HUNTER×HUNTER (題名未定) (リスボーン)
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プロローグ

はい、どうも~。

すぐ逃走しちゃう、リスボーンです。

知ってる人は知っていると思いますがSAOの小説も書いてます。

そんな私が何故ハンターの小説を書こうとしているか。

なんかアニメでポンズ死んだんで、むしゃくしゃしてやった。

今は後悔している。

てな訳でどうぞ!


つまらん。

 

 元々つまらないこの世界は、最近一層退屈になった。

 

 

「おい、もう終わりかよ?」

 

 

 俺の目の前に居る改造学ランを着用し、今現在地に伏せている不良三人に言い放つ。

 

 不良三人組の内二人は意識を失っているのか、反応はなかった。

 

 しかし、残りの一人は足を震わせながらも立ち上がり、

 

 

「なめんじゃねえぞ!!」

 

 

 ポケットに手を突っ込んで指に銀色に光るものを装着して殴りかかってきた。

 

 拳は俺の顔面目掛けて飛んでいき、その銀色に光る拳を俺は正面から喰らった。

 

 その瞬間、鈍い音が辺りへと響く。

 

 不良は顔に笑を浮かべながらこちらを見上げるが、すぐに笑が消える。

 

 

「……嘘だろ、なんでなんともなってないんだ?」

 

 

 不良は不思議そうに俺の顔を見る。

 

 が、直ぐに視点を自らの腕に移す。

 

 

「なんでメリケンが壊れてるんだ? なんで俺の腕が曲がったまんまで動かないんだ?」

 

 

 そう最後に言うと、不良は甲高い悲鳴を上げながら腕を抱えるようにして倒れこむ。

 

 

「おいおい、メリケン装備してんのに逆にダメージ受けてどうすんだよ」

 

 

 俺は倒れ込んだ不良の元に歩いていき

 

 

「まあ、お前は長続きしたほうだ。 褒美ぐらいはくれてやるよ」

 

 

 腹に目掛けてそこそこ強めの蹴りを入れる。

 

 そうすると不良の目から生気が消え、悲鳴もやんだ。

 

 

「しばらく気絶してりゃあ、起きた時には少しは痛みはマシになんだろーよ」

 

 

 吐き捨てるように言い残し、俺はその場を後にする。

 

 

□       □        □       □       □        □        □

 

「これでこの地区の奴等は全滅か」

 

 

 誰もいない公園のベンチに座りながら、手帳に大きくバツ印を書く。

 

 

「また居なかったな。 俺が本気で戦える奴」

 

 

 ため息を吐きながら、空を見上げる。

 

 強そうな奴らがいると言う噂がある所には一通りいった。

 

 だが、どこへ行っても俺が全力で戦える奴らは居なかった。

 

 さっきの奴らだってここ等じゃあ、そこそこ強いって噂だったから喧嘩をしにきたのだが、結果は俺の圧勝。

 

 とても俺の全力を受けきれないだろう。

 

 

「どっかにいねえかな~ すんげー強い奴等」

 

 

 空を見上げながら、静かにつぶやく。

 

 そして、しばらく空を見上げ続けた時だった。

 

 

____居るよ、強い奴等

 

 

「ん?」

 

 

 声がした。

 

 高くもなく低くもない不思議な声が。

 

 公園の方に目を移し、辺りを見回す。

 

 しかし、そこには先ほど見た時同様に誰もいなかった。

 

 

「なんだ、空耳か」

 

 

 そう思って立ち上がろうとした時に

 

 

_____戦いたいかい? 自分が全力を出せる相手と

 

 

 再び声がした。

 

 再度、辺りを見回すがやはり誰も居ない。

 

 

「だれだ、お前?」

 

 

 そう問いかけると、不思議な声は直ぐに帰って来た。

 

 

_____神様ってところだよ

 

 

 神様?  

 

 なんともまあ、胡散臭いことを言いやがる。

 

 

____所でさあ、どっちなの。 戦いたいの? 戦いたくないの?

 

 

 胡散臭い神とか名乗る奴は再度聞いてくる。

 

 戦いたいのか戦いたくないのか? と。

 

 俺としてはこんな胡散臭い野郎の言うことなんか普段は信じんねえ。

 

 多分この声はどっかから機会を通じて流してるんだろう。

 

 もちろん誰かはわからないように声まで変えて。

 

 多方、犯人は俺に恨みを持っている奴らが連合チームとか作って、俺をおびき出したところを一斉にか、それともこの声の主自身の恨みのために利用されるか、単純にからかってるのか。

 

 どっちにしても相手は雑魚ばかりにだろう。

 

 しかし、今日の俺はなぜだか騙されててもいいと言う気分になっていた。

 

 多分疲れてるせいだな。

 

 俺は騙されてると分かりつつ一歩前に出て、叫んだ。

 

 

「戦いてー!! 俺が本気で戦えるやつと!!」

 

 

 俺の叫びは空にこだましながら、俺のところへ帰って来た。

 

 しかし、肝心なあの不思議な声は帰ってくることはなかった。

 

 やっぱりな。

 

 阿呆らしい、帰ろう。

 

 そう思った時だった。

 

 

____OK。 それじゃあ連れてくよ

 

 

「なっ!」

 

 

 突然俺の周りが、いや世界が白に塗りつぶされていく。

 

 その後、数秒も経たない内に世界は白一色へと変わった。

 

 

「どうなってやがる?」

 

 

 俺が現状を確認するため辺りに見渡す。

 

 すると突然俺の後ろに気配を感じる。

 

 

「やあ、神林光(かんばやしこう) 君。 元気かい?」

 

 

「……お前、何者だ?」

 

 

「さっきもいったじゃん。 神だよ、神」

 

 

「ざけんなッ!!」

 

 

 後ろ振り向くと同時に拳を神とか名乗るやつにぶちかます。

 

 しかし、そこには誰も居らず、拳は空を切った。

 

 

「居ないだと!?」

 

 

 馬鹿な。

 

 こんな至近距離から俺の拳をかわしたってのか。

 

 そんな奴今までどこにもいなかったぞ!?

 

 

「まあ、そんなカッカすんなって。 まずはお茶でもどうだい?」

 

 

 またも後ろから声がした。

 

 今度は茶を入れる音も混ざっている。

 

 完全に舐めきってやがる。

 

 

「おい、そんなに近くにいて大丈夫か?」

 

 

「ん? ああ、大丈夫だとも。 君の攻撃は僕には当たらないからね」

 

 

 神と名乗るこいつは余裕たっぷりで言い切った。

 

 おもしれぇ。

 

 この俺にここまで余裕見せたやつなんて今まで誰もいなかった。

 

 もしかしたらこいつが俺の本気を受け止められる奴なのか?

 

 

「おもしれぇぜ。 今日はもしかしたら本気で戦えるかもしれねぇ」

 

 

「本気? 出したいなら出してみなよ。 どうせ当たらないだろうけどね」

 

 

「なら試してみろよ」

 

 

 振り向きざまに再度攻撃を仕掛ける。

 

 

「無駄だってのに」

 

 

 俺の拳は再度、同様に空を切った。

 

 しかし

 

 

「今度は逃がさねぇぜ」

 

 

 そのまま一歩足を進め、気配、と言うより敵を感じた方向目掛けて拳を振った。

 

 

「なに!」

 

 

 手応えあり。

 

 俺の攻撃を受けたそいつはその場から三メートル後ろに吹っ飛んだ。

 

 そしてその時俺は始めて神と名乗るやつの姿を見た。

 

 全身を茶色いコートに包み、白いシルクハットをかぶったグラサン野郎。

 

 まさにミスター・怪しい奴。

 

 

「……まさか《円》を使えるなんて予想外だったよ」

 

 

「《円》? なんだそりゃ?」

 

 

「本能的に自らも知らない内に使えるのか。 大した才能だよ」

 

 

 グラサン野郎はふっと笑いながら、手を広げる。

 

 

「合格だ!! 君は見事選ばれた」

 

 

「はぁ?」

 

 

 このグラサン野郎の言っている意味が分からない。

 

 選ばれた? なんのことだ?

