Fate / 「さぁ、プリズマ☆イリヤを始めよう」 (必殺遊び人)
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1話目とかとか〜 ♪プロローグ

初めての作品なので汚い文かもしれませんが良くなるように頑張ります。

一話平均7000文字を目安に書こうと思っています。

次回から本格的にストーリーに入り、今回はプロローグです

それではどうぞよろしくお願いします。


 

 ――夢を見た。

 

 ――それは小さな・・・・・・本当にどこにでもいる少年だった。

 

 ――夢を見た。

 

 ――それは衛宮士郎、『正義の味方』の姿だった。

 

 ――夢を見た。

 

 ――それは道化、仮面をかぶったピエロそのものだった。

 

 

 

 そして道化は目を覚ます。

 

 

 

 鋭い光が顔にさす。それと同時に衛宮士郎は目を開けた。普段から目覚ましを使わないその男は、あえてカーテンの隙間を開けることによって、朝日の光を目覚まし代わりに使っている。

「・・・・・・・・・・・・(イヤな夢だった)」

 軽く一日が憂鬱になりそうな気分で身体を起こすと、起きる時間がわかっていたように一人の女性が部屋の扉を開けた。

「シロウ、朝ですよ。そろそろ起きたほうが良いのではないですか?」

「・・・・・。――っ! ごめんっすぐ起きる!」

 一時の沈黙の後、士郎は飛び起きるように自身の意識を覚醒させる。

 普段彼は目覚ましを使わない。自然の光で目を覚ますそれは健康的で素晴らしいものだろう。しかし、ただ一つ問題があるとするなら、それは起きたい時間に朝日が昇ってきてくれないことだった。

 結果。彼は朝からイライラ状態のセラと対面することになった。

 

 セラが士郎を起こしに来た。言葉にすればそれだけなのだが、士郎の手際が幾分か悪い。言うまでもなくセラの存在が原因である。

 普段なら問題ない。だが今日はダメだった。 

 今日の朝食の担当は士郎が行う日なのだ。

 寝坊したの失敗したな、と士郎は軽く後悔を顔に出す。

 準備を整え、セラに謝罪と朝の挨拶を済ませると、光の速度で朝食の準備にとりかかった。 

 唐突だが、セラは士郎が家事をすることを快く思っていない。

 

『この家の家事は家政婦である私の仕事です。家主の息子である士郎がする必要などありません』

 

 聞き飽きた。

 士郎が家事をやるたびにセラは反射のようにこの言葉を口にする。セラの強情さには、もはや感嘆の声すらあげたい。

 めんどくさい性格、そう思われても仕方がないのだが、それもセラの魅力なのだから仕方ない。それほどこの仕事に誇りを持っているのだろう。

 ただ、セラが断る回数分、士郎も交渉を行っているのだから士郎も士郎で頑固ではあるのだが・・・・・・。

 だが、士郎にも譲れないものがある。士郎にとって家事はもはや趣味みたいなものだ。それを取り上げられては堪ったものではない。さらに言えば、料理のような毎日行っていたものは、時間が空けばあくほどに腕がなまる。 

 今でこそ士郎とセラの料理は当番制だが、それまではキッチンに入ることも許されなかったのだ。

 何とか一回。必死に頼み込むことで、一度だけ料理する機会をもらったのだ。

 その時の士郎は、大人げなさ全開だった。得意としている和食だけにとどまらず、家族それぞれの好みまで考え作り上げた。

 『今後は士郎にも作ってほしい』、周りからの援護をもらえるのは確定だった。

 それでもあまりいい思いはしなかったのか、文句たらたらだったセラを、

 

『まさか・・・・・・そんな、これは私よりも・・・・・・・・・・・・』

 

 と、料理で黙らせたのはまだ記憶に新しい。泣き崩れてしまったセラには少し悪いことをしたと思っている。 

 そんなこんなで、料理だけは何日かおきに士郎が担当している。

 

「あるのは鮭と野菜が少しか・・・」

 食材を確認するとすぐさま調理にとりかかる。士郎が考えたメニューはそれほど難しくはない焼き魚と、なんてことないサラダだ。それでも、ちょっとしたひと手間と、オリジナルのドレッシングで、お店レベルまでにその料理を昇華させるのだからその実力は図りしれない。

 どこかのスパルタ調理学校でもトップレベルに入るであろうその実力は、あのセラが敗北感を得るほどなのだから。

 

 これが今の衛宮士郎の日常。

 『あのころ』とは似ても似つかない平和な日常。

 

 

 少しばかり過去の話をしよう。士郎が・・・・・・いや、ごく普通の少年が"この世界"で衛宮士郎になるまでの物語を少しだけ――。

 

 

 衛宮士郎は転生者だ、憑依と言い換えても良いかもしれない。

 今では自分本来の名前すら忘れたその少年が初めてこちらの世界で目を開けた時、そこは――――

 

 『地獄の中』だった。

 

 身体は動かない。今にも死にそうだったその体は、衛宮切嗣によって助けられ、『僕は魔法使いなんだ』この言葉を聞いた。

 その言葉で、ここがFateの世界であり、自分が『衛宮士郎になった』のだと理解した。

 そこで、少年はある道を選んだ。

 そこが本当にFateの世界であるならば、そこで生き抜くのは至難の技だ。本来衛宮士郎によってこの世界は救われる。それが自分が衛宮士郎となったことでその物語が崩れたのだ。

 だからこそ選ぶしかなかった。

 それは・・・・・・”衛宮士郎と全く同じ道をたどる”こと。

 そうすることで自分の身を守る――

 ――自分の為に・・・・・・生き延びる為に、その世界で自分の心を殺して生きることを・・・・・・。

 

 最初に少年がいたのはプリズマ☆イリヤの世界ではなく――――Fate/stay nightの世界だったのだ。

 

『僕はね、正義の味方になりたかったんだ』

『安心しろよ、その夢なら俺が必ず叶えてやるから』

『そうか、安心した』

 

 衛宮士郎の始まりともとれるセリフを口にして、衛宮士郎と同じように生きてきた。

 第5次聖杯戦争を・・・・・・いや、その人生そのものを衛宮士郎を演じ、生きのび、セイバーと別れ、その後の少年が行き着いた先は・・・・・・またしても『地獄の中』にいる自分だった。

 身体の成長は元に戻り、目の前には記憶にある過去と同じ情景。

 その光景を理解した少年の「これなんて無理ゲーだよ」と思ってしまったのは仕方がないだろう?  なんども同じ世界を繰り返す、それが地獄でなくなんと言うのか。

 少年が絶望するには十分すぎた。

 しかし、時間が進むにつれ、この世界を知った少年は歓喜した。

 切嗣から紹介された妹のイリヤの存在、さらには母親のアイリ。

 それは、もう一つのFateの世界。プリズマイリヤへの転生。

 それは少年の願いへの道・・・・・・そうこれで、『衛宮士郎を辞めることができる』、と。

 少年は、生き延びる為に衛宮士郎として生き、衛宮士郎として考え、衛宮士郎として行動してきた。

 それをとうとう自分として生きることができるようになったのだ。

 衛宮士郎として生きたことで、唯一良かったことといえば、セイバーと出会えたことだろう。

 そもそも全く別の世界から来た少年にっとって、衛宮士郎への憑依などなりたくてなったわけじゃない。

 死にたくない。それだけが、自分にある感情なのだと思っていた。

 しかし、聖杯戦争でセイバー・アルトリアを好きになった。

 英霊となった衛宮士郎と戦い、英雄王ギルガメッシュと戦った。そんな中でのアルトリアとの出会いは、衛宮士郎としての生活を、その人生を・・・・・・幸福と思うのには充分だった。

 セイバーにはもう会えないかもしれない。自分の存在は、衛宮士郎と言う名の別の何かでしかないかもしれない――――それでも、この世界を生きていこう。

 その思いで、この世界を生きて数年。かつて少年だった者は、全く別の衛宮士郎としての生きている。

 

 

 

 料理の盛り付けを終えると、士郎はセラに声をかけた。

「セラ、料理ができたからイリヤを起こして来てくれないか? リズも少し準備手伝ってくれ」

 士郎がセラと共に声を掛けたのは、この家でもう一人の家政婦をしているリズだ。

「準備はセラがするから大丈夫ー、士郎がイリヤ起こしに行きなよー」

 家政婦とは取れないセリフを吐きながら、何を思ってなのかリズが士郎に提案した。

 何も考えていないような発言だが、恐らくこれが一番自分が動かなくてもいい発言だと直感的に理解している。

 それがリズと言う女の子なのだ。

 リズが基本動かないのは過去の経験で承知している。このやり取りはお決まりみたいなものだ。

「いや、イリヤも女の子なんだし男に起こされたくはないだろ」

 かるく呆れながら返答する裏腹、できれば自分が起こしに行きたいと誰よりも思っていたのは士郎だった。

 いや、むしろリズに先ほどのセリフを言わせるためにわざとリズに話を振ったといっても過言ではない。

 簡潔に言うと、この世界を生きた結果士郎はシスコンと言われても仕方のない存在になっていたのだ。

 先ほどのリズの発言は、それを理解した援護だったのかもしれない。いや、そうじゃないな・・・・・・なんとなくこう言ったら自分が動かなくて丸く収まるかなー、とでも思ったのだろう。

 ここら辺の要領の良さはセラとは大違いだ。

 

 士郎は、この世界にそこまで深いかかわりを持つつもりはなかった。衛宮士郎を演じる必要はなく、ただ好きなように生きられればそれでよかった。

 最初は本当にやばそうになったら原作に介入しよう。その程度の思いでいた士郎だが、久しぶりに感じられた家族の愛と、可愛い妹と生活をすることで、家族を助けたい、そう思ったのだ。

 転生してから何年も生きて来た士郎は、原作知識をほとんど失っている。

 それでも、衛宮士郎としての生き方がそう簡単に抜けるわけもなく、そして、聖杯戦争ではイリヤを死なせてしまったという後悔から、この世界では大事な人のための正義の味方になろうと決めたのだ。

 

 ・・・・・・いや、それを願わずにはいられなかった。

 

 何もかも忘れて、好きなように生きよう。そう思うたびに、何かが胸の中できしむ。

 最初からそうだった。

 少年だった者は、人一人の人生を潰して生きている。それならば、その人物が・・・・・・衛宮士郎が納得するような目標で、理解してくれるような生き方で、この世界を歩むべきだろう。

 これが今の士郎の持つべき苦悩。

 

 ――――少年は、未だに何かを演じながら生きているの。

 

「大丈夫、イリヤはシロウが起こした方が喜ぶから」

 だけど、それでも少しだけ、今という時間を楽しんでもいいだろう。

 リズの援護をうまく活用しながら、セラという名の門番を攻略し、士郎はイリヤを起こしに向かう。

 途中、セラが「イリヤに、手を出したら殺します」と、物騒なこと言ってくる。仲が良すぎるのがいけないのか、セラの声は本気だ。

 セラの士郎に対するあたりが最近になって激しい。

 もしかして好きなの? と、過去に冗談で士郎が口走った時には、もう少しで病院行きにされそうだったほどだ。まぁ、その時は士郎が全面的に悪かったのだが・・・・・・。

 セラの凍えそうな視線を一心に受けながら、「妹に手を出すのは千葉の兄妹だけだ」、と頭の中で反論する。

 決して口に出さないのは、口に出すとセラが怖いのだから仕方ない。

 セラが本気で怒ったら怖いのだ。

 以前のことがよほど響いているのか、頭の中で無意識に反論を続けている。

「(いくら妹として愛していても、本当に愛しているのはセイバーだから大丈夫・・・・・・のはずだ。俺はロリコンじゃない・・・・・・と思う。それにイリヤは妹、一人の女性とは見ていない・・・・・・だろう)」

 言い訳の中にある「のはずだ」や、「と思う」や、「だろう」などに引っかかりを覚えるが、士郎はそこに気付いていない。

「イリヤ、起きろ。朝だぞ」

 扉越しで声を掛けてもイリヤは起きず、部屋の中へ入ってく士郎。

 軽く声をかけ、体を揺らすもなかなかイリヤは目を覚まさない。と言っても、イリヤの朝が弱いのはいつもの事なので、士郎もこれには慣れている。

「イリヤ、朝だぞ起きろ・・・・・・朝ご飯なくなるゾ」と、語尾に星マークを付ける、どこぞのレベル5みたいな喋り方で起こそうとしても起きる気配がない・・・・・・。

 それどころか、

「お兄、ちゃん・・・・・・ムリャムリャ」

 と、可愛すぎて抱きしめたくなるような寝言を口にしている。

 その言葉を聞いて・・・・・・あれ? キスで起こす童話ってどっちがキスしたんだっけ? と考え始めている士郎はもうだめだ。早く何とかしたほうが良い。

 あまり長くなるとセラに何を言われるかわからないと思った士郎は、少し強引にイリヤを起こした。

「おはよう、イリヤ。学校間に合わなくなるぞ」

「んっ? えっ?・・・・・・お、おおお兄ちゃん!! なんで部屋に! じゃなくて、すぐ起きるから先にいってて。てゆうかお願いします!」

「えっ、あ、うん?」

 何か慌てたようにするイリヤに疑問を覚えながらも、そも勢いに押され先に食卓へと向かう。

 だが士郎は分かっていない。女の子にとって寝起きの顔は異性に、さらに言うなら好きな人にはあまり見られたくないものだ。

 士郎もイリヤの感情は感じ取っているのだが、勘違いだと思い込むことで無理やり鈍感を作り出している。

 士郎にそこまでさせるのは、やはりセラがいるからだろう。

 妹に手を出しては、その場で社会的にも物理的にも人生が終わってしまう。それだけは、大いにセラに感謝していた。まぁ物理的に終わらしてくるのはセラなのだが・・・・・・。

 

 少しすると、イリヤも二階から降りて来て元気よく挨拶をする。

 いつも通りの食事を終え、二人はいつものように登校する。楽しく会話をしながらの登校。

 その中で士郎は微かに感じ取っていた。 

 

 

 原作開始はすぐそこまで迫っている。

 

 

 ここからが始まりだ。

 

 

 自分の正義を見つけ、それを貫く『衛宮士郎』の物語。

 

 

 偽物ではなく本物の、それでいて全く別の衛宮士郎がこの世界で誕生する。

 

 

『――さぁプリズマイリヤを始めよう――』

 

 




とりあえず始まりはこんな感じでどうでしょうか?

アニメしか見てないから漢字がわからなくて難しいですが、調べながら少しずつやって行こうと思います。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


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2話目とかとか〜 ♪ライダー編

イリヤと凜の会合は書きいませんでした。
プリズマイリヤを知らない方にはいきなりよくわからない展開になってしまうと思いますが、一話だけ見れば話がわかるので、できれば見てほしいです

今回は初めての戦闘シーンです。
上手くできているかはわかりませんがよろしくお願いします。

それではどうぞ!!


 

 

 

 

 朝の時間帯。

 どこにでもある学校の登校風景、その情景に士郎はいた。

「そう言えば一成、昨日言われてた修理は終わらせたけど、他に何かあるならやるぞ、遠慮なく頼んでくれ」

「おおそれは助かる、があまり人が良すぎるとこちらも心配になってくる。感謝の言葉ならいくらでも出すが、それ以上のものはこちらも出せないのだぞ」

 士郎はイリヤと別れた後、偶然会った一成と一緒に登校していた。

 普段から一緒にいることが多い二人は、なぜか数人の女子の視線をくぎ付けにしている。

 もちろん、想い人としてなどではない。

「そうだ、今日新しく思案した和菓子を持ってきたんだ。できれば試食してみてくれないか?」

「本当か? 衛宮の料理は正直ありがたい。昼の時間のあれがなければ午後の授業に身が入らん」

「それは少し言いすぎじゃないか」

 と、士郎も笑いながら答える

「ふむ、もしや胃袋を掴まれるとはこういうことを言うのかもしれんな」

「作っている身としてはうれしい限りだよ」

 そう。この会話こそが視線の原因である。

 悲しいかな、何人かの腐女子から、彼らの会話は絶大な人気を誇っているのだ。

 そんなこと知る由もない二人は、彼女らの視線には気づかない。

「気にするな、これはもう癖みたいなもんだからな。それに鍛錬にもなってくれる」

 この世界に来てからも衛宮士郎は魔術の鍛錬を続けていた。

 理由はわからない。こちらの衛宮士郎と融合でもしたのか、魔術回路は54本存在し、向こうの経験値も更新できていたのだ。それでも、一から肉体を鍛えるのには苦労したのだが・・・・・・。

 さすがに以前とは少し違う身体的な違和感は、無くしていくしかなかったが、過去の自分より強くなっている。そのことは手に取るように感じられた。

「鍛錬? 衛宮は機械技師でも目指しているのか?」

「いや、そうゆうわけじゃないんだけどな・・・・・・」

 何か言いづらそうに言葉を詰まらせる士郎に、一成は手を振りながら話をきる。

「話せないならかまわん。だが頼みがあるなら言ってくれ、こちらも衛宮の頼みならば全力で答えよう」

「ああ、その時は是非お願いするさ」

 この会話ですら腐女子の頭では豪快な変換が行われていることだろう。

 悲しい。

 本当に悲しい。

 悲劇とは、本人のいない場所でいつも起こるものなのだ。

 生徒会に用事がある一成と別れて、士郎はそのまま自分の教室に向かう。

 別れた後に湧き上がる罪悪感。

 魔術のことは話せない。話す気もない。

 鍛錬は切嗣に頼んで道場を借り、魔術の力が高まる夜にやることにしているため気づかれていない。

 いや、もしかしたら気づかれて放置されてるのかもしれないが、さすがにそこまではわからない。前世で切嗣の魔術殺しとしての顔を知っているからこそ、急に殺されないかビクビクなのだ。

 さすがに息子をいきなり殺したりはしないだろうが、警戒に越したことはないだろう。

 

 

 

 朝のホームルームがはじまると、担任が2人の転校生を紹介すると言いだした。

「・・・・・・!?」

 転校生とは確実にあの2人だろう。この街の管理者遠坂凛、そしてそのライバルでもあるルヴィアゼリッタ•エーデルフェルト。

(彼女達がくると言うことはとうとう始まるのか? いやそもそも転校してくるのはすべてが終わった後だったような・・・・・・)

 額に冷や汗をかく士郎だが、ここ最近不自然な事はなかったと改めて思い出すと、事実確認は後でしようと頭を切り替える。

 とりあえず、士郎は今日から特に警戒を強めていこうと考える・・・・・・と同時に二人の喧嘩の仲裁をすることを考えると頭が痛くなる。

 状況を知るには、凜達との会話は必須、士郎は二人の喧嘩に巻き込まれる運命からは逃げられないのだ。

 イリヤの様子におかしなところはなかった。

 つまりまだ何も起きてない? それともイリヤは魔法少女になってしまったのか?

 士郎は魔力感知をそれほど得意としていない。それを言ってしまうと魔力感知どころかあらゆる魔術が不得意・・・・・・そもそもできないのだが、そのことは今はいいだろう。

「――や。え――や・・・・・・衛宮士郎くん!! 聞いてますか!」

「――! は、はい?」

「もう・・・・・・! 先生無視されると悲しいんですからね! しっかり話は聞いてください。それと、暇な時に二人の学校案内をお願いしたいの。良いかしら?」

 頭の中で思考を繰り広げている間に、二人の自己紹介が終わっていたようだ。

 ついでに言うと周りの視線が痛い。美人二人の独占となれば仕方がないことだが、それにしてもこれはきつい。できることなら今すぐに赤い悪魔の事を皆に聞かせたいと思ってしまった士郎は恐らく悪くない。

 黒板の前。互いに足を踏み合っている凜とルヴィアを見て士郎は自身の二人を口説く方法を10は考えた。

 喧嘩を止める方法である。

 

 

 ****************

 

 

 二人の喧嘩仲裁が50回を超えるという、エキセントリックな日常を終え、下校のため学校を出る。

 凜たちの話によれば、短い期間の転校だそうだ。そもそも転校するつもりはなかっただの、いつまでもいるつもりはないだの、普通の学生が聞けば意味不明な発言がたびたびあったことから、ある程度の予想はつけられた。

 全く持て性格が悪い。二人をこちらに寄越した人物は、カード回収のついでと言わんばかりに、確実に二人をこっちに居座らす気だろう。

 魔術的な理由なのか、それとも二人の喧嘩のせいなのかはわからないが、相当悪知恵が働くらしい。

 何も知らない人物はこれに対してなんとも感じないだろう。だが士郎は違った。

 自分の知っている知識と違う。

 これは士郎にとって大問題だ。

 恐らくは歪みなのだろう。士郎が来たことでなのかそれとも”似ているだけの全く違う世界なのか”・・・・・・。

(少し甘く考えてたな。ちょっと警戒を強めるか・・・・・・?)

 原作知識とは言ってしまえば未来予知と何ら変わりない。知っていると体験ではまるで違うが、心の余裕程度にはなりえる。凜たちの転校の時期などはそれほど大きくない変化だが、もしこれよりもひどい変化があった場合、その心の余裕が命取りになる場合もある。

 聖杯戦争に参加した。

 その事実は士郎がこの世界を警戒するには十分すぎる理由だった。

 

 

 学校は終わり下校中。

 校門付近に差し掛かると、反対方向から走ってくるイリヤの姿があった。

 士郎は走ってくるイリヤに軽く手を振ると、イリヤも同様に士郎を呼びながら手を振っている。

「お兄ちゃんも今帰り? なら一緒に帰ろー!!」

「ああ、一緒に帰ろうか」

 えへへー、といいながら腕に抱きついてくるイリヤの頭を撫でるその光景はなかなかに微笑ましい。・・・・・・と言っても、それは後5年はお互いに若かったらの話だ。この年齢ではどう考えても危ない関係である。

 流石に言い過ぎと思うかもしれないが、二人の周りにできる恋人たちのATフィールドと似たようなものが形成されてる。この事実だけで、二人の関係を危険視するには十分すぎた。

 まぁそれよりも問題なのが、そのことに本人たちが全く気付いてないことなのだが・・・・・・。

(おかしいな・・・・・・? 確かヘンテコステッキはイリヤの髪の毛に隠れていたと思うんだけどな)

 周りの認識など考えたこともないのか、うる覚えの知識を引っ張りだしながら、士郎はイリヤに変わったところがないか探っていく。

「なーイリヤ、最近なんか変わったことないか?」

「変わったこと?」

「例えばほら、変なものに出会ったとか。なんか変なものに巻き込まれたとか・・・・・・喋るおもちゃにあったとか」

「な、な何かって? べっ、別に何もないけど?! 喋るステッキなんてありえないよ!」

「そうか、悪い、おかしなこと聞いたな。何もないなら良いんだ」

 そういう内心、嘘が下手すぎなイリヤに少しあきれ気味な視線を向ける。

 原作開始の確認を士郎は終えた。

(動くしかないか・・・・・・)

 回りだした歯車を止めることはできない、ならば自分もその歯車に組み込まれるしかないだろう。

 こうなる前にどうにかしたかった士郎はなんともやるせない気持ちなのだが、仕方がないと諦める。

「(ちゃんと守ってやるからな、イリヤ)」

「ん? お兄ちゃんなんか言った?」

「いや、何でもないよ」

 そこは誰もが望む平和そのものの光景だった。

 

 

 ****************

 

 

 士郎は今、他人の家の屋根にいた。

 空を見上げれば月が丸く光っている。正確には光ってなどいないのだが、そんなことはどうでも良いだろう。

 急にコソコソと家を出て行ったイリヤを見て、士郎はそのあとをつけている最中なのだ。

セラ達へのフォローも忘れなかったのは、流石士郎と言うべきだろう。

 イリヤを追った先、そこは夜の学校だった。

 そこで士郎は初めて気づく。

 夜になって力が強まったのか、士郎は感じたことのある悪寒に顔を歪める。それは、聖杯戦争時、のライダーの魔力結界ととても酷似しているものだった。

 真名はメドゥーサ。聖杯戦争でこそ早くに敗退したが、複数持つ宝具はどれも強力であり、マスター次第では、セイバークラスとも互角にやり合えるほどの実力の持ち主だ。

 士郎は赤い聖骸布を投影すると、それを体に巻きつける。その恰好だけみれば、アーチャーのそれによく似ている。

 校庭の端からイリヤ達を見ていると、ピンク色の衣装、見るからに魔法少女姿のイリヤがいた。流石イリヤ、なにを着ても可愛いな、と自分の妹の可愛さを再確認する士郎・・・・・・この兄、本当にどうにかしなければならないようだ。

 二人が何やら話をしこんでいるが、士郎のあほな思考が原因なのか、距離が遠いのかよく聞き取れない。 

 もう少し近づくか、と士郎が考えていると、突然魔法陣の光が二人を包み、数秒後にはそこから消えてしまった。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 えっ何、何で?! 何が?! なんでさ!?!? と、見るからに士郎はうろたえる。

 そこで、やっとイリヤ達が虚数軸にある別の世界で戦うということを思い出した。

 原作知識の欠如。

 それは思いのほか深刻だ。

(いやいやいやいや、間抜けすぎるだろ、油断しすぎだ)

「さてと、どうしたもんかな・・・・・・」  

 何か手がかりはないかと、イリヤ達が消えた場所の検証を開始する。すると、空間転移した後なのかわずかな時空の揺らぎを見つけた。

 少し悩むそぶりを見せる。そして・・・・・・。

 一つの剣を投影する。

 

投影_開始(トレース_オン)

 

 今は、慣れた詠唱によって、現れたその剣の名前は『スパタ』、その原点。

 宝具『スパタ』は、第四次聖杯戦争に参加したイスカンダル愛用の剣。

 その見かけによらず軽量で俊敏な攻撃を繰り出せるその剣は、空間すらも断つことが可能であり。イスカンダルが『神威の車輪』を召喚していた時にも使われていた宝具だ。

 あくまで原点の能力は違うが、それでも今回に限れば十分。

 士郎はその剣を空間の亀裂に刺すと、人一人が通れるほどの穴を作り出す。

 何とかうまくいくようだ。

 無理やり開けたその穴へ入ると、そこには、黒い鎖を持って攻撃しているライダーと、その攻撃を逃げ回っているイリヤがいた。

 

 

「イリヤさん! 攻撃しないとカード回収ができません!」

「そんなこと言ったって、こんな事するなんて聞いてないよ!!」

「大丈夫です、 魔法少女ならできます! 次は面のような攻撃をイメージしてください、ショットガンです!」

「ルビーの魔法少女に対する期待が重い?! こうなったら・・・・・・えい!」

 赤い魔法ステッキから魔力の散弾らしきものが、発射される。その圧倒的物量を避けることができず、ライダーにその攻撃は命中した。

 話している内容はあれとは言え、流石は最強の魔術礼装と言ったところだろう。

 その威力は、凜たちが放つ宝石魔術と何ら変わらない・・・・・・もしかしたらそれ以上の攻撃力を持っている。

 それを扱うものが素人であろうと関係ない。どこまでもぶっ飛んだ魔術礼装である。

 が、あくまでも素人。魔術とは関係ないところでそのほころびは大きくなる。

「あたったの・・・・・・・?」 

 

 ――それがダメだった。

 

 自身の攻撃が命中したのを見たイリヤは、倒したの? と足を止めてしまっていたのだ。

 ルビーもそれを感じ取ったのかイリヤへと叫ぶ。

「イリヤさんまだです! 威力が低すぎます」

「イリヤ避けなさい!」

 凛のその声が聞こえた時、すでに鎖の攻撃がイリヤの目の前へと近づいていた。

 それをイリヤは見えていた、しかし何もできずに立ち尽くす。明らかに殺傷能力を持った攻撃・・・・・・だがその鎖はイリヤには届かなかった。

 キンッ! と、金属がはじけあう音だけがその場に響く。

 

「無事かイリヤ?」

 

 イリヤの前にその人物は立つ。

 聞き間違えるわけがない。

 疑問は残る。

 それでも。

「・・・・・・お兄、ちゃん?」 

「衛宮くん? どうしてここに?!」

 その人物は、その少年は衛宮士郎。その人物だったのだから。

 

 

 凛も同様驚いているが、士郎はそれを一端無視し、ライダーから目を離さない。

 聖杯戦争を経験したからこそ、それが自殺行為になると知っている。

(黒い英霊? なるほど黒化英霊、だったか・・・・・・)

「イリヤ、下がってろ。 ここは俺がどうにかする、話はまた後でな・・・・・・その服のこととかな」

 士郎はあくまで何も知らないという風にその場を流す。今はこの場からイリヤを引かせることが重要だ。だが、そのことを知らないイリヤは自分の格好のことを言われて顔を赤くする。

「言いたいことは結構あるが、とりあえず遠坂のところまで避難してろ。あの黒いのは俺が何とかするから」

「えっ、でもお兄ちゃん「イリヤ!」――ッ!」

「――頼む」

「わかった。でも・・・・・・怪我、しないでね」

「わかってるよ。ありがとな、イリヤ」

 不安そうにしながらもイリヤはその場から離れた。

 士郎はそれを目の端で確認すると、

「『投影_開始(トレース_オン)』」

 士郎はそれを行った。

 それは、もはや呼吸と変わらない。

 士郎の手に現れたのは黒と白の対比が目立つ、変わった形をした双剣『干将・莫耶(かんしょう・ばくや)』。

 先ほどの攻撃で弾かれ、地面に突き刺さっていた剣はいつの間にか消えている、そして・・・・・・。

 

 ――静かに、それは始まった。

 

 迷うことなく、士郎はライダーへと向かう。強化した体と、その勢いで剣を真っすぐ振り下ろす。

 懐かしい。戦闘前の感覚。

 だが、そんなものに浸っている余裕はない。

 一呼吸。

 その間に振り下ろされた士郎の斬撃はおよそ二桁。人間の目ではもはや追えるかわからないその攻撃は、甲高い金属音を響かせる。

 相手は、自我がなくステータスも下がっているとはいえ英霊、士郎のその攻撃も的確に鎖で弾いていく。

 本来守りの要素が強いその剣術。

 それでも、アーチャーが磨いて来た剣だ。攻撃に回ってもそれに完璧に対応できるものは三騎士ぐらいだろう。 憑依経験によってその技術を得た偽物であっても、この10年間で自分の剣へと磨き上げてきた。

 だが、やはり足りないらしい。それは士郎にもわかっていた。

(仕方ない・・・・・・)

 士郎は強化した足で大きく後方へ飛ぶ。それと同時に士郎の手から離れた『干将・莫耶』はライダーへと迫る。

 何が起こっているかの把握すら難しい。

 

 二人の戦闘はまだまだ過激を増していく。

 

 

 

 たった数十秒の攻防だが、それを見ていた凛は驚きを隠せなかった。

(ありえない。魔術を使用してるのにも驚きだけどそれは恐らく強化だけ、たったそれだけの魔術で英霊と渡り合っているだなんて・・・・・・それにあの剣、壊れても壊れても出てくるけど、仮に投影魔術だとしてもおかしすぎる)

 あーもう! 何がどうなってるの! と、憤慨している凛だがそれは後で聞き出そうとイリヤの方へ向き直る。

「イリヤ、あなたさっきお兄ちゃんって呼んでたけど、あなた達兄妹なの?」

「えっあ、はい。兄妹ですけど・・・・・・」

「なら聞くわ、あなたの兄・・・・・・衛宮くんが使っているのは魔術よ、あなた魔術のことを知っていたの?」

 その言葉にイリヤは驚きの表情を作る。

「凛さんと出会うまで知りませんでした。もちろんお兄ちゃんが使えることも」

「それにしても、イリヤさんのお兄さんすごいですねー。魔術ステッキもなしにあそこまで英霊と戦えるなんて、ルビーちゃんも驚きですよー」

 ルビーのお気楽すぎる発言を最後に、三人は再び戦闘の方へと目を向けた。

 

 

 

 士郎は『干将・莫耶』を投擲しながら戦っていた。

 二つの剣はお互いに引き合いながらライダーへと迫る。とは言え、それを防げないほど英霊は甘くない。それを証明するように剣は鎖に弾かれる。が、その光景を見ながら士郎の顔は笑みを浮かべていた。

 

「『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』」

 

 静かな。されど確かなそのつぶやき。

 それによって、その場に刺さっていた剣が爆ぜる。

 投影された剣の宝具だからこそできる、宝具の魔力を使った爆弾。

 それでも、こんなものでは倒れない。

 煙の中を見つめながらライダーの様子を静かに見守る。士郎の警戒は全く解かれていない。この程度で倒せるなら英霊などとは呼ばれていないだろう。

 薄れている煙の中、予想通り飛び出してきたライダーは、見るからに魔力を高め始める。

「この感じ、宝具を使おうとしている?! 逃げなさい衛宮くん! ダメ元で障壁を張るわ!」

 凜の焦ったような言葉。

 だが。

 

「・・・・・・大丈夫だよ遠坂、そこでイリヤを守っていてくれ」

 

 士郎の言葉に、「なっ!」凜は思わず絶句する。

 ライダーは士郎に向かって宝具を発動した。

 『騎英の手綱(ベルレフォーン)』。

 膨大な力の波動をまき散らしながら、ペガサスに騎乗したライダーは、白い光となって士郎へ向かう。

 速度、威力。どれをとってもただの人間には対応不可だ。

 だが。

 衛宮士郎はただの人間ではない。

 いや、違う。士郎もただの人間だ。それでも今だけは、妹を・・・・・・イリヤを守る正義の味方になると、そう決意したのだ。

 だったら、覆せない現実の一つや二つ、乗り越えられないでどうする? 士郎は前に出る。

 それを体現するかのように、衛宮士郎は――。

 

 ――大切な者の前に立つ。

 

 士郎は一つの弓と剣を投影する。弓にかけられたその剣は、鋭く、それでいて細く矢として形を変えると・・・・・・その真名と共にライダーへと放たれた。

 

「『偽・螺旋剣Ⅱ(カラドボルグ)』」

 

 ズン、と。重力が増したように直後に襲いかかる衝撃波。

 二人の攻撃の衝突。それによって、そこを中心としてすさまじい振動が響く。

 余波だけで呼吸が止まる。

 それでも、士郎とライダー二人は動じない。

 互いに強大すぎる力。

 衝撃波だけでもその凄まじさがわかる。凜とイリヤも、防御礼装を展開しなければ軽く吹き飛ばされていたはずだ。

 しかし、士郎は揺るがない。次の一手を、その時を待つように。

 僅かながら相手の宝具が優っている。

 だがそれも当然だ、片や英霊の対軍宝具、片や投影された偽物。士郎にもそれはわかっている。だからこそ狙いはまた別のこと。

 ライダーは士郎の放った剣を押しのけ向かってくる。しかし攻撃はさっきほどの威力はない。それこそが士郎の狙い。

 士郎は右手を前に出すと。

「体は剣で出来ている――」

 それは詠唱にして誓い。

 

「――『熾天覆う七つの円環(ローアイアス)』」

 

 告げられるとともに顕現する赤い花。

 それはギリシャの英雄アイアスの盾。七枚の花弁一つ一つが城壁と同じ防御能力を持つそれは、アーチャーとなった衛宮士郎の唯一得意としていた防御用宝具。

 本来投擲武器にこそ本領を発揮する『熾天覆う七つの円環(ローアイアス)』だが、投擲武器以外にも十分すぎる防御宝具だ。

 その花弁を4枚まで破壊し、ライダーの宝具は動きを止める。防がれたことに驚いてるのか、それとも魔力を使いすぎたのか動かないライダーへトドメを刺そうと新しい武器を投影しようと・・・・・・。

 その直前、一人の人物が士郎の横を通りすぎる。

 

「『刺し穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)』!!」

 

 その人物が放った紅い槍がライダーの心臓へと刺さる。

 そしてそれを繰り出したのは青い衣装の格好をしたもう一人の魔法少女だった。

「クラスカード、ライダー、回収完了」

 抑揚のない声で呟いた少女は、そのままカードを手に取り、校舎の影へ目を向ける。

「オーホッホッホ、無様ですわね遠坂凛、動かぬ敵を前に見ているだけだなんて愚の骨頂、わずかな隙にいかにして必殺の一撃を入れるかで勝敗は決まるのですわ! 美遊よくやりました、お手柄ですわ」

 学校の陰から笑い声をあげながら出てきたのは金髪の女の子、ルヴィアだ。

「ルヴィア!? あんた生きてたのね・・・・・・というかあんたいつからいたのよ! いるなら早く出てきなさいよ!」

「たった今ですわ、現れてすぐに結果を出すなんてさすがわたくし、オーホッホッホ、オーホッブェ?!」

 ルヴィアの言葉腹が立ったのか、ルヴィア顔に凛の回し蹴りが決まる。

 たった二、三程度の会話で喧嘩を始める二人。

 その様子を見て、「はぁー」とルビーとサファイヤのため息が聞こえる。

 これを一日見せられ・・・・・・もとい、仲裁してきた士郎は、ルビーたちの気持ちは痛いほどわかる。

「不意打ちで偉そうにしてるんじゃないわよ! この金髪縦ロールが!」

「不意打ちで蹴りを入れてきといてなにを! これだから猿女の野蛮人は・・・・・・ぐふっ」

 なにをー! と早くも本格的喧嘩になっている二人に、傍観していた士郎が声をかけた。

「まー良いじゃないか、遠坂。結局みんな無事だったんだからさ」

「誰ですのこんなところに・・・・・・って、シェロ!? どうしてここに!?」

「どうしてって言われてもな」

 ルヴィアはなぜか士郎のことをシェロと呼ぶ。自分の名前が呼びづらいのだろうか、と士郎は考えていたが、そんな考えをよそに青い少女・・・・・・美遊が驚いたように声を出した。

 

「お兄・・・・・・ちゃん」

 

 最初は疑問の声。その後、飛びつくように士郎へ向かい、美遊はそのまま士郎へと抱きついた。

 突然の行動に周りが戸惑っている中、いち早く声をあげたのはイリヤだった。

「あ、あなた何してるの!? お兄ちゃんから離れて!」

 それの声にハッとしたのか、「ごっごめんなさい」と、謝りながら離れていく美遊。

 だが、士郎は知っている。なぜ美遊が自分に対して"お兄ちゃん"といったのか、どんな気持ちで今離れていくのかを。美遊と二人で話したい、と言うその気持ちを抑え、今は周りに話を合わせる。

「大丈夫だよ。気にしてないからさ」

 そのことでやっと落ち着いたのか、凜が鋭くこちらを睨む。

「そんなことより衛宮くん、説明してくれるんでしょうね。なぜあなたがここにいて、なぜ魔術を使えるのか」

「シェロが魔術を? 」

それを聞きルヴィアも士郎に対する警戒心があがる。

「説明が欲しいのは俺の方なんだけどな、なぜイリヤこんなところで戦っていて、何をしていたのかをさ。でもとりあえず、ここから出ないか? そろそろやばいと思うんだけどこの中」

 おどけるように言う士郎に、ムッとした表情をするも、

「確かにそうね、ルビー脱出するわよ」と納得の声を上げる。

「人使いのあらい年増ですねー。了解しましたよー。皆さーん近くに集まってくださーい。それでは、虚数軸を計測変数から排除! 中心座標固定、半径5メートルで反射路を形成、それでは、元の世界へ飛びますよー!」

 地面に魔法陣が描かれ光に包まれると五人は元の世界に帰還する。

「・・・・・・さてと、無事に戻れたことだし話を聞かせてもらいましょうか、衛宮くん?」

 絶対に逃がさないわよ? と言うような凜の笑顔を、士郎も笑顔で切り返す。

「話すのは良いけど遠坂まずはそっちからだ、これは譲れない。イリヤは俺の大切な妹だ、なぜこんな危険なことに巻き込まれたのか説明を聞く権利があると思うんだが?」

 大切な、という部分にイリヤは顔を赤くしてうつむいている。それを見てルビーがニヤニヤ? しているがそれを尻目に士郎と凜は話を続ける。

「確かにそうね、でもあなた本当に何も知らないの? 英霊と互角以上にやり合っておいて」

「英霊と互角? ・・・・・・本当なのでしょうね遠坂凛」

 真剣な声で聴いた。唐突に真剣な表情になるルヴィアの魔術師性がうかがえる。

「ええ本当よ、彼、宝具すら止めてたわよ。あなた達が来なければ倒していたのは衛宮くんだったでしょうね」

 疑わしい。けれどもそれ以上に信じられないのか、ルヴィアはこちらを見て驚いている。

「大袈裟だよ。確かに俺は魔術を使える魔術使いだ、けど魔術に関しては三流程度、まったく大したことはない。英霊とやり合えたのはまーろいろあるんだろ」

 適当にはぐらかす。

「魔術使い? 魔術師ではなくて?」

「ああ、俺は根源とかそういうのには興味はない、魔術を覚えたのは守るために必要だったからだ。俺の大切な人たちをな。だから信じてもらえるなら、遠坂とルヴィアもこれからも友達でいて欲しい」

 先ほどとは打って変わり、交友的な行動する士郎。先ほどのはただ単に凜をからかっていただけなのだ。

 手を伸ばし握手を求められたルヴィアは肩を震わせてうつむいている。

「す、す、素晴らしいですわシェロ、大切な人のために魔術を覚えたなんて、わたくしはあなたを尊敬しますわ」

 わたくしも大切な人に入れてくださいね、とルヴィアは士郎手を握り返しす。

 士郎よりすさまじいルヴィアの豹変ぶりに思わず言葉をつまらせる。

「あ、ありがとうルヴィア、そんな大層なことではないと思うけどな」

 士郎の軽い挑発めいた顔を見て、先ほどまでは演技だったのだと理解した凜は先ほどとは違う笑みを浮かべている。

「とりあえずあなたのことは少しわかったわ、あなたの話せない力のことは気になるし、いつか聞き出すけど今はいいわ、今はこっちが話す番ね」

 そういうと凛はカード回収のこと、ルビーやらのステッキのこと、なぜイリヤがここにいることなど手際よく話してくれた。

 簡単にまとめると突然冬木に現れた歪みと、謎のクラスカード。

 クラスカードの方は時計塔の魔術師ですら解析できていない。

 二つの現象は、関係があると判断され、凜達が回収役として送られたそうだ。

 それにしても、ステッキを使って喧嘩をし、しかもそれが原因で見放されるとは・・・・・・さすがに士郎でもフォローできない。

「なるほどな、そっちの女の子も似たような感じなのか?」

 士郎の発言に美遊の体がわずかに震える。

「ええ、こちらのステッキはサファイヤと言うのですけど、美遊をマスターと言い張って聞かないのですの」

「(なんとなく予想してたけど)、とりあえずはありがとう。遠坂、ルヴィア」

 『なんとなく予想してたけど』の部分は小声で言いながら、凜達の行動に・・・・・・いや、その甘さに礼を言う。

「ちょっとなんでお礼なのよ、そこは文句を言うところじゃないの?!」

「確かに文句も言いたいけど、魔術師ならイリヤを殺してでもルビーを取り返すところだろ? 最低でも記憶操作とかな、だからだよ。でも、やっぱり遠坂達は優しいな、魔術師からしたら甘いのかもしれないけど俺はそうあってくれて嬉しいよ」

 その甘さこそが凜やルヴィア達の優しさなのだ。

「きゅっ、急に変なこと言わないでよ!? びびびっびっくりするじゃない!」

 そのあとに「まっ元をたどれば遠坂達が原因なんだけどな」と士郎はが呟くが、その声は届かない。

「変なことは言ってないと思うが、それはそれとしてそのカード回収はまだ続くんだろ? なら俺も手伝いたいと思うんだけど・・・・・・どうかな? イリヤだけ危険な行為をさせるわけにはいかないんだが・・・・・・」

「衛宮くんがいれば確かに戦力にはなるけど・・・・・・」

「そうですわよシェロ、三流の魔術しか使えないのであればステッキを持っている美遊達より全然危険なんですのよ。それにランサーの『限定展開(インクルード)』を持ってすれば負けることはまずないと思いますわ」

 士郎はこの発言で、凛達が英霊についてあまり知らないと言うことを理解した。

 その強さも宝具の危険もわかっていない。だからこそ、なおさらここで引き下がるわけにはいかない。

「ルヴィア、英霊を少し舐めすぎだ。確かにランサーのそれは、確かに一刺一殺の呪いの槍。けど、それは必殺だが必中じゃない。相手の直感スキル次第では避けられるし、相手の宝具によれば防がれる可能性もある。何よりステッキありきとはいえ人間が投げれば投げるまでが遅すぎる。宝具とはあくまでそれを使いこなせる英霊が使ってこそ、その真価を発揮するものだからな」

 それに対してルヴィアは何もいえない、凛も雰囲気の変わった士郎を見て驚くが、自分の疑問をそのまま口にする。

「今の話を聞くと衛宮くんは英霊についてすごく詳しそうだけど、なぜそこまで言えるの?」

「それは言えない・・・・・・が、詳しいのは本当だ。俺は戦力以外にも使えると思うがどうする?」

 凛は少し考えるそぶりをすると「わかったわ」と、士郎の申し出を受け入れた。

「でも、いつかはその話せない内容聴きだすからね。さてと、今日はもう遅いわ、また明日話しましょ」

 そう言うと凛校門に向かって歩き出しルヴィア達も帰り始めた。

「ルヴィア少し待ってくれないか? 少しその子と話がしたい」

 それを聞いて美遊の肩がビクンと揺れる。

「それは別に構いませんが、二人でですか?」

「ああ、家には俺が送るから任せてくれ」

 ちらっと美遊の顔を確認すると何かを察したのか、

「わかりましたわ。美遊、先に帰ってますわよ」

ルヴィアは士郎の申し出を受ける。

「わ、わかりました」

 戸惑いながらも美遊は士郎の方へと歩き出した。

 

「イリヤ、詳しい話は帰ってからにしよう。今は先に帰っていてくれないか? ルビー、イリヤのこと頼めるか?」

「わたしは今の状況まだよくわからないけど、とりあえず先に帰るね。けど早く帰ってきてねお兄ちゃん!」

「お任せくださいお兄さん。イリヤさんのことはこのルビーちゃんがいれば安心です!」

 逆に心配を助長するが、さすがに大丈夫だろ、と帰路に向かうイリヤ達に手を振る。

 

 そして。

 士郎は美遊に向き直ると、

 

「初めまして、美遊。俺は君のことを知っている。違う世界での俺の妹、会えて良かった」

 

 優しい笑顔で口にした。

 

 

 

 




士郎の性格はけっこう変わってくると思います。
あくまで憑依なのでその憑依者の人格になるので・・・・・・違和感があっても受け入れてくれると嬉しいです

原作崩壊させると考えるの難しいですね~
伏線とかマジで無理ですが、頑張ります!
 
今回も読んでくださりありがとうございました。


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3話目とかとか〜 ♪キャスター編

原作知らないところはオリジナルになってます。

ここは違うというものがありましたら、教えてくださるとうれしいです。






 

 

『違う世界での俺の妹』

 目の前の人はそう言ったと、美遊は頭の中で繰り返す。最初は顔を見た瞬間に抱きついてしまった。でもその人は自分の兄ではない。別の人の兄であり、自分のことなど知っているわけがない・・・・・・そう思っていた。しかし目の前の彼は・・・・・・目の前の衛宮士郎は自分のことを知っている。それだけで、美優の心は限界だった。

 

 

 

 士郎は、別の世界にいた衛宮士郎の妹が、こちらの世界にやって来た。その程度のことしか覚えていない。

 原作知識と言ってもそこまで深く記憶していたわけでもなく、別の世界と合わせて20年は経っているのだ。覚えているのも難しい。

 覚えているのは大まかな流れと主要キャラを少しだけだった。

 だからこそ今、泣きながら抱きついている美遊の過去になにがあったのか、どれほど辛かったのかわからない。

 それでも。

 この姿を見れば、美遊の力になろうと、この涙の力になりたいと、そう思えるのは必然だ。

「・・・・・・っとその前にサファイヤ、ここでの話は誰にも話さないと今ここで約束してくれ」

「それはなぜでしょうか?」

 美遊の髪から出て来たサファイヤが、三人目としてここの会話に加わった。

「それは美遊のためでもあり、俺のためでもある。もし守れないならここでお前を破壊する。周りに話でもしたらそいつらが美遊に危害を加える可能性があるからだ。それで、どうする?」

「分かりました・・・・・・以外の答えはありそうにありませんが、そのようにしましょう。現在のマスターは美遊様であり美遊様以外とマスター契約は行うつもりもありません。仮にマスター契約を解いても私は口にしないと誓います」

 予想以上のしっかりした返事に、「壊す」とシリアス風に口にしたのが恥ずかしくなってくる。

 だがこれで気兼ねなく話せる。

 

 ――ただ、悲しそうにしているから。

 

「美遊聞いてくれ、俺はお前の知ってる衛宮士郎じゃない。俺は美遊が並行世界で衛宮士郎の妹だと知っているだけだ。だから話せる限りでいい、美遊のことを教えてくれないか」

 

 ――ほおっておけない。

 

 士郎の言葉に、美遊ゆっくりと顔を上げる。

 そして。

 自分のことを話し始めた。

 衛宮士郎の妹としての生活、なぜここに来たのか、自分を逃がしてくれた兄のこと、兄が心配だと言うことを。

 

 ――こんなはずじゃなかった。

 

 すがるように。ゆっくりと。少しずつ。

 

 今まで抱え込んでいたのだろう。

 とても長い時間、美遊は話してくれた。

 それを聞き終えた士郎は、美遊を抱きしめ口をひらく。

 

 ――それでも手を伸ばしたいと思った。

 

「俺は、美遊の知ってる兄じゃない・・・・・けど、それでも、この世界にいる間、この世界の衛宮士郎が美遊の兄になってはだめか? 違う世界での衛宮士郎の代わりに俺が美遊を守る。一緒に生きる。美遊はもう一人じゃない。これから楽しいこともたくさんある。友達もできる。すべて俺が保障する。何があっても決して美遊を一人にしない。だから、俺が兄ではダメ・・・・・・かな?」

 プロポーズのようだ。

 それは結婚ではなく、兄妹になってくれと言う意味の。

 それを受けた美遊はその目にあふれんばかりの涙をためながら「お願いします」とその言葉を受け取った。

 

 

 

 

 美遊を家に送り、自分の家へと帰ると、そこに鬼の顔をしたセラが待っていた。

(おぅ・・・・・・ジーザス)

 その後、セラの説教を受ける羽目になる。途中から何が間違ったのか、夜遅くに帰って来たことではなく、なぜ士郎の方が料理が上手いのだとか、どこでそんな技術をつけたとか、全く別の話になったのは仕方がないと受け入れるしかないだろう。

 

 一時間ほどグチと言う名の説教を受けた士郎は、イリヤの部屋の前で扉を叩いた。

「イリヤ、俺だ、入っていいか?」

「あっお兄ちゃんおかえり、どうぞ入ってください」

 かしこまった言い方でドアを開けたイリヤに、士郎は疑問を浮かべるがそのまま部屋に入る。

 士郎は知らない。士郎が帰るまでの間、イリヤが恥ずかしさのあまり、部屋の中で叫び続けていたのだ。コスプレともとれる衣装を着て外に出歩き、あろうことか自分の兄に見られてしまったのだ。ぺちゃんこの枕を見る限り、息が続く限り枕に頭を埋めてたのだろう。

 そんなこととはつゆ知らず、士郎ゆっくりと口を開く。

「イリヤ、お前の意見を聞きに来た。お前はどうしたい?」

「どうしたいって?」

「今回巻き込まれたことはとても危険なことだ。お前が辞めたいと言っても誰も文句は言わない。むしろ俺は辞めてほしいとさえ思ってる。ルビーとの契約もお前が望むなら俺が解く。それで聞くが、お前はどうしたいんだ」

 イリヤは少し悩んだような顔をすると、しっかり目を見て言葉にする。

「えーっと、私ははっきり言ってよくわかってない。急に魔法少女になって、怖い敵と戦って、そしたらお兄ちゃんが魔術? を使っていて、ハッキリ言ってパニックになってる・・・・・・。でも、お兄ちゃんが一緒なら、やって見てもいいかなって思ってる、魔法少女は憧れでもあったから」

「そうです! 私がいれば大丈夫です、魔法少女のことはお任せください!」

「そうだね、ルビーもいるし・・・・・・でも戦闘前の訓練に可愛いポーズの練習だけさせるのは辞めてほしいかもだけど」

 微笑みながらイリヤが言う。

士郎も思うこともあったようだが、イリヤの意見を尊重した。

「そうか分かった。なら俺はお前を守ろう・・・・・・それが俺の役目だ」

 笑顔でそういう士郎に、イリヤの顔が赤く染まる。

 そのあと、話すべきは話したというように、士郎が一息つく。

 「さて」と口にした士郎は、そのままルビーと向き合う。

 その姿はここからが本題だ、というように、その目は本気だ。

 

「ところで”カレイドステッキ、貴様覚悟はできているのだろうな”?」

 

 口調が変わる。明らかに。

「ど、どどどうしたんですか急に!? ま、まぁ言いたいことはわかります・・・・・・が、しかし! お兄さんもイリヤさんの魔法少女姿見れて嬉しかったでしょ!」

 ルビーは、詐欺まがいにイリヤと契約した。士郎にとって、それはもう有罪である。

 

「それに関しては完全に同意だが「お兄ちゃん!?」それとこれとは話が別だ! 俺の愛する妹を危険な戦闘に巻き込んでおいてただで済むと思うなよこの戯け!」

 突然始まった先ほどとは似ても似つかない雰囲気に、イリヤの頭は混乱を極める。

「危険な戦闘に巻き込んでしまったのは謝りますが、可愛いい魔法少女とパートナーを組めるなら、詐欺だって働いてしまいますよ!」

「この変態ステッキが! 自分が今この状況で悪だということがまだわからないか!」

「・・・・・・お兄さん、あなたはなにも分かっていません、なぜ魔法少女がなぜ正義なのか、何故イリヤさんだったのか、それは可愛いからです! 可愛いは正義です”!! そのためなら私が悪になろうとも関係ありません!」

「戯け! その理論なら魔法少女にならなくともイリヤは可愛い、つまりイリヤが戦う必要はなかったのだ!」

 もはや理論の”り”の字もなく、完全に変態性癖のステッキとシスコンバカ兄貴の会話なのは確定的だが、そこに二人は気付かない。しかもイリヤは先程から連発される兄の可愛い発言で完全ノックアウトである。

 結果、その言い争いを止めるものなどいるわけもなく、争いは深夜まで続き・・・・・・。

 

 二人の戦いは、お互いを認め合うまでと言う壮絶なる時間をかけて・・・・・・。

 朝日が昇るころ、やっと終戦することになる。

 

 

 

 

 次の日の放課後。

 士郎は家へ帰宅すると、家の目の前にどでかい屋敷が建っていた。エーデルフェルト家である。

「・・・・・・・・・・・・」

 絶句。

 昨夜は美遊と途中で別れたため、士郎にもこの展開は読めなかった。

 今日、ルヴィアの家で作戦会議を行うと言っていたがまさか目の前だとは思ってなかったのか家の前で呆然としていると、イリヤが学校から帰ってくる。イリヤも驚き屋敷を見ていると、その屋敷の門をくぐる人影があった。

「美遊さん? お向かいさんだったんだね・・・・・・」

「おかえり美遊、まさか向かいだったなんてな、それじゃまた後でな」

 美遊は恥ずかしがりながら士郎に向けて手を振ると屋敷の中へ入って行く。

 士郎は美遊を見届けると、自分の家へと入っていく。昨日とは違うイリヤと美遊の関係に疑問を覚えながらも・・・・・・。

 

 

 時間になり屋敷の中へ入るとそこに建っていたのは老人の執事だった。

 この人確実に何人かやっちゃってるよね、怖いんですけどーと、適当にも頭の中で様子を見ていると、

「士郎様とイリヤ様ですね、お嬢様がお待ちです中へどうぞ。すでに遠坂様もいらっしゃってます」

 そう言って終始、士郎のことを観察しながら部屋へ案内する。

 案内された部屋には、すでに先客がいた。

「待っていましたわシェロ、イリヤ、そこにお座りになってください」

 用意されてた椅子に座ると、メイド服を着た美遊が紅茶を持って部屋へとはいってきた。

 美遊は部屋に入ってくると「えっえっお兄さん!? なんでここに」と、うろたえ始める。恐らくはメイド服を見られたのが恥ずかしいのだろう。だが、それに関していえば、妹大好きな士郎からすれば可愛いい以外のなにものでもない。

「美遊、その服よく似合ってるぞ、でもどうしてメイド服を? まさか趣味か?」

 デリカシーもくそもない発言だが、これは二人の距離が近づいている証拠なのだ。

「いえ、あの・・・・・・これは、こちらで働かせてもらってるので、その使用人の正装で、趣味とかではなくてっ・・・・・・」

「ちょっと待って!? 今、美遊さんお兄ちゃんのこと『お兄さん』って言わなかった?!」

 美遊がメイド姿の事よりも『お兄さん』発言のほうがイリヤにとっては重要だ。

「ああ、そのことなら昨日美遊と話してな、俺が兄になることになったんだ。仲良くするんだぞイリヤ、もちろん美遊もな」

 

「「「いや、それはおかしい」」」

 

 それ話聞いてた3人、イリヤと遠坂、ルヴィアの声が重なる。

「なんでイリヤと美遊が仲良くするのがおかしいんだ?」

「そこじゃないわよ!! なんで昨日まで他人だった二人が、今日には兄妹になってるのかって聞いてるのよ!!!」

「昨日何があったのか説明して下さい!! 美遊は私の家の者、簡単にはあげられません。というか、美遊に先を越されるわけにはいきません!」

「そうだよ! お兄ちゃんこれはどうゆうことなの!?」

 まるで浮気がバレたような展開に、士郎は呆気にとられる中、ルビーの爆弾発言が落とされた。

 

「あっ私わかっちゃいましたー、お二人は一目惚れだったんですねー! ルビーちゃんのラブラブメーターがビンビンですよー。でもバレたら困るから兄妹プレイと、いやーなかなかマニアックですねー」

 

 いつものルビーのおふざけ発言。普段ならそれで終わるのだが今日は違った。

 唐突にその場は静寂に包まれる。

 唯一、事情を知るサファイヤのため息だけがこの場に響いた。

 

 その後、なぜか美遊による「満更でもない顔」という味方による誤射を受けながらも、士郎は誤解を解くことに成功する。もちろんルビーを殴ることは忘れていない。

「はぁー、つまり昔仲が良かったお兄さんに衛宮くんが似てたから、そう呼ばれてるだけなのね」

「流石遠坂! いつも冷静に物事を判断するその姿勢、そこに痺れる憧れr「そういうのいらないから」・・・・・・はい」

 衛宮士郎を辞めてからキャラがぶれぶれになっているが、士郎はそんなことは気にしない。

 そして話は終わりとばかりにパンっと手を叩くと、凛は本題へと入っいく。

「今日は作戦会議というより衛宮くん、あなたの力を教えて欲しいの」

 士郎は一呼吸置くと、「そうだろうな」と呟き、ある程度までなら話しても良いと判断する。これが全く知らない相手ならば問答無用でお断りだが、幸いここにいる二人は少なからず信用していた。

「わかった、だがここで話したことは他言無用で頼む、それで構わないか?」

 少し考えるそぶりをするルヴィア、だがすぐに顔をあげる。

「わかりましたわ、シェロは恐らくわたくしたちを信用してこの話をしてくださるのでしょう。ならば期待に応えなければエーデルフェルト家の名が廃るというものですわ」

「私も了解したわ、少なくとも衛宮くんの危険になりそうなことだったらしないと誓う」

 それに連なりイリヤと美遊も同意する

「お兄ちゃんのお願いなら私は言わない!」

「私もです」

「えールビーちゃんはあくまで魔術礼装ですからねーもしかしたら喋ってしま「今ここで解体されるか?」・・・・・・うわけないじゃないですかー。妹のサファイヤちゃんにも絶対喋らせません!」

 士郎の声の余りの冷たさに、ルビーもすかさず同意する。先ほどの恨みが少なからず残っているためか思わず本気の殺気を向けたのだ。サファイヤに関していえば、昨日すでに脅し・・・・・・話し合っているから大丈夫だろうと判断した。

「まず俺のできる魔術はそんなにない。昨日も言ったが三流だ、なんてったって物の復元すらままならないからな。だが衛宮士郎が唯一得意な魔術があった、それが投影魔術だ。剣限定だけどな」

「やっぱり昨日の武器は投影だったのね。でもあんな投影見たことないわ」

「ああ、俺の投影魔術は俺が自分の意思で消すか、壊れるかしなければ消えない。特に剣の投影は得意で・・・・・・と言うか剣以外は魔力を使いすぎる上にそこまで精巧でもないんだけどな」

「なるほどね、でもそれだけじゃ説明がつかないわ。昨日の武器は宝具だったわ、それについても説明してくれるのよね?」

 さすがにこれだけ話して終わり、というわけにはいかないようだ。

「・・・・・・わかった。俺が得意な魔術でもう一つが解析があるんだ。剣であれば見ただけでどんな剣か解析できて、解析した剣であれば宝具でも投影可能なんだ。もちろん俺のできる範囲ならばだけどな。恐らく『ゲイ・ボルグ』も投影可能だ。ただ剣じゃない分、ふつうの投影より魔力が必要なうえにランクも下がるけどな」

 話を聞いていた、凛とルヴィアは驚きを隠せないでいた。それもそのはず。英霊の宝具など、クラスカードが見つかり、始めて人が使うことができたのだ。それもカレイドステッキありきでだ。

 それをあろうことか、剣限定だとはいえ、見ただけで投影できるなど規格外にもほどがある。

 そこに「実は固有結界も持ってる」なんて言えば、二人は倒れてしまうだろう。士郎も、固有結界までは言うつもりはないが・・・・・・。

「はっきり言って信じられないけど、昨日見たから信じないわけいかないわね。衛宮くんが話したがらないのもわかったわ」

「ええ、こんなことが時計塔の魔術師に知れれば大変なことになりますものね」

「でもこれで衛宮くんの魔術についてはわかったわ、それで英霊の方も話してもらえるのかしら?」

「英霊については、なぜ知っているかは言えない、今回出てくるであろう英霊もなんとなくわかるが話すつもりはない、敵と遭遇した後に教えるようと思っている」

「衛宮くん、ふざけてる場合じゃないの、英霊については知っていても損はない、それともなに何か別に話せない理由でもあるの?」

「理由は三つ、一つ目は、英霊を知っての戦闘メリットは弱点の露見だけど、今回出てくるであろう英霊にはそこまで、はっきりした弱点は存在しない――」

 アーサー王、神代の魔術師。さらにはギリシャ神話の大英雄。ここまでの敵をいきなり教えることにメリットはない。

「――二つ目は、対策を立てたが違う英霊で慌ててたら負けましたじゃ話にならないからだ。こっちはほとんどか英霊との戦闘は初めてだ、即座に対応できるとは思えない」

 ただでさえ経験のないイリヤや美遊がメインで戦うのだ。対応できずに負けましたではすまされない。

「――そして最後に・・・・・・いや、これは言わなくていいな、とりあえずそんな感じだ」

  最後の理由それは自己満足だ。今回は敵とは言えセイバー・アルトリアの倒し方など話したくない。士郎が前の世界で唯一生きる意味となった彼女は、士郎の中ではとても大きな存在なのだ。

 ついでに言うと、今回の理由はほとんどでっち上げだ。無駄に知識を与えることで、危険が増えることもある。

 凜たちは、イリヤ達を主軸に作戦を立てるだろう。士郎は、そんなことさせる気などさらさらない。

 教えないのはそういうことだ。

 もちろん状況と相手次第では士郎も教えるだろう。

「衛宮くんの言い分もわかったわ。でも敵がわかったら即座に教えなさい。そこでもぐずったらお仕置きだからね」

 凛の有無を言わさない恐怖の笑顔にコクコクと首を振ると、切り替えるように話しを振る。

 

「そう言えば、イリヤと美遊は空飛べるのか? 確かカレイドステッキのつまずくのがそれだったと思うけど・・・・・・。二人はなんだかんだこっちの最高戦力だ。戦うにしても、逃げるにしても最も必要な能力だろ」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

 その問いに、今日何度目かの沈黙。

 士郎の視線に、二人は期待に応えららないのが辛いのか、

 「「とっ飛べません」」と、小さく呟いた。

 「なら今から特訓だな」と笑顔で言ってくる士郎に、二人は黙って頷くのだった。

 

 

 特訓を始めて開始10分、なぜかイリヤはグルグル空を飛んでいる。

 飛行能力の難しさを知っているのか、ありえないとすら遠坂たちに、イリヤは、「えっ魔法少女は飛ぶものでしょ?」と言う言葉を聞いて恐らく全員『なんて頼もしい妄想力』と思ったことだろう。

 しかし、イリヤに比べ、賢いのがためか、現実主義の美遊は「人は飛べません」と、浮くことすらできないでいた。

 練習続け一時間。

 それでもなかなか成果が上げられない美遊は、士郎の顔を見ると泣きそうな顔をする。

 もはや言うまでもなく。

 そんな顔を見た士郎が美遊のために全力を尽くすのは当然であり、それを見たイリヤが不機嫌になるのもまた必然であろう。

 

 結果としては、足元に魔力を固定することで、空中移動を行うことに成功した。単純な回避力はイリヤに比べて落ちるが、使い方次第では面白いだろうと士郎は考える。

 

 

 

 時間がたち、そろそろ日が変わる時間。

 大橋が付近の河川敷にいる五人の人影。

 言うまでもなく士郎たちであり、目的はカード回収だ。

 前回と違い、準備万端という状態で戦いに挑みに行く。ここで原作知識があれば、と自分の記憶に文句をつけるが、無い物ねだりをしても仕方がない。

 それに必ずしも原作どうりに進むとは限らない。士郎の言ったように全く別の英霊が出てくることも考えられる。

 

「イリヤ、別にルヴィアを巻き込んでも大丈夫だから安心して攻撃しなさい」

「美遊、遠坂凜をなるべく巻き込むように攻撃しますのよ」

 

 遠坂とルヴィアがイリヤと美遊に、なにやらいらぬことを吹きかけているようだが、まあいつもの事だ。

「それじゃあ、ルビー、サファイヤお願い」という、遠坂の声で二つのステッキの空間転移が始まる。

 光に包まれ空間転移を終えると、空一面に魔法陣を展開させたキャスター・・・・・・メディアが空に浮いていた。

「・・・・・・っ!? できる限り高魔力の防御結界を作れ!」

 士郎の言葉に凛とルヴィアが反射的に攻撃を加える。

 流石に早い。危険度の理解も申し分ない。その証拠に、先ほど放った宝石魔術はかなりランクの高いものだった。しかし――、

 

 ――その攻撃は届かない。

 

「なっ!? 魔力反射膜!?」

 お詫のつもりか、空に広がる魔法陣から赤いレーザーポイントのようなもので身体中がロックされる。

「『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』!!」

 士郎は迷うことなく自身最高の防御礼装を使う。だが、展開されたのは4つの花弁、急な展開によって中途半端になってしまった。

 一枚、また一枚と、アイアスの盾が削られて行く。士郎はアイアスを全員に被せるように張っている。そのため、ダメージそのものはうけていないが、それも時間の問題だ。

 恐らくは弾幕がやんだと同時に飛び出せば、空を飛べる二人はメディアに近づくことができるだろう。

 先ほど凛がはなった魔術は、メディアの前方広範囲に広がっている、魔術反射幕に当たって跳ね返っていた。つまり下からの攻撃は届かない。

 だが二人は違う。

 空を飛び、背後に回れば攻撃を当てることができる。

 そこまで考えて士郎は一つの方法を実行するためにルビーに確認をとる。

「ルビー、ここにいて美遊や遠坂たちを防御結界で守れるか?」

「恐らくは可能ですが、イリヤさん次第かと、それでも長くは持たないと思いますが・・・・・・」

「わかった、遠坂とルヴィアはイリヤのサポートを頼む、敵は俺が倒してくる」

「ちょっと待って衛宮くん! ここは一旦離脱したほうがいいわ!」

 凜の判断は正しい。

 キャスターはあきらかに準備して待ち望んできた。魔術工房内でキャスターとやり合うなど、自殺行為の何物でもない。

 しかし、士郎の顔は「それがどうした」というように薄く笑みを浮かべている。

「確かにな、けど勝てる勝負から逃げることはないだろ? 信じろ遠坂、すぐ戻る」

「美遊、弾幕がやんだら頼めるか? ぶっつけ本番だ、怖かったら逃げるってのもありだぞ?」

「できます。 私とお兄さんなら、必ずし成功させます」

 迷いはない、即答。

だからこそ士郎も迷うことなく命を預ける。

「それじゃ、俺の命預けたぞ」

 アイアスの花弁の最後の一枚が割り終える前に弾幕がやむ。メディアはすでに次の攻撃に入っているが、構わず士郎は前に出る。

 言葉でなく物理的に・・・・・メディアとの距離を詰める。

 より詳しく言うなら、士郎は空を駆け出していた。そう、士郎は空を走りながら接近していたのだ。

 今の士郎に空を飛ぶ魔術などない、この魔術は美遊によって作られている。美遊が作った空を飛ぶための手段。それをあろうことか士郎に使っているのだ。美遊が士郎の足場を魔力で作りイリヤたちがその美遊を守る。美遊がイリヤたちを信じ、足場形成に集中するのはもちろん、士郎と美遊二人の息が合っていないとできない芸当。少しでもタイミングを間違えれば落下の可能性すらある。しかしその状況でも迷いなく士郎は進む。命を捨ててるわけではない。単純な信頼が士郎を前に進ませる。

 士郎を脅威と感じたのか、巨大な魔法陣から士郎に向けて特大魔術が放たれる。迫ってくるそれを見ながら、士郎は一本の剣を投影する。

 空中で体をひねり、自由落下に身を任せながらも、士郎は弓を構える。

(この程度、ハンデにもならないぞキャスター)

 不安定な足場による高速異動。空中による不安定な体制。

 それでも。

 事弓においては、士郎にとって――ハンデにすらなりえない。

「――我が骨子は捻じれ狂う《I am the bone on my sword》」

 士郎の持つ剣が姿を変える。

 それを弓に構えると、迷うことなくそれを引いた。

 

「『偽・螺旋剣《カラドボルグⅡ》』!!」

 

 二つの攻撃はぶつかり合う。轟ッ!! と、空にすさまじい振動をまき散らす。互角と言っていいほどの衝撃。だが、今の衛宮士郎に勝つにはそれでは"足りない"。

 メディアの背後。

 頭からの自由落下。視界を反転させながら。

「悪いなキャスター・・・・・・。敗因があるとすればお前に思考が存在しなかったことだ」

 衝突しあう二つの攻撃に、一つの剣が飛来する。

 『破壊すべき全ての符(ルールブレイカー)』士郎の弓から放たれたそれは、本来ならばメディアが持つべき宝具。

 聖杯戦争時にすでに固有結界に登録されたその剣は、士郎の投影でも破格の性能を持つ。

 そしてその能力は――、

「――”あらゆる魔術を初期化する”。それはお前の魔術でも変わらない。そうだろキャスター」

 剣は吸い込まれるように魔法陣ヘ当たると、継続的に増し続けていた魔術を消した。それによってぶつかり合っていた士郎の剣は、そのままメディアへと向かって行く。だがそれだけでは終わらない。

 本来『偽・螺旋剣』は、最後の工程を持って最大の威力を発揮する。

 

「『壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』」

 

 そのつぶやきと共に、メディアの目の前で巨大な爆発が起こる。

 メディアを巻き込んだその『偽・螺旋剣』に宝具の爆発は、アーチャーに「当たれば並の英霊は死んでいる」と言わせるほどの威力を持つ。

 これで終わったと、あれに巻き込まれてただで済むはずがない。誰もがそう思ったはずだ。その手に二つの剣『干将・莫耶』を持っている士郎以外は・・・・・。

 突然、士郎は後ろに向けて剣を振るう。そこに現れていた”メディア”は先ほどと同じ方法で、一瞬にしてその場から移動した。だがこの言い方は正しくない。正確には”消えた”、が正しいだろう。

 当たれば確実に倒せる宝具。だが逆に言えば当たらなければ問題ない。

 そしてメディアはそれを行える魔術があった。

 空間転移魔術。これが、士郎がイリヤと美遊に行かせなかった理由だ。これが二人ならば、さっきの攻撃でどちらかが怪我あるいは死んでいただろう。

 空間転移による移動、それに比べていつ失敗してもおかしくない魔力固定の移動法。明らかに不利な状況だ。それでも士郎は止まらない、正確には疑わない。美遊を信じて疑わず、最後の一手へ向かう攻撃を仕掛け続ける。

「『投影_開始(トレース_オン)』」

 弓に投影されたのは16本の無名の剣。

 無名の剣と言ってもあくまでそれは”宝具として無名だった剣”だ。それを士郎は同時に放つ。本来ならば16本の同時投擲などできるわけがない。しかし士郎にとっては弓は当たれと思えば当たるもの。外すことなど、

 

 ――ありえない。

 

 ただ、その剣はメディアへと向かわなかった。

 それぞれ独特の弧を描きながらメディアの周りへと放たれたそれは、『壊れた幻想』によって同時に爆弾へと姿を変える。

 それによって引き起こされたのは煙の檻。

 それは、メディアの周りは煙で覆うことで、空間転移を止めるそのための手段。

 本来の姿のメディアならば問題はなかっただろう。だがこれまでの攻撃で確認したメディアの空間転移は単純すぎる。

 つまり見えない範囲への転移は不可能。

 チェックメイトと言わんばかりに投影されたのは、全体が真っ黒の魔剣。

「追え、そして仕留めろ。――『赤原猟犬(フルンディング)』」

 真名とともに放たれたそれは「放てば標的を変えられない」絶対の原則を覆し、発出後に軌道を変更できる。

 アーチャーほどの技量があれば、同時に複数人に当てられることも可能と言われるその剣は、士郎によって最適な形へと変わり、煙中に突っ込むとメディアに叫びに声をあげさせた。

 

 煙が晴れそこにいたのは、黒い矢が心臓へと刺さっているメディアの姿だった。

 

「流石にアーチャーのように都市一帯が私の射程だとは言えないが・・・・・・。このぐらいなら射程範囲だ」

 

 士郎が弓を消すとそれと、同時にメディアはクラスカードへと変わっていき、戦闘の幕が下りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は戦闘シーンを頑張ってみました

自分ではよくわからないのでコメントくれると嬉しいです

なぜ美遊の過去を書かなかったのか・・・・・・すいません。わたしまだ知らないのでアニメ見てきます、
とりあえずローアイアスは便利!!


