 

 

 

 8月31日になり、ネオン達が乗った私用船が、ヨークシン郊外にある飛行場に着陸し、高級車とリムジンが飛行船の前に止まる。中から出てきたのは一足先にヨークシン入りしたスクワラ達だ。飛行船からタラップが下り、新人であるクラピカ達が先に降り周囲をスクワラ達と共に見張る。そしてジュメリとジュメレの間に挟まれるようにネオンが、最後に侍女達と分厚い封筒を持ったダルツォルネが飛行船から降りる。

 

 ネオンは35時間という長時間のフライトのおかげで怠くなった体をほぐすためストレッチをし始める。

 

「ん~、やっと着いたー。さすがに体が怠いね、何かちょっと陸酔いするし」

「お疲れ様ですお嬢様、どうぞこちらへ」

「うん、ありがと」

 

 ダルツォルネがリムジンの後部座席のドアを開けネオンをエスコートする、ネオンは乗る前にクラピカの方を向き「お寿司楽しみにしていてね」と満面の笑顔で言うと、クラピカは「楽しみにしています」と少し苦笑いした後一礼をする。それに満足したネオンはリムジンに乗り込み思案し笑う。

 

(概ね原作通り、この世界は旧寄りの世界ね。飛行船の中で会食した時クラピカから軍艦島の話が出たから……。それにしても良かった、1番気になる事が無さそうで)

 

 そう、ネオンは1番危惧していた問題があるかクラピカから確かめるため、移動時間の会食の席でこう話題を切り出した。

 

「ハンター試験がどういう内容で試験してるのか興味があるから皆話してよ」

 

 クラピカだけに聞くのは不自然となり妙な警戒心を抱かれてしまうので全員に聞く。やはり共通の話題を持ち苦労をわかっていると人は心が開きやすいのか話題が弾み和やかになった。

 

 特にクラピカの時が顕著であり2次試験の寿司の話で1番食いついたのがやはりバショウだ、そして意外にもヴェーゼが積極的に質問し話に参加していた。本人曰く元は美食ハンターを目指していた時期もあり私もおいしい物に目がないと。辞めたのは先人達が狩り尽くしたせいで新たな発見も出来ず実入りも少なくさらにはスポンサーも付かないのでこの道を諦めたと過去を話し新たな一面を見せた。

 

 ネオンもこの時を待っていましたと言わんばかりにクラピカに質問をし、懸念材料が無いと分かると気が抜け原作知識があるがためか悪戯心が芽生え尋ねてしまう。クラピカにとっては黒歴史で出来れば忘れたい事だったネオンが言った言葉……それは

 

「まさかあり得ないと思うけど生魚をそのまま何の調理もせずに出したとかないよね?」

 

 この質問をするとクラピカは目に見えるほど動揺し始め、言葉が多くなり皆にそのまま出したのだと確信され笑いを誘う。中でもバショウはクラピカの事を寡黙で知的、笑いとは無縁の堅物と思っていたのでその認識のズレに笑い「何だお前天然だったのか!」と突っ込みそれに対しクラピカは「私は天然じゃない!」とムキになって言い合いになりそれがまた笑いを誘い一気に皆の距離が近くなる事になった。

 

 その会食後、ダルツォルネ達玄人組とクラピカ達新人組と飛行船内部で世間話や冗談を言い合う位お互い気を許し始め、ネオンがオークションが終われば皆で寿司屋を貸し切り打ち上げをしようと言い皆快諾する。

 そしてネオンはクラピカから1番問題な話題が出ず、その後の皆の関係がいい方向に発展した事に大いに満足した。ネオンが危険視した問題、それは……自分と同じく原作知識有りの転生者がいるかどうかである。

 

 味方になるか無関心ならば有り難い、だが敵であるならばほぼ100%幻影旅団側の人間でありクロロのために情報やネオン本人を積極的に狙うのは確実だからであり早期に処理しなければならなかった。

 

 その問題が限りなく低くなった事でネオンの機嫌は良くなり、車内で靴を脱ぎ足を伸ばしてリラックスしていた。ダルツォルネが持っている分厚い封筒があるのを忘れるようにわざとらしく視線を外して。

 

「こっちを見て現実を受け入れて下さいお嬢様、これが9月分です」

「あーあー、まぁしょうがないっか……。あれ? もしかしてまた増えた?」

「はい増えました、ヨークシン市長にロットフェリ様とトリンク様、後は数カ国の大臣と大企業の社長達ですね」

 

 ネオンはため息を吐いてから300近い紙の束を受け取り、この時のために備え付けていた折りたたみ式の机に置き占いの準備をする。

 

「自動書記って言っても念を使ってる自覚あるし、腕も疲れるから怠いわー。一気にやらずに合間に休憩を入れるよ?」

「はい、よろしくお願いします」

 

 占い始めて1時間弱ネオンは念を解除し用意されていたお茶を飲み一息をついた後残りの束を見て「うへぇあ」と情けない声出す。

 

「半分を切りました、頑張って下さいお嬢様」

 

 ダルツォルネは励ましの言葉をジュメレとジュメリの2人はガッツポーズで応援する。ネオンのやる気が少し回復して占いを再開しようとペンを持った瞬間右目に痛みが走り右を向く。

 

 窓から見える景色の端に前世の知識にあった男女4人の姿がネオンの瞳に映りネオンはその姿が見えなくなるまで追いかけ、そして顔を両手に隠して笑い始める。

 その様子を不思議そうに眺め、ネオンが笑い終わるのを待ちどうしたのか尋ねるが、ネオンは答えずノストラード家の者ならば驚愕する指示を出し車内にいる全員の表情が凍る。

 

「……本気ですかお嬢様?」

「うん、本気。万が一って事もあるし、後サザンピースのオークションも参加したいから手配お願いね」

 

 そう言うとネオンはダルツォルネの返事を待たずに占いを再開する。

 

(後もう少し、後もう少し。ふふふふ、私の勝ちが決まった一方的な殺し合いをしましょう旅団の皆さん)

 

 そんな残酷な思いに答えるかのように右手の天使は血の涙の量が増えた。




もっと船内の会話を増やしたかったのですがボツ
そして芸大生の設定も死に設定になります、本当は旧に出てきた博物館にちゃんと管理しなきゃならない物が何で普通にあんの? あっシズクや梟の能力あるから大物でも盗むの楽勝なんだなと主人公の念に対する反応を書きたかったんです


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占いの真価と必然

「契約内容は30億の振り込みと、修行内容による月3000万の10年間のロイヤリティー、そして我が社の宿泊施設、レストランを20年間無料利用、買い物の60%の永続値引き、後私有地の採掘許可でよろしいですね?」
「はい、これで契約致します」


 8月31日午後4時ネオン一行はホテルベーチタクルに到着した後貸しきった階の部屋で、とある指示を受けたダルツォルネとそれを聞いていた者達以外は、和やかな雰囲気のまま荷物整理をした後、明日のオークションのための準備をしていた。

 ノストラード家にとってタダ事ではない指示をした当の本人のネオンは、そんな事は忘れたと言うように、これから来るヨークシンで1番有名な美容師と電話で世間話に花を咲かせていて、車内で見せた真剣な面持ちはどこにも無かった。

 

 ダルツォルネは複雑な心境のまま、見逃せない占いの結果をライトに報告するため別室に移動し、この時のための緊急連絡番号を押しライトが出るのを待つ。コール2回目でライトが出るが、電話口からはクラブハウスで聞くような、大音量の音楽が聞こえるためダルツォルネはライトが静かな場所に移動してくれるのを待つ。

 

 ライトは走って移動したのだろう、息を荒げ少し焦りを含んだ声で「出たのか?」と問いただす、ダルツォルネは肯定し占いの内容を報告する。

 

「今までのデータを見る限りお嬢様の占いで眠りや病、地に伏す等の言葉は死を暗示するものです。この内容が出た6人の顧客の共通点は今年の地下競売に参加する予定だという事です」

「……地下競売に出ると命が危ないという事か。その6人の顧客は私から直接報告するとしてネオンはどうなのだ? まさか参加するつもりなのか?」

 

「えぇ、お嬢様は参加されるつもりなのとご自身を占えないのでそれとなく注意をしておきます。ですが此度の危険性においてお嬢様は承知しておられるようでして……」

「何だと? 危険があるのにわかっていながら行くつもりなのか?」

「はい、なので─────をしました」

「それは本当か!? だがあの娘のやる事だ、何か考えがある筈だ最大限応えてやれ。私もそちらに行く」

「わかりました、それでは失礼します」

 

 ある指示を受け早急に実行したダルツォルネはライトにその事を報告しライトは驚愕した、何故ならそれはライトでは不可能でネオンだけが出来る命令だからだ。ある意味ライトより組織内ではネオンの方が権限があると言っても過言ではないのだ。

 ……普通実の娘といえど権力を持ち始めれば警戒するだろう、もしかしたら乗っ取られるかもしれないとなるからだ。どれだけ信頼してもそこに1%の猜疑心があってはならない、後々それが雪だるま式に大きくなり争いの火種になるのだから。

 黒社会ならばそれは尚更で家族や親族と権力闘争になるのは珍しくなく最悪命を落とす事になるのだから。しかしライトは違う、容認し推奨し自身が持つ最大限の力で後押しをしてきた。

 

 これは間違っても愛するたった1人の娘だから裏切らない、などという平和ボケした個人の希望的観測などではない。ちゃんとライトにとって裏付けがあり全幅の信頼をおける事象からの情報提供……、それはやはりネオンの念能力だ。

 

 昔ネオン個人が力を付けてきた時である、ライトはやはり猜疑心が沸いてネオンはいつか自分を殺し組を乗っ取るつもりではないか? と思い早急に手を打とうと行動していた所、占う日が来て占いその内容を見て歓喜する。そこにはこう書かれていた──

 

 

 天使を悪魔と疑ってはいけない

 天使を檻に閉じ込め束縛もしてはいけない

 何故なら蜘蛛にさらわれて剥がされてしまうから

 天使が導くまま行くといいだろう

 天使が迷うならば道を示すといいだろう

 そうすればあなたはいずれ王となる

 

 

 王、つまり十老頭。ライトは夢見る少年のように王になる瞬間の事を毎日思いを馳せる。

この占いを見てからライトはネオンの事を道具として見始め、ネオンもそれを受け入れた。

ここに歪な愛情が生まれる。

 

 

 

 ダルツォルネはライトへの報告と顧客へ占いを書いた紙をFAXで送り終わり、ネオンの部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、エレベーターから見知った男の顔が現れ、右手に大きな鞄を持ち左手は車のカギをチャラチャラ鳴らしながら近づいてくる。そう言えばと思い時計を見ると午後6時30分を回っていて、ダルツォルネはいつもの事とは言え大分FAXで時間を取られたなと思う。

 

「よう、久しぶりだなダルツォルネ」

「あぁ半年ぶりだな、そちらはうまくやって繁盛しているな」

「はっ、いい立地、最高のレイアウト、告知にお嬢の占い……、これで繁盛しなかったらおかしいだろ?」

「ふっ、その通りだ」

 

 2人は軽い世間話をしてネオンの部屋へと戻ると気づいたネオンが駆け寄り満面の笑顔で出迎える。ダルツォルネは部屋の電話でフロントにルームサービスで人数分の食事を頼み、もう1人の男はネオンを備え付けてある美容室で使うバーバー椅子に座らせた後、鞄から取り出したベルトを付けネオンの髪をとかす。

 

「注文はー、ニュアンスボブスタイルで」

「了解お姫様」

 

 男がハサミを構えるとクラピカ達は驚く、何故なら男は念を使っていたからだ。クラピカが電話を切ったダルツォルネに「彼は何者なのか?」と問いただす。ダルツォルネは「あぁ」と言い男を紹介する。

 

「彼は昔グラムガスランドにサーカスを見に旅行に行っていたボス達がチンピラに絡まれていた所を助け、その礼にとボスは彼を雇いダミー会社の資本で美容院を営んでる者だ、名はビノールトという」

「その時の俺もチンピラだったがな、よろしくなルーキー達」

「そうそう、髪型と目つきすんごい悪かったよねーあの時」

「……あの時の俺はどうかしてた、髪の色を真ん中で緑と赤で分けるなんて」

 

 ビノールトはネオンの髪を切りながら初対面のクラピカ達に軽く紹介し過去を語る。

 

 

 ビノールトは昔その日暮らしに苦労していた少年時代に夫婦がサイフを落とし、それを拾い渡したら盗られたと難癖を付けられボコボコに殴られた後死にかけ、人助けなんてするもんじゃないと悟りグレていた。

 人殺しはまだしていない青年時代、酒場の帰り道でチンピラ10人程に絡まれていた2人を見かけたビノールトは酒の勢いもあり「これが正真正銘最後の人助けだ」と思い、知っている男が何人か居て自分の名を呼び何かわめいていたが、構わず一方的にチンピラ達を叩きのめした。

 

 礼も言われるのも罵倒されるのも面倒だったビノールトはさっさとその場を去ろうと足を動かした。

 

 その時ビノールトの足裏に違和感があり、どけて見ると女物のサイフでありネオンの物なのは明らかだった。ビノールトはサイフを拾い背を向けて帰ろうとしている2人に声を掛け思い出す。この場所この時間この場面、あの時と一緒だと……、ビノールトは今度は殴られず罵倒されるだけだな、とどこか他人事のように思っていた。

 

 そしてサイフをネオンに渡し背を向けようとすると小さな手がビノールトの左手を包んでいた。

 

「有り難うビノールトさん、おかげで助かりました!」

 

 酒のせいで感傷的になっていたのだろう、その言葉を聞いたときビノールトの胸に熱いものがこみ上げた。

 

(あの時俺は見返りを求めていたわけでも、礼を言われたいためにやったんじゃない! ただ……ただ貧しくてもまともに生きたかっただけなんだ!) 