 

 

「君は知っているかい? パラレルワールドと言うものを」

 

 

「ああ、一応な」

 

 

「ならば説明は要らんだろ。 君にはある世界に行ってもらいたい」

 

 

「ある世界?」

 

 

 グラサン野郎は頷き、人差し指をピンと立て、振り下ろす。

 

 そうすると突然宙に画面のようなものを現れ、映像が流れ出す。

 

 そこに映し出されたのは様々な奇怪現象を操る奴ら同士が戦っている場面だった。

 

 動きも並のものではない、完全に化物の領域。

 

 

「なんだ、これは?」

 

 

「君がこれから行く世界さ。 この世界なら君が全力で戦える者が多いだろう」

 

 

 最後にグラサン野郎は「とっ、言っても下手したら君が死ぬかもしれないけどね」付け足した 

 

 

「おい、待て。 ほかの世界に連れてくとか抜かしてるけどよ、なんでそんなことができる?」

 

 

「そんなの決まってるじゃないか。 それは僕が神だからだよ」

 

 

 納得できない。

 

 そう言おうとしたが、突然視界がぐらつく。

 

 

「なんだ、これは?」

 

 

「長く話し過ぎたみたいだね。 時間切れだ」

 

 

「待………て……話は……まだ…」

 

 

 だめだ目の前が真っ暗になっていく。

 

 

「君の望んだ世界だ。 さあ、思う存分戦っておいで」

 

 

 最後にその言葉だけが聞こえ、俺の意識は途切れた。

 

 

□      □       □         □         □       □     □

 

神side~

 

 

「ふー、やっと行ったか」

 

 

 息を吐きながら、指をパチンと鳴らす。

 

 すると目の前にソファーが出現し、そこに腰掛ける。

 

 

「いや~、慣れないことはするもんじゃないね」

 

 

 コートの内ポケットから一枚の書類を取り出し、まじまじと見る。

 

 

「まさか間違いで別に世界に転生させられたとはね」

 

 

 神林光。

 

 彼は本来ハンター×ハンターと言う物語の世界に生まれるべき存在だった。

 

 しかし、何かの手違いにより別の世界に送られてしましい、元々居るべき世界に戻すために今回ハンターの世界に送った。

 

 というのが事の真実である。

 

 

「しかし驚いたよ。 まさか《念》を発現させてたとは。 しかも完全に操れてはないものの、それを用いての高等技術まで使えるなんて」

 

 

(もしかしたら彼はあの世界の未来を、大きく変えるかもしれない)

 

 

「ふふ。」

 

 

 思わず顔がほころんでしまう。

 

 この先の展開が楽しみで仕方ない。

 

 

「せいぜい退屈させないでくれよ? 光君」

 

 

 神と名乗る男は画面を見ながら静かにつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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天空闘技場

テスト嫌だ。

てな訳で、投稿!!

今回の前半の戦い内容ですが、この前と同じじゃねぇーか。

と、思う人がいると思いますが、ちゃんと理由があります。

まあ、その他にもツッコミどころはたくさんありますが……。

細かいのは、ちょーと目をつぶってください。

では、どうぞ



天空闘技場。

 

 そこは格闘のメッカとも呼ばれている、251階、高さ991mの塔。

 

 ここには一日に何千という数の強者達が集まるらしく、実際に外には今も数百人は並んでいるだろう。

 

 そして俺は今、その中にあるリングに立っている。

 

 

「さあ、やってまいりました!! 本日の試合は、ここ190階まで異例の速さで上り詰めたコウ選手の注目の一戦。 これに勝てばコウ選手は、200階クラスに上がることができます」

 

 

 いつもながら耳障りな実況者の大声と客席からのやかましい歓声が聞こえてくる。

 

 まったくもってやかましい。

 

 俺の前に居た世界でも不良どうしの喧嘩には野次馬がよく集まり、ワーワー騒いでいやがったが、これはその比じゃねえ。

 

 はぁ~、とため息を吐きながら俺の対戦相手を確認する。

 

 見た目や戦闘フォームを見る限り、恐らくボクシングってところか。

 

 それも筋肉の付き具合等から、その筋では強い部類に入るんだろうな。

 

 

「それでは始め!!」

 

 

 試合開始の合図と共に男は地を蹴り、今までボクシングで培われてきたであろう、鋭い右ストレートを放った。

 

 その拳はおよそ一般人ならば回避も難しく、喰らえば常人なら一撃KOってところか。

 

 だが、残念ながら俺相手にそうはいかない。

 

 俺は少し上体を動かせばかわせるその一撃を敢えて、喰らった。

 

 瞬間、不快な音が会場に響く。

 

 察するに骨が折れた音でだろうな。

 

 もちろん相手の右腕が、だが。

 

 

「おォーと、いつもながらコウ選手に攻撃した側の選手が地に伏せたー!! なんとも不思議、コウ選手の硬さは鉄以上か!?」

 

 

 実況に、観客はさっき以上の歓声で応えた。

 

 そうこう会場が盛り上がっている中、ボクシング野郎は右腕を抑えながら、再び立ち上がる。

 

 既に俺にどうやっても勝てないということはその身で十分に理解したろうに、それでも挑もうとするのは男としての、格闘者としての意地か。

 

 どちらにしてもこう言う奴は嫌いじゃねえが、これ以上は流石に戦い(ケンカ)どころか遊びにもならなねぇ。

 

 ボクシング野郎は、再び地を蹴り、今度は左手でジャブを放つ。

 

 右ストレートほどの鋭さや威力は無いように見えるが、速さは先ほどよりも速い。

 

 が、俺はそれを右手で受け止め、カウンターを腹に喰らわせた。

 

 ボクシング野郎は、胃液を吐き出しながら、静かにリングに沈んだ。

 

 

「勝負あり! 勝者、コウ!!」

 

 

 意識の失ったボクシング野郎を見て、これ以上の戦闘は不可能と判断した審判は、俺に勝利宣言を下した。

 

 そしてそれと同時に、またも起きる盛大な歓声。

 

 俺はそのうるさい喚き声を背に受けながら、リングを後にした。

 

□                  □               □             □

 

 俺がこの訳の分からない世界に来たのは丁度今から一週間前。

 

 あの白一色の世界で気を失った俺は、見知らぬ町のベンチに座っていた。

 

 最初は夢かなんかかと思ったが、ポケットに入っていた手紙に気づき、それを読んだことにより、少なくとも夢ではないことが分かった。

 

 手紙の差出人は先ほどまで話していたグラサン野郎。

 

 そこにはここが俺の元居た世界ではないことと、これは夢ではないこと。

 

 そして、この世界なら俺の願いが叶えられる、と書かれていた。

 

 当然ながら胡散臭い話だ。

 

 だが、実際に俺はこの手紙の差出人とさっきまで「会っていた」のだ。

 

 ならば夢ではないのだろう。

 

 そうして読んでいくと、最後の文に「とりあえず最初は今君のいる町にある天空闘技場にGO!!」と書かれており、どこに行くアテも無い俺は少ししゃくだが、その手紙に従って天空闘技場へと向かった。

 

 

□                □                □              □

 

 190階クラスを勝ち抜いた俺は、いよいよ今までの階とは次元が違うと言われる200階クラスへと辿りついた。

 

 本来ならばもっと早くにここまで来るつもりだったが、一日に行われる試合に制限がついているせいで、なかなか上に上がれなかった。

 

 まったくもってまどろっこしい。

 

 こんなものやりたい奴にどんどんやらせりゃあいいのによ。

 

 まあいい。

 

 どっちにしろ俺はここまで来た。

 

 下の階の連中は俺の元いた世界の奴等よりは強かったが、所詮その程度。

 

 今度こそは、本気でやらせてもらいたいもんだ。

 

 そう思っているうちに、エレベータは200階へと着き、扉が開かれる。

 

 俺はエレベーターから下り、受付に向かった。

 

 真っ直ぐに進み、しばらくすると曲がり角があり、そこを曲がる。

 

 と、そこには不気味な気配を漂わせる三人組がいた。

 

 一人は一本足の義足で、まるで体がコマのような奴。

 

 二人目は、左腕が丸々ない妖怪のような顔の奴

 

 三人目は両足が不自由なのか、車イスに腰掛けている。

 

 この三人に共通しているのは、いずれも身体に異常をきたしている事。

 

 

「……わりぃ、どいてもらえねぇか?」

 

 

 半ば脅すように言ったが、三人とも薄気味悪い笑いをし、道を開けようとしない。

 

 

「チッ、全くめんどくせぇ」

 

 

 仕方なく、俺が無理矢理そこを通ろうとした時。

 

 言葉では表せないの嫌な何かを感じた。

 

 俺は半ば反射的に後ろに飛び退き、警戒を固めた。

 