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4話目とかとか〜 ♪セイバー編

今回は衛宮士郎の負の部分を書いてみました。
負から正への転換って良いですよねー

学校が忙しくて更新遅れるかもですが頑張ります


 

 

 士郎が地面に下りると、そこには怒った顔をした凜がいた。

 「なんでさ」とつい懐かしい口癖が出てくる。

 見た限り怪我人はいない、その光景に安堵の息をつくも、次の瞬間には遠坂が怒鳴り声が木霊する。

「何考えてんのよ衛宮くん! 少し間違えれば死んでたかもしれないのよ・・・・・・こんな自分を危険にさらすような真似、もうやめなさい」

(あーそういう少女だったよな。遠坂凜はこういう少女だ)

 だんだんと声が小さくなって、とうつむく凜を微笑みながら頭を撫でる。

 昔の関係を思い出し、思わず手が動いてしまった。

 顔を赤くする凛と悔しそうなルヴィアを見て、やりすぎか? と考えたがこのくらいなら大丈夫だろうと思い直す。

 士郎は自分に対する好意に、ある程度は気付いている。

 鈍感、などという意味不明な属性は持ち合わせていない。

 逆になんで気づかないの? 虐めて楽しんでたの? と士郎が思ったほどだ。決して自意識過剰なんかではない・・・・・・と思いたい。

「すぐ戻るって言っただろ。それに勝てる確信があった・・・・・・でも、心配してくれてありがとな。今度はもう少し安全な方法をとるよ」

 『わっわわ分かれば良いのよ分かれば』と撫でられていたことに顔を赤くし、そっぽを向きながら言う凜の姿に、別の世界の士郎がこの子を好きになったことをなんとなく理解する。

 こんなかわいい生物はなかなかお目にかかれない。

「でも、確かにすごかったよお兄ちゃん。美遊さんと一心同体って感じで、私じゃできなかった・・・・・・」

 イリヤの声に力がない。

 自分は何もできなかったから、イリヤの顔はそう語っている。

 それに対して士郎はイリヤの顔に方に頬に手を添え「ありがとう」と、お礼の言葉を口にしていた。

「イリヤ、お前がいなければ、勝てなかった。今日の自分を誇っていいんだ。だから、俺を、美遊を守ってくれてありがとう」

 優しくイリヤの頭を撫でると、嬉しそうに元気を取り戻した。

 士郎は美遊の方へ向き直ると、素直な言葉を口にする。

「美遊、流石俺の妹だ」

「はい、お兄さんは私が守ります」

「なら俺は美遊を守るよ」

 戦闘後の朗らかな空気。

 だが士郎は忘れていた。この戦いは、今日の戦いはこれだけでは終わらない。そのことに。  

 

 不意に、全員がそれを感じる。

 後方から感じる一つの気配。

「まさか――ッ」

 その声は誰が発してのか、士郎はそれを確認できないほどに目の前のそれから目を離せなかった。黒霊化しててなお、変わることのないその気配。それは――

 

 ――自分が愛したその人だった。

 

「・・・・・・セイバー?」

 その声に反応したのか、剣を振り下ろしセイバーの攻撃がこちらに向かう。

 そこで流石に危機を感じたのか、全員が防御の体制へ入る。飛ばされた黒い斬撃は幸いルビーとサファイアによる物理保護によって防げたが、脅威は未だに続いている。

投影_開始(トレース_オン)!!」

 手元に双剣を携えた士郎が前に出る。

 最初に来たのは違和感だった。剣を握る手に力が入らない。

 なんで。

 次に来たのは体への異常だった。士郎の手が震えている。

 なんで。なんで。

 そして遂に思考が追いついてしまった。動揺が顔に出る。

 なんで。なんで。なんで。

 怖いわけではないのだ。恐れているわけでもない。ただ、自分がお考えてしまったそれに、その思考に。士郎は心を崩されたしまった。

  

 ――なんで俺はまだ衛宮士郎なんだ!!

 

 

 ****************

 

 

 衛宮士郎になる前の少年。

 それをあり方を言葉で表すなら、ごく普通の一般人。それが適切だった。

 

 友人関係を言えば、数人仲のいい友人を作るぐらいは簡単にできて、ただ友達百人なんて作れないほどには普通の少年で。喧嘩をしても殴り合いに発展しないほどには普通の常識を持っていて、数人に虐められれば見えないところで涙を流すほどに心が弱く。善良ではあるが、重い荷物を持っているお年寄りがいても声を掛けないほどに普通で、にもかかわらず、公共の場である電車では、優先席をお年寄りに譲る程度には普通の親切心は持っていて。親族関係でいえば、自分から悪口を言うにもかかわらず、他人にそれを言われたときは気分が悪くなるほどには普通に愛していて。勉学で言えば得意な科目はいい点をとり、苦手な科目でも半分はとれる程度には普通にできて。

 どこにでもいる有象無象。全校生徒のその一人。

 普通に普通な普通で普通。

 そんな少年に自身の特徴を一つ言うて見ろと問えば、彼はオタクな趣味と答えるだろう。

 とは言え、それすらもどこにでもいるオタクの一人と言えてしまうのだが。それでも少年は分かってなおそれを口にするはずだ。

 なぜなら憧れていたから。

 無数に存在するその世界の、その主人公に。

 それでもやはり、特別な力は確かにかっこいいと思っても中二病にならないほどに常識を持った普通の少年は、その在り方にこそカッコよさを見出した。

 だってそうだろう。少年は自分で理解があるほどに自身が普通であると知っていた。だからこそ――

 

 ――あんな風に(主人公のように)、生きられたらさぞ楽しいだろうと。

 

 そして少年はそれ(主人公)になることができた。

 偶然か必然かあるいは運命か、始まりはどうであれ彼はその地位を得たのだ。

 最初は困惑だった。こんな理不尽に怒りすら沸いた。それでも、わくわくしなかったといえば嘘になる。

 これからどんな道を歩くべきか毎晩眠れないほどに考えた。原作通りに生きてみようか、それも違うストーリーを作ってみるのも楽しいか。

 Fateの世界には魔術がある。もしかしたら、他の創作物の技なんかもできるかもしれない。

 考えれば考えるほどにやりたいことが見つかった。無数の未来を思い描いた。

 だからだろう。少年は気づいてしまった。――もし。

 

 ――もし、衛宮士郎が好き勝手に生きたらこの世界はどうなるんだ、と。

     

 考えるまでもなく、この世界の結末は死んでいた。少し考えれば分かることだった。この世界は衛宮士郎に救われる。聖杯戦争にしろ、その先の《英霊》衛宮士郎としても。

 彼には選ぶ権利がなかった。いいや、最後の二択は残されていた。衛宮士郎として生きるのか、自分自身として生きるのか。 

 少年は迷うことなく前者をとった。

 なかったのだ。彼には主人公になる資格がなかった。

 仮に、少年が数ある主人公のように絶対の自分を持っていれば、後者を選ぶこともできただろう。自分として生きてなお、世界を救うという気概があれば。ただ、少年にはそれがなかった。それだけの話だった。

 そのときの彼の思考は、死にたくない、なんでこんな目になどと言う普通の感情だった。

 そう、彼が思ったのは、衛宮士郎のように生きて世界を救いたいという覚悟などではなく。原作通りに衛宮士郎を演じれば、なんとかなるという曖昧な根拠だった。

 演技者として、道化として。

 

 そして。

 

 その思想通り、少年は衛宮士郎として生き抜いた。

 

 

 ****************

 

 

 士郎は、この世界にきてから自身は変わることができたと思っていた。

 衛宮士郎として生きることをやめ、自分の感情で自身の思考で生きていると。

 イリヤのために生きていこうと決めたあの日から、その思いは変わっていない

 だから迷うことなどありえない。目の前にある脅威から、妹たちをあれから守ることに迷うことなんてありえない。

 でもそうじゃなかった。士郎が思ったのはそんなことじゃなかった。

 迷う? 何を言ってるんだ? ――守るなんて『当たり前』だろ。

「お兄ちゃん? 大丈夫」 

 士郎のそれに、気づくことができたのはイリヤだった。

 その声にも士郎は答えることができない。それでもかろうじて士郎は口にした。 

 

「・・・・・・ここは俺一人でやる、みんなは逃げてくれ」

 なんでこんなことを口にしたのか分からない。いいや、わかってるはずだ。 

 

「シェロの頼みでもそれは聞けませんわ、あの相手はやばすぎます! しかも、連戦だなんて勝ち目がありませんわ!」

「そうよ衛宮くん! あの英霊、防御も遠距離でも隙がない。しかも恐らくセイバークラス。黒い霧を破れても、接近戦で勝てるかどうか・・・・・・」 

 彼女らの言葉は何も間違っていない。普段の士郎なら同じ言葉を口にしただろう。

 しかし、今の士郎にその言葉は届かない。 

 だって。

 

 ――『誰かを助けるのに、何か特別な理由がいるのか?』

 

 何も変わってなどいなかった。未だにやめられてなどいなかった。

 強敵を前に、勝てないと判断した士郎は、迷わずこの答へと思考をむずびつけていた。

 

 そして全員が気づいた。

 それは、動物が本能的に危ないと判断するような、直感的なもの。 

 今の衛宮士郎は危険だと。 

「衛宮君?」

 凜の声も、今の士郎には届いていない。

 

 目指すべきもの。

 今の士郎にそんなものはなかった。

 士郎が掲げたそれは、新しい演技の題名。彼の目指していたそれは、ハリボテとなんら変わらない。

 衛宮士郎を止めるための免罪符。

 ただの理由付け。

 人一人の人生を奪っておいて、自分の人生を生きたいと思う、それに対する言い訳なのだ。

 『自分には、すべき大きな目標がある。だから衛宮士郎をやめても仕方ないよね』と、言葉にすればこんなものだろう。

 そんなものは自分じゃなかった。だからこそ簡単にぼろを出す。

 

 

『自害しろ衛宮士郎。貴様ような男は今ここで死ぬべきだ』

 

『貴様を殺し、ここで正義の味方を終わらせる』

 

 

 思い出すのはアーチャーとの戦闘。

「俺はあの時死ぬべきだったのか・・・・・・?」

 士郎には分からなかった。自分がどうするべきかもうわからない。

 アーチャーが士郎に剣を向けた理由、それは、自分自身でもある未来の衛宮士郎を作らないため。

 当時の士郎は生きるために、衛宮士郎を演じていた。

 しかし、それを見破れないアーチャーじゃない。つまりは知っていた。気づかれていた。

 自分の生き方がない、演技者だった士郎は、演技を続け、自分と同じく『正義の味方』を目指し、失敗し、衛宮士郎になる、と。それでも最後は士郎の剣を受けた・・・・・・・・・・・・。

 

「なんでお前はおれを生かしたんだ!!!」

 士郎には分からなかった。

 

 

『貴様は私と同じようになる、いずれ失敗する。ならばここで殺すしか道がない、そう思わないか?』

『自分の生き方をなぜ否定する? 美しいと思わなかったのか? その生き方が、綺麗だと思わなかったのか? その姿勢が、後悔しかなかったのか? その思いは・・・・・・』

『貴様の言葉は響かんよ、何せ心がこもっていないからな、貴様は自分のために生きているのだろう、だかその結果私になる。私に追いついてしまう。ならばここで死ね! 衛宮士郎!』

『・・・・・・ッ、心がないか・・・・・・確かにな、この生き方は楽だった。心を消し、自分のためと言いながら誰かの道を辿る人生。それが間違いの道であると言うのなら、未来の自分が殺しにくるのは当然だ・・・・・・・・・・・・だけど、それでも! 俺は生きたいんだよ! 今だけでいい、自分が好きになった人のそばにいたい! それが戦いだろうと戦争だろうと! だから俺は死ねない。だから続けるぞ、衛宮士郎だろうが、『正義の味方』だろうが演じるぞ』

『そうか・・・・・・ならば来い! 貴様の剣を見せてみろ!』

 その攻防でアーチャーは士郎の剣を受けた。

『アーチャー、俺の勝ちだ』

『ああ、そして私の敗北だ』

 

 

 

「・・・・・・はは・・・・・・・・あはははははははは!!」

 なんで今更思い出したのか。そんなことはどうでもいい。

「なんでいままで気づかなかったんだ?」

 

 ――ああ、そうだ。そのはずだ!!

 

 なぜ今まで忘れていたのか。

 アーチャーは期待していた、将来見つかるだろう自分だけの正義の味方(いきかた)を。

 今ならわかる。アーチャーがなぜ士郎の剣を受けたのか。

 笑ってしまう。何も成長していなかった自分自身に・・・・・・。

 この世界の衛宮士郎が目指す在り方。それは『正義の味方』であるべきなのか? 違うだろ。

 士郎はあの時なにを思って戦っていた? 答えは最初からあった。

 

 ――忘れてたなんて笑い話にもならない。

 

 それはセイバーのため。

 それは、『正義の味方』ではなかった。ただの自己満足ですらあった。場合によっては悪だった。世界より一人の少女を選ぶなんてバカバカしいにもほどがある。でも。

 それがどうした。

 士郎は笑う。ああ、笑うしかない。

 あの感情を自身の感情じゃないというんだったらなんだっていうんだと。気がつくべきだった。衛宮士郎の心が動いたのはどこだった? それは何だった?

 本来の衛宮士郎はその生き方を美しいと感じた。綺麗だと感じた。ならここにいる衛宮士郎は、何がしたい。

 

 ――あの時は何を思っていた? そろそろ気づけよクソ野郎。

 

 士郎は考える。

そして、今まで衛宮士郎のまがい物でしかなかった一人の少年は、ここで初めて答えを見つける。

 目の前に泣いている少女がいた。それが大切な人じゃなかったら見捨てるのか? そうじゃない・・・・・・そうじゃなかった。目の前にいる女の子に涙を流してほしくないから助けたんだ。

 例えば、美遊の時がそうだった。

 いや、今思えばあれこそが自分本来の感情だった。

 

 ――誰かを助けるのに理由はいらない? はっ馬鹿じゃないのか?

 

 ただ原作で知ってるだけの少女。しかし、士郎はその手を掴んだ。

 例えそれで敵が現れたとしても、大切な人が敵になろうとも、彼女が悪と言われようとも、士郎は美遊へ手を伸ばしただろう。

 それは、逃げるだけの生活かもしれない。時には剣を握らなければいけないかもしれない。それでも目前に泣いてる少女がいて守りたいと思ったから。

 

 ――女の子のためになんて、十分すぎる理由だろうが!

 

 体から何かが抜けていく。

 それがどこか心地いい。

「・・・・・・悪いな遠坂、ルヴィア、美遊そしてイリヤ。俺は残るよ、救いたい目の前の人を救うために」

 

 ――不純? それでもいいだろ。

 

 ここで衛宮士郎は完成する。

 

 ――女の子(美遊やイリヤ)のために剣を握れる。それだけで十分だ。

 

『とうとう見つけたか、自分の正義を』

「正義のなんて大層なもんじゃない、お前に比べたらクソみたいなもんだ」

『そうか、だがそれでいい、貴様はもう私の前にいる。行ってこい、目の前の少女を救ってやってくれ』

「ああ、まかせろ」

 ここから始まる。衛宮士郎が、『正義の味方』の前を歩く。

「イリヤ、アーチャーのカードを貸してくれないか?」

 士郎は引っ張られるようにイリヤのカードケースに手を伸ばした。その中にある複数枚あるカードから、当然のようにアーチャーのカードを引き当てる。

「見ててくれ美遊、イリヤ、これがお前たちの兄、衛宮士郎だ」

 さっきとは何かが違う、イリヤと美遊は無意識そう思った。だけどそれがなんだかわからない。

 士郎が右手を前に出すと、何も言わずとも七枚の花弁が現れる『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)

 そして、左手にもつアーチャーのカードを胸へと当てる。

「『素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師衛宮士郎。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国至る三叉路は循環せよ』」

花弁が一枚割れる。詠唱を続ける。

「『閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ満たされる核を破却する』」

花弁も残り四枚、それでも詠唱はやめない。

「『告げる』」

「『汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ』」

残り一枚、それでも詠唱は止まらない。

「『誓いを此処に。我が常闇総ての善と成る者、我が常闇総ての悪を敷く者。

 汝三大の現霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!』」

 詠唱が終わると同時に、最後の花弁が割れる。

 セイバーは黒い斬撃による攻撃をやめ、接近戦を仕掛けに突っ込んでくる。イリヤが、美遊が、凛が、ルヴィアが、ルビー、サファイヤが叫ぶ。

 セイバーはすでに攻撃が仕掛けられる距離、だが士郎は何もしない。

 右手は『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』が破壊されたと同時に降ろされている。

 だが左手にあるはずのものがない。

 アーチャーのクラスカード。

 セイバーの攻撃が入る。誰もがそう思った・・・・・・その瞬間。セイバーと士郎、その間が光に包まれ、セイバーが大きく飛ばされる。

 そこにいたのは、白髪で肌が黒く、士郎と瓜二つの聖骸布を身につけた長身の男だった。

 その男は士郎に背を向けたまま語り出す。

 

「問おう、貴様が私のマスターか?」

 

 それは、この世界では本来行えない英霊の召喚。士郎がセイバーを助けるだけに呼んだ、英霊となった自分。

「そうだが不服か? アーチャー」

「戯け、不服に決まっている、この世界には聖杯はない。願いを叶えることもできず、あろうことか一度の戦闘のために呼ばれたのだぞ。しかもマスターは貴様ときた、令呪がなければ斬っているところだ」

 皮肉げに答えるアーチャー。

 やはり、クラスカードを媒介にした召喚は別世界の聖杯戦争に呼ばれた英霊と変わらない。

 二つの世界は並行世界だから? そういうことなのだろうか。 それとも、衛宮士郎の存在が原因? 分からない。が、そんなことはどうでもいいだろう。

「だったら令呪はきれないな。だからこれはお願いだ、俺に力を貸してくれ」

 アーチャーの隣に立つ、すでにセイバーは体勢を立て直している。

「ついて来れるのだろうな」アーチャーは問いかける。

「俺の方が前にいるんだぜ?」士郎もそれに答えた。

「ふっ、ならばその背中いつか追いついてみせよう・・・・・・いくぞ」

 二人とも顔には笑みを浮かべている。

「「投影_開始(トレース_オン)」」

 詠唱と共に、手に握られてたのは宝具『干将・莫耶(かんしょう・ばくや)

 この戦いには敵はいない。

 そこにいるのは、助ける少年と助けられる少女、そしてそのサーヴァント、それだけだ。

「「行くぞセイバー――魔力の貯蔵は充分か」」

 それを合図に、3人の戦闘が始まった。

 

 

 美遊や、イリヤ、凛達は言葉が出ない。士郎が行った詠唱、それと共に現れた白髪長身の赤い男。

 何が起こっている? 理解が追いつかない。 

 だが。

 長身の男は英霊だと、それだけは理解できた。

 ならば、あれはなんだ? 3人の男女は剣を交えて戦っている。かろうじて見える動きを見れば、アーチャーと呼ばれていた赤い男は味方のようだ。

 しかしそんなことはどうでもいい。

 4人が言葉を出せないのは他にある。戦闘が激しすぎるのだ。今まで自分達が行っていたことが、遊びであるかのように、3人の戦闘は次元を超えていた。

 英霊の男が強いのはわかる。黒英霊の強さもわかる、だが士郎は?

 話を聞けば、特殊な魔術を使う、ただそれだけの少年だったはずだ。先ほどのメディアとの戦闘行為も驚きはしたが、まだ納得できる。

 しかし。

 あれは説明がつかない。

 だがそれも仕方ない、4人は初めて衛宮士郎という人間を目にしたのだ。わかるわけがない。 

 彼は今ここから始まったのだから。

 

 

 士郎とアーチャー、二人の双剣が軌跡を生む。

 セイバーとは言え二体一。さらには黒英霊で力が下がってるのだ。勝負はすでに決まっているようなものだった。――先ほどまでは。

 それに気づいた二人は、即座にセイバーから距離をる。

「力が上がってるな・・・・・・」

「ああ、戦闘を繰り返すたびに明らかに本来のセイバーの力へと近づいている」

 アーチャーはまだ問題ない。だが士郎は違う。単純な力の強弱が、そろそろ限界に達している。

「――ッ! アーチャー――ッ!!」

「ッチ!」

 距離をとって油断した。二人は自身な間抜けさに怒りすら覚えた。

 英霊との戦いで、こちらが一瞬で開けられる距離を、『向こうが一瞬で詰められない道理はないだろ』と。

 

 そこで士郎は気づいた。

(おかしいだろ・・・・・・お前はアーチャーに剣を振るっていたはずだ)

 見ていたはずだった。アーチャーに剣を振るうその姿を。それなのに、すでにその姿はどこにもない。

(どこだ?)

「戯け!! 横だ!!」

「――ッ!!?」

 アーチャーの言葉で、ようやく視界の端にあったそれに気づく。

 ほぼ反射の域。過去の戦闘経験データからそれをギリギリで受け止める。

(まさか、アーチャーへの攻撃はフェイク!! 本命は俺か! クソッたれ、目で追えない・・・・・・! 速すぎる!!)

「・・・・・・ぐあが!?」

 防御したはずの士郎の腕が悲鳴を上げる。セイバーの振り下ろした剣を受け止めた腕が一瞬止まった。

「(やばい)――?!」

 士郎が思う前にそれはすでに視界から消えていた。

 背後から、士郎の首を狙って、真横からセイバーのそれは振るわれていた。

 回避は不可能。防御も間に合わない。

 だが、次の瞬間。その剣は空を斬る

「半人前が。相手との差すらも分からないの貴様は」

 アーチャーが士郎を蹴り飛ばしたのだ。多少と言うには強引すぎるやり方で、アーチャーは士郎をセイバーの攻撃範囲から離脱させていた。  

「とは言えこれでは埒があかんな、むしろこちらの魔力が先に尽きてしまう。どうする小僧?」

「わかった・・・・・・だったら俺が弓を放つ、お前は足止めを頼む」

 単純なに戦闘力を計算した結果だった。

「正気か衛宮士郎? アーチャーである俺を足止めに使い、あろうかとか貴様が弓を撃つだと? バカも休み休み言いえ。それにだ、貴様の弓などへっぽこすぎて信用ならん、私に当たったらどうする気だ?」

「とりあえず喧嘩を売ってんのはわかった。しかしあれだな・・・・・・衛宮士郎ともあろうものが、近接戦から逃げるとはな。てかお前に言われた通り、自分の力を把握し上でだったんだが?」

「戯け、足止めならばどちらとてあまり変わらん。ならば弓の優劣で選ぶしかないだろう。そうなれば答えは決まる。それにだ、助けた時にいる目の前の男が私では役者不足ではないのか?」

 士郎は驚いた風にアーチャーを見ると、笑みを浮かべながらセイバーと向き合う。

「そんなこと言われれば、任されるしかないな。どうやら今の俺ではお前に、口では勝てそうにない。・・・・・・・・・・・・一分だ、それ以上は待てない」

「誰にものを言っている。『三十秒、それだけあれば充分』だ」

 その言葉に士郎は驚いた顔をする。何もいわずに作戦を理解したアーチャーにではなく、作戦を理解してなお、それに反対しなかったことにだ。

「だったら、俺も役割を全うしないとな」

 士郎は聞いてるはずのないセイバーへ問いかける。

「セイバー、今の俺の剣をお前はどう見る? まだまだだと言うのか? 上達したと褒めてくれるのか? どちらにしろセイバー・・・・・・お前を倒すにはまだ足りない。だから今ここで越えるぞ、”アルトリア”」

 『干将・莫耶(かんしょう・ばくや)』を手に、士郎はアルトリアと斬り結ぶ。

 逆手に持ちながらの戦闘。時間稼ぎが目的であるならば、それは確かに最良だ。

 

 だが、それではいつまでたっても超えられない。

 

 頭の中で剣の軌道を創り出す。もっとも無駄のない連続攻撃。

 そこで士郎は初めて気づく、今の自分衛宮士郎の可能性に。

(はは、簡単じゃないか。できないなら過去から、知識から借りればいい。俺にはそれができるはずだ)

 セイバーの視線が自分からそれる。

 本当に僅かな隙、アーチャーの殺気によりできたそれは、事実上最後のチャンス。

「技も借りよう、名前も借りよう、それで超えられるのならば、俺はその力を喜んで使おう」

「『投影_開始(トレース_オン)』」

 それは転生者、憑依した衛宮士郎だからできる投影。

 士郎の手には二つの剣が現れる、一つは黒く漆黒に輝き、もう一つは青いクリスタルのように輝いている。

 繰り出す技は二刀流の剣士、黒の剣士と呼ばれた数千人もの人を救った英雄の技でありスキル。 用いる剣は《エリュシデータ》そして《ダークリパルサー》士郎やアーチャーのような守りの剣ではない。二刀流による、圧倒的な速さと反射で行われる、怒涛の剣激。

 士郎は、英雄の剣を此処に再現する。

 

「『スターバースト・・・・・・ストリーム』!!!!」

 

 ほんの数秒、その中で繰り出される16連撃。完全に音を置き去りにしたその剣は、今の士郎が出せる全力。その速度がその剣の思さがセイバーの剣を凌駕する。

 そして、セイバーの剣が弾かれる。それが見えた時・・・・・・すでにアルトリアは、斬られていた。それを見えていたものがいるならば、士郎の勝利を確信しただろう。

 だがそんなことではセイバーは倒れない。

 突如危機感を覚えた士郎は、咄嗟に後ろに距離をとる。そして、目の前の光景に、

「ははっ、そう来るよな」 

 思わず笑みを浮かべている。

 黒く染まっていた剣は光をおび、膨大な魔力を纏わせる。

 アルトリアの顔についていた黒い仮面は剥がれおち、素顔があらわになっている。

 それは、かつて・・・・・・いや、今もなお士郎が愛しているアルトリアその人だった。

「シロウ、見事でした。しかし私も負けるつもりはありません」

 優しい声でそう言うと、宝具の発動を開始した。対城宝具に分類されるアルトリアのそれは本当の意味で必殺となる。士郎にそれを受け止める術はない。そんな危機的状況でも士郎の顔にあるのは笑みだった。

 知っていた。士郎は自分がアルトリアを超えられると。

 知っていた。アルトリアは目を覚ますと。

 知っていた。その上でこの勝負を諦めないだろうと。

 だからこそ最初に用意した。士郎の後ろから一本の剣が迫ってくる。アーチャーが放ったその剣は、アルトリアへは向かわない。

 士郎は少し体を捻ると、放たれその剣を手にもった。そこにあるのは黄金の剣、アルトリアの手にあるものと同じものだ。

 アーチャーは、"この時のために"三十秒かけて一つの聖剣を作っていたのだ。

 『こうであって欲しい』という想念が、星の内部で結晶・精製された神造兵器であり、最強の幻想。聖剣のカテゴリーで頂点に立つ最強の聖剣。

 二人の手によって握られるその剣は、最高の光を放ちながらお互いに振り落とされる。

 

「「『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』!!!」」

 

 互いの光をはぶつかり合い、相手の光を押し返そうとする。

「はぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 数十秒に及ぶ拮抗、『いつまでも見てみたい』そう思わせるような光景は、唐突に終わりを告げた。

 その結末を決めたのは何かと問われれば、それは気持ちの差なのかしれない。

 アーチャーの投影はほぼ十全にエクスカリバーを再現していた、剣による優劣はなく。

 魔力もアルトリア一人と、アーチャーと士郎の、二人の魔力で互角、魔力による優劣も存在しない。

 

 ――なら、その勝敗を分けるべきものが、士郎のセイバーへの気持ちなら、それはとても美しい。

 

 そして、それを証明するように。

 士郎から放たれた聖剣の光は――その気持ちは、相手の光を飲み込みだ。

 

 ・・・・・・光が止む。

 そこにいるのは士郎そしてアルトリア。

 勝者は士郎。

 アルトリアの体は少しずつ消えかけている・・・・・・。かつての聖杯戦争、その最後のように。 

 そして、士郎はアルトリアに近づくと・・・・・・その体を抱きしめた。

「時間がかかって悪かった。会えてよかったアルトリア」

「シロウ、私も同じ気持ちです。・・・・・・しかし遅すぎです、どれだけ待ったと思ってるのですか? お詫びに『キス』を要求します」

 アルトリアは、いたずらっぽい笑みながら目をつむる。士郎は、何も言わずにアルトリアと唇を重ねた。ほんの僅かだろうか、とても長い時間だっただろうか。二人は唇を離すと抱き合いながら最後の言葉をかわす。

 アルトリアの体はすでに半分消えている。もうそんな時間もないだろう。

 唐突に。それを言ったのは士郎だった。

 

「愛しているんだ。いつか必ず迎えに行く。だから・・・・・・待っていてくれないか?」

 

 そのプロポーズにアルトリアは見るものを魅了する笑みを浮かべると、

「シロウ、あなたは私の鞘だ、断る道理がありません」

 それをしっかりと受け入れた。

 

「また待たせることになるな」 

「そうですね。でも、私は確信しています。士郎あなたならきっと――」

 それを最後にセイバーはクラスカードへと変わっていた。士郎は泣いていた、そう、泣いている。

「情けないな、衛宮士郎の門出に、さ」

「全くだ、私はこれからこんな情けない背中を負わねばならんとはな」

 背後から現れたアーチャーに、俺も将来こんなことをいうやつになるのか・・・・・・と少し頭を抱える。

「・・・・・・さてと、衛宮士郎その令呪でなにをするつもりだ? 」

「・・・・・・。気づいてたのか、流石だな。言っても、これはお願いに近いんだけどな」

 令呪が光る、左手を前に出すと、三つの願いを言葉にした。

「・・・・・・令呪をもって命じる、イリヤを助けてやってくれ。重ねて令呪をもって命じる、イリヤの力になってくれ。さらに重ねて命じる、イリヤに、時間を与えてくれっ・・・・・・!」

 士郎が願ったのは、これからアーチャーのカードによって現れるであろうもう一人のイリヤのことだった。

「サーヴァント、アーチャー承った。それでは、私も戻るとしよう。最後に・・・・・・衛宮士郎、貴様の選んだ道は険しく長いはずだ。辛く苦しいはずだ。それでも、できると確信しろ! 失敗など考えるな!! ・・・・・・ではな」

 アーチャーは全てを分かったように、それでいて清々しく、クラスカードへ消えていった。

「前を歩いているか・・・・・・アーチャー、とっくにお前は違う道を歩いて俺の前にいたくせにさ。お前にもいつか必ず追いつく・・・・・・待ってろ」

 

 そしていつか必ず礼を言う。

 

 それが今の衛宮士郎・・・・・・その少年の小さな願いだった。 

 

 

 




アーチャーを出したかったので出してみました!
やっぱりかっこいいですよねー(笑)

原作崩れすぎて、戻すのが大変そうです

それではまたよろしくお願いします


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5話目とかとか〜 ♪佐々木小次郎編

学校が忙しくなり少しづつ遅くなるれません! なるべく早く書き上げます!

無理やり原作に戻した感じのオリジナル展開ですが、楽しんでもらえると嬉しいですm(__)m

それではどうぞ!!


 

 

 

 先ほどの戦闘が嘘のように、そこには静寂に満ちていた。

 士郎は周りを確認する。激しい衝突があったのだ、被害がイリヤ達にも及んでいる可能性もある。

「・・・・・・・・・・・・」

 士郎の見渡した先には誰もいなかった。冷たい汗が流れる。

(えー?? ちょっと待て、なんで誰もいないんだ? エクスカリバーの余波で消し飛んだとかないよな!?)

 頭の中で叫び声をあげるも、それで何かが変わるわけではない。

 困惑し続ける士郎はそこで、地面から頭の上だけ出しているルビーを見つけた。

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 再び訪れる静寂。

 それを先に破ったのはルビーだった。

 ドカーン! という爆発音とともに、地面から飛び出してくる。それに続くように美遊とサファイア、イリヤが這い上がるように出てくる。

 地面に隠れていたであろうイリヤ達を見て、安堵の表情を浮かべる士郎。

 声をかけようとイリヤ達に近づくと、士郎が口を開く前にイリヤと美遊が突っ込んできた。

「ぐっはっ!?!??」

 間抜けな声とともに背中から倒れこんだ士郎は、自分に抱きつき、泣きながら自分の名前を呼ぶ二人に目を向ける。

「よかったです・・・・・・怖かった、また・・・・・・また・・・・・・・・・・・・」

 美遊の小さな声が士郎に届く。普段の美遊からは考えられないほど感情が溢れている。

 士郎はその心の内を理解する。こちらの世界にやってきてから初めてできた心を開けた人。兄になると言われた美遊にとっての士郎の死は、再び自分が一人になることを意味する。

 だからこそ安堵する。目の前に兄がいることを、士郎がいることを。

「・・・・・・っ、ぐすっ・・・・・・」

 イリヤの方は士郎の胸に頭を押さえつけながら涙を流していた。

 数こそ少ないが、イリヤも戦闘を行なっている。だが先ほどの戦闘はその比ではなかった。絶対に自分が入れない世界。

 そんなところにいた兄を心配しないなんて無理だろう。それは戦争・・・・・・いや、もっとひどい何かに、家族を送り出すようなものだ。

 そんな二人の頭に手をおいて士郎は優しく声を出す。

「大丈夫だよ。言っただろう? お前達を守ると、俺は"死んでも守る"なんて腑抜けたことは言わない。必ずお前達のところに"帰ってくる"。心配するなとは言わない、でも信じていてくれ。今も、そしてこれからも」

 士郎の言葉に二人はようやく頭を上げると、三人はお互いに笑顔を見せながら手をとる。

「ところでなんで地面の中なんかにいたんだ? それに遠坂とルヴィアはどこだ?」

 それに答えたのはルビーだ。

「何言っちゃってるんですか、士郎さん! あんな馬鹿みたいな余波のそばに、まともにいられるわけないしょー! このルビーちゃんの機転がなければやばかったんですよ! まーおかげで良いものは見れましたけどねー」

 何やら途中からニヤニヤしながら話すルビーは「あっ遠坂さん達なら瓦礫によって気絶中でーす。困ったもんですよー」と追加した。

 そこで士郎は冷や汗をかきながら、イリヤ達に質問する。

「・・・・・・いつから隠れてたんだ?」

  アルトリアとの会話を思い出した士郎は、イリヤ達に見られたかもしれない。というか忘れていた、と本格的に汗を流しながら焦りはじめた。

「聖剣がぶつかりあった時です。ルビーとイリヤスフィールが地面に穴を開けたのでそこに隠れてました」

 美遊が返答し、「もー怖かったんだからね!」とイリヤが抗議の声をあげる。

 とりあえず、美遊とイリヤには見られていないことを確認し、先程から士郎の周りでニヤニヤし続けているルビーに顔を向ける。

「どこから見た?」

 イリヤと美遊には聞こえないように話す。

「えー、言っちゃって良いんですかー? いやー士郎さんかっこよかったですよー。安心してください! 言葉で語れないあの感動は、バッチリ録画させていただきました!」

 全く何も安心できないルビーの物言いに士郎は頭を抱える。

 てか録画機能とかいらんだろ! と、カレイドステッキを作った人間へ恨みを向ける。

「ルビー、わかってると思うが・・・・・・」

「わかってますよー。なぜ士郎さんとあのセイバーがあんな関係なのかはわかりませんが、今は誰にも見せる気はありませんよー。でも、いずれ教えてくださいね!」

 イリヤ達に聞こえないように小声で、話してくる。

「・・・・・・助かる――? ルビー、俺への呼び方変わってないか? 前は確か"お兄さん"だったと思うんだが?」

「だって今日からなのでしょう? 衛宮士郎として生きるのは」

 その言葉に思わず体が揺れる。

 自分で先ほど言ったこととは言え、その意味を理解している者がいるとは思ってかったのだ。

 士郎はなるべく同様を抑えながら会話を続けた。

「気づいてたのか?」

「私達カレイドステッキは、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグに作られた魔術礼装です。第二魔法にも詳しいんですよー。と言っても、半信半疑だったんですがねー、今日までは・・・・・・」

「なるほどな、あの魔法使いの魔術礼装なら当然か。・・・・・・俺のことについてはいずれ話す。今は黙っていてくれ」

 いずれ気づかれるとは思っていた士郎だが、まだ話す時ではないとルビーに釘をさす。

「了解しましたー。熱く語りあった中ですからねー、頼みぐらいは聞きますとも!」

 助かる、一言だけそう言うと士郎はイリヤ達へ呼びかける。

「今日はもう帰ろう、みんな疲れてるだろうからな」

「「うん(はい)」」

 二人と遠坂達のところへ歩き出した。

 その瞬間。

 ズサリッ、と・・・・・・後ろからその音が聞こえ来た。

「――!?」

 いるはずのない足音、士郎はイリヤ達をかばうべく前に出ると、そこにいたのは長刀を肩に抱え、着物を着た男だった。

 

「佐々木・・・・・・小次郎・・・・・・だと?」

 

 士郎の呟きに、その男は面白そうな笑みを浮かべる。

「む? お主私を知っているのか? しかしちと違うな。私はただの亡霊、佐々木小次郎にされただけのものだ。それよりお主、先ほどの戦い見事だったぞ。何、剣士の決闘に入るのは無粋と思った故な、ここまで待っていたと言うわけだ。それにしてもキャスターめ、こんなところへ呼び出して何をしろと言うのかと思えば、なかなか面白いものがあるではないか」

 流れるように話しはじめた佐々木小次郎・・・・・・いや、ここではアサシンと言うべきか。

 突如現れたその佐々木小次郎の亡霊アサシンは、黒英霊と違い自我がある。

 それを聞いた士郎は確認するように次の言葉を口にする。

「アサシンのクラスカードなのか? だけど何故自我がある?」

 アサシンのクラスカードと言う言葉に、戦闘態勢に入るイリヤ美遊。

「いや、これは・・・・・・クラスカードじゃない、のか?」

 クラスカードから現界している英霊が黒英化しているのには理由がある。そしてそれは、クラスカードからの現界ならばその影響は例外なく受けるはずだ。 

 そこまで思考した士郎は、ある可能性に気付く。

(理由は分からないが、クラスカードで現界する英霊は俺がいた聖杯戦争をもとに存在している。だとすると・・・・・・。それにさっきの言葉・・・・・・ッ! まさか!!)

「キャスターがあらかじめ召喚していたのか!? ならなぜ今まで・・・・・もしかてクラスカードで現界できる英霊は一騎が限界なのか?」

 つまるところ、キャスターを倒したことにより、クラスカードに存在する魔力によって儀式が完成したということ。そもそもキャスターは士郎たちが来ることがわかっていたように準備していた。意識があったわけではないだろう。そうじゃない。ただ、無意識に士郎がいた聖杯戦争を再現しようとしていた。

(飛躍しすぎか? しかし、それ以外に考えられないか・・・・・・)

 仮にそれが本当だとすれば、これは想定以上に厄介な状況だ。

 士郎はアサシンの強さを知っている。しかも倒してもカードはないときた。思わず笑みがこぼれるほどに最悪な状況だ。

「さて、双剣の使い手よ。一手交えてもらおうか。できれば全開のお主ともやってみたかったのだが、日を開けられるほど魔力が持ちそうにないのでな。もちろん逃げようとするなら、斬り捨てる。失望させてくれるなよ?」

 やるしかない、そう考え干将・莫耶を手に構える士郎。魔力はとうに尽きている。 投影できてもせいぜい後数回だろう。

 イリヤ達の攻撃は基本遠距離だ、接近戦は得意ではない。あの剣の達人を相手には部が悪すぎる。

「イリヤ、美遊、援護を頼む。間違っても隙を見せるな、見せた瞬間斬られるぞ」

 その言葉にイリヤと美遊は一層気を引き締める。

「行くぞ、アサシン」

 その言葉とともにアサシンに向かって駆け出す士郎。それに答えるようにアサシンも構える。

 振り下ろされる二本の夫婦剣。アサシンはそれを難なく受け止める。

 怒涛の攻めともいえる士郎の攻撃を、技量のみで躱し、流し、受け止める。2人の剣がぶつかるたびに火花が飛ぶが、構わず2人は斬りあっている。

(やばいな・・・・・・これ)

 士郎の感じた僅かなそれは、隙となってアサシンの攻撃を身にうける。圧倒的な技量の前に、「強すぎるだろ」と言う言葉が口から出てくる。

 この10年間剣術を学んできた士郎だからわかる。あれには勝てないと。

 勝負するなら、間合いの外。さらに言えば遠距離からの不意打ちのみ。しかし、今の士郎に弓用の剣を投影するほどの魔力は残っていない。

 さらに言うならば、接近戦・・・・・・さらには剣の打ち合いにおいてアサシンは第五次聖杯戦争において最高のサーヴァントと言われていたのだ。勝てる確率はないに等しい。

 それでも士郎は剣を振るう。

「投影_・・・・・・、――!?」

 

 投影できない。

 

 士郎の魔力が尽きたのだ。必然的に一本の剣のみで応戦するしかない。

 そんな、士郎の援護にと、イリヤ達が魔力弾を放つ。

「「放射(シュート)!!」」

 それに気づき士郎が避けると、2人の攻撃は真っ直ぐにアサシンへ向かう。

 ただの魔力弾。しかし、”ただの”と称するには魔術師が放つそれとは威力が桁違いだ。

 二人のそれは直撃すれば英霊にダメージを与えることも簡単だ。

 しかし。

 

 二つに割れる。

 

 アサシンを対称に、イリヤたちが放った魔力弾は二方向に進み、そのはるか後方で爆発した。

 そこにいたのは長刀『物干し竿』を振り下ろしたアサシン。その光景に言葉が出ないイリヤ、美遊も同様を隠せない。

「無粋な真似はするな少女らよ。修行が足りんぞ、出直してくるがよい」

 イリヤ達には見向きもせず、再び士郎と向かい合う。

「それにしても、その首七度は落としたつもりだったが・・・・・・流石と言うべきかだろうな。だがそろそろ限界のようだ。ならば最後に此方も死力を尽くして答えよう、我が秘剣うけてみるか、少年よ」

 その言葉に本気でやばいと感じ始める士郎。

 アサシン・・・・・・佐々木小次郎の秘剣。一本の長刀で空のツバメを切るために習得したそれは、剣技のみで多重次元屈折現象すらおこす、全く同時三つ剣を相手に放つ秘剣である。円弧を描く三つの軌跡は、その時実際に刀が増えており、一の太刀筋を止めたとしても、二の太刀、三の太刀により四散される。

 ただでさえ邪道の剣と言われたアサシンの剣技は、一太刀振るえば首が落ちる。

(どうする・・・・・・!!!)

 体力の限界か思考がまとまらない。

 視界がぼやけ焦点がずれたそのわずかな瞬間。

 認識できた時にはすでにそれは目の前にあった。

 

 アサシンの剣が士郎へと迫る。

 

 防御も回避も間に合わない。

 

 しかし、それは青白い火花を塵ながら弾かれる。

 それを行ったのは、赤い姿、二つの剣、『干将・莫耶(かんしょう・ばくや)』を手にした一人の少女。

 

 ――イリヤだった。

 

 

 

 

 ほんの少し前のこと、魔力弾を切り捨てられ戦力外通告を受けたイリヤ達は、そこにただ立っていた。

 目の前にいる兄はすでに限界だ、どうにかしなければいけない、だけどやり方がわからない。二人は、ただその場にいることしかできない。

 イリヤは口にする、

「・・・・・・助けなきゃ」

(どうやって)

 何かが答える。

「助けなきゃ」

(ドウやって)

 イリヤの中にいる何かが。

「タスけなキゃ」

(ドウヤッテ)

 

「――力なら、ここにある」

 イリヤの中で何かが壊れる。それと同時に溢れ出す膨大な魔力。

 それは、聖杯として、その存在の証明。

 その魔力に美遊は驚きを隠せない。

(イリヤスフィールはこの前まで普通の女の子だったはず。魔術師でもない彼女がなぜこれほどの魔力を!?)

 イリヤは目の前に落ちていたアーチャーのクラスカードを手に取り、それを地面に置く。

「・・・・・・『無幻召喚(インストール)』」

 それと同時に現れたイリヤを囲う魔法陣、そこから複数の白い光の魔力がイリヤへと注がれていく。

 光が収まり現れたは、先ほどの戦った英霊と同じく赤い格好をしたイリヤだった。

 そのまま、イリヤはその手に二本の剣を作り出すと、士郎の元へ駆け出して行く。

 

 

 士郎の前に現れたイリヤ、その姿は魔法少女ではなくアーチャーのそれだった。

 驚いたようにする士郎だが、その格好は知っている。

「(封印が一つ解けたのか!? 知識として知ってはいたが、まさか本当に自身の体を媒介に英霊の力を召喚させるなんてな)」

 そんな中、アサシンはしらけたように構えを崩すとイリヤに向かって問いだした。

「無粋な真似をするなと言ったはずだぞ少女よ。それとも何か? その剣、お主が戦うと言うのか? それも良かろう、だが覚悟は持て、此方とて手加減できぬ故な」

「・・・・・・・・・・・」

 アサシンに対してイリヤは無言。

 一瞬士郎の方を一瞥するとアサシンの方へ走り出す。

 お互いの剣がぶつかり合う。美しくもあるその剣技による戦いは、見ているものをも魅了する。

 方や、長い年月をかけ洗練させ、技量ののみで第二魔法さえ引き起こす男。方や、才能はなくとも技量を磨き、己より強い相手と斬り交えていた男の剣。

 イリヤは二刀により変幻自在の剣戟を繰り出すが、アサシンはそれを円の軌道で打ち落す。

 イリヤはすでに守りの形で戦っていた。押されているわけではないが、攻めへ転じる事ができていない。その光景に士郎は苦い表情を浮かべている。

 確かにわたり合えてはいる。しかしイリヤの『無幻召喚(インストール)』したのはアーチャー。本領は遠距離からの攻撃だ。

 士郎の思考と同時。イリヤは、剣に弾かれるように後ろへ飛び、黒と白、二つの剣を投擲する。すぐさまに投影。瞬きの様なわずかな時間。その数は10。

 休むことなく、イリヤはすでに次の攻撃へと移っていた。それは弓。放たれたのはAランク宝具『偽・螺旋剣《カラドボルグⅡ》』。

 矢の形をしたその剣は、音速でアサシンへと迫る。しかし、

 

 ――それをいなす。

 

 音はなかった。静かな動き。剣技の最高とまでとれるそれによって、アサシンはイリヤ渾身の一撃を回避する。

 化け物じみていた。

 これが英霊同士の戦い。

 突然。アサシンは愉快そうに、笑みを浮かべる。

「いやはや、剣を使うかと思えばアーチャーだったとは恐れ入る。クラスカードとやらから離れられぬ私では、いささか部が悪い。一気に終わらせてもらうぞアーチャー、我が秘剣その身をもってうけてみよ」

 それに対してイリヤも一つの剣を投影した。

「『投影_開始(トレース_オン)』」

 手に現れたのは一つのの刀。アサシンが使う全く同じ刀『物干し竿』。

 それに対して何も言わずに秘剣の形に入るアサシン。それと同時にイリヤも同じ形をする。

「――――秘剣」アサシンが口にする、

「――――秘剣」それと同じようにイリヤも口にした。

 

「「『燕返し(つばめがえし)』」」

 

 二つの剣が次元をゆがめた。

 

 イリヤの行動は単純明快。三つの剣が襲うのなら、三つの剣で防げばいいと言うもの。

 普通なら不可能。だがアーチャーの投影魔術はそれすらも可能にする。

 基本的に投影魔術には工程が存在する。

 創造理念、基本骨子、構成材質、製作技術、憑依経験、蓄積年月。

 具体的に言えば創造の理念を鑑定し、基本となる骨子を想定し、構成された材質を複製し、製作に及ぶ技術を模倣し、成長に至る経験に共感し、蓄積された年月を再現する。

 その中の憑依経験によって、その投影品に宿った経験や技量を模倣することができるのだ。

 多重次元屈折現象すら起こし三つに増えた刀は、お互いにぶつかり合い、全ての剣が弾き合う。

 お互い無傷で向かい合う。口を開いたのはアサシンだった。

「よもや我が秘剣を我が秘剣で破られようとはな。もう少し楽しんでいたいが、どうやら時間のようだ。秘剣を出しても殺しきれなかったのだ、ここでごねるのは無粋というもの。・・・・・・楽しかったぞ少女よ。そして少年、今度は全力で戦って見たいものだ。・・・・・・小さき小鳥と思ってみれば、まさか獅子の類だったな。女性を見る目には自信があったのだが・・・・・・どちらも修行不足であったな・・・・・・」

 その言葉を最後にアサシンは消えていく。

 イリヤはその場に倒れこむと、力を使いすぎたのかアーチャーの姿が解けている。

 すぐに駆け寄って見ると気絶しているだけのようで、小さく呼吸もしている。

「イリヤスフィールは大丈夫、ですか? それとあれは・・・・・・」

「ああ、あれが本来のカードの使い方だろうな。自身の体を媒介に英霊の力の擬似召喚、イリヤもただ疲れて寝てるだけだから大丈夫だ」

「いやーびっくりしましたよー。まさかステッキの私ごと融合するなんて・・・・・・それにイリヤさんのあの雰囲気、おそらく何かあるんでしょうが・・・・・・」

「詮索はするなよ、いずれ分かることだ。今のイリヤは普通の女の子だ、まだその時じゃ無い」

 士郎の寂しそうな物言いに、美遊とルビー、サファイヤは思わずに押し黙る。

 ぼふっ、と地面から飛び出してくる人の腕、

「死ぬかと思ったわー!」「なぜわたくしがこのような・・・・・・」

 ゾンビのように地面からはあがってきたのは、遠坂とルヴィアだ。

「遠坂たちも無事だったか。セイバーとキャスターのカードは手に入れた。だけどイリヤが倒れたんだ、今日はもう帰らないか?」

 口に喋り出す士郎のそれに、

「ちょっと衛宮くん? あんなわけのわからないことを散々しといて、素直に返すわけないでしょ?」

 満面の笑みで笑いかけてくる遠坂。

 女性の笑顔は攻撃など言われることもあるが、遠坂のそれは明らかに凶器を超えている。

 思わずたじろいでしまった士郎は、逃げるが勝ちと、その場からの逃亡を選択する。

「ルビー、ジャンプだ!」

「そんなことだろうと用意してましたよー。三秒前、に、いち、ジャンプ!」

 空間転移前に遠坂たちが何か言っていたが、全て無視した。直前に美遊に後は頼むと伝えている。

 転移するにはルビーかサファイヤ、どちらかのステッキが必要だ。

 すでにルビーはここにいるため、こちらにくるにはサファイヤを使う必要がある。

 士郎の言葉の意味を理解した美遊なら少しの間時間を稼いでくれるだろう。そのわずかな時間を利用して、士郎とそれに抱えられたイリヤは家へと帰って行った。

 

 自宅へと帰った士郎は、イリヤをベットへ寝かすと、その体へと手を触れる。決して邪な気持ちがあるわけでは無い。・・・・・・と思うが、今回は大丈夫だろう。「そんなこと言ってー、実はイリヤさんの体が目当てのくせにー」と、途中からかいを入れてくるルビーを物理的に黙らして、本来の目的を行う。

 イリヤに対して解析魔術を行うためだ。

「『解析_開始(トレース_オン)』」

 読み取られたイリヤの情報からは、やはり聖杯を押さえつけていた封印が一つ取れていた。

 それが意味するのはこれまで封印されていたもう一人のイリヤ・・・・・・いや、本来のイリヤが目覚めたことを意味する。

(違うな最初から眠ってなんていない、ただ見ていることしかできなかっただけだ)

 この世界へ士郎が来て、イリヤと出会った時にはすでに封印が施され、士郎にはどうすることもできなかった。

 しかしそれは言い訳だ。そんな事実、イリヤにとってはどうでもいいことだ。

 そのことを知れば、本来のイリヤは士郎に対して怒りを思うだろう、恨みを感じるだろう。

 それでも士郎はイリヤの味方になろうと決めていた。

 『助けたいと思ったから助ける』そのために戦う士郎にとって、自分を恨んでいようが殺そうとしようが関係ない。

 相手は自分を恨んでいるかもしれない。

 

 ――かまわない、それでも助けたいと思ったんだ。

 

 生きたいと泣いている女の子がいる。

 

 ――だったら、その子が見つける幸せの道まで、側に寄り添い歩いて行こう。

 

 衛宮士郎のそれは正義ではない、もっと別の何かだ。

 しかし士郎は気づかない、自分のそれがなんなのかを。

 それを知るのは近い未来、誰かが口にしたその言葉によって、士郎はそれを理解する。

 長い一日が終わり、時はすでに進んでいる。衛宮士郎のその道は、まだ始まったばかりだ。

 

 ――――清算すべき事柄は、

        まだ残っているのだから――――

 

 

 

 

 

 




みんな大好き『燕返し』の登場です。
アニメ全話まだ見てないので、早く全話みたいです!

何か気づいた事があれば教えてください(><)

今回も読んでくださった方ありがとうございます!!


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6話目とかとか〜♪ 進展編

遅くなってすみません!!
今回はストーリーの補強です。
イリヤと美遊の絡みは難しいです

勢いで書いてたら変な方向に行ってしまいましたがこの展開はこの展開で自分は好きです!

それではどうぞ!!


 

 

 

 自身にかかってある布団が心地よい。悩むまでもなく、自身のいる場所はベットの上だと判断する。

 顔に朝の光がカーテンの隙間から差し込んでくる。うっとおしいことこの上ない。

 朝が弱いイリヤは、このひと時だけは好きになれない。 

 いつもならば、このうっとおしい朝を帳消しにして余りある士郎の登場が・・・・・・。

「――ッ!? そうだっ・・・・・・! お兄ちゃんは!?」

 慌ててベットから飛び起きる。しかし、うまく体が動かない。足が生まれたての小鹿のようプルプル震えている。

 自分の体が自分ではないようだ。――? それを疑問に思うよりも早くイリヤは倒れてしまう。

 その時。ちょうど。絶妙なタイミングで、一番この状況を見られたくない人間が部屋へと入ってきた。

「イリヤさんそろそろ起きないと・・・・・・って!! どうしたのですか!?」

 イリヤを抱えて体をまさぐるように体調を確認すると「体温計を持ってくるので!」と、慌てるように部屋を飛び出していった。

 その対応の速さはさすがアインツベルン家の家政婦と言ったところだろう。まぁ、大袈裟にしすぎるのがたまに傷・・・・・・と言うかイリヤにとっては現在進行形で致命傷だ。

 ドタバタ、と音が似合いすぎる行動で戻ってきたセラは、そのままイリヤの体温を測る。

 

「今日の学校はお休みですね」

(だよねー)

 

 確かに熱はある。

 でも、休むのはやりすぎだと、イリヤは抗議の声を上げるがセラは取り合わない。

「こんぐらい大丈夫だってば・・・・・・セラ過保護すぎー」

 こうなったセラの意見を変えるのは不可能だ。

 良くも悪くも頑固だよね、とイリヤは思いつつも口には出さない。なぜなら、たびたび士郎が口に出し、壁に顔がめり込んでいる現場を目撃しているからだ。

 イリヤスフィールと言う少女は、意外と要領がいい少女なのである。

 ひとまず、今の状況を理解したイリヤは、お兄ちゃんは? と、先ほどから気になっていた士郎のことを尋ねる。

「士郎でしたらもう学校へ行きましたよ? イリヤさんを休ませろと言っていたのですがまさかこの事だったとは」

 と、どうやら無事のようだ。

 話しを聞いて安心すると同時に、自分のことを心配してくれていたことに赤い顔がさらに赤くなる。

(でもあそこからどうやって・・・・・・? ううん、分かってる、美遊さんしかいない)

 イリヤに昨日の記憶はない。

 正確には英霊化の記憶がないのだが、「美遊が助けてくれた」と結論づけるのにそう時間はかからなかった。

 それほどまでに、さらに言うと嫉妬してしまうほどに、昨晩の二人の信頼関係はすごかったのだ。

 妬む。と言うよりは喪失感の方が強い。

(それでも・・・・・・)

 今度お礼を言おう。そう考えると同時に、やはり、自分の無力さを眠る身体で感じるのだった。

 

 

 

 

 時間は夕方、美遊は手に取った花瓶を持ち上げると、その下をきれいに拭いていく。いかにも高そうな花瓶で、そこらの人間なら怖くて近づくことすらできないのだが、美遊には慣れた仕事だ。伊達に今までルヴィアの家でメイドの仕事をこなしていない。

 今日一日、屋敷の内の掃除を意渡されたのだ。

 昨晩士郎たちを逃がしたお仕置きと言うより、昨晩の疲労を考えての事だろう。学校に行くより、何かあった時にすぐに対応できる屋敷にいたほうが良いだろうと考えたのかもしれない。

 その優しさが、今の美遊に嬉しかった。

 仕事も少なくなってくるころ。

 美遊は、イリヤのことを考えていた。

 昨日のことを。昨日の戦闘の事を。

(昨日の力、イリヤスフィールはカードの使い方を知っていた? それとも別の理由が・・・・・・)

 いろいろ考察を立てるが・・・・・・でも、と。

 おそらく後者だと。

 士郎の言い方から予想を立てる。

 士郎は、まだ知るべきではないといった。それがどういった意味なのか美遊にはわからない。しかし、士郎が言ったならば、美遊はあくまでそれに従おうと思った。

 ルヴィアに言いつけられた仕事を終え、少し休憩しようと考えた美遊に。  

 突然。

 サファイアから聞きおぼえのある声が聞こえてきた。

 

『サファイアちゃーんこちらルビーこちらルビー応答願いまーす!』

 

 もしかしなくてもイリヤが持ってるステッキの声で、その後ろからは『えっえっまだ心の準備が・・・・・・』などという声も聞こえてくる。

「サファイアこの声は?」

 その問いかけに答えるようにサファイアからイリヤの声が聞こえて来る。

『あっあの美遊さん、とりあえずこんにちはかな・・・・・・あはは』

 サファイアに通信機能だと説明をうけ、なぜ急に? と、イリヤへと質問する。

「それよりもどうかしたの、イリヤスフィール?」

 昨日あのようなことがあったばかりだ。

 美遊は、カード関係で何か問題があったのでは? と少し気を引き締める。

 しかし、そこで返ってきたのは、

『いや少し美遊さんとお話したくて、今なにしてるかなーとか・・・・・・思ったり?』

「・・・・・・・・・・・・そう」

 なんともまぁ、拍子抜けする答えだった。

「そ、そういえば美遊さん今日学校は?」

 美遊の反応に慌てたのか、イリヤは分かりやすいぐらいに質問を変える。

「今日は休むように言われたの、ルヴィアさんに休養を言い渡されて」

『そ、そうなんだー・・・・・・』

「・・・・・・・・・・・・」

『・・・・・・・・・・・・』

 会話が続かない。 

 気まずい空気が流れる。

 そこへしびれを切らしたのか、今度はルビーが声を上げた。

『もーもどかしいですねー! 初デートのカップルの会話ですか! これじゃ埒が明きません、テレビ通信に変えましょう!』

 急にテレビ切り替わると言われて焦ったのは美遊だ。今はメイド服。一度は見られているが何度も見られたいものではない。と言うか普通に恥ずかしい。

 「待ってっ!?」という美遊の声を無視するように、目の前の空間にイリヤが映し出されていた。

 イリヤが見えるということは自分も見られている、そう判断した美遊は恥ずかしそうに体を手で隠す。

 イリヤはそんな美遊をまじまじと見ると、何かひらめいたかのように口を開いた。

『美遊さん今から私の家に来ない? ていうか来て! 今すぐに!!』

 興奮したように言うイリヤに、若干恐怖を感じる。

「それはいいけど、着替えていくから少し時間かかるかもしれない」

 なぜそうなる!? とでも言うように首ををぶんぶん振るイリヤ。

『違うの!! そのそのままの服で、そのメイド服で来てほしいの!』

 なんでそうなる? と美遊が思ったのはごくごく自然な思考だろう。

「それは恥ずかしいから・・・・・・無理」

 恥ずかしそうに、だががきっぱり否定する美遊に、

『大丈夫! 今私熱が出てベットにいるから、メイドが看病にくるのは普通だから』

「・・・・・・・・・・・・」

 なにも大丈夫ではないイリヤの理論に、流石の美遊も黙ってしまう。

『お兄ちゃんも喜ぶから!』

「・・・・・・・・・・・・わかった、少し待ってて」

 士郎のことを出された美遊が、思考を放棄するのにそこまでの時間はかからなかった。 イリヤの、『計画通り』と言わんばかりにほくそ笑む顔を見ても、それを気にしない程度には、である。

 美遊がイリヤの家に到着するのはそれから三十秒後の事であった。

 

 

 

 

 美遊との通信を終え待つこと・・・・・・とい言うかミジンコほどにも待つと言えるほど時間はかかってないのだが。

 家のチャイム音の音がする。

 士郎を餌に使ってしまったことは反省している・・・・・・が、後悔はしていない。

 熱を引いていてよかったと思う。

 おそらくどころか確実に、先ほどの事を熱のせいにしようとしているようだ。

 玄関が開く音がし、階段をのぼる足音がする。部屋の扉が開いたところでイリヤは動き出し、完全に扉が締まったところで美遊へと抱きついた。

 美遊は「きゃっ」と可愛い声を聴きながら、そのまま床へと倒れ込む。

 否、押し倒す。

 イリヤの興奮しながら身体を触る変態行為のそれに、美遊は訳が分からず涙目を浮かべようだが・・・・・・。

 何故だろうか。それを止めることができない。

 完全に思考が飛び、後々後悔するのは確定したのだが、未だに理性を取り戻す様子はない。 

 

 そして、そのR15確実なその空間は、セラが飲み物を持ってくるまで続いたのだった。

 

 

 

 

「ごっごゆっくりどうぞ・・・・・・」

 戸惑いながら部屋を出ていくセラの姿をしり目に、折りたたみ式のテーブルを挟んで座る、イリヤと美遊の姿があった。

 セラが部屋に入ってからイリヤは一言も口に出していない。

 どうやら黒歴史どころか真っ白に戻したい出来事なのだろう。

「さっきはごめんなさいでした!! あれは勢いというか、爆発したといいますか・・・・・・」

 目にもとまらぬ速さで土下座するイリヤに、「大丈夫だから・・・・・・」と恥ずかしそうに美遊は答える。

「そ、それよりも熱があるって聞いたけど大丈夫なの?」

 話を変えようとする美遊に、イリヤはのるしかない。

「うん、大した事はなかったから。お昼には治ってたから暇してたんだ」

「・・・・・・・・・・・・そう、よかった」

 会話が途切れる。

「そ、そういえば昨日お兄ちゃんを助けてくれたの美遊さんだったんでしょ? ありがとう!」

「えっ・・・・・・?」

 イリヤの発言に驚きの声をあげる。

 事実はイリヤが倒し、美遊が傍観していたのだが、記憶を違えているのには何かしらの理由があると判断し、美遊は追求するのをやめた。

「それなら、イリヤスフィールも私の事守ってくれてありがとう」

 照れたように言う美遊にイリヤも照れて下を向く。

「んー、そのイリヤスフィールって言うの長くないかな? イリヤでいいよ。友達もみんなそう呼ぶし、フルネームって少し照れるかなーなんて・・・・・・」

 そう言って自嘲気味に笑うイリヤ。

 そんなイリヤを前に目を見開いて固まる。

「・・・・・・とも、だち・・・・・・・・・・・・?」

「えっちがうの!? もしかして私の片思いだった!?」

 言い方が先ほどの行為と相まって誤解させても仕方ないような言葉。だが、イリヤの精神年齢はそこまで高くない。

 それに気づくにはあと二、三年は必要だろう。

 思わず涙目になっているイリヤ、それをみて美遊は慌てて首を振った。

「そ、そうじゃないの! その、それなら・・・・・・私のことも美遊って呼び捨てで・・・・・・」

 頬を赤く染めながら話す美遊にイリヤは嬉しそうに笑顔をつくる。

「それじゃあこれからもよろしくね美遊!」

「よろしく、イリヤ」

 そう言って手を握る二人は『友達』となったのだった。

 

 

 その後、調子にのったイリヤが下着のみで美遊を押し倒す、という光景を友達に見られてしまったり、美遊に感化されメイド姿に戻ったセラがいたりと、帰るまでの出来事をルビーから聞いた士郎は「なんでさ・・・・・・」とつぶやくのだった。

 

 

 

 

 士郎は学校を終え自宅へ帰る途中だった。そこへ一台の黒い車が士郎の横へと停車する。立ちどまって様子をみていると車のウィンドウが開き、一人の男が顔を出した。

「・・・・・・おやじ?」

 衛宮切嗣、士郎の義理の父親でありイリヤの実の父親だ。

 戸惑っている士郎に、切嗣は軽く微笑むと。

「ひさしぶりだな、乗るか?」

 ドライブに誘われた。

 その言葉に士郎は、「ああ」と、首を縦に振る。

(逃げるわけにはいかないからな)

 士郎は一つの覚悟を胸に抱き。さてどうするかな・・・・・・、と予想より早い展開に少しだけ頭を悩ませた。

 

 

 士郎が車へ乗り込み数分立つ。まだお互いに口を開かない。 

 と言っても、切嗣はもともと口数が少ないうえに何を考えているかわからない。士郎ですら分からない。原作知識がなければ、家族としても完全に疎遠になったことだろう。

 切嗣は街の至るとこを回りながら走っている。目的地は決まっているようだが、遠回りをしているようだ。

(俺の考えてることはお見通しってか)

 士郎に思考の時間を与えているのだろう。

「母さんは一緒じゃないのか?」

「――ん? ああ、母さんは明日帰るそうだ。僕だけ先に帰ってきたんだ」

 何のために、とは聞かない。予定外の帰国、何かを決めたような切嗣の目を見て士郎の覚悟はすでに決まっていた。

 

 

(懐かしいな)

 士郎は目の前にあるそれになんか感慨深いものを感じた。

「教会・・・・・・か・・・・・・」

 そこは、聖杯戦争時に中立地帯として存在していた場所だ。こちらの世界に来てからは、一度も来ることはなかったというのに。

「なんだ、知ってたのか? 神にお祈りするタイプではないと思ってたんだが」

「まぁ、神様がいるかどうかって聞かれたら。いるかもな、って答えるぐらいには興味があるからな」

 ――ほら、例えばギルガメシュとかヘラクレスとかさ。

 

 心の中で呟くそれを口に出したりはしない。だって。興味があるどころか、殺し合った経験すらあるのだから。

 

 笑いながら答える士郎に切嗣は「・・・・・・そうか」とだけ答える。

 

 教会の中には、二人の人物がいた。

 一人は紅いコート羽織る黒髪長髪な男、もうひとりはイリヤの学校で保険医をしている女性。

「ウェイバー・ベルベットにカレン・オルテンシア、か? 思ったより大物だな」

 士郎の言った通りどちも魔術関係では大物だ。

 それを聞き二人も口を開く。

「あら? 随分なものいいね、つい最近まで自分の生き方すらわからない子犬の分際で」

「確かに切嗣さんから聞いていたのとは少し印象が違うな」

 ウェイバーはチラッと切嗣を見る。

「ははは、息子の成長は嬉しいものだよ」

 その切嗣の言葉に納得したように頷くウェイバー。

「なるほどな、目に力がある。何かを見つけたものの顔だ」

 

 士郎を忘れたかのように話し始める三人。

 

(この人達の観察眼キモいんだけど・・・・・・)

 

 士郎は心の中でつぶやく。

 この三人相手に隠し事などあってないようなもんだ、腹の探り合いでは絶対に勝てない。 と言うか、この状況にもって来られた時点で勝負なら負けている。

 そんな士郎の心の中を感じ取ったのか切嗣が向き直る。

「僕は父親なんだから当然じゃないか、変なのはこの二人だけだろう」

 それがもうアウトなんだよ、と言いたいのをぐっと我慢し士郎は本題へと入っていく。

「それで、この状況はなんなんだ」

それに答えたのはのはウェイバーだ。

「そうだな、それでは本題に入ろうか。衛宮士郎」

 周りの空気が変わる、士郎はそれに答えるように肩の力を抜いた。

 それは、安堵。自分の隠し事を暴かれる瞬間、それがなぜか心地いい。

 秘密を抱えることは自分との戦いだ。それから開放される。だからだろう。士郎は笑みすら浮かべている。

 

「君は一体何者だ」

 

 ウェイバー・ベルベットは口にする。

「衛宮士郎。今あんたが言ったとおりの者だが、それじゃ不満か?」

 士郎はおどけるように答える。

 駆け引きなんて大層なものじゃない。士郎はここに来た時点で、すべてを話すと決めている。だからこれはただのいたずら心だ。

 

 ――怪しい人物でも演じてみよ。

 

 完全なクソガキである。

 

「冗談だよ、何が聞きたい? 出血大サービスだ、なんでも答えてあげるさ」

 手を広げながら。パフォーマンス精神を忘れない。だてに衛宮士郎を演じ続けたわけではないのだ。

「なら最初の質問だ。君は一体何者だ?」

 表情を変えることなく会話を続けるウェイバーに、つまらない表情をするも感心する。

 なんでも答えると言った士郎の言葉に疑問すらうかべない。

(少しぐらい動揺しても良さそうなんだけどな)

 そんなことを考えながらも士郎は答える。

「何者かなんて覚えてないよ、今は衛宮士郎と名のるものってところか・・・・・・」

 自身の生き方を見つけようが。衛宮士郎をやめようが。もう。

 

 少年は、自分の名前すら思い出せない。

 

 自分を覚えてないなんて普通ならありえない。それはつまり、それほどまでに衛宮士郎として生きてきたという証拠なのだ。

 自分を隠し、殺し続ける。その結果がこれだった。

 人格の上書き。いうだけなら簡単だが、それを実際に行ことは不可能に近い。例えるなら。自身で今存在する脳細胞を殺し、新たに一から作り出すようなものなのだ。 

「・・・・・・そうか、なら次の質問だ。聖杯戦争これについて知っていることを話してほしい」

 士郎の言いに少し考えたることでもあったのか少し時間を空け、ウェイバーは続ける。

「そうだな・・・・・・七人魔術師がそれぞれ七騎の英霊を召喚し、願望機である聖杯を巡って行う抗争行為・・・・・・と、あくまでも表向きはな。本来は英霊が座に帰るさいに生じる”孔”を利用し『根源』に至ること」

 隠す必要はない。知っていることを淡々と答えればいい。

 言うまでもなく。士郎もこれぐらいの事は知っている。だてに世界を何度も転生していない。 

 魔術や、英霊の事などは、聖杯戦争が始まる前に独学で学んですらいた。

「なるほどな、その令呪のあとが聖杯戦争の関係者だと物語っていたが・・・・・・そこまで詳しく知っているとはな。せいぜい巻き込まれた一般人。その程度の認識だったのだが・・・・・・改める必要がありそうだ」

 ウェイバーの言葉に疑問を覚える。

(令呪のあとなんて見えないはず・・・・・・、まさか、魔術的要因か? そこから俺の存在をたどったのか。さすがに予想外だったな)

 令呪のあとなんて考えたこともなかった士郎は、少なからず動揺する。

 

 ――さてと。

 

 どう動くべきか、士郎の思考の今はこれだ。

 士郎はどうにかこの三人は味方につけたかった。と言うより敵対をしたくないといった方が近いだろうか。

 士郎はこの後がこの程度(しつもん)で終わるなどとは思っていない。

 魔術協会からしたら、こんな危ない奴をほおっておくわけにはいかない。切嗣にしても、聖杯戦争関係者などイリヤに近づけたくすらないだろう。

 さらにはこの後士郎は自身に起こったことを聞いてもらわなければ困る。最低でもそれに理解を示してくれる程度には信頼してもらう必要もあるのだ。

 並行世界の住人。第五次聖杯戦争の存在。その勝者。

 士郎の特殊な魔術も相まって、解剖コースまっしぐらだ。

 

 そもそも言わないという手もある。

 

 それでも士郎は言わなければならない。

 自分だけじゃダメなのだ。これからの士郎の形。それをしってるものが自分だけではだ足りない。

 

 士郎の記憶で、物語の中で、誰かが言った。

 

【やめておけ、お前らにゃ俺はころせねェよ。人はいつ死ぬと思う・・・・・・? 心臓を銃で撃ちぬかれた時・・・・・・違う。不治の病に侵された時・・・・・・違う。猛毒のキノコスープを飲んだ時・・・・・・違う!! ――人に忘れられたときさ・・・・・・】

 

 くだらない言葉遊びだ。けど、それ以上い名言だった。

 士郎は思う。

 

「なぁ。自分の姿(在り方)をしってるのが自分一人なんて悲しいと思わないか?」

 唐突に、衛宮士郎は語りだす。

「自身の在り方を肯定してくれる者もいない。否定してくれる者もいない。・・・・・・じゃあさ、もし。自身のそれが変わった時、誰が気づいてくれると思う? そうさ、誰もいない。誰も」

 三人は、何も言わずに士郎の言葉に耳を傾ける。

「そいつは死ぬんだ。過去の自分を殺して。新しい自分を作り上げる。誰もそいつを知らないから。変わったどうかすら分からない。止めてくれない。『人に忘れられたとき、人は死ぬ』そりゃそうだ。誰にも認識されないそいつが、生きてるわけないもんな」

 それはつまり、過去の自分は死人と同義だったと。

「だから、誰かに知ってるもらわないといけない。家族に。友人に。恋人に。道をまちがえたときに教えてくれる存在が、絶対に必要なんだ。お前の姿は本当にそれなのか。お前の在り方は本当にそれなのかと」

 そして士郎は言った。

 

「だから頼む。俺を知ってくれないか」

 

 二度と自身が間違えないように。

 美遊を助けたい。この気持ちを。本物を。絶対に失わないように。

 

 

 それを聞いた三人。そんな中、切嗣が自分の息子に語り始める。

 

「士郎、君は今自分が衛宮士郎を名のるものと言った。・・・・・・けどね、きみは僕の息子だ。君を助けたとき、令呪の跡を見て普通じゃないと思った。こんな小さい子が聖杯戦争の関係者だなんてね」

 士郎は切嗣の言葉を黙って聞く。

「・・・・・・それでも、僕とアイリの息子になると言ってくれた君を見て、守ってあげたいと思ったんだ。君が今何と戦っているのかはわからない、でもこれだけはわかってほしい。

・・・・・・僕は士郎の味方だ、だから話して欲しい、士郎に何があったのかを」

 士郎は目を伏せる。

「わかってるさ。何を言ってるか分からないよな。なら何度で・・・・・・も・・・・・・?」

 士郎の覚悟は固い。何をしてでもこれだけは譲らな・・・・・・い?