 

 ビノールトは気づけばネオンの両手を握り締め懺悔をするように跪いて泣いていた。あの時叶わなかった想いが報われた気分だった。

 

 その後落ち着いたビノールトは、憑きものが落ちたような表情で2人に謝罪をし、そして感謝を素直に受け入れた。別れ際にネオンがライトの名刺をビノールトに渡すように言い、出来れば私たちの元に来て欲しいとお願いされ、1週間後ノストラードファミリーに入る事になる。

 

「今は護衛からは身を引いている、もう年だしな。あの時はまさか礼を言われた後雇われ、その上店を持たせてくれるとは思いもしなかった。

 もう少しで後戻り出来なかった、あの時お嬢様達に会った幸運に感謝している。おかげで今は結婚もして子供も産まれ、まともな人生を歩む事が出来ている」

 

 そう話を締めくくり照れながら優しくはにかんだ。その顔は誇らしげに見え、そして鼓動は慈愛に満ち溢れ、センリツの耳に心地良く響いた。

 

 

 

「これで終わりましたよお嬢様」

「有り難うビノールト」

 

 時刻は午後7時30分ネオンのカットが終わり、ルームサービスが丁度料理を届けられ全員で広い部屋に移り共に食事をとる事になった。

 この時の食事会も和やかなもので、特にクラピカは最初の冷たい印象はなりを潜め自然な笑顔を見せる、クラピカのネオンに対する評価が大きく変わったのが原因だ。クラピカは周りを見て集落にいた頃の懐かしい思い出と、ハンター試験に出会った仲間を重ね暖かな心になるのがわかった。そして同時に気づいていた、明日でこの楽しい時間は終わりだろうと。

 

 

 

 午後9時お開きとなりビノールトは笑顔で帰り、クラピカ達は明日の護衛任務の確認をした後、交代制で休みを取ることになり、ネオンは浴室から出た後ダルツォルネに呼び止められ別室に案内される。明日のオークションには出ないよう説得されるとあっさり二つ返事で了承しダルツォルネは肩透かしを食らう。

 

「危ないところには行かないよ安心して、勿論ダルツォルネもね」

 

 意味ありげな返答にダルツォルネはモヤモヤとした感情を抑えるため、水を一気飲みをして交代の時間まで休む事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 その後特に何も起きないまま時間が過ぎていき9月1日午後2時、ホテルにあるダンススタジアムでダルツォルネはネオンの護身術に付き合っていた。ダルツォルネはネオンの動きを見ながらこれならば襲われても勝てる者はいないだろうと思った。

 それは昔心源流の師範ビスケット=クルーガーがノストラードファミリーで2年間指南している時、ネオンに対しこう評していた。

 

「あんたは類い希な才能を持ち将来超一流の念使いになって、勝てる奴は世界中探してもいなくなるよ」

 

 

 

 

 だがそれは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただし! 何度も言うようだけど念が使えず、しかも鍛えられていない一般人に限る事だからね! あんたを鍛えて強くするより、そこら辺歩いてる奴を捕まえて鍛えた方がよっぽど強くなるわさ」

 

 そう、ネオンは念の才能があり超一流の念使いになれても戦闘の才が無かったのである。あくまで念の扱いがうまいでしかなかったのだ。しかしネオンに焦りも失望も無い、何故ならそんな事は記憶が蘇った日から半年でわかってたからだ。

 

 最初の伸び率は秋川奈緒美としての知識もあり異常なほど良かった。ただでさえ前世の記憶を持ち、その上念能力の才能という二物を与えられ、自分は何故だかわからないが神に愛された特別な存在なんだ。と選民思想に囚われる程に……。

 

 気づいたのは1ヵ月目だった、練の持続力の伸びが悪いと。3ヵ月目になるとネオンは毎日鍛錬をする事を止め、週1回の健康のための運動レベルに落とし、来る日に備える事した。

 

 

 早い話諦めたのだ。これは当たり前の事で、原作のネオン=ノストラードがトップレベルの戦闘能力を持っているのならばいざ知らず、たかが原作知識があるというだけで強くなるわけがない。だがネオンに焦りも自身に対する失望も無い。その時にはもう勝利の方程式を理解していたのだから。

 

 

 

 

 アラームが鳴り切りのいい所で止め、2人はスポーツドリンクを飲みながら今日のオークションの品や終わった後の事等を話し、部屋へ戻る準備をする。そしてダルツォルネはネオンに改めて注意を促す。

 

「お嬢様が護身術の類を嗜む事はお止めしませんが程々になさるようお願い致します、御身は我々がお守りします」

「有り難う。でもこれは必要な事だよ、それに体を動かすの好きだしどうせ私が……、止め止め、先に部屋に帰ってお風呂入るね」

 

 ネオンはダルツォルネの誓いの宣言のような言葉を受け、嬉しく思い満面の笑みで返し、照れくさいので部屋から出て行く。いざとなれば雇用関係の間柄を超え、命懸けで守ってくれる事はこれまでの行動から理解していたからだ。

 ネオンは部屋に帰って風呂に入った後は護衛団の面々と他愛のない話をしたり、携帯のメールのやりとりなどで時間を潰した。

 

 

 

 オークションまで後2時間を切り、最終確認のため護衛メンバー全員で競り落とすための品を確認していた時、ドアからノックが鳴りダルツォルネが開けると、そこにはノートとペンを持っているネオンがいた。戸惑うダルツォルネをよそにネオンは微笑んだ後「お邪魔します」と言って脇をすり抜ける。

 

「ねぇ、聞きたいんだけど今日のオークションに行くのは正装しているそこの3人でいいのかな?」

「そうです、ヴェーゼ、イワレンコフ、トチーノで行きます。彼等なら前日お話しした通り襲撃があっても対処できるでしょう」

 

 ダルツォルネは選出メンバーを直接攻撃ではなく間接攻撃出来る者達を選んだ、これはもし襲撃があっても逃げ帰って敵の情報を持ち帰れるよう重視したからだ。

 言われなくてもこの事はメンバーに伝わっているし、他の護衛達も勿論理解している。圧倒的経験不足のネオン以外は。

 

「じゃあ一応占ってあげる、トチーノだけでいっか」

 

 そう言うと「はい、これに書いて」と予め占うよう用意したペンとノートをトチーノに差し出した。

 

「新人さん達は私の能力を見るのは初めてだよね。前にも言った通り私の能力は100%当たる占い、4つか5つの詩で書かれていてその月の週毎に占っているの」

「書き終わりました、どうぞボス」

 

 トチーノが書き終わりペンとノートをネオンに渡す、説明を聞いていたクラピカ達は咀嚼し理解する。占った人物がもし1週目で死ぬのならばその後の詩は書かれないという事に。

 

「──気づいたようだね。そう、対象者が死んじゃう未来だとその後の詩は書かれないの。だからもしここで死ぬ結果が出れば全員建物の屋上からの見張りだけにしてね。じゃあ行くよ」

 

 ネオンは念を発動し右手に天使を具現化させる、その様子を地下競売に行く予定だった3人は特に真剣に見る。そしてネオンが書き終わりその早すぎる時間に全員が察し、渡された紙をネオン以外が見てより真剣な場の空気になる。

 

「その様子だとトチーノが死んじゃうみたいね、改めて言っておくけど地下競売に3人とも行かなくていいから。あとダルツォルネ、後で双子とノヴェラビルに行きたいから付き合って」 

 

 「じゃあ」と席を立ち部屋を出るネオンにトチーノが代表して礼を言う、ネオンは「当たり前の事をしただけだから」と笑顔で手を振り返し去って行く。

 そしてその後3人は屋上の監視に割り振られ、緊急時の段取りを確認し合いそれぞれの持ち場へ行き来るべき瞬間に備える。

 

 

 

 9月1日午後9時ロマンゾビル、地下競売に行く予定だった3人が屋上からセメタリービルを監視していた。

 

「っ! 何かおかしいわよ」

 

 望遠鏡で見ていたヴェーゼが異変に気づき、談笑していた2名に知らせ緊急の電話をダルツォルネにかける、2人は慌ただしく望遠鏡を覗きこみほっとした表情になり顔を見合わせた。

 

「危なかったな、このまま地下競売に行ってたら俺たち全員オダブツだったかもな」

「そうだな、危なかった。またボスの占いで命拾いしたな」

 

 トチーノはいつもの軽い調子で言いイワレンコフもどこか明るい口調で応じる、ただその顔からは冷や汗が流れていた。ヴェーゼはまだ実感はないが、自分ももしかしたら死んでいたかもしれないと思うと表情が険しくなる。

 

「リーダーから皆と合流して賊を追うよう言われたわ、車に行きましょう」

 

 3人は急いで車に乗り込み、マフィアンコミュニティー専用の無線を聞きながら集合場所に行く、車内でトチーノ、イワレンコフはネオンに感謝し、より追従の精神を持つようになった。

 

 

 

 

 

 

 同時刻ノヴェラビル前、ネオンと双子、ダルツォルネが到着しビルに入っていく。エレベーターを待っている時にダルツォルネの電話がなり、ヴェーゼから襲撃の件を聞かされ指示をする。

 

「お嬢様、やはり襲撃があったようです。全員に賊の追跡と可能なら捕らえるよう指示を出しておきました」

「了ー解っ」

 

 ネオンはそれを聞き上機嫌になり鼻歌を歌い出し、それを双子が微笑ましく見守る。ダルツォルネはもしかしたら襲撃があるのを占う前から……、いや自分が入る10年前かそれ以上前に分かっていたのでは? そうでなければあの指示を行う事が出来ないと思いこの時ネオンに僅かに恐怖を覚える。

 

 エレベーターが着きダルツォルネが屋上へ行くため最上階のボタンを押す、ネオンは壁にもたれかかり、朝から続く右目の軽い痛みを心地良さそうに感じながらこれまでの事を思い返していた。

 

(あぁ、長かった。これまでの努力が漸く実る……、原作のネオンは占いの能力を約3割程度しか扱えていなかった。ふふっ、あなたの敗因は私のように色々試さなかった事)

 

 ネオンはあの日から自身の念能力を色々試行錯誤して能力の本質を知った。その瞬間ナニカに近い無敵の能力と理解する。原作ではヒソカが未来は少しずつ変わって来ていると言っていたが、正確には【占った後の未来が変わって来ている】だ

 

 当たり前だ、占いの結果の情報を複数人で共有すれば、未来が変わるのは至極当然で自然な流れだ。しかし占いの内容を誰も知らなければ変わらなかっただろう。つまり大きく分けて3つの未来がネオンの手によって作られたのだ。

 

1つ占う前の未来

2つ占った後個人で対応する未来

3つ占った後で他人と協力して対応する未来

 

 旅団の未来は3つ目であり占いの結果がズレてしまうのは仕方がない事なのだ、だがネオンの占いはズレていたとしても100%の的中率である事は変わる事がない。

 

 

 何故ならもう一度占っていないのだから。

 

 

 例を挙げれば先のトチーノは占う前は今日死ぬ予定であり、詩は一節しか書かれていなかった。だが死を回避した今なら? そうネオンの能力は複数回同じ対象者を占う事を前提にした能力なのだ。

 

 

 

 しかしこれでも能力は6割程度でしか使いこなせていない。残りの4割ほどはネオンがこの能力の本質と確信している事……、それは【占いを受動的ではなく能動的に受けること】だ。占いに方向性を持たせ占う、その本質を理解した幼い頃のネオンは金策が必要だった父親にこう言った後占う。

 

「競馬で1等から3等になる馬を順番に選んで買ってね」

 

 この後のノストラードファミリーの伸び率は正に鯉の滝登りの如く上がっていく、地価が暴騰したり今後開通する駅前の土地、まだ資源が発見されていない場所、今後急成長する会社の株や本体を買収等々……、このおかげで個人資産だけでライトは20番以内、ネオンは56番目に世界で財力を持つようになり、それに付随するように占う人間が増え幅広い伝手が出来、大きな権力を有する事になる。

 

 これがネオンが言っていた占いの次の段階、つまり権力を中心とした力を得ることを目的とした占いだ。

 

 

 そしてネオンは気づいた、気づいてしまった。これは人にも当てはまるのではないかと……。秋川奈緒美の頃活発な性格のおかげでボランティアを体験した事があった、その内容は海外の孤児の面倒を見るという事だ。

 

 ネオンは考える、幻影旅団も元は流星街の住人……つまり孤児だ。という事は念の才能がある者達を幼い内から引き取り育て上げれば自然と仲間になると。そして実行する、月毎に6人の部下にネオンはこう命令した。

 

 

「それぞれ6大陸の中にいる孤児や捨て子、売買された20才未満の子で念の才能が最も優れている者を引き取って……、あっと忘れる所だった。後は────」

 

 そしてある程度人数がそろった時に、原作知識だけで指南する事は不可能なので、原作で最も指導に優れている人物として描かれていたビスケット=クルーガーに依頼する。勿論首を縦に振らせるため占った部下を行かせる事を忘れない。

 

 時間が経ち、鍛え上げられた子供達が能力を開発する時、カストロのようにミスをさせないため、自分に最も合い尚且つ応用の利く能力にするためネオンは占いで導く。

 

 そう不可能なのだ、いくら原作知識があったとしても都合良く強力な念能力者に育つジュメレ、ジュメリを収集車に潰されそうな所を助けるなど。不可能だ、都合よくビノールトが仲間になるなど……必然でなければ。

 

 その必然の結果を集めたのが今屋上に居るネオンの目に映る光景だ。国籍、人種、年齢、性別バラバラの30人のプロハンターで強力な念能力者の戦闘が得意な混成部隊、中にはゴンやキルアの肉体、念共に凌ぐ才能を持つ人間も数名いてネオンに絶対的な忠誠を誓い、ネオンの為ならば自身の命を厭わない者達が集い跪いて言葉を待つ。

 

「皆お疲れ様、皆にお願いしたいのは幻影旅団の抹殺。指示された日に占いの通り動いてね、これはこっちの犠牲が無い勝ちが決まったワンサイドゲーム。楽しんでね」

 

 言い終わると全員が地面に沈み込み消えていく、念空間に消えたのだ。ネオンはそれを見送ると天を仰ぎ1分間黙祷するように目を閉じる。

 