 

「てめぇら何者だ!?」

 

「オレ達が誰かって?」

 

 

 俺の問に答えたのは、真ん中に居たコマ野郎だった。

 

 コマ野郎は軽く笑い声を上げ、

 

 

「オレ達は、この階の闘士さ」

 

 

 自分たちが200階クラスの闘士だという事を告げた。

 

 それを聞き、ようやく俺はこの三人が俺の前に立ちふさがっている理由が分かった。

 

 

「なるほど。 お前ら、俺をカモにしようって魂胆か」

 

 

 天空闘技場では200階クラスまで到達し、そこで10勝するとフロアマスターへの挑戦権が与えられる。

 

 ちなみにフロアマスターとは、230~250階までの各フロアを占有する21名の最高位闘士のことで、こいつらに勝利することで、新たなフロアマスターになれる。

 

 さらに補足すれば、フロアマスターになるだけで色々な特権を得られ、その後の生活は一生安泰する。

 

 まあ、俺としては強い奴と戦いたいだけで、そんなものに興味はないんだが、どうやらこいつ等はそれを狙ってるらしい。

 

 しかし、それにはまず十勝しなければいけないという事が前提であり、恐らくこいつらはこの階じゃあ、弱い方だ。

 

 それ故、俺のような新参者ばかりをカモにして十勝を狙うって訳か。

 

 全く、舐められたもんだ。

 

 

「いいぜ。 お前達との試合ならいつでも喜んで相手してやる。 だから、さっさとどけ」

 

「説明する手間が省けたよ。 それじゃあ、いつ戦う?」

 

 

「おいおい、俺の話し聞いてなかったのかよ。 いつでもって事は、今日でもいいって事だぜ」

 

「……君、中々活きがいいね」

 

「そりゃあ、どうも」

 

 

 しばらく俺と向こうの三人組とのにらみ合いが続き、それから数秒経ってから奴らはようやく道を開けた。

 

 俺は、三人組の横を通って受付へと向かった。

 

 

「200階クラスへようこそ。 こちらに登録を……」

 

「今から戦わせろ!!」

 

「えっ!? も、申し訳ありません。 今は、生憎既に次の試合が入っております」

 

「なら、できるだけ早く試合を組ませろ。 希望としては今日中にだ」

 

「は、はい!! 」

 

 

 受付は、俺にビビっているのか焦りながらパソコンを操作し始めた。

 

 それから数秒後、ようやく空きを見つけたのか、ホッとしたような顔つきでこちらに視界を戻した。

 

 

「今日の午後5時から試合が空いています。 しかし、対戦相手がまだ……」

 

「それなら問題ねぇ。 もうすぐ、ここに三人組が申し込みに来る」

 

「そうですか、分かりました」

 

 

 受付でのやることを終え、とりあえず俺は部屋に戻ろうと後ろを向いた時。

 

 

「すみません。 まだ、登録の署名と対戦の申込用紙をかいてもらってません。 あと、部屋の鍵も」

 

「それも問題ねぇ。 全部書き終わってるし、鍵も適当なのもらった」

 

「は? あ、本当だ」

 

「じゃあな」

 

 

 今度こそ俺はその場を後にした。

 

 

 

 




短めですいません。

ところで、執筆なんですがマジでサボってるわけじゃあないんです。

書く気は有り余るほどあります。

ですが、なんと言うか自分の書きたいことがうまく表せないんすよね。

もちろん他の書き手さんのを参考にさせて貰っていますが、時間もあまりないですし。

しかも、無謀にも自分もう一作品書いてまして尚更それが……。

でも、更新をやめる気はないのでそれだけは安心を。

見てくれる人いるか分からないけど。


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二百階クラスの闘士たち

時の流れって速いね。

気づいたらもうこんなに日にちが経っていたよ。

なんか、毎回謝るところか始まってごめんね。

つーことで、申し訳ない。

ついでに言うとバトルシーンも申し訳ない。

バトル苦手なんです。

そういう系書いてるけど。





 俺は今まで一度も誰かに対して恐れを覚えた事はない。

 

 それは前までいた世界、この世界に来てからの一週間を含めてもだ。

 

 だから俺は今まで《恐怖》と言う感情を知らなかった。

 

 だが、今日始めてそいつを知った気がする。

 

 あの三人組に会ったとき。

 

 俺は、始めて自分から後ろに下がった。

 

 それは紛れもなく、俺があの三人に《恐怖》を抱いたからだ。

 

 負ける気はしなかった。

 

 それでも俺は説明できない嫌な何かを恐れて、身を引いた。

 

 つまり、この二百階クラスの闘士は今まで俺が戦って来た奴らとは次元が違う事を示している。

 

 感だが、これから行われる試合ケンカに常識は通用しないだろう。

 

 だが、それがいい。

 

 そのぐらいの相手じゃなければ、俺が本気で戦うことなど不可能だろう。

 

 あの時の俺は確かに《恐怖》を感じた。

 

 しかし、もう一つの感情も同時に感じていた。

 

 《喜び》をだ。

 

 ようやく本気を出せるかもしれない、と言うな。

 

 グラサン野郎の時は、本気を出す前にこっちへ飛ばされたからな。

 

 結局、何もできなかった。

 

 その時の消化不良も含め、俺は今日それ等を発散するつもりだ。

 

 

「まさか、本当に今日戦えるとはな」

 

「驚くことじゃないはずだぜ。 さっきも言った通り、俺は今日でもいいと言ったんだからな」

 

「ふふ、本当に活きのいいガキだ」

 

 

 薄気味悪い笑い声を出しながら、言う。

 

 俺の最初の対戦相手は先ほどの三人の内の一人であるコマ野郎。

 

 正直、あの三人の中じゃ一番戦いに不向きそうな奴だが、二百階クラスの闘士の力量を見るには丁度いい。

 

 

「せいぜい見せてくれよな。 あんたの本気を」

 

「フ、笑わすなよ」

 

 

 試合開始の合図と共に、コマ野郎は懐から独楽をリングのあちこちにバラ撒いた。

 

 独楽はすごい勢いで回転をしながら互をぶつけ、弾き飛ばし合っている。

 

 

「妙な曲芸だな。 それで、あんたは攻撃もせずにどうするつもりだ?。 まさかとは思うが、曲芸対決でもやろうってか?」

 

 

 やや、挑発的に言ったがまたもコマ野郎は薄気味悪い笑いをするばかり。

 

 俺は内心がっかりしながらも、さっさとこの茶番を終わらそうと一歩進もうと____。

 

 その刹那、高速で何かが飛んできて俺の頬を傷つけた。

 

 

「なに!?」

 

 

 《何か》が、飛んできた方を向くとそこには独楽が回っている以外に何の変わりもない。

 

 いや、違う。

 

 これはまさか。

 

 

「お前は既に、オレの手の平で踊っていたのさ」

 

 

 コマ野郎が言い終わると同時に、独楽が一斉に俺を襲う。

 

 

「くっ!!」

 

 

 俺は間一髪それ等をなんとか、かわしつつも一旦距離を取った。

 

 なんだ、これは。

 

 独楽が互いに弾きあって、攻撃してくるだと?

 

 確かに常識が通用しないのは分かっていたことだが、流石にこれはありえない。

 

 まるで独楽が意思でも持ったかのように、俺を攻撃するなど……。

 

 

「驚いたか。 これが俺の能力戦闘円舞曲(戦いのワルツ)!! 独楽の一つ一つがお前を攻撃してくる。

なに、心配をするな。 運がよければ死にはしないだろう」

 

 

 運がよければ死にはしないだろう。

 

 これはつまり、あの独楽にはかなりの威力が備わっていることを示す。

 

 

「ほら、どうした。 逃げないと当たるぞ」

 

 

 考えている間にも独楽の攻撃は続き、尚かつコマ野郎はどんどん独楽を増やしていく。

 

 もはや避け続けるのも限界が来ていた。

 

 俺はリングの端に追い込まれ、もはや逃げ場はなかった。

 

 

「終わりだ」

 

 

 止めを我先へと刺そうと、独楽は一斉に俺に向かってくる。

 

 逃げ道はない。

 

 ここまで接近されてはリングの外に逃げるのも不可能。

 

 完全に退路ない。

 

 もう、回避は不可能だった。

 

 俺はただ、迫ってくる独楽を眺めながら_____

 

 

「オラッ!!」

 

 

 俺に当たるよりも先に全てを叩き落とした。

 