 

「えっなんだって?」

 

 それを聞いた士郎は、生まれて初めて自分の耳を疑った。

(あれ? 俺って鈍感主人公かなんかだっけ? ていうか今マジなんて言った、こんな怪しい人物を守る? そんなの衛宮切嗣じゃないだろ。そんなの本当の父親みたいで・・・・・・)

 そこで士郎は自分の頬に何かが流れてるのを感じた。

「は? 涙なんて・・・・・・ありえないだろ」

 それでも涙は止まらない。 

 そんな士郎を切嗣は抱きしめた。

「泣いてもいいんだ、辛かったと思う。もう我慢しなくて良いんだ、士郎が何者でも今の僕は守ることができる。そのために僕は今まで動いてたんだ」

「私ももちろん味方だ。切嗣さんに頼まれたのでね。それに君は僕達が起こした聖杯戦争の犠牲者でもある」

 ウェイバー・ベルベットはいたずらが成功した子供のように微笑む。

 どうやら先程までの雰囲気は演技らしく、それを知った士郎は軽くウェイバーをにらむ。

「私はあれね、あなたの泣き顔を見て満足したわ、子供の泣き顔なんていつ見てもゾクゾクするものね」

 一人だけ何を言ってるんだって感じだが、今の士郎には逆にありがたかった。

もともとそのつもりだったのだ、今更迷う必要はない。

 

「聞いてくれ、俺の過去を・・・・・・」

 

 それは士郎、そしてある少女しか知らないもう一つの物語。

 

「平行世界の出来事を・・・・・・『第五次聖杯戦争』を」

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます

フィーリングで書いていたらいつもまにか士郎の過去編を書くことになってしまいました 笑
考えていなかったので大変そうですが頑張ってみます!


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7話目とかとか〜 ♪ stay night編 セイバー


た、大変でした。
少し無理矢理な感があるかもですが、なるべく頑張ったつもりです。
参考にしてる作品があるのですがわかる人いたら嬉しいです・・・・・・有名な作品なんですが。
そんなわけでどうぞ!


 

 

 

 第四次聖杯戦争.

その終わりとともに流れ出た聖杯の泥によって,冬木の街は『地獄』と化していた。

 そこを歩く一人の少年。

 彼は自分の体から発せられる痛みに顔を歪めながらも、何とか前へと足を進める。

 ここがどこだかわからない、自分が誰だかわからない、なぜここにいるのかわからない。

 何もわからないな状態で、それでも前へと進んでいた。

 ここで止まったら死んでしまう。そんなことを思ってたのかもしれない・・・・・・。

 少年はとうとう力尽きた。瓦礫を枕に仰向けに転がる。

 死にたくない。その願を受けるようにに伸ばす右手。だが、周りにあるのは死体のみ、つかむ者などいるわけがない。

 右手を上げる力すら無くなりその腕が重力に従いながら倒れていく。

 そもそもすでに死に体。ここまで生きていることが奇跡なようなものだ。

 しかし、その手が地面に着くことはなっかた。

「よかった・・・・・・本当に良かった・・・・・・・・・・・・」

 泣きながら自分の手をにぎる男を見ながら・・・・・・少年は目を閉じた。

 

 

 気がつくと少年はベットの上いた。自分の体を確認するように動かすが、先程までの痛みはない。

 先程と明言したが、実際にどのぐらい眠っていたのかもわからない。

 だが、少し思い出したことがある。

 それは自分の事。

 まずはじめに、自分の名前を思い出した。名字が三文字、名前も三文字、どこにでもある名前だ。

 次に自分が何者だったかを思い出した、どこにでもいる普通の学生で、義務教育も終わってなかっただろう。

 しかしそれでは明らかにおかしいことがある、まず容姿が違う、年齢も違う。

 普通ならありえないことに、少年の頭ではすでに限界だ。

 

 

 そんな少年の心をよそに、病室の扉が開いた。

 入ってきたのは自分を助けてくれたであろう一人の男。それを見て少年は驚いた。なぜなら少年はその人物を知っていたのだ。

 自分が好んで見ていた作品、Fateに出てくる衛宮切嗣。

 なんとなくだが、少年の直感がそう告げていた。

 いや、そんな曖昧なものではない。

 確実に、ここがFateの世界だと、理解している自分がいる。

 混乱を極めた少年は、考えるのを放棄した。

 もしこの状況で冷戦な判断をできるものがいるのなら、是非とも変わってもらいたい。

 

 

 男が少年に話しかける。

「一つ聞くけど、知らないおじさんに引き取られるか、養護施設に行くのとどっちがいいかな?」

 

 少年は黙って男を指差した。確認するべきことがある。自分がどこの誰になってどこへ来たのか。

 男は満足したようにうなずくと、少年へそれを言った。

「――――うん。はじめに言っておくとね、僕は魔法使いなんだ」

 少年は確信した。ここはFateの世界で自分は衛宮士郎なんだと。

 切嗣が少年に名前を聞いてきた。少年は迷うことなくこう答えた。

 

 ―――士郎、と。

 

 

 

 少年、衛宮士郎は屋敷の縁側で座っていた。隣には切嗣がいる。

「僕はね『正義の味方』になりたかったんだ」

 少年はそのことを知っていた。

「なりたかったって・・・・・・諦めたのかよ」

「あぁ、『正義の味方』はね、期間限定なんだ。大人になったらなれないんだよ。・・・・・・もっと早くに気づけばよかったのにね」

「だったら俺がなってやるよ、親父の夢は俺が叶える」

「そうか、安心した」

 そう言って切嗣は目をとじると、そのまま眠るように息を引き取った。

 

 

 ****************

 

 

 それから数年、士郎は魔術の訓練を行っていた。

 本来の衛宮士郎同様、魔術回路のオン、オフを行わず毎回一から作り上げるという、命知らずな行為を・・・・・・。

 魔術を知っているものならば行うことはない。それでも士郎はやるしかなかった。

 もちろん理由はある。

 聖杯戦争において、宝具を投影するには普通ではありえない、強固な魔術回路が必要だ。

 なぜ、そのようなことをしているのか。それは・・・・・・。

 

 衛宮士郎に宿った少年は、この世界で生きるために衛宮士郎の模倣。それを選んだからだ。

 

 ・・・・・・いや、それしか道がなかった。

 

 少年は、衛宮士郎になるしかなかった。

 自分の意志での行動。それは歴史を、未来を、世界そのものを、それら変えることになる。

 

 仮に、一つでも運命が崩れればどうなるか。

 

 例えば、衛宮士郎のように生きず、間桐桜と合わなければ、ランサーに殺された際、遠坂は士郎を救わないだろう。もしかしたら助けるかもしれないが、可能性は低くなる。自分の妹の心を開いてくれた人、助けた理由の大半がこれのはずだ。

 なら、ランサーとアーチャーの戦いを見なければ・・・・・・そうすれば、遠坂との協定関係は難しくなり、その後の聖杯戦争を生き抜くのは至難の技だろう。遠坂たちの助けをなしにバーサーカーの相手など、無謀にも程がある。

 アーチャーとの戦いもそうだ、それから逃げれば固有結界を見ることができないし、その戦闘で得るはずのアーチャーの戦闘技術を得られず、にギルガメッシュと敵対などできるわけない。

 聖杯戦争自体に挑まなければ、ギルガメッシュが聖杯を手にし、世界は滅び、どこにいようと関係ない。

 

 全ての歯車が噛み合ってこそ完成するFateの世界。その中心にいるのが衛宮士郎なのだ。

 

 原作知識などほとんど役に立たないだろう。いや、変えることができないと言ったほうが正しい。

 『衛宮士郎として生きる』それが――――少年の唯一できることなのだ。

 

 だからこそ自分を捨てた。自分の心をなくした。不必要な意思をなくした。衛宮士郎を演じるために。

 『正義の味方』に憧れ、自分を顧みず、他人のために生き、その生き方を後悔しない。

 そんな衛宮士郎になるために。

 

 

 ――そして運命の夜がおとずれる。

 

 

 部活の備品の整理で遅くまで残り、学校から帰宅最中、士郎の耳に、激しい金属音が聞こえてくる。

 始まったのだ。

 士郎は迷うことなく校庭に向かう。

 そこには、知識通り、アーチャーとランサーの戦闘が行われていた。

 

 士郎の聖杯戦争、その序章が幕を開けたのだ。

 

 二人の戦闘を見ながら慎重に時を待つ、アーチャーの宝具は確認した。これで『干将・莫邪』は投影できる。

 流れを変えることはできないが、力はいくら持っていても問題はない。

 士郎は今日、ここで一回目の死を迎える。生き返れるかわからない、しかし士郎は迷わない。ここで死ぬことは必要なことだ。何より、これから進む自分の未来を考えるなら、はじめに(地獄)をくぐった方がいい。士郎はそう考えたのだ。 

 ランサーが宝具『刺し穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)』を打つ前にわざと注意を引き、こちらに意識を向けさせる。

 そのまま逃げるように校舎の中に入ると、思惑通り、予定どおりに士郎はここで死ぬ。

 心臓には一本の槍が刺さり、苦痛に顔を歪めながら、意識をなくす直前、それを聞いた。

 

「なんで・・・・・・なんであんたが・・・・・・よりにもよってこんな時に・・・・・・いえ、まだたすk――」 

 

 数分後、士郎は目を覚ますと、自分が賭けに勝ったことを確信した。そのまま迷うことなく家へ向かうとセイバーの召喚準備を行う。

 おそらくランサーが現れるだろうが、来ると分かっていればなんとかなる。

 

 家へ戻り、蔵へと向かうと、後ろからの殺気を感じ思わず避ける。

「ほぉう、いまのを躱すか。しかし解せねぇな、ならなんでさっきのを避けなかったんだ。心臓を穿たれて生きてるのも何かからくりがあるんだろうが・・・・・・」

「随分な言いようだな、人一人を殺しておいて。流石に死んで間もない身なんでね、少しぐらいは生きていたいさ」

 予想より早いランサーの登場に、思わず挑発めいた行動をとってしまう。

 話しながらも蔵へと後ずさる。

「なるほどな、まぁあれだ運がなかったと思って諦めてくれや、苦しまないように殺してやるからよっ!」

 ランサーは士郎の心臓めがけて槍を振るう。

 それを士郎は、とっさに投影させた『干将・莫邪』をクロスさせ受け止める。しかし勢いまでは殺すことができず、そのまま蔵の中へと吹き飛ばされた。

 初めての宝具の投影故か、それとも基本格子が甘かったのか、剣はすでに壊れている。

 それよりも驚愕すべきは英霊の力。

 知識と実際に経験するには、何もかもが違いすぎる。

 ふと顔を上げると、先ほどとは違い警戒心をあらわにしたランサーがこちらに問いかける。

「小僧、お前一体何者だ。さっきの剣、アーチャーと同じものだろ。・・・・・・まぁどっちにしろここで終りだがな」

 士郎は思った。

 こんな奴らと戦えるのか、と。

 それでも。

 士郎はその恐怖を断ち切った。なぜなら、士郎は演じるだけでいい。まねるだけでいい。

 

 ――今まで通り、衛宮士郎を。

 

 ランサーは槍を向ける。士郎はそれを見て怒ったように声を上げた。

 先ほどとはまるで別人のようにも見える。

「ふざけるな、助けてもらったんだ・・・・・・だから俺は生きなきゃいけない」

 ”トレース”しろ衛宮士郎を、本人だったら何を言って、何をするか、

「――生きなきゃいけないのに・・・・・・人を平気で殺すお前のようなやつに!」

 今までどおり自分を殺してなりきれ、俺は衛宮士郎、それ以外の何物でもない。

 

「――簡単に殺されてたまるか!」

 

 士郎の叫びとともに蔵が光りに包まれる。現れたのは青い騎士。

「サーヴァントセイバー、召喚に応じ参上した。問おう、あなたが私のマスターか」

 ランサーを吹き飛ばし佇む姿に、士郎は知っていたはずなのに声が出ない。

(なんて・・・・・・きれいなんだ)

 それは一目ぼれだった。

 何を暢気なと言われればその通りなのだが、士郎にとってそれは本来ありえない感情なのだ。

 

「今その話は後にしましょう。まずは敵を倒します」

 そう言ってセイバーはランサーとの戦闘を開始した。

 

 ――そしてようやく、衛宮士郎の聖杯戦争が幕を開ける。

「どうしたランサー、足を止めては槍兵の名が泣くぞ」

「卑怯ものめ! 己の武器を隠すとは何事か!」

 

 ――物語は進んでいく。

 

「そっか、そういうことか・・・・・・はじめまして、素人なマスターさん」

 

 ――遠坂との会合を終え。

 

「衛宮士郎、これより君の世界は一変する。君は殺し、殺される側の人間になった。その身はすでにマスターなのだから」

「戦うさ・・・・・・聖杯戦争なんて馬鹿げた争いを終わらせるためにな」

「喜べ少年、君の願いはようやく叶う、取り繕う必要はない、君の葛藤は人間としてとても正しい」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 ――協会にて言峰綺礼との問答をし。

 

「久しぶりだねお兄ちゃん、じゃあ殺すね。・・・・・・やっちゃえバーサーカー」

「やるじゃない凛のサーヴァント、まさか一回殺されるなんてね。帰りましょうバーサーカー、またね・・・・・・お兄ちゃん」

 

 ――イリヤスフィールとの戦闘を終える。

 

 

 屋敷に戻り、遠坂たちとの協定関係を終えた士郎たちは、セイバーと今後の方針を話し合っていた。

「士郎、マスターとしてあのような行動をとられては困ります」

 先程のバーサーカーの時、セイバーをかばって前に出たことを言っているのだろう。

「わっ・・・・・・悪い、あれは必要なことで・・・・・・」

 セイバーを前にすると少なからず衛宮士郎がくずれてしまっている。さきほどのことも、遠坂たちと協定を結ぶのに必要なことだった。

「士郎、何か私に隠していることはありませんか?」

 突然のセイバーの質問に微かに士郎の方が揺れる。

「・・・・・・どうして、そう思ったんだ・・・・・・?」

「いえ、どうも私といると、必要以上に何かを警戒しているようで・・・・・・私は信頼におけませんか?」

 どこか悲しそうにするセイバー。その表情に思わず「あっ」と情けない声が漏れる

 もう無理だ。士郎は自分の心がこんなにも弱いことを知らなかった。

 セイバーのその表情をこれ以上見ていられない。

 仕方がない、だって――これがこの世界にきてやっと見つけたもの・・・・・。

「セイバー聞いてほしいことがある」

 こんなつもりじゃなっかた、話す必要なんてない。でも――。

「俺は、この世界の人間じゃないんだ・・・・・・別の世界から来て衛宮士郎になったものそれが俺の正体だ」

 ――それでも。セイバーには話さずにはいられない。

 

「今から話すことは全て事実だ。信じろとは言わない、それでも最後まで聞いてほしい」

 理由なんて分かっている。でもそれは、殺してきた自分の心だ、認める訳にはいかない。

 それでも認めるしかないのだ・・・・・・それは、この世界で初めて感じた・・・・・・。

 

 ”自分本来の感情”なのだから。

 

 

 ****************

 

 

「そ、それは本当のことなのですか・・・・・・」

 士郎は話したのだ、自分がどういったものなのか、これから何が起こるのか、そして・・・・・・聖杯の現状すらも。

「事実だ。俺は、本来衛宮士郎が通るべき道と同じ道を歩くしかない。セイバーが信じようが疑おうが結果は変わらない」

 セイバーは未だ整理がつかないようで、何か考え込んでいるようだ。

「・・・・・・いえ、信じましょう。ですが一つおかしな点がある、もしあなたが言った通りに進むつもりなら、私にこの話はするべきではないでしょう。なぜ話したのですか?」 

 

 ――お前に惚れたから。

 

 そんなことを言おうとした自分を気合で押さえ込み、適当な理由をでっち上げる。

「俺がお前のマスターで、お前が俺のサーヴァントだからだ・・・・・・それじゃだめかな?」

 セイバーは俺の言葉に軽く笑う。

「いえ、それで十分です。それだけあれば私はあなたの為に剣を振るえる。・・・・・・しかしそれでも信じがたいです。・・・・・・聖杯が汚染されていたなど・・・・・・」

 『王の選定やり直し』そんな願いを持っていたセイバーにとっては、信じたくないことだろう。

 その姿を士郎は見てられなかった。セイバーを助けたいと思ってしまった。おこがましいにも程がある。自分すらない人間に、誰かを助けたいという心など・・・・・・。

 それでも、士郎は言うしかなかった。言うべきだと思った。

「セイバーお前は間違ってなかったよ・・・・・・ブリテンは滅んだかもしれないけどお前は間違ってなかったよ」

 その言葉にセイバーは先ほどとは雰囲気を変え、怒気をまぜた声を上げる。

「士郎、いくらあなたでもその言葉は聞き捨てなりません。あなたが何を知っている!」

 過去、王の問答で否定された願い。そして今度もその願いは否定された。

「滅んでいい国などあっていいわけない!! 何が間違っているというのですか! な・・・・・・なぜ、みんな私を責めないのですか・・・・・・!」

 それはセイバーの後悔。

「ましてやそうしてしまった王など・・・・・・変えてしまったほうが良いに決まってます・・・・・・」

 セイバーは泣きそうな声で言った。それでも、だからこそ士郎は止まれなかった。

「確かに、お前が何を守りたくて、どんなふうに傷ついたかなんて詳しくは知らない。俺なんかの言葉が届くかなんてわからない。それでも国を・・・・・・それを守るために全力を尽くしたなら、そのことに胸を張れよ! お前は王の選定をやり直せればそれでいいと思っているのかもしれない。――けどな、本当にそれで良いのかよ。大して知りもしない人間を勝手に持ち上げて、そいつに自分の一番大切なものを預けて、それで全部満足できんのかよ!」

「わっ私は・・・・・・」

「俺は知ってるぞ・・・・・・第四次聖杯戦争になんでランスロットが出てきたのかを。あいつはお前に捌いてほしかったんだよ。それが何を意味するか分かるか? あいつは、英霊になってなお、お前の事を王だって思ってたってことだ。ランスロットだけなはずがない、お前の民は、お前が王でそれでよかったって・・・・・・そう思ってたはずだ」

 セイバーは言葉を出せない。

 

「お前が選べよ――」

 

 士郎の言葉は止まらない。

「――自分に仕えてきた者たちの気持ちに答えるのか、他人に全部預けて逃げるのか、傲慢だろうがなんだろうが、お前が胸を張れることを選んでみろよ!!! 勘違いするなよ。俺はセイバーが何を見てきて何を思ったのかなんてわからない。それでも、自分の後悔だけしか耳を傾けず、国民の感情を理解しようとしないそれを、本当に正しいと思えるのかよ」

 

 ――アーサー王は人のこころが分からない。

 

「本当にいいのか? 確かに聖杯なら過去すら変えられるかもしれない。でも、それはこの世界のじゃないはずだ。別の世界、並行世界で、セイバーが王ではない。もう一つのブリテンができるだけなんだぞ? 意味がないとは言わない。でも、それでほんとにお前は救われるのかよ」

 一瞬。静寂がこの場を支配した。

 

 そこで、

「・・・・・・それでも国は幸福になるはずです」

 ぽつりと、セイバーは口にした。

 

「みんなが幸福になるならそれでいいではないですか・・・・・・たとえそれが、聖杯によって作られた世界だったとしても・・・・・・! 私だけが罪を覚えて、ブリテンが救われる世界があるのなら!!!」

 素直にすごいと思った。

 それでも。

 衛宮士郎は否定する。

「・・・・・・違うよセイバー。世界を一から作って、誰にも区別がつかないから大丈夫? 他の誰にもわからなくたって、世界中が笑顔になったからそれで幸福? そうじゃないだろ? そうじゃないはずだ。他でもない、お前が違いを知っていたら――それはきっと悲劇なんだよ・・・・・・」

「・・・・・・ッ」

 崩れそうなセイバーを、士郎は無意識に抱きしめる。

「大丈夫だ。お前と共に戦った守るべきブリテンの人々は、お前を恨んでなんかいない。確かに滅びの運命は辛かったかもしれない、それでも、お前と一緒に戦えたことを、きっとみんな感謝してる。だからお前は泣かなくて良いんだよ。お前と共に生きたブリテンの人たちは、お前が一人で不幸になることなんて、誰も望んでないんだから」

 セイバーはその言葉に目を見開き、ついにその目には涙が出ている。

「なら、なら私はどうすればよかったんですか! ・・・・・・いままで私は、何のために聖杯を・・・・・・」

「だったらここで世界を救ってくれ。過去を変えることなんてできない。ここはお前が築いた国じゃないかもしれない。けど、聖杯を壊し世界を救えるのはお前だけだ。自分に罪があるというのなら、今ここで洗い流せ。過去は背負うもので、未来は作るものだ。なら今のおまえにできることは一つ。ここにいる六十億人、その生命の未来のために戦ってみろ。お前に仕える騎士はいないが一人じゃない、俺が一緒に戦う。俺がお前の隣に立つ。ここで戦うか今決めろ・・・・・・・・・・・・此処から先は地獄だぞ・・・・・・」

 士郎はセイバーに手を差し出す。

 セイバーは、立ち上がって士郎の手を取った。

「私は士郎のサーヴァント、ならば答えは決まってます。ですが、この戦いには私自身の願いもある。・・・・・・その先が地獄というのなら、私はそこから士郎を引き上げる、それが私の願いです」

 セイバーの言葉に驚くが、驚きは次第に笑みへと変わり――

「――ああ、俺達の聖杯戦争を始めよう」

 

 衛宮士郎の聖杯戦争はここで終わり、

 

 二人の聖杯戦争が始まった。

 

 

 

 

 

 

 




最初のstay nightのセイバーが"いつの間にか好きになっていた"というんのがあまり好きではないので、落とす話にして見ました。
これでセイバーが落ちてくれると嬉しいなーとか思ってます。
次回は少し長めになると思うのでよろしくお願いします!


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8話目とかとか〜♪ stay night編 アーチャー

プリズマイリヤの方を早く見たいという方、申し訳ありませんm(__)m
今回は御都合を入れなんとか書き上げました!
少し長いと思いますがよろしくどうぞ!



 

 

 

 

「士郎それはあまりにも危険すぎます。ギルガメッシュと戦うなど・・・・・・」

 

 そんなセイバーの言葉に、士郎は苦笑したように顔をそむける。

 まさに予想通りな言葉過ぎて逆に言葉を失いそうだった。

「大丈夫だ。俺本来ならともかく、衛宮士郎なら負けないさ。俺は物語をなぞるだけだ」

 根拠などない。

 それでも、この生き方を選ぶしか士郎にはできなかった。

「セイバーは俺を信じて聖杯を破壊してくれ、それ以外に道はない、何か一つでも道が違えばそれで世界は終わりだ」

 それでも、納得ができないのだろう。いいや、士郎のことが心配なだけかもしれない。なぜならセイバーは知っている。アーチャー――ギルガメッシュの力を。

「しかし、凛や他のサーヴァントの力を借りれば・・・・・・それに、それでは死ぬ人間が出てきてしまいます」

 確かに、士郎もその方法を考えなかったわけではない。

 イリヤの犠牲も入ってしまう。

 そもそも、特にキャスター《メディア》の力を借りれば、聖杯すらどうにかできるかもしれない。

 だが無理なのだ。

 今回の参加者では、それをすることができない。

「・・・・・・可能性は低いと思う。まず、マスター同士だが慎二とイリヤ、言峰とはどうあっても組めない。イリヤは俺と敵対してるし殺すことに躊躇がない、慎二は向こうがあれだし、言峰に関しては言わずもがな。なら、どうにかなるのは凛か、キャスターだがそれも難しい、凛の方はアーチャーがどうあっても俺を殺すために敵になるし、キャスターはそもそも俺と組むメリットがない。令呪を奪えばそれで済む話だ」

 

 もしかしたら良いやつかもしれない、助けてくれるかもしれない、そんな甘い考えでは失敗する。聖杯戦争とは、みんな何かしらの願いを持って参加している。

 もちろん原作通りにいけるかもわからない、しかし、それが”一番可能性”がある。

 そう言うと、今度こそセイバーは言葉を紡ぐ。

「わかりました、ですがこれだけはお願いします。・・・・・・死なないでください」

 セイバーは先程よりも重い空気でそう言った。

「死なないために今までいきてきたんだ。失敗なんか許さない。だから・・・・・・まかせろ」

 

 ――そして物語はイレギュラーを作りながらも進んでいく。

 

「佐々木小次郎、アサシンのサーヴァント」

(なるほど、士郎のいった通りのようですね)

「いやぁお見事、その首七度は落としたつもりだが・・・・・・未だついていようとは、西洋の棒振りにも術理があったのだな」

「・・・・・・聞いていた通りのようだ、私も本気で相手をしましょう」

「ほぉ、聞いていた、か・・・・・・気になるところだが、今はそのことに感謝しようか。さてセイバー、続きを始めようか」

 

 ――同時刻、柳洞寺。

 

「どぉ? 動けて、アーチャー? 悪いけどこれ以上あなたにかける時間はないの」

「戯け、避けろと言っている!」

 

「あなた、私の仲間にならない、私なら今のマスターより優れたものを用意できる」

「断る、君の陣営は戦力不足だ。仲間になるほどの理由はない。だが、この場にいあわせたのは私の独断でね、君を討つ理由はない」

「なんだって? なんで逃がす、街で起きてる事件はあいつの仕業なんだぞ!」

「キャスターにバーサーカーを討伐させるには、必要なことだ」

「ふざけるな! 勝つために関係ない周りの人間を犠牲になんてできない!」

「やはり貴様はそれを選ぶのか、少し”期待”していたのだがな」

 

 ――くしくも士郎は助けられる。

 

「邪魔をするか侍」

「貴様こそ、逃がすと言った私の邪魔をするきか」

 

 ――藤村大河は連れ去られ。

 

「宝具『破戒すべき全ての符』あらゆる契約を無効化する裏切りと不浄の剣」

「キャスターあなたセイバーを!」

「手始めに、そこの小娘を殺しなさい」

 

 ――セイバーは教会に・・・・・・。

 

「令呪の縛りに一晩中抗うなんてね」

「こっこれも私たちには必要なことなので・・・・・・」

「必要?」

 

 ――アーチャーは凛と敵対する。

 

「以前の話、受けることにするよキャスター」

「一度は断っておきながら、腰が軽いことね」

「なに、状況がかわった。セイバーがそちらにある以上、勝機はそちらにある」

 

 ――同時刻。イリヤとギルガメッシュの戦闘が幕を開ける。

 

「バーサーカーは誰にも負けない・・・・・・世界で一番強いんだから!」

 

 ――ランサーが仲間に加わり。

 

「よぉ、てめぇの相手はこの俺だ」

「数日と経たずに別のサーヴァントと契約したか。私もそうだが、君のそれもなかなかだ」

 

 ――来るべくしてそのときはやってきた。

 

 セイバーを助けた士郎は、アーチャーに凛を連れ去られた。

 これも予定通り、しかしすで衛宮士郎として行動している少年にそんな打算はない。ただ凛を助けたい、今の士郎にあるのはそれだけだ。

 その感情はもはや演技ではなく、侵食と言っていいものだ。

 それを見て、セイバーは悲しい表情を浮かべている。

(士郎、あなたは本当にそれで良いのですか?)

 セイバーと士郎は、凛の助けに加わったランサーとともに、アーチャーの待つ城へとやってきた。

 ランサーは凛の救出に向かい、士郎とアーチャーは向かい合う。

「私の真名はすでに知っているのだろう?」

「・・・・・・ああ、遠坂の家にあったあのペンダント、あれは本来一つしかない」

「そう、あれは凛によって命を助けられた衛宮士郎が、生涯持ち続けるものだ」

「ならばやはりお前の真名は・・・・・・衛宮士郎そういうことだろ」

 そこでセイバーは声をあげた。

「ならばなぜ・・・・・・あなたは理想を叶え『正義の味方』になれたのではないですか。士郎を殺す理由はないはずだ」

 セイバーは士郎からすでに聞いているが、それでも聞かずにはいられなかった。

「・・・・・・理想を叶えたか・・・・・・たしかに俺は理想通り『正義の味方』とやらになったさ、だがその果てに得たものは後悔だけだった。」

 その後も、アーチャーの後悔の念はかたられた。

「何度も、何度も、何度も、何度も戦った。だが終わることはなかった。俺はただ、自分の知りうる世界では、誰にも涙してほしくなかっただけなのにな。そこでようやく悟ったよ、衛宮士郎と言う者が抱いていたのは、都合のいい理想論だったのだと・・・・・・」

「・・・・・・全ての人間を救うことはできない。全体を救うために、少量の人間を見殺しにするしかない。セイバー、君にも覚えがあるだろ。・・・・・・守護者と言うものが自動的な装置であることは知っていた。人類史を守る道具になるのだと、それでも誰かを・・・・・・窮地にある誰かを救えるのならそれでいいとそう思っていた。だが実際はちがう! 守護者は人など救わない、霊長の世に害を与える人々を、善悪何の区別なく処理する殺戮者。馬鹿げた話だ・・・・・・私は、私が救いたかったものをこそを、この手で削ぎ落としてきたのだからな」

 アーチャーは士郎に一振りの剣を投げる。

「自害しろ衛宮士郎、貴様のような男は今ここで死ぬべきだ。・・・・・・どうした? 自分の未来を知ってなにを何を悩む」

 士郎は動かない、こうなることはしっていた、そしてセイバーも。

「アーチャー、あなたは間違っている。今の士郎を殺したとしても、英霊となったあなたは消えない。英霊とは、すでに時間の輪から外れているのです」

 アーチャーはそれでも揺るがない。

 だが――。

「そうだな、だが可能性のない話ではない。すくなくとも潰えるものが肉体だけでなく、精神を含めるのなら、この世界に『正義の味方』などという間違いは現れまい」

 全ては筋書き通り。

 アーチャーが裏切ることも。衛宮士郎を殺そうとすることも。

 

 何もかも、うまく行っていたはずだった。

 

「――と、ここまでは、筋書き通りか、衛宮士郎? ・・・・・・いや、衛宮士郎を演じるものといったほうが良いかな?」

 そこで初めて士郎は動揺を見せた。もちろんセイバーもだ。

 

 ――気づかれていた!? しかしなぜ?

 

 その可能性を考えなかったわけじゃない。ギルガメッシュならありえると思っていたし、アーチャーなら違和感ぐらい見つけるだろうとも。

 だが、アーチャーはピンポイントで自分の事を言い当てた

 士郎は驚いた表情をアーチャーに向ける。

「何をそんなに驚いている。バレないとでも思っていたのか? ・・・・・・と言っても、私が気づけたのも偶然なのだがな」

「偶然、だと・・・・・・」

 士郎は衛宮士郎の演技すら忘れて問いかける。

「そう、偶然だ。たまたま見ていたのさ、君とセイバーの会話を。私は目に自信があってな。凛と貴様が協定を結んだ時、違和感を感じて様子を見ていれば案の定・・・・・・いや、それ以上のものが出てきたものだ」

 士郎は自分の甘さを呪った。一時の感情、それに流された結果がこれだ。後悔をするつもりはない、ただ自分の警戒の甘さに腹が立っただけだ。

 最初の一手で打ち間違えていた。ならばその勝負はすでに負けている。

 そこでセイバーが声を上げる。

「だ・・・・・・だったらなぜ今の士郎を殺そうとするのですか? 士郎を殺してもあなたに利はない!!」

「利ならあるさ。さっきも言っただろう、この世界に『正義の味方』を作らないと・・・・・・まぁいい、どちらにしろ衛宮士郎はここで死ぬ」

 話など意味はないそういうようにアーチャーはこちらへと歩いてくる。

 有無を言わさないアーチャーの姿に、セイバーは士郎の前に出て剣を構える。

 そんなセイバーの肩をひき、士郎はセイバーの前へ出る。

「ここは俺がやる。ここで戦わなければこの先が崩れる。・・・・・・大丈夫、俺がアーチャーに勝てばいいだけだ」

 最初の一手で間違えたのならばそのあとの手でその失敗を無効にする。今の士郎にできることはそれだけだ。

「しかし士郎、もうそんなことを言っている場合では・・・・・・」

 セイバーの言うとおりだろう、ここで今戦う必要はない。セイバーと逃げ、この先のことは他の方法を考えたほうが得策だ。

 それでも士郎は引くことはしない。

 二人は目を合わせ、そして武器を構える。

 

「『投影_』」 

 

 重ねるように――。

「『開始』」

 

 士郎も構える。

 同時に。合図があったわけではない。それでも二人は示し合わせたかのように、剣を合わせた。

 

 黒と白、四つの剣が衝突する。

 

 状況だけを見るならば、士郎は、何とかアーチャーと渡り合えていると言えるだろう。未来を知っていたが故、この時のために剣を磨いてきたことが幸いしたのだ。

 だが、その程度では本来勝負にすらならない。『干将・莫耶』の投影による憑依経験、アーチャーと打ち合うたびに得られる、前世の自分の交霊による技術の習得。

 それをして、士郎はやっとここまで来れる。

 

「――ッ!!」

 士郎の額を剣が斬る。

 

(どんどん速度が上がってやがる・・・・・・!! このままじゃ――っ!) 

 それでも、せいぜい打ち合えるだけ。

 剣を弾かれ、壊される。

 投影技術も、剣の技量も、単純な力や速さに至るまで、士郎はアーチャーには及ばない。

 その戦いを見ているセイバーからすれば一方的以外の何物でもない。

 それでも、アーチャーの攻撃に耐えれなくなっても体をひねり、『干将・莫耶』を攻撃と体の間に挟むことで戦いを続けている。

 そんな中、

(しまっ・・・・・・!?)

 自覚してしまうほどの隙。

 ギリギリで戦っていた。にもかかわらず、そんな隙を作ってしまえば・・・・・・。

「ぐ・・・・・・ぶぅッ・・・・・!??」

 骨がきしむ音がする。肺から空気が抜けるのがわかる。

 おそらく、アーチャーからしたら普通の蹴り。それでも、士郎の体は数十メートル吹き飛ばされた。

 これが英霊との戦い。

 そのすべてが、人間などと言うちっぽけなものとはかけ離れている。

 腹を抑え苦しむ士郎に、アーチャーは追撃せずに剣を下した。

「なるほどな、しぶといわけだ。前世の自分を降霊、そうすることで技術の向上を可能にするとはな」

「・・・・・・はは。それでもこれがやっとだ・・・・・・。アーチャー、一つ教えてくれ。衛宮士郎でない俺を、まがい物である俺を殺す理由はなんだ?」

 それだけがわからない。士郎は最初、衛宮士郎のトレースによる精神の影響で、アーチャーの言葉を素直にうけとったが、冷静になった今だからこそ思う。

 なぜ、『正義の味方』を作らないことが、今の士郎を殺すのとイコールになるのか・・・・・・。

「俺は衛宮士郎とは違う。俺は自分のために、生きるために戦っている。『正義の味方』になることはない。お前と俺は違うんだ」

「・・・・・・貴様は、自分のことが何もわかってないようだな。生きるために衛宮士郎を参考にする。それだけなら問題はない。しかし貴様は衛宮士郎の模倣をとった。たとえその道に自分の死があろうとも、他人の死があろうともだ。わかってないなら私が教えよう・・・・・・貴様のそれは、狂っている」

 予想外のその言葉に、士郎の呼吸が止まる。

 聞きたくない。聞いてはいけない。そんな士郎の心の内を笑うように、アーチャーは続ける。

  

「――普通の人間なら、助かると知っていても自分の死など回避するにきまっている」

(まて・・・・・・その先を言うな)

「だが貴様は違う。死すらも必要のためだと許容する。貴様は生きる為に、自分のためにこれから先も衛宮士郎を演じ続ける。なぜならそれしか生き方を知らないからだ、『正義の味方』など夢見なくても、その道を貴様は辿るだろう。ならば私のすることは変わらない、貴様を殺し、ここで『正義の味方』を終わらせる」

 

 その事実は、士郎にとっては認められないものだ。

 今まで知らないふりをしてきた。隠してきたと言ってもいい。

 

「お前に何がわかる・・・・・・・・・・・・お前に俺の何がわかるってんだ!!」

 

 感情が抑えられるわけがなかった。

 自身の弱さを提示されて、今までのことを否定されて。黙ってることなんてできなかった。

「いきなりこんな世界に飛ばされて、その未来は地獄しかなくて、でもそれ以外に道はなくて、命がいくつあっても足りないようなことに巻きこまれて、最後には俺のやり方は狂ってる? 間違っている? 俺だってわかってんだよそんなこと! それでも生きたかったんだよ、死にたくないんだよ!! 魔術? 聖杯? サーヴァント? 俺がいた世界にそんなのねぇんだよ! いきなりありえない現実突きつけられて、俺が世界なんか救えるわけねぇだろ!・・・・・・お前は『正義の味方』なんだろ? なら俺の代わりに戦えよ・・・・・・! 世界なんて片手間で救ってみろよ!!!」

 今まで飲み込んできた自分の感情が泥のよう溢れ出す。

 

 ――ふざけるなよ。俺は間違ってなんかいない。 

 

「・・・・・・できないならここで倒れろ『正義の味方』。過去に後悔を抱えてるなら、抱えたまま溺死しろ。同情なんてしない・・・・・・お前の地獄は俺より上か、今ここで見せてみろ」

 アーチャーは何も言わない。

 

「それでも俺は――『衛宮士郎』だ」

 

「・・・・・・そうか、ならば見せてやる。俺の行き着いた世界を、俺が見た地獄を」

 その言葉を聞いて士郎は微かに笑みを浮かべている。それこそ士郎の見たかったものなのだ。

「――I am the bone of my sword」

(さぁ見せろ俺にお前の世界を)

「――Unknown to Death」

(負けるわけには行かないんだ、失敗なんて起こしてたまるか)

「――Nor known to Life」

(俺のためにここで倒れろ)

「――Unlimited blade works!!」

 

 瞬間。世界が変わる。

 その世界は空が紅く、先の見えない丘には無数の剣が刺さり。大地の奥には巨大なは歯車が浮遊していた。この剣が数がアーチャーの生きた時間だとでもいうように。

 

「な、んだ・・・・・・これ、は・・・・・・」

 

 それは士郎の声だった。

 知っていた。衛宮士郎はこの光景を知っていたはずだ。

 

「どうした? 貴様はこの光景を知っていたのだろう? かかってこい、お前の生き方が正しいか今ここで見せてみろ」

 士郎は動かない――否、動けない。言葉を紡ぐことさえできない。

 流れ込んでくる”まだ知らない知識”を見て。

 無限の剣を解析し、自身の固有結界に登録するたびに、アーチャーの・・・・・・未来の自分の後悔すべて、士郎にのしかかる。 

「うっ、うわぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!」

 それは否定の叫びだったのかもしれない。

 アーチャーの言葉が正しかったと、その証明たるこの現状それの否定。その叫び。

「どうだね、衛宮士郎の皮を剥がされ、自分の心で戦ってみた感想は。今の貴様がこれから先、衛宮士郎なしで生きていけるか?」

 士郎はそれでも剣を振るう。そこに先程のような勢いはない。

 その剣は呆気なく弾かれ、アーチャー剣は士郎の腹を貫く。

「ぐふっ・・・・・・がはぁッ・・・・・・!??」

 自分から流れる血と、その痛みに頭が狂いそうになる。

「感づいてはいたようだが知らなかったと見える。いや、この状況にならないようにしていたのか。『お前の地獄は俺より上か』だったか? 笑わせるな、貴様は自分の地獄すら直視できない臆病者だ!!」

 士郎は苦痛に顔を歪めている。体の痛みにも、心の痛みにもだ。

「俺の何がわかるかだと? わかりたくもない! 貴様のやってきたことは私以上に愚かな行為だ」

 アーチャーの剣は士郎の足を刺し、肩を刺し、その体からは大量の血があふれ出る。

 いたぶるように。それが罰だとでも言うように。

「だが貴様はそれをやめられない。貴様は私と同じようになる、いずれ失敗の道をたどる。ならばここで殺すしか道がない、そう思わないか?」

 アーチャーは、その言葉が最後だとでも言うように剣を振り抜いた。

 ドスン、と。力尽きるように士郎は倒れる。

 視界が確保できなかった。血が流れすぎたのか、手足の感覚すら失って行くようだ。

 

 それなのに、頭だけが無駄に回る。

(俺は・・・・・・今まで何のために戦ってきたんだ? 間違ってると知りながら、こんなつらい思いをしてまで・・・・・・何のために。もう良いじゃないか、俺はやつの言うとおり失敗する。なら今ここで失敗しても結果は変わらないさ) 

 

 士郎は目を閉じようとした。しかし、その前に士郎はそれを見た。

 

 ――おい、なんだよその顔。

 

 視界の端にセイバーのこちらを真っ直ぐに見つめるその顔が。 真っ直ぐなまでに純粋で、何も疑っていないその顔を。

 

 セイバーは信じていた士郎は立ち上がると、まだ負けていないと。

 確かに士郎の生き方は間違っていたのかもしれない。それでもセイバーの心を救ったあの言葉は演技なんかじゃなかったと、共に戦うと言ったその言葉に、嘘はなかったと。

 

 ――そんな顔をされたら。俺はお前を裏切るわけにはいかなくなるだろ。 

 

(ああ、なにを勘違いしてたんだ・・・・・・。確かに最初は生きるためだった。でもセイバーとのあの夜からは違ったはずだ。俺はあいつと一緒に戦うと決めたんだろ、なら迷う必要なんてなかったじゃないか)

 起き上がる士郎の傷口から光が溢れだし、体の傷がふさがっていく。

 士郎にはセイバーとのつながりがあった。聖遺物のセイバーの鞘、それは令呪との繋がりが消えてもなくなることはない。

「何だ・・・・・・!? ――ッ!! そうか、彼女の鞘! 契約が切れてもその守護は続いているということか・・・・・・!」

 士郎は静かにその言葉を口にする。

 

「『体は――剣でできている』」 

 

 アーチャーは士郎へ『干将・莫邪』投擲する。

 トドメを指すためではなかった。まるで何かを焦ってるような。いいや、何かを確認するような(・・・・・・・・・・)

 

「ここで、終わるわけにはいかない・・・・・・」

 

 士郎に攻撃は届かない。士郎の手にはすでに二つの剣が握られている。

「俺は・・・・・・負ける訳にはいかない。過去を否定したりなんかしない。セイバーとの会話を、あの決断をなかったことには決してしない。・・・・・・お前はなぜ自分を否定する? 美しいと思わなかったのか、その生き方が・・・・・・きれいだと思わなかったのか、その姿勢が・・・・・・後悔しかなかったのか、その思いは・・・・・・」

 士郎は本来ーアーチャーが救われたであろう衛宮士郎の言葉を口にした。

 

「貴様の言葉は響かんよ、なんせ心がこもってないからな。貴様は自分のためにいきているのだろう、だがその結果私になる、私に追いついてしまう、その結果だけは変わらない。ならばここで死ね! 衛宮士郎!」

「・・・・・・ッ、心がないか、確かにな・・・・・・この生き方は楽だ。心を消し、自分のためと言いながら誰かの道をたどる人生。それが間違いの道であるというのなら、未来の自分が殺しにくるのは当然だ」

 だが今の士郎はそんなことでは崩れない、自分が今なんのために戦っているか知ることができたのだから。

「――けどな、それでも俺は生きたいんだよ! 今だけでいい、自分が好きになった人のそばにいたい!! それが戦争だろうがなんだろうが関係ない、俺はセイバーを愛している。一緒に戦うと決めたんだ。だから俺は死ねない。ガキのわがままで構わない!!! 続けるぞ・・・・・・衛宮士郎だろうが、『正義の味方』だろうが演じてやる!」

 そんな自分勝手な言い分に、アーチャーは静かに笑みを浮かべている。

「そうか・・・・・・ならば来い!! 貴様の(こたえ)を見せてみろ!」

 今までの戦いとは明らかに違う、誰かの演技をしている目でも、何かに畏怖している目でもない。ただ勝ちたい、それだけを思っている目だ。

(見つけたか、衛宮士郎。貴様の求めていた生き方を・・・・・・)

 勝つために今ある全てを、それでも足りないならアーチャーから奪ってでも勝ちに来ている。

(セイバーを救ったおまえは私にとってまさしく『正義の味方』だった)

 黒と白、二人の剣の軌跡が、美しくも激しく混じり合う。

 アーチャーが手を抜いているわけではない、それでも押しきれないのだ。

 魔術師からの供給がないとはいえサーヴァント、死にたいである人間と互角だなんてありえない。

 しかし、アーチャーのその顔に焦りや、屈辱などの表情はない。

 アーチャーはこの状況を待っていた。いや、願っていたと言うべきか・・・・・・。

 

 ――アーチャーは、士郎がセイバーを自身の後悔から救っているのを見ていたのだ。 

 

(もし、貴様がほんとうに衛宮士郎を演じているだけならば、セイバーを利用するだけ出終わったはずだ)

 

 ――その光景は自分が目指していた場所であり、なりたかったものそのものだ。違う世界から来たことなど、"その程度のこと"などどうでも良くなるほどの衝撃。

 

 世界が無かもしれなかった。未来が変わるかもしれなかった。つまるところ、衛宮士郎というひとりの少年は、『世界より一人の少女を選んだ』のだ。 

 

 ――だからこそ、その後の士郎の行動には失望を隠せなかった。

 

 ――士郎の中にあるものは、こんなところで失なって良いものではないと。士郎を・・・・・・先程までの生き方から救うために。

 

 そしてアーチャーは賭けに勝った。アーチャーはすでに救われている。まだ士郎は完璧ではない、だが土台はできた、それだけで十分だ。

(だが、手を抜く気はない。私を超えなければ、いずれ何処かで立ち止まる。だからこそここで終わらせるわけには行かない)

 士郎はアーチャーの剣に弾かれる。それでも目をそらすことはしない。自分が超えるべき相手をしっかりと見つめている。

 

「まだ終わってはいないぞ。衛宮士郎」

 

 アーチャの背後に無数の剣が投影される。そあのの剣は矢のように、士郎へと注がれる。

 士郎は自身の剣で降り注ぐ剣を弾いていくが、耐えきれなくなりはじかれる。手にしていた剣はボロボロ、魔力もなくなり新しい投影はできない。それでも士郎は立ち上がる。

「魔力が先に尽きてしまったか・・・・・・それでも貴様はまだ諦めないのかね」

 アーチャーの最後になるだろう問答、ここまで来ても士郎を試すその姿勢は、最後までアーチャーらしいと言えるだろう。

「俺はまだ自分のことなんてわからない、でも今までの生活が間違っていたなんて思わない。これから先が間違いというのなら、今ここで俺は変わる。そのためには今お前に勝つしかない、それが俺にチャンスをくれたお前への恩返しだ」

 士郎もここまでされれば流石に気づく。だからこそここで終わりだなんて許さない。最後まで戦って、ちゃんと勝ちたいし、ちゃんと負けたいのだ。

「さぁ、俺はまだ負けてないぞ。俺達の戦いはまだ終ってない!」

 士郎はアーチャーへ走り出す。傷だらけの体、今にも壊れそうな剣、そんなもの関係ないとばかりに士郎は足を踏み出していく。

「そのとおりだ。だが、私の剣製はまだ全力ではない」

 先程の倍、それ以上の剣が士郎へと放たれる。

 その中には名が無くとも聖剣ががあった。魔剣があった。名をはせた剣の原典があった。

 それでも士郎はたどり着いた。

 士郎は剣を前に突き出し、アーチャーは剣を振り下ろそうとしている。

 その光景は光に包まれ、その場所はもとの屋敷へと戻っていた。

 その場にいたのは、剣を突き刺している士郎とそれを受けているアーチャー。

 

「俺の勝ちだ、アーチャー」

「ああ、そして私の敗北だ」

 

 そして士郎とアーチャーの対決は終わりを迎え、ランサーが助けたであろう凛が合流した。

 

 

 だが、聖杯戦争はまだ終わってない。英雄王ギルガメッシュ。彼が現れることで物語りは最後の章へと進んでいく。

 

 アーチャーはギルガメッシュの攻撃を受ける前、士郎につぶやく。

「お前が倒せ」

 アーチャーの言葉に士郎ははっきりと答えた。

「まかせろ」

 

 ――ギルガメッシュは去り、再び相まみえる。

 

「正気か貴様、セイバーを使わず自分を捨て石に使うなど・・・・・・戯けめ、自らを犠牲にする行為など偽りに過ぎぬ。それを未だに悟れぬとは・・・・・・ならばここで朽ち果てるが良い、”人形”」

「”人形”か・・・・・・さすがは英雄王、的を射ている、だがその答えは落第点だ。俺は自分を捨て石にしようなんて考えていない。なんだろうな――気がしないな・・・・・・」

「――?」

 士郎はアーチャーとの誓いを思い出す。

「負ける気がしないって言ってだよ」

「なんだと?」

「知っていたか英雄王、俺の剣製は剣を作ることじゃない・・・・・・『体は剣でできている』」

 

 ――そして戦いは始まり、士郎の剣がギルガメッシュに届く。

 

「魔力切れとはくだらん末路だ。お前の勝ちだ、満足して死ね」

 だが士郎は知っている聖杯がギルガメッシュを取り込もうとする事実を、

「・・・・・・っ! なにっ、この俺を取り込んだところで・・・・・・」

 ギルガメッシュの鎖が士郎をつかむことを、

「死ぬ気など毛頭ないわ! 踏みとどまれ下郎! 我がその場に戻るまでな!」

「悪いな英雄王、”俺達は”一人で戦ってるわけじゃないんだ」

 そう、アーチャーはまだ消えたわけじゃないことを。

 士郎は少し右に避けると、そこから一つの剣が通過した。

「貴様っ、アー・・・・・・チャー・・・・・・」

 

 

 

 ギルガメッシュに勝利したあと、士郎は最後の力を振り絞り聖杯のもとへと向かっている、聖杯はまだ破壊されていない。つまり、まだセイバーはそこにいる。

 士郎がたどり着いたその時、ちょうどセイバーが聖杯を破壊したところだった。

「セイバーやったんだな」

 セイバーは振り返り士郎を見る。

「はい、これで私達の戦いは終わりです」

 セイバーは力を使い切り、少しずつ体が消えていっている。

「セイバー、俺はお前ともっと一緒に・・・・・・「わかっています」えっ」

 士郎の言葉を遮るようにセイバーは言った。

「あんな大声で告白をされたのです、士郎が言いたいことぐらいわかります。ですからまず私に言わせてください。――――士郎、『私もあなたを愛しています』あなたと離れたくない、心からそう思います」

 その時の士郎の顔は、驚き、嬉しさ、悲しみ、全てが入り交じったようなそんな表情をしている。

 士郎とセイバーに近づき、優しく抱きしめた。

 セイバーの体はすでに半分以上消えている。

「士郎、これが最後になります。ですから最後に名前で読んで下さい、アルトリアと・・・・・・」

 士郎は包容を解くと優しく、そして愛おしいように囁いた。

「好きだ、アルトリア」

「はい、私もです」

 二人は何も言わず近づきお互いの唇を合わせた。それは一瞬かそれとも・・・・・・。

 士郎が気づいたときにはすでにアルトリアは消えていた。

 

 

 

 これで全てが終わった。そう思った士郎は突然意識がなくなり、目が覚めるとそこは第四次聖杯戦争時にできた、地獄の中だった・・・・・・。

 

 

 

 

 




過去編終了です!
少し疲れたのでほんの少しの次の投稿遅くなるかもです


おまけ

次いでに書きました! もちろん手抜きです! ごめんなさい疲れました・・・・・・

「アーチャー!」
 後ろを振り向くとそこにはボロボロになった凛がいた。
「なんともまぁ、お互いボロボロになったものだ」
 私は自虐的な笑みを浮かべ、目の前にいる凛に答える。
「アーチャー、もう一度私と契約して」
 凛はすがるように私に言う。だがそれはできなかった、私にはすでにそのような資格はない。
「凛、君には感謝している。私を召喚してくれたことを・・・・・・おかげで私は救われた」
 未来の危険など関係なく、目の前にいる少女を救った正義の味方、私は私の理想を見ることが出来た。
 衛宮士郎は演技をやめ、イレギュラーと分かっていてもセイバーを救った。それで未来のが最悪な方に変わる可能性があろうともだ。
「あなたは・・・・・・本当に救われたのね」
 私の言葉を確認するように凛が言う。
 私はそれに昔の自分のような笑顔を浮かべた。
「大丈夫だよ。"遠坂"俺もこれから頑張って行くから」
 それだけ言うと俺は消えた。座に戻る。
 これで、本当に聖杯戦争は終結した。






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9話目とかとか~♪ アサシン編

 お久しぶりです。
かなり遅くなってしまいました。季節外れのインフルエンザです

学校も忙しくて今後もこのぐらいのぺースになるかもしれないです
できるだけ頑張りますので今後ともよろしくお願いします。


 

 

 場所は教会、そこにいるのは四人の男女。

 衛宮士郎、衛宮切嗣、ウェイバー・ベルベット、カレン・オルテンシアの四人。

 士郎はこの世界に来るまでのすべてを話し終えると、静かに話を聞いていた切嗣たちの目を見る。

 自分の存在、そして第五次聖杯戦争、すべてを話した士郎は三人の言葉を待つ。

「そうか・・・・・・よく頑張ったね士郎」

 切嗣はそれだけ言うと他は何も言わない。

士郎にはそれがありがたくて、うれしかった。

 本来なら、すぐにでも士郎に起きたことを調べるだろう。

 しかし起きたことは魔術ですらない、いや、次元の違う何かだ。切嗣たちでもその答えを知ることはできない。

 そこで士郎は自分の疑問を口にした。

 

「父さんたちはこれからどうするんだ? 知ってるんだろ、いま冬木で何が起こってるのか」

 

 クラスカード、その回収を凛とルヴィアに指示を出したのはウェイバーだ。カレンも観察者として事態を把握しているはずだ。ならば切嗣も知っているだろう。

 そんな冬木に自分を置いておくのか、単純な疑問だ。士郎にはここにいなければならない理由がある。三人がどのような結論になるのか、士郎は今すぐに知る必要があった。

「やっぱり士郎も知っていたのか、そのことはウェイバー君に任せていてね。僕はこれから士郎に起きたことを調べみよう思う、もしかしたら何か分かるかもしれないしね。・・・・・・だから士郎、イリヤ達ののことは頼んだよ。」

 話すまでもなく、士郎の心は丸見えのようだ。

 士郎はその言葉に頷くと、一つだけお願いをする

「ウェイバーさん今回のクラスカードの解決は、俺に一任させてくれないか?」

「? それはどうしてだ?」

 ウェイバーが聞き返す。

「俺の、妹の事だからだ」

 士郎の顔は真剣そのもの、有無を言わせないその言葉にウェイバーは「できるのか」と士郎に問う。

「やれるさ、おれは一人じゃないからな」

「なら、任せてみよう。だが、何かあったら頼るといい」

 士郎はウェイバーに感謝の言葉をを口にすると、「時間だから」といって、教会の出口へ向かう。

 今回のクラスカードの中心には美遊(完成された聖杯)がいる、士郎はそれを魔術協会に知られるわけにはいかない。

 背を向け帰ろうとする士郎を一人の声がとどめる。

「君は本来魔術とは関係ない、君は何のために戦っている」

 ウェイバーの最後の質問。当然の疑問だ、力を持つことと使う理由はイコールではない。それに士郎は迷うことなく答えた。

「泣いている女の子がいるんだ、それが俺の戦う理由だ」

 ただ一言。

 その言葉に「・・・・・・そうか」ウェイバーは、だけ答える。

 だが。

 その顔には笑みがうかんでいる。

 士郎はそれに気づくことなく、教会を後にした。

 

 

 

 教会を後にした士郎は家へ帰ると、すでに日は落ち夕飯までできていた。

 士郎は自分の部屋にへ入り、今日のカード回収のため自分の体の確認を行う。なぜか部屋にいたルビーから今日何があったのか話は聞いている。イリヤと美遊が仲良くなってくれるのはうれしいが、それ以外の話には思わず懐かしい口癖すら出てきた。

 時間まであと五時間弱。

 今日はいろいろありすぎた。軽く睡眠でもとるべきだろう。士郎はベットの中に入り込む。

 

 そして。

 何も無い白い空間。

 そこで士郎は目を覚ます。正確には夢の中で、ということになから違うのかもしれない。

 体はない、ただ自分はそこにいる。そんな不思議な感覚に、どこか懐かしさを覚えていた。

 その空間に、突然。一つの声が木霊した。

 

 ――――初めまして、と言っておこうかな

 

 男でもあり、女でも、あり子供でもあり、年寄りともとれる不思議な声、士郎は黙ってその声に耳を傾ける。だが士郎だけにはわかる、『それ』が一体何なのか。

 

 ――――どうだい衛宮士郎としての生き方は? 楽しいだろ?

 

 その問いに士郎も答える。

 

 ――――最悪だ、くそったれ

 

 ただ吐き捨てるように、笑みを浮かべながら。

 

 ――――そうか・・・・・・それはよかったよ

 

 笑い声があったわけではない、それでも声の主は笑っているような気がした。

 

 ――――すでに力は使ったようだね、その力はこの世界ですら強大だ、わかっているかな

 

 ――――わかってる、だがこれは俺の力だ。どう使おうが文句は言うなよ

 

 ――――自覚があるならそれでいい、名ずけるならそうだな・・・・・・『事実は小説よりも奇なり(バビロンオブワード)』といったところかな

 

 ――――『事実は小説よりも奇なり』か・・・・・・

 

 士郎は噛み締めるようにその名を復唱する。

 

 ――――さて、どうやら時間のようだ、これからの君を楽しみにしているよ。また会おうね

 

 その言葉を最後に、士郎は白い空間からも、夢からも目覚める。

 先ほどのことは夢であって夢じゃない。それは士郎にもわかっている。

「また会おう、か・・・・・・目の前に出てきたらとりあえず殴るか」

 そんな独り言をつぶやく士郎の声は、やはりどこか楽しそうだった。

 

 

 夢での会話から数時間、時刻は深夜へと入り士郎、イリヤ、美遊、ルビー、サファイヤ、凛、ルヴィアの7人? はクラスカード回収のため、もちろん鏡面界の世界、その森の中にいた。

 回収前、凛とルヴィアに昨日のことを問い詰められたが、一人ずつ誠心誠意話すことで落ち着かせた。

『遠坂、どうやらルヴィアは自分で調べるらしい、遠坂はルヴィアが俺に聞くまでもないと言っていたのに俺に聞くのか?』

『ルヴィア、遠坂は俺に聞くまでもないってさ、さすがは一流魔術師だよな』

 凜は煽られることで、ルヴィアはプライドを刺激されることで・・・・・・。

 ちょろい。

 それほどまでに簡単に騙された二人。先ほどの事があったからと言え、士郎も自分のことをほいほいと話すような真似はしない。

 

 

 その後、森に入り数分、敵の影どころか音すらない。

(イヤな感じだな・・・・・・)

 士郎の警戒とは裏腹に、イリヤの軽い声が聞こえてくる。

「誰もいないね。そういえばお兄ちゃん、今回の英霊はどんな感じなの?」

 イリヤの疑問に凛が同意する。

「確かにそうね、昨日は直前に知ってひどい目にあったし、今日はちゃんと敵を把握しておきましょ。衛宮君、話してくれるわよね」

 ほかのみんなも周りを警戒しつつ耳を傾けているようだ。

「わかった。だけど最初に言っておく、仮に予測とは違う敵の可能性もある、そこだけは警戒しててくれ。とりあえず残っているのはアサシンとバーサーカーの二体。気を引き締めろよ、今までの相手がかわいく思えるぞ――――」

 士郎の話を聞きながらも互いに警戒しあっている。それを見て大丈夫と判断した士郎は、残りの英霊について話し始めた。

「まずはアサシン、こっちは恐らく程度の認識でいい、真名はハサン・サッバーハ、宝具は『妄想幻像(ザバーニーヤ)』その能力は・・・・・・分身生成、その最大数は80を超える――――」

 士郎はこの世界のことはよく覚えていない、今回のサーヴァントが誰なのかはわからないが、これ以外には考えられなかった。

 ハサン・サッバーハ、Fate Zeroにおいてアサシンクラスで召喚された英霊。宝具は分裂という恐ろしいものだが、力の総量は変わらない。そのため、分裂するほどに力は落ちる。

 しかし、気配遮断スキルだけは変わることはない。それは、英霊相手ならともかく、ただの人間相手には脅威そのものだ。

 おそらく、警戒していても攻撃直後までは認識すら不可能。

 第四次聖杯戦争では『遠坂時臣を勝たせるための駒』として使われたため、早急にライダーに敗北したが、マスターの采配次第では聖杯を手にすることが十分可能なサーヴァントである。

「――――と、まぁこんなところだ」

 話せるべき場所だけ説明すると、それぞれひきつった顔をしている。

 それもそうだろう、単純な力勝負では他の英霊とは比べるまでもないが、強さのベクトルが違う。そしてそのベクトルは、しっかりと自分たちへと向いているのだ。

「次に対策だけd・・・・・・よけろ!」

 その攻撃に真っ先に気付いたのは士郎だった。

飛来する一本の短剣、士郎の解析結果では特に宝具というわけではない。だが相手は英霊、警戒に越したことはない。

 士郎の声に反応した三人はその短剣から距離をとる。だが一人だけ、イリヤだけがその場から動けずにいた。

「イリヤ!」

 士郎は咄嗟にイリヤの体をかかえ、その場から飛びのいた。

 危機一髪、士郎はイリヤとその場を脱出すると、すぐに戦闘態勢をとる。

 周りには50を超えるサーヴァントの群れ、つまり、今回のクラスはアサシンとなった。

 状況の確認を終えると、それぞれ戦っている凜たちへ士郎は指示を飛ばす。

「美遊、空から攻撃しろ、相手の土俵は地上戦だ、なら対策は簡単だ・・・・・・まとめて吹き飛ばせ」

「「・・・・・・衛宮君(シェロ)、さすがにそれは・・・・・・」」

 士郎の作戦にドン引きな二人、だが間違ってはいない。士郎の言葉に反論する、という選択肢がない美遊は、手当たり次第に広範囲魔力弾を放っている。

 士郎はこの攻撃は陽動ぐらいにしかならないだろうと思っていた。本来のハサン・サーバッハの実力があれば、いくら美遊の攻撃といえど余裕でかわす・・・・・・はずだった。

 「・・・・・・・・・・・・」

 士郎は自分で指示したこととはいえ、その光景に唖然としている。

 セイバーの戦いでは確認できなかったが、黒英霊の実力は、バーサーカーと化している。それだけではない。ステータスもかなり落ちる。

 体に染みついた経験で戦う三騎士などは例外だが、主に思考を用いて戦闘を行うアサシンクラスなどは特にそうだったようだ。

 簡潔に言うと。

 蹂躙していた。

 元のステータスもあってか、対一の戦闘でも問題なく対処できる。

 しかし。

 ここで士郎たちは一つのミスを起こした。

 アサシンの数はみるみる減っていき、残りの数も視認できる。

 それ故に油断する。

 戦いにおいてもっとも起こしてはいけないのが油断、慢心だ。前者ならば経験が乏しい者に、そして後者ならば実力高い者に起こりうる。

 士郎ですら思ってしまった。

 油断とまでは言わない。それでも”今回は問題ない”、と。

 

 残り十体ほどのアサシンが一斉に士郎たちへ向かってきた。

 意図したことではなかっただろう。だがそれは、結果的に正解となる。 

 爆撃という攻撃をとっていた美遊では、近くにイリヤたちがいる状況では攻撃できない。さらに、空から攻撃。それを行っていたため、すぐにイリヤたちのもとへ駆けつけられなかった。

 それでもそれぞれ十分な実力者、対応は十分に可能だった・・・・・・そう、イリヤ以外は。

 イリヤは素人、それでもルビーというチートを持っているのだ。英霊といえど弱体化し、さらに自身の宝具によっても弱体化しているアサシンは、十分に対応できたはずだ。

 だが、ここでも最初の油断が命取りとなる。

 ・・・・・・毒、それによってイリヤは十分な対応ができなかった。

 士郎に助けられる時、腕にわずかにかすった刃。それに毒が仕込んであったのだ。

 イリヤは自分に対する攻撃に何もできない、見ていることしかできない。

 動かない。動けない。

 アサシンの持っている刃の表面に、自分の顔が映る。

 そこに、自分の死を見る。

「(―――――死にたくない)」

 イリヤはその光景にごく普通で当たり前の感情が流れてくる。誰にでも持っている、普通であるからこそ強い感情。

 その気持ちに答えるように、イリヤの中にある鎖は、その強さによって・・・・・・壊された。

 

 

 

 士郎は投影した『干渉・莫耶(かんしょう・ばくや)』によってアサシンらを切り伏せていた。そこで初めて違和感に気付く。

「なっ・・・・・・!」

 迫るアサシンに対して、イリヤが座りこんでしまったのだ。イリヤの自分に起きたことがわからない、その表情を見て気づく。

(毒だと!?・・・・・・くそっ、間に合えっ)

 イリヤへと向かう士郎。それを阻むように二体のアサシンが士郎の前に立つ。

「どぉけぇぇぇ!!!」

 一瞬、瞬きすら終わらないうちに士郎はその二体を切り伏せる。

 そう、これが士郎だ。誰かを救う時こそ本来の力を発揮する。それでこそ衛宮士郎だ。

 士郎は手にもつ『干将・莫耶』をイリヤに攻撃をしようとしているアサシンへと投げつける。

 アサシンの攻撃が届くまえに士郎の攻撃が届く・・・・・・はずだった。

 突然、イリヤから膨大な魔力が放出される。

「まずいっ」

 士郎は咄嗟に右腕を前に出す。

 『熾天覆う七つの転環(ロー・アイアス)』。

 詠唱無しの発動。本来七枚の花弁は二枚のみ。

「・・・・・・くっ」

 すぐに一枚目も割れ、二枚目にもすでにヒビが入っている。

(このままじゃまずい、・・・・・・”あれ”を使うしかないのかっ)

 士郎がそこまで考えると、士郎の前に紫色の少女が舞い降りた。士郎はその少女を見ると、顔に笑みを浮かべその手に力を込める。

「美遊、耐えるぞ」 

 たった一言、それだけ、それで二人はお互いの考えを理解する。

 美優は魔力を反らすことだけに集中する。だが、それだけではまだ足りない、イリヤが無意識に行ったのは魔力による”爆発”だ。物理保護を無視してしまえば、熱や突風といったダメージはもろに入る。

 しかし、美遊のとなりには士郎がいた。士郎は美遊が攻撃を防いだ一瞬の内に『熾天覆う七つの転環(ロー・アイアス)』へ魔力を注ぐ。一枚一枚が古の城壁と同等の防御力を持つとされている防御系宝具、その最後の花弁にはさらなる伝承がある。

 他の花弁よりも強固になる。 

 という単純なものだが、その力は絶大だ。その伝承により、魔力を込めることで他の花弁より強固にできる。

 士郎はアーチャーと違いこの礼装を使いこなせていない。魔力を込めるためには一瞬のためが必要だ。  

 美遊と士郎、二人によりその周辺、そしてその後方にいた凛とルヴィアのみが無傷だった。周りにあった木々はすべて消滅、近くを見ればアサシンのクラスカードが落ちている。

 その光景に真っ先に声を上げたのはイリヤだった。

「これ、何・・・・・・わたしが、やったの、・・・・・・?」

 アサシンの時とは違う。

 今回は、イリヤは自分のしたことを正確に理解し、覚えていた。その目には自分自身への恐怖、そして、みんなへの怯えがあった。

 そう、この瞬間イリヤは思い出したのだ。今までは自分の兄が守ってくれた、戦ってくれた、だから気づけなかった。

 ここがどんな場所なのか、ここがどんな危険な場所なのかを。

 イリヤの目に涙があふれる。

 イリヤは、まずは周りに謝ろう、そんな思いで言葉を出そうとする。

「あの、わたし、こんなことになるなんて・・・・・・」

 士郎がイリヤに声をかけようとする前に、美遊が口を開く。

 

「危なかった、お兄さんがいなかったら私も、凜さんもルヴィアさんも死んでいた」

 

 唐突に告げられた非難の声。

 美遊らしくない。

 それでも。

「でも、これは、私にもわからなくて・・・・・・」

「そんなことは関係ない、結果はこれ。一歩間違えれば死んでいた。あなたのせいで――――」

 美遊は止まらない。確固たる理由を持って。

「ちょっ美yって衛宮君?」

 凜の言葉を遮るように、士郎が凜の前に手を広げる。

「――――そもそも、最初に攻撃を受けたのもあなたで、動けなくなったのもあなた。あなたがミスを招き、あなたが勝手に暴走して、みんなを危険にさらした。そう・・・・・・お兄さんだって・・・・・・。こんなことはもうたくさん・・・・・・! 私は、二度と・・・・・・あなたと一緒に戦いたくない!!」

 美遊は左手で自分の腕をつかみ、その腕は震えていた。

 それを見て、凜もルヴィアも気づく。

 美遊は、イリヤと一緒にいるのが怖くて震えているのではない。イリヤに、友達に、こんなことを言いたくなくて、我慢できなくて震えているのだ。

 イリヤは美遊の言葉に後ずさり、

「わ、わたし、は、ぅぅっ、ぅぅぅわぁぁーー」

 落ち着くように声をかけるルビーの声を無視して飛び去った。

 それを、美遊は悲しそうに見つめるだけだった。

 

 

 その後、士郎たちはクラスカードを回収し、元の世界に帰ってきた。

 美遊が先頭を歩き、そのあとに士郎たちが続く。

 分かれ道、そこで士郎は唐突に足を止める。

「美遊、少し散歩しないか」

「・・・・・・・・・・・・」

 美遊からの返事はない。

 代わりに、言葉を返したのは凛とルヴィアだ。

「そう、なら今日はここでお別れね。衛宮君あまり遅くまでつき合わせたらだめだからね」

「シェロ私は先に帰りますので後のことは頼みますわよ」

 美遊の逃げ道を塞ぐように、ルヴィアと凜が士郎に合わせる。

 残ったのは士郎と美遊の二人。

 美遊は士郎の後ろを静かに歩き、士郎が足を止めると、同じように足を止めた。

「ここだよ」

 うつ向きながら歩いていた美遊は、士郎の言葉で前を向く。

「こ、ここはっ」

 やっと。

 美遊は目を見開いて驚く。

 そこは、士郎の鍛錬場でもあり、美遊が並行世界で・・・・・・いや、本来の世界で、自分の兄と住んでいた家。

 大切な場所。

 士郎は何もなんでもないように、扉を開け家の中へと入る。

 特に生活感があるわけではない。ただ、士郎が使っているためか、清掃は行き届いている。

 美遊は驚きながら、懐かしく思いながら士郎の後に続く。

 

 

 

 士郎は縁側に腰を下ろすとその横に美遊を座らせた。

 その光景は、昔の自分と切嗣を見ているようで少しおかしな、それでいて懐かしい気持ちになる。

 これが正しい事かわからない。 

 それでも士郎は話し始めた。

 昔切嗣が自分に語りかけたように・・・・・・。

 

「俺はさ、昔、主人公になりたかったんだ――――」

 

 

 

 

 

  




予定では次の話数は戦闘シーンなしでネタでいきます
真ぁネタと言うわけではないのですが・・・・・・

もちろん物語に合わせてはいます。
ただ、好きな作品の書き方をまねしたといいますか・・・・・・

私が書きたかったので書く感じなのですが(笑)どうか楽しみに待っていてください!