 

 

「さぁ帰ろっか」

 

 振り向いたネオンにダルツォルネとジュメレは一瞬目を疑った、ネオンの右目が無いように見えたからだ。戸惑う二人を尻目に双子の手を取りスキップをしながら屋上の階段を降りて行く、ダルツォルネは心底この組で良かったと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネオンは考える、幻影旅団も元は流星街の住人……つまり孤児だ。という事は念の才能がある者達を幼い内から引き取り育て上げれば自然と仲間になると。そして実行する、月毎に6人の部下にネオンはこう命令した。

 

 

「それぞれ6大陸の中にいる孤児や捨て子、売買された20才未満の子で念の才能が最も優れている者を引き取って……、あっと忘れる所だった。後は────」

 

 

 イルミはヒソカに問う

 

 

「クラス全員好きになるとかあり得る?」

 

 

 逆も然り30人が1人を好きになるのはあり得ない、命を懸けるとしたら尚更

 ネオンは悪魔の言葉を続いて紡ぐ

 

 

「後は私に絶対的な忠誠を誓い、命を懸けれると思う子を最適なタイミングで連れ出してね」

 

 

 そう必然でなければ──

 

 

 




ネオンの能力に付加効果は無いです、ただ見た目が変わっただけで何も変わりません

何故なら占い能力で十分と思ったからです。最初は色々考えていましたがキャラを動かしていくと「あれ? これだけでいけるだろ」となりました。

頭の中で全然使わなかったですし……

蜘蛛と1体1で戦える(ネオンがとは言ってません)白目


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私は狼

「お嬢様は俺達に犠牲が無いよう歌って下さった。だが油断や慢心はするなよ! 指示された日時に行き、担当した奴を殺せ!」
『おおおおおぉぉ!!』
「補助部隊は担当の六性図の配置に着き攻勢部隊に武具を具現化しろ! いいか! 元の十数倍以上の強化、そして歌をもらっておいて負けるなよ!! では作戦開始!」


 9月1日午後10時過ぎ、ネオン達はホテルベーチタクルへ戻り自室でファッション雑誌を見ながら談笑し、ダルツォルネは別室でクラピカが蜘蛛のメンバーの1人を捕えたと報告を受け、ノヴェラビルに移送するよう指示をした後ネオンに報告する。

 

「お嬢様、賊を追っていた者達が蜘蛛のメンバーの1人を捕えました。これからノヴェラビルの地下に移送し尋問します」

「へぇー……、あの蜘蛛を捕えたんだ、凄いね。それでダルツォルネはノヴェラビルに行くの?」

「はい、これから私も合流しマフィアンコミュニティーに引き渡して来ます」

「じゃあ、引き渡しの電話をしたら連絡ちょうだい。後私が部隊をどう動かしたかお父さんにも言わないでね」

「はい、それでは失礼します。ジュメリ、ジュメレ俺たち以外に許可なく生物、無機物がこの階に入ろうとしたら殺せ」

 

 ダルツォルネは双子に指示をし部屋から出る。指示を受けた双子はお互いに向き合って座り、両手をやさしく重ね合わせる。その瞬間二人の足元に2m四方の神字で書かれた陣が現れ、二人は円を部屋に沿うようにして覆う。

この円に触れたモノが僅かに攻撃の意思があった場合、目の前にジュメリが念で作り上げた紙が現れ【3度目は無い、これ以上進めば攻撃を開始する】と警告し、進むか引き返すかの選択を迫られる。

 

 引き返すのならば無害で終わるが、無視をしてそのまま一定の距離を進めば肯定したとみなされ ジュメレが作り上げた念空間に飛ばされる。

その念空間では出入口は対象者が飛ばされたその場にしかなく、戻ったとしても飛ばされた場所に戻るだけだ。もしそのまま進めば、2人の協力と神字で威力が2人分の硬にまで倍増された古今東西の拷問具や罠の数々が、亜音速で360度縦横無尽に向かってくるのだ。

 

 これだけではまだネオンに対しての防御としては不十分、この念には3度進入を試みると先程の念空間とは別の場所へ飛ばされ、強制絶状態になり、触覚以外の感覚が無くなり、しかも出口が無い場所で体を少しずつちぎられ死ぬ事になる。

 

 

 何故これほどの強力な念能力に出来たかと言うと、相手に説明と承認、契約をさせるからである。

 

 

 まず始めに紙による説明、その後相手に進むか引き返すかという選択肢が与えられる承認、そして3度目は無くても構わないという契約の3つがあるから……、相手に選択肢があるからこそ強力に出来る念能力だ。

 どれだけ強力かわかりやすく言うとゲンスルーの【カウントダウン】の説明、グリードアイランドをプレイするために【ゲーム機に手をかざし、練を行う事】による承認、クラピカの【ジャッジメントチェーン】の契約だ。

 

 この能力だからこそ任せられる、ダルツォルネはそう思い行きの車の中で賊に対してどう尋問するか思案する。

 

 

 

9月1日午後11時、侍女達と談笑していたネオンの元にダルツォルネから連絡が入り、これからマフィアンコミュニティーに賊を引き渡す旨が伝えられ、ダルツォルネは電話を切ろうとするが、ネオンに止められ嫌な予感がするからと占われる。

 

「……ダルツォルネ様、カメリエラです。すぐに賊を置いて仲間達と共にそこを脱出して下さい。【蜘蛛を引き入れて】の一文があるのでそこに幻影旅団が来ます」

「っ!! わかった、すぐに脱出する」

 

 ダルツォルネはネオンが占うと言った瞬間から……いや、引き渡しの電話を報告しろと言った時からもしやと思っていたので動揺は少なく、迅速に仲間と共に車で脱出する。

 しばらく車を走らせノヴェラビルが見えなくなると車内の空気が弛緩し、ダルツォルネは深いため息を吐きそれを合図するかのように、トチーノが場の空気を明るくするためおどけた調子で口を開いた。

 

「またボスのおかげで助かったな、これはもうボスに足を向けて寝られねぇぜ」

「……ねぇ、やっぱりアタシの【インスタント・ラヴァー】でアイツを操作した方が良かったんじゃない?」

「ダメだ、俺は見てないがお前達は見たんだろ? 神経毒で首から下が動かないにも関わらず陰獣3人を倒したのを……、負わなくていいリスクは負うな。俺たちのターゲットは旅団ではなく競売品だ。始末はいずれつくさ、近い内にな」

 

 ヴェーゼは腕と足を組み下唇を噛んで目を閉じる、ダルツォルネはリスクを負わなくていいと言ったが、それはヴェーゼの力を信じきれていないと言っているのと同義だ。それは理解している、思い出すのは尋問の時だ。

ヴェーゼはダルツォルネに自身の唇を軽くなぞり能力の使用の賛否を合図をしたが、ダルツォルネは静かに首を振った。

 

 その否定にヴェーゼは安堵した、どうしてもあの時の陰獣が操作するためにキスをする自分に見えてしょうがなかったのだ。もしも能力の使用許可が下りても出来ただろうか? ヴェーゼは己に問いかけ、否と答える自分に腹立たせ唇を噛む力が強くなった。

 

「クラピカには俺から連絡する。イワレンコフ、ホテルへ行け」

「了解」

 

 ダルツォルネは携帯でクラピカにノヴェラビルに蜘蛛が来ること、そしてベーチタクルホテルへすぐに帰るように指示をし電話を切り、9月に入ってからのこれまでの事を考察し、一層ネオンに対して疑念を抱いた。

 

(何故部隊に命令した時点でお嬢様は幻影旅団だと分かったんだ? あの時はまだ旅団だという事は分からなかった筈、引き渡しの電話をしたら連絡をくれと言ったのも不自然……、まるで全てを見通しているかのようだ)

 

 ダルツォルネは不安を抱いたが同時に安堵するといった矛盾した感情に包まれた。全てを見通しているのならば自分達の安全は保証されたようなものなので、全てが終わってから教えてもらえればいいと考えた。

 これはただのネオンの原作知識を持っているが故のミスだが、ダルツォルネは気づかない、少しずつ、少しずつ浸食するようにネオンに依存してしまっていることに。

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢様、これで良かったのですか?」

「うん! ご苦労様カメリエラ。それはシュレッダーに入れといてね。あっ、トイレ行ってくる」

 

 カメリエラとエリザは訝しげに顔を見合わせネオンを見送る、そして寝る用意をするために部屋を片付け、先ほど渡された紙を手に取る。そこにはこう書かれていた

 

 

 

 

 

 

 

ダルツォルネに占いの結果が【蜘蛛を引き入れて】の一文があるから賊を置いてすぐに脱出するように指示を出して

 

 

 

ネオンは敢えて占わなかった、もしウヴォーギン抹殺の詩が現時点で出るのを嫌がったためである。

まだ生きていてもらわなければ困るのだ……、ある目的のために

 

 

 

 

 9月2日0時過ぎ、ダルツォルネはベーチタクルホテルに全員が揃ったのを確認をすると「少し席を外す」と言って別室に行き、ライトにネオンが部隊を旅団抹殺のために動かした事以外を報告する。

 

「やはり襲撃があったか、しかもあの旅団とはな」

「えぇ、陰獣は全滅したのでこのままではオークションも中止となることでしょう」

「俺も明日の夕方には着くがネオンはどうすると言っている?」

「お休みになられているのでまだお嬢様には聞いていません、サザンピースのオークションも参加なさるおつもりなのでまだ滞在なさると思います」

 

 ライトはそれを聞くとしばらく唸ったあと、ネオンの希望通りに行動するよう指示を出し電話を切る。ダルツォルネが部屋に戻るとクラピカが呼び止めパソコンを見るように言う、そこにはノストラードファミリーの所有物件の情報が掲載されていた。

 

「……これは?」

「プロハンター専用サイトの情報だ。我々新人の情報はまだ無いが構成員の全リスト、所有物件が掲載されている、勿論リーダーの名前もある。

ヨークシン市内の宿泊リストと照らし合わせれば、この部屋まで容易にたどり着くだろう……。リーダー、早急に部屋を変え、ボスの身の安全を確保する事を提案する」

 

 ダルツォルネは舌打ちしある程度パソコンを確認をして皆に指示を出す、ネオンの部屋を少々乱暴にノックをし続けネオンを起こす。ドアが開かれ口を開こうとするが、ネオンが寝間着ではなく私服のまま出てきたのでついあっけに取られてしまう。

 

「あっ……、お嬢様危険が迫っているので部屋を移動して下さい」

「OKOK、じゃあ皆行こっか」

 

 予め準備していたのか、ネオンを先頭にキャリーバッグを持った双子と侍女達が続く。その様子をダルツォルネはなんとも言えない表情で見送り、センリツに案内させようとするがクラピカが待ったをかける。

 

「部屋はチェックアウトせず、センリツかバショウの名前で別の部屋を借りた方がいいのでは?」

 

 ダルツォルネは少し考えそれが現時点で最良だと判断し、クラピカの作戦通り指示をする。何故自身とヴェーゼの名を挙げなかったのかと言うと、まだクラピカ自身の情報を出したくなかったのと、ヴェーゼは例の地下オークションへ行くため手続きをしたからである。

 

 そして皆が部屋を出て行こうとすると、クラピカが真剣な表情でダルツォルネを呼び止め、ここに残り蜘蛛を迎え撃つ事を伝え、それを聞いたヴェーゼやトチーノは止めにかかる。

 

「クラピカ、お前は何を考えている? あいつを捕らえた手腕は見事だと思うが、今度は五体満足で動いている相手だぞ……死ぬ気か?」

「そうだぜ! それに言ったろ? 俺たちのターゲットは競売品だ、旅団の相手はコミュニュティーに任せればいい! 命を無駄に捨てる事はねぇぜ!」

「そうよ! 戦う必要は無いわ!」

「勝算はある、やらせてくれリーダー。この通りだ」

 

 クラピカはダルツォルネに静かに頭を下げ許可が出るのを待つ、その雰囲気は何が何でも戦うという意思を感じさせ拒否を受け付けそうに無かった。ダルツォルネはクラピカは幻影旅団に何か私怨があるのだろうと思い、その思いに応えたかった。

だが許可は出せそうにない、出したくなかった。

 

 ダルツォルネから見てクラピカは戦闘の腕は立つが、まだまだ現場慣れしていない新人で年も若い。憎い相手に対して、感情を抑えながら冷静に戦える経験を持っているとはとても思えなかった。

それに何よりダルツォルネはクラピカの事を気に入りはじめているので、ここで死地に向かわせるのは……否、向かうのは許せなかった。

 

「そんなに自信があるならやらせてあげればいいじゃん」

 

 全員が声の主へと顔を向けると、右目を押さえ薄く笑っているネオンが居た。

 

「しかしお嬢様! 相手は旅団で並大抵の使い手ではありません! むざむざ死なせる真似をしなくてもよろしいはず!」

 

 ダルツォルネは声を荒げ抗議するがネオンは左手で制し、クラピカに「自信はあるの?」と問いかけクラピカは

「あります」とネオンの目を真っ直ぐ見て答える。その反応に満足したネオンはふふっと軽く笑った。

 

「相手は鍛えられた強化系、操作系であるあなたに封じる手段があるのね?」

「はい、あります」

「手柄はあなたではなく私の物になっちゃうけどいいの?」

「はい、構いません」

「あなたを信頼するわ、勝ちなさい」

「はい、必ず勝ちます」

「最後に、明日の午後8時までに戻ってきてね」

「わかりました、有り難うございます」

 

 

 矢継ぎ早に受け答えしたネオンは背を向け、去り際に「相手が本当に来れば、だけどね」と言葉を残した。ダルツォルネはクラピカにネオンが部隊を旅団に差し向けた事は言っていない、部隊の事はハンター専用サイトの情報にも乗っておらず、しかもこの事は組の内部でも極一部の者にしか知らされていない情報だからだ。

 

 ダルツォルネは確かに予感していた、クラピカのこの行動に意味が無いと。ネオンが最後に残した言葉は相手の死を確定するものだと。

 