 

「な! 」

 

「思ったよりも大したことねぇな~。 お前の独楽攻撃」

 

「う、うるさい!! 黙れ!!」

 

 

 独楽を破壊されて冷静さを失ったのか、コマ野郎は俺の安い挑発に乗って、案の定さらに独楽を投入した。

 

 先ほどの倍近い数の独楽が俺めがけて飛んでくる。

 

 が、俺はそれを難なく全部打ち砕いた。

 

 

「バカな! 《念》で強化した独楽を《纏》すら使えないガキに壊されるなど……」

 

「おい、もう終わりか?」

 

 

 コマ野郎に先ほどの余裕等なくなっていた。

 

 大量に流れ出ている汗がそれを証明している。

 

 

「手が尽きたんなら、もう用はねえ」

 

 

 俺はコマ野郎の元へとゆっくりと歩いていった。

 

 あの義足ではどうせ、大して動けないだろうしな。

 

 急ぐ必要はない。

 

 

「く、来るな!」

 

 

 俺との距離が一メートルに迫った瞬間、コマ野郎は自らを高速回転させて接近を拒ませる。

 

 まだ、変な曲芸を残していたのか。

 

 

「独楽が全て破壊された今、オレに攻撃の手段はない。 だが、俺が回転し続ける限りお前も攻撃の手段はない!!」

 

 

 自信満々に言い放つが、結局の所自らに攻撃手段がない以上、ただの悪あがきに過ぎない。

 

 それに、こいつはそれ以前にひとつ見落としている。

 

 

「確かにお前のその技はすごい。 まさに、自らを独楽に模せる事により、全く相手を近づきさせねえ。 だがなぁ、その技には決定的な弱点がある。」

 

 

 俺は十分な位置になるまで、コマ野郎に接近する。

 

 一歩、二歩。

 

 三歩目に到達した頃には、十分な位置に。

 

 そして俺は腕にうなりをつけながら、

 

 

「それは、俺には意味がないってことだ!!」

 

 

 思いっきり殴った。

 

 

 俺の拳はコマ野郎の回転を中断させ、顔面へと吸い込まれるようにぶち当たった

 

 

「ぶへっ!!」

 

 

 コマ野郎は、そのままはるか上空へと飛んでいき、観客席へと落下した。

 

 その後、スタッフがすかさず落下地点へと向かい、コマ野郎の試合続行が可能か否かを確認したが、すぐに試合続行が不可能と判断され、俺に勝利が言い渡された。

 

 今回の相手は、二百階クラスの力量を見るためのコテ調べのつもりだったが、意外に大したことはなかった。

 

 敢えて大した事を挙げろ、と言われてもせいぜいあの曲芸ぐらいだろう。

 

 あれだけは今でも技のトリックがわからねえ上に、攻撃もまるで鈍器で殴られてようなものだった。

 

 そして気になることもある。

 

 コマ野郎は戦いの最中に《念》と言う単語を使っていた。

 

 あの単語は、グラサン野郎も確かつぶやいていた。

 

 《念》とは、一体なんなんだ?

 

 ……まあ、いい。

 

 今回は久しぶりにもともに戦えた。

 

 それだけで良しとしよう。

 

 

□                   □            □               □

 

 サダソ、リールベルトside~

 

 

「バカな! ギドがやられただと!?」

 

 

 信じられないような目をしながら、手無し野郎、サダソはテレビを見ていた。

 

 彼が驚くのも無理は無い。

 

 なぜなら目の前(直接ではないが)で絶対に負けるはずがないと思っていたギドが、あっさりと負けってしまったのだから。

 

 

「そう喚くな。 ギドは元々、俺達よりも非力だ。 それに加え、多数の独楽にオーラにもを与えていたんだ。 自分に使うオーラが少なくなっていてもおかしくはない。」

 

 

 そう解説したのはイス野郎、リールベルトだ。

 

 しかし、彼自身もギドが負けることは予測していなかった。

 

 始めてこの階にたどり着いたものは、必ずここに居る闘士に《洗礼》を受ける。

 

 それは彼らも同じで、それぞれが先人の闘士と戦い、体の一部を再生不能にまでさせられた。

 

 だが、彼らはそれと引き換えにある物を授かった。

 

 それは常人には見ることさえ叶わないもの。

 

 それを使うことにより、彼らは常人から超人になった。

 

 この階にいる者は、皆そういう奴らだ。

 

 そんな者に普通の人間が、及ぶはずなどない。

 

 はずだった_____。

 

 

(《念》の使い手が、常人に負けるなどまずありえない。 ギドのようにオーラ切れでも起こさない限り。

だが、それを踏まえても奴は危険だ。 奴は、《念》で強化した独楽を破壊している)

 

 

 ギドはまだ能力に目覚めてから一年しか経っていない。

 

 少々難しいが、独楽を破壊できなくもない。

 

 それでも、それぐらいの力はあると頭に入れておくべきか。

 

 

「所で、明日の試合どっちが最初だっけか?」

 

「ああ、確かオレだ」

 

「そうか。 さっきはああ言ったが、十分に気をつけろよ」

 

「分かった。 一瞬でケリを付けさせてもらう。 それじゃあな」

 

 

 サダソはそう言い、部屋を出て行った。

 

 

「明日の試合、勝つのはサダソだろう」

 

 

 リールベルトはつぶやく。

 

 そう考えるのは、サダソの能力が《念》の使えない相手に非常に有効かつ、メンバーの中では一番の攻撃力を持っていたからである。

 

 下手すればコウとか言うガキは死ぬかもしれない。

 

 だが____。

 

 

(やはり油断はできない。 一応、準備をしておこう)

 

 

 リールベルトも、また静かに部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 




ツッコミたいことは分かる。

なんで独楽破壊できんだ、おんどれりゃあー!!

ということですね?

後で、分かります。

多分。

追伸 実況、審判入れんの忘れてた。



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本物の実力者

更新……素で忘れてました。
でも、毎回謝罪文から始まる前書きは流石にアレなんで今回は謝りません。
そろそろ不愉快に感じるだろうし。
あと、もう一つ。
いつもは小説を投稿する前に見直しや、友人に目を通してもらっているのですが今回してません。
なので、誤字とか言い回しがおかしい可能性大。
見つけた人は教えてくれると助かります。

追記 感想の方も見て、混乱した?人は多分いないと思うんですけど。
   更新が遅れた理由を詳しく説明すると
   
   詰まった→その後書くの忘れた→更新遅れたです


 ありえない。

 

 サダソは戦いながら、そう思っていた。

 

 彼が今戦っている相手は、昨日ギドを倒したコウという名の新参者。

 

 奴は念が使えず、戦闘経験があまり深くないコウのような奴はサダソ達のとって絶好なカモだった。

 

 そんな奴に念の使い手であるギドがやられた時は少々焦ったが、サダソ自身は負けると思うことはなかった。

 

 彼の使うコウが曲芸と読んでいるものの名は見えざる手レフトハンド。

 

 その能力自体は生命エネルギーと呼ばれるオーラで常人の何倍もの力を持つ左手を作り出すことだけだが、実はもう一つこれには特徴がある。

 

 どちらかといえば念の特徴であるが。

 

 実は一般人には念を使うための原動力となるオーラと言うものが見えない。

 

 見ることができるのは同じく念を扱うものだけ。

 

 本来、それは二百階クラスで戦うものには全くの意味をなさない。

 

 なぜならここのクラスの闘士のほとんどが念を使えるからである。

 

 しかし、ここに初めてきたものはどうだろう?

 

 彼らは当然のことながらほとんどが念を使えない。

 

 従って、オーラも見ることができない。

 

 そんな新米達は、サダソの絶好な獲物だ。

 

 オーラが見えないということは、サダソの攻撃が見えないということである。

 

 回避はそれだけで難しくなるだろう。

 

 それと、レフトハンドはさきほども説明した通り常人の何倍のパワーを持っている。

 

 捕まればまず逃げられない。

 

 このような理由からサダソは自身の能力を使えば、コウとか言う新米のガキは瞬殺できると思っていた。

 

 が、現実は違った。

 

 

「なぜだ……なぜ当たらない!?」

 

 

 サダソはレフトハンドの拳を何度もコウに振るっていた。

 

 だが、彼の攻撃を全てよけられている。

 

 見えないはずの攻撃が。

 

 

(バカな。こいつにはオーラが見えていないはず……!!)

 

 

 なぜ?