美遊フラグっていつ立たせよう?
今回もありがとうございました!


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10話とかとか~ ♪ 成長編

今回は戦闘シーンなしです
そしてお知らせですが!!!!!
今後は、後書きで、軽い設定や裏話など書いてみたいと思っていいます
お暇な方はぜひ読んでみたください!!

質問等があればそこでも答えていこうと思ったいます。ので、質問のある方は是非お願いします!

タイトル変わりましたので今後はこちらでよろしくお願いしますm(__)m
報告できずに申し訳ありません


『俺はさ、昔、主人公(ヒーロー)になりたかったんだ――――』

 

 士郎は静かに口にした。

 美遊のきょとんとした表情を見て、自身で口にした言葉に苦笑する。いきなり、そんなことを言われて、すぐに理解する方が難しいだろう。

 

 だから、士郎は語り始める。

 

 まだこの世界で誰も、切嗣達すら・・・・・・イリヤすら知らない事実を。

 話すべきではないと思った。こんな話はするべきではない。

 それでも。士郎は口にする。自身の言葉を届けるために。自分がどんな人間なのか、それをしってもらうために。

「少し、昔話をしようか。・・・・・・そうだな。ならまずは定型文として」

 士郎は何が面白いのか、柔らかな笑みを浮かべて。

 ゆっくりと。

 

「昔むかしあるところに、ごくごく普通の少年がいました――」

 

 

 ****************

 

 

 美遊は士郎の話を到底信じられなかった。

「そんな、そんなことが・・・・・・本当に・・・・・・」

 初めてかもしれないだろう、美遊が士郎を疑うのは。だが、それほどの話だった。

 平行世界の住人、それだけならまだわかる。なぜなら自分もそうなのだから。ある人物に憑依した、それも魔術があるこの世界ならあるかもしれない。自分という聖杯という存在すらいるのだから。だが、この世界が作り物? 創作物? そんなことあるわけがない。

 そんな美遊の困惑に答える士郎。

「大丈夫だよ美遊、この世界はあくまで俺が知っていた世界と似ている世界、それだけだ。俺という異物が紛れ込んでいる時点で、それは全く別物なんだよ」

 士郎は「少し余計な事まで話したか?」と愉快そうに笑っている。

 それに美遊はどうしてそんな簡単に自分に起きたことを割り切れるのかわからなかった。

「どうして? お兄さんは、どうして元の世界に帰ろうとしないの?」

 わからない、なんでそんなに元の世界をあきらめられるのか、美遊はそれが一番わからなかった。美遊には元の世界に大切な人がいる。美遊をこの世界に送った張本人であり、美遊のために並行世界の移動すら願ってくれるほど、美遊を愛していた美遊の兄。  

 あくまで兄弟としてだが、美遊もそれにこたえるように自分の兄を愛していた。

「どうして、か・・・・・・。その答えはさっき言ったことが理由かな」

「主人公・・・・・・?」

 美遊は思い出すようにその言葉を口にした。

「そう、この世界にきて憑依したのは本来ならこの世界を救う人間で、物語の中心にいる人物で、主人公だったんだ」

 

 ――最初は歓喜した、その代わり絶望も早かった。

 

「子供のころから人一倍、そんな主人公に憧れてた。・・・・・・でも、俺はとても弱い人間だったんだ。誰かのために戦うことなんてできない、そもそも戦いなんてしたくない。俺は一人で戦えるほど心が、強くなかったんだ」

 

 ――そう、選択肢がなかった、士郎は主人公にはなれるような人間ではなかった。

 

「でも、この世界にきて可能性ができた。憧れになれる可能性が・・・・・・」

 

 ――それでも、僅かな可能性を求めて行動していた。

 

「『幻想殺しを宿す少年』上条当麻のように泣いてる女の子を助けるために理由を求めず拳を握れて、『学園都市第一位』一方通行のように自分の過去に後悔しながらも光を目指し、『おっぱドラゴン』兵藤一誠のようにハーレムを目指す変態でも女の子を不幸から救い出す、『奉仕部員』比企ヶ谷八幡みたいに自分を犠牲にしながらも誰かを救い本物を願う、『黒の剣士』桐ケ谷和人、キリトのように好きな女の子のために剣を振れて英雄と呼ばれ、『都市伝説にまでなったゲーマー』『  』(くうはく)、空と白のように互いを信じあえるような存在がいる、『闇に舞い降りた天才』赤木しげるのように運に愛されていてスリルを楽しめる、『キラ』夜神ライトのように頭脳戦にたけ正義感に満ちていて、『幻の6人目(シックスマン)』黒子テツヤほどに、努力を知っててバスケットに全力で、『ToLoveるの申し子』結城リトのように純情でありながら女の子に真剣で、『再生と分解の魔法師』司馬達也のように妹のためなら残酷であり、『黒の騎士団のリーダー・ゼロ』ルルーシュ・ランぺルージのように世界の明日のために自分の命すら使う、『blessing softwareプロデューサー』安芸倫也のように女の子に振り回されながらも夢に全力で、『世界最強吸血鬼の眷属』阿良々木暦のように不思議な日常に巻き込まれながらも誰かのために動いてて、『未完の少年(リトルルーキー)』ベル・クラネルのように英雄を目指す冒険者で、『異世界の引きこもり冒険者』佐藤カズマのようにダメ人間だろうといざという時に頼りになる、『フラクシナスの切り札』五河士道のように女の子の笑顔を守るために行動でき、『死に戻りを繰り返す少年』ナツキスバルのように不幸に苛まれながらも懸命で、『アナザーワン』黒鉄一輝のように才能がなくても努力は天才を勝てると証明し、そして・・・・・『正義の味方』衛宮士郎のように正義の味方を目指しその生き方に後悔しない、そんな主人公になれる可能性が」

 士郎の世界を知らない美遊には彼らがどんな主人公なのかはわからない。だけど、彼らを語る士郎の顔がとても誇らしそうに語るのを見て、士郎が何になりたかったのか、少しだけわかるような気がした。

 だが、その顔は「だけど・・・・・・」とその言葉の続きを話そうとすると同時に崩れさった。

 結局は作り物。

 

 ――主人公なんて言うものは、本物の物語にしか存在しない。

 

「だけど・・・・・・そんなことはなかった。元が弱い俺には選択肢がなかったんだ。それでも、そんな俺でも誰かを救うことができた、アルトリアはこんな自分に救われたと、そんな俺を好きになったと言ってくれた」

 

 ――主人公ではなかったが、それでも何かを見つけられた。

 

 士郎の言葉に力がこもる。

 けれど。

「この世界に来たとき、俺はまた間違えた。誰の人生を犠牲にして生きている自分は、何か大きい目的が必要だと思っていた。だけどそれは違ったんだ、俺は俺の生きたいように、自分の心を信じて生きるだけで良かったんだ――」

 士郎はそこまで言うと美遊の方を向き直り、その瞳を真っすぐ見つめる。

 

「――そして、それに気づかせてくれたのは美遊だ」

 

「……えっ?」

 美遊は驚い驚きながら士郎の目を見つめ返す。

「俺は美遊に泣いてほしくない、辛そうにしてほしくない、そう思った。そして気づいたんだ。この気持ちが俺にとって本物だった、てな」

 本物なんてたいそうなものではない。

 ただ純粋に。

 どこまでも当たり前に。

 士郎はそう言って美遊の頭を優しくくなでる。そして――。

 

「美遊、お前の今日した気持ちは本物か?」

 

 美遊は唐突に言われたその言葉に答えられない。

「美遊は、イリヤを戦いから遠ざけるために、言ったのかもしれない。それでもお前はそのことを自分に誇れるのか?」

 美遊は再度聞かれたその質問に、今度は答えることができた。

「イリヤは私に友達って言ってくれた。初めてだった、私に友達と言ってくれたのは。だから、戦わせたくない。イリヤも戦いたくないって思ってる」

 素直に嬉しい。

 美遊が祖俺ほどまでにイリヤの事を考えてくれていることに。

 だが。

 士郎は悲しそうに顔をゆがめる。

「だから、自分がイリヤの代わりに戦うのか? 自分が嫌われるかもしれないことを言ってでも」

「私にはあれしかできなかった・・・・・・」

 美遊は辛そうにそう答え、それを士郎は肯定する。

「そうかもしれない、イリヤはもう戦いたいとは思っていないかもしれない。イリヤに罪悪感を抱かせないようにするにはあれしかなかったかもしれない・・・・・・」

 士郎はそこまで言い終えると。

「・・・・・・でも、それは間違っている」

 最後にそう付け加えた。

「なんで・・・・・・なんで! お兄さんだってそれしかないって、イリヤを助けるにはあれしかないって、そういったじゃないですか! それが正解じゃないって、どうしてっ・・・・・・」

 美遊は士郎にはじめて声を上げる。

 そんな美遊に士郎は優しく答えを出す。

「どうして、か・・・・・・そんなの簡単だ。その方法じゃ美遊が救われないし、そしてイリヤも救われない」

 

 

 

 

「・・・・・・ッ!」

 士郎の言葉に、美遊は言葉が出なかった。

「美遊、誰かを救うために自分を犠牲にするのは間違ってる。誰かを救って、それで自分が不幸になったらダメなんだよ。美遊のしたことは『正義の味方』かもしれない、一人の少女を救おうとする正義だ。けどな、その行為に自分自身も救われなくちゃ、俺はそれを正義とは呼べない」

 美優には士郎が何を言いたいのかわからない。

「つまりさ。美遊のそんな苦しそうな姿をみて、イリヤは助かったって喜べるのか?」

 「あっ」と美遊は何かに気付いたように声を出した。

「美遊は知ってるんだろ。自分を犠牲にして助けられる苦しみが。自分のために誰かが傷ついて、でも自分には何もできなくて、どうしようもできないって痛みを知ってるんだろ。・・・・・・焦ったはずだ。辛かったはずだ。苦しかったはずだ。痛かったはずだ。震えたはずだ。怖かったはずだ。叫んだはずだ。涙が出たはずだ。――――だったら、それはダメだろ。そんな重たい衝撃は、誰かに背負わせたらいけない」

 その通りだと思った。

 思い出されるのは、自分を助けるために戦った兄の姿だ。

 (自分のために戦ってくれた兄を見ているのは確かにつらかった・・・・・・けど・・・・・・!)

 だからこそ、美遊はそれを間違ってるとは言えなかった。確かに士郎の言っていることは正しい誰もが求める理想だ。でもそれは理想でしかない。

 そのことを美遊は士郎に言う。

「かもしれないな・・・・・・でも、それは一人なら、の話だ。誰かを犠牲にしなくちゃ誰も救えないなんて、なんでも一人でやろうとするやつのセリフだ。誰も犠牲にしない方法なんて簡単だ、周りに頼る、それだけでいいんだ」

 士郎は美遊の目を真っすぐ見る。

「美遊、最初に俺が言っただろ、お前はもう一人じゃないって。周りを見ろ、手を伸ばせ、今のお前にはそれをとってくれる人たちがいるはずだ」

 笑顔を浮かべて「もちろん俺もな」と、士郎は付け足す。

「主人公はさ、必ずしもその世界で一番強いわけじゃないんだ。だけど世界を救っちまう主人公もいる。それはな、周りに仲間がいたからなんだよ。主人公は強いさ、一人で戦ってそれで解決できる。でも、一人で勝てない何かがあったとしたら、それを助けてくれる奴らがいた。そしてなっいくんだ『主人公(ヒーロー)』にさ」

 士郎が夢見た存在、一人でも戦える心があって、それでいて仲間がいて、そして最後にはすべての人間を笑顔にする。そんなヒーローに。

「別に主人公を目指すべきだとは思わない、あれはあくまでフィクションの話だからな。けどここは現実だ、都合よく助けてくれる奴なんていないかもしれない、理不尽なんて死ぬほど起きる。だからこそ、俺たちは手を伸ばすべきなんだ。・・・・・・人は一人じゃ戦えない」

 美遊は、思い返せば士郎が一人で戦ったのを見ていない。時には美遊やイリヤに手伝ってもらい、時には赤い服の、白髪の男と共に戦っていた。

 それだけじゃない、過去の聖杯戦争ではセイバー、アルトリアと共に戦った。

「それに・・・・・・お前の友達は・・・・・・イリヤは、自分のために友達が犠牲になっても幸せになれるような人間なのか? ”なめるなよ”、イリヤは必ず戻ってくる。今度はお前を救うために。だから美遊、お前はその時、イリヤに力を貸してやってくれ。イリヤも一人じゃダメだ。けど二人なら、お前たちは大丈夫だ」

 士郎は言い切った。

 それでも。

 美遊は本当にイリヤが戻ってくるとは思えなかった。イリヤが臆病だと言ってるのではない。イリヤに対して酷いことを言ってしまった自分のために、戻ってくると思っていないだけだ。

 その表情に、「まだわかんなくていいさ」と、笑いながら美遊の頭をなでる士郎。

 美遊は恥ずかしそうに顔を赤くしながらも、それに身をゆだねている。

 

そして思わず口にする「お兄さんは、私のヒーローです」と。

 

 

 

 無意識に出たと思われるその言葉に、士郎は驚いて手を止める。

 それに。

 「そうか、ありがとう」と、静かに口にした。

 今だからこそもわかる。なぜ切嗣が自分を助けたときに自分が救われたような、うれしそうな顔をしたのか。だって仕方ないじゃないか・・・・・・自分も同じように救われたのだから。

 そして、その余韻に浸るように、士郎は美遊との時間を楽しむのだった。

 

 

 

 翌日、イリヤは学校から帰ってくると「はぁぁー」と盛大な溜息を吐きながら布団に倒れこんだ。

 枕に顔を押し付けながら、今日の学校での出来事を思い出す。結局、美遊と話すことはできなかった。

 美遊と顔を合わせるたびにイリヤは思い出す。自分が何をしたのかを。周りの友達にも心配をかけ、このままではだめだろうとイリヤは思う。それでも自分がどうするべきかわからない。

 そんなイリヤの心とは裏腹にリビングから、イリヤの部屋にも騒がしい声が響いてくる。

 

 

『どうして! どうして姉妹でこうも違うんですか!』

『セラ痛い。胸が小さいからって殴るのはNG-』

『セラ、今日の料理は胸に栄養がつくのにするから、そんなに怒るなよ』

『士郎、帰ってきたと思ったら、いきなりケンカを売るとはいい度胸ですね』

『喧嘩なんか売ってないさ、俺は今のセラがなんか不憫d・・・・・・くっ急に涙が』

『いいでしょう、ならば戦争です。私に喧嘩を売ったことを、骨の髄まで後悔させてあげます!!』

『はは、冗談だよセラ・・・・・・セラ? ご、ごめん俺が悪かった! 待って! それ料理に使う道具だから! せめて素手で、まっt・・・・・・ぎゃぁぁあああああーー!!』

『シロー、グッドラック』

『リズ、たすk・・・・・・ごふっ』

 

 

(・・・・・・・・・・・・なんかとんでもないことが起きてる気がする!)

 イリヤは下で起きているただならぬ事態に冷や汗を流していると、ルビーが愉快そうに話しかける。

「いやーこれが日常って感じですかねー」

「うん、これは違うと思う」

 言葉に出してはいるが、イリヤのツッコミも気持ちが入っていない。

「さぁて、それではイリヤさん、そろそろ凜さんに連絡を取りましょうか!」

 何やら気を取り直したように言うルビーに、イリヤは体を軽く震わせる。

「どうして・・・・・・?」

「これからのことを話すためですよー。大丈夫ですよイリヤさん、今イリヤさんがどんな気持ちか私にはわかります。イリヤさんはその気持ちを素直に凜さんに言ってやればいいんですよ!」

「それでいいのかな・・・・・・」

 イリヤの不安にルビーは迷わず肯定する。

「いいに決まってますよ。それじゃー早速、イリヤさんの気持ちをぶっちゃけに行きましょう!」

 

 

 その後、イリヤは凜に、辞表と書いた紙を出しに行き、自分がこれ以上戦いたくないことを伝えた。

 凜はそれをすんなり受け入れ、イリヤの気持ちを優先してくれた。

 

 

『私はもう戦うのはいやです。これ以上カード回収のお手伝いはできません』

『怖かった? 別に恥ずかしい事じゃないわ、あんなの、誰にでも怖い事なんだから』

『うんっ』

『じゃっカード回収の件はこれでおしまいね―――』

『――――というわけで今までお疲れ様、イリヤ。この関係は今日でおしまいよ。もうあなたは私に従わなくてもいい、戦わなくていい。今までのことは忘れなさい。今までどうもありがとう。あなたは、あなたの日常に戻りなさい』

 

 

 ――――――胸が痛かった。

 凜は優しくイリヤの重荷を解いてくれた。それでも、これでもうイリヤとは他人だと、そう言っているような気がして、なぜかとても苦しいく辛い。

 

 

「ふぅー、やっぱりお風呂は落ち着く・・・・・・ね」

 窓から空を見ると、黒い空に星が微かに光っている。

「・・・・・・もう・・・・・・夜だね」

「・・・・・・夜ですねー」

 イリヤの言葉にルビーも返す。

「久しぶりの何もない夜・・・・・・」

 士郎は何も言わずに家を出て行くのを、イリヤは自分の部屋の窓から見ているだけしかできなかった。

 ぼーっと天井を見ていると、ルビーが不思議そうな声を上げる。

「イリヤさーん、どうかしたんですかー」

「えっ、いやーゆっくり入れるお風呂っていいなーって」

 苦笑いを浮かべながら答えるイリヤ、もう怖い思いなんてしなくてもいい。だけどそれが複雑なのだ。本当にこれでいいのだろうかと。

 これは俗にいう、フラグというものだったのだろう。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 そのフラグは、風呂場に入ってきた一人の声によりそれは見事に回収された。

「イリヤちゃーん、おっひさー」

 突然開いた扉から現れたのは、イリヤの母親、アイリスフィール・フォン・アインツベルンだ。

「奥様せめて服を脱いでください!」

 そう、慌てふためくセラを連れてきながら。

 

  

 セラに言われて服を脱ぎ、湯船へと入ったアイリは、イリヤを抱くようにして浸かっている。

「どうして、一緒に!?」

 息をするように自然に入ってきたアイリに、イリヤはどうしてこうなったと、軽く頭を抱えている。

「うーん、だってー、長旅で疲れたし、イリヤちゃんの成長も確認しないとでしょ? どことは言わないけどー」

「まってママ! もう答え言ってる! 手が動いてるから! そしておそらくわざとだろうけど、比較させるように押し付けられてるから!」

 一人で入るときは余裕があるとはいえ、二人で入ると湯船は予想以上に狭い。そんな場所に逃げ場などなく、イリヤはされるがままだ。

 その後も、アイリがルビーに気付き、ルビーを隠すために長時間水中に押し付けたりと、騒がしくも楽しい”日常”をおくるイリヤ。

 唐突にアイリがイリヤに質問しする。

「ねぇーイリヤちゃん、何か最近変わったことなかった?」

「変わったこと?」

 急に聞いてきたそれにイリヤは素直に疑問の声を上げる。

「そう、なにかとーっても”大きな”こ・と・が」

 なにか含みがあるような言い方に、イリヤは思わず黙ってしまう。

「実はね、さっき外で士郎と会ったのよ。そしたらね、イリヤちゃん何か悩んでるから頼むって言われたの。士郎も不器用よねー、多分踏み込みすぎて嫌われたくないのよ。イリヤちゃん愛されてるわね」

 その言葉にイリヤは顔を赤くし、同時に安心していた。

(お兄ちゃん・・・・・・よかった、嫌われたわけじゃなかったんだ)

 何も言わなかった士郎に、イリヤはもしかしたら嫌われたのではないかと思っていたのだ。

「話せることだけでいいのよ、何かあるなら話してみなさい」

 優しく声をかけるアイリに、イリヤは少しずつ話し始めた。最近できた新しい友達のことを。

 

 

 イリヤは美遊のことを話し終えると、思いのほか自分が興奮してるのに気付く。

「――――すごいわねその子、美遊ちゃん? 何でもできる子なのね」

 イリヤはうれしそうに肯定する。

「うん、美遊は一人でなんでもできるんだよ。私が美遊と二人でやることから逃げても、一人でできちゃうんだ・・・・・・。最初からそうだった。私なんかいなくても、一人でできた。本当にすごい、すごいんだ・・・・・・」

 だんだん興奮が覚めたようにイリヤの声は落ちていく。

「そろそろ出ましょうか、のぼせちゃうもんね」

 そんなイリヤにアイリは、そう告げた。

 

 

 場所は変わり、寝室。イリヤの髪をとかしながら、アイリは先ほどの話を持ち出した。

「本当は心配なんじゃないの? それなら手伝ってあげればいいのよ」

 アイリの言葉にイリヤは肯定することができなかった。

「そんなの無理だよ」

「どうして? 言いたくないなら無理には聞かないけど、教えてくれるとママはうれしいかな」

 イリヤは顔を下に落とし、振り絞るように自分の罪を告白する。

「私、失敗しちゃったんだ。私も頑張ってた、作戦を考えたり、特訓したり、でもうまくいかなかった。周りに迷惑かけて、そこから逃げ出しちゃって・・・・・・怖いの、周りに迷惑をかけちゃうのが、いやなんだよ、私のせいで取り返しのつかないことになるかもしれないことが」

 戦うのももちろん怖い。でも、それ以上に、自分のせいで周りが傷ついてしまうのが、イリヤには怖かった。

「そうね、確かにそれは怖いわね。でもね、怖いのはきっと美遊ちゃんも同じだと思うな、ママは」

「えっでも美遊はそんなこと一言も・・・・・・」

 そんなこと考えたこともなかった。それならなんで美遊はなんで戦えるのか、イリヤにはわからない。

「美遊ちゃんってあまり自分のことは話さない子なんじゃないかしら、そして優しい子。イリヤの怖い事を、全部背負ってくれてるんだから」

 アイリの考えに、イリヤは動揺を隠せない。それでも、イリヤはそこから動けなかった。

「で、でも、あたし・・・・・・! 怖いよ。今度こそ誰かを傷つけたりなんかしたら!」

「士郎がね、イリヤちゃんにこれだけ伝えてって言ってたわ、『俺はお前を信じてる』ってね。最初は何のことかわからなかったけど、そういうことよね。・・・・・・イリヤちゃん、あなたは誰かを傷つけたりしない、私”も”保証してあげる。だから、自分を助けてくれた美遊ちゃんを、今度はあなたが助けに行ってあげなさい。あなたならできるわ、きっとね」

 アイリの言葉にイリヤは顔を上げる。見つけたのだ、自分がやるべきことを、気づけたのだ、今すべきことを。

「ママ、私、ちょっと行ってくる!」

「うん、いってらっしゃい」

 イリヤは飛び出すように部屋を出たいき、アイリはそれを微笑みながら見送っていた。

 

 

「イリヤさんこんな時間にどこへ・・・・・・?」

「いってきます!」

 振り返えらずにイリヤは進む。

 美遊のため、イリヤは勇気を振り絞る。イリヤの背中を見つめるアイリには、その背中が自分が愛する、衛宮切嗣(正義の味方)の背中と重なったような気がした。

「いってらっしゃい」

 イリヤには聞こえないその声で、アイリは自分の娘を送るのだった。

 

 

 

 

 

 




今回もありがとうございました。

今回は第一回ということで、なぜ『セイバールートなのにFate/stay night UBWで書いたのか』を話していきたいと思います。

最初からセイバーをヒロインにしたくて書いたのですが、自分がセイバールートを見たことがない! と気づき無理やり知っている話を組み込もうと思ったのが始まりでした。「てへっ」・・・・・・ですが少しして、セイバールートアニメの方見てみると士郎があまり強化されないことに気付き、この世界で活躍するのと矛盾する! と思ったため、士郎の活躍があるUBWで正解だった( ̄▽ ̄)
という感じで、このような設定に落ち着きました。
セイバーをヒロインにした理由は、・・・・・・まぁ察してくれると嬉しいです。妄想は小説内で書き込んじゃったしね!

さて、今回はこの程度ですが、次回は少し踏み込んだ事も書こうと思います
次回もよろしくです! ありがとうございました!


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11話とかとか~♪ バーサーカー編 新しい力

かなり遅くなりすみません。
学校がいそがしく・・・・・・ってこれじゃ言い訳ななりそうなので素直に謝罪します

さて、今回はとうとう士郎の力が明らかになります。
クロス先がマイナーかも知らないので少し説明っぽくなってしまいましたが、その分詳しく書きました!
楽しんでもらえたら幸いです! それではどうぞ!

あっタイトルか得ましたもう一つのプリズマイリヤからFate/「さぁプリズマイリヤを始めように変更です。

勝手に変えてしまいすみません、重ねて謝罪いたします。


 

 

 イリヤが美遊達のもとへ向かう少し前。

 

 士郎は時間になると、自分の部屋をでて、真っすぐ玄関へ向かう。

 先ほどの凜からの連絡で、イリヤが今日来ないことは知っている。いや、最初から知っていた。士郎はあの夢以降、忘れていた原作知識の一部を思い出すことに成功した。

 なぜかは分からない。あえて理由をあげるなら、偶然と言うほかないだろう。 

 本当は自分がイリヤの力になりたい、士郎はそう思っている。

 それでも今回は。今回だけは。事情を知っている自分より、何も知らないアイリのほうがイリヤの力になれると判断したのだ。

 

 家を出て、凜たちとの待ち合わせ場所へ向かおうとしている途中、見覚えのある女性が歩いている。その女性は、年齢にしては若すぎて、どこか子供っぽさを残しつつ、家族思いのような人だった。なぜ士郎が年齢など、初対面では知らないであろう情報を知っているか。だってその人は、アイリスフィール・フォン・アインツベルン。衛宮士郎の母親のだから。

 

「あっ! シロー! 久しぶりー、あなたの愛する母親のご帰還ですよー」

 

 目が合うとすぐに、手を振りながら士郎方へと走ってくるアイリ。男子高校生にはきついセリフを吐く母親に、士郎は思わず目を反らす。

 士郎は憑依、転生としているが、しっかりとした大人の年齢まで生きていないため、精神新年齢は幾分か低い。しかも、今の士郎として生きているのはこの世界が初めてであるため、ほとんど現在の年齢と大差ないのだ。

「か、母さん、お帰り」

 恥ずかしさを押し殺し、苦笑いを浮かべつつも何とか返事を返す。

 今の時間帯が夜で、周りに知り合いがいないことを心から喜こんだことだろう。

 このようなところを見られたら一発でマザコン認定される。ただでさえシスコンの士郎にはきつい話だ。

「ただいまー!」

 そんな士郎の感情など知らないというように、アイリは士郎に抱きついてくる。

「――!! かかかか母さん!?」

 一瞬思考が停止し、困惑を隠せない士郎。いくら英霊と戦えるからと言って、それが母親より強い事にはならない。母という生き物は、士郎にとって世界の誰よりも強い生物なのだ。

 そんなたじたじになっている士郎にアイリは耳元でそっと囁いた。

「もう大丈夫なの? 辛くない?」

 その言葉に士郎は動きを止める。抱き着かれているためアイリの顔は見えない。

 それでも士郎は、アイリの心配そうな声にうれしさを感じている。

 

 ――恵まれてるな、俺は。

 

 士郎はゆっくりとアイリを引き離すと、アイリの顔を見て笑顔で答える。

「大丈夫だよ母さん、”俺もこれから頑張っていくから”」

 それは必然か否か、アーチャーが凜に残した言葉と同じものだった。

 この言葉は出るべくして出たのだろう。心の重荷はとれ、自分が何をしたいかも見つけられた。今までの衛宮士郎じゃない、これからは”衛宮士郎”として頑張っていこうと、そう思えた士郎だからこそだ。

 その言葉にアイリは「格好つけちゃって」と軽く笑いながらも、どこか安心そうな顔を浮かべている。

「士郎、あなたが何を見つけられて何と出会ったのか、詳しくは聞かないわ。だけど一言だけ、”頑張ってきなさい”それをあなたが望むなら」

「任せてよ、母さん」

 『ありがとう』じゃなくて『任せて』と士郎は言った。

 感謝ではなく決意を口にしたのだ。

 その言葉に、満足したのか、アイリは可愛らしい笑みを浮かべている、綺麗と言い換えてもいいかもしれない。そんなアイリを見て、数年後のイリヤはこのようになるのかもなと、オートでシスコンを発動させている。

 そんな士郎の心でも読んだのか「何かいろいろ台無しね」とアイリはが苦笑を浮かべている。

「とっところで母さん、家には帰るのか?」

 何とか話をそらそうと、士郎は知っていることをわざわざ質問する。やはり士郎は、母親相手だと逃げるしか手はないようだ。

「帰るわよ。士郎のことは切嗣たちに任せてたからね。今日のは私が会いたかった来ただけなのよ、もちろんイリヤちゃんにもね」

「そうか、ならイリヤのこと頼む。それから少し伝言を頼みたい、『俺はお前を信じてる』言うべき時にそう言ってほしい」

 アイリは最初は何を言っているのかわからないように首を傾けたが、少しして、「わかったわ」と、言葉の意味を察したようにそう言ってくれた。

 

 

 その後、アイリと別れた士郎は、時間の少し前に美優や凜達と合流した。今いる場所はすでにカードがある境界面。

「今回はやたらと狭いな」

 移動先は高層ビル一つ分の広さしかなく、その状況に士郎は呟く。

「カードの歪みがなくなってきてるのよ。今回で終わりなわけだし、しかたないわ」

 凜が答えるが、問題はそこじゃない。

 この場所で戦うのがバーサーカー『へラクレス』が相手である。それが問題なのだ。

 アーサー王に並ぶ、いや、確実にそれ以上の大英雄。生前十二の偉業を成し遂げたという伝承がそのまま昇華された宝具。十一回の自動蘇生能力。さらには、Bランク以下の攻撃のシャットアウト。自分を殺した武具には耐性がつくという鬼畜仕様。

 どこの誰が考えたのか。そいつは確実に頭がおかしいはずだ。

 士郎の戦った聖杯戦争では、アインツベルン家の「バーサーカーこそ最強!」という思い込みにより、バーサーカークラスで召喚されたが、本来ならば魔術師以外のすべてのクラスで召喚可能なほどに武芸百般を極めた武人である。

 狂化しているため人格はわからない。それでも、こと戦闘においては狂化に飲み込まれなお理性を保てるほどの英雄。

 

「気抜いたら死ぬからな」

 

 いつも以上に真剣な士郎の忠告。

 今回、士郎はバーサーカーの能力を美遊にしか教えていない。もちろん考え合ってのことだが、それで凜たちを危険にさらすつもりなどない。

 誰もが口を噤む。

 

 そして。

「■■■■■!!!」

 唐突に目の前に現れた大英雄の咆哮と共に、最後の戦いが幕を開けた。

 

 ”巨人”そう称してしまうほどの巨漢な男。その姿は黒霊化により黒く染り、まっ直ぐこちらに突進してくる。

 振り上げる拳がルヴィアに迫る。

(――ッ! 速い!!)

 しかし、速い程度の攻撃を避けられないほどルヴィア・エーデルフェルトは甘くない。

Anfang(セット)

 避けると同時に、ルヴィアはバーサーカーへと宝石魔術を放つ。

 魔術師は本来戦うものではない。キャスターが自身の工房へと敵を誘うように、直接的な戦闘は不得手であるのが通例だ。が、何事にも例外はある。

 士郎では理解できない幾重にも重なる魔術を全身にかけ、ルヴィアはバーサーカーと対峙する。

「さらにもう一発!!」

 置き土産。バーサーカーの視界に宝石が光る。直後。

 スドーン!! と、バーサーカーが紅蓮に包まれる。

 

「美遊ッ!!」

 

 士郎は叫ぶ。それは知っているから。

 この程度ではバーサーカーには傷一つつけられない、そのことを。

放射(シュート)!!」

 士郎の声に反応した美遊が攻撃を仕掛ける。威力は上々。

 

 だが。それでも・・・・・・足りない。

 

 だから士郎は待っていた。先ほどの攻防には参加せず。確実にバーサーカーを殺せるその時を。

 士郎はすでに構えていた。先ほどから。あるいは最初から。

 手の持つそれは『偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)』Aランク宝具。

 何故最初にそれを放たなかったのか。考えるまでもなく簡単な話。

 いくらAランク宝具とはいえ、あからさまに狙えばバーサーカーは回避する。だが、今のバーサーカーはどうだ。周りは紅蓮の帆脳に包まれ、美遊の攻撃がそれを助長させている。視界確保は不可能。

 もちろん。これは偶然ではなく作られた状況だ。とは言え、攻撃そのものが効かなければバーサーカーは止まらない。今の状況もルヴィアが攻撃してから数秒もたっていない。足止めにすらならないだろう。

 それでも『一瞬』がそこにあるのなら。

 

 今の士郎は外さない。

 

 以前、煙幕の流れのみでキャスターを打ち取った士郎からすれば、今回のそれはイージーすぎるものだった。

「とりあえずまあ・・・・・・一回だ」

 何気ない言葉と放たれたそれは。揺れる炎を左右に分け、必然。バーサーカーの心臓に当たる寸前だけを映像として残し。――ズガーン!! と、それは爆発した。

 

 『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』によって起こったそれは、バーサーカーの上半分を吹き飛ばす。 

「やったの?」

 イレギュラーに備え、準備をしていた凜が口にする。

 ルヴィアも安堵の表情を浮かべる。

 しかし、士郎と美遊。二人だけは死体となるはずのそれから目を離さない。

 静かに。バーサーカーは動き出す。

 回復など生易しい。明らかに時間が巻き戻されたように、体を少しずつもとへと『戻す』。

「「なっ・・・・・・!!」」

 凜とルヴィアの驚きの声、しかし当然だ。これほどまでに破格な宝具はそうない。

 『十二の試練(ゴッド・ハンド)』それは『ヘラクレス』だからこそ許される宝具。真豪事なき英雄の証。

 再び放たれる咆哮。

 

 それと同時、士郎と美遊は動き出す。

 

 士郎の手には黒と白の双剣『干将・莫耶(かんしょう・ばくや)』が握られている。

 二本の剣を携えながら。士郎は迫る。

 バーサーカーはすでに目の前。

 死を目の前に見ながら。士郎はそれと対峙する。

(まずは二本・・・・・・)

 『干将・莫耶』は士郎にとって最も使いやすい宝具ではあるがそのランクはC。それではバーサーカーにダメージは与えられない。だから士郎が狙ったのはその足元。

(四本・・・・・・五本)

 士郎は踊るようにバーサーカーの攻撃をかいくぐる。

(六本、よしこれで最後。――ッ!!)

 虫でも払うかのようにバーサーカーがうでをふるう。

 避けれたのは奇跡だったかもしれない。目の前まで迫っていたその腕を、士郎は間一髪でしゃがんで避けた。

 しかし。

「・・・・・・ぐぶぅ・・・・・・かぁッ!?」

 士郎が避けたと認識するほぼ同時に、バーサーカーの足が士郎の体を蹴り上げる。

(目で追ったとかいう速さじゃないぞ!! ・・・・・・けどな!)

 宙へうかぶ体を何とか立て直しながら。

「――ッ! 弾けろ!」

 直後。バーサーカーの周り。より正確には足元に刺さった数本の剣が。同時に爆弾へと姿を変える。

 投影魔術だからこそ行える士郎だけの特別。

 それでも、バーサーカーには効果はない。だが、その足元なら話は別だった。

 崩壊する足場。それによって僅かにバーサーカーの足が止まる。

 士郎の作り出したこの隙は、そのままバーサーカーの二度目の死へと直結した。

 

 

 士郎の後方、魔術を足場に空中へと移動していた美遊は、戦闘前に士郎からあることを教えられていた。

 それは『ゲイ・ボルグ』本来の使い方。

 『刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルグ)』ではなく『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)』。

 その真価は、命中させる事ではなく一撃の破壊力の重視。その威力は、投擲武器に対して絶対とまで言われているほどの『熾天覆う七つの円環(ローアイアス)』を貫通するほど。そして当然、”因果逆転の呪い”も存在する。

 一度標的を定めれば、相手が地球の裏側だろうが確実に仕留めるそれは、敵意をもてば確実に相手を仕留める必殺の槍。

 美遊は士郎が作るであろう隙を逃さない。たった一発。それだけのために美遊は全神経をバーサーカーへと向ける。そして。

 その時は来た。

 美遊の手で一本の槍が赤く染まる。注げるだけの魔力を。

 真命――解放。

 

「『突き穿つ――死翔の槍(ゲイ・ボルグ)』!!」

 

 その槍は上下左右、敵の匂いを嗅ぎつけるようにランダムに赤い軌跡を生みながら進み。バーサーカーの心臓を貫くと同時。圧倒的な熱量をまき散らす。

 

 ビルの屋上での巨大な爆発。士郎は、凜とルヴィアを背に『熾天覆う七つの円環(ローアイアス)』でその身を守っていた。

 今度こそ倒した。そう思わせるほどの攻撃。

 それでも。

 

 『十二の試練(ゴッド・ハンド)』は越えられない。

 

 爆炎の中、黒い影が起き上がる。

 それを見て真っ先に声を張り上げたのが凜だった。

「撤退よ! あんな化け物対策なしじゃ勝ち目がないわ!」

 その選択はさすがというべきだろう。相手の能力を少ない時間で見極め、さらにはそこから最悪の可能性すらを導き、決断から実行までの対応の速さ。

 魔術だけじゃない、戦闘においても一流だ。

 その言葉に士郎と美遊も素直に従い、バーサーカーの蘇生が終わる前にビルの中へと入っていく。

 

「サファイヤ、ここでいい」

 美遊の言葉でサファイヤは離界(ジャンプ)の準備を始める。

「かしこまりました。【限定次元反射路形成、境界回路一部反転、3,2、1、(ジャン)・・・・・・】」

 その瞬間、美遊と士郎は形成されていた魔法陣から抜け出す。

「・・・・・・なにをッ!」

「美遊・・・・・・!?」

 言い終わる前に、凜とルヴィアの二人のみが元の世界へ戻される。

 それによって二人となった士郎と美遊。

 

「美遊、無理して残らなくても良かったんだぞ?」

「無理してないもん」

 

 少しからかいながら言う士郎に対し、美遊は少し頬を膨らませながらそれに答える。

 昨夜以降、美遊は士郎によりなつくようになった。わかりやすく言うと可愛いくなりすぎた。そんな美遊を士郎が断るわけもなく、普通に受け入れ、美遊もそれに甘えていたのだ。

 二人の雰囲気こそあれだが、この状況こそが士郎が望んだ展開だった。

 いくら凜達でもバーサーカーの相手はさすがに難しい。

 士郎もすべてのイレギュラーに対応できるわけではない、もしもがあっては困る。

 だからここは先に逃がしたのだ。

 ビルのどこからか、破壊音が響いてくる。恐らくバーサーカーがこちらへ向かって来ているのだろう。

 その音を聞きながら二人は準備を始める。

 今までの攻撃は、言ってしまえば”手始め”だ。Aランク宝具『偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)』による奇襲、『ゲイ・ボルグ』真名解放の『刺し穿つ死翔の槍(ゲイボルグ)』それをしたなお。

 

 物語の序章。本番はこれからだ。

 

 

「サファイヤ準備は良い?」

「問題ありません美遊様、しかしもしもの時は・・・・・・」

 サファイヤはバーサーカーの話を聞いた時からこの作戦に猛烈に反対の声を上げていた。

 それは一概に美遊を思っての言動だ。美遊はそんなサファイヤに感謝している。だからこそここで負けるつもりなどなかった。

 恐怖は確かにある。『ゲイ・ボルグ』を放った時、倒したという手ごたえが確かにあった。今までにないほどの一撃だという感触も、まだ倒せていない。本当に倒せるのかという不安もあるだろう。

 でもなぜか、美遊は負けるとは微塵にも思っていなかった。

(これが・・・・・・誰かと一緒に戦うってこと?)

 美遊はまだ断言できない。それでもこの感情は隣にいる士郎のおかげだと、心のどこかで分かっていた。

「大丈夫。ありがとうサファイヤ」

 美遊はサファイヤに優しくそれでいて力強く答えると、一枚のカードを地面へ置く。

「『告げる――汝の身は我に 汝の剣は我が手に』

 何を言うべきか。

「『聖杯のよるべに従い この意この理に従うのならば答えよ』」

 何故か分かる。

「『誓いを此処に 我は常世総ての善と成る者――我は常世総ての悪を敷く者』」

 一度聞いた。

「『汝三大の言霊を纏う七天 抑止の輪より来たれ』」

 これは確信だ。

「『天秤の守り手よ!! 『夢幻召喚(インストール)』!!』」

 瞬間。魔力の光に美遊は包まれ、そのの姿が変わる。存在の上書き。新たなる力を手にして、美遊は姿を現した。

 

 青い甲冑を身に着け、世界最高の聖剣を携えてながら。

 

 そして、その力に答えるように・・・・・・バーサーカーが姿を現した。

 

 

 『事実は小説より奇なり(バビロン・オブ・ワード)』今の士郎に許されたもう一つの力。

 衛宮士郎に憑依したからか得た力なのか、この力があったから士郎に憑依したのか・・・・・・始まりはわからない。

 それでもこの力の使い方は知っている。

 一つ、それが剣であること。一つ、この世界(Fate)にその剣が存在しないこと。一つ、その剣の知識・使い方を知っていること。

 あとは投影魔術とほとんど変わらない。

 しかし、本来投影魔術とはその剣を解析して初めて複製できる。その前提を。士郎の新たな力は放棄する。

 魔術とは言えない何か。

 今思えば、セイバーとの戦いで投影した二つの剣『エリュシデータ』と『ダークリパルサー』もその一つだったのだろう。

 本来ならありえない。衛宮士郎にできるはずのない力。

 『この世界(Fate)があるのならば、この世界(Fate)以外にも創作物の世界が存在するはず』という仮定を作ることによって、それを行う。他世界の剣の投影。

 投影可能なものは剣のみと言ってはいるが、普段の投影魔術同様、剣以外にも可能だ。ただし同じように効率は悪く、劣化が伴うのだが。

 士郎のそれは、その創作物の世界の知識を有し、さらには投影すべき武器の詳しい知識が必要だ。

 士郎は思わず笑みがこぼれる。

 

 ――そんなの転生した自分にピッタリな力ではないかと。

 

「『異界同調_開始(トレースクロス・オン)』」

 

 士郎の詠唱と共に、手の中で無数の電気が飛び交うように、魔力の余波が弾け合う。

 そして・・・・・・その剣は現れた。

 『とある魔術の禁書目録』その世界に存在する一本の剣。『神の右席。後方のアックア』によって使われた剣『アスカロン』。

 前兆三・五メートル、重量二〇〇キロオーバーにもなるこの剣は、Fateの世界に会存在するアスカロンとは存在そのもの違う。

 一六世紀末の作家が、実在する伝承をもとに紡いだ、"物語の登場する聖剣と同じ効果"を持つ剣。

 それを『とある』の世界に実際に存在する魔術師が、必要な数値を算出し作り出した(・・・・・)『理論上では前兆五〇フィート級の悪竜を殺すための性能を持つ』剣。

 

 特徴を上げるなら、一般的な両刃の剣のように切れ味は均一ではなく、各々の部位によって厚みや角度が調整されている。 

 斧のように。剃刀のように。ノコギリのように。中には缶切りのようなスパイクや、糸鋸のように剣身に寄り添うワイヤーまでも備えられてあることから、いかにこの剣を作った魔術師が酔狂だったかがうかがえる。なぜなら。

 鱗、肉、骨、筋、健、牙、爪、翼、脂肪、内臓、筋肉、血管、神経・・・・・・どうやら、本気で『悪竜のすべてを切断する』ことを志したらしい。

 そしてこの『アスカロン』はバーサーカーと相性がいい。一本に複数の切り方があるこの剣は同時に、複数の殺し方が存在する。

 士郎の知識の中で唯一、一つの武器でバーサーカーを殺しきれる可能性のある剣だろう。

 悪竜を殺しきる剣。その程度でバーサーカーを殺せるのかは疑問だが、それはやってみるしかない。

 さらに言えば、この剣の質量は二〇〇キロオーバーだ。普通ならば人間には扱えない。

 しかし、『事実は小説より奇なり(バビロン・オブ・ワード)』による憑依経験はその理不尽すら突破する。

 本来の投影魔術ではその剣から得られる技術だけならいざ知らず、その英霊の筋力や宝具を使うことはできない。

 例を出すならばバーサーカーがわかりやすいのではないだろうか。『偽・射殺す百頭(ナインライブス)』士郎が投影できるその剣は本来ヘラクレスの武具である。しかし、その剣を投影したとしても『十二の試練(ゴッド・ハンド)』を使うことはできないように。

 だが。今の士郎ならば。『事実は小説より奇なり(バビロン・オブ・ワード)』と言う限定化において、それすらも行うことができる。

 その一つが魔術。『とある』の世界に存在する魔術だ。

 『とある』の魔術は、『才能のないものが才能のあるものに追いつくために作られた技術』だ。その原理とは、異世界の法則をこの世界に適応することによって、通常の物理法則を超越した現象を発生させるというものである。

 つまり、”異世界の法則を行使する世界”がどこであっても問題はない。  

 さらに言えば、Fateの世界とは違い、生命エネルギーを魔力に変換させているその魔術は、”才能のない者”であり、知識さえあれば、誰にでも使うことが可能なのだ。

 もちろん。知識と技術さらには体の使い方まで、素人には本来行使すら不可能だろう。

 

 だが、それはすべて剣が、アックアの知識が、情報として持っている。

 

 そしてさらにその上。

 『神の右席――後方のアックア』は聖人である。『とある』世界では世界に二〇人といない『神の子と似た身体的特徴・魔術的記号を持つ』人間。

 真豪事なき化け物。

 それすらも、体に適用する。

 

 士郎のこの魔術『事実は小説より奇なり(バビロン・オブ・ワード)』の真価は、『存在するであろう矛盾を徹底的に排除する』というもの。

 それはつまり、その剣の投影と憑依経験を行う上で、士郎の体との矛盾を徹底的に取り除いているということ。  

 言ってしまえばその持ち主――本物により近づけるという性質。

 本物に近づけるという部分にのみ着目すれば、それ自体はさほど珍しくない。なぜなら、美遊の行った疑似英霊召喚『夢幻召喚(インストール)』それと何ら変わらない行為なのだから。

 ただ、本物に近づけるといっても線引きはある。

 "出来る"と"出来ない"が明確に分かれてはいるだろう。それでも、それが『できる』のであれば、その使用者の知識から身体のつくりまで問答無用で近づける。それが今の士郎の力なのだ。

 仮にできないの例を挙げるのであるならば『とある』超能力などがそうだろう。なぜならこの世界には超能力を可能にするシステム、引いては、概念すら存在しないからだ。

 ただ。

 本来の持ち主に近づける。それは、メリットだけではなくデメリットも再現してしまう。

 例として、今回で言えば、聖人の力は強大だがそれ故に制御に失敗すれば、その性質通り自分の体が粉々になってしまうなどである。

 このデメリットは思いのほか大きい。英霊の宝具を投影してもその英霊の弱点などは士郎には現れない。

 しかし、『事実は小説より奇なり(バビロン・オブ・ワード)』では、それがすべて士郎にのしかかる。

 そのため、この力を『無限の剣製』と組み合わせることは危険だ。作り出した剣の力、さらに持ち主の力を十二分に使える反面、そこに存在するすべての剣のデメリットを負ってしまう。

 さらに言うなら、矛盾点の排除。それこそが最大の特徴と言えるこの力。それは複数の剣を投影することにおいて最悪の相性だ。

 片方の矛盾が排除が、もう片方の剣の矛盾の構築になるそれはつまり。二本同時に使えない。恐らくこれこそが、この力最大のデメリットだろう。 

 しかし。それを抜きにしてもこの力は強大だ。

 士郎に使いこなせるかどうかと言えば恐らく不可能だろう。

 それでも士郎はこの力を使う。

 今までの士郎ではバーサーカーを倒すことはできない。けどそれではだめなのだ・・・・・・。

 このクラスカードは美遊(聖杯)から零れ落ちたものだ。このカードの存在が美遊を苦しめる可能性が少しでもあるのなら、それだけで士郎どんな力でも使って見せる。

 

 隣では美遊が、先日のイリヤのように英霊を自分を媒体に召喚している。

 美遊が召喚したのはアホ毛がよく似合う青い騎士だ。

 士郎はそれに懐かしさを感じながら、目の前にいるバーサーカーへと目を向けた。

 

 

 美遊は士郎の持っている巨大な剣と士郎本人に目を向けていた。

(これがお兄さんの力・・・・・・すごい)

 英霊を宿した今だからわかる。 

 圧倒的な力の波動。

 もし美遊に知識があればそれを天使の力(テレズマ)と称しただろう。

 美遊は再びバーサーカーへと目を向ける。

 

 士郎は口にする。

「いくぞバーサーカー」

 それを聞いて美遊もつなげるように口にした。

 それは自分の兄の自信の象徴を現す言葉。

「「命の貯蔵は十分か」」

 

 

 ――そして本物の戦いが幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も読んでいただきありがとうございます。
さて第二回目(名前はまだない)は『士郎の転生について話しましょう』

 士郎の転生の種類ですが小説内では明言されてませんが神様転生(憑依)となります。
 まぁほとんどの人がお気づきかと思いますが・・・・・・。
 さて、なせそんな大事なことを此処で書いたのかというと、私小説内で書く予定がないからです(私、神様との会合の下りきらいなんですよね~)
 まっまぁなぜそんな無駄に複雑なものにしたかというと・・・・・・。
 一番に美遊といちゃらぶさせるためです。よくある士郎の並行世界ものは、すべてあくまで「イリヤをまもる!」みたいになっていますが俺は”美遊をメインで”守りたい! とそんな感じです。原作知識があればそれを違和感なく可能だと思いました。

 第二に士郎の力を使いたいけど他の力も使わせたいというものです。だってみんなそろそろ士郎の攻撃手段だけじゃ飽きるでしょ? みたいな感じです。私が考えた力は複雑すぎてあれなんですが(笑)

 なら「士郎に憑依じゃなくてもいいじゃん」と思う方がいるかもしれませんが、違うのです!
 士郎とオリ主どっちで書くって言ったら士郎が良いのです! すみませんカッコつけといてモチベの話です。でもオリジナルキャラより士郎の方が格好良いと思いますもん。

『さてここで一番大事な話をします』
 この転生は神様経由なのになぜルビーが気づけたのか? 
 それはこの世界に送る際に、この世界の法則を使ったからです。つまり、転生を並行世界からの移動と同じ法則をつかうことで、士郎の体をこの世界に適合させるているのです。
 もう少し詳しく話すと、この世界には魔術が存在します。
 その魔術で士郎の体を調べれば第二魔法の痕跡が出てくるでしょう。
 士郎の転生と言う行為を、その世界の法則に当てはめた。
 だからこそ、ルビーは士郎の事をきずづけたのです。


 わからなくても何ら問題ありません! 少し小難しく言ってごまかしているだけなので(笑)
 この後書きを見てよりこの作品を理解してくれることを願っています!

 今回もありがとうございました!!!!
 


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12話めとかとか~♪ バーサーカー編 英雄×英雄×聖人

敵との会話ができないと能力の説明がすべて地の文になってしまいますね・・・・・・はい、文才がないだけです。

能力が複雑で『とある魔術の禁書目録』を知らない方にはつらいかもしれませんが、なるべく詳しく書いたつもりです。
それでもよくわからないという方は言ってくださればそこを後書きで説明したり、修正したりするので、ぜひコメントください。

とりあえずバーサーカーを強くしすぎて、勝てるかどうかわからなくなりました。
「(どうしよう・・・・・・)」
そっそれではどうぞ!


 

 

 

 士郎は美遊と並び立ち、バーサーカーを正面に構える。

 バーサーカーの手には二メートル強の斧剣が握られており、先ほどのようなむき出しの敵意ではない。それは武人。内からくるような静かな敵意。

 合図はない。世界を敵に回せる三人の人外は、ほぼ同時。世界からその姿を消した。

 

 目には負えないだけ。三人の戦闘はすでに行われていた。

 認識すらできない。だがそれも当然だ。

 方やギリシャ神話の大英雄。方やブリテンの騎士王。方や聖人。全員がただの人間の枠をはるかに超えた存在。真豪事なき化け物たち。 

 そんな中、振り下ろされる剣がバーサーカーの視界に映る。仕掛けていたのは士郎。200キロ以上ある大剣を小枝でも振る感覚で振り下ろす。

 直後。ガギンッ!! と、世界を揺らす衝撃が響く。

 ただ愚直にバーサーカー命を狩るように。

 

 士郎はアスカロンを振り下ろした。

 

 

 ****************

 

 

 士郎の剣から情報を得ている人物は『後方のアックア』その力の根源は聖人。

 『天使の力(テレズマ)』を肉体に内包し、天使の力。その一端を振りかざす人間兵器。自身の肉体すら崩壊させるその力を、士郎は借りた知識。魔術の英知で制御する。

 それだけでも、人間を超えた存在であるのは明白。だが――

 

 『後方のアックア』の力はただの聖人の器には収まらない。

 

 それは『神の右席』としての力。

 『とある』の世界で恐らく最も単純で凶悪な魔術。四人の魔術師のその一人。

 Fateの世界にも神はいる。目の前にいるヘラクレスも半神とは言えその一人。

 なら。ならば。ただの魔術師が神の力を振るうことは可能か? 答えるまでもなく否だ。

 だが、その不可能を。その理不尽を。『神の右席』は突破する。

 人間ならば誰しもが持っているであろう罪――『原罪』が存在する。『神の右席』はそれを限りなく薄めることによってそれを行う。

 人間の限界を超えた存在。 

 ――神・天使クラス『ウリエル』『ラファエル』『ガブリエル』『ミカエル』の四天使の性質いずれかの魔術を行使することすら可能にする怪物。 

 言葉だけなら簡単だが。それを行うことは不可能に近い。先ほども言ったはずだ。ただの魔術師が神の力を振るうことは可能か? それと同義。

 彼らは人間をやめた。普通の魔術師が行う魔術を使用できなくなると言う欠点を持ってなお。余りある力をその身に宿し。

 人間を超えたことで人間の魔術を使えなくなる。それが『神の右席』と言う存在。

 そしてアックアもその一翼。

 行使する力は『神の力(ガブリエル)』四大天使の中で『後方』を司る大天使。

 

 扱う術式は『聖母の慈悲』その力の根源は『罪を打ち消す』というもの。

 神から与えられるの『罰』。人間による『呪い』。自分で起こした『殺人罪』に至るまで罪と言う罪を払拭する。

 それが神の天罰であろうと。宝具の呪いであろうと。黄金級の魔眼であろうと。

 すべてを無に帰す。

 ただ、それすら力の一端。本来の力、その真価。それは。

 ――聖母崇拝の秘儀の行使。それこそが最高の魔術。

 信じる者は救われる。その言葉の再現通り、規律を守らない者には罰を与える、と言う「神の子」の特性すらも軽減する。

 それを魔術的に言い換える。――いいや、置き換える。 

 それは、あらゆる魔術の「約束・束縛・条件」、つまりは規律の軽減。

 魔術の行使に必要な条件を消し去り。絶対に必要な約束事を破棄し。自身にかかる負担束縛を受け入れない。

 魔術的に『厳罰に対する減少』と称されるそれは『神の右席』には本来使うことができない、”普通の魔術”の行使すら可能にする。 

 まさに天使らしい不可逆すら可能にする神の力。奇跡の存在の確率。

 

 そしてそれが何を意味するか。つまるところ。

 『神の右席』には人間の扱う魔術は使えないという『約束』を軽減、つまりは打ち消すことすら可能にする。そして。

 

 それはもちろん士郎にも当てはまる。

 

 

 ****************

 

 

 アックアが得意としていた”水”の魔術。

 それにより地面との間に薄い水の幕を張り、『滑るような』高速移動。

 その魔術は『神の力(ガブリエル)』が司る属性。つまり、アックアの『神の右席』としての力と相性がいい。さらに言えば、その魔術は実際にアックア使っていたものでもある。

 水を操ることで、自分の意志では避けられない攻撃にも自動回避。

 前動作すら起こさないそれは、自身の初動を読ませず、相手に『いつの間にか移動していた』という認識を植え付ける。

 初めて扱う魔術と言う存在。だが、今の士郎はそれを赤子の手をひねるように簡単に扱う。

 バーサーカーの背後、剣を振り下ろしていた士郎は目の前のそれを見て硬直する。

 速度は自身の出せる全力だった。普通に移動しても音速を超える今の士郎の最高速度。もちろん魔術での移動も使っていた。

 それを。

(ありえない)

 バーサーカーは振り向き際。士郎の剣を防御するどころか。

(カウンターだと!!?)

 士郎の振り下ろすそれよりも早く大剣を振るう。後出ししてなお。その剣を士郎に届かせる。

「――くっ!! ぐおぉぉおお!!!」

 体の重心さえ無視した全力の回避。自身の体とバーサーカーの大剣を分断するようにアスカロンを潜り込ませる。 

 瞬間。大型車が衝突ほどの音を響かせ。二人の剣は対峙する。  

 二人のそれを中心に破壊力と言う振動が世界を揺らす。

 そこだけ見るなら互角。だが、攻防自体は完全に士郎が負けていた。

「やばいな。明らかに第五次聖杯戦争よりも強いだろ」

 英霊は、自分本来の力を必ず使えるわけではない。その英霊を召喚した魔術師の技量次第でそのステータスは大きく変わる。過去最高のマスターと言われたイリヤですら、ヘラクレスの本来の力を引き出せていなかった。それの証明。上限が、見えない。

 予想外の強さ。その身を聖人に押し上げてなお、勝てないと理解する。

 それでも、士郎はその剣をヘラクレスに向ける。

「別に自己犠牲なんて考えてないさ」

 再び。二人の剣は激突する。

美遊(いもうと)の前では格好つけたいからな」

 秒で認識することすら間違っていた。それはコンマの世界の戦い。二人の剣の音だけがその場に響く。響き続ける。

 

 

 

 美遊は、この中で最も実力が劣っていることを誰よりも自覚していた。カードの本来の使い方により英霊の力を好身に宿しているとはいえ、その力を完全に引き出せているわけではない。

 経験や覚悟。単純な技量に至るまで、足りないものが多すぎる。・・・・・・それでもこの戦いから美遊が引くという選択肢はない。

 士郎は「イリヤは戻ってくる」と、そう言っていた。

 ・・・・・・そうかもしれない。それでも、イリヤをこんな戦いに巻き込みたくはないと、これが美遊の思いなのだ。

 美遊が宿した英霊はセイバー・アーサー王。

 その力の一端、根源と言い換えたもしれないそれは、セイバーの持つ膨大な魔力だ。

 竜の因子を体の中に持ち、その恩恵によって、魔術回路がなくても魔術の生成を可能にしているのだ。魔力を体、剣に帯びさせることにより、自身の強化を行い、本来なら普通の少女と変わらない身体能力を魔力によって向上させてるのだ。いうなればジェット噴射、並みの武器では打ち合うことすら叶わない。

 そのスキルステータスは魔力放出A。それは、ただの棒切れでも絶大な威力を引き出すほど。

 美遊はこの戦いで自分の思考による攻撃をなるべくせず『自分のとっての最適の行動』を瞬時にさとる能力『直感』に身を任せていた。未来予知の領域にすら足を踏み入れたそれを、最大限に行使する。

 美遊は初めの攻撃を『直感』に従い、あえて正面から攻める。それによって背後から攻めた士郎を”囮”とし、バーサーカーの裏をかく。

 自身が出せる全力移動を持って今の美遊は一度たりともバーサーカーの視界にすら入っていない。完全に背後をとった。士郎の相手で今の美遊に意識を割く余裕などないはず。この時のためのすべて。

 ただ。真っすぐに突きだすだけでいい。

 しかし、あと一歩で剣が届くその瞬間。バーサーカーが振り向いたことで失敗に終わる。

「なっ・・・・・・!」

 驚きの声を上げるのは美遊。

 完全に不意を突いたはずだった。戦闘の合間にこちら気を回せるほど、今の士郎は甘くない。

 つまりは警戒。

 あらかじめこの事態を想定しており、”来るかもしれない”というタイミングでたまたま振り向いただけ。言ってしまえば偶然。

 しかし生前、戦士として最上を極めていた『ヘラクレス』の経験は、美遊の思考に容易に追いついた。

(だったら・・・・・・真正面から切り伏せる!)