 

 

 

 

9月2日午後8時、クラピカが戻ってくるがその表情は優れず、護衛メンバーはクラピカを囲みケガは無いか等の心配の声をかけ労った。

クラピカは暗い笑顔と声で「私は大丈夫だ、そもそも相手が来なかったので戦ってはいない」と答え、意気消沈したかのようにソファーに座り、眠ってしまう。

 

 ダルツォルネはやはり来なかったか、とボソリと呟き着信が鳴っている自分の携帯を手に取って別室へ移動する。確認をするとライトからの電話だった。

ダルツォルネはライトにクラピカのスタンドプレー以外の事を話す。

 

 ライトは気流の関係で遅れる事と、引き続きネオンの事を頼むと言って電話を切る。

 部屋に戻るとセンリツが何か言いたそうな顔を向けていたが、首を振りまだ言えないというジャスチャーを出す。

 ダルツォルネはチラリとあの大男が来ない原因を作ったネオンを見ると、何かのゲームでもしているのか「レアゲーット、次はどれが来てくれるのかな?」と陽気な声で携帯を操作し、はしゃいでいた。

 

 

 

 

9月3日正午、ライトがホテルに到着し新人であるクラピカ達から自己紹介を受け、ライトが全員にコミュニュティーから持たされた最新の情報を伝える。

 陰獣が運び屋を除いて死体が発見され、競売品は旅団の手に落ちたと見ている事、コミュニュティーは面子を保つため、旅団がまた狙ってくるのを承知の上で予定通り競売を開始する事、そして旅団の抹殺はプロの殺し屋に任せる事を話し、クラピカの方を向き口を開く。

 

「そこでだクラピカ、お前が蜘蛛を捕らえた事は聞いている。もしお前が正面から戦えるという自信があるのならば暗殺チームに参加してもらいたい。どうだ?」

 

クラピカはしばらく考え「参加します」と静かに答えライトを満足させた。

 

 最後にライトはネオンの方を向き「お前はどうしたいんだ? お父さんの意見としては、出来ればすぐにでも家に帰ってくれると嬉しいんだが」と帰るよう優しく何度も説得するが、ネオンは首を振り今夜の競売に参加する事を伝え、そしてネオンは内緒話がしたいと言い、ライトとジュメレを連れて別室へ移動して行った。

 

 クラピカからそのやり取りは、ライトがネオンを利用しているというよりむしろ、ネオンがライトを傀儡のように操っているように見えた。

 

 

 別室へ2人を連れたネオンはジュメレに合図をし、3人は念空間へ飛ぶ。

 ライトは念空間へ飛ぶのは初めてなので当初は戸惑い、そしてここがどんな場所かネオンから説明された時色々な考えが巡り、もしや自分はここで殺されるかもしれないと思い、僅かに恐怖を感じ始めていた。

 

 ネオンだけはライトが恐怖を感じているのを分かっていないので、普段の調子で世間話から入り、占いの愚痴へと移り、しばらくしてもどうでもいい話しかしないので、焦れたライトは話を遮り本題は何だと切り出す。

 

「あのねパパ、部隊を動かした事は誰にも喋らないで欲しいの」

 

 ライトは理由を聞こうとしたが、ネオンの背後にいるジュメレが人差し指を立てて唇に当てたのを見て止め、念空間から出るまで世間話の続きをして親のように接した。

 

 

 

 

9月3日午後4時過ぎ、ネオンは双子を連れホテル内を散歩すると言って出かけ、残りのメンバーはセメタリービルを監視する配置について話し合った。

 監視位置はやはりビルやマンションの屋上からと決まった。地上で警戒して蜘蛛と鉢合わせでもすれば、確実に殺されるのが主な理由だった。

 

 そして話し合いが終り、ネオンが帰ってくるがジュメリが居らず、気になったダルツォルネが聞くと「体調が悪いから別室で休ませてるよ、ジュメリが居なくてもジュメレだけで今回は十分だから」と答え競売に行く準備を進めた。

 

 ただセンリツだけは、何故ネオンがそんな嘘をついているのか分からなかった。

 

 

 

9月3日午後7時監視をするメンバーは配置に着き、何時でも連絡できるよう待機し、ネオン達は検問を通り抜けセメタリービルに向かっていた。

 

ネオンは相変わらず朝から上機嫌で、携帯を見ながら時折笑い声を上げていた。

 

 

同時刻の蜘蛛アジト、ノブナガはゴンとキルアがもう遠くに行っているのを気づかずに円で奇襲に備え、アジト内を歩いていた。

 

 すると前方と後方に風切り音がノブナガの耳に聞こえ、円の内に入った瞬間一息に切ろうと構え、来るのをまつ。

 そして円に触れ、その小さなモノが2人の膂力では考えられない程の速度で迫りノブナガは驚いたが、冷静にその正体は飛礫と判断し避ける選択をする。

 

 

 そして飛礫の正体に目を合わせた瞬間辺りに失明する程の閃光と鼓膜を破るような大きな音が鳴った。

 

 

 その正体は改造されたスタングレネード、ノブナガの目と耳に多大なダメージと動揺を与えた。しかしノブナガも蜘蛛の一員、すぐに動揺を無くして頭は冷静に心は怒りに、円を維持したまま次の攻撃に備える。

 

(あいつ等か? いや違う、あいつ等はこんな物を持っていなかった。ならば新手か、嘗めた真似しやがって! 絶対に斬り殺す!)

 

 警戒しながら目と耳の回復を図ろうとするが、間髪入れずに凄まじい殺気と強大な念での攻撃を前後から察知したノブナガは、窓から飛び出し脱出する。

 

 その刹那ノブナガが居た場所を消し飛ばすような爆発が起きる。爆風と熱は堅をしていてもダメージを与えるほど強力であった。

 

 ノブナガは落ちながら濃密な死の気配を感じていた、そして気づいていた……、外に逃げる事も敵は想定しているだろうと、しかしノブナガは笑う。

 

 相討ちだろうが何だろうが1人は絶対に道連れにすると誓い、着地の衝撃に備えようとするが、地面は泥のようにノブナガを肩まで飲み込み、しかも鉄のように固まり身動きを封じる。

 脱出しようと力を入れようとした瞬間、ザリッと踏み込む音が聞こえたと同時にノブナガは首に何かを通るのを感じ、その後痛みと息が出来ないほどの喉のつまりを覚えた。

 

 

 首を斬られた──、ノブナガは最後の力で己を殺した相手を見る。

 

 

 最初に目に付いたのは月に反射した薙刀の刃、次は長く闇夜に映える黒髪、右腕が義手で首から下は体に密着するような黒い甲冑、そして美しい金色の目をした女だった。

 

 

 そこでノブナガの景色は反転し意識は閉じた。

 

 

 

 

9月3日午後8時セメタリービル内、クラピカは少し調べたい事があると席を外し、ネオンとライトは占いの顧客達と世間話を楽しんでいた。

 

「ネオンちゃん、今月の歌は特に良かったよ。また来月も是非頼みたい」

「俺もネオンちゃんの歌は凄く心に響いた、また頼むよネオンちゃん。今後ともノストラード家とは末永く付き合いたい」

「うん、またおじ様達のために私の歌をプレゼントするね」

 

 顧客達が言う歌とは暗号でネオンの占いの事で、占いの事を知られるのを嫌った顧客達が占いの代わりに歌という表現を用い、ネオンの事を探ろうとする輩を煙に巻こうとしたのだ。

 

 これはネオンが言っていた次の段階に移行したための副次効果である、最初は皆ネオンの占いは誰も信じられない、念能力者でも半信半疑だろう。

 何せ未来の情報で信じろというのが無理な話だ。

 

 だがライトの余りにも大きな成功を立て続けに見聞きすれば、騙されたと思って試す者も現れ、そしてそれが事実だったならばその信用度は0から6割以上に、さらにまた来月となると完全に信用することになり、占われた者は驚愕と興奮を覚える。

 

 その時2種類の人間に分かれる事になる、他人に言うか言わないかだ。

 

 他人に言う人間は、ネオンの占いがどれだけ価値のあるのかよく理解していなくて、逆に言わない人間は価値がどれほどなのか理解し、そして自分の立場をよく分かっている者だ。

 

 言わない人間はよく理解している、占う者がたった1人の少女だけであり、占う人間の数に限界がある事を。この占いが金の鉱脈より価値があり、自分は現時点でのライトにたまたま選ばれただけだと、より財力や権力を持っている人間に何時でも取って代わられる事に……、知られないように捨てられないように暗号が必要なのだ。

 

 そしてもしネオンを探る者が居れば、同じ考えを持つ者達が協力して始末し、情報を漏れるのを防ぐのだ。これによってネオンの占いは希少性が増し、より重宝される。

 ネオンがバレてもいいと言うのはこういう事で、周りが勝手に始末してくれるのだ……、そしてその銃口はまだクラピカ達に向けられていてる。

事情を知っているネオンは、だから契約時に競売が終った後も雇いたいと言ったのだ。

 

 そうなるとネオン個人についても暗号化が必要となる。今の顧客達はネオンを神格化し始め、未来を予知し、それを詩に表現する事からまるであの神話の神のようだと、とある神の名で呼ばれる事になる。

 

 

 

 

ネオンと占い能力の暗号は【オーディンの歌】と。

 

 

 

 

 しばらくするとクラピカが調べ物が終り、ネオン達の元に合流し結果を話す。

 

「ハンター専用サイトでファミリーの事を調べました。数時間前までは載っていなかったヴェーゼとバショウの情報がありました。お嬢様の情報はまだありませんが、いつ掲載されるか分かりません。

 充分に注意して下さい」

 

 2人は頷きクラピカの事を褒め、ライトは引き続き顧客達と話し、今後新たに役に立ちそうな者がいて顧客に出来ないか探りを入れる事に従事し、ネオンは現場責任者に疲れたから休める部屋が欲しいと願い、部屋番号をライトとクラピカに告げジュメレと共に向かった。

 

 

9月3日午後8時40分、ネオンは501号室から爆発と煙を笑顔で見ていた。

 

「始まった、ようやく始まった、やっと始まった……、じゃあジュメリとジュメレは私の警護、そしてユッグは手筈通りにね」

 

 ネオンが指示をだすとジュメレの影が大きくなり、ジュメリと金髪の優男が影からゆっくりと姿を現す、そして金髪の男はネオンに携帯を渡すと一礼をして部屋から出て行く。

 

「じゃあオークションが始まるまで待ちましょうか、果報は寝て待てってね」

 

 やるべき事、出来る事は全てネオンはやって来た、全てはこの日のために……

 もう二度と奪われないように。

 

 

 




この話を見て気づいた人は1話の部分に「あぁそういう事ね」となったと思います
は? となった方はオーディンの逸話を見ながら1話を見ると4割増しで楽しむ事が
出来ます。

何故憑依転生なのか、何故TSではなく女主人公なのか、何故原作知識ありなのか、何故ネオンなのか、死因は何故ああで季節は冬なのか何となくわかったと思います。

え? アレが無い? ありますよ、道路に木が落ちている理由は1つ街路樹です。日本にもあるんですよ。アレが、あの品種が……
 
感想で書いてくれていましたが、ヤドリギは神話に出てきてバルドルを殺すために出てきます。でも矢だけでは意味無いですよね、弓が無いと射てません。

しかし秋川奈緒美は弓を持っていますので射てます。弓を持っている事書かれてない?
書いていますよ。

そこで問題です。  秋川奈緒美の誕生月はいつですか?


え? アレもいない? います、ちゃんと乗っていました。

電車が走る前は何が走っていましたか? 鉄道が走る前です。

ここで芸大生設定が生き返ります(完全に死んだとはry

足の数と芸大を検索すれば奈緒美の出身地を絞れると思います。


タグと死因を伏線にするスタイル、多分もうここまで伏線入れるの自分が書く小説では無理だろうな……。


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占いの殺意

「皆で写真を撮ろうか♪」

「そうそう、その姿勢がいいよー」

「じゃあ蜘蛛の皆いっくよー、ハイチーズ!」


 9月3日午後9時、旅団がセメタリービルの警備にあたっているマフィア達相手に派手に暴れている頃、1人の男がその様子をとある古ぼけたビルの屋上から楽しそうに1枚のカードを弄びながら見下ろしていた。

 

「うーん♪ 絶景♪ 絶景♪」

 

 男の名はヒソカ、蜘蛛の一員だ。だがヒソカが旅団に入った理由は団長と戦うためであり旅団の活動には微塵も興味は無い……、だから団長であるクロロが出した命令の『セメタリービルに行け。ただし、派手に暴れろ』といった内容もヒソカは目的地には行くがウヴォーギンの弔いのための行動である『派手に暴れろ』は行うつもりが無い。

 

それに念を覚えていないマフィア達の戦力は彼からすれば一般人に毛が生えた程度であり、戦いを楽しめない上に餓えてもいないのにわざわざ狩ろうと思わなかった……、本命はビルの中に居てまだ戦える時では無いのだ。

 

 

 ヒソカはそれを見るまでそう思っていた。

 

 

「ん?」

 

ヒソカの目に河川敷の道路を亜音速で移動している複数の黒い甲冑のような物に身を包んだ人影を捕らえる。1人1人が堅をしているかのような凄まじい纏をしていて、一瞬だが動きを見てもかなりの使い手達だと判断できた。

 

「へぇー……、いいね♥ 凄くいいね♥」

 

 ヒソカの口角が裂けるように上がり、絶頂間近のような息づかいをして興奮する。つまらない催しかと思っていたが随分と楽しめそうだとヒソカは思う、だが──

 

(あの黒装束達が向かって行ったのは爆音の方向からして狙いは蜘蛛なのは明白♠ チラ見しかしてないけれどオーラと基礎能力だけ見れば僕の10倍以上ありそう♥ 十中八九あの鎧に仕掛けがある♦ それにしても1人1人にあれだけ強化を施せるとなればかなりキツイルールがあるね♦)

 