 

 疑問が何度も脳裏を過ぎる。

 

 相手は素人で、自分は念の使い手。

 

 奴には見えてなく、自分には見える。

 

 その違いは大きい。

 

 勝敗の差を大きく分けるほどに。

 

 だからこそサダソは焦る。

 

 自分は圧倒的有利なはずなのに、目の前のガキを倒せない。

 

 それどころか、攻撃を一発さえ当てられない。

 

 

「おいおい、その程度かよ? これえなら昨日のコマ野郎の方が強かったぜ」

 

 

 コウが発したこの言葉に、サダソは強い苛立ちを感じた。

 

 恐らくそれには先ほどの焦りのせいでもあるのだろう。

 

 サダソは自分の意識をオーラで作り出した左手に全て集中させる。

 

 すると、左手はだんだんと巨大化していき、ついには人が二人乗れそうなまでに大きくなった。

 

 

「死ねェェェっェェ!!」

 

 

 雄叫びと共にコウ目がけて、巨大化した左手を振り下ろす。

 

 しかし、その左手がコウに当たることはなかった。

 

 サダソは何が起こったのか、すぐに理解した。

 

 

____オーラ切れ。

 

 

 いつもの試合なら、彼の戦闘時間は長くても十五分。

 

 だが、今日は既にその時間を越している。

 

 それに加えて手を巨大化させるのにさらに多くのオーラを使ったのだ。

 

 いつオーラが切れてもおかしくはなかった。

 

 

____意識が遠のいていく。

 

 

 オーラが切れるということは生命力の低下を意味する。

 

 今の、サダソには今多大な疲労が溜まっているだろう。

 

 彼はゆっくり膝をつき、倒れようとしたとき。

 

 顔面に何かが飛んできた。

 

 瞬間、倒れようとした体は後ろへと一直線に飛んでいった。

 

 

「わりぃ。止めようと(拳を)思ったんだがな。無理だった」

 

 

 別段悪びれずに謝るコウを最後に見て、サダソの意識は完全に消えた。

 

 

□            □            □                □

 

 試合が終わり、自分の部屋に帰るために歩いている途中、俺はあることを考えていた。

 

 それはさっきの試合で既に戦闘不能状態の手無し野郎を殴ったこと_____。

 

 ではなく、あいつのないはずの左手が突然出てきたことについてだ。

 

 昨日会った時、試合が始まる前には確かに左手はなかった。

 

 だが、試合が始まると同時にそれは現れた。

 

 普通の手とは違い、色は白くぼやけていたが、今まで感じたことのないほどの強い生命力とでも言う奴

を感じた。

 

 今思えば、あの感覚は俺が本能的に後ろに下がってしまった時のモノと似ていた。

 

 ということはあいつらの使う曲芸は、あの白いモノと関係があるのか?

 

 独楽を高速回転させ、手を創りだす。

 

 おおよそ、科学的なものでは不可能に近いあの現象を発生させるのと……。

 

 そこまで考え、俺は途中で思考を中断した。

 

 俺の部屋の前に立っている男_____。

 

 身長は俺と同じぐらい、髪は白でうざったい程に長い。

 

 だが、強いな。

 

 俺が戦って来た奴のどれを比べても郡を抜いて強い。

 

 恐らくなにかしろの拳法を習得している武闘家。

 

 それも少なからず、あの三人組の奴と同じ臭いがするところから見ると曲芸使いでもあるか。

 

 

「俺になんかようか?」

 

 

 普段なら黙って、睨んででもして無理矢理退かすところだが、強い奴なら別だ。

 

 むしろ大歓迎ってところだ。

 

 

「いや、偶然ここを通ってね。あわよくば期待のスーパルーキーのサインでももらおうかなと……」

 

「嘘つくなよ」

 

「えっ……?」

 

 

 俺の言葉に長髪野郎はあ然とした顔で答える。

 

 どうやら顔芸がうまいらしい。

 

 

「ここは一番端っこにある部屋だ。ここには階段もねぇし、あるのは壁だけだぜ?。それなのに一体どうやったら通りかかるんだ?」

 

「……フッ、やはり私は嘘が下手だな」

 

 

 長髪野郎は、鼻で軽く笑ってこちらに向き直る。

 

 

「まず初めに名乗らせてもらいたい。私の名前はカストロ。二百階クラスの闘士だ」

 

 

 カストロ。

 

 その名前には聞き覚えがあった。

 

 天空闘技場に置いて最も才能があり、フロアマスターにさえ名が知られるほどの実力者。

 

 確か噂ではカストロはそう言われていた。

 

 

「私が君に会いに来たのは他でもない。 君に試合を申し込みに来た」

 

「俺に?」

 

 

 疑問形で返したが、予想していなかったわけじゃない。

 

 むしろ予想通りだ。

 

 他の闘士の部屋の前に待ち構えている理由なんて、それぐらいしかない。

 

 だが一つだけ、腑に落ちない事があったから疑問形で返した。

 

 

「おいおい、俺はあんたより格下だぜ? そんな奴に戦い挑むってのてのはどういうことだ」

 

 

 格下って事は、俺自身は微塵も思っちゃいねぇ。

 

 だが、実際に経歴や勝ち星だけ見れば俺は間違いなく各下になる。

 

 そんな奴に自分から戦いを挑むはずがない。

 

 

「確かに君の言っていることは分かる。私から見れば、君は弱い」

 

「ならなんでだ?」

 

「それは_____私が強くなるためだ」

 

 

 雰囲気が変わった。

 

 重く、息苦しい雰囲気に。

 

 長髪野郎の目が先ほどとは違い、深い覚悟と怒りにも似た執念を感じ取れる。

 

 いや、それだけじゃない。

 

 視える。

 

 手無し野郎戦の時に見えたあの白いぼやけが。

 

 より明確に、より力強く。

 

 今のカストロを一言で表すと言うならば《化物》以外にないだろう。

 

 

「……ハッ! すまない、つい興奮してしまってね」

 

 

 我に返ったのか、今までの雰囲気は瞬時に消え失せ、愛想笑いをしながらカストロは頭を下げた。

 

 

「私はまだまだ未熟者でね。強くなるためにある人に稽古をつけてもらおうと思っているんだ。だけどその

人は結構な気分屋で、弟子になりたきゃあいつと戦ってこいって言ったんだ」

 

「……それが俺か?」

 

「ああ、その通りだ」

 

 

 先ほど印象とは打って変わって、ただの優男にしか見えない。

 

 だが、こいつは危険だと俺の本能が騒いでいる。

 

 戦うなと、全力で拒否している。

 

 

「もし、嫌だというなら無理強いはしない。元々、君には何も関係ない話だからね。その時は、私が上手いこと言って、なんとかするよ」

 

 

 そんな俺の状態を見抜いたのか、長髪野郎は戦わなくてもいいと言ってきた。

 

 ……恐らくだが、こいつの本当の目的はコレなのかもしれない。

 

 敢えて自分と俺の実力差を見せることにより、戦意を喪失させ、戦わせなくする。

 

 そもそも戦う気などなく、言うならば戦わずして勝つというわけか。

 

 確かにそれが賢明なのかもな。

 

 目の前の長髪は、この階の本物の実力者。

 

 次元がさらに違う完全な化物。

 

 怪我なんかじゃ済まない可能性すら高い。

 

 下手したら死ぬだろうな。

 

 だがな_____。

 

 

「いや、受けるぜ」

 

「えっ?」

 

 

 予想とは違う返答にすっとんきょんな声を長髪野郎は上げた。

 

 

「君、本気かい?さっきので実力の違いを充分に理解したと……」

 

「うるせーな。ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇーよ。アンタから言い出して来たことだろうが」

 

「ああ、その通りだ。だが……」

 

「負けるのが怖いのか?」

 

 

 またも、場の雰囲気が変わった。

 

 しかし今回は先ほどのように重く、息苦しい雰囲気ではない。

 

 静かに、互の事を見定め合っている。

 

 

「ここまでの実力を見せつけて、折れないとはね。どうやら本物の闘士、いやそんなものじゃないな。どちらかと言えば……戦闘狂かな?」

 

「分かってるじゃねぇか、長髪野郎」

 

「それはどうも」

 

 

 長髪野郎は身を翻し、

 

 

「試合時刻と日にちは君に合わせるよ。決まったら教えてくれ」

 

 

 そう言って、長髪野郎はこの場から去っていった。

 

 

「……いつでもか」

 

 

 つぶやいて、俺も自分の部屋へと入った。

 

□               □               □                □

 

「さあ、やってまいりました!!今回の試合は新人でありながら現在二連覇中の最強ルーキー、コウ選手!!