 宝具『風王結界(インビジブル・エア)』それは、剣に”空気”を幾層にも纏わせることにより自身の剣を不可視とする。風の鞘と称されるその使い方は、本来セイバーな宝具を隠すためのものである。聖杯戦争において真名を知られることはデメリットしかないため、剣のみで自身を知られてしまうアーサー王こそだろう。

 その不可視の剣で、バーサーカーへ攻撃しようとした勢いのまま剣を振り下ろす。刀身がわからなければ回避の仕方は決まってっくる。それを先読みし、それを封じるように攻撃する。

 いくら『ヘラクレス』とはいえ回避しつづけるのは容易ではない・・・・・・――はずだった。

「えっ・・・・・・?」

 美遊の攻撃はバーサーカー首を狙いそのまま横に切り飛ばすというものだった。本来ならば剣の直進上には入らずによけるのが最適だ。しかしバーサーカーは不可視の剣が見えているのか、少し上半身をずらすことにより、紙一重でよけて見せた。

 予想とは違うありない状況に、一瞬、美遊の思考が停止する。

 その隙を待っていた、というようにバーサーカーの斧剣が美遊に振り下ろす。

「――ッ! (しまっ!!)」

 回避が間に合わない。そんな美遊の前に、その背中は現れた。

 

「誰の妹にに手出してんだ。ぶっ飛ばすぞ、ヘラクレス」

 

 その少年は、たった一人の妹のために。

 神様に向かって喧嘩を打った。

 

 

 

 美遊に斧剣が振り下ろされようとしている。その瞬間、士郎は自身の身体能力をフルに使い、美遊と斧剣の間に自分を潜り込ませた。

 今度は先ほどとは逆、士郎がバーサーカーの攻撃を受け止める。

 テレズマを宿すその体を振るに使い、バーサーカーを押し返す。

「無事か美遊? ・・・・・・さすがはギリシャ神話の大英雄だ。簡単にはいかないな」

「大丈夫。まだ戦える」

 美遊は崩れていた体制を立て直し、士郎の横に立つ。

「力や速度はほぼ互角、だが経験と技術は向こうがはるかに上だ」

 二人でも攻めきれない。

 それでも、おそらく自身の力のすべてを使えば互角以上に戦える。だが、それはすることが二人ともできない。

 士郎も美遊も行ってしまえば借り物。

 士郎の場合は聖人という特性故、力の使い方を間違えれば内側から自滅する。美遊も、クラスカードの力を引き出すのにかなりの精神力を使っているだろう。

「美遊、お前がトドメをさせ。隙は俺が作る。できるか?」

 士郎の考えは連携ではなく、はっきりとした役割分担。

 連携と言っても所詮付け焼刃。士郎に余裕はない。キャスターの時の二人の連携をして、バーサーカー相手には付け焼刃と称するぐらいには。

 圧倒的な力の持ち主に勝つ方法で、最も有効なのは不意打ち。しかも、ただの不意打ちではだめだ。だからこそ士郎が隙を作る。聖人の力を一瞬の不意を作るために使う。それしかない。

「できる。信じて、お兄さん」

 美遊は断言する。必ず成功させると。

「信じてるさ、頼んだぞ」

 士郎は軽く、美遊へ微笑みを向けると、バーサーカーへ剣を向けた。

 

 世界が揺れた。

 

 二人の戦闘の余波は、ただの衝撃波におさまらない。それは世界の悲鳴。

 世界の苦痛が、泣き声が、余波となって戻ってくる。

 大剣と斧剣、二つの武器が何度も合わさり、そのたびにお互いの無数の駆け引きを繰り出す。目線で攻撃を推測し、筋肉の初動で動きを読む。

 見た目の状況だけなら互角。

 しかし、その中身は士郎に苦しいものだった。

 アスカロン、士郎が扱ってる大剣はその一本に複数の切り方が存在し、場所によってすべて”違う武器の攻撃”として成立している。

 士郎は、それらを駆使しながら戦っている。

 だが、その攻撃にバーサーカーは完璧に対応をしていた。

 刀の種類で、その対応は変わってくる。例えば、切れ味の良い細い剣を受け流すのと同じように、叩き割るという性質をもった斧を受け流すことはできない。

 その武器を把握していない士郎以外には、その攻撃が何であるかなどわかるはずがない。

 それを直感か経験かあるいはそのどちらもか・・・・・・つまるところ、バーサーカーはその攻撃に対して完璧な回避方法を行っていた。

 

 ――光の色は赤――悪竜の筋肉を切るための斧のような分厚い刃。

 ――光の色は青――悪竜の鱗を捲るための剣身中ほどにある缶切り上のスパイク。

 ――光の色は緑――悪竜の内装を取り出すための剣身に寄り添うワイヤー。

 ――光の色は紫――悪竜の骨格を切断するための背側にある巨大なノコギリ。

 ――光の色は桜――悪竜の歯牙を抜くためにある柄尻に取り付けられたフック状のスパイク。

 ――光の色は白――悪竜の神経を抉り出すためにある背側根本近くにある接近戦用のスパイク。

 

 一撃ごとに姿を変えるその攻撃を、バーサーカーは所見ですべてを受け流す。

 このままでは士郎に勝ち目はない。攻撃に慣れを感じ始めているバーサーカーは徐々に余裕ができている。

 これが士郎のすべてならば、士郎の敗北は時間の問題だろう。まあ・・・・・あくまでもそれがすべてならの話だが。

(まだか・・・・・・)

 ここにバーサーカーに知らない事実が存在する。

 勘違い、そして情報の有無。

 それは戦闘、あるいは読み合いが高度であればあるほどに、最後の詰めを誤ることになる。

 こと情報戦において、士郎はバーサーカーを圧倒していた。

 相手の力を把握しているかそうでないかでは、その結末は大いに変わる。

 

 バーサーカーの動きがまるで変わる。受け身に回っていたバーサーカーが攻撃に転じたのだ。

 つまり士郎の攻撃を完璧に把握したということだろう。だが――

 

「やっとだな。バーサーカー・・・・・・一つ、お前の勘違いを正してやる」

 

 ――この時を待っていた。

 おそらくこれ以上ないほどのバーサーカーの隙。

「俺の力は、あくまで魔術師。理解できない理不尽を振りかざす者なんだよ」

 士郎の攻撃を把握したからこそバーサーカーは攻撃へ転じる。それは言ってしまえば心の余裕。

 そこに付け入る隙がある。

 この結末は、士郎が自分の武器の最大の長所を囮に使ってまで作り上げた・・・・・・読み合いの勝利だった。

 

 『後方のアックア』彼は確かに聖人だ。だがどうやってその力を制御していた? 答えは明白。『魔術』。それこそがアックアの本領なのだ。

 攻撃を防御した士郎の剣を弾くと同時ともとれる速度で、バーサーカーの斧剣が士郎に振り下ろされる。

 士郎は剣を後ろに弾かれ、体も宙に浮いている。

 今の体制では、この攻撃に対応するすべはない。が、士郎は口元を笑みで染める。

 瞬間。バーサーカーの肩を何かが貫いた。

「認識がいの理不尽はどうだ。存在チート」

 よく見ると、バーサーカーの肩を貫いたのは水。

 水とは、高圧で噴射させることで、鉄すら切断する威力がある。

 アックアが得意としていたのは水の魔術。さらに、テレズマで補強されたその魔術は、悠々とAランクを突破する。

 それを合図に、士郎の後ろから無数の水の槍が姿を現す。

 それは生き物のように動き出すと、バーサーカーへ向かって攻撃を開始した。 

 

 

 今まで接近戦を続けていた二人が初めて距離をおく。下がったのはバーサーカー。

 自分を貫いた攻撃が優先だとでも言うように、水の槍にのみに注意を向ける。

 後ろから、左右から、多方向から、時には一本の槍が目の前で分裂して、水の槍がバーサーカーを襲う。

 それでもやはり、と言うべきだろう。最初の一回目の攻撃以来、水の槍はバーサーカーを傷つけることはできない。

(無理か・・・・・・さすがに凹むが、知っているかバーサーカー。獅子は獲物を狩る時、静かに獲物を見てるんだぜ)

 唐突に、バーサーカーが動きを止めた、いや止めさせられた。

 攻撃が通ったわけではない。本当に、急に動きを止めたのだ。

 士郎との人間が魔術や魔法を思い描くとしたら何を思い描くか。恐らくほとんどのものが幾何学的な魔法陣を思い受けべるだろう。

 そしてそれはおおむね正しい。

 ただ。魔法陣とは必ずしも円で描かれるものではないし。皆がイメージするようなものがすべてではない。

 例えば、それを体に刻むことによってその魔術を行使する場合もある。ルーン魔術として使うこともあるだろう。物や礼装で疑似的に作り出すことも考えられる。

 表現するならそう。魔術を行う上で必要不可欠な知識の結晶。それこそが魔法陣と言う概念。

 礼装や詠唱などの力を借りて儀式を行うためと思われがちだが、それ単体でも魔術を行うことができる。

 そして、今回も目では見えないそれを士郎は使った。三次元配置。バーサーカーの周りで規則的に動いているのそれが。先ほど、バーサーカーを襲っていた水の槍が魔術の術式として機能する。

 『とある』の世界の魔術に精通した、士郎だけが読み取れる”水の槍で描いた”三次元の魔法陣。

 その効果は、水の状態変化それぞれの性質の融合。気体のように広範囲に広がる性質を持ち、そのまま個体のように停止し、その空間にいる者の動きを止める。

 バーサーカーの周りにある無数の水の分子がそのままバーサーカーを固定する。

 魔法陣の中にだけ可能な水による『人体掌握術式』。液体の性質を使えば、固定したままその相手を好きなように動かすことも可能だが、バーサーカー相手にはそこまでできない。

 だがそれでいい、その瞬間を待っていた獅子が動き出すのだから。

 

 

 美遊は士郎とバーサーカーの戦いから決して目を離さずその戦いを見ていた。

 士郎は美遊に対して信じていると言った。だからこそ自分も信じる。必ずその瞬間を作ってくれるということを。

 美遊の”確信”どおり、その時はやってきた。

 なんの前触れもないバーサーカーの停止。なぜ? そう思うよりも早く美遊は動いた。考える必要なんてない。それは紛れもなく士郎が作った隙なのだから。

 根拠? そんなの信頼で事足りる。

 

 バーサーカーが自分の身体に疑問を覚えるよりも早く、目の前に青い甲冑の少女が現れ、その少女は・・・・・・迷うことなく自身の剣を心臓へ突き刺した。

 

 美遊の剣はバーサーカーの心臓へ刺さっている。安堵、誰もが思わずにいられないその瞬間に、美遊はその剣に力を込めた。

「『風王鉄槌(ストライク・エア)』!!!」

 『風王結界(インビジブル・エア)』によって剣に纏わせていた風を突きと共に解放。風の零距離大砲ともとれるその技によって、バーサーカーの体の中心、心臓に周りが消し飛んだ。

 バーサーカーの宝具『十二の試練(ゴッドハンド)』は”死んでいるときに殺しても殺せない”。

 だが、美遊の『直感』が告げていた。あのまま警戒を解いていれば、自分は死んでいたと。

 英霊とは何かしら偉業を成し遂げたものであり、『ヘラクレス』ともなると、偉業すら他の英霊をはるかに上回る。

 そのようなことを成し遂げたものが、心臓を貫かれたぐらいで即死するだろうか? 答えは否である。

 生きているということはないだろう。それでも、反撃ぐらいなら十分に可能だ。

 それを美遊は直感によってわかっていた。ここで初めてバーサーカーの死を確認、そのまま距離をとる。

 それでも美遊は警戒を解かず、剣を構える。

 バーサーカーの弱点があるとすればこの瞬間だ。死から蘇る瞬間、これほど大きな隙は無い。そもそ一回殺す必要がある時点であってないようなものなのだが・・・・・・。

 時間が巻き戻されるようにバーサーカーの身体が戻る。

 それと同時に美遊は『風王結界(インビジブル・エア)』を解いた。そこから姿を現したのは一つの黄金に輝く聖剣。

「あなたはここで必ず倒す。イリヤに、私を友達って言ってくれた人のために・・・・・・! お兄さんに、私のことを信じてくれてる人のために!」

 バーサーカーが再び動き出す。その瞬間美遊はその聖剣を、その名と共に振り下ろした。

「『約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!!!』

 そして、美遊の目の前を勝利の光が包み込んだ。

 

 

 きれいだ。何度見てもそう思う。

 士郎は美遊から放たれる勝利と呼べる光に、心からそう思っていた。

 その光はバーサーカーを覆いつくし、境界面すら破壊する。美遊の心がその強さが具現化したようにその光は未だ消えず。ゆっくりと光を収縮させていく。

 光の道には、何も残されていなかった。

 消失。そう表現して差し支えない光景だ。その光はまさしく美遊にとって勝利の光だっただろう。

 士郎が美遊に近づくと、剣を杖に軽く息を切らしている。当然だ。あれほどの力を一時的だろうとその身で放ったのだ、まだ立てているだけでも十分だ。

「やったよ。私やったよ」

 顔だけを士郎へ向け、息が上がった赤い顔で嬉しそうに微笑む。

「ああ、よく頑張ったな。あとはお兄ちゃんに任せろ」 

 その発言に美遊は「えっ」と声を漏らす。

 先ほどの攻撃は美遊の全力で、つまりはセイバーの全力だ。

 バーサーカーの宝具は、絶大なダメージを与えると一回で複数の命を削ることができる。そう例えば『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』のように。美遊はすべてを終わらせるつもりで放ったのだ。まだ蘇るなんて考えられない。

 だが、今のバーサーカーの命をすべて奪うのは難しい。

 

 ビルの一室。破壊されたその穴からバーサーカーが現れる。

 バーサーカーは最初のような理性のないただの怪物のような印象はない。そのたたずまいは、ボクサーの王者が、挑戦者に対するそれとよく似ている。

 ゆっくりと斧剣を構える『ヘラクレス』。その動作まるで戦士のようで、『よくやった。だがこれで終わりじゃないだろう?』そう言っているようだ。

 何とか立ち上がろうとする美遊を手で制し、士郎はバーサーカーと視線を交える。

 そして、士郎も同じように剣を構え、一つの魔法名を口にした。

「『flere210(その涙の理由を変える者)』」

 魔法名、それは魔術師が魔術を手に入れた理由であり、生き方そのものだ。これは『アックア』の魔法名。

 その生き方は士郎が夢見た生き方であり、目指した『主人公(ヒーロー)』そのものだ。

 士郎は、それを静かに口にする。

 魔術師が魔法名を口にすることはほとんどない。

 なぜならそれは決意の証明。自身が魔術と言う未知にてを出した理由そのもの。

 

「『異界同調_開始(トレースクロス・オン)』」

 

 士郎の手に魔力の奔流がが見える。

 現れたのは、アスカロンと変わらない大きさの巨大なメイス。

 それは本来礼装を使わないアックア本来の武器であり、聖人としての力が、”ただの聖人程度”で済まない証明そのもの。

 そのメイスを投影することで、士郎はさらにもう一つの力を上乗せする。

 左手にはアスカロン、右手にはメイス。二つの異なる武器を持つ士郎。

 バーサーカーと士郎二人は同時に姿を消すと、その中央で剣を交える。

 

 次元すら歪む、二人の最後の攻防が、ここに切って落とされた。

 バーサーカーの命は「残り6つ」。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も呼んでくれた方ありがとうございます。
さて、今回の後書き『吾輩は猫である』(名前募集中)では『とあるの世界の魔術』と『軽い疑問(とあるを知っている人用)』につて話したいと思います。
 
まず『とある』の世界の魔術にはFateのように魔術回路は存在しません。使われるのは精神エネルギーであり、それを行う魔力に変換することから始まり、それを行う魔術に添った宗教的な縛りや詠唱などによって魔術に還元するものになります。
 原理としては異世界の法則をこの世界に適用することであり、行なえる魔術に制限はなく、移動、通信、回復、探索など利用方法は多岐に渡ります。ここがFateとは大きな違いになると思います。
 この魔術は、言ってしまえば無数にある神話、や宗教的な歴史を学ぶ学問であり、知識がなければ行うことはできない。しかし、逆に言えば知識さえあればだれでも使うことができるのです。
 もとは”才能のない人間が才能のある人間に追いつくため”に作られた力であり『とある』の世界の魔術師は、魔術を学ぼう理解しようと、知識を有しているのではなく、人の身では行えない、何かのためにその力を手に入れたため、それを成し遂げるための魔術を覚え、そのためなら手段を選ばないこともあるほどなのです。その生き方を『魔法名』として自分に刻みこんでいます。
 その中で聖人とは神の子と身体的特徴が似ていることから、天使の肉体として構成されて、別位相の力を有しており、強大な力をふるうことができ一般的な魔術師とは一線を凌駕し、その力は、移動速度は音速を超え、踏み込みだけで地面を割るほどです。

 もしかしてら少し違う部分もあるかもですが、その時は教えてくだされば嬉しいです!

と、今日はこのくらいにしましょう。長くなりすぎてますしね。より詳しくはぜひ原作を!


続いてはこの小説内の『軽い疑問』を解決します

まず凛とルヴィアが最初から転校しているのは、ウェイバーによる策略です。元から転校させるつもりだったため、いつ転校しても変わらないということで、士郎が混じったことですこし世界が変わったと思てください!(まぁ最初は自分のミスだったのですが・・・・・・)

続いては美遊の兄に対する読み方は「お兄さん」ではなく「お兄ちゃん」だろと思っている方もいると思いますがこれは、仕様です。
できればドライまで書きたいと思っているんのですが、その時「お兄ちゃん」だとどっちを呼んでいるのかわからなくなると思い、このようにしました。
(あーお兄ちゃんって呼ばせたかった・・・・・・何かいい方法はないでかなぁー)
と、今日はここまでにしたいと思います。
質問などありましたら、どんどん言ってください。

今回もありがとうございました!






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13話とかとか~♪ バーサーカー編 二人の主人公

とうとうバーサーカー編が終了しました。今回は士郎の力を知ってもらうために少し長くなりました。
来週からはとうとう『ツヴァイ編』に入ります。シリアスギャグどちらメインがいいですかねー、個人的にはシリアス少なめで行きたいのですが・・・・・・。

それはそうとお気に入りがいつの間にか300超えてました! まさかそんなになるとは思っていなかったのでとても嬉しいです!!!
これからも頑張っていくので宜しくお願い致します。
バーサーカー編の最後をどうぞお楽しみください!


  

 

 

 聞こえてくるのは爆音。

 目に見えるのは白く揺らめく土煙と、恐らく、お互いの武器を合わせた際に起こる火花のみ。

 美遊は動けず、その場にいることしかできなかった。

 今動けば、確実にバーサーカーの意識に入る。それが、士郎の足かせになってしまうと理解している。

 バーサーカーを殺したのは美遊だ。だがそれは同時に、それ以降の戦闘手段の減少を意味する。

 いいや、それを抜きにしてもあの場所に美遊の居場所はない。サファイヤという魔術礼装、『夢幻召喚(インストール)』による英霊の召喚。それをしてなお、美遊の力は足りなかった。

 しかし、美遊の存在が無意味か? と問われればそれは否だろう。

 美遊がいるからこそ、士郎は戦える。美遊がいるからこそ、士郎は剣を握れる。守られる存在としてではない。士郎にとっての大切な存在として、美遊は士郎のちからに変わる。

 だから信じて美遊は待つ。士郎は勝つと、倒してくれると信じて待つ。ただ、

(次は絶対その隣にいて見せる)

 

 新たなる覚悟を心に秘めて。

 

 

 

 

 士郎の手には二つの武器。

 伝承にそって、悪竜を殺すために魔術師に作られた一つの剣、アスカロン。

 士郎の身体とは比べものにもならないほどの大きさをしたアックアの象徴、メイス。

 五メートルほどのメイスを軽々振り回す今の士郎は先ほどとは別人。

 それは、新たに投影した、メイスの憑依による力の上乗せ。

 アックアの力はもともと、ある三つの性質によって構成されている。一つは”神の右席”、一つは聖人、そしてもう一つ――。

 

 ――『聖母』。

 

 聖人とは、神の子と似た身体特徴を持っている者のことである。しかし、アックアはそれ以外にも聖母とも同じく似た身体的特徴を有しているのだ。

 神の子を生んだとさせる十字教のナンバー2。

 『聖母』と神の子は親子関係にある。同時に二人の身体的特徴を持つことは、魔術的に何ら不思議ではない。

 故に、三つの人外的能力を持つアックアの力の上限は見えない。

 ではなぜ今までその力を使わなかったのか? 理由はできなかったのだ。

 『アックア』は一度『聖母』の力を失っている。

 その失った力の代わりとして、アスカロンという礼装を使っていたのだ。

 士郎が最初に行ったのはアスカロンの投影。つまり、『弱体したアックアの力』を使っていたということだ。

 それは士郎の誤算。

 士郎自身『事実は小説よりも奇なり(バビロンオブワード)』の力を完全に把握してはいない。 

 想定外なことは必ず起こる。

 だからこそ二本目の投影。

 力を失う前のアックアが使っていた武器の投影、それによって力を上乗せしたのだ。

 だが、本来の力の行使は士郎にとって・・・・・・アックアにとっても強大すぎる力だ。

 それほどの力をどうやってコントロールしているのか? その方法は言うなれば博打。

 ある種の力は、『一定ラインを超えると安定する』と言う性質を持つ。飛行機は遅いほうが扱いやすいが、遅すぎると失墜する。士郎が行っているのは、あえて飛行機を高速で飛ばし、機体を安定させているのと同じことだ。

 士郎の中にある膨大なテレズマが、腕力を脚力を、耐久力を、あらゆる身体的部位を大幅に向上させる。

 バーサーカーの体を、少しずつ士郎の武器が削っていく。

 ただの剣術による戦闘ならバーサーカーが後れを取ることはない。だが先ほどは、それ以外によって後手に回った。

 知らない技術――魔術の併用。

 士郎の周りを動く水の粒子がバーサーカーの意識を反らす。攻撃とは、必ずしも目で追っているわけではない。体に向かってくる危機感からの反射、高速で行われる戦闘では、こちらのほうがメインになる・・・・・・だからこそ直接狙わない。

 士郎はあえて動きを制限するように攻撃することで、バーサーカーの反応を遅らせる。

 士郎の剣激がバーサーカーを襲う。

 下から救い上げるような士郎の攻撃、それを肩を引くことで容易に回避。

 バーサーカーを倒すにはまだ届かない・・・・・・だからこそ準備していた

 不意にバーサーカーが違和感を覚える、地面に広がる巨大な水たまり。よく見ると、その水は地震であるかのように微かに揺れている。

 突如、士郎は地面を蹴り後ろへ跳躍する。

 直後。爆発。

 爆発による水蒸気と、煙を眺めながら、士郎はその顔に僅な笑みを浮かべている。

「水は容易に体積を変える。うまく使えば爆弾にも変わるんだぜ、知らなかったか?」

 爆発後の降り注ぐ雨を見ながら、士郎の声だけがそこに響く。

 だが、こんなことではバーサーカーは殺せない。それを証明するように、煙の中にバーサーカーの影が見える。

 しかし、先ほどまで声がしたところに士郎はいない。それより上の階。先ほどの爆発で”作った”穴を使い、そこまでやってきたのだ。

 士郎の視線の先はただの地面、その向こうにバーサーカーはいる。空気中にある水分子を使った『間接型探索術式』を使いそれを把握する。

 その方向へ士郎はいつと変わらないように構える。

 それは黒い弓。それに交差するようにメイス構え、それを矢として最適な形へと変えていく。

「忘れていないかバーサーカー。俺の本質はあくまでアーチャーだということを」

「―――体は――」

 その直後、士郎から放たれた矢は、床を貫き、一瞬にしてバーサーカーの頭上へと迫る。

「――剣でできている――――」

 その剣は、当然のようにバーサーカーの額を貫いた。

 

 バーサーカーの体はすでに修復に入っている。

「さすがに、今のじゃ殺しきれないか・・・・・・」

 先ほどの攻撃にはかなりの魔力を込めた、それでもやはり足りない。

「それなら、死ぬまで殺すだけだ」

 士郎は再び地面に刺していたアスカロンを掴み、再び構える――――――その時、士郎の剣が四方に砕けた。

 一瞬の戸惑い。何が? そう思うよりも早く、士郎の体が・・・・・・内側から破壊された。

「ぐぉふっ!??!?」

 士郎の口から、大量の血の塊がこぼれ落ちる。

「ぐぅぁぁぁぁぁぁああ」

 それは叫び。体の中を直接かき混ぜられているような壮絶な痛みに、士郎の意識が離れていく。

(い、いったい・・・・・・何が・・・・・・?)

 この現象は明らかに、テレズマの暴走。聖人としての体の崩壊。

 士郎の魔術師の知識が、それを正確に教えてくれている。

(まさか・・・・・・礼装の崩壊? 加えた力に耐えられなかったのか・・・・・・!)

 

 『事実は小説よりも奇なり(バビロンオブワード)』で、士郎が知らない力が存在するとしたらこの一転に限るだろう。

 士郎の憑依経験は基本保存型と言える。剣を投影して得た情報は、その剣が壊れようとも失われることはない。

 だが『事実は小説よりも奇なり(バビロンオブワード)』による投影は違った。剣の破壊、それは情報の遮断を意味する。

 例えるなら士郎本来の投影がパソコン本体に保存されているデータだとすると、『事実は小説よりも奇なり(バビロンオブワード)』は、剣をUSBとした外部保存。USBがなくなればそのデータは得られない。

 投影品を失った士郎は、そのままテレズマとしての制御方法を失い、その暴走を受けたのだ。

 本来、データを失えばすべての受けていた力は消失する

 しかし、データとは一気にすべて焼失するものではない。

 礼装が破壊されたことによりデータが消失。だが先に失われたのは『アックア』のテレズマを制御していた制御法・・・・・つまりは経験。

 そのため、体に残ったテレズマによる身体の破壊。

 ようは運が悪かった。失ったデータの順番が悪かったのだ。

事実は小説よりも奇なり(バビロンオブワード)』は、その力を行使するにあたっての『矛盾点の徹底的な除去』それこそが根底。そのため、一時的にだが、士郎の体自体・・・・・・と言うよりは”性質”を僅かにだが作り変えている。

 

 これは剣の破壊によりおきた身体崩壊ではない、あくまでもアックアの弱点がデータを失ったことで引き起こされたものだ。

 しかしここで一つ疑問が残る。なせアスカロン、は急に砕け散ったのか、と。それはある意味必然、それが投影品だったからだ。

 いくら精密に作ろうが、それはあくまで作り物。いつかは壊れ消えていく。

 偶然が重なったからこそ起こった悲劇。

 メイスの消失により『聖母』として上乗せしていたテレズマが制御を失いアスカロンへ流れ、膨大な魔力に耐えられず砕た。それによりテレズマの制御を失い身体の崩壊。

 メイスの新たな投影。憑依したアックアの性質。行使した魔術の知識不足。

 それらの偶然が、士郎に必然とも言えるこの状況を作り出した。

 

 士郎は膝をつき服を染める大量の血にを感じながら、前方へと目を向ける。

 そう、まだ戦いが終わったわけではない。バーサーカーはそこにいる。

 まずい・・・・・・・! そう思うと同時に、士郎は美遊に向かってかすれるような声でこう言う。

「美遊・・・・・逃げろ。俺も、後から行く・・・・・・から先に・・・・・・」

 動かない体を無理やり美遊の方へ向かせると、そこには、士郎へ飛び込んでくる美遊の姿があった。

 

 

 

 美遊は目の前で何が起こったかわからなかった。

 士郎がバーサーカーを殺した。そこまでは何も問題はなかった。その直後に響いた士郎の叫び。それを合図に士郎の体から大量の血がこぼれ落ちる。

 明らかに死にかかわるほどの量。

 その時、すでに美遊の体は動いていた。

(――――いやだ)

 士郎が膝をつき倒れている。

(――――いやだいやだ)

 バーサーカーはまだそこにいる。

(――――大切な人を こんなところで)

 士郎の微かな声が美遊に届く。

(――――失いたくない)

 振り向く士郎に美遊は飛び込んでいた。

 

 傷つく体に美遊が飛び込んできた。思わず声が漏れそうになるが、気合で何とか我慢する。

「美遊逃げろって、言った・・・・・だろ」

「やだよ・・・・・・いなくならないで。お願いだがら、一人にしないで・・・・・・!」

 美遊が泣きそうな声で懇願する。

 座りこんだ体に美遊が腕を回す。

 バーサーカーはすでに回復を終え、こちらに歩いてくる。変化のないその表情は今の士郎を見て「残念だ」そう言っているように見える。

 士郎は美遊の頭に手を置き、美遊が落ち着くように優しくなでる。

 そして、体を話すとほとんど残っていない力を使って、美遊を部屋に空いた穴へと放り投げた。

「サファ、イヤあと・・・・・は、頼んだ」

 美遊とサファイヤが士郎に向かって叫ぶ、だが士郎にその声は届かない。

 士郎は悲鳴を上げる身体に鞭打ちながらも、何とか立ち上がる。美遊を逃がしたのは万が一の時のためだ。今の士郎に死ぬつもりなど毛頭ない。

(・・・・・・死ぬわけにはいかない。必ず帰ると約束した)

 わずかにだが士郎の体に力が入る。それは雀の涙ほどだろう。

(体が死に体? それがどうした)

 士郎はその体をバーサーカーへ向ける。

(それでも立ち上がるのが、英雄(ヒーロー)だろうが!)

 

「『異界同調_開始(トレースクロス・オン)』」

 

 これは賭けだ。

 士郎にはもうバーサーカーと打ち合うだけの力は残っていない。

 士郎が手にする剣は龍の形をした柄でできた刃折れの剣。一つの大罪を背負いしものが持っていた、一本の剣。

 バーサーカーは斧剣をただ横に振り回す。

 それに対して士郎がとった行動は防御ではない。

「『壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』」

 刃折れの剣を、ではない。士郎が瞬間的に投影した『干渉・莫耶』を、だ。

バーサーカーと士郎の間で爆発したその剣は、その爆風を持って、二人の体を強引に引き離す。

 士郎が行なったそれは、自身の体を傷つけながらも、絶対の死を回避する。

「はぁ、はぁはぁ・・・・・・はは」

 何とか笑顔を作ろうとするももはやそれをすること自体困難だ。

 それで士郎は足を止めない。

 バーサーカーの攻撃が迫るたびに、先ほど同様に後退する。

 士郎の戦闘経験は並ではない。それは、自身より圧倒的なまでに強い敵。戦闘において士郎が彼らと違うものは、武器や精神、その存在ではない。単純なパワーやスピード、それこそがただの戦闘では如実に現れた。

だが、それでも士郎は勝ってきた。動体視力。過去の経験が今この場でこそ進化を発揮する。それはが魔術ではなく単なる成れ。

 それによってバーサーカーの攻撃を見切り、剣が届く前に回避行動を行える。

 それでも長くは続かない。

 だが、数回目には士郎の命を懸けた回避すらあざ笑うかのように、バーサーカーは士郎へ追いつく。

 それならばと、士郎は連続的に行うことでバーサーカーの攻撃を回避する。

 叫ぶことすらもうできない。

 士郎がやっているのは爆発の檻に自身を投げ込んでいるようなものだ。

 叫ぶ力すら残っているはずがない。

 

 ――限界だった。

 

 士郎の体がわずかにぐらつく。

 と同時に、バーサーカーの攻撃が迫る。

(さっき、よ・・・・・・も早、い!?)

 それを確認した士郎は大量の剣を盾に使い、わずかに剣速を低下させる。

 爆発によって後退した士郎の体はもう限界に近い。

 皮膚は焼け骨は折れ、内臓すらもぐちゃぐちゃだ。

 『壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』による緊急回避。それを何十回と行ったのだ。もともとぼろぼろの体にそれだけの負荷をかけ、まだ立っている方が不思議なくらいだろう。

(くっ・・・・・・やっと溜まった、か。計算で、はギリギリだ。それでもこれでやるしか・・・・・・ない)

 先ほどからバーサーカーのステータスがまた上がっている。

 これ以上は目で見切ることも厳しいだろう。

「最後、だ・・・・・・バー、サーカー・・・・・・」

 一言。聞こえるか聞こえないかのその声は確かに士郎のものだった。

 それをトリガーに士郎の体から膨大な魔力が溢れ出す。

 目にみえるほどの圧倒的な魔力量。

 士郎が投影した剣。それは『七つの大罪』団長。『憤怒の罪(ドラゴン・シン)』メリオダスが持っていた剣だ。

 士郎が求めていたのは剣にある特性などではない。ほしかったのはメリオダスの技。

 その技は、自身にかける魔力をゼロにすることで、受けた魔力によるダメージを蓄積させ、それを膨大な魔力へと姿を変える。

 そう、士郎が先ほどから行っていた『壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』による緊急回避。それは回避ともう一つ、自身へ魔力によるダメージを与えるため。もちろん強化魔術はかけていない。もはや五感すら働いていないだろう。

 本来この技は、素の体で圧倒的耐久力を持つメリオダスだからこそ行えるのだ。しかもそのメリオダスですらもろ刃の剣と言われている技。それを行おうだの正気の沙汰ではない。

 『事実は小説よりも奇なり(バビロンオブワード)』で聖人同様に肉体を近づけられるのでは? その可能性もあっただろう。しかし、メリオダスは人間ではなく魔人。その肉体へと変えるのはさすがに不可能だ。そもそも、聖人ですら肉体の変化までは行っていない。あくまでその身に『テレズマ』を宿し、宿せる身体へ性質を変えただけなのだ。

 

 バーサーカーはゆっくりと歩きながら士郎へ向かう。よける必要などないというように、それすらも12試練の続きだとでもいうように。

 士郎の目は虚ろだ、もはや自分が立っているのカどうかもわからない。

 それでも。

 目の前で斧剣を振り上げるバーサーカーへ、

 横一線。

 

「『リベンジ・カウンター』」

 

 一時の静寂がその場を支配する。

 そして、次の瞬間。それは真価を発揮した。

 ドカンッ!! と士郎の前が白一色に染まる。

 虚数軸の世界すら飲み込む魔力の本流。

 その衝撃は美遊の『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』よりも凄まじい。

 長かったのかわずかだったのか、今の士郎には判断がつかない。

 しかし、そんなことは関係ない。

 士郎のわずかに開くその目にはバーサーカーの姿は映らない。

 士郎は倒れこむように前の目に倒れこむ。

「・・・・・・はぁはぁ・・・・・・・」

 わずかな振動ですら士郎の体が悲鳴を上げる。

 だが。なんとか。

「はは・・・・・・やっ、た。・・・・・・これ、で、もう・・・・・・」

 その時。

 目の前の天井が崩れ、そこから――。

 

 倒したはずの英霊の姿が現れる。

 

「――!」

 一瞬の判断で、何とか立ち上がった士郎の前では、すでにバーサーカーが斧剣を振り上げている。

(間に合わな・・・・・・!)

 しかし、体の限界は当の昔に超えていた。腕が上がらない。

 士郎がそれに気づけなかったのは、すでに痛覚すらも感じないからだ。

 

 ・・・・・・しかし、その攻撃は士郎へ届かない

 

「「お兄ちゃん(さん)!!」」

 視界の確保ほど満足に生かず、赤と青、二つの色その判別だけが何とかできる。しかし、それが誰だかは容易に想像でた。

 士郎の目指したものがそこにはいた。この世界にいる本物の□□□が。

(そうだったな、お前たちが――――)

「もう大丈夫だから、遅くなってごめんなさい」

 それは士郎の憧れそのもの。

「今度は私たちが守ります」

 イリヤと美遊、二人の少女が士郎の前に立つ。

(――――お前たちこそが、主人公だ)

 

「「『並列限定展開(パラレル・インクルード)』」」

 その言葉を最後に、士郎の意識は途切れた。

 

 

 ****************

 

 

 目を開けると、白い天井が目に入る。

 白で統一された空間と、その独特匂いは、そこが病院だと容易に想像できた。

(「解析_開始(トレース_オン)」)

 とりあえず自分の身体を確認する士郎。

 そこから帰ってくる情報は、思いのほか問題がない。恐らく魔術による回復だろう。

 手を動かそうとして、それに初めて気づいた。

 二人の少女に握られて動かせない。二人は士郎の手を握り、椅子に座りながら眠っている。

 そこでようやく、すべてが終わったのだと理解した。

 バーサーカーはきっと二人で倒したのだろう。最後の方は士郎はほとんど覚えていない。それでも二人が自分を助けてくれたことは覚えている。

 握られていない反対の手で、二りの頭を撫でる。

「ありがとな。イリヤ、美遊」

 その声に反応したのか、眠っていたイリヤが起きる。

「ん、んぅぅ、お兄・・・・・・ちゃん?」

「起こしちゃたっか」

 士郎は静かに笑顔を向ける。

 イリヤはその目に涙を浮かべ、士郎に抱き着きながら「ごめんなさい、ごめんなさい」と嗚咽を漏らす。

 

 

 イリヤがカード回収の場所に来た時、凜とルヴィアがそこにはいた。事情を聴き、士郎たちのもとへ向かう直前、美遊が現れたのだ。イリヤ達を見た美遊は、混乱しながらも事情を話し、それを聞いたイリヤ達はすぐさま士郎のもとへ向かったのだ。

 バーサーカーを倒した美遊達はすぐに士郎の治療を行った。凜の話では、生きているのがおかしいくらいの傷だったのだそうだ。

 何とか二人の魔術で一命は取り留め、その後、この病院へ運んだのだ。

 イリヤは自分が遅れたのを後悔し、美遊は士郎のもとから離れなかった。

 イリヤが士郎に謝っているのはそういうことであり、士郎もイリヤの心の内は理解していた。

「イリヤお前が戻ってきてくれた。それだけで十分だ。俺が信じたお前のやさしさは間違ってなかったんだから」

「でも、私が逃げなかったら、お兄ちゃんはこんなことにならなかったのにっ・・・・・・!」

 イリヤは引き下がれない。最愛の兄をもう少しで失うところだったのだ。そんな簡単に自分を許せるわけがない。

「強くなるから――――」

「えっ?」

 イリヤは予想と違う士郎の言葉に理解でできずに驚きの声を返す。

「――――もう二度と負けないから。イリヤが、二度とこんなことで涙を流さないように強くなるから・・・・・・待っていてくれないか」

 それはイリヤに対する誓い。

 それは、イリヤが求めていた言葉とは、的外れ以外の何物でもない。

 なぜだろう? その言葉はイリヤの心に響いた。

 次第にイリヤの心が落ち着いてくる。

「私も、頑張って強くなるよ。お兄ちゃんに負けないぐらい強くなる」

 イリヤの言う強さとは力でなく心、それは二度と自分が間違えないように。

 そうか、と士郎は微笑みながらイリヤを抱き寄せる。

 イリヤは突然の士郎の行動に驚くが、ほんの少しこの時間を楽しもうと士郎に身を任せるのだった。

 

 しかし、それを良しとしない者がいた。

 

「・・・・・・何してるの?」

 静かで、それでいて冷たい美遊の声。二人はゆっくりと視線を美遊へ移す。

「お、おう。美遊も・・・・・・起きたんだな」

「美遊っ、ち、違うの! これはなんといますか・・・・・・」

 イリヤの言い訳を待たずに、美遊は無言で士郎の腕をとりそこに抱き着きながら、

「イリヤは私の友達、でも・・・・・・お兄さんは渡さない。それが例え、イリヤであっても」

 宣戦布告を行った。

 美遊の言葉に思わず固まる士郎。

(おかしい、何がおかしいって。少し嬉しいと思ってる自分の精神がおかしい・・・・・・じゃなくて! なに? 美遊ってこんな子だったっけ?!)

 イリヤは突然のことにフリーズしている。

(イリヤ起きろ! この状況を打開できるのはお前だけだ)

 

 

 その後イリヤと美遊の冷戦がはじまり、

『美遊何言ってるの私は、別にお兄ちゃんとそんな関係になりたいだなんて一言も・・・・・・』

『なら問題ない。イリヤは私の大事な友達、お兄さんは私がもらう』

『それはダメ! じゃなくて、お、お兄ちゃん! 美遊になにしたの!』

『私はいつもと変わらない。いつも通り兄さんが好きなだけ』

『それは妹としてだよね?! お願いだからそうだっと言って!』

 だんだん収拾がつかなくなる二人のために、士郎の必殺「大人になったらな」の言葉によってこの場を終わらした。

 そして見舞いに来たセラや凜達に謝りながら、やっと戻ってきた日常をその光景に感じるのだった。

 

 それはカード回収は終了を告げるエンディングで、士郎たちの次なる物語へのオープニングだ。

 これが始まりの合図なのだ。もう一人のイリヤによる復讐劇。その時は刻々と近づいているのだから。

 

 

 

 凜はカードを奪ったルヴィアを制し、魔術協会へ報告の電話を入れた。

 そこにはヘリコプターの残骸とルヴィアの体が転がっている。

『カード回収の件はよくやった。これで冬木の地脈も安定するだろう。約束通り、お前たちを弟子に迎えるのもやぶさかではない、と大師父はおっしゃっている』

「それなら!」

『だが、こうもおっしゃっている。魔術を学ぶ前にお前らには一般常識がまるで足りんと。幸いお前たちはそちらの学校に通ってるのだったな。こんなに早くに転校しては、お前たちも寂しかろう。期間は一年、日本で協調性を学んで来い』

「ま、まさか、わざわざ私たちに転校させたのって・・・・・・」

『さぁてな、お前たちは今回のことを反省し、喧嘩で行動をぶち壊すような性格を直してこい。弟子にするのはそれからだ、とのことだ』

 それを最後に通話は切れ、凛の手はカタカタと震えている。

「ふ、ふっざけんなぁああああ!!」

 凜の叫びは、悲しく響くのだった。

 

 

 

 

 




今回の『吾輩は猫である』は今後の美遊についてです。
 今回の美遊の行動から、どんどん士郎に積極的になると思われます。
取り合えヤンデレ化ではないと言っておきましょう。
 イリヤとの関係は、原作どうりただ一人の友達スタイルで、士郎に関しては微かにヤンデレ要素が入った、最後は私がもらうといった感じになると思います。
このままでは原作崩壊が止まらない感じがするので、イリヤとクロには大いに頑張ってほしいです。
 士郎自身、妹たちのことは好きですが恋愛的な要素はない・・・・・・と思われます
これからどう書こうか感想などからも取り入れたいのでこんな展開見てみたいなどあればぜひ!
 話がそれてしまったので今回はこのぐらいにしたいと思います。
今回もありがとうございました!!


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14話とかとか~♪ 2wei クロ編 出会い

とうとうツヴァイに入ることができました。
今まで読んでくださった方、今回が初めての方も本当にありがとうございます。
読んでくださる人がいるだけで、こちらもやる気が出てきます。


ツヴァイ編は思ったより難しく、学校の関係上、少しペースが遅るかもしれませんが、なるべく早くかきあげるように頑張りますのでよろしくお願いします。

それではどうぞ!!


 

 

 

 

 数週間の時が過ぎた。

 バーサーカーを倒し、クラスカードをすべて回収してから早一か月経とうというその日に、『Fate(運命)』は再び動き出す。

 

 キッチンに立つ士郎は、すでに朝食を作り終え、それを食卓に並べていた。

 準備を終え、そろそろイリヤを起こしに行こうかな、そう考えていると、玄関のチャイムが鳴った。

 迎えに出たセラが連れてきたのは美遊、どうやらイリヤを起こしに来たようだ。

「おはよう、お兄さん」 

 士郎を見た瞬間、花のような笑顔を咲かせ挨拶してくる美遊に、士郎は思わずドキリとなる。

「おはよう美遊、イリヤを起こしに来たんだろ? ありがとう」

「いえ、お兄さんにも会いたかったので・・・・・・」

 顔を俯きながら答える美遊に、士郎もついつい頭を撫でる。

 士郎は何とか顔に出さないようにしているが、その顔は、美遊が可愛すぎて仕方がない、と書いている。

 美遊がイリヤの部屋へ向かうのを目で追っていると、背後から感じるセラの殺気に士郎は思わず肩を震わせる。

「良かったですねロリコン士郎? 可愛い妹がきてくれて」

 全く笑っていないセラの笑顔に、士郎は背中に冷や汗をかく。

「いや、セラこれには理由が・・・・・・」

 何とか弁明しようとする士郎だが、セラの威圧に言葉が続かない。

「ほぉ、理由ですか。イリヤさんのお友達に『お兄さん』と呼ばせる理由があるならぜひ聞きたいですねー。変態ロリコン士郎」

「いや、その・・・・・・」

 士郎にはすでに過去のセラから受けた出来事がフラッシュバックし、手がどことなく震えている。

(何か、何か逃げ道は・・・・・・?!)

 士郎が思考を必死に動かしていると、二階からイリヤと美遊が下りてきた。

 何が上で起きたのかは知らないがどことなく顔を赤くしている二人を見て、士郎には『いろんな意味で』二人が天使に見えたことだろう。

 イリヤ達の登校を理由に何とかセラの追求から逃げた士郎は、セラが話を振る前に、そそくさと家を後にした。

 

 

 学校を終え、士郎は久しぶりに一人での下校を行っていた。普段ならば、イリヤや美遊と一緒に帰っているのだが、一成に頼まれたエアコンやら扇風機やらの修理で遅くなってしまったのだ。

 まだ6月とは言え、日本の気温の変化は早い、今から準備するくらいがちょうど良いだろう。

 帰り道の折り返し地点付近に差し掛かろうというその時、士郎は出会った。

「初めまして、お兄ちゃん」

 イリヤと瓜二つのもう一人の『イリヤ』。イリヤとは違い肌は日焼けしたように黒く、コスプレのような赤い服を身にまとっている。

 知っていた。それが今日だったそれだけの話だ。

 士郎はずっと考えていた。まずは何を言おう、謝罪が適当だろうか? 相手は何を思っているのか。

「イリヤ・・・・・・」

 士郎から出た言葉はとても小さく消えるような声だった。それでも、その声はイリヤへと届いた。

 

 

 ****************

 

 

 黒イリヤと士郎が出会う少し前、イリヤと美遊は友人たちとの下校中『拉致』にあった。それはもう、すさまじく手際の良い誘拐だ。

 その犯人は凜とルヴィア。

 戸惑うイリヤ達へ「「仕事よ(ですわ)」」と言う二人に、イリヤ達はこの状況を理解した。

 カード回収を行ったとはいえ、イリヤと美遊は魔術の世界にかかわっていない。それにも拘わらず二人を呼んだということは、カレイドステッキが必要ということだろう。

 凜たちの話によると、今回の問題は、カード回収が終わった後にも、地脈が未だに安定していないということだそうだ。その問題を解決するために凜たちはステッキによる膨大な魔力供給が必要になるらしい・・・・・・となんとなくしかわからないイリヤには、半分以上理解できなかったが・・・・・・。

 龍穴から高圧縮魔力を注入することで地脈を拡張させて、正常化を図るのよ、と言う凜の言葉をイリヤは首をかしげながら聞いているのが、理解できていない良い証拠だろう。

 魔術協会から今回の任務を言い渡された際、本来であれば、凜達が持っているはずのステッキが、”ちょっとした手違い”でイリヤ達へステッキが渡ってしまったことを誤魔化すために、『えっえー! できますともっ、すぐにでも始めたいと思っています!』と必死に取り繕う凜は、”優雅さ”とは程遠い場所にいただろう。

 柳洞寺にあるその場所へ向かい、凜とルヴィアが『底なし沼』にはまるなどという愉快な事件を起こしながらも、イリヤ達は目的の場所へ到着した。

 士郎がその場にいれば、都合よく結界にすぐ入ったすぐそばにある『底なし沼』など、真っ先にドS保険教師こと「カレン・オルテンシア」を思い浮かべただろう。聖堂教会に属するカレンならば、結界を張っても何ら不思議ではない――その位置を、『底なし沼』のすぐ付近にすることも・・・・・・。

 イリヤ達は大空洞へと入っていき凜達による指示のもと着々と準備を行っている。と言ってもイリヤ達が行うことと言えば魔力を注ぐことぐらいなのだが・・・・・。

 木の枝のような礼装が中心に立ち、そして・・・・・・・・・・・・新たな物語の『カウントダウン』が始まった。

 凜たちが行った魔術の結論を言えば、それは何の問題もなくことを終えた。しかし起こったのはそのあと『ノックバック』現象。

 それにより思わぬ危機に落ちるイリヤ達、頭上から迫る巨大な岩――――その時、イリヤが動いた。今までよりも迷いがなく、洗練されたような動き、凛の持っていたアーチャーのカードを手に取ると、無言の『夢幻召喚(インストール)』イリヤの体は赤い服を纏った英霊へと変わり、咲き誇る巨大な花の盾によって、凜達を落石から守った。

 空洞の崩壊が止まり、それぞれ周りの状況を確認する。

 目につくような怪我はなく、誰もが安堵を覚えたその時、物語までの『カウントダウン』はゼロになる。

 最初にそれを認識してのはイリヤだった。

 鏡合わせのように座る二人のイリヤ。目の前にいるもう一人の自分の顔。

「えっ・・・・・・?」

 思わずフリーズするイリヤを尻目に、赤い恰好をしたイリヤは、その場から逃走を図ったのだった。

 

 

 ****************

 

 

 屋根を伝い、空を飛ぶ赤い少女。

 イリヤと同じ顔をしたもう一人の『イリヤ』は自分が何者で、なぜ生まれてきたかを理解していた。それは奇跡のようなもの。魔力が底をついてしまえば、すぐにでも自分は消えてしまうだろう・・・・・・と。

 そんな中、初めに向かったのは自分の兄の元だった。

 大好きな兄。それ故にまず初めに会いたかった。

 兄が魔術を使うことは知っている。なら私を封印したことも知っていたのではないだろうか? 自分は必要とされていないのだろうか? 様々な不安を胸に、生まれたばかりの『イリヤ』は士郎と出会う。

 まずは確かめてみよう、私が誰だかわかるかどうか、『イリヤ』は湧き上がる不安を押し込め口を開く。

「初めまして、お兄ちゃん」

 イリヤは思わず出そうになる緊張を押しとどめながら、士郎の言葉を待つ。

「”イリヤ”・・・・・・」

 微かに聞こえるその声を、『イリヤ』は確かに聞いた。

 嬉しかった。自分の事をちゃんと『イリヤ』と呼んでくれたことに、自分を分かってくれたことに。

「あっ・・・・・・」

 『イリヤ』はどうにか声を出そうとするが、何を言えばいいかわからない。

「とりあえず、帰らないか――俺たちの家にさ」

 『イリヤ』のそれに気づいたのか、士郎は優しそうな笑みを浮かべてそう言った。

 突然だった・・・・・・。『イリヤ』からしてみれば、士郎に会いに来たのは、衝動的ともいえる行動だ。故に、これからどうするかだなんて全く考えていなかった。

 それでも、『俺たちの家』と言った士郎の言葉に、『イリヤ』の不安と言う名の鎖はほどけていく。

 そんな『イリヤ』に士郎は踏み込む。

「ちゃんと話し合わなくちゃならないだろ――――」

 その通りだと『イリヤ』は思った、これからどうするか私はちゃんと考えなくちゃいけないだろうと。

 そこまではよかった。

 だが・・・・・・その後に紡がれた言葉は『イリヤ』の精神を大きく揺さぶった。

「――――イリヤとも分かり合わないとだろ?」

 恐らく士郎からしたらイリヤと『イリヤ』、二人の妹たちを思っての発言だったのだろう。それでも今の言葉は、『イリヤ』には許容できるものではなかった。

「ふざけないで!」

 反射的に出てきてしまった。

 悔しかった。

 今の士郎が言った”イリヤ”は私の事じゃないと、お兄ちゃんにとって”イリヤ”とは私の事じゃないんだと、そう言われたように感じたのだ。

 

 分かってたはずだ。お兄ちゃんにとっては二人とも大事な妹で、大切なのは自分一人じゃないってことぐらい。

 認めたくなかったんだ。お兄ちゃは私の事をイリヤと認めたからそう呼んだわけじゃないことぐらい。わかりたくなかった。

 だめだ。

 もう止まらない。 

 イリヤのため込んできた思いは、それが涙であるようにあふれてきた。

 

 

「ふざけないで!」

 『イリヤ』の心の叫びに、イリヤの方へ歩いていた士郎は思わず立ち止まる。

「イリヤと和解? そんなことできるわけないじゃない! イリヤは私のすべてを奪ったのに・・・・・・!」

 『イリヤ』の体は怒りなのか、それとも悲しみなのか、体が微かに震えている。それがどちらなのか、士郎には判断できなかった。 

「わかってるんでしょ?! 私がいつものイリヤじゃないだなんて! そんな簡単に言わないでよ・・・・・・! お兄ちゃんが優しいのは知ってる・・・・・・それでも、誤魔化しだなんて求めてない! いらない子ならちゃんとそう言ってよ! 私は、お兄ちゃんだったら私を・・・・・・”イリヤ”として必要としてくれると思ってたのに・・・・・・!」

「・・・・・・ッ」

「・・・・・・私はこれからイリヤを殺すわ。私は許せない・・・・・・! 私の代わりに生きてきたイリヤが。私の代わりに幸せになったイリヤが。私の代わりにお兄ちゃんといたイリヤが。なんで私のままじゃダメだったの? 聖杯として作られて、幼いころから魔術の知識を植え付けられて、お兄ちゃんは魔術の事知ってたんでしょ? ならなんで! なんで私じゃダメなのよ!!!」

 士郎は、『イリヤ』の叫びに声を出せない。

「せめて、魔術師としての生だけでも良かった。作られた通り、魔術師として生きられるならそれでよかったの。でも・・・・・・私はイリヤの中で生きてきたの。ずっと見てた。本来なら私がいいる道をイリヤが生きるのを、魔術師としてじゃなかったけど、それでも楽しそうに笑うイリヤの笑顔を・・・・・・! 私が好きになる人を好きになるイリヤの心を!」

 士郎は下を向き、拳を強く握っている。

 笑うことしかできなかった――――『イリヤ』の言葉を笑ったわけではない。自分の考えの甘さに怒りを通り越して呆れてしまったのだ。

 士郎は自分に問いかける。

 自分が出会った時には封印されていたから仕方ない? 普通の魔術が行使できないから何もできなかった? 自分の正体を隠すために真実を切嗣たちには黙るしかなかった? 自分の知識じゃより悪い方向に行くかもしれなかったから?

 

 ――――ふざけんな!! 士郎はかつてない怒りを自分に向ける。

 

 そんなのが何の理由になる。

 目の前の少女は、そんな事のためにどれだけ傷ついた? どれだけ悲しんだ? 今流している涙はなんだ? 考えるだけでも士郎の自分に対する怒りは溜まっていく。

(いや、自分を責めてる暇なんてないな・・・・・・そんなことなんの解決にもならない、だから・・・・・・)

 士郎は告白する――

「イリヤ、俺はお前の存在を知っていた」

 ――自分の罪を。

「やっぱり・・・・・・やっぱり知ってたのね、じゃあやっぱり私はいらない子だったの・・・・・・?」

 『イリヤ』は俯かない、いや、それすらできないほどに呆然としている。目からは涙がこぼれ、それは止まることはない。

「ちがu・・・・・・っ?!」

 士郎が『イリヤ』の言葉を否定する前に、士郎の下に一つの剣が飛来する。

 それは士郎の戦闘時に最も投影してであろう、白と対局をなす黒の剣。反対の白の剣はイリヤの手に握られている。

 『干将・莫耶(かんしょう・ばくや)』それがその剣の名前だ。『イリヤ』は存在そのものがクラスカードによって維持できている。それはクラスカードを中心に体を構成しているようなもので、そのカードに宿る英霊そのものと言ってもいい。と言っても、あくまでイリヤの魔力の一部から生まれたため、常に魔力を消費してしまう上、クラスカードに宿る英霊を認識できていないためか、あくまで魔術と戦闘技術のみ継承されている形になる。

 そのクラスカードはアーチャー。

 士郎の英霊となった姿。士郎と同じ武器、同じ魔術を使うのは当然と言えるだろう。

 イリヤの不意打ちともいえる攻撃に、士郎は驚きの目を向ける。

 そんな『イリヤ』は、先ほどとは打って変わって可愛らしい声で、それでいてとびきりの笑顔で剣を向けた。

「大丈夫よお兄ちゃん。殺したりなんかしないから、ただ・・・・・・イリヤを殺すのに手出しできないくらいはするけどね?」

 剣を向けてくる『イリヤ』に士郎は構えない。構えることすらできない。なぜなら、『イリヤ』のその雰囲気は、その笑顔は、士郎には演技以外の何物にも見えなかったからだ。

 そんなイリヤに、士郎が剣を向けられるわけもない。

「まて、イリヤ俺はお前のことを「うるさい!」――!」

 またしても、『イリヤ』の声に士郎の言葉は遮られる。

「言い訳なんて聞きたくない。私は、今私がしたいことをするだけ。それは誰にも邪魔させない、それが例えお兄ちゃんであったとしても!」

 言いたいことは言い終えた、というように士郎へ投げつけられる剣の嵐。

 流石にこのままでは不味いと思ったのか、士郎の手にも『干将・莫耶(かんしょう・ばくや)』が握られる。

「わー、お兄ちゃんとおそろいだ、うれしいな。やっぱりお兄ちゃんはこの英霊の力を持ってるのね。でもそれはあくまで劣化品、私の攻撃はとめられないんじゃない」

 踊るように、それでいて手を止めることなく、迷いなく言い当てる『イリヤ』。

 『イリヤ』の考えは恐らく間違っている。英霊と同じ魔術を使えるだけ、それが『イリヤ』の出した結論だろう。それは魔術師としての知識が高いゆえの勘違い。それでも、”劣化品”と言うところだけは間違っていない。

 同じ投影魔術を使うもの。しかし、アーチャーは世界を廻り多くの戦闘とより多くの剣を見てきた。それはそのまま選択肢の数へ直結する。さらには、世界と守護者として契約したアーチャーとでは、存在そのものの次元が違う。

 それでも『間違った剣の使い方』をしている『イリヤ』と、その力を完全に理解している士郎なら、互角以上に渡り合えるだろう。

 しかし、士郎の体には、少しずつ捌ききれなかった剣による傷が増えてきている。

 互角に戦えるのは、あくまでもお互いに全力での場合でだ。

 今回で言えば、『イリヤ』には士郎を殺す気はなく、士郎は『イリヤ』に剣を向けることができない。士郎の敗北は決まっているようなものだ。

 それでも士郎は、『イリヤ』と話したいと、自分の気持ちを伝えることを諦めていない。

「さすがお兄ちゃん、ここまで防ぐなんてさすがね。惚れ直しちゃいそう・・・・・・でも――」

 『イリヤ』は剣の投影をやめ、黒い弓をその手に握る。

「――もう終わりにしましょう」

 『イリヤ』が地面を蹴り、飛び上がった瞬間、すでに弓は引かれていた。

 10を超える剣が士郎へ向かってくる。

 アーチャーとは本来弓を引く者、これこそが本来の戦い方だ。飛来する剣はすべてが士郎を襲うわけではない。回避、防御、それらを計算、逆算し逃げ道を塞ぐように向かって来ている。

 剣の雨は士郎へ迫り――

 

「・・・・・・そうじゃない『イリヤ』、それじゃ俺に”剣”は届かない」

 

 ――士郎を中心にその剣は周りに突き刺さっていた。

 

「・・・・・・・・・・・・!?」

 流石にこれは予想外だったのか、『イリヤ』の顔にはなんで!? と驚愕の色がうかんでいる。

 士郎は『イリヤ』へ攻撃することはない。それでも、過去にアーチャーそのものと戦った士郎が、その攻撃を”トレースしただけのもの”を捌ききれないわけがない。

 さらに、イリヤの投影品は士郎のそれとは遥かに劣る。それを解決しない限り『イリヤ』の剣は士郎に届くことはないだろう。

 それを証明するかのように、士郎は最初の一度しか投影してないのに対し、『イリヤ』の投影した剣はヒビが入り、ものによっては壊れている。

 これ以上この戦いに意味はない、そう言うように士郎は自分の持つ『干将・莫耶(かんしょう・ばくや)』を消す。

 そして、『イリヤ』の方へ向かうその足は、グサリ――と、士郎の背後からなるその音によって止めらた。

 思わず驚愕する士郎は何とか後ろを振り向くと、そこには、悲しそうに顔を歪める『イリヤ』がいた。

 その手には『干将・莫耶(かんしょう・ばくや)』が握られており、それは士郎の背中へと刺さっている。

「ごめんねお兄ちゃん、私はそれでも復讐をやめられないの」

 士郎は意識が薄れていく中、何が起こった? と今の事態を把握できたいなかった。

 『イリヤ』はアーチャーの力を使う、その力をより知っていた士郎だからこそ、ここまで考えが及ばなかったのだろう。

 転移。アーチャーではなく『イリヤ』としての力。小聖杯としての機能を持つ『イリヤ』はそれだけで膨大な魔力を持つ。

 膝から崩れ落ち、飛び去ってゆくイリヤを士郎は見ていることしかできない。

 地面に流れる血を感じながら、そのまま意識を失った・・・・・・。

 

 

 ****************

 

 

 士郎のまぶたが動く。

 あの後、イリヤ達によって倒れているところを発見された士郎は、またしても病院の一室で目が覚めた。

 体が重い。

 もしかしたらかなり長く眠っていたのではないだろうか?

 どれくらいの時間がたったのか確認しようと近くの机に視線を移すとあるものが目に入った。

 そこには、一枚の手紙が置いてある。

 それには一言『また来るから』と簡単に書かれている。

 かすかに沈む士郎の布団を見るに、先ほどまでイリヤ達がそこにいたのだろう。

 腹にはたいそうな包帯が巻かれており、先ほど? の事が現実だったと教えてくれる。

(・・・・・・また、心配させたな・・・・・・)

 一か月も立たずに病院にもどされては、周りが心配するのも当然だ。

 本来なら、ここでゆっくり治療を受け、安静にするのが自分を心配してくれた人たちへ士郎ができることだろう。

 

 ――それでも、痛む腹を抑えながら士郎は立ち上がりる。

 

 最後に見た『イリヤ』の目には涙が流れていた。それは、今の士郎が動くには十分な理由だ。

(悪いイリヤ、あとでいくらでも怒られてやる。だから・・・・・・今だけはやるべきことをやらせてくれ)

 『イリヤ』は分かっていなかった、士郎がどういった人間なのか。これくらいであきらめるのであれば、士郎はすでに死んでいる。

 もし、衛宮士郎がこの程度だと思ってるなら、もし、この世界で自分に幸せがないと思ってるなら――

 

 ――教えてやる。 

 

 これが”衛宮士郎”だと、この世界にはまだ救いがあるということを。

 士郎は一人の少女の元へ歩き出した。

 

 士郎は向かう、大切な妹の元へと。

 

 

 

 

 




第四回? 吾輩は猫であるでは、この小説のコンセプト? について話したいと思います。

この作品では、美優、イリヤ、クロがヒロインとして存在し、セイバー・アルトリアが士郎のメインヒロインとして君臨しています。
と言ってもセイバーほとんど出てくることはないので実質妹三人がヒロインとしての認識で問題ありません。
 さて本題ですが、この作品では、基本的の最初から士郎に行為を持っている三人が、士郎に救われる、あるいは明確な落としストーリがあって”より惚れる”と言うものになっています。『いつの間にか惚れていた』、とか『最初から好感度マックス』なのではなく、士郎と一対一の攻略ルートを作っていきたいと思っています。
 そのため少しシリアスが多めになってしまうと思いますがギャグ系はツヴァイの二期に合わせて作っていこうと思っています。むしろその時には、アニメ以上に妹たちが士郎にデレデレな感じで行きたいと思っています

もちろんあくまでこう書けたらいいなと言うのであって、少し変わってくるかもしれませんが、こんな感じのコンセプトで書いていきたいと思っています
『大好きな士郎により惚れるヒロイン達、これがこの作品の衛宮士郎だ』
とこんな感じでしょうか(笑)
よくわからない方向に行きそうなので今回はこのくらいで終わりにしましょう

今回もここで読んでくださりありがとうございました!!
またよろしくお願いします!


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15話とかとか~♪ 2wei  クロ編 心の変化

大変遅くなりました。
待っていてくださった方ほんとに申し訳ありません。
夏休み前と言うことで試験や検定などで時間が取れなかったんです(涙)


そんなこんなあり何とか書き上げました。2weiに入ってから書くのがすごく難しいです
特に当分士郎が出てこないため原作をなかなか崩せずどう書くべきかとても悩ん見ました。
(士郎を病院送りにするなんて言う展開思いついたやつを殴りたい)
で、では初めての方も久しぶりの方も楽しんでくれたら幸いです。
それではどうぞ!


 

 

 

 

士郎が目覚める二日前、赤いコスプレのような恰好をした少女は、住宅街の電柱の上で絶賛うなだれ中だった。

(私のバカぁぁー。なんでお兄ちゃんにあんなことしちゃったのよ・・・・・・お兄ちゃんがどんな思いだったのか知ってたのに・・・・・・・・・・・)

 『イリヤ』は士郎が自分の事を知っていることに気付いていた。それは『イリヤ』が魔術師だからなどではなく、士郎がイリヤを見るとき、その瞳にはイリヤと『自分』、二人の姿が映ってたからだ。

 感情が、視線が、思いが、イリヤに向けられるのと同時に自分にも向けられていたことに気づいていた。

 だからこそ、何もしてくれなかった士郎に『お兄ちゃんは何も知らないんだ』。そう言い聞かせることで自分の感情を制御していたのだ。

 しかし――――

 

 『俺はお前の存在を知っていた』

 

 ――――その言葉で、抑え込んでいた感情の鎖が壊れてしまった。

 

 その後冷静になった『イリヤ』は、士郎のもとに引き返した。だが、戻った時には士郎はそこから姿を消し、すでに病院へ搬送されたされていたのだ。

 すぐにでも士郎の元へ向かおうと思ったが病室からイリヤ達が離れず、行くことができなかったのだ。

 さらになかなか目覚めない士郎に自分のしたことをさらに後悔し、この際・・・・・・と、先にイリヤを殺ろうと思ったのだ。

 そもそも士郎を刺した理由もイリヤ殺害を邪魔されないため・・・・・・そう、今ここにいるのはイリヤ殺害のためだ。

 すでにそれは実行に移している。

 まぁまだ殺せていないのが現状なのだが・・・・・・。

 本来なら直接狙えば事足りる。にもかかわらず、鉢植やダンプカーなど事故を装って殺そうとしている。それは、今の『イリヤ』に剣を持つ決心がなかなかつかないからだ。

 士郎を刺した時の感触が僅かに残り、自身の後悔と相まって魔術を使うことを拒否してしまっている。

 と言っても、普通の人間なら数回は確実に死んでいるはずだ。そのはずなのになぜかイリヤは生き延びている。 

 その後もさんざん手を尽くした。

 しかし、イリヤの幸運値と直感がやたら高いのか、無事? に登校を許してしまっている。

 こうなったら直接やるしかないだろう。士郎にけがを負わせてまで実行しようとしたのだ、ここで終わりだなんて許されない。

 もはや自業自得ここに極まれりだが、『イリヤ』はそんな考えを無視する。

 その決断を胸に、寝ている士郎にべったりとくっついていたイリヤへの苛立ちを解消すべく、サッカーボールを手にするのだった。

 

 

 

 

 イリヤと美遊が倒れている士郎を見つけたのは偶然だった。

 すぐに病院へ運ばれ、今は病室にいる。

 誰が士郎を傷つけたのかはわからない・・・・・・だが、イリヤ達はある可能性に行きついていた。いや、むしろそれしか思いつかない。

 大空洞で現れた自分と同じ顔をした赤い服のコスプレをした一人の少女。

 あの後、凜からアーチャーのクラスカードがなくなっていると聞かされた。つまりは、また黒英霊が出たのだと判断したのだ。

 何故現れたのだとか、今更? と、いろいろ疑問が残る。しかし、魔術的なことは凜達に任せようと、今は眠る士郎の側にいた・・・・・・・・・・・・と言うか添い寝を満喫していた。

 幸い命にかかわるような傷ではなく、すぐに完治するとのことだ。

 傷ついた兄を心配するのにけなげな少女、自分はこう映っていると、周りの目を気にすることなく士郎の隣を陣取っているのだ。

 完璧な作戦、お兄ちゃんが心配なのは本当の事だしこれを思いついた自分を褒めてあげたい――しかし、イリヤは最も大事なことを見落としていた。

 突然はぎとられる布団。

誰がせっかくのお兄ちゃんとの時間を! と、少し不機嫌な様子で起き上がったイリヤは、自分の思考が停止するのと同時に・・・・・・顔から血の気が引くのを感じていた。

「ねぇイリヤ、私は少しの間だけ”近くで見ていて”って言ったと思うの。違う?」

 士郎のために花を買ってくる、と外に出ていた美遊が戻ってきたのだ。

「いやー、これは何と言いますか・・・・・魔がさしたといいますかー・・・・・・・・・・・・」

 流れ出てくる汗を止められるわけもなく、言い訳とも言えない言い訳を口にする。

「イリヤ、私はイリヤを信じたからお兄さんを任せたの。もちろんはっきりと”近く”がどれくらいなのか言わなかった私も悪いけど、イリヤも悪いと思わない? ほんとは私もずっと見ていたかったけどイリヤなら任せられると思ってお兄さんのために花を買ってきたの。そう言えば花を飾ったほうがいいって言ったのイリヤだったよね? もしかしてこのために私に行かせたの? イリヤは私の友達だよね? 嘘なんてつかないよね? ねぇ? どうなのイリヤ」

(怖い! 怖すぎるよ美遊!)

 いつもどうりあまり変化のない表情で淡々と告げる美遊に、イリヤはもはや恐怖しかない。

 何かこの状況をひっくり返せる材料を見つけなければ・・・・・・! と、イリヤの思考は今までにないほどに回転している。

「わっ、わたし、今日もう帰らないといけないんだったー、そっそそそう言えば美遊は・・・・・・ひっ暇なんだよね? だっ・・・・・・だったらお兄ちゃんのこと見ててほしいかなーなんて・・・・・・」

 これこそイリヤが行き着いたウルトラC。それは、美遊も自分と共犯になってもらうこと。さらには一時的にでもこの場を離れられるこの作戦は、まさに最良の手に思えた。

 しかし――――

「”イリヤスフィール”、私は質問をしたの。答えによってはまだいてもらわないとだめ」

(あっこれ私死んだかも)

 ――――イリヤの希望は難なく砕け散り、その後数時間にも及ぶ美遊の説教を受け、今度士郎を貸し出すことまで約束され、イリヤの目は完全に死んでいた。

 たまたま鏡に映った自分の顔を見て、やっぱり切嗣の娘なんだよね。とイリヤが思ったことから、どれだけひどい状況だったか想像に難くない。

 これもお兄ちゃんをこんな目にした黒英霊のせいだと、怒りの矛先を向け、必ず復讐を果たそうと確固たる決意を胸に秘めた。

 

 

 そして次の日。絶対に見つけてやる! そう意気込んで登校したイリヤは、すでに昨日の決意が折れそうなほどにボロボロの姿となっていた。

 朝、ルビーが『私の占い機能で犯人を見つけてあげます!』、と口にしてから次々と起こる”不幸すぎる”事故。

 もはや事故の領域を通り越し、事故が起こる前にみごとに予言して見せるルビーを犯人だと思わせるほどだ。

 文字通り死に物狂いで学校へたどり着いたイリヤは、そのボロボロな格好に驚いた美遊に取り付く暇もなく保健室へ連れていかれた。

「なんともないわ。ただの擦り傷よ。はぁーつまらないわね、今度はもっと死ぬか生きるかの怪我をしてきなさい、頭に鉢植えが落ちてきたとか、無人ダンクに引かれたとか」

「はぁ・・・・・・わかりまし、た・・・・・・(人の気も知らないで! ていうか例えがピンポイントで今日の出来事なんだけど! もうこの人が犯人でいいよね! 八つ当たりになるけどいいよね!)」

 と、あほなことを考えてしまうぐらいには、今のイリヤはボロボロなのだ・・・・・・。

 その後、ベットで休んでいたイリヤは、なぜか窓から飛んできた、彼の有名な名探偵のキック力ほどのサッカーボールを顔面で受け止め、怒りパラメータを振り切り早退を決意した。

 

 

 

 

 美遊は、イリヤが早退するのを理由に、自分も早退手続きを行なった。

 そもそも、今日はずっと士郎の病室にいるつもりだった美遊からしたら、義務教育の優先順位など下の下もいいところだ。

 イリヤの不幸な事故の事も気になるが、本音を言えば昨日の事が原因でイリヤの調子が悪くなった時、自分が側にいられないことのほうが嫌なのだ。 

 美遊はあの姿を知っている。だからこそ余計に心配なのだ。なぜなら、あの姿のイリヤは・・・・・・・・・・・・”イリヤであってイリヤではなかった”のだから。

「美遊まで一緒に早退することないのに」

「ううん、何かやっぱり心配だから、義務教育なんかよりイリヤの方が大事・・・・・・!」

「・・・・・・う、うん。たまに美遊の気持ちが重いわ」

 と、少しいつもより帰宅時間が早いだけの下校風景。左右に一軒家が並ぶ住宅街。

 突然。

 美遊は背後から迫る殺気に気付いた。

「・・・・・・っ! よけて!」

 イリヤの返事を待つ前に、イリヤを自分とは反対方向に突き飛ばす。イリヤが尻餅をついてしまうが、先ほど自分達がいた場所に突き刺さっている黒い矢を見て自分の判断が正しかったことを理解する。

「なっ・・・・・・! なになに!?」

 その矢を見て動揺するイリヤ、

「攻撃です! 電柱の上!」

 そしてルビーの注意の声に、咄嗟にその方向へ視線を向ける。

 光の逆光で影しか判断できないが、その姿は空を舞う鳥のようで、その陰からイリヤに向かてくる矢と相まって、鷹の様な鋭さを感じさせる。

「はぇ? って・・・・・・! いぃぃーやぁぁぁあー」

 地面を破壊するほどの威力を持った矢を、転びながらもよけ続けるイリヤ。それを見て思わず感嘆の声を上げそうになる。

 そして、逃げ回るイリヤの前に――その少女は降り立った。

「ほんと・・・・・・逃げ足だけは早いわね、イ・リ・ヤ」

 やはりと言うべきか、必然と言うべきか、その少女は昨日大空洞で出会った赤い恰好をしたもう一人の”イリヤ”だった。

 

 

 

 

 サッカーボールのクリーンヒットを喜んだ『イリヤ』は、そのままイリヤが学校から出てくるのを待っていた。

 流石に、”私の友達”でもある美々達を戦闘に巻き込む気などない。

 いつもの帰宅通路でイリヤを待っていると、思ったよりも早く、現れたイリヤと美遊。

 瞬間――――手に持った矢を放った。

 

 

 「いぃぃーやぁぁぁあー」

 逃げ回るイリヤの様子を見ながら、理由のない苛立ちを覚える。

(全く、逃げ足だけはほんと早いわね。あれが私だと思うと無性に泣けてくるわ)

 さて、初めてではないけど、さすがに自己紹介はしなきゃね・・・・・・と、『イリヤ』は地面へと降りる。

「ほんと・・・・・・逃げ足だけは早いわね、イリヤ」

「でっ・・・・・・でたー!?」

(イラっ)

「しゃべりましたよこの黒いの・・・・・・」

(イライラ)

「人格が・・・・・・ある?」

「はい、黒化英霊とは違うようです」

「言葉は通じそうですよ? 何とかコンタクトを!」

「私・な・か・ま、てき・じゃ・なーい」

 と飴を振りながらこちらに話しかけて、身内コントを繰り広げるイリヤ達に、苛立ちパラメータが溜まっていく。

(・・・・・・うん。少しぐらい話でもと思たけど、もう殺しましょう)

 びゅっ、と言う風切り音と共にイリヤの頭上を通過する一本の剣。言うまでもなく『イリヤ』が放った剣。もちろんイリヤの”頭上”ではなくて”額”を狙った攻撃だ。

「む・・・・・・また避けた。やっぱり直感と幸運ランクが無駄に高いわね。なるべくこの方法はとりたくなかったんだけどしょうがない。それじゃあ――直接殺すわね、イリヤ」

 『イリヤ』は手に『干将・莫耶(かんしょう・ばくや)』を投影し、そのままイリヤへと斬りかかる。

「ルビー!」

「はい! プロズム・トランス!」 

 魔法少女みたいな掛け声で変身したイリヤは、飛び上がり空を飛んで離れていく。

「意味が分からない! なんで命狙われないといけないの!?」

「(くっ逃がすか!)こーらー! 逃げるな卑怯者ー!」

 家の屋根を飛び上がりながら、追いかける。

 直接殺すとなったからには、ルビー達がいる限り戦闘は避けられない。昨日の士郎との戦闘と、今日までの活動で魔力をかなり減らしている。空を飛んで追いかけるような無駄な使い方はできない。

 イリヤ達は住宅街での戦闘を避けたかったのか、森の中へ降り立った。

「黙ってやられるわけにはいかないから、ちょっと痛い目見ても・・・・・・恨まないでよねっ」

 イリヤ達を追いかけ木の上へと着地すると同時に魔力弾を放って来る。

(やばっ) 

 突然の事で少なからず動揺するが、迫ってくる魔力弾の質とスピードを見て、

(ん? やばく、ない?)