 ヒソカは黒甲冑のおかげで身体能力が強化していると推測する。それは正解でただヒソカは能力者が1人、多くても3人が鎧を念で具現化しているのだろうと考えた。

よもやそれぞれの系統を担当している人間がいて、6人一組が5グループもあるとは思いも寄らなかった。

 

当たり前だ、個人差はあれど苦労の末念能力という超能力を手に入れることができたのだ。それをネオンのようにいつの間にか使えるようになったのならいざ知らず、他人のためだけに容量の大半を使う真似など通常では考えられないだろう。

 

 これはネオンも後から知り驚愕して急いで止めようとしたが、占いの結果がそうさせたと知らされると素直に引き下がった。その際にどの位の性能か砂漠でテストをした所、まさしくジョイントタイプならではの能力を十全に発揮し全力で走れば音速を凌駕し、オーラの総量は約50万、引き出せる最大オーラも同数を記録しその破壊能力は300m四方を壊滅させ、小型隕石が衝突したレベルとなっていた。

 

 

 

 

(さてと、今見た集団が相手だったら蜘蛛であろうとひとたまりもないだろう♣ 来た方向から考えて奴等は警備の外からだ♠ という事は外から近い順に手足を潰していく……、それはボクにとっても好都合♥ 今ならマフィアに変装し、混乱に乗じてビル内に入れれば団長とヤれそうだ♥ もし奴等が邪魔してきてもプロハンターの資格と偶然拾った参加証を見せて蜘蛛を追ってきたと言えば……、それがダメなら彼の名前を出そうかな♠) 

 

 

 ヒソカは確信していた、今しか無いと。偶然拾った参加証、気ままにビルの屋上に行ったおかげで強力な第三勢力を目撃すことが出来て尚且つ攻撃の手を逃れたこと、ビル内に蜘蛛に強い恨みを持つ協力者といつも最低2人の団員が側に居るのに今は孤立している団長……、この神にお膳立てされた様な状況にヒソカは興奮し、彼の五感は僅かな殺気さえ向けられれば数キロ離れた場所からの狙撃さえも探知出来る程に研ぎ澄まされていった。

 

 そしてその感覚によりヒソカの位置からは木のせいで見えないにも関わらず数百メートル離れたところにいるマフィア達を発見し、ヒソカはますます運気が上向いている事に気分を良くし、マフィアのスーツを奪うため屋上から鼻歌を歌いながら飛び降りる。

 

 

 刹那、空から降ってきた高速回転する念の刃がヒソカの首を切断した。

 

念の刃を投げたのは勿論ネオンの部隊だ、彼は標的であるヒソカから視認出来ない3km離れたビル群に囲まれた道路にいた。

 

 ただ彼は占いの指示通りに20分前にとあるビルの前に参加証を落とし、時間になれば念の刃を作り出し、そして占いに書かれた方角と力加減で雲より高い位置まで無心で投げただけだ。

 

 僅かでも殺意が込められていれば気づけただろう、僅かでも注視されれば気づけただろう。しかしヒソカと言えど見えない位置から攻撃する意思が無い攻撃など避けられはしなかった──

 

 

 もしもヒソカがこの場で死なずにこのまま時が流れれば性格からしてネオンの部隊と戦おうとするだろう。その一員が必ずしも攻勢部隊とは限らない、そして攻勢部隊であってもヒソカ程の実力者に勝てるとは限らない。

 

だから『天使』は殺した

 

 

 

 

 

 旅団がゾルデイック家に始末されたと嘘の情報が入り、マフィア達の緊張が溶け始めたと同時に爆発がビルを揺らすこと数回……、その後1時間程経つとネオンがいる部屋がノックされ、ジュメリと共に部屋に入ったユッグによって旅団を始末した事、十老頭達がゾルディックに殺された事、そしてヨークシンに来ていた前十老頭が急遽就任し、そして安全宣言が行われた後競売が始まる事を伝えられるとネオンは深呼吸を3度して数分間大笑いする。

 

 部屋に入ったユッグは「勝利の余韻を充分に楽しんで下さい」とネオンに一礼して出てきた時と同様にジュメリの手を取りジュメレの影に消えていく。

 

 ネオンはジュメレの腕を組み上機嫌に会場へと歩いているとクラピカが怒りの形相で「お嬢様!」と大きな声でネオンを呼び止める。

ジュメレはクラピカのネオンに対する怒りをいち早く感じ、素早くネオンの前に出ていつでも能力を発動出来る準備をする。

 

「お嬢様! 下にいる男達に聞いたのですがあの者達はお嬢様の部下なのですか? だとしたら何故……、何故私達に言っていただけなかったのですか!? それに……思えばあの時、あのホテルで私が戦うのを許した時もおかしかった! 何か知っているのなら答えて下さい!」

 

 クラピカはやりようのない怒りをぶつけるようにネオンに問いただす。蜘蛛に惨たらしく同胞を殺され、その上目まで奪われた……。

敵を討つためと同胞を取り戻すためだけに生き、念能力は蜘蛛を捕らえるためだけの物にしてこの時に備えていたのだ。

 

 クラピカは仲間を殺されてからの時間と思いが全て否定されたような気持ちだった。

ネオンは微笑んで「答えてあげる」と言い、ジュメレの手をどけてクラピカの前に立ちゆっくりと話を始める。

 

 

「まず貴方達新人に……、と言うかこれは組内部でも極一部の人しか知らないんだけどね、クラピカが会った男達と外で旅団と戦っていたのは私が集めた部隊なの。

部隊と私が繋がっているとまだ出来るだけ誰にも知られたくなかった。クラピカが何故旅団にそこまでこだわっているか話していないのと同じ事だよ……。私にだって知られたくない秘密の1つや2つあるよ。

 後ホテルで戦うのを許した理由はクラピカが相手が戦う所と能力や系統を知っていたからで今回は他の旅団の能力を知らなかったんでしょ? 私はこれでも事業主で雇用主……あなたを含め皆を守る義務がある。だからまだクラピカの実力を知らない私は任せられなかった、他に聞きたいことは?」

 

 

 クラピカはネオンの答え終るのに歯を食いしばりながら聞き「ありません」と静かに告げ、それを聞いたネオンは「私の力を借りたい時は言ってね」と言い警戒をするジュメレの手を取りオークション会場に向かって行った。 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少し戻りセメタリービル地下1階、6人の男女が1体の死体を囲みそれぞれ携帯でどこかへと連絡していた。

 1人、また1人と連絡が終り全員が携帯を切り、ポケットへと入れたの待ってから茶髪の眼帯をした男が口を開く。

 

「計画通り終ったな、俺とグンが残ってマフィア達に説明するからお前達は蜘蛛のアジトにある盗んだ競売品の護送だ。ちゃんとノストラードの使いだと言っておけよ、後死体はヒルデに任せろ」

 

 言い終わると2人を残し、4人はクロロの死体を持ち去っていった。扉が静かに閉まるとリーダーらしき茶髪の男は瓦礫の上に座りタバコに火を着け味わうように紫煙を楽しむ。

グンと呼ばれた2mを超える筋骨隆々の大男は何故ネオンがこのタイミングで仕掛けたのか疑問を口にする。

 

「こいつ等旅団の居場所は占いで分かってたのに何でお嬢はこんな周りくどい事やったんだ? 爆薬なり毒ガスとかでさっさと始末すればいいのに……、なぁビレイグ」

 

 攻勢部隊のリーダービレイグは「あぁ」と短く返事をし、話し始める

 

「……おいおい、争いの芽を誰も気づかない内に摘んでも誰も感謝しねぇだろうが。精々『そうか、ご苦労様頑張ったな。それで?』となるのがオチだ。こういうのはタイミングがあるんだよ、俺達も似たようなもんだったろ?」

「まぁな」

 

「だろ?」とビレイグは返事をして再びタバコに口を付ける

 

 

 そう、彼等は才能がある者達で中には念能力と共に頭のいいのもいるだろう、引き取られて念能力を覚えた後ネオンの占いの能力を知った時、ネオンやファミリーに対して最大限に感謝するタイミングで助けられたと理解した。

 そして理解した者達は組員達がいない所に皆を集め、この事を知った上で今後どうするのか議論をした……、議論をした者達の中には(何故もっと早く助けてくれなかったのか)という思いを抱いたが当時の組の経済力で最高の環境で知識と力を手に入れ、青年や女性になる頃までには世間を知ってその思いはすっかり消えていき感謝の気持ちだけとなった。

 

 

「そして俺等ノストラードファミリーは……いや、おやっさんは徐々に力を認められて来ているとはいえ成り上がりでしかもお前も知っている通りお嬢様の歌……、占いのおかげでのし上がってきた。

そうなると占いを信じていない、または占ってもらえない奴等から見ると面白くはなくどうにかしてぇと思うわけだ」

「そこで俺達攻勢部隊や双子のカウンター型の能力の出番ってわけだな」

「あぁ、だが俺達はこの日まで極力ファミリーとして表に出ないよう止められていたし、マフィア位の戦力だったら双子だけで十分だ。万が一ゾルディッククラスの殺し屋が狙ってきても【自身を間接的に占っている】からすぐにわかる」

 

 ネオンは占いに方向性を持たせる事の応用で自身を占えるのだ、例えば【双子で対応出来ない戦力が現れる日をカレンダーに丸を付けろ】という風に……、だがこの日になるまでこれまでネオンは細かく占ってきたがそんな日は無かった。 

 

「そういう日が来ても俺達は体が鈍らないように館の地下にある能力者専用のジムで肉体を、ハンターになって思考の瞬発力を鍛える必要があった。

まぁ、マフィアが殺し屋を雇っていきなり敵の急所を狙うなんて真似はほぼ起こらねぇけどな……、バレたら全面戦争になるし『自分達は戦力不足で相手と正面から戦う気概が無いヘタレでございます』や『俺達は人語が通じない脳足りんです』と宣伝するようなもんだしな。

 昔ならともかくこれからの時代のマフィアはビジネスを重視していく、得にならない殺しや抗争なんてどこもやりたがらねぇ、どんなに気に入らない相手だろうがまずは頭を使っての交渉だ。

交渉と金、コネで相手の陣地を削り規模を大きくしていくしかない……。イレギュラーが無い限りな」

「イレギュラー、幻影旅団か」

 

 ビレイグは頷く、ネオンは原作知識と占いで今回マフィアの大幹部や組長が集まる9月1日のオークションで幻影旅団の襲撃で死ぬこと、そして後に旅団がゾルディックを雇い『前』十老頭を殺す事はわかっていた。

 

 そう計画したのだ。幻影旅団を使って他の組や占いを信じていなく、将来敵対する組をオークションに参加出来る位までに成長させ、ネオンとライトに対していい感情を持たなく『現』十老頭達に反感を抱いているタカ派を十老頭にして悪評を被らない方法で殺すように己が、ノストラード組が飛躍するために……『あの日から』

 

「そうだ。イレギュラーである幻影旅団はマフィアの事情……というよりやられる側の事なんて1mmも気にかけねぇからハンターとマフィア両面から見てタブーとしている事も平気でやる。

そして誰が見ても一流の使い手達で優秀だ、そうなってくると調子に乗ってどんどん自分達の力を試そうと大きな事をし始めていき幻影旅団が地下オークションをいずれ狙うのは必然だったというわけだ。

 

 だが強くて優秀だからこそこいつ等には欠点がある。

 

 こいつ等は『団』と名乗っているが個としての力が強いが故に単独、もしくは数人で動いている節がある。これは能力を全て仲間に対して明かしていない事を意味していてお嬢様は……っと言うより占いはここに注目したんだろう。

そしてかすり傷1つ負わないという条件下のために4人以上で編成して事に当たり、しかも補助部隊にも出張らせた」

「そのおかげで俺達は無傷ってわけだな」

「あぁそうだ、今回俺達は表向きはノストラードファミリー単独に個別で莫大な金で雇われたハンター達で旅団を始末し、存分に働いたとして引き続き契約すると発表される。

今回直接参加していない仲間を含めれば1個中隊、凡そ130人の能力者が丸々ファミリーに吸収され、しかもその実力は裏社会全体が身を以て知っている。

 経済力、権力、そして今日で武力が明るみになり今後ノストラードファミリーは絶大な支持を得て、しかも敵対するより友好的に付き合う方がいいと皆が思うようになる。それに殺したくてももうゾルディックへの暗殺依頼はしないだろうしな」

 

ビレイグはタバコの火を消して懐から出した携帯灰皿に入れて立ち上がる。

 

「まっ、何より今日から俺達はコソコソしないでお嬢様に堂々と話しかけれるし、遊びに行けるってのが1番の収穫だぜ」

 

子供のような笑顔でそう言うのを見てグンはフッと笑い「そうだな」と短く返した。

人が来る気配を感じた2人は扉の方へ向き直り、早く皆でお嬢様を囲んで飲んで騒ぎたいと考えながらマフィア達に説明していくのだった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソがぁっ!! ナメやがって!!」

 

 セメタリービルの警備室でマフィアンコミュニュティーの幹部の1人、ビーンは2つのテープを見終わると怒鳴り声を上げてイスを蹴り飛ばす。その表情は悪鬼の如く……、そして周りにいる者達も目が血走る程に怒りを露にする。

 

「奴等め……、始めから手を組んでいやがったのか!?」

「それしか考えられねぇ!! まだ死んでいないのに死んだって情報が流れたからな!」

「だからあいつ等はほぼ無傷で他の雇った奴等は殺されていたのか、納得いったぜ!」

「何が伝説の暗殺一家だ!! とんだ詐欺じゃねぇか!」

 

 

 そう、彼等の怒りの矛先は今回莫大な金を払って旅団の暗殺を依頼したゾルディック家だ。

コミュニュティーに十老頭が殺されているという情報が入り、急いで武装したマフィア達が邸宅に向かったがそこには情報通り頭部に針が刺されて殺されている十老頭の姿があった。

 

 マフィア達は当初困惑した──中継では生きていたじゃないかと

 