対するは先輩としての意地を見せられるか、リールベルト選手!!」

 

 

 今日も観客と実況者はワー、ワー、騒いでいやがる。

 

 よくまぁ、いつもそんなにテンション高いのか不思議でしょうがねぇぜ。

 

 

「両選手位置について!」

 

 

 審判が大きく両腕を上げて、指定の位置につく事を指示し、俺はそれに従った。

 

 俺とイス野郎が指定の位置についた事を確認した審判は、

 

 

「ポイント&KO制!! 時間無制限一本勝負!! 初め!!」

 

 

 両腕をクロスさせるようにして、振り下ろした。

 

 それと同時に最初に動いたのはイス野郎だ。

 

 イス野郎は、車椅子の後ろから二本の鞭のようなものを取り出して、そのまま流れるようにして振るった。

 

 

「でたーぁ! リールベルト選手の武器である双頭の蛇ツインスネークから繰り出される攻防一体の技

双頭の蛇による二重唱ソングオブディフェンスが炸裂だ!!」

 

 

 ダサい技名だな。

 

 実況を聞いてると毎度思うんだが、もう少しひねった名前をつけろってんだよ。

 

 まあ、俺には関係ないがな。

 

 

「はっ!! オレにこの技を出させて時点でお前の勝機はないぜ。 ギドやサダソを倒したからって図にのんじゃないぞガキが!!」

 

 

 リールベルトは高速で鞭を振るいながら徐々に間合いを詰めていく。

 

 なるほど、そうやってどんどん逃げ場をなくして行くわけか。

 

 

「さらに絶望をくれてやる!! 鞭をよく見やがれ!!」

 

 

 言われた通り、俺は鞭を見る。

 

 すると、時折火花が散っているのが分かる。

 

 これは。

 

 

「……電気か」

 

「その通り。これを見ればどういうことか分かるよな? わざと鞭を受けて掴んで無効化ってのは元より、当たれば感電さ!! さあ、どうする~?」

 

 

 まるで勝ちを確信したかのようないやらしい笑でこちらを見る。

 

 まあ、そうだろうな。

 

 こうまでされたら鞭の無効化はほぼ無理だろう。

 

 俺だって流石にあれだけの電気を受け止められる自身はない。

 

 だけどな。

 

 

「おーと! コウ選手、全速力でリールベルト選手の元へ駆けていく!! 勝ち目のないと諦め、決死の突撃にでたのかーぁ!?」

 

 

 決死の突撃?

 

 周りの奴にはそう見えるのか。

 

 

「はは、馬鹿め。 オレの鞭の餌食となりやがれ!!」

 

 

 どうやら、会場の全員が俺の今の行動を自爆と見ているらしいな。

 

 だが、間違いだ。

 

 残念ながらな。

 

 俺はさらに加速してソングオブディフェンスの攻撃範囲に飛び込んだ。

 

 まさに蛇のようにうねる電気付きの鞭が俺に迫ってくる。

 

 が、軌道は全て見えている。

 

 俺は左右に体を動かしてかわし、イス野郎の目の前に躍り出る。

 

 

「え? うそ」

 

「いいや、本当だ」

 

 

 鞭を全てかわされ、呆けた顔したイス野郎の顔面に拳を叩き込んだ。

 

 

「カッハッ!! 」

 

 

 イス野郎の体は綺麗に車椅子ごと場外へと飛び出ていった。

 

 多分、倒した三人の中で一番の飛びっぷりだったろう。

 

 

「リールベルト選手の戦闘不能を確認!! 勝者はコウ選手!!」

 

 

 いつも通りの審判から言い渡される勝利宣言が俺に下った。

 

 そしていつも通りの観客が一層騒ぎ、俺は静かに帰る_____。

 

 のだが、今日は違う。

 

 

「いるんだろ、そこに!!」

 

 

 会場全体に響き渡るほどの叫び声を発する。

 

 一時、会場は突然の俺の大声に静まり帰ったが俺はお構いなしに続ける。

 

 

「出てこいよ、長髪野郎」

 

 

 俺の言葉の意味が分からずに、ほとんどの観客は何言ってんだコイツ? と言うような目を俺に向ける。

 

 ただ、一人を除いては。

 

 

「もしや、長髪やろうとは私のことかい?」

 

 

 たった一人だけ立ち上がった奴がいた。

 

 俺はにやりと笑い、そいつに言い放った。

 

 

「テメェとの勝負、受けてやるよ長髪が」

 

 

 

 

 

 




カストロの事を化物とか書いたッスけど、充分コウも化けもんじゃね?
とか書いてる時に思いました。
まあ、それは置いといて。
皆さんに相談なんですが、戦闘描写と視点変更のみ三人称ってアリですかね?
別にアンケートとかそういうのではないので、暇な人はちょっとお聞かせください。

追記 サブタイトル付けることにします。あと題名も、主人公の《念能力》登場時に正式に付けます。いつかは分かりませんが


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コウVSカストロ

やべ、投稿ミスった。
というのは置いておき、なんとか更新しました。
今回はいつもより少なめに感じると思いますが、行の間詰めて書いただけで、いつもと変わりません。

遅くなりましてすいません。あと、戦闘描写がしょぼくてすいません。


「コウ選手がカストロ選手に宣戦布告決めて一日が経ちました。ですが、私も含めて観客の皆様にとっては長い一日だったことでしょう。そう、無敗のルーキーVS二百階クラス最強の拳法家対決が今始まろうとしております!!」

 

 体が急に身震いをしだす。それはこれから始まる事によっての恐怖か、或いは喜びなのか。いや、きっとどちらもなのだろう。どちらも前の世界では到底味わうことのできないものだ。

 俺は望んでいたのだ。こう言う本気マジで戦える奴を。

 

 

「せいぜい楽しませろよ、長髪野郎」

 

「それはこちらの台詞だよ。いい勝負を期待しているよ戦闘狂くん」

 

 

 互いに短く言葉を交え、位置に着く。

 審判は準備が整ったことを確認して大きく息を吸い込む。

 

 

「始め!!」

 

 

 声と共に俺は走りだす。いつもは様子見をする所だが、今回は必要ねえ。コイツには真っ向から戦いという感情がある。そしてそれは向こうも同じようだ。長髪野郎もまた、俺と同じくこちらに距離を詰めてきている。考えは同じようだ。互いに拳を握り、放つ。

 

 

「くっ……!」

 

「クリーンヒットォ!」

 

 

 先に拳を喰らったのは長髪野郎だ。心臓に一撃、人間の急所のひとつとも言われるそこに攻撃を受けたのだからブッ飛びはしなくとも息ぐらいは乱れるはずなのだが。目の前の男は短く呻き声は上げたものの、さほどダメージはない様子。今までのとは違うってわけか。

 

 

「まだ、行くぜ」

 

 

 一撃では効果がないのならば、連撃を喰らわすだけのこと。さらなる追い討ちを掛けるべく、拳を叩き込む。が、しかしソレは全て空振りに終わる。

 長髪野郎の体は瞬間的に消えた。そう思った直後、後ろに気配を感じた。

 

 

「チッ……!!」

 

 

 振り向きざまに裏拳を叩き込む。だが、またも拳は空を切る。今度はさっきまであったはずの気配すらも消えた。今度は左右のどちらか、それとも再度後ろからか。三百六十度見回ったがアイツはどこにも居ない。

 ふと気づいた。観客の何人かが上を見ているのだ。それは一体何を示すのか。察した俺はすぐに横に跳んだ。同時に上から何かが落下した。そいつは石のプレートを砕き、塵煙と共に姿を現す。

 

 

「……さっきの一撃は効いたよ。まさか、攻撃の速度と威力が生身の私を越しているとはね。正直見くびっていたよ」

 

「へっ、よく言うぜ」

 

 

 さっきまでのは軽い小手調べのようなものだ。これで長髪野郎の実力が分かるという訳ではないが、曲芸を使わずにこの戦闘力。底はまだまだ知れねぇ。

 

 

「いいだろう。侘びとして見せてやるよ、私の本気の一端を」

 

 

 長髪野郎は構えた。だがその構え方はおおよそ一般的な拳法のとは違い、実に奇妙なものだ。

 まるで野獣が獲物を狙う姿を体現している。一見ふざけているように見えるが、そんなことを感じさせない雰囲気。うかつに近づくのはマズイか。

 