 なんのことなく剣で受け流した。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ? な、んで?」

 その声を聴いて、『イリヤ』は確信する、イリヤは弱くなっていると。

 逃げ回るイリヤへ、無数の剣を投げつける。

「あっははははは」

(楽しいわこれ、さぁもっと私と殺し合い(あそび)ましょ)

 

 

 

 

 向かってくる剣の嵐を、声を上げながら逃げ続ける。

「ちょーっと手加減しすぎですよ。イリヤさん。もっと本気でやってください」

「なっならもう一度! ――ファイヤッ」

 振り向き際に放った攻撃も、先ほどと同じよう難なく弾かれる。

「ふぁ!? なんでー!?」

 今までとは違う自分の攻撃に、動揺を隠せないイリヤ。

「なんかイリヤさんの出力が激減してます! めっちゃ弱くなってますよー」

 イリヤの疑問に答えるように、ルビーが言う。

 そのことに美遊も驚いている。

 その反対に『イリヤ』は笑い声をあげる。

「あははははは・・・・・・そう、やっぱり弱くなってるんだ。まぁ当然よね、”私”はここにいるんだもの。だから――」

 相手の言いように、イリヤには何が何だかわからない。

「――だから安心して――――さくっと死んじゃってねー!」

 再び、向かってくる『イリヤ』から庇うように美遊が間に入る。

 美遊が放つ魔力弾も問題ないというように剣で捌きながら迫ってくる『イリヤ』。

 目の前に迫った『イリヤ』は突然剣を消すと、美遊の腕をつかみそして――――

 

 

 ――――公開キスを決行した。

 

 

 

 キス。訂正。ディープなキスを楽しみながら、流れこんでくる魔力をその身に感じる。

 美遊の抵抗する姿に、時折聞こえる色っぽい声に、されるがままのその表情に、『イリヤ』も自分が高揚するのを感じる。

「んんっ・・・・・・んぁっ、んん」

 抵抗する美遊を追い詰めるように、粘膜と粘膜の、舌と舌の絡み合う音が聞こえてくる。

 涙目でどこか懇願するようにこちらを見る美遊。それすらもどこか色っぽいと、魔力供給の事も忘れて今まで以上に深く唇を交わらせる。

 抵抗する力がなくなるのと、魔力の補給の成果を鑑みて美遊を解放する『イリヤ』。

 床に倒れる美遊に「ご馳走様」と、可愛らしい声でお礼を言う。

 そこで初めてフリーズ状態から解放されたのか、イリヤの叫び声が上がる。

「み、美遊ー! 美遊、しっかりして!」

「イ、イリヤ・・・・・・ごっごめん、ね」

 イリヤに抱きかかえられながら、かろうじて声を出すがそれを最後に美遊の目が閉じる。

「よっ・・・・・・よくも私と同じ顔で美遊の唇を・・・・・・・!」

「ん?」

 何故かにらみながらこちらを見るイリヤに疑問の声を上げるも、すぐに「あーなるほど」と納得の声を上げる。

 美遊は士郎を想ってる・・・・・・が、それと同時にイリヤに対する好き好きアピールがすごいのだ。

 おそらくそのことを言っているのだろう。

(まぁそれが目的と言えば目的だしねー)

 つまりは嫌がらせ。もちろんそこまで深く考えてたわけではない、少しでも面白くなればいいなーって思っていた程度だ。

 だが、今のイリヤの反応を見て、満足すぎる笑顔を浮かべている。

(そして、もう私を邪魔するものはいなくなった。そうこれで終わり・・・・・・これで終わりなの・・・・・・・・・・・・)

「それじゃあイリヤ――――”さようなら”」

 そして、無数の剣がイリヤに迫った。

 

 

 

 屋根を伝いながらそれを掛ける『イリヤ』。

 その瞳には微かに涙が浮かんでいる。涙の後なのか頬も少しばかし赤い。

 服は無残に切り裂かれ、まだ完成していない少女の体が見え隠れしている。

 結論を言うと・・・・・・『イリヤ』は見事に返り討ちにあった。

 途中までは順調だった。しかし結果はこのありさまだ。

 魔力を薄く鋭く伸ばしたイリヤの斬撃。

 今までにない攻撃に反応が遅れ、攻撃自体は咄嗟に作った防御魔法でなんとかなったもの、服までは守れずボロボロ。

 さらにはその防御のために美遊から奪った魔力をほとんど使ってしまうという体たらく。

 自分維持の魔力を残すために撤退を余儀なくされたのだ。

 

『や、やるじゃないイリヤ。今日のところは見逃してあげるわ』

 

 最後にモブキャラみたいな捨て台詞を吐いた自分を殴ってやりたい。

 イリヤ許すまじ。

 今の心の内はこの思いでいっぱいだ。

(そうだ、明日はイリヤの学校で・・・・・・うふふ)

 と、新たな嫌がらせを実行しようとしている。

 だが『イリヤ』は気づかない。今のイリヤに対する感情が今までとは違うことに。今日作った笑顔は偽りの演技ではないことを。そして、その笑顔はイリヤを殺すことに対する喜びじゃないことに・・・・・・。

 誰かと話している時間が楽しい。自分の感情をぶつけられるのがうれしい。誰かをからかうのが面白い。次があることに心が躍る。

 一人じゃない、その思いがこれほどまでに『イリヤ』の心を刺激する。

 しかし、そこにはまだいない――――

 

 

 

 ――――その感情を拾い、気づかせてくれるものはまだ現れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 




今回の『吾輩は猫である』はなしになります

・・・・・・すみませんネタが思いつきませんでした。
質問などがあればここで行いますのでぜひコメントください

と、言うことで今回はこの作品に評価をつけてくださった方にお礼の言葉を!

nanegi様 OGINO様 momiji2様 検事様 シューティングスターフォルダウン様 
爆死の達人様 Emiya Sirou様 Siroap様 わかめ様 SoHya4869様 シュンSAN様
爆死人間15号様 テレビス様 キリ_様 光愛様 ららららら様 Roki05様 
お菓子好きかい?様 kanada118様 
評価の方ありがとうございます

どのような評価でもいただけることに感謝しています!
そしてお気に入り、感想をしてくれる方にももちろん感謝しています!
これからもどうぞよろしくお願いします!


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16話とかとか~♪ 2wei クロ編 クロの選択

 
 /*クロ編、と言うよりはツヴァイは、かなり時系列をいじくっています。*/
 少し違和感があるかと思いますが、ご理解いただけると助かります。

 今回はほとんどクロを視点にして書いています。
 クロの行動を、アニメとは違う解釈でよりシリアスに書き上げました。
  
 少し、展開をとばしている感は否めませんが、なるべく早くストーリーが進むようにしたことで読みやすくしたつもりです

 それではどうぞ!


 

 

 

 『イリヤ』が今いる場所は暗い地下室。

 無駄に暗く、センスのかけらもないカーペットや置物の装飾が、この部屋の異質さを表している。

 ちょっと頭のおかしい子が集まったオカルト部、そんなイメージがぴったりだ。

 さらに、『イリヤ』がこの場で”拘束されている”という事実も相まって、そのイメージに拍車がかかってしまっている。と、何やら犯罪臭のする絵面なのだが、このなんとも否定しがたい今の状況には明確な理由が存在する。

 

「(まさかほんとに捕まるなんて思わなかったわ。だてに英霊と戦ってきてないってことか)」

 ここが地下室である以上、ここは誰それの家であるわけで・・・・・・。つまり何が言いたいかと言うと、この場所はルヴィア・エーデルフェルト、その家なのだ。

 ではなぜこのような場所で、ついでに言うなら昔の魔女狩りのように十字架に拘束されているのかと言うと。

 何を隠そう、『イリヤ』は本日二回目の返り討ちにあったからだ。

 

 

 

 数時間前。

 クロは、美遊達との戦闘の後、魔力の回復を図るため、と言うよりは自身の魔力を安定させるために、柳洞寺の周辺をうろついていた。

 そんな時、イリヤの声が耳に入る。

 なんでこんなところに? と疑問はあるが、先ほどの雪辱を晴らすためにそこへ向かう。

 そこで『イリヤ』が目にしたのは、木の枝に縄で拘束され、ミノムシのように吊るされているイリヤの姿だった。

 それだけならただの変態趣味野郎なのだが、そこに置かれている豪華な食事が、イリヤを含めて”『イリヤ』をつるための餌”だということを物語っている。

「・・・・・・」

 思わず黙ってしまうほどにわざとらしい罠。

 魔力もそこまでなく、わざわざ付き合うのも馬鹿らしいと引き返そうとしたのだが、胸にある靄がそれを良しとしない。

 その感情を表現するなら『寂しい』と言うのが一番ぴったり一致するのだが、なぜこの状況でその感情が出てくるのか『イリヤ』にはわからない。

 その答えを知りたい。あるいは鬱陶しいと思ったのか、それを解決するためにその罠へと飛び込んだ。

 

 

 『イリヤ』は、「んー」とこの状況を考えるようにイリヤの様子を観察する。

 罠だ。

 罠なのだ。

 どこからどう見ても罠でしかない。 

 ハッキリ言って馬鹿だ。むしろなぜこれで釣れると思っているのか理由が知りたい。

 しかも、何やら背後の草むらから凜たちのイリヤへの指示する声まで聞こえてくる。

 ここまでくると、『イリヤ』を挑発させることが目的と言われた方がしっくりくるぐらいだ。

「うーん・・・・・・どっからどう見ても罠よね、これ? なかなかリアクション困るわね・・・・・・」

 作戦が瓦解したとでも思ったのか。

 それを合図に、草むらから凜たちが飛び出してくる。

捕獲対象切り替え(フィーーッシュ)!」

 その言葉と共に、イリヤを拘束していた縄が一人でに動き出した。

 その縄はそのまま『イリヤ』を拘束。

(なるほど、そこまで馬鹿じゃないってことね。けど・・・・・・)

「甘いわよ」

 その縄を剣で切り裂く。

「ふんっ、甘いのはそちらですわ!!」

 思わずイラっときたが、その後の魔術をうけて思わず納得してしまう。

Zign(サイン)――見えざる鎖の檻(カオスブレアシュヴェーアークラフト)!!』

「重力系の捕縛陣ね・・・・・・でも、私には効かない」

 魔力を掌に溜めて地面に打ち出し、そうすることで魔法陣ごと崩壊させる。

 作戦はよし。少し遊ぶ程度の予定だった『イリヤ』は自分の表情が笑っているのを感じて、今の感情が先ほどとは違い、『楽しい』ということに驚く。

「とりあえず今できる全力の・・・・・・散弾!」

「ん?」

 続いてイリヤが魔力弾を放ってくるがそれはなぜか『イリヤ』には向かわない。

 しかし、それで起こった現象で、その目的を理解する。

「(・・・・・・!? なるほど、煙幕、ね。けど・・・・・・)」

 煙の外から美遊が攻撃を仕掛けてくる。しかもただの攻撃ではない。

 『破壊すべき全ての符(ルールブレイカー)』。

 どんな魔術でも問答無用で初期化させるそれは、まさしく最良の一手・・・・・・しかし――。

「・・・・・・これじゃダメよ美遊。それじゃ攻撃は届かない」

 

 ――それはもちろん当たればの話だ。

 

 美遊は、決めに来た一手を避けられ動揺するかと思いきや、すぐさま離れ距離をとる。

「あら、良い動きじゃない。でも今の攻撃は落第点よ。お兄ちゃんに怒られちゃうんじゃない?」

 煙幕を使った奇襲。

 士郎がよく使っていた手だが、今のは似ているようで全くの別物。

 今回に限ってだが、士郎なら、煙幕を”目隠し”程度の目的では使わない。

 煙幕は相手の視界を簡単に奪うことができる便利な攻撃だが、相手の技量次第では簡単に見切られる。不要に相手へ全方位警戒させてしまうのと同時に、飛び出した瞬間の煙の流れで、むしろ自分の居場所を教えてしまう。

 今回の様な使い方ならば、視界を奪うことではなく”相手の動揺を誘う”ことを目的とするべきだった。

 相手が動揺している隙に攻撃を加える。相手を冷静にさせる時間を与えず、速攻で決めにくるべきだったのだ。

「・・・・・・っ!(強い・・・・・・黒化英霊とは異質の強さ・・・・・・まるでこちらの手をすべて見切られているような)」

「ん? もう終わり?」

 んー、まぁお兄ちゃんがいないとこの程度かな、と予想どうりの結果に少し期待外れを否めない。

 あまり遊んでもあれだし、今日はもうお開きにしようかな、と考えていると、イリヤから聞き流せない言葉が漏れる。

 

「すっごくキモイ・・・・・・」

 

「キモイとは何だー!」  

 反射的に剣を投げつけ、戦闘を続行した『イリヤ』は悪くないだろう。

「やっぱりあなたはここで殺すわ。いえ、もう死んでください!」

 と、おかしなテンションになりつつあるが、その目は本気そのものだ。

 イリヤを追う時たまたま目に留まった凜達をついでと言わんばかりに、先ほど拘束された縄を使って逆に拘束する。

「なっ! 拘束帯を逆利用された!?」

(自分たちの武器をそのまま放置なんて馬鹿ね!)

 イリヤを追っていると、今度は美遊の邪魔が入る。 

 『イリヤ』は、相手の魔術を理解し対応しているわけではない。聖杯として存在しているが故に、作られた故に、”理論をとばして結果に至る”。

 それが『イリヤ』の力なのだ。

 それが魔術であるならば、その使い方を、どういったものなのかを、瞬時に理解することができる。

 クラスカードにしても同じだ。存在している原理は分からない、それでもその使い方は必然と頭に入ってくる。それ故に中途半端になってしまうのだが、聖杯としての魔力がそれを補って余りある。

 魔術師からしてみれば、『鶏が先か、卵が先か』と言う例の議論を、『ゴメーン両方食べちゃった!』の一言で終わらせられたみたいなものなのだ。

 そしてそれは、相手の弱点、相手の知りえない情報すら容易に知ることができる。

 例えば・・・・・・。

 

「駄目よ美遊。ステッキから意識をそらしちゃ・・・・・と言うわけでバイバイ、サファイヤ」

 

 強力なカレイドの弱点をピンポイントでつける。

 思いっきり空に吹き飛ばしたサファイヤから「美遊さまー」と言う叫び声が聞こえてくる。

「カレイド、と言うよりは美遊の弱点その一、接近戦――そしてその二、ステッキが手から離れて三十秒経つか、五十メートル以上離れると転身解除。次は気をつけたほうが良いわよ・・・・・・次なんてないけどねっ」

 そう可愛らしく言い残すと、本命へと足を進める。

「そんな・・・・・・美遊まで・・・・・・」

「行動が的確すぎます! これはちょっとやばいかもですよイリヤさん・・・・・・って、なに座りこんじゃってるんですか!」

 残すは、と言うよりはやっとイリヤを相手できる。

(あきらめちゃった、か・・・・・・)

 イリヤの様子を見てわずかに失望の色を現すが、どちらにしろ結果は分からないと無駄な思考を放棄する。

 『イリヤ』が近づく度に涙目で後退するイリヤ。

 心のもやもやが止まらない、それもイリヤを殺せば止まるだろう。そう思い剣を構える。

 

「それじゃ、お別れねイリヤ」

 

 

 

 その後、まんまと底なし沼と言う罠にはまった『イリヤ』はこうやって拘束されている。 

 沼に魔術の起動停止術式まで使うという徹底ぶり。

 最初から相手の手のひらだったことに、思わず溜息をつく。

 目に涙の跡があるのは、捕まった際に凛とルヴィアに散々馬鹿にされたからだ。

 「いいもん、お兄ちゃんに言いつけるもん」とすねている『イリヤ』の姿はなんともまた愛らしい。

 先ほどまで全員勢ぞろいで尋問・・・・・・と言うよりは簡単な質問をされたが、今この空間には誰もいない。

 

「さて、そろそろ良いかしらね」 

 

 そう呟くと、何重にも術式を一瞬ですべて解除する。

 術式の理解も何もない。ただ解除したという結果だけを理不尽に引き起こす。

 この部屋自体にかけられている『イリヤ』を外に出さない術式。もはやそこまでする? と軽く引くレベルなのだが、イリヤには同様に関係ない。

「んーっと、ちょっと窮屈だったかしらねー」

 体をほぐすように動かした『イリヤ』は、伸ばした手をそのままおなかへと持ってくる。

 その手が触れているのは、先ほど凜に書かれた魔術刻印。

 痛覚共有。

 イリヤと自分二人の痛覚を共通させる呪い系統の術式。『イリヤ』への一方的な共有だが、これがある限りイリヤへの攻撃はすべて自分に戻ってくる。

 しかも、一方的故に、自分のダメージはイリヤへは行かない。

 そのため、イリヤを殺すにはどうしても相打ち覚悟になってしまう。

 だが、どんなに強力だろうと、どんなに複雑だろうと、『イリヤ』には呼吸をするように解呪できる。

 迷う必要はない。こんなもの百害あって一利なしだ。

 

 なぜか、それをしようとする手が動かない。

 

 これを消すことは、何か取り返しのつかないものも消してしまうと微かに感じ取って。

 何か、ではない。

 『イリヤ』はすでに気づいている。

 イリヤを殺したいという気持ちが風化したわけじゃない。

 それでも、あるかもしれない。――一緒に過ごす未来が、共に生きる選択肢が、楽しく笑っている可能性が、そう考えている自分がいることを。

 あるかもしれないではない、そう望む自分がいる。その心を『イリヤ』はしかっりと感じ取っていた。

 最初から気づいていた。知っていて無視した。

 イリヤを殺すこと、それは一人になることと同義だと。

 普通の生活には絶対に戻れなくなる。

 魔術師として生きるにも、こんなに不安定な体では満足に活動もできない。何より・・・・・・アインツベルンはもういない。

 今の『イリヤ』に残されている選択肢は二つ。

 この呪いを言い訳に、イリヤと生きること。そしてもう一つは・・・・・・。

  

 この呪いを利用し『イリヤを殺して自分も死ぬこと』。

  

 それが『イリヤ』の出した結論だった。

 

 

 死、と言うものは『イリヤ』からしたらそこまで恐ろしい事じゃない。

 今だっていつ消えてもおかしくはないのだ。そんな覚悟はとっくにできている。

 だからこそだろう。

 今ある欲望に誰よりも全力だ。

 全力だとも。

 なぜなら、体が汚れたー、綺麗にしたいー、その思いから――――ルヴィアの家のお風呂に直行したぐらいなのだから。

  

 わーひろーい、と楽しそうな声を上げている『イリヤ』は、今は何もかも忘れて湯船を堪能している。そう、

 

 

「ごめんね美遊、いきなり押しかけたりなんかして・・・・・・」

「別に問題ない。むしろ来てくれて嬉しい」

「わー大きいお風呂ー」

「いえ、リズさんのもすごく大きいです」

「急に何の話してるの美遊!?」

 

 と、にぎやかな声が聞こえてくるまでは・・・・・・。

「――んあっ」

「――あッ!?」

 直後。

 浴場にバシャーンと、イリヤの飛び込む音が響く。

「ちょっイリヤさん!? 急に飛び込んでは・・・・・・」

 セラの注意する声が聞こえるが、今のイリヤはそれどころではない。

「(なんでアナタがここにいるの!?)」

「(そんなのお風呂に入りたかったからに決まっているじゃない?)」

「(そうだろうけど! そうなんだろうけど! そうじゃないしょー!)」

 水中で会話する二人だが、『イリヤ』からしたら、この状況はさして問題ではない。

「(ちょうどいいわね、ちょっとあいさつしくるわ)」

「(は!? 待って・・・・・・待てって言ってんだろこらー!!)」

  

 イリヤの心の叫びは、セラたちが退出するまで止まることはなかった。

 

 

 

「それで、なんでこんなところにいるのかしら・・・・・・”クロ”?」

 セラたちと入れ違いで入ってきた凛とルヴィア。

 この状況はイリヤ達からすでに聞いたのか、微妙に顔を引きつらせている。

「えー、私がどこにいようが私の勝手でしょ?」

「そうじゃないわよ。はぁーまあいいわ、まったくどうやって抜け出したのかしら・・・・・・」

 凜とルヴィアの二人はやはり魔術師にしては甘すぎる。

 それが『イリヤ』の二人に対する評価だった。それ故に、警戒心を強めている自分が馬鹿らしい。

「でもちょうどいいですわ。ここで棚上げにしていた話をしましょうか」

 その言葉に、一瞬呼吸が止まる。

「ねぇクロ、そろそろ話してくれる気にはならない?」

「・・・・・・・・・・・・」

「また、だんまりなの?」

 はぁーとため息をつく凜をよそに、『イリヤ』は自分の考えるべきこと、をしっかり理解していた。

(私の中でまだ結論は出てない。だからまだ答えられない。でも・・・・・・クロ、か)

 クロ。

 それは凜がつけた『イリヤ』の名前。

 『イリヤとイリヤじゃ分かりずらいわよ!』と、無理やりつけられた名前だが、別段いやな気はしない。

 むしろ嬉しいと思っている。

 自分こそが”イリヤ”であると、その思いは確かにある。それでも、偽物と思われても仕方ない自分を・・・・・・一人の人間として、一つの存在として、見てくれている。それが無性に嬉しかったのだ。

「いい加減答えてくれないと私たちも何もできないわ。もしかして

・・・・・・・・・・・・衛宮君」

「・・・・・・!?」

「あなたが使っている魔術と、衛宮君が使っている魔術は同じものよね? いいえそれだけじゃない、戦闘スタイルから投影しているものまで同じ」

「・・・・・・」

「彼なら、何か知っているの?」

 やはり凜は優秀だ。恐らく何もわかってないと言いながら、ある程度の予想はついているのだろう。

 しかも、『イリヤ』の表情を読み取ることで、自分の考えを結論付けようとしている。

 しかし、ここで無駄に結論を導き出されるのは、今の『イリヤ』にとっては好ましくない。

 だからここは、

「・・・・・・お兄ちゃんは、私に一度も剣を向けなかったわ。それでも私はお兄ちゃんを刺した。それほどの覚悟を持って、私はイリヤを殺そうとしているの。でも、だからこそ、お兄ちゃんを刺したからこそ・・・・・・! 私は結論を急げない。自分がどうしたいか、しっかり考える必要があるの。それがわかるまで、私は何も答えられない」

 自分の考えを口にする

 『イリヤ』・・・・・・いや、今はクロだろうか。

 クロは、生まれて初めて自分の意志で道を選んでいる。

 イリヤの歩んできた道を見ているのではなく、自分が歩く道を模索している。

 長くはない。

 クロの体にはそこまでの時間はない。

 それでも最初で最後になるかも知れない、大事なことだから、クロはその選択に全力になれる。

「そう、なら私からはこれ以上聞かないわ。話したくなったら話してちょうだい」

 やっぱり甘いと、だからこそ魅力的だとクロは思う。

「それに今回の事、私たちはそこまでクロに焦点を置いていないわ」

「その通り、問題は別。アーチャーのクラスカードがなくなったことですわ」 

「イリヤ、理解してないかもしれないけど、大空洞でやった事、あれはとんでもない事よ。自分を媒体にした英霊の力の召喚、魔術協会すら知らないことをやってのけたの。でも、あなたには選ぶ権利があるわ。このまま魔術とかかわるか、今回の事から手を引くか」

 何気ない質問。

 しかしそれは、クロの求めている答えを導きだすのに重要なものだ。

 魔術を選べば、一緒に生きる道も探せるかもしれない。なぜならアーチャーのカードはクロの中にあるのだから。

「だからイリヤ。あなたの望みを答えなさい」

 クロの心に緊張が走る。

 

「望み? んー別に大した望みはないけど・・・・・・ただ、『元の生活に戻りたい』、かな」

 

 静寂が訪れる。

 本心だったのだろう、それ故にその言葉の意味に気付かない。   

 凜とルヴィアは悲しい顔をしながら納得を。

 美遊は決して自分の存在と交われないもどかしさを心に秘め。 

 そしてクロは――――

 

 絶望と共に決断する。

 

「あはは、あははははははははははははははははははははははははははははははははは」

 突然笑い出したクロに、周りは唖然とする。

「あー、・・・・・・何を期待してたのかしらね。大丈夫よイリヤ、あなたは間違ってない。それが正しいもの。それに・・・・・・ありがとう、あなたのおかげでやっと答えが得られたわ」

「ど、うゆうこと・・・・・・?」 

 イリヤの質問には答えずクロはアーチャーの服装を投影する。それこそが答えだとそう言うように。

 続いて弓と剣を投影する。

 そこでさすがに凜も気づいてのか、慌てたように立ち上がる。

「早まらないでクロ! まだあなたをどうするかの結論は出ていないわ!」

「そうかもね。でも関係ないわ。結論はすぐに出る」

 そしてイリヤへと向き直り。

「元の生活、いいんじゃない。こんな危険ばかり起きる生活より、今まで通りお兄ちゃんと普通の日常を過ごしたほうが良いものね。・・・・・・ただ、それなら私を殺してから、ね」

 クロはもう迷わない。

 自分の事を話さないのに、わかって貰おうだなんておこがましにもほどがある。

 それはクロもわかっている。

 それでも! だからこそ、気づいてほしかった。何もわからないなら自分なりに調べてほしかった。わからないから放置なんて選択してほしくなかった。自分の事なのに、そこまで重要じゃないと言われているような気がして辛かった。

 自分の身勝手さに腹が立つ。

 それでもこれが私だと、自分の考えを曲げてまで生きる意味はないと。

 そして、イリヤの出した結論がそれなら・・・・・・私はイリヤを殺すだけだと。

 それを証明するように、クロはイリヤへ弓を引く。

 『偽・偽・螺旋剣(カラドボルグⅢ)』。

 猛烈な魔力の波動と共にイリヤへと向かうそれは、正確にはイリヤを狙っていない。

 だが、その波動だけでもイリヤには防御するだけで精いっぱいだろう。

 壁を破壊する爆発の余波で視界が歪む。

 クロがイリヤを狙わなかったのは最後のチャンスを与えるため。ほんの少しだが、イリヤへ知る時間を与えた。

 何もしないならそれで構わない。何も知らずに死ぬだけだと。

 イリヤ達の視界がおさまる前に、クロはその場から姿を消した・・・・・・。

 

 

 

 翌日。

 美優は一人で下校を行っていた。

 下駄箱に入っていた手紙、そこにはクロから美遊への招待状。

 昨日の出来事で最もクロの心を理解できたのは自分だと。だからこそ、クロを止められるのは自分だけだと。その思いで美遊は向かう。

 指定された場所、そこは海。それは美遊にとって初めての景色。

「すごい・・・・・・」

 

 美遊は変わった。

 イリヤと出会い、ルヴィアと出会い、そして・・・・・・士郎と出会うことで・・・・・・。

 だから今度は自分が力になるのだと。

 一人。

 それが何よりも辛いことを美遊は知っている。自分の時は悲しさを士郎が救ってくれたと。なら自分はクロの悲しみを少しでも、と。

 

「まるで、初めて海を見た反応ね美遊。ちゃんと一人で来てくれたのね嬉しいわ」

 

 美遊が目を向けた先。

 そこにいたのは、一人ぼっちの少女の姿だった。 

 

 

 

 




今回も読んでいただきありがとうございます。

ラストの展開ですがなぜか美遊にもヒーローフラグが立ちましたね。
気づいたらあんな感じに書いていたので次の話数どうしようか、今から頭を抱えています

そしてお詫びです。
感想にて、誤字脱字が非常に多いとの指摘をいただきました。
自分でも感じてはいたのですが、なかなか減らすことができず申し訳ありません。

誤字を見つける→直す→その話数の話を改良する→新たな誤字が出る

と言うように、謎のループが出来上がっています。
自分では気づかない部分もあるので、よろしければ話数だけでもいいので感想で教えていただけると助かります。

そして、誤字を見つけるたんびにその話数をかなり書き直しています。
初投稿に比べるとすべての話数が二千字程度増えていたり、その後の話の矛盾を解決させる会話を入れたりとかなり書き換えています。
もちろん読み返さなくても問題ないように書かれていますが、時間がありましたら読み返していただけると嬉しいです。
大体一ヶ月程度で千文字弱の書き直しを行っていると思います。

それでは、今回もありがとうございました。次回もよろしくお願いします。


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17話とかとか~♪ 2wei クロ編 それぞれの答え

お久しぶりです。

と言っても今回はまぁまぁはやく出しましたかな?
次からペース戻ると思いますが・・・・・・

そんなことより!! 今回はちょっと長いです!

いろいろシーンがとびますので読みづらければ感想でご指摘いただけると助かります。

始点変更の時に何かマーク入れるべきだろうか・・・・・・

それではどうぞ!!



 

 

 

 時間は深夜。

 先ほどルヴィアの家から逃げ出してたクロがいる場所は、士郎の眠る病室だった。

 ここに来たのは最後のけじめのためだ。

 士郎は、イリヤとクロ、二人が殺し合うところなんか見たくないだろう。それでも自分はそれを選んでしまった。

 だから。

 まずは。

「ごめんね、お兄ちゃん。ごめんね、ごめん、ね・・・・・ごめん、なさい」

 謝ることしかできない。

 士郎の体に顔を伏せて、涙を流す。

 こんな選択しかできない自分に対してなのか、それとも・・・・・・。

 

 

 それからクロは話し続けた。

 たった二日間の出来事。それは、普通の生活とは程遠いものだった。

 それでも・・・・・・自分の成長を、その会話を、すべての出来事を、こと細かに話し続けた。士郎はまだ起きてはいない、そんなことは関係ないと言うように、クロは話し続ける。

 イリヤをからかったことや、イリヤの言葉にイラついたこと、凜からもらった自分の名前や、美遊へのちょっとしたいたずら、ルヴィアの家を壊してしまったなど、本当に何でも、どこまでも話した。

 話し続けた。

 失いたくない、この日常を。そんな思いが見え隠れしている。

 それでもクロは気づくことはない。 

 最後まで・・・・・・・・・・・・自分の流している涙には気づくことはなかったのだ。

 

 もう何時間になるだろうか。

 クロが士郎の病室に足を踏み入れたのは昨夜だったはずだ。今はもう、朝日が昇っている。

 何時間でもいたかった。 

 これで最後になるかもしれないのだ。本当は、もう一度話したい、怪我の事を謝りたい、もっと一緒にいたい。けれど、そろそろ時間だ。

 イリヤを殺す前にやっておきたいことがある。

 それは美遊の存在。

 直感でしかない。だが、確信がある。美遊は自分と同じようにクラスカードの使い方を知っていると。そして、それはイリヤを殺すにあたって最も邪魔な存在になると。

 今のクロでもさすがに邪魔なものを全員抹殺、などと言う殺人狂い(さつじんぐるい)みたいな思考はしていない。

 ただ、美遊なら戦わずに何とかなるかもしれないと、そう思ったのだ。

 似ている。

 彼女は自分に似ていると、クロは思った。

 イリヤと同じように、巻き込まれてしまった一人の少女。それにしては異質すぎると。

 その戦闘に迷いはなく、魔術の事にも疑問を抱かない。自分と同じ、元からこちら側の人間だったかのようだと・・・・・・。

 それならば可能性はある。

 イリヤの発言。その意味を、その言葉の可能性を教えれば、美遊が邪魔をする可能性はなくなるかもしれないと。

 

 クロは士郎のベットの隣に立ち、その顔を愛おしそうに眺める。

 本当に寝ているだけのようで、胸は微かに上下し、軽い呼吸を繰り返している。

 

「(最後だから、私のわがまま許してね、お兄ちゃん)」

 そして。

 

 クロは――――士郎の唇へ、自分の唇を重ね合わせた。

 

 ただ静かに、士郎の事を想って、自分の事を少しでも覚えてもらえるように、そのささやかな時間を楽しんだ。

 魔力の回復ではない。

 クロの気持ちを伝えるだけの、だからこそ本物の、本当のファーストキス。

 唇を離すクロの顔は、やはりどこか恥ずかしそうで・・・・・・悲しそうだった。

 それでも、これで思い残すことはなにもないと、

「さようなら、お兄ちゃん」

 

 病室の窓から・・・・・・クロは静かに、その姿を消した。

 

 

 

 

 時は戻り。

「まるで、初めて海を見たような反応ね、美遊。ちゃんと一人で来てくれたのね、嬉しいわ」

 その言葉を聞いて、美遊は声の方へ目を向ける。

「要件は何? なんで私一人を呼び出したの?」

「ふふ、私の話を聞いてくれるなんて、やっぱり美遊は優しいのね」

 クロのからかうようなその態度で美遊は確信する。

 

 やはり”気づかれている”。

 

 それでも、何とか動揺を抑えて聞き返す。

「・・・・・なんで、私一人を呼び出したの?」

 

 美遊は、クロの事をどうにかしたいと思っていたのは事実だが、探す手段はどこにもなかった。ここで会うことができたのは、クロから”ここで待っている”という手紙をもらったからである。

 しかし、ここで疑問が残る。なぜ自分一人なのか・・・・・・。

 そこから美遊が導き出したのは。 

 唯一、話し合いが可能な人物であるから。

 それはつまり、イリヤが言った、”あの時のセリフの可能性”に気付けていたかどうか。

 気づいているということは、それが自分自身に強く関係しているからであると。

 つまるところ、イリヤが日常に戻るにあたって、その場所へ一緒に行けない人物。それはクロであり美遊である。

 その答えはそのまま、クロと美遊が同じ側の人間だと物語っていることになるのだ。

 

 そして、クロはすでにそこに行きついている、と。

 

「まっ、座って話しましょ?」

 後ろから。

 先ほどまで前方の岩場に立っていたクロが消え、声が後ろから聞こえる。

 それと同時に、どこから用意したのか、クロに肩を優しく引かれることで、美遊は椅子へと座らされた。

「・・・・・・ッ!?」

 咄嗟に飛びのき距離をとるが、何が起こったのかいまだに理解が追いつかない。

 魔術? しかし、そうだとするら、あれはキャスターが使っていたのと同じ・・・・・・。そこまで思考した美遊を。

「やっぱりね。そうだと思ったわ。今の現象を見て、冷静に、そして真っ先に魔術だと断定して思考していた。なんでわかったのかって顔ね。気づいてないの? 美遊って結構顔に出るのよ? それに”あの時”のセリフに私と同じぐらいショックを受けていたしね」

 やってしまった。美遊は思わず顔を歪める。

 ここへクロが来た理由。それは確信を得るためだったのだ。

「美遊は最初からこっち側の人間だったのね。出会う前から・・・・・・最初から。ふふっ、そんなに身構えなくていいのよ。今の私たちには敵対する理由なんてないもの。私たちは分かり合える、そうでしょ?」

「・・・・・・分かり合える?」 

「そうよ。美遊も気づいたんでしょ。イリヤのあの発言、それは・・・・・・・・・・・・今までの出会いすべての否定。・・・・・私ね、今日中にイリヤを殺そうと思っているの。でも、それを美遊には邪魔をしてほしくない」

 そこまで言われて初めて気づく。

 クロは、似ている境遇だった自分へ”話し合い”に来たわけではないと。

 そうじゃない。

 確かに、話し合いは行う気だったのだろう。

 しかし、それはあくまで過程。それをしたうえで、それでもイリヤを助ける理由はあるのか? それを問いに来たのだ。

「美遊は私の邪魔をする、それは分かるわ。でも、その必要はあるの? イリヤは私たちを否定した。今までの時間を否定した。そして・・・・・・私たちとのこれからを否定した。それなのに美遊はイリヤを守るの? まぁ、私以外ならそれもいいかもしれない・・・・・・けど、今回は、今回だけは、私はイリヤを殺す権利がある。そして、私と同じように否定されたあなたに・・・・・・それを止める権利はない」

 納得のできる理由だった。

 確かに。

 あの時のイリヤの発言は、美遊自身も辛かったし悲しかった。

 特にクロは美遊とは違う。

 イリヤにその気があったにせよなかったにせよ、その場で死ねと言われているようなものだ。

 クロの言い分はとても正しい。

 でも。

 それでも。

「一つ質問する。クロ、あなたはここでイリヤを殺してどうするの? これから先どうやって生きるの? それに、その魔術刻印がある限り、イリヤを殺せばあなたも死ぬ。あなたの本当にしたいことは何?」

「一緒に死ぬわよ。私がイリヤを殺せば二人とも死ぬ、私が死ねばイリヤが助かる。それだけだもの」

 そんなものは認められない。

「そう・・・・・・なら、やっぱり私はあなたと戦う」

「それは・・・・・・イリヤを守るってことでいいのね? 怪我じゃすまないかもしれないのよ・・・・・・」

 期待半分。

 その程度だったのだろう。その声は残念そうではあるが、どこか納得もしている。

 しかし、クロの言っていることは美遊の考えとは違う。

「違う。私が守るのはイリヤじゃない」

「・・・・・・?」

 初めて、クロが訳が分からないといった顔をする。だが、その答えはすぐに、美遊の口から紡がれた。

 

「私が守るのはイリヤ一人じゃない・・・・・・イリヤとクロ、二人とも守りたい」

 

 

 

 

「ふふふ、あははははははは。・・・・・・まさか美遊がそんなこと言うなんてね」

 思わず笑ってしまった。

 予想外過ぎる。

 ふー、と落ち着くように息を吐く。

 美遊は本当に優しい。

 優しいなぁ。

 

「どうやって・・・・・・?」

 

 静かに、それでいて強い口調で。

「どうやって・・・・・・どうやって助けるの? 言葉? 力ずく? でそれってお互いが納得できるもの? 全員が納得できるような素晴らしい結末なの? ・・・・・・二人とも守る、とってもいいと思うわよ。正しいし憧れる。でも、そんなことは絶対にない。イリヤが望むのは過去の日常。私の望むのはイリヤが否定した日常。・・・・・その二つは絶対に交わらない・・・・・・! 良い言葉なんて求めてない! そんなことで・・・・・・その程度の事で私が手を引くなら、こんなことになんかなってない!!」

 我慢できない。思わず怒鳴り声をあげてしまうほどに・・・・・・。

「最初はイリヤを殺せば終わり、その程度の気持ちだったわ。けど、その後散々考えさせられた。自分が何をしたくてどうしたいのか、それは本当に正しいのか。美遊が望む未来も考えなかったわけではないの、でも・・・・・・! それを否定された!! ・・・・・・美遊、あなたに分かる? 自分のすべてを奪った人物が、何も知らずにのうのうと生きて、好きな人の隣に立って、こっちが一緒に生きる未来を考えたら、最後にはオリジナルなんて必要ない、そう言ってるのよ」

 美遊は何も言ってこない。

 言えないのか、言わないのか。美遊の表情に変化はない。

「もう無理なのよ。終わってるの。だからこれが最後の忠告・・・・・・邪魔をしないで美遊、あなたとはできれば戦いたくないの」

 これは本心だ。

 何もできなかったにせよ。二人の事を真剣に考えてくれる人物なのだ。そんな人物とは戦いたくない。

 それでも。

 

「断る」

 

 その思いは届かなかった。

「なんで・・・・・・なんでよ! 意味がないことだって分からないの!!? あなたが私の前に立つことなんて時間稼ぎ以外のなんでもない! ただ悲劇を伸ばしてるだけなの!!」

 美遊は言った。

「あなたはそれを悲劇と言った。」

「――えっ?」

「これが悲しいことだって、クロはちゃんとわかってる。だからこそ、私はあなたを見捨てられない。自己満足で十分。それでクロの言う悲劇が無くなる可能性ができるなら」

 クロは美遊が何を言いたいのか分からない。

「私は、クロを犠牲にしてイリヤを助けるなんてことはしない。・・・・・・確かに私には二人の最適解なんてわからない。だけど、それを止めることはできる。クロがイリヤを殺しに行くことで自分も死ぬというのなら、私がクロと戦うことであなたを死なせない」

 なるほど。と、クロは美遊の言わんとすることを理解する。 

 けどそれは。

「できるの? 美遊はそれでいいのかもしれないけど、それは私を傷つけない、そう言っているようなものなのよ。それは、戦いにおいては大きすぎるハンデになる」

 クロの言っていることは正しい。

 だが、クロは忘れていた。美遊もまだ、本領を見せていないと・・・・・・。

「問題ない。今度は私も本気で戦う」

 そう言って美遊は懐から一枚のカードを出すと。

「『夢幻召喚(インストール)』」

 その言葉と共に、二つの魔法陣が美遊を包む。直後。強大な魔力の光が美遊の元から溢れ出す。

「イリヤは殺させない。そしてクロも死なせない」

 光から現れたのは青い騎士。

 自分の体に宿す、セイバーの疑似召喚。

 

「あなたがいくら認めなくても構わない。助ける理由なんて、助けたいだけで十分!!」

 

「そう、嬉しいわ、美遊。・・・・・・でも、ここで倒れて」

 

 そして、二人は同時に動き出した。

 

 

 

 

 その少し前、美遊と学校で別れたイリヤは、そのまま士郎の病室に向かった。

 この二日間、いろんなことがありすぎた。

 そのせいで、士郎の病室に行くのも二日ぶりになってしまった。

 毎日セラやリズが行っているとはいえ、そろそろ自分も行くべきだ。いいや、自分が会いたいのだ。この疲れを、士郎に癒してもらいたいと。

 

 病室にいる士郎は先日あった時と変わらないように、静かな寝息を立てて眠っている。

「私、どうすればいいのかな・・・・・・お兄ちゃん」

「・・・・・・」

「ねぇ聞いてる? お兄ちゃ・・・・・・あっ」

 つい。

 思わず出てしまった。

 寝ている士郎に話しかけてしまうほど、今のイリヤは参っているのだ。

「イリヤさん、士郎さんは寝ていますけど・・・・・・頭大丈夫ですか?」

「そんなことわかってるからね、てゆうか今の流石にひどすぎると思うんだけど!?」

 ルビーのいつも以上の辛辣な物言いに、思わずツッコミを入れてしまう。

「まぁ、それはそれとして、何か悩み事ですか、イリヤさん」

 軽く流すあたりはいつも通りなのだが、どこか普段より態度が素っ気ない。

「えっ、んーまぁ、ルビーでいいか」

「ちょっとなんですかーそれ、大事な大事な魔法少女のパートナーに向かってちょっと冷たくないですかー」

 いつもこんな感じと言われればそうなのだが、どこか違和感をぬぐえない。

 まぁいいか、とイリヤは今の自分の悩みの方を優先する。

「なんか、もう、どうすればいいのか分からないんだよね。昨日のクロも、なんで急にあんなこと言ったのか・・・・・・」

 イリヤは本気で分からなかった。

 クロの存在も、なんで命を狙うのかも、何がしたいのかも。

 本当に・・・・・・わからない。

「イリヤさん、これは可能性の話です」

 唐突に。それでいて真剣にルビーが言う。

「昨日のお風呂でのイリヤさんの望み、あれにクロさんは腹を立てたのではないでしょうか?」

「どういうこと」

「『元の生活に戻りたい』それは、聞きようによっては、凜さんたちと係わってからの生活、そのすべての否定と捉えられても仕方がありません。それにクロさんの存在がどうであれ、魔術的な何かがあるのは確実。クロさんからしてみてたら、存在の全否定にもなりえます」

「・・・・・・ッ!? そっそんなこ、と・・・・・・そうだね。だからクロは・・・・・・」

「はい。実は私も少し怒っています。私と出会ってから本当に何も楽しくなかったのですか? 辛い事ばかりでしたか? 何か得たものはなかったのですか? 魔術の世界に入るべきだとは言いません。それでも、今までの生活を、出会いを、過去を、なかったことにしたい、そのような発言は言ってほしくありませんでした」

 ただ真剣に、いつもの様なおチャラけた様子などなく。

 だからこそ。

 もし。 

 本当にイリヤの気持ちが、昨日言った通りなのだとしたら、契約の解除まで視野に入れて。

 士郎のベッドに顔を伏せていたイリヤが顔を上げた。

 そして、そのイリヤの答えは。

 

 涙だった。

 

「えっ!? ちょっ、なんで泣いてるんですかイリヤさん!? これではなんか私が泣かしたみたいに・・・・・・!」

「うう、ん。そうじゃ、ないの。ルビーに言われて、初めて自覚して、私本当にひどいこと言ったんだって・・・・・・。きっとクロだけじゃない。凜さんもルヴィアさんもルビーも、そして美遊も、みんなを傷つけた。だから・・・・・・私は謝りたい、私はみんなとの時間が大好きだったって、これからだってみんなといたいって!! もう遅いかもしれない。自己満足になるかもしれない。それでも! 私はみんなに謝りたい!!! それが私のできる唯一の償いだから・・・・・」

 イリヤは真っすぐに、心の迷いなどなく言い切った。

 そんなイリヤに対してルビーは。

「全く、可愛いだけではなく格好いい魔法少女なんて今まで見たことないですよ。でも、それでこそイリヤさんです。最終確認です。イリヤさんの決断が間違っている可能性もあります。クロさんが言った通り、イリヤさんの言ったことは、別に間違ってなんていません。それでも、イリヤさんはこちらを選ぶんですか?」

 ルビーらしくない、イリヤを試す発言に、

「大丈夫、魔術かどうかなんて関係ない。私はただ友達に謝りに行って、もう一人友達を作りに行くだけなんだから」

 自分の意思を、しっかりと。

「ほんと格好いいですねー。なら行きましょう。実は数分前からクロさんと美遊さんが会っているとサファイヤちゃんから連絡が来ています。今のイリヤさんなら何の問題もありません」

「ちょっ! それ、なんで早く言わないの!? いくよルビー・・・・・・っとその前に」

「どうしたのですか? イリヤさん」

「ううん、ちょっとお兄ちゃんに伝言を――――」

「それじゃルビー転身お願い!」

「了解です!!」

 イリヤが書いた手紙には一言。

 『また来るから』と。

 

 ただ、今度は”みんなで来る”、そう誓って。

 

 

 そしてほぼ同時刻、その手紙は読まれることになる。

 

 

 

 

 美優とイリヤ、セイバーとアーチャー。

 自身にそれぞれの英霊を宿している二人の戦闘は、ある種次元を超えていた。

 英霊なのだ。二人がその気になればそれは戦争と言われる域にまで発展する。二人の戦闘に入り込めるものなど、この世界には数えるほどしかいないだろう。

 宿した英霊はお互いに三騎士。

 それ故に、美遊とクロそれぞれがある条件下での優位性を発揮する。それぞれ、至近距離、遠距離、両方の攻撃手段を持っている。

 だが。

 至近距離では美遊が。

 遠距離ではクロが。 

 それぞれ優位性を発揮する。

 本来の英霊同士の戦いであれば自身の弱点など真っ先に対応策を持っていてしかるべきだ。

 しかし、今の二人は借り物。

 クロの投影魔術ならともかく、美遊にそこまで高度な経験。つまりは技量を得ることはできない。

 だからこそ、いかに自分の有利な状況に持っていくか、それこそが重要になってくる。

 

 わずかに確認できる二人の影は、真正面から衝突した。

 美遊が剣を振り下ろし、クロが双剣で受け止める。

「くっ・・・・・・!」

 宿した英霊のステータスに差があるのか、僅かにクロが押され始める。

 この一合は二人にとって大きな意味を持つ。

 それによって、クロは美遊が本当に英霊の力を扱っていることを。美遊は今までと違い、クロの動きについていけることを確認する。

 それを把握した二人は、それぞれ真逆の行動をとる。

 つまりは、美遊は追いかけ、クロが逃げるという構図。

 

 セイバーの力は自身の剣に魔力を纏わせることで、圧倒的な破壊を生み出す。その理不尽なまでの破壊力はクロの剣でも簡単に受けることはできない。

 力がではない。武器がなのだ。

 確かに数回なら問題ない、それでも投影品と言う性質上、簡単に壊れ消えてしまう。

 再び投影するまで、そのわずかな隙。

 それこそが美遊の狙い。

 士郎の力を誰よりも理解している美遊だからこその作戦。

 だが。 

 それではクロには届かない。

 美遊の一撃一撃は、強大すぎる。それ故にそれを制御できない。

 剣技は継承されている。それでも、その技術が思考に追いつかない。それは言ってしまえば美遊の弱さそのものだった。

 

 戦い方、と言う面ではクロの動きは完璧だった。

 木々や岩場に隠れながら移動し、自身の転移と言う圧倒的武器を最大限生かしながら戦ってる。

 またしても、クロと言う存在を一瞬見失ってしまう。気づいた時には空中からクロの剣の雨が降り注ぐ。

「・・・・・・くっ!」

 そして、その攻撃をかわした時には、すでにクロの姿はない。

 

「なかなかやるじゃない、美遊。ちょっと驚いてるのよ、これでも、ね」

 声がするのは背後。

 木に寄りかかり、無邪気に言うその姿は、余裕そのものだ。

「予想はしていたけど、まさか本当に使えるだなんてね。セイバーをその身に宿しての疑似召喚。でも、それじゃダメかな。それじゃ結局・・・・・・」

 その瞬間。

 クロの姿が視界から消える。

 

「なにも救えないわよ」

 

 またしても背後から。今度は剣を振るって。

 クロの優勢は揺るがない。

 しかし、クロの剣が空気を斬る。

 セイバーの直感スキル。それがあれば、『背後から』程度の攻撃見なくてもよけられる。

「確かにクロは強い。それでも、私は負けない」

 いける。と、美遊は直感的に判断する。そもそも地力が違う。

 力、速度、反射、肉体的な強さ。すべてにおいて、セイバーはアーチャーのそれを凌駕する。

 確かに翻弄されてはいる。それでも美遊もまだ一太刀もくらっていないのだ。

(・・・・・・なんて思ってたら、一生私には勝てないわよ、美遊)

 美遊は攻め続ける。前へ、前へ、前へと。

 それでも、クロの余裕を崩すことはできない。

「どうしたの美遊、私はこっちよ?」

(なんで・・・・・・なんで、なんで攻めきれないの)

 ここに来て、初めて美遊が焦りを感じる。

 その不安はわずかな隙となって美遊へ牙をむく。

「だからね美遊。戦闘中に油断はダメよ」

「――!」

 クロの双剣が美遊の前で光る。

 何とか防御はしたが大きく弾き飛ばされた体は、それだけで大きなダメージを受けてしまう。

 しかし、なぜか追撃はやってこない。

「・・・・・・なんで攻めきれないのって顔ね」

 美遊の心の疑問に答えるように、クロは語る。

「だって美遊全然だめだもの。力、速度、反射、すべてで勝ってしまっているからこそ、それにしか頼らない。身体的能力ってね、技量があって初めて真の力を発揮するものなのよ。でも美遊にはそれがない。単純な攻撃。思考。そして何より・・・・・・圧倒的戦闘経験の差。運がなかったわね、もし私が疑似召喚した英霊がアーチャーでなければ、勝負は分からなかったのにね」

 士郎に聞いたことがあった。

 投影魔術は、投影した剣の担い手が、その技術を得るまでの過程を習得できると。憑依経験。

 確かにこのままでは敗北は確実。

 それでも、セイバーの宝具を使えば勝機はある。しかしそれはできない。

 助けることが目的の美遊にとって、相手を殺してしまう攻撃を放つことはできない。

 つまるところ、詰み。

「どう? 今すぐ降参するなら。美遊には手を出さない。もちろんカードとステッキは貰っていくけどね」

「それは無理。私はあきらめない」

 即答。

 手はない。策があるわけでもない。それでも、こんなところであきらめるなら、そもそも誰かを助けるだなんて言いださない。

「私は二度と、あなたを一人にしないと決めた。敵でもいい、私はあなたの側にいる」

「そう。美遊、ありがとう。・・・・・・なら。殺すのは私であるべきよね」

 クロの弓に今までとは比較にならない魔力を持った剣が投影される。

 その時。

 クロと美遊のちょうど真ん中、そこに一つの攻撃が放たれる。 

 煙が止む。そして。

 

「クロ、美遊。遅れてごめんね。でも、もう逃げたりしないから」

 

 イリヤは姿を現した。

 

 

 

 突然やってきたイリヤに、最初は困惑したものの、すぐに冷静さを取り戻す。

「急に何? いきなりやってきてお姫様気取り? いい加減にして、あなたのわがままは聞き飽きたわ」

「ごめんなさい!!!」

「は?」

 頭を下げてきた、イリヤの突然の謝罪に、クロは意味不明だという風に声を上げる。

「わたし、みんなに酷いこと言った。凜さんたちにも美遊にも、クロにも。あんなこと言ったら怒るのは当然だよね。でもあれが私の心のすべてじゃないの! たしかに元の日常は危険なんかないし、今まで通り楽しいかもしれない・・・・・・けど! 私は、みんなと一緒にいたい! だから、ここへは謝りに来たの、私を許してくれなくてもいい、それでも! 私はみんなと一緒にいたいから!!」

 その言葉に、美遊の顔は安堵の表情を浮かべている。

 だが、クロは。

「それだけ。なら、ここで殺すわよイリヤ。わざわざ殺されに来るなんて馬鹿ね」

 クロの決意は揺るがない。

「クロっ!」

 美遊の叫ぶ声がする。

 関係ない。

 クロの手には一本の剣が投影される。

 それは今、美遊が手にしているものと全く同じ聖剣。美遊の聖剣で防がれても絶対に仕留め損なわないように。

 クロはそのまま『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』を弓へかける。

 それを見て、流石にやばいと思ったのか、美遊も宝具発動の準備をする。

 問題はない。美遊の『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』防がれても、クロの攻撃は届くと。

「それじゃ、さようなら。イリヤ、美遊」

 その声と共に、引かれる剣。

 『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』。

 その破壊力は余波だけで森の一部を消しとばしている。

「『約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!!』

 クロの攻撃を相殺するため、美遊も自身の宝具を放つ。

 しかし、それでは止まらない。

 自身の心を締め付けながら、クロは最後の工程を行う。

 『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』。それによって辺り一面を焦土と化す。

 それは、美遊の『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』を巻き込むほどの勢いで。

 

 が、その瞬間。

 

「『――――ゼロにする』」

 

 一瞬しか見えなかった。

 それでも、その言葉と共に現れた、赤い髪の男。その姿は、その少年は。

 

「(お兄ちゃん!?)」

 クロの呼吸が止まる。

 だが、クロの思惑とは外れるように、最後の工程が実行された。

 巨大な爆発と共に、あたり一面が光に包まれる。

 

 誰もが思った。自分たちはここで死ぬと。結局何もできないまま終わるのだと。もちろん・・・・・・クロも。

 

 ――だが、光が止むとそこには、誰も・・・・・・傷ついてなどいなかった。

 

 それどころか、確認できているという事実が、自分が生きていることを証明してくれている。

 その現象の答えは、一つの魔術。

 『ソーロルム』の術式。

 元になった伝承は、すべての剣の切れ味をゼロにするというもの。

 その伝承をもとに”『とある』の世界の魔術師が構築した”魔術。

 認知したあらゆる武器の攻撃力の初期化。

 能力。それは、その武器が弾丸だろうと、核兵器だろうと・・・・・・最高級の聖剣だろうと。その武器の攻撃力を『ゼロにする』。

 それは異世界の魔術。投影した剣から得た、その剣の持ち主の魔術。

 理不尽で、不条理で、不可解な魔術。

  

 

「さてと”クロ”、ちょっと仲直り(きょうだいげんか)でもするか」

 

 それはまさしく『正義の味方』のように――。

 

 ――衛宮士郎は現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も読んでいただきありがとうございます!!

ちょっと今回無駄にセリフが多いですね・・・・・・文才がほしイ(涙)

士郎の初キスは知らぬ間にクロがかっさらった!? まぁ満足している展開なのでOKです!!(セイバーは抜きで)

お分かりの方もいると思いますが、士郎の最後のセリフは某ツンツン頭の主人公から貸していただきました。これが二次創作の醍醐味ですしね(笑)

さて今回は久しぶりに『吾輩は猫である』を行いたいと思います。

 議題は、最後に出てきた士郎の魔術です。
 文中にも書かれていますが、士郎が使ったのは『とある魔術の禁書目録』で使われていた魔術です。
 『認識した武器の攻撃力を問答無用でゼロにする』。恐ろしく強い魔術ですが、武器以外には作用しないところが難点ですね。
 さらに、どの武器であろうと、攻撃力をを無効化できる時間は10分程度。ほとんどの戦闘ではほぼ無敵なのですが。
 キャスターみたいに魔術師や、ギルガメッシュのように大量の宝具を持っている敵とは相性が最悪ですね。もちろん使えないわけではないのですが。10分と言う時間制限のため、それ以上戦いが伸びる相手にはなかなかきびしいものがあります。
 ちなみに、この術式を使う魔術師が負けた方法は、武器と認知できない部位での攻撃でした。『武器の認識』しなけらば発動しない、意外と使い勝手の悪い魔術かもですね(笑)
でも今回はそのおかげで助かったので感謝しましょう
今回はこれで終わりです。


そして今回も感謝の言葉を述べたいと思います
まずは新しく評価の方をくっださった。
Cream様 ラーク様 桃華乱壊の鬼様 tyler様 いのりょう様 alpha1397様
(´・ω・`)ショボーン様 gizeny様 
大変ありがとうございます

続いて誤字の報告をくださった方です
天月神夜様 緑 緑様 (´・ω・`)ショボーン様 ラーク様 クマ64様 かなた様
おい、その先は地獄だぞ様 ミイヤ様 関節痛様 ちきぐうぃ様 ケットル様 
千本虚刀 斬月様 OGINE様 竜皇帝様
本当にありがとうございます!!



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18話目とかとか~♪ 2way クロ編 本当の気持ち

まず初めに・・・・・・大変申し訳ございません!!

個人的意に忙しかったり、内容が思いつかなかったりとなんやかんやでこんなにあてしまいました!(見苦しい言い訳)

頑張っていつもより長い話数にしてみましたので楽しんでいただけると幸いです。

お世辞にも出来がいいとは言えませんが、これでクロ編は終了になります。
楽しんでいただけると幸いです。
それではどうぞ!!



  

 

 

 

 賭けではあったがうまくいった。

 士郎はこの状況を理解するとともに、安堵の表情を浮かべている。

 振り向くと、美遊とイリヤが駆け寄ってくる。

 士郎が宝具の攻撃力をゼロにする直前の余波を軽く受けたのか、無傷と言うわけではない。だが、先ほどに攻撃は傷がつくつかない程度の話ではないかった。

 だからだろう、二人の・・・・・・そしてクロの無事を心から安心している。

「ギリギリだったな、無事でよかった。・・・・・・にしても・・・・・・派手にやったな、美遊」

 周りを少し見渡すと、あちらこちらに戦闘の被害が出ている。

 木々が倒れているなどまだかわいいほうだ。地面は人が埋められるほどに陥没し、何十メートルもある大岩は半分以上がえぐられている。

 いいや。 

 お互いにクラスカードを使って戦ったのだ。この程度で済んだのが奇跡の様なものだろう。

「お兄さんが遅いからです。私は頑張ったもん・・・・・・」

 ふてくされるように呟く美遊も、緊張の糸が切れたように素の自分を見せている。

「そうだな、よく頑張った。後は俺がやるよ」

「待って・・・・・・!」

 クロの方へ向き直る士郎の腕を、イリヤが引いた。

「イリヤ?」

「お兄ちゃん、私がやる。私が、悪かったの・・・・・・だから、ここは私がやらないといけないの・・・・・・!」

 士郎には理解できる。なぜなら二人は似ているから。形は違う、それでも・・・・・・二人とも・・・・・・。

 

 ――誰かを犠牲に生きていた。

 

 士郎は本物の衛宮士郎を、イリヤはクロを。

 悩んだはずだ。訳が分からなかったはずだ。それでも、イリヤは答えを出したのだろう。

 今のイリヤを見れば分かる。 

「・・・・・・イリヤはどうしたいんだ?」

 士郎はイリヤの出した答えを知らない。

 だが、あの手紙を見ればどんな答えが出たかなど容易に想像がつく。だからこれは確認だ。

「ちゃんと伝えたのか? イリヤの気持ちを」

「・・・・・・言った。でもどうにもならなくt「なら大丈夫だ」・・・・・・え?」

「イリヤの言葉はちゃんと届いてるよ。ただ・・・・・・ちょっとクロも困惑してるだけだ。それに――妹たちの喧嘩を止めるのは兄の務めだろ?」

 本来なら、士郎も時間をかけて二人の仲を取り持つつもりだった。

 しかし、今のクロはどう見ても時間がない。

 自分のせいだ、と士郎は自覚している。

 だからこそ、これは自分の仕事なのだと、士郎はクロへ向き直る。

 

 ――体は剣でできている。

 

 その言葉通り、士郎の剣は士郎の心を体現したものだ。

 そして、それはクロも同じ。クロの剣も、クロの心を映している。

 士郎とクロだからできる意思の疎通。言葉ではなく剣で語るということ。

 過去の士郎がアーチャーの固有結界を経て、アーチャーの過去を・・・・・・心を見たように。

 二人は本気で対峙する。

 クロも答えを出したようだ。その証拠に、クロは士郎に剣を向けている。

 と言っても、士郎はクロを傷つける気などない。

(クロを傷つけない、そんな剣が俺には必要だ)

 士郎は記憶をたどる。自身が知っている。クロを守る・・・・・・対象を傷つけない剣を。 

 

 

 

 

 そこには、森と称してもいいほどの木々が生い茂る場所。

 だがおかしい、とクロは思う。 

 自身が放った・・・・・・そして、美遊が放った宝具がぶつかり合って、ここがまだ森としての原型を保っているはずがないと。

 いいや、それを言うなら、この場に自分たちが生き残っているのも不可能なはずだ。

 だが、と。

 もしかしたら、と思う。

 目の前に現れた、来てくれた兄ならば、その不可能すら可能に変えてしまえるのではないかと。

「お兄ちゃん!!」

「お兄さん!!」

 イリヤと美遊が、士郎に抱き着くように駆け寄っている。

 それを見て、思わずもそこに加わりたい衝動に駆られる。それを証明するように、一歩、また一歩と、無意識に足を進めている。

 その行動を認めない、そう言うように、

「あらお兄ちゃん、すごくいいタイミングね? でも、やっぱりお兄ちゃんはそっち側なのね・・・・・・」

 思わず悪態をついてしまう。

 ほんとは、すぐにでも謝りたい。駆け寄りたい。抱き着きたい。だが、それを行うことは、クロ自身が許さなかった。

 それをしてしまえば、自分の決意が揺るいでしまうことを、誰よりも理解しているから。

 クロは、イリヤへ剣を向けたことを後悔などしていない。

 今の・・・・・・今までの感情は間違ってなどいなかった。

 矛盾。

 みんなと一緒にいたい、仲良くしたいという気持ち。そして、イリヤを許せない、この怒りをぶつけたいという気持ち。

 相反する二つの感情、それをクロは抱えている。

 だが、それは決して間違ってなどいない。

 矛盾など抱えて当然。問題はその後、それを知って・・・・・・何を行動するのか。

 感情の天秤。

 ただ、クロにとって士郎と言う存在は、天秤を傾けるにあたって無視できない存在なのだ。どちらにも傾けられる。士郎の選択次第で・・・・・・。

 それほどに、士郎と言う存在は、クロの中で大きいものなのだ。美遊と対峙しても、イリヤの本当の気持ちを聞いても、揺るがなかった。

 それでも、士郎の姿を見るだけで、これほどまでに感情が動かされてしまう。

 わからない・・・・・・。

 何を選べばいいのか、わからない。

 なら。

 だったら、と。

(選べないなら、両方選ぶしかないわよね)

 イリヤを殺せればそれでよし。殺せず自身の魔力が尽きればそれまで。

 何が正しいかなどわからない。しかし、行動しなければ答えは得られない。一かゼロか、はたまた全く別の道があるのか。

 ただ、その答えに後悔しないように行動しよう。それだけは誓って。

 静かに。

 クロは、自身の剣を士郎へ向けた。

 

「お兄ちゃん、ほんとにいいのね。今度は私も本気でやるわ。例えお兄ちゃんと戦うことになっても、イリヤを殺して私も死ぬ。それが私の出した答えなの」

「・・・・・・」

「もしイリヤを殺せなくても、私は最後まで戦うわ。この体が消えるまで・・・・・! だからこれは最後のお願い・・・・・・・・・・・・もう私の邪魔をしないで」

 死を覚悟している、だけではないのだ。自分の死を使うからこそ、クロは答えを見つけられる。

 士郎がアーチャーと戦うことで、美遊と出会うことで見つけた本当の自分を、クロは違う方法で見つけようとしている。

 士郎と本気で対立してでも。

 だが、士郎は。

「断る」

 予想通りと言うべきか、士郎も美遊と同じ答えを返す。

「・・・・・・・・・・・・、」

 クロは何も言わない。

 わかっていたのだ。もともと美遊の考えや発言の背後には士郎の姿がチラついていた。それなのにその本人がクロの死など許容するはずがない。

 

 ――一歩。

  

 また一歩前へ進む。

 足の回転は速度を増す。士郎との距離はまだ遠いい。それでも、お互いが剣を交えるのは数秒後の事。

 が、瞬間。

 士郎の目の前で、クロは剣を振り下ろす。

 転移による速攻、さらには助走をつけての剣の加速。士郎は投影すらしてなかったのだ。

 自身の影が士郎を覆う。 

 躱せるはずがない。一瞬で終わらせる。そのつもりだった。いや、確実にそのはずだった。

「――!?」

 クロの剣を防いだのは、士郎がいつも使っているような剣ではない。

 それは白いマント。

 いつ身に着けた? そんな疑問を持つと同時にクロは気づく。士郎の変化に。

 全身を覆うような白いマント。背後を見ればフードが見えている。袖などは腕に合わせたような細い形状。そして、何より目を引くのは”首元に光る銀色の仮面”。

 士郎がクロを見る。

 威光をとばしたとか、威圧がどうのと言うことではなかった。単純に目を向けただけ。しかし、クロは後ろへ全力で飛んだ。

 ”あれが何かは分からない”。

 だが、クロが知っている士郎の魔術とは違う。”それだけは直感的に理解した”。そこまで考えて、クロは初めて自身の違和感に気付く。

 『普段士郎が使っている魔術とは違う』”それしか理解できない”? それがおかしい。クロと言う聖杯は未知の魔術が『よくわからない』なんて曖昧な状態でしか理解できないほどちんけなものではない。

 知らない魔術、クラスカードと同様に、士郎が使っている魔術が何であれ、”わからないはずがない”。

「お兄ちゃんそれは何?」

 そのマントも、その得体のしれない魔術も。

「・・・・・・借り物だ」

 借り物、と言うことは投影品なのだろう。だが聞きたいのはそれじゃない。クロの考えを無視するように士郎は語る。

「人を助け、そして悪魔も救済しようとした。そんな主人公(しょうねん)がたどり着き、得た力だ」

 そして、行った。

 クロが知らない詠唱を。

 

「『異界同調_開始(トレースクロス・オン)』」

 

 次の瞬間。

 士郎の左腕が輝く。

「『イノセンス・発動』」

 そのまま、その光の中にある物を掴むように、士郎は右手を添える。

 士郎が右手を引くように動かすと同時にそれは姿を現した。それをすべて取り出した士郎が手にしているのは、士郎の身体の半分以上はあるだろう大剣。

 解析できない。

 剣である以上、絶対の力であるクロの宿した英霊の力が届かない剣。

「(あれは何なの?)」

 当然の疑問だった。

 それに答えるように士郎が呟く。

 

「『神ノ道化(クラウン・クラウン)』」

 

 もし、本来の衛宮士郎とギルガメッシュの戦いを知る者がいたなら、これほど士郎にあった武器もないだろうと思ったかもしれない。

 十字架が刻印された白亜の大剣。

 見る限り特に変わった事はないように見える、本当にシンプルなもの。ただ、その剣に装飾された白い十字架だけが、クロの目には怪しく光る。

 だが、それより驚いたのは士郎の左腕。

 なくなっているのだ。

 肩から先。士郎の左腕がなくなっている。

 まるで、左腕がその剣へと変化したように・・・・・・。

 

「さぁ続けるぞクロ。お前の選択の中から、自分の死なんてものが消えるまで」

 

 

 

 

 

 士郎が投影したのはアレン・ウォーカーのイノセンス。

 本来イノセンスは剣ではない。武器として加工されたとは言えダダの”力そのもの”だ。

 しかし。

 それがどうした? と士郎は笑う。衛宮士郎のこの力は、その程度の認識の誤差などたやすく突破する。その本質がなんであれ、剣であるならば、その投影は可能なのだ。

 だが士郎にも驚いたことはある。それは、アレン・ウォーカー同様に左腕がイノセンスに変わりその腕自体が剣となったことだ。予想では、剣と言う存在のみの投影だと思っていた。しかし現状はこれなのだ。

 士郎はここである仮説を立てた。

 もしかして逆なのではないかと。

 イノセンスの力は後からついてきたものではないのかと。

 士郎が投影したのは『左腕が剣に変わるという情報を持った剣』そして、その剣が投影されたことによって、その後からイノセンスが宿ったのではないのかと。この力は士郎の記憶、そしてその知識がかなり重要になってくる。つまり、士郎の記憶通りに再現したという可能性すらあるのだ。

(まっそれが何であれ、関係ないか)

 関係ないのだ。この剣の在り方がなんであれ、今の士郎には関係ない。

 この剣の能力、本質。それさえあれば・・・・・・士郎はクロを傷つけることはないのだから。

 

「『投影(トレース)』」

 士郎の思考が終わると同時にクロが動く。

 投影されたのはまだ記憶に新しいギリシャ神話の大英雄、その英霊が使っていた斧剣。

「取り敢えず手始めに・・・・・・!」

 クロはその剣を盾にするように迫り、そのまま。

「『偽・射殺す百頭(ナインライブス)』」

 そのクロの背丈以上にある斧剣を、片手で、圧倒的攻撃力を持って繰り出す。

 神技ともいえる攻撃。

 その武技を最上までに極めた男の技。隙のない、圧倒的速度での9連斬撃。

 バーサーカーとかしたヘラクレスには使うことがかなわなかった技。知識として知っていてもそれを目にするとその凄まじさに息をのむ。

 ありえない初速度とそれから加速。それだけでも化け物じみたその剣技は、それ程度では終わらない。避けられる、弾かれることまで想定した軌道なのだろう。一手目を防いでも二手目で、二手目をかわしても三手目で・・・・・・『確実に相手を殺すため』の攻撃。それ相応の筋力が必要とは言え、体重の載せ方は完璧。さらには99.9%ありえない、自身がよけることまで想定された重心移動。魅せられる。そんな技。

 そして、それほどの技を“取り敢えず”程度で繰り出すクロの、その本気度がうかがえる。

 振り下ろされるその剣を、その技を・・・・・・。

「・・・・・・なっ!?」

 士郎は防いだ。

 声を発したのはクロ。

 だがそれもそのはずだ。

 一呼吸の内に繰り出されたその連撃を、受けられるはずがないその攻撃を、士郎は自身のもつ大剣ですべて受けたのだから。

「くっ、流石に重いな・・・・・・腕一本を犠牲にして何とかか・・・・・・」

 腕一本? ありえない。本来なら士郎がその攻撃を受け止めることなどありえない。筋力とか強化魔法程度では受け止めることすら困難だ。士郎が投影した剣にはイノセンスと言う力が宿ってはいるが、それはそもそも本来の世界で悪魔を救済する力だ。特別な身体能力が宿るだとかそういったことはない。

 だが、士郎は通した。

 あるかないかの針を作り、その穴に通して見せた。

 『道化ノ帯(クラウン・ベルト)』。

 士郎の右腕から延びる白い帯。士郎が投影した『神ノ道化(クラウン・クラウン)』のその一部。そのマントと同様のもの。本来それ自体に攻撃力はない。体を守る防御機能か、敵に巻きつけての捕縛程度にしかならない。

 だから士郎が使った方法はそれじゃない。それを、その帯を、自らの体に巻き付けていたのだ。

 いや、もっと正確に言うならば、大剣を持つその腕に巻き付けていた。

 『道化ノ帯(クラウン・ベルト)』は自分の意志で動かせる代物だ。それを自分の腕に巻き付けることによって、”本来なら弾かれる”はずの攻撃には無理やり耐え、”剣の防御が追いつかない”攻撃に対しては無理やり動かしていたのだ。

 それは上から垂らされる一本の糸で動く人形のごとく、士郎は自身の腕を脳からの命令ではなく、『道化ノ帯(クラウン・ベルト)』を間に挟み、間接的に動かした。

 痛い、と言う感情によって腕を下げることはなく、単純な筋力により弾かれるといった状況をもなくした。

 それは自身のからだを完全にマニュアルで操作するということ。故に『余すことなく潜在能力を引き出せる』。

 まぁその重さを耐えるのに、腕には最低でもヒビが入ってしまったが。

 そんなことは関係ない。

 そもそも英霊の速度、パワーに対応するには体全体を『道化ノ帯(クラウン・ベルト)』で行動を制御しなけらばいけないのだ。

 この程度想定済みだ。 

 クロは動揺しているのかわずかながら体が硬直している。

 そんな隙を士郎が見逃すはずがない。反射的にクロの持つ斧剣を後方に弾く。いくら耐えられるとは言え、あんな攻撃を何度も受ける気などない。

 そこで初めてクロは我に返ったのか、その姿を消す。

 無理には攻めない。

 それは、クロが士郎の力を正しく認識したということだろう。

 背後に目でもあるのか、士郎は振り向きざまに剣をふるう。クロが放た無数の剣、アーチャーとしての本領。そのすべてを弾き飛ばす。。

 だが、

「・・・・・・っ!」

 その程度では防いだことにはならない。

 『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』。士郎の弾いた剣は弾かれた瞬間、熱と衝撃波がまき散らされる。

 いくらランクが低いとは言え、本質は宝具。至近距離でくらえばただでは済まない。

 連続的な爆発の檻ができる、その瞬間。

 周囲を覆いつくす煙の檻から、士郎が飛び出す。

 爆発が起こる直前。士郎は『道化ノ帯(クラウン・ベルト)』を背後に飛ばしていた。『道化ノ帯(クラウン・ベルト)』を木々に巻き付け、それを縮めることでの緊急脱出。さらに、大剣とマントを同時に防御に回したため先ほど受けた攻撃の被害は少ない。

 しかし、音速にも迫る勢いでの脱出によって、士郎は自身の体を傷つける。

 今の士郎はあくまで人の体、その限界を超えるような動きには、それ相応の負荷がかかってくるのだ。

「ぐっ・・・・・・ぐはっ!?」

 士郎の口から少なくない量の血が吐き出される。

 膝をつく士郎にクロは問いかける。

「なんでそこまでしてイリヤを守るの? お兄ちゃんだから? 本当の兄弟でもないのに、そこまで傷ついて・・・・・・何でなの?」

 士郎は理解する。

 クロが聞いているのはなぜ守るかどうかなのではない。その真意は、『なんで私じゃなくてイリヤなの?』クロがこちらを見る瞳は、そう訴えかけてる。

「なんでだろうな・・・・・・」

 クロの思いにこたえるように、士郎は示す。

「理由を考えたことはなかった。助けたい、ほっとけないって気持ちはあっても、それがどこから来ているかわからなかった。それが、俺の本質なんて良いものじゃないのは知ってる。けどさ、思うんだよ。・・・・・・もしかしたら、それはただの二択なんじゃないかってさ」

「――? 二択?」

「そうだ。どんな理由で・・・・・・なんかじゃない。ただ助けたいかどうか。その二択だ。俺は妹が泣いているのを見て助けないなんて選択肢は選べない。俺が耐えられない。・・・・・・笑うか? 俺は別にそんなたいそうなものを持ってここに立ってるわけじゃない」

 士郎は思う。

 誰かのために戦うのに理由が必要なのかと。何か大義が必要なのかと。力を持っていなければいけないのかと。

 そんなわけない。士郎は否定する。

「俺が・・・・・・イリヤのために、美遊のために、クロのために戦うことに理由なんていらない。俺はただ、妹たちのために剣を握れればそれで十分なんだよ。迷ってるやつがいるんだ。どうすれば良いかわからないと泣いている子がいるんだ。・・・・・・だったら、そこから先は俺の仕事だ。俺はその迷子(クロ)の前に立つ。俺はその迷子(クロ)の手を握る。離したりなんかしない。俺が、クロの側にいる。俺がそうしたいと思ってるからだ」

 理由だのなんだのはこの際どうでもいい。

 それが士郎の本音だ。

 これは誰かのためだなんて大層なものじゃない。助けるだなんておこがましい。

 ・・・・・・そう。

 これはただのわがまま。

 けどそれでいい。

 今度は士郎が、その英霊を纏ったクロに問う。

「決断の時間だ『正義の味方』。お前の選択は本当に正しいのか?」

 士郎は一度、クロの手を掴めなかった。

 だが今度は違う。

 今度は掴んで離さない。

 クロが今潜ってる、沈んでいる絶望から・・・・・・絶対に引きずり出す。

 

 

 

 

 その感情はやはり嬉しいというものだろう。

 士郎の言葉が、その思いが、今はクロ一人に向いている。

 士郎の言葉に嘘はない。

 けど、

「お兄ちゃんは、私が間違ってると思うの? 私を消したそいつより私のこの思いが間違ってるって言うの? ・・・・・・確かに、私はまだ迷ってる。それでも・・・・・・死ぬ覚悟ならできてる」

 この思いの行き場だけは提示してくれなかった。

 これからみんなと一緒に生きる。その意味はクロが今まで抱えてきた思いを、その感情を封印するということだ。

 イリヤは、クロを受け入れる覚悟ができたのかもしれない。美遊は、クロのために全力を尽くした。士郎は自身のすべてをクロと共にするといった。

 その未来は楽しいだろう。

 それでも、抑え込んだ感情は、いつかどこかで崩壊する。

 それを分かっているからこそ、クロはそちらへ歩けない。

「死ぬ覚悟ができた・・・・・・か」

 確認するように・・・・・・。

「やっぱり分かってないな。死ぬことが何か・・・・・・クロは本当の意味で理解してない」

 士郎はそれを否定する。

「そうかもしれないわね」

(なんで?)