 焦燥したマフィア達は前十老頭達に連絡をし、指示を仰いだおかげで混乱が収まり十老頭の死体と部屋を片付けていると、2本のビデオテープが梱包された状態でテーブルの上にあり、疑問に思ったマフィアの1人はその場で確認した後慌てて現場で指揮している者へ報告する。

 

 そのテープに映っていたのはゾルディックの人間と思われる人物がククルーマウンテンの門から出てくる映像で、もう1つのテープには同人物が十老頭達がいる邸宅に警備の人間を鮮やかに殺しながら入っていくものだった。

 

 

 ゾルディックのこれまでの功績や依頼のシステムを知っている者で冷静に考える事が出来ていれば、旅団がゾルディック家に依頼をし十老頭達を抹殺し、旅団暗殺の依頼をしている十老頭達が死んだ時点で依頼が取り消され引いたと考えられるかもしれない。

 

 だが結果だけを見れば1人も殺せる事が出来ず逆に十老頭達を殺した。十老頭が死んでコミュニュティーの人間の誰しもが冷静ではいられなかった、そこにこんなテープを見せられてしまえば嫌でも旅団と組んで十老頭達と雇った暗殺者達を殺し、金を騙し取られたと思ってしまう。

 

 

 行動には常に責任が伴う、暗殺業という金よりも信頼が大切な職業なら一層──、今回の襲撃で旅団を1人でも殺せていれば評価は違っただろう……、これから先二度と裏社会や裏と関係がある者達からの依頼は信頼が地に落ちたゾルディックにしなくなり、ゆっくりと衰退していく事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしもしユッグだ、あぁ……。あぁそうだ、全て歌の通り行った。勿論俺の能力『心の隙間』で猜疑心をゾルディックに向け、ノストラードファミリーに尊敬を抱かせるのを後押ししたぜ……、これで裏社会は万全だな。

じゃあ俺はお嬢様に報告しに行くぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9月5日深夜、とある人体収集家達が集う会員闇サイトに『レア物コンプリート♪』と書かれた1枚の画像が貼られる。

そこには蜘蛛の入れ墨と顔が見れるような姿勢でホルマリン漬けにされた13体の死体があり、幻影旅団の最後は自らが愛でられる品となる結末となった。

 

 

 

 

 

 




お待たせしましたヤドリギ5話です。


未来予知による後方支援能力が最強だぁぁぁああ!
バトルものの漫画なのにバトル描写がほぼ無し、こんな二次創作もあってもいいよね 
ヒソカの死因は始め1週間前に埋めた地雷か、部隊と出くわさないようセメタリービルに向かうためにバンジーガムでパチンコみたいに自分を打ち出した瞬間に念の刃でご臨終にしようか迷いました。

補足みたいなもの
鎧は6人一組のグループで作り出せます、そして30人で1人を対象に鎧を作れば……?
今回は蜘蛛を圧倒できる強大な個としての能力は必要はなく、これだけ手強い猛者達がネオンの所にいるよという情報を知らせる必要がありました。

ビレイグが言っていた念能力者専用のジムを出そうと思ったのは、原作の試しの門を開くために鍛えるシーンからヒントを得ました。
この専用のジムの器具は持った人物のオーラを使って負担が増える仕様、数トンの扉軽く開けれる奴等が100キロのバーベルで鍛えられるか疑問ですので


4話でネオンが携帯見ていたのはゲームではなく旅団暗殺の成功の報せです



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交渉と決断、そして償い

「ねぇセンリツ」
「何でしょうかお嬢様?」
「センリツが少し周りがうるさい中で聞こえる相手の心音の距離ってどの位?」


 9月6日サザンピースオークション会場前、そこに続々と様々な高級車が停まり、中から名だたる富豪達がスーツやドレスを着飾って現れる。

彼等の目的は勿論オークションで目当てのレアアイテムを競り落とす事だが、もう2つ重要な事をするために出来るだけ代理等を立てずにわざわざ来たのだ。

 

 それはコネクションを作る事と、同じ価値観を持つ者達とコレクションを自慢し合う事。

 

 この世界最高峰のオークションというブランドの名の下に集う者達は、皆篩いに掛けられた人間でここにいるという時点で一定以上の金を持っている事を意味する。

 

 その額1200万ジェニー、この大金を持っていて尚且つ支払える能力があるのが最低ラインだ。

 

 前世知識では到底そんな大金を所有しておらず、数十倍あったとしても支払わなかったであろうそんなネオンは、能力のおかげでノストラードとしての括りではなく、ネオン個人として世界長者番付に入れるほどの財力を得たのでそのラインを超える事が出来、今ダルツォルネのエスコートを受け高級車から降りる。

ネオンの後に続くのはヴェーゼ、センリツ、クラピカだ。今回はサザンピースに入ったことが無く、新人に経験を積ませる目的と戦闘能力は全く必要ないので駆け引きが得意な者達を選抜した。

 

だがネオンには、内密にダルツォルネが万が一の事を考えて部隊に隠れて護衛するよう話を持ちかけ、それを了承して予め2組10名がノストラードの名を介さず会場に潜入していた。

彼等は占いによって会場は安全だと分かっていたが、念能力によるジャイアントキリングを見聞きしているのと、ビスケの教えもあったので油断も慢心も無く『それ』は全て終った後ですればいいと彼等は考えていた。

 

 

 

 

 211番の札を受け取ったネオン達が会場に入り、廊下を歩いているとクラピカを呼び止める幼く元気がある少年の声が響く。

 

「ゴン!? キルアにレオリオまで……、どうしてここに……いや、今私は仕事中なので後にしてもらえないだろうか?」

 

 クラピカは昨日ゴン達と会っていたが、オークションに参加する事は聞いていなかったのでこの場にいる事に驚き、理由を尋ねようとしたが今は任務中であり公私混同は出来ない性格なのと、ネオンからの信頼を獲得したいクラピカは声のトーンを少し落として返答した。

 

 ゴンはこのまま話し掛けるのはまずいと感じて「クラピカごめん、後でね」と謝罪をして立ち去ろうとするがネオンが呼び止める。

 

「ねぇねぇ、君達がクラピカとハンター試験で知り合った友達?」

「あんたは?」

「私はネオン、ネオン=ノストラード。クラピカや後ろの3人の雇い主だよ、宜しく」

 

 キルアがネオンに対してあんた呼ばわりしてダルツォルネは眉をひそめ、クラピカも「おい」と言ってキルアを咎めるが当のキルアはどこ吹く風で自己紹介をする。

 

「俺はキルア」

「初めまして、俺ゴンです」

「レオリオだ、宜しくな」

 

 ネオンは「……そっか、そうだったんだ。宜しく」と納得したように微笑んで言い、ゴン達の後ろで輪に入りにくそうにしているゼパイルを見て「そっちの男の人も仲間なの?」と声を掛ける。ゼパイルは少し緊張した面持ちでネオンに礼をして自己紹介を始める。

 

「わっ、私はゼパイルと申します。職業は鑑定士をやっています、以後お見知りおき下さい……」

「ゼパイルさん宜しくね。へぇー、鑑定士やってるんだー。それじゃあもしかして修繕とかも出来ちゃう? 出来るなら私の所に来て欲しいんだけれど」

 

 ネオンはここぞとばかりにゼパイルを勧誘しようとするが、ダルツォルネは「お嬢様、またそのような事を」と言いネオンを諫めようとするが、ネオンは「良いじゃん、良いじゃん」と悪びれる様子はない。

 

「私は人の縁を大事にしたい、クラピカの仲間が選んだ人選なんだから信用出来ると思ってる。だからここで知り合ったのも何かの縁だから親しくしたいんだよね。キルア君やゴン君、レオリオさんも含めてね」

 

 ネオンは右目を軽く押さえ「ちょっとトイレに行ってくる」と場を外しトイレへ向かう。ダルツォルネは軽く溜息をつき「その気があるのならここに連絡をするといい」と言いゼパイルに『表の世界用』の名刺を渡して女子トイレの側にあるイスに腰を下ろす。

そして右手が義手の金色の目をしたスーツの女がダルツォルネとアイコンタクトをしてネオンの後を追うように女子トイレに入っていく。

 

名刺を受け取ったゼパイルは小さくガッツポーズをして「これで俺は一生安泰だぜ」と呟く。

そんなゼパイルにレオリオは近づき小声で「そんなに凄ぇのか?」と尋ねるとゼパイルの目が驚きで開かれる。

 

「あのなぁ、ノストラード商会って言やぁ名前は世に出していないが世界有数の企業の親会社だぜ。そんな所から勧誘されているんだ、安泰も安泰だぜ。修繕士は普通なら月収20万、文化財に指定されてるもんを修復する腕があっても年を重ねても全然給料が上がらないんだが、ココはお国やそこらの企業達と違って職人を大事にしてくれている。

ダチが商会で働いているんだが月50は行っていて、しかも有名所を修復すればその度に報奨金が数百、物によっては1千万は貰ってるって言ってたぜ。

さらに言えばノストラード氏の娘さんって言えば個人で1兆は持ってるって噂だぜ」

「何!? 1兆だとー!!?」

「声がでかいぞ、レオリオ……」

レオリオの驚いた大声をクラピカが注意し、その上周囲の目が集中したので、レオリオは気まずそうに頭を掻きながら周囲に「ど、どうもすみません」と会釈をする。

周囲はすぐに興味を無くしたように視線を外すが、内心では少し感謝をしていた。中々表に出てこなくて顔もわからなかったノストラードの娘が誰か教えてくれたのだから。

 

オークションが終れば彼等はネオンと接触し、彼女を通じて何としてもライトとコネを持ちたがる。そうなればまたノストラード商会は知名度を上げ、マフィアとしても権力を有していくだろう。

 

 そんな彼等を見たダルツォルネは右ポケットに入れている紙を触り、占い通りに事が進んでいるのがおかしくてたまらなく、口角を上げずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 トイレの扉を後ろ手で閉めたネオンは、涙のように少しずつ流れる血を零さないように洗面台に近づき、顔を下に向けてから蛇口を捻りゆっくりと右目を押さえていた手をどける。水に流れていく自分の血を見ながら「余裕無かったんだな、すぐに気づかないなんて」と呟く。

 

そうネオンはゴン達が自己紹介をしてすぐには主人公達だとは気づかなかった……、クラピカが面接に受けに来た時は余裕がまだあって瞬時に気づく事が出来た。

だがヨークシン入りしてからはゴン達の事は完全に頭から離れ、クラピカの事も『主人公達』ではなく新人の自分の部下であり大切な仲間の1人だと思って行動していた。

 

 ネオンは旅団襲撃日時のセメタリービルに居る間こう思っていた、『ここまでやってクロロが扉を開けて入ってくれば潔く能力を盗られよう』と、そしてもし盗られたならばグリードアイランドを落札し、クリアを見届けた後は自身の総資産を部隊や組員全員に平等に分配して、これ以上自分の能力は使わせないよう、利用されないよう速やかに自殺をすると。

 

 だから笑ったのだ。この世界中に、元の世界に他人の物を殺してでも盗むような奴は報われる事は絶対無いのだと、己が声が届けと言わんばかりに嗤ったのだ。今まで余裕のように見せていたのは双子や部隊達に知られないためのただの強がりだったのだ。

 

 ネオンが濡れたハンカチで右目を拭っていると、扉から攻勢部隊の1人が入って来る。ネオンは誰が入ってきたかを確認し「あ」と声を上げてハンカチを落としてしまうが金目の義手の女、ヒルデが5m程離れていたのにも関わらずネオンの手から離れる前にハンカチを取り優しく「大丈夫なのか?」と声を掛けネオンは「うん」と返事をする。

 

ヒルデからハンカチを受け取ったネオンは両手でヒルデの義手の手を取り泣きそうな顔で言う。

 

「もうすぐだよ、もうすぐで皆を本当の意味で助ける事が出来る……、それまで待っていて」

 

 そんなネオンをヒルデはキョトンとした表情で見て、これから自分達をどうしたいのかを思い至り、「ハッ」と呆れたように声を上げる。

 

「おいおいネオン。オレ達はお前に十分に助けてもらったし、力と知恵も貰った。仲間も得たし家族も出来た。これ以上貰ったら何返せばいいんだ?」

「でも私はそれで満足出来てないんだよね。皆を引き取ったなら最後まで助けないとね」

「呆れた、それはただの我儘だな」

「自覚してる」

 

 ネオンとヒルデは同時にクスッと意味がお互い違うが笑い合い、「じゃあ行こっか」とヒルデの左手を繋いで扉から出る。

彼女の目的はただ1つ、このためだけに父親にも協力をお願いしてすぐに動かせられるお金を6000億までにしていたのだ。

全てをつぎ込んでも最低でも3つは落札してやるという決意の元、会場入りする。

 

そして今、オークションが開催される──

 

 

 

 

 

 

 

 ヒルデは見回りに行くと言って別れた後、ネオンは折角だからとゴン達の隣へと座ろうとするが、ダルツォルネは「クラピカは信用しているがまだこの者達を信用したわけではありません」と言って間に座る。そして反対側にはすぐに相手の心情を知れるようセンリツが座った。

 

その場所は中央よりやや右奥、バッテラから5m程離れた場所だった。

 

オークションが始まってから何の動きも見せないネオンにゴンは「ネオンさんは何を狙っているの?」と興味津々で聞くが、ネオンは意地悪く笑って「内緒」と言いゴンを拗ねさせる。

その時オークショニアからネオンの狙いであるグリードアイランドの紹介が入り、ゴン達とネオンは緊張した面持ちで正面を向く。

 

「──では、グリードアイランド9億ジェニーからお願いします!」

 

 瞬間会場全体に歓声が響き渡り10億、15億、30億とオークショニアから値段を告げられる度にネオンの心臓は震えて隣に居るセンリツを心配をさせる。

そして60億から120億の値が出るとゴンが「これは何を表すサインなの?」と迂闊にもオークショニアから見える位置で、前の人と同じ額を上乗せするサイン、つまり倍額をしてしまう「201番、240億!」とコールされてしまう。

 