 

「コオオ」

 

 

 呼吸の音がはっきりと聞こえる。恐らくこの音が止んだ時が、勝負再開の合図になるだろう。

 しばしの沈黙。そして数秒がたち、場は完全に音の無い世界へと変わる。

 

 

「いくぞ!!」

 

 

 狼煙は上がった。長髪野郎は先ほどよりも速く動き、接近する。

 それに対し、俺の脳内に三つの選択肢が浮かぶ。一つはこのまま迎え撃つ。もう一つは敢えて攻撃を喰らってどの程度の威力なのかを調べる。そしてもう一つは……。

 

 

「無難に行かせてもらうぜ」

 

 

 右手を地面の石のプレートの隙間に差し込む。そして_____

 

 

「オラッア」

 

 

 思いっきり返す。プレートは縦になん回転もしながら真っ直ぐに進んでいく。

 

 

「なっ……!」

 

 

 流石にコイツが飛んでくるのは予想していなかったのだろう。驚きで目が見開いていやがるぜ。

 もちろんこんな方法でどうこうなる思ってねえが、あいつは今必殺技の構えをとっている。

 避けようとすればソレが崩れ、そこに大きな隙ができる。逆に破壊しようとするならば現状況であるならば必殺技を使わざるえない事となる。

 つまり、どっちに転んでも俺にはメリットしかない。

 そして、あの長髪野郎の事から推測するに選ぶのは後者の方に違いないだろう。特と拝見させてもらうぜ。

 

 

「なるほど、どうやら一本取られたようだ。だが、それもいいだろう。望み通り見せてやる」

 

 

 長髪野郎はさらに加速する。その時だ。一瞬だが、奴の両手が獣の爪に見えた。それも獰猛な猛獣、虎の爪のようなものが。

 

 

「虎咬拳」

 

 

 声が響き、気づいたらプレートは裂けていた。まるで鋭い何かで抉り、削られたように。

 威力はその様子から正に必殺と呼ぶに相応しく、生身であれを喰らえばただで済むところか下手したら命を取られかねない。選択を誤ってたら確実にやられていた。

 

 

「そいつがテメェの曲芸か」

 

「半分当たりで半分ハズレ、とでも言っておこうか」

 

「____野郎が!」

 

 

 地を蹴った。あの技は確かに驚異だが、それはあくまで当たった場合の話。逆に考えれば喰らう前にアイツを倒してしまえばいくら強力な攻撃も意味を成さない。

 胸元目掛け、拳を振り下ろす。しかし、それ等はやはりとも言うべきなのか難なくかわされる。なら、足ならばと今度は顔面に目掛け、蹴りつける。だが、今度は右手でガードされる。

 

 

「どうしたのかな? さっき程よりもキレも速さも鈍くなっているように見えるが」

 

「ああ、その通りだ。ワザとやっているからな」

 

 

 左足も高く上げ、そして振るう。当然それも止められる。が、両足で挟むことにより長髪野郎と俺の位置を固定。そして、身体を思いっきり右に捻り回転。すると野郎も半回転、そして地面に顔面を叩きつける。

 

 

「クリティカルヒット!!」

 

 

 今のは完全に決まった。拳はフェイク、足の攻撃を敢えて受けさせるために遅くした。若干だがさっきやったアレは今初めて使った奴で、うまく出来るかどうかは心配なところだったがな。

態勢を素早く直し、さらに飛ぶ。今なら畳み掛ける絶好のチャンスだ。長髪野郎も立ち上がるが、こっちのほうが速い。

 

 

「よく見たらいい面してんじゃねえか。もっとよくしてやるよ」

 

 

 左足で踏み込んで、拳を突き立てる。避ける事はできねえはずだ。頭を打ったんだ、いくらタフでも感覚は多少なりとも鈍ってるはずだ。ガードも今からじゃ間に合わねえ。完全無防備に叩き込まれる一撃は通常の比じゃあない。そして拳は今、奴の顔面にめり込んだ。

 

 

「……何だと?」

 

 

 長髪野郎は微動だにしなかった。拳は命中している。それは間違いようのない事で、確実にだ。だが、結果は無傷。顔は歪むどころか、かすり傷を付けることさえなかった。

 

 

「いいパンチだ。《念》を習得していなければ今の一撃で終わっていたよ」

 

 

 顔を上げると長髪野郎の顔面は白く光っていた。これは……。

 

 

「実力は全て見させてもらった。なるほど、実に素晴らしい才能を持っているね。君ならばいつか私にも牙が届くはずさ」

 

 

 薄く笑う、長髪野郎の拳は俺の腹を抉った。瞬間、今までに感じたことのない程の鈍い痛みが全身を襲う。それは鉄パイプや釘バット、ハンマー或いは独楽の威力さえも及ばない程のものだ。

 意識が飛びかけた。

 

 

「な……めるなよ!」

 

 

 ここで終わる訳にはいかねえ。すぐさま反撃しようと拳を握る。が、今度はその腕を攻撃される。足も動かす前に潰された。足元がぐらつく。攻撃手段がどんどん奪われていく。

 

 

「君には期待しているよ。だから洗礼を送ってやる」

 

 

 雰囲気が変わる。そして次に見たのはあの構え。

 

 

「場合によっては死ぬ可能性もなくはないが、きっと大丈夫だろう。安心したまえ」

 

 

 言い終わると、拳は俺の胸を貫いた。体は浮き上がり、宙へとその身は舞った。そして、行き着いたのは観客席。それは皮肉にもいつもの俺の倒し方だ。別に意識したものではないが、同じことをされるってのはイラつくものだ。

 だが、それも時間の問題。意識はどんどん遠のいていく。

 

 

 俺は______敗けた

 




次の投稿するとき。
それは、この小説が壊れるときです


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決着

ごめん。
何が悪いかって、感想の返信では年内中に更新とか言ってたのに今2014年。
てのもありますが、一番は今回の話ヤバイ。
ヤケになってたら予想以上に凄いことになった。ある意味
ま、まあ大丈夫だよ。
てことで、今年初めの更新どぞ


____あーあ、敗けちゃったか

 

 

 覚えのある気色悪い声が聞こえる。

 気がつけば俺は白が全てを支配する世界に居た。

 さっきまでのやかましい雑音や人も物も何もない存在しない。

 唯一何かが存在しているとすれば、せいぜい胡散臭いグラサン野郎ぐらいのものだろう。

 

 

「テメェ、何のつもりだ?」

 

「はははっ、何だい久しぶりに会ったてのに冷たいねー」

 

 

 空間が揺れ、先ほどまで居なかったはずのグラサンを掛けた男が現れた。

 手にはマシュマロの入った菓子袋を持っており、それを美味そうにほおばっている。

 ……実に不愉快だ。マシュマロ食っていること事にじゃねえ。何故、あのタイミングでこの世界に連れてきやがった。

 

 

「怒っているのかな? 大丈夫、安心しなよ。君は意識を失ってるだけでまだ死ん」

 

 

 言い終わる前に拳を顔面に叩き込んだ。

 だが何か得体のしれない不可視の障壁に阻まれているかのように拳は空中で止められた。

 

 

「御託はいい。さっさと俺を闘技場に戻しやがれ」

 

「……何を言い出すかと思えばそんなことか」

 

 

 グラサン野郎は指をパチンと鳴らすと、ソファを出現させて腰を下ろした。

 表情はやけに冷え切っていた。もちろんサングラスを掛けているため、実際には顔の変化などは分からない。しかしそれでもそう感じられる雰囲気があった。

 

 

「はっきり言うけど今の君じゃ勝てないよ。少なくとも本気を出していない君じゃあね」

 

「何だと?」

 

 

 そんなハズはない。俺は長髪野郎を倒す(殺す)つもりで戦っていたんだ。

 もちろん手加減をしていた訳でもねえ。放った拳は全てが常人の骨ぐらいなら軽く折れるレベルの威力だ。

 それでも効果がなかったのは単にアイツの使う曲芸が肉体を強化するものだったか、もしくはダメージを軽減するものだったからだろう。

 

 

「どう言う意味だ。答えやがれ」

 

「そのまんまの意味さ。説明するまでもないけど、このまま意識を戻しても面白くもなんともない。ヒントを上げよう」

 

 

 そう言うとグラサン野郎は____いつの間に出したのかは知らないが____グラスにワインを注ぎ、そして一気にに飲み干す。

 それから数秒が経ち、息を漏らしてから口を開いた。

 

 

「君は何のために戦っているんだい?」

 

「……ああ?」

 

 

 何のために戦っているだと?