「それでもね、私は消える存在なの」

(なんでわかってくれないの・・・・・・!?)

「だから、・・・・・やっぱりわからないよ・・・・・・生きるってことが何かなんて・・・・・・・・・・・・」

 想像ができない。

 クロ自身が、一番自分の生きている姿を想像することができない。

 一番恋焦がれている者が、それを一番わからない。 

 だから。

 クロは再び剣を構える。

 それでしか、自分の在り方を示せないならと。

「わからないから、知ってる方に逃げるのか?」

 士郎が問う。

「世界を知らない? 生き方を知らない? 自分の未来がわからない? そんなことは当たり前だ・・・・・・」

「・・・・・・えっ?」

「正しいよ、クロは正しい。自分を奪った相手に復讐したい・・・・・・何も間違ってない。あやふやな存在で、自分の未来が想像できいない・・・・・・・そんなことは当然だ。・・・・・・それでも、俺はお前に生きてほしいんだよ!! 復讐することで自分の居場所が無くなるというのなら、いくらでも俺が邪魔してやる。クロが消えていなくなるというのなら、100でも200でも消えない方法を考えてやる。それでも安心できないなら、俺がお前の側にずっといてやる」

 士郎はそうやって手を伸ばす。

「・・・・・・ありがとうお兄ちゃん」

 一言。

 それでも。

「でもやっぱりわからないみたい」

 枯れる寸前の花のようにはかない笑みを浮かべながら、クロはその手をとらなかった。

 士郎の言葉を受け入れてなお、クロにはそれがわからない。

「そうか」

(やっぱりだめか)

「なら仕方ないな」

 静かに。

 士郎はクロへと足を進める。

「お前が消える運命から逃れられないのなら・・・・・・」

 次の瞬間。クロの体を士郎が包む。

「・・・・・・!?」

 驚くクロを士郎はさらに強く抱く。

「怖がらなくていい。俺はお前の事をもう離さないと誓った。それでも助けられないのなら、せめて一緒に死んでやる。安心しろ、クロ。お前はもう一人じゃない。こんなことが贖罪になるとは思ってない・・・・・・けど、これしかできない俺を許してくれ」

 どうなってる? クロはなんで士郎がこんなことを言い出したのかわからない。

 士郎らしくない。

(だって・・・・・・なんで・・・・・・? これは私一人の問題で、私が消えておわりのはずなのに・・・・・・)

 クロの思考がまとまらない。その時。  

 グサリと。背後で何かが刺さる音がする。

 恐る恐る背後を見ると、士郎の手にしていた大剣が地面に突き刺さっている。

 ただ。

 士郎とクロ。二人を貫く形で。

 

 

 

 

 その光景を見ていたイリヤと美遊は声が出せなかった。

 二人が何やら話していたのは分かった。すると突然、士郎がクロを抱き寄せたのだ。どうやって移動を? そう思う前にその光景を見た。

 士郎から伸びている白い帯が剣に巻き付き士郎たちへと迫っていたのだ。

 声を出す時間などなかった。

 思わず手を伸ばした瞬間。

 二人は、それに貫かれた。

 

 

 

  

 士郎は自身に刺さっている剣を見ながら、クロへと目を向ける。

「クロ、これが死ぬってことだ」

「なん、で・・・・・・お兄ちゃん、まで」

 クロの瞳は涙を浮かべ、理解できないこの状況を、必死に理解しようとしているようだ。

「クロ、お前は心の中で思ってたんじゃないのか? 消えても自分はイリヤの中に帰るだけだと。元の状態に戻るだけ、そうやってお前は、俺たちを助けようとしてくれてたんじゃないのか?」

 わずかにクロが動揺を見せる。

「優しいな。でもそれはだめだ。だって。俺たちはすでに、クロっていう少女を知ったんだから」

 士郎が語り聞かせるように、優しい笑顔を浮かべる。

「わ、私はただの聖杯として創られただけなのに・・・・・・なんで、こんな私なんかと・・・・・・」

 それとは対照的にクロの顔は涙でぬれていた。

「聖杯だから? ただの偶然? その程度、俺がお前を見捨てる理由にはならないよ」

「でもこんな事・・・・・・!」

「なぁクロ。最後にお前の本当の気持ちを聞かせてくれ・・・・・・」

 士郎はクロの心がわかっていた。

 クロの作る剣製にはすべて、どこか士郎たちを気遣う心があったのだ。

「クロには本当に生きる未来が見えなかったんだろう。でもそれが死ぬ理由にはならない。・・・・・・だから、本当はどう思ってるんだ?」

 士郎の問いに答えるように、ゆっくりと。

 クロの口が開く。

「い、や・・・・・・だよ。いやに決まってるよ!!」

 ここに来て、クロはやっと本音で話せる。

「お兄ちゃんと会えないなんて死んでも嫌! イリヤなんかに渡したくない・・・・・・! だって、やっとここまでこれたのに」

 死ぬとわかって、すこしづつクロの本音がこぼれ落ちる。

「死にたくない、よ・・・・・・! 消えたくないよ!! これから先も・・・・・・お兄ちゃんと一緒にいたい!!!」

 瞳から涙を流しながら、

 クロはその小さな腕を、士郎の背中へと回した。

 離れたくない。その思いを証明するように。

 クロが士郎の胸で泣いているのを感じながら。

「ああ、それでいい」

 士郎はクロの頭を包み込む。

「仮面をつけて、辛いことを受け入れる必要なんてないんだ」

 すでにクロと士郎を貫いていた剣はその姿を消していた。それだけじゃない。士郎が投影したすべてが消えている。すでにそれは必要ない。

「よく頑張ったな」

 そこにはクロの泣きじゃくる声だけが響きわたった。

 

 

 士郎の後ろから、二人の少女が飛びついた。

「うおっと!」

 クロを庇うように倒れこんだため、三人の少女が士郎の上に倒れこんでいる形になる。

 イリヤと美遊の二人は何を言うわけでなく、ただただ涙を流していた。

(前もこんなことあったな・・・・・・少し無神経だったか・・・・・・)

「二人とも落ち着け、ちゃんと生きてるから、な?」

「あ、れ・・・・・・? な、んで?」

 真っ先に顔を上げたのはクロだった。自身を確認し、体のどこにも大剣に貫かれた痕がないことを確認する。

 イリヤと美遊も同じように困惑したような顔を浮かべている。

「あの剣は人を斬らないんだ。悪を斬り人を救う剣。それがあの大剣の本質。あれでは決して人は傷つかない」

 

「『神ノ道化(クラウン・クラウン)』」は対悪魔用イノセンス。悪魔だけを斬り人を傷つけない。

 悪魔などが存在しないこの世界では、後者だけの特性が残る。だからこそ、士郎はこの剣を選んだのだ。

 

 士郎は三人を引かせると、そのまま立ち上がる。

 未だに疑問を浮かべている三人に士郎はその疑問に対する答えを言った。

「クロが消えないようにするには、魔力ともう一つ。クロ自身の消えたくない、生きたいっていう意思が必要だった。俺の見た感じ、今までの戦闘で魔力がかなり減ってたからな。ちょっと荒療治になったが・・・・・・上手くいって良かった。手を打っていた魔力の貯蔵量がかなりやばかったからな」

「ど、どういう・・・・・・こと?」

 やっと現状を飲み込めてきたのか、クロが辛うじて声を出す。

「クロの中にあるクラスカード。外から俺とリンクすることで魔力を渡す予定だったんだ。本来なら俺がいないとできなかったんだが・・・・・・まっ、お人よしと言うか何と言うかさすがは『正義の味方』と言うべきか、クロの魔力がつきそうになる寸前に魔力を少しづつ渡してたみたいだけどな」

 過去にアーチャーと交わした令呪。

 それがなければクロの魔力はもっと早くになくなっていただろう。

「絶対に助けるって決めたからな。クロに刺されたときはさすがに焦ったが、美遊達がクロの事を助けようとしてくれて助かった」

 笑顔を向ける士郎とは対称に、イリヤ達の顔はだんだんと冷えきっていく。

「すごく怖かった」

 最初に声を出したのは美遊だ。それはもう冷たい声で・・・・・・。

「私、本気で死んだかと思ったんだけど・・・・・・お兄ちゃん?」

 クロは美遊とは逆に、満面の笑みを浮かべている。それはもう怖いくらいに。

「ルビー」

 静かなイリヤの声が響く。

 それを合図に、イリヤと美遊が転身する。

「ねぇイリヤ知ってる? 女の子同士が仲良くなるには誰かを虐めるといいらしいわよ」

「へぇそうなんだ。なら私たちすぐに仲良くなれるね!」

「――? ・・・・・・!? ちょっ、ちょっと待って!? 実は俺魔力切れててもう動けないと言いますか」

 士郎の慌てる声が響くが、士郎にはわかっていた。この叫びがなんの意味もないということを。

(えっ、あれ? この展開はおかしくね? ここで俺死ぬの? 流石に耐えられないんだけど!? そして美遊のためてる魔力が割とマジでやばい!)

 士郎は逃げた。

 それはもう全力で。

 三人はすぐに士郎に向かって走りだす。

 さっきまでどうとか、言っている場合じゃない。

 でも、これでいい。

 士郎は走りながらそんなことを思っていた。

 日常とは少し違うかもしれない。それでも、イリヤと美遊、そしてクロが、三人が笑っているのであればそれで・・・・・・。

 

 士郎が戦う理由は、この日常のためなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 




読んでくださった皆さん本当にありがとうございます!!

再度時間が空き申し訳ございませんでした。
今回の『吾輩は猫である』は士郎が投影した。『神ノ道化』について軽く説明します。

今回出した剣のアニメはD・Gray-man(ディー・グレイマン)と言うアニメの主人公アレンの使っていた剣になります。
そんなアニメ知らないという方は、本当にすみません。
この剣は悪を斬り人を斬らない退魔の剣となっています。似ている物ですと、ぬらりひょんの孫の『祢々切丸』などが同じ部類に入ると思います。イノセンスってなんだよ、と思っている方もいるかもなので少し説明します。
イノセンスは神が人に与えた悪魔を倒す力となっています? 少し曖昧・・・・・・。人に宿る寄生型と武器に加工する装備型があり、今回は前者になります。
寄生獣と似てるもの? と思われた方は似かよった作品の認識でいいと思います。
腕そのものがイノセンスとなっている今回の武器は、寄生型でありながら、唯一武器としての具現化が行えるイノセンスなのです。
だから腕がそのまま剣になったのですね(笑)
軽くではありましたがこの辺で・・・・・・知らない方はぜひ原作を見ていただけるとうれしいです!

最後に誤字報告をおこなっていただいた方への感謝を!

御門 暁様  ラーク様  sevenblazespower様  加賀川 甲斐様  御久様
ブルーフレーム様  関節痛様  8週目様 N2様  弄月様

本当にありがとうございます!
誤字が多くて申し訳ない気持ちでいっぱいなのですが、これからも頑張っていこうと思います

また次回もよろしくお願いします!!


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19話目とかとか~♪ 2Way 日常編 新しい家族

言い訳はしません。
遅くなって本当にすみませんでした!!!!

日常の話を書くかずっと迷ってたんです・・・・・・

個人的に日常の話は苦手で(戦闘シーンが得意とは言ってない)時間がかかった割にそこまで大したものでなく申し訳ないのですが楽しんんで頂けると幸いです。


それはそうと!! 久しぶりに見たらお気に入りが1000を超えてました!!
皆さん本当にありがとうございます!!
自己満足なだけのこの作品をこんなに評価してくださる方がいてとても嬉しいです。

記念とお言うわけではないのですが、番外編として、特別な話を作成中です。
年明けらへんになると思いますが、楽しみにしていただけると嬉しいです。

それではどうぞ!




 

 

 

 

 睡眠と言うのは不思議なもので、日常では思い出すことのない過去の事が夢として出ることがある。

 その時見たのはかつての自分。

 それは衛宮士郎になる前の、本当にどこにでもいるような小さい男の子だった。

 何とか手を伸ばす。でも、届かない。

 自分とは反対側へかけていくその少年。気が付くと、その少年が誰だったのか、思い出すことすらできなかった・・・・・・。

 

 

 ****************

 

 

 その日は特に特別なものでもなく、本当に、本当にごく普通の一日、その始まり。

 衛宮士郎は目をさます。

「・・・・・・んっ。なんか懐かしい夢を見たような・・・・・・」

 そこは自身の布団の中。

 バーサーカーとの戦闘以降、家より病院にいる時間の方が長いといっても過言ではない士郎が、自身の布団で寝ているという事実。それこそが平和の象徴と言ってもいい。

 クロとの戦闘後に折れた骨も完治し、イリヤの中にいるクロの存在との出会い、それすらも数日前の出来事。

 イリヤとクロ、二人の関係は、当初に比べると良くなっていると言えるだろう。さすがにすぐにお互いを許容することは難しいようだ。それでも、イリヤはどこか戸惑いを覚えながらも受け入れて、クロは行き場ない心に折り合いをつけて、それぞれ前へと踏み出した。本当の姉妹のようになるのはまだ先の事だろう。

 だが、それでいい。士郎はこの数日間の二人を見て、そう結論づけた。理由などここ数日の二人を見ていれば分かる。

 なぜなら、二人の顔には以前と比べるまでもなく・・・・・・笑顔が増えたのだから。

(まぁ、仲良くなるのはまだまだ先っぽいけどな・・・・・・)

 イリヤとクロのなんとも言えない不器用な姿を思い出しつつ、士郎は”今の現状に”笑みを浮かべる。

 夢でも見てたのだろう。

 士郎は、何かを求めるように腕を伸ばしていた。それだけなら問題なかった。その腕が何かに挟まれているのだ。何かではない、それはとても柔らかいもので・・・・・・。いや、重要なのはそこではない。

 結論を言おう。

「むりゃむりゃ・・・・・・おに、いちゃん。・・・・・・だい、好き・・・・・・」

 クロ、もとい天使が――そこにはいた。

 

 

 まさに至福の時と言ってもいい状況だが、端的に言って、士郎の現状は詰んでいるといっていい。

 クロに挟まれている腕は・・・・・・否、太ももに挟まれてる腕は動かすことはできず、士郎は身動きができない。さらには、だんだんと音を大きくする階段の足音から、セラかイリヤが士郎を起こししに向かって来ていた。間違ってもリズではない。

(これはイリヤか・・・・・・?)

 息遣いや足音の大きさから、士郎はイリヤだと予想する。過去の戦闘がこんなところで役に立つとは士郎も思わなかった。まあ、わかったところで、何もできないのだが・・・・・・。

(あークロの寝顔可愛いなー。抱きしめたいなー)

 考えていることはあれなのだが、今回ばかりは見逃してあげるべきだろう。これは今の士郎が唯一できる現実逃避なのだ。

 そんな士郎の思考をよそに、バタン! と、扉を開く音が木霊する。

「クロ! またこんなところに・・・・・・!」 

「・・・・・・むりゃ? あっおはようお兄ちゃん。昨日の夜はとっても気持ちよかった・・・・・・お兄ちゃんの(腕の中)すごくあったかかった」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「あら? イリヤもいたのね。男と女の部屋にノックもなしに入るなんてダメよ。これくらい常識。それじゃお兄ちゃん、私着替えてくるわね」

 むりゃ、と言うあざとい言葉に始まり。トタトタと部屋を出る。

(見事に爆弾のみを残していきやがった・・・・・・!)

 士郎は、イリヤに向かってほくそ笑むクロの顔を確認しながら、この確信犯小娘の後処理を請け負う羽目になった。 

「なっなっ・・・・・・ななななななななな。そ、そそそんな・・・・・・クロとお兄ちゃんが・・・・・・」

「落ち着けイリヤ、とりあえずその誤解と勘違いしかない思考からやめような」  

「――う、」

「・・・・・・う?」

 クロが士郎の部屋に侵入するのは別段珍しくない。いままでもたびたびあったことだ、少し冷静になればクロの冗談だと分かるだろう。

「うわああああああああああああああぁぁぁぁああああああああああん!!!」

「!?!!!?」

 泣き出してしまった。

「うわぁぁああんばかぁぁああ!! お、お兄ちゃ・・・・・・ひっぐ、変態!!! もうお兄ちゃんなんで大っ嫌いだもぉおおおん!!」 

「え? えっ!? ちょっ、まっイリヤ、とにかく落ち着いてくれ。お願い! いや本当に・・・・・・! 俺が悪かったから! それ以上は本気でセラに殺さ・・・・・・っ!!」

 士郎が状況を認識できず、ただ過去の経験か本能の危機からかわからないが、最悪の可能性に行き着いた時。それはすでに目の前にいた。

 士郎の背後で、トンと小さな音が鳴る。

 それは何かが壁に当たった・・・・・・否刺さった音であり。過去数々の英霊と戦ってきた士郎からしたら、それはおもちゃのようなもので。しかし、人一人の命を奪うのには十分なものでもあり。

 確認はできなかった。目の前あれから目をはなしたら死ぬ。士郎の本能がそれを訴えている。

「シロウ、今の状況になにか弁明はありますか?」

 それには怒気すらなかった。ただ、温度すらなく、慈悲もない。本当に何もない声がその場に響く。

「うぅぅ、せぇぇらぁぁぁあ。お兄ちゃんが、お兄ちゃんが・・・・・・クロと・・・・・・うえぇぇぇええん!!」

 イリヤの声だけがこの場において絶対であり、もはや士郎には何もできない。

「・・・・・・弁明は、ありません」

「そうでしょうね。そうでしょうとも・・・・・・・・・・・・こんの、変態ロリコン野郎がぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!!」

 

 平和だった。つい先ほどまで。

 唐突に士郎の平和は幕を閉じた。

 

 

「・・・・・・もぐもぐ」

 

 士郎は手を止めることはしない。

 ただ黙々と口を動かす。

 手に持っているのはサンドウィッチ。自分で作ったその料理を、機械と化したように口へと運ぶ。

「私は、こ・の! 『黒いの』! こいつについてちゃんと議論すべきだと思います!!」

「イリヤさん、その『黒いの』とは・・・・・・?」

「・・・・・・もぐもぐ・・・・・・」

「もちろん、今朝私たちをだましてお兄ちゃんを”こんな”にして・・・・・・さらには、ちゃっかり私とお兄ちゃんの間に座っているこいつの事です!!」

 イリヤはビシッっとクロの事を指さすと。威嚇の意味でも込めているのか、グルルと可愛いらしいうなりをあげる。

「ちょっとイリヤ、お兄ちゃんが”こんな”になったのはあなたとセラの勘違いからでしょ? ・・・・・・可哀そうな”士郎”、私が慰めてあげる。今日は一緒に寝ましょ? 朝は私がイリヤ達から守ってあげるからね?」 

 普段なら絶対見ることのできない士郎のしおらしい姿にでもやられたのか、普段の甘えん坊な姿とは違い、姉の様な包容力を見せている。だが確かに実際の年齢ならクロの方が上。クロは妹キャラに甘えん坊キャラ、さらにはお姉ちゃんキャラまでどの立場からでも士郎に甘えられる最強の存在なのだ。そして、それを生かさないクロではない。

 とは言え、今回の事は見事なまでにマッチポンプ。策士としても優秀だった。

 妹であるイリヤに罵倒され、セラにも手ひどく説教された士郎は、精神と体、両方に多大なダメージを受けていた。

 目は虚ろに光り、口元は何が可笑しいのか微かに笑みを浮かべている。何も知らない者が見れば、今の士郎は完全にヤバい奴である。

「元はと言えばあなたが・・・・・・!!! ぅがぁぁぁぁあああ!!」

 八つ当たりだという自覚があるのか、行き場のなくした怒りを言葉へ変える。

「まぁどちらが悪いかはこの際置いとくとして、セラ、少し士郎にちょっときつすぎるかもしれないわね。誤解を招いた士郎も悪いかもだけど、ここまでする必要はなかったわけだしね」

「申し訳ありません奥様・・・・・・。私もわかっているのですが・・・・・・どうもシロウが相手だとカッとなってしまうといいますか・・・・・・」

「「・・・・・・・・・・・・」」

 セラの言葉に、クロとイリヤは、何を感じとったように『えっ?』顔をする。

「あらあら」

 イリヤの母親、アイリだけが何かを確信したように面白い笑みを浮かべている。

「ねぇセラ、あなたは士郎の事が嫌いなわけではないのよね?」

「もちろんそのようなことは・・・・・・! 家事を任せてからは私の邪魔をしない程度に手伝ってはくれますし、買い物などがあるときはすすんで荷物持ちをしていただいていますので・・・・・・。料理の話をしている時などは楽しくもありますし」

 クロとイリヤはここに来てまさかの伏兵にびっくりである。

 クロはもちろんイリヤですら過去に二人きりでお出かけ、どころか買い物すらしたことがないのだ。二人きっりで、と言うと学校の登下校ぐらいだっただろう。

「考えてみれば二人がよく家事を一緒にこなしてたのを見かけたかも・・・・・・!!」

「侮っていたわ・・・・・・家事のできる女性はそれだけでポイントが高い。それに兄妹と言う縛りがないぶん、女性としてお兄ちゃんはより意識しやすかったはずだわ」

「強敵現るね、二人とも」

 アイリは、士郎に関してだけは妙に息の合う二人の様子にウフフ、と楽しそうに笑みを浮かべている。

「――?」

 ぐぬぬ・・・・・・! とセラを睨みつける二人にセラは困惑した顔を浮かべる。ここに来て天然までキャラが加わった。まさに最強の存在である。

 そこで「あっ」とアイリが何かを思い出したように手を叩く。

「そういえば、士郎はもう学校に向かったわよ? 二人も早く準備をしなさいね」

「「っえ!?」」

 イリヤとクロはここで始めて士郎がいないことに気付く。

 二人は慌てたように残りの朝食を口へ放り込むと、慌てたように「行ってきます!!」と飛び出していった。

 

「士郎も大変ね? セラも頑張りなさい」

「――? はぁ・・・・・・? 何かはよくわかりませんが」

 

 これもまた士郎の日常である。

 

 

 イリヤは朝壊れたブリキと化した士郎を追うべく、ダッシュで家を飛び出した。

 隣にはイリヤと全く同じ顔、褐色がかった肌と、髪の色を除けば本当に瓜二つの女の子。

 クロが家族の一人となって、すでに半月が経った。

「じゃあねイリヤ、その遅い足でゆっくりきなさいな、お兄ちゃんとの登校は、あなたの分まで私が満喫してあげるわ!」

 そう言い残すと、クロは英霊の力をためらいなくに使い、道のショートカットのためか、家の屋根へととんでいった。

 最初は仲良くなれるか不安だった。それでも、家族が増えたことにイリヤ自身嬉しかったし、素直に楽しかった。クロはイリヤにとって家族だ。迷うことなく断言できる。

 だからこそ本心で、イリヤは思う。

 

(あいつ!! 絶対いつか泣かす・・・・・・!!!)

 

 あいつは絶対に許さない、と。

 

 そもそもはじめて家に来た時から危険な予感はあった。

 イリヤは思い出す。

(あの時、あの時・・・・・・! ちゃんとした上下関係を決めておけば・・・・・・!!)

 

 

  ****************

 

 

 士郎とクロの喧嘩、もとい仲直りが終わったそのすぐ直後。どうやって嗅ぎつけたのか。そもそもどうやって来たのか。森の中へ車で登場したイリヤ達の母親アイリ。

『あれ、母さんなんでここに?』

 明らかにクロとの戦闘後よりも生傷が多い士郎に周りが疑問を抱かないのは、彼女らがそれを付けた犯人だからである。

『いやーさすがは母親の感ね! なんとなくでもちゃんとイリヤちゃんたちのところにたどり着いてんだもの!』

『・・・・・・・・・・・・』

 あきれた表情でアイリを見る士郎。その時の事はイリヤもよく覚えてる。

 イリヤにとって何より印象的だったのはクロの反応だろう。

 士郎の背後に周りさながら怯えている子猫のようにアイリを見るその姿は、見てるだけで愛らしいほどだ。

『あらあら、ちょっと見ない間にイリヤちゃんが二人になってたなんてお母さんびっくりよ。えーっと・・・・・・初めまして、何ちゃんかしら?』

『母さん、今回ばかりは真面目に頼む。俺たちがクロにしたことが、間違いだったと思うなら』

 アイリは「そうね、」と一言呟くと、士郎の言葉をどう受け取ったのか、クロの目の前で手を伸ばす。

 そして、

 

『一緒に帰りましょ、私たちの御家へ』

 

 謝りはしなかった。それはアイリなりに思うことがあったのだろう。クロに行ったことの否定は、イリヤの否定になる可能性もあるからだ。

 それでも、アイリはクロを家族として、自分の娘として手を伸ばした。

『クロエ・フォン・アインツベルンそれをあなたの名前にしましょ? 私と切嗣の娘。さみしかったと思うわ、だから、嫌っていうほどこれから愛してあげる。大切にしてあげる』

 そういうと、アイリの手をふるえるようにとったクロを引っ張り、強く抱きしめていた。

『うわぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁぁん』 

 その時、無邪気に泣きじゃくるクロの姿を見て、イリヤは初めて『クロ』と言う存在を知った。

 殺されそうになって怖かった、何を考えているのか分からなかった、どういった存在なのか不安だった。けどそんなことはどうでもよかったのだ。その存在は、なんてことのない、普通の少女だったのだから。

 ただただ普通のイリヤの家族。それがクロエ・フォン・アインツベルンなのだ。

 

 

 その後、士郎によって凜達へ事後報告が行われた。

『衛宮君、あなたはいつも何かをはぐらかす。今回ばかりは私たちも詳しく知りたいのだけど?』

『俺がそれを言わないのは、そのほうが”この世界”にとって都合がいいからだ。まぁこれもヒントみたいなものだけど、もう少し・・・・・・』

 少しためらうと、

『・・・・・・聖杯戦争、それが今起こってるすべての起源だ。まっ、そこから先は自分たちで調べてほしい。俺自身完全に理解してるわけじゃないんだ』

『聖杯戦争・・・・・・』

 凜がかみしめるように呟く。

 聖杯戦争。イリヤの中でこの言葉だけがぐるぐると回る。知らないというのは恐怖だ。それでも今まで戦ってこれたのは、士郎と美遊、二人が一緒にいたからだ。しかし、今回の事でイリヤは、士郎は”何か以上に知ってる”と、そう確した。

 だからこそ少し怖かった。自分の兄の知らない部分を見たように、ほんのちょっぴり・・・・・・怖かった・・・・・・・・・・・・。

 

 そして、ルヴィアの手によってクロの身分は正式なものへとなり。学校へ通うことも決まった。

 

 

 そこまでは良かったのだ。そこまでは・・・・・・。

 

 

 

 クロが初めて家へと来た時、イリヤの受難は始まった。

 驚きと戸惑いを隠せないセラと珍しく目を見開いているリズへ向かって、クロはあろうことかイリヤの目の前で、

『初めまして。クロエって言います。お兄・・・・・・士郎さんの”恋人”です!!』

 こう宣ったのだ。

『『――!?』』

 驚きの表情をしている士郎とセラを無視して、クロは士郎の腕へと自身の腕を回す。

『もうキスもしちゃったもんね、士郎?』

 事実だが、言ってはいけない事実を口にした。

 突然の事で反応できなかったイリヤは、満面の笑みを浮かべるクロを見ていることしかできなかった。

 

 

 クロの初登校の時も・・・・・・。

 学校へと到着したイリヤは朝から友人たちから追われることになった。

『見つけたぞイリヤ!!!! お前の性癖をどうこう言うつもりはないけどな、私たちを巻き込むとはどういうことだーー!!!』

『覚悟はできてるんだろうな! 私たちの初めてを奪った責任、その身で受けてもらうぞイリヤ!!』 

『うっぐ、ひっぐ』

 上から雀花、那奈亀、龍子である。

 普段ならば仲良くつるむイリヤの友達ではあるのだが、何が起きたのかイリヤへの怒りがすごい。

『えっ? 何、どうしたのみんな? そんな恐い顔して・・・・・・?』

『『問答無用!!』』

『なんでーー!!!』

 必死に逃げるイリヤにはなにが起きてるか分からなかった。

 だがそれも数分の出来事で。屋上へ逃げてきたイリヤがそれを目にするまでの、である

『い、イリヤちゃん・・・・・・、ダメだ、よ。女の子同士でこんな、こと・・・・・・』

『でも逃げないのね美々。外では優等生の振りして、本音はこういうことに興味深々何でしょ? 大丈夫、身を任せればいいわ、痛くしないから、ね』

『んっ、んっ・・・・・・』

 キスをしていたのだ。

 

 まさかのレズ現場である。

 

 それも自分と同じ顔をした女の子、さらには、自分が友人のである。

 ここは見なかったことにするべきだろう・・・・・・。 

 

『・・・・・・って、んなわけあるかー!!! この変態キス魔野郎ー!!』

 

『ぐはっばら!?』

 イリヤの飛び膝蹴りがクロへと決まる。

『何やってんの!? 何してくれちゃってんの!? クロのせいで私今すっごい大変な状況なんだけど!?』

『仕方ないじゃない。魔力が少し足りなくなっちゃったんだから・・・・・・まっそれはそれとして、今は逃げたほうが良いわよ、じゃあね』

 それだけ言い残すと、クロはその場から姿を消した。

 文字通り、パッと消えたのである。

『(あの野郎! 奪った魔力で転移魔法使いやがった・・・・・・!!!)』

 すぐにでもクロを追いかけたかったイリヤだが、今の状況がそうさせてくれなかった。

『『見つけたぞ、イリヤ!!』』

 屋上へ逃げていたイリヤには逃げ場はなく、怒りに目を燃やす友人たちへの説明を余儀なくされた。

 

 そのあと、転校生としてクロはイリヤたちの前に表れた。

『初めまして! クロエ・フォン・アインツベルンです! よろしくね!』

『クロ!? よくものうのうと・・・・・・!! てか、今までどこにいた!!!』

『あっ! あなたはさっきの!? なんでここに!?』

『そんなラノベ主人公とヒロインの出会いテンプレみたいなノリはいらんわ!』

 イリヤと全く同じ顔をしたクロの登場に、教室が静寂と化した中、「・・・・・・ラノベのノリとかよく知ってわね・・・・・・」と言うクロの呟きだけその場に響いた。

 

 

  ****************

  

 

 クロの破天荒ぶりにイリヤは振り回されっぱなしである。

 早くこの状況をどうにかしなければならない。

 イリヤは、転身まで使いクロを追いかけ、士郎との二人きっりを阻止しようとする中、必死にこれからの事に頭を悩ますのだった。

 

 

 これもまた、イリヤの日常である。

 

 

 

 




今回も読んでくださりありがとうございます!

戦闘シーンもなし、シリアスもなしは初めてだったのですがいかがだったでしょうか?
本当はすぐに次の戦闘に入るべきかとも思ったのですが、どうしてもツヴァイは日常の描写が多く、違和感が残ってしまうと思いこんな感じになりました。
あと一話分だけ日常変を書くことになると思います。
(あー早く戦闘シーン書きたい・・・・・・)

今回の「吾輩は猫である」
 なしの方でお願いします。
 ちょっと疲れました(笑)


そして今回も誤字報告をしてくれた方ありがとうございます

加賀川甲斐様 +0様 lumi27様 熾火の明様

本当にありがとうございます!!

次回はなるべく、なるべく早く出したいと思います!!
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!!


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20話とかとか~♪ 2way バゼット編 魔術師vs魔術師

 
結構空いてしまいました。すみません。

この時期毎年時間がないです・・・・・・。皆さんはどんな感じですかね(笑)

久しぶりに書いたので、結構ごちゃごちゃしてるかもしれませんが、楽しんでいただけたら幸いです。

ふと思ったんですが、皆さんどの話数が好きですか? この作品は実験的に書いてる感じなので教えていただけると嬉しいです

それではどうぞ!



  

 

 

「ここまでで結構です」

 その言葉に、宮園一太郎(みやぞの いちたろう)は戸惑ったような声を上げる。

「えっ? お客さん、目的地まではもう少しありますが・・・・・・」

「いえ、ここからは少し歩こうと思うので問題ありません」

「そ、そうですか。かしこまりました」

 宮園はタクシーの運転手である

 乗っているのは女性の客だ。

 タクシーの運転手としてのキャリアも長い宮園からしてみれば、乗客が途中で道を変えることなど日常茶飯事、珍しくもない。だが。

(ちっ・・・・・・よりにもよってこんな田舎まで連れてきやがって、下りるならもっと早く言いやがれ。つぎの客捕まえるのに戻らなきゃいけないだろうが)

 性格は最悪である。

 それでも、長年の経験で鍛え上げられた表の仮面は、その程度のイラつきで崩れるほどやわなものではない。

「それでは、お会計をお願いしますね」

(それにしてもこいつ・・・・・・イヤな空気隠そうともしねーな・・・・・・犯罪者かなんかかよ・・・・・・?)

 宮園は、早くこの女とははやめに別れよう、その一心で会計を手早く済ませた。 

 

 

 話は変わるが、タクシーの運転手と言う仕事はなかなかに面白い職種である。

 例えば、芸能人。テレビの関係者ではないにもかかわらず、テレビに出てる有名人との遭遇率がここまで高い職業も珍しい。運転が楽しい、以外でこの職場に楽しみを見出すのならばここははずせないだろう。

 さて、芸能人を含め、より多くの人種と接するという意味では他の髄を遊許さないタクシーの運転手だが、人種以外にも接することがあるのがこの仕事である。要は怪談話ではあるのだが、あながち馬鹿にできなかったりするのがこれの面白いところだ。

 真に迫っているとでも言えばいいのか。タクシー関係の怪談話は妙にリアリティーがあるのだ。大袈裟ではなく、曖昧感もない。淡々とした事実であるのにも関わらず、微かににおう異物の感覚。まあ、こればっかりは体験してみなければ分からないだろう。

 そして、かく言う宮園も、それを体験したことのある人物である。と言っても、ここで重要なのはそれが事実がどうかではなく、それを感じるだけの感覚を持っていたかどうかであるのだが・・・・・・。

 平たく言えば、彼は人の空気と言うものを読むのにたけていた。

 赤みがかった髪の毛。黒いスーツ。そして、望遠鏡ほどの白い筒が、その女性の特徴と言える特徴だった。

 それにさえ目をつむれば、彼女はどこにでもいる普通の女性である。

「ちょうどお預かりします。ご利用ありがとうございました」

 それでも宮園は、自身のその感覚を疑わなかった。

(何かあるんだろうな・・・・・・)

 そう思いつつもそれを顔に出すことはない。触らぬ神に祟りなし。意味は微妙にずれているが彼は、こういったことに遭遇したときはどうするべきか心得ていた。

 興味本位に突っ込まない。無駄な正義感を抱かない。

 なぜなら怖いから。

 仕方がない。宮園一朗太と言う男性は、ごくごく普通の感性を持つ一般人なのだから。

 

「ここが冬木市、ですか・・・・・・」

 降り際に呟くその女性の声が、なぜかよく聞こえたのは気のせいに違いない。

 宮園はその女性から逃げるように、アクセルを踏む右足に力を入れた。

 

 後に彼はこう語る。

『あれは別の世界の人間だ。ほら、異世界とかそんな奴。――あ? アホか、ものの例えに決まってんだろ。まあ、なんだ・・・・・・普通の人間社会には絶対交わらない。そんな意味で言ったんだよ。――は? 精神科? 喧嘩打ってんのかてめぇ!? お、おい? なんでそんな優しい目で俺を見るんだ。うんうんって頷くな! いや、マジなんだって・・・・・・! 信じてくれよ!』

 

 

 それとほぼ同時刻。

 場所は龍道寺にある大空洞。

 本意ではなく、作為によって通うことになった学生の恰好。学校帰りにちょっと寄り道! なんてことはなく、ある仕事のために彼女はいた。

「なによこれ」

 定期的に行ってる地脈の経過観察。そこに、見たことのない異常が見て取れる。

 遠坂凜は魔術師として優秀だ。

 冬木の管理者能力だけでなく、今現在調査を行っているカード回収を任せれてることからもその優秀さは見て取れる。

 故に、それに気づけたのは偶然ではなく、そこからさらなる可能性まで導き出したのは必然であった。

「カードはもう一枚あったっていうの・・・・・・!?」

 

 彼女の手にある冬木の地脈を写し取る紙。そこには、地脈の流れを不自然に穿つ穴が確かにあった。

 

 物語は新たな章へのプロローグをおえた。

 

 

 ****************

 

 

 数時間前。

『んにゅー・・・・・・』

『どうしたの、イリヤ。怪我でもした?』

『ん? 美遊、違うよ。なんかこう走るのは得意なんだけど長距離走はなんか退屈って言うか』

『確かに、トラックの周りだけ走るのは確かに飽きるかもしれない』

『じゃあ、勝負でもっしてみる? 勝った方がお兄ちゃんを一日独占できるって契約で――』

『『やる!!』』

『そ、そう。じゃーそうねー・・・・・・よいドン!!』

『ああ!! クロせこい! って、美遊まで!? ま、まってよー!!』

『クロの思考は読んでいた。今度は負けない』

『受けて立つわ。美遊とは本気でやり合ってみたいと思ってたところなのよね!』

『ねぇ、なんか私はぶられてない? なんか二人の勝負みたいになってるけど、私がいるの忘れてない? ――無視しないで!? こっち見てよ!!』

 

「はぁー暢気なものね。ついこの間まで殺し合いをしてたっていうのに・・・・・・」

「今のところ、クロがおかしなことをする様子はなさそうですわね」

 そこは屋上。

 そして美女が二人。

 それだけ聞けば、男子高校生ならその多くがその場に自分がいないことを後悔しただろう。屋上と言うある意味隔離された空間で、吊り橋効果とはいえないまでも、高さと言う恐怖があり、そもそも、屋上と言う響きが恋愛において甘美な響きを有する。

 まさに、学生だけが手にすることができる恋愛スポット。と、もちろん思っているのは一部の夢見る男子だけであって、特に女子などはその限りではない。

 美女二人は、片手に双眼鏡を持ちながら、小学生の体育を観察しており、盗聴器でも仕掛けているのか、音声がここまで届いてくる。

 世間でいうストーカーに盗聴だった。

 内情を知ってるものがいれば、彼女らの行ってることはストーカーではなく監視であり、盗聴器などではなく魔術であると分かるだろう。

 

「まっ、どう見繕っても犯罪すれすれだがな」

 そして、学生服を着た少年が一人。

 

「えぇそうね。でも、私たちもクロの事をまだ把握しきれていない、の、よ・・・・・・。って!? なんで衛宮君もここにいるのよ!!」

「うわっちょっ、それは可愛すぎるだろクロ!? その笑顔は反則過ぎる!! おお! 美遊とイリヤの悔しい顔、否! ふくれっ面ももやばかわなんだが!?」

 盗聴魔術による声から察するに、クロが勝負に勝って喜んでいるのだろう。

「やばいのはあなたの頭よ! てか話を聞きなさい!」

「くっ! 一眼レフでは距離が離れすぎてる・・・・・・だと・・・・・!! 俺としたことが・・・・・・! 何たる失態!」

「衛宮君そろそろ私キレるわよ?」

 一眼レフを片手に、双眼鏡で自身の妹の体育姿を確認する兄。

 

 変態である。

 

「あー、えーっと、いやいや待てって、知らないのか? 最近では人生を妹って読むこともあるんだ。このぐらい普通だ。それにさ俺だって心配なんだよ。ルヴィアなら分かるだろ」

 士郎は双眼鏡を貸し出してくれたルヴィアにそれを返す。

「その通りですわ。私にとって美遊は妹のようなもの。いいえ、私は本当の妹だと思ってますわ。ああ! やはりわたくしとシェロは、似た者同士!! 妹のいないあなたには分からないでしょうけど? オホホホホホホ!」

(こ、この女!!)

 

 自身で油を塗って火をつけた士郎にはこの後の展開が容易に想像できる。

「調子に乗るな! 金髪ロールが!!」

「返り討ちにして差し上げますわ、野蛮おさるさん!!」

 

 はい、喧嘩。

 

 どちらかが力尽きるまで終わることのない二人の喧嘩は、さらに苛烈さを増していく。士郎も最近はある程度は放置気味、魔術を使ったら止めに入る程度だ。

 本来の目的も忘れ、とうとうルヴィアが宝石に手を伸ばし、士郎も流石に止めに入ろうとした瞬間。

 そこへ、

「あらあらー? そこで何をやってるの三人とも?」

 もはや生きる背後霊のごとく、三人に知覚されることなく近づいた人物が一人。

「いや、あんたこそ何やってるんだよ・・・・・・母さん」

「はーいあなたのお母さまのアイリさんですよー」

 衛宮家最強の登場であった。

 

 

 結論から言えば士郎は逃げ出した。

 ――曰く、いやー今日は一成から頼みごとをされててな。

 ――曰く、いやいや、この年でこんなはちゃっけた母さんと一緒はちょっと恥ずかしいから・・・・・・。

 ――曰く、ごめん、母さんに殴られた鼻血が止まらないから保健室いってくる。

 

 そして、残された凛とルヴィアはもちろん”これ”の相手である。

「私ね、イリヤちゃんたちの様子を見に来たんだけど迷ちゃってね? ほらなんていうんだっけ授業参観?」

「あのー、お母さま・・・・・・授業参観は母親が自主的に行うものでは・・・・・・・・・・・・」

「そもそも、小学校の校舎はあちらなのだけど・・・・・・」

「じゃあ、お二人さん案内よろしくね!」

 あたかも自然に誘うアイリに、二人は絶句するほかない。そしてそれは暗に、授業サボタージュの御誘いだった。

 悲しきかな、いまの二人にそれを断るすべはない。

 女王の気まぐれは従うほかないのだ。

 

 彼女らは放課後まで王女様の護衛をすることになった。

 

 ****************

 

 

 時刻は放課後。

「遅いですわね美遊」

 ルヴィア・エーデルフェルトは、美遊に出した任務、水ようかんの帰還をまだかまだかと待ち望んでいた。

「それにしても、まだまだ問題は山積み、一体どれから片付ければいいのだか」

 そんなルヴィアの傍らには、先ほど食べた水ようかんの容器が山積みだ。マイブームなのだ。

「まぁ少しづつ解決していけば問題ないでしょう。幸い、時間だけはあることですし」

 魔術の事に悩みながらも水ようかんの(普通の日常)を堪能する。少し前まで魔術の世界しか知らなかったルヴィアからしたら、これは大きすぎる変化だった。

 これも美遊達(あの子たち)のおかげだろう。

「このような時間も悪くないかもしれませんね・・・・・・」

 

 だが忘れてはいけない。 

 まだ何も終わってはないということを。まだ何も始まってないということを。

 

 そして。

 ゴーン、ゴーンゴーン。

 新章が幕を開ける。

 

 エーデルフェルト家に流れた鐘の音は、市内に響く五時のお知らせなどではない。

 それは招かねざる客に反応する、対侵入者用警報魔術。

「ここをエーデルフェルト家と知って侵入したのでしょうか? もしそうなら・・・・・・それ相応のおもてなしが必要になりますわね」

 日常を知りながらも、魔術の世界に身を染める。

 あくまで魔術こそが、ルヴィア・エーデルフェルトをエーデルフェルト家たらしめる、最高のドレスなのだから。 

 

 玄関を開けた先の大広間。

 すでに戦闘は行われていた。

 たった一度の攻防。それを目にすれば、どちらも常人をはるかに超えた存在だと理解できる。

 方や老人。しかし、執事の用スーツの上からでも見て取れる浮き出た筋肉は、その老人がただものではないことがわかる。

 対するは女。腕や足、体の線は細く。スーツ姿がその華奢な体に拍車をかけていた。

 ただ、この場。エーデルフェルト家(魔術の城)において、性別や体格と言った見た目の第一印象は何の意味も持たない。

 その証拠に。

 ズガーン!! と、女の繰り出した拳が壁に大きな穴をあける。恐らくは魔術で補強され。ある程度の衝撃ならば容易に耐えるであろうその壁をだ。

「これは警告です。無駄なことはやめて主を出しなさい。あなたでは私に勝てません」

 自身の力を示したうえでの警告。

 ただし、それを素直に聞き入れるのなどこの屋敷には存在しない。

 直後。黒い魔術が女へと迫る。ガンド。その威力はすさまじく、使い手によって差異のでるその魔術、それをルヴィアが使用することにより「フィンの一撃」・・・・・・平たく言えば軽くマシンガン程度の威力が存在する。

 とりあえず、で放つには凶悪すぎる一撃を、ルヴィアは躊躇することなく放った。

 だが、”この程度”では女に傷一つつけられない。

「随分と礼儀知らずの来客の用ですね。――? ・・・・・・ッ! あなたは、なぜ今ここに!?」

 予想外の相手。

「あなたと私の接点は一つ。そしてこれは命令です。カードを渡しなさい。素直に渡せばあなた方を傷つけることは致しません」

 女は話の分かる人間である。条件を提示して、相手を見逃す程度には。しかし――

「なんのことだかわかりませんね。ですので・・・・・・お帰りいただいて結構ですよ。バゼット・フラガ・マクレミッツ嬢」

「ならば仕方ありません。・・・・・・力ずくで行かせてもらいます」

 ――上から目線の一方通行だが。

 

 バゼットはゆっくりと足を進める。先ほどとは比にならないほどの殺気を出しながら。

「オーギュスト、行きますわよ」 

 バゼット・フラガ・マクレミッツの殺意を向けられる。それは自身の体に銃口が向けられているのと同義。にもかかわらずルヴィアは表情を崩さない。

「かしこまりましたお嬢様。おもてなしレベルは最高まで上げてさせていただいてもよろしいでしょうか?」

 なぜなら笑うしかない。これが目の前にいるだなんて。

「それでかまいませんわ。なんて言っても。彼女は封印指定の執行者、正真正銘の――」

 

 ――化け物ですから。

 

 

 扉の影に隠れながら、凜はその光景を見て思わず舌打ちをしてしまう。  

(相手が悪すぎる、加勢しても勝ち目がまるでない)

 バゼット・フラガ・マクレミッツ。話は聞いている。カード回収の前任者。

Anfang(セット)――――」

 ルヴィアの宝石魔術がバゼットを襲う。

 ランクこそ低いものの、その威力は強大。人間一人吹き飛ばすには十分すぎる威力を持つそれを。

「無駄です」

 腕を振るう。ただそれだけ。

 小さい虫を追い払う程度の動作。

 バゼットには意味をなさない。

「ならば・・・・・・!」

 オーギュストが、ショットガンを放つ。 

「無粋な!」 

 そう言いながら、バゼットは初めて回避行動をとった。

 三次元的に動き回るバゼットを、無数の銃弾が追いかける。

 傍目から見れば、ルヴィア達がバゼットを追い詰めているように見えるだろう。

 それは間違いである。

 バゼットからしてみれば、今までの攻撃の中で回避、または防御が必要な攻撃など存在しない。それをおこなっているのは単に手加減のためである。

 バゼットの手加減の理由は、相手を殺さないため、などと言う優しい類のものではない。では何か? ただ、考えればすぐに分かる。要は、

 

 ――ありを踏み潰すのにわざわざ戦車を持ってくる馬鹿がいますか?

 

 そういうことだ。

 

 超高速で、尚且つ相手を追うように追撃する宝石魔術。

 四方、そして上下から、先ほどよりも威力の高い宝石がバゼットを襲う。

 それでも、爆炎の中、バゼットが傷を負ってる様子は見られない。

 バゼットが銃弾を回避するために砕けた廊下を盾に取る。壁と盾。僅かに密封された状態のそこへ、今までとはレベルの違う。一つの宝石が爆発する。

 周囲の壁事吹き飛ばす。”今のルヴィア”が持てる最大火力”。

 煙幕の中からゆっくりとそれは姿を現す。

 分かっていた。あれで尚、かすり傷一つ負わせることもかなわない。 

 怪物。

 凜はバゼットをそう認識した。それでも凜は確信する。

(隙ぐらいは作りなさいよね・・・・・・!)

 突破口はあると。

 

 

 ルヴィアとオーギュストの二人は廊下を走る。

 向かう場所は宝物庫。目的は自身の武器の調達だった。あの化け物を何とかするにはより強力な武器が必要だ。

 主を守るようにオーギュストが銃弾をばらまく。

「無駄です」

 足止めにすらならない。

 銃弾の雨の中を、横断歩道を渡る気軽さで突破する。バゼットにとって近代武器など、赤信号によって安全を確保されている道路と何ら変わらない。

 オーギュストは敵の力量が分からないほど馬鹿ではない。むしろより鋭敏に感じることができる。

 だからこそわかっていた。あれには天地がひっくり返っても敵わない。

「関係ありませんが」

 その通りだ。オーギュストにとって相手との力量さなど関係ない。

 主を守るためにその身を使う。オーギュストにとってそれこそが絶対。故に、挑む。

 時間稼ぎにもならないと理解してなお、オーギュストはバゼットと肉薄する。

 暗器によって体中に隠し持っているすべてを持ってバゼットを襲う。

 それでも。

「ぐぶっ!?? がっばぁがぁ・・・・・!」

 バゼットの拳がオーギュストの体をクの字におり、壁まで突き飛ばす。

 空気をすべて吐き出し。肋骨が数本折れていることが確認できる。痛みの度合いから内臓が破壊されている可能性すらあった。

 大砲以上の一撃。

「オーギュストッ!!!」

ルヴィアが叫ぶ。

「お嬢・・・・・・様。お行きくださいま、せ」

「っく・・・・・・!」

 足を速めるルヴィアを、バゼットが追う。

 それを眺めながら、オーギュストは一つの武器を手に取った。

 対戦車ライフル・ボーイズMkI。

 それは最後の悪あがき。

「これ・・・・・・でも、あなたを倒すには足り――ない、のでしょう・・・・・・」

 当たれば人間などひき肉にできるこれをつかってなお。

「しかし、あなたの動き・・・・・・は少々固すぎ、ます。ここぞという時あなたは拳・・・・・・を使って防御を図る」

 それは拳を攻撃と防御どちらも兼任しているからこそ、より強固なルーンを手袋に刻んでいるため。

「背中・・・・・・を、見せたのはしっ・・・・・・敗でしたな」

 オーギュストはその引き金を引いた

 

   

 ルヴィアが宝物庫で見たバゼットは、片腕から血を流した状態で姿を現した。

(オーギュスト、やはりあなたは最高ですわ)

「宝物庫・・・・・・ですか。カードをとりに来たというわけではないようですが」

 宝石の輝きが天井まで覆うほどに大量の宝石部屋の奥、ルヴィアは真っすぐバゼットを見る。

「いささか拍子抜けです。あなたにはゼルレッチ卿から特殊魔術礼装が渡されているはずなのですが。使わないのですか。・・・・・・それとも”使えないのですか”?」

 ルヴィアはその顔に笑みを浮かべながら。

「その前に一つ訂正させていただきますわ。ここは宝物庫ではなく私にとっての武器庫、そして魔術礼装は使わないのではなく、使う必要がない、が正解です」

 瞬間。

 万にも及ぶ宝石が宙へと浮く。

 一つ一つが高威力をもった爆弾。

「耐えられますか?」

 そして、それは一斉にバゼットへと襲い掛かる。

 

 部屋の一部を塵へと変え、もはや部屋と呼べべなくなった瓦礫の中。

「エーデルフェルト家は誇り高い。ですが、それは私に言わせればただのおごりです」

「がっ・・・・・・っは・・・・・・」

 ルヴィアは壁へと叩きつけられ、首を締めあげられていた。

 すべての宝石が飛来する前。必要最低限の宝石だけを打ち落とし。発動前にルヴィアを潰す。強引すぎる作戦ともいえない作戦。だが、それを容易にこなしてしまうだけの力がバゼットにはあった。

「カードの場所をいなさい」

 強すぎる。

「・・・・・・い、言えませんはね。それに」

美遊達(あの子たち)を巻き込むわけにはいきませんので・・・・・・!)

 ルヴィアの視線が自身の手へと移る。

 そこには無数の宝石が光を放っていた。

「――!? させませっ!?」

 バゼットの首筋に軽い痛みが走る。

 背後を見ると、女の影が微かに見えた。

 威力から察するにガンド。

 言わずもがな凜の仕業である。

 そして、その一瞬が隙になると判断したバゼットは、反射的にルヴィアを壁へと叩きつけた。

「くっはっ・・・・・・!! 仕方、ありませんわね・・・・・・」

 飛びそうになる意識を無理やり保ちながら。ルヴィアはそれを行った。

 先ほど発動し損ねたすべての宝石がその場で大きな光を放つ。

「まさか・・・・・・!」

「美しくはありませんが」

 次の瞬間。屋敷を崩壊させるほどの大爆発がその場で起こった。

 

 

 ****************

 

 

 クロとイリヤはルヴィアの家の異常を感知しそれを目撃した。

 確かに聞こえてきたのは爆発音だ。

 でも、これは・・・・・。

 崩壊した屋敷。

 ところどころ火種でもできてるのか夜の空を赤く染める。

「なに・・・・・・これ・・・・・・」

 目の前の異常に、イリヤは言葉に力が入らない。

 クロですら何が起きたの混乱している状態だった。

 二人の目に映るのは二つ。

 崩壊した屋敷、それと―― 

 

 そこから歩いてくる一人の・・・・・・赤い髪の女性だった。

 

 

 

 

 

 

 

  




呼んでくださりありがとうございます!
楽しんでいただけたでしょうか?

次回もよろしくお願いします。

士郎「俺なんかキャラ違くね? シスコンすぎね?」
作者「お前オリ主だから」
クロ・美遊・イリヤ「どっちのお兄ちゃんも大好き!」
士郎「シスコンでいいや」


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21話とかとか~♪ 2way バゼット編 覚醒する魔法少女

バゼット編は三話完結を目指してます。
なので少し詰め込み過ぎな感は否めませんが、その分今話はいつもより長い話になってます。

視点の移動が激しいので、読みづらかったら教えていただけると助かります。
どうにか工夫しますので!!

それではどうぞ!!



 

 

 クロは目の前にいる女をやばいと思った。

 理由ならこの状況だけで十分だ。

 だってそうだろう。崩壊た屋敷から現れた見知らぬ女。これで警戒しない奴はよほど頭がお花畑に違いない。

(魔力はある程度あるわね。これなら多少戦闘になっても大丈夫・・・・・・・――っ!!?)

 反応できたのは偶然だった。

 イリヤの前まで迫っていた女の拳と、クロの『干将・莫耶』が衝突する。

 ――いきなり何を!? そう問おうとしてクロの腕がわずかにきしむ。女は、真豪事なき英霊の、しかもランクは低いとは言え宝具の防御を押し切ろうとしていた。

「――ッ!!・・・・・・嘘!!?」

 相手の力にクロは驚きを隠せない。

「っく!! このッ!!」 

 クロは女を弾き飛ばす。

 それでも。腕のしびれが止まらない。

「侵入者用の警報が鳴らなかったので関係者だと思い攻撃しましたが、どうやらあたりの用ですね。次からは手加減しなくて済みそうだ」

「なによそれ」

 思わず顔がにやける。

 今ので手加減? しかも、感で攻撃してきた? こんな子供相手に?

 笑えない。ああ、笑えない。

 これなら通り魔の方が数百倍かわいいだろう。

「なに!?? なんなのあの人!?」

 いつものごとく頭がお花畑なイリヤ相手に、クロは言った。

「あれは敵よ」

 敵? なんの? そうイリヤが聞く前にクロが叫ぶ。

「早く転身しなさ!! あれは本気でやばいのよ!」

 攻撃を食らったからこそ分かる。あの威力はくらえばただじゃすまない。もし、ただの肉体でそれを食らったりしたら、最悪死ぬ。

 そこまで理解したからこそ、クロは焦っていた。

 イリヤは日常と魔術、二つの世界の切り替えが遅い・・・・・・と言うか混合させてる節がある。もちろんそれが悪いとは言わない。むしろイリヤの周りからしたらいい事だっただろう。なぜならおかげでイリヤとクロは殺し合いをしないで済み。美遊との関係も良好だ。

 良いとこどり、と言えば聞こえが悪いが。自身の関係のある時、好きな時に魔術の世界へと足を踏み出すイリヤは、よくも悪くも自身の足でしか踏み出さない。

 知らぬうちに、理不尽に巻き込まれることをほとんど想定していないのである。

 だから周りが教えるしかない。今この状況は危機なんだと。すでに魔術の世界なんだと。

 そんなクロのその焦りは、結果的に最悪な形に行き着いた。

 イリヤの方へ目をそらした一瞬、彼女はクロへと迫っている。

「(加速のルーンを足に!!)――やばッ」

 反射的に防御ができたものの。その体は宙へと浮く。

 

 『次からは手加減しなくて済みそうだ』

 

 忘れていた。女はそう言っていたはずなのに。そして。

 クロの体は吹き飛ばされ。

 

 流れるように。女の二撃目がイリヤへと迫った。

 

 大きく後方へ弾き飛ばされたクロだが、黙ってそれを見ているわけがない。ダメージを食らったわけはないのだ。とは言え腕は痺れて動かない。ならば。

「『全投影連続層写(ソードバレルフオープン)』」

 クロの背後に浮かびあがる無数の剣が、女へと放たれた。

 それは、もし士郎が行うなら、四工程以上必要な行為。複数の宝具を投影し、連続的に射出する。言葉だけなら簡単だが、それには凄まじい集中力が必要だ。なぜなら慣れていない宝具の投影だけでもいざ知らず、投影後の制御までおこなっているのだから。

 だがクロはそれをほとんど反射の域。ノータイムで繰り出した。

 もちろん、彼女が英霊を宿していたのも理由の一つだろう。だがそれだけじゃなかった。それは魔力でのごり押し。

 魔力の喪失がそのまま命へと直結するクロならば、まず行うはずのない愚行。

 それでも。

 

 ――イリヤに手を出そうというのなら(・・・・・・・・・・・・・・・)!!