「どうすんだよ! コールされちまって間違いでしたじゃ済まされねぇぞ!」

「わかってんのか!? これで決定したら俺達支払い能力ゼロなんだぞ!」

「おい……おい、おいおいゴン! 下手すりゃ俺達刑務所行きだぞ! 俺に医者じゃなく囚人にさせる気かぁ!?」

 

 ゴンはゼパイル、キルア、レオリオから猛批判を受け、とんでもない事をやらかしてしまったと今更ながら自覚して顔を青ざめていく。

ネオンはクラピカの様子が気になり見てみると、クラピカは両手で顔を覆い「何ということだ……」と呆れかえっていた。目の前でコントをしているかのような出来事に緊張の糸が大分解れたネオンは少し悪戯心が沸いて「へぇー、その年でお金凄い持ってるんだ。さすがハンターって事かな?」とからかうように声を掛ける。

 

『ハハッ、ハハハ……、ハァ』

 

 ゴンとキルア、レオリオは空笑いをした後溜息をし、ゼパイルは「俺の目前に迫っていたバラ色の人生が……」と頭を抱えながらうずくまる。さすがにこれ以上は可哀想に思ったネオンはサインを送ろうとしたが「16番250億!」と遮られてしまった。

少し残念がるネオンとは対照的にゴン達の表情は晴れやかだ。

 

 バッテラが305億の値を出して周囲に幾らでも出すという決意を示し、オークショニアが辺りを見回して「ございませんか?」と確認をして場がこれで落札が決定したと思う空気を狙ってネオンは動き出す。

 

「あっ、出ました! 211番610億!!」

 

 会場が一瞬シンと静まり、皆が理解するとワッと大歓声が上がって一気に場の空気がヒートアップする。その瞬間バッテラは立ち上がって211番がどんな人物かを確認して驚愕する。

あれは会場の入り口で騒いでいた男のおかげで知った人物、ネオン=ノストラード。いつもならば他人の資産など気にも留めないがあんな大声で1兆と言われれば嫌でも記憶に残ってしまっていた。

 

 バッテラは座り直して大きく舌打ちをし、サインを出す「16番! 615億!!」また歓声が上がり今度は皆の目がネオンに集中する。ネオンは息が荒くなり、胸が早鐘を打っているのを自覚しながら皆の期待に応えるように手を上げる。

 

「来ましたぁ-!! 211番1220億ー!」

 

 瞬間ゴン達を含め大多数の人間が席を立ち雄叫びにも近い歓声を上げた。オークショニアも進行役である事を忘れ、場の空気と見たことが無い金額に熱くなる。ネオンもまた完全に呑まれていた。

 

この場で呑まれていないのはネオンの護衛達と部隊達、そしてバッテラとツェズゲラだけだった。

 

「211番1220億! ございませんか!? ……ございませんね、ハンマープライス!! 有り難うございます!!」

 

 見事グリードアイランドを競り落とし、会場全体に響き渡るスタンディングオーベージョンを受けたネオンは、歓声に応えるため席を立ってゆっくりと周りに礼をする。

未だに心拍数が上がっているネオンに、センリツから落ち着くために手を添えられながら声を掛けられる。

 

「落ち着いて下さいお嬢様。この後彼等は交渉をしに接触してきます」

 

 ネオンは数度深呼吸をして「了解」と返事をし、バッテラとの交渉をするために席を離れて護衛達と共に出入口を目指す。

バッテラも護衛達を連れて、ネオンの後に続くように席を立ち、ネオンに着いていく。

 

 ホールから出て行った二組は互いに軽く自己紹介し、近くの一室に入って代表であるネオンとバッテラだけイスに座り交渉を始める。

 

「さて……」口を先に開いたのはバッテラだった。

 

「今回私はグリードアイランドを全て競り落とすつもりでしたが……、いやはや参りました。まさかノストラード氏もグリードアイランドを狙っているとは思いもよりませんでした」

「バッテラ氏、ネオンで構いません。私は今回の競売でどうしてもグリードアイランドが欲しかったので、失礼ですがバッテラ氏がある目的のために狙っているのを知っているにも関わらず参戦させていただきました」

 

 『ある目的』と聞いた瞬間にバッテラの表情が一瞬強ばり、知られていて尚欲しがっているのかと内心怒りと悲しみを感じながらネオンに問いただす。

 

「……それを知っていてネオンお嬢様は何故グリードアイランドを欲しがっているのですか?」

「私もまた、バッテラ氏と同じような理由とお答えすればご理解いただけると思います」

 

 バッテラの問いに真っ直ぐ目を見て答えたネオンに、バッテラは少し一拍を置いて「そうですか、それならば……仕方ありませんね」と言って天井を見る。

 

 バッテラはネオンの予算とその親であるライトが協力すれば全て落札されてしまい、恋人を助けられないかもしれないと考えて絶望を感じ始めたが、「しかし!」と少し感情的になった声が視線をネオンに戻す。

 

 

「私はグリードアイランドを全て欲しいと思っていません。少なくとも3本、出来れば4本で十分です。その際こちらが提示する条件を呑んで下さるのであれば、私達が先にゲームをクリアした場合は、クリア報酬の3枠の内1枠をバッテラ氏にお譲りする事を約束致します。ご心配であれば契約書を書かせて貰いますがいかがでしょうか?」

 

それを聞いたバッテラは目に光が戻り、「ふむ」と頷き1分程思案した後、

 

「分かりました……。条件次第ですが契約致しましょう。ですが私もどうしても欲しいので3本目まではネオンお嬢様とは競り合わない事を誓います」

 

 バッテラは紙とペンを出すよう部下に命じようとしたが、その前にダルツォルネが前に出て二枚の契約書を差し出す。

 

「これがその契約書となっています。既にこちら側のサインは済ませてあります」

 

用意周到なネオンに疑念を抱きながらも受け取ったバッテラは、書面に書かれている条件をしっかりと目を通していく……、ツェズゲラもまた『ハンター目線』で仕掛けや穴が無いかよく読む。

 

「……この企業だけの株を譲渡する条件で本当によろしいのですか? 貴女なら、ノストラード商会ならば同種の企業を所有しているのを記憶していますが?」

「えぇ、どうしてもこれからのためにその種類の企業が欲しいのです」

 

 バッテラは契約書に書かれた条件を、顎に手を当てながら思案する。

 

 これは自分にとってハッキリ言って有利な条件であり、恋人さえ治れば資産などに執着は無い。全て処分しようとしていたから丁度良いだろう……。しかし慎重を期すためには信頼できる弁護士にも通しておいた方がいい。

 

こう考えたバッテラはネオンの条件を呑む決断をした──

 

「時間を取らせて申し訳ありませんが、弁護士にも同席させてもよろしいだろうか?」

「えぇ、構いません。今日の予定はグリードアイランドだけですので……。バッテラ氏も私どもがこの場にいると落ち着かないと思いますので、弁護士の方が来るまで他の場所で待っています」

 

 ネオン達は返された契約書を仕舞い、連絡先を交換してバッテラに丁寧に礼をしてから部屋を出て行く。部屋から出たネオン達は、迎えるように待っていたゴン達に声を掛けられる。

 

彼らもまたグリードアイランドを二人とは違った意味で狙ってここまで来た。少し予定は狂って話しかける人物が違うがやることは変わらなかった。

 

「ネオンさん。もしよければ俺達がグリードアイランドのゲームクリアに協力しますよ」

 

 父親に会うためにゲームをプレイして手懸かりを探す。

 

この確固たる目的のためゴンはネオンと交渉をしようとするが、ネオンは「あ~、そっか。別室で話そうか。それとダルツォルネはヒルデ達を呼んできて」と指示を出して、ゴン達と先程の部屋の隣にある一室に入る。

 

 バッテラと話し合った時とは違って、今度はネオンが楽にしていいと言ったので、護衛達は空いているベッドやイスに座り、ヴェーゼは気を利かせて水を用意する。ネオンとゴン達はヴェーゼに謝意を述べた後一口飲んでから話し合う。

 

 ゴンは理由を聞きたいというネオンの問いに、最初に父親に会いたいという最終目的を言い、ハンター試験を受けた所からこれまでの事を大まかにネオンに丁寧な口調で話す。

 

そして話が終わりネオンが口を開く。

 

「わかった。ゴン君にも父親に会いたいという強い目的があってプレイしたいんだね。でもね、先にどうしてもプレイしなきゃならない人達がいるからゴン君に譲る事は出来ないんだ。ごめんね」

「……そうですか」

 

 ネオンは今の時点ではプレイさせないという決断を下した。その答えを聞いたゴン達は落胆をするが、ネオンはこのまま帰すのはさすがに可哀想になったので、「その人達の後でならプレイしてもいいよ」とゴン達にプラスになる事を言う。

 

ゴン達はお互いの顔を見合わせ笑顔になりガッツポーズをする。そしてゴン達と連絡先の交換をした後ネオンは「この後予定とかあるの?」と尋ねる。

 

「いや、特には無いです。キルアはどう?」

「俺も無いな」

「俺は医者の勉強しないといけないから明日にはゴン達と一旦お別れだな。ゼパイルは?」

「俺はお嬢様についていくぜ。ノストラード商会で働くからな」

 

 返答を聞いたネオンは「じゃあ私の予定が終ったら皆でお寿司食べない?」と提案して4人は喜んで了承をする。

 

 しばらく雑談しているとコンコンとノックがして扉から1番近いクラピカが開ける。そこにはダルツォルネと攻勢部隊の一員であるヒルデを含めた5名がいて「失礼します」と部屋に入り一列に整列をする。

 

「お嬢様連れてきました」

「うん、ありがとうダルツォルネ。ゴン君とキルア君もし暫くの間何も予定が無いのならよかったら私の家に来て鍛えない? 君達も才能あるから将来私の部隊と同じ位強くなれるかもしれないよ?」

 

 ネオンは原作を狂わせたという罪悪感を少し抱き、せめてもの償いにゴン達に鍛えれる場を提供しようとするが、当のゴン達はこの時乗り気では無かった。

 

「どうするキルア?」

「確かに結構やると思うけれど」

 

 今の自分達とそんなにたいした差は無くすぐに追い越せそうだとキルアは思った。

 

 そんな侮りを見透かしている部隊達は鼻で笑いキルアを少し苛立たせる。ネオンは原作を思い返し「じゃあヒルデ以外皆でどの位実力があるのかちょっと『ただの練』を見せてあげたらいいんじゃないかな?」と痛む右目を押さえながら提案し、部隊達は了承して練をする。

 

 

 瞬間この場にいる全員が、部隊達の体格が自分の10倍以上大きくなったかのような錯覚、さらに冷たい水の底にいるかのような圧迫と温度を感じ、この場にいる全員が部隊達が桁違いの力を持っていると嫌でも認識させられた。

 

 そして実力を見せた部隊達はオーラを納めて下がり、ネオンは「どう?」とゴン達に勝ち誇ったような笑顔で尋ねる。

 

「……すっ、すっごいや! ねえキルア!」

「あ、あぁ。認めるよ、あんた達はスゲェ」

 

 ゴンは素直に賛辞したが、キルアは内心穏やかではなかった。

 

『強いやつ程実力を隠すのが上手い』『あまりこれに頼りすぎるのはよくない』そうゴンに忠告したのではなかったのか? 新たな力である念を覚えてから慢心しすぎていたと感じたキルアは、もう二度と相手を侮らないと自分を戒めた。

 

 ゴン達が行こうか行くまいか決断をしようとするとネオンの携帯が鳴り、出るとバッテラから弁護士が来たという連絡が入り、ネオンはゴン達に

 

「今すぐ答えを出さなくてもいいよ、オークション最終日の10日まで居るからそれまでに決めてくれたら大丈夫」

 

そう言ってダルツォルネ達を連れて部屋を退出し、バッテラがいる部屋へと再び入る。

 

 

 

 

 

部屋に入るとバッテラが細身の初老の男性弁護士を紹介し、ネオンもまた自己紹介をして再び契約書を出して読んで貰う。

 

「……航空関連の株だけを譲渡するという事はわかりました。後、貴女方を疑っているようで本当に申し訳ありませんが、落札する物は交互にしてもらうという条件を追加してもらえないでしょうか?」

「えぇ、それ位構いません」

 

 これを聞いたバッテラと弁護士、そしてツェズゲラは安堵し、2枚の契約書に追加条件を書き足してサインをした。

 

 この追加条件を提示した理由は、ネオンを呼ぶ前に3人で話し合っている時、ツェズゲラは交互に落札するという条件を呑ませた方がいいと提案した。

バッテラはそれは少し失礼ではないかと反論するが、ツェズゲラは表ではノストラード商会と名乗っているが、裏ではマフィアとして有名なのをハンターとして知っていたのでこのことをバッテラに話し、最悪武力で脅しをかけて奪うかもしれないと付け加えた。

 

そのため交互に落札する事、落札した場合は速やかに安全な場所に移送する。この2点は絶対条件であるとツェズゲラは主張し、2人も受け入れた。

 

 そして条件を提示し、即答して受け入れたネオンに無理矢理奪う気は無いと3人は判断した。

 

 

 

 

    

「契約を結んでいただきありがとうございました。後契約を順守するために私達は4本目のゲームがどのような形でも落札されれば速やかに会場から退出し、少なくとも最終日までビル内に入らない事を誓います」

 

 ネオンはバッテラ側が全て落札する気ではないかと疑っているのに気づき、そんな気は無いと少し遠回しに伝える。

 

「……気を遣わせて申し訳ありせんな。何分こちらも必死なので」

「心中お察し致します」

「それと私の恋人があなた方の協力のもとに治った場合、契約書に書かれていた相場の値段ではなく無料でゲームを全て差し上げます」

「ありがとうございます。出来るだけ数が必要だったので心強いです」

 

 契約書を受け取ったネオン達はまた丁寧にバッテラに礼をして退出する。部屋に戻ったネオンはその光景に少し唖然とする事になる。

 

 