 そんなものはもちろん決まっている。分かりきっていることだ。

 

 

「世界がつまらねえからだ。戦う以外に楽しむことがねえから俺は戦ってんだ」

 

「本当にそうかい?」

 

「しつけーぞ!! それ以外に何があんだよ」

 

「いやいや。それを知っているのは僕じゃない。君自身さ」

 

 

 意味が分からない。コイツが俺に何を言いたいのか、それともからかってるだけか?

 だが、どちらにしたってどうでもいい事だ。今はこんなグラサンに構っている暇はない。

 俺は戻って戦うだけだ。それ以上もそれ以下のこともない。

 

 

「時間を無駄にした。さっさと戻せ」

 

「まあいいよ。一応ヒントをあげたんだから、せいぜい頑張りなよコウ君」

 

「さっさとしろよ」

 

 

はいはい、とグラサン野郎は先ほどの顔とは打って変わった表情で薄くほほえむと両手を広げ____

 

 

「それじゃあバイバイ、また会おうね」

 

 

 パアン。手のひらを打ち合わせて乾いた音を響かせた。

 瞬間、視界は黒く染まった。

 

 

□              □                 □            □

 

 体が痛ぇ。さっきまでは痛みも何も感じなかったが、意識と共に徐々に戻ってきているのか。

 こんなのはいつぶりだろうか。久しく味わうことの無かった刺激が体中を駆け巡っているようだ。

 目を開けると、そこに居たのは何人かの会場の役員。恐らく試合の継続が可か否かを判断するためにきたんだろう。

 

 

「目を覚ましましたか。続行は……」

 

「どけ」

 

 

 一言だけ吐き捨て、立ち上がり跳んだ。その際にアバラ部分激しく痛みが走った。骨が数本折れているようだが、別段問題じゃない。

 リングに着地すると、一人の男が視界に入った。

 誰かは説明をするまでもない。

 

 

「待たせたな。さあ、次ラウンドと行こうじゃねーか」

 

 

 俺が声を発すると、対して野郎は薄く笑みを返してきた。

 

 

「まさか虎鮫拳を喰らってまだ立ち上がれるとはね。正直驚きだよ、だけど____」

 

 

 そこで言葉を止め、奴は構えた。

 どうやら審判が戻ってきて、試合続行の宣言を上げるようとしている。

 

 

「試合続行を可能と確認。 始め!!」

 

 

 止まっていた試合が再び動き出した。

 拳を固め、足を動かし、そして突き出す。野郎はそれを左手で受け止めながら、首元辺りを狙った手刀を放った。

 

 

「チッ!」

 

 

 咄嗟に首を捻って躱したが、かすった頬から血が飛んだ。

 これがもし狙い通りの部位に当たっていたら喉を潰されたかもしくは頭部が落ちるかどっちかだ。

 やはり最初とは比べ物にならないほどのスピードとパワーが今のこいつにはある。安易に結論を出すのはどうかとは思うが、まず間違いなく曲芸は『肉体強化』の類だ。

 だとしたらまともににやるのはやばいか。

 

 

「どうしたんだい。また、動きが鈍いのは作戦かな?」

 

「そうだと言ったらどうするよ」

 

「楽しみに待っているよ」

 

「そうかよ」

 

 

 迫ってきた拳を両手でガードするが、重い。腕が軋み、衝撃を殺しきれなかった俺は八メートル分吹き飛ばされた。そこに間髪いれず追打を入れようと長髪野郎は距離を詰めに掛かる____

 俺はこの短い間だが、一つだけコイツのことが分かった気がする。コイツは単純な野郎だってことが。

 

 

「素手での戦闘は飽きただろう? コンクリを喰らえ!」

 

 

 向かってくる野郎へ、強引に引き剥がしたプレートで直に殴る。

 プレートは当たると粉々に砕け散ったが、奴は若干よろめいたのは分かった。素早く粉塵に紛れながら後ろに回り込み、無防備な背中に拳を叩き込む。

 一発では効果がない。ならば二発、三発、四発……。

 

 

「いつまで何もないところを殴っているんだい?」

 

 

 唐突に聞こえた声。それが俺を正気に戻した。

 塵の霧が晴れると、さっきまで殴っていた場所に何もないことをようやく認識した。

 それと同時に起こる悪寒。聞こえた声は後ろからした。つまり、野郎が今いるのは俺の____

 

 

「う、おおおおお!!」

 

 

 上半身を百八十度回転させながら拳を放った。だが、届かない。

 それより先に下から登ってきたアッパーが胸に突き刺さり、俺の身体を軽く浮かした。

 

 

「ぐおっ!」

 

 

 血が逆流して、口の中が血で満たされる。

 不味い。このままではあの時の二の舞を踏むことになる。

 痛みで動かない身体を無理に捻りながら、両手をクロスさせてガードしたが、地に足が着いている時とは違い、空中では踏ん張りようがない。

 受けたよう衝撃を殺すことも弱めることもできず俺の体は重力を無視して、後方にある壁まで叩きつけられた。

 

 

「ガッ、ハ!」

 

 

 視界が霞む。

 右腕は何とか無事だが、今ので左腕の骨が完全に逝った。その他にも色々とやってしまったかもしれない。

 ロクに力が入らない足で立ち上がるが、不安定だ。次の攻撃を繰り出すどころか躱す事も難しいか。

 

 

「君は故意に動きを鈍くしたと思っているのだろうが、それは間違いだ」

 

 

 一歩ずつ野郎は近づいてくる。

 

 

「体は既に限界を迎えていた。そんな状態で、いや、はっきり言おう。元から勝ち目は無かった」

 

 

 三メートル差まで来ると歩みを止めた。恐らくここまでが奴の射程圏内。

 この距離ならばどこに動こうが仕留められる自身があるからこそ、ここで止まった。

 

 

「君が倒した三人は念に対して未熟だった。もちろん私ですらもまだ、その域を出ていない」

 

 

 流暢に語っていやがる。勝ちを確信し、もし抵抗をされたとしても一瞬でカタが着くと考えているからこその余裕があるのか。

 ここからの逆転など微塵も考えちゃいない、確固たる自信が。

 

 

「私は強くならなければいけない!! そのために君を倒す必要がある」

 

 

 構えを取った。曲芸を放つための溜の動作。

 一撃でも喰らえばあの絶大な攻撃力の前にひれ伏すしかない。

 さっきのは当たり所がよかったのかどうかは知らないが、あれだけで済んだ。

 だが、今回はそうもいかないだろう。

 

 

「選択肢をやる。ここで降伏(リタイア)しろ。さもなくば……」

 

 

 長髪野郎のするどい眼光が俺に向けられる。

 残された道は自ら負けを認めるか、それともここで二度目の虎鮫拳とかいうなんちゃら拳法を喰らうか。

 どちらにしても、奴の中では既に俺の敗けは確定ってことか。

 やれやれ。舐められたものだぜ、と言いたい所だが今回の場合その通りだ。

 そもそも俺は最初にぶっ飛ばされた時点で敗北を認めていた。

 それでもやり続けたのは単に、こんなに楽しいのを終わらせたくなかっただけの話。

 まだ動けるから続けた。そして今はまだ、俺は動ける。

 

 

「『窮鼠猫を噛む』って、ことわざ知ってるか? 猫に追い詰められ鼠が、切羽詰って猫に噛みつくっていう例え文句だ」

 

 

 拳を握れる。足を動かせる。眼はまだうざったらしい挑発を捉えている。

 これだけできれば後はどうでもいい____

 

 

「せいぜい気を抜くなよ。テメェはまだ俺に勝ってねーんだからよ」

 

 

 よく分からない感情が湧き上がってきやがる。

 喜びとか退屈とかそんなものじゃあない。もっと、ゾクゾクするものだ。

 ____そうか。

 これが『楽しい』って奴なのか。

 

 

「……さっきまでの発言は撤回しよう。苦しまないようにこの一撃で決めてやる!!」

 

「やってみやがれ……ッ!!」

 

 

 言葉の切り目が開始の合図。

 同時に飛び出し、そして

 

 

____拳は交差した

 

 

 

 

 




明けましておめでとうございます。
今年も末永くお願いします


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