 

 クロは迷うことなくそれをする。

 

 

『ねぇクロ? 私がお姉ちゃんでいいよね。ううん私がお姉ちゃんであるべきよ』

『何言ってんの? 姉で求められるのは包容力に気遣い、責任力とか無数にあるのよ? あなたは何一つないじゃない。結論から言って、姉であるべきはこのあたし』

『クロなんて、お兄ちゃんに甘えてばっかじゃない!! 私はそんな人物姉とはみとめませーん』

『は!!? そんなこと言ったらそんな慎ましい胸しか持たないイリヤなんか姉とは認めないわよ!! そもそも正確な生まれはあたしの方が――』

『あーー!! クロが言っちゃいけないこと言った!! 大きさなんてほとんど変わらないはずなのに!!!』

『なら勝負でもする? どうせあたしが勝つけどね』

『受けて立とうじゃない!!!』

 

 

「まだ勝負はついてないのよ・・・・・・。まだ引き分けたままなんだから!! だから――」

 

 

『どっち美遊?? どっちの方が教室に入るの早かった!!』

『あたしの方が早かったわよね!? てか転身してまで互角って、それはもう私の勝ちじゃないの?』

『存在チートが何言ってんの!?』

 

 

「あたしの家族に!!」

 転移。クロは女の背後へと移動した。

「手を・・・・・・出すなーー!!!!!!」

 前方からは無数の剣。背後からクロの斬撃。見るからに隙など無い攻撃に、女は。

「面白い策ですが・・・・・・。あなたを潰せばそれで終わりだ」

 ボゴッっと、鈍い音を立てながら、クロの腹部へと拳がつき刺さった

「・・・・・・かッ・・・・・・はっ・・・・・・!!」

 今度こそ本当にクロは吹き飛ばされた。

 腹部への激痛と、後方への強いベクトルを感じながら、クロは視界に映るそれを見て、女が何をしたか把握した。

「・・・・・・ま、さか・・・・・・!!」

 女の体には数本の剣が刺さっていた。

「軌道さえわかっていれば、よけるのはたやすい。ただ、問題はその数でした」

 体に刺さる剣を何でもないように貫きさり。

「だからあえて受けることにした。よほど腕がいいようですね。『ほとんどが致命傷になるところ』へ飛んできた。なら話は簡単だ」

 カランカラン、と女に刺さっていた剣が地面へと落ちる。

「致命傷になるそれだけ避ければ良い。それさえ避けてしまえば、後は痛いだけで済む程度になる。幸い『ほとんどが致命傷に向かって来ていた』ので、残りは数本で済みました」

 その言葉を聞き、クロはありえないと首を振った。

 人は自身に瞬間的に脅威が近づけば、必ず回避から思考に浸る。それは、判断力を低下させ。次の選択しである防御まで影響を及ぼす。

 だが女は、その過程がないほど瞬間的に最適解を導いた。その冷静さは、所見殺しのクロの転移に反応できたことからも明白だ。

 だがクロは知らない。彼女の持つ武器を。それさえ知っていれば今回の事も理解できたはずだ。 

 簡単な話だった。彼女の武器は基本的に後出しだ。しかも、あいての全力の技が発動しなければ使うことがかなわない限定なもの。だからだろう。要するに、彼女はその程度の脅威には慣れていたのだ。脅威に対して冷静に対処する。それができなければ彼女の武器は武器として機能しない。理不尽な武器は理不尽な使い手を持って初めて真価を発揮する。今回のそれはその副次結果にすぎなかった。

 

「ほう、まだ立ちますか。少し感心しました」

 転がってる瓦礫にてをつきクロは立ち上がった。

「こ、の程度攻撃、立てないほうが驚きよ・・・・・・」

 軽い挑発。

 だが、彼女からしたら粋がった子供以外の何者でもない。

(硬化のルーンに加速のルーン・・・・・・。ルーン魔術はそこで知識があるわけじゃないけど、これはそんな単純な魔術じゃない)

「そうですか。なら今度は少し強めに行きましょう。私はあちらの少女に用がある」

「少し強めに・・・・・・ね。そうゆうこと、理解したは。あなたのそれはルーン魔術の重ね掛け。何重にも同じルーンを重ねて刻むことによって、実質・・・・・・物質の限界値まで無限に力を上げる。全く、理不尽すぎる魔術ね」

「――ッ。よく気づきました。なるほど、まったくの素人と言うわけではないようですね。まあ隠していた訳ではないので問題はありませんが・・・・・・どちらにせよ」

 そして。

 女は動いた。

 クロも構える。

「そろそろ終わりにしましょう」

 

 ともに人の枠を超えた化け物。その一端を使い、理不尽な暴力を振りかざす。

 

 

 

 イリヤは二人の戦いを見ている見ているしかできなかった。

 だが、それはイリヤが原因ではない。

「ルビー! どうしたのルビー!! 早く転身しないとクロが・・・・・・!!」

「・・・・・・・・・・・・」

 ルビーは答えない。否、答えられない。ルビー自身、どうするべきか答えが出せないのだ。この場でルビーだけが知ってる事実、それがイリヤに戦闘させることを拒んでいる。

 しかも、ルビーの考える可能性をクロに肯定されてしまった。

 それは英霊を宿すクロですら敵わないという事実。もちろん相性はある。見るからにクロと彼女の相性は最悪だった。クロにはイリヤと言う守る対象がいることも大きいだろう。

 ただこの場で確かなことは『バゼット・フラガ・マクレミッツには敵わない』と言う事実だった。

 しかも、見るからに、ルヴィア達は彼女に敗北した後なのだろう。最悪、凜や美遊すらあの瓦礫の下にいる可能性もある。

「ねぇルビー! どうしちゃったのいったい!!?」

 イリヤのその叫びに答えたのはルビーではなかった。

 

「ペンタグラムに鳥の羽。どうやらそれがゼルレッチ卿の特殊魔術礼装のようですね。なぜあなたが持っているのカわかりませんが抵抗しなければ身の安全は保障しましょう」

 

 なんで気づかなかったのか。先ほどまでの戦闘音がきれいさっぱり消えている。

 土煙の中から姿を現すそれに、イリヤはかろうじて声を出す。

「あなたは・・・・・・なに?」

 それに答えたのは、彼女ではなくルビーだった。

「彼女は・・・・・・バゼット・フラガ・マクレミッツ。私たちが行ってきた、カード回収。その前任者です。・・・・・・おかしいと思いませんでしたか? 私たちが回収任務を始めた時最初から二枚のカードがありました。それを仕留めたのが・・・・・・彼女です」

 アーチャーとランサー。

 見たこともない相手ではどれだけの強さか分からないが。今まで英霊と戦ってきたイリヤはその強さがある程度は想像できた。

 しかも、複数人で回収を行ってきたイリヤたち対し、バゼットは一人。

 クロを圧倒したその戦闘能力からもその実力は確かなものだった。

「そう、カード回収は本来私が行っていました」

 ルビーが引き継ぐように、

「しかしそれは、正式に凜さんたちが引き継いだはず。なぜ今更あなたが・・・・・・!」

「なに、上の方でパワーゲームがあっただけです。・・・・・・先ほど、屋敷の方から四枚のカードを回収しました。しかし足りません。あなたがそれを持ってると言うのなら渡しなさい。でなければ強制的に回収を執行します」

 それを聞いて、ルビーは自分がなにをすべきか悟った。

 カードを渡せば引き下がってくれる。もちろんイリヤがルビーを持っている事実は伝わるだろう。それはルビーにとってイリヤとの契約解除と同義だった。それでも、イリヤの命が助かるのなら安いものだと。

「イリヤさん、彼女の目的がカードだというのなら――」

 しかし、その言葉を遮るように、ルビーのふざけた未来をぶった切るように。

「ルビー、転身をお願い」

「――! 今のイリヤさんには勝算はありません! ここはカードをわたすべきで「ルビー!!」――ッ」

 カードと命わかりきった二択を用意されてなお。

 イリヤは、ルビーの言葉を遮った。

「ねぇルビー私、今すごく怒ってる」

 静かだが、確かな怒気をはらんで。

「カード? 確かに奪われるのは気に入らない、でも”今は”そんなものどうでもいい。そんなことより、上のパワーバランス? そんなふざけた理由で・・・・・・! その程度の理由で!! 私の家族を攻撃したあいつの!! クロをあんな目にしたあいつの!! 命令なんか聞くことなんかできない!!!」

 恐怖はある。それでも。

「私は良いよ。私は自分からこの力を手にしたんだから。・・・・・・でもクロは違う。やっと、クロは生活を知ったんだ。家族を知ったんだ。笑顔を知ったんだ。それを!! こんな魔術(ばか)な理由で奪われるなんて、絶対に認めなんかしない!!」

 ――だから。と、そう続けて。

「ルビー、力を貸して」

 イリヤは言った。

「私一人じゃ絶対勝てない。でも、ルビーと一緒なら。絶対に負けない」

 イリヤの言葉に呆れながらも、ルビーは心底嬉しかった。

 だって、こんな少女(ばか)にこそ、ルビーは自分を使ってほしかったのだから。

「わかりましたよイリヤさん、だったらさくっと勝って終わりにしましょう」

 ステッキを持ったイリヤの手から、それは全身へと広がっていく。

 魔法少女として何度も着たその姿。

 けど今回は違う。今回だけは、誰に言われるわけでもなく、なんとなく流れで着たのでもなく。

 自分の意志でそれを着たのだ。

 

「かかってきなよ魔術師さん。遊んであげる」

 

 魔法少女はそう言った。

 

  

 

 静かに、イリヤの敵は語りだす。

「先ほどの少女の力あれは間違いなくアーチャーのものでした」

 イリヤスフィールも馬鹿じゃない。

 クロを圧倒したバゼット相手に、無策に突っ込むようなことはしない。

「そしてあなたはゼルレッチ卿の礼装を使う。何やら事態は教会の認識以上に混とんとしているようですね」

 しかし、忘れていないだろうか。イリヤスフィールは、魔法少女しては一流だということを。

「しかし、なんであれ私の仕事は変わりません」

 バゼットのグローブに幾何学的な文字が吸い込まれる。

 硬化魔術を強化。拳が光る。

 

「さぁ始めましょうか」

 バゼットがイリヤへと迫った。

 

 拳を引きながら迫るバゼットを見てイリヤは飛んだ。

 しかしそれは空中へ逃げるのではなく。ジャンプするような感覚で軽く浮いただけ。本来なら空中では身動きがとれなくなるそれは、イリヤにとっては最良の手だった。

 イリヤは自身の身体能力をよく理解していた。いかにルビーを使っているとはいえ、自分程度ではバゼット相手に肉弾戦で勝負にならないことも。頭の命令から、肉体をを動かすまでが遅すぎる。単純に自分の体を使うという行為になれていない。

 だからこそ、その移動法を魔力限定にした。

 イリヤはイメージによって一瞬で空を飛ぶことに成功したことがある。つまり、避けるというイメージをそのままアクセスできる空中移動の方が、確実だと考えたのだ。

 わずかに足を浮かせてるだけ。それなのに、イリヤの反応速度は大幅にアップした。

 

 砲弾並みの速度で迫るバゼットの拳をイリヤは避けた。地に足がついているなら、体を反らすことで精一杯のそれを、体全体で。

 それによって、体制を崩されることもなく、確実に敵の側面をとったイリヤは近距離で攻撃することに成功した。

「『放射(シュート)』!!」

 いくら出力が弱いとは言え、当たればダメージ必須のこの距離を。

「小賢しい」

 バゼットは突き出した腕の遠心力で、横なぎ打ち落とした。

 イリヤの出力ではバゼットの拳に通用しない。 

「――ッ! だったら!」

 魔力弾を地面に放ち視界を塞ぐ。

「『斬撃(シュナイゼル)』!!」

 見えなくとも当たる。煙を引き裂きながら。それは真っすぐバゼットへと進む。

「無駄です」 

 一蹴。魔力の刃を握りつぶす。

「・・・・・・」

 イリヤはそれを見ても何も思わない。これぐらいは予想できた。だから。これを踏まえて確実に勝てる次の一手を。

 瞬間。イリヤは飛んだ、今度は文字通り空中に。遠距離戦に切り替えたわけではない。単純に『こちらの方がよく見える』から。

「『斬撃(シュナイゼル)』+『トリプル』!!」

 魔力の刃が分裂した。ただの放射(シュート)を散弾としたように魔力の刃を複数放つ。

「無駄だというのが分からないのですか」

 でもそれすらも届かないのであろう。だから――。

「――なッ!??」

 驚きの声を上げるバゼットに、

 

「うん。無駄だと思うよ。その拘束された手足でよけるのは」

 

 イリヤは静かに口にした。

 物理保護壁による拘束。空中に固定し、本来であるならば敵の攻撃に対する防御に使うそれを、腕と足の周りに作り、身体を固定する。

 凜達ですら難しいあろうそれを、イリヤはイメージだけでものにする。

 細かい計算など必要ない。『魔法少女は飛べるんでしょ?』あの時と変わらない。妄想を極限まで昇華させたイメージの具現化。魔力をイメージ通りに再現するルビーと言う魔術礼装は、イリヤと最高以上に相性が良かった。

 そして。

 ステッキを前に突き出しながら。イリヤは勝利宣言を行った。

「『最大爆砲(フルバースト)』!!!!」

 瞬間的に行う放射(シュート)でも、威力無視の散弾でもなく。一定時間魔力をためての、イリヤの最大出力。

 斬撃(シュナイゼル)爆砲(バースト)、二つの脅威が、動けないバゼットへと向かっていく。

 

 

 放った魔力の爆音を聞きながら、イリヤはそれを眺めていた。

「ルビー、どう思う?」

「私にもわかりません。しかし、警戒はしておくべきだと思います」

 倒したという確信はあった。それでも、バゼットが倒れるイメージがイリヤには湧かない。

 数秒後。土煙が晴れる。

 そこは隕石でも落ちてきたのかと思うほどのクレーターが出来上がっていた。それを見て、イリヤの心配は杞憂だと考え始める。あれで倒せなかったらあいつは人間じゃない。 

 安堵の表情を受けべるイリヤの顔が、徐々に曇り始める。

「・・・・・・。――なッ!!!」

 バゼットの姿がどこにもない。消し飛んだということありえない。

「なら・・・・・・どこに!?」

 この時イリヤは気づくべきだった。

 

 ――自分は何を悠長にしているのだと。

 

 そして、それに気付いた時はすでに遅かった。

「隙だらけです」

 背後から。イリヤが振り向くよりも早く。

 バゼットは拳を振りぬいた。

「――っぐ!! ・・・・・・あがぁ・・・・・・!!」 

 脇腹に突き刺さる拳を感じた直後。イリヤは地面へと真っすぐたたきつけられた。

 

「ああ、あああああああああああ!!!」

 

 地面にたたきつけられた痛みよりも、脇腹の痛みが治まらない。

 呼吸ができない。骨がきしむ。かろうじて呼吸ができても、それが痛みを助長する。

 痛い痛い痛い痛い。

 そこへ。

「先ほどの攻撃。確かに凄まじい威力でした。さすがはゼルレッチ卿の魔術礼装と言ったところでしょうか」

 バゼットはイリヤを見下ろしながら、上から目線で評価する。

「拘束が二重であれば回避も防御も不可能だった。大したものです」

 痛みを堪えながら、

「・・・・・・な、んで。飛んでた、わた、しの・・・・・・背後か、ら・・・・・・?」

 かろうじて話せるようになったイリヤは、先ほどの攻撃がなんでできたのか分からない。

「それも含めて評価します。恐らく、私が飛んでも届かない距離、『なおかつ』もしもの何かしらの手段で拘束を抜けられた時、私が避けられない距離にいたのでしょう。しかし・・・・・・だからこそ届くことができた」

 それを聞いて、イリヤは完璧なまでに敗北を理解した。

 おそらく周りの木々やら、何らか魔術を使って移動したのだろう。彼女実力を把握しきれてるつもりで何も把握しきれていなかった。

 あれでも手加減していたのだろう。それすら見破れなかったのだから。 

 自身のカードケースに手を伸ばすバゼットをイリヤは止めることができなかった。腕が動かない、視界がぼやける。今まで味わったことない痛みに、体が脳からの命令を拒んでいる。

「やはりカードを持っていましたか。これで残り二枚。いいえ、先ほどの少女のも合わせると一枚ですか・・・・・・」

 が、その時。

 

「誰のカードを奪うって?」

 

 クロの蹴りがバゼットを吹き飛ばす。

「まー、一発ぐらいはやり返さないとね。対して効いてないのでしょうけど」

「・・・・・・く、ろ?」

「――ッ、先ほどの少女ですか」

 クロの予想通り、バゼットは何でもないように立ち上がる。

「立ちなさいイリヤ。一枚もカードを渡しちゃだめよ!」

 この時間稼ぎになんのいみがあるかは分からない。それでも、悪あがきと知ってなお、

「思ったより早く目が覚めましたね」

「あんなボディーブローくらったら誰でも起きるっつーのよ」

 

 クロはバゼットへと向かっていった。

 

 

「そう、だよね。・・・・・・あんな奴に、わたせないよね・・・・・・」

 地面を這いずりながら進むイリヤにルビーは、声を上げる。

「イリヤさん動いてはダメです!! 治療に専念しなければ最悪命に危険が――!!」

「それは・・・・・・ダメ。せっかく、クロが足止めしてるんだから・・・・・・! 私がこんなこと・・・・・・で負けて、ちゃ・・・・・・!!」

 前に進んでいるのかすら分からない。

 たった一発しかくらっていないのに、これほどのダメージを受けたことが思いのほか驚きだ。

 笑みすら痛みを引き出すというのに、思わず笑ってしまう。

 だって。

「・・・・・・届いた。カードに届いた」

 その手に、カードが確かに握られたいる。しかし――

「子供にしてはよくやりました。が、カードから手を放しなさい」

 バゼットの足が、イリヤの手を縫い付けた。

 骨に直接触られているような、声にならない痛みがこみあげてくる。

 クロももう動けない。

「い、嫌だ・・・・・・!!」

「手加減しているのがまだわかりませんか。その気になれば骨を踏み砕くこともできるのですよ」

「そ、それでも、絶対に離したりなんかしない・・・・・・!!!」

 キッとバゼットをにらみつけるイリヤの目には確かに力があった。

「なら!! 覚悟を決めなさい・・・・・・!」

 バゼットの足が振り下ろされる。

 怖い。それでも、絶対に話すもんかと。イリヤはカードを握る手に力を入れた。

 

 

 

 バゼットは、足を振り下ろす瞬間。

 視界の端でそれをみた。

(これは!! もうひとつの魔術礼装!! ――しまッ!?)

 青い光がバゼットを襲う。

 完全に防御したわけでない、しかしダメージがない。おそらく、牽制程度の一撃だったのだろう。

「次から次へと・・・・・・!!」

 バゼットに攻撃してきたのはまたしても子供。

 ただ、青い魔術礼装を手に持ったもうひとりの魔法少女。

 その少女は、バゼットなど気にも留めない様子で、倒れている少女の手をとった。

「ごめんね、美遊。私も、クロも勝てなかった・・・・・・守れなかった。せっかくみんなで集めたカードなのに・・・・・・! 一枚しか守れなかった!!」

 涙を流していた。それほど悔しかったのだろう。痛みでは決して流さなかった涙を、美遊を前にして耐えられなくなってしまった。

「大丈夫」

 ただ一言。

「まだ私がいる。私が残ってる」

 カードを手に持った少女は、確信の言葉を持って。

「私が倒す。イリヤ達は、私が守る!! 『――――』!!!」

 直後、口にした言葉によって、少女は光へと包まれた。

 

 バゼットがそれを認知した時には、すでに目の前にそれはいた。

「うッ!! ・・・・・・ぐ!!」

 防御は間に合った。ルーンの強化もしていた。それでも。

 押し切られる。

 反射的に後ろへ飛んだバゼットは、初めて自身から身を引いた。避けるならば前に出て叩き落す。そんな戦闘を行っていたバゼットが、初めて背後へと下がったのだ。

 再度。バゼットを押し切った光が、攻撃を仕掛ける。

(やはり、抑えきれない!!)

 弾き返すのがやっと。いや、本来それができるだけで十分すぎるほどだった。光の正体が、星が輝く夜空を背後に姿を現す。

「桁違いの突進力。そうか・・・・・・! それが! ライダーのクラスカードの力!」

 白い輝き。真豪事なき幻獣『ペガサス』。

 幻獣の召喚とその騎乗。ライダーの能力。その一端。

「なるほど。確かに強力です。それに――」

 バゼットの思考が終わる前に、少女と幻獣は流星のごとく白い光となって。バゼットへと迫る。

 だが、何度も同じ手でやられるほど、バゼット・フラガ・マクレミッツは甘くない。

 ルーンをさらに重ねる。二重、三重。そして、

 二人が衝突する。

 その攻防は互角。だが、バゼットをしてはじき返すことがやっと。

 対してむこうは、未だに本気ではない。宝具ですらなく。ただ幻獣を使い突進しているだけ。さらには空で見下ろす少女へ、バゼットは攻撃するすべがない。ただ、それよりも。

「・・・・・・仮説はありました。礼装を媒介として英霊の力を召喚できるのならば、人間自身をも媒介できるのではないかと、しかし、カードの魔術構造は極めて特殊で複雑。教会ですら完全に把握しきっていない。それを、いともたやすく・・・・・・」

 圧倒的優位の中少女は口にした。

「一つだけ答えて。ルヴィアさん達の姿が見えない。どこへ行ったの」

 この質問は悪手だった。

 バゼットが相性最悪のライダー相手に、確実に勝つ道筋を作ってしまった。

「彼女たちなら、瓦礫の下です」

 その言葉に、少女たちが息を呑む。最悪の可能性が最悪へと変わったのだ。

 ――そう、と。少女は静かに口にした。

 

「なら、手加減は――しないッ!!」

 

 バゼットは認識する。

 ――宝具の発動を確認。――『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』アクセスを容認。

「この時を待っていた!」

 彼女が持ち歩いていた銀色の筒から、”現存する宝具”『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』が姿を現す。

 『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』それは、バゼットが用いる迎撃礼装。相手の攻撃より後に発動しながら、時間を巻き戻し、発動前に心臓を貫くそれは、心臓を貫かれた状態では攻撃は行えないという矛盾点の構築により、相手の攻撃をキャンセルするというもの。

 さらには、心臓を穿たれた相手は、攻撃を放つことによって自身が死ぬという、事実上、切り札の封印を余儀なくされる。しかし、本来バゼットがフラガラックを発動するには相手の切り札たる攻撃が必要になる。それはつまり、相手に切り札を使わせるほどに追い詰めなければならないということであり、先ほどの状況では、少女が宝具を使う可能性は低かった。

 だからこそ、少女がなんの疑問を抱かず宝具を使う状況を作り上げた。

 怒り。復讐による本気の力。

 誘導さえしてしまえば、少女は迷うことなく宝具を使うと。

 

「『後より出て先に断つもの(アンサラー)』」

 

 その詠唱により、黒い球体状だった『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』は幾何学的な模様を周囲に浮かべながら、その形を一つの剣へと変えていった。

 そして、

 

「『騎英の手綱(ベルレフォーン)』!!!!!」

 

 少女が宝具を発動したのと同時に、バゼットは自身の勝利を確信した。

 

「『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)!!』」

 

 その瞬間、二人の時間が止まり。遡る。そして。

 『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』が地面に落ち、発動を終えると同時に、先ほどまで天空に漂っていた少女も地に落ちた。

「なに、が・・・・・・起きたの・・・・・・?」

 地面から起き上がった少女を見って、バゼットは首を曲げるも、

「なるほど。幻獣をを使っての宝具のためか、あなた自身が貫かれたわけではなかったようですね」 

 納得するように呟いた。

 バゼットが周囲を見渡すも、すでに立ち上がれるものはいない。

(万策尽きた、か)

「――美遊ッ!! 後ろ!!」

(遅い)

 辛うじて立ち上がった少女の腹に、バゼットは拳をえぐりこませる。

「「美遊!!」」

「・・・・・・がぁッ・・・・・・はッ!!?」

 子供を相手にしても、すでにバゼットは容赦しない。

 『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』を使い死ななかっただけでも御の字だろう、と。

「さて、最後はアーチャーのカードのみですが、おとなしく渡してくれる気になりましたか」

 よろよろと立ち上がるアーチャーのカードを持ってるであろう赤い服の少女を見て。

「ざーんねん。渡したくても渡せないのよね。カードは私の中にあるんだから」

「なるほど。どういった理屈かは分かりかねますが、黒化英霊と同じ状況と言うわけですか」

 そのまま。――でしたら。とそう続けて。

 

「抉り出すまでです」

 

 

 

「――!!」

 その言葉にクロの表情が凍る。

 さっきのは最後の希望だった。クロの中にあるといえば、諦めてくれるかもしれないと。しかし、そんな希望すらはかなく散った。

(殺される。殺さなくちゃ殺される・・・・・・!! でも――)

 クロは死と言うものを知ってる。

 だからこそ、相手を殺す選択肢が出てこない。殺されると分かってなお、答えを見つけ出すことができない。

 突如。ドンッと、バゼットに一つの砲弾が放たれた。

 威力は弱く。簡単に打ち落とされるそれは。

「イリヤさん何をしているんですか!?? 今は治療に専念しないと!!」

 ルビーの言葉を無視するようにイリヤはよろよろと起き上がる。

「やらせない・・・・・・」

 その目はバゼットを見ていなかった。いや、正確には判断すらできなかった。それでも

「私の妹は、何が何でもやらせない・・・・・・!! だって・・・・・・絶対に守るって決めたんだから!! 絶対に傷つけさせないって誓ったんだ・・・・・・か、ら」

 しかし、壊れた人形のようにプツリとイリヤは倒れこむ。

「イリヤ!!」

 クロの声が聞こえているかも怪しかった。

 完全なる肉体の限界。

「最後までよくやる。だが、これでおしまいだ」

 拳を握りしめたバゼットが、それをクロへと振りかざす。

 防御に行動を移せない。回避へと足が動かない。

(やだ。やだよ・・・・・・!!)

 

「誰か・・・・・・助けて・・・・・・」

 

 届くはずのない声。

 それでも。

 

 泣きそうな顔で発したその小さな声は、確かに届いた。

 

 始めに気付いたのはバゼット。

 それは人ではなく剣。自身に向かってくる二振りの剣のそれに気づいた。

 そんなもので倒せる彼女ではなく、簡単に後方へよけられてしまう。

「そろそろ、援軍も尽きたと思ったのですが・・・・・・」

 クロの前に現れた二本の剣。交差するように突き刺さるそれは『干将・莫耶』。

 しかし、それはクロが投影したものではない。

 

 トンと『干将・莫耶』の柄に少年は降り立つ。

 

「こんなに怒りを覚えたのは久しぶりだ。さて、これをやったのはどこのどいつだ?」

 

 少年は、軽く周囲を見渡すと、怒気を含ませながらそう言った。

 それを見て、クロは、そして美遊も、声を聞いているだけのイリヤですらも、安堵の表情と涙を浮かべている。

「それについては私がやりました。あなたも邪魔だてしますか?」

 バゼットを見たその少年は、驚いた表情をした後、すぐに納得したような顔をする。

「なるほどな。・・・・・・わかってると思うが俺は心底機嫌が悪い・・・・・・が、今ならまだ見逃してやる」

 すべてを理解しているように、

「カードを置いて帰るか選ばせてやる。今なら魔術教会を敵に回してもいい気分なんだよ。バゼット・フラガ・マクレミッツ」

 ああ、すべてを知っていたからこそ自身に怒りを抱いて。 

「見逃す・・・・・・ですか・・・・・・。カードの事も知ってるとなるとあなたもやはり関係者だというわけだ。しかし、私の事を知ってるのは解せませんね。あなたは何者ですか」

  

 その問いに、士郎はふざけたように口にした(・・・・・・・・・・・・・・)

 

「『正義の味方』だ、クソッたれのな」

 

 遅れてしかやって来れないヒーロー(・・・・・・・・・・・・・・・・)、それを揶揄するように、彼は自身をそう呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 




 呼んでくださった方ありがとうござます!!

 今回はなるべく原作通りに展開しながら少し中身をいじくった感じに仕上げました。
 
 
 少し報告があります。
 
 近作品は、作者があまりプリズマイリヤを深くしらないで書いております。Fateの魔術についてもあまりよくわからないで勢いで書いてしまっています。
 もちろんいろいろ調べながら書いていますし、アニメも見たうえで書いてはいますが、詳しい方はところどころ違和感があるかもしれません。
 ですので、間違いや、明らかにおかしいところは、感想で教えていただけると助かります!
 
 例えば今話のバゼットのルーン魔術の重ね掛けなどはアニメを見たうえで自身で設定した魔術なっています。あえて設定を変えてる部分も確かにありますが。原作主義者の型には大変申し訳ございません

 それでも問題ないという方は、この作品をよろしくお願いします

 それでは、今話もありがとうございました!!


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22話とかとか~♪ 2way バゼット編 正義の味方(前編)

 まずは初めに、また時間空いてしまって申し訳ありません。
 久しぶりに書いて書き方忘れていて時間かかってしまいました・・・・・・笑。
 
 バゼット編は三話構成のはずだったのですが、想いの他長くなってしまったので四話構成に変えました。

 以前貰った感想から、思いついたネタなので結構頑張ったかもしれません。

 ちなみに話数と次の話数には結構いろんな作品の戦闘シーンやら見どころシーンのネタをほおりこんでます。そういったところも楽しんでいただけると幸いです。

 それではどうぞ!!


 

 

 

 士郎がそれに気づいたのは偶然だった。

 空にはすでに太陽はなく、電灯の光が足元を照らす。少し遅いとはいえ、普段と変わらない学校の下校中。

 不自然すぎる光――否、自然すぎるぎる光を空に見た。

 その光は白く、しかし、輝くだけにはとどまらず炎のように揺らめいてすらいた。

「嘘だろ・・・・・・ッ! あれは、宝具!??」

 なぜ? と考える間もなく士郎は気づいた。カード回収が終わり、クロの一件も落ち着いた今、宝具が使われる場面なんて一つしかなかい。

 そこまで思考をして、士郎は飛んだ。正しくは跳躍。ただ、間違ってもジャンプなどと表現することができない距離を飛行した士郎は、そのまま屋根やら電柱を当然のように足場にして、その体を宙へと蹴り上げる。

 周りに人の目があったかどうかの確認すらしていない。いや、それをする余裕すら今の士郎にはなかった。

(間に合えっ・・・・・・!!)

 

 時間にして数秒。

 士郎がその場に着いた時、まず目に入ったのは瓦礫と化した屋敷と、燃える木々。

 ご近所として見慣れたはずの大きな屋敷は、見る影もなく崩れ去っていた。

「・・・・・・・・・・・・ッ!?」

 だが、次の瞬間その程度のもの(・・・・・・・)は士郎の視界から消えた。いいや、その表現は正しくないだろう。それは、ただ純粋に、士郎の目が他の一点にくぎ付けになっただけ。

 遠目ですらはっきりと見えた。

 クロに迫る女の拳。

 認識すると同時、今度は士郎がその場から消え――。

 

「『正義の味方』だ、クソッたれのな」

 

 ――女の前へと現れた。

 

 

 

 

 スーツ姿のグローブを拳につけた女。バゼット・フラガ・マクレミッツは目の前の少年、衛宮士郎をまっすぐと見つめる。

「あなたのおっしゃる通り、私は教会から遣わされたものです。さらに言えば、カード回収前任者でもあります」

 士郎は動かない。

 バゼットもそのまま続けた。

「・・・・・・ですので、それを邪魔するというのなら容赦はしません。あなたの後ろにいる少女をこちらに渡しなさい。でなければあなたも同様に排除します。――そこに転がってるステッキ保有者のように」

 バゼットは、ちらりと視線を後ろへ向けると、イリヤや美遊のことだと言うように指を指した。

 有り体に言ってそれは挑発だった。

 バゼットは魔術師として幽囚なほどに優秀だ。『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』があるからとか、封印指定執行者であるなどとはまた別に、単純に魔術師として優秀だった。

 魔術師として優秀。それはつまり、一般人とはかけ離れた世界にいるということ。凜やルヴィアと同じでありながら同じでなく、士郎や衛宮切嗣ともまた違う。完全なまでに魔術師としてその世界に生きるもの。

 であるならば、優先するべきはバゼットにとって任務であり、士郎の言い分など聞く必要がないのだ。

「あなたも手を引いた方が賢明です。そこの青い方の少女はたまたま死ななかった(・・・・・・・・・・)とは言え、重傷です。あなたも同じ目にはあいたくないはずです」

 故に――。

 

『俺は今機嫌が悪い』

 

 ――それを利用しない理由がない。

 相手が全力さえ出せば、バゼットには一撃で終わらせることのできる”それ”がある。 

 そして。

 バゼットの思惑通り士郎はキレた。

 地面を蹴り上げ、一直線に士郎はバゼットへ飛んだ。

 表現するなら弾丸のようだった。体を地面と平行に飛行し、螺旋的に体をひねりながら――回転しながら迫る姿はまさに銃弾。

 バゼットが構える間も与えず、士郎は肉薄する。

 単体で聞けばそれは、金属が何かに弾かれる音だった。ただ、螺旋的に繰り出したその剣激は、竜巻のごとく勢いを増していく。

 連続的に鳴り響く轟音。

 バゼットの拳と士郎の『干将・莫耶(かんしょう・ばくや)』が衝突する。

 

 宝具『干将・莫耶(かんしょう・ばくや)』には、お互いに引き合うという性質がある。それは磁石のようであり、特徴の一つと言えるだろう。普段ならばその性質を利用してブーメランのように扱い、相手の死角から攻めるのが本来の戦い方であり士郎の十八番だ。が――今回は違った。

 互いの引き合うと言う性質を利用し、『武器の距離を一定に保つ』。それによってまるで何かに固定されたように、『干将・莫耶(かんしょう・ばくや)』は動かない。否”弾かれない”。

 結果。

「・・・・・くっ!」

 バゼットの拳が弾かれる。

 パワーや技術ではなかった。自身の予想とは反した結果にバゼット自分の攻撃に疑問を持ってしまったのだ。故の敗北。

 そして腕が弾かれたという(・・・・・・・・・)一瞬あるのなら。士郎は次の手を容易に打てる。

 

「おい、こっちだぞ」

 

 音源は下。方向は背後。士郎はあえて声を出す。黒と白。迷うことなく士郎は二本の剣を突き出した。

 

 士郎はキレていた。が、それはあくまで冷静に・・・・・・。つまるところバゼットは失敗した。

 士郎は本来戦闘を好まない。温厚でありお人よし。その性格ゆえに全力が出せない・・・・・と言うことはないが、尻上がりなのは確かだった。その前提を、完全に破棄させてしまったのだから。 

 

 士郎の声に反応したバゼットは、振り向かずに士郎へ拳を振り回す。まるでブリッジに移行する途中のような。体制はいびつ、格闘家が見たらただ拳を振り回している小学生以下。そんな評価をされそうな攻撃だった。

 しかし、次の瞬間バゼットの体が浮いた。腕の回転を利用して足で体を蹴り上げたのだ。先ほどの士郎のように水平に。ただし、連撃を目的とした士郎とは違い、回転を勢いに加えての一撃。

 先に出した拳を避けられたのを確認し、士郎が避けられないタイミング、体重が完全に足に乗るその瞬間にそれを振り下ろす。正真正銘破壊の一撃。 

 轟音を生み。二人を中心に地面へ亀裂走る。

 二人は距離をとった。何事もなかったように初期位置へと。

 さきほどの攻防が嘘だったかのような静寂。

 ただ、何もかもが同じなわけがなかった。 

「お兄ちゃん!! そんな・・・・・・うそ・・・・・・でしょ?」

 声を出したのは士郎の背後にいたクロ。声を震わせながら、その目は、ある一点に固定されていた。

「はぁはぁ・・・・・・はは。腕一本程度、とは言えないかもな」

 クロの泣きそうな声に、士郎は引きつった笑みを浮かべる。

 ああ・・・・・・ああ、とクロは見ているものが信じられないと言うように・・・・・・。

 目尻には涙を浮かべへたり込む。

 なぜなら。士郎の左腕。その肘から先。

 

 それが吹き飛んでいたのだから。

 

 

 

 その光景の先。バゼット・フラガ・マクレミッツは膝をつく。

「・・・・・・ぐぶぅ――ッ!?」

 口から洩れる血の味を確認しながら、バゼットは先ほどの攻防に軽い恐怖を覚えた。

(あの少年、自分の腕を犠牲にして私に一撃を・・・・・・!!)

 おそらく、とバゼットは思考する。

 

 戦闘時に声を出す。その理由は連携であったり、気合を入れたり、心理戦だったりと様々ある。数ある理由の中から先の士郎のそれを分類するなら心理戦と言うのが一番近いだろう。

『おい、こっちだぞ』

 背後からの声にバゼットは反射的に攻撃した。そこだけを見るなら、声を出した士郎が間抜けであり、的確に絶大な一撃を当てることに成功したバゼットが上手だったのだろう。

 だが、今回のそれはそれだけでは終わらせてはいけない。

 士郎は分かっていたのだ。バゼットに対して、例え背後をとろうと不意を突こうとその攻撃は届かないということを。

 

 バゼットの最も恐ろしいところはこちらの攻撃に対して絶対が存在しないことだ。

 完全に不意を突こうが野性じみた感で防がれる。いくら攻撃を入れようと不死身であるかのように立ち上がる。全力の攻撃を放ったとしてもそれを防ぐ礼装がある。

 そんな概念じみた不死身性。それこそがバゼット・フラガ・マクレミッツであり、強者である理由だった。

 だからこそ、士郎はその概念の外側から攻めた。

 攻撃を繰り出す前に居場所を教え、急所ではなくとりあえず当たる場所へ攻撃を迫り、全力ではなくごく普通一撃を叩きこんだ。

 弱点やら破壊力で勝負するのではなく、バゼットと言うキャラクターの裏を突く。

 もとは読者だったからこそ、転生者であったからこその士郎の作戦。

 作戦というよりも博打に近い。

 しかし、だからバゼットは気づけなかった。気づかなかった。

 自身の力が誰かしらの設定、思考によって生み出されたなど、この世界の人間が思いつくはずがないのだから。

 

 とは言え、やはり士郎のほうが重傷だ。 

 攻撃が来ることも分かっていた。にも関わらず、過去バーサーカーの攻撃すら読んで見せた士郎がかわせない攻撃。

 早いとかそうい言った類ではない。そもそも、士郎も”最初”は避けたのだ。それをみたバゼットは、強引にうでを士郎の方向へねじ込んできた。

「そんなことすれば体が悲鳴を上げるだろうに・・・・・・。そこが化け物なんだよな彼女は」

 コンマの攻防をそこまで把握し、かろうじてとは言え防御して見せた士郎もまた化物じみているが、そこに無自覚なところがまた彼らしいと言えるだろう。

 士郎は自身の左腕を止血しながら、あきれるように、ただ――。

「確実に一撃は入れたぞ」

 ルヴィアの魔術を持って傷をつけられなかった敵を、英霊の力を持って勝負にならなかった敵を、最高の魔術礼装を退けた敵を。

 士郎は確実に上を行った。

 

 士郎の声に反応するように、バゼットは立ち上がる。

「確かに・・・・・・一撃は貰いました。思いの他ダメージが大きいのも認めましょう。だが、それで終わりです。あなたはすでに満身創痍であり、私はまだ十分に戦闘を行える。カード回収と言う勝負においてあなたは負けたのです」

「・・・・・・ああ、確かにその通りだ。全く持て言い返せない。けど勘弁してほしい、あくまで俺の力で一発入れてやりたかったんだ」

 その言葉に、バゼットは訳が分からないというように顔をしかめる。

「それはつまり、自分以外の力を使えば私には負けないと? 外側からの力・・・・・・あなたも宝具にしろ何かを持っているということでしょうか?」

 バゼットの思考は冷静だった。彼女が知る中でも、他人が開発した魔術や礼装を毛嫌いする魔術師は多い。士郎がそのタイプなのだと判断するのにそう時間がかからない。

 それを聞いて、声を上げたのはクロだった。

「待ってお兄ちゃん! あいつ相手に宝具は――」

「大丈夫だよクロ」

 優しい声で、その言葉を士郎は遮った。

「『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』・・・・・・だったか。因果を逆転させる「切り札殺し」。時を逆行して放つ先制の一撃。全く持って馬鹿げてた武器だ」

「知っているのであれば話は早い。そう、それが私の持つ礼装。つまり、すでにあなたに勝機はありません。あなたがどんな切り札を持っていようが、その強度は関係ない。事実、宝具を持ってそこの少女は私に負けた」

 何も間違っていなかった。

 一撃で必殺な武器など、バゼットの前では自殺行為。士郎がすでに戦えないというこの状況では、バゼット対するすべはない。

「いえ、それ以前の問題ですか。あなたもわかってているはずです。あなたでは私に勝てないと」

「・・・・・・」

 言うまでもなく、先の攻防でバゼットを仕留められなかった時点で、今のままのでは士郎に勝機はない。

「確かに、とっさの判断力。精神面。戦闘経験。戦闘時に要求される数多くのそれが、先程の少女達よりも遥かに高いことは認めましょう。・・・・・・しかしそれだけです。耐久性。速度にパワー。根底を担うそれらがまるであなたには足りていない。魔術の補強もあるようですが。それすらエーデルフェルト嬢のほうが圧倒的でした。総合力ではあなたは彼女達の中で最も低い」

「・・・・・・」

 士郎は答えない。

 なぜならその通りだったからだ。士郎は今いる中で一番弱い。英霊を宿してるクロはもちろん。カレイドステッキを持っているイリヤや美遊よりも。

 今まで主に英霊と戦っていたのは士郎であるが、その実、英霊を圧倒していたかと問われればそうではない。

 ライダー相手にとどめを刺したのは美遊であるし、キャスターも美遊のサポートがあって初めて戦うことができた。セイバーの時はアーチャーの足をひっぱる形にもなっていたし、さらに言えば勝利で来たのはアーチャーが投影した『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』があってこそ。バーサーカーにはそもそも攻撃を通した回数すら数えるほどしかない。

 負けはないが勝ちもない。試合に勝って勝負に負ける。

 それが今の士郎の実力なのだ。しかし――。

 

「それで終わりか?」

 

 衛宮士郎は問いかける。

「俺がお前に勝てない理由はそれで全部なのか? ・・・・・・もしそうだとしたら、お前は俺に絶対勝てないぞ」

 嘲笑すら交えて。 

「ダメージ回復なんて考えずに速攻で俺を倒しに来るべきだった。倒せる相手だと油断して、『傲慢』に説教なんかしなければ勝てる可能性は十分にあった・・・・・・。――礼装だろうが、宝具だろうが好きに使え。その程度で『正義の味方』は越えられない」

 今だけその名を借りた。

「『異界同調_開始(クロス・オン)』」

 偽物として。

 

 士郎の手に、一つの剣が現れる。

 

 

 

 無意識に、クロは士郎の剣を解析しようとしていた。

(あれ・・・・・・解析できない? あの時と同じだ・・・・・・・でも・・・・・・)

「すごくきれい」

 思わず口に出してしまうほどに、その剣の装飾は美しかった。

「『さてさてさーて』」

 士郎が口にした。それだけのはずなのに、クロはそれに違和感を覚える。まるで、複数の人間が同時に声を上げたような。

 けれどもすぐに、クロはその違和感の正体を見た。

「なぁバゼット。何もカウンターを十八番にしてるのはお前だけじゃないんだぜ」

 今度の音源は一つ。ただ音源が士郎からではなかった。クロのはるか前方。バゼットの背後から。

「例えば」

 また別の方向から。

「俺みたいにな。まぁ・・・・・・正確には俺のではないんだけどさ」

 今度は士郎が。

 同時に、ズサリと。複数の足跡が耳に響いた。

「――これはッ・・・・・・」

 気付いたのはバゼット。

 その光景に今度はクロが息を呑む。バゼットを囲む複数の影。それが同時に声を上げる。

 

「『あがいてみろよバゼットちゃん。まぁ、俺もキレてるから自分の能力解説ぐらいしかハンデは上げられないぜ?』」

 

 複数の衛宮士郎が、姿を現す。

 

 

 

 神器《ロストヴェイン》。七つの大罪団長『メリオダス』が持つそれは。士郎の記憶をもとに限界する。

「なるほど。今度は数の暴力と言うわけですか。幻影の類ではないことは分かりますが。この程度で私に勝てると? それこそ私に勝てる根拠足りえな――」

「『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』」

 遮るように士郎は口にする。

「時間を逆行し相手の心臓を貫くそれは、『ゲイ・ボルグ』とは違い、結果を残すのではなく物理的に心臓を貫いたという事実を作る」

「・・・・・・」

「つまり、同時に複数人に使用することはできない」

 そう。これこそが逆行剣『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』の弱点。とは言え、そもそもバゼットが『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』を使わざる負えない相手が少ない上に、それをしても確実に誰か一人が死ぬという事実が、それを弱点と称してしまうには余りにも大きい穴だった。

 しかし、それがすべて分身であるのであれば、その条件はクリアされる。

 神器《ロストヴェイン》その能力は、自身の分身生成。分身が増えるほどに戦闘力が二分化させるという欠点があるものの、『事実は小説より奇なり(バビロン・オブ・ワード)』が魔力を消費しないことを考えれば、そこは問題足りえない。

「忠告しておくと、『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』の使用はおすすめしない」

 忘れてはいけない神器《ロストヴェイン》の所持者はメリオダスということを。

「『フルカウンター』。自身に向けられた魔力を倍以上にして跳ね返す。・・・・・・俺が知る限りの最上のカウンターだ。誰か一人に『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』を使った時点で”対象以外の俺がお前に放つ”。魔術という概念に縛られている以上『フルカウンター』からは逃げられない。つまり・・・・・・これで『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』は使えない」

 『事実は小説より奇なり(バビロン・オブ・ワード)』によって得た知識によって、衛宮士郎は本来の所持者の技すらモノにする。

 完全なる『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』封じ。

 だが。

 

「それで終わりですか?」

 

 今度はバゼットが士郎へ問う。

 

「あなたが私に勝てる理由はそれで全部ですか? ・・・・・・もしそうだとしたら、なめられたものです」

 意趣返しのつもりなのだろう。

 先ほど士郎が言ったセリフをそのまま返した。だが事実だ。『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』を攻略した程度でバゼットに勝てると思っているならそれはおつむが弱すぎる。

 しかし。

 

「んなわけねーだろ。バーカ」

 

 嘲るように、今度は士郎が口にする。

 それを証明するように、複数の士郎が同時に声を上げる。

「「「『異界同調_開始(トレースクロス・オン)』」」」

 士郎の能力『事実は小説より奇なり(バビロン・オブ・ワード)』では普段の投影魔術とは違い、複数の剣を同時投影することができない。自身に剣の持ち主の性質を落とし込むという性質上、複数の投影は自身の体を蝕むことになっていしまう。それはまるで、青信号のまま赤信号の結果を残すようなもの。矛盾を無視やり体で証明させようとして、無事で済むわけがないのだ。

 だからこそ、分身生成と言う能力を持つ神器《ロストヴェイン》は、士郎と限りなく相性が良かった。

 分身それぞれが別々の剣を投影する。

「お前はさっき言ったな・・・・・・。耐久性。速度。基礎能力が俺には足りないと」

 足りないそれを、他から借りる力が士郎にはある。

「英霊相手では確かにそれは致命的だ。実際精々渡り合える程度にしかならなかったしな。ただ・・・・・・事お前相手に関しては、その前提は弱点足りえないぞ」

 あらゆる世界の剣を投影する士郎の選択肢は、ほぼ無限と言っても差し支えない。もちろんバゼットに通用する物というと、数は限られてくる。

 しかし、士郎の知識には存在する。剣にその能力が宿り、無数の剣が存在するのの世界を。《斬魄刀》と言われるその剣は、そのすべてがチートと称して間違えない剣だということを。

 一人の士郎が言った。

 

「『卍解』」 

 

 顕現。――――『大紅蓮氷輪丸』。

 表現するのであればそれは氷の龍だった。氷雪系最強の称号を持つそれは士郎の体へ翼を授ける。氷龍の手足。そして翼。

 

「構えろバゼット。気を抜くとすぐ死ぬぞ」

 

 冷たい声で、衛宮士郎は口にする。

 

 

 次の瞬間。士郎はバゼットの視界から消える。

「――ッ!! このっ!」

 キーン、と言う甲高い音の元凶は、拳と刀の衝突だった。

 そこは流石と言うべきだろう。『瞬歩』と言う未知の移動法を前にして、感だけを頼りに真横から剣を突き出した士郎に反応して見せたのだ。バゼットの化け物性がうかがえる。しかし――。

「なっ・・・・・・!!? これはッ――」

 パキパキ、と・・・・・・防御に回した拳が凍る。 

 反射的にバゼットは距離をとる。

「いい判断だ。あのまま全身氷漬けになるとこだったからな。でも――」

 その光景に士郎は笑みを浮かべべながら、休むことなく剣を振るう。

 ――この程度じゃ終わらない、と。

  

 士郎の剣をよけながらバゼットは思案する。

(このままでは――ッ!!)

 剣を避けるだけならば問題ない。だが、士郎の剣を振るたびに空気が氷結したように氷がまき散らされる。

 氷を操れると仮定するなら、それに触れるのも危険だろう。

(恐らく、より広範囲を凍らせることもできるでしょう。後ろにいる少女を気遣っているのでしょうが――ッ! ・・・・・・これは?)

 思わず意識がそらされるほどにその光景は異常だった。

 視界に映るそれは花びら。

 バゼットへ舞うように落ちるそれは、季節外れの桜の花びら。

 舞い落ちるそれに触れた瞬間。スーっと。

 皮膚が斬りさかれた。

「――!!!!」

 これはいったい? と、バゼットの思考へ答えるように士郎が呟く。

 

「『散れ――千本桜』」

 

 花びらが、生きているように蠢く。

「きをつけろよ。花びら一つ一つが剣だからな・・・・・・それ」

 その言葉をトリガーに、千にも及ぶ剣激がバゼットへ向かう。

 

 それを見て、バゼットは動かなかった。動けないのではなく動かない。

 諦めたわけではない。ただ思い出しただけ。

 敵の言葉に惑わされ、未知の攻撃を恐れるように回避する。そんなものがバゼット・フラガ・マクレミッツか? いいや違う。それを蹴散らすだけの力があるから自分はバゼット・フラガ・マクレミッツなのだと。

 だから、ほんの少し威力を上げよう。グローブが無限に連続的に光をあげる。ほんの少し殺す気で戦おう。いままでの数十倍の殺気が暴風となって撒き散らされる。

 もし、バゼットの心の内を知る者がいたのなら、きっとこう思ったことだろう。

 ――笑わせてくれる。ほんの少し? 違うだろ。それを人は全力って言うんだよ、と。

 そして、バゼットの見つめる先。

 吹雪がそのまま色づいたように彩る千の花弁が、バゼットを巻き込んだ。

 

「が・・・・・・はっ!!?」

 

 しかし。その声を上げたのは士郎。

 一撃だった。そして一瞬だった。

 千本桜を拳一振りで蹴散らし。士郎が次の攻撃を仕掛ける前に拳が士郎を貫いていたのだ。

 やられたのは分身だった。だが、分身だから大丈夫と片付けるにはいささか厳しい。

 士郎は気づいたのだ。彼女のそのかわりように。

 バゼットは今まで手を抜いてた。

 その理由は様々だった。気まぐれだったり、余裕だったり、ポリシーだったり。

 だが、その枷が外れてしまった。

「あーあ。バゼットの本気を体感することになるとはな。仕方ない、ここからは俺も本気でやるしかないか」

 士郎は呟く。

  

 それは、本来であれば見ることのなかった戦い。

 異世界の力を再現するイレギュラー――衛宮士郎。

 不死身の化け物――バゼット・フラガ・マクレミッツ。

 

 二人の戦闘を前に、世界が緊張するかように静けさだけがこの場を支配した。 

 

 唐突に。歌が聞こえた。

 

「『花風ミダレテ花神啼キ』」

 

 歌を歌った。

「『天風ミダレテ天魔嗤ウ』」

 双剣を持った士郎が歌う。

「『花天狂骨』」

 それは合図。続くように、今度はまた別の歌が聞こえる。

「『倒れろ』」

 魔術で言うその短い詠唱のような言葉は、剣を解放するためのもの――。

「『面を上げろ』」

 始解と言われるその行為は――。

「『舞え』」

 一つ一つの剣に宿る、ただ一つの能力の開放。

「「「『逆撫』『侘助』『袖の白雪姫』」」」

 三つの刀が本来の姿を現した。

 そして。さらにもう一つ。

 

「『卍解――天鎖斬月』」

 

 士郎が選んだ刀は五つ。

 

 大気が揺らめいた。

 見えない力が渦を巻いた。

 

 一人は肴でも飲むかのように胡座をかいたまま。 

 一人は遊ぶように刀を回し。

 一人は空へ立つようにバゼットを見下ろしながら。

 一人は美しい刀を撫でるように構え。

 一人はまっすぐ敵の顔を見つめた。

 

 けれども同時に。

 

 その影はバゼット・フラガ・マクレミッツへと動きだした。 

 

 

 

 




 今話も読んでくださった方ありがとうございます!

 皆さんは七つの大罪をご存知でしたでしょうか? 今2期が絶賛放送中なので知らない方は是非見てくれると嬉しいです!!
 
 それはそれとして、今話だけで二作品のクロスしてしまっています。もはや何が何だか分からなくなっている方もいるかもしれません。
 それに関しては誠に申し訳ありません。
 
 今話のクロス作品は、先に言った『七つの大罪』とジャンプ作品の『BLEACH』になって射ます。なるべく有名どころをとって、アニメでも放送されたものを限定に出しました。
 一気に6,7本新しい剣が出てきて「ふぁぁ!?」っとなった方もいるかもしれませんが、感想で言っていただければ、自分が知っている限りの解説や、作品の見直しなんかも行っていきたいと思っています。
 ご理解のほどよろしくお願いします。

 それでは次回話をよろしくお願いします。ありがとうございました!



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23話とかとか~♪ 2way バゼット編 正義の味方(後編)

 初? 連続投稿です。
 
 時間が空くと今話は分からなくなるかと思い、バゼット編は終わらせてからと考えていたので、予定通りに進めてよかったです。

 なんかこんなにバゼット強いっけ? みたいな感じだったり。
 BLEACHの能力これで当てたっけ? みたいな感じなので、間違っていたり違和感があると教えていただけると助かります。

 それではどうぞ!!


 

 

 

 美遊は痛む体を無理におこし、イリヤの元までやってきた。

 それは少しでも士郎の役にたとうと、イリヤを戦闘範囲外に逃がすため。

 しかし、そこで気づいた。

「なに・・・・・・これ・・・・・・っ??」

 体が宙に浮いていた。いいや違う。これはまるで――。

「面白いだろ?」 

 士郎の声が聞こえた。

「まるでゲーム世界のように、上下逆さまになる。この斬魄刀の範囲内にいるものをすべて巻き込む究極の視覚催眠」

 そう。これはまるで天地が入れ替わったようなのだ。

 夜空に浮かんでいたはずの月を下に見て、燃える屋敷が空に浮く。

 夜であったためか、暗闇の床へ座るような不思議な感覚。

 

「ようこそ、逆さまの世界へ」

 

 士郎のその声だけが、美遊には届いた。 

 

 

 

 空中に立っているという異常にとらわれながらも、バゼットは冷静だった。

(視覚の支配ですか・・・・・・。天地が入れ替わったように見える程度なら脅威になりえない。・・・・・・つまり、それ以上の何かがあると考えるべきですね)

「いいのか? 暢気に考え事しといて」

 まるで考えいる時間を与えないと言うように、一人の士郎が斬りかかる。

 それを見て、バゼットも反射的に拳を出す。

 特徴的な刀だった。

 刀身の先がコの字に折れ、斬るというよりも刈り取るといったように・・・・・・。

 ゾワリ、と。

「――!!??」 

 直感的にバゼットは自身の拳をひっこめた。

(この悪寒は一体・・・・・・? 少し様子を見るぐらいがちょうどいいでしょう)

 答えを先に言うならば、その選択は正しかった。

 『侘助』と言われるその刀は、斬った対象の重さを倍にする(・・・・・・・・・・・・・)という能力がある。三回でも斬られれば重さは八倍。どんな超人でも動けなくなる。攻撃を受けずによけたバゼットの判断は正しかった。

 斬った対象を重くする。逆に言えば斬られなければ脅威足りえないということなのだから。

 技量だけ問うのであれば、先ほど、広範囲氷結攻撃を捌いて魅せたバゼットが、ただの刀を避けられない道理はない。

 しかし――。

 

「避けた気になってんじゃねーよ。『逆撫』の効果が上下逆さま(・・・・・)程度だなんて一言も言ってないぜ」

 

 それはあくまで普通の条件下での話だ。

 

 ズサリと、バゼットの足が切り裂かれた。

「なッ・・・・・・!!」

 鋭い痛み。と同時に、バゼットの斬られた足が重しでも巻いてるかのように重くなる。

「ヒントを言うとな、上下左右、ちなみに見える方向なんかも逆だぜ。どこからどこまでが逆でどこからどこまでが本当なんだろうな」

 ヒントになっていなかった。

 あえてブラックボックスの中身を見せることによって、余計な情報をつぎ込むように、バゼットの思考力を奪っていく。

 そして、ここで手を休めるほど、士郎は優しくも仏でもない。

「『次の舞・白蓮(つぎのまい・はくれん)』」

 見えた位置は前方だった。しかし音源は逆。視界に映るものが、すべて逆さま。

 とは言え、距離はあった。反応も間に合うはずだった。しかし。

 一瞬で、すべてが凍った。

(しまった! 腕を・・・・・・!!)

 直線的に広範囲。バゼットの腕を巻き込んできた氷の山。

 ルヴィアの屋敷、小さな小学校ぐらいありそうなその土地を、対角線に凍らせたのだ。

 馬鹿げていた。英霊やらの宝具ならそれも納得できたはずだ。だがこれ違う。ただの刀。ただの魔術使い。そんな少年が行っていい・・・・・・行い得る所業ではなかった。 

(反応しきれない・・・・・・っ!)

 もし、何が悪かったと問われれば立ち位置が悪かったと言うほかないだろう。限定的な方向へを瞬時に凍らせる『袖の白雪姫』は『氷輪丸』とは違い、味方を巻き込む心配が半減する。たまたま今回は攻撃の範囲内にイリヤ達がいなかったということだ。

「しかし、こんなものすぐに壊せる程度のものです!!」

 とらえられたのは片方の腕。ならば、もう一方の腕で破壊するまで。

 例えそれで、凍らされた腕が粉々に飛び散ろうとも、このまま身動きができないよりははるかにましだと。

 悪魔との取引に気軽に応じる。自身の腕では天秤は傾かない。

 迷うことなく拳を振り下ろそうとするバゼットへ。

「いやいや、ダメだろ。体は大切にしないとさ」

 自身の腕を犠牲にした男とは思えない声で――気軽さで、士郎はバゼットの目の前(・・・)で口にした。もちろん――。

「ぐぶっ・・・・・・ッ!!」

「『花天狂骨』遊びは影鬼。氷の中に影ができてるぜ? うかつだったな。あ、悪いな、これはまだ能力解説してなかったっけか?」

 ――剣で切り裂くというおまけつきで。

 影の中から攻撃する――否、移動するそれは、バゼットの拳をあざ笑うように回避する。

 圧倒的士郎の有利。誰が見てもそうだと思える状況だった。しかし。

 

 パリーン!! とバゼットが凍らされた腕で氷を砕いた。 

 力任せで、強引な脱出。単純に力をいれて、振動をもって破壊したのだろう。

「マジかよ・・・・・・。そんなやわな氷じゃないんだけどな」

 自然的にできるそれと違い。《斬魄刀》で作られた氷は不順物質を含まない超硬度な氷なのだ。普通ならば無理からぬこと。それを容易にこなしてしまえる人物が目の前はいる。

「なるほど厄介です。今わかるだけでも、剣それぞれに特殊な能力が秘められていることぐらいしかわかりません。・・・・・・しかし、少しはしゃぎすぎたのではないですか?」

「・・・・・・は?」

 その疑問はどっちに対する疑問だったのだろうか。

 バゼットの質問に対する疑問なのか、それとも――。

 

 自身の体を貫かれた(・・・・・・・・・)疑問なのか。

 

(う、そだろ!? あいつの視界にはすべてが逆さに映ってるはず。攻撃を当てることはおろか俺らがどこにいるのかすら分かるはずが!!)

「すべてが逆さま・・・・・・でしたか? 今の攻撃位置からすると、上下左右、見えている方向以外にも、対象の見えてる形、実際の攻撃場所まで逆さと言ったところでしょうか・・・・・・。面白い仕掛けですが、それまでです。聞こえる音や、気配まではどうやら逆さにできないようですね。あくまで視界に影響させる催眠ということですか」

「クソったれ――!!」

 それを聞いた士郎の行動は早かった。

 確かに、『逆撫』の攻略法はそれで正解だ。対処法もそれで正しい。しかし、動いていない敵ならまだしも、縦横無尽に動き回る標的相手に、瞬時に気配やら場所やらを計算することは不可能に近い。

「『花天狂骨』――色鬼。赤!!」

「確かに、高速で動き回る敵を補足することは難しい。しかし、攻撃する瞬間であるのであれば・・・・・・!!」

 バゼットの視界には何も映っていなかっただろう。あくまで殺気がした場所へカウンターを放っているだけなのだから。

 だが、士郎には見えていた。自身の顔面に完璧にカウンターを入れるバゼットの拳が。

(しま・・・・・・っ!!)

 結果を言うならば、その拳はかすっただけ。完全に軌道をとらえた拳を避けた士郎を称賛すら与えたかった。しかしながら。

 今の色は赤、血の量を逆手にとり、一撃で終わらせようとしたのがあだとなる。

 色鬼は、指定した色がより自分に多い、つまりは弱点となる色を指定した場合、その色への攻撃が爆発的な威力になる。そして、今回の色の指定はどちらも、広範囲にその色、要は血を纏っていた。

 つまるところ、かすっただけ――にもかかわらず、士郎の頭は吹き飛んだ。

 

 圧倒的に見えた展開は僅か数秒で崩された。

 しかし。 

「なめるなよ・・・・・・なめんじゃねぇええええええええええええ!!!」

 二人の士郎がバゼットへ迫る。 

 受ければ、全身を氷漬けにされる『氷輪丸』。重さを倍にされる『侘助』。

 足がすでに『侘助』によってきられてるバゼットでは回避すら難しいはずだ。

 

しかしながら……。

 

 まるで、もう通用しないと言うように、二人の士郎がバゼットの拳に貫かれる。

 その光景を見て士郎は笑う。なぜならそれすら誘導。それすら犠牲。力をためるための時間稼ぎ。  

 わかっていた。近接戦闘ではどうやらバゼットには敵わないということは。

 そもそもただでさえ神器《ロストヴェイン》によって強化魔術ですら何十分の以下まで性能が落ちているのだ。最大硬度まで強化したバゼットの拳にかかれば士郎の体など紙切れにも等しいだろう。

 

 だからこそ、士郎はこれで終わらせる。

 

 バゼットはみた。

 黒く揺れるそれを。炎ではなかった。いや、そもそも物理的な何かですらないのかもしれなかった。ただの力それが具現化したような。いいや、この際そんなことはどうでも良かった。

 バゼットが構えた、それど同時に。

 士郎は剣を振り下ろす。

 

「『月牙――天衝』!!!!!!」

 

 

 

 それを言い表すものとして、最も適切だと思ったのは斬撃だった。

 さっきほどイリヤの斬撃(シュナイゼル)を経験したことが影響したのか、迫りくる黒いそれを、バゼットはそう考えた。 

 先ほどの様な概念的な外側からの攻めとは違い、正真正銘の破壊の一撃。

 風でも切り裂いているのか、轟音と共に迫ってくるそれをバゼットは拳を構えて対峙する。

 ただ拳を突き付ける。 

 圧倒的な力のそれに、さらに上の力でねじ伏せる。

 そんなことを考え、体へ力を入れた瞬間。その異変に初めて気づいた。

(か・・・・・・体が、う、動かない・・・・・・!!!)

 士郎が何かしたのか? いいや違う。すぐにバゼットは答えを知る。

「血を流し過ぎたということですか! まさか体の限界がこんなに早く・・・・・・!?」

 その時、バゼットはある道筋に気付く。

(おかしいとは思っていた。このタイミングで大技を使う意味。無限に分身を作れるのであれば、一発に固執する必要などありはしない。・・・・・・つまり――)

 ここに来てその思考は初めて士郎に追いついた。

 

 ――戦況の確認。

 

(無駄に思える特攻も、(『なめるなよ・・・・・・なめんじゃねぇええええええええええええ!!!』)あの言葉も、この大技も。わたしの精神を揺さぶり、私の状態を確認するだけのもの)

 敵の悪手に思わず呆れて油断した。敵の冷静さをなくした怒りの御声に緊張の糸がわずかにほどけた。

 限界を認識出来ていない体に、緊張の糸を保ち疲れを誤魔化している体に、わざわざそれを教えるための一幕。

 事実。バゼットの体はボロボロだ。

 多くの血を流し、剣の斬り後は熱を持ったように熱い。足は自身のものではないように重く、凍傷にでもなっているのか、拳を握るのでさえ軽くつらい。

(仮にもし、これに耐えうる力が私に残っているようなら、今度は違う武器を作り出すだけ、終わるのであればそれでよしということ。全くなるほど・・・・・・戦闘経験値の差を身に染みたのは初めてです)

 視界の奥では、笑みを浮かべる士郎の姿が確認できる。

「でしたら、私に取れる手段はこれしか残っていない!! ――『後より出て先に断つもの(アンサラー)』!!」

 それは詠唱。

 バゼットの持つ最高の礼装。『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』を顕現させるための。

「出すのか。それを」

 士郎は冷めた声で聞いた。

「ええ、どうやら私にはこれしか残っていないようなので」

 黒い斬撃に対抗するように、白い本流をまき散らしながらそれを構え、そして。

 

「『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』!!!」

 

 時が巻き戻る。

 士郎の技が消失したように消え失せ。それが発動する前まで時間が戻る。

 そして、バゼットから放たれた短剣『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』が士郎の心臓めがけて放たれる。

 回避は不可。狙いは秘中。

 技を出した時点で、この結果は確実となった。

 しかし。

「忠告はしたはずだけどな」

 片腕を失い。神器《ロストヴェイン》を構えながら、士郎はその間へと体を潜り込ませた。

 士郎には見えていたのだ。逆行するその瞬間を。

 正確には逆行自体は認識できなかった。ただ、無防備に技を発動しようとする分身の自分へ、バゼットが攻撃する瞬間を目撃しただけ。それでも。

 剣が飛来する、僅かな時間があるのであれば。

 

「『全反射(フルカウンター)』」

 

 キーンッ、と。甲高い音とともに、『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』は向きを変える。

 魔力による攻撃の全反射。

 バゼットの魔力で編まれた、敵の心臓を貫くといった性質を残しながら。もちろんバゼットが技を発動する前に、士郎が『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』を先に発動させたという結果をつくって。

 『全反射(フルカウンター)』によるそれは、魔術そのものを跳ね返すのだ。

 そして。

「残念だよ。こんなことで幕切れとはな」

 士郎は、地面に倒れ伏したバゼットを見てそう言った。

 

 

 そこにあるのは静寂のはずだった。静寂であるべきだった。

 しかし。トクンと。小さな鼓動が木霊した。それは誰の耳に届くわけでもなく、されども次の瞬間、その音は大きくなり、連続的になりつつづける。

(・・・・・・条件、クリア)

 その音は、死んだはずのバゼットからなる音だった。

 それはバゼットのもう一つの秘術。自身の心臓が心停止して瞬間に発動する、人体蘇生魔術。恐らく、宝具クラスであろう魔術。

(蘇生、終了・・・・・・!!)

 瞬間。

 ガバっ、と。倒れ伏していたはずの女が起き上がる。

 もし、それを目にしたものがいたのならば、キョトン、という表現が一番近かったのかも知らない。なぜなら死んだはずだったからだ。心臓を貫かれたはずだからだ。

 何が起こっているのか理解が及ばない。

 女は、そんな周りの思考を置き去りにするように一瞬で士郎に詰め寄った。そしてそのまま。

 

 士郎へと拳を振り下ろす。

 

 おそらく、これこそがバゼットの狙いだったのだろう。あの状況では何をしても自身の敗北は覆らないと悟っていたのだ。

 だから、この瞬間をだけを目指し。この一撃を入れるためだけに、バゼットは『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』を放ったのだ。

 士郎の言葉を忘れていたわけではなく、士郎の言葉が嘘などと言う僅かな可能性にすがったわけでもなく。ただ愚直に、一撃を入れるための作戦を実行したのだ。例えそこに、自身の命を差し出すことになろうとも。

(届く!!)

 バゼットは確信した。

 不意も突いた。これ以上ない最高の条件。にもかかわらず。

 

「知ってたよ。そんなことは」

 

 そんな言葉が耳に届いた。

(まさかっ! ありえない、これはまるで――)

 瞳が交差する士郎の目を見て、バゼット初めて恐怖を覚えた。

 

 ――すべてを予知していたかのような。

 

 その通りだ。ここまでが士郎の思考。計算。

 転生者である士郎はバゼットの蘇生術式すら知っていた。バゼットの強さも知っていた。戦い方も知っていた。そのキャラクターの思考も知っていた。

 であるならば、後はパズルを組み替えるようなもの。

 言葉巧みに誘導し、限定的な力で状況を操り、ある一点に持っていく。

 言葉をもって、武器をもって、感情をもって、常に戦況を操り続けた。

「勝ったと思ったか?」

 そんな言葉が聞こえた。

 士郎もわかっていたのだ。普通に戦っても勝てないということは。だからここまでやった。やるしかなかった。

「なら、それは油断だろ」

 バゼットに”絶対の負け”を認識させ、その上で倒す。

 拳を振り下ろすそれに、カウンターを合わせるように剣を振り下ろすそれが見える。

 達人同士によくあるスローモーションに見えるという状況なのだろうか。

 バゼットの目には不幸にも、士郎の剣が先に入ることがわかってしまった。

「・・・・・・なるほど、これは勝てませんね」 

 まるで決まったていたシナリオのように、勝負する前に負けていた。状況は終始士郎が操り、バゼットはその枠を出ることができなかった。先程士郎の作戦を看破したことでさえ、士郎にとっては筋書き通り。結局のところ、バセットは自分の意思で動いているように見えて、士郎の思想どうりにしか動けていなかった。

 

 交差する剣と拳。

 そこへ。

「そこまでよ。二人とも」

「「――っ!!」」

 その声に反応し、二人は同時に距離をとる。いや、声と言うよりは攻撃にだろうか。二人が先ほどいた場所には、声の主――凛が放ったであろうガンドが撃ち込まれた。

「遠坂・・・・・・?」

「悪いわね衛宮君。あなたの勝利を邪魔したようで。でもね、もうこれ以上戦う理由はないはずよ。お互いボロボロ。もはやなんで戦っていたのかすらわすれたんじゃない? 二人とも」

 まるで友達の家にでも遊びに来たような感覚で、凛は二人の間に入る。

「遠坂家のものですか。あなたの介入で助かったことには礼を言います。しかし、カード回収と言う任が課せられている以上、私の目的は果たされません」

 バゼットとらしい物言いだった。だが、それに声を上げたのは士郎だ。

「違うよバゼットさん(・・・・・・)。遠坂が入ってきた時点でそれで終わりだ。俺ももう限界だしな」

 もう戦う気はないのだろう。毒気を抜かれても言っていい。

 剣を消し、すべてが終わったように首を振る士郎に、バゼットは。

「勘違いしないでいただきたい。あなたたちの言い分など私が聞く必要は「勘違いするなよ」――?」

「遠坂が何も手札がない状態でここに来るわけがないって言ってんだ。だろ、遠坂?」

 その問いにニヤリと、凛は軽い笑みを浮かべると。――その通りよ。となぜか勝ち誇ったように口にした。

 そのまま、何やら地図見たい紙をバゼットに見せると。

「見えるかしらこの空白の部分」

「――? それは・・・・・・!! いえ、まさか!」

「理解が早くて嬉しいわ。正確には立方体だけれど、まぁなんにせよ。カードはまだすべて出そろったわけではない」

 それは地脈図。

 定期観察で見つかった新しいカードの存在とその証明。

「カード回収が任務ならこれもそれに含まれているんじゃないかしら?」

 その言葉にバゼットは思わず唇を噛んだ。

 なぜならカードが存在する場所は、この世界ではない別虚数軸。そのためにはカレイドステッキが必要不可欠だ。ステッキがただの礼装ではなく、意志があると言うことを踏まえると、今ここでカードをすべて奪った相手に力を貸すとは到底思えない。

 故に、今とれるバゼットの選択肢は、

「ここは手を引くことにします。何やら認識外の事が多々起こっているようなので状況整理の時間とでもしましょうか」

 一時的な撤退。

「ちなみに、カードの場所は海底。準備に時間がかると思うから、できしだい連絡するわ。・・・・・・それと、あなた傷の手当は大丈夫なの? 衛宮君にこっぴどくやられたようだけど」

「それを言うなら、そこの彼の方が傷は深いでしょう。それに私は問題ありません。性格は難ありですが腕のいい医者を知っています。・・・・・・いえ、今は保険医でしたか?」

 言うまでもカレンの事だろう。

 士郎の顔が微妙に引きつっている。

「それでは、失礼します」

 そう言って、バゼット・フラガ・マクレミッツは去って行った。

 

 

 

「はぁーあああ。本当に失礼な訪問だったわね、失礼と言うより迷惑なって感じかしら」

「すげえいいタイミングだったよ遠坂。もう少しでほんとに殺すところだった。今後のためにもバゼットはいてもらったほうが良い。・・・・・・まぁなんにせよ、全員無事でよかった」

「あのねぇ、その状態で無事とか・・・・・・あなた、あそこで涙を浮かべてる妹たちに向かってい言えるわけ?」

「――え?」

 士郎が振り向くと、ステッキを杖に立っている美遊とクロに支えられながら涙を浮かべるイリヤがいた。

「うっ・・・・・・ぐすっ。ごめんね、お兄ちゃん。私強くなるっていったのに、またお兄ちゃん一人に任せちゃって。私、わたし・・・・・・」

「あっ、いや・・・・・えーとまてまて大丈夫だ。これぐらいきっと遠坂が魔法で直してくれると思うから! ちちんぷいぷいだから 何とかなるから!! ――から・・・・・・だから、ごめんな。泣かないでくれ」 

 手を頭を伸ばし、微笑みを向ける士郎に、イリヤは小さくうなずく。

「ちちんぷいぷいって・・・・・・そこはかとなく馬鹿にされて気がするんだけど・・・・・・。それはそれとして、ルビー、サファイヤ。二人の容態はどう? こっちで必要なことはある?」

「問題ありませんよー。気を失っていたことが幸いしましたね。ほとんどの傷は完治しました! さすがに疲れまではとれませんが」

「美遊様の方もほとんど完治しています」

「私も問題ないわ。ズキズキするけど我慢できないほどでもないし、そのうち治るわよ」

 三人とも、ホコリやら血やらで汚れているが、傷の方は問題ないらしい。

「それならよかったわ。念のため明日見ると思うけど今日はもう帰りなさい。美遊も、向こうでルヴィアが待ってるわ」

 その言葉に、三人はほっとしたように息を吐く。 

「まあ少し考えれば、ルヴィアがそう簡単に死ぬわけなかったわね。今日は疲れたし家に帰るわ。イリヤいくわよ」

「えっえっ? お兄ちゃんは?」

「悪いなイリヤ、俺はちょっと遠坂と話があるんだ。カードがもう一枚出たらしいからその話をな。だからそんな悲しい顔するなよ。お姉ちゃんだろ?」

「そういうことよ。ほらほらもう自分で立てるでしょ。いつまでも私に寄りかからないの、私の方が重症なんだから」

 ――恐らくクロは察している。今の士郎の現状を。 

「ありがとう、クロ」

 ――それでも、クロは自身が何もできないことを知ってるから。

「凛。頼んだわよ」 

 ――頼むしかなかった。

「まかせなさい。あなたたちもありがとね」

 そのまま、クロとイリヤは家へと帰り、美遊はルヴィアの元へ走って行った。

 

 

「もう我慢しなくていいわよ。衛宮君」

「ああ助かる。はぁー・・・・・・・・・・・・」

 何かをためるように息を吸い、

 

「うがぁぁぁあああああああああああああああぁぁっがぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!!!」 

 

 吐き出すように絶叫する。

 額には汗が無限に湧き出てくるようだった。 

 苦しくないわけがなかった。痛くないわけがないのだ。

 それを、ただの気合のみで覆い隠していたのだ。

「まったく。妹の前ではほんとに強がりよね、あなたもルヴィアも。無駄にかっこいいんだから。・・・・・・・とりあえず、説教は次起きてからにするわ。もう寝なさい。辛いんでしょ」

 凛の言葉に苦しそうに笑みを浮かべながら、

 

「はは、説教か・・・・・勘弁願いたいが、ダメなんだろうな。・・・・・・あっやば、い・・・・・・・もう無理みたいだ。俺の体頼んだ。とおさ、か・・・・・・・・・・・」

 

 そのまま。

 士郎は糸が切れたように倒れ伏した。

 

 

 

 

 

 

 




 今話も読んでくださった方ありがとうございました。

 今話はバゼット負けを認識させるをコンセプトに書き上げてみました。
「これは負けても仕方ない」「勝たなかったな」など、不死身性を持つキャラクターにはこういった勝ち方が一番いいかと思ったからです。
 自己満足すぎましたかね? 皆さんの意見も是非聞いてみたいです。

 ~独り言~
 複数の剣を同時に紹介しながら、戦闘に組み込むって超難しいですね!?
 何とかしっくりきて落ち着く形にできて一安心です。
 それはそうと、魔術で吹き飛んだ腕って直せるんですかね? 全く知らないのでヤバヤバです。
(まー無理やり直すけれども)

 
 次話の投稿はまた少し悪と思いますが、気長にまってくださると助かります(多分一ヶ月以内に出したいです)

 ありがとうございました!!


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