「だーからちっげぇよガキ共、こうだよこう! バッとしてスッとするとワーっと来るんだよ!」

「たからわっかんねぇよ! そんな説明!」

「うーん、俺もわかんないや」

 

ヒルデが身振り手振りと擬音語で何かしらゴン達に説明をしていて

 

「レオリオおじさんはわかりますよね?」

「俺はおじさんじゃねぇ! まだ19だし俺もわからねぇよ!」

「え? 嘘ですよね。失礼ですけれど免許見せてもらってもいいですか?」

「おうよ、本当に失礼だがよく見やがれ!」

「……はぁー!? てめぇタメかよ、紛らわしいんだよボケ!」

「お前タメだと分かった途端にその態度かよ!?」

 

レオリオの年齢に疑問を持って免許を見て同じ年だとわかると態度を豹変させているヒルデがいた。

 

 ネオンは壁にもたれている部隊の1人にどういう事か聞くと、何故ヒルデだけが練をしなかったのかとゴン達が聞いてから始まって、2、3言話してゴン達が念の知識を基礎しか知らないとわかり、「じゃあオレが教えてやる」とヒルデが名乗りを上げて教えていたが、結果はこの様であること。

 

ちなみに教えていたのは応用技の流だ。

 

「あの子は念と戦闘の天才だけど指導の方は向いてないよね」

「えぇ、それで善意100%の教えたがりですから手に負えません」

 

 ヒルデはネオンの部隊の中で他を寄せつけない程の圧倒的な才能と戦闘能力を持っていて、それこそ人類史でトップを飾れるが天才であるが故に指導には向いていなかった。

彼女がこれほどの力を持っている理由は、狂気に染まった1人の女が、生まれ変わるという目的のため70年を費やして念能力で造られた存在であり、誓約のために捧げた命は妊婦であってその人数は5000、胎児を入れれば10000になるからだ。

 

 だが生まれ変わる瞬間は誰にも見られないという制約を、占いによって山奥に派遣された構成員と案内をしたハンターに破られ、発狂した女はせめて一部でもいいから生まれ変わるという想いの元、右腕を掴んで憑りつこうとするが、その前に当時7歳であるヒルデが何の躊躇もなく自らの腕を切り落としたおかげで失敗をし、女は絶望に顔を歪ませながら死んでいった。

 

その後は体と心のケアをし、ネオンに引き取られ今に至る。これが彼女の過去と力の秘密であった。

 

 

「皆注ー目っ」

 

全員騒ぐのを止め、目がネオンに集中する。ネオンはバッテラと契約を無事結んだ事と契約内容を全員に話した後、全員で貸し切っているノストラード系列の高級寿司屋に行き、夜が更けるまで宴を楽しんだ。

 

──そして帰り際の時間になるとゴンとキルアは決断をネオンに伝える。

 

「俺たちも一緒に行っていいですか?」

 

 ゴン達は現時点での己の未熟さを知り強くなる事を選んだ。その答えにネオンは微笑み

 

「いいよ、じゃあクラピカが乗ってる車に行って。最高の環境と師匠を準備してあげる」

 

そう告げお互い車に乗りホテルベーチタクルへと向かう。その間にネオンは携帯を取り出し流れる夜景を見ながらどこかへと電話をした。

 

「もしもしビスケ? 明日ヨークシンに来るんだよね? だったらさホテルベーチタクルに泊まりに来てよ。また面白い子達と出会えたんだー。……え? 違う違う、今度は占いを使ってないよ。それでさ絶対にその子達もビスケ気に入ると思うんだ。どんな子達かって言うとね──

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

その後幾ばくかの時間が流れて2月10日正午、ノストラード館大広間。ここにネオンが落札した物と、恋人を治して薬で若返ったバッテラから、感謝の言葉と共に譲り受けた合計31台のグリードアイランドがあり、ネオンや侍女にライト、護衛と部隊達、それにゴンとキルア、ビスケにゼパイルと勢揃いしていた。

 

彼等がここにいるのにはある重大な2つの理由があった。その理由の1つはこれからゲームから帰って来る者達を迎える事だ。

  

 しかし、ただゲームをクリアしただけならば代表者であるネオンかライトで十分であった。こんなにも大勢で迎えるのにはもう1つの理由が関係しており、それはネオンにとって自分の財産全て投げうってでもしなければならないと感じているものだ。

 

 

 

「お嬢様、来ました」

「うん」

 

ゲーム機の前に複数の光に包まれた人影が現れ、徐々に光が止んで誰だかわかると、ネオンは居ても立っても居られずに傍に駆け寄って抱きしめる。

 

「ジュメレ! ジュメリ!」

 

ネオンは涙混じりの声で双子の名を呼び、両名は微笑んでネオンの頭を優しく撫でる。

 

「……本当にしょうがない子。そして優しくてかわいい子。ありがとうネオン」

 

ジュメレは艶のあるハスキーボイスでそう言って首に巻いてある布を外した。ジュメリもまた両目を覆っている布を外し、灰色の瞳でネオンの目を真っすぐ見て口を開く。

 

「やっぱり妹に似ているねネオン。ネオンがゲームの中にある呪文で傷を癒せると言った時、実は私達は傷を治さないつもりだったんだよ。操られていたとはいえ妹をこの手で殺してしまったからね……。

恨まれていたと思った。

     怒っていたと私達は思ってた。

              だけどさ──」

 

ジュメリはそこで耐えきれなくなって視線を下に落とし、しゃくり上げて涙を流し始める

 

「死者への往復葉書の返事にあの子は怒っていないし恨んでいないって書いてあったんだよ。そっ、それどころか自分の事を忘れないで想ってくれていて嬉しかったってさ……。参ったよ、本当に参った」

 

そして黒い布を撫でながら

 

「黒色は妹の目と髪の色なんだ。あの時の事を片時も忘れないよう傷の所に同じ色の布と服を着けていたんだけれど、ちゃんとオシャレをしろって怒られちゃったよ。そして私達に最後のわがままを聞いて下さいって急に敬語になったから何かな? って思ったら必ず幸せになって下さいだってさ。これからこの布はリボンにして髪につけるよ」

 

そうジュメリは泣き顔を無理矢理はにかむような笑顔にして言い、ネオンは涙を流しながら数回頷き、周りからは祝福の拍手が巻き起こった。ビスケは彼女達とは5年以上の付き合いがあり親心があったので大泣きをし、ゴン達も双子を含めた部隊達と数ヵ月いたので彼等の事情や心に触れていたので涙ぐんでいた。

 

 

 

 その後続々とネオンの部隊達がゲームから帰還していく。両手に義足を持っておどけるように肩をすくめる者、自分が乗っていた車イスを笑顔で押しながら登場する者、マスクと上着を脱いで重度の火傷が治ったと涙を流してアピールして喜んでいる者……etc。

 

 ネオンは集めた部隊達の体が治っているのを見ていくにつれ、遂に耐えきれなくなって泣き崩れ「ごめん、ごめんなさい。やっぱりもっと早く……」と謝罪の言葉を出す。

 

 ネオンは数年前から集めてくる者達のハードルを下げたが、初期の頃は自分に忠誠を誓い、命を懸けれる者を最適なタイミングで連れて来るようにと命令して占った。

その者達は危機的状況に陥って命に係わる場面から助けられたので、その特性上双子のように事後であるのが殆どであり、身体にどこかしらの欠損や後遺症があるのが当たり前だった。

 

 ネオンは最初は戸惑い、仕方がない、助けたのだから恨まれる筋合いは無いと自分に言い聞かせていた。しかし双子やヒルデ、見世物小屋でひどい虐待を受けていたせいで、人が近づいただけで恐怖で悲鳴を上げていた名前すら無い歩けない結合症の少年達が来た事でネオンはもっと早く助けた方が良かったのでは? と罪悪感を抱いていたが気づかないフリをしていた。

 

それでも罪悪感で耐えきれなくなり、爆発しそうな時になると双子の手を握って気を紛らわせていた。

 

 だがもう耐えきれなかった。何時からか旅団ではなく最優先となった彼等を治し、そして第二目標となった旅団を倒して、ネオンを支えていたものが無くなって一気に崩れ去ったのだ。

勘のいい部隊達や古株の護衛、ビスケは事情を察して笑顔で優しい言葉でネオンを介抱するが、その優しさにさらに胸が打たれてまた謝罪の言葉を繰り返してまるで赤子のように大泣きする。

 

 ネオンは奈緒美の記憶を見たあの時のようだと既視感を覚えた。ただあの時は悲しみと怒りだったが、今回は嬉しさと達成感、そして彼等が本当に自分を想っている事への感謝から来たものだった。

 

 

 この光景を皆から一歩離れ、無表情で涙を流している者がいた。

 

 それはクラピカ。彼も感動して涙を流していたが、その心の内は部隊達への羨望と少しの嫉妬。そしてネオンへの何故部族を助けてくれなかったのかという理不尽な怒りと、そんな事を思ってしまう自分がどうしようもなく恥だという事から来ていた。

 

 

「美しい音色……。彼等はお嬢様に引き取られて本当に良かったと思ってるわ」

 

 センリツはハンカチで目元を拭いながらクラピカに話しかける。クラピカは茫然とした表情でセンリツの方へ向き

 

「あ、あぁ。見ているこっちもそう感じている。センリツ、私は少し席を外す」

「クラピカ?」

 

 戸惑うセンリツをよそにクラピカはそう言うと退室をし、近くの部屋に入って鍵を閉めた。クラピカはドアにもたれ掛かりズルズルと腰を落とす。

 

 

 

 

「──ごめんなさい」

 

彼は謝罪するネオンに昔の自分を重ねていた。

 

外に出たいとわがままを言い、大勢の人がいる前で軽率にも緋の目になってしまったせいで幻影旅団を呼び寄せてしまった。

 

「ごめんなさい。ごめんパイロ」

 

自分を庇って崖から落ち、目と足が不自由になってしまった親友。もし不自由になっていなければ彼だけでも逃げれていたかもしれない。

 

「ごめんなさい。ごめんなさい父さん、母さん、皆」

 

 皆の墓の前で謝罪を繰り返しながら一日中泣き喚いた。クラピカはその時を思い出して耐えきれなくなり左手で声が漏れないよう口元を抑え、また謝罪を繰り返しながら涙を流した。

 

 

 暫くしてクラピカが落ち着いた頃、ノックされてセンリツが扉越しから声を掛ける。

 

「クラピカ? お嬢様がパーティーをするから皆を食堂に集めているわ。もし……もし今行けそうになかったら言うけれどどうする?」

 

クラピカは立ち上がってドアを開けてセンリツに優しく微笑み

 

「……大丈夫だ今行く。ありがとうセンリツ」

 

センリツもまた微笑み「そう、良かった」と言い右手を差し出して「食堂まで手をつながない?」と提案する。

クラピカは一瞬キョトンとするが、すぐに苦笑いをして「結構だ」と答える。だがたまにはいいかもしれないと思い直す。

 

「いや、やはりお願いしようセンリツ」

「えぇ、お願いされるわ」

 

 クラピカは手をつないでる間まるで小さい頃に戻ったようだと懐かしく感じ、パーティーも心から楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 これより2日後の朝、クラピカは個室の洗面台でいつものように身だしなみを整えていた。だが今日はルーチンワークのように瞳の色を隠すために着けていたコンタクトをしていなかった。

そう、クラピカは決断した。今日の朝一番に自身がクルタ族の生き残りだと報告し、今まで偽っていた事を謝罪する事を。

 

 クラピカは少し早歩きで皆がいるであろう広間の前まで行き、緊張している自分を落ち着かせるために右手を胸に当てて深呼吸をする。

そしてノブに手をかけようとして、念で具現化された復讐のための鎖が目に入り数瞬手を止め、これは今は必要ないとして消してから扉を開く。

 

 クラピカは思い思いにくつろいでいる者達を横目にネオンの元に行くと、「お嬢様、報告したい事があります」と真剣な表情で言う。

その様子にダルツォルネは気を利かせ「俺達は席を外した方がよさそうだな」と護衛達を連れて退室しようとするが「いや、リーダー達も聞いて欲しい」と引き留める。

 

「……お嬢様、私はクルタ族の生き残りです。今まで黙っていて申し訳ありませんでした」

 

 クラピカはそれから何故ノストラードの護衛となったのか理由を言い、再度謝罪をした。

 

「言う決断をしてくれてありがとう。クラピカも大切な仲間だから目を取り戻す協力をするよ」

「……ありがとう──ございます」

 

クラピカは頭をしばらく下げて感謝をし、ネオンや仲間に言って本当に良かったと思い誇りを感じた。

 

この日からネオンの保管庫から緋の目が無くなり、代わりにクラピカの皆に対する態度が軟化して自然な笑顔が増えた。





「チッ、うるせーなぁ。こっちは寝不足だっつーのに」

ここはとある高級ホテルの一室、男は朝早くから10台近くある携帯の呼び出し音に起こされた。

「ハイハーイ、何だよマークこんな朝早くに……。は? テレビを見ろだって?」

男は焦燥している部下に急いでテレビを見るよう促され、面倒くさそうにテレビを点け
た。

「あ? なんだよ……こりゃあ」

そこには多くのマスメディアが集まり、自分が泊まっているホテルに押し寄せている様子が映っていた。
そしてタイトルには『カキン第4王子少女を殺害!!』と出ていて暫くするとモザイクで処理されているが、少女と自分が映っていて殺すところまでご丁寧に声まであり放送されていた。

 ツェリードニヒは理解すると携帯とリモコンを投げ捨てて急いで浴室に入る。映像の位置から推理して壁を調べていき浴室テレビの中にあると確信に至り、側にあったシャワーヘッドで叩き割った。
中を乱暴に調べていくと人の親指ほどの小型カメラが出てくる。

彼は歯をギリギリと鳴らし吠えた

「クッソがぁぁぁぁああああああ!!!!」 

 ツェリードニヒは逮捕されたが2日も経たない内に釈放されてカキン王国へと強制送還された。

この事が原因で王位継承戦と暗黒大陸渡航計画は5年遅れることとなった。


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